抹殺された神の愛し子 (貴神)
しおりを挟む

抹殺された神の愛し子 設定

 初めまして。
貴神といいます。
最近、様々な二次小説を読んでる中で自分も作って見ようかなと思い、登録しました。
内容や文章等も拙いと思いますが、精一杯頑張っていきたいと思います。


 守夢(神夢)家 かみゆめ と読みます。

 

日本創世記より代々国家に仕えてきた予知の家系である神夢(かみゆめ)家に拾われる。予知は基本、その者に対して直接予知をすることは無い。それは見る者の意識が混在し、正確な予知が出来ない。また、未来を予知することは世界を支配する脅威にもなるため、一族の名は世界最高ランクの秘匿事項になっている。→十師族ですら、名前すら分からない。神夢家の表の顔は、CADメーカーの一つ。

 

 守夢(神夢)達也  (もりゆめ(かみゆめ) たつや) 

『四葉 達也』←四葉家とはほとんど関わらないかも?!一応真夜?の息子の設定でいきます。

 

性格等は原作通り?若干喜怒哀楽あり+頑固かも。精神干渉魔法は受けてませんので。家族至上主義の設定です。家族に害が及ぶならば、世界を滅ぼします。トーラスシルバーの片方。他人が理由も無く傷つけられるのに対して怒りを露わに。

 

基本スペック 分解(能力改良)・再生・精霊の目-エレメンタル・サイト-(原作より視る能力高め。霊子も見える)・複製 +沖縄での出来事をきっかけに発現(太陽・フラッシュキャスト)

 

固有魔法

太陽 ①無慈悲な業火:指定した範囲のありとあらゆる物質(魔法でも)を無効化し燃やし尽くす。燃やすのに、酸素も必要でもなく、水中でも消えない。  

   ②太陽神の加護:自身や他の人間の身体の活性化や能力の開花・精神や状態異常の回復。ありとあらゆる物質(魔法でも)無効化する。←四葉 深夜の「精神構造干渉魔法」の対抗魔法。四葉 真夜の「流星群」の対抗魔法 

   ③神の逆鱗:自身が敵と認識すれば、ABC兵器・魔法・想子・霊子だろうとなんであろうと発動・発現できない。人間も何も行動を起こすことができない。

   精神干渉・物理的魔法ともとれない。

 

   参考:天岩戸での天照大神のお隠れ

 

   ※発動すれば、自身で解くか、想子(サイオン)が無くならない限り、消えない。ある意味無敵。

 

 

※太陽は固有魔法であるものの太陽は継承が可能な魔法になる。それなりの想子(サイオン) が必要

 

さらに、この能力にはさらなる進化を予定。

 

複製(フラッシュ キャストと似ているかも) ;その眼で見た魔法を再現できる。再現できても質は本家に負ける。但し、自身の魔法力に比例する。

 

 

軍にも所属 階級は

①特尉 戦略級魔法師 大黒 竜也 (おおぐろ りゅうや)

②中尉 戦略級魔法師 天川 貴士 (あまかわ たかし)

 

二つの戦略級魔法を持っているため、使い分けている。

 

戦略級魔法:①『マテリアル バースト』

      ②『サンシャイン(無慈悲な業火)』

 

※軍の最高機密で、情報を知るのは、国防軍最高幹部と陸軍101旅団・独立魔装大隊のみ

 

※オリキャラ 

 

守夢(神夢)家 

本家

 

守夢(神夢) 昌也(まさや)達也の父(育て親)

守夢(神夢) 未来(みらい)達也の母(育て親)

守夢(神夢) あやめ 達也の妹 (義理の妹)

 

しかし、沖縄での侵略戦(※今回は達也が6歳時での設定にします)で両親と義妹が他界し、浩也が現在、当主

 

分家 

守夢(神夢) 浩也(ひろや)達也の後見人・義父

守夢(神夢) 凛 (りん) 達也の義母→娘達を達也の嫁に画策中

守夢(神夢) 結那(ゆいな)14歳 双子の姉・達也の嫁希望

守夢(神夢) 加蓮(かれん)14歳 双子の妹・達也の嫁希望

守夢(神夢) 恭也(きょうや)13歳 達也を尊敬し、達也のみに甘えます。次期当主

陸軍101旅団・独立魔装大隊

 

佐伯 広海 (さえき ひろみ) 国防陸軍101旅団 団長 達也を孫のように可愛がる 神夢家を知る数少ない人物

風間 玄信(かざま はるのぶ)達也の後見人・義父

真田 繁留(さなだ しげる)

柳  連 (やなぎ むらじ)

山中 幸典(やまなか こうすけ)

藤林 響子(ふじばやし きょうこ)達也に最も近しい異性?

 

エリシオン社 社長 森城 昌浩(もりしろ まさひろ)社長の名前は継承

          守夢(神夢) 浩也(ひろや)が現在、社長

 

司波 深雪(しば みゆき)『四葉 深雪』

深夜の娘

原作では兄がいたが、今回は別の立位置のため性格は少々傲慢に。

魔法至上主義とまではいかないが、魔法が出来なければ、役に立たないという考え。

四葉の色に染まっている。四葉の次期当主候補

しかし、達也に出会い少しずつ変わっていく模様。

 

四葉 深夜・真夜(よつば みや・まや)

 

深夜は健在。ただ、魔法師としての力は衰退している。

当主は妹の真夜である。

達也が四葉に血を引いている事と赤子の時に殺したはずが生きているということは追々知っていくようにします。

 

桜井 穂波・水波(さくらい ほなみ・みなみ)

 

穂波は深夜で水波は深雪のガーディアン

 

※オリキャラ

桜井 真波(さくらい まなみ)

真夜のガーディアン

 

他のキャラクターは原作通り

原作にある程度は沿っていきます。

設定は随時追加予定




 はじめまして
貴神といいます。
魔法科高校の劣等生のアニメ見て、原作を少々読んで、こんな設定があればなと思って、作者に申し訳ないとおもいつつ投稿してみようと思いました。
とりあえず、ハッピーエンド目指して頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ

プロローグ作ってみたいとおもいました。


3話作ってからのプロローグって…

…伏線って難しいですね。いつか、やる。


魔法が、伝説や御伽噺の産物ではなく、認識されはじめたのは、1999年の記録が最古になる。それが、いつしか魔法を世に伝えている魔法師と呼ばれる人間たちが姿を現しだす。その者達が魔法を体系化し、魔法が技術や技能にまで発展した。

魔法を使える者は超能力者から魔法技能師という世界の認識に変わった。

世界各国では、魔法を使える者達の力を利用・兵器という価値を見出し、魔法師育成に力を入れ始めた。

それが、ある一種の成果として、十師族が現れた。

 

 

【十師族】 日本で最強の魔法師集団

一条、二木、三矢、四葉、五輪、六塚、七草、八代、九島、十文字 が現在の十師族で

他18家の計28家の中から4年に一度の 十師族選定会議で選ばれた十の家が十師族を名乗ることが出来る。

 

 

十師族とは、裏で政治を操り、表には出ないというのが現在の日本で基本スタンスになっている。

それは、あくまで現代の魔法の世の中のみである。

 

 

 

 

しかし、現在に残っているのは魔法だけではないのだ。

 

この日本、否。神武天皇になって、日本という国が出来て間も無い頃から異能を使う集団は居たのだ。それは、予知という未来を知るという時を越えるといっても良いともいえるその力で日本を最悪(厄)から守ってきた。その家は、細々ながらも絶えることなく現在の日本に存在する。

その家に名は 神が見るような夢をみることから神夢(かみゆめ)として呼ばれる。

神夢家は表舞台に出ないためにも姓を変え、夢を守る 守夢(かみゆめ)から 守夢(もりゆめ)として、現代に存在する。 

この守夢家は様々な道の者と繋がり、日本を守るということだけを目的として存続している。小さな家系ながら、日本に与える力は絶大で、唯一天皇に助言、謁見を許されている。

さらに、現代においても十師族などと比べるに値しない。予知には未来を改変しようとすればそれを行うことが出来るのだから。この力の前では魔法という概念でさえ、遠く及ばずさらには魔法師を潰すなど造作もないことだろう。日本の軍はおろか、天皇家と神夢家からの直接の協力要請ならば、世界の軍は二つ返事で返す。それほどに予知(情報)という存在は、重要視されているのだ。

しかし、重要視されているにも関わらずどの国もこの家系の情報を掴むことは出来ずにあった。それは、当たり前のことだが、日本という国が全力で秘匿しているに他ならない。また、他国が何故探し出そうとしないのかは、神夢家が他国に対しても有益な情報を発信する(もちろん日本政府を通して)ため大きな争いにならないのである。

だが、情報という貴重なものでも食料事情等には抗えないものもある。また、日本は世界有数の優秀な魔法師の国でもある。そんな事情もあり、表面上は握手を交わしていても裏では、どのようにして世界の覇権を握るかでうごめいている一面もあるため一概に協力関係かといえばそうでもないのは現状ではある。

 

 

 

そんな裏の世界では有名な隠された一族とーーアンタッチャブルーーと恐れられた四葉が一度だけ交わった物語

 

 

 

 

 

西暦2079年12月28日 

年の瀬もあり、表の顔であるエリシオン社の社長 森城 昌浩(もりしろ まさひろ)は代々受け継がれてきている名で社長はこの名を襲名する。

本当のところは名を素性を知られぬためという側面が強い。

 

 

そのため、森城と神夢という苗字が同一人物と気づけるのは一握りだけであった。

 

その日本創世記より支えてきた予知の家 神夢家の当時の当主 神夢 昌也と妻の未来は年末で忙しい日々を過ごしていた。

 

昌『未来s…』

 

未『口を動かす暇があるなら手を動かしてください。昌也さん。』

 

昌『…はい…』

 

決してサボろうとしていた訳ではないのだが、この年末という時期で社長業と親戚の家に出す葉書等で余計なしゃべりは作業を鈍らすものにしかならないため妻である未来は厳しく昌也を律していた。

 

 

未『昌也さんが仰る意味は理解しています。社員の方たちに労いの言葉を掛けに行きたいのでしょう?社員思いは良いですが、社長としてお世話になっている企業の方々へのご挨拶も重要です。そこはお忘れなき用に。』

 

長年連れ添った夫婦に成しうることのできるものなのか、以心伝心とも云える相手を慮る言葉である。

 

 

昌『そうだよな、相手さんも居てこそのうちの会社だもんな。ありがとう未来。』

 

 

微笑む昌也に

 

 

未『っ!(こういう時に不意打ち、ずるいわ昌也さん。朴念仁なんだから)…はいはい、そんなことしてると社員の皆さんが帰っちゃいますよ。』

 

 

アタックし続けて昌也の妻になった未来は鈍感な昌也の不意打ちには弱かった

 

そんなことをしている間にも時間は過ぎるため昌也に釘を指して仕事に集中を促した

 

 

昌『まずいな、忘年会の前に労いの挨拶だけはしないと』

 

時間は16時を少しすぎたところ、昌也は作業に意識を集中し始めた

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

2080年1月1日

この時代にも正月は存在するわけで、神夢家でも新年を祝っていた

 

 

昌・未『新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。』

 

浩・凛『こちらこそ、今年もよろしくお願い致します。』

 

他『あけましておめでとうございます。今年も病気やけが、事故等がありませんように。』

 

神夢家は当主の直系の嫡子は2-3人生まれる

 

当主としての座は1人だけだが、不慮の事故等で命を落とすこともあり、血が絶えないためにもこのような形になる。不思議なことに次代が1人だけしか生まれないということは無い

 

また、他の直系は補佐として勤める他、当主の力に劣るものの、他の分野で秀でていることがあるためその分野で成長するのがこの神夢家に生まれた者の特徴である

 

それは傍系もその例に漏れない

 

 

 

昌『ハイ、堅苦しい儀式はお終い。さあ、無礼講といきましょう。』

 

柏手を1回鳴らし、堅苦しい雰囲気を無くす昌也

 

それを待ってたかのように神夢の一族は騒ぎ始めた

 

 

 

傍系『昌也さん、子供はどうですか。』

 

妻の未来が離れたのを見計って尋ねる傍系の人間。決して責めているわけではなく、心配の表情を浮かべる。

 

 

 

昌『…、難しいと言われたよ。未来も気丈に振る舞っているが、内心は焦っていると思う。子が出来なくても家族に変わりはないし。神夢の人間も責めはしないのにな。』

 

未来の方に目を向けると弟の浩也の妻の凛と他の女性と話していた。

 

 

 

傍系『……。昌也さんって、やはり鈍感。いや、朴念仁?』

 

少し、ずれた回答をする昌也に容赦ない発言を浴びせる

 

 

 

昌『鈍感?朴念仁?俺が?それは違うぞ!未来のことなら、何でも知ってるぞ。…そうだな、未来が好きなミュージシャンはB'zで、何度一緒にライブに付き合ったか。好きなキャラクターはディ〇ニーのプーさ〇で好きな食べ物は蕎麦でしかも十割蕎麦だ。寝る体勢は一般的な仰向けだが、抱き枕がこれまた、プーさ〇だ。そして、h……』

 

 

ほくろに位置はと言いかけた時、何故かとてつもない悪寒を感じた

 

気が付けばいつ間にか、傍系の人間も浩也や他の神夢達と飲んでいる

 

しかも、こちらに一切視線を向けない

いや、向けられないような雰囲気だった。変態の発言で引くなら、ツッコミが入るがそれもない

 

昌也が恐くて逃げたのではないということは。…嫌な予感しかしない

 

ギギギと油を挿さずに放置して、酸化した歯車を動かすような緩慢な動きで後ろを向くと

 

 

 

 

未『私がなんですか?貴方?』

 

 

妻の未来の背後に般若が付いているような錯覚があった。いや、現に未来の表情がそれに近い。しかも、未来だけではない。浩也の妻の凛や他の女性陣も居た。

ヤバい、地雷を踏んだ?と思ったが、遅い。

 

 

未『私の暴露大会とはいい度胸ですね。なんでしたら、貴方の暴露大会でもしましょうか?』

 

 

昌『あ、いや。それは、その。』

 

シドロモドロになる昌也にトドメが入った。

 

 

未『年末の社員交流会で新j…』

 

 

昌『すみませんでした!!』

 

すぐさま、土下座をし、未来に服従をする。これで許されたかと思いきや。

 

 

 

未『あらっ。手が滑って、再生ボタンを押してしまいました。((笑))』

 

 

と言った瞬間に映像が流れだした。

 

 

年末の忘年会には、社長が社員全員の名を呼んでその人物の長所を挙げることが恒例行事になっている。しかも新人社員にとっては、社長に顔を憶えてもらい、ましてや褒めてもらうなど1年目で無いことだ。

しかし、このエリシオン社では、社員を家族、息子、娘と思っており、社長が名前を忘れるなど言語道断なのだ。

そして、この長年の恒例行事で神夢家が会社を立ち上げて以来、思い出として、写真や動画を年に最低1回は残すようにしている。

今回、昌也は社長としてあるまじき新人社員の名をど忘れするという珍事を犯したのである。当然のことながら、全社員からブーイングの嵐が巻き起こった。

その思い出が今回は証拠映像として、昌也に牙を剥いた。

 

 

映像を見ていた神夢家全員は笑いを堪えるしかなかった。

 

 

 

未『それで?昌也さん何か言いたいことは?』

 

 

 

昌也は映像を見た時点で何も言えないのだが、未来が何故ここまで怒っているのかがイマイチ理解できていなかった。

 

 

昌『未来さん、一体何にお怒りなのでしょうか。』

 

 

恐る恐る尋ねる昌也に

 

 

未『自覚がないのですか?私が暴露されて喜ぶ変態の性癖を持っていると?』

 

絶対零度を醸し出す未来

 

昌『いや、あれは未来の良さを知ってもらおうと…。』

 

 

 

未『あら、それは私がだらしないから昌也さんしかお相手が見つからなかったということかしら。』

 

未来の纏う空気が絶対零度に変わっていく。その空気にあてられて昌也はおろか周りの男性陣も息を潜めていた。

昌也は半分魂を飛ばしている状態だった。

なおも、未来による説教は続いた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

漸く、未来の昌也への説教が終わり場の雰囲気も和やかになっていた。

 

 

昌『し、死ぬかと思った。』

 

 

傍系『大げさな、昌也さんがそう簡単にくたばる訳ないでしょうに。』

 

宥めるも周りの人間も顔が引きつっている。

 

 

昌『先ほどの話を戻すが、なんで、未来が子供が欲しいと解るんだ?』

 

 

傍系達『……。ここまで鈍いのはやはり直系の為せる業か。神夢の男児は皆総じて鈍い。だが、それに輪をかけて鈍いのは、流石直系か。いや、未来さんの苦労が少し理解できた気がする。』

 

昌也以外が納得の表情を見せる中、昌也は頭上に?を浮かべている状態だ。

 

 

 

傍系『(少しでも未来さんの手助けになればいいが。)いいですか、当主殿。なぜ、未来さんが子供が欲しいのか。それはですね、女性なら至極当然なのです。』

 

 

昌『いや、解ってるよ。この家に嫁ぐということは世継g…『違います。』しか考えられないのだが…。』

 

昌也の言を遮る傍系達

 

傍系『いいから、少し黙って聴いてください。』

 

気圧され口を噤む昌也

 

傍系『いいですか、耳をかっぽじってよく聴いてくださいね。女性というのはね、愛している人との子供が欲しいんです。』

 

 

昌『えっ。』

 

 

傍系『だから、昌也さんとの間に出来た子が欲しいんです。当然です。結婚という契を結んでこの人ならと思ってるんですから。昌也さんはどうですか?』

 

寝耳に水のような話だ。本当なら自分としても子供(世継ぎの面でも)は欲しいが、これに関しては授かりものだ。難しい面もあるため気長にいくしかない。未来も焦っているようだった。だが、世継ぎのためだけに自分の好きな妻の顔が歪むようなことはしたくない。だから宥めるように言い聞かせて、納得してくれたと思っていたのだ。

 

昌『……しかし』

 

傍系『伝わってないですね。もう一度言います。昌也さん、未来さんとの子供は欲しいですか?』

 

 

昌『…欲しい。』

 

一人の男性としても愛する女性との子供はほしいのだ。

 

 

傍系『よくできました。』

 

拍手を起こさんばかりの笑みを向けてくる。

 

 

傍系『なら、起こす行動は1つですね。期待してますよ、当主様。』

 

なんと無責任な発言だろうか。だが、彼らは沈んでいる昌也と未来のために発破をかけてくれたのだ。

この期待に応えないで何が当主か

 

昌『まかせろ。俺の子にお前たちをおじちゃんと呼ばせてやる((笑))』

 

おじちゃんと言われるのを想像したのか、顔を青ざめて昌也に食ってかかる。

 

 

傍系『言ったな。あんたなんか子供に「クソ親父」とか「嫌い」って言われちまえ。』

 

反論をする傍系達

 

昌『おい、それは言うなそんなこと言われたら、立ち直れなくなるだろうが!』

 

 

 

 

なおもギャーギャーと喧嘩をする男性陣に女性陣は呆れてため息を吐いていた。

 

 

凛『おバカ共は放っておきましょう。』

 

未『そうね、ところで凛。話って?』

 

 

凛『あまり、これを聴くと気分が良くないと思うんですけど。』

 

未『…子供ね。』

 

凛『っ、そうです。進展はありましたか。』

 

おずおずと伺いを立てるように話す

 

 

未『そんな顔しないで、皆もよ?これは、私が悪いのだから。』

 

凛『違います!授かりものだしそれに私だって。』

 

お腹をさする凛

 

未『いいの。昌也さんも私のそんな苦しむ顔をみるなら、子供はいらないと言ってくれたし。』

 

 

凛『それでも未来さんは愛する人との子供は欲しくないんですか?』

 

叱るように言う凛に

 

未『…、そうね。欲しいわ。昌也さんになんと言われようと。だって、愛した人との子供が欲しくない理由がないもの。』

 

凛『なら、諦めてはいけません。』

 

未『凛』

 

凛『昌也さんのときもそうだったでしょう?競争率の高かった昌也さんをアプローチしてプロポーズまでさせたあのときのように。』

 

昌也は他人、特に異性からの好意に鈍感だった。未来からの好意も例に洩れず。

そんな鈍感すぎる昌也に自覚させ、恋心を抱かせ、結婚まで来れたのは未来の努力に他ならない。

 

未『……ありがとう、凛。みんなも心配をかけてごめんなさいね。』

 

傍系『これくらいは当然です。家族なのですから。』

 

傍系『吉報をお待ちしてますね。』

 

未『ええ、まかせておいて。』

ようやく、本来の未来の笑顔を見せ、周りも安堵の表情を見せた。

 

 

 

 

 

その夜、神夢家の血筋を持つ人間全員が不思議な夢を見ることになる。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

4月24日

 

日本某所

 

日本の魔法師の中でも指折りの力を持つ十師族

その一端をになう一族、四葉家次期当主の四葉 真夜が妊娠そして、出産を迎えていた。

赤子が産声をあげ、一族全員が無事に赤子が産まれたことに安堵する。だが、すぐにその表情は引き締められ、赤子が四葉足らしめる能力を持っているかに焦点が定まっていた。

 

 

貢『真夜様、この度はおめでとうございます。』

黒羽時期当主の貢が恭しく頭を下げる。

 

真夜『あら、貢さん。気が早いのではなくて?』

そう、まだ赤子がどのような能力(ちから)を秘めているかは他人の魔法演算領域を解析し、潜在的な魔法技能を見通す精神分析系の能力を備えている四葉 英作に見てもらわなければわからないのだ。現在は、英作が当主である。

 

貢『いえ、真夜様の御子ならば素晴らしい力が備わっているはず。真夜様の無念を晴らす力となりましょう。』

なおも、讃える貢

 

深夜『真夜、そろそろ時間よ。英作叔父様の元へ。ところで、この子の名前は決まったのかしら?』

会話に割って入る深夜

 

 

真夜『姉さんありがとう。仮だけど名前は達夜よ。ほぼ決定はしているのだけれどね。』

 

達夜と名付けられた赤子は真夜の冷凍保存された卵子と四葉で選定された男性の精子で受精させ、真夜のお腹の中で育った正真正銘真夜の子だ。

かつて、真夜は大漢に拐われ子を成すことは出来なくなった。それはあくまで男女の営みから子を成すことは出来ないという意味であり、体外受精して、胎盤内に戻し育てることは出来るようになったということだ。

しかし、重大な要素が2つある。1つ目が卵子は真夜が初めて初潮を迎えたときのものでこれしか真夜の卵子はなく、身体が成長しきったときの卵子ではないため子供がどのような影響が出るかわからないという点。2つ目が

大漢時に子を成すことが出来なくされたため今回しか出来ないという点である。

 

 

英作『真夜よ、体調はどうだ?』

 

出産から時間をおいて呼んでいるとはいえ、出産には相当の体力を消耗するため、気遣う英作

四葉 英作 高度な精神干渉系魔法の使い手で、他人の魔法演算領域を解析し、潜在的な魔法技能を見通す精神分析系の能力を備えている。

 

 

真夜『万全とは、言い難いですが日常生活には問題ありませんわ。叔父様』

 

英作『そうか。では、その赤子の能力を視ようと思う。こちらへ。』

 

 

真夜『はい、叔父様。』

 

と言って、赤子(達夜)を英作に見せる

 

英作『………。』

 

達夜の能力を確認すること5分程度だろうか。

普段ならば、およそ1分程度で終わるこの分析も今回は長い。

しかも、明らかに表情が曇っているのが、見てとれる。

 

深夜『叔父様?如何されましたか?』

 

さしもの深夜も不思議に思い、尋ねる。

真夜も同様の不思議そうな表情だ。

 

 

英作『真夜よ。この赤子はお前の子か?』

 

ようやく、口を開いたと思ったらあり得ない発言が出てきた。

 

真夜『…何を仰っているのかが解りかねますが、その子は正真正銘私、四葉真夜の子ですわ。』

 

当たり前だと応えるも英作の表情は固いままだ

 

英作『真夜よ。この赤子には何も視えない。魔法師としてあるはずの想子-サイオン-が無い。』

 

 

真夜『叔父様。出来損ないということなのでしょうか?達夜は。』

 

確かめるように伺う真夜に英作は

 

英作『そうだな。魔法力を持っていないのはこの四葉どころか魔法師にもなれぬ。真夜よ、お主の判断に任せる。一般の家庭に養子を出すも良し。処分するもな。しかし、前者の場合は四葉と知られぬようにしなければならぬ。後者の方がリスクは無いがな。』

 

部外者が聴けば顔を青褪める会話だが、兵器としてあり続ける四葉では当たり前なのだ。

 

真夜『(初潮を迎えてすぐの卵子では駄目だったようね。この世界に復讐を願うことすら許されないのね。母としては、唯一の子。四葉真夜としては、不要な赤子。どちらを天秤に掛けるなんて、馬鹿らしいわ。はじめから判っていること。結局、私は四葉の人間。)そうですね。やはり、四葉の情報を漏らすわけにはいきませんので。』

 

そういって目を伏せる真夜

 

英作『そうか。ならば、真夜よ。お主で処分するのか?』

 

残酷な選択を問う英作に

 

真夜『はい。これは私の不始末ですので。』

 

 

深夜『…真夜』

 

魔法力を持って生まれずに徒人を産んだ真夜を慮る深夜

人の心はあるもののやはり四葉なのか。赤子を処分することには躊躇いの無い。兵器としての四葉でなければ意味は無い。

 

 

英作『そうか。あとはお主に任せる。』

 

そう言うと、部屋から出ていく英作

 

深夜『真夜、いつに処分するの?』

 

真夜『姉さん。今晩中には、私の魔法と海で処分するわ。』

 

悲しむ表情ではなく、仕事が増えたという表情をする真夜

 

深夜『解ったわ。葉山さんに、車の手配をさせておくわね。』

 

深夜もそう言うと部屋を出る

 

真夜『ありがとう、姉さん。』

 

部屋の扉が閉じられると真夜と赤子の達夜だけが残された。

2人からの別れの挨拶をしろと言われているでもないこの雰囲気の中

 

真夜『達夜、次にもし生まれてくるなら魔法の無い世界に生まれなさいね。』

 

最期の逢瀬というのに呆れた表情で赤子を撫でる真夜

対して赤子はすやすやと眠りの中にいる

まだしわくちゃの顔で可愛らしいとも言えない赤子が不意に笑ったような表情を作る

 

真夜『っっ!』

 

真夜に苦悶の表情が浮かぶも一瞬の間に無表情に戻り、何を考えているか判らなくなった。

 

そうして赤子を撫でている間に別れの時間を迎えた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

太平洋側 某海岸

 

一台の黒塗りの車から執事とおぼしき初老の男性と赤子を抱いた女性が出てきた。

 

葉山『奥様。ここならば、よろしいかと思われます。』

 

恭しく頭を下げる葉山

 

真夜『ありがとう、葉山さん。ここからは、私が一人で行きますので、ここで待っていてくださるかしら?』

 

 

葉山『かしこまりました。』

 

ゆっくりとした歩みで雑木林の中へ消えて行く真夜を葉山は頭を下げて見送った。

 

 

 

 

 

数分も経たず雑木林を抜け岸壁に立つ真夜

季節は春といえ、夜の海からの風は冷たく心と体を冷やしていく。

しかし、真夜にとっては、荒ぶる感情を冷静に戻そうとしてくれる有難いものだった。

 

 

真夜『さて、達夜。もうお別れの時間ね。もし、来世があるならば魔法の無い世界で会いましょうね。』

 

そう言うと、達夜を海へと投げる。

そして、極東の魔女たらしめる魔法

 

収束系魔法 流星群-ミーティア・ライン-

 

光が達夜を貫くなど生温い。光が達夜を飲み込んで消えた。

 

 

真夜『さようなら、達夜。』

 

風に掻き消されるような声で別れの言葉を言い、元来た道へと歩いて行く。

彼女が立っていた場所にはいくつかの水玉の跡があったが、それを知る者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

同年5月1日 未明

太平洋側 同某海岸

 

ある男女…ではなく、神夢家の当主とその妻が佇んでいた。

 

昌『未来、体は冷えてないか?』

 

4月も今日で終わり、明日からは5月。暖かな日差しが日中は降り注ぐも、夜の帳は少々肌寒い。

 

未来『大丈夫よ、昌也さん。』

 

この二人がこの場に居るのかは神夢家で行われた新年の挨拶の次の日。つまり、1月2日の予知夢が発端となる。

 

 

 

 

----------

 

 

 

 

 

近年稀にみる神夢の血を引く者達全て(+未来)が昌也と未来の子供についての夢を視たということで神夢家が慌ただしく動いていた。

 

 

浩也『場所は大体どのあたりだ?海と言っても、この日本は島国だ。最低でも旧姓の都道府県での海岸とまで調べないと難しいぞ。』

 

この場を率先して纏めているのは次男の浩也

 

 

傍系『だが、浩也さん。あの四葉の子供が神夢家に来るんですか?それを契機に昌也さんと未来さんとの間に子供が授かるなんて。』

 

 

浩也『解らん。しかし、俺達の視る夢には意味が必ずある。それが希望でも絶望でもな。だから、とにかく詳細な情報を得るんだ。』

 

浩也としても半信半疑だが、来るべき日に備えをしておいて損はないと自分を言いきかせた。

 

 

そして、

4月24日より1週間後の5月1日の未明に海から流れて来ると調べが付き、4月30日の夜中に昌也と未来がこの浜辺に来ていた。

 

 

 

昌也『未来、そろそろ時間だ。』

 

そう言うと、時刻が23時58分を示した時計を未来に見せる。

 

未来『あと、2分で日が変わる。ねぇ、昌也さん。本当に私達の元に来てくれるのかしら?』

 

不安が未来に押し寄せる。

その表情に昌也は安心させるように

 

 

昌也『心配ない。神夢の血筋が全員視たんだ。そして、血筋でもない未来も視た。これは必ず何かが起こる。』

 

断言する昌也の言葉に未来の不安も薄れていく。

 

 

そうして、待っていること数十分。

リンと鈴の音が微かに聴こえ、突如として空気が変わったのを昌也は感じた。

 

昌也『…?』

 

気配を探るも変わった様子はない。静寂が漂うのみ。

しかし、何かがおかしいことに気付く昌也。

そう、ここは海だ。

海ならば波の音が聴こえてくるはずだが、それが今はない。頬を叩いていた冷たい風もなく、あるのは月からの光のみでその光は周りを照らすのではなく、海中のある一点にのみ降り注いでいた。

その光は徐々に無くなると、海中から光の玉が浮き上がってきた。

それは眩いばかりの光で、まるで太陽を想像させるものだった。

 

 

昌也・未来『……。』

 

息を呑む二人とは裏腹に光の玉は海上に静かに漂っていた。

まるで、二人を見定めるかのように

 

未来『ねぇ、昌也さん。何か感じないかしら?』

 

唐突に問いかける未来

 

昌也『…感じることは感じるが、俺は未来とは違うと思う。判断と責任、大きな力を持つ宿命に対して。と表した方がいいな。だが…。』

 

 

未来『そうね。私も似たようなものだけれど。私の場合は孤独と哀しみ、全てを破壊してしまうから誰も傷つかないように自分も傷つきたくないが適当かしら?…でも。』

 

二人は互いに顔を見合せ

 

 

昌也・未来『『愛を知らず、愛することが出来ない』』

 

夫婦息ぴったりの答えに笑い合う

 

昌也『さて、そんな捻くれ者には、お父さんとお母さんの愛ある説教をしてやらねば。』

 

と楽しそうな声な昌也

 

未来『そうね。望まれずに生まれた子なんていないのに。これは成人を迎えるまで、お母さんと一緒にお風呂かしら?』

 

こちらもまた、愉快な声の未来

その内容を昌也は羨ましそうな目を未来へ向ける

 

未来『あら、貴方?貴方の特権は同衾でしょ?我が子に嫉妬かしら?』

 

昌也をからかう未来

 

昌也『べ、別に、羨ましくなんかない!』

 

未来『そう?じゃあ、そろそろ迎えに行かない?あの子が寂しそうな目をしてるから。』

 

そう言って、未来は海上の光の玉の中にいるであろう子を迎えに行く準備をする未来を昌也が止める

 

昌也『このまま、入ろう。それが、良い気がする。』

 

何かを感じたのか、ザバザバと海の中へと入っていく昌也に連れて未来も入っていく。

濡れると思いきや、不思議な事に濡れず、水に包み込まれたままという表現が正しいのか。

陸上を歩いている感覚に近かった。

また、その光の玉迄は数十mあり体が海中に沈まずに辿り着くには、不可能な距離だ。しかし、海底に沈まず陸と水平に歩くことが何より不思議だった。

二人はその光の玉に近づくと改めて、太陽のようだと感じた。

そして、二人で下から掬うように両手で触れると光が弾け、中から生後間もないような赤子が姿を現した。

光は太陽のような熱さではなく、全てを包み込むような暖かさだった。それと同時に周りの景色が夜から日中に変化した。海の中ではなく、空の上に居るような何ものにも侵されない空間がそこには存在した。

そして、抱かれている赤子は笑っているように見えるも二人には泣きたいのを我慢しているように見えた。

 

昌也『未来。この子の名前を思い付いたんだか、聴いてくれるかい?』

 

唐突に問いかける

 

未来『奇遇ね。私も思い付いたわ。』

 

と未来

昌也『じゃあ、一緒に』

 

 

昌也・未来『『たつや』』

 

目と同じく耳はまだ聴こえないはずの赤子が自分に名前を付けてもらえて嬉しそうに笑った。

さらに、以心伝心とはこの夫婦を指すのだろうか。

見事な命名である。

 

未来『漢字は何?』

 

言葉は同じでも思いが違えば命名も変わる。

 

昌也『「や」は神夢家の男児に付ける「也」で、「たつ」は自分の信念を高みへと持って到達して欲しいから「達」からかな? で達也。』

 

 

未来『私も「や」は家の子だから「也」。「たつ」は自友達や愛する人達がいて自分がいるということを忘れないで欲しいから「達」で達也よ。』

 

意味は仕方ないとして、字まで一緒というのは恐ろしいものである。

 

 

達也 神夢家にふとした奇跡が起こり、出来た家族。

 

 

昌也『さて、達也も家の家族になったことだし、お披露目するか!』

 

 

未来『そうね。皆に心配も掛けたし、何より達也が寒そうだもの。』

 

いつの間にか空のような空間も消えており、迎えに行く時は濡れなかったのが今は濡れている状態でこのままでは風邪になってしまう。しかし、比較的浅瀬の海だったのか腰から下だけしか濡れていないが時間の問題である。

 

達也を濡れないように抱えて砂浜に上がり、CADで魔法式を構築し、服の水気を吹き飛ばすと車(電動車とは別)で神夢家のある旧 東京へ走る。

 

余談だが、神夢家が隠れ簑にしている会社がある。それは、この世界で魔法という存在が認知されて約一世紀。

魔法を使用するにあたり、魔法式構築を補助するCADが現代魔法では必要になってくる。

それを開発しているのが、日本最古のエリシオン社である。他にもローゼンやFLT(フォア リーブス テクノロジー)等数社存在する中、エリシオン社が術式補助演算機(Casting Assistant Device)の略称で、魔法発動を簡略化させる装置の開発に乗り出した会社である。

その会社の社長 森城 昌浩(ビジネスネーム・代々社長が受け継ぐ名前である)が神夢 昌也なのである。

そして、神夢家は陰陽道、修験道等様々な家が集合した家で、古式魔法もさることながら、現代魔法にも精通するという一面もある。

そして、魔法という存在が無い時代に置いても格闘術にも長けた反則的な大家である。

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

5月1日 早朝 神夢家本家

 

 

昌也『ただいま、戻りました。』

 

現在、4時過ぎ眠りの真っ最中には少々大きすぎる声を出す昌也

 

未来『貴方、皆さん寝てるわよ。早く達也の着替えと布団、お風呂を用意しないと。』

 

昌也を窘め、達也の世話にかかる未来たが、

 

浩也『お帰りなさい、未来さん。その子が私達の?』

 

起きていた浩也が昌也と未来を出迎える。

 

未来『起きていたの?浩也さん。そうです。この子です。名前は達也と名付けました。』

 

浩也に達也の顔を見せる。

 

浩也『生後1週間ってところかな?ということは4月24日が産まれた日になるな。神夢家にようこそ、達也。』

 

まだ、くしゃくしゃの顔で整っていないため、生後間もないことが窺える

 

凛『玄関で居ては達也が可哀想ですよ。暖かい飲み物と食べ物、赤子の達也には、何がいいかしら?』

 

玄関先から動こうとないので、痺れを切らした凛が中に入るよう促す。

 

未来『ありがとう、凛。』

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

神夢家

5月5日

この日は達也の神夢家の子としての祝が行われていた。

 

昌也『皆さんのお陰で達也を神夢家に迎えることが出来ました。本当にありがとう。』

 

深々とお辞儀をする昌也と未来。未来の腕の中には達也が眠っている。

 

傍系『昌也さんと未来さんが強く願ったから叶ったことです。我々はあくまでお手伝いだ。』

 

 

浩也『いや、神夢家全員が一心に願ったからこそ、あそこまで詳細になり、達也を救えたんだ。』

 

救った その言葉が神夢家の全員が凍りつく。

 

昌也『浩也。それは、今は言うなと。』

 

昌也が浩也を叱る。

 

浩也『いや、これは、全員が知るべき事実。今後の達也を守るためにも今知ってもらいたいと思ったからだ。だから、兄さん。』

 

その後は、昌也からと。促す弟の浩也

 

 

昌也『……聴いての通りだ。薄々は気付いているとは思う。達也は四葉の子。しかし、達也には、四葉足りうる魔法力がない。そして、達也は処分された。そこを俺達が拾った。』

 

達也が神夢家に来た経緯を簡易的に話す昌也だが、事前に聴かされていたのか隣の未来は顔を俯かせていた。

 

傍系『それでも、おかしいところがある。』

 

事情を聴いていた、一人が核心を突く。

 

浩也『…おかしいところ?』

 

白々しくも表に出さない

 

傍系『魔法力が無いのは四葉としては、致命的だ。しかし、想子-サイオン-は達也から感じられる。あり得ない量で垂れ流しの状態だ。これだけ長い間居れば達也がどんな人物か判るはずだ。達也の扱いの云々は置いておいて、四葉として利用価値を見出ださない訳が無い。』

 

周囲も同意を示す。

 

昌也『…そこに答えがある。』

 

傍系『答え?』

 

おうむ返しに問う

 

浩也『達也から想子-サイオン-が感じられるようになったのは? 』

 

答えと同義の質問をする

 

傍系『っっ!…なるほど、最初は俺も気付かなかったな。想子-サイオン-が巨大過ぎて感知出来なかったんだ。最近になって、漸く感知出来るようになったんだ。』

 

自身の疑問が解答になるとは思ってもみなかった。

しかし、疑問は増すばかりだ。

想子-サイオン-があるなら、魔法力は必ずあるはず。魔法演算領域はブラックボックスとは言え、何か原因があるはずである。

 

傍系『最後にもうひとつ。達也の魔法演算領域は何が占有しているんですか?』

 

 

昌也『…その前に皆に頼みがある。』

 

回答すると思いきや昌也が頭を下げる

 

浩也『頼む。聴いて欲しい。』

 

浩也も同様に

 

傍系『他言無用に。なら、いつも通りですが、違うようですね。』

 

昌也『ありがとう。…この先、何があっても達也を守って欲しい。達也が生きていれば、神夢家は世界は守られる。』

 

拍子抜けな頼みが大広間を席巻する。

 

 

浩也『…何か反応をしてくれないと困るんだが。』

 

反応の無い傍系達に恐る恐る尋ねる。

 

 

未来・凛『ふふっ。』

 

今まで沈黙を守ってきた二人の妻が吹き出し、空気が弛緩する。

 

傍系『……へっ?それだけ?』

 

もっと重大な発表かと待ち構えていた分、理解が遅れる

 

浩也『それだけとは、何だ!達也のこれからが懸かっているんだぞ!』

 

まともな反応が返ってこないため怒る浩也

 

傍系『だって、達也を守って欲しいなんて何を頓珍漢なお願いなんだって、思って。』

 

当たり前の事を言われると此方が悪者の気分である。

 

昌也『いや、だって。達也は四葉の子だった訳だし。神夢家なんて四葉家以上に秘された家だからさ、皆嫌がるかなぁと。』

 

段々語尾が小さくなる昌也

 

傍系『だって、達也は四葉では、消されt…いや、処分された身でしょ?四葉から言ってみれば、知らない子だ。そして、神夢家がたまたま拾っt…救った?子だ。何の関係も無し!』

 

周囲も同様の反応だ。

 

傍系『そして、神夢家には他所では真似出来ないものかあるでしょ?』

 

今度は昌也と浩也を叱る番である。

 

昌也『…そうだったな。神夢家に入りたい者は神夢家の人間になりたいと願うこと。』

 

浩也『…願いとは…祈る事か。』

 

 

傍系『それに、神夢家に達也が来てくれるように願ったんだから何があっても守る、まあ、四葉だろうと何だろうと気に入った人間は神夢家にスカウトがモットーだけどね。たがら、二人。その頼みは却下な。』

 

誰であろうと強引に引き込もうとする周りに苦笑いの昌也と浩也

 

未来『だから、言ったでしょ?神夢家の人間が達也を嫌うはず無いって。どんなことがあってもね。』

 

宥める未来

 

昌也『本当になぁ。心配して損したよ。』

 

凛『義兄さんも、浩也さんももう少し心配性を治すことね。』

 

追い討ちをかける凛

 

浩也『心配性って。家の者を信頼してない訳じゃない。けど、達也の生い立ちを考えると…』

 

思考がネガティブになっていく。

 

傍系『心配は無用です。もし、昌也さんと浩也さんが嫌われたら家の方で面倒みるんで(笑)』

 

とんでもない発言(爆弾)が昌也と浩也に衝撃を与える

 

 

昌也『おい!俺の子に手を出すとはいい度胸だな!達也が欲しいなら俺を倒してからにしな!』

 

なんとも親馬鹿な発言であり、嫁に出す訳でもない。達也は男児だ。

 

正月同様の騒がしさをみせる中騒ぎの中心となっている達也は未来の腕の中でスヤスヤと眠っているのであった。

 

------------

 

騒がしさも未来や凛、他の女性陣に一喝され大人しくなる。

 

傍系『それで、達也の力っていうのは?』

 

 

昌也『八割程度判っているというところだな。』

 

曖昧な答えに首を傾げる

そこに浩也が説明をしていく。

①分解:物質もだが、魔法式や想子-サイオン-、霊子-プシオン-等ありとあらゆるモノを思い通りに分解してしまう。また、分解を纏わせる事も可能なほど柔軟性にも富んでいる。

②再生:物体を24時間前までの状態に「戻し」、現実のそれに上書きする。 自身と相手にも可能で、物質にも作用する。

③精霊の目-エレメンタルサイト-:魔法式や想子-サイオン-、霊子-プシオン-も視る目を持つ。イデア世界にアクセスし、周囲の魔法も全て見通すことが出来る。

④複製: その眼で見た魔法を再現できる。再現できても質は本家に負ける。但し、自身の魔法力に比例する。

※自身のスペック(魔法力)以上は再現不可

 

相手の深層心理を読む術は何も魔法だけではない。様々な術が神の国日本には存在する。

予知夢で達也の情報をある程度知っていたため読み取ることも労せず出来た昌也と浩也だか、それでも見透せない情報もあった。

 

浩也『以上が現在の達也から読み取れた魔法だ。』

 

現在、それは達也が将来において未知数の可能性を有しているということでもある。

 

昌也『他の能力は何か他の要因で発現する可能性が高い。もしかしたら、発現しないかもしれない。或いは…』

 

 

傍系『パンドラの箱かもしれないという訳ですか?』

 

 

昌也『パンドラの箱かもしれないが、何か違う気がした。神々しい感じがした。これはあくまで推測だが。達也自身の根底をひっくり返す、そんな衝撃でないと発現しないのかも知れないな。例えるなら、愛する者の死。』

 

よくあるベタな、あり得て欲しくない状況が達也に覚醒を促すなら…

 

昌也『…これ以上はもしもの話だ。さて、これから達也の育成だが、……』

 

 

 

昌也の神夢家当主としてこれ以上の話はするなと言外に告げられ全員はこれ以上は達也の能力についてはこの日以降話題に上ることはなかった。

そして、達也が神夢家に来てから昌也と未来には、一人の女の子がその年の3月に生まれ、浩也と凛には、その一ヵ月後に双子の姉妹が翌年には一人の男の子が相次いで生まれる。これにより達也は奇跡の子とさらに、可愛がられるのだが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、これから神夢 達也としての生が始まる。

魔法師の名門四葉に生まれながらも、認められず。

しかし、日本の隠れされた大家に救われる。

厳しい家柄かと言えば、大空のように懐の広い一族であった。もしもの話ではあるが、達也がこの神夢家に拾われたのは運命ではなく、宿命なのだろう。

そして、この宿命が魔法師を日本をいや、世界を救う切り札になろうとは、それこそ神のみぞ知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あーでもないこーでもないと延々と唸って書いてたら、15000字近くになりました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1話

一応、原作に沿っては進んでいこうかと考えてはいますが、オリキャラ用の話もあるためまた、達也の立ち位置が違うため考えや行動には違いが出てきますが、ご容赦願います。


穏やかな春の空の元、とある家で恒例の出来事が行われようとしていた。

 

『『達也(さん)!!!』』

 

階段を上がってくる足音もさることながら、廊下を走る音と部屋の扉を破壊するのではないかという開け方。さらに付け加えるなら、その部屋の主を呼ぶ声の大きさはある意味ではモーニングコールと呼べるのではないだろうか。

 

その部屋に入ってくるのは、二卵生双生児で顔立ちは違うものの双子であり、美少女と評せられてもおかしくない2人である。

 

その双子が部屋の主がまだ、熟睡している状況を見るや否や嬉々として飛びついた

 

『『起きろー!!』』

 

 

モーニングコール……を訂正

人災であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の…いや高校生にもなるから私のほうがいいか。

いやこの場合はどちらでもいいか。

 

おはようございます。神夢(守夢) 達也 です。

 

現在の状況を報告します。

 

自分のベッドで寝てはいますが、襲撃を受けている状況です。

義妹である双子の結那と加蓮による睡眠妨害を受けています。

 

本日は、国立魔法大学付属第一高校、通称一高の入学式なのですが

昨日は仕事(トーラスシルバーとしての)も無く、22-26時の睡眠のゴールデンタイム

を満喫しようと早めの睡眠を敢行しました

 

そして、入学式も午前9:30からのため午前8:00-8:10の間に家を出れば、高校には午前9:00には到着する計算で午前7時頃に起床予定のはずだったのです……やめよう、何故に堅苦しい丁寧語での解説も飽きた

 

……とりあえず、7時頃に起きればいいかと、のんびり構えていたのが運の尽きだった

 

俺の安眠を妨害する不届きな、いや、可愛い義妹達は俺が起きたのを見て満面の笑みを浮かべていた

 

(俺の中では、悪魔の笑みだ)

 

目が覚めてしまっては2度寝もできない、仕方がない

 

『おはよう 結那・加蓮』

 

 

『『おはようございます!! 達也(さん)!』』

 

満面の笑みで挨拶された  (2度目だが、俺の中では悪魔の笑みである)

 

 

 

一応、俺を「さん」付けで呼んでいるのが双子の姉の結那で、黒い長い髪で顔立ちも綺麗でお淑やかな性格ではあるが、俺が別の異性(同級生)と歩いているのを見かけると家に帰ると黒い笑顔で相手の事を根掘り葉掘り尋問を受ける

また、何故「さん」付けなのかと聴くと夫婦っぽいでしょ?とのこと(決して、夫婦ではない)

 

そして、双子の妹の加蓮は俺の名を呼び捨てだ

加蓮曰く、家族(夫婦)っぽいのはこちらだとのこと

 

闊達で同級生からは姐さんと呼ばれているらしいが、俺の中では、甘えたを甘えて来られるようにしてさりげなく、甘えているという感じだ

 

外見では、可愛く目鼻立ちも整ってはおり、髪は姉と違い、茶色っぽいが長さは姉と同様で長い

 

度々、この双子が俺の事で喧嘩(またの名を冷戦という)するが、蓋を開ければ、俺の私生活の暴露大会である

 

俺の部屋に盗聴器やカメラを仕込んでいるのか?と疑うが、調べても出て来ないため半分諦めている

 

その冷戦は家の中で行われているのが大半だが、学校でもしているのだとか(俺のプライバシーはどこへいったのか)

 

そんな二人にある意味では襲われている訳で、貞操の危険もある。しかし、全く情欲が湧かない訳でもなく、妹だが義理の妹で血が繋がっているのでもない

 

ましてや美少女に襲われて冷静にいられる訳ではいられないが、鋼の理性で何とか持ちこたえる

 

それにもう少し耐えれば、ある意味援軍が到着するはずである。

 

 

黙っていては襲われるため意識を逸らす話題を持ち出すことにした。

 

達也『……まだ、6時なのだが?』

 

結那『いつもこの時間に起床されているでしょう?』

 

加蓮『それに、達也の新しい制服をこの目に焼き付けなきゃと思って!』

 

双子は終始にこやかである

 

何度も言うが悪魔の笑みである

 

達也『今日くらいはゆっくりさせてくれないか?』

 

双子『『ダメ!!』』

 

結那『達也さんをこのままゆっくりさせたら、こうのような行事は必ずといっていいほどサボる可能性があります。』

 

加蓮『そうそう!だから今日は早く到着してでもいいから学校に居ないとね。あ、ついでにいうなら私達は一緒に入学式に行くからね!!』

 

達也『今日はサボらないよ。入学式を終えてすぐに生徒のIDカードをもらえるからね、図書館に入って文献も見れるし。入学式にくるのは、家族総出でか?』

 

結那『IDをもらうまでの入学式はさぼるでしょう?』

 

加蓮『本当は風間さんやおばさんが来たがってたけどあの人達は目立つからね。』

 

おばさんというのは 藤林 響子のことである。

双子曰く、(俺を狙う)敵なんだとか

 

達也『ばれてたか。加蓮、響子さんはお姉さんだと思うぞ。まあ、軍のことは知られたくは無いな。』

 

加蓮『おばさんで十分よ。』

 

これ以上響子さんの誹謗中傷を避けるためにも起きる達也

 

達也『さて、結那、加蓮。一緒に父さんと母さんにあいさつに行こうか。ついでにあの寝坊助も起こしに行かないとな。』

 

双子『『賛成。叩き起こしに行こう(行きましょう)』』

 

 

双子の笑顔を見ながら、これから始まる生活に思いを馳せた。

 

 

 

 

 




 あらためまして、貴神といいます。
魔法科高校の劣等生をアニメで見て、原作も読み始めているところですので、知識不足はあると思いますが、頑張っていこうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

のんびりと確実に投稿はしていきたいと思います。


4/3 8:50

 

東京某所

国立魔法大学付属第一高校 講堂前

『『『納得いきません(いかない)(できません)!!!』』』

 

声を聞こえる範囲にいた人間は声の主の方向に視線を送る。

その先には、この高校の制服を着たこの春より入学する生徒 神夢(守夢) 達也が年下の男女に責め立てられている様子であった。

 

達也『この高校では、そういう評価方法なのだから仕方ない。そして、ここは魔法の様々な可能性の幅がある生徒が評価の基準になるのだから。魔法実技の基準はそういうものだ、耐えてくれ。』

 

そうすると、男の子が反論する。

恭也『それでもおかしいです。兄上が筆記で高得点では間違いないですし、いくら魔法実技の基準が変えられないとしても、二科生なのは間違ってます。』

 

この反論する男の子の名は 神夢(守夢) 恭也 (かみゆめ きょうや) 次期 神夢(守夢)家の当主である。

 

恭也が放った「二科生」という言葉の意味は時を少し遡る

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

神夢(守夢) 恭也 には、目標があった。

1つが予知の家系として立派に成長し、次代に繋ぐこと。

そして、2つ目が今、目の前に僕を起こしに来てくれたであろう義兄 達也兄上を助けられる人間になること…なのだが。

 

達也『……くくくっ』

 

笑われている。それもそのはず。僕は双子の姉達の目覚ましの襲撃を受け、と茫然していたのが、達也の笑いのツボにはまった。

 

双子『『恭也(恭ちゃん)起きろ―(起きなさい)!』』

 

恭也『ぐふっ』

 

こんなことをしてくるのは、姉達しかいない。しかし、もう一つの気配が笑いを堪えているように感じる。

 

その気配の主を探すと、扉の横で顔を背けて手で口を押えている憧れの義兄がいた。

おそらくだが、自分の寝顔にツボが嵌ったのだろう。(どんな顔をしているのかは知りたくもないが。)

珍しいがそれどころではなかった。

 

恭也『達也兄上、こちらも恥ずかしいのでそれ以上笑うのは勘弁してください!』

 

達也『いや、すまない。結那と加蓮の襲撃の恭也の反応が…くっく』

 

恭也『兄上~!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リビング

 

凛『恭也、そろそろ機嫌をなおしなさい。浩也さんも何か仰ってください。次期当主がこんなことでどうしますか。』

 

神夢 凛 (かみゆめ りん) 恭也・結那・加蓮の母親

 

浩也『凛、そうは言ってもな。本人次第でもあるし、恭也が継がないならば、別に無理強いはしないし、結那や加蓮のどちらかでも良いし、最悪継がないという…』

 

神夢 浩也 (かみゆめ ひろや) 神夢家 現当主 恭也・結那・加蓮の父親 達也の後見人でもある。

 

凛『浩也さん!現当主が何を仰いますか。ああぁ、若かりし頃は怒れる虎とまで言われ、武闘派でもあった貴方がここまで老いるとは。』

  

わざとなのか、本意なのか泣きマネまでして浩也を追い詰める。

 

 

 

浩也『あれは、私の黒歴史だから勘弁してほしいのだが。まあ、とにかく恭也。あまりいじけていると置いていくぞ?今日は達也の入学式なのだから。』

 

凛『逃げましたね?浩也さん。まあ、私としては、結那か加蓮が達也さんを婿にしてこの由緒ある神夢家を引き継いでもらうのも…。』

 

達也『母上、恭也が継ぐと言っていますし、そのための努力も怠ってはいません。それに結那と加蓮には、俺よりもっとふさわしい相手がいます。』

 

凛『あら?達也さんは、娘達に政略結婚をしろと仰って?言っておきますが、家の家系は自由恋愛でこの代まで栄えていますのよ?それを好きでも無い者に嫁がせるなどと達也さんは鬼であって?』

 

やばい。地雷ほを踏んだと達也が思った。俺の2人目の母親である凛さんは、怒ると手に負えない。ニコニコと笑顔のようだが、目が笑ってない。いや、一応嗤っているのだ。

こういうときは、素直に負けを認めるのが一番ということを学んでいる。

 

達也『申し訳ありません。他意はありません。ただ、あの2人が婚約者を選ぶのは些か早くまだ、時期尚早ではないかと思っただけです。』

 

何を自分でも言っているのか解らないが、とにかくこういう時は逆らいませんと表すのが安全である。

 

凛『まあ、次代云々は置いておいてそろそろ行きましょうか。入学式に遅刻なんて恥ずかしいですものね。それに達也さんの新生活の始まりですから。』

 

と穏やかな笑みで俺を見る。

 

浩也『そうだな、今から出れば、8時30分過ぎには到着するな。達也がここまで成長してくれて嬉しく思うよ。』

 

こちらもまた、嬉しそうな表情で語りかけてくる。この2人には頭があがりそうにないよ。

 

達也『ありがとう。義父さん、義母さん。神夢の家に恥じない姿を見せないとな。』

 

 

恭也『兄上はどんなときでも素晴らしいお姿を見せてくれます。』

結・加『『そうそう。達也(さん)はいつでもかっこいいです!』』

 

と義弟と義妹の応援が俺の心を温めてくれる。

 

 

達也『さて、学校の周りも見学したいし、出発するか。』

 

 

 

 

 

 

8:40

国立魔法大学付属第一高校

 

 

 

浩『相変わらず、大きいな。』

 

感嘆をもらす

 

 

凛『そういえば、浩也さんもここを通われていたんですよね。懐かしの母校は如何ですか。』

 

 

恭『父上もこちらに通われていたのですか。』

 

浩『そうだ、できてすぐの校舎だったよ。』

 

結『お父様はここで魔法の勉強をされていたのですね。』

 

浩『勉強と言っても、1期生だからな。設備も不十分だったし、講師陣も少なく、独学のようなものだったよ。ただ、今のような1科生(ブルーム)と2科生(ウィード)などと差別は存在しなかったし、それぞれの得意分野を教えあったりして切磋琢磨していたよ。』

 

浩也は懐かしむように語る

 

加『そんな差別が今のこの高校にはあるんだね。そういえば、達也は1科生?』

 

 

 

穏やかな空気だったが、この何気無い質問が爆弾に火をつけることになる

 

 

達『いや、俺は2科生だよ。』

 

 

 

恭・結・加『えぇ?!』

 

双子と長男がありえないもの見るかのように達也を見た

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

達也『何を驚いているんだ?俺の魔法力を考えれば、当然の結果だろう?』

 

 

結那『達也さんが2科生なんてありえないです。何か学校側の間違いか、どこかの家の妬み、妨害です。抗議してきます。』

 

そう言うと職員室がある方向に歩き出して行く結那

 

それを達也は慌てて引き止める

 

達也『それだけは止めてくれ、頼む。この学校では、むやみに目立ちたくないんだ。』

 

 

恭也『兄上、何を仰っているのですか。おそらくですが、すでに兄上はある人種には興味を持たれているかと思いますよ?』

 

達也の願いを打ち砕く一言が発せられる

 

 

達也『ある人種?』

 

恭也『この学校の教師陣です。』

 

音符マークが付きそうなほど笑顔で恭也が言い放つ

 

 

達也『……どうゆうことだ?』

 

恭也『そのままの意味です。兄上の入試での筆記試験の結果はダントツで1番ですから。』

 

これまた、いい笑顔で返された

 

 

何故、俺の入試の成績がばれているのか

ふと、俺の一族を思い出す

 

神夢家は日本古来より予知の家系であり、その存在は秘されているもののその力は絶大である

 

何せバックは日本である、一人の高校生の成績など容易い

 

そこに思い当たり、義理の両親を睨む

 

凛はニコニコとしており、浩也にあたっては、苦笑いである

 

なるほど、この二人にかかれば機密など無いに等しい

 

 

達也『成績の内容が漏れたのは、置いておこう。だが、入試の筆記試験がダントツであろうとこの学校では、魔法力が重視される。お前たちが俺の事を高く評価してくれるのは有難いが、俺個人としては、俺の魔法力でよく合格出来たと思っているよ。しかも、ここは魔法科高校だ。実技(魔法力)が筆記より重要視されるのは当然だ。』

 

達也が3人を宥める

 

恭也『しかし、それは実技の評価方法が兄上に合っていなかっただけです。実際はあれw…『恭也。』…すみません。兄上、失言でした。』

 

達也が恭也が言わんとしていることを遮る

 

達也『恭也、結那、加蓮、ありがとうな。その気持ちだけで十分嬉しい。気に病むことは無い。これからもお前たちの誇れる兄でいるように頑張るよ。』

 

これで3人からの理不尽極まりないやつあたりを回避できたと思ったが、そうは問屋は降ろさなかったらしい

 

加蓮『ということは、達也は私達の理想とする人物になってくれるってことでいいのよね?』

 

と加蓮が畳み掛けてきた

 

 

達也『何を考えているか、だいたい想像はつく。あえてその期待には応えないぞ。あまり目立ちたくないからな。』

 

加蓮『そんなぁ、私の達也はこの高校でどんな相手でも片っ端から蹴散らしてくれるかっこいい人なんだけどなぁ。』

 

何故か、自身の願いを悉く打ち砕いてくる。

 

 

結那『あら、加蓮。今達也さんを私のものと言ったかしら?あなたのではなく私の達也さんですよ?勝手に盗らないでくれる?』

 

珍しく結那から助け舟が入ったと思われたが、全く違った流れになった

 

 

加蓮『誰も盗んだ覚えはないわよ。元々、達也はわたs結那『私の旦那様です!』…まだ、結婚してないのに、妄想が激しいねぇ。(笑)』

 

結那と加蓮が睨み合う

 

とりあえず、宥めなければ、入学式の時間になる

 

達也『2人共そろそr『達也(さん)は黙ってて!!』…何故、逆に怒られた。』

 

どうやら、恒例の冷戦?に突入しそうな勢いである

 

 

 

 

 

 

 

 

??『そろそろ開場時刻ですが、どうかされましたか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく、あの人の出番をつくることができました。では、また次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

今回は妹君にも出てもらおうとおもいます。


『もう、鈴ちゃんたらそんなに仕事をボイコットなんてしないのに!ちょっと手持ち無沙汰だけだったから、校内の様子を見てくるっていっただけであんな冷ややかな視線をくれなくていいじゃない!』

 

 

魔法大学付属第一高校 3年 生徒会長である 七草 真由美(さえぐさ まゆみ)は日本の魔法師を牽引する十師族(ナンバーズ)の七草家の長女として生まれた超の付くエリートである。そのエリートが愚痴を漏らしたのは理由がある。

 

8:45

講堂内 

 

入学式のリハーサルを殆ど終え、新入生総代の生徒との打ち合わせも滞りなくすませ、後は開場を待つのみになったため10分程校内を周ってくると会計の 市原 鈴音(いちはら すずね)に伝えたところ、脱走しないでくださいと言われたからだ。

 

真由美『そんなに信用ないかしら。しっかり生徒会長として勤めは果たしてると思うんだけどなぁ。』

 

真由美は魔法力も然ることながら、筆記や事務処理能力は十分ある。しかし、「する」と「出来る」は大きく意味合いが変わる。何故なら、目を離すとサボっていたりいつの間にかデスクから居なくなっているからだ。

真由美の場合は当然、後者の方で重要な書類はしっかり処理するが、一般的な書類は溜めて、いつも周りから催促を受けてからでないとやらない。

こういった事の積み重ねが鈴音や周りから釘をさされる要因としてあげられる。

そういった面もあるが、基本的には人望の厚い人間である。

 

 

 

 

そうこう考えていると

講堂の入り口付近で何やら少し荒々しい会話が聴こえてきた。

確認すると、現代の高校の入学式では珍しく、家族で参加している様子だった。

そこには、我が校の制服に身を包んだ男の子が弟妹を宥めている様子に見えた。

弟と妹2人はやはり兄妹なのだろうか3人とも似ていて、容姿も整っており、そこそこの魔法師の家の出なのだろうと推測できる。

しかし、長男はというと顔立ちが似ていなかった。容姿的には、大人びた雰囲気を纏っており、偏差値的には上の下位だろうか。何故か目から離れない何かを感じさせた。

 

 

真由美『(なんだろう。ほっとけない気持ちn……って、何を考えてるの私!それより入学式の時間だわ。ちょっと助けてあげましょう。)』

 

いつも通りの生徒会長の顔になった。

こうゆう切り換えの速さは流石なのにどうして書類を…と鈴音は愚痴をこぼしているのだが、本人のやる気の問題が大きいとため何も言えないのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也は悩んでいた、どうやってこの双子の冷戦を鎮めることができるか。

最終は引き分けが常なのだが、それまでに要する時間が長いため短期でこの場を治める案をトーラス・シルバーの片割れとして考えていた。案はあるのだが、高校生活初めから目立つようなことは避けたいため破棄していた。

ちなみに、その案は抱きしめて愛を囁くという大胆かつ相手を気絶させるという案である。欠点としては、相手がその場で行動不能になるため家の中で発動することが多い。

 

 

達也『(俺の良いところって、俺の何が好き(LOVE)に繋がるんだか。俺より容姿が整っている奴なんか幾らでもいるし、魔法力なんて俺以上はごまんといるが…そろそろ止めないとマズイな式の時間が。)2人とm…真由美『そろそろ開場時刻ですが、どうかされましたか?』

 

 

達也が声に主を探すと、ある1人の女性の先輩が歩いて来ていた。

 

 

達也『そんな時間でしたか。知らせていただきありがとうございます。』

 

内心では双子の争いを止めてくれて感謝をし、軽く会釈で返した。

そこで漸く、双子も熱くなっていたのが醒めたのか家族一同で挨拶をした。

 

 

真由美『いえいえ、家族全員でいらっしゃるのが珍しかったので声を掛けさせていただいたまでですから。』

 

あまり相手に気にさせないように話題を逸らした。

 

 

達也『私では、どうしようも出来なかったことを助けていただきましたから。』

 

真由美『ふふっ、家族仲がとても良いのですね。少し、羨ましいです。あ、申し遅れました。私、第一高校 三年 生徒会長を務めております 七草 真由美(さえぐさ まゆみ)といいます。七に草と書いてさえぐさと読みます。』

 

微笑みかける。

 

 

恭也・結那・加蓮は七草(数字付き)と聴くや否や見た目ではわからないくらいではあるが身構えたが、達也と浩也・凛は七草(数字付き)と聴いてもどこ吹く風で飄々としていた。

達也としては、数字付きーナンバーズーだろうとその上の十師族だろうと恐ろしくもない。むしろ、この冷戦の方が厄介だからだ。

お礼の意味も含めて返事をした。

 

達也『そうなんですかね?家族は仲が良いのは当然という認識でいたので、…失礼しました。名前を言っていませんでしたね。守夢 達也(もりゆめ たつや)と申します。こちらが私の弟の恭也と双子の妹の結那と加蓮です。そして、』

 

 

 

浩也『達也の父の浩也と申します。』

 

凛『達也の母の凛と申します。』

 

 

名乗らないのは、失礼と思い家族の名前を伝えた。

 

 

真由美『えっ!貴方があの守夢 達也君ですか。』

 

何故か相手には、驚愕の表情が出ていた。

しかも、名前を知られていたのは、これからの高校生活に支障をきたしそうだとおもった。

ここで、結那が質問を投げかけた。

 

 

結那『あの、とはどういうことでしょうか。』

 

笑顔であるものの目が笑っていないのを達也は内心冷や汗だった。

 

 

真由美『あ、ごめんなさいね。言葉が悪かったわね。ここの先生方の間で貴方が噂になっているの。もちろん良い意味でよ。』

 

何故かその表情は嬉しそうな笑みでもあったため困惑した。

続けて、真由美が説明した。

 

 

真由美『入学試験、七教科平均、96/100点 圧巻されたのは、魔法理論と魔法工学が小論文も含めて、満点ということです。だって、毎年の合格者の平均でも70/100点満たないのに、ぶっちぎりの1位で試験を合格よ。私だって、今解いてもこんな成績は無理よ。この魔法科高校創設以来の天才ではないかと呼ばれてるのよ。』

 

と、自分の事のように話した。

 

 

達也『そんな過大評価です。自分に満足に出来る事が筆記試験であって、この魔法科高校では何の役にも立たないですから。』

 

と自分を卑下した。

 

真由美『そんな事は無いと思うんだけど。』

 

恭也『そうですよ。兄上は誰よりも優れていると思います!』

 

ここで、義弟の援護射撃が入った。

 

加蓮『そうそう達也は世界一カッコいいの!』

 

結那『そうですよ。達也さんを認めてくれている人がしかも生徒会長なんですから。自信を持っていいと思いますよ。』

 

四面楚歌に陥ってしまった。義両親に助けの視線を送ると浩也は誇らしげな表情で凛にあっては、認められて当然という表情だった。

嬉しさはあったものの素直に喜んでいいものか考えあぐねていた。

 

達那『それは入試ですので当たり前です。魔法力がない分筆記で全力を出さないと不合格になりますから。でも、ありがとうございます。これからの高校生活を頑張っていけそうです。』

 

ありがとうと伝える事は大事だと幼いころから教えられているためか最後はお礼の言葉を述べた。

 

 

 

真由美『開場の時間ね。それでは、私はこれで失礼します。』

 

そう言って、真由美は講堂に入って行った。

 

 

 

 

結那『よかったですね、達也さん。この高校に達也さんの素晴らしさを 一部 理解している人がいらっしゃいましたね。まあ、私達が一番達也さんを知ってますけどね。』

 

一部という言葉を強く発言したのは、気のせいではない。

 

 

恭也『兄上、僕の言った通りでしょ。兄上が注目されない訳はないのですから。』

 

自慢げに言う恭也に

 

 

達也『俺にとっては、高校に通うのもただの資格をとるための過程にすぎないと思っているよ。早くライセンスを取得して、お前たちの立派な兄貴になれるようにな。』

 

 

何げ無しにつぶやく達也に恭也達はもちろんのこと義両親の浩也や凛までもが達也を非難の眼差しで見た。

 

 

 

加蓮『達也のその自虐癖は早く直した方がいいわよ。今でも十分立派よ。自分に足りないところを他で補う努力と結果はそうそう真似できるものではないわ。』

 

達也を窘めるように加蓮は言った

 

 

達也『…すまない。』

 

 

加蓮『もし、そんな弱気発言と自虐発言が出たときは、結那と私でオソウからね。』

 

何かを企む顔で結那に抱き着きながら達也を睨んだ

 

 

結那『加蓮、オソウって、具体的に何をするの?』

 

加蓮『おやおや、結那さんは一体ナニを想像されたのですかな。』

 

 

何も考えない発言に加蓮は結那をいじめにかかった。

 

 

結那『っっ!な、何って。そ、それは…達也さんと…(ゴニョゴニョ)』

 

 

加蓮『私は、達也さんに罰としてキスするつもりだったけどムッツリ結那ちゃんは達也さんとあんなことやこんなことを考えてるんですかぁ。』

 

さらに追い打ちを掛ける加蓮と顔を真っ赤にして今にも倒れそうな雰囲気な結那

 

 

達也『加蓮、そろそろ開場の時間だ。俺の自虐癖は直す努力はしよう。結那、トリップする前に戻ってきてくれ。』

 

 

 

結那『っ。すみません、達也さん。』

 

加蓮『ちぇ~、つまんない。これからがいいところなのに。達也、直せなかったら、本当にキスするからね。』

 

 

凛『加蓮、そんな人前でキスするなどと淑女が言ってはいけません。…そんなことを言わずとも正面からキスしてしましなさい。』

 

 

浩也、恭也、達也は思った。最後の言葉は要らないと。

 

達也『そこに関しては、義母さんは味方だと。』

 

凛『あら、娘の恋路を応援しない親がどこにいますか。しかも、達也さんという優良物件は他を探してもそう簡単に見つかるものではありませんよ?』

 

 

蛙の子は蛙、結那と加蓮はたしかに、凛の子だと改めて認識した。

 

 

 

浩也『さあ、早く行かないと席がなくなってしまう。達也、終わったら連絡してくれ。一緒に帰ろう。』

 

 

微妙な雰囲気の中でも、しっかり方向修正してくれる浩也。流石は神夢家の当主だ。

 

 

達也『わかった。式が終わって、HRがあると思うから時間としては11時過ぎが予定と思うから、休憩でもしていて下さい。じゃあ、また後で。』

 

 

そういって、達也は家族と別れ、講堂に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




閲覧していただきありがとうございます。
妹様が出せませんでした。
次回は必ず出ます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

入学式…背が低く、大股で歩いた記憶がある。苦い思い出



講堂

 

 

 

達也『(この第一高校は一科生(ブルーム)二科生(ウィード)と顕著な程に別れているのだな。よく言うのは、差別とは、している側ではなく、されている側が感じているというが、実際問題はどうだか。)』

 

ほぼ新入生が席に埋まっている中、席を探しながらそんな思考に耽っていた

 

席を見つけ、家族を探すと時間ギリギリだったこともあり、座席の後方で自分を先に見つけて、手を振る加蓮と結那がいた。こちらも、微笑み手を振り返した

 

若干だが、双子を見る目が怪しい人間がいたが、浩也と凛が睨み潰していたのは見なかったことにした

 

間に挟まれた恭也も

 

 

 

??『ここの席は空いてますか。』

 

唐突に話しかけれ、すぐに顔を上げると男女二人ずつの計四人がいた

 

状況を考えるに席がほぼ埋まっているため、探していたところ最上段の自分の横の席が五つ程空いていたため尋ねたというところだろう

 

 

達也『どうぞ、私以外誰も座りませんので。』

 

余っている席は自分には無用のため勧める

 

??『あ、あの、ありがとうございます。』

 

大人しそうな、女子生徒がお辞儀をする

 

今時眼鏡を珍しくかけていた

 

視力を戻す方法は様々あるため、何か事情があるか、特異な能力を秘めているのどちらかだろうとアタリをつける

 

達也『いえ、そんな畏まらずに。隣が空いてると少し淋しくもありましたので、おかげで助かりました。』

 

社交辞令ながら挨拶を交わす

 

そして、眼鏡を掛けた大人しそうな女子生徒が再び声を掛けてきた

 

『あの、私、柴田 美月(しばた みづき)と言います。』

 

他の連れも美月の自己紹介に倣う

 

『私は、千葉 エリカ。よろしくね。』

闊達そうな赤髪の美少女が似合う

 

『僕の名前は吉田 幹比古(よしだ みきひこ)と言います。よろしく。』

少しひ弱そうなイメージだが、雰囲気がそうみせるのか

 

『俺の名前は 西城 レオンハルト。よろしくな。』

 

外国の血が混じってそうな、特殊な環境の人間とあたりを付けた

 

 

こうも自己紹介をされて、此方が黙するのは失礼だなと達也も軽く挨拶をする

 

達也『守夢 達也(もりゆめ たつや)です。突然で何だと思われるかもしれませんが、名前呼びではなく、守夢と呼んでいただけると有難いです。』

 

この学校で目立たないためにも不安材料は取り除くために一線敷いて、付き合いを悪くする発言をするも不発に終る

 

 

レオ『ははっ!面白ぇな!シャイボーイか?良いぜ、慣れたらで良いから名前で呼ばせてくれよ。俺のことはレオって呼んでくれ!』

 

しまった、と思った

 

こうもあっさりと引き下がられ、懐の深さを見せ付けられると、此方が悪者になってしまった

 

エリカ『ちょっと。私が先に目を付けてたのに、あんた、手を出すの早すぎよ。もしかして、そっちの気も(笑)』

 

エリカが茶化す

 

 

レオ『何だと?!お前こそ、何を妄想してんだ?』

 

こちらもエリカを誂う

 

 

エリカ『黙りなさい。あんたみたいな、むさ苦しい男に守夢君が可哀想だって言ってんのがわからない?』

 

さらに挑発をするエリカ

 

 

美月『ちょっと、エリカちゃん、西城君も落ち着いてよ。もう、式が始まっちゃう。』

 

周囲の視線から静かにしろよと向けられているのが分かり、慌てて止めにはいる美月

 

幹比古も仲裁に入るも二人の声は届かず

 

見かねた達也が助け舟を出す

 

達也『ところで、皆さんは全員が友人なのですか?』

 

達也の助け舟が功を奏した。

 

エリカ『いいえ、違うわよ?レオと美月は今日が初めて。ミキは…あぁ、幹比古のことね、幼馴染よ。』

 

聴くところによると、全員が別々で来るもレオは端末を忘れ、そこに幹比古が困っているレオに声を掛けて一緒に

 

一方、エリカは美月が空気に呑まれているのかオロオロしているところを助ける

 

たまたま、入学式会場の入口で出会したらしい

 

なんとも出来すぎではあるが、本当なのだろう

 

 

エリカ『ところで、守夢君はこのあと、予定ある?』

 

達也『すみません。この後は家族と合流するので、今日は難しいですね。今度はご一緒します。』

 

実際に家族と帰るため嘘ではないが、少々申し訳無さを感じた

 

 

エリカ『そんなのね。ホームルーム後にカフェなんてどうかな?と思ってたんだけど、また今度行こうね!』

 

こちらは然程気にした様子もなく、次回も呼んでくれるようだ

 

幹比古『そろそろ、式が始まるよ。』

 

そう言うと、黙って式の開始を待つ姿を見ると、何事においても手を抜かないタイプなのだと窺えた

 

 

----------

 

入学の式全体としては、及第点を与えるというか、どこの学校も変わらないのだなと思っていた

 

そして、新入生総代の挨拶もマニュアル通りというか特に変化は無いものだと考えていたのだが、少々嵐を呼んだ気がした

 

 

教員『新入生総代 司波 深雪(しば みゆき)さん。』

 

 

深雪『はい。』

 

檀上に上がる彼女に周囲は呑まれていた

 

無理も無い。彼女は可愛いと綺麗を併せ持つどころか、この世に存在していいのかと疑いたくなるような容姿をしており、絶世の美女という言葉は彼女に相応しいものだった

 

その影響もあったのか、総代の挨拶が能力重視というか一科生という言葉や魔法が使える者にしか価値が無いという内容も理解出来る者からすれば何様だと思いたくなる挨拶の内容だった

 

 

 

式も順調に進み、予定していたプログラムも全て終了する

 

ホームルームまで少し時間があり、浩也達と一旦合流した

 

 

加蓮『ちょっと、何よあれっ!達也に失礼よ!』

 

内心、総代の挨拶で荒れるかもしれないと予想していたが、案の定義妹達が憤慨していた

 

結那『あの発言はいただけません!達也さんに対してと判断し、抗議します!』

 

世の中で活躍している魔法師に失礼だ!とのこと

 

確かに、第一線で活躍している魔法師は一芸に秀でている魔法師

 

謂わば、魔法力が優れているのではなく、何かに特化した魔法師

 

この学校で言えば、ニ科生である

 

だが、あくまで二人の中の基準は達也らしい

 

 

恭也『姉さん、落ち着いて。義兄上が困ってますよ。』

 

落ち着けようと頑張る恭也だが、焼け石に水で効果が薄いようだ

 

 

達也『ありがとう二人とも。けど、そんな恐い表情をしていたら、可愛い顔が台無しだ。ほら、笑って。俺は二人の笑顔が好き(あくまでLike?)なんだから。』

 

微笑みながら宥める

 

 

加蓮・結那『『すっ、好き!!(LOVE)』』

 

いつもの如く達也にだけは弱い双子である

 

 

浩也『あ~ぁ。相変わらずというか、なんというか。』

 

浩也は苦笑し、凛に関しては控えめにガッツポーズをしている

 

あれこれと、研究の話をしていると、エリカ達が達也に気付いたのか声を掛けてきた

 

 

エリカ『守夢君~。どこに行ったのかと探したわよ。その人達はご家族?』

 

 

達也『そうです。紹介します。腕に抱き着いているのが、双子の義妹(いもうと)と後ろに居るのが義弟(おとうと)で義父(ちち)と義母(はは)です。』

 

エリカと美月の姿を見た瞬間に達也に女の影が?!と危機を感じたのか、結那と加蓮は腕に抱き着いて牽制をしていた

 

名前は敢えて伏せて紹介をしたのは、なるべく印象を薄くして、記憶から消すためである

 

エリカ『へぇー、可愛い妹さん達ね。私は、千葉 エリカっていうのよろしくね!』

 

牽制に気付いていないのかフレンドリーな口調で自己紹介をするエリカ

 

結那『結那といいます。』

 

人当たりの良い笑みをつくるも達也には、こいつは敵という雰囲気を醸し出しているのが判った。

 

加蓮『加蓮です。こっちが弟の恭也です。』

 

加蓮に促され、お辞儀をする恭也

 

浩也『達也の親の浩也と言います。こちらが妻の凛。』

 

 

凛『達也さんのお友達ですね。今後とも、達也の良い友人でいてやって下さいね。』

 

此方はあからさまにお前は達也の彼女には相応しくないから一昨日来やがれと言外に発していた

 

エリカVS凛・結那・加蓮の達也を巡る殺伐とした空気の中、強心臓なのか只単に空気を読まないのかレオが挨拶をする

 

 

レオ『守夢のご家族の方ですか。俺は西城 レオンハルトっていいます。』

 

それに続き、美月と幹比古も自己紹介をする

 

それのおかげでエリカVS凛・結那・加蓮が終る……かと、思われたが、更なる嵐が吹き荒れた

 

 

真由美『また、お会いしましたね。守夢君。ご家族もご一緒なのですね。』

 

第一高校三年 生徒会長 七草 真由美が嵐を引き連れて来た。

 

達也『先程はありがとうございました。』

 

自分は平穏に嫌われているのだろうか?

 

家族と平和に過ごしたいだけなのに、こうもトラブルに巻き込まれている気がしている

 

お礼を言いつつも、最悪なタイミングで介入してきた生徒会長に心の中で文句を言う達也

 

真由美『いえいえ、私も息抜きがてらでしたので。あっ、紹介します。こちらの彼は生徒副会長で二年生の服部君です。』

 

彼女の後ろに控えている男子生徒の紹介をする真由美

 

服部と呼ばれた彼は達也のエンブレムの無い制服を見ると、気分を害した表情をした

 

それを見た、双子の表情が険しくなる

 

真由美『それで、守夢君。彼と彼女達に貴方を紹介しても大丈夫かしら?』

 

真由美と服部の後方には、新入生総代の司波 深雪とエンブレムの付いた所謂一科生(ブルーム)の男女八人程の集団がいた

 

 

達也『それは、構いませんが、ニ科生(ウィード)の私如き取るに足らない存在など耳に入れても一科生の方々には不愉快なのではないでしょうか。』

 

一科生に紹介をしようとする真由美に控えめにプライドの高い一科生が二科生風情を相手にするはずがないと同時に低脳相手に紹介するなどこちらが気障りだと言外に告げる

 

もっとも、後者を理解できるのは、神夢の人間のみしかわからないが

 

 

真由美『そんなことは無いわ。世の中には、自分より凄い人はたくさん居るということを知れる機会ですからね。』

 

達也の嫌味が理解できていない真由美が真面目に答える

 

その回答に毒気が抜かれる達也

 

そして、後ろに控えていた一科生に達也を紹介する

 

真由美『皆さん、紹介しますね。こちら、今年の一年生の 守夢 達也君です。実技試験で司波さんがトップなら、こちらは筆記試験でトップで入学されました。司波さんも筆記は凄かったのですが、彼がそれを上回っていて、驚きました。世の中には、まだまだ未知の事が多いですね。』

 

 

なるべく、一科生のプライドを傷つけないよう説明したように見えたが、達也の目には「こんな奴が」、「二科生風情があり得ない」、「何か不正でもしたんじゃ」と映っていた

 

しかし、それ以外にも違った表情があったが

 

それが、憧れなのか、恋慕なのかわからない視線が二つ

 

 

深雪『初めまして、司波 深雪と申します。機会がございましたら、是非お話をお聴きしたいですわ。』

 

綺麗な笑みを作り、達也達に挨拶をする

 

言葉では友好を作ろうとするものだったが、二度とお会いしたくありません

 

魔法を満足に使えない二科生如きが私と話せると思って?と喧嘩を売っている中身だった

 

レオと幹比古、美月は容姿等に呑まれたのか、文面そのままを受け取ったようだ

 

エリカは表情を見破れなかったものの、挨拶の言葉に対しては理解し、不機嫌な顔をしていた

 

深雪に連れるように他の者も挨拶をするも二科生に名乗る理由はないのかどれも聞き取りにくい声で早口だった

 

ここでも例外は存在した

 

女子生徒が二人

 

【光井 ほのか】と【北山 雫】という名前らしい

 

 

達也『申し訳ありません。自己紹介が遅れました。 守夢 達也(もりゆめ たつや)と言います。校内でもどこでもお会いする機会があれば、声を掛けて下さい。その際はお茶でも。』

 

自己紹介をしていなかったため、名乗る

 

取って付けたお誘い文だが、この女子生徒二人には、効果抜群らしかった

 

 

雫・ほのか『『本当?!(ですか?!)』』

 

二人の目の輝きにたじろぐ

 

エリカ『あれ~、守夢君。私の時と違うなぁ。私のときもそんな誘い文句欲しかったなぁ。』

 

残念そうな声ながらも茶化すエリカ

 

ほのか『でしたら、今日のホームルーム後はお時間空いてますか?』

 

最近の女性はこんなに積極的なのだろうか?双子といい、この高校の女子生徒も、そもそも自分に魅力を感じる理由が皆無な気がするのだが

 

どこか鈍感な気質をみせる達也だが、双子がこの状況を放って置く訳もなく

 

 

結那『申し訳ありませんが、今日の達也さんのこれからの予定は家族と過ごすことですので。』

 

加蓮と結那が達也の両腕を陣取る

 

突然の双子の乱入に困惑を隠せない周囲に少々耐性のあった真由美がフォローをする

 

 

真由美『家族思いですものね、守夢君は。今度、私ともお茶しない?』

 

 

服部『会長。あの生徒と知り合いなのですか?』

 

今更だが、達也の事情を少し知っているのが気に障ったのか尋ねる

 

 

真由美『えぇ。式の前の息抜きがてらにね。』

 

その回答に服部が達也を敵と認識し、睨む

 

服部『(っ!!)』

 

達也『?』

 

何故睨まれているか解らないため無視を決め込んだ

 

 

---------------------

 

 

そうして時間を潰している間にホームルームの時間が来た

 

達也『七草会長。すみませんが、ホームルームに行きたいと思いますので。これで失礼します。』

 

丁寧に真由美と服部、深雪を含んだ一科生に計三回お辞儀をする

 

真由美『そんな時間なのね。で、さっきの返答がまだなんだけど?』

 

お茶しない?という提案を達也は場を混乱させないための冗談なのだろうと思っていたが、違ったようだ

 

達也『お茶でしたら、お互い都合の付く時にでも。』

 

少々投げやりな回答をするも

 

真由美『本当!よし、じゃあ守夢君。都合つけといてね。』

 

満足気な真由美に現金な人だと失礼ながらも思う達也

 

双子の乱入で困惑していたであろう二人に声を掛ける

 

達也『申し訳ありません。光井さん、北山さん。義妹(いもうと)達が驚かせてしまって。』

 

正直、双子の乱入は助かったといえる

 

おそらく、そのまま流されてあいまいな返答しかできず二人に迷惑が掛かってであろう

 

ほのか『い、いえ。その、こちらの都合を押し付けてしまい、すみませんでした。』

 

 

雫『私も。守夢さんがあんな言葉を掛けてくれて嬉しくて、つい暴走してしまって。』

 

 

達也『…それは嬉しいですね。こんな男に興味を持っていただけるなんて。』

 

二人の言葉から察するに、前々から達也を見初めていたらしい

 

街中はないためおそらく、入学試験時だろう

 

 

ほのか『そんな、t…守夢さんは、カッコいいです!』

 

達也と呼ぼうとした気がするが、気のせいだろう

 

 

達也『ありがとうございます。あと、先ほどの件ですが。今日は家族と過ごすので出来るなら、駅までならご一緒しますよ。そして、明日以降で必ずお茶しましょう。』

 

二人のショックの表情が不憫で焦りに妥協案を出してしまった自身に嫌気が挿した

 

本当なら、冷酷というか興味すら湧かないのに、今日はおかしい

 

ほのかと雫が深雪を混じった一科生組が離れて行く

 

その際、深雪や他の一科生達に睨まれていたのは、間違いではないだろう

 

 

達也『さて、義父さん、義母さん。ホームルーム終わったら、駅で待ち合わせの変更で良いかな?』

 

ほのか達のこともあり、場所を変更する

 

浩也『わかった。私達のことは気にするな。』

 

息子の成長を見れたのか少し嬉しそうな浩也

 

加蓮『仕方ないね。達也、早く来てね。』

 

不満そうな顔を見せるも本心からではなさそうだ

 

浩也と凛が双子と恭也を引き連れて行く

 

 

 

エリカ『いや~。守夢君もあんな顔出来たんだね。正直、見惚れちゃった。』

 

語尾に音符が付きそうな台詞である

 

達也『あんな顔?そんなだらしない表情はしてなかったはずですが。』

 

一体何を見られていたのか少々気になるところだが

 

エリカ『私が家族と一緒にいるところに邪魔しに行ったところよ。双子の妹達に微笑んでたところよ。』

 

どうやら、一番見られたくない場面を見られていたらしい

 

理由は解らないが、自分の笑みは他人に向けてはいけない類のものらしい

 

結那と加蓮から他人に笑顔で接する事を禁じられてしまったほどである

 

結論は、結那と加蓮が達也を独占…いやこの場合は寡占したいがための理由なのだが、本人は知る由も無い

 

 

達也『そんな変な笑顔でしたか?それなら、気を付けないといけないのですが。』

 

 

エリカ『違う、違う。なんていうか、ギャップっていうの?無愛想ってほどでも無いけど、印象が暗そうな守夢君が笑うとグッと来るものがあるっていうか。』

 

なんとも曖昧な回答である。

 

レオ『まあ、なんだ。守夢にそんな魅力があったから気になるってことだろう?』

 

フォローというか的確な分析を入れるレオにエリカも同意をする

 

エリカ『そうそう。あんたにしてはやるじゃない。』

 

レオ『まぁな。』

 

 

幹比古『とにかく、ホームルームに寄って帰ろう。守夢君の家族も待ってるだろうしね。』

 

この場に居ても、ホームルームは来ない

 

美月『そうですね。行きましょう。』

 

幹比古に賛同するように目的へ促す美月

 

 

 

---------------------

 

帰り道

 

どうやって、二人と待ち合わせるかの場所を決めていなかったため、帰っているかもしれないと考えていた達也だが、先に終わっていたらしいほのかと雫は校門の端で待っていた

 

 

ほのか『すみません。ご無理をさせてしまって。』

 

 

達也『構いませんよ。一人で淋しく帰るより集まって帰る方が暖かな気持ちになりませんか。』

 

萎縮気味のほのかを宥める

 

雫『あの、訊いてもいいですか。守夢さんは、何故誰にでも丁寧語で話されるのですか。この高校に親しい友人はいらっしゃらないからですか。』

 

七草会長はともかく、エリカやレオにまで砕けた言葉で話していない

 

 

達也『良く観察されてますね。そうですね。親しい友人はこの高校にはいません。ただ、丁寧口調と友人がいないのは、イコール(=)ではありませんよ。単なる性分というか癖ですね。あとは、同じ年の友人には恵まれませんでしたが、年上の方には恵まれたのでその人達と話すときは、敬語や丁寧語のようになってましたから。』

 

実際、達也の友人と呼べる人間には、達也より年上が多い

 

美月『そういうことだったんですね。てっきり、壁をつくられているのかなと思いました。』

 

容赦ない美月の分析が達也を襲う

 

達也『…っ。そんなつもりは…。』

 

ほのか『じゃあ、丁寧口調を直してもらうのはできませんか。なんか距離を感じるというか、その…。』

 

尻すぼみに声が小さくなるほのかに雫がフォローを入れる

 

雫『…守夢さんのその丁寧口調の癖を直して、話してもらえませんか。それか、名前呼び。してもらえませんか?』

 

同級生らしくない口調に、妥協案を提案される

 

しかもご丁寧に上目使いで

 

達也はこの上目使いに弱い

 

双子の影響なのか、はたまた神夢の教育の成果なのか

 

お願い事とこの視線には勝てた気がしない

 

 

 

達也『わかりまs……いや、わかった。こんな感じでいいかな。ただし、条件というか、名前呼びと口調を変えるときは、ここにいる六人がいるときだけにしてくれないかな。』

 

だが、しっかりと達也も妥協案は出すところはこちらも神夢の教育の成果であったりする

 

 

エリカ『OK!じゃあ、この時は達也君て呼んでいいのよね。』

 

上機嫌になるエリカ

 

レオ『仕方ねーな。』

 

こちらも嬉しそうな表情をする

 

 

ほのか『ありがとうございます。達也さん!』

 

 

雫『ありがとう。達也さん。』

 

二人とも願い事が叶ったような表情で達也に微笑んでいた

 

達也『ところで、二人共。俺にお願いはするが、二人の俺に対する口調が変わってないが?』

 

意地悪をしかけ二人をからかう

 

ほのか『そ、それは。何と言いますか。』

 

雫『ごめん、達也さん。苗字呼びから名前呼びするだけで精一杯。許して?』

 

またも、上目使いをする雫とほのかに達也も追及は避けた

 

達也『わかってるよ。二人が勇気を出してくれたんだ。それを俺が応えた。条件は俺に対してもとは言ってないからね。それに、(女性を泣かしたと聴かれれば制裁は俺に来るからな。)』

 

最後はボソッと聴こえないように口にした達也

その額には、一筋の汗が流れていた

 

 

---------------------

 

 

駅に到着し、家族を探そうとした矢先、前方から衝撃がきた

 

言わずもがな結那と加蓮なのだが、殺気だった気配を醸し出していた

 

その殺気に当てられてか、エリカやレオまでもが距離をとった。

 

達也『加蓮、結那。どうした?』

 

いつまで経っても離れようとしない双子に義妹達に優しく問いかける

 

恭也『義兄さんがいろんな女性を侍らせているから姉さん達の元から離れていくかもしらないと心配になったんですよ。』

 

双子の姉達が達也に抱き着いた経緯を簡潔にまとめる恭也

 

 

達也『それは、すまなかった。加蓮、結那。彼女達は俺の友達だ。だから、まだお前たちの元からは離れないよ。』

 

 

諭しながら、双子をなでる達也

 

その表情はまるで子供をあやす親のような表情でもあり、愛する者を守る目をしていた

 

ほのかと雫は達也の表情を初めて見たが、赤面させながらも目を逸らすことはなかった

 

寧ろ、いつか私にもしてほしいというような眼差しで見つめていた

 

なで続ける事数分、漸く落ち着いてきたのか双子が顔を上げる

 

加蓮・結那『『おかえり(なさい)。達也(さん)!!』』

 

 

---------------------

 

ほのか・雫達と駅で別れた後、帰宅の途に着く達也達一向

 

 

達也『ただいま、帰りました。』

 

今日は平日のため、神夢家には誰も居ないが、いつもどおりに挨拶をする

 

当然、返事が返って来ない…はずだった

 

 

??『おかえりなさい!』

 

若い女性の声がした気がした

 

神夢家の人間ではない声

 

??『達也君、おかえり。』

 

今度は穏やかな男性の声

 

おかしい。今日は平日でしかもまだ昼間だ

 

推測を立てても、家に居る人間に心当たりがない

 

更に気配を探ると、神夢家の人間が全員居る

 

まさかと思い、浩也を振り返ると、悪戯が成功したような顔をしていた

 

凛、結那、加蓮更には恭也までもが同じような顔をしていた

 

 

浩也『いやぁ、いつ達也にばれるかヒヤヒヤしたが、案外気付かなかったな。』

 

聴くところによると、自分の第一高校の合格が決まってすぐに作戦会議が行われていたらしい

 

達也『独立魔装大隊の皆さんはともかく、佐伯少将は大丈夫なのですか?』

 

先程の女性の声は藤林 響子で男性の声は真田 繁である

 

他にも柳や山中、義父の風間

更にはあり得ない人物をみとめ、心配になる

 

佐伯『あらあら、達也は私に孫のお祝いをさせてもくれないのかしら?』

 

 

ホロホロと泣き真似をする佐伯に周りも乗って達也を弄りにかかる

 

佐伯は軍では、銀狐と称されるほど、智略にも長けた有能な軍人ではある

 

その実、達也や双子、恭也達を可愛がるおばあちゃんのような一面を持つ

 

達也もこの行動にはいつも勝てず

 

ただされるがままにされている

 

 

達也『ありがとうございます。しかし、気になったのは、どうしてこんな昼間から宴会にしようとしているのですか?本当に仕事はどうしたのですか?』

 

達也の内心は不安だらけである

 

 

浩也『それは大丈夫だ。会社を休みにしたから。』

 

さらり言ってのけた浩也に達也の目が点になる

 

 

達也『……もう一回言って下さい。』

 

自分の耳がおかしいのだろうか?幻聴かと思い、聞き返す

 

 

浩也『?会社を休みにしたと。』

 

幻聴では無かったらしい

 

 

達也『全く。』

 

呆れながらも少し嬉しい気分が隠せなくなってきた達也

 

それを見ていた双子が達也に抱きつく

 

 

結那『達也さん。そういうことですので、今日は楽しみましょうね!』

 

加蓮『今日は存分に甘えてもらうんだから覚悟しておきなさいよ?』

 

こう言われては、開き直った方が得策かもしらないと考える達也

 

達也『そうだな。なら、有り難く。皆と今しか出来ない貴重な思い出を作ろうか。』

 

 

この日、神夢家にまた新しい思い出の1ページが増えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談ではあるが、その日の晩、達也は双子に下校時のハーレムを追求されていたとか

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。
全然、本編と違うことしているなと思いつつも、妄想が膨らみ、また訳のわからない一万字近くなってしまった。
次回辺りから戦闘シーンや九重師匠は出していこうと思います。
では、また次回まで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

全然物語が進まないのをやきもきしながら、頑張ります。



早朝

 

昨日が自分の入学式の宴会で就寝が遅かったにもかかわらず達也は運動のしやすい服装である寺を目指していた。

 

--------------

 

とある事情で達也はこの場所に毎日来ている。

 

寺の境内に入ると同時に複数人が達也を襲う。

 

達也『(今日は乱取りか。)っ!』

 

襲ってくる人間は服装は白色と同じで頭を丸めている。

誰かの弟子であることは判別できる。武器は木刀や杖、トンファーだったりと多種多様である。

その弟子達を相手取ること数十秒

全員を戦闘不能に(勿論、殺さずで、気絶・体力的に)し、この寺にいる目的の人物を探す。

刹那、空気が一部変わったような感覚が達也に伝わる。その感知に掛った時間はおよそ半呼吸分。しかし、その人物はその間を許さなかった。

 

 

 

??『おはよう、達也君。段々と気配に関して上達の兆しがみられるけど、今日も僕の勝ちだね。』

 

 

達也『……おはようございます。師匠、その言い草は成長が無いと仰っているとしか聴こえませんが?』

 

この師匠と呼ばれている人物はこの寺の住職 九重 八雲(ここのえ やくも) という。

神夢家に達也を迎えてすぐのこと。九重寺と神夢家は浅からぬ縁はあるものの、滅多に関わることはない。この九重寺の目的はただ、伝統を継承すること。それ以上でもそれ以下でもない。

そんな俗世との関わりを絶ってきた寺の住職である八雲が訪れたのは達也を弟子にしたいと申し出てきたからだ。

当然、当初浩也は達也の弟子入りを拒んだ。

しかし、何度も訪れる八雲に根負けし現在に至る。

 

 

八雲『そんなことはないよ。気配を掴んだり、消したりは中々難しいからね。それに、段々と上手くはなってるよ?ただ、掴んでからの反応速度がもう少し欲しいなと思っただけだよ?』

 

 

気配を掴むということは身体が自然にどんなモノでも反応し、状況を理解するのだとか。

コツとしては大自然に溶け込む事らしいが、イマイチ要領を得ないのが難点である。

 

 

達也『…先は長そうだな。』

 

落胆の表情だが、目が死んでいないのを見留る八雲

 

 

八雲『さて、達也君。そろそろ、お得意の体術勝負といくかい?』

 

 

達也『今日こそはぶち破ってみせます。』

 

最近の純粋な体術での修行では、達也に軍配が上がる。しかし、八雲が古式魔法で相手をするとイーブン。奥の手を使えば勝てるが…。八雲の古式魔法を伝授するために弟子になっているため勝つとかいう話にはならない。ただ、今日は体術勝負のため達也が躍起になる。

 

 

八雲『さあ、来なさい。』

 

手招きをする

 

達也『…。』

 

肩の力を抜き少し前屈みの姿勢で八雲に相対する達也。周囲では、八雲の弟子達が何かを盗もうと達也と八雲の一挙一動を観察する。

達也が息を吸い込む。達也の姿が消える。

それと同時に八雲の姿も消える。二人を探すも見つからない。その代わり音と衝撃波が二人の姿の役目を果たしていた。

そして、周りの木々が犇めき合い、動物達の逃げる声がする。

 

 

 

八雲『(…っ。やるねぇ達也君。体術のみで僕についてくるんだから。やはり、弟子にして正解だねぇ。)』

 

達也の猛攻を紙一重で交わしながら感傷に浸る八雲

 

 

達也『(威力と速さではこちらに分があるが、あっさり交わされる。)』

 

達也は全力の約半分程を出している。何故か、全力を出すと疲労が早いこと。そして、威力がありすぎて寺を壊してしまわないようにするためである。

しかし、それを踏まえても八雲の忍びとしての能力に賞賛する達也。

しかし、達也も忍びとしての修行を八雲から受けているためそれなりには出来る。しかし、超一流を前に同じ技では通用しない。

 

 

達也『(ならば、敢えて隙を見せてカウンターに持ち込むのみ。)』

 

 

突きや蹴りの速度を上げ、何処かで破綻を持ち込む達也

 

 

八雲『(? 何かを狙っているのは判るけど。この速度は中々のものだね。受け流すしかないかな。)』

 

一瞬で力を受け流し、を繰り返すも受け流しに若干の綻びがみえる。

 

 

達也『(!そこだ!)』

 

その綻びを狙い、左拳の突きを大きく出す

そこに八雲が達也の懐に潜り込み掌打を顎に放つ。

 

 

達也『(だが!)』

 

読み通りに右で手刀をつくり、八雲の首へ

刹那、八雲の姿がブレる。手刀が空を切る

そして、達也の頭に手が置かれる。

 

 

八雲『惜しかったね。けど、隙の見せ方が甘い。それにしても、力が底上げされてるね。これからは5割から4割でよろしくね。壊れるから。』

 

要修行と判子を捺される

何が壊れるとは言わない。

 

達也『…(壊れるか、知らない内に影響を受けてるのかもな。)そうですね。しかし、あれをされると凹みます。』

 

あれとは、最後に八雲の姿がぶれたもの。八雲の伝授する古式魔法の一つである。

 

八雲『まぁ、久し振りに見せたからね。さて、どうする?まだ、時間はあるから修行するかい?』

 

 

達也『勿論です。お願いします。』

 

今日は何も無いため忍びの修行をお願いする

 

 

八雲『言い忘れてたよ、達也君。入学おめでとう。』

 

可愛い弟子の喜ばしい出来事なのだ。それは世俗を離れても同じこと。

 

 

達也『ありがとうございます。師匠。』

 

 

八雲『そういえば、今日は加蓮君と結那君、それに恭也君は来れなかったのかい?』

 

普段なら、達也が九重寺に通う日は必ず付いて来て、修行を受ける。

 

達也『今日は三人共に寝坊です。』

 

昨日の宴会もあり、達也は三人を起こさずに来た。

 

 

八雲『そうかい。次の修行は厳しめだね。』

 

 

少々厳しくしたところで三人が音を上げるはずがないと解っているが、どうも、弄りたいらしい。

 

 

達也『お手柔らかにはお願いしますね。』

 

念のため、フォローを入れておく。

 

 

八雲『さて、達也君と他の弟子達の修行をしようか。』

 

一団は境内奥へと消えていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

4月8日

 

第一高校

1-E 教室

 

今日から授業が始まる。

登校早々、達也は履修登録をしていた。

 

 

エリカ『おはよう。t…守夢君。何してるの?』

 

欠伸をしながら、教室に入ってきたエリカ

 

 

達也『おはようございます。履修登録をしているんですよ。』

 

 

レオ『キーボード打ちか。珍しいな、守夢。』

 

近年では、脳波であったり、視線で操れるようになったりと様々だが、キーボードも存在する。

 

達也『えぇ。家でもこれですし、慣れれば速いので。実技は苦手というか魔法力はそこまで無いので、魔工師を目指してますのでキーボードが良いんですよ。』

 

レオ『なーるほど。頭良さそうだもんな。』

 

納得の表情のレオ

 

エリカ『というかアンタがCADの調整とかなんて出来る訳ないじゃない。』

 

レオ『なんだと?これでも自分のは自分で調整してんだよ。』

 

エリカ『あら、そうなんだ。てっきり、誰かに頼んでると思ってたわ。』

 

ニヤつきながら言うエリカ

 

レオ『てめえこそ自分でやってんのかよ?』

 

エリカ『当たり前でしょ。失礼な脳筋ね。』

 

レオ『誰がだ。』

 

喧嘩する程仲が良いとはこのことなのか。

いつの間にか登校していた幹比古と美月が止めれずにアタフタしていた。

 

 

達也『お二人共そろそろ、予鈴なりますけど。』

 

少し可哀想になったので、助け舟を出す。

 

レオ・エリカ『『…フン(ハッ)!』』

 

時計を見て、言い争う時間が無いのを悟ったが治まらないのか睨み合う。そして、互いにそっぽ向く二人に着席を促すチャイムが鳴った。

 

 

------------------------

 

昼 食堂

 

達也達はオリエンテーションの感想をし合っていた。

工房見学や3-Aの実技授業の見学。主に3-Aの見学内容は 十師族の七草 真由美の魔法であったりする。

 

レオ『午後からは、何を見るよ?』

 

エリカ『そうねぇ。』

 

あれこれと相談していると1-Aに組み分けられていた雫とほのかが後ろに厄介者を引き連れていた。

 

ほのか『た……守夢さん。』

 

達也と呼ぼうとしたが、先日の約束を思い出し、言い直すほのか。

 

達也『光井さん、北山さんも。お二人も昼食ですか?』

 

雫『はい。守夢さんのところにお邪魔しても構いませんか?』

 

達也『大丈夫ですよ。私たちも先ほどですから。』

 

ほのか『じゃあ、お邪魔します。』

 

達也と昼食が取れるのが嬉しそうなほのかと雫

だが、外野が黙っているはずもなく…。

 

 

1-A男子『光井さん、北山さん。こっちに来なよ。』

 

1-A女子『こっちで一緒に食べよ。』

 

割り込んでほのか達の邪魔をする1-Aの生徒

 

ほのか『いえ、私と雫はここで。』

 

断るほのかだが。

 

1-A男子『ウィードと相席なんて。光井さんや北山さんの評価が下がるだけだよ?』

 

1-A女子『そうそう。ブルームとしての自覚を持って。所詮ウィードは私達の踏み台なんだから。』

 

口々に二科生への誹謗中傷に我慢出来なくなったエリカとレオ

 

雫『いい加減にして。私達が誰と食べようと貴方達には関係ないこと。そんなプライドなんて要らない。』

 

クールを思わせる雫だが、内心は熱しやすい性格のようだ。しかし、この場ではそれが功を奏したらしい。

 

1-A生徒達『……』

 

 

深雪『良いんじゃないかしら?彼女達が誰と昼食をしようと。』

 

1-Aグループの奥に控えていた深雪が状況をさらに混乱させた。

 

深雪『自分が選択した事には責任をとればそれで良いだけ。どんな思想を持とうと私達がそれを辞めさせる権利などないのですから。』

 

1-Aの生徒達がこの人もかと絶望に混乱していると

 

深雪『まあ、私は魔法力の無い方達とはご一緒など御免ですけれども。』

 

そう言って去っていく深雪

 

先ほど迄と打って変わって強気になる1-Aの生徒達

ウィードや雑草、踏み台など散々罵倒して深雪の後を追って行った。

無論、最後にはほのか達がいつでも帰ってくるようにと念押しをして。

 

達也『ほのか、雫。クラスの雰囲気が悪くなるようなら、そっちを優先していいからな。俺達はいつでも歓迎するが、彼らはこれから3年間は共に授業を受けるからね。』

 

ほのかと雫を宥める達也

 

ほのか『ありがとうございます。でも、こればかりは譲れませんから。』

 

笑顔のほのか

 

雫『私も。昼食くらい自由が当然。せっかく、学校で達也さんと居れる数少ない機会なのに。達也さんは嫌?』

 

 

達也『嫌ではないよ。ただ、魔法師として勉強のために来ているからね。将来の道が狭まるようなら将来のことを優先してほしいだけだよ。』

 

達也としても好意を向けられるのは嫌いではない。しかし、自分と違い、魔法力がある分しっかりとした未来があるからそのためを思って助言しているだけなのだ。

 

エリカ『達也君てさ~、鈍感よね。』

 

レオ『それは、俺も思ったわ。』

 

達也『いきなり何を言うのかと思えば。俺のどこが鈍感なのですか?』

 

図星を突かれ、動揺を隠せない達也

 

幹比古『達也。気づいてないかもしれないけど、若干、口調が戻ってるよ。』

 

美月『その動揺を見ると誰かに言われてたんじゃあ?もしかして家族に言われてませんか?』

 

さらに、達也を追い詰める。

 

ほのか『で、でもそこが達也さんの魅力でもありますから!』

 

この一言が達也に止めを刺した。

 

達也『……。』

 

達也が苦虫を噛み潰した顔をする。

その表情に全員が笑いに包まれた。

 

 

 

------------------------

 

放課後

ほのか達と駅まで帰る約束をし、校門で待ち合わせをしていた達也とエリカ達。だが、案の定厄介な嵐に遭遇した。

 

 

 

エリカ『だーかーら、いい加減諦めたら?雫やほのかが嫌がってるじゃない。』

 

1-A男子『うるさい。これは1-Aの問題だ。ウィード如きが口を出すな。』

 

1-A女子『そうよ。光井さんと北山さんはブルーム。貴方達ウィードと仲良くするより私達と居る方がよほど為になるわ。』

 

理由は昼休憩時と同じ。二科生が一科生と居るとは烏滸がましいと。雑草は花の養分になれ。

 

 

美月『なんですか…それ。同じ一年生じゃないですか?現時点で一体どれ程貴方達が優れていると言うのですか!』

 

意外にも声を荒げたのは大人しそうに見えた美月だった。

 

 

1-A男子『どれ程だと?教えてやろうか?』

 

プライドの塊の一科生がやはり我慢が出来なかったのか

喧嘩を売る

 

レオ『おもしれぇ。是非ともご教授願いてぇな。』

 

あえて、喧嘩を買うレオ

 

 

1-A男子『なら、教えてやる!これが才能の差だ!』

 

言葉と同時に引き抜くは拳銃型CAD

魔法式を読み込むスピードは中々のもの。しかし…

 

 

1-A男子『ヒッ!』

 

意外にも情けない声を発したのは1-Aの男子生徒だった。誰がやったかというと。

 

エリカ『この間合いなら身体を動かした方が早いのよ?一科生さん?』

 

警棒型のCADを右手に持ったエリカが二人の間に割り込み、1-Aの男子生徒のCADを弾き飛ばしていた。

 

 

レオ『それは同感だが、お前俺の手も狙ってただろう?』

 

エリカ『あら?そんなことはないわよ?こんな所に叩きやすい手があるわと思っただけよ?』

 

レオ『その事を言ってんだよ!』

 

どんな状況でも言い争う二人はある意味無敵であろう

 

 

1-A男子『っ!ウィードの分際で舐めやがって!』

 

他の1-Aの生徒達が魔法を起動しにかかる。

 

 

ほのか『あっ、皆、ダメ!』

 

慌てて皆を止めようとほのかもCADで魔法式を展開させる。

 

 

雫『ほのか!』

 

雫がほのかを制止させようとするも一足遅く

 

1-A生徒達が魔法式を完成させるより一歩早くほのかの魔法が完成される

 

しかし、そのほのかの展開した魔法式に何かが襲うのを達也は知覚する

 

達也『(!?)』

 

その瞬間、達也の姿が音もなく消える

 

それに次いで1-Aの生徒達が発動しようとした魔法式が破壊される

 

ほのかに襲うサイオンの弾丸を達也が素手で破壊する

 

併せてほのかの魔法をキャンセルさせる

 

そして、達也はほのかと雫を庇う形をとった

 

 

達也『…貴女の仰る世の中というのは、強者(権力者)弱者(意に沿わない者)に強制をさせて、支配する世界を言うのですか?この状況で介入した経緯をお伺いしたいですね。七草生徒会長?』

 

達也の言った【世の中】というのは先日、真由美が一科生に言った言葉である

 

真由美『…。』

 

達也の言葉で周囲にいた人間が怪訝な顔をする

 

生徒会長がどこにも居ないからだ

 

 

達也『隠れようとしても無駄ですよ?もう一人、そちらの方もCADで魔法をいつでも発動できる状態だ。どちら様ですかね。』

 

しかし、達也には二人の姿は気配と精霊の眼で捉えている

 

??『…はぁ、バレたのなら仕方がない。風紀委員の渡辺 摩利だ。そこにいる1-Aと1-Eの生徒だな。魔法を発動するとは良い度胸だ。』

 

真由美『ちょっと、摩利。…もう、CADを使った魔法は法律違反です。解っているのでしょうね?』

 

木の陰から生徒会長である七草 真由美と風紀委員長の渡辺 摩利が姿を現す

 

 

達也『…こちらの質問に答えていただきたいのですが?』

 

勝手に出てきて、言われ放題に達也も声音が低くなる。

 

真由美『…それは。』

 

摩利『君達双方とも場を治めようとしなかっただろう?天狗になっている一科生とムキになる二科生。ならば、喧嘩両成敗というやつだ。』

 

真由美の代わりに摩利が答える

 

 

達也『貴女に訊いてる訳ではありません。邪魔しないでいただきたい。』

 

摩利の答えが聴きたい訳ではない

 

真由美の口から聴く必要がある

 

摩利『…ほう?少々口の訊き方がなっていないようだな?君、名はなんという?』

 

自惚れではないが、摩利は自分の名前はそれなりに知られている

 

そのため、少し畏れられているのは確か

しかし、達也からはその畏れを感じられず真正面から立ち向かう

 

その姿勢に興味が湧いた摩利

 

達也『……』

 

しかし、当の本人はスルーである

 

摩利『名乗る名前は無いということか?面白い、教育的指導が必要なようだ。』

 

険呑な雰囲気を醸し出す摩利

周りの人間は緊張した面持ちで見守っていた

 

 

達也『…もう一度お尋ねします。貴女の目指す理念はなんですか?七草生徒会長。』

 

摩利の雰囲気にものともしない達也が再度真由美に問い掛ける

 

 

真由美『…、私の目指したいのは、一科生と二科生の強調・仲間意識を作り出すことよ。』

 

漸く口を開いた真由美

 

達也『それを聴けて安心しました。ならば、光井さんのみに対して行った魔法はどういうことですか?』

 

またも問い詰める達也

 

真由美『っ!』

 

達也『光井さん以外にも魔法を行使しようとした生徒はいました。それなのに何故、他の生徒にはお咎めはないのですか?魔法の展開が早かったなんて言い訳にはなりませんよ?彼女は閃光魔法で失明しない程度にした威力で争いを止めようとしただけに過ぎません。平等に対処していただけませんか?お願いします。』

 

諭すようにお願いする達也

 

真由美『…ごめんなさい。言い争いが始まってすぐ駆け付けたのだけど、留まってくれるかもしれないと思ったの。』

 

だが、お互いに理性が働く状態ではなかったのだ

 

ならば、第三者が止める必要がある

 

しかし、導火線に火が点いた状態では止める機会を失ったのだ

 

それを無理矢理止めるために標的をほのかにし、注意を引き付けようとしたのだ

 

それを怠ったのは他ならぬ生徒会長である真由美や風紀委員だ

 

摩利『おい、真由美。』

 

何かを言い募ろうとする

 

 

真由美『良いのよ。摩利。事前にいざこざを止めるのも私達の仕事でしょ?ごめんなさい、光井さん。貴女だけに魔法を向けてしまって。』

 

ほのかに謝る真由美

 

 

摩利『だが、魔法を使用したのは事実だ。その罰は受けてもらわなければ。』

 

 

真由美『良いじゃない。今回は厳重注意ということで。』

 

摩利『しかしだな。』

 

真由美『だって、私達が事前の止めていれば魔法の発動は阻止出来た訳だし。それを見逃した責任は私達にもあるわ。』

 

摩利『うっむ。』

 

真由美『皆さん、魔法を一切使用するなとは言いません。しかし、ここは学校。魔法を学ぶための場所です。魔法使用はルールを守って下さいね。』

 

1-Aと1-E生徒が礼をとる

 

 

摩利『そこの1-Eの男子生徒。もう一度訊く。君の名前はなんという?』

 

達也『…守夢 達也と申します。』

 

無視されたのが、気に入らなかったのか再度尋ねられる摩利

 

めんどくさいも仕方無いため名乗る達也

 

しかし、彼女の目には興味が宿っていた

 

 

摩利『そうか。…それと、1-Aの森崎。お前には、今から職員室に来てもらう。』

 

森崎と呼ばれた男子生徒が驚愕の色に染まる

 

森崎『な、何故ですか!?』

 

摩利『当たり前だ。教職員枠で風紀委員に入るお前が諍いの渦中にいることがおかしい。来なければどうなるかわかっているだろうな?』

 

折角のエリートコースへの道を崩しかけたのだ

 

これくらいは当然だろう

 

脅しをかける摩利に森崎という人間も従うしかない

 

森崎『っ!…わかりました。』

 

どうなるか…当然、風紀委員入りの解除である(…多分)

 

摩利に引き連られて森崎が校舎へ入っていく

 

 

達也『…さて、私達も帰りませんか?』

 

達也が雰囲気を壊す口火を切った

 

エリカ『…、そうね。私もこれから用事あるし。』

 

美月『帰りましょう。光井さん、北山さん。』

 

ほのかと雫を引き連れて駅に向かう

 

他の1-Aの制止の声がするもそれを無視する

 

罪悪感に苛まれるほのかと雫を慰めながら下校する

 

 

 

 

------------------------

 

達也『ほのか、雫。気にする必要はないからな。』

 

雫『でも。私達のせいで皆に迷惑を。』

 

エリカ『な~に言ってるの?なにも気にしてなんかいないわよ。というよりあんなの昼寝しながらでも倒せるわ。』

 

気にする必要はないと宥めるエリカ

 

ほのか『それでは私達の気が済みません。』

 

達也『昼間の事は嘘なのか?俺達は二人の意思を尊重してあいつらから守ったつもりだったのだが?』

 

守ったは表現の仕方としては過激だが、概ね内容はあっているため訂正はしない

 

雫『…そうだよ。あの人達とは意見が合わないし、達也さんの方が凄いと思ったから。(それに…)』

 

ほのか『ち、違います!けど、そのせいで皆さんに迷惑を掛けたと思うと。(それに…)』

 

二人が何か口の中でもごもごと音にならない動きをして何を言おうとしているかわからない。が、目線が達也に向いており、達也に対してということは達也以外が理解をした。達也は頭上で?(クエスチョンマーク)を並べていた。

 

 

美月『そういえば、ほのかさんの魔法は生徒会長と守夢さんで止めましたけど、他の生徒さんの魔法は誰が止めたんでしょうか?』

 

柴田 美月という女子生徒は意外と鋭い疑問をする

 

達也があやふやにしようとした問題を再認識させるのが得意のようだ

 

エリカ『あっ、それは私も思った。剣術の千葉の娘である私が魔法がキャンセルされたのが見えなくて、次いでに達也君の姿も認識出来なかったのよね。』

 

言外に達也は何者だと訊くエリカ

 

 

達也『…俺がどういう人物かは追々な。魔法のキャンセルについても今は話せない。ただ一つ言えることは、今は皆の敵ではないということかな?』

 

「敵ではない」

 

この言葉に含まれた意味を正確に理解出来る人間はこの場にはいなかった

 

 

エリカ『…生意気。』

 

言いたいことはあるが、呟けたのはその一言

 

雫『達也さん、それって私達といつか敵対するってこと?』

 

おずおずと確かめるような口調で尋ねる

 

達也『危害を加えるということではないよ。まだ、皆と出会って日が浅い。俺が他人に気を許す気質ではないということだ。…それでも、皆のことは信用している。』

 

答えではなくもない答えに不満なほのか達

 

 

ほのか『じゃあ、いつか達也さんの全てを教えて下さいね!』

 

雫『私も達也さんのこと知りたい。』

 

詰め寄られる達也

 

エリカ『おやおや?こんな美少女達からアプローチされて守夢 達也殿は罪よね?』

 

答えを得れなかったため八つ当たり気味に達也を弄る

 

達也『何を言ってるんだ?エリカも美少女だろ?』

 

エリカ『え゛!』

 

思わぬ反撃を受けて動揺を隠せないエリカ

 

 

レオ『ははっ!面白ぇ顔。自分が褒められるの慣れてねえんだな。』

 

エリカ『うっさい。あんたと達也君じゃあ、言葉は同じでもあんたの場合は嫌味にしか聴こえないわよ。』

 

憎まれ口を叩くエリカ

 

幹比古『エリカ、落ち着いて。帰り道くらい楽しく帰ろうよ。』

 

エリカ『ミキ、うるさい。』

 

幹比古『なっ!僕の名前は幹比古だ。』

 

幹比古が仲裁に入るも、エリカからとばっちりを受けていた

 

その様子を美月やほのか、雫が呆気に取られている中で達也はほのか達からのお願いを思い出していた

 

今まで接してきた人間は手の平を返して達也から距離を取って行った

 

しかし、彼女達は逆に距離を詰めてきて、自分と仲良くなりたいのだと

 

とても不思議な感じがする達也

 

この気持ちがどういうものかは自分の中で理解は出来ていないが、不思議と暖かな気持ちになる

 

そんな少し穏やかな表情がいつの間にか出ていたのだろう、ほのか達が不思議そうに見ていた。

 

達也『…?どうかしたのか?』

 

雫『どうもこうも、達也さんが笑ったような感じがしたから。』

 

ほのか『そうです。何かおかしなことでもあったのかなな?って。』

 

達也『すまない。ふとな、俺の事が知りたいと言ってくれているが、皆の事を俺は全然知らないなと思っただけだよ。俺の事は追々話すとは言ったが、クレクレという皆は教えてくれないのかなと。不公平だなと思っただけだよ。』

 

言葉の端々に刺があるのは否めないが、確かに自分の事を教えていなかった

 

なんとも不思議な集団である

 

レオ『おし、それじゃあ俺から言わせてもらうぜ。名前は言ったから、得意魔法からだな。得意魔法は収束系の硬化魔法だ。だから、山岳警備隊とか目指してる。』

 

幹比古『一応、得意魔法は精霊魔法だよ。』

 

レオから始まり、順々に自分や他のメンバーに教えていく

 

それを聴きながら、いつか自分も話せたらなと

 

自身の弱さと向き合って、自分を許して皆に知ってもらえるように努力しようと心に誓う達也であった

 

 




如何でしたでしょうか?
深雪様が全然出せず申し訳ありません。
ちょっとずつ改訂しながら、話しに矛盾が無くなるように作れればと思います。
①今回は達也は九重八雲の本当の弟子にしました。今後に役立つために。
②深雪がきっかけでしたが、今回はほのかと雫で七草真由美達との邂逅に(深雪さんは接点はつくらず …本当は作ってます。)
③すみません。真由美と摩利達との会話が急展開で話が?ってなったと思われた方申し訳ありません。達也の力の一端とこれからの立ち位置のために強引にあんな会話にしていましました。(泣)

次回はもう少し読みやすく出来るよう頑張ります。では。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

双子の絡みがなくなっている気がする。
というより、台風が凄かった。窓割れるかと思いました。
嵐の前の静けさをサブタイトルにしようか。
もっと読んでいただけるように頑張って行きます。それでは、どうぞ!


登校中

昨日の出来事に対して達也は自己嫌悪に陥っていた

 

達也『(目立ちたくないから苗字呼びで敬語・丁寧語で距離をつくる計算が一気に狂った。しかも、自分の魔法をあんなところで使うとは。)』

 

達也の魔法は元来他人の目があるところで使うべきではない

 

それを今回は使ってしまった

 

法律違反ではない。CADを使ってならそうだが、達也はCAD無しでも発動に苦労しない

 

法律違反の面ではなく、自分の魔法を発動させたところに問題を抱えていた

 

念のため、家族には報告し知恵を借りようとしたのだが、結那と加蓮が不機嫌に、浩也は喜び、凛はブラックスマイルと散々な時間だった

 

唯一の救いは義弟の恭也が……とこれからの学校生活の為になる話し合いは出来なかったのである

 

 

達也『どうしたものか。』

 

真由美『あら?何かあったのかしら?』

 

摩利『そんなに眉間に皺を寄せてはその皺が取れなくなるぞ?』

 

何故、自分には次々にトラブルの元が来るのだろう?

そんなにトラブル解決能力はないはずだが

 

そんなことをつらつら考えても答えは出なかった

 

達也『おはようございます。七草生徒会長、渡辺風紀委員長。昨日は失礼しました。』

 

とりあえずは挨拶する

 

摩利『おはよう。』

 

真由美『おはよう。達也君。』

 

達也『申し訳ないのですが、七草生徒会長。私のことは守夢でお願い致します。自分の名前は好きではないものですから。』

 

突然、名前呼びしてきたため条件反射で牽制をする

 

真由美『あ、ごめんなさい。』

 

摩利『なんだぁ、真由美。もう、守夢がお気に入りかぁ?』

 

エリカと似たような属性を摩利から感じる達也

 

真由美『そ、そんな訳ないじゃない!守夢君、これは摩利の早とちりだからね。』

 

達也『は、はぁ。』

 

曖昧に相槌を返す

 

真由美『もう!摩利ったら、守夢君が誤解してるじゃない!』

 

摩利『真由美。誤解も何も、守夢が印象に残った生徒かと訊いただけなんだが?』

 

ニヤニヤと真由美をからかう摩利

 

真由美『っ~!もう、知らない。』

 

摩利『ハハハ!すまないな、守夢。除け者にして。』

 

達也『いえ。ところで、お二方は何故私に声を?問題は起こしていませんが。』

 

ハッキリ言って離れて欲しい

 

周囲の視線が痛い

 

摩利『いや、なに。お前に興味が湧いてな。今日の昼休憩に生徒会室に来て貰えないか?』

 

真由美『突然のことでごめんなさい。予定があるなら変更するから。』

 

上級生二人からお願いという名の命令に

 

達也『承りました。では、昼休憩にお伺いします。(今回を断ったところで、諦めずに来るのが目に見えている。一度で終わらせた方が得策だな。)』

 

 

真由美『うん!じゃあ、今日のお昼にね、守夢君。』

 

とても嬉しそうな表情の真由美

 

その横で摩利がからかうような顔で真由美を見ていた

 

達也『では、失礼します。』

 

摩利『おいおい、せっかく美少女が話し掛けているのにもう行くのか?』

 

逃亡を謀ろうとしたが、あくまで逃がさないつもりのようだ。

 

達也『今回の美少女の装飾語には嵐を呼ぶが付きますので。』

 

真由美『それは私達がトラブルということかしら?』

ブラックスマイルを向けてくる真由美

それが、結那や加蓮を彷彿させるのでトラウマものである

 

達也『(勘弁してくれ)…そうですね。こんな絶世の美女が二人も侍らせたとあっては後ろから刺されても文句は言えませんからね。』

 

誉めちぎり逃亡を再度謀る達也

 

真由美・摩利『『絶世の美女!?』』

 

顔を赤らめ、立ち止まる二人を無視し、逃亡を成功させた達也は昼にまた会うことに憂鬱を覚えた

 

 

----------------

 

昼休憩

 

生徒会室を目前にし、ため息を吐いていた

 

雫『達也さん、何してるの。早く入ろう。』

 

ほのか『早く行きましょう。』

 

ため息の理由、その原因がこの二人にもあるということに気付いていないらしい

 

ほんの数分に遡る

 

 

 

 

 

エリカ『えっ、達也君、呼び出されたの?放送あった?』

 

レオ『また、何か問題起こしたのか?程々にしとけよ。』

 

幹比古『放送でないところをみると、どこかで会ったってことだよね。』

 

達也『幹比古の言う通りだ。登校中に捕まった。なんでも話したいことがあるから、だそうだ。』

 

幹比古の言に是と回答し、ほのか達に向き合う

 

達也『という訳なんだ。今日はすまないが、難しいからまた、明日だな。』

 

不満そうなほのかと雫を宥める

 

雫『! 達也さん、生徒会室に私達も行く。』

 

何を思い付いたのか雫が自分も着いて行くという

 

ほのか『ちょっと、雫。』

 

雫『別に達也さんの邪魔になるようなことはしない。そして、達也さん以外来ては駄目とは言ってないから。ほのかはどうする?』

 

言葉の意味を逆手にとったものだが、果たしてこれは誰が悪いのやら

 

 

ほのか『…行く。達也さん、私達も一緒に行きます!生徒会長にもお礼を言ってませんし。良いですよね!』

 

 

達也『…はぁ。入室を拒否されたら、大人しくエリカ達の所に戻るんだよ?』

 

この二人に何を言っても無駄だと悟った達也。

これから向かう場所で巻き起こる嵐にため息を吐きそうになった。

 

 

 

そして、冒頭にもどる

 

 

雫『達也さん、早くしないとお昼休みなくなるよ。』

 

いつまで経っても動こうとしない達也を急かす雫

 

一つ深呼吸をして、生徒会室のインターホンを鳴らす

 

次いで、インターホン越しから声が聴こえる

 

達也『1-Eの守夢 達也です。』

 

真由美『どうぞ。』

 

入室の許可の声が聴こえ、扉を開ける

 

摩利『お、来たな。…後ろの二人は、昨日の。』

 

達也『はい、お礼を言いたいと申し出られたものですから、よろしいでしょうか?』

 

摩利『まぁ、構わんが。なぁ、真由美。…真由美?』

 

二人の訪問理由を伝え、摩利から許可を得る

 

しかし、この部屋の主である真由美からはまだない

 

しかも、なにやら達也を鬼のような形相で睨んでいる

 

摩利『お~い、真由美。』

 

真由美の前で手を振り、意識を浮上させようとする

 

真由美『っ!摩利!』

 

摩利『お、やっと気付いたか。で、あの二人はどうする?』

 

覚醒した真由美に再度問いかける

 

真由美『え、えぇ。いいわよ。えぇと、光井さんと北山さんだったかしら?』

 

達也『はい。突然のことで申し訳ありません。』

 

達也だけが呼ばれたのに、二人も連れて来てしまったのだ

謝罪は必要だろう

 

 

真由美『大丈夫よ。ただ、意外だったのは守夢君が女の子を二人も連れて来たことかしら?』

 

摩利『お?なんだ、嫉妬か?』

 

真由美『なっ、ち、違うわよ。』

 

摩利『強力なライバル出現だな。頑張れよ!』

 

二人で漫才の真似事をしているため中々進まない状況に有難い一声が挙がる

 

深雪『会長。そろそろ、どういったご用件でお呼びいただいたのか伺いたいのですが?』

 

達也と同じく真由美に呼び出されていた司波 深雪がいた

 

恐らく、この空気に痺れを切らしたのだろう

 

真由美『あぁ、ごめんなさいね。とりあえず、全員揃った事ですし、先にお昼にしましょう。』

 

摩利と達也以外はダイニングサーバーだ

 

達也が意外だったのか、周囲の目が驚きに染まっていた

 

摩利『守夢君、それは自分で作ったのか?』

 

皆の疑問を代表して摩利が質問する

 

達也『いえ、義妹(いもうと)が作ってくれました。』

 

摩利『なるほど、それなら納得できる。』

 

達也『納得出来るとは?』

 

摩利の回答に疑問を抱きつつ尋ねる

 

摩利『君が料理上手とは思えないからな。』

 

からかう摩利だが、その決めつけはいただけない達也

 

達也『…お言葉を返すようですが、義妹(いもうと)に料理を教えたのは私です。』

 

誤解されたままは癪なため、否定だけは伝える

 

 

摩利『あ、そうなのか。すまない、』

 

達也『いえ、わからない話ではありませんから。とは言っても、私もある人に教えられた口ですので。渡辺委員長も恋人の為にご立派だと思います。』

 

摩利『なっ、何故それを。』

 

達也『?何故って、委員長の手を見れば容易に想像がつきます。』

 

さりげなく、フォローし、さらに軽いジャブを放つこの行程。相手に絶大なダメージを与える

 

家族の間では、達也本人は意識せずやるため、余計タチが悪いとのことだが、それを知る者はこの場にはいない

 

 

二人を除く者の配膳も終わり、食事をしながらの紹介が始まった

 

真由美『時間もあまりないので食事をしながら改めて、自己紹介をしましょうか。今期の生徒会の会長を務めています 七草 真由美です。私から左手に座っている彼女、市原 鈴音 通称 リンちゃん。』

 

鈴音『私をその名で呼ぶのは会長だけなので。』

 

褐色の肌の美少女というより美人

 

真由美『で、その隣が中条 あずさ 通称 あーちゃん。』

 

あずさ『会長~。その名は止めてくださいと。特に下級生の前では。私にも立場というものがあるんです~。』

 

小動物を思わせる小柄な少女

 

真由美『で、もう一人。服部君を合わせた四人が今期の生徒会役員です。そこに、司波 深雪さん。貴女に加入をお願いしたいの。』

 

深雪『私でよろしければ、精一杯務めさせていただきたいと存じます。』

 

生徒会役員の人選を端から聞いている達也はどうしてここに呼ばれたのかが尚のこと気になった

 

生徒会役員は一科生のみで構成される

 

今のところはこの規則だ

 

達也『で、何故、私はこの場にお呼びいただいているのでしょうか?』

 

摩利『それは、私が呼んだ。風紀委員に加入してもらうためにね。』

 

達也の疑問に摩利が応える

 

その回答に達也だけでなく、この場にいる摩利と真由美以外が驚く

 

達也『どういうことですか?』

 

摩利のその人選の理由が知りたい達也

 

摩利『今期の風紀委員の人員が足りてなくてね。君の能力なら申し分無いと思ったから生徒会推薦枠で入って貰おう思った次第だ。』

 

達也『お言葉ですが、風紀委員とは何をするところなのでしょうか?』

 

更に伺いを立てるも無視を決め込まれる

 

いじめのようで罪悪感もあるが、小動物的なあずさに口を割らせるために無言で睨み付ける

 

あずさ『ふ、風紀委員とは、違反者を拘束、時には争いを止める役割を持つ組織です。』

 

こうも易々と口を割るとは

 

こんな事で役員を務められるのか心配だが、今回は助かった

 

達也『要約すると、魔法の行使や争いの場を力づくで鎮めるという解釈でよろしいですか?』

 

摩利『そうだな。』

 

達也『私は魔法力が無いために二科生なのですが、腕っ節では魔法に勝てません。渡辺委員長は私に何を求めていらっしゃるのでしょうか?それとも風紀委員は二科生でも出来るとマスコット的考えならお断りします。』

 

暗に興味ないからお断りと伝えるも相手が理解していないため伝わらない

 

摩利『別に君にそういう役割を期待してのことではない。』

 

達也『では、何を?私からもはっきりと申し上げてよろしいでしょうか。』

 

摩利『?構わないが?』

 

達也『ありがとうございます。風紀委員や学校の自治組織にも全く興味がありませんので、勧誘は止めていただけないでしょうか?』

 

いくら相手が達也に対して宥和だったとしてもこの発言は大問題である

 

明らかに喧嘩を売る行為だが

 

摩利『うーん、それは無理だな。』

 

達也『は?』

 

予想外の反応に達也の方が固まってしまった

 

そのとき、午後の授業の予鈴が鳴る

 

摩利『予鈴か、すまないが続きは放課後で構わないかな?』

 

達也『判りました。』

 

決着が着かぬまま放課後に持ち越しとなった

 

いわば、達也の敗北であった

 

 

 

 

エリカ達に再度、生徒会室に行く旨を説明する

 

先に帰るよう伝えるも待つと言われ、なるべく早く終わらせる計画を練った

 

その際、エリカがあの女はと愚痴をこぼしていたのが、不思議だった

 

 

放課後

 

達也はほのかと雫を連れて生徒会室に来ていた

 

何故、ほのかと雫がは私達も話があるらしいとのこと

 

チャイムを鳴らし、返答を待つ

 

真由美『どうぞ。』

 

達也『失礼します。1-Eの守夢です。』

 

摩利『よし、来たな。』

 

昼休憩のメンバーの他に男子生徒が一人生徒会室にいた

 

入学式後に真由美に付き従っていた人物と記憶する

 

 

真由美『いらっしゃい。あら?光井さんと北山さんまでどうしたの?』

 

達也以外来るとは思っていなかったため不思議な真由美

 

雫『あの、お願いがあります。私達も生徒会役員に加えていただけませんか?』

 

真由美『え、えーと。それはどうしてかしら?』

 

ほのか『それは…』

 

達也が理由だと言わんばかりに達也を見る二人。

無論、達也本人は話が読めないような顔をしている。

 

真由美『そうね。来年の事もあるし、しかも、今年のトップ3全員が入ってくれると有難いわね。皆、それで良いかしら?』

 

会長である真由美が了承したなら、それは生徒会の総意である。全員が真由美に信を置いているため反対はない。全員が頷きを返し二人の生徒会入りがこの場で決定された。

 

真由美『良し。それじゃあ、光井さん、北山さん。これからよろしくね。』

 

摩利『ほーお、モテモテだな。守夢、とりあえず、私と一緒に風紀委員本部へ行こう。』

 

??『待って下さい。渡辺先輩。』

 

摩利『なんだ?服部刑部少丞範蔵副会長』

 

えらく、長い名前である。

 

服部『いや、だから私の名前は服部刑部です。』

 

摩利『それは家の官名だろう。』

 

服部『高校では、それで届出してます。って、そうではなくてですね。私はそこの雑草-ウィード-の風紀委員に反対です。』

 

達也に対してなのか、二科生に対してなのか不明だが、風紀委員入りに対して反対をする服部。

そもそも、達也は風紀委員入りを断るために来ているため、服部の発言にはある意味渡りに舟なのだ。

 

摩利『ほぅ。私の前で差別発言とはいい度胸をしているな。』

 

 

服部『取り繕っても仕方ないでしょう。魔法力の劣る人間が風紀委員など相応しくありません。』

 

 

語気を強める摩利に対して怯まない服部

 

摩利『風紀委員は魔法力が全てではない。そこの彼は発動された起動式を読み取る力がある。これがあれば、魔法の発動に対して破壊することしか出来なかった事で小さな罰則を与えることしか出来ないのに対して、発動された種類の魔法で罰則が適用されるルールを行使出来る。つまり、今までの抜け道が無くせるという訳だ。』

 

意外にも考えている摩利

また、その事実に周囲が驚きに包まれる。

 

服部『そんな馬鹿な。単一系魔法の起動式でさえアルファベットで3万字相当の情報量がある。』

 

しかも、それを瞬間的に読み取り、それの対応まで出来るなど

 

摩利『そう、そんな馬鹿げた事をやってのけるから価値がある。』

 

服部『…ふっ。考えてみれば、おかしな話だ。貴様、さっきから何も喋らないのは何故だ?渡辺先輩や会長に何を吹き込んだ?』

 

しかし、そんな馬鹿げた話だと一笑に伏す

 

そして、達也に振り返り罵る

 

達也『?』

 

服部『惚けるなよ。貴様が詐欺師でなければ、誰もそんな事を信じるわけはない。』

 

達也『はぁ。』

 

突然何を言うのかと思い、様子を見るとどうも自分がそういう能力を持っているから風紀委員に役立つと進言したらしい

 

なんとも小賢しい人間と認識されているようだ

 

服部『渡辺委員長・会長やはり私は 守夢 達也の風紀委員入りに反対します。実力が伴い者に風紀委員は務まりません。』

 

ほのか『待って下さい!守夢さんは詐欺師ではありません。』

 

ほのかが声を挙げる

 

服部『光井さん?』

 

雫『私も、それはおかしいと思います。』

 

雫も異を唱える

 

服部『北山さんまで。二人とも冷静になって。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識しなければなりません。お二人ともこの人間をどう評価しているか知りませんが、真実を見極められる目を養う必要がある。目を曇らせてはいけません。』

 

ほのか・雫『『目を曇らせてなんかいません(ない)』』

 

服部『!』

 

ほのかと雫の気迫にたじろぐ服部

 

ほのか『それに達也さんは、私の魔法を止めてくれて、七草会長の魔法からも守ってくれたんです!』

 

雫『うん、達也さんは七草会長の魔法を破壊して私達を守ってくれた。』

 

いつの間にか、名前で呼ばれている達也

 

感情的になったため出てしまったのだろうが、これでは秘密にもならない

 

達也は嘆息していた

 

 

服部『魔法を破壊しただと?何を馬鹿げたことを。』

 

深雪『本当に、おかしな話ですわね。魔法力も無いのに、どうやって、十師族 七草会長の魔法を破壊したのかしら?』

 

傍観に徹していた深雪が介入する

 

達也『……、どうして、こうもややこしい話になるんですかね?私がここに来た理由は風紀委員入りを断りに来ただけです。』

 

勘違いを引き摺ることは避けるため本心を暴露する。

 

服部『ならば、都合が良い。さっさと、『しかし。』…なんだ?』

 

達也『私の友人の光井さんと北山さんの心証を悪くしてしまうのなら、非公式を公式の事実にさせていただこうかと。』

 

つまり、真由美の魔法を破壊し、ほのかの魔法も無効化したということを公の真実にするということ

 

服部『貴様、何が言いたい?』

 

ゆっくりと歩み、服部の横に立つ体は窓に向いたまま

 

達也『服部副会長。私と模擬戦をしていただけないでしょうか?』

 

とんでもない爆弾発言をする達也

 

服部『二科生-ウィード-の癖に生意気な。思い上がるなよ?いいだろう、徹底的に潰してやる。』

 

達也『受けていただきありがとうございます。一緒に司波 深雪さんでしたか?貴女もどうですか?』

 

服部に喧嘩を売るだけでなく、深雪にも吹っ掛ける達也

 

深雪『…そうですね。私も貴方の才能に興味が湧きましたわ。』

 

興味というよりは自分に楯突く達也を潰す良い機会だと

 

 

達也『なら、決まりですね。そういう訳なので七草会長、お願いしますね。あと、場所は演習室ではなく、運動場位の広めの場所でお願いします。時間が勿体無いので2対1で。』

 

真由美『ち、ちょっと、守夢君?』

 

摩利『おい、守夢。正気か?』

 

役員の面々が目を見開く

 

達也『時間は30分後で、それでは。光井さん、北山さん行きましょうか?』

 

二人の言を無視してほのかと雫を連れていく

 

 

 

静かな場所まで二人を連れ、落ち着ける達也

 

達也『二人とも深呼吸して落ち着くんだ。』

 

達也の言う通りにし、深呼吸を繰り返す。

 

雫『達也さん、ごめんなさい。』

 

ほのか『私も、達也さんに迷惑を掛けてしまいました。』

 

項垂れるほのかと雫

 

達也『気にしてはいないよ。元々、断ることしか考えてなかったからね。予想外だったのは、二人が俺を庇ってくれたことた。ありがとう。』

 

何を言われても、入るつもりは毛頭なかったのだ

 

二人が達也を庇ってことに対して礼を言う

 

ほのか・雫『『/////』』

 

達也の笑みに赤面の二人

 

達也『さて、時間も無いからね。CADを受け取っておかないと。』

 

雫『達也さん、勝ってね。』

 

ほのか『私も勝つって信じてますから!』

 

二人の応援に苦笑する

 

達也『俺は二科生なんだが?』

 

ほのか『それでも勝ちます!』

 

隣で雫も頷く

 

達也『…分かったよ。』

 

 

双子のお願いみたいだな、と思いながら二人を連れて準備を始める達也だった

 

 

 




如何でしたか?
①深雪さんには生徒会へ
②達也君も風紀委員の勧誘
③原作では、深雪さんが服部はんぞーさんと言い争いでしたが、ほのかと雫にお願いしました。

なにか疑問があれば考えている範疇ではお答えしたいと思います。
では、次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

書き貯めが役に立った。
というより、戦闘シーンは難しいです。
魔法の種類ってまだ理解出来ないんですよね。
魔法名も付けようかな。
悩み中です。

戦闘シーンは自信はありませんが、脳内補完していただければ幸いです。



達也VS服部&司波美雪

 

第一高校 グラウンド

 

誰が騒ぎ立てたのか定かではないが、ぞろぞろと見物人が集まっていた

 

それを達也は見世物ではないのだがと思うも口には出さずにいた

 

真由『見世物ではないのだけれど。』

 

摩利『全くだ。誰がこんなことを。』

 

憤慨している2人だが、一番迷惑を被っているのは達也なのだ

 

見物人の会話を聞き耳を立てていると、2科生である自分が1科生に楯突いたから生徒会公認の元公開処刑をやるとかなんとか

 

こういった嘘の元には、1%の事実が含まれているものだ

 

それが、達也が生徒会副会長 服部刑部少丞範蔵(真由美の通称では はんぞー君らしい) と今回の新入生総代である司波 深雪 の2人に模擬戦を提案したという事実からだろう

 

正直言って、煩わしい

 

奇異の目に晒されてイラつきを感じていた

 

他人や他の物事に関心が無いとはいえ、この見物人からの野次に対して、イラつきと嫌気がさす

 

目立つ行為はもとい、魔工技師としての資格が取れればそれでいい訳でそれ以上のことはどうでも良かった

 

とりあえず、うるさい外部との接触を断つために目と耳をシャットアウトした達也だが、審判である生徒会に知らない気配が来たことに気付く

 

目を開けると、部活連会頭 十文字 克人 が居た

 

この人も公正のために審判団に加わるのか?と考えていた。

 

真由『あら、十文字君も来たの?』

 

十文字『すまないが、俺も見させてもらっていいだろうか。』

 

どうやら、見物の一人としてらしい

 

真由『それはいいけど。』

 

達也はツッコミそうになった

 

そこは、模擬戦の当人に聴いて欲しかったと

 

摩利『見物人が増えたが、そこは気にせずにいこう。』

 

達也『……』

 

気にせずにはいられなかった達也だが、原因は自身もあるため大人しくすることにした

 

深雪・服部『…。』

 

摩利『当人、CADは持って来ているか?』

 

深雪と服部はすでに手元に準備されていた

 

達也もアタッシュケースにあるものの、いつでも出せるようにはなっていた

 

達也が中にある拳銃型のCADが二丁のストレージを交換する準備を始めていると、摩利が疑問を口にした

 

摩利『ほう、いつも複数のストレージを持ち歩いているのか?』

 

達也『えぇ、汎用型を使いこなすには処理能力が足りないので、私は特化型です。』

 

基本コード仮説には(加速・加重・移動・振動・収束・発散・吸収・放出)の4系統8種にそれぞれ対応した+・-の計16種類の基本となる魔法式が存在する

 

汎用型のCADにはこの系統を問わず99種類の魔法式格納できる

 

しかし、特化型のCADは同系統の魔法式を9種類しか格納できない

 

しかし、特化型は汎用型より速度や精度を誇る

 

それを聴いていた深雪と服部は勝利の確信を得ていた

 

1科生と2科生では、魔法の処理速度によって、分けられる。速度が圧倒的に勝るため1科生とも呼ばれる

 

摩利『それでは、ルールを説明する。

直接攻撃、間接攻撃を問わず相手を死に至らしめる術式は禁止。回復不能な障害を与える術式も禁止。

相手の肉体を直接損壊する術式もだ。ただし、捻挫以上の負傷を与えない直接攻撃は許可する。

武器の使用は禁止。素手による直接攻撃は許可する。蹴り技を使いたければ、学校指定のソフトシューズに履き替える事。勝敗は一方が負けを認めるか、審判が続行不能と判断した場合に決する。

3人とも開始線まで下がり、合図があるまでCADを起動しないこと。

従わない場合は私が力づくで止めるから覚悟しておけ。  以上だ。何か質問は?』

 

 

達『質問よろしいでしょうか。』

 

摩利『構わんが。』

 

達『質問というより要望事項というか、ルールの後付希望なのですが。』

 

 

服部『何を言う。恐くなったか。』

 

 

摩利『服部、少し黙れ。それで守夢、何を希望するんだ?』

 

 

達『ありがとうございます。いえ、たいしたことでは、ありません。

開始30秒間は私は魔法は使いませんし、目も閉じた状態で避けますので。

あと、そちらは死に至らしめる魔法を使用していただいて構いません。どうせ当たらないでしょうから。

私からは以上です。』

 

 

 

摩利・真由美・十文字・服部・深雪『なっ!』

 

 

 

摩利・真由美・十文字はあり得ないとおかしいのではないかと思った

 

当然である

実力を知らない深雪はともかく、服部はこの学校の5指に入る

 

その服部の魔法を避けれると断言したのだ

 

 

一方、深雪と服部は貴方の魔法は脅威にもなりませんよと喧嘩を売られたものと同じなのだ

 

怒らない訳がない

 

 

服部『いいだろう。後悔させてやる。』

 

深雪『身の程を知る良い機会にして差し上げます。』

 

2人の怒りの沸点に到達したことで達也は内心喜んでいた

 

達『(力を見せる訳にはいかないからな。2割で多分勝てるが、殺気を放ってくれてる分、避けやすいからこれでいくかあまり、自分の力(魔法)をみせる訳にはいかない。)』

 

怒り心頭な2人に審判側が待ったをかけるも聞く耳を持っていなかった

 

 

摩利『おいおい、私達は許可した覚えはないぞ。十文字、手伝ってくれ。』

 

十文字『…いや、このままでいこう。いざとなれば、俺たちで止めればいい。』

 

真由美『だけど、十文字君。もし、間に合わなかったら…。』

言いかけたが気圧されて押し黙った

 

十文字『あいつが避けると言ったんだ。半分責任は守夢にある。それに…あいつの実力が気になる。』

 

面白がったわけではなく、純粋に興味が湧いた十文字の言葉に真由美と摩利も賛同するしかなかった

 

 

摩利『…しかたない。…それでは、用意はいいか?………始め!』

右手を垂直に上げ、合図とともに降ろし、達也の30秒間の死闘が、模擬戦が開始された

 

 

30秒

 

服部『(避けれるものなら避けてみろ。基礎単一系移動魔法で…吹っ飛べ)』

発動速度およそ0.35秒 

 

服部が放った魔法は相手を後方に吹き飛ばす魔法で、当たれば、10mは軽く飛ばされる。飛ばされる距離は魔法力によるが、10m以上は中々いない部類に属する。…あくまで当たればの話だが

 

 

達也は何気なく、座標から半歩分離れその魔法を避ける。

 

摩利・真由美・十文字・服部・深雪『避けた?!』

 

審判団と周りの見物人も同様の心境である。

魔法は座標指定があり、それが外れれば当たらない。しかし、それはあくまで座標から相手が抜け出したときの話である。その前に魔法の速度で捕まり魔法を受けてしまう。それが、どうだろうか。達也はいとも容易く抜け出し、魔法を避けたのだ。しかも目を閉じた状態で。

 

29秒

 

達『どうしました?時間が勿体ないですよ。こんなことに一々驚いていては、生死をかけた戦いでは、死にますよ?相手に通じないのであれば、次の手を考えるまで。それに、30秒というのは、お二人へのハンデですよ。これを過ぎれば、貴方たちは為す術なく負けるのですから。』

 

23秒

 

なおも挑発する達也に

二人は容赦ない魔法をぶつけにかかる。

 

 

深雪『(避けられたのは、範囲が狭かったから。ならば、逃げられない範囲の魔法で)』

発動速度 0.22秒 服部よりも圧倒的に早い

種類は加重系で地面にひれ伏しに掛るも

 

 

達『ある意味正解かな。逃げられるなら逃げ切れない範囲に広げる。』

 

しかし、これもいつの間にか魔法の範囲外後方に逃げていた。

 

22秒

 

 

深雪『くっ!』

深雪の顔が曇る。半径10mの魔法の領域から一瞬で逃げ遂せる達也に苛立ちを感じていた。

 

 

服部『(ならば、目を閉じた状態なら耳を三半規管を揺さぶれば)』

振動系の魔法を放つ服部と

それを理解した深雪は干渉ギリギリでこれも広範囲の放出系の魔法を放つ。

その広範囲な魔法が達也に当たったように見えたが、魔法の影響でグラウンドが土煙に覆われる。

 

15秒

 

 

漸く視界が戻ってきたため達也の姿を探すも、見当たらなかった。

周りを見回すも影が見当たらない。吹き飛んだかと思いきや。

砂を踏みしめる音が後ろでした。まさかと思い、振り返る

 

 

13秒

 

達『会話もせずに、あそこまでの干渉ギリギリの魔法を放てるなんて凄いですね。』

目を閉じているから判らないが、とても感心しているような雰囲気の達也がいた。

 

 

 

審判団も服部も深雪もさらには、見物人までもが驚愕の眼差しで達也を見た。

あり得ない。あれだけ殺意を持った魔法を向けられているのに、この男は飄々としている。

普通ならば、足が竦んで動くことも出来ないのに、まるで殺気を呼吸をするかの如く受け止めていた。

 

10秒

 

達『どうしました?まだ、俺を殺せてませんよ?さあ、続けましょう。』

 

いい加減に挑発するのは止めろと言わんばかりに審判団は達也を睨むも目を閉じているため達也に通じるはずもなく。さらに殺気立っていく服部と深雪

 

服部が足止めや補助魔法を繰出せば、深雪が殺傷性の高い魔法を繰出す。逆も然りだ。しかし、達也はそれを難なく避けていく。まるで魔法と踊るかのようにして周りを魅了していく。

いつしか見物人からは綺麗という言葉が出てくるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その魔法との演舞にも終わりがくるのは当然である。

それは必ずしも踊り手が迎えるのではなく、第三者の審判団からであった。

 

 

摩利『(綺麗だなぁ。ずっと見ていたいな……ずっと?いや、あれから何分たった。30秒はとっくに、5分以上経ってる!守夢は無事なのか。)』

横にいる真由美を見やれば、自分と同じくようやく気付いたと言わんばかりの表情で摩利を見ていた。

グラウンドを確認すると守夢が目を閉じながら避けていた。そして、視線に気づいたのか目を開き言い放った。

 

 

達也『見惚れてないで、時間はきっちり測って下さいよ。いつ気づくか心配でしたよ。』

 

 

 

摩利『すまない。ではない!あんな無謀な発言にこちらが心配したぞ。』

 

 

達也『そうですか?まあ、すみませんでした。では、時間も経ったことですし、反撃開始といきますかね。』

 

そう言うと達也の姿がブレていつの間にか服部の目の前に迫っていた。

 

 

服部『(いつの間に!今のは自己加速術式か?)』

 

服部の思考を読んだのかのように達也が反論する

 

 

達也『自己加速術式なんて仕込んでいませんよっ。』

 

言い終わると同時に膝で鳩尾を狙う。

服部は後方に避けようとするも先に鳩尾に膝が入ってしまった。

よろけていると達也は手に持っていたCADをショルダーのホルスターに戻していた。

 

 

服部『…なんのつもりだ。まだ、終わってないぞ。』

 

 

達『いえ、服部副会長には、純粋な体術で沈めようかと思いまして。二科生の力を侮られているようなので、お灸を据えるために。(ニコッ)』

 

その表情を見た審判団は思った。鬼だと。

 

 

服部『…なめやがって。』

 

 

達也『そうだ、司波さんでしたか?いつでも攻撃していただいて結構ですよ。服部副会長ごとでも。一緒に逃げますので。』

 

存外に言い放つ

 

深雪『では、遠慮なく。』

 

そう言うと、また別の魔法を繰出す

 

それを今度は服部を抱えて避けていく達也勿論、お姫様抱っこで

 

いつの間にか、服部を降ろしてまた、魔法を避けていく

 

服部もまた、魔法を発動しようとするも達也がそうさせてくれない

 

左腕につけているため右手でCADを操作するのだが、右手を執拗に狙ってくる

 

蹴りで返そうにも今度は足を無力化させようと潰しにかかってくる

 

次第に四肢が打撃で麻痺し、再度鳩尾に拳が入る

 

服部は耐えきれなくなり体をくの字に曲げたところに達也が首元に手刀で服部の意識を刈り取った

 

 

服部『(っく…そ)』

 

膝から崩れ折れる服部を肩に担ぎ上げ、移動する達也

 

真由美・摩利・十文字『(っ!いつの間に!)』

 

瞬きの間に審判団まで移動した達也は服部を横たわらせる。

 

達也『必要ないと思いますが、何かあれば介抱をお願いします。』

 

言い残すと砂だけが巻き上がり達也が居なくなる

 

摩利『十文字、奴に勝てるか?』

 

達也の戦闘能力を垣間見てから自分では勝てないと悟る摩利はわすがな可能性を尋ねた

 

十文字『…判らん。これが守夢の実力なら五分五分だが、最初は目を閉じて悠々と攻撃を避けていたところを見ると今の戦闘能力が全力では無さそうだ。もう一段階上があるはずだならば、俺でも持てる力全て出して、漸く互角かもしれん。』

 

自信過剰でもなく、出来ることしかやらない、十文字は謙虚という事でもない

 

しっかりと自己分析した結果からの回答に真由美と摩利は言葉を失う

 

真由美『そんな。十文字君が止められないなんて守夢君は一体何者なの?』

 

十文字は決して弱くはない

 

それどころか、弱冠18歳で当主代理をしている時点で立派なものである

 

 

十文字『だが、奴は本当に魔法が苦手で身体能力が高い。となると、魔法で勝負すれば、なんとかなるかもしれん。あまりそんなことにならないことを祈るが。』

 

摩利『そんな奴なら尚の事、風紀委員会には欲しいな。』

 

愉しげな声の摩利に真由美は呆れていた

 

 

 

 

一方、この模擬戦を観覧していたエリカとレオ、幹比古、美月達はー

 

 

エリカ『凄い。』

 

レオ『あぁ、一種の化け物だな。』

 

エリカ『あんた、失礼ね。でも、確かにどれ程の鍛練をしてきたのか想像がつかないわね。』

 

レオの言葉に非難するも内心は同じだった。

 

幹比古『そんな事よりも二人共。気付いてるかい?彼、まだまだ全力では無い事に。』

 

 

達也は避けているだけで攻撃はしていない。

これが攻撃に転じれば忽ち相手は防戦一方になることは予想がついた。

 

また、一方でほのかと雫は達也の新たな一面に驚きは隠せずにいた。

 

ほのか『達也さん。こんなに凄いのに、どうして秘密にする必要があるんだろう?』

 

雫『そうだね。何か理由があるのかも。』

 

ほのか『でも、絶対に話して貰おうね雫。』

 

雫『うん、でも達也さんのお嫁さんは私だから。』

 

ほのか『なっ!達也さんのお嫁さんは私!』

 

近くに人が居たらこういうのかもしれない。

捕らぬ狸の皮算用?

そんな言い争いをしている間にも模擬戦は終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深雪『(くっ。どうして、掠りもしないの?どれだけ範囲を広げても逃げられる。)』

 

深雪の苦悶の表情を見てとった達也は追い討ちを掛ける。

 

達也『甘ちゃんだな。』

 

深雪『なっ!』

 

その言葉に冷静を保とうとしていた理性が崩れ、怒りが激流の如く深雪を支配した。

 

深雪『(知らない、こんな奴死ねばいいわ。凍てつきなさい。)』

 

超上級魔法

広域振動減速魔法 ニブルヘイム

 

瞬間で発動されたため、理解した人間は四人のみ

 

その魔法は高校を呑み込む勢いで広がる

 

野次馬の生徒達が危険を察知するも逃げ切れない

 

深雪『(っ!やってしまった。)』

 

感情的になってしまい、制御が効かずどんどん範囲が拡がっていく

 

自分の失態に慌てて魔法の発動を止めるも遅い

 

十師族である十文字や七草でさえ、難しいと悟る

 

 

刹那

 

 

瑠璃の砕ける音がした気がした

 

ついで、魔法が破壊され、冷えた空気が徐々に元に戻ってくる

 

 

達也『(十師族でさえ、この為体か。)』

 

誰に向けたものでもない独り言

 

その十師族とは一体誰なのか達也しか知らない

 

そして、ゆっくりとした歩みで背後から深雪に寄る達也

 

深雪は、それさえ気付いていない

それほど動揺していたのか

 

達也の右手には、拳銃型CAD

 

それを彼女の頭に近づけ、引き金を引く

 

銃口より放たれた魔法は、深雪の意識を刈り取った

 

ついで、深雪が崩れ折れる、その前に達也が支える形をとる

 

達也は深雪を俗称お姫様抱っこで審判団の元へ歩いていく

 

 

真由美『守夢君。』

 

何かを言いたそうにするも無視し、深雪を地面に降ろす。

 

達也『あとの処理はお願いします。私はこれで失礼します。』

 

摩利『待て、守夢。最後の魔法を消したのはお前か?』

 

この模擬戦での一番の疑問を口にする

 

達也『さあ?七草会長かそこの十文字先輩ではないのですか?私は、彼女に止めを刺しただけです。』

 

そう言い残して、ほのかと雫、エリカ達同級生を連れて帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

十文字『何者だ奴は?』

 

真由美『1-Eの生徒で、筆記試験ではダントツのトップ以外は何もわからないわ。調べてみようとは思うけれど。』

 

高校内部で調べられた内容は一般の家庭で入試の筆記試験がトップであることのみ

 

十文字『頼む。それに渡辺。』

 

摩利『なんだ?十文字よ。』

 

十文字『あいつを部活連か風紀委員に入れるぞ。』

 

摩利『…勿論だ。それにしても、十文字。お前も守夢が欲しくなったか?』

 

十文字『あぁ。』

 

 

何を思ってかは不明だが、十文字 克人という人物が達也に興味を抱いた瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリカ『達也君。貴方は一体何者なの?いい加減教えてくれない?』

 

帰宅途中痺れを切らしたエリカが達也を問い詰める

 

達也『そうだな。全ては無理だが。俺は 古式魔法の伝承者、忍術使い 九重 八雲の弟子だ。』

 

幹比古『え?あの九重先生の弟子だったの?達也。』

 

エリカ『なるほどね。あの身のこなし、そういうことね。』

 

雫『達也さん、あとは?』

 

達也『これでも、譲歩したんだが。そうだな、親が会社を経営している。雫の父親なら知ってるとは思うが。』

 

 

雫『お父さんが?』

 

 

達也『ああ、ヒントはCADと森城という苗字だ。』

 

雫『C…AD?…あっ!思い出した。ほのか、覚えてない?』

 

ほのか『雫、どういうこと?』

 

 

雫『ほのかも知っているよ。私の父が見せてくれたでしょ?』

 

記憶から確認させるようにほのかに話す

 

ほのか『だから、守夢さんていう方が社長をしている会社なんてないからどういうこと?って訊いてるの!』

 

ほのかが雫に怒るも雫は深い思考に入っているため、ほのかのことなど完全にスルーだ

 

雫『守夢って苗字がずっと気になってたんだ。ただ、珍しいだけかなって思ってたけど。』

 

ほのか『けど、何?』

 

雫『ほら、憶えてるでしょう?父が珍しく浮かれてた時が有ったこと。』

 

順々に記憶を整理し、答えを紐解いていく雫

 

ほのか『う~ん。いつもそんな感じだから曖昧な記憶なんだけど。』

 

雫に促されて最近の雫の父の記憶を引っ張り出す

 

周りも思い付かないと白旗を挙げる

 

達也『俺の義父(ちち)はエリシオン社の社長だ。ビジネスネームだから判らないのは無理はない。』

 

エリシオン社 CADの老舗メーカーで、技術力もさることながら、他の部門でも一流を誇る会社である

 

ほのか『あっ!思い出しました。雫のお父さんがエリシオン社の社長と会えたって喜んでました。』

 

雫『うん、エリシオン社の社長って政財界には一切顔を出さないって聞いてる。そんな人が珍しく顔を出してたって父が言ってた。』

 

 

エリカ『エリシオン社って言えば、トーラス・シルバーが在籍してるんじゃあ?』

 

 

達也『そうだな。あの人のお陰で特化型CADが十年の進歩を遂げたと言われている。俺もあの人のお陰で魔法力も無く、取り柄の無い俺が魔工技師を目指すきっかけををくれたんだ。』

 

真実はシルバーは達也なのだが、嘘に真実を軽く混ぜ混むと信憑性が増す

 

追及されないようにするにはこれが一番効果的なのである

 

ほのか『じゃ、じゃあ。達也さんはCADの調整とかも出来るんですか?』

 

 

達也『あぁ、自分のはやっているから多少はね。』

 

 

エリカ『じゃあ、私のもやってもらおうかしら。』

 

達也のCADの調整話に乗っかろうとするエリカ

 

達也『そういう刻印型はあまり得意ではないが、それでも良いなら。けど、良いのか?千葉には調整してくれるところもあるだろう?勿論それは、北山家にも言えることだけどね。』

 

エリカのCADが警棒状ということに達也以外が驚く

 

 

エリカ『へぇ、達也君。これが、CADだって判ったんだ?』

 

達也『中は空洞で想子-サイオン-を流すときは打ち出しと打ち込みの瞬間だけ。相当の腕だ。』

 

エリカ『なんか、全部知られててつまんない。』

 

達也の洞察力に舌を巻く

 

 

達也『褒めてるつもりなんだけどな。』

 

 

雫『達也さん、もし調整してほしいって言ったらしてくれる?』

 

達也『残念だけど、それは俺がライセンスを取ってから。それに、専属はあまり考えてないから契約はしないよ。』

 

雫『…解った。』

 

自分もしてほしいとお願いするも、断られ多少のショックを受ける雫

 

達也『さて、俺の秘密公開は時期を見てまた、話すよ。といっても、殆ど話してしまったような感じだからあまり無いよ。』

 

レオ『でもよ、何で達也は魔法師にならねぇんだ?あんなに戦闘スキルがあるのによ。』

 

達也『俺の魔法力では、良くてCランクのライセンス止りだ。それに、戦闘はあまり好きじゃない。』

 

レオ『なんかすまん。』

 

達也の理由に気まずくなる

 

達也『気にしなくて良い。…でも、不味いな。』

 

何かを思い出したように呟く。

 

エリカ『?何が?』

 

達也『さっきの模擬戦で追求を逃れるために逃げてその性で風紀委員の断りをせずに来たから明日にでも再度勧誘に来そうだなと。』

 

元々は風紀委員入りを断りに行ったのがこのような状況が生まれてしまった

 

ほのか『え、達也さん、風紀委員に入らないんですか?…せっかく、生徒会に入って達也さんと一緒に居られると思ったのに。』

 

達也の言葉に衝撃を受けるほのか

 

達也『ほのかさん?』

 

何故、そこまでの衝撃を受けるのかわからない達也

 

雫『私も、達也さんが居ないと淋しい。元々、達也さんが風紀委員入りしたら、会える時間も増えるなぁとおもったのに。』

 

こちらも同様に達也の風紀委員の断りに涙目である。

というよりも、好意を全面に押し出してきている。

そんなに、好意を向けられるようなことはしてないはずであるが、鈍感な達也でも、ここまで来れば判る。

 

エリカ『あら?達也君はこんなお願いを無下に断るのかしら?』

 

エリカは達也に追い討ちを掛ける。

 

達也『いや、元は向こうが強引に勧誘してきたからであって。研究したいこともあるからそんなことしてる暇はないんだ。だから…』

 

 

ほのか・雫『『駄目!!』』

 

入らないという言葉を遮る二人。

それと同時に達也に飛び付き、達也が受け止める。

達也には上目遣いが効果覿面と理解してきたのか、それでオトそうとする(+涙目)。

 

達也『(この二人、結那と加蓮程ではないが手強い。)…。』

 

何がとは言わない

 

実際は、双子の方がもっと恐ろしいのだが、ここでは割愛する

 

達也『…分かった。明日、生徒会室に行こう。』

 

ほのか『本当ですか?』

 

達也『あぁ。風紀委員入りのな。』

 

達也が肩をすくめ、降参のアピールをし、ほのかと雫が喜ぶ

 

その姿を眺めながら、明日からまた、平穏な日々が遠退いていく感覚を覚え、一人達也は嘆息した

 

 

 

 

 

 

--------------

 

 

東京某所

 

司波家

ここでは、司波 深雪とそのガーディアンの桜井 水波が暮らしていた

 

水波も第一高校の1-Aの生徒で先の模擬戦において、傍観に徹していた

 

本当ならば、深雪の危機に対応するためにガーディアンはいるのだが、あくまでも模擬戦

 

それに、入学早々からバレる訳にはいかない

 

そんなことをしなくても深雪が勝つと信じていたということもある

 

が、見事にそれは守夢 達也という人間に打ち砕かれることになった

 

そして、どうやって家にまで帰って来たのか記憶が曖昧な不始末

 

深雪『…。』

 

 

 

 

 

 

水波『深雪様、夕食のご用意が出来ております。』

 

食事の用意が出来たため、深雪を呼びに行く水波

 

深雪『…。』

 

水波『深雪様?』

 

声を掛けるも反応がない、訝しげに再度深雪の名前を呼ぶ

 

深雪『水波さん。』

 

水波『はい。』

 

深雪『叔母上に連絡をとっていただけるかしら?』

 

水波『…畏まりました。』

 

反応があることに若干の安堵はあるものの、水波への返答ではなかったため、反応が遅れる

 

深雪の要望で四葉家に連絡を取る水波

 

深雪『守夢 達也。一体何者なの?』

 

その呟きに答える者はいない

 

 

 

程無く、四葉家と連絡がとれ、深雪はモニターの前に立つ

水波はその背後で控える

 

モニターには、現四葉家当主 四葉 真夜とその姉 深雪の母親である司波 深夜が映っていた

 

 

真夜『あら?深雪さんから連絡してくるなんて、珍しいわね。ねぇ、姉さん。』

 

親離れが出来ているのか滅多なことしか連絡しない深雪のため極力、真夜や深夜が定期的に連絡をとる

 

深夜『そうねぇ。そう言えば、お祝いの言葉がまだでしたね。入学おめでとう、深雪。』

 

真夜『おめでとう、深雪さん。』

 

深雪『ありがとうございます。母上、叔母様。』

 

本来ならば、嬉しい言葉も先の件で嬉しさが感じられない

 

その表情が出ていたのか心配をされる

 

真夜『どうかしたのかしら?顔色が悪いわよ?』

 

深雪『っ!』

 

表情を隠しきれなかったため動揺をする深雪

 

深夜『何かあったようね。話すと楽になりますから、教えてちょうだい?』

 

慰めるように言う深夜

 

深雪『…話してしまうと、また怒りが込み上げてきます。ですが、これは知っていただきたい話でもあります。四葉のためにも。』

 

怪訝な顔の姉妹に今日の状況を事細かに説明する

 

ある言葉に僅かに二人の顔が強張るも深雪も冷静を努めることに精一杯のため、気付かない

 

『達也』 この名前が意味するものは何なのか

 

 

深雪の説明が終わり、暫しの沈黙が訪れる。

 

 

真夜『解りました。深雪さん。今回は深雪さん、貴女の油断が招いた結果とも言えます。四葉とバレる訳にもいきませんが、四葉の魔法師としての自覚はしっかり持つように。そして、これを糧になさい。』

 

珍しく、叔母としての立場で深雪を励ます

 

入学の喜びもあるのだろうか、当主としての厳しさは鳴りを潜めていた

 

深雪『申し訳ありません。精進致します。』

 

 

深夜『深雪、今日のことは、私達の方で調べておきますから、貴女は心に置きつつも明日からの学校生活を楽しみなさい。貴女には学ぶべきものがたくさんあるのですから。』

 

母親である深夜も慰め、深雪にこれからを考えるように促す

 

深雪『ありがとうございます。お母様。』

 

真夜『期待しています、深雪さん。それから水波さん、深雪さんのことは頼みましたよ?』

 

深雪の後ろに控えていた水波にも声を掛ける

 

深雪の守るガーディアンとして、発破をかける

 

水波『かしこまりました、当主様。』

 

深夜『ガーディアンとしては半人前ですが、貴女も経験値不足なだけです。勉強はしっかりするように。』

 

水波『勿体無いお言葉ありがとうございます。奥様。』

 

真夜『家を離れて東京で暮らして少しですけど、また、顔を見せにいらっしゃいな。』

 

深雪『はい。』

 

真夜『それでは、ごきげんよう。』

 

最後まで冷静を努め、電話を切る真夜

 

 

 

 

深夜『真夜』

 

深夜が妹を励まそうとするもどう声を掛けていいかわからず、名前を呼ぶだけに留まる

 

 

真夜『…姉さんはどう思う?』

 

深夜『別人と考えるべきでしょうね。しかし、名前が似ていて生まれた年が同じ。偶然にしては出来すぎているとしか言いようがないわね。』

 

真夜『…そうよね、魔法力が多少あることで達夜であることは無いわ。想子-サイオン-もその人物にはある。しかも、私の魔法で跡形もなく消したのは私自身だもの。見間違えることはないわ。』

 

自身で断言しつつも不安は拭えない

 

本当に自分は始末したのか

 

仮に生きていたとして、何故私の前に現れるのか

 

深夜『そんな顔しないの真夜。』

 

真夜『姉さん?』

 

心配そうな姉の声

 

深夜『貴女、酷い顔してるわ。まるで亡霊に会ったような。』

 

真夜『亡霊は言い過ぎじゃないかしら?仮にも相手は生きてるのだし。』

 

 

深夜『言葉の綾よ。けれども、調べておく必要はあるでしょう?』

 

真夜『えぇ。葉山さんと貢さんにも頼んでおきましょう。』

 

 

静かに達也と四葉が交わる道が生まれる

 

そして、それは四葉にとって何を意味するのか?

 

さらには、達也の運命にどう関わるのか

 

まだ、物語は始まったばかりである

 

 




如何でしょうか。
①模擬戦は実習室→グラウンドで
②達也君、体術半端無い。
③深雪さん、初敗北
④達也君、四葉の調査対象

他も少々アレンジは加えてますが、原作のシーン沿いにはしていきたいと頑張ります。
それでは、次回。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

知らぬ間にお気に入りをしてくださっている方が!
嬉しいです。

少し、質問が。
セリフの前に名前とかあったほうがいいですか?
あと、情景にその人物の名前は姓名のどちらがいいでしょうか?



応接室

 

 

達也は朝から風紀委員長の渡辺 摩利と部活連会頭の十文字 克人、さらには生徒会長の七草 真由美の第一高校のトップ3と相対していた

 

三人は兎も角、達也は授業がある

 

しかし、三人のそれも内二人は十師族

達也の単位の一つや二つの取得させるなど造作もないだろう

 

が、こんなところで使うのは如何なものか

 

それは横に置き、達也は三人からの呼び出しに予想があったのか動揺した様子はない

 

達也『……』

 

十文字『…。』

 

摩利『……。』

 

真由美『…』

 

暫し無言が続き、埒が明かないと達也が沈黙を破る口火を切る

 

おもむろに先輩の前で堂々と自分のCADの調整を始める

 

これには、真由美と摩利が虚を突かれる

十文字も同様だが、柳眉を僅かに動かすだけに留まる

 

真由美『ちょ、ちょっと守夢君?』

 

こういう雰囲気が苦手と思われる真由美が案の定声を上げる

 

達也『?はい、何でしょうか?』

 

真由美『何って、私達が何も話さないからってそれはやめて欲しいんだけど。』

 

摩利『そうだな。守夢、それは放課後にやってもらいたいんだが?』

 

摩利も真由美に賛同する形で圧力をかけてくる

 

達也『それは先輩方が私を授業から切り離して連れて来たんですよ?要件があるから同行したのに会話せず、蔑ろにしているのは先輩方なのでは?』

 

十文字『…すまないな。』

 

こちらが圧倒的に有利な状況のため、弱腰ではなく、強気を全面に押し出すと結果としても相手が折れる形となる

 

達也『いえ、此方も口が過ぎました。それで要件というのは?』

 

十文字『率直に言おう。守夢、部活連か風紀委員に入らないか?』

 

やはり、と達也は心の中で呟く

 

達也『それは何故でしょうか?私は生徒会の副会長と役員に反対を受けた身。いくら二人を倒したからと言って入らなければならない理由が私にはありません。』

 

真由美『それはそうなんだけど。』

 

摩利『別に良いじゃないか、それくらい。あいつらも徐々に認めるさ。』

 

援護射撃にしては根拠が薄い

 

達也『徐々にですか。笑わせますね。…条件があります。』

 

十文字『なんだ?』

 

条件と言われて、三人は身構える

 

達也『一つ本日、放課後に生徒会室に風紀委員入りの申し出に伺います。その際にあの二人から承諾をいただけなければ入りません。二つ、魔法科高校には魔法協会の文献閲覧のアクセス権がありますよね。その権利を優先的に使わせて下さい。』

 

決して無理な条件ではない

 

二つ目はともかく、一つ目が大きな課題だろう

 

何せ負けた奴の要求を受け入れることになるのだから

 

真由美『えぇ!一つ目なんて、あの二人が反対するのは目に見えてるし。二つ目もあの二人が聞いたら発狂するわ。』

 

達也『それでしたら、部活連、風紀委員入りも諦めて下さい。私がこの高校に入った主な目的は文献の閲覧が可能なので入りました。自治会組織に時間を拘束されるため、残り時間の有効活用が必要です。許可等に無駄な時間を割かれたくありません。』

 

 

十文字『…いいだろう。』

 

観念したのか十文字が承諾する

 

真由美『ちょっと十文字君?』

 

当てにしていた十文字が承諾の回答に真由美が裏切られたような表情になる

 

摩利『まぁ、待て真由美。面白そうじゃないか。』

 

摩利に関しては、楽観視が多い気がするのは気のせいではない

 

真由美『摩利まで、この二つの条件をクリアしないと守夢君入ってくれないのよ?』

 

摩利『それはそうだが、やるしかないだろう?司波を呼んでおけよ真由美。』

 

昨日、三人で話し合って、達也の自治会組織入りの方向性を固めたのだ

 

いまさら後には引けない

 

十文字『決まりだな。昼休み、服部と生徒会室に来る。』

 

達也の風紀委員入りのためにも服部と深雪な賛成が必要なのだ、時間は限られている

 

達也『それでは、交渉成立ですね。では、私は授業がありますので、退席させていただいても構いませんか?』

 

摩利『あぁ。放課後、待ってるぞ。』

 

勝ち誇った表情の摩利が妙に気になるが、授業と興味の天秤は当然の如く授業に傾く

 

達也『では。』

 

席を立ち、応接室の出入口に向かう達也

 

扉を開けるも出ていかない達也

 

それを不審に思い声をかけようとするまえに再度達也によって遮られた

 

 

達也『あ、そうだ。言い忘れてました。』

 

真由美『何?守夢君。』

 

何か他に条件があったのかと思うと身構えそうになる

 

が、達也の口から出た言葉は予想を上回るものだった

 

達也『先程、十文字会頭から勧誘がありましたが、別に私は今日、放課後に風紀委員入りの申し出をするつもりでしたよ?お三方、交渉術はまだまだですね。それでは失礼します。』

 

その言葉を何度も反芻し、何を言われたのか理解するのに、十数秒

 

真由美・摩利『『守夢(君)!!!』』

十文字『やられたな。』

 

 

応接室では、発狂した真由美と摩利、何枚も上手な達也に何も言えない十文字が残された

 

 

 

 

 

 

--------------

 

生徒会室前

 

達也はこれから何度もここに足を運ぶことになるのかと思いつつも諦めの念を抱いていた

 

達也『1-Eの守夢 達也です。』

 

真由美『…入って。』

 

朝の事が引きずっているのか、若干入室許可が遅かった気がするのは気のせいではない

 

達也『失礼します。』

 

摩利『さて、早速本題に入ろう。』

 

達也が生徒会室に入り、真由美が何かを言いかける前に摩利が遮る

 

さっさと言えと言外に告げられる

 

達也もそのつもりのため本題を告げる

 

 

達也『七草生徒会長。私、守夢 達也は風紀委員入りの推薦をお受け致します。つきましては、生徒会役員の方々のご了承を賜りたいと存じます。』

 

生徒会役員の面々に視線を投げる

 

真由美『えぇ。こちらこそよろしくね。』

 

鈴音『守夢君、貴方の活躍期待しています。』

 

あずさ『ふぇ、えっとその、頑張って下さい。』

 

ほのか『頑張って下さい!』

 

雫『ファイト。』

 

会長の真由美に続き会計の鈴音、書記のあずさ、ほのかと雫に関しては励ましの言葉に聴こえるが心の内は好意があるため、あえて反応はしない

 

そして、問題のーー

 

 

服部『……風紀を乱すなよ。』

 

敵対という訳ではないがそれに近い

 

服部の言葉は寧ろ、監視に近いかもしれない

何時でも、お前を監視しているぞとでも言いたげな

 

深雪『…無様な姿を曝せば、後ろから射ちます。』

 

こちらはあからさまな敵意である

 

 

達也は内心、この二人をよく丸め込めたなと感服していた

 

 

摩利『では、決定だな。』

 

真由美『よかった~。』

 

真由美は安堵が口に出てわかりやすいが、摩利の場合は、表情が安堵を示しており、意外と摩利の方がわかりやすいのかもなと失礼なことを達也は考えていた

 

しかし、二つ目の条件をすぐにこの二人が認めるとは思えないため何気なしに訊く

 

 

達也『あえて伺いますが、別条件とはいえ、まさかと思いますが、二つ目は話してないと解釈してよろしいですか?』

 

摩利『うっ、鋭いな。』

 

隠せなかったかと摩利

 

視線をズラし真由美を見るも摩利と同じ表情をしている

 

 

服部『…?会長、二つ目というのは?』

 

真由美、摩利が顔色を変えたため質問する服部

 

真由美『えっ、それは。』

 

達也『それはですね。魔法協会に保管してある文献の等のアクセス権の優先閲覧資格です。』

 

真由美が口ごもるため、代わりに達也が暴露する

 

隠すことでもないし、この際ハッキリしておきたい

 

深雪『…なんですって?』

 

美人とも美少女とも評せられる深雪の眉間に皺がよる

 

怒るとその顔が台無しになるなと思いつつも口には出さない。原因の一つは自分にあるからだ

 

服部『…貴様、とことん性根が腐っているようだな?』

 

達也『?私は風紀委員入りの申し出をするつもりでしたが、勧誘をしてきたので、条件をつけて勝手に相手が承諾しただけですので。』

 

そこまで、怒る必要がわからない

 

一方的に要求を突き付けてきたから条件を出す、交渉事では当たり前だ

 

そもそも、この閲覧許可には時間短縮の効果しかないことを理解できていないらしい

 

どう説明したものかと考えていると益々炎上の一途を辿っていた

 

服部『会長!こんな性悪などやはり反対です!』

 

深雪『そうですわね。会長、私も取り消し致します。彼の風紀委員入りを反対します。』

 

真由美はあたふたして摩利に助けを求めるも摩利には二人を止める権限がないため、肩を竦めている

 

仕方がないため、達也が二人を理詰めで説明をする

 

達也『おや?生徒会役員というとても素晴らしい地位のお二方がそんな軽々しく言葉を変えてよろしいのですか?』

 

理詰めでもない、ただの挑発だ

 

服部『なんだと。』

 

達也『もう少し冷静に考えて下さい。あそこの文献を閲覧する人間がこの高校に延べ何人いますか?しかも、閲覧資格といっても他の生徒と変わりません。唯一違うのは、許可証がいつでも使えるという点だけです。』

 

服部・深雪『『っ!』』

 

ようやく、その問題に辿り着き、苦虫を噛み潰した顔をする

 

達也『ご理解していただけてなによりです。もっと、物事の状況を把握してから発言お願いします。』

 

やるときはとことん徹底的にするため容赦の無い達也に摩利が止める

 

摩利『そのくらいにしておいて、守夢よ。今から風紀委員本部に行くぞ。』

 

このままだといつまで経っても終わらないであろういがみ合いを終わらせる

 

摩利は達也を引き連れて生徒会室を後にした

 

 

 

 

 

 

摩利に引き連れて風紀委員本部を訪れた第一印象は一つ

倉庫なのかと

 

気にする風もない摩利に達也は進言を試みた

 

 

達也『委員長』

 

摩利『?なんだ、守夢。』

 

達也『この物置のような部屋が本部ですか?』

 

第一印象をそのまま言葉にするも摩利に動揺はない

 

摩利『そうだが、男所帯だからな。片付けが苦手な奴等ばかりでな。』

 

男所帯で仕方ないで片付けているらしい

 

尤も、片付けるの意味は違うが

 

達也『ちょっと片付けしますので。魔工技師志望としては少々耐え難いものがあります。』

 

 

摩利『魔工技師?あんなに対人戦闘スキルがあるのにか?』

 

レオと同じことを言われるも自分に魔法力が無いことは分かっているため落胆はない

 

その前提があれば、こちらの理由付けを出来る

 

達也『友人にも言われましたが、私は二科生です。魔法力はあまり無いので。精々Cランク止まりですよ。』

 

魔法師としての素養はないが、別の素養があるためランクなど正直言って、達也にはどうでも良いことであった。別の素養は話す気は無いが

 

摩利『それはすまなかった。つい、あの二人を倒してしまったから。』

 

達也『いえ、あれは模擬戦だからで、ハイスペックのCADと体術もありですからね。体術はそれなりに鍛えてます。実技は魔法のみの戦闘ですし、実技は二科生の下から数えたほうが早いと思います。』

 

 

摩利『さて、昨日も言ったが、君を入れた理由はあれが主な理由だ。』

 

粗方、清掃が終わったところで摩利が達也に風紀委員の勧誘理由を語る

 

 

達也『てっきり、イメージアップかと。』

 

摩利『まぁ、それもある。』

 

達也『イメージアップは逆効果かもしれませんよ。今年も過去と同様に一科生と二科生の溝は深いですよ。』

 

なにせ新入生総代が筆頭なのだ

変わる訳がない

 

摩利『だが、そこまで深みに嵌まりきっていないから、認識を変えることは容易い。これから、その風潮が拡がればと思っている。これは、真由美や十文字も同意見だ。』

 

意外にも真剣な表情に達也もそれ以上に追及はしない

 

達也『まぁ、何でもいいですけれどね。ところで、私以外には誰が入るのですか?あの森崎という生徒ですか?』

 

摩利『そうだ。教職員枠でな。先日の件は説教をしておいたからそこまでだとは思うぞ。』

 

あの騒ぎでてっきり、取消かと思われたが、新入生ということもあり厳重注意で終わったようだ

 

??『ただいま戻りました。』

 

??『委員長、本日の逮捕者は0名です。』

 

風紀委員本部に二人の風紀委員が入ってきた

 

一人は体格の良いいかにも体育会系の生徒

もう一人は柔らかな面差しをするも目の奥には芯のある意思のある生徒

 

??『?、姐さん。この部屋は姐さんが片付けを?』

 

驚きを隠せない声が摩利の怒りを買う

 

摩利『誰が姐さんだ!お前の頭は学習能力はないのか?しかも、私が掃除したらおかしいのか!』

 

冊子を筒状にして頭を叩く摩利に精神的に痛かったのか呻く声が聴こえる

 

 

??『ところで、そいつは新入りで?』

 

復活したのか、達也に目がいく

 

摩利『生徒会推薦枠でな。』

 

??『へぇ、あの模擬戦はお前か。』

 

グラウンドであれだけ派手にやったのだ

 

知られてもおかしくないが、言葉の中に含まれているのは好意的な感情が含まれているのを感じた

 

??『辰巳先輩、その発言はどうかと。素直によくやったと誉めては。』

 

どうやら二年生の先輩はあの模擬戦を高く評価してくれているらしい

 

が、試されている感じはする

 

摩利『お前らな、全く。』

 

素直でない部下を嗜める摩利

 

達也『気にしてませんよ。魔法力で劣っていることは否定しません。』

 

沢木『すまないな。2-Dの沢木 碧だ。くれぐれも名前では呼ばないでくれよ?』

 

握手のために手を差し伸べられる

 

達也『…よろしくお願いします。』

 

高校生とは思えない握力で達也の手を握る

 

試されている目はこの握手かと、目を細める

 

しかし、黙ってやられる程達也は優しくない

即座に手の骨が砕けない程度で握り返す

 

沢木『?!ぐぁ。』

 

握力に自信があったので試したが、それ以上で逆襲に遭うとは思わなかったようでもがく

 

しかし、逃げようにも握力が自分以上ではその術がない

 

握り返すなんて生優しいものでもないほどの握力

 

達也は相手の全身の力がある程度弱まったのを感じ、さらなる攻勢をかける

 

投球のフォームで弧を描き、沢木を地面に叩き付ける

 

一瞬で意識を刈り取ることと、なるべく痛みを最小限の投げを遂行する

 

達也にとっては日常のため作業に等しいが傍から見れば目を疑う光景である

 

 

沢木『ぐは! 』

 

計算通り意識を失う沢木

 

辰巳『沢木!?』

 

沢木が倒されることに唖然とする

 

達也『すみません、つい。攻撃の意思かと思いまして。』

 

反省の意思はないが、一応形だけでも謝る達也

 

摩利『おいおい。鋼太郎、これが守夢の実力の一端だ。風紀委員はある種の実力主義。問題ないだろう?』

 

最初の言葉は達也

後ろは部下を落ち着かせる

 

辰巳『全く問題ありませんが。沢木がこうもあっさりとは。すまないな。3-Cの辰巳 鋼太郎だ。この風紀委員でわからないことがあれば訊いてくれ。』

 

風紀委員に一年間在籍して、それなりに違反者を取り締まってきている沢木があっさりとやられる姿に驚きを隠せない

 

しかし、裏を返せば服部を沈めた実力と言える

これ以上の逸材はいないだろう

 

達也『ありがとうございます。』

 

 

 

 

 

十数分後

 

 

沢木『…うっ、俺は。……そうか、堕とされたんだな。』

 

辺りを見回し、自分がどういう状況か思い出す

 

達也『気が付きましたか?』

 

沢木『…すまなかった。君を試したつもりが逆にやられるとはね。』

 

まさか、自分以上に握力がある人間がこの高校にいるとは思わなかった

 

達也『こちらこそ、初見でこのような行為を申し訳ありません。風紀委員としては十分だと思いますよ。1-Eの守夢 達也です。これからご迷惑をおかけしますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願い致します。』

 

沢木『こちらこそ、期待してるよ。』

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

入学式の後はクラブ勧誘の時期

これは魔法科高校でも同じらしい

 

 

摩利『さて、今年も馬鹿騒ぎという名のクラブ勧誘がやって来た。風紀委員としては幸い卒業生による欠員を確保出来た。紹介しよう。二人、立ってくれ。』

 

馬鹿騒ぎ 聞こえはいいが、この時はどのクラブはある意味戦力補強のために血眼になって勧誘を行う

 

 

摩利『1-Aの森崎と1-Eの守夢だ。森崎は兎も角、守夢の実力は既に承知済みだと思うが、異論があるやつは言え。』

 

実際問題、服部を倒したということは誰も敵わないということに他ならない

 

三年風紀委員『本当にあの服部をですか?』

 

摩利『そうだ。』

 

沢木『僕もやられましたよ。一回投げられただけでね。』

 

三年風紀委員『沢木もか?!』

 

摩利『何を驚く。守夢は魔法力では劣るが、実戦なら私や真由美、十文字と互角だろう。』

 

摩利は良くも悪くも正直であるためその言葉に嘘偽りはほとんどない

 

この場合は達也が圧倒的に強いという証明がされる

 

風紀委員『!!』

 

摩利『異論はないようだな。では、森崎と守夢は話があるから残れ。他の者は巡回へ、出動!』

 

半信半疑で達也を一瞥し巡回に行く風紀委員の面々(辰巳と沢木は別ではあるが。)

 

摩利『さて、巡回の前にこのレコーダーを渡しておく。何か物的証拠が必要なときに使え。あと、CADは個人の物を使用して良いからな。一応、風紀委員や他の自治会組織はCADの携帯は校内の取締りでは許可されているが、不正使用は一般生徒より厳罰が下される。』

 

注意しろよと摩利

 

達也『質問しても?』

 

摩利『なんだ?』

 

達也『ここのCADを使用しても構いませんか?』

 

先日、片付けていたCADを指差す達也

 

摩利『それは構わないが。あれは旧式だし、お前にはCADがあるのではないか?』

 

片付けの最中にもかかわらず、使えそうなものを選別もしていたのかと、感心する摩利

 

達也『シルバーホーンですか?あれは目立つので。それにあれは旧式と言っても、エキスパート使用の高級品ですよ。自分用にメンテもしましたし。』

 

摩利はシルバーという単語にそこまでの興味は示さなかったが、森崎はあり得ないと表情を変える

 

摩利『構わんよ。どうせ埃を被って誰も見向きもしなかったんだ。存分に使ってくれ。』

 

達也『では、この二機を拝借致します。』

 

摩利『二機?…期待してるぞ。』

 

何をしてくれるのか予想がつかないが、摩利の良い方向で裏切ってくれるからある意味面白い

 

 

 

 

本部は出て、巡回の向かおうとすると声が掛る

 

 

森崎『おい。』

 

達也『?何か?』

 

森崎『CADの同時操作なんて出来る訳がない。二科生如きが調子に乗るなよ。』

 

一応、二機のCADの同時操作の難しさを知っているようでそれだけを吐き捨てて達也とは逆の方向に歩いていく

 

達也は興味無さそうにその姿が消えるのを見届け、ほのか達と約束(させられた)の場所へ向かう

 

 

 

 

 

約束の場所に着くとほのかと雫がすでに待っていた

 

達也『すまないな、待たせたか?』

 

ほのか『いえ、雫とどう回ろうかと話し合ってたところです。』

 

今日だけは委員会の仕事を放棄してクラブを見回るらしい

 

雫『達也さんは、どこを回るの?』

 

達也『とりあえず、テントだな。どこで何のクラブがあるのか知りたい。情報収集だな。』

 

明日以降のこともあるため場所だけは把握しておきたい

 

 

 

地図が置いてあることもあり、テントの通りから巡回する達也

 

そこに見知った顔が複数の生徒達に囲まれているのを見かける

 

 

エリカ『ちょっと、離してよ。キャッ!どこ触ってんの!』

 

勧誘ともとれるが、強引さも見受けられ、エリカも対応に苦辛していた

 

ほのか『あ、エリカちゃん。』

 

慌ててほのかが止めに入る前に達也が先に対処する

 

力で捩じ伏せてもいいが、如何せん女子生徒が多い

 

暴力と言われては立つ瀬がないため、地面を揺らし、バランスを崩させる。

 

勧誘部員達『キャッ!』

 

体の芯を揺らされた生徒達は尻もちをつく

 

その隙にエリカの手を掴み脱出を促す

 

達也『走れ!』

 

校舎の裏に避難しほのか達を待つ

 

達也『ここまで来れば、大丈夫だろう。ほのか達も来るな。エリカ、制服を整えておけよ。』

 

エリカ『なっ!…見た?』

 

 

達也『勧誘部員に襲われかけているエリカを見たが、それ以上は。』

 

エリカ『…見てんじゃない。』

 

勧誘部員達に揉まれていたため、制服を整えるよう助言したのが仇となった

 

達也『いや、だから見てないと。』

 

誤解を解こうと振り替える

 

エリカ『今、見た!この変態!』

 

達也『不可抗力では?』

 

さらなる誤解を生む達也

 

どうにかこの状況を打開するためにもほのかと雫が早く来てくれることを願う

 

ほのか『達也さん、エリカちゃん!』

 

雫『二人とも何やってんの?』

 

達也にとってこの状況の介入に二人は幸運の青い鳥だが、必ずしも達也を助けるとは限らない

 

エリカが状況を二人に説明(少々拡大被害が含まれている)をする

 

ほのか『そうだったんですか。』

 

雫『それは、達也さんが悪いね。』

 

ほのかも雫に同意を示す

 

ほのか『見たければ、私のを!』

 

服を脱ごうするほのか

 

雫『ほのか、落ち着いて。』

 

ほのかを落ち着かせる雫だが、内心はほのかと同様のようだ

 

エリカ『…で、どこに行く?無いなら、ちょっとだけ付き合って三人共。』

 

自分で引っ掻き回したからお詫びのつもりなのかエリカが話題を挙げる

 

達也『剣道のクラブ勧誘か?』

 

エリカ『入るつもりはないけど、そんなとこ。』

 

剣術の大家の娘というべきか、興味があるようだ

 

 

 

第二小体育館

ここで、剣道のクラブ勧誘が行われていた

 

竹刀を持って向かい合った二人の鍔迫り合い

初心者には見応えはあるが、ある程度剣の道を修めた者にとってはお遊びに見える

 

 

ほのか『凄いですね。』

 

エリカ『そう?あんな見え見えの演舞じゃあね。』

 

達也『デモンストレーションにはあれくらいの見栄えがないと入らないと思うが。』

 

エリカ『それはそうなんだけどね。』

 

達也『殺し合いはおいそれと見れるものではないだろう?』

 

エリカ『達也君が言うと違うね。』

 

達也の秘密を探るような目をする

 

勘弁してくれと達也

そんなやり取りをしていると事件の匂いが漂ってきた

 

 

 

雫『?なんか下で揉めてるみたい。』

 

達也『行ってみるか。』

 

風紀委員の身のため、現場は確認しておいた方がいい

 

 

壬生『ちょっと、桐原君。剣術部はまだ時間じゃないわよ!何を勝手にうちの部員にちょっかいを掛けるわけ!』

 

桐原『心外だな、壬生。俺はお前の実力とこいつの実力じゃあ演舞は務まらないから俺が相手をしてやると言ってるんだが?』

 

どうやら、剣道部の時間に剣術部が横やりをいれているようだ

 

エリカ『あれ、知った顔だ。』

 

達也『どちらが?』

 

エリカ『両方。男子は桐原武明って言って、関東剣術大会中等部のチャンピオン、実質日本一。女子は壬生 紗耶香 中等部剣道大会の女子部で全国二位の猛者よ。』

 

それなりの力を持った二人らしい

 

そんな二人が言い争いをするとなると、半分の確率で何かが起こる

 

 

壬生『何を勝手な事を。…良いわ、そこまで言うなら相手してあげる。剣技に磨きを掛ける私に勝てると思わないで。』

 

男の子特有のちょっかいを女子生徒の方は受け流すかと思われたが、案外女子生徒も年相応な反応をする

 

 

ほのか『な、何か不味くないですか?』

 

ほのかの言う通り何かが起こる気配がした

 

達也『あぁ。』

 

そう言って、レコーダーにスイッチを入れる

 

桐原『望むところだ、壬生。』

 

相互とも竹刀の先を軽く触れ合わせ、互いに数m距離をとる。試合をするために

 

エリカ『達也君はどう見る?』

 

どちらが勝つか

 

達也『二人の実力には差はない。あとは、心の問題だな。』

 

達也の予言通り、真剣になれなかったのが勝敗を分けた

 

女子生徒の壬生の竹刀が男子生徒の桐原の右鎖骨に入る

 

一方の桐原の竹刀は壬生の左腕に入るもアザが出来る程度、明らかな勝敗があった

 

壬生『私の勝ちよ。仮に真剣でも同じよ。素直に負けを認めたら?』

 

桐原『…ハハッ。真剣勝負がお望みか壬生?だったら、それで相手してやるよ!』

 

何故、不要な言葉を発するのか

 

焚き付けて逆上させることが趣味なのかと達也は思った

 

お決まりのごとく桐原が乗り、魔法は発動させる

 

 

近接戦闘魔法 振動系高周波ブレード

 

 

ほのか『危ない!』

 

桐原が壬生に斬りかかる

 

壬生が危機を察知し紙一重で避けるも、防具には長さ30cm程の刃物傷が入る

 

桐原『どうだ、壬生?』

 

壬生『くっ!』

 

桐原『おらおら、どうした。お望みの真剣勝負だ!』

 

尚も、壬生に斬りかかろうとする桐原に達也が間に割って入る。

 

エリカ『あっ。』

 

両手首に着けたCADを前に交差する

 

CADから発せられた魔法が桐原の魔法を無効化し、周りに船酔いのような感覚を与える

 

ほのか・雫・エリカ『…何これ、気持ち悪い。』

 

頭を揺さぶられるような感覚と吐き気を助長する波動がその場を中心に広がる

 

生徒達『うっ。』

 

見学していた生徒達は意識を保つのが精一杯だった

 

桐原『…っ?何が』

 

魔法が突然使えなくなり、頭が揺さぶられる感覚に襲われ意識がはっきりしない

 

その隙を縫って達也は壬生が持っていた竹刀を奪い取り、桐原の竹刀を居合の構えから真っ二つに切る

 

壬生『あっ!』

 

壬生は達也の後方に居たが、その光景をただ黙って見ているしかなかった

 

桐原『っ!?』

 

桐原は竹刀が軽くなった感じがして、竹刀を見ると半分欠けて、まるで刃物で切ったような切り口をしていた。

 

 

そんな思考に耽る桐原に達也は優しくなく、追い討ちを掛けるように床に組伏せた。

 

無論、先に右の鎖骨を床にぶつけながらである。

 

達也『こちら、第二小体育館。現在、逮捕者一名。負傷していますので、救護班もお願いします。魔法不適正使用のため桐原先輩にはご同行を願います。』

 

この判断には納得がいかず、剣術部員は抗議をする。

 

剣術部『ふざけるな、なんで桐原だけなんだよ。剣道部の壬生も同罪じゃないか!』

 

達也『魔法不適正使用のためとお伝えしましたが?』

 

壬生に対して挑発するなと思うくせに自分はする。

なんとも矛盾の塊である。

 

剣術部『雑草-ウィード-のくせに生意気な!』

 

当たり前に剣術部員が怒り狂う、

 

達也『此方、第二小体育館。逮捕者を訂正させていただいてもよろしいでしょうか?風紀委員への妨害で剣術部全員で。』

 

逆上しているのに、まだ怒らせる。

正しく 火に油を注ぐとはこの事である。

 

剣術部『舐めるな!』

 

剣術部『ちょこまかと!』

 

部員の一人が達也に殴りかかるもあっさりと避ける。

二人、三人と達也を捕まえようとするも避けられる。

挙げ句の果てには、戦闘不能にされる始末。

一人には脳を揺らし立てなくする

一人には鳩尾で歪ながらも土下座の体勢

一人には手刀で意識を刈り取る

一人には一蹴りで壁に張り付けにしたり

そんな風に部員達を静めた(沈めたとも言う)あとに呟いた言葉は

 

達也『抑止のつもりが、挑発になってしまったな。』

 

棒読みで呟くも周囲は嘘を付け、と思ったとか思わなかったとか。

 

エリカ『いや、明らかに挑発でしょ。』

 

剣道部の演舞よりも達也の剣術部大捕物語りが好評だったのか。

二科生はともかく、一科生でさえ達也に拍手を送っていた。

 

 

 

 

??『面白い人間だな。』

 

達也『…』

 

拍手の中達也をひそかに視線を送る人間に達也は気づきながらもこちらに害はないので放って置くことにした。それよりも先にどう顛末は報告すべきか考えていた。

 

 




如何でしたでしょうか。

①本当は風紀委員本部で一悶着。
沢木を服部同様に堕とす予定でした。が、風紀委員のこの二人は摩利の言うましな部類らしいので、取り止めました。
②達也の能力追加その一、剣も使えます。
③剣術部全員を戦闘不能にしちゃいました。
④ほのかと雫が少々達也に対して暴走してます。

では、次回お会い出来ますように


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

大変お待たせいたしました!
いや、待ってていただける方はいるのか不安ですが。

仕事と転職活動でバタバタしていて、中々進まず。

落ち着くまでこんな感じで進めて行きますが、創作して行きたいと思いますので、見守っていただければありがたいです。


 部活連本部

 

達也は生徒会長の真由美と風紀委員長の摩利、部活連会頭の十文字に剣道部の演舞中に剣術部の乱入の顛末を報告していた

 

達也『――以上になります。』

 

摩利『ご苦労。』

 

真由美『それにしても、剣術部全員を相手にして無傷とはね。流石、服部君と深雪さんを倒しただけあるわね。』

 

嬉しそうな真由美

 

摩利『本当にな。もう一度訊くが、魔法使用は桐原だけで間違いないか?』

 

達也『はい。他は使われる前に鎮めましたので。』

 

『しずめた』達也が言うこの言葉の意味は中々に物騒である

 

摩利『…沈めたの間違いではないのか?』

 

あえて、訂正する摩利

 

達也『そうとも言いますね。』

 

真由美『もう、摩利ったらそんなことは後でいいから。今後についてよ。守夢君、貴方の意見を聞きたいわ。この件をどうするか。』

 

不正に魔法を使用したのだ

 

厳重な罰が必要である案件にあたるため当事者の達也の意見も参考にしたい

 

 

達也『そうですね。桐原先輩も反省してますし、厳重注意で良いのではないでしょうか?喧嘩両成敗で剣道部、剣術部共に。まあ、次にこのようなことがあったならば次は病院送りにしますので。』

 

逆に罰が必要なのは達也なのでは?と考えなくもない発言である

 

摩利『そこは君に任せる、手加減はしてやってくれ。という訳だ、十文字。今回の件は風紀委員から懲罰委員会に持ち込むつもりはない。後の対処は任せる。』

 

風紀委員はこの件に関しては何も言わないと摩利

 

十文字『寛大な措置に感謝する。殺傷性ランクBの魔法を使って全員無事。守夢のおかげだ。礼を言う。桐原も十分反省もしているから、こちらから厳重に注意をしておく。』

 

正直、死人が出ていたかもしれないのだ

 

達也が剣術部全員を戦闘不能にした位些末なことだ

 

あとはこちらで処理をするためこれでこの話は終わりだと十文字

 

十文字と摩利、真由美が顔を見合わせ、真由美が代表して達也に尋ねる

 

真由美『それでなんだけど、守夢君。』

 

達也『何か?』

 

真由美『模擬戦の事を詳しく知りたいのだけれど。』

 

あれだけ派手にやったのだ、追求は来るのは想像に難くない

 

さて、どうやって逃れるべきか

 

達也『体術が得意なのとハイスペックのCADに助けられたでは納得出来ませんか?』

 

摩利『粗方は理解出来た。が、どうやってあの司波の暴走した魔法を消し、気絶させたのか。これはどうやっても解らないんだ。』

 

お前の口から説明しろと

 

達也『はぁ、わかりました。口が固いと仮定して、ある程度は説明します。しかし、司波さんの魔法を止めたあのは私ではありませんよ?』

 

自分の出自は伏せて、九重八雲の弟子であること、深雪を倒した魔法等ほのかや雫達に話した内容を更に削って説明した

 

自分の魔法は出すと後々厄介のため否定する

 

 

達也『以上です。質問は内容によっては拒否しますので。』

 

真由美『なるほどね。波の合成で強い三角波を作り出して酔った状態になったと。これは、鈴ちゃんに話していいかしら?あの子も気になってて。』

 

どうやら、えらく上級生の好奇心を駆り立てていたらしい

 

もう少し、これからの行動を自重すべきかと思案をする

 

達也『構いませんよ。話して良い内容で説明してますので。』

 

摩利『あの、忍術使いの九重八雲の弟子だったか。それならば、納得のいく身体的技術だ。しかし、剣術部を沈めたのは忍術ではないだろう?』

 

達也『回答を拒否します。』

 

二科生のことを知って何になるのだと思うが、これ以上自分に関心を持たれるのはよろしくない。

 

摩利『これはダメなのか?剣術部員に後遺症が残るか確認したいのだが?』

 

どうしても知的好奇心に勝てないらしい

 

これ以上踏み込んでくるなら、牽制をすべきか

 

達也『…、仕方ありませんね。この件では、忍の身体的技術と今回は空手です。』

 

摩利『カラテ?なんだそれは?しかも、今回は?』

 

真由美は勿論のこと、十文字までわからないといった表情をする。

 

達也『皆さん、魔法以外の知識には興味は無いんですね。』

 

呆れたと達也

 

真由美『ごめんなさいね。それで守夢君、カラテっていうのは?』

 

達也『魔法を使わない正真正銘身体的技術の一つです。剣を相手にする無手の武術です。最も武術ではなく、武道。つまり、道(みち)ですので、基本は心、精神を鍛えるものですが、私の場合は戦闘向きですが。他には中国拳法や柔道、剣道、剣術、ムエタイ、シラット等で海外の格闘技も学んでいます。これらの他にもありますが、大体これらを多用していると思います。』

 

 

摩利『なら、竹刀を真っ二つにしたのは。』

 

 

達也『あれは、居合道です。剣を使う武道です。竹刀なら竹刀で斬れますので。』

 

 

簡単に言ってのける達也に何も言えない三人

 

達也『皆さん、如何されましたか?』

 

真由美『…凄すぎて何も言えないだけよ。』

 

達也『?魔法が使えない分を体術で補ったに過ぎません。驚かれる理由が見当たらないのですが。』

 

自分の欠点や足りない部分を他で補う、当然の思考ではあるがどうやら違うようだ

 

十文字『普通ならな。しかし、大抵は才能が無いと諦めて自分の道を閉ざす。そこは俺もお前が尊敬に値すると思うところだ。』

 

十文字まで達也を褒めるため達也も戸惑う

 

達也『…ありがとうございます。一応、全ての説明はしました。ご質問はありませんか?』

 

真由美『そうね。大丈夫よ。ありがとう守夢君、明日もよろしくお願いね。』

 

達也『承りました。それでは、失礼します。』

 

 

 

 

 

十文字『魔法力が無いのか惜しまれる逸材だな。』

 

退出したのを見計らって十文字がこぼす

 

真由美『でも十文字君、守夢君に魔法力が有ったら負けるんじゃあ。』

 

空気を読まない真由美

 

摩利『勝つ負けるの話ではないと思うぞ?』

 

それを突っ込む摩利

 

十文字『それで、守夢の家の事は何か解ったのか?』

 

そんなことに目くじらを立てる十文字ではないため直ぐ様話の内容を変える

 

真由美『……』

 

摩利『真由美?』

 

応えない真由美に訝しげな摩利

 

真由美『解ったのは一般の家庭ということよ。父親がCADメーカーの一つエリシオン社で勤務というより、社長をしているということだけ。他は一般家庭で妹さんが二人と弟さんが一人の六人家族。親戚は多いみたいだけど、それ以外に突出したものはないわ。』

 

それ以上は調べれなかったと

 

摩利『エリシオン社というとあの、トーラスシルバーが居るな。そういえば、守夢はシルバーホーンを持っていたということはそういうことか。』

 

守夢がシルバーホーンを持っている理由がわかる摩利

 

真由美『そうなのね。あーちゃんが喜びそうな情報だけど。だから、おかしくないと言えばそうなんだけど、普通すぎるのが怖いわね。』

 

それ以上が解らないことが不気味で真由美は表情を曇らせる

 

十文字『だが、七草の家で調べたのなら殆どそれが正しい情報なのだろう。それを上回るなら、秘匿的な四葉だろう。あいつが四葉とも思えん。』

 

摩利『そうだな。だが、可能性は無くはないぞ?』

 

真由美『そうね。でもおそらくは違うわ。…勘だけど。』

 

十文字『これ以上の詮索は無用だろう。解ったのは一つだ。守夢は第一高校の生徒だ。それ以上でもそれ以下でもない。』

 

真由美『…そうね。』

 

調べれなかったのか、これ以上の情報は無かったのかそれは判らない

 

しかし、これ以上議論しても無駄であるため一旦中止させるしかなかった

 

 

 

 

--------------

 

校門で何故か達也を待っていたほのか達

 

 

達也『遅くなってしまったな。』

 

雫『お疲れ様、達也さん。』

 

ほのか『お疲れ様です。さあ、帰りましょう!』

 

達也が来た途端にすり寄るほのかと雫

 

達也『待っててくれなくても良かったのに。エリカ達もありがとうな。』

 

ほのかと雫は予想はついたがエリカ達までが待っていたのは予想外だったため素直に感謝を述べる

 

エリカ『別になんてことはないわよ。訊きたいこともあったしね。』

 

達也『…回答を拒否すると言ったら?』

 

またかと、思わなくもないが半分諦めていた

 

エリカ『家まで着いていく。』

 

達也『何もないぞ?手っ取り早く話すから、そこにあるカフェで良いか?』

 

アイネブリーゼと書かれたカフェを指差す

 

 

 

 

 

アイネブリーゼ

 

 

達也『で?何を訊きたい?』

 

雫『その前に、達也さん。七草会長達に何を聴かれたの?』

 

睨みが通常より三割増しの雫

何故睨まれるのかわからないが口に出すと炎上するような予感がするため控える

 

達也『俺の身体能力と模擬戦でのこと、後は今回の騒動の顛末だな。』

 

ほのか『わ、私もそれを聞いてもいいですか?』

 

達也『聞きたいなら、話すよ。』

 

諦めた声の達也

 

達也『前にも話した通り俺は九重八雲の弟子だ。それはわかるな?』

 

全員が頷く

 

達也『師匠の弟子になったのは六歳のとき。武術に関しては空手道、柔道、剣道、剣術、中国拳法、ムエタイ、シラット等で海外の格闘技も学んでいる。それ以外にも杖道や居合道、あまり馴染みがないからわからないと思うが茶道もだな。最も武術ではなく、武道。つまり、道(みち)だから基本は心、精神を鍛えるもので、俺の場合は戦闘に重きを置いている。というよりはエリカと幹比古以外は解らないだろうな。』

 

エリカと幹比古も曖昧な笑みを浮かべており、流石に全部は理解は出来ないらしい

 

念のため、剣術部員の竹刀を斬ったのは居合抜きだと説明する

 

エリカ『まーね。それでも、達也君みたいに何を目的として学んでるかなんて気にせず剣を振ってたわ。』

 

達也が高い目的意識を持って武道をしているとは思わなかったため感心のエリカ

 

幹比古『達也の家のは武道の家なのかい?』

 

守夢という家も似たような名前でも知らないため確認をとる

 

達也『普通の家なんだが。特殊は会社と俺位だ。』

 

神夢家を知るのは絶対に不可能だが、情報を流すのは愚の骨頂とも言えるため漏らしたりはしない

 

 

雫『じゃあ、あの剣術部の魔法を止めたのは?すごく気分が悪くなった。』

 

魔法師の卵の自分があそこまで気分が悪くて動けないのは初めてで知りたいらしい雫

 

達也『………それに関してはオフレコで頼みたい。あれは特定の魔法を一時的に使用不可にする。ジャミングなんだ。知っているような名前ならキャストジャミングかな?』

 

全員『『『き、キャストジャミング!?』』』

 

驚愕の色に染まる全員

 

達也『正確にはキャストジャミングの理論を応用した特定魔法のジャミングだよ。アンティナイトは不要だよ。』

 

美月『それって、新しい魔法を開発したってことなんじゃあ。』

 

驚くのも無理はない

 

それほどまでに達也の行ったことは凄いことなのだ

 

達也『偶然見つけた、だよ。』

 

幹比古『達也、それでその理論は?』

 

達也『焦るな幹比古。皆、パラレルキャストをしたことはあるか?』

 

パラレルキャスト?とレオ以外が首をかしげる

 

レオはやったことがあるのか頷いたあと、苦い表情を浮かべる。

 

パラレルキャスト:複数のCADを同時に使用すること

 

達也『それと同じ理論で混信による干渉波をキャスト・ジャミングの理論を応用し、【特定魔法のジャミング】にするんだ。詳しく言うとだな二つのCADを同時に使用する際に発生する想子ーサイオンーの干渉波をキャスト・ジャミングと同じように魔法師を取り巻く事象の情報体ーエイドスーを含む情報次元ーイデアーへ発信する。やり方は一方のCADで妨害する魔法の起動式を展開。この場合は、相手が振動系魔法式だから今回は振動系の魔法式だな。もう一方のCADでそれとは逆方向の起動式を展開、その二つの起動式を魔法式に変換せず、起動式のまま複写増幅し、そのサイオン信号波を無系統魔法として放つ。これはで各々のCADで展開した起動式が本来構築すべき二種類の魔法式と同種類魔法式による魔法の発動をある程度なら妨害可能なんだ。後はタイミングの問題だな。』

 

 

レオ『なるほどな、大体は理解は出来たぜ。けどよ、何で公表しねぇんだ?特許モノだぜ?』

 

頭で理解は出来たが、実践では相当の難易度である

 

 

達也『一つはこの理論が未完成であることと相手はある程度魔法が使えないだけで、此方は完全に魔法が使えない。一つはこれが公表されれば、社会の根底が揺るぎかねる事態になるからだ。』

 

エリカ『そうよね。魔法をアンティナイトを使わないで無効化するなんて知れたら、社会全体が恐ろしいことになるわね。』

 

達也『そういうことだ。対抗策が出来上がるまで公表する気にはならない。最も、公表しようとは思っていないけどね。』

 

社会がどう思おうとどうでもいいと達也

 

雫『勿体無いよ、達也さん。』

 

達也『名声に拘るなんてもっての他だ。守りたい者が守れないならそんなものに価値なんてない。それこそ海の底に沈めるさ。』

 

益々訳が解らないという表情をするほのかや雫、エリカ達だが、気にもしていない達也

 

理解が出来ないから自身の意思を明確に伝える

 

達也『価値観の違いだよ。』

 

まだ、理解が出来なかったのか唸っていたが、それ以上に言うことはないため冷えたエスプレッソで喉を潤した

 

 

 

 

 

 

神夢家

 

玄関で靴を脱いでいると奥から結那が出迎えてくれた

 

 

結那『達也さん、最近、帰りが遅いのですね。』

 

少し不満げな表情をする結那

 

達也『ただいま、結那。そうだね、厄介な事に風紀委員に入ってしまってね。その影響さ。』

 

なんだか、自分が浮気して帰りが遅くなって問い詰められている気分である

 

加蓮『本当に遅いよ!結那が達也に女が出来たんじゃあ?ってオロオロしてるし。』

 

加蓮の考えがあながち間違いではないため、苦笑いを浮かべるしかない

 

絡まれているというほうが正しいが

 

結那『なっ。か、加蓮だって、達也さんの帰りが遅いから迎えに行こうって言ってたじゃない!』

 

加蓮『そ、それは…うぅ。』

 

双子のやり取りを聴いていると相当重症のようである

 

心配をさせたのだなと反省する

 

達也『結那、加蓮。心配は無用だよ。俺はまだ彼女をつくるつもりはないよ。お前達が嫁に行くまでは独身だ。恭也も一人前になるまで心配でもある。だから、安心しろ。』

 

双子を撫でつつ、兄離れはいつになることやらと半ば呆れつつも達也自身もこの家族といつまでも一緒にいたいと思うあたり、自分も人のことを言えないなと独白する

 

 

 

加蓮『なら、私がお嫁に行けなかったら達也が貰ってくれる?』

 

結那『ずるいわよ、加蓮。私だって、達也さんのお嫁さんになりたいのに!』

 

閃いたと謂わんばかりに加蓮が達也にお願いし、続いて結那も達也にお願いをする

 

達也『おいおい、今から諦めてるのか?生憎だが、この国では重婚は禁止されてるし、近親婚もないぞ?』

 

また出たと思う反面、それも悪く無いのかもと考える自身に毒されてきたかなと思わなくもない

 

 

 

凛『あら?それは、達也さんが二人を嫁に迎えてくださると解釈してよろしいのかしら?』

 

やはり、双子の結婚相手と来れば必ず現れる双子の母親の凛

 

どうやって、察知しているのか知りたい処ではあるが、そこは知らぬが仏だろう

 

達也『義母さん、いつの間に。それは言葉の綾で、まだ、結婚や婚約は遠慮したいですし。』

 

凛『何度も言ってますが、私達としてはいや、神夢として、達也さんが、二人を嫁に迎えてくれることが何よりも嬉しいことは心に留め置いて下さいね?』

 

どうやら、とても歓迎されているようである

 

知らず知らずのうちに外堀が埋められているような気がするのは気のせいだと信じたい

 

達也『あはは。』

 

どうあがいても凛に勝つことは難しいと悟る達也は渇いた笑みしか出来なかった

 

 

 

 

--------------

 

風紀委員で活動中の達也はあらぬ嫌がらせならぬ妨害を受けていた

 

 

達也『(何度か奇襲を受けるな。二科生が風紀委員だからだろうな。)暇人だな。』

 

この新歓で魔法の不適正使用や争いに駆り出されるのは風紀委員として当然だが、行く所々で魔法を向けられていた

 

達也『(見られているな。…来た、数は一人。嫌がらせだな。)…っ、あれは。』

 

別の現場に向かう途中、何者かが自分に狙いを定める

 

キャストジャミング擬きで迎え撃つと相手は一撃離脱で高速の移動魔法で逃げて行った

 

追い掛けようとするも、ある特徴的なリストバンドに追撃を止めた

 

達也『厄介な者が入り込んでいるな。ああいうのは大本を叩くしかないな。』

 

達也なら容易く捕縛出来るが、蜥蜴の尻尾切りになる可能性もあるため餌を蒔いて駆逐する方向に切り替えることにするのだった

 

 

 

 

 

------------

 

 

 

レオ『守夢、今日も委員会か?』

 

達也『いや、今日は非番です。漸く私のしたいことが出来ます。』

 

今日は図書室に籠るか思案する

 

レオ『いやーすげぇよな。一科生の部員を悉く倒した謎の一年。噂になってるぜ?』

 

達也『噂?』

 

怪談ではあるまいしと思うも少し気になる達也

 

レオ『反魔法団体からの刺客じゃないかって。』

 

刺客、と来たらこの返答しかないだろう

 

達也『もし、私がその刺客なら、暗殺していきますがね。』

 

少々真剣の声音で脅すように言うと、口調の影響もあってかレオ達は青ざめた表情をしたため、失言だったかと反省する

 

エリカ『怖いわよ。守夢君。』

 

 

 

 

 

 

 

 

図書室に向かう途中、二科生の上級生が達也を見つけ、駆け寄ってきた

 

達也『貴女は、あのときの剣道部の。』

 

確か、名前は壬生と言ったか

 

壬生『2-Eの壬生 紗耶香です。今、時間いいかな?』

 

笑みを浮かべ首をかしげる仕草をして達也を籠絡しようとする壬生だが、達也には生憎通じない

 

達也『十五分程度ならかまいませんが、私にもプライベートというものがあるので。』

 

壬生『あ、ありがとう。じゃあ、校内のカフェに行かない?』

 

達也『場所はどちらでも構いません。』

 

そう言うと二人はカフェに向かう

 

 

 

壬生『率直に言います。守夢君、剣道部に入りませんか?』

 

お互いに飲み物に口を付け壬生が話し掛ける

 

達也『何故でしょうか?』

 

壬生『私達は二科生です。魔法力の劣る私達は学校側から差別されています。主には予算面とか、――。』

 

この高校における一科生と二科生との差別という名の不満を並べていく壬生

 

達也『…』

 

壬生『魔法力の劣る私達が一科生に勝つためには、彼等を上回る力が必要だわ。』

 

結局のところ、欲張りなだけなのだろう

 

力が有って何がしたいのか

 

達也『それを、何故私に?何か理由があるのでしょうか?』

 

壬生『貴方の乱闘を治めた手腕よ。しかも、竹刀を竹刀で斬るなんて私には真似出来ない、いえ、そんな人はいないわ。その腕があるから、誘ったの。彼等を見返すために協力してほしいの。』

 

魔法を使わずに魔法力のある一科生を鎮めたことが凄いと、結局争うための力という訳だ

 

達也『なるほど、そんな下らない理由ですか。私が時間を割いたメリットはありませんね。お断りしますとだけ申しておきます。』

 

これ以上話す理由は無く、下らないと一蹴する

 

壬生『ま、待って!守夢君の剣の腕を認めてのことよ?下らないなんて、あんまりよ。』

 

自分と同じ境遇(二科生)のため賛同してくれると高をくくっていたため、断られるショックは大きい

 

達也『剣の腕なんて、所詮努力した結果に過ぎません。誰かに認められるために努力した訳でもありません。力を求めて、何をしたいのですか?』

 

剣道部に入るメリットが無いため切り捨てる達也

 

風紀委員が現在最大の障壁なのだ、これ以上枷になるものは不要だ

 

それに、達也の力で何をしたいのか?

 

壬生『そ、それは。』

 

答えられないが答えだ

ただの欲張りなだけなのだ

 

達也『そもそも、部活の予算は実績に比例して割り振られています。それはご存知のはず。実績ではなく、力でなんてそれはただの暴力です。』

 

壬生『っ!』

 

【暴力】その言葉が壬生を大きく狼狽えさせる

 

達也『もう一度考えていただきたい。本当に貴女がすべきことを。』

 

何があそこまで壬生を駆り立てるのか

 

しかも、あの情緒の不安定さはおかしい

何か必ず原因があるはず

 

独自で調べてみる必要があるかもしれないと考えるのだった

 

 

 

 

 

生徒会室

 

 

摩利『聞いたぞ、守夢。二年の壬生を言葉攻めにしたらしいな。しかも、そのあとは放置。中々やるなぁ。』

 

放課後の生徒会室で何を言うかと思えば、誤解を招きそうな発言が摩利の口から出る

 

達也『委員長も淑女として言葉遣いは気を付けた方がよろしいかと?彼氏さんが泣きますよ?』

 

炎上しそうな予感がするため摩利を窘める達也

 

摩利『シュ、シュウは関係ないだろ!』

 

この人は隠し事が下手なのだろうか?

誘導尋問さえ不要な簡単な人物かもしれない

 

達也『簡単に彼氏を暴露しますね。千葉 修次 千葉の麒麟児ですか。』

 

剣術の大家で近接戦闘魔法においては世界で五指の一人

どんな戦闘をするのか見てみたいと興味が湧く達也

 

摩利はあたふたしているが、隠すこともない気はする

 

 

真由美『まぁまぁ、摩利。落ち着いて。それで守夢君、何を話していたの?』

 

一向に摩利が落ち着きを取り戻さないので、真由美が達也に問い掛ける

 

 

達也『特筆すべきことは何も。一科生と二科生の溝が相当深いとだけ申しましょうか。魔法というものが相当に差別思考を作り出していることですね。』

 

 

摩利『…そうか。仕方ないと言えばそうなるが、解決は難しそうだな。』

 

いつの間にか復活した摩利

現場に出ることも多い彼女だからこそ、一科生と二科生の溝の深さを理解していた

 

真由美『そうよね。責めて、発信源が判れば差別思想を撤回させればいいのだけど、如何せん、いたちごっこなのよね。』

 

達也『大本は判りきっているのではないですか?』

 

真由美『どの生徒がしているとは分からないわよ?』

 

達也『そうではありません。日本の社会から魔法科高校に浸透させている人間、あるいは組織です。…例えば、

反魔法国際政治団体 ブランシュ そして、その下部組織のエガリテ』

 

全員『『!?』』

 

 

真由美『守夢君!どうしてその名前を。情報規制は完璧なはず。』

 

達也『完璧なことなんてこの世界はありません。唯一あるとすれば、この世で生を受ければ死にゆく宿命、死んだら生き返らないことだけです。』

 

尋問するような視線を真由美に向ける達也

 

後々に、知ることになるのだ。それが早いか遅いかの違いだけだ

 

観念したのか真由美が重い口を開く

 

 

真由美『…現在、ブランシュの下部組織であるエガリテの侵食を受けているのは事実です。』

 

達也『学校側は何の対策も講じてないのでしょうか?』

 

真由美『そうですね。当校の生徒がそうならば、マスコミが騒ぎますし、なるべく隠したいようなので。本来ならば、対策を講じるべきなのでしょうけど。生徒会長と言えど、一介の高校生が出来る事なんてあまり無いのが現状です。』

 

達也『十師族と言えど、そこは難しいことは私でも理解出来ます。政府が乗り出さなければなおのこと。七草会長が気に病むことはありません。』

 

十師族とて、出来ることと出来ないことはある

 

 

真由美『…慰めてくれてるの?ありがとう!』

 

達也の慰めに気分が浮上する

 

摩利『お?真由美も堕ちた感じか?守夢、お前は天然ジゴロの才能があるんじゃないか?』

 

 

深雪『あら?光井さんや北山さん以外にも二年の先輩、さらには七草会長までたぶらかすなんて。指導が必要かしら?』

 

自分は嫌われているのか、何か尻尾を掴もうと粗探しをする深雪

 

何の目的があって達也を貶めようとするのか不明である

 

裏がありそうな気がしそうでもないが

 

 

達也『その言われかたは心外ですね。…もしかして、嫉妬ですか?』

 

意趣返しと言わんばかりに反撃する

 

深雪『なっ!ち、違います。誰が貴方など。』

 

ほのか『え?守夢さんは司波さんや七草会長の方が好みなんですか?』

 

雫『守夢さん、どういうこと?』

 

 

何故だろう

物凄く自分が思うニュアンスとかけ離れている

 

自分が理解が出来ない状況に陥りそうな予感がするため訂正をする

 

 

達也『?好み?七草会長には十文字会頭が候補にあるのでは?あとこの場にはいらっしゃいませんが、会長に片思いされている服部副会長も。司波さんは友達が少ないから羨ましいのでは?あと、好みはないですね強いて言うならば、好きになった人が好みですね。』

 

 

言い終えると周囲がなんとも言えない雰囲気になる

 

 

摩利『…真由美よ、鈍感や難攻不落の要塞という言葉は守夢のためにあるのかもしれないぞ?』

 

 

真由美『うぅ/// そんなんじゃあないってば!』

 

否定の言葉をするも赤面して、肯定と受け取られても仕方がないけど

 

ほのか『雫、どうしよう?』

 

雫『…頑張ろう。』

 

 

こちらは好意を隠そうともしていない

 

達也は解っていないが、達也による発言でこの場にいる片思い三人+二人?は頭痛に悩まされていた

 

深雪『……』←一人目?

 

鈴音『(私も守夢君が気になることは黙ってた方が得策ですね。)それで、守夢君は壬生さんと何か約束でもされているのですか?』←二人目?

 

おかしな雰囲気に包まれる生徒会室を変えるために話を先に進める鈴音

 

かくいう鈴音も達也が気になるようではあるらしい

 

達也『そうですね。本当に何をしたいのかが解ったからそれを聞いてもう一度協力の有無を確かめて欲しいと言われました。』

 

 

鈴音の機転に感謝し話を進める

 

 

鈴音『なるほど。それではこの件は守夢君に任せた方がよろしいと思います、会長。』

 

真由美『え?う、うん。守夢君、お願い出来るかしら?』

 

恥ずかしさから脱却出来ない真由美は鈴音の言を半分聞き流しで曖昧に応える

 

達也『仕方ありません。私で出来る限りお手伝い致します。』

 

 

嘆息しつつ、諦観の表情の達也

少しでも関わってしまったのだ、その分の責任は果すつもりだ

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

達也『それで、私に協力が必要なことは何でしょうか?』

 

 

再び壬生と会うことにした達也

 

今回は壬生の意思を確認するためにこの席を設けた達也

 

今回の回答で達也が壬生に協力するか決まる

 

 

壬生『私は最初は一科生と二科生が高校生活で差別されるのかと思っていたわ。でも、それは違った。魔法力の有無で自然と差別は起こるのだと。だから、私は学校側に待遇改善を求める。』

 

随分と踏み込んできたなと思うも具体性が無ければ、何もならないため内容を尋ねる

 

達也『待遇改善とは?』

 

壬生『魔法力あるなしに関わらず平等に対応するべきだと学校側に主張していきます。』

 

達也『具体的には何を行動するのですか?例えば?』

 

壬生『…そうね、授業よ講師も然別だけど。クラブ活動とかよ。』

 

達也『授業ですか。確かに二科生には講師は就きません、いえ、就くことが出来ないと表現したほうが正しいですね。しかし、部屋の割り当ては同じだと思いますが。クラブ活動については、予算は実績に応じて。場所も均等に割り振られているのではないですか?』

 

中身がない、と判断する達也

 

壬生だけで率いているわけではないはず、複数人で考えたにしてはこの内容の薄さは異常である

 

壬生が達也を引き入れる目的は他にあるように感じる

 

壬生『それは…。』

 

言い淀む壬生に彼女自身が感じているであろう不満を言い当てる

 

達也『私の思うところでは、壬生先輩は実技の能力が低いだけで不当な発言を受け、魔法力が劣る故に正当な評価を受けないことに不満があると見受けられました。違いますか?』

 

壬生『っっ!』

 

達也『だとすれば、それは勘違いです。ここは魔法科高校です。魔法力があることが評価の対象になるのですから。それに貴女にはあるはずだ誰にも負けないものが。それに誰も貴女を認めていないはずはありません。』

 

壬生『な、なら。守夢君は何のためにこの魔法科高校に入ったの?私と同じ境遇なら認められないことが多いはず。どうして、そこまで強い信念を持つことが出来るの?何が貴方をそうするの?』

 

達也『……それを私が貴女に言うとでも?親しくもない、上級生と下級生の間柄でしかない壬生先輩に簡単に心を開くはずがありません。』

 

壬生『っ!』

 

 

達也『壬生先輩とは主義主張も違うようですね。私があなた方に協力出来ることは無いようですのでこれで失礼します。』

 

反論が出来ずに早々に席を立たれた壬生はカフェから出ていく達也の後ろ姿を呆然と見ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

翌日

 

その日の講義も終了し、今日もまた図書館で資料を漁るかと考えていた達也

 

??『皆さん、私達は差別撤廃を求める有志同盟です。私達は学校側に待遇改善を求めるものです。この放送を―』

 

大音量で室内のスピーカーから流れる声

大半の生徒は何の事だ?と首を傾げるも達也はある程度予想がついていた

 

 

レオ『なんだ?ゆうし?』

 

レオだけでなく、エリカ達も頭上に疑問符を浮かべる

 

達也『(意外と早いな。もう行動を起こしてきたか。壬生先輩は…放送室か。…やはり伝わらなかったか。)』

 

昨日、壬生に自分が何をしたいのかを考えろと説得したつもりだったが、徒労に終わる

 

この同盟に参加しているのは明白であるため、壬生の現在地を調べると興味深いことに原因の放送室にいることがわかった

 

対処は追々考えるとして、風紀委員の呼び出しもあるため席を立つ達也

 

 

エリカ『どこに行くの?守夢君。』

 

達也『風紀委員の呼び出しで放送室まで。』

 

その表情はめんどくさいと出ている

 

幹比古『気をつけて。』

 

達也の風紀委員の苦労が理解出来ているのか苦笑いの幹比古

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『遅れました。』

 

達也が到着した時にはほぼ風紀委員、生徒会、部活連の主要メンバーが集まっていた

 

摩利『来たか。状況は放送室のマスターキーを盗んで立て籠っている。人数は不明だが、放送はシャットアウト出来ている。』

 

現状を端的に説明する摩利

流石というべきか

 

沢木『明らかな犯罪行為。なりふり構って居られず行動を起こしたのですかね?』

 

沢木が推測を立て、周りも納得の表情を示す

 

達也『(おそらく、違う。これも計画の内だろう。本当の目的はまだだ。)それで、立て籠り犯をどう炙り出しますか?交渉は必要になるでしょう。此方から開けるか、開けてもらうかの二択ですが。』

 

お前が意見するなという視線を受けるも無視し、場を取り仕切っている十文字と摩利に問い掛ける

 

方向性だけでも決めておかなければ、前に進めない

 

十文字『解決はすべきだと思うが、そこまでの犯罪性はないから早急とは思っていない。』

 

失礼な言い方だが、顔に似合わず微妙な回答である

 

摩利『だが、このまま放置していても何も進まん。状況が好転するわけでもあるまい。』

 

こちらは好戦的な性格もあって、強硬な姿勢のようだ

 

鈴音『それでは、交渉に入るためにも開けてもらうで行きましょう。』

 

二人の意見を聞いて埒が明かないと生徒会の代表として来ていた鈴音が妥協案を提案する

 

摩利『開けてもらうって言ったってな市原、奴らが鍵を持っていてこちらには鍵が無いのに、どうやって?』

 

鈴音『そこは謎の多い守夢君にお願いします。』

 

達也『…はぁ。犯罪紛いか、合法的か、合理的かどれでいきましょうか?』

 

何故、自分が出来ると期待をされているか不明だが、それは脇に置いておく

 

とりあえず、自分が出来そうな案を三種類に分けて提案する

 

摩利『おい、犯罪紛いって…。』

 

達也『勿論、クラッキング…イマイチ理解が出来てなさそうですね。この高校のセキュリティを乗取るという言葉が意味は近いですね。』

 

摩利がその言葉に青褪める

 

そして、何故か鈴音も目を見開く

 

達也に振った本人が驚くのはどうなのだろうか、少し悲しくなる

 

摩利『守夢、一応言っておくが、この魔法科高校のセキュリティの高さは魔法協会と同じ日本一だぞ?』

 

冗談を言わず真面目に答えろと摩利が言う

 

達也『それにしてはザルでしたよ?入学前にどんなセキュリティがあるのか知りたかったので……分かりました。中に居る壬生先輩と交渉でよろしいですね?』

 

真面目に答えると次は嘘をつくなと詰問される

 

真実と受け取られていないのは心外だが、話が一向に進まないのは達也としてもいただけないので、合理的な解決案を出すことにした

 

鈴音『いつの間に連絡先を交換されたのですか?』

 

対応を依頼したのは此方だが、そこまで発展しているのは意外だったらしい

 

達也『一回目お会いしたあと、もう一度話したいからとその次の日に。』

 

尤もこんな形で使うとは思っていなかった達也

 

摩利『ダークホースはやはり壬生か。』

 

納得している摩利

 

周りの男子生徒は何の事か解っていないため話の流れに置いていかれる

 

解っているのは、達也と鈴音だけである

 

 

達也『委員長、あまり茶化すと桐原先輩に斬られますよ?彼は彼女が好きですし。………守夢です。壬生先輩、貴女の行動力には感服しました。……いえ、からかってはいません。…それで、あなた方の要件を聴くためにも開けていただけませんか?無論、先輩の安全は保証します…。…では、お願いしますね。』

 

とりあえず、摩利に釘を差し、ついでにとんでもない暴露をする

 

それに驚く周りを無視し、壬生に連絡をとる

 

第一段階の交渉に進めるための解錠をのませ、打ち合わせをするための準備が整ったが、摩利は達也がすんなり手を引いたことに戸惑う

 

 

摩利『お、おい。そんなあっさり条件をのまなくても。』

 

私達の時と違うと言うが達也にとってはこんな交渉に意味はない

 

達也『別に風紀委員として保証するとは言ってません。ですから、壬生先輩以外は捕縛する準備をしましょう。』

 

摩利『策士だな。』

 

あのときの交渉の顔の達也だと分かり、安心する摩利

 

それにしても容赦ない交渉術であるが、次に進める手助けをしてくれた達也を褒める

 

達也『目には目を歯には歯をですよ。それにまだ、優しいほうですよ。勿論、あのときの面談も。』

 

面談?と十文字と摩利以外の者が疑問符を浮かべる

 

面談というのは、ある種の隠語で達也の風紀委員入りの話のことである

 

十文字と摩利に至ってはあれが優しいというのなら、本気の場合は勝てないと冷や汗を流していた

 

 

 

 

 

 

解錠され、風紀委員が放送室を占拠していた壬生以外の生徒達を捕縛する

 

その状況に壬生は戸惑う

 

壬生『ち、ちょっと守夢君!約束と違うわ!』

 

他のメンバーが捕縛されるのが解らない壬生は達也に抗議する

 

 

達也『言ったではありませんか。貴女の安全は保証すると、他は知りません。』

 

鮸膠も無い達也

ショックを受ける壬生を十文字が追い討ちを掛ける

 

十文字『そういうことだ。それに、お前達の行った事と要望を聴く事とは別だ。』

 

強面もあって、威圧感が半端ない十文字の正論に壬生は気圧され言葉を発することが出来ない

 

 

真由美『それはそうなんだけど。彼らを離してくれないかしら?』

 

捕縛された生徒達にとって、救いの手が差し伸べられる

 

摩利『真由美?どういうことだ?』

 

真由美『学校側より生徒会にこの件を委ねるとのことです。というわけで、壬生さん。このあと、打ち合わせをしたいのだけど一緒に着いてきてもらえないかしら?』

 

要するに、学校側は犯罪者として世に公表したくないということ

 

犯罪者が魔法科高校から出たと世間に公表されれば、魔法科高校としての知名度も下がる

 

さらには、魔法が廃れるのが主な理由であろう

 

そうはさせまいと生徒会で一科生と二科生の溝の緩和を図る

 

二科生の捌け口ができ、あわよくば解決出来れば万々歳ということだろう

 

 

壬生『わかりました。』

 

要望を伝える機会が出来、安堵する壬生

真由美と共に生徒会室に赴く

 

 

摩利『やれやれ、美味しいところを全て真由美に持っていかれたな。』

 

摩利は解決の糸口が見つかったと思っているようだ

 

十文字も目を閉じるも同様のようである

 

達也『…』

 

しかし、達也だけはこの事件がこれで終わるわけではないと確信していた

 




…如何でしたでしょうか?
①達也君は武道全般出来ます。何をやらせても最強!!
(②オリキャラの嫉妬→これいらないですね。)
③達也君、壬生さんを突き放します。
④深雪さん嫉妬?鈴音さん、達也君が気になる。
⑤達也君、セキュリティをクラッキング!?

今回は特異点は以上ですかね。

次回は一応、ブランシュを潰します。

それでは、次話も見ていただければと思います!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

大変!お待たせしました?
これで、入学編は終わりだと思います。


 

 

放送室で一悶着あったその日の夜、達也は九重寺を訪れていた

 

 達也『師匠、急な連絡をして申し訳ありません。』

 

夜も深い時間に訪問をしたのだ。本来なら、就寝していてもおかしくはない時刻

 

 八雲『いいよ、愛弟子の頼み事は嬉しいからね。』

 

 

しかし、八雲は気を悪くするどころか少し嬉しそうなためこれ以上の謝罪は無意味だと達也は判断する

 

 達也『ありがとうございます。早速ですが』

 

達也の質問する内容が分かっていたように言い当てる

 

 八雲『ブランシュのアジトとリーダーかな?』

 

 達也『そうです。独自での調査では、高校近くの廃工場でリーダーは第一高校三年 司 甲の義兄 司 一(つかさ はじめ)だとわかりました。しかし…』

 

達也も自身で調べた情報を八雲に確認する形で照会していく。それに対して、八雲も達也の情報の答え合わせをするような形で相槌を打つ

 

 八雲『なるほど、本物のリーダーか不明だということだね。』

 

順調に調べあげた情報の確認をしている達也が言い澱む。

それにフォローする形で八雲が情報の最後のピースを代わりに答える

 

達也『…はい。それで師匠の助けをお借りしたく。』

 

素直に自分の力不足を認め、八雲に助けを請う

現在の達也の腕でも出来ないことはある。現に八雲には及ばない

 

八雲『達也君のクラッキング・ハッキングは流石だけど僕の教えた術を使うも今一歩足りないということか。今度からは戦闘よりもこっちを優先的に修行しようか。』

 

顎に手を当て思案する八雲

達也の情報収集能力は素晴らしいと思っているが、それでも集めきれない情報もある。実際に潜り込まなければならない情報もあるため忍として、八雲の技術を教え込んでいる

 

というよりも、達也を後継として育てているため、八雲の持ちうる全てをそれこそ、瓶水(びょうすい)をうつすごとくである

 

 

達也『…申し訳ありません。』

 

しかし、それは達也がまだ成長途中であって、劣っているわけではない

 

逆に達也が八雲に影響を与えていることもある

 

師は弟子を育て、弟子は師を育てる

 

八雲『いや、怒ってないよ?達也君は隠密系情報収集は少し苦手意識があるようだから習うより慣れろでいこうかと思っただけだから。さて、前置きはこれくらいで。司 一はブランシュ日本支部の本物のリーダーだよ。表も裏もない。そして、達也君が最も気になっているのが、弟の甲君の目だね?』

 

達也の修行の方法を見直し、達也の忍びとしての基礎能力を鍛えなおす方向性に転換する

 

達也『…師匠、読心術でもあるのですか?』

 

達也としては、修行方法云々よりもある一つの情報が気になっていたため話の趣旨が変わったことにはありがたいと思うものの、思考が覗かれているようで若干、八雲に恐ろしさを覚える

 

 八雲『ないよ?持ってるのは達也君じゃないか。』

 

読心術文字通り思考を読む技術だが、むやみやたらに使う達也ではない

 

一度、八雲に試したところ読めなかったのだ

 

そもそもこの技術を習得した理由は思考を相手に読まれないようにということで身に着けたのだ

 

 達也『それよりですね、彼の目はどれ程ですか?』

 

一番気になる情報なのだ。脅威になりうるなら、それなりの対処を考える必要がある

 

その眼から得た情報である者達に知られてはならない

 

また、霊子を見る力は昔では、見鬼(霊や妖を見る)と呼ばれている

 

最も、神夢家の人間は大なり小なり霊子を見る力を持つ、彼らに見られても問題はないが

 

 八雲『旧姓 鴨野 甲 賀茂氏の傍系だよ。と言っても、血は薄まっているから、一般の家庭と同様と言っても過言ではないね。そういうことで、見る目はほとんどないよ。精々、放出した霊気を認識できる程度だよ。ついでに、君のクラスメイトも見れるけど、理解は出来ないから安心しなさい。』

 

八雲によって、達也の懸念は杞憂に終わる。合わせて、柴田 美月の能力に関しても問題ないとお墨付をもらい、達也とある家との関係性が暴かれることはなくなった。

 

 達也『(それはつまり、俺が規格外のある種の化け物だからだろうな。)』

 

 八雲『それにしても、どうして僕なんだい?風間君や浩也さんがいるのに。』

 

目に見えて落ち込む達也を浮上させるためなのか、閑話休題を投げかける。

そもそも、すぐに情報が手に入る環境にいる達也が何故、八雲に訊きに来たのか。

表現としては微妙だが、神夢家は情報の宝庫だ。誰よりもどんな内容でも情報を入手出来る。そして、それは誰にも脅かされない情報網を持っているということに他ならない。

しかも、達也は特殊だが軍人である。調べようと思えば、正攻法で調べられる。

 

 達也『…少し気になっただけで他意はありません。』

 

虚を突かれ、唯人にはわからない一呼吸の間が八雲にとっては何か事情があったと理解する。

 

 八雲『…わかった。そういうことにしておこう。危ない橋は必要以上に渡らないようにするんだよ?この会話は無かったことにしよう。』

 

 達也『感謝します。』

 

八雲の機転に感謝し、浩也への追及は免れた。

 

 

 

 

 

 

討論会を明日に控え、気になった点があったため登校中をねらい、達也は真由美を探す。

 

 

 達也『会長、おはようございます。』

 

いつも一人で登校しているのか違和感が感じられない。

摩利や鈴音の姿もないため都合が良いため声を掛ける。

 

 真由美『あ、守夢君!おはよう!どうしたの?』

 

心なしか声が弾んでいる気がしたが、自身に好意を向ける理由もないだろうと決めつけ、本題に入る。

 

 達也『いえ、今度の討論会が気になりまして。なんでもお一人で対応されると訊いたものですから。』

 

 真由美『私一人では不安?』

 

真由美は一人だと意見の食い違いも出てくる状況を作れない。誤解をさせないための戦略なのだろう。

 

 

 達也『いえ、全く。複数人で答えると、意見の齟齬が出ますので良いと思われます。』

 

素直に真由美の行動を誉める達也。

しかし、この二人のやり取りを聴いているものが居たなら、上から目線の評価に見える達也に対して何様のつもりだとヤジが飛びそうな感じである。

 

 真由美『ありがとう。守夢君は不満はないの?』

 

二科生である達也にも不平不満はあるはずである。

現に真由美でもあるのだ。

 

 達也『私ですか?特にありません。魔法力がないのは事実、それを過剰評価をしてもらうなんておこがましいです。』

 

達也は自身にあるため納得している。それを他人の所為にするなどもっての他だ。他人の所為等と発するより他の能力を伸ばすほうが余程得策だと考えている。

それに対し訝しげな表情をする真由美。

 

 真由美『…本当に?無いの?』

 

必ず何かあると目で訴え掛ける真由美。

しつこいなと、思いながらも高校入学から掲げている願いを述べる。が、それはもう叶わない願いと諦めているが。

 

 達也『…強いて挙げるとすれば、私に関して放置をしていただければ非常に助かります。煩わしいことは嫌いですので。』

 

 摩利『それは無理な相談だな。』

 

狙ったようなタイミングで二人の会話に割って入ってくる摩利。

その顔は子供が何やら面白そうなものを見つけた時にみせるそれと同じである。

 

 真由美『摩利!?』

 

真由美は心底驚いたような顔をする。

達也は摩利の気配は掴んでいたので、敢えて面倒事の原因達に意思表示をするためにあのようなことを発言したのだ。これからの為にも。

 

 達也『委員長、おはようございます。』

 

 摩利『おはよう、真由美、守夢。守夢のような有能な人材は放置しておくのは宝の持ち腐れだからな。』

 

摩利曰く、これほど実力のある人間が蚊帳の外は許さないらしい。

しかし、達也の見解では、摩利、真由美、十文字達はめんどくさがりだと認識している。

現に、権力で達也の授業妨害をしたのだ。面倒と思わず、放課後の時間を使えば達也の交渉術にはまらなかったのだ。まぁ、その所為で風紀委員に入る羽目になったのだが。

そのため、達也からすれば、この三人は嫌いとまでは行かないまでも距離を置きたい人物達なのだ。

 

 達也『この魔法科高校で魔法力が無い者は有能とはよべませんよ?』

 

一応、一般常識から反論をし、暗に魔法が使えない自身に期待をしてくれるなと訴えかける。

 

 真由美『そこは気にしないの。守夢君、討論会の日が明日だからそれまでは何も起こらないと思うけどよろしくね。』

 

一体どこまで、達也に過剰な期待を寄せるのか。

そもそも、この高校に入学した理由がこんな事で邪魔されていい筈がない。

達也はやはり、この高校で出会った人物達との関係性を見直すべきかもしれないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

風紀委員の見回りも順調に終わったため余った時間の調整を頭の中で組み立てる。

 

 

 達也『(巡回したが、殆どが二科生による二科生への有志同盟への勧誘。大した争いもなく、今日の業務も終了。一時間程時間が出来たから図書室で資料探しだな)…私に何かご用ですか?』

 

 

途中から達也をつけていた気配があり、敢えて、立ち止まって思考をし、声を掛けてくるのを待ったが動く様子も無い。

時間も勿体無いため、気配の主に声を掛ける。

 

 ??『えぇ、守夢 達也君。君にお願いしたいことがあって。』

 

廊下の角から姿を現したのは、白衣を着た妙齢の女性。

現代のドレスコードに照らし合わせれば、少々肌の露出が多い。

そういった姿を見せ、生徒の動揺を誘って、カウンセリングをしやすくするのだろう。

しかし、達也にとっては効かない。

むしろ、相手より上に立って優越感を得るだけでその人物の人間性がしれるだけだ。

 

 達也『ほう。気配を消して尾行がご趣味で?小野先生。』

 

こそこそ嗅ぎ回られるのは鬱陶しいので、ストレートに威嚇する。

 

 小野『え?そんなことはしてないわよ。カウンセリングの対象として依頼するつもりでたまたま、君の姿が見えたから、後をつけてただけだから。』

 

如何にも偶然ですという体を装う彼女に達也も追及するつもりはない。

 

 達也『そういうことにしておきましょうか。----。』

 

最も、達也からすれば正体は解っているため彼女が隠す意味は無いのだが。

 

 小野『っ!…貴方、一体。』

 

 達也『何をしてるんですか?カウンセリングをするのでは?』

 

達也にもう一つの顔を見破られ、驚愕に満ちている彼女だが、その時間が勿体無いため急かす達也。

 

 小野『えぇ、カウンセリングルームで行うからお願い出来る?』

 

 達也『構いません。』

 

小野は達也を引き連れてカウンセリングルームへ向かう

 

 

 

 

カウンセリングルームにて、およそ三十分アンケートと称したカウンセリングを受けた達也。

 

 小野『以上です。協力ありがとう。』

 

業務としては満足のいくデータを取れたため安心する。

彼女個人的な感情としては質問した内容しか回答がなかったため少々不満ではある。

 

 達也『いえ、それでは失礼します。』

 

達也も用事が無いためこれ以上長居をするつもりはない。また、余計な質問が投げ掛けられる可能性もある。

早々に出口に向かう。

 

 小野『待って、守夢君。壬生さんと付き合っているのは本当なの?』

 

若干、声が弾んでいる彼女にからかわれているのだと直感する。

 

 達也『全くのデマですよ。何故それを?壬生先輩のカウンセリングと何か関係が?』

 

しかし、達也もやられているだけでは性に合わない。

軽い反撃どころではないが、彼女のためにも忠告を与える。

 

 小野『(!)…いいえ、何でもないわ。忘れてちょうだい。』

 

 達也『小野先生、私からも一つよろしいですか?』

 

 小野『何かしら?』

 

素直に忠告を受け入れるか解らないが、これ以上達也にも煩わしいことが降りかかる可能性もあるため線引きをする。

カウンセラーとしての腕を信用していない訳ではないが、義務と感情を区別出来ないようでは困るからだ。

 

 達也『他人のメンタルカウンセリングをするなら、同情しても構いません。しかし、情緒に引っ張られないように。あくまでも、ここは魔法科高校です。魔法力が評価の基準です。くれぐれもお忘れ無きように。』

 

 小野『…一体彼は何者なの?』

 

 自分の少々肌の露出したドレスコードに反応もしなかった。動揺を誘う素振りをしても無視、達也の得体が知れない。

 しかも、自分の身分も知っていた。調べる必要があるとも思ったが、薮蛇だと身の破滅もあり得る。

しかし、達也の正体(一部)は後日解決されるのだが、ここでは割愛する。

 

 

 

 

 

 公開討論会 当日

 

 生徒会は真由美一人で有志同盟の代表数名が討論会に臨む

 

 有志同盟1『今季のクラブの予算の割り当ての比率がおかしくありませんか。』

 

 真由美『クラブでの実績に応じて割り当てがあります。非魔法系クラブだからという訳ではありません。クラブの予算の割り当てをグラフでまとめたものです。レッグボールでは優秀な成績を修められているためそれ相応の予算が割り振られています。これをご覧いただきお分かりのように一科生だからといって、差別をしてはおりません。』

 

予め用意していたとのだろう、学内のデータからクラブ関係のデータを呈示していく真由美

 

 有志同盟2『二科生はあらゆる面で差別を受けている。それに関してどうお考えか?』

 

 真由美『あらゆる面とはどういった面でしょうか。A-Hの組で施設利用や備品の配分は等しく振り分けられています。』

 

有志同盟が差別と思われる内容を羅列していくも真由美が全てデータに則って論破ではないが、誤解を解決させていく。

 

 

 真由美『…現状、ブルームやウィードなどと差別を助長させる言葉が少なからず存在します。生徒会や風紀委員では、それを禁止しています。しかし、それがなぜ使われるのかそれは皆さん自身が原因とも挙げられるのです。自らをブルームと称したり、ウィードと蔑んだりと諦めと共に受容するそれこそが原因でその意識こそが変えるべきものです。』

 

時折、真由美の演説にヤジが飛ぶもすぐに反論の声が上がり、鎮静されていく。

終いには、二科生の中からヤジを止める声で収まるようになっていった。

このような感じで真由美の演説に理解から納得に変わり、いつしか真由美の思いに涙する生徒まで現れていく。

 

 真由美『現状、私達が関与することが出来ない状況が一つあります。それは教育の制度です。教育の制度と大まかに申しましても疑問に思われるかもしれませんが、誤解が無いように申しますとカリキュラムでは、一科生と二科生には差はありません。同じ講義の内容で進められています。では何かと言うとそれは講師の数です。どの魔法科高校でも人手不足で政府としても講師増やそうにも魔法師の数が全体的に少ないのが現状です。そこで、不十分な指導を全体に施すか、十分な指導を確実な数に施すかの二択でした。現状では、後者で行う方針となりました。そこは私達では変えようのない事。』

 

 真由美『しかし、この高校内にある制度は変えることが出来ます。現在、当校には生徒会のみ役員は一科生のみで構成されるという規則が存在します。しかし、差別用語を禁止する生徒会がこのような規則を残していいはずがありません。』

 

 真由美『ですから、私はこれを任期満了の生徒会長改選時に開催される生徒総会でこの規則の撤廃を最後の仕事としたいと考えています。しかし、私はこれだけを仕事とするつもりはありません。まだまだ、このような思想が残るものは少しずつですが、変えていくつもりです。そのためにもやはり、皆さんの努力が必要です。この三年間をかけがえのないものにするためにも協力をお願い致します。』

 

相手の心を掴むとはこういうことなのかもしれないと達也は感心を寄せた。

真由美の演説が終わり、何処からともなく拍手が響き渡る。その拍手は純粋にこの学校の悪しき風習を無くそうと努力をする真由美に応えたものだった。

 

 

しかし、これだけで終わらないのが、この世の中である。

轟音と共に1000人は入るであろう講堂が揺れる。

 

 

 

 

 生徒『っ、何!』

 

 生徒『な、なんだ?』

 

生徒達が口々に不安の声が漏れる。

 

 

 生徒『爆発?!』

 

先の爆発の後に次々と轟音と地響きが支配する中で漸く状況が理解出来てきたのか爆弾でのテロ行為に気づく。

その混乱に乗じて有志同盟の者達が席を立つ。

 

 

 摩利『取り押さえろ!』

 

しかし、その行動は風紀委員でマークしていたため、摩利の命令で全員を捕縛する。

 

これで内部での犯行は防げたが、外部から侵入には対処出来なかった。それを服部や摩利が魔法で対処し、テロリストを鎮圧していく。

一段落は付いたが、校内ではテロリストが暴れまわっている。

だが、達也はこれはただの陽動で目的はある場所だと認識しているため早々に現場に向かう。

 

 達也『(この状況で来たか。)委員長、自分は図書室に向かいます。』

 

摩利は達也の言葉に何か考えがあるのだと思いまた、達也でしか対処出来ないだろうと判断し、命令をする。

 

 摩利『!…解った、頼む。』

 

 

 

 

 

図書館に向かう途中、見知った生徒がテロリスト三人と相対している現場に出会した。

 

 達也『!あれは、レオか。』

 

苦戦しているようにも見えなかったが、この状況では使える戦力は一人でも欲しいため、片付けるため参戦する。

 

 達也『無事か?』

 

テロリスト三人を一撃ずつで鎮め、レオの身体に異常がないか確認する。

 

 レオ『サンキュー、達也。しかし、一体何の騒ぎだ?』

 

 達也『敵の正体はおそらくブランシュだ。しかし、三人を相手にやるな、レオ。』

 

状況が読み込めてなかったため、敵の情報を与え、戦う必要があることを説明する。

おまけとして、レオの歩兵戦力を誉めるのを忘れない。

 

 レオ『達也がそれを言うか?その三人を一瞬で戦闘不能にした人間に褒められてもな。』

 

 達也『自惚れではないが、俺は特殊だからな。』

 

レオは達也に誉められてま嫌味にしか聴こえないと不満をこぼすもその表情は満更でもないようだ。

 

 エリカ『レオ、武器持って来たy…あれ、達也君?』

 

遅れて駆け付けてきたエリカ。

その手にはレオと自身のCADを持っている。

しかし、気になるのはー

 

 

 達也『なんだ?エリカも居たのか。二人して何をやってたんだ?まさかと思うが…』

 

若干、企みをしていますという表情を醸し出す達也

 

 レオ『ち、違う!補講をしてたら、たまたまコイツが。』

 

 エリカ『そ、そうよ。達也君の勘違いよ。私達はたまたま補講が被っただけで。』

 

何故か、あたふたしだす二人。

意外と相性はいいのかもしれない。

達也はわかりやすい二人だと内心からかうも時間が惜しいため、目的の場所に向かう。

 

 達也『何を焦ってる?補講か?と聞こうと思っただけだが…。まあ、何でも良いが、大丈夫そうだから俺は行くな。』

 

ここは、お前達に任せると言い残し立ち去ろうとする達也

それに不思議がり、純粋に疑問をぶつけるエリカ

 

 エリカ『え?達也君どこへ?』

 

 達也『図書館だ。』

 

 レオ『なんで?』

 

 

 達也『それは…』

 

追求してくる二人に、はぐらかした回答をすると着いてくるかもしれない。それだけは、達也にとっては都合が悪い。どうしたものかと思考していると

 

 

 小野『そこには魔法協会で保管されている機密文書があって、魔法科高校の図書室には、そこへアクセス出来るの。壬生さんもそこに居るはずよ。』

 

昨日のカウンセラーの小野 遥

助け舟のつもりで介入してきたのか、ご丁寧に隠しておきたい情報まで暴露してきた。

おそらく、面倒事を押し付けに来たのだろう。

 

 達也『…それで、私に何をさせるつもりですか?』

 

要望は何だとストレートに尋ねる達也

小野のしたいことと達也のしたいことは全くベクトルが違う。正直言って、やりたくない。

 

 小野『…壬生さんを助けてほしいの。彼女は剣道部で素晴らしい成績を修めているけど、魔法実技では、その真逆で悩んでいるの。だから-』

 

 達也『甘いですね。』

 

 小野『っ!』

 

小野の壬生に関する情報は何もかもが正確ではない。

客観的に分析出来ていないし、感情移入している。

それでは、壬生もかわいそうである。

だから、敢えて達也は小野の言を切り伏せた。

 

 

 達也『それはただの欲張りというものです。職業意識の高さやカウンセラーの義務はあるかも知れませんが、入れ込みすぎるとやけどしますよ。私には全く関係の無いことです。それでは。』

 

言いたいことだけを言って、この場を後にする。

 

 レオ『ま、待てよ、達也。』

 

 エリカ『ちょっといくらなんでもそれは。』

 

その言葉に理解と納得がいかないエリカとレオは達也を止める。

しかし、達也は二人の非難に対して冷めた眼を向ける。

まるで、お前達はこの世の何を知っていると言いたげに

 

 エリカ・レオ『『っ!』』

 

殺意に似た視線に怯むエリカとレオ

一つ嘆息し、達也の言いたい事が理解出来るようにヒントを出す。

 

 達也『一つ、為になることを教えてやる。ある方の言葉だ。【貧乏なひととは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ】…じゃあな。』

 

それだけを言い残し、三人を置いて図書館に向かうのだった

 

 

 

 

 

 図書館

 

 

 達也『(敵は階段上り口に二人、登りきったところに二人、特別閲覧室には四人の内一人は壬生先輩で間違いないだろう。)…何しに来たエリカ?レオはどうした?』

精霊の眼(エレメンタル・サイト)で潜んでいる敵(当校の生徒含む)の位置や人数等の確認をしていると、先程放置してきた人物が来た。

 

 エリカ『私も加勢に!レオは幹比古も援軍で来たから大丈夫かなと思って、任せて来たの。』

 

ある意味答えになっていない、というよりかは生け贄にしてきたと言わんばかりの回答である。

 

 達也『幹比古の魔法は知らないが、二人だけで良いのか?まあ、体つきを見る限りでは、大抵の奴らなら魔法無しでも倒せそうだが。あと、任せて来たというより押し付けて来たように聴こえるが。』

 

幹比古もレオも戦闘訓練とまでいかないだろうが、それなりに鍛えているような体つきだから、問題は無いかと無理矢理納得させる達也。

 

 エリカ『いいの!それより。』

 

どういう状況かと、敵は何人だと。

 

 達也『壬生先輩は奥の閲覧室だ。彼女は誘い出すからエリカで相手してやれ、階段付近の二人の人間達は頼んだ。』

 

エリカに壬生先輩と階段手前に隠れている敵の数だけ伝える。端から見れば、押し付けているようにも感じられたが、エリカの実力を信用しているとも取れる。

達也は魔法を使わずに、身体能力で二階に上がり、合わせてそこに待ち受けている敵二人も行動不能にして、奥に消えた。

 

 

 エリカ『ちょ、達也君!…なんて、跳躍力してんの。しかも、上の二人はもう倒してるし。仕方ない、やりますか。あんたらの相手は私よ!』

 

突然現れた達也が二階に跳躍したことに驚きを隠せず、物陰に潜んでいたブランシュのメンバーも誘き出されてしまい、引っ込みがつかなくなってしまった。

また、エリカも奇襲するつもりが達也のお陰で台無しである。

仕方なく、相手を挑発する形で戦闘モードに切り替えるのであった。

 

 

 

 

閲覧室

 

その頃、壬生を合わせたブランシュ計四名は魔法協会が厳重に保存している魔法の機密文書を盗み出そうとしていた。

 

 壬生『(これが、私のしたいこと。差別の無い魔法の無い世界にするために……本当に?)』

 

自身がやりたいことをしているつもりがこの期に及んでその疑問が壬生に鎌首をもたげてくる。

 

 ブランシュメンバー1『もう少しで。いける。』

 

 ブランシュメンバー2『よし、あとはロックを解除するだけだ。』

 

最高機密のランクに分類される魔法協会に保存されている機密文書

取り出すのは容易ではない。それを約三十分でアクセスする手腕はそれなりに腕があるということに他ならない。

 

 ブランシュメンバー1『やった、開いた。これでこの国の最先端魔法技術が手に入る!』

 

厳重なロックを解除し、嬉々として保存に移る。

 

 ブランシュメンバー3『このデータを記録用キューブに保存だ!』

 

記録用キューブを繋げ、データを抜き取ろうとし始めて数秒後、扉の方で轟音が響く。

 

 

 ブランシュメンバー2『?今の音は?』

 

その数秒後、扉自体が閲覧室内に倒れる形で姿を現したのは達也だった。

 

 壬生『!扉が…守夢君?』

 

右手にはCADと扉の倒れる方からして外側から衝撃を加えなければ内側に倒れて来ない。それをしたであろう右足の形が扉にくっきりと残っていた。

 

 達也『そこまでだ、ブランシュ。』

 

そう言い終えぬ内に記録用キューブをパーツ単位でバラバラにする。

 

 ブランシュメンバー1『記録用キューブが!』

 

記録用キューブを破壊され、逆上するブランシュのメンバーの一人がナイフで達也に襲いかかるが、達也は意に介した様子もなく、迎撃し、行動不能にする。

 

 ブランシュメンバー3『っ、この野郎!っ!ぐぁ。』

 

他の二人が手を出す状況を作り、壬生に語り掛ける達也。

 

 達也『…壬生先輩、もう判って来ているのでは?』

 

 壬生『な、何よ。あなたに何が解るっていうのよ!私は差別を無くすために動いているだけ。』

 

この腐った社会を根底から変えるためには、大規模な改革が必要だ。これは、その改革の一つに過ぎない。

 

しかし、それは必ずしも世の中に正しい改革とは限らない。利己主義な改革だってあるのだ。

それを判断する思考力を壬生が身に付けているとは思わない。

達也自身でさえ、間違うことだってあるのだ。

 

 

 達也『先輩、この世界に平等というものは存在しません。もし、そんなことがあるなら、その世界は全てが等しく冷遇された世界か一部の人間によって管理・支配された世界のみ。私の経験談では、生を受ければ、必ず死を迎えることもありますよ。さて、今なら間に合います。自分自身と向き合って下さい。』

 

 壬生『…』

 

苦悶の表情を浮かべ、達也に対して否定の言葉を並べたいが、出てこない。

 

 ブランシュメンバー2『壬生!指輪を使え!』

 

突然、メンバーの一人が声を発し、同時に煙幕を使い、視界を妨げる。

 

 壬生『!』

 

慌てて、アンティナイトでキャストジャミングを仕掛けるも達也は慌てた様子もなく、壬生に続き、逃げ出そうとしたブランシュメンバー二人を行動不能にする。

 

 達也『(アンティナイトを使ったキャストジャミングか)…甘いな。』

 

 達也『さて、壬生先輩は千葉の娘に任せるか。』

 

言葉とは裏腹にその目には、無機質が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壬生『(このまま行けば、出口!…人が居る?)誰?』

 

達也から逃げ延びた壬生は最短距離で出口を目指していた。

その最短距離に最大の刺客がいるとも知らずに。

 

 

 エリカ『初めまして、私、千葉 エリカって言います!壬生先輩で間違いありませんか?』

 

人当たりの良さそうな笑みを浮かべるエリカ

 

 壬生『だったら?(…何者なの?この子といい、守夢君といい隙が無い)』

 

さっさとこの場から離れたいのに、目の前にいるエリカが邪魔をして通れない。

 

 壬生『そこを退きなさい!そうでなければ、実力行使にでるわよ!』

 

周りの味方が所持していたであろう。スタンバトンを手にして、エリカを威嚇する。

 

 

 エリカ『あらあら?そんな殺気立たなくても。戦う準備をさせてあげる時間はあげるのに。…じゃあ、やりましょうか、先輩?』

 

正当防衛なんて言い訳はしない。

真っ向から打ち合って倒す。剣士同士なら、当然のことだ。

 

 

 壬生『っ!!(自己加速術式とこの技)…渡辺先輩と同じ?』

 

構えた瞬間、エリカの姿がブレて眼前に迫る。

しかも、これに似た戦い方をする人物を知っている。

 

 エリカ『?何を思ってるか知らないけど、あの女の剣術とは一味違うわよ?』

 

 壬生『(!速い、防御だけで手一杯。…あれでしか。)』

 

エリカの剣を裁き切れないと悟る。

釈然としないが、右中指に填まっているアンティナイトで、魔法師対策のキャストジャミングを流す。

 

 エリカ『!?これは、キャストジャミング?』

 

キャストジャミングの中では、魔法が思うように発動出来ない。

瞬時に一定の距離を取るも、反撃の機を窺っていた壬生は逃さずエリカに襲いかかる。

 

 壬生『(今だわ!面、面、小手、胴、面!行ける?)』

 

自分の型に持っていけていると確信し、畳み掛けようとした一瞬の隙がエリカにはいけなかった。

 

 エリカ『…残念。っは!』

 

エリカが壬生のスタンバトンを正面から折る。

 

 

 壬生『武器が。』

 

戦う武器が折られることは壬生にとって初めての経験である。普段は竹刀であるため、落とされることはあるものの折られることは無い。そのため、動揺は相当なものである。

 

 エリカ『まだ、武器はあるわよ。そこに脇差しがあるわ、来なさい。相手してあげる、そしてあの女の幻想を私がぶち破ってあげる。』

 

 

それを見越してかエリカは壬生に別のブランシュメンバーが持っていたのだろう床に落ちている剣を拾わせる。

 

 

 壬生『…ふっ、こんな指輪なんて不要ね。私の実力で貴女を倒す。なんとなくわかるわ。貴女と渡辺先輩は似ている気がする。』

 

直感だが、エリカと渡辺 摩利は同じ流派。

そして、自分のコンプレックスを克服するチャンスだと。自分の剣技がどこまで通用するのか。

 

 エリカ『ふぅん、私のものあの女のとでは、随分違うわよ?』

 

 

 静寂が二人を包む

 

 エリカの重心が僅かに下がる

 

 壬生『(!来r、っ!なにがおきたの?剣をにぎっていられない。)』

 

打ち合うつもりが、いつの間にかやられていた。

しかも、壬生に襲う痛みは尋常でない。

その痛みが意識を支配し、処理が追いつかない。

 

 エリカ『…ごめんなさい、先輩。骨が折れているかも。』

 

 壬生『…良いわ、手加減が出来なかったってことでしょ?』

 

漸く、何をされたのか判ってきたが、そんなことはどうでも良かった。

エリカは強かった。自分が手も足も出なかったくらい。

 

 

 エリカ『…うん。先輩は誇っていいよ、あの女にも出来なかった剣術の大家、千葉の娘に本気を出させたんだから。』

 

 壬生『…ぇ?貴女、あの千葉家の?』

 

千葉と聴いてピンとくれば良かったのだが、あのときの壬生にそこまで判るのは難しかった。

 

 エリカ『実はそうなんだ。因みに、渡辺 摩利は目録で私は印可。剣の腕なら私の方が上。』

 

自分のCADを懐に納めながら、恥ずかしそうに壬生に身分を明かすエリカ

 

 

 壬生『そうだったのね。…あと、不躾でごめんなさいね。保健室まで支…えてくれ…?』

 

自分は全力を出しきったのだ、それでも勝てなかった

 

負けて悔しい気もあるが、清々しい気持ちである

 

 

 エリカ『先輩?…気絶しちゃったのね。』

 

壬生の声が途切れ、ドサッと音がして、振り向くと倒れてしまったようだ。

壬生の体に負担を掛けないように抱き上げる

 

 

 

 達也『…流石だな。』

 

いつの間に来ていたのか、達也はエリカの剣に感心を寄せていた

千葉の娘というだけあって、腕は確かなものだった

 

 

 エリカ『ちょっと?こっちは大変だったんだけど?罰として、先輩を保健室まで運びなさい。』

 

面倒事を勝手に押し付けたのだ

これくらいやってもチャラにはならない

 

 

 達也『承知した。』

 

嫌な顔一つせず、壬生を姫抱きする

 

達也の抱き上げる一連の動作をみて、舌を巻くエリカ

 

壬生に一切の負担がないように抱き上げる達也

それでいて、達也も最小限の力しか使っていない

 

 エリカ『それで、達也君?他の奴らは?』

 

しかし、それよりも重要な事がある。

達也が相手した敵がいないのだ。

逃がした訳ではないだろう。そのため、余計に気になった。

 

 達也『計五人とも別の場所に運んだ。騒ぎを起こした人間達を集める場所があって、そこに。』

 

どうやら、テロの鎮圧は完了しつつあるらしい。

達也の言葉がそれを裏付けた。

 

 エリカ『ふーん。…達也君、今日はなんか恐いというか殺気立ってる?』

 

若干、丁寧語と砕けた口調が混ざって違和感を覚えたエリカ。

それに気付いたのは、光井ほのかと北山雫を庇って七草真由美の魔法を弾いた時と似ている。

 

 達也『(感情的になってる分の殺気が表立ったか)…そうだな。こんな面倒事を仕出かしてくれたからな。』

 

どうやら、無意識の内に殺気が漏れていたらしい。

 

 エリカ『(時々、不思議に思うけど、達也君って人間性が解らないのよね。他人事のように話す割には真剣身を帯びてるし。)…それ、誰に対して?』

 

知り合ってまだ、一ヶ月も経っていないため解らないのは当然だが、性格の傾向はあるのが当たり前である。

しかし、達也にはそれが当てはまらない。

 

 達也『勿論、ブランシュとそれに誑かされた人間にだが?』

 

 エリカ『壬生先輩も含まれてるの解ってる?』

 

 

 達也『無論だ。自分自身と向き合おうとしなかった罰だ。』

 

 

毒を吐くと人はよく例えるが、達也の言葉は猛毒、劇薬のように感じる。

それほどまでに達也の言葉には耳を塞ぎたくなる。

 

 

 エリカ『…えぇ。容赦ない。そんなこと出来るの極僅かな人間だけだと思うんだけど。』

 

正論だとは思うも、失敗もするのがヒトであり、それはある意味では、素晴らしいことだとも言えるのだ。

一応、弁護する訳ではないが、壬生の味方をする。

 

 達也『なんだ。俺が悪いのか?まあ、それは置いといてだな。保健室の扉を開けてくれないか?』

 

 

 エリカ『なんか、はぐらかされた感じがあるけど。はい、どうぞ。』

 

あっという間に保健室に到着した。

両手で壬生をだき抱えているため、扉を開けることが出来ない。

壬生先輩もいつまでもこの体勢は可哀想なため、エリカに扉を開けるよう頼む。

 

 

 達也『ありがとう。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 壬生『…ここは?』

 

意識が覚醒してきて、自分がどこにいるのか口に出して思考を試みると、周りから声が聞こえてきた。

 

 真由美『あら、気が付いた?ここは保健室よ。っあ、まだ、起き上がっちゃだめよ。骨にヒビが入っているから。安静にしないと。』

 

起き上がろうとする壬生を抑えるも諦めないため、背凭れを用意し、壬生を楽な姿勢にさせる。

しかし、骨にヒビが入っているため安静なことにはかわりないが。

 

 摩利『そうだぞ。』

 

真由美の言に賛同するように

今は寝ておけと謂わんばかりの摩利

 

 壬生『わ、渡辺先輩。』

 

摩利の姿を見て、壬生は少し強張った表情をみせる。

まるで摩利と何かあったように見受けられた。

 

 

 エリカ『?何~?壬生先輩、この女に何かされたのかしら?』

 

 摩利『茶化すなエリカ!』

 

壬生の様子がおかしいことに気がついたエリカがここぞとばかりに、摩利を弄ろとする。

それが嫌なのか、声を荒げる。

 

 

 壬生『い、いえ。そ、その…。』

 

なおも、動揺を続けている壬生に様子がおかしいと静観していた真由美。

 

 真由美『?何だか摩利に怯えてる?』

 

 摩利『おいおい、真由美まで。そんなことはしてないつもりなんだが?』

 

 真由美『とりあえず、事情を聴くしかないわ。壬生さん、何があったか話してくれる?』

 

真由美は壬生の状態を的確に把握して、最も的を射た言葉を選ぶ。

摩利はそれを否定はしないが、憶えが無いため戸惑う。

しかし、それ以外考えられない。

原因を探るには、当事者に聞くことが手っ取り早い。

 

 

 壬生『はい。ーーー』

 

それは、壬生と摩利の初めての邂逅から始まった。

風紀委員での摩利は剣術部を竹刀を持ってして、沈めた手腕に憧れを抱いたのだ。

この人と手合わせしたいと。

しかし、現実はそう上手くいかなかった。

壬生の申し出を摩利はすげなくあしらったからだ。

それからの壬生は想像通りであろう。

 

 摩利『…本当に私がそんなことを?』

 

 壬生『…思えば、私が天狗だったんです。魔法力の無い私が渡辺先輩に指南いただこうなんて。』

 

 摩利『それは違うぞ!あのとき、私はこう言ったはずだ。【私では、お前の相手は務まらない。お前の方が実力が上だ。お前に見合う相手を探してくれ】とな。違うか?』

 

 壬生『え?あ、そう言われれば、そうかも。でも、なんで私…。』

 

 真由美『おそらく、最初の言葉が勘違いを起こさせて、混乱を招いたきっかけね。でも、どうしてそこまでの記憶違いをしたのかしら?』

 

『…邪眼(イビルアイ)

 

 全員『『えっ?』』

 

 エリカ『…彼、守夢君が言ってたわ。可能性がある魔法の名前よ。でも、壬生先輩。これだけは言わせて、貴女の剣の腕は私が本気を出させたこと。それは、この渡辺 摩利には出来なかった。』

 

エリカは決して、優しくはないと思っている。過大評価はしないし、結果だけを伝える。その過程を認めることもあるが、結局は出来たか出来なかったかを判断する。

 

壬生『…ありがとう。千葉さん。』

 

純粋に自身の剣技が認められたことはとても嬉しいことだ。例え、魔法が上手く使えなくても。

 

 真由美『あら?そう言えば、今回も大活躍の守夢君は?』

 

 摩利『それなら、用事があるとかで帰ったぞ?』

 

話題に事欠かない達也は、良い悪い意味どちらにしても有名人になりつつあった。

 

 

 十文字『いいのか?残党がいるかもしれん。まだ、あいつの力が必要かも知れんぞ?』

 

十文字でさえ、達也の力は認めている。

頭数として、欠けられては困ると言いたげな台詞である。

 

 摩利『大丈夫だ、残党に関しては、私が吐かせたからもう居ないことは実証されている。手引きした人物も捕獲済みだ。それより問題は、ブランシュの拠点を突き止めることだ。』

 

裏付けは済んだため、反撃に出るための準備が必要で、そのためには、敵の所在が解らないことには、意味がない。

 

 小野『それなら問題ないわ。私が教えてあげる。』

 

 レオ『いつも思うんだが、はるかちゃんて何者?』

 

 エリカ『レオ、そのはるかちゃんって何?』

 

 レオ『ん?結構知られてるぜ?小野先生と呼ぶんじゃなくて、名前で呼ぶ事は。』

 

いつの間に部屋に居たのか不明な彼女だが、それを詮索するのは野暮だろう。

価値のある情報をくれるのだ。

感謝こそすれ、煙たがる必要はない。

 

 エリカ『ふ~ん。まあ、いいわ。それで小野先生、奴らのアジトはどこに?』

 

 小野『慌てないの。誰か端末を出して。』

 

エリカの端末と真由美の端末にブランシュのアジトの位置情報を譲渡する。

その位置に誰もが驚愕した。

 

 

 真由美『ここは…嘘でしょ?』

 

 摩利『なめられたものだな。目と鼻の先だ。』

 

 エリカ『上等。売られた喧嘩は安く買いたたいてやるんだから。』

 

 十文字『勇み足も良いが、ここにいるメンバー全員は難しいぞ。学校で何があるか不安要素がないとも限らん。それに、ここから先は、警察に委ねるべきなのだが、壬生や他の生徒のブランシュの関与で家裁送りは避けたい。彼女達を守るためにもな。ここからは、俺達(十師族)の出番だろう。』

 

 真由美『…そうね。』

 

どうやら、ブランシュのアジトは第一高校からそう離れていない位置にあるようで。

好戦的なエリカと摩利は潰す気満々のようであるが、慎重な十文字はリスクも考える必要があるため、人選は大切だと説く。

そして、壬生達の事もあるため、警察より十師族が動く必要性も選択肢として考えていた。

 

 

 深雪『魔法師の未来のためにも後顧の憂いを断っておくべきですね。それについては、同感です。』

 

十文字の言葉に深雪は同意しているものの、どこか違う意味に捉えているように感じられるが、それを理解出来る人物はいない。

 

 

 摩利『しかし、メンバーはどうする?そうなってくると私と真由美は除外になるな。』

 

学校での騒動を収束に導くには、真由美の力が必要である。そうなると必然的に摩利は真由美のサポートにまわる。

 

 十文字『…そうだな。俺なりに考えたのは---』

 

 

 

 

 

 

 

時間を遡り、神夢家

達也は自室でブランシュアジト破壊とブランシュ日本支部を殲滅するための支度をしていた

 

 

 達也『(来年には結那と加蓮、再来年には恭也が入学する。根本を排除するには今しか無い。ブランシュ日本支部を潰す。最終的には、ブランシュを創ったあの男を抹殺するが、今は司 一、奴を排除する。)』

 

 

拳銃型CAD・黒い刀身の日本刀所謂、黒刀・リボルバーの拳銃を身に着け部屋を出る

 

バイクでブランシュのアジトに向かうため駐車場に向かう達也

 

普段は誰かしらに出会うのだが、ここまで誰にも見つからず順調だった

 

達也にとってはこれからすることがバレないのは好都合のため、気にしてはいなかった

 

しかし、それは裏を返せば誤算をしているということとも取れないだろうか

 

 

達也『…』

 

人の気配を察知して、立ち止まる

 

その気配はどこか、怒りと心配を併せ持っていた

 

浩也『…どこに行く、達也。』

 

仕事から帰宅して、浴衣を羽織っている浩也

 

いつも、仕事から帰って来ると和装に着替えて、ゆったりとした雰囲気を醸し出すが、今回は怒気を孕んでいる

 

達也『義父さん。』

 

怒っていると解っているも、自分も今回は譲れないものがあるため臨戦態勢を取る

 

それは、相手が浩也のみだからではない

 

風間『藤林にお前が何かを調べているのか探らせたが、判らなかった。だから、お前を最後まで泳がせた。そして、今漸くお前が何をしようとしているのかが判った。相手に悟らせない技術は流石だが、これは、いただけないな。義父としては。』

 

軍の上司としてではなく、後見人の一人いや、一人の父親として、達也を諫める。

 

 達也『少…義父さん。…それで、俺をどうするおつもりで?』

 

この二人が相手となると、負傷は免れない。全力を出してもいいが、それが、長時間になると、神夢の人間が出てくる。

それだけは、避けたいところである。

 

 浩也『達也、俺達はそんなに信用がないか?』

 

暫しの沈黙を破り、浩也が問い掛ける。

 

 達也『いえ、決してそんなことは。唯一無二の家族です。結那、加蓮、恭也に危害が及ぶなら神夢に危害が及ぶなら、俺が…』

 

達也を受け入れて、家族にしてくれた。それは、何よりも幸せなことである。

しかし、その大切な家族に害が及ぶ可能性が少しでもあるなら達也は必ず家族のために戦う覚悟がある。

それが地獄に続く道だとしても。

 

 浩也『神夢家を守るためにも業をその身に引き受けるか?』

 

 達也『…はい。』

 

 浩也『夜に九重寺に出向いていたのは知っている。八雲から連絡があった。』

 

八雲の裏切りを知り、裏切ったな、師匠と恨みの念をこめる。

考えても見ればわかる話である。八雲は達也を弟子に欲しいと浩也に懇願したのだ。その際の条件に達也に何か変化があれば、報告すると約定を交わしていれば、その約定に従い浩也に連絡が入る。

 

しかし、実際のところは何の約定も交わしていないのは達也の知る由も無い。

 

これは、八雲の達也を思っての行動だった。

 

 

 風間『それの少し前にブランシュの動きが活発になっていると情報を掴んだ。それと、今日、第一高校でテロが勃発した。それらを合わせるとお前が何か行動を起こすんじゃないかと思っていたが。』

 

達也が神夢家のために動かない理由はない。

その行動を信用しての待ち伏せは案の定、成功した訳であるが。

 

 浩也『達也、率直に言う。軍に任せろ。百歩譲って、討伐に加わるのは構わない。しかし、個人で行くのは許可出来ない。』

 

 達也『俺が行かずとも、魔法科高校の面々が準備しているとしてもですか?』

 

何か達也が行くと不味いことでもあるような口振りである。そのため、達也にも反論の隙が窺えた。

 

 

 風間『…どういうことだ?』

 

十師族が介入するなら、軍の出る幕は無い。

 

 

 達也『推測ですが、おそらく。それが理由ではありません。それに…』

 

 浩也『?なんだ?』

 

本当に二人が達也に隠したがる理由は一つ。

 

 達也『知っていますよ?十師族の四葉と七草、十文字が俺の事、神夢の事を調べまわっていることも。』

 

達也の情報が外部に漏れないようにするためである。

達也は神夢家の存在と同様に様々な秘密がある。

それは、達也自身が一番理解しているところである。

しかし、それは弱味ともとれる。それは、達也にとってはとても不本意なことだ。

 

 浩也『!!』

 

 風間『そこまで知って、何故だ?』

 

 達也『主な理由は結那、加蓮、恭也です。これだけは絶対に譲れません。止めると仰るなら俺を病院送りにする以外ありませんよ。』

 

自分は神夢家の盾となり、矛となることに決めたのだ。

自分の秘密が暴露されようと、この家が護れるなら本望だ。

 

 

 

 

今度こそ、達也を止めるために浩也と風間が構える。達也も同様に。

互いに間合いを図っていると

第三者の介入、しかも達也にとっての幸運だった。

 

 凛『良いじゃありませんか。行かせてあげても。』

 

それは、三人にそれぞれ衝撃を与えるものだった。

 

 

 浩也『凛!それは、達也の情報が奴らに流れてしまうということでもあるんだぞ!』

 

何を考えているんだと、憤慨する浩也だが、凛はそんな言葉にも何のその。

 

 風間『神夢家の存在は秘されて問題は無いですが、表の守夢家は探られる可能性は0ではない。』

 

風間は風間で理性的な反論をして、メリットとデメリットの大きさの違いを出す。

 

 凛『…何をグダグダと。達也が守ってくれるのなら、こちらも全力で達也を守れば良いだけの話。こんな簡単な話なのに、悩む必要性が見当たらないわ。』

 

簡単な事ではあるが、いざ実行に移すと難しいことが多くある。

しかし、ここでは、然程難しくない。

なにせ、世界最高機密と人類最強?が互いに守り合うのだ。出来ない事はない。

 

 達也『義母さん。』

 

いつも達也に甘いのは、浩也の方だが、今回は凛が達也を庇ったことで、浩也達もタジタジである。

 

 

 凛『達也、怪我も無く帰って来なさい。あと、血糊と血臭は落としてらっしゃいね?あの子達が泣くのを見たくないでしょ?最後に、夕飯までには帰ってらっしゃい。』

 

まるで、お遣いにでも頼むような約束であるが、達也はこれを違えることはしないと誓う。

 

 

 達也『はい』

 

 凛『まぁ、でも。泣かせたら、それはそれで責任を取ってもらうまでですから。』

 

しかし、最後の台詞で、やはりいつもの凛だと認識する。

 

 達也『ありがとうございます。義父さん、お願いします、行かせて下さい。』

 

家族の同意を得て、出発したい。

後ろめたいことはしたくない達也であるが、そもそも隠れて行動していたことは心情に反しているのだが、それはそれ、これはこれ。

 

 

 浩也『…なるべく、ばれないようにしなさい。…帰ったら、説教だ。』

 

 

 風間『気を付けてな。暴れてこい。』

 

二人の許可も出たことで達也には何も恐くない。

あとは、無事に帰って来るだけだ。

 

 

 達也『ありがとうございます。いってきます。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也『ここだな。』

 

 

バイクで走ること三十分でブランシュアジトのバイオ工場に到着し、閉鎖されている鋼鉄の門を轟音とともにぶち破る。

 

 

 

 ??『私に何か御用かな?』

 

工場内に潜入し、アジトにしている広い空間に奴は居た

 

 

 達也『お前が司一だな?』

 

確認する必要もないが、口上として確認する。

特徴としては、眼鏡を掛けて若干インテリ系を醸し出した雰囲気の、20代後半から30代前半の男性であった。

 

 司『如何にも。突然の襲撃で門を破壊してくれて、お詫びの一つもして欲しいところだよ。それで、君は一体何者かな?』

 

まるで、ここは自分の家だと謂わんばかりである。

廃工場をアジトにしているだけの男が随分な言い様である。

 

 

 達也『俺か?俺は、お前が義弟を使って襲わせた人物だが?』

 

説明するのも面倒なためヒントだけ与える。

 

 司『!?君が例の守夢 達也君だったか。ここに来たということは我々の仲間になるために来てくれたのかな?』

 

私は運が良いといった表情だが、甚だ検討違いをする人間だと達也は思った。

 

 達也『冗談も休み休み言えよ。俺がここに来た理由はお前達を殺しにだ。これ以上、俺の周りを荒らされては困るのでな。』

 

これ以上の長話は必要も無いため単刀直入に言う。

 

 司『ふははは。面白い冗談だね。君一人でこの人数を相手にどうにかなるとでも?魔法師風情が調子にのらないことだ。…この戦力差を判らないわけではあるまい?さあ、守夢 達也!我々の仲間になるが良い!』

 

突然、眼鏡を空中に投げて髪をかき上げる仕草をして、達也の眼と自分の眼を合わせる仕草をした。次の瞬間、司の眼が妖しげな光を放った。

 

『ふははは!これで守夢 達也は我々の仲間だ!』

 

高笑いをする司だが、達也はその様子を何の感慨もなく見ていた。

 

 達也『…下らん。そんな魔法で俺を従えるなど思うなよ。五流の魔法師。』

 

 司『なっ!俺の邪眼(イビルアイ)が効かないのか!?』

 

 

 達也『そんな粗悪な魔法が効くとでも?【邪眼(イビルアイ)】 意識干渉型系統外魔法と称しているが、正体は催眠効果を持つパターンの光信号を人の知覚速度の限界を超えた間隔で明滅させ、指向性を持たせて相手の網膜に投射する。分類は光波振動系魔法。手品と同じだな。そんなもの、起動式の一部を抹消すれば、只の光信号だ。…それにさっきから言っているが、俺はお前達をこの世から消すために来た。』

 

司 一の魔法をご丁寧に解説して、拳銃型CADを構え、引き金を引く。

ブランシュのサブマシンガンやライフル等がバラバラになる。

 

 

 ブランシュメンバーA『なっ!』

 

 ブランシュメンバーB『ぶ、武器が!』

 

 ブランシュメンバーC『こいつ、何をしやがった?』

 

何をされたか解っていないようだが、生憎、それを教えてやるつもりもなく。

 

 司『き、貴様!』

 

 達也『なんだ、もう化けの皮が剥がれたのか。拍子抜けだな。』

 

続けざまに引き金を引くと今度は、人間の体に穴を穿っていく。

脚や腕、腹などに穴を穿ち、ブランシュの人間の悲鳴で埋め尽くされた。

 

 ブランシュメンバーB『ぐぁぁ!』

 

 ブランシュメンバーD『ぎゃぁぁ!』

 

 司『な、なっ。そんな馬鹿な。たかが高校生一人に。』

 

危機察知能力は少しは備えているのか、すぐに逃げた司だが、達也には分かりきっていた。

 

 達也『(奥に逃げ込んだか。なら、良い。先にこいつらを始末しておくか。)…ブランシュに入らなければ、殺されることもなかったのにな。すまないな。』

 

そう呟くも返答はない。

痛みで気絶もしくは、呻く気力が無いのだから。

そうして床に臥せているメンバーに達也は無慈悲にも銃口を向けて引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 達也『待ち伏せ部隊か、俺に対しては無意味だがな。』

 

 

司が逃げ込んだと思われる部屋の気配を探ると、残党が十数名確認出来た。

おまけとして、銃火器を所持しているのも確認済みである。が、達也に対して、そんなものは意味を成さない。

 

学習能力が無いなと思いながら、再度銃火器に引き金を引く。

 

 

 ブランシュメンバーE『銃がバラバラに!』

 

 ブランシュメンバーF『どんな魔法なんだ!?』

 

 

銃火器を使用不可能にして、正面から堂々と入る。

魔法とだけ理解したらしいが、それ以上は解らないブランシュに嘆息する。

 

 

【分解】

エイドス(個別情報体)を分解する。

 

収束、発散、吸収、放出の要素を持つ構造情報に直接干渉する複合魔法

 

物体・魔法を問わず全てを構成要素にまで分解する。

 

そして、この力の最大の長所は、もう一つの自分の能力と合わさって、絶対に防げない領域まで分解が出来るのだが、それは追々。

 

 

 

 司『またか!一体どんな魔法を。…だが、甘いな魔法師。このキャストジャミングでは、手も足も出まい!』

 

武器を破壊され、衝撃を受けるもまだ、人数に分があると誤認する。

腕に嵌めている金属でキャストジャミングを放つ。

 

 

 達也『(アンティナイト 古代文明が栄え、尚且つ高山地帯でのみ産出される貴重な軍事物資)雇用主(パトロン)はウクライナ・ベラルーシ再分離独立派でそのスポンサーは大亜連合か。』

 

キャストジャミングを浴びても、ものともしない達也。

相手が隠したがっている正体を解説する。

 

 

司『っ!や、やれ!相手は一人なんだ!束で掛かれば問d……な…い。』

 

スポンサーをバラされて、動揺が激しく、前の部屋での惨劇を忘れていたのか、逃げずに達也を殺すことしか頭に無い。

それが、何を意味するのかは司の頭では理解出来ていない。

 

司が台詞を言い終える前に

 

達也『かかれば、なんだ?』

 

達也は右手に黒刀を左手に拳銃型CADを手に司の眼前に立っていた。

後ろには、地に伏したブランシュメンバー達

補足するなら、心臓付近に大きな穴が空いていたり、首がとんでいたりとどれも無惨な姿だった。

 

 

司『そ、そんな。この人数を一瞬で。どうやって。』

 

ありえない、目の前にいるのは人間のはずだ。

目の前に居る少年は、異常だ。

身体能力もそうだが、何より、人間を殺すことに僅かの躊躇いもない。精神がおかしいとしか言い様がない。

夥しい血の量と血臭、死臭がする中、顔色一つ変えない。

 

 

達也『悪いな、今日の俺は虫の居所が悪い。さっきの人間達とこっちの人間達、全て殺した。だが、貴様には生き証人として残ってもらうが、ある程度の苦痛は味わってもらう。恨むなら、ブランシュのリーダーになった自身を恨むんだな。』

 

そんな司の心情など気にするのが皆無の達也は、懐から数発弾が残っているリボルバーの拳銃を司に向ける。

 

司『や、やめ…ーーー』

 

司 一の断末魔の叫びは空しくも達也しか聴こえておらず、達也もその声に何の感慨も抱かなかった。

 

 

 

達也『…さて、こいつから、俺の記憶は消しておかなければ。』

 

痛みで気絶している司の頭に触れ、記憶を司る部分から達也に関する情報を抹消する。

また、他のブランシュメンバーからも達也に関する情報を抹消する。と言っても、死者のため、頭ごと分解する。

掛かること数秒。

 

 

達也『そろそろ、あいつらが来る。その前に撤収するか。』

 

確証は無いが、十文字を元とした討伐メンバーが組まれているはずだ。

 

夕飯に遅れないように帰ることが達也にとって最重要課題であるため急ぎ乗ってきたバイクの元へ走る。

その後ろ姿は、先程までの殺気を纏ったものではなく、家族に怒られないように慌てる少年のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




如何でしょうか?
①達也君、有能すぎます。パソコン技術あり得ない
②達也君、小野先生の正体は知っています。
③達也君の分解がチートになりすぎてますね。
④達也君、家族大好きっ子です。
⑤達也君、銃刀法違反ですね。

とまぁ、お待たせして申し訳ないです。

次回は、番外編を予定?はしてます。
よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編(ほのか・雫編) お気に入り100件記念

サブタイトルにも銘打ってありますが、こんな拙い文に100件以上のお気に入りをしていただきありがとうございます❗️
その記念に今回は番外編を作ってみました。
内容的には、皆さん読んでいただいてる中で、
あれ?ほのかと雫がなんで達也と接点があるの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は一応、それに関しての番外編です!

それでは、どうぞ!


アイネブリーゼ

 

今日は高校は授業は無く、達也は休日を研究に充てようと思案していた。が、そう上手くいかないのが世の常で。ほのかと雫から買い物に付き合って欲しいと誘いがあったため待ち合わせ場所にこのカフェを指定し、二人を待っている。

 

 

ほのか『達也さん、お待たせしました。』

 

雫『達也さん、今日はありがとう。』

 

達也『いや、俺も大した用事はなかったから。で?どこに行くんだ?』

 

雫『達也さん、急ぎすぎ。その前に、ここでお茶しよ?』

 

ほのか『そうですよ!ゆっくり計画を練ってからですよ!』

 

達也『そういうものか。』

 

そう言えば、双子の義妹達と買い物(本人達はデートらしい)に行ったときも似たようなことを言われた気がする。

 

 

雫『達也さん、今日は何を予定してたの?』

 

少し達也の私生活が気になる雫

 

達也『いや、いつも通りで師匠と研究だ。』

 

 

ほのか『そっか、達也さんはトーラスシルバーのお弟子さんでしたね。』

 

実際は、当の本人がその一人である訳だが、公然の秘密である。

 

達也『ほのか、その事はあまり大きくは言わないでくれ。』

 

若干、声に弾みも出ていたので、軽く窘める達也。

秘密というものは黙しているから意味がある。

 

ほのか『あ、すみません。』

 

達也の注意にほのかも反省する。

ほのかの縮こまった姿にしまったと思い、フォローを入れる。

 

達也『いや、怒っているわけではない。ただ、ややこしい事に発展する可能性が無いわけではないから、あまり広く知られたくないだけだ。これは、信用している友人だから話しているからね。他人には内緒だ。』

 

柄にもない、口許に人差し指を当てて、ウィンクの形をとる。

普段そんな仕草を見せないためほのかも顔を赤らめる。

 

ほのか『///はいっ!』

 

雫『ほのか、ズルい。』

 

横でイチャつかれて(達也にとってはただの念押し)嫉妬する雫

 

暫く、三人は談笑を楽しんだ。

 

 

 

 

 

達也『さて、今日はどこに行く予定なんだ?』

 

そろそろ、予定を決めて行く方が良いだろうと達也は考えていた。時間も無限にあるわけではない。

ここで考えなくても歩きながら、考えても良い。

 

ほのか『そうですね。時間的にはお昼ですから先にお昼ご飯の場所を繁華街で見つけませんか?』

 

時間は午前11時を過ぎたところ、繁華街に徒歩で向かうと時間としては、正午近くになる。

 

雫『そうだね、達也さんもそれでいい?』

 

達也『ああ、構わないよ。それじゃあ、繁華街まで行ってみるか。』

 

普段の達也なら、1秒でさえ惜しいが今日は違う。

のんびりと歩くのも良いだろうと考える。

何か新しい発見を見つけるのはこういう状況かもしれない。

 

 

 

 

 

達也『本当にここで良いのか?』

 

雫『くどいよ、達也さん。』

 

達也『…しかしだな。』

 

 

今、三人は洋食店にいる。

 

しかし、洋食店は洋食店でも店内に居るのは、男女のカップル達だ。

 

お分かりだろうか?

 

そう、この店は男女カップルの専門の洋食店なのだ。

 

カップルでも同性愛者はお断りのこの店だが、男女ならば、どんな形でもOK。

例え、男:女=1:2でも……。

 

 

ほのか『達也さんは、嫌でしたか?』

 

上目遣いで達也を見上げる。

達也が嫌なら無理はさせたくない。

雫はナイスほのか!と内心ガッツポーズをとる。

達也はこの仕草に弱いのだ。

 

達也『いや、そういうわけではなくてだな。』

 

あたふたして、上手く伝えられない。

 

 

雫『(!)…私達の勘違いだったみたいだね、ほのか。私達の好きって意味は達也さんにとっては、友人としてだったみたい。』

 

達也の動揺ぶりに雫が追い討ちをかける。

半分冗談だが、半分はーー。

 

 

ほのか『?…(!)そうだね、雫。私達の思いは叶わないね。』

 

雫の演技に数瞬遅れて気付くほのか

そして、雫同様に悲しい振りの演技をする。

 

達也『い、いや、あのだな。光井さん?北山さん?』

 

もはや、苗字呼びに戻っている。

そして、視線を感じると振り向くと周りのカップルからの視線が痛い。

男性陣は羨望の眼差しが多いため、まだマシだ。

しかし、女性陣からは違う。

睨みだけで人を殺せそうなほどである。

コイツは女の敵と謂わんばかりである。

 

針の筵とはこの事かと達也は今さらながら思った

 

 

数秒の沈黙後、達也は白旗を上げた。

 

その表情を見て、ほのかと雫はハイタッチを交わすのだった

 

 

 

ゆっくり、ランチを楽しんだ後はショッピングを楽しむほのかと雫

小物類や洋服などの販売店を回った

ある洋服店では、あまり露出をさせない現代なのに対して、露出の多い服を数着程取り扱っている珍しい店らしく、ほのかと雫がそれを着て達也に感想を述べるよう迫ったりもした

 

極めつけは、下着の専門店にまで達也を引き連れて、女性陣の視線を集めたことだろうか?

飛び抜けてカッコいい男とまではいかないものの、達也はそれなりにいい男である(自己評価は中の中、つまりは普通)最低でも中の上以上であるため、視線を集めるのは当然である

そこに、美少女二人と居るなら尚の事だ

 

そこでも下着の感想を要望され、達也は肉体的に疲れる以上に精神的に疲れてしまった

 

 

 

達也『…疲れた。』

 

ほのか『あ、ごめんなさい。無理させちゃいましたか?』

 

呟きが漏れていたらしい。ほのかに聴こえてしまった

 

達也『いや、久し振りだったから。気にしなくて良い。』

 

 

雫『そう言えば、達也さん。妹さん達は今日は?』

 

雫とほのかは結那と加蓮をライバル視しているらしい

双子達もこの二人には少々気にしているらしいが、教えてはもらえなかった

 

達也『二人なら、今日は習い事だ。』

 

八雲のもとで達也とまではいかないまでも体の使い方を学んでいる

これは、教える訳にはいかない

 

ほのか『そんなんですね。…(ヨカッタ)ボソッ』

 

ほのかと雫は安堵のため息をこぼす

 

 

達也『買い物はこれで全部か?』

 

他意はないもののほのか達には少しショックを与える言葉だった

 

雫『(ムッ)達也さん、その言葉は傷ついた。』

 

達也『…それは、すまない。』

 

二人の機嫌が少し下がったのを感じたので、失言だったと謝罪する

 

ほのか『許してあげる替わりにあそこに行きましょう。』

 

そう指差したのは、スイーツ専門店(おまけに女性多数)

 

地獄の御達しである

 

達也『(今日何度目の地獄だろうか?これは、結那と加蓮のより酷い。まあ、あの双子達のためなら苦ではないのだが。)…わかった。休憩も兼ねて入ろう。』

 

苦笑気味の達也

達也自身気付いてないが、加蓮と結那居ると終始雰囲気も柔らかいし、時折、笑顔である

が、他人になると、冷たくなる

真に達也を繋ぎ止めることが出来るのは、双子(と神夢の人間)だけだろう

 

 

雫『素直でよろしい。』

 

ちょうど、そのとき達也に連絡が入る

 

ディスプレイには、藤林 響子の文字が映っていた

 

達也『(響子さん?)すまない、二人とも店で待っててくれないか?すぐに行く。』

 

軍関係とも限らないが、軍なら盗聴等に完璧な防御をした方法で連絡をする。プライベートナンバーに掛けてくるのは珍しいがすぐに通話に出たほうが良いため返答もしないうちに、達也は二人の側から離れる

 

雫『誰からの連絡かな?』

 

 

ほのか『さぁ?…もしかして。』

 

雫『…それはないと思う。達也さん、こういうことで嘘をつくとは思えないし。』

 

ここは繁華街であることと二人が美少女であること

この二つが何を意味するのかーー

 

 

結論、招かれざる客が来る可能性は高い

 

 

男A『ねえ、彼女?一緒に俺らとお茶しない?』

 

男B『かわいいね、どう?面白いところに行かない?』

 

男C『女の子二人だと危ないしさぁ?』

 

二人の周りに不自然な影が出来たと思ったら、男三人組がほのかと雫に声を描けてきた

 

ダメージの入ったジーンズや色褪せのように見せるジャケットに耳にはピアスがを付けた

 

現代のファッションセンスとはかけ離れたそれに俗に言うはみ出し者と推測される

…一般人という表現がオブラートに包んで良いかもしれないが

 

雫『いえ、間に合ってます。』

 

ここで臆さずに言えるのは、流石というべきか

伊達に大富豪の娘として生きてはいない

 

男A『そんな固いことを言わないでさ?勿体無いよ、遊ぶことも大事だよ?』

 

男B『そうそう。可愛いんだから、ねえ、彼女もそう思わない?』

 

雫の拒絶になんとも思わない男Aに便乗した男Bがほのかにターゲットを変える。

大人しそうな雰囲気のため、強気でいけば落とせると判断したのか

 

ほのか『…いえ、結構です。相手はいるので。』

 

外見で判断したためほのかから思わぬ反撃をくらう男達

 

男B『……っ、この。お嬢さん、俺達が優しくしているうちが『ほう、優しくしているうちが、なんですか?』身の…!?』

 

男達は逆上しかけの手前で、ほのかと雫を囲う。

 

その直後に、

背後から声が聴こえたのは気のせいではないだろう。

 

達也『そこの変態共、私の友人に手を出すのは止めていただけないか?』

 

何故か既視感をおぼえる台詞だった。

 

ほのか『達也さん!』

 

注意が達也に逸れたおかげで男達からの包囲網から逃れ

達也の背後にほのかと雫は隠れる。

 

達也『二人ともケガは無いか?』

 

雫『うん、大丈夫。すぐに達也さんが来てくれたから。』

 

電話もそこそこにしておいてよかった。

達也が来る前の時間はそこまで経過はしていなかったようだ。

 

男B『おい、てめぇ。俺達の邪魔をすんじゃねえよ。』

 

軟派の典型的なパターンである。獲物をとられた逆恨みである。

 

達也『?何を言っているんでしょうか?…あぁ、変態という言葉は嫌でしたか?では、そうですね。変質者ということで。』

 

変態と変質者

 

どちらもあまり意味に大差はないが。

 

男C『なんだと?ふざけるんじゃねえぞ!』

 

達也『これも嫌ですか。ですが、すみません。変人という言葉は、生憎もっと相応しい、尊敬すべき方への賛辞なので。』

 

変人 達也にそう評される人間も大概であろう。

しかし、そういう人種は得てして凄腕の何かを会得している。あながち、この言葉は嘘ではない。

例えば、九重 八雲とか?

 

男C『だから、そういうことを言ってんじゃあねぇんだよ!後ろの女を寄越せって言ってんだよ。』

 

とうとう、隠すことをしなくなり、言葉遣いも荒くなった男達。

 

達也『何を訳の解らないことを言っているのですか。貴方達は彼女達から拒絶されているのです。諦めて大人しく帰らないなら、それ相応の対応をしてやる。』

 

後半の部分が丁寧口調から変わっているのは、気のせいではない。

 

男A『馬鹿じゃねぇのか、3対1で勝てると思うなよ!』

 

一気に達也に襲い掛かる変質者三名

普通は物量作戦という言葉もあるだろうが、この状況ではその常識には当てはまらない。

 

 

 

 

 

数秒後

 

達也『今となっては遅いが、そっくりそのまま返してやろう。』

 

重ねられた三人の骸?…死体ではありません。(←重要)

に今更の言葉が投げかけられた。

 

 

 

 

 

 

達也『すまんな、二人共。』

 

店内に入り、注文を終え、落ち着いたところで達也は謝罪する。

 

何をとは言わないものの、ある程度の予測はつく。

 

雫『大丈夫、ありがとう達也さん。』

 

ほのか『ところで、達也さん。さっきの電話は誰からだったんですか?』

 

二人を置いて電話に出たということは大切な用事であることは理解している。

 

達也『俺のCADの師匠だ。起動式の件でな。』

 

実際は、藤林 響子からで、今日の達也達を見掛けてデートなんてずるいと言ってきただけなのだが。

姉?のワガママを聞くのも弟?の役目

響子とデートの約束をしたのだが。

達也にとって、響子は義妹の双子達と並ばないまでも大切な存在ではある。また、軍関係者でもあるため秘匿する必要がある。

 

ほのか『なるほど。』

 

これ以上は踏み込んではいけないため打ち切る。

 

達也『お、注文していたのが来たみたいだ。』

 

先程頼んだ品が来たので、ほのか達は先にそれをいただくことにした。

 

 

 

 

 

達也『少々訊きたかった事があるんだが、いいか?』

 

甘味を半分程食べていたほのか達に唐突に質問を投げ掛ける達也

 

雫『何?』

 

ほのかも同様に疑問符が頭上にあるようだ。

 

達也『いや、簡単なことだよ。所謂、きっかけだ。どうして、俺の事を知ったのかということだ。』

 

簡単…

① 物事が単純で、理解や扱いが容易であるさま。

② 時間や手数のかからないさま。てがる。

 

という意味だが、

これをほのかと雫が達也を知った理由を説明するのは

簡潔に言えば、【難しい】だ。

 

ほのか『た、達也さん、それを説明するのはその~』

 

あたふたするほのか

 

雫『…達也さん、乙女の秘密を覗こうだなんて。いい趣味してるね。』

 

ジト目で睨む雫

 

達也『いや、そんなつもりはないんだが。俺は二科生で、二人は一科生。接点が全く無いからどうやって知ったのか純粋な疑問なんだが。』

 

二人の雰囲気に慌てて、取り繕う達也

 

ほのか『…雫、どうする?(コソッ)』

 

雫『…あまり言いたくない。(コソッ)』

 

達也に聴こえないように小声で話し合う。

 

 

達也『言いたくないなら別にいいんだ。』

 

二人の視線に堪えきれず、エスプレッソを啜る達也

地雷を何度も踏みたくないため話題を転換する。

 

 

それを後目にほのかと雫は達也自身は知らない出会いに思いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

第一高校 入学試験

 

筆記試験も及第点は採れたであろうため残すは実技試験のみ。

ほのかは緊張でミスをしないように心を落ち着かせていた。

 

ほのか『うぅ、大丈夫だよね。うん、試験はやれるだけのことはやった。後は、実技試験も持ち得る全てを出せばいいだけ。』

 

掌に人という字を書いて落ち着かせるも中々緊張感が和らがない。

 

雫『ほのか、無理に落ち着かせようとしてもダメ。何か別の事を考えてみて。』

 

親友の動揺具合に逆に落ち着いている雫

 

ほのか『でもでも、たった一回なんだよ?失敗は許されないんだよ?』

 

雫の肩を掴み、揺らすほのか

 

雫『だからこそ。ここぞという集中するときに疲れてたら、失敗する確率は高くなると思う。』

 

 

ほのか『だ、だけど。』

 

尚も言い募るほのかに

 

雫『大丈夫。ほのかなら絶対に受かるし、私も失敗しない。』

 

普段は表情の変化が薄い雫だが、このときは違った。

珍しさにほのかも気分が和らいだ。

 

ほのか『そうだね、頑張ろう!』

 

雫『うん、その意気だよ。』

 

やっと本調子に戻ってきた親友に雫も一安心する。

 

ほのか『そう言えば、受験生多いんだね。』

 

心の余裕が出来てきたため周りに意識を配る。

 

雫『今年は例年より、少し多いみたいだよ。』

 

ほのか『そうなんだ。』

 

次々と試験官に呼ばれて実技試験に挑む受験生達

端から見ていると、誰もが合格しそうな感じに見えるがそうではない。

厳正な審査の上で篩にかける

 

 

試験官『次、守夢 達也。』

 

達也『はい。』

 

 

 

ほのか『!あの人凄い。』

 

雫『どうして?確かに立ち振舞いが私以上には感じるけど。』

 

ほのか『そっか、雫には見えないんだったね。あの人、

魔法行使の副作用で生じる光波のノイズが全くといって無いの!』

 

光井 ほのか 彼女は光のエレメンツの末裔で光波振動系の魔法を得意とする。

 

雫『そうだったね。エレメンツの家系だから、こういうことに関しては敏感だもんね。』

 

ほのか『うん!あんな人初めて見た!それでね、あの人『そこ、静かに!』…すみません。』

 

いつの間にか声が大きくなっていたのか注意を受けてしまった。

 

雫『もりゆめ たつやさんか。私も気になったかも。』

 

ほのか『えっ、雫も?なんで?』

 

雫が気になると初めて聴いた気がして尋ねるほのか。

 

雫『あの人の立ち振舞いが一般人と一線を画してるというかなんていうか。』

 

言葉では言い表せないと

 

ほのか『じゃあ、ライバルだね。負けないよ?』

 

雫『そっちこそ。』

 

試験の緊張感はどこへやら。

すっかり、色恋沙汰に発展してしまうのは、良いのやら悪いのやら。

 

 

試験官『次、北山 雫。』

 

雫の名前が呼ばれる。

 

雫『はい。じゃあ、いってくる。』

 

ほのか『頑張って!』

 

親友の試験の応援をして自分の出番を待つ。

 

 

試験官『次、光井 ほのか。』

 

ほのか『はい!』

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

試験も無事合格を果たし、二人はショッピングを楽しんでいた。

 

ほのか『ねえ、雫。もりゆめ たつやさんは合格してると思う?』

 

雫『どうしたの?ほのかの見立てでは、大丈夫なんでしょ?』

 

カフェで甘味を楽しんでいたが、突然のほのかの話題変更に疑問で返す雫

 

ほのか『うん、そうなんだけど。少し不安で。』

 

雫『試験は時の運もあるし、絶対とは言えないけど、私は合格してると思う。』

 

と言いつつも、雫自身も彼が合格していると言いきれる自信がない。

当たり前だ。誰かが受かれば、誰かが落ちる。

 

雫『信じて、入学式まで待とう。逢えるように。』

 

ほのか『そうだね。』

 

氷が溶けて少し薄くなったアイスティーを口に含む。

 

 

甘味と飲み物も無くなり、そろそろ、会計を済ませようとした時だった。

 

 

男①『ねぇ、彼女。俺達と遊ばない?』

 

男②『そうそう、こんなところで誰か待ってるんなら、その間でもいいから遊ぼうぜ?』

 

向かいの店前で少女二人が男二人に言い寄られているのを目の当たりにする。

 

??『間に合ってますので、結構です。』

 

上品ながら、気の強い発言する黒髪の少女

 

??『そうそう、あの人とあんた達なんか比べ物にならないから。むしろ、比べるに値しないから。』

 

ズバズバと言いたい事を言う活発な茶髪の少女

 

男②『なんだと?黙って聴いてりゃ随分な言い草だな。舐めてんじゃあねぇぞ!』

 

男が少女の発言に切れ、殴り掛かる。

 

ほのかと雫がその様子を見て、声をあげるも届かない。

 

が、

 

『そこの変態。俺の可愛い義妹(いもうと)達に汚い手を触れないで貰おうか。』

 

男②の腕を右手で掴んでいた。

 

『『達也(さん)!!』』

 

女の子二人が男の背後に居る男性の姿をみとめ、声をあげる。

 

達也『ごめんな、結那、加蓮。嫌な目に合わせてしまったな。』

 

加蓮『大丈夫!信じてたし!』

 

結那『まぁ、傷ものになったら、達也さんに責任取って貰いますし?』

 

少女二人の口振りからして、待っていたのはこの男の人らしい。

 

男①『おい、何、人の獲物を獲っていってだよ!』

 

もう一人の男が殴り掛かる。

近距離での顔面への拳に周りは自分の事のように目を瞑る。

 

達也『獲物だと?』

 

パシッと音がして、次いで聴くに堪えない野太い悲鳴が響く

 

男①『ぎぃゃぁぁぁぁ、つ、つぶれる!やめろぉぉ』

 

男②『ああぁぁぁ、おれる、折れるからやめてくれぇぇ』

 

そこには一人の少年と言える年齢の人間が大人の男の拳と腕を握り潰す姿。

 

 

達也『もう一度言ってみるか?いや、言わせないがな。』

 

言い終えると男達の手を離し、それぞれの首に手をかける。そして、男二人を腕を伸ばして高く持ち上げる。

その姿はまるで首吊りを再現しているようだ。

しかし、男二人を持ち上げておきながら、彼の腕は小揺るぎもしない。

 

男①『く、くるしい。』

 

男②『も、もうし、しないから、た…のむ。』

 

先程の様子とは真逆の降参の二人

反省の色も見えてきたのか、少年(達也)は手を離し、地面に落とす。

グェッと聴こえたのは気のせいだろう。

 

達也『おい、お前達。また、彼女達に言い寄ってみろ、次はどうなるか判っているな?』

 

地を這うような声と先程までの圧倒的な力の差と少年(達也)から放たれているナニかに声も出ない男達

 

男達『『ヒィィッ!』』

 

情けない悲鳴を出しながら、逃げ出した男達

 

その姿に興味はないと背を向け、

 

二人の少女に体を向ける。

 

達也『何もされてはなさそうだな。』

 

二人の無事をみとめ、胸を撫で下ろす。

 

加蓮『心配しすぎ、達也。私達だって、それなりに出来るんだよ?』

 

二の腕を肩の位置まであげて、力瘤をつくるふりをする。

 

結那『まあまあ、加蓮?私達がはしたない振る舞いをしていたら、それこそ達也さんが悲しみますわよ?』

 

その行為を諌めるもう一人の少女

 

加蓮『そうだけど、…あ、そう言えば、結那?責任をとって貰うって言ってたけど。何を勝手な事を言ってるの?私が達也のお嫁さんになるんだからね。』

 

結那『あら?そちらこそ何を勝手な事を言っているのかしら?』

 

二人で睨み合いが始まり、それを治めようとする少年

 

達也『二人とも喧嘩をするなら、家に帰るぞ?』

 

その言葉に二人の少女の動きがピタリと停止する。

 

結那・加蓮『『絶対イヤ!』』

 

先程まで喧嘩をしていたと思えないシンクロぶりである。

 

達也『だろう?俺も可愛い義妹(いもうと)達と出掛けられないのは嫌だからな。』

 

可愛いという言葉に顔を真っ赤にする少女達。

どうやら、三人の関係は兄妹らしい。

それ以上に妹達の方は兄の方にただならない感情を懐いているようだが、そこは【触らぬ神に祟りなし】である。

 

達也『それじゃあ、行こうか。』

 

兄である少年は二人の妹の手を繋ぐ。

 

結那・加蓮『『うん!!』』

 

それに満面の笑みで応える妹達

 

 

手を繋ぎながら三人の楽しそうな声が繁華街の奥へと消えていった。

 

 

 

 

その様子を向かいのカフェのテラスで見ていたほのか達

 

ほのか『見つけれたね。予想外なこともあったけど。』

 

雫『そうだね。本当に予想外。』

 

二人の予想外は一緒なのか怪しいが…

 

ほのか『ねぇ、雫。なんだか、高校でたつやさんに会える気がする。』

 

雫『…そうだね、必ず会おう。先ずは、友達になってもらおうね。』

 

例え、高校で会えなくても絶対会いに行くと

笑顔で二人は約束を誓った。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

達也『二人とも、少し位は教えてくれても良くはないか?』

 

達也からの頼みを先程から断り続けているほのかと雫

 

雫『ダメ、乙女の秘密だから。』

 

ほのか『そうです!それに、こんな可愛い女の子とデートしてるんですからそんなことを気にする必要はありません!』

 

乙女の秘密を知って何が良いのか?

 

秘密とデートを天秤に掛けて秘密に軍配が上がるのはおかしいと

 

それぞれ達也に抗議する。

 

達也『…分かった。野暮なのは俺だったな。』

 

軽く嘆息する達也

何故、自分が謝る必要があったのか疑問だが、こちらも死んでも明かせない秘密がごまんとあるため止めることにした。

 

 

その姿に勝ったと、ほのかと雫は笑みを溢した。

 

まだ、達也との関係は高校の知り合いから友人にランクアップしただけ。

 

次は親友、恋人となる予定だが、最終目標は達也と結ばれることだ。

 

少し道のりは長いが、必ずたどり着いてみせる。

 

その時に、この秘密を打ち明けることが出来たらと思っている。

 

 




如何でしょうか?
アニメでは、ほのかが九校戦の時に達也の回想をしていましたが、そんな感じで作ってみました。

次回は九校戦編に入る予定です。

これからも達也君を大暴れさせていきます。

それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

とうとう九校戦編に突入です。
頑張ります。


ーーーーーーーーーー

 

 

 

誰かが言っていた

 

戦争にはそれぞれが正義を持っていると

 

誰かの利権のためだけに動くのだと

 

善も悪もない

 

死に行くのは老人ではない

 

戦い、死ぬのは若者だと

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

怒号と轟音、阿鼻叫喚を絵に書いたとはこのことかと思えるほどの状況

 

魔法や弾丸が飛び交い、地面が抉れ、土煙も立ち、視界が悪くなる

 

そんな刹那を見逃すと死に直結する戦場

 

 

『将輝、まだ行けるか?』

 

『あぁ、まだ行けるぞ親父。』

 

『決して無理はするな、此方に余力は残っているとは言い難いが、戦場で動けなくなるなら足手まといだ。』

 

『誰に言っているんだ?俺は一条だぜ?』

 

会話から察するに親子のようで苗字は一条らしい

状況からどうやら、戦場に居るようだ

 

『よし、着いてこい。』

 

魔法や弾丸が飛び交う中に飛び込んで行く

 

 

ハァッ

 

ハァッ

 

 

息づかいも荒く満身創痍でありながら、なお戦う

 

それでも戦うことは止めない

それを止めてしまえば、負ける=死を意味する

 

子供とも呼べる少年が拳銃を構え、引き金を引くと次々と人間が破裂する

 

拳銃は何処にでもある普通のリボルバーのもの

 

しかし、彼が引き金を引くと人間が破裂する

 

となると、答えは一つ

 

少年が魔法師という人種でその拳銃はCADということだ

 

 

少年は自身の得意魔法を駆使し、次々と敵の人間を破裂させていく

その目には恐怖や戸惑いが見えるが、引き金を引き続ける

 

何故なら、ここは戦場

 

殺らなければ、自分がやられるからだ

 

敵兵士は声をあげる間もなく、絶命いや、跡形もなく弾け飛ぶ

 

それを目の当たりにし、周りの敵の兵士達の士気が下がる

 

それを気にする事もなく、ただただ少年は魔法を行使し続けた

 

しかし、この世には絶対は無い

 

そして、忘れる訳にはいかない

 

魔法師でもまだ、年端もいかぬ少年だということを

 

 

『…ハァ、ハァ…(一体何人いるんだ?何人倒したのかわからない。湧いて出てくるみたいだ。)』

 

 

倒しても倒しても数が減らないことに体が限界を迎える

 

意識も朦朧とする中で戦っていたため、自分の判断能力が鈍っていることにも気付かない

 

『(親父は…?)』

 

この戦場のどこかで戦っている父親を探すため、意識を目の前の敵から意識を逸らしたのが、イケナカッタ

 

 

『将輝!!避けろ!!』

 

その言葉に意識が覚醒する

 

目の前に迫る魔法の弾丸に咄嗟に体が動くも体勢を崩すのが精一杯だった

 

その場で尻もちをついてしまい、起き上がろうとするも体が動かない

 

『(そんな、なんで!力が入らない。)』

 

理由は

 

意識が朦朧とするまでの精神と体の酷使

 

そして、目の前に迫った死の恐怖

 

これらが、少年の体の自由を奪う

 

 

少年が動けないのが判ったのか、敵兵士が少年へと歩を進める

 

恐怖を与えるためにゆっくりと距離を縮める

 

 

『将輝、逃げろ!!』

 

父親も息子を助けたいが、敵がそれを阻む

 

 

『(こんなところで死にたくない。でも、体が動いてくれない。)…助けて、父さん。』

 

敵兵士が少年の半径1m以内で止まる

 

そして、それぞれが武器を少年に向ける

 

 

少年は知った。

 

人の命を奪うことの意味を

 

 

 

『将輝ー!』

 

 

父親の言葉とともに世界が暗転する

 

 

 

【十師族と言えど、所詮ーーー】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーピ

 

 

 

ーーー、ーピピ、ピピピ

 

 

 

ピピピ、ピピピ、ピピピ

 

 

『ハッ!…夢…?(久し振りに思い出したな。)』

 

ガバッと掛け布団を取り、起き上がる

 

アラームを止め、ベッドから降りる

 

周りに目を向けるとここは自分の部屋

 

『なんでまた、あの瞬間を思い出すんだ?……あぁ、そういうことか。』

 

佐渡侵攻事件 2092年8月12日

新ソビエト連邦が沖縄海戦に歩調を合わせて日本の佐渡島へ侵攻した事件

 

もうすぐ、8月12日

 

爆裂の魔法を行使して、数多くの敵を屠った

 

そして、あの画像。忘れたくても、脳裏に焼き付いて離れない

 

 

 

『(あのとき、助けられてから、他人の数倍もの血の滲むような努力を続けた。あの人を超えるために)…さて、家族に挨拶と学校に行こうか。』

 

この少年

 

一条 将輝 現在、第三高校の一年生

 

魔法の世界に身を置く者なら誰もが知る

 

十師族 一条家の跡取りである

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

第一高校

 

 

達也『失礼しました。』

 

達也が出てきた場所は職員室

 

何故、そこから達也が出てきたかと言うとーー

 

 

ほのか『達…守夢さん。』

 

達也『?どうされましたか?皆さん、お揃いで。』

 

達也がお揃いでと言うのは無理もない

ここに、ほのか、雫、レオ、エリカ、美月、幹比古と高校の友人が全員集合していたからだ

おまけとして、司波 深雪もである

 

 

エリカ『どうこうもないと思うんだけど?た、守夢君?』

 

レオ『そんだぜ。守夢が校内放送で教員から呼び出しをくらったから来たんだぜ?』

 

達也『ありがとうございます。とりあえず、ここに居ては話も出来にくいので、カフェに行きましょう。』

 

皆が達也を心配して来てくれているのを感じ、感謝する

が、只でさえ、視線を集める面子のため説明は移動してからすることにした

 

 

雫『それで、守夢さん。何を話していたの?』

 

達也『結論を言うと、第四高校に転校を勧められました。』

 

幹比古『え?なんでだい?理由は?』

 

ほのか『どうしてですか?』

 

達也『みんな、落ち着いて。今から説明しますから。』

 

今日は、第一高校のテストの成績発表があった

 

しかし、それはただのテストではない

このテストは、ある大会への出場の推薦が貰えるのだ

それもあってか、生徒達の気合いの入り様は凄まじい

各々が自分の魔法に磨きを掛けようと奮起する

が、一朝一夕で身に付く訳もなく

結果的には、ずっと、ひたむきに努力してきたものが実を結ぶ

 

そして、それは魔法力だけではないが、それは今回は割愛する

 

 

達也『今回呼び出されたのは、実技試験と筆記試験の成績の差でして。実技試験を手を抜いたのでは?ということで、その誤解を解いていました。』

 

美月『なんですか、それ!酷すぎます。』

 

ほのか『そうですよ!何が楽しくて、手を抜くんですか!生徒の私だって、守夢さんがそんなことしないってわかるのに。』

 

雫『美月、ほのか、落ち着いて。それは、先生だからわからないんだよ。友達だからわかることも先生の場合は表面上のことしかわからない。』

 

熱くなるほのかと美月に雫は諭す

雫の言うように教育上は生徒と距離を縮めることも重要だが、教えるという立場上、全生徒に目を配ることはほぼ不可能といっていい

だから、妥協案として生徒の行動基準を測る指標としてテストという型で生徒達の将来の方向性を知る機会にしたのだろう

 

 

が、現代教育では、テストの点数が良い=優秀と決め付けている時点で破綻しているが

 

そもそもテストが必要なのか甚だ疑問ではあるが

 

 

ほのか『だけど。』

 

雫『それが解っていたから守夢さんは、誤解を解きに行ったんだと思うよ。』

 

そうだよね、と達也に問い掛ける雫

 

達也『そうですね。残念ながら、光井さん、北山さん、司波さんのように魔法力はありません。私はからっきしといってもいいでしょう。』

 

司波『あら?それは、私達が脳筋ならぬ、魔法力のみと仰るのかしら?』

 

達也『そういう訳ではありませんよ。もしかして、筆記試験のことを言ってますか?そうなると、私は頭でっかちの堅物ということになりますね。(まあ、実際は満点でも良かったが、それはそれで問題が起こりそうだったから凡ミスをしたように見せかけたが、どちらでも結果は変わらなかったかもしれないな。)』

 

今回のテストの成績では、

 

総合成績

1位 司波 深雪(1-A)

2位 光井 ほのか(1-A)

僅差であるが、3位 北山 雫(1-A)

 

4位では、B組の十三束 鋼という生徒

 

実技試験

1位 司波 深雪(1-A)

2位 北山 雫(1-A)

3位 光井ほのか(1-A)

 

とまあ、上位は一科生で占められているのは当然だが、A組に独占されているのが現状である

クラスの分け方として、AからHの組で一科生と二科生を均等にしている

それなのに、成績の偏りがあるのは少々問題ではある

 

しかし、筆記試験の成績をみれば、そんなことは些末な問題である

 

筆記試験

1位 守夢 達也(1-E)-498点

2位 司波 深雪(1-A)-418点

3位 吉田 幹比古(1-E)-410点

 

ダントツのトップが二科生というところが問題である

しかも、2位以下を平均で10点以上突き放している現状(※3位にも幹比古がいることをお忘れなきように)

魔法においての常識は実技が理解出来て、理論が理解出来るが通例だが、

達也と幹比古で、トップ3の内2つを占めるということは前代未聞なのである

 

 

深雪『そ、そういうことを言っている訳ではありません!』

 

ほのか『(ねぇ、雫。もしかして、司波さんって達也さんのこと…?)』

 

雫『(うん、かもしれない。思わぬ伏兵がしかも、強力なのがいたね。)』

 

達也の自虐的な返しで深雪はあたふたする

その様子を達也片思い二人は油断ならないと認識した

 

 

エリカ『それで?誤解は解けたはいいけど、それで第四高校に転校を勧められたって訳?』

 

達也『はい、向こうは魔法工学に力を入れているから、向いているのでは?とのことです。』

 

達也から聞かされた先生達の言葉に憤慨するレオ達

 

雫『四高は実技を軽視してない。戦闘魔法より、技術的な意義の高い複雑で工程の多い魔法を重視しているだけ。って通ってる従兄が言ってた。』

 

誤解の無いように雫が第四高校の特徴を述べる

 

美月『雫さんの従兄さんが通ってらっしゃるなら確かな情報ですね。』

 

 

 

 

 

 

 

今日の達也は風紀委員の職務も終わり、資料漁りもそこそこにして帰宅するつもりが委員長の摩利に捕まっていた

 

摩利『そういえば、守夢。今年の夏休みはどうするんだ?』

 

達也『どういうことでしょうか?夏休みだからと言ってやることはあまり変わりはありませんよ。いつも通り修行です。』

 

達也は摩利に依頼(押し付けられた)引き継ぎ資料の作成に勤しんでいる最中だった

 

摩利は手伝わず、こういうのは得意なものがやるものというのが彼女の言だが、その本人が暇潰しに話し掛けてくるのにはなんとも言えない

 

 

摩利『思ったのだが、その生き方は俗世から離れているように感じるのだが?』

 

休みなら休むか普段出来ないことをする

 

それが普通のような気がする

 

達也『感じ方は十人十色。委員長の言葉も当然です。それで、夏休みに何があるのですか?』

 

摩利『…なんか、釈然としないが。まぁいいか。毎年この時期に魔法科高校全校が集まり、親善試合が行われる。』

 

全国魔法科高校親善魔法競技大会(通称:九校戦)は、日本国内に9つある国立魔法大学付属高校の生徒がスポーツ系魔法競技で競い合う全国大会である。日本魔法協会主催で行われる。

例年「富士演習場南東エリア」の会場で10日間開催され、観客は10日間で述べ10万人ほどである。映像媒体による中継が行われている

 

 

摩利『ーーとまぁ、ざっとこんな概要だ。』

 

一連の説明から魔法力のある人間の大会だと認識をする達也

 

達也『なるほど、魔法力が無いこの身には興味はそそられませんね。それに、高校の行事よりも自分の修行ですから。』

 

摩利『おいおい、冷めすぎてるぞ。』

 

達観しているのかよくわからない達也に摩利はため息をこぼした

 

 

 

 

 

神夢家には、広大な敷地がある

 

そこに大きいと表現出来るか不明な屋敷が中央にある

 

屋敷の中は広く、迷路かと思うような造りになっており、様々な用途の部屋がいくつもある

その中には、地下室という奇天烈さもある

 

その一つに達也の部屋は存在する

 

その部屋で達也はモニターに羅列している文字を見ながら、数字や文字を打ち込んでいた

 

達也『(よし、完成だ。あとは、何人かにテストをしてもらって…)…どうぞ、入っておいで。』

 

 

あるモノを自身で試験し、動作に異常が無いことを確認し終える

 

その時、丁度良いタイミングで知った気配が部屋前に確認する

 

コンコンと扉をノックする人物に入室を促す

 

 

結那『お疲れ様です、達也さん。休憩を、と思いまして。』

 

手元にはお盆、ポットとティーカップ

香りから察するに紅茶だろうと推測する

 

達也『ありがとう、結那。嬉しいよ、ちょうど一息つきたかったところだよ。』

 

結那『まぁ、嬉しいです。じゃあ、加蓮も呼んできます。』

 

達也の言葉に嬉しそうな表情をする結那

 

達也『そうだね。あと、起きているなら恭也と義父さんと義母さんも頼むよ。』

 

普段なら、双子達を甘えさせる達也だが、今日は勝手が違った

達也が座ったままで結那と同じ目線に居るからだ

 

結那『…それって?…完成したんですか?』

 

何がとは尋ねない。達也がずっと研究していたことは知っていたから

 

その念願がついに果たされるのだから

 

達也『あぁ、そういうことだよ。とりあえずは加蓮を呼んでおいで?』

 

家族を呼んできて欲しいという達也に結那は半信半疑で問いかけると是と返ってきたので、思わず大きな声になる

 

結那『!はい!』

 

 

 

 

 

地下

高さ15m、30m四方の巨大な空間

そこに、浩也達どころか神夢家全員が集っていた

 

 

達也『二人とも準備は良いか?一応、想子(サイオン)の吸引量は最小限に抑えているけど微量でもおかしいと感じたら、降りてくるように。』

 

達也の説明を反芻しながら準備を始める双子姉妹

 

加蓮『りょーかい!』

 

結那『分かりました。』

 

 

達也『よし。じゃあ、電源をONに入れて。』

 

指示に従い特化型CADに想子(サイオン)を吸引させる

 

結那と加蓮は吸引が始まった瞬間から不思議な感覚に目を瞬かせた

床との接地感覚が無く、視点も高い

そして、当の達也を探すと足元に満足げな表情の達也いた

互いに顔を見合せ、足元を確認する

 

「浮いている」

 

その言葉だけが双子の意識を支配していた

 

達也『よし、次は横に水平移動してくれないか?』

 

達也からの指示に従い、自分達の脳内にイメージを焼き付けると体が自然と左右に動く

 

徐々に飛行するスピードを上げ、腕を広げながら自由自在に飛ぶ

 

 

加蓮『…浮いてるだけじゃない、飛んでるよね!』

 

結那『えぇ、飛行してるわね。…達也さん!』

 

お互いの感覚を確認しあい、達也に微笑みかける

 

 

達也『あぁ、成功だな。…(ようやく、第一歩か。)ボソッ』

 

 

達也の成功という言葉に歓喜が溢れる

 

 

傍系『やった!飛行魔法の完成だ!』

 

浩也『やったな、達也!』

 

 

常駐型重力制御魔法、通称飛行魔法

 

四系統八種の【加速・加重】系統

 

この常駐型重力制御魔法は現代魔法学確立の初期から提唱されてきたが、公式では実現されていなかった

 

この偉業を次々と神夢の人間が達也を讃える

 

当然のことだが、魔法というものが確立してから約一世紀の間、魔法で飛ぶということはあった

しかし、それは古式魔法や僅かな魔法師しか不可能だった。現代魔法では、それを実現することがまず出来なかった

それを、達也が成し遂げたのだ

 

誰でも自由に飛ぶことが出来るように

 

だが、達也の目的はこれではない。その先にあるのだが、この問題を解決しなければ、達也の目標は夢のまた夢になっていた

 

 

達也『恭也も飛んでみるか?』

 

恭也『え?良いんですか?』

 

二人の姉達を羨ましそうに見ていた末弟

 

13歳が我慢をするべきではないと達也は思っている

 

 

達也『あぁ、最後の一つデバイスは残っている。恭也のために用意したものだ。』

 

ほら、と恭也の手に飛行デバイスを握らせる

 

説明を一通りし、背中を押す

 

最近は、末弟をかまってやれなかったため久方ぶりの兄弟のコミュニケーションをとる

 

 

恭也『でも、兄上は?』

 

相変わらずの一歩引いた思考だが、こういう状況では年相応を見せて欲しいと思っている達也

 

達也『俺のことは考えるな。…そうだな、これは修行のご褒美だ。楽しんで来い。』

 

恭也『はい!ありがとう!』

 

中々に納得しないため、こじつけで恭也を納得させる

 

浩也と凛の子供達が空を飛ぶ姿を達也はまるで神々が優雅に舞っているようだなと思っていた

 

 

浩也『ところで、達也。このあと、少し話がある。』

 

達也『はい、義父さん。何かありましたか?』

 

喜びに満ちた空間で、早くも厳しい表情の浩也に達也も只事ではないと気持ちを切り換える

 

浩也『風間と話しておきたいことがあってな。私の書斎に来てくれないか。』

 

達也『…わかりました。』

 

風間と出てくれば、おおよその検討はついた

 

達也に三人と遊んでから来なさいと言い残し、自室に戻る浩也

 

 

浩也『しかし、(…あの達也がここまで成長をしてくれるとはな。三人が守った達也は世界をまた一つ変えましたよ。)』

 

我が子同然の達也の成長に涙を隠せない浩也

 

かっこ悪いところは見せれまいと早々に退出した訳だが、妻の凛と達也には見破られていたるのだった

 

 




如何でしたでしょうか。
今回は少々スランプです。
というか、飛行魔法の理解が進まない。なんとなく程度では無理だなと思い、魔法の説明は省いた次第です。
①とりあえず、達也君の成績は原作より上に
②佐渡侵攻事件は一条君頑張りました!
③飛行術式完成は、タイミング早めました。というか、深雪さんが妹でもないので、話の順序が食い違っても問題無いかなと((笑))


さて、次はどこまで、改変しようかな。

それでは、失礼します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

うーん。
飛行術式の理論がイマイチ掴めない

魔法について勉強します


それでは、お楽しみいただければ幸いです


エリシオン社 本社

 

エリシオンとはエーリュシオン - ギリシア神話に登場する楽園の名、「エリュシオン」の英語読みで

 

起業する名前として、社員や世の中が楽園になってくれるようにと願いを籠め、その努力をしてきた。

 

それは現在も続いている。

 

 

 

家から交通機関で約三十分に位置するここは、

 

神夢家の表の顔である。

 

 

他にもいくつか会社があるものの魔法の世界になってからは、この会社がメイン処になっている。

 

支社が全国にあるが、開発部はこの本社にしかない。

 

というよりも、魔法工学技師がそこまで多くはいないため、全国に派遣出来ないのだ。

それならば、一箇所に集中させて行う方が効率的だと考えたのである。

 

この開発部には、魔工師で有名なトーラス・シルバーが存在するのだが、どのような人物像かはご想像にお任せする。

 

今日は、高校を休みこの場所に来ている達也。

 

ある用事を果たしにだがーー

 

達也は受付の社員や警備の方達に挨拶をし、中に入っていく。

一見、セキュリティは?と疑問に感じるが、その点については問題無い。

 

まず、顔認証、網膜認証、ICカード認証等、魔法師なら想子-サイオン-にも特徴があるため想子-サイオン-認証。それを流して確認する他にもセキュリティは掛けられており、外部の人間が内部には入れない仕組みになっている。

 

また、人質をとられないように受付や、警備の前にはライフル弾を弾き返す防弾ガラスが設置されており、社員の安全も考慮に入れた設計になっている。

 

達也はそのまま奥に行き、EVで地下へ降りていく。

 

地下10階

 

そこに、エリシオン社自慢の開発部がそこに存在する。

 

その部署で働く人数は約20名程

 

老舗の会社にしては、少数であることは間違いない。

競合他社からしてもこの人数は少ない。

それでも勝ち続けているのは、それだけ人材の質が良いということ。

 

達也は開発部と表札のある部屋の扉を開ける。

 

その部屋は魔法工学のスペシャリスト達が集い、研究を続けていた。

 

扉の開放された音に気が付いた数人が達也に駆け寄る。

 

 

研究員①『あ、達也。お疲れ様~。』

 

研究員②『御曹司、今日はどうされましたか?』

 

 

次々と研究員達が達也を慕い駆け寄ってくる。

 

 

達也『いえ、今日はあの人に用事がありまして。』

 

 

研究員③『お、そういえば、あれが出来たんだったな。』

 

達也の言葉に何人かは意図が理解出来、嬉しそうな表情をする。

 

達也『はい。しっかりとテストのために。牛山さんはどちらに?』

 

研究員④『少々お待ち下さいね。』

 

と言い残し、牛山という人物を呼びにいく。

 

??『お呼びですか?ミスター?』

 

 

達也『お呼びだてしてすみません。牛山さん。』

 

 

ミスターと達也を揶揄する人物が牛山である

 

牛山『いけませんなぁ、天下のミスターシルバーであろうお方が。俺達は貴方のおかげでここに居られる。それをお忘れか?』

 

自分をへりくだろうとする達也に

 

彼は牛山は達也を窘める。

 

全社員が達也の実力を認め、尊敬している。また、弟分として可愛がれている。

 

浩也の義息であるということもあるが、それは最初の紹介だけ。それ以降は達也自身が全社員と関係性を築き上げた結果にすぎない。

 

達也『いえ、ですが、ミスタートーラス。貴方がここに来ていただけなかったら、トーラス・シルバーは存在せず、ループキャストも出来ませんでしたから。』

 

牛山『あーあ、負けましたよ。けど、あそこから俺達を引き抜いていただいた恩に比べれば微々たるもんですから。』

 

開発部の牛山含めた数名はこのエリシオン社には最初から居ない。

 

所謂、引き抜きと言われる形でこのエリシオン社に入社した。

 

だが、この時の引き抜きは決してスムーズに行われたとは言い難かった。

 

牛山達はあるCADメーカーで開発部に在籍していた。

そこで、牛山達は開発の仕事をしているのかと言えば、そうではなった。

 

そこでやらされていた仕事は競合他社の開発していたCADの分解と解析のみ。

 

牛山達は腕は十二分にあるが、上役達とは反りが合わず。冷遇されており、開発に携わることは禁じられていた。

 

だが、牛山達もその状況を甘んじていた訳でもない。

 

隙をみては、CADを開発し、独自で営業をかけていた。

 

その行動が幸運にも達也と浩也に出会い、エリシオン社に来ないかと誘われたのである。

 

しかし、先にも説明した通り、牛山達の在籍する会社は牛山達の退職に関して首を縦に振らなかった。

当然と言えば当然である。会社と反りが合わないとはいえ、腕のある牛山達を早々手放す訳もなく。

 

だがー

備えあれば憂いなしとはこのことだろうか。

 

牛山達は会社からの冷遇の証拠を全て残しており、切り札としてそれを会社側に叩きつけたのだった。

 

それでも会社は渋る始末で最終的には、引き抜き?の損害賠償を支払い(勿論、不当な扱い雇用契約違反もあり、賠償額は1/10にも満たなかったのだが)をして解決した。

 

結果として、エリシオン社と牛山達は大儲けで相手の企業は大損という因果応報とはこの事かと意味を知る良い機会となった訳である。

 

 

達也『あれは、義父のおかげで私は何もしてませんよ?』

 

牛山『あーもう。こっちが折れるしかないですね。それよか、此方に来たということは何か出来たからでしょう?』

 

嘆息し、仕事に切り換える。

 

達也は謙遜がすぎる

 

それは、全社員が思っていることだ

 

だが、それは達也の美徳だ

 

むやみやたらに批判はしない

 

達也『OK。牛山さん、先日、これが完成しました。』

 

バッグから箱を取り出す。

 

牛山『!これは、飛行デバイスですか?』

 

達也『はい。家族総出で試験はしましたが、市販にはまだまだ改良が必要なので、そこをテスターの皆さんと牛山さんのフィードバックをお願いしたく。』

 

牛山『承知しました!歴史的瞬間を拝めるのは見逃せないな。

誰か、今日の休みのテスターは?

いない?もういる?

なるほど、先に呼び出し喰らってた訳か

なら、さっそく、準備にかかるぞ!』

 

牛山や他の社員の声が交差し、慌ただしくし始める。

 

試験ということはとても重要である。

 

例えば、何か薬品を新しく造ったとしよう、それを売り出すにはまず、それの効果や副作用といったものを調べる必要がある。

 

そして、それを改良を重ね続けて漸く完成する。

 

この飛行魔法も軽い試験は行ったものの、データは採っていない。

 

だから、魔法師に負担がかかるものが存在していないかを確認する必要性がある。

 

 

 

体育館並みの広さの試験場

 

テスター十数名が達也が造り上げた魔法式をコピーしたデバイスを手に準備をしていた。

 

牛山『テスト開始!』

 

テスター①『始めます。』

 

実験開始の合図に固唾を飲む

 

達也の腕は超一流だ。しかし、歴史的瞬間は緊張を孕む

 

研究員『接地面からの離床を確認』

 

研究員『反動による床面接地圧の上昇、観測なし』

 

研究員『上昇加速度の誤差は許容範囲内』

 

研究員『CADの動作は安定しています』

 

緩やかにテスターの体が宙に浮く。

 

テスターを飛行の失敗の危険から守るケーブルも弛むことが魔法による飛翔と判別が可能だ。

 

観測の報告と目の前で起こる事象に全員が固唾を呑む

 

 

達也『…(ここからだ)』

 

だが、達也だけは表情は厳しい

 

研究員『上方への加速度減少…0(ゼロ)。等速で上昇中』

 

観測室が試験場の高さ約3mの位置に存在し、そこでテスターが停まる

 

研究員『上昇加速度、マイナスにシフト…上昇速度0(ゼロ)停止を確認』

 

 

研究員『水平方向へ、加速を検知』

 

研究員『加速停止。水平移動の加速を1m/sで検知』

 

ひゅっと、誰が、誰もが息を呑む

 

観測の報告よりも目の前でハッキリと分かる速度で空中を飛んでいるテスターの姿

 

研究員『飛んでる…』

 

研究員『…ウソ』

 

テスター①『テスター①より管制へ

飛んでいます。俺は鳥のようだ!』

 

歓声があがる

 

テスター①の飛行を確認して他のテスターも同様にスイッチを入れる

 

十数名のテスターが自由に飛行する姿にまるで達也も満足げな表情をみせるも目だけは職人のような、厳しいものだった

 

牛山『おめでとうございます、御曹子。』

 

達也『ありがとうございます。皆さんのおかげです。』

 

が、皆が喜ぶ姿に努力してきた甲斐があったと少し、顔を綻ばせた。

 

 

 

 

 

 

達也『皆さん、遊びすぎです。』

 

牛山『御曹司、容赦ない。』

 

達也『当たり前です。私の腕前を信頼していただけるのは若輩者としては嬉しく思いますが、それとこれとは別問題。後遺症が残らなかったから良いものの、何かあってからでは遅いのです。』

 

結局のところ、テスター全員が魔法力と想子(サイオン)の使いすぎでバテてしまった

 

後遺症がなかったから良かったものの達也にとっては夢見が悪いものとなった

 

テスター全員『すみませんでした。』

 

研究員『まぁ、達也。これくらいで許してあげな。嬉しかったんだよ。お前がこんな歴史的快挙を成し遂げてな。それを誰よりも早く体験出来るんだ。大目に見てあげてくれ。』

 

達也を小さな頃から見ているため、もはや、弟どころか自分の子のような感覚だ

 

達也の心配は判らないまでもない

 

達也『…そうですね。皆さんありがとうございました。これで、市販に向けての目処がたちました。』

 

牛山『それで、私達は何をすれば?』

 

達也『嫌ですね、皆さん。もう解ってるのでは?』

 

牛山達がまるで、解ってないという風な回答に達也もおどける

 

研究員『これは、一本取られたな。牛山さん、早速、ハードの改良に入りましょう。』

 

牛山『そうですな。御曹司、失礼しました。自動吸引スキームの効率化とタイムレコーダーに専用回路ですね?』

 

意志疎通は完璧とも言える達也と研究員達のやりとり

 

達也としてもこれほど仕事場として居心地が良いのはありがたい

 

達也『お願いします。』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

真由美『はぁ~。』

 

突然のため息に生徒会室に居た役員(服部は巡回)と摩利は何事かと振り返る

 

深雪『どうかされましたか?会長?』

 

毅然とした態度で困難も乗り越えてきた真由美のため息に驚きを隠せない

 

真由美『九校戦のメンバーなんだけどね、選手は十文字君が協力してくれたから苦労はしなかったんだけど、バックアップする所謂サポートね。CADを調整してくれるエンジニアがねぇ。』

 

今年もやってくる九校戦

 

全国の魔法科高校同士の熱い戦いがやってくる

 

この日のために、ある意味頑張ってくる生徒達もいるほどこれは魔法師人生において重要なイベントと言っても過言ではない

 

その大事な日であるのに、ある人種がーー

 

深雪『…集まらないと?』

 

摩利『まあ、毎年のことだ。ウチは実技等の成績は良いが、理論や技術と言った裏方のような分野に苦手意識があるみたいでね。』

 

毎年恒例の悩みらしいのだが、今年は特に酷いとのことだ

 

真由美『せめて、摩利が自分のCADを調整出来ればいいんだけど。』

 

摩利『いやはや、それは深刻な問題だなぁ。』

 

まるで他人事のような摩利の言い草に愚痴を溢す真由美と図星を突かれ、他人事のように話す摩利

 

真由美『準理論畑の五十里君もその道の専門ってわけではないけど、千代田さんの調整は彼だから。あーちゃんとか他も居るんだけど、圧倒的に人数が足らないの。頑張って貰ったらなんとかなるかな?と思うんだけど。問題は新人戦のエンジニアが足りないの。』

 

エンジニアの数は選手以上に神経質になる。

毎年の恒例行事とは言え、問題が軽くはない。

 

深雪『なるほど、そういうことでしたか。しかし、いくら、選手ばかりとはいえ、最低数は居るはずですが。』

 

真由美『そうなんだけど、CADというのは、選手の力を引き出すのはCADが重要でしょう?そこをクリアするとなると、ある程度の腕が必要なんだけどーー。』

 

たしかにと深雪は思った。

 

自分のCADはある意味自分の分身。

 

エンジニアの腕が良くなければ、反動は自分に返ってくる。

 

真由美『やっぱり、りんちゃん…』

 

鈴音『無理です。私では、中条さん達の足を引っ張るだけです。』

 

人数の当てにしていた希望があっさりと断られ、絶望の底に叩き落とされたような真由美

 

真由美『うぅぅぅぅ。摩利~。』

 

摩利『おいおい、チームのリーダーがそんな顔をしてどうする?なんとかなるさ。』

 

全く当てにならない発言である。

 

深雪『でしたら、全校生徒の成績を確認するというのは如何でしょうか?』

 

何か手がかりになればと助け舟を出す深雪

 

真由美『え?』

 

深雪『もしかしたら、何か発見があるかもしれません。』

 

それも一理ある。

 

真由美達は去年や十文字達選手からのフィードバックでエンジニアを探していた節がある。

 

新たな視点からなら何か見つけられるかもしれない。

 

鈴音『一年生から確認してみましょう。エンジニアなので、実技と筆記試験の両方の成績の良い生徒を上位20名はーー』

 

一位は司波さんですね。

二位三位も光井さん、北山さん。

そこから十三束君という生徒でーー

 

30分後

 

真由美『……私、リーダー辞めたい。』

 

この世にこれ程の絶望はあるのかという表情をしている真由美

 

摩利『おいおい。まあ、気持ちは解らんではないが。』

 

真由美を慰めてはいるがこちらも同様に顔は、ひきつっている。

 

真由美『どうして、選手以外まともな生徒は居ないのよ!?』

 

結果としては、トップ30までが選手のメンバーばかり。

エンジニアの指標の実技と筆記試験の総合成績は30位から100位程度は皆押並べて似たり寄ったりの成績だったのである。

 

これでは、誰がエンジニアをしても選手の力だけで勝ち抜かなければならない。

 

 

もっと、飛び抜けた才能を持つ生徒

 

 

選手の成績なんて歯牙にもかけない他を寄せ付けない圧倒的な理論の成績の生徒ーーー

 

 

 

 

 

鈴音『…そういえばーー』

 

一瞬、何か見落としていることに気付く。

 

忘れ去ってしまっても良いのだが、直感が無視するなと伝えてくる。

 

その何かを手繰り寄せるため声にする

 

 

真由美『?どうしたの?リンちゃん。』

 

鈴音の発言の続きが待っても来ないため訝しむ

 

何かを記憶の底から引き上げるために思考に耽っていた鈴音が目を見開く

 

 

鈴音『!……いえ、どうして私達はエンジニアが理論と実技の両方を兼ね備えていないと決めつけていたんでしょうか?』

 

鈴音の極々当たり前の質問に全員は何を言っているんだ?という表情をする

 

摩利『何を馬鹿なことを、当たり前だろう?実技が出来ていなければ、理論など到底不可…の、う?』

 

鈴音の言葉を一蹴する摩利だが、何かに気付く。

 

 

真由美『摩利までどうしたの?』

 

親友まで押し黙るため、段々不安になってくる真由美

 

深雪・あずさ『『…あっ!』』

 

次いで深雪と梓までが何かに気付いて声を上げる

 

ほのか・雫『『……』』

 

真由美『ちょっと、ちょっと。皆して、私にも解るように説明してちょうだい。』

 

とうとう、不安を通り越して文句になった

 

当然といえば当然か

 

真由美以外(他2名除く)が何かに気づき、それを真由美に教えてくれないのだ。

 

 

鈴音『会長、私達はエンジニアの枠を縮めていたのかもしれません。』

 

真由美『?なんで?』

 

漸く、鈴音が整理出来たため真由美に説明をする。

 

真由美はもう考えることすら止めて鈴音の説明を聞くことにする

 

 

鈴音『結論を言うとですね。理論が第一高校開校して以来の最高の生徒が居ます。というよりも、おそらく魔法の歴史始まって以来といっても過言ではないかもしれません。』

 

真由美『だって、両方できる生徒ではもう選手以外いないじゃない。』

 

鈴音『だからです。私達は実技が出来ないと理論が出来ないと思い込んでいたんです。…居ましたよね?筆記試験、理論が完璧とも言える生徒が。他を寄せ付けない満点とも言える生徒が一人だけ。』

 

それまで、絶望の淵に立たされていた真由美に生気が戻ってくる。

 

そう、彼女達は自らの思考や視野を常識で狭めていたのだ。

 

理論が理解出来るのは実技が出来る人間とは限らない

 

摩利が良い例である

 

彼女は調整はからっきしなのだ

 

その逆があってもおかしくはない。

 

鈴音『そうです。解りましたね?』

 

真由美『守夢 達也君!!』

 

生徒会の生徒(一部除く)が頷く

 

摩利『全く、我ながら呆れる。風紀委員の備品のCADはあいつが調整していたな。しかも、シルバーホーンを持っているくらいだ。腕は相当なものだろう。』

 

良いCADは良い腕が必須

 

シルバーホーンという最高のCADを所有している達也が3流以下の腕な訳がない

 

あずさ『シルバーホーンですか!?』

 

シルバーホーンという単語に目を輝かせるあずさに摩利が若干たじろぐ

 

摩利『あ、あぁ。守夢は持っていたぞ?』

 

あずさ『いいなぁ、憧れのシルバー様。』

 

真由美『あーちゃん、それは後にしていいかしら?』

 

あずさ『は、はい。』

 

真由美『早速、会議の準備よ!』

 

 

あずさのCADオタクは今に始まったことではないが、今はその説明の時間が惜しい

 

達也をエンジニアにするべく会議の段取りを組む必要がある

 

慌ただしく準備を始める一同を眺めながら、ヒソヒソとほのかと雫は話し込む

 

ほのか『ど、どうしよう、雫。』

 

雫『達也さんの秘密は絶対に漏れないけど、達也にとっては不本意な流れだね。けど…』

 

ほのか『?』

 

雫『九校戦で達也さんにCADを見て貰えるなんて嬉しいかも。達也さんの秘密を知れるチャンスだし。』

 

ほのか『そっか、そうだね。トーラスシルバーさんのお弟子さんだし。好きな人に調整して貰えるなら達也さんに悪いけど、私達にとってはチャンスだね!』

 

 

達也には悪いが、達也に異性と見てもらうには少しでも接点を多くする必要がある

 

ましてや、CADを調整してもらうとなると自身を曝け出すと同義だ

 

達也に自身を知ってもらってあわよくばーーー

 

という流れにはなるわけはないが、このままでは、友人どまりだ

 

それもあり、達也と過ごす時間を造るのがこの二人の目的であった

 

なんとも不純な動機である

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

会議室

 

図書館にて資料集めをしていた達也は摩利に強制連行され、訳が分からぬまま座っている

 

目も据わっているがー

 

 

真由美『ーー以上の点から踏まえて、私はエンジニアに守夢 達也君を推薦します。』

 

選手①『二科生をですか?』

 

真由美『すぐに理解出来ないのも無理はありません。一般常識からすれば、実技が出来ないと理論は理解出来ないのが通説。ですが、今回の試験を参照していただいてお分かりのように、私達ですら難解の問題を容易く解いてみせた守夢君の能力はエンジニアとして問題無いと考えます。』

 

選手である生徒は渋面をつくり、エンジニアを担当する生徒は達也を値踏みするような表情をしている

 

 

 

十文字『まあ、解らないなら確かめてみれば良いだけの話だ。』

 

妥協点を探り出そうとする十文字に問い掛ける摩利

 

摩利『具体的にはどうする?』

 

十文字『実際にCADを調整をさせてみたら良いだろう。なんなら、俺が実験台になろう。』

 

実験台ーー

 

なんとも失礼な物言いである

 

選手②『なっ!危険です。下手な調整をされたら、反動は会頭に返ってくるんですよ?』

 

真由美『でしたら、推薦者本人である私がします。』

 

達也はこの擦り付け合いに似た会話に自身がまるで爆弾なのだろうかと考えてしまった

 

選手③『そういう問題ではありません!二科生が調整するべきではないと言っているのです。』

 

摩利『おい、それは聞き捨てならないな。守夢の腕はこの私が認めるところだ。お前達が勝手にーー』

 

選手に選ばれた生徒の達也に対する侮辱に等しい言葉に摩利が声を荒げようとしたが、達也に遮られる。

 

達也『勝手に話を進めないでいただけますか?』

 

摩利『守夢?』

 

今まで大人しく座っていた達也に勝手な想像でエンジニアを務めるものと決めつけていたから達也の発言は少し身構えてしまう

 

達也『勝手に呼び出しおいて、九校戦?でしたか?それのエンジニアが足りないからやれなどと、随分と私の事を軽視した発言ですね。』

 

選手②『なんだと?雑草(ウィード)の分際で生意気な。九校戦に出場という名誉を汚すつもりか!』

 

達也『九校戦?名誉?くだらないですね。』

 

選手の一人があたかも神聖な儀式のような発言に暴言を吐き捨てる達也

 

儀式というものは何かを供物として捧げたり、犠牲の上に成り立つものだ。

 

それを知ったようなくちぶりで、まるで神と同列のような発言についに本音が漏れる

 

真由美『も、守夢君?』

 

ほのか・雫『『(怒ってるかも…)』』

 

達也の豹変ぶりに真由美達は若干恐怖を感じる

 

ほのかと雫は達也が何に怒ったのかを理解する

 

彼女達と他の違いはやはり、達也を理解しようと努力した結果であるが、それをこの場で説明しても意味はない。

 

 

達也『誤解の無いように説明致します。

まず一つ、私は九校戦に出場したくありません。名誉など要りません。

二つ、もし出場させるなら、私にも了承をとるべきでは?

三つ、エンジニアが足りないのは、生徒会や部活連、延いては学校側の落ち度。

四つ、二科生だから理論が出来ないと思っているのは、そちらが二科生を取るに足らない存在だからとお考えだから。

最後にしておきましょうか。

五つ、エンジニアとしての腕を測る?それは私に対する侮辱ととります。他にもありますが、要点を纏めれば以上です。何か質問は?』

 

摩利『おいおい、守夢。言い過ぎだぞ。』

 

苦笑混じりの摩利だが、達也の言葉は最ものため反論はしない

 

達也『?委員長にもお伝えしたはずです。私は、修行にしか興味はないと。そして、この高校に入学したのもここで魔法協会に保存されている文献を閲覧するため。正直、他の事など興味はありません。』

 

再確認のために摩利と周りの生徒に自分の意思を伝える

 

選手④『侮辱だと?嘗めた真似を。二科生ごときが俺達に勝てると思うなよ?』

 

十文字『やめろ!お前達。守夢の言が正しい。すまない、守夢。』

 

選手の生徒、エンジニアの生徒その両方が達也に敵意を向けるもそれを十文字が間に入る

 

何故、十文字が達也に謝罪をするのかわからない。

 

そもそも、達也がこの席に呼ばれる理由がまだ納得出来ていないのだ。

 

選手①『十文字会頭!?謝ることなど。』

 

エンジニア①『しかし、彼の実力を調べるには、実際に調整をしてもらないと。判らないままでは、困ります。』

 

達也『……。』

 

なんだろうか?

 

参加したくないと言っているのに、いつの間にか出るための腕試しになっている。

 

呆れてしまったため、居なくなってやろうかと思考を始める。

 

ほのか・雫『『…あの~。』』

 

真由美『何かしら?光井さん、北山さん。』

 

ほのか『皆さん、重要なことを忘れていませんか?』

 

 

ほのかと雫の介入に、ある人物達は救われる

 

本当の目的は達也を品定めすることではない

 

 

摩利『…そうだな。』

 

十文字『………。』

 

摩利は頷きを返す

 

十文字は目を瞑り、同意だと謂わんばかりの姿勢だ

 

選手・エンジニア『重要なこと?』

 

雫『先程の守夢さんの話を聞きましたよね?彼は九校戦に出たくないと。そして、彼に出て貰うには、承諾を得る必要があると。』

 

ほのか『それを無視して、守夢さんの嫌がることをすることが九校戦の名誉なんですか?……ここからは私情ですけど、私の友達にそんなことをするなら私は九校戦の選手にはなりません!』

 

雫『私もほのかと同意見。』

 

ほのかと雫に論破され、たじろぐ

 

図星を突かれ、逆上するのは人間性が無いことと同義

 

だが、所詮高校生にそれを求めるのは酷かもしれない

 

それでも、一部ではそれを自覚し行動出来ているのは少しずつ努力してきたからだ

 

それが一流と三流以下に分かれる

 

エンジニア②『何を馬鹿なことを。これは決定事項だ。ウチが3年目を優勝してこそ本当の勝利。』

 

選手③『これは義務なんだ。そんな一人の二科生ごときの私情など。君達、そんな人間と友達となるべきではない。そんなことだから、軟弱な思想が出来、評価が下がるのは君達なん…『おい。』…なんだ、きさ…ヒッ!』

 

 

一部の生徒を除き、ほのか達を責める。

 

人間というのは誰かを下に見て、自分を優位にしたがる生き物

 

自分の言い分が正しいと常に自らの立場を守りたがる

 

 

 

達也『もう一回言ってみろ。いや、言わなくていい、彼女達が苦しむだけだ。しかし、彼女達がなんだと?軟弱な思想?評価?それ以上俺の友人を侮辱してみろ、貴様らをこの世から消すぞ。』

 

十文字・真由美・摩利『!?』

 

達也の殺気にも似た気迫、この場合は闘気だがそれが室内を埋め尽くす。

 

 

ほのか『た、達也さん。』

 

慌ててほのかと雫が制服の袖を掴むも達也は圧を緩めない

 

真由美達がCADを構えるも視線で牽制する

 

達也『俺の事をどう言おうと何を考えようと構わない。魔法力が無いのは事実。だが、人間性まで貴様達に指図される覚えも無い。そして、俺の友人にまで人格を否定するなら容赦はしない。模擬戦や新歓のように優しくはせんぞ。』

 

 

摩利『や、止めるんだ守夢!』

 

摩利が達也の肩を掴むのと達也が言い終えるのはほぼ同時

 

それにあわせて気合を消す

 

張り詰めていた空気が弛緩し、気丈に保っていた意識が崩れると同時に殆どの生徒が床に座り込む

 

気を失うまでに至らなかったのは達也が抑えていたからだろう

 

 

達也『申し訳ありません委員長。お手を煩わせてしまいまして。』

 

摩利『そう、思っているなら、もう少し穏便に頼む。光井達の言い分が最もだが、これでは、幹部の私達で説得が出来なくなる。』

 

カタコトで謝罪する達也に摩利は呆れてしまった

 

十文字『何度も言うが、今回は守夢が正しい。俺たちはお願いをする立場にある。しかも、エンジニアを育てなかった我々の責任だ。文句があるなら、俺に言え。いいな?』

 

十文字の言葉に渋々ながらも納得をする選手とエンジニア達

 

自分達より才能の無い人間に論破されたのだ

 

悔しくない訳が無いが、状況を鑑みても達也の言い分が圧倒的に優勢。それは変えようのない事実だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『それでは、改めて。守夢君、九校戦のエンジニアとして入っていただけますか?』

 

床にへたり込んでいた生徒達の復活を待ち、改めて達也にエンジニア入りの打診をする

 

エンジニアは必要不可欠であり、達也がその才能がある以上入って貰う必要がある。

 

その才能が未知数であってもーー

 

 

達也『条件があります。』

 

十文字『条件?』

 

達也『はい。簡単な条件です。まず一つ、今年限りの参加に限ります。二つ、エンジニアのみの参加です。来年までにエンジニアはなんとかしてください。最後に、私に調整をお願いしたいという方のみ担当します。』

 

摩利『おいおい、一つ目と二つ目は努力するが、最後は限定的ではないか?』

 

達也が出した条件は意外と難しいものだったため摩利が苦言を呈する

 

 

達也『私の実力を見ていただいた後で構いません。が、予め申し上げておきます。エンジニアと魔法師の関係は信頼で成り立ちます。…私の師匠も常々言っていました。信頼若しくは信用が無い関係でCADの調整を行うことはご法度だと。腕ではない、心が通じあってこその魔法だと。それを当て嵌めれば、千代田先輩と五十里先輩の関係がここではベストな関係と言えるでしょう。』

 

摩利『…難しいな。』

 

 

2年のカップルとして有名で魔法師とエンジニアで関係がしっかりと成り立っているため実例として挙げやすい

 

達也の言葉に納得する摩利

 

達也『私の腕は二の次に。私の人間性と皆さんの人間性が合うと思った方は挙手をしてください。』

 

達也が言葉を言い終える前にほのかと雫が手を挙げる

 

次いで、真由美と摩利が手を挙げる意外にも十文字も手を挙げる

 

そして、司波深雪 彼女の場合は知的好奇心からなのかもしれない

 

 

それ以降も集められたメンバーの中から幾人かが手を挙げる

 

ほのかや雫、真由美達以外の選手の数人からの挙手は達也の言い分に素直に納得出来たことによる挙手だろう

 

若しくは、自身が調整出来ないためまた、摩利達の挙手を見て信用は出来ると判断したのか

 

 

達也『…ありがとうございます。集まっていない他の選手は後程伺うとして、これから皆さんのCADを調整する前に私のCADをお見せします。それを見て調整をしても構わないと自分に危険が無いと品定めの感覚で判断してください。』

 

そう言うと、自分の分身といっても過言ではないCADを懐から出す

 

シルバーホーンを出すとあずさが目をキラキラさせて、達也を凝視したため最初はあずさに渡す

 

あずさ『はぁ~憧れのシルバーさまぁ~。このカット、魅力的だなぁ、抜き撃ちしやすい絶妙の曲線。高い技術力に溺れないユーザビリティへの配慮。あぁ、憧れのシルバーさまぁ~』

 

二度言った

 

シルバーホーンを頬擦りしているあずさに若干引きぎみの達也

 

あずさは達也を少々怖がっている節があるが、この場合は達也があずさに苦手意識を持っている感じだ

 

しかし、このままでは拉致が明かないので心を鬼にする

 

 

達也『中条先輩、後でお見せするので中身を見てください。』

 

あずさ『は、はい。ごめんなさい。ーーー!…凄い。守夢君!どうやって、こんな技術力を!?』

 

エンジニアの担当であるあずさが驚くことで周囲に達也の腕に興味が湧く

 

 

達也『自分の才能ではありません。師匠に教えてもらって身に付けたものです。努力した結果です。』

 

流石に自分がトーラスシルバーの片方とは言えないため、誤魔化す

 

 

あずさ『師匠ってどなたですか?私も弟子入りしたいくらいです。』

 

真由美『あーちゃんがこれ程言うってことは守夢君のエンジニアとしての腕は凄いってことよね?』

 

あずさ『はい!一流メーカーのクラフトマンに勝るとも劣らない仕上がりです!』

 

あずさの発言に益々達也のCADが見たくなった

 

達也に担当してもらいたい選手は十名もいない筈なのに、漸く回ってきた

 

ということは恐ろしく精密な調整具合に見惚れていたからなのだろう

 

 

真由美『!?守夢君!これ本当に?』

 

達也『嘘は言いません。』

 

摩利『流石は、エリシオン社の息子か。…あっ』

 

 

摩利は興奮していたためか達也の達也にも知られていない秘密をあっさりと暴露する

 

それを聴いていた他の生徒が達也を凝視する

 

 

達也『…委員長、それを何処で?』

 

 

ドスの効いた声で摩利に質問する

 

摩利は目を泳がせて、真由美に視線を投げ掛けた

 

 

真由美『ちょ、摩利!』

 

摩利に視線を投げ掛けられてこちらもあたふたし、十文字と摩利に交互に視線を向ける

 

達也『(勝手に調べていたことは知っていたし、チョロチョロと動き回っていたことも知っているが、今後のためにこれは釘を刺しておくか)…流石は十師族ですね。人のプライバシーをあっさりと暴露させるとは。…七草会長、十文字会頭。』

 

声のトーンが数段低い

 

大人しい人間が怒ると恐いのはこういうことなのか

 

 

真由美『な、何かしら?守夢君?』

 

達也『次、こんなことがあれば、(エンジニアを)辞めますから。』

 

作った笑顔を真由美達に向けるも目は笑っていない

 

むしろ、嗤っている

 

というより、背後に般若が見えるのは気のせいか

 

 

真由美・摩利『ごめんなさい!』

 

十文字『すまない。』

 

達也『バレてしまったものは仕方ありませんね。私の師匠はトーラスシルバーです。』

 

 

 

全員『なっ!』

 

達也の身元を調べていた真由美達までもが驚く

 

達也の身元を調べてもトーラスシルバーの弟子と知らなかったということは上部の情報しか調べられなかったということ

 

つくづく、神夢の家は末恐ろしいと感じる達也

 

 

 

あずさ『ということは、このシルバーホーンは。』

 

達也『はい、師匠の元でバイトして、それで買ったものです。調整技術は師匠から教えてもらいました。』

 

 

あずさ『守夢君はトーラスシルバーと面識があるということ。どんな方なんですか?』

 

謎の天才魔工師 トーラスシルバーを知っている人物が第一高校に居るのだ

 

こんな貴重な情報源から訊き出さないなんて勿体ない

 

 

達也『容姿は私より上ですよ?後は至って平凡な中年?あとは、既婚者ですね。』

 

と勝手な設定を作っていく

 

シルバーは達也自身だが、余計な詮索はさせないために現実味のある嘘をつく

 

 

あずさ『そういうことじゃなくて。』

 

達也『いや、師匠もお茶目でそれ以上は師弟の秘密もあるので、ご容赦下さい。』

 

あずさ『うぅ~。』

 

若干、的はずれな回答をする達也にあずさも問い詰めるが

 

話せないと言われると引き下がるしかない

 

 

 

真由美『あーちゃん。そろそろ、守夢君の調整技術を見たいんだけど。』

 

あずさの落ち込みようも解らない訳ではないが、今は達也の調整技術が見たい

 

達也のCADを確認して、ますます期待が膨らむ

 

 

達也『皆さん、私みたいな者で調整をさせていただいてもよろしいのですね。』

 

へりくだりをみせる達也に全員が頷く

 

摩利『その謙遜はらしくないな。これだけの技術を見せられては、寧ろ、金額が発生してもおかしくはない。こちらこそ、よろしく頼む。』

 

達也『承りました。それでは、幹部の方々と私が担当させていただく方のみ移動しましょう。』

 

十文字『む?何故だ?』

 

技術を披露するなら、全員に見てもらったほうが良い

 

そんな考えを達也は一蹴する

 

元々、九校戦のエンジニアなど興味はないし、それを無理矢理参加しているのだ

 

 

達也『担当しない方や認めない人間に腕前を見せるほど、私の器は大きくはありません。幹部の方は戦略上必要でしょうから。』

 

摩利『まぁ、そうなるな。守夢にエンジニアの担当を拒否している時点で見る必要も無いからな。』

 

達也を擁護する形で容赦なく反論を封じ込める

 

本音はおそらく、達也の機嫌をこれ以上損ねないようにするためだろうが、半分は達也の意見に賛成なのだから。

 

 

十文字『では、行くぞ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『で、調整はどういたしますか?』

 

真由美『うーん、まずはあれよね。競技用CADにコピーをしてもらえるかしら。起動式には手を加えないで。』

 

達也にエンジニアの腕前を見ることは必要だったが、どのように技術を計るかは考えていなかった。

 

無難に個人のCADを競技用CADにコピーをお願いする

 

 

達也『承知しました。どなたのCADを調整すれば?』

 

こういった場合、客観的に判断を下せる前評判や知り合いだからといったものに左右されない人物が望ましい

 

真由美『…どうしようかしら?』

 

摩利『光井達は守夢に近いからあまり勧められないからな。…!、真由美、お前が調整してもらったらどうだ?』

 

友人の関係のほのかや雫では、十分な情報が得られない

 

ふと、摩利が悪巧みをする顔をする

 

真由美が達也に何らかの想いを寄せているのは知っている

 

こういうことから距離を縮めていく必要がある

 

もっとも、この摩利のお節介も客観的な判断は下せないため結果的にはよろしくないのだがーー

 

 

真由美『ま、摩利!?』

 

達也『よろしいのですか?ご自身のCADの調整を依頼するということは、視られたくないところまで暴かれてしまうということ。例えが卑猥に感じられたら申し訳ありませんが、裸をみられるようなものです。』

 

真由美『は、裸!?』

 

ほのか・雫『変態!』

 

達也の言葉に真由美達は赤面し、ほのか達は何故か怒る

 

他の生徒は何とも言えない雰囲気になる

 

幹部の服部に関しては達也を鬼のような形相で睨む

 

 

達也『だから、先に謝りましたよね。何故、怒られたのか。…会長は本当に大丈夫ですか?』

 

真由美『あ、えーと。』

 

まだ、達也の言葉の羞恥心から脱していないためどう答えていいものかあぐねる

 

この場合は誰が悪いのやら

 

 

達也『十師族、さえぐさの秘密を知られるかもしれないのですよ?』

 

真由美『?大丈夫よ。心配しないで、お願い出来るかしら?』

 

全員『???』

 

達也の発言に誰もがクエスチョンを頭上に浮かべる

 

七草の秘密など調べられるものかという者と

 

達也が何を言っているのか解らないといった表情の者

 

おおよそ、達也の言葉の意味に辿り着ける生徒はこの室内には存在しなかった

 

 

達也『承りました。では、早速始めましょう。(スペックの違うCADの設定のコピーは推奨はしない…安全第一だな)』

 

若干の表情の変化に気付いた者はおらず。

 

しかし、達也がこれから何を行おうとしているのかはエンジニアとして、参加しているあずさを始めとした数名のみ

 

真由美のCADからデータを抜き取り、調整機に作業領域を作り保存をする。

 

その作業にエンジニア全員がなるほどと、合点がいく

 

次に真由美本人の想子(サイオン)波特性を測る

 

ここからが、エンジニアとしての本領発揮である。

 

通常なら、調整機が自動化付きのものであれば、CADのコピーと想子(サイオン)波特性の計測が終わった時点で作業は終了する。

 

しかし、それはあくまで基準値内での調整であり

 

魔法師本人の領域に沿った調整は不可能

 

達也『ありがとうございました。会長、外していただいて大丈夫です。』

 

真由美『そう?』

 

達也『あとは此方でやりますので。』

 

そう言うと、モニターに向く

 

達也がモニターを見つめること数分

 

室内の誰もが何かミスをしたか?と脳裏を過る。各々が達也に何かしらの感情を抱く

 

 

その中でも中条 あずさという少女は達也という人物に興味があった

 

トーラスシルバーの弟子であり、彼自身のCADはプロが調整したような完成度でどのような技術があるのか純粋な知的好奇心があった

 

【彼の技を見てみたい】

 

それが彼女の思考を占めていた

 

どういう方法で調整をするのか全て見たいと思い、そっと、達也の後方から覗き込む

 

 

あずさ『ふぇ!』

 

素っ頓狂な声を上げるの無理もないだろう

 

 

あずさの声に不思議に思い、モニターを覗き込む真由美と摩利、鈴音

 

声は出さなかったものの、息を呑む

 

達也が向かい合っているモニターには、当然映し出されているべきグラフ化された測定結果は表示されておらず。ディスプレイ一杯に無数の文字列が高速で流れていた。

 

辛うじて所々の数字が読み取れるだけで文字列は読み取れない。

 

スクロールが終了すると調整機に競技用CADをセットする、その数秒後達也は凄まじい速度でキーボードを打ち始めた

 

幹部の中にもエンジニアは居り、また自分で調整出来る者はキーボードで調整する姿に物珍しさで達也を見るが、本質は見抜けない。

 

 

ウィンドウが開いては閉じ、開いては閉じを繰り返すモニターの左端には開いたままのウィンドウが、一つは測定結果の原型のデータ、一つはコピー元の設定を記述した原型のデータということにあずさだけは気づいた。

 

誰一人として、これほど高度なオぺレーションが行われているのか理解するのは不可能だろう。

 

 

達也がキーボードオンリーで作業をするのは魔法力が無いからではない。

 

想子(サイオン)波特性の測定結果を原型のデータから理解をする能力であり、これならば、デバイスのキャパシティが許す限り、調整に反映が可能だ。

 

完全マニュアル調整

 

 

出来上がった起動式は生データなので、読み取ることがほとんどできなかったが、僅かに読み取れる設定から【安全第一】というような言葉が的確な魔法師の為の最高の調整だった。

 

これなら自動調整より遥かにユーザーにかかる負担が少ないし、遥かに効率の良い起動式が作れる。

 

 

というよりも高校生がこれほどの腕前を持つとはにわかに信じ難いものだった

 

会長の真由美には悪いが、試すまでもない

 

 

 

起動式には手を加えないが条件だったので、すぐに調整は終了した

 

 

達也『それでは、会長。確認をお願い致します。』

 

真由美『(…見た目は変わらずね、さて)』

 

達也に手渡され、競技用CADで起動式を読み込み通常通りに魔法式を展開する

 

 

真由美『―?、…!?』

 

普段自分が使用しているCADと使用に違和感がないことに数拍おいて気づく。

 

摩利『どうした?真由美、何かあったか?』

 

目を見開いて動く様子を見せない真由美に摩利は目の前で手を振る仕草をする

 

摩利の手振りにハッと気づき、達也に向き直る。

 

 

真由美『も、守夢君、これ、コピーだけしたのよね!』

 

達也『はい。他は手を加えるなとのことでしたので。』

 

 

突然、何を言い出すのか

 

手を加えず、CADの起動式だけコピーして移すだけしろ、と言った為したのだが、何を寝ぼけた事をのたまうのだ

 

 

 

真由美『……ねえ、守夢君。私の専属エンジニアになってくれない?』

 

 

次の瞬間、この調整機部屋の空気が凍りつく

 

真由美が達也に自分の専属にならないかと、若干、告白に似た表情をする真由美に全員の目がテンになる

 

 

全員『は?』

 

 

ゴスっと鈍い音と共に悲鳴があがる

 

 

摩利『おいこら、真由美。どさくさに紛れて告白紛いをしてるんだ!』

 

真由美にゲンコツをかまし、今、自分が何を言ったのか自覚を持たせる。

 

真由美『痛い!摩利。何を……あ、ああぁ。ち、違うの守夢君、あのね。』

 

摩利のゲンコツに抗議をしようとしたが、先ほどの自分の科白にさぁ~と顔から血の気が引いていく

 

先ほど自分が達也に何を言ったのか、この状況で言い訳はできない。

 

 

達也『会長からお褒めの言葉をいただくとは、私も頑張った甲斐がありました。』

 

一応、真由美のためにフォローは入れておくが真由美の発言は取り消せない

 

というよりも

 

ほのか・雫『(じっーーー)』

 

ほのかと雫の睨みに何か怒らせた要素はあっただろうかと

 

そちらの方が気になっている。

 

 

摩利『それで?守夢の技術はどうなんだ。高いのか?』

 

漸く、落ち着いてきたため、真由美に感想を述べさせる

 

真由美『高いなんてものじゃないわ。あり得ないもの、私がやってきた調整なんて小学生レベルに感じるもの。』

 

はっきり言って、比べることすらおこがましい。

 

第一高校開設以来の傑物と言っていい

 

十文字『決まりだな。』

 

 

真由美『改めまして、守夢 達也君。貴方にエンジニアをお願いします。』

 

 

 

達也『承りました。』

 

正式に依頼されれば断る訳にはいくまい

 

達也はお辞儀で返す

 

 

 

こうして、達也の九校戦のエンジニア入りが決定した

 

――――――――

 

雫『達也さん、あとで私のCADを調整して』

 

達也『なぜ?』

 

雫『会長に告白されたから』

 

達也『なんか、理不尽さを感じるが。』

 

ほのか『わ、私のもしてください。』

 

達也『……分かった。明日の放課後にな。』

 

 

――――――――

 

 

 

部活連本部

 

 

 

十文字『奴をどうみる?』

 

達也のエンジニア入りの会議が終了し、十文字が真由美と摩利を呼び出す

 

議題は言われるまでもない守夢 達也の件だ。

 

 

真由美『…勘だけど、あのブランシュのアジトを壊滅させたのは彼で間違いない気がする。でも、動機が不明だわ。』

 

摩利『真由美、憶測に過ぎないと言いたいところだが、半分位は私も同感だ。』

 

十文字『俺は守夢のあの気迫から確信した。そして、何かもっと重大な秘密は持っている。エンジニアの腕はその一端だろう。』

 

達也から放たれた氣がそれを物語っている

 

一般人が他者を威圧出来るほどの力は無い

 

しかも、殺気ではない別の圧倒的な気迫

 

 

真由美『十文字君が撮影してくれた映像は衝撃的だったわ。ここまで凄惨な現場があるなんてって。まるで佐渡の時の一条の爆裂よ?』

 

摩利『あの人畜無害そうな守夢がねぇ。』

 

達也が聴けば渋い顔をするだろう

 

私は小動物か何かですか?と

 

それが容易に想像出来てしまい、摩利は笑いの坪に嵌まってしまった

 

十文字『それが、表の顔だ。裏の顔が守夢には存在するのだろう。』

 

表の顔を隠れ蓑に裏で暗躍する

 

十文字の言葉は達也を侮蔑しているのか分析しているのか、大変失礼な言葉である。

 

 

真由美『…それとは別に報告よ。あの四葉が動きを見せてるそうよ。』

 

達也の件から一旦離れ、七草で調べた情報を二人にリークする

 

アンタッチャブル-触れてはならない者- 四葉が何らかの動きを見せているとー

 

 

空気に緊張感が孕む

 

四葉が何らかの動きがあるということはこちらも注視していく必要がある

 

摩利『!それは、どういうことだ?』

 

真由美『解らないわ。守夢君関係ではないかもしれない。それと、一条と九島にも動きが見られるそうよ。』

 

一条

 

ブランシュの映像は二十八家に拡散したため、達也の能力に興味が湧いたのかもしれない

 

九島

 

四葉と同様に動きが読めない。

 

 

摩利・十文字『!!』

 

 

摩利『…やれやれ、守夢は人気者だなぁ。』

 

これほどまでに一年生に振り回されるこの世の中も珍しい

 

本人には悪いが、愉快な物語である

 

真由美『笑い事じゃないわよ!』

 

 

十文字『しかし…ここからは、我々も慎重に動く必要がありそうだが、守夢の動きからは目を離さないでいくぞ。』

 

真由美と摩利は十文字の言葉に頷いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これは序章でもない

 

ただのスイッチ

 

これから、何が起こるのか

 

全てはーーーー

 

 




…如何でしたか?
魔法の描写が難しいですね。

飛行術式とCADの調整

①飛行術式試験はオリキャラ(溺愛)にしてもらいました
②深雪さんが天使ならワンランクアップで神々の舞いで(笑)
③牛山さん達は引き抜きました。お相手はご想像通りかと
④原作は深雪さんが兄妹でしたが、今回は違うので、達也君九校戦は拒否させました(物語的に必要の為)
⑤桐原が実験台でしたが、流れ上真由美に変更しました。すみません。


次はどうしようか
頑張ります。応援いただければ嬉しいです。

九校戦開場まで進めようかな


それでは、次回


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

お待たせしました
九校戦編の最新話です

どのように書こうか悩みましたが、結局は達也超最強を目指しているので、周りには引き立て役になってもらいます 

それでは、どうぞ!


九重寺

 

達也は住職の八雲に呼ばれて子の刻 (現代でいう0時前後を指した時間)に九重寺を訪れていた

 

達也『師匠、私を呼んだのは?』

 

八雲『うん、風間君から話したいことがあるとね。』

 

この場にまだ居ない達也の上司の風間からの要望だと説明する

 

本来なら、神夢の家に風間が来るのだが、最近周辺が騒がしいため九重寺にて密会を行うことにしたのだ

 

達也『…義父さんまで呼ぶのは、九校戦で何かあると?』

 

浩也『ははっ、鋭いな。』

 

浩也まで居るこの状況だと、達也自身に関わる内容の可能性もしくは、重要案件ということが窺える

 

暫し思考の末、当たりをつける

 

浩也『九校戦は武の大会。それは優秀な魔法師とエンジニアの集まる機会である。これは有能な魔法師を発掘するためだから私も見逃せないのだよ。それに毎年、家族旅行として凛や子供達を連れて行ってるんだ。』

 

 

達也『…はっ?』

 

達也は浩也が九校戦で有能な人材探しに行くのは知っていたが、家族総出とはー

 

これを浩也の家族旅行と考えるか微妙だがー

 

 

 

浩也『あれ、話してなかったか?まあ、達也はいつも修行や軍関係とかで家に帰って来ないからな伝わってなかったのかもな。』

 

いやぁ、すまん、すまんと笑いながら謝罪する

 

確かに毎年の夏、双子達が家を離れる達也を引き留めていたのは覚えている

 

それが、九校戦を観戦しているとは知らなかった

 

だからなのか、家に帰ってくると双子達が不機嫌で、一週間程は達也にべったりになる

 

理由を訊いてもナンパに会ったとだけで他は何も教えてくれない

 

漸く理由が解った

 

九校戦でナンパに遇ってたのか、これからはなるべく着いていくか

 

と考えるあたり双子や恭也にはとことん甘い達也である。

 

 

しかも、双子の義妹は司波 深雪と並ぶ位の美少女だ

 

しかし、彼女と違う所はヒトらしさだろうか。

 

彼女達の周りには人が集まる。それは彼女達の徳と謂われるものだろう

 

現実逃避に走る達也

 

 

風間『浩也、珍しく達也が理解が追い付いていないようだぞ。』

 

遅れて来た風間が達也のその珍しい表情に声が弾んでいる。

 

浩也『ほんとだな!珍しいものを見た。』

 

遠い目をしていた達也に八雲を含めた三人は何故か嬉しそうである

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

達也『それで、少佐。要件というのは?』

 

風間『あぁ、九校戦でな。今年は相次いで密入国事件が勃発していてな、達也も動いて貰う可能性が出てきた。九校戦は富士の演習場で行われることは知っているだろう?』

 

達也は富士の霊峰が綺麗に見れるあの演習場は少し好きだった

 

風間『そこで、最近、香港系の犯罪シンジケートらしき陰が何度か目撃されている。狙いはおそらく、九校戦だろう。』

 

この時期に犯罪シンジケートが目撃されているのなら、十中八九それだろう。

 

高校生としてはトップクラスの魔法師の卵が集まるのだ。この時期を逃す訳もない。

 

ここを狙えば、日本は大きなダメージを受けることは必至

 

達也『香港系というと?』

 

風間『無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の構成員ということだ、詳しいことは調査中だ。』

 

国際犯罪シンジケートが九校戦に絡んでくるとなると少し注意が必要だ。目的の為なら奴等は手段を選ばない

 

結那と加蓮と恭也、引いては神夢家に危害が及ぶなら潰すまでだ

 

しかし、軍とはいえそんな情報をすぐに手に入れることが手来ると言われればNOだ

 

 

達也『…その情報は何処から?』

 

風間『壬生という男だ奴はーー』

 

壬生 勇三

退役後、内閣府情報管理局(通称内情と呼ぶ)に転籍し、現在は外事課長という身分に収まっている

 

仕事内容としては、外国犯罪組織を担当

 

家族構成は妻と娘がいる。娘は第一高校の2年生とのこと

 

 

肩書きとしては立派に聴こえるが、達也は冷静いや、冷ややかな思考をしていた

 

 

達也『壬生 紗耶香の実父でしたか…(娘の機微にも気付かない親がこういう仕事をしているとは信用ならないと同時に親失格だな。) 』

 

風間『達也、何を考えていた?』

 

達也が黙したのをいぶかしむ風間。おそらく、碌でもないことのためすぐに問いただす

 

 

達也『鋭いですね。人事評価をしていました。』

 

風間『人事評価?…止めてくれ、さすがにあいつがかわいそうだ。』

 

誰のことを指しているのか理解したためフォローをする

 

大方、娘の精神の機微を悟れない親の情報など信用できないということだろう

 

達也が正論のため苦笑交じりが関の山だが

 

 

 

 

 

九校戦絡みの問題も打ち合わせも粗方終わると嫌に真剣な浩也と風間が達也を見る

 

 

風間『今度は達也、お前に関する情報だ。』

 

浩也『…四葉、七草、十文字がお前を探っているのは知っているな?』

 

たまに、四葉と七草の手の者が達也を尾行していたのは気配で知っていた

 

が、危害を加えてくることはなかったため放っておいたのだ

 

 

達也『えぇ。』

 

浩也『そこに、一条と九島までもがお前を探りだした。』

 

達也『!?』

 

十師族の半分が動き出しているとは驚きだった

 

自分はよほど人気とみえるーー正直、嬉しくはないが

 

 

浩也『だが、お前自身ではない。ブランシュの件で十文字家が二十八家全体に写真をリークしたから、その人物という訳だ。』

 

当たり前だが、達也がやったという証拠はない

 

いや、残していないと言った方が正しいか

 

しかし、興味を抱かせたのは間違いない

 

 

風間『一条は言うまでも無いな』

 

こくりと頷く

 

達也『あの時と今回のブランシュの映像が酷似している訳ですね。』

 

3年前のあの事件

達也は独立魔装大体の一隊員として出動していた

 

あの時の殲滅戦は達也のある意味独壇場だった

 

表向きは一条の爆裂だったが、裏では一条家が半分達也が半分の戦果だった。

 

と言っても達也個人と団体(一条家)の計算で1:4の戦果だが、

 

殺めた数は一条で、戦車など大きな相手を殲滅したのを含めるとそうなる。そういった状況からだろう

 

 

 

一条とは

 

「対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法」

を調べる第一研究所が絡んでいる。

 

前回も達也を勧誘していたが今回も引き入れるためだろう。

達也の力が一条に役立つと

 

風間『あぁ、九島は正直不明だ。』

 

九島 烈

現在、九島家の当主を退いているが、日本の魔法師社会の頂点に立っている魔法師だ。

 

第一線ではないものの、長老と呼ばれるだけあってまだまだ、現役と名高い

 

九島 烈と九島家が同じように達也を欲しているのかは不明だが、油断は出来ない

 

 

 

 

そしてー

 

浩也『…俺からは達也、お前の秘密のことだ。』

 

達也『…!』

 

浩也からの情報で緊張したは初めてだ

 

浩也『…ある出来事を契機にお前の様々な秘密が暴かれると出た。そして、それを裏付ける占も出ている。』

 

占(せん)ーうらとも呼ぶ。占いという言葉のほうがしっくりするだろうか。

基本的にそれを行うときは第三者が望ましい。近親者が行うと正確に出ない。だが、達也の場合は例外にあたる

 

達也の出自に関わるのだがそれはここでは割愛する

 

 

達也『…それは、俺に大人しくしていろと?』

 

浩也『いや、それは言わん。それはあの時の凛の言葉で目が覚めた。だが、心して行動しろ。お前の隙を何処かで窺っているはずだ。そして、お前の力で全てを黙らせろ。神夢家が全力でお前を守る。だから、神夢家を守ってくれ。』

 

ブランシュの一件で

達也を守るということを違う意味で捉えていた

 

それを諭され、目が醒めた

 

大人しくしているのは達也の性に合っていないのもたしかー

 

 

達也『無論です。義父さん達の為にも全力で守ります。(例え、アレを使ってでも。)』

 

浩也『…』

 

風間『…』

 

八雲『…』

 

言葉とは裏腹に何か覚悟を決めている達也に三人は何とも言えない表情になる

 

詳しくは知らない、だが、ある程度は予測はつく

 

願わくばそんな未来が来ないことを祈るしかない

 

 

 

 

 

 

 

今日の情報で仮の対策を話し合い、粗方の方向性が纏まり、解散しようと腰をあげる

 

 

風間『…忘れていた。特尉、事務連絡だ。サードアイのオーバーホールで幾つか部品新型に更新したこれに合わせてソフトウェアのアップデートと性能テストを頼む』

 

余談だが、

達也には特尉と中尉という軍での役職がある

詳細に関しては追々説明する

 

 

達也『…承知しました。』

 

ついでの如く言う風間に

 

これが今日の議題で最大の案件なのでは?と思わなくも無い。

 

軍関係を放置してまで達也を案じる風間達

 

如何に自分が大切に思われているか理解する、本当ならば、自分を放っておいても軍には問題ない

 

なおさら、この人たちの為に役に立ちたいと思ってしまう

 

 

 

けれども、この三人にとって、達也は自分の子と同然

 

大切に思わない方がおかしい

 

 

 

風間『日程だがー』

 

真田がいて、訓練のある日程で調整する

 

達也『そうですね。演習にも参加したいので、その日に。』

 

 

風間『分かった、真田にもそう伝えておく。そういえば、藤林が会いたがっていたぞ。』

 

達也『響子さんが?…いつもの発作では?』

 

達也は響子に苦手意識を持っている

 

一番身近な異性は双子だが、響子に近づかれると何故か緊張してしまう

 

双子は身近とはいえ、家族だからだろうかそこまではない

 

そういった意味では、響子が身近な異性だろうか

 

そして、先程の達也の言う発作とは、達也に接しない期間が長くなるほど場を弁えない行動を起こす

 

 

 

 

風間『そう言ってやるな、あいつもお前の事が好きだからな。』

 

達也『全く、こんな覇気のない、やる気のない男が好きなんてどうかしてます。響子さんなら良い男も選り取り見取りでしょうに。』

 

自虐をの意味も含めて呟く

 

双子といい、響子といい自分を好きになるとはどういう神経しているのか

 

 

達也の言葉を聞きながら三人は、彼女達の想いが報われることを祈るしかなかった

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

レオ『おはようさん、守夢。それにしてもやるじゃねーか。』

 

達也『おはようございます。何かありましたか?』

 

 

私用(軍関係)で高校を休み、一週間ぶりの登校の途中、背後から肩を組んできたレオ

 

唐突に達也を褒めたので、何があったかと疑問に思う

 

エリカ『それは、守夢君が九校選のエンジニアに選ばれたことよ。それで、あれは守夢君も出ておくべきだったと思うわよ。』

 

横からレオの代わりに答えるエリカ

 

視線を巡らすと、美月と幹比古と1-Eの面々が揃っていた。

 

 

美月『そうですね、発足式に守夢さん休まれてるんですから。二科生で快挙を成し遂げられたんですから凄いことですよ。』

 

達也『…そういえば、そんなことも言われていたような。』

 

真由美から発足式には出席して欲しいと言われていたが、完全に忘れていた

 

理由はお分かりだろう

 

あとで、摩利と真由美から小言がありそうだと予想する

 

その前に、九校戦のメンバーを全員知らないなぁと思いながら、担当する選手以外はどうでも良いかと真由美達の小言からの逃げるための方法を考える

 

エリカ『ちがうちがう。そうじゃなくて、一科生の奴等が相当悔しがってたから。珍しいものが見れたのにって。』

 

美月『もう、エリカちゃん。女の子がそういうこと言わないの!』

 

意地悪そうな表情をするエリカに美月が叱る

 

 

それをレオはやれやれといった表情をし、幹比古はため息を吐く

 

そして、レオの表情が気に食わないエリカはおちょくり、それを真に受けて噛みつくレオ

 

このやり取りは見慣れたものであるが、互いを思いやる良いクラスメイトを持ったのかもなぁと感じる達也であった

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

達也『改めて、自己紹介をさせていただきます。守夢 達也と言います。今年限定ですが、皆さんの競技用CADのエンジニアを担当します。至らぬ点もあるかと思いますが、精一杯努めますのでよろしくお願いします。』

 

里美『ふーん、ほのか達が絶賛するから興味があったけど、案外普通だね。』

 

里美スバル

 

美少年と見紛うばかりの外見の少女で言動や行動がどことなく芝居がかっており、何故か伊達眼鏡を掛けている少女

 

 

明智『そうそう、カッコいいって聞いてたけど割りと普通っていうか。』

 

明智英美

 

ルビーのような光沢の赤い髪とモスグリーンの瞳以外は日本人的な外見だが、イギリスのクォーターらしい

笑うと八重歯が出る

 

ほのか『な、なんてこと言うのよ!』

 

雫『二人がそこまで酷い事を言うとは思わなかった。』

 

心外とばかりにほのかと雫は二人を睨む

 

睨まれた二人は若干たじろぐ

 

 

結局、達也が担当する選手は前回の会議での挙手をした者と里美スバルと明智英美を合わせた十数名程だ

 

里美と明智も前回のメンバーと同様に実力主義や人間性を重視する考えの持ち主

 

達也にエンジニアの担当を依頼したのは、そんなところだろう

 

大半の理由は興味本位というところもあるだろうが

 

 

達也『2年3年の先輩方はある程度自身の長所や短所を理解してらっしゃるかと思いますので、CADの調整を主に従事していきます。1年生はー』

 

 

ーー部活をされている方もいらっしゃるかと思いますが、体力と長所を探りだすことから始めましょうか

 

ーーえ?、体力づくり?

 

ーーはい、魔法師は魔法力もそうですが、それを行使する体力も大きなポイントです。特に、九校戦は夏場ですので、体力は有るに越したことはありません

 

ーーCADの調整は?

 

ーー後々行います

 

ーー先に守夢さんの調整をしてもらえると思ったのに

 

ーー何を甘えたことを仰っているのですか?調整など、あとでいくらでも致します。他力本願では、勝てませんよ?

 

ーーはい

 

ーーでは、早速トレーニング開始です。

 

 

 

一連のやりとりを端から見ていた真由美達は達也の豹変ぶりに顔がひきつる

 

達也があそこまで愉快そうな表情は初めて見る

 

まるで、苛めっ子である。

 

 

真由美『ねぇ、摩利。守夢君って…実は隠れサディスト?』

 

摩利『言うな、真由美。』

 

 

 

一年を除くと上級生は真由美や摩利、十文字他数名だ

 

こう言っては失礼だが、彼等にCADの調整以外出来ることはない

 

あとは各自のCADを達也が仕事をするだけだ

 

 

達也『では、一旦解散でよろしいですか?』

 

方向性は決定したため、後は各自の練習に入る

 

真由美『そうね、一年生の担当が多いとは思うけどよろしくね。何かフォローが必要なら言ってちょうだいね?』

 

達也『ありがとうございます。』

 

必要はないと思うが、一応達也を慮る言葉をかける

 

達也も社交辞令と捉えて形式的にお辞儀をとる

 

 

真由美『…そうだわ、守夢君。あとで生徒会室に来てね?』

 

声音が少し低く、達也に有無を言わせない笑顔の真由美

 

が、目は笑っていない寧ろ嗤っている

 

 

達也はやはり逃げ切れなかったかと嘆息するしかなかった

 

ーーーーーーーーー

 

エントランスアプローチ

 

美月『(こんな遅くまで大変ですね、皆さん。)』

 

九校戦が控えるこの時期は選手達は皆遅くまで調整に残ることが多い

 

また、部活をやっている生徒達も九校戦の選手達のための下働きだ

 

美月は文科系クラブのため手伝いは殆ど無いため他のメンバーを待つことが多い

 

 

美月『遅いなぁ。』

 

と口に出してハッと我に返る

 

まだ、ここに来て数分しか経っていないのに思わず声にでてしまった

 

無理もない

 

ここ最近は美月がずっと待っているため手持ち無沙汰が否めない

 

いつもは皆が同じ時間帯位に集まるため待つ時間も少ない

しかも、大抵は誰かが待っていてくれるため他の皆が来るまでは話が出来る

 

改めて、友人の得難さを思いしる美月だった

 

少し反省して心に余裕が出てきたため周囲の気配におかしさを感じる

 

美月『?何かしら?』

 

知覚に何かを感知し、見慣れない波動がレンズ越しに飛び込んでくる

 

ふと、考えるも思いきって眼鏡を外す

 

瞬間、彼女の眼に色の洪水が押し寄せる

視界に様々な色調の光が溢れる

じっと、我慢して眼が脳が飛び込んでくる情報量に慣れようとする

 

普段、達也を囲む人間達の中ではそこまで目立ったモノを持つ美月ではないが、彼女の持つ目もまた、特異体質で努力してモノにする必要性がある

 

 

『その目の使い方は無理矢理慣れさせるものではないよ』

 

不意に後ろから聴こえて来た声に振り向く

 

美月『た、達也さん?』

 

達也『驚かせてしまったかな?』

 

美月『いえ。あ、お疲れ様です。光井さんや北山さんは?』

 

達也『あぁ、彼女達なら休憩と着替えに。十分ちょっとすれば、来るはず。』

 

もっとも、彼女達の気力体力が残っていればの仮定だが

それは達也も保証はしかねる

 

 

美月『あ、すみません。守夢さんでしたね。…それで、さっきの私の目の使い方って?』

 

達也『殆ど生徒もいないから名前で構わないよ。その目は人それぞれ鍛え方が違う。俺も美月と似たような目を持っているから美月の辛さは理解している。が、無理矢理目を慣れさせようとするのは体に負担がかかる。』

 

しかし、美月と達也の目が似ていると言っても美月の目は見れるのみ

 

達也の目はそれ以上に特殊なのだ

 

 

美月『どうすれば良いんですか?』

 

美月の目に理解を示す達也に美月も食い下がる

 

 

達也『美月にとってその目がどういうものであるかを考えるんだ。急ぐ必要はない、自分のペースでやればいい。…さて、どうする?美月が知覚した波動を突き止めに行くか?』

 

美月『あ、そうですね。知りたいですし、達也さんの仰るヒントを探したいです。』

 

達也の言う自分にとって何か

 

それは一朝一夕で得られるものではないだろう

 

だから、前に進むしかない

 

 

達也『承知した。では、行くか。』

 

 

ーーーーー

 

 

実験棟

 

達也と美月は先程の波動が実験棟から漂っていることを突き止め、目的の部屋まで歩いていた

 

美月は達也の言葉のヒントを探すためまた、目を使いこなすために現在は眼鏡を外している

 

美月は普段眼鏡を掛けているため大人しそうな地味と言われそうだが、元々は可愛いらしい少女と評されてもいい容姿はしている

 

 

美月はどうしても達也の言葉が理解出来なかった

 

自分にとってこの目は何なのか考えても一種の枷にしか表現出来ない

 

が、それは違うと達也は言うため、先駆者である達也に訊くことにした

 

 

美月『差し支えなければ、聴きたいんですけど。達也さんはどうやって、目を使えるようにしたんですか?』

 

達也『そうだな、先程の通り俺の眼と美月の目はスペックと表現すれば妥当だろう。それが違うから一概には言えないが、俺の場合は揺るぎない意思、覚悟といったところから使いこなせるようになった。』

 

美月『意思、覚悟、ですか。』

 

益々解らないといった表情

 

図上にはクエスチョンマークが飛び交う

 

達也『すまない、こればっかりは自身で鍛え上げるしかない。俺の場合は眼鏡を掛けても視えてしまうから、制御するしかなかったんだ。それに、まだ俺も使いこなすことは出来ていないからね。』

 

疲れがたまり、気が抜けたときに達也の場合は起こることがある

 

美月には申し訳ないが嘘は付いた

 

本当は完璧に制御は出来ている

 

問題なのは精神だ

 

最近はめっきり少なくなったが記憶の奥底にしまっている出来事がフラッシュバックする

 

それは達也としても一番嫌な記憶であり、数瞬、行動不能になる

 

達也が乗り越えなければならない問題であり、精神の問題でもある

 

ある意味では眼からの情報によってその記憶を連想してしまうこともあるため強ち間違ってはいない

 

 

美月『す、すみません。てっきり使いこなしていると思ったものですから。』

 

小柄な美月が余計に縮こまったため、やりすぎたかと少し反省する

 

しかし、これでむやみに質問してくることはないだろうが、助け船として経験談からのアドバイスをお詫びにしておく

 

 

達也『そんな畏まらなくて良い。アドバイス出来る事はあるから。…そうだね、美月は誰かの為にその力を使いたいと思うかい?』

 

達也自身はこの力は自分の為にではない

家族の為に使うと決めている

 

美月『え?誰かの為にですか?考えたことは無かったです。この目の所為で他人の迷惑にしかならなかったので。』

 

達也『そこから変えていく必要がある。ソレはある種の才能だ。モノにすれば武器になる。』

 

ヒトは誰かの為にと思うだけで強くなれる

 

 

美月『…もう一つ良いですか?』

 

 

達也『構わないが。』

 

美月『もし、違ってたら失礼なので、そのときは聞き流していただきたいんですけど。あ、でも私の勘違いかもしれないし…』

 

いざ、質問しようとするも違っていた場合とても不快な気分にさせてしまうかもしれない

 

そう思うと自分の質問はして良いものか不安になる美月

 

達也『少し落ち着くんだ美月。尋ねる言葉位で怒るような狭い度量はしていない。』

 

何故か慌てふためく美月に不思議に思う

 

まだ質問もしていないし、質問の内容位で怒る必要もない。とりあえず彼女を落ち着かせることからしなければ始まらない

 

 

 

達也『落ち着いたか?』

 

美月『あ、すみません。』

 

数分間、時間を要したがなんとか美月の精神が安定したため本題に移す

 

達也『気にしなくて良い。で、どんな内容かな?』

 

美月『…私の直感というか、入学式から感じていたことなんです。』

 

美月から発せられた入学式という単語に達也は予測がつく

 

達也『…続けて』

 

美月『はい、達也さんと司波さんのオーラって言うんですかね?それが、似ているっていうか何というか。本当にごめんなさい。』

 

達也が何も言わず聴くに徹しているため、美月が余計に縮こまる

 

美月の性格もあるのだろうが、達也の纏う雰囲気がそうさせるのか

 

達也『確かに、似ていると言えば似ているな。』

 

美月『ふぇ?』

 

すぐの達也の返答に美月も何を言われたのか理解に遅れが生じる

 

達也も彼女の表情から説明が必要と感じる

 

達也『美月の目ならば、見えてもおかしくはない。…けど残念、俺と司波さんは親戚とかでもないな。俺も入学式に初めて視たときはそう感じたが、血縁には居ないな。』

 

美月『そ、そうだったんですね。よ、良かったぁ。』

 

ヘナヘナと腰砕けのような体勢になる美月

 

少し、目が潤んでいる処を見ると達也から怒られることも覚悟していたようだ

 

達也『流石に良い目を持っている。その目とは大切に付き合っていくんだよ。(柴田 美月、彼女の目から読み取れる情報はそこまで無くて助かったな。師匠の言う通りか、しかし、用心は必要だな。仮初の情報は与えたが、何かの拍子で他者に漏らすと厄介だ。)…美月、それは司波さんの耳に入らないようにするように。』

 

美月『え?どうしてで…あ、そうでしたね。彼女は私達、特に守夢さんの事を嫌ってましたもんね。』

 

達也『そういうことだ。エリカ達にもな。そこから司波さんの耳に入る可能性もある。これは、俺と美月の秘密だ。』

 

人差し指を口許に当てる仕草をして、少し、愉しげな雰囲気を作り、美月を説得する

 

秘密を共有するということは事の重大さを理解していることだが、それは高校生には荷が重すぎるため、敢えて茶化しておくとそれに押し潰されない

 

目下の達成目標としては美月にそれを他言させないようにすることで、方法は何でもいい

 

美月『ふふっ、達也さんて意外とお茶目ですね。』

 

達也『…クラスメイトにはね。…っと、到着したようだ。』

 

会話しながら進んでいたため時間の経過に問題はない

 

そっと、中を覗きこむ。そこには、机ではなく、移動不可の長方形のテーブルが規則性に沿って並べられた部屋

 

例えるなら、理科実験室のような部屋が妥当だろう

 

 

美月『何でしょうか?フヨフヨ漂っていいるあれは。』

 

達也『あれは、精霊魔法と呼ばれるものだ。美月、色は何色に見える?』

 

 

美月『え?色ですか?青、藍、水色、紫色とかですかね。』

 

達也『そうだな。おそらく、魔法の練習をしているのだろう。』

 

美月『(一体誰が)…!』

 

室内を見渡すと、教壇の前に人影が一人分

 

その人物は一枚の札のような物を指に挟み、それを顔の正面に向けて目を閉じていた。

 

あまりの不気味さに美月が声を上げかけるも達也が抑え込む

 

その人物は、吉田 幹比古 達也達と同じクラスメイトだ。

その傍らにお香の器から微かに香りがする

 

そして、彼、幹比古の周りには達也の言う精霊が漂っていた

 

美月『…吉田くん…?』

 

【術を行使している人の邪魔をするな】

 

これは基本的に、他人が魔法実験を行っている場に、招かれず立ち入ってはならないというのは、実習で最初に教わる注意事項だ

 

発動中の魔法とその魔法演算領域の干渉により、思わぬ暴走がある

 

それを忘れていたため、思わず対象の人物の名前を口にしてしまう

 

初回は達也が抑えきったが、二度目を予測出来なかった達也の制止も空しく、相手はー

 

幹比古『!?誰だ!』

 

条件反射での怒号、それは、見られたくない何かを僅かでも見られたことへの怒りとそれに対する反撃

 

意思に呼応して精霊が美月へ襲うー

 

はずが、彼女の周りに何か結界のようなものが精霊から守られる

 

 

達也『すまない、幹比古。邪魔してしまった。』

 

瞬時に美月を守り、幹比古の攻撃もいなし、直ぐに攻撃の意思は無いように両手を開いて挙げる

 

それに数拍おいて、クラスメイトだと気付く幹比古

 

幹比古『たつ、…守夢と柴田さん?』

 

達也『今は誰も居ないし、達也でいい。それよりもすまない。術の邪魔をしてしまった、興味本位で誰が行使しているのか気になってな。』

 

見られたことよりも見知った顔が居ることが勝り、険しい表情が霧散する

 

それとこれとは、別問題のため頭下げて謝る

 

此方に非があるのは確か

 

達也一人ならバレるような失態は犯さないが、今回は美月のこともあり真っ先に謝罪した

 

幹比古『あ、うん。気にしなくて良い。』

 

達也『お言葉に甘えて、さっきのは、喚起魔法か?』

 

幹比古『凄いね、一目で見破るとは。本当に二科生なのか疑ってしまうよ。その通り、水精を使って練習していたよ。あ、柴田さんも気にしないで。』

 

美月は俯いて沈黙しており、幹比古の邪魔をしてしまったことに罪悪感を感じていた。

 

それを幹比古も解っているが言葉が掛けづらい

 

それを察して達也が美月に会話に入ってくるように促す

 

達也『美月、幹比古の精霊は何色に見えた?』

 

幹比古『え?』

 

突然の達也による美月には答えて良いものか、幹比古にとっては耳を疑う発言が出る

 

 

美月『え、えーと。』

 

幹比古『色の違いが判るのかい?』

 

それに即座に反応したのは幹比古で

 

ガシッと美月の肩を掴み、顔を近づける

 

美月は真剣で急接近する幹比古に、顔を真っ赤にし声も出せない状況に陥る

 

流石の達也もこれは安直な打開策だったかと反省し、態とらしい咳を一つし、二人に割ってはいる

 

達也『合意の上なら席を外すが?』

 

幹比古『!ご、ごめん。…精霊の色の違いが判るんだよね?』

 

美月『は、はい。達也さんも判るようですよ?』

 

達也の言葉に二人とも気まずさを感じて何も言えなくなる

 

暫し沈黙の後、幹比古が言葉を選びながら確認するように尋ねる

 

それに対して美月も調子を取り戻したようで、普段通りに回答する

 

幹比古『それは何色だった?』

 

聞き漏らさないように真剣の幹比古

 

美月『確かー』

 

達也と話していた時とこの部屋を覗いたときの精霊の色のことを幹比古に話す美月

 

幹比古はそれに驚きを隠せず、その目について説明をする

 

幹比古『精霊を見れる目は水晶眼と言って、貴重なんだ。それは、精霊の色を見分けられる人なんだ。ただ、そんな貴重な人に会ったのが初めてで。ごめん。本当に驚いたというか、確かめたかっただけで…やましいことは何も、その…。』

 

幹比古の言を信じるなら、精霊(俗称では、神を見れる眼とも言われるらしい)を見れる眼を持つ人間というのはとても少ないのだろう

 

それならば、その貴重な眼を持つ人間は狙われる可能性はあるのではないのか

 

達也『幹比古、その水晶眼とやらを持つ人間は貴重とのことだが、狙われる可能性はあるのか?あるのならば、お前の家もそれを欲しているのか?』

 

ずばり核心を突く達也の言葉に幹比古も誤解のないように説明をする

 

幹比古『!?…鋭いね。その通りだよ。確かに、この眼を欲する家は多い。実質、吉田家もその一つだ。けど、僕はこの事を他言する気はない。今の僕にそんな資格はないしね。それに、この眼を持つ人間は貴重と言った通り誰かが独占とかをしてはいけないと思うんだ。』

 

幹比古自身、正直にこの眼が自分に備わって欲しかった

 

だが、そんなことを言ったところで詮ないことだ

 

 

達也『それを聞いて安心した。美月は力を何も持たない人間だ。それを無理矢理拐う真似をするのは人としてどうかと思ったまでだが、やはり幹比古は出来た人間だよ。』

 

もし、幹比古が美月を拐う暴挙に走るならばその程度の人間だったのだと見切りをつけるところだった

 

もし仮にそうなったとしても、そこまで達也が助けてやる義理はない

 

寧ろ、どうぞご勝手にと言うかもしれない

 

いや、必ずそうするに違いない

 

達也にとっては自分の家族以外がどうなろうともどうだって良いのだ

 

とりあえず、当たり障りのない返答をしておく

 

幹比古『お誉めにいただき光栄だよ。けど、達也もその目を持っているなんて。何度も聴くけど、本当に二科生?』

 

達也『失礼な。事象改変の力は無いに等しい。だから、魔工師の勉強をしているんだが…。それはさて置き、そろそろ皆が下に集まっているはずだ。一緒に帰らないか?』

 

達也は少し違うが、神夢家の人間は大なり小なりこの眼は持っている

 

幹比古の一族や他の一族にも言えることだが、水晶眼とは言わない

 

この眼のことを太古から鬼を見る眼や見鬼等と謂われる

 

ーそして、自分たちがこの実験棟に来てから15分近く経過している今から向かえば、ちょうど位だろう

 

美月『そうでした。ほのかさん達が来る時間合わせで来ていたのを忘れていました。』

 

幹比古『そうだね。急ごう。』

 

相手を待たせるのは気が引ける

美月や幹比古の性分なのだろう、それは美徳の一つでもある

 

何はともあれ、帰途の目処がついたのなら早く帰ることに越したことはない

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

摩利『…遅い。』

 

達也『委員長も堪え性がないですね。』

 

時刻は正午を廻ろうかという頃

出発時間は十時のため二時間ほど遅れている

 

先ほどの摩利の言葉は人待ちをしているため出てきた言葉だ。

 

摩利『お前が言うな。集合時間ギリギリに来たお前が!』

 

何を隠そう、達也は今日から九校戦が始まるということを忘れていたからだ

 

いや、厳密には準備等は万全だったが、研究に没頭しすぎで昼夜を逆転して日付感覚を忘れたというほうが正しい

 

達也『すみません。』

 

摩利『まぁ、時間に関しては許すが、制服はどうした?』

 

現在の達也の服装は第一高校の制服だが、第一高校の校章が無い

 

九校戦のメンバーは校章の入った制服を着るために二科生である達也もその制服は支給されているはずであるが、今の達也の服装は二科生の校章の入っていない制服なのだ

 

達也『はい、サイズが少し小さかったので、懇親会以外はいつものを着ています。』

 

支給されているとはいえ、サイズの微調整はされていない

 

達也もこれからずっとその制服を着るわけではないのでそれで構わないと思っている

 

というよりも、今日は制服でなくても私服でも構わない

 

ーーのだが、達也は何故、関係性のない生徒達に己の私生活を晒け出さなければならないのかということで制服なのだ

 

摩利『まあな、仕方ないといえば仕方ないか。だが、丈や袖を直しても良かったんだぞ?もしかしたら、お前が転入するかもしれないしな?』

 

達也の内心を読んだかのように一科生入りの未来を示唆する摩利

 

そこには面白がる表情が見え隠れする

 

達也『遠慮しておきます。魔法力が無いこの身に絶対条件を満たしてないのに入りたいと思いません。それにー』

 

達也自身にメリットが全く無い

何度も説明したが、この第一高校に入学したのは魔法に関する文献の閲覧のみ

 

それだけだ、それ以外は煩わしいのだ

 

摩利『それに?なんだ?』

 

達也『いえ、一科生の思考が苦手なので、出来れば穏便に過ごしたいだけです。』

 

摩利『…私はお前を高く評価しているんだが?魔法力ではなく、その魔法に対する姿勢に。』

 

魔法力が全てだと自惚れている一科生にうんざりしている

 

それに比べて達也は魔法力は脇に置いておいくも他の能力はずば抜けている。自分に足りないモノを他で補おうとするその姿勢にー

 

達也『光栄です。』

 

しかし、達也は摩利の言葉に無感動に礼を述べるだけ

 

その後は暫し沈黙が支配し、摩利にとっては居心地の悪い雰囲気となった

 

 

真由美『ごめんなさい~、おまたせ。摩利、守夢君。』

 

その数十秒後、七草 真由美が小走りに姿を見せてきた

 

真由美の登場に少し救われた摩利

軽口を叩かなければ気分が晴れない、八つ当たりと解っているが今回は仕方ない

 

摩利『遅いぞ、真由美。』

 

真由美『ごめん、ごめん。守夢君もごめんなさいね。こんな炎天下の中待たせてしまって。』

 

事情が事情なだけに真由美は、前以て連絡をしておいたのだが、大半の生徒が待つということを選んだ

 

というのも、十師族 七草家の事情で遅れるとおよそ三時間前

 

真由美は後から合流すると言っていたのだが、先程の通り待つということで逆に彼女を急かすことになってしまったのだ

 

 

達也『いえ、大して待っていません。これくらいは普通ですし。汗も然程です。若干の魔法も使えますし。』

 

真由美『ほんとだ、汗をかいてないのね。』

 

達也に近づき、首筋や手の甲に汗をかいていないことを確認する

 

というよりも態々そんな確認をする必要性があるのか疑問だがー

おそらくは真由美の小悪魔がいたずらを仕掛けようと企んだのだが、不発に終る

 

真由美もそれなりの美少女だ、そんな異性に近づかれて動揺しない達也は彼女を一体どのように認識しているのか

 

達也としてはただの先輩か厄介者という認識なのだろうかー

 

達也『会長の事情の方が大変でしょうし。会長もお疲れのご様子。約二時間はバスの中で休んで下さい。では、出発しましょう。』

 

真由美『あ、ちょっと守夢君…もう!』

 

スタスタと離れていく達也にそれ以上絡めなくなり、真由美は憤慨する

 

もう少し会話をしたかったが、逃げられる

タイミング的にはそれなりに良かったが、どうも達也は接触を嫌がる

 

達也からすれば、自分はどのように映っているのか気になった

 

 

 

 

 

 

いつも通りに真由美をあしらい、エンジニア用のバスに乗り込む達也

 

一見平常運転をしているような達也

 

しかし、常人が気付かないほどに肌の感覚や精神が鋭敏になっているのを自覚する

 

これが、何を意味しているのかが判らない

 

所謂、第六感や虫の知らせということだが、一般人からすれば、そこまで気にしないだろう

 

しかし、達也はこれを無視をしない

 

必ず何かが起こることを理解しているからだ

 

 

達也『……』

 

空を見上げ、達也はこのまま九校戦が何事も無く終えることを祈るばかりだった

 

 

 

 

真由美『もう、守夢君ってば。私の事をもう少し構ってくれてもいいじゃない!』

 

バスの座席に座るなり、達也に対する愚痴を漏らす真由美

 

内容は殆ど八つ当たりなのだがー

 

鈴音『…十分、相手をしていると思うのですが?まあ、守夢君は賢明な判断だと思いますよ?』

 

真由美『どうして?』

 

鈴音『会長の持つ美貌という魔力にやられていたかもしれませんし。しかし、彼はそれを無効するキャストジャミングの亜種系のようなものを使われるとか。どっち道、会長には勝ち目は無かったですね。』

 

と澄ました表情で分析をする鈴音だが、言葉の端々には愉悦が混じっている

 

ここぞとばかりに真由美を弄る鈴音

 

真由美『なっ…、もうリンちゃんの馬鹿!』

 

魔眼と魔顔を掛け合わせた鈴音の言葉に真由美も理解出来たようで、拗ねて背中を丸めて反対側に顔を向ける

 

その姿はとある症状を連想をさせてしまう

 

 

服部『会長、どうされましたか?お気分が優れないのですか?やはり守夢の言う通り少しでも休まれたほうがー』

 

現在進行形で片想い中の服部がやはりというべきか真由美を気遣う

 

真由美『あ、大丈夫よ、はんぞー君。ありがとう。』

 

服部『本当ですか?』

 

真由美『えぇ。全然なんともないから。』

 

真由美を理解した人物なら放っておくのだが、(片想い)フィルター越しの服部には判らない

 

その様子を隣で見ていた鈴音は真由美の様子がおかしいことに気付く

 

やはり、精神的に疲れていたのだろうか

これ以上溜め込ませるのはよろしくない、服部には悪いが生け贄になってもらう

 

鈴音『服部副会長、どこを見ておられるのですか?視線が嫌らしく感じるのですが。』

 

服部『え、あ、いや、どこも見てません!会長の素肌など…じゃなくて、冷えてはいけないので毛布をと。』

 

鈴音『そうでしたか、ではどうぞ掛けてあげて下さい。…会長の柔肌に触るために。』

 

最後のボソッと呟かれた言葉に服部は何を想像したのか顔を真っ赤に染める

 

それを見た真由美も鈴音の言葉に便乗する形で仕草だけ服部から距離を離すように動く

 

その表情には悪戯心が窺える

 

真由美『…はんぞー君。あのね…優しくしてね?』

 

服部『なっ、あの、そうじゃなくてーー』

 

そんな真由美の行動から七草家の事情はストレスだったのだと思われる

 

しかし、相も変わらず服部は不憫だと感じる鈴音だった

 

 

 

 

 

摩利『何をやっているんだ?あそこは?…おい、花音。少し大人しくしろ。数時間位我慢しろ。』

 

席の前の方で真由美達が騒がしくしており、まるで遠足を楽しみにしている小学生である

 

まあ、真由美に関しては家の事情だけに彼女だけを責めることは出来ない

 

少しでもストレスを発散させる必要があるのだが、原因(七草家)と解決方法(脱七草家)がジレンマのためどうしようもない

 

せめてもの救いが誰かに捌け口になってもらうのが一番良い

 

服部には悪いが現状はそれがベストなのだ

 

 

前の座席の喧騒にため息をしつつ、シートに深く座り込むと隣には後輩である2年の千代田 花音が此方は此方で不満げな顔と足を揺らしていた

 

千代田『だって、だって摩利さん。折角、啓と旅行出来ると思ってたのにこの仕打ちはあんまりです。』

 

千代田 花音ー数字付きの家柄で千という数字を冠する百家である。

百家は十師族に次ぐ位の家柄だ

 

数字で言えば、十一の数字から呼ばれる

 

そして、彼女はその千代田家の直系である

 

彼女は対物攻撃力なら摩利を凌ぎ、陸上兵器相手なら十師族の戦闘魔法師と同等の戦闘力を誇る

 

 

 

摩利『全く、大袈裟な。』

 

千代田『なっ、摩利さんの馬鹿。婚約者だからこそずっと居たいんです!』

 

そして、彼女は何が不満かと言うと恋人もとい婚約者と一緒に居られると思ったのだが、実際は違うということ

 

五十里 啓 彼もまた、百家の家柄である

魔法理論の分野では二年生トップ、実技も上位で今回はエンジニアとして九校戦のメンバーに入っている

 

 

摩利『そういうものか?』

 

千代田『そうです!…だいたいですね、このバスの席は十分空いているのに、此方に来れないのかってことですよ!ー聞いてます?』

 

花音の力の籠った肯定に引いてしまう摩利

 

反論がないことで花音の不満が爆発し、愚痴となる

花音の甲高い声に摩利は、必要のないスイッチを押してしまったと後悔する

 

とりあえず、ある程度治まるまで待つしかないかと嘆息するしかなかった

 

 

 

 

ほのか『雫、楽しみだね。』

 

雫『そうだね。欲を言えば、達也さんも同じバスが良かったかも。』

 

雫の言葉にほのかも頷く

バスの座席を見れば、まだ余っている

 

席の位置としてはバスの中央より後ろの席にほのかと雫といった、一年生が座る形になっている

 

同じ横の列にほのかと雫、通路を挟んで深雪と他の一年生である

 

そのため、雫とほのかとやりとりも聴こえている訳でー

 

 

深雪『?どうしたの?二人とも、何か心配事かしら?…あの男の事だったら忘れなさいね。』

 

達也の言葉が出てくると途端に不機嫌になる深雪

 

彼女は二科生というよりも達也という単語に反応する

原因はおそらく、あの模擬戦だろう

 

 

ほのか『ううん、何でもないの。気にしないで?』

 

確信した、達也という単語は深雪にとってNGワードだと

これ以上不機嫌にさせないように深雪には忘れてもらおう

 

深雪『そう?何か気になりそうなことは言ってね?』

 

ようやく、可憐な表情を見せる深雪にほのかと雫は胸を撫で下ろす

 

危うく、極寒の地になるところであった

 

雫『ほのか、深雪の前では達也さんの話は避けよう。(ボソッ)』

 

ほのか『そ、そうだね。』

 

同じ轍は踏まない

 

二人はそう誓った

 

 

 

 

学校という生活の中で、特別学外に出ることは少ない

 

しかも、学校側がすべて費用を負担して半ば旅行のようなものである

 

しかし、全ての人間が楽しいと感じる訳ではない

 

最近のスイーツの話題や目的地の話、はたまた恋愛の話であったりする生徒も居れば、つまらなさそうにする生徒や何か興味を抱くものがないかバスの外を確認したりする生徒ーー

 

しかし、実際バスの外の様子を確認する生徒、所謂アンテナを張った人間が生き残る率も高いのも事実

 

今回は千代田花音が婚約者と離れているため、バスの車内はつまらないと外を見ていたのが幸運だったのだろう

 

彼女の視線の先で、数百メートル前方の対向車が不自然な動きをする

 

高速道路なのに、ふらふらと蛇行をするオフロード車

 

居眠りでもしているのかと疑いたくなるような走行に

危ないなぁと思ってしまう

 

しかし、それが一時の状況なら問題はないが、それが続けば危機感を覚えるのは当然のこと

 

 

花音『なんか、あの車の動きがおかし…危ない!』

 

言い終わらないうちに対向車がスリップを起こし、走行車線のガードレールに当たり、その反動で追い越し車線に来る、更に中央分離帯に激突するかと思いきやそれを飛び越えて来たのだ

 

車は炎を纏いながらバスに向かってくる

 

彼女が声をあげるもその車が止まるはずも無く

 

バスの運転手も慌ててブレーキとハンドルをきる

バスは車体を横に向け何とか停止するも、飛び越えて来た車は止まらず、此方に向かってくる

 

この状況に反応して一部の生徒が向かってくる車に減速魔法といった類いの魔法を発動させる。

 

 

花音『止まれ!』

 

森崎『この!』

 

雫『止まって!』

 

1-A『止まれ!』

 

2-A『止まるんだ!』

 

服部『…(スッ)』

 

しかし、事象改変の魔法は相克を起こし、車は止まらない

 

摩利『やめろ!魔法をキャンセルするんだ!(…魔法が相克を起こしている、これでは。)…十文字!いけるか?』

 

大人数の魔法が重なりあって魔法が発動しないこの状況

 

行使された魔法は発動中で未完成のため、運は尽きていない

 

そのことに摩利は気付き、冷静に努め打開策を探る

強力な魔法は一瞬で現実をを書き換える

 

それを行うには今、発動している魔法を圧倒する魔法力を持った魔法師が必要だ

それを行えるのは、十文字しかいないと判断する

 

しかしー

 

十文字『…』

 

普段なら、無言ながらも実行してきたが、さしもの彼も想子(サイオン)の嵐の中で消火と衝突を防ぐことは難しいのか

彼の顔に焦りが浮かぶ

無理もない、重ねられた発動中の魔法は十個以上なのだ

 

それを見た摩利も無茶を承知で尋ねたので責めることは出来ない

しかし、この二つの事象改変をしなければ、自分達が巻き込まれるのだ

 

 

万事休すかーー

 

 

 

 




如何でしたか?

最後は少しアニメに寄りました。

①達也君家族にはだだ甘です
②達也君と響子さんの距離は原作より圧倒的に近いです
双子達が嫉妬するほど(笑)
③隠れSの達也
④達也は霊子-プシオン-も見えます、というよりか厳密に言えば、違うんですよね
⑤達也は興味の無いことには結構ズボラに近かったりします

本編としては、優等生の内容も盛り込もうと思案してますので、見ていただければと思います。

それでは、次回もよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

風邪orインフルエンザ?なのかぼーっとする
体の節々も痛い、熱はそこまで
一年ぶりの体調不良である

それでは、拙い文ではありますが、お楽しみいただければ嬉しいです。


間に合わない、と絶望に染まりかける

 

深雪『私が火だけでも!』

 

いつの間にか発動準備が終わっている深雪

 

しかし、彼女にも自信なさげな表情も見えるが、火だけならなんとかなるという表情にも見える

 

それに倣って十文字も魔法の発動に入る

 

 

だが、この想子(サイオン)の嵐の中でどうやって

彼女の魔法力は解っているつもりだ、模擬戦でも見ている、あの圧倒的までの魔法力に十文字でさえ防御するしかなかったのだ

 

それでも不安が拭えない

 

 

しかし、その不安が杞憂に変わる

 

荒れ狂っていた想子(サイオン)の嵐が掻き消され、重ね掛けされていた魔法が破壊されたのを目撃する

 

誰もが目を疑い、数拍動きが止まる

 

ーーその間が命取りになることに誰もが気付かなかった

 

その僅かな時間にも横転したオフロード車が距離を詰め突進してくるのは明白

 

ハッと気付いたときには約六十メートル未満の距離になっていた

六十メートルならまだと思うかも知れないが、高速道路での六十メートルは大した距離ではない

それを自覚はしてないだろうが、慌てて魔法の発動に入る

 

なるべく手前で止めることに越したことはない

 

完成の時間とオフロード車がバスとの距離を詰める時間

どちらが早いかー

 

 

 

そのとき、全員の視線がバスとオフロード車との間に集まる

 

人影だ、誰だ?という思考は無い

 

見ただけで判る

 

守夢 達也

 

一年生であれだけ目立つことをしたのだ

模擬戦や新歓の剣道部と剣術部の騒動を治め、二科生として九校戦のエンジニアに抜擢ーー

 

その人物が目の前にいる

 

いつの間に、何しにといった外野での思考が飛び交う

 

すると、達也は炎を纏いながら向かってくるオフロード車に正面から向かっていく

 

 

その行動に一同は息を呑む

 

ーー無謀

 

という言葉が脳裏をよぎる

 

 

魔法でなければ防ぐことは不可能、生身など自殺行為に等しい

誰もがそう思っていた

 

距離にして約十メートル位か

突然、達也の姿が消えたと錯覚するほど姿勢が低くなる

 

達也と車との距離は数メートルにも満たない

 

ぶつかる!と思わず目と耳を塞ぐ

 

それと同時に

 

轟音と共に道路が揺れて、次いであまり聴きたくない

 

盛大なクラッシュ音が響き渡る

 

 

数秒位だろうか、時間の経過は判らないが揺れとクラッシュ音が消えていた

 

ゆっくりと耳を塞いでいた手を離し、瞼を上げる

 

 

そこには

 

 

ここまで凄惨な交通事故は見たことが無いくらい潰れ方をした炎上するオフロード車

 

そして

 

ボーっと突っ立っているようにも見える達也の後ろ姿とその足元には大きく陥没し、蜘蛛の巣のように広範囲にヒビの入ったアスファルトがあった

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

真由美『皆、無事?』

 

現在、事故のため、警察から事情聴取を受けている最中だ

それと平行して道路を通行可能にするように進められている

 

事情聴取と言っても達也と運転手が受けているだけである

そのため、後から合流するから行ってくれて構わないと達也は真由美と十文字、摩利に伝えるも拒否される

 

 

真由美『私も直前まで眠ってて、気付かなくてごめんなさいね?とりあえず、何とかなって良かったです。十文字君、深雪さん二人ともありがとう。二人の行動と勇気に感謝します。』

 

真由美が気付いたのは、バスの急ブレーキで止まった後で状況が整理出来ていなかったため見守るだけだった

 

だから、十文字や深雪達の行動に礼を言う

 

深雪『いえ、私など何もお役に立てていません。』

 

十文字『俺も同意見だ、それよりもあいつの活躍が大きい。あいつに礼を言ってくれ。それと、市原にもな。』

 

あいつとは、ご存じの通り達也のことだ

 

深雪『そうですね、市原先輩のバスのブレーキと同時の減速魔法がなければ魔法の選択の余裕がありませんでした。ありがとうございます。』

 

市原 鈴音

彼女もまた、優秀な魔法師の一人と言えるだろう

 

目の前に迫り来る脅威に囚われるだけでなく、しっかりと足元も見据え、常に安定した対応が出来るよう心掛けるその姿勢

 

深雪と十文字の感謝の言葉に彼女も会釈を返す

 

花音『…嘘、全然気付かなかった。』

 

思い返せば、想像に難くない

 

急ブレーキをしたとしても僅か数十メートルの間で止まれる訳がない

 

そこは減速魔法による功績が大きい

 

摩利『全く、お前もまだまだだな。魔法は早ければそれで良いというものではない、周囲の状況を把握する必要があるんだ。』

 

花音『ううぅぅぅ。』

 

摩利は花音に説教しているつもりだが、そのやりとりが一年生にも聴こえている

摩利の言葉にまるで自分が叱られているような気分になる

 

真由美は項垂れている一年生をこのままにしておくのは良くないことは理解している

 

魔法は良くも悪くも精神の影響が大きい、そのため、何かの拍子で魔法が使えなくなるというのはあるのだ

 

失敗は誰にでもあることし、それを次に活かせば良いだけのこと

 

例外は存在するのだがー

 

 

真由美『今回は緊急性もあり、仕方のない部分も多くありました。こういうときは、周りとコミュニケーションを取って、役割分担などでそれぞれが出来ることをしましょう。無理は禁物です。私達は一人ではないのですから。』

 

真由美の言葉に一年生も安心した表情をする

 

今回の出来事は異常だろう

 

乗用車と衝突しかけたのだから

 

それを対処しようとした生徒達を責めることは出来ないし、逆に誉めてあげてもいいくらいだろう

臆せず、立ち向かったのだから

 

 

 

 

達也『すみません、七草会長。よろしいでしょうか?』

 

数分後、警察から聴取を受けていた達也が真由美に声をかける

 

バスの運転手も帰ってくる

 

真由美『どうかしたの?守夢君。』

 

達也の表情が申し訳なさそうに見えたため、不思議に思う真由美

 

達也『聴取の件で警察署に行くことになりました。このまま道路を封鎖している訳にもいきませんので。そのため、私は後から合流しますので、先に出発してください。』

 

摩利『おいおい、穏やかではないな。…もしかして、お前の道路破壊がいけなかったんじゃないのか?』

 

真由美と達也のやりとりを聴いていた摩利が首を突っ込む

心なしか声音が弾んでいる

 

達也『そんな訳ありませんよ。委員長は私を何だと思っているのですか?…少し、ムカついたので敢えて文句を言わせていただきます。』

 

摩利の言葉にムッと顔をしかめる達也

 

普段なら冷めた回答をする達也だが、今日は顔にまで出ている

 

さっきの彼らの失態と今の言葉にカチンとくる達也

少し位、毒を吐いても構わないだろう

 

 

真由美『え?え?』

 

摩利『お、おう。』

 

なんか、可愛らしい言葉が聞こえた気がした

 

が、それとは裏腹に容赦ない言葉が返ってきた

 

 

達也『…先ほどの車に対する対応は酷すぎます。あんなに魔法が重ね掛けされた状態で魔法力で何とか出来るとかそんなことありません。確かに十文字会頭や司波さんならもしかしたらかもしれません。しかし、そんな一か八かの賭けにのるなんて大馬鹿ですか。そんなにあなた方の命は軽いと見えます。』

 

服部『!?…なんだと?』

 

 

命が軽いと表現されたことに服部が図星なのか、心外な言葉に反応する

 

それはそうだろう、誰しもが命なんてものは軽いと思ってはいない

 

しかし、達也はそれを逆撫でするような言葉を発していく

 

 

達也『皆さんは魔法を勉強中の身だ、それをあたかも自分達は魔法が使えるから誰よりも凄いんだと自惚れる。断言してもいいです。皆さんと一般市民の違いは魔法が少しだけ使えるだけ。魔法というものがなければ徒人と同じです。』

 

今度の言葉は明らかにバスの車内に居る生徒全員を魔法師として失格と罵倒するかのようなものだ

 

大半の生徒が怒りを露にする

 

それはそうだろう、ここに居る全員はエリート高校である第一高校の九校戦という全国から猛者が集まる魔法師(の卵)が競い合う場に選ばれた謂わば、エリート中のエリートなのだから

 

さらに言うなれば、第一高校は全国九つある中で最もレベルが高いと云われている

 

 

2-B生徒『黙って聞いてりゃ調子にのったことを言いやがって、二科生如きが。』

 

とうとう服部以外の生徒が達也に噛み付く

元々、服部は達也を毛嫌いしている節があるためさほど問題はない

 

というよりも、達也にこれほどまでに自尊心を傷つけられてよく暴言を吐かなかったものである

 

それに、そこまで達也を認めていないのは確かだ

ポッと出の一年生でしかも、二科生が九校戦のメンバーなんて普通はあり得ない

 

まあ達也からすれば、そんな傷ついて困る自尊心なら棄ててしまえと言うだろうが

 

 

達也『何か間違ったことを言っていますか?…たらればの話は嫌いですが、十文字会頭と司波さんで止められた可能性は二分の一です。止めれたか衝突したかのどちらかです。』

 

正直、確率の問題でいえば、七割から八割程度で無事の可能性はあっただろう

しかし、そんな確率は当てにならない

 

その現場一つ一つが無事でなければ、その人物の魔法力など役に立たないのと同義だ

常に100%、確実が当然なのだ

 

幸運だったなどという曖昧な言葉など死の前には無意味だ

 

2-A生徒『そんな訳ないだろうが、会頭なら止められた!』

 

十文字『…』

 

他の生徒の十文字を擁護するその声に十文字は黙したまま

 

随分と信頼の高い言葉だが

十文字が絶対なんてことはあり得ないのに

 

相変わらず、魔法第一主義は変わっていないようだ

軽く嘆息する

 

 

達也『そうですか。では、止められなかった場合は皆さんはどうしましたか?逃げる時間もなく、衝突に巻き込まれて、怪我もしくは、死んでいたかもしれないのですよ?』

 

全員『!?』

 

結果として、無事だったから良いのではない

 

何が起きても万全の態勢で挑む

 

何度も言うが、名誉や権力を持っていたとしても死の前には無意味なのだ

 

達也の指摘に全員が気が付かなかったといった表情をする

 

 

達也『ほら、そんなことにも気付いていない。私からすれば魔法は絶対ではありません。自分が今何をすべきかを考え、何が大事か、やらなければならないことは何かを考える。…確かに誰かを信じることは大事ですが、時と場合によります。あの状況に陥ったときには、まず自分の安全の確保もしくは、対応するための役割分担ではないですか?』

 

魔法というものはとても便利なものだ

ある程度の事象は魔法で片が付く

 

しかし、それを過信してしまうと時として魔法は自身に牙を向く

 

全員の反論が無いため尚も達也は続ける

 

 

達也『車がぶつかってくるから止まれって、小学生じゃないんだから。魔法があれば何でも出来るからそれに溺れて頼りきった結果がこれだ。』

 

同じバスの車内に居なくても手に取るように解る

 

達也には、何の魔法を使ったか解る眼もある

 

 

そして、いつの間にか丁寧語からタメ口に変わっている達也

 

達也の素を知っている家族や独立魔装の人間はこの変化に苦笑を洩らすだろう

 

ああ、我慢の限界だったのだなと

 

 

 

1-A生徒『ふざけるなよ、お前も魔法科高校の一人だろうが!魔法が全てだと思ってるんじゃないのか。』

 

差別思考に染まりきっている同学年の1-Aの生徒

 

何か反撃をしようと苦し紛れの反論をするも矛盾だらけの言葉

 

達也『何を馬鹿なことを。俺にとって、魔法なんてものは唯の道具にすぎない。結果を得るために最善と思える方法の一つだ。…今回は、魔法よりも確実な方法があったからだ。しかも、どこぞの戯け共が魔法を重ね掛けしてくれたから魔法を使わなかっただけだ。』

 

達也にとって、魔法は道具であり手札の一つなのだ

 

必要であれば魔法は使うが、それよりも最適なものがあるならそれを使う

 

そういう認識なのである

 

まあ、達也の魔法は人前では目立ちすぎるため使えないといった表現が適切だろうか

 

 

摩利『!?…ちょっと待て、それじゃああの重ね掛けされた魔法を消し去ったのはお前の魔法じゃないのか?』

 

後半の達也の言葉に摩利は疑問を憶える

 

模擬戦といい、今回の魔法式を破壊した人物は達也の可能性が高いと認識していたからだーーというより、絶対に達也だと確信があった

 

達也『当たり前です。そんな、魔法式を吹き飛ばす魔法力はありませんよ。しかも、あれくらいの車程度止めるのに魔法は必要ありません。…愚痴になってしまいましたね。すみません、七草会長。そういうことなので、おそらく、一時間程度遅れて合流します。機材等は残しておいて下さい。運んでおきますので。』

 

摩利の言葉に達也は眼の付け処は悪くはないと内心思うも何をしたかは言うつもりはない

教えれば、厄介事に巻き込まれることになる

 

それに、あんな車くらい止められなければ師匠や義父達に笑われる

 

魔法力は無いと言った達也の言葉に不可解な感じを覚える一部の生徒

 

とりあえず、言いたいことは無くなったため警察の元に行く達也

 

時間は有限だ、この場所に長居しても自分にも彼らにもメリットはない

 

真由美『ち、ちょっと守夢君!?』

 

摩利『あいつ、言いたいことだけ言って逃げやがった。』

 

さっさとバスを離れた達也に戸惑う真由美と苛立つ摩利

と他の生徒達

 

一応、他の生徒を代表して摩利が文句を言った訳だが、正論のため反論が出来ない

 

十文字『…あいつは本当に痛いところを突く。……一応皆に言っておくぞ。あいつの弁護をするつもりではないが、あいつは俺達を早く宿舎に行かせるように聴取を一手に引き受けてくれているんだ。その善意を無駄にするなよ。七草、これは、お言葉に甘えて俺達は行くべきだと考えるが。』

 

十文字は辛酸をなめさせられたような表現だけに留める

 

何故、達也があの状況で出てきたのか解っているからだ

あの場で僅かにも判断能力を残していたのは、自身と摩利と深雪、鈴音だろう

真由美は直前まで眠っていたため手を出せなかった

 

そして、あの状況に動じない達也

しかも、魔法を使わずに蹴り一つで車を破壊した力

 

正直、恐ろしいと感じる

 

また、先のことまで考えて自分達を宿舎に行かせるために聴取を一手に引き受ける献身さ

 

十文字も精神的、体力的にもここに留まるのは好ましくないと考えていたが、自分は幹部の身であるからおいそれと残ることも出来ない

 

そういった条件もあり、

現場を見ており、選手でもない達也がこの状況では適任なのは間違いない

 

それを考えて行動をしている達也は年齢を詐称しているのではと疑いたくなる

 

十文字の説得力のある言葉に真由美も頷くしかない

 

 

 

 

ゆっくりと、バスが現場から離れていくのをじっと見送りながら、自己嫌悪に陥る達也

 

達也『…随分と柄にもないことをした。』

 

正直、十師族が居ながら、あそこまであれに手こずるとは思わなかった

 

最低限、魔法式を破壊した後は対応出来ると踏んでいたが、破壊されたのが衝撃的だったのかもしれないが、おかげで出張る羽目になった

 

それに対する説教もするなんて

 

ストレスが溜まっていたのかもしれない

 

まあ、少し解消出来たから良しとしよう

 

 

達也『(早々に仕掛けてきたか、やはり狙いは九校戦で、恐らくだが、第一高校か)』

 

達也が第一高校と推測したのは理由がある

第一高校は九校戦の会場に近いため現地入りは最後なのだ

 

もし、他の高校が妨害工作を受ければ、何らかの連絡がくるはず

それが無いということは第一高校に焦点を当てたものだと言うこと

さらに、間接的に狙ってくる可能性もある

 

目的は不明だが、念のため、対策は立てておいたほうがいいだろう

 

達也『(あくまで、死人が出ないようにするだけだがな)…さて、時間は有限だ、行くか。』

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

現在、達也は窮地?に立たされていた

 

 

真由美『守夢君?何を勝手にサボろうとしていたのかしら?言い訳はあるかしら?』

 

ブラックスマイルの真由美に何の申し開きをしようとしても結局、自分が悪い

 

達也『いえ、そうい…申し訳ありません。』

 

警察署での事情聴取が終わり、宿舎に合流を果たしたのは17時30分頃

そこから、荷物の搬入を三十分で終わらせた達也は懇親会の時間を確認すると、開会は19時とあるため一時間の自由時間が発生したため

 

達也はこの時間を仮眠の時間に充てることにした

 

というのも、寝る間も惜しんで研究に勤しんでいたため今日が九校戦の集合というのも気が付かなかった

そのため、睡眠不足だった達也

 

今日の出来事を振り返ると、明らかに思考が儘ならないことと不自然な達也らしからぬ行動があった

 

その事を踏まえると、仮眠をとっておくことに越したことはない

 

身支度の時間を考えると、三、四十分は仮眠出来ると考えた達也

 

 

 

もうここまで来たらお分かりだろう

 

そうーー遅刻

 

しかも、三十分オーバーで

 

 

 

真由美『全く、校章の入っていない制服だし。』

 

校章が入っていないと、目立ち過ぎる

現に他校から「え、あれって、仕立てミス?」「一高は一科生と二科生と分けられるからあれは、二科生なんじゃあ?」等々

 

鈴音『…会長、時間もありませんし、着替えさせるかそのまま参加なのか決めて下さい。』

 

このまま何も解決しないような雰囲気のため鈴音が進言する

 

というより、真由美の愚痴になりそうだからである

 

真由美『そうね、他校の目もあるし今すぐ着替えて来なさい。』

 

達也『わかりました。』

 

達也としては、このままでも良いのだが。公式の場では、統一が望ましい

 

幸い、司会から開会の挨拶があっただけのため、すぐに着替えに戻らせる

 

 

 

 

深雪『だらしないわね、あの男が事故を防いだとは思えないわ』

 

真由美に叱られていた達也を眺めていた深雪は毒を吐く

 

深雪は達也を毛嫌いしているため達也の話題になるととことん機嫌が悪くなる

 

言わなきゃいいのに、と言いたくなるが藪蛇だ

 

ほのか『つ、疲れていたんじゃないかな?いくら守夢さんとはいえ、車を止めるなんて荒業をしたんだから。』

 

深雪に達也の話題はご法度だが、今回は特別だ

 

深雪『ほのかったら、まさかあんな男の味方をするわけ?』

 

まるで、敵として見なすというような口振にほのかもたじろぐ

 

達也も大事だが、深雪も友達でいたい

 

 

ほのか『ち、違うの。ただ、今回は…その…』

 

雫『私もほのかと同意見。…守夢さんは、私達を守ってくれた。仮に、深雪や十文字会頭が止められたとしても、今回の結果は守夢さんが止めてくれた。深雪は恩を仇で返すの?』

 

ほのかが弁解しようにも深雪の雰囲気が言わせない

 

語尾が萎んでいくほのかを援護する形で深雪と真っ向から達也のフォローをする

 

深雪『…そういう訳ではないわ。懇親会とはいえ、九校戦は始まっているのよ?意識の問題を言っているの。』

 

と言い残して去っていく

 

その背中を見送るほのかと雫

 

ほのか『ありがとね、雫。』

 

雫『ううん、これくらい。ほのかの一言が勇気をくれた。』

 

ほのか『そうかな?…それにしても、なんで深雪は達也さんをあんなに嫌っているのかな?』

 

ほのかが深雪に言ってくれて良かったと思っている雫

 

もし、自分がほのかより先に言っていたなら確実に喧嘩に発展していただろうから

 

互いにお礼を言い、先程の会話に疑問を抱く

 

雫『さあ?』

 

はっきり言って、理由が見当たらない

 

二科生であることと模擬戦の敗北しかない

 

それを理由に嫌うなど器が小さいとしか言い様がない

 

が、深雪に限ってはそれは無いと信じたいところだ

 

 

 

 

ーーーーーー

 

ところ変わって、ある高校の生徒達が注目を集めていた

 

??『どうしたの?将輝、何かあったのかい?』

 

将輝『あぁ、ジョージ。何でもない。』

 

一条 将輝と共にいる、彼の顔半分位低い身長の少年が声を掛ける

 

見た目は色白で病弱のような容姿だが、体躯は高校生のそれだ

 

ジョージと呼ばれるこの少年の名前は「吉祥寺 真紅郎」別に外国の血を引いている訳でもない

 

生粋(日本人は縄文時代辺りを言うため現在は混血のため定義は曖昧だが)の日本人である

 

吉祥寺『そうかな?将輝の顔が赤いから誰かに見惚れていたのかと思っていたんだけど?』

 

将輝『うっ、鋭いな。一高の彼女を見ていた。』

 

吉祥寺『?彼女?…あぁ、黒髪のね。彼女は司波 深雪 出場種目はピラーズ・ブレイクとミラージ・バット(フェアリー・ダンス)だよ。一高の一年生のエースだよ。』

 

将輝『司波 深雪…。』

 

口に出して記憶するかのような感じだが

 

直接、会話すれば良いのではないかと思わないでもない

 

ーーヘタレなのか

 

三高生徒『一条が見惚れるなんて珍しい。たしかに、すげぇ美少女だよな。』

 

普段、彼は周囲の女性から注目の的であるのだ

 

一条という家柄で甘いマスクに、世の女性達は魅了されまくりなのだが、今回は逆のようだ

 

 

 

一方、

 

??『全く、お気楽なものね。懇親会といえ、もう九校戦は始まっているというのに』

 

どこぞの誰かと似たような内容の人物

 

彼女の名前は「一色 愛梨(いっしき あいり)」師補十八家の一つ

一色家の娘である

 

容姿は申し分無く美少女の分類に入る

髪は綺麗なブロンドのロングで、キリッとした目元も特徴の一つだろう

 

何故、魔法師はこれほどまでに容姿が見目麗しいのか魔法以外の要素があるのではないかと疑問に思うほどである

 

??『なんじゃ?一色は戦いが好きと見えるのぉ。』

 

彼女は「四十九院 沓子(つくしいん とうこ)」百家の一つだ

口調からなんとくなるわかるかもしれないが、少し爺k…老成した喋り方(あまり変わってない?)だが

 

人懐っこそうな元気な少女

 

 

??『私も愛梨と同意見よ。もうすでに九校戦は始まっているわ。沓子はもう少し真面目にしたら?』

 

少々容赦ない口調の彼女もまた、百家の一つの

「十七夜 栞(かのう しおり)」という

 

容姿は愛梨には少し劣るものの可愛いではなく、美人という表現が適当だろうか

物静かな雰囲気の少女だ

 

 

沓子『そうかのう?まあ、わしはやるときはやるから心配は無用じゃ。』

 

ニヤッと笑い返す

 

毒舌にも気にしないというか芯の強い少女である

 

伊達に九校戦の選手として選ばれていない

 

 

栞『まあ、私達の目的は三高を優勝に導くこと。それは忘れてないわね?』

 

沓子『勿論じゃ。わしたちで優勝に導くぞ!』

 

 

あくまで意思確認といった風の問い掛けに

 

言われるまでもないという返しに相当の覚悟が窺える

 

愛梨『気合いも入ったところで、一条君達が騒がしいから様子を見に行きましょう。』

 

先ほどから将輝達が騒がしい

 

詳しくは聞き取れないが、絶世だとか、美少女とかが微かに聞き取れる

 

沓子『そうじゃのう、一条親衛隊も騒がしいから気になっておったのじゃ。』

 

一条が見惚れる高校生なんて親衛隊が黙っていない

 

その状況に何もしないのは異常である

 

しかし何故、何もしないのかはすぐにわかることになる

 

 

愛梨『!?(ゾクッ)(何なの?この美しさは。これほどまでに整った容姿は初めてみたわ。)』

 

深雪の容姿を目の当たりにした者は基本的には愛梨のようにソレに呑まれる

 

栞『…凄いわね。親衛隊が逃げたのも頷けるわね。』

 

沓子『うむ、三高も十分名家が多いから見慣れていると自負しておったが…』

 

沓子の言う名家が多いから見慣れるとは

先にも言ったが、魔法師は基本的に容姿はそれなりに整っている

 

そして、魔法力がある魔法師はそれ以上に容姿端麗なのだ

 

特に十師族や百家の魔法師はそうなのだ

 

しかし、何故そうなのかは判っていない

 

愛梨『…さぞかし、素晴らしい家柄とお見受けするわ。私は一色 愛梨と申します。隣にいるのはー』

 

彼女を睨んでいた訳ではないが、凝視していたことには変わりはない

それは非礼にあたるので、まず自分から自己紹介をする

 

栞『十七夜 栞です。』

 

踏子『四十九院 沓子じゃ。』

 

深雪『第一高校一年の司波 深雪と申します。』

 

深雪も彼女達を責める事もなく、淡々と名乗り返す

 

尤も、深雪にとっては相手がどんな人物なのかという意識はない

 

 

深雪『(あの人に逢えるように精進するのみ、もしかしたら逢えるかもしれない。)』

 

自分が出来る限りをするだけなのだ

 

 

愛梨『(しば?…そんな家名はあったかしら?)そうですか、どうやら私の勘違いでしたわ。お互い頑張りましょう。』

 

愛梨は司波家という名前を反芻し、該当を探していた

 

だが、そんな名家は存在せず

 

自分の勘違いかと納得し、当り障りのない言葉で彼女をあしらった

 

 

 

 

水尾『いやー、九校戦懇親会恒例の鞘当てをやってるねー。』

 

三高3年『そうね。まあ、私達は一高が凄まじすぎて近づけなかったけどね。』

 

愛梨達が一高の生徒と話しているのを遠くから見物している人物

 

第三高校 生徒会長 水尾 佐保(みずお さほ)である

 

水尾『(一色、どんどん経験をしていきなさい。それが貴女を成長に導いてくれるから。)』

 

後輩達を見守る姿はどこか親のようなだった

 

 

 

 

 

そして

 

当の主人公はというとーーー

 

達也『(懇親会というだけあって、そこまで雰囲気は殺伐とはしていないな。)』

 

着替えたがなるべく見つからないようにして(気配は消していない)料理に舌鼓を打っていた

 

 

エリカ『あ、達也君。漸く見つけた。』

 

達也『エリカ…なるほど、アルバイトか。それにほのかと雫まで来たのか。どうした?』

 

この場にエリカが居るのが不思議だったが、服装を見るとウェイトレス姿のため、この懇親会のアルバイトの人手としていることがわかる

 

それにあの千葉家は警察や軍関連に門下生を輩出している

 

その事を踏まえると、ここは軍の施設だが容易に入り込めることが予想出来た

 

そして、ほのかと雫を連れて来たのは謎である

 

 

雫『どうしたもない。着替えに戻るだけなのに、遅いから何かあったのかなと思ってたら、一人で黙々と料理を食べてる達也さんに怒ってるの。』

 

達也が着替えに戻って三十分以上経過している

 

宿舎に着替えに戻るだけなら十分程度で足りるのに、会場に入って姿を見なかったのは、こういうことか

 

探そうにもこの会場は広い

何せ九校戦に参加する各校の生徒数が約五十~六十人でそれが九校あるためそれの九倍だ

 

そういった計算から数百名の人間が入れる広さなのだから、達也一人を見つけることは困難なのである

 

しかし、エリカは広い会場を給仕として動き回っているため達也の姿を見留めることも可能なのだ

 

達也『それはすまなかったな。二人とも他校と話し込んでいたから邪魔をするのは忍びないと思ってな。』

 

もしかしたらーー

 

ほのか『違います。私達が怒っているのは私達もお腹空いているのに、先に食べていることです!』

 

とんだ八つ当たりである

 

達也が会場に来てから約一時間経過しているわけで

 

その間に食べようと思えばいくらでも食事が出来たのだ

 

雫『というわけで食べさせて。』

 

あーん、と口を大きく開けて待っている雫とほのか

 

謂わんとしているのは皿に料理を取ってくるのではなく、達也が彼女達に食べさせること

 

まるで親鳥が餌を雛鳥に食べさせる図だ

 

エリカ『いいなぁ、私も食べさせて貰おうかしら?』

 

二人に倣って達也におねだりを敢行するエリカ

 

達也『おいおい、エリカは給仕なんだから。二人とも、そんなことを請われてもするつもりはないよ。』

 

二人を諌めつつ、エリカにも仕事(アルバイト)を持ち出し難を逃れる

 

エリカ『ちぇ、つまんないの。』

 

ーーーーー

 

懇親会も中盤を過ぎ、来賓の挨拶にプログラムが移る

 

長々と話す者もいれば、あっさりと終わる来賓もおり、それに真剣(形だけ)に聞き入る生徒達

 

来賓の挨拶が残り二名となり、少し気の抜けた表情になる高校生

 

その姿を見て、達也はやはり高校生かと思った

 

何処でもそうだが、気の緩みは命とりになる

 

比較的平和な国だから良いが、常に争いのある国では表情を崩しても気を抜くことはない

 

そういう意味では、ずっと気を張り続けていることになる

 

それを高校生に求めるのは酷であるため、仕方ないといった表情に留めた

 

 

が、次の司会者の言葉に自身にブーメランが返ってくるとは夢にも思わなかった

 

 

 

 

司会『続きまして、予てより参加のお願いをしていた努力がついに報われることになりました。CADメーカーのエリシオン社 社長である 森城 昌浩様より激励の言葉を賜りたいと思います。』

 

 

達也『………は?』

 

数拍分の間を置いて出てきた言葉は一文字とクエスチョンマークのみ

 

今の達也を表すなら、【マヌケ】この言葉が最適だろう

 

そんな達也の状態などより司会者の言葉に高校生達は興奮状態だ

 

それはそうだろう

 

エリシオン社と言えば、最古のCADメーカーであり、値段はそれなりに高価だが、購入者からのリピート率は100%

 

謎の天才魔工師

トーラス・シルバーも在籍している会社

 

そして、待遇面も充実している←実はここが高校生に人気だったり

 

 

昌浩(以降浩也)『ご紹介にあずかりました。エリシオン社 の森城 昌浩と申します。…実を言いますと、あまりですね、その、スピーチは得意ではありません。九校戦の役員の方々に根負けして挨拶に立つことになりました。…あの、上手く話せてますかね?』

 

ネガティブ発言に会場が笑いに包まれ、空気が弛緩するのを確認する

 

無理もない

 

エリシオン社の社長が出てくるとなると、敏腕の人物を想像する

 

それがどうだ、目の前に登壇している人物は少しオドオドしている風にすら見受けられる

 

浩也『とりあえずですね、皆さんにお伝えしたいことは一つです。全身全霊で楽しんで下さい。』

 

こう話す浩也だが、この会場で達也だけがこれが演技であると判っている

 

強張った体はパフォーマンスを下げる

 

確かに緊張感は大事だが、それは別の問題だ

 

 

 

しかし、浩也の言葉がこれで終わるとは思っていなかった

 

 

浩也『短いですが、これで私の言葉とさせ…あ、忘れてました。』

 

全員(達也以外)『?』

 

浩也の言葉がこれで終わると思っていたため最後の来賓の挨拶に意識が向いていた

 

それを狙っていたのだろう

 

策士である

 

 

浩也『選手とエンジニアの方々に心にとどめ置いて欲しいことがあります。私は毎年、九校戦を観戦しており、良い成績に関わらず私達の目に留まった方をスカウトしています。本番だけでなく、この宿舎にいる間も見ていますので、エリシオン社に入社を希望される皆さん。くれぐれも気を抜かないように。それでは、失礼いたします。』

 

 

 

現在の会場の様子を表すなら【嵐】だろう

 

それも特大の

 

浩也の激励の言葉は会場を混乱の渦に巻き込んだ

 

会場にいる全員が茫然としている

 

 

達也『(やられた、まさかここに来賓として出席しているとは。…しかも、最後には俺を見て笑っていたということは…。)』

 

ブランシュの件だろう

 

あのとき、説教だと言われていたから数日間身構えていたが、何も無かったのだ

 

凛が浩也を治めてくれたと思っていたのだが、それが今になってやってくるとは

 

しかも、浩也が懇親会に出席するのはおかしくないのだ

 

達也自身が九校戦のエンジニアになった時点で視野に入れておくべきだったのだ

 

達也『狐につままれた気分だ。』

 

達也は天を仰いだ

 

 

司会者『え、えーと。森城 昌浩様、ありがとうございました。続きまして、九島 烈様より激励のお言葉を賜りたいと思います。』

 

九島 烈

 

日本の魔法師の間で敬意を以て「老師」と呼ばれる

 

十師族という序列を確立した人物であり、約20年前までは世界最強の魔法師の一人と目されていた人物

 

当時は「最高にして最巧」と謳われ、「トリック・スター」の異名を持っていた

 

第一線を退いて以来、ほとんど人前にでることはないが、全国魔法科高校親善魔法競技大会にだけは毎年顔を出すことで知られている

 

達也『(さて、九島も俺を探しているらしいが、それが九島家だけなのか。それとも、九島 烈もなのか見極めさせて貰おう。)』

 

九島家が達也を探しているということは知っている

 

それが、九島 烈もならばそれ相応の対応をするまで

 

 

全員が見守る中それは起きた

 

 

パッと壇上のスポットライトが点灯した瞬間

 

現れたのはパーティードレスに身を包んだブロンドの髪の長い妙齢の女性

 

九島 烈とは外見が違うと思われる、何故なら齢九十歳近いはずだからだ

 

しかし、その思い込みは良くはないため気配を探るのは欠かさない

 

 

達也『(…なるほどな、これは手品の要領だな。スポットライトが当たっているモノに注意を引き付ける。そういう類いでの大規模な魔法を発動させたのか。凄いな、俺はそこまでの魔法力は無い。)』

 

そして、当の本人は後ろに控えているわけである

 

達也『(それにしても、ここにいる人間達の危機察知の無さには呆れる。さて、どうやって気付かせるか。…しかし、あまり情報を与えるのは良くないが、俺を探している理由とそれを主導している人物がどちらなのかは知っておく必要はあるな。)』

 

会場のほぼ全員を騙す九島 烈の腕を認めるが、達也からすれば小賢しく感じる

 

達也『(老害に気配を悟られるのは癪だからな。)』

 

普段から達也は無意識に気配を消している

 

それは忍びの師である八雲の教えでもあった、忍びたる者、忍ぶのが務めだと

 

しかし、家の中ではスイッチが切り替わる

というよりも気配を断っても見つかるのだ

※特に双子の義妹によって

 

神夢家恐るべし

 

 

 

しかしながら、高校に入学してからは意識して気配を断たないようにしている

 

そうだろう、気配が無いのに授業を受けている生徒がいるなど恐怖だろう

 

幽霊が隣で勉強しているようなものである

 

しかし、これは逆に集中力を必要とするため達也にとってはある意味、修行と言える

 

そういう経緯もあるが、現在達也はいつも通りに気配を消している

 

達也『(手品に近いなら、意識を逸らすだけで見破れるはず。)』

 

達也はこの会場に用は無くなったため退出と同時に魔法の解除を実行する

 

方法は扉の音

 

ギィィィ、バタン

 

重厚な扉が普通は音をたてないはずが達也の怪力によってフロアヒンジが嫌な音をたてる

 

それをきっかけに声が上がりだす

 

 

高校生『女性の後ろに誰かいるぞ。』

 

高校生『本当だ、あの人が老師?』

 

次々と会場から声が上がる

 

かの老人は前にいた女性に声をかけ、女性は舞台裾に退く

 

そして、スポットライトが九島 烈を照らす

 

 

九島 烈『(…ほう、私の魔法にイチ早く気付き尚且つ、魔法を使わず周囲の人間にそれを知らせるとは。どういう人物かも不明だが、可能性としては高校生か。恐ろしいな。…もしかしすると…。)まずは、悪ふざけに付き合わせてしまったことを謝罪しよう。今のは、魔法というより手品に近い。』

 

自分の魔法を見破り、それを音という形で皆に判らせた手腕に感嘆する

 

しかも、自分に気配を悟られずに実行するほどの人物など自分が会った過去の人物には居なかった

 

 

九島 烈『私の見たところ、この会場で私の魔法を見破れたのは4人だけだった。』

 

高校生達『?』

 

九島 烈の言うことが理解出来ないといった表情をする

 

見破れたから何だと言うのだろうか

 

だが、この人物が言うのなら何か意味があるのかもしれないと、耳を傾けるが不信感を抱く

 

九島 烈『何が言いたいのかというと。もし、私がテロリストで鏖殺(皆殺し)や毒殺を目論んでいたとき、それを阻むべく行動出来たのは4人だけだったということだ。他の諸君は私が魔法を解除してから気付いたということは…言わずともどういうことか分かるだろう。』

 

会場全員『!?』

 

殺されていたという言葉に衝撃を受ける

 

世界からも一目置かれる人物がこのような行動をし、あまつさえ、自分がテロリストだったらなどと発言したからそれは、驚嘆や尊敬、そして、畏怖すら抱いた可能性すらある

 

だが、それを差し置いても彼の言葉には説得力はあった

 

それが今でも現役というに相応しい魔法力を備えていたからで

 

だから、老師と呼ばれるのかもしれない

 

 

九島 烈『魔法を学ぶ若人諸君よ。魔法は絶対的な力でも、目的でもない。魔法とは道具であり、手段の一つだ。私が今用いた魔法は規模こそ大きいものの、強度は極めて低い。

だが、君達はその弱い魔法に惑わされ、私がこの場に現れると分かっていたにも拘わらず、私を認識出来なかった。

魔法を磨くことは大切だが、これから言うことを肝に銘じて欲しい。

使い方を誤った大魔法は使い方を工夫した小魔法に劣るのだ。

私は諸君らの工夫を期待している。』

 

魔法は道具

 

一高の生徒達はこの言葉にバス内での達也を思い出した

 

彼も同じ言葉を使っていたからだ

 

ということはーー

 

彼らの中で九島 烈という日本の魔法界の頂点の言うことが正しいと思うなら、達也の言葉もまた正しいということになる

 

それを認めたくない一高生は渋い表情になった

 

 

 

ーーーーーーーー

 

扉の向こうで声を確認すると、部屋へと戻る達也

 

道すがらふと歩みを止める

 

達也『…義父さん、あれは卑怯です。』

 

達也の後方の角から浩也が現れる

 

そこには、悪戯が成功したようなの表情の浩也がいた

 

浩也『今回は俺の勝ちだな。あとで、部屋に来るか?』

 

達也はこの時期は修行や軍関係で居ないため初めての旅先での家族団欒である

 

浩也は達也を部屋に来るよう誘う

 

達也『いえ、睡眠を摂っていなかった所為で自分らしからぬミスをおかしましたので。もう眠ろうかと。』

 

しかし、達也は今日のことで反省と休息を含めて眠ろうと思案していた

 

浩也『それなら、尚のこと、部屋に来なさい。』

 

達也『?…なるほど。そういうことですか。お言葉に甘えます。』

 

達也の言葉に浩也は合点といった表情と最良の提案をする

 

達也は浩也の提案に疑問を浮かべるも、すぐにどういう意味なのかを理解する

 

浩也『あぁ。そういうことだ。』

 

達也『仕度が終わり次第伺います。それで、義父さんの部屋はどちらに?』

 

浩也『このホテルのーーー』

 

今更であるが、

浩也の言った部屋とは浩也達の部屋ではない

 

軍に所属している関係での達也の部屋だ

 

達也も人間であるため気を抜ける場所は必要だ

それはただ、体を休めるだけではなく、精神的にも休めることが出来るのは、プライバシーが守られた場所

 

九校戦で割り当てられた部屋ではいつ何時誰が来るかもしれない部屋では意味がない

 

そのため、諸事情により達也に部屋が軍から割り当てられている

 

 

とりあえず、制服から部屋着に替えるために一度部屋に戻る達也

 

その後で、その部屋の詳細と家族に会いにいくために

 

 

 

 




如何でしたか?

①深雪さんはこのサイオンの嵐でも出来ると思いますが、なにぶん、経験値が足りてませんので
②魔法式の破壊は達也君の十八番です
③達也君は身一つでどこまで破壊出来るのか?※それは作者次第(笑)
④懇親会では、敢えて二科生ということを見せました
⑤というより、仮眠する達也君はどうなんでしょうか?
⑥来賓にオリジナルキャラ混ぜました
⑦九島烈の演出を台無しにする達也君、愉快ですね


とまあ、これからもワケわからん投稿していきますが、生暖かい目で見ていただければ幸いです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

今回は九校戦のスケジュールを改変して物語を進めたいと思います。
スピードシューティング(本戦・新人戦)
バトルボード(本選・新人戦)
以下省力
各種目で本選→新人戦の流れにします。
物語作成の都合上…


五十里『…もうこんな時間か、守夢君は終わりそうかい?』

 

五十里 啓

百家の一つ 五十里家の嫡子で千代田 花音とは許嫁の間柄である

 

中性的な容姿で女性の服を着せると見紛うほどの柔和な顔立ちと雰囲気をもつ男子生徒

 

現在、達也達はCADの調整でエンジニアは今日に追い込みをしている

 

達也『はい、一応、予選の分は終わっています。』

 

時刻は23時を過ぎたところ、あと半日も経たない時間で九校戦が始まる

 

エンジニアは最終調整に追われるのが九校戦の醍醐味の一つといえる

 

五十里『速いね。なら、キリのいいところで終わらせて明日のために備えて寝ておくことをお奨めするよ。僕はまだやることがあるからもう少ししてから体を休めるからあがって構わないよ。』

 

エンジニアも体力勝負だ

体調不良でCADの調整が出来ないでは困るのだ

 

そのため、休めるときに休む

 

これもエンジニアとしての努めだ

 

達也『わかりました。では、お先に失礼します。』

 

作業車から降りると、夏特有の湿気を含んだ風が頬を撫でる

 

明日も暑い日になりそうだと考えていると

 

妙な緊張感が達也の感覚を揺さぶる

 

達也『?』

 

その気配のする方に足を向け、その歩は次第に走りに変わっていく

 

その気配は息を殺し、動きに無駄が少ない

訓練された人間の動きだ

 

その一方で、別の気配は戸惑いがあり、体が強張っているようだ

 

その様子から複数の何処かの構成員(以降賊と称する)とそれを知覚した素人に見受けられた

 

しかし、それだけでは情報としては不十分

瞬時に精霊の目(エレメンタル・サイト)で確認すると、賊三人と単独の追撃者、吉田 幹比古の姿があった

 

すぐさま、現場に駆け出す達也

 

 

幹比古は賊に攻撃を仕掛ける

 

幹比古の攻撃は精霊魔法つまり、視覚的には見えないが攻撃方法が問題なのだ

 

幹比古の放った三枚の札のようなものが敵の上空で雷光を纏う

 

しかしそれよりも先に、賊の持つ拳銃が幹比古を狙う

 

間に合わないと達也は悟る

 

手元にCAD等は無いが問題はない

アレは補助のみであるため対処は出来る

 

そして、右手を広げ前に突き出す形をとる

 

照準は賊の拳銃

 

他にも小型の爆弾を隠し持っているようだが、それよりも対処すべきは拳銃だろう

 

賊が引き金を引く前に【分解】をする

 

賊『!?』

 

持っていた拳銃が文字通りバラバラになり、賊達の行動が止まる

 

そして、その瞬間に幹比古の放った雷撃が賊を行動不能にする

 

討った賊に近づき、周囲を警戒する幹比古

 

幹比古『誰だ!?』

 

誰が自分を援護したのか判らない、助かったと思うものの今の自分の心境では、それさえも受け入れがたい

 

ー本来、お前が立っているはずだった場所を見て来いー

 

身内に言われたこの言葉にどれだけ自分を打ちのめしたか

 

泣きたくなる衝動を抑え込む

 

 

達也『俺だよ、幹比古。』

 

闇の中から声がして、達也が幹比古の前に姿を現す

 

幹比古『た、達也?君が援護をしてくれたのかい?』

 

達也『形上はね。それにしても…良い腕だ。一撃で仕留めている。』

 

降参のように両手を上に挙げながら姿を幹比古に見せた達也

 

賊に近寄り、脈を測る

 

心拍は止まっていないが、気絶しているということはそれだけ幹比古の腕が良かったに他ならない

 

幹比古『達也のおかげだよ。僕一人では無理だったよ。』

 

達也『…(面倒な展開になってきたな)』

 

なにやら、ネガティブな幹比古の言葉に達也は何も言わず聴くに徹する…間違えた、聴き流すである

 

幹比古はそのまま続ける

 

幹比古『そもそも、賊を見つけたのだってたまたまだよ。散歩をしていたら見つけただけだし…。ーーー』

 

散歩は方便だろう、大方この辺りで精霊魔法の練習をしていたのだろう

 

しかし、尚もネガティブ発言をする幹比古に聴き飽きてきた達也

 

 

達也『…吉田 幹比古。』

 

地を這うような声音が幹比古を現実に引き戻す

 

幹比古『な、何?達也…?』

 

目は口ほどにモノを言うと表現させるが、達也の目はなんというか、恐い

 

聴き飽きたやネガティブ発言は止めろではなく

 

黙れ

 

と聴こえてきそうな目であった

 

達也『…お前、面倒な性格だったんだな。』←いや、お前の方がめんどくさいよ

 

幹比古『な、こっちは本気で悩んでるんだ。それをそんな…』

 

達也『少し、黙れ。』

 

達也の言葉にショックを受ける幹比古

 

自身にとって真剣な悩みに対して軽く一蹴されたのだ、少なからずショックだろう

 

幹比古『っ!……。』

 

睨みに負けた幹比古は項垂れ、沈黙する

 

達也『お前の悩みは贅沢というものだ。大方、今回の事を一人で対処出来ればとか考えていたんじゃないのか?』

 

幹比古『うっ…』

 

図星を突かれ、何も言えなくなる

 

達也『一人で何でも解決するなんて、何を目的としている?そんなものは誰だって不可能だ。』

 

何かあったときにすぐに駆けつけ解決する万能な存在などこの世にありはしない

 

かつて、そう願った状況が達也の脳裏を掠める

 

達也『それぞれが役目を果たして賊を討った、これだけの事実以外に何がある?』

 

幹比古『達也に解るわけない。そして、解決なんて夢のまた夢だよ。』

 

達也の言葉に理解はしつつも納得した表情を見せない

 

さらに、ひねくれる幹比古

まるで、駄々を捏ねる子供のようである

 

そんな幹比古にこれも何かの縁かと、思い直す

正直、クラスメイトだが赤の他人だ

そこまで助けるつもりは無いが、義父達なら何かの縁だから出来るだけ力になるというだろう

 

そう考えて自分を納得させる

 

達也『…まあ、何とかなるだろうな。』

 

幹比古『え?』

 

達也の言葉に幹比古は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をする

 

達也『お前が悩んでいるのは、魔法の発動速度。俺の眼からしても魔法に違和感は無い。残る問題は、その吉田家が改良した術式にある。』

 

幹比古『そんな、あの術式は改良に改良を重ねて引き継いできたものだ。それを悪いの一言で済ませるなんて。』

 

達也に自分が問題としている術の発動速度を見抜かれる

 

そして、その原因が自分の家にあると指摘されれば怒るか悲しくなったりもする

しかもそれを高校からのクラスメイトから躊躇いもなく言われるとは

 

達也『誰も悪いとは言ってないぞ?現在のお前と術式が合っていないと言っているだけだ。前にも言ったが、俺の眼は特殊で見たら全て解ってしまう。』

 

幹比古がおかしな勘違いをしているため補足をいれる

 

幹比古『え?どういうこと?』

 

達也『そうだな、ヒントをやろう。古式魔法の特性はなんだ?現代魔法との違いを考えろ。それが解れば俺の言いたいことが解るはずだ。…さて、そろそろこいつらをどう処理するか考えないといけないから警備の人間を呼んできてくれないか?』

 

ここで見張っているからと達也

 

二人でこの場に居ても解決への方向には向かわない

 

達也がこの場に居た方がもし賊が目覚めた場合押さえられる

 

ならば、達也が適任だろう

 

幹比古『え、あぁ。』

 

達也に促され、跳躍の魔法で現場を離れる

 

ある程度離れたのを確認し、暗闇の中に声をかける

 

達也『この対処は高校生ではなく、軍の仕事では?』

 

達也の声に反応して暗闇から

 

風間『いや、なに。達也の珍しい場面に遭遇して感慨深くてな。それに特尉は軍人だろう?』

 

目頭を押さえる仕草をする

 

それに対して達也は眉を動かすに留める

 

達也『軍人ですが、ここへは高校生として来ていますので。こいつらの処理はおまかせしても?』

 

こんなところにまで来て警察紛いな行為をするとは思わなかった

 

というよりも軍の施設なのにこうも易々と侵入されるとは警備はどうなっているのやら

 

と言っても、九校戦のために貸し切っているため軍が出張る必要もないために警備も最小限なのだろうが

 

 

風間『あぁ、承知した。気をつけろよ?』

 

風間に事後処理を依頼し現場を後にする

 

途中で幹比古に連絡をすることも忘れず

 

 

 

ーーーーーー

 

 

全国魔法科高校親善魔法競技大会

通称、九校戦が幕を開ける

 

高校生の大会であり、プロが行うわけでもないのに関わらず来場者数は延べ十万人にのぼる

 

一日平均約一万人がこの辺鄙といえる交通の便が悪い場所に態々足を運んで観に来る

 

現代でいう、高校野球だろうか

 

 

開会式が滞りなく進み、終了すると同時に九校戦の競技に入る

 

余談だが、昨晩の出来事は秘されている

高校生がそんなテロ組織がこの会場にいると知れたら、試合処ではない

パニックになるのは目に見えている

 

そういう観点から当事者の幹比古(達也は例外)には他言無用になっている

 

 

 

 

九校戦 初日

 

初日の競技はスピードシューティング本選と新人戦の予選・決勝

 

 

第一種目はスピードシューティング

 

三十メートル先の空中に射出されるクレーを魔法で破壊する

 

制限時間内に破壊したクレーの数を競う

 

いかに素早くクレーを把握し、破壊するかが重要になってくる

 

予選はスコア型で五分以内にどれだけクレーを破壊できるかで予選通過が決まる

 

上位八名が決勝トーナメントに進む

準々決勝から対戦型となり、紅白の百個クレーが用意される

決められた色のクレーを多く破壊出来れば勝ちとなる

 

 

今日の達也が担当する一高の選手は本選では七草 真由美、新人戦では北山 雫と明智 英美だ

 

先に行われるのは本選の予選のため、真由美のCADの最終調整を行っている

 

 

真由美『…凄いわね。私自身、それなりに調整技術はあるつもりなんだけど。家の専属よりも良いかも。』

 

達也からCADを受け取り、

 

達也『それは光栄です。会長の組み上げた魔法式は効率的なので、私がエンジニアとしてお役に立てることなどありません。』

 

真由美『…謙遜ね。(相変わらず、私達には畏まった口調だし。親しくなるなんて難しいわね、何かきっかけがあれば…!)そうだ、守夢君。』

 

真由美は達也の自分達に対する接し方が堅苦しいのが気になっていた

 

聞けば、同級生となら砕けた喋りをしているとか

 

なんとか、達也との距離を縮めたいと真由美は考えていた

 

達也『はい、なんでしょうか?』

 

何故か、ニコニコと笑顔を見せる真由美

 

達也には嫌な予感しかしないため、距離をおく

 

真由美『私、九校戦の選手じゃない?』

 

達也『そうですね。』

 

真由美『しかも、二種目の選手じゃない?』

 

達也『エンジニアとして、CADの調整はしっかりとしますので、体調管理は万全にお願いします。』

 

真由美『そうじゃなくて!…その、ね?競技種目で優勝したら、ご褒美が欲しいんだけど。』

 

達也の素っ気ない対応に業を煮やした真由美

 

達也に言わせようとしたが、そう上手く運ばず

 

結局、恥ずかしがりながら達也におねだりをする

 

達也『…どういうことでしょうか?』

 

ご褒美が欲しい

 

まさか年上からこんな言葉を聴くとは

 

青天の霹靂とはこのことか

 

真由美『だ、だから、優勝したらお願いを聞いてほしいなと思ってね?』

 

達也のいつも通りの雰囲気にたじたじの真由美

 

しっかり願いを聞き届けて貰えるようにハッキリと言葉に出す

 

達也『…(何を寝惚けたことを言うのだろうか。こちらは嫌々参加させられているのに、向こうはご褒美が欲しいとかふざけているな。こちらが報酬が欲しいところだな。)…無理な注文はご遠慮願いますので。』

 

内心では、達也らしからぬ荒れ模様

 

だが、参加を決めたのは達也自身

それを否定するということは自分で矛盾を体現することにもなる

 

言ったことは必ず責任を持つ

これが社会人(←いえ、高校生です)として当たり前のこと

 

しかし、お願いの度合いもあるため釘は刺しておく

 

真由美『え?本当?(パアッ)』

 

ーが、それが相手に伝わればの話

 

案の定、ご褒美が聞き届けられたことに感動して達也の言葉の内容を一切理解していない

 

達也『えぇ。ですからmー』

 

真由美『必ず優勝するからね!』

 

達也から無理な注文はご遠慮願いますと念押しする間もなく

 

言うや否や颯爽と競技会場へ走っていく真由美

 

ポツンと

 

控え室に残された達也は安易に応えたことの後悔の念に苛まれた

 

 

 

 

観覧席では、ほのかや雫、深雪の他にエリカ達も真由美の競技を観るために来ていた

 

特に雫はこの種目の選手のため真由美から何か学ぼうと来ている

 

ほのか『雫、体調はどう?』

 

雫『ん、大丈夫。万全。ほのかも明日、バトルボードの試合なんだから。気遣ってくれるのは嬉しいけど、ほのかも万全にね。』

 

ほのかの気遣いに感謝するも明日はほのかの試合のため雫もほのかを気遣う

 

ほのか『うっ。それはそうなんだけど、こういう雰囲気に馴れないというか…。』

 

とはいえ、ほのかにとって緊張は軽い問題でもない

 

雫のように家が大富豪でパーティーで大勢の前に立つという経験もない

 

性格的にこういった場に苦手意識があるのだろう

 

深雪『大丈夫よ、ほのか。少しずつ馴れればいいから。誰だって緊張はするものよ。』

 

若干、涙目になっているためもう一人、説得材料を与えてくれる人が欲しい

 

それを勝手出てくれたのは深雪で、諭すように語りかける

 

ほのか『あ、ありがとう、深雪。』

 

雫と深雪のタッグでほのかをなんとか浮上させることに成功する

 

そうこうしているうちに競技選手の真由美が入場する

 

先程説明した通り、予選はスコア型のため一人で行う

 

入場してきたのは真由美一人のみ

 

このスピードシューティングでの真由美には異名があり、

 

エルフィン・スナイパーと愛称のような形で呼ばれている

 

本人は嫌っているがー

 

 

 

第一レンジに立ち、単発小銃のように細長いCADを構え開始の合図を待つ真由美

 

触れれば、引き裂かれそうな雰囲気に会場は息を呑む

 

 

開始のシグナルと共にクレーが空中に射出される

 

その数瞬後、クレーはものの見事に破壊される

 

ドライアイスによる亜音速弾

 

エリカ『…速い。』

 

何がとは言わない

 

判る者には判る

 

クレーが射出されてそこから把握するまでの時間が短いいや、短すぎる

 

 

 

控え室でモニター越しに競技を観戦している達也

 

達也『流石はマルチスコープを使いこなすだけはあるな。』

 

【マルチスコープ】遠隔視系知覚魔法

実体物をマルチアングルで知覚する

視覚的多元レーダーともいえる

 

達也は真由美が校内をこの魔法を使って見ていたのを知っていた

全校集会のときもこれを使っていたのも

でなければ、ブランシュ襲撃にいち早く察知出来なかっただろう

 

しかし、驚くべきはその視覚から得た情報を処理出来るだけの頭脳だろう

 

 

終了のブザーと共に歓声があがる

 

パーフェクトを達成した真由美

 

当然か、一発も外さずクレーを百個破壊したのだから

まさしく、百発百中

 

 

 

深雪『凄いわね。おそらくだけど、七草会長は一発も外さず全て破壊したと思うわ。』

 

結果はパーフェクトなのだが、深雪もそれを確信できる自信がない

 

この場に達也が居たならば、もしかしたら実況解説してくれたかもしれないが

 

達也と深雪は水と油のため同席するかどうか怪しい

 

ほのか『そうなの?』

 

雫『判らなかった。ドライアイスの亜音速弾でミスはしてなかったとしか。』

 

スピードシューティングの要素としては、クレーを早く見つけることも大切なため雫も集中してクレーを把握しようとしたが、中々上手くはいかず

 

数個把握が遅れた

 

エリカ『流石は、首席なだけあるわね。』

 

深雪の分析に素直に称賛をするエリカだが、深雪にとっては二科生から称賛の言葉をもらっも嬉しくはない

 

深雪『おだてても何も出ないわよ?貴女も魔法力が足りない分は他で補うことね。』

 

こちらは憎まれ口をたたき、エリカを牽制する

 

エリカ『当然でしょ。司波さんも足下を掬われないようにね。』

 

場外バトルに発展しそうな雰囲気の二人に周りは肝を冷やす

 

水波『深雪さん、七草会長の次の競技には時間がありますので小し休憩しませんか?』

 

深雪『…そうね、ありがとう。水波ちゃん。』

 

天の助けか三つ編みをしたショートカットの女の子が深雪とエリカに割って入る

 

それのおかげで事なきを得る

 

次の競技までには戻ると言い残し、深雪と水波は席を外す

 

エリカ『ずっと、思ってたんだけど。あの子、誰?』

 

二人が屋内に入ったのを見計らって、エリカはほのか達に彼女のことを聞く

 

雫『詳しいことは私も知らない。名前は桜井 水波。深雪の親戚で1-Aの生徒だよ。九校戦に出ては無いけど、魔法力は結構あるよ。』

 

エリカ『ふーん、そうなんだ。ありがとう。』

 

雫から水波の少ししか分からない情報を聞いて、ますます怪しげになるエリカだった

 

 

 

 

 

 

スピードシューティング女子決勝

 

真由美は予選を当然通過し、準々決勝と準決勝も難なく勝利

 

残るは決勝のみ

 

 

達也『問題はなさそうですね。』

 

競技用CADと真由美の体調に問題はないことを確認する

 

真由美『えぇ!それより約束、忘れないでね?』

 

達也『分かっていますよ。七草会長の出場種目は二つ。優勝する毎に一つでしたね。』

 

真由美『そういうこと。優勝してくるから待っててね?』

 

語尾に音符が付きそうなほどの機嫌がいい真由美

 

対して達也は、テンションが一段と低い

 

 

 

 

準々決勝からは対戦型だったため真由美の他にもう一人選手が入場する

 

両者レンジに立ち、開始のシグナルを待つ

 

真由美は紅のクレーを破壊する

対して相手選手は白のクレーを破壊する

 

 

開始のシグナルが点灯すると同時に紅白のクレーがそれぞれ空中に射出される

 

序盤は一定のリズムでクレーが射出され、それぞれの選手の得意とする魔法が小気味良くクレーを破壊していく

 

 

中盤に差し掛かり、それそろ選手にも疲れが見え始める頃合い

 

同時に複数射出されるのは当然のことだが、同じ射出口から紅と白のクレーが出てくるのもこの競技の醍醐味

 

それを選手がそれを見分け、破壊出来るか否かでどれだけの腕前かも判り、そういう状況でこそ選手の真価が問われる

 

また、運営側としても何か捻りがないことには選手がだらけ、観客としてはつまらないものになるだろう

 

 

ーそして、

 

射出口が横一列に並んでいるところからクレーが二つ、空中に射出される

 

選手側から見ると、クレーが手前と奥にある

それは一方の選手からすれば、手前のクレーが死角となりクレーが破壊出来ない

 

それが今回の場合、紅が奥で白が手前と真由美にとっては狙いずらいというより不可能な状況

 

観客は無理だろうと諦め、観戦していたほのかや雫達も半ば諦めていた

 

自分のペースが作れていた人間は時として、不意にペースを崩れるとそこから立ち直ることが出来ないことがある

 

それは、真由美にとっても言えることかもしれない

 

相手選手もこの状況には、幸運と思ったに違いない

 

だがー

 

次の瞬間、白のクレーに隠れていた紅のクレーはあり得ない方向から破壊される

 

誰から見ても、圧倒的に狙えない位置

しかし、真由美はそんなことを気にするまでもないということなのか

 

クレーを真下から撃ち抜いたのだ

 

これには観客も興奮せずにはいられない

スピードシューティング会場は一気に盛り上がりを見せる

 

 

雫『…【魔弾の射手】。去年よりも速くなってるね。』

 

深雪『えぇ、それに精度も去年も高かったけど今年はより精度も完璧に近いわね。』

 

【魔弾の射手】

遠隔弾丸生成・射出の魔法

ドライアイスを生成し、狙撃した遠隔魔法

魔弾(魔法の弾丸)を作り出すのではなくその銃座である

 

普通ならクレー自体に魔法を掛けるのが通常だ

その方が確実であるし、魔法は物理的な障碍物に左右されないから振動系か移動系の魔法を使用するのか主流なのだ

 

ではなぜ、真由美はこの魔法を行使し続けるのか

 

理由は簡単

 

一つ目が対戦相手と魔法の系統が被った場合、発動しないか超音波の衝撃波を起こす可能性がある

 

二つ目は対戦相手の魔法行使領域外から狙撃することにより一人で魔法を行使するのと同じ状況を作り出すことが出来るからだ

 

と言っても、一つ目のは魔法力が相手より勝っていれば問題は無いし、二つ目も相手選手も一人で魔法を行使出来るため、後は選手自身の力量が試されるだけなのだ

 

 

その点に関して真由美はすでに高校生のレベルではない

 

世界最高水準を誇るため高校生など相手にならない

 

 

 

当たり前だが、結果は真由美の圧勝で優勝を飾った

 

 

真由美『守夢君、優勝したわよ!…ってなんか喜んでないわね。もう少し、表情を変えてもいいと思うんだけど。』

 

達也『おめでとうございます。表情と言われましても、嬉しくは思いますが、会長なら大丈夫という確信はありましたし。…それより、何か願い事があるんでしたね?』

 

真由美の優勝に達也は表情を一切変えることなく彼女を労うもその表情に不満を漏らす

 

はっきり言って、真由美が負ける状況は考えられなかった

 

真由美『ちょっと、話を逸らさない!まあ、いいわ。それに関してはクラウド・ボールの後でいいかしら?』

 

まとめて願い事を言うほうが真由美にとっては都合がいいのだろう

 

達也『それは構いません。それでは、私は北山さん達のCADを最終確認がありますので。一旦、失礼します。』

 

達也としてはどちらでも構わないため次の試合の準備のため真由美の元を離れる

 

真由美『ドライなのか、恥ずかしがり屋なのか判らないわね。』

 

 

 

 

 

新人戦スピードシューティング 一校 控え室

 

 

 

達也『調子はどうですか?北山さん、明智さん?』

 

最終調整が終わり、担当選手に競技用CADを渡し確認してもらう

 

いくらエンジニアが完璧に仕上げても選手のフィーリングが合わなければ意味がない

 

雫『うん、バッチリ。自分のよりしっくりくる。』

 

明智『私もバッチリ!』

 

どうやら、二人とも問題ないようである

 

雫『…ねえ、守夢さん。私の専属として雇われてくれない?』

 

すると、雫は達也の前に立ち自分の思いをぶつけた

 

明智『へ?』

 

それを横で聴いていた英美は告白にも似た言葉に思考が追いつかない

 

達也『…お断りします。あの時も言ったように私が調整をするのは家族のためだけ。今回は特殊です。』

 

突然の雫の言葉にも動じることのない達也

 

今回は特殊な事例だ

 

達也自身、家族のため以外に動くことはほとんどない

 

雫『…。』

 

達也に拒否されるも雫の表情はあまり変わった様子はない

基本、嘘は言わない彼女

 

しかし、何か言質を取ろうと目だけが雄弁に物語っていた

 

達也『今は新人戦に集中してください。心配しなくても高校の間は私の練習みたいで申し訳ないですが、調整はしますから。』

 

雫『うん。』

 

達也のその言葉だけで十分だったのだろう

返事の声音が弾んでいた

 

二人の様子を窺っていた英美もほっと胸を撫で下ろした

 

達也『だから、二人とも頑張って下さい。』

 

 

 

ここは一高の各種目毎の控え室ではなく、一高の天幕

 

摩利『さて、これが守夢の初めてのエンジニアとしての腕を見ることになるのか』

 

真由美『そうね。私の時はお手伝い程度だったし。』

 

鈴音『北山さんと光井さんは自分のCADを調整してもらっているらしいですよ?』

 

少し、羨ましそうな表情をしているようにも見受けられる鈴音

 

彼女にしてはそれはあり得ないので気のせいだろう

 

摩利『ほう?真由美よ、出し抜かれたな。』

 

それよりも真由美をからかえそうなネタが手に入り、愉しそうな摩利

 

真由美『べ・つ・に~。…私だって(ボソッ)』

 

摩利『?何か言ったか?』

 

雫とほのかが自身のCADを調整してもらっていることに頬を膨らませる

 

そんなところまで進んでいるなら自分ももっと凄いことをしようと目論む

 

鈴音『始まりますよ?』

 

鈴音の言葉に黙り込む

 

言葉通り、雫がレンジに立ちCADを構え開始のシグナルを待つ

 

ランプが全て点灯し、クレーが空中に射出される

 

クレーが有効得点エリアに入った瞬間、クレー粉々に砕け散った

 

次いで別の射出口からのクレーも同様だ

同時に二つ、三つと粉砕されていく

 

 

エリア『うわぁ、豪快。』

 

エリカがそう呟くのも無理はない

 

クレーが小石の大きさまで砕かれているのだから

 

深雪『おそらく、有効得点エリア全てを魔法の作用領域にしてるのね。』

 

ほのか『そうなの。雫は振動波の魔法でクレーを破壊してるんです。』

 

深雪の分析にほのかは肯定し、一緒に観戦しているエリカ達に説明していく

 

 

鈴音『ーより正確には、得点有効エリア内にいくつかの震源を設定し固形物に振動波を与える仮想的な波動を発生させています。魔法で直接標的を振動で破壊するのではなく領域内に入ったものに振動波を与える事象改変の領域を作り出しています。震源から球状に広がった波動に標的が触れると、仮想の波動が標的の内部で現実の振動波となって標的を破壊する。

スピードシューティングの得点有効エリアは空中に設定された一辺15mの立方体。それの内部に一辺10mの立方体を設定して、その各頂点と中心の九つのポイントが震源となるよう記述しています。』

 

深雪やほのか達と異なる場所で真由美と摩利に解説をする鈴音

 

事前に達也からどのような作戦で戦うのか所謂、作戦プランを提示されていたため鈴音が今回の雫の起動式や魔法の特徴を説明している

 

鈴音『各ポイントは番号で管理されており、1~9で設定されています。展開された起動式に変数としてその番号を入力すると、その震源のポイントの半径6mの球状破砕空間が発生するという訳です。』

 

摩利『それを聞いていると、北山は座標設定が苦手なのか?』

 

その説明を聞く限りでは、雫は細かい作業が苦手なように認識してしまう

 

鈴音『…確かに、北山さんは高威力が持ち味ですがー』

 

摩利の言葉はあながち嘘ではない

 

しかし、それは若干の語弊がある

今回はあくまで、起動式の話で雫自身への評価ではない

 

 

鈴音『ー誤解のないように申しますと、この魔法の特性は精度を犠牲にしての魔法の発動速度を上げることです。』

 

今回の話の流れは達也の調整技術のため、些か話の論点がずれているため、鈴音は軌道修正をかける

 

 

真由美『ということは、ピンポイントの照準も可能ということね?…じゃあ、なんで?』

 

精度も落とさず、スピードも問題ならそんなまどろっこしいことは必要ない

 

鈴音『この魔法は震源ポイントを番号で管理していること。スピードシューティングは選手の立つ位置、得点有効エリアの距離、方向、エリアの広さが常に同じです。それはつまり、魔法の発動仮想領域等を変える必要がないということ。起動式に座標を変数ではなく、選択肢として組み込むことでその番号を選択するだけで魔法発動が可能ということです。また、威力や持続時間は変数として処理しておらず、起動式には定数で処理されています。そういった細かい処理はCADが対応させ、選手は補助に従い番号を選択して引き金を引くだけ…ということです。』

 

真由美の疑問を解決しつつ、最後の説明を終える

 

その説明に二人は開いた口が塞がらない

 

真由美『そんなのありなの?』

 

摩利『なんて奴だ。』

 

ここまで複雑な起動式なのに、選手の行動は簡素化する

 

なるべく選手に負担を掛けないCADにするのはエンジニアとしてのセオリーだが、これ程とは思っていなかった

 

良い意味では、選手に負担が少ない

 

悪く言えば、選手が機械になりかねない

 

ここに達也が居ればこう答えたであろう

 

【道具は使いやすくするものだ】

 

 

鈴音『魔法の固有名称は【能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)】守夢君のオリジナルだそうです。まあ、北山さんの処理能力があればこそ可能な起動式なのですが。』

 

真由美・摩利『…』

 

オリジナルと聴いて唖然とする

 

これだけ複雑で大規模な起動式を高校生が造ったということに驚きを隠せない

 

終了のブザーが鳴り響き、パーフェクトという文字が掲示板に表れる

 

摩利『これが奴の本領か…』

 

鈴音『それはなんとも言えませんが、凄腕だということははっきりしましたね。』

 

豪快な魔法で観客を湧かせた雫

 

それに隠れた達也のエンジニアとしての腕は確かであった

 

 

 

ー三高の控え室ー

 

愛梨『栞、あの魔法はどういうものかしら?』

 

モニター越しで雫のスピードシューティングを観戦していた愛梨達

 

栞『あれはー』

 

達也から見せられたプラン通りに説明した鈴音程ではないが、理解すべきポイントを的確に説明する

 

そして、この魔法の短所とも呼ぶべきものも理解していた

 

愛梨『流石、いい目をしてるわ。』

 

この魔法を見破った洞察力に感嘆する

 

栞『ーー対戦形式だと、より精度が要求されるわ。そこは私のテリトリーよ。』

 

自信ありげに口角を少し上げた

 

 

 

 

 

達也『お疲れ様、雫。さすがに新人戦だからか、死角をついたクレーは無かったな。それにしてもパーフェクトとは流石だな。』

 

雫のパーフェクトの成績に労う達也にあまり表情は変わらずだが、声は弾んでいる

 

雫『達也さん心配しすぎ。…ねえ、達也さん…。』

 

新人戦でそこまで意地悪なことをするなど一年生にとってはトラウマものだろう

 

達也『嫌な思いをさせたことはすまないと思っているが、今回は特殊な事例だ。俺で良ければこの三年間だけは調整はしよう。』

 

雫『…ごめんなさい。』

 

それよりも雫は試合前の達也の返答にどうしても諦めきれない雫

 

しかし、達也の意思は鋼の意思で変わることはない

 

達也『…さあ、次から対戦形式だ。先程とは雰囲気が変わるから少しでも休憩するといい。俺は明智さんの所に行ってくる。』

 

雫『…わかった。』

 

 

 

英美のスピードシューティングも予選通過をし、現在は三高の選手 十七夜 栞の予選

 

尚武の三高と呼ばれる

その生徒の実力がどれ程のものか気になるところだ

 

開始のシグナルが鳴る

 

複数のクレーが射出され、有効得点エリアに入る

 

一つのクレーが砕かれると、その破片が他のクレーに当たり破壊する

そして、破壊されたクレーの欠片が別のクレーへ

 

そんな事象が続いていく

 

 

明智『な、なにあれ!?』

 

最初のクレーは振動系魔法で破壊したあと移動魔法で他のクレーを破壊しているが、それだけの量の把握しているのは驚きである

 

 

 

愛梨『…以前よりも速くなってるわね。』

 

モニター越しに栞の魔法を見ている愛梨

クレーの欠片がクレーを破壊していく様に彼女は栞と出会った時のことを思い起こす

 

リーブルエぺーの試合での栞の切っ先の精確な腕に驚きを隠せなかった

 

試合は愛梨の勝利で終わったが、栞の能力に魅力を感じて金沢魔法理学研究所に誘った

 

その誘いは大成功で栞は視たものを数式化し魔法に応用する特別な眼を手に入れた

 

栞自身しか誰も真似できない魔法

 

スーパーコンピューターをも凌駕するその演算能力

 

その名は

 

数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)

 

 

観客①『すげぇ、こっちもパーフェクトだ!』

 

観客②『これも魔法大全(インデックス)に載るんじゃないか!?』

 

雫に次いでのパーフェクトに観客も興奮を抑えきれずにはいられない

 

 

 

 

女子スピードシューティング 控え室

 

達也『…流石は元第一研究所。個々の能力を伸ばすのはお手の物か。(それよりも、インデックスの件をどうやって雫に押しつけるか)』

 

三高の予選通過は判っていたが、決勝トーナメントで対決するのは分かりきっているため対策を練る必要がある

 

対決相手の情報は少しでも多いほうが良い

 

 

ーーーのだが、達也の問題視するところは違うらしかった

 

魔法大全(インデックス)

魔法界の歴史に残る偉業を成し遂げた者の名を残せるというもの

それは人物にあらず、モノという形で

現在で言えば、特許に近いのかもしれない

 

それが今回、達也が造り、雫が使用した魔法に登録の申請が来ているという噂がある

 

火の無い所に煙は立たないという諺の通り多少の事実が無いことにはこのような話が出て来ないため可能性は高い

 

達也『(…とりあえず、それは一旦、横に置いておこう。)さて、どうやって勝とうか。』

 

魔法大全(インデックス)の件はそのときに考える

 

三高に勝つために今はこちらに集中だ

 

何せ一条の御曹子とカーディナル・ジョージもいるのだ

油断は出来ない

 

 

 

 

決勝トーナメントの対戦相手も決定し、次の会場に移動する

 

雫『達也さん、インデックスの件はどうするの?』

 

達也『それは、追々な。今はトーナメントに集中するんだ。』

 

達也が何食わぬ顔でいつも通りでいるため、逆に興味津々の雫

 

魔法界の歴史に名を残すような偉業なのだから、誰であれ試合に集中が難しいのだが、達也はその時になれば考えるというスタンスらしい

 

達也『それよりも雫にお客さんだぞ?』

 

達也の言葉の通り通路の奥から二人の女子生徒が歩いてくる

 

 

 

 

栞『第一高校の北山さんですね?私、第三高校の十七夜 栞といいます。予選を拝見しました。大変素晴らしい腕をお持ちのようで、準決勝を楽しみにしております。』

 

まるで、準々決勝は当然の如く勝ち進み、雫と対戦することが当然という風だ

 

さらには、雫の魔法を値踏みするような口調

 

雫『…わかった、準決勝楽しみにしてるよ。』

 

雫と栞の間で火花が散る

 

場外から激しくぶつかり合う二人

 

熱いなと傍観していると、隣にいる金髪の長髪の美少女からの視線を感じる

 

 

愛梨『…そこの貴方、お名前を伺ってもよろしくて?』

 

達也『…守夢 達也と言いますが、私に何かご用ですか?』

 

ほのかや雫達と歩いていると何故か、他校から視線をよく向けられる

理由を探そうにも思い当たらない、あるとすれば女子のエンジニアだからだろうか

 

当の理由としては、意外と達也は容姿はそれなり(中の上位だが、纏う雰囲気で)に整っているためほのかや雫と並ぶとカップルに見えてしまうというのが現状なのだがーー

 

 

正直、視線を集めるのは好きではない

 

ここで断ってもいいだろうが、角が立つのも面倒なため事務的に返す

 

内心では、何故、話しかけてくる?と思っているが

 

 

愛梨『いえ、そういう訳ではありませんわ。…名乗り忘れてましたね。私は一sh…』

 

達也『いえ、結構です。貴女方の名など一寸も興味はありませんので。…北山さん、最終調整をしないといけませんから行きますよ?』

 

彼女からの大したことのない返答に対応する価値が無いと判断する

 

まあ、お喋りに付き合うほどこちらも暇ではないという理由もあるのだが

 

北山『うん。』

 

達也からの言葉に呆気にとられる愛梨

 

それを横でみていた栞も状況についていけていない

 

栞『…愛梨、ある意味では私達フラれたということになるのだけど?』

 

愛梨『そういう気持ちで声を掛けた訳じゃないわ!』

 

栞『あの状況ではそう捉える方が多いわよ?』

 

只の好奇心で声を掛けたが相手はそれさえも、不快だと言わんばかりに切り捨てきたため何も言えなかったのだ

 

しかし、第三者目線からは愛梨の言葉は好意を匂わせるには十分だ

 

 

とりあえず、栞の誤解を解くしかなかった

 

 

 

 

準決勝

 

栞の言葉通り勝ち進み、対戦する二人

 

一高 スピードシューティング控え室

 

達也『雫、今回のCADは仕様が異なるから違和感を感じたら遠慮なく言って欲しい。』

 

今回のCADは予選と準々決勝で使用したものではない

 

雫『ん、全然問題無い。』

 

達也『そうか、じゃあ勝ちに行くか。』

 

雫『うん!』

 

 

三高スピードシューティング控え室

 

吉祥寺『十七夜さん、北山さんの予選と準々決勝の魔法を検証してみた結果、おそらく彼女はパワーファイターに近いじゃないかと思う。精度はそれなりだからそれを補正するよりも圧倒的な力で捩じ伏せる。』

 

吉祥寺『魔法の系統は収束系で、空間にそれを掛けて自分のクレーの密度を高めているんだ。その所為で相手選手はクレーの軌道が変えられて得点が伸びなかったという構図だね。でも、十七夜さんなら出力の変わった九つの起動式でも対応出来るでしょ?』

 

対戦相手である雫の実力も分かり、余裕の表情の栞

 

勝つのは自分だと

 

栞『勿論よ。』

 

 

 

 

準決勝

 

いよいよ、北山 雫と十七夜 栞の決勝戦と言っても過言ではない試合が始まった

 

雫は準々決勝で使用した収束系魔法で紅のクレー同士を衝突させ破壊する

 

しかし、栞はそれをものともしないで移動系魔法で軌道を反らされたにも関わらず破壊を連鎖させていく

 

観客『すげえ、パーフェクト同士の高レベル戦いだ!』

 

観客『けど、十七夜選手の方が僅かにリードを広げていってるぞ!』

 

観戦しているほのかや深雪、さらには真由美や摩利までがこの状況に心配そうな表情だ

 

何故なら、雫の魔法を容易く看破して、雫より得点をリードしているのだから

 

 

達也『(ほう、もう対応してきたか。雫の収束系魔法は準々決勝からなのに、流石は元第一研究所。…九つ位は対応は可能か、だが、九十九ならどうだ?)…勝ったな。』

 

雫の収束系魔法に早くも対応してきた三高

 

素直にその対応力に称賛の拍手を送る達也

しかし、それに何の策も無しに雫を送り出している訳ではない

 

真由美『ねえ、鈴ちゃん。このままじゃあ北山さん勝てないんじゃあ?』

 

試合も序盤から中盤に差し掛かり、点数差は少ないもののこのまま行けば、不味い状況だと危機感が募る

 

鈴音『会長、落ち着いて下さい。守夢君が何の策も無しに試合に臨むとお思いですか?』

 

摩利『まぁ、そうだよな。あいつがそんなことをするはずはないもんな。』

 

鈴音『落ち着いてきたようなので、今回のCADを説明します。』

 

今回の?と、疑問を浮かべる

 

鈴音『結論から言いますと、CADは汎用型です。』

 

二人は特化型だと決めつけていたため話についていけない

 

真由美『え!?小型銃形態のCADなんて聞いたことないわよ?じゃ、じゃあ、照準補助機能を付けた汎用型CADってこと?』

 

鈴音『そうです。収束系と振動系魔法の連続発動ということになります。昨年、ドイツのデュッセルドルフで発表された新技術で、特化型と汎用型の両方の特性を併せ持ちます。』

 

一年前というのは昔のように聴こえるが、実用化するには最低数年を要することが当たり前であり、それを使いこなすなんて夢のまた夢なのだ

 

だから、新技術と言われて当然なのだ

 

鈴音の説明に理解が追いつかない二人

 

鈴音『…説明を進めます。収束系魔法は主に紅のクレーを一ヶ所に集め、クレー同士をぶつけて破壊するというもので、起動式にはその空間の密度を紅のクレーが集まるよう書かれています。そのためそれ以外の、今回は白のクレーがその魔法領域から弾き出され、軌道が変わります。より詳しくは、得点有効エリアを魔法領域で覆います。そして、その中央に近づけば近づくほど紅のクレーの密度を高い空間にする魔法です。また、別で振動系魔法が発動するという仕組みです。』

 

ちなみに、雫のCADに付いているのはエリシオン社で発売されているものだ

 

シルバーシリーズではない、666シリーズという

 

深い意味はないが、6というのは完全な数字7から一つ欠けていることを意味する

 

それに足す1で完全な数字になるため、何かと接続するためのCADというわけである

 

それを達也は改良し、競技用CADに繋げたのだ

 

 

だが、それを見破るにも固定観念を取り払って見なければ特化型ではないことに気が付かない

 

しかも、これを実現させたのが高校生という事実が恐怖さえ感じる

 

真由美『…もし、彼と同年代で対決したら負けるかもしれないわね。』

 

ボソッと独り言のように漏らす真由美

 

摩利『おいおい、十師族とあろう者が穏やかじゃないぞ。』

 

真由美『負けるは言い過ぎかもだけど、油断すれば足元を掬われるのは確かだわ。』

 

たちの悪い冗談と思いたくなるが、こんな状況ではそういう意味では捉えられない

 

下手なプロより数段上の技術を持った達也

 

そこに魔法力のある選手が組み合わされば鬼に金棒だ

 

それが今、現実にある

 

 

 

雫『(…そろそろかな?達也さん。)』

 

引き金を引きながら意味深げに口許を緩める

 

 

 

栞『(…おかしい、ここまで疲れが出ているなんて。確かに、【数学的連鎖(アリスマティック・チェイン)】は大規模な起動式だから疲労はある。けど、今回は北山選手の魔法をシュミレートして、最適に調整しているはず。…しかも、収束系と振動系が…!?)』

 

鈴音の説明と同じ頃

 

栞は妙な疲労感を感じていた

それは、自分の無意識下にある魔法演算領域に負荷が掛かっている可能性があること

 

いくら雫が高い魔法力を備えているとはいえ、吉祥寺と調整はしている

 

まだ試合は中盤なのに、相当の疲労が押し寄せている

 

 

三高選手『よし!十七夜がリード出来ている!このまま突き放せ!』

 

三高控え室では、栞と雫の対決に栞がリード出来ていることに大半の生徒達が安心しきっていた

 

吉祥寺『(…おかしい。北山選手の魔法が収束系なのに、たまに振動系も出てくるのは…!?まさか。)将暉!』

 

将輝『…不味いぞ、ジョージ。あれは、収束系と振動系の二つ。特化型じゃない、汎用型だ!』

 

栞と雫の対戦で違和感を覚えた吉祥寺

雫の魔法を分析しているとCADが特化型ではないことに気付く

 

一条と吉祥寺の驚愕ぶりに周囲もあり得ないと目を見張る

 

愛梨『!?(まさか!じゃあ、栞は私達は敵の術中に嵌まっていたというの?…担当エンジニアはおそらく守夢達也)栞!』

 

選手だけではない、客観的に見れる立場の自分達でさえ騙されたのだ

 

そんな人物に恐怖する

 

 

達也『想定通り、特化型だと決めつけて対応してくれた。雫にとっては余裕をもって対応出来る。相手選手は堪ったものではないが。(なにせ、テニスコートを端から端まで走らされたり、バスケットコートで切り返しの早い試合をしているのと同じだからな。)…不運は自分達の思い込みだ。』

 

 

疲労により集中力が低下し、連鎖が途切れて得点出来なくなることが数度出てきた

 

それと共に栞に焦りが出始める

 

栞『(まだ、負けている訳じゃない。)』

 

意地でも勝つという気迫が連鎖を再度作りだす

 

愛梨『栞…!』

 

モニター越しでも栞の勝ちたいという気迫は消えていない

 

勝って、と心の中で叫ぶ

 

栞『(こんなところで躓いていられないの!私は愛梨と共に魔法界の頂を目指す!)』

 

元々、彼女は百家の出身ではなく、養子として十七夜家に来ている

両親はくだらないことで言い争いをし、自分達の保身しか考えていなかった

それを端から見ていて滑稽でもあり、反面教師としてなりたくないとも思った

そのために自分の力を鍛え続けた結果として、愛梨と出会い両親と決別のために百家の養子になった

 

それが今になってあの頃のことを思い出し、彼女自身の邪魔をする

 

栞『(なんで、あの頃の記憶が…!私はあんなところに戻らない!)』

 

その決意も空しく、クレーを外し最後の連鎖が止まった

 

 

 

結果、雫の僅差ながらも決勝進出が決まった

内容とは対称的に栞の能力を戦略的に封じた勝利であった

 

 

 

真由美『凄いわ!!これは快挙よ!一高が一位から三位全て独占なんて!』

 

バシッバシッと達也の肩を叩く真由美

興奮覚めやらず言葉があまり出てこないため達也を代わりに叩くという訳の分からないことになっている

 

三位決定戦で栞は準決勝の影響か精彩を欠き、四位に終わった

 

真由美『インデックスも出たし、今年はいい感じね!』

 

この調子で行くわよ!と意気込む

 

達也『その件ですが、登録の名前は北山さんで申請しています。』

 

全員『えっ!?』

 

摩利『それはどういうことだ?』

 

その言葉に全員が驚く

 

達也としてはどうでもいい話だったため、皆がそこまで驚くとは思わなかった

 

 

達也『別に大したことではありません。元々、そうする予定でした。あの起動式は北山さんの腕があって実現出来たものですし、登録されるのが使用者の名前になるのはよくある話です。』

 

業界としては、達也の言う通り開発者の名前は最初の使用者が登録される

 

納得いかないような表情をしているが、当事者の達也は良しとしている

その温度差はひどい

 

摩利『…お前、本当に人間か?』

 

普通の人間なら欲もあるものだが、達也は縁遠い感じしかしない

 

何処かで悟りを開いたのか、人間をやめたのか

 

達也『…失礼ですね。ただ単に、こういう話は興味もありませんし、私では使いこなせないので北山さんにしているだけですよ。』

 

自分を何だと思っているのかと、嘆息するしかなかった

 

 

ーーーー

 

三高控え室

 

三高選手『…ということは、あの魔法は選手の個人技能じゃないのか?』

 

将輝『そうです、先輩。』

 

スピードシューティングの全試合を終え、女子スピードシューティングの栞の敗退に陥らせた原因を分析し、開示する

 

結論を言うと、担当エンジニアが凄いということだが、それだけで事を済ますことは出来ない

 

何故なら、選手の魔法力があってこそあのパフォーマンスが出来たのだから

 

吉祥寺『デバイスは同じなのに、差がつくのか。それはソフトウェアに関して化け物がいるということです。おそらく、2.3世代は確実に上です。』

 

吉祥寺も相当の腕を持つがそれでも足下にも及ばない

 

将輝『昨年、ドイツのデュッセルドルフで発表された新技術で汎用型と特化型の両方を兼ね備えるというものでした。』

 

吉祥寺『しかし、あの時はただ繋げただけのモノでしたが、今回は違う。本人の魔法力もあってこそですが、完璧な仕上がりでした。』

 

CADの新たな可能性が開かれたが、それを実用化するまでには程遠い

 

それをやってのけた人物は凄いという一言に尽きる

 

愛梨『…(あのときの、彼がそれを作り出したというの?文字通り、化け物というしかないわね。)』

 

愛梨はその話を聴きながら、達也と会ったときのことを思い起こす

 

そのときは、はっきり言ってとるに足らない存在だと決めつけていたが、

それは試合が始まった瞬間に恐怖や越えられない壁として立ちはだかった

 

 

しかし、何故か彼の纏う雰囲気なのか、何かが気になる

もう一度、この目で確かめる必要があると感じた

 

 

将輝『今後、そのエンジニアの担当選手と当たる時は苦戦は免れない。』

 

 

守夢 達也

 

この試合を契機に全校から注目の的になるのだった

 

 

 

沓子『栞の調子はどうじゃった?』

 

愛梨『さっき様子を見てきたけど、放っておいて欲しいって。…それに、アイスピラーズブレイクの代役も立てて欲しいとも言ってたわ。』

 

栞の消沈ぶりには何も言えなかった

けれども、こんな処で終わってほしくないと叱咤して帰ってきたが

 

沓子『そんな気にせんで、大丈夫じゃろ。』

 

愛梨『?』

 

栞の落ち込みが愛梨にまで移ったようである

 

しかし、沓子はというと然して気にした風もなく

 

 

沓子『あれは当事者でなければ、どれ程衝撃的だったかは判りかねるがのう。それでも、栞は挫けんよ。わしの勘じゃがの。』

 

愛梨『…!フフッ、そうね。信じて待つわ。…!?踏子、また後で。』

 

栞の復活を確信しているかのように振る舞う

 

そんな沓子に愛梨も持ち直す

 

 

そのときー

 

愛梨の視界にある人物が飛び込んでくる

 

愛梨『少し、お時間よろしいかしら?』

 

 

 

ーー遡ること一時間程前

 

 

時刻は午後5時を過ぎ、エンジニアは担当の選手の仕事が終われば、基本的には休める

 

そして、その時間も利用して明日の試合に向けて最終調整に充てているのが通常なのだ

 

しかし、達也は気掛かりなことに加え、風間から連絡を受けてとある部屋の前にいる

 

コンコンコンとノックを三回

 

入れと声の従い、入室する

 

達也『失礼しm響子『た・つ・や君!』…響子さん、何故貴女がここに?』

 

響子『?ここは少佐の部屋でもあるけど、うちの隊が集まる場所でもあるのよ?』

 

部屋に入るや否や達也めがけてダイブを敢行する響子

 

首元への衝撃に若干、呼吸がしづらくなったが顔には出さない

 

達也の疑問は尤もだが、言われてみれば部屋が3つ程あり、扉で区切られた部屋

相当の地位のある人物しか使用出来ないはずだが、風間の地位からすればここは不相応なのだが、部隊の特殊性もあり使用を認められている

 

 

風間『…藤林、達也に甘えるのは良いが、後にしてくれ。』

 

良くないです

 

と達也は心の中で叫んだ

 

 

達也『…呼ばれたのは、昨日の件ですね。』

 

風間『まあな、一旦かけろ。』

 

達也『いえ、自分はこのままで』

 

扉の前で立つ

上司から座れと言われても自分の地位や信条が是としない

 

真田『達也君、今はプライベートと言って良い。ここでは友人として、兄弟としてだ。』

 

柳『そういうことだ。達也、少しゆっくりしていけ。』

 

達也『…じゃあ、お言葉に甘えまして。山中先生もお元気そうで何よりです。』

 

兄とも呼べる人達に窘められては、素直に従う他ない

 

山中『ありがとうな。まあ、医者の私が真っ先に体調を崩してはなんとやらだ。』

 

ここ最近は、軍内部での医者という特殊の地位にある山中とは会ってはいなかった

 

その会話の間に響子はティータイムの用意をしていた

 

響子『ティーカップじゃ様になりませんが、乾杯といきましょう。』

 

 

 

風間『昨晩の賊だが、正体は無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)だと判明した。目的についてはまだ調査中だ。』

 

一息ついたところで風間から達也に説明がされる

 

標的の一つとして一高は含まれているのは判っている

 

あとは、どのような目的があって九校戦を狙ったのかはもう少し調べる必要がある

 

響子『それにしても、よくあの場に居たわね。見張ってたの?』

 

達也『いえ、エンジニアとしてCADの最終調整を終えて寝ようかと思っていたところたまたま発見したという感じです。』

 

あの場には風間も居合わせたため達也が出張るまでもなかったが、イレギュラーもあり風間としては達也が現れてくれたため僥倖だったのかもしれない

 

真田『しかし、…高校生の大会に戦略級魔法師と謎の天才魔工師トーラス・シルバーが居るなんて反則的だね。』

 

この話は終わりということで達也の九校戦参戦に話題の路線変更をする

 

山中『…メンバーにはシルバーの事は話しているのか?』

 

達也が戦略級魔法師ということは当然の秘匿事項だが、魔工師としては、達也は超一級品の腕前を持つ

秘匿事項の一つでもあるが、達也の匙加減でそれは公開することも可能なのだ

 

達也『いいえ、これは彼等に話す必要もありませんので。しかし、七草の情報網でエリシオン社の社長の(義)息子とバレまして。メンバーにはシルバーの弟子という当たらずも遠からずの回答で誤魔化してます。…というよりも、俺としては九校戦に参加するはずではなかったので。』

 

現在、師族会議で選ばれた十師族の半分が達也を探っている状況だ

 

だが、隠すと知りたくなるというのが心理的に働くため、ある程度の情報を与えて大人しくさせている

 

響子『えぇ~、達也君の独壇場を観たかったなぁ。』

 

達也『響子さん…。俺は魔法力もありませんし、殺傷ランクAの魔法なんて見たら全員卒倒しますよ。』

 

達也の魔法

【分解】は殺傷ランクAに相当する

しかし、軍のみではこれともう一つの魔法をSというランクで管理している

 

物質を分解するだけでなく、部分的に分解も可能なのだ

 

さらに、物質でないものも分解出来る

 

響子『アイス・ピラーズ・ブレイクとスピード・シューティングは大丈夫だと思うけど?』

 

達也『秘匿魔法をバラす訳にもいきませんよ。…まあ、あの魔法なら全競技出場出来ますけど。』

 

風間『…藤林、達也の言う通りだ。秘匿すべき魔法をおいそれと見せる訳にはいくまい。それに、我々だけの秘密というのも良いのではないか?』

 

達也の説得では響子は納得の表情はしておらず

 

それを風間が援護射撃をする形で響子を納得させる

 

響子『…!そうですね!』

 

秘密という言葉に独占欲を感じるらしい

 

風間『達也、解っているとは思うが…。』

 

達也『大丈夫ですよ。そうなったら、負け犬に甘んじます。』

 

秘密は少数だからこそ守れる

 

達也に関する秘密は世界を根底から覆す類いのもの

 

 

風間『すまないな、達也。』

 

達也『…義父さんが、そんな気を負う必要はありませんよ。俺の魔法は家族を守るためにある。』

 

義父の申し訳なさそうな表情に達也は苦笑を洩らす

 

柳『…俺としてはもう少し我儘をして欲しいんだがな。』

 

達也『もう16歳ですよ?』

 

真田『まだ、と言った方が良いね。』

 

基本的に大人として扱われる年齢はほぼ変わらない

 

しかし、この時代や昔においても何をもって大人なのか明確な定義もない

 

けれども、達也の年齢でこうも理性的に判断し、行動する人間は居ない

経験から来るものかもしれないが、それを隅に置く

 

達也の雰囲気は老成したそれに等しい

 

それの所為もあるのかもしれない

 

 

基本的に達也の味方である響子でさえ、この時ばかりは頷く

 

四面楚歌の状態に達也も降参の意思表示しか出来なかった

 

 

ーーーーー

 

 

愛梨『守夢 達也さん?』

 

自分の部屋に戻る達也に声をかける

 

達也『?何故、私の名前を?…あぁ、北山さんのエンジニアで名前と顔は出てますね。』

 

自分の名前を呼ばれ、振り返る

 

何故知っているのかは雫のエンジニアとして名前が挙がっていたからその所為だろうとアタリをつける

 

実際は達也自身が名乗っているから相手は知っているのだが、興味の無いことには見向きもしないため愛梨達のことは忘れている

 

愛梨『違いますわ。…本当に興味が無いのね。準決勝前に私と栞が北山選手と一緒にいた貴方達に挨拶をさせていただいたのだけれど。』

 

達也『…そういえば、そんなこともあったような。それで、私にご用というのは?』

 

どこまで相手に興味が無いのかハッキリと解った愛梨

 

怒るどころか呆れるほどである

 

愛梨『賞賛の言葉と思いましたが、止めましたわ。…けど、貴方のその纏う雰囲気が、何というか…気になったのでもう一度会って確めようと思っただけです。』

 

達也『それで、何か掴めましたか?いたって、平凡な人間で何もありませんが。』

 

愛梨『謙遜ね。平凡な人間があんなCADを作れる筈はない。』

 

達也『足りないものを他で補おうというのは当然です。魔法力の無い私に出来ることはそれ位ですよ。』

 

それほどまでに達也の努力は才能だと言いたいのだろうか?

 

そういった事に関しては、劣等感や心の貧しさが起因していることが多い

 

どうしても自分達が努力をしていないのを守りたいだけの発言なのだ

 

愛梨『そうかしら?何か隠していない?』

 

達也『それは、貴女の勘違いというものです。』

 

愛梨『…そろそろ、名前を憶えていただけないかしら?私の名前は一色 愛梨よ。』

 

普段なら名前を言われただけで不快なのに、この男に二人称を使われるとどうも気になってしまう

 

第三者目線で分析すれば、それは気になる異性には名前で呼んで欲しいという意味も含まれるのだが、果たして愛梨の心境はどうなのか

 

達也『何故そこまで私に執着するのですか?十師族が私に興味を持ったところで名家で無い。特に家柄や名誉を気にしている一色 愛梨さん?』

 

愛梨『!…どうしてそれを?』

 

達也『記憶力は少し良いものですから。懇親会で突っぱねていたら目にはつきますよ。』

 

あれだけ、数多の男子生徒を蹴散らしていたのだ

 

気付かない筈がない

 

愛梨『…ふーん。何はともあれ、貴方は他校から集中マークされたわ。気をつけることね。』

 

愛梨の言う通り、達也のエンジニアとしての腕前は雫と栞の試合で有名だ

 

達也『それはわざわざ、忠告ありがとうございます。今年のみの参戦の私にそこまで執着するとは思いませんでした。』

 

愛梨『今年のみ?あれだけの腕前がありながら。予選のあの魔法、インデックスに登録されたと聴きましたけど?』

 

少しでも達也自身の情報を得ようと話題を投げ掛ける愛梨

 

達也『随分と情報を集めたがるもので。私は私で、性格や何を信条とするかも異なる。十人十色という言葉はご存知でしょう。申し訳ありませんが、明日もエンジニアの仕事がありますのでこれで失礼します。』

 

随分と自分に興味を持っているようだ

 

達也の周りを嗅ぎ回っている輩の所為もあり、段々と十師族が鬱陶しくなってきている

これ以上関われると本音が出てしまいそうだ

 

自分のスタンスを早口に捲し立て、静止を聞かず自分の部屋に戻る

 

愛梨『あっ!ち、ちょっと。』

 

達也『…あぁ、忘れていた。』

 

ふと何かを思い出し足を止める達也

 

愛梨『?』

 

それに不思議がり、首を傾ける

 

達也『もう夕方の6時を回っています。まだ明るいとはいえ、こんな場所で一人の男と話していると(というより密会?)秘密の逢瀬と勘違いされますよ?容姿は可愛らしい美少女なのですから。このような事は控えた方がよろしいですよ?』

 

愛梨『なっ///』

 

可愛いと言われて顔を真っ赤にする愛梨

 

美人と言われることはあったが、可愛いや美少女とはあまり言われない

 

それもあり、達也の言葉は絶大の破壊力があった

 

愛梨『……』

 

何か返答しようにも先程の衝撃から戻れない

 

アワアワと狼狽えながら達也の背中を見つめることしか出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー夢を見た

 

それは夢でもなく、記憶の中の一場面

 

 

横たわる四肢

 

濁った水溜まりのような血

 

そしてそれは、止めどなく広がり血の海となる

 

そこには死した者しかおらず

 

聴こえるのは銃声や爆発音、怒声、悲鳴のみ

 

 

 

『と…s…、…aさ…、…y…め』

 

横たわる人物に声をかけても返ってくることはない

 

 

『ど……うし…て。そ…んな。』

 

すでに息絶えており、動くこともない

 

 

 

 

 

『あ、あ…ああ…あ"あ"あ"ぁぁーー』

 

 

 

平穏な日々が一瞬にして崩れ去ったあの日

 

もう二度とあのような悲劇と愛する者達も失わないためにーーー

 

 

 

 

 




…長かった

如何がでしたか?
創作の都合で試合の順番は変わりますので、ご容赦下さい

①真由美さんからの達也へのご褒美とは何なのか?(それは作者のみぞ知る(笑))
②原作通り、インデックスには雫で登録!
③やはり、優等生のキャラクターもいいですね。
④愛梨さん、達也君が気になる様子

今回はほぼ、原作通りに進めたはずですが、長くなりました。

次も頑張っていきますので、またお読みいただければ幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

九校戦の日程変更に賛同コメントありがとうございました。
まさか、同じような思われていたとは。

…さて、今回はどこまで進めようか
優等生のキャラも入れたいし………。

漸くですが、この小説サイトの投稿のコツ?が解ってきました。それに連なって過去の単語も変えていきます!

今回はオリジナル設定の達也君の特殊能力を少しばかり書きます!

もう一つ!
あるキャラクターを登場させる予定です❗️
私としては、一番、達也と似合ってるんじゃないかというか一番好きな人物です。願いとしては、達也とその人が結ばれて欲しいと思っています。


それよりも、達也君の追加能力は好評なのか少し(いえ、結構)気になります。


温かな目で見守って下さい



九校戦二日目

 

午前7時過ぎ

 

浩也達の宿泊している部屋に早朝から訪問者があった

 

コン、コン、コンと扉をノックする音、気配でその人物が誰なのかは判っている

 

だが、その人物にしてはやけに弱々しいノック

 

浩也『構わないよ、入って来なさい達也。』

 

達也『…朝早くからすみません。』

 

浩也の促しから間をおいて入室する達也

 

凛『おはよう、…達也?』

 

普段の達也と比べても今日の達也はおかしい

 

第一印象としては、親鳥を探す雛鳥のよう

そして、服装も就寝用で覇気もない

 

まるで別人のようである

 

浩也『…』

 

達也『…すみません、恭也と結那、加蓮は?』

 

キョロキョロと視線をさまよわせる達也

 

何かを探すというか、きっかけを探しているのか

 

言葉に出すことを躊躇っているようにも見受けられる

 

凛『あの三人なら少し体を動かしてくると言って…』

 

達也『!?どこですか?』

 

妹達と弟が出掛けていると凛から聴くや否や

 

焦りと恐怖が混じった表情で凛に詰め寄る

 

凛『!』

 

浩也『達也、落ち着きなさい。』

 

何かを察した浩也が達也の肩に手を乗せる

 

そしてその手で達也の頭をわしゃわしゃと撫でる

 

達也『っ!…すみません、取り乱しました。』

 

時間にして数秒だが、達也を落ち着かせるには十分な時間だ

 

浩也『…夢を見たな?』

 

達也『…』

 

浩也は達也の様子を見て核心を付く

 

達也は頷くだけだが、言わなくても解る

 

浩也『凛の言葉を補足すると、体を動かしてくると言った三人だが、独立魔装大隊のメンバーと一緒だ。安心しろ。』

 

浩也の言葉に達也も胸を撫で下ろす

その言葉を聴くまで安心することは出来なかった

 

達也『良かった。なら、私は部屋に戻ります。』

 

家族の安否が確認出来たため、部屋に戻る

今日も朝から(エンジニアとしての)仕事のため準備もある

 

選手達の体調も確認して最終調整をしなければならない

 

浩也『待ちなさい達也。そのまま仕事をしても問題無いだろうが、時間にはまだ余裕があるゆっくりしていきなさい。ハーブティで良いか?』

 

達也『…はい、それでお願いします。』

 

今の自分の精神状態を見抜かれていたのだろう

 

ガタガタの精神は回復したものの、安定したいつもの自分にも程遠いことを

 

手っ取り早く戻すには、落ち着く場所に居ること

 

それが達也の場合、家族の傍ということだ

 

凛『達也のことだわ、予選用の調整は全て終えているのでしょう?』

 

浩也『昨日の試合は見事だったぞ。まさかあれを使うとはな。』

 

親である二人は達也を甘やかすことにする

 

いつも、家族第一に考え行動するような達也を負かせる数少ない人物だ

 

達也『お二人には敵いませんね。』

 

家族に褒められるとやはり嬉しい

 

他の子供達は居ないものの、達也にとっては安らぐ空間といっていい

 

浩也『…落ち着いてきたところで、お前の見た夢だが俺だけでなく、子供達にも聞いてもらった方がいいだろう。』

 

予知夢を見ることが出来る血は浩也だけではない

 

双子の姉妹の結那と加蓮に末の弟の恭也

 

しかし、達也はあまり心配をさせたくないのか渋っている

 

凛『達也、言霊ということもありますが、話すは放すといいます。』

 

達也『…はい。』

 

凛にも説得されては根負けするしかなかった

 

ーーーーー

 

 

 

加蓮『ただいま!あっ!達也!』

 

結那『ただいま戻りました。あっ!達也さん!』

 

恭也『ただいま戻りました。…!兄上!』

 

五分も経たずに双子と弟が鍛練から帰ってくる

 

数分前の静けさは何処へやら一転して騒がしくなる

 

騒がしいのは嫌いな達也だが、愛する者達と過ごす時間はこの上ない贅沢なのだ

 

達也『おかえり、三人とも。』

 

穏やかな笑みを浮かべる達也

 

 

 

 

 

 

三人の身嗜みも整った処で、昨晩見た夢の内容を打ち明ける

 

結那『…なるほどですね。』

 

加蓮『う~ん。』

 

双子は達也の滅多にないお願いに真剣な様子

 

末の弟の恭也も似たような表情だ

 

しかし、浩也に関しては三人とは違った表情

 

達也『…朝からこんな事を言ってすまない。だが、どうしても気になってな。恥ずかしながら、三人が居ないことに取り乱してしまって義母さんを困らせてしまったんだ。』

 

加蓮『えー!?なんでなんで?それを私の前でしてくれないの?』

 

結那『加蓮じゃ役不足なんじゃないかしら?私なら達也さんの弱ったところも包み込んであげれるわ。』

 

取り乱した達也を見てみたかったという結那と加蓮

 

そういった表情をほとんど見たことが無いため、双子にしてみれば達也の新たな一面を知ることが出来たかもしれない

 

更に言うなれば、達也との距離が縮まったかもしれないのだ

 

凛『二人とも少し落ち着きなさい。達也が取り乱したのは、貴女達のことが心配だったから。かけがえのない存在ということよ。ねぇ?達也?』

 

達也『義母さん?ちょっとそれは飛躍すぎでは?』

 

凛『あら?二人が大切ではないということかしら?』

 

双子の追及を凛が止めてくれたは良いものの、煽っては逆効果な気がするのは何故だろう

 

 

暫く沈黙していた浩也が達也に問いかける

 

浩也『…達也、その夢。いや、記憶といったほうが的確か。他には何か視たか?』

 

口にすれば『みた』という言葉だが、浩也が問うた言葉は『視た』

 

言ってみれば、目に見えるものではない何かを視たのかどうか

 

達也『…いえ、何も。唯、あの時の記憶とは違うような気もしました。…人も違った気がします。何より、自分自身がこの姿でした。』

 

あの記憶はあまり思い出したくない

 

だが、乗り越えなければならないものではある

 

浩也『なるほどな。…恐らくだが、達也お前予知が出来るようになっているのかもしれないな?』

 

主観的な情報を元に浩也は達也が呆気に取られるような言葉を発する

 

達也『は?』

 

達也だけではない

 

妻の凛から結那、加蓮、恭也までもが似たような表情をする

 

浩也『お前の能力に【複製(コピー)】があるだろう?あれが発動したのかもな。』

 

複製(コピー)

その眼で見た魔法を再現するしかし、再現できても質は本家に負ける

 

但し、自身の魔法力に比例する

 

つまり、自身のスペック(魔法力・能力)の範囲内でしか不可能

 

達也『待ってください。あれは、見たものを自分の能力の範囲内で再現するというもの。予知には血筋と霊力が必要です。血はありませんし、霊力は魔法力や想子(サイオン)とは別物です。』

 

予知という特殊能力は誰でも真似出来る訳ではない

血と霊力その二つが揃ってこそだ

 

それを当て嵌めると、達也は養子のため霊力は無い

 

全く無いではわけない、人間誰しも霊力は少なからず持っているもの

 

想子(サイオン)は魔法師のみだが、霊力は全ての人間が持つもので生命力に近い

 

しかし、生命力=寿命ではない

気力という言葉が近いのかもしれない

 

それが多いか少ないかの話なのだ

 

そして、神夢家の血を引く人間はこの霊力が徒人より圧倒的に大きいのだ

その圧倒的に大きい霊力が予知には必要不可欠

 

そのため、どちらかが欠けていても不可能

 

それを一番理解している浩也だが、何故かそれを力業で通そうとしている

 

浩也『だからだよ。…お前の中にあるアレは万能と言っても過言ではない能力、お前の左手に着けているブレスレット兼時計だが…。』

 

それを可能にするための証拠を達也の中にある能力で組み上げていく

 

そして、達也が秘匿すべき能力の一つ

分解と同等以上のそれが予知を可能にした要因として挙げる浩也

 

達也『…』

 

浩也『まだ、使いこなせていないアレと溢れ続けている想子(サイオン)を制御出来ていないんだろう?』

 

達也の左腕、手首辺りに収まっている腕時計の形をした特殊な素材で出来たもの

 

計時機能は勿論あり、日々増え続ける想子(サイオン)を洩れださないなようにまた、達也のある能力の制御の補助を行う代物

 

達也『…なら、こういうことですか?アレの影響で複製が進化し予知をしたと。』

 

浩也『その可能性が高い。』

 

納得はいかないものの、確かにアレは自分でも解明出来ない謎が多い力

 

能力をグレードアップ(改良)させることは出来たが、無いものを補うことは信じられなかったが

 

 

達也『わかりました。仮に予知が出来たとして、その夢の内容ですが…』

 

浩也『そうだな。横たわる四肢に血の海か…。』

 

今回の達也の夢は如何せん情報が少ない

 

しかし、浩也らが視る夢は殆ど情景も全てが完璧

 

初めて視た予知夢ということは考慮すべきかもしれない

 

 

凛『…二人とも。考えるのはいいですが、達也が時間みたいですよ?』

 

時刻は午前8時前

 

あと一時間もせず九校戦が始まる

 

達也はエンジニアのため、選手の体調も見て最終調整が必要だ

 

 

達也『遅刻気味なので、また昼に伺います。今日も暑くなりそうなので、体調を崩さないよう。…じゃあ、いってきます。』

 

全員『いってらっしゃい。』

 

部屋を出ていく達也を笑顔で見送る家族

 

加蓮『…で?お父さんは何を考えているの?』

 

浩也『おや、バレていたか?』

 

結那『普段の達也さんならとっくに見抜いてますわ。』

 

 

達也から夢の内容を聴いてから数分後に瞳が煌めき、十分後には面白がるような表情に変わっていた浩也

 

 

凛や双子、恭也が気付いたのは偶然だった

 

達也が暫し思考に耽った時に、浩也の口角が上がっていたため漸く気付いた

 

だが、達也は昨晩の動揺から戻っていないため気付けなかったようだ

 

浩也『大したことではないよ。達也と我が家を阻むモノが一つ減ったから嬉しくてね。達也があの苗字を名乗れる日も近いかな?とね。』

 

本当に嬉しそうな浩也

 

凛『…本音は?』

 

永年連れ添った妻の凛には隠していた本音を見破られたようで

 

浩也『もっと、困った達也を見てみたい♪』

 

いい大人が語尾を弾ませて可愛く言ったつもりだろうが

 

…悪寒がした

 

結那・加蓮『…ヒトデナシ』

 

 

ーーーーー

 

 

摩利『遅いぞ。』

 

達也『申し訳ありません。時間もあまり無いので、早速始めます。』

 

時刻は午前8時10分頃

 

試合開始は午前8時30分からのため、今回の達也は遅刻寸前である

 

普段の達也なら、この時間には調整も全て終わっているのだが、今回の事態は特殊だろう

 

 

 

 

摩利『…うん、いい感じだ。流石だな。』

 

調整を開始してから僅か数分で仕上げた達也

 

そのスピードと完成度は流石と言わざるを得ない

 

しかし、それは摩利本人の体調管理の賜物ともいえるが

 

達也『ありがとうございます。これで、予選は問題は無いと思いますので、試合が終わればCADは私に預けていただいて、体を休めて下さい。』

 

摩利『了解した。』

 

摩利自身の能力としてそこまで策を弄する必要もない

 

彼女自身の体調と達也が調整をきっちり行えば、問題ない

 

達也『では、お気を付けて。』

 

 

バトル・ボード

 

全長3kmの人工水路を3周するレース競技である

 

選手からは「波乗り」とも呼ばれる

加速魔法などを駆使し競い合う

ルールとして他の選手に魔法で干渉することは禁じられている

 

予選は4人ずつ6レース行い、予選1位になった6人で3人ずつ2レースの準決勝、3位決定戦を準決勝敗退者4人で行い、準決勝1位の二人で決勝を行う(計10レース)

 

1レースの競技時間は平均15分、コースの整備に競技時間の倍以上を要することから1レース1時間でスケジュールが組まれている

 

元々は海軍魔法師の訓練用に考案された競技

 

 

これだけを聞けば、加速魔法が得意な選手を選抜すればいいと勘違いしてしまう

 

しかし、忘れてはならないのがこの競技は外で行うということ

 

それは、外的要因が大きく絡む競技でもある

 

例えば、風が吹いたり、気温が高かったり、雨が降っていたりとそういった状況でも競技をする

 

そのため、選手には魔法力も然ることながら体力がものを言う

 

また、時速50kmから60kmでコースを攻めるため嫌でも風を受ける

ボードから落とされないように維持したりと、相当の体力を消耗する競技なのだ

 

 

選手がコースに入り、各選手はそれぞれの体勢で試合開始のブザーを待つ中

 

摩利はというと、仁王立ちで腕を組んで合図を待っている

 

選手紹介アナウンスで摩利の名前が上がると、摩利のファンは黄色い声を挙げる

 

 

 

エリカ『うわっ、相変わらず偉そうな女。』

 

堂々した摩利の様子をエリカは辛辣な言葉で批評する

 

その言葉に周囲はエリカに不思議そうな目を向ける

 

レオ『?』

 

ほのか『エリカちゃん、渡辺先輩と何かあったの?』

 

エリカ『いや、ちょっとね。』

 

普段、からかう事が多いエリカが罵倒に似た言葉を使うのが珍しい

 

ならば、その相手と何かトラブルでもあったか

 

 

 

 

開始のシグナルがされ、試合が始まる

 

開始と同時に四高選手が自分の後方に魔法で波を作り出す

 

が、波が大きすぎて自らも巻き込む荒波になる

 

この時、別の場所で見ていた達也は

 

波を推進力にしようとしたのだろうなと四高の選手の意図を理解していた

 

エリカ『自爆戦術?』

 

呆れるエリカ

それにしては効果が薄い

 

雫『持ち直したみたいだけど、渡辺先輩には効果なかったみたいだね。』

 

荒波に巻き込まれることもなく、開始とともにスタートダッシュを切る摩利

 

1コーナーに差し掛かかる摩利

その時、漸くスタートを切った他の選手

 

勝負はこの時点で決まっていた

 

ほのか『あっという間に差が開いていく。』

 

尚も、摩利は手を緩めずにどんどん加速していく

 

それにしても、あれだけ高速なら体への負担が大きいはず

 

美月『一体、何の魔法を使っているんでしょう?』

 

深雪『加速と振動系の他に…何かしら?』

 

摩利が使用していた魔法が判らないままだが、他の選手の追随を許さぬ圧倒的なスピードに脱帽ものである

 

そして、コース終盤にある坂を上って滝もどきをジャンプし、着水時には大量の水飛沫を後続に浴びせ、失速させる

 

追い打ちなのか定かではないが、中々の策士である

 

エリカ『あんなことする必要ないじゃない、性格悪ぅ。』

 

摩利を悉く批評するエリカに周囲はどうしたのかと逆に心配になる

 

しかし、この場合は性格よりも戦術家と称する方が良いかもしれない

 

そうこうしているうちに摩利の予選通過が決まった

 

 

 

 

達也『お疲れ様です。流石と言いますか、3.4種類の魔法をマルチキャストされていたのは驚きでした。(その中でも硬化魔法の使い方は参考になるな。)』

 

予選通過を決めた摩利

緊張からの一区切りをつけるためタオルを渡す

 

摩利『ありがとう。まぁ、お前の調整もあったからな。』

 

終始にこやかな表情の摩利

調子は良いようで一安心する

 

達也『私の調整ではありませんよ。委員長の魔法力あってこそです。私以外がしても結果は変わりませんよ。』

 

摩利『それじゃあ、次は一時間後だな。お前の言う通りに休ませて貰うよ。』

 

達也の謙遜も聞き慣れたものだが、聞き流すことは出来ないため嘆息して、次へ話を進める摩利

 

バトル・ボードのコースは6コースある

 

本選女子の予選が終わったため次は新人戦女子の予選

それが終われば、本選女子の決勝トーナメントとその余ったコースで本選男子と新人戦男子の予選を行い、その次に新人戦女子と非常にタイトなスケジュールで進められる

 

 

午後からは、本選男子で新人戦男子の決勝トーナメントだ

 

達也は新人戦女子で出場するほのかの担当でもあるためこれから会場入りだ

 

摩利が休憩に入ったのを確認して新人戦女子で出場するほのかの許に向かいながら考えに耽る達也

 

 

達也『(今のところ、予知に関しての手掛かりは無いな。昼休憩時に、浩也さんと相談だな。…それにしても、奴等は何も仕掛けてこないな。)』

 

夢の内容は浩也と再度協議するとして、もう一つ、一昨日侵入してきた賊が何も仕掛けてこないのが不思議だった

 

 

 

 

達也『体調はどうだい、ほのか?』

 

新人戦女子バトル・ボードの控え室で準備しているであろうほのかの様子を確認する

 

 

ほのか『…だ、大丈夫です。しゅ、睡眠も十分に摂ってますし、体力作りも達也さんにアドバイスしてもらった通りにしてますから。…うぅ。でも、それとこれとは別で緊張で体が。』

 

試合用のICHIKOのロゴの入ったウエットスーツとスイムシューズを着用して準備は整っているようだが、それとは逆におどおどした様子のほのかがいた

 

達也『体力作りと睡眠が摂れているなら、まずは良しだ。緊張か(雫の話によると、ほのかは試合の場合に緊張というよりかは他人と比較しすぎて自分に自信が持てないということらしい)…それは誰でもあることだ。馴れるしかないな。』

 

達也自身緊張は経験しているし、今でもある

それは、個々それぞれが克服の仕方を持っているため教えることは出来ない

 

ほのか『どうしても、失敗したらって考えたらその事ばかり頭に浮かんできて…。』

 

何でもいいから克服のヒントが欲しいと強く願うほのか

しかし、それは只の甘えでしかない

 

達也はこれまで色々とほのかや雫らに対して破格といって良いほどに優しい対応をしてきた

 

しかし、それが今日の達也はーー

 

達也『…引き寄せの法則というのがこの世の中にはある。それは、良し悪しに関わらずに思考したことが現実に起こる。というよりは、意思とは無関係に勝手にそういう行動を起こしてしまうと言った方が近いだろう?ほのかの言葉や思考が鍵になる。だから、自分がどうしたいかを考えるんだ。…アドバイスはここまでだ、悪いが俺はほのかではない。』

 

少しと言い難いがピリッとしており、触れれば切り裂かれそうな緊張感を纏っている

 

ほのか『え?』

 

そんな達也の雰囲気と発言に呑まれるほのか

 

はっきり言って、こんな達也は知らない

 

知っているのは、余所余所しく話す達也、穏やかに諭すような口調の達也だ

 

それが今は、何か試すような言葉遣いでほのかは恐怖を感じる

 

達也『冷たい、酷いとか考えているならお門違いだ。これはほのか自身の問題だ。アドバイスはした、CADの調整もしている。エンジニアは選手ではない。』

 

尚も、畳み掛けるようにほのかに反論を与えない達也

 

ほのか『ごめんなさい、達也さんなら何とかしてくれると思って甘えてました。』

 

ここまで言われるとは思わなかったほのか

 

彼女の涙腺は決壊寸前である

 

達也『厳しい言い方で申し訳ないが、事実だ。けど、ほのかなら優勝出来ると確信しているよ。尚武の三高や海の七高であろうとね。予選と準決勝までの作戦も授けた、やれるさ。』

 

ほのかの頭を優しく撫でる

 

突然、達也の手が頭を撫でて驚くほのかだが、片想いの人物に撫でられて嬉しくないわけがない

 

先程の緊張と恐怖は何処へやら

目許に溜まった涙も引っ込み、すっかりリラックスしたほのか

 

何だかんだでほのかにとっての緊張緩和剤は達也自身なのかもしれない

 

ほのか『はい!頑張ります!』

 

 

 

コースの調整も早く終わり、新人戦女子のバトル・ボードの予選が始まる

 

それぞれがコースに別れてスタート位置に立つ

 

雫『あ、ほのかの番だね。』

 

入場口からほのかが姿を現す

そこにはリラックスした表情の彼女がいた

 

深雪『結構緊張していたみたいだけど大丈夫かしら?』

 

誰にも緊張することはあり、深雪自身も例外ではなかった

 

水波『そこは担当エンジニアの仕事ではないでしょうか?』

 

雫『違うよ。緊張はほのか自身の問題。エンジニアの仕事は体調に合わせてのCADの調整だけど、これはお門違いだよ。』

 

何故だろうか?

 

達也が嫌いだから仕事を増やそうとしているのか、それともエンジニアは当然の仕事だと思っているのか判断しかねる

 

ほのかの親友である雫は水波の発言に真っ向から否定する

 

こればかりは、ほのか自身が越えなければならないもので他人が代わりに出来るものではない

 

睨みを効かせ水波の反論を封殺する

 

エリカ『へぇ、桜井さんって自分の出来が悪いと他人の所為にするタイプ?』

 

またまた、茶化すことが大好きなエリカは少し飛躍した想像で水波を誂う

 

水波『違います。エンジニアは選手の体調も考慮して、調整を行うもの。彼女の緊張も解ってこその調整ではないかと思っただけです。憶測だけでの発言はしないで下さい。』

 

エリカの茶化しに過剰に反応する

 

とことんまで深雪と水波は二科生とは反りが合わないようだ

 

とはいえ、エンジニアとして緊張も考慮にいれた調整はするのだが、選手本人が克服出来なければ、社会に出たときに何も出来なくなる

 

 

エリカ『そりゃ失礼♪』

 

エリカはエリカで嫌われるのを楽しんでいる節も見受けられる

 

ニコニコとしているエリカと睨みつけている水波

対極の二人を余所に試合の合図がまもなくされようとしていた

 

雫『始まるよ。』

 

と、雫一人だけサングラスを着けている

 

不思議に思っていると試合開始の合図がすると同時に閃光が視界を埋め尽くす

 

全員『!?』

 

その瞬間、ほのかはスタートダッシュを成功させる

 

後続は、スタート位置で水面への閃光魔法から視界が戻っていないようだ

 

さらには、ボードから落ちている選手もいる

 

達也『これは、あんな小細工をする必要はなかったかな?』

 

ほのかのスタートダッシュとスピードを見ながら、少し反省する

 

ほのかのスピードに着いていける選手が果たして、何人いるのか後続がコースの半周を過ぎた頃にはほのかは二周目に入ろうとしていた

 

単純なスピード勝負でも引けは取らなかったかもしれない

 

摩利に続きほのかも予選通過を決めた

 

 

 

ほのか『やりましたぁ~、達也さんのおかげです。』

 

予選通過を決め、一安心のほのか

 

まるで奇跡が起こったように達也に駆け寄る

 

達也『ほのか、落ち着くんだ。』

 

ほのか『で、でも、私、こういう試合とかで緊張ばっかで良い成績なんて残せなかったから…』

 

興奮覚めやらずで達也の声が聴こえていない

 

達也『(それは、小学生の時分だと雫から聴いているのだが…)昔は昔で、今は今だ。小学生の時に出来なかった事が高校になって出来るということはほのか自身が成長出来ているということだ。それは自分を褒めるべきだ。』

 

距離を取ろうとするが、達也の服の袖を無意識だろう

ほのかはずっと掴んで離さない

 

ほのか『ありがとうございます!』

 

雫『ほのか、達也さんが困ってるよ?』

 

ずっと、達也の傍から離れようとしないほのか

 

達也の助けてくれという視線が雫に向けられる

 

ほのか『あ、ごめんなさい。』

 

雫から指摘されて漸く解放される

 

達也『何はともあれ、予選通過だ。本線は一時間後だから体を休めることだ。決勝の相手はおそらく、三高の四十九院選手だから、次のインターバルで四十九院選手の映像と作戦会議だ。俺は、渡辺先輩の最終調整があるから後でな。』

 

達也に迷惑をかけてしまい、縮こまるほのかを宥める

 

第一関門も突破し、経験からの自信も多少は付いたのは確実だ

 

次の試合のために体を休めるよう言い含め、達也は摩利の元へ向かうのだった

 

 

 

 

雫、深雪達が観客席からに対して真由美達は第一高校の天幕からレースを観戦していた

 

 

真由美『見事なスタートダッシュね。』

 

ほのかの見事なスタートダッシュを誉める

 

摩利『あぁ、それよりも驚くべきは…』

 

鈴音『光井さんの水面への閃光魔法ですね。』

 

対人への魔法の使用は認められていないが、間接的なら認められているということ

 

水面に干渉した魔法は問題ない

 

老師の言った工夫とはこういうことなのだろう

 

思い付きそうで、思い付かない選択肢

 

魔法の種類によってはこの競技は活かせないと思っていたが、ほのかの閃光魔法はその概念を吹き飛ばした

 

真由美『もしかしなくても、彼が考えたのよね?』

 

鈴音『その通りです。』

 

考えるまでもなく、達也が作戦を立案したことは明白

 

摩利『私には、何もしてくれなかったぞ?』

 

真由美『まあ、摩利はそんなことをしなくても勝てるということじゃない?』

 

ほのかと比べて自分には何もしてくれないと拗ねる摩利

 

完成された摩利にヘタな案を授けても逆効果なことは自身でも理解しているが、少し羨ましいと思ってしまった

 

 

ーーーーー

 

 

女子バトル・ボード本戦 準決勝

 

スタート位置には摩利の他に海の七高と尚武の三高の水尾 佐保の三人の選手が試合の合図を待っていた

 

 

他の二人は緊張した表情でいるのに対して

 

摩利は相変わらずというべきか不敵な笑みを浮かべていた

 

普通なら決勝進出をかけたこのレース、実力は拮抗しているため一つのミスも許されない

 

そう考えただけで体が強張るが、摩利はこの状況でも何処か楽しんでいるようだ

 

流石は、一高の三巨頭の一角である七草 真由美と十文字 克人、十師族と肩を並べるだけある

 

 

 

 

愛梨『いよいよ、水尾先輩の試合ね。』

 

生徒会長でもあり、三高にとっては絶対に勝って欲しいところ

 

しかし、相手は一高の三巨頭の渡辺摩利がいる

 

踏子『厳しい試合じゃな。海の七高に渡辺 摩利が相手とは。』

 

仕組まれてるのでは?と疑いたくなる準決勝の対戦相手

 

愛梨『えぇ。(頑張って下さい、水尾先輩…!)』

 

愛梨と水尾は旧知の仲のため尚のこと、負けてほしくない

 

しかし、勝負事に私情を挟むのはもっての他

 

愛梨は祈るしかなかった

 

 

 

 

 

 

コースの脇でひっそりと観戦をしている達也

 

基本的にエンジニアも例外無く、控え室からモニター越しに観戦する

 

というよりも、そもそもバトル・ボードはコースだけのため、観戦出来る場所はそこまで無い

 

そして、そういった場所には大会運営委員のスタッフが居るため観戦が難しいといった方が正しい

 

尤も、スタッフが居る理由としては、外部からの妨害を防ぐためが主な理由だが

 

そんな場所に達也はいるのだが、

 

何故、そのような危ない真似をしてまで駆り立てた理由

 

首筋がピリピリするような感覚と虫の知らせの二つが達也をそうさせたというのが今回は適当だろう

 

 

ズキッ

 

達也『…(なんだ、この痛みは?)』

 

スタートの合図が鳴る数十秒前、突如として達也を頭痛が襲う

 

痛みには馴れているが、この痛みはただの痛みではない

 

何かを訴えかけるようなそんな類いのもの

 

合図が近づいていくほどに痛みが増していく

 

その痛みが頭全てを支配した瞬間、達也の脳裏に今朝の夢が映し出される

 

 

達也『(っ!、なんでまた、あの時の記憶が…?)…!』

 

記憶に気を取られている間にスタートの合図が鳴り、歓声が沸く

 

顔を上げて、状況を確認すると

 

どうやら、摩利がトップを走っているようだ

しかし、一選手分を空けるも七高が追随、三高もすぐその後ろにいる

 

試合はまだ始まったばかり

 

このまま順位が変動しない、そんな組み合わせでもない

 

僅かなミスがそのまま順位に響く

 

先頭の摩利が第一コーナーに差し掛かろうとした刹那、再び達也の脳裏に夢の光景が現れる

 

 

【横たわる四肢】が

 

横たわる二人の女性へと

 

【血の海】が

 

大きな水溜まりに

 

 

克明に映し出されたそれ

 

 

二人の女性とは摩利と七高の選手

 

水溜まりはコースの水が何らかの原因でコースサイドに溢れたもの

 

 

しかし、これが判ったところで達也は動く筈もなく

 

 

達也『(凄いな、これが予知か。)』

 

 

自分には関係のないことだと、そう思っていた

 

 

 

 

 

しかしー

 

 

 

 

 

観客『オーバースピード!?』

 

観戦していた人間全てが同じことを思っていた

 

それは、七高の選手がコーナーに進入する速度を減速せずに寧ろ加速しているようにも見える

 

通常は、スローイン・ファストアウトが原則

 

摩利や三高の水尾もまた例外なく減速をする

 

例外的に進入速度を落とさずに突っ切る選手もいるが、スピードはそこまで出せない

 

だが、七高の選手はコーナーに差し掛かるまでに出しているスピードで曲がろうとしている

 

これは誰もが無謀と思うだろう、一般の人間ならば

 

 

しかし、これを異常と見抜けたのは先行する摩利と達也のみ

 

摩利は先行していたため、減速し体勢をコーナーに合わせていた

そのため、後方も見えており七高の選手の表情がはっきりとわかっていた

 

減速出来ないー

 

 

 

一方達也は、予知もあるが七高の選手の姿勢の変化とCADの異物を視ていた

 

初めて見るウイルスだが、症状はCADが制御不可能にすることだろう

 

そして、姿勢も腰が引けて胸も反っている状態で予測不能な事態に体が強張っている

 

 

 

摩利『(このままでは、コースを外れてフェンスに直撃か。まず、ボードと離さなければ減速は無理か。)』

 

七高の選手は動揺で思考も行動も不能な状態

 

自身が無理ならば、他人が手助けをする必要がある

 

摩利はコーナー脱出のための加速魔法をキャンセルし、体を止まらない七高の選手に向けために反転に加速と減速魔法を

 

そして、七高の選手を助けるためにボードを移動魔法で吹き飛ばす

次いで、受け止めるために加重系慣性中和魔法で受け止めた際の後方と沈み込む力のベクトルを相殺させるー

 

はずだった

 

不意にボードが沈み込むまでは

 

深さにして10cm程だろうか

 

単なる沈み込みならば問題なかった

 

だが、今回は少々緊迫した状況であったため

僅かでも摩利の感覚が狂うのは不味かった

 

 

水面の沈み込みで摩利の体勢が崩れる

 

魔法の座標もズレ、ボード上でのバランスを保てずに七高の選手を受け止めれるどころか自分も巻き込まれてしまう形となる

 

そのままコース外のフェンスへと吹き飛んでいく二人

 

 

それを見ていられず、目を閉じるも思考は一致する

 

 

《ぶつかる》

 

 

 

ーー刹那、

 

 

まるで、太陽が降ってきたかのような凄まじい熱気と岩石が砕け吹き飛んだような衝撃と轟音

 

次いで、金属が壊れる時の特有の音が周辺を支配した

 

数十秒の間、音が人々の耳を支配し続けるも少しずつ静寂が戻っていく

 

基本的には興味がないとしつつも興味心は少なからずあるのが人間

 

見たくないようで見たいそんな心境で恐る恐る目を開ける

 

 

ーーそこには

 

 

ぶつかった衝撃で大破し所々鋭利になった鋼鉄のフェンス

 

空中に投げたされた二人から外れたボードがコースの水をコース外へ押しやり、水溜まりをつくる

 

 

そして投げ出された二人に誰もが最悪の状況を予想していた

 

 

一人の影が見えるまではーーー

 

 

 

その影は摩利がフェンスと七高の選手とで挟まれるのを防いでいた

 

自身を犠牲にして二人を助けたその人物

 

観客は、誰だ?といった風

 

しかし、一高にとってはよく知る人物

 

エンジニアのウェアを着用した男子生徒

 

この女子本選バトル・ボードの選手である渡辺 摩利の担当エンジニアの守夢 達也

 

 

何故、どうやって?と不思議に感じるが

 

それよりもすぐさま、選手二人の容態を確認すべきなのは明白

 

選手二人を抱えたままぴくりとも動かない達也

二人をフェンスから身を挺して守った代償は計り知れない

 

 

普通ならばーー

 

 

だが、そんなこともなかったかのように起き上がる達也

 

そんな達也に驚きつつも、大会スタッフ達は三人に駆け寄る

 

 

フェンスに激突した衝撃は問題無いようで、抱えていた二人を優しく横たえる

 

達也は軍属だ

 

軍でも救急の医療措置は学ぶため、ある程度の救急措置や身体の状態を確認することも可能なのだ

 

その知識から二人の症状を確かめる

 

十秒足らずでの簡易的な触診だが、外傷も骨折等の症状も見当たらなかった

 

二人とも予想外の出来事に体が防衛本能を起こして気絶させたのだろう

 

あと三十分もあれば目は覚めるが、今回の出来事は魔法師としては悪い影響にしかならないだろう

 

よって、本戦女子バトル・ボードは棄権が望ましい

 

二人の額に手を翳し、記憶内に入り込む

 

記憶というのは曖昧であるため、少し弄れば人間の脳はそれを事実として思い込む

 

今回の記憶を曖昧に暈し終えると、達也は七高の選手のCADを改めて確認する

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)ではそのCADの中に蠢く異物が確かに存在していた

 

どういうものかは不明だが、CADに干渉するものだろうと直感する

 

CADに手を触れ、その異物を【分解】する

 

直後、大会スタッフが到着し選手二人の容体を本格的に診断する

これでようやく一安心だろうと気を緩めた達也

 

 

不意に激しい頭痛が達也を襲う

 

 

達也『っ!(また、この痛み。今度はなんだ?)』

 

片膝をつき、頭を押さえる

 

スタッフ『君、大丈夫か?無理もない、二人を庇ってフェンスに激突したんだ。どこか怪我をしているのは確実だ。すぐに医務室へ。』

 

状況を確認をしていたスタッフの一人がうづくまった達也を見て、慌てて駆け寄る

 

達也『それは、問題ありません。それよりもこの試合の結果ですが、二人は棄権の判断をお願いします。外傷や内臓の損傷当はありませんが、気絶しているため肉体が良いと判断して目覚めるには時間が掛かるでしょうから。』

 

スタッフ『わ、わかった。もし、何かあったならすぐに医務室に行くように。あとで、今回の事情を聴かせて貰いたい。』

 

怪我等が無いことを伝え、お決まりの如く今回の事件の聴取の了承をする

 

達也『構いません。それからーーー』

 

 


 

 

全ての事象が片付き、コースの再整備と試合が再開されたのは約二時間後のこと

 

試合結果は、本選女子バトル・ボードの優勝は三高となった

 

新人戦においては、ほのかは準決勝を通過し、残すところは決勝のみ

相手は三高の四十九院 踏子となり、一時間後に決勝が始まる運びとなった

 

僅かな時間で再開出来たのは、僥倖だろう

本来ならば、この日の試合全てが中断する可能性だってあったのだから

 

ほのかのCADの調整も終えて、少し休憩を摂る達也

 

家族に会いに行きたかったところだが、浩也から夜に来なさいと言われたため競技場内のソファで横になる

 

横になりながら、今回の件で自己嫌悪をしていた

 

 

何故、あんなことをしたのか

 

見て見ぬふりをしている筈が咄嗟に取ったあの行動とそのあとの魔法の行使

見られていたわけではないが、あのような行動をした自分に嫌気が差した

自分には家族やそれと同義の者達がいるのに、その人達の為にしか動かないと誓ったはずだった

 

 

達也『(いや、答えは出ている。あのとき…)』

 

あの二人がいや、あの吹き飛んだ姿があの三人に見えたから

 

抑えきれず、自分の奥底に抑えていた力が達也を駆り立てた

 

達也『(ブレスレットに損傷はない。一瞬だったからな。次は気を付けないとな。)…。』

 

目を開き、左手首に収まっているそれの状態を確認する

 

そのときになって漸く、ローテーブルを挟んであるソファに一人の女性が達也を見て微笑んでいることに気が付く

 

??『あ、ごめんなさい。そんな見ているつもりはなかったんだけど。』

 

達也よりは確実に年上だろうと思われるが、真由美という極めて例外もあるため何とも言えない

 

達也『いえ、ここは私の私有地ではありませんので。どこに座られようと自由ですし、私が不法にこのソファを占拠しているのを不思議に思われても仕方がありませんから。』

 

と、何故ここまで赤の他人を相手に雄弁に語ったのか瞠目する達也

 

しかし、どこかで会ったことがあるのだろうか

無論、気配に敏い自分が他人の接近をこうまで許してしまったのかもおかしい

 

だが、彼女の瞳には、達也という人物に興味を抱いているという風に見受けられた

 

??『ふふっ、私有地って随分高校生らしくない思考をされているのね。ますます、貴方と話してみたくなったわ。』

 

からかわれているのだろうか、それにしては雰囲気が純粋な好奇心を醸し出している

 

達也『…失礼ですが、私に何か御用ですか。』

 

このままでは、埒があかない

 

言外に、何か用があるなら話せと伝える

 

??『ごめんなさい、気を悪くしたなら謝ります。名乗るならまず、私からね。初めまして、私は津久葉 夕歌と言います。よろしくね、守夢 達也君。』

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?

ほのかの緊張と達也の対応が難しかったので、違和感を感じられるかもしれません。

いつも以上にグダグダな文章になったような気がしないでもないです。
読んでいただいている皆さん申し訳ないです。

もう少しとんとん拍子にストーリーが進めれるようにしたいのですが、書きたいこともなりなかなかどうして…

①設定通り、水波は深雪さんのガーディアンです。
②原作通り、摩利と七高は棄権ですが、怪我はさせてません。
③相変わらずで達也は最強です。
④夕歌さんに出て来て貰いました。まあ、一高のOGですから。

また、次回も見てください。

失礼します。







あと、一つだけお願いがあります。

感想ですが、批評はご遠慮願います。

ここを変えれば良くなるんじゃないの?といったアドバイスコメントは有難いですが、駄目出しは此方も傷付きます。
ぶっちゃけ、私自身が書いてみたいと思い、始めてる訳ですし。


妥協、ご理解をお願い致します。








目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編(響子編)

今回は響子さんです。

おそらく、短いです。

最後までお付き合い下さい。


神夢家

 

 

今日は達也の学校も休みであり、実は響子もオフという非常に珍しい日である

 

達也が休みということは双子や恭也もそういうことなのだが、クラブ活動もしているため今日は昼まではいない

 

響子に関しては、どこぞの誰かが裏で糸を引いている可能性は無きにしも非ずであるが…

 

そんなこんなで、響子は今、自室で仕事?をしている達也に会いに来ているのであった

 

響子『♪♪♪』

 

達也『響子さん、苦しいです。』

 

かれこれ約一時間程響子は達也に抱き着いた状態であり

 

それをされるがままに達也はモニターと向き合っていたが、そろそろ苦しくなってきたのか響子に話しかける

 

響子『酷いなぁ、その言い方。お姉さん傷付いちゃう。』

 

流石に達也といえどこの状態では苦しかったのだろう

 

それを理解したためすんなり達也から離れる

 

達也『響子さん、あと少しで終わるので待っててもらえませんか。』

 

響子から来る頃にはすでに達也は自室でシルバーとしての仕事をしていた

 

しかし、響子からデートのお誘いがあったためそのための仕事をしていたのだが、響子は待ちくたびれたようである

 

響子『うぅ~。仕方ない、達也君のベッドで寛いでおくから。』

 

しぶしぶ引き下がつつも達也に恨みがましい視線を送る響子

 

達也のベッドにダイブし、なにやらよからぬことを始める響子

 

達也『?響子さん、何をしているのですか?』

 

流石の達也も響子が自分のベッドでモゾモゾとしていると仕事どころではなくなる

 

響子『えへへ、達也君の匂いを堪能してるところ。』

 

語尾にハートがつきそうなほどの響子

 

達也は若干引き気味である

 

達也『止めて下さい。そんなに俺は匂いますか?』

 

響子の反応にそんなに自分は体臭がしているのかと不安になってくる

 

響子『うん、包まれてるって感じ♪』

 

達也『…なるほど。では、さっそく、布団を干しますか。』

 

だが、そんな思考は杞憂に終わるも

 

達也の中でいたずら心が芽生える

 

双子の結那と加蓮、響子といい少しお灸を据えてやらねば

 

響子『ダメ!』

 

過去最大級の拒否の言葉が響子から出るも達也は止めない

 

達也『何故ですか。匂うから干すのは当然かと。響子さんにそんな思いをさせるはいけないと思ったんですが。』

 

今の自分は相当いい顔をしている自覚はあるが、ここで手を緩めるわけにはいかない

 

体臭を気にする年齢ではないが、匂いを嗅がれて喜ぶ変態ではない

 

響子『…そういうことじゃなくてね。その、達也君といつも一緒じゃないから。今達也君は仕事中だし、邪魔できないからね?た、達也君の寝ているベッドで我慢しようかなと』

 

もじもじと達也の枕を抱きしめながら、答えになってない言葉を口にする

 

以前、響子は達也君分を補給と変な言葉を発していたのを思い出す

 

達也『俺は、栄養成分ですか。…仕方ありませんね。姉の言うことを聞くのも弟いや兄の務めですから。』

 

いつも響子が達也を弟扱いに近い事していたため今度は、限定的ではあるが達也が響子の兄になる

 

と言いつつも、結局は達也が響子を甘えさせていたため弟でも兄でもあまり変化はない

 

響子も身近な異性が達也であり、少し年齢が離れているため弟に近い異性という認識でいたが

 

響子『達也君がお兄さん?えぇぇ。』

 

今回の達也の兄役はなにやら不満のようである

 

達也『何か不満でも?』

 

響子『だって、達也君が実の兄ならサディストっぽくなりそうだし。』

 

今も若干ではあるが、達也から苛められているためそんな達也が兄となると恐ろしい気がする

 

達也『ほう、そんなことを言う響子には添い寝はなしだな。』

 

そんな返しも予期していた達也

 

すばやく、兄モードで誘惑する

こんなことをして誰得と思うかもしれないが、双子と響子に対しては効果抜群なのである

 

寧ろ、こんな行動をする達也は響子以外に結那と加蓮にしかしない

 

響子『!?今のなし!お願い、お兄ちゃん。私と一緒にお昼寝しよ?』

 

速攻で謝る響子

せっかくのチャンスを不意にするわけにはいかない

 

涙目になり、上目遣いでコテンと首を傾げながらお願いをする

 

その姿は無意識のうちに響子は妹という属性を身に着けていた

 

達也『っ!』

 

その仕草に達也は勝てず

 

数瞬、硬直してしまうほどの破壊力だった(決して、達也は妹属性が好きということではありません…maybe)

 

響子『?』

 

瞠目してしまっている達也に不思議に思う響子

 

達也『何でもないよ。仕事は趣味みたいなものだから。今は可愛い妹を甘えさせることに専念することにするよ。』

 

ここまでとは思っておらず、普段の姉のような響子からのギャップに声も出なかった達也

こんな事をしていては、仕事をするよりも息抜きをするべきかと諦める

 

今回の仕事もそこまで急ぎではない

 

それなら、響子のオフの都合をつけてくれた誰かさん達に感謝しつつ休日を愉しむことにしよう

 

 

響子『やった。じゃあ、お昼寝終わったら、買い物付き合ってね?』

 

かまってもらえることに嬉しい響子

そこには、妹属性ではないが、恋人とスキンシップがとれるような満面の笑みの響子がいた

 

達也『はいはい。』

 

達也が腕枕をし、その懐に響子が入り込む形をとる

 

双子の義妹が昼食の呼び出しに来るまでしばしの小休憩を堪能する二人だった

 

 


 

 

現在、達也はある窮地に立たされていた

 

それは、世界でも一、二を争う実力者でも回避したい場所

 

特に男性が…

 

達也『響子さん、帰っていいですか?』

 

響子『だ~め。買い物に付き合うって言ったの達也君だよね?』

 

カーテンから顔だけを出して達也を引き留める響子

 

こういう状態であることから達也と響子は何かを身に着けるための店にいると推測される

 

達也『言いましたが、場所までは言っていませんし、男である俺がこの場にいるのは通報されかねない気がするのですが。』

 

と長々と引っ張ったが、お解かりの通り

 

高級下着専門店にいる

 

響子『あら?私にはどこでも付き合うっていう風に聴こえたんだけど?達也君にしては、優しいなぁと思ってたんだけど。そっか~、私の勘違いだったみたいね。ごめんね?無理やり付き合せちゃって…』

 

しゅん、と項垂れる響子

 

その周りでは女性達が達也を射殺さんばかりの視線で睨んでいた

 

女性を泣かせる男は敵というような

 

針の筵状態

 

これには、それなりに鍛えてきた達也でも降参するしかなかった

 

達也『…(勘弁してくれ。)冗談ですよ。ただ、心の準備というものがですね。』

 

響子『ダメ?』

 

達也『っ!(いつの間に覚えたのやら)なるべく早めを希望します。』

 

響子『努力します♪』

 

ーーーーーーーーーー

 

待つこと数分

 

響子『おまたせ。どう、達也君。』

 

カーテンを開けて出てきた響子

 

今、響子が身に着けているのはシルク生地で可愛らしい花柄が入った淡いピンクの下着

 

きわどい部分も多数見受けられ、あまり免疫のない達也にとってはもはや地獄といえる

 

達也『…可愛いと思います。』

 

正直、今の達也は真面な思考を持ち合わせていない

 

当たり障りのない言葉で誤魔化すしか出来ない

 

なぜなら、響子の下着姿にキャパオーバーを起こしているから

 

 

響子『そう?じゃあ、次ね。』

 

そんな達也を知ってか知らずかご機嫌な響子

 

そういうとカーテンを閉じ、次の試着に入っていた

 

 

ーーーーー

 

試着すること一時間

 

かれこれ二十着近く試着しただろうか

 

途中から達也がおかしいことには気が付いていた響子

 

少なからず異性として見てもらえていることに満足していたが、もう少し達也からアクションが欲しい

 

響子『ちょっと、達也君。ちゃんと見てるの?』

 

達也『いや、ちょっと、響子さん許してください。』

 

響子の下着姿に目を背ける達也

 

妙齢で引き締まったボディとそれに見合った胸

 

そこに下着姿と合わされば、達也も意識せざるを得ない

 

しかも、達也にとって義妹である双子の結那と加蓮以外では唯一の異性と認識する存在の響子なのだから

 

響子『もう、しょうがないな。』

 

素直に詫びる達也にそれ以上は言えない

 

長時間付き合わせたのだから、強くも言えない

 

達也『すみません。』

 

響子『ふふっ、気にしないで。じゃあ、これを最後にするからこれだけはしっかり見てね?』

 

最後の試着のためにカーテンの奥に隠れる響子

 

達也『はい、分かりました。』

 

 

ーーーーー

 

数分後

 

響子『それじゃあ、いいかしら?達也君。』

 

響子から達也に確認の声がかかる

 

達也『大丈夫です。』

 

シャッとカーテンが開く

 

そこにはーー

 

響子『ど、どうかしら?少し頑張ってみたんだけど。キツくないかな?』

 

黒のベビードール姿の響子だった

胸元あたりからレースがミニスカート位の際どい長さとなっていた

また、薔薇のような装飾とフリルなどがあしらわれている

透けて見えるのはシルクの生地なのだろう、見えそうで見えない一応、下着としての役目は果たしている…と言うべきなのか

 

 

達也『…』

 

そんな姿に達也は本日一の衝撃を受ける

 

 

響子『た、達也君?ちゃんと、見るって言ったよね?返事して欲しいんだけど…。』

 

黙りした達也に早く感想が欲しい

流石の響子もこのままは恥ずかしい

勇気を振り絞ってこのベビードールを試着したのだ

 

達也『っ!、す、すみません。そのなんというか…。』

 

達也にしては珍しく、噛んだりしどろもどろである

 

相当テンパっていると言える

 

響子『…達也君の言葉で聞きたいな。』

 

ここまで響子自身を女性と意識してもらってこの上なく嬉しいが、達也相手だとどうしても欲が出てしまう

 

頬を染め、上目遣い気味に達也におねだりをする響子

 

 

達也『綺麗だ、誰よりも。』

 

双子の二人とはまた違った雰囲気(色気)

 

達也自身の言葉でとなると難しい、響子をいい加減な言葉で惑わせることはしたくない

 

だが、達也として今の響子はどう映っているのか

そう考えると、着飾った言葉ではなくシンプルな言葉

 

響子『あ、ありがとう、ね。』

 

真剣な眼差しの達也から発せられたストレートな言葉に響子もただお礼の言葉を言うしか出来なかった

 

自分からお願いしてだが、達也からこんな言葉を聴けるのは素直に嬉しい

 

それを見ていた周囲のカップルや女性陣は羨望の眼差しとあの彼氏さんみたいな言葉が欲しいなぁ等と同じ店内にいたカップルの女性は男性にこぼしていたり

 

 

ーーーーー

 

 

響子『いいの?自分で買うのに。』

 

達也『気にしないでください。軍では二人分ですし、シルバーでそれなりには稼いでますので。それに、こういう状況(シチュエーション)では男に花を持たせて下さい。女性にあんな恥ずかしい姿をさせたんですから。』

 

結局、購入したのは、最初の淡いピンクと響子が好んだ赤色の下着そして、最後の黒のベビードール

 

響子は自分で払うと言っていたが、達也が頑なにこれを拒否

 

黙ってもらって下さいと

 

響子『ありがとうね。』

 

達也『いえ、家族なんですから。妹のお願いは兄が叶えてあげるものです。』

 

響子『えー、まだその設定引きずるの?』

 

カフェのテラス席で休憩をしながら女性下着店での出来事を振り返りながら、午前中の響子とのやりとりを取り上げる達也

 

響子の中では、それは午前中で終わって午後からは普段の達也と自分の関係に戻る予定だったのだが

 

達也がこの設定を気に入ってしまったようだ

 

達也『そういえば、ブランシュの件では映像の書き換えありがとうございました。』

 

響子『ううん、あれくらいどうってことないわ。達也君こそお疲れ様。』

 

あのとき、風間から響子に指示があった内容とは達也がブランシュのアジトに行くまでの間にある防犯カメラの映像処理だった

 

達也の存在は秘されているのは当然のことだが、今回は達也が出張ったため道路に設置しているカメラが録画しているであろう達也の姿をなかったことにしなければならなかった

 

廃工場にはカメラは無かったためそちらは問題ないが、達也が動くとなると一つカモフラージュが必要になってくる

そういうこともあったため浩也は止めたという経緯もある

 

達也『あれは、俺の我が儘でしたことなので。本来はあれの領分ですから。』

 

達也の言うあれとは軍を指す

 

達也が軍人というのは特殊な例であるためあまり参考にはならないが、特殊部隊が一隊と他の部隊が必要な案件だった

 

それほどまでにブランシュというのは肥大した膿といえた

 

響子『まぁそうね。』

 

達也『後悔はしてませんが、皆さんを振り回してしまったのは申し訳ないと思ってます。』

 

誰かがやるべきを他人に任せてにはしたくなかった

 

家族を護るためなら何だってする

 

響子『大丈夫よ、これくらいで皆、怒ったりしてないわよ。寧ろ、嬉しそうだったわよ?』

 

そんな達也の覚悟に軽く嘆息する

 

何を言おうと達也の覚悟は揺るがないのは解っていた

 

しかし、そんなことは咎めることもない

 

達也『本当ですか?』

 

胡乱気な達也

 

響子『本当よ。皆、達也君が初めての我が儘を言っってくれたって。今日は赤飯だ!とか言ってたわ。』

 

達也『何のお祝いですか。』

 

家でもそうだが、軍でも達也は弟扱いというか可愛がられている

というよりも彼らより精神面が強い達也

幼かった達也は我が儘を言った記憶をそこまでないから嬉しかったのかもしれない

 

響子『それはそうと、九校戦のエンジニアに選ばれたって?』

 

この話は終わりと次の話題に移る

達也自身、あまりお祝い事というか愛情に対して苦手意識がある

 

それは、自分の境遇や育った環境がそうさせるのかもしれない

 

 

達也『ええ、不本意なことに。唯でさえ、三巨頭に目を付けられ、一科生に目の敵にされる身としては勘弁して欲しいですよ。』

 

響子『まぁ、十文字はそうでしょうけど。真由美さんは知ってるから、ちょっと意外だったわ。彼女、八方美人であまり本性を現さないから。もしかしたら、達也君に惚れちゃったのかもね?』

 

ウインクする響子

 

対して響子の言葉に達也はゲンナリとした表情だ

 

達也『嬉しくありませんよ。俺にとっては、響子さんと結那、加蓮で十分ですよ。十師族なら尚更です。』

 

この時ばかりは、はっきりと主張した達也

 

それに対して胸が温かくなる響子

 

響子『ふふっ、ありがとう♪達也君から嬉しい言葉も聴けたし、このお礼はしないとね?』

 

 

達也『事実ですから。…それなら、今日は俺が兄で響子さんは妹で過ごしませんか?』

 

達也にとって、この三人は特別な感情がある

 

もう一人の例外を除いてーーー

 

しかし、それでは響子は納得しないだろう

 

少し間を置いて今朝の響子との設定を思いだした

 

響子『達也君、私がそれ少し恥ずかしいんだけど?』

 

一応、非難の声をあげる

はっきり言って、外では遠慮したい

誰も居なかったからこそ妹(設定上)になれたのだ

 

達也『お礼なのでは?それに少しは響子さんに意趣返しです。いつも遊ばれているお礼ですから。』

 

しかし、それを達也が許すはずもなく

 

響子『鬼畜』

 

達也『誰がですか。たまには、新鮮さも大事ではないですか?それに、今日は響子さんを甘やかすと決めたんですから。』

 

響子から辛辣な言葉を貰うと意地でもやりたくなってしまう

 

響子『あーもう、達也君のお姉ちゃんでいようと我慢してたのに。これからは、遠慮しないんだからね?』

 

何か吹っ切れたような響子だが、普段から達也に会うたびにベタベタしているため今の宣言は少々おかしい気がする

 

達也『程々にお願いします。』

 

響子の目が獲物を狩る動物のそれに少しだけ恐怖する達也

常識の範囲内で収まることを切望するが、後の祭りである

 

響子『それじゃあ、もう少し買い物に付き合ってね?達也お兄ちゃん!』

 

 

 

 




………如何でしたか?

私的には、ものっっっ凄く甘くなってしまった気がします。特に前半部分

後半も私も男なもので、ネットで資料集めはやってて空しくなりました、なんでこんなことやってるのだろう?と

もっと、短くしようかなと思ったけど、書きたいことが増えてしまい、グダってしまった(^-^;

これでは、たつきょうになってしまう。
それもありですけど(汗)




目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話

今回は淡白な気がする…

あまり響子さんの番外編は不評だったんですかね?

それはさておき、夕歌さんとの絡みを少し出せればと思います。

それでは、お楽しみいただければ幸いです。


達也『津久葉 夕歌さんですか。ご存知の通り、守夢 達也です。それで、何か私にご用ですか?次もエンジニアの仕事があるので、時間は取れないのですが。』

 

津久葉と聴いた瞬間、思ったより早かったなと思う達也

 

何か企んでいるのか疑うも彼女の目には純粋な興味が映るだけのようだ

 

夕歌『あ、そうなのね。じゃあ、その試合が終わったら少し時間をいただけるかしら?私、一高のOGなの。毎年、九校戦は観戦してるのだけど、貴方みたいな他と一線を画する人は初めてだったから。』

 

どうしても自分と話したいらしい

 

がー

 

達也『そうですか。それは光栄ですが生憎、他人に評価されるために身に付けた訳ではありませんので。これで失礼します。』

 

他と一線を画する

 

この言葉に、他の真由美や摩利と同じかと結論づける

 

はっきり言って煩わしい

 

技術的観点から話せるような人間ではなかったため次の試合を引き合いに出し退席する

 

夕歌『あ、ちょっと…。もしかして、地雷を踏んだのかしら?』

 

達也の仁瓶もない言葉と遠ざかる姿

 

何か琴線に触れるものがあったらしい、素直に反省する夕歌だった

 

しかし、反省はするも、達也と交流を持ちたいと思う夕歌

 

その瞳には純粋な好奇心があった

 

 

 

 

 

 

選手控え室に入るとすでに準備が出来ているほのかがいた

 

入ってきた達也に駆け寄る

 

ほのか『あ、達也さん。』

 

達也『いけるか、ほのか?相手は水の家系の四十九院選手だ。全力で行かないと勝てない相手だ。』

 

策は付け焼き刃では難しい

そのために、達也は九校戦の準備期間の練習をよりハードなものにした

 

 

ほのか『はい!』

 

ほのか自身、一人だと不安だが、達也がいることは何よりも強い味方だ

この一ヵ月、出来る限りの努力をしたその成果を見せるときだ

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

九校戦開催一ヵ月前

 

担当する選手一人一人に達也が考案したメニューを渡し、それぞれがそれに従って練習に入っていく

 

 

達也『ほのか、バトル・ボードはミラージ・バッドと同様に非常に体力が必要だ。いくら、魔法を上手く行使したところで体力が無ければ無理だ。』

 

ほのかの競技はそれなりにハードなため、力の入り用が大きい達也

深雪はある程度の基礎体力もあるためメニューを渡すだけに留めた

 

ほのか『そうですね。私、そんなに体力がないから。』

 

他の選手と比べても基礎の体力は無いとほのか自身感じていたため、素直にそれを受け止めていた

 

達也『そう悲観することはない。無いなら作れば良い。そこで、俺が考案した体力作りのメニューなんだが。』

 

ほのか『…達也さん、嘘ですよね?』

 

達也から手渡されたメニュー表は高校生がするのか?と疑いたくなるようなものだった

 

例として、水泳1kmを一時間以内(二日目以降から時間を短縮、距離も増加)やランニング1~10kmをそれぞれ時間内で走りきること(但し、足に負担が掛かるためトラックに限る)など十個ほどのアスリートが通常こなすようなメニューが書かれていた

 

しかし、解る者が見れば、理想的なトレーニングだと太鼓判を押すほどのもの

 

達也『残念ながら、冗談ではないな。雫や司波さんもそうだが、全体的に体力、筋力値は低い。基準は渡辺先輩や十文字先輩あたりを考えてほしい。そこまでは時間が少なすぎるから、これは最低限のメニューだ。』

 

とは言え、現在のほのかでは到底半分も出来ない

 

ほのか『達也さん…。』

 

若干の期待を込めて見つめるほのかだが、そんなことで九校戦で勝てる訳もなく

 

事実のみをほのかに伝える

 

達也『勝ちたくないならそれでいいが、それは後々自分に返ってくる。俺の仕事は全員が勝てるように最大限サポートすることだ。結果が、駄目だった場合は責めてくれて構わない。』

 

優勝出来なければ俺の所為にしろ、と

 

それほどの覚悟を持って達也は望んでいるのだと、ほのかは自分の浅はかな考えを反省する

 

ほのか『そんな、もし駄目だった場合は私の努力が足らなかっただけです。達也さんを責めたりしません。』

 

自分の敗けを達也を理由にしたくない

その一心がほのかを奮い立たせた

 

達也『何度も言うが、悲観しなくていい。選手は試合に集中してくれればエンジニアも全力を尽くすさ。二人三脚さ。』

 

ポンポンとほのかの頭を撫でる

 

これで、達也の担当の選手はスタート位置に立った

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

真由美『…摩利、本当に体は大丈夫なの?』

 

ほのかのバトル・ボードの決勝がもう少しで始まろうという頃

 

天幕では、真由美達も観戦モードでいたが摩利が目覚めるなり、ここに来ていることに不安があるようだ

 

 

摩利『安心しろ、真由美。守夢のおかげで傷一つないよ。寧ろ、調子が良いくらいだ。まあ、守夢に礼は言わないとな。』

 

確かに達也が衝撃から守ったおかげで、摩利と七高の選手には傷一つ無かったのは良かった

 

しかし、結果として二人は棄権扱いになり、優勝は三高となった

 

真由美『それはそうなんだけど。…彼のおかげで本選のミラージ・バッドの代役を立てずに済んだのは助かってるけど。』

 

まだ不満が残っているような表情の真由美だが、言葉にせず軽く嘆息するに留めた

 

鈴音『しかし、どうして守夢君はあの場に居て、反応出来たのでしょうか?』

 

いつも不思議に思っていた、どうしてピンチのときには必ず現れるのか

 

正義の英雄(ヒーロー)でもこうはいかない

 

摩利『さあな。行きの事故に対応出来てたくらいだ、私達とは何か違うのさ。』

 

言外に化け物だと言っているようだが、これまでも達也にそういった場面での対応力を目の当たりにしてきたため、否定出来る材料が真由美達には無かった

 

ーーーーー

 

クシュッ

 

ほのか『達也さん、風邪ですか?』

 

かわいいくしゃみに誰か分からなかったが、達也が鼻を擦っていた

 

達也『いや、体調は問題無い。誰かが噂でもしているんだろう。それより、対戦相手の情報の確認だ。四十九院選手は古式魔法の白川家で川という文字通り水を自在に操れる。それはつまり、水に関してならば眠ってても問題無く、他に意識を傾けていても大丈夫ということだ。勘だが、彼女は古式魔法と現代魔法の両刀で挑んでくるだろう。』

 

よからぬ噂をするのはこの第一高校のごく僅かな人間しかいない

それに、それは大して重要でもない

 

次のほのかの決勝が目下の最優先事項だ

 

ほのか『パラレルキャストということですか?』

 

達也が風紀委員時に使用していたこともあり、すぐに理解出来た

 

達也『あぁ。けど、心配するな。ほのかの底力を発揮すれば、追い付ける。勝負は三周目の後半だろう。後ろに着けていれば問題無い。タイミングはほのかに任せる、行けると思えば行っていい。最終コーナーを越えてゴール迄の直線(ストレート)には前にいるようにな。そうでないと、効果が薄くなってしまうからな。』

 

今回は策はそこまで弄しない

 

保険というような意味合いで考えている

 

策VS策だと、かえって危険だと判断した達也

達也の頭脳をもってすれば可能だが、ここは真っ向勝負の方がほのかにとっても特訓の成果を発揮しやすいだろう

 

 

ほのか『わかりました。』

 

達也『あとは、ーーーーーー。』

 

 

ーーーーー

 

三高控え室

 

愛梨『期待してるわ、沓子。』

 

今日のバトル・ボードの試合も残すところあと数試合

 

女子本選は水尾が優勝

 

この勢いのまま優勝したい

 

沓子『任しておくのじゃ。勝ってくるぞ!』

 

もちろん、沓子もそのことは承知している

 

景気良く明日に望みたい

ハイタッチを交わす

 

愛梨『あ、水尾先輩。』

 

沓子と入れ替わりに控え室に来た佐保

 

エールを送り、沓子を奮起させる

 

水尾『四十九院、頑張って!』

 

沓子『もちろん!栞の起爆剤にもなってくるのじゃ!』

 

本来ならば、この場にもいたであろう栞のためにも負けられない

 

この試合に勝って栞を元気づけたいそんな気持ちが踏子から感じる

 

 

 

 

 

愛梨『水尾先輩、栞の様子は?』

 

あの試合から1日しか経っていないが、栞の様子が気になる

 

試合内容としては栞に落ち度はない

それ以上に相手が栞を上回っただけのこと

 

しかし、それを割りきれるほどの精神力はない

 

自分の出自も要因としてあるのかもしれない

ひたすらに自分を責め続けている

 

 

水尾『うーん、もう少し時間がいるかもね。』

 

愛梨『そうですか。』

 

時間が解決してくるのも一つの手だと佐保から諭され、愛梨は無理矢理納得するしかなかった

 

ーーーーーーー

 

開始のブザーが鳴り、新人戦女子バトル・ボード 決勝戦が幕を開ける

 

 

真由美『始まったわね。』

 

本選の摩利の事故もあり、険しい表情の真由美

 

内心では、また何かあるのではないかと気が気ではないがじたばたしても何か出来るものでもない

 

摩利『ここまで、光井は光波振動系魔法(得意魔法)で来たが、今回は何を用意しているんだ?』

 

ほのかの準決勝を見ていないが、ほのかの得意魔法は知っている

研究もされているだろう

 

今回は特に三高が相手だ

生半可な策では勝てないのは解っている

 

鈴音『そのことですが、守夢君に伺ったところ言葉を濁されまして。』

 

鈴音が達也と作戦の打ち合わせをしているため彼女が唯一、知っているのだが今回は勝手が違うようだ

 

摩利『どういうことだ?』

 

真由美『もしかして、何の策も練っていないってことなんじゃあ?』

 

訳がわからない摩利と何か不安が隠せない真由美

 

摩利『おいおい、相手は三高だぞ?勝てるのか?』

 

真由美の言葉に摩利も段々と不安を抱いてくる

 

鈴音『わかりません。ただ…』

 

鈴音にあたっても仕方がないのはわかってはいるが、それとこれとは別問題だ

 

達也なら何か凄いことを考えているのではないか

雫の時と同じように期待してしまう

 

真由美『ただ?』

 

鈴音『【必ず勝たせます】とこれだけはハッキリと答えてくれました。』

 

だが、その心配を見透かしていたのような達也

 

その言葉に安心できる材料は見つけられない

 

摩利『まぁ、あいつがそれを言ってのけるなら信じるか。』

 

しかし、摩利は少し思うところがあるのか素直に信じる

 

真由美『ちょっと、摩利。』

 

あっさりと引き下がった摩利に不安があるようで、真由美は摩利に迫る

 

摩利『真由美、ここは信じるのが当然だと思うが?無理矢理エンジニアとして参加させたのは我々だ。会って数ヵ月だが、あいつはやると決めたらとことんまでやる男だ。信じてやるのも親心だぞ?』

 

摩利が達也を信じたのはエンジニアとしての腕ではなく、入学から今までの達也の行動だ

 

これまで、何度も差別的扱いや闇討ち紛いをされても自分の仕事をきっちりとこなしてきた達也

 

捻くれるわけでなく、ただひたすらに自分に出来ることは何かを模索しながらどんな時も正々堂々と立ち向かっていた

 

風紀委員では摩利がトップのためそういった姿勢は見えてしまう

 

それが良い事だろうと悪いことだろうと

 

 

真由美『わかったわ。…ていうか、誰が親よ?』

 

しぶしぶといった体だが、納得する真由美だが、親心は違うようで噛み付く

 

摩利『すまない、嫁だったな。』

 

真由美『まだ、嫁じゃないわよ!…はっ!』

 

まだ、というのは咄嗟に出てきた言葉だろうが摩利にとっては良い肴を手に入れたと嬉しそうな表情だ

 

まあ、摩利から見ても真由美の一方通行で達也を意識しているだけだろうから進展は全くないのは確かだ

 

 

摩利『ほう。関係はともかく、惚れていることには違いなかったな。』

 

謀られたと悔しがる真由美

 

それとは別に

親友の恋を温かく見守っていこうと思う摩利だが、

 

 

ゴゴゴゴゴと

 

なにやら禍々しい気が鈴音から出ているのに気づき、直ぐ様考えるのをやめた

 

 

鈴音の真由美を射殺さんばかりの眼力には摩利も目をそらさずにはいられなかった

 

当の真由美は何やら妄想に浸って気づいてはいないようだが…

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

沓子『(ほう、中々速いのぅ。加速に関しては儂には分が悪いのぅ。その他で隙をついていくかしかあるまいな。)』

 

試合開始から先行してほのかが沓子の前を行く

 

先行は後方からのプレッシャーがあったりとするため後方の方が有利となるのが普通だが、魔法が使用可能なこの場面では前も後も関係ない

 

水面を介して魔法が決まり、先にゴール出来ればいいのだから

 

ほのか『(達也さんの言う通り何かを仕掛けてきそうな雰囲気が伝わってくる。体力を温存しながら勝機を見出だす戦法でいかないと。でもなんで、ゴール直前は先頭にいるようにって言ったんだろう?)』

 

着かず離れずの距離を保つ沓子に焦りを感じるほのか

 

隙を見せないようにするためにも焦りは禁物だ

ただ、達也のアドバイスの通りにそして、自分を信じるのみ

 

 

沓子『(よし、距離はこの位がボーダーラインじゃな。これ以上離されるわけにはいかん。あとは…ここじゃ!)』

 

沓子自身、全力で追い掛けているわけではないが、ジリジリと広がる距離

 

相手に精神的余裕を与えないために一定の距離でプレッシャーをかけ続けている

 

追い抜く隙を伺いつつも、ほのかにそれを悟らせないように

 

しかし、タイミングも必要になってくる

 

それが、二周目中盤の下りのトンネルを潜り抜けたタイミング

 

下りに神経を傾けていたためフラットなコースに気が緩んだときに更なる、緊張を走らせる

 

 

ほのか『!?(こんなところで?ちょっと!)』

 

コースに無数の渦が作られ、体勢を崩してしまう

 

何とかクリアしたものの、踏子が後方からあっさりと抜かれてしまった

 

沓子『お先じゃ!』

 

ほのか『くっ!』

 

僅かな油断だが、言い訳はできない

隙を作ってしまった自分のミス

 

 

沓子『さて、そろそろ反撃開始じゃ!』

 

右腕には古式魔法を繰り出し、ほのかの行き先を阻む

 

左腕に装着しているCADから自分に加速魔法でほのかを突き離していく

 

ほのか『(速い!達也さんにパラレルキャストで来ることを教えてもらってなければ、慌てていた。よし、まずやることは追い付くこと。)』

 

相手の行動が解れば冷静に対処出来る

 

そうなれば思考もクリアになり、行動に勢いが生まれる

 

沓子『?(おかしい、差がついていない?ラスト一周を逃げ切れるほどの十分なマージンを設けたはず。)』

 

予想以上に沓子を追い詰めるほのか

速さもさることながら、沓子のパラレルキャストにあまり動揺もせず妨害をすり抜けて来る

 

そんなほのかに恐怖を覚える

 

ほのか『(あの特訓に比べればこんな距離なんて。)』

 

ほのかの言う【あの特訓】とは何なのか

 

話は九校戦を数日前に控えた一高での出来事に遡る

 

 


 

 

 

ほのかの努力の甲斐もあり、達也の考案したトレーニングメニューをこなせるようになってきた

 

調子の良い日は摩利に着いていける時もあり、順調な仕上がりと言えた

 

達也はほのかの成長ぶりに感嘆し、更なる飛躍のためにある特訓?を考えていた

 

達也『(…そろそろいい頃合いか。)ほのか、今日はあと一つで終わろう。』

 

時刻は夕方

 

トレーニングをするにもあと一つか二つが限度のためタイミング的にもそれなりに良い

 

ほのか『はい!それで、最後は何をすれば?』

 

日頃のトレーニングのおかげで体力的にもまだ余力はあったためどんなメニューが気になったほのか

 

しかし、後にほのかはこの興味を後悔することになる

 

 

 

達也『簡単なことだ。俺とどちらが速いかを競うだけだ。』

 

ほのか『は…い?』

 

聞き間違いではないのかと疑うほのか

 

拍子抜けな言葉と思うも達也が嘘を言うわけもない

どういう競争なのかも気になるところではある

 

 

達也『大丈夫だ、ちゃんと許可は取ってある。審判もな。お願いします。』

 

詳細が欲しい

達也に質問しようと口を開くも遮れ、なし崩し気味の強制参加

 

達也の声で来たのは同じバトル・ボードの本選女子選手でもある摩利

 

公平なジャッジは期待出来るも、何だか嫌な予感しかしない

 

摩利『そういうことだ。準備が終えたら来るように。』

 

そう言い終えると、コースに向かっていった

 

 

ほのか『いえ、そうじゃなくて。達也さん…。』

 

ふと、気になったのが、果たして達也はボードで魔法の行使が出来るのか

 

そもそも何の目的で達也と競争するのか、不明な点がいくつも存在した

 

達也『あぁ、魔法の問題だな。そこは気にしなくていい。走るからな。』

 

ほのか『え、と?』

 

走る?

 

ということは水面と陸上での競争になるのか?

 

ならば、審判は二人必要なのではないか?

 

益々、理解が追い付かない

 

達也『百聞は一見にしかずだ。コース内に入ろう。』

 

そこには、コースの中に二つボードが置かれてあり、どう想像しても自分と達也の分に他ならない

 

しかも、達也は運動できる服に着替えている

 

まさか、本当に?

 

 

ほのか『達也さん、無理があると思うんですけど。』

 

この時ばかりはほのかも達也に止めるように説得する

 

自慢や差別するわけではないが、一科生と二科生の魔法力の差は大きい

 

 

達也『大丈夫だ。その前に謝っておく。』

 

何が大丈夫なのかはわからない

 

しかし、そんなことを気にする様子もなく

また達也がおかしなことを言うのだった

 

ほのか『?なんですか?』

 

遅くてごめん?

 

それなら判りきってーー

 

達也『久し振りに(水面を)走るからな。手加減はそこまで出来ないから全力で来てくれ。』

 

二度の走るという言葉にもう何が何やら

 

手加減?

全力で来てくれ?

 

ほのか『は?』

 

ほのかが出せる最大の言葉はこれのみだった

 

 

 

幸い、夕方ということもありコースで練習する生徒も居らず

 

気兼ねなくコースを使える

 

そして、ほのかの相手に達也というイレギュラーすぎる人間

 

真由美や十文字、鈴音といった主要メンバー以外に雫

 

そして、物珍しさに惹かれてなのか深雪、水波

 

人数はそこまで多くはないものの、濃い面子がこの競争を観戦していた

 

摩利『準備はいいか?ルールはバトル・ボードと同じだ。先に3周してゴールした方の勝ちとする。スタート5秒前…4.3.2.1、スタート!』

 

何やら気合いが入っている摩利のスタートの合図と普段はあまり見られない少しそわそわしている達也の表情

 

気になるも、今は達也と競争のため気合いを入れ直す

 

 

そしてーー

 

開始直後、隣から凄まじい突風と波、水飛沫が巻き起こる

 

ほのか『え?』

 

ほのかが驚くのは無理もない

何故なら、本当に水面を走る達也が自分より遥か先にいるのだから

 

完全に物理法則を無視した常軌を逸した人間が目の前にいた

 

呆然としているのも束の間、達也と競争ということを忘れていたほのか

 

慌てて、追いかけるも何故かどんどん距離が離れていく

 

まるで、早送りの映像を実体験しているようである

 

 

結果、ほのかと一周半の差を作り出し圧倒的な勝利を飾った達也だった

 

 

これを傍から見ていた摩利や真由美達は後にこう残したという

『あいつ(彼)は前世は魚か、何かの生まれ変わりで。改めて人外の化け物だと再認識した』と

 

 

 

 

 

ほのか『ハァッハァッ、…に、人間、じゃない。』

 

先ほどの達也の言葉を漸く理解したほのか

 

理解はしたが、この事実を受け入れることは容易ではない

魔法も無しで自分より速いなんて、最早人知を超えた存在だ

 

 

摩利『(おい、守夢。これは、逆効果だったんじゃないか?というかお前、水面走りとか奇行すぎるぞ。)ヒソヒソ』

 

摩利は予め達也からほのかに自信をつけさせたいと依頼されていた

 

本来ならば、摩利が適任かもしれないがこれを彼女は拒否

同学年が望ましいと理由をつけて

 

しかし、今回はそれが裏目に出た

 

というよりも、何故達也が相手をしたのかが謎ではある

 

 

達也『(すみません。久し振りなもので加減が…。)ヒソヒソ』

 

摩利から軽い叱責を受けているにも関わらず、達也本人はあまり悪びれていない様子

 

元凶がこんな状態では、選手が心配だ

 

エンジニアの依頼を間違えたかなと考えつつ、ほのかを励ます摩利

 

摩利『み、光井。大丈夫か?』

 

ほのか『…先輩、私成長出来てるんですかね?自信無くなってきました。』

 

摩利の励ましも憔悴したほのかには効果は薄い

 

しかも、自信をつけさせる処か逆に自信喪失の危機だ

 

こればかりは、摩利も達也に詰め寄る

 

摩利『おい、守夢。どう光井の(自信の)責任をとるつもりだ?』

 

試合本番までにはほのかを本調子まで引き上げたい

 

だが、今のほのかに効く特効薬は摩利では見つからない

 

元凶でもある達也が唯一持っているかもしれないそれに掛けたつもりだったーーが

 

 

ほのか『せ、責任?』

 

摩利の言葉に敏感に反応するのに無理もない

 

ずっと、達也に片想い中のほのか

 

そんな彼女の思いを知ってか知らずか摩利は達也に自信という言葉を省いて責任を取れという

 

摩利が省いた言葉を理解していなければ、責任(イコール)結婚という構図が完成する

 

ボンッとほのかの顔が真っ赤になる

 

それを見た達也は呆れるしかなかった

 

 

達也『委員長、彼女が勘違いしています。』

 

このあと、勘違い中のほのかの誤解を解くのに時間がかかったのは言うまでもない

 

 


 

 

ほのか『(あれが無ければきっと慌てていた。達也さんが私達より遥か高みにいることに実感した分、大抵の選手なんてどうってことない。この勝負、絶対に勝つ!)』

 

少し、遠い目をするほのか

 

しかし、あれのおかげで現状、慌てることなく対処出来ているのは間違いない

 

 

達也『頑張れほのか。今の君なら渡辺先輩にも引けはとらないはずだ。』

 

達也がほのかに授けた策は三つ

 

一つがガチンコのスピード勝負

 

 

 

沓子『(もう、追いついたじゃと!?おのれ、やるではないか。だが!…!?)』

 

ほのかが沓子との距離を10メートル足らずに縮めていた

 

それを脅威に思い、水面に妨害の魔法を発動させるがー

 

達也『残念、それは幻影だ。』

 

ほのかがそれに掛かった様子がなく、次の瞬間にはその姿が消え失せる

 

本物はどこに?と後方を探すも見当たらない

 

しかしー

 

沓子『!?(まさか!)』

 

直感が沓子の視線を前に向かせる

 

そこには、数メートル先にほのかがいた

 

愛梨『!いつの間に。』

 

隙とも呼べない僅かな間

 

 

二つ目

沓子が後方を振り向く直前に、ほのかは自身に光を屈折させ、自分との距離を狂わせる魔法を使用していた

 

それと同時に温存していた体力と魔法力で加速し、沓子を抜き去っていたのだ

 

沓子『くっ、おのれ。だが、まだじゃ!』

 

抜かれたのなら抜き返せばいいだけのこと

 

抜かれたことに動揺したものの、すぐに立ち直ったその精神には流石としか言いようがない

 

間髪いれずに、ほのかの前無数の渦を作りだす

 

達也『甘い、俺がそれの対策をしていないとでも?』

 

三つ目

体に受ける空気の抵抗と水面とボードの接地面での摩擦による抵抗、この二つを限りなく0にする放出系魔法

 

これを駆使することによりほのかのスピードが倍以上に跳ね上がり、沓子の魔法は不発に終わる

 

沓子『くっ、速すぎる。これでは、座標の指定を出来ん!やられたわ!』

 

加速系の魔法なら距離等を計算して座標指定が出来たかもしれないが、摩擦や抵抗を計算するとなるとそれなりの頭脳が必要だ

 

 

この試合、達也の策による一方的な有利な試合運びと思うかもしれない

 

が、沓子の古式魔法やほのかの今までのこのバトル・ボードのために努力した時間が本選にも引けをとらないハイレベルな試合展開を可能にした

 

出来るからなるのではない

どうすれば出来るのか、出来るまでやり続ける

 

今回はほのかの諦めない心が試合を決定づけた

 

 

ーーーーー

 

今日は不本意な出来事もあり、ほのかの優勝の労いの言葉や摩利からのお礼もそこそこに部屋へ戻る達也

 

また、七高の選手などからの挨拶も程よく逃げる

 

しかし、道すがらに呼び止められた人物に最早辟易するほかなかった

 

達也『あまり言いたくはありませんが、暇なのですか?生憎、私は明日もエンジニアの仕事で忙しい身。早々に休みたいのですが…田辺香織さん。』

 

どうして自分の他人の興味を引くのか

 

何かの呪いなのかと疑いたくなるほどだ

 

さっさと終わらせたい

 

一つ学んだことは名前を呼ばれても相手が自分の顔を憶えていなければ無視しても問題ないということ

 

自信がなければ、呼び止めることもない

 

しかし、彼女の場合はそれに当てはまらなかった

 

夕歌『一文字もあってないわ。津久葉 夕歌よ。他人行儀は嫌だから夕歌と呼んで下さらない?』

 

名前を間違えられれば大抵の人間は顔を歪めたり、怒ったりする

 

だが、彼女は怒るどころか少し嬉しそうにしている

 

ここぞとばかりに要望までつけて

 

達也『これでもマシなほうですよ。普通は記憶にすら残っていないので。余程貴女との出会いが最悪だったのでしょうね。お断りします。貴女の名前を呼ぶそのメリットが私にはありませんし、私も呼ばれたくはありませんので。』

 

愛梨のときもそうだが、どんな絶世な美女が達也の目の前に居ようと席を外せば忘れる

 

何度も言うが、彼は外見では判断はしない

あくまで中身、性格や心情とするもので判断する

 

他人からしたら取っ付きにくい性格と捉えられるかもしれないが

 

 

夕歌『…屁理屈ね。まぁ、いいか。今回は、あの時の貴方に謝りたくて。多分、努力で身に付けたそのエンジニアとしての腕を誉めたのが貴方の心の琴線に触れた。違うかしら?』

 

達也から辛辣な言葉に対して気にしてはいない夕歌

 

どうしても達也ともう一度話したかった理由は謝罪なのだ

自分の称賛の言葉が達也をひどく傷付けた

 

自分と達也の性格は違うためそれは仕方のないことだが、それだけで済ませるのはよろしくもない

 

夕歌自身が望まぬことでもあった

 

 

達也『流石は、他の方々より数年を多く過ごしてらっしゃる。それほど気にしてはいませんので安心してください。』

 

相手を不快にさせてしまったと、何が原因だったのかを理解してすぐに行動に移す

 

そういったことを出来る人は少ない

 

達也とそこまで年は離れていないであろう彼女は立派だ

 

夕歌『…暗に年増と言いたいわけ?』

 

確かに自分は達也より年上だが、年齢だってまだ、はた…ゲフンゲフン

 

これくらいの歳の差なんて、許容範囲内じゃないかしら?

 

あら、何を考えているのかしら私?

 

達也『そう思われるのはご自由にどうぞ。ただ、私は無駄にプライドだけ高く、人生を過ごしてきた人間達よりもまだ貴女のように素直になれる人は人格者としては尊敬出来ると思っているだけです。』

 

ただ何となくで年齢を重ねるよりも何かを感じて、何かを変えようとする姿は素晴らしいとは感じる

 

とまぁ、こんなことを摩利達に話せばお前もなと返されそうだが

 

夕歌『なんか、上から目線が嫌なんだけど。まぁ、それは私も同じか。ありがとう、守夢君。』

 

達也『お礼を言われるほどのことはしてませんが。』

 

突然、礼の言葉を述べられ驚く達也

 

夕歌に貸しを作ったわけでもないし、今回も対等な関係ではある

 

見ず知らずではないが、親しくもない

 

その前に達也は知り合いたくもなかった(知られたくもなかった)と言うだろうが

 

夕歌『それは、人それぞれでしょう?私は貴方の雰囲気が好きかも。困っていたらさりげなく、手をさしのべるその姿が。そしてそれは、貴方の生来のもの。生まれ育った環境もあるかもしれないけどね。』

 

会って間もない人物から好き発言をいただく達也

 

双子と響子以外ではそんなことを言われるのは初めてかもしれない

ほのかと雫でさえ、発言は控えている位だ

 

というのも達也にはそういった恋愛感情に疎い

そのため行動で意識させたほうが効果的ではある

 

 

達也『…』

 

赤の他人に近い人間に言われても社交辞令にしか聴こえない、そもそもあの一族だ

 

警戒心しかない

 

どう返したものかと思案していると

 

夕歌『ふふっ、褒められるの馴れてない?』

 

達也『さあ?では、話も終わったようですしこれで失礼します。』

 

これまた、話を切り上げるネタを提供してくれたので利用しない手はない

 

 

夕歌『あ、待って守夢君。』

 

早く休みたいから話しかけるな、そんな雰囲気を醸し出しながら振り返る

 

達也『…何か?』

 

夕歌『また、時間があれば話に付き合って下さらない?』

 

そんな達也の無言の圧力に臆することなく、笑顔の夕歌

 

達也『気まぐれに善処します。』

 

 

 

夕歌『素直じゃないんだから。(でも、この感じはなにかしら?彼と話していると凄く満たされた気分になるのは…そういえば私、彼のことを好きって。カアッ…やだ、私ったら、軽い女って思われなかったかしら?)』

 

 

達也が去っていった廊下を眺めながら充実した時間を過ごせたことに満足していた

 

しかし、自分がとんでも発言をしたことに気付き、顔を赤く染める夕歌

両手を顔に当てながら百面相をする夕歌だった

 

 

 

 

 

 

 

達也『(勘弁してほしいものだ。四葉が堂々と近付いてきたと考えたら、個人的興味とは。…ということは、まだ俺のことは調査中と断定していいだろう。)』

 

浩也達の部屋に向かう道すがら二度の四葉の一族対面に現状を分析する

 

司波深雪と津久葉夕歌、(桜井水波は除外)二人とも四葉に連なる者

 

この二人が達也の正体を知っていれば何らかのアクションを起こすはず

 

それがないということは調査中か本家が何らかの意図でその情報を止めているのか

 

後者の場合は、神夢がその情報を掴むため可能性は低いだろう

 

 

コンコン

 

浩也『入れ。』

 

達也『お邪魔します。…義父さん、謀りましたね。』

 

部屋に入ると、ニヤついた浩也が出迎えてくれた

 

奥には凛、結那、加蓮、恭也がそんな浩也を見て、呆れた表情をしていた

 

浩也『さて?何のことやら。』

 

達也『それは横に置いておきます。それより、少し気掛かりなことが。』

 

浩也『珍しいな。』

 

達也は大概のことを自分で片を付けてしまうため達也から何かの相談を受けることは珍しい

 

浩也自身、寂しさも感じながらも達也の成長に嬉しくならないわけがない

 

愛情とは相反した、矛盾したものなのかもしれない

 

 

達也『四葉の人間が俺に接触してきました。』

 

と、流石の達也も一人で抱えるのはよろしくないため打ち明ける

 

全員『!?』

 

達也の予想だにしない告白に緊張が走る

 

しかし、逆に達也はそこまで心配はしていない様子

こちらが過敏すぎるだけなのか

 

凛『どういうこと?』

 

詳細が知りたい

 

達也『すみません、言葉足らずでしたね。四葉当主の命令で接触してきたわけではなさそうです。ただ単に俺に興味があったみたいでした。』

 

津久葉夕歌という四葉の人間

 

あの事故の後と先ほどと二回会話したことと

 

二科生なのにエンジニアとして他と一線を画するということで興味があったため興味を持ったことなど、簡単に説明する

 

 

浩也『なるほどな。俺の感では、その人間に害意は無いな。むしろ、お前には好意的だろう。違わないか?』

 

達也『その通りです。俺の人間性が好きとも言われました。』

 

二人で状況整理と今後の方針について盛り上がるのは良いのだが、忘れてはならない

 

四葉など足元にも及ばない恐ろしい女性陣の存在を

 

 

結那・加蓮『はあ?』

 

達也がそんなことを言われていて黙っている結那と加蓮ではない

 

ドスの利いた声で達也を睨む

 

達也『…結那?加蓮?』

 

先程とは明らかに違う雰囲気に達也もたじろぐ

 

自分が何か地雷を踏み抜いたのは事実

 

結那『もう一度言っていただけますか?誰が誰に好きですって?』

 

幼子に優しく手解きするような声音だが、結那の背後には般若が見える

 

達也が告白されて黙っているほど、おしとやかに振る舞うつもりもない

 

達也『…いや、性格というか雰囲気が好ましいという意味であってな。』

 

好きという発言に達也もしまったと、内心では冷や汗をかく

 

加蓮『達也、答えになってない。それに、その性格、雰囲気が好ましいは貴方が好き(LOVE)と同じなんだけど?』

 

加蓮は加蓮で達也の言い訳を潰しにかかる

 

こちらの背後には業火が見える

 

達也『それは飛躍しすぎではないかと思うんだが?なぁ、恭也?』

 

このままでは、四面楚歌に近い状態になりかねない

 

なにせ、この会場には響子もいるのだ

こんなことを知られたら監禁でもされそうだ

 

とりあえず味方が必要だが、浩也は既に戦線を離脱して

読書と洒落こんでいる

 

後で覚えてろと思いつつも、まずはこの状況からの脱出である

 

いつも自分を慕ってくれている義弟の恭也に望みを託す

 

恭也『義兄上、反省してください。』

 

ーーが、見事に裏切られた

 

今回の出来事に関しては恭也でさえ許容出来ないらしい

 

 

凛『ふふっ、達也?今日はここに泊まっていきなさいな?』

 

と、ここで今まで大人しかった凛が達也に止めを刺す

 

そもそも、結那と加蓮を達也と結婚させようとまで画策している彼女が達也とどこぞの馬の骨とも知らぬ者が逢引をしていたという事実を寛容になるわけがない

 

達也『いや、しかし…』

 

不幸中の幸いというべきか達也は部屋を一人で使っている

 

理由は、CADを調整する機械を部屋に入れることになったため、そこに誰が入るのかということだったのだが、誰も立候補したがらず

 

達也に白羽の矢?(生け贄とも言う)が立った

 

達也自身、相容れない人間達と同じ部屋に入りたくなかったので渡りに舟だったのかもしれない

 

そういう訳で今晩、達也が部屋を空けても然して問題もない

 

誰かがCADの調整をするために訪問しなければのはなしだがーー

 

 

凛『ね?』

 

反論は許さないと

 

語気は強めずに優しい(恐怖)口調

 

双子同様に背後には魔王が顕現していた

 

ーーーーーーー

 

九校戦 3日目

 

今日の試合はクラウド・ボール

 

テニスコートの広さを魔法障壁で覆われた中で

制限時間内にシューターから射出された低反発ボールをラケットまたは魔法を使って相手コートへ落とした回数を競う対戦競技である

 

1セット3分、ボールは20秒ごとに追加され最大9つのボールを操る、女子は3セットマッチ,男子は5セットマッチ

選手の一日の試合回数が多いというよりは瞬発力が必要とされ、魔法発動の速度や集中力も試合の鍵になる

 

 

 

 

真由美『うん、今日もいい感じね。それにしても、守夢君はどうしてCADのソフトのゴミ取りだけでこんなに発動速度が速くなるって知ってたの?』

 

試合は本選から始まるため本選選手である真由美の担当エンジニアのため最終調整を行っていた

 

達也『ありがとうございます。それは勉強しましたから。それに、ソフトのゴミ取りで鋭敏に感じられる会長が凄いだけです。大半は分かりませんよ。』

 

真由美からお褒めの言葉をいただくも淡々とした達也

 

何かを極めれば、それが武器になる

 

達也はそれを突き詰めた結果が現在だ、better(他人より優秀)よりもdiferent(他人とどう違うか)がいつの世の中でも求められるのではないだろうか?

 

それは自分(作者)が身に沁みているが

 

 

真由美『そうかしら?そうだわ、守夢君。この競技で優勝すれば、お願い聞いてもらうからね?』

 

真由美は達也に優勝したらお願いを聞いてもらうという約束をした

 

スピード・シューティングとこのクラウド・ボールで見事優勝をすればその約束は果たされる

 

達也『仕方ありませんね。約束ですし。』

 

本当に嫌そうな表情をする達也

 

エンジニアとして九校戦に参加しなければ、こんなことにはならなかったのだ

今回に限っては達也の自業自得といえる

 

真由美『可愛くないわね。』

 

本心から言った言葉ではないものの

 

もう少し、愛想良くしてほしいものだ

 

達也『こんなむさ苦しい男に可愛いとか会長の目を疑います。約束をした身で言えることではないかもしれませんが、恋仲でもないのにこんな恋愛紛いをするのは如何なものかと思います。』

 

暗に、お前のことは何とも思っていないと告げる

 

真由美『……か…。』

 

達也『なんですか?』

 

真由美『この鈍感!見てなさい、この競技優勝してとんでもないお願いを言ってやるんだから!』

 

しかし、達也の言わんとしていることが伝わっていなかったようで、逆に火に油を注いでしまったようだ

 

優勝して約束を守らせると、啖呵を切る真由美

 

俗に言う自滅フラグが良く見られるも発言する人物は十師族の直系で魔法に関しては超一流といえるためそれは無いだろうが

 

扉を勢いよく閉めて、出ていく真由美

 

達也『どちらが主導権を握っているのか判らないのか?流石は箱入り娘だ、そこまで頭は廻らなかったか。』

 

達也は真由美の態度に呆れるしかなかった

 

ーーーーー

 

結果、言葉通り

本選女子クラウド・ボールで真由美は優勝を飾るのだった

 

 

真由美『さあ!約束は守って貰うわよ!』

 

控え室に戻った瞬間に真由美は達也に詰め寄る

 

その姿はまるで、契約書を笠に着て弱者に迫るヤクザのようだ

 

達也『…その前に一応、会長優勝おめでとうございます。それで、どのような願い事で?』

 

真由美『一応って何よ、全く。…そうね、願い事なんだけどね?そ、その…。(ボソボソ)』

 

一応という釈然としない祝いの言葉

 

それよりも、自分の願い事を伝えなければと思うも口に出せない

 

真由美自身、こういったことは少ないのだろう

 

達也『何を恥ずかしがっているんですか?そんなに後ろめたい内容なんですか?』

 

モジモジされていても何も進まない

 

真由美『そ、そんな訳じゃないんだけどね?え、と、ね?その…た、達也君って呼んでもいいかしら?』

 

真由美が言い淀んでいたことが漸く理解出来た

 

そして、次の願い事もーー

 

 

達也『…(彼女達といい、会長といい、そんなに俺に興味があるのか?)約束ですからね、それで?もう一つの願いはなんですか?』

 

そんなに自分と距離を縮めたがる理由が理解出来ない

 

魔法力はさることながら性格に関しても人格者というわけでもない

 

容姿にしても中の上が関の山だろう

 

真由美『本当に?やった!後ね、もう一つは私のことを真由美って呼んで欲しいんだけど。』

 

達也が拒否しなかったため、嬉しくなる真由美

 

本来の調子を取り戻した真由美はいつもの調子で願い事を伝える

 

達也『仕方ありませんね。但し、条件があります。この二つは私と会長の二人だけの時だけでお願いします。』

 

真由美『いいけど、どうして?』

 

何故、自分達以外の人間がいるときは駄目なのか

 

恥ずかしいといった感情はあまり達也には見られないため純粋に興味が湧く

 

達也『理由はいくつかありますが、話す必要がありませんので。ただ、光井さんや北山さん達にも同じ条件を承諾して貰ってますので。…会長?』

 

大切な家族以外に自分の名前を呼んで欲しくはない

 

この達也という名は自分の存在意義

 

条件付で名を呼ばせているほのか達でさえ、嫌々ではある

 

真由美『ふーん、達也君って相当のタラシなんだぁ。お姉さん結構、ショックだわ~。』

 

達也の口からほのかや雫などの女子生徒の名前が挙げられた瞬間、

 

ドロドロとした感情が真由美の中で生まれてくる

 

嫉妬なのだが、これはあまり達也に見られたくない

だから、いつものように振る舞う真由美

 

 

達也『心外ですね。私がいつ、誰を、タラシこんだというのですか?』

 

悪いが、この高校生活の中で誰かに好かれたいなどと考えたこともない

 

ましてや、この第一高校の人間など真っ平御免だ

この達也の独白を聴いたら、ほのか達は卒倒するかもしれないが

 

真由美『その無自覚は最低よねぇ。』

 

尚も真由美の理不尽は続く

 

というよりも、それは八つ当たりに近いのかもしれない

 

達也『…では、その無自覚最低タラシ野郎に名前呼びをお願いする方もどうなんでしょうか?』

 

ここまで言われて、はいそうですか、と受け流す達也ではない

 

謂れの無い?誹謗中傷にはやられたらやり返すが達也のモットーだ

 

手心は加えて、手加減はするかもしれないが

 

真由美『わ、私はいいのよ!とにかく、お願いしてる身だからね、守夢君の条件は承諾するわ。』

 

確かにそんな最低な男に接近しようとする真由美はどうかしている

 

惚れた弱味というものかもしれないが

 

しかし、それはそれ、これはこれ

 

達也『よろしくお願いします。』

 

真由美『うぅ、私が主導権握っていたつもりが逆になった気がするわ。』

 

どうやら、試合前の台詞は本心だったようだ

 

なんとも傲慢な考え方だなと達也は思ったとか思わなかったとか

 

達也『当然でしょう。真由美さんは私にお願いをする身、斯くして私はそのお願いを拒否も出来る。どちらが上なのかははっきりしています。』

 

例え、相手が年上だとしても自分に益が無ければ問答無用で切り捨てる達也

 

今回は特別サービスといえる

家族からすればどういう風の吹き回しだ?と思われるほどのサービスなのだ

 

真由美『!…今、なんて?』

 

聞き間違いでなければ、今達也は真由美さんと呼んだはず

 

恐る恐る尋ねる真由美

 

達也『どうかしましたか?真由美さん?』

 

真由美『だって、名前…。』

 

聞き間違いではない

 

確かに自分を真由美さんと呼んでくれた

 

たったそれだけのはずなのに、どうしてこんなにも嬉しくなるのだろうか

 

達也『真由美さん、私の条件を承諾したのですから。そこからは私も変わりますよ。』

 

達也自身、こういった約束事に関して機械的というかあまり感情を表に出さないと思っている

 

それは、達也自身が原則、結果主義を念頭に置いているからだ

 

そのため、約束が果たせないならば意味がないと考える

 

しかし、例外もあるが、今回は割愛する

 

真由美『…ねぇ、達也君。二人の時だけ、その畏まった口調をもう少しくだけた口調で話して欲しいんだけど、駄目かな?』

 

と、達也に二つものお願いを叶えて貰っているというのに更なるお願い否、要望事項と表現すべきか

 

つけあがると益々手がつけられなくなるのは間違いない

 

ヤクザと表現したのは逆に失礼だったかもしれない

 

これは彼らに失礼だ

 

達也『…サービスしておきます。』

 

わざとため息を溢し、特別だということをアピールする

 

まあ、真由美には効かないだろうが…

 

真由美『やった!ありがとう、達也君!』

 

まるで、親にねだっていたものがふとした処から手に入ってはしゃぐ子供のようだ

 

この浮かれた真由美が達也が提示した条件をしっかりと守ってくれるように達也はただ願うばかりだった

 

 




…如何がでしたか?
内容が薄い気がするなと思うのですが

①達也と夕歌さんの絡みをここから作っていきたいと思います
②ほのかに新たな魔法を授けてみました。理に叶ってるのかな?
③真由美さん、達也と仲良くなりたいようなのでお互いに名前呼び希望です

それでは、睡魔が近づいてきましたのでこれで失礼します



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

早く、モノリス・コードへ進めたい…けど、その前に物語が順序よく進んでいない気がする


里美『お、やっと来たね。守夢君、レディを待たせるのはどうかと思うよ?』

 

試合開始時間の一時間前来たにも関わらず里美の訳のわからないボヤキをもらう達也

 

レディと自身を称する里美に達也は何を言っているんだこいつ?と思うも心の中だけに留める

 

達也『すみません。』

 

遅いということに関してだけ謝罪を述べる

 

里美『ん?何の弁明も無しかい?』

 

達也『必要と判断したならしますが、この場合、里美さんはそんな薄っぺらい言葉を並べたところで納得はしないのでは?』

 

そもそも達也は遅刻はしていない

自分の調整能力と時間を考慮しても十二分に時間はある

 

補足するならば、最終調整にしては他のエンジニア以上に時間はとっているつもりだ

 

里美『駄目だよ、守夢君。そこは、申し訳ありません、お嬢様。ティーセットの準備に手間取りまして。とか社交辞令も言うべきだよ?そこは空気を読んで答えないとモテないと思うよ?』

 

彼女は軽く嘆息し、自分の考える男性像を達也に押し付けようとする

 

そんなものに対して暖簾に腕押しや糠に釘を体現したように達也は軽くスルーをする

 

達也『…そうですか。では、最終調整に入りましょうか。』

 

おそらくだが、彼女が言いたいのはコミュニケーションをもっと取るべきだということなのだろうが

 

そんなもの調整が終わった後でも良いもの

 

選手のモチベーションも保つこともエンジニアとしての仕事の一つかもしれないが、選手の試合中にCADに不具合が出るようなら本末転倒である

 

里美『おいおい、その…よろしく頼むよ。』

 

達也の素っ気ない一言にもの申しかけたが、さっさと作業に入ってしまっては言いたいことも言えない

 

彼女の独特の雰囲気というか、口調は生来のものではない

 

それは彼女の魔法特性に由来するものだ

 

BS魔法

通称:Born Specialized(ボーン・スペシャライズド)

の略で、BS能力者、或いは先天的特異能力者、先天的特異魔法技能者とも呼ばれる

 

里美スバルは更に、魔法力も備えているため珍しい魔法師といえた

 

ーーーーーー

 

愛梨『(栞、見ていなさい。貴女と高めあった日々のおかげで今の私があることを。それを優勝して証明してみせる!)行ってくるわね、沓子。』

 

おそらくだが、決勝の相手はライバル校の一高

 

さらに言うなれば、エンジニアはあの守夢 達也

 

挽回のまたとない好機

 

三度も煮え湯を飲まされてなるものか

 

沓子『うむ、わしの分もよろしく頼むぞ!』

 

沓子もそれを解っているため、愛梨に望みを託すのだった

 

ーーーーー

 

順当に勝ち進み、残るは決勝戦のみ

 

里美のBS魔法と魔法力で現在のところは苦戦という苦戦もない

 

達也『調子はいかがですか?』

 

達也の目から見ても悪くはなさそうだが、本人からのフィードバックは重要だ

 

里美『うん、問題ないよ。君のおかげでCADの調子も最高さ。』

 

友人であるほのかや雫がこの男子生徒に執着していると聴いていたため少し興味があった

 

それはどういう人物像なのかということであり、エンジニアとしての腕とは別物だ

 

蓋を開ければ、エンジニアとしての腕前は自分達とは比べ物にならないほどだ

プロのエンジニアと遜色がないほどに

 

 

 

人間的にはイマイチ好ましいとは思わないがーー

 

 

達也『そうですか。今回の相手は優勝確実と言われる一色 愛梨選手ですが。その前に里美さんに謝らなければいけません。』

 

里美『ん?なにかな?』

 

と、神妙な面持ちをした達也が里美に謝りたいと言い出す

 

達也『里美さんが優勝できる確率は僅かです。』

 

突拍子もなく貴女は優勝することが出来ませんと大変失礼すぎる言葉が達也の口から飛び出る

 

達也という人間を理解している人物なら何か理由があるのだと判るのだが、里美は知り合ってまだ僅か

 

達也もそこまで親しくしようとは思っていないため、このままの関係で良いと考えている

 

里美『…理由を訊いてもいいかな?そうなると、君と練習した時間は無駄だったというわけかな?』

 

達也の失礼すぎる言葉に罵声を浴びせたいところだが平静を努めながら理由を尋ねる

 

しかし、嫌味は言っても許されるだろう

それくらい、衝撃のある言葉なのだ

 

 

達也『そういうことではありませんが、彼女の魔法特性からすると、このクラウド・ボールは相性が抜群に良いことです。眼から入ってくる情報を素早く脳へそして、運動神経に伝達出来る彼女にほぼ死角はありません。』

 

 

 

一という名の付く家の研究テーマは「対人戦闘を想定した生体に直接干渉する魔法」

 

そこでの一色家は自身の肉体を魔法によって稼働限界を超えること

 

つまり、魔法によって物体への事象改変はしない

 

里美『おいおい、そんなに相手を誉めるのは良くないと思うけど?』

 

達也の口から次々と言葉が出てくるため、里美も反論したくなる

 

達也『事実です。里美さんが、自身の特性を活かしたところで彼女は力技で潰してきます。ですから、里美さんがやることは一つです。私との練習で体験したスピードとパワーがこの試合は確実に活きるはずです。』

 

嘘を言っても仕方がない

 

小細工したところで通用する相手ではない、かといって何もしないわけにはいかない

 

しかし、素直に敗けを認める達也ではないためあのような練習をしたのだ

 

 

里美『君が言うならそうかもしれないけど、そんな弱気では勝てるものも勝てないよ?』

 

気持ちで負けていては試合開始前から負けていると同義だと里美は告げる

 

達也『師補十八家を嘗めてかかると痛い目を見ますよ?そもそもあの練習、私とのラリーをしてもらったのは彼女と少しでも善戦するための苦肉の策です。一色選手の反応速度を分析して貴女と練習をしました。しかし、魔法からくる運動速度は視覚的に速く見えます。何しろ人体の限界を魔法というドーピングで強化していますから。』

 

二十八家は伊達ではない

並みの魔法師とは一線を画する存在だ、何も対策を考えていなければ一瞬でやられてしまう

 

一色 愛梨のスピードとパワーを分析して里美が対応できるよう練習したつもりだが、達也の超人的スピードと魔法からくる運動スピードは異なる

 

達也のスピードは古来から伝わる人間とっては理に叶った方法で鍛えている

そのため、その人間の素質が高ければ高いほど強くなる

 

達也の場合は、素質も然ることながらもう一つの要因

その二つが今の達也を作っている

 

しかし、弱点もある

それは同じ鍛練をした者同士が相対すると行動のシグナルが読めてしまうこと

 

もう少し補足をすると上級者同士か腕前に差があるときに限るが…

 

 

 

しかし、愛梨の場合はその言葉通りに肉体をドーピング強化して運動能力を飛躍的に高めている

ただ違うところは魔法のため人体には影響はないということだろう

 

 

里美『…』

 

魔法特性を里美に事細かに説明すると黙り込んでしまった

 

漸く、自分と一色 愛梨との間にどれ程の差があるのか自覚したのだろう

 

彼女の表情は堅い

 

 

達也『悲観させるような言葉を並べてしまい申し訳ありません。しかし、楽観視して手酷くやられるなら気を引き締めて掛かってやっと一対九です。得点はある程度出来ますが、彼女が牙を剥いた瞬間に里美さんがどこまで対応できるかが一色選手に一泡吹かせることが出来るか否か決まります。』

 

魔法師という人種は何処までも甘いなと考える達也

 

これだけの情報を与えなければ、自分の立ち位置と相手の実力を測ることすらも出来ない

 

あとは、その事実に対してどう向き合うかを確かめさせて貰おう

 

里美『…なるほどね。ならば君の言う、一泡吹かせるためだけに試合に望もうかな。並みの魔法師でも脅威になるのだということを。ねぇ、守夢君。もし、君が一色選手と対戦していたら、勝てたかい?』

 

数分の時間をおいて、達也の言葉に自身を納得させる里美

 

時間はかかったものの事実を受け入れることが出来たようだ

 

しかし、まだ試合していない相手に対して捻くれたというか負け惜しみ発言はどうにかならないものかと思うが

 

達也『面白い質問ですね。しかし、答えはノーですね。』

 

やはりというかの質問に達也は嗤うしかない

 

魔法力の無い自分に対する当て付けなのか

 

里美『即答とはね、理由を訊いてもいいかい?』

 

益々、興味津々になる里美

 

達也『そうですね。まず、根本的なものとしてこの九校戦は魔法を競い合うもの。この時点で微々たる魔法力しか持たない私には出場出来ませんので。』

 

既に答えは出ているのに試合に出られる理由が見つからない

 

それこそ、やる前から判りきっていること

 

里美『いや、魔法力無しでも出場可能な状況だったなら?って訊いたんだけど?』

 

そんなたられば話に付き合うつもりはない

 

そんな状況があったところで、達也は九校戦に興味もあるはずがなく

 

達也『さあ?ご想像におまかせします。』

 

想像は個人の自由だ

存分に脳内で膨らませてくれればいい

 

里美『ふっ。まあ、僕の想像によれば多少手こずるかもしれないけど一色さんにストレート勝ちするね。』

 

無い話ではないが、これ以上彼女とも関わりを持ちたくない

 

しかし、随分と自分を買ってくれた試合内容だ

 

達也『高い評価をありがとうございます、しかし、それは想像というより妄想なのでは?』

 

里美『そうとも言うね。』

 

 

妄想なら自分と彼女が試合しても問題はない

 

男子と女子での試合は問題は無いのだから

 

ーーーーー

 

新人戦女子クラウド・ボール決勝

 

開始直後は様子見を含めた緩いラリーになるかと思われたこの決勝だが、見事に外れて激しいラリーの応酬となった

 

 

里美『(速いね、守夢君の言う通りということか。しかも、これが全力じゃないって?)勘弁して欲しいね。』

 

里美は一色 愛梨のスピードが達也の分析通りだということを改めて目の当たりにした

 

達也との練習のおかげで今は対応できるものの、これ以上速くなるなんて反則に近い

 

実際のスピードとなると、達也の方が速いだろうが視角的からくる愛梨のスピードは達也を上回る

 

あとは、里美が愛梨のスピードについていけなければ敗北が決まる

 

愛梨『(おかしい、相手のいない場所に打ち返しているはずなのに打ち返されている。どういうこと?…これも彼の仕業?)』

 

決勝戦の相手が一高でその担当エンジニアが達也ということは予選から判っていたため気を引き締めていた愛梨

 

そこに油断は無かったとは言えないものの、真剣には違いなかった

 

しかも、コースも際どく、返球スピードも普通の魔法師なら返せないほどだ

 

それがどうだ、里美は愛梨のスピードに対応して返球してくるし、彼女の対応しきれないスペースへの返球も対応してくる

 

 

里美『(流石にすぐには見破れないようだね。僕のBS魔法の特性に…。)』

 

里美スバルのBS魔法は認識阻害(自分の存在を気付かれにくい)という特性の魔法だ

 

そのため、何気無く街中を歩いていてもこの特性の所為で気付かれにくい

 

それは色々な意味でメリットだが、デメリットも必ずある

何しろ、歩いていても他人がぶつかって来る可能性もある

 

そういったこともあるため、里美は自身のことを【僕】と呼んだり、話し方も他人に記憶されるようにしている…らしい

 

愛梨『(…流石は、一高というところかしら?けど、舐めてもらっては困るわ。私は一色家の娘、名の上がらない凡人に負けるわけにはいかないの!今のスピードに着いて来れるならば、更に上げればいいだけのこと!)』

 

素直に里美の実力を認める愛梨

 

しかし、愛梨にも一色家の誇りがある

エリートの一高とはいえ、手こずる訳にはいかない

 

手を抜いてはいなかったが、彼女がここまで出来るとは正直思っていなかった

 

愛梨はギアをもう一段階引き上げる

 

里美『!?(本当にスピードを上げてきた!彼の言う通りだ。此方はそれなりに対応出来ているけど、点数は嘘をつかない…少しでも追いつくしかない!)』

 

 

じわじわと広がっていた点数だが、愛梨がギアを一つ上げたことで一気に点数が開き出す

 

里美は達也の言葉を噛み締めながら、一泡吹かせるということのみに集中する

 

それが出来るのも達也と練習した時間が里美に精神的な余裕を作らせているのは間違いない

 

三点差が開いたならまず、一点を

 

四点差が開いたなら一点、出来るなら二点を

 

そういった積み重ねが奇跡を引き寄せるのだ

 

がーー

 

愛梨『(これは彼女を誉めるしかないわね。これだけのパフォーマンスをされたら、全力で相手をするというのが礼儀。誇りなさい、里美 スバル。貴女はこの一色 愛梨の全力を出させた数少ない人間。…例え、それが彼のおかげでだとしてもね。)』

 

一の名を冠する家柄は伊達ではない

 

高校生とはいえ、二十八家の生まれの魔法師は並みの魔法師とは違う

 

全力を出してしまえば、並みの魔法師では相手にはならない

 

だから、二十八家は全力ではなく、力を制限した状態で試合するのだ

 

里美『う…そ…?(守夢君、話と違うよ?さっきのが全力じゃないよ!)』

 

愛梨の紛れもない全力に里美は成す術がない

 

二、三球に一球程度返球出来ていたものが一気に返球不可能になる

 

 

 

 

 

達也『(とうとう、本気を出したか。それはつまり、彼女の実力を認めたという証。彼女には申し訳ないが、一泡吹かせるという意味は少し違う意味になる。)…あとで文句の一つでも言われそうだな。』

 

達也が里美に話した、一泡吹かせるというのは

 

愛梨の全力を出させるという意味であり、手こずらせるという意味ではない

 

おそらく、里美は後者の意味で理解していたのだろうがーー

 

 

 

 

 

結果、新人戦女子クラウド・ボール決勝は愛梨が里美を2セットストレート勝ちで下して優勝となった

 

最後だけを見れば、二十八家の嫡子のため当然という見方もある

 

しかし、内容的には里美が善戦してそれに応えた形で愛梨が全力を出した結果がストレート勝ちという観戦していないと解らないものだった

 

そのため、愛梨の全力を引き出した里美を称えることも忘れてはならない

 

 

 

 

 

里美『守夢君は嘘つきだね。』

 

控え室に戻るや否や里美は達也に物申す

 

達也『否定はしませんが、私と里美さんの一泡吹かせるの意味をはき違えているということだけは確かです。』

 

達也自身、信用すらしていない人間に正直に話すことはしないが、今回は何とも言えない

 

里美との間で齟齬が生じたのは判っていたため、誤解を解こうと思えば出来たが、目標は変わっていなかったので敢えて、そのままにしたというのが正しい

 

 

里美『全くとんだ災難だよ。まあ今回は、自分の実力がまだまだということを知ったよ。』

 

此方は目一杯だったのに対し、相手はその一歩二歩以上先をいっていた

 

これは素直に自分の実力不足しかなかった

 

達也『そうでしょうか?確かに、一色選手との点差は否定出来ませんが、それは里美さんが一色選手の全力を引き出したことに他なりません。私はそういう意味で一泡吹かせると表現しました。』

 

 

 

里美『…解りにくすぎるな。守夢君はあれかい?詩人でも目指しているのかな?ともあれ、僕の課題も見えたことだし。来年は魔法力で戦ってみせるよ。』

 

次は負けるつもりは毛頭ない

 

魔法力の底上げを行って、彼女と正々堂々と戦う

 

 

達也『…』

 

 

ーーと、まあこんな勘違いな思考をしているから達也の言葉の意味を知ろうとしなかったのだろう

 

 

二十八家は他の魔法師の家とは一線を画する存在だということをすでに忘れてしまっている里美に達也は何も言わなかった

 

 

 


 

 

 

 

 

愛梨『栞、聴こえてる?今日、クラウド・ボールで優勝したわ。水尾先輩もバトル・ボードで優勝を果たしたわ。まだまだ九校戦は始まったばかり、優勝するためにも私たちはここで立ち止まってなんかいられない。そうでしょう?…明日、アイス・ピラーズ・ブレイクの試合が始まるわ。朝の6時に天幕で待ってるわ。』

 

栞達のためにも優勝すると誓って望んだクラウド・ボール

 

この勝利をきっかけに栞が少しでも立ち直ってくれればと思う愛梨

 

 

栞『…』

 

しかし、今の栞には愛梨を祝福出来る余裕もなく、愛梨の励ましも効果は薄い

 

嬉しいという反面、あんな試合をした後の自分とでは愛梨の隣に立つ資格なんてない

 

栞はベッドの上で座りこんで項垂れるしかなかった

 

 

 

ーーー

 

 

どれ程の時間が過ぎただろうか

 

カーテンの隙間から射していた陽がいつの間にか夜の帳が下りていた

 

部屋の扉が開き、同室している水尾が戻ってくる

 

水尾『十七夜、体調はどう?』

 

明らかに憔悴しきっている栞を気遣う水尾

 

理由は解っているが、立ち直って欲しいと願うのは傲慢なのか

 

気休めな言葉しか掛けることの出来ない自分に歯噛みする

 

栞『…大丈夫です。』

 

試合が終わってからも、その次の日も同じ言葉での返答

 

あの日の試合、栞は当然の如く優勝出来ると確信していた

それは、モニター越しに見ていた自分達も同じだった

 

しかしそれは、第一高校の選手とエンジニアによって覆された

 

完璧な予定調和の世界

 

苦戦の上の勝利ではなく、必ず逆転するという展開での勝利

 

全ては第一高校否、達也の掌の上で踊らされていたと言っても過言ではない

 

水尾『そう、良かった。でも、駄目よ?食事も摂らず、一睡もしてないんでしょう?身体にも精神にも悪い影響しかないよ?』

 

しかし、今更それを議論したところで何も変わらない

 

負けたことは事実なのだから

 

なんとかして栞を立ち直らせるきっかけが欲しい

 

何でもいい、今だけはどんな手段を使ってでもと思うも何も浮かばない

 

 

栞『…』

 

だが、いくら水尾が気休めの言葉を掛けても変わらず、栞は黙りこんだまま

 

これでは、明日のアイス・ピラーズ・ブレイクに代役を立てるしかない

 

それは、自分にとっても嫌であり、三高にとっても望ましくない

 

ましてや、愛梨が悲しむ

 

 

水尾『…そういえば、十七夜は一色とは中学のリーブルエペーの大会からの仲なんだっけ?』

 

ふと、愛梨の事を思い出す

 

愛梨と自分、そして、愛梨と栞との関係をみつめると立ち直ってくれるかもしれない

 

そんな気がする

 

栞『…はい、でもこんな私なんて、足を引っ張るだけでただのお荷物です。』

 

二日ぶりに栞から大丈夫の言葉以外を聴いた

 

この機を逃すわけにはいかない

 

栞が再び立ち上がってもらうためにも

 

少し気が引けるが、愛梨をダシに使わせてもらう

 

今の栞には愛梨の力が必要だ

 

水尾『…少し、昔話をしようかな。私はね、一色を幼い頃から知ってるんだ。二十八家の嫡子ということで家からも周りからの期待という名の重圧を一身に背負って生きていたわ。彼女自身もそれを逃げることなく、正面から向き合って努力をしてきた。でも、そこには家のためだけで。彼女自身の意思っていうのかな?それが無かったよ。でもね、彼女が中学生の時に同じ目標を目指す仲間(親友)が出来たって嬉しそうな表情で言ってきたの。…もう、わかってるんじゃないの?長い付き合いの私でさえ、あんな表情をさせるのは中々出来なかった。』

 

幼馴染みというほどではないが、愛梨を妹のように見守る姉のような立ち位置で自分はいた

 

そこには、愛梨の喜怒哀楽を垣間見ることもあり、それをどうにも助けることが出来ない自分の不甲斐なさもあった

 

それをやってのけたのが、栞や沓子なのだ

 

正直、愛梨と共にここまで来てくれたことは嬉しい反面、羨ましくもあった

 

 

栞『…けど、今の私には。』

 

栞自身、愛梨は遥か高みにいる存在で羨望する人物であった

 

しかし、そんな彼女は自分以上に家柄というものに縛られ、それを背負っている

 

苦しくない筈がない

 

だが、それを助けられるだけの実力はない

あんな無様な敗北をして、愛梨の横に立つ資格なんてない

 

 

水尾『そうかな?貴女や四十九院が一色をここまで引き上げてくれた、おそらく、彼女一人では駄目だったと思うよ?そして、これからもね。…十七夜、今の私には、じゃないよ。精一杯頑張ったんなら、次はどうしたいかを考えるの。喋り過ぎたね、じゃあ、私は寝るから。おやすみ~。』

 

栞が愛梨を引き上げた

 

その言葉が、少しだけだが栞の心の扉がひらいた気がした

 

きっかけは与えた

 

後は、栞自身の行動に委ねるだけ

 

どうか、まだまだ続く魔法人生を強く生きてーー

 

 

栞『(私が愛梨を高めた?それはこちらの方よ。愛梨が居てくれたからこそ今の私がある。…ならば、その恩返しをしなくちゃね?)』

 

水尾の言葉を聴いて呆然とする栞

 

当然だ

 

愛梨が栞を引っ張って助けてもらったことはあるが、栞が愛梨を助けたことなど記憶に無い

 

 

ならば、これから愛梨を助けていけば良いだけのこと

 

 

無いならば、作ればいい

 

 

そう決意すると、急に気力が湧いてくる

 

明日も早い、身体を休めることに越したことはない

 

ベッドに潜り込み目を閉じる

昨日まで、目を閉じればあの試合と元家族との嫌な思い出が浮かんできたのが、今は無い

 

あるのは、疲れた身体を癒そうとする睡魔のみ

 

栞はその睡魔に身を委ねるのだった

 

 

 

ーーーーーーー

 

九校戦4日目

 

栞の再起を信じ、三高の天幕で待つ愛梨

 

 

愛梨『(あの日、栞と対戦したとき、私は素直に思ったことがある。それは、彼女となら更なる高みに行くことが出来ると。無論、友人としてもかけがえのない存在。そして、沓子と三人でならどんな壁だって乗り越えられる!…ここに来ると信じてるわ。)…おかえり、栞。』

 

目を閉じ、栞と出会った日のことを思い起こす

 

彼女と共に魔法の世界を歩んでみたい、そう願った日の事を

 

沓子とも出会って、今の自分がある

 

何一つ欠けていいものなんてない

 

 

早朝特有の静けさの中に軽やかにもしっかりと地を踏む音が近付く

 

誰とは思わない、判りきっているのだから

 

 

栞『ごめんなさいね。』

 

何がとは言わない

 

そんなこと挙げていけば、いくつもある

 

そんなことを気にする愛梨ではない

 

愛梨『…全くよ、どこのお寝坊さんなのかしら?…おかえり、栞。』

 

二日、正確には一日と数時間程会えなかったのが一日千秋のようで長かった

 

愛梨は栞とこうやって言葉を交わせたのが何よりも嬉しく、何よりも替えがたいもの

 

愛梨は万感の思いを紡いだ

 

 

ーーーー

 

九校戦4日目

 

競技種目はアイス・ピラーズ・ブレイク

 

自陣営12本、相手陣営12本の氷柱を巡って魔法で競い合う競技

先に相手陣営の12本の氷柱を全て倒すまたは破壊した方の勝利(時間は無制限)

クラウド・ボールと同じく24人で予選トーナメントし、上位3人で決勝リーグを行う

 

本選のアイス・ピラーズ・ブレイクは男女共に第一高校が優勝を決めた

 

男子は十文字 克人は多重障壁で、女子は千代田 花音は地雷原によって優勝を勝ち取った

 

これから、新人戦が始まる

 

達也『(さて、いよいよ新人戦アイス・ピラーズ・ブレイクか。まあ、結果は目に見えているが。優勝は間違いなく…)』

 

ちらっと深雪を盗み見る

 

基本、アイス・ピラーズ・ブレイクでは服装は自由

 

と言っても、試合に支障がないものに限るが

 

彼女の服装は有り体に言えば、巫女装束

白の単衣に緋色の女袴で白のリボンで髪を束ねている

 

彼女の美貌とスタイルがこの服装と相まって神聖視させる

 

エースと言われても過言ではない彼女、勿論実力は折り紙つきである

 

口外しないが、達也もその実力は認めるところ

 

深雪『何かしら?担当エンジニアさん?』

 

達也の視線に気が付いた深雪

 

声音が低くなり、達也を牽制しているようだ

 

達也『失礼しました。体調に問題は無さそうだなと思っただけですから。』

 

達也のこの上から目線のような発言

 

達也は別に、自分の方が実力が上のため嘗めている訳ではない

 

魔法師としてなら、深雪はそこらの魔法師よりも圧倒的に格上だ

それこそ、七草、十文字おそらく、あの一条でさえ敵わないだろう

 

嘗めているわけではないが、相手にもしていない

 

というよりも、関わりたくもないが担当エンジニアのためそうも言ってられない

 

深雪『当然です。貴方ごときに心配されるなど私の恥ですから。』

 

なんとも可愛くない発言

 

体調を確認するのもエンジニアの仕事、それを不要とするなら何故、達也にエンジニアを依頼したのか

 

矛盾した彼女である

 

達也『そうですか。なら、そのごときに足元を掬われないように。』

 

普段なら、彼女の言葉などスルーする筈が今回は売り言葉に買い言葉で言い返す達也

 

もし、達也が本気を出したら、掬われる処か天地をひっくり返されるだろうが

 

深雪『どういう意味かしら?二科生さん?』

 

足元を掬われないようにと言われて、カチンとくる深雪

 

彼女から冷気が洩れ出る

 

周囲は、その冷気に当てられ凍えている

 

達也『さあ?ご想像におまかせします。』

 

深雪から冷気を向けられている当の達也は涼しい顔をしていた

 

ーーーー

 

明智と深雪の最終調整を終えて、雫の控え室に入る

 

すでに振袖を着ており、準備も万端のようである

 

達也『準備はいいか?苦戦する相手でもないから心配はしてないが。』

 

初戦の相手は雫にとって問題のない相手

 

いつも通りで勝てるだろう

 

雫『まかせて、…。』

 

当の雫も適度の緊張を保っており、何時でも大丈夫なようだ

 

気持ちの入った応えの後、何かを訴え掛けるように達也を見つめる雫

 

達也『どうした?』

 

突如、弱々しい雰囲気になる雫

 

普段の彼女では珍しい

 

雫『達也さん、勝てると思う?』

 

誰にとは言わない、それは達也も解った

 

思い浮かべるのは一高の一年生エースと呼ばれる司波 深雪

 

彼女は雫とは別の予選ブロックのため、決勝まで当たらない

 

達也『何とも言えないな。彼女、司波 深雪さんの魔法力は一年生の中でも飛び抜けている。おそらく、今年、九校戦に参加している選手達の中でも頭一つは抜けているだろう。』

 

敢えて明言を避け、淡々と事実だけを述べる達也

 

不安を払拭するのは意外と難しい

 

どのような人間でも持っているもの

しかし、それを別のもので覆い隠すことは出来る

 

雫『…勝てないのかな?』

 

達也『…勝負というのは時の運でもある。その前に目の前の試合を勝たなければ、彼女と対戦出来ないぞ?』

 

兎に角、勝つ

勝って、次の試合へ

 

勝ち癖を付けて、精神をフラットにする

 

 

どのような勝負事にも絶対は無い

 

強い者が勝つのではないが、強ければ勝つことも多い

 

雫『わかった。』

 

その事を理解出来るには、後数年は必要かもしれないが

 

 

ーーーーー

 

 

真由美『北山さんの得意魔法、振動系の魔法で共振破壊か。』

 

鈴音『守夢君の調整と北山さんの魔法力の前には並大抵の選手では歯が立ちませんでしたね。』

 

雫の試合結果は相手に反撃をさせない程の素晴らしい試合運びと言えた

 

自陣の氷柱を振動魔法から守りつつ、相手の氷柱を振動系魔法で破壊していく

 

情報強化で自陣の氷柱を防御し、敵陣の氷柱を共振破壊で攻撃

 

定石(セオリー)通りに勝ち抜いた雫

 

 

摩利『その超一流とも呼べる守夢の調整で一高(ウチ)司波(エース)の前に勝てるやつはいるのか?』

 

 

真由美『確かに反則よね。模擬戦だって、私達何も出来なかったもの。』

 

上には上がいるとは良く言ったもので、実技では雫を凌ぐ深雪

 

理論でも達也に次ぐ二位

 

雫と深雪のどちらが勝つかなど火を見るより明らか

 

 

鈴音『さあ、どうなんでしょうか?彼の話だと、決勝は第一高校同士になると予測していますのでそれに準じた試合結果になると思われます。…始まります。』

 

そういった計算の下、達也は鈴音に予想を説明していた

 

話している時間に、次の試合の準備が出来たようで

 

アナウンスが流れ

 

二人の選手が台に上がる

 

 

 

すると、どうだろうか?

選手を出迎える拍手や歓声がない

 

否、ないのではない

 

深雪『…』

 

深雪自身がそれをさせなかったというほうが正しい

 

只でさえ、絶世の美女と呼ばれている深雪

 

加えて、巫女装束では呑まれるのも仕方がないのかもしれない

 

摩利『凄いな、北山の時は歓声が沸き上がったのに、司波の場合は纏う雰囲気もあってか静寂が支配したか。』

 

雫の時はワクワクとした感じで目を輝かせていた摩利

 

しかし、深雪には引き攣った笑みだけに止めた

 

それほどまでに深雪は恐ろしいと言えた

 

真由美『そうね。異様なほどの静けさに相手選手が呑まれてるわね。』

 

真由美の言う通り、相手選手は深雪を怯えるような表情で見ている

 

 

 

 

しかし、驚くのはまだ早い

巫女装束よりも更に全員を驚愕させる秘密を彼女隠しは持っていた

 

 

 

 

 

試合開始のシグナルが鳴り響く

 

その瞬間、会場全員目を疑う光景が全面に広がる

 

深雪から放たれた魔法は冷気と熱気が入り混るソレ

 

真由美『なっ!まさか、アレなの?』

 

摩利『それしかないだろう、自陣を冷気で守り、敵陣を炎で焼き尽くす魔法なんて一つしか無い。』

 

深雪は自陣を冷気で守る

 

そして、敵陣を炎で攻める

 

『『氷炎地獄(インフェルノ)!!』』

 

一見、理にかなった魔法だが、その極とても高難易度の魔法なのだ

 

 

運動エネルギーを片方からもう片方に移動させる魔法

 

 

冷気と熱気

 

その両方を同時に操るのだから、出力にしろコントロールにしろ困難を極める

 

それを一介の高校生が操るというのが前代未聞なのだ

 

 

相手の反撃は一切効果無く、深雪の勝利となった

 

 

 

 

 

 

摩利『はぁ~、とんでもないな司波は。』

 

真由美『末恐ろしいとしか言えないわね。』

 

真由美や摩利はアイス・ピラーズ・ブレイクの選手ではないものの、出場しようと思えば出来る実力はある

 

向き不向きや相性もあるため一概には言えないが、彼女達が出場しても優勝圏内には入るだろう

 

しかし、優勝は出来ないということは解っていた

 

 

 

ーーーーー

 

達也が担当する選手三人共に初戦を危なげなく突破し、順調に二回戦も勝ち進む

 

これから、三回戦が始まる

 

 

達也『…明智さん、一応身体は休めたようですが気分は如何ですか?』

 

今朝、明智の体調がイマイチというのは一目瞭然だった

 

声に覇気もなく目元には隈が出来ており、何よりも調整時にそれが如実に表れていたからだ

 

 

明智『いや~、やっぱりアレは慣れないね。身体を休めれることには良いとは思うんだけど。』

 

アレというのは睡眠導入機(サウンドスリーパー)のこと

 

伊達に数十年の歳月を人類は過ごしていない

 

睡眠を効率良く摂るにはどうすればいいのか、その研究成果がこれだろう

 

達也『そもそも、貴女が寝ていないのが根本の問題です。因果応報というものですよ。』

 

遠足気分の小学生かと聞きたくなるほどだが、言っても仕方ないことだ

 

 

明智『あぅ、ごめんなさい。』

 

素直に謝れるのは彼女の美徳だろう

 

少々、緊張感が無いのは玉に瑕だが

 

達也『全く。…次が正念場です。相手は第三高校の十七夜選手です。北山さん勝ったからといって油断は出来ません。』

 

起こってしまったことを蒸し返すのは達也の本意ではない

 

反省しているなら、次にそれをしなければいいのだから

 

明智『…強いよねぇ。…わかってる。全力で挑まなきゃだね?』

 

雫がスピード・シューティングで勝ったとはいえ、自分は雫ではない

 

自分の持ちうる全てで戦って勝つ

 

達也『はい。実力的には五分ですが、技としては不利です。明智さんの持ち味と相手の武器を計り間違えないで下さい。』

 

決意を新たにする明智

 

達也も頑張ろうとする人間に対して冷たくはないが、優しくもない

 

しかし、むやみやたらに頑張っても意味はない

 

明智『?』

 

達也のアドバイスに疑問符を浮かべる

 

達也『ヒントはパワータイプかコントロールタイプかということです。』

 

エンジニアとして、最低限のサポートはしておく達也

 

どう捉えるかは里美と同様に明智次第である

 

 

ーーーーー

 

 

明智『(うーん、彼の言っていた言葉がイマイチ要領をつかめないんだよね。いや、納得もあるんだけどはっきりしないというか…)兎に角、今はこの試合に集中だね。』

 

思考に霞がかってスッキリとしないこの状況

 

どんなに考えても見えてこない

 

考えているうちに試合開始の合図が近付いてくる

 

 

試合開始のシグナルが鳴り響く

 

 

明智『とりあえず、先手必勝!いっけぇ!』

 

自陣の氷柱を一本倒すと、それをローラーの要領で敵陣の氷柱に向けて転がし倒しにかかる

 

氷同士がぶつかりあい、鈍い音を立てながら氷柱三本を倒していく

 

栞『なるほどね、氷柱を動かすという事象改変があるためその物自体の事象改変は受け付けない訳ね。』

 

明智『さあ、どんどん行くよ!』

 

再度、自陣の氷柱一本を倒してローラーのように転がし敵陣栞の氷柱三本に向けて進撃を開始する

 

栞『甘いわね。』

 

明智の氷柱が栞の氷柱に当たると思われた

 

がーー

 

明智『ん?あれ?』

 

一つ目の氷柱が明智の転がした氷柱に当たった瞬間に後ろにスライドする

 

正確には、氷柱が氷柱を奥に押し込んだと言うべきか

 

しかし、これで明智の攻撃が終わったわけではない

 

三本目を倒すまでは氷柱は突進は続くのだが、二本目も押し込まれて不発に終わる

 

最後の三本目なら今までの衝撃で倒せる筈が見事に明智の攻撃を最後まで凌いだ

 

 

明智『うそ、そんな。』

 

自分の攻撃を防がれたことに驚きを隠せない

 

 

 

 

一方、控え室で観戦していた達也

 

一連の流れを素直に称賛すると、共に観戦していた真由美達が問い掛ける

 

達也『(やるな、カーディナル・ジョージ。)流石ですね、そこまで計算出来るのは彼女ならではということですか。』

 

真由美『?どういうこと?』

 

摩利『説明してくれないか?』

 

代表として、二人が質問するも

他の生徒達も同様のようで知りたいらしい

 

細かく説明しても解らない可能性も高いため解る者には解るように簡潔に説明する

 

達也『簡潔に言いますと、氷の摩擦係数を極少化、極大化させて明智さんの氷柱を防いだということです。』

 

真由美・摩利『『??』』

 

鈴音『そういうことですか。』

 

益々、解らないといった感じだが、唯一鈴音は理解出来ていた

 

達也『はい。そして、最後の仕上げに摩擦係数をもう一度変化させ、三本の氷柱を一本の氷柱と見立てて、明智さんの氷柱を止めたという訳です。』

 

とりあえず、一人でも理解出来れば上々だ

 

理解の追い付いていない者は一旦、隅に置いておく

 

鈴音『そこまで細かな計算を十七夜選手は行っていると?』

 

あり得ないといった表情だが、忘れてもらっては困る

 

スピード・シューティングでのあの連鎖の凄まじさを

 

 

達也『北山さんとの試合でお分かりの筈です。彼女ならば、可能だと。』

 

そうだった、と納得する鈴音

 

緻密に計算された移動魔法によるクレーの破壊

 

今、思い起こしても凄まじいの一言に尽きる

 

真由美『ちょっと、二人で話を進めないでよ!どういうこと?』

 

達也とまるで通じあっているように見える鈴音

 

嫉妬にも似た真由美の説明を求める声

 

達也『皆さんの解るように説明するとですね…』

 

学校の先生の講義のように懇切丁寧に説明する

 

摩利『…そんなのありか。』

 

緻密な計算に思わず下を巻く

 

摩利はどちらかと言えば、パワータイプだ

 

達也『実現出来るからこそ魔法です。不味いですね。このままだと、明智さんは負けます。』

 

モニターの方に向くと明智の氷柱が次々と壊されていた

 

それなのに危機感を全く覚えない担当エンジニアの達也に周りは苛つく

 

真由美『ちょっと、不味いじゃないわよ。何の策もしてないわけ?』

 

このまま何も出来ずに負けるなんてあってはならない

 

真由美は達也に何とか出来ないのかと問い詰める

 

達也『策はないですね。切り札が彼女の可能性ですから。』

 

彼女の力が唯一の勝利条件だと達也は言う

 

しかし、それで納得出来るほど現在の戦況は芳しくない

 

摩利『謎かけは止めてくれ。明智自身が切り札?どういうことだ?』

 

どうやったら勝てるのかが知りたい

 

達也ならこの状況を覆せると信じているが、不安は若干残る

 

達也『これ以上は話せません。これは、彼女のプライバシーに関わるものですから。(ここに居る全員が魔法の本質がどういうものか、今知る時だ。)』

 

明智のプライバシーとなると、立ち入るのは難しい

 

見守るとはどういうものか、そういった面も成長していく必要がある

 

選手だけでなく、チーム全員が必要なことだ

 

 

 

 

 

 

しかし、真由美達以上にパニック状態の明智

 

明智『(お、落ち着かなくちゃ。で、でもどうやったら、あの氷柱を壊せるの?守夢君の調整でCADは大丈夫、でもどうしたら…!あの時、守夢君は何て言ってたっけ?)』

 

 

試合をしている当人が焦るのは当然だろう、落ち着こうと考えるもそれこそがどつぼに嵌まる

 

しかし、思考を止めるのは愚かに等しい行為

 

 

それでも、この悪循環の中に希望を見出だすのも必要な力だ

 

【『ヒントはパワータイプかコントロールタイプかということです。』】

 

【『アメリア、魔法というのはねーーー』】

 

達也の言葉と同時に懐かしい記憶が甦る

 

それは、イギリスに居た時の記憶

 

偉大な祖母と過ごしたもの、魔法とは何たるかを教わった日々

 

彼女の眼に希望(ひかり)が灯る

 

 

明智『!!(グランマ!)』

 

 

 

 

 

栞『(あと、六本。このまま、一気に決着をつける…?)』

 

ここまで、自分のペースで試合を運んで来た栞

 

波の合成で氷柱を破壊

 

勢いは緩めない、相手を圧倒して勝つ

 

気持ちを新たにし対戦相手である明智を見ると、先ほどまで慌てていた彼女の様子がおかしい

 

やけに大人しい

 

大抵の選手は一矢報いるために何かしら仕掛けてくるのだが、それが無い

 

だが、それがかえって不気味である

 

栞の脳内に疑問符が浮かび、気が弛む

 

その時だったーー

 

 

 

明智『(負けたくない、勝ちたい。)いけぇ!』

 

怒号にも似た叫びに呼応して、明智の自陣にある一本の氷柱が射出される

 

その氷柱は敵陣の縦に並んだ氷柱三本めがけて飛んでいき、見事に倒したのだ

 

その氷柱はまるで、ミサイルを連想させるものだった

 

 

栞『なっ!(これほどの余力をどこに残していたというの?これは、早々に決着をつけるべきね。)』

 

突然の反撃に驚きを隠せない栞

 

成す術がなく、只敗北にひた走っていた筈の明智から思いもよらぬ圧倒的な攻撃

 

長引かせる訳にはいかない

 

明智『!(…漸く、解ったよ。守夢君の言葉が。そして、グランマが言ったあの言葉の意味が!)もう一回!翔んでいけ!』

 

彼女の声と共に氷柱がまた射出され、三本並んだ氷柱に命中する

 

栞『!?(強い!くっ、防御を突き破られた。)』

 

明智『やった!ラストさ…b…n…ア、レ?(な、に?急に目の前が真っ暗に。)』

 

勝機が見え始めたはずが、急に体が言う事を聴かなくなる

 

膝の力が抜け、咄嗟に床に両手をつく

 

 

達也『…しまった、忘れてた。』

 

その様子をモニターから見ていた達也は素直に不味いと感じる

 

その言葉が不覚にも口から零れる

 

摩利『おい、明智の様子がおかしいぞ!守夢、今の言葉はどういう意味だ!?』

 

傍に居た摩利は達也の言葉と明智の尋常でない様子に達也を問い詰める

 

 

達也『すみません、私のミスです。明智さんですが、寝不足気味で体調は万全ではありません。それを踏まえて調整したつもりでしたが、限界かもしれません。申し訳ありません。』

 

自分の計算ミスと素直に認め、謝る達也

 

そして、周囲が知りたがっている彼女の状態を簡潔に述べる

 

真由美『守夢君!』

 

悲壮感たっぷりの声で達也を呼ぶ

 

何とかならないのか?と

 

達也『今の状況を私にどうにかしろと言われましても、不可能です。規模の大きな魔法を連発して想子(サイオン)が著しく減ったためです。もって、あと一発というところでしょうか。』

 

試合をしているのは明智自身

 

達也ではないし、現状をどうにか出来るものでもない

 

真由美『そんな…。』

 

後は、本人の頑張りに懸かっていると言われれば不安でしかないらしい

 

所詮、達也はエンジニア

CADからでしか選手をサポートは出来ない

 

達也『(過保護すぎる、これくらいを乗り越えなければ彼女に成長は無い。正念場だな…。)見守るしかありません。』

 

 

 

 

 

 

 

 

栞『(今が最後のチャンス。相手は残り4本此方は3本、壊すしかない。)』

 

明智の反撃が止まり、再度攻勢をかける栞

 

 

真由美『あぁ!』

 

2本の氷柱を破壊され、残るは2本

 

絶体絶命の危機ーー

 

達也『会長、いえ、皆さんに伺います。魔法の本質とはどう言ったものが挙げられますか?』

 

にも関わらず、場の空気を壊す発言をする達也

 

周囲は何をほざいているんだ?、責任逃れをしているのか?等と思うのも仕方ない

 

摩利『こんなタイミングで質問するか?』

 

しかし、非難轟々の中でも気にした様子もない達也は更に続ける

 

達也『私的な見解の一つとして、現実をどう塗り替え、捩じ伏せるものなのかと考えています。』

 

魔法とは現実を上書きすることが目的の一つとしてある

 

真由美『…明智さんにそれが出来るの?』

 

今の彼女の状態で、この土壇場でそれを可能にするのか

 

達也『勝負は時の運ですが、想い続ければ実現します。』

 

出来る出来ないではない、やるかやらないかが勝負の鍵になる

 

 

 

明智『(もう一度アレを出来るほどの体力はないかも。このまま、負けるしかないのかな。雫や深雪みたい凄い魔法師でもないし、二人と比べたら仕方ないよね?…本当にそう?)』

 

Aランク魔法師でさえ、難しいとされる氷熱地獄(インフェルノ)をあっさりとやってのけた深雪

 

防御と攻撃の両方が完璧な雫

 

この二人を比べれば、自分なんて大したことはない

 

心の奥底でそう思っていた

 

 

 

栞『あと、2本。これで、おしまい。…?(おかしい、破壊出来ない。…まさか。)』

 

破壊出来ると思った氷柱、波の合成が外れ不発に終わる

自分の計算ミスかと思ったが、僅かに氷柱が動いていた

 

それをしたのは動けないでいた明智

 

 

明智『い、やだ。負けたくない。』

 

今、脳裏に浮かぶのは過去の自分

 

無意識の内に手を抜いて、相手を勝たせていたあの頃

 

負けることに苦しさを憶えるも、相手の笑顔を見るともういいかと、無理矢理自分を納得させていた

 

そんな思いは二度としたくない、全力でやりきってそれでも勝てないなら仕方がない

 

でも、手を抜いて負けるのはもう嫌だ

 

 

明智『(最後の一撃を放てるだけ分の力があればいい、お願い。)…いっけぇぇぇ!』

 

栞の陣にある氷柱は明智の不発に終わった氷柱と一つにまとめた三本の計四本

 

しかし、一本の氷柱に見立てると、圧倒的に大きな質量になる

 

それを破壊しようとするなら、それ相応の力が必要だ

 

明智は全霊を籠めて氷柱を飛ばす

 

 

栞『(嘘、そんな力どこに残っていたというの?負けたくない、この一撃を守りきれば勝ちよ。)はあ!』

 

明智の氷柱から自陣の氷柱全てが全損のイメージをさせるほどの強大な想子(サイオン)を感じ、恐怖する栞

 

しかし、これを防げば自分の勝ちは決まったも同然

 

ありったけの想子(サイオン)を籠めて氷柱の守りを強化する

 

ドゴォッッ

 

氷同士がぶつかるだけなのに、その音はコンクリート同士なぶつかったような音が出る

 

 

ピシッ

 

 

次いで、明智の飛ばした氷柱に無数のヒビが入り、粉々に砕ける

 

 

真由美『う、そ。駄目だったの?』

 

達也『いいえ、彼女の勝ちです。』

 

真由美の言うように明智の飛ばした氷柱は砕け、栞の氷柱は無傷といって問題なかった

 

モニターで見ていた一高のスタッフ全員が落胆の表情をする

 

しかし、達也の眼には明智の勝利が視えていた

 

バキッ、ビキッ

 

と、栞の氷柱の一本にはっきりとした割れが突然現れる

 

それは、あっという間に三本全てに現れた

 

内部まで割れが入ったものと推定され、この試合の勝者が決まった

 

栞『(なんて、子なの。凄まじい、破壊力ね。)…か、んぱい…よ。』

 

最後の明智の飛ばした氷柱はまるで、ミサイルと言っても過言ではない威力だった

 

精根尽き果てた栞

 

だが、その前にすでに力を使い果たしていた明智

 

台の上で伏している状態だ

 

摩利『…勝ったのか?』

 

達也『えぇ、一本を残して。』

 

これが勝ったと言えるのかどうかはさておき、ルール上では、先に氷柱をゼロにした方が勝ちに則ると明智の勝ちである

 

 

真由美『やった!』

 

真由美をきっかけに周囲は喜びの声をあげた

 

 

ーーーーー

 

 

達也『明智さんの体調は芳しくありません。決勝は難しいでしょう。』

 

決勝戦を前に達也は真由美の元を訪れていた

 

理由は明智の棄権の提案である

 

それとは別に達也の担当である深雪と雫、明智の三人が居た

 

真由美『そうよね、あれだけ無理をしたんだし。それこそ、全身全霊を懸けて勝利したんだから。という状況を運営は把握しているのかどうかは判りませんが、提案がありました。』

 

三人は疑問符を浮かべているだけだったが、達也は合点がいっていた

 

達也『三人の同立優勝ということですね?』

 

真由美『その通りです。これはあくまで、運営からの提案ですので。』

 

選ぶのは選手である当人達

 

明智『あの、守夢君の言う通り私は棄権します。さっきの試合で限界だったので。運営の提案はありがたいです。』

 

達也の言う通り、自分の体力の限界があったため運営からの提案はありがたかった

 

はっきり言って、彼女にとって天の助けといえた

 

真由美『わかったわ。』

 

一人の了解が得られ、残るは二人

 

雫『…私は深雪と試合をしたいと思います。』

 

真由美『…そう。でも、司波さんの了解がなければ、出来n…』

 

予想は出来ていた

大人しそうな表情の雫だが、闘争心は人一倍強い

 

それを見越してそれを削ぐような発言を考えていたのだが、見事に深雪に遮られた

 

深雪『構いませんわ。』

 

真由美『え!?』

 

深雪『私も彼女と試合をしたいと思っていましたから。』

 

真由美は深雪ならこの提案を受け入れてくれると信じていたのだが、彼女もまた闘争に目覚めたというのか

 

真由美は頭を抱えたくなった

 

摩利『これは当てが外れたな、真由美?』

 

真由美『他人事だから好き放題言って!』

 

真由美の後方で様子を見ていた摩利

 

好戦的である彼女はこの状況を楽しんでいた

 

達也『…(やはりこうなってしまったか。)』

 

予想していたこととはいえ、あまり実現して欲しくなかった対戦

 

これから起こる事は誰にも止められない

 

例え、誰であってもーー

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

最近、思うことが台本形式じゃなくても書けるのかな?とか名字で表記していた人物も名前にするほうが良いのかな?とか

今回は、ほぼ優等生と劣等生のままで少しだけ弄ってるだけです。

次回は、私なりに考えた魔法を出したいと思います。

それでは、また次回お会い出来ればと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

B´zのライブに行きたい




達也『(もう、届いたのか。牛山さん、無理をしたんじゃあ?玩具だから急がなくていいと伝えたのに。暇をもて余していたのを見破られたのかもな。お礼を言っておかないと。)……私に何かご用ですか?』

 

新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクの決勝の待ち時間に達也は先日、バトル・ボードで摩利が実践していた硬化魔法を参考に起動式を作成していた

 

それを、エリシオン社にいる牛山宛にCADの作成を依頼していた

 

牛山も達也の性格はある程度把握している

 

九校戦に参加した経緯や心情を理解していたのだろう

 

それが僅か一日足らずで達也の元に送られて来ており、それをホテルのロビーで受け取っていた

 

 

届いたからには実験はしたい

 

誰に頼もうかと思案していると、達也の行き先を塞ぐ二人の陰

 

 

吉祥寺『いえ、ちょっとした敵情視察です。スピード・シューティングでは、魔法大全(インデックス)に名を残し、担当した選手は優勝もしくは、上位入賞と優秀な成績を残す。僕達三高の勝利を尽く阻むエンジニア。そんな人物の顔を拝んで見たいと思うのは当然では?守夢 達也。』

 

あからさまな敵対発言

 

まあ達也からすれば、俺が何をした?とツッコミ満載の内容ではある

 

 

達也『…何か勘違いをされてはいませんか?優勝したのは選手であり、エンジニアではありません。選手が優秀であればこそ、優勝に一歩近付くのであって決してエンジニアが優秀だから優勝するのではないかと思いますが?あと、一つ訂正させていただきたいのが、魔法大全(インデックス)は私の名ではありません。』

 

やれることをしただけのため、興味を抱かせるようなことはしていないつもりの達也

 

本人の主観はそうなのだが、端から見ればとんでもない人物

 

将輝『謙遜だな。それが過ぎれば、ただの嫌みにしかならない。守夢 達也、あれほどの腕前を持ちながら、何故選手として出場しない?理論があれほど出来るということは実技も相当なものの筈だ。理由を知りたい。』

 

能ある鷹は爪を隠す

 

という諺があるものの達也は隠しすぎるといえる

 

それも様々な事情があってのことだが

 

達也『…何故?と言われましても、実技の成績は下から数えた方が早いので、選手として出れる筈もありません。というよりも、この九校戦に興味は無いのですが。』

 

将輝『…?実技が駄目?そんな訳はないだろう?』

 

吉祥寺『ありえない、実技が出来る(イコール)理論が出来るという方程式が組み上がる。』

 

将輝の問いに素直に答えるも誤解を生んでしまう達也

 

一般的に理論と実技は切っても切れない関係のため、達也の答えは常軌を逸している

 

と言っても、事実は事実のため仕方がない

 

 

達也『例外というものですよ。そんなことを言ってしまえば、現在、魔法師で活躍している方は何かに秀でているのが多いと思いますが?魔法力がある、が強いではないと私は考えます。それでは、失礼します。』

 

これ以上絡まれるのも面倒のため、二人の間をすり抜けようとするも肩を掴まれ、止められる

 

将輝『待て!』

 

何故か、怒っている将輝

 

煩わしいことこの上ない

 

達也『まだ何か?…一条の嫡子よ。』

 

若干、苛ついていたため

 

殺気が洩れる

 

将輝『!?(何だ?今の違和感は?)』

 

達也から放たれた殺気に思わず、固まり肩から手を放す

 

解放されたことを確認し、その場から去る達也

 

廊下の奥に消え去ってもまだ凝視し続ける将輝に不思議そうな吉祥寺

 

吉祥寺『将輝?』

 

将輝『ジョージ、いや何でもない。守夢 達也、何者だ?』

 

 

 

 

 

達也『やはり、九校戦に参加するべきではなかったな。面倒事が次々と湧いてくる。』

 

しかし、これではっきりしたことが一つだけある

 

一条家は達也を探しているが、その嫡子である将輝はその目的を知らない

若しくは、知らされていないのだろう

 

たかが九校戦でここまで、一人のエンジニアに執着するくらいだ

 

家の命を受けているならば、そんなことは気にしない筈だからだ

 

 

とりあえず、目下の懸案は七草と十文字、それに四葉に絞られた

 

 

 

 

レオ『お、達也。エンジニアの仕事は良いのか?アイス・ピラーズ・ブレイクの試合がもうすぐ始まるぞ?』

 

達也『最終調整は終わっている。俺に出来ることはそれだけだからな。試合は選手の仕事だし。どちらかに居れば贔屓しているのでは?と勘繰られるからな…ちょうど良かった。今日の夜は暇か?』

 

牛山から送って貰った物をホテルの部屋に置きに行こうかと考えていた矢先、達也にとっては渡りに船といった状況

 

レオ『?あぁ。それがどうかしたか?』

 

達也の質問に疑いを見せる素振りもなく答えるレオ

 

達也『ちょっと、実験に付き合って欲しくてね。』

 

達也から実験と聴かされると少しばかり身構えてしまうのは何故だろうか?

 

レオ『いいぜ、何すればいいんだ?』

 

レオは気にしてはいないようだが、他の人間なら間があったかもしれない

 

そこはレオという人間なのかもしれない

 

達也『硬化魔法の実験と言えば、良いかな。これを渡しておくから、説明書を読んでおいてくれ。夜に俺の部屋に来てくれ。…あとは、そうだな、依頼に対しての対価だな。金以外であれば、極力は希望に沿えるようにするが。』

 

レオから承諾を得たため、次の段取りに入る

 

現地であれこれと行うよりも隙間時間に下準備は済ませておく

 

レオ『おう、りょーかいだ。報酬?いや、要らねえけど。こっちも暇だったんだ、その解消を提案してくれただけでありがてぇ。』

 

暇潰しさせてくれるなら実験の一つや二つ問題ない

 

それに達也の実験のと言っても危険なことは無いのは判っている

 

レオの中では報酬(イコール)暇潰し提案で成立しているのだ

 

 

達也『そうか。』

 

そこまで無理強いする必要も無いため、引き下がる達也

 

レオ『!あ、いや、待ってくれ。一つあった。』

 

すると、何か思い付いたのか達也を呼び止める

 

達也『碌でもなさそうな気がするな。』

 

冗談混じりに返す

 

レオの思いつきは無理難題というものでもないだろう

 

叶えられる範囲なら努力はするつもりだ

 

レオ『簡単なことさ。ーーーーー?』

 

そこまで珍しくも無いが、同級生からそれを所望されるとは思ってはいなかった

 

達也『承知した。』

 

レオらしいなと思いつつ、承諾した達也だった

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『t…守夢君、どうしてソファで寝てるの?もうすぐ、試合が始まるのよ?』

 

試合開始まで20分もないのに休憩ラウンジのソファで寝そべっている達也を見掛ける

 

一高スタッフから見れば、サボっているようにしか受け取られないこの状況

 

真由美もその一人だ

 

達也『…誰も周りにはいませんので、名前で呼んで構いませんよ?試合が始まろうとも俺の出来ることは終わったので。真由美さんこそ、彼女達を見届けるべきでは?』

 

自分の仕事は終わっているため、あとの時間はどうしようが勝手なのだが、真由美はそれを許さないようだ

 

しかし、冷静に考えてみれば、選手である二人と達也の立ち位置ではこうする他無いと解るはずなのだが

 

真由美『達也君こそ、エンジニアなんだから彼女達を見守るのが当然じゃない?』

 

なんとも、こじつけの言い分である

 

達也『解説者として、必要という意味では?』

 

真由美の思考を読まなくても判る

 

達也の解説は解りやすい

 

真由美『そ、そんなわけ無いじゃない。…多分(ボソッ)』

 

達也『…皆さんは、天幕に?』

 

図星を突かれ、反論出来ない真由美に仕方ないと軽く嘆息する

 

どうせ、このままだと無理矢理連れて行かれるのは目に見えている

 

それならば、自発的に動くほうが得策だ

 

真由美『ええ、摩利や十文字君、鈴ちゃんもいるわ。』

 

達也『わかりました。後程、伺います。』

 

真由美『遅刻は厳禁よ?』

 

懇親会の事を根に持っているのか、睨まれながら忠告される達也

 

前科があるため、反論の余地はない

 

達也は素直に頷くしかなかった

 

 

 

 

 

 

摩利『ギリギリだな。』

 

達也『野暮用がありまして。』

 

摩利『で?』

 

天幕に着くと、摩利から嫌味を言われる

 

どうやら、全員が達也の到着を待ち望んでいたようだ

 

理由は一つだろう

 

察してやるのも癪なので、惚けてみる達也

 

 

達也『?』

 

摩利『どちらが勝つと予想している?』

 

着くなり早々に質問を受ける

 

どうも、勝ち負けが知りたいようだ

 

 

達也『皆さんの想像通りかと。』

 

質問に答えるのも億劫な達也

 

とりあえず、自分の考えだけは伝える

 

十文字『…司波が勝つと?』

 

達也の回答に質問をする十文字

 

達也『模擬戦を見ていたのなら当然、わかるのでは?』

 

真由美『それは、北山さんが可哀想じゃない?』

 

達也の客観的事実からの発言に真由美は異議を申す

 

達也『事実ですから。それに、彼女に余計な期待をかけるほうが酷いと思いますが。九割九分九厘司波さんが勝つでしょうね。』

 

はっきり言って、雫が深雪に勝てるビジョンが思い浮かばないのは達也にとって当然なのだ

 

あれほどの才を持つ者が他に居るのかどうか

 

 

摩利『そこまで言うか?』

 

雫の勝利は微塵もないと評価されたものであるため、摩利も苦言を呈する

 

達也『この競技は魔法のランクの使用制限はありません。扱えるものが強ければ強いほど有利、魔法力も然りです。…始まりますよ?』

 

アイス・ピラーズ・ブレイクの特徴は使用魔法のランク制限が無いことだ

 

それはつまり、扱える魔法のランクが高ければ高いほど有利ということだ

 

達也の深雪に対する高い評価に天幕に居た人間全てが絶句する

 

しかし、達也にとってはこの評価は只の事実であり贔屓している訳ではない

 

長々と話していると、試合開始のブザーが鳴る

 

 

 

 

 

 

 

摩利『序盤から圧倒されるな。氷炎地獄(インフェルノ)に共振破壊か。見た目は玄人好みの展開だが。』

 

雫の共振破壊に深雪の氷炎地獄(インフェルノ)

 

二人は高い魔法力の持ち主のため、目に見える範囲で変化はない

 

 

鈴音『ですが、情報強化で氷柱の温度は防いでいるとはいえ、周りの空気の温度からくる熱に対しては影響を受けていますね。』

 

しかし、見る者が見てしまえば、雫に分が悪い状況ということが判る

 

 

 

 

 

天幕でこのような会話がなされているということは当然、本人も解っているということ

 

それ以上に実力差を実感していた

 

雫『(やはり届かない。流石、深雪。拮抗しているように見えるけど、周囲の空気の温度からくる熱に耐えられない。)なら、これなら!』

 

だが、試合前から分からなかった訳ではない

 

そのための準備だってしてきたのだ

 

左の袖の中からもう一つ、拳銃型のCADを取り出し深雪の氷柱に向ける

 

深雪『!?(CADの同時操作(パラレルキャスト)?雫、貴女それを会得したというの?)』

 

雫が二つ目のCADを取り出した事に驚きを隠せない深雪

 

やろうとしていることが解るため、疑いの目にならざるを得ない

 

雫『(目標はあの列全て。出力良し、いける!)』

 

CADの同時操作(パラレルキャスト)は誰でも出来る訳ではない

 

相当の努力ともしかしたら、才能もあるかもしれない

 

それをマスターした雫

 

熱量のある光線が深雪の氷柱に穴を穿つ

 

 

真由美『フォノンメーザー!?Aランクの高難度魔法じゃない!守夢君、彼女にそんなの教えたの?というか、そんなの知ってたの?』

 

振動系の系統魔法で超音波照射による熱で攻撃する魔法

 

超音波の振動数を上げ、量子化して熱線とする高等魔法

 

雫が扱えたことに真由美は驚き、それの起動式を知っていた達也にも驚きを隠せない

 

達也『まぁ。ある程度は知っています。』

 

摩利『しかし、初の氷柱破壊だな。これを機に反撃となってくれればいいが。』

 

摩利の言葉に周囲も頷く

 

しかし、達也は冷ややかな目で状況を分析していた

 

達也『無理ですね。アレが来ますよ。』

 

真由美『?』

 

達也のアレという言葉に不思議そうな表情の真由美達

 

その言葉だけで察しろというのは無理な話

 

解るには、これから起こる事象を見るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫『(あれだけの威力なのに、一本だけ。凄いね、深雪は。…あとは。)』

 

全力で攻撃をしたのに、氷柱一本しか壊せなかったことに雫は落胆と同時に素直に深雪を尊敬した

 

世の中には、努力しても到達出来ない領域があるのだと

 

しかし、努力は無駄ではない

 

それを今から証明する

 

 

 

 


 

 

九校戦を10日後に控え、調整や作戦を雫、ほのかと共に練っていた達也

 

達也『こんな感じでどうだろうか?』

 

現在、アイス・ピラーズ・ブレイクの予選とトーナメントでの作戦を打ち合わせをしている

 

 

雫『…駄目。これじゃあ、深雪に勝てない。』

 

達也『…勝ちたいと?』

 

立案した作戦を一通り目を通すな否や、速攻のやり直しを雫から言われる

 

何が何でも勝ちたいらしい

 

今回、達也が雫に渡した作戦にはとても雫が深雪に勝てるような内容が書かれたものではなかった

 

それこそ、里美に言い渡した内容と似ている

 

フォノンメーザーで数本破壊出来れば上出来といったはっきりと負けて当然のようだった

 

 

雫『うん。』

 

雫がどこまで自分の実力と深雪の実力差を理解しているかどうかはわからない

 

達也『悪いが、事実を述べると魔法力において、彼女に勝てる高校生は誰も居ないだろう。干渉力が並みではない。十師族と言われてもおかしくない、それほどの人物だ。』

 

達也は淡々と雫に事実だけを告げる

 

雫が可哀想だから言うのではない

 

達也の発言は性格からくるものも多いが、エンジニアとしての立場から客観的に分析した結果がこれなのだ

 

雫『勝てる勝てないじゃない、勝つの。ほのかと私は、深雪に勝ちたいと思ってる。』

 

しかし、それでも雫は諦めた素振りはない

 

むしろ、闘志に火を着けてしまったようだ

 

雫と同様にほのかも深雪に勝つ宣言をする

 

達也『まあ、競争することも大切だが。』

 

軽く嘆息をし、時には競べることも大切かと自身を納得させる

 

しかし、それは達也の思惑とは駆け離れた理由だった

 

ほのか『そういうことじゃありませんよ。』

 

ほのかが達也の言葉を否定する

 

達也『?』

 

意味が解らないといった表情の達也

 

それ以外に何があるというのか

 

雫『深雪に達也さんの凄さを見せつけるためのチャンスだと考えてる。』

 

達也『益々、解らないのだが。』

 

雫は深雪に達也の凄さを認めさせると言う

 

しかし、達也にとってはそれはどうでもいいといった内容にランクがダウンする

 

ほのか『深雪は達也さんを軽視しすぎています。引いては二科生をです。今回は二科生のことはおいておきますが、私達は深雪の達也さんを軽んじる発言に怒ってるんです。』

 

どうやら、深雪の達也に対する言動に怒りを覚えているようだ

 

そんなことは達也自身は何も気にしてはいないため、二人を諫める

 

達也『いや、別に気にしてはいないが。そんなことに一々怒っていては疲れるし、心が疲弊してしまうぞ?引いてはそれは魔法の発動に関わるからその心は自分の技能のために使うんだ。』

 

達也の言葉に納得したのか、二人は黙り込む

 

これで次に進むかと思われた

 

 

がーーー

 

 

雫『…ハッキリ言うよ。私とほのかは達也さんのことが好き。LikeじゃなくLoveの方だよ。』

 

ほのか『好きな人が虚仮にされて黙ってはいられません。ましてや、その人の努力を無駄という言われたら達也さんはどう思いますか?』

 

まさかの異性として好き発言

 

確かに、この二人は達也を好意的に見ているのは分かっていた

 

だが、こうも表に出されるとは思ってはいなかったのも事実

 

 

達也『…それで?悪いが、二人の立場からすればそうなのかもしれない。エンジニアの選抜の時は、友人として君達をフォローはしたが、それも俺にとってはどうでもいいことだ。それに、俺は君達自身ではない。俺は大切な家族に危害が及ぶなら全力で対処するが、他人の思想は十人十色だ。それを止めることは出来ない。それに、エンジニアとして調整云々の前に司波さんと同等の魔法力を身に付けさせるのは不可能だ。そこは、持って産まれた才能に因るところが大きい。』

 

しかし、達也にとって二人の高い評価や他の人間からの低い評価のどちらにとってもどうでもいいものなのだ

 

それに、雫やほのかが深雪に勝ちたいとはいえ、魔法力を上げるなど不可能に近い

 

ここまで言えば、諦める他ない

 

 

雫『…出来るって言ったね、ほのか?』

 

ほのか『そうだね。達也さん、魔法力は無理と言ったけど、他は出来ないとは言ってないね。』

 

 

達也『…。』

 

主旨が変わっている

 

確か、深雪が達也を誹謗中傷するのは許せないから勝って、達也の凄さを見せつけるという内容だったはず

 

勝つためには魔法力を底上げするしかないが、そんな方法は無いに等しい

 

それが、達也の失言なのか二人の勘違いなのかで達也は他の方法なら出来るという、思考が斜め上をいっている

 

雫『魔法力が無理でも他の事なら出来るんだよね?』

 

雫とほのかは達也に食い下がる

 

まるで、言質を取ったような表情をしている

 

 

達也『モノの例えだ。………分かった。一つだけある、特別サービスだ。その前に一つ、これは約束というより契約だ。今から行うことを他言すれば、即座に君達を消す。』

 

正直、今の二人は面倒臭いと思った達也

 

達也自身、万能でもない

 

出来ることと出来ないことは確かにある

 

今回の場合は出来るに該当する

魔法力を底上げというか無から有にすることも公言はしないが、出来る

しかし、それは達也の秘密に関わるのだが、

 

数ヵ月、達也と関わっていたため、達也の言葉の端々に敏感な二人はその微妙なニュアンスに気付いた

 

今回は達也の失言と言えた

 

雫『…解った』

 

ほのか『わ、解りました』

 

結局、根負けした達也だが、

 

転んでもただでは起きない、これから渋々ながらも秘密をさらけ出すのだ

 

契約をしてもお釣りがくる

 

折れた達也だが、突然雰囲気が豹変したため二人はそれに呑まれる

 

 

達也『それでは、始めるか。二人共、俺の前に立って、目をしっかり閉じて欲しい。』

 

普段の穏やかな達也と違い、あまり見たことのない真剣な表情をしているため即座に従い、目を閉じる

 

カチャカチャと音がしたあと、二人の頭に人肌並みの体温と高校生とは思えないゴツゴツとした手が触れる

 

 

達也『今、二人の額に俺の手が触れている。そこから、氣というものを流す。君達の似た概念で言うと想子(サイオン)だ。おそらく、体の内側から感じるはずだ。』

 

達也の手から二人の魔法演算領域に注がれるものは事実、氣ではない

 

確かに氣というものもあるのだが、真実は達也の固有魔法だ

 

達也の魔法は知られる訳にはいかないため、納得のいく嘘を織り混ぜる

 

雫『うん、感じる。なんか、ポカポカ温かい。』

 

達也『そのまま、自分の得意魔法がどんな魔法なのか思い浮かべるんだ。…そこに、何の系統の魔法を混ぜたいのか、もしくは、強化をするならどんな効果を付与したいのかを想像するんだ。』

 

二人の魔法演算領域内に自分の魔法が行き渡ったことを確認する

 

そして、いよいよここからが本番だ

 

あくまで、これは補助であり、これ自体が強力な魔法ではない

 

ゲームで例えるなら、強化素材・進化素材といったところか

 

 

雫『違う系統の魔法を混ぜる…。』

 

ほのか『魔法を強化…。』

 

達也『…よし、これで終わりだ。』

 

二人の魔法演算領域内で何かが発露したのを確認すると、手を離すと同時に達也の魔法は霧散する

 

ほのか『もう、終わりですか?』

 

自分の中で輪郭が出てきた途端に手を離される

 

もう少しでハッキリとしたイメージが出来上がったのに、と恨めしそうに達也を睨む

 

達也『あぁ、こればっかりは本人の想像力次第になる。どんな力にしたいのかは、決められない。自分のスタイルに合った魔法にするしかない。但し、スタイルが決まれば、変えることは出来ないことは憶えていて欲しい。二人が、その力を昇華出来るように祈っている。』

 

別段、出来上がるまで魔法を使っても問題は無い

 

それのほうが確実に良い魔法を造り上げることが出来る

 

しかし、リスクもある

 

それは、魔法師の力量によっては暴走するということだ

 

精神が未成熟であればあるほど力に引っ張られやすく、魔法を上手く発動出来なくなる

 

そのため、この魔法は使うタイミングや被使用者の人格を考慮に入れて使う必要がある

 

あとは、達也の主観として赤の他人に近い存在に秘密を曝し続けるのは嫌だったということだろう

 

お膳立てはした

 

二人の覚悟を見せてもらう

 

あとは野となれ山となれ

 

 


 

 

 

深雪『(流石ね、雫。貴女が全力で応えたように此方も全力で応えるのが礼儀。)受け取りなさい。』

 

 

 

雫のフォノンメーザーによる攻撃を受け、少なからずもその実力を認める深雪

 

ならば、此方も全力で応えるのが礼儀

 

左手にCADを持ち、右手を添え頭上に構える

 

そして、鉄槌を下すように振り下ろす

 

超上級魔法

広域振動減速魔法 【ニブルヘイム】

 

 

 

摩利『やはり、あの時の魔法はニブルヘイムか!全く、どこの魔界だここは。』

 

深雪から放たれた白い霧のようなものの実態は魔法であり、以前、模擬戦で発動したものだ

 

あの時は暴走していたが、今は完全に制御された魔法

 

達也『(予想した通りの展開だ。さあ、どうする?一か八かの勝負だ。俺はきっかけを与えたに過ぎない。どこまで昇華させることが出来たのかは、雫、君次第だ。)…時間は無いぞ?』

 

深雪の力に感嘆するも、恐れはない

 

当然か、というように戦況を分析する達也

 

どちらを贔屓するつもりはない

 

雫やほのか、深雪他の担当選手の個々人に合った調整はしている

 

それ以上の覚悟をもって望むなら、それ相応に応える

 

それだけだ

 

 

 

 

 

雫『(これが噂のニブルヘイム。氷柱を液体窒素が覆う僅かな時間が私の唯一の勝機…!)私だってそう易々とやられる訳にはいかないよ。(スッ)』

 

残された猶予は僅か

それを掴み取れるかは雫次第

 

CADを着けている左手を前に出し、右手をその二の腕辺りで支えのような形をとる

 

次いで、雫から想子(サイオン)が溢れ出す

 

そして、瞬きする間もなく左手を勢いよく振り下ろす

 

 

 

 

ドガンッ!!

 

 

轟音と共に深雪の氷柱が粉々に砕ける

 

 

『えっ?』

 

誰が発したのかは判らないが、確実なことは一つだけある

 

雫の魔法が試合の流れを止めたということだけだ

 

そして、雫にとっては幸運なことに深雪の発動していた魔法が止まったこと

 

 

真由美『な、に、が起きた、の?』

 

摩利『私にも解らん。』

 

十文字『…見たことのない魔法だったということは確かだ、守夢。』

 

自分達の知識にない魔法

 

それは、一般の考えでは脅威に他ならない

 

自分の知らない世界にその人物は居るということは、心理的には得体の知れない存在

 

要因としては、自分がそれをしなかったや知ろうとしなかったことが挙げられる

 

だから、人を妬んだり羨んだりするのだ、自分が出来ない行動をとることに

 

人間は変化を好まない

 

特にプライドが高い人物は

 

達也『さあ?何でも私が起因しているということはありませんよ。北山さんから提案されて、調整したそれだけです。』

 

何でもかんでも、達也が要因という思考は止めて貰いたい

 

事実、達也が関わっているのだが

これは絶対秘密なのだ

 

鈴音『北山さん自身で考案されたと?』

 

達也でないならば、雫自身が編み出した以外考えられない

 

意外だという表情の鈴音

 

 

達也『それはどうかは知りません。(短期間でここまで完成させるとは、凄いな。)』

 

あの時からそこまで時間は経っていない

 

この九校戦までによく仕上げたものだ

 

素直に尊敬する

 

 

 

深雪『(な、なに?一体何が起きたというの?雫がしたの?じゃあ、あれは防御ではなく攻撃!?)…くっ!まだよ!』

 

予想外の攻勢に驚きを隠せない

 

フォノンメーザーが切り札だと決め付け、さらに隠していたとは思わなかった

 

しかし、このまま終わらせてなるものかニブルヘイムで雫の陣地の氷柱全体に液体窒素を付着した時

 

それでこの試合の決着が決まる

 

再度、深雪はニブルヘイムを発動させ、雫の陣の氷柱へ攻撃を仕掛ける

 

 

雫『(…一応、三本。結構、威力あったと思ったのに。もっと、想子(サイオン)を籠めないと完璧には壊せない。あと八本。)勝負だよ、深雪!』

 

 

 

 

ズガガガッ

 

何かを削り潰していくような音を発しながら、深雪の氷柱を粉砕していく雫

 

 

真由美『守夢君、あれはどういう原理なの?削れているというか、潰されているというか。』

 

モニター越しでも分かる、氷柱が振動しながら潰れていく

 

達也『会長の仰る言葉通りですよ。削りながら、潰しています。振動系統の魔法と加重系統の魔法が使われています。言うなれば、魔法を複合させたに近いですかね?』

 

例えるなら、インパクトドライバーや掘削機といった機械の原理に似ているかもしれない

 

イメージは出来るもののそれを再現するには相当の努力と時間が必要だったはず

 

 

『『魔法を複合!?』』

 

 

たった一言で済ませる達也だが、聴いた人間は驚愕しかない

 

複合された魔法(表現としては、複合に近い:誤解の無いように二度言います)など初めて聴くに等しいため、信じられない

 

ニブルヘイムは振動・減速の系統魔法だが、振動系に分類される

 

この魔法もニブルヘイムと同じなのかもしれないが、それならば雫は凄いことをしているということになる

 

しかし、現実に起こっているので否定材料が無いのも事実

 

 

 

 

深雪『くっ!(残り、五本。ここまで、私が追い込まれるなんて。あと、少し。)』

 

自分がここまで追い込まれていることに冷や汗の深雪

 

深雪の魔法の効果が雫の陣地に到達するのが先か、雫が深雪の氷柱を全て砕くのが先か

 

勝負は最後まで判らない

 

雫『(あと、五本。ギリギリ駄目かな?ううん、気持ちで負けてたら駄目。達也さん、見てて。)絶対に勝つ!』

 

今、雫が使用している魔法に弱点があるとしたら、それは攻撃中に防御が出来ないという点だろう

 

この攻撃魔法に全神経を集中させている

 

馴れてくれば、防御しながら攻撃も可能かもしれない

 

とは言うものの、防御する余力が無いのかもしれないが

 

 

 

 

ほのか『(私達の覚悟が今、こうやって深雪を追い詰めている、それは確か。)頑張って、雫。』

 

達也のおかげも大部分あるが、ここまで戦えるまでにモノにしたのは本人たちの努力だ

 

勝利を願って雫にエールを送るほのか

 

 

 

 

愛梨『(何なの?司波深雪を追い詰めているというの?無名の選手が?)』

 

最初に懇親会で会い、アイス・ピラーズ・ブレイクで氷炎地獄(インフェルノ)というAランク魔法師でさえ、難しいとされる魔法を使用した深雪

 

さらには、ニブルヘイムといった最早、化け物としか言い表せない人物が追い込まれているこの現実に愛梨は受け入れがたい思いを抱える

 

 

 

 

ズガガガッ

 

小気味良く、順調に削れていく氷柱とニブルヘイムによる液体窒素が氷柱に付着していく様を観客は固唾を飲んで見守る

 

この試合、どちらが勝ってもおかしくはない

 

 

 

 

達也『…司波さんの勝ちですね。』

 

ボソッと達也が深雪の勝利を確信する

 

真由美『え?まだ…』

 

どちらかと言えば、雫が優勢のはず

 

何故そのようなことを言うのかは、すぐに理解することになった

 

 

 

雫『(よし、ラスト二本。これを、…壊、せ、ば?…あれ?…)…ぁ。』

 

残すのはあと、二本

 

だが、無情にも雫に明智と同様の症状が起こる

 

所謂、想子(サイオン)の枯渇だ

 

あれだけの大威力の魔法なのだ、魔法力もだが、想子(サイオン)が大量に消費されるのは目に見えている

 

達也も効率良く調整しただろうが、結果がこれだ

 

立っていることも出来ず、膝から崩れ折れる雫

 

しかし、目は死んでおらず、まだやれると敵陣の氷柱に目を向けるもその視線の先には深雪が次の魔法を繰り出す瞬間が映っていた

 

 

深雪『!(危なかった、けど、間に合ったわ。)これでラストよ。』スッ

 

 

雫の陣地の氷柱に付着した大量の液体窒素

 

その膨張率は700倍

 

氷炎地獄(インフェルノ)と窒素により雫の氷柱は大きな爆発音を伴って破壊される

 

雫『あ…。』

 

結果は、新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクの優勝は司波 深雪に決まった

 

 

 

 

 


 

 

 

 

雫『達也さん、ごめんなさい。』

 

達也『何をだ?』

 

試合を終えて、達也は控え室に来ている

 

理由はこれといってないが、雫に呼ばれていた

 

 

雫『…達也さんに秘策まで貰ったのに、勝てなかった。』

 

達也に謝罪の言葉を述べる雫だが、顔を俯けていて表情は窺いしれない

 

しかし、悔しさは痛いほど伝わってくる

 

達也『謝るほどではないのだが、俺が心配しているのは、その事を他言されることだけだ。全力で勝てない相手もいる。勉強になったな。』

 

そんな雫にも達也は通常運転で

 

ここ最近、達也は雫やほのか達にも空気を読まない発言がちょくちょく見受けられる

 

雫『…達也さん、少しだけいい?』

 

達也の最後の励まし?の言葉に少しだけ優しさを感じた雫

 

ギュッと正面から達也に抱き着く雫

 

達也『少しだけなら。』

 

抱き着く腕の強さによほどの悔しさがあったのだろう、その悔しさは解らないでもない達也

 

雫『k…ち…tかった。勝…ち…たか、ったよ…』

 

達也『…』

 

嗚咽する雫にさすがの達也も慰める気持ちは少しある

 

早く、気持ちの切り替えが出来るように雫の頭を撫で続ける達也

 

ほのか『(雫…)』

 

控え室のに入ることもせず、雫の様子を窺っていたほのか

 

唯一無二の親友である雫

 

彼女の悔しさは痛いほど解る

深雪に勝つ、死にものぐるいで努力をしてきた

 

しかし、勝てなかった

 

明日は自分の番、雫のためにも勝つ

 

そう決意してーー

 

 

 


 

とある中華街

 

何とも怪しげな黒服のボディーガードに守られて、会談する男達がいた

 

 

『…どういうことだ?新人戦は第三高校が有利ではなかったのか?』

 

想定外の事態だと警鐘を鳴らす

 

『本戦で渡辺摩利を試合に出さなければ帳尻が合うと思っていたが、本命が優勝しては我々の一人負けだ。』

 

摩利が試合を棄権となれば、新人戦は三高が有利のため、何とかなると考えていた

 

それも、達也に邪魔されているため効果はいまいちである

 

『今回カジノは、かなり大口の客を集めたからな。支払いも相当だ。』

 

どうやら、この集団は九校戦をダシにした闇の賭けをしているように見受けられる

 

しかも、自分達の有利になるように細工を仕掛けながら

 

『このままいけば、今期のビジネスに大きな穴をあけることになる。そうなれば、ここに居る全員が本部の粛清対象だ。損失額によっては、ボス直々に手を下すこともあり得る…。』

 

『…死ぬだけなら良いが。』

 

『『…』』

 

ある男の言葉が紡ぐのをやめたその先は解っている

 

そのため、周りも沈黙するしかなかった

 

『もはや、形振りかまっていられん。第一高校を優勝させるわけにはいかん。』

 

どんな手を使ってでも、一高の優勝を阻む

 

『解っている、策は練ってある。死者が出なければ良いのだからな。』

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?
今回は、(おそらく、オリジナル?)魔法が皆さんに喜んでいただけるか気になります。

楽しんでいただければ嬉しいです!

①原作は深雪さんと歩いているときに将輝と会いましたが、当たり前ですが、一人のときです。
②レオが達也に何の報酬を頼んだのかそれは、後程
③違和感だらけだとは思いますが、雫とほのかが達也に告白しました。文才があれば、もう少しマシかもしれませんが…
④漸く、No Head Dragonの登場?です。

それでは、次回にお会いできますように。

早めの創作頑張ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

ようやく出来上がった…
自分の中では、それなりの出来
あとは、皆さんが面白いと思ってもらえれば万々歳

あと、評価が上がっていたので嬉しいです

それでは、お楽しみください


達也『待たせてすまない、レオ。』

 

レオ『気にすんなって、それより早く始めようぜ。取扱説明書は読んであるからいつでもOKだ。』

 

達也『了解した。早速始めるかーー。』

 

ここは、軍の演習場

 

普段は立ち入り禁止なのだが、九校戦で軍も誰も立ち入らないと踏んでいるのか理由は不明で警備は無いに等しい

 

おかしな話である

 

とは言え、許可は得ているためこの場を使用できている

 

しかし、今回はこれ以上無い最高の警備が居るため詮索はしないこととする

 

 

達也『…よし、基本のデータはこれで良いだろう。ありがとう、レオ。』

 

一通りのデータは得たため満足気な達也

 

硬化魔法の使い手がこの場にいて良かったと思う

 

 

レオ『もう、終わりか?…仕方ねぇな。もう少し体を動かしたかったんだが。』

 

レオは残念そうに小通連の刀身を元に戻す

 

このCADは硬化魔法用の剣型の武装一体型CADである

 

当然、起動式は硬化魔法が組み込まれている

 

レオが想子(サイオン)を流し、起動式を読み込むとCADの一部が離れる

 

離れると言っても、ふわふわとさまようわけではない

 

表現としては、剣先が延び、その間は何もない空間というわけだ

 

硬化魔法の定義はモノの相対位置の固定だ

 

刀身と柄の部分を硬化魔法で固定する

 

ある意味、変則的な武器と言えるだろう

 

 

達也『(フッ)焦るな。何もこれで終わりとは言ってないぞ?』

 

そんなレオを見て、少し笑う達也

 

まるで、今日の餌は無いと言われたペットのようだ

 

レオ『え?データは取ったって。』

 

レオは何故、達也が笑ったのかが解らなかった

 

そんなに自分の表情がおかしかったのか

 

達也『基本的なデータはな。ここからは、お前の報酬と合わせてになるが、戦闘データ(※大嘘)を取る。付き合ってくれるか?』

 

レオの報酬、それは達也と手合わせをしたいというものだった

 

春の達也の立ち回りを観戦してから達也と戦ってみたいと思っていたが、中々そんな機会は巡ってこなかった

 

しかし、今回エリカに無理矢理連れてこられた九校戦のバイトのお陰で達也と戦えることになったレオ

 

データを取る一環でも構わない、達也の実力を知れるなら

 

レオ『!あぁ、いいぜ!達也もCADを用意してあるんだろ?』

 

早く、戦ってみたい

 

達也『いや、素手だが?』

 

CADを持ってきていると思われた達也から予想外の回答にレオは目が点になる

 

模擬戦でも途中は素手だったが、最終はCADを持っていたから使っている筈

理由が知りたかった

 

レオ『大丈夫か?』

 

本当に持って来なくても良いのか確認をするレオ

 

達也『イヤ、アブナイダロウナ。スコシ、ホンキをダサナイトマズイナ…』

 

特別サービスなのだろう

 

自分の無理を聞いてもらった礼として、実力の一端を見せると

 

何故、海外の人のようにカタコトで話したのかは謎だが

 

レオ『…サンキューな。じゃあ、行くぜ!』

 

達也の言わんとしていることを理解し、嬉しそうなレオ

 

心置きなく戦える

 

 

こうして、非公式の達也VSレオが始まった

 

 

 

 

達也『(流石というべきか。硬化魔法なら、其処らのプロよりも上だ。良い師匠に出逢えたなら、更に上に行くだろう。)』

 

このCADを渡して数時間で自分の手足とまではいかないまでも使いこなすレオに達也は感心する

 

これで、レオと相性の良い師匠に出会えたらレオは更に飛躍するだろう

 

と、のんびりとした思考でレオの攻撃を分析していると

 

レオを勢いづかせていたようだ

 

レオ『おらおら、どうした達也?意外と速くて動けねえか?』

 

今のレオの出力は八割といったところで

 

更に上げることは可能で、レオの目からは達也が避けるに精一杯のように見えていた

 

達也『どうだろうな?もしかしたら、単調過ぎて避けるのも簡単なのかもしれないな?』

 

一方の達也はそうでもないようだ

 

レオに出し惜しみするなと言外に告げる

 

 

レオ『!?…OK、出し惜しみしてるのが間違いってか?これなら、どうだ!』

 

達也の言葉で漸くスイッチが入ったレオ

 

ここからがいよいよ本番だ

 

達也『(…そこそこだが、実験に付き合ってくれた礼もある、真剣に応えよう。)』

 

縦横無尽に飛翔体が達也目掛けるも達也の表情は全く動かない

 

それどころかわざと髪を掠めたり、躓くようにして避けたりと第三者が見ればおちょくっているようにも見えないでもない

 

結局のところ、レオの本気の攻勢でさえ、遊んでいると言ったところである

 

対するレオは全力のためか達也の表情を窺う余裕は無いようだ

 

しかし、達也も少しは体を動かしておきたい

 

表情を引き締め、一瞬のうちにCADを指先で掴む達也

 

ガッ!

 

レオ『(なんだ?指先で掴まれてるだけなのに、ビクともしねぇ。)』

 

暗闇で表情はよくわからないが、達也の纏う空気が変わったのをレオは辛うじて感じる

 

その時、レオは直感する

 

達也が仕掛けてくるとー

 

達也『レオ。』

 

レオ『?なんだ、達也。』

 

不意に達也がレオに声を掛ける

 

達也が掴んでいるCADが全く動かないことと声音が少し低いことにレオは混乱する

 

達也『CADから手を離すなよ?』

 

手を離すなとはどういうことなのか、言われた通りにしっかりと握る

 

 

レオ『どういういっm…!?』

 

 

刹那

 

いつも感じている重力が無くなり、気持ちの悪い浮遊感を味わうレオ

 

次いで、暗闇のためハッキリとは判らないが星空が下に見え、建物が上に見える

 

所謂、天地が逆転した状態である

 

そしてー

 

 

ドゴォッ

 

凄まじい轟音と共にコンクリートである地面が蜘蛛の巣状に砕け、陥没する

 

レオ『カハッ、(…投げられたのか?えげつねぇぜ。)』

 

レオの予想通り

 

達也は刀身を支点としてレオを地面に叩きつけていた

 

人を媒介として、コンクリートを砕いた達也も達也だが、人対コンクリートでそれに耐えたレオもあり得ないほどに頑丈である

 

しかし、レオは自分の状況を理解し、予想出来たのは十数秒を要していた

 

達也『…立てるか、レオ?』

 

達也はレオが起き上がってこないことに少し心配になった

 

力の加減を間違えたかと

 

レオ『なんとかな。それにしても、とんでもない怪力だぜ。これが、達也の全力か。』

 

言葉とは裏腹に体に残るダメージは嘘をつかない

 

頑丈な部分である背中が悲鳴をあげている

 

鍛えている筈の自分がここまでダメージを受けたのは久し振りだ

 

達也『何を言っているんだ?全力は出してないぞ?そんなことをしたら、レオお前は死ぬからな。』

 

レオは達也の全力に改めて舌を巻く

 

しかし、達成は全力ではない

理由は二つ

一つは、上記の通りレオを殺める事になること

もう一つは、達成の体に負担が大きいことだ

 

まだ高校生で成長途中の達也

精神面もだが、肉体が悲鳴をあげる

もし、全力を出したとしたら、時間的には一時間が限度だろう

そのあとの事は予想がつかない

 

一時間もあるならと考えるかもしれないが、戦場での一時間は微々たるものだ

 

何日も続く戦闘なんていくらでもある

 

そのために修行で底上げをしているのだがーー

 

 

話が横道に逸れたが、達也が全力を出すのはまずありえないということだ

 

 

 

レオ『…嘘だろ?』

 

人間を介してコンクリートを砕くなんていう化け物じみたことをしているのが全力ではないらしい

 

模擬戦はともかく、今のが全力ではなかったのかと疑うレオ

 

 

達也『さぁ、サービスだ。白兵戦に移ろうか。』

 

唖然としているレオに達也は愉快な表情をしていた

 

 

 

レオ『ぐっ!』

 

レオ『かはっ!』

 

 

急所を外しているも一発一発が重い達也の打撃

 

攻撃を受ける度に鈍い音が響く

 

無論、自身を硬化魔法で強化しているにも関わらずである

 

二の腕、太腿、鳩尾とダメージを受け、息も絶え絶えなレオ

 

こんな経験は初めてだろう

魔法ではなく、肉弾戦で自分がここまで追い詰められたのはーー

 

達也『(…頃合いか。)レオ、最後の一発だ。耐えろよ?』

 

手加減しているとはいえ、攻撃に耐えたレオ

 

しかし、精神・肉体的にも限界だろうことは達也は判っていた

 

ならば、最後は決まっている

 

 

レオ『え?…!』

 

わざと大きなモーションで右の拳を振りかぶる達也

 

それがスローモーションのように見えるレオだが、避けれるわけではない

達也の右の拳が自分の左頬に吸い込まれる

 

ドゴンッ

 

あまり聴きたくない鈍い音とともにレオが遥か後方数十メートル程吹っ飛ぶ

 

 

レオが吹っ飛び、数分経っても起き上がる様子がないため達也は少し慌てる

 

レオの脈を測り、生きていることは確認する

 

達也『…気絶しているな。しまった、やりすぎたか?』

 

端から見れば、一方的ないじめというか一方的な暴力にに捉えられてもおかしくない状況

 

このまま放置しておくのはよろしくないため、レオを肩に担ぎホテルへ戻る達也

 

途中、生徒に見られなかったのは不幸中の幸いか

 

しかし、数名の人間に奇異な視線と心配な表情で話し掛けられたが

 

勿論、相部屋の幹比古に驚かれたのは言うまでもない

 

 


 

 

九校戦 五日目

 

新人戦女子ミラージ・バット

別名 フェアリー・ダンス

 

空中に投射されたホログラムを魔法で飛び上がってスティックで打ち、制限時間内に打ったホログラムの数を競う競技

4人一組で予選6試合を行い、各予選勝者の6人で決勝戦を行う

 

予選も順当に勝ち進み、達也の担当する選手三名とも決勝戦進出を果たす

 

これだけを見れば、誇るべきなのだが、達也の心中は他のところにあった

 

達也『(仕掛けてこなかったところをみると、タイミングとしてはこの試合だが…。もしくは、明日か。)皆さん、決勝戦なのでアレを解禁します。タイミングは各自でお任せします。想子(サイオン)切れには注意して下さい。』

 

達也の言うアレとは何なのか?

解っているのは、選手であるほのか、深雪、里美と摩利以外では鈴音くらいだろう

 

深雪『ようやくね、待ちくたびれたわ。』

 

少し、嬉しそうな深雪

 

達也との関係は険悪ながらも、仕事に関しては完璧と言わざるを得ないためそこは認めている

 

その達也から使用しても構わないという言葉に不快感を示さないのは、アレという物が達也が関係しているという事とアレが深雪と相性が良かったということだろう

 

里美『そうだね、想子(サイオン)切れだけは避けたいね。』

 

この口振りからすると、この里美達三人はアレというもののために何かしらの練習をしていたということだ

勿論、摩利も含まれている

 

想子(サイオン)切れするほどということは皆さんお分かりだろう

 

答えはCADである

 

ほのか『でも、何故今なんですか?』

 

薄々、答えは解っているものの達也の口から聞きたい

 

三人の目が達也に向けられる

 

達也『そうですね。アレを使わずとも優勝は余裕で出来るとは思いますが、使わないのは勿体ないと思いまして。』

 

もう少し、深い意味の言葉が出るかと思いきや普通な回答である

 

最後だから、全力を出しても問題無いといったところのようだ

 

 

深雪『意外と陳腐な考えね。』

 

予想外の回答に落胆する深雪

 

達也『そうかもしれませんね。結局のところ、本選では使う予定ですから。今、見せびらかしても問題ありません。他校へのリークが遅いか早いかだけのこと。…後は貴女方三人の内、誰が優勝するかだけですから。』

 

達也の脳内では、本選では使う予定で組み込まれている

 

本来、そこまで勿体ぶるものならば隠しておくものだ

一度、出してしまえば無かったことには出来ない、だから隠すのだ

 

しかし、達也にとっては隠す必要も無いらしい

 

そういった思考も達也にとってはどうでもよい

勝つのは一高の誰か、その想定で十分なのだ

 

 

『『『!?』』』

 

達也のその言葉に各々が何かを感じ取る

 

前向きな思考なのか、煽られていると捉えるのか、それの感情は十人十色

 

良い悪いという次元の話ではない

 

 

深雪『ふーん、私が負けるとでも?』

 

こちらは、挑発と受け取ったようだがーー

 

達也『…然程、脅威にも感じていなかった北山さんにあわや…』

 

深雪『!?その口を閉じなさい!続きを言おうものなら氷漬けにして差し上げるわ!』

 

ふと、何かを閃いたのか

達也は深雪を更に挑発する言葉を発する

 

しかし、言い終える前に部屋がすべてを凍らせるような冷気が深雪から放たれる

 

深雪も昨日の出来事から気持ちの切り替えが出来ていないためか、表情も歪んでいる

口調は激しいものの、汚い言葉遣いをしないのは教育の賜物なのか流石である

 

ほのか『深雪!』

 

このままでは達也が危ないと思ったのか、ほのかは深雪を止める

 

深雪『ふん!』

 

しかし、深雪は注意されたのが気に食わなかったのか部屋を出ていく

 

里美『おやおや、守夢君は空気を読まないねぇ。そんなだと嫌われるよ?』

 

扉が閉まり、気まずい沈黙が支配するも里美は気にしない

 

達也を批難し、深雪と同じように部屋を出ていくのだった

 

ほのか『…達也さん。どうしてあんな言葉を?』

 

しん、と一気に静まり返る部屋

 

ほのかはその沈黙に耐えられず達也に問い掛ける

 

達也『おかしいかな?まぁ、彼女はあれくらいで丁度いい。氷の女王と評される位が良い結果は出る。あとはほのか、この決勝で優勝出来るかは君自身の努力次第だ。』

 

何も言わないという手段はあったが、少し興味があった

 

ほのかに与えたきっかけがどのような魔法に仕上がったのかを

 

それには深雪が全力でなければならない

 

ほのか『そ、それは…。』

 

達也『俺の凄さを見せつけるには司波さんに勝つことだと言ったんだ。あれは、嘘だったのか?』

 

ほのか『ち、違います!』

 

嘘な訳ではない

 

本心からの言葉だ

雫のためにも必ず勝たなくてはならない

 

達也『御膳立てはした、勝ってこい。』

 

ほのか『はい、勝って来ます!』

 

ほのかを突き放すような厳しい口調の達也

 

弱気のほのかに発破をかけたともとれるが、真意は解らない

 

しかし、ほのかにとって深雪に勝つことは絶対条件

 

達也から【勝ってこい】という言葉に決意を新たにするのだった

 

 


 

 

 

 

摩利『決勝で、一高(ウチ)が半分を占めるとはな。しかも、担当は守夢か。あいつの不敗神話はどこまで続くんだ?』

 

決勝の面子を確認していると、六人中三人が第一高校の選手という少しおかしな状況

 

いくら一高が魔法実技が優れているとはいえ、他高の選手が優れていないわけではない

 

走りが得意が人間がいれば、泳ぎな人間がいる

その要所要所で実力を発揮する人間が必ずいる

 

今回の一高はそれが二人いる訳だ

 

一人が光井 ほのか

彼女の得意魔法は光派振動系魔法、光という分野においては比類なき実力を発揮する

 

もう一人は里美 スバル

彼女は相手に自分を視認させない認識阻害のBS魔法師だ

相手の目を掻い潜るならお手の物だろう

 

 

もう一人は?と疑問に思うかもしれないが、深雪はこれといった特長はない

 

否、無いというのは語弊がある

彼女の場合は魔法力だろう、それもとびきりの

 

体力、知能、魔法力、想子(サイオン)全てにおいて他者と比較にならないものを持っている

 

何故、これほどの才能を持って生まれたのかは後に知る事になる

 

鈴音『訂正です。クラウド・ボールは優勝出来ていませんよ。』

 

摩利『あれは、相手が師補の嫡子だったんだ。他者を圧倒する才能という面では勝てないさ。』

 

鈴音の訂正に摩利は達也を擁護する

 

そもそも、一般人が師補の一員に勝てる訳もない

 

真由美『そういう意味では、摩利もずば抜けた才能の持ち主よね。』

 

真由美や十文字と肩を並べる実力を備える摩利

言葉にすれば容易いが、中身は恐ろしいものだ

 

摩利『私の事はいいだろう?それよりも誰が勝つと思う?私は司波だ。』

 

自分が話題の中心が嫌だったのか、話題変更する摩利

 

鈴音『そうですね、期待も籠めて光井さんでしょうか?』

 

真由美『あれ?この流れだと、里美さんを応援するべきかしら?』

 

摩利はこういった状況では感情を持ち出さない

ハッキリ言って、実力で判断する

 

実技試験や練習と普段がその人物の実力だと思っている

 

だから、魔法力の無い達也でも風紀委員での活動ではずば抜けているためそこが摩利の中では評価の対象になっているのだ

 

鈴音『そういうことでは無いかと。誰が勝つのかという予想ですので、実力的にそれなりに拮抗している司波さんか光井さんかどちらというだけですから。』

 

摩利『相変わらず、冷静というか冷酷というか。』

 

摩利と鈴音が別々の選手を選んだため、困惑する真由美

 

しかし、鈴音の言う通り里美には悪いが、実力的に言って深雪かほのかが優勝する

 

素直に実力で選択すれば良いのだから鈴音の言葉は間違いではない

 

 

中条『み、皆さん。始まりますよ!』

 

議論が白熱するのは良いが、もうすぐ試合が始まる

 

こういった状況では、後輩である中条は止めるか静観するかジレンマに陥るため少し可哀想ではあった

 

 

 

ーーーー

 

 

達也『(三人とも流石だな。自分の得意分野で得点を重ねている。…しかし、里美さんはワンテンポ遅れる。)やはり、優勝は二人のどちらかか。』

 

他校の選手よりも三人は能力として、数段上にいるのは違いなかった

 

しかし、その中でも深雪はトップでその一段下にほのか更に数段下に里美と三人の中でも序列はあった

 

 

 

 

深雪『(凄いわ、ほのか。微弱な光の兆候を読み取り、誰よりも真っ先に飛び上がる。私は、研ぎ澄まされた感覚のお陰で光が現れた瞬間を逃さずに得点出来るけど。このままでは、ジリ貧。…カードは先に切らせて貰うわ!)守夢さん、使うから。』

 

 

第1ピリオドを終え、この競技では、ほのかの得意魔法が有利に働いていることに改めて感じる深雪

 

深雪自身、魔法力はあっても、この競技との相性はごく普通なのだ

 

現に、ほのかに得点でリードされている

 

のんびりと構えていたら、負けるのは確実だった

 

 

達也『…ご健闘を。』

 

深雪が本気になったと理解した達也

 

ここからは、ほのかと深雪の策のタイミングが優勝を左右すると判っていたのは達也だけだった

 

 

 

 

真由美『?ねぇ、摩利。深雪さんのミラージ・バットのCADってあんな形状してたっけ?』

 

第2ピリオドが始まり、各選手がホログラムの光めがけて飛び上がる

 

しかし、深雪だけは地面にいる

その様子を訝しんだ真由美だけが気付けた

 

深雪が手に持っているCADの形状が違うことに

 

 

摩利『あ~、すまない真由美。あれは…』

 

何故か、ごにょごにょと口ごもる摩利

 

あまり答えたくないのかそれとも後ろめたいのか

 

話が進まないのを直感したのか鈴音が引き継ぐ

 

鈴音『守夢君が用意した秘策です。答えを言いますと飛行魔法専用のCADです。』

 

何を勿体振る必要があるのか

 

達也が用意しているため達也の許可なしに発言を控えた摩利だが、深雪が使おうとしているのだ

つまるところ、達也がOK発言しているに近い

 

全員『飛行魔法!?』

 

現在、真由美達は天幕にいる

そのため彼女達の会話はこの場にいる一高の生徒全員に筒抜けなのだ

 

鈴音の口から出た飛行魔法という単語に驚きを隠せない

 

何せ、超が付くほどの最新の技術だ

 

 

 

 

 

ほのか『…(使うんだね深雪、私は想子(サイオン)の保有量を考えて、ラストの試合だけ。けど、私も出し惜しみしている余裕は無いかも。)』

 

第2ピリオドが開始されて数秒、深雪の姿がまだ下にあるのを目視で確認する

合わせて、彼女の手に握られているCADが達也から手渡された飛行魔法用のCADだということに

 

ほのかは通常よりも多い想子(サイオン)を保有しているが、深雪には及ばない

 

それでも、3ピリオド分を飛行出来るほどの想子(サイオン)は有している

 

しかし、それは何の障害や別の魔法を行使しなかったらの場合であり、一試合のみの場合だ

 

このミラージ・バットはそんな生易しい競技ではない

 

達也が効率よく調整したところで限界はある

 

 

 

 

吉祥寺『なっ!あれは、飛行魔法なのか!そんな、先月発表されたばかりなのに。』

 

深雪が着地もせずに飛行している姿に使用している魔法が飛行魔法だということに見当をつける

 

当たり前の如く最新技術を駆使してくるとは思いもよらなかった

 

将輝『つまり、あれを使いこなせるのか、司波さんは?』

 

深雪が飛ぶ姿に見惚れる将輝

 

 

吉祥寺『そうじゃないと、エンジニアだって許可を出さないさ。守夢 達也め、何が凡人さ。高校生の皮を被ったプロだ。』

 

重要なのは、選手だ

選手が出来なければ、エンジニアも選手の得意分野を探してそれに合わせた調整を施す

 

それが、最新技術であっても

 

 

愛梨『(なんて代物を用意していたの?司波 深雪専用?けど、三人共担当は守夢 達也。一人だけにそんな特別を用意する筈がない。となると、三人いえ、四人ね。本選の渡辺選手も彼が担当だったわね。)何が魔法力が無いよ、無い以上のものを持ってるじゃない。』

 

愛梨は本選のミラージ・バットの選手のため、新人戦には出場していない

 

しかし、一方的に深雪をライバル視している

 

だから、この同じミラージ・バットという競技に出場する深雪が気になっていた

 

もっとも、アイス・ピラーズ・ブレイクでの深雪を目の当たりにし、恐ろしく感じたのは愛梨だけの秘密だ

 

 

 

 

 

 

ほのか『(だめ。いくら、光を感知出来るといっても飛び上がって、降りるだとタイムロスが大きい。光を把握していても、飛行魔法を使う深雪に残りを取られてしまう。…やるしかない。)』

 

第2ピリオドも残すところ5分を切る

 

深雪が飛行魔法を使用してからほのかと深雪の得点差は第1ピリオドとは逆で深雪がリードしている

 

ほのかとミラージ・バットの相性のおかげで深雪を大きくリード出来ていたが、深雪が飛行魔法を使用してからはそのアドバンテージも無い

 

迷っている場合ではない

想子(サイオン)切れを気にして、出し惜しみしていると勝てるものも勝てない

 

ほのかは気を引き締め直した

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

きっかけをもらって数日も経たずに達也の許を訪れたほのか

 

達也『ほのか、その相談の解決策は持ち合わせていない。』

 

ほのかの相談に達也は仁瓶もなく突っぱねる

 

ほのか『そうですよね。あはは、ごめんなさい。』

 

淡い期待を持って達也の許を訪れたもののここまでハッキリと言われるとは思っていなかった

 

けれども、自分の不甲斐なさというのも自覚はしている

 

 

達也『…何度も言うが、俺はほのかの魔法については知識としてしか知らない。ほのかが感じる感覚は解らない。こればかりは、自分の感覚頼りだ。それに、光のエレメントの末裔であるほのかは他の光を操る魔法師とは違う。光波振動系の魔法をどうしたいかを考えるんだ。』

 

しょんぼりといった表現が合っている位の落ち込みようのほのか

 

行き詰まっているのは理解出来た

 

思考が変われば何かは見つかるだろうと、冷たくも律儀にアドバイスをする達也

 

そして、このアドバイスがほのかに影響を与えた

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

ほのか『(あれから悩んで悩み抜いて、やっと自分のものにした。今から使って、ギリギリ持つか解らないけど、これ以上離される訳にはいかない!)』

 

CADを操作し、起動式を読み取り魔法式を構築する

 

すると、ほのかの瞳の色が紫から黒曜石の色に変わっていた

 

 

達也『少し遅かったが、ここで使わなければ手遅れになっていたかもな。』

 

ほのかが生み出した魔法が発動したのを眼で確認した達也

 

ここからの試合は少しの行動の躊躇いも許されない

 

 

 

深雪『?(あら、外した?消えかけのホログラムを捉えようとしていたのね。)』

 

ほのかが魔法を発動したのを知らないが、妙な感覚を憶える深雪

 

けど、それは一過性のものだと自身を納得させる

 

 

 

 

しかしそれは、主観での思考であり多角的、俯瞰的や第三者の視点という観点からでしか判らないことは多く存在する

 

 

真由美『ねえ、おかしくない?』

 

摩利『ああ。ホログラムの光を捉えようとしても全員が空振りをしている。』

 

真由美『違うわ。光井さんは得点出来ているわ。ということは、これは光井さんの仕業?』

 

 

天幕でモニター越しにその状況を観戦していた真由美達だからこそ違和感に気づけた

 

ほのか以外の選手がこの数分間得点出来ていない事に

 

体力勝負のこの競技だが、体力だけでは勝ち抜けない

試合の最中に他者を分析したり、ペース配分を考え、どうすれば勝てるのか等の思考・状況把握も必要になってくる

それには経験値や直感という副産物も勝利の鍵になってくるかもしれない

 

 

 

 

深雪『(…違う。消えかけじゃない。誰かにホログラムの光を操られている?)!?まさか…。』

 

少なくない時間という犠牲を払いつつもこの違和感に気づけた深雪は何かの副産物を持っているのだろう

 

 

ほのか『(流石、深雪。気づかれた、もう少し得点出来れば良かったんだけど。ここからは、焦らずに光を操っていくしかない。)あと、三十秒』

 

この数分間で深雪に逆転したかったほのか

しかし、それには達也から貰った秘策の飛行魔法が必要不可欠だった

ホログラムで空中に点在する光にも時間の制限はある

 

飛び上がり、降りるのこの工程で光が消えてしまう

 

それをカバーするためには、一早く光を把握し、纏めて得点出来る位置に飛び上がり空中で二つ、三つと得点するしかない

 

が、それでも時間という抗いようのない存在には勝てない

 

 

 

真由美『ねえ、鈴ちゃん。あれってどういう魔法なのかしら?』

 

鈴音『私も彼からは何も聞いていません。おそらくですが、昨日の北山さんと同様に光井さん自身が作られたのではないでしょうか?』

 

今回、達也は競技会場にいるため解説を頼めない

 

唯一、解っていそうな鈴音に尋ねた真由美だが、あっさりと覆される

 

しかし、前回と同様ならば、ほのか自身で作ったというのが推察できる

 

摩利『今年の1年女子は凄まじいな。しかし、結局のところ守夢が形にはしているんだ。それも訊けなかったのか?』

 

摩利の認識では雫にほのかと魔法を新たに作り出すという偉業を成した人間が今年は二人(正確には三人だが、能動空中機雷(アクティブ・エアー・マイン)は登録では雫の為、達也は除外)

 

もいるが、影の功労者は達也だ

 

真由美『そうよね、どういう魔法にするかは本人が決めれるけど、起動式まで作ろうとするのは難しいと思うわ。そうなると、彼が一枚噛んでる筈。』

 

鈴音『しかし、それを彼が素直に白状してくれるでしょうか?』

 

摩利の言葉に真由美の他にも肯定する一高スタッフ達

 

だが、鈴音の言葉に否定できる要素は無かった

 

 

 

クシュッ

 

達也『(第2ピリオドが終わったな。休憩と残すところは第3ピリオドのみ。もし、天幕にいたなら飛行魔法とほのかの魔法の解説を問い詰められるところだった。今回は、この競技に感謝か。)』

 

ーーという、噂をされている達也だが、問い詰められるという予想は当たっているのだった

 

 

 

第3ピリオド

 

ラスト十五分で優勝者が決まる

 

光のエレメントのほのかか圧倒的な魔法力と想子(サイオン)の保有量の深雪か

 

この二人のどちらかだ

 

 

 

ほのか『(やっぱり最初は取られた。試合開始時には魔法を使えないから光を消すことも出来ない。覚悟はしてたけど…。)』

 

開始直後、深雪は速攻をかけ空中を飛び回り得点を重ねる

予想していたとはいえ、少しショックなほのか

 

彼女もこのピリオドから飛行魔法を使用している

 

ほのかが使用している魔法の内容は一言で言うなら【光を支配する】魔法である。

 

支配すると言っても、発生源までを自身の支配下に置くものではない

 

光っているという人間の認識する光を明るくしたり、暗くしたり、存在させたり、無いことに出来るということだろうか

このミラージ・バットの場合だと、ホログラムの光を誤認させたり、見えなくさせるといったようにしている

 

効果範囲はほのか自身が認識出来る範囲、現在は半径5m程だ

しかし、この競技では十分賄える範囲だ

 

 

深雪『(なんとなく、理解出来たわ。ほのかの魔法は、光を誤認か、光を認識させなくする魔法。そしてそれは、ほのか自身がその光を認識していなければその魔法は使えない。)』

 

深雪の短時間で、ある程度まで分析する能力は中々のものである

 

正確には、効果の範囲内全ての光を操る魔法だ

 

では一体効果はどのようなものなのか

 

 

ほのか『(…やっぱり疲れるねこの魔法は。魔法力は問題無いけど想子(サイオン)は深雪みたいに多くはないから、どうしても最後まで持たせるためには自動(オート)ではなく、手動にして都度、光を認識して発動しないといけない。けどその分、認識不足でミスが起こりやすくなる。…自動(オート)ならこんなこと考えずに勝手に全てに発動してくれるから便利なんだけど、想子(サイオン)の消費が激しい。ジレンマだよぅ…。)』

 

開始して五分、ほのかに疲労の色が見え始めていた

 

ほのかはこの魔法を二つの役割を持たせて魔法を構築していた

 

一つが自動(オート)で半径5mの光を操ることが出来る

これは魔法力も然ることながら、想子(サイオン)の消費が著しく激しいため、違う魔法と併用は難しい

 

もう一つが手動という方法で、半径5m以内の認識した光を操ることが出来る

 

これに関しては、想子(サイオン)の消費も認識時に消費使われるだけのため効率は良い

だが、その場合、認識漏れの光が出てくることになり、それが相手の得点になるという半面もでてくる

 

 

深雪『(動きながらだと、ほのかにミスが起こりやすいことは解ったわ。ミスを誘発させるには、私が動き回って得点をすれば良い。ほのかが勝つためには自分も得点する必要がある。何処に光があるのかを確認しようと焦ってほのかが光を見落して認識を疎かになれば優勝は限りなく近付く。さあ、行くわよ。)』

 

深雪の想子(サイオン)量vsほのかの精神という剛vs柔の勝負が始まった

 

 

達也『やはり、無理があったか。まあ、一朝一夕で身に付くものなど無いことは判っていたことだ。(ほのか、雫。これで解った筈だ。いくら策を弄したところで、天性の才能に等しい人物に勝てないことに。)』

 

達也の言葉通り

終盤に向かって、ほのかのミスが連発

思うように点差が縮まらず、逆に差が開く

また他の選手にも得点を許してしまい、さらに優勝に遠退いた形となった

 

敗因を挙げるとするならば、自分の身の丈にあった魔法ではなかったということだろう

 

誰かに勝ちたいという純粋な思いは決して無意味ではない

しかし、そこに邪な思いや、何かに縋ろうとすればそこで破綻する

 

雫やほのかの思いはそれだとは言わないが、純粋とまでは言えない

 

達也の凄さを証明する、それは身勝手なものでしかない

なぜなら、達也本人がそれを望んでいないからだ

深雪に達也の凄さを認めさせる云々の前にほのかと雫が達也に認めてもらえなければならなかったのだ

 

もしー

 

もしも、司波 深雪に勝てる者がいるのだとすればそれは同等の才能もしくは、何かをとことんまで極めた達人だろう

 

 

試合終了のブザーが鳴り響く

 

優勝者は司波 深雪

 

途中、ほのかに逆転を許しこのままズルズルと得点出来ないかと思われたが、ほのかのミスから突破口を見出だした観察眼にはプロに優るとも劣らないものだろう

 

 

鈴音『やはり、優勝は司波さんでしたか。』

 

摩利『そうだな。もし、司波が本選に出場していたとしてもおそらくは、優勝していただろうな。』

 

真由美『異論は無いわね。私も同意見ね。守夢君がエンジニアだった状況だったらという前提条件もあるけど。』

 

摩利『そうか?苦戦するかもしれないが、あの魔法力と想子(サイオン)量があればそれなりの腕のエンジニアならいけると思うが。』

 

鈴音『私も摩利さんと同じです。』

 

真由美『二人の意見が正解だと思うけど、彼の助力無しには彼女の実力が発揮出来ないということも忘れてはいけないと思うの。北山さんや光井さんとの勝負、守夢君の手によって最適化されたCADがあったからこそ勝てた。…こういうのを鬼に金棒?っていうのかしら?』

 

 

 

 

達也『残念だったな。』

 

ほのか『…』

 

達也『負けて悔しいのか、思うように実力を発揮出来なかったのかは知らないが、結果は変わらない。全力でやりきったなら、そこが現在のほのかの実力だ。』

 

ほのか『…解っていました。深雪は私達より遥か高みにいることを。そして、達也さんも。…けど、それでも勝ちたかったんです!凡人にだってやれば出来ることを証明したかった。達也さんが努力してCADの調整技術を身に付けたように。私達と達也さんの三人でなら、深雪を越えられると…』

 

達也『まあ、解らないわけではないが。だが、それは他力本願というものだ。勝ちたかったら、自分の才能を磨くことだ。』

 

つまり、悪い言い方をすれば、達也はほのかや雫にとって深雪を負かすための駒だったというわけで

 

そんなことに付き合ってやるほどに達也も暇ではない

 

勝ちたければ、どうやって勝てるかを考える

何かに頼ることも一つだが、自分一人の力でどう乗り越えていくかということの方が重要だ

 

そうしなければ、見えてくることも見えてこない

 

 

 

ーーーーー

 

 

『明日は、新人戦モノリス・コード。必ず第三高校に勝ってもらわなければならない。そのためには…』

 

『解っている、明日から三日間は第一高校には晴れ舞台からはご退場願おう。』

 

どうやら、第一高校には明日以降の競技に出場させる訳にはいかないようである

 

優勝ではなく、出場が出来ないようにするまでとは危険な予感しかしない

 

願わくば、死者が出ないことを祈るばかりである

 

 

ーーーーー

 

所変わって、ここは守夢家が借りているホテルの一室

 

一族揃って絢爛豪華を嫌うためシンプルな部屋を借りているが、素材は超一級品を使用しているため

安物のイメージはなく、それが返って借りる人間を際立たせる

 

そんな雰囲気の部屋だが、今回はそんな雰囲気を気にしていられる余裕が達也にはなかった

 

凛『…』

 

結那『…』

 

加蓮『…』

 

感情的に怒ることよりも静かな怒りの方が時として効果的だが、これは違った意味で恐ろしい

 

双子を何度か怒らせた(達也自身自覚は無い)ことはある達也だが、そこまで怒り心頭ではなかったということもあり、恐怖は感じることもなかった

 

達也『…すまないと思っている。』

 

しかし、今回は下手な発言は命取りだと警鐘を鳴らす

 

加蓮『何が?』

 

達也『魔法を赤の他人に使ったことに。』

 

理由も無く怒る双子達ではないため、ここ最近の行動を振り返り、謝罪の言葉を述べる

 

結那『他には?』

 

達也『?』

 

思い当たった節は自分の秘密を他人に使ったことだ

 

家族としては更に達也に注目の的が集まることを懸念しているのでは?と考えていたがどうやら違うようだ

 

ほのかと雫にはその事を思考すると、靄がかかるように術を施しており、問題は無いためその懸念は必要ないのだが、もう一つ理由があるようだ

 

解らないといった表情をすると、怒気があがった気がする

 

加蓮『本当にそれだけのことで怒っていると思うの?』

 

結那『加蓮、本当にわかっていないようだからはっきり言う必要があるみたい。』

 

加蓮『そうかもね。』

 

一体自分が何を解っていないのか

 

家族と自分との間に齟齬が生じている

 

 

達也『他になに…加蓮『昨日と今日、二人の女を抱いてたわね?』…いや、あれは。』

 

問い掛けようと口を開いた瞬間、女を抱いたと加蓮に問い詰められる

 

抱いたとは誤解にも程がある

 

結那『問答無用です。達也さん、魔法もそうですが、女の嫉妬は恐ろしいですよ?』

 

結那も同様のようで誤解を解く事も出来ない

 

母親の凛も同様で終始真っ黒な笑顔だ

 

達也『恭也』

 

四面楚歌に近い状況に一縷の望みを義弟の恭也に託す

 

しかしー

 

恭也『兄上、反省してください。』

 

義弟にまで裏切られた達也

 

凛『達也?』

 

ここまで終始笑顔で何も言ってこなかった凛が声音も穏やかで達也を呼ぶ

 

達也『はい。』

 

しかし、達也の経験則上では嫌な予感しかしない

 

凛『今日は、貴方の部屋に二人を向かわせますから。』

 

笑顔で宣う凛

 

間違いを起こせと言わんばかりである

 

言葉も出ない達也

 

浩也『(誰彼構わず、人を惹き付けるとは。流石義息子(我が子))…バレないようにな。』

 

傍観に徹していた浩也は達也を可哀想に思いつつも、自分達もそんな時代があったなぁと現実逃避していた

 

 

 

 




如何でしたか?

ほのかの魔法は作りにくかったです
原作のパクリでないことを祈るばかりです

①レオにも達也の化け物具合を体験してもらいました
②ほのかの魔法って、攻撃性が無いから悩みました
③今回は、摩利が無事のため深雪さんは新人戦の出場のため、本戦を期待されていた方申し訳ありません

次回は、新人戦モノリス・コードです
どうなることやら

また、次回も見ていただければ嬉しいです

それでは


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

文才がある=相手に伝わる、理解出来ると思うと文才が欲しい

仕事にも向き不向きが改めて判り、何が得意なのか不得意なのかも少しずつ判ってきた

型に填まった仕事が好きかも
その中で創意工夫してじっくり考えながらやるのが面白い


達也『(やっぱり、面倒だ。出るなんて言わなければ今頃は。あぁ、空はこんなに青いのに…。)』

 

ここは森の中

 

と言っても、鬱蒼と繁っているわけではない

拓けた場所からは青空が覗き、日向ぼっこするには絶好の場所といえるが、そんなことを考えたくもないくらいに憂鬱な達也だった

 

 

遡ること約24時間前

 

 


 

 

 

 

 

達也『(今日は、新人戦の男子モノリス・コードか。漸くの休暇だ、こういうときはのんびりと昼寝に限る。)…平和だ。』

 

結局、達也の部屋で一晩過ごした結那と加蓮

 

間違いは起こしていないが、このような状況にならぬように今後気を付けようと思った達也だった

 

ここまで休む暇がなかった達也

いや、無かったというのには語弊がある

 

休もうとすれば、試合中は体を休ませることも出来た

 

しかし、不運なのか幸運なのか摩利の件等で津久葉夕歌や他者に絡まれ、自分の時間を確保出来なかったというのが正しい

 

そして、今日こそは誰にも邪魔されずに自分の時間を過ごす

 

 

ーーー筈だった

 

 

深雪『こんなところで寝こけているなんて。散々、私の手を煩わせて、どうなるかわかって?』

 

ありがたくもない来訪者 司波 深雪

 

達也『(厄日なのか?いや、違う。この九校戦自体が俺にとっては呪いそのものだ。)…司波さんのエンジニアとしての仕事は終わりましたが、何かおありでしょうか?』

 

内心、ブルーな気分な達也だが

九校戦に来るという選択肢を選んだのは自身だ

 

しかし、今日くらいは休ませて欲しいと思うのは我が儘だろうか

 

 

水波『生意気ですね。深雪さんが声をかけてくださっているというのに。』

 

と取り巻きという認識の桜井 水波

 

達也『…声をかけて欲しいなんて言った覚えはないのだが(ボソッ)』

 

めんどくさいの一言に尽きるこの状況

思わず本音が溢れる

 

深雪『水波さん、良いのよ。貴女が怒る価値も無い人間ですから。話が逸れたわね、七草会長がお呼びよ。火急の要件らしいわ。』

 

減らず口は相変わらずなのかそれとも何か達也を貶めたいのかわからない深雪

 

しかし、そんなことを言うために達也を探している筈もなく、真由美が達也を呼んでいるらしい

 

達也『嫌な予感しかしないので、お断りしたいです。』

 

真由美から呼ばれて良かった試しなど一度もない

素直に行きたくない

 

深雪『それは、会長に言っていただけるかしら?』

 

断りを入れるも深雪は只の遣い

 

真由美本人に言わなければ意味がない

 

達也『わかりました、後程伺います。会長はどちらに?(二人が居なくなったあと、何処かに逃げておこう。)』

 

残された手段は一つ

逃げるのみ

 

しかし、その思いは次の瞬間に消え去った

 

深雪『何を言っているのかしら?会長に連れて来てと言われているの。あなたが逃げないように。』

 

達也『…』

 

何故、バレた

 

ここ最近の達也の行動を分析すれば、めんどくさい事案を予感すれば、バックれている

 

それをさせないためには連行させるしかない

 

まるで受刑者のように達也は項垂れるしかなかった

 

 

ーーーー

 

 

深雪と水波によって天幕に連れてこられた達也

 

その中で待っていたのは、少し暗い雰囲気をの一高スタッフ達

 

真由美『ありがとう、深雪さん。守夢君、すぐ逃げるから助かったわ。』

 

達也が入って来たことで真由美の暗かった雰囲気が明るくなり、それに合わせて周囲の空気も和らいだのを感じる

 

だが、達也が逃げるとは心外だ

 

好きで逃げているわけではない

 

 

連れてきてくれた深雪にお礼を言う真由美

 

深雪『いえ、それでは私はこれで。』

 

そう言うと、そそくさと天幕から出ていく

余程、達也と居たくないらしい

 

 

 

 

真由美『さて、守夢君。』

 

いくらか声音が戻る真由美

 

達也『お断り致します。』

 

間髪入れずに、達也は断る

 

何度も言おう、嫌な予感しかしない

 

 

摩利『おいおい、まだ何も言っていないのだが?』

 

この達也の発言には摩利も苦笑しか出来ない

 

前科があるため強くはでれない

 

達也『今日くらいは非番を下さい。只でさえ、ここまで誰かの担当エンジニアとして働いているのですから。』

 

九校戦にも労働基準法をつくるべきだと思う達也

 

しかも、上級生が下級生を頼るとはどんな状況だと

 

真由美『そうしたいのは山々なんだけど。不味い状況というかなんというか。』

 

真由美も達也の功労と功績は理解しているため、今日くらいは休ませてやりたいという思いは少なからずある

 

だが、それを優先出来ないほどの事案が発生した

 

鈴音『新人戦男子モノリス・コードで事故がありました。我が第一高校vs第四高校の試合で、場所は廃ビルの中。試合開始直後に破城槌が当校の陣営の真上に発生し、三人共、下敷きになりました。森崎君以下三名は重症です。状況は以上です。何か感じたことは?』

 

事情が事情なだけに、早急な対応が必要だ

 

達也にも情報は共有しておくことに越したことはない

 

 

達也『いや、感じるも何も、そうですかとしか言いようがありません。』

 

強いて言うなれば、廃ビルの中にスタート地点を設定した運営側は慌てていることだろうな、と思った達也

 

そして、やはり仕掛けてきたか、とこれに関しては他言はしないが

 

 

真由美『ちょっと、真面目に考えてちょうだい!』

 

いつも以上に能天気な発言をする達也に真由美は怒る

 

こちらの気も知らないで、といったところか

 

 

達也『(ハァ~)…人払いを。もしくは、会長と市原先輩は奥に。』

 

また、めんどくさいことに巻き込まれたと思いつつ、とりあえずは真由美を落ち着かせることにする

 

合わせて、少し此方の情報も与えておくために天幕奥の小部屋へ促す

 

 

 

 

 

真由美『この個室で何を?…まさか、私が鬱陶しいから始末するために…。』

 

達也『何の話ですか。会長、遮音障壁の魔法を。これからの話は他言無用に願います。』

 

真由美の訳のわからない狂言を無視し、音が漏れでないように依頼する

 

あまり、この事は話したくないがそうも言ってられない

 

これ以上巻き込まれないようにするには此方の事情を説明し、理解を得ることだ

 

鈴音『では、何故私も呼ばれたのでしょうか?』

 

他言無用な重要な秘密を真由美以外の者に話して良いものなのか?

 

率直な疑問を呈する鈴音

 

達也『会長だけでは秘密を守れないと思ったため、市原先輩にフォローをお願いするためです。』

 

真由美の口は軽いという認識の達也

 

以前、表の自分の身分も摩利や十文字、延いては九校戦スタッフ全員にバラしたその前科がある

 

信用出来ないため、鈴音というストッパーは少なからず必要なのだ

 

それを聞いた鈴音は少し落胆の表情を浮かべる

 

真由美『そんなに私の口が軽いっていうの?』

 

横で聴いていた真由美はそれに憤慨するが達也はそれを無視して話を続ける

 

達也『それはさておき。まず、本戦バトル・ボードの七高の暴走と渡辺委員長の水面の陥没。あれは事故ではありません。』

 

あの後、秘密裏に運営からバトル・ボードのコースの詳細を伺い、シュミレーションで得た内容も伝える

 

真由美『え?どういうこと?』

 

理解が追いついていない真由美

 

鈴音の方は無言で考え込んでいるため理解出来たのかは窺いしれない

 

達也『九校戦前日の夜、不法に侵入した賊がいました。こちらで軍に引き渡しましたが、目的は不明です。(そう、目的は。だが、狙いは第一高校だろう。)』

 

つまり、九校戦に何らかの組織が妨害工作を行っているということ

 

 

真由美『そんな大事をなんで黙っていたの!?』

 

そんな情報、七草家でも掴んでいない

あり得ないといった表情の真由美

 

しかも、内容が下手をすれば死傷者が出る

それを達也は飄々と何でもないように伝えるため、真由美は怒る

 

 

達也『軍の人から秘密と言われれば、話す訳にはいきません。記憶を消されなかっただけありがく思わなければ。それに、このような状況を話して選手やエンジニアのコンディションが悪くなれば益々悪循環です。』

 

怒る真由美だが達也は気にする風もない

こちらには正当な理由がある

 

軍という言葉を出せば、いくら十師族といえど引き下がるしかない

 

いや、軍と十師族は相容れない関係なのだ

所謂、水と油だろう

 

もっと言えば、このような事情を聞いておいてスタッフ全員が冷静に平静に試合をしろなど無茶な話だ

 

 

 

鈴音『確かに、守夢君の言う通りです。』

 

達也のその判断のおかげで試合は順調に進み、期待以上の成果を挙げた

 

それは感謝するしかない

 

真由美『でも、それを一人で抱え込んでいたの?』

 

しかし、一歩間違えれば、達也のエンジニアとしての調整も不調になったはず

それを16歳の高校一年生に背負わせていたなんて、気付けなかった自分を責める真由美

 

達也『大したことではありません。バスの件も同じで、何処かの犯罪組織が関与しているらしいです。今回もその線が濃厚です。』

 

真由美の心配も達也にとっては大したものでもない

 

表現するなら、部屋の掃除で予想外な所に汚れが見つかったというところだ

 

真由美『あまり無理しないでね?』

 

まだ達也の事を理解しているわけではないが、謎多き存在の後輩

 

心開いてくれるのを待つしかないが、心配だけはさせて欲しい

 

達也『どちらかといえば、会長達からの無理難題に頭を抱えてるくらいですよ。それで?モノリス・コードは中止ですか?』

 

真由美達の心配も理解はしている

 

だが、そんな心配よりもこれ以上自分に関わらないで欲しい

その方が悩みの種は減るのだ

 

おそらくそれは、真由美達が卒業するまで無くならないだろうが

 

この話は終わりだと、話題を変える達也

 

真由美『いいえ、当校と第四高校を除いて試合は続いているわ。』

 

達也『なるほど、第四高校はともかく当校は棄権ですね。』

 

何より出場出来る選手がいるのか怪しいところだ

 

事故でないことは確かだが、それを運営が理解出来ているかはわからない

はたまた、運営側が共犯だった場合はお手上げだ

 

真由美『それについては十文字君が折衝中よ。』

 

十師族が運営側と折衝など、茶番にしか聞こえない

 

十文字の一方的な要望になるに違いない

 

達也『(折衝中も何も選手がいない筈だが。)そうですか。』

 

最近、ふと左手に着けている腕時計を視線を移すことが多くなった達也

 

きっかけはあの夢の後から

結局、現実に起きてしまい動揺を隠せなかった

 

浩也からも指摘を受けたように自分の力は発展途上の力のため、制御が難しい

 

その補助と制御のための代物が役目を果たせていない

 

これ以上、何もないことを祈る達也だった

 

 

 

 

 


 

 

 

 

俺は家族の為なら何だってする

 

例えそれが俺が死ぬことになっても

 

それが俺の役目だからだ

 

また、家族を守れない弊害があったなら、それを俺は排除するだろう

 

それは俺が大切にしている家族を侮辱した同じ行為だからだ

 

俺は家族のためだけに存在し、それを邪魔をするなら誰であろうとーー

 

 

 

 

 

 

達也『御用件があると伺いました。』

 

夜、ホテルの第一高校専用の一室に達也は呼び出された

 

ノックをし、入室の許可があり部屋に入る達也

 

そこには、呼び出した真由美以外に十文字や摩利、鈴音といった幹部全員と生徒会役員であるほのか達まで揃っていた

 

真由美を中心として摩利と十文字がわきを固め、机を挟んで真由美の前に立つ達也

 

真由美『まずは、お礼を。守夢君のおかげで多くの競技で優勝もしくは、上位入賞が出来ました。第一高校を代表して感謝します。』

 

達也『…。』

 

真由美からの感謝の言葉など不要だ

 

手短に用件だけ話せと目で訴える

 

真由美『当校は現在、次点の第三高校に大差は無いもののこのまま順当に行けば本戦を優勝、新人戦も準優勝は確実というところです。ここからは私事になりますが、高校最後の今年もあり出来れば、総合優勝を目指したいと思っています。そのためには、新人戦モノリス・コードで第三高校に大差をつけられるわけにはいきません。準優勝もしくは、三位入賞でなければなりません。』

 

要約するとこうである

本戦だけでなく新人戦も優勝して、総合優勝したいということ

 

達也『…。』

 

真由美の話に一切口を挟まない達也

 

本来であれば、それが当然だが今回は違う

 

黙している達也の雰囲気が恐ろしいのだ

 

これから言おうとしている言葉が何を意味するか解っているから

 

 

真由美『…こんなことを本当は言いたくないの。けど…。』

 

摩利『真由美』

 

言い淀む真由美を叱責する摩利

 

私情を持ち込むな、と

 

暫し沈黙した後、意を決したのか真由美は口を開く

 

真由美『…守夢君、新人戦モノリス・コードに出て貰えませんか?』

 

この言葉を聴いた時、やはりかと思った

 

もっとも、予感はしていた

午前中に真由美に呼び出された時から

 

そして、本日何度目かの左腕の時計を見る

 

達也『…伺うことがいくつかあります。』

 

頭ごなしに拒否することも一つだが、理論詰めで負かさなければ、今後もこのようなことは起こりうる

 

感情は感情を呼ぶ

 

真由美『なにかしら?』

 

達也『一つ目。第一高校は棄権になったのでは?』

 

十文字が折衝中といったあの流れでは、おそらく棄権は無くなったのは予想出来ている

 

それでも確認は必要だ

 

どのようにして出場出来たのか過程も知りたい

 

 

真由美『それは、午前中に話した通り十文字君が掛け合ってくれたわ。』

 

ちらっと十文字を見ると、目を閉じて腕を組んでいるが、その姿からでも行動は読み取れる

 

自分がこうと決めたら、曲げない

いや、押し通すが近いか

 

達也の予想通りだ

つまり、圧力をかけたわけである

 

達也『では、二つ目。他に一年生で選手がいるのでは?まだ候補がある中、魔法力の無い私を推す理由が解りません。』

 

魔法力の無い達也に魔法力がメインの競技に出場など理解が出来ない

 

しかし、問題はそこではないのだ

 

摩利『実践的と言ったら的確かな?魔法力があったところで応用が出来なければ負ける。そういう意味では、他の選手候補は、重傷の三人と比べても劣る。いや、ギリギリのレベルが今回の三人だったわけだ。理由はそういうことだ。』

 

真由美の代わりに摩利が答える

 

モノリス・コードが魔法実技ではなく、実践と考えているようだ

 

それを体現出来るのは、達也以外いないということらしい

 

達也『質問の意図を掴めていないようですが。まぁ、いいでしょう。では、最後に。私は選手ではありません。【エンジニア】です。【理解】出来ましたか?』

 

しかし、達也の謂わんとしているところはそこではない

 

達也が何故、選ばれる理由があるのかということだ

 

これ以上質問しても埒が明かないため、限りなく答えに近いヒントを提示する

 

それと同時に高校生が出せないような雰囲気を醸し出す達也

 

 

真由美『!?…それは。』

 

まるで裏の世界の住人かのような豹変をする達也にようやく、真由美達が思い出す

 

達也が九校戦にエンジニアとして参加してもらうにあって出した条件を

 

達也『なるほど、あの時の契約はその場凌ぎだったというわけですか。話になりませんね。私はこれで失礼します。』

 

達也がエンジニアとしてだけならと渋々承諾したあの時の契約はどうやら、都合良く歪曲されたようだ

 

今更、忘れていたという表情した真由美達

だがそれは、達也には通用しない

 

契約、約束事というのは守られてこそ価値が生まれる

 

例えそれが口約束であっても

 

 

本来ならば、理由も無しに拒否することも出来たことをあえて、ヒントまで出した達也

 

その心境の変化に達也自身は気付いていないだろう

 

 

 

 

十文字『待て、守夢!』

 

自分達に背を向け、部屋から出ようとした達也を十文字の障壁が阻む

 

真由美『十文字君!?』

 

普段、冷静沈着な十文字 克人

 

それが突然、怒号と共に障壁魔法で達也を外に出さないようにした十文字

 

真由美は驚きを隠せなかった

 

 

達也『…なんのつもりですか?このまま帰さないおつもりですか?まあ、こんなちんけな障壁で私を阻めるとは……随分と嘗められたものだ。』

 

驚きもせずに気だるげな表情で十文字を一瞥する達也

 

そして、右腕を胸の前まで上げると、羽虫を払うかの如く拳一つで障壁を破壊する

 

『『『なっ!?』』』

 

事象改変は自身のイメージが反映される

 

壊されるイメージがなければ、易々と魔法は崩れない

 

相手が魔法なら魔法同士ということで強い干渉力が克つ

 

しかし、破壊されることを見越していたのか動揺は無いが、表情は硬く、額から汗が伝う

 

が、十文字は自分の障壁魔法を意図も容易く破壊した達也に対して臆すること無く反論をする

 

十文字『甘えるな、守夢。お前は代表メンバーの一員だ。代表である七草が決めたということは幹部の俺達も同意見ということだ。七草が間違っているというなら、俺達が止める。だが、これは決定事項だ。チームの一員である以上義務を果たせ。』

 

達也が反論をしないことを良いように、さも自分達が正論のように捲し立てる十文字

 

しかしー

 

この行為が達也の怒りの琴線に触れる

 

 

ズンッ

 

 

不意にその部屋に居る全員がえも言われぬ圧力を感じる

 

達也『………甘えるなだと?義務を果たせだと?』

 

 

パキンッー

 

 

耳を澄まさなければ、聞こえないような何かが割れる音がした後、更に圧力が増す

 

そして、誰も気付いていないが、達也の瞳の色が蒼から白銀に変わる

 

 

 

『『『『『!?』』』』』

 

それとほぼ同時にホテル内で体を休めていた魔法科高校の生徒達含むとホテル内に居る全ての人間が得も言われぬ感覚に襲われる

 

 

 

 

真由美『も、守夢君?』

 

突然の達也の豹変

 

九校戦のエンジニアでの依頼の時に感じたものとも違う異質な気配

 

達也『甘えているのはどちらだ?十文字。最初に言っておいたはずだ。お遊びみたいな九校戦など興味はないと。今回特別にエンジニアとして協力してやるとな』

 

達也から放たれる何か

眩く、神々しささえも感じるが、そんな生易しい表現では到底表せない

 

そう、まるで天罰のような

 

死という恐怖より、存在そのものが消える感覚

何も抗うことの出来ない

 

圧倒的なナニか

 

達也『更には選手としてもだと?お前達の最もらしい言い方で義務を押し付けるとはな。死ぬか?』

 

一高スタッフは達也の異様な圧力に呑まれて指一本動かすことが出来ない

 

そして、達也の放つ殺気と別の何かが控え室を満たす

真由美達は自分達の終わりを直感した

 

 

 

 

 

 

 

バンッ

 

双子『『達也(さん)!!!』』

 

突然、部屋の扉が開き、二人の少女が駆け込み達也に抱きつく

 

それにより、達也から放たれていたナニかが霧散する

極限まで張り詰めていた糸が切れたのか、部屋に居た大半の一高スタッフが次々と倒れていく

 

何人が気絶しているのかよりも意識を保っている人数を数えた方が早い

 

真由美と十文字、摩利そして、深雪は何とか気絶は免れているが、膝が笑っており今にも崩れおれそうな状態だ

 

結果だけみれば、耐えられたのは誰一人いない

 

 

達也『!?…結那、加蓮?どうしてここに?』

 

家族の気配と二人の暖かな体温により、我を失っていた達也が正気を取り戻す

 

そこで漸く、自分が感情に流されていたのだと我に返る

 

結那『なんだか、嫌な予感がして。』

 

ホテルの部屋で寛いでいたが虫の知らせが働いたか、慌てて達也の気配を探してここまで来たのだ

 

この二人の嫌な予感というのは良く当たる

 

神夢の血が濃いということではなく、霊的なものが強く、殊達也に対してだと百発百中だろう

 

加蓮『そのあとすぐに、達也の想子(サイオン)が溢れてきたから』

 

溢れてきた、ということは封印が壊れたということ

我を失っていたため、達也自身は気付かなかった

 

落ち着いて話そうとしている双子だが、その目には今にも決壊しそうなほどの涙を溜めている

 

達也『(封印が壊れたのか)ごめんな、二人とも。心配をかけた。お前達をそこまで追い詰めてしまったのは俺の責任だな。』

 

左手首を見やれば、ベルト部分とガラスにヒビが入っており、その割れた細かな破片が足元に落ちていた

 

達也には解っていた、結那と加蓮がここまで必死に達也を繋ぎ止めようとしているのかを

 

達也が他人を殺めることではない、秘匿魔法がバレるからでもない

そんなことはいくらでも隠蔽出来る

 

問題はそこから先だ

理由は達也の出自が関係する

 

個人的な感情で激情にも近いそれで他人を傷つけてしまったら、達也は即座に姿を消すだろう

 

護るためにではなく、利己的に力をふるった自分の罰として

護るために自分という存在意義があり、それが破綻したとあっては達也は己を苛むのは明白

 

そんなことを結那も加蓮も認めないし、家族ひいては一族が草の根掻き分けてでも探し出すだろう

 

しかし、そんなことが起こらない方が一番良いのだ

 

何より、この二人は達也が好きだ

理由がどうあれ、苛む表情の達也を見たくはない

 

逆も然り、特に結那と加蓮に関しては危害が加わりそうになればすぐに駆けつけていた達也

 

お互いが守り合うというある意味理想ではある

 

 

これ以上泣かれるのは達也自身も望まない

二人の頭を撫でながら現在進行形で垂れ流し状態の想子(サイオン)を抑え込む

 

真由美『…あ、あの。』

 

達也からの圧力も無くなり、緊張状態から解放された真由美達

 

言葉を選ぼうとするも上手く言葉にできない

 

達也『申し訳ありません。七草会長、先程の話ですが、回答を保留にさせていただけないでしょうか?一時間下さい。』

 

今はここから離れて冷静になる必要がある

 

断る云々はその後でもいい

 

真由美『え、えぇ。それくらいなら、大丈夫。』

 

達也『では、一度失礼致します。』

 

結那と加蓮を連れて部屋を出ていく達也

 

扉が閉まり、空気が弛緩する

 

三人の足音が遠退いていき、ようやく全身の緊張が無くなる

 

摩利『な、なんだったんだ?』

 

何から確認すればわからないが、何かを口にしなければ余計に混乱しそうなのだ

 

十文字『解らん。だが、事実として俺達は動くいや、何かをしようという思考すら拒否していた。抗いようのない力にただ平伏すような感覚だった。』

 

十文字は言葉を選びつつも、的確な言葉が出てこない

 

言葉を選ぶということは、自分の中で理解または納得しようとしていることだ

しかし、それは得体の知らないナニかを拒絶していることに他ならない

 

その時点で、達也を自分の理解できない領域の認めたくない人物もしくは、敵という

 

十文字 克人という人間の器の小ささを認めているのだ

 

しかし、十文字が達也よりも人間としての器が大きい小さいを言っているのではないということは追記しておく

 

真由美『彼は一体何者なの?』

 

摩利と十文字も混乱しており、真由美自身も同様だ

 

一年生ながら、なんとか耐えた深雪は黙したままだ

 

ブランシュの襲撃後に七草でもう一度調べた達也の情報は何も見つからなかった

しかし、達也には何か秘密があると思っていた

 

けれども、激昂した達也に恐怖してしまった自分に他人の秘密を暴くという真似は出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕歌『(ここ数日、守夢君に会えてないなぁ。隈なく探してるはずなのに。…!あら?)もr…、話し掛けちゃいけない雰囲気かも。それに、あの可愛らしい女の子二人は一体?それに、向こうは…。』

 

今日の夕歌は少しブルーな気分だった

理由は、達也と実のある会話が出来ないことにあった

 

だが、想い続ければ通じるものなのか、廊下で達也を見付ける

それも二人の美少女と一緒というおまけ付きで

 

そして三人は軍の関係者でなければ立ち入ることも許されない場所に姿を消えていく

 

どうして達也達がそこに入れるのか知りたいが、それを聞こうとも思わなかった

 

なぜなら、二人の少女を連れ立って歩いている達也の表情には怒り、悲しみ、悔やみ、といった負の感情が見てとれた

 

しかし、その感情の奥にはもっと違った言葉では言い表せないナニかがあった

 

 

数度会話した程度の関係で訊こうとも思わない

 

何か事情があるのだろうし、自分の身分を考えればこれ以上達也と深く関わるべきではないのだろう

 

でも出来るのなら、何故達也が苦しんでいるのか知りたい

 

そして、それを癒してあげたいと思った

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは、軍から宛がわれた達也専用の部屋

 

本来ならば、一高の部屋に戻るべきなのだが

ここの方が静かということもあり、落ち着かせるにはベストな部屋といえた

 

達也『…』

 

部屋に入り、ベッドに横たわってから十数分

 

ピクリとも動かない達也

 

結那『達也さん…』

 

加蓮『達也…』

 

達也『…すまない二人とも。情けない姿を見せたな。もう大丈夫だから。』

 

二人の心配そうな声

 

これ以上不安にさせてはならない

 

にこやかな表情をみせるも

 

はたして、自分は笑えているだろうか

 

加蓮『達也、無理してる。』

 

達也『かもな。』

 

あっさりと見破られ、苦笑混じりに返す達也

 

明らかに空元気だ

 

結那『…加蓮、時が来たのかも。』

 

時が来た、というのはどういう意味だろうか

 

加蓮『…出来れば、私達で立ち直らせたかったんだけど。仕方ないかな?まぁ、いつかは私の力だけでやってみせる。』

 

若干だが、二人の表情が悔しそうになっている

 

加蓮の言葉から何らかの方法で達也を立ち直らせることが出来るのは窺える

 

一体、どのようなものなのか

 

達也『どうしたんだ?加蓮、結那?』

 

自分の知らないところで二人は何かを隠している

 

それが何なのかは知らない

 

けれど、心臓の鼓動が早鐘を打つ

 

まるで、嫌な記憶を思い出した時のようなーー

 

 

 

加蓮『あやめから手紙を預かってるわ。』

 

達也の今にも吐きそうな表情を無視して、加蓮は淡々と告げる

 

達也『!?』

 

加蓮の口から出た人の名前に愕然とする

 

何故ならば、その人物はーー

 

結那『嘘だ、といった表情ですね。生きてはいませんよ?』

 

そう、この世にはいないのだ

 

達也『…な…ら、どう…して。』

 

ならばどうして、死人からの手紙があるのか

 

しかしその答えはすぐに分かった

 

加蓮『生前、預かっていたものよ。』

 

自分の死期を予感していたのか、こんな状況で手紙を貰うとは思わなかった達也

 

結那『もし、自分が死んで達也さんに何かあれば渡して欲しいって。』

 

達也『あやめが。』

 

あやめ

 

達也のもう一人の義妹(いもうと)

 

血筋は神夢の直系であった人物だ

 

とある事件で亡くなり、年は生きていれば、結那と加蓮と同い年だ

 

そして、達也の初恋の人でもある

 

 

結那『もっとも、あの時の達也さんに渡しても意味はなかったでしょうし。母がそのようにと。』

 

あやめが死んで達也の心に大きな穴を空けた

 

そして、無気力になりかけていた達也だが、何かを決意し強くなろうと修行や勉強等様々な事に打ち込んでいったため、この手紙を渡すタイミングではないと凛が判断したのだ

 

その時の達也は危機迫る表情で心に余裕はなかったが、今ほどではなかった

 

加蓮『あやめは自分がいなくなったとき、達也の心が壊れないようにと保険をかけたの手紙というものでね。まぁ、母さんの言う通り幼かった達也にこれを渡したところで効果は不十分だったでしょうし。』

 

しかし、その無理は何処かで限界を迎える

 

例えるなら、容量が決まっている箱に物を詰め込みすぎれば、箱が壊れてしまうようなものだろうか

 

今までの無理が漸く達也に訪れ、一新するには良いタイミングといえた

 

そして、今このタイミングは高校生という多感な時期であり、達也自身が己を見つめ直す最適な機会なのかもしれない

 

達也『…』

 

二人の話した理由はもっともであるし、あの時の自分はそんな余裕すらなかった

 

ならば、今このタイミングがその時なのだろう

 

ーーーが、

 

 

結那『けど今は、私達も物事をある程度考えられる年齢になりましたから。むしろ、今これを渡すべきだと思いました。…これです。』

 

結那は薄手の上着の内ポケットから葉書より一回り大きい位の手紙を取り出し、達也に差し出す

 

小さな花柄があしらわれた可愛らしいそれ

 

 

達也『…すまない、今の俺にそれを受け取る資格がない。』

 

達也から予期せぬ拒絶の言葉

 

受け取る資格がないとはどういうことか

 

加蓮『逃げるの?』

 

達也『逃げてなど。』

 

容赦のない加蓮の詰問

 

今の達也にとって、逃げるという言葉は聞きたくない言葉なのだ

 

聞きたくない(イコール)自分がそれを認めてしまっているに他ならない

 

加蓮『今の達也は臆病だわ。激情に流されて我を忘れ、それをバツが悪くて無理矢理何でもないかのように振る舞う。そして、振り返りたくない過去に目を背け前に進もうとしない。まるで、自分の非を認めたくなくて駄々を捏ねる子供よ。いえ、それ以下かもね。』

 

加蓮の言う通り、達也自身解っているのだ

 

だが、解っていても受け入れることなんて今の自分には出来ない

 

結那『加蓮!』

 

反論も出来ない達也

 

しかし、言い過ぎだと思ったのか結那が加蓮を窘める

 

加蓮『そうでしょ?結那だって同じじゃない?今の達也は私達が好きな達也じゃない。』

 

結那に止められても加蓮は治まらない

 

結那も思っていることは同じの筈なのだ

 

結那『…そうですね、今の達也さんは達也らしくありません。』

 

偽る理由もないと思ったのか、加蓮の意見に同意を示す結那

 

達也らしくないと、二人に言われては仕方がない

 

 

達也『そうだな、お前達の理想とする俺ではないな。むしろ…』

 

返す言葉もない達也

 

今の自分には愚か者という文字が似合う

 

更に、自虐的になりかけた瞬間

 

バチンッ

 

両頬に鋭い痛みが走る

 

達也『え?…結那?加蓮?』

 

何が起きたのか、数秒の間混乱する

 

目線を上げると、ヒラヒラと右手を振る加蓮

 

加蓮『少し、目が覚めた?』

 

どうやら、加蓮に右手で左の頬を叩かれたらしい

 

そして、もう一方の頬は結那の左手で叩かれたようだ

 

両頬がジンジンと痛みを訴えかけてくる

 

結那『あまり、したくはなかったですけどね。私達は達也が理想の人になって欲しいからこんなことを言っている訳ではありません。悩んだって構いませんし、立ち止まっても構いません。それでも這い上がるのが達也さんでしょう?何かを堪えて苦しむ達也さんは見たくありませんし、してほしくありません。それに、あやめの言葉が今の達也さんに必要だと思ったから渡したのです。私達三人の思い、感じていただけませんか?』

 

どんな見苦しい格好でも構わない、人間らしく足掻いて藻掻いてでも最後には立ち上がるのが達也であり、

 

そんな血反吐するような努力を何食わぬ顔で続けて、その大変さを見せないその姿こそが普段の達也だ

 

でも、それで達也が苦しむならそんな枷は外した方が何倍もマシだ

 

そんな二人からの懸命な想いを受け止める達也

 

必死に自分を勇気付けてくれる二人、ならばその想いに応えたい

 

再び、結那から差し出された手紙を受け取り、封を切る

 

手紙の字を見ると、幼いながらも流麗な字でしかし、あやめが書く特徴的な字でもあった

 

そこにはーー

 

【達也兄さん

 

この手紙を読んでるということは私はもうこの世にはいないのですね。

けど、気に病まないで下さい。私はこの宿命を呪ってなどいません。

むしろ、幸運でした。この短い7年間でしたが、お父さん、お母さんの元に生まれて来れて幸せでした。

浩也叔父さん、凛さん、結那、加蓮、恭也君に一族の皆さんと過ごした日々は何物にもかえがたい大切時間でした。

そして、達也兄さんと出会えたこと

これも私にとって宿命だったのでしょうね。知っていましたよ?私達と兄さんは血が繋がっていないということを。兄さんはそれを負い目に感じて私達と一線引いてることも。いつ?と思われるかもしれませんが、私も憶えていません。ただ、それがいつかは無くなってくれればいいなとは思っていました。一族の皆さんも気付いていましたよ?

正直、言いますと私は達也兄さん、いいえ、達也さんが好きでした。一目惚れと達也兄さんの行動の一つ一つを見て、益々好きになりました。むしろ、愛しているのかも?話が横道に逸れましたね。

それでは、本題です。

達也兄さんにお願いがあります。

 

達也兄さん、もっと自分を褒めて下さい。自分を認めて下さい。気楽に生きて下さい。自分を愛して下さい。

 

そして、家族を守って下さい。

 

もし、生まれ変われたら、私と出会ってくれますか?

 

あやめより 】

 

僅か7年の生でこの世を去ったあやめ

 

どれほど、哀しい人生だっただろうか

 

それなのに、幸せな人生だったと

達也と出会えたことが何よりも幸せだったと

 

隠していたつもりの血筋もどうやらバレていたらしい

 

そして、その血筋に対して負い目を感じていたことも家族にまで筒抜けのようだ

 

一番の衝撃はあやめも達也の事が好きだったということだろう

 

もう二度と叶わないが、結局相思相愛だったということにむず痒さを感じる

 

達也『ばかだなぁ、あやめは。そんなの決まっているだろう?』

 

ポタポタと涙が溢れてくる

 

忘れかけていた心の暖かさが戻ってくる

 

この先、何が起ころうとも家族を守護者として生きていく

 

そうあやめに誓う達也

 

そして、どんなことがあっても来世でも必ずあやめにと出逢う自信はある

 

勿論、結那や加蓮といった神夢の家族達全員と一緒という条件は必要だが

 

 

落ち着いてきた所為か、もう一度手紙に視線を落とすと、二枚目に何か書かれている

 

若干嫌な予感がしつつも、一枚目と二枚目を入れ替える

 

 

 

 

【追伸:結婚相手は私か、結那、加蓮から選んでね?

特例として、重婚も許してあげます。】

 

お約束というべきか

 

ウチの女性陣は何故、達也と結婚をしたがるのか

 

やはり、あやめも神夢の血筋であった

 

 

達也『…まだ、結婚とか早くないか?』

 

そもそも、重婚はこの国では許されていない

 

しかし、達也の立場では特殊で、重婚に近いことは可能なのだが、それは後程説明する

 

尤も、達也がそれをするかは微妙だ

 

 

加蓮『早くもないわよ。達也は天然の超絶タラシだし、フラフラと何処かに行ったらと思ったら、勝手に墜してくるし。これは早急に手を打つべきだと思うわ。』

 

なんという風評被害だろうか

 

墜しているつもりは毛頭なく、それにタラシでもない

まだ天然ジゴロの方がマシかもしれない、否どちらも同じか

 

結那『そうですよ?一高の生徒のみならず、他校の生徒までタラシこんでいるんですから。それに、年上の女性まで。』

 

二人して達也をまるで素行が悪いように責めてくる

しかも、犯罪を予防するための措置みたいに聴こえてしまう

 

そして、夕歌と会っていたこと(達也の主観では、絡まれているのだが双子の観点では逢引らしい…)も知られている

達也のプライバシーは一体何処へやら

 

 

達也『おい、俺はそんなことはしているつもりはないぞ?』

 

一応、反論を試みるも

 

(歪曲された?)事実上では、あまり達也自身に勝ち目はないが

 

加蓮『そこが天然の超絶タラシって言われるの!…それで?』

 

どうも許してくれないらしい

 

後で、何かを要求されるのは明白である

 

 

もうこの話は終わりと、不意に問い掛けのような口振りで達也に話しかける

 

結那『決まったのでは?』

 

結那も同様に何かを問いかけてくる

 

その意味を正しく理解した達也

 

達也『…あぁ、三人のおかげでな。』

 

神夢 達也としてではない、守夢 達也でもない

 

一人の人間として今、必要なこと

 

 

 

ーーーーー

 

 

真由美『…本当に、引き受けてくれるの?』

 

きっちり、一時間後に再度部屋に訪れた達也

 

先程達也を止めた双子はおらず、一人で来ている

 

再度、怒らせたらと思うと少し恐い真由美

 

あの時は達也の義妹(いもうと)が止めてくれたから良かったものの、あの時の達也には激しい怒りと殺意があった

 

例えそれが、一時のものだったとしても

 

だから、達也の引き受けるという言葉に恐る恐る尋ねた

 

 

達也『えぇ。但し、残り二名の選手は私が選びますので。』

 

摩利『まぁ、仕方ないか。』

 

只では起きないのは分かりきっていたから達也の提示した条件を飲む

 

ここで拒否もしくは、渋ると他の選手のあてがない

 

達也『では、早速ですが。1-Eの西城レオンハルトと吉田幹比古の両名を指名します。』

 

条件を飲むことは判っていた達也は摩利の言葉が言い終えると同時に要件を伝える

 

真由美『えぇ!?』

 

達也の指名した二人の名前に流石の真由美も驚くしかない

 

一科生ではなく、二科生を指名した達也

 

そしてその二人は九校戦に来ているものの、二科生でも成績は良い方ではない筈だ

 

一体何を考えているのか解らない達也

 

 

 

達也『ここまでくれば、特例というゴリ押しでいけるのでは?この二人でなければ私も出ませんので。では、私も二人と打ち合わせがありますので、失礼します。』

 

理由も説明しない達也

 

その目線は十文字に向けられており、その目からは【今更、圧力を掛けれないとか言わないよな?】と雄弁に語っている

 

真由美『ちょっと、守夢君!』

 

言いたいことを言ってさっさと退出していく達也を真由美は止めるも、あっさりと無視される

 

いつもいつも、達也に主導権を握られっぱなしで真由美達の先輩としてのメンツは見る影も無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

レオ『…なぁ、達也。』

 

幹比古『レオ、言っても無駄だと思うけど。』

 

何かを言おうと口を開くも声にならず、当たり障りのない言葉を口にするレオ

 

幹比古の方はレオの言いたいことが解っているのか諦めの表情だ

 

達也『?なんだ?』

 

だが、達也の方はレオと幹比古が何を言いたいのか解っていない

 

もしかしたら、解っているがそれが二人との間に大きな認識の違いがあるからかもしれない

 

レオ『…マジ?』

 

やはり指摘をする勇気が無かったレオ

 

最初に部屋に呼び出された要件を聞くに留まった

 

達也『こんな嘘はつかない。ルールは知ってるな?』

 

達也の言では、出場前提で話が進んでいる

 

レオ『あぁ。言っとくが、そんな魔法力は無いぜ?』

 

モノリス・コードは魔法力が物を言う競技だ

 

自分でいうのもなんだが、二科生の中でも下から数えた方が早い成績だ

 

それは達也も知っている筈

 

達也『魔法力が高い=必ず勝つではないぞ。』

 

だが、達也はそうは思っていない

 

まあ、それを言えてしまうのは達也だからなのかもしれない

 

エリカ『レオ、目を逸らさない。本当に気になってることを言うのよ。』

 

焦れたのか、エリカが口を挟む

 

レオ『けどよぉ。』

 

エリカに躊躇うなと言われるもレオは渋る

 

余程のことーー

 

エリカ『あぁ、もう!達也君、いい加減にその二人を撫でるのをやめなさい!』

 

ーーらしい?

 

達也『?なんでだ?』

 

達也以外思っていたらしい

 

自分達が部屋に来てからもずっと達也が双子の義妹達を撫で続けるのかと、

 

ピタッと達也の二人を撫でる手が止まる

 

何かおかしなことなのか?達也はそう思った

 

加蓮『達也、手が止まってる。』

 

その中断も一瞬で終わる

加蓮に再度注文(おねだり)が入り、達也はなでなでを再開する

 

達也『あぁ、すまない。』

 

達也も義妹達の注文(おねだり)に優しく微笑む

 

結那『んふふ~』

 

双子は公衆の面前で達也を独占出来ているため、満足げな表情をしている

 

ほのか・雫『(羨ましい。)』

 

しかし、ほのか達にとってはとても悔しい場面ではある

 

美月『み、皆さん、落ち着きましょう。ほ、ほら。明日の準備もありますしね?守夢さんも。』

 

達也の周辺は甘ったるい空気なのに、エリカ達の周辺は殺気が渦巻いている

 

美月は居ても立ってもいられず、声を上げる

 

達也『そのつもりなんだが、なんでそんなに怒ってるんだ?…まあ、とりあえずだ。レオは守備で幹比古には遊撃つまりは攻撃と守備の両方だな。』

 

どの口がそういうのかと言いたいが、漸くミーティングらしくなったのに止めたくはない

 

レオ『そう言いつつも、撫でる手は止めないのな。』

 

撫でながらは空気が締まらないため止めてほしい

 

達也『そんなに気になるか。分かった、結那、加蓮。少し待っててくれ。…よし、続きだ。レオにはこの前渡した小通連のCADを使う。魔法を媒介とした攻撃は禁止されてないからな。そして、モノリスは半径10m以内からの無系統魔法で開く。そして、それを妨害することは反則ではない。』

 

何度も言われるなら仕方ない

 

双子達を宥め、本題の続きに入る

 

基本、モノリス・コードというものは魔法での直接攻撃が許される

 

つまり、素手や魔法無しの攻撃は原則禁止なのだ

 

例外として、魔法を使っての間接的な攻撃は可能ということだ

 

レオ『大丈夫だ、10m以内に入れなければいいか、モノリスを開ける無系統魔法を使われてもコードを読み取らせなければいいわけだろ?例えば、開いた瞬間にすぐに閉じるとかな。』

 

達也『その通りだ。あとは、幹比古。お前の役目は重要だ。あの晩、言ったことを覚えているか?』

 

レオもルールを飲み込めているため、作戦の立案がしやすい

 

幹比古『あぁ、けどまだ理解が出来ていないよ。』

 

幹比古に言った言葉

 

現代魔法と古式魔法の違いを考えることだと

 

数日間考えていたが、よく解っていない

 

達也『焦らなくていい。考えることが大事なんだ。進化・発展には変化が必要だ。俺の見立てでは、幹比古お前自身に問題は無い。考えられる原因は術式にあるとみている。』

 

考えを止めるということは現状維持ではない、退化を意味する

 

どんな些細な事でも良い

 

考えて進むことだ

 

と偉そうなことを言う達也だが、家族以外と関り合いを持ちたくないと変化を好まない人種であったり…

 

それはさておき、幹比古の不調の原因は自身にあるのではなく、家に問題があるという達也

 

幹比古『なっ!いくらなんでもそれは看過出来ないよ達也。この術式は吉田家が長い年月をかけて編み出したものだ。それは個人ではなく、家同士の問題になるよ。』

 

そんなことを言えば、幹比古も怒る訳で

 

その発言は一個人としてではなく、一族を巻き込んだ争いになるのは明白だ

 

達也『すまない、語弊のある言い方だったな。幹比古の力に対して術式が追い付いていないということだ。それと、この時代とその術式の時代が噛み合っていないということだ。』

 

失言だと認め、謝罪する達也

 

だが、問題としてはその辺りにあるため言い方を変える

 

幹比古『時代が噛み合っていない?』

 

その言葉があの晩、達也が幹比古に言ったことに繋がるのだ

 

達也『現代魔法は言ってみれば、速度だ。先に当てた方が勝つ。術式が見られないようにカモフラージュしていた時代はあったかもしれないが、今はそれが足枷になっている。しかし、古式魔法は隠密性と威力には分がある。要は使い方だ。』

 

達也自らも古式魔法を噛っているため、ある程度の特性は理解しているつもりだ

 

幹比古の家と八雲とでは古式魔法でも若干異なるため正しくは言えないが、大まかな部分はその通りのはずだ

 

幹比古『隠密性と威力か、そんなこと初めて言われたよ。でもどうやって、それを取り除くんだい?』

 

あっさりと、自分の悩みに一条の光を見出だしてくれた達也

 

出会って僅か数ヵ月しか知らないが、相手を貶めるような嘘は言わない達也

 

 

達也『幹比古の術式を見せて欲しいと言ったら、嫌か?』

 

幹比古『…嫌ではないというのは嘘だけど、背に腹は変えられない。お願いするよ。』

 

ここまでくれば一蓮托生だ

 

少し、信じてまかせてみたい

 

達也『ありがとう、幹比古。』

 

幹比古が自分の家の秘密を明かしてくれるのだ

 

その信用に全力をもって応えよう

 

 

さあ、ここから達也の本領発揮である

 

 

 


 

 

昨晩、何故あんなに張り切ったのか後悔しかない達也

 

 

レオ『達也、何を独り言言ってるんだ?』

 

幹比古『黄昏てもいたよね。』

 

達也の様子がおかしいことに訝しむレオと幹比古

 

心配はしてくれているのだろう

 

だが、少し引き気味なのはやめてほしい

 

達也『…気のせいだ。』

 

おそらく、独り言が聞こえていたらしい

 

それほどに憂鬱な思考をしていた自分を戒める

 

不意に家族の応援する声が聴こえた気がする

 

視線をモニターに移すも観客席には家族の姿はない

しかし、見ていることは判っている

精霊の目(エレメンタルサイト)を発動すると、VIP席で観戦していた浩也達

 

そこには響子や風間達もおり、応援にしては相当豪華な顔ぶれである

 

達也が見ているのが分かったのか加蓮と結那、響子が森の方へ手を振る

一瞬、訝しんだ周囲だが、達也が見ているのだと理解したため同じように手を振る

 

それを見た達也も心の中で手を振り返す

 

 

試合の合図が鳴る

 

さあ、試合開始である

 

 

達也『(どんなに願っても変えられない事もある。しかし、そこで諦める訳にはいかない。叶えてみせるさ。)さて、楽しむとするか。』

 

 

自分の夢のためにも

 




如何でしたか?

この物語では感情のある達也のため、心の葛藤とやらをメインに書きました

①達也から漏れ出たナニかの正体
②夕歌さんとの距離を縮めていきたいと思います
③第一ヒロインの登場でした

というわけで、またお読みいただければ嬉しいです!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編(真由美編)

モノリス・コードで書きたいことがありすぎて煮詰まったので、逃げの一手

小悪魔真由美様にご登場いただきます

…しかし、不味い
番外編のネタが尽きると逃げの一手がなくなる…どうしよ




可愛い女の子(女性)とはどんなだろうか?

 

考え方によって十人十色だろう

 

この考えは最低かもしれないが、容姿は必要だろう

 

まず一つは、愛嬌があることだろうか?

そして、素直や真面目で何事にも一生懸命も入るかもしれない

また、反応が擦れていないなどだろうか?

 

 

では、綺麗な女性(女の子)とはどんなだろうか?

 

またまた、最低な考えだが、容姿は欠かせない

 

こちらも、考え方によって十人十色だろう

一つは無邪気ではなく優しく笑ったり、偏った思考をせず他人の心情を読み取って言葉柔らかく伝えること

そして、身嗜みを重要な要素だ

清潔感も大事だろう、一言で清潔感と言っても様々だ

 

服装や髪型、匂いも大事だ

薄化粧で香水はせず、これが一番良いだろう(理想)

 

下手な香水をつけて、周りに匂いを撒き散らしても臭いだけだ

 

最早、香りの害と書いて【香害】だろう

※公害ではありません

 

 

それはさておき

 

 

では、【可愛らしくて綺麗で小悪魔な腹黒七草真由美】はどう思われるだろうか?

 

 

真由美『守夢君?何が大変失礼な事を考えてないかしら?』

 

物凄く怒っていると思われる真由美がいた

 

達也『失礼ですね。他人の思考を捏造しようとするなんて、私は的確な言葉を選んでいるだけですよ。』

 

そこまで腹が立つならそのような行動をしなければいいのにと思うものの、火に油を注ぐようなマネはしない(←いいえ、しています。)

 

真由美『認めたわね。』

 

ここで、真由美も追撃をしなければ墓穴を掘ることもないのに自滅に進む真由美

 

達也『何を認めたのでしょうか?』

 

達也は達也で、鉄壁の防御の構えだ

 

重箱の隅をつつかれようとも隙は見せない

 

真由美『それは、…うぅぅ。』

 

誘導尋問を真似てみたものの、それでは達也にダメージを与えることと同様に真由美自身も精神的ダメージを受けると解ったため

 

不発に終わる

 

達也『それよりも、何故こんなところに七草会長がいるのでしょうか?』

 

サディスト趣味は無いため、少し真由美を憐れむ達也

 

達也と真由美がいるこの場所、それは何処なのかということすら判らない場所なのだ

 

真由美『それは、その。』

 

攻守交代で真由美に質問する達也

 

今ここで、暴露は避けたい真由美

 

暫し、無言の攻防が続く

 

達也『…なるほど。私を街で見掛けたため、気になって後をつけてみたはいいものの、此処が何処だか判らず迷子になってしまったというわけですね。それで私に声を掛けた、マル。』

 

ここまで頑なに口を閉ざすのは一つだ

 

まあ、達也は街の中から真由美が後をつけていたことは気配で知っていたため、放置したということもある

 

まさかここまでついてくるとは思わなかったが

 

 

真由美『ま、迷子じゃないわよ!』

 

自覚を促し、迷子ですね、と確認するも決して認めない真由美

 

ムキになる当たり、半分認めているようなものだ

 

達也『そうですか。それでは、私は用事がありますので失礼します。』

 

認めないならそれで構わない達也

 

放置しても問題はないのだから

 

そう言うと達也は何食わぬ顔で更に奥に入っていく

 

真由美『ま、待って守夢君!』

 

達也『何か?』

 

こんなところで独りなど御免だ

 

慌てて達也を呼び止める真由美

 

 

真由美『あのね?その、えっと。…ついて行ってもいいかしら?』

 

達也から言外に認めなさいと無言の圧力にとうとう屈した真由美

 

達也『迷子と認めましたね?』

 

若干だが、愉快が混じった達也の表情

 

果たして、これは誰が悪いのか

 

真由美『…仕方ないじゃない。守夢君が一人でいるのが珍しいから気になって後をつけたら、隣町どころか森というか山というかそんなところに入り込むんだもの。』

 

森とも山とも言える場所ーー

 

なんという場所にいるのかこの二人は

 

厳密にいえば、達也のみ

 

何故達也がそんな場所に行こうとしたのか

 

それは、風間と八雲が関係する

二人は最近の達也の働きすぎと修行が上手くいっていないため、休ませようとした

 

しかし、休めと言ったところで素直に達也が従うはずもない

 

そのため、修行と称して一週間程の山籠りを命じたのだ

 

達也『なんですか、その意味の解らない動機は。』

 

真由美『…はい。ごめんなさい。』

 

達也のお叱りに素直に謝る真由美

 

達也『…仕方ありませんね。今日は日も暮れかけている、野宿するしかありません。七草会長、川のあるところまで少し歩きますので、頑張って着いてきて下さい。』

 

軽く嘆息した達也

 

しかし、今の時間帯は夕暮れだ

この時間からの下山は素人が居ては危険であるため、夜を越すことにした達也

 

そのためには、水は必要だ

 

真由美『えっ、の、野宿!?』

 

先程までの達也の口振りから下山すると踏んでいたが、まさかの野宿とは

 

うら若き乙女の真由美としてはやりたくないことトップ10に入るだろう

 

結果としては、野宿ということになったが

 

どうしてそのような理由に至ったかは真由美は知らない

 

達也の匙加減かもしれないが、本当の理由はーー

 

①真由美の体力が無いだろうということ:達也と真由美が来ている場所は山の麓だが、木々が鬱蒼とした場所にいる

ここまで来るのに真由美の体力は殆どを使いきっていたため下山するための体力が無い

 

②下山する前に日が暮れること:先の通り、真由美の下山スピードよりも日が暮れる時間の方が早い

街の夜と森や山の夜は違う、光は月明かりだけが頼りのため素人の真由美では足下が危ない

 

③山の中ということ:山は野生の動物園だ

夕暮れ時になると活発に動物達は動き出すため、真由美は餌食になるだろう

合わせて、真由美を守る義理もないため達也は放置をするだろう

しかし、ここで何もしなければヒトデナシのため最低限することは危険から遠ざけることだろう

 

他にも挙げればキリがないが、野宿という理由にはそれらの要因があったからだった

 

 

 

 

 

 

パチパチと火花が散る

 

炎が真由美の顔を照す

 

僅かだが、真夜中の気温から体温を奪われないようにしてくれる

 

何もないところから火を起こした達也

 

魔法も使わず、原始的な方法で

 

何処でそんな方法を学んできたのか不思議な真由美だが、そのお陰で凍死せずにすんでいるため深くは考えないようにする

 

 

 

真由美『…聞いてみたかったことがあるの。守夢君って、どうしてあんなに他人に興味が無いの?普通なら、他人の短所や気になるところがあれば触れずにはいられないのに。君はそれがないの、どうして?』

 

火の上で鍋にスープを作る達也

 

そのスープも山の恵みからだ

そのスープを飲みながら真由美は達也に問い掛ける

 

達也『どうもこうもありません。私の最優先すべきことは家族の為に何が出来るかだけです。』

 

真由美からの疑問に少し本音で答える

 

他人の事よりも家族の事が大事だという

 

真由美『じゃあ、守夢君自身の主体性は何?他人の為だけに生きるのはなんて、理想でしかないわ。君の望みは?』

 

それでは真由美は納得しなかった

 

ヒトには欲がある

大なり小なり持っているため、無いというのは仏か神か

 

達也が何に重きを置いているのか知りたいと思う真由美

 

達也『…家族だけを愛している。それだけでは成り立ちませんか?』

 

しかし、達也にはこれしかない

 

【無償の愛】と呼ぶにはやや重すぎるが、達也の原動力とするものはこれなのだ

 

真由美『…悲しい考えだと思うわ。』

 

達也自身が真に自己の為に望むものが無いのということは

 

流されていると同義だ

 

達也『そうですか。』

 

達也はそう呟いただけで真由美の言葉は届かなかった

 

 

 

 

 

暫し、二人の間に沈黙が支配する

 

真由美はこの沈黙に耐えきれず身動ぎする

 

達也『私は私自身を鏡だと思っています。』

 

そんな真由美を察してなのか、ポツリと溢す

 

真由美『?』

 

どう意味なのか、真由美は首を傾げる

 

達也『好きだと言われれば、それに応える。嫌いならば、それ相応の対応を。』

 

真由美『正に鏡ね。』

 

好意には好意を、悪意には悪意を

 

何も無ければただ、あるがままを写すのみ

 

鏡と表現出来るが、まるで水面のようである

 

達也『…しかし、私の家族は違う。無償の愛と言っても過言ではない。達也という存在を何の見返りもなく、生を受けたなら誰だろうと愛すべき存在なのだと教えてくれましたから。』

 

達也から聴かされた言葉には狂喜が含まれているような気がした

 

貰うのではなく、与えることの大切さを訴えているように感じた

 

真由美『当然じゃないの?』

 

けれども、それは理想論であり当たり前ではないか

 

達也にしては普通の事を言うのだと思ってしまった

 

達也『そうですか?では、貴女の父親である七草弘一は一人の人間として、尊重してくれましたか?そんな筈はない。何せ四葉を越えるために政略の道具としか見ていないのでは?』

 

真由美『…違わないかもしれないわね。』

 

真由美の言葉も理解できる

 

しかし、それを当然のごとく出来る家庭が人間がどれ程あるだろうか?

 

達也は真由美に其方はどうだ?と残酷にも問い掛ける

 

十師族の七草家の長女という肩書きは相当に重いものだ

文字通りに一族の繁栄のために利用されるだろう

 

だからこそ、達也は真由美に問うたのだ

 

苦しい中でこそ、互いを思いやり、大切に出来るのか?と

 

達也『すみません、言い過ぎましたね。私の家族は悪く言えば放任主義、よく言えばのびのびと見守ってくれます。やりたいことがあるならば、全力でやり続けろと応援してくれます。』

 

真由美の落ち込んだ様子に達也は言い過ぎたかと反省する

 

真由美の家の事情を持ち上げたところでこれではただの他人の弱味につけ込んだ苛めだ

 

別に真由美は悪くはないのだから

 

達也は脱線した話を戻す

 

真由美『それは、羨ましいわね。私は家柄もあってか二つ返事なんて珍しかったわ。』

 

一度、達也の家族と会ったことがあるが、仲睦まじい夫婦であったし、妹と弟達の仲の良さは誰もが羨むものだった

 

あれこそ、理想的な家族なのかもしれない

 

だからだろうか、達也の家族と自分の家族を比べると見劣りしてしまうのは

 

達也『でも、七草会長にもそういった存在がお有りではないのですか。』

 

そんな心情を見透かしたかのように達也は真由美を励ます

 

真由美『勿論よ。』

 

達也の励ましに、自分にも大切な家族や仲間がいると改めて気付かされる

 

真由美がふふっと笑い、先程まで強張っていた真由美の雰囲気が和らいだ気がした

 

達也『ある人に言われた言葉があります。【場所は何処でもいい、そこで何をすべきか何をしたいかと考えるのだ】と。』

 

何でもいい、どんな目標でも良い、何を為し得たいのかという目的をつくり、それに向かって進み続ける

 

そして、それを成し遂げたらそれが自分の自信になる

 

その自信が自身の土台(バックボーン)となり、次のステージでも支えとなってくれるのだ

 

真由美『深い言葉ね。』

 

達也にそのアドバイスをした人物は相当な人格者なのだろう

真由美の人生観では計れない奥深さのように感じられた

 

達也『シンプルだと思います。目的や目標が定まっていれば、そのために行うべき行動が現れますから。けれども私もそれを実行出来ていません。本当に私が何をしたいのかがわかっていませんから。』

 

目的や目標を持ったり、意識が変われば人間の行動は表に現れるのだという

 

自信も同じように人間の行動や言葉に現れる

 

それが今の達也には無いと本人は言う

 

 

真由美『そうなの?エンジニアとしてあれだけの腕前を持っているのに?』

 

達也の自信なさげな言葉に違和感を感じる

 

達也『あれは、自分が魔法力が無いために生きていくために身に付けただけのものです。』

 

しかし、達也にとっては必要に迫られて、会得したものだという

 

自分が魔法力で劣っているため、それに替わりそうなものを考えた結果だ

 

真由美『そうかもしれないけど…。』

 

そんな達也の考えに、何かをしなければいけないという強迫観念に突き動かされているようにしか聞こえない

 

だが、今までの達也の功績を鑑みても十分な自信になるのではないか

 

達也『会長にお伺いします。どう足掻いても手に入らないものがあるとします。生まれ変わっても手に入るか判らない。会長ならどう考えますか?』

 

益々、達也の考えが解らなくなった真由美

 

達也は真由美の困惑を無視し話を続ける

 

真由美『…それは、守夢君自身の魔法力の事を言っているの?』

 

絶対に手に入れることの出来ないモノ

 

達也の場合、思い当たる節があり真由美はもうしなさそうに伺う

 

だが、生まれ変わっても必ず魔法力を得ることは出来ないのではないか?

 

達也『それも一つありますね。しかし、本質はもっと別にあります。』

 

真由美の返答に否定はしない

 

その思いも解らない訳ではないが、魔法力はただの副産物という認識の達也

 

真由美『……わからないわ。…でも、今を生きているのは私自身。なら、今を認識しているのは私、七草真由美という自身。だから、ゆっくりでもいいから何かを得ようと続けていくことが大事だと思うわ。』

 

まるで、試されているような達也の視線

 

達也の体験談に真由美ならどうするのか?と問われているようだ

 

しかも、淡々と告げられているだけなのに途轍もない圧力を感じる

 

達也『それこそ理想論では?』

 

真由美の振り絞った考えにも容赦なく切り捨てる

 

真由美『っ!そうかもしれないけど。絶望して立ち止まるくらいなら私は歩みを止めないわ。』

 

達也に理想論と言われ、怯む真由美

 

しかし、言われ放題だけではない

 

理想論と言われるなら、その理想を突き進むまでだ

 

 

 

 

 

 

暫し、二人を静寂が支配する

 

ビュオッと二人の間を強い風が吹き抜け、焚き火の勢いが弱まる

 

達也『やはり甘いですね。さて、夜も更けてきました。会長はテントの中で休んでください。』

 

真由美の決して絶望しないと、突き進み続けるという回答にやはりといった表情の達也

 

目の前にいる真由美といい、十文字といい、十師族は人の世を理想や自分の思い通りになると考えている

 

所詮は十師族、いや魔法師引いては魔法の世界に住む人間全てが大なり小なりそう考えているのだろう

 

魔法を扱えるだけというのに

 

もはや、呆れるしかなかった

 

失笑してしまいそうになる衝動を抑える達也

 

随分と話してしまったものだ、明日は真由美を下山させなければならない

 

そのための体力は戻してもらわなければ、これ以上の面倒は見きれない

 

おそらくだが、七草家の捜索が行われているだろう、この山の中にも幾人かの気配はあるが、この場所を掴むことは不可能だろう

 

早く帰すことが望ましいだろう

 

下手に目をつけられるなど御免だ

 

 

真由美『守夢君は?』

 

自分にテントを宛がって、達也自身はどうするのか?

 

達也『元々、これはもしもの時の為です。基本的に私は森のものを使いますので心配は無用です。』

 

達也が真由美に休めといったテントはもしもの時用に持ってきているものだ

 

もしもと言っても、誰か困っている人がいたら助けてあげなさいという神夢の教えだ

それに、テントの中だと外の気配が感知しにくいため、使っていないという理由もあるが

 

 

 

 

 

真由美『どうして彼は…』

 

真由美が感じていること

 

それは、達也のその異常なまでの徹底した他者との関り合いを避けることだ

 

本当に何が達也をそこまで駆り立てるのか

 

自分や摩利が達也を風紀委員会に無理矢理入れさせたが、仕事はキッチリとこなしてくれる

 

ブランシュの騒動でもテログループを一網打尽にしてくれたし、本拠地の殲滅の容疑者の候補として挙がっているものの物的証拠もなく、状況証拠としても弱いのだ

 

もし、ブランシュの殲滅が彼の所為だとしたら、理由は?

他者との不干渉を貫く達也では動機が無い

 

そう考えている内に瞼が重くなってくる

 

温かなスープと何故か暖かなテントの中のおかげで心地よい睡魔が真由美を誘っていった

 

 

 

ーーーーー

 

チュンチュンと鳥の囀りが聴こえてくる

 

真由美『(…ん、あ、さ?)今、何時かしら?…まだ、6時過ぎじゃない。そういえば、守夢君は何処かしら?』

 

テントから顔を覗かせると、陽が射している

 

暖かな陽射しが真由美の体温を温めていく

 

また、焚き火は消えており、周辺に達也の姿はない

 

 

真由美『何処に行ったのよ守夢君は。お姉さんをこんな場所に一人置いてけぼりにして。』

 

いつの間にか、鹿やウサギ等の動物達が川に水を飲みに来ていた

 

動物達がいるとはいえ、人間は真由美一人のため恐いという感情が芽生えてくる

 

気丈に振る舞っているものの、やはり独りというのは寂しいものだ

 

 

 

恐怖を圧し殺そうと頑張っていた真由美を更なる恐怖が襲う

 

突然、水が飛び散る音がして、動物達が山の奥に逃げていく

 

真由美『ヒッ!』

 

突然の動物達の逃げていく様子と水の音に腰を抜かした真由美

 

少しだけ動物達のいた状況に慣れたのに、また独りになる

 

真由美『今度は何よぅ?』

 

達也も居らず、独りという事に半べそ状態の真由美

 

声も涙声であり、そんな真由美を摩利が見たら笑い転げているだろう

 

しかし、悪いことばかりではない

その分、天からの助けも必ずある

 

今回は、真由美が起きたら居なかった達也だ

 

達也『会長、どうされましたか?』

 

何故か、座り込んでいる真由美に訝しむ達也

 

てっきり、姿が見えないことに怒っているのかと思えばとても弱々しい雰囲気を纏っていた

 

真由美『!も、守夢君?貴方、今まで…ど、こn…。』

 

漸く、姿を消していた達也の声が聴こえたため安堵する真由美

 

そのお陰で通常運転に戻る真由美

 

そして、見知らぬ森の中に自分を独りにした文句を言ってやろうと達也の声がした方に顔を向ける

 

とーー

 

 

達也『何処にと言われましても、川で水浴びを…会長?』

 

全裸の達也が目の前にいた

 

いや、正確には半裸の達也である

川がそれなりの深さがあるのか、下半身は川の中にあり隠されているため見えない(見るものではありません。)

 

しかし、上半身だけを見ても鍛えぬかれた肉体(所々、キズがあるが気に出来る余裕は無い)とポタポタと髪から水か滴り落ちている

更に、横から朝日が射してその姿をより際立たせている

 

 

達也はというと、真由美の問いに答えるも反応がないのを不思議に思っていた

 

真由美『ひっ』

 

達也『?』

 

真由美が何かを口に出したが、聴こえなかったため首を傾げる

 

が、次の瞬間、達也は耳を塞ぐことになった

 

真由美『イ、イヤァァァァ~!』

 

突然の山中に響く真由美の悲鳴

 

当然だろう、いきなり赤の他人の裸(正確には上半身のみだが)を見せられては

 

同時に17、18歳の女子高校生だ

しかも、父親と服を一緒に洗われるなんてもっての他のだろう

 

しかし、何とも形容し難い状況だろう

何せ、現在、目の前にいる上半身裸の男が真由美が気になっている達也なのだ

 

全く、運が良いのか悪いのか

 

 

 

ーーー

 

 

結局、無事に下山出来たわけだが

 

下山中も真由美は達也の姿を思いだし、顔を真っ赤にしていたとか

 

更に言うなれば、脳裏に達也の上半身裸の姿が焼き付いており思い出しては赤面していた

 

それを摩利に見つかり、生徒会室で暴露されたらしく

 

そこでも摩利には爆笑され、ほのか、雫、鈴音には殺意の籠った視線で睨まれるのだが理解出来なかった真由美だった

 

 

そして、当の達也はと言うと片想い中のほのか、雫、鈴音からの怨みの視線に疑問符を浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とうとう書いてしまった…
ネタ探ししよう、うんそうしよう(泣)

どなたか、番外編の相手役とシチュエーションを提供してほしいです(泣)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

22話

ようやく書けました。
相変わらず戦闘場面は難しい
達也君に新たな?原作にあるのかな?魔法を作ってみました。



吉祥寺『出てきたね、将輝。』

 

新人戦男子モノリス・コード

代役を立てた人物は全校が警戒していたエンジニア

 

守夢 達也

 

将輝『あぁ、そうだな。まさか選手として出てくるとは思わなかったが。奴の言葉を信じるなら、魔法力は無いというがその真実確かめさせて貰おう。』

 

第一試合は森林ステージ

 

このステージでは、八高が有利と謂われている

 

見通しの悪い森林の中でどのような戦い方をするのか見極めさせてもらう

 

 

 

観客『速ぇ!』

 

観客『自己加速術式を使ってないのに、あんなに速く走れるのか!?』

 

早速、観客を沸かせる達也

自己加速術式を使わずにそれ以上の速さで走るのだから、驚きだろう

 

 

 

しかし、体験もしくは、一度見ていれば達也が手を抜いていると判っていた

 

摩利『模擬戦の時と少し遅いか。どうだ服部よ、対戦した時と客観的に見ると違いが判るか?』

 

模擬戦の時、摩利は外から見ていたため、明らかに判った

 

服部『そうですね。外から見ると少し見えます。相変わらず、気に食わない奴です。』

 

服部も少しだが、見えたようだ

 

真由美『でも、あれは全力じゃないはずよ?』

 

十文字『おそらくな。服部と司波の二人を相手取っているときと比べると遅いのは間違いない。何を考えているのかわからんな。』

 

模擬戦では、一高トップレベルを相手取りそれを軽くあしらった実力の達也がこのモノリス・コードではその成りを潜めている

 

不気味で仕方がない

 

摩利『それこそ、速攻で片を付けるべきではないのか?』

 

魔法力が無い分を他で補うのは当たり前の達也にすれば、摩利の考察はもっともだが

 

十文字『忘れたのか?あいつが二科生なのを。』

 

魔法力があれば可能だろうが、それが達也にはない

 

体術で倒そうにも直接の攻撃は禁止だ

 

しかし、摩利の目の付け所は悪くはない

 

実のところ、服部や深雪を行動不能にした力は超が付くほどの高性能のCADによるところが大きい

 

そんな憶測が飛び交うが、実際のところは検討違いな思考をしているのは達也以外知らない

 

 

という会話をしているうちに標的(ターゲット)である八高のモノリスを視界に捉える達也

 

数秒の間に更に肉迫する

距離にして約50m

 

八高の選手も草むらを掻き分ける音に気付いたのか、警戒を強める

 

20mを切った辺りから達也の姿が突然、露になる

 

約10m辺りか、突然達也がスピードを落とし停止する

 

息切れをした様子もなく、何故か俯いている達也

 

何かトラブルか?と不審に思う観客だが、そんなことをすれば、どうぞ攻撃してくださいと言っているようなものである

 

新人戦レベルとはいえ、第八高校の代表選手なのだ

それを見逃すわけもなく

 

拳銃型CADの引き金を引き、魔法を放つ

 

 

真由美『危ない!』

 

当たる、と全員確信するも

 

それを平然と座標から外れ魔法を避ける達也

 

正直、心臓に悪い

 

八高の選手もまさか避けられるとは思わなかったのか驚いている

 

だが、すぐに切り替え再度達也に照準を定め引き金を引く

 

ーー筈だった

 

突然、達也は左足を上げる

上げるといっても頭を越えるようには上げてはいない

膝を曲げて腰より少し上辺りだろうか

 

それ以上上げるのかと思いきや、地団駄を踏むように力強く地面を踏んだ瞬間

 

地響きと共に達也と八高の選手の前に厚み約30cmの約5m四方の巨大な壁が出来上がる

 

それはまるで、昔忍びが使っていた技と酷似しているもだった

 

【畳返し】

真偽は不明だが、畳を返して敵を足止め、縛る術らしい

または、攻撃を防ぐためのなのか

 

 

一瞬にして壁が出来上がり、一人を除いて会場全てが混乱する

 

その一人は出来上がった壁に右の拳を振りかぶると

 

ドゴッ!

 

最近のお約束な轟音と共に壁が粉々に砕け、辺り一面を土煙が覆う

 

これでは状況が把握出来ない

 

観客もこの土煙では何が起ころうとも何も見れない

 

方法は二つ

一つは魔法で土煙を吹き飛ばす、もう一つは晴れるのを待つである

 

一見、前者が有効に思えるかもしれないが、それをすると相手に位置がバレてしまう

 

そうなると、後者かと思われるかもしれないが、風向きによれば先に相手に見つけられてしまう可能性もある

 

何のために達也がこれをしたのか気になるところだ

 

 

真由美『全然、状況がわからないわね。』

 

摩利『これでは、守夢も迂闊に手を出せないぞ。』

 

その時ー

 

膠着状況が続くかと思いきや、突然近距離で二ヶ所同時での魔法が発動する

 

観戦者全員が相討ちかと、思考を掠めるもまだ土煙が覆っているため確認のしようがない

 

しかし、それはすぐに判ることになった

 

風が吹き、二人を覆っていた土煙が一気に晴れていく

 

それと同時に、試合終了のブザーが鳴る

 

余計に何がなんだか解らなくなった

 

一高のモノリスが開けられたのか?と勘繰る観客も少なくない

 

だが、実際は違う

 

土煙が晴れると、そこには片膝をつき、立ち上がろうとするも立ち上がれない八高の選手

 

そして、当の達也は目を閉じ、開いた八高のモノリスに背を預ける姿が映っていた

 

 

 

 

真由美『えっ、何がおきたの?魔法の発動が二ヶ所ほぼ同時で、その後よ。どうして、試合が終わったの?』

 

真由美の疑問は尤もだ

 

しかし、結果から見れば達也が八高のモノリスを開けたということに他ならない

 

なんという早業であり、底知れぬ実力を真由美達に感じさせた瞬間だった

 

摩利『いや、それはこっちも訊きたい。』

 

しかし、それは全員が知りたい疑問だ

 

鈴音『守夢君が勝っているという前提ならば、おそらく二つの魔法は守夢君でしょう。』

 

推測ではあるが、鈴音が状況を説明していく

 

 

八高の選手に無系統魔法の共鳴とモノリスを開けるための無系統魔法を同時に放つ

 

混乱した状況でなら、達也の魔法力でも30秒程度なら十分な効果を発揮するだろう

 

その間に、開いたモノリスのコード512文字を打ち込む

 

達也なら30秒もあればお釣りがくるだろう

 

真由美『なんて子なの。』

 

鈴音の解説に驚くほかない

 

 

鈴音『あくまで推測です。こればかりは本人に聞くしかありません。』

 

摩利『おそらく、合っていると思うぞ?』

 

摩利の言う通り鈴音の仮説はほぼ合っている

 

しかし、言うは容易いが試合開始から終了まで実行出来るかを問われれば出来ないだろう

 

それほどまでに魔法無しの実力が達也にはあり、誰にも真似できない領域にあった

 

 

 

 

 

 

吉祥寺『全然、手の内が読めなかったね。』

 

次の試合のインターバルに入り、気持ちを落ち着ける

 

ここまで興奮させられるとは思っていなかった、魔法をほぼ使わずにあれほどのパフォーマンスをするなど

 

興奮覚めやらずといったところだ

 

 

将輝『いや、一つ収穫はあっただろう?』

 

しかし、将輝は興奮はしていたものの、何か考える素振りをしている

 

吉祥寺『確かに。彼、魔法力は無いのは確かだったね。』

 

魔法を使ったのは、土煙の中の一回だけだろう

 

他に、使用したというのは無いのは運営側が確認していないはずだ

しかも、その魔法も近距離でありながら相手を戦闘不能に出来ていないということは達也自身が言った通り、魔法力は無いのだろう

 

 

将輝『それに、あれは実践馴れしている動きだ。』

 

地面をせり上げるなど魔法でも使用しない限り自分たちでは不可能

 

それを達也は身体的な力でそれをしてみせた

 

相当鍛えているのか、こういう状況だと達也に有利なのかは不明だ

 

 

吉祥寺『なるほどね。そうなると、ある程度の作戦は建てることが出来る。遮蔽物の無い場所、例えば、草原ステージなら魔法力勝負で持ち込めば此方の勝ちだ。』

 

先程の試合と達也の言を信じるなら、作戦は粗方出来る

 

この競技は魔法力がものを言う

ならば、こちらの土俵で戦ってもらうとしよう

 

魔法が苦手ならその苦手分野を利用させてもらうまでだ

 

 

 

 

 

 

レオ『さっきの試合、俺達ほぼ何もしてないよな。』

 

幹比古『まあ、確かに。』

 

前の試合、レオと幹比古は試合開始直後、達也から五分間待機と指示を受けた

 

何か作戦があるのだろうとそれぞれ、五分後のシュミレーションをしていたのだが、僅か二分足らずで試合終了のブザーが鳴ったのだ

 

一瞬、自分達のモノリスが開けられたのかと焦るもモノリスは無事だったためその心配は杞憂に終わる

 

となると、相手のモノリスが開けられたのだと考える

 

しかし、早すぎる

達也が居なくなって三分も経たずとは、カップ麺も出来上がらない時間である

 

相変わらずの化け物っぷりである

 

 

 

達也『当たり前だ。させなかったという方が正しい。試合は4試合するんだ。なるべく二人の力は温存はしておきたい。だが、次は二人にも働いてもらうぞ。幹比古の視覚同調の出番だ。』

 

動きたかったという二人の言葉に達也も同意したかったが、順当に決勝に進むためには一日に三試合行い、その全てに圧勝しなければならない

 

そのためには二人の力は必要なのだ

 

こんなところで消耗させるわけにはいかないのだ

 

なるべく、決勝のためにも体力は温存が望ましい

 

幹比古『ということは、次は遮蔽物の多いステージということかい?』

 

【視覚同調】

精霊を使い、敵の視界の外から状況を把握出来るため遮蔽物の多い場所や視界が悪い場所では重宝する

 

 

達也『あぁ、七草会長から廃ビルのステージと聞いている。おそらく、次もだ。御膳立てはする、頼んだぞ。』

 

十文字がごり押しで一高の代役ありの出場は可能になったものの、一日で決勝戦まで行うためスケジュールは非常にタイトだ

 

達也の言う通り、体力の温存は必要不可欠だ

 

幹比古『了解。』

 

レオ『俺は?』

 

次の試合から自分も動けるためウズウズするレオ

 

達也『ディフェンスは任せたぞ。狭くてもそいつの使い方は変わらない。1mなら1mの戦い方がある。』

 

ハイテンションのレオのモチベーションを下げないように期待とアドバイスを上手い具合に混ぜ混む

 

レオ『!なるほどね、もちろんだ。』

 

達也の言いたいことをしっかりと理解したレオは親指を立てた

 

 

 

 

前例の無い悪質なルール違反により第一高校は選手全員が負傷と出場不能に陥った

 

本来ならば、棄権によりポイントは無い

 

しかし、それを十師族による圧力で第一高校の選手の代役による出場が認められた

 

真由美『ごめんなさい、こんな代役を押し付けてしまって。』

 

なぜ、真由美がこのような謝罪を言うのか

 

それは、次の試合の相手が二高にある

 

代役が大会委員会より認められたとはいえ、他校は納得出来ていない

 

モノリス・コードは変則的リーグ戦を採用している

それは、一校が四試合行い、その勝利数が多い上位四校が決勝リーグに進めるというもの

 

しかし、今回は特例中の特例で棄権するはずの第一高校が出場

 

そして現在、戦績では第三高校がすでに四勝で決勝進出を決めている

 

そのあとに第一高校が三勝、第八高校は三勝一敗で他校の戦績次第で、決勝に進出出来る

 

そのあとに第二高校と第九高校が二勝と続く

 

試合の勝利数は並ぶものの、時間では第九高校が第二高校よりも短い

 

簡単に言うと、第一高校を除く

 

第三、第八、第九、第二という順位になる

 

そこに第一高校が第八高校を破り、現在三勝(第四高校との不戦勝も含める)という現状である

 

もし、第一高校が棄権になれば、上位四校の四番目であった第二高校は決勝進出だっだのだが、第一高校の復活によりそれも難しくなった

 

つまり、第一高校が棄権ではなくなったため第二高校に不満があるということである

 

かといって、第二高校に負けたとあれば、八百長だと第九高校に言われる

 

 

達也『謝罪は不要です。それを言うということは、俺に対する侮辱ととりますよ、真由美さん。過程では、やらされている形ですが、決めたのは俺自身です。』

 

今更、何を謝ってくるのか

 

不思議でしかならない達也

出ると決めたのは達也自身なのだ、そこまで申し訳なさそうにされても不快でしかない

 

真由美『…ごめんなさい。』

 

全然先程の言葉が届いていないのか、真由美はひたすら謝ってくる

 

 

埒が明かない

 

達也『そういうときは謝るのではなく、ありがとうと言ってもらう方が相手は頑張るものですよ。とりあえず、お茶しながら、のんびり見ていて下さい。勝ってくるので。』

 

双子や恭也にしているようにポンポンと、真由美の頭を撫でる

 

真由美は長女であったためあまり褒められたり、撫でられたりといったことは皆無なのだろう

 

達也から頭を撫でられて、どうしていいのか分からず、顔を真っ赤に染める

 

あとは、現在進行形で気になっている達也からそのような行為をされたため戸惑いを隠せないというのもあるかもしれない

 

真由美『っ!?…無自覚、天然ジゴロめ。』

 

ひとしきり撫で終わった達也はさっさと試合会場に向かう

 

達也の姿が見えなくなり、真由美はボソッと呟くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

場所はビル群の一角

 

ステージは市街地ステージ

 

ここでも達也は荒業を披露していた

 

ビルからビルへと飛び移っていく達也

 

そして、ビルの屋上から飛び降り壁面の割れた窓から侵入をする

 

一体、何の意味があるのやら

 

まぁ、それのおかげで会場では歓声があがるのも確かだが…

 

達也『やるぞ、幹比古。(ボソッ)』

 

モノリスに近い階層に来た達也は幹比古に無線で合図を送る

 

左手首のCADで視覚同調のための魔法式を構築する達也

 

精霊が生み出され、それを幹比古が操り、モノリスの位置を探り出すという寸法だ

 

幹比古『了解。(流石は、古式魔法の使い手だ。…見つけた。)見つけたよ、達也。場所はーーー。』

 

手間取ること無く精霊を生み出した達也に改めて舌を巻いた

 

九重八雲の弟子とはいえ、ここまで出来るとは凄いと言わざるを得ない

 

達也『了解した。(視覚同調、流石は吉田家の神童と呼ばれるだけはあるな。俺の家族には負けるがな。)』

 

あっという間にモノリスの位置を見つけ出した幹比古

 

腕は確かだ

 

顔を合わせていないものの、互いを褒め合う二人

 

しかし、達也は家族バカのため張り合っているがーー

 

 

幹比古の指示した場所の真上の階から無系統魔法を撃ち込む達也

モノリスが開く音がする

 

 

二高選手『くっ!』

 

開いたのが分かったのか、相手選手が上に上がってきた

 

そもそも、なんでモノリスを真正面から守るのか

相手の攻撃が正攻法で来ると思い込んでいるからだ

 

実践派と教科書のみでは、戦い方が違う

 

その時点で差は歴然だ

 

達也『見つかったか。』

 

その言葉とは裏腹に表情はのんびりとしている

 

言葉と表情が一致していないとはこの事である

 

二高選手『逃がすか!』

 

達也『(口を動かすより手を動かさないと無理だぞ。情けない魔法師だ。)少し遊んでやるか。』

 

魔法を発動する二高選手だが、達也は呆れた表情

 

二高の猛攻を涼しい表情で避ける達也

 

 

 

 

その様子を天幕のモニターから見ていた一高スタッフ達

 

十文字『…どういうことだ?当たれば、身体に影響は確かだ。それを奴は。』

 

摩利『よほど、自信があるのか。』

 

達也の戦いに内心、冷や汗を流していた

 

いくら達也が生身では無類の強さを誇ると言っても不死身ではない

 

それを魔法が当たらないよう逃走するでもなく、その場で避けている

 

とはいえ、達也でも魔法が当たれば無事では済まない筈なのだが

 

そんな心配を天幕でしているのを達也は知るはずもなく

 

 

 

達也『遅い。』

 

二高の鎌鼬のような魔法を髪の毛一本分の距離で避ける達也

 

あろうことか、その心配を余所に達也は完璧に相手選手を弄んでいた

 

真由美『嘘!?』

 

 

 

二高選手『なっ!?』

 

自分の魔法が当たらず、終いには魔法との間合いまで図られてはショックを隠しきれない

 

達也『殺す気で攻撃してこい。暇ではないが、少し遊んでやる。』

 

【遊んでやる】

上から目線のこの言葉は選手どころか、観客までもが呆気にとられる

 

高校生同士でそのようなレベルの差があるのだろうか?

 

しかし、達也が強がりでそんな言葉は使わない

 

 

二高選手『嘗めるな!』

 

売り言葉に買い言葉で逆上する二高選手

 

達也『甘い。』

 

二高選手『なんで、当たらない!』

 

しかし、冷静を欠いた魔法が当たるはずもなく

達也にとっては、寝惚けていても避けられるだろう

 

あとは、どこまで保たせるかというところで

 

簡単には言えば、幹比古がモノリスのコードを打ち込む時間をつくるだけなのだ

 

達也『(遊ぶと言ったからには、有言実行だな。)幻影魔法【陽炎】(ボソッ)』

 

人指し指と中指を立て他の指は握る形、刀印をつくる達也

 

それはさながら、俗に言われる忍びの印の一つと言われているが、定かではない

 

口許に当て、何かを呟くと達也の姿が揺らめき、魔法が達也を素通りする

 

この魔法は認識をずらすという単純な魔法ですべてを惑わせるものではない

高校生が相手ならば、目から入ってくる情報にとらわれやすいためそこを突いてやればご覧の通りだ

 

観客『!?』

 

その様子をモニター越しに見ている全員は度肝を抜かれる

 

摩利『おい、真由美。あんな魔法あるのか!?』

 

真由美『し、知らないわよ!』

 

例えるなら、夕暮れ時に起こる地平線での揺らめきである

 

そんな不思議な現象が達也に起こっている

というよりも、達也が起こしているためその表現は不適切である

 

こんな隠し玉を持っていたとは真由美達も驚くしかない

 

忍術遣いの九重八雲の弟子ということは教えられていたため身体の使い方は自分達よりも上ということは知っている

 

しかし、秘密の多い達也がこのような状況で魔法を使うとは思っていなかったのだ

しかも、古式魔法という希少性の高いものを使うなんて

 

開いた口が塞がらないとはこの事である

 

 

 

達也『(そろそろ時間切れか。)その気があるなら腕を磨いておくんだな。じゃあな。』

 

言い終わるのとブザーが鳴るのはほぼ同時

 

幹比古が無事にコードを打ち込んだのだ

 

魔法によってボロボロになった柱を一瞥し、窓枠から飛び降りる達也だった

 

 

 

 

 

真由美『なんて子なの。…私なんて足元にも及ばないわね。』

 

椅子に腰掛けた真由美

 

達也の底知れない実力を垣間見た所為で自分の積み上げてきたものが根底から崩れる感覚に陥る

 

しかし、そんなことで真由美を嫉妬や卑屈になるわけではない

何故なら、達也は魔法力がない代わりにそれを補おうとした結果がこれなのだ

 

それでも、ショックは受ける

 

しかし、これで第一高校は準決勝に駒を進めることが出来た

 

過程はどうあれ、結果は良好だと言う他ない

 

摩利『これは、ひょっとしたらひょっとするかもな。』

 

摩利や十文字も真由美と同様だが、口には出さない

 

それとは別に、摩利は良からぬことを考えていた

 

 

 

 

達也『調子はどうだ?幹比古、レオ。』

 

試合が終わり、小休憩に入る三人

 

達也はいたって通常運転だが、二人は反省点や驚きがあったようだ

 

レオ『おう、バッチリだぜ。二高にモノリスを開けられたときは焦ったけどな。CADのお陰でなんとかなった。』

 

達也がモノリスを開け、二高の攻撃を手玉にとっていた最中、レオは気を抜いていたのか

 

二高選手と鉢合わせし、驚くとモノリスを開けられた

 

すかさず、妨害出来たものの焦ったと、レオ

 

達也の調整したCADに助けられたようだ

 

 

幹比古『うん、いつも以上に力を出せているような気がするよ。』

 

こちらも、手応えを感じているようだ

 

幹比古は以前、上手く魔法を操れないという経験もあったためそれが一際感じているようだ

 

達也『それはなによりだ。しかし、幹比古。それが本来のお前の力だ、自信を持て。さて、今から三高の試合を観るが来るか?』

 

達也にとっては本来の実力を引き出せるようにしているだけで特別なことはしていない

 

自分達の調子も知ることも大事だが、次の試合の合間に決勝で当たるであろう三高の対策も考えなければならない

 

レオと幹比古も相手の情報も知りたかったのか達也の誘いに同意するのだった

 

 

 

 

 

ほのか『達也さん、休まなくていいんですか?』

 

試合観戦の道中、ほのか達が駆け寄ってくる

 

達也に関しては連続のハードワークをしているため心配の表情のほのかと雫

 

達也『問題ない、久しぶりに体を動かしたからな、全身に力みがある。それを取るには多少疲れがあるほうが良い。』

 

しかし、当の本人は体が鈍っているだけで何ら問題はないという

 

寧ろ、疲れている方が良いという常人には理解出来ない言葉を発している

 

それを聞いていた幹比古は若干、引いていた

 

 

達也『…皆、先に行っておいてくれ。野暮用を思い出した。』

 

ふと、達也が歩みを止める

 

その行動に周りは不思議そうな表情をするが、何か気になることがあったのだろう

 

レオ達は試合会場に向かっていく

 

レオ『りょーかいした。』

 

 

 

レオ達の姿が遠ざかると、背後に声を掛ける

 

達也『気になるか?お前たち。』

 

恭也『僕ですら、判りますよ。ただならぬ気配の持ち主です。』

 

すると、結那と加蓮、恭也が達也の背後からひょっこり姿を現す

 

いつの間にというわけではない、ほのか達の後ろで気配を消していただけなのだ

 

恭也の言葉に双子も頷く

 

達也『流石だな。あれは千葉の長女と次男だ。次男は麒麟児とも呼ばれているのは知っているな?』

 

千葉 修次 防衛大学に在籍しながらも3mの間合いなら無類の強さを発揮する世界でも十指に入る剣の使い手だ

 

淡々と事実を述べる達也だが、

 

結那『でも、どうしてこのような場所に?』

 

結那の疑問はもっともだ

 

そんな有名人が九校戦とはいえ、理由がなくては来るはずがない

 

考えられる理由はーー

 

 

エリカ『次兄上、何故このような場所にいるのですか!兄上はタイに剣術指南に出られたはず!』

 

エリカの兄を問い詰める声が響く

 

どうも、相当のお怒りのようだ

 

修次『え、エリカ落ち着いて。』

 

エリカの凄まじい形相と声音に腰が引けている

 

そんな状態の修次の声がエリカに届くはずもなく

 

エリカ『これが落ち着いていられますか!和兄上ならばいざ知らず、次兄上がお務めを放棄されるなど昔はございませんでした。』

 

どうやら、この男は次男で長男がいるようだ

 

しかも、その長兄はだらしなく、サボるのは常習犯らしい

 

それを差し置いても、エリカの修次への信頼は相当高いものだ

それを裏切られたとなれば、ショックは大きいだろう

 

 

修次『いや、だから落ち着いて。僕は何も務めを放棄、放り出した訳ではね?』

 

本人も自覚はあるようで、エリカに対しての態度は申し訳なさそうな表情だ

 

エリカ『そうですか?…確か、私の記憶違いでなければ、次兄上はタイ王室魔法師団の剣術指南協力のためにタイへ赴かれたのではありませんでしたか?』

 

そんな修次の表情を見たものの、それとこれとは別問題という風でエリカはさらに畳み掛ける

 

事実を淡々と述べていくほど、厄介なものはない

 

修次『うっ、その通りです。けどね?何も無断で帰国した訳ではないんだ。ちゃんと許可は貰ってるから。』

 

どこの家族でも兄は妹には弱いのだろうか?

 

後ろめたいことが無いのならば、妹の追撃にそこまで萎縮する必要ない

 

エリカ『許可云々ではありません!日本とタイの外交にも関わる大事な問題を中断してまでこちらを優先する理由を教えていただきたいものです。』

 

兄の言い分というか、言い訳というか

筋は通しているものの、妹からすれば信頼している次兄が務めを放棄するということがあり得ないため怒り心頭なのだ

 

修次『いや、だからね?』

 

エリカを落ち着けようと話しかける修次

 

エリカ『まさか、その理由というものが所詮お遊びに等しい全国魔法科高校親善魔法競技大会を見に来たかったからなどとは仰りませんね?』

 

しかし、エリカの追撃は止まらない

修次の行動一つ一つに何がいけないのかを事細かに口上にあげていく

 

修次『外交だなんて…大袈裟すぎるよ、エリカ。任官前の士官候補生同士の親善交流で、謂わば大学の部活みたいなものだよ?そこまで目くじら立てるほどのものでも…。』

 

修次の言い分も一理ある

 

外交と大袈裟ではあるため、親善交流はよくある話だろう

 

だが、次の二言目がエリカの怒りに火に油を注ぐことになった

 

エリカ『兄上っ!』

 

修次『は、はい!』

 

エリカの鋭い声がビクッと修次を固まらせる

 

もはや、親に叱られた子どものようである

 

エリカ『例え、学生レベルの親善でも、部活だろうと、正式に拝命した任務です。それを疎かにしていいといえ理由などありません!』

 

任務に大きいも小さいもない

 

まるで、事件に何とやらである

 

修次『…お、仰る通りです。』

 

反論の余地もない正論に修次も返す言葉もない

 

 

 

 

その様子を柱の陰から見ていた達也達

 

達也『いくら凄腕と言っても、家族にはたじたじだな。』

 

誰がとは言わない

 

しかし、それは達也にとってもブーメランということに気が付いているだろうか?

 

恭也『義兄上、他人のことは言えませんよ。姉さん達に勝てないのは義兄上も同じです。いえ、あそこの義兄妹以上ですよ?』

 

達也『…言うな。』

 

恭也の指摘に達也は苦虫を噛み潰した顔をする

 

どうやら、自覚はあるらしい

自覚があるぶんまだマシか、いや、もしかしたらもっとヒドイのかもしれないが

 

結那『当たり前です。放っておけば、達也さんは何をしでかすか解らないんですから。』

 

弟の言葉に当然だと結那

 

達也から目を放してはいけないということが結那にとっては当然らしい

 

加蓮『達也って、後先考えずに行動する時はあるよね?しっかりと手綱は握っておかないと。』

 

無計画無鉄砲な行動をする達也は首輪が必要だという加蓮

 

 

そういうわけで、双子達からすれば達也の行動は目に余るらしい

 

俺は根無し草どころか、鉄砲玉かと突っ込みたくなった達也

 

だがここで反論すると百倍になって返ってくるため、押し黙るしかなかった

 

そんな会話をしていると、向こうで新たな進展が見られた

 

 

エリカ『まさかとは思いますが、この女のためにお務めを放り出したとは言いませんよね?』

 

エリカの言う【この女】というのは修次の横にいる渡辺 摩利だ

 

彼女と修次が恋仲同士というのは達也は知っていた

何せ、生徒会で暴露してくれたのだから

 

しかし、摩利は修次のことをシュウとしか言っていないのに、何故達也はシュウが千葉 修次と理解していたのかは八雲の弟子であることと神夢の家が起因しているということだけは確かである

 

まぁ、エリカの怒りの理由も摩利が一部あるかもしれない

 

修次『いや、だからね?放り出したのではなくて…。』

 

いつまで、修次は弁明をしようとしているのか

 

こういう場合、早々に怒りを鎮めることに努めた方が修次には利が大きいはずだ

 

エリカ『そのようなことを訊いてるのではありません。はい、か、いいえで答えるところです。』

 

そのため、修次の弁明がエリカを更なる怒りを誘発している

 

まだ救いなのは、エリカが怒りで我を忘れていないことだろう

 

ここまでいけば、普通ならば修次の行動を決めつけてお前が悪いと言い放っているかもしれない

 

 

エリカ『…全く、嘆かわしいことです。千葉の麒麟児ともあろうお方がこんな女の為にお務めを投げ出したとは…。』

 

修次の返答もなく、エリカも呆れた表情をする

 

そこで止めておけば良いのに、自身で更なる火種をつくるのは彼女に気質によるものだろうか?

 

 

摩利『…エリカ。私はお前の先輩に当たるんだが?それを【こんな女】と蔑まれる憶えは無いのだが?』

 

今まで沈黙をしていた摩利もこの言葉には、異を唱える

 

今までは修次を叱責していたエリカ

それは修次とエリカです問題でもあったため黙っていたが、今回は摩利自身にも飛び火してくるとは思わなかった

 

エリカ『そもそも、兄上はこの女と付き合いだしてから堕落しました。千刃流剣術免許皆伝の剣士とあろう者が剣技を磨くことを忘れ、小手先ばかりの魔法に現を抜かすなんて…』

 

摩利の反論を黙殺し、修次を責め立てる

 

しかし、どの人間にだって心の琴線に触れる言葉はある

 

それが今回の場合はその原因が多すぎた

 

 

修次『エリカ!』

 

普段、滅多に怒らない修次

 

元々、穏やかな気質の人物が声を荒げて怒りの感情を出せば誰だって驚く他ない

 

エリカ『っ!』

 

突然の修次の豹変にエリカも気圧される

 

修次『技を磨くためには常に新たな技術を取り入れていく必要があると、僕がそう考えてそうしたんだ。摩利は関係ない。今回のことは摩利が危ない目にあったと聞いたから、僕が心配になって駆けつけたんだ。摩利は大丈夫だと言っていた。それでなくても、先刻までの非礼の数々。千葉の家の者として恥ずかしい。そして、その家の娘として恥を知りなさい!』

 

修次は彼自身の考えがあって魔法の勉強とそれを剣に組み込もうとしていた

思考を止めれば、そこで成長は止まる

 

停滞は退化と同義

 

進化や変化を厭わない者だけが更なる成長が出来る、そう考えて修次は行動した

 

自分の事をとやかく言われても構わない

だが、修次自身をダシに他人の悪口を言われるのは我慢は出来ない

 

この場合、己の精神的な余裕の無さが招いた結果なのだ

 

修次は知っている

エリカが摩利を毛嫌いしていることも、その原因の一端が自分にあることも

 

しかし、私情を持ち込むことは許されない

 

今は、高校生という多感な時期かもしれない

それでも、少しずつで良いから冷静な対応や状況を考えて言葉を選んで欲しいのだ

 

エリカの腕を認めているからこその修次からの愛情かもしれない

 

 

エリカ『…』

 

兄である修次の叱責に沈黙を返すエリカ

 

修次『押し黙るとは卑怯だぞ。後半あたりは只の摩利に対しての八つ当たりに過ぎない。さあ、謝りなさい。』

 

確かにエリカの摩利に対する言葉は目に余るものだった

 

修次の問題に対して、摩利を無理矢理巻き込んだのは八つ当たりに違いない

 

エリカ『お断りします。』

 

修次の叱責に怯んだと思われたが、強気の姿勢を崩さないエリカ

 

修次『エリカ!』

 

エリカ『お断りしますと言いました。次兄上が任務を放棄してこの場にいることは事実。その原因の一端がこの女にあることも。』

 

再度、声を荒げるもエリカはそんなもの知ったことかと言った表情で修次を睨み付ける

 

修次がこの場にいるのは紛れもない事実

 

例え、どんな理由であれ任務を放棄することはその人物の株を下げる

無論、身内の死や危篤というならば致し方ない部分はある

 

しかし、無事ならばそれを理由には出来ない

 

修次『だから、それは!』

 

形成逆転と思われたが、一気に再逆転する

 

エリカの攻勢に戻る

 

エリカ『次兄上は変わられました。この女と付き合い出してから。堕落と言っても過言ではありません。だから、私の考えは変わりません!』

 

エリカが慕っていた修次はもういないのだと伝える

 

摩利と付き合い出してから修次の剣に対しての熱が無く、それがエリカにとっては不満でしかない

 

立て板に水を流す勢いで捲し立てるエリカ

 

呆気にとられる修次に対してクルリと背を向け、走り出さない程度で歩き去って行く

 

 

 

 

修次『すまない、摩利。不快な気分をさせてしまったね。』

 

エリカの姿が試合会場へと消えるのを見送る修次

 

そして、摩利に向き直る

 

摩利『シュウが気にする必要はない。エリカのことも時間が解決してくれるさ。それに、私も怪我も無く、無事だし。』

 

修次の謝罪に摩利は気にしていないと返す

 

エリカにも修次にもそして、自分にも時間が必要なのだ

 

互いを理解するための時間が

 

修次『それにしても、君を守ってくれた守夢達也君には感謝しないと。それもあって来たんだし。彼は今何処に?』

 

摩利が無事だというのは彼女自身から聞いていたため、大したことではないことは解っていたが、それでも心配なのは心配で急いで帰国した修次

 

その無事である、守ってくれた人物が達也で礼を言いたかったのだ

 

それに、フェンスと板挟みにも関わらず無傷だったというその肉体にも興味はあった

 

摩利『あぁ、守夢は私達の事情でモノリス・コードに出場させていて、今はインターバルだから、休憩か試合の観戦をしているかもしれない。』

 

その予想を裏切って、聞き耳を立てているとは露ほども知らないだろう

 

修次『そうか、なら休憩かな?モノリス・コードはハードだ。休憩は摂るはずだろ…!?誰だ!』

 

モノリス・コードはミラージ・バッドと同様にハードのため、休憩は必要になる

 

一年生なら、尚のことだろう

そう考えて、意識が外に向いたそのときだった

 

剣を磨き、いつしか気配に敏感に感じることが出来るようになった修次のセンサーに僅かに引っ掛かったソレ

 

摩利『シュ、シュウ?』

 

本日二度目の声を荒げる修次に摩利は驚いてしまう

 

しかも今度は、この場に居るのかも、居ないのかもしれない第三者に向けられたもの

 

 

修次『隠れているのは判っている、出てきたらどうだ?』

 

修次の問い掛けにも返答が無いため、更なる質問を投げ掛ける

 

 

 

修次と摩利の場所から10m程の柱に身を潜めていた達也

 

修次が自分達の存在に気付いたのか怒声が飛んでくる

 

恭也『(やっぱりバレましたね。これくらいなら仕方ないですか。義兄上、どうしますか?)』

 

声を出さず、口パクだけで言葉をつくる

 

音に出さなければ、耳には届かないが達也の場合は、読唇術で恭也の言葉を捉える

 

達也『(この程度の気配の隠し方はバレても問題ない。しかも、彼女達と言い争いをしている最中に気が付かなかったんだ。技量はそこまでだ、脅威でもない。何処にいるのかも把握は出来ていないからな。)ボソッ』

 

恭也の言う通り、達也達は気配は完璧に隠してはいなかった

 

しかし、殆どの人間が気付かない程度には気配は殺していた

それに気付けたのは流石と言えるかもしれない

 

欲を言うならば、会話の最中に気付いて欲しかったというのはあるかもしれない

 

 

結那『(じゃあ、どうするのですか?)』

 

結那や加蓮、恭也は読唇術は習得出来ていないため、達也は音になるかならないかで口を開く

 

達也の判断で問題無いならば、それで構わないがこれからどうやってくぐり抜けるのか気になる結那

 

達也『(完璧に気配を断つまでだ。)ボソッ』

 

その問いも想定内なのか、三人に逃げるが勝ちだと伝える達也

 

加蓮『(りょーかい♪)』

 

人を食ったようなというか歯牙にも掛けない物言いに、いつもの達也だと満足げな加蓮

 

 

 

 

修次『こそこそとしている者ほど卑怯でしかない。そちらが姿を現さないのなら、此方から行くぞ!』

 

痺れを切らした修次は物陰に隠れている達也にカマを掛ける

 

しかし、達也達四人は此方の位置を把握出来ていないことを知っているため動揺はない

 

 

摩利『シュウ、待ってくれ。一体誰がいると言うんだ?』

 

修次の強行な姿に摩利は誰かがいるということは理解出来た

 

だが、ここまで修次の荒れた雰囲気は珍しい

 

それ程までに危険なのか?

 

修次『いつから居たかは判らないが、さっき、視線と気配があったことに気付いたんだ。相当の手練れだよ。』

 

気配はあるものの、悪意といったものを感じないためより不気味なのだ

 

只そこにあるといった風な微かな気配

 

自分ですら、漸く気付いたのだ

そうなると、自分以外で気付ける可能性のある人物は数えるほどしかいない

 

それほどの腕前なのだ

 

摩利『シュウでさえ気づかなかった人間って…。』

 

摩利も修次が凄まじい剣の腕前ということは理解している、世界でも十指に入る程の実力者だ

 

そんな人物が気付けなかった相手など知らない

 

摩利の知る中で思い浮かぶ人物を探そうとするも見当がつかない

 

 

修次『!?…何だ?…気配が消えた?…クッ!』

 

そんな思考をしていたのも束の間、修次のセンサーから完璧に気配が消える

 

とても悔しそうな修次に摩利は何も言えなかった

 

 

 

 

 

 

達也『すまない、待たせたな。』

 

修次を半分誂うように逃げてきた達也と双子と恭也は通路のすぐ上の観客席でレオ達を見付ける

 

それなりに混んではいるが、席には余裕があり見付けるのは容易かった

 

そのため、4席ほどのまとまった席はレオ達の真後ろに余っていた

 

レオ『気にすんな。』

 

美月『達也さんの妹さんと弟さんも来られたんですね。』

 

達也だけでなく、双子の結那と加蓮、恭也がいたことに皆驚いていた

 

いつの間に達也と合流していたのか、少なくとも達也と自分達が途中で別れたときにはいなかったはずだからだ

 

しかし、それは全員の勘違いで元から一緒に居たため合流はしていないのだが

 

美月やレオ、幹比古は人数が増えることに何も不快には感じていないが、ほのかと雫、途中で合流していたのかエリカは嫌そうな表情をしている

 

恭也『お邪魔します。』

 

ほのかや雫が不満そうな表情をしている(イコール)結那や加蓮も敵対しているということで、恭也は苦笑を浮かべながら座る

 

美月『はい、どうぞ。』

 

席の位置は達也の左右に結那と加蓮が陣取り、恭也が達也の後ろの席に座るという完璧な陣形だ

 

 

エリカ『…納得いかないんだけど。』

 

雫『確かに。』

 

ほのか『むぅ。』

 

この三人、特にほのかと雫は達也に告白紛いをしているため、嫉妬の炎が渦巻いている

 

その姿を見ていた幹比古は冷や汗をを浮かべるしかなかった

一歩間違えれば、戦争が起きる

そんな恐ろしい情景に見えていた

 

達也『?どうした、始まるぞ?』

 

そんな空気にも達也は気付いてないのか、のんびりとしたものである

 

典型的な鈍感野郎なのか天然ジゴロである

 

 

 

新人戦男子モノリス・コード準決勝

 

第三高校と第八高校の試合が始まった

 

 

レオ『なんだありゃ?十師族はすげぇんだな。』

 

なんとも頭の悪そうな発言である

ボキャブラリーが無いと思われても仕方がないレオの発言に幹比古も苦言を呈する

 

幹比古『凄いですまされる話ではないよ。』

 

幹比古の言う通りである

 

というのも、第三高校の選手である一条の嫡子である一条将輝はあろうことか単独で敵陣内に侵攻しているのだ

 

その理由は相手校である八高の選手の魔法が将輝に全く効果が無いということである

 

こういう場合、不敵という言葉が似合っているかもしれない

 

まるで、散歩しているかのようなゆったりとしたペースが更に恐ろしさを倍増させている

 

 

達也『あれは、相当実力がなければあんな真似は出来ない。または、相手との実力差が圧倒的に無いことにはな。』

 

エリカ『でも、各校の代表なんだから相手も相当だと思うんだけど?』

 

幹比古に同意する形で戦況を分析する達也にエリカは八高のフォローを入れる

 

達也『十師族を嘗めると痛い目を見るぞ?あと、師補の十八の家もな。』

 

達也の言う通り、一条将輝に対して第八高校の選手達は魔法が全く刃が立たない状況だった

 

八高選手の放つ魔法は見えない何かで攻撃が弾かれており、将輝には何一つ当たっていない

 

基本的に魔法師は自らに他者から魔法で攻撃を受けないように領域干渉を施すことが出来るこれにより、不意の魔法による攻撃を防ぐことができる

 

しかし、それはあくまで自身の魔法力の強さによって決まるため絶対防御ではない

 

将輝の場合、それはー

 

 

達也『…干渉装甲か。移動型領域干渉は十文字家の御家芸の筈だ。それをやってのけるとはな。しかも、相当息継ぎが上手いんだろう。』

 

十文字家の御家芸をいとも簡単にやってのける才能(センス)が将輝にはあった

 

基本的に魔法は永続的に効果が続くことは無い

 

発動すれば、終わりがある

しかし、その効果を続けようとすることは出来る

 

それは、魔法の終わる瞬間に新たな魔法を発動することだ

 

何度も発動するという手間があるものの、この方法が手っ取り早いことは確か

 

下手に長続きさせようとするよりも短時間の魔法を発動し続ける方が良い

 

言葉では簡単に言ってのけるが、実際に行うとなれば別だ

 

そこを達也は称賛していた

 

レオ『つまり、どういうことだ?』

 

達也『簡単には言うと、生半可な魔法ではあの防御を崩すことは不可能ということだ。』

 

ちんぷんかんぷんなレオや達也の解説に開いた口が塞がらないエリカ達

 

ほのか『でも、達也さん。あの時、十文字さんの障壁魔法を素手で壊しましたよね?あれで何とか出来ないんですか?』

 

達也の出来ない発言にほのかは不思議そうな表情をする

 

何せ、その絶対防御とも言える十文字の障壁魔法を拳一つで破壊するという化け物じみたことをやってのけたのだ

 

先程の達也はいつもの達也ではない

 

 

エリカ『は?素手で魔法を破壊したの達也君?』

 

ほのかの暴露にまたまたエリカ達は呆気にとられる

 

魔法を肉体的な力で破壊するなど聞いたこともないのだから

 

確認のために、達也を見るも肯定する達也

 

達也『つい感情的になってな。…やめてくれないか?その人間じゃない、みたいな目は。』

 

いくら感情的になったからといって、魔法を素手で破壊するなど人間をやめている

 

いや、最早生物ではないのかもしれない

 

恭也『義兄上は魔法力の換わりに肉体の力が半端じゃないですからね。』

 

エリカ達が驚愕の色に染まっている中、結那、加蓮、恭也はとても誇らしげな表情をしている

 

達也『それは置いておくとしてだ。基本的に魔法無しでの攻撃は禁止されているから、ほのかの要望は無理だ。(しかし、あの行動は俺に対する挑戦状と捉えていいだろう。正面から向き合って勝負してみろという。策士だよ、吉祥寺真紅郎。そして、正面から対峙することが最も勝率は最も上がるだろう。リスクも最低限でな。)』

 

話が進まないため、咳払いを一つする

 

直接的な攻撃は魔法のみであるためほのかの質問は出来ないということ

 

そして、今回の将輝の行動は達也に対する挑戦状だろう

 

それを達也は受けざるを得ない

 

勝つためにはーー

 

達也達の会話の最中、試合が大きく動く

 

 

 

魔法が弾かれるなら、物体を媒介に足止めを含めた攻撃に切り替える八高選手

 

ステージ内に無数にある岩の塊に目をつける

 

そして、将輝の足元にある鉱物から火花が散る

 

上記の無数の岩の塊を動かすには魔法の規模がものを言う

 

鉱物から電子の強制放出は放出系の魔法でも難易度は相当レベルは高い

 

物体の質量や魔法の規模、上級魔法に対抗するには魔法力の大きさが必須だろえ

 

また、これらは並みの魔法師なら防ぎきれるものではない

 

達也が勝てたのは、魔法を発動する余裕を与えなかったからだ

 

純粋な力勝負なら負けていた

 

八高選手①『これでもくらえ!』

 

無数の岩の塊を直径50cm程度の大きさに分割し、数を増やすと将輝の四方を囲み一斉にぶつける

 

同時に、鉱物から電子強制放出を発動する

 

ーー筈だった

 

 

無数の岩の散弾は運動ベクトルを逆転させ、攻撃を無効化

 

電子の強制放出は未発で抑え込まれる

 

それらをいとも容易く無効化した将輝は涼しい表情をしている

 

次いで、将輝は右手を八高選手に向けると爆風が八高選手を襲う

 

至近距離で、しかも背後からの攻撃に為す術無く地面に

臥すしかなかった

 

達也『偏倚解放か。単純に圧縮解放を使えばいいものを…ただの派手好きか?いや…そういうことか。』

 

将輝の使用した魔法から性格を分析する達也

 

レオ『何を一人で納得してるんだ?』

 

エリカ『そうそう、偏倚解放って何?』

 

達也一人で納得したのが、気に入らなかったのか

 

ほのかや雫までもが達也に説明を求めるように視線を投げる

 

達也『納得というほどではない。偏倚解放というのはだな、イメージさせると、円筒の一方から空気を詰め込んでもう一方から目標に向けて蓋を外すイメージかな?但し、効率が悪すぎるんだ。解放された面から高圧の空気を噴出して、普通に圧縮空気を破裂させるほうが威力があるのと、爆発に指向性を与えることが出来るのはメリットとしてあげられる。威力を上げるなら、普通の空気圧縮で空気量を増やせばいいし、指向性を持たせたいなら圧縮空気を直接当てればいいのだが。彼は、一条将輝は扱う魔法の一つ一つが強力すぎてしまうために敢えて、殺傷性ランクを下げる為に手間の掛る魔法を使っているだけなのだろう。全く、力がありすぎるのも困りものだな。』

 

結那や加蓮達でさえ、あまり馴染みのないマイナーな魔法に耳を傾けている

 

しかし、最後の言葉には達也を気遣う視線があった

 

将輝の場合威力を抑えることは可能だが

 

達也の場合は、扱う魔法全てがAランクなのだ

 

極端に殺傷ランクの高い魔法しか扱えないため、必然的に使用は制限されてしまう

 

そのため、公の場では魔法を使うことさえ許されない

 

とはいえ、魔法の使用を封印していても体術でも人を殺めることも可能な達也にはどちらにしても手加減が必要なのだ

 

本人は気にしてもいないだろうが、ここまで不自由な身の上はそういない

 

 

幹比古『達也が言うとあまり大事に聞こえないのはどうしてだろうね?』

 

レオ『確かにな。』

 

魔法という世界の中でも達也は突出した存在ということは幹比古達でさえ知っている

 

しかし、ほのかや雫達と身内である結那や加蓮、恭也の思考は違う

 

それは達也の素性を理解しているからこそだが

 

そこは知らぬが仏だろう

 

達也『いつの間にか終わったみたいだな。』

 

達也達が話し込んでいる間に残り一人を戦闘不能にした将輝

 

結果としては、三高の完勝に終わった

 

理由はお分かりだろう、一条の嫡子一人で八高選手を全員戦闘不能にした圧倒的な魔法力

 

残りの二人は自陣のモノリスの前で待機していただけなのだ

 

余力も充分残っているため、決勝も万全であるのは間違いない

 

 

 

 

真由美『…はぁ~。予想以上ね一条のプリンスは。何だか、十文字君のスタイルに似ていたような気がするんだけど。』

 

第三高校と第八高校との準決勝の様子を天幕でのモニターから観戦していた真由美達

 

この場に居るのは、十文字と鈴音、他数名

 

摩利は魅力的な彼氏といるためこの場には居ない

 

十文字『似ていたどうかは知らんが。』

 

真由美の自分のスタイルと似ていると言われても、正直返答に窮する

 

鈴音『おそらく、あれは守夢君への挑発ではないかと。一条家のスタイルは基本的に、中長距離からの先制の飽和攻撃です。予選リーグでは遠方からの先制攻撃でディフェンスを無力化していましたから。』

 

しかし、鈴音は将輝の行動が何を意味しているのかを理解していた

 

それは則ち、達也のスタイルを理解しているとも言えた

 

達也のスタイルを理解していなければ、将輝の行動が達也にどう影響を与えるのかが解らないからだ

 

もっと言うならば、達也に想いを寄せている証拠でもある

 

十文字『市原の言う通りだろう。俺と似た戦法をとったと言うことは守夢に対して正面から撃ち合ってみろという挑発だろう。』

 

十文字の場合、もし達也と対決することになったら?という予想の結果、将輝と同様な作戦の中の一つとして立てたということだ

 

しかも、事前に達也自身が魔法力はからっきしだということも知り得ている

 

 

真由美『まあ、彼等からすれば気持ちは解らなくはないけど。』

 

十文字『そして、それを奴は受けるだろう。唯一ではないが、数少ない勝機だ。本来の一条のスタイルになれば、敗北は必至。だが、守夢に触発されたのかは知らんが、守夢の戦闘スタイルを意識し過ぎているのだろう。』

 

十文字の言葉に真由美は疑問符を浮かべる

 

しかし、鈴音はその言葉に同意していた

 

 

 

 

レオ『全く、大した防御力だぜ。どうするよ?』

 

幹比古『そうだね。しかも、一条選手以外の手の内を確認出来ていないのは痛いね。』

 

二人の表情は難問を前にした学生のように手詰まりといった風だ

 

だが、絶望したわけでもない

 

何処かに攻略の糸口はないものかといった一縷の望みを探していた

 

達也『いや、そうとも言い切れない。残り二人の内一人、吉祥寺選手は大方予想出来る。もう一人は予想は出来ないが、まあ、大したことはないだろう。』

 

レオと幹比古の表情と口調と言葉から希望は捨てていないと判った達也

 

それでこそ、一流になる素質があると心の中で称賛する達也

 

 

幹比古『えっ、そうなのかい?』

 

達也からもう一人の情報は知っていると幹比古は驚く

いつの間にそんな情報収集をしていたのか

 

達也『あぁ、吉祥寺選手のフルネームは吉祥寺真紅郎。通称、カーディナル・ジョージだ。』

 

だが、情報収集は達也もしていない、ただの知識として知り得ているだけでなんら特別なことではない

 

幹比古『そうか、吉祥寺真紅郎ってどこかで聴いたことのある名前だと思っていたけど。あのカーディナル・ジョージだったのか。』

 

達也からの聞かされた名前に幹比古は納得の表情をする

 

達也『彼が発見したのは基本コードである加重系統プラスコードだ。出場した競技はスピード・シューティング。ならば、彼の得意魔法は作用点に直接加重を掛ける不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)。』

 

しかし、納得の表情をしただけで希望を見出だした訳ではない

 

希望を見つけ、勝つためには相手を分析する必要がある

 

そして、分析するにも情報が必要なのだ

 

達也は二人に相手の情報を全て与えることにした

 

 

レオ『…達也、基本コードってなんだ?』

 

幹比古『達也、対象物の個体情報を改変するんじゃなくて、部分的に加重を掛けるなんて出来るのかい?』

 

レオに関しては事前知識が欠けており、幹比古に関しては知識に対しての深掘りが欠けているようだ

 

ならば、この機会に学んで貰うとしよう

幸い、ほのかや雫、エリカや美月といった学んでいそうなメンバーも初耳と言った表情をしていた

 

非公式での貴重なシルバーによる講義が幕を開けた

 

達也『そうか…では、そこから説明しよう。魔法式の研究分野には【基本コード仮説】という理論がある。権威のある学者も結構支持しているものだ。【加速】【加重】【移動】【振動】【収束】【発散】【吸収】【放出】の四系統八種にそれぞれ対応したプラスとマイナス、合計十六種類の基本となる魔法式が存在していて、その十六種類を組み合わせることで全ての系統魔法を構築することが出来るという理論だ。それが基本コード仮説だ。しかし、これの結論を言うと、全ての系統魔法を構築出来るという点で間違ってはいるんだが…基本コードは実在するんだ。ここまでで何か質問はあるか?』

 

一旦、インプットからアウトプットを仕掛ける達也

 

幹比古『え?間違っているのに、存在する?』

 

レオ『いや、既に混乱してる。』

 

達也の説明に何もかもが初めてで脳内で反芻するも疑問符が飛び交っているようだ

 

だが、義妹と義弟は理解をしているようだ

 

伊達に十数年一緒に達也と過ごしていない

 

達也『分からなくはないな。安心していい、ちゃんと説明するから。四系統魔法にどう組み合わせても十六種類もの基本コードだけでは構築出来ない魔法式が存在する。だから誤りなんだ。しかし、基本コードと呼ばれるだけの特徴を持つ魔法式は存在する。』

 

レオの降参のポーズに呆れた様子はない

 

寧ろ、良く言ってくれたと思っていた

これで、説明にも張り合いが出てきたと達也

 

達也にとっては不本意かもしれないが、第三者視点から今の状況を見ると、懇切丁寧に教える姿は心優しいとしか表現出来ない

 

 

雫『達也さん、もっと解りやすく。』

 

予想外だったのは雫がほのかより理論の成績が悪かったことだろうか、決して勉強が苦手ということではないが

 

雫の要望はほのかや美月が同じように難しいと思っていること

 

達也『すまない、これ以上は理解におかしな解釈を与えるから無理だ。…続けるぞ、現代魔法は魔法式に改変後の事象の状態を定義することで様々な作用力を発生させる。改変を生じさせるための作用力も魔法式の中に定義されているが、それは魔法が作用した結果を定義しなければ発生しない。だが、基本コードは作用力そのものを直接発生させることが出来る。つまりだ、基本コードとは【加速】【加重】【移動】【振動】【収束】【発散】【吸収】【放出】の作用力そのものを定義した魔法式のことなんだ。個体のエイドス全体に働きかけるのではなく、個体上の一点に直接力を及ぼすという魔法が可能になる。……そうだな、例えるなら、圧力を掛けますか?はいかいいえで、はいと答えたらどのように加重をするかは決めなくても掛けることが出来ると表現したらいいかな?

もしくは、人間の両肩に加重を掛けるのに地面に伏すという定義はしなくて良いという考え方かな?

それが現在発見されている加重系統プラスコードだけだ。』

 

しかし、達也はそれは無理だと切り伏せる

 

一応、最大限の理解のための補足を入れるも全員が理解出来たとは考えにくい

 

この人数なら一人が理解出来れば上出来だろう

 

 

幹比古『…なるほど、それなら解ったよ。けど、余計に厄介だよね。』

 

今の達也の説明で何とか理解に漕ぎ着けることが出来たのは幹比古だけだったようだ

 

それを理解出来たということは吉祥寺真紅郎の魔法特性が強力だと、攻略が難しいと結論に辿り着いたということ

 

 

達也『そうだな。だが、欠点はある。彼の【不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)】には作用点を認識しなければならないという欠点がある。これはエイドスではなく、対象物に魔法を直接作用させるために生まれた欠点だが、そのおかげで対策は出来る。』

 

その理解の域に到達しても達也と幹比古では論点の問題への視点が違う

 

幹比古が難しいと結論付けても達也はそう思っていない

 

強力な魔法でも欠点や短所は必ずあるということ

 

幹比古『どんな?』

 

自分では考え付かなかった欠点に気付いた達也はやはり、凄いと感じる

 

達也『視認しなければならないということは見えなければいい。遮蔽物で防ぐことが出来るはずだ。あとは、領域干渉でも可能だが、俺達には難しい。情報強化では防ぐことは出来ないから注意しておけよ。…どうした、レオ?』

 

そんな対策方法の装備をいつ用意するのかは聞かなくてもわかる

 

達也のことだ、相手選手の情報など筒抜けだろう

 

もはや筒すらないかもしれないが…

 

レオ『ふと、思ったんだけどよ。達也、さっき【十六種類もの基本コードだけでは構築出来ない魔法】が存在するって言ってたけどよ。つまり、その十六種類もの基本コードを知ってるってことなんじゃないか?』

 

幹比古は頷き、レオに関してはとても不思議そうな表情をしている

 

例えるなら、固定概念に囚われず物事の真実に的を射る発言をする子どものようだ

 

レオは馬鹿ではない、知能、知力は高いといえる

 

日常の行動が抜けているだけで

 

 

達也『…良い質問だな。けど、答えはノーだ。基本コードを見つけたのは吉祥寺真紅郎のみだ。俺が知っているのは、基本コード仮説では構築出来ない四系統魔法を知っているだけだよ。』

 

ズバリ核心を突いてきた質問に虚をつかれた達也

 

それも瞬き一つの間に通常運転に戻す

しかし、家族には誤魔化せない

 

エリカやレオには判らなかったようだが、若干だが、殺気が感じられた

 

それを落ち着けるためにも話を続ける

だが、今の話をする必要性もなかったかもしれない

 

それは秘密主義の魔法師が自分の素性を暴露するようなものだからだ

 

もっとも、達也自身は魔法師ではないと言い張るだろう

 

恭也『義兄上、そろそろ。』

 

と、試合時間だと話の腰を折る恭也

 

これ以上のヒントは不要でもあり、教える必要もないと言外に告げる

 

両脇にいる結那と加蓮を見やれば同じように頷いていた

 

それは達也も解っているし、これ以上親しくなるつもりもない

 

達也『遮蔽物の準備は整えているから、あとは九高に勝つことを考えてればいい。いくぞ。』

 

全員が達也の知っているという言葉に興味を惹かれたものの、達也達の一方的な切り上げに従うしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

新人戦男子モノリス・コード

 

準決勝

第一高校VS第九高校

 

渓谷ステージでの対戦になる

渓谷ステージの形状は「く」の字形に湾曲した人工の谷間

 

水の流れは上から下かと思いきや、そういったポジションによる有利不利は無い

 

理由は渓谷ではなく、崖に囲まれた湖(といっても、水深は0.5mほどであるため池以下である)だからだ

 

しかし、達也からすれば甘いと考えてしまう

なぜなら、実戦では有利不利などぼやいている暇はないのだから

 

とステージの説明を連連とした訳だが、結論から言えばここは幹比古の独壇場だった

 

空気中に高い水分を含んでいるため幹比古による古式魔法でとある作用をさせる結界を作り出すと白いガスのようなものがステージを覆う

 

もうお分かりだろう

 

そう【霧】だ

 

この霧は幹比古の結界によって生み出された霧だ

 

そのため、九高選手には濃く、達也達には薄くという操作をしている

 

今回の魔法は大気中の水分に関係なく、霧に変えるまほうだ

物理的に風や熱で対策を講じても無駄といえる

しかも、この結界の概念に「閉鎖」が含まれており、何をしてもただただ、空気が循環するだけなのだ

 

だから、その霧を取り除くためには、幹比古の結界を認識しなければならない

 

だが、九高選手には古式魔法の根本を理解していないためそれも不可能だった

 

 

達也にとっては霧だろうと暗闇だろうと進めるため問題ない、精霊の眼(エレメンタル・サイト)を使わなくとも認識としては視界が白っぽく霞むといったところだろう

 

 

それに味方には霧は薄いため、早足だと晴れてくれるのだが、それすらも面倒臭がった達也は通常通りに霧の中を駆け抜ける

それによって風が巻き起こるのだが、それすらも九高選手は混乱してあたふたしてしまうだけだった

 

数分後、敵陣のモノリスに到着した達也

 

ディフェンダーの背後を取ることも簡単だが、ここでも遊び心というかイタズラ心というか足下に転がっている小石を湖に投じた達也

 

ポチャンッという水の音に反応した九高選手の背後を取り、モノリスの解除の鍵を撃ち込む

 

見えないという状況下では、音が重要になってくる

そのため、微かな音も聞き逃してはならない

 

それが今回、裏目に出ることになった

 

 

結局、達也の掌の上で弄ばれていた九高選手

 

一撃離脱した達也はあとの作業を幹比古に引き継ぐ

 

元々、この霧は幹比古の仕業のためコードを読み取るのは容易だ

霧の結界を維持しているのは幹比古自身の精霊であり、謂わばこの霧は幹比古の眼だ

 

結果、一戦も交えずに一高の勝利で終えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山中『随分と手を抜いているなぁ、達也は。我々には遊んでいるようにしか見えんぞ?』

 

第八高校との試合から監視という名目で観戦していたが、達也の手抜きが過ぎると軍医の山中は言う

 

監視という名目だが、達也が何か命令違反をすることは絶対に無い

 

そのため、身内の頑張っている姿を観ているという図になる

 

響子『秘密ですからね。彼の力は。けど、決勝の相手は一条ですから。少しだけ彼の特別が見られますよ?』

 

山中の思いも解らない訳ではない響子は苦笑するしかない

 

だが、次の試合はそうもいかない

少しだけ、達也の実力が見れるかもしれない

 

山中『秘密にしては、忍術を使っていたんだが?』

 

隠すなら徹底的に隠さないのは何故なのか?

 

達也の事が大切だからこそ、厳しくなる

 

響子『そこは牽制ですね。身体的な力を見せて注目を集めましたが、そこだけでは注目の的にしかならない。そこで、九重先生の弟子ということをちらつかせれば…。』

 

しかし、響子は達也の思惑を理解していた

 

忍びの弟子

 

単純だが、強力な手札となる

 

エンジニアとしての腕と古式魔法の使い手という達也を手に入れるためには、スカウトする相手側もその前提条件を超える魅力が無ければおいそれとは手を出せない

 

エンジニアとしての腕を買おうとすれば、それ相応の技術力のある企業が

 

ましてや、暗闇に乗じて奇襲をしようにも返り討ちに遭う

 

しかし、本当の目的は別にある

 

山中『ふむ、なるほどな。古式魔法の使い手ということで下手に手を出せなくなるという寸法か。』

 

如何にも達也らしいと満足げな表情をする

 

響子『はい。でも、達也君はこんなもの遊びでもないと思っていますよきっと。』

 

自分の説明で納得した山中を見て、少し笑う響子

 

恐らく達也は、今の山中を見れば笑うだろう

 

それは表情や説明に納得したからではない、遊びでもない

 

山中『?』

 

山中は疑問符を浮かべるも響子はフフッと笑うのみであった

 

 

 

 

 

 

新人戦男子モノリス・コード決勝戦は三位決定戦が終えてから行われる

 

試合時間としては長くても30分短ければ15分だろうか

 

そこにステージの設営に約1時間程度

 

そう考えると、試合時間の逆算をすると2時間後という形になる

達也達はその間を休憩時間として充てることにした

 

幹比古はその休憩時間を利用してホテル最上階の展望室に訪れていた

 

 

 

幹比古『(…まるで、嘘みたいだね。魔法を精霊を感じることが出来るなんて。この調子なら富士の霊峰の気吹(いぶき)を感じることが出来るはず)…エリカ?』

 

しかし、先客が展望室にはいた

 

エリカ『あら?こんなところにどうしたの?…そっか、霊峰の気吹(いぶき)を浴びに来たのね?』

 

自分の名前を呼ばれ、振り返ると幼馴染みである幹比古

 

かつて、とある事故で思うように魔法が使えなくなってしまい、酷く落ち込んでいたのがある同級生によってその自信を取り戻しつつあった

 

幹比古『う、うん。エリカこそ、どうしてここに?』

 

エリカ『私は気分転換かな。』

 

幹比古はエリカの言葉通り、ある事をするために此処に来ていた

 

しかし、エリカは一人で気分転換と言っている

 

装いも少女らしい可愛いと称するもので普段の彼女の雰囲気とは違う

 

幹比古『そっか。(なんか、エリカの様子がおかしい?)』

 

それ以降何故か会話が続かなく沈黙が支配する

 

普段の彼女ではないため戸惑ってしまう

 

 

エリカ『幹比古君、霊峰の気吹(いぶき)を感じてる?』

 

幹比古『ぇっ?えっと、うん。』

 

大きく深呼吸するかのように

しかし、方法は吸う・吐くではなく、吐く・吸う

 

幹比古やエリカの言葉に気吹(いぶき)とは気息(プラーナ)と呼ばれている

しかし、それはあくまで古式魔法や魔法界の話である

 

幹比古の一連の動作と充填されていく気息(プラーナ)を確認すると、満足気ながら少し寂しそうなエリカ

 

 

エリカ『(なんだ、出来てるじゃない。)幹比古君、気付いてるか判らないけど。貴方、以前と同じように、いえそれ以上かな?気吹(いぶき)の取り込みや霧の結界、感覚の同調も昔以上に出来ていることに。【吉田家の神童】と呼ばれていた頃以上にね?』

 

確かに、達也により術式は幹比古に最適化されたものの扱うのは幹比古自身だ

 

幹比古が今までの努力の賜物がようやく、実を結んだのだ

 

幹比古『確かにそうかも。…っ!痛い!』

 

エリカ『しっかり頑張って来なさいよ、ミキ!』

 

バシッと背中を平手で叩かれ、我に返るとエリカがいつも見ていたニヤニヤとした表情をしていた

 

幹比古『…僕の名前は幹比古だ!』

 

いつもの調子に戻ったエリカに幹比古もいつもの科白を返すのだった

 

 

 

ーーーー

 

九校戦の入場門で達也はある人物を待っていた

 

否、その人物が持ってくる物という方が正しい

 

達也『わざわざ、お持ちいただきありがとうございます、小野先生。』

 

小野 遥

第一高校のカウンセラーとして勤務している

 

裏の顔は公安の秘密捜査官だ

 

彼女も里美と同様にBS魔法師だ

 

通称:Born Specialized(ボーン・スペシャライズド)

の略で、BS能力者、或いは先天的特異能力者、先天的特異魔法技能者とも呼ばれる

 

おそらく、彼女の魔法特性に目を付けた公安がスカウトしたのだろう

 

ブランシュ日本支部の場所も特定するなど腕前は相当ではある

 

小野『本当よ、なんで私が届けないといけないのよ。いくら先生の弟子とはいえ。』

 

前回、達也に自分の素性を暴かれており、どうしてそれを知っているのかを調べようとしても一般家庭の出身で、それ以上は調べれなかったのだ

 

しかし、自分の師でもある八雲の弟子ということは情報としてあった

 

それを頼りに八雲に達也の事を尋ねようとしたら、向こうから【やあ、達也君にはもう会ったかい?】なんて訊かれたのだ

 

何処まで見透かしているのか恐くなったくらいだ

 

達也『それは、師匠に言って下さい。まあ、弟弟子なので我慢ですよ。』

 

そう、達也は八雲の弟子になって10年近くになる

だが、彼女の場合は僅か2年程だ

 

年齢的に上だとしてもどちらが技術的に上なのか判りきっている

 

小野『はぁ。何だかんだで君に正体を見破られるし、先生に訊いてもはぐらかされるし。』

 

自分の身分がバレない自信はあったのだ、それを高校生に見破られるなんて(まるで、漫画に出てくる高校生探t…ゲフンゲフン)

 

そして、八雲も達也の味方にしか見えなかった

 

達也『そんなに不満が溜まっているのでしたら、仕事を依頼しましょうか?税務申告の不要な、少し遅いボーナスと考えて下さい。』

 

小野『…何をさせる気なの?』

 

そんな小野の心情に知ったことかと思う

 

仕事は仕事なのだ、ならば、したいであろう仕事をさせることにする達也

 

税務申告が不要なと言われて、少し身構える小野

 

当然だろう、高校生からの依頼など初めてだ

しかもあの達也からだ、警戒しかない

 

達也『無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の東日本支部の所在地と構成員を調べて下さい。』

 

小野『!?』

 

本当に碌でもない依頼である

 

どうして、犯罪シンジケートの名前を知っているのか

 

達也に詰め寄るも、何を口に出すべきか多すぎてパクパクと開閉するだけ

 

達也『どうしてその名前を知っているという表情ですね。今回の九校戦にちょっかいを出してきているのはそいつらです。相手の情報が無いことにはおちおちと寝ていられませんから。』

 

普段の丁寧な口調が少し砕けているのがチラホラと見える達也

 

若干、イラついているのだろう

 

しかし、神夢で調べればこのようなまどろっこしいことは不要なのに何故お金を掛けて他人に依頼するのか?

 

小野『いつの間に…ってそんな野暮な話は聞くべきではないわね。何をする気なの?』

 

どうやって調べたのかなんて聞くべきではないだろう、藪蛇にしかならない

 

どうせ、訊いても教えてはくれないだろう

 

達也『今のところは何も?というよりか、何故私が何かすると?ブランシュの時も事後処理が面倒だったから帰っただけなのですが?』

 

小野『…嘘っぽい。』

 

その通り嘘である

自分で始末したいからさっさと帰りました、が正解である

 

だが、達也が殺ったという証拠もないため、真実は闇の中である

 

達也『先生の本職はカウンセラーでは?生徒を信じないでどうしますか?…ところで、この距離はあらぬ誤解を招く予感がするのですが。』

 

本人はしれっとしている

 

それよりも達也は小野との距離を言及する

誰からとは言わないが、あらぬ誤解を被るのは御免だ

 

小野『…只の情報収集なのよね?』

 

達也との距離が10cmに満たないのを自覚したのか、慌てて距離をとる

 

これではまるで恋人同士のようではないか

 

赤面しながらも、達也に使用目的を確認する

 

達也『勿論です。まあ、小野先生が嫌なら、自分で調べに行きますので。その間の言い訳はお願いしますね?』

 

あまりの返事の良さに何か隠していないか疑いたくなる

 

小野『…分かったわ。一日頂戴。』

 

断ることも出来たが、お金もそうだが、生徒からの依頼となれば断るわけにはいかない

 

アリバイ作りに加担するのは嫌というのもあったが

 

達也『流石です。私でも一日は微妙なところでしたから。』

 

小野からの納期を聞かされて素直に凄いと感じた

 

八雲の弟子で隠密も叩き込まれてきたが、1日では無理だと実感していたからだ

 

 

 

ーーーーー

 

大会委員会から装備の許可も得たため、天幕に呼び出しておいたレオと幹比古にこの装備を渡しに行く

 

天幕に入ると、全員が達也の方に振り向く

 

その視線には称賛や嫌悪など様々だが、達也は気にした風もない

 

奥に待たせている二人の元に向かう

 

真由美『あ、守夢君。決勝戦のステージが決まったのは知ってる?』

 

どうやら、決勝戦のステージが決まったようだ

 

達也『いえ、それは後程伺います。二人共此方に来て下さい。』

 

達也としては、どのステージだろうと作戦に大きな変更もない

 

優先すべきはこの装備を渡すことだ

 

 

レオ『お、どうした、守夢?何かあんのか?』

 

達也から予め渡すものがあると呼び出されていたため、更なる装備がとても気になるのだ

 

達也『はい、お二人にお渡しするものがあります。このマントとローブです。』

 

ワクワクなレオに笑いを噛み殺してマントを手渡す、幹比古にはローブを手渡す達也

 

幹比古『僕はローブ?どういうことだい?』

 

幹比古はレオと同じようでマントを渡されると思っていたため、疑問に思う

 

達也『そのマントとローブには魔方陣を織り込んである特別製です。原理は刻印魔法で発動します。あの時に話した遮蔽物がそれです。』

 

レオ『なるほどな。』

 

幹比古『じゃあ、着用した者の魔法が掛かりやすくなるということかい?』

 

達也から三高の試合の時にカーディナル・ジョージの魔法は遮蔽物もしくは認識出来ないという事を思い出す

 

そのため、このローブという形状は幹比古には最適なのだ

 

そういったことも計算に入れて幹比古にローブを渡したのだ、末恐ろしいとしか言えない

 

達也『はい、その通りです。』

 

理解の早い幹比古に達也も説明が少なくて助かる

 

レオ『りょーかいした。じゃあ、準備してくるわ。』

 

レオは説明よりもやらせてみるに限るため、自由にさせることにする

 

やる気、気力、体力ともに十分あるだろうからコツはすぐに掴むだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『お待たせしました、会長。』

 

二人が天幕から出ていくと、真由美に向き直ると何か言いたげな表情をしている

 

真由美『さっきのあれは決勝戦に使うためのもの?許可は?』

 

達也『すでにとってあります。厳密に言えば、ルール上に記載されていなかったため、渋々ながら承諾したという形ですね。』

 

予想通りというべきか、質問攻めに会う

 

しかし、意外にも単純な内容で少し助かったのは内緒だ

 

鈴音『なるほど、流石ですね。』

 

いつの間に居たのか、鈴音は達也の行動を手離しで褒める

達也『それで、ステージは草原ステージではないですか?』

 

話がトントン拍子に進み、出遅れた真由美を放置して本題に入る

 

真由美『…その通りよ。障害物が無いから厄介と思ってるんだけど。』

 

質問のようで確信を持った達也の問い

 

真由美は肯定しつつ、難しそうな悔しそうな表情をしている

 

理由は一つだろう

 

達也『…一条選手が厄介だと?』

 

一条 将輝

 

佐渡の侵攻作戦で初の戦闘を行い、爆裂で敵を多く屠った近年では珍しい実践経験のある魔法師だ

 

彼が決勝の相手では勝ちの目が薄いと真由美は感じているようだ

 

真由美『ねぇ、守夢君。出て貰って感謝してるわ。一応、総合優勝の目処も立ったわ。』

 

まるで、達也をモノリス・コードの選手として出場を依頼したときのような眼をして達也を見つめている

 

そして、その眼には達也を心配している

 

準優勝なら当初の目標をクリアしているため無理をする必要はないと

 

達也『なるほど、私が一条選手に遅れを取ると?否、負けると?(確かに、あの時からどれだけ成長したか気になるがな)ボソッ』

 

真由美の言い分も解らない訳ではない、確かに高校生で実践経験の魔法師など珍しいだろう

 

それに加えてあの一条の嫡子だ

 

十文字でも勝てるかどうかは怪しいものだと達也は考えている

 

だが、達也の考えは違っていた

 

真由美『…』

 

達也の瞳が少し煌めいたのを見留めた真由美

 

普段はやる気のない表情が今はとても愉しそうな表情をしているのだ、自分では止めることは出来ないと悟る

 

しかも、何か最後に呟いていたのだ

 

何か考えがあるのだろう

 

桐原『おいおい、直接の打撃等の攻撃は禁止されてるぜ?』

 

服部『お前こそ、魔法師を甘くみるなよ。』

 

この二人は達也にやられたが達也を少しは認めてはいるのだが、まあ言葉遣いは横に置いておくとしよう

 

また、天幕にいる一部のスタッフ達も達也の実力を認めているが、敢えてなのか口には出さない

 

達也『侮られては困りますね。…魔法は道具です。道具に振り回されているようでは三流以下。それに、手段はいくらでもあります。後は、どのようにして当てるかだけです。今回は、少し無茶をしますがね。ご覧にいれましょう。下克上(ジャイアント・キリング)をね。』

 

二人の激励に不敵に笑う達也

 

勝てる勝てないではない、勝つためにここにいるのだから

 

 

 

 




大変永らくお待たせ致しました。
長かった…
一話最低一万字を超えるように書いているのですが、終わり方が不自然だなと思ってしまい書き足せば終わらない。
①ご存じの通り、原作より駿足です。
②今回は決勝戦のためにグラムデモリッションは使わせてません。
③幻影魔法 陽炎 オリジナルであれば嬉しいなぁ。あと、入学式の時の達也と八雲の稽古で見せたのがこれにしようかと思っています。
④千葉の麒麟児と接触させてみました 
基本コードって全然理解出来ないんですよね。

では、また次回お会い出来ればと思います❗️


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

23話

もうすぐ、クライマックスだ
また、一ヶ月を超えた…目標は年内の筈が…
お待たせしました



達也『…(啖呵切ってみたものの、さて、どうしたものか。一条の嫡子にカーディナル・ジョージか、反則だろう。もし、俺に魔法力があった場合…いや、考えるのはやめよう。)どうした?結那、加蓮…響子さん?』

 

天幕にいた真由美達に試合の準備をしてくると言い残し、達也は身体を温めるためにヨガのような体操をしたり、座禅を組んで瞑想をしていた

 

達也にしては珍しく、その表情は硬い

 

勝つということだけを目標にすれば、達成は出来る

 

が、そのあとに待ち受ける厄介事を考えれば、勝ち方を違和感の無いようにする必要がある

 

そんな厄介事を無いようにするには魔法力があればと、そんな邪な考えが脳を掠めるも頭を振る

 

随分と、深い思考に耽っていたのか

人の気配を察知するのが遅れる

 

しかし、家族達なら当然かと納得する

 

加蓮『達也。』

 

結那『達也さん。』

 

響子『達也君。』

 

物陰から現れた三人だが、その表情は達也を心配しているように見える

 

達也『三人とも、そんな表情をするなんて珍しい。そんなに俺が心配か?』

 

そんな三人を励ます達也

 

力を封印された状態ともとれる達也が負けると思っているのか、安心させるように微笑む

 

結那『そういう訳ではありません。』

 

響子『達也君こそ、何をそこまで思い詰めているの?』

 

三人の心配はそこではなかったようで

 

達也が必死に隠そうとしている事をあっさりと看破する

 

達也『…』

 

加蓮『勝つ自信はあるけれども、その後から起こるであろう、厄介事を考えているんでしょ?』

 

本当に、今は亡きあやめを含め、響子や結那、加蓮に勝てたためしがない

 

そんなに判りやすいのだろうか?

 

達也『らしくないとは思っているが、それでも家族に余計な火の粉が降りかかるなら…負ける方が良いとは思っている。』

 

それでも、考えてしまうのだ

 

このような表舞台に立てば、必然的に隠すのが難しくなる

 

ならば、出なかった方が良いのではないかと

 

響子『それは、達也君の独り善がりではなくて?』

 

そんな達也を否定する響子

 

達也『響子さん?』

 

最近、身内から叱られるのが多い気がする

 

原因は達也だけの問題でもないため、なんとも言えない

 

響子『今までも同じような事はあったわ。その障害を排除しても何も無かったじゃない?それに、何があっても家族はそんなに弱くはないわ。…違う?』

 

結那『響子さんの言う通りです。例え、十師族だろうと、世界が相手だろうと私達は負けません。だって、達也さんが守ってくれるでしょう?』

 

もし、仮に十師族引いては全世界の魔法師全てが敵に回ったとしても勝つ自信はある

 

そこが論点ではないが、家族が言いたいのは暴れても問題ないのだということだ

 

なんともおかしな励ましである

 

三人は達也がどんな時でも家族を優先し、家族の事だけを考えてきたのを知っている

 

守ると口にするのは容易いが、実行するとなるとどれほど難しいのかということも

 

達也『…そうだな。ごめんな、いつの間にかこんなに弱くなっていたよ。』

 

家族たちの応援に情けないと思いつつもそれ以上に嬉しいと思う

 

あやめの手紙で吹っ切れたと思っていたが、家族に迷惑を掛けてしまうのでは?という思考はどうしようもない

 

加蓮『弱くなってはいないわ。ただ、守るということが大変だと気付いただけよ。まあ、大変といっても達也の場合は、全てを守ると背負い過ぎて、私達を信頼していないだけなんだけどね?』

 

結那『安心して下さい、私達は強いです。だから、達也さんの思うように戦って、勝ってきて下さい。家族は達也さんの勝つ姿、何者にも邪魔されないその姿が好きなんですから!』

 

やはり、自分の原点はこの温かな家族なのだと改めて認識する

 

だからこそ、家族の想いに応えたい

 

加蓮『あと、はいこれを。封印用よ。今は、それで数日間は我慢して欲しいって。』

 

当初の目的は達也の力を封印するための媒体を渡すことだ

 

達也『あぁ、ありがとう。助かったよ…加蓮?それ指輪じゃあ。』

 

只でさえ、力を制限して戦わなければならないのに、封印が無かった間はそれを抑え込みながら戦うのは達也でも難しい

 

今も、気を抜けば瞳の色が蒼から白銀に変わり、想子(サイオン)が溢れる状態を無理矢理抑え込んでいる状態なのだ

 

今までの三試合に関しては実力はそれほどであったために抑え込みながら出来たが、一条を相手にするには少し荷が重い

 

そのため、助かったと思っていたのだが

 

まさかの指輪とは

 

加蓮『そうよ?この封印は私達家族の事を強く思えば、思うほど強固になるように呪を施したの。繋がるためには指輪という概念が適当でしょう?』

 

頬を引き攣らせた達也に気にした風もない加蓮と結那

 

達也の表情を見ても、どうしたのだ?と

 

響子に関しては解らないわけではないという表情をしているが、結那と加蓮と同様の想いではある

 

結那『それもありますけど。変な虫がつかないようにするためもありますわ。あとは、その指輪は右の薬指に着けて下さいね。』

 

封印の説明を終えた後を引き継いだ結那は思い出したかのように達也に追い討ちをかける

 

女性陣から貰ったのが指輪(あくまで、封印ですよ?)で、虫除けのためとはー

 

達也『………アリガトウゴザイマス。』

 

有り難くもない追い討ちに達也は苦虫を十匹ほど噛み潰したような表情をするだけに留めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

新人戦男子モノリス・コード 決勝戦

第一高校VS第三高校

 

ステージは草原ステージと見晴らしの良い状況だ

つまりは、何の障害物が無いということ

 

これまで一高は障害物のあるステージで勝ち進んできたため、この状況でどのような戦い方をするのか

 

そして、優勝候補筆頭の三高に対してどのうように戦うのか

 

観客の注目が集まっていた

 

もう一つ、的になっているのはー

 

エリカ『あはははっ!な、何あれ!あっははは、おっかし~!』

 

観客席で大笑いするエリカ

 

何に対して笑っているのかは言わずとも知れたこと

 

美月『エ、エリカちゃん!そんなに笑わなくても。』

 

エリカ『だ、だって。あの二人の格好見たら、笑うしかないでしょ!陰険な二人がマントとローブで更に陰険になってるし…クックッ。』

 

流石に、陰険は酷い

 

ほのか『エリカちゃん、流石に笑いすぎだと思うよ?ねぇ、雫?』

 

隣で聞いていたほのかも度が過ぎると思い、雫にも同意を求める

 

雫『確かに、あの二人の格好はどうかと思う。』

 

ほのか『雫~!』

 

が、見事に親友に裏切られたほのか

 

見た目には判別出来ないが、雫も口許が弛み、肩を震わせている

表情をあまり崩さない彼女においてはとても珍しい

 

それほどまでにおかしな格好だったのか

 

 

 

 

 

 

 

こちらは天幕からモニター越しに見ている真由美達

 

何故か、天幕にも一高スタッフが多く集まっていた

おそらく、一高全員が集まっているのだろう

 

観客席はすでに満席

 

あとは見れる場所といえば此処くらいのものだろう

 

しかし、いくら新人戦の決勝戦とはいえここまで集まるものなのか?

 

理由は、一つしかないだろう

 

それは、達也だろう

 

二科生ながらにして、この九校戦では数多くの選手を優勝や入賞に導いてきたそのエンジニアとしての腕前

そして、風紀委員として体術のみで一科生を取り締まってきた実績

 

なにより、達也自身があの一条に、十師族に勝つと断言したのだ

 

気にならない訳がない

 

 

 

真由美『なんで、守夢君は着てないのかしら?』

 

ふと、三人を見ていると違和感を覚えた真由美

 

達也と他の二人の装備が違うことだ

 

もし、達也がマントかローブを着用していれば、宛ら魔王か不気味な魔術師だろう

 

それはそれで恐怖は覚えるがー

 

摩利『あいつは攻撃の要だろ?動きにくい格好なんて出来ないだろう。』

 

摩利は達也の考えを理解しているようだ

 

鈴音『それに、彼はCADを四つ用意してますし、これ以上の装備は出来ないでしょう。』

 

鈴音は達也の装備に関して分析しているようで

 

普通は多くても二つのCADを持つが、達也は拳銃型を二つと両手首に一つずつという重装備すぎるスタイルだ

 

基本、CADを二つ以上装備していても同時になど不可能だ

 

CADの同時操作(パラレル・キャスト)など優れた魔法師でも難しい

 

それを達也は二つではなく、四つというセオリーを超えたことをしているのだ

 

気にならない訳がない

 

 

 

 

 

 

 

 

幹比古『…なんで、僕達二人だけ。』

 

と、ボヤく幹比古

 

手渡された時には達也の分もあると考えていたのだが、見事に裏切られた

 

達也『前衛の俺が着てたら、動き難いから仕方がない。諦めろ。』

 

ごもっとも

 

レオ『…この格好、絶対あいつ笑ってやがるぜ。』

 

レオはこの服装に関して不満を諦めたのか、学友?であるエリカに対して自分達の服装に関してどのような反応をするのかという予測を立てていた

 

まあ、当たっているのだが

 

 

 

 

 

エリカ『…あー、笑った。』

 

ひとしきり笑うのに満足したエリカの横で美月はおかしな物を見つけたような表情をしている

 

ふと、美月が大人しくステージの方向を見ていることに不思議に思ったエリカ

 

美月『?…吉田君の周りを精霊が…。』

 

いつの間にか眼鏡を外しており、一心に幹比古の周囲を見ている

 

 

 

 

 

幹比古は自分の周りに精霊が集まっているのを感じていた

 

中々感知することの出来ない精霊達が自分の周りに群がっているのが判る

 

達也『…どうだ、幹比古?そのローブの感想は?精霊がより感じられるだろう?』

 

達也も幹比古に集まる精霊が見えているため、ローブの効果は抜群と言えた

 

幹比古『凄いね。』

 

達也『だろう?』

 

思わず、感嘆の声を漏らす幹比古に達也も満足げな表情をする

 

なにせ、八雲に教わりつつ、自分の手で編んだのだから

 

嬉しさも一押しだ

 

幹比古『うん、流石は達也だね。精霊を認識出来るなんて。』

 

しかし、幹比古はが称えたのは達也のその元々備わっている能力の事を指していた

 

決して、ローブに関してではない

 

 

達也『一応、古式魔法の弟子の一人だからな。だが、一流には及ばないさ。精々、三流さ。』

 

幹比古に一体君は何者だい?と言外に問い掛けられた達也は曖昧に返す

 

決して、古式魔法の弟子だから見えるわけではない

 

幹比古『そういうことにしておくよ。』

 

まともな回答が来るとは思っていなかったため、落胆はない

 

謎の多い達也だが、こういうことに関しては信用に足る人物だということは理解していた

 

 

 

 

 

 

一方で、敵陣の三高陣営

 

吉祥寺『なんだ?あの装備は。』

 

一高のレオと幹比古が纏っているマントとローブに警戒が集まっていた

 

まあ、無理もないだろう

ルール上は問題無いとはいえ、誰も持ち込みの装備など想定していない

 

規定のルールに則っとるのが当然なのか、ルール上の穴を突いた達也が一枚上手なのか

 

ここでは、おそらく後者なのだが

 

相手側にとっては不気味でしかない

 

三高選手『そもそも、あんなのに許可が下りるとは思えないけどな。』

 

吉祥寺ともう一人は違反ではないのか?と疑いを掛ける

 

将輝『いや、大会委員会にチェックを貰わなければならないからそれはクリアしているんだろう。まさかとは思うが、ジョージの【不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)】対策かもしれないな。』

 

しかし、将輝は論理的に考え、あの装備が許可が下りたものだと理解する

 

そして、それが何のために用意したのかも推測を建てた

 

 

吉祥寺『確かに、あの魔法は貫通力はないけど。ただ、布一枚で防がれるようなものでもない。…読めない、守夢 達也。この期に及んで、こんな隠し球を用意していたのか。』

 

将輝の推論にあのエンジニアとして圧倒的な力を見せた達也なら策の一つや二つ用意していたとしてもおかしくはない

 

そして、この三人は気付いていないだろうが、先の発言は相手を軽視し、見下しているに他ならない

 

無知が生む、相手が自分達より優秀だということを認めたくないのだ

 

将輝『気にするほどじゃないさ、ジョージ。それにあんな布切れ一つで俺達の勝利を阻めることは出来ないさ。だろ?』

 

十師族の一員である彼でさえ、そのことに気付いていない

 

もしかしたら、そういった意識がすでに勝敗が決しているかもしれない

 

吉祥寺『そうだね、将輝。』

 

将輝の根拠のない勝てるという発言に安心感を憶える吉祥寺だが、結果はやってみなければわからない

 

 

 

 

 

 

達也らを分析しているのは三高だけではない、もう一家あった

 

大会委員『九島先生、このような場所に如何されましたか?』

 

そう、魔法師の大御所と呼ぶべき御仁だ

 

九島 烈

 

現段階では、九島 烈本人か九島家のどちらかが達也に興味があるのかは不明であるため警戒が必要だ

 

九島『なに。一条の嫡子の戦う姿を見ておこうかと思ってな。それに、第一高校のエンジニアであった者が決勝まできたのだ。興味があってな。(ここまでの試合で常人ならざる力を秘め、忍術まで行使している。初日での仕業があの者ならば。そして…)』

 

大会委員の面々が不思議そうに尋ねるも観戦者と同様な回答をする烈

 

十師族である一条の嫡子がどのような戦いをするのか、そして、エンジニアとして一躍名を馳せた守夢達也がどう抗うのか

 

しかし、烈の本心は別にあった

 

初日の出来事と嘗て、経験したことのある古式魔法に似ている点、そしてもう一つ

 

大会委員『九島先生?』

 

自分達の問いに対して答えた後、眉間に皺を寄せて黙した烈に不思議な彼ら

 

九島『なんでもない。』

 

大会委員会の面々に気にするなと言い含め、その場を終わらせたのだった

 

 

 

 

 

 

 

試合の開始のカウントダウンが始まった

 

泣いても笑ってもこれが最後の試合だ

 

達也は目を閉じ、呼吸を整える

 

久しぶりに緊張してしまうが、悪くはない緊張感だ

 

 

達也『(来い、十師族。)』

 

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に自陣に魔法が現れる

 

しかし、それは瑠璃が砕ける音と共に一瞬の内に打ち消される

 

まるで、それは術式を押し潰すような

 

真由美『まさか、術式解体(グラム・デモリッション)!?なんて武器を隠し持ってたの!?』

 

初撃の偏倚解放を防いだなら未だしも、破壊するなど考えられる可能性は一つしかない

 

摩利『グラ…なんだ、それは?』

 

真由美の驚愕ぶりに摩利もただ事ではないのだろうと悟るもそれほどまでに凄いものだろうか?

 

しかも、高校三年間で初めて聞く名前だ

 

鈴音『術式解体(グラム・デモリッション)です。』

 

摩利や周りも名前が聞き取れなかったのか真由美に意識が向く

 

しかし、真由美は興奮状態で周囲の様子に気付いていない

 

鈴音が代わりに答える

 

摩利『それはそんなに凄いのか?確かに、一条の魔法式を破壊するほどだから相当だろうというのは解るが。』

 

確かに、達也の魔法力では将輝の魔法力には太刀打ち出来ないのは理解しているが、何が凄いのかが摩利や周囲のスタッフ達は解っていない

 

真由美『凄いなんてものじゃないわ。無系統魔法の超の付く高等の対抗魔法よ。圧縮された想子(サイオン)の塊をイデアを経由せずに対象物に直接ぶつけて爆発させ、そこに付け加えられた起動式や魔法式と言った想子(サイオン)情報体を吹き飛ばしてしまうの。あとは、射程が短いこと以外に欠点らしい欠点が無く、現在実用化されている対抗魔法の中では最強と称されている無系統魔法よ。でも、並みの魔法師じゃ一日かけても搾り出せないほどの大量の想子(サイオン)を要求するため使い手は極めて少ないわ。』

 

 

事象改変のための魔法式としての構造を持たない想子(サイオン)の砲弾であるため領域干渉や情報強化では防げない

 

砲弾自体の圧力がキャスト・ジャミングも寄せ付けず、物理的作用は一切無いためどんな障碍物でも防ぐ事は出来ないという厄介さ

 

あと、可能なのは強力な想子(サイオン)流で迎撃するか、想子(サイオン)の壁を何層にも重ねて防御陣を築く事でようやく無効化出来るということ

 

摩利『お、おぉ。…つまり、稀少な使い手ということだな?』

 

熱の籠った真由美の解説に思わず引いてしまう摩利

 

ここまで熱く語った真由美などついぞ見たことがないため、内容の理解が遅れてしまう

 

真由美『そうよ。これで解ったわ、彼が模擬戦で司波さんの魔法を破壊したのよ。全く、何処まで手の内を隠しているんだか!これ以上、何か隠し持っていても私は驚かないわ。』

 

模擬戦の時、深雪の暴走した魔法に真由美らは止めることも出来ず、手も足も出なかったのを涼しい顔して達也は止めたのだ

 

秘密主義にも程があると憤慨する真由美だが、秘密にしなければならないのだから仕方のない

 

摩利『…そう言えば、バスの時、【魔法式を吹き飛ばす魔法力はありませんよ】と言っていたな。…ということは。』

 

ようやく、冷静に物事が考えれてきたため、摩利はもう一つの状況を思い出していた

 

そう、達也は魔法力は無いと言っただけで他は無いとは言っていないのだ

 

単に自分達が深く考えれなかっただけのこと

 

鈴音『二回とも守夢君の仕業、いえ、おかげということですね。』

 

そのどちらも自分達の窮地を救っていた達也に恩しかない

 

鈴音は自分にも言い聞かせるように溢すのだった

 

 

 

 

 

天幕で客観的に見ても凄まじい光景ならば、対戦相手はもっと面喰らっているのは当然で

 

将輝は自分の作り出した魔法がいとも容易く破壊されて動揺していた

 

将輝『!?(なんだ?今のは錯覚か?いや、違う。)もう一度、確かめてみるか。』

 

頭をふり、切り替える将輝

 

今度は、二つ作り出すも瞬く間に達也によって破壊される

 

将輝『(間違いない。)術式解体(グラム・デモリッション)だ。』

 

確証を得た将輝は自らを落ち着けるように言葉にする

 

吉祥寺『…それしかないね。尚の事、数で勝負だよ。』

 

将輝と同様に吉祥寺も達也が術式解体(グラム・デモリッション)の使い手だと解ったらしい

 

しかし、作戦に変更はない

 

将輝『解っている。』

 

驚きはしたものの、将輝は実戦経験のある魔法師だ

 

どうやって攻めるべきかは解っている

 

 

 

 

 

 

 

愛梨『守夢 達也…恐ろしい男ね。(どこまで私達をこけにすれば、気が済むのかしら?…いえ、違うわ。彼は自分の出来る事を最大限にまで突き詰めた結果ということ。魔法力が無い分を別のもので。)』

 

愛梨も将輝vs達也の試合に興味があり、天幕で観戦していた

 

もっとも、将輝の魔法力で瞬殺と考えていたが、それが達也によって阻まれていることに恐ろしさを感じていた

 

そして、この試合により愛梨は魔法力が絶対だと信じていたが、達也の術式解体(グラム・デモリッション)で認識に少し変化がおきているのを愛梨自身は気付いていない

 

 

 

そして、こちらは氷の女王?様

 

深雪『(なんて膨大な想子(サイオン)を持っているの?おそらく、模擬戦の時の私の暴走を止めたのもバスの時もあの男の仕業。)』

 

達也の術式解体(グラム・デモリッション)を見て、舌を巻いていた

 

これなら、模擬戦とバスの魔法に納得がいく

 

水波『深雪様?』

 

ブツブツと聞き取りづらい声を出している深雪に水波か不思議そうな表情をする

 

深雪『!何でもないわ。(しかし、何故これを隠す必要があったのかしら?普通なら…いいえ、あの男の性格なら他人を馬鹿にした行動をとるわ。)…全く、忌々しい男ね。』

 

水波の気遣いに大丈夫だと答え、達也が何故、このような隠すような行動をしていたのかを考える

 

本来ならば、隠す必要性は無い

 

しかし、あの達也だ

 

あの生意気な態度(←いえ、単に、魔法力の無い人間を軽視している深雪さんの主観だけです。)ならば、今までの行動にも合点がいくため、認識を改めるまではいかなかった深雪だった

 

 

 

そして、達也を特別に気にかけているもう一人の人物

 

観客席から試合を観戦していた夕歌

 

夕歌『凄い。身体的な力でも魔法で強化した魔法師より強いわね。けど、魔法力に関してはイマイチなのね。(でも、それを補って尚余りある力。相当苦労したはず。達也君、益々貴方の事が気になるわ。)』

 

彼女は純粋に達也の生い立ちとその他人に見せない苦労を察しようとしていた

 

達也は夕歌に自分の事は何も話していないが、彼女は今までの試合から表面的ではあるが、達也の分析をしていた

 

達也にとっては迷惑な話だが、夕歌自身の事を知って欲しいならば、夕歌自身が達也を理解する必要はあると思っていた

 

そういう点においては真由美やほのか、雫、愛梨他数名は教えてという受け身のスタンスであるため達也からの歩み寄りが無ければ関係は変化しない

 

その行動は経験からくるものかもしれないが、生来の人間性が出てくるのだろう

 

ある意味、夕歌の大きなリードと言えるかもしれない

 

 

 

 

外野が様々な思惑をしている中、達也は将輝に対して感嘆を抱いていた

 

達也『(肉体面は成長しているな。干渉強度に関しては、流石十師族といったところか。)さて、どう攻略したものか…(ボソッ)』

 

術式解体(グラム・デモリッション)で防ぎつつ、加重系統の特化型CADで攻撃しても魔法師の無意識からの情報強化で簡単に防がれてしまっていた

 

流石の達也もここまで魔法力の差に開きがあると、笑ってしまう

 

だが、諦めの笑みではない

 

そんなこと始まる前から判っていたことだ

 

だからこそ、どのようにして当てるのかが重要なのだ

 

 

 

 

 

摩利『そのグラムデモリッションとやらは、聞く限りでは相当の想子(サイオン)が必要ということは守夢はパワーファイターということか?』

 

術式解体(グラム・デモリッション)が大量の想子(サイオン)を消費することは解ったが、ふと些細な事が気になった摩利

 

鈴音『そういう訳ではないかと、彼は古式魔法の弟子でもありますので。その表現の仕方をするならば、彼はオーラウンダータイプでしょうね。』

 

パワーファイター(イコール)想子(サイオン)を大量に保有するならば、他は全員スタイルが違うことになる

 

達也の場合は、強ち間違いではないが

 

しかし、十文字という例を出すと、尚更その方程式が変わってくる

 

真由美『胆力は凄いとは思うけど、魔法力は無いわよ?』

 

鈴音のオールラウンダーに魔法力は無いと訂正する真由美

 

鈴音『戦い方を表しているので、そこは関係ありませんよ。』

 

しかし、鈴音が言いたいのはスタイルというだけで魔法力や想子(サイオン)の量ではない

 

達也には戦い方が多数あるということだ

 

十文字『歓談中悪いが、その守夢が防戦一方だぞ?』

 

話し込んでいたのか、十文字から達也の戦況が芳しくないらしい

 

 

 

 

 

 

達也『やるな。(やはり、攻撃を止めさせないことにはこちらも動けないな。そろそろ、あの二人も動く頃合いだろう。)』

 

将輝の攻撃を防いでいても、攻勢に移れていない達也

 

ちらりと三高陣営を盗み見れば、モノリスの前にいた吉祥寺ともう一人が何やらしゃべっているのを確認する

 

次の瞬間、吉祥寺が一高のモノリスへ走り出す

 

レオと幹比古に吉祥寺の相手は任せてはいるものの、牽制は必要だろうと考えるも一条の魔法により阻まれる

 

先程までの攻撃とは違い、圧倒的な物量にモノをいわせる作戦に出てくる

 

予想はしていたものの、いざ対処するとなると面倒臭いため、迎撃しつつもある程度は避けていく達也

 

そのため、地面には深さ30cmの直径約1mの大穴が出来ていく

 

更に、増えていく偏倚解放に嫌気が差してしまう

 

これでは、破壊行動をしているのか自分に感じてしまうではないか

 

達也『…(仕方がない。)』

 

普段はしない目を閉じるという行動をわざと行い、精霊の眼(エレメンタル・サイト)を発動させる

 

精霊の眼(エレメンタル・サイト)

イデアにアクセスし、存在を認識することができる能力だ

 

今回は、将輝の魔法発動を確認しその場所を特定していく

 

将輝から放たれる魔法の位置などの情報を読み取り

 

そして、上空に現れた魔法式を現れた瞬間に破壊していく

 

一秒も経たず、無数の魔法式を破壊した達也に観覧席から歓声が沸く

 

 

 

山中『藤林の言う通りか、使ったな。しかし…。』

 

モニター越しに達也が精霊の眼(エレメンタル・サイト)使ったことが判った

 

それほどまでに魔法が現れてから破壊するまでの時間がこれまで以上に速いのだ

 

凛『あの一族に目を付けられると?』

 

これでリスクを一つ背負うことになったと山中

 

しかし、凛や浩也はそう思っていない

 

山中『そうだ。あと、もう一つ。』

 

浩也『かもしれないなぁ。だが、あの一族は魔法力を絶対としている。そして、自らを兵器としている。魔法力の無い達也は受け入れられんよ。…というか達也はやらん。』

 

浩也や凛は目をつけられるであろう相手が何を心情にしているのかも解っているため、そこまで心配はしていない

 

また、他の家が達也に接触してこようが、達也がはね除けるに違いない

 

かといって、純粋に達也が欲しいと言ってきても渡すつもりは毛頭ないが

 

 

結那『勿論です。』

 

加蓮『そうそう。所有権だのと言ってきたら、叩き潰してあげるんだから。』

 

この娘二人は達也のことになると暴走しがちだが、ここまで物騒な発言が飛び出してくるとは思わなかった

 

浩也『山中君の言う通り、あの御仁には気を付けてはおこうか。』

 

風間『無論だ。』

 

しかし、山中のもう一つについては懸念があったのは確かだ

 

はしたないですよと、凛が諫めつつも達也の義父である浩也と風間はこちらも準備だけはしておくかと確認しあうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『今、守夢君、一条選手の魔法が何処からくるか判っていたようだったわね。』

 

また、天幕でも達也の迎撃の速さが不可解だということが話題になっていた

 

魔法が現れてから術式解体(グラム・デモリッション)で迎撃するまでに魔法を認識する必要があるが、先程の達也はその認識に時間が無かったように見えた

 

まるで、そこに現れることが判っていたかのように

 

鈴音『それこそ、第六感というものではないでしょうか?九重 八雲の弟子ならば、そういった修行はしていると思われますが。』

 

真由美『…そうよね。いつも彼に見透かされているから、下手に勘繰ってしまったわ。』

 

真由美の疑いもわからなくはない

 

しかし、達也がそこまでの千里眼に似た眼を持っているとは考えにくい

 

そもそも、そんな代物を人間に偶然の産物として得られるはずもない

 

徒人ならばーー

 

摩利『気持ちは解らなくはないがな。しかし、このまま防戦一方では、勝てないぞ?互いに距離を縮めている分、照準、魔法の発動も速くなる。守夢の攻撃は少ないためか防御しかしていないぞ?』

 

最初にあった600m以上の距離も互いに歩を進めているため、縮まる距離が倍だ

 

そのため、攻撃力の弱い達也は将輝の情報強化のみで防がれ、逆に将輝の魔法は自身の情報強化などでは力及ばずで防御出来ない

 

そのため、術式解体(グラム・デモリッション)で一つ一つを破壊していくしかない

 

魔法力の差が浮き彫りになってくる

 

十文字『それに想子(サイオン)も無尽蔵にある訳ではない、分が悪いな。』

 

真由美『(達也君…。)』

 

十文字の言うことも一理ある

 

術式解体(グラム・デモリッション)を何発も使えるからといっても無限に想子(サイオン)があるわけではない

 

しかし、達也をそこらへんの常識で当て嵌めるなど愚の骨頂だ

 

十文字の懸念を気にしつつも、真由美は祈るしか出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、一高陣営

 

モノリスより約50m離れた位置でレオはある人物を待ち構えていた

 

吉祥寺『(来たね、…一人か。嘗められたものだね。それならそれで、こちらは…。)楽だね!』

 

それが、三高の頭脳であるカーディナル・ジョージだ

 

そして、基本コードという強力な手札を持つ人物でもある

 

レオに手を向け、魔法を発動させる

 

レオ『フンッ!』

 

しかし、レオは身に付けているマントを外し、風に靡かせ広げる

 

そこにレオの得意分野である硬化魔法を展開する

 

そうすると、レオのマントはピンと鉄板のように張ったものになる

その角を地面に突き刺し、自分の姿を隠す巨大な遮蔽物として使うようだ

 

 

吉祥寺『くっ!(見えない。これでは不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)が使えない。)』

 

そんな思考に気を取られた瞬間だった

吉祥寺の感覚では僅かな時間かもしれないが、その時間がレオに攻撃の余裕を与える

 

 

レオ『うぉぉ!』

 

達也自作の小通連を武器に二高にモノリスに鍵を撃ち込まれながらも見事に守りきったレオ(作中での活躍は見えなかったものの、きっちり成果は出してます)

 

飛翔体を伸ばし、吉祥寺めがけて振り抜く

 

 

吉祥寺『ちっ』

 

小通連の刃を避けるため、跳躍の魔法を使う

 

攻撃を凌いだと思いきや、左から風が巻き起こる

 

それに気付き何とか凌ぐ吉祥寺

 

吉祥寺『2対1か。(これは、幻術か!?もう一人も狙いが定まらないようにしてきてる。あの服にはこんな狙いがあったのか。これでは不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)が使えない!…守夢 達也め。)』

 

二人が行く手を阻み、吉祥寺も上手く事が進まないことにやきもきする

 

そして、加勢に来た幹比古にも不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)の照準を定めるも幹比古が三人四人と増える

 

視界がボヤけたのかと瞬きをするも変わらない

 

幹比古の魔法が思いの外、吉祥寺の余裕を奪い、レオに更なる追撃を許してしまう

 

 

レオ『もらった!うおりゃあ!』

 

吉祥寺『しまっ。』

 

気付いたときには遅く、眼前に小通連の刃が迫る

 

やられる、そう覚悟した

 

レオ『ぐあ!』

 

しかし、レオのがら空きの背中を圧縮された空気が襲う

 

攻撃の瞬間は、必ず自身の守りが薄くなる

 

そのため、攻撃のチャンスは自分のピンチにもなるのだ

 

吉祥寺『…っ、将輝!』

 

誰が自分を守ってくれたのかは一目瞭然

これほどの威力は限られた人物しかいない

 

見やれば、自分に視線を投げかけていた

 

ありがたい援護射撃で吉祥寺も調子を取り戻す

 

幹比古『なっ!?ぐうぅ…』

 

幹比古は思わぬ相手の援護の威力にたじろぐ

 

その所為でローブに掛けていた魔法が切れ、吉祥寺の不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)対策が意味を成さなくなった

 

慌てて、ローブに魔法を掛けようとするも、その大きな隙を見逃してくれる訳もなく

 

体に加重魔法が掛かり、地面に伏してしまう

 

金縛りにあったかのように指一本すら動かせず、全身が圧迫され、骨が軋むように感じる

 

 

 

将輝『…(よし、これで…!?)』

 

達也を攻撃している合間を縫って、相棒である吉祥寺と一高のディフェンダー達の様子を窺っていた

 

理由はマントとローブだ

用意したのは守夢達也だと理解するのはさほど時間は掛からないが、効果は不明のため動向を把握しておく必要があった

 

そのお陰で、相棒の不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)対策で危うく相棒がやられかけたのを防ぐことは出来た

 

二人の内一人は戦闘不能にした

もう一人は相棒だけで大丈夫だろう

 

これで、自分が守夢達也を仕留めれば三高の優勝だと

 

ーーーが、

 

忘れてはならないのは一つ

 

それは達也が常人離れした駿足の持ち主であることだ

 

最初にあった600m以上の距離も半分近くに縮まっている

 

障害物の無い草原ステージでその距離ならば、達也にとって余裕の間合いだ

併せて、将輝がレオ達に意識を向けた僅か数秒で楽に距離を縮めることが出来た

 

長々と説明したが、結論から言うと将輝の油断で達也が5m近くにまで距離を詰めていたということだ

 

 

将輝は数少ない実戦経験のある魔法師だ

 

その5mという距離は将輝を恐怖させた

 

更に、将輝を脅えさせたのは達也が纏っていた殺気だ

 

その二つが将輝に咄嗟の防衛本能を起こさせる

 

 

刹那の間に十六の魔法が達也を囲む

そのため、力を制御して発動させることなど不可能

 

一発一発が重傷以上の傷を負わせるに十分な魔法が十六発

 

将輝『(しまった、加減が…。頼む、避けてくれ!)』

 

発動した瞬間に、自分のミスに臍を噛む

 

しかし、発動したものをキャンセルすることは出来ない

 

 

 

 

対抗魔法である術式解体(グラム・デモリッション)想子(サイオン)の圧縮弾で魔法式を吹き飛ばす技術

 

強引であるために効率は極めて悪い

 

あまり知られていないが魔法式にも強度がある

干渉力の強い魔法式はその構造を維持しようとする力が強いサイオンの情報体だ

 

十師族である一条将輝のそれは相当なもので、達也といえど、並大抵のことでは破壊することは出来ない

 

力ずくで消し飛ばそうとするならば、それこそ、並の魔法師が一日では絞り出せないほどの大量の想子(サイオン)を圧縮する必要がある

 

 

それも一瞬で十六発分をーーー

 

 

最高機密の魔法を使うという選択肢は無い

 

間に合わないと瞬時に悟りつつも、この思考とは別に、この状況を好機と捉えていた

自分の魔法力では突き崩せなかった牙城が間合いを詰めることで将輝に精神的な余裕を失くさせることが出来た

 

しかし、術式解体(グラム・デモリッション)で迎撃することは変えない達也

 

そのため、無惨にも時間切れという形で二発分の圧縮空気が達也を襲った

 

 

 

真由美『達也君!』

 

摩利『守夢!』

 

天幕のモニター越しでも判るほどの圧縮空気の威力に悲鳴があがる

 

他のスタッフ達も達也を心配する声があがった

 

 

ほのか・雫『達也さん!』

 

観客席から見ていた二人も達也が吹き飛ぶ様子に悲壮感が表れる

 

 

 

 

 

 

 

【肋骨骨折 肝臓血管損傷 出血多量を予測】

 

【戦闘力低下 許容レベルを突破】

 

【自己修復術式/キャンセル】

 

いつもなら自己修復術式はオートで発動させるが、この試合に限っては止めていた

 

というよりも、それすらも勝つための手段として考えていたからだ

 

一つ誤算だったのは将輝の圧縮空気が予想以上だったことだろうか

倒れることはなかったが、体が衝撃に耐えきれずに吐血する

 

 

達也『ガハッ(生身で受けるべきではなかったか、ここまで、成長しているとは思わなかった。)』

 

いくら鍛えているとはいえ、内臓までも鍛えることは難しい

 

しかし、鋼鉄にまで近い肉体は傷は負わなかったものの、肉体の内側を破壊するとは、魔法とは恐ろしいものだと感じた達也

 

 

将輝『なっ!大丈…』

 

まさか、意識があるとは思っていなかった将輝

 

思わず駆け寄ろうとするが、そのような行為は愚かに等しい

 

 

達也『油断が過ぎるぞ、十師族(あの頃から中身は変わっていないとはな。)』

 

言い終わらない内に左手を地面に叩きつけ、放出系統の魔法で達也の体内にある電子(静電気)を放出し、将輝の体を麻痺させる

 

大抵の人間は足腰の痺れで体勢を崩す

将輝も例外ではない

だが、僅かな痺れのため数秒のもので回復は早い

 

しかし、その僅かな時間でも達也にとっては十分すぎる時間だ

 

将輝『!?(吐血をしたのに、動けるのか!しかも、さっきの言b…)しまっ…』

 

片膝をついた将輝だが、端から見やれば達也に頭を垂れているようにも見えた

 

問題はそこではない

 

片膝をついたその頭の高さが達也にとって楽に攻撃が出来る位置ということだ

 

敵から視線を外してはならないのが戦場の常(ここはただの親善試合)だが、将輝は咄嗟に視線を落としてしまう

 

慌てて、頭を上げて視線を達也に向けると達也の右手が自分の顔の左側の耳元にあった

 

達也『じゃあな。(高校生になり成長したと思ったが、まだまだ子どもか)ボソッ』

 

将輝『まっ…(どういう意m…)』

 

待てと言い終える前に

 

まるで、悪人のような台詞と同時に達也の右手から乾いた大音量の破裂音が発生する

 

その音は瞬く間にステージを越えて観客席まで響き渡る

 

誰もが、音の大きさに耳を塞ぐ

 

 

 

魔法を行使していた吉祥寺ですら、そのあまりの大音量に振り返る

 

 

大音量の発生源と思われる達也と将輝を確認すると、あろうことか将輝が片膝をつき、見下ろす形で達也の右手が将輝の頭の横にあった

 

恐らく、音の発生源は達也のあの右手なのだろう

将輝の左耳に右手をやり、中指と親指を互いに押さえつけながら、一気にずらして音を発生させたのだ

 

要は指を鳴らしてその音を増幅させたのだ

その証拠に右手には特化型の振動系統のCADが着いていた

 

 

 

審判や選手、観客席等のこの試合を観戦している全員が見守る中、片膝をついていた将輝がグラリと地面に横たわる

 

次いで、達也も片膝をついた

そして、先程の吐血よりも多く、血反吐という形で口から溢れだす

 

達也『ガフッ!ゲホッゴホッ!…ハァァ…疲れた。少し休憩するか。(図体はでかくなり魔法の威力も上がったが、精神はまだまだだったようだな。だが、俺も油断したのは同じか。生身で受けるべきではなかったな。あとで嫌味の一つでも…いや、泣かれるかもな。)』

 

将輝の魔法から受けたダメージも何とか堪えきった達也だが、自身に何も魔法をかけずにはさすがに堪えた

 

これほどまでの威力とは思わなかったため、完全に達也の油断である

しかし、流石は一条と言ったところか

 

並の魔法師では達也に傷一つ付けられないところを将輝は達也に相当なダメージを負わせたのだから

 

そして、今回の試合も見ているであろう家族達にも心配をかけてしまった

そこについては達也も反省しかなかった

 

 

 

 

 

 

 

摩利『…なんて、体をしているんだ。奴は不死身なのか?』

 

将輝に勝利した達也に摩利達は畏怖していた

普通ならば、致命傷を与える位の魔法を達也は吐血する程度の傷にとどめ、尚且つ一条将輝を戦闘不能にしたのだ

 

十文字『確かにな。おそらくだが、修行では肉体の活性までやっているのだろう。それでも一条の魔法には耐えきれなかったか。急いで手当てをしなければならないだろうが、まだ試合中だ。医療班の手配だけはしておこう。服を着ているから判らんが、外傷と内側がどれだけ損傷しているかの見当がつかないからな。』

 

鈴音『そうですね。十師族一条選手の魔法を生身で受けた反動は想像もつきませんからね。…命だけでもあって良かったです。』

 

十文字や鈴音は将輝から受けた傷を心配する

 

摩利『…?(市原もなのか?それよりも…)!?真由美?お前何で泣いてるんだ?』

 

鈴音が小さく呟いた言葉に摩利は驚いていた

 

少し、場が静かだと思っていたら、肝心の真由美が静かすぎる

 

気になり、表情を窺えば何故か泣いていた

 

ギョッとして、肩を掴む

 

真由美『……て……た。』

 

摩利『?』

 

何か言っているが、聞き取れない

 

真由美『…か…た、良かった。…達也、君が。達也君が、…一条選手の、規定、違犯のオー…バー、アタックで殺…されなくて、良か…ったぁ。』

 

嗚咽しながらたどたどしく言葉にするも単語単語で文章にならない

 

言い終えれば、また大号泣な真由美

 

摩利『わ、わかったから。落ち着け、な?』

 

真由美の大号泣に呑まれてしまった摩利

 

赤子が何故泣いているのか解らないという状況と似ている

 

真由美『だ…だって、あんな魔法を生身で受けたら死んじゃってたかもしれないのよ!…試合前に少し無茶するって言ってたけど。…こ、こんな無茶は聴いてないわよ!達也君の馬鹿~!!』

 

ようやく、落ち着いてきたのか

 

今度は、はち切れんばかりの声で達也に対して文句を言う

それと同時に真由美はあることに気が付いていない

 

摩利『…確かにそうだな。他人に死ぬか生きるかの選択を見誤るなと言っていた奴が、自分だけは例外で、自分は大丈夫ですみたいに魔法を受ける達也君は大馬鹿にもほどがあるなぁ。』

 

摩利は少しニヤニヤしながら、真由美の言葉に同意する

 

というよりも、更なる真由美の墓穴を煽っているようにも見受けられる

 

真由美『そうよ!達也君ったら酷いのよ?二つの競技を優勝したご褒美で名前呼べるようになったのにね?ようやく、これから距離を縮められるかな?と思ってた矢先に、こんな自殺行為みたいなことされたらもう、何がなん…だ……か…。』

 

ここまで感情的な真由美も珍しいため、誰も真由美を止めない

 

それどころか、普段見せない素に近い真由美が見えてレアだと思っているのだ

 

 

だが、その墓穴に気付いても時すでに遅し

 

摩利『ほう?真由美よ、た・つ・や君だって?』

 

先程までの真由美を心配する表情から一転、良い肴が入ったと謂わんばかりの表情の摩利

 

真由美『ち、違うのよ!あの、これには色々と訳があってね?』

 

摩利『そうか。大変な事情があるわけか。いや、情事か?』

 

真由美は慌てて、撤回を試みるも何の効果も無く

 

何故か摩利は嬉しそうにしていた

 

真由美『摩利!』

 

鈴音『会長、そのお話、後程たっぷりと訊かせて下さい。』

 

真由美『り、鈴ちゃん!?なんか、恐いんだけど?』

 

 

摩利の嬉しそうな表情とは反対に鈴音の背後には般若が見えた真由美

 

突如豹変した鈴音に真由美は慄いていた

 

 

 

 

 

吉祥寺『…将輝が負けた?そんな!』

 

吉祥寺は将輝が倒されたことに衝撃を受けていた

 

自分達の立てた作戦は完璧の筈だった

いくら、達也が規格外の想子(サイオン)量の持ち主で術式解体(グラム・デモリッション)を使えたところで将輝に勝てる筈はないと考えていたからだ

 

しかし、結果は変わらない

 

三高選手『吉祥寺避けろ!』

 

仲間の声にハッと我に返ると、頭上に雷撃が見えた

 

慌てて、後ろに飛び退き回避する

 

吉祥寺『!?(まだ、立てたのか?)』

 

視線を向ければ、倒したと思われた幹比古が立ち上がろうとしていた

 

 

 

 

 

幹比古『(勝てたんだね、達也。凄いね、本当に二科生とは思えない。僕も負けていられない。こっちは達也がくれたローブとCADで勝ってみせる!)はあっ!』

 

十師族である将輝を辛くも勝利したであろう達也に手放しで称賛する幹比古

 

達也がたった一人で最大の障壁を打ち砕いたのだ

弱音を吐く訳にはいかない

 

吉祥寺に受けた魔法のダメージを感じながらも魔法を行使していく

 

 

精霊魔法は精霊と対話して術式を完成させる

 

しかし、今回達也が幹比古に提示した方法それは

一連の連続動作として、結果を一々確認せずに処理を進めていくというものだ

 

先程、幹比古が起動した魔法の数は五つ

 

基本、汎用型のCADでの操作は二桁の数字と決定キーのため、幹比古は十五回操作している

 

通常の魔法の発動速度の五倍だが、これでも大幅に短縮されたといえる

先の説明の通り、精霊と対話しながら術式を完成させるよりも遥かに短いのだ

 

 

吉祥寺『うわ!くっ!』

幹比古が一つ目の魔法を行使する

 

地面に手を叩きつけると地面が揺れる

勿論、全体が揺れているわけではない

表面を振動させているだけに過ぎないというのは吉祥寺にも理解出来ているが、そのように錯覚するのは仕方がない

 

次いで、地面が割れていき、衝撃が吉祥寺まで届く

 

これも錯覚というか勘違いで

実際には地面に圧力を掛けて割れを押し広げたが正しい

 

だが、このままでは幹比古の魔法の餌食になるため、加重軽減と移動の複合魔法で回避しようとする

 

幹比古『まだだ!』

 

しかし、それを見逃さない幹比古

不自然に草が吉祥寺の足に絡み付き、跳躍を妨げる

 

吉祥寺『こっの!』

 

不自然に絡み付くそれに草に魔法をかけたのか?と疑う

 

しかしそれは、吉祥寺の思い込みで、実際は風の魔法で草を媒体に吉祥寺の足に絡み付かせたというのが事実だ

 

そして、地割れが吉祥寺の真下に到達し地面が陥没する

その影響により草も吉祥寺ごと僅かだが、引っ張られる

 

こんな自然に命を吹き込むような魔法は自分の知識にない

 

そんなことを連連考えるよりも更なる跳躍魔法で草から逃れた吉祥寺だが、これだけで攻撃が終わらない

 

幹比古『くらえ!』

 

跳躍により更に上に雷撃を用意していた幹比古

跳躍の距離も相まって、回避は不可能

 

幹比古の魔法が吉祥寺を貫いた

 

【地鳴り】【地割れ】【乱れ髪】【蟻地獄】【雷童子】と一見、一つの纏まった魔法に見えるが各々が確立された魔法だ

 

それを一連の自然な魔法にしたのは幹比古の手腕によるもので、決して達也だけのお陰ではない

 

 

 

ーーーしかし

 

幹比古『ハアッハアッ(な、なんとかやれた。これで…)』

 

吉祥寺を倒せたものの、もう魔法力はない

 

吉祥寺も戦闘不能で残るはあと一人

 

三高選手『このやろう!』

 

だが、その一人も尚武の三高だ

 

【陸津波】

移動系魔法で土を掘り起こし、それらを塊としてぶつける

 

本来ならば、想定される規模は大きいが、今回は人一人分を飲み込める程度の大きさだ

苦手の魔法なのか、威力を抑えているのかは不明だ

 

しかし、幹比古を戦闘不能にするには十分な威力といえた

 

幹比古『(結局、負けちゃったな。)…?』

 

大量の土砂が幹比古に迫るも、回避するほどの力は残っていない

 

諦めた直後だった

 

風を切る音と共に近くで硬い物が地面に突き刺さる音がする

そして、その物体が幹比古を守る盾となる

 

それはある人物が障壁として使っていたマントでその人物は一条将輝により早々に戦線を離脱していたはず

 

レオ『うおぉぉ!』

 

三高選手『ぐぁっ!』

 

レオの放った小通連が最後の一人の腹部に直撃し、意識を刈り取るもその直前に試合終了のブザーが鳴る

 

だが、観戦していた人間全員が不思議に思う

 

まだ倒れていなかったのに試合終了はおかしいと

 

 

しかし、理由はすぐに解った

 

それは、倒れた将輝の横で満身創痍であったはずの達也が、いつの間にか三高選手の隙をつき、モノリスのコードを打ち終えていたのだった

 

 

結果、第一高校の完勝という形で締め括られるのだった

 

 

 

 

 




いかがでしたか?
①自己修復術式をキャンセルさせて痛い目させてしまいました。
②将輝は達也の言葉が理解出来たのか(笑)
③鈴音さんがこれから追い上げをみせるのか、それとも真由美さんがリードを保ち続けるのか
④愛梨さんの心境の変化ですね。
⑤九島烈がどう動くのかお楽しみに。

それでは、次話も読んでいただければ嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

24話

2月…ハッピバースデートゥーミー?
1ヶ月で書けた…(汗)


真由美『…守夢君。申し開きはあるかしら?』

 

達也『いえ、何もありませんが?』

 

試合が終わり、体を休めようかと考えていたところ真由美達より天幕に呼び出されていた

 

只でさえ、試合後で疲れているところにおかしなインタビューのようなものに出くわし、軽くあしらって来た後がこの様とは

 

我ながら厄介事に好かれ過ぎではないかと呆れる達也

 

 

摩利『そうか。だが、お前が何もないだけで我々は思うところはあるぞ?特に真由美はな。』

 

優勝を果たしたというのに素っ気ない達也だが、前言通り九校戦に興味がないからだろう

 

だが、此方は言いたいことが山ほどあるのだ

 

真由美『ちょ、摩利!』

 

こんなときにまで茶々を入れる摩利に達也は何故、そこで会長の名前が?と表情は変えずに考える

 

鈴音『そうですね、会長は守夢君のことを達也君と呼ぶほどに親しい間柄になったようですから。』

 

しかしその疑問は真由美の隣にいた鈴音によって解消される

 

よりにもよって、公衆の面前で自分の名を口にするとは

 

これではまるで、自分が他人に気を許しているようではないか

 

そんなことをさせるために名を呼ぶ許可をしたわけではない

 

達也『(これだから、十師族、魔法師というのは嫌いなんだ)ボソッ』

 

若干ではあるが、苛つく達也

 

名を呼ぶ許可をしたのも達也自身であるため、怒り全てが真由美に向くのは筋違いというもの

 

この状況を終息させるには原因を排除するのが最短距離だ

 

対処療法など何の役にも立たない

 

鈴音『?何か仰いましたか?』

 

どうやら独り言(毒舌)に気付かれたようだが、内容まで聴かれなかったようだ

 

達也『何もありま…いえ、一つありましたね。』

 

この際、ちょうどいい

 

一つ、釘を差しておこう

 

摩利『なんだ?真由美に愛の囁きか?』

 

真由美『摩利、いい加減にしないと…』

 

まだハイテンションな摩利は真由美を誂おうとするが、半分キレかけの真由美に気圧される

 

摩利『お、怒るな真由美。すまない、つい親友に春が来たか?と思ってしまってな?』

 

流石にCADを持ち出されては降参するしかない

 

それでも、真由美に気になる人物が出来て、感情的になってくれるのは素直に嬉しいのだ

 

真由美『はぁ~。次はないわよ?それで守夢君、何か相談したいことがあるなら言ってね?怪我の具合も診ないといけないし。』

 

素直に謝られては引き下がるしかないだろう

 

この話は終りと、達也に向き直す

 

達也『では、遠慮無く。これ以上皆さんと関わりを持つと面倒事が増えそうなので、魔法師、特に十師族やナンバーズとは距離を…いえ、これ以上の干渉を止めていただければと思います。怪我に関しては問題ありませんので。肋骨骨折と肝臓が少しやられている程度ですので。一晩…いえ、九校戦が終了するまでの間は不要な接触は止めてください。その間には治しますので。』

 

全員『!?』

 

なんと傲岸不遜な物言いなのだろうか

 

しかも、あろうことか十師族やナンバーズの人間に喧嘩を売る始末

 

実を言えば、ほのかや雫もこの場にいた

 

その状況も考えて達也は言い放ったのだ

それを聴いていた彼女達にとっても衝撃を受けたのは間違いない

 

十文字『それは聞けない相談だ。皆、お前が一条からのオーバーアタックに死にかけたと思っているからだ。すぐに病院にでも…』

 

悲しみや怒りといった負の感情が渦巻く中、十文字は異を唱える

 

十文字の場合は、達也の怪我の具合を心配しているための言葉といえる為、真由美やほのか達とは異なる

 

普通の人間なら、重傷どころか重体になっていたかもしれないのだ

いくら達也が人間離れした力を持っていたとしても、心配なのは変わらない

 

達也『だから、それが不要だと言ったはずだぞ?十文字。』

 

相変わらず我の強い発言に昨日の今日で懲りていないというか、反省すらしていないらしい

 

服部『貴様、また会頭に対して。』

 

昨日と同様な達也の言葉遣いに服部は達也に詰め寄る

 

達也『あぁ、申し訳ありません。つい、皆さんのお節介が過ぎるなと少し苛ついてしまいました。モノリス・コードに出れば優勝しかありません。そもそも、皆さんからの要望は総合優勝では?ならば、三高特に、一条選手を潰…失礼、抑えなければ、完全な勝利とは言えない。』

 

明らかな棒読みな謝罪

 

そして、達也もそれを隠そうとしない

昨日の一件以降、達也は言葉遣いは丁寧語は努めているものの、チラホラと見える容赦の無い言葉の数々

 

入学初期と比べてもあまり変わらないが、最近の言動は明らかに棘のある言い方をしている

 

摩利『それはそうなんだが。』

 

達也の言葉に摩利も反論は無い

 

寧ろ、感謝しかない

 

だが、頭ではわかっていても感情は違うのだ

 

達也『そして、私が優勝を諦めても残りの二人が負けるために出場するとでも?』

 

更に達也は畳み掛ける

 

達也やスタッフ全員が優勝を断念する理由があったとしても、一緒に出場したレオと幹比古がそれを受け入れるとは限らない

 

真由美『それは守夢君が説得を。』

 

達也『出るからには優勝を目指す。それが当然では?実際、勝ったのでこれ以上の説教は止めてください。私が肋骨を骨折しているのをお忘れで?こうして立って、話しているのもしんどいのです。では、部屋に戻りますので誰も部屋に近づかせないでください。明日は、渡辺先輩の最終調整もありますので。吉田さん、西城さん。ゆっくり体を休めて下さい。西城さんは一条選手の圧縮空気と吉田さんは吉祥寺選手の加重魔法を、外傷は無いとはいえ、ダメージとしては相当の筈ですから。』

 

真由美達は一体何を達也に求めているのか

 

戦術や戦略、CADの調整等は何とか出来ても人間を意のままに操ることは不可能だ

 

それに、やる前から諸手を挙げて降参しますなど愚かに等しい

第一に目標が無ければ前には進めないのだ

 

何も考えずに行動しても中途半端に終わる、それこそ真由美達の要望の総合優勝など夢のまた夢だ

 

力及ばず優勝を逃すのは仕方がないが、実力があってもいい加減な気持ちで試合に臨んでも勝てるわけがない

 

これ以上、不毛な各々の主張を張り合ったところで歩み寄りがなければ理解し合えないのは達也は解っていた

 

しかし、達也は理解してやる理由も無い

 

こちらの要望と二人を休ませるため達也は天幕から出ていく

 

摩利『待て、守夢!』

 

無理矢理肩を掴もうとするも空を切り、殺伐とした空気だけ残った

 

 

 

レオ『なぁ。俺達、場違いな所に来てないか?』

 

幹比古『…』

 

一連のやり取りを傍観していたレオと幹比古は何とも言えない表情をするだけに止めた

 

 

 

 

 

 

 

将輝『待ってくれ、守夢。お前に聞きたいことがあるんだ。』

 

将輝は達也を問い詰めていた

先程、達也が言っていた言葉だ

一体、何を思って向けられた言葉だったのか

 

しかし、姿は達也のようで達也ではない

それは過去の記憶が見せる幻影と達也が合わさったもの

 

将輝の静止の言葉も届かず、達也(幻影)は歩き去っていく

 

……き……さき…

 

将輝『頼む、待ってくれ。守夢、待て。…待てー!!』

 

何度も呼び止めようと叫ぶもその姿は小さくなっていき、ついに見えなくなった

 

…て、……き…

 

…お…て、…き……さき………まさき…将輝…

 

まるで、自分では手の届かない場所にいるかのように錯覚してしまう

 

暫くして、自分の名を呼ぶ声に気付く

 

しかし、その声はどこか遠くに聴こえる

 

将輝『?ジョージ?何処だ?』

 

周囲を見渡しても相棒の姿が見えない

 

それどころか、辺り一面が暗闇で何も見えない

 

 

起きて、将輝…!

 

そして、先程よりも大きな声と共に眩い光が将輝を覆った

 

 

 

吉祥寺『将輝!』

 

将輝『!!…ジョージ。…そうか、俺達は…いや、俺は敗けたのか。』

 

相棒の声でようやく覚醒する将輝

 

どうやら、夢を見ていたようだ

 

しかも、一番見たくない光景で

魔法力の無い達也とある人物が被るとは

 

ふわふわと実感がなかったものが、今頃になって敗北という将輝としては有り難くない苦しみがようやく襲ってきた

 

吉祥寺『将輝だけの所為じゃない。僕もたった一人に負けた。』

 

まさか将輝が負けるとは思っていなかったため、動揺が敗因に繋がったわけではない

 

純粋な力比べかといえばそうでもない

 

しかし、負けは負けだ

 

将輝『気に病むなよジョージ。』

 

膝の上で拳を力の限り握る吉祥寺を励ます

 

愛梨『そうよ、私達も彼、守夢達也に敗けたのよ。貴方達だけが気に病む必要はないわ。』

 

将輝『一色か。結局、お前以外、優勝出来た人物はいないのか。』

 

そう、現段階ではエンジニアを含め、達也と戦って唯一の勝利者が愛梨なのだ

 

十師族である将輝でさえ、達也に敗けたのだ

 

誰も責めることは出来ない

 

先程の観点から言えば、十師族に勝つという所業を為した達也はどうなのだろうか?

言葉だけでは表現するのは不可能だろう

 

 

一色『結果だけを見ればね。けど、私の場合も一杯食わされたと表現すべきかもね。』

 

愛梨自身、優勝したことは一安心だが、満足のいく結果とは思っていなかった

 

平凡な選手に全力を出さないといけないとは師補十八の家の者として恥ともいえた

 

吉祥寺『それにしても、大分魘されていたけれど大丈夫かい?』

 

将輝『!…そうだった。(…まさか、あいつが?…いや、そんな筈はない。あの時の最年少は俺だけだ。軍がそんな徴兵をする筈がない。…だが、あいつの言葉はあの時の俺を知っている口振りだった)…親父と奴に問い質す必要があるな。』

 

さきほどまで魘されていたとは思えないほど、ハキハキと話す将輝に吉祥寺も安心したようだ

 

その言葉を聞いた将輝は、ハッと我に返る

 

試合を決定付けた達也と将輝の攻防中、自分に達也が呟いたのだ

あの言葉の真意が聴きたい

 

 

吉祥寺『将輝?』

 

ブツブツと呟き、将輝が何を思っているのかが窺いしれない

 

将輝『いや、何でもない。』

 

これは他言無用だ

十師族間でさえ、周知すべき内容ではない

 

秘密裏に行う必要があるだろう、仮に取り越し苦労だったとしてもだ

 

三年前のあの作戦に自分以外の二十歳に満たない人間が参加していたなどあり得ないと信じたい将輝

 

 

愛梨『…(一条君が彼、守夢達也に戦闘不能にされる間際。彼は一条君に話し掛けているようにも見える間があった。そして、それに反応して一条君が問い詰めようとしていた。)…一体、彼はどれ程の秘密があるというの?(ボソッ)』

 

その様子を少し離れて見ていた愛梨は第三者視点から試合を観ていたため、吉祥寺ではわからない将輝の思考が僅かだが理解出来ていた

 

将輝と達也の間に一体何があったのか、正確には将輝が知らない何かを達也が知っている可能性があるということ

 

一般家庭の出身というにはあまりにもあり得ないほどの能力の数々

 

古式魔法に怪力ではなく、剛力と言って差し支えない筋力に自己加速術式以上の駿足さ、そして、十師族である一条将輝の本気の魔法を受けてさえ、吐血するだけに止まった頑丈な身体

 

頭脳面においても、エンジニアとして選手を優勝に導いた実績と今年に発表された飛行魔法を選手に使用させた手腕

 

文武両道という言葉では言い表せない

 

魔法力が無いというだけで、天は一人の人間に対してここまで愛するのかと嫉妬してしまうほどに

 

それほどまでに達也はこの九校戦いや、魔法師という存在が生まれて以来、史上類を見ない存在であることには間違いなかった

 

 

 

 

 

 

 

浩也達の部屋を訪れると五人以外の気配が複数あったが知った気配のため、何気無しにノックをして入室したのだがー

 

 

達也『…ただい…m…。』

 

ただいま、と言いかけた達也だがそれを止めた

 

それと同時に冷や汗を額から一筋垂らす

 

凛『あら?遅かったわね…それで?』

 

達也が入室してすぐに口を開いたのは凛だった

 

その口調は愉悦混じりであるものの、声のトーンが低いのは気の所為ではない

 

おまけに、達也に問い掛けているような台詞であった

 

 

達也『(完全に忘れていた。不味い、非常に。結那に加蓮、響子さんまで。)……給料三ヶ月分で良いだろうか?』

 

そして、達也に関しては珍しく、目が泳いでいた

 

そんな理由は一つしかない

 

それは、結那、加蓮、更には響子までが涙腺を崩壊させて達也を睨んでいるからだ

 

本当は、今すぐにでも抱き着きたいのを必死に堪えている三人

 

もし、まだ達也が怪我を治していなかったら、その衝撃で更に怪我をさせてしまうかもしれない

 

それにあの試合で、もしかしたら死んでいたかもしれないのだ

 

そんな浅はかな行動をした達也に笑顔で迎えるなんて出来ないのだ

 

そんな三人の心情は手に取るようにハッキリ解っているつもりの達也

 

持ち前の頭脳をフル回転させるもこの状況を凌ぎきれる妙案等も無く、全ての原因は達也自身であるため申し開きもない

 

そして、泣かせたくて出場した訳ではない

 

もし、逆の立場なら生きた心地がしない

 

そう考えると、一つしか考えれなかった

 

 

結那・加蓮・響子『!!』

 

まさか、達也からそんなプロポーズに近い言葉をこんな場所で言われるとは思わなかった

 

嬉しいやら悲しいやら複雑な心境だろう

 

 

風間『…達也。』

 

真田『…達也君。』

 

柳『達也、お前は阿呆か?』

 

部屋に居た男達は達也の言葉に呆れた表情をする

 

達也『いや、泣かせないと約束していたのに、裏切ってしまったので。』

 

そんな非難の表情に達也はらしくない言い訳をする

 

山中『…なんというか。』

 

もう少し違った慰めはあったはずなのだが、山中は眉間を揉む

 

凛『ようやくね、嬉しいわ。』

 

恭也『母さん…。』

 

一方、神夢家はというと

言質を取ったと満足な表情の凛に対して息子の恭也は呆れている

 

浩也『(やはり、達也にはこの娘達の存在が必要不可欠か…)響子は兎も角、家の娘二人は早くないか?というよりも、飛躍し過ぎてる気がするのだが。』

 

父親である浩也は嬉しいながらも達也の危うさに一つの歯止めが出来たと安堵していた

 

 

 

 

浩也『それで、具合はどうだ?』

 

一息ついたところで浩也が達也に問い掛けた

 

あれほどの威力は流石に浩也も心配してしまった

 

山中『使っていないのだろう?』

 

何をとは言わない、あまり外に漏らすわけにはいかないからだ

 

達也『いえ、ここに来る途中で。おそらく、一週間程度だったでしょうけど。何かあっても困りますので。』

 

一言付け加えるとするなら、敢えて怪我を負ったが正しい

 

まさか、あれほどの威力とは思ってはいなかったが

 

浩也『あまり、今回のような無茶はするなよ?』

 

一歩間違えれば、死んでいた可能性もある

 

達也『はい、すみませんでした。少し意地になっていたようです。』

 

風間『一条か?』

 

達也が意地になっていたとそんな言葉を聞くとは思わなかった

 

達也『はい。流石と言うべきでした。あの時よりも魔法の発動速度、規模も成長していました。油断していました。』

 

ここまで達也が他者を評価するとは明日は雨でも降るのかもしれない

 

真田『珍しいね、達也君が油断とはね。』

 

真田の言葉に渋面の達也

 

自分だって油断するくらいはあるとでも言いだけな

 

柳『いや、達也の場合は興味本位で体験したいという欲が勝ち過ぎていたのだろうさ。本来ならば、14発しか吹き飛ばすことが出来なくても、そこから避けることは出来たはずだ。…手を抜いた若しくは…』

 

半分は油断であったとしても、もう半分は違う

 

また、行動の意思決定の根底には魔法を受けるという意識があった筈だ

 

達也の悪い癖が出たと柳は達也を叱る

 

風間『一条からの魔法を受けることも勝つための手段だったか。それにしては杜撰な方法だったな。』

 

避けようと思えば出来たし、当たっても怪我をしないようには出来ただろう

 

が、隙を突くために少し無茶をしたというのが今回の事の顛末だろう

 

達也『はい、鍛えているという自負が原因です。危うく、気を失いかけました。』

 

それは即ち、達也が将輝の本気を引き出したということに他ならない

 

並の魔法師の魔法では傷を負わすことすら出来ない達也に重傷近くの傷を与えたのだ

 

風間『まぁ、反省会はこれで終りとして…。』

 

浩也『…三人とも、そろそろ達也から離れなさい。』

 

風間からアイコンタクトで浩也に何かを投げ掛ける

 

それを正しく理解し頷くと達也、いや達也に抱き着いている響子、結那、加蓮を窘めるように言い放つも

 

結那・加蓮・響子『嫌!!』

 

一刀両断で拒否をする

 

先程からこの三人、達也に抱き着いたままなのだ

 

抱き着かれている達也は先日もこんな状況があったなと振り返っていた

 

 

 

 

 


 

とある中華街の一角

 

『…これでは、第一高校の優勝は最早確定だ!』

 

『諦めるというのか。それはつまり、座して死を待つということだぞ!』

 

もう手遅れだと、諦める一部の人間もいれば死にたくないという人間とで言い争いが激しくなる

 

結果だけなら第一高校の優勝は揺らぐことはないだろう

 

『そうだ。このままでは第一高校の優勝で我々の負け分は一億ドルを超える!しかも、ステイツドルでだ。』

 

『これだけの損失は組織にとっても大きすぎる。いくら今期のノルマを達成するためとはいえ、負けた場合の損失の額が大きすぎるために組織は渋ったのだ。それを無理に押し通したのだ。』

 

しかし、このまま第一高校に優勝をさせてはこの人間達には都合が悪すぎる

 

これでは、ノルマさえ達成出来ずマイナス計上の上、そのマイナスを補填すら出来ないのだ

 

元々、勝算が低かったこの案件を安易に考えていたツケがここに来てようやく姿を現したのだ

 

しかも、あり得ないほどの負の遺産を抱いて

 

 

『その通りだ。このまま楽には死ねんぞ。良くて、ジェネレーターに変えられるか、もしくは…。』

 

自分達のこれから先は予測出来るのに、リスクの高すぎる賭けには勝つ気でいたという浅慮な考えを見つめ直すべきではあるが、この状況では手遅れとしか言いようがない

 

『なりふり構っていられる状況ではない。こうなっては、最終手段しか…。』

 

ある一人の言葉に全員が沈鬱になるしかなかった

 

 

 


 

 

 

本戦女子ミラージ・バッド

 

空中にホログラムとして光を映し出すため、晴れ晴れとした天候ではなく、曇り空のほうが視界的には良い

 

本日の天気は曇りがかった空のため、それなりに良い舞台と言えた

 

しかし、条件と同様に人の心もまた曇りがかっていた

 

摩利『お前、本当に体は大丈夫なのか?』

 

昨日の大怪我から一夜明けた今日、摩利のエンジニアである達也は何食わぬ顔表情と昨日の怪我を感じさせない颯爽とした姿を見せていた

 

だが、周りからすれば言いたくなってしまうのだ

 

一度、診察をするべきだと

 

達也『問題ありません。』

 

摩利の心配をありがた迷惑と言いたげな達也

 

一応、形だけのコルセットは服の下に着けている

 

摩利『昨日の夕食と今朝の食事の席にも居なかっただろう?食べないと早く治らんぞ?』

 

外部との接触を断っていた達也に食事を運ぶことは不可能であるため、達也自らが食事の場に赴かなければならない

 

達也『心配無用です。…良い機会ですから、渡辺先輩も知っておいて損はないでしょう。』

 

摩利の心配も一理ある

 

これ以上、お節介も面倒であるため信条とするものだけは述べておく

 

摩利『…また、上からの物言いとはな。それでなんだ?』

 

不遜な物言いに呆れてしまいそうになるが、それはこちらの過干渉もあるのだと自覚はしている

 

だから、達也からも心配しすぎなのだと突っぱねられてしまう

 

達也『食べるだけが傷を早く治すとは限らないということですよ。』

 

一体、それはどういうことなのか

 

摩利『?…守夢よ。説法を聴いてる訳じゃないぞ?』

 

しかし、達也の顔色を窺えば血色は問題無さそうだ

 

だが、雰囲気は違う

触れれば、切れるような刃物を纏ったような雰囲気がある

 

まるで、野性の獣のようだ

 

達也の言葉は高校生での思考力しかない摩利には難しいものがある

 

達也『これ以上はご自身で見つけるべきものです。他人に指図を受けたから実践してみて、効果が解らなければ他人の所為にするのは目に見えていますので。』

 

何故そうなるのか原因は一体何なのか、そういった事を考えなければ、偏った思考しか出来ない人間になるのは目に見えているのだが、最初からそんなことを出来る人間はいない

 

ヒントだけ伝えて後は考えさせる

 

摩利『いつもお前には、はぐらかされてばかりだな。…全く。仕事だけはしてくれよ?』

 

全ての答えを明かさない達也の言葉遣いに少し馴れてきていた摩利

 

こういう時の達也には自分達は勝てないのだ

 

達也『無論です。仕事(と家族の為)だけは手を抜きませんよ。』

 

摩利『…よ、宜しく頼むぞ?』

 

仕事という言葉以外にも何か聞こえた気がしたが、突っ込みはしてはならないと悟る

 

請け負った仕事に一切手を抜かないのは解っているためあれこれとは言うつもりはなかった

 

 

 

???『…』

 

そんな二人の様子を眺める女子生徒がいた

 

名前は小早川 景子

彼女もまた、本戦女子ミラージ・バッドに出場する選手だ

 

???『どうしたの?』

 

そして、もう一人

彼女のエンジニアである平河 小春が小早川に問い掛けた

 

小早川『ううん、何でもない。』

 

平河『少し、不安?守夢君を見ていたようだけど、彼の調整は凄いからね。』

 

言葉では否定するものの、表情は少し暗い

 

推測としては、達也と摩利の方を見ていたからそれ関連だろう

 

小早川『ううん、違うの。昨日、彼と一高幹部の間で一悶着あったのに、今朝はそれをおくびにも出さなずに普段通り出来るなんて凄いなって。』

 

正直、達也のお陰で新人戦男子モノリス・コードも優勝できた

そして、総合優勝の目処も立った

 

けれども、無傷ではいられなかったのは確かで

 

優勝後に達也と幹部達の間で言い争いもあり、ピリピリとした雰囲気になるのが嫌だった

 

平河『羨ましい?』

 

まるで、プロのように昨日の事は蒸し返さず

 

気持ちを切り替えているようにも見える二人の関係は自分達も目指すべき形だろう

 

小早川『そうなのかな?…でも、もし仮に守夢君に調整を頼んでいたら、完璧だろうけど何もかも暴かれて試合どころじゃなかったかも。』

 

妬みはない

けれども、純粋に凄いと感じてしまうのだ

高校生にしてその意識があるということに

 

そして、いつかは自分もそうなりたいとは思う

 

しかし、自分は摩利や達也ではない

小早川景子が少しずつでいいからその域に辿り着きたいとは思う

 

敢えて付け加えるなら、達也とは馬が合いそうに無い

 

平河『悪かったわね、私の調整能力不足で。』

 

達也の調整には遠く及ばないが、彼女もまた優秀である

 

小早川『ち、違うから!私が言いたいのはね?』

 

不貞腐れた表情をする平河に慌てる小早川

 

平河『ふふっ、大丈夫よ。気にしなくていいわ。貴女が言いたいのは、あの時の守夢君の言葉でしょ?』

 

そんな小早川の事がおかしく笑ってしまう

 

彼女が言いたいのはわかっている

 

 

小早川『そ、そうなの。確かに守夢君の腕は凄いとは思うけど、安心してCADを預けられるような関係ではないの。彼の言う通り、心から信頼出来る小春にお願いして良かったとは思ってるのよ?』

 

例えるなら、平河の調整は優しく、母親のように包み込んでくれそうなそんな調整をしてくれる

 

達也の場合は徹底的な合理主義だろう

 

平河『ありがとう。』

 

全幅の信頼をおかれていると言われると少しムズ痒いが素直に嬉しい

 

その期待に応えられるように頑張ろうと強く思った平河だった

 

 

 

 

三高側も試合前の最終調整に入っていた

 

愛梨『先輩はどういう方向でいかれるのですか?』

 

初めは水尾が出場し、その次に愛梨の順で試合に出る

 

水尾『うん、跳躍魔法一本で考えているわ。』

 

愛梨『飛行魔法は使わないのですか?』

 

愛梨は水尾が飛行魔法を使用するつもりでいるのだと思っていた

 

飛行魔法、先日新人戦女子ミラージ・バッドで第一高校の二人の選手が使用していた

 

その一人が司波 深雪で愛梨が最も強く意識している人物だ

 

ルールに抵触はしていないものの、各校から異常なほどの批判が殺到したため大会委員会も妥協案として一高側のCADを検査という名の術式を他の八校に提供をした

 

無論、エンジニアの達也と代表である真由美の承諾済みである

 

水尾『そうね、一高の光のエレメントの家系のように微弱な光の振動を捉える方法も考えたんだけど。それも効率が悪いかな?と思って。でも、一色は使うんでしょ?』

 

水尾自身、提供された術式を使用してみたが自分には不向きだと直感した

 

消費する魔法力と想子(サイオン)も少ないが、短期間で使いこなすことは出来ないと

 

そこまでの理由ではないが、第一高校の、しかも一年生が調整したということに自分がその年齢の時にそんな技術もなかった

 

これは素直に尊敬と自分の力で正々堂々と戦うという決意の表れだった

 

愛梨『はい、あの試合で僅かも息が乱れなかった彼女に負けるわけにはいきませんから。それに私なら使いこなしてみせます。』

 

そんな選手が飛行魔法を使いこなしたというなら負けてはいられないという

 

対抗心剥き出しの愛梨

 

やはり、師補である意地なのか

 

水尾『…期待してるよ、愛梨。』

 

普段は苗字で呼ばれている愛梨だが、水尾の熱い期待に力強く頷くのだった

 

 

 

 

 

 

 

達也『…』

 

達也は無表情で小早川と平河を見ていた

 

摩利『守夢、小早川の方を見てどうした?』

 

何が達也の興味を抱いたのか気になった摩利

 

しかし、そこには同級生の二人しかいない

更に言うなれば、小早川は最初の試合に出るからあの場にいるから何ら問題はないのだ

 

達也『いえ、特段何も。』

 

不思議そうな摩利を余所に達也は素っ気なく返す

 

摩利『まあ、あいつもムラッ気があるが大丈夫だ。心配するな。』

 

エンジニアであれば、出場選手の調子が気になるところである

 

達也もそこは同じだろうと摩利は問題は無い筈だと答えた

 

達也『…(今日しかないな。)さて、どうやってバレないようにするかな(ボソッ)』

 

ーー普通であれば

 

摩利の言葉は右から左へと通り過ぎる

 

そして、少し眉間に皺を寄せると誰にも聴こえないように呟くのだった

 

 

 

 

 

 

予知の夢は視なくとも予想は出来るわけで

 

小早川『ひっ…キャァァァァ』

 

連中の狙いは変わらず、我が校をターゲットにしてきている

 

そのため、小早川という選手のCADが機能しなくなり、10m近くの高さから落下していく

 

間一髪でスタッフの魔法が間に合い、大怪我をすることなく救助される

 

摩利『小早川!!』

 

慌てて駆け寄るも気を失っているようで無事なのか判断のしようがない

 

 

平河『そ、そんな…。』

 

担架で運ばれていく姿を見ていることしか出来ない平河

 

自分の調整に不備が起きてこんな事故に繋がったのではと、そんな考えが頭を支配する

 

摩利『平河も落ち着け、お前の所為じゃない。深呼吸するんだ。』

 

平河を落ち着けようと目を見るもその目は焦点も合っておらず、何も映していない

 

平河『(…ハッ、ハッ、ハッ)』

 

摩利『(不味い、過呼吸に!)平河!平k…』

 

落ち着けるために深呼吸を促すもそれが逆効果しか生まない

呼吸をするために吸うも吐くということが出来ないため過呼吸になる

 

目も虚ろで摩利の声も届いていない

 

焦ってしまうだけでどうすれば良いのかさえ判らない摩利

 

達也『…渡辺先輩、七草会長を呼んで来て下さい。』

 

焦る周りを無視して達也は平河の肩を掴んでいる摩利に呼びかける

 

摩利『…守夢?何を…』

 

何故、真由美なのか

 

普通ならば、すぐに医療班に診てもらうべきだ

 

達也『(スッ)』

 

無理矢理摩利を動かした達也は座り込んだ平河の正面で片膝をつく

 

 

左手で彼女の眼を隠すように覆い、瞼を閉じさせる

 

さらに彼女の額に手を当てた数秒後、達也は平河の後頸部に右の手刀を落とした

 

摩利『!?』

 

その一連の行動を見ていた摩利達は驚きで声が出ない

 

達也『平河先輩も医務室で休ませて下さい。あと、小早川先輩を医務室に運ぶように七草会長に伝えてください。』

 

周りの批難の視線を気にせず、淡々と要望だけを伝える達也

 

摩利『お前な!気絶させる必要はあったのか!?』

 

果たして、先程の達也の行動に意味はあったのか

 

あのまま医務室に連れて行けば良いものを気絶させる理由が見当たらない

 

達也『これ以上、先程の衝撃的な瞬間を見続けさせる必要がありますか?』

 

摩利の言うことは一見、当然のように思えるが達也はそれに異を唱える

 

誰も気付いてはいないが、達也の起こした行動には意味があり、更にそれは達也にしか出来なかった

 

摩利『…』

 

達也の言葉に摩利も何も言えない

 

もし、自分が平河と同じ立場なら、例え事故であっても自分を苛むだろう

 

ある意味では命を預かっているのだ、責任は重大でもある

 

そして、あのような場面をいつまでも無限のループのように見続けていたくはない

 

達也『では、小早川先輩の事を七草会長に伝えてください。私は、医務室とCADを最終検査に出して来ますので。(…ここまで放置していたのは俺のミスだな。…仕方がない。サービスしておこう。)…?吉田幹比古?…守夢です。』

 

摩利も渋々ながらも納得したため、達也も自分の仕事に移る

 

しかし、達也も何も感じていない訳ではないのだ

 

魔法というのは、存外脆いものだ

精神的に弱い少年少女が抱えるリスクは魔法の失敗による恐怖体験だ

 

それにより芽生える魔法に対する不信感は根強く残る

 

魔法とは世界を偽る力であるが、それと同時に理からはみ出たものでもある

 

達也にはそれを視る眼があり、そこに存在する力だと信じることが出来る

しかし、その魔法の本質たるものが世界の大半が理解出来ていない否、その情報が魔法師全員に知らされてもいないし知ろうともしないのが現状だ

 

また、今回は自分の立場に胡座をかいた失態でもあった、貴重な将来の戦力となるかもしれない魔法師を失うわけにはいかない

 

そこにタイミング良く達也の電話が鳴る

 

ディスプレイには吉田 幹比古の文字、用件は判っている

 

幹比古『あ、達也?急ぎでごめん。柴田さんが達也に伝えたいことがあるって。』

 

美月は電話を持っていないから幹比古に頼んだのだろう

 

達也『えぇ、構いません。』

 

美月『あ、達也さん。急いで言わないとって思って。さっきの小早川先輩のCADなんですけど。…なんていうか、古い電化製品がショートしたみたいな火花が散って、あの…。』

 

少々、美月の声音が堅いというかしどろもどろに聴こえるのは、あの衝撃的な場面を視てしまったからだろう

 

仕方のないことだ

 

達也『はい、それは私も見ていました。大丈夫です。当たりはつけていますから。貴重な情報ありがとうございました。』

 

とは言え、達也も美月と同じ、いやそれ以上の情報は得ていた

情報という情報でもない

 

摩利『?おい、守夢。さっきの会話はどういうことだ?お前、何か知っているのか?』

 

電話を切るとその会話を聴いていた摩利がいた

正確には、先程の達也の言葉だが内容がとんでもない

 

簡単に言えば、小早川の落下の原因が判っていましたとでも言うべきか

 

達也『それは後程で。先輩は何も心配せずに精神統一していれば大丈夫ですよ。』

 

また後で釈明を求められるな、と思いつつも優先すべき事案がある

 

摩利『…わかったよ。私に最適なCADの調整もしてもらっている。今回はお前に任せるとするよ。』

 

達也に問題無いと言われればそれ以上何も言えなくなる

 

それは信用でもなく、何を言っても無駄だからだ

 

少し前真由美に聞いた話だと、バスの事故と自分のバトル・ボードの試合や新人戦のモノリス・コードの事故はある犯罪組織が関わっていると達也が知っていたらしい

 

ここまで、誰にも知られずにそんな情報を抱えていたのだ

 

精神は相当に強い

 

それならば、全てを達也に任せていた方が此方の精神的にも安心する

 

達也『ありがとうございます。では、医務室と最終検査に出してきますので。』

 

もう少し粘られると思ったが、すんなりと諦めてくれたため無駄な労力を使わずに済んだ達也

 

了承してくれたのなら、あとは自分の成すべきことに集中させてもらおう

 

 

 

 

 

 

検査のテント前

 

達也『…はい。……それでは宜しくお願い致します。…失礼します。(ピッ)…さて。』

 

プライベートの電話から何処かに電話を掛けていた達也

 

運営スタッフ『…次の方どうぞ。』

 

どうやら、前の人間の検査が終わったようだ

 

残るは達也のみ

 

達也『はい。…お願いします。』

 

運営スタッフ『はい、それではここにCAD置いて下さい。』

 

達也『…』

 

スタッフの指示された台に摩利のCAD二台を乗せる

 

乗せると直ぐ様、検査が行われる

 

待たせないようにスピーディーに検査を行う様子は流石と言えるかもしれない

 

そう、表面上はーー

 

運営スタッフ『…はい、終わりましたよ。どうぞ。』

 

十秒も経たずに終わり、にこやかな表情を見せるスタッフ

 

CADを手に取り、達也に渡そうとする

 

達也『…ありがとうございます。』

 

しかし、達也の眼は誤魔化せない

 

達也『おっと。』

 

達也の左手がCADを通り抜け、スタッフの右手首を掴む

 

運営スタッフ『落とさないように気を付けてくださいね。』

 

視界がブレたのだろうと勘違いしたスタッフ

 

達也『すみません、少し手許が狂いました。…というのは嘘ですが。』

 

運営スタッフ『?…どうい…!?』

 

今、達也が言った言葉はどういうことなのか?問い掛けようとするも何故か、体が重い

 

全身が痺れ、声もうまく出せない

 

達也『…漸く、尻尾を出してくれましたね?少し、此方でお話しという名の尋問をしましょうか?』

 

秘術【合気】

俗称では、相手の力を利用し技を掛けると謂われる

 

やっと、達也の目の前で犯行に及んでくれたのだ

見逃す理由が見当たらない

 

逃げられるのは面倒のため表に出てもらう

 

左手の親指を立て他の指は右手に触れているだけ

 

そして残っている右手で後方を指す

 

運営スタッフ『な、何だ!?体が勝手に…!?ガハッ!』

 

達也が言い終えると同時に、触れている右手首を支点に体が宙に浮く

 

そして、達也は投球のフォームで運営スタッフを床に叩きつける(※気絶させないように気を付けて)

 

達也『おや?お話しましょうと言ったから観念して来たのかと思いましたよ。』

 

周りの運営スタッフに聴こえるように白々しく呟く達也

 

しかし、その言葉だけでは周囲のスタッフを黙らせるには至らない

それを無理矢理、闘気で黙らせる達也

 

運営スタッフ『ヒィッ!ち、力が入らない!…こ、こんな場所で魔法を使うなんて!』

 

どうやら、運営スタッフ自身を投げ飛ばしたのは魔法だと勘違いしているようだ

 

この世界は魔法だけではない

身体技術を駆使したり、氣と呼ばれるものを操れば人を殺めることなど容易い

 

達也『?魔法なんて使っていませんよ?まあ、端から見れば、魔法のように見えるでしょうけどね。それより、先程のCADに何を細工をしたのですか?』

 

言い逃れなどさせるつもりは毛頭ない

 

こんな下っ端要員に情けを掛けるつもりもない

 

運営スタッフ『!?』

 

達也の言葉に僅かだが表情が強張る

 

達也『只のウイルスではありませんね。詳しくは知りませんが、前回のバトル・ボードのものと同じものですね?…効果は術式を無効もしくは、発動を遅らせるといった類いの代物でしょうか?』

 

早々に決着はさせたいが、周囲のスタッフを納得はさせたい

 

少しずつ証拠を出して、逃げ道を塞いでいく

 

運営スタッフ『そ、そんなものは知らない!』

 

明らかに動揺してはいるが、首を縦に振らせるまでは手は抜かない

 

達也『あくまでもシラを切るつもりですか。…まぁ、私は構いませんよ?貴方が喋ろうが否かなど興味ありませんから。直接脳を覗けば良いだけのこと。(ボソッ)』

 

意外と強情なようだが達也の表情は愉しげだ

 

地道に追い詰めることも良いが、近道という手もある

 

内容は少々恐ろしいが

 

運営スタッフ『!?』

 

脳を覗くと言われると嫌でもその場面を想像してしまい、蒼白くなる

 

達也『…ああ、でも。雇い主はもう見つかっているので、貴方は用済みですから消えて貰いましょうか?(ボソッ)』

 

そんな表情をされると更に苛めたくなるではないか

 

まあ、この尋問という名の茶番劇にも少々飽きた達也

 

さっさと済ませてしまおう

 

運営スタッフ『ひっ、ひ…人殺し…!』

 

達也『失礼ですね。だから、選択肢を…!来ましたか。』

 

間接的に人を殺そうとしていた人間が良く言えたものだと逆に感心する

 

しかし、ようやく騒ぎを聞きつけたらしい

 

ある人物が近付いてきた

 

九島『何事かね?』

 

幾人かの大会委員の人間を引き連れた九島 烈が姿を現した

 

運営スタッフ②『九島閣下!』

 

九島『一体何の騒ぎかな?』

 

運営スタッフ②『それが…。』

 

辺りを見やれば、第一高校のエンジニアが検査スタッフにマウントポジションをとり、右手で頭を掴まれている状態だった

 

一体、どういう理由があってこのような状況になったのか

 

しかし、周囲の運営スタッフ達は言葉を濁す

 

それはそうだ、CADにウイルスを紛れこませたなどと誰が信じるのか

 

達也『CAD検査のスタッフが当校の選手のCADに細工をしまして、その容疑の確認と使用した術式の詳細を尋問していました。』

 

スタッフが黙り込むのは範疇の内だ

 

言わないならば、此方の与えた情報に信憑性が増す

 

九島『君は確か、守夢達也君と言ったかな?』

 

達也『はい。こんなしがない魔法力も無い私めを覚えても閣下の為にはならないかと進言致します。』

 

どうやら達也自身、九島 烈の印象に強く残ったようだ

 

当然だろう、あの一条 将輝を破ったのだから注目を浴びるのは仕方がない

しかし、それ以外にも理由はあるだろう

 

大会委員スタッフ『閣下になんと失礼な!』

 

日本魔法師界の頂点に立つ存在である九島 烈に対する先程の達也の物言いは本人ではなく、周りの人間を怒らせる結果となった

 

九島『良い。確かに君の言う通りかもしれんな。しかし、有能かどうかは私の主観で判断している。そこは眼鏡に適ったと思ってほしい。…さて、本題に移ろう。今、君が尋問している者がCADに細工をしたと?』

 

しかし、本人は気にした風もなく

 

評価は人それぞれで、それが今回は達也が素晴らしいと感じたらしい

 

達也からすれば、面倒くさいことこの上ないが

 

達也『その通りです。…こちらを。』

 

九島『……確かに異物が紛れ込んでおるな。これを君は知っていたのかね?』

 

達也の言葉が烈の証言により真実となった

 

これは何よりも強い味方だ、細工をしたスタッフを公式に尋問も行うことが出来る

 

達也『いえ、何も存じあげません。私が調整したCADに異物が入り込んだということに関してはすぐに判りましたので。』

 

烈の問いに達也は棒読みに近い声音で返答する

 

本音としては、知っていたとして素直にYESと返す馬鹿が何処にいる?と言いたい

 

九島『…そういうことにしておこう。これは電子金蚕というものだ。昔、私が現役だった頃だ。東シナ海諸島部海域で広東軍が使用していたものだ。』

 

電子金蚕は有線回線を介して電子器機に侵入し、高度技術兵器を破壊するSB魔法

SB魔法とは【Spiritual Being】の略語

精霊を含む自律性の非物質存在を媒体とする魔法の総称

 

プログラム自体を改竄するのではなく、出力される電気信号に干渉して改竄する性質を持つ

OSの種類やアンチウイルスプログラムの有無に関わらず、電子器機の動作を狂わせる遅延発動術式

日本軍はこの電子金蚕の正体が判るまで随分と苦しめられたらしい

 

 

達也『そうでしたか。…もし仮に九校戦が始まってからの一連の騒動の発端がこれだとすれば…。』

 

九島『…君はこれを何処で手に入れたのかな?併せて、ここまでの騒動を見抜くことが出来ずに工作員を紛れ込ませていた大会委員会の怠慢。…あとで、じっくりと理由を聴かせて貰うとしよう。』

 

達也の推測を受けて、烈は取り押さえられているスタッフを一瞥すると、大会委員長を睨む

 

その姿は歴戦の魔法師であり、世界最高峰の魔法師の一人として威厳のある様だった

 

九島『さて、守夢達也君。この際だ、検査は必要なかろう?不正を見抜いて貰った礼もある。』

 

スタッフを別室に移動させ、事件も収まった

 

残るはCADの検査だが、必要もないだろう

 

達也『ありがとうございます。』

 

九島『うむ、君にもいづれ話をしてみたいものだ。』

 

達也『…機会がありましたら。』

 

どうも自分は十師族に関わることが多いようだ

 

何度も言うが、達也としては一度たりとも関わりたくもない

 

九島『では、その機会を楽しみにするとしよう。』

 

社交辞令的に返した言葉も烈にとっては満足のようだった

 

 

 

 

 

 

真由美『守夢君!』

 

摩利『守夢!』

 

天幕に戻ると、真由美と摩利が怒りの形相で達也を睨んだ

 

達也『何をそんなに血相を変えてどうされましたか?』

 

相変わらず、僅かな情報だけで他人の行いの善悪を決めたがるものだ

 

しかしそれは、この二人だけではない

天幕に入った時にこちらを見た一高スタッフの表情を見れば、直ぐに判った

 

魔法師の卵だからではない、人間としての教養が足りなさすぎる

 

摩利『それは、お前が大会委員会の前で暴れたと聞いたからだ。』

 

真由美『どうしてそんな真似をするの!』

 

あからさまに達也を批判する態度に呆れるしかない

 

達也『どうしてと言われましても。CADに細工をされたりしたら問い詰めるのは当然でしょう。』

 

何故そのような行動をしたのか、理由も無くそのような行動をしたのか、今までの達也の行動からそのような行動を取るのか

 

固定観念を捨てて物事を見れないのは信頼どころか信用すら値しない

 

全員『!?』

 

細工をされたとはどういうことなのか?

 

それをどのようにして見破ったのか?

 

疑問は山ほど湧いてくる

 

真由美『それは本当なの?』

 

達也『嘘を言う場面ではありません。見つけたのはたまたまですけどね。』

 

驚愕の色に染まった真由美に淡々と達也は答える

 

犯行を見つけたのはたまたまだが、当たりはつけていた

 

摩利『では、今までの騒動の発端は。』

 

達也『十中八九これが原因でしょう。これで安心して試合出来ますね。』

 

今まで第一高校が災難に近い出来事に巻き込まれていたのは人為的に起こされたものだった

 

原因を取り除くのは当然のことだが、それすら見つけるのは容易ではない

 

真由美『そうだったのね、ありがとう。貴方が来てくれてから私達は助けられてばかりね。』

 

その容易ではない事をやってのけた達也に感謝しかない真由美

 

思えば、ブランシュの事件では壬生の件や図書室での攻防等と要所要所で活躍していた

 

そして、この九校戦でも知らない内に様々な重荷を抱えさせていたのだ

 

思い起こしていると、いつの間にか涙腺が緩んでいた真由美

 

ぼやけた視界で達也の両手を取り、小さな手で包み込むと達也に微笑む真由美

 

達也『渡辺先輩、準備をしましょう。』

 

一般男子がそんなことをされれば、イチコロのような場面だが達也は表情の一つすら変えない

 

さっさと手を振りほどき、摩利に試合の時間を伝える

 

摩利『…そうだな。真由美、勝ってくるから用意しとけよ?』

 

真由美『えぇ。お願いね、摩利。』

 

達也に手を振りほどかれた真由美も分かっていたかのように何も言わない

 

その様子を隣で見ていた摩利は悔しそうな表情をする

 

だが、今はその感情は不要だ

試合に悪影響を及ぼしかねない、それこそ真由美を悲しませてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

摩利『…守夢。この試合で私が優勝したら一つ、私の言うことを聴いてくれないか?』

 

試合会場へ向かう廊下の途中で摩利は達也に向き直る

 

達也『お断りします。』

 

摩利の頼み事に仁瓶も無い拒絶の言葉

 

達也としても頼み事にはうんざりしていた

 

摩利『頼む。』

 

しかし、摩利には拒絶されようと諦める訳にはいかないのだ

 

再度達也に頭を下げる

 

達也『………内容次第です。』

 

摩利『すまない。』

 

どれほど、そうしていたのか

 

達也は摩利の頼み込む姿にやがては折れた

 

達也『ヘタな精神状態で試合にも挑まれても困りますからね。私もやるからには優勝はしてもらいたいですから。』

 

自分が折れることにより、摩利の硬かった表情が和らいでいた

それほどに何かを思い詰めてはいたのだろう

 

全く興味はないが

 

摩利『無論だとも。お前の調整技術で負けろという方が難しい話だ。』

 

完全なYESではないが、何とか折れてくれた達也に摩利は感謝した

 

これで、優勝してみせると更に決意は固くなった

 

達也『この世に絶対はありません。相手は一色選手もいますから、油断は禁物です。』

 

摩利『大丈夫だ、任せておけ!』

 

里美のように楽観視は無いが、伝えておく必要はある

 

けらども、何か決意をしたような目を摩利はしていたから心配はないだろう

 

 

 

 

 

 

達也『(凄いな。あの水尾という選手、あの三巨頭の一人と呼ばれている渡辺 摩利に食い下がっている。)流石は水のエレメントの家系か。』

 

二試合目

本戦というだけあって、レベルは高いものの摩利に真っ向から立ち向かえる選手は少なく

 

唯一、三高の水尾 佐保という三年生の選手がこの試合でら摩利と良い勝負をしていた

 

 

 

 

摩利『(流石といったところか、水尾佐保。なるべく、次の試合のためにも体力は残しておきたい。それに、飛行魔法も使いたくはない、どうしたものか。)』

 

第二ピリオドも終わり、残るは第三ピリオドのみ

 

点差的には余裕はあるが、ふとした流れの変化で逆転される可能性は少なからずある

 

更に点を離すことも出来るが、次の試合の為に体力は温存しておきたい

 

達也『お疲れ様です。渡辺先輩。』

 

摩利『あぁ、すまない。』

 

流石の摩利といえど、この競技は疲れるのだろう

 

額から流れる汗の量がこの競技の凄さを物語っている

 

達也『浮かない顔ですね。悩まれる心配はありませんよ。』

 

摩利に冷やしたタオルを差し出す達也

 

十分なリードがあるのに難しい表情をしている摩利に達也は心配無用だと助言する

 

摩利『…私はお前のこういう状況での度胸が羨ましいよ。』

 

達也『こればかりは一朝一夕では身に付きませんから。ある程度は経験で補えますよ。それよりも、休憩はしっかりお願いします。ドリンクです。』

 

この九校戦に来て分かったことが、達也は異常なほどに肝が据わっているということだ

 

あらゆる困難な状況でも分析して対策を練る

負けるという劣等感を抱いていない、やる前から諦めないというのは当たり前のことだが実は、それは当たり前ではない

 

達也の見解では場数だと言う

 

摩利『ありがとう。…!おい、これスポーツドリンクではないぞ。水だ。…けど、今までの水より美味しい?』

 

こちらは冷えたとはいかないまでもそれなりの温度だ

 

冷えた飲み物は体を冷やす、本当は夏場でも常温が良いのだが

 

達也から手渡されたのは甘いスポーツドリンクではなかった

 

【水】だった

 

しかし、それも唯の水道水ではない

僅かに臭うカルキ臭もなく、舌でころがすと軟らかな感触がするのだ

 

なによりも、今まで飲んだことがないほどに美味だ

 

達也『流石、女性の味覚は違いますね。その通りです。それは神前に供えるお酒用の水に限りなく近いものです。本来であれば、それ専用の水を持ってくれば良かったんですが、難しかったものですから。濾過する道具は持ってきてますので、ある程度の澄んだ水を作れます。』

 

摩利の反応に達也も満足げな表情をする

 

自然の山から涌き出た天然の水とまでいかないが、しっかりと濾過した水なのだ不味くはない筈だ

 

摩利『…そうなのか。にしてもこれは先程までの疲れもなくなるな。』

 

達也『…併せて、ミネラル補給もどうぞ。この世全ての人に言えますが、栄養不足のエネルギー過多ですから。これは天然の岩塩を砕いたものです。精製された塩にミネラルはありませんから。』

 

真に本物の食材は少量で満腹になる

水も同様だ、良い水というのは体に良い影響を与える

 

しかし、濾過した水だけでは不十分だ、何故なら今回の水自体には栄養・ミネラルが含まれてないからだ

 

摩利『何から何まですまないな。サポートまで完璧とは、引く手数多だな。』

 

達也『調整も体作りも手は尽くしたつもりです。あとは、これくらいしか出来ることはありませんので。』

 

差し出された小石程度の大きさの岩塩を噛み砕いていく摩利

 

塩特有のしょっぱさもあるが、僅かに苦味や甘味もあり栄養補給には十分であった

 

本当に、何でも良く知っておりそれを実行出来るのはとてつもない強みだ

 

摩利『十二分にあるよ。…あと一ピリオド、勝ってくるぞ!』

 

完全復活とまではいかないまでも先程までの疲労は大分解消されていた、しかも水と塩だけでだ

 

これなら何の不安も無く戦える

 

達也『ご存分に。』

 

 

 

 

 

愛梨『…水尾先輩の力が及ばない(力は五分と五分、いえ水のエレメント家系だから能力は上の筈なのに、ここまで差が出るものなの?)』

 

この試合、渡辺 摩利という強力な選手がいるのは分っていた

実力的には拮抗している筈が否、エレメントという家系等を含めれば僅かに有利だと思っていたからだ

 

仮に七草と十文字と並ぶ程の実力者だとしてもそこまで圧倒的な実力があるとは思えなかった

 

沓子『そうじゃな。この最後のピリオドになって一高の渡辺選手とやらの動きが格段に上がりおった。』

 

どうやら、沓子も同じことを思っていたらしい

 

栞『そうみたいね。まるで、第一ピリオドのような動きだわ。』

 

愛梨『…まさか、これも?』

 

沓子の指摘に愛梨と栞も摩利の動きを注意深く観察する

 

確かに、第一ピリオドのような動きだがその調子をこの場面になって持って来れるのはどうしてなのか?

 

考えられるのは一つしかなかった

 

 

 

 

水尾『…くっ!(どうして、そこまでのパフォーマンスを続けられるの?実力は五分と五分なのに。それなのに。)』

 

第三ピリオドになって、普通ならば運動量も低下してくるはずが摩利にはそれがないように思えた水尾

 

それどころか、気持ちの入りようがこの試合で一番強い感じがした

 

摩利『(本当に、運が良かった。これまでの高校生活もそうだが。今年は特にだ。守夢(アイツ)一高(ウチ)に入学して学校の雰囲気も変わりつつある。そして、この九校戦でエンジニアとしての数多くの功績を残し、選手としても十師族の嫡子に勝った。)ならば、私がやることは一つだ!』

 

一方で、摩利は今年に入っての出来事を振り返っていた

 

勿論、その主役は達也だ

 

守夢 達也という人間がこの第一高校に入学して様々なことが変わりつつあった

達也自身、不本意ながらも我々の無理を何度も聞き入れてくれたのに対して感謝しかなかった

 

 

 

 

 

 

あずさ『…どうして?(ボソッ)』

 

真由美『どうしたの?あーちゃん?』

 

あずさ『!か、会長。』

 

天幕にある一室で中条 あずさはモニターに映る摩利を見

 

しかし、呟いた相手は摩利ではない

 

いつの間に来ていたのか、真由美があずさを心配する

 

 

真由美『あ、驚かせてしまったかしら?ごめんなさいね?それで、あーちゃんは何を悩んでいるの?…もしかして、守夢君?』

 

あずさ『!?…そうです。』

 

たまにモニターに小さく映るある人物をチラチラと見ていたあずさの頭の中を占めるものが達也だと推測する真由美

 

自分の考えていることをいとも容易く見破った真由美には隠し事は出来なかった

 

 

真由美『たしかに、あんな調整技術の腕を持たれていたら反則よね?あんな子がなんで二科生なんだって思っちゃうわよね?』

 

あずさ『そ、そんな。』

 

あずさの考えることは尤もだ

 

あんなの二科生だなんて詐欺に等しい

 

しかし、あずさは何故か真由美には気おくれしている

 

おそらく、真由美が守夢君と呼ばずに達也君と呼んだことで片想いをしている真由美への悪口になっているのではないか?と思っているからだ

 

真由美『でも、気にする必要は無いわよ?だって、あのエンブレムに大して意味はないもの。』

 

あずさ『…え?』

 

そんなあずさを知ってか知らずか真由美はとある秘密を暴露する

 

真由美『知らなかったのは無理もないかな?私も知った時は驚いたし。あのエンブレム無しはね?刺繍入りの制服が足りなかっただけなのよ?』

 

あずさ『…ほぇ?』

 

理由はこうだ

もともと教師陣も足りず一学年百人で運営していた魔法科高校だが、海外の魔法勢力に負けないために年度の途中からではあるが、追加募集して初年度は理論から次年度に実技を行うということで第一高校から順に行われることになったのだ

しかし、蓋を開けてみると教師の数を増やすことが出来ず、あろうことか学校側が制服まで誤発注で刺繍無しの制服が配布されることになったのだ

それが切欠となり、エンブレムの刺繍無しが二科生(補欠)というなんとも下らない差別意識が出来上がったのだ

 

もっとも、それはただの言い訳ではある

 

人間というのは常に自身より弱い立場の人間を求めたり、他人よりも上の立場に居たい等という心の弱さがあるためそれが誤発注の制服から面に出てきただけのことだ

 

真由美『だから気にしなくて良いのよ?彼は理論が得意分野の一科生と思っておけばいいんだから。…あ、頭でっかちのひねくれ者かもしれないわね。』

 

あずさ『ぷっ、なんですかそれ。』

 

片想いしているはずの相手をひねくれ者等と言えるのは真由美くらいだろう

 

そんな真由美が可笑しくて笑ってしまうあずさ

 

真由美『ふふっ、ようやく笑ってくれたわね。』

 

あずさ『!…ありがとうございます。』

 

先程から思い詰めた表情をしていたあずさにほっとする真由美

 

そんなに思い詰める必要もないのだ

 

ヒトにはそれぞれ得意不得意があるのだから

 

それが凝り固まった社会に適合するのかしないのかの違いだけで

 

真由美『いいのよ。あんな子なんか、百年に一人現れるかどうかの傑物。寧ろ、私達は運が良かったのかもしれないわ。彼は不本意でしょうけど、CADを調整してもらえて優勝にも貢献してくれたし。』

 

あずさ『そうですね。』

 

今、真由美のが言った言葉が一番気持ちが楽になったあずさ

 

そう、自分達は幸運なのだと

 

 

 

 

 

 

水尾『(負けたわ。でも、不思議な気分。私達は打倒一高を掲げていたけど、彼女達は。いえ、少なくとも彼女、渡辺摩利は楽しそうにも見えたわ。もちろん、勝つということは考えていたでしょうけど。…これは彼女だけの力ではない。エンジニアと二人三脚だからこそかもしれない。)少し、羨ましいな。』

 

試合の終了のブザーが鳴る

 

結局、水尾は摩利と開いた点差を詰めることが出来なかった

 

何がいけなかったのか?それは分からない

 

だが、自分と摩利と決定的な違いはこの試合を【愉しんでいたかどうかだろう】

特に、第三ピリオドは摩利は迷いも無くこの競技に全身全霊を掛けていたように思う

 

おそらく、そうさせたのは紛れもなくエンジニアである達也のおかげだ

 

摩利『?何か言ったか?』

 

水尾『ううん。完敗よ。』

 

摩利『水尾こそ、流石だよ。強かったよ。』

 

水尾『嫌味にしか聴こえないわ。』

 

少し摩利が羨ましく思うも、清々しい気分なのだ

 

けれどももし、もし達也が第三高校に入学していたなら、自分も調整をお願いしていただろう

 

そうなった場合、結果は逆になっていたのは間違いない

 

そんな摩利に謙遜されると悔しくなる

 

 

摩利『いやいや、アイツがいなければもっと追い詰められていたさ。』

 

アイツと指を差された達也本人はボーッと空を見上げている

 

水尾『そっか、ありがとう。それにしても彼、守夢君だっけ?一条君にも勝つし凄いね。』

 

摩利『水尾も気になるのか?アイツはモテモテだな。』

 

聞けば、達也は魔法力は無いらしい

 

そんな人物が一条を倒したというのは前代未聞だろう

 

しかし、他校である水尾がそこまで達也を称賛するとは意外だ

 

水尾『ち、違うわ。ただ、純粋に尊敬よ。…多分(ボソッ)…でも三高なら愛梨がもしかしたら…。』

 

摩利に疑いの目を向けられて慌てる彼女だが、満更でもなさそうだ

 

まぁ、自分よりも達也を気にしている人物が一人心当たりがあるのは確かだ

 

摩利『一色か。それは此方としては応援してやれないな。此方にも恋煩いをしている親友がいるからな。』

 

水尾の話を聞く限りでは達也は一高だけでは飽きたらず、三高の生徒もタラシこんだようだ

 

水尾『七草さんのこと?』

 

摩利『あぁ。家柄もあってか、そういうことに諦めはあったんだろうが。守夢と会ってから恋する乙女だよ。』

 

しかし、こちらも油断はしていられない

 

あれほどまでの優良物件は中々無い

 

水尾『それは強敵が現れたかしら?』

 

一色の家柄であれば、大丈夫かと踏んでいたが七草がライバルとなれば引き締めて掛からねばならない

 

摩利『なら、次は守夢の右隣を勝負だな。』

 

摩利も自分と同じように考えていたらしい

 

七草と一色のどちらが達也を射止めるのか勝負だと

 

水尾『!…えぇ!今度こそ、負けないわ。』

 

さっきの試合は負けたが、別で【勝負】と言われれば引き下がる訳にはいかない

 

ーーーそれが、恋の勝負であろうと

 

 

 

 

 

 

 




また、長くなってしまった…
如何でしたか?
前話の最後が無理矢理すぎたなと反省はあるものの、あの場目をどう表現すれば良いのか悩み、結局ぐだってしまいました。
①どうやら、将輝と達也は面識?があるようです
②そろそろ、達也も身を固めるべきなんでしょうかね?
③老師は相変わらず達也君がお気に入りな様子です
④ミラージ・バッドでの摩利ですが、達也の調整と栄養補給だけで勝てるのではないか?と思いました
⑤さてさて、二十八家の中で達也を射止めるのは誰なのでしょうか?

また、次話も読んでいただければ嬉しいです。
それでは!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

25話

お久しぶりです。
中々、投稿出来ず申し訳ありません。
人の心の機微って表現しづらいですね。
今回はそれをテーマにしました。
お気に召されるか分かりませんが、楽しんでいただければ幸いです。

それでは、どうぞ。


『第一高校の渡辺選手が予選を通過したと連絡が入った。』

 

重苦しい雰囲気が漂う中、ある一人が口を開く

 

『馬鹿な、不正工作がバレたというのか!』

 

『それはどうかは不明だが、工作員が見付かったと解釈すべきだろう。そうなると、こちらもなりふり構っていられる状況ではないが、どうする?』

 

『…それしか方法がないか。』

 

『これには客も不信感を抱くだろうな。』

 

『致し方あるまい。我々が何よりも畏れなければならないのは組織からの制裁だ。客には後で何とでも説明出来る!』

 

その一人からの言葉により次々と不安の声が広がる

 

しかし、そんな不毛な言葉を並べても何も解決はしない

 

早急に対処をしなければ自分達の命が危ういのだ

 

 

『『…』』

 

最終手段を使わざるを得ないこの状況に苦しいのか、無言の肯定しか出来ない

 

 

『応援は必要ではないのか?』

 

『問題無い。一人のジェネレーターでも百や二百人は素手で屠れる。』

 

『…では、あの会場に配置しているジェネレーターのリミッターを解除する。』

 

 

果たして、この選択が吉と出るか凶と出るのか

 

しかし、この選択をしたことによってこの人間達の運命は決まったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場の観客席への通路に不気味に佇む一人の男

 

その男はサングラスで目元を隠しており、その所為で表情や人相といったものが確認しにくく、近寄りがたかった

 

しかし、本当の理由は別にあり、そういう意味ではこのサングラスは効果は絶大といえた

 

ジェネレーター『…!?』

 

そして、常人には見えない魔方陣が男の頭から足先までくぐり抜ける

 

すると、今まで1mmも微動だにしなかった男がゆっくりと動きだす

向かう先は観客席にいる数百人の人間

 

通路を抜けた先に一人の人間が横切る

 

男はその人間の首に狙いを定め、右手で手刀を作り襲いかかった

 

しかし、その行動はその人間によって阻まれた

 

首を切ろうとした右手首を掴まれると背負い投げの要領で会場の外に投げられたのだ

 

普通ならば、訳も分からず混乱しそのままコンクリートの地面に落ちていくはずが減速魔法で辛くも難を逃れた

 

 

 

柳『あの状態から間に合わせるとはな。…何者だ?いや、答えを期待しての問いではない。…その身のこなし、強化人間(ジェネレーター)か?』

 

手もつかず、壁を飛び越えてスタジアムの外に降り立つ人物

それは先程、男が手をかけようとした人間だ

 

しかし、それは普通の人間ではなく、達也の上司の一人である柳であった

 

柳は男の特殊性は判っていたが、敢えて言葉にする

 

真田『答えを期待していないと言ったのは柳君だよ?』

 

柳の問い掛けを遮る形で男の背後に現れたのは同僚である真田

 

ジェネレーター『…』

 

状況としては挟み撃ちなのだが、ジェネレーターと表される男は狙いを再び柳に据える

 

不利だからという思考は無い、そんなことを考えることが出来ないといった方が正しい

 

強化人間(ジェネレーター)というのはその人間を人形にするという言葉が意味合い的に近い

そのため、状況が不利という認識すら無いのだ

 

柳『唯の独り言だ。気にするな。それよりも、こいつを捕らえる。手を貸せ。』

 

再び、向かってきたジェネレーターの顔に右手を当て、後方に吹き飛ばす柳

 

真田『では、そうしようか。それにしても見事だね、今のもまろばしの応用かい?』

 

柳『(まろばし)ではない。(てん)だ。(てん)が表の技なら(まろばし)は裏の技。魔法を使わないのが(まろばし)だ。そら、来るぞ。』

 

柳のカウンターに称賛する真田だが、その緊張感の無さに柳は呆れる

 

ジェネレーター『…』

 

殺ることが難しいと判断が出来たのか、背後の真田に狙いを定める

 

数瞬の後に、真田に向かって駆けるもその判断は正しいとは言えない

 

 

真田『なるほど、柳君より僕が弱そうだと判断した訳だね。その判断が誤…『貴様らは本当に俺を苛つかせるのが得意だな。』…僕の獲物を取らないで欲しいな、達也君。』

 

戦闘面では柳に劣るものの真田は軍人だ、弱い訳がない

 

もっとも、真田よりも厄介極まりない人物が介入してきた

 

真田とジェネレーターの間に割って入るとコンマ一秒以下の時間にジェネレーターの首を掴み、持ち上げる達也

 

達也に掴まれたジェネレーターはジタバタと達也の手から逃れようとするも小揺るぎもしない

両手で達也の頭を掴んでも痛がる様子もない

 

それどころか、更にジェネレーターの首を掴む握力は更に増していく

 

一方で、(達也)に油揚げを攫われた真田は拗ねていた

 

響子『あら?貴方、来てたのね♪』

 

そして、いつの間にかこの場に来ていた響子

 

達也とは別行動だったようだが、達也を見付けるなり新婚さながらの雰囲気が漂う

 

柳『…藤林』

 

真田『もう、達也君の奥方になってるね。それで、達也君はどうするつもりなのかな?』

 

響子の言葉に柳は呆れ、真田はホケホケと笑う

 

あのときの達也の言葉と心は変わることはないが、あれ以降双子の義妹の結那と加蓮は予想していたが、響子のタガの外れようは予想外だった

 

達也『鬱屈した気分を解消に来ました。』

 

真田『いや~殺すのだけはやめて欲しいな。貴重な情報源なんだから。』

 

達也『殺しませんよ。ボコボコにするだけです。』

 

柳『人はそれを殺すというぞ。』

 

真田の質問に隠すこともせずに答えた達也だが、真田と柳の表情は引き攣っていた

 

達也の言うボコボコとは他人が想像するものを遥かに超える

 

確かに言葉通りにボコボコにはなるのだが、それは対象物ではない

ボコボコになるのは、対象物を介してコンクリートの壁であったり硬い地面がだ

 

そのため、対象物は原型を留めておらず、動物なら肉塊に無機物は粉々になる

 

以前、空中でならどうか?と試したところ数十メートル先のコンクリートの壁に直径30cm程の凹みが無数に出来ていたのだ

空間を介してそれほどまでの威力に達也の身体能力が恐ろしく高いのだと改めて認識した出来事だった

 

そんな訳で今回は響子の避雷針でジェネレーターの身柄を確保したのだった

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ホテルの屋上にて

愛梨はある人物と連絡をしていた

 

愛梨『…はい。………はい、必ず優勝して見せます。…では、お気をつけて。』

 

電話の相手は母親からだ

どうやら、本戦ミラージ・バットに観戦に来るようでその連絡と激励の言葉を愛梨に送っていたようだ

 

水尾『…今のはご家族から?』

 

愛梨『!?…先輩。』

 

突然の自分以外にこの場所にいないはずが背後からの呼び掛けに驚く愛梨

 

振り返れば、先輩であり、姉のような存在でもある水尾の姿があった

 

水尾『やっほ。ごめんね、勝てなかったよ。』

 

明るく振る舞っているものの、その表情は暗い

 

愛梨『…慰めにもならないかもしれませんが、あの渡辺 摩利に守夢 達也というエンジニアなら仕方がないのかもしれません。他のエンジニアでしたら、負けてないと思います。』

 

励ましたい気持ちはあるが、上手い言葉が見付からない

 

水尾『ありがと。確かにそうかもしれないね。でも負けたのは事実だから。』

 

愛梨『先輩…。』

 

水尾『今の私の実力はここということ。なら、次のステップに進むのみだと思うの。…愛梨、勝って。勝って、私の思いを繋いで。』

 

悔しい思いでいっぱいだが、絶望した訳ではない

 

後輩が頑張っているのに自分も負けてはいられない、一度や二度負けたところでなんだ?負けたのは現在だ

 

未来は自分の行動次第で変わるのだ

 

負けるかもしれない、けれども何もしなければ差は埋まらない

 

失敗や変化無くして、何も生まれないのだから

 

 

愛梨『勿論です。』

 

水尾から託された想いを胸に愛梨は決意を新たにするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子本戦ミラージ・バット決勝

 

 

達也『とうとう、決勝戦ですね。感慨深いものがありますね。』

 

小早川と摩利への妨害工作以降、パタリと何も起こらなくなったところをみると、あの工作員が鍵だったことが窺えた

 

これでまともな試合になりそうだと達也は考えていた

 

摩利『お前のその棒読みとのんびりとした雰囲気さえなければな。』

 

しかし、試合直前だというのに似つかわしくない達也ののんびりした言葉に摩利は嘆息する

 

達也『おや?緊張しているようでしたので、その解消をお手伝いしたつもりだったのですが。絶対勝たなければならない、というプレッシャーが見えましたので。』

 

摩利『なんで、そこまで見透かしながらそれを茶化すんだ。』

 

どうも、摩利自身は緊張しているのかその表情は硬い

 

しかし、摩利にとってその硬さは命取りと言えるため、達也は敢えて茶化す真似をしたのだ

 

そのおかげで摩利の緊張は解れてきた

 

達也『それが、先輩のパフォーマンスを下げるからです。他人のために頑張るなんて烏滸がましいですよ。…ましてや、親友のためになんてね。』

 

このまま、摩利にとって良い方向にモチベーションも保てればよかったのだが、達也はその摩利の心境を許さなかった

 

摩利『!?…お前。』

 

親友と言われて、摩利は達也に振り返る

 

その表情は、まるで自分の心の内を覗かれて驚きと恐怖に彩られているようだ

 

達也『あ、怒りました?ですが、事実です。他人のためになんて、自分自身で責任を取れない人間が使って良い言葉ではありませんよ。年齢関係なくね。貴女は他人の人生まで背負うつもりですか?…まあ、遠慮なく言えば、他人を理由にする人間は卑怯な人間だ。』

 

摩利『…そんなつもりは、ない。』

 

今までの達也はここまで他人の心情に興味はなかったのが、今日に限って言えば違っていた

 

 

何故なのか?

 

 

達也『渡辺先輩を責めている訳ではありません。その考え方も素晴らしいとは思いますよ。しかし、この場合は親友のためという笠を着ているだけです。その前に貴女自身がこの試合をどう思うかですよ。優勝はそのオマケみたいなものです。』

 

摩利『…』

 

達也の言葉は端から見れば、とても責めていないとは言えない

 

寧ろ、叱っていると捉えられてもおかしくはない

 

しかも、この試合前というモチベーションを上げなければならないときに何を考えているのか

 

達也『すみません、苛めてしまいましたね。エンジニアとしての私が伝えたいのはこの試合をどう感じて自身がどうありたいかを考えて欲しいということです。他人の事を考えて面白くない試合をされては悲しいですから。』

 

先程から俯いたままで黙り込んだ摩利に達也も言い過ぎたか?と思い謝罪するも、その声は届いていなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『…摩利の動き、精彩に欠けてるように見えるわね。』

 

試合開始早々に摩利の動きに精細が欠けていることに気付く真由美達

 

動きもそうだが、ここで着目したのは表情だ

 

鈴音『何かあったのでしょうか?』

 

十文字『判らん。何とかリードは保っているが、少しでも躓けば逆転は必至だろう。』

 

普段の摩利は好戦的な性格のためか、笑ったり、僅かに相手を見下すような余裕のある表情をしている

 

それが今は、どこか暗く、泣き出しそうな表情になっているのだ

 

真由美『…なんで、守夢君は気付かな…!?もしかして摩利の不調の原因って守夢君?』

 

選手の不調であれば、エンジニアも気付くはず

 

しかも、そのエンジニアは達也であるため気付かないほうがおかしい

 

そう推理していくと何故か、達也が怪しく思えてきてしまうのだ

 

鈴音『…どういうことですか?摩利さんの調子がおかしいのは彼の所為だと?』

 

真由美『それは判らないけど、彼が摩利の調子がおかしいことに気付かない筈がないわ。』

 

いくら達也に好意を寄せている鈴音といえど、試合に関しては厳しい目を持っているため達也に疑いを向ける

 

だが、これはあくまで真由美の推測に過ぎない

 

確かめる必要がある

 

十文字『なるほどな。確かに奴が渡辺の不調に気付かない訳がないか。しかし、何が原因で渡辺ほどの人物が調子を狂わせる要因があったのか。』

 

十文字も真由美の意見に賛同する

 

そして、気になるのは摩利を不調に追いやった原因が何なのか

 

 

 

 

 

 

摩利『(解らない。なんで、真由美のために頑張ることがいけないんだ?真由美の想いが報われて欲しいと思うことは駄目なのか?)』

 

天幕での真由美達の心配は的中していた

 

摩利は達也から言われた言葉に大きく動揺していた

 

大抵の人間に何を言われても聞き流すところを、何故か達也の言葉は残る

それは良い悪いに拘わらずだ

 

そして、気持ちを切り換えようにも僅差の試合状況のためその余裕がない

 

摩利の思考は泥沼化していた

 

 

愛梨『…?(どこか渡辺選手の動きにキレがない?体調の問題かしら?それにしては、僅かではあるけどリードされてるから違う。流石といったところかしら?では、精神的な問題?それなら、彼が何かしらの対策を施しているはず。)今のうちに逆転しておきたいわね。』

 

試合が始まって数分後、愛梨は摩利の動きに気付いていた

 

いくら、自分が優れているからといって自惚れてはいない

素晴らしいと思えば相手を認めるし、だから相手の挙動も見えてくるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『(少し、言い過ぎたか?だが、事実だ。誰かのためなど偽善だ。目標の為という名目に他人を使うなど自己満足に過ぎない。…確かに優勝したいとは思っているのだろう。だが、そんな甘い覚悟ではふとした拍子でその思いは根底から覆される。相手には一色家の嫡子もいるんだ。…仕方がない、呼ぶか。)…いつから、俺はこんなにもお人好しになったんだ?』

 

試合が始まってから気持ちをすぐに立て直すことが出来ていないことは解っていた

 

しかし、ここまで脆いとは思わなかったというのが正直なところだった

 

 

 

 

 

 

 

 

達也や一高のスタッフ達が見守る中、摩利自身も葛藤していた

 

摩利『(あと半分で第一ピリオドが終わる。私はまだこの精神状態を立て直すきっかけが掴めていない。寧ろ、悪化しているかもしれない。だが、アイツの所為ではない。アイツの言う事も解っているんだ。けど、立ち直r…!?)しまt…。』

 

試合をしている中で達也の言わんとしていることは少しだけ理解出来た

 

 

摩利は気付いていなかっただろうが、愛梨との点差は徐々に失われていた

 

当然ながら、他の選手との点差も縮まっている

 

それにも気が付かなかったのは摩利の失態と言えた

 

愛梨『(こんな状態を狙うのも卑怯かもしれないけど、これは真剣勝負。恨むなら貴女の不調を見抜けなかった彼を恨みなさい。)』

 

そして、摩利の死角を突き愛梨は彼女が狙っていた光球を奪い取った

 

 

 

 

 

 

当然、モニターでもその瞬間は映し出されており、スタッフ達が衝撃を受ける

 

あずさ『あぁ!』

 

悲壮感漂うあずさ

 

一高スタッフ①『何をやっているんだ、あの二科生は!』

 

一高スタッフ②『渡辺の不調を見抜けないで何がエンジニアだよ!』

 

それに同調したのか、口々に摩利のエンジニアである達也を責め立てる

 

この場に居ないためか、今までの鬱憤が一気に爆発する

 

 

十文字『やめろ、お前達。』

 

しかし、それを十文字は止める

 

一高スタッフ③『しかし!』

 

十文字『それも一理あるが、不調をきたしたのは渡辺だ。全ての責任が奴にある訳ではない。』

 

十文字の一喝により鎮まるも、不満は無くならない

 

それはそうだろう

 

嫌いどころか憎くも思われている達也の僅かなミスさえあれば、非難したくてたまらないのだ

 

今まで、達也の言う事は正論であり、渋々ながら納得しなければならなかった

 

しかし、いつかその余裕を崩してやりたいと思っていたのだ

 

その理由を解っているのか不明だが、全ての責任が達也にある訳ではないと形状では擁護する

 

服部『しかし、先程の会長の話を聴く限りではあいつが渡辺先輩に何かを吹き込んだかのように思えます。』

 

十文字『そうかもしれん。』

 

十文字の言葉に異を唱える服部に十文字も理解は示す

 

それは少なからず、達也に非があると思っているからだ

 

服部『なら!』

 

十文字『…それでもだ。守夢をエンジニアとして選んだのは渡辺だ。』

 

服部『…』

 

十文字『…見守るしかない。』

 

服部の意見はもっともだが、この場で議論しても本当の理由が何なのかは判らない

 

ましてや、達也をエンジニアとして選んだのは摩利自身

 

本当は摩利を責めたくはない

何故なら、三年間共にこの第一高校を引っ張ってきた仲間だからだ

 

だが、その理論だと達也を悪人と決めつけてしまう

 

それは人間としてやってはいけないことだ

 

解ってはいるものの、それでも誰かの所為にしたいのだ

それは無意識に自分達を守ることだと解っているからーーー

 

 

 

 

 

摩利『(必死に保ってきたリードがここで逆転されるとは。後、5分。離される訳にはいかない!)』

 

愛梨に隙を突かれ、逆転されて摩利は更に焦りが増す

 

気持ちを切り替えることが出来ていないのにこの状況は芳しくない

 

ーーーだが、どうやって?

 

 

 

 

 

無情にも時は過ぎ、第一ピリオドが終了する

 

 

達也『(十五分程度で立て直せるかと思ったが、無理な話か。)お疲れ様です。まずは、体を休めてください。』

 

達也の予測は大きく外れ、今だに思い詰めた表情をしている

 

摩利『…』

 

達也『(所詮は高校生か…。)渡辺先輩。』

 

摩利『うん。』

 

達也『渡辺風紀委員長。』

 

摩利『うん。』

 

達也『…千葉 修次。』

 

摩利『うん。』

 

達也『……1+1は?』

 

摩利『うん。』

 

達也の呼び掛けにしっかりとした反応もない

 

ただ、相槌をするだけ

 

達也『(重症にもほどがあるだろう。)…俺の所為か?…あの人に頼んでおいて良かったかもな。(ボソッ)』

 

達也はここまで摩利が打たれ弱いとは思っていなかった

別に達也は摩利の全人格を否定しているわけでもないし、考え方も否定はしていない

 

中途半端な気持ちで試合に挑むなと叱っただけなのだ

 

大きな嘆息を堪え、達也は天を仰ぐに留めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

…り、……ま…り、摩利!

 

摩利『(どうしたらいいんだ。どうしたらいいんだ。どう、したら、いいん、だ?勝ちたい、優勝したいのは当然だ。最後の年だからな。真由美、私は間違っているのか?…!?、真由美の声?とうとう幻聴まで聴こえて…?)真由美!?』

 

第一ピリオドが終了したのは憶えているものの、どうやって地面に着地したのは憶えていない

 

達也の言葉が摩利を惑わし続けていた

 

真由美の事を考えていたからか、いつの間にか真由美の幻聴がすると思ったら目の前に当の本人が自分の肩を揺すっているではないか

 

真由美『やっと、気付いた。守夢君から、連絡があって、摩利の調子もおかしいと思ってたから来たら、本人は上の空だし。一体、どうしたっていうのよ?いつもの摩利らしくないわよ。』

 

あの時、達也が呼んでいたのは摩利の親友である真由美だった

 

やはり、摩利のカンフル剤は真由美が最適だった

 

男性である達也は理性や理論だ物事を見るが、女性は感情で物事を見る

 

落ち込んでいるこの場合は、感情を呼び覚ます方が適当なのだ

 

摩利『言ってくれるな。その理由はそこの(守夢)が原因だ。』

 

真由美『えっ、やっぱり?ちょっと、守夢君。摩利に何を吹き込んだの?』

 

真由美の予想が当たっていたらしく、摩利の不調の原因は達也だった

 

どうして試合に影響を与えるような不用意な行動をしたのか

 

 

達也『大したことは言ってませんが?優勝をする自信が無いから親友の為という大義名分を笠に着て、負ける前提で試合に臨むエンジニアとして調整のやりがいの無い愚かな選手を遊んでいただけですが?』

 

真由美の詰問にあっけらかんとした表情で容赦ない言葉で摩利を酷評する達也

 

摩利『守夢!その言い方はないだろう!私はな、真由美とお前が…!』

 

達也に負け犬根性丸出しの意味と同じだと理解した摩利は達也に喰って掛かる

 

真由美『…どういうこと?摩利、もしかして守夢君に何か頼んだの?』

 

摩利の口から自分と達也の言葉で考えられるのは、一つしかない

 

お節介が過ぎる摩利のことだ

 

自分(真由美)が達也にお願いを聞いてもらったのを摩利もしようと考えたのだろう

 

達也『自分が優勝したら、私にお願いがあるそうですよ。』

 

案の定、達也が是と答える

 

そして、この場に居るのは不快に感じた達也はそう吐き捨てるとこの場から離れていく

 

真由美『…摩利、ありがとう。でも、それは私自身の問題。摩利が背負う事はないわ。』

 

真由美は達也が廊下に姿を消したのを確認すると摩利に向き直る

 

摩利の思いに素直に感謝するが、これは真由美自身が解決しなければならない問題なのだ

 

摩利『真由美まで、同じことを言うのか?』

 

しかし、摩利にとっては自分の思いを否定されたと捉えたようだ

 

真由美『? 守夢君と言葉が同じかもしれないけど、私はその摩利の思いだけで十分よ。摩利まで苦しくなる必要はないわ。摩利はこの試合で優勝して。私は摩利が全力でこの試合に挑んで他の選手を寄せ付けない姿を見たいわ。』

 

摩利のショックを受けたような表情に真由美は首を傾げる

 

真由美が言いたいのはあくまで摩利の重荷を少しでも軽くさせてあげたいだけ

 

 

摩利『…!』

 

真由美の言葉に摩利の表情に生気が戻る

 

真由美『大体、なよなよしている摩利なんてダサいだけだわ。』

 

摩利『…言ってくれたな。見てろよ、一色なんて足元にも及ばないくらい大差をつけて勝って来てやるからな。』

 

ここまで真由美に言われては、凹んでもいられない

 

真由美『それでこそ、摩利よ。それに、達也君は私自身で落とすって決めたんだから。』

 

流石、親友というべきか

本当に困っている時に元気づける方法が解っている

 

摩利『そこまで言うならお前に任せるとしよう。なら、私はこの試合を優勝することだけに集中するか。』

 

真由美『頼んだわよ、摩利!この試合次第で早くも総合優勝が決まるんだから!』

 

信頼しているからこそ任せられる

 

二人の仲はそれほどまでに強いものだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『ありがとうございました。真由美さん。』

 

競技場手前の廊下で達也は真由美に感謝の言葉を述べる

 

真由美『…どうして、あんなことを摩利に言ったの?』

 

しかし、真由美はそれに対して応えずに達也に問い掛ける

 

雰囲気はいつも通りだが、声音は達也を非難していた

 

達也『…』

 

真由美『ねぇ、答えて?確かに、そこまで他者と関わりを持とうとはしていない。けど、貴方は人の思いを踏みにじるような、そんな人間ではないはずよ?』

 

しかし、達也はそれに答えず無言を通す

 

それは気まずさからではなく、答える必要の無いことという意味だが、真由美はそれを良しとしない

 

達也『踏みにじるですか。随分と優しい人間ですね私は。』

 

暫し、二人を沈黙が支配するも仕方無しに達也が口を開く

 

真由美『達也君、真面目に答えてちょうだい。』

 

達也『エンジニアとして、いい加減なパフォーマンスはするなと言ったまでですよ。』

 

達也の茶化すような口振りに真由美は苛立ちをぶつける

 

その様子に面倒臭いと思いつつも、本音という名の建前を口にする

 

普通の人間ならば、ここで素直に答える

 

達也の場合は、魔法師なんぞに誰が腹の中を見せるかと言ったところだろう

 

真由美『その思いが摩利自身を苦しめるから?』

 

達也『さあ?心ここに在らずの状態で挑んでも勝てる試合も勝てないですから。それに、仮に親友が喜んだとしてもその相手は迷惑かもしれませんよ。』

 

摩利の思いは素晴らしいものだろう

しかし、それが本人にとっての足枷になるならば不要なものだ

 

摩利の真由美の為の行動は当の真由美は喜ぶかもしれないが、その相手は違う

 

何故なら、人間だからだ

 

感情があるから好きも嫌いもあるし、喜怒哀楽を表現出来る

 

当然ながら、それは達也にも言えることだ

 

寧ろ、常人以上に好き嫌いに関しては顕著だ

 

真由美『それは…。』

 

達也『昨日もお伝えしたように、これ以上の干渉は不快です。どうも魔法師(あなた方)は私が気になる様子だ。だが、私は魔法師(あなた方)に興味の欠片も無い。…ああ、訂正です。何かを極めようとする魔法師は例外です。』

 

基本的に達也は魔法師という人種が嫌いだ、それは己も含むが自分を魔法師と思ったことは毛ほども無い

 

しかし、例外も存在する

 

 

真由美『…』

 

達也『ですから、これからは私に関わらないでいただきたい。只でさえ、不本意な試合出場までしたにもかかわらず拘わらず怪我をしているから診てもらうべきだ等と自分達の知識の範疇で命令する。検査場で暴れたと聞いて非難の嵐。そう、実際に何があったのかを知ろうとせずに、他人から聞いたことを鵜呑みにしてその人間を評価する。流石は魔法師、一般人を超越したためか。まるで、神様気取りだ。否、神様でもそう容易く人は裁かないというのに。』

 

段々と口数が多くなってきている達也

 

それは本音が漏れているのか、牽制の為のものかはわからない

 

真由美『…違うわ。』

 

先程まで達也の言葉に反論せずに聴いていた真由美が重い口を開いた

 

達也『一体何が違うというのでしょうか?自分たちの欲望の為に他人を巻き込む、嫌と言っている人間を強制的に協力させておいて、それが少しでも危うくもしくはミスをすれば罵倒する。自分たちの顔に泥を塗るような行為をする二科生(ウィード)は排斥する必要があるんでしょうね?何か否定したらどうですか?十師族、七草 真由美さん。』

 

真由美が否定の言葉を口にしても達也は止まらない

 

達也の表情はとても愉快そうで相手を馬鹿にしているようにも見受けられた

 

真由美『…』

 

達也『沈黙ですか。私は構いませんが、少しでも否定しないと私からの皆さんの評価はこれに準じることになりますよ?』

 

真由美の反論を封じ込めた達也は真由美に追い打ちをかける

 

真由美『…否定はしないわ。だって、それが現実だもの。でも、私と摩利はそれだけじゃないわ。あの時、達也君が暴れたと聞いたとき。確かに怒ったわ、だって穏便に済ませることも貴方なら出来た筈だから。それと同時に心配の気持ちがあったわ。何故なら、達也君貴方は誰とも仲良くしていない。西城君や千葉さん達と仲良く話しているけれど、まだ本当の友人、親友とまではなってないわ。だから、少しでもこの場で一高のみんなと交流を深めてほしいと思ってる。一科生全員が二科生を見下している訳ではないことは解っているでしょう?そのためには悪目立ちしてほしくなかったの。彼らに少しでも貴方を引いては二科生の皆を認めてもらえるように…?』

 

先程までと同様に沈黙を続けるかと思われたが、真由美はゆっくりと言葉を紡ぎ出す

 

真由美はどうして達也がいつも独りであろうとするのかずっと気になっていた

 

そして、それは達也ともっと関わることで何か判るはずだと

 

もっと、達也の事が知りたい

 

達也『…フッ…ククッ…。』

 

真由美の必死の弁に達也も俯いて顔を手で覆い、肩を震わせる

 

それが、真由美には自分と向き合ってくれたのだと勘違いする

 

真由美『?どうしたの、達也君?』

 

だが、それにしては何かがおかしい

 

そう、声だ

 

声が聞き違いでなければ笑いを噛み殺している

 

訝しむ真由美

 

達也『…クッ…ハハハハハハハッ!…認めてもらえるように?どこまでもあなた方の思考はお花畑なのでしょうか。その言葉自体が既にあなた方一科生が二科生を見下していると解りませんか。前にも言ったはずです。一科生と二科生の違いは魔法が満足に使えるかどうかだけです。確かに、魔法科高校であるため大なり小なり魔法が使えることが必要条件です。事象改変する力が強ければ強い程良いでしょう。…だが、それだけです。二科生は満足に魔法が使えないことは解っている為、自分には何が出来るかを考えてその武器を磨こうとするでしょう。一科生の場合、大抵の魔法は使えてしまうため自分が他人より優れた人間だと勘違いする。そう考えれば、一科生は大したこともありません。もっと言えば、一科生も二科生も魔法という力があるだけで他は一般人と何も変わりませんがね。それに私は誰かに評価されたいからやっているわけではありませんから。』

 

突如、大きな笑い声をあげる達也

 

真由美は達也が笑う事など見たことがなかった

 

しかし、それは面白おかしいから笑っているのでない

 

達也の場合は真由美の言葉に整合性が取れていないことや浅い物事の捉え方に嘲笑っているのだ

 

それを裏付けるように達也の纏う雰囲気が酷く冷たいものに変わっている

 

そして、何度でも言おう

 

達也は誰かから評価されたいために技術をそして、力を身に付けた訳ではない

 

そこが他の人間と一線を画すところだ

 

 

真由美『そんな言い方は…。』

 

あまりに酷い物言いに真由美は苦言を呈する

 

だが、それが事実であるため否定が出来ない

 

達也『それに、貴女の心配というのも唯の体裁にしか聴こえません。』

 

そして、達也は追い打ちを掛けるように真由美に言い放った

 

ーーパシンッ

 

次の瞬間、乾いた音が廊下に響いた

 

真由美『わ、私は!…私は、こんな、こんな気持ち初めてなの!今まで生きてきて、他人に、ましてや異性に興味を持つことなんてなかったわ。それが達也君。貴方と出会ってからよ。…どうして良いかわからないの…。』

 

音の原因は真由美が達也の頬を引っ叩いたものだ

 

涙ぐみながら真由美は達也に思いの丈をぶつける

 

人生初めての告白がこんな状況になるとは真由美も思ってもみなかっただろうが

 

達也『私にはその感情が、どのようにして押し付けるような感情に変わっていったのか知りたいですね。…ですが、貴女のお陰で渡辺先輩が調子を取り戻したので感謝します。ありがとうございました、真由美さん。観戦ですが、天幕に戻る時間を考えると、ここで観ていかれてはいかがですか?』

 

真由美の必死な告白にも達也は動揺するどころか、呆れ果てていた

 

自分の感情を理解出来ないのに、何故それを他人に押し付けるのか

 

まるで幼い子どものように見える

 

否、子どもの方が相手の事も考えて行動出来るから子ども以下と言えるだろう

 

だが、それとは別に達也のミスを真由美にフォローしてもらったため彼女に感謝する

 

真由美『…そうね。そうさせてもらうわ。』

 

達也『では、私は最終ピリオドの準備がありますのでこれで。』

 

先程の雰囲気と打って変わって穏やかな達也のこの切り替わりようは目を疑いたくなる

 

普通の人間なら、必ずと言って良いほど言葉と裏腹に声音や表情などが違う

 

それが達也にはないため、それはそれで恐ろしく感じてしまう

 

切り替えもきっちりしていることは当然だが、もしかしたら、然程、真由美たちに対して何ら感情を抱いていないのかもしれない

 

 

真由美『…諦めないから。例え、独り善がりの好意だとしても。…決して。』

 

自分の背を向け、会場に戻っていく達也に真由美は聞こえるか聞こえないかの声で呟く

 

聞こえなくてもよかったのだろう、それは真由美自身の決意の表れにも近かった

 

達也『…』

 

真由美の声は届いていたのかもしれないが、立ち止まることも振り返ることもせずに達也は会場に戻っていくのだった

 

 

 

 

 

 

第三ピリオドも終盤に差し掛かり、誰もが一人の優勝を確信した

 

愛梨『くっ!(どうして届かないの?そんなはずはないわ。この競技の相性は私の方が上のはず…なのに。)』

 

それは神経の伝達能力を向上させ、目から入った情報を脳へそして、各運動神経へ伝達し反応速度と身体能力を向上させる第一研究所の出自を持つ一色 愛梨ではなかった

 

 

栞『そんな…あの愛梨が負ける?』

 

エンジニアである栞はある意味、愛梨以上に絶望に満ちていた

 

沓子『大丈夫じゃ、まだ時間はある。この点差なら…!』

 

そんな栞を励ます沓子だが、心境は栞と同様に諦めに近い

 

 

水尾『…愛梨。』

 

それは、第三高校の天幕でも同様だった

 

周囲は大きく騒ぐ中、水尾は必死に追い縋る愛梨の姿を見ていた

 

 

 

 

 

 

 

達也『(ギリギリ間に合ったか。まあ、あの人なら普通の精神状態なら勝てるのは判っていたことだ。しかし…これは後程、何か文句を言われそうだな。)厄介な宿命(ほし)の下に生まれたものだ。』

 

真由美のおかげでいつもの調子を取り戻した摩利は第二ピリオドでは快調に得点を重ね、開始五分も経たずに逆転を果たした

 

つまり、いつもの調子ならば、師補の一色家の嫡子である愛梨でも遅れは取らないということだ

 

今回は、達也が原因の一端で摩利にとってはイレギュラーすぎたのだ

 

 

 

 

試合終了のブザーが鳴り響き、それと同時に歓声が上がる

 

それは、見応えのあった試合でもあったということと第一高校の総合優勝を指し示すものでもあった

 

 

 

 

摩利『なんとか、勝てたか…。真由美のおかげで第一ピリオドよりも第二ピリオド以降の方が良い気持ちで動けたな。』

 

大きく深呼吸をする摩利

 

そして、高校最後の試合でもあったため、悔いは残したくなかった

 

全力を尽くすという思いが第二ピリオドよりも第三ピリオドの自分のパフォーマンスを引き上げていた

 

達也『お疲れ様です、渡辺先輩。』

 

摩利『あぁ、ありがとう。って、違うだろ。お前が余計な事を言わなければ。』

 

そして、摩利の不調の諸悪の根源である達也は飄々とした表情でタオルとドリンクを差し出す

 

摩利はその飄々とした表情に再び怒りが湧き起こる

 

 

 

達也『何のことでしょうか?』

 

摩利『素っ惚けるとは言い度胸だな。守夢、あの時の約束を果たして貰うぞ!』

 

真由美に気負わなくても良いとは言われたが、何も忘れろとは言われてはいない

 

摩利は強気の姿勢で達也に詰め寄る

 

達也『内容を伺って吟味します。履行するかはその内容と私の気分次第です。』

 

だが、その言葉に効果は無い

 

そもそも、達也は摩利の願いを叶えるとは言っていないからだ

 

摩利『…全く、何で真由美はこんな男を…(ブツブツ)』

 

あまりにも可愛げのない、自分ならこんな男願い下げな摩利

 

 

 

真由美『摩利!おめでとう!』

 

摩利『!真由美!?…まさか、ここでずっと見ていたのか?』

 

横から衝撃を覚え、その衝撃の方を見ると嬉しそうな親友の表情が見える

 

どうやら、この場で観戦していたようだ

 

 

真由美『えぇ。天幕に戻る時間で摩利の勇姿を見れるでしょ?』

 

摩利『ありがとうな、真由美。(…本当に、真由美は望んでいないのか?…いや、望んでいなくても、望めなくても私は…私の善意(お節介)を押し付けて、楽しむとしよう。)』

 

ここまで、自分を想ってくれるのはやはり親友と呼べるこの真由美だけであり、本当に感謝しかない摩利

 

だからこそ、幸せになってもらいたいと思ってしまうのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

栞『…愛梨』

 

愛梨『そんな顔しないで、まだまだ私達の道は始まったばかりよ。』

 

自分よりも栞と沓子二人の落胆の表情が大きくて、思わず苦笑気味になってしまう

 

栞『でも…。』

 

愛梨の言うことも一理ある

 

が、今勝たなくては意味が無いのではないか?

 

愛梨『平坦な道じゃつまらないわ。山あり谷ありの方がやりがいがあると思わない?』

 

沓子『…そうじゃの。簡単な道なんてつまらんわ。超えるべき壁が高ければ高いほど燃えるのぅ。』

 

負けて悔しい筈の愛梨の表情が今まで以上に輝いているのに自分達が落ち込んでいるばかりはいられない

 

愛梨『そういうことよ。栞、沓子。私達三人で乗り越えていきましょう。』

 

一人では出来ない事も三人でなら乗り越えられると信じて

 

 

 

 

 

 

 

その夜、摩利のおかげで一日早い第一高校の総合優勝を果たした

 

そして、ささやかながら祝勝会が行われていた

 

真由美『では、改めて。摩利のミラージ・バット優勝と一高の総合優勝を祝して、乾杯!』

 

『『乾杯!!』』

 

真由美の掛け声と共に一同は第一高校の総合優勝を祝った

 

 

 

エリカ『あ~あ、明日で九校戦も終わりか。』

 

なぜか、選手でもないエリカがこの場にいるのかは、おおよそ当たりはつく

 

大方、真由美あたりが呼んだのであろう

 

もちろんだが、美月もだ

 

そして、急遽選手として出場したレオと幹比古もこの場にいる

 

ほのか『そうだね。色々とあったけど、楽しかったね。』

 

雫『うん。特に守夢さんにはお世話になったね。』

 

特に女子の選手達は達也に多大に助けて貰っている

 

とは言っても、結果的には第一高校という括りになるため、全員が感謝しなければならない

 

英美『そういえば、その守夢君はどこに?』

 

雫『一条選手から受けた怪我が治ってないから、部屋にいると思う。…ここ数日の守夢さんは何か怖い。』

 

本来は達也もこの場に来ている筈なのだが、先日の新人戦モノリス・コードでの怪我が完治していないため居ない

 

当然といえば当然なのだが、怪我の具合に関しては普通とは異なる

 

達也の怪我は重傷で重体一歩手前の大怪我であるため、普通の人間ならば直様病院のベッド行きだ

 

ほのか『うん。最近、けど、なんか野生の獣?のようで近寄りづらいっていうのかな?モノリス・コードの日も前日の事もあってか少し話しかけづらかった。』

 

しかし、達也はそれを跳ね除け自力で治すという始末

 

この場合、誰が悪い云々ではないが今朝の達也を見ると本当に重傷の人間か?と疑いたくなるような普段どおりの行動に驚いてしまった

 

しかし、よく観察してみると負担の掛かりそうな重い荷物は荷車に載せたり、声も微かに小さかったのは確かだ

 

エリカ『…ふーん、獣ね。』

 

それよりも大きく変化していたのは、達也の雰囲気だろう

 

新人戦モノリス・コードの前夜から少し変化はしていたが、試合が終わってからむやみに近づけないのだ

 

試合中ならばピリピリしていても仕方がないと思えるのだが、その逆であり

 

試合が終わってから、触れれば切れる刃物のような、もしくはジャングルに住む野生の獣のような雰囲気が達也にはあり普段の穏やかな達也を疑ってしまうのだ

 

雫とほのかの言葉にエリカも少し気になってしまうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝から何も食べず問題無かった達也だったが、漸く体が栄養補給を求めてきたため夕食の席には顔を出した達也

 

真由美達に挨拶もそこそこでさっさと食事を済ませると部屋に戻った達也は一時間程仮眠を取り、シャワーを浴びると鞄の奥底に隠していた黒尽くめの服と装備を取り出し着替える

 

時刻は午後八時十分を過ぎたところ

 

午後の八時から祝勝会が始まっているため、このフロアには誰も居ない

 

念のため、全員の気配を探れば、問題なくある大きな部屋に集まっていた

 

部屋に来るなと伝えてはいたものの、相手は人間だ

間違えて来たり、余計なお節介を掛けてくる人種もいるため、用心に越したことはないとドアノブに就寝中と掛けて部屋を出る

 

 

達也『御足労いただきありがとうごさいます。それで、約束のものは?』

 

今日の午後、検査用テント前で達也は弟弟子である小野に依頼をしていた情報が手に入ったと連絡があった

 

達也はそれを受け取るために自分たちの宿泊施設ではなく、基地の士官が使用する地下駐車場に来ていた

 

小野『慌てないの。その前に、これはあくまで保険という認識で間違いないのよね?』

 

ある一台の助手席のドアを開け、乗り込むと前置きの言葉も無く、本題に入ろうとする達也を窘める小野

 

女性を待たせたことに対して一言文句でも言ってやろうかと考えるも、敢えてもう一つの確認すべき言葉を口にする

 

達也『ええ、保険ですよ。』

 

保険という言葉で間違いないが、意味合いは違う

 

小野『じゃあ、端末を出して。』

 

形式上ではあるものの、ある程度望む言葉が返ってきたため概ね満足ではある

 

達也『構成員の名簿もお願いしますね。』

 

小野『分かってる。』

 

まるで、あることが判っているかのような口ぶりで少し恐ろしく感じてしまった小野

 

しかし、頼まれた仕事はきっちりとこなすのが自分の心情だ

 

達也『では、報酬をお送りしますので。』

 

小野『…!こんなに?』

 

達也『足りませんか?』

 

小野『いいえ、十分よ。』

 

送られてきた情報を確認し終え、対価である報酬を提示すると驚く小野

 

驚くのは無理ないが、この金額は口止め料という意味合いも含まれている

 

達也『では、これで。』

 

長居は無用のため、助手席から出る達也

 

小野『…本当に保険?』

 

その際、光の加減で胸の辺りで存在を見せつけるかのような膨らみが二つ

 

見て見ぬ振りをしようと考えたが、思わず口から零れる

 

達也『はい、貴女の考えている保険の言葉通りですよ。』

 

背後で小野が小さく呟くのを無視せず敢えて答える

 

これにより、これ以上の詮索はするなと釘を刺したも同然だからだ

 

小野『…』

 

その言葉を言われてしまえば何も言えないため、達也を黙って見送るしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響子『先程の妙齢の女性は誰かしら?もしかして、浮気?』

 

達也『ただの公安のオペレーターですよ。副業としてのね。本職は第一高校のカウンセラーですが。…浮気って、響子さん。』

 

小野の車が駐車場から出ていくのを確認すると、十m離れた別の車に乗り込む達也

 

乗り込むと浮気現場発見と謂わんばかりの響子に達也も苦笑を返すしかない

 

響子『冗談よ。達也君に限って、それは無いしね。…それにしても、彼女には報酬を出したのに私には無いのかしら?』

 

冗談にしては、これは精神的にダメージを受ける代物だ

 

達也『…仕事ですよ。』

 

これも仕事の内だが、他人に報酬を支払ったのに自分には無いことに若干の不満がある響子

 

響子『解ってるけど。それでもね?』

 

達也『分かりました、考えておきます。』

 

どうも、三人の涙を見てから三人のお願いには更に弱くなった気がしないまでもない

 

響子『ありがとう あっ、あの二人も含めてね?』

 

こんなに喜んでもらえるならそれも良いかなと考えてしまう達也

 

達也『ありがとうございます。』

 

そして、双子の加蓮と結那と四人でと言ってくれると家族としても嬉しい達也だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって、響子に仕事を命じた人物も突然のお呼びでない人物の来訪に対応していた

 

風間『…今日はどのような御用件でこちらに?』

 

時刻は午後九時

この時間帯に訪れる人物といえば、それなりに重要な人物だ

 

烈『ふふっ、そう警戒することもなかろう?まだ、十師族嫌いは健在か?』

 

その人物とは、日本の魔法師界の頂点に立つ存在である九島 烈

 

また、世界でも指折りの実力者でもあり、現役時代は日本軍に所属し最終の階級は少将まで登りつめた男だ

 

しかし、それが良い彼自身にとっては良い事ではなく、様々な軋轢や苦い経験であったため以後、十師族は高官に上がってはならないというある意味では沈黙の掟が作られたのだった

 

風間『それは誤解だと…』

 

烈から何もしないから安心しろと言われても、そう簡単に受け入れられる訳がない

 

言ってみれば、軍と十師族は水と油だ

 

歩み寄るということは無い

 

だが、風間自身はB級ライセンスの魔法師で十師族の率いる魔法師のコミュニティのメンバーではある

 

分類は古式魔法であるため、現代魔法を主とする十師族とは相容れないのも事実である

 

烈『冗談だ。今日は彼に興味が、いや出来るならスカウトをと思ってな。』

 

茶化したつもりではあったが、意外にも真剣に答えられてしまい有耶無耶にする烈

 

そろそろ本題に入らなければ、この部屋に来た意味がない

 

風間『彼、とは?閣下の御眼鏡に叶う人物が我が軍におりましたかな?』

 

烈『惚けることもなかろうに。守夢 達也君だよ。いや、大黒 竜也君かな?』

 

素知らぬ顔で惚ける風間だが、烈は誤魔化されないようにはっきりと口にする

 

風間『…』

 

そこまで答えられているにも拘らず、眉一つ動かない

 

それは動揺を抑えるためなのか、将又、驚愕に支配されているのか

 

或いはその両方でも無いのか

 

烈『あれほどの逸材は百年に一度かそれ以上だろう。古式魔法に一条の魔法を受けても砕けないあの肉体。しかも、頭脳明晰というのは素晴らしい。更に言うならば、儂の魔法を一瞬で見破りそれを悟らせずに周囲の人間に知らせたその手腕。そして…七年前の…おっと、そこまで殺気立つこともなかろうに。』

 

そう、誰もが認めざるを得ない実力を持つ達也にこの人物が目をつけない訳がないと思ってはいた

 

風間『達也をどうするおつもりで?』

 

七年前と口にした瞬間、風間から烈に殺気が放たれる

 

烈には敬意を持っているものの、これだけは許せなかったのだ

 

努めて、言葉を選んではいるもののその表情は相手を射殺さんばかりである

 

烈『言ったであろう?九島に養子として貰えないかと言っておる。もしくは、四葉以外の家に養子をと考えておる。』

 

だが相手は歴戦の魔法師だ

 

そう易易と怯まない

 

風間『閣下は四葉の対抗手段として達也を宛がいたいと仰る訳ですか?』

 

やはりかと、風間は思った

 

あの家の情報網で十師族が達也を調べていると知ってからこの可能性は十二分にあった

 

そして、四葉に対抗するためという事も

 

烈『そこまでは言うておらん。しかし、現在でも四葉は十師族の中でも頭一つ抜けた存在だ。彼の力を四葉が欲するやもしれん。その前に手を打っておきたいのは事実だ。そして、一条や十文字、七草といったこれからの日本を守る素晴らしい魔法師になってほしいのだ。』

 

四葉家は病弱とはいえ、双子の姉は健在で妹は世界最強の魔法師の一人だ

 

そして、今年の第一高校に入学している司波 深雪という人物

 

一条 将輝でさえ、彼女には勝てないだろう

 

そんな四葉家が達也を取り込めば、十師族が束になったかかっても太刀打ちは出来ないだろう

 

その前に手を打っておきたい、欲を言えばこの日本の魔法師界を支える一柱になってもらいたい

 

風間『…閣下の仰ることは良く理解しているつもりです。そして、そのお気持ちも。しかし。』

 

烈の悲痛にも似た思いを受け止めた風間だが、表情は変わらない

 

烈『しかし、なんだね?』

 

風間『…』

 

ここではっきりと言わなければ、この人物はまた来るだろうということは判っていた

 

口を開こうとした瞬間ーー

 

凛『そこまでですよ?ご老人。』

 

風間の背後の扉から出てくる二人の人間

 

烈『…何者かね?』

 

気配も悟らせず、声を聴くまでその存在を認識出来なかったのは現役の頃からでも数える程だ

 

しかも、それが立て続けに二回もあると少しショックがある

 

浩也『凛、もう少し堪えて欲しかったのだが?』

 

風間『確かに。というよりも、二人に出てもらうまでもなかった気がするが。』

 

烈の存在を無視するかのように三人の中で完結しているのは、おそらくそういうことなのだろう

 

浩也『いや、俺の勘ではここら辺りで釘を差しておく方が後々良い気がしてな。お邪魔して申し訳ない、九島烈さん。私達は守夢達也の両親です。今の会話を聴かせていただきました。』

 

悪友である風間が渋い表情をしているのは、まだ自分達が出てくる場面でも無いと言いたかったのだろう

 

だが、烈が欲しているのが達也の本人となってくるとここでその望みをへし折っておくのもありかと考えたからだ

 

家族としても最適な場面だろう

 

凛『単刀直入に言いますわ。達也をあなた方十師族、引いては魔法師に達也を渡しませんわ。』

 

浩也『…バッサリというかなんというか。…あぁ、失礼。もう私のことはご存知ですかな?』

 

喧嘩腰で一方的に話を終わらせる妻に自分と風間は苦笑を浮かべる

 

感情論で断ることも大切だが、この老人には別の方向で攻撃した方が効果は大きい

 

烈『…君は、あの場では森城と名乗っていなかったかね?…そういえば、あの方が仰っていたな。ある一族を敵にまわせば、全世界が敵になると。』

 

自分を前にして萎縮せずに堂々とした立ち振る舞いに烈は僅かながら緊張と動揺を隠せない

 

このような事は数少ない人物にしか抱いた憶えがない

 

その数少ない人物を思い起こすとその人物から珍しい言葉を聞かされたのを思い出す

それはその人物らしからぬ相手の名を口に出さなかったからだ

その人物の傲慢な振る舞いはその実績と権力があったからで、本気になれば敵などいないだろうと思っていた

 

そんな人物から畏れや警戒といった類の言葉を聞いた時は暫く呆然としてしまったのは記憶に新しい

 

浩也『なんだ、あの男を知っていたのですか。それならば話は早い。それで?』

 

烈『今回ばかりは分が悪いの。』

 

自分ですら敬意を払う人物を「あの男」と呼ぶとなると、やはりこの二人はある一族と見て間違いないだろう

 

調べたいところではあるが、おそらくそれはあの方が明言を避けた時点で、するなか出来ないかのどちらかになる

 

風間『この場限りではありませんよ。達也に関しては、例え世界が相手でも我々は容赦しない。』

 

まだ諦めていない口ぶりに風間も苦言を呈する

 

本来、風間の立場から九島烈に喧嘩を売るようなことは言えない

 

しかし、達也に関しては例外だ

 

烈『だが、彼自身が求めれば私は快く受け入れるつもりだ。そのことを憶えていてもらいたい。』

 

風間の言葉に不快感を感じた様子も無く、淡々としている

 

浩也『面白いことを仰る御仁だ。これは達也の意思です。達也は十師族や魔法師が嫌いですからね。勝手に接触しても良いですが、何をされても責任は負いませんよ?ご自分で蒔いた種はきっちりご自分で摘んでくださいね。』

 

烈『…』

 

烈のその姿勢に予測していたのだろう、浩也は誂いの表情で烈に視線を投げる

 

その裏には、絶対の自信と憐れみが含まれていたことは妻である凛と風間しか読み取ることは出来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩也『うーん、これはまたどこかで達也に接触するかもな。』

 

烈が退出した後、ポツリと溢す

 

風間『だな。あの時のことも知っているようだしな。しかし、もう一人は知らなかったようだな。』

 

風間から見てもあの目はまだ諦めていない様子だった

 

七年前の事は、おそらく達也が九校戦に出場したことで少し気になって調べて当たりをつけたところだろうが、あの時どのような事情が隠されていたかまでは調べられない

 

まさか、もう一人いるとは誰も思うまい

 

浩也『当たり前といえば、当たり前だけどな。アレは世の理を覆しかねん。面倒な人間達に好かれるな達也は。』

 

達也の心情とは裏腹に厄介事に巻き込まれることに同情するしかなかった

 

凛『けれど、これで一つ判りましたね。九島家ではなく、九島烈が達也に興味を持っていることに。けれど、養子に迎えたいという時点で九島家も興味は示しているということになるのかしら?』

 

今日、九島 烈がこちらに接触してきたことは良かったというべきだろう

 

やはり、四葉の力は強大で烈がそれに苦心しているということは周囲もその気持ちは少なからずあるということだ

 

浩也『そうだな。しかし、まだ断定出来たわけではない。あとは、他の九つの家がどう動くかだ。(達也、この事を知ったら怒るだろうなぁ。二人には内緒にしてもらおうか。)』

 

今後は、少し十師族に気を配っておいた方が得策だろう

 

これで一つ、達也の重荷を降ろすことが出来るかと考えるもその達也が今晩の事件?を知れば、必ず怒るに違いない

 

それでは意味がないため、凛と風間と二人に秘密にしてくれるよう頼むのだった

 

 

 

 


 

 

 

横浜の中華街の一角の高級ホテルの最上階で複数の中年の男達が慌ただしく動き回っていた

 

『くそっ!まさか、日本軍の特殊部隊がしゃしゃり出てくるとは。』

 

一人の小太りの男が如何にも高級ですという指輪をいくつも嵌めた指でスーツケースに荷物を仕舞い込みながら呟く

 

『これで、計画の全てが台無しだ。組織の制裁もある、我々がこんな夜逃げの真似事をしなければならないとは。』

 

それに端を発し、別の細身の男が愚痴を溢す

 

『それもそうだが。あのガキ、守夢 達也とか言うらしいが。あのガキの始末はどうする?ごく普通の家庭らしい。両親があのエリシオン社に勤めているだけだ。』

 

『しかし、普通の家庭のガキがそこまでの力を有しているとは考えにくい。』

 

その原因を作った達也本人の名前が挙がる

 

プロ顔負けのエンジニアとしての腕に一条 将輝を戦闘不能にする

 

更には、不正工作を見抜く人物が普通の家庭にいる訳がない

 

 

しかし、そんな実にならない会話をしている間にも外側でじわりじわりと自分達の首が締まっていくのを男達は知る由も無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は午後十時三十分を五分程過ぎた頃

 

横浜ベイヒルズタワーの屋上に達也と響子は居た

 

ここ横浜ベイヒルズタワーは表向きは民間施設という建前だが、実際は東京湾を出入りする船舶を監視する為に国防海軍と水上警察が民間会社と偽装したオフィスを構えている

 

また、魔法協会の支部(本部は京都)があるため警備は相当厳しい、のだがそれを難無く突破してみせた響子は電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)という二つ名に相応しかった

 

響子『準備は出来たわよ。どうするの?』

 

真田の方での措置も終えているらしく、達也に声を掛ける

 

達也『そうですね。まず、守りを消してそこからじっくりと聞き出していきます。ジェネレーターが四人に幹部構成員が、二…三……五人。情報通りか。…やるか。』

 

小野の情報通り無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の東日本支部の幹部構成員がホテルの最上階で慌てた様子で動いているのが確認出来た

 

理由は不明ではあるが、その姿は夜逃げそのものだった

 

だが、そんなこと達也にはどうでもよいことだ

 

目下の行動指針は早く帰って寝る、これだけだ

 

達也は左胸のホルスターに収まっているダークシルバーの拳銃型CADを抜き、照準を合わせることなく引き金を引いた

 

 

 

 

 

『?…何だ…!?』

 

異変に気が付いたのは偶然だった

 

守夢 達也という人物の不気味さに幹部全員が深い思考に入ってしまったことで荷物を纏める手が止まり、その静かな空気の中でくぐもった声が部屋に響く

 

その原因を探ると一人のジェネレーターが苦しげに蹲る姿が目に入る

 

次いで、苦しむジェネレーターが一瞬にして消え去る

 

『何があったというのだ?…!?、壁が!』

 

一連の状況を説明出来るものはいないが、この場にいる者全ての人間は魔法師だ

 

摩訶不思議な出来事に戦々恐々としている訳ではない

 

状況を整理するために周囲を見回せば、壁に直径約2m程の大穴が空いていた

 

これほど大きな穴を穿てば、誰かが気付く筈

 

なのに、誰も気付けなかったとなると、相手は相当手練れの魔法師に違いない

 

幹部全員の額に冷や汗が流れる

 

すると、壁に設置してある電話が鳴る

 

『…』

 

突然の電話に緊張が走り、誰もが応答を躊躇する

 

だが、応答しなかったからといって電話が切れることはない

 

ダークスーツを身に纏った中肉中背の如何にもといった強面の一人の幹部がタッチ式の受話器を上げる

 

『Hello、無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の東日本支部の諸君。』

 

すると、愉快そうな若い男の声が部屋中に響く

 

『…何者だ?』

 

威嚇するように問いかけるが、僅かに声音は震えている

 

当然だろう、ここの部屋に通じる通話回線は幹部用だ

 

下部構成員は使用出来ない、その秘匿回線とも言えるこれに繋いできているということはそういうことなのだ

 

達也『富士では世話になったな。ついてはその返礼に来た。』

 

言い終わると同時にもう一人のジェネレーターが消え去る

 

響子『…トライデント。(あの時、まだいなかったからデータでしか見てなかったけど。これほどの力を有しているのよね。更には…。)…本当に深い業ね。(ボソッ)』

 

ダークシルバー・ホーン・カスタム 【トライデント】

 

軍事機密指定にされている達也の魔法の一つである【分解】

 

その分解の術式はコンクリート壁を原料であるセメント・水・骨材等、更に水に関しては水素と酸素に、骨材である小石等は1mm以下の微粒子にまで変貌する

 

そして、魔法の干渉を妨害する概念まで分解し、また一人のジェネレーターが焼失するかのように消失した

 

そこには三つの工程が組み込まれており、

 

一つ目は標的(この場合はジェレーター自身)を守る領域干渉を分解

二つ目は標的の肉体を守る情報強化の分解

三つ目は標的の肉体を分解

 

この工程を独立魔装大隊では【トライデント】と認識している

実を言えばこの言葉は魔法大全では違う意味で載せられており、達也の行うこの【トライデント】は非公式なのだ

 

全てを目に見えない分子レベル、イオンレベルにまで

 

達也の談では原子レベルにまで出来るそうだが、信憑性も薄く、すぐに分子に結合してしまうためあまり効果は無いのではないかと考える

 

『(馬鹿な。この場所が数日も経たずにバレたというのか!)十四号、何処だ。何処から狙って来ている!』

 

これほどの協力な魔法ならば、近距離に魔法師がいるはずだ

 

そう確信して十四号と呼ばれているジェネレーターに居場所を特定させるよう指示する

 

十四号と呼ばれたジェネレーターは緩慢な動きで大穴の空いた方を向き、その先に見える一番高い建物であるベイヒルズタワーを指差した

 

指差された場所にスコープで魔法師を探す

 

あんな遠い場所にいるのかとありえないと感じつつもジェレーターの感知は正確だと言い聞かせ、照準を合わせる

 

『!?…?ぎゃっ!』

 

偶々なのか、スコープの直線上と建物の少し開けた場所にバイカーズ・シェードで人相を隠した一人の青年に近い少年を確認する

 

スコープ越しに見ていることに気付いてるのであろう、口元は嘲笑うかのようにつり上がっていた

 

何かが光ったと思った瞬間、右目にとてつもない痛みが襲った

 

スコープが砕け、その破片が覗いていた右目に突き刺さったのだ

 

痛みに呻く小柄で小太りの男は悲鳴を挙げる

 

『十四号、十六号やれ!』

 

遠距離からの正確無比な狙撃に恐怖を憶えると自分達の盾とも言えるジェネレーターに敵の排除を命じる

 

しかしーー

 

『ムリデス。』

 

『トドキマセン。』

 

機械が喋るかのような口調で答える

 

そもそも、感情の無い人形のようなものは出来ることと出来ないことは明確になっているため頑張って死にものぐるいでなどという行動は不可能だ

 

それは始めからわかりきっている筈がその思考は恐怖によって出来ないのだ

 

『口答えするな、やるんだ!』

 

その回答に癇癪を起こした幹部

 

達也『やらせると思うか?』

 

その命令に応えたのは電話越しからの声だった

 

『『!?』』

 

自分達を守る残りのジェネレーターが一瞬にして消え失せる

 

達也『道具に命令するのではなく、自分でやったらどうだ?』

 

そう、まだこの場には五人の魔法師がいるため反撃の方法は探せばあるだろう

 

もっとも、それをやろうとする気があればの話だが

 

一人が携帯の端末を出し、外部に応援を頼もうと試みるもーー

 

達也『無駄だ。その場から通話出来るのは俺だけだ。』

 

携帯端末から聞こえてくる声は有線の電話の声と同じ

 

『ひっ!』

 

『馬鹿な一体どうy』

 

果敢にも通話の声に反抗する一人の男は言い終えない内に跡形もなく消え失せ、片目を失った男も次の瞬間には消え去った

 

達也『電波を収束した。どうやってかはお前たちが知ったところでどうにもならないがな。逃げようにもそこの警備システムは銃火器では壊せない。唯一はそこの壁の穴から飛び降りることだが、その高さでは生きてはいまい。…まあ、俺も逃がす気は無いがな。』

 

達也の言葉に男達は理解は出来ていた

 

しかし、それは希望からくるものではなく、絶望を意味していた

 

達也の言う通り扉は解錠不可能に近い

 

元々、この部屋はVIP仕様であるため銃火器等でもびくともしないように造られているため逃げ場は達也の空けた穴から飛び降りるのみだが、それは死と同義

 

達也『では、本番だ。』

 

『ま、待ってくれ。』

 

残された道は許しを得ることだけだった

 

一人の男がプライドをかなぐり捨てて叫ぶ

 

達也『何を待てというんだ?』

 

助かるためにはこの悪魔の甘言にも似た声に取り入るしかない

 

『我々はもう九校戦に手出しはしない。』

 

達也『九校戦は明日で終わりだ。』

 

命だけでも拾わなければと、醜い思考が読み取れる

 

『そ、それだけではない。明朝にはこの国を出ていく。そして、もう二度とこの国に戻って来ない!』

 

達也『仮にお前たちがそうしても、別の人間が来るのではないか?』

 

悪人の常套句とも言える言葉に呆れるしかない

 

『いや、我々無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)は日本から手を引く。西日本総支部もだ。』

 

達也『お前にそれだけの権限があるのか?ダグラス=(ウォン)?』

 

言葉だけなら何とでも言える

 

有言不実行ではなく、有言実行が出来なければ意味はない

 

黄『!?私は、ボスの側近だ。ボスも私の意見は無視出来ない!』

 

自分の名前を知られていたことに恐怖が体を支配する

 

だが、言い澱んでいると消されかねない

 

(ウォン)は必死に叫び続ける

 

達也『お前にそれほどの影響力があると?』

 

証拠を示せと達也は問う

 

『私はボスの命を救ったことがある。命の…』

 

達也『命の借り、救われた数だけ望みを叶えることで返す掟。だったか?』

 

(ウォン)の発言に重ねるように達也は同じ言葉を口にする

 

黄『…ど、どうしてそれを。』

 

何故、その掟を知られているのか

 

達也『その借りは自分の命の為に必要なんじゃないのか?』

 

助かるためにはその借りで命乞いをするほか無い

 

自分だけその借りで生き残るのは裏切りでしかない

 

残った二人が憎悪と殺意で黄を睨む

 

黄『違う。そんなことをしなくてもボスは私を見捨てたりしない!』

 

達也『…無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)の由来は自分達で名付けたものではなく。お前達のリーダーが部下の前に姿を現さないことから敵対組織によって名付けられたもの。リーダー自身で制裁、粛清する時も意識を奪って自分の部屋に連れて来させる徹底ぶりだと聞く。』

 

黄『そ、そこまで…。』

 

どれほどまで自分達の事が知られているのか

 

最早、この声の主に従っても助からないのではないか?そんな思考が脳裏を掠める

 

そうなると、いつ自分達は龍の尾を踏んだのか

 

達也『お前にその影響力があるのならば当然、ボスの顔を見ているはずだな?』

 

だが、それを探る余裕はない

 

黄『私は拝謁を許されている。』

 

この男の気まぐれに賭けるしかないのだ

 

達也『ボスの名は何という?』

 

ーーーが、この問いには押し黙るしか無かった

 

それは組織の中で最高機密

 

この長年にわたり刷り込まれてきた恐怖が回答を拒否した

 

その時間はごく僅かな時間であり、躊躇ったにも見受けられるが達也はそれを是としなかった

 

黄『!?ジェームズ!』

 

有無を言わさぬ、人として、動物としての死を許さない

 

消滅だけの終焉(終わり)

 

達也『ほう、今のがジェームズ=(チュー)だったのか。手配中の国際警察には悪いことをしたかな?』

 

黄『…て。』

 

達也『さて。次はお前にしようか、ダグラス=(ウォン)?』

 

黄『待ってくれ!』

 

達也『それは聴き飽きたぞ?』

 

その言葉に一体どれほどの価値があるというのか

 

黄『…ボスの名はリチャード=(スン)だ。』

 

膝をつき、ポツリと呟いた

 

達也『表の名は?』

 

黄『孫 公明だ…。』

 

達也『住まいは?』

 

聞かれるがままに洗い浚い全てを話していった(ウォン)

 

 

黄『これが私の知っている全てだ。』

 

達也『こちらも先程で訊きたい事は終わったようだ。』

 

あらかじめ小野からボスと思しき数名分のリストを貰っていた、そしてその中に該当する人物があった

 

あとは、詳しい情報を自白させるだけだった

 

黄『では、信じてもらえるのか?』

 

達也『あぁ、お前はリチャード=(スン)の側近のようだ。』

 

この言葉は(ウォン)にとって絶望の中で天から降りてきた細い細い蜘蛛の糸ように感じた

 

 

最後の仲間が消え失せるまではーーー

 

 

黄『グレゴリー!』

 

それは慟哭にもにた叫び

 

黄『な、何故だ!?我々は命までは奪わなかった。我々は誰も殺さなかったではないか!』

 

それは自分達だけが殺されるという理不尽

 

それは恩着せがましくも面の皮だけが厚い愚かな思考

 

達也『…勘違いするなよ。』

 

それは結果論に過ぎなかった

 

偶然にも達也が近くにいたから防いだ、偶然にも達也の意思とは無関係に体が動いたから防いだだけのこと

 

大量虐殺の場面にも響子や真田、柳が現場に居たおかげで阻止出来ただけのこと

 

黄『なに?』

 

達也『お前達が何人殺そうが何人生かそうが関係ない。』

 

いい加減この茶番にも飽きている

 

達也『お前達は入ってはならない領域に足を踏み込んだ、触れてはならないものに手を出した。ただ、それだけがお前達が消える理由だ』

 

更に言えば、組織の情報を漏らした今、この男もただでは済まない

 

組織を裏切ったのだから、組織と仲間に殺されても文句は言えない

 

もっとも、その組織と仲間が存在していればの話だが

 

黄『あ、悪魔め!』

 

達也『その【悪魔の力】を使わせたのはお前達だ。逆に感謝しよう。最近、鬱憤が溜まっていたからな。良いはけ口になった。…いや、元々の要因を作った内の半分はお前達だから、当然の結果だな。』

 

この九校戦は達也にとっては散々な日々だったが、来年の為の良い掃除も出来た

 

そういう意味では意義があったのだろう

 

黄『【悪魔の力】だと?…ま、まさか。この魔法、Demon・R(デーモン・r)…』

 

漸く気付いても遅し、言い終える前にダグラス=(ウォン)は存在不証明という形でこの世界から消え失せたのだった

 

 

 

 

 

達也『…響子さん、すみません。あまり気持ちの良くないものを見せてしまいましたね。』

 

ダークシルバー・ホーンをホルスターに収め、響子に謝る

 

自分の魔法は他人に見せて良いものではない

それは最高機密という側面もあるが、見た人間は大抵体調不良を訴える

理由は明白だろう、人間が物が跡形もなく消滅してしまうのだから

 

だから、響子含め、結那や加蓮、恭也はもちろんのこと家族にも見て欲しくないというのが達也の本音だ

 

まあ、好きな人にこんな醜い魔法を見られてたくないのもあるだろうが

 

響子『ううん、そんなことないわ。達也君のおかげで今の私達があると言っても過言ではないから。…それに将来、妻になるんだから夫の活躍は目に焼き付けておきたいじゃない(ボソッ)』

 

そんな達也の悩みも杞憂であり

 

これは達也の一部に過ぎず、この力を含めて達也を好きなのだ

 

達也『?何か言いましたか?』

 

ボソボソと顔を赤らめる響子

 

響子『何でもないわ。さあ、帰りましょう。不規則な生活は体に悪いから。』

 

顔を覗き込まれて慌てる響子

 

こんなニヤついた表情を見られる訳には行かない

 

首を横に振って達也に何でも無いと誤魔化す

 

達也『響子さん、疲れているのでしたら運転しますよ?免許証は持ってきているので。』

 

達也の年齢は十六歳

 

だが、軍では戸籍が別に作られているため免許証も存在している

 

知識も頭に入っているし運転技術に関しても浩也、風間達からお墨付きも貰っているため問題はない

 

響子『大丈夫よ。』

 

達也『そうですか?無理はいけませんよ?』

 

少し顔が赤かったが、すぐに元に戻ったから体調不良ではないのだろう

 

念には念を押しておく

 

響子『…なら、少しだけここから夜景を見て帰らない?』

 

その言葉に響子は暫し考え込むと

 

ポツリと達也にお願いをしてみる

 

達也『ロマンチストですね。』

 

確かに、こんな場所に何度も訪れることはない

 

仕事も一段落したのだ

 

少しくらい帰りが遅くなっても問題はないだろう

 

海と港、それを彩るオレンジ色の光に船を見守る灯台達、町を飾る様々な光をこんな高さから眺めることが出来るのは滅多に無い

 

響子の嬉しそうな表情に、少しだけサボるのも有りかと考える達也だった

 

 

 

 

 




如何でしたか?

高校生で精神が完成されている訳はないと思うんですよね。
年齢的に大人と言われている二十歳でもそんなことは難しいと思います。
何歳になっても成長・修行ではないかなと思いますね。
でも、小学三年生位までの子達には思考は勝てないなと私的には感じますね。
よく見てますから。

①摩利さんには苦戦してもらいました?…最後は圧勝でしたが。
②愛梨さん、達也君の事認めて、意識までしてます。
③真由美さんガチ告白!
④摩利さん、何か考えてそうですね。
⑤九島烈さんとうとう尻尾を出しましたね。オリキャラによる釘も刺しましたが。
⑥達也君、響子さんとドライブデート!?

皆さん、免疫力高めていきましょう。

私的にはインフルの方が死亡率も感染力も高いと思います。
理由は色々ありますが、お亡くなりのとある◯◯◯◯の方の本とか自称日本一◯◯に嫌われている◯◯の方ですが。

※◯はあまり名前を出したくないので。

不快に感じられた方はすみません。


次回もご愛読よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

26話

今回が九校戦編ラストです。
楽しんでいただければ幸いです。

外出自粛で気持ちも落ち込むと思います。
朝は太陽の陽を浴びて、適度な運動か筋トレで鬱屈しそうな気分を解消してもらえればと思います。




九校戦最終日

 

今日行われるのは本戦男子モノリス・コードのみで、決勝トーナメントの計四試合が行われる

 

最終日のため表彰式と閉会式があるため前日に予選が行われている

 

午前九時から第一試合、十時から第二試合、午後一時から三位決定戦そして、二時より決勝戦が行われる運びとなっている

 

その後、三時半に表彰式と閉会式によって九校戦は終了する

 

ーーのだが、最後のプログラムとして午後七時からパーティが開かれるのだ(達也としては早く帰りたいという願望がある)

 

とまあ、今日のプログラムを連連と並べてもまだ第一高校は試合があるためそんな思考が出来るのは予選落ちした五校だけだった

 

達也は昨日の報告の件もあり、風間の部屋を訪れていた

詳細は全て響子から報告は上がっており、特段この部屋に来る必要もないのだが今回の無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)について訊ける情報があるならと思い訪れたのだ

 

風間『昨夜の件だが、ご苦労だったな。』

 

達也『いえ、私情と言っても過言ではありませんでしたから。』

 

柳『私情ではないさ。俺も襲われたのだからな。』

 

情報源は達也もとい小野であり、今回の任務に家族愛の達也の私情程度は問題ない

 

それにきっちりと任務を果たしたのだ

 

それを差し引いてもお釣りが来る

 

達也『お言葉に甘えさせていただきます。』

 

椅子に座りながら礼をする達也

 

響子『お友達と観戦はしなくていいの?』

 

響子からいただいていた紅茶を飲んでいると、彼女は不思議そうな表情をする

 

達也『私がいないと観戦出来ない試合なんてありませんよ。初戦の調整も終わってますし。試合中は体を休ませないと。』

 

どうやら、自分達の為に友人を放り出して来ているという申し訳なさを感じているようだ

 

心配は無用と、寛げるのは此処だと告げる

 

真田『それはそうだ。何しろ、この大会中エンジニアとして選手としても休まず働きまくってたからね。』

 

少し皮肉った達也の言葉に大笑いする

 

そんな真田を見て、柳は嘆息し響子も苦笑いを浮かべた

 

浩也『では、本題に入ろうか。』

 

雑談も一段落したところで表情を改めると風間に目配せする

 

今日は妻である凛と子供達三人はいない

 

理由は極秘であると同時にあまり聞かせて悪い気分にさせてくないという配慮からだ

 

風間『そうだな。達也の働きのおかげで無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)を押さえることが出来た。』

 

達也『たかが、犯罪シンジケートの頭目の情報にそれほどの価値があったのですか?』

 

昨晩、何故達也があのような茶番劇を演じたのか

 

それは風間から無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)のボスの情報を訊き出すよう命令していたからだ

 

でなければ、会話を長引かせあそこまで恐怖を煽り嬲るようなことはしない

 

一応、迷惑千万の意趣返しというのも含まれているが

 

風間『そこから少し話そうか。』

 

あっさりと達也の要望を聞いてくれた風間

 

極秘でも政治的にはあまり関係無いのかもしれない

 

真田『達也君は、【ソーサリー・ブースター】について何処まで知っているかな?』

 

風間に替わり真田が達也に問いかける

 

ここからは技術屋同士の方が話も進む

 

達也『小指の爪程も知りません。ここ、数年で犯罪集団に一気に広まった画期的な魔法増幅装置だとか。そんな眉唾物事実上不可能だと思っていましたから。私の経験を元に少し考えましたが、脳に何らかの刺激を直接与えるくらいしか…まさか。』

 

魔法師が魔法が体のどこからでも使えるわけではない

 

その大本になるのはある部位なのだ

 

しかし、そう考えると効率が悪いと結論付けたためその思考には蓋をしていたが真田達の表情が強張ったため、達也も驚愕してしまう

 

 

真田『そのまさかだよ。部分としては、人間の大脳だ。詳しく説明しよう。』

 

魔法は魔法式という「信号」を魔法師から対象物の個別情報体(エイドス)へ出力するプロセスを含むため増幅という概念と全く無縁なものとは言い切れない

 

だが、魔法式の出力プロセスは、情報体次元(イデア)という単一情報プラットホームの中における情報の移動であり、魔法式という信号が魔法師と対象物の間を物理的に移動するわけではない

 

達也『…』

 

魔法師が構築した魔法式を一体どこで増幅するのか、まずそれが疑問なのだ

 

真田『だから、増幅という言葉が違うね。…魔法式の設計図を提供するだけでなく、それを元にした魔法式構築過程を補助する機能も持つCAD、という表現が近いかな。…達也君風に考えると増設メモリーという言葉が近いね。』

 

そもそも、普通にソーサリー・ブースターという言葉を直訳するべきではない

 

俗称が本質を表現していないなんて珍しいことではないのだから

 

 

達也『そして、CADの中枢部品である感応石は現在分子レベルから化学的に合成しネットワーク構造に発達させた神経細胞(ニューロン)を結晶化して製造。また、ネットワーク構造の違いによって変換効率が決定されるため、重要となるのはニューロンの持つ物質的な特性ではなくネットワーク構造のパターンであると言われている。そして、この人造ニューロン以外の素材で感応石の製造に成功した例は無し。…今回、それを人造以外で非人道的に開発したところが。』

 

真田『…そう。無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)だ。そして、この組織しかそれを製造していない。』

 

しかし、動物の脳細胞を仕様した場合、脳内に残留する想子(サイオン)の影響で使用者との感応は成立しない、それは人間の脳細胞でも同じ

 

CAD開発の黎明期、各国では倫理、良心、信仰何もかも無視して思考錯誤を繰り返して今の化学的に合成して製造するというノウハウが確立された

 

その常識を覆したのが、無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)なのだ

 

通常の感応石の機能と全く同じではない

 

一つのブースターには一つの特定の魔法にしか使用は出来ない

そして、使用出来る魔法は各ブースターによって異なるがある程度パターン化することは出来るという

それが残留思念によって使用可能な魔法の種類が変わるらしい

 

脳を摘出するその際に何らかの刺激を与えることで生み出される魔法の種類をコントロール出来るという

 

達也『…まるで、蠱毒のような方法と言えますね。』

 

真田『そうだね。おそらく、それが基盤となっているだろうね。僕たちは魔法を武器とし、魔法師を軍事システムに組み込むことを目的とした実験部隊だ。しかし、魔法師を駒や道具として使うつもりはない。少佐や柳大尉、藤林少尉や他の士官、兵卒も含めね。だが、アレはこの世に存在すべきではない。』

 

珍しく怒りを抑えるような表情の真田に相当に酷いのだと推察出来る

 

達也『では、今回の殲滅は無頭竜(No Head Dragon)(ノーヘッドドラゴン)のボスを捕らえる為の情報が必要だったと?』

 

真田『そういうこと。供給を止めるためにね。』

 

ブースターを買い付けるためではない

 

ブースターという存在をこの世から消し去るために

 

風間『感情面も抜きにしても魔法師のキャパシティを拡張するブースターは軍事的にも脅威だ。北米情報局(NAIA)も同様で内情に協力を求めていたらしい。…壬生が随分感謝していたぞ。』

 

達也『…』

 

壬生という人物とその人物から感謝の言葉を述べられても何故か嬉しくない

 

その表情を見た浩也と風間は時間が掛かりそうだと嘆息するのだった

 

 

 

 

時刻は午前九時三十分を過ぎたところ、第一試合は岩場のステージで第一高校と第九高校の組み合わせで順当に第一高校が決勝進出を決めていた

 

一高(こちら側)のメンバーは十文字 克人・辰巳 鋼太郎・服部 刑部

 

そして、そのハイライトがラウンジのモニターに映し出されていた

 

 

達也『当然か、一高(ウチ)が勝つのは。(それにしても服部先輩のスタイルはやはり集団戦闘に長けているな。)』

 

試合開始直後、先手を打ったのは服部だった

 

加速魔法と跳躍魔法を織り交ぜながら敵陣へ突進していく

 

九高は先制のタイミングを逃し自陣に全員地に根を生やしていた

 

距離が中間辺りに差し掛かった頃、服部は九高選手三人に魔法を放つ

 

上昇気流と共に白い霧が九高の三人の頭上に生じ、濃さを増しやがて小石程度の大きさの雹に形を変えて降り注いだ

 

魔法の名は【ドライ・ブリザード】収束・発散・移動の複合魔法

 

この魔法はスピード・シューティングで真由美が使用していた魔法の原型だ

空気中の二酸化炭素を集めて凝結させるが、-78.5℃にまでしなければドライアイスにはならないそして、凝固する時に持っていたエネルギーを運動エネルギーに変換させる

 

慌てて、九高の一人がそれを防ぐために自分達の頭上に落下速度を(ゼロ)にする障壁を展開する

 

それは自然の重力を対象にしていないため、雹は一旦静止するもすぐに自由落下し岩によって砕かれるなどして気体に変わるがそれだけで終わらない

 

ドライアイスは-78.5℃、その冷気は空気中の水蒸気を冷やし白い霧となって九高の三人の周りを取り囲み服に水滴として貼り付くと更に昇華した濃度の高い二酸化炭素も漂い、息苦しさが増していく

高濃度(約7~8%以上)の二酸化炭素を吸入すると、たとえ酸素が大気中と同等程度含まれていても、二酸化炭素が呼吸中枢に毒性を示すために自発呼吸が停止、窒息することがあり得るのだ

特に昇華して二酸化炭素の気体になった場合は足下に滞留しやすいため、窒息あるいは酸欠の危険も高い

 

息苦しさで思考が鈍らない内に取り払おうと魔法を使おうとする九高の三人だが、服部がそれより先にコンビネーション魔法を発動させる

 

土砂の粒子を細かく振動させ生じる微弱な摩擦の電気を、土砂の電気的性質を同時に改変し増量させる術式

 

前回、新人戦で八高の選手が一条将輝に放った同種の魔法だが、威力、洗練度は桁違いだ

その増幅した電流が地を這い、その姿はまるで数多の蛇のように標的と定めたものに接近する

更には、服部が仕掛けた飽和状態の水分が地面と空気中を満たしたことで水分がより電気を流しやすくする

 

這い寄る雷蛇(スリザリン・サンダース)

 

一見、ただ魔法を個々に使用したように思えるが前の魔法をの特性をして次に放つ魔法と相乗効果を生むように考えられた魔法

 

コンビネーション魔法と呼ばれる

 

コンビネーション魔法は複数の魔法工程を一つの術式にまとめるものではなく、発動する魔法の特性を組み合わせて個々の魔法の総和よりも大きな効果を生み出す魔法技術だ

 

それをこの場面では、九高の選手のプロテクトスーツの付着した水滴を利用したのだ

 

マルチキャストは一つの発動中に別の魔法を繰り出す技術のため圧倒的な力量を見せるには効果的だろう、だがこのコンビネーション魔法も次々に起こる魔法の相乗効果を考えればマルチキャストや単体の強力な魔法にも引けは取らないだろう

 

要は使い手次第だ

 

そういった意味では服部は魔法の効果を十分に理解し、次の魔法で相乗効果を期待出来そうな魔法を考え扱う事が出来るのはとても有能と言えた

 

しかし、有能だからと言って勝てるかと言えばそうではない

 

全体攻撃が出来るとしても致命傷を与えられなければ、隙を突かれる恐れもある

 

単体での攻撃で確実に戦闘不能に出来るならば、それも一つの手だ

 

今回は、完全に三人全員を戦闘不能に出来なかった

 

一人はシールドを張っていたため戦闘不能にしかし、一人は雷撃を受けながらも空中へ、もう一人は雷撃を弱めるために水滴を飛ばすことにより耐える

 

逃げ、耐えたと言ってもダメージはある

 

空中へ逃げた一人は辰巳の加速魔法により地面に叩き落される

 

残り一人となるもその程度で動揺はない、伊達に決勝トーナメントを勝ち抜いてきているのだから

 

収束魔法の圧縮空気を服部目掛けて放たれる

 

この地球上で最も身近にそしてそれを武器にも転用しやすいのは空気だろう

 

加えて、殺傷力を抑えやすいのもあり、このモノリス・コードでは圧縮空気や鎌鼬の使用頻度は高い

現に、達也達が戦った二高や三高も空気を媒体にしていた

 

圧縮空気が服部に当たるかと思いきや、その眼前で目には見えない障壁に阻まれた

 

それは服部が展開したものではない、服部が後方を振り返ると十文字が右手を前に突き出していた

 

反射障壁(リフレクター)】だった

 

個体・液体・気体を問わず、運動ベクトルを反転させる力場を発生させる領域魔法

 

しかも、大きなポイントと言った距離や焦点を測れるものも無いオープンな場所で数百メートル離れている服部の前に更には相手の魔法を確認し適切なタイミングで展開する技術は驚嘆に値する

 

服部もその十文字の技術を信頼して障壁を展開しなかった

 

息の合ったコンビネーションとはこういう類を言うのだろう

 

最後に服部が広域に広がる攻撃魔法の加速・収束系複合魔法【砂塵流(リニア・サンド・ストーム)】によって最後の九高選手を戦闘不能にした

 

 

達也『魔法を扱うとなると流石の一言しか出ないな。(それにしても。何故、服部先輩は先陣を切ったのか?あのスタイルでは向いていないだろうに。自信があったのか、作戦なのか。…後者なのかもな、よく解らんが。)さて、最終調整まで時間があるから。このラウンジでのんびりしておくか。』

 

流石というべきワンサイドゲームだったが、そこには濃密な魔法の数々があった

 

それぞれの魔法の特性に応じて繰り出す技術や味方の邪魔をしないが効率の良い援護魔法

 

それは達也にとっては羨望しかなかった

 

 

 

 

 

 

 

とある小会議室

真由美から決勝のステージが渓谷ステージに決まったと伝えられた十文字

 

併せて、少し話したいというためこの部屋に来ている

 

勿論、逢い引きの類いではなく真由美と十文字の共通点である十師族関係の要件なのだろう

 

真由美『ごめんね、十文字君。こんな時に呼び出して。』

 

第一高校の代表である真由美は大会委員会から業務連絡を受ける立場にあるため、今日の午後からの決勝戦のモノリス・コードの試合ステージの連絡を受けていた

 

しかし、それを伝えるためだけにリーダーである十文字を呼び出す必要はない

 

十文字『いや。こちらこそこんな姿で不快にさせてしまってすまない。要件を聞こう。』

 

十文字は下半身をプロテクトスーツを身に着けているものの、上半身はタンクトップ一枚のみだ

 

汗も流しているため臭いも気にして消臭スプレーをしているがそこは気遣いとしてだろう

 

真由美『気にしないで。それで、新人戦モノリス・コードで一条のプリンスが守夢君に負けたでしょう?あれで父から暗号で師族会議の通達が来たのだけれど。』

 

十文字の紳士的な振る舞いに感謝し、呼び出した用事を説明する真由美

 

十文字『なるほど。』

 

真由美『?十文字君には来てないの?』

 

それも当然かといった風で驚いた様子もない十文字

 

そんな十文字に真由美は不思議そうに首を傾げる

 

十文字『あぁ。いや、もしかしたら来ているのかもしれないが、時間がな。』

 

師族会議の通達ならば十文字のところにも来ている筈だが、それならば真由美の父が自分に送ったのはどちらかが確認出来れば良いということか

 

しかも、この暗号は解読に時間がかかるのだ

 

この状況でリーダーである十文字が席を外すのは宜しくないとなると、父から真由美宛は十文字にも宛てられたとも取れる

 

真由美『そうね。続きだけど、「十師族はこの国の魔法師の頂点に立つ存在。十師族の名前を背負う魔法師はこの国の魔法師の中で最強の存在でなければならない。例え、高校生のお遊びであっても、十師族の力に疑いを残すような結果を放置しておくことは許されない」だそうよ。』

 

十文字『…あれをお遊び、と言えるか微妙だがな。』

 

真由美から伝えられた言葉に十文字は表情は変えないが、どう見ても危険な試合であったことは確かだ

 

あの試合を戦闘と捉えても何ら問題はない

 

真由美『…下手をすれば。いいえ、守夢君だったから死人が出なかっただけで普通なら死人が出てもおかしくはなかったわ。』

 

脳裏に焼き付いたあの光景は真由美には耐えられないものだった

十師族の家の者として凄惨なものも見てきたが、現在進行形では初めてと言えた

 

自分の体を両腕で抱き締めようにする真由美の表情は血の気が引いている

 

十文字『言いたいことは解った。十師族の力を誇示するような試合をすれば良い、ということだな?』

 

真由美『ごめんなさい。十文字君にこんな事を頼むのは筋違いなのだけど。』

 

落ち着けや大丈夫か等という言葉は逆効果だろうと判断した十文字は別のことで気を逸らすことに成功する

 

十文字『気にするな。寧ろ、十文字家次期当主である俺の役目だ。この事を伝えてくれただけで七草には感謝している。』

 

己の役目は重々自覚しているつもりだ

 

事実、真由美が七草家の直系ではあるものの後継者ではないためこういう役目は自分だと考えている

 

一条将輝も一条家の後継者であるため十文字と立場は同じだ

 

真由美『…ほんと、馬鹿馬鹿しいわ。十師族の傍流でもいいから守夢君がその血を引いていたらこんな三流以下の喜劇にも巻き込まれずに済んだのにね。』

 

十文字『…』

 

真由美の言葉に沈黙の十文字だがその沈黙は肯定なのか否定なのか

 

そしてこの三流喜劇も達也には全く謂れのない言い掛かりだ

 

例え、直系だろうと傍系だろうと関係ない

 

強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだから

 

 

 

 

 

 

 

達也『お待たせしました、調整完了しました。十文字会頭。』

 

決勝戦の三十分前に調整を終え、十文字に声を掛ける

 

調整と言ってもそんな大したことはしていない、精々ソフトのゴミ取り位のものだ

 

十文字『…』

 

達也『…会頭?』

 

達也の声が届かなかったのかもう一度声を掛ける

 

十文字『あぁ、すまない。』

 

何か考え込んでいたのだろう

 

達也からCADを受け取り、反応を確認する十文字

 

表情から問題無いようだと判断する

 

達也『いえ、問題なければこれで失礼します。』

 

十文字『守夢。』

 

達也『はい?』

 

試合に向けて精神統一もあるかもしれないと、部屋を出ようとする達也を十文字は呼び止める

 

十文字『後で話がある。空けておいてくれ。』

 

そう言い残すと達也の静止も無視して部屋を後にした十文字

 

達也『?あ、会頭!…おいおい、俺は承諾した覚えは無いんだが。』

 

自分の要求だけ伝えて回答すら拒んだ十文字

 

怒りを通り越して呆れる達也だった

 

 

 

 

 

本戦モノリス・コード決勝戦

 

長年因縁の関係にある第一高校と第三高校

今年の九校戦でも新人戦モノリス・コードや本戦ミラージ・バットと幾度となく戦ってきた

結果は第一高校に軍配が上がるもその差は僅差であり、第三高校が勝ってもおかしくない試合内容でもあった

 

そして、今年の九校戦最後の試合

 

三高にとってはブーメランにも似た展開に苦虫を噛み潰していた

 

それは新人戦モノリス・コードで一条将輝単独で第八高校に対峙した時のように十文字単独で第三高校に相対しているのだから

 

達也『(あれが多重移動防壁魔法【ファランクス】か。何が凄いかと言えば、維持ではなく、何種類もの防壁を途切れることなく更新し続ける持続力だろう。流石は十文字家次期当主。…これは、あれだろう。俺と一条の試合に触発され、それを十文字が対応したというのが主な理由じゃないか?)面倒な連中だ。…帰らないんですか?』

 

氷の飛礫や突風、1m以上の岩を落としたりと様々な魔法を繰り出すもその全てが十文字が展開する魔法の障壁によりはね返されていた

 

その障壁は質量体の運動ベクトルを逆転させ

電磁波、光や音波を屈折させ

分子の振動数も設定値に

想子(サイオン)の侵入も阻止

 

全てを寄せ付けない障壁が十文字を守っていた

 

その様子を最近の定位置であるラウンジのカウンターで観戦しながら十文字の魔法を分析していると背後から窺うような視線に気付く達也

 

夕歌『あら?バレてたのね。』

 

本当に随分と彼女の興味を惹いているらしい

 

冷え冷えとした声音の達也にも臆することなく、逆に声を掛けてもらえたことが嬉しいようだ

 

達也『気配には敏感なもので。』

 

夕歌『忍者…ではなく、忍だったわね。その血を引いているのかしら?』

 

達也『さあ?というか、質問に答えてほしいのですが。』

 

気配という言葉に対して忍を連想した夕歌

 

その観察力と分析能力はかなりのものだと関心する

 

八雲との関係がバレたかといって問題はないが、なるべくなら知られないほうが良いだろう

 

夕歌『最後に貴方の顔を見たいなと思って。…そうだ、今度会う時は私の名前覚えておいてね。』

 

達也『二度と会わないでしょうね。』

 

会いたくないではなく会わないでしょうという言葉を使うあたり相当関わりたくないという感情が表れている

 

夕歌『冷たいなぁ。津久葉夕歌よ、今度抜き打ちで会いに行くから。じゃあね!』

 

達也の拒絶にも似た言葉に気にした風もなく、自分の名前をもう一度伝えて夕歌は去るのだった

 

 

 

 

 


 

 

 

 

夕歌と話している間にどうやら試合は終わったようで、ハイライトを見て再度十文字の戦闘スタイルを分析する

 

試合で使われていた【ファランクス】の用途は一部なのだろう、本来というか全力時はあの障壁の使われ方は違う筈だ

 

更にモニター越しの十文字のあの目は達也に向けられているのだろう

 

俺はお前よりも強いと言いたげに

 

勝手にライバル認識されては困るのだが、今はそれを横に置いておく

 

達也『(今日は来客が多すぎるだろう。)こんなところで油を売っていると表彰式と閉会式に遅れますよ?』

 

なぜなら、テーブルの向こうにあるもう一つのソファとの間に立つ三人の三高の生徒が達也を観察しているからだ

 

何か自分が恨みを買ったのか?と思いたくなるが、ここは早々に離れてもらうことが先決だ

 

愛梨『貴方にもそれは言えるのではなくて?』

 

だが、それは上手くいかない

 

達也『私は只のしがないエンジニアですので、居ても居なくても大して変わりませんよ。』

 

どうやらサボる気満々のようだ

 

どうりでソファで珈琲を飲みながら読書しているわけだ

 

愛梨『謙遜しすぎて嫌味にしか聴こえないわ。…今晩のパーティで少し付き合っていただけるかしら?』

 

達也『用事でしたら、今言っても問題無いのでは?まあ、内容を聞くこととそれを叶えることは別の問題ですがね。』

 

愛梨達は達也に用事があり、そのためにここに居るらしいのだが

 

何故、パーティのタイミングでなければならないのか不思議だ

 

暗に誰が興味もないお前達に時間を割いてやらねばならんのだと暴言を吐いてみる

 

沓子『一言余計じゃ。全く、お主鈍感以前に乙女心が理解出来てないのぅ。愛梨が…』

 

これもまた見事にスルーというか、理解してもらえず

 

達也は頭を抱えたくなった

 

そしておかしなことに、乙女心が理解出来ていないと注意される始末

 

愛梨『沓子、それは私が言うわ。…守夢達也さん。そ、その、今晩のパーティ…なのだけれど。ダ、ダンスのお相手を、お願い…したいのだけれど、いいかしら?』

 

沓子『儂もお願いしたいのだが?』

 

栞『私も貴方にダンスのお相手をお願いするわ。』

 

一応、(対戦相手として)顔は覚えているが名前は忘れた彼女達から突然のダンスの誘い

 

長年の宿命(ライバル)であることと対戦相手のエンジニアであることを含めても大して達也との接点は無かったはずだ

 

達也は知る気も無かったため仕方ないが、この九校戦の最後のパーティ(懇親会)は本当の意味での親睦の場となる

 

これがきっかけで何組かの遠距離恋愛のカップルが生まれたりもする

 

またこの時に魔法師界における有力な人物やCADのメーカーとの繋がりも出来たりするため三年生達にとっては一挙両得のチャンスでもあるわけだ

 

だから、彼女達が達也と関係を作ろうとするのは当然であり今回に限って言えば、達也がこれを事前に確認していれば防げたミスであった

 

結局、断ろうにも理由もないため空いていればというほぼ確実な約束をしてしまうのだった

 

 

 

 

 

 

 

表彰式と閉会式も滞りなく進みいよいよラストプログラムである懇親会が幕を開けた

 

高校生にとっては長丁場であった九校戦も終了した

九校戦の間は各校共にライバル校であるため敵意を剥き出しにしてきたが、今日の懇親会は初日のものとは別物でその名の通り他校と交流を深めることが出来る

 

更に付け加えるとするならこの十二日間のプレッシャーと緊張、ライバル校に出し抜かれないように気を張り詰めていた糸が一斉に緩んだことでまだまだ成熟しきっていない一面が顔を覗かせていた

 

 

摩利『こんなところにいたのか、守夢。』

 

達也を探していたであろう渡辺摩利と七草真由美が寄ってくる

 

達也といえば数多のCADのメーカーから声を掛けられ、それの対応が終わり一息ついていたところだった

 

達也『何か御用でも?』

 

摩利『あぁ。約束を果たしてもらおうと思ってな。』

 

達也『履行するかは別だとお伝えしたはずですが?』

 

摩利が来るということは理由は決まっている

 

すっとぼけるもそれは許さないらしい

 

真由美『お疲れ様、守夢君。』

 

達也『…なるほど、内容は理解しました。ですが。』

 

真由美と来ている時点で摩利の要望など一つしかない

 

摩利『果たすかどうかは別問題ということか?』

 

達也『ええ。この十二日間に私の望むような報酬は一つもありません。ですから…』

 

さて、どうやってお断りしようか考えていると日頃の行いが良いかどうか知らないがありがたい援護が来てくれた

 

???『ちょっと失礼。ここに居たのかね、探したよ。守夢達也君。(やあ、達也助けに来たよ。)』

 

達也『あなたは、エリシオン社の森城社長。初めまして、守夢達也です。(ありがとう、義父さん。)』

 

いい加減にあしらうのもありだが、他校もいるこの状況では下手な噂にしかならない

 

そんな状況に浩也の登場だ、本当に感謝しかない

 

お互いが読心術が使えるため心の中で思うだけで相手に伝わる

 

心の中でお礼を言う達也

 

浩也『初めまして、守夢君。君の腕前に感服したよ。高校生であれほどの調整技術とは恐れ入ったよ。(お前は天然ジゴロだな。この状況だとダンスの相手をせがまれているんだろう?)』

 

達也『ありがとうございます。大したことでもありません。元のデータがありますから、それを競技用CADにコピーしているだけですのでオリジナルのものは何一つありません。(落としているつもりはありませんよ。好きな人しか落としたくありませんから。俺にはあの三人がいればいいんですから、いい迷惑です。その通りです。何故か優勝したら、俺が要望に応えるみたいなことになっています。)』

 

口上では初対面での会話が成り立っており、当り障りのない会話が交わされている

 

その反面、心の中では身内同士でどのようにしてダンスの誘いを断るかの作戦会議が行われている

 

浩也『いやいや、大したものだよ。その元のデータを正確に読み取れる技術というのは中々難しい。何故なら、その理論が完璧に理解出来ていなければ不可能なのだから。(すまんすまん。もうすでにあの三人は籠絡済みだから。次は愛人候補か、羨ましいな。その要望に応えるくだりはお前がしっかり断れば問題無かっただろうに。)』

 

達也は真剣に考えているものの、肝心の助け人たる浩也は面白半分のため話が進まない

 

達也『魔法力は無いに等しいので、出来るもので補うしかないと考えて勉強したまでのことです。(義母さんに義父さんが俺に愛人を作るようにと命令してきますと捏造しますよ?要望に関しては反省してます。というか、すでに第三高校の生徒三名にダンスのお願いはされているんですがね。これもどうしましょう?)』

 

そんな浩也の態度に達也は少しだけ意趣返しをする

 

浩也『本当かい?それは尚の事素晴らしい。実技が出来てこそ理論が出来るというのは通例だが、実技が不出来でも理論を理解することは可能だ。いや違うな。実技がしっかり出来ているほど理論はどうしても柔軟に考えれなくなってしまうこともある。そのため、実技が苦手の人は意外と理論において柔軟に思考が出来たりするものだ。君は腐らずにその道を突き進んだのだ。誇って良いと思うよ。(え!?それは止めてください。そんなことしたら、凛だけでなく結那と加連にまで怒られる。しかもお前も怒られるよ?…え?今なんて?もうお誘いの予約三名あるって?諦めたら?まあ、ダンスの時間考えたらあと多くて五、六人位か。)』

 

達也の真面目に考えてくれと叱られ反省する浩也

 

しかし、先程の達也の後半の言葉は少し予想外だったようだ

 

すでに先約があるなら逃げることは出来ない、それは約束を反故にするからだ

 

そういう人間になるなと教え、浩也自身もそれはしない

 

達也『ありがとうございます。今まで頑張ってきた甲斐がありました。これからもっと精進していきたいと思います。(死なばもろともですよ。他校とダンスの相手をしていることは絶対バレますし。どうやって被害を最小限に食い止めるかを考えた結果、サボろうと画策していたのを先手を打たれたんですから。出来れば三人だけと踊って他は無視して逃げようと考えてはいるんですけどね。)』

 

面白半分から諦め半分に方向の浩也に達也もそうだよなとこちらも諦めが入っている

 

だがまだ希望はある

 

浩也『忘れるところだった。そういえば、守夢君。飛行術式を使用していたね。うちの彼、トーラス君が感激していたよ。あの年で自分の構築した術式を理解出来るなんて凄いと我が開発部門に来てほしいとね。まだ先のことだけど、より身近に感じてもらうためにアルバイトでなんかどうかな?(鬼、悪魔、達也!まあ、あの娘達の勘と言ったら恐ろしいことこの上ないからな。少し牽制の意味も含めて助け舟出すから上手くのってくるんだぞ?)』

 

達也の為にもここは考えるしかない

 

このまま達也が他の女性と踊ることになってしまえば、自分の家で事件が起こる

 

それは恐怖でしかない

 

達也『それは、本当ですか?とても嬉しいです。あの方とお会い出来るだけでも光栄なのに。大した腕前も無い私を呼んでいただけるなんて。あの術式は使用者に無理をさせないように安全第一で設計されたものですし、ソフトももちろんですがハードのタイムレコーダー機能も一役買っていると思われるんですが。(義父さん、鬼や悪魔に失礼ですよ。そもそも十師族や師補、ナンバーズに気にいられても嬉しくありませんよ。牽制?ですか。それで退いてくれれば良いんですが。)』

 

浩也『うん。彼も年齢的にはそれなりに若いがそれだけではこのままやってはいけない。技術継承や新たな視点も必要になってくるからそういった人物を探してはいたんだよね。そこで今年の九校戦に君だよ。エンジニアとしての腕前に彼もピンと来たようだよ。私の場合はそれ以外にも家の娘と気が合うかな?と思ってね。どうかな?(良い機会だからこの際、外堀を埋めてしまおう。)』

 

浩也の作戦はこうだ

 

エリシオン社の社長として守夢達也という人間のエンジニアとしての腕を称えるというもの

 

この九校戦で達也は第一高校の勝利に多く貢献してきた

 

優勝を売上と考えるとすると、全体の3~4割程を達也が売上に貢献してきたと言える

 

それほど功績があるなら出世してもおかしくない

 

話を戻すと、達也のエンジニアとしての腕前を見込んで社長直々にスカウトし、更には社長の娘と見合いをさせるというもの

 

これまでの達也の在り方を考えればエンジニアとしては魅力的ではあるが、見合いには興味は無いだろう

 

しかし、これは浩也が画策する達也保護作戦なのだ

 

二人の周りでは第一高校の面々や他校の生徒達に更には魔法界の有力者までが聞き耳を立てている

 

それを利用して世間的にも達也を引き込む

 

森城昌浩の娘が達也と見合いをするということで達也を狙う人間達に牽制をすることが可能なのだ

 

浩也の思惑通り周囲で聞き耳を立てていた人間がざわめき立つ

 

誰から見てもこれは異例の大出世

高校生からすれば、憧れの会社でもあるエリシオン社にしかも、あの有名な魔工師のトーラス・シルバーが認め、社長からも職も結婚相手という将来が約束されるなど羨望と嫉妬の嵐だ

そして、他のCADメーカーの人間や魔法界の有力者は悔しそうな表情をしていた

何故なら、浩也が来る前に達也をスカウトしていたのだ、それを達也はさり気なく断っていたのにここに来て掌を返したのだから

 

浩也は心の中でガッツポーズを決めていた

 

ーーーしかし、

 

 

達也『それは願ってもないことです。私のような者でよければ教えを請いたいです。そして、それがあの方に良い影響を与えられるなら尚更です。…娘さんですか?それはつまり…。(それは第一高校には通用しませんよ?七草の所為で九校戦のスタッフ全員にエリシオン社の社長の息子だと知られてますから。)』

 

達也から第一高校には効果は全くないと指摘を受けるまでは

 

浩也『そうかそうか。なら、彼にも話は通しておくよ。いつでも良いからこの名刺に書かれている番号に電話をして欲しい。あと、娘の件は君の考えている通りだ。婿に来て欲しいなと思ってね。無論、嫁でも構わないよ。(え、何それ聞いてないんだけど?調べていた十師族や師補、ナンバーズは仕方ないかなと思ってたんだが。…どんまい、達也。)』

 

表面上は取り繕っているものの、内心は恥ずかしさで顔を覆いたくなる浩也

 

九校戦のスタッフに選ばれたというのは知っていたが、達也から何故選ばれたのかは聞いていなかった

 

これは達也の報告ミスだ

 

大方、十師族の七草か十文字からの後押しがあったのだろうと考えていたから納得はしていた

 

が、すでにそれがバラされていては一番ダメージを与えたい相手に効果は全くないのはショックでしかない

 

達也『此方の番号にですね。何時頃が電話が繋がりやすいとかありますか?私は夏休み中はいつでも構いません。その際にお義父さんの娘さんにお会いさせていただくことは可能でしょうか?(最後の最後に見捨てられるとは。…仕方ない、毒を食らわば皿まで。最後までダンスに付き合うまでだ。)』

 

浩也『!?た、達也?…コホン、守夢君、気が早いよ。その気持ちはとても嬉しいけどね。…では、義息子になる予定であろう達也君。連絡を待っているよ。(最後の最後で力になれずすまない。まあ、敵を半減出来たことは多少効果はあっただろうし。骨は拾っておくから。)』

 

浩也の働きも空しく作戦は失敗に終わった、あとは達也自身で乗り切ってもらうしかない

 

無責任発言の浩也に達也も投げやりになる

 

こうなったらやけ酒ならぬ、やけダンスと言われ浩也は焦った

 

そんなことをすれば達也が帰ってくる明日は確実に流血騒ぎだが、それを防ぐための策が無い

 

達也『そうなれるよう精進します。ありがとうございました。(それなら、荼毘でお願いし…冗談です。三人に外の庭で待っていると伝えて下さい。遅くなるが必ず行くと。)』

 

謝る浩也だが、別に浩也が悪い訳ではない

 

一定の有効性はあるのだ

 

あとは自分で何とかするしかない

 

互いに軽口を叩き合うと、浩也はさわやかな笑顔で去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

真由美『も~り~ゆ~め~く~ん?何故鼻の下を伸ばしているのかしら?他の皆は騙されても私達は騙されないわよ。』

 

達也『伸ばしてませんよ。』

 

とっくの昔に騙されているんですがねとは言わないでおく

 

言うとまた再調査してくるからだ

 

摩利『真由美の言う通りだ。よし、私達を揶揄った罰として真由美と踊れ。』

 

真由美『摩利?』

 

摩利『悪いな真由美余計なお節介かもしれんが、善意というものは基本お節介みたいなものだろう?あの約束をこれで果たしてもらう。』

 

摩利から真由美へのお節介は良いのだが、今回は達也にも影響はあるわけでいい迷惑なのだ

 

しかも、揶揄った罰とは冤罪にもほどがある

 

他人を不快にさせるのが罪なら摩利や真由美、十文字等々から自分を不快にした罪に対して彼らを罰することは出来そうだなと達也は考える

 

真由美『守夢君、あのね、これは摩利の戯言だから。その…無視しても良いから。』

 

達也『…承りました。』

 

真由美『!!いいの?』

 

達也『ええ、これ以上放置してサラ金の雪だるま式の利子を付けられて身の破滅に陥るよりはここで清算したほうが後腐れもありませんから。』

 

真由美はもじもじと指先を弄りながら上目遣いで達也を見ながら、断ってくれても構わないと言う

 

だが、傍目には達也と踊りたいというのがはっきりと表に出ていた

 

達也は(憶える気も無い)見ず知らずの人と踊るよりも多少なりとも関わりのある人の方が後々が面倒臭くなくて良いだろうと考えた

 

もし、街で出会ったとしてもその踊った人物を確実に忘れている自信があるからだ

 

真由美『もう、一言余計よ。ここはこんな美人なお姉さんと踊れるとは(結婚したいくらい)嬉しいですといえないの?』

 

摩利『自分で言うか。』

 

達也『そんな軟派ではありませんので。ですが、会長と踊る前に先約がありますので失礼します。』

 

一瞬、摩利が真由美の心の中を読めたのか?と思ったが違ったようだ

 

真由美が口に出さなかった言葉をここで暴露してやろうかと考えたが、そろそろダンスの時間のようだ

 

真由美『えぇ!?どういうこと、守夢君!』

 

摩利『浮気か!?私は真由美以外は認めんぞ!』

 

先約があると言われれば誰だって驚く

 

片思い中なら尚更だ

 

達也『…どうもこうも、私は誰とも関係は持っていませんし。閉会式前にホテル内で第三高校の方三人に声を掛けられまして。このパーティで踊ってほしいということで誘いを受けていましたから。それが終わりましたら、すぐに伺いますので、では。』

 

浮気でもないし、お前は俺の母親か家族なのかとツッコミを入れたくなった

 

誰も踊らないとは言っていないし真由美より先に彼女達から誘いがあったのだ

 

あの場は達也一人で居たとはいえ、勇気を振り絞ったその行動を蔑ろにするわけにはいかない

 

自ら行動するか親友からのお願いでは、当然達也が優先するのは前者なのだから

 

摩利『(ダークホースに三高とは。)?真由美?…流石にショックを隠し切れなかったか。』

 

後ろ髪を引かれることなく、愛梨達が居るであろう三高のグループの中に消えていく達也

 

摩利は恋敵(ライバル)一高(うち)だけではなかったかと反省していた

 

そしていつもならブツブツと文句言っているはずが、静かすぎる真由美

 

そろりと、顔を覗き込むと真っ白という言葉が当て嵌まる位に真由美は呆然と立ち尽くしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

三高の生徒から好奇の視線を浴びながら愛梨達三人の下へと辿り着く達也

 

何故か愛梨だけは少し不機嫌な表情をしている

 

愛梨『遅いわよ。』

 

達也『まだ時間はありますよ。』

 

愛梨『そういうことではないわ。こういうときは少し会話をして場を和ませてから踊るものよ?』

 

どうやら、こちらに来るのが遅かったのが原因のようだ

 

だが、ダンスなど人生で初めての達也はそんな気遣いは皆無に等しい

 

沓子『まあ、愛梨よ許してやってはどうじゃ?守夢も七草の姫ではなくわしらを優先してくれたからのう。』

 

栞『そうね。本来なら第一高校(身内)を優先しても文句は言われないのに、断って来てくれたのだから。』

 

栞と沓子は最初のダンスの相手を自分達に優先してくれたことで大目に見てくれているらしい

 

そうなると、真由美達との会話だけでなく浩也との会話も聞こえている可能性はあるだろう

 

達也『それは当然かと。約束したのがどちらが先か、それを蔑ろにするのは大変失礼でしょう。』

 

愛梨『それもそうね、ありがとう。…でも、貴方はあのエリシオン社の社長の娘と会うというじゃない。素直に喜べないわね。』

 

優先した理由を述べたためか栞と沓子のフォローのおかげか愛梨は少し顔を赤らめるもすぐに先ほどの不機嫌そうな表情に戻ってしまう

 

どうでもいいかと思った矢先、愛梨の嫉妬にも似た不満に浩也との作戦の効果は成功したようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティでのダンスといえど初心者も多い高校生が踊るため難しいステップ等は無かったため、達也も愛梨達の足は引っ張らずに済んだ

 

踊っている最中、周囲の視線主に一高の女性陣から射殺すような視線があったのは気の所為ではないだろう

 

理由は同じ高校で声も掛けやすいはずがライバル校である三高の生徒(しかも、師補十八家とナンバーズ)と踊っているからなのだが、本人は分かっていない

 

 

沓子『今日は楽しかったのじゃ。ありがとうなのじゃ、守夢。』

 

栞『私も愛梨や沓子以外でこんな面白い人は初めてだったわ。ありがとう。』

 

達也『それは良かったです。』

 

二人の満足げな様子に妙な解放感があった

 

愛梨『私からもありがとう。無理を聞いてもらって。』

 

達也『いえ、それでは私はこれで。』

 

そして不機嫌な様子だった愛梨も曲が流れ踊り始めると口許は綻んでいたので満足はしていたのだろう

 

お相手も終わり休憩する間もなく、真由美が待っている

 

早く戻らなければ何を言われるか分かったものではない

 

愛梨『!待って。』

 

達也『何か?』

 

愛梨『…メールとかで構わないから連絡取れないかしら?』

 

立ち去ろうとする達也の背中に愛梨は静止の言葉を掛ける

 

ダンスは終わったのだから用は無いはずだ

 

振り返ると愛梨の右手に小さなメモが握られていた

 

達也『暇な時にしか返信出来ませんが、それでよろしければ。』

 

もしかしたら、ダンスの誘いはこのメモを渡すためにあったのかもしれないと理由は聞けないかわりに邪推する達也だった

 

 

 

 

 

 

 

その後、自分を後回しにされ不貞腐れていた真由美のダンスの相手をし、ほのかと雫、更には鈴音とダンスの相手をし終えた達也

 

残すところ数曲でこの長かった九校戦の全てのスケジュールが終了する

 

そろそろ、外に出ようか考えていたところに絶世の美女?が達也の前に立ちはだかった

 

深雪『守夢さん、私とも踊っていただけるかしら?』

 

達也『見ていたかと思いますが、ダンスに関しては上手くありませんので悪しからず。』

 

いつも隣にいる女子生徒は九校戦に参加していないためかこの場には居ない

 

とりあえず、予防線だけは張っておく

 

深雪『構いませんわ、期待してませんもの。』

 

なら、何故踊れと?

 

相変わらずの女王気質に諦めるしかない

 

達也『…では、参りましょうか。』

 

この時ばかりは曲よ早く終わってくれと願う達也だった

 

 

 

 

 

深雪『初心者にしてはまあまあでしたわ。』

 

達也『それはどうも。』

 

無情にも時間は早く過ぎてくれず、更にはぎこちない動きだのもっと動きを女性に合わせろだの小言を言われる始末

 

嫌いなら無視してくれる方がありがたいが、理解不能な人種である

 

将輝『司波さん、と守夢。』

 

曲の後奏が長いためか、周囲では次のダンスの相手を探すのに時間を掛けているようだ

 

誰かこの女王様の相手をしてくれる人はいないかと思った矢先、ちょうどいい生贄(一条将輝)が現れた

 

傍から見れば美女である間違いない深雪とそこそこ容姿は良い達也、そこに美男である将輝が現れれば周囲は三角関係なのかと視線が集まってくる

 

深雪『あら、一条さん。どうかされましたか?』

 

将輝『い、いえ、その……。司波さん、一緒に踊っていただけませんか?』

 

深雪『えぇ、喜んで。それでは、エスコートお願いしますね?』

 

先ほどまで達也に向けていた冷酷な微笑は微塵もなく、花が綻ばんとする笑みで将輝を出迎える

 

そんな深雪の一面を知ってか知らずか自分に向けられた微笑みに赤面する将輝

 

これで外に出れると思い背中を向けると、自分を呼び止める将輝の声

 

 

 

将輝『は、はい。あっ、その前に守夢に聴きたいことがあるので、少し待ってもらえませんか?』

 

深雪『構いませんわ。』

 

達也『?彼女とは恋人でも何でもないですが?赤の他人ですよ。』

 

将輝『そ、そうなのか。…良かった(ボソッ)!って、そうじゃない。あの時の言葉の真意を知りたいと思ったんだ。俺に止めを刺す直前、成長出来ていないと言った。あれはどういう意味だ?』

 

この状況で聴きたいことと言われれば、一つしかないだろう

 

それは男女の仲であるかどうかだろう

 

答えはノーだが

 

真面目に答えるとそんなことが聴きたいんじゃないと怒られてしまう

 

一体何を答えないといけないのかと思っていたら、自分の発言に疑問を抱いていたらしい

 

達也『?そのようなことを言ってたんですか?』

 

そのような問いを簡単に答えるはずもなく、達也は惚けてみせる

 

将輝『憶えてないのか?』

 

達也『さっぱりです。』

 

深雪『呆れた、まるで他人事のような口振りね。まあ、貴方がどこかで一条さんと出会っていたなんて信じられないわね。』

 

一昨日の出来事ならば辛うじて憶えていてもおかしくはないが、いくら頑張っても思い出せない達也にありえないといった様子の将輝

 

ショックを受ているらしいが一ミリも胸は痛まない

 

深雪はそもそも達也と将輝が出会っている方がありえないといった様子だ

 

将輝『良いんです。司波さん。三年前のあの佐渡の時、俺は絶体絶命の危機をある人に助けて貰いました。その人の口調が今回の守夢にそっくりだったんです。いえ、逆ですね。守夢がある人の口調に似ているんです。』

 

深雪『………』

 

新ソ連の佐渡島への侵攻

 

その時、将輝は一条の戦力として出兵していた

そこで数多の敵を己の爆裂という魔法で屠った、その通り名として爆裂の一条と恐れられるようになった

 

その作戦で将輝は命の危機を救われたという、その救った人物の口調と達也がモノリス・コードで発した口調が酷似しているため将輝は達也に問い掛けたのだ

 

それを将輝から聴いた深雪も何か考える素振りをみせる

 

達也『私が一条さんを助けた?冗談にも程がありますよ。お二人ともご存知かと思いますが、魔法力の無いのに佐渡侵攻の作戦に参加出来るとでも?年齢も考えてください。嫌味も大概にして欲しいですね。そろそろ、次の曲が始まりますよ?…では。(まさかあの時の事を憶えていたとは。)』

 

とりあえず、ひとしきり唸る素振りを見せた後将輝に向き直る

 

将輝が上げた根拠では信憑性が薄いことや徴兵の年齢等を根拠に挙げ自分とは無関係であることを告げる

 

時間も無いため切り上げた達也だが、あのまま会話を続けていたらあらぬ誤解が生まれることは予想出来た

 

もし、周囲の生徒達の間で佐渡侵攻作戦の時達也が将輝を助けた恩があるからモノリス・コードでもワザと負けたなどと吹聴されれば十師族等で調査が行われるに違いないだろう

 

一条の戦果は問題無いが、その場に参加していた人間への再調査が行われるのは間違いない

 

全くTPOも弁えずこんな公衆の面前で問う内容ではない

あの問いに対して肯定などするつもりもないが、まだまだ精神的に成熟しきっていない将輝に呆れた達也だった

 

 

 

 

 

 

 

 

会場を抜け出し、数十メートルほどの距離に噴水が中央に設置された小さな庭園に駆け足で寄る達也

 

そこには会場で浩也が離れる間際に達也が言伝を頼んだ三人、響子、結那、加蓮が待っていた

 

達也『待たせてしまってすまない結那、加蓮。響子さんもお待たせしました。』

 

響子『気にしないで。あのパーティを抜けることは難しいのは解ってるから。』

 

どうもパーティは苦手だ、社交辞令は性分ではない

 

響子も過去に九校戦に出場し優勝もしており、おまけに彼女自身が美女だ

 

集まる男達の数も多かっただろう

 

加蓮『まあね。これくらいは将来の妻としては許容範囲内よ。』

 

結那『でも、他の女性をエスコートしていたことはお仕置きが必要ですよ?』

 

達也『弁明は無いよ。ただ、寛大な処置を期待するよ。それじゃあ…三人とも少し離れていてくれ。望まれざる客がこちらに来ているようだ。』

 

やはり、ダンスに関しては許してはくれなかったかと苦笑するしかない

 

次の演奏が始まろうとしているため三人に声を掛けようとするとゆっくりとした歩みで近づいてくる一人の男の気配

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十文字『時間を空けといてくれと頼んだはずだが、ここまで離れることもなかっただろう。』

 

達也『貴方の要望に応えたわけではありませんよ。休憩したかったからここまで来ただけで、貴方が勝手に金魚のフンのようについてきただけのことです。』

 

その男、十文字は噴水の縁に腰かけた達也を見留めるともう少し場所を考えて欲しいと訴えかける

 

しかし達也は年上だろうと十師族だろうと関係ない、人対人、対話で成り立つ

 

お互いが了承し合わなければ意味はない

 

そんなこと説明したところでこの男には釈迦に説法、馬の耳に念仏だろう

 

十文字『…守夢、お前は十師族の一員だな?』

 

達也『…』

 

珍しく言葉を詰まらせたから謝るかと思いきや正体を現せという

 

失礼な奴だと思いながら、欠伸を一つ

 

十文字『沈黙は肯定と受け取るぞ。』

 

達也『…』

 

十文字『…まあいい。それならば、十師族十文字家代表補佐である俺から助言をする。守夢、お前は十師族になるべきだ。理由は聞かずとも解るだろう。しかし、あの試合で一対一(サシ)で一条の後継者に勝つということはお前が思っているより遥かに重いのだ。その力を活かせる場所にいなければならない。』

 

達也『…』

 

十文字『いきなりなれと言われても難しいだろう。…そうだな、七草はどうだ?』

 

達也『…』

 

十文字『お前が婿となり、七草と結婚する。これならば問題も無いだろう。あいつがお前に好意を寄せているのは見れば分かる。お前もそれを分っているはずだ、お前が歩み寄りさえすればいいだけのことだ。だから…』

 

十文字の言葉はこうだ

 

一条将輝を倒せる実力者はそういない、そうなると達也が十師族であることを隠しているのではないか?

 

そうでないならば、達也は十師族の一員になる必要がある

その候補として身近なのは七草真由美だ

真由美自身、達也に好意を寄せているため達也さえ問題なければ婚姻を結ぶことが可能だ

 

その理由は殺し合いではないとはいえ戦闘で十師族を倒した一般人の達也

 

強力な魔法力がある方が有利であり、それを持つのがこの日本の魔法師界の頂点に立つ十師族なのだ

 

そんな頂点の内の一人を大した魔法力のない高校生が打ち砕いたのだ

 

そんな人物を野放しにするわけにはいかない

 

達也『あれ、独り言まだ続いていたんですね。』

 

尚も話続ける十文字に再び欠伸を一つ漏らす達也

 

ここまで十文字が捲し立てたのは理由は浩也と話した婿入りの件が大きいだろう

 

第一高校の面々は身内同士だと解っているが、周囲は違う

 

エリシオン社の社長と守夢達也が身内であることは知らないため今回の話は既成事実になりかねない

 

将輝を打ち破った達也の力を問題にならないように手に入れたい、つまりはそういうことだ

 

十文字『お前に話しているのだが?』

 

達也『そうだったんですか。私は貴方からの時間を割くように言われましたが、了承した憶えはありませんので。よくその傲慢さが私に通じると思いましたね。』

 

十文字『守夢。お前は事の重大さが理解出来ていないようだな。』

 

意外と一高にも効果は覿面だったようです義父さんと心の中で溢す達也

 

そもそも論として十文字側の要求を伝えただけで達也側は了承もしていない

 

したがって達也と十文字の会話は成り立ってすらいないのだ

 

正論をぶつけても十文字(十師族)側の要求(命令)の方が重要であるらしい

 

達也『知ったことか。お前達十師族のものさしで物事を測るな。一条が無名の魔法力の無い人間に負けるなどあってはならない?それはあいつが優先順位を間違えたからだ。それにお前達が俺に出場しろと言ったのだから、俺が勝つことも予想は出来ていただろう。それを十師族(お前達)の都合で一般人である俺を巻き込むな。』

 

十文字『十師族と敵対するということか。』

 

達也『…なぜそうなる。お前の読解能力を疑う。俺に関わるなと言っている。』

 

もしこの場に椅子があったなら、おそらく達也は椅子ごとひっくり返っていただろう

 

極論しか議論が出来ないのか?と疑うしかない

 

そんな集まりの一人だから一条将輝は達也の土俵に乗せられたのだ

 

 

そんな人間達の中に入るなど真っ平御免だ

 

 

十文字『それでは何の解決にもならんと言っている。お前の戦闘力を欲しがる家は山ほどいる。排除したがる家も同様にな。』

 

達也の拒絶に十文字も珍しく声を荒げる

 

全ては達也の為なのだと何かあってからでは遅いのだと

 

達也『大変だな、魔法師というのは。自分に対して脅威となり得る者は容赦なく排除し、もしくは自分達に益がありそうなら無理矢理にでも取り込むか。…いいぞ、いつでも掛かって来い。相手になるかどうかは別だがな。肉塊になっていても俺は責任は取らないからな。師補も含めた十師族に伝えておけ。』

 

十文字『…』

 

義理とはいえやはり親子なのだろう

 

言葉は違うが、内容としては九島烈に浩也が言った内容と酷似しているのだ

 

十文字の反論を封殺するように殺気を放つ達也

 

その殺気に反応してか十文字の右手がピクリと動く、その動きはまるでCADを操るかのように

 

しかし達也の殺気が収まるとハッとし、すぐに冷静さを取り戻す

 

達也『あぁ、そうでした。これだけは言っておきます。十師族には興味ありませんが、魔法師か魔工技師にはなれるよう頑張りますよ。』

 

その行動に流石は当主補佐を務めるだけはあるなと、達也は関心するのだった

 

 

 

 

 

 

 

響子『良かったの?』

 

達也『何がですか?』

 

会場の中に戻っていった十文字

 

響子は十文字の立場は理解はしていた、何故なら祖父があの九島烈なのだ

 

十師族にも矜持はあるし日本の魔法師界を纏める立場にあるため今回の行動を一概に否定はしない

 

響子『…ううん、何でもない。』

 

しかし、それでも許せなかったのも間違いない

 

達也一人の人間だ、感情だってあるから好き嫌いもある

 

それを政治の道具のような発言をする十文字に不覚にも怒りを露わにしてしまった

 

達也『解っているつもりではあります。それに政治には興味はありません。けれども守る為に政治を利用するのはやぶさかではありませんけどね。それより、良く耐えてくれた。三人ともありがとう。』

 

響子が言いたいことも解っているつもりだ

 

このまま何事もなく過ごせるわけはないと

 

それを回避するためには犠牲をしなければならないことも、だがその人身御供(ひとみごくう)は一人だけで良い

 

加蓮『三人とも殺気は出てたけどね。』

 

結那『だから、達也さんは誤魔化したんでしょ?』

 

十文字の戯言を気にも止めず沈黙を保っていたのを突然、喧嘩を売るような形で割り込んだのは三人の殺気を十文字に気付かせないためだ

 

僅かな時間なら気付かないだろうが長時間だと悪寒を感じただろう

 

そしてそれが殺気であることも

 

達也『さあ?何の事だろうね。』

 

加蓮『照れ屋さんめ。』

 

響子『ふふっ、そうね。』

 

そんなこともあったかなぁと惚けてみせても意味はないが、達也だって男の子だ

 

大切な女の子を守りたいのだ

 

達也『さて、そろそろ最後の曲が始まってしまった。僅かな時間で申し訳ないが私と踊っていただけますか?』

 

『『『喜んで』』』

 

そんなところも含めて十分に良い男なのだが、欲張りな女の子はもっとそれを表に出して欲しいと願う

 

何故なら、恋敵(ライバル)は多いのだから

 

 

 




如何でしたか?
①これからも夕歌さんは出てくるかもです。
②愛梨さんも達也に気が、これからの展開を見守ってください。
③将輝と達也の関係はいずれまた
④ごめんなさい、十文字と喧嘩?に発展させ掛けてしまいました。
⑤周囲を発破掛けるには外堀を埋める作戦はアリですかね。
⑥原作での深雪さんの立ち位置をオリキャラと響子さんに。

とまあ長々と様々な人種の思惑を書いたつもりでしたが、目指すは丸く?治めることですから。

ご期待に添えなければすみません。

ではまた次回お会い出来ればと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

27話

寝苦しくなってきましたね。

昨日、少しだけエアコンつけました。
涼しかった。

今回は原作の番外編も混ぜ込んだ横浜騒乱編にしてみました。

それでは、楽しんでいただければと思います。


達也『ただいま。義父さん、義母さん。』

 

浩也『おかえり、達也。』

 

凛『あの子達は?一緒に九重寺に行っていたのでしょう?』

 

今日は8月14日

 

昨日九校戦の全日程が終了し、懇親会では一悶着があったものの復路では問題もなく帰ってこれた

 

達也含む一高一向が第一高校に帰ってきたのは正午間際

 

時間も時間なためいくつかのグループは昼食をとってから帰ろうかという算段を立てている

 

そのグループの中にはほのかや雫、深雪といった一年生のグループも出来ていた

 

その輪の中に入ろうとする男子生徒もいたが、ほのかと雫が達也を誘った為に別にグループを作って早々に離れていった

 

参加するつもりもなかった達也は断りを入れ帰宅の途につく

 

少し待てばいいものをと思いつつも、自身もそこまで御膳立てしてやるつもりもないためお互い様だ

 

断る理由はいくつかあるが、大きな理由の一つとしては修行だ

この九校戦に参加していなければ八雲の下で修行をしていた

 

また、この十二日の間あまり体を動かしていないため体が鈍っているのは明白

 

それを一刻も早く解消したいのだ

 

そんな訳で前置きが長くなってしまったが、帰宅早々に勉強に行き詰まっていた恭也と結那、加蓮を連れて九重寺を訪れていた

 

達也『夕暮れと言えど夏ですからね、暑かったので先にシャワーを浴びてます。』

 

達也も汗と砂埃にまみれているため流したい

 

浩也『そうか。ところで明日の予定は何かあるのかい?』

 

達也『いえ、特に何も。』

 

浩也『そうか。なら、今年はうちの家族の誰も行ってないから少し遅いけれど、兄さんと未来さん、あやめちゃんに会いに行かないか?』

 

達也『…そうですね。』

 

日本の盆というのは13日に迎え火をして15日に送り火をして返す習慣があり、この数日は特に先祖を敬い共に過ごす日だ

 

達也は数年の間、8月に入ると修行やCADの開発という名目で家に戻らなかった

 

今年は様々なイレギュラーが重なり家にいる達也

 

逃げることも時には必要だが、だからといって逃げ続けても向き合わなければならない時は必ず来る

 

 

逃げてもいい

 

その逃げは向き合うための準備期間なのだから

 

そういう意味では結果的に達也は向き合えるだけの勁さを手に入れたのかもしれない

 

 

8月15日

 

今日が共に過ごせるお盆最後の日だ

 

この時代は墓という概念は薄れつつある

 

理由は様々あるだろうが、一番は先祖を敬うことをしなくなったことだろうか

 

魔法は本人による資質も大きく、一般の人々もその恩恵を受ける

 

そうすると、人々の生活を豊かにしてくれた過去の偉業も現代の魔法の前には及ばないためそれらを忘れ去っていく

 

結果として過去という名の歴史や人を忘れていくのだ

 

そんな時代の中でもこの家は先祖を敬い、大切にしている

 

また国家機密は墓一つにして最高レベル

 

場所は一見どこにでもありそうな寺なのだが、裏では歴史ある名家でなければ入れない場所がある

 

そこに墓は存在する

 

木を隠すなら森の中

 

墓を隠すなら多く墓に紛れる

 

 

浩也『もう七年も前になるのか。』

 

凛『そうね。』

 

寺の人間や神夢の人間が定期的に清掃をしてくれているが、この時期は雑草等が生えるのが早い

 

それらを取り除き、雑巾等で拭く

 

花を供え線香を炊き、読経する

 

深く追求すればもっと正しい作法があるのだろうが、大まかにはこのような流れだ

 

達也『遅いと怒られている気がしますね。』

 

言葉とは裏腹に達也の表情は少しだけ柔らかくなっていた

 

 

 

浩也『達也、一つやってもらいたいことがある。詳細は追って知らせる。』

 

達也『わかりました。』

 

凛と子供が先に歩いていく

 

一定の距離が開くと浩也は達也に声を掛ける

 

声音に僅かな暗い感情を感じ取り、達也も素直に頷いた

 

 


 

夏休みも残すところあと数日

 

達也は雫の家が所有するプライベートビーチを訪れていた

 

何でも雫の家族は夏休みに離れ小島にある別荘に行くらしいのだが、今年は雫が九校戦の選手になったため日程を変更していたらしい

 

そして、訪れるなら大人数の方が良いという雫の父親の言により達也にも声が掛かったという訳である

 

深雪『あら、奇遇ね。それとも私のストーカーか何かかしら?』

 

もっとも、毛嫌いされている深雪(+水波)も来ていたのは予想外ではあったが

 

達也『いえ、貴女に興味はありませんので悪しからず。』

 

深雪『…』

 

ストーカーと罵る彼女に嫌いなら無視して欲しいと思ってしまう達也だった

 

 

 

島を少し探検していた達也

 

帰ってきたところにほのか達が駆け寄ってくる

 

ほのか『達也さん。一緒に泳ぎませんか?』

 

雫『うん、私も達也さんと泳ぎたい。』

 

達也『ここまで連れて来てもらったからな、構わないよ。』

 

心なしかあの懇親会の後からほのか達が更に積極的なってきているのは気のせいではない

 

エリカ『へぇ、やっぱり相当鍛えているのね。けど、あの膂力は一体どこから来ているのかしらね。』

 

達也『あぁ、そんな大した修行はしてはいない。(やはり体中の傷は隠しておいて正解だったな。見せる気もなかったが、見られたくもない。恭也に咒を施してもらっていて良かった。)』

 

ウェアを脱ぐとより近くなるほのか達

 

鼻息が荒くなっているのは気のせいではない

 

 

 

 

 

日も暮れ、雫の家のメイドが用意した夕食をとったあと昼間泳いでいた浜辺で達也は魔女裁判紛いを掛けられていた

 

ほのか『あの達也さん。あの懇親会のことなんですけど、あれは嘘ですよね?』

 

雫『私もそれの真偽を聴きたい。』

 

達也『捉え方はそれぞれだ。判断は任せる。』

 

実はこの島にはレオや幹比古はおらず達也だけが呼ばれていた

 

男が達也だけというのはこのためだったのだろう

 

美月『もしあれが本当なら達也さんと妹さん達は血が繋がっていないということになりますね。つまり、達也さんか彼女達の誰かが養子ということになるんでしょうけど。』

 

エリカ『おそらく達也君が養子ね。双子や弟は面影が似ているけど貴方は違う。』

 

美月はあの場には裏方で居なかったのにこの事情を知っているということはエリカか誰かから聞いたということだろう

 

おそらく彼女達は秘密を暴きたいのだ

 

守夢 達也という人間をもっと知りたいがために

 

美月は達也と家族のオーラが違うことに興味を抑えられなかったためこの場に来ているにちがいない

 

イギリスから来た諺を使えば、「好奇心は猫を殺す」とはよく言ったものだ

 

日本の諺に変えれば「藪をつついて蛇を出す」だろうか?

 

その安易な行動が自分達の首を絞めることにも気づかずに

 

達也『そうなると、俺は彼女達と結婚出来るということになるが?』

 

エリカ『誰もそんなことは言ってないわ。』

 

雫『ねぇ、どんな意図があってあんな芝居を打ったの?』

 

美月は好奇心、エリカは怒りや諦め等様々な感情が入り混じった表情

 

そしてほのかと雫に関して言えば、悔しいという表情が滲み出ている

 

達也『言う必要性を感じないな。そもそも、俺と義父が何かの策を講じた処でほのかや雫達にどんな不都合が生じるんだ?』

 

そう、すでに達也はほのかと雫には答えを示しているのだ

 

言ってしまえば、すでに外野の立ち位置に等しい

 

それはエリカや美月にも言えることだが

 

ほのか『…雫。』

 

雫『…解ってる。』

 

ほのかと雫は互いに頷く

 

達也『つまりは…。』

 

雫『…不都合は起こらないけど、気分は悪くなるよ。』

 

達也の言葉を遮る雫

 

達也『何が言いたい?』

 

雫『それは達也さんで考えることだよ。それに私達は諦めた訳じゃないから。』

 

言いたいことだけ告げてほのか達四人は建物の中に消えていった

 

その後ろ姿を一瞥するもその瞳には無機質が写っていた

 

彼女達は諦めていなくてもこちらは相手にすらしていなければ無駄なんだがなと達也は嘆息するのだった

 

 

 

 

一泊二日の小旅行であったものの貴重な島の自然を堪能でき、満足気な達也

 

達也『今回は私のような者までお誘いいただいてありがとうございました。北山さん。』

 

昨日は早朝でもあり、軽い挨拶程度であったため雫の父親である北山 潮(財界では北方 潮と名乗っているらしい)にお礼を言う

 

潮『いやいや、こちらこそ急な誘いにも関わらず雫やほのかちゃんの為に来てくれて感謝するよ。それに森城さんのご子息ならいつでも歓迎するよ。何せ、あの人は中々表には出て来てくれないからね。』

 

達也『それに関しては直接言っていただく必要があるかと。』

 

潮『無理難題を言ってくれるね。表に出て来てくれないから君に頼んでいるんだよ。まあ、家の娘かほのかちゃん、両方でも構わないが貰ってくれればそれは万事解決なんだがね。』

 

どうやら、潮は達也をとても気に入っているようだ

 

技術屋としての腕もあるのだろうが、半分は浩也の表の顔と繋がりが欲しいからなのだろう

 

そして、あわよくば自分の娘である雫やほのかのどちらかと縁を結べば娘達と自分の望みが一石二鳥で手に入る

 

捕らぬ狸の皮算用とは良く言ったものだ

 

達也『それは叶わない望みですね。結婚をするつもりはありませんので。』

 

潮『どうしてだい?血の繋がりがあるのなら結婚は出来ない。それは変えられない事実だ。』

 

流石は魑魅魍魎とまではいかないまでも欲にまみれた財界で一財産を築いただけはある

 

一般人にはない雰囲気がこの潮にはあった

 

しかし、九校戦の懇親会での出来事により焦れているのか

 

声音も些か険しさを帯びている

 

達也『えぇ。しかし、いつ私が伴侶を望みましたか?残念ながらこの身はあの家を護る為に捧げると誓ったので。髪の毛一本たりとも赤の他人に渡すつもりはありませんので。』

 

潮『…本気なのかい?そんな人生は悲しいだけだ。』

 

達也『なんとでも。己で選んだ道です。それに家族を誹謗中傷するのは家族が許しても私が許しませんので。』

 

何の鍛練も行っていない一般人であるならば、怯んでしまうだろう気迫

 

だが、その程度の気迫で達也が屈服するなど大間違いだ

 

家柄や容姿、達也を恋い慕うことでもない

 

生憎、今の家に勝る家等存在しないし容姿も桁違いだ

そして、互いに想い合っている

 

だから、少しでも言質を得ようとしても無駄なのだ

 

 

 

 

なぜなら、これはすでに終わっている出来事(勝負)なのだから

 

 

 

 


 

 

夏休みも最終日の今日

 

研究の資料が欲しく駅前の書店で書籍を購入した達也

長年続く書店は普通なら入手困難な本も入手可能な太いパイプを持ってあるため達也にとって貴重だ

また紙でなければ手に入らない資料もあり、息抜きがてらに足を向けることもしばしばだ

 

目当てのものは無かったが、替わりにとても古いが日本の歴史に関して書かれた貴重な本が手に入ったため気分は上々だ

その気分もあってかカフェのオープンテラスが一つ空いていたためそこで少しだけ読んでみたいという欲が出てしまい、定番のエスプレッソで読書を洒落こむ達也

 

だが残念なことにそんな幸せな時間は三十分も続かなかった

 

真由美『あら、達也君じゃない。こんなところで一人どうしたの?』

 

達也『息抜きですよ。』

 

真由美『そう。なら、私も相席させてもらっても構わないかしら?』

 

珍しく真由美の隣には誰もいない

 

いつも摩利と共に居ることが多いため、少し意外だった

 

しかし、こんな場所で真由美と遭遇するとは天に見離されたか悪魔にでも憑かれているのか

 

達也『それは構いませんが、何か危険が差し迫っても助けたりはしませんので。』

 

しかし、逃げ道だけはなんとかして確保するあたり流石というべきか

 

真由美『少しくらいいいじゃない。』

 

達也『ボディーガードがいるでしょう。それともガーディアンという存在になるんですかね?』

 

真由美『どうしてその呼び名を知っているのかしら?』

 

達也の席は少し小さめのテーブル一つにチェアがテーブルを挟む形で二つ

 

真由美は達也と向かい合って座れたのが嬉しいのか表情は柔らかい

 

が、達也の次の言葉でその愛らしい表情は緊張感を孕む

 

達也『こちらの周りをうろちょろとされていれば嫌でも気づきますよ。数字落ち(エクストラ)の名倉という人間でしたか?他にも多数。』

 

真由美『…いつから気づいていたの?』

 

達也『最初からですよ。真由美さんの家の者が調べていることはすぐに判りましたから。』

 

達也の言葉を信じるとするなら、自分達が達也の身辺調査に気付いておりそれを見て見ぬ振りをしていたことになる

 

だから、自分のボディーガードである名倉まで知っていたのだ

 

おまけに数字落ちということまで解っているということは十師族の事を少なからず知っているということ

 

もっとショックが大きいのは真由美達が達也を調べていたのは無駄骨だったと言っていい

 

真由美『…他には?』

 

達也『回答を拒否します。それを答えることに俺のメリットがありませんので。』

 

しかし、どうして分かったのか知りたい

 

けれどもそれを素直に教えてくれる訳もなく、これ以上は達也を怒らせるだけだと諦めるしかなかった

 

 

 

真由美『達也君。少し手伝ってほしいのだけどいいかしら?夏休み明けに生徒会選挙があってね、そこにある子を出したいの。勿論、会長として。内容としてはその子を後押しして欲しいの。』

 

達也『中条先輩ですね。しかし、彼女はその気ではない。いえ、自分には力不足だと思っているのでしょう。』

 

店員に注文していたアイスティーで渇いた喉を潤す真由美

 

最近の一高の生徒は達也を頼り過ぎている

 

いくら達也が突っぱねても最後の最後には折れてくれると勘違いしているようだ

 

その理由の一つは達也が相手の言いたいことを相手自身より理解しているからだろう

 

そこにつけ込んで無理矢理押し付けているのだ

 

真由美『その通りよ。司波さんには来年お願い事したいし、かといって他の生徒が出来るとは思っていないの。』

 

達也『中条先輩以外務まる人間はいないと仰るわけですね。中々容赦の無い。』

 

しかし達也は何も頼みを受ける前提で理解をしている訳ではない

 

相手の矛盾点や依頼を受けたくないから悉くを潰して拒否するためなのだ

 

ーーー相手の頭がお花畑だった場合、効果は薄いが

 

 

真由美『当たり前よ。そこに感情をいれる訳にはいかないわ。あーちゃんは性格こそ臆病に捉えられがちだけど、芯はしっかりしてるわ。成績も学年で首席だし実技も次席よ。』

 

達也『そして、実技トップの服部副会長を次期会頭の座に据えれば磐石の体制が整うというわけですか。しかし、選ぶのは彼女自身であり俺の言葉程度で態度を変えるくらいならそれは責任感が無いのではないですか?そのような中途半端な気持ちの方に生徒の代表を任せるなどお断りです。』

 

真由美『それは分かってるわ。これは達也君達二科生がもっと過ごしやすく考えてのことよ。』

 

達也『それは真由美さんや渡辺先輩、十文字先輩の自己満足です。魔法科高校は魔法力が重要視されて当然。二科生を特別視するような行動は差別意識が悪化しますよ。そもそも人間は弱い、誰かを貶めて自分が上に立たなければ満足はしない。』

 

この会話も二度目だと真由美は気づいているだろうか

 

別に達也はこの現状を助けてほしい等と言った憶えもないし、むしろいつでも資料を閲覧出来る状況に満足しているのだ

 

魔法科高校にこれ以上望むものは全くと言って良いほど無い

 

真由美『…達也君はどうして現実と向き合えるの?』

 

人間の真理を理解しそれに不満を抱いていない達也に真由美は恐ろしく感じてしまう

 

達也『いろいろありましてね。けど、今は絶望はしてません。過去と未来、現実…これは常に一つだ。』

 

真由美『?どういうこと?さっぱりなのだけど?』

 

時々、達也は自分達では理解出来ない発言をする

 

達也『これは魔法力と同じで才能に近い。真由美さんと俺とでは立っている次元が違うだけですよ。別に見下している訳ではないですから。』

 

真由美『まるで人間じゃないみたい。』

 

本当によく分からないと言いたげな真由美

 

まどろっこしいのはやめて欲しいのだが、才能と言われてしまえば何だか良い気分ではない

 

しかし、その感情が二科生が一科生に抱く感情に近いのだが真由美が気づいたかどうかは知らないが達也にとってはそんな事はどうでも良い事だった

 

 

 

 

 

 


 

 

 

二〇九五年十月現在、二十四時間完全自動化が実現した港湾諸施設

 

通関は日中に行われ荷役や接舷、上下船も深夜においては不可能になっていた

 

それらは完全自動化と無人化によってできた弊害なのかもしれない

もしくは、隣接する他国との緊張状態がこの状態を造り出したのかもしれない

 

いずれにしても、夜になれば港には入れないため沖合で一夜を過ごす必要があるのだがーーー

 

横浜山下埠頭

 

入港が出来ないはずの湾内に一隻の船によってこの地域一体が慌ただしくなる

 

『五号岸壁に小型貨物船が接舷し、不法入国者が上陸。至急応援に向かって下さい。』

 

???『やれやれ、あんなところとは。まあ、あそこだからこそとも取れるけどね。どう思う?』

 

???『そんなことをぼやく暇があったら、脚を動かしてください警部。』

 

???『しかしね?稲垣君。』

 

稲垣『文句は賊を捕らえてからです。千葉警部。』

 

千葉と呼ばれるこの男は多くの門下生を警察や軍に輩出する名門千葉家の長男である千葉 寿和

 

一見やる気のないように見受けられるも一応職務は全うはしている

 

千葉『俺は君の上司なんだが…。』

 

稲垣『年は自分の方が上です。』

 

なんだその年功序列はと突っ込みたくなるが抑える

 

しかし、なんだかんだいって自分を慕ってくれている稲垣警部補に強くも出れない

 

現在、二人が居る場所は三号岸壁付近ここからだと約七百メートル程ある

 

一つバースが空いただけでこれだけの距離があるのか?ということを疑問に思うかもしれないが、この港は四号と五号の間に船が接舷出来る場所が設けられているためその分、距離が遠くなっているのだ

 

とは言ってもこの二人にとってはそれほど距離を感じることはない

普通の人間ならば全力でも二分以上は掛かるが、この二人は魔法師であるためものの三十秒足らずで現場に到着した

 

 

 

千葉『やっぱり人手不足だよな。』

 

不法に上陸した人間の数をコンテナの陰から確認しながらボヤく

 

圧倒的という程でもないが十人程を数えた

 

稲垣『仕方ないでしょう。魔法犯には魔法警察ですよ。』

 

千葉『いや、実際はそうでも、ないん、だけどね!』

 

魔法による跳躍は肉体のみでの跳躍とは異なる放物線を描くため狙いが定めにくく賊を翻弄する

 

そしてそれに目がいけば狙撃が待ち受け、かといって狙撃を警戒しても木刀にしては反りが少ない一メートル程のものが賊を殴り倒していく

 

稲垣『警部、船を押さえましょう。』

 

数分も掛からずに全員を戦闘不能にし終える二人

 

他の場所でもこの場所のような戦闘が繰り広げられており、それを終息させるには大本を断つしかない

 

千葉『俺が?』

 

稲垣『我々でです。』

 

どうもこの上司は必要最低限の事しかしたがらないのに対し、部下は勤務意欲が旺盛である

 

ある意味良いコンビである

 

千葉『…分かった。じゃあ、稲垣君。船を止めてくれ。』

 

稲垣『自分では沈めてしまうかもしれませんが?』

 

自分で船を止めようという割には止める為に上司である千葉を頼るのは如何なものか

 

千葉『問題ない、何かあれば責任は課長が取るだろう。』

 

稲垣『…自分がとは言わないんですね。』

 

しかし、湾内から離脱しようとする船を沈めればその港を封鎖しかねない

 

沈んだ船をサルベージするにも時間や金は掛かるのだ

 

それをよく後先考えずに湾内で対処しようとするものだ

 

だが、現行犯を取り押さえるには時間との勝負であるため仕方ないのかもしれないが

 

稲垣の拳銃のグリップの底にあるスイッチを押しこむとバレル上部に取り付けられた照準補助機構の作動ランプが点灯する

 

続けて武装一体型CAD、リボルバー拳銃型武装デバイスのグリップに組み込んだ特化型CADの本体が起動式を展開する

 

引き金を引くと同時に魔法式が作動

 

移動・加重系の複合魔法により軌道を固定し貫通力を増大させたメタルジャケット弾が魔法式の設定した軌跡を描き、離岸しようとする小型貨物船の船尾を貫いた

 

数発の銃弾だけでエンジンとスクリューのギヤボックスを破壊する手腕は見事なものである

 

しかし、船は一箇所に穴が開いただけで沈まないようにいくつかのブロックで区割りされているのだ

 

それを各ブロックを貫通し、更には船底にも穴を空けるほどの威力はどれほどのものなのか

 

 

千葉『お見事。』

 

そんなことは一切考えていないような呑気な声を出しながら、千葉の手元で止め金具が外れる音がする

 

木刀と思われたのは、その実、仕込刀だったのだ

 

そして、牛若丸の八艘飛びもかくやの跳躍で船舶に単身で飛び込む

 

着艇と同時に船室の扉を袈裟懸けに切り裂いた

 

千葉一門 秘剣「斬鉄」

刀を鋼と鉄の塊ではなく刀という単一の概念として定義し、魔法式で設定した斬撃線に沿って動かす移動系統魔法

 

千葉『チッ(やはりもぬけの殻か、となると向かった先は。)やれやれ、厄介事が増えるね。』

 

再度、「刀」で切り裂き侵入経路を確保し船内に飛び込むもそこはすでに無人

 

船体をくまなく探るも賊の姿は無く、あったのは船底のハッチが開いていたことだけだった

 

 

 

 

 

元々、船底のハッチが開いていたため徐々に沈んではいた船舶に稲垣と千葉の追い討ちで沈む速度が早まったためか密入国の船はすでに沈んでしまっていた

 

と言っても水深は-十メートルのため高い場所から湾を望めば沈んだ船が僅かに見えていた

 

 

 

稲垣『お疲れ様です、警部。』

 

結果的には他の場所でも同じような小競り合いはこのための陽動であったためその実働部隊が抑えられなかったのは苦しい

 

それは互いに分かっているため口には出さない

 

千葉『とんだ骨折り損だよ。本当に、奴さん達は一体何処に消えたんだろうね?』

 

責任転嫁まがいの発言をしつつ、千葉はとある繁華街のある西の方角を睨むのだった

 

 

 

 

 

千葉が睨んでいた僅か数キロ先、横浜にある有名な繁華街

 

表通りからは見えない、奥の路地にとある飲食店がありその店の庭には古びた井戸がある

 

その傍らには上着、チョッキ、ズボンの三つ揃いを着こなした若い貴公子風の男が立っていた

 

容姿は雄々しくはなく、見目麗しいといった風貌と肩を越える長髪は威圧感を全く感じさせない青年

 

 

 

何故、夜明け早々にこのような場所にいるのかといえば

 

待っているからだ

 

一体、誰を?と疑問に思うもそれはすぐに判明する

 

この男が見ている井戸、飲料用ではなく防災用の蓋をされた井戸が前触れもなく内側から崩れたのだ

 

 

その中から這い出て来たのはスクーバ式潜水服を着た男十六名

 

その男達の中の一人をみとめると青年の方は微笑みながら右手を左胸に当て最敬礼を取る

 

???『先ずはお寛ぎを。朝食を用意させております。』

 

???『(チョウ)先生、ご協力感謝します。』

 

大して感謝もしていないような感情の籠っていない言葉を並べるも青年はその笑みを崩すことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

夏休みも明け少しずつ勉強のリズムも戻りつつあった頃、達也はまたまた真由美と摩利に拉致されていた

 

理由はあずさの生徒会会長の立候補の為だが、夏休みにそれを達也は断っていた

 

しかし、諦めの悪いところが、ある意味では彼女たちの長所かもしれない

帰宅間際の達也を強引にあずさの前に引きずり出し、立候補に消極的なあずさを改心させてくれるよう頼み込んできたのだ

 

あずさ『会長から私を勇気付けてくれると聞きました。お願いします、私に勇気を下さい!』

 

真由美『お願い、守夢君。』

 

が、なぜかあずさにまで立候補する勇気がほしいと懇願される始末

 

そんなことは達也にとっては知ったことではない

 

達也『お断りです。そんな面倒くさいことを何故私がしなければいけないのですか?七草会長にもお伝えしましたが、私の言葉一つでやる、やらないなどとそんな薄っぺらい決意なら立候補しないでいただきたい。私が言ったから立候補したと言って、責任の所在の一部ですら此方に持ってきてもらっては困りますので。』

 

あずさ『…』

 

真由美『…』

 

摩利『…』

 

達也『リーダーというものは部下を引っ張っていくものです。貴女(中条先輩)が新生徒会長になった場合、周りの意見に振り回されるのが目に見えています。もし私でしたら、そのようなふわふわした人物に従うなど御免です。本当に助言が欲しいのならば、「立候補に他人を理由にする程度の決意のようですので、立候補しない方がよろしいと思います」以上です。』

 

一方的な達也の展開に反論も出来ない真由美達

 

あずさもここまで情け容赦のない言葉を掛けられたのは初めてだったのか瞳には感情の海が溢れ出していた

 

その後のことは知らないが、あずさが生徒会長に立候補していたということは真由美達が何とかしたということだろう

 

 

 

 

あずさ『あれは守夢君なりの激励ですよね!私、守夢君に認められるように頑張ります!目標は彼がより良い学校生活を送れるようにします!』

 

それを横で聴いていた真由美は苦笑いするだけに止めた

 

 

 

 

 

そして新年度の生徒会の発足式

 

そこでもお約束の一悶着があった

 

お題は同じく達也の生徒会役員の加入である

 

元々、真由美が公約と掲げていた二科生の生徒会役員の加入は不可能であったものを任期満了時に投票で多数の賛成票により可決されたのだ

 

達也もこんなふざけた案が通ったことに驚きを隠せなかった

 

それは二科生である達也が九校戦で確かな功績を上げたことに他ならない

しかしそれだけではプライドだけは一人前の一科生が達也の功績を認めて賛成の票を投じるわけはない

 

一部の声としては

 

達也だけが特別であり、他の二科生は平凡であるため認められない、や真由美や摩利、十文字などの委員会のトップの過大評価と贔屓ではないか、更に酷かったのはそれら全てを買収したからではないか?更に更には、真由美と達也が恋仲であるためにいつでも会えるように優遇したのではないか?等々

 

最後の憶測には達也も何も言う気もなかった

 

真由美に関しては顔を真っ赤にしていたが

 

様々な憶測が流れそれらを否定するも焼け石に水

 

そして最悪なことに魔法が飛び交う一歩手前まで発展しかけた

 

しかし、それを止めたのは意外な人物であった

 

 

 

深雪『静まりなさい。』

 

その人物とは達也を特に毛嫌いしている司波 深雪だった

 

彼女の言葉と同時に放たれる冷気が講堂を支配したのだ

 

深雪『彼、守夢達也が評価されるのは当然であり、それほどの功績を残したことに他なりません。それは九校戦スタッフ全員が認めるところ。誰も贔屓、過大評価等はしていません。皆様方の異議は論理的ではなく、ただの感情論。二科生の役員への加入に反対であるならば、メリットよりもデメリットが高いということをこの場で提示して下さい。無論、差別的根拠が無い前提ですが。無いのであれば、先程までの発言は妨害と見なし、退場していただきます。』

 

深雪の発言に誰もが開いた口が塞がらなかった

 

達也も例外ではなく、というよりも一番呆気に取られていたのが達也だった

 

深雪『訂正します。退場していただく必要はありません。但し、これ以上の発言は打ち切らせていただきます。それでは、他に異議のある方はいらっしゃいますか?尚、モノリス・コードで一条選手を倒し、三高の女子生徒からのアプローチを受けていた一名の二科生からの異議は認められませんので。』

 

生徒会役員の二科生加入に賛成の一科生は勿論のことだが、反対派の一科生達は反論出来ない

 

この講堂が司波 深雪という一人の生徒に支配されている状況に一人が異議の挙手をするも、それすらも封殺する深雪

 

いつものお約束で挙手をしたのは達也なのだが、あっさりと却下されてしまった

 

敢えて、名前を出さずに嫌味の如くその人物を特定させ、尚且つブーイングの嵐に曝す深雪の容赦のなさは健在であった

 

この出来事により達也は(モテない)男の敵に認定されたのだった

 

 

 

 

そのような過程を経て二科生が生徒会役員の加入が認められたわけだが、問題はここからだ

 

生徒会が任期を終えるならば、風紀委員会や部活連の他の委員会の任期も同時に終える

 

各々の委員会の長は生徒会長に任命権があるためこの生徒会選挙がとても重要なのだ

 

深雪のおかげか、生徒会会長は荒れることもなく中条 あずさの生徒会長就任が決まった

 

それに伴い、各委員会の長もあずさによって指名される

 

それは風紀委員会も例外ではない

結果としては、千代田 花音が風紀委員長に選ばれた

元々、摩利が後任として推薦していたこともありあずさも摩利の推薦ならばということで指名していた

 

また、風紀委員長は実力主義でもあるため十師族に引けをとらない彼女ならと安心はしていた

 

ーーー花音があずさの申し出を断るまでは

 

申し出というのは達也を生徒会役員に任命したいというもの

 

強ち生徒達の憶測は間違ってはいない、なぜなら達也を生徒会役員に任命したいというのは事実だからだ

 

真由美が公約に掲げていたとはいえ、達也が居なければこんなに早く実現することはなかっただろうからだ

 

だからこそ、二科生の生徒会役員第一号を達也に担ってもらいたい

 

そう考え、花音に達也が欲しいと申し出たのだが

 

 

花音『駄目。守夢君が居ないと事務が回らないから駄目。』

 

取り付く島もなく断られるあずさ

 

しかし、達也に容赦のない説教を受けたにも関わらず役員に指名するとはあずさも中々の強心臓である

 

達也『誰の所為で回らないとお考えですか、千代田委員長?前風紀委員長もそうでしたが、少しは自分達でやりなさい。…ちょうどいい機会ですね。やはり、風紀委員会を退会させていただきます。貴女のような脳筋上司よりも働く意欲のある方々が集まる組織の方が私も楽ですから。』

 

花音『ちょっと!何を勝手なことを言ってるの!?』

 

達也『特段、問題は無いかと。元々、前生徒会長と前風紀委員長、前部活連会頭にほぼ強制的に加入させられていますので。そのお三方が居なくなれば私がこの委員会に在籍しなければならない理由はありません。千代田委員長の事務処理を手伝えば私の資料を探す時間も減ります。この意味、お分かりですか?』

 

花音の怒りを余所に達也は尚も続ける

 

達也の主張とすれば、あくまで摩利達三人の要望で風紀委員会に加入した為その三人が居なくなれば達也が風紀委員会に在籍する必要もない

 

更に言えば、花音の事務処理速度に摩利と同じものを感じたのは内緒だ

 

花音『ウッ…。』

 

達也『私の主張を理解していただいて何よりです。しかし、自分の事務処理の無能さとそれを理由に自分の仕事を他人に擦り付ける行為は同じではありません。』

 

花音『だってそれは摩利さんも…』

 

達也『言い訳は見苦しいですよ?他の人が、尊敬する先輩がやっていたからといって自分も同じことをしても良いという理由にはなりません。それは虐めにも通じているということを理解出来ていないようですね。緊急で時間が足りないから手伝うのは仕方がありませんが、それはあくまで一時的です。』

 

論破されて言い返せない花音だが、まだ不満な表情をしている

 

その表情を知ってか知らずか達也は追い打ちをかけていく

 

花音『…うぅぅ…グスッ。』

 

端から見れば、一般論に近いことを述べているものの所々にオブラートにも包まれてすらいない棘のある言葉に花音の涙腺は崩壊していた

 

ーーーしかし、

 

達也『泣いたところで何の解決にもなりませんよ?千代田委員長はご存知ないかもしれませんが、私の加入の際に出した条件は入館手続き等の時間短縮です。しかし、今はどうです?資料を探す時間すら貴女に押し付けられた事務処理に費やしている状況です。これは明らかに契約違反です。何の罪悪感もなく反故にされるのであれば私もこのような組織に在籍する理由はありません。というわけで退会させていただきます。』

 

もしかしたら、鬼、悪魔の権化とは達也のことを指すのかもしれない

 

一応、この場には真由美達が居るのだがもはや、空気と化している

 

というよりも、怒ってもいないのに達也の纏う雰囲気が恐ろしく、助け舟を出そうにも出来ないのだ

 

花音『………さ…い。』

 

達也『何か仰いましたか?』

 

花音『ごめんなさい!』

 

達也『一体、何に対しての謝りですか?私にだとしたら足りませんよ?まあ、今回の場合はズレています。』

 

花音『え?だって、私が守夢君に迷惑を掛けているから…』

 

一体、何が達也の気に障ったのか?

 

責められ過ぎて頭が真っ白な花音

 

達也『そのような事は百も承知です。私は呆れているだけです。見限り、とでも言いましょうか。』

 

花音『…それ、も、止めて…欲しいん、だけど…。』

 

これ以上は怒られたくない

 

けれども、何が達也の怒りの琴線に触れたのか?

 

達也『私がお伝えたいのは謝る相手が違うということです。中条会長の申し出を断ったのは千代田委員長の都合です。しかも、一方的に。それは違うのではありませんか?確かに、取り締まる人間が少なくなることはデメリットですが、それは募集すれば済むこと。生徒会と風紀委員会、互いの要求を擦り合わすことが今ここでは大切なのではないですか?』

 

花音『…はい、その通りです。』

 

達也『ならばこの場合、それらを伝えるべき相手はどちらですか?』

 

別に達也は怒っているわけではない、言うなれば花音の言動を叱っているのだ

 

あずさも風紀委員会の実情を理解している

 

だからこそ、花音に理解を示して欲しいとわざわざ足を運んだのだ

 

それを頭ごなしに否定するだけではあずさも解らない

 

それを達也は指摘したのだ

 

怒るのではなく、花音の行動の何が駄目なのかを墾墾と言い聞かせたのだ

 

花音『…中条生徒会長です。』

 

達也『では、お願いします。また、擦り合わせには私の主張もありますのでお忘れなく。』

 

この場に居た、真由美と摩利、鈴音他にも服部を除く生徒会の面々は達也の淡々とした理論詰め?に他人事であるのに自分が責められているように錯覚してしまった

 

怒っているわけではないのに、只々一般論を並べ叱る達也に自分達も泣きそうになってしまっていた

 

元々、真由美達が蒔いた種ではあるため花音の非を少しでも緩和させてあげたかったのだが、それをしてしまうと達也からの攻撃がこちらにも飛び火してしまうため花音を身代わりにするしかなかった

 

結局、達也の打診で風紀委員会と生徒会を兼任という形で収まったのだった

 

 

 


 

 

 

10月某日

 

生徒会の引き継ぎと風紀委員会の仕事、研究の資料漁りと忙しく動き回っている達也に新たな災厄が訪れることになった

 

達也『もう一度言っていただけないでしょうか。廿楽助教授。』

 

廿楽 計夫

 

現在、国立魔法大学付属第一高校で魔法幾何学のオンライン講義と2-Bの実技指導を担当

本職は魔法大学の講師でこの第一高校には在籍出向という形で赴任している

若くして助教授という地位にあるものの、その自由すぎる研究姿勢が災いしてか上から「教育者として経験を積んで来い」と出世街道から少々外れ、回り道をさせられているのだ

 

しかし、当の本人は全く気にしていないのか

 

気兼ねなく研究に勤しめると嬉しそうらしい

 

そのようなマイペースな人物であるためこの高校に根付く一科生と二科生の溝を気にすることもなく、気に入った見込みのありそうな生徒に声を掛けて指導をしてくれるのだが、生徒達のペースは考えてくれないため少し厄介ではあるが

 

廿楽『助教授ではなく今は教諭ですよ。守夢君、貴方に市原さんのサポートをお願いしたいと思いましてね。』

 

達也『理由が明確ではないのですが?』

 

地下二階の資料室で他の生徒では閲覧しないような文献を二週間以上閲覧し続けていた達也

 

理由は7月に発表した飛行術式関連で、フィードバックを貰う条件付で術式を公表し、日本の各方面とUSNA等からその利用と購入が相次いだ

 

そして、フィードバックのデータが十分に取れたため次の段階に進もうという算段でいたが、順風満帆にいかないのが世の中だ

 

エメラルド・タブレット、つまりは錬金術の類の文献を閲覧していた達也に鈴音という珍しい来訪者はまたもや厄介事を持ち込んで来たのだった

 

廿楽『うーん、論文コンペのメンバーに欠員が出たためにその補充として君が選ばれたという理由では駄目ですか?』

 

廿楽の言う論文コンペとは

 

日本魔法協会主催の論文コンペティション

 

通称「魔法科高校論文コンペ」だ

 

全国の高校生が魔法学・魔法工学の研究成果を発表する場で学習結果発表会などではなく、学会などの発表機会を持たない高校生が自分たちの研究を世に問うための場所である

 

世間の注目度も高く、発表チームの代表が魔法研究機関からスカウトされるだけでなく、発表論文がそのまま魔法大全に収録され、大学や企業に利用されることもある

 

「全国高校生」と銘打ってはいるが、正規の教育課程で魔法理論を教える高校は国立魔法大学付属高等学校以外には無いため、実質的には九校で競う催しであり、九校戦が「武」の対抗戦であるならば、論文コンペはこれと双璧を成す「文」の九校間対抗戦であると言える

 

長々と口上したが、こちらも達也にとっては参加もしたくない、めんどくさいイベントだった

 

達也『そこに何故私が選出されたのかの理由。そして私を納得させられるだけの理由が無いということがおかしいとは思いますが?』

 

鈴音『残念ながら、貴方に納得してもらえる程の理由は用意出来ていません。更には、時間がありませんのでこちらの都合で推薦させていただきました。』

 

達也が納得出来る理由がないとは一体どういうことなのか?

 

自分の意思を無視した行動に感情が失せてしまう

 

達也『…この論文コンペは構内の論文選考会で決定されたもの。そして、選ばれる人数は三名。もう一人はどうされましたか?』

 

しかしここで感情的になってもいけない

 

九校戦の二の舞になる

 

鈴音『平河さんは体調を崩して最近、退学届を持ってきました。なんとか廿楽先生の説得のおかげで退学は取り止めてもらえましたが、コンペに出られる精神状態ではありません。』

 

達也『でしたら、次点もしくは次々点の方が選ばれるべきではありませんか?サポートにも十分なはずです。』

 

鈴音『関本君は拒否させていただきました。彼と私ではコンセプトがまるで違うので。他の人達の協力でこの短い期間で完成させることは出来ないと判断しました。』

 

一つ一つ穴を突くと、簡単にボロを見せてくれたのは助かった

 

達也『であれば何故、私でなければならないのか。その理由は答えることが出来るのではありませんか?』

 

自分が納得出来ない理由で選ぶ前に納得してもらえるように理由を作るべきなのだが、その努力を怠るのはいただけない

 

鈴音『…』

 

廿楽『君は噂以上のやり手ですね。いつの間にか誘導され、君の掌で転がされている。ここからは、二人に訊いてください。それでは失礼しますよ。』

 

至極まともな指摘に鈴音は黙してしまい、机の上に肘を置き、組んだ手の甲に顎を乗せた格好で廿楽が達也を称賛する

 

達也『貴方のそのマイペースぶりも噂以上ですよ。(ボソッ)…それで、私を選んだ理由は何でしょうか?市原先輩のことです、貴女の論文に私の何かが必要だから選考会にも参加していない私に白羽の矢を立てたのではありませんか?』

 

言いたいことだけ言い終えるとさっさと退室する廿楽

 

生徒達の才能を見出だす点は流石だが、まだ精神的に幼く能力的にも土台作りの高校生の面倒をみてやる能力はからっきしなのだなと達也は落胆する

 

基本属性は研究者だから仕方ないかという面もあるがー

 

廿楽が居なくなったのであれば、鈴音に理由を聞くしかない

 

鈴音『その通りです。…私の論文テーマは【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】です。』

 

達也『なるほど。誰にも話していないのにご存じということは私の検索履歴等を覗いたわけですね。』

 

春に壬生に会っていたとき、一人鈴音だけが自分達を窺っていた

 

自分の研究を知って欲しいから、こんな事を研究している自分は特別だという気持ちすら全く無かった

 

それに他人に自分のプライバシーを覗かれて喜ぶような変態趣味は無い達也はさっさと切り上げていたが、まさか閲覧室の検索履歴を見られているとは思わなかった

 

履歴を消すことも出来たが、まさかそんな調べるような輩がいるとは夢にも思わなかったが本音だが

 

鈴音『それは申し訳ありません。しかし、この論文コンペに参加していただくことで守夢君にメリットはあるかと思います。』

 

怒っていると思われたのか謝罪と弁明する鈴音に若干困惑する達也

 

達也『確かにそうですね。それは市原先輩の論文を重力制御魔法式熱核融合炉のアプローチの仕方を拝見出来ますから。しかし、それでは根拠が足りません。何故、私の検索履歴を見たのかという動機です。』

 

同じコンセプトを持っている鈴音の思考に興味もある

 

この際だ、参考に出来そうなものはいただこうとは考えているが、果たしてそこまでの域に到達しているかどうかーーー

 

それに達也は怒ってはいない

 

何故守夢 達也という選択肢が生まれたのか、それが一番の謎なのだ

 

 

鈴音『…それは。』

 

視線を反らし頬を赤らめる鈴音

 

その表情はまるで恋する乙女のそれだ

 

達也『(おいおい、まさか貴女もですか?そんなに俺は天然ジゴロではないぞ?ないぞ?)…判りました、微力ながらお手伝いさせていただきます。但し、条件があります。』

 

九校戦以来、達也自身が意外と好かれる人間なのだと僅かながら自覚した

 

それは響子や結那、加蓮のおかげだろう

 

だが、この三人だけでなく、夕歌や真由美、ほのか達に好かれても嬉しくはない

 

更には鈴音までとは、その影響で響子達に嫌われたらどうしてくれるのだ

 

鈴音『構いません。』

 

達也(イコール)条件付きで助けてくれると勘違いが多いが、それは違うのだ

 

あくまで達也が条件を提示するのは達也自身の保身のため、何か問題が起きても自分とは無関係という証明になるからだ

 

達也『一つが退学届を出された平河先輩を必ず復帰させることと小早川先輩も必要であればサポートをお願いします。二つ、私の仕事はあくまでサポートです。市原先輩の指示に従います。三つ、七草先輩は中条生徒会長にもお伝え下さい。今後、私に用があるのであれば事前に説明と了承がなければ全力で抵抗しますので。有効期間は来年の三月までです。…最後に、これから何かが起こり万が一私に何かあっても詮索せずに放置すること。サポートはきっちりいたします。以上四つを何も訊かずに了承していただけなければ引き受けません。』

 

鈴音『二つ目は了承しました。三つ目も努力します。しかし、一つ目は貴方の所為ではありませんから気に病む必要はないかと。最後の一つはどういうことですか?』

 

達也『詮索するのであれば参加はしないとお伝えしましたが?』

 

どうして魔法師というのは自ら厄介ごとに首を突っ込みたがるのか?

 

鈴音の雰囲気はほのか達と同様の「好きな人のことは何でも知りたい」という匂いがしてならない

 

鈴音『…分かりました。…まあ私は守夢君と共同作業が出来るだけで嬉しいですけどね(ボソッ)』

 

達也『何か、仰いましたか?』

 

鈴音『いいえ、何でもありません。』

 

なにか碌でもないような言葉が聞こえた気がしたが、何でもないと言われれば引き下がるしかない

 

もう一人のメンバーである五十里 啓は仕方ないかと苦笑いを浮かべている

 

達也『(なるべく、事務的に対応していこう。こういうのは必要最低限が一番被害が少ない。)では、決まりですね。十月三十一日までよろしくお願いします。』

 

どうしても関わらなければならないのならば、最低限の対応していくしかない

 

諦観の境地でこれから起こりうる出来事に対処していこうと決めるのだった

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?

どうも、言葉遣い選び方難しいと語彙力が弱いと感じざるを得ないですね。
本を読んだりして学んでいるつもりですが、なかなか…。

①ご先祖様や身内は大事にしたいですね。
②達也、魔女裁判ならぬ嫉妬の嵐裁判を受けています。
③奥さんはどう思っているかは不明ですが、旦那さんの北山潮さんは達也がお気に入りのようですね。
④達也が生徒会会長選挙に興味があるとでも?(笑)
⑤中条先輩にトラウマを植え付けようとしたが効果薄っぽい。
⑥千代田先輩って相手のことを理解しようと努力や自分の短所や欠点を補う努力はしたことあるのでしょうかね?
⑦達也LOVE勢に正式に鈴音先輩が加わりました。

なるべく、一ヵ月を目処に更新は続けたいとは思いますが延びた場合はご容赦下さい。

では、次回も暇つぶしを提供出来ればと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

28話

ようやく、仕事が一段落

出張で赤穂へ…のどかでした。

それでは、楽しんでいただければと思います。


ほのか『達也さん、論文コンペに選ばれたって本当ですか?』

 

その日は委員会・生徒会の仕事もなかった

 

研究の資料漁りも今日は無しに家でゆっくりとするかと考えた矢先、狙っていたかのようなタイミングで達也に声を掛けたほのかと雫達

 

アイネブリーゼでお茶をしないかと半ば強制に連れていかれ、近況報告会が開かれた

 

達也『あぁ。一人メンバーに欠員が出てな、数合わせという形で市原先輩のサポートとして選ばれた。』

 

幹比古『数合わせじゃないと思うよ?だって、校内選考会に参加して選ばれるわけで。その選考会に参加していない達也が選ばれるということは九校戦でのエンジニアとしての実績と試験での理論が凄かったからだと僕は思うよ?それに論文コンペは文の九校の対抗戦とも言われているし、実力があっても選ばれるものではないから達也には何かがあるからだよ。それにスーパーネイチャーの目にも留まる可能性だってあるんだから。』

 

何故幹比古がここまで熱く語るかと言うと

 

スーパーネイチャーとはイギリスの学術雑誌が主な理由だ

 

現代魔法学関係で最も権威があると言われ、全国高校生魔法学論文コンペティションの優勝論文を毎年取り上げているらしい

 

また、優勝しなくても素晴らしい論文ならば学会誌に取り上げてもらえるため生徒にとってもモチベーションは上がる

 

レオ『そうだぜ?でも、どうして達也に白羽の矢が立ったんだろうな?』

 

雫『うん、それは私も思ってた。』

 

美月『どうしてでしょう?』

 

達也『さあ?廿楽教諭もいらっしゃったから校内の教師陣からの推薦ということじゃないか?』

 

皆が首を傾げる中、理由を分かっている達也は敢えて知らないフリをする

 

理由を言えばほのかや雫達から小言を言われるのも目に見えているが、言ったところで何が変わるわけではない

 

エリカ『それにしては達也君。今までの君ならこんなイベントなんて面倒だから辞退します、なんて言う筈なのにどうしたの?もしかして、市原先輩みたいなのが好みなのかしら?』

 

達也『そうだ、と言ったら納得するのか?しないだろう?少しだけ俺にメリットがあったため引き受けただけだ。』

 

相変わらず、剣術家の娘であるためか勘は悪くはない

 

それに同意してかほのか達も頷く

 

しかし、達也だって人間だ

 

ふとした拍子に考えだって変わる

 

だから、理由を言ったところでそれは彼女達が納得する理由ではないのだ

 

達也の本音としては一々突っかかって来ないで欲しいというのが大きな理由だ

 

幹比古『エリカ達、最近達也に突っ掛かるよね。どうしたの?それで、今年の開催日は十月の三十一日だよね。今からで間に合うのかい?』

 

達也から邪見に扱われるエリカを見て不思議に思った幹比古はエリカに問いかけるも押し黙るエリカに幹比古はいつもの不機嫌かと諦め達也に向き直る

 

達也『生徒会と部活連の協力を仰ぐと市原先輩は仰っているから、問題は論文発表までの時間だろうな。添削して修正の時間を除くと約九日間しかないのが少し厄介だな。まあ、俺はサポートだから市原先輩の腕の見せどころになるだろう。』

 

レオ『タイトルは何なんだ?』

 

初めて達也から厄介と聞くと少しばかり論文のタイトルが気になったレオ

 

こういう嗅覚を持つレオは中々に侮りがたい

 

達也『【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】だ。』

 

幹比古『それって、加重系魔法の三大難問じゃなかった?』

 

エリカ『そんな難問に挑むなんて。』

 

案外、戦線復帰するのが早かったエリカだが、理由を言いたくなかっただけでその問い掛けが無くなれば問題はないのもある

 

ほのか『凄いね、雫。』

 

雫『うん、凄い。でも、てっきり達也さんが選ばれたのはCADのプログラミングかと思ってた。』

 

エリカ『確かに。啓先輩と達也君がいれば完璧な論文が出来ると思うんだけど。』

 

達也『もし仮にCADのプログラミングなら市原先輩が選ばれてはいないがな。』

 

達也の表層しか見ていない(見せてもいない)ほのか達では何故、選ばれたのかまでは知る術もない

 

巧妙に隠しているつもりもない、調べようと思えば先日の鈴音のように達也の閲覧履歴を調べることも可能だ

 

達也は、ただ黙っているだけなのだ

 

それだけしかしていないのに達也の事が知りたい、教えて欲しいというのは筋違いであり、それは烏滸がましいというものだ

 

受け身で得られるものなど一つもない

 

一つ一つに行動してこそ、結果が得られるのだ

 

そしてそれが自分の望むような結果が得られなかったとしても決してそれは無駄ではなく、次のステップのための糧となるのだから

 

 

 

 

 

今日は生徒会の方で引き継ぎがあった達也

 

引き継ぎと言っても風紀委員会と兼任であるため業務量は多くはないだろうーーー

 

と考えていた達也の予測は大きく外れ、庶務の仕事だけでなく元生徒会長である真由美の仕事つまりは現生徒会長のあずさの仕事の一部もやらなければならないらしい

 

まだ、仕事量にも馴れていないあずさだけでは流石の真由美も不安だったようで事務処理速度の速い、かつ口の堅い達也にならあずさが馴れる間の期間限定という形で引き継ぎを依頼したのだ

 

達也『…?(義父さん?…あれか。)』

 

真由美『?どうしたの、守夢君?電話なら、生徒会室の外だったら出て貰っても構わないわよ?』

 

突然、自分のポケットで振動を感じる達也

 

ポケットから取り出し、呼び出し先を確認すると義父である浩也から

 

普段は電源を切ることも多い達也だが、最近はマナーモードにしていることにしていた

理由は浩也や家族からの連絡が入るためだ

 

真由美も突然何処からか振動音が聴こえたため、その音の出所を探ると達也の手に携帯が握られていた

 

達也『申し訳ありません。義父から呼び出しがありまして。今日は早退させていただいてもよろしいでしょうか?』

 

真由美『う、うん。それは大丈夫だけれど、急用なの?』

 

達也『はい。では、お先に失礼します。』

 

急用の連絡なら真由美も咎めもしないし、寧ろ応答するべきだ

 

それにしては達也は先程の連絡に応答せずに早退の申し出をしてきた達也

 

珍しいと思いつつも、引き継ぎは今日だけでないし達也の事務処理速度なら二、三日間の数時間あれば事足りる為早退の承諾をした真由美

 

摩利『…あそこまで急ぐ守夢を初めて見たな。』

 

真由美『私も。いつもなら、理由やもっと穏やかに話すのに今日はやけに事務的というか淡泊すぎるというか。』

 

鈴音『…どのような用事なのか、知りたいところではありますね。』

 

真由美の承諾直後に颯爽と退室した達也に生徒会の元役員と現役員達は呆気にとられていた

 

普段と比べると今日の達也の行動はあきらかに違う

 

一同は首を傾げるしかなかった

 

 

 

 

 

 

急いで自宅に帰宅し、挨拶もそこそこに身支度を整えるとバイクをかっ飛ばしエリシオン本社に到着した達也

 

その所要時間は三十分ちょっと

 

社長室に一直線に入室すると浩也が待ち構えていた

 

達也『失礼します。』

 

浩也『来たか。状況は言わなくてもわかるな?』

 

達也『えぇ。FLTの人間が来ているのですね?誰が対応を?』

 

何故、達也が来客者の情報を知っているのか?というと墓参りの後、浩也からある情報を聞かされていたからだ

 

その情報には近々CADメーカーのFLTがエリシオン社を訪れるというもの

 

なんでも、国防軍から極秘の依頼らしい

 

しかし、それを自分達だけでは完遂出来ないと判断したのか縁浅からずのエリシオン社に協力の依頼をするために来訪するためだ

 

そんな極秘をよく他人にしかもライバル会社に話に来るか?と心の中で毒を吐きつつも応対している人物が気になる達也

 

浩也『牛山君と営業部長だ。』

 

達也『牛山主任が?火に油を注ぐようなものでは?』

 

浩也『水と油の方が適切じゃないか?彼がどうしても対応すると言ってな。まぁ、言いたいこともあったのだろう。箱は?』

 

牛山と聞くと人選ミスではないか?と考えるもどうやら本人の申し出のようであるため、仕方ないかと苦笑するしかない

 

達也『こちらに。上手く事が運びますかね?』

 

会社に行く直前、浩也の書斎から持ってきたそれは大きさが約二十センチメートルの立方体の宝石箱

 

色合いとしては重厚感ある赤で如何にも貴重または重要と思わせるには十分だった

 

そして、中身はというと瓊勾玉が一つ収まっているだけ

 

浩也『そこまでは思ってないが、国をひいては自分達を守るためだ。策は多いに越したことはないさ。』

 

達也『そうですね。』

 

国を守るとは一体?

 

そして、これを一体何に使うのか?

 

 

 

 

 

 

 

浩也『おっと、失礼しました。…FLTの椎原本部長と奥方様がいらっしゃるとは。何かご用がありましたかな?』

 

用事を終えたのか、出口に向かうFLTの社員二人と廊下でぶつかってしまった達也と浩也

 

一人は本部長でビジネスネームは椎原 龍郎、本名は司馬 龍郎という男性でもう一人はその妻の小百合というらしい

 

椎原『!?これはお世話になっております森城社長…特に元社員達が。今回は社長様に話せるような大した案件ではありませんから問題ありません。…それに今日は君もいたのか。』

 

達也『はい。あ、すみません、お荷物を散らかしてしまい。』

 

ぶつかった際、男性の方は何も問題無かったようだが女性の方はこけた拍子にバッグの中身をぶちまけてしまっていた

 

小百合『!触らないで!大事なレr…何でもないわ。私達で片付けますので。』

 

その女性と一緒に拾おうとするも声を荒げて牽制される

 

相当大事なものなのだろう

 

椎原『…森城社長、折り入ってお願いがあります。今からでも構いませんので、彼らを返していただけないでしょうか?』

 

全て拾い終え、椎原が浩也に向き直る

 

浩也『彼らとは?』

 

椎原からの言葉に浩也は惚けるように返す

 

椎原『数年前にわが社から引き抜いたメンバーです。彼らの力が必要なのです。』

 

浩也『ははは、面白いことを仰る。そのような戯言にふたつ返事をするとでも?彼らは私達の家族も同然です。私が家族を売るような真似をするとお思いで?そんな自分本意な要望などお断りです。』

 

少しだけ浩也の声音が低くなっているのは気の所為ではない

 

ちらりと達也は浩也の横側を盗み見ると、僅かに目を細めている

 

どうやら浩也の怒りの琴線に触れたらしい、原因は【彼らの力が必要】という言葉だろう

 

椎原『…』

 

浩也『今更になって彼らの功績が出てきたから、惜しくなって返して欲しい?ご冗談を。もし仮に戻ったところで働かせるだけ働かせて功績はご自分達のものにするのは目に見えています。…もっとも、彼らが素直にはい、と言いましたかな?先程、牛山主任に一蹴されたのではないですかな?』

 

今更になって牛山達が必要なのかは今回の飛行魔法の功績が大きいからだろう

 

あれは世の常識を覆した

それを発表した人物と会社の中に牛山達も含まれているのは直ぐに分かったため、ようやく事の重大性に気付いたのだろう

 

しかし、惜しむくらいならぞんざいにしなければ問題はなかったろうに

 

まあ、それが出来ていれば転職話など出てこないのだが

 

椎原『…失礼します。』

 

流石の椎原も浩也が怒っていることに気が付いたのだろう

 

反論しようにも図星であるため何も言えない

 

二人はいそいそと退散するしかなかった

 

 

 

 

 

 

一応は客人であるため、出口までお送りした達也と浩也

 

コミューターに乗り込み、会社の敷地から出たのを確認すると浩也は達也に問い掛ける

 

浩也『おととい来やがれ。…それで?』

 

達也『なんとか。』

 

達也の手には、先程社長室で見せた重厚感ある赤の宝石箱でその蓋を開けるとそこには瓊勾玉が収まっていた

 

だが、それは先程達也が浩也に見せたものと同一のもの

 

一体、どういうことなのか?

 

浩也『嘘つけ、俺でもやると分かっていなければ見逃していたぞ?』

 

達也『手癖の悪さは誰に似たんでしょうね?』

 

見逃す?手癖の悪さ?

 

浩也『八雲じゃないか?…え?もしかして、我が家系?』

 

達也『その両方かと。…それで?』

 

今度は達也が浩也に問い掛ける

 

今日は何故かこの親子から犯罪臭がするのは気の所為ではない

 

浩也『…精巧に出来てるから時間は稼げるが、かといって盗まれたとあっては体裁は保てないだろうし。けど助けた場合、繋がってるのでは?と思われたくはないな。』

 

詰まるところ、この親子は盗みをはたらいたということだ

 

ご丁寧にそう簡単に見破られない精巧な偽物を用意し、FLTの社員二人に接触を装い本物とすり替えるという徹底ぶりに思わず賛辞を送りたくなる

 

ということは、今回の流れとしては

 

①国防軍で聖遺物(レリック)が出土したこと

②FLTは国防軍からの依頼が無理難題と分かっていながらもプライドもあり引き受けたこと(他のメーカーやエリシオン社にも来ていたが、エリシオン社(表の顔)としては断った)

③結局出来ずにエリシオン社に泣きついてきた

④FLTからの協力依頼を断りつつも、本物とすり替えた

 

ということになる

 

しかし、何故本物と偽物をすり替えたのか?

 

その理由は後日判明するのだがーーー

 

そして浩也の言葉を鑑みるとあまり関わりたくないのが本音のようだ

 

それでもやらなければならないことでもあるため、何とも言えない

 

達也『この際、面目も丸潰れで無くなって欲しいのですが。』

 

達也としても関わってほしくないが正直なところだ

 

情報を掴んでも実害がなければ、放っておくが一番良いのだが今回はそうも言ってられない

 

FLTが聖遺物(レリック)を国防軍から預かったという事実はその事象が発生した時点で漏れるのだ

更にそれをエリシオン社に持って来るという情報などその筋の者が調べればあっという間だろう

それに神夢家は全ての情報が手に入るといっても基本的には静観するか最低限の自衛のみだ

 

自分達家族ひいては国に大きな損害がなければ放置することもあるし、世界を支配したい訳でもない

 

あくまで自分達は仕え、支える人間達だ

 

まあ、本気になれば世界をあるべき姿に戻そうと思えばタイムリーに情報を覗き見して世の膿を取り除くことも朝飯前だろう

 

それほどに影響力は桁外れな家ではあるが、他人のプライバシーまで筒抜けであるため最早こちらが気持ち悪くて見たくないのが本音でもある

 

もはや、筒抜けというより筒すらないかもしれないが

 

浩也『バランスがな?』

 

達也『分かってますよ。少し言いたかっただけです。変装して行きます。』

 

浩也『頼む、気を付けてな。』

 

口では簡単に言えるが、一つの会社が、しかも貴重なCADメーカーが消えることの重大性は理解している

 

だから、あまり口にしないように気を付けてはいたのだが椎原の言動に怒りを覚えてしまったのだ

 

だから、助けるのも最低限しかやるつもりもない

 

 

 

 

 

 

達也『!(大分、手の込んだ真似をしてくるものだ。まあ、あれほどの代物をほいほいと持ってくるんだから。狙われて当然か。)』

 

二人の乗ったコミューターを精霊の眼(エレメンタル・サイト)から追跡しながら、交通状況を観察していた達也は公道を走る車の数が異様に少ないことに気付く

 

時間帯的にはまだまだ車通りは多いはずだが、案内ではこの先で故障車があるため迂回するように告げられていた

 

この時代、自動で動く車、通称コミューターが普及しており目的地を入力するだけであとは何もしないで良いという大変進化した乗り物が出来ていた

しかし、メジャーの中にもマイナーはあり、交通管制システムを切り自分で運転する自走車も存在している

 

かくいう達也も自走車派だったりするしかも、全自動が当たり前のこの時代ではレトロと評されてもおかしくないMT車である

 

それはさておき、管制下に置かれた二人の乗るコミューターのパネルに自走車が接近してきていると警告音が鳴る

 

しかし、中の二人はいつものことだと警告音を切る

 

周囲を自走車は確認されないが、突如としてT字路から飛び出してくる

 

黒の自走車は達也のバイクの前に割り込むと二人のコミューターの数メートル後方に張り着き、煽り始めた

まるで、事故を狙っているかのように

 

達也『(さて、どう来るか。)』

 

煽り運転以上の行動をとることには違いないが、何をしてくるのかは不明だ

 

達也が身構えた瞬間、自走車が二人の乗るコミューターを遮るように前に出た

 

その瞬間、コミューターは接触すると判断したのかスリップのような形で急ブレーキをかけた

 

それと同時に搭乗者を護る為の安全装置が発動しエアバックが二人を保護する

 

コミューターの進路を塞ぐ形でかつ、スライドドアがコミューターの正面に止めるところを見ると只のチンピラという訳ではなさそうだ

 

スライドドアが開き、二人の男が降りてくる

 

達也『!(変装もせずとは。やはり奴らか、ならば。)』

 

市街は監視カメラが数多く点在する

何か不信な行動や犯罪行為をすればすぐにカメラがそれを捉える

今回の場合もそうだ、にも関わらずこの大胆さは市民や正規の入国者ではない

 

考えられるのは密入国者しかない

 

登録されていないのならば素性がバレることもない

 

武装した男達を牽制するのようにバイクのライトを上げ光の蒸発の効果に紛れ距離を詰める達也

 

あまりの光量に怯むもそれは数瞬のことで、相当訓練された人間なのか直ぐ様左の中指に納まっている真鍮色の指環から魔法妨害のサイオンの波動が放たれる

 

だが、達也には効果は無い

空かさずシルバー・ホーンを抜き、男達の武器を分解すると男達はあり得ないといった表情をする

 

キャスト・ジャミングと口走っているところを推測すると十中八九、あの国だろう

 

だがそのような反応をする暇があるなら次の行動を考えれば良いものを呆けているようではただの的だ

 

元々達也はあの国は嫌いだ

あの出来事の諸悪の根源なのだから

だから、滅ぼして良いのであれば滅ぼしてやりたいが、世界のバランスを考えるとそう簡単にはいかない

 

だが、末端程度ならば問題ないだろう

 

ちょうど良い見せしめにもなる

 

達也『Addio』

 

引き金を引き、男達の心臓を消し去る達也

 

不自然に動きが止まり、倒れる男達を尻目に自走車に他の仲間が乗っていないか気配を探りつつコミューターの中の椎原夫妻の状況を確認する

 

どうやら二人は割り込みによるコミューターの急激な回避動作により気絶しているようだ

 

外傷もなさそうだと確認を終えた 

 

ーーー刹那

 

首筋の後ろ辺りが妙にチリチリと得も言われぬ感触が全身を支配した瞬間、ナニかを避けるように身体が反射的に横へ数十cmズレる

 

しかし、そのナニかを完全には避けきれず左腕を掠めたその直後に音が追い付きアスファルトの地面を抉った

 

達也『!?(殺気!それにこの感触とアスファルトの抉れ具合、尖頭被甲弾か!)』

 

引き金を引く際の殺気でなくその前の照準の視線に気付いた達也

 

回避を考える前に身体が先に動いたのは僥倖だったのだろう

避けなければ、肺を貫通していた

左腕と服の接触部分を確認すれば直撃は免れているものの、ナイフで切られたように切り口から血が流れていた

しかしその流血も次の瞬間には癒え、否、傷口も塞がり破れた服も無かったかのようになっていた

 

音を置き去りにしたこの軌道、更には遠方に届くように作られたこの低伸性の高い弾丸が尖頭被甲弾と判るのには時間は掛からなかった

 

次撃を遅らせるために、コミューターの陰に潜む達也

 

その際、死体となった二人の男達が浮き上がり、黒の自走車の中に吸い込まれるように消え走り去っていくのを見逃す

 

本来ならば、爆弾の積まれた車だろうと爆弾ごと分解する達也だがあまり使用は控えたかった

理由は、街中という状況や変装しているとはいえこの魔法を少しでも記録させておきたくないという本音があり、もし仮に爆発したのなら他にもやりようはいくらでもある

また、自走車の中に隠れている人間もいないため放置しても問題ないと判断したのが正直なところである意味では達也の職務怠慢と言えるかもしれない

 

そして、精霊の眼(エレメンタル・サイト)で腕を掠めた痕とアスファルトを穿った弾丸の角度や風速など様々な要素を分析し現在から過去を見通す

 

達也『(…いた。)』

 

達也が精霊の眼(エレメンタル・サイト)を発動させ、弾が発射された位置を特定するのにおよそ0.1秒足らず

それと同時に懐からシルバーホーンを抜き取ると遙か彼方に照準を合わせる

 

その照準は1km以上先

 

達也『(驚くべきは魔法を使わずに成功させたその腕前だな。)だが、こちらもそう簡単にはやられるわけにはいかないからな。』

 

スナイパーが通常弾から貫通性の高い弾に装填し再度、スコープから達也を認識するも時すでに遅し

 

スナイパーが視認すると同時に達也は引き金を引き、スナイパーはこの世界から存在が消えていた

 

 


 

目を覚ました二人を駅まで見送る際、聖遺物(レリック)(偽物)の入った宝石箱を押し付けられそうになったが、丁重にお断りをして持ち帰らせた達也

 

すでに本物はこちらが持ってますとは言えないが、FLTには囮になってもらう必要があるからだ

 

帰宅早々、再び浩也に呼ばれ浩也の書斎に赴くと凛とモニター越しではあるものの風間が達也を出迎えた

 

簡潔に報告を済ませる達也に達也自身の懸念事項をあらかじめ払拭していた風間

 

風間『監視カメラは早急に対処しておいた。』

 

達也『ありがとうございます。』

 

いつもそうだが、風間や真田達独立魔装大隊のメンバー含む我が家族は自分を大切にしてくれる

 

一日でも早く皆を守ることでその恩を返したいと思うも中々それが実現しない

 

浩也『しかし、魔法も使わずに千メートル級の狙撃か。あの国も相当躍起になっているようだな。そして、それを躱すとは流石だな。』

 

風間『そうだな。そこまでの腕前を持つスナイパーは達也の他に十人といない。しかし、かすり傷だけとは。感知能力を上げたな達也。』

 

達也『いえ、油断していたのは否めません。幸運でした。』

 

いつもは厳しいこの二人に手放しで褒められると少しむず痒い

 

しかし、言葉とは裏腹に表情は固いのは一歩間違えれば、危うい状況だったからだろう

 

だからこそ達也は反省しているのだ

 

浩也『そりゃ、気を張っていれば避けれるさ。言いたいのは、危機察知に磨きがかかっているということだ。』

 

風間『そう思うなら修行だな。藤林も少し泣いていたぞ?』

 

達也『…しまったな。(ボソッ)…それで、奴等の目的は?』

 

確かに八雲の下で修業をして十年以上経つ

 

それに最近は少し気持ちの整理がついたためか感覚が以前より研ぎ澄まされているのは気の所為ではない

 

だが、響子が絡めばそれとこれとは別問題だ

 

要修行という烙印以上に女性を泣かせるという最低な男という烙印が付く

 

まあこの問題は後できっちり解決すると決め、咳払いを一つして本題に入る

 

浩也『それがなぁ。彼ら、国を侵犯するのではないと言い張っているようでな?あくまで目的は魔法施設や魔法師が狙いというわけなんだが…。』

 

風間『無論、そんな戯言を赦すわけにはいくまい。一般市民が巻き込まれるのは目に見えている。』

 

浩也『トップ連中は家の怖さをよく知っている。けれども、日本に魔法も技術も力も負けているのは嫌らしくてな。…後ろに魔法関連の連中が何枚か絡んでいるようだ。(ボソッ)』

 

どうやら、日本国を攻め、領土侵犯をするわけではないということらしい

 

表向きは魔法関連の施設及び魔法師に敵対する行動すると言い張るが、それでも国が灼かれるのはいただけない

 

いくら正当のように理由を並べても所詮、国のトップ連中も欲に塗れた愚か者ということだ

 

だから、利用されるのだ

 

達也『…なるほど。では、魔法師の幾人かを差し出すというのは?』

 

浩也『その幾人の中全て十師族だろう?というか、最近隠さなくなってきてないか?』

 

浩也と風間の説明にふむふむと頷き、名案だと言わんばかりの達也に浩也は何とも言えない表情をする

 

浩也の言う通り、最近の達也は魔法師特に十師族に対しては辛辣だ

 

凛『それは彼らが達也の神経を逆撫でするからですよ。』

 

風間『達也、冗談はそこまでにしておけ。』

 

義母である凛は苦笑交じりに風間にあってはもはや恒例だなと嘆息する

 

達也『すみません。それで、その聖遺物(レリック)の持つ性質というのは一体何ですか?』

 

こういう家族の会話も大事だが、今日はもう一つ協議しておく議題があるのだ

 

浩也『魔法式を保存する機能だと言われているようだ。一応、仮説の段階だが、十分な確度の観測結果は得られているそうだ。』

 

凛『…つまり、これを解析して複製(コピー)して欲しいということよ。』

 

一番達也が知りたかった情報はこれだ

 

少し前に浩也から聖遺物(レリック)が出土し、それをいくつかの国が嗅ぎつけてという情報を聞いていた

 

が、どのような性質かまでは知らされていなかった

 

そして、その嗅ぎつけた国の一つがそれを奪おうと画策しており、それを阻止すべく浩也らが動いたのだ

 

達也『そういうことでしたか。しかし、それを成そうとするには技術等で何とかなるものではないはず。』

 

浩也『それでも、業績を省みれば火中の栗を拾う必要があったのさ。』

 

FLTの業績としては途轍もなく悪いというわけではないが、良いかと言われれば良くもない

 

解析部門とはいえ牛山達の腕は相当だ

 

陽の目を見ることは無かったが、技術的側面を鑑みれば彼らの手によって助けられた抜けた部分は大きい

 

その穴を埋めるのは厳しいものがある

 

過去のツケが徐々に業績悪化という形で首を絞めたのだ

 

まさに因果応報だろう

 

達也『そして、泣き付いてあわよくば功績を独占をと。捕らぬ狸の皮算用を考えていたがいつのまにか聖遺物(レリック)を盗まれているのにも気づかずに、か。お笑い種ですね。』

 

浩也『言ってやるな。こちらにコンタクトをしてくれたから。合法的に(盗むことが)出来たんだから。』

 

達也『………。』

 

凛『浩也さん、達也が呆れてますよ。』

 

嘲笑う達也に対して浩也はそこまで興味を抱いていないように見受けられる

 

それなりには怒ってはいるのだが、浩也の目的はあくまで聖遺物(レリック)の奪取なのだ

 

そして、達也は国を、家族を守る為に了承はしたが、結果を見ればFLTを守ったことになる

 

二人の思惑が少々違うのは立場上仕方がない

 

浩也『あ、ごめん。』

 

達也『いえ、義父さんの考えの方が効果は抜群なのは間違いないですから。…では、あの国に関連することは個人で問題ならない程度で対処してよろしいですね?』

 

浩也の考えも解らなくはないし、別に浩也はタダでやったわけではない

 

後に何倍にもして返すつもりでいるのだ

 

その考えの方が達也自身の精神衛生上よろしい

 

その時に今までの貸しを何倍にもして返してもらえば良いのだ

 

風間『あぁ。能力がバレない程度ならな。もう一つ、十師族には用心しておけ。更に監視を厳しくしている筈だ。』

 

浩也『あとは感情的になるなよ。なっても良いのは、合法的な立場の時だけだ。』

 

制限付きでの独断で動いて良いという風間からの許可が下り、一安心と思いきや真剣な雰囲気の中に茶化す浩也

 

しかし、言葉とは裏腹に表情は真剣そのもの

 

そして、義母である凛や風間まで真剣な表情

 

達也『それ、どちらも感情的になれないのでは?』

 

浩也『そうとも言う。』

 

一体、どのような意図があるのやら

 

明言を避けるあたり達也が知るべきではないのだろう

 

やはり、まだまだ俺は子なのだろうなと顔を僅かに顰めるしかなかった

 

 

 

 




如何でしたか?

最後の方はなにを言ってるんだ?と思われるかもしれません。
うん、自分でも解ってるような解っていないような半分半分です。

①レリックは原作どおりFLTです。が、コソ泥しました。
②例のあの国の工作員二名…

今回はこんなところでしょうか。

また、次回も暇つぶしに見てください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

29話

……5ヶ月ぶりです(泣)

こまめに書いていたのですが、その一週間後に多忙の日々が待ち受けているとは思いませんでした。

楽しみに待っていられた皆さんには申し訳ありません。

勘が鈍っていなければ良いのですが……楽しんでいただければ幸いです。


翌日の放課後

達也は安定の地下の閲覧室に来ていた

 

本当は聖遺物(レリック)の分析をしたいところなのだが、論文コンペを先に済ませておかなければ後々に影響が出る

 

全力で好きなことをしたいのなら、面倒なことは先に片づけておいたほうが精神的にも良いからだ

と考えつつも、ちょこちょこと摘み食いのように興味が聖遺物(レリック)向いてしまうのは悪い癖だ

 

頭を一つ振り、気持ちを切り替え論文コンペ用の資料を探すかと意気込んだ時、奥にある個室の一つの扉が開く

 

真由美『あら、守夢君。今から調べもの?』

 

達也『はい、論文コンペの資料集めに。七草先輩も何かの資料集めですか?若しくは…読書の秋ですか?』

 

個室から出てきたのは前生徒会長の真由美

 

達也を見つるその瞳には恋情が宿っている

 

当たり前だが、九校戦以後ほのかや雫からのアプローチは増している

 

真由美もほのか達と比べて物理的な距離の接近は少ないものの、心理的距離を縮めようとしているのか積極的に会話を持とうと試みているようだ

 

真由美『後半はわざとよね?』

 

失礼ね、と可愛らしく頬を膨らます真由美

 

達也『とんでもないです。判らないから可能性を挙げただけなので、他意はありませんので。』

 

真由美『…受験勉強のためよ。』

 

達也『推薦があるのでは?』

 

そのあざとさを服部にでも向けてやれば彼も喜ぶだろうにと考えつつも、受験ならば真由美ならどこでも進路は選り取り見取りだろうにと推測するもなにやら事情があるようだ

 

真由美『残念。実は生徒会の役員は推薦を辞退することになってるの。当校の不文律としてね。』

 

達也『それは失礼しました。ということは私も辞退する流れですね。』

 

初めて達也に間違えさせた真由美の声音は弾んでいる

 

いつも達也には煮え湯を飲まされているため意趣返しと言わんばかりに

 

達也と言えば、生徒会役員になるべきではなかったかと己の安易な発言を省みた

 

真由美『うーん、そういうことになるのかな?で、ちょうど空室が出たのだけど。ここで話すのもなんだし、一緒にどうかしら?』

 

達也『弁明はお願いしますね。』

 

そして真由美は、先程自身が出てきた個室を指差し達也に入るように促す

 

周囲を見渡しても達也と真由美以外いないためここで遠慮するのも無粋かと真由美に従った

 

 

 

達也『…』

 

真由美に従い入室したわけだが、一人用のこの部屋に二人が入るのは物理的に無理があった

 

言っては何だが、達也の体型は痩躯の部類に入るがその実、成人男性よりも肩幅もあり、身長は日本人にしては長身だ

 

というわけで、この狭い個室で真由美は達也に体を密着させていた

そして、さらに密着させるために達也の腕に抱き着いた

 

所謂、当ててんのよ、というやつだ

ちらりと、真由美の表情を盗み見ると薄暗い照明でも判るほどに赤面していた

 

狙いはこれかと小さく嘆息する達也

 

赤面するくらいならやらなければいいと思うも恋する乙女としては少しでも効果があるならばやらないわけにはいかないのだろう

 

 

真由美『改めてだけど、鈴ちゃんのフォローお願いね?』

 

本当なら真由美も鈴音を手伝いたいのだろう

 

しかし、真由美には鈴音がやろうとしているテーマでは足を引っ張ってしまうため陰ながら応援することにしていた

 

人には得手不得手がある

 

真由美自身、自分が何でも出来るなどとそんな思い上がりは持っていない

ただ、魔法に関してはそれなりの自負はある

 

話が横道に逸れたが、真由美は複雑な工程の魔法を持続させるのは不得手であり、それを鈴音は理解していたから真由美を候補から除外していたのだろう

 

真由美もそれに関して異論はないのだと推察する

 

だが、それだけでは説明できない理由があるはずだ

 

達也『真由美さんは市原先輩の論文テーマについて何かご存知なのですか?』

 

真由美『どうして?』

 

達也『【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】には何か特別な思い入れがあるように感じます。それでなければ、わざわざ選考に参加していない俺に話が来るとは思えません。単なる興味本位ではなく、必ず形にする必要があったから。違いますか?』

 

真由美『そうよ。鈴ちゃんの夢は魔法師の地位の向上よ。政治的ではなく、経済面からのね。』

 

魔法師という最初は兵器として政治的道具としての扱いだったが、このままの立ち位置では意味がない

 

兵器としての宿命から解放され経済面やエネルギーの観点から魔法師という人種が重要なファクターに生まれ変わる

夢物語と思われるかもしれないが、でもその夢を実現させたならば魔法師という人種の可能性が無限大になるだろう

 

達也『なるほど。』

 

真由美『?達也君、少し驚いていたけどどうかしたの?』

 

達也『いえ、大したことはありません。一応、私も魔法師の地位向上の為に市原先輩と同じテーマを取り組んでいるものですから。しかもこのようなマイナーな思想の持ち主が俺以外にも居たとは驚きでした。』

 

これで合点がいった

 

どうして鈴音が達也を候補として選んだのか、単に【重力制御魔法式熱核融合炉の技術的可能性】を論文として出すなら、達也でなくても問題ない

 

鈴音はその先を見据えているからこそ候補者でもない達也の資料の検索履歴も調べたのだ、自分の想い、この論文の力になってくれそうな人間を見つける為に

 

そして、幸運なことに想い人が同じテーマを掲げていたのは心が躍ったに違いない

 

達也自身、このテーマは鈴音と同じように魔法師の地位向上の為だがその根本は家族の為だ

 

この時代、魔法は重要なファクターだ

表の顔でもCADのメーカーであるためそうなると魔法を使える家族も魔法師の一人に数えられてしまう

そうなれば、兵器としての側面がまだ強いこの時代に否が応でもその渦に巻き込まれてしまう可能性はある

それを阻止するためには戦争や政治的側面から脱却し、代替のものが必要とされる

 

それが達也の場合【重力制御魔法式熱核融合炉】だ

 

このコンセプトは達也のオリジナルでは全く無く

五十年以上も前から原子力ムラから脱却を図るために様々な案が出されたが、利権が絡みあい中々脱却出来なかったため今でも核燃料を使わざるを得ない状況だ

 

あとは核の効率良く、廃棄物もほとんど無いエネルギーの抽出を目指すだけなのだがこれが中々上手くいかないのが現状だ

 

もっとも、鈴音とはテーマが同じであってコンセプトや動機は全く違う

 

そして、大きく膨らませたが家族が戦争や政治に巻き込まれることは無いだろう

あの家は表に出ることは無く、あまり言いたくないが裏の支配者だ

 

そのため達也による転ばぬ先の杖だろう

 

真由美『…ふーん。達也君、鈴ちゃんみたいなのが好みなんだ?』

 

鈴音の考えに僅かに目を瞠った達也に真由美は面白くないという表情だ

 

達也『好み?確か、数ヵ月前にも訊かれましたが今は婚約者もいますよ?』

 

真由美『それは対外的なものでしょう?私達は知ってるんだから。』

 

達也『そうですね。対外的には、偽りですね。』

 

真由美『やっぱり、大人っぽい方鈴ちゃんが私より好みに近いんじゃない?』

 

どうも他の女性に目が向くことが気に食わない様子の真由美

 

恋人でもないのに浮気の真偽を確かめられても困る

 

達也『回答を差し控えさせていただきます。』

 

真由美『むう。ふーんだ、子供体型でごめんなさいねぇ。』

 

達也『…はぁ。真由美さんは子供体型ではないでしょう?出るところは出てますし、容姿も美少女と言われてもおかしくない。バランスも良いと思います。…まぁ、敢えて言うならしn…』

 

好みを探り出したかった真由美だが、黙秘されては面白くない

 

達也は達也で真由美の言葉に首を傾げる

今回はたまたま鈴音と共同で論文を完成させるだけであって、本来は同じテーマを競うライバルなのだ

 

それに真由美自身が卑下するほど女性としての魅力が無い訳ではない、寧ろ大半の人間が羨む体型だろう

 

ある一つのコンプレックスを除いて―――

 

真由美『た・つ・や・く・ん?それ以上言ったら、大声で叫ぶわよ?』

 

達也『冤罪です。』

 

真由美と二人きりのこの状況を他の人間に見られれば、誰もが誤解と達也が悪いという冤罪が出来上がってしまう

 

真由美『全く。セクハラ発言満載だし、女心も分かってないし。こんな可愛い美少女が隣に居るのに、達也君は何とも思わないわけ?』

 

達也『…そうですね。そこまで仰るのなら遠慮はしませんよ?』

 

あからさまに挑発しているが、本当に迫られた場合どうなるのか

 

右隣にいる真由美に向き直ると逃げ道を塞ぐように真由美の左側を右腕で壁を作る

 

所謂壁ドンである

 

逆側は簡易のデスクであり背中は部屋を区切る壁のため達也の腕の要素で即席の檻の完成だ

 

真由美『!ちょっ、た、達也君?何か近いんだけど?』

 

突然の達也の豹変により逃げ道を失くした真由美

 

そして、徐々に縮まる二人の物理的距離

 

真由美『っ!ね、ねえ。聞いてるの?こ、こんな場所で…///。』

 

達也『(フッ)』

 

更に達也の左手が真由美の頬に触れ、顎へと移動し顎を上向きに持ちあげる

 

親指が下唇に触れると途端に大人しくなる真由美

 

そして、何を期待したのか目を閉じている

 

その様子に満足した達也は触れていた手を離し、資料を漁るためにモニターに向き直る

 

真由美『…(もしかして揶揄われた?)達也君!』

 

真由美はと言うと、いつまで経っても来ない接触と達也がいるであろう場所でキーボードを叩く音に閉じていた瞼を上げる

 

達也本人は居るものの、隣の真由美を一瞥することもなくモニターを凝視している

 

そこで漸く、自分が達也に遊ばれたのだと理解した真由美

 

達也『はて?』

 

真由美『っ~!!乙女の純情を弄んだ罪は重いわよ!』

 

赤面した真由美に素知らぬふりをする達也

 

真由美は気づいていないだろうが、この各個室には監視用のカメラが設置されており如何わしいことを行えばすぐに見つかってしまうのだ

 

と外向きの説明しようとも、そもそも先程の行為は調子に乗り過ぎの真由美に対して痛い目をあわせるためのものだ

 

どれ程、彼女が達也にアプローチを掛けようとも無駄であり、【骨折り損の草臥れ儲け】である

 

まあ、もしかしたら達也にかまってもらえたという意味では真由美にとってはラッキーなのかもしれないが

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーその夜、達也は自室で珍しい現象に遭遇していた

 

 

達也『?…クラッキングか(珍しい…そして、命知らずな。)』

 

学校側に論文コンペの提出期限を三日後に控え、データ処理も最終段階に入っていた達也はホームサーバーが攻撃されていることに気付いた

 

それも素人ではないプロの犯行だ

 

たまたまアドレスを見つけた素人ならば、何度もアタックをしてはこない

反撃を受けたら、そそくさと撤退するのが多い

 

しかし、侵入に対しての防御システムからの撃退を何度も受けてもアタックを試みようとするのは何か意図があるのだろう

 

とりあえず、達也は自作の逆探知システムを立ち上げるのだった

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

朝、達也は昨夜の出来事を浩也と凛に報告する

 

すると、浩也から達也が関わっているこの一連の事件を結那、加蓮、恭也に話すなと指示があった

 

いずれは話すそうだが、今はその時ではないということらしい

 

 

達也『ーーー結局ですね、プログラム破壊のウイルスは持ち帰らせたのですが追跡の方は外されてしまいまして。手掛かりが無いということなのですが、このような困った生徒に知恵をお貸しいただけませんか?』

 

小野『…あのね、守夢君?ここは貴方みたいな困ったではなく、年相応に成長したいと真剣に悩む生徒が訪れる場所なの。』

 

朝の浩也と凛と話し合った結果、結論としては達也の独自の行動が必要になってくるそうだ

 

そういう訳で縁浅からぬ小野の下へと赴いていた

 

達也『私も年相応に困っています。また、ちょっかいをかけられたら面倒くさいなと。だから、関連性をつけるために小野先生の知恵をお借りしたいのです。』

 

小野『年齢詐称もいいところの君が何を言うのかしら。全く…最近、横浜港の周辺で相次いで密入国が確認されているわ。』

 

一度、関わり合いを持ってしまえば切るのが難しいのが情報を扱う業界だ

 

今更だが、甘言に唆されて達也と契約をしなければよかったと後悔する

 

達也『…(重要港湾で大胆にも密入国か、誰かの手引きがなければスムーズには入れない。)魔法協会か論文コンペだとどちらの可能性が高いですか?』

 

狙われるべきは家の情報で判っているはずなのに、何故達也は小野にあまり価値の無さそうな情報を訊くのか?

 

小野『…それだけではないわよ。それと同時期にCADのメーカーのマクシミリアンやローゼンに部品を納入している会社が盗難の被害に遭っているわ。今は、警察や湾岸警備などが捜査にあたっているわ。あなたのご家族の会社に関連する会社はほとんど被害に遭っていないのは何故かしら?』

 

達也『さあ?たまたまではないですか?』

 

小野『…最後に忠告よ。論文の提出はオンラインではなく、メディアで行うように。』

 

達也『ご忠告ありがとうございます。』

 

おそらく、国内での情報の統制がとれているのかだろう

 

政治は様々な利権や思惑が絡み合うものだ、一枚岩で対処など出来るわけがない

 

特に自分の家はそうそう表には出ない

 

本当に日本が危うい状況でしか力は見せない

 

だから、出来る範囲で降りかかる火の粉は自分で払わなければならない

 

 

 

 

 

 

五十里『それは本当かい?』

 

達也『はい。何が目的なのかは不明ですが、クラッカーのコマンドを見ると、魔法理論に関するファイルを狙っているようでした。先輩のお宅も用心してください。』

 

放課後、摩利に呼ばれて風紀委員会本部に達也と五十里は居た

 

五十里『被害は何も無かったんだね?』

 

達也『えぇ。ご心配には及びません。(近い、この人のパーソナルスペース狭すぎないか?)』

 

余程クラッキングのことが心配だったのか、身を乗り出す形で距離を縮める五十里

 

そんな五十里を宥めるように両手を前にする達也

 

 

五十里『でも、この事は市原先輩には伝えたほうが良いよね。』

 

達也『…はい。時期的に論文コンペですからその線が濃厚かと。』

 

五十里達の常識というか知識としてはこのイベントしか考えられないが、達也だけが知っている情報としてはいくつか考えられるのだが、それは伝える必要がない

 

五十里『うーん。あまり僕はそれ以外では心当たりは無いね。』

 

達也『念の為、注意は払っておいて下さい。』

 

暫し考え込む五十里だが心当たりがあるはずもなく、当然かと納得の達也

 

花音『啓、おまたせ!』

 

五十里『か、花音!?』

 

摩利『やあ、守夢。十日ぶりくらいか、元気だったか?』

 

二人の会話が終わった直後、扉が開き二人の女子生徒が入ってくる

盗聴でもしていたのか?と思わせるほどにジャストタイミングだ

 

一人の女子生徒、現風紀委員長千代田花音は入室するなり婚約者である五十里啓に抱き着くと頬擦りをし始める

 

その様子を間近で見た達也はドン引きの表情をする

 

そこに二人目の女子生徒、元風紀委員長渡辺摩利が達也の肩を叩く

 

達也『渡辺先輩、ご無沙汰というほどでもありませんが。まさかとは思いますが、呼び出したのは論文コンペに関してですか?』

 

相変わらず男前な仕草をするな、と心の中で呟く

 

摩利『それも一つ。その前に花音の仕事ぶりを聞きたくてね。』

 

その言葉と同時に花音の肩が僅かにあがり、視線を泳がせる

 

摩利には否、婚約者である五十里に知られたくないのか

 

達也『巡回はすでに別々ですから。事務処理の方はそうですね…。』

 

摩利『…』

 

花音『…』

 

達也『断捨離と言いますか。整理整頓という意味ではありませんが、捨てるということに関しては流石の一言につきますね。重要書類までもが処分とは。…本当に誰に似たのやら。(ボソッ)』

 

最後は吐き捨てるように言うと摩利と花音は居心地が悪そうに身動ぎする

 

花音の捨てると決める判断は中々のものであるが、必要なものまで捨ててしまい探し回ることもしばしばだ

 

そして、二人共自覚はしているものの、行動に反映されていないため達也の頭痛の種になっているのだ

 

外野の五十里はそれを聞いて、苦笑を漏らすしか出来なかった

 

 

 

 

達也『先程の話ですが、論文コンペは風紀委員会が何か担うのでしょうか?』

 

達也の評価に花音は抗議を申し立てたのだが、容赦の無い口撃で花音を再びしずめた達也

 

またもや涙する花音を尻目に学習しないなと溢す達也は摩利に向き直る

 

 

摩利『そうではない。風紀委員会が担うのはチームメンバー、今回は市原と五十里そして君だ。君たち三人を護衛をするかどうかをということをね。』

 

花音『啓は私が守るから安心してね。』

 

五十里『よろしくね、花音。』

 

立ち直りは早いのか、五十里に抱き着く花音

 

達也『なるほど。』

 

摩利『そういうことだ。会場の警備は魔法協会がプロを手配するから問題ない。相談したいのはチームメンバーの身辺警護とプレゼン用資料と機器の見張り番だ。』

 

摩利の話はこうだ

 

論文コンペには魔法大学関係者を除き非公開の貴重な資料が使われる

 

この事は外部にも結構知られているため、産学スパイの標的になることもときどきある

 

達也『…(なるほど、それで見張りに護衛か。)ということは窃盗などが多いということですね。間違ってもクラッキングなど重大犯罪は無いということですね。』

 

摩利『そういうことだ。そこまで大した事件は無い。お前が思っていそうな如何にもといった犯罪は無いから安心しろ。』

 

どうして高校生である達也の口から物騒な言葉が出てくるのかは不思議でならないが、そこは藪蛇だろう

 

達也『そういうことでしたら護衛などは不要ですね。(寧ろ、余計に邪魔になりかねない。)』

 

もし達也に護衛を付けるなら、達也より危機察知能力か戦闘力が上でなければ足手まといにしかならない

 

これからのことを考えれば他人を関わらせることはかえって危険だ

そして、その場面に遭遇させては達也自身の秘密を晒すこともあるかもしれない

そうなれば存在を消さなければならないし、後始末もある

 

摩利『そう言うと思ったよ。五十里は花音。市原は服部と桐原の二人だ。』

 

部活連会頭を駒遣いするとは鈴音も流石であるが、まあ服部も鈴音には頭があがらないのだろう

 

達也『話は変わりますが、何故先輩が調整役を?』

 

摩利『あ~それはだな…。』

 

ふと、何故摩利が今回の風紀委員会が護衛兼見張りの件を伝える必要があったのだろうか?と気になった達也

 

普通であれば現風紀委員長である花音が行うはずだ

 

摩利に問うような視線を投げかけると、これまた面白いほどに良い反応を見せてくれた

 

更には分かりやすく目が泳ぎその視線の先には案の定、花音はこちらに背を向けている

 

達也『…ほぉ。これはまた教育的指導が必要なようですね。』

 

花音『…!?』

 

摩利『…お手柔らかに頼む。』

 

摩利の所為ではないが、彼女の言葉が発端であるのは間違いない

 

100%が摩利が起因してはいないが、一部は摩利が花音を甘やかしていたために起きたのも事実

 

そのため、摩利も今回の件に関しては達也に強くは出れない

 

風紀委員会は事務処理という面では達也なしでは成り立たないからだ

 

摩利に出来ることとすれば、花音への仕置きを少しでも小さくすることだけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

達也『お二人のお手を煩わせることですから来ていただかなくても問題はありませんでしたよ。』

 

五十里『そういうわけにはいかないよ。それに、気分転換にもなるしね。』

 

達也は現在、学校の外に買い出しに出ていた

 

第一高校の購買部は一般の高校の購買部とは一線を画する

 

第一から第九まで全てに言えることだが、魔法実習関係の品揃えは相当に充実している

 

それでも完全とは言い難く、外に買い出しに出かけなくてはならないときもある

 

だが、外の魔法科高校の御用達とも言える商店街には高校内の購買部では買えないもの全てが揃っているため、購買部に無かったとしても心配する必要はない

 

機材然り、雑貨、消耗品、書籍、ここで買えない物は何もないとでも言いたげに

 

今回達也達が訪れた理由は、論文コンペで使用するプロジェクター用の記録フィルムが購買部で品切れであったためだ

 

論文コンペの原稿を提出期日が明日とあっては選択肢は一つしかない

 

そう考え、一人で来る算段で鈴音と五十里に報告したつもりが見事に裏切られる結果となった

 

今更ながら、事後報告にして自分一人で買い出しに来れば良かったと嘆息した

 

達也『そうですか。』

 

というのも、達也の真横で五十里と花音が仲睦まじい以上のやり取りを見せられて口から砂糖を吐きだしそうだからだ

 

そういう達也も双子や響子とのやりとりは誰もが甘ったるい関係だと断言できるので、達也のグチというやつだ

 

一応、救いとしては五十里が花音のそれを持て余している感がある

 

五十里『それは悪いよ。これは三人でやり遂げるべきもの、今この時は年齢や序列は関係ないよ。と言っても、僕もサンプルは確認しておきたいしね?』

 

花音『なに?守夢君。あたしの啓が着いてくるのは不満だっていうの?』

 

五十里先輩ならギリギリセーフですが、貴女まで来るのはノーサンキュー(大迷惑)ですとは言わないでおく

 

 

 

 

目当ての物を購入したが、五十里と花音は少し品揃えを見ておきたいとのことらしく達也は先に出ていると伝え店から出た

 

達也『何か恨みを買うようなことをしただろうか?(ボソッ)』

 

五十里『おまたせ。さぁ、帰ろう…?どうしたんだい?何か言いたげな様子だけど。』

 

花音『いつまであたしの啓を邪な目で見てるの!』

 

達也『…(はぁ、面倒だな。)そこの女子生徒、いつまで見ているつもりですか?』

 

仕方ないと謂わんばかりに嘆息し、花音ではなく自分を見る第三者に声を掛ける

 

 

花音・五十里『!?』

 

達也『姿を現さないならば、此方から行きますよ?』

 

花音『何処なの!スパイ!?』

 

五十里『花音、落ち着いて。』

 

達也の肩を掴むや否や詰め寄る花音に五十里は宥める

 

こうなることが判っていたからこの二人には着いてきて欲しくなかったのだ

 

最近、達也をストーキングしている人物がいた

理由は不明だが悪意は感じていたため、達也という人間を歓ていないということは理解していた

 

今日もそれがあったため、内々に処理出来ればと思っていたが気が変わった達也

 

面倒事に巻き込まれるならば、こちらからも巻き込んでしまえば良いとーーー

 

何ともよく分からない思考回路の達也が導き出した行動に振り回される二人だが、そんな打算など考え付かない花音は達也の思うように振り回される

 

達也の何気ない視線の先にある木陰、一目見ても隠れられる場所ではなきが、花音は何かあると信じ猛進していく

 

それが達也の誘導だと知らずに

 

花音『見つけたわよ!…!?居ない?』

 

その言葉と同時に一つの影が激しく動揺する

 

五十里『花音!そっちじゃない、向こう!』

 

花音の言葉に反応してしまい、達也だけではなく五十里にまで気配を悟られてしまう

 

慌てて、その場から離れようとする影に花音が追い始める

 

余談だが、千代田花音は同世代トップクラスの魔法師であると同時に陸上部ではそれなりにスプリンターという一面を持つ

 

無論、非魔法師に適う脚力は併せ持っていないが並みの高校生と競えば勝つ自信はある

 

スカートを翻しながら疾走する花音は第一高校の女子生徒の制服を身に纏う小柄な姿を追う

 

花音『待ちなさい!』

 

???『くっ…!』

 

花音が逃げる一人の犯人とおぼしきその人物を十メートルに届く距離にまで肉薄する

 

その圧力を感じ取ったのかは不明だが、逃げる犯人は背後に迫る花音に振り返る

 

化粧や何を隠そうとするわけでもなく、素顔を見せたその少女に花音は一つでもその素顔の特徴を記憶しようと頭部に意識を集中させる

 

が、その行動は他の挙動を見落とす結果となった

 

達也『!(あれは。)』

 

不意の行動には誰もがその行動に視線や意識が向いてしまう

 

しかし、達也にとっては行動一つ一つが注視すべき事柄であるため、花音が追う少女(変装含む)がイレギュラーな行動を起こそうとも少女の全てが警戒すべき事象なのだ

 

簡単に言ってしまえば、誰にも油断はしない

 

だから気付いたのだ、少女が懐に手を入れ、地面に放った直径5センチメートル程のカプセルの存在に

 

花音『!?しまった、逃がさない!』

 

達也『チッ、(巻き込まければ良かった。)何を犯罪者でもない人間に魔法を使おうとしている。』

 

カプセルが地面に落ちる衝撃で割れた瞬間、目を閉じなければならないほどの閃光が辺りを焼く

 

それは花音、あとから追いかけていた五十里、達也も例外ではない

 

視界を焼かれた瞬間、達也はすぐに視界を回復させると、懐からバイカーズシェードを取り出す

 

学校でこんな時にしか役に立たない不要なものを持ち歩くとは、相変わらず何を考えているのか解らない達也ならではである

 

そして、花音達の視界を遮る閃光も元々がそこまで大きくもない閃光手榴弾であったため数秒程で視界は回復すると、花音は再び少女の姿を探す

 

数秒程でも逃げる時間を稼ぐには十分な時間だ

 

十メートル未満に詰めた距離も十数メートルにまで拡がっており、花音は追いかけながら左手のブレスレット型のCADに右手を添える

 

しかし、その行動を達也が見逃すわけもなく

 

コンマ数秒で追い付き、花音のCADを操作しようとしていた右手を背中にまわし、左手も高く持ち上げドスの利いた声音で花音を恫喝する

 

花音『っ!…守夢。…でも、捕まえないと!』

 

五十里『任せて。』

 

達也の言葉に我に返るも逃す理由ではない、と反論すれば追い付いた五十里がCADを操作していた

 

彼の視線のその先には少女が乗ってきたであろう小さなスクーターがあり、ちょうど少女がスクーターに乗ったところだった

 

間髪入れずに魔法を発動

 

放出系魔法

伸地迷路(ロード・エクステンション)

 

スクーターの両輪が空回りし始める

 

この魔法はタイヤの接地面と道路の電子の分布を操作し、クーロン力(電荷の符号を正か負に偏倚させる)を斥力に偏倚させ、摩擦力を近似的にゼロにする

 

言葉にすれば簡単だが、タイヤが空回りすればするほどその力は摩擦力ではなく、反発する力に変えるなど実行するには複雑な魔法式を必要とするためこのテクニカルな術式を選択する五十里も相当な腕前である

また、複合的に放たれたジャイロ力を増幅させる魔法により倒れることも出来ず立ち往生の状態となる

 

五十里『これなら文句は無いよね?』

 

花音『流っ石、啓!さて、大人しく観n…』

 

五十里の魔法の効果を確認した達也はようやく花音を解放する

 

花音は五十里の腕前に当然のごとく安心しきっており、五十里と共に足留めしているスクーターに歩み寄っていく

 

【手負いの獣には気を付けろ】

 

今回は手負いでも獣でもないが、追い詰めている状況ではあるため気を付けるべき事案ではある

 

人間の感情としてヤケや形振りかまっていられない時に取る行動が恐ろしいことを見逃していた

 

相手の外見で判断するべきではないが、能力まで分析しなければプロか素人かを見定めなければ次の手の予測も難しい

 

今回はドが付くほどの素人であり、達也が気付いたのはほんの偶然だった

 

他の同等のスクーターにしては一回り大きく、マフラー周りも改造を施されたように見え、疑問に感じていたからだ

 

少女の右手の親指がハンドルに付いている透明のカバーを外し、如何にもといった赤いボタンを押した瞬間だった

 

達也『…!?伏せろ!』

 

スクーターのマフラーの右側の外側が外れ、もう片方も覆われていた樹脂が外れ、小型の噴射口が現れると同時にジェット機を連想してしまいそうなほどの轟音と風圧が花音と五十里を襲う

 

しかし、寸でのところで達也が二人を庇うようにして地に伏せる

 

???『ひっ、きゃぁぁぁ!』

 

そして、名も知れぬ少女の悲鳴とともに小型ジェットスクーターは遥か彼方に飛び去るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横浜の中華街から少し離れた雑居ビルの一角

 

 

 

 

???『呂上尉(リュウじょうい)、あの小娘はまだ使えるのか?』

 

聞けば、報復対象者ではないものに顔を見られそうになったと報告があったため、隣で控える呂という部下に問い掛ける

 

呂『問題は無いかと考えます。(ワゴン)と回収メンバーをを手配したのもあの娘を紹介したのも周大人(チョウたいじん)ですからあの娘からこちらの情報が漏れるのはありません。』

 

(リュウ)と呼ばれた人間は上司の問い掛けに問題はないと答える

 

???『どこまで信用出来るのか判らんな、あの男は。レリックの方はどうなっている?』

 

そう、あくまで末端から情報が漏れないというだけだ

 

あの周という男から情報が漏れないとは限らないため、何かしらの対策を講じる必要はあるだろう

 

男の中で一通りの考えが纏まり、別の話題に移ると会社のような外壁が映るモニターを凝視する部下が立ち上がる

 

 

 

 

部下『フォア・リーブス・テクノロジー社の役員とおぼしき人間がエリシオン社に接触したものの、それ以降は持ち出された形跡はありませんが、保管場所は判明しておりません。』

 

???『(チッ)四葉とは忌々しい。あの四葉とは無関係でいいんだな?』

 

部下『(シー)。詳細に調べましたが、何も繋がりは出てきませんでした。そして、この国では四葉(しよう)八葉(はちよう)といった言葉は魔法関連の企業で多数使われています。』

 

???『紛らわしい。守り神のつもりなのか…。それで、エリシオン社に保管されている可能性はどうだ?』

 

部下の回答に男は怨みを込めて忌々しく吐き捨てる

 

しかし、その言葉とは裏腹に苦々しくそして、僅かに畏怖が滲み出ていた

 

八葉とは現代魔法の四系統八種と胎蔵界曼荼羅の中台八葉院、この二つの魔法的な意味を示すが四葉はもっと世俗的な意味で利用されている

 

十師族 四葉家

 

この名は魔法界では誰もが恐怖の念を抱く、謂わば禁忌の一種

 

日本の企業はこの四葉という言葉に肖り、スパイ組織や犯罪組織から身を守ろうとする

そのため、この四葉と意味合いの近い企業には中々手を出そうとすることは躊躇うことが多い

 

現に自分達もFLT(フォア・リーブス・テクノロジー)に四葉の影を連想してしまい、警戒するハメになったのだから【虎の威を借る狐】とはよく言ったものである

 

部下『ありませんでした。どうも、エリシオン社に共同で研究を行おうと考えていたようですが、断られているため可能性は低いかと。もし万が一エリシオン社に預けられていた場合、あのセキュリティーを突破し奪取出来る可能性は0.1%(パーセント)未満です。』

 

???『(チッ)…そうか。(解せん。触れざるも者(アンタッチャブル)でもないただの一企業に上層部は何を脅えているのだ?一体、何があるというのだ?)見えない糸で操られているかのようだ(ボソッ)』

 

だが、自分達が四葉という言葉に恐れる以上に上層部は別のものに恐れ慄いている

 

そして、その得体の知れない何かに振り回されている自分達がもどかしく感じてしまう

 

調べもさせたが一般企業ということしか分からず、秘されている様子も無い

 

単なる思い過ごしと無理矢理納得させるしかなかった

 

呂『上校?』

 

???『いや。FLTの動向を見逃すな、その社員達もな。司波小百合と司波龍郎の家には二人しか住んでいないのか?』

 

我が上司の怪訝そうな表情に腹心の部下は気掛かりな様子を見せるも何でもないと制止する

 

部下『不是(ブッシュ)。司波龍郎の連れ子の司波深雪と桜井水波が住んでいるようで司波小百合と司波龍郎の両名は別宅に住んでいるようです。』

 

???『桜井?司波ではないのか?桜井水波はどう繋がりがある?』

 

部下『どうやら、居候のような形でいるようです。両親は他界し、親戚筋の司波家に引き取られたとのことです。二人とも魔法大学付属第一高校の生徒のようです。そして、現地協力者の報復対象もこの高校に通っているとのことです。名前は守夢達也。』

 

???『…ほう。ならば、魔法大学付属第一高校も活動の対象に追加。必要であれば他から人員を割いても構わん。それから小娘に対する支援の強化。機密情報の漏洩が最も効果的な報復だと教えてやれ。そのブツもな。あと、武器も持たせておけ。…(リュウ)上尉。』

 

呂『(シー)

 

???『現地で指揮を執れ。余所の犬が嗅ぎまわっているなら排除しろ。』

 

FLTの社員の事情など何ら問題はない

此方の仕業だとバレずに強奪すれば問題ないのだから

 

おそらく、先日の一件で自宅にはレリックは置いてはおかないだろうからセキュリティーの高めの会社だろう

 

問題はない、一つの手間が増えただけで強奪することには変わりはない

しかし、念には念の策も講じておく必要はあるだろう

 

それにしても現地協力者の報復対象者がとレリック奪取の関係者の共通点がこんなところに転がっているとは

 

腹心の部下に指示を出しながら心の中でほくそ笑むのだった

 

 

 

 

 




如何でしたか?

①真由美さんを誂うのは良いですね。
②原作もそうですが、達也の事務処理能力の高さは真似出来ませんね。
③そもそも、外で魔法を行使するのは身の危険を守るためですけど今回って魔法を使う理由はないんですよね…。
④陰謀論って好きじゃないなぁ(笑)

今月にもう一話を投稿出来ればとは考えてはいますが、またお待たせしてしまうかもしれませんが、お許し下さい。

また次回も暇潰しがてらに見てください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

30話

お久しぶりです。
言い訳もしたくないくらいお待ちいただき申し訳ありません。

グダグダと長引くのも嫌なので、30話目です。

暇つぶし程度でもなれば幸いです。


 翌日、五十里と花音、達也は昨日の出来事を報告するために鈴音と摩利、真由美の下を訪れていた

 

鈴音『そうでしたか。皆さんに怪我は?』

 

五十里『いいえ、ありませんでした。ロケットの爆風も彼、守夢君に助けてもらいましたので。』

 

達也『大したことはしていません。五十里先輩の適切な魔法がありましたから。しかし、身の危険でもないのに魔法はあまりおすすめは出来ませんがね。』

 

 

達也本人は本当に大したことはしていないという認識なのだろうが、あのロケット噴射に気付き二人を守ることは中々出来ない

 

それよりも達也自身が他人に忠告などすること自体が達也らしくないかもしれないが

 

花音『何よ、啓の魔法が駄目だったというの?あっ、分かった。君、自分に魔法力が無いから啓に嫉妬してるんだ!』

 

五十里『違うよ花音。彼は僕達の事を思って注意してくれているんだよ。思い返してみれば、僕達は何も身に危険は無かった。ただ、見張られていただけでね。あのあと、あの隠し球が無ければ僕達の方が処罰されていたかもしれないんだから。』

 

鈴音『その通りです。だから、守夢君は千代田さんに魔法を使うなと言ったのでしょう?もっとも、守夢君は貴女の魔法で相手が何らかの怪我を負わないように止めた可能性は高いでしょうが。』

 

が、そんな優しい(お人よし)忠告も人それぞれで捉え方は違う

 

他人を蹴落とそうとしたり、守ってくれたと感じたり

 

ーーーその警告も花音にとっては恋人の五十里からの言葉の方が優しくとも大ダメージを受けたのだろうが

 

摩利『市原、その辺にしといてくれ。花音も悪気があったわけではないんだ。花音、今回は守夢に感謝するんだぞ?五十里の魔法もそうだが、守夢は捻くれすぎてはいるが筋が通ったことしか言わないし、やらない。こういう時は私情は挟まずにきっちりしている。』

 

花音『…はい、摩利さん。』

 

真理としては鈴音の言葉が達也の行動に最も当て嵌まっているのだろうが、それを肯定してしまっては花音も暫くは立ち直れないだろう

 

しかし、達也が捻くれているのは真由美や摩利達の間では否定のしようのない事実なのか

 

花音を慰めている中、摩利の言葉に達也は渋い顔をする

 

摩利『うん、それで花音はその女子生徒?の顔は憶えているか?』

 

花音『ごめんなさい。一瞬のことだったので詳しくは。啓と一緒に名簿は確認したんですけれど。』

 

摩利『気にしなくていい。私もその状況ならば憶えていないだろうからな。』

 

どうも、脱線した感は否めないが本題はそこだ

 

近距離で接触した花音がそのストーカーとおぼしき人間の特長を第一高校の制服以外で憶えているかどうかだ

 

だが、いくら接近したとはいえ、あの僅か数秒で憶えられるわけがない

それも第一高校の女子生徒、数百人の顔を見分けられる程の情報量をだ

 

真由美『じゃあ、一緒にいた守夢君は?』

 

ならば、達也ならどうだ?

 

一瞬で魔法式を見分ける眼を持つならばその女子生徒?とおぼしき素顔の特長を捉えていても不思議ではないだろう

 

達也『私も覚えてはいません。何しろ、千代田先輩の行動に目を光らせていましたから。それにあの状況下では相手の行動に気を配っていたので。』

 

そう期待するも返ってきた言葉は【ノー】だった

 

自分ですらその余裕がなかったと

 

真由美『…まぁ、そうよね。スクーターにロケット噴射装置で逃亡を図るくらいだもの。吹き飛ばされないようにグローブに細工してるし、他に何か隠し球を持っていても仕方ない状況よね。』

 

鈴音『そうですね。では、守夢君の。いえ、小野先生の助言通り記憶媒体でデータを渡すことでいきましょう。』

 

そのストーカーが一体何を隠し持っているかは不明であるため、むやみにネットワークを利用するのは得策ではない

 

それには同感である鈴音達

 

対策というほどではないが策を講じておくことに越したことは無い

 

真由美『それでは、そのストーカーの件も含めて注意して行動していくことでいいかしら?』

 

達也『はい。それと校内の実験の時には少し警備を増やしても良いかもしれません。(探さずとも必ず姿を現す。気になるのは彼女がどれだけ相手の情報を知っているのかだ。何故、高校生にスパイの真似事をさせるのか。その目的が何なのか。それに、高校生よりも業者に扮したスパイの方が確実だろうに。何とも杜撰な計画だ。また、面倒事に巻き込まれるな。)』

 

摩利『了解した…。』

 

真由美『…』

 

一見、解決策も見出だせず不明点だらけの会議

 

達也ですら本心からお手上げですといった仕草に納得するしかなかった

 

だが、本当にそうなのか?と疑問が擡げてくるも追求したところで誤魔化されるに違いない

 

それに今回鈴音から達也の論文コンペの出場条件の中に詮索をしないと釘を差されている

 

だから、あとは達也が自発的に報告してくれるのを待つ他ない

 

もしかしたら、本当に憶えてすらいないのかもしれないが

 

 

 

 

 

 

エリカ『あ、戻ってきた。おーい、守夢君。』

 

達也『どうかされましたか?』

 

教室に戻ると、何やらエリカやレオ達の視線が自分に集中している

 

エリカやレオは普段からだが、美月までもが何かを尋ねたいように見受けられる

 

美月『…』

 

幹比古『ねえ、守夢。君は見張られている感覚はあるかい?』

 

達也『というと?』

 

美月は上手く切り出せないのか同様に感じている幹比古が達也に問う

 

美月『…その、何て言うのでしょうか?吉田君の言う見張られているではなくて、見られているの方が適切でしょうか。隙を窺っているというかなんというか。それに見ている範囲も大きな…。すみません、曖昧で。』

 

幹比古『ううん、柴田さんが気に病む事ではないよ。僕もそれは感じているんだ。校内の精霊が不自然に騒いでいる。誰かが式を打っているんだ。』

 

レオ『シキって、式神とかってSB(スピリチュアル・ビーイング)のことか?』

 

幹比古『僕たちが使う術式とは違うみたいで上手く捕まえられないんだけど。どこかの術者集団が探りを入れて来ているのは間違いないよ。』

 

幹比古の言葉に美月も自分の言いたいことが出て来たのか幹比古の言葉を補足する

 

要するにこの第一高校にSB(スピリチュアル・ビーイング)系統の式を放つ輩いるとのこと

 

それが美月と幹比古の感覚に引っかかったというわけである

 

エリカ『それなら別にこの高校だと毎回来ても珍しくないんじゃないの?』

 

幹比古『そこなんだ。普通なら外塀沿いに張り巡らされた防御術式に一度阻まれるとその日は仕掛けてこない。けれど…。』

 

エリカの言う言葉ももっともである

 

ここは魔法大学付属第一高校、魔法文献の集まる宝庫であるため狙われるのは日常茶飯事と言える

 

ーーーしかし、

 

達也『今回の相手は何度もしつこく仕掛けて来ている、ということですね。』

 

今回のその術者は結界に何度撃退されてもしつこく仕掛けてくるらしい

 

幹比古『そう。分かるかい?』

 

達也『えぇ、おそらくですが。柴田さんの言葉を借りるなら、一週間以上前からですね。そして、吉田さんの補足をすれば術者はこの国の人間ではありません。大陸かr…語弊がありましたね。元々この国は大陸からの人間が多く来ています。最初の日の本をつくったと言われ、神の血をひくと謂われる神武天皇も大陸の人間という説が有力です。そして、この日本という国の歴史も書き換えられています。弥生時代からですね。ですから、日本の歴史は2095年より更に600年以上あるということは知っておいて損はないでしょう。純粋に日本の血を引く人間、即ち縄文時代の血がこの世にはおそらくいないでしょう。そして、術なども。修験道はわかりませんが、陰陽道も…話が脱線しましたね。今回のその古式魔法の術式もおそらくは別の大陸のものでしょうね。気になるのでしたら自分で調べることをお勧めしますよ。私が虚偽を言っているかもしれませんからね。』

 

幹比古『さ、流石だね。』

 

幹比古も達也から自分も知らない情報をもらうとは思っていなかったのか、どう反応すれば良いのかわからず当たり障りのない返答しか出来ない

 

エリカ『…守夢君って、どれだけの引き出しがあるの?』

 

SB(スピリチュアル・ビーイング)を式や式神と同一視されると否定したくなるのは他人と(自分の家の者が)同類だと考えるのが嫌だという如何にも見下してしまう感情だろうか

 

実際、現代の古式魔法と家の術は全く違うため、否定する材料はいくらでも出せるのだが、それは他者と自分とを根本から違うと決めつけ区別ないし差別をしてしまう

それは自分が正しい行いや考えをしているのに他人が間違った道にいることを見下すといったことになりかねない

 

それは義父である亡き昌也や浩也、八雲、そして家の人間達はそれを是とはしない

多様性や何を信じるのかはその人間次第なのだ、例えそれが悪や愚かでも、間違いのあるものでも否定はしない

しかし、否定はしないが肯定もしない(もっとも、間抜けで洗脳されすぎな人間には更に洗脳してしまえというのは亡き両親と浩也、凛と更には家の人間の言葉で、その言葉に自分も開いた口が塞がらなかったのは今でも憶えている)

 

心がけてきたつもりがこれに関しては誤認されるのは嫌だという見下す感情が先んじたようで反省する達也だが、論理的に否定はしたが正確な知識は教えたつもりもないのも確かである

 

幹比古『守夢の言う通り、僕の使う術式は魔法用に昇華されつつあるから術とは言えない。魔法は魔法で対抗できるんだけど、魔法は術には対抗出来ない。それに比べ術は魔法にも対抗出来る。けど、少し発動に時間が掛かるから現在では魔法の方が良いとされているんだ。』

 

達也『古式魔法に関してはその通りです。』

 

レオ『で?その大陸の術式がどこのもんなのかは判らないのか?』

 

達也の言葉で一番の疑問点はそこである

 

いつから見られていたかなど議論しても疲れるだけであり、建設的な話としてはどこの誰が見ていたのか?である

 

エリカ『あたりまえでょ。そう簡単にに判れと言う方が無茶な話よ。』

 

レオ『でもな、こんなに好き放題されちゃあな。』

 

エリカ『全くよ。一体警察は何をしているのかしら。』

 

普通なら、達也が大陸からと答えればどこの国かも判っているのでは?と勘繰られてそうなものだが、どうやらその前にエリカの感情の爆発先があったようだ

 

そして、エリカの口振りからどうやら警察という公機関ではなく警察にいる誰かに向けられているのだと気付いたのは達也だけだった

 

 

 

 

 

それと同時期に一人の男がくしゃみと共に視線を感じるのか、何処からか見張られているのではないか?と視線を彷徨わせていた

 

 

稲垣『警部、風邪という名の仮病ですか?』

 

千葉『いや、どうも悪寒がね。』

 

稲垣『間違っても頭痛が痛いや腹痛が痛いなどと仮病の病に冒されないでくださいね。』

 

千葉『…君ね。』

 

さんざんな言われようである

 

自分としては別に仕事が嫌いではないが、否仕事が面倒な時もあるためそんな時はサボったりはするが基本的にはキッチリと仕事はこなす方だとは思っている

 

まあ、勤務態度を四六時中見られていては真面目とは結びつかないのは仕方のないことだとは思っているため軽く睨めつけるだけにとどめた

 

稲垣『それはさておき、まだ聞き込みを続けますか?目撃者は出てこないように思うのですが。』

 

千葉『うーん、それは少し違うな。まあ、やり方は変えるべきだとは思うけどね?』

 

先日の不法入国の事件に関してめぼしい箇所を捜査しているものの一向に手懸かりが掴めない

 

稲垣の言葉に千葉はもっともであり、やり方は変えるべきだろうとは考えていた

 

稲垣『警部、まさかとは思いますが…。』

 

千葉『おいおい、そんなおっかない顔をするなよ。何も違法捜査をしようってわけじゃないんだ。』

 

稲垣『では何を?』

 

千葉『…蛇の道は蛇ってね。』

 

上司である千葉からこの言葉を聞くときは必ず何か悪巧みをしている

何年も相棒を務めているためこの後の行動が読めてしまう

 

釘を差そうとするも違うと言い張る千葉

 

一体何をしようというのか?

 

稲垣『…警部。先程の言葉を蒸し返すようで悪いのですが、違法捜査は…。』

 

千葉『分かってるさ。しかし、四の五の言っていられる場合でもないだろう?』

 

稲垣『それはそうですが、ここが?ただの喫茶店としか…まさか、捜査と託けて。』

 

千葉『おいおい、ここがその蛇…じゃなかった。情報の集まる場所だぜ?まあ、ここのマスターは犯罪歴は無いから安心しな。』

 

車に乗り込み走らせること約三十分程、横浜・山手の丘の中程に位置する喫茶店

 

一体、ここに何があるというのか?寧ろ、何をこの周辺で行おうというのか

いや、上司である千葉のことだ

拗ねて職務放棄する可能性もなくはない

 

そんな思考を巡らせていたが、本当にこの喫茶店が千葉の考えていた何らかの方法のようだ

 

稲垣『なるほど。我々にも尻尾を掴ませないほどの。』

 

しかし、このような場所で法ギリギリの所業が行われているなど言語道断

 

千葉『いや、大物ではなく。職人と言った方が適当だろうね。』

 

稲垣の言葉に苦笑気味の千葉だが、誤解は解いておくべきなのだろう

 

ーーーが、このお堅い部下がそれを受け入れられるかは別として

 

 

 

カランコロンと昔ながらのベルの音とともに店内に入る

 

店内はいたって普通というべきか、平日の昼間を過ぎたこの時間帯

人気の観光スポットが近辺にある為か客の入りは多かった

 

しかし、それは閑散とする喫茶店と比べてという意味合いであり、賑わっているとまではいかない

 

店の雰囲気と物静かなマスターのキャラクターがそうさせるのか、客は静かにカップを傾けている

全体的にも客層の年齢層は高く、この店の雰囲気が好きなのだろう

時間の流れも緩やかに感じられ、通好みな店なのだろう

 

二人はカウンターの端の方に座り、マスターが顔をこちらに向けるとブレンドを二つ注文する

 

この店のマスターは職人気質(しょくにんかたぎ)で表の仕事も裏の仕事も手を抜かないのは千葉は良く知っている

コーヒーが出てくるまでは話は出来ないため、手持ち無沙汰の時間で店内を見渡す

 

建物は木造で、仄かに木の香りが漂ってくるが、何の木の種類なのかは分からない

 

しかし、少し薄暗い店内と木の色は絶妙に合っている気はする

 

ふと、視線をカウンターに移すと二つ程空いた席に飲みかけのコーヒーが置いてあった

 

マスターがカップを下げないところを見ると、一時的に席を外しているだけのようだが旨いコーヒーも冷めてしまっては台無しであり、もったいないだろうとお節介のような思考をしてしまう

 

が、どうやら自分がコーヒーを傾けている間にその席の人物は戻ってきていたため何故か一安心していた

 

そして、カウンターに戻ってきたのは若い妙齢の女性

年齢を訊くのは野暮だが想像するのは許してほしい、おそらくだが、千葉と同じくらいだろうか?

 

珈琲がまだ来ないため千葉は何度もその女性を盗み見てしまうのはその女性の容姿にある

 

容姿としては、可愛いという感じではなく綺麗なという言葉が似合いそうなほどに気品と佇まいがある

 

更には、あえてそうしているのかは不明だが、化粧の具合が控えめであり服装も平凡な色のブラウスとスカートでわざと目立たなくしているようにも見受けられるからだ

 

千葉『…(チラッ)』

 

稲垣『…(オホン)』

 

仕事でここに来ているにも拘わらず女性に目を取られている我が上司を戒めるように咳払いを一つする

 

千葉もばつが悪かったのか、慌ててカウンターでマスターの淹れるコーヒーに視線を戻す

 

???『クスッ。』

 

千葉・稲垣『!?』

 

???『失礼しました。女性は苦手ですか?千葉の御曹司(総領)?』

 

不意に、隣からクスクスと小さな笑い声が聞こえ振り向く

 

ひとしきり笑い終え、満足そうなその人物は先程の女性だが、驚くべきことに自分の正体が判っていたのだ

 

千葉 寿和という人物が千葉家を背負う人物だということは隠しているわけではないが、広めているわけでもないため自分の正体に気付くということは警察関係か犯罪者を除けば魔法の特に実戦魔法の経験者のみ

 

もっとも、弟の方が名も知られているため自分にスポットライトが当たるのは珍しくもあったため少々警戒してしまう

 

千葉『!?貴女は。』

 

だが、彼女の自己紹介でその警戒は驚愕に彩られることになる

 

???『そういえば、名乗ってはいませんでしたね。初めまして。私、藤林響子と言います。』

 

藤林 響子

古式魔法の名門の藤林家の令嬢であり、日本魔法界の長老である九島烈の孫娘が千葉の前で屈託ない笑顔を向けていた

 

 

 

 

ほのか『達也さん、今回の論文コンペの準備は終わったんですか?』

 

達也『一先ずは形に出来たというところかな。添削をしてどれだけ修正が出るかだな。あとはデモ機やその術式の調整諸々が残っているからな。一応は一段落と言っても良いだろう。』

 

ここ最近、達也はほのか達とは放課後一緒に帰ることが無かった

というのも、鈴音、五十里と共に論文コンペの準備で多忙を極めていたからだ

 

エリカ『へぇ、大変そうね。そういえば、美月の部活でデモ機の模型を製作してるんだっけ?』

 

美月『う、うん。でも私は何もしてないよ。二年の先輩が主導してやってるから。』

 

エリカ自身論文はあまり触れたくはないのか、次の話題に逃げる

美月はエリカの心情を知ってか知らずかエリカの質問に答えているが幹比古とほのかは苦笑と雫とレオは同情するような表情をしている

 

達也『まあ、五十里先輩がその模型作りを担当しているからな。二年生が主導になるのも仕方ないさ。』

 

レオ『で?達也は何を担当してるんだ?』

 

達也『俺はデモ用術式の調整だ。』

 

雫『…普通、逆だと思う。』

 

達也『得意分野が違うだけだ。俺は型を作るのが得意ではないから、そっちの方面で長けていたのが五十里先輩であっただけだ。』

 

雫の言い分も一理あるが、特段達也は不満に思ったことはない

 

得手不得手があるように五十里の方が模型(ハード面)が得意だけだったため達也も得意な方を選んだだけなのだ

 

エリカ『まあ、そうかもね。【魔法使い】というよりは【錬金術師】がしっくりくるしね、啓先輩は。達也君の言う通り適材適所な気がする。』

 

うんうんと達也を除く全員が頷く

 

確かに五十里はそういうイメージかもしれない

それと同時に、ならば達也は何に喩えられる?と不謹慎にも興味が湧いてくる

 

達也『そういうことだ。間違っても俺はとある国の暴君や陰の支配者、支配を目論む魔法使いといった立ち位置でもないからな?罷り間違ってもRPGに登場しそうな人物ではない。』

 

しかし、その思考を達也が見透かしていないわけがない

 

全員『!?』

 

達也『…おい。』

 

ギクッと如何にも擬音が付きそうな反応に達也もツッコミをいれる

 

エリカ『そ、そんなこと思う訳ないじゃない。』

 

ほのか『そ、そ、そ…そうですよ。』

 

代表して誤魔化そうとした二人だが達也を相手にその誤魔化し方は更なる墓穴を掘りかねない

 

達也『そうか、なら安心した。まあ、俺としては森の奥深くでひっそりと暮らす木こりだと思うがな。』

 

レオ『確かにな!でも俺としてはマッドサイエンティストとか考えちまうぜ。』

 

美月『私も達也さんは勇者とか賢者ではない気がしました。』

 

と、わいわい再びはしゃぎ始めたエリカ達

 

誘導されているとも知らずに挙句の果てには「大魔王」とまで例えられては少し説教が必要である

 

達也『…ほう。ならお前達はその大魔王に支配される村人といったところか?』

 

全員『!!』

 

地を這うとまではいかないまでも冴え冴えとした達也の(故意的)声音と気迫に冷や汗が止まらないほのかや雫達

 

達也『雫は悪ノリする癖はあると思っていたが、幹比古、お前までとは。』

 

幹比古『うっ。ご、ごめん。』

 

雫『ごめんなさい。』

 

ほのか『ごめんなさい。』

 

達也『全く。まあ、歩きながらも何だから、いつものとこでお茶にしないか?』

 

怒っているつもりは全くないが、調子に乗ると後々面倒な展開にはなるのは予測出来るため抑止は時折必要だ

 

だが、それとは別に今回の行動には意味があったがーーー

 

エリカ『…賛成!』

 

ほのか『行きましょう!』

 

 

 

 

マスター『やあ、達也君。いらっしゃい。今日もモテモテだねぇ。』

 

達也『いつも誰かを侍らせているような発言はやめてください。それにマスターも髭を剃ればモテモテですよ?』

 

マスター『いやぁ、ごめんごめん。』

 

カランカランとベルを鳴らしながら入店する達也達を出迎えてくれるのは髭を蓄えたアイネブリーゼのマスター

 

今時死語であるモテモテなどという言葉を遣い冗談混じりで達也を揶揄うと達也も冗談で返す

 

エリカ『え?違ったの?こんな美少女達をいつも侍らせてさ。』

 

達也『おい、その言い方は語弊があると思うが。』

 

雫『達也さん、私達というものがありながら浮気?』

 

達也『またその(くだり)か。いくら労したところで覆ることはないぞ。』

 

本当にいい加減にしてほしいと内心愚痴る

達也自身としてはほのかや雫、真由美を筆頭に男女の関係になりたい等と考えたことは一度もない

 

イレギュラーがなければあの九校戦での出来事も参加していなければありえなかったであろうし、また、本来ならば、自身の役目を遂行するだけで三人の思いを受け止めず、結ばれることも結ばれようとも思わなかった

 

マスター『え?、達也君。もしかしてだけど、彼女とかいるの?』

 

これには初耳だったようで、マスターの表情を表現するとすれば青天の霹靂か

 

達也『恋人じゃありませんよ。こn…』

 

ほのか『婚約者という名の妹です!』

 

マスター『!?達也君、それはいけない。近親婚は禁じられてるからね!』

 

達也『違います。確かに婚約者とも呼べる人はいますから。』

 

別に隠す必要もないためある程度は公にしておくべきだろう

 

ーーーまぁ、その暴露しなければならない根源がほのかや雫、真由美達であることは間違いないが

 

マスター『(ホッ)良かった。』

 

(義理の)妹と聴いてマスターもあの達也が、と僅かだが疑ってしまったものの、真面目できっちりとした性格の達也が(義理の)妹とそのような関係になるわけもない

 

何かしら達也の家の事情があり、もしかしたら別に婚約者がいるのかその(義理の)妹とは血縁でも何も無い可能性が高いため達也からはっきりと否、と回答をされてホッと安心したマスター

 

ほのか『え?誰ですか!』

 

雫『誰なの?』

 

エリカ『一体、どこの誰よ!』

 

達也の言葉のニュアンスから自分たちの知らない達也の婚約者が居ると直感するほのかと雫にエリカ

 

ほのかと雫は明らかだが、エリカに関して言えば達也に好意があるのか怪しく、半分誂いがありそうで微妙なところである

 

達也『教えるわけないだろう、秘密だ。』

 

ここまで諦めずに食いつくとはもはやある意味では尊敬してしまうと達也は厭きれ交じりに三人を突っぱねる

 

レオ『…』

 

幹比古『…』

 

その様子をほぼ外野の立ち位置のレオと幹比古は達也に対する三人の勢いに引いていた

 

 

 

 

マスター『へえ、達也君論文コンペに選ばれたんだ。』

 

達也『無理矢理座らされた助手という立場ですよ。』

 

マスター『いやいや。その助手に選ばれるということがどれほど凄いか。僕は一般人だけど、それはなろうと思ってなれるものではないからね。きっと得難い経験になると思うよ。』

 

このマスターは魔法の世界には属していない一般の人間である

 

だが、魔法の世界に関してとても興味を抱いており、普通の魔法師より知識はあるため、よほど勉強しているのだと達也でさえ舌を巻いたものだ

 

達也『ありがとうございます。』

 

マスター『今年は横浜で行われるんだよね?僕の実家も横浜で喫茶店を営んでいてね。開催場所が国際会議場だったら、すぐ近くだね。』

 

美月『そうなんですね、横浜のどちらなんですか?』

 

てきぱきとそれでいてカップに丁寧に注がれるコーヒーを眺めながら美月は尋ねる

 

マスター『山手の丘の中程にある【ロッテルバルト】って名前の喫茶店だよ。詳しくは達也君が知ってるから彼に連れて行ってもらってね。』

 

レオ『そうなのか、達也?』

 

達也『あぁ。横浜に用事があった際、時間があれば寄っているな。』

 

達也の言葉に全員が何故か納得の声を上げる

 

入学当初、達也から己の名前を呼ぶことを許さず姓で呼ぶように言っていたにも関わらずこの喫茶店のマスターは名前を口にしていたからだ

 

これで謎が一つ解けた

 

マスター『そういうわけだから、親父と僕のコーヒー、どちらが旨いか忌憚ない意見を聞かせてほしいな。』

 

雫『マスター、商売上手。』

 

マスター『ありがとう。あと、達也君。親父が近々顔を見せて欲しいと言っていたから。論文コンペの帰りにでも寄ってあげてくれないかな?』

 

達也『近々、世間話にでも伺いますよ。』

 

そう応えるとマスターは満足そうに頷いた

 

 

 

エリカ『ごめん、ちょっとお花摘みに行ってくる。』

 

談笑すること十分程、エリカがカップに三分の一残ったコーヒーを傾け一気に飲み干すと席を立つ

 

レオ『おっと、すまん電話だわ。』

 

それに倣ってかレオも携帯を片手に店を出る

 

そして、幹比古は何やら一枚の和紙の紙片と墨を取り出していた

 

達也『…幹比古、落書き(いたずら)も程々にしておけよ。…気を付けろ。(ボソッ)』

 

幹比古『…了解。』

 

三人が何やら慌ただしくしたしたためか、ほのか達は不思議そうな表情をする

 

達也はのんびりとカップを傾けながら、釘を差すだけに留めるのだった

 

 

 

 

 

エリカ『おーじさん、あたしとイイコト(楽しいこと)しない?』

 

???『おいおい、お嬢ちゃん。自分を大切にしないといけないよ。』

 

この閑静な住宅街で物陰に潜むようにしていた男はこの美少女と評しても過言ではないこの少女の言葉に思わず手に持っていたテイクアウト用のドリンクカップを落としそうになった

 

ニコニコと笑みを浮かべる少女は男が尾行していた男の連れだったからだ

 

エリカ『?一体、何を勘違いしているのかしら?イイコトをどう意味に捉えたのかしら?』

 

エリカ、レオ、幹比古が気付いたのは偶然だった

店に入る前、達也が住宅街にも関わらず殺気を放ったからだ

 

その行動に対してエリカ達は身構えた時、センサーに引っ掛かった気配が一つあった

 

その気配の主は喫茶店に入ってからも自分達を監視しているかのようだった

 

ならば、学校で見ていた人物はこいつなのではないか?

 

そう疑問が湧いてきたため三人はこの気配の主をおびき出し正体を暴こうと動いたのだ

 

???『!?…ははは、大人をからかうんじゃない。最近は物騒だから、こんな時間から出歩いたら通り魔に出会ってしまうじゃないか。』

 

両手を背中に隠したまま放たれた少女の闘気に身構えそうになるも鋼にも似た理性でそれを抑え込む

 

おそらく、殺気であったならば臨戦態勢か逃走行動に移ったであろうことは間違いない

 

【バレてはならない】

 

男の思考に占めるこの言葉はプロとして大人をからかう少女を軽くあしらわなければならない

 

平常心を取り戻すために距離を取ろうと一歩引こうと重心をずらそうとした、その時だったーーー

 

レオ『通り魔って言うのはこんなヤツのことか?』

 

エリカ『通り魔って言うのはね、通りすがりの魔法使いを言うのよ。』

 

レオ『おーおー。怖いねぇ、この女は。』

 

自分の背後にもう一人近付く気配の主は体格の良いもう一人の少年

 

前後を挟み、更なる攻勢を掛けるエリカとレオ

 

???『…助けてくれ!強盗だ!』

 

ーーー逃げられない

 

そう判断し、様々な状況等を踏まえて導き出した男の行動は大声で叫び、助けを請うことだった

 

しかし、男の声に反応する者は誰一人居らず

 

違和感を憶えた男は周囲の住宅街を見やれば、何かとは言えないものの明らかに空気が変わったことを悟る

 

エリカ『大の大人が情っさけなーい。』

 

レオ『そうか?俺としては適切な判断だと思うぜ?』

 

エリカ『ふん、そんなこと周囲を確認すれば判るじゃない。』

 

レオ『!おっと、言い忘れてたけどよ。大声だしたところで無駄だぜ?ここ周辺は人払いの結界を張ってあるからいくら騒ごうと誰も来ることはねぇぜ。』

 

男の違和感はどうやら杞憂ではなく、当たりだったようだ

 

男とこの二人を囲う結界は確かに存在していたようだ

 

男の大声で叫び、助けを請うという判断に少女は肩透かしを食らった気分のようで、少年の方は気が殺がれるものの男の素早い行動に称賛をおくる

 

エリカ『こいつの言葉を補足すると、この結界は私達の【認識】を要に結界を作り上げてるから。此処から出たければ私達の意識を奪わなければ脱出出来ないわ。』

 

しかし、構えは解いておらず警戒したままである

 

なぜなら、男の目はどこか諦めた、しかし雰囲気は一般人では出せない迫力がある

 

ドリンクカップを放り投げ、ステップを踏み両腕を頭まで上げて頭部を守るようにする

 

防御一択か?と考えるもすぐに左腕を下げ、脇を締めて肘を直角に曲げる

 

更に正対させていた体を右半分を隠し左半分だけ視認させ、被弾箇所を減らし的を小さく防御は最大限に、攻撃は最速を放てるように左腕はジャブの構えで臨戦態勢を取っている

 

男の纏う空気が一気に変わり、肌がピリピリとするとはこの事かとレオは一人納得していた

 

レオ『ボクシングのヒットマンスタイルってやつか?見たところ、武器は無さそうだな。』

 

エリカ『バカ。今持ってないから絶対に持っていないなんて安易すぎるわよ。』

 

エリカの忠告に男は隠そうともしない舌打ちとは裏腹に焦った様子もない

 

先程の情けなく悲鳴をあげて助けを請おうとした男とは思えないほどだ

触れれば切れそうなほどの殺気にも似たその気迫はエリカとレオに構えを取らせた

 

それと同時にレオに男の拳は人間とは思えないほどの速度と威力が襲った

 

レオ『!?』

 

レオは油断はしていない

寧ろ、警戒心剥き出しでいつでも応戦出来る態勢でいた

 

しかし、男の繰り出す鞭のようにしなる腕と鉄のような拳に防御しか出来ない

エリカが助力しようにも男はそれを牽制するかのように視線がかち合う

 

レオ『カハッ!』

 

エリカ『レオ!』

 

数十発以上のパンチにさしものレオも防御しきれず、鳩尾に深く突き刺さる男の拳

 

くの字に折り曲がるレオに男は回し蹴りを横顔に見舞い、数メートル先の住宅の壁に吹き飛ばすと直ぐ様エリカに強襲する

 

エリカ『!?』

 

振り返ろうとする遠心力を利用してダガーを死角からエリカに投擲するのをわかっていたエリカは警棒で払い落とす

 

しかし、その内側から外側へ払ったために正面で構えていた防御が解かれることになる

 

そんな絶対的な隙を見逃すはずもない

 

左のジャブが顔面を襲うも難なく避けるエリカ

次々と襲いかかってくる拳に長年の修練により鍛えた体が先に反応し、警棒が男の顎を狙ったが危険を察知したのかバックステップで距離を取る

 

一呼吸おき、体勢を整え再びエリカに仕掛けるはずだった男の体はがら空きだった脇腹にショルダータックルをまともに喰らい、地に叩き伏せられた

 

レオ『…おぉぉ痛えぇ。流石にさっきのは効いたぜ、機械仕掛けっていう感触でもねぇし、魔法を使ってなかったところを見るとこいつはケミカル強化か?』

 

エリカ『あんたこそ、普通なら数発で延びてるわよ。』

 

あれだけの猛攻に大したダメージを受けていないようなレオのタフさに若干引いてしまうエリカ

 

レオ『そりゃ、少なくとも四分の一は研究所がルーツの魔法師だからな。自分の遺伝子が百パーセント天然モノって強弁するつもりは、ね、え、よ!』

 

自分の出自を後ろめたくは感じないが、あからさまに表情に出されては突っ込みを入れつつ起き上がろうとする男の鳩尾に爪先での蹴りを入れるレオ

 

???『グフォ!』

 

レオ『おっと、大人しくしとけよ。別に命まで取ろうって訳じゃねぇんだ。俺達が聴きてぇのは、どうして俺達を尾行していたのかっていうことだ。』

 

レオの口から出てくる言葉とは裏腹に行動は過激なものである

 

???『…ぁ…ま、待て。…分かった、…話そう。…こんなところで踏み潰されては…たまったものではない。…それに私は君達の敵でもない訳だからな。』

 

レオ『よく言うぜ。アンタの攻撃、俺とこいつじゃなけりゃ死んでるぜ?』

 

???『…それは君も同じだろう。先程の蹴りも肉体を強化している私でなければ内臓破裂しているだろう。』

 

ゴホゴホと先程の蹴りがまだ効いているため、息を整えてダメージの回復に努めながら男は答える

 

レオ『当然だ。強化していると踏んでなきゃあんな真似はしねえよ。それよりもだ、あんたはなんで敵でもない俺達を尾行してたんだ?』

 

???『…』

 

レオ『だんまりか?此方もいつまでも結界を張らせてる訳にはいかねえし。人目に付かないとも限らねえからな。こっちもそれ相応の…』

 

???『分かった、こちらも人目に付くのは避けたい。』

 

最初の質問に答えないことは想定済みだったのか半ば脅す形で吐かせようとするレオの姿は悪人そのものな気がするのは気の所為ではない

 

レオ『なら、まずは自己紹介をしてもらおうか?』

 

???『ジロー・マーシャルだ。』

 

エリカ『どうせ、本名でもないでしょうし。それで?どっから来たの?』

 

???『詳しく身分は言えないが、どこの国にも属しない組織だ。そして、さきほど述べたように君達と敵対するものではない。』

 

エリカ『つまりは非合法工作員(イリーガル)って訳ね。』

 

スパイとしてはありがちな言葉に聞こえるが、嘘を言っているようには見受けられない

 

また、男も馬鹿でないためイエスともノーとも答えない

 

レオ『なるほどね。なら、何を聴いてもまともな情報なんて出てこねぇだろうし。目的とその行動に至った経緯とやらを聴かせろよ。』

 

ジロー『…いいだろう。私の任務は日本の魔法科高校の生徒達を経由して先端魔法技術が東側に盗み出されないように監視、軍事的脅威となりうる高等技術が盗み出された場合はこれに対処することだ。』

 

東側、これは先の大戦後で使われた用語で西側つまり、USNA(USA)側の関係者らが好んで使うことはレオとエリカも知っていたが、これがこの男の身分を証明できる供述でもない

 

寧ろ、わざとローカルな用語を使いミスリードさせる可能性もある

 

レオ『東側な、でもあんたUSNA側でも無いんだろう?それにこの国の誰かが雇い主という訳でもなさそうだ。こんな手間暇掛かることをするんだよ?』

 

ハッキリと言って、信用出来ないといった風のレオとエリカ

 

ジロー『(ハァー)この国の擬似平和ボケも治ったと思っていたが、そうではなかったか。…いや、君達ティーンエイジャーにそれを求めるのは酷というものか。良いかね、軍事的問題は一国の問題ではないのだ。新ソ連はこれまで魔法式の改良に注力してきた。大亜連合は現代魔法ではなく、前近代魔法の復元に注力してきた。それがここに来てエレクトロニクスを利用した魔法工学技術の軍事利用へと急速に傾斜してきている。USNAでも西ヨーロッパ諸国でも魔法工学技術を狙ったスパイが急増している。君達の学校も東側のターゲットになっているんだぞ。更に言えば、数というのは強力な武器なのだ。いくら質を上げてもそれを使う者がいなければ物量には勝てない。東側の国は技術こそまだまだ低いが人口は圧倒的だ。革命というのは簡単に言えば、物量が勝れば成功するのだ。そこに技術が入れば西側と東側のパワーバランスが無くなる。そこからは君達でも解るだろう?つまりは戦争になる。』

 

だが、現代はそうならないようになっているのも確かである

 

何故、支配者層に勝てないのか?それは支配される側が団結出来無いように操作されているからであり、また今回の場合、軍事的技術が漏洩しないように対処するのがこの男の任務でもあるからだ

 

そういう意味においてはこの男が属している組織というものは真の平和というものから一番かけ離れているのだろう

 

平和というのは話し合いだけで解決はしない

弱者に物言わせないように強者が押さえ付け、反抗させなければそれも平和でもある

また、平和だと嘘をつき続ければそれもいつかは偽りの真実として塗り替えられるのだ

それが洗脳とも言えるのだ

 

だが、もっと卑劣なのは暴かれたくない真実から目を逸らせるために外部から攻撃を受けているという如何にもな偽善な愛国心を掲げさせ、戦わないことを悪と認識させることだろう

 

そして、その言葉に乗せられる人間もまた偽善者であり悪なのだろう

 

エリカ『失礼ね。私達だっていつだって戦闘モードよ。現にあんたの尾行にも気付いてたしね。』

 

ため息混じりのジローに心外なと謂わんばかりのエリカだが、問題視すべきところはそこではない

 

更に深く掘り下げれば、勘の良い人間なら尾行など気付くし、油断もしない

 

ジロー『あくまでも私達はスパイではない。それを阻止する立場であり敵ではない、故に利害の対立もない。そのため、それに油断して易々と敵の術中に嵌まり、後手にまわることも憶えておきたまえ。』

 

服に付いた埃を払う仕草を見せながら立ち上がるジローの手には一丁の拳銃

 

その銃口はエリカに向けられていた

 

レオ『っ!てめぇ。』

 

ジロー『先程、これを使わなかったのが君達の敵ではないと言った証拠だ。』

 

エリカ『…白々しいわね。単に銃の使用がまずかっただけでしょ。弾痕だったりとか痕跡が残るしね。』

 

狙撃の態勢ではないものの構えには隙はない

引き金には指は掛けられており、下手に動くのは望ましくない

 

そして、エリカは理解していた

CADの急速な発達でいくら魔法の発動速度が上がっても拳銃等の弾丸の速度には勝てないことを

 

魔法は万能ではない

確かに銃火器に比べて威力や速度、柔軟に対応出来る力ら圧倒的に上がったが、銃火器に匹敵するものを手にいれたとは言えない

 

命のやり取りをする上でコンマ秒を分ける瞬間には引き金を引き弾丸を発射する速度と魔法式を読み込み、構築し発動する魔法の速度では弾丸が先に肉体に穴を穿ち致命傷を負わせることも可能だ

 

だからこそ、戦況を読み先手を取り有利に持っていく必要があるのだ

 

しかし、今この状況では後手に回っている二人

 

ジロー『それもある。さて、君達の望む情報は話したと思うがどうだろうか?そろそろ退散させていただきたいからお仲間にこの結界を解くように言ってもらえないか?』

 

エリカ『…』

 

レオ『…』

 

結界を通して視ているであろう幹比古も結界の解除に動くだろう

 

ジローという男の言う通り、現在の状況は少し掴めたのは確か

 

ーーーしかし、敵ではないと言い張るこの男をみすみす逃して良いのか?

 

達也『その必要はありません。何故なら、すでに解かれていますから。』

 

エリカ『達也君!?』

 

レオ『どうやって入ったんだ?というか解かれているって。』

 

達也『結界に入るには解除するか入れてもらうか。この二つです。今回は前者の解いてというか壊して入った、になります。まぁ、その方法についてもいくつかありますがね。』

 

後手に回っているこの状況に苛立ちを隠せない二人の後ろに現れたのは、店内で静観を決め込んでいた達也

 

それと同時にとんでもない爆弾を投げ込んできたのは怒るべきだろう

 

ジロー『…守夢達也。』

 

ジローは混乱していた

普通なら気づくはずの人間の気配を本人である達也が言葉を発するまで気配を掴めなかったことに軽くない衝撃を受けていた

 

視界に入っていないならまだしも、エリカとレオの背後におり、更に言えば自分の真正面にいたにもかかわらず気付けなかったのは失態だった

 

そして、ゆっくりと歩を進めエリカとレオを庇うように前に出た達也

 

達也『さて、彼等が来ているのは知っています。それを監視、情報漏洩の場合は阻止するのがあなた達の役目ですが、些か覗き過ぎでは?』

 

ジロー『…ならどうするというのだ?』

 

達也『何もしませんよ?私達に害がなければ放置するだけです。』

 

達也の言う彼等はエリカとレオには判らない

しかし、少し頭を働かせれば判る単語ではある

 

そして、その単語にジローは眉を僅かに動かすだけに止めたのは、それよりも疑念が生まれたからだ

 

ジロー『敢えて言おう。今回は守夢達也、君が狙われていると言っても過言ではない!君も気付いている筈だ、論文コンペに選ばれてから更に見られていることに!』

 

この男、守夢達也は自分が忠告したことを理解していないというより動こうとしないことに苛立ちを募らせてしまう

 

この現状を作り上げている元凶の一端が達也自身であることに一ミリも危機感や焦燥感、罪悪感が無いのだ

 

そして、それすらも解っていながら対岸の火事だという認識を変えようとしない

否、ジローが行おうとしていることにも気付きながら、それを勝手にしてくれと言わんばかりであり、達也自身に実害が及ぶ可能性はゼロではない

 

それなのに、この男はーーー!

 

激情に流され、思わず銃口を達也に合わせたジロー

 

達也『それで?』

 

ジロー『!?(い、いつの間に!)…敵対する者でもない私をどうするというのだ?』

 

決して油断や隙を見せてもいない

それなのに瞬き一つにも満たない時間で自分の間合いに入られ、拳銃を抑え込まれる

1センチにも満たない引き金の隙間に小指が入り、引くことも出来ない

 

学校やこの登下校の間から気になっていた

 

この男は他の誰よりも何かが違うと

 

それが住宅街で見せた殺気と今の刹那の間合いを詰める動きがその証拠だ

 

達也『勘違いするな。お前達が敵対しようとしまいと敵と判断するのは此方側だ。…喋り過ぎたようだな。俺がお前を潰す前に失せろ。』

 

横暴な、と反論したいが現実はそう甘くはない

先程の二人も敵ではないと油断していたが、達也のように信じない人間もいる

 

寧ろ、後者が大半を占めるだろう

 

口では何とでも言えるが、行動が伴わなければならない

しかし、それを黙って見ていてくれるほど甘くもない

 

敵と認識すればやることは一つ、排除のみだ

 

だから、達也の行動は至極当然である

 

そう考えると自分自身も平和ボケしていると言える

 

ジロー『…失礼する。』

 

達也が結界を解いた後すぐに逃走を謀れば問題なかったが、任務を忘れて感情的になっていた

 

達也の言うように周囲の住宅街からこの喧騒を窺うような気配がいくつもあることに気付く

 

これ以上この場に居ては任務どころではなくなってしまう

ジローは拳銃を懐に収めると帽子を深く被り直し、強化した脚力で早々に去っていった

 

エリカ『達也君、ありがとう。』

 

達也『気にするな。まあ、油断し過ぎたな。』

 

レオ『すまねえ。でも、逃して良かったのか?』

 

油断してしまったため返す言葉も無いが、みすみす逃してしまったのは心残りではあった

 

達也『何を勘違いしているのかは知らないが、あの男の組織は謂わば中立よりもこちら寄りだ。それに捕らえた処で吐く訳でもない。それよりも、だ。』

 

スパイ映画の観すぎか、レオやエリカの目にはあの男が拷問や何らかの方法で自白するものだと勘違いしているようだ

 

いくら、利害関係が無くても組織を売るわけはないのだ

 

そんな口の軽い人間を組織は入れないし、そのような行動に至った場合は即座に抹殺だろう

 

ーーーまあ、達也にとっては興味の無い話ではある

 

レオ『?』

 

エリカ『派手にやり過ぎたってことでしょ?』

 

達也『いや。もうすぐ日が暮れるから帰らないか?お前達はともかく、ほのかや雫、美月は自衛の手段も少ないからな。まあ、エリカの言うこともあるがな。』

 

達也の帰りたい宣言に呆れるエリカとレオ

 

エリカ『…本当に、達也君は危機感が無さそうね。あの男の言う事は嘘では無かったと思うんだけど?』

 

レオ『まあ、それが達也らしいといえばそうだけどな。それよりも、彼等って誰だ?』

 

ジローの言っていた言葉は信憑性は高いのだが、達也にとっては鬼気迫る話でもなかったようだ

 

それに、ジローに話していた言葉には達也を狙う人物または組織に心当たりがあるようだった

 

達也『それは追々な、近々話すことも出てくるからその時だ。』

 

今は話せないと言われれば、引き下がるしかない

 

いつの間にか来ていた幹比古とレオ、エリカ達は渋々ながらも頷く

 

特段、三人や他の人間が狙われているわけではない

 

その狙われているであろう達也が知る必要のないことだと言うならば無関係であった方が良いのかもしれない

 

もしくは、来たるべき時のために準備をしておけ、ということなのかもしれない

 

 

 

 

 

 

思わぬ落とし穴ならぬ美女に出会い、当初の目的を忘れている千葉

隣にいる稲垣はそんな千葉を見ながら、やきもきしていた

 

無論それは響子の話術によるものだが、意図的に行っているため彼女を止めなければならず、千葉が全て悪いわけではない

 

そんな二人の会話に割ってはいる一つの電話

 

響子『…!、すみません、警部さん。少し席を外しますね?』

 

上司である風間から定期業務連絡かと思いきや、達也(旦那?)からの連絡もあり、千葉に向けていた作り物の笑顔から本物の花がほころばんとする笑みに変わる

 

その笑顔が影響してか、千葉に向ける笑顔もまた少し違ったものに変わり、千葉と稲垣さえも頬を僅かに朱に染める

 

千葉『えぇ、どうぞ///』

 

店外へと出る響子の後ろ姿にも熱い視線を送る千葉に再び嘆息する稲垣だが、彼もまだ顔の朱みが戻らない

 

ーーーもし、ここに達也が居たならば千葉と稲垣は殺気に呑まれるか店外に出たところで闇討ちされているところだろう

 

 

 

 

 

響子『珍しく旦那様(達也君)から連絡があったと思えばお友達のフォローだなんて。…吉田家の元神童、吉田幹比古君ね。達也君のおかげで一皮剥けたらしいけど。古式魔法でも記録には残るんだから。(これは後で何かご褒美でも貰わないとね )』

 

滅多に連絡を寄越さない達也からの風間経由での自分への連絡

 

プライベートナンバーではないが、業務連絡での達也からのお願いに少し嬉しくなる

 

まあ、上司である風間も達也と自分の間を取り持つような行動と達也の義父という立場から業務連絡の中で個人的なやり取りをしても咎めることはしないだろう

 

それほどまでに愛されており、自分も愛している達也からの頼みとあらば喜んでする

 

更に今回は特に些細なことでも達也の身の周りでは起こってほしくはない

 

理由は簡単で達也を囮として誘き出したい標的があるためである

 

響子『?(このアドレスは…発信器?)データを改竄するついでに発信器の追跡と何か問題があればたれ込みってところかしら?』

 

相変わらず仕事が早いというか、やることに抜け目がない達也

 

達也から吉田幹比古という縁を辿って魔法の痕跡を消すついでに、ひそかに仕込んでいた発信器を追跡させて何をしたいのか?

 

響子『本当に達也君の思惑って私の想像を越えて来るのよね。今回はアレ絡みでしょうけど。』

 

響子が乗っている小型の電動車は一般のそれとは異なる

 

と言っても、外観では全く認識は不能である

中身は判る者が見れば、恐怖で失神するほどの代物をこの自走車は積み込んでいる

 

ハンドルの無いこの自走車はコントローラーでアクセルやブレーキ、バンドル等のすべてをコントローラーで操作する

そのことにより、ダッシュボード、インストルメントパネル(略称:インパネ)をコンソールパネル(コンソールボックスとインパネを兼ねた多機能ディスプレイ)として使用することが出来るようになった

また、カスタム次第では家庭用情報端末に匹敵する機能と使い勝手を組み込めるのだが

 

 

響子の愛車にはそれ以上の何倍ものターミナルユニットが詰め込まれており、戦闘指揮車両並の処理能力を有しているのだ

そこに響子の魔法が加われば電子戦車と言っても過言ではない

 

そして今、響子はその戦力を解き放とうとしていた

 

 

電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)の二つの名は伊達でもなく、瞬く間にイデアの情報ネットワークを電子の情報ネットワークに重ね合わせるとカメラの付属の監視システムに潜り込み、瞬く間に魔法の行使の改竄を行っていく

 

名前とは実体の象徴であるためそれを特定することでもある

 

しかし、これは元々魔法の無かった時代から言われていることでもある

名前はそのものが呪であり、その者の存在である

そのため、魔法が特段優れている訳ではなく新たな解釈が出来たということだけなのだ

言霊を操るのは修験者や陰陽師、神職など昔から存在するのだ

その者達から言わせれば、その認識は当たり前であり、言葉一つで人を簡単に殺せるからこそ慎重に言葉を選ぶ、そしてそれらを言霊と呼ぶのだ

その歴史が現代に継承され、その一部が魔法に応用されてようやくその事実に追い付いただけなのだ

 

 

響子『隊長や達也君自身から問題ないから自分を囮にするようにとは言われてるけど、やっぱり心配は心配なのよね。(こんな乙女心を解ってる上で言ってるんだから、たちが悪いわ)少しは私や加蓮ちゃん、結那ちゃんのことを考えてよね。』

 

数分も経たずに記録に残っていた魔法の痕跡の改竄と発信器の追跡を終えた響子は頬を膨らませながらつぶやくのだった

 

 


 

 

強化された強靭な脚力にものを言わせて、数駅程の距離を十数分で駆けていたジローは路地裏に差し掛かったところで足を止めた

 

ーーー付けられている

 

そう確信しながらもいくら気配を探ってもそれを認識出来ない相手にジローは先のアイネブリーゼで対峙した達也が脳裏をよぎった

 

しかし、ふと疑問に思う

もし、達也ならば、気配は気取らせないはずであり、自分に興味すら抱かなかったのだ

あの言葉通りなら、今自分を付けてきているのは別の人間ということになる

 

そうなると、自分の組織かはたまた、別の組織の人間になるが、前者ではないのは確かだろう

何故なら、組織の人間同士がバッティングするなら事前に連絡があるはずだ

 

ーー刹那、

 

全身が総毛立つ感覚に襲われた

気配は無い、しかし視線を感じる

五感全てを総動員して気配の主を探る

 

五感の中でも視覚は約8割を占める

次に聴覚だが、これは約1割程度

つまりは無意識の内に人間はこの視覚に頼っていることになる

いくら、訓練された人間でも気配がわからないのならばこの五感に頼らざるを得ない

 

違和感を憶えたのは、音だった

気配を探るのに気を取られ、緊張からくる心臓の拍動も聴覚を鈍くさせていたことは否めないが外部から聴こえる音の警戒は怠らなかったはずだった

 

しかし、どのような人間でも感知能力には限界はある

 

 

気配も無く路地裏の出口を塞ぐ形で現れた一人の人間

大柄だが、服装からでも筋骨隆々だと推察出来るほど

顔は東アジア系統だろうか、見た目は青年か壮年に見えなくもないくらい

 

だが、一目見れば脳裏に焼き付いて離れない獰猛な肉食獣のそれ

 

ジローはその男を知っている

会ったことがあるということではなく、一方的にこちらが知っていたが正しい

 

組織の中で今回の任務において重要人物とされているリストのトップを飾っていた男

 

大亜連合 特殊工作員エース

 

ジロー『人喰い虎(The man-eating tiger)呂 剛虎(リュウ・カンフウ)!』

 

驚愕に満ちた言葉とは裏腹に訓練によって染み着いた反射的行動により銃口が男に向けられる

 

ーーーが、

 

ジロー『!?(いつの間に。)』

 

瞬き一つにも満たない時間のうちに間合いを詰められ、拳銃を持つ右手とそれを支える左手が関節では曲がらない方向に曲げられ、大量に出血し銃が手からこぼれ落ちる

 

痛みよりも更なる驚愕に支配されたが、次の瞬間には視界も思考もすべて黒く染められた

 

呂 剛虎(リュウ・カンフウ)はジローの首に埋まった右手をズルリと引き抜く

 

驚くことに埋まっていた指を引き抜いたにもかかわらず、一気に血が吹き出すこともなかった

 

決壊した堤防のように大量に血が流れるかと思われたがドス黒い血と真っ赤な鮮血が入り交じりながらゆっくりと溢れ、ジローの服を汚していく

 

呂 剛虎(リュウ・カンフウ)は血で汚れた右手を懐から取り出した紙で拭うとそれを死体であるジローの上に投げ捨てる

紙はジローに覆い被さるように纏わり、触れた瞬間先程の鮮血よりも紅い炎となり、燃え広がる

 

しかし、炎は紙を燃料に燃えてはいなかった

否、燃えているのではなく、炎が死体を喰らっているのだ、しかも、喰らっているのは死体だけではない

拳銃までもが紅い炎に飲み込まれていき、その証拠に炎がなめた跡には何も残っていない

 

ジローという存在全てをを喰い尽くし、役目を終えた炎が消えるのを確認すると呂 剛虎(リュウ・カンフウ)は何事もなかったかの如く踵を返した

 

 

辺りに人気(ひとけ)は全く無く、この路地裏での僅かな音さえ拾う者はいない

 

そう、誰かが話す声や足音もなく、野良の動物でさえいない

 

ーーー唯一あったのは、原型を留めないほどに破壊された監視社会特有の監視カメラのみだった

 

 

 

 

 

 

 




如何でしたか?

ブランクとまではいかないまでも大分、表現する言葉がすぐに出てこず手こずりました。

①調べて判りましたが、弥生時代は縄文時代よりも文明は低いみたいです。
②達也はクレクレ君は嫌いです(笑)
③実はロッテルバルトのマスターとは知己の仲だったり?(詳細はどこかで)
④最近の響子さんには隠さなくしてもらってます。

達也が絡むとただの案件が厄介事になるのは運命ではなく宿命なんですかね(自分で創ってるからというのもありますね(笑))

明日からボチボチと次の話を書いていこうかなとは考えてるので、出来上がったら暇つぶしにでも来ていただければ嬉しいです。

それでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

31話

お久し振りです。

大分と期間も空いてしまいました。
書く余裕が出来たのが昨年の12月頃からで、どういう風に書いてたか感覚がわからなくなって、リハビリという感じになってます。

暇潰しがてらでお楽しみください。


翌朝、昨日の出来事に納得出来なかったエリカとレオ、幹比古だけではなく、ほのかと雫、美月までもが第一高校の最寄り駅を降りる達也を待っていた

 

幹比古『エリカ、いい加減機嫌直しなって。光井さん達が怖がっているよ?』

 

エリカ『…』

 

レオ『やめとけって幹比古。すぐに切り替えられるんならそうしてるって。俺も切り替えは上手い方じゃねえからこいつの思ってることも理解出来るぜ。』

 

エリカ『うっさいわね。あんたに思ってることが解るわけないでしょう。もう一つの方よ。』

 

どうやら、あの場に居合わせていなかったほのか達にも事情は説明していたようだ

 

しかし、下手に怖がらせるだけな気がするが、どうして教えなかったのかと説明を求められるのも面倒だと思ったのだろうと達也は推測した

 

本音としては説明の手間が省けたとは思っている

 

達也『気にしすぎても無駄だと思うが?学校の中にスパイ紛いが居るからといって、自分達に害が及ぶとは限らない。張り詰めすぎていざという時に対処出来なければそれこそ無駄であり、役立ずではないのか?』

 

しかし、こうもエリカやレオ、幹比古までもがいつもと違うピリピリとした雰囲気を纏っていたのでは周囲も訝しむのも事実

 

更には相手の策にハマってしまうだろう、それは達也にとっても避けたい

 

エリカ達がどうなろうと知ったことではないが、こちらにも都合がある

己の正義感だけを振りかざしたところで、その力が世界を変えたり平和になったりするわけではない

それはただの自己満足であり、偽善、欺瞞だ

 

そもそも、悪が己を脅かす者全てなら全てが悪になる

 

ある意味ではこの世は全てが悪で偽善者だらけであることは間違っていないが

 

エリカ『なにそれ?あたしたちの行動が足手まといだというの?』

 

美月『エ、エリカちゃん。達也さんはきっとそういう意味で言ったんじゃないと思うよ?』

 

エリカ『ふん。』

 

達也『(はぁ、めんどくさい。)…今のは語弊があったな、すまない。誤解してほしくないのはだな。見えない敵に振り回されすぎて、己が今やるべきこと、準備しなければならないことを怠ってその状況で何も出来ないなどとエリカ達は受け入れられるのかと言っているんだ。心配しなくても標的の内の一人は俺だ。』

 

謎掛けのような言葉で逆上するほどに視野が狭まっているエリカだが、真剣に悩んでいるのは確かなのだろう

 

だからこそ、このような状況こそ相手の目的や自分に何が足りないのか自己分析を行い、何をすべきかを考えなければ意味がない

 

 

レオ『そういえば、昨日もあのジローって奴もそう言ってたな。大丈夫なのか?』

 

達也『昨日の男の言った通りなら、高校内で俺に接触を謀ろうとするなら生徒かこの学校の関係者だ。しかも生徒なら更に絞られてくるだろう?見ず知らずならそれこそ容易いさ。』

 

昨日のあの場で標的の一人とされていると指摘された達也だが、当の本人は意にも介していない様子だ

 

レオは直接達也との疑似的な戦闘という名の一方的な攻撃に為す術なくダウンしてしまった経験があるため、達也の強さを少しは知っているつもりだ

 

拳銃を手にした相手に対して臆することもなく、間合いを詰める技量に凄いという一言に尽きるだろう

 

ほのか『大丈夫なんですか?その人の言う通り達也さんが狙われている可能性は高いんですよね?達也さんが信じられないわけじゃないですけど。』

 

雫『うん。いくら達也さんが強くても相手がプロだったら。』

 

それでも、達也がプロの暗殺者や戦闘のプロ、本気の十師族に絶対に勝てるとは思えなかった

 

それは相手が武器の扱いを熟知しており、殺すということに長けているからだ

 

躊躇いもなく【殺す】というを行動の人間相手ではいくら達也でさえ危ういのではないだろうか?

 

達也『所詮、相手は産業スパイ程度さ。いくら高校生が暗器を持っていたとしても挙動不審になることは目に見えている。教職員関係の人間の中に紛れ込んでいたとしても七草や十文字ひいては十師族が黙っていないさ。』

 

エリカ『そうかしら?ブランシュの一件と同じで後手にまわるだけじゃない?』

 

達也『そうかもしれないな。』

 

レオ『危機感というかなんというか…。気にもしてない感じだよな達也は。』

 

僅か数ヵ月で警備関係を強化をできるとは考えにくいが達也は楽観的であるため全員は気が気ではない

 

何を根拠にそう断言できるのかが不思議でならない

 

達也『そうでもないさ。周りをうろちょろとされれば目障りにも感じるのは俺も一緒さ。…そうだな。少しでも安心材料が欲しいなら今度の野外での実験に来ると良い。お前達のモヤモヤとした気分も少しは晴れるかもな。』

 

エリカ『どういうこと?何かあるの?』

 

達也『来てからのお楽しみだ。』

 

相変わらず謎かけのような物言いをする達也だが、どうやら今回の事件の解決の糸口の一つがあるらしい

 

果たして、そんな公の場に現れるとは思えないが達也が意味もなく言う訳はなく、訝しむも次の屋外での実験を待つしかなかった

 

 

 

 

論文コンペは出場者は三名と限られるが、関わる人数は九校戦とは比にならない

選手とエンジニア総勢五十二名の九校戦の代表チームに対して、論文コンペではただただ論文を発表するだけでなく、その実演もプレゼンテーションに含まれる

そのため、論文発表に付随して実演装置の設計及び製作、術式補助システムにそれの制御ソフトの製作

そして、それらを裸のままでは機器のはよろしくない

そのためのボディ(ハード)の製作や動作確認のための道具やテスト要員等々と意外かもしれないが、実のところ九校戦より関わっている人数は多い

 

論文というものはデータを最低でも数年蓄積し、分析した結果から仮説を立て、多方面から実験を行ってその仮説が正しいという結論を得るのだ

論文の中身はどうあれ分析と実験を行うには人数が必要なのだ

 

対象としては技術系クラブは勿論のこと、美術系クラブも総動員される

 

試作機や計測機などの計器や工作機が所狭しと並べられた様は一つの工場の中を連想させるほどで、そこで作業に携わる生徒用に女子生徒の有志による差し入れを行うなどの組織が発足されるなど、第一高校の総力を結集しているようにも感じられる

 

 

そして、その中心にはかの悪名高き?一年生がここでも力を奮っていた

 

エリカ『居た居た。おーい、守夢君!』

 

美月『エリカちゃん、実験の邪魔になるから!』

 

堂々と実験に割り込んでくるのは大したものだが、実のところ達也としてはエリカを止める美月の声の方が大きく、邪魔なんだがなぁと口にすると友人を必死に止めようとする美月を責める形となり、非難の嵐が己に向きかねない

 

その二人の後ろで顔を背けて他人のフリをしているレオと幹比古だが、二メートル程後方にいるだけではただの連れとしか認識されないのは言うべきではないのだろう

 

桐原『おい、千葉。少しはその場の空気を読めよ。』

 

エリカ『あれ、さーやも見学?』

 

鈴音の警護としてここに居る桐原の苦言も見事にスルーして隣の壬生に話しかけるエリカ

 

桐原『…お前な。』

 

壬生『エリちゃん…。』

 

達也『千葉さんは見学という訳ではなさそうですね。柴田さんの所属の美術部がコンペに関わっているからその付き添いというところでしょうか。』

 

苦笑を漏らす壬生とは対称的に桐原はすぐに逆上することはなかったが、他の上級生達の堪忍袋の緒が切れそうな様子に達也にも原因一端はある

 

とりあえず、エリカの性格上、目上よりも同学年の達也から窘める方が有効である

 

それはそれで反感はあるだろうが、守夢達也という人物がそれをさせない

風紀委員でもあり、生徒会役員という役職上、仲間内に甘いということはしてはならない

そして、それを体現してきた実績がある

 

だからこそ、達也からの忠告は強い抑止力を持つ

 

エリカ『そういうこと、…にしておくわ(ボソッ)』

 

達也『でしたら、柴田さんを待っている間はここで見学してはいかがですか?吉田さん達の質問も可能な限りお答えはしますので。』

 

レオ『サンキュな。』

 

美月はというと、美術部の先輩達に挨拶していたため、これから手伝いに入るだろうからそれまではエリカ達は手持無沙汰という訳だ

 

更に言えば、何故エリカ達がこの場に来たのかは達也が登校時の発言があったからだ

 

でなければ、幹比古はともかくエリカとレオが論文コンペに興味も示さないだろうからだ

 

そういった経緯を周囲に漏らすわけにもいかず、だからといってここに見学に来る理由付けがないと怪しまれる

 

まあ、クラスメイトが見学したいと達也が言えば案外通るのだが、権力は必要以上にひけらかすものでもないため別で理由付けが出来るならそれで問題ない

 

権力というものはここぞという場面に使うことが望ましく、日常的に使っていては次第に弱ってしまう

 

前置きが長くなったが、これでこの三人がここに居る理由が整ったわけである

 

幹比古『じゃあ、早速なんだけど。熱核融合炉なのに、電球のようなもので大丈夫なのかい?』

 

達也『問題ありませんよ。反応の種類が熱核融合なので、本当に核反応をさせるわけではありませんから。これは常温のプラズマ発生装置です。』

 

レオ『ふーん。』

 

核、という言葉を聞くとどうしてもそういう思考をしてしまうのも無理はない

それは知識不足や興味の偏りが生んでしまう副産物であるし、全てを把握しておけ、などと言うつもりもない

 

この世の全ての事象や歴史を把握するには人間の時間など短すぎるのだ

 

実験までの時間で幹比古とレオの質問を返していると鈴音と五十里らの準備も整ったようだ

 

レオと幹比古もそれを察したようで黙する

 

しかし、少し離れた場所で姦しいまでには至らないが静かな場にエリカと壬生の二人の声が聞こえるのは少々いただけない

 

達也『千葉さん、壬生先輩。始めますよ。』

 

ふと、見渡せばエリカと壬生以外喋ってはおらず、皆が実験が始まるのを待っていた

 

達也は二人が静まるのを見計らい、鈴音と五十里に目配せする

 

鈴音が大型のCADに想子(サイオン)を流し込むと、普段携帯している小型のCADよりもはるかに高速な術式補助機能が作動し工程が幾重にも積み重なった複雑な魔法式が発動した

 

直径百二十センチ程度の無色透明のガラス球体の中には高圧の水素ガスが充填されており、それがプラズマ化し、分離した電子がガラスの壁に衝突して発光しているところを見ると、発光ガラスのようだ

 

外部から高い電圧などのエネルギーを供給することでこの現象を発現させることは容易だが、供給無しで電子を分離し、その電子だけを電気的引力に逆らって外側(ガラス側)に移動、衝突させる操作は持続的な事象改変力が必要であり、難しい術式だ

 

三年生『やった、成功だ!』

 

二年生『第一段階は成功だ!』

 

エリカ『うーん、ただの電球にしか見えなかったんだけど。』

 

幸いなことにエリカの呟いた言葉は歓声に掻き消されたが、誰かに聞かれていれば炎上間違いなしだっただろう

 

ガラス内の発光は十秒間にわたり継続した

 

単に一つの大道具が完成しただけで、部品はまだまだたくさんあるのだが、造りあげるということは一つの喜びでもあるのだろう

 

校庭で皆が歓喜と安堵に包まれる中、この雰囲気の場としては異端と呼べる、冷ややかな視線をある生徒だけが中心へ向けていた

 

 

 

 

 

ーーー、その視線に気付いたのは偶然だった

 

数ヶ月前の出来事からコンプレックスも自分を形作る一つなのだと僅かながら気付いた壬生

 

一科生とはいえ、万能でも無く出来ること出来ないことがあるのだなと周囲を観察していた

 

良い例が同じ二科生である達也だろう

魔法力は無いものの、身体面や理論面では一科生を遥かに凌ぐ

 

壬生だけが実験の中心に近付こうとする一つの影に違和感を覚えた

 

壬生『?…(あの子、なんか…ま、まさか!?)ねえ、そこの一年生の貴女。』

 

???『!?』

 

普通ならば、駆け寄り共に喜ぶところに何故か周囲を警戒しながら慎重に歩を進めるその姿が不審気に見えた

 

あまりにも不審さに声を掛けるとお下げ髪の女子生徒は慌ててその場から逃げるように駆け出した

 

壬生『ちょ…ま、待ちなさい!』

 

桐原『おい、壬生?』

 

不審に思えば、逃げる相手を追うのは条件反射のようなもの

 

一呼吸程遅れて壬生が後を追い、次いで桐原も壬生の後を追う

 

達也『千葉さん。』

 

エリカ『わかってる。』

 

達也『…西城さん、フォロー頼みます。』

 

レオ『りょーかい。』

 

達也の言う通り、手掛りが目の前に転がってきたのはラッキーと言わざるを得ない

 

不本意ながら借りを作ったと悔むエリカだが、今は手掛りを逃したくないため応答もそこそこに駆けていく

 

エリカに任せたと言ったものの、一人では対処しきれない可能性もあるだろう

レオにバックアップを頼むとレオは待ってましたと謂わんばかりの表情でエリカの後を追う

 

隣りにいた幹比古はほんの少し不満げに見えたが、適材適所という言葉にあるように校内という状況では魔法よりも体術に強いレオの方が望ましい

 

ーーーと、理屈を並べてみたものの、本音としてはエリカやレオ、幹比古の三人以外でも高校生相手を制圧できる力があれば問題無い

 

とりあえず、この実験機器の撤収の段取りをするかと達也は思案を始めるのだった

 

 

 

 

 

実験していた校庭から約100m程離れた少し開けた芝生の中庭まで走ってきた(逃げてきた)が、追いかけてくる相手の方が自分よりも速かった

 

壬生『待ちなさい!』

 

???『なんですか?』

 

逃げることをやめると、壬生は距離を詰めてくることはなかった

 

それは犯罪を犯しているという確かな証拠が無い上に高校生が警察紛いの行動は出来ないし、実体験に基づく行動でもある

 

急激な運動によって激しく呼吸を落ち着かせながら返答する

 

壬生『さっきの機械、無線式のパスワードブレーカーでしょう?』

 

???『何のことですか?ニ年G組の壬生先輩。』

 

壬生『惚けたところで結果は変わらないわよ。二科生の貴女。』

 

壬生自身、一科生と二科生という区分は嫌いであり、あの事件以来、差別的とも取れるこの言葉以外も使わないようにしてきた

 

しかし、この少女にはこういう発言をしなければ知らぬ存ぜぬを通してきそうだったからだ

 

だから、あえて自分が嫌がるこの言葉には少なからず抵抗感はあるはずだ

 

???『…平河です。一年G組の平河千秋です。』

 

壬生『隠さなくてもいいわ、平河さん。私も同じ機種を使ったことがあるから。』

 

思った通りだと、自分の名前とクラスまで申告してきたのは彼女にとっても受け入れたくない言葉なのだろう

 

これ関してはどこの魔法科高校のニ科生という分類に入る生徒ならば少なからずある劣等感だ

 

例外があるとすれば、後にも先にも一科生でさえ羨む守夢 達也という規格外の人間のみだろう

 

平河『…それがどうしたんですか。私と先輩では立ち位置が違うんです。』

 

壬生『それでもよ。今すぐ手を切りなさい。彼らは貴女を捨て駒としか見ていないわ。そして、こちらが下手を打てばそれを彼らは許さないわ。それは時間を重ねるごとに重くのしかかってくるわ。』

 

平河『解ってますよ、そんなことは。マフィアやテロリスト、犯罪シンジケートが末端のことを心配するわけないじゃないですか。あるとしたら、情報の漏洩くらいですよ。先輩はそんなことも判らないまま入ったんですか。ただの馬鹿なんですね。』

 

自分のようになっては遅いと警告しても平河の耳には届かない

 

それどころか、自暴自棄に似た発言に壬生は焦りを感じる

警察紛いなことをしてるつもりではないが、見てしまったからには司法にまで発展させたくない

 

話している僅かな間に桐原とエリカも追いついてきた

 

壬生『自棄になったって、何も手に入らないのよ?それどころか、失うものしか無いわ!』

 

平河『構いません。別に何かを手に入れたくてしてるわけじゃないので。』

 

壬生『貴女だけじゃないわ。身内にも危害が及ぶかもしれないのよ!?』

 

身内という言葉に然しもの平河も黙ったかのように見えた

 

ーーーが、

 

 

平河『…それでも。』

 

壬生『?』

 

平河『それでも、あの男だけが陽の目を見ていることが許せない!だから…!』

 

引き留められない、と壬生は直感する

 

自分を睨む彼女の表情はある意味、何が何でも一矢報いてやりたいという、ある意味復讐のようなそんな何かが窺えたからだ

 

いくら境遇が似ていても自分だけでは何も出来ない

けれども、自分の傍には彼、桐原がいたから立ち直ることは出来た

 

そして、今も桐原とエリカが傍に居る

 

だからなのか、今ここで彼女を逃してはいけない気がする

 

壬生『桐原君。』

 

桐原『あぁ。』

 

駆け出す桐原と連携を図ろうと駆け出そうとする壬生は平河が何かを取り出したことに気付かない

 

次の瞬間、小さな爆発音とガスが桐原と壬生を呑み込んだ

 

エリカ『さーや!』

 

唯一、気付けたのはエリカのみだった

 

それは剣術家として研ぎ澄まされた鋭敏な感覚、追い詰めたとしても相手は素直に大人しくなるとは限らない

 

壬生は無論のことだが、桐原が気付けないのは素人であり、初速が速ければ速いほど、動体視力が重要になってくるだろう

歩く分には殆ど問題無いが、走り出す瞬間は必ずと言っていい程に高速で移動する景色に眼が追いつかない

正確言えば、視覚は働いているが脳の処理能力が追いついていないという方が正しい

 

併せて、近距離でその速さに慣れる時間すらない

 

それらが平河の行動を認識出来なかった要因に挙げられた

 

エリカ『っ!さーや、大丈夫!?』

 

壬生『……す、こし、だけ。吸った、けど…。!?桐原君は!?』

 

幸いにも壬生はガスのおよぶ範囲内でも端にいたこととエリカが爆発した瞬間に壬生の腕を引いて退避させたことで症状は軽い

だが、ガスの中身が不明であるため、迂闊には近寄れない

 

エリカ『あの距離よ。まともに吸い込んだはずよ。』

 

だが、桐原の方は避ける吸わないという意識の外側からの強襲により意識を手放しているのは間違いない

 

空気より僅かに重いだけだったのか、僅かに吹いた風によりガスが晴れていくと、意識の無い桐原が倒れていた

 

壬生『そんな!?桐原君!』

 

意識の無い状態の桐原を放っておけるはずもなく、駆け出す壬生

 

エリカ『さーや、今行ってもガs…!危ない!』

 

壬生は忘れているようだが、この場には自分達だけではない

ガスも空気中には残っており、何よりもガスを放った張本人がいる

 

本来なら逃げるが、所詮は高校生のスパイもどき

訓練してもいなければ、感情むき出しであるためそんな思考は持ち合わせてはいないだろう

 

まだガスにより視界が悪い中、ダーツの矢の一回りほど小さなの矢がエリカ達を狙った

 

しかし、陽の光りにより金属製の矢が鈍く反射し、寸でのところで壬生を押し倒し回避する

 

平河『(チッ)』

 

エリカ『(仕込の矢。どうやら、少し本気で掛からないと危ないかもね。…?…!?)』

 

まさか、殺傷性のある仕込みの矢で追い打ちを掛けてくるとは思わなかった

 

この少女が用意したものなのか、それとも背後に何処かの組織でも付いていて用意してもらったものなのか?

 

判らないことだらけだが、今はこの場を制して少女を捕らえなければその先は調べようがない

 

己の得物を取り出し、構えを低くとる

次の矢を弾いて、少女の懐に飛び込み制圧する

 

そう判断した直後、誰かの雄叫びが耳に飛び込んでくる

 

???『おおぉぉぉ、っらぁ!』

 

位置を割り出すために聴覚に意識を傾ける間もなく

 

声の主はエリカの十数メートル後方から更にスピードをあげ、エリカを死角にして陰から勢いよく飛び出した

 

平河『っ!?』

 

気付けたのは声のみ

近いと思った瞬間にはエリカの陰から飛び出してきた大きな影からタックルを受け空中に飛ばされた

 

口は悲鳴を形取っているのに、声が出せない

それは刹那の出来事でもあり、普段は地に足をつけているはずが空中で接地感の無さにより思考と行動がちぐはぐで混乱しているからだ

 

簡単に言えば、「自分の体の倍以上ありそうな何かが襲い掛かってきて身が竦んで動けなかった」だろう

 

地が芝生とはいえ、瞬間的な衝撃は徒人ならば簡単に痛みと共に失神させることは可能だろう

更には予期せぬ襲撃によって受け身の取れない体勢だったこともあり、平河の意識をいとも容易く刈り取った

 

レオ『…ふぅ。ってあり?やりすぎたか?』

 

エリカ『何を当たり前なことを。多分、打ち所が悪かったことはないでしょうけど。…うん、脈はあるわね。それより、あんた。早く退きなさいよ。この状況だと襲っているようにしか見えないわよ。』

 

レオ『!?な、な訳ねぇだろ!勘違いすんな!』

 

いくら硬いアスファルトよりもクッション性はある芝生とはいえ、頭をぶつけたのだ

意識障害や他の後遺症があるかもしれない

 

保健室に運んで簡易的に診断はしてもらう必要はある

 

ーーーしかし、

 

今の構図はクラスメイトである幹比古や美月は理解を示すかもしれないが、達也は真剣な表情で(無論、誰よりも状況を把握している)全力で誂うことは間違いないし、他の生徒もエリカの言う通り誤解が拡がるだろう

 

エリカ『はいはい。だから、他の生徒とかが見たらって言ってんの。それよりも、倒れてる桐原先輩とあんたが押し倒した女子生徒を保健室に運ぶの手伝いなさいよ。』

 

レオ『だから、俺は押し倒してねぇ!』

 

ーーーレオの叫びはエリカに届くことはなかった

 

 

 

 

達也『(やれやれ、取り敢えずは解決したようだな。)これは部外者の方がお手を触れないように願います、関本先輩。』

 

エリカとレオの気配が鎮まったということはどうやら、何らかの形で収まったのだろうと結論付けた

 

おまけとして、気の抜けたレオの声が聞こえてきたからだ

 

相変わらず漫才しているみたいなやり取りをしているな、と呆れながら実験機器に慎重に近付く影を牽制する

 

関本『守夢…勘違いするな。俺の基礎理論や術式の改良の研究がどれほどまでに利があるのかを確かめたかっただけだ。』

 

鈴音『たとえ、そうだったとしても私に許可が必要ではないのですか?』

 

如何にもといった典型的な嘘にしか聴こえない関本の言葉だが、達也は無論のこと鈴音にもそんな嘘は通じない

 

関本『市原。』

 

鈴音『関本君はこういう実用的なテーマには興味がないと思っていましたが。』

 

関本の実験機器への視線を遮るように背を向け電源を落とす鈴音

 

関本『興味がないとは言ってない。俺には応用技術よりも根本を重視するべきだと思っている。』

 

鈴音『基礎理論を軽視するつもりはありませんが、実用化に伴うリスクを軽減するには基礎理論の事象の検証が必要だと考えます。研究してそれが解ったとしてもただの自己満足や応用技術に役立たないのなら意味はありません。』

 

関本『研究は検証とは違う。研究は創造だ。検証は確認するだけだ。』

 

鈴音『人類に役立たない理論など不要です。実用化される理論以外興味ありません。それをそこの彼が証明してくれていますよ。』

 

方向性の違う二人の論争は止まらない

 

それどころか、巻き込まれる形で達也も論争の一部に加わる始末

 

関本『守夢が?』

 

鈴音『えぇ。彼は生粋の実践派の人間です。実用化をするために思考、試行錯誤の繰り返しを行う。基礎は勉強はしますが、それがゴールではない。行き着く先(実用化)を見据えています。彼の基礎理論の研究とは謂わば、過程なのです。関本くんはそれを目の当たりにしていると思いますが?』

 

関本『それが守夢を推薦した理由なのか?それは自分の意に沿う人間だからではないのか?』

 

鈴音『畑違いの関本君ならそう思われるでしょう。もし仮に立場が変わっていたとしても今の台詞は変わらないでしょうから、堂々巡りなだけです。この世は結果が全てです。証明が出来なければ、評価されませんから。』

 

達也『(確かに。当たり前だが、実用化に天秤は傾く。だからと言って基礎理論を疎かにはするつもりも毛頭ない。基礎という土台がなければ些細な変化を理解できないからだ。関本先輩もその考えがあるのだろうが、あくまで机上の空論というところだろう。現実は考えているよりも厳しい。低く見積もっても十倍は乖離しているからだ。本当に基礎理論の研究を成功させたいならば、あの【カーディナル・ジョージ】のように証明しなければならない。どの国でも過程など興味の欠片もない。特に日本は厄介なことに発表の制限が厳しい。世界ではその辺の門戸は緩い。何故か、日本が世界に与える影響が甚だ大きいからだ。所謂、相似(フラクタル)というものだ。なんでも日本は世界の縮図なのだとか。更に言えば、人間の体と自然界が相似(フラクタル)と言われている。血液がドロドロならば河川や海も汚泥や汚染物質のゴミだらけ。ペットを飼うということも奴隷を生み出すことと何ら変わらない。義父さんや義母さん、家族達は口を揃えて言う。驚いたのは恭也達でさえ、本質を理解している。俺も少しだが理解出来る。そういう仕組なのだ。だが、これを理解している人間は少ないし、理解していながら、それをかき回す奴らもいる、日本も含め。それを逆手に取って影で操る組織は今も昔も変わらない。所謂、マッチポンプというものだ。そして、その根幹は今までの人間や自分たちが選んできた結果なのだから、都合よく文句を言うのもおこがましいし、それを助けてやる義理もない。まあ、今は調和が必要だということで抑えられてはいるらしいが。)』

 

強引に論争に巻き込まれた達也だが、二人の確執の深さを図りながら、何故自分でなければならなかったのかを分析していた

 

達也は今回の論文コンペに参加していなかったにも関わらず、なぜ選ばれたのか?

順位として関本の位置は鈴音に次ぐ二番目であり、選出されてもおかしくはない

だが、問題はそこではなかった

 

論文のテーマの違い

当然これは誰にでも当てはまる

しかし、基本、基礎は皆が通る知識のためメンバーに加わる分は何ら問題ない

 

では、関本が選ばれなかったのは?

それはコンセプトが全く違うからであり、鈴音と関本の2人の論文テーマでの関係性の悪さだろう

 

しかも、精神的にも成熟していない高校生であり、感情まかせで己の利益が第一の人間だ

 

ライバル視する相手に己の成果を見せたり、ましてや手伝わせることなどあるわけがない

 

達也はサポートスタッフらと機器の片付けをしながら、少々荒れるなと、軽く嘆息した

 

 

 

 

騒ぎを聞き、保健室に駆けつけた花音

 

花音『全く、あんた達は。加減を覚えなさいよ、過剰防衛と捉えられてもおかしくないんだから。摩利さんの苦労が少しわかったかも。』

 

エリカ、レオ、壬生、ベッドで眠っている桐原を順番に睨めつける

 

そして、ある意味容疑者とも言える女子生徒の顔を確認すると、霞がかった人物像が漸く鮮明になった

起きていないから絶対だとは言えないが、あの買い出しの時に逃げられた人物はおそらくこの女子生徒だろう

人間の記憶というのは存外曖昧なのだと改めて感じたし、達也も憶えていないというのも仕方のないことなのだろう

なぜなら、平河という女子生徒を一番近くで見たのは自分だけだったからだ

 

エリカ『失礼ですね。私達、悪いことしてませんよ。』

 

花音『だから、やりすぎって言ってるの。聴いたかぎりでは非合法のハッキングツールを持っていたことだけで被害を出してないじゃない。』

 

風紀委員長としての責務が改めて大変だと摩利の苦労を理解した花音

 

エリカ『それで十分だと思いますけど?そもそも、それを持っている事自体が異常じゃないのですか。』

 

花音『それを言うなら、本人の申告だけで断定するのがおかしいのよ。』

 

エリカ『疑って欲しくないなら、偽物だと言うと思いますけど。それに、ガスと暗器を所持して攻勢に出てくるんですから反撃もしくは、身を守る行動をするのが当然だと思いますけど?』

 

武器を持っていたなら反撃する、という言葉に花音は表情を強張らせる

 

それは先日の買い出しの時に達也から叱責された言葉と今、自分が注意しようとしていた言葉が同じだったから

 

花音『!?…あー、もう。あー言えばこう言う、屁理屈ばかりね。いい?もし仮に持っていたとしても、使って被害がないんだからあんた達の行動は暴力にも等しいのよ!罪と罰はバランスが取れるようにするものよ。』

 

あの時の自分と今回のエリカ達の行動、その両方とも正当とは言えない

どちらも「怪しい、疑わしい、武器かそれに付随するものを所持しており、危険と判断して過剰に防衛した」と客観視しても明らかに自分達魔法師が悪いと判断されるだろう

 

そして、花音の場合は達也に止められたこと、エリカ達の場合は学校内で相手も武器を隠し持っていたということで大きな問題にはされないだろう

 

しかし、問題はそこでない

疑わしい、命の危険に晒される攻撃をされていない相手に魔法等で外傷を与えかねないことをしたという事実が問題なのだ

今回は心から達也に感謝しつつ、自分にも言い聞かせるようにエリカ達に反省を促す花音

 

エリカ『別に罪があるから罰を与えようとしたんじゃありませんし。生徒が道から外れそうだったから引き止めようとして、たまたま頭を打ってしまっただけですぅ。』

 

花音『だからそこが問題だって何度も言ってるでしょう!』

 

やはりというべきか、摩利とエリカの相性が悪いということは摩利を尊敬する花音にとってもエリカとの相性も案の定悪かった

 

レオ『わかりました。わかりましたよ、俺もこいつもやりすぎでしたね。すみませんでした。そんじゃあ、後のことは頼んますね。失礼しまーす。』

 

エリカ『ちょ、あんた。あたしはまだ…。』

 

レオ『ほら、行くぞ。俺は別に悪を取っ捕まえるなんて興味ねぇんだからよ。守夢や幹比古、美月達から火の粉を少しでも払えればそれでいいんだからよ。』

 

花音に噛み付こうとするエリカだが、レオは少々やりすぎたと反省はしているらしい

そして、この案件にこれ以上は首を突っ込むのは御免だと謂わんばかりにエリカを連れて退室していった

 

何だかんだで、達也という人間の凄さが改めて分かった気がした花音

 

花音『はぁ、守夢君はいつもあんな子達を相手にしてるなんて。それで安宿先生、彼女の様態はどうですか?』

 

安宿『うーん。後遺症とかは無いと思うわ。芝生がクッションにはなったみたいよ。夕方までには目が覚めるはずよ。』

 

安宿 怜美(あすか さとみ)第一高校の保健医

生体放射を視覚的に捉えて肉体の異常箇所を把握することの出来る医療系の特化型能力者

視る(診る)だけでそこらの病院にある精密検査機器より正確な診断を下す能力がある

彼女が大丈夫だというのなら、何よりも安心材料である

 

花音『わかりました。事情も聴きたいので、目が覚めたら連絡してもらえませんか?』

 

安宿『えぇ、いいわよ。でも、逃げられたらごめんなさいね。私は戦闘力皆無だから。』

 

ホンワカと笑いながら告げる彼女だが、花音は苦笑を漏らす

 

花音『先生が患者を逃がすはずないじゃないですか。』

 

いつの間にか目覚めていた桐原と壬生を引き連れて花音は保健室を辞した

 

 

 

 

花音は風紀委員長であると同時に論文コンペのメンバーである五十里の護衛でもある

 

護衛は一人に対して複数人がガードに付くため、五十里には花音の他にもう一人が現在ガードに付いているため、そこまで不安に感じることはない

しかし、彼女はこの役目をを他人任せにするつもりは毛頭なかった

 

保健室で眠っている女子生徒が目覚めるまで待たずに戻ってきたのはそのためだったのだが、またしても相性の悪い否、癪に障る人物であるエリカがトラブルを起こしている

 

花音『またあんた達…と関本さん?何を言い争いをしてるんですか?』

 

更に風紀委員である関本と言い争いをしているのは、ややこしい予感しかしない

 

関本『言い争いをしているんじゃない。注意しているんだ、精密機械もあるこの場で風紀委員等の関係者でもないのに、ウロチョロしては実験や護衛の邪魔になると言ったんだ。』

 

花音は頭を抱えたくなった

 

現風紀委員会で在籍している卒業を控えた三年生は関本一人しかいない

残っている=頼りになる、役に立つ訳ではない

何かしらの理由があるから在籍しているのであり、摩利や巽のような存在であれば有り難いが風紀委員でも平凡と謂わざるを得ない関本

 

目の上のたんこぶではないが、代替わりした千代田花音率いる風紀委員会と摩利が率いた風紀委員会は別物である

 

言いたくはないが、余計な揉め事を起こすくらいなら引退してほしい

 

花音『関本さん、仰ることはある意味では正しいと思います。ですが、社会を豊かにする新しい技術や研究は一年生にとって初めての経験であり、学びの場にもなります。それに…。』

 

それ以前に、今回は風紀委員の仕事を逸脱をしているとも言えるのだ

 

花音『それにもし、実験の邪魔であったり、護衛の支障をきたすなら守夢君か、護衛の者が注意します。関本さんは護衛役に立候補しなかったんですから、風紀委員とはいえ、管轄外ですので、そこは私達(護衛)に任せてもらえませんか?』

 

一旦、言葉を切り何か言いたそうな関本を無視してエリカ達に帰るように促す

 

花音『ほら、あんた達。さっき、騒ぎを起こしたばかりなのに、今度また騒ぎになったら、注意だけじゃすまないわよ。今日はもう帰りなさい。』

 

エリカ『はーい、怒られたくないので帰りまーす。…守夢君、またね。ミキ、美月をちゃんと送ってあげるのよ?』

 

レオ『んじゃあ、俺も帰るわ。』

 

客観的に見ても今回はこれ以上はお小言では済みそうもない

 

エリカも花音が嫌いであり、互いが癇に障る者同士で仲良くは出来ない

 

理由は彼女が摩利を尊敬しているというのもあるし、何処か決め付けて掛かるところが気に食わないのだ

 

それに、自分に役割をくれたのにこれ以上面倒事や目をつけられるようなことになれば、達也に迷惑を掛けることになり、恩を仇で返すようなものだ

 

それは自分の意に反する

 

エリカとレオはあっさりと立ち去り、花音の指摘のように関本も本来の警邏に行ったようだ

 

 

 

 

花音『…?、はい、千代田です。え、もう目を醒ましましたんですか。わかりました、すぐに伺います。啓、ごめん。保健室に行ってくる。』

 

エリカ達が帰り、一息つく間もなく、花音の携帯端末(風紀委員長専用)に着信が入る

 

どうやら、彼女が目を覚ましたらしい

 

五十里『あ、待って花音。僕も行くよ。』

 

鈴音と達也への挨拶もそこそこに五十里は慌てて、花音の後を追う

 

護衛の関係もあるのだろうが、婚約者だからだろう

 

鈴音『今日の実験も予定通りでした。加えて五十里君も千代田さんと一緒に保健室に向かったので、今日は終了ですね。』

 

達也『そうなりますね。片付けも殆ど終わっていますし今日は早めに帰宅されては如何ですか?』

 

鈴音『そうですね、そうさせてもらいます。守夢君はどうされるのですか?』

 

達也『私は少し図書室へ用事があるので。』

 

失礼しますと、達也は図書室のある校舎とは別の方向へ歩いていく、その先は保健室やカウンセリングルームのある校舎

 

疑問を抱きながらも、コンペ参加条件として何も詮索しないと約束をしたため尋ねることはできない

 

夏休みに入るまでは一線引いてパーソナルスペースに立ち入らせなかったが、新学期に入ってからその距離感が曖昧になっている気がする

 

やはり、九校戦が原因なのだろうか?

 

しかし、理由を聴くことは憚れる

それは鈴音や真由美、十文字、摩利を筆頭に彼を無理矢理関わらせたのに手前勝手で蔑ろにしたという事実は変わらないからだ

 

 

 

ーーーーー

 

 

校門を出て、駅までの一本道

 

いつもならさっさと帰宅するレオだが、今日はゆっくりとした歩調だ

それがエリカの歩調と重なり、二人が一緒に駅まで歩いているように見える

 

エリカ『レオ。今日、時間ある?』

 

ふと、エリカの歩が止まる

それに合わせてレオも歩を止める

 

普段とは違った真剣味を帯びた声音と鋼の煌めきを瞳に映すエリカにレオも真剣な表情になる

質問の意図は掴めないが、直感的に茶化すべきではないとわかった

今の状況を鑑みて言葉の真意を図りかねることはしない

それは数日前の達也の言葉がエリカとレオに指針を与えたからだ

 

レオ『特段やらないといけねぇ用事は無ぇな。』

 

明日以降もな、と付け加える

 

エリカ『なら、ちょっと付き合いなさい。』

 

レオの返答に少し素っ気ない反応はいつものことだが、表情は真剣そのものである

 

そして、レオに背を向け駅へと歩き出すエリカ

何に付き合うのかは分かりきっているため、レオもその後ろを追いかけるようについていく

 

 

ーーーーー

 

 

保健室に入室すると、安宿からいつものホンワカな声音で出迎えを受ける

 

花音『失礼します。安宿先生、彼女が…目、覚め…何をしてるんです?戦闘力皆無じゃなかったんですか?』

 

安宿『?何って、患者が逃げないように?戦闘じゃないわよ?看護よ、看護。』

 

そこには、先程までベッドで眠っていた平河を安宿が床に押さえ込んでいるという何とも形容し難い構図が目に飛び込んできた

 

看護とは一体何なのか?

 

 

花音『とりあえすですね。彼女を解放…じゃない、ベッドに座らせてください。』

 

安宿『わかったわ。』

 

ほっこりといった表情で承諾しているが、解放という言葉はNGだ

彼女としてはそれでは看護が出来ないのと同義だからだ

 

花音『事情を聴かせて。まず最初に確認よ。貴女、私達の後を付けていたわね?それと、もうあんな危ない真似はしてはダメよ。』

 

平河『…』

 

だんまりを決め込むことは想定内で、気にすることもなく本題に入る

 

花音『じゃあ、一つ目。前回と今回に使用した道具はどこで手に入れたの?…これも黙秘ね、次よ。貴女がストーキングしていたのは彼、守夢君でしょ。』

 

これは問いというよりもほぼ確信に近い言葉

 

守夢という三人称に分かりやすいほどに動揺しているが、変わらず黙秘を貫く平河

 

花音『それで彼、守夢君をストーキングしてたの?ご丁寧にパスワードブレーカーまで持ってきて、実験を失敗させようと?』

 

平河『違います!実験を、コンペを台無しにしようとまでは思ってません!ただ、あいつが少しでも困ればと思って。それでも、あいつのことだからいとも簡単にリカバリーをするんだろうけど。それでも何かを、あいつが少しでも慌てふためいたらそれでいいんです。それが積み重なって疲れて倒れちゃえばいいんだって思ってただけなんです。』

 

平河『…』

 

花音『どうしてそこまで守夢君を敵視するの?壬生さんに、何かを手に入れたくてしてるわけじゃないって言ってたけど。何かが欲しいだけじゃなくてても、騒ぎを大きくすれば私は貴女を止める義務があるわ。』

 

彼女の標的となっているのは守夢 達也という人物のみで周りには何も迷惑をかけるつもりはないらしい

だが、彼はコンペの重要人物である

彼が被害被ればすなわち、論文コンペに被害が及ぶ

 

こんな簡単な図式を理解出来ないはずがない、それすら理解していないところを見ると視野も狭まっている

 

五十里『君は平河小春さんの妹さんだよね?もしかしてだけど、九校戦の事件が関係してるのかい?』

 

平河『…だったら、何だって言うんですか?姉さんはあいつの所為で、あいつの所為で!』

 

アタリだった

彼女が何故執拗に達也を付け狙うのか、その理由も

 

五十里『それは違うよ。平河先輩だけの責任でも無い。異変に気付けなかったエンジニア、引いてはスタッフ全員の責任だ。それに彼は偶然見つけることができたんだ。彼を責めるのは筋違いというものだよ。』

 

平河『笑わせないでください。偶然?違いますよ。あいつはあの時わかってたんですよ。だから、自分の担当の渡辺先輩のCADの異変に気付けたんですから。あの人もそう言ってた。出なければ、興味ないとか言いながらそういう時だけ恩を売って評価されようとしたんです。』

 

あの状況は今でも鮮明に思い出せる

もしかしたら、エンジニアが彼女ではなく、自分だったかもしれなかった

 

他人事でもないし、もっと周囲に気に掛けるべきだったと全員が悔いたのだ

 

だが、千秋には届かず、鼻で笑われてしまう

 

五十里『そんなことは…』

 

ないと言いたいが、秘密主義の達也は何を隠し持っていてもおかしくない

 

だが、魔法科高校の実技試験では二科生判定、一科生である五十里達に魔法力は及ばないのは事実

 

この時点で平河千秋の発言は支離滅裂と言えるが、それ以外の能力では悔しいことに自分達を軽く凌駕しているため、ある意味では矛盾した存在である

 

だが、CADに紛れ込んだ電子ウイルスを見つけるのは不可能だ

視力の良し悪しで次元の話でもない、検査官が機器上で細工していたのだ

 

どうしろというのか?

 

だから、今回は誰にも防げないし誰にも落ち度はないのだ

 

寧ろ、達也には感謝しかなかった

 

平河『あんなに何でも出来るのに何もしない。ブランシュやモノリスコードだってそうです。魔法力がないと嘯いて、美味しいところだけを掻っ攫っていく。まるでハイエナのような人間ですよ。皆が出来ないのを嘲笑って自分だけが出来るからって、本当に最低な男です!』

 

ここまでくれば、ただの妬みにしか聞こえない

流石の花音も声を荒らげようとするも白衣が視界を遮る

 

安宿『はーい、これ以上は彼女の精神にも悪影響よ。医者ではないけど、ドクターストップよ。彼女には一晩は大学附属の病院に身柄を預かって貰います。親御さんにも私から連絡します。事情を聴きたいなら明日以降にしてちょうだいね。』

 

花音『…わかりました。だいたいの事情は把握しましたので。それじゃあ、安宿先生、彼女をお願いします。』

 

異論は聴かないと言わんばかりの表情に花音は食い下がることも出来ない

 

隣で五十里も何か思うところはあったが、仕方ないですねといった表情で保健室の扉を開ける

 

花音は少々納得いかなかったが、任せるしかなかった

 

 

 

 

 

 

怜美『いつ入ってくるのかと思ってたわ。さっきの話も聞いてたんでしょう?少し眠ってもらってるから、視る(覗く)なら今のうちにね?』

 

達也『…怜美さん、言い方をですね。』

 

安宿 怜美(あすか さとみ)第一高校の保健医

生体放射を視覚的に捉えて肉体の異常箇所を把握することの出来る医療系の特化型能力者

 

そして、男子生徒には残念なお話で彼女は結婚しており、一児の母でもある

そして、結婚相手が達也の家の人間でもある

 

所謂、身内である

 

怜美『昔みたいにお義姉ちゃんでもいいわよ?寧ろ、そう呼びなさい。』

 

ほっこり笑顔の背後では般若が見える

 

身内にしか見せないが、校内ではやめてほしい

 

達也『(怖っ、結婚して子どもできて大人しくなったかと思いきや未だにこの迫力。中学、高校時代の異名は伊達ではない。人呼んで【病院への死神(誘い)】。ネーミングセンスは微妙ではあるが。怜美さん自身が揉め事を起こすことはなかったが、争いの火種にはなっていた。元々の性格として理屈よりも感情が先に立っていたから違和感はない。…が、怜美さんが関わったときだけ病院、保健室のベッドの使用率が100%に近かったりする。超昔風で言うなら、スケバンに近い。』

 

怜美『達也?もう一度、女性への失礼な態度と発言を更正する必要がありそうね?』

 

どうやら心の声が漏れていたらしい、怜美の目が全く笑っていない

 

達也『…ナニモイッテマセン、オネエチャン。(家族の中でも最も穏やかと言われる従兄弟に正反対の荒々しい怜美が恋人になったときは驚いたが、相性は抜群に良い。とは言え、俺はこの義従姉妹に女性には優しく接しなさいと鉄拳制裁を何度食らったかわからない。)』

 

達也の従兄弟と怜美は元々は幼馴染でもあったが、恋仲に発展するとは思ってはいなかった、本人達は違ったみたいだが

 

詳細は記憶違いもあるため割愛するが、きっかけは高校一年の冬に怜美が拐われた事件があり、それを従兄弟本人(とストッパー的意味で二人同伴)が服もボロボロでキズだらけの眠った怜美を姫抱きして帰ってきた

 

どうやら関連の人物達の中に暴力団もいたらしく、いくら喧嘩慣れしていても女と男では力の差は明らか

一方的な暴行の末、彼女は気絶

容姿は美少女というにふさわしいため、気絶して無抵抗を良いことに彼女を辱めを受けかけたが、すんでのところを従兄弟達が救出した

 

ーーーが主なあらましだが、実際のところは彼女のあられもない姿に幼馴染である従兄弟は激昂し、室内にいた人間達を瀕死にまで追い込んだらしい(同・上級生の女子生徒もいたそうだが、情け容赦をするわけもなく。同伴した(ストッパー)二人に説得され一般人の域から出ない人間は手加減したそうな。と言っても男子生徒は彼女を辱めたということで両足両腕の骨を折られたそうだ。)

 

あの出来事から二人の関係が幼馴染から恋人に変わり、怜美も争い事に一切関わらなくなった

 

怜美『全く。私は今はそんな野蛮なことはしないわよ。今日だってそうでしょう?』

 

幸いなことにほとんどのキズは残る事はなかったが、金属パイプ等で殴られ、切れた額の傷と連れ去る時に高電圧のスタンガンで首元を火傷した痕は薄くはなっているが、今も残っているらしい(本人談)

 

穏やかな、優しい人ほど怒ると怖いのは、やはり事実なのだと証明された瞬間でもあった

 

達也『ソウデスネ。』

 

どの口がそう言うのか、と突っ込むのは怖いので言わぬが花であった

 

 

 

 

 




如何でしたか?

今回は思ったことというか、世の中の状況も薄く取り入れて書きましたので、少々嫌な感じがした方もいらっしゃるかもしれません。

あと、保健室の方はそこまで関わることはないと思います。(ただ、むしゃくしゃして盛り込んでみたかっただけなんです…)

やっぱり、達也を活躍させる話でないと進みませんね…。


特筆して変化点はなかったと思いますので、省略させていただきます。

次の話は早めに仕上げれるように頑張ります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

32話

およそ、1年と6ヵ月ぶりでしょうか。
お久しぶりと申していいのでしょうか。
前話からすぐにバタバタして創作することもできずでした。

不定期な更新になってますが、何卒ご容赦ください。
では、お楽しみいただければ。




 

ーーー翌日の放課後

 

達也は花音と五十里から昨日の出来事の事情説明があるということで学校から駅までの道すがら、話を聞くことになった。

 

『…という訳よ。』

 

『はぁ。』

 

『はぁ。って君ね、当事者よ?しかも、今も恨みを持たれてるのよ?』

 

気の抜けた相槌に呆れる花音だが無理もない。

 

普通の基準は横に置いておき、理由がほぼ逆恨みで己を害そうとする輩がいれば何らかのアクションがあるはずなのだが、達也にはそれがない。

そもそもの話、達也が廊下でその話を聞いていたから第三者を介しての感情混じりの説明など意味は無い。

 

『そうですよ、ただの逆恨みですよ!達也さんは渡辺先輩の命の危機を未然に防いだんですから。』

 

だが、気にしていない達也よりも周囲の人間が怒り狂っているのはその人望故か。(少しでも興味を持って貰いたいという承認欲求の表れかもしれないが)

達也本人としては名を出されたことに嘆息していた。

 

『まぁ、お姉さんをとても慕っていたからね。なんで姉と小早川先輩を助けなかったんだ?ということもあったと思うよ?』

 

『それでもですよ!たつ『光井さん。』…守夢さんはCADの中身なんて分かる訳じゃないんですよ?』

 

『うん、ただの八つ当たりだと思う。』

 

『あらあら、かばってくださる方が多くて守夢さんは幸せですねぇ?』

 

同情ではないと思われるが、仕方のない部分もあると情状酌量の余地を求める五十里に対して、ほのかや雫達としては許しがたいらしい。

 

その様子に交ざりたそうな深雪が達也をダシに弄りに参戦してくる。

 

『その含みはなんですかね。心配もしていただけないとは。脈なしということだったんですね。結構……タイプだったんですけど…。』

 

しかし、この程度で達也を負かせるわけがなく。

 

『『『なっ!?///』』』

 

情に訴えかける作戦と見せかけての告白じみた発言に深雪は勿論のこと、水波や風紀委員会で関わりが増えるようになった花音と啓、そして九校戦の懇親会と夏休みの件もあったほのかや雫達は気が気ではない。

 

逆に硬派の達也(と思われている)が言わない、似つかわしくない言葉に深雪への嫉妬の感情をむき出しである。

 

『冗談ですよ。それよりも、なんで司波さんと桜井さんまで一緒なのかが不思議なのですが。』

 

『そ、そんなことはどうでも良いです。あ、貴方の、発言、の…そ、その、真意を問うわ!』

 

『み、深雪様。深雪さんの言う通りだ。守夢達也、貴様とうとう言ってはならぬことを言ったな。事と次第によっては…否、絶対に許すわけにはいかない!』

 

小型の巡航ミサイル一発に対してのチャフフレア程度の迎撃のつもりだったが思いの外、効果は抜群のようだった。

 

『いや、そんな感情むき出しで怒らても。皆さん、落ち着いて下さい、軽い冗談なんですから。浮気なんてする気は更々ありませんよ。』

 

その所為で、浮気だの、私達の告白は断ってだの、他にも面食いだの、女の敵だのと散々な言われようである。

まあ、面食いだと言われても気にしない。

 

事実、響子は綺麗だし、双子の結那と加蓮は幼さが残るものの、深雪や真由美、愛梨らと比肩する美貌の持ち主だ。

 

だが、ここに来て更に移り気など、どれだけの節操無しなのか?

流石に自分自身を殺したくなる。

 

『『『…』』』

 

この程度の言葉で達也を諦めるほのか達ではないことは明らかであるため、逆に沈黙した理由が恋心に更に火を着けた可能性も否めなくはない。

 

『脱線しましたね…。平河さん妹には下手な慰めや同情の類いをしても逆効果だと思いますね。また、仕掛けてきたとしてもそんな柔なセキュリティを組んでる訳でもありませんから。私の師匠が誰かお忘れですか?(それに彼女よりもめんどくさい連中が嗅ぎ回っている輩はいる)』

 

まあ、これ以上無駄話に付き合ってやる理由もないため軌道修正に入る。

 

『セキュリティの問題だけじゃなくて、破れないとわかったらエスカレートしないかな?と思ってるんだけど。』

 

『その果てに器物破損で騒ぎを大きくする、ですか?そこまでは出来ませんよ。鈍器や爆発物等を持ち込めば、誰かが気付きますし、彼女の挙動不審さが際立つだけです。産業スパイ等に彼女は恨みを利用されているだけだと思われますよ。』

 

五十里の懸念もあるだろうが、それほどまでに過激に発展する度胸は彼女には無い。

達也の妨害をする程度が関の山だろうし、それが目的なのだ。

それ以上の過激行動は彼女には考えてはいないし、荷が勝ちすぎる。

 

と言っても、組織側は捨て駒であるため、そんなことは知ったことでは無い。

寧ろ、情報漏洩の対象として抹殺されかねない。

 

流石に達也としてもいただけない。

が、赤の他人のために自ら動いて問題解決するなどもっての他であり、逆に(千秋)に油を注ぐ可能性の方が高い。

 

結論、放置する方が達也の被害はほぼ皆無であり、時間稼ぎにもなる。

 

『そうかも知れないけど。誰が君を狙っているのかわからないんだから、用心するべきだと思うんだけど?

それに啓が巻き込まれたらどうしてくれるのよ!』

 

『それが本音ですよね。その時は仕方ないと諦めて下さい。ですが、心配はご無用ですよ。』

 

『え?どういうこと?』

 

達也の本音を余所に五十里は達也を心配してくれているが、彼の恋人兼護衛の花音は八つ当たり気味である。

 

まあ、解らなくもないが高校生ならもう少し客観的に思考してほしい。

 

『安心材料としては相手の今までの行動です。コンペのメンバーは市原先輩と五十里先輩に私です。誤解を承知で言いますと、基本的に狙われやすい人物は、一番は市原先輩で次に五十里先輩です。』

 

『どういうことよ!』

 

花音が達也の発言に食って掛かるが、達也は花音に対して一瞥もせず、まるで居ないかのようにガン無視する。

 

『それは何故か?当たり前の話で今回の論文の主軸となる人物は誰なのかということです。一年生の私が選ばれたからといって論文を書けるほどの実力はなく、そして補助という認識でしかないと仮定するからです。まあ、そもそも論として論文というのは時間とお金が掛かります。ポッと出の論文など根拠となるデータや推論は評価に値しません。昔からそうです。例えば、クスリの研究や開発には最低5年から10年必要です。副作用と馬鹿な皆さんは考えますが、それはただの反応です。生物の免疫の正常な反応で、異物や毒物を排出しようと頑張っているだけです。それを抑えようとする思考が塵以下です。…おっと、話が逸れましたね。話を戻しますと、今回の場合はお二人は眼中にない様子。ならば、消去法で標的は私自身にあるということ。九校戦で悪目立ちしましたからね。』

 

『だったら、尚更危険じゃないですか!』

 

『うん、私もそう思うよ!』

 

『落ち着いてください。もし仮に、という事例を述べただけですよ。そもそも、彼女以外に狙われる心当たりもありません。もし、本当に狙われているなら、これほどにわかりやすいストーキングはありません。私も命は惜しいですから、警察に相談していますよ。』

 

相変わらず、話を理解しないというより出来ないのは何でも与えられ続けてきただけだからだろう。

 

最低限、与えられた情報の中で考察する程度はしてほしい。

更に言えば、噛み砕いて説明する労力を割くほど重要なことでもない。

 

『なら、何らかの組織が君を狙っていると仮定して、ここにいる誰かを人質に取ったりとかはないのかい?』

 

その観点で言えば、今の幹比古はまだマシだろう。

今まで魔法力の無さで卑屈な思考にはなってはいるものの、自分なりに考えている。

 

だがー、

 

『仮定の話をするならば、メリットよりもデメリットが大きいでしょうね。大前提として、一つ目は目的が何なのか?私の何を狙っているのか?データならば、校内にもありますしスパイが奪えば早い話。仮に誰かを人質にした場合、殺せません。死体があがると警察が動いて今までの行動がバレてしまう可能性があるから。そして、行方不明になれば誘拐事件として同じく警察が動く可能性があるから。こういうものは秘密裏に事を運ぶのが定石。まあ、痺れを切らせばわかりかねますが。』

 

『けど、あれだけの代物を彼女自身が用意できるわけないじゃない。絶対に背後に変な連中がいるに決まってるわ!本当にどうするつもりよ。手をこまねいていても何も解決しないじゃない。早く、自白させる必要があるでしょう!』

 

『それは僕も同感だよ。守夢君、君にこれ以上邪魔が入るのはチームとしても見過ごすことは出来ない。なるべく、早めに…』

 

だが、情報が手に入りやすくなっているということは、虚偽の情報若しくは、根拠の無い情報も入り交じっているという裏返しでもある。

 

それは達也が生きている時代からではない。

二十世紀初頭からそれは顕著になっており、情報操作はいくらでも出来る。

 

そう、今の五十里と花音の台詞がそれを物語っている。

 

マスコミ(広報)に化かされた愚者(奴隷)が表現としては的を射ている。

 

『五十里先輩、チーム加入の条件は貴方にも適用される。引いては、第一高校の全ての人間が範囲内です。これ以上の干渉は無用です。』

 

真実を見極められない仲間内での話ならば、傍からみたら馬鹿な人間達の集まりだと思われて終わりだが、それを他人に押し付けるような発言は承認欲求や群れを形成したいだけの弱者だ。

 

分かりやすく言えば、それが弱いものイジメに繋がるのだ。

同調してくれないから、従ってくれないからという自分よがりがこの法則を生む。

 

『!…ごめん。』

 

『ちょっと。何で、啓が謝ってんの?啓は君のためを思って!それにまた条件付き?いい加減にビジネスじみた行動は止めなさいよね。』

 

『いいんだ、花音。これはリーダーである市原先輩が承諾したこと。ならば、メンバーである僕や皆は従う義務があり僕も異論はなかった。それに、この状況を分かってたから手出しするなと言ったんだよね?』

 

五十里達の心配など達也にとっては分かりきっていたことだ。

しかし、高校生が他人間の問題を解決出来ることなど殆どない。

人間の感情や過去の事情、更には家庭問題など様々な事象が複雑に絡み合って人格は形成されるのだ。

高校生活など人生の中では数%の時間で、友人だからと言って全てをさらけ出せるなど無い。

そうなると、更に相手を知る時間など少なくなる。

 

だからこそ、他人が口出す権利も無いし、他人を強要する権利も無い。

それこそ傲慢というものだ。

自分自身の問題は他人では解決出来ない。自分の中で折り合いをつけ、非を認め、他人を理由にせず自分の心に正直に行動するしかないのだ。

 

『さすがは五十里先輩ですね。(この程度なら)冷静に物事を把握していただけたようで良かったです。千代田先輩、私は格好つけたいがために条件等を付けているわけではありません。元々、コンペに参加するつもりはありませんでした。無理矢理押し付けられているだけです。市原先輩や第一高校全体はメリットだけですが、私には殆どありません。ならば、それ相応の対価をいただくことに何か問題があるのですか?何も金銭やモノを報酬に要求しているわけでもありません。私に干渉しないで欲しいと言っているだけです。私も忙しいのです、余計な用事は最小限に済ませたいだけです。』

 

達也としては事実にさえ向き合わず、誰かの所為にし、自分が原因だと自覚出来ない人間など関わりたくもない。

あたかも、自分達は被害者だと謂わんばかりの人間など人間だと思わない。

 

だから、平河 千秋の葛藤や心情など取るに足らないものであり、偽善者の塊である第一高校の面々に解る訳がないのだ。

 

『っ~!あんたねぇ!いい加減にしなさいよ、屁理屈ばかりこねて私達より出来ることが多いからって調子にのってるんじゃないわよ!』

 

激情に任せた放たれた言葉は、誰しもが持つ感情、ニ科生と一科生との差、現実を認めたくない事実、妬みや嫌悪、差別がそう容易くは払拭されないことを一瞬にして示した。

 

そして、その分野においてそれを持っている人物がそれを持たざる人物にぶつけてしまったのは皮肉と言わざるを得ないだろう。

 

『…花音、それは。』

 

幼馴染の啓すら花音の言葉に渋面を作る。

 

しかし、何であれ認めたくない人間というのは必ずいるし、自覚しているフリをして直視していないのが99.9999%の人間だ。

 

その事実を突き付けられたとしても認めることもしない。否、出来ない。

更には、異常者だの周りの人間もそうだと、屁理屈や揚げ足を取ろうと必死で反省もせず、正当化する人間を助けて何になるだろうか?

共に落ちていって欲しい集まりに足を引っ張られるなどご免被る。

 

『千代田先輩の仰る通りです。皆さんは自分の身すらも守ることが出来ない。だから、何か事件に巻き込まれても第三者の助けを期待するしかありません。私も他人を守れる程強くありませんし、助けたくもありません。この意味がお解りですか?足手まといであり邪魔だということです。先日のバイクでの逃走もそうではありませんでしたか?』

 

『…』

 

結局のところ、偽善や正義(同調圧力)押し付けて 仲間(群れ)を増やし、自分より弱者を見付けては自分が上だの如何に自分が奴隷としての()が相手より綺麗だのと、現実を逃避したいだけの人間など相手にする価値すらない。

 

『私自身、何が出来て何が出来ないかを把握しています。己の力量も把握出来ていないのに何でも首を突っ込みたがる。勝手に自滅するだけなら構いませんが、巻き込まないでいただきたい。』

 

『…それほどに厄介な敵ということかい?』

 

『深読みのしすぎです。厄介な相手とは一体誰ですか?私は一言も敵とも言っていませんよ?先程も言いましたが、心当たりすらありません。ここでも皆さんは勝手に被害妄想を膨らませている。実態の無い何かに脅え、あたかも自分達は被害者だと。彼女の背後を考えることも必要ではありますが、それは彼女がブラックリストに入ればの話です。それでは遅いですか?ならば、少しでも法に触れれば敵として認識するのですか?』

 

何も言えなくなった花音を放置すると、今度は達也の言動に勘違いした幹比古は真剣な表情で問う。

マシな部類と言っても、達也からすれば幹比古も同類だ。

 

物事の背景を理解しておらず、発せられた言葉に反応する。

その言動に筋が通っているのか、その人物の過去や思想、立場等様々な要素から分析して何を目的としているのか。

 

全く、魔法師引いては人間というのは何でもかんでも敵を作らなければ生きていけない生物なのか。

 

九校戦以降、煩わしいこと増え過ぎて、少々苛立ってしまったことは自覚している。

この程度は意趣返ししても文句は言わせない。

 

『そんなことは…。』

 

幹比古の想像通り、標的の一人であることは間違いないが、伝える必要性も見当たらない。

というか、今までの言動でどこに敵対者を連想出来たのかが不思議でならない。

 

『向けるべきことに目を向けず、言われるがまま。疑問にも思わず、考えようともしない。誰かが言っていたからそのまま鵜呑みにする。国、マスメディアの放送だから大丈夫。しかし、その根拠は整合性が取れているのか?それすらも考えられないのはただの操り人形でしかない。あのジローという男が言っていたから?プロパガンダならば、あなた方は格好の獲物です。まあ、あの男の言葉はある側面では事実ですがね…話を戻します。もし仮に、私の周りに暗殺者等の危害を加えようとする何者かがいるとしたら?その人物達は障害となるなら殺しても構わないという命を受けていたならば?狙われる可能性は五分と五分です、私か皆さん方か。私は自分の身だけを守ります。皆さんはどうしますか?』

 

世界の人間にも言えるが、特に日本人は特に考えない。

島国という特性もあるかもしれない。

それは大陸から切り離された孤島で人間の行来が少ないために会話するということを忘れたからだろう。

 

ーーーが、長いものに巻かれることが好きな日本人は周囲の目を気にして間違いを間違いと言えず、意思表示も少ない。

しかし、選択したことには責任を持たず、十八番の責任転嫁。

 

会話等で意志疎通をせず、勝手に忖度して自分の思うように希望通りしてくれるだろうという安易な思考。

 

これ程までに傲慢な考えなど無い。

 

思っている以上に人間は自分勝手で自分の都合だけで、他人の事など考えず、そして、強欲であり、保身だけしか考えない生き物だ。

 

だから、己の 正義(偽善)や 保身()だけで他人など何も思わずに誹謗中傷出来るし、簡単に人を殺せる。

 

『今の沈黙が答えです。私に関わりたいのなら何があっても責任はご自身で。皆さんの尻拭いなんて出来ませんから。』

 

達也の言葉に異を唱えたり、言葉を発せないのは、単に正論だからというわけではない。むしろ、達也の私情があからさまに見えるほどだが、根本は何も考えていないことにある。

 

だから、少しの理詰めと反論だけで何も言えなくなり、落ち込んでしまう。その程度の意思と信念で達也の隣を望み、友でありたいというのは口先だけのものでしかない。

 

『酷い物言いよね?守夢さんは。私たちの身が危険に晒されないように距離を置こうとしてるのですから。』

 

『その通りです。流石は私の理解者ですね、司波さん。』

 

今この場で自分の身を守ることが出来るのは、司波深雪と桜井水波の二人だけだろう。

 

達也を妄信はしていないし、逆にその存在を暴こうとしている。

そういう意味においては警戒対象になる。

 

『誰が貴方の理解者ですって?』

 

『おっと、竜の尾を踏んでしまいましたか。まぁ、本当に最近は師匠の手伝いやらで忙しいんです。バイト代は弾みますが、自分の研究もあるので周りに迎合できる余裕もありません。自分の身に降りかかる火の粉は対処できますけど、周りに気を配っての対処など出来ないのです。はっきり言って邪魔です。』

 

簡単な話なのだ。

 

今より強くなって、今起きている事象や事件の情報の真偽を確め、分析し感情抜きに判断する。

歴史の背景を少しでも学び、人間という存在が如何に考えない奴隷のような存在ということを認識すれば良い。

 

これだけだ。

 

『本当に生意気ね。』

 

『…(フッ)、そう言えば、西条さんと千葉さんが休んでいましたね。』

 

最後の足掻きとして花音がポツリと溢すが、達也は小生意気に鼻で笑う。

 

そして、こんな話を投げかけた時点で答えられるはずもなく、人間のレベルを問うても自分自身のことすら理解出来ていない。

それを承知の上で達也は投げかけたのだから、達也も甘いし、期待している部分は少なからずある。

 

『うん。なんかレオがエリカのとこに泊まってるとか言ってたよ。』

 

達也の雰囲気がいつもの調子に戻ると、周囲の緊張した空気が和らぐ。

怒っているつもりはないが、情け容赦ない言動に感覚ではそういう錯覚に陥るのだろう。

 

『ほぉ、そうですか。一体、二人して何をしているんですかね?』

 

だが、達也とて他人の粗を見つけて苛めるような論破野郎ではない。正直、他人が何を心情にしていようとどうでもいい。

 

己の尺度と押し付けが烏滸がましいと言っているだけなのだ。

それこそ、人間のレベルが低いことの表れだ。

 

『それは二人に聴いてみないことには。』

 

『まあ、あの二人は意外と相性は良いかもしれませんね。もしかしたら…。』

 

『『『え?///』』』

 

『(本当に先程まで俺に説教されていたとは思えないな。切り替えが早いと言えば聞えはいいが、いつまで保つかな?頼むから、一時の感情任せで事を起こしてくれるなよ。)何を想像して赤面させているのですか?千葉さんの家は剣術の大家です、西条さんを弟子にしたのではないですか?』

 

年頃の少年少女にはやはり、重すぎる話なのだろうか。

しかし、それが今の日本人のレベルの低さで、十九世紀後半から徐々にそして、二十世紀後半から急激に退化した現在だ。

 

彼等だけに罪はないが、彼等の両親、祖父母、先祖らが招いたものだ。

酌量の余地はない。

 

『そ、そうですよね。』

 

『…うん、私も、そうだと思って、た。』

 

『ま、まぁ。私と水波さんはわかっていましたけどね。』

 

会話には加わってないものの、深雪や水波までもが想像に想像を重ねていたのか、耳も顔も赤くなっていた。羞恥心を隠せていないのは一目瞭然だったが、それを指摘するのも野暮でもあるため、達也は見て見ぬふりを決め込むことにした。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

『ほら!皺が寄ってる!』

 

スパンッと小気味良い音と共にハリセンがレオの頭部を引っ叩く。

 

『イッテェ!お前な、何度も言うが手よりも先に口をだな?』

 

『あんたが何度言ってもきかないから、仕方なしでしょー?』

 

このやり取りも何度目だ?と謂わんばかりにレオはエリカに文句を言うが、エリカとしては指摘することが仕事だ。

技というのは型から繰り出される、その型を会得するために基礎がある。その基礎が疎かになっていては型が未完全でそこから繰り出される技は技と言えない。

 

『だったら、もう少し手加減をだな。』

 

『元から無い脳細胞を活性化させようとしてんじゃない。』

 

『んなわけあるか!』

 

逆に数に乏しい脳細胞が減っていく気しかしない。

 

というより、何故頭を狙う?

 

『まぁそうね。そろそろ、今日の稽古は終わりにしよっか。』

 

レオの響きもしない抗議を右から左へ流し、一息つき窓を覗くといつの間にか夜の帳が降りていることに気付く。

 

時計を見やると、十八時を半分ほど過ぎていた。道理で道場が暗いわけだと納得するエリカ。

 

『俺はもう少し続けるわ。』

 

だが、レオはもう少し自習を続けるようだ。

根を詰めすぎるのは逆効果だが、技を会得しようとするには並大抵のことでは無いとは感じていた。

 

だが、レオの基準とエリカの基準とではまた違うが、それでもやらないよりはマシではある。

 

『わかったわ。…やっぱり、九校戦の時と勝手が違う?』

 

『ん?…あぁ、マントには補助術式が組み込まれてたからな。それに、ある程度拡がれば遮蔽物や盾としての役割は問題なかったからな。精度はそこまで必要じゃなかったな。』

 

ふと、九校戦のレオのマントを思い出すエリカ。

やはり剣術の大家とはいえ、術式は完璧ではない。

否、術式の練度の違いだけである。

 

その意味では、達也の実力は化け物以上ということだ。

 

『家のも補助術式は組み込まれてるはずなんだけど。やっぱり、達也君に相談してみる?』

 

『それは駄目だ!これはあいつの力を借りることはしちゃだめだ。あいつは関わることを嫌うし、これは俺の自己満足の世界だ。(俺は俺の立ち位置を確立するだけだ)』

 

エリカとしても千葉家の術式に不備は無いと自負している。

しかし、それと同時にこれ以上先は望めないとも感じていた。

 

家の術式を他人にしかも、それを意図も容易く超えてきそうな達也に見られることは業腹だが、それもやむ無しとも思わなくもない。

千葉の自身の剣の進化のためなら、使えるものは何でも使う。

それが達也であろうとも。

 

『ふぅん。なら、気の済むまで続けなさい。(やっぱり、男の子だね。)』

 

だが、エリカの考えるよりレオの思惑はそれを遥か先にあったようだ。

レオの瞳の奥は闘志が燃えたぎっており、その姿勢に満足げなエリカは部屋をあとにした。

 

 


 

 

『お待たせして申し訳ありません。』

 

とある雑居ビルでもなく、横浜の中華街でもないその個室は両者の中間辺りの街中にある料亭。

 

そこで二十代過ぎの痩躯の青年と二十代中盤あたりの筋骨隆々とした青年と四十代の恰幅の良い男性のコンビが向かいあっていた。

傍目には顔の作りは日本人に近いと感じる。

しかし、

 

『いえ、我々も先ほど来たところです。』

 

たった今、到着した年若の青年に嘘偽りはない。

悪びれるわけでもなく、ただ恐縮している態のみ。

しかし、それでいながら卑屈さもなく丁寧な物腰と容姿が相まって貴族的な雰囲気を醸し出す。

 

対する最年長の男の返答は素っ気ない

 

『早速ですが、 (チョウ)先生。』

 

『御用件はわかっております。彼女ですね?』

 

『そうです。情報漏洩の可能性が高いと思われますが。』

 

『チェン閣下のご懸念は理解しております。ですが、ご心配は無用です。彼女には私の名以外一切の素性等の情報を与えておりませんので、情報漏洩の可能性は無いと思われます。』

 

『ほう、それは。よく知りもしないのに、協力者に仕立てることができましたな。』

 

ひたすらに尋問口調で青年を問い詰めていく二人組の男達だが、テーブル越しで相対する青年は気にした風もない。

 

『あの年頃は多感で情熱的でもあります。多くを聞くよりも多くを語り、如何に自分自身の価値が高いかなど、自分を理解してほしいという時期なのですよ。』

 

『そこまで仰るのでしたら、我々も安心です。ただ、【万が一】だけは無いようにお願いします。』

 

『心得ております。近日中にでも様子を見て参りましょう。』

 

恭しく頭を下げる青年だが、相変わらず何を考えているのか不明ではある。

この青年と自分達の考えるリスク管理は乖離がある。

 

だがそれは始めからわかっていたことだ。

 

この男と我々では立場や目的が違う。

今回は利害が少しだけ一致したというだけの関係に過ぎない。

 

恰幅の良い男は隣に座する部下である男に目配せをすると、部下である若者もその意味を理解し頷きを返し、呂 剛虎(リュウ・カンフウ)は対面の青年へ鋭い視線を向ける。

 

しかし、青年はその視線に気付いているのかいないのか、涼しげな表情を崩すことはなかった。

 

こうして、若者と強面の男達との会談は幕を閉じた。

 

 

 


 

 

 

平日の授業を終え、待ちに待った休日である土曜日がやって…は来なかった。

魔法科高校は週休2日制を採用しておらず、土曜日であろうと授業および実習があるのだが、達也は学校をサボって、九重八雲の下を訪れていた。

 

その理由と言うのも、八雲より「遠当て」の練武場を改装したため、試しに来ないか?という達也にとっては有難い申し出だったからだ。

 

魔法射撃の練習ならば、学校でも可能ではある。しかし、達也の力は公に出す訳にはいかない。

 

練習するならば、軍の敷地内で行うしかない。

言葉にするのは容易いが、その軍の敷地は駅から徒歩で行けるような場所ではない。

近場としても土浦の基地まで行く必要があるのだ。

 

物理的距離もさることながら、達也はまだ高校生で風貌も年相応であるため誰かの目にも留まるだろう。

無論、授業もあるし、頻繁に土浦に行けば監視カメラの記録にも残り、達也を探る輩にとっては格好の餌を与えてしまう。(監視社会などクソ喰らえと内心は毒突いている)

そういう諸事情もあり、訓練場所に苦慮していた達也には渡りに船というわけだった。

 

達也が行くついでというわけではないが、感覚が鈍くなっているとのことで双子姉妹の結那と加蓮、弟の恭也も参加することになった。無論、自発的にではなく三人の両親他多数からのお小言を貰ったということだからなのだが。

達也としては、三人を存分に甘やかす役が誰か居ても良いとは考えているし、サボって怒られるくらいがちょうどいいのではないか?と思っている。

 

達也自身、大学程度までは様々なことを見て、学び、遊び、経験しておくのは良いとは思っているが、家族達としては十分甘やかしているとのこと。

 

その甘やかしすぎている元凶が達也なのだが、本人に自覚はない。

 

そして、その甘やかされている双子姉妹と弟は遠当ての練習に苦戦していた。

 

『っ!はっ!…、!?くっ!』

 

『ふっ、はっ!っ!?うっ!』

 

『チッ!い゛!…くぅぅ~!んっの!』

 

予想通りと言うべきか、魔法を使用する際の身体の反射速度に遅れがみてとれた。

術および体術ならば、理想的な位置取りが出来ている(家族視点では無駄がありすぎる)ため、魔法のみだとタイムラグがあるように感じるらしい。

達也の初見では、術の詠唱の時間の方が一呼吸分ロスしている。そのため、一流の魔法師相手では苦戦は免れないだろう。

しかし、能力値が低いということではない。

そこに関しては追々、わかってくるだろうからアドバイスはしない。それは割り切る思考、感情よりも理論、効率というものが嫌々ながらも出てくるから、そこには達也も踏み入ることはしたくない。

双子姉妹と弟に甘々な感情丸出しで庇った達也だが、初の訓練としては上々ではあろう。

 

また、理想はあくまでも理想であり、本人達よりも第三者の感想で言えば、実戦はベストよりもベター。

そして、ベターには程遠い。

 

『やるね〜、結那君は背面から加蓮君には間髪入れず、恭也君にはリズムを崩しつつ、利き目である左目の死角を。あの子達自身、苦手ということに気付いてないということは身近な人物が悪意ある分析をしているからかな?ね?達也君?』

 

『そうみたいですね。ここまで愛情溢れる身内がいるなんて、あの子達も果報者ですね。』

 

三人の訓練をどこか愉しむように見ている八雲と達也だが、課した内容は本人達にとってはトラウマもしくは、ストレスの溜まる訓練になりそうである。

 

『で?本当のところはどうなんだい?』

 

意味もなくこのような訓練を課すわけでは無い達也だが、それを考慮しても今回は家族達も荒療治過ぎると苦言を呈した程だ。

だが、とある者達からは賛成されたのは意外だった。

ある意味では過保護なのはその者達だからだ。

 

『最近、きな臭い動きが頻繁になってきました。狙いは俺のようですが、一緒に居ない時に襲撃を受けないとも限りません。無論、指一本触れさせないよう駆けつけますが。万が一、間に合わなかったり最悪の状況としては、一人の所を狙われる場合です。三人とも、並の軍人よりは動けるでしょうが、力や状況把握は半人前以下です。危機察知と状況把握、一番重要なのが逃走能力を身に付けさせれば、何とかなります。』

 

『ヒットマンに囲まれたら、不味いんじゃないかい?』

 

魔法と銃火器の危険度は段違いに変わる。

それは精神的な問題ではなく、人の生命を容易く奪うからだ。

魔法の威力および殺傷能力は確かに高い、正確性もそれなりにある。だが、それは当たればの話。

 

しかし、銃火器は威力、殺傷能力は比べるまでもなく、魔法より速さもある。

そして、何よりも大量生産可能の上に扱い易さが段違いである。

魔法師は確かに強い、だが、その慢心が命取りになる。

 

『たしかにそうですが、拳銃武装の二、三人程度でしたら対処は可能です。無傷ではすまないでしょうがね。アサルトライフル類にマシンガン類、スナイパーライフルといった乱射型や中長距離には経験値もそうですが、身体能力が追いつかないでしょうね。』

 

と、まあ。

ここまでは一般論の話である。

達也が猫可愛がりする結那と加蓮、恭也はそういった慢心、傲慢さは一切無いとまでは言わないが、少ない。

達也自身がそれを体現しているからだ。

 

『無茶言うなぁ達也君は。ライフル弾を避けるなんて、君以外に出来る訳ないじゃないかい。しかも、この前の一件で確実に回避出来るようになっただろうからね。』

 

『ライフル弾は家族の中でも俺だけでしょうね。全盛期の浩也さんなら遮蔽物が少ない気配が掴みやすい状況であれば1000ヤード近くなら、引き金引く時の殺気で反応出来ると言ってましたけどね。俺も戦闘モードで一発ずつ避けるだけが関の山ですよ。そもそも、そんな鍛え方は家族も俺もしてないですからね。』

 

『謙遜の意味合いが違うからね。嫌味にしか聞こえないよ。そもそも、君の意識の範囲外から狙撃できる人間が世界に何人いると思っているのかな。殺気をギリギリまで隠せるスナイパーなんて、片手で数えれる程だし。』

 

八雲でさえ、達也の能力は把握出来ていない。

八雲自身、殺気や視線と言った感知出来る範囲は常人をはるかに凌ぐ。しかし、達也には遠く及ばない。それはそういった生命のやり取りをする環境に身を置いていないからだ。感知範囲を数値に表すとしたら、半径500m程度だろう。だからと言って、八雲が劣っている訳ではない。寧ろ、流石と言えよう。

 

そもそもの話、達也が異常過ぎるのだ。

ヒト科でありながら他の生物よりも感知能力に筋力、回復力そして、精神力は通常ではあり得ないほどに高い。

もし、この世に神や精霊という存在があるとしたら、達也はそれに連なる存在なのかもしれない。

 

『この前居たじゃないですか。』

 

『あれはスナイパーまで用意してくるとは思わなかったからだろう。』

 

『それも含めてです。相手が誰であるかを認識していたのに、何をしてくるかを想像しきれていませんでした。半年前なら対応出来ていたと思うんですけどね。』

 

一体、どこまで謙虚なのやら。

その思考と性格は美徳かもしれないが、危うさも孕んでいるのは達也自身は気付いていないのかもしれない。

満足しない、慢心が少ないのは成長過程では良いが、裏を返せば、自身を追い込み続けている。

 

その根底にあるのはおそらく…あの出来事だろう。

 

『そうかな?おそらく、半年前の君なら、片肺を撃ち抜かれていただろうね。』

 

自身を俯瞰して見ているつもりでも、他人からの客観的な分析の方が的を射ていることも往々にしてある。

 

『?それはどういう…』

 

『じきにわかるさ。ほら、君の番だよ。』

 

八雲の言葉を反芻しているうちに妹達の鍛錬が一区切りつき、次は達也の番がきた。

おそらく、鍛錬が終わってもさっきの疑問には答えてくれそうにないだろう。頭を切り替えて、三人の鍛錬の参考になれるように集中することにした。

 

 

 

 

 




如何でしたか。

今回は地の分多めです。
ここ数年の現状の欝憤(本音)をここ(達也のセリフ)で吐き出しているような感じです。

前回の保健室での話のアレンジの延長です。
一応、
①深雪らとの絡みは増やした感じです。
②原作での鍛錬は深雪→双子と弟に変わっているだけです。

そんなところでしょうか。

昼間はまだ暑いですが、夜は冷えて体調崩しやすいですから風邪にはお気を付けください。(風邪ひいて休みたいです。笑)

では、次回もお会いできますように。




誤字、脱字があれば指摘いただけるとありがたいです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 5~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。