彼等は総じて化け物(モンスター)である (千点数)
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番外編/幻影の章
番外編1:イレギュラー


 イレギュラーなお話です。


 別世界から、人を救うという名目で別世界の神々が送り込んだ戦士達。

 

 いずれもが凄まじい力を持ち、神々おも相手取れる猛者だ。

 

 ・・・・・・だが、世界と世界を繋げ過ぎたせいで、一つの、世界と世界を繋ぐ小さな、本当に小さな、神ですらも気がつかないくらいの綻びが一瞬だけできた。

 

 ・・・・・・できて、しまったのだ。

 

 これは、そんな綻びに運悪く吸い込まれ、そして、幸運な事にその綻びを通る時に神々が使った力の余波をもろに受けて、神々が直接送り込んだ戦士と同じような力を手にした、神々もその存在を認知していなかった想定外(イレギュラー)のお話。

 

 *

 

 [日本のどこか/九月中旬]

 

 「ここは何処なのだろうか・・・・・・」

 

 急にブラックホールのようなものが表れたかと思えば、吸い込まれて気がつけば全然知らない場所にいた。

 ・・・・・・これは流石のボクも想定外だね。若いなりにこの世の事象全てを知ったつもりになってはいたが、まさかこんな超常現象が起こるなんて。

 

 それで、この場所は・・・・・・何だかとても、寂れた場所だ。

 道路のアスファルトはめくれ、ひび割れて、ビルそのほかの建物は倒壊したりして、草木や苔が繁茂している。

 ところどころに湖のように水が溜まっていて、中天に輝く太陽の光をキラキラと反射している。

 まるで終末系現代ファンタジー小説の世界にでも来たみたいだ。

 

 「まさか、このボクが小説の主人公のが遭うような事象に遭遇するとはね・・・・・・なぜだろう。凄く今、気分が高ぶっているよ」

 

 まあ、パラレルワールドか未来かは知らないが、ワクワクしないわけが無かった。

 家とか食料とか、一瞬沸き上がったそんな心配も心の外に追いやって、今はこの世界を見てまるで子供のようにはしゃいだ。

 

 「ハハッ・・・・・・アハハッ・・・・・・良いじゃないか。これでチートな特典とやらもあれば最高なんだけれどね」

 

 思わずポロッとこぼれ出たそんな言葉。

 でもまあ、流石にそんな御都合主義はないだろう。

 ・・・・・・どうやらボクは、この終わりかけの世界で一人で、この身一つで生きていかねばならないらしい。

 軽く絶望だね。でも、そんな事をしているよりは先ずは・・・・・・

 

 「食料を確保しないとね・・・・・・」

 

 生きるために行動を起こそうか。

 

 *

 

 「無いなぁ・・・・・・」

 

 『ふわふわと、浮遊しながら』食料になりそうなものを探す。

 透けて通り抜け、なんかも出来て、更に黒と紫の間の色のようなクローも出すことが出来て、そして自分の影を操作出来て・・・・・・

 

 少々歩いていたら、自分が都合の良い力のようなものを持っている事が解ったのだ。

 どうにも、ボクの見立てからするに、クローは『シャドークロー』、影を操るのは『かげうち』って感じだと予想できた。

 そして、通り抜けなんかもできるから、ボクがポケットモンスターに登場するゴーストタイプの力と技を持っている事が把握できた。

 試してみたら、『シャドーダイブ』も出来たから、これは確定で良いだろう。

 問題が一つだけあって、技のPPについてだが、それもボクが覚えている限りのゴーストタイプの技をPP以上の回数使ってみて使えた為に、PPは限りが無いという事が判明してとてもチートだと思った(小並感)。

 

 特性もあれば嬉しいのだが・・・・・・そう思いつつ、食料になりそうなものを探していれば、急に何かがボクの方に向かって飛んで来た。

 

 「うわっ!?」

 

 目が点になり、驚く。

 そこには、真っ白い、口だけの化け物が数匹いた。

 

 ・・・・・・ここで、だ。

 普段の、冷静なボクであれば、絶対にしないような事をボクはこの時考えてしまった。ああ、冷静な時のボクがいたら、この時のボクの頭におもいっきりゲンコツをかましていただろうね。

 

 「食料発見・・・・・・!」

 

 化け物が少し、後退りしたように見えた。




 ゴーストタイプ君。


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番外編2:女の子を拾った

番外編です。はい。

オリジナル要素が多々含まれますのでご注意あれ。

11/25 赤奈ちゃんの格好を変更。勇者服無かったの思い出したんで。ジャージにしました。


 [東海道線跡/年月不明]

 

 ボクはひたすら、ただひたすら歩いていた。ボク以外の人間と会う為に。

 ・・・・・・街中で拾ったとても大きなバックパックにいろんなガラクタ(生活用品)を入れ、化け物の残骸をぐっちぐっちと噛みちぎりながら。

 

 マズイ。マズイけれど、これを食っていかないと、生きていけなかった。この世界に来た日、化け物に会って、倒して、食らって、吐いて。

 死にそうな目に何回も遭った。

 だが、こうしてボロボロになりながらも生きている。

 

 「今いるのは・・・・・・と」

 

 この世界に来て、もうかれこれ半年が過ぎようとしている。

 この世界には、人間が見つけられず、ただ化け物が跋扈している世界で、この半年化け物に襲われない日はなかった。

 

 まあ、その分食料には困らなかったんだけれどね(マズイケド)。

 

 ただひたすらに、西へ、西へと歩いていく。時々看板も確認して、自分がどこにいるのかの把握も忘れない。

 

 そして、日がてっぺんからだんだん落ちはじめた頃。

 

 「・・・・・・これはあれかい?俗に言う『家出少女』ってやつかい?だとすると随分と勇気があるね・・・・・・」

 

 化け物を『かげうち』でぶっ飛ばしながら、足元に倒れている少女を見てボクは言う。

 その少女は、小麦色の肌が目立つ、赤い髪の、ちょっとスタイルが良い感じの()だった。黒と赤を基調としたジャージを着て、右腕に女の子が持つにはかなりえげつない、物々しい小手を装備している。

 体中傷だらけの埃だらけですすけているが、一目見て美少女だという言葉が出る程かわいい少女だ。

 

 「取り合えず、今日の野宿先に連れていくかな・・・・・・」

 

 流石に、意識がない少女を寒空と化け物がウヨウヨしている空の下に放置するほど鬼畜じゃない。

 

 俵担ぎをして、少女をお持ち帰り(直球)した。

 

 *

 

 [同日/夜/物陰の焚火の傍]

 

 「・・・・・・これ、飲むかい?」

 「うん、ありがとー・・・・・・」

 

 近場の水辺で汲んだ水を、拾ったマッチとそこらへんの可燃物で作った焚火で沸騰させて、タンブラーに注いで隣にいる女の子に手渡す。

 女の子はそれを受けとると、ふーふーと冷まして一杯、また一杯と、少しずつ飲んでいく。

 

 起きてからなんか傷を負った野生の獣並に警戒されたけど、どうにかこうにかボクが白だと説明して、やっっっと警戒が解けて、今に至る。

 

 「さて、何故あんな場所にいたんだい?ボクのような、化け物をムシャりながら生きる馬鹿でも無いのなら、よっぽどの事情が無いとこんな東海道線の跡地にいないだろう」

 「え、ここ東海道線だったの初めて知った」

 「・・・・・・まさか本当に家出少女だったりするのかい」

 

 疲弊しきった顔で、彼女はここがどこかを聞いた瞬間、溜め息を吐いた。

 

 「まあ、ちょっとした事情があってね、追い出されたんだよ」

 

 そして唐突に始まる少女の自分語り。

 

 「唐突だね。良いよ、聞こうじゃないか。続きを話してくれ」

 「オーケー、じゃ、続き行くよー・・・・・・」

 

 簡単に言えば、七十年ちょっと前、人類は天の神々に勝利に近い形で引き分け、しばらくの平和を手に入れたらしい。

 そして、それを成した張本人が・・・・・・勇者と呼ばれる少女と、その勇者よりも強大な力を持った少年達。

 その人達は、戦いが終わった跡に消息不明になってそのあとどうなったかは解らないらしい。

 まあ、それは置いといて。

 

 実は少女は、現代における四国の勇者なんだそうだ。

 ・・・・・・で、何故勇者がこんな場所でボロボロになっているのか。ここは、四国からだいぶ離れた場所のはず。

 

 「実はねー、半年くらい前に、急に四国の人間が全員、天の神を信仰し出したんだよ」

 「へぇ?」

 

 理由は解らないが、彼女以外の四国の人間全員が七十年昔に人類を滅亡の危機に陥れた天の神を信仰し出したらしい。

 ・・・・・・そして、四国を守る神樹と呼ばれる神々の集合体の力が急速に弱まっていき、逆に天の神々の力が上がっていったようだ。

 神の力とは、即ち信仰。そうなっても仕方ないだろう。

 

 「私は、まあ追い出されたというより、殺されそうになって脱出したってのが正しいんだよね。だって、四国の勇者は神樹の力で変身して戦うんだから。それで、殺されそうになったところを命がけで逃げてきたって訳」

 

 逃げる事が出来たのは、一重に少女に味方する神のおかげだという。

 

 「私が逃げられたのは、その神様が私に力を貸してくれてるから」

 

 彼女は悲しそうな顔で、話を続ける。

 

 「諏訪にこの前行ったんだ。・・・・・・そこにいるみんなも同じ感じで・・・・・・私に、襲い掛かってきた」

 

 そんな事になっている原因は、ただ一つ。

 ・・・・・・天の神が、洗脳した。信仰によって、戦力を、力を手に入れ、人間を再び滅びの道へと誘う為に。

 

 俺の目の前で俯く彼女は、勇者だったというよりも、『神懸かり』によって、彼女に味方する神の分霊を取り付かせているから、その洗脳に耐えられた。

 

 結果がこれだ。この、彼女に、味方と呼べる存在がいない、人類が滅びに向かっていく世界。

 

 「一つ聞こう」

 「なんだい?」

 

 気がつけば、声が出ていた。

 

 「クソッタレな天の神をぶっ飛ばす気概はあるかい?」

 「できる事なら、ねー。でも、手を貸してくれる人がいないし・・・・・・」

 「なら、ボクが手をかそうじゃないか」

 

 ハッとして、彼女がボクの方を見る。

 ボクは、ニヤリと笑いながら、目の前の少女に向けて言い放った。

 

 「ボクが、君の味方になろう。何があっても、どうなろうと、絶対に君の味方でありつづけよう。簡単に言えば・・・・・・天の神をぶっ飛ばす手伝いをする、という訳だ」

 「でも、君は勇者でも、ましてや特別な力がある訳でもないのにどうやって・・・・・・」

 「力なら、最低限あるよ?」

 

 『シャドークロー』を発生させて、自慢げに見せる。

 少女は目を丸くして驚いているようだ。

 

 「・・・・・・良いよー。じゃあ、今日から二人っきりのレジスタンスだね。私の名前は赤嶺友奈。君は?」

 「ボクの名前は影山(ゆう)。よろしくね」

 

 *

 

 これは、歴史では語られない物語。

 何もかもが記録にない虚構の、幻影のような、たった一ヶ月の、小さな、小さな神殺しの物語。

 

 その物語は、たった今、始まった。




 実は、赤奈ちゃん結構好きなキャラだったりします。


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番外編3:ボクはケダモノじゃないッ!?

 番外編3話ちょいと手直ししました。

 内容は変わってません。ただただ赤奈がなんか本来の性格が友奈族なんじゃ、って感じのアレな妄想で出来てるだけです。はい。


 「それにしても洗脳、か」

 「どうしたの? 幽くん」

 

 赤嶺友奈と出会ってから、翌日。

 ボクはある事を考えていた。

 

 「いや、ね。天の神が洗脳をしているなら、どうやってやるか、想像していたのさ」

 「え? どうやってって・・・・・・天から世界中に『ぶわぁー』って感じじゃないの?」

 

 赤嶺は擬音とモーションを用いてボクに言う。

 ・・・・・・確かに、そんな感じで出来たら多分天の神もいっぺんに方がつくし、人類も成す術が無い。けれど。

 

 「いや、それは多分しない」

 「・・・・・・?」

 「いや、ね。ボクは実は海外のモノは触りぐらいしか知らないけれど、こと日本の神話に関しては少々自信があってね・・・・・・」

 

 そう言って、説明を始める。

 

 「日本の天の神が、高の原から地上に重要な『何か』をする場合、必ず『何か』、若しくは『誰か』を送り込むのさ・・・・・・モノ、ヒト、神問わずね」

 「国譲りの武甕槌や・・・・・・今回のバーテックスみたいに?」

 「そう」

 

 成層圏の更に上、天からの砲撃であれば人間は太刀打ち出来なかった。だけど、天の神は『何か』を必ず地上に送り込み、そして『何か』を成す。天孫降臨なんかもいい例だろう。

 

 だから。

 

 「恐らく今回も、『何か』が地上の何処かにある、若しくは居るだろうね。それが神なのか、バーテックスなのか、それともモノなのかはわからないが・・・・・・」

 「なるほど? じゃあそれを『どかーん』ってやっちゃえば・・・・・・」

 「このクソッタレな現状も、回復するだろうさ」

 

 あとは、それが有る、又は在る場所だが・・・・・・まあ、大体予想はつくけれどね。

 

 「ねぇ赤嶺。諏訪、そして四国・・・・・・ヒトが居る場所、他に解るかい?」

 「・・・・・・無いけど。でも、それがどうかしたの?」

 「『何か』、の場所。洗脳するなら、ヒトが居る場所でやらないと。多分、ヒトが住んでいる場所、その重要な場所に『何か』が()るんだろうさ。まあ、全部希望的観測に過ぎないけどね」

 「・・・・・・なるほど?」

 

 あ、この顔絶対に解ってない。

 情報量が追いついてない顔だ。

 

 「で、だ。ここからが重要。四国と諏訪、ここからだと何処が近い?」

 「諏訪、かなぁ」

 「じゃあ、先ずはそこに行こう」

 

 ボクがそう言った瞬間、彼女の顔が悲痛に歪む。

 ・・・・・・ああ、そういえば、彼女は一度諏訪に行って、酷い目に遭ったんだったか。

 

 「済まない。だが、必要な事なんだ」

 

 ボクは、多分彼女に苦痛を強いている。もう一度、酷い目に遭ってしまった場所に行けと、そう言っている。

 だから、このくらいはしよう。

 

 「ボクがキミを酷い目には遭わせない。ボクが、生きている限り」

 

 彼女の手をとり、言う。

 

 ああ、もう。良いコトバがまったく浮かばない。

 だけど、きちんと意味だけは伝わったみたいで、赤嶺は困ったように返す。

 

 「何それ・・・・・・うん、わかった。行こっか」

 

 それじゃあ、方向性も決まった訳で、と諏訪の方角がどっちか聞こうとした瞬間。

 

 「そういえば、さっきのプロポーズみたいだったね?」

 

 ・・・・・・シリアスな雰囲気がぶち壊しだ。全く。

 

 *

 

 「ねぇねぇ、幽くん?」

 「何だい?」

 

 急に、赤嶺が足を止めてボクの方を向いてきた。

 

 「そーいえば、さ。幽くんは男、私は女、でしょ?」

 「まあ、そうだね・・・・・・」

 

 何を言っているのだろうか。

 そんなの、当たり前だろうと思っていると、

 

 「夜中眠ってる時さ、ムラムラしちゃわないの?」

 「ブフゥ!?」

 

 不意打ちのように、とんでもない台詞を吐かれて思わず噴き出してしまった。

 

 「いきなり何を言うんだい!? まあ、するけど」

 「正直に言っちゃうんだ・・・・・・ムラムラしちゃうなら、おさわりくらいならしてあげるよ~?おねーさんから、正直に言ったご褒美だー」

 「・・・・・・ボクはケダモノじゃないぞ」

 

 胸を強調するようにしてポーズを取る友奈を白い目で見つつ、俺はボソリと返す。

 はぁ、全く。ボクがそんな誘いに乗ると思ったら大間違いだ。

 

 「これでもスタイルには自信があるからねー。君を悩殺しちゃおうかなぁー?そうだ。今日、一緒にくっついて寝ようか」

 「本音は?」

 「人肌が恋しい独りが辛い・・・・・・はっ」

 

 さーて、今更気がついたところでもう遅い。

 赤嶺は顔を耳まで真っ赤にして俯き、プルプルと震え出した。

 

 「にゃぁあああああああああ!何言ってるの私!い、今の無し!無しだよ!?」

 「ボクは何時でもバッチコイだが?」

 「!?」

 「なあ、赤嶺・・・・・・キミは、どうしたい?」

 

 顔を近づけ、赤嶺の顎をクイと持ち上げて目を合わせてそう言ってやると、顔真っ赤のお目目グルグル状態でキャラ崩壊し出した。

 ・・・・・・正直、ここまでになるとは思わなかった。まさか、ついこの間、まだ普通に学校に通っていた頃に教わったネタが通じる人間がいたとは思いもしなかった。

 そして、どう見ても女の子にしか見えないボクの親友から教わった『顎クイ』とやらがここまで破壊力があったとは・・・・・・。

 

 『なー、女子ん間でこんなの流行ってるらしいぜ?』

 『意味が解らない。何故こんなものでキュンと来るのか意味不明過ぎるな。というか何故キミが知っているんだ』

 『・・・・・・俺、男なのにガールズトークに無理矢理・・・・・・』

 『・・・・・・悪い事を聞いたね』

 

 ああ、今解ったよ親友。コレが顎クイの破壊力か。というかボクは一体何をしているんだッ!?

 ああもう、何時もは飄々としている赤嶺が、今や茹蛸のように顔を真っ赤に染め、目が潤んで口をプルプル奮わせているじゃあないか。

 ・・・・・・何だかとても嗜虐的な心が表出しそうになったが、抑える。ボクは断じて変態ではないからね。

 

 「そ、その・・・・・・優しく、お願いします・・・・・・」

 

 キミはキミでナニを言っているんだ。

 思わず真顔になってしまったのは、悪くない。

 

 「な、何もしないからな!? ボクは何もしないぞッ!?」

 「幽くんの、ケダモノ・・・・・・でも、幽くんなら・・・・・・」

 「戻ってこい赤嶺!? そしてボクはケダモノじゃないッ」

 

 ポンコツになった人間を戻すのは、相当の苦労が必要だと解ったよ。

 全く解りたくなかったが。




 活動報告の方に西暦編ポケの人達の性格やら何やらの決定版貼付けてるんで是非見てください。


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番外編4:記憶喪失少女、弥勒ちゃん



 オリジナルキャラ出ます。苦手なヒトは注意です。

 因みに今回。
 非常に頭脳指数だだ下がりしている話です。スナック菓子程度の軽さでお読み下さい。




 どうしてこうなってしまったんだ。

 ああ、ボクは今、自分の中の本能と戦っていると言えるだろう。

 何せ、

 

 「・・・・・・」

 

 ボクの隣に、左腕をかき抱くようにして保持している少女、弥勒龍華からの生々しい感触が随時自分の左腕に伝わっているから。

 そして。

 

 「・・・・・・」

 

 何故か対抗するように、背中に抱き着く赤嶺からの刺激が強すぎるから。

 

 二人の、ボロボロに擦り切れたジャージ越しに伝わるむにゅむにゅとした感触に耐えつつ考える。

 

 ああ、もうどうしてこんな状況になってしまったんだ!?・・・・・・と。

 

 *

 

 時は少々、遡る。

 

 *

 

 アレからまた、数日。

 諏訪にいるだろう広域洗脳物体を破壊、若しくは倒す為に諏訪へと向かうボクらだが、その道中にバーテックスに襲われた。

 

 「ああもう、対人戦闘しかやってないからホントにやりにくいッ」

 「ボクも化け物相手は苦手だよ! 人間の方がまだやりやすい!」

 

 めちゃくちゃ可愛い男の娘の親友のお陰で野郎からの嫉妬には事欠かなかったからね。

 ひどい優越感を感じると共に悲しくなった覚えがある。

 

 相手からの攻撃を食らわないように、避ける。そして反撃。

 こういう戦い方で、徐々に数を減らしていく。

 転移初日からの一張羅であるこの学生服のズボンとカッターシャツ、パーカーしか着ていないボクと、ボロボロの黒と赤色のジャージ姿の赤嶺。防御力が紙の領域だからガンガン突っ込んでいく事が出来ない。

 

 それでも戦えているのは、やはりボク達二人が化け物レベルの強さを持っているからだろう。

 神懸かりでとある神霊の分霊を身体に突っ込んでいる赤嶺。

 ゴーストタイプの技が全て使え、尚且つゴーストタイプの肉体を持っているボク。

 

 絶対に人間じゃ出来ないような事が出来るからこそ、こうして戦えている。

 

 ヒットアンドアウェーの方法でバーテックスの数を減らしていると、不意に見覚えのあるものが視界の隅に、本当に『偶然』、入った。

 それは毎日見ていて、でもこの化け物(まみ)れの世界には相応しくなくて。

 

 ・・・・・・そういえば、ボク達が相手をする前、バーテックスは何か別の何かを追いかけていたような仕種をしていた・・・・・・。

 

 「赤嶺! 少しバーテックスの相手を頼むッ」

 「どうしたの!?」

 「ヒトだッ! まだ生きている!」

 

 力無く倒れ、それでも天に向かって手を伸ばす赤嶺と同い年かそこらの少女だった。

 すぐさまかけよる。

 黒と緑の、ボロボロに擦り切れたジャージ姿で、ショートカットの金髪が特徴的な赤嶺に勝るとも劣らない美少女だ。

 左手に、細身の両刃剣を持っている。

 

 怪我は・・・・・・額を打ったようで、たんこぶが出来てしまっている。直ぐに冷やさないと。

 

 「キミ、大丈夫かい」

 「あ・・・・・・う・・・・・・たす、け、て・・・・・・」

 「ああ、ボクの魂に誓って絶対に助けよう」

 

 ボクのその言葉を聞いた瞬間、少女はコテン、と電池が切れるようにして意識を失う。

 慌てて息を確認する。

 心臓はしっかりと動き、息も一定のリズムで確かにしている。

 

 ホッと一息。ボクはひとまず、あまり揺らさないようにして彼女を抱え上げると、『シャドーダイブ』で影に潜り、赤嶺の近くに出る。

 赤嶺は漸く全てのバーテックスを倒し終えたようで、一息ついていた。

 

 「ねぇ、この娘、キミと同じ勇者なのかい? どうにも、この娘が持っていた剣からとんでもない気配を感じていてね・・・・・・」

 

 少女を、崩壊した町の、それも瓦礫の上に寝かせるのも忍びなく、街中で拾った毛布をしき、そこに寝かせる。

 そして、その少女が持っていた抜き身の両刃剣を赤嶺に見せる。

 

 「・・・・・・うん、その娘・・・・・・弥勒龍華さんも、勇者だよ。私と同じ四国の。そして、この剣は斗牟刈剣のレプリカ。多分、とんでもない気配っていうのはこの中に入ってる水神様の分霊の事じゃないかな」

 

 思わぬビッグネームに驚く。

 まさか、レプリカとは言え日本神話で有名な神剣の一振りに出会えるとは思わなかったな。

 

 びっくりとしつつ、そこいらに溜まっている水溜まりの中から水深が深く、綺麗なものを選んでそこで布を濡らし、弥勒のおでこ・・・・・・たんこぶが出来ている辺りにかける。

 

 「生憎、氷は持っていないものでね・・・・・・これで許しておくれ」

 

 *

 

 そして一時間後。

 

 *

 

 「まさか、自分の名前すらも忘れてしまっているとは・・・・・・」

 

 弥勒がどうやら記憶喪失である事が発覚した。

 

 気がつけば、何もかも解らない状態になり、ただ一人、ぽつんとこの廃墟塗れの街で一ヶ月程生きていたらしい。

 そして今日、何も解らない内にバーテックスに襲われ、意識を失いそうになったとき、ボクが彼女を見つけ、救った。

 という訳だ。

 

 だからだろうか。

 

 「・・・・・・」

 

 ぎゅむー。

 

 「・・・・・・ねぇ、キミは何故ボクの左腕に抱き着いているんだい?」

 「・・・・・・まだ、こわい」

 

 その目線から絶対的な信頼を感じるッ・・・・・・。

 ああ、そして何故か隣から物凄い威圧感を感じるよ・・・・・・。見てはいけない気配がする。

 

 「ねぇ、幽くん・・・・・・?」

 「ひゃひぃ!?」

 

 気がつけば、後ろから抱き着かれて耳元で、耳元でボソッて!?

 

 「私にあんな事しておいて、まさか他の女の子に目移りしちゃうの?」

 「いやいやいや、まずボクはキミにそういう事をした覚えは・・・・・・」

 

 あった・・・・・・。ああ、性格には一話前に!!やってしまった!!

 

 「いや、でもこれは」

 「うん、知ってる。でもね?」

 

 赤嶺は、そう言うとボクの耳たぶを甘噛みしながら、ぼそりと呟いた。

 

 「怖い、っていう、明確な理由があるのに・・・・・・弥勒ちゃんずるい、って、思っちゃった。

 ・・・・・・で、わかったんだ。私が、キミをどう思っているか・・・・・・」

 

 彼女は、自らの肢体をボクに絡ませながら言う。

 

 「覚悟してね? 逃がさないから・・・・・・」

 

 ・・・・・・なるほどそういう事か。

 ああ、どうしてだろう。いつから彼女はボクを、そんな風に思ってたんだ!?いつ、いつなんだ!?

 

 女の子の心は本当に良く解らない!!

 

 *

 

 回想終了。

 で、今の状態に至る。

 

 ・・・・・・理性がそろそろ限界だから、離して欲しいと思う。

 力が強くて振り払えないのがつらい・・・・・・ッ!

 

 「頼む、離してくれないか? そろそろ限界・・・・・・」

 「ナニが、限界なの?」

 「・・・・・・や。離れたく、ない」

 

 持ってくれ・・・・・・ボクの理性・・・・・・ッ!






 *レプリカ剣
 とある水神を鎮め払った際に尻尾から出てきた剣・・・・・・の、レプリカ。
 水神の分霊を業物の剣に突っ込んでおり、無理矢理オリジナルが起こす事象と同じ事象を起こす事が出来る。

 *弥勒龍華
 十三歳。記憶喪失少女。金髪ショートカット。
 あらゆる事を忘れてしまっている。少しだけ甘えん坊。
 赤奈と同じ勇者・・・・・・らしい。
 ゆゆゆい時空参戦はもう少し後。



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超*番外編!!ゆゆゆい時空ぅ!
超*番外編!!:転移者達の会合


 ゆゆゆい時空のお話です。

 現時点において、この先未来の話で起こるだろう出来事がもう起こっちゃった後のお話なので新キャラが追加されてたりします。

 それが嫌な方はブラウザバック!


 [讃州中学校/とある空き教室/夜/三人称]

 

 なんか、神樹とか言う神様の集合体で、造反神とやらが反乱起こしたせいで四国の大半が征服されてから一年が経った頃。

 まあ、イロイロ取り戻しつつ、時々失いつつ(主に男が)、時々平穏を楽しみつつ(尚男性にとって平穏=地獄の幕開け)。

 最初の頃は、武田兄弟が過去の自分に会って、(主に兄貴二人が)一緒にヒャッハーしたり、完成型勇者の三好夏凜が勇者部にやってきた日に転移してきた真田幸村が過去の転移者にそのノーマルタイプの体と技全て、特性:マルチタイプという能力故にチート扱いとか完成型(笑)扱いされたりされていたが、今ではもう普通に過ごせている(尚、男性はry)。

 

 そんな時に、讃州中学校のとある空き教室で、真夜中の午後九時、男が集まっていた。

 

 今日は、男の、女子会ならぬ男子会という、非公式で、この世界で戦う男達が開く会議のようなものの開催日である。議題は主に・・・・・・

 

 「ズバリ、今日も恒例、『恋する乙女達(ヤンデレ)から監禁されないように頑張る男子会』を始めようぜ!」

 「つー訳で話し合おうかぁ!」

 

 である。

 音頭をとった、この中で一番年上の、鋼タイプの武田兄貴(高)、そして武田兄貴(中)がまず最初にこう言った。

 

 「それじゃ、まずは何時も通り日常に関わる愚痴から」

 「やっていきまっしょう!」

 「俺から良いか」

 「「どうぞどうぞ」」

 

 そう言って手を挙げたのは格闘タイプの釘宮天地。

 めっちゃ可愛い男の()。で、最近の悩みと言えばやっぱり・・・・・・

 

 「最近誰とは言わないけど勇者五人と巫女一人からの押しが強くて怖いです誰かタスケテSOS!」

 『ああ・・・・・・』

 

 皆が声を揃えて哀れみと同情の視線を向ける。

 何があったのかは知らないが、天地は勇者五人と巫女一人の愛情を一身に受けているのである。正直言ってヤバいっす天地さん。

 

 「全員と正直に向き合えばそれなりに解消されんじゃねーのそれは。お前が逃げっからそーなるんだろ」

 

 そう言うのは北海道から勇者一人、そして自らが救い出した子供達六人と共にこの神樹が作り出した世界に転移してきた氷タイプの服部鬼十郎。

 コワモテの鬼番長である。が、知り合いや友人には優しい。

 

 「いやぁ、実はね、それをやったんだよ。俺も別に嫌ってる訳でもねぇし、友達として好きですよって」

 「オイオイそれは・・・・・・」

 

 ああいうマジ恋乙女達にはヤベェ、と、ドラゴンタイプの草薙竜介が言う。

 

 「そういう中途半端なのは言わないほうが良いですよ絶対に」

 「僕らも銀ちゃんでヤバい事経験してるからある程度そういうのはわかりますから言えます。それはヤバいですよ天地さん」

 

 電気タイプの武田兄弟の弟、真央(小6)と真央(小4)が言う。

 

 「ええ、あなた方が言う通りヤバい事になりました」

 「・・・・・・具体的には・・・・・・?」

 

 炎タイプの、基本人の前じゃコミュ障なため何時もボソボソと喋る錦裕也が続きを促す。

 

 「『好き』のとこしか聞いてなかった全員が暴走して全員に貪り喰われた(意味深)。危うく腹上死しかけたぜ・・・・・・」

 『あーあ・・・・・・』

 

 全員が可哀相なものを見る目つきで天地を見る。

 そして、

 

 「まあ、おいそこの自業自得野郎、取り合えず未来は暗いとだけ言っとくわ」

 『ファイト!』

 

 兄貴(中)の言葉に合わせた全員の爽やかなサムズアップを見て天地は死んだ目で虚空を見て、「諦めたら楽になれるよな・・・・・・ハハッ」と、現実逃避をし始めた。

 

 「さて、現実逃避をし始めた奴は置いといて、他になんかあるか?」

 「・・・・・・俺が行こう」

 

 兄貴(高)の問い掛けに応えて手を挙げたのは、裕也だった。

 

 「珍しいですね裕也さんが手を挙げるのって。久しぶりに見ました」

 「具体的には二ヶ月ぶり?」

 

 真央(小4)と、竜介が驚く。

 

 「・・・・・・愚痴くらいある。・・・・・・その・・・・・・棗に毎晩搾られて正直死にそう・・・・・・・なんだが。どう思う?」

 『ああ~・・・・・・ご愁傷様』

 

 一斉に可哀相なものを見る目で裕也を見る一同。

 

 「・・・・・・最近、嫉妬も激しい・・・・・・。俺が大赦で巫女と用事で話していたら・・・・・・いつの間にか背後から・・・・・・真っ黒い目で・・・・・・廊下の角からそっと・・・・・・」

 『ヒィィ!!??』

 

 全員が青ざめる。

 まあ、このくらいはまだ、まだ(・・)彼らにとって日常の範囲内だ。

 

 「俺も少し良いか?」

 

 そう言って手を挙げたのは鬼番長である鬼十郎。

 何気にヤンデレ被害者の第一人目である。彼らは知るよしもないが。

 

 「最近な、妙に視線を感じるんだよ。どこにいても。学校、寮への帰り、夜中にコンビニでの立ち読みをするときも視線をずっと感じるんだ」

 「・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・」

 

 ノーマルタイプの真田幸村が何かを察したようで声を出す。

 彼は裕也とは違い、ただ寡黙なだけである。

 

 「あるときにな、一度、その視線の正体を調べたんだ。そしたら・・・・・・」

 『そしたら・・・・・・?』

 

 鬼十郎以外の全員が、怖いもの見たさで続きを促す。

 ・・・・・・一瞬後、聞いたことを後悔するのだが。

 

 「雪花の精霊がな・・・・・・複数体、あらゆる場所からじっっっと俺を見てたんだよ。しかも見つけたのが夜の十時だったから、マジで軽くホラーだった」

 『うわぁあああああああああああああああ!?』

 

 全員が恐怖の声を挙げる。

 ・・・・・・だが、それもまだ序の口だったという事を、彼らは知る由もなかった。

 

 「そ、その・・・・・・俺、良いっすか」

 

 そう言って怖ず怖ずと手を挙げたのは、北海道から鬼十郎と共にこの世界にやってきた子供達六人の内の一人である多田響。

 服部子供(ガキ)隊という六人の子供達で結成された、言わば鬼十郎の傘下の組織的なもののリーダー的な子供であり、活発な男の子だ。

 因みに、彼はこの男子会に(よわい)六歳にして参加している。

 ・・・・・・ということは、この男の子もやはり・・・・・・

 

 「その、最近りんかの行動がヤバくなってきて・・・・・・」

 『・・・・・・ほうほう』

 

 子供の行動のヤバさなんてたかが知れていると油断し、気安く続きを促す一同。

 ・・・・・・だが、認識が余りにも甘すぎた。

 マジ恋をした女の子は、ある意味無敵で、何よりヤバいのである。そんな当たり前の事をただ子供というだけで失念していた彼らは、この後、この世の終わりを見ることになる。

 

 「まあ、行動がヤバくなったっつっても皆さんのものより全然かもしれませんが・・・・・・」

 『いってみいってみ?』

 「じゃあ、言うぜ・・・・・・最近、りんかが大赦に行って、あるものを貰って、持って帰ってきて、それを俺に渡して来たんす。で、付けろって。何だと思います?」

 「・・・・・・結婚指輪、とか?」

 

 現実逃避から復活した天地が、予想を口にする。

 

 「違います。指輪じゃあ、ないです」

 「じゃあなんだよ?」

 

 竜介が、答えを教えろと、響に促す。

 

 「正解はですね・・・・・・俺のこれを見れば解ると思うっす」

 

 響はそう言うと、首もとを見せる。そこには、真っ黒い、シンプルな装飾品が首に巻かれていた。

 

 「・・・・・・・・・・・・首輪?」

 

 思わず、幸村の口から言葉が出た。

 それ程、驚愕の一言に尽きた。

 それは、ペット等に付ける、首輪だった。少々ホームセンター等に売っている物とは違うが、それでも、その表現が正しいだろう。

 

 「そうっす。首輪です。・・・・・・俺自身の心音、体温、脈拍、脳波を検知して、それをりんかが持ってるケータイに転送する機能着きの。流石に発信機の機能はないっすけど。

 なんか、りんかが言うに、「ひびきくんの全部を知りたいな!だから付けてよ!」って感じで言われて、この首輪を渡されて、流石に首輪はちょっと・・・・・・って具合に断ろうとしたら、「・・・・・・付けないの?ねぇ、付けてよ。じゃないと・・・・・・潰すよ?」って感じに脅されて仕方なく・・・・・・」

 『ああああああああああああああああああああ!?』

 

 響以外の全員が発狂した。

 聞けば、りんかちゃんは響の一歳年下、つまり五歳。

 五歳でこれは・・・・・・ヤバいの一言に尽きた。正直五歳の女の子が持つ愛情のレベルではない。

 

 「で、時々スマホを見ては、「エヘヘ、ひびきくんといつでも、どこでも一緒だ・・・・・・エヘヘっ」って感じで、めっちゃニヤニヤしながら俺のこの首輪から送られる心音をイヤホンで聞きながら、同じく首輪から送られる体温、脈拍、脳波のデータ見てるんですよ・・・・・・」

 『お、おぅ・・・・・・』

 

 最早何も言えなくなってしまった。

 

 そして、この場にいる響以外の全員が思った。

 

 

 

 『(子供、ヤベェ・・・・・・)』

 

 

 

 と。

 

 *

 

 こんな具合で、男だらけの夜の井戸端会議はまだ続く。




 男達が真夜中にこの会議をやる理由:女の子に見つからないため。


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ゆゆゆいにおける、七夕(?)

 今日が七夕だって事を、夕方にいきなり思い出した。


*1

 

 七夕。

 それは、天の川の両端にそれぞれ住んでる織り姫と彦星が年に一度、カササギの橋を渡って出会うとか出会わないとか、まあ、そういう銀河レベルのラブストーリーが繰り広げられるというリア充爆発しろな日である。

 

 と、武田兄貴(高)と武田兄貴(中)は認識していた。

 

 「「と、言う訳で明日校内のリア充を潰そうぜ♪」」

 「馬鹿だコイツら・・・・・・!どうしてそうなった・・・・・・!?」

 「単一音源(モノラル)口調でとんでもねぇ事をサラリと言いやがった・・・・・・!!明日コイツら命ねぇな・・・・・・」

 

 正直言おう。馬鹿である。作者も思う。

 

 七月六日の深夜。例の教室には、兄貴二人組と服部鬼十郎、そして草薙竜介が集まっていた。

 他の面々は・・・・・・察して戴きたい。

 

 「だってそうだろう!?人目も憚らずあいつらリア充はイチャイチャと・・・・・・!!」

 「同意」

 

 悔しいのう、悔しいのう・・・・・・と、バカバカしく叫び声を上げる二人の兄貴(馬鹿)

 そんな二人を見て、鬼十郎と竜介の二人は、

 

 「馬鹿だコイツら・・・・・・明日の晩、確か例の集まりだったよな?」

 「ああ、確か七夕特別集会だっけ?・・・・・・ったく、一日早くSNSで呼び出されて何事かと思ったじゃねぇか・・・・・・恐らくコイツら明日は来ないな。主にメガロポリスなゆーゆガチ勢とその片鱗が垣間見える護国思想満載少女に意味深な理由で襲われて」

 「確かコイツら、あんなに、最早病んでるだろって言う感じの一歩手前まで愛されてて、『いや、看護されてるだけだから』とか抜かしやがる種無し共何だろ?・・・・・・確かそのせいでまだ好意に一切気がついてない二人だろ?」

 「コイツらの、ゆーゆとビッグわっしーとリトルわっしーに対する印象が『事あるごとに監禁しようとして来る怖い少女』だからな・・・・・・一瞬、人生の墓場に入るかもって考えも浮かんだらしいが、『それはねぇな。だって告白を一度もされた事がない俺だぜ?』って考えで切り捨てたらしいしよ」

 「うっわバッカだなぁーあいつら。

 というか、そもそもあの集会もコイツらが俺達の苦労話を聞いてプギャーwwwするための会議とか言ってたもんな・・・・・・あー、本当にコイツら早く理性我慢出来なくなった恋する乙女に襲われねぇかな。確かまだDTだろ?そんな馬鹿な認識のせいで」

 

 最早相手をする必要無しと言った表情で、呆れたように二人に対する愚痴をグチグチ言っていた。

 

 

 

 

 

*2

 

 七月七日。七夕当日。

 織り姫と彦星が年に一度の逢瀬をする日。

 

 「「リア充シスべし慈悲はねぇ!!!!」」

 

 武田兄貴二人がヒャッハー!!と、世紀末な叫び声を上げながら学内でイチャイチャしているカップルを撲滅しにかかっていた・・・・・・真にはた迷惑な連中である。

 で、そんなジェノサイドを繰り広げている彼らの背後から、冷たい、冷めた声がかかった。

 

 何故かガタガタと震える体を押さえピタリと立ち止まって二人が振り返ると、そこには。

 

 「兄貴くん・・・・・・?」

 「たーくん、なにをしてるの?」

 「兄貴さん・・・・・・?」

 

 東郷美森、結城友奈、そして鷲尾須美の三人がハイライトを何処かに投げ捨てた瞳で兄貴二人(馬鹿共)を見ながら、壊れた笑みを浮かべていた。

 

 「悲しいわ・・・・・・まさかとは思ったけれど、私たちの思いが通じてなかっただなんて・・・・・・」

 「たーくん、後でお部屋で『もぐもぐ』させてね?」

 「兄貴さん、今日は二人で、ずっと一緒にいましょう・・・・・・?私がどれだけ貴方の事を愛しているか、その身に刻み付けてあげます・・・・・・」

 

 壊れたような、それでいて天使のような微笑みで兄貴(高)と兄貴(中)の二人に笑いかける少女達。

 障気が発せられているかのようなどす黒い雰囲気を纏いながら近づいて来る三人に、二人は思わず後ずさりして、

 

 「「うわぁああああああああああああ!?」」

 

 背を向けて逃げた。

 

 だが、所詮は鋼タイプ。

 耐久では多いに役立つが、素早さが馬鹿みたいに低い。

 ・・・・・・故に。

 

 「捕まえた!・・・・・・さ、たーくん、お部屋行こう?」

 「これから、沢山しましょう?」

 「え、何を?ちょ、怖いんだけど!?」

 

 「兄貴さん、たっぷり、お願いしますね?」 (『くろいまなざし』発動!)

 「」 (兄貴(中)は、もう逃げられない!)

 

 そして、それを物陰から見ていた他の転移者は、

 

 『あーあ、バッカでー。そしてご愁傷様』

 

 冷めた目でそんな風景を見ていた。

 

 「ま、年貢の納め時って奴ですね」

 「ですね♪」

 

 最後に真央(中)と真央(小)が締めくくって、ちゃんちゃん♪

 

 

 

 

 

*3

 

 その頃。何処かの場所にある、和風の家にて。

 ゴーストタイプの転移者、影山幽は、七夕という事で、造反神が庭にムニュッと生やした笹の木の枝に紐で短冊をくくり付けていた。

 

 「『今年こそ自由に外出が出来ますように(嘆願)』っと。よし、改心の出来だね」

 

 折り紙で出来た飾りが、よく見える星空の下で夜風に吹かれているのを見て、彼は一つ頷くと、縁側から家の中に入っていった。

 居間に行くと、赤嶺友奈が机に座り、短冊に願い事を書いていた。

 

 「お帰り幽くん。飾りを飾ったの?」

 「ああ、後で見てくるといい。改心の出来だ」

 

 自慢げに言う幽を見て、赤嶺友奈はにこりと笑う。

 幽は、友奈の手元にある短冊を見て、

 

 「そういえば、お願い事、君はなんて書いたんだい?」

 

 そう聞いた。

 ・・・・・・そして、言ってから後悔した。

 

 聞いた瞬間。

 友奈の体から物凄くいやーなオーラが吹き荒れて、幽の背中は冷や汗でぐっしょりになってしまったのだ。

 友奈はゆらりと立ち上がり、幽を抱き寄せ、耳元でボソリと呟くように聞いた。

 

 「幽くん、見たい?知りたい・・・・・・?」

 「えっと、ハイ」

 「良いよー・・・・・・。はいこれ」

 

 友奈は幽に短冊を渡した。

 幽はそれを震える体を抑えて読む。

 

 『幽くんと何時までもずっと、退廃的な生活を送れますように』

 

 一見普通(?)のお願い事。

 ・・・・・・だが、文字に込められた思いとその重さ、そして、何よりも身近にべっとりと感じるオーラと重圧で、幽はガクガクと震えていた。

 

 「う、うん、良いお願い事なんじゃないかな」

 「そうかな。うん、そうだね。じゃあ、くくり付けてくるよ」

 

 震える声で幽が言うと、友奈は軽い足取りで庭の方に向かった。

 ・・・・・・幽に、「愛してるよ♪」と、軽く、されどもトン単位の重さの言葉を言い残して。




 七夕、なんてお願い事しました?


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超*番外編!:波乱の予感

 ゆゆゆい編、つまりアホな出来事が起こる短編。

 *編集しました。なんか幸村くんのお相手が予定にない人数になってたんで。


1*

 

 讃州中学放課後、勇者部部室。

 そこには、うら若き恋する乙女(しゅら)達が集まっていた。

 ・・・・・・数人を除いて。

 

 「それでは第・・・・・・ええと、何回目だっけ・・・・・・」

 「何回目でもいいじゃない! という訳で、『外堀を完全に埋める会』を開催するわ! ・・・・・・って言うか、多分ここの面子殆ど全員外堀どころか内堀も塀も石垣も全部崩して丸裸にしてるわよね?」

 

 女子会のようなものが今から始まるようだ。

 今ここに集まっているのは犬吠崎風、古波蔵棗、結城友奈、東郷三森、三好夏凜、鷲尾須美、白鳥歌野、藤森水都、上里ひなた、乃木若葉、土居球子の総勢十一人。

 残りの面子は、今日は不参加らしい。

 

 「というか、珍しいわねー園子達が集まってないなんて。あの二人あたし達の話聞いて小説ネタにしようとか言ってなかったかしら?」

 

 風が疑問を口にする。

 園子(中)及び園子(小)は、男の誰かになびいている素振りは無く、ただ単純に小説のネタ探しの為だけに何時もこの会合に参加している。まあ、相手が一人の裕也、鬼十郎、真央(小6)、真央(小4)、武田兄貴(中)、相手が二人の竜介、そして武田兄貴(高)、相手が二人(というか姉妹)の幸村、相手が六人いる天地と、通常では有り得ないような蜜月の内容が聞けるのだから園子達は必ずこの会合に参加していた。

 そんな二人が休むとは、珍しい事もあるものだと全員心の中で思い、話を続ける。

 

 「じゃ、そうねー。この前の男共の会合の録音とかあったりする?」

 「それならバッチリ! 私がゲットしていますよ先輩」

 

 歌野がUSBメモリを風に渡す。

 それを風はパソコンにぶち込み、録音データを探し出す。

 

 「因みにこれ、どこルートなの?」

 「大赦の巫女と秋原雪花さんからです」

 「なら、確実ね」

 

 哀れ、男達は大赦からも、勇者からもその行動のすべてが筒抜けであったらしい。

 

 

 

2*

 

 その頃。

 造反神側の拠点では。

 

 「へーっ・・・・・・ふーん?」

 「何をしているんだい、友奈?」

 「あ、(ゆう)くん」

 

 イヤホンを耳に着けた赤嶺友奈が何やらあくどい笑みを浮かべながらタブレット端末を見ているのを発見した影山幽は、気になって友奈に近づく。

 そこには、神樹側の勇者達が何やら集まって話している光景が映されていた。

 

 「ちょっと、偵察と小回りとスピードに特化した精霊を作ってねー。それの試運転がてら相手の様子を見に行ったら、凄い事が聞けちゃったんだ~」

 「へぇ、どんな事が聞けたんだい?」

 「ふふ、い・い・こ・と♪」

 

 (効率的な物理的束縛の方法が聞けちゃうなんて、運が良いなぁ~)

 

 幽は、背後に感じた寒気は無かった事にした。それと同時に、それ以上追求するのは止めた。

 でなければ、とんでもない事になる気がしたので。主に自分の身が物理的に拘束、束縛されそうな予感がしたので。

 

 「良いこと、かぁ・・・・・・良かったじゃないか」

 「うん、私にとって、凄く良いことだよ」

 

 表面上は、すごく仲が良い親友、若しくは恋人のような雰囲気なのだが、内面はヤバい造反神側の人々だった。

 

 

 

3*

 

 同日。

 乃木邸。

 

 兄貴(高)は、園子(中)に呼ばれて乃木の屋敷に来ていた。

 何故か。

 

 「うう、最近あの二人更に束縛が激しくなって・・・・・・別に良いんだけどさ? もう少し融通効かせてくれてもさ、良いじゃん?」

 「分かるよ~? 自由に出来ないってつらいもんね~。

 ・・・・・・今日は何時までも甘えて良いんよ~」

 「ありがとう・・・・・・」

 

 部屋のベッドに座り、頭を抱えて涙目になっている兄貴(高)と、それを宥める園子(中)。

 ・・・・・・完全に構図が、その、アレである。

 

 何を隠そう、園子(中)さんは・・・・・・お熱であった。兄貴(高)に。何故かは・・・・・・まあ、イロイロあった、とだけ。

 とは言え、抜け駆けである。本人達の知らぬ間に。

 

 波乱(しゅらば)の予感、で、あった。

 

 

 

 実を言えば、寮では園子(小) (園子(中)にイロイロ吹き込まれた)と兄貴(中)も同じような構図でなんやかんやしている為、こちらもこちらで嵐が起きそうではある。

 

 

 

4*

 

 数日後、男二人の断末魔の叫び声のような絶叫が勇者部部室から響く事になるのだが、それは全く別の話。




 修羅場も書こうかな。面白そうですし。


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超*番外編!:サンドイッチ

注.ゆゆゆいの方で弥勒ちゃんの下の名前出ちゃいましたが、僕はオリジナルで通します。
 苦手な方、ブラウザバックお願いします。


 誰か、代わってくれ。

 

 「幽・・・・・・どうして顔反らすの? こっち、向いて・・・・・・向けぇ・・・・・・!!」

 

 はい、左手側をご覧ください。女の子がしちゃあいけない目と顔をしている弥勒龍華ちゃんです。

 キスしようとぐいぐい顔を近づけて迫るので逃げております。

 さあ、今度は右手側をご覧ください。

 

 「弥勒ちゃん。ここは、先輩に任せてよ」

 

 得意げな顔をして、僕のほっぺを両手で挟んで顔を強制的に龍華の方へと僕の顔を向かせようと躍起になっている赤嶺友奈ちゃんです。

 

 ・・・・・・はは、ボクの恐れていた事態が発生してしまった。

 とうとう、龍華がこの神樹の作った世界の中へと来てしまった。

 ・・・・・・助けてくれ。助けなんて来ないのは知ってはいるが助けてくれ。女の子特有の良い匂いがするやら柔らかいやらで理性を押さえるので必死だ。

 何より、キスをしようと躍起になっているから尚更危険だ。

 龍華はキス魔だ。そして、一回やったら深い方のキスもやってきて、最終的に押し倒される。

 そしてその後は既成事実を写真でパシャリ・・・・・・

 

 いやだぁああああああ!ボクはまだ、独り身でいたいッ、というか、まだボク等は中二だぞ!?

 

 二人共仲が良すぎて二人で協力ボクの逃げ道をガンガン塞いでくるから、本気で逃げないとッ!

 

 「幽くん、そんなにこっちが良いの・・・・・・? じゃあ、先に私から、しちゃうね・・・・・・?」

 「友奈・・・・・・後で、私にも・・・・・・!」

 「わかってるよー。好きなだけしちゃえー」

 

 いや、別に二人とそういう事をするという事が嫌な訳じゃあ断じてない。

 だが、しかし。しかし、だ。

 

 「三人で幸せなキス・・・・・・結婚、子供、幸せな家庭・・・・・・」

 「うんうん、作れるよ。だからまずは、幽くんの逃げ道を塞いじゃおう?」

 「うん・・・・・・頑張って、外堀・・・・・・埋める・・・・・・!」

 

 別に、外堀をガツガツ埋められた所で、ちょっとどころかかなり身の危険を感じるが、それでも愛されてるなーボク、と思う。

 だが、しかし。しかし、だ。

 

 「手錠、目隠し・・・・・・あと、催眠音声? プレーヤー何処だっけ・・・・・・」

 「うーん、そこは私達の肉声で耳攻めの方が効くかなぁ?」

 

 ここまでくると流石に自分の命の危険を感じるってモノだろう!?ボクは廃人にはなりたくないぞ!?

 このヒト達は、ボクを堕落させて、廃人に堕とそうとしてくるから、ボクは本気で逃げているのだ。・・・・・・いや、愛されてるのは嬉しいけれど、出来れば普通に愛して欲しい・・・・・・造反神とやらに祈ったらこの二人はそうしてくれるだろうか?

 

 「逃げようと思わないでね? 幽くん・・・・・・」

 「・・・・・・好き、大好き・・・・・・」

 

 アレ、気がつけば、ボクの両腕が二人の片腕と手錠でガッチリ繋がっているぞ?い、いつの間にやったんだ友奈!?

 そして耳元で龍華はナニを呟いて・・・・・・て、やめ、舐めるのは!?ボクは耳が弱ーーーーッ

 

 「ひゃぁッ」

 「幽くんの弱い所はっけーん。お耳、弱いんだぁ?」

 「ぺろ・・・・・・ぺろ・・・・・・気持ち、良い?」

 

 ふわとろな甘い音声と巧みな舌使いで溶かされるッ。耐えろ、耐えるんだボクの海綿体ッ!

 

 み、耳が溶けるぅ・・・・・・

 

 [二時間後]

 

 「・・・・・・ごちそうさま」

 「あー、幽くん。腰砕けちゃった?」

 

 はは、やったぞ。ボクの理性の勝利だ。ボクは、本能に打ち勝ったのだ。

 多少、危なかったが。でも、腰砕けになる程度で済んだ。

 

 「じゃあ、もう一回行ってみようか?」

 「うん・・・・・・今度は、本気で堕とす・・・・・・!」

 

 え、も、もう一回だって!?ま、待つんだ二人ともボクの腰が砕けて上手く動けないのを良いことに両側から絡みつかないで、耳元で甘い声出さないでぇーーーー!

 や、やばい。そろそろボクのウーツ鋼クラスの理性が溶ける。

 た、耐えないと、

 

 「あ、もし私達の攻めで理性がバーンってなっちゃったら、私と弥勒ちゃんのサンドイッチ」

 「・・・・・・食べちゃっても、良いよ・・・・・・?

 ・・・・・・両手私達に繋がれた状態で、出来るなら・・・・・・」

 

 うん、もう限界。

 

 「うわぁ!?」

 「・・・・・・!?」

 

 うん、手錠で二人と繋がっているから、逃がす事も無い。

 このまま、お望み通り美味しく戴いてあげるよ・・・・・・!

 

 「ァは、目ぇ怖ーい・・・・・・ほら、そんなにがっつかなくても私達は逃げないよー?」

 「・・・・・・好きに、食べて?」

 

 その日、これ以降ナニがあったのかボクはあまり覚えていない。

 

 *

 

 「赤嶺・・・・・・写真、撮った?」

 「うん、既成事実、準備オッケー。後は、これを盾にゆするだけだね」

 「・・・・・・赤ちゃん、出来たかな・・・・・・?」

 「それはこの世界の外で、ゆっくり溶け合いながら作ろうよ」

 「・・・・・・うんっ! いっぱい、作る!」




 後で写真見せられて泡食った幽君がいたとかいなかったとか。


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超ッ、番外編ッッ!:気苦労は、絶えない

 メブー達はおりません。キャラが掴めておりません故。
 ・・・・・・申し訳ありません。

 あ、あと、これは遅いバレンタインデーのお話です。はい。


 「「つーわけでリア充殲滅しようぜ♪」」

 「いやどういう訳だ!?」

 

 兄貴二人に対して突っ込む番長。いやはや、この世界に来てから何気にツッコミがどこぞの部長殿よりも上がっていたりする。素で常識人が少ないこの世界のメンツにとって、番長のような人材は素晴らしい存在だと言えるだろう。

 

 「いやぁ、だってバレンタインデーだろう?」

 「リア充殲滅するだろう?」

 「「なー♪」」

 

 「お、おうそうか、わっしー!

 

 手に負えない。

 番長は、対兄貴専用特攻兵器を召喚した。

 

*1

 

 とは言え、バレンタインデー。

 全国の健全な日本男子諸君が最もソワソワする悪魔の日である。

 実際は、好きな女の子に男の子が真心込めたチョコレートを渡すのがバレンタインデーなのだが・・・・・・女の子から男の子へ、は日本だけなのである。

 

 さて。

 このバレンタインデー。当然、滅びかかったこの神世紀三○○年代でも残っており。

 

 今でも、チョコレートを女の子が男の子に渡すイベントとして、全思春期少年少女の心を大いに狂わせるものであった。

 

 「ァは、これで、真央の心はアタシだけのーーーー」

 「わっしー! 捕獲!」

 「そのっち有り難う。ぎーんー? 怪しいピンク色の液体を贈り物に混ぜるのは流石に無視出来ないわ。せめて、チョコレート製の手錠にしなさい」

 「お、おおう・・・・・・リトルわっしーも過激なんよ~・・・・・・

 ・・・・・・    (メモメモ)

 

 「ちっさいアタシ、あんなんだったのか・・・・・・」

 「そう? 変わらないと思うけれど。はい、その怪しい液体没収ね? 変わりにこれにしなさい?」

 「・・・・・・須美助も大概だと思うけどな・・・・・・無味無臭のマムシとか何処で手に入れたんだ・・・・・・?」

 

 「頑張って落とそうね!」

 「そうだね! 今回は赤嶺ちゃんもいるし!」

 「男の子を落とす為の協力は惜しまないよ。今回は敵味方関係無し、って事で」

 「私も・・・・・・いるよ? 頑張る。ペロペロ」

 「忘れてないよ。弥勒ちゃん。そして、つまみ食いは止めようね~?」

 

 「例えどんな手を使っても鬼十郎君を・・・・・・!」

 「夏凜、風、手を貸してくれ・・・・・・! 雪花が荒ぶった!」

 「うぎぎ・・・・・・二人掛かりで取り押さえてこれって、どんだけ執念深いのよ!?」

 「ちょ、ちょーっと樹! これ混ぜてて!

 良い!? 混ぜるだけだからね!? 私ちょっとあの危険人物を止めてくる!」

 「お、おねぇちゃんいきなりヘラ渡されても・・・・・・ええと、混ぜるだけ、だよね。ええい!」

 ボン♪

 

 「以外だわ。貴方もチョコレートを作るなんて。正直こんなイベントには興味が無いと思ってた」

 「それは私もだ、千景。・・・・・・ああ、そこ焦げてるぞ」

 「お菓子作りも得意だということが一番以外だったけれど」

 「私が修業を付けましたから♪」E.カメラ

 

 「抹茶を栽培した甲斐があったわ」

 「喜んでくれると良いね、うたのん」

 「ええ、そして、チョコレートを食べた後に・・・・・・」

 「私達も・・・・・・!!」

 ぽわぽわ

 

 「たまっち先輩、何作ってるんですか・・・・・・?」

 「人肌に当てても溶けないチョコレートだぞ? これで、アイツに・・・・・・」

 「(ちょっと過激な恋愛小説を貸したことを後悔している図)」

 

 「おねーちゃんたちがチョコだから、わたしたちは、クッキー!」

 「・・・・・・喜ぶ、かな」

 「おいしそう・・・・・・」

 

 ・・・・・・少々、おかしいメンバーもいるが。健全なチョコレート作りの風景である。

 例え、貰った男の子がどうなろうと、健全、なのである。

 

*2

 

 た、助けてくれぇ!

 そう声が響いてきた、何時もの空き教室。

 

 この世界に来て随分立つ男の子達にとっては何時もの叫び声だが、今日・・・・・・バレンタインデーでは、少々、いや、かなり特殊であった。

 

 どたどたどた、ばたんッ!

 「た、助けてくれッ!」

 「「リア充発見、殲滅開始ィ!」」

 「やめんか気狂い共が」

 

 たま~に、ほんっとうにたま~にしか来ないレアキャラ、幽君が駆け込んで来たのである。

 番長が両腕で兄貴二人をむんずと引っつかみ、窓の空いている部室の方へと放り投げると、幽を暖かく出迎え、扉を閉め、窓を閉め、鍵をかけた。

 無論、盗聴盗撮その他諸々確認済み。我等が番長はぬかり無いのである。

 

 「で、何があった幽。少なくとも尋常じゃない事が起こったように見受けるが」

 「匿ってくれ何処でも良い。僕が喰われる。物理的に!」

 「・・・・・・一応解った」

 

 幽の首根っこを掴み、ロッカーへと突っ込んで鍵を閉めた番長。

 そして、それと同時に。

 

 ドバァンッ!

 「幽君いるー?」

 「・・・・・・幽、いる?」

 

 鍵をかけていたドアが文字通り消し飛んだ(・・・・・)

 犯人は、赤嶺と弥勒。

 二人とも、青筋を浮かべてそれぞれの武具を持ち出している。

 

 「おう、お二人さん。そんなにお冠でどうした?」

 「いや、ね。幽君がね?」

 「チョコ、受け取ってくれないから・・・・・・」

 

 いや、そりゃあそーだ、と思う番長。

 全身にチョコ塗りたくったエセ全身タイツの少女に迫られたら逃げるだろ、と。

 

 「わりぃ、ほか当たってくれ。少なくとも俺は知らん」

 「本当? 嘘じゃないよね?」

 「見つけたら首根っこ捕まえてお前らの前に投げてやるよ」

 「・・・・・・あり、がと。じゃあね?」

 

 どうにか、あしらう番長。

 流石、ヤンデレ被害者その一は伊達じゃあ無い。

 

 「有り難う。番長君」

 「良い。俺が勝手にやっただけだ」

 「じゃあ、僕は移動するよ。何時までもここにいればいずれ見つかってしまうからね」

 「おう、頑張れよ」

 

 窓から飛び出る幽を見送り、番長はほう、と一息つく。

 番長は、ここでは比較的常識人だ。

 だからこそ、心の苦労が多い。

 

 「お疲れ様、鬼十郎君」

 「おお」

 「はいこれ、チョコレートとココア」

 「有り難う雪花・・・・・・・・・!?」

 

 「何時からそこに!?」

 「何時も、きみの後ろにいるよ?」

 

 気苦労は、絶えないのだ。




 開幕怪文書。


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超*番外編!!:ホワイトデーを忘れた、とある少年

 バレンタインデー後のちょっとしたネタ的な感じの扱いの秘話です。
 なので短いです。


*1

 

 さて。

 バレンタインデーから丁度一ヶ月。

 

 そう、ホワイトデーである。

 男から女の子にお返しのチョコレートを送る日。

 

 それが、今日である。

 

 そう、今日なのだ。

 

 あの、幽君真っ茶色事件、及び体育館裏チョコレート大爆発事件から後も荒れに荒れ、狂いに狂ったバレンタインデー。

 

 今日という日が勿論、荒れず、狂わない訳がなく・・・・・・

 

 

 

*2

 

 一例を見てみよう。

 

 スポットライトが、一人の女の・・・・・・げふんげふん、男の子を照らす。

 

 釘宮天地。

 年齢は十四歳。肩下まで伸びた艶やかな黒髪、クリッとした大きな目、真っ白い肌、可愛らしい童顔、胸以外の出るところは出、引っ込む所は引っ込んでいるスタイルと、女の子が羨むような容姿を持った男の子である。

 

 「ナレーション後で表出ろ」

 

 現在、勇者五人、そして巫女一人をたらし込み、毎晩隅々まで頂かれている。

 

 「言い方ァ! つーか離せ! 俺はなんで椅子に鉄鎖で括りつけられてるんだよ!? そして、此処はどこだぁああああああああああ!!」

 

 さて。この釘宮天地君。

 今日という日をスッカリ忘れ、板チョコレートの準備さえもしなかった大罪人だ。

 

 「そ、それは・・・・・・そのぉ・・・・・・つか、さっきの質問に答えろぉ!」

 

 だまらっしゃい。

 本当に、バレンタインデーには六種類様々な甘いものを貰ったというのに、とても嘆かわしい限りである。

 

 「甘いもの? はっはっはっ、ありゃ重いものの間違いだろ」

 

 バレンタインデーに貰ったものはちゃんとお返しを用意しなくちゃあならない。常識だ。

 という訳で、コイツには今からホワイトデーのお返しとしてお返しになってもらうとする。

 

 「はぁ、俺がお返し・・・・・・は?」

 

 黒服の皆様、やっておしまいなさい。

 

 「いや、オイ、待て何処に手ぇかけてんだオイ、待って待って待って待って待って待って待って待ってぇえええええええ!」

 

 済みましたか?黒服の皆さん、お疲れ様です。

 では、ご覧いただこう。

 手にはハート型のチョコレートを持ち、身体を腕で隠すように抱えながら涙目でプルプルと震える、下着姿に全身リボングルグル巻きの男の娘の完成だっ!

 

 「ぜってーナレーション潰す、ぜってー潰す」

 

 では、此処にあの六人を投入してみるとしよう。

 

 「あれ? 何処だろうここ?」

 「剣道場に先程までいたのだが・・・・・・」

 「神樹様が何かしたのかしら」

 「神託が来ていないのでその線は薄いかと・・・・・・」

 「た、たまっち先輩、あそこ・・・・・・」

 「へ? 何鼻息荒くしてるんだ? あんず・・・・・・!?」

 

 気がついたようだ。

 皆、エサを前にした獣のような目をしている。

 

 ああ、皆。我慢出来ないならその先に大きなベッドがあるお部屋があるからそこで・・・・・・

 

 「あ、ちょ、やめて若葉!? お姫様抱っことか恥ずかしいっ、ちょ、耳を舐めるな杏! 友奈、助けーーーーダメだ! 理性が飛んでやがるっ。ちょ、ナレーター、テメェ絶対に許さねぇ・・・・・・!」

 

 悲鳴と嬌声が入り混じった声が、扉の奥から聞こえた。

 さて、馬に蹴られる前に退散するかね。

 

 

 

*3

 

 「あいつ、ホワイトデーのお返し忘れたってさ」

 『オイオイオイ、あいつ死んだわ』




幽君真っ茶色事件、及び体育館裏チョコレート大爆発事件については気にしないで下さい。


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本編/西暦/プロローグのような余興
1:龍星


 夜空を見上げたら、星が降っていた。
 キラキラと赤く光り輝く、幾筋もの光の尾を見て、私は両手を合わせてお願い事をした。

 もし、出来るなら、化け物がいない、平和な世界に戻って欲しい。
 平和な世界になってほしいーーーーーーと。



 星が降る。

 

 その流星は見事な放物線を描き、私達に襲いかかっていた化け物・・・・・・バーテックスを吹き飛ばすだけでは飽きたらず、周囲に存在する全てのものも纏めて消し飛ばした。

 

 「来いよ、化け物共」

 

 万を超える数のバーテックスを相手に、威風堂々とした様子で言い放ったその姿は勇者ではなく、まるで、『魔王』、若しくは・・・・・・全てを破壊する、化け物のそれだった。

 

 *

 異世界転移、という言葉をご存知だろうか?

 別世界になんらかの理由で拉致られる、というアレである。

 

 ・・・・・・それを、今正に経験した奴がここに一人。

 はい。俺、草薙竜介は、今しがたその転移とやらを体験した。それも、ライトノベルで引っ張りだこな、『神様が~』のそれである。

 神様に無理矢理別世界に連れて来られ、力を押し付けられ、転移させられた。

 

 ・・・・・・そう。『させられた』のだ。

 神様の勝手なご都合で呼び出されたのだ。

 

 神様が、『何か人間滅びそうだから力貸して。あ、ちゃんと戦えるようにお前の記憶の中にある戦いに使えそうな力をお前にくれてやるから。ま、頑張れ!(意訳)』と、俺にバーっと言ってまだ理解がまだ進んでない俺を別世界に拉致ったのだ。マジでふざけるな。

 神は殺す!異論反論は認めない!!

 

 ・・・・・・まあ、神に対する殺意は置いといて、ここ何処よ。

 

 転移させられた俺の目に映るのは、最早、終末世界と言って差し支えないボロボロの街だった。

 道路のアスファルトはめくり上がり、ビルや家はボロボロ、蔦が無数に絡み付いている。

 

 「人類史マジで終わりかけてヤベーやつじゃねぇか」

 

 神の言った事は、誇張でもなんでもなく、マジでヤバい終末のお知らせだった、って訳か。

 うわぁ、詰んでんなぁ・・・・・・。どうするのこれ。

 というかまず、俺どんな力を持っているのかも把握してねぇのに・・・・・・。

 

 しかも化け物もいるし・・・・・・ってんん!?

 

 化け物ぉ!?

 

 見れば、真っ白い餅に口をはっつけた感じのきしょい化け物が、俺に向かってウヨウヨと集まってきていた。

 そして、何体か俺に襲い掛かってくる。それを避けつつ、この状況をどうするか考える。

 ・・・・・・ええ、本当にどうすんのこれぇ。

 

 とりあえず。

 

 「に、逃げるだぁー!」

 

 俺は回れ右して一目散に駆け出した。

 逃げるが勝ち。三十六計なんたらかんたら。

 さあ、リアル鬼(化け物)ごっこ、開始ってかオイ。

 

 *

 

 [十分後]

 

 詰んだ。

 四方を化け物の群れで囲まれて、今にも絶対絶命。

 というか、積むの早くねぇ!?もうちょっと頑張れよ俺!?

 

 化け物は、俺に向かって口をあんぐりと開けて迫ってくる。

 ・・・・・・流石に、食い殺されるのは嫌だなぁ。

 

 「く、『来るんじゃねぇええええええええええ』!」

 

 俺が苦し紛れに放った砲声。

 だが、この、親から拡声器とも称されたこの砲声が、この状況を変えた。

 

 化け物が一斉に止まり、逆にジリジリと後退し出した。

 まるで、何かに恐怖して、生存本能が働いたかのように。

 

 どういう事だ?と、考えていたら、俺自身から放たれる圧倒的なプレッシャーを感じた。

 

 「え、何これ。俺、特性:プレッシャーでも持ってんの?」

 

 自分から放たれるものに困惑し、驚いていると、一匹の化け物が俺に向かって急接近してきた。

 突然の突撃に、ヤバい。と思ったが、次の瞬間。

 

 ザクンッ・・・・・・!!

 

 『無造作に俺の目の前に持ってきた左腕』から出現した『煌々と光り輝く緑色の鍵爪』が、『化け物の体を真っ二つに引き裂いた』。

 

 「ファッ!?」

 

 イキナリの出来事に、更に驚いた。

 煌々と緑色のオーラを発しながら光り輝く鍵爪を見る。

 その鍵爪は、半透明に透き通っていて、六角形の鱗のような紋様が浮かんでおり、まるで爬虫類のような印象を受けた。

 

 「これが『戦うための力』って奴か・・・・・・?」

 

 神の言っていた『戦う為の力』。恐らくこれがそうなのだろう。

 ・・・・・・ならば、今目の前にいる化け物を蹴散らすくらい出来るだろう。

 

 よろしい。ならば戦争だ(テノヒラクルー)。

 

 意識すると、右腕にも同じものが出せた。

 そのまま、化け物の群れに突貫する。

 

 化け物を引き裂き、えぐり、時に潰して、蹂躙した。

 そういえば、心なしか身体能力も上がっているようにも感じる。

 

 「ックク・・・・・・ハハハッ・・・・・・さあ、もっとだ!もっと抗え!」

 

 何かイケナイ扉を開いた気がするが、気にせず化け物を切り刻み続ける。

 最早化け物は後退し始め、逃げる奴らもいる。

 だが。

 

 無意識の内に、俺の口から放った咆哮。

 それが、龍の姿を形取り、逃げる敵に向かって突撃した。

 

 着弾した瞬間に、チュドーンッ!という音を立てて、ボロボロな街の一角が丸っと消し飛んだ。

 そして、今、俺が口から龍の形の咆哮を放った時に、うっすらと浮かんだイメージ。

 それは、あるゲームに出てくる、技の名前と、タイプと、その効果。

 

 「なるほどね・・・・・・」

 

 それで、大体察した。

 確かに、これなら化け物を蹂躙出来る。余裕だわ。

 

 「ポケモンの、それもドラゴンタイプの技か・・・・・そして、さっきの事から特性:プレッシャーかいかくのどっちかもプラス・・・・・・身体能力も化け物レベル・・・・・・チートじゃねぇかオイ」

 

 それにしても、先ほどの技、『りゅうのいかり』はそんなに威力が高い訳でもないんだが・・・・・・まさか街の一角が消えるとは。

 物理技でどうにかした方が良いなこれ。

 

 「はてさて、何の力を持っているのか判明した所で、続きと行こうか!」

 

 テンションアゲアゲ、中二なスピリット全開で、俺は尻込みする化け物共にそう言い放った。

 

 *

 

 「あー、疲れた」

 

 化け物を倒す為に、『りゅうのまい』からの『ドラゴンクロー』でめっちゃ暴れまくった結果、ボロボロだったのが更にボロボロになってしまって、最早瓦礫と化した街。

 その一角で、ボロボロのビルの屋上に寝転んで、スッカリ真っ暗になった空を見上げる。

 

 文明の光がないからか、やけに空の星が明るく見えた。

 

 *

 

 目が覚めると、目の前に真っ白いグミに口だけをはっつけた化け物の顔があった。

 もう触れるか触れないか、という距離だ。

 

 「オ、オハヨーゴザイマス」

 

 いかん。同様し過ぎて思わず片言になってしまった。

 はぁ、朝から口をあんぐりと開けた化け物の顔を見ることになると・・・・・・

 

 ・・・・・・というか化け物ぉぉおおおおおおおおおおおお!?

 挨拶してる場合じゃねぇ!?

 

 「『りゅうのいかり』いいいいいいい!」

 

 目の前の化け物を龍の形をしたエネルギーがぶっ飛ばし、そのまま天に上っていった。

 

 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・あ、朝からまるかじりされるところだった!」

 

 思わず戦慄してしまった。

 寝起きドッキリってレベルじゃねーぞ!

 はぁ、朝から無駄に疲れた。死ぬかと思ったぜ畜生。

 

 それにしても、一体どうして俺は姿が丸見えなビルの屋上で寝ようと思ったのだろうか。

 頭が狂ってたのか?普通化け物がいるこの世界で、姿丸だしの状態で寝る馬鹿がいるだろうか(自分です)?

 

 さっさと起き上がり、周囲を見れば・・・・・・化け物パラダイスとは正にこのこと。先ほどの『りゅうのいかり』の音を聞き付けてやって来たのか、周囲を全て化け物で囲まれていた。

 真っ白いグミに口だけをはっつけた感じの奴だけでなく、何か流線型の奴、真っ黒い盾みたいな奴、トゲトゲが付いた奴、天を突くほどのでかさの山みたいな奴と、種類、大きさ様々なより取り見取りバーゲンセール。

 今ならお得なパックセット一人様一個までってかオイ。

 

 「八方塞がりってか畜生・・・・・・」

 

 状況だけを見れば、確実にピンチだ。

 こちらは一人、それに対してあちらはもう数えるのも面倒臭い。

 

 正直絶対絶命なこの状況で、俺は気がつけばニヤリと笑っていた。

 

 「さあ、来いよ化け物共。まるかじりしようとした八つ当たりも含めてタップリとお世話してやる」

 

 この世界に来てから多少テンションがおかしくなる時があるな。俺の内に眠る中二(リアル)心が疼いたのか?

 

 *

 

 使える技は、『りゅうのまい』、そして『ドラゴンクロー』、『ドラゴンテール』等の物理技と、あとは雑魚い特殊技のみという縛りで化け物を蹂躙する。

 正直、特殊技の、威力が八十を超えるような技をぶっ放そうとは思わない。というか思いたくない。

 『りゅうのいかり』でボロボロな街の一角が丸っと消し飛んだ。

 ならば、『りゅうのはどう』、ましてや『ときのほうこう』、『コアパニッシャー』などを使った日にはどうなるか想像がつかない。

 ましてや時の咆哮(誤字に非ず)なんかをぶっ放そうものならこの世界の時間を歪めて日が一時間くらい長くなってもおかしくない。

 だから、よっぽどの事がないかぎり使わない事にした。別に使わなくても、今俺が相手をしている化け物くらいは倒せるし。

 

 「おら、よっと。ほぉーらぁー、どんどん行くぞオラァ!」

 

 ケンカキックで化け物を纏めてぶっ飛ばす。だが、派手に吹き飛んだだけであまりダメージを受けたようには見えなかった。

 やっぱり、威力が低くても技を使わないと、例え『りゅうのまい』をガンガン積んだ状態でも、普通のパンチやキックじゃあ化け物は倒せない。

 そのことを感じつつ、『ドラゴンテール』で後ろから近寄ってきた化け物を纏めてなぎ払う。

 

 それにしても、昨日の夕方から思いはじめた事だが、技のPPはどうなっているのだろうか。

 いくら使っても、全く使えなくなる気配がない。

 ・・・・・・薄々思っていたが、もしかしてPP無限だったりするのだろうか。

 

 もう何十回目かわからない『りゅうのまい』を積みながらそう考える。

 積み技にしてもそうだ。

 全然強化の上限が見えない。使えば使う程強化される。

 ・・・・・・まあ、そのかわり技を使っている数秒の間無防備になるという弱点もあるが。

 

 だが、別に良い。PP無限とか、積み技の強化上限が底無しとかそういうのは別にあって困るものじゃあない。というか、こちとら技のバリエーションが以外と少ないドラゴンタイプの技しか使えないのだ(他のタイプの技を使おうとしたが、やはり無理だった)。

 だから、このくらいのチートはあっても良いと思う。

 

 そんな感じで思考に意識を幾らか割いていたら、気がつけばぶっ飛ばされていた。

 ビルにおもいっきりたたき付けられて、肺の空気が強制的に排出される。

 

 「うお・・・・・・!?・・・・・・ガァッ!?」

 

 崩れ落ちながら視線を前に向けると、そこには悠然と佇む天秤のような形の化け物がいた。どうやら、あの先っぽに付いている重りのようなものに吹き飛ばされたらしい。

 

 そして、自分が攻撃が強いが、耐久性が紙な事に驚いた。

 

 「ああ、畜生が。どうやら俺のステータスは火力に一点特化な感じらしいな」

 

 ポケモンで表現するならば、攻撃と特攻が馬鹿みたいに高い。が、素早さは、今は『りゅうのまい』で上がっているが、強化する前はそこまでだったし、防御は今吹っ飛ばされた時のダメージからさほど期待出来ない事が解った。特防も恐らく防御と同じ。

 体力なんて、昨日から戦ってて解ったが転移して力貰う前とほぼ同じときた。

 

 砲台かよ俺は。若しくは燃費が悪いけれど火力が頭打ちな馬鹿力戦艦。

 

 つまり、だ。俺が化け物と戦うには、攻撃を食らわないように、超遠距離から特殊技をぶつけるか、『りゅうのまい』で攻撃と素早さを上げて物理技によるヒット&アウェーを繰り返すしかない。

 うん、これ、下手に敵の攻撃とかを防御したら死ぬな。

 

 初めての死の気配に、ブルリと震え・・・・・・なかった。

 落ち着いていた。

 ・・・・・・力を貰った影響だろうか?かなり死に対する恐怖感が減っている。

 生物としてどうかと思うが、今はかなり好都合。死の恐怖に震えて戦えなくなるよりかは遥かにマシだ。

 

 「やってくれるじゃねぇの天秤野郎。・・・・・・さあ、来いよ」

 

 第二ラウンド開始ってな。

 特性なのだろうプレッシャー、若しくはいかくのようなものを周囲に発しつつ、俺はいつの間にか数が増えた天秤野郎を睨みつけた。

 

 *

 

 『りゅうのまい』で上がった素早さを活用し、九体に増えた天秤野郎の回転攻撃を避ける。

 回転の中心が弱そうなのだが、近寄ろうとすると他の化け物に邪魔をされる。

 ・・・・・・高速回転しまくって周囲の空間にかまいたちが発生してんな。ありゃむやみに近づけば体が一瞬でミキサーにかけられたみたいに木っ端微塵にされて人肉ジュースになっちまう。

 今も、回転に巻き込まれた木っ端が、塵になっていった。

 あの凶悪な回転をどうにかしなくては。

 

 そう思いつつ、遠くから『りゅうのいかり』を発動するが、弾かれて消えた。

 マズイ。あいつら防御が硬い。というか、回転で受け流される感じで弾かれた?

 

 ・・・・・・まあ、それもそうか。

 俺が馬鹿の一つ覚えのように積んでいる『りゅうのまい』は、攻撃と素早さを上げる変化技だ。

 つまり、特攻は上がらない。

 そして、俺が先ほど使った『りゅうのいかり』は特殊技。つまり、特攻の高さがダメージを左右する技だ。いくら火力がエグイとは言え、そんなろくすっぽ積み技を積んでもいない元の威力もくそ雑魚ナメクジの特殊技で力押しを計ったところで、弾かれるのは当然と言える。

 

 だからと言って考え無しに物理技で突っ込めば、確実に体がミキサーにかけられてしまうし、俺があの化け物をやらないと、いずれ回転に巻き込まれて死ぬ。紙防御で紙耐久の俺だ。あの回転に巻き込まれた瞬間に詰むだろう。

 だが、倒そうにも生半可な技では最早音速を超えてソニックブームを起こしているあの回転で弾かれる。

 ならばどうするか。

 

 特攻なんて関係ないくらいの技の威力と効果で押し切れば良い。

 ここはゲームの世界ではなく、現実だ。ならば、あの技であれば、いくら積んで強化してない特攻から放たれたとしても、余裕であれらを切り裂けるだろう。

 

 効果から鑑みて、少々被害そのほかを考えると恐ろしくて使えない技だが、そんな事を言っていられない。

 やらないと俺が死ぬ。ならば、やるしかない。

 

 まだ回転に巻き込まれておらず、まだ無事な方のビルの屋上に立つ。

 ここからならば、天秤野郎共全部が良く見える。

 そして、体を半身に反らし、右腕を引いて、左腕を前に出す。

 そして、ぐっと気合いを込めれば、次の瞬間、右肩と右肘から先の方に、紫色のエネルギーが渦を描きながら溜まっていく。

 天秤野郎共が、俺がエネルギーを溜めている事に気がついて、俺に向かって回転しながら迫ってくる。

 壮観だな。超巨大な台風が九つ。

 そんな災害が今俺の目の前にあり、俺を飲み込まんとする。

 

 だが、もう遅いぜ。天秤野郎共。

 

 俺の右腕に集中するエネルギーは一際大きくなり、紫の極光が一瞬辺り周辺を包んだかと思えば、次の瞬間ーーーーーー

 

 「・・・・・・『あくうせつだん』ッッッ!」

 

 緩やかなカーブを描く紫色の刃が、俺の眼前の全てを切り刻んだ。

 ・・・・・・勿論それは、高速回転していた天秤野郎共も例外じゃない。

 

 気がつけば、俺の立っているボロボロのビル以外の建造物は無惨に切り刻まれて、周囲は瓦礫だらけの更地になっていた。




 前作を見ている方は、お久しぶりです。
 今作が初めての方は、はじめまして。

 たけゆうと申します。

 前作の番外編として載せていたものですが、その番外編がものすごく長くなって、番外編という規模ではなくなってしまったので、このように、大幅にリメイクをして、一つの作品として載せました。

 次の話も、また、読んでいただけると幸いです。

追記ーー加筆、修正しました。
2019/10/28


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2:星降る下の出会い

 その後ろ姿は、確かに魔王と言う他に有り得なかった。

 

 空から流星を降らせ、周囲一帯をバーテックスごと壊滅させるなんて事をやるような存在を表す言葉に、魔王以外の台詞は合いそうにない。

 

 「やぁ、お嬢さん達。大丈夫かい?」

 

 でも、先ほどの有様とは違い、腹が立つくらいその笑顔は無邪気で。

 

 「ええ。私達は貴方のお陰でノープロブレムよ」

 

 まあ、危険な人物ではないのだろう。

 

 *

 

 草薙竜介は、限界を感じていた。

 彼とて、一人の生物。動くにはそれ相応のエネルギーが必要だ。

 

 そして、そのエネルギーは今、彼から尽きようとしていた。

 

 つまりは、

 

 「お腹へった」

 

 空腹である。

 この世界に飛ばされ、早三日。何も食べず、雨水しか飲まず。

 風呂に入れず、気がつけば瓦礫の町で暮らす浮浪児の出来上がり。

 

 「お腹、へった」

 

 恐ろしく感じるほど、彼の目は今、死んでいた。

 竜介を襲った怪物が、今の彼に向かっていこうものならば「オレサマ、オマエ、マルカジリィー!!」と盛大にキャラ崩壊を起こす事だろう。

 最早理性もへったくれもない。それほどまでに、今の竜介は追い詰められ、ただ、食欲のみで動いていた。

 

 ・・・・・・だから、であろうか?

 彼がこの後、人間とは思えない行動でご飯にありつけたのは?

 

 それは、もうしばらく歩いて、瓦礫の町から元は田畑が広がっていたのだろう場所へと景色が移り変わった頃であった。

 

 ・・・・・・ピクリ、と鼻が動いた。勿論、竜介の鼻だ。

 辺りをスンスン、と嗅ぎ回り、ピーン!と目を見開き、輝かせる。

 

 「これは・・・・・・お蕎麦の匂いッッッ!!」

 

 犬か何かなのだろうか。

 とにもかくにも、目をしいたけにして田舎道を駆け抜ける竜介。

 ステテテテ、と前傾姿勢で駆け抜けていく様は、狼を彷彿とさせる。実際にはドラゴンタイプであるが。

 

 早くご飯にありつきたい一心で、竜介は『りゅうのまい』を発動させながら走る、走る、走るっ!

 

 そうして、匂いの元に辿り着いた、その時であった。

 

 目の前に怪物がいた。オマエ、マルカジリ、と言ったように大口をあんぐりと開けて。

 

 「テメェより俺が腹ぺこなんだよこの野郎ッッッ!」

 

 力の限り、『ドラゴンクロー』で引き裂く。

 一匹引き裂き、吠える。そうしたら出るわ出るわ。

 何処に待機していたのかと思える程に、怪物がまるでゴキブリのようにわき出してきた。実際の色は白であるが。

 

 「かかって来い、俺の昼飯前の前菜」

 

 かくして腹ぺこなお子ちゃま十三歳と、怪物の大群との戦いは幕を開ける。

 二人の観客を、前にして。

 

 一人は巫女服、もう一人は・・・・・・黄色い何かの装束か?

 何気にこの世界における第一村人だ。見殺しには出来ない。

 

 後から思えば、俺はこの時、俺以外の人間に会えた事が嬉し過ぎて、阿呆になっていたのだろう。だから、あんなヤベー事をやらかしたのだ。

 周囲に俺と、少女二人以外の人の気配がしないからって、アレはない。

 

 俺は、『りゅうのまい』を積みながら『ドラゴンクロー』で化け物の群れを吹き飛ばしつつ、少女二人の前に出ると、

 

 「さあ、来いよ化け物共。俺を打倒してみせろ!!」

 

 『りゅうせいぐん』。

 

 あ、やべぇ。そう思った時にはもう遅い。

 

 化け物は駆逐され、少女二人も助かった。

 ・・・・・・周囲一帯更地になってしまったが。

 

 ヤバいどうしよう。

 幸い人の気配しなかったから良かったけどぺんぺん草も残ってねぇよここら一帯。

 

 「やぁ、お嬢さん達。大丈夫かい?」

 

 とりあえず安否を確認する。

 二人ともかすり傷以外、怪我という怪我は負っていなかった。

 

 「ええ。私達は貴方のお陰でノープロブレムよ」

 

 おお、今はその笑顔が俺にとっては眩し過ぎる。

 俺は気まずそうに、

 

 「あー、それと、ちょっとこの風景にしちまった事は謝るわ。なんか畑とか草木とかいろいろあったのが全部消えちまった。ほら、あそこの山なんて山頂えぐれてるし」

 

 俺がそう言うと、黄色い装束を着た少女の後ろにいた巫女姿の少女が、

 

 「い、いえ・・・・・・気にしないで下さい・・・・・・。結果的に、諏訪の土地は救われましたし。それに畑は・・・・・・」

 「私がまた耕して、復活させるわ!だから心配ナッシング!」

 

 ヤバい。笑顔が眩しい。本当に。

 

 *

 

 さて、その後。

 俺は、少女二人・・・・・・黄色い装束の方が白鳥歌野、巫女姿の方は藤森水都と名乗った・・・・・・に案内されて、さっき俺が更地にした場所から結構離れた場所にある公民館のような場所にいた。

 

 ・・・・・・いや、マジでここの人達いい人過ぎる。

 まず、俺が白鳥と藤森に連れられて来た時。

 白鳥が擬音と英語だらけの説明をし、次に藤森が簡潔でわかりやすい説明をした後、なんかものすっごい感謝された。

 

 で、俺がこの諏訪に来るまでの事を、ある程度ざっくりと面白おかしく、丸で冒険小説のような具合で説明をすれば、白鳥と藤森には驚かれ、子供の皆様方にはスゲーと言われ、大人の皆様方には「苦労したんだなぁ」とか言われて、何かめっちゃ泣かれた。

 

 で、俺が歳の割に痩せ型で背が低い事がわかった途端、俺は公民館の近くにあった大衆食堂に拉致され、大盛りのざる蕎麦を出された。

 

 「ほら、食べて身長伸ばしな!」

 

 久しぶりのマトモな食事ってところと、その気遣いと優しさに思わず涙が出たね。泣きながら蕎麦を食べたよ。めっちゃ美味かった。

 

 俺が戦った事で畑やら何やらが潰れてしまった事を話したら、救ってくれただけでも有り難いと感謝された。

 

 これは、何らかの形で恩返しでもしないとな。

 

 で、現在。

 俺は、白鳥と藤森と、公民館の会議室で話していた。

 

 「どうしようか」

 

 この諏訪の土地の問題。

 ・・・・・・まず、ここを守っているカミサマの力が、段々と弱っているらしい事。

 でもそれは、先ほど何故か力が回復したらしい。

 何でも、俺の存在がデカいとか。

 

 「貴方からは、神々が宿しているような・・・・・・『神秘』のようなものが常に溢れているんです。だから、神様がその漏れ出た『神秘』を吸収して力をつけたのでは・・・・・・と」

 

 わーお。俺ヤベー。・・・・・・アレか。ドラゴンタイプは伝説クラスが多いからか。それで『神秘』云々が溢れてんのか。

 

 「でも、問題が実はあって・・・・・・」

 「私の勇者スーツがねー」

 

 そう。一番の問題はそれ。

 ここの土地を守る勇者の装束がボロボロで、最早水着みたいな感じになっていたのだ。武具である鞭も、もうちぎれかけていたし。

 回復したカミサマの力でも、そう上手くはいかないらしく、修復には最低でも二週間ちょっとはかかるとか。

 その間、諏訪勇者は出撃が不可能なのである。

 

 「よっしゃ。じゃあ、その間は俺がここを守ろうじゃないか」

 「えっ?」

 

 ここの人達にはこの数時間だけでかなりの恩と借りが出来た。

 それを、少しでも返そう。

 

 「なぁに。ちょっとくらいの数の化け物なら、俺一人でもどうにかなる。

 ・・・・・・それに、ここの人達にはこの少しの時間の間にかなり世話になったしな。

 言わば、ちょっとした恩返しだ」

 「じゃあ、その・・・・・・お願いしても良いですか?」

 

 藤森が、そう申し訳なさそうに言うのを、

 

 「おうよ!任せろ!」

 

 胸をどんと叩いてそう返した。




 主人公の名前が出せなかったです・・・・・・。

 草薙竜介くんです。

 見た目:14歳なのに身長が平均よりも十四センチ短いショタッ子。


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3:自分以外の力持ち

 [早朝]

 

 よい・・・・・・しょぉお!

 

 「ほれ、もっと腰入れんとニィちゃん!」

 「は、はい」

 

 鍬で、俺がこの間更地にしてしまった土地を耕す。

 ここ数日、早起きをしては白鳥や爺さん婆さんと一緒に畑を耕している。

 

 タダ飯食らいをする訳にもいかない、という事で、俺が更地にしてしまった土地を耕して畑に戻す、という作業を手伝う事にしたのだ。

 というか元は俺のせいでこうなったのだ。自分のしでかした事の後始末くらいやらねば。

 

 汗が滴り落ちる。

 やはり、九月も終盤とは言え、まだまだ残暑が残っている。暑い。

 もう少し、もう半月もせずに涼しくなるらしいが。

 

 「よっこい・・・・・しょっとぉ!」

 「おーし、それじゃあ、ちょいと休憩しようか。

 それにしても若いってのは良いねぇ・・・・・・ワシらが大人数でやる広さを一人でやっちまうなんて。ほれ、水とタオル」

 「ああ、どうも。ありがとうございます」

 

 有り難く受け取る。

 まあ、そこは人外スペックの身体能力(ポケモンのステータス)を持っている俺である。

 いくら攻撃と特攻に種族値がぶち抜けていて尚且つ努力値も同じくその二つに極振りしている火力馬鹿だとしても、体力は常人よりもある。

 

 故に、俺が更地にした土地をみんなで三日で全て耕してしまうのも、しょうがない事なのだ。

 ・・・・・・白鳥が広大な畑を見て目を輝かせ、何を育てるか、譫言のように呟いている。

 

 俺が更地にしてしまった土地は半径一キロくらいだった。

 『りゅうせいぐん』を軽く使っただけでこれだ。

 もしも、全力で使おうものなら・・・・・・。

 

 ・・・・・・想像したくないな。あの時使った『あくうせつだん』も、実際は全力を出していないし。

 怖いんだよな~。ドラゴンタイプの技は、強力無比なものが多いが、ヘタすればそれこそ大陸が滅ぶようなものもある。

 

 危険だな。・・・・・・しばらくは威力百以上の技は封印だなこりゃあ。

 

 閑話休題!

 

 それにしても、あの神が言うには、俺の他にもうあと三人。

 転移者が存在しているという説明だった。

 

 一人は、極寒の北方へ。

 一人は、瀬戸内海へ。

 もう一人は南方の海へ。

 

 ・・・・・・海に転移ってそれつまり転移の瞬間にドボンなのだろうか。

 だとすると、海へと転移してしまった俺以外の転移者にはご愁傷様と言いたい気分だ。

 

 他人事? ・・・・・・まぁ、他人事っちゃあ他人事だ。

 だが、同情はしよう。なーむー。

 

 *

 

 ちょうど、その頃。

 南方の海に、一人の少年が落っこちた事を俺はまだ、知らなかった。




 次、炎行きます。


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4:煉獄

 炎タイプです。


 「ハァー・・・・・・」

 

 思わずため息が出る。

 全く、気が滅入る。

 

 俺達の世界の神を名乗る痴呆老人に会ったかと思えば、『別の世界の地球の人類滅びそうだから助けてあげて。あ、力あげるから上手く戦ってね。あと、向こうの世界の人に味方してる神々によろしく(意訳)』と、事情そのほか手短に説明されて、強制的に別世界に転移させられて現在上空数千メートルを落下中なのだ。

 

 あー、そろそろ地面かな俺別世界に転移早々死ぬのかな、なんて思っていたら。

 

 どっぼーん!

 

 地面じゃあなくて海に落ちた。

 

 *

 

 あのボケ神野郎は、『あ、そういえば力の内容伝えるの忘れてたやっベー、君の前に転移させた奴に力の説明何にもしてねーや(意訳)』と、言いながら俺に与えた力の説明をした。

 俺は、その時こう思った。

 

 (死んでねぇよな俺の前に転移させられた奴)

 

 どうにか自分に与えられた力を解明、推理し、使って生き残って欲しいものだ。

 

 そして、あの阿呆曰く、俺にはポケモンの炎タイプの体、そして炎タイプの技全て、PP無限、そして全能力が高めなバランス型のステータスと、特性:ターボブレイズを与えたらしい。

 タイプ相性さえ良ければ神さえも殺せるな。

 

 ・・・・・・それで、だ。それを踏まえて俺は思った。アレ、この状況ヤバくねーか、と。

 

 俺は今現在、海に浸かった状態。

 俺、今現在炎タイプ。

 炎タイプは、水タイプに弱い。

 

 ・・・・・・アレ?

 

 「死ぬじゃん俺」

 

 遠く、地平線の彼方に見えた砂浜に向かい、命懸けで泳いだ。

 

 *

 

 『おにび』で、濡れた服を乾かす。

 幸い近くにあった川で服を全て洗ってから乾かしている。

 

 乾かした服を着て、空を見上げる。

 

 「あっちいなおい」

 

 太陽が中天で輝いている。

 

 ムシムシジメジメとした暑さだ。

 地面が熱せられて陽炎が見える。

 

 今現在夏ってところか。

 とても日差しが強く、暑くて堪らない。

 

 ・・・・・・と、急に太陽が大きな影に覆われて隠れた。

 雲ではない。

 ・・・・・・それは、鯨よりもデカい魚の形をした化け物だった。え、何アレ。もしかしてアレが人類滅びそうな原因って奴か?

 

 空を悠々と泳いでいるそれは、耳をつんざく程の金切り声のような泣き声を上げたかと思えば、おもいっきり潮を噴いた。

 またもや身体がびしょ濡れになる。

 

 「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・・・・良い度胸だ鯨野郎。今すぐにその身体をステーキにして食ってやるぜ畜生がぁあああああああああああああ!!!!

 

 さて。あいつをステーキにするには焼く。つまり、炎でこんがりとジュージューすれば良いわけだ。

 というわけで、まずは小手調べ。

 

 「『はじけるほのお』」

 

 俺の目の前に現れた幾つかの炎のつぶてが、鯨野郎に向けて射出される。

 

 ・・・・・・が。

 

 それは、鯨野郎の表面で弾けて、軽く焦がしただけで終わった。

 ・・・・・・うん、知ってた。まあ、流石にこれであのデカブツ焼けたらそれはもう、ね?うん、ビックリするよ?

 

 それで、次の技を使おうとした瞬間。

 

 「あ、ヤバい」

 

 鯨野郎が、俺の方に向かって来ている。

 さっきの一撃でどうやら俺に気を向けたらしい。

 

 何か意味不明なオーラを発しながら突撃してきている。

 

 「うーん・・・・・・やれるかわかんないけれど・・・・・・」

 

 腰をドシッと落とし、右の拳を構える。

 狙うはそのデカい鯨野郎の鼻っ面。見るからに水タイプの奴に効くかは知らないが、とりあえずやってみるだけやってみよう。

 別にあのノロマな突撃程度、避ける事も余裕で出来るが、迎撃して今現在の俺の『本気じゃない』一撃がどのくらい通用するか確認したいのと、あと、あのデカブツの突撃を避けたら今俺がいる島が沈み、また俺が海に落ちる可能性がある。流石に炎タイプの身体で水の中にまたダイブするのは勘弁願いたい。

 

 拳にある技を局地的に発動させる。元は身体全体に炎を纏わせて突っ込む技だが、それを右の拳という一カ所に集中させる。普通は身体全体に使う火力を拳に集中させて、火力の底上げを狙おうという寸法だ。

 別に『ほのおのパンチ』でも良かったが、それだと威力不足に感じたのだ。

 だんだん右の炎が熱くなっていき、最初は黄色とオレンジの間の色だったのが、青色になり、最終的に白く煌めきだした。

 鯨野郎も、調度良い具合の間合いに入っている。今がチャンスだ。

 

 「こんがりと美味しく焼けるが良いさ。『フレアドライブ』!拳バージョンッッ!」

 

 白く煌めく拳が、鯨野郎の身体を溶解させながらぶち抜いたーーーーーー

 

 

 ーーーーーー・・・・・・ッ!?!?!?!?

 

 *

 

 鯨野郎の腹の中から女の子が出てきた件について。

 

 真っ白い、何かカッコイイ服を着た褐色肌の女の子だ。めっちゃかわいい。

 

 ・・・・・・この娘までこんがりと焼かなくて良かった。途中でこの娘の存在に気がついて、拳を引っ込めて本当に良かった・・・・・・!

 

 左手だけで抱き上げて、デカい樹木の木陰に寝かせる。

 顔立ちからして日本人っぽいな。

 

 お、目を覚ました。

 

 「・・・・・・う、ううん・・・・・・」

 「・・・・・・目、覚めた?」

 

 ・・・・・・うん、これが限界。

 何か俺、挙動不信になってないよな?あー、同じ位の年頃の女の子、いや、まず人間とマトモに話そうと、それも自分から声をかけるなんていつぶりだろうか。

 

 ・・・・・・実は俺、コミュニケーション能力が致命的なまでに欠如しているのである。

 

 「・・・・・・誰?」

 「錦裕也。十五歳」

 

 だから、自己紹介でもこれだ。

 あいも変わらずぶっきらぼう極まりない。

 

 ああ、これ絶対嫌われたわ・・・・・・。

 

 *

 

 尚、これが俺の初めての友達となる古波蔵棗との出会いとなるのだが、正直この時の俺はこの娘とどうすれば円滑にコミュニケーションが取れるか、ということしか考えてなかった為に、当然そんな事など知る由もない。




 コミュ障系少年な錦裕也君。

 同じ歳の女の子と仲良く出来るかな?


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5:聖なる剣

 唐突なる格闘タイプ!


 [近頃巫女全員が見たという神託について/大社のレポートより一部を抜粋]

 

 それは、全てを破壊する龍星群を降らせる龍。

 海を全て蒸発させる煉獄と青い炎の化身。

 聖なる剣の担い手。

 そして、凍える世界の支配者。

 

 外界より来たる戦士達はこの世界に破滅をもたらすか。

 若しくはーーーーーー人類の希望となるのだろうか。

 

 *

 

 「ここどこ・・・・・・?」

 

 気がつけば、終末じみた世界に俺はいた。

 風が吹き抜ける度に、ビルや割れたアスファルトから伸びる雑草がサラサラと揺れる。

 

 部屋でゲームをしていた筈が、気がつけばこんな場所にいた。

 

 いや、マジでここどこだよ。

 

 はぁ、とため息を吐く。

 考えてもしょうがない。頬を引っ張っても、これが現実だと言わんばかりに痛みを訴えるのだ。

 

 どうやら俺は、異世界転移という小説ではありがちな展開を体験してしまったようである。

 

 *

 

 暫くボーッとしていたら、頭の中で変な声が鳴り響き出した。

 何?『この世界の人間を救え』?意味わからん。というかこれやめろ。頭がキンキンする・・・・・・!

 偏頭痛みたいな感じでガンガンと痛む頭を押さえながら変な声を聞いていたら、不意にガツンと殴られるような衝撃と共に頭の中にイロイロと記憶のようなものが入ってきた。

 

 「っう・・・・・・!がぁあああああああああああ!?」

 

 思わず悲鳴のような声を上げる。

 記憶のようなものが無理矢理頭の中に詰め込まれるような感覚と、その後から体の中身をいじくられるような感覚が襲ってきて、最早死んだ方がマシだと思えるような痛みが体中に走る。

 

 余りの痛さに気絶しそうになるが、出来ないくらいのギリギリを保っているようで、気絶して痛みをカットすることも出来ずに、地獄のような時間が過ぎた。

 

 「う・・・・・・あ・・・・・・いっててて・・・・・・大体この世界の情報は察したけどさぁ・・・・・・もうちょいやり方にも工夫とかあんだろ・・・・・・」

 

 脳みそに無理矢理突っ込まれたのは、この世界についてと、ここでやって欲しい事、そして、それをやり遂げる為の力についてと、『もう元の世界に自身が戻れない事』の四つ。

 体が改造された感じがしたのは、力とやらが使えるように体を作り替えられたのだろうと解釈し、今の状況と情報をすり合わせる。

 

 ・・・・・・うん、オーケー。今の俺に死角はない。この世界について、概要は十二分に理解した。

 元の世界に帰れないのは・・・・・・ちょっと残念だな。最後の晩餐くらいはしておきたかった。

 

 まあ、後はこの世界を実際に肌で感じるしか・・・・・・ってうおっ!?

 

 「オイオイ、あれが件の人類滅びそうな原因ってか?」

 

 俺に向かって高速で飛んできた何かを避ければ、それは流線型の体をした化け物だった。

 見た目は無機質だが、間接があるから辛うじて生物に見える。

 原理はわからないが、浮遊しているのが解る。

 

 「なかなかデカいな~。あと、なんかワラワラと違う化け物が寄ってたかって来てるのはちょっとした絶望だよなぁ」

 

 ふと周りを見てみれば、三桁は余裕で超える数の化け物が俺の周囲を取り囲んでいた。

 大小様々な大きさの、沢山の種類の化け物がいる。超お得な化け物のバーゲンセールだな。誰が行くんだそんなの。漏れなく死ぬじゃねぇか。俺なら絶対そんなバーゲンセールいかねぇ。

 軽く絶望だなこれ。

 

 だが、ちょうど良いのでは、とも思う自分がいる。

 ちょうど、今が、俺が手に入れた力を試すところだろう。

 使い方なんかもさっきなだれ込んできた記憶から大体解る。この力ならば、眼前の化け物を殴り飛ばす事も可能だろう。後は、俺の覚悟と気合い、つまり心の問題だ。

 

 怖い、恐ろしい。いざ戦うとなれば、ちょっと尻込みもする。だが、

 

 「やってやろうじゃねぇの」

 

 こういう、戦闘狂な自分もいて、別の意味で怖いとも思う。

 ・・・・・・やはり、我が家特有の血の気の多い性格を俺が濃く受け継いでいるからだろうか。

 

 *

 

 「オラァ!」

 

 ドガァアアアアアアン!

 

 拳を振り下ろしただけとは思えないような轟音が鳴り響く。

 その衝撃波で、周囲にいた化け物は吹き飛ばされ、マトモに受けた奴は細切れになった。

 

 なるほど、格闘タイプ、かなり強いな。

 

 俺の体に宿った力は、ポケットモンスターの格闘タイプの体と技全て、PP無限に攻撃一点特化のステータス、そして特性:ビーストブースト、だそうだ。

 うん、チートだわ本当に。まず、化け物を倒せば倒すほど、俺の一番高い能力・・・・・・俺の場合攻撃がグングン上がる。

 ビーストブーストの効果は、相手を倒した時、自身の一番高い能力が一段階上がる、というもの。そして、俺は攻撃一点特化な為に倒せば倒すほど攻撃がグングン上がる。相手に当たった時必ず自身の攻撃を一段階上げる技である『グロウパンチ』と合わせれば・・・・・・ヤバいな。

 

 ただ、弱点もある。

 余りにも攻撃に尖り過ぎて、他の能力がまずまずなのだ。

 流れ込んだ記憶から鑑みるに、特攻なんて、気休め程度にしか無いのだ。

 故に、『はどうだん』や『きあいだま』の威力もそこそこしか出ない。下手すれば一番の雑魚と思われる真っ白い奴も倒せない。

 

 防御や特防、HPなんかの耐久性能もそこそこで、正直心許ない。素早さも、他より拳一個分くらいマシな程度で、無いのと変わらない。

 全く、ピーキー過ぎるステータスだ。

 

 そんな愚痴をこぼしつつ、『ビルドアップ』で攻撃と防御を上げて突貫する。

 化け物を『グロウパンチ』で潰し、その度に特性との相乗効果で馬鹿みたいに上がる攻撃力を実感しつつ、化け物を更に潰していく。

 ・・・・・・掠っただけでも化け物が消し飛んで行くんだが。もう自分が人間じゃあないと言われても驚かないね。

 

 化け物を倒して行けば、不意に少し離れたところに、他の化け物とは一味違う感じの化け物が見えた。

 巨大で、デカい蠍のような形をしている。

 

 あちらはこちらに気がついているようで、俺が近付けば俺に向かってしっぽを突き出してきた。

 それを咄嗟に避ける。おおう、透明な尻尾の中に毒々しい液体が見える。

 多分毒だなありゃあ。見せかけの可能性もあるが。

 

 あの針、痛そうだなと思いつつ、蠍の化け物に近付く。

 時折飛んで来る雑魚共を拳圧でぶっ飛ばし、歩みを進める。

 

 拳を少し引き、構える。

 俺の拳は白く輝くと、まばゆい光を放ちながら光輝く。そして、光が収まるとそこには、青白いオーラで形成された両刃の大剣が握られていた。

 俺はそれを、

 

 「『せいなるつるぎ』。さて、堪えきれるかな?蠍の化け物君」

 

 蠍の頭と思わしい部分におもいっきり振り下ろした。

 

 *

 

 「面白い奴がいるな」

 

 その存在は、人間の形をしていながら、とても人間とは思えないような雰囲気を纏っていた。

 

 「おい、行くぞフツヌシ。少し・・・・・・楽しめそうな奴がいる」

 

 その存在は、手に握った刀にそう語りかけながら、自身の目に映る・・・・・・

 

 ・・・・・・青白いオーラを纏った両刃の大剣で、『蠍座』を真っ二つにした、見た目麗しい少女のような外見の少年を見て、ニヤリ、と、好戦的に笑った。

 手に持つ刀も、ひとりでにかちゃかちゃと鍔を鳴らす。まるで喜んでいるかのように。

 

 「武神として、戦う日が楽しみだ」




 男の娘系な格闘タイプ君。

 どしどし感想下さい(泣)。


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6:凍える世界

 眼前の景色を見やる。

 

 全てが凄く透明な、それこそ向こうの景色までが透けて見えるくらいの透明度の氷で覆われたボロボロの街。

 そして、その街と共に氷付けにされた化け物の群れ。

 様々な化け物が、俺と、俺が腕に抱いている少女を中心に、まるで波紋のように放射状に凍り付いて、固まって動けなくなっている。

 

 いびつな氷のオブジェを尻目に、俺はハァ、と息を吐いた。

 息が白くなって、天まで昇っていく。

 

 「あーあ、やり過ぎちまったなぁ」

 「別に、良いんじゃないかな。もう『何も残ってないんだし』。

 うーん・・・・・・その厳つい見た目からして、『氷結の魔王』と名乗っても良いんじゃないかにゃぁ?」

 「何そのカッコイイ二つ名。採用決定」

 「やたっ!・・・・・・ふふっ」

 

 たった数十分前に会ったばかりの少女と、凍り付いた街を背景にそんな軽口を言い合う。

 俺が腕に抱くその少女の顔はもう、笑顔だ。そうとしか言いようがない。だが、俺を見る目が・・・・・・まるで、最愛の人に何年ぶりかに再開した乙女のようで、そして、『何処までも吸い込まれそうな、暗い、暗い瞳だった』。光なんて一切ない。熱に浮されたかのように、うっとりと俺を見つめていた。

 

 その少女からねっとりとした、なにやら背中にゾクリと来る感情を向けられている。

 

 何故こんな目と感情を向けられているのか、は、俺にも解らない。

 ただ、俺がこの少女の心に響く何かをやったのだろう、という事だけは、何となくは解った。

 

 「・・・・・・勘弁してくれ・・・・・・」

 

 別の意味で、悪い予感がしてならない。

 ・・・・・・街の空気は、その少女が出すねっとりとした感情とも相まって、別の意味で凍えるような冷たさがあった。

 

 *

 

 [約三十分前/北海道/とある場所]

 

 「さっむぅ・・・・・・」

 

 改造した学ランの襟を立てながら、俺はガクブルと震える。

 ああああああああーーーーーーさっみぃぃぃぃぃいいいいいい・・・・・・。

 

 流石に寒すぎる。

 冬か?冬なのか?寒いにも程がある。

 俺をこの世界に転移させた神とか名乗る奴曰く、俺が元いた世界と同じく季節的にはまだ秋の中頃らしいが・・・・・・こりゃああれか。俺が転移させられたこの別世界が異常気象で異常に寒くなっているのか、それともただ単に北の方の土地なのか。

 

 ・・・・・・それにしても、これは一体どういう事だろうか。

 俺の目に映る景色は、すべからく破壊され、ボロボロになり、まるで終末世界のようだった。

 

 「あ“ー、どうにかならんものかね、この寒さは。いくら俺がポケモンの氷タイプの体と技を貰ったからと言ってもこれは寒すぎるぞ」

 

 周囲を見回しながら、ヤバい場所に転移させられたなぁ、と、考えながら、やはり寒い事に関する文句が出てしまう。

 実は、俺は神を名乗る奴の説明なんて、モトモに聞いていない。この世界にいる人間を助けろ、という事と、別世界に送る、という事、そして、俺が唯一やっていたゲーム、『ポケモン』の氷タイプの体と技全て、そしてPP無限なのと特性:マルチスケイルを貰ったくらいしか覚えがない。

 ・・・・・・ああ、そういえば、素早さ以外のステータスを神々をコロコロできる次元までむりくり押し上げたとか言ってたような?まあ、良いか。

 

 後は問答無用で、この世界に転移させられた。

 

 「くっそう・・・・・・次あの自称神に会ったら絶対に文句を言ってケツバット食らわせてやる・・・・・・!」

 

 悪態をつきながら、さっきからばっこんばっこん音が響いてくる場所に、俺は向かって行くことにした。

 そこで物音がする、という事は、誰かいるのだろう。道でも聞こう。そう思った。

 

 

 

 甘かった。

 そこは、誰かが生活していたのであろう街だった。

 先ほどまでの、ボロボロの街ではなく、確実に誰かが住んでいた。

 

 ・・・・・・が、それも俺の目の前で壊されていく。

 口だけが付いている、餅のような見た目の化け物が、ヒトガタの何かをぐっちゃぐっちゃと喰らい、咀嚼していた。

 

 ・・・・・・全く、

 

 「全く俺って、タイミングが何時も悪いか遅いかの二択だよなぁ!」

 

 別に、妙な正義感が湧いた訳でもない。

 別に、自称神にこの世界の人間を助けて欲しいと言われたからって訳でもない。

 

 だが、何故か体が動き、化け物を俺は潰していった。

 

 さて、氷タイプの技はかなり強力なものもあるが、殆どは威力が百にも満たないか、命中率が低いかのどちらかだ。

 

 「『ふぶき』!」

 

 だが、現実では違ってくる。

 吹雪なんて起こそうものならば、それは面となって化け物を押し潰しにかかる。つまり、ゲームでは命中率が低かったこの技も、現実だとほぼ、『必ず当たる』。

 俺の放った『ふぶき』によって、俺の周囲にいた化け物は殆ど氷付き、地面に落ちて砕けた。

 俺は走った。時々化け物を踏み越え、凍らせ、殴って破壊した。

 今だ爆発音が響く方へ、遅い足を全力で回した。

 

 そして、爆発音の中心地が見えた。

 そこには、ボロボロの紫色の衣装を纏った、眼鏡をかけた女の子が、槍を持ったまま棒立ちしていて、そこに無数の針のような物体や、細いレーザーが飛んで来ていた。

 

 「オイオイ・・・・・・!」

 

 孤立無縁。そして絶望。

 あの少女の、今の状態を表すならばこれだろう。

 周囲すべてを、様々な種類や大きさの化け物で囲まれて、そして前方向からレーザーや光輝く針のような物体が飛んで来ているこの状況を表す言葉に、これ以上のものがあるだろうか。

 

 ・・・・・・そして、だからこそ、俺は走った。

 孤立無縁な状態の、その少女に向けて。

 状況は違うが、孤独で孤立しているのは、ちょっと、昔の俺と重ねてしまって、何か・・・・・・放っておけなくなった。

 

 ある二つの技を同時に、軽く発動させながら走る。

 その影響で、足が付いた場所が凍りつく。

 ギリギリのところで、少女とレーザー及び針の間に割って入ると、

 

 「『こごえるせかい』@『ぜったいれいど』込みバージョンッ!」

 

 俺は軽く発動させていた二つの技を、本格的に発動させた。

 その瞬間、猛烈な吹雪と冷気が辺りを包んだ。

 

 そして、数秒の内に、周囲全てを氷の中に閉じ込めた。

 さながら、今のこの風景は『凍える世界』と言って差し支えないだろう。

 

 「・・・・・・え?」

 

 俺が出した技の余波を受けないように、片腕で抱き寄せていた眼鏡っ娘がマヌケな声を上げる。まるで、目の前の光景が信じられないといったような、そんな感じの表情で目をパチクリとさせ、次に俺を見た。

 

 その目には驚きと、それ以上の、恐怖の感情がごっちゃになっていた。

 心なしか、少女の体が震えているようにも感じる。

 

 ・・・・・・既にあの時、死ぬしか無かったが為に感覚が麻痺していたが、そんな状況じゃあ無くなって後から恐怖を感じたって感じか。

 

 俺は、それを察すると、眼鏡っ娘の顔を見て、安心させるように笑って言った。

 

 「よお、理不尽(化け物)と孤独からお前を救いに来たぜ」

 

 実際には俺のタイミングがヤバかっただけで自分から救った感じは全くないが、まあ、そこは御愛嬌、という事で。

 

 *

 

 後は、冒頭に戻る。

 

 ・・・・・・今思えば、この言葉が後の俺の、あの何ともヤベー状況を作り出してしまったのかもしれない。




 前作と同じく、なっちが病むと思いましたか?
 残念!闇眼鏡が病みました。

 ・・・・・・正直、病んで好きー、みたいな感じになる理由的なものが弱い気がしますが(若しくは全然上手く書けていない)。


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幕間:一休み

 一旦休みが入ります。


 [長野/諏訪/九月下旬]

 

 「諏訪勇者、リボーン!アーンド、リメイク!」

 「「おお~」」

 

 とある神社の奥の部屋で、俺と藤森は、目の前でポーズをとってみせる白鳥にそんな声を漏らした。

 二週間はかかると言われていた勇者装束の修復だが・・・・・・ここのところ調子が良いらしいこの土地を守護する神がハッスルした結果、何と一週間もしない内に修復どころか改造までやってのけたという事で、今日はそのお披露目のような感じの事をやっている。

 

 そして白鳥は今、新しくなった勇者装束を着ている。

 所々に花の刺繍や、造花のような飾りが追加されて、随分と華やかになったようにも思える。

 それでいて、戦闘の邪魔にならないような作りで、和風のバトルドレスのようだと俺は思った。

 

 俺が無自覚の内に出しているらしい『神秘』のおかげで、ここを守る神の力が上がった為に、加護もパワーアップしているらしい。

 身体能力が上がる加護と、防御力が上がる加護が凄く強力なものになったらしい・・・・・・フムフムなるほど。大和撫子(物理)か。

 

 武具の鞭も、少々大型化してがっちりとしている。

 攻撃力が大幅に上がったそうだ。

 

 「これで、りゅー君と一緒にバーテックスをクラッシュしてやるわ!」

 「これは勇ましい。やはり大和撫子(物理)だったか・・・・・・」

 「竜介君、今大和撫子の後に何か言葉が付いていたような・・・・・・」

 「気のせいだ藤森」

 

 *

 

 [沖縄/本島/九月下旬]

 

 あのあと、何やかんや(場所知ったら沖縄本島だった)あって・・・・・・。

 

 「・・・・・・」

 「・・・・・・?」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・棗?何故俺を見る?」

 

 さて、この世界に転移して初っ端から同年代の女の子に対する自己紹介で、何ともぶっきらぼうな感じになった俺だが、何と、何故か同じ家で生活している。

 

 いや、何か鯨の化け物・・・・・・バーテックスと言うらしい・・・・・・に食べられたところを救ってくれたお礼とかで、無一文の宿無し戸籍無しで、外見無愛想な不審者丸だしで、更にコミュ障で人と話す時に極度の緊張で見た目と同じような無愛想でぶっきらぼうな物言いになるというのに、この女の子・・・・・・古波蔵棗は、俺と仲良くしてくれていた。

 

 ヤバい。マジで超いい子だわ。絶対に嫌われないようにしよう。

 

 尚、俺が名前呼び捨てなのは、そうして欲しいと強要(脅迫)してきたからだ。そんなのされなけりゃ俺は絶対に人を名前で呼ばない。

 

 さて、そんなめっちゃいい子な棗に、俺はじぃ~っと見られていた。

 俺はただ本を読んでいるだけなのだが・・・・・・。

 

 「俺を見て楽しいか?」

 「・・・・・・ああ。裕也を見るのは楽しい」

 

 じぃ~。

 

 「・・・・・・そ、そうか」

 

 棗はそう言いながら、ただでさえ近かった距離感を更に詰めてきた。

 

 背中に抱き着きながら肩に顎を載せるのはやめて何か柔らかくて良い匂いしてヤバくてもう心臓爆発して俺死んじゃう(お目目グルグル)。

 

 絶対に顔に出さないようにしつつ、俺は本に集中した。

 

 *

 

 [恐らく岡山の何処か/あるビルの屋上/年月不明]

 

 「何か涼しくなってきたなぁ・・・・・・最近はほんのちょっぴり寒いくらいだ。もう冬が来てるのか?」

 

 有り得る。

 俺がこの世界に来たのは夏だった。何日かは知らん。俺あまりカレンダー見ないし。

 そして、今現在空腹と喉の渇きに耐え忍びながらもう二ヶ月は生活を続けている。もう秋が来て、冬に近づいてもおかしくない。

 

 ・・・・・・ヤバい。何がヤバいって、もう空腹感がヤバい。

 もうここ最近、缶詰さえも食べていない。

 飲み物は運よく大量に手に入ったが、食べ物はもうここ三週間は口にしていない。

 

 ・・・・・・あ、ヤバい。意識がマジで飛びかけた。

 最近、妙に眠くなる。生存本能が、眠ったらマジ死ぬぞと訴えている為に、ここ二週間くらい寝ていない。

 あぁ~・・・・・・俺、本当に空腹と睡眠不足が原因で死んじゃうんじゃぁないだろうか・・・・・・。

 

 「しにたくないなぁ・・・・・・」

 

 こんなどんよりとしてローテンションで更に死にそうで、そんな状態な為に曇りに曇って雨ザーザーな俺の心に対し、ごろりと寝転がって見る空は晴れ渡っていて、腹が立つくらいに透明で。宇宙の果てさえも見えそうだった。

 

 「・・・・・・で、こんな状態の俺にも容赦なく化け物は襲いかかってくる、と」

 

 そして、しばらく見上げていれば視界を埋め尽くす化け物の群れ。

 

 ああ、もう死ぬのかな俺・・・・・・。

 

 「・・・・・・でも、死にそうでも戦うけどな」

 

 流石に、化け物に喰われて死ぬのは痛そうだし死に方としては却下だ。

 

 「来いや、化け物共。纏めて鏖殺してやんよ」

 

 『インファイト』で、早速向かって来た化け物をぶっ飛ばし、俺はそう言い放った。

 

 *

 

 [北海道/カムイコタン『跡地』/十月上旬]

 

 「ねー!缶詰見つけた!いっぱい!」

 「お、マジで!やったぜ」

 

 ところどころ氷が残る廃墟に、雪花の声と、

 

 「ばんちょー!こっちはお菓子見つけた!」

 「いっぱいだよー!」

 「服いっぱいー!」

 「・・・・・・鞄と靴もあった」

 「番長、こっちは傷薬いっぱい。ほら」

 「使えそうな大きい車を見つけたぜ番長。なんだっけか・・・・・・真っ白い、確か軽トラとか言う奴」

 

 六人の、五~六歳の元気な子供達の声が響く。

 

 「おおー。お前らもなかなかやるじゃねぇか。あと最後の。よくやった。場所何処だ」

 

 俺達は現在、化け物の襲撃で滅んだ街で食料と日用品を探していた。あと移動の為の足も。

 

 俺が出した氷で化け物ごと氷付けになった街だが、それも俺の意思で砕け散らせて、そして化け物の襲撃と俺の氷によってほぼ更地のカムイコタンを、俺達以外の生存者を探す為に雪花と化け物に警戒しつつ歩いていたら、幼稚園のような場所で身を寄せ合い震える子供達を発見したのだ。

 

 いやぁ・・・・・・あの時はヤバかった。化け物だと思われて泣きわめくわそれを宥めると、今度は安心して嬉し泣きするわで・・・・・・。

 

 その子供達以外には生存者はいなかった。死体すらも無かった。

 

 それで、ここ数日子供達の面倒を見ていたら・・・・・・何かすっげー懐かれた。

 雪花は『お姉ちゃん』、そして俺は何故か『番長』と呼ばれている。

 ・・・・・・過去の行い見返してみれば、番長ってのもあながち間違いじゃあないけれど・・・・・・。

 

 「おお、こりゃあ綺麗に残ってんな。この車のキーは?」

 「ほい。刺さったままだったから一応抜いて持ってた」

 「ん・・・・・・よっしゃ。コイツなら爺ちゃんが運転してたのを覚えてるから行ける。おい、お前ら拾った荷物拾ってきたリュックに詰めて背負え。寒いかもしれんが荷台に乗れよ。さっさとこのさっむい街からずらかるぞ」

 

 子供達が全員荷台に乗ったのを確認して、俺は周囲を確認しながら静かに車を走らせた。

 いざとなれば、荷台に子供と乗っている雪花が投げ槍を投擲し、俺が『ゆきなだれ』なんかの威力の低い遠距離系の特殊技でどうにかする。

 

 「さて、そうだな・・・・・・丁度いい感じの広さで、尚且つ丈夫な廃墟とかあれば良いんだが・・・・・・」

 

 そんな感じで、俺と雪花、子供達による、行き場が殆どない終末世界の北海道旅行が始まった。



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7:太陽と拳闘と

 剣の人ですよ。


 [岡山県南部/瀬戸大橋の近く/年月不明/多分明朝]

 

 「やぁっと・・・・・・つぅいたぁぁぁぁ~」

 

 疲労がマッハで溜まっているが、それは隅に置いて、今はこの喜びを噛み締めよう。

 着いたのだ。瀬戸大橋に。後はこれを渡れば、目指す四国だ。

 

 何故俺が四国を目指しているか。

 それは、とある夜の事。

 四国とその周辺の島に、明かりが付いているのが見えたのだ。

 いやぁ、それを見つけた時は、思わず狂喜乱舞したね。

 

 もしかしたら、極限状態に陥った俺が錯覚を見ただけなのかも知れないが、目指す価値はあるだろう。

 行かずに後悔するよりも、行って後悔する方がマシだ。

 

 「・・・・・・うし、行くか。・・・・・・四国に!」

 

 俺は一歩踏み込んだ。

 

 *

 

 「何!それは本当か?」

 『はい。私達は無事ですよ。強力な助っ人のお陰で』

 

 昨日の夕方、急に入ってきた通信の内容を思い出す。

 それは、通信が一ヶ月近く途絶していた諏訪からの、無事の一報だった。

 

 あの時は思わずポロッと涙がこぼれてしまった。

 だが、強力な助っ人とは、一体誰の事なのだろうか。

 

 ・・・・・・その考えは、今日の朝出された作戦で吹き飛んだ。

 

 「瀬戸内沿岸で戦っている存在がいる!?」

 

 一ヶ月と少し前から、本州の岡山県南部の沿岸で不自然な土煙が上がっているという報告が何件もあり、もしかしたら、という事らしい。

 勇者か誰かはわからないが、発見次第、助けて四国に。

 また、瀬戸内海で新型の進化型バーテックスが生み出されているらしいので、それの偵察もかねてとの事だった。

 

 ・・・・・・なるほど。やけに最近、バーテックスの襲撃があるにはあるが数が少な過ぎると思ったが・・・・・・。そういう事か。

 

 開始は今日の昼。

 ・・・・・・もう少し耐えてくれ。名も知らない戦士よ。

 

 *

 

 [岡山県南部/瀬戸大橋/年月不明/多分お昼]

 

 太陽があった。

 巨大な太陽が、海の上で悠然と佇んでいた。

 

 俺を何時も襲ってくる化け物が次々と融合していき、その太陽を形作る。

 なるほど。つまり化け物は合体してパワーアップするのか。

 

 ・・・・・・そして、その化け物達の近くには少女の姿・・・・・・って少女ぉ!?

 

 俺は橋げたの上から目を見張り、端の方に寄って太陽の化け物の方を見やる。

 攻撃一点特化な俺だが、視力は転移する前よりも馬鹿みたいに上がっている為に良く見えた。確かに、太陽の化け物の側に少女が数人いて、化け物から逃げようとするが周囲を化け物に囲まれ、太陽の化け物に炎の塊を投げつけられてピンチっぽい。

 

 ・・・・・・さて、俺は正義の味方でもないが、そんなに薄情でもない。というか、薄情になるには甘すぎてなることが出来ない。

 

 そんな俺がピンチっぽい少女達を目の前にしてボーッとしている訳がない。

 

 気がつけば疲労が溜まりまくって瀕死の死にぞこないの癖して太陽の化け物にジャンプして突撃、体操選手もビックリな大跳躍をして太陽の化け物に一撃『きあいパンチ』をぶち込んで、なんか炎の塊から逃げるのが遅れたらしい、白い装束を着た、ボウガン持ってる少女の前に立ち、『せいなるつるぎ』を発動して無造作にそれを振った。

 

 青いオーラで形成された半透明の刃が空を切り、高い(高すぎる)攻撃のお陰かその一振りで衝撃波が発生して炎の塊を全てかき消した。

 

 「よぉ、お嬢さん。目をつぶるのは良いが、せめて目の前の敵と攻撃を全てぶっ飛ばしてからにしようぜ?」

 

 あきれた感じの口調になってしまった・・・・・・。

 まあ、今はどうでも良い。後でフォローしとこう。

 目の前にいる太陽をどう落とすかが問題だ。

 

 ・・・・・・うん、もうあれだ。数秒あれこれ考えたけれど何も良いものが思い浮かばないからいつも通り(脳筋戦法)で行こう。大抵物理で殴ればどうにかなる。

 雑魚な化け物倒しまくって攻撃ガン上げして太陽殴れば倒せるでしょ。テキトーだけど。

 

 なんか俺を見て不安そうな目で見てくるさっき炎の塊から助けた少女に自信出来るように、安心させる為に笑って見せてから、太陽の化け物に向き直る。

 まあ、俺のような脳みそまで筋肉なばかやろうに見える奴が信用ならんのは解るが、不安そうな瞳を向けるのはやめて。俺にその仔犬のような目は効く。

 

 ・・・・・・なんか背後から目の前の太陽よりも熱い視線がぶつかってくるけど、まあ、気にしないでおこう。

 

 「さあ、ショータイムだ」

 

 『グロウパンチ』を発動させて、俺は太陽の化け物と、その取り巻きに向かって考え無しに、いつも通り突貫した。



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8:要約すればつまり、ヒロインとヒーローのその後

 うまく心情を表せているか不安になってくる今日この頃。


 それは、物語の一幕。

 窮地に陥った無垢なる少女を、ヒーローの少年がぶっ飛ばすという、ありがちなヒロイック要素。

 

 さて、そんなありがちな場面がここに一つ、女顔の少年によって再現された。

 

 *

 

 その少年は、見事なまでに、伊予島杏の目にはヒーローに映っていた。

 

 伊予島杏は、敵である超巨大バーテックスの炎の塊から逃げ遅れ、今にも焼かれそうになっていた。

 足を負傷し、海に浮かぶ、現在では全くと言っていい程使われていなかった船の内の一つに倒れて、最早絶対絶命の大ピンチ。

 死を覚悟し、目をつぶる・・・・・・・・・・・・

 

 が、そんな絶望を、真っ向から切り裂いた者がいた。

 何を隠そう、冒頭で書いた、女顔の少年である。

 

 その少年は、太陽を小さくしてそのまま放っているとしか思えない熱量を持つ球体を何の苦もなく、蒼いオーラで出来た光輝の両刃剣の一振りで、全て消し飛ばしたのだ。

 

 そして、少年は振り返って伊予島杏を見たとき、少ししゃがんでその頭をくしゃくしゃと撫でた後、

 

 「よぉ、お嬢さん。目をつぶるのは良いが、せめて目の前の敵と攻撃を全てぶっ飛ばしてからにしようぜ?」

 

 そう呆れたように言ったものの、優しく微笑んだのだ。

 そして、少年は無自覚にも、ボソリとこう言った。

 

 「まぁ心配するな。アンタは助かる。だから安心すると良い」

 

 さて、伊予島杏は、間違いなく勇者であり、普通の女の子よりかは、ほんの少し心が強靱である。だが、心の根底、更にその奥の奥底に潜む、ロマンチックな乙女心的な何かが反応したのだろうか。

 

 ・・・・・・その時、しばらくの間、その心はその女顔の少年の事でいっぱいになってしまった様だ。

 

 *

 

 [四国/どこかの砂浜]

 

 「だ、大丈夫・・・・・・?」

 「だ、大丈夫だ。問題ない(震え声)」

 「それ、絶対大丈夫じゃないでしょう・・・・・・」

 

 俺は今、ピンク色の装束を着た活発そうな少女と、鎌を持った赤い装束を着た少女に支えられている。

 ・・・・・・後ろから絶対零度の視線が何故かぶつかってくるが気にしない。

 

 何?あの太陽はどうしたって?

 や、普通に潰したけど何か?いやぁ~雑魚を『グロウパンチ』で潰しまくって、俺の持っている特性のビーストブーストの効果で俺の一番高い能力である攻撃をガン上げしてからの『インファイト』でボッコボコにしたよ?

 豆腐みたいに柔らかくてビックリした。高々攻撃を三十段階アップさせただけで倒せるとは思わなかった。

 

 で、残りの雑魚な化け物を踏み台にしながら足場になりそうな船までジャンプしていって、その間に俺が助けた白い装束を着た美少女が足をケガして歩けそうになかった為に救出、砂浜にまで『ビルドアップ』を使い、それの副次効果で上がった身体能力を使ってジャンプ。

 そして、抱えていた美少女を彼女の仲間と思わしい似たような装束を着た少女に預けた途端・・・・・・

 

 ・・・・・・俺は空腹と寝不足で頭から砂浜にぶっ倒れ、現在、俺は少女二人に支えられている、という有様だ。

 

 「いやぁ~大丈夫だって極度の空腹と寝不足でめまいを覚えただけだから問題ないよ~ハハハッ」

 「『だけ』ってレベルじゃないよね!?絶対大丈夫じゃないよね!?直ぐに病院に連れていこうぐんちゃん!」

 「ええ、解ったわ」

 

 少女二人に、俺は病院に問答無用で担ぎ込まれた。

 

 *

 

 さて、そんなこんなあって、病院で検査を受けたあと。

 俺は病院できつねうどんを食べていた。何故かコレが、俺の病室の枕元にお見舞いとして置いてあった。

 『大社』と呼ばれる組織からのものらしく、きつねうどんと一緒に置いてあった手紙には、明後日に俺に質問やら何やらをしに病室に来るとのこと。

 

 尚、俺は一週間入院らしい。

 ・・・・・・三週間何も食べず、二週間寝てないのに入院が一週間だけ・・・・・・ヤベーな俺の体。

 

 一週間入院かぁ・・・・・・だいぶ暇だなぁ・・・・・・。

 そう思いながらきつねうどんを食い終わり、暇をどう潰そうか、と考える。

 

 「本の一冊でもありゃなぁ・・・・・・」

 

 俺はゲームも好きだったが、軽度の活字中毒でもあった。最近のブームはラノベだな。

 だから、小説一冊あれば、一応五日くらいは時間を潰せるね。

 まず普通に読んで、全て英訳して、今度はそれを独語にして、そしてそれを和訳して。

 それを繰り返していればとりあえず暇は潰せるんだが・・・・・・

 

 コンコンコン。

 

 その時、病室の扉がノックされた。

 

 「空いてるんで入って、どうぞ」

 

 入室してきたのは、足に包帯を巻いた、俺が炎の塊から助けた美少女だった。

 手には本を何冊か持っている。

 

 「失礼します。今、大丈夫かな?」

 「おおよ。暇で暇で仕方がなかったところだ」

 

 *

 

 息を整え、扉の前に立つ。

 ・・・・・・とても緊張する。人一人と会ってお話するだけなのに、どうしてこうも心臓が早鐘を打つのだろうか。

 どうにも、私はおかしくなってしまったようだ。『彼』に出会ったあの窮地から、ずっと心と思考が『彼』の事でいっぱいだ。

 

 私・・・・・・伊予島杏は、『彼』の病室の扉の前に立ち、深呼吸をして、そしてコンコンコンと扉をノックした。

 

 「空いてるんで入って、どうぞ」

 

 ガラガラと引き戸を開けて、病室に入る。

 『彼』は真っ白い病人服を着て、ベッドの上であぐらをかいていた。

 

 「失礼します。今、大丈夫かな?」

 「おおよ。暇で暇で仕方がなかったところだ」

 

 その返答を聞いてから、私はベッドの傍らにある椅子に座ると、

 

 「その・・・・・・迷惑じゃなかったら、なんだけど、本持ってきたんだ。

 入院中の暇をこれで・・・・・・」

 

 『彼』に本を手渡す。

 すると『彼』は目を爛々と輝かせ、

 

 「え!?マジで!サンキュー!

 へー、イロイロ種類あるなぁ・・・・・・おお、古事記もある。いや、マジでありがとう。暇をこれで潰せる」

 

 よかった、喜んでくれて・・・・・・。

 私は心のそこからホッとして、そして『彼』の笑顔を見ると、胸が満たされていっぱいになった。とても幸せな気持ちだ。

 私はやはり、どうしようもないくらいに『彼』の事を好意的に思っているらしい。

 

 *

 

 「なんだかあんずが取られる予感がした!」



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9:龍は、知らず知らずの内に外堀を埋められる

転移者の年表的なものを着くってみました。

ドラゴンタイプ
七月中旬、中部地方の都市跡地に転移。九月に諏訪到着。うたのんとみーちゃんを数万体のバーテックスから救う。

炎タイプ
七月下旬、沖縄本島近くの小さな島に転移。
超巨大バーテックスと戦い、飲み込まれていた棗を助ける。

格闘タイプ
七月下旬、岡山県の南部に転移。死にそうな感じになりつつ、十月の半ば頃くらいに四国に。
杏を深夜ばりにテンションがハイになりつつも助ける。

氷タイプ
他の人たちより少し遅れて、九月の下旬くらいに北海道カムイコタンの近くに転移。
バーテックスの大群に襲われ、最早人々が死に絶えた街(子供が数人生き残っていた事が後に判明)にて、雪花を助ける。ヤンデレ被害者その一。

ゴーストタイプの人
年月不明。関東地方に転移。

この作品を読むのに、参考にしてくれると・・・・・・


[諏訪/草薙竜介の居住している部屋/十月末/昼下がり]

 

 さて、どうしたものか。

 

 「バーテックスが来ないから、平和ね~」

 「そーだな。確かにな、しらと・・・・・・いや歌野、苦しいから離して下さい名前呼びしなかったのは悪かったから。息が~フゴフゴ」

 

 しら・・・・・・歌野には、名前呼びをしなければ正面から抱きすくめられ、

 

 「ええーと、えいっ」

 「あの~ふじm・・・・・・いえ、水都さん?」

 

 歌野とほぼ同時に名前呼びを強要してきた水都には、こうして何故か、歌野に俺が抱きしめられていると決まって背後から抱きしめられる。

 

 先週くらいからずっとこうだ。一体何があったんだ。

 

 「ん~、りゅー君はなかなか抱きしめ具合が良いわね。スリープするときに使う抱きまくらとしてテイクアウトしちゃおうかしら」

 「うたのん、それ名案」

 「何サラっと言ってんだ歌野!?そして水都!横目でちらりと見えたが良い笑顔でサムズアップなんてしてんじゃねぇ!?」

 

 俺は身長が平均よりもかなり小さい為に、こうして同い年の女の子にさえ、こう抱きしめられると上手く身動きが取れなくなる。

 というかこの歌野と水都の板挟み・・・・・・略してうたみとサンドイッチ状態(全っ然略せてねぇ!?)はいつまで続くのだろうか。

 

 ぎゅー。むにゅむにゅ。

 

 まあ、顔とかに胸やらが当たるわいいにおいするわ柔らかいわで、そろそろ俺の思春期の脳みそが爆発しそうで大変なので解放してくれるとありがたい、切実に!

 

 「あの~?そろそろ離してくれるとありがたいんだがお二方?」

 

 俺がそういうと、もっと抱きしめる力が強くなった。なぜゆえに?

 

 ぎゅむー。むにむに。

 

 ああああああヤバいもう何がヤバいってもういろいろやばい柔らかいいいにおいーーーーーーーーーーーー

 

 ーーーーーーあ、ヤバい。もっそろ昇天しそう(あらゆる意味で)。

 

 *

 

 諏訪に一ヶ月半くらい前にやってきた少年、草薙竜介。私はりゅー君と呼んでいる。

 初めの頃は、一週間ほど一人で諏訪の守護をさせてしまって、ちょっと罪悪感があったりもした。

 

 りゅー君も、畑を更地にしてしまった事で罪悪感を感じていたのか、諏訪に来て初めの一週間ちょっとくらいは畑仕事ばっかりで全然私達と付き合いがなくて、呼び名も名字で呼んでいて、何だか距離がある感じだったけれど、最近は私とみーちゃんでりゅー君が住んでいる部屋に突撃して遊んだり、時々泊まったりなんかもしている。

 

 この前なんて、何時までも名字なのは嫌だ!友達なんだから名前呼びで呼べー!リピートアフターミー!って感じで、名前呼びにしてもらった。

 

 それにしても・・・・・・最近、他の女の子がりゅー君と話していたりすると、何だか嫉妬のようなものをしてしまう。

 私とみーちゃん以外の女の子と楽しそうに話しているのを見ると、何だか黒い感情がふつふつと沸き上がってきて、「私とみーちゃん以外にその笑顔を見せないで」と思ってしまう。

 

 ・・・・・・りゅー君の事を好きだと思っているのは、ほんの前に自覚したけれど・・・・・・私はこんなに独占欲と嫉妬が強かったのだろうか。

 別に、みーちゃんとりゅー君がイチャイチャしててもあまり嫉妬は湧いて来ない。他の女の子はダメだけど、みーちゃんなら、と思える。

 

 みーちゃんもどうやらりゅー君の事が好きみたいで、私がいない間にずっとりゅー君を抱きしめて、てこでも離さないと抱きしめられる本人から聞いた。

 本人はいろいろ大変そうだが、抱きしめたくなるのは解る。

 

 聞けば、私達と同い年なのに身長が平均よりもかなり小さい。私達よりも小さいのだから驚く。本当にりゅー君はしっかりご飯を食べているのだろうか。そう思うくらい小さい。

 

 だから抱きしめやすいし、それにほっぺやふとももがぷにぷにで触り心地も抱きしめ心地も抜群で、パーフェクトな感じの為にもう抱きしめたくなってしまうのもしょうがない。

 名前呼びしなかった時の罰と称して抱きしめたりしているが、あれもただスキンシップがしたいのと、ただ抱きしめたいだけだったりする。

 

 ・・・・・・りゅー君抱きまくら案件、真剣にシンキングしてみようかしら。

 

 *

 

 [同日/夜]

 

 (幸せだなぁ・・・・・・)

 

 竜介君をベッドの上で抱きしめながらそう思う。

 どうやら、自分が思っている以上に竜介君の事を好意的に思っているらしく、抱きしめていたら多幸感があふれ出てきて止まらない。

 

 ごく最近になって、私とうたのん以外の女の子と仲良く話している竜介君を見て、何だかどす黒い感情がすごくあふれ出てきて、怖くなって、それでうたのんに相談したら・・・・・・私は、竜介君を自分以外の誰にも渡したくないと、そう思えるくらい好きになっていたらしい。

 

 何時からこんなに好きだったのだろう。あの時かな?と、振り返ってみるけれど、これといった心当たりがない。

 気がついたら好きになっていた。

 一緒にいたら、それだけで幸せで、抱きしめたらもっと幸せで、お話をするだけで楽しくて・・・・・・気がつけば、心が竜介君の事でいっぱいで。

 

 「ちょ、水都さーん?そろそろ離して。じゃないと俺の思春期ぼでーが反応しちゃうからぁ!?」

 「もう少しこのままでいて欲しい・・・・・・かなって」

 

 本当は、もう少しとは言わず、このすごく幸せな感覚が永久(とこしえ)に続けば良いのになんて、そう思ったり。

 

 *

 

 「みーちゃん、もうどうしようもないくらい、りゅー君の事ラブでしょう」

 「・・・・・・うん」

 「・・・・・・外堀、一緒に埋める?みーちゃん」

 「・・・・・・!」(全力の肯定)




予告:次は氷


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10:行き場のない旅路の途中

 今回、超短いです。それでもよければ、どうぞ。


 [北海道/とある道の脇、建物の廃墟の近く/十月末]

 

 軽トラの側で、子供達がはしゃいでいるのを見る。

 町外れのにあった道の駅の廃墟。そこで使えるもの(お宝)探しを子供達にさせつつ、息抜きをしていた。

 

 毎日、化け物・・・・・・バーテックスに怯える日々。

 『百戦錬磨の服部(はっとり)鬼十郎(きじゅうろう)』、『鬼番長服部』とまでうたわれたこの俺も、流石にこの日常は堪えた。

 ・・・・・・本当に、子供達があんなにはしゃぎながら廃墟やガラクタの上で遊んでいるあの光景も、奇跡に等しいだろう。

 普段から旅路故に満足な生活もさせてやれない上に、化け物が日常的に闊歩してビクビクしながら生きていかねばならないのに、あの子達は本当に元気で、笑顔だ。

 ・・・・・・でも時々、夜に静かに泣いてしまう子もいたりする。

 俺の隣で静かに子供達を見守っている雪花も、この居場所探しの旅を初めて数週間経つが、未だに眠れない夜があって、その日は決まって俺の寝床に潜り込んでくる。

 

 やはり、この毎日は俺以外の奴らも堪えているらしい。

 ・・・・・・せめて、あの子達と、雪花に、普通の生活って奴を送らせてやりたいものだ。

 

 *

 

 『彼』・・・・・・服部鬼十郎君は、数週間前、バーテックスが結界を破って入ってきた大侵攻によって、もう北海道が滅びを迎えた時にやってきた。

 

 あの時には、私は四方全てをバーテックスに囲まれて、絶対絶命だった。生きる為に何でもやってきた私だけど、あの時は文字通り、私の命は絶対に終わったと思った。

 

 だけど、その絶望は、人の形をした厄災によって蹂躙された。

 服部鬼十郎という、人の形をした『絶対零度の世界』によって、街ごとバーテックスは氷付けにされた。

 勇者としては、この街一つ凍らせた事に関して一つ言っとかないといけないけれど、先ほど死にかけた身としては、そんな余力はなくって、ただ先程までの死に対する恐怖、そして、私を片腕に抱く学ラン姿の鬼十郎君の、その街一つを凍らせる力に対して震えるのを抑える事しかできなかった。

 

 だけどまあ、そんなのも一瞬で吹き飛んだ。

 鬼十郎君が放った、あの言葉でもう恐怖とかそんなの全てどうでもよくなるくらいの殺し文句で、私の心はガッツリと捕まれてしまった。

 

 「よお、理不尽と孤独からお前を救いに来たぜ」

 

 これはもう反則。

 

 これが、私が今まで出会ったような、含みのあるような、自分を利用するような感じの人間から放たれた台詞なら心の奥底で鼻で笑っていたところだけど、鬼十郎君にはそういうのは全然なくて、勇者としてのではなく、女の子としての私を見て、そう言ったように感じた。

 ・・・・・・で、私は結局、この台詞一つであえなく陥落してしまった、と。自分ながらチョロいな~。

 

 この先ずっと、心の底から信用できる人もいないままひとりぼっちで生きて、そのままバーテックスとの戦いで死んじゃうのかと思っていた。

 

 でも、彼なら・・・・・・隣にいても、良いかもしれない。

 というかずっと、ずっと・・・・・・永遠に傍にいてほしい。死んでも隣にいて欲しいし、隣にいたい。

 だから、鬼十郎君は絶対に誰にも渡さない。渡したくない。

 もし、鬼十郎君が私以外の人のところに行ったら・・・・・・その時は、どうしようかな?

 

 *

 

 なんか背筋がゾクリとした。

 その寒気が飛んできた方向にいる、隣の雪花を見てみれば、俺の腕を抱きながら、俺の方を見ていた。

 

 「どうかしたか?」

 「別に?」

 「じゃあ何故俺の腕を抱く強さがハンパないんだ?正直痛いんだが」

 

 俺がそう言うと、雪花は力を緩めて、逆に絡み付く感じで、体全体で密着しながらこう言った。

 

 「・・・・・・鬼十郎君、万が一にもだけど・・・・・・」

 「・・・・・・おう」

 「私と、あの子供達の前からいなくなったりしない、よね?」

 

 そう聞く雪花の顔は不安そうで、そして、瞳の奥底には一切の光を映しておらず、暗く深い闇が広がっていた。

 

 「・・・・・・消えねーし、離れねーよ。お前らの前から、絶対にな。だから離れろ。子供達からの視線が痛い」

 

 遠くから聞こえる「ひゅ~ひゅ~」とか、「すっごい・・・・・・おねーちゃん大胆だ・・・・・・」とかの声を意図的に無視しつつ、俺はこの先起こるだろう事を思って空を仰いだ。

 

 (・・・・・・俺、この先どうなるんだろうか)

 

 別の意味で、自身の安全が心配になってきた。

 

 *

 

 「『不安そうな表情』をするのは結構大変だったな・・・・・・」

 

 ジジ・・・・・・ザザザ・・・・・・

 『消えねーし、離れねーよ。お前らの前から、絶対にな』

 ザザピー・・・・・・

 

 「録音オッケー・・・・・・言質、取ったからね・・・・・・♪」




 正直雪花さんのこの話書くのだいぶ悩みながら書きました。キャラ的に心情がムズイことムズイこと・・・・・・!
 今回の話はちょっと上手く書けてるか自信ないんでちょっとしたら少し内容変わっているかもです。

 次回も読んでくれればうれしいです。


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11:灼熱の恋慕を向けられて

 何か今までで一番ヤバい(ぶっ飛んだ意味で)お話だと思ったっす。


 [沖縄本島/古波蔵棗の家の一室/十月末]

 

 この沖縄に転移して、早くも三ヶ月弱経過した。

 最初の頃は、街の人が「棗ちゃんを助けてくれたお礼だ!」とか言って胴上げされたりだとか歓迎会じみたイロイロがあったりして割と慌ただしく、コミュニケーション能力皆無な俺にとっては何かと苦労する毎日だった。

 

 が、そんな忙しい毎日も一週間程で終わり、今は化け物・・・・・・バーテックスが時々攻めてくるくらいで、その時は普通に『ブレイズキック』や『ほのおのパンチ』なんかの物理技で対処している。

 

 さて、話は変わるが、現在俺は少々戸惑っている。

 何故かと言えば、

 

 べたべた。ぎゅむー。むにゅむにゅ。すりすり。

 

 「・・・・・・大型犬に懐かれた気分だ」

 「・・・・・・裕也の犬になら喜んでなるが?」

 

 ちょっと待ってくれ棗さん!?

 その発言はイロイロ危険だ。

 

 「わんわん?」

 「・・・・・・やらんでよろしい」

 

 コレだ。棗の俺に対するスキンシップが激しいのだ。

 鯨野郎の腹の中から出て来て、そして担いで彼女のもといた街に案内されつつ連れ帰っていた時、俺の寝床がない事を知れば、「私を助けてくれたお礼だ」とか言って、自身の家の一室を分けてくれた本当に、マジで心優しい少女であり、俺の転移前含めて唯一の友達とも呼べるこの古波蔵棗だが、最近、スキンシップがマジでヤバい。

 

 一ヶ月くらいたったある日には、まだ仲の良い友達で済んでいた。

 が、半月くらい前から急にべたべたし出して、今となってはぎゅーっと抱き着くのは当たり前、時々俺が抱きしめて撫で撫でしないと拗ねて、夜はかなりの確率で一緒に寝ていたりする。

 いやマジで、出会った頃のクールなカッコイイ印象どこ行ったみたいな、そんな感じ。

 

 ・・・・・・正直、俺のあれとかがヤバいっす。はい。

 

 *

 

 錦裕也。私の命の恩人。

 ある戦いの最後、バーテックスを倒し尽くしたかと思えばいきなり表れた超巨大バーテックスに飲み込まれ、その後意識を失っていたが、裕也に救われた。

 出会った当初は、口数が少ない、ぶっきらぼうな少年だと思っていたが、半月くらいたった時から、ただのコミュニケーション能力が皆無で、更に恥ずかしがり屋だというだけだと解ってからはこちらからイロイロ話題、若しくは用事を持ちかけては、一緒に行動するようになった。

 近くの海で一緒に泳いだ事もある。

 

 彼曰く、私が最初で唯一の友達とも呼べる存在らしく、それをもじもじと恥ずかしがりながら彼から言われた時、妙に心臓が高鳴ったものだ。

 それからも、何かと理由を付けては出かけたりして、何時も一緒にいた。

 私は同年代から少々怖いと思われているらしく、同年代の友達とも呼べる人がいなかったからか、裕也という友人が出来て少し舞い上がってしまったのかもしれない。

 

 そんなある日。

 裕也がこの沖縄に来て二ヶ月半くらい経った時の事。

 

 街中で裕也が、私の知らない女の子と仲良く話しているのを見かけた。

 道案内でもしてもらっているのか、地図を片手に道を聞きながら雑談をしているらしかった。

 ・・・・・・何故か心がモヤモヤとした。

 ただ、自分の大切な友達が道案内されているだけだというのに、何故か、胸が苦しくなる。

 

 そして、私といるときに見せる微笑を、その女の子に見せたのを見た瞬間、私の仲で一瞬どす黒い感情が芽生えたのを良く覚えている。

 

 「私以外にその笑顔を見せるな・・・・・・!」

 

 俗に言う『嫉妬』、『独占欲』・・・・・・そういうものが溢れて止まらなくなった。

 そして同時に、やはり、と、自分の中で暫く燻っていた感情を改めて自覚した。

 

 (やはり・・・・・・好き、なのだろうか)

 

 何か、決定的な何かがあった訳でもない。

 別に口説かれた感じの事もされてないが、自分の心が、裕也を求めて止まない事に気がつくと共に、物凄く今、裕也といたいと思ってしまった。

 

 (・・・・・・自分で言うのも何だが、重症だな、これは)

 

 心から溢れ出す欲求を抑えられない。

 ・・・・・・ここまで裕也の事を想っている自分に苦笑しつつ、一つの決心をした。

 

 (彼はどのくらい攻めれば陥落するだろうか)

 

 他の女には渡さない。

 他の女の物になる前に・・・・・・裕也を落とす。

 

 *

 

 [同日/夜中]

 

 「さぁて、寝るか」

 

 今日も棗にべたべたされまくったお陰で本当に欲求を抑えるのに苦労した。いくら友達でもあれは・・・・・・。

 俺は、棗の事は好意的に思っているが、あんなにべたべたされると棗が俺の事好きだと勘違いしてフラれてしまう。フラれんのかよ。

 せっかく出来た友達だ。大切にしないと。

 

 あーもう今日はもう精神的に疲れた。さっさと寝ようと、敷布団に体をダイブさせ、ゴロゴロする。

 

 ・・・・・・と、その時、襖を開けて棗が入ってきた。

 

 「・・・・・・どうした?棗」

 「・・・・・・」

 

 棗は半袖のダボダボのTシャツに短いズボンというラフな格好で襖を後ろ手で閉めると、無言で俺の対面に転がり、そのまま抱き着いてきた。

 ・・・・・・感触からしてノーブラです。本当にありがとうございます。

 ああああああ、理性がガリゴリと大きな音を立てて削れていく。

 

 「・・・・・・あの、棗?」

 「・・・・・・裕也」

 「・・・・・・何?」

 

 棗が何か言おうと口を開いたかと思えば、横を向いていた筈の俺はいつの間にか天井を向いており、棗にマウントをとられていた。

 棗の目が、爛々と光り輝いていて、何か怖い。

 

 「な、何の真似だ」

 「裕也は気がついてないのか?」

 「何に!?」

 

 意味不明。何に俺が気がついてないと?

 疑問に思っていると、「じゃあ教えてやる」と言って棗は俺の耳元に顔を寄せると、ボソリとこう呟いた。

 

 「好きだ、裕也」

 「ふぇ?」

 

 え?棗が、好き?俺を?

 

 「散々アピールしてきたが、我慢の限界だ。

 ・・・・・・嫌だったら今すぐに蹴り飛ばしてもらっても構わない。だけど、嫌じゃないなら・・・・・・」

 

 ーーーーーー今、お前を襲う。

 

 って、は?襲う?俺を?多分シチュからして(意味深)のほう。

 うわお直球。というか、今思ったけど告白がイケメンだな~。最近の女の子は肉食なのかな。それに対して俺は男の子の癖にチキッてヒロインみたいなことされてるよアハハ(脳内オーバーヒート)。

 

 「抵抗する気は無し、か。なら・・・・・・ん、んちゅ・・・・・・んぅ・・・・・・」

 「んむ!?」

 

 脳内オーバーヒートしておめめグルグルしてたら、深い方のキスされた。

 初キス奪われちゃったよ。

 

 「・・・・・・っぷは。・・・・・・はぁっ、はぁっ・・・・・・安心してくれ。天井の染みを数えていればすぐに終わる」

 「それ、男の台詞・・・・・・!」

 

 我慢の限界とばかりに襲い掛かってきた、野獣と化した棗に、日付が変わる迄わんわん(意味深)された。



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幕間:四国における、少年釘宮天地の日常

 本・日・二・投・目!

 今日中にもう一話上げます。


 [四国/香川/寮のとある一室/十月末/昼]

 

 俺、釘宮天地はポケモンの格闘タイプの能力を持った転移者というものだ。歳は十四、趣味は読書とゲーム、座右の銘は当たって砕け!爆砕だ!で、最近の悩みは容姿のお陰で女の子に見間違えられる事。

 

 三ヶ月程サバイバルをして死にかけて、太陽から女の子を助け、そして、その女の子と趣味が一致して仲良くなったりと、何処の御都合主義のヒーローものだよといった感じの波瀾万丈な最近だったが、現在は、そこそこゆったりとした毎日を遅れている。

 

 さて、今、俺はとある寮の一室にいる。

 とある寮というのも、大社という組織の職員用の寮だったりする。

 俺が戸籍無し、お金無し、住居無しのナイナイ尽くしの人間だった為に、この四国を牛耳る大社という組織から戸籍は用意してくれ、お金は・・・・・・バーテックスと呼ばれる化け物を勇者と共に討伐すると、まあ小遣い程度に貰えて、この寮の一室を住居として貰えた。家賃はメッチャ安い。四桁前半だよ。

 

 俺はそこで、なけなしのお金を溜めて買ったパソコンとゲーム機を使って、趣味であるゲームをしていた。

 ・・・・・・隣にいる、郡千景という名の女の子と共に。

 

 郡千景は、勇者と呼ばれる人の内の一人で、控えめに言って美人。

 この人、最初は俺と余り話しない感じだったけれど俺の趣味が読書とゲームだと解るや、まだ入院中だった俺の為に携帯ゲーム機を貸してくれたメッチャ優しい少女だったりする。

 ・・・・・・入院中にバーテックス表れて、病院抜け出した結果説教くらって何か検査が増えて入院期間がもう三日伸びた俺にとって、マジでありがたかった。

 杏に貸して貰った本のコピー(手書き)でも暇つぶしにやろうかと思ってたし。

 

 「釘宮君、そっちにモンスター逃げたわ」

 「りょーかい。くらえ俺のボウガン十連射!・・・・・・いよっし全弾命中!」

 「すごいわね・・・・・・まだ始めて一週間もしてないのにもうこんな腕前なんて」

 「逆にボウガンと弓と銃とスリングショット以外俺は使えんぞ。大剣?槍?双剣?何それ美味しいの?って感じだし。近距離系とか辛うじて片手剣でルナティックを通常クリア程度だし」

 「攻撃力最弱の片手剣でそれは凄いわよ・・・・・・っと。討伐成功よ」

 「取り回し辛いんだよ・・・・・・っと、よっしゃオッケー完璧」

 

 とまあ、こんな感じで退院後、暇な日は千景と一緒にゲームをするようになった。

 それにしても、相当生き生きしてんな、千景。

 たかしーとか若葉とかといるときとは別のベクトルで楽しそうだ。

 

 「ふー、というか、このルナティック:限界突破(狂)って奴ムズイな。俺の一番得意な弓でもソロクリアできるかどうかが半々だし」

 「・・・・・・最初からモンスターが凶暴化して暴れているし、特殊必殺技バンバカ使うし、通常の二倍以上の体力と硬さがあるから」

 「ほう、それは初耳だ。通りで硬い訳だ。超絶強射十二連発でも部位破壊出来ないとかマジかよって思ってたけどそういう事かよ」

 「待ってその超絶強射連発のやり方教えて」

 「おう、良いぞ。ええっとだな・・・・・・・・・・・・」

 

 そんな感じで、俺と千景は夜遅くまでゲームに興じていた。

 

 *

 

 翌日。午前九時。

 実は昨日から休日だったりするので、今日はショッピングモールで不足している日用品を買い揃えようと、財布と、最近編入した中学校の学生証と部屋の鍵を持っていざ出発。

 

 ショッピングモールにてくてく歩いていると、たかしー・・・・・・高嶋友奈と道端でばったり出会った。

 俺と同じくショッピングモールに行くらしいので、じゃあ一緒に行こうという事になり、並んで歩く。

 

 「何か冬に近づいてきたって感じがするな。マジで最近寒い日があるし」

 「あー、三年前まではそんなことにはならなかったんだけど・・・・・・この世界そのものの天候が変になっちゃったらしくて」

 「なるほど、把握」

 

 そのまま雑談しながら歩いていたら、不意にたかしーが、

 

 「ねぇ、ぐんちゃんと仲良くしてくれてありがとう」

 「ん?どうしたいきなり」

 

 俺は疑問に思って聞き返すと、たかしーはこう言った。

 

 「ぐんちゃん、私達以外と余り喋らないから、その、何と言うか・・・・・・気の置けないともだち?みたいな人が私達以外に出来て良かったなって。

 だから、天地君にありがとうって言いたかったんだ」

 「なる。そういう事ね。

 ・・・・・・まあ、趣味も合うし、あいつは、千景は話してみるとメッチャいいやつだし。これからも仲良くしたいとこっちから願うね」

 「うん、あと、私も天地君と仲良くなりたいし・・・・・・そうだ、今日、買い物が終わったあと時間あるかな?」

 

 目を爛々と輝かせてたかしーが聞いてくる。

 

 「おう、まぁ暇が売れたら大儲けできる自信があるくらい時間があるし暇だが」

 「じゃあ、ちょっとゲームセンターで遊んで行こうよ。ぐんちゃんから聞いたんだけど、ゲームが得意なんでしょ?天地君は」

 「まーな、良いぜ。じゃあ、買い物終わったら荷物ロッカーに預けてゲーセン寄るか」

 

 尚、「まるでデートみたいだな」と俺が茶化して言うと、「エヘヘ、そうだね。手でも繋いでみる?」って笑顔で返してきたから手は繋いで行きましたとも。たかしー曰くデートらしいし。

 

 外出の予定は午前中だけだったが、今日は一日中楽しんだ。




 国語赤点ギリギリの奴が書いてるんで本当にキャラ崩壊とか表現とかが不安になってくる今日この頃。


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12:お客様は天の神・・・・・・お帰り下さい(by大社一同)

 本日三投目ぇ!


 [四国/香川/十一月上旬/昼下がり]

 

 それは、突然やってきた。

 幽霊の如く、俺や勇者の通っている中学校の敷地内に突然表れ、雷鳴のような大声で大気を響かせる。

 人々はその姿に畏怖し、自然と頭を下げる。

 

 それは、一人の年若い、可憐な少女にも見える中性的な青年の男だった。

 服装は、白い袴に、神秘的なオーラを纏う剣を持っている事以外に特徴はない。

 だが、人の姿をとっているが、中身は全くの別物だと『理解出来てしまう』。

 身体から発する雰囲気、気配が異常。明らかに人間のそれじゃない。

 勇者と呼ばれる少女達も、辛うじてその覇気に押され、畏怖し、平伏することは無かったが、冷や汗をダラダラ流しているのが見て解る。

 

 「だから!ここに!別世界からの戦士はおるかと聞いているのだ!誰か応えるものはおらんのか!応えるならばなら土着の神々でも誰でも構わん!何処にいるか解ればよい!」

 

 ・・・・・・隣にいる巫女のひなた曰く、その正体は神サマらしい。

 その御名は・・・・・・

 

 「ふむ、そういえば、まだ名前を名乗ってなかったな。これは失敬。

 我が名は武甕槌(たけみかづち)!今回は国譲りではなく、ましてや天の神としてでもなく、一つの(つわもの)として、純粋に、尋常な闘いの為に来た!さあもう一度聞こう!別世界より来たる戦士はここにいるか!!」

 

 その男・・・・・・いや、『天の神』武甕槌は、高らかに、堂々と名乗りを上げ、周囲に雷と覇気を撒き散らしながら更に豪快な大声で問い掛けをした。

 さっきとは比べものにならない覇気で、隣の勇者や巫女の冷や汗の量が倍加する。

 

 武甕槌とは、日本神話における有名な武神にして雷霆神。

 主なエピソードとしては、古事記でも日本書紀においても、『国譲り』が有名だろう。

 

 今、この場にいる誰もがそのビッグネームを聞いて驚き、引き腰になり、殆どの人間が頭を下げ、そうでない人間も冷や汗を垂れ流していた。

 

 ・・・・・・俺以外。

 

 「ぎゃーぎゃーうっせぇんだよ近所迷惑考えろや」

 

 うん、授業中ぐっすり健やかに寝ていたのに近所迷惑な大声で無理矢理起こされたら誰が相手でも・・・・・・例え神サマ相手でもキレると思う(理不尽)☆

 

 で、激おこプンプン丸な俺は教室の窓から飛び降りて、

 

 「俺がアンタの探す別世界の戦士、格闘タイプの釘宮天地だ。釘宮『様』と呼びやがれ神サマ(迷惑野郎)

 

 『ビルドアップ』を積みまくりつつ、俺は目の前のコイツに負けないくらい堂々と名乗りを上げた。

 

 *

 

 「おお、そうか貴様がか!」

 「だからうっせぇって言ってんだろ。ここ住宅街。近所迷惑。解る?」

 「おおっと、これは失敬。あっはっは」

 

 にしても俺の神サマのイメージと随分違うな。

 勇者、巫女、そして大社から聞いた話だと、天の神が人類の粛正の為にバーテックスを地球全土に放ったのだと言う。つまり、目の前のコイツ敵。

 

 で、俺は転移前から読んでた古事記とかから、天の神(尚、土着の神も含む)って人間よりも我が儘で話聞かない通じないの自分勝手で七面倒臭い自己中集団だと勝手にイメージしていたんだが・・・・・・コイツ、そのイメージにまるっきり当て嵌まらないんだが。

 

 何か威風堂々としていて、雰囲気は神サマのそれだけど何か真っ当な武人のような感じもある。

 そして、何よりも・・・・・・コイツの性格、どっかで既視感あるんだよな。何か誰かに似てる。誰だっけか。

 

 「さて、釘宮とか言ったな?」

 「『様』をつけろ『様』を」

 「先ほど言った言葉に虚偽は無いな?」

 「無視かよ・・・・・・」

 

 武甕槌が、真剣な表情で俺を睨む。

 

 「ああ、一言一句に至るまで嘘はねーよ。事実だ事実」

 

 武甕鎚が俺を暫く真剣な表情で睨む。

 俺もそれを睨み返してみる。

 

 数十秒程睨めっこしたあと、武甕槌は満足げに頷き、

 

 「うむ、ならば良い。では単刀直入に言おう。(おれ)と闘え」

 「後にしろ。もう数刻待て。まだ授業が終わってない」

 「何!?決闘を拒むのか!?」

 「そうは言ってねぇよ。後でいくらでもやってやるから茶菓子でも食って待ってろよマジで。あとお前の出してるその覇気みたいなの仕舞え。ほら、あそこのおじいちゃんおばあちゃんなんてびびってぎっくり腰になってんぞ」

 「・・・・・・ふむ、確かに。ならばこうしよう」

 

 武甕槌の出すオーラとか雰囲気が急速に『堕ちて』、人間に近いものになった。

 所々で深呼吸や、安堵の声が聞こえる。

 

 「三刻程待ってろ」

 「あいわかった。ではその間、茶菓子でも食らい待っているとしよう。何処か美味いところは知らんか?」

 「あそこの藍色の暖簾出してる店はなかなかだぞ。俺も通ってる。安いし」

 「ほう!それは楽しみだ。・・・・・・さて、持ち合わせはあっただろうか」

 

 それと思い出した。何かこの神サマ、誰かに似てると思ったら、俺のとーちゃんに似てるわ。戦闘狂だし、脳筋丸出しだし、馬鹿丸出しだし、声デカいし。

 

 さて、その後。

 授業どころじゃなくなった学校の教室で、俺は大勢の巫女さんから囲まれて説教をくらっていた。

 やれ言葉遣い考えろだとか、やれ態度どうにかしろだとか、やれ機嫌損ねたら世界が終わるだとか、やれ神に喧嘩売るのは馬鹿の所業だとか・・・・・・ってオイ。

 

 「最後の喧嘩売ってんのかだとしたら利子着きで買うぞ勿論トイチでな!」

 

 馬鹿とは聞き捨てならんなオイ。俺をとーちゃんや武甕槌(脳筋戦闘馬鹿共)と一緒にするんじゃねぇ!!




 脳筋馬鹿を書きたかっただけなんです。
 反省も後悔もしていません。

 ・・・・・・次回、決闘。


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13:脳筋同士の尋常なる闘い

VS武甕槌


 [何処かの原っぱ/十一月上旬/夕方]

 

 だからこそ、彼は武人であり、武神なのだろう。

 

 「さあ・・・・・・尋常なる闘いを始めよう!いざ!」

 

 太刀・・・・・・フツノミタマを抜き放ち、雷鳴が如く轟くその威勢と声と存在感、凄まじい覇気。

 

 そして、尋常なる闘いを望み、その一合に全力をかけるその姿勢。

 故に、武人。故に、武神。

 

 俺の眼前にいる神サマ・・・・・・武甕槌は、俺を打ち倒すという確固たる意思を持ってして、大いなる脅威として立ちはだかった。

 

 *

 

 始まりは突然だった。

 巫女さん達からの説教から解放されて、学校を出た瞬間、雷に連れ去られ(拉致され)気がつけば、だだっ広い原っぱにいた。

 そこで、武甕槌は笑いながら俺を見て、「勝負だ!」と言って、冒頭の口上を述べたのだったか。

 

 *

 

 キンッ!という、鋼と鋼がぶつかり合うような音が響く。

 

 「オラオラァ!どうしたぁ!?勢いが鈍っているぞ釘宮天地ぃぃぃいいいいいいいい!」

 「うるっせぇなぁオラァ!」

 

 太刀が上段から振り下ろされる・・・・・・かと思えば下からの掬い上げと、変幻自在に移り変わる太刀を高速で『せいなるつるぎ』を片腕で振るって打ち払い、空いている方の腕で『ばくれつパンチ』を武甕槌に打ち込む。

 が、神速で引き戻された剣に受け止められる。

 

 「だぁああああああああ!!マジで攻撃の一つや二つくらいやがれっ!」

 「断る!そんな威力の拳の突きを喰らったら当たったら(おれ)でもどうなるかわからんからな!」

 

 『せいなるつるぎ』を消し、『グロウパンチ』を発動させて手数で勝負する。

 が、それも全て見切られて太刀で全て弾かれる。

 

 「太刀に当たる度に攻撃力が増す技・・・・・・釘宮天地、貴様何でもありか!?」

 「当たるだけで攻撃力上がる技なもんでね!完全に威力を遮断しない限りは攻撃力が上がり続けると思えチート野郎!」

 「性別無いから野郎じゃないぞ(おれ)は!今は一応男の姿をしているがな!」

 「マジかよお前!・・・・・・って、うおっ!?今の突き危な!?」

 

 どうでもいいような雑談の中にも、致死性の攻撃の応酬を繰り広げる。

 光輝の拳が飛び、時に太刀が空を切り、空間を蹴りがえぐり飛ばしたかと思えば鋭い突きが心臓付近を襲う。

 

 あちらは神サマ・・・・・・神霊だ。防御硬そう。だが、こちらは物理攻撃力特化。特化しすぎて、普通のパンチでも空間ぶっ飛ばせるが、逆に他の能力はミジンコ以下。つまり防御の性能が紙。

 というか、紙よりペラい。攻撃を一発マトモに受ければ即終了。何そのクソゲー。

 なので、攻撃は攻撃で防御するか完全回避するしかない。

 

 だから、この攻撃の応酬の最中、例え雑談をしていようとも優雅に攻めつづける武甕槌とは対に、俺は防戦一方。

 辛うじて『グロウパンチ』で攻撃を上げつつ、最早拳圧でソニックブームが起きている為にどうにかかすり傷程度は武甕槌につける事が出来ているが、それだけだ。

 マシンガンよりも早い連射速度の高速の太刀捌きによる突きを、一発のパンチで起きた拳圧でぶっ飛ばす。

 

 「ふむ・・・・・・その物理攻撃力は最早この(おれ)を一撃で殺せるな。だが、当たらなければ意味がない」

 「はっ、言ってろ武甕槌。そして精々油断しろ。そこをついてやるから」

 「今決めた。絶対に油断しない」

 

 そしてそこからまた始まる俺と武甕槌による、拳と太刀の応酬。

 

 衝撃波のみで土地がえぐれ、吹き飛び、割れる。

 時々武甕槌の攻撃が掠って、裂傷ができる。

 武甕槌の身体にも、ソニックブームでかすり傷ができる。

 

 真っ直ぐに突き出された俺の拳と、武甕槌が上段から振り下ろした太刀がぶつかり合い、最早生身と金属がぶつかって起こった音では無いような音が周囲に鳴り響く。

 

 ガンッ!バキッ!ガガガッ!

 

 空気が爆ぜて、空間が裂ける。

 俺と武甕槌が戦っている場所は、天変地異が通り過ぎた後のような感じで、もう辺り一面ぺんぺん草も生えてない。

 

 『ビルドアップ』を積んで強化し、『マッハパンチ』で高速の拳打を浴びせるが、武甕槌は全て太刀で打ち払う。

 ・・・・・・と、その時。

 

 ピシリと何かが割れる音がした。

 

 それは、武甕槌が持っている太刀・・・・・・神剣フツノミタマが割れた音。

 神々しい輝きを放っていた太刀は粉々に砕け、空気に溶けるようにして霧散した。

 

 俺は武甕槌に、

 

 「オイ、そっちは獲物を失ったが・・・・・・まだやるか?」

 

 こう問えば、

 

 「誰にもの言っている。こちとら武の神だ、拳にも少々心得がある」

 

 武甕槌はそう言って殴りかかってきた。

 

 ここからは、最早泥仕合。

 殴り、殴られの繰り返し。自分の防御が紙?知ったもんか。防御なんて気にしている暇なんてなくなった。

 倒れなければ良い。ただ、コイツを、眼前のコイツを打ち倒せればそれで良い。

 

 ぶっ倒れそうになりながら、拳と拳、互いに打ち付け合う。

 やはり防御の低い俺は、武甕槌の雷を纏った拳を受ける度に口を切り、鼻血を出し、骨が折れる。それでも尚、俺は拳を打ち付けあった。

 何十、何百、何千と、永久にも思える時間の間、拳の応酬を続ける。

 俺はもうボロボロの状態だが、武甕槌にはかすり傷程度しかついてない。

 流石は武神だ。俺の攻撃が全て見切られ、逆に反撃を喰らう。

 ・・・・・・が、それでも尚、俺は倒れるような真似はしない。せめて、一撃入れる為に。

 

 ずっと長い間続いた拳の応酬も落ち着き、一度俺と武甕槌はともに間合いを取った。

 

 ーーーーーー次の一撃で終わらせる。

 

 間合いを取った瞬間、俺はそう決め、とある技を発動させる。

 あちらもどうやら俺と同じ考えをしたらしく、眩しいばかりの雷を拳に纏わせていた。

 次の一撃で敗者が決まるだろう。

 俺は折れた右腕をだらりと下げ、半ば歪む視界で武甕槌を睨み、左腕を上げて構える。

 武甕槌も、余裕があるように見えて、実は隙も余裕もない構えを取る。

 もう準備は整った。あとは、全力をもって、相手に向かって放つのみーーーーーー!

 

 「『きしかいせい』!」

 「・・・・・・ぬぅん!」

 

 拳と拳がぶつかり合ったその時、『高ノ原』の片隅で雷鳴の如き爆音が鳴り響いた。

 

 *

 

 目が覚めたら、俺が通っている中学校の保健室のベッドだった。

 身体を上げ、腕を伸ばそう・・・・・・として、何か雑にぐるぐる巻きにされ、固定された右腕を見る。

 

 そういえば、折れてたんだっけ。

 

 勝負は、負けた。

 クロスカウンターとなり、俺の拳は届いたものの、武甕槌をぶっ飛ばすには至らなかった。

 

 「・・・・・・次こそ勝つ」

 

 今生きている事から殺されずに見逃されたのだろう。

 あー負けちまったなぁ・・・・・・と思っていると、枕元にある半紙に気がついた。

 ペラリと取って見てみると、そこには達筆な字で、何か描かれていた。

 

 [貴様が寝ている間に、電気屋と呼ばれる店から拝借した「かめら」と呼ばれるもので、貴様のマヌケな可愛い寝顔の「しゃしん」というものをとり、それを紙に写して貴様の仲間達にばらまいておいたぞ?

 かめらとはなかなか便利だな!]

 

 「・・・・・・次は殺す!」

 

 グシャッと手紙をまるめ、殺気を撒き散らしながら俺は保健室で静かにキレた。






近日公開予告!!:『仮題/勇気の章』

 ある兄弟は、人さらいに遭い、そして、殺される。
 ・・・・・・が。

 「「転生だぁ!?ラノベかよ!?」」

 本来ならばあるはずの無い『生き返り』そして『転移』。
 外界の神々より受け取ったのは、鋼と電気の力。

 転生したのはバーテックスと呼ばれる化け物が定期的に攻めて来る世界。

 「僕が君の後ろを守るよ。だから、前だけ見てて!」
 「なぁに、安心しろ。この防御特化の攻撃力くそ雑魚野郎が盾にでもなってやる。おもいっきり射ろ!」



 「兄ちゃん、やるよ」
 「ああ、これで終わらせてやる。行くぞ、カミサマ共」

 ・・・・・・彼らは、世界に平和をもたらす事ができるのか?

 *

 一週間後くらいに上げます。お楽しみに。


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14:休息

 [北海道/十一月中旬/昼]

 

 俺と雪花、そして子供達は、時々ガソリンスタンドの廃屋から軽トラの燃料であるガソリンを拝借したり、町の廃墟で生存者の確認をしつつ使えそうなものを探したりしながら過ごしていた。

 

 さて、そんなある日だ。

 

 「よっしゃ、んじゃ行くぞ・・・・・・まずここをこうしてっと・・・・・・おいガキ共そこの鉛蓄電池って平仮名で大きく書いてある箱持ってこい。これとそれの線繋げるから」

 「ばんちょーりょーかい!まかせろー!」

 「まかせー!」

 「俺もやるぜ」

 「ん、しょ!」

 「重いなこれ」

 「わっせ、わっせ!」

 

 子供達は今日も元気一杯だなぁ、何て思いつつ、持ってきてもらった蓄電池に、今までかき集めた廃材から作った、ところどころ回路基盤剥きだしの、ディスプレイやら何やらが繋がっているとある機械のプラグを繋げる。

 

 ・・・・・・ッガガピー・・・・・・ガチャ。

 

 そして、スイッチを入れたら、所々にあるLEDが光り、雑音が機械から鳴る。

 

 「いよし、完成。あとはこれ繋げて、周波数を合わせてっと・・・・・・」

 

 ・・・・・・ザザッ・・・・・・『お、繋がった。やっほー、聞こえる鬼十郎君?聞こえてたら成功だよー』・・・・・・ピー・・・・・・。

 

 「・・・・・・・ぃよし、成功。これであとは通信飛ばしつつ反応あるかどうかを観察するって感じだな」

 

 作ったのは、なんと通信機。

 街中で拾った幾つかのトランシーバーと車の鉛蓄電池、そのほか瓦礫まみれの電気屋で拾った、少し外装がハゲてるが使えそうなノートパソコンにタブレット、液晶画面にカラオケの跡地で拾ったマイクと小型のスピーカーを繋げて作った、即席のものだ。

 

 実は今日、電波塔とアンテナが近くにある廃屋を町外れに見つけ、『しばらく潜伏するにはちょうど良い』という感じで潜り込んだのだ。

 バーテックス共は、町の中心部や神社があるような場所に多くいるが、町外れの、何も無い感じの場所・・・・・・例えば、こういう科学技術的なものがぽつんとあるだけ、みたいな場所にはあまり化け物がいなかった。

 

 長旅で疲労が蓄積している子供達の為にも、少しの休息を取った方が良いというのと、俺と雪花も疲れていることは確かだったのでまあ、しばらくここで生活することになるだろう。

 設備は少し生きていたのが本当にありがたかった。

 それで、『電波塔とアンテナあるんだったら出来るんじゃ』って感じで、ホームセンター等で拾った延長コード等をちょこっと改造してアンテナに繋いで、絶縁しっかりしてから雪花に見張りをかねて別の部屋に行ってもらい、その時に渡したトランシーバーを実験台に自作通信機を繋げてみたのだが、先ほど成功した。

 

 「まあ、生存者が本州四国九州北海道の何処かにいれば良いけどな・・・・・・あとは海外?」

 

 中華鍋を改造して小型のパラボラアンテナを作りながら、そう独り言を言う。

 すると、別の部屋から雪花がいつの間にか戻ってきていて、俺の独り言に反応したのかこう言った。

 

 「多分いると思うよ?四国は確実、諏訪も可能性はあるって。まあ、一年くらい前の、もう地上にはいない神様からの情報だけどね」

 

 そういえば・・・・・・雪花がいたカムイコタンの守護をしていた神様は土地が滅亡すると共に死んだのだったか。

 確か今の雪花の勇者としての力は、体内に宿る精霊と、微妙にある精霊による身体能力、戦闘能力上昇の加護くらいだっけ。神様が死んだ今、そこまでの戦闘力は無いらしい。

 

 「んじゃ、それを信じて待ちますか」

 

 何処かに生存者がいると、そう信じ、俺は作業に没頭するのだった。

 

 *

 

 [翌日/朝]

 

 俺は子守を雪花に任せて、電波塔から少し離れた場所にある街の廃墟に来ていた。

 そこには、バーテックスが大量にいて、街中を徘徊していた。

 

 「さてと、駆除開始ってな」

 

 『れいとうパンチ』を発動させて、殴る、殴る。

 

 俺は素早さ以外の全ステータスが高いらしいが、それでも少しだけ特攻と特防の方が高い。

 だから今までずっと『ゆきなだれ』や『こごえるかぜ』なんかの特殊技を使って戦っていた。

 車中で戦う事が多かった為、そう物理技を使う機会が無かった、というのもあるが。

 

 だからこうして、少しの間腰を落ち着けている間だけでも物理技の特訓のようなものをしておきたいと思って、この廃墟まで来たのだ。

 腕が鈍っていて死んでしまいました、では笑い話にもならない。そんなんで死んだら天国の爺ちゃんにフルボッコにされる。

 

 「・・・・・・やっぱり俺には、こっち(近接格闘)の方が性に合ってるな」

 

 高揚した気分を自覚して、そんな言葉が漏れる。

 全く、俺の喧嘩やバトルの時のステゴロ根性は世界が変わっても根強く残っているらしい。

 

 何時も後ろから物理的な力が篭った、異常にネットリとした視線も受ける恐怖から逃げるかのように、俺はバーテックス共を殴り倒し続けた。

 ・・・・・・いや、マジで怖いんだよあれ。



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15:古波蔵棗の暴走

 [沖縄/十一月中旬/朝]

 

 涼しい。

 ・・・・・・南はこうも、冬になりはじめても寒くないものかと驚く。

 肌寒くなってきたな~とは感じるが、それでもそこまで寒いって感じじゃない。

 

 だが、その涼しさも、俺の彼女となった古波蔵棗が飛びつき、引っ付いてきた瞬間、とても暖かく感じる。

 

 ぎゅー。むぎゅう。

 

 「・・・・・・何?」

 「構って」

 

 という事らしい為、可愛い彼女が拗ねる前に構う事にする。

 

 「・・・・・・どうすれば良い」

 「後ろから・・・・・・こう、抱きしめてくれ」

 

 言われた通りに、俺があぐらをかいた上に棗を座らせて、後ろから抱きしめる。うん、イロイロ柔らかい。

 最近は、ほぼ毎晩俺が襲われて、お返しにイロイロ揉んでるからかイロイロ成長して大きくなっている為、その柔らかさに拍車がかかっている。

 うーん、武術をしているからか、めっちゃスタイルが良いのにプラスして更に破壊力がヤバい事になってるな。知ってるか?この娘、まだ成長期だぜ?

 

 「・・・・・・んっ・・・・・・」

 

 すりすり。

 

 気持ち良さそうに身体を擦り寄せてくる棗。大型犬みたいだとは思ったことがあったが、コイツ大型猫でも行けそう。

 

 取り合えず、頭が近くにあるので撫でてみる。なでなで。

 

 「・・・・・・♪」

 

 どうやらお気に召したらしい。

 めっちゃニコニコ顔になって更に身体を擦り寄せてくる。

 

 今度はもっと近くに抱き寄せて、わしゃわしゃと撫でてみる。

 

 「・・・・・・」

 

 なんか、ぶわぁ、とピンク色のオーラが棗から溢れ出たかと思えば、棗はいつの間にか身体を百八十度回転させて、俺と対面になるようにして座り直すと、俺の首に腕をまわし、俺の腰に足をまわしてコアラ状態になった。

 当然、柔らかいものがむにゅむにゅと押し付けられる。

 ・・・・・・ん?なんか棗の息が荒いような・・・・・・と、思えば、なんか棗が自分の身体を密着させて擦りつけてはぁはぁ言っていた。

 なんか目がギラギラしている。

 ・・・・・・え?マジで。こんな朝っぱらからやるの?なんて思っていたら、いきなり警報音が鳴り出した。

 バーテックスがお出ましか。

 

 「・・・・・・棗、行くぞ・・・・・・棗?」

 

 心なしか負のオーラが棗からぶわぁ、と出ている。

 ・・・・・・ちょちょちょ、なんか怖いよ棗さん?

 

 「裕也との日常を邪魔するバーテックスは潰す消す殺す・・・・・・・・・」

 

 なんか言ってると耳を澄ましてみれば、恐ろしい事をブツブツつぶやいている。心なしか目からハイライトが消し飛んでいるように思える。

 ・・・・・・うーん、これはヤバいな。棗が暴走して怪我したとかなったら嫌だし。

 

 「棗」

 「何だ裕也」

 「冷静になれ。最高速でバーテックス(あいつら)を倒したら、後で何でもしてやる」

 「今すぐに倒しに行こう」

 

 うん、元の棗に戻って良かった。

 

 ・・・・・・なんか何時も通りに見えるのに、妙にハッスルして別の意味で暴走しているように見えるのは俺だけか?

 

 *

 

 「・・・・・・今日も多いな。ゴキブリかあいつら」

 「・・・・・・どれだけ数が多くても、倒すだけだ・・・・・・!」

 

 おお、何か決め台詞っぽくて何かカッコイイですよ棗さん。

 

 海の向こうから、青いバーテックスが大量にうじゃうじゃと。バーテックスのバーゲンセールってかオイ。

 まあ、まず棗が海へドボン。そしてそのままバーテックスの方へと凄い勢いで泳いでいき、海から上がったと思えばその水面に着地、バーテックスをぶっ飛ばし始めた。

 

 俺?俺は棗が相手しきれないバーテックスをこう・・・・・・

 

 「・・・・・・『かえんほうしゃ』!」

 

 焼き払うお仕事ですよ。

 炎タイプだからか、別に泳げないという訳でもないが、海の中入ったら技の威力が減る上にステータスが少し下がる。だから俺は海の方に行けない為、こうして地上で、棗が取りこぼしたバーテックスを撃退している。

 棗曰く、『後ろに戦える誰かがいるだけでだいぶ戦いが楽になった』との事。

 

 近くにまで寄ってきたバーテックスは、『ブレイズキック』や『ほのおのパンチ』等の物理技で消し炭にしながらぶっ飛ばす。

 オラオラなめんじゃねーぞこちとら毎日毎日、鬼師匠棗に技やら何やら鍛えられてんだよ!近接格闘もお手の物じゃい!

 

 正面から向かってくるバーテックスを拳でぶっ飛ばし、後ろから来る奴は後ろまわし蹴りで撃滅し、バーテックスの数をどんどん減らしていく。

 向こうの方では凄い勢いでバーテックスが減っていた。随分ハッスルしてるなー。

 

 かなり数を減らしたところ、残った奴らが高速で合体し、巨大化してボスっぽい奴になった。

 魚っぽい感じの形で、なんか触手のようなものがウネウネしている。

 

 ・・・・・・巨大化って負けフラグなんだよなぁ・・・・・・。

 

 そう思っていると、案の定棗の必殺技のようなものが発動し、バーテックスは一瞬にしてバラバラになった。

 バラバラになって巨大化が解けた雑魚共を蹴散らし、何とも呆気なくカタがついた。

 

 「さあ、裕也。早く帰ろう」

 「・・・・・・うん」

 

 帰ったら目茶苦茶甘えられた。

 なでなでしたり抱きしめたり深い方のキスを三十分くらい休み無しでやられたり・・・・・・。うん、まあ、イロイロされた。

 「・・・・・・何でもやると、裕也は言っただろう?」と言われて逆らえずにそのままパクリと(意味深)いかれたのは余談だろう。




 ほぼ毎日パクリといかれる裕也さん。


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16:ドラゴンタイプの少年、草薙竜介君は、もう逃げられない!!

 ドラゴンの人が完全に逃げられなくなるお話。


 [諏訪/十一月中旬/早朝]

 

 「あー、やっちまった」

 

 俺の部屋。そのベッドの上で、俺は頭を抱える。

 俺の両隣には、『これ以上ないくらい幸せ』といった風な顔をした、歌野と水都がすぅすぅと可愛らしい寝顔で寝ている。

 

 ・・・・・・ちなみに、俺とこの二人は全員真っ裸。生まれたままの姿なのだ。

 さて、もうこれで昨晩ナニがあったか察した人もいるだろう。

 

 「どーしてこうなったんだっけか?」

 

 天井で見えない天を仰ぎつつ、俺は昨日のとある事を思い出した。

 

 *

 

 [諏訪/昨日/夕方]

 

 なんか、大人の皆様方から飲みに誘われた。

 歌野や水都は時々誘われて行くらしいのだが、俺はそういえばまだ誘った事がなかったと、そういう理由で誘われて、公民館で酒盛りが始まった。

 

 当然俺達は飲めないのでラムネ等の炭酸飲料、もしくはお茶。

 飲み物を飲みながら色んな話を聞いた。

 

 農業の事、苦労話、恋の話、ちょっとした相談事。

 イロイロ聞いている内に、酔っ払った若いおねーさんが、俺に絡みながら、

 

 「ねーねー、貴方ってどんな娘が好みなの?どんなのがタイプ?」

 

 そう俺に質問した瞬間、空気・・・・・・いや、世界が変わった。

 空気がしぃん、として、俺の方を全員向いてくる。得に俺の隣にいる歌野と水都の視線が痛すぎる。お前らどうしてそんな興味津々なんだよ。

 

 え、というか何この空気。

 俺のタイプとかそれ重要案件だったりするの!?

 

 「ええっと・・・・・・」

 

 助けて!といった具合に歌野と水都がいる方向を見る。

 ・・・・・・んん?なんか二人とも嬉しそうな顔をしたぞ?

 

 ・・・・・・周りを見てみれば、なんかニヤニヤしてたりほーう、という感じの顔してたり、やっぱり?って感じの雰囲気出してる人がいたり・・・・・・え、何なのマジで。

 

 「ほうほう、やっぱり坊主はこの二人か」

 「くぅ~色男が!」

 「何時も一緒にいるしね~」

 「やっぱり歌野ちゃんと水都ちゃんか。はっはっはっ」

 

 うん、何で!?

 え、何でそうなった!?助けて!って感じの目をしてたよね!?何でそうとっちゃうの!?

 

 俺の内心なんて無視でどんどん話は進み・・・・・・。

 

 「なぁ、やっぱりここは神前式でさ」

 「良いね、採用。ここにゃ本物の土地神様がいる訳だしな」

 

 あのー?

 

 何か俺抜きで盛り上がっていらっしゃる。

 まあ、酔っ払いの冗談だろう冗談・・・・・・。

 

 そう思っていると、背中にむぎゅ、と、歌野と水都が乗っかってきた。

 

 「えへへー、大好き!」

 「うにゃぁ~、竜介君が三人に見えます~」

 

 何か酒臭!って思ってたら、うん、この二人酒飲んでるわ。

 ・・・・・・誰が飲ませた!?

 

 「あー、水おいしい・・・・・・」

 「不思議な味のする水ですね~」

 

 おい!?水と間違えて酒飲むとか何べたな事やってんの!?

 

 「す、すみません、この娘たち間違えてちょっと酒飲んじゃったみたいで、俺達これで失礼します!」

 「おー、よろしくやってこい!」

 「持ち帰っちゃいなよ!」

 「しっぽりやって来な!アタシが許す、というかやらないとシメる!」

 

 そんな声に見送られ・・・・・・そして、俺の部屋。

 

 二人を、それぞれの部屋に寝かせて俺も寝ようと思ってたら無理矢理俺の部屋に押しかけられた。

 

 で、どさり、とそのままベッドに押し倒された。

 

 ぎゅう、と抱きしめられて逃げ場がない。

 何かすごくドキドキする。

 二人にじっと見つめられ、目を離せなくなる。で、その目を見て確信する。

 

 「やっぱりおめーら酔ってなかったのか」

 「イグザクトリー。まあ、ちょびっとだけだったしね」

 「私、結構自信あるんだ。お酒の強さ」

 「で?俺をこうしてお前らはどうするつもりだ?」

 「・・・・・・ねぇ、気がついてるんでしょ?」

 「私達の気持ち」

 

 まあ、気がついてはいた。だが、まさか、と思って・・・・・・簡単に言えば、チキッてた訳だ。

 

 「もう、我慢するの無理。という訳で」

 「・・・・・・私達の気持ち、受け取って、くれる・・・・・・?」

 

 目の前の少女二人は、不安そうに俺を見る。

 ・・・・・・こうまでされて、流石に気持ちを察せない馬鹿はいない。

 ・・・・・・まさか二人いっぺんにとは夢にも思わなかったが。

 

 俺は二人を抱きしめる。

 二人が一瞬驚くような仕種を見せるが、直ぐに消えた。

 

 「後悔するなよ?」

 「しないわよ」

 「しないよ、絶対に」

 

 で、後はまあ、お察しの通りで、冒頭に戻る。

 

 *

 

 「・・・・・・うたのん、今、私すごく幸せ」

 「うん、私も今すごくハッピーな気持ちよ。みーちゃん」

 「・・・・・・竜介君、すごかったね」

 「確かに、私達よりも小さいりゅーくんが、ベッドの上じゃあんなにパワフルだったなんて・・・・・・」



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17:氷タイプの服部鬼十郎君はかなり器用だが、出来ない事もある

 [北海道/電波塔/十一月中旬]

 

 がちゃがちゃ。ぱちっ。

 

 「番長って器用だよな」

 「ばんちょー凄い!」

 「・・・・・・どう作るの?それ」

 「まあ、ネットとかで雑学イロイロ詰め込んだしな」

 

 簡易的な双眼鏡を作っていると、ガキ共が寄ってきてそう言ってくる。

 小学生のとある時期に、ガチな秘密基地を作りたかったが為にイロイロ知識を調べてそれをノートなんかにまとめていて、何回も読み直したりして時々実践してたらそれなりに出来るようになった。

 

 「ばんちょー何でも出来るねー!すごい!」

 「何でも、は流石に無理だぞ。俺にも限度くらいある」

 「え?そうなのー?例えば?」

 「料理。あれは何回やっても上手くいかなかった。どうしても焼く時間や煮る時間を間違えて焦がす。教本通りにやっても焦げた。あれはもう一種の呪いだな。

 あとはあれだな。スポーツだな」

 

 俺がそう言うと、ガキ共は皆驚くような表情をして俺を見る。

 

 「どうかしたか?」

 「ばんちょースポーツ下手なの?」

 「番長がスポーツが下手って・・・・・・」

 「どう考えてもそう見えないわ」

 「料理はまだわかるけど・・・・・・戦ってる時すごく運動神経良さそうに見えたよ?番長」

 「ばんちょースポーツにがてー?」

 

 皆が見なして口々にそう言うが、俺は本当にスポーツが上手く出来ないのだ。

 

 「いやぁ、どうにも苦手なんだよな。ずっと武術やってばっかしで、スポーツのルールとかも全然しらん。唯一知ってる野球のルールを知ったのが中学一年の頃だったからな・・・・・・」

 

 訳あって、喧嘩で強くなる必要があったから、喧嘩術を幼稚園の・・・・・・確か年長の頃から磨いていたら、いつの間にか運動出来てスポーツ出来ないという訳わからん人間になっていた。

 

 ・・・・・・よし、双眼鏡完成。

 

 「ほれ、出来たぞ。少し前にお前の欲しがってた双眼鏡」

 「やったぁ!ありがと番長!」

 

 少し前に、ガキ共が見張りをしたときがあったが、その時一人の男の子が、双眼鏡が欲しいと言っていたのを思い出して、作っていたのだ。

 

 「よし、服部(はっとり)子供(ガキ)隊、出動だ!見張りしてくるぜ!番長!」

 「おう、絶対に窓の外に身を乗り出すなよ。あと、外を見るときはこっそりとだぞ。こっそり」

 「わかったー!」

 

 本当に随分と元気になったもんだ。

 今では服部(はっとり)子供(ガキ)隊なんて名乗って、見張りを率先して行ってくれる。

 

 「さてと、次は何を作ろうかね」

 

 ・・・・・・ガキ共用の護身具でも作るか。

 

 *

 

 [電波塔/服部(はっとり)子供(ガキ)隊の見張り矢倉]

 

 「ねーねー、そっちばーてっくすいるー?」

 「いないー」

 「・・・・・・こっちもいない」

 「うん、いねーな。・・・・・・にしても番長の作ったこれ(双眼鏡)、使いやすいなー」

 「番長すごい」

 「同意するわ」

 

 「あ、敵いたー!」

 「どこどこ?」

 「どこー?」

 「いるわね。あっちに」

 「うん、いる」

 「よっしゃ、番長に報告してくる!おーい!番長ー!」

 

 子供達は今日も元気いっぱい。

 ・・・・・・つかの間の、平和。だからこそ。大切にしたいと。

 守ろうと、思った。




 子供達視点の話書いてみようかな、と思った今日この頃です。


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幕間:服部子供隊、多田響のメインパート

 北海道のとある男の子の話。


 [北海道/電波塔/十一月下旬/朝]

 

 俺の名は多田(ただ)(ひびき)。六歳。服部(はっとり)子供(ガキ)隊の隊長で、一番の年長だ。

 今日は、番長の頼みで服部(はっとり)子供(ガキ)隊の六人全員で電波塔周辺の見張りをしている。

 

 とは言っても、見張りを初めてだいぶ経つけれど、バーテックスって呼ばれる怪物は出てこない。まあ、出てこない方が良いんだけど。

 

 *

 

 [同日/昼/昼食時]

 

 ・・・・・・俺は今、実はとある悩み事を抱えている。

 それは、

 

 「ひびきくん!あーん!」

 「いや、自分で食えるから」

 「あーーーん(威圧)!!」

 「喜んでいただきます!」

 

 「ひびきくん、私のこと、すきー?」

 「えと、その・・・・・・」

 「えへへー、別に今言わなくて良いよー・・・・・・・・・・・・別に好きじゃなくても、私ひびきくんを逃がす気ないし、ゆっくり、ひびきくんに好きになってもらうから」

 「お、おう」

 

 一歳年下の、何時も元気な女の子、代々木りんかになんかめっちゃ好かれてる事。

 別に、好かれるのは良い。『普通に』好かれるのは。

 俺も悪い気分じゃあないし、何よりりんかはとても可愛い。

 正直、俺もこの娘の事は悪く思っていない。というか好きだったりする。

 

 でも・・・・・・。

 

 「ねーねー、今日も一緒にねよー!」

 「えっ、いやちょっと・・・・・・」

 「響にーちゃんとりんかちゃん今日も一緒に寝るのー?」

 「ふふ、夫婦みたいね」

 「ひゅーひゅー!」

 「・・・・・・結婚式には読んで」

 「お前らからかうな!それと、今日は、そのー・・・・・・」

 

 俺がそう言った瞬間、りんかは俺の耳元に口を近づけて、ボソッと、周りに聞こえないようにこう言った。

 

 「一緒に寝ないと、潰しちゃうよ?」

 

 背筋が寒くなるような声で、俺の、男の子としての大事なところを優しくキュッとするりんか。

 ・・・・・・正直怖い。

 

 「ね、寝るから、そのー・・・・・・手、離してお願いだから」

 「うん、わかった!」

 

 俺がそう言うと、りんかはニパッと笑う。

 ・・・・・・まあ、ここまでのやりとりからわかってくれたかもしれないが、りんかは時々怖い。

 『あの時』から俺の事が好きになったらしくて、それからずっと俺に対してこんな感じ。番長に相談したら、「あー、だいたい察した。ええとだな、とりあえず自分も好きだって思ってるなら、それを言ったら良いんじゃないか?」と、よくわからないアドバイスを貰った。

 

 結局、今日も一緒の布団で寝るのか・・・・・・良いにおいするし、好きな奴と寝るからドキドキするし、なんか落ち着かないんだよ・・・・・・。

 

 *

 

 『あの時』。

 それは、俺がりんかを助けた、あの瞬間の事だ。

 

 まだ俺達が電波塔に着いてなくて、途方に暮れていて、道端で休憩していた時。

 バーテックスが襲ってきた。

 

 番長が、雪を沢山出現させてバーテックスを足止めして、雪花ねーちゃんがとどめを刺す。

 それで、だいぶ数が減ったとき。

 高速で移動するバーテックスが表れて、りんかを跳ね飛ばそうとした。

 ・・・・・・その時、まあ、俺はりんかを守ろうとして、かばったんだ。

 

 で、変わりに跳ね飛ばされた。

 

 大怪我はしなかったけど、俺は二日気絶していたらしい。

 番長から土下座されたり、みんなが俺が死んだと思ったらしくて泣きつかれたり、イロイロあってから。

 

 「ひびきくん、好きー!」

 

 それからだ。りんかが俺に対して好きだと言ってきたのは。

 

 *

 

 [夜/服部(はっとり)子供(ガキ)隊の部屋]

 

 「えへへー」

 

 ぎゅー。すりすり。

 

 りんかに正面から抱き着かれて、とてもドキドキする。

 

 「えへ、好き、大好き・・・・・・」

 

 抱きしめられた状態で、ずっと耳元で好きだと呟かれる。

 正直照れとドキドキと、自分も好きだという気持ちが溢れて、もうごっちゃになって訳わかんなくなってきた。

 

 「・・・・・・俺も、その・・・・・・好き」

 

 いつかの番長のよくわからないアドバイスを思い出して、俺も正直に好きだと言ってから抱きしめてみる。

 そういえば、俺がりんかに好きだって言ったのは初めてだし、抱きしめたのも初めてだな。

 ・・・・・・ぎゅう、と、りんかを抱きしめると、とても柔らかくて、なんか何時までもこうしていたい気分になった。

 

 で、当のりんかは、

 

 「!?」

 

 なんかりんごみたいに顔を真っ赤にしてた。俺の胸に顔を押し付けて、自分の顔を隠そうとしている。

 ・・・・・・なんか可愛くて頭を撫でてみると、りんかがぎゅう、と、更に身体を押し付けてきて、真っ赤な顔を上げて凄い事を言ってきた。

 

 「ねー、好きなら・・・・・・ちゅー・・・・・・しよ?」

 

 それで、そのまま目をつぶるりんか。

 俺もつられて、そのまま目をつぶってーーーーーー。

 

 「はむっ・・・・・・ちゅっ・・・・・・」

 「んん・・・・・・んむぅ・・・・・・」

 

 なんか、最初は触れ合うだけだったのが、舌も入れ合う感じの、大人なちゅーになってしまった。思わず、抱きしめる力が強くなる。

 ・・・・・・ちょっと気持ち良かったのは内緒だ。

 

 *

 

 (ちゅーしちゃった・・・・・・えへへ、夫婦になっちゃったー。浮気、しないように見張らないとねー・・・・・・浮気したら、一緒に寝て、ちゅーよりもっと凄い事して、私と一緒にいないといけない身体にしちゃおっかなー。

 ・・・・・・『また』雪花おねーちゃんに相談しよーっと)

 

 「寒気がしたけど・・・・・・気のせいか。ちょっと厚着しよ」




 ・・・・・・なんか最近ヤンデレタグつけているのにその要素が足りなかったんで・・・・・・ロリっ娘にやってもらいました。


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18:とある大社所属の巫女さんのメインパート

 今回のお話、メタ発言注意ですよ。


 [四国/香川/十二月上旬/大社の経営する施設]

 

 どうも。大社に所属する巫女の一人です。以後、お見知りおきを。

 

 さて、今回は私のようなただの巫女がメインを張らせていただくという訳で、最近の近況について愚t・・・・・・ごほん、つらつらと述べようかと思います。

 

 *

 

 さて、今回述べるのは最近の近況という事で、今年の十月、四国に腹を空かせて死に体でやってきた、見た目少女にしか見えない不思議な力を持つ少年、釘宮天地様について先ずは一つ、述べようかと思います。

 

 ああ、釘宮様と言えば、この間天の神である武甕槌様と殴り合いの喧嘩をされたとか・・・・・・。よく、五体満足で帰ってこれたものだと、称賛を通り越して最早呆れてしまいました。

 そして、一体どうして男というのはこう、殴り合いをすると突然仲良くなるのでしょうか。時々何故か武甕槌様と思わしい人間が突然前触れもなく表れ、釘宮様と楽しそうにしながら一緒にいるのを見た、という大社の職員からの目撃情報が絶えないと、情報課の人から聞きます。

 

 ・・・・・・その度に精神を擦り減らすのは私達巫女です。

 

 巫女は、神々の神格を感じる事ができます。

 故に、武甕槌様が現れれば私達巫女にすぐわかります。だから実はもう、情報課の人から聞く前からわかっていたんです武甕槌様が来ているのは。

 

 何時もビクビクしているんです(泣)。どうして地上に天の神様が普通に来るんですか(泣)。

 

 ・・・・・・こほん。少し取り乱してしまいました。

 まあ、それはもう置いておきましょう。

 どうしようもない事ですので(泣)。

 

 釘宮様は、ここ最近、勇者様方の中でも高嶋友奈様、郡千景様、伊予島杏様と特に仲が良いようで、よくこの三名の内の誰かと行動を共にしています。

 

 ほら、あそこの大社の裏庭でも今、伊予島様が釘宮様と共に読書をしていますよ。・・・・・・ああ、でも覗くならチラッとの方が良いです。若しくは覗かない方が良いです。

 伊予島様は釘宮様との読書が大切な時間らしいので、邪魔されると真っ黒い瞳で睨み付けられますよ。

 

 ああ、それで先ほどの話の続きですが、実は先ほどの三名は、釘宮様の事を悪く思ってはいないようです。

 ・・・・・・特に、伊予島様や郡様はもうあからさまに解るぐらいの好意を示しているのですが・・・・・・釘宮様は気がついているような素振りはありません。何処の鈍感系ラノベ主人公ですか。

 大社の中でも、何時もヤキモキしながら釘宮様を見ております。

 早く誰かとくっつけよ、なんて声も上がっているくらいです。

 どうせなら三人全員貰っちまえなんて声も出てます。

 

 ・・・・・・まあ、あの娘達には幸せになってもらえればそれで良いんです。

 私達よりも若いのに、護国の責務を負わせてしまっている、年頃の娘にちゃんとした恋愛をして、好きな人と添い遂げてもらいたいので・・・・・・釘宮様にはとりあえず『逃げ場は無い』とだけ言っておきましょうか。

 まあ、鈍感なので彼女達の好意に報いるのはまだ先な気がしますが。若しくはじれったくなった彼女達が押しかけてそのままパクリと行くかもしれないですね。

 

 *

 

 さて、次は、どんな話をしましょうか。

 そうですね・・・・・・話そうと思うとどうにも出てこないものですね。

 

 ああ、そういえば、釘宮様と高嶋様がちょうどお出かけに行った時の話がありました。

 では、それを話して今日は終わりにしましょうか。

 

 *

 

#超短編[たかしー×天地くん]

 

 [四国/香川/十二月上旬/昼]

 

 白い息を吐きながら走る。

 確か、大通りのあの場所まではもう少しだった筈だ・・・・・・!

 

 さて、今俺は全力疾走をしていた。

 理由は、ある人との待ち合わせに遅れそうだからである。

 

 大通りを抜けて、ちょっと広い広場のような場所に出る。

 そこには、沢山の人がいたが、その中に、俺を見つけて手を振る少女がいた。

 

 「おーい!天地くーん!こっちこっち!」

 

 何を隠そう、四国の勇者の一人、たかしー・・・・・・高嶋友奈その人である。

 

 「悪い。遅れた」

 「ううん、間に合ってるよ。今十三時五十九分!ギリギリ滑り込みセーフだね」

 「お、おう。そう言ってくれるとありがたい」

 

 さて、どうしてこんな場所でわざわざ待ち合わせまでしてたかしーと一緒にいるか。

 デートである。

 なんか知らないがデートである(俺とたかしーは別に付き合っているわけではない)。

 

 まあ、傍から見れば俺の容姿が完全に活発な女の子のそれなので、女の子同士がいちゃついてるようにしか見えないだろうが。

 

 「さあ、行こう!何する?」

 「適当に話しつつ気になる何かがあればそこに寄るって感じで良いだろ。あ、あとゲーセン寄ろうぜ。たかしーにこの前格ゲーで負けたリベンジマッチを申し込みたい」

 「良いよー。今回も負けないぞ!」

 「はっ、言ってろ。今回の俺は一味どころか三味くらい違うぜ?」

 

 俺はニヤリと笑って見せる。が、

 

 「うーん・・・・・・天地くんが悪者っぽく笑ってみせても可愛く感じてしまうのはなぜなんだろう・・・・・・」

 「とうとう女の子にまで男扱いされなくなってきているな・・・・・・」

 「わわわっ!?ご、ごめん天地くん。お、男の子に可愛いは良くないよね。え、ええと・・・・・・キュート?」

 「英語になっただけで変わってないよぉ・・・・・・」

 「ごめんなさい謝るから泣かないでぇ!」

 

 二十分後・・・・・・。

 

 「ねえねえ、次はこれ着てみてよ!」

 「なんで俺着せ替え人形になってるの!?あとそれ女物だよな!?良いか、俺は男!オーケイ?俺には似合わないだろ?」

 「えー、女物でも天地くんなら似合うってー」

 「いいや絶対似合わない・・・・・・って店員さん!?何故凄く良い笑顔で女物の服を俺に進めて来るの?ちょ、もー、わーったよ着るよもう!

 ・・・・・・なぁなぁたかしー、この服どう着るの?」

 「着せてあげるよ!ちょっと失礼しまーす」

 「わ、おい、別に外から指令言ってくれるだけで良いから!試着室に入ってくるなぁ!?」

 

 そのあと、俺が試着した服の中で何着かをたかしーがセレクトして買って俺にプレゼントしてくれた。

 たかしー曰く、「スッゴく似合ってた!だから、今度一緒にデートするときに来てきて!」らしい。

 ・・・・・・なんかもうデートって言われて同じない上にもうこれが普通なんて思い始めた自分がいる。女装にも今回の一件で慣れてきたよ。

 

 ーーー[注意:この二人は付き合っておりません]ーーー

 

 *

 

 この光景を見て、もうくっついてしまえ二人共、と思ったのは私だけでしょうか・・・・・・?

 

 *

 

 なお、今度諏訪に一人で天地さんが赴くという話で友奈さんと杏さんが行きたいと駄々をこねたのは、また、別の機会に。



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19:合流/その一

 何日ぶりでしょうか。

 西暦編、投稿します。
 ・・・・・・もう主人公四人の名前忘れちゃったyo!というお方。
 名前書いておきます。

 ドラゴン:草薙竜介(十三歳、ショタ)
 格闘:釘宮天地(十四歳、男の娘)
 炎:錦裕也(十五歳、コミュ障)
 氷:服部鬼十郎(十四歳、鬼番長)


 [四国/香川/一月中旬/朝]

 

 「諏訪にいる『奴』と会え?」

 「はい」

 

 現在、俺、釘宮天地は俺の部屋で大社のヒトに頼み事をされていた。

 

 ええーやだよあんな土地神維持する為だけに力半分吸い取られてるのにも関わらず俺より強いドラゴンショタに会いに行くなんて。

 

 あ、ショタって言っちゃったよ。

 ・・・・・・でも見た目完全にランドセル背負ったら小学一年生なんだよなぁ・・・・・・前に写真で見たことあるからわかるんだけど、アレで十三歳ってスゲェよ。何食ってたらあんな見事な童顔カワイイなショタになるんだか。

 

 ・・・・・・それで?年上の彼女二人いるんだっけ?うらやましいねぇリア充は。けっ。

 

 で、だ。

 どうやら俺一人で行け、という事らしい。

 非常食旅行用キットその他が、一人、良くもって二人くらいの分しか無いらしい。

 それで、団体行動主体の勇者よりも単体の行動能力が高い俺が、諏訪に行くことになった。という訳である。

 

 ・・・・・・ハァ。

 

 *

 

 [諏訪/一月中旬/朝/電子機器類が沢山ある部屋]

 

 『つーわけで諏訪に俺一人で行くことになったから』

 「どういう訳だ」

 

 イキナリ通信ぶち込んで来やがったと思ったら何なんだコイツは。

 

 俺、草薙竜介の顔は恐らく今とんでもない感じの、何とも言えない表情になっていると思う。

 

 それにしても、奴が『一人で』来るのか・・・・・・『一人で』。

 大荒れしそうだな。主に本の虫とかCシャドウとか元気な空手少女とか。

 

 いやぁ、マジでアイツ怖いからあんまり会いたくないんだよなぁ・・・・・・前に送って貰った写真で見たことあるからわかるんだけど、アイツ十四歳の少年のクセして見た目完全にキレーでめっちゃ可愛い女の子っていうな。

 最初勇者との集合写真見たとき男に見えなかったから、『わお、百合ハーレムか。良いなぁ』とか思っちゃって歌野と水都に病まれた時があったなぁ・・・・・・怖かった。

 

 で、だ。アイツの何処が怖いかって、アイツ俺よりほっとんどの能力値低いクセして攻撃だけバカ高いんだよ。

 どうして威力たったの四十の『グロウパンチ』で大型バーテックスが消し飛ぶんだ!?

 定期連絡で聴いたときマジでビビったわ。しかも特性が聞く限り『ビーストブースト』っぽいし。

 ・・・・・・いや、マジでどうなってんだアイツの攻撃力。

 

 しかもアイツ、好意に対して一切無自覚なのが更に怖い。

 ・・・・・・いや、マジで。

 この前の定期連絡なんて、歌野と水都がたのしそーに話してるなーなんて思ったら向こうにいる本の虫と[編集済み]な会話を繰り広げてたからなぁ・・・・・・余りに会話の内容がヤバくて怖くて夜眠れずに歌野と水都に抱き着いて寝てそのまま襲われたわチクショー。

 

 で?あんなに病むくらい好意ビンビンにされて尚、気がつかない鈍感さにはさっきも言ったように恐怖と、そして敬意を抱いたね。

 

 ・・・・・サッサと襲われちまえ。鈍感男の娘野郎が。

 

 *

 

 かくして、俺達二人は一週間後、面と向かって初めて会うことになったのだった。




 こいつらは定期連絡なんかや、電子データによる写真のやり取りはしたことありますが面と向かって会ったことがありません。


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20:合流/そのニ

 [諏訪/一月下旬/昼]

 

 「ああもうなんでこうも多いんだ!」

 

 幾つかの通信で、超絶鈍感男の娘(くぎみやてんち)が今日来ることが解ったから、出迎えようと外に出た瞬間に・・・・・・バーテックスが襲来。ああ、もう!本当にタイミングが悪い!

 しかも今日に限って数がいつもの二倍以上ときた!

 

 「ヘルプ! 囲まれた!」

 「ワリィこっちも! ちょっと頑張ってぇええええええええ!」

 

 四方八方から飛んで来るバーテックスを『クロスチョップ』で叩き落とし、『ドラゴンテール』でぶっ飛ばし、『りゅうのいぶき』で一定範囲のバーテックスを消滅させる。

 

 威力の低い技、若しくは物理技のみで、バーテックスを倒していくが、きついな。

 

 威力強い技使ったら少々大変な事(前例アリ。前の方の話参照)になる為、多様したくなかったけど・・・・・・使うしかねぇか、こんな数多かったら、使い惜しみしてると負ける。死んでしまう。

 歌野は・・・・・・うん、技の範囲外。多分、いや絶対余波くらうだろうけど、装束着てる今なら余波くらったところで平気だろう。毎日畑を耕す事で鍛えている農業王は伊達じゃない。

 畑も、今は育てていない範囲の、少々雑草が生えた場所・・・・・・後で草抜きするか。

 ともかく、作物を巻き込む心配無し、だな。

 

 という訳で。

 

 「『りゅうのはどう』!」

 

 俺が放った咆哮と共に、巨大な蒼い東洋の龍を象ったエネルギーの波動が上空に昇っていき、口を開け、そのまま自由落下の要領で全てのバーテックスを飲み込んでいった。

 飲み込まれなかったバーテックスも、雑魚は『りゅうのはどう』の余波で消し飛び、進化系っぽい奴らも体を崩壊させながら吹き飛んでいく。

 

 ・・・・・・水都曰く、俺この地域の神に力半分近く吸い取られてるのに、こんな威力出んの?伝説の専用技使ったらどんな事になるか・・・・・・

 

 残った木っ端バーテックスを全て『ドラゴンクロー』で吹き飛ばし、『りゅうのいかり』で爆撃して一息つく。

 何時もの二倍疲れた。使い慣れない技使ったからかなぁ。

 ・・・・・・せめて練習さえ出来れば。でも出来ないんだよなぁ。空間切り裂く技とか時間ぶっ飛ばしたりとか隕石降らせたりとか・・・・・・その他国どころか大陸滅ぼせそうな技のオンパレードなのがドラゴンタイプの特徴。

 『コアパニッシャー』とかした日には間違いなく日本地図を書き換えないといけない事態に陥るな。うん。よって、練習は出来ない。

 

 「せめて物理技の練習と『りゅうのまい』を高速で積む練習するか・・・・・・」

 

 その前に草抜きやっとこう。

 

 *

 

 [諏訪/同日/昼]

 

 諏訪に着いたかと思えば、諏訪の畑と思わしい場所にバーテックスが群がっていた。

 

 時折(ときおり)打撃音が聞こえる。誰かが戦っているのだろう・・・・・・まあ、戦っている奴と言えば諏訪の勇者(しらとりうたの)か、ドラゴンショタっ子(くさなぎりゅうすけ)くらいだが。

 

 援護しようと思い、俺は『グロウパンチ』を発動して突撃した。

 で、接敵三秒前。

 

 「何あの龍」

 

 敵の中央付近から青白いオーラを放つ東洋風の龍が飛翔した。

 で、口を開けて落ちていった。

 

 「あ、何かやbーーーー」

 

 次の瞬間。

 

 ドバンッーーーーと。

 

 そんな鼓膜が破れそうな程の音と共に。

 

 恐らく、草薙竜介(ヤツ)の放った『りゅうのはどう』であろうモノの余波を真っ正面から受けた俺は、フツーにすっ飛ばされた。

 ・・・・・・しょうがねぇだろ俺攻撃以外の能力全部が紙以下なんだから。という訳でおやすみなさい(きぜつします)。ガクッ。

 

 俺の意識が戻るまでの一日分、到着が遅れたのは言うまでもない。

 

 *

 

 [翌日]

 

 「ええと、どうも諏訪の皆様コンニチワ。四国から使者としてやって来た釘宮天地です。到着が一日遅れてしまって申し訳ありません」

 「いえいえ、どうぞごゆるりと寛いで下さい。・・・・・・つかぬ事をお聞きしますが、どうしてそんなにボロボロなのでしょうか・・・・・・?」

 「なんか衝撃波にぶっ飛ばされまして」

 「そ、そうなんですか。・・・・・・ヤベー」

 

 そう言って目を逸らすショタっ子・・・・・・もとい、この諏訪の近くに転移してきた俺と同じポケモンの力を持ったドラゴンタイプの転移者、草薙竜介。写真で見たことがあるけど、生で見るとやっぱりショタだ。

 ・・・・・・ほら、オイ、こっちを見ろよ。別に怒ってないから。ね?(がちぎれ)

 

 「まあ、かたっくるしいのはここまでにして。で、だ。ポケモンやってたならわかるだろオイ、目ぇ逸らすなこっち見ろ。な?目と目合わせてポケモンバトルしようぜ?ほら、『ビルドアップ』積みまくった『ばくれつパンチ』を味合わせてあげるから、な?」

 「睨まないで下さい美人な顔だから睨まれるとこわ・・・・・・ひぃっ!?」

 

 あん?誰が男の娘だって?

 

 

 

 その後。

 草薙竜介は歌野と水都に泣きついてた。

 ・・・・・・なんか二人別方向に恍惚とした感じの顔をしていたのは、見て見ぬ振りをしようと思う。




 ポケモンバトルは次回。

 うたのん及びみーちゃん、新しい扉を開く。


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21:合流 その三

 ポケモンバトル回です。


 [一月下旬/諏訪/ある日の朝]

 

 「という訳で、今からバトルをします」

 「どういう訳だ!? 唐突にも程がある!」

 

 いきなり訳解らん事を言ってきた格闘タイプ(脳筋おバカ)な釘宮天地に、俺、草薙竜介は突っ込みを入れた。

 

 「オイオイさっき言っただろ。バトルするぞって。もう忘れたか竜介?」

 「いやそれ一方的にお前が言ってきたんであって、俺の意思は何処にも介在してないから。うん」

 「いやでも目と目が合ったじゃん」

 「無理矢理お前が合わせたんだよなぁ!?」

 

 顎を捕まれて、まるで餌を前にしたライオンのような目つきで睨まれた後に「目と目が合ったら・・・・・・ポケモンバトル、だよなぁ?」とか言われた俺の気持ちを少しは汲み取ってくれ・・・・・・ッ!超怖かったんだからなぁ!?

 

 「つべこべ言うなうたみとコンビの胸にお前投げつけるぞ」

 「それだけは止めて。そのままキャッチからのサンドイッチ→ベッドイン→ゴールイン(意味深)しちゃう」

 「・・・・・・ちッ、コレだからリア充は。爆発してから五裂四散しやがれ」

 

 天地、お前もな!

 

 *

 

 「ルールは簡単。瀕死になった方の負けだ」

 「オーケーオーケー。んじゃぁ、ちょっとやるか」

 

 俺と天地は、それぞれ『りゅうのまい』と『ビルドアップ』を積む。

 

 「行くぜッ」

 「来いッ!」

 

 俺は、上がった素早さのままに突っ込み、『ドラゴンクロー』を発動させて斜め下から切り上げる。

 それを、天地は『グロウパンチ』で無理矢理軌道を変えやがった。力技にも程がある!

 

 「こん、の、馬鹿力がぁ!」

 「ハッ、言ってろ!」

 

 『ドラゴンテール』で天地を吹っ飛ばし、強制的に間合いを取る。

 近距離は危険。アレは一発でも掠れば即瀕死になる威力だな。

 

 「アンタもアンタで大概な攻撃力だな」

 「ッたりめーだろ? 俺ぁ攻撃も特攻もどっちもイケる砲台型のステータスなんだよ」

 

 近距離がダメなら遠距離で決める!

 

 「ぶっ飛べぇ! 『りゅうのはどう』ッ!」

 

 俺が放った西洋の龍を象ったエネルギーのカタマリが天地に向かってすっ飛んでいく。

 が。

 

 「『せいなるつるぎ!』」

 

 あの野郎。また力業で一気に切り上げて『りゅうのはどう』を真っ二つにしやがった。

 

 「ちッ、テメーの攻撃力マジでチートだろ。あんなんでも一応デカいバーテックスの群れを纏めて灰にする威力はあるんだが」

 「竜介のさっきの攻撃はちょいとくらったらまずかったもんでな。斬らせてもらった。もうちょい上の技でも出さねーと俺は倒せねぇぜ?」

 

 ヒュンヒュンと風を切る音を立てながら、天地は青白く光る剣を振り回す。

 ・・・・・・あんなモノくらったら俺も瀕死になるっての。

 

 「へぇ。じゃーリクエストにお答えして」

 「よっしゃ来い!」

 

 俺はさっきの天地の言葉に笑顔で答えると、左腕にクリアパープルに光るエネルギーを溜める。

 

 「さて、耐えて見せろ。伝説クラスの技って奴を見せてやらぁ!」

 「・・・・・・ちょっちこりゃヤベーかも・・・・・・・よっしゃ、来いやぁ!」

 

 身体を半分引いて、力を溜めて・・・・・・そして、思いっきり前に向かって振り回すようにして放つ!

 

 「『あくうせつだん』!」

 

 くうかんポケモン、パルキアの専用技。

 その威力と言えば、風はおろかその世界の空間さえも真っ二つに切り裂いて、天地に向かってクリアパープルの刃は進んでいく。

 

 「『せいなるつるぎ』!」

 

 それに、天地は真正面から挑んだ。

 俺の亜空切断と、天地の聖なる剣。

 その二つは拮抗し、数秒後・・・・・・

 

 耳をつんざく大爆音と共に、大爆発を引き起こした。

 

 *

 

 「やるじゃねぇの。でも、俺を瀕死にするにはちょっと足りねぇな」

 「ハッ、そんなボロボロの身体でよくそんな強がりが言えるもんだ」

 

 瀕死直前になっても、天地の目はギラギラと俺を睨み付け続けていた。どんだけ戦闘狂なんだよ。

 ・・・・・・そういや、男の()な見た目に騙されるが、コイツは脳筋だったな。戦闘狂なのは当たり前か。

 

 「コレで終わりにするか」

 

 俺はそう言いながら、『りゅうのはどう』を放つ為に、溜めを作る。

 

 「そうだな。そろそろ終わりにしねぇと。昼メシ食いてぇしな」

 

 天地も、『ばくれつパンチ』を発動させて、身構える。

 

 そして、いざーーーー

 

 

 どっがぁああああああああああああああん!

 

 「Geyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」

 

 

 ーーーーという時に限って邪魔が入るのかチクショー!!

 

 いきなり冬野菜を育てている畑の一角が大爆発を起こしたかと思えば、そこから大小様々より取り見取り大バーゲンといった感じに、大量のバーテックスが湧いてきた。

 

 「オイ天地。一旦バトルは中止だ」

 「おう」

 

 見れば、天地はバトルを邪魔されて怒って、艶のある長い黒髪がオーラを纏ってユラユラ揺れている。

 

 「天地、気持ちはわかる。その鬱憤、あのバーテックス共にぶつけるぞ」

 「・・・・・・おう」

 

 次の瞬間。

 バーテックスの集団の内の約半分が、無慈悲に消し飛ばされた。

 

 「ワリィが、今からやるの全部八つ当たりだ」

 「いや、八つ当たりじゃないと思う」




 バーテックス は バトル の 邪魔 を した!

 バーテックス は 消し飛んだ!


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22:北海道はもう、ダメかもしれない

 鬼十郎「いきなりの北海道回だァ! ぶちかますぜッ!」




 タイトル通りです。

 少年、ショタっ子達を、絶望が襲います。


 [服部(はっとり)鬼十郎(きじゅうろう)視点]

 

 北海道はもう、ダメかもしれねぇ。

 ・・・・・・あ?もう俺と、雪花と、ガキ六人しかいない時点でほぼほぼ終わってねぇかって?

 

 ああいや。そういう感じの方向に『終わってる』んじゃねぇ。

 正解は、だな。

 

 「ちょっと、りんか? 俺の事抱きしめ過ぎ・・・・・・。ちょっと苦しいよ」

 「ダァーメ。ひびきくんは、もっと私と一緒にいないと、めっ・・・・・・ってしちゃうぞ!」

 

 「ねー、おねぇちゃん何で僕の首をぺろぺろしてるのー?」

 「ちゅるっ・・・・・・はーっ、はーっ・・・・・・」

 

 「暑いよー。腕からちょっと離れてー。恥ずかしいよー」

 「やだ絶対に離れないよ私あなたの事が好きだもんなのにねぇなんで離れてなんて言うの私の事嫌いなのでもそれおかしいよねだって私があなたのこと好きなのに[以下削除済み]」

 

 「オイ雪花」

 「んー? 私はなーんにも知らないよ? それよりも、さぁ。昨日、私から黙って七十三分四十二秒も離れてたよね。何してたの?」

 

 女の子達の愛情で、俺達男の身体と心と精神力と貞操がヤバい。

 誰か、助けられるなら誰でも良いから助けてくれ。

 

 *

 

 事の始まりは、確か。

 

 「第一回! ドキッ、男子だけの愚痴パーティー! ポロリはないよ!」

 「あたりめーだろ!? 男のポロリなんて何処にも需要ねぇよ!?」

 「ばんちょーのツッコミがさくれつ! こうかはばつぐんだ!」

 「ひびきにーちゃんは倒れた!」

 

 こんなぐだぐだな感じで始まった、俺達男だけの昼間の集まりだった。

 女の子達が寝てる間に、バーテックスの見張りもかねて、男だけでしか言えないような事を言い合う・・・・・・そんな名目だったっけか。

 

 頭数は四。

 

 俺と、服部餓鬼隊なんて名乗ってる六人のガキんちょの内の三人。

 それぞれ、一人称が『俺』の、少々おふざけが好きで、カッコイイものも好きな多田(ひびき)。六歳。

 男の中で最年少の五歳で、かつ一番純粋無垢な金沢勇人。

 響と同い年の、俺を含めた男の中で一番のムッツリである久我(くが)楓人(ふうと)

 

 この四人で、あーだこーだと語り合った。

 

 やれ「最近雪花が誘ってるようで困る」だの、やれ「りんかがとにかくヤバい」だの、「女の子達が最近距離が近い」だの・・・・・・

 

 そんな語り合いで、結論として「女の子から距離を意図的に置く」というものが出た。

 まあ、こんな非常時だ。依存するのも解るが、自立してほしい。と、いう意図もあり、俺達はそれを完璧に実践してみせた訳だが・・・・・・

 

 

 

 結果は冒頭を見て解るように、もう凄い事になってしまった。

 まるで蛇のようにネットリと絡み付いて離れない、依存度及び束縛率が限界突破の女の子達が一丁出来上がりってかふざけるな。

 

 ・・・・・・ちょっと待て。

 確か、俺達はそういうのを和らげる為に、先の事を実行したんだよな。

 

 

 

 逆に依存度とか束縛とか上げてどうするんだよ畜生がぁああああああ!?

 

 *

 

 [多田響視点]

 

 番長が頭を抱えている。まあ、狙いが外れてしまったんだから当然か。

 

 「ばんちょー、おなかいたいの?」

 「いや、大丈夫だ。俺自信の狙いが外れて落ち込んでるだけだから気にしなくて良いぞ勇人」

 「女の子の身体、柔らかくて、暖かかったなぁ」

 「楓人は夢のトリップからちょっと戻ってこーい!?」

 

 あー。もう散々だ。

 救いは、唯一ここ北海道唯一の・・・・・・ええと、せいりょうざい、だっけか。そんな称号を番長から与えられてた、勇人がマトモな心を保っている、という事。

 あんなに怖い体験は初めてだっただろうに、持ち前の・・・・・・ええと、じゅんしんさ、か。それでなんとか『とらうま』?は、回避したらしい。

 

 まあ、更なる女の子の恐さを知って、かつ、マトモな人間が一人いる事が救いなんて、俺ら北海道男子は相当終わってるな。なんて思ったり。

 

 ・・・・・・最近、俺の精神力が上がってきた気がするのは気のせいかなぁ。

 主にりんかとか雪花ねーちゃんとかのアレのお陰で。

 

 *

 

 [少し前/女の子(こいするおとめ)サイド]

 

 ピー・・・・・・ザザーーーー

 

  『つーわけで、少し距離を置く作戦をーーーー』

 

    ガ、ガガピー・・・・・・

 

 「へー。へーッ。鬼十郎君こんな事考えてたんだぁ。コレちょっとお仕置きが必要かな」

 「ねぇねぇ、雪花おねぇちゃん、何してるのッ」

 「・・・・・・盗聴・・・・・・?」

 「んー? まあ、ね。ちょーっと気になる事があったから」

 「聞かせて」

 

 [十分後]

 

 「ひびきくん、あとでいたいいたい(・・・・・・)のあとにぎゅーってしないと」

 「・・・・・・コレ、つまり・・・・・・」

 「私達から、ええと・・・・・・わざと男の子達が離れようとしてるってこと」

 「嫌われたの? 私達」

 「んー・・・・・・多分違うと思うけど・・・・・・例えば、りんかちゃん、響君と離れ離れh」

 「ぜったいいや」

 「・・・・・・君達は?」

 「・・・・・・嫌、いやぁ・・・・・・」

 「どうしたらいいの?」

 

 「ふふ、私が教えてあげる。男の子が私達女の子から離れ離れにならなくなる方法を、ね♪」

 

 うん。良い具合になってきた。

 良い目してるねー。真っ暗で、ドロッとしててーーーー

 

 *

 

 この後、俺達の身に何が起こったのかは冒頭を確認してくれ。

 

 あん?この続きだァ?

 

 んー、あー・・・・・・[削除済み]に関しちゃ少々、特に俺とか響はトラウマなもんでな。

 これ以上は勘弁してくれ。

 

 最後に一つ。

 北海道は、もうダメかもしれない。

 

 あらゆる意味で。




 北海道男子紹介

 服部鬼十郎(14)
 言わずもがなな鬼番長。
 コワモテだが、仲間には優しい。
 北海道ヤンデレ被害者その一。


 響くん(6)
 北海道ヤンデレ被害者その二。
 最近、いろいろとありすぎて精神力が鍛えられている人。
 精神年齢プラス6ぐらいされてるハズ。


 勇人くん(5)
 北海道ヤンデレ被害者その三(無自覚)。
 天使。ただ純粋。めっちゃピュア。北海道唯一の癒し枠。


 楓人(ふうと)くん(6)
 北海道ヤンデレ被害者その四。
 ムッツリ。助平。
 ヤンデレ?むしろご褒美です(ヤバい)


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23:対極の少年達

 ちょこっと急展開です。


 [北海道/電波塔/一月末/朝]

 

 この電波塔に住み着いて、早二ヶ月強。

 

 「うー、さっぶゥ~・・・・・・」

 

 鬼番長服部とまで謡われたこの俺も、こうも寒いと敵わない。

 ・・・・・・背筋が凍える程の視線が後ろから注がれているから、尚更。

 あの日から、密着されて抱き着かれて見つめられるのがもう日常になっちまった。

 別の部屋からは、ガキ共がじゃれついてる声が聞こえる・・・・・・まあ、あの声を『じゃれついてる』と言っていいのかは甚だ疑問だが。

 

 ガタガタ震えながら、切った張ったで適当に制作した通信機器の周波数を、これまた適当な位置に合わせ、何時もの日課を行う。

 

 「あー、どうも。こちら北海道。聞こえてるかーーーー」

 

 こちとら電波塔に超巨大パラボラアンテナと設備は揃ってんだ。日本の何処かに届くだろ。

 

 「頼んだぜ・・・・・・ッ」

 

 俺はそう願いつつ、受信機の感度を最大にした。

 

 *

 

 [沖縄/古波蔵棗の家/同日/朝]

 

 「・・・・・・ちくしょお、勝てない」

 

 俺、錦裕也はそうぼやきながら起き上がる。

 

 最近更にヤバくなった棗に朝っぱらからムシャられて、真っ白の状態でメシの準備をする。

 台所の脇にあるラジオのスイッチを押し、そこから流れる音楽番組の曲に合わせ鼻歌を歌いつつ、昨晩食べた残りの沖縄そばの麺を潰し、こねて丸めて胡麻をかけてサラっと揚げていく。

 

 「ま、小麦から作るらしいしイケるだろ」

 

 おやつ感覚の朝食になってしまったが、あと二時間程で昼メシに良い時間、という事を考えれば、このぐらいで良いだろう。

 さて、棗を起こしに行こうか・・・・・・。

 

 『~~ーーーー~~♪・・・・・・ガガガ、Peeeeeeeee』

 

 と、思った瞬間、ラジオから流れる音楽番組が不意に乱雑なノイズに変わる。

 

 「・・・・・・壊れた?」

 

 あー、買い替え時か?

 

 『Gaーーーーあー、どうも。こち[ガー]北海道。聞こ[ガ、ピー]か? 今、ガキ六人と女一人、そ[ピピー、ガー]、男一人の計八人で[ガガガ、ピー]延びてる[ビリビリ、ガガガガ]ーーーー~~~~♪』

 「ッ!」

 

 一瞬、誰かの声が聞こえたが、直ぐに元の音楽番組に戻る。

 

 「ええとーーーー?」

 

 さっきの放送、何時もとは別の情報番組かと思ったが、ここにはラジオ局も番組も一つしか無いし、新しい番組も増やす予定は一切無いと聞いている。つまりコレは。

 

 「海賊放送・・・・・・しかも、情報を鵜呑みにするならこことは対極の北海道から・・・・・・どんだけ性能良い設備持ってんだよ・・・・・・衛星でもジャックしたか?」

 

 ところどころノイズが酷いが、それでもこれだけハッキリと音声が拾えるとはな。

 

 「おはよう、裕也。さっきの放送は・・・・・・?」

 「・・・・・・棗、ええと、あ、うんと」

 

 はー。彼女にさえもこんなどもるとか、マジで俺コミュニケーション能力皆無だわ。

 

 「裕也、落ち着いて、ゆっくりで良い」

 「・・・・・・ゴメン。その、海賊放送。多分、北海道から」

 「生存者か。助けに行きたいが・・・・・・」

 「・・・・・・無理。・・・・・・距離がある」

 

 こういう時、俺は無力だ。

 せめて、水タイプなら、『なみのり』や『アクアジェット』で海を渡って行けるのに。

 

 でも、今無いものねだりしてもしょうがない。

 今は無事を祈ろう。

 

 「さっきの声、少し恐怖も混ざってた気もするし・・・・・・化け物に囲まれて不安なのかもな・・・・・・せめて、生き残って欲しいな」

 

 さっきの声の主が、別の意味で恐怖してたなんて、俺には知るよしもなかった。

 

 *

 

 その頃。

 

 諏訪と四国。

 

 そして、知らぬ間に、沖縄と北海道。

 

 偶然ながらも、繋がりを得た『俺達』に、脅威が迫っていた。




 あと少し。


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24:大戦前夜

 さーて、どーやって闇を更に深くするか・・・・・・


 神託が来ました。

 

 あの、『丸亀城の戦い』以上の規模のバーテックスの侵攻が始まるそうです。

 

 ■■さんが諏訪に行って、四国にいない今、戦力は元の、私達勇者と巫女のみでバーテックスに立ち向かわねばなりません。

 ですが、今の勇者のみんなは不安定です。

 

 あんなに張り合いがなさそうで楽しくなさそうな若葉ちゃんや球子さんは見たことがありませんし、千景さんは雰囲気が暗くなり、どことなく友奈さんも元気がなさそうです。

 杏さんは・・・・・・■■、■■■■■■■。

 

 心配です。本当に。

 

 西暦二○一九(・・・・)年 一月二八日 上里ひなた記

 

 [大社検閲済]

 

 *

 

 ベッドに寝転がって、部屋の窓から見える諏訪の夜空を見上げる。

 空に浮かぶ輝羅(きら)(ぼし)が全て、あの星屑共だったら、と思うと、どうにも夜空が気になって眠れない。

 

 今日、水都から聞いた話だと、太平洋側から、海外を蹂躙したバーテックスが日本に集結してきているらしい。

 

 今だかつてない規模の戦いになるだろうという、今回の侵攻。

 

 ・・・・・・必ず、守り通す。この諏訪を。

 俺が例え、どうなろうとも。

 

 *

 

 走る。

 ただ、駆ける。

 

 四国が危険だ。

 竜介達は、ただ何も言わず見送ってくれた。

 藤森の言った神託が事実なら、明日、遅くても明後日の昼には、海外を荒らし回ってたバーテックスが四国、諏訪、そしてその他全国各地に襲いかかるだろう。

 

 「もっと・・・・・・もっと、速く・・・・・・ッ!」

 

 急げ。

 行きのように、二週間もゆっくりしていられない。

 七倍以上の速度で、四国へ帰る。

 

 そして、人間を食い散らかす事しか頭にない畜生共を一匹残らず叩き潰すッ!

 

 *

 

 「さぁて、どうするか」

 

 良く見れば、遠くの空には幾億の星屑が煌めいて、その一つ一つが人を簡単に食い散らかす化け物だった。

 畜生、とうとう奴ら、日本を本格的に消し滅ぼすつもりらしいな。

 

 北の大地は試される土地だと聞いたことがあるが、まさかここまでとは思いもしなかった。

 

 「久々に、大暴れするか。まだ試してない専用技もあるしな」

 

 俺は、無意識の内に『こおりのつぶて』を辺りに撒き散らしていたらしく、今正に俺を食いつぶそうとした化け物共は細切れになっていた。

 

 *

 

 今朝、棗が聞いたという、海が言っていた事について考える。

 海中を、超高速で移動するバーテックスが沖縄に向かっているらしい。

 

 「・・・・・・とうとう、最終決戦っぽい感じか」

 

 海外にいた野郎共が一切の例外なく日本の、生き残りの奴らをぶっ殺す為に集結しているらしい。

 そのうち、俺が海から来る奴ら相手は苦手だという事が知られているらしく、都合よくバーテックスはその殆どが海中遊泳型。空を飛んでる奴は、殆どが別の場所に行ってしまっているらしい。

 

 「でも、関係ない」

 

 一匹残らず、焼き尽くす。

 

 *

 

 後に、『人神戦争』と呼ばれる、人と神々の戦争の、その『前哨戦』が始まろうとしていた。

 

 ーーーー『俺達』が勝つ。




 次からなんか神世紀で言ってた人神戦争へととっつにゅー。

 なんか原作から程遠くなってるけど大丈夫でしょうか・・・・・・?


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25:来たるもの

 超短いです。


 「・・・・・・来たぞ」

 

 樹海化した四国の地に、ユーラシアを攻め滅ぼした

畜生共(バーテックス)が来た。

 

 「結局、彼は帰ってこなかったわね」

 

 隣にいる千景が残念そうに言う。

 思えば、彼女はあの男が来てから楽しげな表情をすることが増えたのだったか。

 少し、残念そうな表情の理由が理解出来てしまい、苦笑が漏れる。

 

 「しょうがないだろう。天地は諏訪にいたんだ。急いで戻って来ている、としても、もうしばらくは戻って来ないだろう」

 

 今回の大侵攻について、神託があったのが昨日。

 神託のあってすぐに諏訪からこちらに出発したと聞いた。どれだけ急いだとしても、今、この場には間に合わないだろう。

 

 「さあ皆。気を引き締めて行こう。決して油断だけはするな。天地の分まで私達がこの四国を守るッ! 四国勇者、出陣!」

 

 私の掛け声と共に、皆の気合いの入った雄叫びが響いた。

 

 *

 

 常に二人一組で。

 それが、今回の戦いの中で、伊予島さんに念押しされた事だ。

 一人を丸亀城の戦いの時のように交代要員として取っておき、残りの四人がペアを組んで戦う。

 交代要員の人は、戦場を俯瞰的に見て、疲れが見えた人に代わり、戦場へと出る。

 

 「高嶋さん、交代しましょう」

 「ぐんちゃん? ・・・・・・うん、わかった! 無理しないでね?」

 「ええ、わかってる。少しの間休んでいて、高嶋さん」

 

 明らかに疲弊が見えてきていた高嶋さんと交代して、戦場へと出る。

 大葉刈を振るい、近くにいたバーテックスを切り飛ばす。

 

 「来なさい。纏めて鏖殺(おうさつ)してあげる」

 

 明確な殺意をもって、バーテックスと向かう。

 隣にいる土居さんが少し引き攣った顔をしていたけれど、得に気にせず近くの敵を、刈り取るようにして真っ二つにしていく。

 

 小さい奴も、大きい奴も関係ない。

 全て刈り取る。

 

 ただの一匹も、残しはしない。

 

 *

 

 仲間として、だけじゃない。

 

 勇者という概念を無視して、ただの一人の友人として、人間として愛してくれている、愛を向けてくれている彼の分まで・・・・・・

 

 「殺すッ!」

 

 *

 

 あと、もうちょっと。

 あともう少しで中国地方に入る。

 

 「超特急で飛ばしても、間に合わなかったか・・・・・・ッ!」

 

 もともと攻撃力以外全てのステータスが死んでる俺の身体も、大体人間辞めてるから行けると思ったんだが、どうやら間に合わなかったようだ。畜生めが。

 

 遥か遠くには、神樹が張った神々しい結界が見える。

 

 「待ってろよ・・・・・・もう、少しで・・・・・・」

 

 走れメロスの気持ちが、何となく解ってきた夜だった。

 

 「沈む太陽の十倍以上速く走らねぇとな」

 

 急げ。

 手遅れになる前に。




 次回。
 それぞれの決戦


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26:絶対零度の蹂躙

 番長回。


 [数時間前]

 

 俺は軽トラを走らせていた。

 

 理由はただ一つ。

 

 「番長! 右ッ」

 「うえからもー。化け物いっぱい!」

 

 バーテックス共から逃げる為。ただそれだけに全力で軽トラを飛ばす。

 この間、タンクのガソリンを満タンにしておいて助かった。

 北から急に大群で現れて、尽くを消し飛ばしながら、まるで俺達をしらみつぶしに探しているようだった。

 で、発見されて、今逃げている。

 

 「雪花ぁ! 狙えるか!?」

 「はいはいー。よっこいせっと!」

 

 荷台にガキ男三人と雪花、助手席にガキ三人娘を詰め込んで爆走している為、あまりスピードが出ない。

 そのため、バーテックス共に追いつかれる。

 

 攻撃力が体内に宿っている精霊頼みで、神からのバックアップを望めない雪花だけだとバーテックスを蹴散らすには心許ない。

 だから俺も、運転しつつ範囲技の『ふぶき』や『こごえるかぜ』で凍らせて応対するが・・・・・・焼け石に水。数が減らない上に、しぶとい奴らが特攻してくるからうっとうしい事この上ない。

 

 「ああもう! 世界中のバーテックスでも集まってんじゃねぇのかこれ!?」

 

 叫びながらハンドルを切る。現在地が何処なのかサッパリな上、北海道だから大量のバーテックスからの逃げ場が殆ど無い、という現状。無理ゲーにも程がある。

 

 だが、それを俺はやり遂げなけりゃならない。

 餓鬼共と、雪花の為にも。

 

 「ぶっ飛ばすぜぇッ! 全員捕まれ!」

 「え? ・・・・・・きゃぁああああああ!?」

 

 高速道路の残骸が見えた。まだ使える。

 

 そのまま軽トラを家屋の屋根の残骸に載せ、ジャンプ台のように使って高速道路まで一気に跳ぶ。そして、滑りつつタイヤを接地させ、瞬間的に見えた看板をチラ見する。

 

 「・・・・・・来た! きたきたきたぁ!」

 

 そして、思いがけない幸運にニヤリとする。

 

 看板には、こうあった。

 寂れて折れて、錆びていたがそれでも、その文字を見間違える筈がなかった。

 

 [室蘭IC 2km]

 

 室蘭は北海道の南側、それも海岸線がある。ICから下りれば直ぐだ。

 そして、そこから海を凍らせて行けば本州だ。

 今までの旅で、もといたカムイコタンから直線距離で百キロ以上離れているこの室蘭の近くにまでやって来ていた事が幸運だった。

 

 「全員! 聞こえるか!?」

 「餓鬼隊男子全員聞こえるぜ番長!」

 「何、鬼十郎君!?」

 「女子三人聞こえる。何?」

 

 全員いるようで安心しつつ、俺は喜色円満に叫ぶ。

 

 「生き残れるぞ、この絶望からッ!」

 

 *

 

 [現在]

 

 「うっそだろうオイ」

 

 室蘭ICを降り、追って来るバーテックスを減らしつつ海岸線へと向かっていったのはよかった。

 ・・・・・・だが、現実はそこまで甘くはないらしい。

 

 目の前の海は大荒れに荒れ、その海の中には想像を絶する程の巨大な体躯を持った、まるでレックウザのような超巨大バーテックスが唸りを上げつつ荒れる海を泳いでいた。

 全長は・・・・・・間違いなくキロ単位。ここまで大きいと、海ごと凍らせたところでその膂力で氷を割られ、すぐさま反撃に移られるのがオチだろう。

 

 後ろには大量のバーテックス、前には荒れる海とそれを泳ぐ超巨大バーテックス。

 

 前門の虎、後門の狼とはよく言ったもんだ。まさしく今、俺達の状況を言い表すとすりゃあそれが一番正しい。

 

 「・・・・・・良いぜオイやってやるよ畜生!」

 

 あまり使いたくなかった。

 これを正常に使えるのはあともって五、六回。

 だが、今の状況だと使う以外有り得ない。

 俺は、運転を雪花に任せ、先ずは後方のバーテックスへと向けて技を繰り出す。

 

 「『ぜったいれいど』!」

 

 俺がそう言った瞬間・・・・・・

 

 俺の周囲に、身の毛も凍るような風が吹いたかと思えば、次の瞬間には氷の世界が出来ていた。

 

 「さあ来い、化け物共」

 

 俺はそう言って、自分の体が人でなくなる(・・・・・・)感覚を覚えつつ、そう言い放った。

 

 *

 

 気がついたのは何時か忘れた。

 だが、遅かれ早かれ気がつく。自分の体の事だから。

 

 俺の心が、また少し凍りついた気がした。




 『化け物』タグが漸く仕事をする日が来たぁ!


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27:無慈悲の焔

もうあと十話程度?


 遠くの水平線から、こちらに向かって来る巨大なバーテックスを見る。

 クジラのような奴や、イルカのような形のバーテックスが海上は跳ねながら接近してくる。

 

 「棗・・・・・・やるよ」

 「ああ、海を汚す不届き者に、鉄槌を下さないといけない」

 

 隣にいる棗は、これ以上無い程憎悪に目を染めてバーテックスを見ている。

 ・・・・・・棗だけの怒りじゃない。どうやら、沖縄の海底、その理想郷の主の分霊が棗の中に入っているからか、その分怒りやら憎悪やらが割り増しになっているようだ。

 

 俺が、気を配るかな。

 

 憎悪で我を忘れると、どうにも周りに目を配れなくなってしまうのが人間だ。これは、棗の恋人として支えてやらないと。

 

 

 

 五分後。

 

 俺達は、沖縄本島沖約三キロ地点で、接敵した。

 

 *

 

 「アァアアアアアアアアアッ!」

 

 まるで、地獄の底からはい上がってきた悪霊の怨念のような声だと思う。

 私自身、自分が何故ここまで暴れているのかわからない。

 海を畜生共に汚され頭にキているものの、これはそれだけじゃない気がして、少し怖くなった。

 

 海の上を、日に日に増している身体能力で駆け抜け、拳を通り抜け様に一撃、二撃と加えていく。

 目の前に表れたバーテックスの側面を蹴り、その回転を利用してたたき付けるようにして別のバーテックスをヌンチャクで倒し、遠距離からの体当たりを、海中に潜ってかわす。

 

 「・・・・・・ッ!」

 

 海中に潜ったのを好機と見たのか、次々とバーテックスが海中に潜り、私の周囲を囲む。

 数的には、圧倒的なまでに不利。

 だが、今の私にはそんなもの関係なかった。

 

 今までの私だと有り得ない程のスピードで泳ぐ。

 海が私を運んでいるかのように感じる。

 泳ぐスピードの勢いのまま、そこから一撃。真正面にいたバーテックスを倒す。

 

 何やら危険なものを感じ取ったのか、まるで焦るようにして向かって来るバーテックス。

 複数方向から同時に向かって来るバーテックスすべてを、ヌンチャクをからだの周囲で音を超える速度で振るう。

 

 「ーーーーッ!」

 

 瞬間、爆音と共に天を突く程の水柱が立ち、バーテックスがボロボロになりながら海中から打ち上げられた。

 

 *

 

 ヤッバイ声上げてるなぁ棗。

 ・・・・・・まさか、何か別の奴に取り付かれてるんじゃ、と思う程の奮戦だ。

 だけど、自分も人の事言えないかも。

 

 「・・・・・・目が燃えてる時点で・・・・・・お察しか」

 

 数ヶ月前から、ポケモンで言う所のレベルアップみたいな感覚に襲われていた事は自覚していた。

 でも俺はそれを、『技を使い慣れた』程度にしか思っていなかった。

 

 違った。違ったんだ。

 

 これは、そんなものじゃない。

 もっと残酷で、醜悪で、俺を『人間じゃないとにかくヤバい何か』に仕上げる為の突然変異だ。

 

 一ヶ月前。明確な体の変化を感じとった時に、技の威力が増した。

 

 技を使う度に、この明確な体の変化は加速していっている。

 ・・・・・・この戦いが終わるまで、俺は『俺』でいられるのだろうか。

 

 敵はまだ多い。

 技を今日で、幾つ使うだろう。

 俺は、幾つ遠退くのだろう。

 

 そんな事を考えて、考えても無駄な事だと振り払って。

 

 そしてまた、何かを犠牲にして燃える炎を、バーテックスにぶつけた。

 

 「『クロスフレイム』ッ!」

 

 海を蒸発させながら向かっていく炎は、複数の巨大バーテックスを巻き込んで海上で大いに爆裂した。

 

 「砂浜からだと・・・・・・」

 

 距離が遠いと当たらない。

 距離が遠い場所にも当たる技は威力が弱く、表面が水に濡れている魚形のバーテックスには全く効果がない。

 タイプの影響で、海に出れない俺の弱点が恨めしい。

 

 また、俺を倒そうと巨大なクジラ並のでかさのバーテックスが襲い掛かってくる。

 ・・・・・・こういうとき、炎ではなく水や氷の方がまだ、よかったと思ってしまう。

 

 だが、無いものねだりをしても仕方がない。

 

 「ああもう、しゃーねぇ。使うか」

 

 これを使うと、化け物化が進んでしまうがしょうがない。

 使わなければ、俺の後ろにある沖縄が守れない。

 

 俺が手を合わせるようにして構えると、俺の周囲に蒼い炎がユラユラと出現し、集まっていく。

 

 今から使うのは、ある伝説ポケモンが使う専用技。

 威力も殲滅力も他の技とは桁違いのこの技で、相手をケシズミにしてやる。

 

 俺は手を前に出すと、その技を全力で発動させた。

 

 「『あおいほのお』!!」

 

 瞬間、目の前のバーテックスが、全てを燃やす炎に包まれた。




 次話

 ドラゴン


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28:龍の覇槌

 あー、シリアスとかむぅーりぃー。


 首を撫でる。

 ・・・・・・少し、ザラリとした感触が手に伝わる。

 

 あの二人には、隠している事。

 ・・・・・・さて。何時までごまかせるかなーーーー。

 

 *

 

 まるで世界中のバーテックスが集まってきたのでは、という光景だ。

 

 日本海側の全ての山の頂から麓まで、数億はいそうなバーテックスでびっしり。真っ白いゴキブリみたいで気持ち悪い。

 

 「おい、最近ここの神の力減ってんだろ。大丈夫なのか歌野」

 「大丈夫」

 

 ・・・・・・には見えないんだが。

 ここの神は、俺の『ドラゴンタイプの肉体』という、存在そのものが神秘そのものな俺から少しずつ神秘を吸収して、一時的に元気になってはっちゃけつつ力を永らえていた、らしい。

 

 ・・・・・・が。

 どうやら、限界が来た。

 

 簡単に言ってしまえば、神が腹を下した。

 俺の、神のそれとは少し違う神秘を吸収したおかげで、ズルでその力を永らえたせいで、そのツケがまわってきた。

 神のそれ(しんぴ)と、俺のそれは何もかもが別物だ。

 

 残業中にエナジードリンクを飲んでハイになっているのと、同じ状況を作ってしまっていた。

 そんな、無理に無理を重ねた神様に護られていたのが、今の諏訪。

 

 もう、そう永くはない。でも。

 

 「死ぬなよ、歌野」

 「ドントウォーリー、竜介。精一杯このライフを楽しんでからじゃないと、死んでも死に切れないから。まず、今のところダイする予定無いし」

 「そっか」

 

 歌野は装束にもう着替えを済ませ、俺の隣で鞭を軽く振るう。

 俺は、拳を掌に打ち付け、気合いを入れる。

 

 「じゃ、開戦ののろし(・・・)は俺が」

 

 できうる限り、相対するバーテックスの数は減らしておきたい。

 

 大技を使う。

 

 俺が掌を正面にかざす。

 その瞬間、風が吹き荒れた。

 掌の周囲が歪んでいく。空間では無い。歪んでいくのは、時間。

 

 俺の体の至るところで歯車型のオーラが回転し、唸りを上げる。

 

 ・・・・・・それと同時に、首から肩にかけて広がる、気分のあまり良くない感覚。

 

 突き出した掌に、だんだんと群青色のエネルギーが溜まっていく。

 

 今から起こすのは、神話の砲撃。相手を時間の彼方に吹き飛ばす時を司る神の龍の咆哮。

 

 「『ときのほうこう』」

 

 周囲の時間を歪め、狂わせながら、俺の放った一条の群青色の一撃がバーテックスの集団に突き刺さった。

 

 *

 

 彼が放った有り得ない威力の砲撃が終わってすぐ、私は駆ける。

 砲撃の余波で衝撃波と風が凄いが、それは農業で鍛えたパワーで無視してバーテックスのいた方向に、全速力で駆け抜ける。

 

 砲撃がぶち当たっている場所は、それはもう酷く、山は三つほど消し飛んで、周囲の山も四つほどハゲ同然の様になっていた。

 バーテックスの数も、最初と比べれば幾分か目減りしているように感じる。

 

 「う、りゃぁあああ!」

 

 気合い一声。鞭を振り、バーテックスを複数匹纏めて吹き飛ばす。

 背後から迫って来るのを感じつつ、横凪ぎに回転しつつ打ち払う。

 

 向こうではかなり大きな音が響くのが聞こえる。彼がバーテックスとガチンコファイティングしているんだろう。

 まったく、頼もしい夫だと思う。結婚はしてないけれど。

 

 向こうのあまりの攻撃力に、余波だけで吹き飛ばされて来るバーテックスを時折打ち落とし、又は引っ掴んで他のバーテックスに投げつけたり。

 

 「馬鹿ー! こっちにバーテックス飛ばして来るなー!」

 「おっと悪い歌野。以後気をつけるッ」

 

 まったく、あの馬鹿は・・・・・・。

 本当に馬鹿だ。窮地に陥った私達を土地ごと救っちゃうし、バーテックス飛ばして来るし、『自分に起きてる体の変化を秘密にしてるし』。

 

 毎日布団に潜り混んでいるのだ。

 不自然に、怪我もしていないのに首に包帯を巻いているなんて怪し過ぎる。

 一度みーちゃんと見たときは絶句した。みーちゃんのあんな表情は初めて見た。

 みーちゃんの霊視能力によると、どうやらどんどん人間を辞めていっているらしい。

 

 竜介は、体の変化を私達にひた隠しにしている。最近は、一緒に寝る回数も減った。

 ・・・・・・多分、怖いのかもしれない。私達に、だんだん変わっていく自分の姿を見られる事が。

 そして、拒絶される事が。

 

 ・・・・・・そんなこと、有り得ないし、しないのに。

 今度そういう素振り見せた瞬間・・・・・・どうしてやろうかしら?

 

 まあ、今はそれは置いといて、バーテックスを追い返そう。

 戦いを生き残れば、後でいくらでもごうm、いや快楽d・・・・・・いや違う。ええと、そう。詰問出来る。

 

 覚悟しなさい、竜介。逃がさないから。

 

 私の中で、何かが決まった瞬間、また真っ白いバーテックスがドカンという音と共にポーンと・・・・・・。

 

 「シーット! バーテックス飛ばすなー!」

 「ゴメーンッ!」

 

 *

 

 ・・・・・・押されてるわよ。

 

 『人類にこれほどの戦力がいたとは驚きですね。勇者だけではなかった、という訳ですか』

 

 ・・・・・・どうにかこうにかしなさい。人間がこれ以上付け上がっているところを見るのはイライラするわ。

 

 『大丈夫。まだこれは前哨戦。これからですよ(うじ)神様』




 次回。

 四国/あの男の娘、ついに参戦(もう本戦間近)


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29:闘魂一擲

 四国。




 何時まで続くのか、分からない。そんな持久戦。

 みんな疲弊して、作戦の通りにローテーションで休んで次・・・・・・といった具合にやっていても、疲れが溜まって、動きが鈍る。

 丸亀城の屋根の上から、ボウガンで危ない所を援護するけど、それでも焼け石に水。

 

 あの人が来れば・・・・・・なんて考えが過ぎる。

 何度も、何度も。これじゃあダメだ。とらぬ狸の皮算用。不確定要素過ぎる。私は自分で、「あの人は来ない」と、そう自分に念じ続けた。

 

 あの人は、諏訪にいたのだ。

 昨日の朝、神託があって直ぐに四国に向けて走り去ったと連絡が入ったけれど、諏訪から四国までの距離からして、勇者でも、毎日全力疾走するとして二日程かかる。

 高々一日経たずで着く訳が無い・・・・・・

 

 そこまで考え、一旦落ち着こうと息を吐いた瞬間。

 

 「伊予島さんッ!」

 

 一番近くにいた、千景さんの声が聞こえた。

 ハッとして、すぐ近くにバーテックスがいることに気がついた。

 あの人の事を考えていて、周囲の警戒が散漫になってしまった!

 

 私は自己嫌悪をするのは後回しにし、大口を開け、私を丸呑みにしようと押し寄せて来るバーテックスに目を向ける。

 

 ボウガンで大口開けた中に矢を放るけど、全て捌ききれず、とうとう至近距離にまで近づかれ、ボウガンをかみ砕かれてしまった。

 

 矢を一本手に持ち、バーテックスを追い払おうと試みるが、無駄。

 他の人が駆けつけようとするけれど、多過ぎるバーテックスによって壁ができ、私に対する援助は出来そうに無い。

 

 完全なる詰み。私という王将は、バーテックスという駒によって完全に囲まれ、逃げ場を失ってしまった。

 

 遠くの方で、タマっち先輩が私の名前を叫ぶ声が聞こえる。

 やけに視界がゆっくりと動く。

 みんなとの思い出が頭の中を巡って、最後に、あの人との、短い間の逢瀬の時間が頭を巡る。ああ、これが走馬灯。

 星屑に囲まれ、逃げ場を失い、最後に思うのは、思い人の事。

 最後に一体でも。そう考え、振り上げた矢は。

 

 「ーーーー死なせる、もんかぁーーーー!」

 

 目の前の星屑に当たる寸前、辺り一帯に発生した暴風もかくやという威力の衝撃波によって対象が吹き飛ばされ、掠りもしなかった。

 

 「何、が」

 

 何が起きたのか解らずに、呆然としてしまう。

 ・・・・・・でも、直ぐに原因は判明した。

 

 だけど、有り得ない。

 

 今、目の前の光景は私の作り出した幻影なのだろうか。

 

 幻影だという方が、まだ信じられる。

 

 だけど、今、目の前にいる人・・・・・・釘宮天地さんは、私のその疑念を払うように、私の頭をくしゃり、とちょっと乱暴に撫でる。

 

 「ワリィ、ちょっと遅くなった」

 

 今まで見てきたどんな女の子よりも可愛い、女顔の男の子。

 だけど、私の目には、物語に出てくるような王子様以上にかっこよく映った。

 

 「ちょいと待ってろ。直ぐに、終わらせる」

 

 そう言うと、天地さんは私の元から離れていった。

 ・・・・・・もう少し一緒に居てほしかった、なんて考えを押し潰し、見送る。

 戦いが終わってから、好きなだけ寄り添えるから。

 

 *

 

 何だか熱に浮かれたような視線を受けるんだが、気にせず行こう。

 何やら技を使う度に身体能力が上がる。『ビーストブースト』の特性のおかげ・・・・・・という訳でもないらしい。一体どういう訳なのだろう。

 

 何やら薄寒いものを、この現象に感じるがーーーーむしろ、これのお陰で俺は杏が死ぬ前に駆けつける事が出来た。

 自分の身体を不思議に思うのは、取り合えず後にして。

 

 先ずは、目の前のバーテックスをどうお帰り願うかについて考えよう。

 

 さっきの『きあいパンチ』であらかた消し飛んだ筈が、追加で奥から出てくるものだからキリが無い。

 『マッハパンチ』を連発して速攻するが、それでも減ったように感じない。

 

 「ああもうッ、雑魚も数が揃えばいっちょ前だな!」

 

 際限無く上がっていく身体能力に辟易としつつ、星屑共を殴り飛ばす。

 勇者全員に疲弊が見える。さっさと終らせなければ、こいつら全員危険だ。

 

 だが、バーテックスは際限無く現れる。

 完全なる物量で、押し切ろうと迫って来る。

 

 『限り』という言葉の存在を俺が疑い始めた頃だった。

 

 カッ!!と目の前が真っ白になった瞬間。

 

 辺りに雷鳴が響いた。

 

 ・・・・・・俺は、この感じを覚えている。

 最初に会った時と同じ。

 これは、

 

 「釘宮天地ぃいいいいいい!! 預けた命、今日こそ取りに着たぞッッ!」

 

 神鳴り・・・・・・天の神が響かせる神の力、その一端。

 

 あまりの眩しさに閉じていた瞳を開けると、そこには予想通りーーーー

 

 真っ白い装束に身を包み、有り得ない程のオーラを放つ剣を持った美青年・・・・・・武甕槌が、そこにいた。

 目測、千を超える数いた自らの先兵であるバーテックス全てを先ほどの一撃のみで、全て消滅させるという極上の前座を用意して。

 

 「あ、靴履いて来んの忘れた」

 

 ・・・・・・馬鹿も丸出しにして。




 次回

 神 対 化け物


 あんずん以外と普通・・・・・・なんて思ったら、全然冷静じゃなかった件。


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30:神話の戦い(上)

 目茶苦茶期間が空いてしまいました。

 戦闘描写しかございません。ご注意下さい。


 目の前で起こっている戦いから伝わる覇気で、身体が硬直してしまう。

 武人として、情けなく思うと同時に、悔しくなる。

 

 目の前で戦っている、見た目麗しい淑女のようにも見える男が、今全身全霊を持ってしてまで、私達の盾として戦っている事に。

 

 今、この場所にいることさえもあの男・・・・・・釘宮天地の足を引っ張っていると考えると、それがまた、悔しかった。

 

 *

 

 突き出される太刀を『ビルドアップ』で強化した肉体で、刀身に手を添わすようにして捌き、それと同時に一歩踏み出す。

 その勢いのままに一発、目の前にあった三日月辺りに気合いと共に打ち込むが、ハズレ。首を曲げて躱された。

 

 追撃に、胃の部分に蹴りを入れて一回間合いをとる。

 

 「・・・・・・ふむ。腕を上げたか?」

 「戦場に靴を忘れてやって来たアホタレとは思えねぇ速さの太刀筋だったな。イテテ・・・・・・切れちまった」

 

 太刀をそらした手をプラプラさせつつ言う。

 ああもう、一回そらすだけでこれか。

 

 ぐちゃぐちゃになった手の甲を、一応持ってきておいたサラシで無理矢理覆い隠し、補強する。

 

 ただ、そらす為だけに手を這わせ、そのうちの一瞬、その一瞬のみの摩擦で手が一つ、ヤバい事になった。一体どれだけの速度で突き出されているのか。衝撃波だけで着ている服がボロボロなのだから、音速は裕に超えているか。

 

 「ったく、小手調べだった筈が手一つ壊されるとか・・・・・・出鱈目にも程があんだろ」

 「それが神と言うものだッ!!」

 

 稲妻と化し、雷速で踏み込んで来たのを完全回避し、『マッハパンチ』で雷化を解いたところを急襲する。

 が、剣の腹で受け止められ、カウンターの蹴りをモロに食らって吹き飛ばされた。

 

 「ガァッ・・・・・・!?」

 「脇がお留守よのぉッ」

 

 吹き飛ばされている最中に、追撃とばかりに放ってきた切り払いを『ビルドアップ』の重ね掛けで物理的な防御力を上げて防御する。

 

 ズバンッ・・・・・・。

 

 そんな、何かが断ち切られる音がして、地面にドサリとたたき付けられる。

 

 「ガハッ!?」

 

 たたき付けられると同時に、脇腹に鋭い痛みと、体中の空気が全て出ていくような感覚がして、一瞬意識が飛びかける。

 が、膨大な殺気が、俺の後ろにいる勇者達に向けられていると悟ったとたんに意識を復活させて、脇腹から流れる液体と痛みを無視して武甕槌に肉薄する。

 

 「ハハハッ! 何時までも起き上がってこぬのならあの小娘共とじゃれ合おうと思ったのだがな!」

 「そう簡単にくたばるかよッ」

 

 そう言いつつ振り下ろしてきた太刀を『カウンター』でそらしつつ、武甕槌の腹に、一撃。

 

 「ぐッ!?」

 

 漸く、一撃。

 マトモに入ったのはこの一発が最初。だが、前は成す(ずべ)なくボコボコにされたのだ。これも、戦う旅に上がっていく身体能力と戦闘能力の為せる技だろう。

 直感が、この体は危険だと、これ以上戦えば『戻れなくなる』と意味不明な警笛を鳴らすが、それも無視して武甕槌と『マッハパンチ』で打ち合う。

 

 武甕槌は、異常に長い大太刀で防ぐが、それでもその長さが邪魔をして、迎え打つ事が困難なようだ。

 

 なら、この瞬間に畳みかけるッ!

 

 「『きあいパンチ』ッ!」

 

 一回、大太刀に拳を突き入れ太刀による防御を吹き飛ばし、そこに

 

 「『ばくれつパンチ』ッ!」

 

 がら空きの胴に拳を叩き込む!

 また、良い突きが入った。突きを繰り出す度に上がる身体能力を武器に、このまま押し切る。

 

 「その身体能力・・・・・・貴様、実は人間では無いな!?」

 「残念、生物学上は人間だよッ!」

 

 軽口をたたき合いつつ、拳をたたき付け合う。

 一発一発が、一撃で相手の命を容易く刈り取るような威力を持っている。

 

 「オイオイ、押し負けてんじゃぁねーのかよォカミサマァ!?」

 「ぐッ」

 

 太刀を、武甕槌の右腕ごと『ばくれつパンチ』で吹き飛ばし、顎に『スカイアッパー』を叩き込む。

 それでも、倒れない。流石は武神、と言ったところか。

 

 「まだ、倒れはせんぞ!」

 

 武甕槌は体勢を立て直すと、左腕に雷鳴と共に稲妻を纏わせ、光もかくやといったスピードで懐に潜り混んでくる。

 それを膝蹴りで出会い頭でも取ろうとしたところを、だらんと垂れ下がった右腕で制され、そのまま肺の辺りに左拳を叩き込まれる。

 

 攻撃はそのまま終わらず、突きの残心を取る間もなくそのまま右回転するようにして右足でこめかみの辺りに回し蹴りが飛んできた。

 

 それを防御しきれず、くらったところに喉元を駒のように回転しながらその回転エネルギーを利用した蠍蹴りをくらい、意識が一瞬ブラックアウトする。

 

 「ガフッ、ゲホッ!?」

 

 息が出来なくなり、目眩が起きる。が、その瞬間殺気が飛んできた瞬間、強制的に意識を取り戻し、本能のままに頭を下げる。

 先程まで頭があった場所を、横凪ぎの(しゅう)(げき)が通り過ぎていく。

 

 「っぶな。当たってたら死んでたな」

 「油断は禁物、だッ!」

 

 稲妻を纏った左拳の突きが飛んで来るのを視界の端でとらえ、顔を狙ってきたそれを逸らして回避し、それと同時に前に出て『とびひざげり』で武甕槌の脇腹に向かって攻撃する。

 短い呻き声の後、がっしりと足を捕まれる。

 

 「捕まえた、ぞ」

 「チィッ」

 

 俺はそれを振り払おうとした。

 

 ザクンッ・・・・・・!

 

 が、一歩遅かったらしい。

 

 「が、ァアアアアアアアアア!?」

 

 鋭い痛みが右足に走る。

 視界の隅に映るのは・・・・・・男らしくない、華奢な印象を受ける自分の右足。

 血飛沫を上げつつ宙を舞うそれを見て、漸く俺は、自分の右足が切られた事を認識した。

 

 「天地さん!?」

 

 後ろから、悲痛な声が響く。

 ああもう、女の子の目の前で足切り飛ばされるとか・・・・・・無様にも程がある。

 

 痛みを俺は咆哮で掻き消し、残った左足をバネを縮ませるようにして曲げる。

 そして返礼の一撃に、左足の瞬発力を最大限に活かした突きの一撃を武甕槌のだらんと垂れ下がった右腕に叩き込んだ。

 瞬間、引きちぎれるようにして武甕槌の右腕が宙に舞う。

 だが、俺の右足とは違い、血が出る事は無い。

 

 「・・・・・・『きあいパンチ』。さっきの例だ」

 「右足を切り飛ばされて尚食らいつき、まさか、負傷していたとは言え我の右腕を吹き飛ばすとは。本当に人間か怪しいぞ貴様」

 

 武甕槌の悪口と称賛が入り混じった言葉に俺は、片足でバランスを取りつつ言った。

 

 「だーかーらー、生物学上は人間だって言ってんだろ?」

 「そうだったか」

 

 惚けたようにして武甕槌が言う。

 俺はそれにイラッとしつつ、痛みを無視しつつ言う。

 

 「俺を勝手に化け物にしてんじゃねぇよヒトデナシ」

 「我は神故に。人では無いから言い返しようも無いなッ!」

 

 武甕槌が言い終えた瞬間、枯れ始めた樹海で俺の『せいなるつるぎ』と武甕槌の大太刀が激突した。

 

 *

 

 本当は分かってる。

 

 自分(おれ)が、おかしいって事くらい。




 次回

 決着。

 そして、???VS勇者、開幕。


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31:神話の戦い(下)

 正直読者さんが待ってくれてるか不安ですが、続き投稿します。はい。

 投稿が遅れに遅れて済みません。


 本当は分かってる。

 俺が、自分がおかしいって事くらい。

 

 でも、まだ人間だって。そんな幻想を抱いていたかった。

 

 まあ、お前らの知ってる通り、もうイロイロ手遅れだったんだけどな。

 ほら、俺の今の状態を見りゃ解るだろ?

 

 ーー神世紀元年 記

 

 『大赦検閲不可』

 

 *

 

 枯れはじめた樹海で、俺と武甕槌は再度激突した。

 最早、五体満足で生き残る事は出来はしない。だからせめて、コイツだけでも地獄に叩き落としてやる。

 

 片足で、前方に向かってジャンプするように飛び出す。

 ぶつかるようにして突き上げた拳をいなされ、顎を蹴り上げられる。脳震盪で頭が痛いが、それを振り払って、一撃。

 

 武甕槌に向けて放った突きは受け止められる。

 片足が無いのは、やはりつらい。踏み込みが効かない。威力も、何もかもが足りなくなる。

 

 「遅い、足りないッ! 弱いぞッ」

 「言ってろ! そしてせいぜい油断しやがれ!」

 

 片腕を失っている筈なのに、目の前の武神はトンでもない量の拳のラッシュで俺を攻撃してくる。

 片足をだけで踏ん張り、残った両腕で弾くが、顔に、腕に、脇腹に掠り、時折刺さり・・・・・・。

 武甕槌は、傷らしい傷は片腕を失っただけで、それでもその傷のダメージを悟らせない・・・・・・というか、本当にダメージを受けているのかどうかすらも怪しい。

 

 「ッ、糞ッタレ」

 

 対してこちらは、傷口から漏れ出る血液で、視覚的にも精神的にも疲労が溜まる。

 そして、貧血やら何やらで意識が遠くなる。視界がぼやけ、集中力が一瞬、ほんの一瞬薄くなる。

 

 その一瞬。見逃すような甘い相手では無い事すら、今の俺には頭に無かった。それ程までに、理解力、そして判断力も薄くなっていた。

 

 「もう、限界か・・・・・・只人としては、良くやった方であるなッ!」

 「しまっーーーー」

 

 気がついた時には既に遅く。

 甲高い雷鳴が響くと同時に、目の前が閃光に染まった。

 

 *

 

 死ぬ前は、時の流れがゆっくりになるようだ。

 周囲の景色が、音が、ゆっくりと引き延ばされているように感じる。

 

 倒れていく自分の体、狭まっていく自分の視界。

 ゆっくり、ゆっくりと、確実にサヨナラに近づいていく。

 

 目の前には、つまらないものを見るような眼で俺を見ている武甕槌の姿。そして、俺の後ろに眼をやる。

 俺の後ろには、勇者がいる。

 

 守らなければ。

 でも、体が動かない。

 何か、自分の体から剥がれ落ちるような感覚さえする。稲妻を落とされて焦げた、自分の肉体だろうか。

 

 ああ、守れないのか。

 あの時、太陽のように大きいバーテックスを倒し、少女を守った。あの時から、俺はあの娘からヒーローのように思われている事を知っている。

 だけど、そのヒーローが。

 守るべき存在を守れずに、地に臥してしまうのか。

 

 情けない。自分に笑ってしまう。

 諏訪から四国へと超スピードで戻って行く道中、俺は何を思っていた?

 

 無事でいてほしい。必ず、間に合う。そして。

 

 (絶対に、守る。だっけか)

 

 結果はどうだ?

 間に合わず、歳場もいかぬ少女達は今にも倒れそうで、ボロボロで。今、自分で思った事さえもやり遂げる事が出来ず、今、俺は倒れていく。

 

 お笑いにも程がある。

 何だ。俺は、これ程までに根性無しだったのか。

 

 (今の、この状況を覆せないか?)

 

 無理だ。

 ・・・・・・と、そうスッパリと諦める事が出来れば良かった。

 だが、そうしようにもあいつらと仲良くなりすぎた。

 

 朝、盗撮する巫女を無視しつつ剣と拳の語り合いをし。

 シャワーを浴びた後に猫みたいな奴を叩き起こし。

 その隣の部屋で、何時も早起きしている少女に借りていた小説を返し、感想を言い合い。

 昼にうどんを明るい娘とたわいもない話をしながら食べ。

 夜まで、ただ言葉も交わさず、それでも気のおけない仲の少女とゲームをする。

 そして。

 寝る前に、巫女の少女と、今日の盗撮写真の良い部分を興奮気味に語り合い。

 

 そんな日常が、とても楽しくて。

 

 だが、俺がここで諦めれば、全てなくなってしまう。

 

 (それだけは、嫌だ)

 

 根性を見せろ。

 

 血が足りない(問題ない)

 内蔵が半分潰れている(問題ない)

 立てない(問題ない)

 今にも死にそう(問題ない)ーーーーッ!

 

 すべからく、全く、無事な場所は無い(問題ない)

 

 無事じゃない部分は全て無視する(問題ない)

 体の中に、有るべき物が無いなら、作れば良い。

 

 体が作り変わり、置き換わっていく感覚がする。

 脚が、腕が、腹が、そして、頭が。

 

 戦闘に(・・・)特化(・・)する。

 

 ああ、そうだ。これに勝てさえ(・・・・)すれば良い。

 それで彼女達を守る事が出来れば、それで良い。

 

 「む?」

 「Ge・・・・・・」

 

 そうだ。守るんだ。守らねばならない。

 

 「Ge・・・・・・ge・・・・・・geaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 そのためなら、人を捨てよう。

 例え、化け物に成ろうとも、彼女たちをーーーー

 

 *

 

 目の前で、天地さんが変わっていく光景から、眼が逸らせなかった。

 

 体がボロボロになっていく天地さんを見て、もうやめてと。そう言いたかった。

 だけど、言おうとしても、体が動かなかった。

 

 そして、止めと言わんばかりの攻撃を受けて。

 それでも尚、立ち上がって、私達を守ろうと、絶対的な力を持つ神に今も相対している。

 

 「天地・・・・・・さん?」

 「Grrrrrrrrrrrr・・・・・・」

 

 変わり果てた姿となっても。

 

 天地さんの持つ力の影響だろうか。

 大社の解析班の人達でも分からない、力。

 

 天地さんはその自らが持つ、圧倒的で、暴力的なその力を体言するかのような姿に、異形に変わってしまっていた。

 

 まるで狼のような顔。

 逆間接の脚。

 肉球の付いた手。

 ところどころに存在する鋼のようなもので出来た(とげ)

 赤と黒、二つの体毛で包まれた、狼面の獣戦士に、天地さんは変わってしまっている。

 

 欠損した筈の脚が元通りになっているのに少し安心した。

 けれど。

 

 「天地さん、天地さん?」

 「Grrrrrrrrrrrr・・・・・・geyaaaaaaaaaa!」

 

 私達を守ろうと、向けた背中。

 でもそこに、理性は無く。

 

 ただの、本能だけで動くような、怪物(モンスター)のような有様だった。

 

 「ほう、理性亡き獣と化したか。来い、少々手荒になるが、飼い馴らしてやるとしよう」

 「Gaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 *

 

 樹海が、赤く枯れかける中。

 

 獣と、武神は激しくぶつかり合い。

 

 私達、勇者は。

 

 「な・・・・・・んだ、あれは・・・・・・」

 

 樹海の空を、呆然と見上げていた。

 そこには、真っ赤な雲が広がっていて。

 

 それこそ、私達勇者の最大の敵とも言える、天の神だとは、思いもしなかった。




 次回、沖縄。

 天の舟VS活ける炎。

 そして、西暦最後の戦いは本戦へ突入する。


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32:ノアの箱船

 何時もの1.5倍程長いです。

 沖縄です。


 ただ、手を伸ばした。

 けれども、届かなかった。

 それだけが、私の唯一の■■だ。

 一人■■に残した■■の事は、忘れた事は無い。

 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーー(以下百十四行、黒く塗られた言葉が続いている)

 

 ーーーー勇者御記 神世紀元年十月 古波蔵棗 記

 

 [大赦検閲済]

 

 *

 

 バーテックスの侵攻が収まったのは、バーテックスを海の向こうで黙視してから一○時間後。

 夜の戸張もすっかり下りて、空にはあの忌ま忌ましい先兵の一番雑魚の星屑のようなきら星が瞬いていた。

 あの星一つ一つがバーテックスなんじゃ・・・・・・と思うくらいには、思考回路がいかれていて、一刻も早く休みたい気分だった。

 

 「・・・・・・棗、大丈夫か?」

 「問題無い」

 

 自分の可愛い未来の嫁さんが、人間性の無い返しで言葉を紡ぐ。

 ・・・・・・このままだと、ニライカナイの一部になってしまいそうで怖い。

 

 「今日、もう帰ろう」

 

 ああ、自分のコミュニケーションが無いこの口調が恨めしい。

 随分とそっけない口調での会話は辛いのだ。

 

 「ああ、帰ろう」

 

 棗の、今までよりも更に人間味が無い言葉を聞いて、家へと向かった。

 

 その夜は、何も無かった。

 ただ、泥のようにぐったりと床に臥し、いつの間にか意識が途切れていた。

 

 *

 

 翌日。

 港に停泊している自衛隊や米軍の艦、漁の為の漁船などが泊まっている中で、一番大きな船の上で、目覚めのコーヒーを飲んでいた。

 大型補給艦『まみや』。

 自衛隊が所持する、何処かの超豪華客船かと見間違う程大きな艦だ。

 

 その艦板上で潮風に吹かれる感覚が気持ちいい。

 

 「錦裕也君・・・・・だったかな」

 「ああ、どうも艦長さん」

 

 まみや艦長の、妙齢の女性が、俺の傍に立つ。

 この錦裕也が、(ども)らずに話す事のできる数少ない人間である。

 

 「君がここに居る理由は・・・・・・まあ、アレか」

 「そうです。・・・・・・で、どうですか」

 

 艦長とは・・・・・・というか、自衛隊や米軍の人達とは、よく話す。

 勇者と共にバーテックスを倒す事が出来る存在として、最初の内は畏怖されていたが、気さくな人達が飲みに俺を誘い、いつの間にか愚痴やら、バーテックスに対して何も出来ない自分に対する苛立ちなんかを聞いてやる程に仲が良い。

 

 そんなある日、俺が提言したある作戦について、今の今まで議論してくれていたのだ。

 

 「条件次第で良いそうだ。米軍が空母の格納庫すらも開放してくれるらしい」

 「それなら・・・・・・沖縄県の全ての人を収容出来ますね」

 

 それは、沖縄脱出作戦。

 棗が海を通して見たという、沖縄の悲惨な結末に、せめて一般人は戦いに巻き込みたく無い。けれども移動手段が・・・・・・と、悩んでいた時に、思いついた作戦。

 

 まみや他、三隻の艦に沖縄の住民を詰め込み、生き残りがいて、尚且つ海に面しており結界が安定している四国へと送り届ける撤退、護送の両方を同時に行う作戦だ。

 

 「燃料はどうですか」

 「十分にある。そもそも米軍が出してくれる三隻の空母のうち、二隻は原子力だ。まみやともう一隻の空母に、『ながと』、『むさし』他日米イージス護衛艦及び駆逐艦十八隻の燃料全て、まみやともう一隻に注ぎ込めばギリギリ持つ。もしもの場合は曳行してもらう」

 「・・・・・・なら、良かった」

 「ああ、本当に助かった。日米合同演習の時でなければ、まみやも空母三隻も今この場にはいなかっただろうからな」

 

 三年前、これらの自衛隊や米軍の艦は、演習中であった。

 が、バーテックスの侵攻が発生。沖縄の勇者である棗にはその時助けられ、沖縄に身を寄せていた。

 

 俺としては、今この場に、こうして艦があった事は奇跡だと思う。

 

 「で、その・・・・・・条件とは一体何なのですか」

 「その、だな。原子力空母の艦長殿より、『作戦名は考案したテメェが考えろ』、と・・・・・・勿論、沖縄脱出作戦等というダサいモノは無しでだそうで」

 「後半は貴女の本音では?」

 

 俺がそういうと、まみやの艦長さんは、クスリと笑うと、

 

 「ああ、そうだな。私もそんな作戦名は嫌だ」

 

 だから考えろ、と、期待の眼差しと共に俺に振る。

 ・・・・・・なら、と俺は、直感的に思いついた事を口にした。

 

 「『ノアの箱船』作戦・・・・・・というのはどうですか」

 「確かに、滅び行く地より船で脱出する今回の作戦は、まさしくかの物語のそれ・・・・・・良いんじゃないか?」

 

 なるほど、どうやらこの妙齢の女性は少々中二がかっているらしい。作戦名を伝えた瞬間、口元がちょっとにやけたところ、俺は見逃さなかったぞ?

 

 「では、決行はいつにする?」

 「そうですねーーーー」

 

 先ずはこの作戦について皆に周知させる事から・・・・・・

 

 「今すぐにしましょう。出来る限り、早い方が良いです」

 

 時間もそう有りませんし、と俺がそう言うと、キリッとした顔で、まみやの艦長さんは返した。

 

 「わかった。今すぐに、迅速に事を運ぶとしよう」

 

 *

 

 それからは早かった。

 沖縄出航を三日後の朝と定め、先ずは作戦を周知のものとした。

 皮肉にも、バーテックスの度重なる襲撃によって沖縄の人工は最盛期の六分の一にまで減っていた為に、スムーズに事が運んだと言っていい。

 沖縄の住民全てにはラジオや民間放送等で作戦内容を熟知させ、住民全ての名簿と名前を見比べながら空母の中へと詰めるように指示しつつ避難させていく。

 数日かかる船旅のために、物資を補給艦『まみや』の格納庫及び倉庫全てにぎゅう詰めし、のこりの空母の格納庫全ての飛行機を基地に置いていき、その空いた格納庫スペースに住民を詰める。

 幸いにも、乗れない人は出なかった。

 

 「あー、ちょいと過剰積載しちまったから航行速度落ちるが、行けそうだな」

 「行けますかそうですか・・・・・・じゃあ、残りの頑固者を約一人、説得してから戻ってきます」

 

 空母の、日本語が上手い在日米軍のおっちゃんにそう言って、俺は港の、防波堤の上で佇んでいる棗の傍に行った。

 

 「・・・・・・棗」

 

 そして急に吃る俺の口。ああもう、何故こうも俺の口は歳の近い人相手だとこうなってしまうんだ!

 

 「裕也か。・・・・・・私の心は変わらんぞ」

 「それは・・・・・・棗の、本心? それとも」

 「私自身の本心だ」

 「・・・・・・」

 

 とても、棗の本心だとは思えない。

 確かに、海を大切に思う性格だ。一時期、海を守る為に的に特攻したこともあった。

 だけど、こうも・・・・・・こうも、海そのものに命どころか魂、棗のなにもかもを投げ出すほど、己を軽んじるような女性(ひと)だっただろうか?

 

 俺は彼女とは出会ったあとの事しか知らないが、それでも一緒に暮らしてきて、俺と過ごす時間が一番だと常々口にしていた。

 ・・・・・・だが、最近は、どうだ?

 

 「この心は、魂は・・・・・・全ては、父なる海の為にーーーー」

 「違う、それは、棗の本心じゃない」

 

 気がつけば、声を荒げていた。

 

 「ふざけるなよニライカナイ。お前の考えを、まだ四半世紀も生きてない少女に押し付けてんなよ」

 「・・・・・・ほう、流石に気がつくか」

 

 ほら、やっぱり。

 ・・・・・・霊的存在が、棗の中に巣くっていた。

 ちなみに、どうして気がついたかと言えば・・・・・・それは、勘としか言えない。間違っている可能性もあるにはあった。だが、それでも、何時もの棗と違い過ぎて。

 

 「ああ、バレバレだ」

 「そうか・・・・・・だが、貴様、正体を見破っていかがする? 我は最早、この肉体と同一。切り離す事は出来はしない」

 

 まあ、予想はしていた。

 神が、繋がりの深い人間のヨリシロをそう簡単に逃がすはずが無い。

 

 「ところが、だ。もし『ある』とすれば?」

 「・・・・・・はーーーー?」

 

 だから、対抗策を練るのも簡単だった。

 

 先の戦い、その時に化け物と化して(・・・・・・・)しまった、俺の肉体ならば。

 

 「悪いな、それは棗の体だーーーー返して貰うぞッ」

 「ーーーー!?」

 

 俺はそう言うと共に、棗の体に自らの燃える(・・・・・・)その手を突っ込んだ。

 繋がりを、焼き切る為に。

 

 *

 

 「そして使わせて貰うぜ、ニライカナイ。神々をブッ倒す力を貸せ」

 

 *

 

 目が覚めると、見たことも無い部屋の、ベッドの上だった。

 

 異常に体が軽い。

 何か、憑き物が落ちたような、そんな感じだ。

 体を起こし、丸い窓があった為、そこに近寄る。

 

 「・・・・・・これは・・・・・・ッ」

 

 私の知る、海ではなかった。

 今、何処だ。何処に居る!?

 

 と、内心パニックになっていると、部屋のドアが開いた。

 

 「・・・・・・お目覚めのようだな。古波蔵棗」

 

 そこには、『まみや』と書かれた部隊識別帽を被った、女性の自衛官がいた。

 喋り方が男らしく、凛々しい雰囲気が感じられる、妙齢の美人だ。

 

 「ここは、何処だ?」

 「九州の熊本県沖、補給艦『まみや』の艦内だ。・・・・・・裕也の奴に、気絶して運ばれてきた時にはびっくりしたぞ・・・・・・もうかれこれ一週間近く寝ていたから解らんだろうが」

 

 裕也・・・・・・?

 そうだ、裕也ッ!

 

 「裕也は何処に居るっ!? 今直ぐに、今、すぐにでも・・・・・・」

 

 ああ、冷たい態度を取ってしまった事や、今までずっと愛してやれなかった事を含めて謝らなければ。そして、許して貰ったあとは、ねっとりとーーーー

 

 「・・・・・・ない」

 「・・・・・・え?」

 「いない。裕也は、沖縄に残った」

 「・・・・・・え、は、んぇ・・・・・・え!?」

 

 自分でも、びっくりするくらいに情けない声が出た。

 裕也が、沖縄に残る?

 それは・・・・・・

 

 「な、なん・・・・・・で」

 「・・・・・・貴女がここに運ばれてすぐ、空が真っ赤に染まった。彼はそれを見て、『俺はここに残る。足止めが必要だろう』、『棗を頼む』と、そう言い残して・・・・・・」

 

 戦闘へ向かった、と彼女は言った。

 

 私はそれが、信じられなかった。

 でも、目の前の女性の顔からするに、嘘ではないのだろう。

 

 裕也が、沖縄にまだ居る?

 ・・・・・・なんで。まだ、何も謝れてない。まだ、愛し足りない。伝えたい言葉もあったのに。

 

 なんで。なんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでーーーー

 

 「裕也ぁ・・・・・・なんで、私を、傍に置いてくれなかったんだ・・・・・・」

 

 地獄でも、修羅場でも。隣で、一緒にいたかった。でも、そんな望みも、もう叶わないかもしれないという絶望に押し潰される。

 

 私はその日、何も食べず、眠らず、ただ泣いて過ごしていた。

 心の虚無感、それだけが、感じられる全てだったから。

 

 *

 

 その日、ある艦から少女の慟哭が響いたと同時刻。

 

 南西の島で、巨大な青い炎の柱が立ち上った。

 

 ・・・・・・聞くもの全てを恐怖のどん底に陥れるような、地獄からの叫びのような咆哮と共に。




 さ~て、良い具合に闇に染まってまいりました(暗黒微笑)


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33:龍の、暴走

 諏訪ぶち込みます。
 もうちょい。もうちょいで西暦編クライマックス・・・・・・であります。


 昼。

 疎らに雲が流れており、真っ青な空が何処までも続いていそうな気さえする、快晴のある日。

 

 「りゅーくん! 戦線持たせてくれてサンクス! ライスボール作って持ってきたわよ!」

 「ありがたい。パス!」

 「味わって食べな、さいっと!」

 「ナイスボール」

 

 俺達は、戦場にて命のやり取りをしつつ、昼ご飯を食べていた。

 うん、美味しい。山賊お握り最高。

 

 戦い始めて随分と経つが、バーテックスの群れは留まる所を知らず、むしろ勢いを加速させてこの諏訪を攻め滅ぼそうとやってくる始末。

 

 何が言いたいのかといえば、昼飯を食べる時間が無い。

 腹が減っては戦は出来ぬ、というように、腹が減れば人によっては集中力が削がれる。俺がそうだ。

 

 そこで、一度歌野に戦線離脱してもらい、お握りを作ってもらって、今こうしてかじりつきながら『りゅうのはどう』でバーテックスを蹴散らしているのだ。

 普段は、作物の事を考えて『りゅうのはどう』なんて余波が凄い高威力技を使ったりはしないのだが、今回はそんなことを言っていられない。

 ただでさえ片腕に今、うたのん特製山賊お握りを持っているのだ。悠長な真似をしていたらやられてしまう。また、作物は俺が責任を持って復活させよう。

 

 「歌野はもう食べたのか?」

 「イエス。あなたが今食べているものと同じライスボールをね。

 ・・・・・・どう? 最高? 美味しい? デリシャス?」

 「後ろ二つ同じ意味だろ・・・・・・うん、山菜だけなのに食いごたえがあって、味付けもしっかりしてる。最高。美味しいぜ」

 

 忘れないでいただきたい。

 今、俺達は戦闘中である。断じて昼飯時の食卓じゃあない。

 片手で『りゅうのはどう』をブッパし、歌野は鞭でズバズバ敵を叩いて、時に裂いているのだ。

 とても戦場でする会話ではない、と自分でも思うが・・・・・・

 

 「ん、それはよかったわ」

 

 そう言って花がぱっと咲いたような笑顔見せられちゃあ、ここを戦場だっていうことを忘れてしまう。

 しょうがない。可愛いんだもの。

 

 まあ、

 

 「Geyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 「五月蝿い今歌野と話してんだよ、木っ端が」

 

 油断はしないが。

 

 どんなに会話が和やかであろうと、戦場は戦場。

 いつ、何が起こっても良いように油断はしない。

 

 『りゅうのはどう』を右手で放ち、もう片方の左手に山賊お握りを持ってむしゃむしゃ。

 ・・・・・・嫌な感覚が、首から右肩、そして背中から臀部にかけてどんどん広がるが、気にしない。気にしていると何時か自分が変わっていく様子に耐え切れず発狂してしまう。

 

 数はそれこそ普通であれば戦いが終わっている位には倒したのだが、まだ俺達を分断させてから囲んで袋だたきにする程の数は揃っているようで、俺と歌野は良いように分断されてしまった。

 

 「ちっくしょうが!」

 

 『ドラゴンクロー』を右手に発動し、左手に持った山賊お握りの残りを口に突っ込んでから、近づいてきたバーテックスを掴むようにして『ドラゴンクロー』で引き裂き、『りゅうのまい』を一瞬発動してから『ドラゴンテール』で後ろのバーテックスを吹き飛ばし、玉突きのように複数のバーテックスに衝突させて爆散させる。

 

 雑魚が幾つ集まっても無駄だと学習したのか、超巨大な、山のようなバーテックスが四方を囲み、近づいてきて俺を圧殺しにかかる。

 

 『ドラゴンクロー』を発動していなかった左腕が巻き込まれ、潰されて激痛が走るが、その痛みを口内の肉を噛んで掻き消して右手にまだ発動していた『ドラゴンクロー』で左腕を肩口から切断し、切断した事で幾分か空きスペースが出来、そこから上に脱出する。

 

 上に飛び上がった瞬間、好機とみたのか板のようなものを持ったバーテックスがうじゃうじゃと群がってくる。

 

 「邪魔だ畜生共ぉおおおおおおおお!」

 

 それら全てを『ときのほうこう』で周囲に沢山存在した進化体バーテックス共を文字通り消し飛ばし、着地してから歌野の居るだろう場所へと一気に駆け抜けた。

 

 頼むから無事であってくれ。そう願いつつ、俺は左腕を切り離した影響で激しく失血するのも忘れてただ走った。

 

 バーテックスが異常に群がっている、その中心。

 そこに歌野が居るはず!

 

 「道塞いでんじゃねぇ、退けろ!」

 

 『りゅうのまい』を発動して素早さと攻撃力を上げ、『ドラゴンクロー』で、バーテックスを切り裂き、引き裂き、時に握り潰しながら群がっている奥へと進む。

 

 そしてとうとう、バーテックスが群がっている中心。そこに。

 

 「歌野!」

 「りゅー、くん?」

 

 右足を食いちぎられ、座り込んでしまっている歌野がいた。

 

 「え、ぁ・・・・・・」

 

 それを見た瞬間。何かが弾けた気がした。

 

 右腕と、背中の辺りに未知の感覚が走る。

 パキパキと音がして、左目の視界が青く、蒼く、碧く染まっていく。

 

 「ぅ・・・・・・」

 

 自分が自分でなくなっていくような、そんなあやふやな感覚と共に、自分の体が人間じゃない何かに変貌していく。

 自分がわからなくなって、あやふやになって意識が、ぐっちゃぐちゃで、自分が何のためにいま、なにをどうして・・・・・・

 

 

 

 俺は、何のために、この世界にいる?

 俺の、存在意義は何だ。

 

 ああ、そうだ。

 人を、勇者を、巫女を護る。ただそれだけの為だ。

 それだけ出来れば、何でも良い。

 

 俺が、化け物になったって構うものか。




 次回。

 北海道。

 番長の、クールな作戦。


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34:永久不滅の絶壁

 遅れました。
 とても難産でした。はい。


 青森県、某所。

 

 「フゥー、どうにかたどり着いたな、本州」

 

 真っ白い息を吐く。

 冬真っ盛り、海風はかなり体を冷やす。

 

 「ばんちょー凄かった!」

 「へへん、これが俺の力って奴よ」

 

 ガキに笑いかけつつ、俺は背後を振り返る。

 たった一○分前まで荒れ果てていた海。

 そして、その中に潜んでいた超巨大バーテックス。

 

 俺は、ただ数秒足止めが出来れば良いと、そう思って『ぜったいれいど』を使い、後方にいたバーテックスの大群を凍てつかせたつもりだった。

 

 だが、蓋を開けてみればどうだ。

 

 「番長、これスゲーな。カッチカチだぜ」

 「かき氷作ったら美味しいかなぁ!」

 「お腹壊しちゃうわよこんなので作ったら」

 「おうありがとう。あと勇人、お前は食うなよ。・・・・・・技の規模が上がっていやしねぇか? 流石にこんなになるのは予想外だぞ?」

 

 ガキ共がつんつんと足で突いているのは、氷ついた海。

 そう、バーテックスどころか海、果てにはその海の中に潜んでいた超巨大バーテックスまで巻き込んでしまったのだ。

 

 これには俺も驚いた。

 威力が桁違い過ぎる。

 

 そして、技の威力に比例するようにして。

 

 (ッ、今度は右足の太股か)

 

 だんだん、体が冷えてきていた。今の体温は三○度程度、といったところだろう。

 そして恐らく、右太股を見れば真っ白い霜が生えたかのような変化が見られる筈だ。

 

 (この世界に送り込みやがった野郎は、『勇者と世界を救え、世界は二の次でも構わん。力もくれてやるし、救うことに適した形へ最適化もしてやる。後はどうにかしろ』とか言ってやがった・・・・・・精霊にでもなっちまうのか俺は。

 はは、まさかな。まさかそういう形にポケモンみたく進化して、勇者のバックアップに最適化するって訳でもあるめぇし・・・・・・)

 

 嫌な予感しかしない。

 だが、自分が持っているこの力と、神と名乗る謎存在の言った言葉。

 

 それが今になって、俺の頭に妙に残っていた。

 

 *

 

 数日後。

 本州に渡ってから、一度も戦闘を行っていない事に驚いた。

 北海道はもう滅んだも同然。ならば、本州には大量のバーテックスが居るはずなのだが、本州はいやに静かで、軽トラを走らせていてもバーテックスの一匹にも会わなかった。

 

 「何もねぇってのが逆に怖いな」

 「鬼十郎君、次右だよ」

 「りょーかい。・・・・・・諏訪までもう少し。もう後一○キロ。飛ばすからしっかりと捕まってろよガキ共!」

 

 荷台から元気の良い返事が返ってくる。

 荷台には木材とホームセンターに放置されていたブルーシートでほろと掴まるための台を作ってある。

 荷台そのものも、鋼鉄の板を張り付けて、軽トラの荷台の囲いが下りないように固定してある。

 少々飛ばしてもヘッチャラなのだ。

 

 そしてすぐ後。

 一度もバーテックスと戦わなかった理由が、漸く解った。

 

 「雪花、運転変われ」

 

 確かに、あんなとこにバーテックスが一点集中して集まってたら会わねぇに決まっている。

 

 「・・・・・・私、運転したことないよ?」

 「俺の運転毎日見てたろ。お前なら俺の動きトレースすんのくらいわけねぇだろうが」

 「そうだけど・・・・・・でも」

 「なぁに安心しろ。道は作る。真っすぐ、ただ走れば良い」

 「・・・・・・私が心配してるのはそういうのじゃないってのを何で理解しないかなぁこの鈍感は」

 

 悪いが、最後の言葉は意図的にスルーさせて貰うし、俺は鈍感じゃねぇ。気がついてる(・・・・・・)。だが、まだ答える訳にゃいかねぇ。

 全部、終わってからだ。

 

 俺は一度、諏訪に群がる(・・・・・・)畜生共を見据え、雪花に向き直り言った。

 

 「まー、なんだ。絶対戻る。諏訪で待ってろ」

 

 そして一言、雪花の耳元で呟いてから窓から身を踊らせ、着地する。

 軽トラは一瞬蛇行したが、そのあと真っすぐ走り出した。

 

 「さて。んじゃあ喧嘩と行くかね」

 

 諏訪に真っすぐ走っていく軽トラが見えたのか。

 群がるバーテックスのうち、幾つかが軽トラへと向かっていく。

 

 大口開けて軽トラへ向かっていく姿から、軽トラごと雪花達を食い散らかすつもりだろう。

 

 「ったく、畜生共が。そいつはお前ら程度の脳無しが近づいていい女じゃねぇぞ!」

 

 まあ、俺がさせねぇけど。

 軽トラへと向かうバーテックスに向かって全速力で走り出し、『れいとうパンチ』で凍らせながら吹き飛ばす。氷の破片が幾つも散らばり、玉突きのように他の雑魚も纏めて吹き飛んでいく。

 その後すかさず『ふぶき』を使い、軽トラの進路上のバーテックスを全て凍らせてから砕き、邪魔な障害物を無くす。

 軽トラが諏訪に入った事を確認してから、ホッと一息つく。

 

 さて。

 バーテックスは、諏訪を囲むようにしてワラワラと集まっている。

 外側からも、まだ集まっている。

 

 諏訪には、まだ人間がいて、俺と同じような奴が戦っているのが

見えた(・・・)

 なら、諏訪に入っていった奴は任せるとして。

 せめて、これ以上増えないように俺は外側で戦うとしよう。

 幸い、北海道のような豪雪地帯でなくとも、今は真冬。寒い時期だから、氷タイプの技は使いやすい。

 

 『ぜったいれいど』で、空間とバーテックスごと厚く、高く、そして広く、凍りつかせていく。

 作ったのは、壁。

 今の俺の意思、『不退転』を体言するこれ以上ないモノだろう。

 

 「来るなら来い。此処から先は通さねぇ!」

 

 また少し、体が冷えた。

 けれど、心は熱く、闘志を燃やす。

 

 今の俺は、負ける気がしなかった。

 

 *

 

 「あの馬鹿・・・・・・!」

 

 真っ赤になった顔を冷ますように、窓を開けっ放しにして走る。

 諏訪まで一直線。進路上の障害物は鬼十郎が片付けてくれたから、私達は無事に諏訪に辿り着いた。

 

 「待ってるから、あんな言葉くらい帰ってきてから言えば良いのに」

 

 子供達を避難所に下ろし、突如として出来上がった、雲まで届く広い氷の壁を見て言う。

 

 「不意打ちじゃなくて、今度は目を見て言ってね」

 

 愛してるって。




 次回。
 四国。


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35:拳、一撃

 四国編。


 気がつけば、俺は駆け出していた。

 倒さなければならない、武甕槌(目の前の敵)へ。

 自分でも何を言っているのか解らない、叫び声を上げながら、突撃する。

 目の前の敵しか見えない。そんな状態だ。

 

 撃ち合う。身体が軽い。神という理不尽と撃ち合えるほど速くなっている。

 

 もっと、早く、速く、疾く。打ち込む拳が分身して見える程に、はやく。

 

 「ちぃ、貴様、それは最早、神々の領域に踏み込んでーーーー」

 

 何か言っている。解らない。

 

 「ーーーー戻れなくーーーー」

 

 解らない。理解出来ない。

 俺が聞いている声が、どのような事を意味しているのか、

 

 「ーーーーそうか。貴様、とうとう人間を辞めたか」

 

 理解したくない(解らない)

 

 嫌だ。

 そんな現実(じじつ)俺は理解したくない(聞こえない)

 

 「Gaaaaaaaaaaaaaa!」

 「人の言葉すらも忘れたかッ、っ、ぐぅ!?」

 

 現実を振り払うように。

 認めない、認めたくない事実を消し去るように。

 ただ、殴る。蹴る。

 

 ・・・・・・何の?

 なにを、おれは、みとめたくない?

 ・・・・・・そういえば、なにを、なんの、ためにたたかっているんだっけ。

 

 あれ?

 

 「Geyaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 「ッぐぅ、舐めるなよ獣畜生がぁあああああああああ!」

 

 ピリッとした。

 おれの、からだがぴりぴりする。

 いたい。

 

 なんで、おれはこんないたいおもいをしているんだ?

 

 「止めだ。喰らえ、異界の戦士よーーーー!」

 

 そっかぁ。

 

 「Ge、」

 

 めのまえの、アイツのせいだ。

 

 「Gayaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 「!? ・・・・・・黒焦げの貴様の何処に、そんな余力が・・・・・・」

 

 きえちゃえ(・・・・・)

 

 「『きあいパンチ』」

 

 *

 

 気がつけば、真っ白な空間にいた。

 寝っ転がった状態で。

 

 『やっと起きたか。寝坊助(ねぼすけ)

 「いや誰だよ」

 

 気がつけば、目の前に友奈・・・・・・にそっくりな、ロングヘアーの口が悪い誰かがいた。

 俺をその大きな、紅い瞳で見下ろしている。

 友奈よりおっきい・・・・・・何がとは言わないが。とにかくデカい。杏より多分大きい。メロンかスイカ? 尚且つロングヘアー。眺めとしては最高だな。

 特においらんさんみたいに着崩した着物からこぼれ落ちそうなものとその谷間が素晴らしい光けーーーー

 

 げし。

 「へぶぅ」

 『ド変態が。それが恩人に対して思う心かよ畜生』

 

 顔を踏まれた。痛い。

 

 『感謝しろよー? 力の本流に飲み込まれてお前の根っこがモンスターそのものになっちまう前に魂ぐぃいいいーっと引っ張り出してやったんだから』

 「そーいやぁ、はぁ・・・・・・何かバーサーカー化してた覚えあるわ。はぁ。

 あ、はい。感謝してますはい。だから、ね? ちょっと辞めて顔を踏んだ後にぐりぐりするのやめて。なまじ裸足なぶん良い匂いするわやーらかいわで新しい扉開きそうになる」

 

 足を退けてもらう。

 ・・・・・・恥ずかしい。自分の力すら上手く使えない。

 

 『恥ずかしい? はっ、そんなもん思うのはお門違いって奴だぜ? 人間』

 「どういう事だそりゃ」

 

 起き上がってあぐらをかく。

 隣に、しな垂れかかるようにして友奈モドキが座る。

 柔らかい、幸せな感触。最高。

 

 『テメェにぐぁあーっと流し込んだのは、オメーのイメージに合わせた神々の力そのものだ。・・・・・・だからあのままいってりゃオメーのイメージに最も近い・・・・・・ええと。何だっけ? ポケモン? そんなのに近い何かになるに決まってんだろ? カミサマの力ってのはようはイメージだからな。お前のその力が格闘主体になったのは、オメーのイメージがそれに最も近かったからだ。だから、力に飲まれちまったお前の姿も、それに最も合った形になった』

 

 ・・・・・・つまり、最初っから暴走前提?

 うわぁ。糞野郎だコイツ。

 

 『やっぱりコイツ魂全てモンスターにガラッと変えちまった方が良かったか?』

 「さーせん」

 

 土下座。上位存在には逆らわない。これ常識。

 

 「そういや今更だが、ここ何処だ。そして、俺の敵(武甕槌)はどうなった友奈モドキ」

 『本当に今更だな。あとモドキ言うな。・・・・・・あの馬鹿天神はお前の『きあいパンチ』とか言う一撃でズタボロ。俺がズバッと止め刺しといた。感謝しろよ? そして、ここはとある糞ウッド(神樹サマ)の中の端っこ、って言えば大体解るかお馬鹿様?』

 「位置に関しちゃ大体察した。あの天の神にはやっぱり格闘タイプが効いたのか・・・・・・鋼っぽい感じだったし・・・・・・あと馬鹿とは何だ馬鹿とは」

 

 本当に口が悪い。

 そして、位置に関しちゃ察してない。ただ、ノリで言った。糞ウッドって何だよ。そして何処だ。

 

 『・・・・・・で、だ。これからオメーはどうする』

 「むしろこれからどうなる?」

 『戻ってオメーが御執心なゆるふわきょぬーを助けるか、ここで俺のたのしーたのしー永遠の玩具(おもちゃ)

 「ぜってぇ前者。つか、何で御執心って解ったお前」

 『だって顔にマジックペンでサラサラーっと書いてあるし?』

 「俺の顔は紙か何かか!?」

 

 ともかく、さっさと行かなければ。

 俺はどうなろうと構わない。

 けれど、アイツは、あいつらだけは・・・・・・

 

 ・・・・・・ああ、なるほど。こんな土壇場で自覚するのかよ畜生。

 

 「で、だ。俺の身体に戻せ。さっさと」

 『覚悟完了して自分の気持ちをやっと理解した鈍感野郎にゃ悪いが、まだ俺と一緒に居てもらうぜ。まだ言ってない事があるしな』

 「サッサと言え友奈モドキ」

 『モドキ言うなボケ。・・・・・・で、お前はあの身体に戻ったところでまーたポカーンと理性無くすだけだ。これは理解出来るな? 人間に、もうあの身体じゃあ戻れねぇ事も。そのチンケな頭で理解したな?』

 「ああ、もうそれこそ嫌という程な。で?」

 『新しい身体をドドンと用意した』

 「・・・・・・は?」

 

 え、何言ってんの?

 

 『だーかーら。入れ物新しいの用意したんだよ。面倒だったんだぜ? 用意するの』

 「俺の元の身体はどうするんだよ」

 『有効活用する。具体的には精霊にでもサクッと改造して使ってやるよ』

 「やっぱり糞野郎だお前」

 

 人の身体を改造する奴は糞野郎で充分だ。

 

 「で、新しい入れ物用意してどうする気だお前。まさかお前みてぇな糞野郎が慈善事業って訳じゃねぇだろ」

 『ったりめーだ。お前は今から俺の端末。具体的に言うなら依り白。オーケー?』

 「・・・・・・なるほど。お前の存在を外部(げんじつ)に映すための外部出力装置になれって訳か」

 『あとはまぁ、オマケに元の身体改造して作った精霊の外部出力機能も付けといた。勇者の限界レベルまでしか動けねぇが、充分だろ?』

 「・・・・・・まーな」

 

 ったく、糞野郎なのか良い奴なのか・・・・・・。俺の必要な部分もちゃっかり用意してくれやがって。

 

 『で、改めて聞こう鈍感野郎・・・・・・今、樹海じゃ天神共が乗り込んで大騒ぎだ。お仲間さんもピンチ。どうする?』

 「行くに決まってんだろ。二度も言わすな馬鹿」

 『・・・・・・んじゃ、さっさと行ってこい。ストーンとな』

 

 友奈モドキが発したその言葉と共に・・・・・・足元に穴が空いた?

 

 『天の神共が化身した真っ赤な雲の上に出口開けといた。あとは好きにしろ』

 

 やっぱりコイツ糞野郎だわ。

 

 *

 

 俺の、初代友奈(・・・・)の後輩と愉快な仲間達を頼むぜ?

 釘宮天地クン?

 

 *

 

 上空目測一万メートル。

 パラシュート無しのスカイダイビングを人生で初体験。あの糞野郎。いつか会ったら絶対にぶっ飛ばす。右ストレートでぶっ飛ばす。

 ・・・・・・やーらかい感触だったなぁ。

 

 閑話休題。

 

 さて。

 眼下には、真っ赤な雲・・・・・・雲?

 そして、隣には俺と一緒に落ちる、お人形みたいな大きさのルカリオ。

 

 「何だこりゃ」

 

 抱きしめてモフる。青い部分が真っ赤な以外は、普通のデフォルメされたルカリオみたいな、そんな不思議生物。

 

 「・・・・・・なるほど、これが精霊。物理的に癒されるなオイ」

 『Gau』

 

 はなせぇ、とジタバタ暴れるルカリオを無視し、今までと同じような感じで技を使ってみる。

 すると・・・・・・抱きしめていたルカリオが、俺の拳に吸い込まれた?

 

 「ああー、なるほど。お前がエンジンにして入力装置か。まぁ、確かに。普通に考えりゃそうだ。だって、元々俺の、めちゃくちゃな力が内包された身体だもんな。そりゃそーだ」

 

 そして、納得する。

 ・・・・・・なら、あとは穿つのみ。

 天の神は、上から俺が来ている事に気がついてないのか、下界への攻撃に集中しているのか、俺には一切攻撃を仕掛けて来ない。

 有りがたい。今はその、神の油断に付け込ませてもらおうか。

 

 「何時でも何処でもチェック・シックス(後方注意)・・・・・・覚えとけ、カミサマよぉ!」

 

 『アームハンマー』。

 

 見事に決まったその不意打ちの一撃は、天の神が化身したとかアイツが言っていた赤い雲にヒビを入れ、砕いて、ぶち抜いて。

 そして、

 

 「よぉ、何泣きながらボーガン撃ってんだ杏」

 「天地さん・・・・・・天地さん!」

 

 本日二度目、カッコイイ登場を俺が果たし、杏がそこに抱き着いてきて。

 

 真っ赤に枯れて行く樹海も、その侵食が止まり。

 

 世界は、樹海から、現実へ。

 

 空は勿論、青々と晴れていた。




 少々疾走気味?

 さて。

 次回。

 諏訪。

 アーンド北海道。

 長くなるかもです。


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36:転移の理由(わけ)

 めっちゃ間が空いてしまってすみません。
 遅めの36話、どうぞ。

 ちなみに、諏訪のお話ですがドラゴンとは全く関係ないお話になってしまっています。すみません。


 遠くで、咆哮が響いた。

 諏訪の外にいる俺にも聞こえて来る。馬鹿デカい声だなオイ。

 

 「諏訪のあんちゃんは化け物になっちまった、か。俺も後どれだけ理性保ってられるかねぇ」

 

 未だ会った事が無い自分以外の化け物。

 この時代にゃ俺合わせて四人いるらしいが・・・・・・全員化け物になるのが前提のパワーを授けられたのだとしたら・・・・・・やっぱりあの神モドキはクソッタレだわ。

 

 山びこのように反響する咆哮をBGMに、バーテックスを殴る、蹴る、凍らせる、砕く。

 とにかく、密度と数が多い。

 

 俺が作った、氷の壁。

 いくら数が揃っても砕けないように作ってある。何せ。マイナス二七三度で固定してある。

 空気が極低温で凍り続けてるんだ。壁は時間が経つにつれ、厚く、大きくなっていく。本当に『ぜったいれいど』様様って奴だな。

 

 だから、奴らは揃って俺を狙う。俺を倒せば、俺が発生させた氷の壁が消えると考えたんだろう。だから密度が高くなる。

 ・・・・・・何でこいつら頂点名乗ってるのか意味不明だな。

 頭使えよ。密度高くなったらぎゅうぎゅう詰めの押しくらまんじゅうで隣り合う奴らと動きを阻害し合って最終的にほぼ動けない状態になる事ぐらい理解出来るだろうに。

 

 「数が多いってのも不便だなぁ? オイ」

 

 『ふぶき』で、ぎゅうぎゅう詰め状態のバーテックス(アホども)を凍らせ、叩き壊す。

 

 息は白い。

 今の季節は冬だから当たり前・・・・・・だが俺の吐く息は、まるでダイヤのようにキラキラと輝いている。

 ・・・・・・とうとう、吐く息が零下に達したか。

 

 「『あられ』」

 

 天候を変化させ、氷タイプに有利な状況を作る。

 まだ、木っ端バーテックス共の数は多い。

 まだ、人間である内に終わらせる。

 

 「人間の状態で帰るってのが、俺の第一目標なもんでな。ワリィが早々に死んでくれ」

 

 空が曇り、霰が降りはじめた、その時。

 

 一瞬で、周囲のバーテックスが氷の彫像へと変化した。

 

 「ふぅ・・・・・・」

 

 息を吐く。

 

 また。

 身体が冷たくなった。

 

 そして。

 

 人間の身体じゃあ、どうやらこのくらいの温度が限界だったらしい。

 いくら氷タイプとは言え、冷えすぎてもいけないようだった。

 

 「あー、限界、だ、畜生が・・・・・・」

 

 *

 

 『ちゃっちゃと起きろ後がつかえてんだよ』

 「痛ったぁ!?」

 

 星が散ったかと思えば、意識がハッキリとしてきた。

 おでこが物凄く痛い。身体を起こして、目を開けてみればそこは見たことのある真っ白い空間・・・・・・

 

 そして、変顔の描かれた仮面を付けている神主がいた。

 そのふざけた面を、見たことがある。

 

 「よぉ、久しぶりじゃねぇかカミサマ」

 『おー久しぶり。いやぁ、ギリギリだったんだよ? 君の魂が氷ついて意思のある氷像になっちゃう前にこう、思念と魂だけグイッと引っ張り出してあげたんだから。ちゃんと、肉体までとってあげてる親切さ。素敵だと思わない?』

 「そんなになる力を俺に与えた時点で親切じゃねぇけどな」

 

 ケッと吐き捨てる。

 人間がそもそも扱えないような力をホイホイ渡すようなクソッタレにはコレで充分だ。

 

 『わぁお辛辣ぅ。でも、そんな力じゃなきゃあの星屑共さえも倒せないんだから、逆に感謝してほしいんだけどねぇ』

 「はぁ・・・・・・で? 此処に俺を呼び出した理由は何だ。テメェみたいな奴がまさか慈善事業で命を救う為だけにこんなことをするとは思えねぇ」

 『・・・・・・うーん、簡単に言っちゃうなら確認、かなぁ? 岡山県付近に放り出した一番最初の子はゆーなちゃんに取られちゃったし、僕が送り出した君達が一体どんな感じになっちゃったのかを君ともう一人、諏訪の近くに放り出した子で確かめて見ようかなってね』

 「確か、四人送り込んだんだろ。残りの一人はどうするんだ」

 『知らにゃい。ていうか、二人分でデータ充分だし、放っておくかなぁ』

 「お前やっぱり糞野郎だわ」

 

 カミサマってもしかしてこんなのばかりなのか。だとすると、慈悲も糞も()ぇ集団って事になるが。

 ああ、そもそも価値観が違うのか。だとすると納得だな。

 

 『何とでも言ってどうぞ。罪悪感なんて感じないし』

 「そうかい。何言っても無駄、か。

 んで、お前の言う確認ってのはどうするんだ」

 『もう終わってるよ』

 「いつの間に!?」

 

 俺が大袈裟に驚いて見せると、カミサマは顎を手でさすりつつ、喜色に満ちた声で言った。

 

 『いやぁ~、本当に良い結果が得られたよ。コレでまた、新しい転移者をこの世界に突っ込む時は長く遊べるね(・・・・・・)!』

 「っ、ハァ!?」

 

 コイツ、今何て言った?

 

 『いやぁ、本当におあえつら向きの世界があって良かったよ。僕ら神々は基本的に全能なもんで、意図的に全能じゃない身体を作ったりしてそこに入ってみたりとかして暇潰しをしていたんだけどね。飽きてきた所にちょーっと二級の神格共が人間滅ぼそうとしてたから、暇潰しついでに救ってやろうと思ってお前等に適当な神の力突っ込んで遊んでたのさ。

 いやぁ、まぁ化け物化しそうになった事については謝るよ? 何せ今僕は意図的に全能じゃない身体になってるものでね?』

 「て、テメェ・・・・・・」

 

 遊び、だと?

 俺が死にかけたのも、一人見放されようとしているのも、全て遊びの範疇で、あの世界がただのゲーム盤って事か?

 

 『ま、僕はあの世界がどうなろうと知ったことじゃ無いけれど、暇潰しをするためにも彼等には生き残って貰いたいね』

 

 畜生、こうやって戦ってきた事すべてがコイツの掌の上での出来事だったなんて。

 

 『・・・・・・あ、ちょっと喋り過ぎたかな。ま、良いや。別に知ろうが知らまいがどうでも良い事だしね。という訳で、もう君用済み。力抜き取って、化け物化した部分削って再構築した身体に魂入れ直してあげるから、もう戻って良いよ』

 「・・・・・・っ、待ちやがれ!?」

 『だーめ。待たない。後もう一人此処に呼び出す手筈なんだ。後がつかえちゃう』

 

 身体が透けていく。

 俺が一言言うにつれ、どんどんそれは加速していく。待て。一つ、ただ一つ確かめる事がある。

 

 「いいや、待って貰うぜ。俺の質問に一個答えるまではな! テメェ、あの世界をアレ以上酷くするなんて事にはしねぇだろぉな!?」

 

 コレは、ただの確認。

 敵がこれ以上増えるかも、という、恐怖から出た言葉だった。

 それに対してカミサマは、心底呆れたという風に言った。

 

 『君は僕の言葉を聞いてなかったのか? 僕は、あの世界がどうなろうと知ったこっちゃ無いんだ。だってただの暇潰しなんだから。世界を滅ぼした所でゲーム盤が一つ無くなるだけで、僕には何のメリットも無い』

 

 此処でカミサマは言葉を区切った。

 そして、背を向ける。もう言うことなど無い、と。そんな風に。

 

 「そうかい。そりゃ良かった」

 

 そんな様子のカミサマに、俺は史上最大級に安心しつつ、その場から消えた。





 次回

 諏訪

 ドラゴン(今度こそ)


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37:鎮護の龍神

長らくお待たせしました。


 「ここは・・・・・・」

 

 自分自身気がつかない内に、どうやら気絶してしまったらしい。

 フワフワと、まるで下から押し上げられているかのような感覚がする。身をよじろうとして・・・・・・止めた。自分は今、湖に浮いているようであった。

 寝転んだ状態で見上げる上空は真っ青。雲一つ無い快晴である。

 

 自分が何故、このような状態なのか。まるで理解が出来なかった。

 脚を片方喪ってしまった歌野を見た瞬間、自分の中の何かが切れたという事だけは覚えている。

 が。

 

 「そのあと、一体・・・・・・」

 

 一体全体、どうなった?

 負けた? それとも勝った?

 歌野と水都は無事だろうか。農家のおっちゃん達の安否も気になる。

 遊んでやっていたガキ共は、料理を教えてもらったネーチャン達は、毎朝おっちゃんと夫婦漫才を繰り広げていたオバチャン達は・・・・・・

 

 自分の中で、色んな人の無事が心配になってくる。こうしてはいられない。

 

 「・・・・・・っ、ぐっ・・・・・・」

 

 だが、身体が動かない。

 寝転んだ状態で顔を限界まで上げ、よく見れば、身体の至る所が腐りかけていた。

 どうやら、自分の気がつかない力を使いすぎたらしい。そりゃそーだ。元々身の丈に合わない力を使いつづければ、何時かはこうなると最初から解りきっていた事じゃあないか。力に身体が着いていってない。龍の力を無理矢理人間の身体で使ってたんだ。

 乗用車にジェットエンジン乗っけるようなモノだろう。

 

 『ホンット、お前の想像力には感服するよ。まさか無色の神の力を龍の力に近い何かにまで変質させるなんてな。・・・・・・ま、身体の方がそんなんじゃ、そんな力も意味ねーけど。つか、良く持った方だわ』

 

 不意に、そんな声が聞こえた。

 男とも女とも、子供とも老人ともとれるような、どっちつかずな声。

 

 目の前には、湖の上空の景色ではなく、見下ろすようにして、ファッションセンスをこれ以上無い程疑うくらいのダサい仮面を付けた、男か女かよくわからない奴が立っていた。

 ・・・・・・いや、コイツは。

 

 「よぉ、久しぶりだな」

 『おう久しぶりクソッタレ』

 

 俺をこの世の中に身勝手に放り込み、力を押し付けた張本人。

 俺の身の丈に合わないクソッタレな能力を知ってて植付けた糞野郎。

 

 そして、この世の全てを網羅する、文字通り全知全能の絶対存在。

 

 「元気してたか・・・・・・? 『神』」

 『そういうお前は死にかけてるな。草薙竜介。うん馬鹿か? 馬鹿なのか? 馬鹿じゃねーのか!? 力を意図的に暴走させて死にかけてるとかマジで馬鹿かお前。いや、ホントに』

 

 今更何の用なんだか。

 こちとら現在進行形で死にかかってんだ。見送りにでも来たのかよ畜生。

 

 『あー、そんなおバカさんなお前に耳寄りなニュースが一つある』

 

 わざとらしい口調で、大袈裟な身振り手振りしつつ軽快に言う『神』。

 湖の上を、どういう技かは知らないがパシャパシャと音を立てて歩いている。

 まったく、どうせコイツの事だ。絶対にろくでもない事に決まっている。そんな事聞かなくても別に構いやしない。

 コイツの言うこと聞いてろくでもない目に会うより、このまま死んだ方がナンボかましだ。

 

 『実は、死なずにこの世に残る事が出来る道が一つあったりする』

 「詳しく聞かせろ」

 

 前言撤回。

 

 『簡単さ。お前、ここ護る神になる気ない?』

 「は?」

 

 マジでコイツ何言ってんの?

 

 *

 

 神のパワーがどんどん抜けていくのを感じる。

 蕎麦の実食べればまだ動けそうだけど・・・・・・うん、血が足りない。圧倒的に。

 

 「みーちゃんは・・・・・・大丈夫かしら・・・・・・?」

 

 りゅー君の方は大丈夫。多分生き残ってる。

 万が一にも有り得ないが、死んでいたら、後を追う。もれなくみーちゃんもついて来る。

 

 「でもたぶん、このままじゃ諏訪の全人類で心中かなぁ・・・・・・?」

 

 空が割れるように、結界が消えていく。

 りゅー君が凄い勢いでバーテックスをデストロイしていったけれど、恐らく外にはまだバーテックスがいるだろう。

 

 「ほら、カミングしたわ」

 

 空から、何時かの時のように降って来るバーテックス達。

 血が抜けて、動けないとぬかすこの身体を無理矢理起こす。

 千切れた右足の太股から血がドバドバ流れ、正直ダウンしそうだけど、ここはグッと我慢我慢。ここで私がダウンしちゃあ、いけない。

 

 「もう、りゅー君。バーテックス来たのになんで出て来ないのよ。

 ・・・・・・何時もみたいに恥ずかしがってる場合じゃ、無いのよ?」

 

 ベッドの上で私とみーちゃんに押し倒され、ちっちゃくなってしまうりゅー君を想像し、クスリと笑う。

 そして、そんな想像で勇気を貰い、片足で、しっかりと立つ。

 睨みつける。

 

 撤退は無い。何せ、もう、先の無いライフだ。

 だが。それでも。

 

 「『彼』に会うまで、まだ死ねない」

 

 逃げたところで怪我をした私では後ろから貪り喰らわれるだけ。

 ならば、真っ向から相対する他に無い。

 

 「相手は頂点、神の手先」

 

 尽きかかる力で鞭を握り、私は吠えた。

 

 「敵にとって不足は十二分にあり!! 不満だから全員纏めて掛かってきなさい!!!!」

 

 *

 

 「ま、一旦落ち着いて。歌野」

 

 *

 

 「へ?」

 

 何処からか、声がした。

 その瞬間、私の後ろから、膨大なエネルギーの波動がバーテックスへと打ち込まれ・・・・・・爆ぜた。

 それはまるで、太陽のように煌々と私を照らす。その眩しさに、思わず手を目の前に(かざ)した。

 

 そして、へたり込む。

 タイミング悪いわよ。

 覚悟完了して、突っ込もうとしたその瞬間に現れるなんて。

 

 「ねぇ、りゅー君。貴方今・・・・・・タイミングがかなり最悪だったわよ。物語なら尚更」

 

 後ろを振り向かずに言う。

 影は二つ。りゅー君とみーちゃんだ。

 りゅー君の影にもたれるようにして、ミーちゃんの影が重なっている。ずるい。後で私も絶対にやってもらうとしよう。

 

 「ま、理性を失うなんて馬鹿らしい事を彼女の目の前でやっちゃった馬鹿男だしねぇ・・・・・・嫌いになったか?」

 「まさか」

 

 足が千切れて、血がどばどば出て。

 余裕なんて無いのに、笑ってしまう。

 

 「二人とも、まずやることやろうよ。うたのんは止血と治療、りゅー君はうたのんのサポートと結界の修復!!」

 

 おおっと、みーちゃんをほったらかしにし過ぎちゃった。

 忘れてないから怒らないで、どうどう。

 切羽詰まった声で言うみーちゃんに慌てて従うりゅー君にお姫様抱っこの状態で担がれつつ、りゅー君に問う。

 

 「りゅー君もしかして、背が高くなった?」

 「まーな。どうだ? 新しい俺は?」

 

 そう言って無邪気な表情を作る彼は、身長が数センチ程高くなって、目が金色に光輝いていた。

 身体は前よりちょっとスラッとして、まるで女の子みたいなスタイルだけど・・・・・・多分、無駄な肉や脂肪をそぎ落としたら、こうなるんだろう、といったような肉尽きだった。

 首筋には、六角形の鱗状の何かが見え隠れしていて、彼がもう隠す気がない事が伺える。

 

 また何やら、彼の身体を青く光り輝くオーラが包んでおり、私の傷口をそれと同じものが覆っている。

 空を見れば、何やら青いオーラがドーム状に広がり続けていた。

 

 ホントに、今諏訪で何が起きているのやら。私にはサッパリ解らない。

 少なくとも、今まで守ってくれていた神が亡くなられたのは確かだけれど。

 

 「ええ、ちょっとハンサムになったわね。そ、れ、よ、りぃ~、この不可思議な謎のオーラと、尽きかけていたゴッドパワーが復活してる事には後でしっかり、ベッドの上で追求するから覚悟しなさい?」

 「あ、それ私も聞きたいな♪」

 「お手柔らかにお願いします・・・・・・」

 

 あら、何顔反らしてるの? こっちを向きなさいりゅー君? 私は別に今、また、ユーが私の知らない何かをしょい込んだと思って、それで怒ってる訳じゃないから。ね。だから、こっちを向きなさいりゅー君?

 さ、みーちゃん。私が治療を受けている間、逃がさないように捕まえてて!

 

 *

 

 まあ、最後の最後まで解らないまま、締まらないままだけれど。

 とにかく、もう安全だ、って事は解った。

 

 *

 

 『さて、と。これで二人目か』

 

 ゆーなちゃん以来だよねホントに。こーゆーの。

 

 『おい、独り言聞かせる為だけに俺呼んだんなら帰るぞ』

 『ああ、ちょっと待ってゆーなちゃん』

 

 あー、もう。少し放置したからって不機嫌にならなくても良いのに。

 

 『いやぁ、実は、ね?』

 『おう』

 『実は第三次計画(・・・・・)を進めてるんだけど、全員四国に呼び出す手筈だから・・・・・・ちょっと、手伝ってよ』

 『・・・・・・拒否権は』

 『無い』

 『っち、詳しく聞かせろ』




次回 

沖縄

燃え尽きた男の話


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38:その()は日よりも熱く

 遅くなりました。
 というわけで、沖縄のお話。どうぞ。


 時は少々遡り、四国において『武甕槌』が倒された頃。

 

 ある野原、そこから大地を見下ろす女は、まるで信じられないといった様子であった。

 その御名は『天照』。言わずと知れた日ノ本の主神であり、今回の騒動における首謀者。

 

 「ヒトが神に近づき過ぎた」事を理由に、地上を淘汰しもう一度いちから親の行った「天地開闢」を行おうとしているのだ。そのための『鉾』も、持ってきている。

 そして当初は、先兵に自らの分霊を入れ、それを地上にけしかけて一度世界を滅ぼそうと考えていた。

 

 だが、どうした。

 自らより先に生まれた神であり、雷霆神、剣神、武神と複数の神格を持つ天の神最強のバトルジャンキーを殺す者が現れた。

 

 実際には止めを指したのは『初代友奈』を名乗る者だが、それを彼女は知らない。

 ただ、その神殺しが数百年ぶりに現れた事に、驚きと戸惑いを隠せないでいた。

 そして、その神殺しが起きた際、何時もその神殺し側に荷担していたある存在の事を思いだし、彼女はある事を思案する。

 

 そして、早々に決断した。

 自分自らが出向き、直接『鉾』をその神殺しが存在する地に撃ち込む、と。

 星を創る魔鉾、それを攻撃手段として用いた場合、その威力は計り知れない。

 それは、天の神自らが下す絶対的なる審判。

 ・・・・・・だが、その絶対も覆る事となる。二つの要因によって。

 

 一つは、四国における一撃。

 そして、もう一つは・・・・・・

 

 *

 

 一人、格好付けて残ってしまったがどうしたものだろうか。

 

 どうやら、赤い雲は自らの炎は余り効かないようだ。

 見れば、太陽のような紋様がある。

 

 ・・・・・・なるほど? そりゃ効かんわ。と、心の中で弱音を言う。こりゃ死んだか?

 

 (アホウ。我が力を貸してやっているのを忘れたか。海がある限り、我々の勝利は揺るがん)

 

 そんな俺の弱音に返してきたのは、棗の身体から抜き取ったあんちくちょう。

 沖縄の海の底にあるという理想郷の主。

 確かに、今の俺ならば海の加護によって幾らかパワーは上がっている。

 だが、それでも雀の涙。

 

 あの真っ赤な雲には全くダメージは入らない。

 どうしたものか、と考える。

 

 燃える体、その胸に手を当てて考える。

 真っ赤な空は、此処にはどうやら用は無いらしい。

 さっきから俺が攻撃しても、無視しているのか無反応。

 ずっと、北へと進んでいる。

 

 「シカトとは酷いな、もう」

 (痒いだけの存在をどうにかする労力を消費したくないだけだろう。どうやら天の神とやらは、北の方角に存在する何処かの理想郷を潰すつもりらしいな・・・・・・全力を持って)

 「あー、ヤバい? つかなんで解る」

 (裕也よ。我を誰だと心得るか。そのくらい勘で解る。

 それにしても・・・・・・日輪の閃熱を用いた極光の一撃を高々寄せ集めの神木如きが受けきれるとは思えんな。

 あの引きこもり、一体何をそうまでして恐れている・・・・・・?)

 

 なるほど。

 つまり、あの真っ赤な雲? 空? を、北の方角・・・・・・あんちくしょうが言うには神木が守る理想郷に着いた瞬間、一撃で終了。ラグナロク決定らしい。

 

 その余波は、日本全体を覆い尽くし、日本にもう一つある理想郷、湖に住まう武神が守る場所を吹き消す程の威力を持つとか。

 

 「あー、つまり、此処で幾らか削るか倒すかしないと?」

 (もし出来なければこの世は滅却されるだろうな)

 

 なるほど。

 ・・・・・・なるほど。

 

 なら、ちょっと無理な方法で強制的にどうにかしよう。

 多少の無茶苦茶は無視しようか。

 

 棗がいるこの世界を終わらせる訳にはいかない。

 

 「おい、曲がりなりにも神ってんなら力貸せ。あの真っ赤な雲、いや。

 太陽を堕とす(・・・・・・)ぞ」

 (海を護れるならば)

 

 さぁ、決戦と行こうか。

 

 何、簡単な事だ。

 太陽より熱い熱でアレを熔かし落とせば良い。

 太陽の熱は一番高い場所で一五○○万度。

 ならば、それより高い温度になるには・・・・・・ああ、こうするしか無いだろう!!

 

 この自分にある力が神々のそれである、というならば。

 その力、全て灼焔に置き換えてしまおう。

 

 炎タイプなんだ。熱を際限無く上げる位造作も無いだろう!!

 

 燃やせ。

 身体は不要。()べろ。命も、骨も、力も!

 

 (貴様、ただで死んだら許さんぞ!?)

 「ああ! 例え死んでも首根っこ引っ張って黄泉に太陽を連れていくさ!!」

 (そういう事では無い!!)

 

 魂も燃やせ。燃料として焼べろ!

 一塊の炎となって、穿つ事が出来ればそれで良い。

 魂を燃やして、太陽を熔かし落とす。

 

 「行くぞ、太陽ォ・・・・・・」

 

 そして、肉体も、骨も残らず灰になり、命、魂までも残り僅か、となったとき。

 

 一条の光となった。

 

 *

 

 それは、奇しくも諏訪の龍が放つ、流星がまるで天に上っていくようであった。

 億を超える熱を放つその光は、輝きは、まるで尊い何かを焼べたかのように煌めいていた。

 

 その光は、赤い雲に突入した瞬間・・・・・・まるで、弾けるようにその内包した熱を放出し、雲に風穴を空けた。

 

 そして、その攻撃のタイミングは奇遇にも、天から振り落とされた鉄槌と同じだった。

 

 *

 

 天からの大胆な一撃、大地から登り龍が如く登り、花火のように弾けた一撃。

 

 太陽は不死の象徴。

 それを殺しきる事は敵わないものの、痛手を負わせる事が出来たのは、彼等を呼び出した神の力故か、彼等の力か。

 

 だが、少なくとも・・・・・・敵の頭に痛手を負わせたという事実は、この世の大多数の人類にとって、希望となった事に変わりは無いだろう。

 

 ・・・・・・安否は、ともかく。




 次回。
 エピローグ、四話続けて。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ええと、多分これで『西暦編においては』シリアスは終わりだと思われます。
 この書き慣れて無い感満載なシリアス読んでくれて有り難うございます。
 エピローグに関してはシリアスなんてぶっ飛ばそうと思っております。
 今後とも拙作をよろしくお願いいたします。


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エピローグ//西暦_Side-『S』_Light-side

エピローグを投稿し直します。
なにぶん、文章が足りない部分がございましたので。
こんな作者で申し訳ございません。


 深く、深く。

 大海に沈み込むような、そんな感覚を覚える。

 もう余り見えない目を開けば、今自分は海に沈み込んでいるのだと理解出来た。

 

 ああ、そういえば、と灰となってしまっている右手を伸ばし、水面に翳す。

 その手は水中に溶け、今にもバラバラになりそう。

 

 (結局、一人にしちまったな。あいつ)

 

 ああ、こんな事になるのなら、恥ずかしがらずにもっとこちら側から話しかければ良かった、と後悔する。

 今まで直そうと思って直せなかったコミュニケーション下手を恨んでも恨みきれない。

 

 そろそろ、意識が無くなってきた。

 ーーーーまあ、それもそうだ。

 今、水面上に広がる青空と引き換えに、俺は神を自らの身を燃やして打ち砕いたのだ。

 今のこの身は、言わば燃え滓。残り物。もう燃える事など無い灰。

 

 ああ、何とも未練多い最期な事だ。

 

 そんなことを思った瞬間、体の力が全て抜けた。

 沈み込む感覚。

 最後に、何かあったかい感覚がしてーーーー。

 

 *

 

 『で? せっかくかっこよく再登場したは良いものの? 空から急降下一撃アームハンマーで右上腕粉砕骨折、と。

 ・・・・・・一つ言っていいか? 馬鹿だろお前。技出すなら体全てを強化するくらいしろよおバカ。精霊を拳だけに降ろすとか馬鹿か。馬鹿なのかそうか馬鹿か。勇者や大社・・・・・・いや今は大赦か、の奴らの方が扱いが上手いぞこのおバカ』

 「すみませんそろそろ正座解いても良いですかそれと膝の上に乗らないで下さい足痛いってぐりぐりしないで痛い痛い痛い痛い痛い!?」

 

 神樹の内部、根っこ部分の末端にて。

 俺は、友奈とよく似た外見の何かと会話を繰り広げていた。

 着物を着崩した美少女がある二つの部分が大きくて足の付け根がぷりんっ、としたグラマラスばでぃーをグニグニと自分の身体に押し付けられて、何とも嬉しいやら、正座の上に向かい合わせに座られてグリグリされて痛いやら痺れるやらで天国と地獄を同時に味わっている。

 

 いってぇな、この女郎。思いっきり体重かけやがって。

 

 『ほほーう? あわや最悪全身骨折といったところを? 救ってやった超絶美しい着物美()な女神様に対して? 思うことはお礼じゃなく悪態と。ほぉ~?』

 「ごめんなさいごめんなさい!? グリグリ止めてぇぇぇえええええええええええええ!」

 

 こ、このアホンダラ! 更に体重かけやがって・・・・・・畜生いてぇええええええええええ!?!?

 

 『ったく、せっかく救った命なんだ。もっと丁重に扱いやがれ。死者蘇生も出来ねぇ訳じゃあねぇけれどそれでも限界ってのがあるんだぜ?』

 「あーいてぅいまてーん」

 

 蹴り上げられた。

 どしん、と背中を強く、柔らかい地面に打ち付ける。あ、いや正確にはベッド。

 神樹内部から、一気に現実に引き戻される。

 

 「イテテ・・・・・・あの暴力おっぱい女、本気で蹴り上げやがって」

 「へぇ、天地くん。その暴力おっぱい女って誰なのか教えてくれないかなぁ?」

 「そりゃあモチロンあの着物美人を自称するドグサレに決まって・・・・・・んん?」

 

 変だなぁ。あのドグサレと似ているようでどこか違う、可愛らしい、ちょっと闇に落ちかけた声が聞こえるぞぉ?

 

 ・・・・・・うん、気のせいかな。気のせいだよネ!

 

 「ハハハ、友奈がまさかこんな場所には・・・・・・」

 「い、る、よ?」

 「ウェァアアアアアア!?」

 

 変な裏声が出てしまった。

 だって目の前にニッコリ笑顔の高嶋さん家の友奈ちゃんいるんだもん。かわいい。うん、いないと思ってたからビックリしたよ。

 

 だってここ、病院の俺のベッドだぜ? しかも友奈(たかしー)の後ろ、壁にある時計によると現在夜の十時。面会時間なんて終わってるよね。ねぇ?

 

 「で、教えてよ天地くん。さっき言ってた暴力おっぱい女って、どんな女の子なのかなぁ?」

 「・・・・・・ヒェ」

 

 かわいい。かわいいのに、目がヤバい。具体的に言うと他の女の子と話してる時に見る杏の目みたいな感じ。なんか知らないがアイツは俺の事じぃ、っと見つめるからなぁ。得に女の子と会話してる時。

 

 おかしいなぁ何で君がそんなお目目をするのかなぁ?

 いや、うん。まぁ、お友達としての付き合いはありましたよ?

 

 何で病んでるのぉぉぉおおおおおおお!?!?

 

 俺の良心ダブルコンビの片方である"ぐんたか"の時の雰囲気は何処にすっ飛んだ!?

 

 あ、すみませんちょっとマジで落ち着いてくださいここを見られるとヤーバイのが一人居るので・・・・・・

 ほら、今もチョロッと開けたドアの隙間から真っ黒い目をしてこっちを見ている・・・・・・ってマジで居るし。終わった。

 

 ハイライト何処に落っことしたの? ねぇ。

 ハイライトってそんなコンタクトみたいにポロポロ落っこちたっけ?

 

 ・・・・・うん、なんで居るのか疑問だけど今はあえて無視だ。

 あ、また目の深度が上がった。

 

 「ねぇ、ねぇ・・・・・・ね?」

 「や、あの、そのぉ・・・・・・」

 

 いや怖い怖い怖い!?!?

 ハイライト無いのに何か瞳が無機質に光ってて怖い!?

 それとベッドに乗ってにじり寄るんじゃあなぁあああああああい!

 

 「あは、もしかしてぇ、押し付けられたりとかしたのかなぁ?」

 「ええと、そのぉ・・・・・・」

 

 答えにくいわぁ!?

 

 「精霊助けtムグゥ!?」

 「私のじゃ、だめ?」

 

 押し付けられてる!

 何か凄く柔らかい、ちょっとハリがあってフニフニした、メロンってわけじゃないけれど確かに感じられるマシュマロとプリンが合わさったかのようなプニふわなサムシングがぁああああああ!?

 

 ドッパァンッッ!!

 わーすごい病院の扉が一瞬でハリネズミになって消し飛んだぞー(白目)?

 

 「もう限界っ、私も混ぜてぇ!」

 

 杏さん、俺は意識を保つのが限界です。胸に埋もれて死ぬのは幸福ではありますが別に本望では無いので助けて下さい誰か。

 

 ・・・・・・。

 

 当然院長から正座させられて怒られた。

 

 *

 

 「探せ! せっかく四国に着いたってのに!」

 「もう、裕也ァ! マジで恨むぞこの野郎! 罪作りにも程があるぞ畜生ー!!」

 

 *

 

 海が好きだ。

 優しい父親のように、全てを受け入れてくれる。

 

 だから、この愛に溺れて、今から身体さえも、命さえも溺れようとしている私も包み込んでくれるだろう。

 

 「この海の向こうに、裕也、おまえはいるんだろう?」

 

 今、そっちに行く。

 

 ・・・・・・誰だ、私の行き先を邪魔するのは。

 手を引っ張られたら、彼の元に行けないだろう。

 

 「離せ、私は、古波蔵棗は、彼の元に行かないとーーーー!」

 「・・・・・・残念だが」

 

 ・・・・・・悪いがそっちに、自分はいない。

 

 「ゆう、や」

 

 *

 

 諏訪。

 

 湖に住まう神が守護するこの土地。途中滅びかけたがそこは、念願の低身長脱却に成功したある少年によって窮地を脱した。

 

 「まあ、俺の事なんだがな・・・・・・」

 

 四国のある少年からの依頼で、この先の緩やかな『諏訪の滅び』を見守ろうと決意したところでこんな嬉し恥ずかしな文章を綴らねばならなくなった。

 

 題名は勇者御記だとか。何処の伝記だよ。ネーミングもう少しマシにならねぇのコレ。

 

 まあ、ツッコミはこの際無しだ。なぜならばツッコミをすればするほど、まるで叩けばいくらでも湧き出る埃のようにツッコミ所が指数関数的に増えていくからな。

 

 ・・・・・・いや、四国の方の『二人』が最初にページを埋めているんだが、どうにもフェイクが多い。何だよ「女らしさは微塵も無いイケメン」って。何だよ「コミュニケーションが上手い口上手なイケメン」って。

 

 明らかに嘘八百だろうが。

 天地は、神になる前に出会った初対面の俺からすれば女にしか見えないくらいの容姿を持っていたし、声も透き通るようなソプラノボイス。美少女らしさはあったがイケメンらしさなんて微塵もカケラも無かったぞ!?

 それにこの間初めて精神世界で出会った『ユウヤ』はガッチガチのコミュニケーション下手な口下手野郎だったじゃねぇか。

 

 ・・・・・・つか、好き勝手書きすぎだろお前ら。『この物語はフィクションです』なんてテロップが出てもマジで気にならねぇ現実改変レベルの代物になってんぞコレ。

 

 つーか、突っ込んじまったよ!

 嘘八百が多過ぎてそれにツッコミ入れちまったよチクショー!!

 

 「コイツらマジで腹上死しねぇかな。主にこのツッコミ所満載の嘘八百ばかりのトンデモ書物書き上げた罪とかで私罪って感じで」

 

 この書物の行き先が不安になってくる。新しくなった大社改め大赦のお偉いさん方がどうにでも編集、改稿、検閲してくれるだろうが・・・・・・おい、『ユウヤ』テメェ。濡れ場なんて書くなよバカタレ。間違いなくコレR指定がひっ付く発禁本になるぞ!?

 

 オイオイオイオイ、うわぁー、あいつ生きてた頃こんなんやってたのか。

 う、うわぁー。ええ、そこにそれぶっさすの・・・・・・

 

 ・・・・・・うんコレ間違いなく発禁だわ。編集と検閲を頑張ってねお偉いさんの皆様方。

 

 *

 

 「はいあーん」

 「あーん、って自分で食えるわアホタレ。俺はお前と同い年だからな?」

 「見た目私より二つくらい下だから問題ない!!」

 「眼鏡光らせて何言ってんだこの変態眼鏡ッ!?」

 

 最近彼女のポンコツ化が激しいという本を出したら誰か買ってくれるだろうか。

 ああ、というかポンコツ化を誰か止めてくれ。俺があのドグサレに化け物化した部分削り落とされて物理的にちっちゃくなっちまってショタっ子になってからずっとこうだ。

 

 一つ、突っ込ませろ・・・・・・

 

 ヤンデレ何処に消えた!?

 

 オイオイオイオイ、お前病んでたよな?

 俺が正直お手上げってレベルで。いや、病み上がりは良いんだが変わりにポンコツ化ってお前苦労が前と全く変わらんぞ雪花!?

 

 「ばんちょー! あーそーぼー!」

 「おう少し待ってろチビスケ。このポンコツをどうにかしたらすぐ行く」

 「わかったー!」

 

 トテテテテ、と駆けていくちびっ子。うん、北海道から連れ出したが元気そうで良かった。

 

 嗚呼そして雪花。お前はどうしてそんなポンコツになってしまったんだい?

 眼鏡が変な光り方して真っ白い上にハァハァ息が荒いし、傍から見ると年下の小学生に興奮してる変態中学生だって自覚はお有りですか?

 

 ・・・・・・いかんいかん。つい、変なテンションになってしまった。どうにも俺は苦労人な気質があるから、こういう事が多くて敵わんね。

 うん、あのドグサレ(かみさま)から目茶苦茶ヤベー事聞いたり、体削られてショタ化したり、いつの間にか好きな女がポンコツ変態化していたり・・・・・・。

 

 何か酷い目にばかりあってるの気のせいか?

 

 「どうしたの鬼十郎君いきなり頭抱えて」

 「いや、どうにも苦労が多いなと思ってよ」

 

 得に今の状況。

 

 後ろから雪花に抱きしめられてご飯を全て『あーん』で食べさせられるという、ショタコン大歓喜な状況になっているのだ。

 というか最近、ポンコツ化してからいやに俺の世話を雪花は焼くようになったけれど、どうしてだろうか。

 ・・・・・・嬉しいっちゃあ嬉しいが、行き過ぎなのが玉に傷だなぁと何時も思っているのだが。

 

 *

 

 「ふふふ、おねーさんがぜーんぶお世話するからね? 鬼十郎君」

 「私が全部やってあげるから」

 「何時か、私がいなきゃ生きていけないってくらい依存させてあげる・・・・・・ふふっ」

 

 *

 

 このような感じで、彼等の戦いは終了し、日常へ戻ったんだ。

 でも、まだ。まだ、終わっちゃあいないんだよ。

 天の神はまだ完全に倒された訳じゃあない。あくまでも追い返されただけ。

 何百年経とうと必ず。いつかは戻って来る。

 そして、もう一つーーーー

 

 ーーーー君達はまだ、この物語における最大にして最上級の、ただ一つの謎を解き終えてない。

 

 さぁ、この世界の戦いの『理由(わけ)』をもう一度、考えてみようじゃないか。




錦裕也君がどうなったのかは本編描写からご想像にお任せします。

もう少し、エピローグにお付き合い下さい。

因みに、本編描写の何話かをこっそりと幾つか加筆していたりします。


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エピローグ(プロローグ)//西暦_side-『God-S』

 これで、西暦編は終了です。


 それは、白い空間にあった。

 光り輝く、一つの影。

 

 それは、少年のようで、少女のようで。

 あるいは、大人のような雰囲気を纏っていた。

 

 白い空間には、それしか、存在していなかった。

 

 しかし。

 

 「来たか」

 「おう来たぜクソッタレ」

 

 そこに、一つ。

 影が増えた。

 

 それは、女性だった。

 紅葉色の、豪奢な金の刺繍が施された衣を纏った、赤毛の少女。髪色にしては、顔立ちは東洋系に見える。

 

 その少女は、どこか人間離れしていた。

 例えば、体つき。

 衣の上からでも解る、全ての男を虜にするだろう魅惑的な、凹凸はっきりとした肉体。

 天下に二つと無いだろうその身体は、なるほど極上のものと言っても差し支えは無い。

 

 例えば、雰囲気。

 光り輝く存在もそうだが、この少女も、異様だ。

 人なのに、生物ではない。

 形あるものなのに、そこに、存在していない。

 そんな、あやふやで矛盾した雰囲気。

 

 そんな彼女は、まるで問い詰めるかのように、光り輝く存在に問いを投げる。

 

 「今回の事。「バンチョー」から聞いたぜ。オマエ、何のつもりだ」

 「聞いた通りだよ? 僕は何時だって暇だから、ね」

 

 少女は、返答を聞いて。

 ニヤリ、と。まるで、そう帰ってくるのがわかっていたかのように笑うと、

 

 「嘘だな(・・・)

 

 そう言い切った。

 

 「おいおい、僕の性格は知っているだろうに。何で嘘だって?」

 「()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、少女は、光り輝く存在の返答に被せるように。

 あるいは、まくし立てるように言う。

 

 「へぇ? 言うようになったねオリジナル」

 「友奈と呼べ友奈、と。で、だ。オマエ、俺の時ですら「未来で神共がツマラン理由で最強生物けしかけるから、それの前準備」とか言って当時遊女だった俺に力押し付けやがった野郎だぞ?

 そのほかにも、ろくでも無い事とは言え、今までのオマエの行動には、遊びでもなんでもなく、()()()()()()、例え絶対公平の神や理論の神ですらも反論しようもない理由があった。

 なのに今回は暇潰しの遊びで人類救うだぁ? 嘘をつくにも程があるぜカミサマよぉ?」

 

 そこまで言い切って、友奈と自称した少女は一息つく。

 カミサマ、そう呼称された存在は、少しフフ、と笑うと、あーあ、と残念無念そうに言葉を発した。

 

 「ばれちゃった、かー。出来れば、君にもばれたくなかったんだけど」

 「全知全能じゃなくなってからボケ始めたか? ツメがあめぇよバーカ」

 

 クックック、と笑う友奈。笑うと同時に揺れる牡丹餅。

 

 「ま、ばれちゃったのは仕方ない、かぁ」

 「おう、諦めろ。で? 今回は何をたくらんでやがる」

 「勿論、理由の大元は「ガチ」で世界を救うため、さ」

 

 あとは、個人的に、とカミサマは付け足すと。

 

 「僕の箱庭に手ぇ出しやがったクソッタレを少しでも長くあそこに留めて、正体をあぶり出す為かな」

 

 そう、烈火の如き怒りをあらわにして言った。

 

 「・・・・・・は?」

 

 友奈は、意味がわからなかった。

 カミサマの箱庭とは勿論、地球の事。

 それに手を出した、干渉したものがいて、それと同時に達成できることが天の神からの世界の救済?

 ほんの一瞬、彼女は意味がわからなくなっていた。

 

 「どういう事だ。一から十までキッチリ話せ」

 「おいおい、今の文面から察せないのかよ。んなもんじゃぁちょっと僕の力を直接分け与えたものとしちゃ頼りねぇにも程があるぜ」

 

 一転。おどけるように言って見せるカミサマ。

 

 「まぁ、これについて語るには本当に一から語らないと意味不明だからね。丁寧に語ってやるよ」

 

 ところで、ちょっとお話の大前提として質問だ、とカミサマは笑って言う。

 

 「何故、あの二級神格(バカども)は地上にバーテックスなんて玩具をほうり込んだでしょーか?」

 「あん? そりゃぁ・・・・・・神に近づき過ぎたとか言う人間を抹殺するとかそんなアホみたいな理由だったと・・・・・・」

 「その()()()()()()()()()()()()。人が人の力だけで神に近づく事は、それこそ運命を操作したとしても有り得ない。

 イレギュラーが起きるのは何時だって、神々なんかのイレギュラーが力添えしたとき以外絶対に有り得ないんだよ」

 

 友奈は、愕然とした。

 それならば何故、神々は地上にバーテックスを送り付けた?

 もしや勘違いか?

 

 「勘違いじゃねぇからな」

 「人の心読むなアホ」

 「バレバレなんだよ。友奈ちゃん。言っとくがマジで勘違いじゃない。

 神に近づく事が人間には許されない事だなんて決まりはそもそも無いし、人間どもはそんなこと、さっきも言ったけれど絶対に出来やしない。

 下っ端神格ならまだしも二級神格以上の神々がその程度で先兵けしかけるなんてそれこそ勘違いでも、絶対無い」

 

 では、あの惨状は何なのだというのだろう。

 あれは、何故起こった?

 

 「君はまだ察しないのかい。もう、二級神格どもが地上になんかけしかける理由なんて一つしか無いんだぜ」

 「・・・・・・そりゃ一体なんだ」

 「この戦い、()()()()()()()

 

 友奈は、今度こそ絶句した。

 言葉が、まるで出てこない。

 

 「あと、調べてみたが・・・・・・こりゃー、どっちもだったんだよな」

 

 友奈は、一瞬の間に持ち直すと、カミサマに問う。

 

 「どっちも、ってのは?」

 「どっちもってのはどっちもだよ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 *

 

 さて、()()()()()()()()()()

 

 まぁ、これを見てもらってから察したと思うし、そもそもこの物語の主人公が誰なのかを思い返して貰えると助かるが、これは決して、勇者の、勇気の物語等では無い。

 

 人形劇と化してしまった世界にほうり込まれたバケモノ達の、史上最悪の駄作にして喜劇。

 

 要するにこれは、()()()()()、物語だ。




さぁ、人形劇を破綻させに行こう。
ミュージアムの使用許可も取ってない愚か者を蹴り飛ばそう。

世界を、救うぞ。


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神世紀/幕間/勇気ある弟、名乗らない兄
1:雷の一撃、鋼の王盾


 一週間後に言ったのに一日後に投稿した馬鹿はここです。はい。
 え、とですね、某そのっちさんみたいにインスピレーション湧いた!って感じになってしまいましてですね・・・・・・はい。書いてしまいました。


 ヒーローなんていない。

 

 悪い人達が撃った鉄砲の弾が、僕を助けようとしていた兄ちゃんのお腹と頭を貫通する。

 

 誘拐犯に、僕、武田真央と兄ちゃんが捕まって、そして、僕たちの親が警察を呼んだという理由で僕たちは今心臓と頭を鉄砲で撃ち抜かれた。

 

 ・・・・・・ああ、そうだ。

 僕も、撃たれたんだった。

 

 助けてくれるヒーローなんていなかった。

 現実なんて、やっぱり糞ゲーだ。

 

 *

 

 [樹海]

 

 「ねぇ、兄ちゃん。今僕の目がおかしくないんだったらさ、僕たちがいるのって木の根っこしか無いような場所になるよね」

 「ああ、カラフルな木の根っこがそこかしこに生えてるよな、我が弟真央よ。

 で、だ。一つもの申したい事があるんだが言っても良いと思うか?」

 「うん、良いと思う。僕も一言言いたいし」

 

 「「ここどこぉ!?」」

 

 ーーーーーー俺達兄弟がいるのは、木の根っこばかりの場所だった。

 ・・・・・・いやマジで何なんだよ。何処だよここ。俺達を転生させたカミサマの言ってる事が正しかったとすれば、そして俺達兄弟の聞き間違いでもないとするなら、日本の何処かに転生させられた、筈だ。

 

 だが、弟、真央と転生した先は何処か知らない木の根っこばかりの場所。カラフルな木の根っこの内の一つの上に立って、この木の根っこ以外何も無いような空間を真央と二人で俯瞰している。

 

 ・・・・・・いや、マジでここ何処だよ。

 

 「お空真っ暗で真夜中みたいだ。なのになんでこんなに明るいんだろう」

 「だなぁ。マジでそれ摩訶不思議だよなぁ」

 

 二人で現実逃避しながら、死んだ目で虚空を見る。

 フッ、流石は俺の弟。(よわい)十にしてもうそこまでの死んだ目ができるとは。

 アニメを散々見せてオタクにしたかいがあったぜ(意味不明)。まだ純粋だが、確実に染まっているな。

 

 ・・・・・・あ、ヤバい。自分でも何言ってんのかよくわかんなくなってくるぐらい脳死し始めた。あーもう俺ボケ始めたか?

 

 「ねぇ兄ちゃん」

 

 俺が実数の世界から逃避して虚数の間に逝きかけた(誤字にあらず)時。

 真央が、真剣な様子である方向を指差しながら言った。

 

 「あそこに化け物がいるんだけどさ・・・・・・その近くにいるの、僕と同じくらいの女の子じゃない?」

 「ハァ!?マジで!?」

 

 見ると・・・・・・うん、『普通の人間』じゃあ見えないところに、確かに化け物が三匹と、女の子が一人。

 

 「・・・・・・ねぇ、兄ちゃん」

 「ああ、助けてこい。お前の素早さならあそこまで秒で着くだろ。俺も後ろから追いかける」

 

 流石に、目の前で女の子が死んだなんて事が起こったら目覚めが悪い。

 雷速で駆ける弟の後ろを、俺は追いかけるのだった。

 

 *

 

 まあ、何とも不幸な事に、僕と、兄ちゃんは長生き出来なかった。

 僕は十歳で、兄ちゃんは十四歳で死んでしまったのだ。

 

 それで、気がついたら、神様に僕と兄ちゃんは生きている時に一緒にプレーしていたゲームのポケットモンスターの力を貰って、生まれ変わりをさせて貰った。

 平和な世界ではないらしい。化け物達が人間を襲って、食べるんだそうだ。

 

 そんな世界の、君のように長生き出来ない子をそれで救ってくれ、そう言われた。

 ・・・・・・兄ちゃんはなんか胡散臭げに神様を見てたけど。

 

 僕は、ポケモンの電気タイプの体と、電気タイプの全ての技、あと、僕が一番好きなポケモンのぜクロムの特性の、“テラボルテージ“を神様から貰った。

 

 そして今、全力疾走をしている。

 僕と、そして、兄ちゃんが体験した状況と同じような状況の、化け物に囲まれている女の子を助けるために。

 

 恐怖?まあ、それはある。なにせ今から、化け物に立ち向かうんだから。だけど、悪い大人に囲まれて、鉄砲で撃たれる寸前の、あの恐怖に比べれば・・・・・・!

 

 僕と兄ちゃんが悪い大人に囲まれた時は、ヒーローなんて来なかった。

 まあ、当たり前だ。そんなものに期待する方が間違っていると兄ちゃんなら言うだろう。

 都合の良いヒーローなんてこの世にはいない。

 というか、誰もなれないだろう。

 強大な力を持った僕でも、ましてや今の兄ちゃんでも無理だ。

 

 でも、都合の良いヒーローにはなれなくても、一人の女の子を助けるくらいはできるだろう。

 

 多分、あの女の子は、僕が転生したこの“平和じゃない世界“で、化け物から人間を守る勇者なんだろう。ボロボロになりながらも、砕けてもう半分も残っていない斧で化け物と戦っているのがその証拠だ。

 だけど、勇者だからと言っても、僕と同じくらいの女の子が、目の前で死ぬのは、我慢出来なくて。生きていて欲しくて。だから。

 

 「『クロスサンダー』!」

 

 女の子に襲い掛かっていた三匹の内、蟹みたいなのと蠍みたいなのをぶっ飛ばし、飛んで来る刺のようなものを『でんげきは』で粉々にする。

 

 「大丈夫?」

 

 ヒーローとまではいかなくても、この女の子を助ける助っ人くらいにはなろうと、そう思った。

 

 *

 

 さて、やっと追いついた。

 真央は真央で頑張ってるし、俺は俺でこっちで見つけた女の子達をどうにかしますかね。

 俺の目の前には、二人の傷だらけの女の子が二人、丁寧に寝かされていた。

 

 「あっちは多分真央だけで十分だろ。色で見たところ水と毒と炎っぽいし。さて、俺はどうしようか」

 

 取り合えず、戦闘の余波からこの二人を守るくらいはしようかな。

 ・・・・・・多分、俺の攻撃力だとあの化け物の防御抜けねぇし。

 

 俺が生き返り&転移する時に神様(笑)から貰った力は、鋼タイプの体と技全て、特性『メタルプロテクト』と、PP無限の能力、そして耐久性能特化のステータス。

 ・・・・・・つまり、攻撃とくこう素早さ全然ありまっしぇん。どうもありがとうございます。

 

 俺があの化け物を倒すには、『てっぺき』なんかで耐久性能上げて敵の技堪えてからの『メタルバースト』でワンチャンいくかどうかだろう。

 ・・・・・・あとは『きんぞくおん』とかの妨害技で敵をお邪魔するくらい?うわぁ使えねぇ。

 

 でもまあ、上手く使えば盾にでもなるには十分過ぎるだろう。

 攻撃の真央、防御の兄貴。あれ、なんかカッコイイ。

 

 下らない事を考えていたら、急に俺の眼前の空が淡く光る刺で埋め尽くされた。

 ・・・・・・なんかあれ、俺と女の子のいるここに飛んできてませんかね?

 

 「バレパンで落とすのも面倒だ・・・・・・んじゃ、『キングシールド』!」

 

 俺と、側にいる女の子の眼前に灰色の大防壁が展開される。

 その防壁は、刺を全て、貫通させることなく受け止めた。

 

 「流石。王の盾とか言うくらいはある」

 

 俺が刺を防御しきった時、化け物がいた向こうの方で雷鳴が鳴り響き、一瞬ものすごい光に包まれたかと思えば、次の瞬間、化け物全部が灰になって崩れ落ちていた。

 

 「うわぁ、真央何やったんだ。えっぐいなぁ」

 

 弟に対してそんなコメントをしていると、女の子二人のうちの一人が身じろぎして目を覚ました。

 黒い髪の可愛い、めっちゃ可愛い女の子だ。

 

 「よお、おはよう」

 「・・・・・・!貴方は?」

 「さあ?不審者?」

 「何故疑問系なんですか・・・・・・・・・・・・!それよりも、銀が!」

 

 何か急に声を荒げたかと思えば、女の子はさっきまで化け物がいたところを睨むようにして見た。

 

 「大丈夫だろ、あの一人で化け物三匹相手に大立回りしてた女の子なら多分俺の弟が助けてる。ああ、あと化け物はさっき弟が灰に帰した。

 心配なら見にいくか?今の俺なら女の子二人を担ぐくらい訳ねぇが」

 「私は歩けます。ですが・・・・・・」

 「ああ、んじゃ、まだ寝てるそっちの黄色い髪の女の子なら俺が」

 

 よっこいせ。うわ、軽。

 

 で、俺は黒髪美少女と共に黄色い髪の、これまた美少女を担いで真央が大乱闘していた場所まで行く。

 

 そして、その場所に辿り着いたら、黒髪美少女が真央に支えられている灰色の髪の毛の女の子と抱き合っていた。

 で、いつの間に起きていたのか、俺に担がれていた女の子もスルリと俺の腕から抜け出すと、灰色の女の子に向かっていった。

 

 それを尻目に見つつ、俺はこの空間が花びらと共に変わっていくのを感じていた。

 

 ・・・・・・なるほど、この木の根っこまみれの場所は結界的なサムシングだった訳ね(完全に察した)。




 弟:武田真央、十歳。電気タイプ
 兄:武田ーーーーーー(何時も名乗らない)十四歳。鋼タイプ


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2:三ノ輪姓になったら報告しろよ、弟よ(by兄貴)

 書いてしまった・・・・・・反省も後悔もしてません。

 7/5 更新


 「オイオイ・・・・・・世界規模とはまた恐れ入った。この世界の天の神様はほとほと人間嫌いらしいな」

 

 あのあと、空間が変わって瀬戸大橋のすぐ側の社っぽい場所になったと思えば、直ぐに女の子三人を迎えにきた大赦と呼ばれる、四国を牛耳る組織に所属している皆様方に俺達兄弟は連行されて、で、俺達が何者かと延々と問い詰められて二時間半。

 

 俺は今、大赦の職員見張りの元、資料室と呼ばれる部屋で資料を読んでいた。主にこの世界の歴史とかについて。

 本当は検閲済みの書物しかない『図書館』と呼ばれる場所に通されるらしいのだが・・・・・・俺の持つ力が特別だとかなんだとか。

 

 二十一世紀、天の神々がこの世界に人類の粛正という理由で、世界にバーテックスと呼ばれる化け物が進行。その後三年以上人類退廃の時代が続いた。

 ・・・・・・が、そんな時。まず諏訪に、そしてその後、四国にも、『特別な力を持った人間』がやってきて、人類は盛り返したらしい。

 調べれば、諏訪と四国だけでなく、通信がたまたま繋がった沖縄や、北海道にもいたらしい。

 

 そして、その『特別な力を持った人間』が確認されて約半年後。

 『人神戦争』と呼ばれる、その『特別な力を持った人間』と天の神々が起こした戦争によって西暦は終了、新しく『神世紀』と呼ばれる時代になったらしい。

 そして、それから三百年。

 人神戦争によって、天の神々はその数を『半分以下にまで減らし』、殆ど人類の勝ちに近い状態で引き分け、そして以後三百年もの間、まあ平和が続いている、と。

 

 ・・・・・・途中、神世紀の初め頃の方・・・・・・大体七十年くらいの時に不自然な空白期間があったんだが、何があったんだろうか。職員の人に聞いても曖昧な返事しか帰って来なかった。

 

 *

 

 ところ変わって、俺達兄弟が助けた少女達のいる病院のロビー。

 俺はそこで、黒髪美少女と黄色い髪の美少女・・・・・・鷲尾須美と、乃木園子の二人と話していた。

 弟は、今回大怪我して入院することになった女の子の、三ノ輪銀の病室に呼ばれたらしく、そこに案内されていった。

 

 「まあ、俺達兄弟はへんてこな力を持ったあほんだらコンビって事で良いぜ」

 「何ですかその微妙な説明は・・・・・・」

 

 鷲尾に呆れられた。何故だ。

 

 そのまま雑談をしていたら、今度は鷲尾と乃木の二人が三ノ輪銀の病室へと行き、そして入れ代わりになるようにして妙にげっそりとした様子の我が弟、真央が帰ってきた。

 

 「よお真央。搾り取られた感じの顔してんな。どうした?」

 「兄ちゃん・・・・・・ヤバい」

 

 真央はガタガタ震えながら、

 

 「何でか知らないけれど、銀ちゃんがヤンデレで、その対象が僕だった」

 「良かったじゃん」

 

 弟にも少々早い気がするけど春が来たか~結婚式には呼べよ真央。

 

 「うん、別に良いんだけどね?うん、可愛いし、僕好みだし、初めてあった時に一目惚れしちゃったから別に良いんだよ。

 ・・・・・・でもヤバいの兄ちゃん。視線が全てハイライト無くて、物理的な力が篭ってて、更にキスまでされちゃった。多分銀ちゃんが大怪我してなかったらそのまま・・・・・・パクッと逝かれちゃってた」

 「ええ・・・・・・」

 

 聞けば、何か二人とも運命感じちゃったらしくてそのまま両思いでハッピーエンド・・・・・・とまではいかず、ヤンデレルートに何故か入ったらしい。

 弟曰く、病まれる要素ひとっつも無かった・・・・・・だろう!らしい。

 

 「うーん、苗字変わりそうだったらきちんと報告しろよ?」

 「兄ちゃん僕を見捨てるの!?」

 「いやぁ・・・・・・だってさ、お前が好きな、ドロッと、ネットリとした愛情を向けられる感じのヤンデレだぜ?最高じゃないの?」

 「アニメと現実は違うって今気がついたよ兄ちゃん・・・・・・あれは怖い。だってさ、あれだよ?

 キスしたあと、また深い方をされて、口離した後、「浮気したら・・・・・・地の果てまで追い詰めて犯す」って抑揚のない声で言われちゃうんだよ?ハイライトが消え去った目でじっと見られるんだよ?

 ・・・・・・可愛いけれど別の意味でヤバい」

 

 惚気にしかきこえない。

 あと、三ノ輪さんすげぇ。行動力パネェ。

 

 「もうあれだ。むしろそのままパクッといかれて三ノ輪さん家の子になっちまえよ真央」

 「・・・・・・出来ればあと八年は武田姓でいたいなぁ・・・・・・」

 

 あ、真央が死んだ目になった。

 

 *

 

 (好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き・・・・・・)

 

 あいつ・・・・・・武田真央の事を考え出すと、気持ちが溢れて止まらない。

 自分でもこんなになるとは思わなかった。

 

 でも、あいつの事を考えるだけで胸がキューっとして、ドキドキして。

 逆にあいつが誰かに取られる・・・・・・そう考えるだけで胸がどす黒い感情で満たされて、頭の中で何かが切れかかってしまいそうになる。

 

 でもまさか・・・・・・一目惚れというものを、実際に、自分が体験してしまうとはなぁ。

 膝をついてしまって、眼前にはバーテックスが吐き出した無数の針が迫り、周囲を二体のバーテックスで固められ、もう絶対絶命の状況。

 そんな状況から、足が震えさせながらも、助けてくれたのがあいつ、真央だ。

 その勇気に少しきてしまって、でそのあと何故か足がすくんで動けなくなってしまったあたしを正面から抱きしめて、無言で背中をポンポンされた。

 何だかわからないけど、何故かこれで物凄く安心してしまって、心も体も溶かされちまって、あいつに陥落してしまった。

 

 で、さっき実はあっちも一目惚れだった事がわかって、両思いだったって事が嬉しくなってそのまま深い方のキスをしてしまった。

 とても気持ちが良かった。あの感覚を思い出しただけで・・・・・・

 ・・・・・・とても体が熱い。体の、臍の下辺りが疼く。

 

 「・・・・・・はぁっ、はぁっ・・・・・・!・・・・・・好きぃ・・・・・・!」

 

 *

 

 ゾクッ!!

 

 「何か物凄くネットリとした感情をキャッチした・・・・・・!(戦慄)」

 「とうとう怪電波まで受信し始めたか我が弟よ」




 真央くんが人生の墓場に入るまでそう遠くはないようです。


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3:あ、真央が詰んだ。そして、この日二度目の化け物との戦い・・・・・・マジで?

 [四国/香川/夕方]

 

 「真央、まーお。どしたのそんなブルーな雰囲気纏って」

 

 真央がヤンデレ(三ノ輪銀)に捕まってガクブルするという事態に陥ってから少し経った時。

 

 また、真央が今度は、三ノ輪のご両親を名乗る人とと大赦の役員の人達に呼ばれて、病院のロビーから去って行ったと思えば、三十分後くらいになんかめっちゃ重苦しい雰囲気を纏って帰ってきた。

 ソファーに腰をドカッと落とし、まるで仕事帰りのサラリーマンみたいだと思った。

 

 「何、やっぱあれ?三ノ輪さんとこの父親から「うちの娘はお前にやらん!」みたいな感じの事言われた?」

 「ううん、違う・・・・・・」

 「え、んじゃ良かったじゃん。あれか、「うちの娘とこれからもどうぞよろしくね」って感じで三ノ輪さんとこの母親から言われたん?」

 「それだったらマジで良かったよ兄ちゃん・・・・・・」

 

 そう言って更に暗い雰囲気を纏う真央。いやマジでどうした!?

 

 「いや、ね?まず最初に、なんか僕がやったことを、機密以外の情報を少々のフェイクを交えつつなんか銀ちゃんがご両親に聞かせたらしくて、それで三ノ輪さんとこの父親から土下座される勢いで感謝されて、それでなんか娘をよろしくとか言われたあと、ちょっと、うん、何と言うか最初の町に魔王が現れたって感じの意味不明な事態があったんだよ・・・・・・」

 「・・・・・・その意味不明な事態とは?」

 

 俺が興味半分面白半分で聞くと、真央は震える声でこう言った。

 

 「ええと、ね。「君が銀の婿になるのか、よし、確か君は家が無いんだったな、今日から家に来ると良い。かなり早い気もするが、同棲に調度良いだろう」って父親の方から言われて、母親の方から「末永くあの娘の事をよろしくお願いします・・・・・・」って言われた。

 ・・・・・・なんか、さ、もう婿入り決定してたよ。うん、もう十八歳まで苗字変えたくなかったけど、もう明日から僕三ノ輪真央とかになってそうだよアハハー・・・・・・うん、別に良いんだよ?僕も銀ちゃんの事好きだし。でもこうも展開が速いと戸惑うって言うか。というかさ、何処の馬の骨とも知れない僕と自分の長女、もとい愛娘をさ、こうさ、イキナリくっつけようとするかなぁ、もっとさ、あるじゃん。僕がどんな人間かーとか、本当に娘を幸せにしてくれるのかーとかさ。

 うん、マジでこれに関しては永遠の謎。なんでそんなアッサリしてんの!?人の人生決める大切な事じゃないの!?」

 

 あ、真央が外堀完全に埋められて詰んだ。

 真央は確か、十八歳までは自由を謳歌したいとか言っていたが・・・・・・今回の事に関して、そうは問屋が卸さなかったようだ。

 真央は三ノ輪の事が好き。だけど、もう少しジワジワと距離を積めていきたかったのが両想いというチートウェポンにより距離が一気に詰められて、ただでさえ近い距離がこの一時間弱でワープしてゼロになってそのまま何故か(・・・)婿入りまでしちゃったと。

 

 ・・・・・・心がエベレストどころか火星にあるオリンポス山並に不動だと自負している俺もビックリだぜ。

 

 「真央、良かったじゃん、とりあえず可愛いお嫁さんが出来るよやったねじゃん。とりま結婚おめー」

 「・・・・・・ありがとう兄ちゃん、でもその台詞はあと八年後に聞きたかったな」

 

 知ってるか真央、愛の前に法律なんてあって無いようなもんらしいぞ。

 

 まあ、真央もなんだかんだ言いつつ頬がにやけて「えへへー」なんて嬉しそうな声漏れてるしめっちゃ笑顔でニヨニヨしてるし、この件についてはもういっか。後は真央、頑張れ。

 ・・・・・・貞操はとりあえず十八まで守っとけ。ヤンデレ(三ノ輪銀)の前には無理だと思うケド。悪あがき程度にしかならないと思うケド。

 

 

 

 尚、俺に三ノ輪のご両親とその他親戚が「あなたの弟の真央さんを下さい」と、ど下座ってきたのは完全なる余談だろう。

 

 *

 

 [三十分後/日の入りの時刻]

 

 病院から鷲尾と共に出て、大赦のリムジンに乗る。

 

 あのあと、検査の結果なんか右足が折れかけてたらしい乃木は病院で入院という事だった。普通に歩いてたり樹海じゃ三ノ輪に抱き着く為に小走りしてたけどな・・・・・・ちなみに、あのまま放ってたらマジで綺麗にポキン、だったらしい。

 

 リムジンの中で、そういえば俺の住む場所どうなるんだろう、と考えていたら、急にリムジンが道の中途半端なところで止まった。

 

 「オイオイ運転手、なんでんなとこで止まるんだ?おい、運転手無視か、オーイ!」

 「違います、恐らくこれは・・・・・・!」

 

 聞けば、樹海化とか言う現象の予兆として、時間が止まる現象が起こるらしい。え、またあの見た目が無機物な化け物とまた戦うん?

 

 呆然としている内に世界が変わり、俺が最初に見た樹海となった。

 

 遠くには、超でっかい太陽のような形をした化け物と、それを取り巻きのようにして囲む十一体の化け物達が見える。

 それぞれ何処か見覚えのあるような形をしている。

 鷲尾が勇者に変身し、状況を見て顔を真っ青にした。

 

 まあ、当たり前か。勇者は鷲尾以外入院して、更に勇者に変身するアイテムであるスマホは確か鷲尾に渡されている予備機以外は大赦の役人の人達が勇者アプリとやらのアップデートの為に持って行ったと聞いた。

 つまり、この戦場、俺と鷲尾の二人で持たせるしかないのだ。

 

 真央の援護は宛にならない。

 どうも真央は、三ノ輪を救うときに『Z技』を使ったらしく、俺はまあ通りであの時の雷はアホみたいな威力だったのかとひどく納得した。

 『Z技』は、凄い威力を出すのと引き換えに、自らの『ゼンリョク』を使って攻撃する。ゲームじゃ一度っきりしか使えないというだけだったが、真央は樹海が解かれてから大赦、そして病院に行くまでの道すがら、「疲れてちょっと今日は激しい運動が出来そうにない」と言ったのだ。

 つまり、『Z技』はこの現実世界においては文字通り一撃技なのである。そして、それを使った真央は、もう戦えないと考えて良いだろう。

 

 うーん、余りにも鷲尾のメンタルがヤバそうだ。なんかもうガタガタ震えて、顔の色が消え失せている。

 ・・・・・・少々、元気付けるか。

 

 「おい、鷲尾。なんか勝手に絶望してるとこ悪いが、こちとら負ける気はサラサラねーぞ」

 「え・・・・・・」

 

 鷲尾の不安そうな瞳が俺に向く。

 俺はニヤリと笑いつつ、鷲尾の頭をわしゃわしゃーと撫でながら彼女に向かって自信タップリに言い放った。

 

 「この防御特化の攻撃力くそ雑魚ナメクジが鷲尾、お前の事を守り抜いてやる。なぁに安心しろ。攻撃は一つもお前には絶対に()()()()。しっかり狙って急所を穿ち抜いてやれ!

 それに、困った時の超必殺技(Z技)もある。絶望するにゃまだまだ早いぜ?」

 

 俺がそう言うと、鷲尾は少しの間俯いた後、覚悟を決めた顔で、

 

 「すみません。・・・・・・兄貴さん、盾役の件、よろしくお願いします。・・・・・・バーテックスは、絶対に銀やそのっちの所には行かせない!」

 

 そう言って、弓を片手に出現させた。

 

 「よっしゃその意気だぜ鷲尾!よーし、んじゃ、いっちょやろうか!世界を守る御役目って奴を!」

 「行きます!」

 

 鷲尾の放った矢が、魚のような形の化け物を丸く撃ち抜いた。



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4:兄貴、死す(ガチな瀕死ムーブ)

 今回、兄貴が死ぬかも。


 バーテックスの攻撃を、弾き、受けて、時々まともに食らって吹き飛ばされる。

 

 が、直ぐに立ち上がって鷲尾の前に立つ。

 

 「兄貴さん、大丈夫ですか!?」

 「問題ねぇ!鷲尾は攻撃に集中しろ!次ぃ来るぞ!」

 

 目の前の太陽のような見た目のバーテックスから飛んで来る炎の塊を見やる。

 受けたら死にそうになるぞ、と、本能が訴える。

 

 「『キングシールド』!!」

 

 灰色の障壁が目の前に現れ、炎の塊を全て受ける。

 

 「数が・・・・・・減らない・・・・・・!」

 「頑張れ!攻撃の要はお前だ!折れるなよ!」

 

 絶望の淵に立っているような顔をしている鷲尾を励ましつつ、敵の攻撃を捌き続ける。

 ・・・・・・内臓が幾つかやられたか。血を吐いた。

 鷲尾に見られてなかったのが良かった。こんな可愛い娘さんに見苦しい姿は見られたくない。

 

 「・・・・・・ゴホッゴホッ、おい鷲尾!お前ちょっと下がれ!少し技使う!」

 

 このままじゃらちがあかない。飛んで来る攻撃も多くなってきた。

 

 というわけで、ちょっとした反撃だ。

 俺が今まで『わざと』受けてきた攻撃を返してやるよ。

 

 「『メタルバースト』!」

 

 白銀の衝撃波が、俺と鷲尾を中心に広がっていく。

 いくつもの小さな爆発を起こしながら広がるその衝撃波は、バーテックスをぶっ飛ばし、粉々にしていった。

 

 「っしゃぁあ!見たか見た目が無機物な化け物野郎共!」

 「やりましたね」

 

 吹き飛び、バラバラになって虹色の光のようなものと共に砂となって消えていくバーテックスを見ながら、俺はゲラゲラ笑いながらこう言ってやった。

 いやぁ、こう、逆転的な勝ち方をするとテンションが上がるね。爽快感もパナい。

 

 終わった・・・・・・けれど、樹海が解けないのはどういう事か。

 普通、バーテックスが倒された直後十秒程経って直ぐに樹海が解けると鷲尾から聞いたが、十秒以上経ってもなかなか解けない。

 

 「なんか、変じゃないか?」

 「もしかしたら、また敵が来るのかも知れません。注意しておいて下さい、兄貴さん」

 

 俺と鷲尾が気を引き締める。

 そして、周囲を注意深く見回し始めた。

 

 ーーー何か、視界の端でキラリと光った!

 

 背筋に何かゾッと来るものがあって・・・・・・気がつけば、俺は鷲尾を守るようにして前に出ていた。

 俺と鷲尾に向かって飛んできた『光るナニカ』は、俺の体に突き刺さって、止まった。

 反応が遅れ、防御系の技は間に合いそうにないと思い、咄嗟に生身で防御したけれど・・・・・・(いて)ーなー。

 

 かくして、俺達の方に飛んできたのは、煌々と太陽のように光り輝く矢だった。

 それが、俺の右腕、左の太股、そして右胸に深々と突き刺さっている。正直叫びたいくらい痛い。

 

 「あ、兄貴さん!?」

 「うろたえんな!!射手の居場所をサッサと見つけやがれ!」

 

 鷲尾が悲鳴のような声を上げる。

 俺は叫び声を上げた鷲尾に活を入れ、俺自身もこの光る矢の射手を見つけだそうと辺りを見回す。

 

 ・・・・・・が、射手は見つからず、それどころか俺達の方に向かって更に光る矢が、空を埋め尽くす程大量に降り注いだ。

 

 駄目だ。これは避けられない。

 俺は全力で『キングシールド』を使い、俺と鷲尾の身を守る。

 結構素早く『キングシールド』を展開したつもりだが、間に合わなかったのか、矢が二、三本俺に更に突き刺さっていく。

 

 「ッガァ・・・・・・オイオイ、本当に何処にいやがるんだこの矢の射手は!マジで見当たらねーぞ!」

 

 ジュゥゥウウウウウ、という音と共に、体の肉が焼ける臭いがする。

 チッ、クソッタレ。炎タイプでも持ってるのかこの矢は。チクショーこのままだと鷲尾と世界と心中だぜオイ。

 

 流石に、二回目の人生を一日足らずで終わらせるのも嫌だ。

 それに、今側で俺の事を呼びながらボロボロ泣いている鷲尾を、ここで死なせるわけにはいかない。

 彼女には『守り抜いてやる』と言ってしまっている。言ったことくらいは通しておきたい。

 

 「鷲尾!お前にゃ怪我ねぇか!」

 「ありません!ありませんが、兄貴さんが「うるせぇ!!」!?」

 

 「良いか、俺は、お前を守ると言ったからには、絶対に(・・・)死んでも守る(・・・・・・)

 

 俺はそう言い放ってから、辺りを見回す。

 鷲尾も、俺の言葉に、もう何も返さず、ただ涙を堪えて矢の飛んで来る遥か上空を睨み続けていた。

 絶対に、この見える範囲にいるはずだ。

 飛んできたのは空の上。となれば、上に敵はいる!

 

 「見つけました!」

 「さすが射手!目が良い!そしてよくやった鷲尾!」

 

 ふと見れば、上空には確かにヒトガタの、弓のようなものを持ったナニカがいた。

 また矢を飛ばそうと、煌々と輝く弓を引き絞っている。

 弓には、極大の光の矢がセットされていた。

 

 「やらせるかよ!」

 

 先ほど倒したバーテックスと同じ倒しかたで、上空のアイツも倒す!

 

 『メタルバースト』を発動させる。

 それは、先ほどとは違い、威力も射程もケタ違い。

 なぜなら、受けたダメージが違う。

 明らかに、今まで相手したバーテックスより、上空の弓兵紛いの化け物の攻撃の方が痛かった。

 

 「くらえやぁああああああああああああ!」

 

 俺が『メタルバースト』をぶっ放すのと、弓兵紛いが光る矢を放つのはほぼ同時で。

 

 「兄貴さんっ・・・・・・!」

 

 そして、弓兵紛いに俺の技が突き刺さり、爆発四散するのと、俺の左胸に光る矢が深々とぶっ刺さるのはほぼ同時だった。

 

 「あーあ、これで生きてたら格好もつかねぇや」

 

 女の子を守るために命を散らすってのはなかなかカッコイイだろう。俺のような性格破綻者の死に様がこれとはなかなかイカしている・・・・・・ったく、畜生。

 

 ・・・・・・はぁ・・・・・・鷲尾の事を守るって言ったのに、これだよ。この様だよ。

 

 弟、後は頼んだ・・・・・・。




 次回、兄貴、死す(別の意味で)。


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5:兄貴、死す(別の意味で)

 ええと、前の投稿からだいぶ遅れましたが投稿します。

 待ってた人はいないかも知れませんが。


 [何処かの部屋/Side 兄貴]

 

 「知らない天井だ・・・・・・」

 

 よっしゃ言えた。生きている内に言いたい名言第一位。

 よく見てみれば、三ノ輪が入院している病院の病室のベッドの上か。服装がアニメなんかで見たことがある薄いブルーの病人服で、なんかイロイロ俺の腕にチューブが繋がっている。

 

 ・・・・・・にしても、だ。

 

 「俺、間違いなく死んだ、とあの時思ったんだけどなぁ・・・・・・」

 

 俺の左胸に、深々と光る矢が突き刺さったはず。なのに、俺は何故生きているのだろうか。いやぁ、やはり俺の鋼チートぼでーは伊達じゃないようだな。

 よく見れば、俺の体にはイロイロ貼られている。電極やら何やら。うん、凄い。穴とか空いてた筈なのに全部塞がってるや。

 

 体を起こすと、俺の太股に小さい人影が見えた。

 

 「・・・・・・鷲尾?」

 

 鷲尾は、俺の右太股を枕にして、「すぴー」と寝息を立てていた。

 

 寝顔可愛い。乃木に写メったろ・・・・・・そういやケータイねぇや。というか何故いるし。

 俺、重傷負ってたんだから普通面会謝絶とかなってなかったん?

 俺が鷲尾のサラサラの髪をいじりながらその可愛い寝顔を見ていると、鷲尾が目を覚ました。

 

 「うにゅ・・・・・・」

 「おっはー、山ちゃんでーす。山ちゃん違うけど」

 「ふぇ・・・・・・!?」

 

 ボーッとしながら辺りを見回し、そして俺の顔を見た瞬間、驚愕したような表情になった。

 

 「兄貴・・・・・・さん?」

 「おう、名乗らない武田さんちの兄貴さんだぜ?わっしー。おはようさん。そういえば、俺何日おねんねしてたか聞いていい?」

 

 どのくらい俺は気絶(おねんね)していたのだろうか。聞いてみたかったから聞いたのだが・・・・・・なんか鷲尾がナイアガラの滝が如くぶわぁ、と涙を出して、俺に弱々しくしがみつき、抱き着いてきた。

 声を押し殺し、しゃくりあげながら泣きじゃくる鷲尾を見て、そういえば、俺、鷲尾の目の前で光の矢刺さった状態でぶっ倒れたんだっけ、と思い出す。オイオイ阿呆なのか俺は。普通ならトラウマもんじゃねーか俺の馬鹿たれ。

 

 「はいはい、俺はちゃんと生きてますよー」

 

 優しく頭を撫でておく。なんかイロイロと左腕に繋がっている為、右腕しか動かせないから片腕で我慢して欲しい。

 腕、というか体全体が重い。全く、俺は長い間寝ていたようだ。心配かけさせてしまったな。

 ・・・・・・少しの間こうしとくか。

 

 俺のいる病室に、しばらくの間泣き声が響いた。

 

 *

 

 目を真っ赤に腫れさせた鷲尾が俺のベッドの傍らで佇まいを正して、ちょこんと椅子に座る。

 

 「その、お早うございます」

 「おうお早う。何日ぶりなんだ?」

 「い、一週間です」

 「いっしゅーかん!!」

 

 なんと、一週間も寝ていたらしい。通りで身体が怠い上に重い訳だ。

 ・・・・・・でも、この身体の『重さ』はそれだけじゃ無い筈。

 

 呼吸が苦しい上に、何だか身体に・・・・・・ポッカリと穴が空いたような感覚がするのだ。

 もしかしてーーーーーー

 

 「なぁ、鷲尾」

 「・・・・・・ーーーっ」

 

 低い声で俺が鷲尾を呼ぶと、鷲尾がビクリと身体を震わせる。

 

 「嘘偽り無く言ってくれ。どんな答であったとしても、俺はそれを真っ正面から受け止めようじゃあないか・・・・・・俺の身体、今どうなってるんだ?どんな状態なんだ?」

 

 俺がそう問うと、鷲尾は俯くと、ぽつりぽつりと俺の問いに対する答を言い出した。

 

 「正直に言ってしまうと、とても五体満足とは言えない状態です」

 

 やっぱりか。

 身体にあれだけ矢がぶっささったんだ。それ相応の怪我があるだろう。御都合主義なんてそう無いのだ。

 

 「まず、肺が片方無くなりました」

 

 鷲尾が、震える声で言う。

 

 「次に、腸が切り取られました。消化に悪い食事はあまり出来ないそうです」

 

 俯いた表情からはわからないが、とても、とても辛そうな顔をしていると思う。

 

 「後遺症も残っています。身体のあちこちに、痺れが残るそうです。体中に付いている傷の跡も、一生残ります」

 

 気がつけば、鷲尾はまたポロポロ涙を流していた。

 

 「生命の維持には問題無いそうですが、それでも、生きていく事が、その・・・・・・」

 

 嗚咽を漏らす鷲尾。

 ああ、そこまでヤバいのね。

 

 「大丈夫だって、言ったろ?お前を守るって。結局俺がやりたい事やって付いた傷だしお前が泣く必要無いっての。ほら、な、泣き止んでくれ。じゃないと俺の方が逆に罪悪感を感じてしまう」

 

 女の子一人守れたんだし名誉の負傷だってこんなの・・・・・・そんな感じに思っていると、鷲尾が何か決意したような顔で俺の方を向いた。

 なんだなんだと思っていると、

 

 「責任取ります」

 「へぁ?」

 

 な、なんか素っ頓狂な言葉が聞こえたぞ?

 

 「私を守って付いた傷だと言うのなら、私が責任を持って介護します。私の生涯をかけて貴方の世話をします」

 「え、いや、その・・・・・・」

 「いやだとは言わせません。ここを退院した跡は、私の家に来て下さい。確か、住む場所が無いんですよね?なら、私の家で寝泊まりしてください。ああ、貴方は何もしなくて良いです。私が全て『お世話』しますから」

 

 そう言って鷲尾は、とても、とても綺麗な笑顔で微笑んだ。

 目が深淵の彼方のような黒い瞳になっている事以外は、本当に女神の微笑みのようである。

 ・・・・・・な、なんかヤバい。何がヤバいって、真央の未来のお嫁さんである三ノ輪が真央に向ける愛の重さ並のヤバさを感じるからヤバい。

 

 「遠慮は要りません。もう親に許可はとってあります」

 「許可を親は何故出した!?」

 

 真央()の言葉を言葉を借りるが、何処の馬の骨とも知れない輩をいきなり家に住まわせようとするか普通!?

 

 「私の事を文字通り命懸けで、『生涯』守ってくれる事を誓ってくれた人だと言ったら直ぐに出ましたが・・・・・・?」

 

 おおーい、尾ひれが付きまくってんぞー。

 俺は確かに、『お前の事を守り抜いてやる』とか、『お前を守ると言ったからには、絶対に(・・・)死んでも守る(・・・・・・)』とか言ったけれどね?うん。

 

 ・・・・・・あれ?俺が言った言葉、時と場合と聞きようによってはプロポーズじゃね?

 なーにを口走ってんだ過去の俺ェ!もうちょい言葉のチョイスってもんがあるだろぉ!

 

 「何も心配要りません。私と共に未来を歩みましょう?」

 

 ・・・・・・ゴメン真央。俺も人生の墓場に入りそうになってる。あの時テキトーな対応してマジでごめんなさい。



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幕間:真央君の生活

 昨日、目覚めたという兄ちゃんのお見舞いに行くと鷲尾須美ちゃんに全部お世話されて苦笑いしている大怪我をした兄ちゃんがいた。

 それで僕は兄ちゃんと鷲尾ちゃん(銀ちゃんに自分以外の女を名前で呼ぶな、と言われた)の間に何があったのかを察して、とりあえず「ドンマイ。自由は消えた。そして人生の墓場にゴールインおめー」とだけ言っておいた。

 

 まあ、兄ちゃんは体がボロボロになってしまったが、兄ちゃんは大丈夫だろう。

 鷲尾ちゃん家に行くらしいし。鷲尾ちゃんがお世話するらしいし。

 

 そして何より、僕の兄ちゃんがこの程度で弱るほど軟弱じゃないって知ってるし。

 

 *

 

 さて、ある日。

 

 「・・・・・・ーい、起き・・・・・・央。起き・・・・・・と・・・・・・」

 「ん、んみゅ・・・・・・」

 

 誰だ僕の惰眠を邪魔するのは。今すぐに名乗り上げやがれ。

 良いか僕は例え平日で学校に遅刻しそうになっても七時五十分までは惰眠を貪るとそう決めて・・・・・・

 

 「起きないと喰うぞ・・・・・・♪」

 「目が覚めました!」

 

 目の前には、舌なめずりをして、僕の事をギラギラした目でネットリと見ている銀ちゃんがいた。

 ガッチリと頬を押さえられ、目が離せなくなってしまう。

 現在時刻は午前七時ジャスト。この強烈な目覚ましによって、僕の生活は規則正しいものになっている。

 

 「おはよ。目が覚めたか?」

 「あ、はは。う、うん。覚めた。覚めたからちょっと僕の上から退けろ下さいじゃないと起きれない」

 

 銀ちゃんは、僕の腰の上に跨がっているため、どいてくれないと僕は起きれないのだ。

 

 「朝メシはもう出来てる。だからサッサと顔洗ってこい」

 「うん、わかった」

 

 (良く見れば銀ちゃんはエプロン姿だ。うーん、様になっていて似合ってるなぁ。まるで新妻さんみたいだ」

 

 「にゃっ!?」

 

 ぼふん!と、銀ちゃんが急に顔を真っ赤にしてしおらしくなった。なんだろう?

 

 「い、今なんて言った?」

 「え?なんにも言ってないよ?言ってたとしても恐らく漏れ出た独り言」

 「そ、そうなのか?」

 「え、うん」

 

 変な銀ちゃんだなぁ。

 

 朝ご飯を食べ終わるまで、銀ちゃんはブツブツ何かを呟いては顔を赤く染めていた。何なんだろう?

 

 「ねーちゃん顔真っかっかだ!」

 「おい!言うな弟!自覚して恥ずかしくなる!」

 

 *

 

 今日は休み。

 学校は何もない。完全なる休みの日だ。

 

 だから、家の縁側でゴロゴロしている。

 季節的には涼しい頃だ。風が気持ちいい。

 

 「あ、猫」

 

 にゃぁ、と鳴き声を上げて僕に擦り寄って来る三毛猫。

 この猫は、気がつけば僕に懐いていて、僕が休日に縁側でゴロゴロしていたら決まって僕のお腹の上に乗っかってそのまま丸まって寝るのである。

 

 ・・・・・・そして、決まってこういう事も起こる。

 

 「真央、気持ちいいか?」

 「最高」

 

 銀ちゃんに今、膝枕をされている。

 こうして、僕を骨抜きにするんだとか・・・・・・胃をギュッと捕まれてるし、風呂に一緒に入った(突撃された)し、一緒に抱き合って寝たし、膝枕が良い具合の柔らかさで最高だし、もう一緒に居ることが当たり前みたいになっているし・・・・・・あ、もうこれダメだ。

 僕もう骨抜きにされかかってる。陥落まであと五秒前だ。

 ・・・・・・き、危険だ。このままだと銀ちゃんのヒモになりかねない。

 兄ちゃんから、ヒモにだけは絶対になるなと言われている。

 

 「このまま寝ちまって良いぞ。夕飯の時間になったら起こすから」

 

 そう言って僕の頭を優しく撫でて来る銀ちゃん。

 

 あ、なんか銀ちゃんのヒモだったらいい気がしてきた・・・・・・。

 

 *

 

 「そのままダメになってもアタシが死ぬまで首輪付けて飼って面倒見てやるからな・・・・・・」

 

 やっぱりだめだ。僕が人間として終わってしまう!!




 次は何を書こうかなぁ・・・・・・


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6:決戦(前)

 兄貴を鈍感系キャラにすると、ただのヘタレにしか思えなくて不思議な今日この頃な作者です。


 目の前のこれは一体何なんだ。

 

 俺は、自分の目を疑った。

 いたのは、先日倒した筈のバーテックス共。

 そして、最後に俺を死の間際まで追い詰めた弓兵野郎と、それを守るようにして存在する一体の巨大な盾のような形をしたバーテックス。

 

 ・・・・・・全く。こっちは摩耗するばっかりで、あっちは生産力無限ってか畜生。

 

 「やってやろうじゃねぇか。高々神様の先兵風情が、俺を倒せると思うなよ?」

 

 俺は、真央や、そのほかの面々と共に片足を前に踏み込んだ。

 

 *

 

 [少し前]

 

 『満開』。

 

 勇者アプリとか言う、純粋な少女を勇者たらしめる為のアプリのアップデートの際に新たに追加された、必殺技のようなもの。

 後、もう何体か、これまでとは比較にならない程に強いバーテックスがやってくるという神託を受けた為に、急遽生み出された新たなるシステム。

 ゲージを溜めて放つ、らしい。

 ・・・・・・ゲームかよ。

 まあ、ふざけたツッコミは置いといて。

 

 俺、武田兄貴はこの満開とやらを疑っている。

 勇者が、服装から見るに花を基調としている事は大体察しが付いている。というか、誰でも見た瞬間解るくらいわかりやすい。

 

 それで、満開、というネーミングの必殺技。

 満開。そう言うからには、必殺技足り得る何かが発現するのだろう。正に、花が一番華やかになる満開等と言うネーミングを付けているからには、それこそ神々の先兵程度一撃で吹き飛ばせるのだろう。

 

 ・・・・・・だが。

 勇者は、確か神から力を授けられて戦っているんだっけか。

 で、多分この満開も神から相応の力を授けて貰って発動するのではなかろうか。

 

 ここから先は、俺の考えすぎかもしれないが。

 ・・・・・・神々が、何の代償も無しに高々人間等という彼らから見ればミジンコ以下の生命体に、そんな大層な力を授けるとはとても思えない。

 オタクとしての直感と、今までのアニメ作品及び小説から考えて、神々は大抵こういう必殺技やら何か強大なる物事をやらかす時には、何らかの『代償』を必要とする、というのはお約束の鉄板モノだ。

 

 満開。

 花は華やかに、力強く咲いた後は、きらびやかに、そして力無く散っていく。

 それと同じように、強大なる何かをやった後、代償として何かを失うなんて、そんな羽目になるとすれば・・・・・・

 

 ・・・・・・本当に、俺の思い違いであれば良いのだが。

 

 *

 

 それはさておき。

 

 夏祭りである。

 そう。夏祭りなのだ。

 

 浴衣姿の女の子を見ることができる男が誰しも鼻息を荒くする一大イベントではなかろうか。

 かく言う俺も、今隣で歩いている須美(名前で呼べと脅迫・・・・・・もといOHANASHIされた)の浴衣姿を見て、うむ、と一つ頷きつつ何かを達成したかのような表情で、真央にサムズアップする。

 真央も、三ノ輪の浴衣姿に愛を鼻から噴出させつつ、俺にサムズアップで返した。

 

 無論、乃木の浴衣姿もこれ以上無いほど可愛いので頭をわっしゃわっしゃーとなでくり回しながら褒めた。

 もっとやってーと来るので、もっとなでなでする。

 ・・・・・・妹とかいたらこんな感じなのかな。と思ったり。

 

 何故かわs・・・・・・すみません冗談ですだからその目をやめて須美・・・・・・隣の須美からの視線に物理的な攻撃力が篭っている気がするんだが・・・・・・まさか・・・・・・?

 い、いや、その可能性はない。勘違いするな俺。なぜならば、小学生の頃偽告白を三十回以上もされ続けた俺だからな!二歳年下の女の子が俺にお熱なんて、流石に有り得ない・・・・・・筈だ。

 

 一回『こいつ、俺と人生の墓場に入るつもりか!?』と、勘違いしかけたが、それは有り得ないと断じた。なぜならば、彼女は俺を『兄貴』と呼ぶからだ!故に、お熱なのではなくて単なる年上に対する憧れその他だ!・・・・・・お世話されているのは、あれだ。なんか責任取るとかそういうのだろ。まあ、身体の事を思ってくれているんだろうが、何時までもお世話されてたらダメ人間になっちまうし、俺もタダ飯食うのは嫌だからしっかり学校行って、十五になったらバイトしに行くつもりだ。いつかは一人暮らししよう。絶対に。

 流石にずっと鷲尾家に留まるのは迷惑だろうし(ただの馬鹿、若しくは鬼畜鈍感畜生種無しチキン男)。

 

 閑話休題!

 

 さて、流石の夏祭りとあって、神社は賑わいを見せている。

 そこかしこから笛の音や力強い太鼓の音が聞こえ、石畳で出来た道の脇には屋台がならんでいる。あ。真央が屋台の食べ物見て目を光らせてた三ノ輪に振り回されてる。大変そうだな。あっちは。

 

 まあ、こっちも大変なんだが。

 

 何せ自由自在に乃木がうろちょろしまくって、俺と須美はそれを後ろから見失わないようにしっかり付いていくしかなかった。

 ・・・・・・元気な娘が出来た気分だ。

 

 さて、それからあった事と言えば、乃木がなんか金魚掬いやったり、満腹になって満足した三ノ輪と三ノ輪に振り回されてボロボロになった真央を発見したり、射的で須美が出禁くらったり・・・・・・・と、なかなかに面白い出来事があったりしたが、それは割愛する。

 

 「なぁ真央。祭と言えば、最後はなんだ?」

 「そりゃ花火でしょ。兄ちゃん」

 

 という訳で、良く見える場所にて。花火を見ている。

 周囲にもちらほらと、人影が見える。この場所は案外人気なようだ。

 

 色とりどりの花火が、宙に大きく咲いては散っていく。

 綺麗だと、素直に思った。

 

 今までは真央と二人で、花火だけ見て帰っていた夏祭りが、初めて充実したものになったと思った。

 

 *

 

 さて、この数日後。

 俺達は、後に『大橋決戦』と呼ばれる戦いに、身を投じる事となる。




 次回。
 バトル。


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7:決戦(後)

 前回から大幅に開きましたよ。更新が・・・・・・

 や、やっと終わった・・・・・・


 俺は、目の前のバーテックスを見て、不敵に笑って見せた。

 

 別に、この絶望的な状況に頭が可笑しくなった訳ではない。

 

 ただ、負ける気がしなかっただけだ。

 

 「行くぞ、真央。幾つボコボコにしたか勝負だぜ?」

 「望むところ・・・・・・!!」

 

 俺達は、バーテックスに向かっていった。

 

 *

 

 彼女達は一度戦った相手。

 俺も、須美といっぺんに相手したから攻撃パターンは解る。

 雷速で動ける真央にとっては、最早ただの的だろう。

 

 五人で樹海の中を駆け回り、確実に一匹ずつぶっ飛ばした。

 

 俺達は兄弟のコンビネーションでぶっ飛ばし、勇者三人娘もアップデートで格段にパワーアップしている為に、バーテックスを余裕でボコボコにしていた。

 須美が撃ったライフルの弾が、乃木の槍が、三ノ輪の巨大斧が、俺達の鋼と雷と共に宙を駆ける。

 

 だから、俺を大怪我させた弓兵野郎とその弓兵野郎を守るようにして前にいる盾みたいな奴を残し、他の十二体のバーテックスをぶちのめすのに、そこまで時間は必要なかった。

 

 「あいつら・・・・・・終始動かなかったな・・・・・・」

 「余裕の表れでしょうか・・・・・・」

 「兄ちゃん、ああいうのって絶対に強キャラだよね」

 

 俺、須美、真央の順で、遥か上空に浮かぶ弓兵野郎と盾野郎を見ながら言う。

 真央は何時も通りのゲーム脳やめい。

 

 「気味悪い・・・・・・サッサと潰すか」

 

 三ノ輪がそう言い、斧に炎を纏わせて空にジャンプして突撃する。

 

 「あ!ま、待って!!」

 

 真央がそう言って追いかける。

 

 すると、漸く弓兵野郎が反応を示した。

 何やら光る弓を出現させ、真っ白い矢を引き絞り・・・・・・!

 

 「『キングシールド』!!!!」

 

 俺は三ノ輪と真央の正面と、俺と須美と乃木を守るようにして二つの『キングシールド』を大きく展開する。

 それと同時に、雨のような光り輝く矢の雨が降り注いだ。

 

 「オイオイ・・・・・・前に相手した時より強くなってねぇか・・・・・・!?」

 

 的確に俺達がいるところだけを狙い撃ちしてくる為、冷や汗が背中にダラダラ垂れる。

 威力がハンパなく、こっちが盾ごと吹っ飛ばされそうだ。

 

 「須美ぃ!そのライフル銃で狙えるか!?」

 「ダメです!射程外です!」

 

 どんだけ高いところで高みの見物をやってるんだよあの弓兵野郎・・・・・・!

 

 と、俺が空を睨みながら苦虫をかみつぶしたような顔をしていると、弓兵野郎の少し手前側の方で、眩しい光が発生した。

 

 そして、それから数拍置いて、耳を引き裂くような鋭い雷鳴が辺り一帯に鳴り響いた。

 

 「うっ!?耳がやられた。チックショー真央の奴・・・・・・帰ったら説教だなこの俺の耳を潰しおってからに」

 

 真央がこの世界に来た時に使った時程の衝撃を感じなかった為、Z技じゃあないみたいだ。

 

 だが、かなりの衝撃を感じた。

 通常ならば、倒せている。

 

 だが。

 

 「ま、だろうな」

 

 バーテックスは弓兵野郎も、その前面にいた盾野郎も健在だった。ピンピンしていた。

 予想は付いた事だが。

 何せ、あの盾野郎からは絶対的な・・・・・・俺の『キングシールド』と同じような『絶対防御』的なものを感じる。

 

 隣に真央が来て、露骨に面倒臭そうな顔をした。

 

 「兄ちゃん、あのバーテックスマジで硬すぎる。『らいげき』撃って全然ダメージが入ってない」

 「ああ、真央。アレなんか『まもる』とかそういう感じのモンだわ。だから多分ーーー」

 「ーーーZ技じゃないと抜けない、か」

 

 俺が言おうとした言葉を、真央が引き継ぐ。

 『まもる』なんかの技回避系の技は、確かに脅威だ。

 だけど、Z技を使えば威力は軽減されるものの、かなり通る。

 ・・・・・・まあ、それで絶対に倒せるかどうかわかんないケド。

 

 勇者三人娘が、必殺技の満開を使おうとしたけれど止めた。

 確かにそれでダメージを与えられるかもしれないが、それでもその満開とやらがZ技クラスの攻撃力を持っているのかどうかわからない。

 故に、ここでジョーカー(もしくは危険碑)を切るのはいただけない。

 

 「もうちょい待て。その満開ゲージとやらは、バーテックス倒したりしないと溜まらないんだろ?じゃあ、もう少し待てや」

 「何か策でもあるんですか?」

 「まーな・・・・・・オイ真央。『エレキフィールド』使っとけ」

 「わかった。兄ちゃん、ちゃんとあの弓兵野郎倒してよ?」

 「俺を誰だと思ってる」

 

 俺はニヤリと笑って見せると、真央はやれやれといったような顔をし、『エレキフィールド』を使った。

 その技は、電気タイプの技の威力をあげる技だ。

 それで真央の破壊力を上げて、

 

 「じゃ、行くよ」

 

 真央は、電気タイプのZ技、『スパーキングギガボルト』を発動した。

 

 辺りに先程とは比べものにならない程の雷鳴が響き渡り、真央が殴るようにしてぶっ飛ばした雷の矢が盾野郎に向かってすっ飛んでいく。

 

 そして。

 

 ゴガァアアアアアアアアアアアアアアン!!

 

 大地が揺れる程の衝撃波と、耳がおかしくなりそうなくらいの激音を響かせて雷の矢は盾野郎に命中。

 

 盾野郎は、塵芥と化した。

 

 *

 

 僕がZ技を使い、ゼンリョクを使いきってぶっ倒れたところを、すかさず銀ちゃんが受け止めてくれる。

 ありがとうと言ってから、僕は兄ちゃんのいる方に目を向ける。

 そこには、Z技を発動させた兄ちゃんがいて、僕のZ技の衝撃波で地面に向かって急降下している弓兵バーテックスに向かって駆けている。

 弓兵バーテックスは、姿勢を制御しようと空中でワタワタやっていたが、兄ちゃんの鋼タイプのZ技が突き刺さり、ぶっ飛んで、灰になった。

 

 これで終わり。

 これで、この壮絶を極めた戦いが終わったんだと思ったら、動かせない身体から力が抜けて、眠くなる。

 

 兄ちゃんは、どうにかこうにかZ技の影響でゼンリョクを使い果たした後も気力で立って、勝利のスタンディングをかましていた。

 全く、兄ちゃんは派手で意味のないことが好きだなぁ。

 

 ・・・・・・こうして、気を抜いていたからだろうか。

 

 気付けなかった。

 

 宇宙から雨のように降って来る、青いビームのような攻撃と、青い弓のような形をしたバーテックスの大群に。

 

 *

 

 ズガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!

 

 俺達は、急に上から来た攻撃にぶっ飛ばされた。

 

 「まだいやがったのか!」

 

 上空には、黄銅十二宮を模した感じの奴らはおらず、雑魚ばかりだったが、それでも数が多い。

 思わず、呆然としてしまう。

 

 「兄貴さん」

 

 そこに、俺の知覚にいた須美が声をかけてきた。

 

 「切り札、使わせてもらいます」

 

 その言葉と同時に、朝顔が俺の目の前で咲いた。

 

 そのほかにも、真央の隣では牡丹が。

 

 少し離れた場所では、蓮の花が満開といった具合に咲いていた。

 

 「・・・・・・俺も、見てるだけじゃダメだよな・・・・・・」

 

 真央をちらりと見てみるが、あの青いビームの雨にやられたのか気絶しているようだった。

 切り傷裂傷その他モロモロ。

 真央は素早さ特化のステータスの弱点である防御の低さがアダとなったらしい。

 何時もなら、雨も避けられる真央の素早さも、ゼンリョクを使い果たした後じゃあ鈍ったようだ。

 俺?防御のみで堪えた。

 

 俺は真央を安全な場所にまで運ぶと、未だに少女達が戦う宇宙を睨む。

 

 「・・・・・・さて、やるか」

 

 ゼンリョクは使い果たした。

 今にも倒れそうだ。

 

 だが、気力はある。根性も申し分ないくらい。

 俺の男気魂ナメんなよ。バーテックス(頂点)

 

 *

 

 [三人称]

 

 「あ、解っちゃった。満開の後遺症」

 

 数分後。

 辺りは地獄絵と言っても過言ではない程の状態。

 そんな中、一人の少女・・・・・・乃木園子は、『脈を打ってない心臓』の位置に手を当てて、不意にそんな事を言った。

 

 そして、それに反応した人間が一人。

 

 「よお、やっぱりあったか後遺症」

 「兄貴さん・・・・・・」

 

 ボロボロの状態で、園子の隣へと歩みを進めてきた武田兄貴は、親指を遥か後方に向けて言った。

 

 「向こうに三人は寝かせてきた。あいつらはもう、戦える状態じゃない」

 「そっか・・・・・・じゃあ二人っきりの強行軍かな~」

 「やめてくれ。思わず勘違いしそうになる」

 

 軽口をたたき合う彼らの目の前、そこには先程倒した筈の、黄銅十二宮をモチーフとしたバーテックスが双子のものを合わせて十三体。

 太陽のような形のバーテックス・・・・・・レオ・バーテックスから、炎の弾が向かって来るのを見ながら。

 

 「こりゃぁ、全力で叩き潰しに来てるな」

 「だねぇ」

 

 呑気な感想を零しながら、園子は、動かない心臓と、見えない片目、そして動かない右足を引きずりながら、槍を構える。

 武田兄貴も同じく、気力と根性、男気魂のみで戦場に臨む。

 

 「死ぬんじゃねぇぞ」

 「お互いにね」

 

 蓮の花が咲くと同時に、最終ラウンドの火蓋が切って落とされた。

 

 *

 

 「いくつ潰した・・・・・・いくつ失った・・・・・・?」

 「・・・・・・わかんないや~・・・・・・もう、左手と片目、片耳と口以外動かないし~」

 「はぁ・・・・・・まあ、アレでラスト。もう少し、頑張るかね。少し休んでろ」

 

 少年が向かう先には、紅く光り輝く太陽を模したバーテックス。

 

 「『メタルバースト』・・・・・・!」

 

 鋼の衝撃が、バーテックスに向かっていく。

 ・・・・・・が、威力が足りなかったのか、バーテックスの一部のパーツが残り、樹海の外へと逃げていく。

 

 「・・・・・・!待っ・・・・・・」

 

 武田兄貴はそれを追いかける。園子もそれに続いていく。

 

 すると、一瞬何かの抵抗感があったかと思えば、次の瞬間。

 ・・・・・・そこには、樹海ではなく炎の世界が広がっていた。

 遥か水平線の彼方の、遠くには神々しい光が見えるが、それ以外は炎で染まり、雑魚バーテックスがうようよと。

 

 「なんだよこりゃぁ・・・・・・」

 「これがこの世界の真実、なのかもね~」

 

 思わず呆然と立ち尽くす。

 所々で、バーテックスが集まっている場所があった。

 

 「なんだよアレは・・・・・・!?」

 

 武田兄貴は思わず絶句する。

 複数の小さなバーテックスがより集まり、一つの巨大バーテックスと化していた。

 そしてそれらは、武田兄貴と園子の二人を目敏く見付けると、二人目掛けて雑魚バーテックスと共に襲い掛かってくる。

 

 「っ!?『キングシールド』!」

 

 咄嗟に武田兄貴が防御を展開し、突進してきたバーテックスから自身と園子の身を守る。

 

 「乃木!サッサと逃げろ!時間は俺が稼ぐ!」

 「っ、でも「でもも何でもかんでも言わずに言った通りにしろ!!」

 

 自己犠牲のそれとしか思えない発言に園子は食いかかろうとするが、武田兄貴にそれを阻まれる。

 

 「いいか、今ここで俺達二人が背を向ければ、あっという間にオダブツだ。片やほぼ全身障害者、片や体力残ってない人間だからな。

 だから、片方がこうして食い止めて、そのすきにもう片方が樹海に逃げる。

 これが最善ルートよ」

 

 武田兄貴はワイルドに、ニィッと笑うと、

 

 「行け。俺も後で結界に入る!現実でまた会おうぜ!」

 

 そう言って、『キングシールド』を維持した状態で、力を振り絞り、園子を神樹の結界の中に投げ入れた。

 

 「だめっ・・・・・・兄貴さん・・・・・・!」

 

 投げられた園子が伸ばしたその手はーーー

 

 

 

 ーーー武田兄貴には、届かなかった。

 

 *

 

 [大橋決戦/報告]

 

 戦いに参加した全四名の勇者及び協力者(・・・・・・・・・・・)、無事生還。




 ええと、ちょっと原作との相違おば。

 →遥か水平線の彼方の、遠くには神々しい光が見える
 過去にポケモン能力者達がなんやかんやした結果、諏訪とかが残ってるだけです。
 尚、他は原作と殆ど変わらない模様。

*バーテックスについて

弓兵野郎(弓兵バーテックス)(オリジナルバーテックス)
 古事記読んでたらなんか神様の逸話の中に矢に関するもんが以外とあって、それで作ったオリジナルバーテックス。

盾野郎(盾バーテックス)
 ゆゆゆいに出てくる盾みたいな形のバーテックスに『まもる』なんかの効果を追加して超巨大化したもんだと思ってくれれば。

青いビーム放つ弓バーテックス
 ゆゆゆいに出てくる青い弓みたいな形のバーテックスと同じ奴。
 デザインかっこよくて作者は好きなバーテックス。

その他雑魚
 星屑アタッカその他。



 安芸せんせー出せなかった・・・・・・。
 一つ間話挟んでゆゆゆに入ります。
 遂に、超*番外編に登場したノーマルなあの人が出ます。
 もう一人、防人とかのコミュに誰か突っ込もうかと思ってますが、まだ考え中です。
 ・・・・・・くめゆキャラの性格ムズ過ぎて困る・・・・・・もしかしたら出さないかも、です。



 ・・・・・・終わらせ方忘れたんで西暦の方は思い出すまで待って下さい。


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幕間:あとの話

予告通り、一話間話はさむです。

次回からゆゆゆに入るっす。


 [三人称視点]

 

*1:とある姉妹と少年と

 

 「お姉ちゃん、待ってぇ」

 「あー、荷物貸しなさい、半分持ってあげるから」

 

 姉妹が夕方の、茜色の空の下帰路に着いている。

 姉妹仲は良さそうで、喧嘩しても直ぐに仲直りしそうなのが目に浮かびそうなくらいだ。

 

 「・・・・・・ヨイショッと、ほら、行くわよ」

 「ありがとう、お姉ちゃん」

 

 てくてくと、並んで歩く二人。

 

 しばらく歩いていると、姉の方の視界にふと、何かが映った。

 

 「・・・・・・どうしたのかしら、あのヒト」

 「・・・・・・倒れてるね。お姉ちゃん」

 

 道路のど真ん中に、少年がぶっ倒れていたのだ。

 こんな早くから酔っ払いか?と思うと、どうやらそうでもないらしい。

 

 「・・・・・・み、ず・・・・・・」

 「だ、脱水症かしら?」

 

 今の季節は夏。

 脱水症と熱中症を併発していたらしく、体温を手で計ってみればとても熱かった。

 故に、近くの公園まで姉妹二人で運び、ぶっ倒れていた少年に水を飲ませる。

 

 そして、救急車を呼ぶ。

 

 「熱中症って怖いわねー。注意しなさいよ?樹」

 「うん」

 

 ・・・・・・この姉妹と先ほどの少年が再開するのは、そう遠くない話。

 

 

 

*2:電気

 

 「真央ー?まーおー!起きろー朝だぞー!」

 「ううん・・・・・・んみゅ・・・・・・」

 

 真央と呼ばれた少年は、目を覚ますと寝ぼけなまこで、目の前にいる活発そうな少女・・・・・・三ノ輪銀に問い掛ける。

 

 「いま何時ぃ・・・・・・?」

 「七時。サッサと起きろ」

 

 むくり。と、起き上がった少年は、身嗜みを整え、リビングへと向かう。

 

 そこでは、銀の弟が、姉の手伝いをしていた。

 

 「ねぇちゃんは座ってろって!片腕うごかねーんだろ!」

 「ダイジョーブだって!こうやってやれば・・・・・・ってうぅわぁ!?」

 「ダイジョーブじゃないじゃん・・・・・・」

 

 いまの銀は、かなり痛々しい見た目だった。

 大赦曰く、満開を使った影響で、極度の疲労でそうなってしまった、という事らしい。

 

 今の銀の状態は、片目に眼帯、更に右腕を布で吊っており、更に左足が少し痺れているという状態だ。

 

 真央は、銀の手伝いをするために、アタフタしている姉弟の方に駆け寄った。

 

 「ほら、僕が持つから。銀ちゃんは箸を出して?」

 「おう、ありがと」

 

 真央は、銀の姿を見る度に心が痛くなるが、

 

 (四人全員(・・・・)、命が無事でよかった、かな)

 

 ・・・・・・そう思い、ごまかす毎日であった。

 

 *

 

 誰かが欠けたこの仮初の平和な日常、その一端。

 知らぬ事は、忘れる事は、幸せか、それともーーー




 


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神世紀/前章/この小さな世界(箱庭)
1:勇者部と雷獣


 今回はかなり短いです。


 「よいしょっと!」

 

 僕の『10まんボルト』が、スマホに『乙女座』と表示されているバーテックスの懐に当たって熱烈な火花を散らす。

 ・・・・・・うん、効いてる。二年間戦っていなかったけれど、威力は変わってない。

 

 身体に稲妻を纏わせ、雷速で移動しながら『スパーク』でバーテックスに突撃し、吹っ飛ばす。

 吹っ飛ばした先には、黄色い服を着た、大きな剣を持つ勇者がいて、その人が剣を巨大化させて横殴りにぶったたく。

 

 「・・・・・・よし、何だか知らない人ばっかりだけど、上手く戦えてる。これならイケるかな」

 

 車椅子に座っている、何だか雰囲気が鷲尾ちゃんに似ている人、僕と同じくらいの歳の可愛い人、お姉さんっぽい人、パンチが凄い威力の人。全員知らない人ばっかりだ。

 

 雰囲気が鷲尾ちゃんに似ている人は変身していないけど・・・・・・まあ、それは今は良いか。

 今は、あのバーテックスを倒そう。

 

 「うわぁ!なんかベロンと出てきたぁー!」

 

 ・・・・・・ナニアレ。どういう事?

 

 見れば、バーテックスは大人しくしていて、三角錐が下向いた感じの何かを吐き出していた。

 うーん、形と出てきた場所から見るに弱点かな?

 

 パンチが凄い人が殴るけど・・・・・・硬そう。よし、手伝おう。

 

 「おねぇさん!ちょっとどいてぇえええええええ!!」

 「うん?・・・・・・うわぁ!?」

 

 一瞬不思議そうな顔でこっちを見たけれど、すぐに焦った顔になって離れていった。

 

 まあ、だって今の僕・・・・・・めっちゃ高威力の技ぶっばなそうとしてるし。左手に纏わり付いてる稲妻のエフェクトが大袈裟だから、よけい危なく見える。

 

 「いっくよー! 『プラズマフィスト』ォオオオオオオ!!」

 

 樹海全体に、稲妻の雷鳴が響くと同時に、電子のシャワーが降り注いだ。

 

 *

 

 バーテックスの弱点っぽいところをを『プラズマフィスト』で殴り飛ばした後。

 

 「さーて帰ろう」

 「逃がさないわよ」

 「で、ですよねぇ~・・・・・・アハハ」

 

 こっそりと逃げようとして、お姉さんっぽい人ーーーー犬吠崎風さんに捕まった。

 

 そのまま『勇者部』と言う看板が下がった部屋へと連行されて、椅子に腕と足をプラスチックの鎖で括り付けられた。

 ・・・・・・で、放課後が来る一時間ずっと放置。扱いが雑過ぎる。僕悲しい。助けて銀ちゃん。

 

 で、やってきました放課後。

 

 「あ、あの~? せめて腕だけでも自由に」

 「じゃあ、今起こったことの説明をするわね」

 「完全無視!? 椅子に括り付けられている僕の言葉は無視ですかそうですか」

 

 ええと、もしかして今日ずっとこのまんま?流石にそれは嫌なんだけど。というか早く帰りたい。じゃないと銀ちゃんが怖い。

 

 『なぁ、こうなったアタシを放って何処行ってたんだ? 浮気か? なぁ。オイ。ちょっとこっち来いよ・・・・・・何だよこの女の匂い。こんなになっちまったアタシはもういらないのか!? なぁ!? ・・・・・・捨てないでぇ・・・・・・[以下自主編集済み]』

 

 ヤバい。あの日の事思い出してトラウマがッ!

 

※因みに、大雨で電車がストップした結果、駅で寿司詰め状態になったとき、たまたま女の人が近くにいただけ。

 

 ああ、今日は厄日かな?

 近くにこんなに女の人いるし・・・・・・時間も四時過ぎ。だから結構遅くなりそうだし・・・・・・うわぁーん。どう転んでも結局銀ちゃん嫉妬だぁ!!

 

 最近は少し僕に依存しちゃってる感じがあるし・・・・・・今日は帰ったら先ずは土☆下☆座かなぁ。




 因みに銀ちゃんは大赦が運営やってる通信教育で勉強してます。


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