この空を飛びたくて(仮) (サクサクフェイはや幻想入り)
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プロローグ
プロローグ
目が覚めると俺は真っ白な世界にいた。 何を言っているかわからないと思うが、俺も何をされたのかry ふざけるのはこれくらいにして、ここがどこなのか記憶を手繰り寄せる。 まず朝起きてシャワーを浴びる、いつもの朝の風景だ。 そして、朝食を食べて家を出る。 通学中に友達に会い、そこから一緒に登校
「あのー、それ長くかかる?」
「それはそうだろう、一日の事綿密に思い出してるんだから」
「いや、そんなことされても困るんだけど」
「いやいやいや、そう言われても何でここに来たのか...... 君の名は?」
「何言ってるのよアンタ?」
目の前には心底呆れたように俺を見る水色の髪の女。 ふむ、状況を整理しよう。 さっきまで俺は真っ白な空間にいたのだが、気が付けば目の前には女性、しかも周りの風景も変化していて、少し先は黒く何も見えず、五、六歩歩いた先には執務にでも使うような机が。 うむ、意味が分からん。 とりあえず
「どういう状況?」
「アンタ、えらいマイペースね...... まぁいいわ、ようこそ死後の世界へ。 貴方はつい先ほど不幸にもなくなりました」
「はい?」
やばいやばいやばい、目の前の子は頭が少し痛い子らしい。 そうだよなぁ、なんか少しバカっぽい顔してるし、可哀想に...... 周りの子たちは気を使っているのか? こんなにもバカっぽいというのに......
「アンタ初対面にもかかわらず失礼ね!? 人の事バカバカ言うんじゃないわよ、これでも水をつかさどる神様なのよ私は!」
「おっと、ついに自分を神発言。 イタイ子が本格的にイタイ子になってしまった。 俺いい精神科医知ってるぞ? 心折ることで有名だけど」
「安心できる要素全くないんですけど!? むしろ治してもらうはずなのに、折られたら意味のないような気がするんですけど!?」
「いや、その医者曰く、折ったほうが治すの楽よ? 折ってそこから自信をつけてあげればいいだけだから、ただ依存しそうになるのが玉に瑕だけど。 って言ってたぞ」
「かじゅましゃん!かじゅましゃん!!助けてー!!」
目の前のイタイ子が泣き出してしまう。 精神科医は俺じゃないのだが、怖がらせてしまったようだった。 というか、話し進まないなー。 てか、かずまって誰よ? どうでもいいけど。 関係のない思考は明後日の方向に投げつつ、話が進まないので泣き止ますことにした
「大丈夫大丈夫、俺ってもう死んでるんだろ? なら紹介もくそもないから」
「本当?」
「もちろん。 ところでここがどこなのか、君が誰なのか教えてほしいんだけど」
「アンタ、いいやつね!」
ちょっろ!? クソちょろいなこの子。 かずまという人にはぜひとも監督を頑張ってもらいたいものだ、どこかから無理とか声が聞こえたが、きっと気のせいだろう。 そして始まる説明なのだが。 ここは死後の世界で、目の前の水色の髪の子はアクア、というらしい。 なんでも水をつかさどる神だとか。 ちょこっと芸を見せてもらったのだが、水を器用に使っていた。 それは宴会芸では? とも思ったが、言うと話が進まないのでツッコミはしなかった。 それでこのアクア(呼び捨てでいいと言われたので、これからは呼び捨てだが)、俺の死因を教えてくれた。 なんてことはない、小さい子供が横断歩道にいたのだが、それを助けて死んだらしい。 それで俺も自分の死因を思い出したのだが。 より鮮明に捕捉するなら、その子供は犬の散歩中で、その犬が横断歩道の真ん中でいきなりうずくまってしまったのだ。 青信号だから別に何もないだろうと思っていたのだが、運が悪いことに居眠り運転のトラックが突っ込んできていて、俺はその犬と子供を押し出し自分が引かれてしまったわけだ
「なるほどねぇ...... 一つ聞きたいんだが、なんで犬は横断歩道の真ん中でうずくまったんだ?」
「それねー、運が悪いことにガラスの運搬業者が事故したみたいでね、その時のガラス片が運悪く残ってたみたいなのよ」
「そらまた運の悪い...... まぁいいか、犬も子供も無事なんだろ?」
「ええ、貴方に突き飛ばされたから擦り傷ができたけど、それ以外目立った外傷もないわ」
「ならいいや」
これで子供も死んでましたって言われたら目も当てられないが、無事ならそれでいい。 いや、俺は死んでるからよくはないのか? まだやり残したこともあったしなー、まぁ仕方ない
「さて、そんなあなたにお話があるの」
「OHANASI?」
「なんかイントネーションが気になるけど、お話。 貴方、転生してみない?」
どうやら高町式お話術は通じなかったようだが、これまた二次創作的な話が。 さて、そんなことをいきなり言われてもと思うだろうが、俺の答えはもちろん決まっている
「そんな気軽に言うなよ、いいけど」
「アンタだって気軽じゃないの...... まぁいいけど、これからアンタが行く世界について簡単に説明するわ」
曰く、その世界はこのアクアが作った世界らしい。 他の神の間で疑似世界みたいなものを作って、そこの世界に自分の選んだ転生者を送り込むのが流行った時期があったらしい。 こう言ったらなんだが、神たちも俗物的というか、暇は人を殺すというが神も同様なのか...... 話はそれたが、このアクアも例にもれずその疑似世界とやらを作ったらしい。 だが、アクアはそれほど面白さを感じずそれを放置していたらしいが、ここで件のかずま君の登場だ。 かずま君はどうも俺と同じ転生者のようで、死因はまぁ、可哀想だから語らないことにする。 まぁ、そのかずま君だが魔王討伐をして世界を救ったようだ。 それで、天界つまりこの世界のことなのだがに入り浸っているときにアクアの疑似世界を見つけたらしい。 それで疑似世界に知性やらなんやらを与え、今では鑑賞できるほどの世界になったらしい。 そこでアクアは、今の世界なら楽しめるのではないかということらしく、俺を送ることに決めたらしい
「ほーん、よくわかった。 それで、お約束の転生特典はつくの?」
「もちろんよ!」
「なら、どこの疑似世界でも魔法、またはそれに準ずる特殊能力や特技をそっちの裁量に任せるけどランダムに決めてくれ」
「あら、確定で使えなくていいの?」
「確かに確定で使えたほうがいいけど、確定で使える、なんて面白くないだろ?」
そうやって俺が言うときょとんとした顔をしたアクアだが、次には笑い始める
「面白いわねアンタ!言っとくけど使えなくても恨まないでよね!」
「もちろん。 それとこれは特典じゃないんだが、なるべく面白くて、学園物で、ハーレム要素のあるものにしてくれ。 (見ていて)面白そうだから」
「まぁそれくらいなら? (自分が体験するのが)面白そうだから、なんて面白そうじゃない!」
そんなわけで決まった俺の転生、体が宙に浮く感じがする
「それじゃあ、アンタの第二の人生に祝福を!」
「その前に、お前は知ってると思うけど俺は蒼海翼だ」
「水をつかさどる女神、アクアよ!それじゃあ、またね!」
「またなー」
そうして、俺の意識は閃光にのまれ、目が覚めると
「バブ?」
赤ちゃんになっていましたとさ。 どういうことだ、クソ女神ィィィィィィ!!
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アクア視点
「いやー、久しぶりに面白いやつだったわね」
蒼海 翼(おうみ つばさ)を送り出した私は書類を書き始める。 もちろん、アイツの書類だ。 転生特典は、その世界に合った力をつけるというもの。 それもこちらの裁量でだ、本当に面白いやつだと思う。 この頃つまらないやつばっかりだったし、アイツの前に送ったやつは最悪だったし。 そう考えると、本当にアイツはいいやつだと思う
「うーん、まぁこのくらいいいわよね?」
特典の欄にもう一つ書きくわえる。 水を上手く使える
「ふふーん、アイツも喜んでたしこのくらいいいわよね。 この水の女神アクア様が直々に与えた能力だし、大丈夫でしょ!」
そう思い、書類に必要事項を記入していく。 さて最後になったわね、アイツの送った世界は...... IS-インフィニット・ストラトス-
「これで、終了っと。 んー!本日の業務おしまい!さーて屋敷に帰りましょっと!」
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プロローグⅡ
おはこんばんにちわ、蒼海翼だ。 まずは今の俺の状態についての説明だ。 今年で五歳になった俺は、田舎でのびのび暮らしている。 いきなり転生したときはアクアを恨んだものだが、頭空っぽにすれば何とかなったよ、ハハハ...... そんなわけで田舎も田舎、ド田舎に生まれた俺だったが別に暮らしは不自由していない。 父親は単身赴任で都会に行っているが、母はスーパーでパートという普通の家庭に生まれた。 そんなわけで名前だが、変わらずに蒼海翼だ。 まだどういう世界かわからないから特殊能力は使えないはずなのだが、なのだが......
「これは何なのだろうか......」
目の前できれいな円を作る水を見て頭を抱えたくなる。 きっかけはふとしたことだった、やることもなく暇な赤ん坊の時、母さんがいれば話は別だが近くの畑に野菜を買うということで出かけていた時、適当に思い浮かべていた形に水が変化するではありませんか!その時に確信したね、あの水の駄目女神さまがかかわっていると。 意識すれば、泥水だってきれいな飲み水に変えることができるよ? どうしてこうなった...... まぁ、副次効果として絵がうまくなったりしてるからいいんだけどね。 宴会芸と絵がうまくなるのは何処に関係があるのか? 気になるところではあるけど、答えは一生出ないだろう。 そんなわけでちょっと普通じゃないけど、普通な生活を送っている
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さてさて、時は巡って俺も中三、もう四月からは高校生だ。 その間に合った大きなことと言えば、やはりISインフィニット・ストラトスの開発だろうか。 元々は宇宙進出のため開発されたマルチフォームスーツだが、今は見る影もなく軍事利用用のパワードスーツというほうが正しいだろう。 アラスカ条約なんてIS関係の法律もあるが、どこまで守られているやら。 俺なんかは夢があるからIS関係の知識は身に着けているが、他の奴らはほとんど興味ない状態だ。 ここがど田舎というのもあるが、選ばれたーだの庶民にはーだの変なうたい文句が付きまとっているのが現状だ。 実際ISはコアと呼ばれる大本があり、そのコアは総数467個しかなく、しかも開発者の篠ノ之束博士しか開発できないらしい。 その篠ノ之束博士も、今や指名手配されているわけだが。 まぁ、ISの登場により女尊男卑や過激な連中のせいで世界はゆがんだわけで、その世界を見るのは開発者にとって愉快じゃないわな。 まぁ、俺のような凡人と頭の出来が違うわけだし、本当のことは分からないけど。 ともかく話はそれたが、そんなものが開発された。 それでISにまつわる事件とかもあったわけだが、そこらへんは割愛させてもらう。 語ったら時間がかかりすぎるし、全部覚えているわけじゃないしね。 それでこのISだが、弱点というか難点がある。 女性にしか扱えない、という点だ。 これにより俺は夢を諦めたが、自分でもかかわれそうな道を見つけたから良しとする。 え? 俺の夢は何だって? 小さいころ抱いた夢ならそれはもちろん、IS乗りだ。 某ネコ型ロボットではないが、あのタケ〇プターみたいに空を自由に飛べるなら、ぜひとも飛びたいものだし。 そこで俺は体を鍛えることにしたわけなのだが、まぁ、すぐに挫折するよね。 だって女性にしか扱えないわけじゃん? 体鍛えたって意味ないわけだし。 あの時は三日三晩枕を濡らしたね、涎で。 そんなわけでISの道は閉ざされたかとも思ったけど、そこで俺は機転を利かしたわけだ。 パイロットが無理ならエンジニアになればと。 実際、ごく少数だが男でもエンジニアはするらしく、俺はそれを目指すことにした。 機体関係の整備やハード、つまりプログラミング面なら同年代に負けるつもりはない。 まぁ、そもそも興味があるのはいてもパイロットとか機体の見てくれだけなので、比べようがないんだけどね、トホホ...... さて、そんなんで空を飛ぶのと何が関係あるんだとも思うかもしれないが、あります。 自分の調整した機体で、パイロットと仲良くなり空を飛べば夢叶うんじゃね? ということだ。 周りの奴らは応援してくれていたが、ほとんど呆れてたけどな。 さて、暇つぶしはこれくらいでいいかな?
「次はお前らだー!」
体育教師がお呼びのようだ。 本来なら進学ももうとっくに決まっており、卒業式が終わった俺たちが学校にいること自体おかしいのだが、それは先日のニュースが発端だろう。 世界初、男性がISを動かした。 なんでもこのニュースデマではなく本当のことらしい。 これにより、今まで調査されることのなかった男性が調査されるわけなのだが、件のニュース以降その報道はない。 他の奴らも楽しみにしているようだが、ほとんどの奴らは無理だろうと思っているらしい。 かくいう俺もその一人だ。 一応特典としてそういう特殊能力系はもらっているが、あっちの裁量次第だし
「蒼海、次はお前だ」
「うーい」
俺の番になったらしく、ISの前に案内される。 打鉄、日本純国産の第2世代型IS。 性能が安定しており使いやすく、武者鎧のような形態をしている。 今は外されているが両肩部分に装備された楯は「破壊される前に装甲が再生する」など防御力に特化している。 近接用ブレード「葵」とアサルトライフル「焔備」を標準装備している。 専用機や第2世代でも後期型のISが各部のアーマーを大型化して手足を延長した形態にしているのに対して、基本的に搭乗者本来の体格からあまり逸脱しないサイズなので扱いやすい。 ただし、追加装備の種類によっては大幅に変化する。 柔軟な仕様の日本製OSによって第二世代でも最大数の追加装備に対応しており、超長距離射撃装備「撃鉄」は命中率の世界記録を保持している。 とまぁ、情報はこんなところだろうか。 あまり長い時間をかけると目の前で見ている女性に殺されそうだ。 やれやれ、女尊男卑の風潮ができてからというもの、ゆっくりもしていられない。 ため息をつきたくなりながら打鉄に触れると、何故か装着完了していた
「・・・・・・うそぉ」
俺のその言葉を皮切りに周りが騒がしくなった。 俺はそっとため息をついて、今のこの状況を喜べばいいのか憂いを浮かべればいいのかわからなかった。 ただ一つ、面倒なことになった......
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アレからの日々はなかなかに忙しかった。 来ていた係員は結果を認められなかったのか、一回脱いでそれからまた再装着をやらされたりした。 流石にそれを数回繰り返したところで温厚な俺も我慢の限界になり、係員にふざけんなと言ったが。 そんなわけで家にとんぼ返りし事情を説明、俺がISを乗れることが分かった母は夢がかなうねと喜んでいたが、正直言って俺は微妙でした。 そこからIS学園の職員の人が来て、必要な荷物を持って学院近くのホテルに缶詰め状態だった。 ウチの学校が最後だったらしく、一番遅いわけで、入学まで時間がない中書類や参考書、入学のしおりなどを読まされた。 まぁ必読のマニュアルに関しては、基本中の基本だったため流し読み程度だったが。 それでも新しくIS関係の知識が知れたのはいい経験だった。 そして、俺は今、一年一組の教室の前に居ます。 ほんと喜んでいいのか悪いのか、まぁでも織斑一夏ハーレムを遠くから眺めてニヤニヤできるからいいけどね!!
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第一話 女子高、怖い
「入ってこい」
どうやら教室内から先生に呼ばれたようだ。 扉の前に立つと自動出入り口が開く。 都会と言うよりもこの学園だからこそなのだろうが、無駄なところに金かけてるよなぁ。 遅刻とかしそうになった時、誰かぶつかるんじゃないか? いや、女子高だしそんなことないか。 とまぁ現実逃避していたわけだが、集まる視線ザ視線。 世界で二人目の男性操縦者だからって見すぎでしょ、フツメンですよ俺は。 まぁいいや、自己紹介しないと殺されそうだし、自己紹介をしましょう
「えっと、二人目の男性操縦者として田舎からこの学園に来ました、蒼海翼です。 趣味は音楽鑑賞や読書、特技は手品です。 こんなふうに、花鳥風月」
「「おぉ~!!」」
扇子を広げ、後ろから水を出す。 まぁ、本当に役に立つのだこういう時は。 まぁでも、ミスった。 女子は余計にキラキラした目で見てくるし、こりゃあ掴みを間違えた。 常日頃から手品としてやってたから、地元の連中だと新ネタかぐらいの反応だったけど、それの比じゃない。 あぁ、睨まないでください先生、もう終わりにしますから。 そんなわけで扇子をしまい、自己紹介の続きに戻る
「元々は整備志望だったわけですが、奇跡のようなことが起こって操縦者になりました。 これからよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げ自己紹介を終える。 いやー、緊張したけど掴みは完璧でしょ。 完璧すぎていらぬ興味を生んだような気がするが、仕方ない
「蒼海の席はもう一人の操縦者の隣だ、仲良くするように」
「はい。 そんなわけでよろしく」
先生から言われて席に移動し、隣の席になった同じ男に声をかける
「あぁ、よろしくな。 俺の名前は織斑一夏、一夏って呼んでくれ」
「あ、あぁ、よろしく一夏。 俺のことは好きに呼んでくれ」
何故かさっきまで睨んでいたのにもかかわらず、普通に挨拶をしてくる織斑。 その変わり身の早さと、ぐいぐい来る感じに俺は若干の苦手意識を持った。 いや、別に自己紹介するのはいいけどさ、何故握手求めてくるのさ? 別にそう言う席でもあるまいし、別にいいと思うのだが。 まぁ、人それぞれかもしれないのであまり気にしないことにする
「それじゃあ、全員揃いましたので自己紹介をしましょう。 私はこのクラスの副担任山田真耶です。 皆さん、よろしくお願いしますね」
「お願いします」
自己紹介の時にホログラムのモニターに先生の名前が出る。 いやー、ほんとに金かけてんのなこの学校。 そして恥ずかしいことに、よろしくお願いします言ったのまさかの言ったの俺一人。 えぇー...... ふつう言わないの? 山田先生は返事を言った俺に助かりました見たいな視線を向けていた。 あ、眼福です。 そんなことを気にせず、もう一人の担任と思われる先生が前に出る。 目つき悪いよね
「諸君、私が担任の織斑千冬だ!君たち新人を一年で使い物にするのが仕事だ」
軍隊かな? そう思うと、音響破壊兵器かの如く女子が騒ぎ始める。 まぁ、流石の人気だよねブリュンヒルデ。 言われて思い出したが、モンドグロッゾ、簡単に言えばISでのオリンピックみたいなものだが、それの第一回大会優勝者なのだ。 二連覇のうわさもあったらしいが、そこらへんは詳しく知らない。 ウチ田舎だったしね。 いやー、そんな人に教わるのいいけど、スパルタ確定だよね。 さておき、本当にすごい人気だ。 先生の事様付で呼ぶわ、先生が呆れているのにもかかわらず、それについて気にせずにものを言っている。 これが女子高パワーか、怖い。 ただいただけないのが、罵ってだの調教してって、言った人頭大丈夫? いい精神科医知ってるよ? 前世でだけど
「静かにしろ!時間も押しているんだ、自己紹介をさっさと終わらせて説明に入りたいのだが?」
一気に静かになり、自己紹介を始める女生徒たち。 ちょこちょこ織斑先生に対してアピールが入るが、本当に大丈夫なのだろうかこのクラス。 そんなわけであいうえお順に始まって、もう一人の男織斑の番になったわけだが
「世界初の男性操縦者の織斑一夏です。 よろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げる織斑。 いや、この空気読めよ。 他にもみんな欲してるだろ? それを敏感に、感じ取れ!ようやく頭を上げ、覚悟が決まった顔をした織斑が言い放ったのは
「以上です!」
だけだった。 アカン、こいつはアカン。 クラスのみんなも思わずずっこけたくらいだ。 空気読めてないし、今もい殺さんばかりに睨んでいる織斑先生のことに気が付いてない。 あっと、織斑先生近づいて、ヒェッ!頭掴んでそのまま机に押し付けた。 怖い、都会の学校怖い。 いや、自己紹介まともにできず怒ってるのは分かりますが、何もそこまでやらなくても。 今も千冬姉って言って頭殴られてるし。 これは大丈夫なのかと山田先生を見ると、あわあわしていた。 あ、眼福です。 その後の自己紹介は平和に終わり、事業の説明があったのだが。 ISの基礎知識を半年で詰め込み、その後実習に入るらしいけど、基本動作は半年で体にしみこませるらしい。 ・・・・・・いや、女子とかはもともと勉強してるだろうけどさ、男子の俺らやばくね? しかもそこに一般科目も加わるわけだろ? ・・・・・・山田先生に補修してもらお。 後その後がやばかった。 良ければ返事をしろまではよかったけど、よくなくても返事をしろとか、答え聞いてないじゃん。 これからの学園生活が不安になる俺だった
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休み時間、それは友達とだべったり、寝たりして心が休まる時間のはずなのだが、俺の心は休まっていない。 視線だ。 そこかしこから視線を感じる。 少し動いただけで動いた、なんて驚かれる始末。 動物園のパンダか何かですかね、俺は
「なぁなぁ翼、やばくないか?」
肩に手を置く織斑に、俺は軽く鬱になる。 そしてもう一つ、心が休まらないのはこいつの存在だ。 やはり俺の第一印象は正しかったようで、かなり馴れ馴れしい。 さっきだって、山田先生が軽く学校や校内のことを説明しているとき、話しかけてきてうっとおしかった。 別に話しかけてくるのはいい、だがね、一応校内の説明は聞いておかないと迷うわけで、この女尊男卑が強い世の中でToLOVEるなんかあった日には、全校から吊るされるわけで。 それを避けようとしているのに話しかけてきて、なおかつ注意しているにもかかわらず話を聞かないのだ。 二回くらい織斑先生の拳骨の餌食になっていた。 しかも俺も巻き込まれそうになったし、とんだとばっちりである
「まあね、確かにやばいな。 動物園の檻の中の動物たちの気持ちが分かるよ」
「だよな!」
ええぃ、顔を近づけてくるなうっとおしい!!誰か、誰かこいつを連れて行ってくれ!こいつのせいで変な噂がたてられそうだ!今だって蒼×織とか聞きたくないたん語が!
「少しいいか?」
「ん、あぁ」
「えっと、篠ノ之さんだっけ」
「そうだ」
なんか武人と言うか、侍と言うか。 キリっとした女子が俺と織斑に近づいてきた。 と言うか篠ノ之ってことは、篠ノ之束博士の関係者だろうか? 俺には関係ない話だからいいけど。 どうも篠ノ之さんは織斑に話があるらしく、織斑のほうをちらちら見ていた。 ・・・・・・ふむ、多分そうだな。 これは俺の転生理由である、ハーレムを見るという目的のために行かせてあげるべきだろう。 と言うか、好きに連れてってくれ。 これなら珍獣扱いのほうがまだましだから。 と言うわけで早速
「もしかして織斑に話があるの?」
「いや、まぁ、その...... そうだ」
「だってさ一夏、行ってきなよ」
「そうか? なら行こうぜ箒」
そう言って篠ノ之さんを連れていく織斑。 一瞬、いや、気のせいだろう。 俺は会話も終わり、机に突っ伏した。 開始早々これとは、慣れるまできつそう
一夏はアンチになるかもしれませんが、千冬さんは別にアンチじゃないです。 慣れないと怖いと思うんだ、千冬さんの眼光
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第二話 飴ちゃんと巻き添え
織斑が出て行ったことで集まる視線だが、もういいです諦めました。 俺はよっぽどなことがない限りここから動かんぞー!とりあえず普通では耐えられないので、寝ようとしたのだが声をかけられた
「ねぇねぇ~、ちょっといいかなぁ~」
「はいはい、何でしょう? えっと、たしか布仏さんだったかな」
「そうだよ~」
俺の目の前で妙に間延びした声で体を揺らしている少女は、布仏本音さん。 妙に間延びした声と萌え袖と言うか、袖がかなり長いので覚えていたが、どうしたのだろうか
「それで、何か用かな?」
「さっき使った扇子、見せてほしいんだ~」
「あぁ、さっき挨拶代わりにやった扇子ね、はい」
「ありがと~」
そう言って俺から扇子を受け取り開いてみたり、裏返してみたりして調べているが何か見つかるわけがない。 まぁ、当たり前だよなー。 本当にタネも仕掛けもなく、こういっちゃなんだが女神の力でやってるわけだし。 ・・・・・・言ってて悲しくなってきたが、こんな宴会芸のようなもので神の力とは......
「本当にタネも仕掛けもないんだね~、体の方にあるとか~?」
「企業秘密」
そうして扇子を受け取り、聞いてくる布仏さんの追及をごまかす。 馬鹿正直に女神の力です、なんて言っても信じてもらえないだろうしな。 言うつもりもないが
「教えられないお詫びと言っちゃなんだけど、これを上げよう」
「飴!」
「かなり甘いよ。 いつも持ち歩いてるんだ、糖分補給にちょうどいいからね」
「甘くておいしいよ~!」
「それはよかった」
飴を食べてゆるゆるの顔になった布仏さんを見ながら、ほっこりしていると予鈴が鳴る
「飴ありがとね、つばっち!」
「つばっち?」
「あだ名!」
どうやらであって数時間であだ名がついたようだ。 翼だからつばっち。 うーん、安直。 悪い気はしないけどね。 そんなことを考えながら授業準備をしていると、織斑たちが帰ってきたようだ。 時間ギリギリまで逢瀬とは、やりますなー。 そのあとすぐに山田先生が教室に入ってきたので気持ちを切り替え、授業に臨む。 授業は山田先生の丁寧な説明とホログラムモニターのおかげで、かなりわかりやすい。 それにこんなのは基本中の基本だ、なので理解できて当然のはずなのだが...... 俺の隣の男子は挙動不審だ。 えぇ、マジですか? これ、あれじゃないか、同じ男だから面倒を見ろなんて言われたらたまったものじゃないのだが。 理解しようとするならわかるのだが、挙動不審なままノートすら取ってない。 基本がわからないのはしょうがないにしても、一応ノートだけでも取っておくと思うのだが。 ちなみに俺はこの手の基本知識は、復習がてらノートにメモを取っている。 さっきも言ったが、山田先生の説明は分かりやすいし、ちょっとしたうんちくは聞いていてためになる。 そんな織斑の様子が気になったのか、山田先生は織斑に声をかけていた
「織斑君、わからないところはありますか?」
声をかけられて肩が跳ね上がる織斑、その様子に気が付かづ山田先生は声をかけている。 私、先生ですからか、優しいな。 その様子に観念したのか織斑は挙手し
「先生...... 全然、わかりません」
と言い放つ。 すると、山田先生は目に見えてうろたえ始める
「えぇ!? 全然ですか...... 皆さん、今のところまででわからないところはありますか?」
山田先生に全員に聞くが、誰も反応しない。 まぁ、ここら辺初級も初級ですからね。 IS学園はそこら辺の高校より偏差値も高いし、このくらいは大丈夫だと思うが。 全員、返事がないのにホッとしている山田先生だが、何故か思い出したように俺のほうを向く
「ええっと、蒼海君は?」
「問題ないですよ? 山田先生の授業とってもわかりやすいですし」
「そうですか? ありがとうございます!」
そんなキラキラした目で見られても、普通の感想言っただけですよ、普通の。 それと織斑、何で裏切られたみたいな顔で見られなきゃいけないんだ。 普通にお前の勉強不足だろうが。 なんというか、本当にこの先大丈夫なのだろうか? そんな俺たちの様子を見かねたのか、教室の前方に座っていた織斑先生は立ち上がり、織斑のほうに歩いていく
「織斑、お前入学前に渡した参考書は読んだか?」
「ええーっと、あの分厚いやつですよね?」
「そうだ、必読と書いてあっただろう?」
「あー、あれですか。 間違って捨てました」
はぁ? あれだけ裏にも表にも必読と書いてあって、何故捨てれるのか。 こいつは本当に大丈夫なのだろうか?
「馬鹿者が。 蒼海、確かお前はもともと整備課志望だったよな」
「はい、そうですけど?」
「ならあの程度、問題ないだろう。 発行するまで織斑に貸してやってくれ」
「えぇー......」
この時の俺は本当に嫌な顔をしていたと思う。 いや、だって捨てたような奴になんで貸してやらなければいけないのか。 完璧に自業自得だし、確かに必要ないとはいえ、あれを見返したりすると結構得るものも多いのだ。 それをみすみす手放すのも嫌なんだが
「何もずっとじゃない、発行するまでの間だけだ、いいな?」
俺が悪いわけでもないのに睨まれる。 はぁ、たぶんここで貸さないなんて選択肢はないだろうし、俺の印象も悪くなるだろう。 俺は渋々参考書を出すと、織斑先生はそれを受け取り意外そうな顔をする。 なんだその意外そうな顔? だがすぐにいつもの表情に戻り、それを織斑に手渡した。 はぁ、本当になんでこうなった
「いいか織斑、一週間以内にそれの知識を全部詰め込め。 いいな?」
「い、一週間? そんなの無理だよ、千冬姉!?」
「織斑先生だ、このバカが。 やれ」
流石の眼光に黙る織斑。 うわー、本当に怖い。 次に俺を見てくるが、参考書貸してやったんだから頑張れよ。 俺は目をそらし、再開した授業の内容をノートに取り始める。 と言うより、織斑って学習しないな。 この前の時間に二回殴られているのに、今回も二回殴られてるし。 そんなあほなことを考えながら授業を受ける
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「一夏、大丈夫だったか?」
「いやー、ほんと千冬姉にも困ったもんだよ」
休み時間にもなり、ようやく一息ついていると、隣で篠ノ之さんと織斑が会話していた。 あー、なんだろ、すさんだ心でこの会話聞いてるのはきつい。 そもそも遠くから修羅場ってるのを見てほくそ笑むつもりなのに、隣でこういう会話されたらたまったものじゃないのだが。 なんてふうに多少行儀は悪いが、机に突っ伏していると隣が騒がしい。 横目で見ると、金髪縦ロールが織斑と話していた。 俺には関係ないと思い、机に突っ伏していたのだが
「ちょっと、貴方にも用があるんですのよ!」
「そんなヒステリックに叫ばないでくれよ...... えっと、オルコットさんだっけ?」
「ヒステリックって、言うに事欠いて!あなたも私を馬鹿にしてますの?」
「いやちょっと、本当に意味が分からないんだけど......」
大方織斑が怒らしたんだろうけど、なんで俺まで飛び火したんだ? 触らぬ神に祟りなし、のごとくかかわらなかったのに。 その織斑もポカンとした顔で見てるが、篠ノ之さんがやばいな、すごい形相でオルコットさんをにらみつけてる。 そっちでけんかになろうがどうでもいいけど、俺のほうまで飛び火は勘弁だ
「まったく、これだから男性は!」
あー、これまたわかりやすい女尊男卑ですね。 くわばらくわばら
「私のような代表候補と一緒なだけでも幸運なのに、なぜそれが分からないんですか?」
その国か、よっぽど親しい国じゃないと代表候補の名前なんか知らないと思う。 俺もIS自体に興味はあっても、操縦者まで興味があるわけじゃないし。 そんなに有名になりたいなら、国家代表になってモンドグロッソで優勝してください。 なおも、俺と織斑の目の前で高らかに演説を続けているオルコットさんの言葉を半分聞き流し、そんなことを考えていた。 なんか織斑が火に油を注いだようだが、これ俺まで飛び火するよなぁ。 織斑に迫っていたみたいだけど、篠ノ之さんに引きはがされてるし。 あ、こっち向いた
「貴方は、貴方はどうなんですの!? 貴方も教官を倒しましたの!?」
「そもそもそんな時間なかったし。 俺が操縦者選考やったのが最終日らしいし、そこから書類やら勉強やらでやってる時間なんてなかった」
「そ、そうでしたの。 まぁ、それなら仕方ありませんわね」
何とか持ち直したオルコットさんだが、正直どうでもいい。 どうやら予鈴が鳴ったらしく、織斑のほうを向いて捨て台詞を吐いていた。 よかった、これで俺には飛び火しなそうだ
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第三話 夢の空へと、takeoff(笑)
本編どうぞー
2018.5.9 誤字の方修正しました。 指摘の方、ありがとうございます
2018.5.12 誤字の方修正しました。 報告ありがとうございます。
結局オルコットさんは毎時間織斑たちに絡んでいたようだが、俺に飛び火するようなことはなかった。 飛び火するようなことはなくても、休み時間ごとに来て隣で騒がれるのもうっとおしいけどな。 そんなわけで昼休憩、俺は食堂にランチに来ていた。 織斑から誘われたが丁重にお断りせてもらった。 さすがに飯時までは騒がないだろうが、癒しが欲しいのだ。 まぁ、食堂に来た時点で視線が刺さっているわけだが。 だが一人でいるわけでもないのでましだ
「よくそんなに食べられるね」
「まぁ男だしね。 俺からしたらよくそんなもので女子は足りるよね」
一人で昼を食べようかとも思ったのだが、そこで声をかけてくれたのが今はなしている相川さんと布仏さんと言うわけだ。 いや、本当に助かった。 正直一人だったら、常時解放されている屋上に食べに行こうと思ってたからな
「お菓子、よく食べるからね!」
「それは貴女だけよ本音......」
「ははは」
まぁ確かに、休み時間いつの間にかお菓子を取り出し、いつの間にか食べ始めてたりするからな布仏さん。 ちなみになぜそんなことを知っているかと言うと、何故かなつかれたらしく休み時間になると飴をねだりに来る。 どうやら気に入ったようだ、この飴。 なんだかこのままだと食い尽くされそうだし、後で補充しておこう
「それにしてもオルコットさんに絡まれて、大変そうだね」
「それは俺じゃなくて隣の席の奴だな」
「でも、たまに絡まれてたよね?」
「まぁ、そうねぇ......」
行儀は悪いとわかってはいるが、箸を咥える。 たいてい寝たふりをして無視するか、布仏さんと喋って無視していたが、本当にどうしよう。 織斑が余計なことして火に油注ぐからな、俺は近いこともあり巻き添えを食らっているのだ。 それに彼女、女尊男卑思考だしな
「もしかして、織斑君と仲悪いの?」
相川さんが聞いてくるが、どう答えたもんかな? まぁ、正直にでいいか
「仲悪いというか、苦手なんだよね、ああいうぐいぐい来るタイプ。 しかも、何故か関係ないはずなのに俺まで被害食いそうになるし」
「そだね~、確かにそんな風に感じることはあるかも」
「あー、参考書とか?」
「それもあるし。 授業中とかね。 一々、一夏に確認取ってるせいか、進みも遅いし」
「なるほどなるほど」
相川さんも思うところがあるのか頷いてる
「ごちそうさまでした」
「「はやっ!?」」
二人は驚いているようだが、いつもこのくらいだ。 別に俺が早食いとかではなく、たぶん二人との一口の差だろう。 いつも他の奴らより少し早いことはあるが。 俺はお茶を飲みながら、気になっていたことを言うことにした
「と言うかさ、よくその袖で食べるよね? 食べづらくないの?」
「え~、今更じゃないかな~?」
「ごめん本音、私も気になってた」
--------------------------------------------
授業も終わり放課後、普通なら速攻帰るのが定石だろうが、俺は違う。 帰りのHRは終わったばかりなので、山田先生はまだ教室内にいる。 と言っても、扉の前なのだが。 俺はその後を追いかける
「山田先生」
「はい、何でしょうか蒼海君」
ちょうど廊下に出たところで、話しかけることに成功した。 流石に止まったまま話すのはあれなので、そのまま歩いて話すことにする
「あの、授業のことなんですけど」
「はい、何かわからないところでもありましたか?」
心配そうに聞いてくる山田先生。 そんなに心配しなくてもいいと思うのだが、山田先生の授業わかりやすいし
「いえ、そういうことじゃなくてですね。 これから学んでいくうちにわからないことが出てくるじゃないですか、そしたら補習と言う形で教えてもらえないかな、と。 もちろん先生が忙しいことは分かってるんですけど、暇な時でいいので」
「っ~~~!!もちろんです!私は先生ですから、頼ってくださいね!!」
瞳をキラキラさせ、よっぽど嬉しいのか止まって俺の両手をとり上下に振る山田先生。 いや、オーバーリアクションでは? 嬉しいのは分かりますが、先生の揺れる部分は健全なる青少年には毒なのですが...... どうしたものかとしばらく考えていたが、山田先生も我に返ったのか恥ずかしそうに手を離してくれた
「す、すみません。 つい嬉しくて......」
「いえ、気にしてませんけど......」
何故か気恥ずかしい雰囲気になる。 うーむ、本当にどうしてこうなった。 とにかく、この雰囲気を払しょくするために、先生に話しかける
「えっと、じゃあ補習の件はOKということでしょうか?」
「それはもちろんです!」
むん!と胸の前に手を合わせ、こちらに迫ってくる山田先生。 女子高ゆえの弊害なのかな、これは? 異性に対して距離が近いというかなんというか。 これ以上考えても沼にはまりそうなので、思考を明後日の方向に投げておいた
「それともう一つ、お願いがあるんですけど......」
「はい、何でしょうか?」
--------------------------------------------
「いよいよか」
俺はカタパルトの上に乗り、射出準備が整うのを待つ。 訓練用アリーナ、基本ISの展開はここでしか許可されておらず、主な使用用途もISの使用に絡むものになる。 俺はその数少ないピットのうちの一つを使い、ISの操作訓練をしようとカタパルトの上に乗っていた。 ちなみに、操作訓練とカタパルトはあまり関係ない。 俺が山田先生に無理を言って、使わせてもらっているのだ
「蒼海君、準備が整いました」
「ありがとうございます山田先生!それじゃあ行こうか、相棒」
俺は今装着しているラファールリヴァイヴに声をかける。 ラファール・リヴァイヴ フランス、デュノア社製の第2世代型IS最後期の機体で、そのスペックは第3世代型初期に劣らない。 操縦しやすく汎用性が高い。 それにより操縦者を選ばないことと、多様性役割切り替えを両立している。 外見上の特徴は、ネイビーカラーをした4枚の多方向加速推進翼である。 別名『飛翔する武器庫』の異名を持っている。 何故リヴァイヴを選んだかと言えば、打鉄は見た目がごつかったからだ。 そもそも訓練機は打鉄とリヴァイヴの二種類しかなく、打鉄を選ばないならリヴァイヴしかないのだ。 そして、何故訓練機かと言われれば、織斑は用意されているようだが、俺はないからだ。 まぁ、憧れはあるけど正直いらない。 さて、それじゃあ行きますか!
「蒼海翼、ラファールリヴァイヴ、行きます!」
カタパルトから発射された俺は、華麗に空を飛ぶことなく、地面に落ちた。 まぁ、ですよねー、わかってた
「きゃー!蒼海君、大丈夫ですか!?」
山田先生の悲鳴が聞こえるが、絶対防御があるので大丈夫です。 とりあえず起き上がり、こちらに走ってくる山田先生に手を振る。 でも一瞬感じた浮遊感、あの感覚は一生忘れないと思う。 俺はこうして、ようやく小さいころからの夢が一歩叶ったのだった。 空は見てないし、すぐに落ちたけどね。 さて、タノシイタノシイオベンキョウノジカンダー
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第四話 これがほんとの夢の空へと、takeoff
2018.5.17 感想にて指摘ありましたので、一部、加筆修正加えました。 晴嵐@AMUZAさん、指摘ありがとうございました
さて、地面とキスしてお約束をしたわけだが、訓練用のアリーナの使用時間は限られている、時間を有効に使わなければ
「一応事前知識としてはイメージトレーニングや調べたりはしてきますたけど、やっぱりいざ実機を動かす、となるとうまくいかないものですね」
「えっと、本当に大丈夫ですか?」
心配そうに俺を見てくる山田先生に申し訳なく思いつつ、基本的な訓練を開始することにした。 まずは歩くことなのだが、これが意外と難しい。 手足も伸び、何と言うか重心や感覚をとりづらいのだ。 それらを補佐するPICやハイパーセンサーは今回の訓練では切っている。 そもそも、いくら延長されたとはいえ手足だ、その感覚がつかめなきゃ、歩行はおろか飛ぶことなんか夢のまた夢だろう。 これに関しては山田先生に言ったのだが、理解してもらえなかった。 少し悲しい。 いや、理解はしてもらえたが、そこまでやる人はいないそうだ。 とにかく、少しずつだが歩けるようになる。 歩けるようになったら走ったりするが、これも問題なくクリアだ。 そしてPICやハイパーセンサーを起動し飛行訓練、と行きたいところだが、次は浮遊に入る。 俺自身は飛行訓練に入ろうと思っていたのだが、山田先生に浮遊して少し感覚を慣らしたほうがいいと言われたためだ。 そんなわけで浮遊しようとするのだが、人間は飛ぶなんてことができない。 そこでイメージが必要となる。 イメージするのは常に最強の自分、ではなく飛ぶ自分だ。 ここら辺は人それぞれらしいが、基本的には自分の前方に角錐を展開させるイメージらしいが...... はっきり言って意味が分からん。 なので、今までイメージトレーニングで使っていた翼をイメージして
「蒼海君、浮けてますよ!」
集中するために目を閉じていたのだが、山田先生の声を受け目を開ける。 数センチだが、浮けていた。 やっぱり翼をイメージしている影響か、浮いたり、降りたりを繰り返しているが。 飛行、と言うわけではないが浮いていることには間違いなく、この浮遊感を忘れないようにしておく。 そうすれば次からは、こうやって浮いたり降りたりを繰り返さないだろうし
「浮いたり降りたりを繰り返してますが、どういうイメージで飛んでるんですか?」
「早い話が鳥とかの羽ですよ。 操縦者はイメージトレーニングが大切、ということで一時期鳥の動きを研究していたことがありまして。 と言っても、すぐに女性しか乗れないことが分かって、体鍛えるだけになりましたけど」
「その研究が今実を結びましたね」
山田先生の笑顔と言葉に少し気恥しくなるが、まぁその通りなので頭を下げる。 こうやって喋ることに意識を割いているにもかかわらず、地面につくこともなく浮いている。 しかも、だんだん上下の浮遊もなくなってきたし。 このまま飛行訓練に入ることにする。 山田先生に聞くとOKサインが出たので、そのまま訓練を開始する。 徐々に高度を上げていき、そこから急降下や急上昇などをしていく。 流石にイメージトレーニングだけでどうこうなる問題ではなく、大変だった。 PICやハイパーセンサーがあるからと言って連続でやるものではなかった。 慣れればこんなこともないのだろうが、吐きそう...... 山田先生曰く、そんなに連続でやったらそうなりますとのこと。 でも、初起動なのにこんだけ動けるのはすごいらしい。 回数をこなしただけあって、急加速や急停止などもできるようになったし、万々歳である。 そんなわけで、次のステップということで、山田先生から提案されたのが瞬時加速である
「瞬時加速、イグニッションブーストとも言うんですけど、IS運用における加速機動技術のひとつとなります。 スラスターから放出したエネルギーを再び取り込み、都合2回分のエネルギーで直線加速を行う技術のことです。 わかりやすく言うのなら、溜めダッシュというところでしょうか。 相手との間合いを文字通り瞬時に詰めることが可能ですが、軌道が直線のみと単純なためタイミングを読まれ安いのが難点です。 それと注意なんですが、加速中に無理な軌道変更を行うと機体と身体に負荷がかかり、骨折などの危険性がありますので、絶対にやらないでくださいね? スラスターが複数ある機体なら個別に使用することで二連加速などの連続使用も可能です。 これは応用になるので、また後で訓練しましょう。 まずはイグニッションブーストを練習しないといけませんからね。 後補足として、これは専用機持ちのとある人の技術ですが、個別連続瞬時加速と言うのもあります」
「なんか説明聞いてるだけじゃわかりにくいですね...... 実際に見せてもらうのとかは?」
「えっと、一応私もできるんですが、流石に訓練機がないので......」
申し訳なさそうに言う山田先生だが、こうやって時間を割いてくれたのだけでもありがたいのだが......
「山田先生のせいじゃないのでそんな顔しないでください。 こうやって空を自由自在に飛ぶ夢がかなったのは、山田先生のご指導があったからですし」
「ありがとう、蒼海君」
「そういえば動画とかないですか? それで動きを見れれば」
「そう、ですね。 少し待っていてください」
そう言ってスマホを操作する山田先生。 何やってるんだろうなー、と軽く飛びながら待つこと数分。 山田先生が興奮した様子で話しかけてきた
「やりましたよ、蒼海君!今ダメもとで、教職員用のデータベースにアクセスしたら瞬時加速を使った試合がありました」
「あ、ありがとうございます」
嬉しそうに言う山田先生だが、俺は内心冷や汗をかいていた。 ダメもとでって、それってグレーゾーンでは? とりあえず試合、これから先にあるクラス代表戦の試合内容なのだが、正直分かりにくい。 いや、画面は鮮明なのだが、いかんせんスマホだから小さいのだ。 一応その後再現してみたのだがうまくいかず、訓練用アリーナの終了時間になってしまった
「うーん...... 明日は訓練機とれるように頑張ってみますね!」
「えっと、明日も教えてくれるんですか?」
俺としては願ったりなのだが、仕事とかは大丈夫なのだろうか? そう思って聞いたのだが、何故か山田先生の表情は暗くなっていく。 えっと、何故に?
「迷惑でしたか?」
「い、いえ、そんなことは!山田先生の解説分かりやすかったですし、ここまで飛べるようになったのもその解説のおかげだと思いますし。 でも、お仕事とか大丈夫なのかなぁ、と」
「大丈夫です!私は蒼海君の先生ですよ、だから遠慮しないでください!」
なんか昭和のような感じで目の中に炎が浮かんでいる山田先生だが、ここは甘えることにした。 俺自身ISに触れていたいというのもあるが、なにより山田先生の教えを請いたいと思ったのだ。 その気持ちを大事にすることにした
「じゃあ、お願いします」
「はい!」
やけにうれしそうな山田先生に押されつつ、俺は待機状態のラファールリヴァイヴに触れる。 これは山田先生に聞いた話だが、近々織斑には専用機が用意されるらしい。 別にそれはいいのだが、他に迷惑がかからなければ。 話はそれたが、俺には時期が時期だったため用意されていないらしい。 訓練機を一機、ずっと貸し出してくれるらしい。 まぁ、苦し紛れの策とも取れないが。 山田先生は謝っていたが、実際俺はいらないので問題ない。 相棒をなでていると、山田先生から声がかかった
「あ、そうだ!寮の部屋の鍵、渡しておきますね。 学園の都合で相部屋になりますけど、ごめんなさい」
「あ、了解です」
寮の部屋のカギを受け取り、そのまま山田先生と別れた
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父さん、母さん、事件です。 なぜか相部屋の子が水色の髪の眼鏡女子でした
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第五話 相部屋は女の子!?
さて、くだらないお話は置いておいて、本編どうぞ~
父さん、母さん、事件です。 なぜか相部屋の子が水色の髪の眼鏡女子でした(二回目)。 ここは同じ事を二回言うくらい動揺していると思ってほしい。 別に古風な考えをしているわけじゃない、この思春期真っただ中の男女が同じ部屋で、間違いが起こらないだろうか? いや、起こるだろう、断言してもいい。 まぁ、相手の子は俺に興味もなく、挨拶をしたら早速自分の作業に戻ったわけだけど。 たぶん、作業しているところを見ると、眼鏡は視力矯正とかではなく、眼鏡型ディスプレイだと思われる。 俺も欲しいと思って買おうと思ったのだが、いかんせん値段がピンキリすぎるし、どれを買っていいかわからなくて断念したわけだが。 そんなわけで、最初に挨拶をしたっきり喋ってくれないルームメイトに話しかけようと思うのだが、あきらかに話しかけるなオーラが出ているため断念する。 シャワーとか、そういう日常生活に必要な相談しをしたかったのだが...... 俺らが来るまでは女子高だったIS学園、男子生徒ように設備が整っているはずもなく、大浴場はあるが使用できるはずもなく、部屋のシャワーしかない。 だが、話しかけるなオーラを出しているルームメイトに話しかけられるほど俺の肝っ玉はでかくないのだ。 仕方なしにキャリーケースからノートパソコンを取り出し、起動する。 ハード方面に強くなるように、プログラミング等をたしなむ俺だが、息抜き程度に機体を考えてたりするのだ。 今回はそれの見直しをすることにした。 せっかく操縦者になったのだ、もしかしたらこの俺の妄想の塊が現実のものになるかもしれないしね。 そんなわけでいじり始めて気が付くと数時間が立っていた。 いつもこんな感じで、いつもなら適当なタイミングで母親が呼びに来たりするのだが、今回はそれがなかったからな。 見ると食堂の使用時間も過ぎてるし、どうしたもんか? 隣を見れば相変わらず作業中のルームメイト、ご飯食べたのか? 一応集中しても周りが見えないなんてことはないが、動いたようには感じなかったが...... とりあえず、なんか適当につまめるもの作ろう。 流石に冷蔵庫などはあるが勝手にあさるのもあれなので、自前の食材で何とかすることにした。 このIS学園、寮生活ということもあり、寮にもかなり金をかけている。 普通に俺のIS学園に来る前に泊まっていた、政府が用意したホテルと同じくらいの豪華さなのだ。 そこに簡易キッチンと至れり尽くせりである。 そんなわけでそのキッチンで料理を始めたわけだが、キャリーバックに入ってるのが食パンとチョコとカ〇ルしかない。 ・・・・・・まぁ、なるようになるだろう。 とりあえず、食パンをフライパンで軽く焼き、溶かしたチョコレートを塗りたくり、粉々にしたカ〇ルをその上に振りかけ、なんちゃってサンドイッチの完成だ!一応料理はできるのだが、今回は食材が悪かったね。 後は適当に飲み物を...... キャリーケースの中に紅茶のティーバックがあったので、それを適当に入れ持っていく。 うん、今回は食材が悪かったよ...... 若干落ち込みながら、ルームメイトの机の上に紅茶とサンドイッチもどきを置く。 すると驚かれた
「えっとさ、もう食堂閉まったみたいだからさ、一応作ったんだ。 まぁ、ありものだから味は期待しないでね?」
「・・・・・・ありがとう」
短くお礼を言うと、俺の作ったサンドイッチもどきを食べ始めた。 それにしても気になっていたのだが、あのヘッドギアみたいなものは何なのだろうか? 髪飾りとか? あんまりじっと見ているのも失礼なので、俺もサンドイッチもどきをを食べながらパソコンをいじり始める。 もともとこれしか材料がなかったのもあるが、こうやって作業しながらを前提で作ったのだ。 さて、今いじっているのはプログラム、それもエネルギー効率関連だ。 でも、独学ということもあり、結局は素人に毛が生えた程度のものだ。 そうやって作業していると、視線を感じる。 ルームメイトからだ。 気になった俺は聞いてみることにした
「えっと、なにかな?」
「あの、その......」
俺を見ていたと思ったのだが、俺が声をかけたらうつむいてしまった。 ふむ、なんだろうか? 視線を感じたということは何か言いたいことがあるんだろうけど、何かわからない。 心当たりがあるとすればサンドイッチもどきがまずかったか、行儀が悪いところか? なんというか彼女、いいところの生まれっぽいし。 所作と言うか雰囲気と言うか、何と言うかそんな感じがする。 そうだとしたら確かに行儀が悪いかもしれない、俺からしたら普通なのだが。 とりあえず、それにあたりをつけ聞こうと口を開く
「えっと......」
だがここで問題が発生した。 俺、ルームメイトさんの名前を知らない。 いやだって、ルームメイトになりました、お世話になります。 って言ったら、無言で会釈して作業に戻ったんだぜ? その後は俺も作業に入っちゃうしさ。 うん、仕方ないね。 そんな風に正当化させても、相手の名前を知らないことには変わりない。 だが、ここで俺はひらめいた。 知らないだったら、知ればいいじゃない。 そんなわけで、ここまでの流れをぶった切って自己紹介を始めた
「俺は蒼海翼、よろしく」
「・・・・・・」
不思議そうな顔をされた。 いや、自己紹介したんだから自己紹介し返してよ。 少し傷つきながらいう
「自己紹介。 お互いに名前も知らないしさ、君とかねぇって呼ぶの不便でしょ?」
「・・・・・・更識簪」
「更識さんね」
「・・・・・・」
すごく嫌そうな顔をされた。 いや、いきなり名前で呼ぶの難易度高いと思うんだ。 だから気を使って苗字呼びにしたのだが、気に入らなかったのだろうか
「簪さん?」
「・・・・・・」
さっきよりはましだが、これも嫌そうな顔をされた。 どないせいちゅーんや。 苗字もだめ、名前もダメ。 あだ名か? あだ名がいいんだな!? だったら呼ぶぞこの野郎!!半場やけくそになりながらあだ名を考えるが、これと言っていいのが浮かばない。 あの少女、飴をあげていきなりあだ名呼びしてきた本音さんならいいのが思い浮かぶんだろうが...... とりあえず俺の貧相な頭ではどうにもならないので、本音さんが考えそうなあだ名で呼ぶことにした
「かんちゃん?」
「え?」
不思議そうな顔をされた。 うむ、今までで一番いい反応だが、なんで不思議そうなのだろうか? まさか、こんなあだ名で呼ぶ人がいるとか?
「だからかんちゃん。 苗字も名前も嫌そうな顔されたから、あだ名ならいいかなーって。 と言っても、俺のクラスメイトならこう呼びそうかなぁって思っただけなんだけど」
「そのクラスメイトって?」
なんか、妙に興味持ってるな。 もしかして本当に布仏さんと知り合いだったりして
「布仏さん。 布仏本音さん、知ってる?」
「本音......」
脱力したように言うかんちゃん(仮)。 どうやら知り合いのようだ、世間て狭いなー
「とりあえず、どうやって呼べばいいかな? さっきも言ったようにさ、君とかねぇとかじゃ不便でしょ?」
「簪でいい」
「なら簪さんで」
こうしてルームメイトさん改め、簪さんと自己紹介を終えた。 どうも簪さんは忙しそうだし、話せるときに話しておいてしまおうと言うことで、次の話題に移る
「それと悪いんだけどさ、同居人と言うわけだし、簡単にルールを決めておきたいんだけど」
「うん」
これにも簪さんは賛成だったのか、基本的なルールを決めていく。 シャワーのことだったり、冷蔵庫のことだったり。 基本的なことは決められたと思う
「それじゃあ最後にこれからよろしく簪さん」
「うん、よろしく蒼海君」
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第六話 ポケ〇ン、ゲッ(ry
2018.6.8 誤字修正しました。 報告ありがとうございます
朝、自然と目が覚める。 ベッドの方はもぬけの殻どころか寝た形跡がなく、机の方に目を向ければ簪さんが机にうつぶせの状態でいる。 とりあえず起きているかの確認ということで近寄るが、肩が上下に動いているところを見ると寝ているようだ。 昨日の夜お休みと言ったはずなのだが、俺が寝た後も作業していたのだろう。 何をやっているのかはわからないが、少し心配になる。 そんな状態の簪さんを放置するのは少し罪悪感を感じるが、ルームメイトと言うだけでベッドに連れて行くのはどうなのだろうと思い、掛け布団をかけておく。 一応メモ書きを置き、俺はそれから着替えを済ませ部屋を出る。 さて、予想外の事態はあったものの習慣とは恐ろしいもので、授業でもないのにグラウンドを走っていた。 習慣、パイロットも入るのだが、整備者希望を出すとなると体力が必要になるだろうと思い、走り込みを始めたのだ。 それももう長いこと続いており、今なお欠かさない習慣だった。 他にも剣術や拳法など、広く浅く習得している俺はそれの確認を行う。 これも体力作りの一環として始めたわけなのだが、まぁ広く浅くなのは、察してくれ。 いつものメニューを軽くこなし、軽く汗をかいたので時計を確認すればそろそろ寮内が込み始める時間だろうか? 汗を拭きつつ、寮に戻るとちらほらと人の姿が。 目立つ前に帰ってこられたようだ。 部屋に戻れば簪さんの姿はなく、俺がした置手紙がぽつんと俺の机の上に置いてあった。 見れば布団ありがとう、との文字が。 これに俺は静かにため息をつく。 どうやら俺の言葉は届かなかったようだ。 メモをくしゃりとつぶし、ゴミ箱に放る。 とりあえず、シャワーでも浴びてすっきりするとしよう
--------------------------------------------
食堂、やはり時間的に混むようだ。 見渡す限り、人、人、人。 昨日は布仏さんや相川さんがいたから気にならなかったが、やばいなこれ。 内心ため息をつくが、メニュー的に外で食べるようなことはできない。 そんなわけで、窓際で死角になっていて、一人で食べられるところを探していると、他の人が制服にもかかわらず一人だけ着ぐるみを着ている人がいる。 しかも全体的に黄色なのに対し、耳の先っぽらへんは黒、特徴的な雷のような尻尾、これは!
「ポ〇モン、ゲットだぜ!!」
「ピッピカチュ~?」
「「いえ~い!」」
俺が振ったネタ、と言うわけではないが乗ってくれたのは布仏さん。 思わずハイタッチをしてしまったことで注目を集めてしまったが、そのまま二人で座れるところに移動、そのまま朝食となった
「いや~、後ろから声をかけられてびっくりしたよ~」
「俺はその服装にびっくりだよ」
メニューについている納豆を混ぜながら、布仏さんと会話を楽しむ。 改めてだが、布仏さんの恰好だ。 食堂にもかかわらず、着ぐるみ。 聞くとパジャマらしく、そのまま来たらしい。 そういうのって女の子だし、気にすると思うのだが。 いや、元々女子高だし...... くだらないことを考えつつ、食事を勧める
「よく食べるね~」
「昨日も言ったが男だしな。 それに、朝はランニングとかしてるから」
「早起きだねぇ~」
昨日も思ったのだが、布仏さんは食べるのが遅い。 本人の雰囲気と言うか、所作と言うか。 とにかく、見た目通りだ。 見た目通りと言えば、立派なのをお持ちだ、どことは言わないが。 すると、布仏さんは体をねじり、俺の視線から逃れようとする。 その行動に疑問を抱くと
「・・・・・・エッチ」
少し恥ずかしそうに言う布仏さん。 ダニィ!? 俺が見ていたことがばれたのか!? まぁ、女性はそういう視線に敏感だというし、ここは素直に謝っておく
「すまん、これをやるから許してくれ」
「む~、一応許してあげる」
少し恥ずかしそうだが、飴を十個献上すると機嫌が直ったようだ。 昨日のお礼で五個、謝罪で五個と言うのが内訳だ。 昨日のお礼で思い出したのだが、ルームメイトである簪さんと知り合いみたいだし、聞いてみることにする
「そだ、話があるんだけどさ、布仏さん、更識簪さん知ってる?」
「かんちゃん? 知ってるけど、どうしたの?」
いつもの間延びした喋りはどこへやら。 いつもは細められている目は、今は開いている。 ふむ、場違いだがこういうきりっとした表情も普段と違ってギャップがあっていいんじゃないだろうか。 そんなことはさておき、質問に答える
「いやさ、ルームメイトになったから」
「そうなんだ~、かんちゃんと仲良くしてあげてね?」
いつもの雰囲気に戻る布仏さん。 うむ、このほうが癒されるしいいね!さて、布仏さんはこういっているが、俺の答えはもちろん決まっている
「答えはNoだ」
「え?」
「布仏さんに言われたから仲良くするわけじゃない、自分の意志で仲良くする」
「・・・・・・ふふ、そっか」
いつものような癒し成分が含まれた笑顔ではなく、無邪気な笑顔を浮かべる布仏さん。 うむ、どうやら満足いく答えだったようだ。 本人はここにいないが、話題は簪さんのことで盛り上がる
「かんちゃんは部屋ではどんな感じなの~?」
「部屋で? まだ一日しかたってないけど、何か頑張ってるのは分かる」
思い出すのは眼鏡型の簡易ディスプレイで何かをやっていた簪さん。 鬼気迫ると言うのだろうか、何がそこまで駆り立てるのかはわからないが
「うん、かんちゃんは頑張りやさんだからね~」
そういう布仏さんの表情は笑顔ではなく苦笑い。 どうやら付き合いが長いだけあって何か知っているようだ
「少し気になったんだが、簪さんは何をやってるんだ? 眼鏡型の簡易ディスプレイで何かやってるのはわかるんだが...... 寝る間も惜しんでやってるぐらいだし、相当大事なことなんだろうが」
「寝る間も惜しんでか~、相当無理してるみたいだね...... ん~、後で話そうか~、時間も時間だし~」
「ん? あぁ、そうだな」
布仏さんに言われ時間を見ると、結構な時間になっていた。 俺はその提案に納得し、すでに食べ終わったトレイを手に立ち上がる。 気が付いたのだが
「布仏さん、今から着替えて間に合うの?」
「・・・・・・」
布仏さんは無言だった。 ついでに言うと顔から笑みは消え無表情。 それもそのはずだ。 織斑先生から爆弾が投下されたからだ。 遅刻したらグラウンド十周。 布仏さんの部屋がどこかは知らないが、今から部屋に戻り着替えて教室に向かう。 女の子は準備に時間がかかるというし、大丈夫なのだろうか? いや、布仏さんの表情を見るにやばそうだが
「まぁ、その、なんだ、頑張れ」
俺は励ます意味も込め、布仏さんの前に飴を一個置いておく。 ちなみに、俺は余裕をもって間に合い、布仏さんは本当にギリギリだった。 来るのがあと数十秒遅ければ、グラウンド十周だった
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第七話 波乱の幕開け
2018.5.16 一夏のセリフ、フランスからイギリスに修正しました。 ぐぎぎ、wiki見て書いてるのになぜ間違ったんだ!
山田先生のわかりやすい授業を聞きつつ、先ほど布仏さんと話していた内容を思い出していた。 簪さんが寝る間も惜しんで頑張っている理由、それは自分の専用機の完成だった。 なんと簪さん、驚くことに日本代表候補なのだそうだ。 なのだが、専用機の開発はされていない。 いや、凍結されたといったほうが正しいのだろう。 倉持技研が開発を担当していたらしいが、織斑の専用機の開発が優先されたそうだ。 本人と布仏さんは抗議したらしいのだがとりあってもらえず、結局元々完成していた七割で放置されたそうだ。 そこから簪さんは一人で組んでいるらしい。 その理由は布仏さんもわからないそうだが、とにかく一人で完成させることにこだわっているらしい。 知らないとはいえ、その凍結に至る要因を作った当の本人である織斑は、先生にあてられへらへらしながら謝っていた。 はぁ...... なんと理不尽なことか
「蒼海君は大丈夫ですか?」
「問題ないです山田先生」
気持ちを切り替え山田先生に答える。 まぁ、織斑に色々と言いたいことはあるが、知らない本人に当たるのは少し酷か。 それよりも簪さんをどうするかだが、どうしたものだろうか? 昔からの付き合いである布仏さんの申し出も断っているくらいだ、ぽっとでの俺が手伝いを申し出ても断られるのがオチだ。 かといって布仏さんも心配しているわけだし、どうしたものだろうか? 授業中、俺はずっとそのことを考えたいた。 もちろん、板書や山田先生のアドバイスはノートに取ってある。 あたりまえだよね!
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「さて諸君、本来なら授業のはずだったんだが、予定を変更し来週に行われるクラス対抗戦の代表を決めたいと思う。 クラス代表とは対抗戦だけではなく、委員会やいろいろなものに出てもらう。 まぁ、クラス長と考えてもらっていい。 自薦他薦問わない、誰かいないか?」
そう言ってクラスを見回す織斑先生。 進んでクラス長など面倒なことなんぞやりたくないが、自薦他薦問わないということは覚悟しなければならない。 男なんて珍しいし、注目の的だろうからな。 少しやる気をなくしながら、周りを見回すと一人の生徒が手を上げた
「はい。 私は織斑君を推薦します!」
「私も!」
この通りだ。 最初に挙げた一人を皮切りに、数人が織斑を推薦する。 果たして自分がやるのを回避するためなのか、それとも珍しさなのか。 たぶん後者だろうなんて思いながら、これは俺も来るかなー、なんて思っていると、案の定だった
「私はつばっちを推薦します~」
「私も蒼海君を推薦します!」
思わず机に突っ伏す。 なぜそこで俺の名前を挙げた布仏さん、しかも推薦した数人に相川さんまで混ざってまでいた始末だ。 これで推薦は俺と織斑の二人なわけだが、織斑が騒ぎ始める
「お、俺!?」
「ふむ。 織斑と蒼海以外誰かいるか? いないならこの二人のどちらかになるぞー」
「ちょ、ちょっと待った!俺はそんなのやらないぞ!」
あほな織斑は織斑先生に意見を言うが、まともに取り合ってもらえるはずもない。 そもそも、聞く耳持たんて感じだし。 そんな感じがしていたから俺は最初からあきらめていたんだが。 だが、それを良しとしない人がいた
「納得がいきませんわ!そのような選出は認められませんわ!!男がクラス代表だなんて恥さらしですわ!このセシリア・オルコットに一年間、屈辱を味わえと言うんですか!?」
オルコットさんだ。 なんとなくこうなる気はしていたが、予想通りになるとは...... さて、そこまで言うなら自薦すればいいはずなのだが、オルコットさんはなおも騒ぎ立てる
「大体、文化も後進的な国で暮らさなければならないこと自体が私にとっては屈辱的だというのに!「イギリスだって対してお国自慢ないだろ。 世界一まずい料理で何年覇者だよ」なっ!?」
「あーぁ」
色々とまずい発言をするオルコットだが、それに負けず劣らず織斑も爆弾発言した。 二人とも頭に血が上っているとはいえ、もうちょっとどうにかならないのだろうか? まぁ、確かに故郷の日本が悪く言われて気分が悪いが、みんな我慢しているのだ。 火に油を注ぐということで、二人の口論はヒートアップしていた。 先生方に目を向けるが、山田先生はあたふたしてるし、織斑先生に至っては口元に笑みを浮かべている始末だ。 止める気はない、と
「美味しい料理はたくさんありますわ!貴方、私の祖国を侮辱しますの!?」
「・・・・・・」
睨みあう織斑とオルコットさん。 これで俺免除されないかなー、なんて思っていると
「決闘ですわ!!」
結局こうなってしまった。 織斑も織斑で乗り気なようだし、どうなるのやら......
「わざと負けましたらわたくしの小間使い...... いえ、奴隷にしますわよ!」
発言がやばいのだが、それくらい頭に来ているのだろう。 まぁ、冗談と言う雰囲気でもなさそうだが。 だが、そんな険悪ともとれる空気は、織斑の一言によって笑いに包まれる
「あぁ、いいぜ? ハンデはどれくらいだ?」
「まぁ、早速ですの?」
「いや、俺がどのくらいつければいいんだ?」
周りの女子の失笑が聞こえるが、俺はそんなのを気にしている余裕はない。 こいつは歴史の授業などを聞いていなかったのだろうか? 日本は男女平等をうたってはいるが、実質は男尊女卑と言っても過言ではなかった。 だがそれは、ISが登場するまでの話だ。 ISが登場したのちは立場が逆転、女尊男卑の完成だ。 確かに素の運動能力など筋肉の付き方などは有利かもしれないが、ISはそんなのを軽く凌駕するものだ。 故に、男子が女子にハンデなどありえない。 女子の失笑もこういう理由だ。 クラスの女子もハンデをつけてもらったほうがいいという声が出ているが、織斑はそれを拒否。 その後オルコットさんも見下したようにハンデを提案したが結局、ハンデはなしと言う結果になった
「そこで関係ないという顔をしているあなたもですはわ! 負けたら奴隷、いいですわね!」
「・・・・・・それは一夏だけじゃないのか?」
「そんなはずないでしょう?」
「大体翼、なんでお前は反論しないんだよ、悔しくないのか!!」
本人たちの話だったはずなのだが、結局俺も巻き込まれた。 織斑なんか、暑苦しく俺に顔を近づけてくる始末だ
「はぁ...... なら言わせてもらうが、二人とももう少し立場を自覚したらどうだ?」
「立場を自覚? どういうことだ?」
織斑は分からないのか首を傾げ、オルコットさんは目で続きを促す
「はぁー...... まず一夏だが、お前の意見は男性代表ととられてもおかしくないんだぞ? それを、相手の言葉が気に入らないからって悪口を言って、子供か」
「でも、それはアイツが」
「お前の意見は聞いてない。 次にオルコットさんだが、君のほうが救えない。 代表候補としての自覚ある?」
「なっ!? そんなもの、貴方に言われなくても!!」
「あるならそんなこと言わない。 男の代表が気に入らないのは分かる。 ぽっとでの男が代表戦なんか出ても、結果は目に見えてる。 勝ちに行くならオルコットさん一択だろうが、何故意見を言う前に自薦しない? 自薦すればそれで済む話だ。 次に君の肩書は? イギリス代表候補だろう。 それが、日本を後進的な国だとか。 君の発言はそのままイギリスの発言ととらえられてもおかしくないことくらいわかるはずだ、これは織斑にも言えることだが。 あと付け加えるなら、この教室のほとんどが日本人だ。 その発言はこのクラスのほとんどを敵に回すわけだが、そこまで考えて発言していたのか? さらに言うなら、その後進的な国の生まれがISのコアを開発し、なおかつ初代モンドグロッソ優勝者も輩出しているわけだが、そこらへんどう思う?」
「・・・・・・」
これにオルコットさんは答えられなかった。 オルコットさんの顔色は蒼を通り越して真っ白になっていたからだ。 まぁ、考えてたらあんなこと言わないもんね。 ご愁傷様
「終わりか蒼海」
「まぁ、一応言いたいことは言いましたから」
「なら時間も押しているしこれで終了だ。 オルコット、織斑、蒼海の対戦は次の月曜、第三アリーナで行う。 各々準備しておくように」
こうして、クラス対抗戦の前に前哨戦、いうならばクラス代表決定戦と言うのだろうか? とにかく、賽は投げられた。 はぁ......まぁ、やれるだけはやるさ。 それと気になったのが、篠ノ之さんと織斑だ。 人のことを殺さんばかりに睨んでいるが、ほぼ自業自得だからな?
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第八話 射撃訓練
「はぁ.......」
今日は食堂でお昼を食べる気分ではなく、購買で適当にサンドイッチを買って屋上のベンチに座って一人で食べていた。 学園に来て二日だが、問題は山積みだった。 ISの操作訓練はもともとやっていたが、これを代表戦用にメニューを組みなおさないといけないし、オルコットさんと一部の女子から反感を買ってしまったようだし。 今回の代表戦、どこかから情報が漏れたのか一部の女子、女尊男卑の連中だろうが、あきらか目がやばい。 都会、コワイ...... クラスの女子なんかは、俺のことを支持してくれるわけなのだが。 あぁ、それと織斑に専用機が来ると予告があった。 俺は知っていたがクラスの女子たちは知っているはずもなく、ちょいちょい騒ぎになった。 それでオルコットさんがフェアだのフェアじゃないだの騒ぎ立てていた。 ちなみにその問題は俺にも飛び火したのだが、俺には専用機がないと知ると見下した表情をしていたが無視しておいた。 関係ない話は置いておいて、一番の問題が簪さんだ。 どうしようか考えてはいるのだが、いい方法が思いつかない
「あ~、見つけた~」
「んぅ?」
考え事をしながら残っていたサンドイッチを紅茶で流していると、布仏さんが声をかけてきた。 はて、何か用だろうか? 四時間目の授業が終わると同時に教室から出て行った布仏さん、どこに行ってたかは知らないが。 ちなみに今回の一件で女子のみんなは仲良くしたいと思ったのか食事に誘ってきてくれたのだが、丁重に断った。 一人の時間が欲しいんです
「探したんだよ~?」
「いや、約束してないし。 布仏さん、四時間目終わったらすぐ出て行ったじゃん」
「かんちゃんなんだけどね」
無視された。 どうも真面目な話なので突っ込み入れないが、不満が残る
「やっぱり手伝わせてくれなかった」
「予想通りと言えば予想通りだけど、なんで俺にそれを報告したの?」
「だってつばっち、かんちゃんのこと心配してるでしょ?」
不思議そうに見られる。 いや、確かに心配してはいるが、ううむ...... とりあえず、布仏さんをなでながら考えをまとめる。 どうやら昼飯を食べるついでに手伝いを申し出たようだが断られたと。 それを俺に報告。 まとめてみたけど意味が分からん!とりあえず、簪さんは専用機の開発にはだれにも手伝ってほしくないようだ。 これ、俺積んでね? やっぱり考えてみるが、いい案は浮かばない
「どうしたもんかなー...... って、無防備すぎやしませんかねー布仏さん」
無許可で撫でていた俺だが、布仏さんはいつの間にか俺の膝を枕にして眠っていた。 その無邪気な寝顔に苦笑しつつ、昼休みが終わるギリギリまで頭をなでておいた。 余談だが起こした時
「ありがと~、つばっち!」
と満面の笑みでお礼を言われたが、それでいいのか布仏さん......
--------------------------------------------
放課後、山田先生に声をかけられて廊下に出ると、今日もアリーナの使用許可が取れたということで早速アリーナに向かった。 しかも、今回は山田先生分の機体も予約が取れたらしく、今日から見本を見せつつ練習ができるというわけだ。 そんなわけで、昨日と同じ訓練用アリーナで練習を始める。 昨日のおさらいを駆け足気味にやると、話し合いを始める
「今日はどうしましょうか?」
「えーっと、代表戦に向けて実技の方もやっていきたいなと。 流石に何も結果を残せず負ける、なんていうのは嫌ですから」
「昨日で操作及び移動の基本は終わりましたから、イグニッションブーストを実演して見せてから武器の特性や扱いについて説明しますね」
「お願いします」
そんなわけで、早速イグニッションブーストの実演をしてもらう。 うん、昨日山田先生が説明しずらそうにしていた理由が分かる。 確かに口頭で説明できるところもあるにはあるし、昨日説明してもらったから理解はしやすいが。ほとんど感覚的なもののほうが大きかった。 実際、説明の意味が見てからわかったような感じだったし。 とりあえず、山田先生に数回実演してもらいイメージを固める。 次は実演だ。 スピード調整をミスって壁に頭から突っ込んだり、今度はスピードが足らなくて地面に激突したりを数度繰り返したが、形になり始めたからは早かった
「成功です!それにかなり安定してますね、流石蒼海君です!」
「いや、山田先生の教えがあってこそですよ」
「いいえ、蒼海君の努力の結果です!」
「いやいや」
「いやいやいや」
「「あはははは」」
流石に二人とも同じことを言っていたら、同時に吹き出してしまう
「それじゃあ二人が力を合わせて、ということで」
「そうですね、そうしないとさっきと同じになってしまいますからね」
二人で笑い合い、納得する。 そうして次に入るのは武器の扱いや、訓練だ
「操作や移動の基本はこれで終了ですし、次は武器の訓練に移りと思います。 武器と言っても色々あって、拳銃やアサルトライフル、ビーム兵器ならビームライフルやビームマシンガンなどいろいろな武器があります。 それぞれの武器にはそれぞれの特性が、簡単に説明はしますけど大丈夫ですか?」
「うーん、まぁ大丈夫かと。 最悪、それぞれの武器の特性をまとめたレポートみたいの自分で作ってもいいですし。 ・・・・・・そこまで時間があれば」
「そういうことなら私に任せてください!」
「いやでも、こうやって訓練みてもらうだけでも申し訳ないのに......」
「気にしないでください!私、蒼海君の先生で師匠ですから!」
「師匠?」
「あ、えっと、私が勝手に言ってるだけなんですけど...... こう見えても私、元日本代表候補で。 でもでも、結局候補どまりですからそこまででもないんですけど、こうやって誰かに教えるのは新鮮で......」
山田先生の言葉に俺は驚く。 驚いたのだが、よくよく考えればそこまで意外ではなかった。 だって動きも経験者のそれで、応用なども結構実践でならためになるものも多かった。 そう考えれば意外でもなく、逆にそんな人が師匠になってくれるならとても心強かった
「じゃあお願いします、師匠」
「ふぇ?」
「武器の特性の件です。 それと、師匠の件も」
「・・・・・・はい!」
この日一番の嬉しそうな返事をする山田先生。 その後武器の使用が始まったのだが
「ふーむ、蒼海君経験者ですか?」
「いや、そんなわけないじゃないですか」
射撃訓練の結果を見て、山田先生はそう口にした。 そんな経験者なわけがない、わけはないのだが
「サバゲーとかも好きだったんでその影響じゃないですかね?」
「なるほど......」
一人頷く山田先生。 まぁ、サバゲーも息抜きと操縦者訓練の一環でやってたんだけど。 競技とかでもものによって銃を使うものもあるわけだし、練習していたのだサバゲーで。 もちろん、銃にも反動があるのは分かっていたので、ガスガンをめい一杯入れて撃ちだすとか、結構無茶なことしてた。 しかも、面白半分で友達と改造していたからか、腕が吹っ飛ぶかと思ったけど。 ちなみにその改造銃、ガスを入れなくても当たるとかなり痛かった。 まぁ、今撃って驚いたのだが、銃によっては反動が全くなかった。 考えてみればそんなものかと納得し、山田先生に向き直る。 流石にモデルガンがないものは命中率低かったが。 グレネードランチャーとか
「こうなると射撃訓練は特に必要なさそうですし、武装の呼び出し速度の向上と、戦闘中の高速切り替えなどが重要になってきますね」
「なるほど」
山田先生の言葉に俺はさっそく実行に移す。 今回、訓練ということでいろいろな武器を借りてきた山田先生、その中で俺はランダムにいろいろな武器を早く呼び出せるようにする。 難しいなこれ
「ごめんなさい。 私、会議で呼ばれているのでこれで行きますね。 武器の特性については、任せておいてください!」
ISを待機状態に戻した先生は、駆け出していくのだが途中でこけそうになる。 なんというか、締まらない先生だ。 武器の切り替えをいったん辞め、最高速を出し山田先生に接近、このままいくと大惨事になるのでスラスターを急いでふかして減速。 山田先生が倒れる前にキャッチする
「大丈夫ですか?」
「すみません、蒼海君」
申し訳なさそうに謝る山田先生に苦笑しつつ、行くように促す。 流石に遅れたら大変だしな。 今度は転ばないように気を付けた山田先生はアリーナを後にして、俺一人になる。 ふむ、良い機会だしもとから予定していたラファールリヴァイヴの整備でもするか。 相棒の展開を部分展開に切り替え、更衣室まで付く間ずっと武器の切り替えの高速化を行っていた
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第九話 前向きに
2018.6.8 誤字修正しました。 報告ありがとうございます
整備棟。 ISの整備等をする建物で、いくつもの部屋があるのだが一部を除いてすべてが埋まっていた。 整備は整備課の生徒たちが主導でやるわけなのだが、何故かいっぱいだった。 一斉点検か? 本当は整備課の先輩たちの技術を見ながらやりたいところだったのだが、空いているところでやることにした。 受付の人に理由を聞いても目をそらすだけで答えてくれなかったのだが。 とりあえず整備はできるということで、移動しながら拡張領域に入っている私物を高速で入れ替える。 こういう時便利だよねIS。 使用方法絶対間違っているけど。 そんなわけで整備室に入るとそこにいたのは、険しい顔をしながらISを調整している簪さんだった。 こりゃまた偶然は重なるものだ。 とりあえず近くまで移動し、使用することを告げる
「簪さん」
「・・・・・・なに?」
「ちょっと隣、使わせてもらうね」
「・・・・・・」
イライラしているのか、会話が終わるとすぐに作業に戻ってしまった。 わぉ、打ち込み四つでやってるよ。 両手両足とか、すごいな。 とりあえずいつまでも見ているのは失礼だし、俺は隣でラファールリヴァイヴを展開し、整備を始める。 一応内部の問題点はリストアップしておいたので、そこから先に始める。 自前のパソコンをつないで、工具を取り出し作業を始める。 別に雑に扱っているわけじゃないのだが、いたるところに問題があった。 装甲もいくつか交換だし、俺が貸してもらう前にちゃんと整備してたのかこれ? 少し整備の雑さに怒りを覚えながら整備を進めていく。 おっと、何か聞きながらやろうかな。 適当にシャッフルでー。 曲を流しながら整備を開始する。 配線系は大丈夫っぽいが、なんでこんなところに砂が入ってるんですかねぇ...... 少し内部を掃除しつつ、問題点をつぶしていく。 パソコンを見てみると、リストアップしていた問題点は順調になくなって来ていた。 ふと視線を感じそちらを見ると
「・・・・・・・」
簪さんが驚くような顔をしてこちらを見ていた。 おや? もしかして気が散ってたかな?
「あー、もしかして邪魔してた?」
「・・・・・・そんなことない、けど。 整備、出来たの?」
「ありゃ? 話してなかったっけ? 元々俺の夢はISの整備関係の仕事に就くことだよ。 さらに言えば、元々はISの操縦者になって空を自由に飛びたかったというのもあるけどね。 青い狸もとい、ネコ型ロボットが出てくるドラ〇もんじゃないけど」
「・・・・・・・」
さらに驚いた顔をする簪さんだが、何故に? そんなに珍しいかな、男で整備関係の仕事目指すの。 まぁ、他の奴らはいなかったけどさ。 その間も流れる音楽に、話すときに邪魔になるから切る。 その際音楽を切ると、簪さんは少し残念そうな顔をする
「と言っても、我流だから少し心配なんだけど.......」
「大丈夫だと思う。 たぶん、そこら辺の整備課の人よりもいいかも?」
頬を掻きながら言うと、意外なことを言われる。 ずっと我流で勉強してからわからなかったけど、簪さん的には良いとの事。 自分でプログラムや、整備ができる人に言われると少し自信が付く
「そう言われると自信が付くかなー。 そうだ、部屋に行ったらさプログラム面も見てほしいんだ。 さっきも言ったように整備関連目指してたからさ、プログラムも組んだりはしてるんだけど見せる人がいなくてさ」
「少しだけなら、いいよ?」
「マジか!ありがとう!さーて、時間も限られてるし、相棒の整備終わらせないとな!」
「私も、やらなきゃ。 音楽はかけっぱなしでも大丈夫、迷惑じゃないから」
「了解」
またも音楽をかけ始め、作業を再開する。 相棒を整備しながら簪さんの様子を伺うと、さっきより顔は険しくなくなっていた。 音楽のおかげでいい気分転換できたみたいだ。 簪さんを見るのをやめ、こっちの作業に集中する。 内部は終わり、後は外回りの整備だ。 と言っても、目で見て怪しそうなところがあれば軽くたたいて確認くらいだが。 そんなこんなで、整備も終わり待機状態に戻す
「簪さーん、俺は終わったけどどうする?」
「・・・・・・私も行く」
そう言って空中投影のウインドを閉じ、こちらに歩いてくる。 簪さんのISはそのままだが、完成してないわけだし待機状態にできないのかな? それについて特に聞くことなく、簪さんが隣に来たのを確認すると歩き始める
--------------------------------------------
整備棟からの帰り、食堂でご飯を食べて部屋に戻る。 食後の一杯ということで紅茶を入れて簪さんに配り、一息ついているとプログラムを見せてほしいと簪さんから言われた。 特に拒否することもなく、と言うか見てほしいくらいなので見てもらう
「・・・・・・」
真剣な表情で俺が組んだプログラムを見る簪さん。 うーむ、待っている時間は居心地が悪い。 しかも真剣な表情を崩さないから、良いのか悪いのかわからん。 そんな、よくわからん状態は数分続いたが、簪さんは目をそらした。 なに? 良いのか悪いのか、はっきりしてくれ!
「ど、どうなんだ?」
「・・・・・・すごいと思う。 独学でここまで組める人なんてそうそういないと思う」
「ほんとか!?」
「うん」
まさかの簪さんからのすごい発言。 これは嬉しい。 だが、簪さんの顔は暗いままだ
「えっと、どうかしたか?」
「ううん、気にしないで」
そう言って自分の机に戻ろうとする簪さんを俺はそのままにしちゃいけないと思った。 気が付いたら簪さんの腕を引いていた
「まった」
「なに?」
その目には明らかな拒絶の色が見えたが、俺はここで引き下がるわけにはいかない。 ここで引き下がったら、何故か手遅れになりそうな気がしたからだ
「気にしないでとか、その顔で言われても説得力ないから」
「貴方には関係ない」
「そうだな関係ない。 でも、はいそうですかって放っておけるほど俺は冷たい人でもないんだは」
「・・・・・・」
睨んでくる簪さん。 うへぇ、なんか余計なことに首を突っ込んだような気がするんだが、ここまで来たら引くに引けない
「布仏さん、心配してたぞ? 俺が無理してるって言ったら。 それに出会って二日だけどさ、毎日こんな具合じゃそのうち倒れるぞ?」
「・・・・・・・」
そう言うと、自分でも思うところがあるのか目をそらす簪さん。 何をここまで彼女を駆り立てるのか、俺はそれが無性に気になった
「なぁ、なんでこんなに無理するんだ? 専用機を早く完成させたい、それもあるんだろうが、それだけじゃないんだろ? なんか、理由があるんだろ? 話してみたら楽になると思う。 嫌なら独り言でもいいけどさ」
そう言って腕を離す。 簪さんはうつむいたままで表情は分からないが、立ち尽くしていた。 だがやがて、力が抜けたように自分の椅子のほうに歩く
「・・・・・・私にはお姉ちゃんがいるの。 一つ上で生徒会長をしてるんだけど」
ぽつぽつと語り始める簪さん。 簪さんの家、更識家は昔から由緒正しい家柄で、厳しかったそうだ。 その一個上のお姉さんは完璧な人で、小さい頃から比べられて育ったらしい。 だがお姉さんはそんなことを気にせず優しかったらしい。 そんなお姉さんを簪さんは好きだったらしいだが、ある日いきなり告げられたらしい。 もう何もしなくていいと。 その日から比べられることはなく、簪さん自身もその言葉かショックでだんだんと疎遠になっていったらしい。 そこにISの凍結が決定。 だが、簪さん自身はこれをチャンスだと思ったらしい。 そのお姉さんもISを一人で完成させているらしく、自分も一人で完成させ、あまつさえ勝負で勝てば姉を超えられるんじゃないだろうか、と。 話は分かった、でも
「簪さんがこれまでどういう思いで過ごしてきたのかはわからないけど、俺は簪さんのことすごいと思うよ?」
「え?」
「だってさ、そんな状況にもかかわらずさ、腐らなかったんだから。 俺だったら腐る自信があるね。 それにさ、君はお姉さんじゃない、それにお姉さんになろうとしなくていいんだ。 簪さんは簪さんだ。 まぁこういってもすぐに気持ちの切り替えはできないと思う。 だからさ、さっさと専用機完成させてお姉さんに挑もうよ。 そこで区切りつけて、お姉さんとの関係、蹴りつけようよ」
ひとしきり俺の言いたいことは言った。 簪さんを見ると泣きそうになりながら、でも顔は笑っていて
「うん、うん!」
笑顔で頷いていた
「ならまずは専用機、完成させないとな。 布仏さんに手伝ってもらえばいいんじゃないかな? 元々手伝う気だったんでしょ?」
「そう、だね。 ねぇ、蒼海君」
「ん?」
「蒼海君も手伝ってくれる?」
少し恥ずかしそうに、遠慮がちに聞いてくる簪さん。 もちろん俺の答えは決まっている
「俺でよければ、よろこんで!」
「うん!」
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第十話 更識簪
朝、いつもの時間通り目が覚める。 隣を見ればベッドには簪さんの姿が。 顔は穏やかだしよく眠っているようだ。 昨日の今日でここまで違いが出るとは、いやいい傾向なんだけどさ。 とりあえず、だ。 いつまでも見ているのは簪さんに悪いし、それに俺の理性が耐えられない。 今も寝ながらなんか艶やかな声が聞こえるし...... 無心で着替えて部屋を出る。 ランニングをしながら思うのだが、この学園はいろいろな意味で男にやさしくない。 体操服とかなんでブルマなんだよ、水着も旧スク水だし。 まぶしいんだよ太ももが、マニアックなんだよ衣装が。 しかもさしかもさ、同室が女子だから発散できないじゃん? 溜まる一方なんだよ!こちとら性少年なんだよ、年頃なんだよ!!だから皆さん、もうちょっと恥じらいと言うか、慎ましさを持ってください
--------------------------------------------
「蒼海君、早く」
「そんなに急がなくても大丈夫だから、ご飯も食堂も逃げないから。 時間は有限だけど」
「そう、時間は有限。 だから早く」
「聞こえていた......だと?」
朝の日課が終わり部屋に帰ると、少しご立腹な簪さんがいた。 昨日の夜は布仏さんを誘うところまでしか話していなかったので、そのことが話をしたかったらしい。 いや、あの、昨日も俺朝出かけてたでしょ、分かるじゃん? そんなこと本人に言えるはずもなく、平謝りしながらシャワーを軽く浴びて着替えて部屋を出る。 食堂に行く廊下を二人で並んで歩きながら、布仏さんをいつ誘うか話していた。 放課後いきなり誘うのもあれなので、朝、または昼のご飯時でもと言う話になった。 まぁ、簪さんは朝から誘う気満々なので、俺は腕を引っ張られながら食堂に向かっているところだ。 なんか視線を感じるのだが、腕を引っ張られているため確認できない。 いつもの好奇の視線ではなく、嫉妬とかそこら辺の視線なのだが。 それでもいいものではない。 食堂について目当ての着ぐるみ人を探すが、見つからない。 見つからないが、萌え袖の制服を発見!
「簪さん、あれ」
「本音!」
俺が指さした方向を見ると、一目散に駆け出す簪さん。 おおぅ、少し遠いがよくわかったな、俺もかろうじてだったのに。 とりあえず長くかかったら朝食を食べる時間もないので、俺は簪さんの分の食事を手にしつつ、早く来てと言わんばかりに手招きしている簪さんの方に向かう。 布仏さんはそんな簪さんの姿に目を丸くしていた。 まぁ、昨日までの態度を考えたら、俺も布仏さんみたいな反応するわ。 合流したのはいいのだが、頬を膨らました簪さんに怒られたでござる
「遅い」
「えぇ...... 理不尽だろ。 とりあえず、簪さんの分」
「つばっち、どういうこと?」
布仏さんが不思議そうな顔で聞いてくる。 まぁ、ねぇ、昨日と今日でここまで変わったのだ、不思議でも仕方がない。 だが俺はそれに答えず、簪さんを見る。 確かな意思を覗かせる瞳で頷く簪さん
「本音、話があるの」
「なに~、かんちゃん?」
「かんちゃんはやめてね、今は」
なんというか癒されたは。 簪さんを見ると、力が抜けたように布仏さんを見ていた。 だが、いい感じに力が抜けたように見えた
「今まで断っておいてこんなこと言うのは虫がいいと思うんだけど、お願い本音!私のIS、完成させるの手伝って!!」
頭を下げる簪さんに、布仏さんは
「簪ちゃん...... うん!うんうん!!かんちゃーん!」
「きゃっ!? 本音?」
「もちろん手伝うよ、かんちゃん!」
「ありがとう、本音」
「仲良きことは美しきことかな、てか?」
俺は日替わりの定食を食べ終え、静かに席を立つ。 なんというか、感動の場面で俺がいるのは場違いなような気がする。 それに、何と言うか見ていて微笑ましいしね。 まぁ、二人が嬉しそうで何よりです。 食器などを返却し、俺はゆっくりと廊下を歩く。 そういえばいつの間にか、嫉妬と言うかジェラシーと言うか、そんな感じの視線が消えていたのだが些末なことか。 少し早めに切り上げたためか、余裕を持って教室前に着いた。 扉を開け、中を入ろうとすると後ろから声をかけられた
「つばっち」
「布仏さん。 簪さんと話しついた?」
「うん」
布仏さんは嬉しそうに笑っていた。 良かったよかった
「それでねつばっち、ありがとう」
「ん? なにがさ」
いきなりお礼を言われて首をかしげていると、嬉しそうに説明してくれた
「かんちゃんの事。 かんちゃんからああやって手伝ってくれなんて、言われるなんて思ってなかったから。 かんちゃんの事、説得してくれたんでしょ?」
「説得ねぇ...... 別に説得なんてしてないよ? ただ、簪さんはただ区切りをつけたいだけどと思うよ?」
「区切り...... お嬢様とのこと?」
「おおぅ...... 本当にいいとこの育ちなのね、まぁいいけど。 そのお嬢様がお姉さんのことを指してるならそうなんじゃないかな?」
嬉しそうな表情から一転、細められた目は前に見たときのように開かれている。 真剣な話のようだ。 やはりと言うか、簪さんが思い詰めていた理由は薄々は感づいていたようだ。 まぁ、いろいろと事情があるから喋らなかったんだろうけど
「かんちゃん、そこまで話したんだ。 うん、でもやっぱりつばっちのおかげだと思う。 だから、ありがとう。 かんちゃん、少し吹っ切れたみたいだから」
「・・・・・・そっか」
俺の言葉でいい方向に向いたのなら、それはよかった
「それと、放課後はよろしくね~」
「そこも聞いたか。 我流だから役に立てるかわからないけど、手伝うと言った手前、やれるところまではやるさ」
「にひひ。 かんちゃんが絶賛してたし、期待してるよ~」
「わーい」
思わず棒読みになてしまう。 いやまぁ、整備とかはできるけど、ISの製作は初めてだ。 いくら途中まで完成しているとはいえ、俺みたいな素人に毛が生えて程度の俺が役に立つのだろうか? やばい、なんかそう考えるとおなか痛くなってきた。 今からでも断ろうか? ぶっ殺されそうな気がするけど。 内心不安に思いながら、教室を空けようと一歩前に踏み出そうとしたのだが、後ろから抵抗を感じた。 見てみると、布仏さんが裾を握っていた。 しかも珍しいことに、萌え袖から手を出していた
「布仏さん?」
「本音」
「ん?」
「本音でいいよ。 これからかんちゃんのISで一緒に作業するし、それにお姉ちゃんいるから」
新情報をゲットした。 お姉さんがいるらしい。 お姉さんも、布仏さんのように、いや、本音さんのようなのだろうか? まぁ、些末なことか
「ならよろしく、本音さん」
「うん!えへへ~」
元気よく頷いた本音さん。 いつものような笑顔ではなく、一回だけ見た無邪気な笑顔だ。 名前で呼ばれたのがそんなにうれしかったのだろうか? 俺を置いて先に教室に入る本音さん
「おはよ~!」
「おはよー。 あれ、本音なんかいつもより機嫌良いね、なにかあった?」
「むふふ~」
「というか、顔赤くない?」
「そんなことないよ~」
教室が少し騒がしい。 こんな教室に入らないとだめですか? ダメですか、そうですか...... 諦めて教室に入ると、何故か本音さんがくっついてきて黄色い歓声があったのだがなんなんだ? どっちにしろ騒がしく、その騒がしさは先生たちが入ってくるまで続いた。 なぜか俺だけ出席簿で殴られたでござる、解せぬ
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第十一話 更識簪と布仏本音
朝から頭をはたかれ、痛む頭をさすることもできず、授業を受ける。 山田先生のわかりやすい解説で今説明されているのは、ISを装着しているときはシールドバリアに守られているということを簡単に説明していた。 それにコアには意志があり、乗った時間や相性などで、相互理解をしながら進化していくらしい。 と言っても、俺の相棒はもとはと言えば訓練機、初期化と最適化などの機能はオフにしてある。 なので意志もくそもないのだが、大事に乗ることには変わりない。 なんたって、空を一緒に飛ぶ相棒だしな
「ですから、ISは道具ではなくパートナーとして考えてください」
ちょうど思っていたことを山田先生が言っていた。 これからもよろしくな相棒。 待機状態のブレスレットにふれ、意識を授業に戻す。 見ると、クラスメイトが山田先生に質問をしていた
「せんせーい、しつもーん」
「はい、なんでしょうか?」
「パートナーってことは、彼氏彼女みたいなものですか?」
その質問を聞いた瞬間、俺は力が抜ける。 いやまぁ、パートナーって言ったらそういう思考になるのは分かるが、あえて聞くことでもないだろうに。 山田先生は経験がないとか言って、最初はワタワタしていたのに今は体をくねらせている。 妄想にトリップしたようだ。 なんというか、訓練の時の厳しい山田先生を知っているせいか、ギャップがすごい。 そんな山田先生を見てクラスメイトはかわいいとか言ってるし。 そしてこの空気についていけない。 あれか、女子高のノリと言う奴だろうか。 元々が女子高だしな、ついていけない。 結局、授業はそのままチャイムが鳴って終了してしまった
--------------------------------------------
「蒼海君、ちょっと」
「はい、何でしょうか?」
四時間目の授業も終わり昼の休憩時、教室を出ようとすると山田先生から声をかけられる。 扉の方から手招きされ、それによって行き廊下に出る。 すると、紙束を渡された
「あの、これは?」
「学園で貸し出しているISの射撃武器類です。 その特性と私のアドバイスが載ってますので、暇なときに目を通しておいてください」
驚いた。 昨日の今日でまとめているとは思わなかったからだ。 とりあえず一枚めくり、目を通す。 走り読みだが、結構わかりやすく、それでいて詳しく載っている。 ここまで作るの大変だったのではないだろうか? しかも、学園で貸し出されている射撃武器全部だし。 山田先生を見てみると、にこにこしながらこちらを見ていた。 ・・・・・・本当に頭が上がらない
「ありがとうございます。 必ず、全部に目を通しますから」
「そ、そこまで気にしなくていいですよ!? 私は生徒の、いいえ。 弟子である蒼海君のお手伝いをしたいだけですから。 早くいかないとお昼ごはん、食べる時間が無くなっちゃいますよ?」
「はい!」
まとめてもらった資料を失くさないようにしっかりと持ち、購買に急ぐ。 もちろん買うのはサンドイッチで、残りの昼休みの時間は山田先生がまとめてくれた情報を読むのに使う。 流石元日本代表候補と言うべきか、使った感じやアドバイスが的確である。 昨日少し調べたのだが、山田先生は現役時代、銃央矛塵(キリングシールド)と呼ばれており、操作技術もすごかったらしい。 そんな山田先生に師事をし、あまつさえ弟子と呼ばれているのだ、これは負けられない。 色々と負けられない理由もあるので、気になったものをメモし放課後聞くことにした。 しかも学園の貸し出し用だ、すぐに貸してもらえるだろうし
「あ!見つけた~!」
「本音、ナイスだよ」
何やら周りが騒がしい。 別に構わないのだが、もう少し声を小さくしてもらいたいものだ。 こうやって山田先生が時間がない中作ってくれた武器の特性を見ているというのに。 まぁ、それは俺の都合か。 あちらには関係ないものだしな。 なんか知り合いの声に似ていたが
「つばっちー!」
「蒼海君!」
な、なんだ!何故か揺れてる、すごい揺れだぞ!? 何で周りが騒がないのか不思議でならない。 屋上、だからなのか? 確かに地震で上から落ちてくるものがないとはいえ、下が崩れたら一貫の終わりだと思うのだが
「「・・・・・・」」
ん? 揺れが収まった、のか? これで集中できると思った矢先、頭をはたかれた
「いたっ!?」
何か首がグキっていきそうだったんだけど!? たたいた奴らに文句を言おうと思い振り向くと、怖い顔をした美少女二人がいた。 本音さんと簪さんだ。 あまりのプレッシャーに俺は怒りを忘れ、下手に出ることにした
「あ、あのお二人とも、何か御用で?」
「さっきからずっと呼んでた」
「無視はひどいよ~」
とりあえずプレッシャーはなくなったが、簪さんは頬を膨らませ、本音さんは少し悲しそうだった。 やばい、さっき呼んでたのは俺だったのか。 てっきり他の人だと思ったのだが、どうしよう...... 正直に俺だと思わなかったと言ったら、それはそれで問題だ
「あー、その、すまん。 これ読んでて気が付かなかった」
そういって山田先生お手製の射撃武器の極意with学園版(勝手に命名したが)を見せる。 嘘は言ってはいない、嘘は。 これを読んでいて気が付かなかったのだ!本当は別の人かと思ってたわけだけど。 効果は抜群で、二人とも射撃武器の極意の方に視線が行く
「これ、なに?」
「うーん...... あ~!今度のクラス代表戦の~?」
「本音さん、正解」
本音さんは同じクラスのため察してくれたようだが、その説明を受けてさらに困惑する簪さん
「えっと、今度あるのはクラス対抗戦じゃないの?」
首をコテンとかしげながら聞いてくる簪さん。 不覚にもときめいてしまったが、気を取り直して説明する
「そうなんだけどね。 ウチのクラス三人も代表が出ちゃってさ、それでその代表を決めるために代表戦を行うわけ。 今でも忘れてないぞー、本音さん!」
「あはは~」
笑って誤魔化しおったぞこの子。 とは言っても、俺ももうそんな気にしていないのでいいのだが。 どっちにしろISの操作訓練はやってたし、その予定が早まっただけだ。 それを聞いて納得したのか、簪さんからはそれ以上追及はなかった
「それで二人とも、何か用?」
「あ~、そうだった~」
「えっと、私の打鉄弐式なんだけど」
「あー、うん。 もちろん忘れてないけど、特訓終わってからでもいいかな? 放課後は忙しくて、自分で言ったのに申し訳ない」
「ううん!手伝ってくれるだけでもありがたいから!それに本音もいるし」
「私に任せろ~!」
頭を下げ謝ると、慌てる簪さん。 その横ではだぼだぼの裾を空に向かって突き出し、やる気を見せる本音さん。 何このカオス、自分で作っておいてなんだが。 それと本音さんには悪いのだが、本当に大丈夫なのだろうか? そこはかとなく不安だ
「む!つばっちが私のこと不安そうに見てる~!」
「いやその、すまん。 とりあえず飴をやろう」
「わ~い!」
対本音さんようの飴を取り出し上げると、一気に上機嫌になる本音さん。 そんな本音さんの様子に簪さんは苦笑しつつ、俺に近寄り声を潜める
「えっと、普段の本音を見てれば不安なのはわかるけど、腕は一流だから。 大丈夫」
「まぁ、簪さんが言うならそうなんだろうね」
不安か不安じゃないかと問われれば不安だが、簪さんが言うのだから信じよう。 そんな風に俺と簪さんが話していると、本音さんは珍しいものを見たような顔をして、笑い始める
「かんちゃんとつばっち、仲いいねぇ~」
「ほ、本音!」
「わ~」
なんか人の周りをぐるぐる回って、鬼ごっこが始まったのだが...... 鬼側の簪さんは顔を真っ赤にしながら追いかけ、本音さんは楽しそうに逃げ回っている。 と言うか、そんなことしてていいのか?
「予鈴、なってるぞ?」
「いかなきゃ~」
「本音!」
そんな二人の後を追いかけながら、俺も教室へと急ぐ。 仲良きことは美しきことかな。 二回目か
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第十二話 時は流れて
2018.6.8 誤字修正しました。 報告ありがとうございます
放課後、今日もアリーナで山田先生と訓練だ。 一応、昼休みと午後の休み時間で特性などは頭に叩き込んだが。 本音さんがことあるごとに話しかけてきて、それを相手しながらだったので不安だ...... 大抵、飴を献上して頭をなでたら静かになったのだが。 そんなことはさておき、山田先生にいくつか気になっていたことを質問し、俺が気になっていた武器を山田先生視点で再度解説などをしてもらい、来るクラス代表戦の武器は決まった。 基本的に中距離ではサブマシンガンなどで弾幕を張り、相手のシールドエネルギー、SEを削っていくのが基本的な戦いだ。 ただ、サブマシンガンでは威力が低いので両手持ちで弾幕を張りながら行くわけなのだが、実弾とビームマシンガンを使う予定なので、山田先生曰くバランスがいいらしい。 まぁ、相手が盾や被弾覚悟で近づいてくるのなら、武器も切り替えをする。 近距離に関しては、ラファールリヴァイヴに元々の装備でついているナイフを数本、シールドや打鉄についている近接ブレード葵を装備する予定だ。 後は予備弾倉などかな? 必要なら拡張領域も余っているので追加していくつもりだ
「これで、武装などは揃いましたので、次は実戦形式で模擬戦をしてみましょう!」
「そうですね。 一応射撃の訓練は昨日やってある程度はなれましたし、実際の試合と同じようにやらないと、いざと言うときに対応できないですからね」
「そういうことです。 それじゃあ、実際にやってみましょう」
互いに距離をとり、カウントを開始する。 俺の武器は実弾のサブマシンガンとビームマシンガン、山田先生はアサルトライフルを持っている。 カウントがゼロになると同時に、俺と山田先生は射撃戦を始めた
--------------------------------------------
「いやー、ボコボコにされたわ。 山田先生、いや、師匠本当に強いわ」
「ほえー、そんなにつよいんだ~やまやま~」
整備室。 山田先生との模擬戦を終えた俺は、相棒をいたわるという意味で整備室にて整備をしていた。 いや、本当にハチの巣にされて、ボコボコにされるとは思わなかった。 サバゲーとかやってるから、少しは当たったものの圧勝された。 もう、あそこまで行くと悔しいとかの前に尊敬する。 悔しくないのかと聞かれれば、もちろん悔しいのだが。 そんなわけで、簪さんとの約束を果たす前に、相棒の整備をするために整備室に来た、と言うわけだ。 簪さんは昨日と変わらずプログラム面の構築、マルチロック関連をやっていた。 本音さんはその横でのほほんとお菓子を食べていたわけなのだが、本人曰く俺を待っていたのとことだった。 それで俺が相棒の整備を始めると、本音さんも手伝ってくれたわけだ。 驚いたと言っては失礼なのだが、本当に本音さんはできる人だった。 少し見直した。 そんなわけで、本音さんが手伝ってくれたおかげで早く終わらすことができ、本音さんにお礼を言いつつ簪さんに声をかける
「いやー、本音さんありがとう。 本当に助かった。 さて、簪さんこっちはいいから打鉄弐式の方をやろう」
「こっちもためになったから大丈夫だよ~」
「ん、分かった。 でも、どうしよっか?」
首をかしげる簪さん。 もともと一人でやろうとしていたためか、予定は綿密には立てていなかったらしい。 と言っても、マルチロックシステムを一から作っているわけだから、予定が立たないのも頷けるのだけど。 大体今のロックオン関係のシステムは、単体ロックが主流でマルチロックはほとんどと言っていいほど進んでいないらしい。 俺も調べてはいるのだが、あまり噂がないかららしいという言葉を使ったのだが。 ともかく、そんなわけで予定は未定だ。 と言っても機体自体はほとんど完成しているので、後は武装とシステム面だけなのだが
「一応機体自体も一回確認しようか」
「え~、なんで~? 完成はしてるし、いいと思うんだけど~?」
「仕事を途中で放り投げるような奴らは信用ならない」
こればっかりは言わしてもらう。 確かに俺は素人に毛が生えた程度だが、それなりにプロ意識と言うか、そういうものはある。 命令だか何だか知らないが、自分たちが作ったものを途中で投げ出す奴らは信用ならないのだ。 プロならば、いやプロだからこそ自分の作ったものは最後まで完成させるのが筋だ。 俺がそういうと、戸惑いながらも簪さんは頷いてくれた
「そう、だね。 本音は機体のチェックしてもらっていいかな? 蒼海君は補佐に入って。 それと私の方の補佐にも」
「わかった~」
「まぁ、プログラム面の構築も俺も一応できるからね、分かった」
役割分担も果たし、機体の整備を始めたわけなのだがやばい。 どのくらいやばいかと言うと、本音さんの笑顔がなくなり無表情になるくらいヤバイ。 俺のパソコンを接続し、装甲の状態などを読み取ってみれば悪いところが多々ある、駆動系を見れば動くのかこれ状態。 一応本音さんによれば、動くことは動くが、動きは悪いし最悪壊れるとのこと。 一番最悪なのが、配線系。 つなぎ間違い当たり前、左足のバーニア関連はショートを起こしていた。 もしこのまま起動して、試験飛行を行った場合間違いなく墜落するという状態だ。 もはやプログラムどうこうではなく、機体自体もオーバーホールをして総点検しないと危うい状態だ。 抗議文はしっかりと送っておくのは当然だが、取りあえずできることをすることになった。 装甲は仕方ないので互換性のある打鉄のものと交換できるものは交換し、配線系は一から接続をやり直す。 そのかいあってか、伝達系が数パーセント上昇と言うのはなんという皮肉か。 駆動系や装甲に関しては予備があるものはいいが、予備のないものは発注になりしばらく時間がかかるとのこと。 もちろん装甲は倉持技研発注ではなく、本音さんの信頼できるところに発注となった
「これ、武装関連倉持技研でいいのか?」
「・・・・・・」
簪さんは無言で、本音さんを見ていた。 本音さんは考え込んでいるのだが
「最悪、パーツ単位で送ってもらって、組み立てはこっちでやるか?」
「うん、大変だけどそっちのほうが確実かも」
本音さんもこれには賛成し、さっそく倉持技研の方に連絡を入れていた。 もちろん今回の事に関しては、簪さんと本音さんで抗議をしていた。 その際に更識に逆らったらどうなるとか会話があったが、俺は何も聞いてない!!電話を切り、どうなったかと言うと、設計図やパーツは二、三日中には届くらしい。 流石にこれは俺たちの手に余るので、本音さんのツテで組み立ててもらえるそうだ。 本音さんパネェ。 設計図とか、自分の武器考えるのは好きだけど、いざ組み立てとなるとためらう。 できなくはないのだが、今回は打鉄弐式の方に集中しないとだし。 まぁ、その打鉄弐式の武装なんだが。 流石に三人ではそこまで手は回らない。 前にも言ったような気がするが、本来ISの製作はチームを組んで行うものだ。 それを三人でやるのだから、手が回らない部分も出てくる。 今回の手伝ってもらうにあたり、簪さんは難色を示すかと思ったのだが、意外にもそんなことはなかった。 そんなわけで始まったIS製作。 いきなり前途多難だった
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朝はトレーニング、昼は学校、放課後は師匠とトレーニングと簪さん、本音さんとIS製作。 そんな毎日を過ごしながら、週明け月曜日。 クラス代表戦の当日だ
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第十三話 クラス代表戦Ⅰ
2018.6.10 話数修正しました
「なぁ箒」
「なんだ」
「ISの事、教えてくれるって話だったよな」
「・・・・・・」
「目をそらすな!」
月曜日の午後、俺たちはアリーナを使用していた。 来るクラス対抗戦の前哨戦、クラス代表戦をするためだ。 するためなのだが、あまりにも緊張感がなかった。 アリーナの控室で自分の順番を待っているのだが、それどころではなかった。 今回のクラス代表戦、総当たりのわけだが試合順は、織斑対オルコット、俺対オルコット、俺対織斑なのだが、織斑の専用機が来ないのだ。 加えて、控室では織斑と篠ノ之さんがいちゃついていた。 織斑は関係を否定しているものの、篠ノ之さんは常と織斑といて手をつないだりしているため、彼氏彼女が通説だ。 クソリア充め、爆発しろ!!関係ない話は置いておいて、緊張感がないのは本当だ。 さっきも言った通り織斑と篠ノ之さんがいちゃついており、俺が集中力や緊張感を保とうとしても邪魔してくるのだ。 そういうのは二人だけの時にやってほしい、ここには俺ともう一人いるのだから。 正確にはモニタールームでこちらを観察している先生二人もいるのだが
「おりむー、大丈夫かなぁ~?」
「知らん。 少なくとも先生には頼んでないみたいだし、ぶっつけ本番になるんじゃないか?」
「不安要素しかないや~」
こらこら、そうはっきり言ってやるな。 クソリア充どものせいで心がすさんでいたが、本音さんの癒し効果で回復してきた。 とりあえず飴をあげて、頭をなでておく。 さて、アリーナも使用時間があるわけで、そこらへんは先生たちはどうするつもりなのだろうか。 まぁ、俺の予想だと
「蒼海、お前が先にやれ」
「まぁ、そうなりますよね」
前座と言うか、織斑の時間稼ぎということになるのだろう。 なんかかませ犬みたいでいやだが。 そういわれると同時に本音さんに離れてもらい、相棒のラファールリヴァイヴを展開する。 すると、相手のISの情報が表示される。 ブルーティアーズ、イギリスの第3世代型IS。 射撃を主体とした機体。 第3世代兵器、BT兵器のデータをサンプリングするために開発された実験、試作機という意味合いが濃い。 BT兵器と言うのは、簡単に言えばファンネルだ。 男としてはそういうの憧れるでしょ!ということで前に調べていたのだが、こんな形で役に立つとは
「蒼海君」
「山田先生?」
射出用のカタパルトに乗ると山田先生の声が聞こえる。 通信機能を使ったのだろう
「今日までの事、思い出してください。 応援してますから」
「はは。 先生が贔屓していいんですか?」
「大丈夫です、プライベートチャンネルですから!」
そういう問題じゃないと思うのだが、いいか。 でも、そうだな
「そう、ですね。 師匠の今日までの教えを思い出して勝ってきます。 ラファールリヴァイヴ、蒼海翼、出る!」
カタパルトから勢いよく射出され、大空へと飛び立つ。 あの時は地面とキスをしたが、すでに空中に浮いて待っているオルコットさんの前まで飛んでいく
「あら、ようやくですの? それに最初は......」
「あぁ、一夏らしいけど、まだ専用機が来ていないらしい」
「そういうことでしたの、まぁ構いませんの。 最後のチャンスを差し上げますわ」
「チャンス?」
目の前にロックの警告が出る。 どうやら、こうやって話している間にもロックをしているようだ
「わたくしが圧勝するのは自明の理、今ここで謝るのなら許してあげないこともなくってよ?」
「・・・・・・」
その言葉を聞いて、俺の思考はクリアになる。 馬鹿にされるのも嫌いだが、これは許せるものではない。 俺がこの戦いを臨むにあたって、山田先生、師匠には仕事が多いのにもかかわらず、多大な時間を割いてくれた。 本音さんや簪さんは、機体の整備を手伝ってくれた。 それをこいつは知らないで、こんなことを言うのだ。 ははは、キレちまったぜ......
「舐めるな。 確かに俺は初心者でISは量産型だ。 でもな、師匠が、友達が、相棒が力を貸してくれてるんだ、俺は負けるつもりはない」
拡張領域からサブマシンガンを呼び出し、オルコットに突き付ける
「そう、それなら、お別れですわね!!」
いきなりの射撃、だが見てからでも避けられる。 山田先生のように早撃ちでもなければ、構えなくても撃てるわけでもないのだ
「なっ!?」
まさか外すと思っていなかったのだろう、呆けるオルコット。 操縦技術もあっちが有利なのは変わりない、この隙に少しでも削っておきたい。 俺はイグニッションブーストで一気に距離を詰め、切り替えをしておいたセミオートショットガンの引き金を引きまくる。 近接ブレード等でもよかったのだが、相手の武器がライフルとビット以外が分からない状態だ。 突っ込むのは得策ではないと判断し、適切な距離からのショットガンを選んだのだ。 まさか俺がイグニッションブーストを習得していると思ってなかったのか、さらに隙があったが、数発撃ちこんだところで我に返り距離を空けられる。 俺はそれに突っ込むことはせずに、適度な距離を保ちつつ、サブマシンガンを連射していく
「あぁ、もう!なんですの!!」
離れない距離にイラついたのか、後ろ向き、つまり俺のほうを向いてバックで飛びながらライフルを撃ってくる。 だが、師匠と模擬戦をした俺に当たるはずもなく、次々と交わしていきながらサブマシンガンを連射する。 相手が冷静じゃないほど俺には勝機が出てくる、適切な距離を保ちつつ射撃をしていく。 サブマシンガンを見ると残弾がそろそろ危険だ、切れる前にサブマシンガンのマガジンを取り換える。 取り換え終わると同時にビームマシンガンがのほうが弾切れらしい。 こちらは内臓エネルギー式の方なので、拡張領域から同じタイプのものを取り出し連射をする
「どうして!当たらないんですの!!」
そりゃあイラついてるから射撃が雑になってるからだよ!なんて、丁寧に教えてやるはずもなく、避けて小さいダメージを負わせていく。 試合展開は若干俺が有利だが、アレは流石に用意できなかったし、アレを使われたら一気に不利になる。 そのためにこうやって付かづ離れずを維持しているわけなのだが
「っ!!ブルーティアーズ!!」
ついに使われてしまった、ファンネル。 四基のファンネルはオルコットを離れ、俺を囲もうと動き出す。 それに対して俺は、それまでの距離を捨て、一気に距離を離す。 離すのだが、背後からのファンネル四基の斉射を避けると、そこから散開してオールレンジ攻撃が始める。 これだ、これを警戒していたのだがこの状態になってしまった。 いくらハイパーセンサーのおかげで視界を確保していたとしても、乗って一週間くらいの操縦者じゃ四基のファンネルの攻撃を避けられるわけがない。 被弾は増えてシールドエネルギーも削られていく
「ふふん、口ほどにもありませんわね。 さっきまでは油断してそこをつかれてしまいましたが、ここからは私の独壇場ですは!踊りなさい、このわたくしセシリア・オルコットとブルーティアーズが奏でるワルツの中で!」
「なら、エンドレスだな!ぐっ!」
減らず口をたたいたものの、今のライフルの直撃でエネルギーが結構削られた。 直撃し、足が止まるがファンネルの攻撃が来ない。 ライフルで攻撃してくるが、ファンネル攻撃は来ないのだ。 手加減をしている? いや、何故この状況で手加減をする必要がある。 独壇場とまで言ったのだ、そんなことするはずがない。 そんなことを考えていると、今度はファンネルが動き出す。 被弾を最小限に抑えつつ、オルコットを観察するがオルコット自身動く素振りは見せない。 まさか、同時操作できないのか? 考えてみると、これまでファンネル操作時ライフルの射撃が飛んできたことがないのを思い出す。 なら、まだ勝ち筋がある!大空から加速し、地面直前で直角に曲がり、地面すれすれを飛ぶ。 予想通り前方、後方、真上からファンネルは攻撃をしてくる。 これで、すこしは死角を失くせた。 地面を這うように飛んでいたのを、ファンネル攻撃の切れ目に体を起こし、急停止。 構えていたアサルトライフルからグレネードを発射する
「なっ!?」
「遅いよ」
グレネードは真っ直ぐオルコットに飛んでいく。 撃ち落とそうと構えるが、もうオルコットのすぐ近くまで来ていた。 これならグレネードでもよかったが、俺の選択は違う。 アサルトライフルをフルオートで撃ちだし、数発がグレネードに当たり爆発する。 と言ってもオルコット自身にはアサルトライフル分のダメージしかない。 俺が撃ったのはスモークグレネード、視界を奪うのが目的だ。 この隙にファンネルを出来るだけ潰す!一番近い動かないファンネルに近接ブレードである葵で切り裂き、次の近場にあるファンネルも切り裂く。 この時点でオルコットはスモークから出てきてはいない
「三つ目!」
「これ以上はやらせませんわ!」
スモークが晴れたのかライフルによる射撃が来るが、それを避け距離を詰めるが、ファンネルの銃口がこっちを向く。 止まれないことはないが、射撃が速すぎて止まっている暇はない。 急停止が使えないのなら、全部のスラスターを右に向け無理やり回避する。 その際かすったが、そこまでエネルギーはとられていなかった。 それを幸いと思ったのかオルコットは自分の近くにファンネルを戻そうとするが、それを俺は許さない。 なにも持っていない左手にハンドガンを展開し撃ち尽くす。 そのうちの数発がスラスターに当たったのかファンネルは爆散した
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第十四話 クラス代表戦Ⅱ
2018.6.10 話数修正しました
「ここまでわたくしがやられるなんて......」
「銃自体はまだあるけど、予備のマガジンは結構使ったし。 ハンドガンとか決め手に欠けるしなぁ......」
お互い武器はほぼわずか。 俺とオルコットは互いの様子を見合い、動かない
「貴方に、言いたいことがあります」
「なに?」
互いににらみつけるように見ていると、オルコットはそんなことを言ってきた。 警戒はするが、話には乗る
「正直言って貴方を見下していました。 ですが、貴方は訓練機でありながらここまで善戦しました。 ですからお詫びします、すみませんでした」
「正直言って見下してるのは知ってたけど、こんな状況で謝られるとは思わなかった。 それと善戦できたのはさっきも言ったけど、師匠と友達のおかげさ」
苦笑していると、オルコットさんも苦笑していた。 お互いさまというところか
「変な空気になってしまいましたが、勝負をつけましょう」
「そうだな」
オルコットは手持ちのライフルを構え、俺は左手に盾を右手にアサルトライフルを構える。 俺のシールドエネルギーもないが、ラファールリヴァイヴが計算したダメージでは相手のシールドエネルギーも少ない。 どっちにしろこの行動で勝負が決まるだろう。 俺たちの雰囲気に、さっきまで盛り上がっていたアリーナの観客席も静かだ。 先に仕掛けたのはオルコットさんで、ライフルを乱射。 あのライフル、エネルギー弾のはずだが連射できるのか? どちらにしろ、動かなきゃやられる。 ライフルの射線を避け、近づきながらライフルを乱射する。 避けられるが広範囲でばらまいているため、数発は当たる。 だが被弾は覚悟の上なのか、構わず撃ち続けるオルコットさん。 なおも俺は撃ち続け、ライフルに当たり暴発する。 俺は盾を前面に構え突撃するが
「ブルーティアーズはもう二個あるのです!」
「ぐっ!!」
今更止まれずそのまま突っ込むと、一発は盾に当たり、もう一発は盾から出ていたライフルに当たる。 ライフルの弾薬に誘爆したのか余計なダメージを受けるが、構わず突っ込む
「きゃっ!?」
「おおおぉぉぉぉ!!」
そのままオルコットさんを吹き飛ばすが、すぐに体勢を立て直しブルーティアーズのミサイルを発射しようとする
「まだ、ですわ!!」
「なめるなぁぁ!!」
盾についている投げナイフをとり、右の発射口に投げ込む。 そのままミサイルは誘爆し、片方のブルーティアーズをつぶす。 もう一方は盾に当たり、盾は砕け散る。 勢いをそのまま近接ブレード葵でもう一方を切り裂き、追撃を与えようとするが避けられそのまま距離を離される。 それを追う俺だが、もうシールドエネルギーがまずい。 一か八か勝負をすることにした
「これで、終わりだぁ!!」
「私にも代表候補としての意地があります。 インターセプター!!」
近接武器を展開したオルコットさん、俺はそれを避けきれないがブレードを体の前に突き出す。 そして試合は
『両者エネルギー0、引き分けだ!』
アナウンスが流れた。 引き分けか...... 悔しいなぁ。 確かにISに乗って一週間ぐらいだが、勝ちたかった。 近接ブレード葵を拡張領域に戻し、そのままゆっくり地上に下降する
「引き分け、ですか......」
「勝ちたかったもんだ」
地上に降り立った俺たちはそれぞれの感想を言う。 どちらも笑い、そして
「素晴らしい戦いでした。 私としても得るものが多かったです、ありがとうございました」
「俺も、いい経験ができたよ。 ありがとう」
俺たち二人が握手をすると、観客席が盛り上がる。 現金なものだな。 俺たち二人は苦笑し、手を離す
「次は勝つ」
「私のセリフですわ」
そういって互いに背を向けて歩き出す
「師匠、すみませんでした。 勝つと言いながら、勝てなくて」
ピットに帰る道、俺は師匠である山田先生にプライベート通信で謝ていた。 試合前は勝つとか言っておきながら、結局勝てなかったのだ
「いいえ、蒼海君は頑張りました。 勝てなかったのは悔しいかもしれませんが、貴方は頑張りました」
「・・・・・・山田先生、これからも俺の練習見てくれませんか。 確かに相棒で戦うのは嫌ですけど、負けたくないのも事実なので」
「ふふっ、私でよければ喜んで!」
嬉しそうな山田先生の声を聴きながら、ようやくピットに着く。 相棒を整備するために脱着する
「つばっち、お疲れ様」
「本音さん、ありがとう」
精神的に疲れていたが、本音さんの癒しに充てられたのか疲れが吹き飛ぶ。 差し出されたタオルとスポーツドリンクを受け取り、相棒にパソコンを接続する。 異常個所等がないか確認するが、大丈夫そうだ。 無理な方向転換でやばいかなと思ったが、許容範囲内のようだ
「休んだほうがいいよ~?」
「まぁこの後試合だからね、異常個所があるんだったら直すかいたわるかしないといけないからね」
そういいつつ、状態チェックを継続する。 隣に座って足をプラプラさせる本音さんに癒されつつ、出番を待つ。 無言の時間だが、全然苦じゃなかった。 これが本音さんの癒し効果か
『蒼海、試合だ準備をしろ』
「了解です」
ラファールリヴァイヴを再度装着し、カタパルトに乗る
「つばっち」
「おう、行ってくる」
声をかけてきた本音さんに軽く手を上げ、再びアリーナに舞い戻る。 反対側からは織斑がこちらに飛んでくる
「さて、始めようか」
「その前に少し話いいか?」
何故か話しかけてくる織斑。 なんだかいつもと雰囲気が違う。 そう、俺をにらみつけてくるときの雰囲気に似ている
「・・・・・・なんだ?」
「お前は何者だ?」
「はぁ?」
警戒をしながら聞くと、予想外な変な問いが帰ってきた。 思わず素で返してしまったが、改めて別に意味で警戒をする。 主に頭のおかしい方面で
「この世界は俺が主人公のはずだ、なのに二人目がなぜいる!!」
いきなり切りかかってくる織斑に、俺は冷静に避けショットガンをたたき込む
「何言ってるんだお前? 頭大丈夫か?」
「俺が、俺こそが主人公だ!お前は邪魔な存在だ!!」
「マジで何なんだお前?」
剣道経験者と聞いていたはずなのだが、太刀筋は素人のそれだ。 それゆえ見切るのはたやすく、避けながらショットガンを全弾叩き込んだ。 弾切れのショットガンを拡張領域に戻し、マシンガンに変えてフルオートで撃ちまくる。 流石に弾がうざいのが顔をかばいながら切りかかってくるが、余計に太刀筋が見やすくなる
「何故だ!何故当たらない!」
「そりゃ簡単な太刀筋だから、な!!」
盾を構え、そのままシールドバッシュで地面の方に押し出す。 そのままグレネードランチャーに持ち替え、容赦なく撃ち込む。 地面に思いっきり打ち付けた影響か動かない織斑に、俺は撃ったグレネードが直撃。 今回はちゃんとしたグレネードだ。 爆発に次ぐ爆発で織斑の姿は見えない。 一応盾と近接ブレード葵を装備する。 にしても、本当になんなんだ? 豹変したみたいだったが、あっちが本当の性格なのか? だとしたらとんだネコ被りだが。 まぁ何にせよ、余計に近寄りたくなくなったが。 煙は晴れ、織斑の姿が確認できた。 織斑は雪片弐型を杖にしながら、周りをきょろきょろしていた。 本当になんなんだアイツは。 よくわからない状況なので、アサルトライフルをフルバーストで撃ち込み
『勝者、蒼海翼。 試合は終了だ。 それぞれはピットに戻るように。』 かなりよくわからず、不完全燃焼のまま試合は終了した。 こうしてクラス代表戦の結果は、一勝ゼロ敗一分だった。 オルコットさんとの試合、勝ちたかったなぁ......
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第十五話 和解
2018.6.10 話数修正しました
『俺は世界で最高の姉さんを持ったよ』
「や、やめてくれー!!」
織斑が叫んでいるが、それには構わずビデオが流されていく。 試合後、俺たちは各自の反省会ということで、試合のビデオを流していた。 アリーナの使用時間がと言っていたが、思いのほか時間が余ったらしく、アリーナの中央にホログラムウインドをでっかく表示し、録画していた試合を流していた。 ちなみにこれが最後で、一番最初は俺とオルコットさんの試合が流された。 織斑先生が試合のいい点、悪い点を説明し、それをわかりやすくかみ砕いた説明を山田先生がしていた。 いやー、自分でもわかっているところはあったが、流石ブリュンヒルデ、気が付かなかったところも言ってくれた。 これは後で山田先生と一緒に問題点を洗い出し、織斑先生が言っていたことも加味して、メニューを組んでもらおう。 そんなわけで織斑先生のありがたーい解説も終わり、アリーナの使用時間も少しということもあって解散になった。 なったのだが
「お待ちください!」
クラスのみんなにオルコットさんは声をかけ、この場に残ってもらう。 なぜか織斑先生と山田先生も一緒なのだが、何なのだろうか?
「皆さんに謝りたいことがあります。 この間のクラス代表を決めるときの不適切な発言、申し訳ありませんでした!」
そういって頭を勢い良く下げるオルコットさん。 いきなりのことに、みんなは目を丸くしていた。 まぁ、俺はさっき謝られたからね、そんなことはないけど。 みんなは目が丸くなってるし、オルコットさんは頭をあげないしで話しが進まない。 山田先生や織斑先生を見るが、俺を見ている。 あー、はいはい。 俺がやればいいんでしょ
「オルコットさん、頭を上げて。 みんないきなりのことで困惑してるから」
「ですが......」
中々頭を上げないオルコットさん、どうやら納得いかないようだ。 どうしたもんかなー、こういう子って自分が納得しないと頭上げないからなー。 とりあえずオルコットさんはそのままに、今度はクラスメイトの方に聞いてみた
「オルコットさんはこういってるけど、みんなはどう思う? オルコットさんのこと許せない?」
みんなに聞いてみるが、返事が返ってこない。 困惑しているっていうか、ほとんどの人が引きずってないのだから、こうやって困っているんだと思うのだが。 そんな中、オルコットさんに近づく影が。 本音さんだ
「セッシー、みんなもう怒ってないよ~? こうやって悪いと思って頭下げてくれたし~、それで十分だよね~みんな~?」
独特な喋り方に充てられてか、みんなまばらだが返事をし始める。 その返事が聞こえたのか、ようやくオルコットは頭を上げる
「皆さん...... ありがとうございます」
再び頭を下げるオルコットさんにみんな苦笑しつつ、いいよーと声をかけていた。 一週間前には考えられない光景だな
「織斑先生、山田先生」
「なんだ?」
「なんでしょう?」
顔を上げたオルコットさんの表情は晴れ晴れしていて、吹っ切れたようだった。 その表情のまま、織斑先生と山田先生に話しかける
「今回皆さんに許されましたが、先の発言のことを考えると私はクラス代表にはふさわしくありません。 ですので、私はクラス代表を辞退します」
クラスの中で驚いた声が上がるが、まぁオルコットさんの性格を考えればそうなるかなと予想していた。 そんなオルコットさんを普通の表情で見る織斑先生と、暖かな笑顔で見守る山田先生。 どうやら異論はないみたいだ
「皆さん、そういってくれるのは嬉しいですが。 今回は辞退させていただきます、ありがとうございます」
そういって笑うオルコットさん。 やはり今回の事は気にしていないらしい。 そして、俺と織斑の方を振り向く
「さっき、試合中や試合前に言いましたが、もう一度。 あなた方のことを侮り見下していました、申し訳ございませんでした」
「いや、俺は気にしてないよ? あの時も言ったけどさ」
「そうそう、俺も翼みたいに気にしてないって」
肩を組んでくる織斑だが、俺はそれを外し織斑に向き直る
「なんで織斑が俺と一緒のスタンスなんだよ」
「え? だって、オルコットは謝ってきたから」
「馬鹿か貴様は」
何もわかっていない織斑にため息をついていると、織斑先生が織斑を怒り始める
「ば、馬鹿ってなんだよ千冬姉」
「今のお前にバカ以外の適切な言葉があるのか? お前はあの決闘が決まった時、オルコットに何を言った? お前はオルコットの祖国を馬鹿にしたんだぞ、その謝罪はどうした」
「あ、そうだった。 こちらこそすまなかったオルコット!」
そういってようやく頭を下げる織斑。 自分の発言に対して、それを気が付かないのはどうなんだ? これから先、織斑との付き合いを考えつつ、オルコットさんを見る。 オルコットさんは一見気にしていないように見えるが、たぶん呆れてるのだろう。 表面上にあらわさないだけましだろう。 オルコットさんは織斑を許しつつ、話が終わったのか一歩下がる
「ちょうどいいからここで聞いてしまうか。 蒼海、お前はクラス代表どうする」
「俺も辞退します。 勉強とかも忙しいですし、放課後もちょこちょこやることがありますので」
「なっ!? そりゃあないぜ翼!?」
織斑がわめいているが、全面的に無視させてもらう。 面倒なのもあるが、今言った理由の大半は本当のことだ。 ただでさえ女子より知識面は遅れているし、ISの整備とかなら自信はあるが。 ともかく勉強に放課後は山田先生との訓練、簪さんの手伝いと忙しいのだ。 正直言ってクラス代表なんぞやっている暇がない
「クラス代表は織斑で決まりだ!なに、敗者の意見は聞かん」
「そ、そんなー......」
織斑先生が強引に決め、こうしてクラス代表戦は幕を閉じた。 織斑先生、それはそれでどうなんですか? 助かりましたけど......
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こういう疲れたときはゆっくり風呂に入りたいものだが、いかんせんそんなことをすれば覗きで警察行きだ。 出来るはずもなく、シャワーを浴び部屋へと戻る。 簪さんはベッドで何かを見ているようだ、何を見ているのやら?
「簪さん?」
「あ、蒼海君。 上がったんだ?」
「まぁ、シャワーだしね。 何見てるの?」
「ん」
そういって見せられたのは、俺とオルコットさんの試合だった。 ちょっと待て、何故これがここにある!撮影は...... 禁止されてないはずだが、ここまで画質よく取れるものなのか!? そんな俺の疑問が分かったのだろう、簪さんは答えてくれる
「山田先生に頼んで、本音がもらったみたい」
「本音さんんんん!!?」
またも本音さんに裏切られたでござる、そこまで気にしてはいないけど。 俺との会話もそこそこに、また集中してみ始める簪さん。 そんなに面白いものかねぇ? 簪さんは日本代表候補だし、見ていてそこまで面白いものじゃないと思うが
「見てて面白い?」
「うん。 イギリス代表候補の人は対策も組めるし、蒼海の動きは参考になる」
「マジか」
純粋に驚いているのだが、簪さんは頷く。 まぁ、参考になるのならいいかな? 俺はパソコンを取り出し、今日吸い出したデータをチェックする。 一応、初期化と最適化はできないがデータをとることはできるのでチェックはしているのだ。 そうして時間をつぶしていると、もう寝る時間になっていた
「簪さん」
「うん」
簪さんは何度も見ていた映像を消す。 なので俺は照明を消し、寝ようとする
「嬉しかった」
「ん?」
「私や本音のために頑張ってくれて」
「あぁー......」
オルコットさんに言われて頭に血が上ったやつか。 今思い出すと少し恥ずかしい
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第十六話 実技授業
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2018.6.10 話数修正しました
いつものように早朝のトレーニングを終え、簪さんや本音さんと朝食を食べ終え登校する。 クラスに入ればクラスメイト達から挨拶をされ、それに返事をする。 この一週間でだいぶ慣れたもので、入学当初ほど違和感は感じない。 少し遅れて登校してきた本音さんをお菓子で餌付けしつつ、朝のSHRの開始を待つ。 担任である織斑先生や山田先生が入ってくれば、みんな席に着く。 最初のうちは騒いでいたというのに、今では織斑先生の教育のたまものか、騒ぐことはなくなった
「さて諸君、おはよう」」
「おはようございます織斑先生!!」
いや、よく考えたら調教された結果か? みんなは声をそろえ織斑先生に挨拶をする。 最初のころは千冬様なんて声も交じってはいたが、織斑先生の教育(口撃)によってちゃんと先生と言うようになったのだ。 あまり変なことを考えるのはよそう、織斑先生が睨んできているし
「んん!昨日のクラス代表戦の時も言ったが織斑がクラス代表に決まった、織斑しっかりやれよ?」
「はい......」
織斑は納得いかないような返事をするが、決まってしまったものは仕方ないのであきらめてもらいたい
「なんか一繋がりで縁起がいいですね!」
「そうだな、それでは授業を始める」
山田先生の言葉にあまり興味を示さず、織斑先生は授業を開始した。 織斑先生の授業、IS関連、それも武器関連については分かりやすいが、それ以外はちょっとなぁ...... 条約とかも、たまに説明が分かりにくいことがあるし。 そんなことを考えていると、なぜか織斑先生に睨まれた。 あー、これは考えるのもやめろということですか、そうですか......
--------------------------------------------
「よし、全員揃ったな!授業を始める」
俺たちは外で授業を受けていた。 体育ではなく、ISの実習でだ。 この時間になると、少しソワソワする女子たちだが、何とかならないものかねぇ...... とりあえず今は実習に集中しよう
「今日は飛行の実演を行う。 オルコット、織斑、蒼海、ISを展開しろ」
「わかりました」
「了解です」
「りょうかい」
専用機持ち、俺は違うが声をかけられそれぞれ展開をしていく。 さて、行きますか相棒。 心で念じるとISが展開され、すぐにでも飛べる状態になる
「さすがですわね」
「まぁ、伊達に放課後動かしているわけじゃないからね」
オルコットさんがほめてくるが、謙遜しておく。 そんな風に俺たち二人は喋っていたのだが、織斑先生が注意してくる
「そこの二人、私語は慎め。 それと織斑、展開にいつまで時間がかかっている、オルコットと蒼海を見習え」
「うっ...... 白式!」
名前を呼ぶことでようやく展開できる織斑、別に名前呼んではいけないなんて言われてないのだから名前を呼べばいいのに。 実際初心者は武器もそうだがイメージがおぼつかないため、名前を呼ぶことで展開できるケースも多い
「よし、次は飛行だ!」
「「「了解!」」」
俺とオルコットが空を飛ぶと、遅れて織斑も飛ぶ。 相変わらず空を飛ぶのは気持ちがいい。 そんな風に風を感じていると、通信が入る
「織斑何をしている、カタログスペックでは白式のほうがその二機より上だぞ」
「で、でも千冬姉」
「織斑先生だ馬鹿者」
流石織斑先生、初心者に厳しい。 と言うか、厳しすぎやしませんかね?
「織斑先生、厳しいですわね」
「だなぁ」
隣で並走しているオルコットさんが話しかけてくる。 織斑が遅い分俺たちがスピードを落としているのだが、それにも追いつかない。 なので、そこまで意識を裂く必要もなく会話も余裕なのだ
「たぶんですけど、貴方がこんなに簡単にできたということも関係してるんでしょうね」
「まぁ、俺はある程度イメージができてたからなぁ......」
夢などの影響か、いろんなことに手を出した俺だ、そのおかげと言うのもあるのだが。 広く、浅く、てな感じかな? 色々姿勢を変えたり、バレルロールをやったりしていた。 やっぱ空を飛ぶのは気持ちいい!あんまりふざけていると織斑先生に怒られそうなので、これ以上はやめておく。 そんなことをしつつスピードを落としていたためか、ようやく織斑が追い付く
「二人とも早いな......」
「これでも遅いくらいだけど?」
「まぁ、織斑さんは乗って少ししか経っていませんから。 むしろこうやって飛行しているのですから、十分優秀だと思いますよ?」
実際、イメージができなくて飛行がすぐにはできない、と言うのはIS乗りではザラらしい。 俺はそんなことなかったが、山田先生が言っていた
「そうか? それはいいんだが、飛行ってどうやってやればいいんだ? 基本では角錐を自分の前に展開、だったか?」
「基本はな? 結局自分の飛びやすいように見つけていくしかないけど」
「そうですわ、イメージは所詮イメージ。自分に合わせなくてはいけません」
「ふーん、そんなもんか」
自分で聞いておいて大して興味のなさそうな返事なのだが、何なんだコイツは...... 別に恩着せようとか思ったわけではないが、興味なさそうに言われると気分が悪いのだが。 オルコットさんも同様なのか、少しスピードを上げる。 飛んでから数分経っているのだが、いつまで飛んでればいいのだろうか? そう思っていると、通信が入る
『そろそろいいだろう、次は急降下だ。 目標は地面から十センチで停止、やって見せろ』
えらく挑戦的な言葉にため息をつきたくなるが、指示には従う。 最初はオルコットさんということで、急降下からの停止。 見事地面から十センチの高さで止まる。 流石は代表候補生
「どうする?」
「どっちでもいいけど、俺から行こう」
「わかった」
本当はどっちでもいいのだが、最後にすると目立つ気がするので先に行かせてもらうことにした。 グングン勢いをつけ急降下、予定地点で体を起こし、スラスターを逆噴射、勢いを殺し停止。 記録は見事に地上から十センチ。 まぁ、このくらいの操縦技術は簡単だ。 実際最高速で急降下し、そのままのスピードで地面に這うような飛行などもしたのだ、それに比べたら朝飯前だ。 ちなみにその飛行、やるのはいいが最初はめっちゃ怖かった。 マジでリアル犬神家になるかと思ったし
「ふむ、オルコットと同じく文句もないくらいの制御だった、これからも精進しろよ?」
「はい!」
織斑先生に褒められたでござる。 この人、滅多なことでは人を誉めないからある意味怖い。 山田先生を見ると、笑顔でサムズアップ。 嬉しいは嬉しいのですが、授業中です。 次は織斑の急降下なのだが
「ありゃあ駄目だな」
「ええ」
俺のつぶやきに反応するオルコットさん。 白式のスラスターなら俺よりも余裕をもって減速できるが、その高さを今超えた。 それに減速するどころか、そのままのスピードだ。 しかもなのだが、織斑制御不能になっているらしく、手を顔の前でクロスして目を閉じていた。 ならなんでそんな速いスピードで急降下したんだよ。 俺の予想にたがわず、地面に大穴をあけ犬神家状態の織斑。 俺はため息をつき、オルコットさんは顔が引きつっていた。 心配そうに駆け寄る女子だが、クレーターの中には入らず周りから見守っていた。 そんな中クレーターに走り、織斑に近寄り影が一人。 篠ノ之さんだ。 篠ノ之さんは織斑を抜こうとするが、抜けないのか一生懸命に引っ張っている。 流石に見ていられないので織斑先生を見ると、片手で顔を隠しながら行って来いという顔で俺を見ていた
「篠ノ之さーん、ちょっとどいて」
「貴様、一夏に何をするきだ!」
俺が織斑に近寄ると明らかに警戒をする篠ノ之さん。 何をするって、別に何もしねえよ。 ただ助けるだけだろうが。 わめいている篠ノ之さんを無視して、俺は織斑の足を持ち引き抜く。 抜けた織斑に抱き着き、涙を流す篠ノ之さん。 やってらんねー、素直な感想だ。 俺はそのままその場を離れて、クレーターの外に出る
「お疲れ様~、つばっち」
「ありがとう本音さん」
ちなみに織斑だが、クレーター埋めを命じられていた。 当たり前だな
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第十七話 転校生?
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2018.6.10 話数修正しました
放課後、いつもより苛烈さを増した訓練は終わり整備棟を目指していた。 いやー、自分でお願いしたけどさ、あそこまで苛烈になるとは。 オルコットさんも見てみたいということで一緒にアリーナに行ったんだけど、オルコットさん顔青くしてたな。 まぁ、当たり前か。 ガトリング片腕二門、計四門に加えて、オブジェクトのミサイル十二門四台、計四十八門プラスオルコットさんのファンネルを避けろだもんな。 そら顔を青くするよ、俺だってビビったもん。 最初は被弾も多かったけど、回数を重ねるごとに被弾少なくなった俺が言うことじゃないけど。 最後はブルーティアーズ以外弾薬切れたから終了っていうお粗末な結果だけど。 ちなみに、その時の俺のシールドエネルギーの残量は二桁。 一発は耐えられても、二撃目以降アウトだった。 まぁ山田先生も何か考えてのことだろうけど、あの弾幕避けきれは流石にひどいと思うの。 そんなわけで結構被弾してしまった相棒を整備するため整備棟に向かっているのだが、女の子が騒いでいた
「もー!!ここどこなのよ!!」
迷子らしい。 触らぬ神に祟りなしということで触れたくはないのだが、ここ人通り少ないしなぁ...... 結局放っておくわけにもいかず、声をかけることにする。 まぁどっちみち、あっちも俺のことを見つけたのかこっちに走ってきてるんだけどね
「ちょっとアンタ!」
「初対面でアンタ呼ばわりはないけど、なに?」
「あ、ごめんちょっと気が立ってて...... あたしの名前は凰鈴音」
「あ、これはご丁寧にどうも。 俺は蒼海翼」
俺が指摘すると凰さんは素直に謝罪をしてきた。 ふむ、思ったよりも悪い人ではないのだろうか? こんなので印象を変えてしまう俺もどうかと思うのだが。 というか凰鈴音ってどこかで聞いたことがあるような気がする
「翼ね、覚えたわ!それで事務室ってどこか知らない?」
「事務室? それは逆方向なんだが......」
どうやら地理もわからずここまで来たようだが、大丈夫なのだろうか? ちなみに今いる現在位置は整備棟が近く、裏道的なところなので事務室とはほぼ真逆だ。 しかもこのIS学園、無駄に敷地がでかいため口頭の説明じゃ必ず迷う。 少し遅れることを覚悟しながら俺は、凰さんを案内することにする
「まぁ、仕方ないか。 それじゃあ凰さんついてきて」
「へ? い、いいわよ口頭で説明してくれれば。 後凰さんなんて言いずらいでしょ? 鈴でいいわよ」
「いや、ここ無駄に広いから...... そんなわけでついてきて、鈴さん」
俺がさっさと歩きだすと、少し遅れて鈴さんが付いてくる。 口ではああいっていたがもう迷いたくないのか、俺の後ろを静かについてくる。 特に話をすることなく案内をし、校舎の前までくる。 ここまでくれば後は口頭で説明しても大丈夫だ
「それじゃあ、後はここから入って右にまっすぐ行けば事務室だから」
「悪いわね、急いでたんでしょ?」
俺に苦笑いしながら言ってくる鈴さんだが、それに俺も苦笑で返す
「まぁ気にしないで。 あそこで知らんふりして行ったら、たぶん後々気になっただろうし」
「まぁ、ありがとね」
「じゃねー」
そう挨拶をして鈴さんと別れた。 早く整備棟に行かなければ!
--------------------------------------------
「織斑君、代表就任おめでとー!」
「おめでとー!」
夜、食堂の一部を貸し切って織斑の代表就任パーティーをクラスのみんなでしていた。 と言ってもクラス以外の、織斑が見たい人もいるのだが。 そんなものは関係なく、織斑は女子に囲まれ盛り上がっていた。 ある意味いいご身分というか、緊張感がないというか。 隣にいる篠ノ之さんが怒っていないのが不思議なくらいだが、そういえば女子が近くにいようが怒っているのを見たことがない。 まぁ、織斑の悪口やなんやらを言ってる連中は射殺さんに睨んでいるのだが。 俺はそんなクラスメイト達を少し離れたところから見ていた。 と言うのも
「・・・・・・」
「かんちゃ~ん、こわいよ~?」
「えっと、彼女は大丈夫ですの蒼海さん」
簪さんが織斑を親の仇張りに睨んでいるからだ。 それ以外にも、あの女子たちのテンションについていけないなどの理由もあるが。 俺みたいに盛り上がれない連中も女子に入るのか、そういう女子は俺たちと同じように離れたところから見ている。 さて、そろそろ簪さんを現実に戻さなくては
「ほれほれ、簪さん。 織斑に悪気どころか事実さえ知らないんだから、睨まない睨まない」
「でも、ああやってへらへらされるのはいい気分じゃない。 それに、クラス代表になったからっていい気になってる」
「ありゃりゃ~、かんちゃんおりむーの事嫌いだねぇ~。 ・・・・・・私もあまり好きじゃないけど」
「こらこら」
俺の注意にオルコットさんは首をかしげているが、ボソッと爆弾発言してからね本音さん。 俺的には、俺に被害がなければ好きなだけ騒いでいてください、って感じだ。 とりあえず、オルコットさんには何故簪さんが織斑を嫌いなのかを説明する
「そんなことが......」
「うん」
「かんちゃんもたいへんなのだ~」
沈んだ空気は本音さんの癒しパワーで何とかなるため、俺は俺で食事をつまんでいく。 といっても、自分で作ったものなのだが。 クラスでパーティーなんて言うから持ち込みかと思えば、食堂で注文式だったらしい。 まぁそれでも、食い物なんかいくらでもあっていいのだが、許容範囲内なら。 料理をぱくついていると、何やら織斑のほうが騒がしい。 何かやったのかと思いつつ、関係ないなら無視を決め込んだのだが、どうやら向こうからやってきたようだ。 カメラを持った女子生徒がこちらに向かってくる。 リボンの色から見て二年生のようだが、何の用だろうか?
「貴方が二人目の男性操縦者で、貴女がセシリア・オルコットさん?」
「そうですが?」
「そうですが、先輩が何の御用でしょうか?」
「あーごめんごめん!私新聞部なんだ、それでインタビューしたいなーと。 後写真も」
新聞部か、なら納得も行くが、インタビューに写真ねー。 オルコットさんはともかく、俺の写真なんて価値がないのでは? 希少価値と言う観点から見ればありだろうが。 なんてくだらないことを考えながら、先輩に言われた通り立ち上がり、オルコットさんと握手をする
「はーい、それじゃあとるよー!」
そう言ってシャッターが切られた瞬間、俺の方に飛びついてくる本音さんといつの間にか隣に並んでいた簪さんが写真に写り込むのだった
--------------------------------------------
「結局、このままだと打鉄弐式、クラス対抗戦には間に合わなそうだなー」
「うん」
ベッドに寝転がりながら、簪さんに話しかける。 簪さんもベッドに寝転がって俺の話を聞いていた
「でも、この分なら代表戦が終わるころには完成する」
「て言っても、マルチロックがなぁ......」
「でも、蒼海君のロックシステムで代用はできるから」
俺のロックシステム。 昔マルチロックをしようとして開発していたが、結局できなくてお蔵入りになったロックシステムだ。 まぁ、マルチロックもどきと言うだけあって、ロックオン関係はできるが処理がクソ重いのだ。 一応マルチロックシステムが組み終わるまで代用で使うという話が付いたのだ
「試験飛行はもう少しでできるし、それが終わったらオーバーホールして装甲とか正規の物に戻して、最終試験か」
「うん」
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第十八話 転校生、後ろ後ろ!
2018.6.10 話数修正しました
朝、何やら教室内が騒がしい。 気にはなるがどうせ関係ないだろうと思いつつ、クラスメイト達に挨拶をしつつ席に着く。 いやー、いい天気だ。 そして俺が空に注目している間に、いつの間にやら本音さんが俺の席の周りをちょろちょろしていた
「どうしたのさ?」
「みんな何の話してるのかと思って~。 あと、おかし頂戴」
なら俺の周りをちょろちょろせずに、話に加わってくればいいだろうに。 本音さん貴様、お菓子が目当てだな!!関係ない考えはさておき、お菓子をたかりに来た本音さんに、一言
「簪さんからあまりお菓子あげすぎないよう言われたし、太るぞ」
「大丈夫~、私太らない体質だから~」
今の発言で教室内が静まり返る。 ありゃりゃ、地雷踏んだみたいですね、本音さんが。 前に購買でお菓子を買っていたら簪さんが偶然通りがかり、なぜそんなにお菓子を買うのか問われたんだが、その時に本音さんの分も買っているといったら大きなため息をついていた。 理由を聞いてみると、昔から家族に注意されていても食べているようで、困っているらしい。 その割には身長とか低くないかと言う話をしたら、簪さんが恨みつらみを言い出したので、そっとその場を離れたのはいい思い出だ。 話はそれたが、太らない体質と言うのは本当らしく、それを聞いた女子たちがやばい。 本音さんのこと追いかけ始めた
「本音ぇぇぇぇぇ!!」
「待ちなさい!!」
「わわわ~」
普通に笑顔で逃げる本音さんは普段通りなのだが、周りの追ってる奴らの形相がやばすぎて不協和音だ。 と言っても追いかけているのは全員ではないので、近くにいた相川さんに話を聞くことにした
「それで相川さん、何の話をしてたの?」
「この状況で普通に聞くんだね...... クラス対抗戦の話。 なんだか転校生が来たらしくてね、それで代表が変わるクラス出るのかなーって」
「そういうことか」
この時期に転校生って、とも思ったが昨日鈴さん案内したばっかじゃん。 そんな俺を含めずに話は進んでいく
「でも、専用機持ちってウチのクラスと四組だけでしょ、余裕じゃない?」
その四組も専用機完成してないからクラス対抗戦は見送るって話だったけどねー。 まぁ、一般に知られてるはなしじゃないし、わざわざ言おうとも思わないけどねー
「それは、どうでしょう。 訓練機でも蒼海さんと言うダークホースがいましたし、油断は禁物だと思いますけど」
「あ、オルコットさん、おはよう」
「おはようございます」
余裕ともとれる発言を遮ったのはオルコットさんで、冷静に分析していた。 まぁ、情報があるのはいいことだし、調べる価値はあるとは思う
「まぁ、わたくしが直々に鍛えているのですから、今回の優勝は余裕だと思いますけどね!」
胸を張って言っているが、どこかおどけたような感じもあるのでよくわかっているようだが、それを余裕ととった人物がいた
「だよな!こうやって強くなってるんだから、今回のクラス対抗戦はいただきだ!」
クラス代表である織斑の発言だった。 周りの女子は頼もしいといってはいるが、俺は心配になる。 オルコットさんを見てみると、失敗したという表情をしているところを見ると、俺と同じ気持ちのようだ
「フーンそんなこと言うんだ、そんな古い情報に踊らされて」
教室の扉が勢いよく開かれ、そちらを見ると逆光で見えないというご都合主義はなく、昨日の迷子事鈴さんがいた
「誰!?」
ノリいいな、おい
「二組も専用機持ちがクラス代表になったのよ!そう簡単には優勝できないから!」
「鈴? お前鈴か?」
どうやら織斑の知り合いのようだ。 ・・・・・・碌な予感がしないのだが、気のせいか?
「どうしたの、つばっち?」
「いや、何でもない」
「?」
いつの間にか追いかけっこも終わったのか、俺の隣にいる本音さん。 なんかもうね、慣れてきている自分がいるは。 とりあえず本音さんは俺を不思議そうに見た後、鈴さんを注目していた
「そうよ!中国代表候補性凰鈴音、今日は宣戦布告に来たってわけ!」
「あぁ、中国代表候補か」
どこかで聞いたことがある名前だと思ったら、だいぶ前に調べたことがあったのだった。 そんな俺のリアクションとは違い、他の人たちは強敵の登場に驚いていた。 いや、俺も驚いているけどね? とりあえず我がクラス代表である織斑の勝率は、ぐっと下がったことは言うまででもない。 あの程度の訓練で強くなったと勘違いしているようだし。 そんな風に俺が冷めた評価をしていると、鈴さんの後ろにやばい人の影が
「志村、後ろ後ろ!!」
「誰が志村よ!昨日自己紹介したでしょ!? いたっ!? なにすんの、よ......」
俺が後ろを指さすが鈴さんには伝わらなかったようで、やばい人に殴られていた。 その名は、千冬大将軍である。 ふざけるな? サーセン。 目で会話をしていると、殴られたことを言おうと思ったのだろう、鈴さんが後ろを向いて文句を言おうとして織斑先生を確認した瞬間、それまでの元気はどこへやら。 だんだんしりすぼみになっていく
「扉をふさぐな馬鹿者が。 もうSHRの時間だ、クラスに戻れ」
「ち、千冬さん」
「織斑先生と呼べ馬鹿者が。 さっさとどけ、邪魔だ」
「す、すみません」
やはり鈴さんも織斑先生が苦手なのか、どけと言われてすぐに謝りながら扉の前からどいた。 織斑先生は教室内に入ってきたが、鈴さんは入り口に立って俺をにらんでいた。 って、俺?
「覚えてなさいよ、翼!!後一夏、また後で来るからね!!」
「次はこれを食らいたいか?」
「ヒィッ!? す、すみませんでしたー!!」
織斑先生が出席簿をちらつかせた瞬間、鈴さんは逃げていく。 あー、やっぱり怖いんだね織斑先生。 昔からの付き合いだと余計なのかな?
「蒼海、次はないぞ?」
「ウィッス」
考えていることをナチュラルに読むのやめてください
--------------------------------------------
お昼前の最後の授業の前の休み時間、俺は本音さんとのほほんとしていた
「つばっちお菓子~」
「ほいよ」
恒例となりつつある飴をやると、上機嫌で舐め始める本音さん。 他の女子も物欲しそうにしていたので、もらってくれる人には上げる。 毎回こんな感じだ
「そだそだつばっち、リンリンとはどこで知り合ったの~? なんか知ってるみたいだけど~?」
「また勝手にあだ名を...... 本人が目の前にいるときは、ちゃんと名前とかで呼べよ? それか許可を取ろう」
「うん!」
返事だけはいい本音さんに苦笑しつつ、俺は会話を戻す
「それで、どこで会ったかだったよな」
「そうだよ~」
「実はあったのは昨日だったんだ」
「きのう~?」
そこから俺は、どこでどんな風にあったのかを説明していく。 と言ってもそんな複雑な話じゃないし、すぐに話し終えるけど。 そしてクラスの半数、聞き耳を立てるんじゃありません。 まぁ、聞かれて困るような話はしてないし、いいのだが。 そんなわけで大した話でもなく、すぐに話し終わる。 聞きたそうにしている人はいるが、質問は受け付けない
「なるほど~」
「納得してもらえたようで何より」
納得してもらえたが、休み時間はまだある。 そんなわけで、話は次の話題に
「リンリン、後で来るって言ってたけど、いつくるんだろうね~」
「この時間も来ないってことは、昼の時じゃないの?」
「だよね~」
適当に相槌を打ちながら、本音さんとのほほんと過ごす休み時間。 あ、いつものことか
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第十九話 噂
2018.6.8 誤字修正しました。 報告ありがとうございます
2018.6.10 話数修正しました
「お昼~」
「まーた甘いものを」
「本音......」
上機嫌でトレイに乗ったパフェを見る本音さんと、それを見て呆れる俺と簪さん。 もはやこれも毎日の光景なので、微妙に慣れてきている自分がいる。 簪さんも最初は口を酸っぱくして言っていたのだが、本音さんがお菓子の誘惑には勝てなかったよ...... と言ったら、膝から崩れ落ちそれ以降は言わなくなったのは記憶に新しい。 誘惑に勝てなかったも何も、言ってるそばからパフェ頼んでたけどな。 そんなわけで三人でいつもの通り座り、お昼ご飯を食べ始める。 たまに、ISの関係など話があるときは、オルコットさんが同席していることもあるが
「うまうま~」
「ほんと幸せそうに食べるな」
「本音だから」
一応サンドイッチを頼んではいるが、何故かパフェから食べ始める本音さん。 幸せそうに食べているのはいいんだが、サンドイッチを作った人がなくから食べないのはなしにしてね? まぁ、大体食べずに俺のところに来るわけなのだが。 相変わらず簪さんといると嫉妬というかジェラシーというか、そんなような視線を感じる。 俺が視線の主を探そうとすると、相変わらずなくなるわけだが。 そんな視線もずっとさらされていたら慣れるもので、もう気にしていない。 さて、食堂の一部が騒がしいが、その中心にいるのは織斑だ。 鈴さんと織斑が再会して話していたわけなのだが、それに篠ノ之さんが気に入らず食って掛かっていた
「篠ノ之さんもよくやること」
「彼女としては~、他の女の子と喋ってることが許せないんじゃないの~?」
「そんなもんか」
俺としては興味がない話なので適当に聞き流していたが、簪さんは真剣な表情でうんうん頷いていた。 女子も大変だな。 そんな俺たちの会話中も篠ノ之さんは鈴さんに食って掛かっていて、いい加減鈴さんも面倒そうだ。 普段から織斑にべったりだからな篠ノ之さん、ある意味鈴さんも可哀想だ
「まったく、うるさくて食事もままなりませんわ」
「オルコットさん」
「セッシーだ~、やほやほー」
どこか疲れた表情のオルコットさん。 どうやらあの近くで食べていたらしく、うるさかったようだ。 ご愁傷様です。 そして本音さんのあだ名に頬を引くつかせているが、何か言うことはない。 と言っても、変えてくれと言ってもかわいいの一点張りで変えようとしないんだけどね。 簪さんは少し頭を下げ食事を再開していた
「それで、近くにいたなら話聞いてたんでしょ?」
「えぇ、まぁ。 一年ぶりの再会に話が弾んでいたようですが、凰さんが織斑さんに操縦を教えるといったところからああなりました」
「なーる。 まぁ、オルコットさんが教えるときも食って掛かってるからね篠ノ之さん。 仕方ないっちゃ仕方ないか」
いまだに言い争っている、と言っても一方的にだが。 ともかく、篠ノ之さんが鈴さんに食って掛かり鈴さんは面倒そうに応対していた。 あ、鈴さんが席を立って、こっちのほうに?
「何事?」
「こっちに向かってきてますわね」
「と言うよりも蒼海君のこと見てる」
こちらにまっすぐ歩いてくる鈴さん。 そして、俺たちの席の前で止まると
「なんなのあの篠ノ之って女?」
何故か俺に聞いてきた
「なんで俺に聞くんだよ......」
「だって、昨日から知ってるし一番話しやすいじゃない」
ごもっとも。 ちょうど俺の隣があいていたからか、隣のテーブルをくっつけ俺の隣に座る鈴さん。 その際、簪さんからの無言のプレッシャーが来るが、なんでなん? 後、視線からも威圧感を感じるんですが、なんで? そんな俺の状況を知らない鈴さんは、目で続きを促してくる
「はぁ...... 俺もそこまでよく知ってるわけじゃないんだ、織斑たちとは喋らないし。 ただ噂だと、付き合ってるらしい」
「はぁ!?」
オーバーリアクションの凰さんだが、その言葉を引き継ぐようにオルコットさんが続きを語ってくれる
「そうですわね、私もそのように聞きました。 休日、腕を組みながら学園内を散歩をしていただとか。 キスをしているところを目撃しただとか」
「な、な、な......」
顔面が蒼白を通り越して白くなってきているが大丈夫だろうか? 鈴さんの様子が少し心配だが、その後を本音さんが引き継ぐ
「でもでも~、しののんはともかくおりむーは否定してるみたいだよ~」
「そ、そうなの? よかった~」
後半の方は小声でよく聞こえなかったが、顔色は何とか回復したようだ
「まぁ噂だからね、本当かどうかわからないけど」
「た、多分嘘よ、嘘に決まってるわ!」
よくわからないが自分に言い聞かせるように言う鈴さん。 うーむ、よくわからないが大変そうやね。 そんなことを考えていると、予鈴が鳴る。 俺は食べ終わってるからいいのだが、他の面々は少し残っていた。あたふたしている間に俺はすっと気配を消し、その場を後にする。 なのだが
「はい、つばっち」
「・・・・・・」
本音さんはついてきていたようだった。 手渡されたのはサンドイッチで、今日も残したのだった
--------------------------------------------
今日も今日とて山田先生と特訓中だ。 昨日のメニューにオルコットさんのファンネルなしだが、反撃不可能なため中々えぐい。 と言っても、ファンネルがない分生き残れる確率は上昇してるけど。 気を抜けば山田先生にハチの巣だ。 こういう訓練を行うにあたって、イグニッションブーストのタイミング、連続使用の見直しなどを進められた。 おかげで回避に余裕はできたが、今度はエネルギー関連の問題が出てくる。 やはりエネルギー消費が激しく、エネルギー切れで動けませんなんてなったら目も当てられない。 なのでそこら辺を上手く考えながら動かないといけないのだが、自動追尾式のミサイルなどはいいが、山田先生が操るガトリングが問題だ。 イグニッションブーストは使用の都合上、直進しかできず見切りやすい。 しかも流石元日本代表候補、イグニッションブーストが切れたところの狙い撃ちなど朝飯前である。 しかもしかも、予想して銃弾置いてくるのでね三駄目である。 やろうと思えば無理やりにでも直線の動きを変えることはできるが、その場合怪我や相棒に無理をさせることになる。 そういう直線的な動きにならないためのテクニックはあるのだが、成功率は低い。 もちろん、こうした実践の中にも取り入れているので成功率はだいぶ上がってきたのだが。 なのだが、やはりネックなのはエネルギーの問題だ。 そこら辺を何とか改善していきたい所存ではある。 やっとの思いで銃弾とミサイルの嵐がやみ動きを止める
「やっぱりオルコットさんのBT兵器があったほうがいいですね。 オルコットさんに協力してもらいましょう。 オルコットさん自体の練習になりますし」
「まぁ、オルコットさんが乗り気なら。 流石に俺の練習のためだけにそんなことしてもらうのも気が引けますし。 それに、俺よりも織斑のほうが問題だと思います」
「そう、ですね。 そこはオルコットさんと相談してみましょう」
まぁ、俺の予想的にオルコットさんは喜んで俺の方の練習に参加しそうだが。 実際、今日の休み時間話していた時も調子が良かったとか、これを続けていけば何かがつかめそうとか言ってたし
「そろそろ時間ですね。 山田先生、今日もありがとうございます」
「いえいえ!蒼海君は飲み込みも速いですし、教えがいもありますから!」
こうして今日も訓練を終える。 また、相棒整備しなくちゃ......
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第二十話 泣き鈴ちゃんなう!
2018.6.10 話数修正しました
夜、食堂でご飯を食べて簪さんがシャワーを浴びるということで、いつもの通り購買によってお菓子を補充した帰り、何かがいた。 それは人一人くらいの大きさで、廊下の隅に居た。 てかぶっちゃけ見覚えがある、鈴さんだ。 膝を抱えているところを見ると何かあったのだろうが、声かけづらい。 いやしかし、ここで声をかけないというのもどうかと思うので一応かけることにした
「もしもーし、どうしたの?」
「グスッ......」
うわー、あきらか首を突っ込んじゃいけないやつだ。 仕方ないが遠回りをして帰ろうと回れ右をして歩き出そうとしたのだが、ズボンに抵抗を感じる。 ほんの少しだが、何かがつかんでいる。 いや、現実逃避はやめましょう。 鈴さんが泣きはらした顔を上げ、俺のズボンのすそをつかんでいた。 本当に、どうしてこうなった!
「泣いている女の子を放っておくなんて、グスッ...... ひどいんじゃないかしら」
「まぁ、そうねぇ...... とりあえず部屋に行こう、ここじゃ目立つ」
自分の購買で買った荷物の他に、鈴さんの脇にあったボストンバッグを持つ。 俺が歩き始めると、鈴さんは俯きながらついてくる。 はぁ、本当にどうしてこうなった...... とりあえず、無心で部屋の前まで来た。 ノックして部屋の中に声をかける
「簪さーん」
「大丈夫」
安全を確認して部屋の中に入る。 ノックしてはいらず、もし着替え中に出くわしたら気まずいどころの話ではなく、即御用問題になる。 なので、俺が部屋に入る際は必ずノックをするようにしている。 もちろん、簪さんもノックしてから入ってきてはいるが。 俺は別に見られて困るわけじゃないけど、お互い気まずい思いはしたくないし。 部屋の扉を開けると、簪さんの姿は見えない。 どうやら奥のようだ。 奥に進むとパジャマ姿の簪さんがおり、髪の毛を拭いていた。 そういうのやめてくれませんかねぇ!? 毎回思うんですけど、俺の理性がゴリゴリ削られるんですよぉ!? 風呂上りということもあり、少し上気した頬、パジャマのおかげでかわいさが出て、おっと客がいるしやめよう。 なんか後ろから冷ややかな視線を感じる。 本音さんもそうなのだが、女の子はみなニュータイプか何かなのかな? それとも俺が顔に出やすいだけなのか
「お帰り、蒼海君。 毎回言ってるけど、別に部屋から出てなくてもいいよ?」
「ははは」
笑って誤魔化しておく。 主にやばいのは俺のリビドーなので、そこらへんは簪さんに説明してもわからないだろうし。 てか下手に説明して、簪さんからごみを見るような目をされたらそれこそ立ち直れない。 さておき、とりあえず拾ってきた鈴さんの紹介をしなければ
「・・・・・・拾ってきた」
「えぇ...... もうちょっと紹介の仕方あったでしょ......」
言われた本人の鈴さんは呆れていた。 いや、泣いていて放っておけなかったとか言ってみろ、それはそれで突っかかってくるだろう君が。 余計なことは言わないが。 驚いて目を丸くする簪さんだが、鈴さんを見て何か察したのか鈴さんを手招きをしていた。 鈴さんは不思議そうにしながら簪さんによって行ったので、俺は紅茶を淹れにキッチンにこもることにした。 淹れてから思ったのだが、鈴さんは紅茶を飲むのだろうか? まぁ、淹れてしまったものは仕方ないよね!開き直って紅茶を淹れて部屋に戻ると、簪さんと鈴さんは話し合いをしていた
「紅茶入ったよー」
「ありがとう」
「アンタ、気が利くのね」
驚いたみたいな目をされるのは地味に傷つくんだゾッ☆ 自分でやってて気持ち悪くなってきた...... 紅茶を置き、向かい側、つまり俺のベッドに座り紅茶を飲む。 つられて簪さんと鈴さんも紅茶を飲み一息つく。 鈴さんの様子を伺ってみると、ある程度は持ち直したようだ
「気を遣わしたみたいね、ありがとう」
「いえいえ、気にしないでくれ。 どっちかと言うと、簪さんにお礼を言うべきでは?」
「もう言った後よ。 紅茶ありがとう、もう落ち着いたし帰るわ」
「またね」
「えぇ、簪もありがとう」
来た時とは違い、元気に帰っていく鈴さん。 元気になったのはよかったが、俺何もしてなくね? 紅茶淹れたぐらいだし......
「それで、結局鈴さんはなんで泣いてたの?」
「・・・・・・鈴が逃げてきた、っていうのもあるけど原因は......」
「あぁ、みなまで言わなくていいその表情で分かった」
また織斑か。 簪さんの苦虫を数匹嚙み潰したような表情で察した。 その後に鈴さんから聞いたことを説明してくれた。 どうも篠ノ之さんとオルコットさんの練習後男子更衣室に差し入れに行ったらしいが、織斑と篠ノ之さんが話しこんでいたため断念。 その後寮の部屋に行ったらしいのだが、篠ノ之さんはおらずチャンスと言わんばかりに少し込み入ったことを聞いたそうだ。 ズバリ、篠ノ之さんと付き合っているのかどうか。 鈴さんも勇気あるなーと思いつつ話を聞いていたが、話はまだまだ続く。 織斑はその問いをのらりくらりと交わし結局答えは聞き出せなかったそうだが、鈴さんは別の話題を攻めたたそうだ。 聞いた瞬間、これは変化球だとか古風だとか思ったが
「酢豚?」
「うん、酢豚」
私の料理がうまくなったら、毎日酢豚を食べてくれる? そう織斑に言ったらしい。 織斑はその約束を覚えていたらしい、しかもその時に雰囲気づくりをしたらしく、鈴さんの顎をとり織斑の方に向かせたらしい。 これには鈴さんも喜ぶと思われたのだが、そこで鈴さんは違和感を感じたみたいだ。 いや、正確には恐怖だろうか。 鈴さん曰くその時の織斑は織斑ではなく、別の人に思えたらしい。 一年くらいあってないわけだし、一年もあれば人が変わるのでは? と簪さんも、織斑の話は嫌ではあるがそこは鈴さんのため、話していたらしい。 だが鈴さんが言うには、あんな一夏見たことがないそうだ。 俺たちは織斑と長い付き合いではないし、普段から関わり合いがないためわからない。 鈴さんもそのことに気が付いたのか、違和感の話はそこで切れたらしい。 それで続きなのだが、鈴さんはそこから逃げ出し廊下で泣いていたらしい
「まぁ、理由は分かった。 でも違和感ねぇ......」
確かに人が変わったように睨んできたり、豹変したことは今まで何度もあった。 いい例がこの間のクラス代表戦だ。 だが俺には判断材料が足らない。 ひとまず、この問題は先送りにすることにした
「本当に、サイテー......」
やはり彼女、彼女じゃないにしても自分の近場に女の子が一人いるのにもかかわらず、別の女の子を口説くという織斑の行為に簪さんは怒っていた。 と言うよりも、元からなかった好感度がマイナスを天元突破したみたいだ。 まぁ、ハーレムは男の夢なんて言うけど、女性からしたらそうですよねー。 まぁ、男の俺でも織斑のはっきりしない態度に嫌悪感を抱くが。 あれだよ、口説こうとしてるのにもかかわらず篠ノ之さんと付き合ってるか明言しないとか。 そこらへん誠意が足らないんじゃない? ハーレム目指す時点で駄目ですか、そうですか...... 俺は誰に謝っているんだろうか? 話はそれたが、だいぶ時間も遅い。 そろそろシャワーを浴びて寝なければ
「なんにせよ、簪さんも織斑には気を付けるように」
「・・・・・・」
無言で睨むのはやめてください、怖いですしHPが削られます
「例のうわさもあるんだしさ」
「噂は噂。 それに私は大丈夫、蒼海君がいるから」
「なんで俺なのさ? まぁ、織斑がそういう目的で簪さんに近づくなら容赦はしないけど。 それじゃあ、シャワーを浴びるから」
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第二十一話 クラス対抗戦
2018.6.10 話数修正しました
盛り上がる観客席、中央にはISが一機。 鈴さん操る甲龍が中央で飛んでいた。 関係ない話だが、某七つの球を集めると呼べる龍ではないらしい、残念。 本人に言ったら呆れられたけど。 クラス対抗戦、その一回戦が始まろうとしている。 鈴さんの相手は我がクラス代表織斑だ。 正直織斑が勝とうが負けようがどうでもいいのだが、山田先生が参考になると言っていたので来た次第だ。 後は、学食デザート半年間無料パスが魅力的か。 よし、織斑勝ちあがれ。 熱い掌返しをしていると、隣の簪さんが話しかけてきた
「勝てると思う?」
「わからん。 俺練習関わってないし。 そこのところどうなの、オルコットさん」
後ろに座っていたオルコットさんに声をかける。 と言っても、オルコットさんもこっちの練習に合流してたから、最初の方しかわからないと思うけど
「もしかしたら勝てる、かもしれませんわね」
「お~? セッシー、意外と評価高い?」
「ただ鈴さんの実力が分からないだけ、とも申しますわ」
つまり望み薄と。 代表候補同士情報集めに余念がないのかとも思うが、常に最新のものを集められているわけでもないし、そこらへんは測れないという意味なのだろう。 アナウンスが入り、織斑がピットから飛び立ち中央へ。 一言二言言葉を交わしたみたいだが、試合開始のブザーが鳴る。 二人とも武器を呼び出し、きりあ?
「卍解かな?」
「刃物の数が足らない」
俺のつぶやきに反応する簪さん。 俺は驚き簪さんのほうを向くと、簪さんもこちらを向いていた。 これは同士の目だ、アニメの同士だ。 特に会話はなかったが、通じ合った瞬間だった。 視線を試合に戻し、試合を観戦する。 するのだが、鈴さんは拡張領域からもう一本の青龍刀を呼び出した
「これで巨大な刃物を持っていたら完璧なのに!」
「とっても惜しかった」
「???」
試合とは別のところで盛り上がる俺たちを、簪さんとは反対側に座った本音さんは不思議そうに見ていた。 まぁ、知らない話ならこういう反応になるよね。 本音さんをなでつつ、頭の片隅でそんなことを考えていた。 試合は変わらず、織斑が逃げて鈴さんが切り込みながら追いかけていく、と言う試合展開が続いていた。 正直言って見飽きたのだが、周りは盛り上がている。 ここで鈴選手、刀を連結して連結した刀を巧みに使い連続攻撃に出たぁ!一人実況ごっこも意外と虚しかった
「何で肩の棘を使わないんだろう。 ショルダーアタックって割と有名だと思うけど」
「刺さるからじゃないかな~」
「そういうことじゃないと思いますわよ!?」
なるほど、確かに本音さんの言うことにも一理ある。 絶対防御があるとはいえ、あんなものでショルダーアタックをされたらひとたまりもない。 オルコットさんの声は聞こえないよ~。 なんだか距離を離そうとしているようだが
「距離を離そうとしてるみたいだけど、遠距離武器がないわけがない」
「俺もそう思う」
そう俺と簪さんが評価をしていると、アリーナの壁に何かが着弾した。 正確には客席を守るためにシールドバリアーをより強固にしたもの遮断シールドを使用しているらしいが
「アレが龍咆」
「し、知っているんですかオルコットさん!?」
「え、えぇ......」
俺のオーバーリアクションをちょっと引きながらも、説明をしてくれた。 龍咆。 中国の第三世代兵器で空間自体に圧力をかけ砲身を作り、左右の翼から衝撃を砲弾として打ち出す衝撃砲。 肩の棘がそうみたいだ。 しかも砲弾だけではなく、砲身すら目に見えないのが特徴で、砲身の稼動限界角度はない。 らしい
「目に見えないから避けるのも難しい」
「そうか? なんとなくわかるぞ?」
「「「え?」」」
俺がそう言うと簪さん、本音さん、オルコットさんは不思議そうな顔をしていた。 俺そんな変なこと言ったか? 射角に限界はないといっても拡散弾ではないみたいだし、正面にしか撃ってない。 なら相手の目線を見て、撃つタイミングさえわかれば避けられると思うんだが。 よく見れば撃つ前に棘がかすかに揺れてるし
「うん、ごめん。 そんなことできるの蒼海君だけだと思う」
「えぇ~、ほんとにござるか~? 別に煽ってるわけじゃないけど」
「つばっちってさ、たまに人間やめてるときあるよね」
何それ酷い。 確かに体育の時間、走る競技とか織斑を置いてぶっちぎりでゴールしたり、ISの装備近接ブレードを筋トレと称して持ち上げたり、装甲を山積みして持って行ったりしてるけど...... これが原因か。 なんだろう、良かれと思って筋トレとかやってきたけど、それが俺を人外にさせているような? うん、きっと気のせいだ。 ちなみに反射神経とかを鍛えるならピッチングマシーンの前に立ってひたすらボールを避けるのがおすすめだぞっ☆ マジで度胸と根性、打たれ強さ、反射神経が付くから。 良い子はマネしないように。 少し本音さん言葉に心に傷を負いながら、試合を見るが織斑が面白いように龍咆に当たっている。 だが織斑もただの馬鹿ではないのか、少しずつ当たる回数が少なくなる
「蒼海さんのように見切っている、と言うわけではなく感覚で避けているといったほうが正しいですわね」
「でも~もうエネルギーがまずいはずだよ~」
試合の最初の方で切り合っていた時も、織斑は若干押され気味でエネルギーを消費してるし、さっきの龍咆の嵐の時も結構被弾していた。 本音さんの言う通り、エネルギーがやばいはずだ。 感覚で避けているといっても、元のエネルギーがないのはまずい。 何か策があるのか、それともこのまま負けるのか、試合の状況に観客席は静かになる。 どっちにしろ織斑は近づくしかない、鈴さんもそれが分かっているのかうまい具合に距離を空けながら織斑を追っている。 勝負は一瞬。 鈴さんの攻撃が一瞬やむ。 織斑はその隙をつきイグニッションブーストをする。 呆気にとられた鈴さんだったが、すぐに冷静になり連結してある青龍刀で迎撃しようとするが、直後轟音が響き、アリーナ全体が揺れた
「これはまずいかなぁ......」
空を仰ぎ見る。 天井にも設置されている遮断シールド、そのシールドを破り地面に攻撃が直撃したのだ。 それはつまり、ISのシールドバリアーを軽く凌駕する攻撃ということだ
「試合は中止だ!凰と織斑はすぐにその場を離れろ!」
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第二十二話 アンノウン
2018.6.10 話数修正しました
織斑先生の声がアリーナに響き渡ると同時に観客席の隔壁が閉じられパニックになる。 我先にと出入り口に殺到しているようだが、一向に人波はひかない。 その時俺はアリーナ内を見れるようにしていた
「つばっち、避難!」
「蒼海君!」
ぐいぐいと引っ張る本音さんと簪さんだが、俺は踏ん張って動かないようにする。 と言うよりも、今動くのはどっちにしても危険だった。 状況を説明しつつ山田先生に通信をつなぐ
「まぁ落ち着こう。 俺がなぜアリーナ内を見ようと思ったかと言うと、あの遮断シールドを破った攻撃がまた来ないとも限らない。 この隔壁だって一発持つかわからないほどの熱量だ、それがこっちに来たら防ぐ準備をしてるだけ。 次に避難て言っても出入り口はあの状況だ、避難する以前の問題。 そんなわけで状況を確認するから、待って。 山田先生」
「こんな状況なのにすごく冷静ですわね......」
そらそうだ。 こんなところで焦っても二次災害になるだけだし、それに出入り口の奴らを見たら頭が冷えた。 オルコットさんは冷静な俺を見て落ち着いたのか、深呼吸をしていた。 山田先生に通信をつなぐと、かなり焦った表情をしていた
『蒼海君今どこに居ますか!?』
「まだ観客席です。 なんか人が引かないんですけど、なんかあったんですか?」
『出入り口のドアがロックされているんです!今教員と三年生の精鋭がクラッキングをしていますが......』
「しばらくかかると。 山田先生、ISの使用許可を。 たぶん無理やり開けたほうが速いです」
『それはだめだ。 あの未確認のISがどういうものかわからない以上、そこでISを展開すればどうなるかわからないからな』
織斑先生が割り込んでそう言ってくる。 確かにその可能性は考えなかった。 だが、いつまでもこの状況と言うのもまずい。 たぶん織斑と鈴さんは時間稼ぎのために戦っているはずだ、時間が長引けば長引くほどこっちが不利になる。 試合をしていたというのもそうだが、あのISのエネルギーがどのくらいかわからない。 こういう時に役立つものとかないだろうか? 拡張領域に入ってるものを思い浮かべるが、いいものが浮かばない。 試しに近接ブレードの葵を出してみるが、かなり重い。 一応持って振ることはできるけどね
「つばっち、葵出してどうしたの?」
「いや、拡張領域に良いのないかなと思って考えてたけど、全然浮かばなくてただ出しただけ」
「待って。 これでロックされてないなら」
簪さんの言葉にパソコンを出して見てみる。 一応センサー類のプログラムも開発しているので、起動してみるが反応なし。 周りを見ると、みんな頷いていた
「山田先生、出入り口の破壊許可を」
『ど、どうやってですか?』
「近接ブレード葵で破壊します」
『何度も言わせるな。 ISを展開すれば、ロックされる可能性も』
「それについては問題ないです。 すでに葵を展開してますがロックされてませんし」
『お前、かってにISを』
「いえ? 素手で持ち上げてますけど」
『はい?』
山田先生のポカーンとした声を聴きながら、入り口に向かって歩いていく。 持ち運ぶのも重いし、引きずりながら歩くとギャリギャリ音がして女子が何事かとこっちを見る。 俺のやることが分かったようで、出入り口までの道があいた
「と言うわけで、山田先生出入り口の破壊許可を」
『構わん、やれ。 だが後で指導室だ、武器とはいえ無断で展開したのだからな。 説教をしてやろう』
「わーい」
思わず棒読みで返事をする。 良いことしたはずなのに、怒られるとはこれいかに。 まぁ自業自得なので、甘んじてお叱りを受けよう。 扉の前に群がっていた女子に少し離れてもらい、葵を構える。 と言っても、上から思いっきり振り下ろすだけだが
「ふっ!!」
思いっきり振り下ろすと扉は真っ二つに切れ、出入り口ができる。 女子たちは俺を避けて、我先にと出ていく
「開きました。 次の場所に移ります」
『すまないがよろしく頼む』
「了解」
とりあえず避難指示はオルコットさんにしてもらい、俺は次の扉に移る。 そうすればさっきと同じ様に、扉までできたモーゼを通り扉を破壊。 一週回りきり、すべての扉を破壊したことを確認した。 その間にアリーナ内も動いたようだ、どうやら織斑と鈴さんは戦うことを選んだようでアンノウンと戦っていた。 どうも鈴さんが隙を作っているようだが、織斑が生かし切れていないらしい。 それともあのアンノウンがうまいのか、実際に戦っているわけではないのでわからないが
「つばっちー!」
「蒼海さん」
本音さんとオルコットさんが手を振っている。 外に出る前に合流しようということになってたのだが、簪さんの姿がない。 一週して逃げ遅れた人がいないか確認してから来たから俺のほうが遅いはずなのだが、簪さんの姿はなかった
「簪さんは?」
「つばっちと一緒だと思ったけど......」
「一緒じゃないんですの?」
そう聞いて猛烈に嫌な予感がする。 急いで簪さんに通信をいれると
「簪さん!」
『ごめん、そっちに向かえそうにない!』
切羽詰まった簪さんの声。 その状況にさっきの予感は正しかったと思いながら、走り出す
「つばっち!?」
「蒼海さん!?」
「本音さんは避難を!!オルコットさんは何とかアリーナまで行ってくれ!嫌な予感がする!!簪さん、今どこ!!」
『たぶんこの方向だと、放送室!篠ノ之さんが!』
クソ!また篠ノ之さんか!大体において俺に厄介ごとを持ってくるのは、篠ノ之さんか織斑しかいない。 悪態をついている暇もなく、俺は全速力で放送室を目指す。 放送室の直前でそれは聞こえてきた
『一夏!!負けないで!!』
「クソが!!」
開きっぱなしの扉から中を見ると、閃光を背負いこちらに向かってくる織斑の姿が。 その目線は篠ノ之さんしか見ておらず、中で気絶している放送の係りの子たちや、それを抱え守るようにISを展開した簪の姿は見えていなかった
「蒼海君、逃げて!!」
逃げる? こんな状況で? 簪を置いて? ふざけるな!!織斑は篠ノ之さんを抱きあげ、ビームの範囲外に飛んでいく。 俺はISを展開して簪さんの前に立ち、盾を構える。 瞬間、すごい熱と衝撃が両腕を襲う。 相棒は警告などを出してくるが、そのウインドウをすべて消し衝撃と熱に耐える
「あが、っっ!!」
左手に持っていた盾は融解したため右の盾の後ろに左腕を隠し、予備の盾を再展開。 だが、これではたぶん盾が持たない
「蒼海君、私は大丈夫だから!!」
「うるさい!黙ってろ簪!!」
右手の盾も融解し、残っているのは再展開した盾のみ。 どうやら保護機能が働いているのか、シールドエネルギーがかなりの勢いで削られていく。 だが、そんな状況でもどくわけにはいかない。 左腕の装甲が解け始める。 すまんな相棒、これが終わったらちゃんと整備してやるから、耐えてくれ!
『貴方に力を』
声が聞こえた気がした。 聞き覚えのない声だったが、初めて聴いた気がしない
『お待たせ、しました!!』
聞き覚えがある声がしたと思ったら、閃光と衝撃がやむ。 アンノウンを見ると片腕がなくなっていた。 そして見覚えのある青いのが飛んでいた
「なるほどね。 遅くないかちょっと」
『これでも急いできたほうなのですが』
「まぁ、とりあえず助かったよオルコットさん」
多分オルコットさんがライフルで攻撃して、あの片腕を吹っ飛ばしたのだろう。 その割には、アンノウンが静かなのが気になるところだが。 まぁいいか、葵を展開する
「蒼海君?」
「さっきは怒鳴って悪かった、それじゃあ簪さんを襲おうとしたアイツにちょっくらお灸据えてくる」
葵を投げ、蹴り飛ばす。 前よりも機体の動きが良くなったせいか、結構な速度で飛んでいるが、大丈夫だろう。 それをアンノウンはよけようとしたが、オルコットさんのファンネルが邪魔をする。 払い落そうとしているのか、残った片腕のビームを拡散して撃つが当たらない。 その隙に俺はイグニッションブーストを発動しアンノウンに近づく。 左腕が痛いが気にしていられない。 さっき放った葵は見事足に刺さり、アンノウンを地面に縫い付ける。 俺の接近に気が付いたようだが、今度は鈴さんの龍咆を食らっていた。 驚いて鈴さんを見ると、行けと目で言っていた。 俺はそのままイグニッションブーストの切れ目を狙って、二回目のイグニッションブーストを発動し予備の葵で右腕を切り裂いた。 地面に着地しアンノウンを横目で見るが、配線やコードばかりで肌が見当たらない。 それが切られた腕でもだ。 ありえないことだが、これは無人機らしい。 なら
「これで終わりだよ!!」
俺を攻撃しようとしていたアンノウンの攻撃を避け、攻撃しようとする。 予備の葵はアンノウンの腕を切ったことで折れたようだが、足の葵を抜き一回転して勢いをつけながら頭に葵を突き刺す。 ショートする音とともに機能が停止したようで、俺にもたれかかってきた。 だが俺はそれを支えられず、そのまま倒れると同時に意識を失った
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第二十三話 目が覚めれば
2018.6.10 話数修正しました
俺は何処かを漂っていた。 いや、俺がそう感じているだけでただ寝ているだけかもしれない。 詳しいことは分からない、なんせ感覚はあやふやで何も見えないのだから。 転生したときでさえこんなことにならなかったのに、どういうことだろうか? まさか死んだとか? まぁ無理したし、仕方ないっちゃ仕方ないんだろうが。 心の残りはたくさんあるが、相棒ちゃんと整備してくれただろうか? 最後の最後で一緒にあんなに無理をさせたのだ、せめて自分の手で整備してやりたかったのだが
『死んではいませんよ』
声が聞こえた。 その声はどこかで聞いたような気がするが、思い出せない。 どうも記憶があやふやだ
『貴方は生きてます、私が守りましたから』
私が守った? そんな記憶はないんだが......
『それでいいんです、私があなたを守ったそれは事実ですから」
よくわからない。 よくわからないが、ありがとう。 俺を守ってくれたならお礼を言わなければいけない、だからありがとう。 声の主のことは依然わからないが、俺がお礼を言うと微笑んだような気がした
『どういたしまして。 そろそろ目覚める時間です』
目覚める時間?
『はい、今のあなたは眠っています。 ここでの会話は夢のようなものと思ってください』
夢、ね
『貴方は起きたとき私との会話を忘れていると思いますが、それでもいいんです。 私は、貴方と会話ができてうれしかった』
期待に添えたようでよかった。 だんだんと声が遠くなってくる。 あぁ、そうか、俺は目覚めるのか
『はい』
誰だかわからないけど、またな
『・・・・・・貴方がそのままで私を必要としてくれるなら、私は必ずあなたと会えます。 ですから、どうか、そのままで』
その声を最後に俺の意識は再び闇にのまれた。 浮いていた感覚がなくなったと思ったら、体が重い。 いや、重いんじゃなくて寝てるんだな。 なんとなくそう思った。 目をゆっくり開ければ、夕日に染まったどこか。 ここはお約束の!
「・・・・・・知らない天井だ」
「「っ!!」」
俺がそう呟けば、息をのむ音がした。 続いて感じるのは手を握られた感触。 両手を痛いくらいに握られている。 視線を向ければ、簪さんと本音さんが目をはらした状態でこちらを見ていた
「どうしたのさ、そんなに目を腫らして」
「誰の、せいだと!!」
「つばっちー!!」
本音さんには泣きつかれ、簪さんには瞳に涙をためながら睨まれた。 本当にどういう状況かわからない。 いまだに靄が少しかかる頭で考えるが、考えがまとまらない。 すると、扉が開く音がした。 そちらのほうに視線を向ければ、見慣れたツインテが
「目が覚めたのね」
「鈴さん?」
扉を閉めると、こちらに歩いてくる鈴さん。 はて、どうやら鈴さんも俺が寝ているのを知っていたようだが、本当になんなんだ?
「その様子だと、何があったか覚えてないみたいね」
俺の顔を見て納得したのか、俺が寝る前の状態を説明してくれた。 そうして俺はようやく思い出した。 無人機が襲来して、それを倒したことを。 簪さんを助けようとして無茶をしたことを
「その顔は思い出したみたいね」
「あぁ、その、ありがとう。 それとごめん、心配かけたみたいで」
「本当だよ!左腕のやけどはひどかったし、ラファールのシールドエネルギーは残り僅か、そこらじゅうボロボロで、心配、したんだよ?」
本音さんが泣きながら俺のことを心配していた。 心配かけたことは申し訳なく思うのだが、君が思いっきり握っているのはそのやけどがひどかった左手だ。 やけどの跡はきれいに治っているが、少し左腕は全体的に痛い
「私も、本当に心配した...... 私のせいで、蒼海君は怪我して、このまま目が覚めなかったらって......」
そう言って泣き出してしまう簪さん。 このまま目が覚めなかったらってそんな大げさな
「大げさなんて思ってるようだけど、あの件から一日たってるのよ。 つまり翼は一日寝てたってわけ」
鈴さん君はエスパーか。 いや、ただ俺の顔に出ていただけだと思うが。 その日の夕方だと思っていたが、どうやら次の日の夕方だったらしい。 それは心配するわけだ。 自分と周りの認識の違いに、思わず苦笑してしまう。 さて確認は済んだし、この泣いてる二人を何とかしないと
「簪さん、本音さん、心配かけてごめん」
二人に手を離してもらい、二人を安心させるように撫でる。 頭をなでるのはあれかなーとか思うし、はねのけられるかとも思ったがそんなことはなく、むしろ顔を跳ね上げた
「簪さんは自分のせいって言ってたけど、俺は自分の意志であそこに向かったんだ。 だから簪さんのせいじゃないよ。 それに、簪さんが向かわなかったらあのままあの二人は死んでたかもしれない。 だからあのことを誇れとは言わない、でも君のおかげで助かった人もいるってことを忘れないで。 それに大本たどれば、篠ノ之さんがいけないわけだしね。 もちろん無人機も悪いが。 だから簪さん、そんなに自分を責めないで。 本音さんも、心配かけたと思うけどさ、こうやって五体満足で帰ってきたし、許してよ」
そう言って謝ると二人とも涙をあふれさせ、俺に抱き着いてきた。 これは、どうすればいいんでしょうか? 鈴さんに視線を向ければ、何故か呆れられていた。 何故に?
「この女たらし」
「酷くないか!?」
「まぁいいわ、私織斑先生呼んでくるから」
そう言って部屋から出ていく鈴さん。 ちょっと待て!せめてこの二人を何とかしてから行ってくれ!!そんな俺の思いは通じず、無情にも扉は閉まってしまう。 まぁ、泣かれているものは仕方ないので、そのままにすることにした。 泣いている間ずっと撫でていたが、やがて落ち着いてきたのか声は聞こえなくなる。 それどころか
「寝てるよ......」
安心したのか、二人とも寝てしまった。 まぁ、心配かけたわけだし仕方ないといえば仕方ないが...... 流石にこの空気で手を出すということはないが、この状況を第三者に見られるのは非常にまずい。 おもに、俺の評価的な問題で。 幸いなことに、服をつかんで泣いていたのだが、寝ると同時に力が弱まったのか、簡単に取れた。 隣のベッドに簪さんと本音さんを寝かしつけ、俺はもとのベッドに戻る。 一日中寝ていたためか、体が少しだるい。 それと他には本音さん曰く、酷いやけどを負っていた左腕だ。 さっきも思ったが、やはり全体的に少し痛い。 まぁ、あのやけどがこんなにきれいに治るなら、少しの痛みくらいどうってことないのだが。 このくらいの痛みなら、今日は安静にしていれば明日には問題ないはずだ。 それにしても、相棒もボロボロだと本音さんは言っていた。 無理をさせてしまった相棒を労わるという意味で整備したいのだが、鈴さんは織斑先生を呼んでくるといってたし、ここを離れるわけにはいかない。 近接ブレードの無断展開に簪さんや放送の係りの子たちを守るためにISの無断展開、説教だけでは済まないんだろうな...... しかも学校から借りたISを大破まではいかないにしても中破する始末、謹慎や退学を覚悟しなければならないだろうか? 流石に退学はないと思いたいが、分からない。 それに、オルコットさんにも悪いことをしてしまった。 ばれないようにとは言え、結局ISを展開させて援護までしてもらったのだ。 確実に罰が待っているよなぁ。 それに、師匠にも迷惑をかけてしまった。 心配もかけてしまっただろうし。 そんな考えを振り払うかのように頭を振り、気持ちを入れ替える。 鈴さんが織斑先生を呼びに行ったということはそこら辺の話を今からするのだ、少しでも罰が軽くなるように頑張ろう。 そう思っていると、扉が開いた
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第二十四話 目が覚めればⅡ
2018.6.10 話数修正しました
「目が覚めたようだな、馬鹿者が」
「えっと、ご心配をおかけしました」
「蒼海君、よかったですよ~!!」
「し、師匠...... ご心配をおかけしました」
開口一番織斑先生にはバカ者扱いをされ、山田先生には心配されて泣きつかれた。 その後ろから入ってくるのは、先生たちを呼びに行った鈴さんだ。 俺を見るなりため息をつき、そして恨みがましい視線を送ってきた。 いや、なんでさ。 織斑先生は不機嫌そうに腕を組み、山田先生と俺を交互に見ていた。 これは、泣き止ませろと? そういうことですか? ナチュラルに思考を読んでくる織斑先生に目を向けると、頷かれた。 ほんとに怖いんだが、この人...... とりあえず織斑先生から指示があったことだし、山田先生を渋々泣き止ませることにした。 何で渋々かって? 言わせんなよバカヤロウ。 なんか鈴さんからジト目が飛んでくるが気にしないことにした
「あの山田先生、そろそろ」
「グスッ...... 心配したんですよ、あんなことして!オルコットさんが来なきゃ本当に死んでいたかもしれないんですよ? それをわかってますか!」
「えっと、その、はい......」
抱き着きは回避できたのだが、今度は説教が始まった。 いや、俺のことを心配して本気で怒ってくれてるのは分かるんだけど、今じゃなくても。 織斑先生もこっち睨んでるしさ、たぶん早く事情聴取的なのしたいんだと思うんだ。 視線で織斑先生に助けを求めるが、睨まれるだけだった。 あれですか、自分で何とかしろと。 次に鈴さんに視線を向けるが、呆れられていた。 味方がいない!
「約束してください、今後はこんな危険なことはしないと!」
「すみません師匠、それだけは約束できません」
師匠の言葉を否定する。 それだけは、約束できない
「確かに今回はいろんな要因が重なって俺は助かった、それは分かってます。 でも、今回のようなことになったら俺はまた無理をしてでも助けると思います」
「ガキが。 今回は運よく助けられただけだ、思い上がるな」
織斑先生から厳しい言葉が飛んでくる。 その通りだ、今回は運よく助けられただけ。 オルコットさんが間に合わなければ俺はあのまま焼かれていたと思う。 でも、ISで人殺しはしてほしくないのだ。 確かに使う人が使えば人殺しの道具にもなりえるが、相棒は翼だ。 あくまでも、人が宙に上がるための
「思い上がりなんかありません。 別に正義の味方を気取ってるわけでもありません。 ただ俺は周りの大事な人たちを守りたいだけです。 それにはもちろんISも入ってます。 戦いは嫌いですし、競技用と言いつつも兵器として開発されつつあるISですけど、元々は人々が宙に上がるために開発された翼なんですから。 でも今回のように兵器として使う人もいる。 さっきも言ったように戦いは嫌いですけど、俺はISを相棒を守るために使いたいんです。 本当なら飛ぶために使いたいんですけど......」
なんか思いのたけを喋ってしまい、急に気恥しくなり最後はああ占めてしまったけど、まぎれもない本心だ。 夢見がちだとか言われるかなーとか思ったけど
「ふっ...... なら強くなれ。 色々な理不尽を跳ね飛ばすくらいな。 お前が正しく
「・・・・・・」
まさかそんなことを言われると思わずポカンとしてる。 すると俺の顔を見るなり織斑先生は睨みつけてきた。 怖いっすよ!?
「蒼海君の気持ちは分かりました。 ですが、それとこれとは話が別です!これからの訓練は厳しくいきますからね」
「っ!はい、師匠!!」
これ以上厳しくなるっていうのはちょっと想像つかないが、望むところだった。 今回みたいなことが起こらないように、簪さんや本音さん、山田先生を悲しませないためにも、今度は無事に、それこそ完封勝利をしなければならない
「さて、綺麗にまとまったところで今回の件の話を聞こう」
「デスヨネー」
うやむやにできるとは思ってないが、織斑先生の言葉に棒読みで答えてしまった。 くそぅ
「さて今回の件だが、まずなぜアリーナ内で武器を展開した」
「あ、そこからですか?」
「うむ。 一応ここから聞かねばな、それでなぜだ」
「えっとですね...... まず、織斑先生に言われた通りISを展開すればもしものことがあるといわれて、そこから何か妙案がないか考えていたんですよ」
そう、あの時は考えて葵でぶった切ったら早そうだなーとか思って展開したのだ
「それで拡張領域に入ってるものを思い出しているときに、周りに被害なく切るのなら葵かなーと思ってたら展開してまして」
「まぁ、確かに銃火器よりも被害は少ないですけど......」
山田先生は苦笑いだった
「なるほどな。 だが葵は相当な重さだぞ? 良く展開して持っていられたな、私は自由自在に扱えるが」
「わーお」
この場にいる誰もが、この人やばいと思っただろう。 マジでさ、ISなしでもブリュンヒルデ名乗れるんじゃないの? ヒィ、睨んできた!
「あの、そのですね!体鍛えてるんで!もともと、授業の説明で使った葵を片付けたこともあったので、持てることは知ってたんです、はい!」
「そうか、それでその後は?」
どうやら何とか誤魔化せたようだ。 誤魔化せなかった...... いや、これ以上はやめておこう。 とりあえず、何も考えず質問されたことだけ答えよう
「それで破壊許可とった後は、扉ごとに避難するときパニックなどが起こらないようにオルコットさん、簪さん、本音さんに居てもらって。 全部壊し終えたら、誰もいないか確認して観客席から出たんです」
「それで、何故今回のようなことが起こった」
「それなんですが...... 全員避難できたか確認するためにみんなと外に出る前に落ちあうところを決めてたんですけど、簪さんだけ来なくって。 嫌な予感がした俺は簪さんに通信をいれたんですが、簪さんが急に来れないと言い出しまして。 それでどんどん嫌な予感が膨れ上がった俺は、オルコットさんにアリーナを見渡せる位置に待機するように言って、本音さんには避難するように言ってその場を離れました。 それで引き続き簪さんと通信してたら放送室にいることが分かり、俺が付くと同時にビームが飛んできまして」
「篠ノ之のあの行為のせいか...... それで?」
「簪さんから聞いてると思うんですけど、放送の係りの子たちが居て簪さんはその子たちの盾になるように打鉄弐式を展開してたので......」
「更識妹は日本代表候補だ、そこから逃げるくらい造作もなかったと思うが?」
「そっちも聞いてると思うんですが、彼女の機体打鉄弐式は先日組み終わって飛行訓練をすましたばかりで、まだ最終調整をしてないんです。 しかも、関節等の基礎フレームが一回オーバーホールして交換しないといけないので、そういうことが重なって......」
「あぁ、そういえば彼女の機体は倉持が...... すまんな」
申し訳なさそうにする織斑先生。 たぶん簪さんの機体がどうしてああなったか、多分分かっているのだろう。 俺に謝られても困るのだが
「俺に謝られても困りますし、そういうのは本人同士の話なので。 それを見て俺はとっさに相棒を起動して、盾で防いでいたというわけです。 流石にIS一機と気を失っている人二人を運ぶには時間がなかったですし」
「そうか」
納得したふうにうなづく織斑先生に、それだけと思ってしまう。 いやいやいや、おかしいでしょ
「あの、俺の処分は」
「あぁ、言ってなかったな。 今回の事に関してはISの武器の無断展開の反省分だけだ」
「は?」
思わず聞き返してしまう。 いやいやいや、学園から借りてる相棒壊しましたけど!? 無断展開もそうだし
「えっとですね、今回簪さんや蒼海君の行動で二人の命が救われたのは事実です。 それどころか、学園長からお礼の言葉と褒美まであるのですが、他の教員の方から示しがつかないといわれましたので......」
「それで、おとがめなしと?」
コクリと頷く山田先生。 大人の世界って大変ですねー。 思わず肩の力が抜け、ため息をついてしまう
「それに、お前だけを罰せば他の人間も罰さなければならないからな」
「・・・・・・」
つらそうな織斑先生の顔を見るに、たぶんそっちが本命の理由だな。 今回の事をしでかした篠ノ之さんを強く罰することができず、苦渋の策として俺のおとがめなしってところか。 たぶん篠ノ之さんあたりは、反省文や注意などを受けてるだけだろう。 織斑は言わずもがなだろう。 見えなかったのか、あえて見捨てたのか知らないが、
「そうだ、お前が使っているラファールリヴァイヴだが。 学園の貸し出しではなく、お前の専用機となった」
「はい?」
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第二十五話 新たなる翼、オニューじゃないよ!
2018.6.10 話数修正しました
「待たせたな!」
俺以外に誰もいない整備室、相棒に声をかけ触れる。 俺の専用機になったということで少し全体的に装甲が増やされ、ごつくなった。 スラスターの数も増やされたことによって全体的に重くはなったものの、機動性は前と同じというありがたい仕様になった。 なんかカラーリングも変わっており、ガン〇ムMK-Ⅱみたいなカラーリングになってるし。 しかもエゥーゴじゃなくてティターンズカラー。 結局、あの織斑先生の発言の後、時間も遅いということで資料を渡されたので読んだのだがわからないことだらけだった。 元々、俺が使っている相棒は学園のもので訓練機、初期化と最適化の機能は切られていたのだがそれが勝手にONになったのだという。 それも調べてみるとあのビームを受けた時で、セシリアさんが攻撃する少し前、つまり不思議な声を聴いた時だったようだ。 通りで機体がいつもより軽く感じたわけだ。 それで訓練機ということもあり初期化して機能をOFFにしようとしたらしいのだが、IS側からロックがかかってるらしく解除ができないとのこと。 まぁ、今回の事でちょうどいいと思い学園側も俺の専用機として了承したようだった。 そんなわけで、晴れて正真正銘の俺の翼になった相棒だが、ここで問題が発生。 あの戦闘によってボロボロになった機体はパーツ交換しなければならず、そこで悪乗りした数名の整備課の先輩と教師によって改造されたらしい。 まぁ、俺的には嬉しい改造なんですが...... そんなわけで目覚めた次の日、つまりは今日俺は相棒を受け取りに来たというわけだ
「あの時はありがとな、お前のおかげで倒すことができた。 そして、これからもよろしく」
労わりながら相棒をなでると、かすかに動いた気がした。 まぁいいさ。 相棒を待機状態に戻し整備課を出る。 今日から世間一般的にはゴールデンウイーク、学校は休みなのだ。 なので今日は朝からアリーナを借り、試験飛行等をやるつもりなのだ。 本当は家に帰りたかったのだが、長期休みとかじゃないとすぐに帰ってくる羽目になる。 そんなことを考えながらアリーナに向かうと、入り口に見覚えがある影が。 いや、ちょっと待って、なんでいるんですか!?
「なんでいるんですかと言う顔だな」
「えぇー...... そんなに顔に出てました?」
「なんとなくだ」
やっぱこの人エスパーだ!何故か入り口には織斑先生がおり、俺の姿を見つけるといつものように腕を組む。 それにしてもどうしたのだろうか? 休みということもあり、一年はほぼ出かけているという話だし。 二、三年生もアリーナの予約はあまりとっていないようで、ゴールデンウイーク中は割と予約があいているというのに
「なに、どこかの馬鹿がゴールデンウイーク中全部予約を取ったという話を聞いてな、私も付き合ってやろうと思っただけだ」
「はい?」
マジで意味が分からない。 山田先生の予定は聞いてないが、一日か二日おきに練習メニュー聞こうかなーとは思っていたが、ここでまさかの織斑先生が訓練に付き合う宣言。 やめてください、
「すみません織斑先生、申し出はありがたいんですが師匠、山田先生に確認をとってからで大丈夫ですか?」
「ふっ、山田君の言った通りだな」
何故か笑みを漏らす織斑先生。 今のどこに笑う要素があったんだ...... それに山田先生って言ったけど、何だ?
「それに関しては問題ない。 山田君から頼まれたことだしな。 もちろん、私も鍛えがいがありそうだから受けたんだ。 それと山田君からメニューもあずかってる」
送られてきた情報を見ると、確かに山田先生のメニューのようだ。 ちらほらと見覚えのあるメニューがあるが、ほとんどが見覚えがない。 これは指導してもらわないとわからんな。 とりあえず、メニューのことは頭の片隅に追いやり、織斑先生に向き直る
「それじゃあ、お願いします!」
「わかった。 時間は有限だ、さっさと着替えて集合だ」
俺が頭を下げると、織斑先生は背を向けてアリーナの中に入っていく。 俺はその背を追いかけるようにアリーナに入った
--------------------------------------------
「どうした、貴様の力はこんなものか!!」
「まだま、だ!!」
俺は相棒を纏い、織斑先生は打鉄を纏って模擬戦をしていた。 俺の方は銃火器、近接ブレード、ナイフなど多種多様な武器を使って構わないが、織斑先生はブレードのみ。 それでも流石ブリュンヒルデだ。 ISに触って数週間のぺーぺーの素人が勝てるはずもなく、負けを順調に重ねている。 と言っても諦める俺ではなく、エネルギー補給中に休憩をはさみ、織斑先生に悪かった点を聞き、それを改善しつつ模擬戦にって感じだが。 今も左手に持っていたアサルトライフルを切られてしまい、爆発。 その煙の中を右手に持っていた葵を両手持ちにして突きを放つが、あっけなく後ろに流されてしまう。 その隙を蹴られそうになるが、俺から向かって左側からの蹴りのため、そのままブーストを点火して後ろに切り抜け体勢を立て直す。 本当に今離れたからこういう芸当ができるけど、やった当初はそれはひどかった。 前までは全身に鉛をつけてるといった感じはおかしいけど、そんな感じの操縦だったのに、初期化と最適化をしたおかげか、軽すぎて飛びすぎてしまうなんて言うのはざらだった。 それを見て織斑先生には情けないだの言われる始末だったし。 それなら慣らしの時間をください...... 敵はそんなの待ってくれないぞと言われればそれまでなんだけど
「はぁ!!」
「っ!!」
廻し蹴りを放った織斑先生は、こちらが後ろで体勢を立て直していることを確認するとすぐに追撃に移る。 上段からの振り下ろし、下段からの切り上げ、突き。 その動作に一切の無駄はなく、早い。 見えないスピードで振るわれるそれを、一応いなしたり受け流したりしているものの、受け流し切れないものや衝撃はどんどんエネルギーを削っていく。 本当に、容赦ない!! 葵から左手を離し、グレネードランチャーを拡張領域から呼び出す。 被弾は多くなるが、このまま接近戦はまずい。 俺の得意な距離は中距離による射撃戦からの、体制の崩れたところからの近距離での一撃。 堅実な立ち回りだが、織斑先生は近距離でのブレード一本。 ここ織斑先生の距離だ!いったん離脱するために巻き込まれる覚悟でグレネードランチャーを地面に打ち込む。 どうせ二発しかないのだ、一発は地面にもう一発は織斑先生に。 だが織斑先生に放ったほうは切り裂かれた。 だが地面の方は見事に着弾、少しダメージを受けて飛ばされる。 ハイパーセンサーなどもあるから、補足は簡単だが距離を開けたことにより拡張領域から武器を呼び出す時間ができる。 右手に最後のビームマシンガンを、左手に葵を展開し、突っ込んでくる織斑先生を迎え撃つ。 はっきり言って、かなりのスピードで近づいてくる、弾をを予想してよける人に当てるのは一苦労だが、それをしないことには勝てないのだ、必死に食らいつく
「相手の進路予想など見事と言いたいところだが、甘い!」
イグニッションブーストを発動し一瞬で詰めてくる織斑先生だが、ブレードオンリーの織斑先生は俺に近づくしかないわけで、どんな方法でも近づくのならこうするだけだ
「まだまだぁ!!」
葵を持ち替えシールドを展開、織斑先生にそのままイグニッションブーストを発動してシールドを構えたまま向かっていく。 これには驚いたのか、織斑先生は突きの構えに変更。 俺をそれを確認し、イグニッションブーストの切れ目を狙って、連続で発動する。 だがそれは前ではなく、後ろ向きにだ
「なっ!?」
これには驚いたようだが、そのままハンドガンを展開し、織斑先生に向かっていく盾を撃つ。 もともと切れ目直前に盾を離していたので、織斑先生に盾だけは向かっていったのだ。 そして盾にはあらかじめつけておいた予備のマガジンと、グレネードが付いた弾切れのアサルトライフルを括り付けておいたのだ。 マガジンとグレネードに引火し、爆発を起こす。 計算上、少し削っておいたからあの爆発でエネルギーが終わるか終わらないかというところなんだけど..... イグニッションブーストを発動しているのか、煙から勢いよく現れる織斑先生。 油断はしていなかったとはいえ、あれでエネルギー切れ起こしてくださいよ!!
「ふっ、まだまだひよっこに負けるわけにはいかないのでな!!」
「こなくそ!!」
残っている武装は葵しかなく、もはや俺も突っ込むしかない。 そうして結果は、ドローだった
「勝てなかった」
「何を言ている、よくやったぞ貴様は」
織斑先生が何か言っているが聞こえない。 ドローとは言ってるが、織斑先生本気出してないし、それに機体も訓練機の打鉄だ。 それも初期化と最適化をしてないものなのだから。 しかもそこから、織斑先生は俺のシールドエネルギー全損させれば勝ちだが、俺は半分削れば勝ちなのだ。 つまり実際の結果は、俺全損の織斑先生半損と言う結果だ。 とりあえず、帰ったら反省会だな......
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第二十六話 整備
「あ、、つばっちー!」
「ぐへっ...... 本音さん、とびかかるのやめて。 今の俺には大ダメージだから」
「蒼海君!」
「簪さん、君もか......」
いつものように整備室に入ると、何故か本音さんと簪さんが飛びついてきた。 いや、理由は分かっている。 この間のアンノウンからこういう行動が増えているわけだから、あれで心配させたからだろう。 心配してくれるのは嬉しいし、心配かけたのも心苦しいことなので何も言わないが、これだけは言わせて。 あの地獄の特訓の後に、とびかかってくるのはやめてください。 何を思ったかのか引き分け、いや俺の負け後、織斑先生は本気を出したのかわからないがめっちゃ強くてボコボコにされた。 やってる最中なんか、すげーうれしそうな顔してたもん。 アレはマジのサディストですわ...... 話はそれたが、俺が受け止めきれずこけたら危ないし、体に響くから。 まぁ、二人の安心したような顔の前にはそんなことは言えず、言葉を飲み込む。 しばらくはなすがままにされていたが、流石に時間は有限ということで離れてもらい、いつものように整備を始める
「・・・・・・ねえねえつばっち、今日受け取ったはずなのになんでこんなにボロボロなの?」
な、何だこのプレッシャーは!? 布仏本音は化け物か!? 恐る恐る顔を見ると、無表情でこっちを見ていた。 怖い怖い怖い!俺は慌てて理由を説明する
「織斑先生とやったから!織斑先生手加減してくれたけど、俺が弱すぎてね!? だから無理とかしてないから、織斑先生見てたから安心して!?」
「そっか~、それならしょうがないかな~」
いつものにこにこ顔に戻り、俺はようやく一息付けた。 やべー、何あのプレッシャー。 殺されるかと思った。 俺のパソコンを接続し、整備箇所を見るが該当項目が装甲くらいしか無い。 何故なのか調べてみると、外側の装甲が厚くなった分、中まで衝撃が通らなくなったようだ。 一応強い衝撃を受けたら見るようにしようとも思ったが、織斑先生より強い衝撃があるのか疑問だったが。 とりあえず今日見てみて問題がなさそうなら、次からは確認しないにしよう。そう思い装甲を外しては確認、戻すの作業を繰り返す
「調子はどう?」
「ありがと」
どうやら簪さんがコーヒーを買ってきてくれたようで、それを受け取りいただく。 簪さんの方、つまり打鉄弐式のほうを向くとまだ途中だった。 一休みということか
「いやもう、ファーストシフトしたおかげか、めちゃくちゃ動きがいいね。 装甲も厚くなったけど、スラスターの数も増えたから機動性を損なうなんてこともないし。 それに整備も楽。 今まで俺の訓練で行くと、数回には一回の頻度で中の部品交換だったけど、多分今の感じなら普通の訓練機と同じ頻度でいいんじゃないかな? もちろん、ちゃんとメンテナンスしてって条件が付くけど」
「そっか」
それを聞いて安心したというふうにほほ笑む簪さん。 だが俺には少し不満点が
「ただ、なんでカラーリングが魔窟なんだ......」
「何かに似てると思ってたけど、言われてみれば確かに。 なら名前は、ラファールリヴァイヴMK-Ⅱ?」
「そこまでリスペクトするつもりはないけど、どうせだったら改じゃない?」
「どっちかって言うとそうだね」
二人で笑い合っていると
「うまうま~」
と言う声が聞こえた。 まぁ、これに関してももう恒例だ。 俺や簪さんが整備や調整をしていると、暇になった本音さんは基本どこから出したのかわからないがお菓子を食べてる。 それが癒しになっているといえばそうなのだが、本当にあのお菓子がどこから出てきたのかは謎だ。 あれか? アンリミテッドお菓子ワークスか? 名前クソださいけど。 体はお菓子でできている。 血潮は砂糖心は甘さ。 幾たびの試食は不敗。 食べるお菓子にまずいものはなく、食べる量は理解されない。 お菓子に囲まれお菓子を食べる。 故に周りの注意は意味はなく。 その体は、無限のお菓子によって作られた。 なんだこれ、自分で考えといて何だこれ。 あまりのしょうもなさに、自分自身で呆れていると簪さんが話しかけてきた
「どうしたの?」
「いや、本音さんのお菓子ってどこから出てくるんだろうとか思ってさ。 それで連想したのが
「聞きたい」
瞳をキラキラさせながら聞いてくる簪さんに、若干ためらいを覚えながら即席で考えた詠唱を教えていく。 すると
「ぷっ、クククククク......」
口を押えて必死に笑わないようにしているが、こらえきれてない。 てか、苦しそうなんだけど。 えぇー、どこにツボる要素があったんだ...... 一応背中をさするが、収まる気配がない。 そんな簪さんの様子に気が付いたのか、本音さんがおかしの山から飛び出しこちらに歩いてくる
「かんちゃんどうしたの~?」
「体はお菓子でできている、ぶふっ!」
「かんちゃ~ん?」
思い出し笑いなのか、詠唱の一番最初を言って再び笑い始めてしまう簪さんに目を丸くしながら、本音さんがこちらに目を向けてくる。 どうにもできないぞこんなの。 とりあえず、放っておくことにした。 こういうのは時間が解決するしかないんだー
「まぁ色々とあるんだよいろいろと。 あっちでお菓子食べようか」
「う、うん」
いまだに後ろで笑い続けている簪さんを少し心配しつつ、俺と一緒にお菓子を食べ始める本音さん。 俺たちがお菓子を食べ始めたから数分後、ようやく簪さんは収まったのか合流した
「も、もう大丈夫」
「いや、まだ頬が引くついてるけど」
「かんちゃ~ん、大丈夫~?」
「な、なんとか」
本音さんの言葉を受け笑いそうになる簪さんだが、何とかこらえる。 いやもう、その時点で駄目だから。 こういう時は話題を変えるのが一番ということで、早速簪さんに話題をふることにした
「それで打鉄弐式はどんな感じ?」
「あ、えっと、コホン...... 一応整備課の先輩たちに手伝ってもらって、オーバーホールとパーツ交換は終わった。 明日は少しプログラム関係をいじって、明後日最終調整しようと思ってる」
「へー、手伝ってもらったんだ」
「うん。 今回の事もあったから、織斑先生が声をかけてくれたみたいだったから」
「なるほどね」
まぁ、簪さんの報酬はそれで終わりと言う感じなんだろうな。 まぁ本人的にも感謝してるし、納得してるからいいんだろうけど
「どっちにしろ、整備課総出でつばっちの機体整備してたしね~」
「はい?」
ここにきて意外な事実。 整備課の人たちが、俺の機体の修復改造をやってくれていたのは知っていたが、総出とは知らなかった。 やばい、これ感謝してもしきれないんだが。 お礼を言って回りたいところだけど、やばい、整備課の人たちの顔知らない
「つばっちの機体はね~、学園長と織斑先生ともう一人が急ぐように言ったんだって~」
「何故そこで一人隠すし」
「んふ~」
聞いても本音さんは教えてくれず、笑顔を返すだけ。 細く開けられた目が聞くなと言っていたので、これ以上は聞かないことにした。 だって聞いて、さっきみたいな状況になったらやだし。 べ、別に本音さんが怖いわけじゃないんだからね!とりあえず、男のツンデレとか誰得だよということで、その思考は捨て置いた
「なんにせよ、ありがたやーありがたやー」
感謝する。 一応後で織斑先生と織斑先生経由になってしまうけど、学園長にはお礼を言っておこう。 後は整備課の人たちだが、受付の人に言ってもらうことにしよう。 事情を話せば理解してくれると思うので。 あともう一人が分からないので、感謝のしようがないんだが......
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第二十七話 本格的に始まったゴールデンウイーク
2018.6.10 話数修正しました
「・・・・・・」
「どうした、その程度か」
「せ、先輩」
俺はアリーナの地面に寝そべっていた。 相棒のシールドエネルギーは満タン、やる気は上々、だが俺は地面に寝そべっていた。 いやね、さっきも言った通りやる気はあるんだよ? でもね、体が動かないんだ!ハハッ、ドナルド困っちゃう!ドナルドじゃないけど。 織斑先生はそんな俺を冷たい目で見下しながら、展開している葵を肩に担いでいた。 その横にはラファールリヴァイヴを展開した山田先生の姿があった。 もうわかるだろう? この二人と模擬戦やってたんだぜ? ブリュンヒルデと元日本代表候補対ペーペーの素人、戦力差ありすぎだろ!当たり前のように模擬戦してるけど、異常だよ!自分で頼んでおいていうのはおかしいけど、こんなのってないや!!さて、キャラ崩壊しかけたがやるか、立ち上がれればな!体に力を入れるが、思うように力が入らない。 昨日の筋肉痛プラス今日の模擬戦の疲労、そのほかいろんな要因があるが、まぁようは疲れだ。 それでも無理して立ち上がる
「お願いします」
「ほぅ......」
「・・・・・・」
織斑先生は感心したように目を細め、山田先生はさっきとは変わりいつもの模擬戦の時の表情だ。 そんな二人の前に立つと委縮する、と言うわけでもないがプレッシャーに圧倒されるのは確かだ。 もう何回もやって何回も負けた模擬戦だが、実りになっているのは確かだ。 実際存命時間は伸びてきている。 それって逃げ足が強化されただけではとも思うだろうけどな、最初は瞬殺だったんだぞ!ほならね、自分がやってみろって話なんですよ。 話はそれたが、愛用のサブマシンガンを両手に構える。 愛用という話だが、斬られた数はいざ知らず、織斑先生の話では箱買いしたから大丈夫って話だった。 何がどう大丈夫なんですかねぇ...... さて準備はできた
「行きます!」
「来い!」
ブーストを点火し、模擬戦を始めた
--------------------------------------------
「蒼海君、大丈夫?」
「あぁ、なんとか......」
相棒の整備も終わって、部屋で死んだようにベッドで横になっていると、簪さんが心配そうに声をかけてきた。 あぁ、生きてるって素晴らしい。 と言っても、これから夜は筋肉痛で苦しむのだろうけど
「今日は何をしたの?」
「GW特別メニュー二日目、ブリュンヒルデと元日本代表候補との模擬戦」
「え”っ」
簪さんの動きが止まった。 と言うよりも、時間が止まったかのような錯覚まで起きる。 流れているのは簪さんが撮りためたアニメで、今日は00のセカンドシーズンみたいだ。 ここにはoガンダムとエクシアと俺がいる!!流石刹那、俺ガンダムを自称することはある。 俺は使わなかったけどね、00R。 俺の愛機はプロヴィデンスです。 ドラグーンまいて、前格楽しいよね。 覚醒はわざとA覚にして、サッカーを楽しむためだけにやってたのはいい思い出。 話はそれたが、アニメを鑑賞していると、ようやく簪さんが再起動したのかもう一度聞いてきた
「えっと、もう一回きくね? 今日は何をしたの?」
「GW特別メニュー二日目、ブリュンヒルデと元日本代表候補との模擬戦」
「聞き間違いじゃなかった......」
頭を抱える簪さんだが、俺はそんなの気にせずにアニメ視聴中。 と言うよりも、体起こすのがかなり面倒。 全身にろくに力が入らないので、もう少し休憩しないと。 さながら気分はおじいちゃん
「なんでそんなことになったの?」
「昨日の話は知ってるよな?」
「うん、織斑先生と模擬戦したんでしょ?」
「そうそう。 それで、久しぶりにいい運動になったということで、今日も来たと。 今日は山田先生と新しいメニューを教えてもらいながらやるつもりだったんだけど、織斑先生が朝から乱入。 それからメニューのことを午前中でたたき込まれて、午後から二対一の模擬戦」
「うわぁ......」
簪さんも思わず引いているようだが、凄かった。 これぐらいもできんのかと言われた挙句、罰として数十週アリーナをIS装着状態で走らされ、それからまたメニュー通りに訓練と言うわけだ。 はっきり言って、山田先生いないと死んでたな俺。 織斑先生もどちらかと言うと感覚タイプで、自分ができることは少し練習すればできるだろうと思ってる節がある。 なので山田先生がかみ砕いて説明して、やっとわかるという感じだ。 いや、強いし教えるのが下手と言うわけじゃないけど、感覚交じったらわかりません
「お疲れ様」
「ありがとう」
ねぎらうように頭をなでてくる簪さんだが、少し恥ずかしい。 でもその撫でられるのが心地よくて、だんだんと眠くなってきた
「簪さん、そろそろやめてくれるとありがたいんだけど?」
「ダメ」
少し笑いながら言う簪さんに何も言えず、結局俺はそのまま寝てしまった
--------------------------------------------
「んぁ?」
どうやら寝てしまっていたようで、体を起こそうとするが起きれない。 いや、力が入らないとかではなく、体が重い。 それに引っ付かれている感覚が...... そこまで考えて急に目が冴えた。 嫌な予感がして首だけ後ろを見れば、そこには大天使な横顔が。 その寝顔に危うく浄化されそうになるが、いやちょっと待て、ほんとに待って!? どういうこと!? オーケーオーケー、餅つけ。 いや、落ち着け。 寝る前の記憶は確か簪さんが撫でるのをやめてくれず、俺はそのまま寝落ちしたわけで、よし、手は出してない。 チキンハートだと!? 嫁入り前のいいところのお嬢さんに手を出してみろ!殺されるわ!!いいところじゃなかったらいいのかと言う質問だが、自分で責任とれるようになるまではだめだよ!お兄さんとの約束だ!何がお兄さんじゃぼけ!やばいやばいやばい、思っていたよりもパニックになってる。 こういう時は深呼吸だ、ヒッヒ、フー、ヒッヒ、フー...... 深呼吸じゃないけどおち
「んぅ.....」
ヒィーヤァ!簪さん足を絡めてこないで!その実った果実を俺に押し付けないで!!そして俺の匂い嗅がないでー!!
--------------------------------------------
「あー、うん、つらたん......」
シャワーを浴びながらさっきのことを思い出す。 マジで襲う五秒前だったが、謎の殺気によりそれは阻止された。 ありがとう誰か!でも殺気はやめてくれ!なんかあの嫉妬の視線に似ていたような気もしないでもないが。 その殺気の視線を受けて止まると、簪さんの拘束は緩まり、その隙に速攻でシャワーを浴びに来たわけだ。 おっと、マイサンが元気になってきたが、静まれー、静まれー...... はぁ、男って辛いなー。 シャワーを浴び、部屋に出ると相変わらず簪さんは俺のベッドで寝ていた。それに少しほっこりしながらテレビを消し、ついている部屋の明かり消しさあ寝ようと思ったのだが、問題が発生。 俺、どこで寝よ? 俺のベッドは簪さん、なら俺は? まさか簪さんのベッドで寝るわけにはいかないし、寝たらムラムラして襲う自信があるね!そういうわけで寝るわけにはいかないので、考えるのだが。 寝れるところがない事実に、俺は愕然とした。 簪さんを簪さんのベッドに移すのはいいが、あまりにも幸せそうに眠っている簪さんを起こす可能性があるのができるだけ避けたい。 結局ヘタレな俺は一緒に寝るなどと考えず、簪さんに毛布を掛け、俺はタオルをしたに引いて寝ることにした
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第二十八話 打鉄弐式
2018.6.10 話数修正しました
今日は織斑先生が一日中いないということで、山田先生と模擬戦をこなしつつメニューをこなす。 一応アリーナ自体は一日中借りてはいるが、午後からは打鉄弐式の最終調整なので手早く終わらしておきたかったのだ。 それに何より、昨日までの疲れが残りすぎて辛かった。 山田先生は今日くらい休んでもいいと言ってくれたのだが、継続は力なりということで軽めにしてもらったのだ。 その割には模擬戦では本気を出していたような気がするけどね。 山田先生も成長著しすぎて困ります、なんて言ってた。 目が笑ってなかったから、多分あの発言は本気だ。 そんなわけで軽めにお昼をとり、アリーナ内で山田先生と待っていると。 ピットのカタパルトから簪さんが姿を現した
「おぉ......」
「ふふ、嬉しそうですね」
「はい」
最初からかかわったわけじゃないけど、かなりの苦難を乗り越えて簪さん、本音さん、俺と整備課の人達で組み上げた機体だ、何と言うか飛んでる姿に感動した。 調子を確かめているのか、自由に空を飛び、飛行速度を上げたり、バレルロール飛行をしていた。 なんか全体的に白いし、ユニコーンみたいやな
「つばっちー!」
「だから飛びつくのは、いや、もういい......」
「えへへ~」
本音さんは俺を見つけたからか、背中に飛び乗ってきた。 もう何回も言ってるのだが直らず、もう言うのも疲れてきているのが現状だ。 たぶん簪さんも、こういう気持ちだったんだろうなーと思いつつ、飛行するのを見ていた。 あの山田先生、その微笑ましいものを見る目をやめてください。 絵面的にはそうかもしれませんが、こちとら凶悪なのと戦ってるんですから
「・・・・・・つばっちだったら、いいよ?」
「・・・・・・え?」
思わず本音さんを見ると、少し照れくさそうな顔をしながらこっちを見ていた。 いやいやいや、何がいいんですか? ナニですか? いやいやいや!よし、素数を数えよう!
「つばっちのヘタレ」
小さな声で言ってたって聞こえんだよ!!だが俺は何も聞いてない。 ひたすら無心で俺は簪さんが飛ぶ姿を見ていた。 しばらくして満足したのか、簪さんが徐々に降りてくる。 着地すると同時に簪さんに声をかけた
「どう?」
「うん、最初はちょっと微妙だったけど、最後は満足いく形になった」
「それはよかった」
「それじゃあ次は~武装のチェック、行ってみよ~」
本音さんの言葉に、山田先生はホログラムウインドウを呼び出し操作をして行く。 すると、アリーナ内にターゲットが出現する。 こういうのは俺でもできるのだが、山田先生のほうが得意なので任せたわけだ。 まず最初は背中に搭載された2門の連射型荷電粒子砲、春雷だ。 ロックオンされ、打ち込む。 エネルギーの減りなどは予定地通りだが、的の中央から大きくずれていた
「ブレをもうちょっと直さなきゃ」
「ここら辺はトライアンドエラーだからなー、しかも背中の固定武器だから、しっかりと設定しないと後々響くし」
ここら辺は経験談だ。 ある時ふざけて肩用の装備があったため、それを装備してガンキャノンとかふざけて撃ちこんでいたが、固定式装備の場合ブレの設定をしっかりしないとぶれるぶれる。 しかも俺の場合、固定が甘かったのか撃った瞬間外れ、顔に直撃ということがあった
「アレは痛かった......」
「つばっち~?」
「いや、何でもない」
山田先生は俺と本音さんを見て苦笑していたが、たぶんその時のことを思い出していたんだろう。 あの時は別の意味で山田先生も大変だった。 外れて俺の顔にぶつかった瞬間、半泣きで俺のところに来て大丈夫ですか!? ってすごい慌てていた。 しかも大丈夫って言ってるのに保健室連れて行こうとするし。 その時は面倒だったので、訓練しましょうって流したけど
「・・・・・・」
無言で数発撃ち込みつつ、その場でズレの修正をしている簪さんを見て過ごす。 数十発撃ってようやく満足したのか、次の武装に移る。 次の武装は近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀、夢現。 これまたターゲットと行きたいところだが、さっきの射撃用の的しかないため振って確認くらいしか無い。 ここら辺は経験者故か、無駄がない。 ひとしきり確認して最後の武装、打鉄弐式の最大武装。 第3世代技術のマルチロックオン・システムによって6機×8門のミサイルポッドから、最大48発の独立稼動型誘導ミサイルを発射する山嵐。 なのだが肝心のマルチロックオンシステムが完成しておらず、現在は俺が作ったなんちゃってマルチロックシステムが搭載されている。 アレからもずっと改造を続けているそうで、前よりも処理は重くならないとのこと。 完成が見てみたいが、まあまだかかるだろう
「山田先生」
「はい」
標的を複数展開してもらい、山嵐の試験を開始した。 やはりと言うか、ロックまでに時間がかかるのか少ししてから発射される。 全部の標的を見ると当たってはいるようだが
「うーん、複数処理かけてるからか、やっぱり重いな」
「これでもよくなったほう」
「元々の開発者は俺だから知ってる。 良くなったほうと言うか、かなりよくなってる。 俺だとたぶん、ここまで早くするのは無理。 俺の元のデータの方の試算はこんな感じ」
「これは、うん......」
簪さんに画面を見せると、苦い顔をしていた。 俺も簪さんに触発されてという言い方はおかしいが、影響を受けシステム見直しを図ったが、とても実戦で使えるものではなかった
「マルチロックオンシステム、完成していたんですか?」
山田先生が話に加わってくる。 若干の遅さはあるものの、ロックの動きを見ていた山田先生は疑問顔だ。 俺と簪さんは首を振る
「完成は、してません」
「うーん、一応使えるだろうけど、少し厳しいな」
「うん」
簪さんもわかっているのか少し残念そうだが、割り切っているようだ。 しかし、複数ロックはやはり遅い
「使うならロックしつつ時間差で撃ち込むほうがよさそうだな」
「そうする」
なんか俺が助言しているみたいになってるけど、良いのかこれで。 誰も気にしてないからいいみたいだが、ねぇ?
「それじゃあ次の段階に行く」
「はいはい」
「それじゃあ準備しますね」
次の段階と言うのは、ある程度動いた状態での使用だ。 さっきのは常に止まった状態で撃っていたが、今回は動きながらの射撃となる。 まずは春雷からということで、動きながら展開。 次に撃つが、的から大きく外れる
「くぅ」
「ありゃりゃ、外れちゃったね」
「まぁ一応データは集めたって言っても、やっぱり荷電粒子砲関連は集まり悪かったからな。 俺の機体で試そうにも、学園の武器にそんなものはない」
だから数少ないデータから設定したわけなのだが、やはり甘いらしくトライアンドエラーの繰り返しだ。 しばらくすると当たるようにはなってきたのだが、真ん中には当たらない。 簪さんに少し焦った表情が見え始めてきたので
「簪さん!」
「なに?」
狙いをつけて撃ってを繰り返す簪さん、こっちに意識を向けるも一瞬だ。 ダメだありゃ、完全に気が立ってる
「休憩しよう!!」
「いい」
「本音さん降りて」
「あいあいさ~」
「無理やりにでも止めに行くぞ」
本音さんに背中から降りてもらい、優しく言っても堂々巡りになりそうだったので、相棒を展開して言うと素直に下りてきた。 少しむすっとしていた顔をしていたが、そこはデコピンしておく
「あぅ!?」
「あのまま続けててもいい結果出ないし、止めさせてもらった。 イライラしてたでしょ?」
「あ、うん......」
デコピンすると非難するような視線が飛んできたが、俺がそう言いながら撫でるとうつむいておとなしくなる。 あの山田先生、だからそんな微笑ましいものを見るような目で見ないでください。 余談だが、この後再開したテストでは数発撃っただけで、真ん中に当たるようになった。 どういうこっちゃ
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第二十九話 お披露目
2018.6.10 話数修正しました
山嵐の方も試験が終わり、思いのほか時間があまりどうしようか考えていると、簪さんから意外な一言が出る
「蒼海君、私と戦ってほしい」
「えーっと、なんで?」
いきなりの発言に目を丸くするのだが、簪さんは本気の目をしていた。 相手にならないと思うんだよね、俺みたいなペーペーじゃ。 この頃山田先生との模擬戦も僅差で負けるし、織斑先生との模擬戦なんかボコボコにされるし。 さらに言えば、山田先生と織斑先生のペアにもボコボコにされるし。 この頃負け癖ついてるな、悲しくなってきた...... 関係ないことを思い出していると落ち込むので、簪さんの方に意識を集中することにしる
「私は蒼海君に守られるほど弱くないっていう証明のために」
「この間のは、機体が完成してないから守っただけだよ?」
別に簪さんを弱いなんて思ってない。 この間のは本当に、機体が完成してなったし、それにあそこで壊させるわけにはいかなかった。 過去に蹴りをつけるためにお姉さんと戦いたいって、言ってたから。 早く蹴りをつけたほうが、早くもとの関係に戻れるだろうし
「それでも、戦いたい」
「・・・・・・」
簪さんの思いは変わらないようだ。 本音さんや山田先生を見ても、俺を見ているだけだった。 俺は相棒を見る。 なんとなくだけど、相棒を俺を見ているような気がするから。 ここで断ったら簪さんと溝ができるだろうしそれに、簪さんの意見を尊重したい。 簪さんが俺のここまで言ってくるのは珍しいから
「相棒」
俺も
「別に俺は簪さんを弱いと思ってないけど、やろうか」
「ありがとう」
簪さんもお礼を言って、薙刀である夢現を構える。 ピット内から本音さんと山田先生が出ていくのを確認し、簪さんに話しかける
「それじゃあ、カウント三からで。 ・・・・・・三」
「二」
「「一」」
ゼロはなく、俺と簪さんのバトルは始まった。 やはりロックオンしていたのか山嵐のミサイルポットのハッチが開く。 そして春雷も展開し、全弾発射してくる。 だがそれが読めない俺ではなく、イグニッションブーストを発動し、一気に距離を詰める。 サブマシンガンから持ち替え、右手に葵を持ち、左手には盾を。 まさか突っ込んでくるとは思わなかったのか一瞬呆けたがすぐに立て直し、春雷を連射しながら距離をとるため後ろに移動する。 ミサイルのせいで直線にしか行けないのはきついが、そのための盾だ。 盾に姿を隠し、切れ目で二回目のイグニッションブーストを発動、さらに距離を詰める。 だが、それを狙っていたかのように逆に向かってきた。 薙刀の間合いになるが、冷静に軌道に合わせて盾でガードする。 このくらいの早さなら、目視は余裕だ。 織斑先生の早さはね、見えないからね、はは...... 葵で切りつけようにも遠いが、元々葵もブラフで体を隠した時にサブマシンガンに変えておいた。 サブマシンガンを打ち込むが、この距離で春雷を撃ってくる。 思い切りがいいけど、後ろ向きにブーストをふかし回避する。 だが、距離を離せばミサイルと春雷が飛んでくる。 ミサイルはともかく、春雷をエネルギー切れになるほどばかすこ撃つとは思わない。 接近すれば薙刀の餌食になる。 あの薙刀、刃先を受けようものなら容易く盾が切れる。 前に聞いてはいたが、今表示された情報を見て思い出した。 アレは対複合装甲用の超振動薙刀だ。 ミサイルは弾幕貼ればいいが、春雷は盾で防ぐしかない。 逆に接近戦は盾で防ごうとすれば、もっと言えばつば競り合いしようものならこちらが切られる
「やり辛いな」
「私もだよ。 相手の嫌な距離にいるのが基本的な戦法なんだね」
「別にそういうわけじゃないけど、気が付いたらそうなってるだけ」
こうやって会話をしていても、互いに隙を伺っている。 大体の戦術は組めた、多少はもらうかもしれないけどこれで行こう。 持っているサブマシンガンに力を籠め、イグニッションブーストを発動する。 それに対する準備はしてあったのだろう、ミサイルと春雷を連射してくる。 なるべく体の出す範囲は少なくして、サブマシンガンで弾幕を張る。 大体は落とせたが、何発か貰ってしまう。 春雷の方は盾できっちりと防ぎきる。 これで第一段階はクリアだ。 この距離までくればミサイルは誘爆の恐れがあるから発射はできないが、今度は夢現が出てくる。 さっきと同じ状況になり、同じようにイグニッションブーストを発動する
「さっきと同じ手は、食わないよ!」
「どうかな?」
さっきと同じ様に薙ぐ攻撃ではなく、簪さんが選んだのは突き。 だが、一瞬出来れば十分なのだ。 俺はその突きを盾で受け流す。 さっきと違うのは受け流してもそのまま足と止めず、懐に入り込む。 そして、持ち替えていたグレネードランチャーを弾切れになるまで発射する
「なっ!?」
「驚いてる暇はないよ」
再度薙刀を振るおうとするが、それを思いっきり蹴り上げ、両手にはセミオートショットガン。 これも至近距離で、弾切れになるまで引き金を引く。 ここまで食らうと大ダメージだが、簪さんは無理やり姿勢を戻し地面に向かって春雷を撃つ。 ここで深追いすれば何があるかわからないので、俺はその場を離れ盾とサブマシンガンを展開する。 煙は晴れないが、ミサイルが飛んでくる。 これまでよりも数は多く、たぶんほとんど撃ち尽くしてる。 それと同時に春雷も飛んできていることから、ここで勝負をつけるつもりだろう。 俺は左手に持っている盾を拡張領域に戻し、サブマシンガンを両手に構える。 春雷を縦横無尽によけ、ロックさせないようにしながらミサイルを打ち落としていく。 流石にこんな状況でも、当ててくる。 俺の進路を予測し、春雷をそこに射出。 おかげで数発はかすっているが、まだシールドエネルギーには余裕がある。 だからと言って油断するつもりはない。 ミサイルもようやく迎撃し終わり、弾幕も薄くなってきたので突っ込むことにする。 たぶん罠だろうとは思っていたが、やはり罠でさっきの三分の一くらいしか無いが、ミサイルが迫ってくる。 簪さんは撃ち終わると同時に、春雷をを撃ちながらこちらに突っ込んでくる。 これならサブマシンガン片手でも迎撃できるだろう。 新しいサブマシンガンを出し、撃ちながら突っ込む。 邪魔な荷電粒子砲とミサイルは右手に展開した葵で切り裂き、簪さんに迫る
「やああああああ!!」
「ふっ!!」
迫る薙刀に回転しながら俺は葵を打ち付ける。 斬りあったことにより、葵は真っ二つになってしまったが、簪さんの夢現を思いっきり弾き、彼方に飛ばすことは成功した。 そして回転が終わるころには
「私の負け、だね」
「俺の勝ちだ」
地上に降り、簪さんと笑い合う。 なんか青春してるなーとか思ったのだが
「随分楽しそうじゃないか」
その声を聴いた瞬間、俺のテンションが一気にがた落ちした。 声のした方向を向くと、織斑先生がすでに打鉄を展開し葵を肩に担いで、アリーナの入り口に立っていた。 その後ろには本音さんと、申し訳なさそうな顔をしラファールリヴァイヴを展開した山田先生が
「織斑先生?」
「そうだ。 帰ってきたらちょうど模擬戦をやっていたのでな、私も混ぜてもらおうと思ってな。 あぁ心配するな更識妹、お前はそのまま布仏妹と一緒に整備に行くといい」
何故か俺の後ろに隠れていた簪さんには声をかけ、そう促した。 あれか? これはあまりにも俺がふがいなさ過ぎるから、鍛えなおしって意味か!?
「そういうわけじゃないが、まぁいい。 時間はまだ余っているんだ、さっさとやるぞ」
「つばっち、頑張ってね!」
「が、頑張れ?」
二人に励まされ、俺は特訓開始となった。 ちくしょー!
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第三十話 ヤムチャしやがって......
2018.6.10 話数修正しました
GWも終わり、始まった学校。 正直言ってだるい。 五月病と言うわけではなく、疲れているのだいろいろと。 GWはみっちりと朝から夕方まで織斑先生にしごかれ、それが最後の一日以外続けば誰だってそうなる。 最終日はいつもの朝のジョギングなどをして、そこからは体を休めていた。 簪さんに付き合ってアニメの鑑賞だ。 途中で本音さんも来たので、お菓子を買いに行く必要もなくなり、元々冷蔵庫に食材があったため昼間は適当に作り、夜まで鑑賞していた。 今回見ていたのは鉄血〇オルフェンズ。 メイスを使いたくなった。 そんなわけで休み明け、俺は少し重い体を引きずりながら教室に入る
「はよー」
「おはよう、蒼海君」
「大丈夫だったの!?」
クラスメイト達が駆け寄ってくる。 情報は機密扱いのため、みんなはあの次の日俺が休んだことについて理由は知らないはずだ。 まぁ、関係ないとはだれも思ってないんだろうが。 心配して駆け寄ってくるクラスメイト達に返事をしつつ、席に座る。 はぁ、ようやく一息つける。 そんな中何やら視線を感じ、そちらを向くと織斑が俺のことをにらんできていた。 いつものことだが、今日は俺が睨みたい気分なんだが。 まぁ、ああいう輩は放っておくに限るので無視しておく。 と言うよりも、その後ろに織斑先生の姿が見えたため、突っかかる気力もなくなった
「HRも始める、席に着け」
流石織斑大先生、みんなおとなしく座る。 余計なことを考えていたためか睨みつけられたが、山田先生が挨拶し始めたためそちらに注目する。 今日も一日頑張るぞい!・・・・・・キャラじゃないわ
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午前中の授業を何とか乗り越え、お昼になった。 途中いくつかの授業で寝そうになったが、殺気と飛んできたチョークにより生きた心地がしなかった。 避ければ後ろの席の子に迷惑が行くし、当たれば痛い。 しかも投げているのは当然織斑先生だ、チョークが見えやしない。 いや、寝そうになってる俺も悪いけどさ、これ幸いと悪い顔しながら投げてくる織斑先生もどうかと思う。 一応数個は取り損ねて手とかに当たったが、額に当たるのだけは死守した。 そんなわけでお昼休み、背中に本音さんを引っ付けながら簪さんと共に食堂を目指していた
「らくちんらくちん~」
「本音上機嫌で言うことじゃない。私だってしてもらいたいのに」
「まぁまぁ、簪さんいつものことだから」
「そういうことじゃない」
簪さんの機嫌が若干悪くなったのでそう言ったのだが、何故か不服そうにされたでござる。 と言うよりも簪さん、その頬を膨らませるのは萌えるからやめてくれ。 簪さんをなだめつつ、食堂の行列に並ぶ。 自分の注文したものができるころには簪さんも機嫌が直っており、適当に空いてる席に着いた
「「「いただきます」」」
三人で手を合わせ、いざ食べ始めようとしたところで、声をかけられた
「あ、翼じゃない、ちょうどよかった。 相席いいかしら」
「鈴さん、どうぞどうぞ」
両隣が簪さんと本音さんなので、鈴さんは対面の席になる。 そのことで横の二人からプレッシャーが放たれるのだが、俺関係なくない? 少し理不尽に思っていると、鈴さんが話しかけてくる
「本当に助かったわ、こんなに混んでると思わなくてね」
「いつもこんなもんだよ? この混みが面倒なら、購買行ってどこかで食べるか自分で弁当を作ってくることをお勧めするよ」
「今度からはそうするわ」
鈴さんは納豆を混ぜながらそう言っていた。 たぶんこの混みで選ぶのも面倒なのだからだろうが、和風セットとは...... ちなみに俺はバランスよくサラダセット。 本音さんは珍しくミックスフライ定食で、デザート付きだ。 簪さんは少食で、今日は肉じゃがのご飯セットのようだ
「そういえば簪さん、お姉さんの件どうするの?」
「なに、簪ってお姉さんと何かあったの?」
「いろいろだよ、いろいろ」
「ふ~ん」
元々そんなに興味がなかったのだろう、俺がいろいろと言うと鈴さんはそれ以上聞いてくることはなかった。 簪さんは考え込んでいる、それを心配そうに見つめる本音さん。 自分で一歩踏み出して蹴りをつけたいといったのだ、その気持ちはあるのだろうがやはりしり込みしているらしい
「お姉ちゃん、忙しいと思うし......」
「そんなこと言ってたら一生できないと思うけど」
「うっ......」
俺が正論を言うと、簪さんもわかっていたのかうなだれていた。 そんな俺たちをどこか期待したように見る鈴さん。 どういうことだってばよ...... 本音さんは、俺と簪さんの会話を静かに見守っていた
「やる気はあるんだよね?」
「それは、うん」
これにはちゃんと答えてくれた。 ふむふむ、ちゃんとやる気はあると。 ここで鈴さんが呆れたように俺を見て、本音さんは静かに見守っていた
「なら俺に任せてみない?」
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俺は今放送室にいる。 さっきの簪さんがお姉さんと蹴りをつける約束のために。 話は簡単だ、やる気はあるが踏ん切りがつかない。 なら、やらなきゃいけない状態にすればいいのだ。 そこで俺は放送室に来たというわけだ。 これからしでかすことの面白さはあるが、その後が問題だ。 十中八九どころか、確実に俺を捕まえるために織斑先生が来るだろう。 それを考えると今すぐ帰りたい気分だが、やらねばならない。 主に、俺の面白さのために!
「あー、あー、マイクテスマイクテス」
校内放送はちゃんと入っているようで、スピーカーから俺の声が聞こえてくる。 よーし、織斑先生が来る前に頑張っちゃうぞー!
「どうも皆さんこんにちは!男性操縦者の一人です。 今日はとある人に用事がありまして、無断で放送設備を使わしてもらってまーす。 その用事がある人とは......」
無駄にためを作っていると、ドアをノックする音が聞こえる。 ヤバイ、その瞬間直感した。 上がっていたテンションは一気に下がり、背中には悪寒がするが簪さんのために続ける
「生徒会長さんでーす!いやー、何の接点もないんですけどね!とりあえず、挑戦状をたたきつけます!顔も見たことないですけど」
ここまで喋っているとノックからドアを回す音に代わり、その音がドアノブ壊れるんじゃないかっていう音になってきている。 やめてください織斑先生!無駄に恐怖を煽らないで!恐怖と戦いつつ、いい加減要件を言う
「今日の放課後、第一アリーナにて待つ!あ、もちろん専用機持ってきてくださいね? 話し合いしたいとかじゃないんで。 それと関係者以外立ち入り禁止もお願いします、恥ずかしいんで。 以上、男性操縦者の一人でしたー」
俺が放送を終えると、鍵が開く音がした。 そちらを見ると、いい笑顔をした織斑先生がいた。 もちろんいい笑顔と言ったが、目は笑っていない。 これまでで一番、視線だけで人殺せんじゃねえの? って感じだ
「お、織斑先生、ハロー、ご機嫌いかがですか?」
「ん? すこぶるいいぞ、どこかの馬鹿が仕事を増やしてくれたからな」
「あはははは......」
「さて諸君、昼休み中に失礼した」
そう言って放送を切る織斑先生。 そうだった、放送切り忘れてた。 ということは、今の放送は入ってたわけだ。 これで存分に織斑先生の怖さが全校に伝わったことだろう
「さて蒼海、説教の時間だ」
「お、お手柔らかにぃぃぃぃ!!」
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第三十一話 想い
とか言いつつ、次の作品を書きたいとか思っている私がいる。HAHAHA
2018.6.10 話数修正しました
時間は早いもので放課後、俺たちは第一アリーナに居た。 地獄のお話(物理)を生き残った俺は、山田先生にも怒られ、真っ白に燃え尽きて立っているのがやっとの状態だ。 自業自得でもあるのだが、そんな俺を支えてくれるのは本音さんだ。 やめてくれ、今の俺に優しくしないでくれ...... 惚れてまうやろぉぉぉ!?
「つばっちならいいよ~?」
「ははは、こ奴め」
思考を読まれたことで再起動を果たした俺は本音さんをたしなめつつ、自分の足でちゃんと立つ。 いい加減みっともないしね。 ちなみにお話(物理)を耐えきって俺を見た鈴さんは、やむちゃしやがって!みたいな目で俺を見ていた。 他のクラスメイトは、珍獣でも見るような目だったけど。 しかし放課後になってから少し時間は経ったが、待ち人は来ない。 生徒会長だし忙しいのだろうか? なので、本音さんに聞いてみることにした
「そこらへんどう思う本音さん?」
「う~ん、来るよきっと」
「そか」
俺が再起動したことによっておんぶになったので顔は見えないが、たぶんいつものように笑っているだろう。 それから待つこと数分、青い髪の女生徒が入ってきた
「はぁ~い、貴方が挑戦者の男性操縦者君?」
「お昼はすみませんでした、あんな方法でお呼びだてして」
「いいのよ、最後は楽しめたし」
重要なことには答えず、一応謝っておく。 流石にあんな風に呼び出せば逃げることはないとは思っていたが、流石に呼び出し方がね。 相手は特に気にした様子はなく、俺の痛いところをついてきた。 最後のと言われ思い出すのは、織斑先生とのお話(物理)だ。 思わず苦い顔をするが、相手は扇子で口元を隠す。 その扇子には達筆で爆笑と書かれていた。 だが俺の背負っている本音さんに気が付くと驚いた顔をしていた
「あら」
「こんにちわ~、お嬢様~」
本音さんは暢気に挨拶をしているが、本音さんを見た瞬間雰囲気が変わった。 それまではフレンドリーだったのだが、いきなり顔が険しくなり殺気まで感じる。 殺気!? しかもこちらは本音さんを背負っているというのに、ISまで展開済みだ
「気が変わったわ、早速始めましょう? 本当は会話で貴方の人となりを探ろうと思ったけど、やめにするわ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「問答無用よ。 簪ちゃんと仲良くしているだけでは飽き足らず、本音ちゃんも手籠めにしてるなんて......」
「・・・・・・」
あ、これ俺終了のパティーンですやん。 本音さんがいるからまだ攻撃はされないものの、本音さんいなかったらアウトの奴やん。 しかも本音さんに降りるように言いながら、言葉の端に簪ちゃんの笑顔を見てとか、簪さんに対する愛があふれてる。 これはあれだ、シスコンですやんこの人。 それも重度の。 これは本格的に命の危険があるため、通信を急いで入れて簪さんにGOサインを出す
『簪さん、もういいよ』
『わかった』
簪さんがカタパルトから出てきたのを確認すると、俺は生徒会長、いや、簪さんのお姉さんに声をかける
「勘違いしているようだから言いますけど」
「なにかしら?」
「今日の相手は俺じゃありませんよ?」
丁度簪さんが来たようで、俺とお姉さんとの間に入る
「簪ちゃん......」
「お姉ちゃん......」
重苦しい雰囲気になる。 そんな二人を放置して俺と本音さんは移動し、アリーナの観客席に来たのだが、二人は何もしゃべろうとせず見つめ合ったままだ。 どうしたものかと思っていると、服を引っ張られる感覚がする。 そちらを見ると、やはり本音さんだった
「つばっち、お願い。 かんちゃんに勇気をあげてあげて」
「・・・・・・」
真剣な本音さんに押されつつ、まぁ俺しかいないよねとも思った。 俺はあえて通信をせずに、声を張り上げ簪さんを呼ぶ
「簪さん!」
「!」
驚いたようにこちらを見る簪さんだが、俺は構わずに見続ける。 思いを込めて簪さんを見続ける。 すると伝わったのか、その目にはさっきまでの不安はなく、いつか見た覚悟が決まった眼をしていた
『蒼海君、ううん、翼君。 ありがとう』
簪さんは優しく俺に微笑む。 それも一瞬のことで、すぐにお姉さんと向き直った
『お姉ちゃん、私と戦って』
『簪ちゃん......』
通信は入れっぱなしのため、俺の方にも通信が入ってくる。 本音さんと俺はそれを聞きながら、二人を見守る
『私はもうあの時の私じゃない。 何もしなくていいって言われて、お姉ちゃんのことを逆恨みのように思ってる私じゃない。それに私は私、お姉ちゃんにならなくてもいいって、教えてくれた人がいるから』
そう言って俺を見る簪さん。 本音さんは空気を読まずに手を振っているが、俺も手を振ったほうがいいんだろうか? つられてお姉さんが俺を見てるし、そんな空気じゃないよなぁ......
『そう、だったの......』
簪さんの言葉を受けて、ほっとしたような寂しいような、そんな表情を浮かべるお姉さん。 簪さんは俺を見るのをやめ、お姉さんに向き直る
『でも、けじめは必要だと思うから。 本当の意味でお姉ちゃんを追うのをやめて、自分自身を、更識簪としてあの人の隣を胸を張って歩けるように。 だから、お願い』
『簪ちゃん......』
その言葉を受けてか、お姉さんの表情は変わり、戦うものの顔になる
『簪ちゃんの覚悟は分かった。 でも、私はロシア国家代表よ、それをわかってて挑戦するのね?』
『もちろん』
「え? ロシア国家代表ってマジ?」
「真面目も真面目、大真面目なのだ~」
簪さんから強いとは聞いていたが、そこまで強いとは思っていなかった。 そのことに早まったかなーとは思ったが、簪さんの説得したことには後悔していない!
『わかってる』
『そう、ならかかってきなさい!』
そう言って槍を構える生徒会長。 簪さんも薙刀を構え、戦闘態勢だ
『翼君。 合図、お願いしてもいいかな?』
こちらを向く簪さん。 えぇー、なんでそんな大役任せるかな。 生徒会長もこちらを向くと、頷いていた。 あー、はいはい、分かりましたよ
『それじゃあ、始め!!』
俺の合図をもとに、戦いの火ぶたは切って落とされた
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第三十二話 想いⅡ
2018.6.10 話数修正しました
二人とも最初は様子見、と言うわけではなく先に仕掛けたのは簪さんだった。 話しているときにあらかじめロックオンしていたのか、48発すべてのミサイルを発射した。 これに対して生徒会長は特に防ぐ様子もなく着弾、爆発によって煙が出て姿が見えなくなる。 えげつないなぁ、とも思うが、相手は国家代表卑怯も何もない。 ただ気になるのは、簪さんがミサイルを発射したのにもかかわらず何もアクションをとらなかったことだ。 拡張領域から槍以外の射撃武器を取り出して撃つなり、逃げるなりすればいいのだが何もしなかった。 生徒会長のISは俺が見てきたどのISよりも装甲が少なく、ミサイル一発でも当たれば大ダメージだと思うのだが。 やはり一筋縄ではいかない、そう思いつつ、簪さんを見守る。 煙は晴れないが生徒会長の方から何かが飛んでくる。 それに気が付いた簪さんは回避行動、何かが着弾したのか地面がえぐれる。 煙がようやく晴れ見てみると、そこにはランスを簪さんに向けている生徒会長の姿が。 よく見るとランスには銃口が付いていた。 なるほど、ガンランスか!竜撃砲はあるんかな? 馬鹿な考えは頭の隅に追いやり、生徒会長の状態を見る。 あの爆発にもかかわらず生徒会長は無傷で、余裕な表情を崩さない。 やはり何かあるようだが、何かまでは分からない。 さっきまでと違うのは...... 羽みたいなところから、何か出てる?
「アレは、水?」
「お~、つばっちよくわかったね~」
どうやら正解のようだ。 水は俺の中でも思い入れがあるものだからなそれは分かるけど、どうして水を? はっ!まさか俺と同じ転生者で、水を操る能力を!? なんて思ったが、そんなことあるはずがない、 俺と同じように水を自由自在に扱えるのなら、わざわざISを展開する必要がない。 ということはISで操っているのだろうが、どういうからくりなのだろう? さておき、水を自由に扱えるのは分かったが、あれで防いだというのは少し疑問がわく。 あの爆発量だ、どのくらい一気に操作できるのかは知らないが、それだけで防ぐのは難しいと思う。 しかもあの爆発、ミサイルだけにしては大きかったような気がする。 何かに誘爆? だが、会長が何かした様子はなかった。 会長は、何かした様子はなかった? 俺は急いで映像を確認する。 この試合、何か参考になるだろうと思ってリアルタイムで撮ってあるのだが、確認すると水の散布は試合開始と同時に始まっていた。 ということはだ
「水を何らかの方法で気化させて、水蒸気爆発?」
「うん、お嬢様のISミステリアス・レイディはナノマシンで構成された水のヴェールを展開している機体、そのナノマシンを発熱させれば可能だよ」
だから装甲が少ないのか。 水を防御に回せば大抵の攻撃は防げるし、時には攻撃に回すことができる。 だから生徒会長も余裕を崩さないわけだ
『すごいわね、お姉ちゃん驚いちゃった』
『マルチロックオンシステムは完成してないけど、こういうこともできる』
『ふふ、それじゃあ今度はお姉ちゃんの番ね』
それまで攻める姿勢を見せなかった生徒会長は槍を構え、簪さんに突撃する。 対して簪さんは迎え撃とうと夢現を展開、斬り合うのだが音が変だ。 よく見ると、刃がランスにまで届いていない。 どうやらランスにも特殊ナノマシンを纏っているようだ。 簪さんも薙刀が振れない間合いに入られないように必死だが、それよりも俺はある可能性を考えていた。 さっきの水蒸気爆発、ミサイルが近づいてきたときに発動したようだが、有効距離があるなら今の状態はかなりまずいのではないのだろうか? そんなことを考えていると、やはりと言うか、山嵐のミサイルポットの一つが爆発する。 これには簪さんも動揺し、攻撃の手を緩めてしまう。 そこを逃がす生徒会長ではなく、一気に間合いを詰めランスを横なぎに振るう
『くぅっ!』
もろに入ってしまったのか、結構なエネルギを削られ、追撃とばかりにガトリングガンを撃ちまくる生徒会長。 だが簪さんもやられっぱなしではなく、その追撃を避けつつ春雷を撃つ。 これまた水でガードするのかと思ったが、生徒会長は避ける。 水でガードするわけではなく、避けたのだ。 ただ、ブラフと言う可能性はある。 簪さんも悩んでいるようだが、逆転するには攻めるしかない。 そう思ったのか、山嵐を展開、一斉射する
『無駄よ』
『やってみなくちゃわからない!』
さっきよりも少なくなった分、時間差で撃ってミサイルを絶え間なく撃つことで弾幕を張っているようだ。 だがさっきと同じ様に、煙で生徒会長の姿も隠れてしまう。 だが、簪さんはあえて煙の中に突っ込む。 俺たちには見えないが、中で何を行っているのか
「かんちゃん.....」
煙が晴れ、二人の姿が現れる。 夢現をつかまれ、何とか逃げようとしている簪さんと、夢現を掴みつつ逃がさないように水で捕まえている生徒会長
『いい戦法だったと思うけど、破れかぶれはだめよ簪ちゃん』
『ううん、これも作戦だよお姉ちゃん』
さっきまでの逃げようとしていた簪さんだが、ブラフだったらしく春雷を発射しようとしていた。 だが、生徒会長も読んでいたのか片方を爆発させ、片方の射撃を避ける。 やっぱり、あれを食らうのは相当まずいらしい。 だが簪さん、どうするつもりなんだ?
『これで終わりかしら?』
『ううん、まだだよ』
『何を、っ!?』
生徒会長が初めてダメージを受けた。 簪さんは生徒会長を撃ったように見せかけて、予め生徒会長の後ろに飛ばしておいた
『強く、なったのね、簪ちゃん』
『私だって、いつまでも昔の私じゃない。 でも、お姉ちゃんにはまだまだ遠い』
『ふふ、それはそうよ!だって簪ちゃんのお姉ちゃんだもの』
「お嬢様、かんちゃん」
二人が笑いながら話しているのを見て、本音さんは静かに泣いていた。 たぶん、近くにいるからずっとこんな光景が見たいと思っていたんだろうな。 それで見れたから、泣いてしまったわけか。 そんな本音さんの頭をやさしくなでつつ、試合の行く末を見守る
『行くよお姉ちゃん』
ミサイルポットである山嵐をその場におろし、夢現を構える簪さん。 それに対して生徒会長は特殊ナノマシンの散布をやめ、ランスを構える
『えぇ、簪ちゃん』
二人とも加速し、ランスと夢現がぶつかり、火花が出る。 二人の本気のぶつかり合い。 ランスを振るえば、簪さんは夢現で受け止め、逆に簪さんが夢現を振るえば、生徒会長がランスで受け止める。 徐々に削られていくエネルギーだが、やはりもともと削られて簪さんのエネルギーは少なかった分、エネルギーがもうない状態だ。 一度離れる二人
『もうエネルギーがないや』
『降参する、簪ちゃん』
『ううん、しないよ』
武器を構え、睨みあう二人、そして
『はぁ!』
『やあ!!』
そんな掛け声とともに、簪さんは夢現を投げる。 そしてそれは見当違いの方向だったが、生徒会長の真横に刺さる。 そしてそれは、山嵐のミサイルポットに刺さっていた。 簪さん、本当にすごいな。 こうなるように戦っていたのだから。 直後、爆発に包まれた生徒会長だったが、簪さんは攻撃を受け試合は終了となった
『やっぱり強いなぁ、お姉ちゃんは』
『まさか、最後あんな攻撃されるとは思わなかったけど、十分伝わったわ。 貴女の想い』
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第三十三話 想い、決着
2018.6.10 話数修正しました
勝負も終わり、本音さんをおぶりながらアリーナの中に入ると、二人は笑顔で会話していた。 それを見て、これは帰ったほうがいいかな、と思いその場を後にしようとしたのだが簪さんに見つかった。 簪さんは俺の姿を確認すると、小走りで駆け寄ってくる
「どうだった、かな?」
「いや、もう素晴らしいとしか。 流石日本代表候補、参考になるところが多かった。 負けたのは悔しいと思うけど、本当にいい試合だった」
「ナイスファイトだったよ~、かんちゃん」
「そう、かな? えへへ」
俺と本音さんがほめると、少し照れた風に笑う簪さんにどぎまぎしながら、会話をしていると
「お姉ちゃんを仲間外れにするのはひどいと思うわよ簪ちゃん」
「あ、ごめん」
ゆっくりと歩いてきたのはお姉さんで、別に怒っているというわけではなく、少しからかうふうに言っていた
「さてと、さっきはごめんなさいね、簪ちゃんのこととなるとすぐにカッとなっちゃって」
あれで少し? そう思ったが言うことはない。 俺は空気が読める男。 もし言ったとして、さっきの二の舞になることが目に見えているからだ
「お嬢様はいつものことのような気がする~」
「本音ちゃん、そこから引きずり下ろしましょうか?」
「や!」
そう言って余計にしがみつく本音さん。 あばばばば!たわわに実った果実が余計に押し付けられますので、おやめくださいお客様!そう思っているが、本音さんはやめてくれる気配はない。 なんか目の前の姉妹の雰囲気がだんだん怖くなってきてるんですけど!? 俺のせいじゃないですよね?
「はぁ...... 本音は」
「ここまで気にいるのも珍しいわね...... まぁ、置いておいて。 真面目な話があるの」
それまでの茶目っ気のある雰囲気から一転、お姉さんは真剣な雰囲気になる。 それと同時に場の空気も引き締まり、俺は無意識に背筋を伸ばしていた
「その、ありがとう。 もとはと言えば私の責任なのに、それを赤の他人のあなたに解決してもらうなんて......」
「お姉ちゃん...... ううん、お姉ちゃんだけのせいじゃないよ、私だって逆恨みみたいな感じで避けてたんだし......」
「ううん、私のせいよ、簪ちゃんせいじゃない」
いきなり謝られた。 と思ったらどちらが悪いかという話になっていた。 この姉妹、どちらも頑固だから譲らない。 本音さんを見るとニコニコしていたが、俺の方を見ていた。 あー、はいはい、俺が仲裁すればいいんでしょ? すると、俺の思考を読むスペシャリストの本音さん、頷いていらっしゃる。 俺はため息をつくと、仲裁に入る
「あー、はいはい。 そこまでにしましょう、せっかく仲直りしたんですから。 それと俺が解決したって言ってますけど、それは間違いですからね? 簪さんが仲直りしたいって言ってたから、こうしたらいいんじゃないかとは言いましたが、選んだのは簪さんですから」
「そうなの?」
「うん。 恥ずかしい話だけど、お姉ちゃんに対抗して最初は一人で
「それで、今回のこれになったわけだったのね」
納得がいったような顔をするお姉さん。 やっぱり疑問だったのだろう、簪さんの性格的になんでこういう方法を選んだのか。 お姉さんの納得顔はいいのだが、本音さんが耳元で
「へぇ~、そんなこと言ったんだ~」
とやけにうれしそうに言ってるので、そっちのほうが気になる
「うん。 だからやっぱり、こうやってお姉ちゃんと仲直り出来て、笑顔でお話しできるのも翼君のおかげだよ、ありがとう」
笑顔でほほ笑む簪さんに、見とれてしまう。 見とれてしまうのだが、隣のお姉さんの表情が何とも言えない表情すぎてすぐに顔をそらした。 聞こえるのはクスクス笑う声。 くそぅ......
「ま、まぁ、いいわ。 さーて、終わったことだし着替えましょうか簪ちゃん」
「うん、わかった。 翼君はどうする?」
「俺? あー、俺名義でアリーナ借りてるし、返却とかやらんといけないからな、先に受付行って終わったら外で待てればいいか?」
「うん、その後は整備手伝ってほしいんだけど」
「了解、先に行ってるなー」
簪さんと会話も終わり、歩き出したのだがお姉さんにつかまれる。 正確には俺ではなく、本音さんがだが
「本音ちゃん、お姉さんとちょーっとお話しましょ」
「いーやー!!」
哀れ本音さん、お姉さんにつかまってしまい、そのまま引きずられていた。 簪さんはその様子に呆れながら、後をついていく。 俺もいつまでもその場に立ち尽くしているわけにもいかず受付に向かい、アリーナの返却をする。 受付の人に生徒会長はどうだったか聞かれたが、戦っていないので愛想笑いをしておいた。 そのまま外に出るとやはり簪さんたちはまだ来ていなかった。 しばらくかかるかと思いスマホを取り出し、適当に絵師様の投稿を見る。 こういう絵師様の投稿は、アイデアの宝庫なのだ。 ネタにロマン、ガチいろいろな投稿で楽しめる。 最近は待っているのはメイスだ。 やっぱり鉄血っていったらメイスだよね、ISじゃ危なすぎて使えないけど。 ロマンていい言葉だと思う。 適当に検索を続けていると、声をかけられる
「お待たせ」
「ん? おぉ、簪さん早かったね」
「つばっち~!とう!」
「危ないから、俺が避けたらとか考えないの?」
「えへへ~」
簪さんから声をかけられ、そちらを向くと制服姿だった。 もうちょっと時間がかかると思っていたのだが、全然だった。 そうして簪さんと話していると、いつものごとく本音さんが飛びついてくる。 ほんとに背中が定位置になってきてる。 一応形だけの注意をするが、緩んだ顔で笑っているだけだ。 お姉さんも驚いてるし
「それじゃあ行こっか」
「レッツゴ~!」
そんなお姉さんを気にした様子もなく、簪さんは先に歩いて行ってしまう。 本音さんも俺の背中で、行こうと言ってるし。 俺はお姉さんに声をかけようとするが、名前を聞いていないため出てこない
「行かないんですか? えーっと......」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。 私は生徒会長の更識楯無、簪ちゃんのお姉ちゃんよ」
そう言って茶目っ気たっぷりにウインクする更識さん、いや楯無さんか。 口元には扇子で姉!と書かれている。 何あの扇子ほしい!宴会芸の時便利そう。 スキルとかでどうにかならないだろうか? そんな考えを片隅で考えながら、俺も自己紹介をする
「二人目の男性操縦者の蒼海翼です。 簪さんとはルームメイトで友達です」
「友達、ねぇ...... 簪ちゃんも大変そうね」
「何か言いましたか?」
友達と言ったら変な顔されたが、どういうことだろうか? その後何か言ってたみたいだけど、聞いてみたら気にしなくていいだし。 とりあえず、簪さんを待たせるのもあれなので行くことにする
「えっと、楯無さん行きましょう。 簪さんを待たせることになりますし」
「えぇ」
--------------------------------------------
「お引越しです」
「「はい?」」
山田先生が部屋に入ってきたと思ったら、いきなりそんなことを言われた。 思わず簪さんと声がそろったが、仕方ないと思う
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第三十四話 波乱の予感
2018.6.10 誤字、タイトル話数修正しました。 報告ありがとうございます それにしても、確認したのになんでや...... ネタバレやん
「あの、簪さん離れてほしいんだけど......」
「いや」
「えぇー......」
朝、俺を見つけるとすぐに抱き着いてきた簪さん。 と言うのも、昨日突如として言われた引っ越し。 山田先生曰く、ようやく部屋の調整が付いたとのこと。 そういえば相部屋の子が簪さんと分かった時、山田先生に聞いたんだっけ。 急な部屋の割り込みだったらしく調整中で、調整がつくまでは我慢してくれと言われてたのだ。 それが今になって出来たとのことだった。 この生活にも慣れ、楽しく過ごせるようになった矢先であった。 簪さんがそれとなく聞いてみるも、年頃の男女が一緒と言うのもくつろげないでしょう?とのこと。 まぁ、簪さんもその時
「そんなことないです」
ってはっきり言ったけどね。 山田先生もこれには驚いていたけど、ともかく決まったことなので、と簪さんを無理やり連れて行ってたけど。 そんなわけで俺は晴れて? 一人部屋になったわけだが、なんとなく寝るときに隣のベッドに簪さんがいないのを寂しく思ったのは内緒だ。 そんなわけで、俺と会えないのが寂しいということでこうして腕に抱き着いている。 離れてほしいというやりとりもすでに数回繰り返し、ほぼ諦めの境地に達してきたのだが。 本音さん? 本音さんならいつもと同じ様に背中に居ますよ? 後ろの柔らかい感触に、今度は腕にも柔らかい感触ががが
「蒼海君?」
ヒェッ...... 楯無さんが笑顔で俺を見る。 だがその目は笑ってなくて、怖かった。 楯無さんとは廊下でばったりと出会い、そのままと言う感じだ。 最初は簪さんの様子に驚いたようだが、そんなのも一瞬だ。 すぐに俺を威圧する笑顔に切り替えた。 なんだろう、幸せなのに地獄だ。 いろんな意味で。 廊下を歩き、食堂に入る。 向けられる好奇な視線に、侮蔑、少し嫌な気分になる。 まぁ、昨日しでかしたことを考えれば当然か。 それで侮蔑の視線が入るのはいただけないが。 幸い、向いているのは俺だけと言うのが救いか。 この学園に入って視線に敏感になったのはいいのか悪いのか。 必要以上に気にせず、もはや指定席になりつつある一角に移動する
「あら? 朝なのにここは空いているのね」
「まぁ、指定席になりつつありますからね...... さて、本音さんと簪さんも離れて、ご飯食べられない」
「まぁ、知ってるけどね」
「ぶーぶー!」
「横暴」
「どっちが......」
楯無さんは何かを言っていたようだが、簪さんと本音さんによってかき消され聞こえなかった。 不本意ながらも離れてくれた二人が座るのを待ち、俺は手を合わせて食べ始める。 簪さんや本音さん、時々楯無さんと喋りながらご飯を食べ進めていると
「あら、翼じゃない。 ここいい?」
「鈴さん、オハヨー。 どうぞご自由に」
鈴さんがお盆を持ちながらこちらに近づいてきた。 ちなみにここの席、俺らがよく使うから空けられているが、そのメンバーには鈴さんも入っている
「サンキュー...... って、またアンタ新しい人くわえたの?」
「待とうか。 その言い方ははすごく語弊があるからやめようか」
「はーい、翼君に色目使われて負けちゃいましたー」
「お姉ちゃん?」
鈴さんが呆れたように言ってきたので否定する意味も込めていったのだが、楯無さんが悪乗りしてしまう。 その言葉を受けやっぱりてきな目で俺を見る鈴さんに、ひそかにショックを受ける。 ちなみに、楯無さんだが簪さんに名前を呼ばれ謝っていた。 俺の見間違いじゃなきゃ、必死に頭下げてるように見えるのは気のせい?
「で? 誰なの?」
鈴さんは炒飯を食べながら聞いてきた。 炒飯、おいしそう。 じゃなくて
「ほら、昨日話してた」
「あー、あの人が簪のお姉さん? 似てるといえば似てるけど、性格違いすぎない?」
「りんりん、はっきりいっちゃだめだよ~」
本音さんはそういうが、俺も鈴さんと同意見である。 なんというか、顔とかが似てるんだけど性格が違いすぎてね。 そんなことを思っていると簪さんの話が終わったのか、楯無さんは改めて自己紹介をしていた
「蒼海君から紹介があったと思うけど改めて、更識楯無よ。 よろしくね、中国代表候補生の凰鈴音ちゃん」
「へぇ」
ばっと扇子を広げ、自己紹介をする楯無さん。 今回の扇子の文字は生徒会長だった。 あの扇子、本当にどういう原理かわからない。 後で教えてもらおう。 それに対して、鈴さんは目を細めていた。 うーん、警戒していらっしゃる? 何故かとも思ったが、自己紹介もしてないのに自分の名前知られてれば当たり前か。 なので、すこしフォローに入ることにする
「楯無さんはここにも書いてある通り生徒会長で、しかもロシア国家代表なんだ」
「それでも、少し違和感感じるけどね。 まぁいいや、フルネームだと呼びづらいと思うんで、鈴て呼んでください」
「なら鈴ちゃんね」
最初何を言ったかまでは聞こえなかったが、笑顔で二人は握手をしていた。 なんだか背景に虎と龍が見えるが、気のせいだろう
「ご馳走様っと」
「ごちそうさま~」
「ご馳走様」
「ごちそうさまでした」
俺たちは同時に食べ終わる。 別に俺は普通に食べているのだが、俺に合わせて簪さんや本音さんも食べるのが早くなったのだ。 鈴さんも最初は普通だったが、この人見たくなりたくないので早く食べるようになったのだ
「え、ちょっとみんな早くないかしら!? 置いてかないでー!」
哀れ楯無さん、鈴さんと話している間手が止まっていたためか一人取り残されていた。 こういうことがあったので鈴さんも早く食べるようになったのだ。 え? 何で待ってやらないんだって。 朝だから時間がないんだ
「あたしも、あんな風だったのね」
鈴さんのその言葉が、やけに印象に残った
--------------------------------------------
教室につけばいつも通りクラスメイト達に挨拶をし席に着く。 本音さんが来れば飴をあげ、他の欲しそうなクラスメイトにも渡す。 そんないつも通りの朝だったが、今日は違った。 どうやら転校生が二人来たようで、教室が盛り上がる。 転校生ねー、鈴さんみたく国家代表候補だろうか? 実際鈴さんやオルコットさんも言っていたが、これから各国の代表候補生が送られてくる可能性が高いそうだ。 男性操縦者のデータや、戦闘能力、それと他の代表候補のISデータ。 つまり他国の最新データが欲しいということだろう。 怖いねー。 そんな当たらずしも、遠からずなことを考えていると、織斑先生の声で転校生が入ってきたようだ。 金髪の長い髪を後ろで縛り、中性的な顔立ちの子と、銀髪で眼帯をしたちびっこ。 いや、失礼か
「シャルル・デュノアです。 フランスからきました、みなさんよろしくお願いします」
「お、男?」
礼儀正しく頭を下げるデュノアさん。 どうもブリ〇ニアの皇帝を思い出す名前なのだが...... 誰かから漏れた声。 いやいや、あれで男とかありえないでしょ? え? 男なん? デュノアさんも、そんな質問に答える
「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて転入を」
瞬間騒がしくなる教室。 ぬおぉぉぉぉぉぉ!耳がキーンてした!女子の出す声に若干頭が痛くなる。 なんか節々に本が厚くなるとか、織×デュノ? いや、デュノ×蒼? それだぁ!みたいな声が聞こえたが、無視だ無視。 そう騒がしくなる教室を山田先生は必死に静かにさせる
「皆さん静かにしてください!もう一人いるんですから!」
そんな山田先生の声に、関心がもう一人に移る。 すごいなあの子、動じてないしこの状況に目を閉じて沈黙を守ってる。 そう思っていたのだが、場を整えたのにも関わらず自己紹介する気配がない。 そんな様子にしびれを切らしたのか、織斑先生が一言
「自己紹介をしろ」
「はい、教官!」
違った、命令待ちだったんだ。 てか織斑先生、今の似合ってましたよ。 そう思っていたのがいけなかったのだろう、こちらを睨み口パクで今日の放課後覚えていろだそうです。 わーい、俺死んだ。 ひそかに燃え尽きていると、銀髪の転校生の自己紹介が始まる
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「・・・・・・」
沈黙のクラスメイト、後に続く言葉を待っているのだろうがしないと思う。 だってさっきの状態に戻ったし
「あの、それだけですか?」
「・・・・・・」
山田先生の言葉に無言を貫くボーデヴィッヒさん。 これは転校初日から、面倒な事態になりそうです
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第三十五話 噂の男の転校生
2018.6.10 話数修正しました
俺の面倒ごとになりそう、と言う予感は当たっていた。 自己紹介の後、ボーデヴィッヒさんは織斑を見ると織斑をにらみつけ、平手打ちをかましたのだ。 これにはさすがの俺も驚き、織斑に同情した。 織斑はなぜ平手打ちを食らったかわからなかったようだが、平手打ちをしたとき私は認めんとか教官がって言ってたから織斑先生関連だと思う。 織斑先生を見れば腕を組んで目を閉じていた。 こらえているのか、それともあまり干渉する気がないのか。 まぁ俺には関係ない話だと思う、そう思っていた時期が俺にもありました。 ボーデヴィッヒさんは織斑を平手打ちした後俺に気が付いたのか、厳しい視線を向けてきたが興味がなくなったのかすぐに前に戻った。 去り際に
「ふん。 こんな軟弱物のどこに気をつけろというのか、イギリス代表候補と引き分けと聞いていたが......」
とかぶつぶつ言っていた。 ヤバイ、何故か知らないけどドイツに目をつけられてるでござる。 話は変わるが後日聞いた話だが、どうも引き分けになった話は全世界に回っていたらしく、鈴さんにもデータをとってこいとかそういう話が来ていたらしい。 えぇー...... しがない一般人なんですが。 そんなこんなで朝のHRは少し長くかかったが終わり、準備の時間だ。 時間に余裕がないのもそうだが、今日はISの実習が一時間目なので余計に早くしなければならない。 俺たち男子の場合専用の更衣室などがなく、アリーナに併設されている更衣室で着替えなければならないのだ。 それがまた遠いのなんのって...... しかも今日は転校生、それも三人目の男性操縦者? が転校してきたのだ。 一目見ようと女子が集まってくるはずなので、余計に早く出なければと思い教室から出ようとしたのだが
「あぁ、蒼海、ちょっと待て」
「織斑と一緒にシャルル・デュノアの面倒を頼む」
「えぇー...... 織斑に任せとけばいいじゃないですか、クラス代表ですし」
「織斑じゃ無理なところもある、そういう時にお前の出番と言うわけだ」
「・・・・・・わかりました」
断ってもいいのだが、経験上この人の話を断ることができない。 それに下手に断れば、放課後や休みの訓練がえげつないことになるので渋々やることに。 と言っても、織斑に丸投げする気満々なのだが。 織斑先生は俺の言葉に満足したのか、肩を二、三度たたくとそのまま教室を出ていく。 チラリと時計を見ると、そろそろ行かないと本当にギリギリになってしまう。 教室内を見れば、まだ準備もせずに織斑と話しているデュノアさんの姿が。 はぁ、知らないデュノアさんはともかく、織斑は本当に学習しないな。 一応、後で何か言われたら嫌なので、声だけはかけておく
「織斑、デュノアさん。 そろそろ出ないと着替える時間が無くなるぞ、一時間目はISの実習だ」
「げぇ!忘れてた」
「あ、うん。 今行くよ」
デュノアさんは覚えていたようだが、織斑は忘れていたようでかばんをひっくり返していた。 あんなのに付き合っていたら本当に遅れてしまうので、織斑を置いて教室を出る。 廊下を走ってはいけないのはもどかしいが、早歩きで何とかする。 すると、ついてきたデュノアさんが不思議そうに俺に聞いてきた
「よかったの、織斑君を置いてきて」
「あんなのに付き合っていたら俺たちまで授業に遅れる。 授業に遅れるだけならまだいいが、織斑先生による出席簿は食らいたくないからな」
「出席簿?」
不思議そうに首をかしげるデュノアさん。 なんや、本当に女の子みたい仕草なんですが、君は本当に男なんですか? そう聞きたくなったが、聞くことはしない。 だって、聞いたら面倒なことになるじゃん? 一般人の俺にどうしろと? そんな思いを抱えながら、出席簿アタックについて説明する。 すると、話を聞いたデュノアさんは無意識に頭を押さえていた。 あぁ、うん。 伝わったようで何より。 一応、世話を任されてということで、今回の実習で何故移動しているかを説明しておいた。 いまいちピンとこない顔をしていたデュノアさんだが、分からないことがあったら俺か織斑に聞いてくれと言っておいた。 順調に歩いていたのはよかったのだが、外までもう少しというところで厄介なのに捕まってしまった
「噂の転校生発見!」
「なんで織斑君じゃないのよ!」
「デュノ×蒼、これは流行る!」
「それだ!!」
まぁ、女子の集団だ。 少し遠回りになるが、人の少ないところを通っていたというのにこれだ。 あと、美少年×美少年じゃなくて悪かったな。 本人を前に失礼だと思わないのか、いや思わないからあんな言葉が飛び出るのか。 それと最後のぉ!ヤメロぉ!
「なに?」
デュノアさんは不思議そうだ。 なんかさっきからこれしか思っていないが、実際デュノアさんは不思議そうな顔をしているのだから仕方ない。 あ、また言っちゃった。 ともかく、そんなわかっていないデュノアさんに、ギャラリーが増えつつあるが説明をしておく
「君転校生、しかも男性操縦者。 OK?」
「あ、うん、そういうことだったんだ」
俺が簡潔に伝えると納得顔のデュノアさん。 説明しなくてもわかると思うが、まぁいいか。 とりあえず近場の窓を開ける。 その行動に、不思議そうなギャラリーとデュノアさん。 いや、君もそっち側とか困るんだけど。 とりあえず
「デュノアさん、こっち!アバヨ、とっつあん!」
「え、ああ!そういうこと!」
某大怪盗の真似をして、窓から身を躍らせる。 もちろんここは一階なので、問題はない。 昔とか、生徒会から逃げるために三階から飛び降りたこともあったけど。 デュノアさんは俺の考えが分かったのか、俺と同じように窓から出てきた。 身軽だな。 一応、外でスタンバていたのだが、必要なかったらしい。 走り出すとギャラリーの残念そうな声がしたが、そんなことは知らぬ
「あ、蒼海君せめてデュノア君の写真だけでも!それと、昨日の試合がどうなったのかもー!」
「欲張りですね!?」
なんで俺は律義に新聞部の人に返答してあげたのか...... しばらく走るとアリーナの更衣室に着いた
「はぁはぁ、ごめんね迷惑かけちゃって」
「気にするなって、転校したてで右も左もわからないだろ? 困ったときはお互い様だ、気になるって言うなら後で俺が困っているときにでも助けてくれればいいから」
息を整えつつ制服を脱ぐ。 時計を見ると、もういい時間だ。 早くアリーナに向かわないと、出席簿アタックを食らうことになる
「うん、ありがとう。 って、なんで脱ぎだしてるの!?」
「いや、時間見ろって。 もう着替えて出ないとやばいぞ。 さっき言った出席簿、食らいたくないだろ?」
なぜかいきなり声をあげたデュノアさんに驚きつつ、そう言うと真っ赤な顔でワタワタしていたデュノアさんだが、時計を見ると冷静なったのかそっぽを向く。 俺も着替えに集中し、ようやく着替え終わりデュノアさんに声をかける
「デュノアさん、ってもう着替え終わってたのか。 先に行っててもよかったのに」
「そう言うわけにも行かないよ。 着替え終わったし、行こっか」
デュノアさんの言葉に頷き、更衣室を出る。 どうでもいい話だがデュノアさん、織斑のこと忘れてるよね。 そんなに出席簿が怖いのかな? 余談だが、織斑は授業に遅れてきて織斑先生の出席簿アタックを食らっていた。 アレもたぶん、きっと、愛の鞭なんだな。 デュノアさんは生で見た出席簿アタックに顔を青くしていた
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第三十六話 IS実習授業
2018.6.10 話数修正しました
本格的に実習が始まるということで、織斑先生から諸注意があった。 いやーそれにしても、帰っていいですか。 ISスーツって肌に密着してる都合上、男としてここにいるのがいろいろと辛いのですが。 まぁ、帰ったらそれはそれで大変なことになるので帰れないのだが。 注意が終わると戦闘を実演、ということで鈴さんとオルコットさんが呼ばれていた。 いやー、代表候補は大変ですね。 たぶん織斑先生は、みんなにもいい刺激になると思って呼んだのだろうが。 鈴さんもオルコットさんもそれが分かっているのか、素直に前に出てISを展開していた。 するのはいいのだが、相手は誰なのだろうか? 山田先生がいないけど、まさか、な
「ところで織斑先生、相手は誰ですか?」
「見たところいないようですが...... もしかして鈴さんと私なのでしょうか? 後専用機持ちと言いますと、蒼海さん、織斑さん、デュノアさんがいますが」
「まぁ、そう慌てるな。 個人的にはオルコットと凰対蒼海が面白そうだが」
「そこで俺を引き合いに出すのはやめていただけませんかねぇ!?」
織斑先生の言葉に、即ツッコミを入れる。 何で鈴さんもオルコットさんもその手があったか!みたいな顔で頷いてるの!? もう訳が分からないよ...... 俺が一人で落ち込んでいると、かすかな音がする。 どこから聞こえるかわからないがなんとなく空を見ると、何故か緑色の物体が目に入る。 なーんか、凄く見覚えがあるんですが。 とりあえず見覚えがあるのは全力で無視しつつ、ネタをやらないとね
「親方!空から人が!!」
「何を言ってるこのバカ者。 そんなことはいいからさっさと助けてこい」
「へーい......」
馬鹿者って言われた...... すぐにISを展開し、落下地点に先回りする。 墜落したくらいで怪我をしないのは先の織斑墜落事件(今命名)で実証済みだが、それとこれとは話が違う。 いきなり受け止めるとそれなりに衝撃が来るので、落ちてくるスピードに合わせゆっくりと減速する。 難なく着地し地面におろすのだが、謎のプレッシャーに襲われる。 出所を探せば、本音さんがこちらをじーっと見ていた。 それも、目を薄く開いてだ。 ヒェッ...... これは俺じゃなくて、織斑先生の指示なんですが。 そんな俺の内心を知らず、山田先生はお礼を言う
「ありがとうございました蒼海君」
「い、いえ、気にしないでください」
俺が相棒の展開を解こうとすると、織斑先生から待ったの声がかかった
「あぁ、待て。 そのままでいい」
「えっと?」
「さて、これから実習を始める!皆はよく見ておくのだぞ、代表候補生対男性操縦者と元日本代表候補のタッグマッチを」
あーね、そういうことですか。 納得はしましたけど、織斑先生その悪そうな顔やめません? どうも作戦タイムがもらえるようだが、俺と山田先生は機体の状況を確認しつつ、簡単な打ち合わせをする。 ほぼ毎日のように訓練を見てもらったり模擬戦をしているせいか、山田先生の癖とか傾向はばっちりだしね。 山田先生の方もそうなので、軽い打ち合わせで十分なのだ
「それでは始めるぞ?」
「行きましょうか師匠!」
「頑張りましょうね蒼海君!」
「ふふん!手加減はしないからね!」
「今回は勝たしていただきますわ!」
「はじめ!」
一気に空中に躍り出るオルコットさんと鈴さん。 それに対して俺と師匠は、遅れて空に飛び上がる。 二人は散開しオルコットさんはファンネルを展開、鈴さんは龍咆をいつでも撃てる状態にしていた。 それを見て俺は両手に盾を展開、そのまま突っ込む
『師匠、ブルーティアーズをお願いできますか? 俺は師匠に攻撃がいかないようにオルコットさんを牽制しながら、鈴さんを対処しますので』
『わかりました、無理はしないでくださいね? 無理そうだったら、オルコットさんは構いませんので。 ブルーティアーズ破壊後は、また打合せしましょう』
『了解!』
山田先生との通信を切り、俺に連続して龍咆を撃つ鈴さんに突撃する。 もちろんその際オルコットさんからもファンネルで攻撃が来るが、冷静に防ぐ。 山田先生は俺の後ろから出ると冷静に射撃し、ブルーティアーズの一機を破壊していた
「やるじゃないの!でも、この連続攻撃で盾は持つかしらね!」
鈴さんからの圧力が増す。 たぶん、威力重視から連射重視に切り替えたのか、盾に圧がかかる。 盾の耐久を見ると、大体半分くらいだ。 オルコットさんを見れば、山田先生の方に視線が向いている。 鈴さんはこっちに釘付けだから、そろそろいいか。 シールドの格納し、新たにサブマシンガンとアサルトライフルを取り出す。 それに合わせて吶喊もやめ、逆向きにスラスターをふかすことにより攻撃を避ける。 サブマシンガンは鈴さんに、アサルトライフルはフルオートでオルコットさんに向かって撃ちだす
「ちぃ! やってくれるじゃないの!」
サブマシンガンの弾がうざいのか、連結した青龍刀を回し弾をはじいていた。 オルコットさんは冷静に回避を選択し、俺は進路を予想しつつ弾をばらまく。 流石に距離が有効射程内ではないだけあって当たらないが、牽制にはなっているらしい。 今もファンネルの動きが鈍くなり、師匠が二機目を撃墜したところだ
「よそ見とは、いい度胸じゃない!!」
「これは失礼。 確かに目の前に美少女がいるのに、よそ見は紳士として許せる行為ではないね」
「アンタは紳士って柄じゃ、ないでしょ!」
こっちに釘付けなのはいいが、少しは味方のことも気にしようよ鈴さん。 多少の被弾は構わないのか、青龍刀を回すのをやめ龍咆を撃ってくる。 俺は攻撃を緩め、山田先生に当たらないのを回避し、当たるのをガードする。 一応、射線に山田先生が入らないように気を付けているのだが、鈴さんは縦横無尽に撃っているためたまに当たりそうになるのだ。 だが、ばかすこ撃たれるのも盾の耐久が先に来てしまうので接近する
「ふん、勝てると思てるの!!」
龍咆を撃つのをやめ、俺が接近するのに合わせて青龍刀を振るう鈴さん。 だが俺はそれを鈴さんの目の前で急停止し、避けるのだが
「残念だけど、双天牙月は一機じゃないのよ!」
連結しているため、勢いよく降ればもう一方の刀が帰ってくる。 だが、そんなことは分かっている
俺はそれを盾で受け流し、右手にショットガンを展開、無防備な体に撃ちまくる。 だが鈴さんも負けじと、龍咆をを撃ってくる。 無理な追撃はせずに、俺はその場をすぐに離れる。 ファンネルは四基破壊し終わったのか、山田先生からの通信が
『ブルーティアーズ四基終わりました。 状況はどうですか?』
『特に被弾もなく、問題はありません』
『なら、最後の仕上げです。 オルコットさんと鈴さんを誘導して、一気に終わりにしましょう!』
『了解』
山田先生のほうを見ると、もう誘導をし始めていた。 俺もそれに倣い、回避行動をやめ誘導することにする。 まぁ、手段はちょっと強引だけどね
「逃げんじゃ、ないわよ!!」
「なら、向かっていくことにしよう!」
盾を左手に、右手に葵を展開して鈴さんに突っ込む。 龍咆を撃ってくるが、難なく避け鈴さんの懐に入り込む。 だがことはそんなに簡単ではなく、間合いが近いこともあり鈴さんは青龍刀の連結を解除し、両手持ちにして振るってくる。 さっきより隙は少なくなったが、俺の狙いはそこじゃない。 懐に入ったと思わせて背後をとり、イグニッションブーストを発動する
「んが!?」
後ろからシールドバッシュし、そのまま鈴さんを吹き飛ばす。 いやー、近距離でイグニッションブーストして、勢いが付いたままシールドバッシュって我ながら鬼畜だな。 鈴さんは師匠が
「釣りはいらないよ、全部持って行ってね」
「オルコットさん、凰さん、ナイスファイトでした」
俺たちはそれぞれ引き金を引いた
ふと思ったんですがこの作品、タグをほぼつけてない。 なので、追加したほうがいいんじゃないかと思うタグを募集。 一応自分でも考えますけど、つけたほうがいいタグが抜ける可能性があるので
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第三十七話 ISを使っての授業!
2018.6.10 話数修正しました
「これで諸君にも教員の実力、専用機ではなく訓練機でも十分に戦えるということが分かっただろう」
俺と山田先生が地上に降りると、織斑先生がそう説明していた。 いや、確かに山田先生はともかくとしても、俺の場合訓練機なんて言い難いんですが...... そんなことを思いながら話を聞いていた。 織斑先生の指示で、専用機持ちはそれぞれ分かれて、それぞれ指導ということになった。 使うISは打鉄で、今回は装着、起動、歩行までの訓練だった。 いやー、ついこの間のことだけど懐かしい。 あれ? 今気が付いたけど、ついこの間IS触れたばかりなのに、なんで織斑先生や山田先生と戦ってるんだろう? いくら自分で望んだとしてもおかしくないか? そんなことを考えていると、声がかかる
「つばっち~、やらないの~?」
「あー、うん、やるよ」
考え事を頭の隅に追いやりつつ、本音さんの言葉に反応する。 さてと、切り替えないとな。 今日は二組との合同実習、指導する人の人数もいるが、指導される人の人数も増えているのだ。 さっさとやらずに終わらないということは嫌なので、やり始めることにした
「それじゃあ、出席番号の速い順から始めよう」
「はーい!了解!」
そんなわけで一番手は相川さん。 元気よく返事をすると、早速ISに乗りこみ起動させる
「おぉ.......」
「違和感とかはないみたいだね、それじゃあ歩行してみよう。 重要なのはイメージ、普段の歩行とは勝手が違うからそこら辺を留意して一歩ずつゆっくり行こう」
「やってみるね!」
他のグループも続々と始めたようだが、織斑とデュノアはグループの女子に手を差し出されていた。 何やってんだ、アイツらは? まぁ気にしたら負けなので、スルーすることにした。 少しぎこちないがちゃんと歩けているようだし、そろそろ終わりにしようと思い相川さんに声をかける
「相川さん、そろそろ」
「あ、うん」
「次の人が乗りやすいように、膝立ちみたいな姿勢にしておいて。 そうすれば相川さんも降りやすいから」
「はーい」
俺の指示に従って、膝立ちの姿勢でISを降りる
「いやー、蒼海君のアドバイスのおかげでこけることもなく歩けたよー」
「実際誰しもが通る道だからね。 自分の経験したことをわかりやすく伝える、それが大事だと思う。 次の人ー」
その後、特に危なげなく授業の内容を消化していく。 一番最初に始めたからか一番最初に終わり、他のところを眺める。 織斑に関しては論外だが、デュノアさんの教え方もなかなかわかりやすいな、 セシリアさんは、理論が先に行っててわかりにくい。 ある程度勉強してる人ならわかるかもしれないが、この時期にそれを言われてもわからないと思う。 何故俺が分かるかと言えば、アリーナが借りられない日は座学で勉強しているからだ。 鈴さんは、オルコットさんと逆で感覚タイプ。 あっちは同じタイプじゃないとよくわからないと思う。 しかも厄介なことに、自分の感覚が人と同じではないので大概変な癖が出る。 まぁいいや、最後はボーデヴィッヒさんだ。 なんというか雰囲気が重苦しいし、聞かれたことを最小限でしか答えないから会話が少ない。 しかも、本人はずっと厳しい表情だから聞くこともままならない感じだ。 可哀想に。 すると、ちょうどチャイムが鳴り終了時間のようだ
「それでは授業はここまでとする。 各自、次の授業には遅れるなよ」
解散ということになり、各自着替えるために更衣室に向かったようだ。 先生たちを見ると、俺たちが使ったISを片し始めていた。 流石に二人では大変だろうし、俺も手伝おうと思って声をかける
「織斑先生、山田先生と、手伝いますよ」
「む、そうか?」
「すみません」
少々驚いた顔をする織斑先生と申し訳なさそうにする山田先生。 織斑先生はともかく、山田先生は申し訳なくする必要はないんじゃないだろうか? ともかく、手伝って早く片付けることにしよう。 そう思い、片付けを手伝う
「そういえばさっきの実習、見事だった」
「いやー、山田先生の援護があったからですよ。 俺一人じゃ、あの二人の相手は無理かと。 山田先生なら余裕じゃないですか?」
「私ですか? うーん、私も苦戦しますよ流石に。 蒼海君のトレーニングメニュー、あの二人もたまに加わるんですから。 ですが、まだまだ生徒に負けるつもりはありません!」
唇に手を当て考える山田先生だが、流石に冷静に分析しているのか苦笑していた。 でもその後の言葉は頼もしかったんですが、その握りこぶし作ってむんってするのやめてください。 ISスーツによって胸が強調されてるのに、なんで腕で挟み込むんですか!こっちはいろいろと我慢してるんですよ!必死に!!ネタは置いておいて、一人部屋になったことだし発散しようかな......
「まぁ、その生徒である蒼海にたまにに負けることがあるようだがな」
「なっ!? そういうこと言うんですか、先輩!蒼海君は弟子だからいいんですぅ!」
真面目にそんなことを考えつつ、織斑先生と山田先生の微笑ましいやり取りを見ていた
--------------------------------------------
先生たちの手伝いも終わり、更衣室に入ると織斑がデュノアさんに壁ドンしていた。 え、何この状況? 織斑ってホモなの? 学園にいる三人のうち一人がホモとか、勘弁してくれ。 少し気持ちがブルーになりながら、俺はその横を通り過ぎる。 どうでもいいけど織斑、服を着ろ。 何で裸で迫ってんだよ、やばすぎだろ
「あ、蒼海君!?」
「なんだ、遅かったな」
「先生たち手伝ってからな」
俺は着替え始める。 あのさ、本当にどうでもいいんだけどさ、デュノアさんもさりげなく織斑と距離とるために俺を壁にするのやめろ。 俺が
「手伝い? 何してたんだ?」
「俺たちが使ったIS、誰が片付けるんだよ」
「あ、そういうことか。 俺も手伝えばよかったかなぁ...... 姑息な点数稼ぎ、ご苦労さん」
「何か言ったか?」
「何がだ?」
理由を言うと素直に納得する織斑。 最後がよく聞こえなくて尋ねたのだが、織斑は呆けた顔をしていた。 俺の聞き間違いか? 現にデュノアさんも首をかしげている
「それにしてもすごかったね、最初の模擬戦」
「んー、山田先生がすごいだけだろ。 俺は実際にタゲとって、おとり役に徹してたし」
「それがすごいんだよ!代表候補生に無傷で勝利、そうそうできることじゃないよ!」
やけに興奮した様子のデュノアさんだが、ほめられて嬉しい。 まぁ、少し過剰にほめすぎのような気がするが
「そっか、ありがとう」
「どういたしまして。 どうしたの一夏、こっちを睨んで」
「え? 俺睨んでいたか?」
織斑が俺を睨むなんているものことなので気にしていなかったが、デュノアさんは気になったようだ。 だが、帰ってきたのはいつもの返事。 意識してないで人のこと睨めるなんて、相当すごいよなとひそかに感心する。 デュノアさんは、しきりに首をかしげていたが
「さて、次の授業が始まるまで時間がないし、俺は先に行くぞ?」
「あ、僕も」
「え? ちょ、ちょっと待ってくれよー!!」
俺より先に来ていたはずの織斑だが、何故か俺とデュノアさんが出るときは、下はISスーツでYシャツしか着ていなかった。 哀れ織斑、待ってくれと言う言葉は無視し、俺たちは更衣室から出た。 余談だが、何故織斑を見捨てたのか聞いてみたら
「僕もあの出席簿は食らいたくない」
とのことだった。 青い顔してたし、よっぽど食らいたくないのだろうな
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第三十八話 昼休み!
2018.6.10 話数修正しました
午前の授業も終わり、午後の授業の間の時間。 つまりは昼休みなのだが、俺は屋上に出ていた。 ちなみにこのIS学園、屋上が常時解放されている。 今どきの学校では珍しいことだが、こういう気候が過ごしやすい時にはありがたい。 と言っても、俺は現在進行形で少し暑いのだが。
「・・・・・・」
「あははははは......」
背中にはいつもの通り本音さん、そして左腕に簪さんが抱き着いている。 と言うか、何故かデュノアさんに威嚇していた。 どういうこっちゃ? なんか大事なもののように引き寄せられているのは嬉しいのだが、威嚇する意味は? デュノアさんは男だ、俺にそっち系の趣味はない。 そしてデュノアさんもない、と信じたい。 流石に会って数時間の人間だ、そこまでは分からん。 楯無さんは笑顔で、扇子で口元を隠していた。 その扇子には、愉快と書かれておりこの状況を楽しんでやがる! そして俺だけに威圧の笑顔だ、理不尽だと思います!!とりあえず簪さんには離れてほしい、利き手は右手だからいいが、少々食べ辛い。 まぁ、もう最初に言ったんですけどね!そんなわけで和気あいあいという感じではないが、俺たちはご飯を食べ始めた
「あら? 今日はなんだか手抜きな感じね?」
「あー、わかります? 一人部屋になったもんで、そこまで気にしなくていいかなって。 簪さんと変わり変わりで作ってましたけど、一人になったとたん手抜きでいいかなーって」
会話に違和感を感じたのだが、流し楯無さんと話す。 簪さんと部屋が一緒の時は、気合を入れてって言ったらおかしいが、人の口に入るものだから丁寧に作っていたのだが、一人になったとたん手抜きになった
「ダメだよ、そういうの。 ちゃんとバランスとか考えて作らないと」
「手抜きになったのは手間だけ。 翼君のお弁当はちゃんとバランスも考えて作ってある」
パンを食べながら注意をしてくるデュノアさんに、俺ではなく簪さんが返事をした。 すごいな、ちらっと見ただけなのにそこまでわかるなんて。 ちなみに簪さんだが、食べにくかったのか抱き着くのをやめ普通に食べていた。 楯無さんは小さなお弁当を食べつつ、こちらを観察していた。 ていうかあの人もだが、本当に小さい弁当で足りるよな
「あ、そうだったんだ。 ごめんね?」
「ん? 別に気にしてないぞ」
「ごちそうさま~」
俺の背中に寄りかかりながらお菓子を食べていた本音さんから、元気な声が上がった。 と言うか、またお菓子か君は。 呆れはするが、もう口を酸っぱくして前から言ってるので言う気も起きない。 昔からだったらしいし、体壊してないからいいかなとも思うけど、体壊してからじゃ遅いんだよなぁ...... さっきよりも体重がかかっているような気がするので、多分寝てるなこれは
「えぇー...... 布仏さん、大丈夫なの?」
「問題ない、と思う。 そこらへんどうなの?」
いかんせん、付き合いが時間の短い俺は答えられないので、更識姉妹に振ってみた。 時間は短いが、内容は濃い気がするのはきっと気のせいだろう。 二人は考える素振りをしたが、即答した
「「問題ないわね(と思う)」」
「えぇー......」
付き合いの長い二人もこういうのだし、問題ないと思う。 デュノアさんは納得いっていないみたいだが、最初は誰でもそんなものだ。 もし体壊したとしたら、その時は矯正するけど
「ところでさ」
「ごちそうさまでした。 なにさ?」
「この人たちは?」
「え、今更?」
本当に今更だ。 俺は弁当をしまいながら、デュノアさんの方を振り向く。 デュノアさんは頬を掻きながら苦笑していた。 もとはと言えば、少し離れたほうに騒がしいところがあるのだが、元々デュノアさんはそっちに居たのだ。 言わなくてもわかると思うが、織斑たちだ。 日に日に女子の人数が増えているような気がするが、きっと気のせいだと思いたい。 最初は織斑がデュノアさんを誘ってご飯を食べていたのだが、どういうわけかデュノアさんはそっちのほうから抜け出し、視線をさまよわせていた。 それを俺が見つけ、一人で食べるのもかわいそうだし誘ったというわけだ。 そんなわけで自己紹介をしていなかったので、紹介することにした
「まぁいいか。 俺の隣にいる子が、更識簪さん。 それで、こっちがお姉さんの更識楯無さん」
「初めまして、シャルル・デュノアです」
流石貴公子とクラスで密かにあだ名がついてるだけあって、笑顔が似合う。 だが簪さんの表情は晴れず、再度俺の腕に抱き着いてきた。 いやだから、どういうこっちゃ? 一応、返事をしないのは失礼だと思ったのか、短く返事をした
「・・・・・・更識簪、よろしく」
「はーい、蒼海君から紹介があったけど改めて。 更識楯無よ、よろしくねデュノア
「よろしくお願いします。 ・・・・・・ちゃん?」
「あ、ごめんなさい。 デュノア君だったわね、中性的な顔立ちだったからお姉さん間違えちゃった」
てへぺろみたいな顔をしているが、あざとい。 それとは別に、楯無さんが言ったちゃんと言う言葉、少し引っかかる。 この人の場合、不用意にと言うか、変なことはほとんど言わない人だ。 ・・・・・・かなりからかい癖があるが、初対面の人間にやるとは到底思えない。 この人がからかうのって、噂などで人物像などを聞いて、自分の目で確かめてからだし。 ん? そう考えると初対面でもやるか? でも簪さんもいるし、そういうことはやらないと思う。 デュノアさんも楯無さんに苦笑しているが、怒らないのか? 昔から言われ慣れてるとしたら、それはそれで同情するが...... 楯無さんを見ると、こちらに向かってウインクをしていた。 ふざけているかと思うのかもしれないが、目は何処か真剣だ。 警戒しておくに、越したことはないと。 そういうことらしい
「とりあえず、そんな感じだ。 本音さんは自己紹介必要ないだろう?」
「うん。 同じクラスの布仏本音さんだよね」
話を変えるとすぐに乗ってきたデュノアさん。 名前を呼ばれてるにもかかわらず、俺の背中で寝ている本音さん。 本当に無防備でござる
「そう言えばさ、さっき見てた時に思ったんだけど。 蒼海君てさ、近距離でショットガンと近接ブレード装備だったけどどうして?」
「どうして、とは?」
「僕もラファールリヴァイヴのカスタム機を使ってるんだけど、その中の武装にこんなのがあってね」
見せてもらった武装は
「何これ欲しい!」
思わずそう叫んでいた。 近距離での択はいいのだが、どれも威力が低いのが難点だった。 だからいろいろと工夫して威力をあげることはしていたが、それにも限界がある。 だがパイルバンカーなら、お手軽に威力を出すことができる。 それにISは拡張領域に収納してしまえば、デットウェイトを気にする必要がない。 こればかりに頼るのはもちろん危険だが、成功すれば戦闘だって早く終わらせることが可能だ。 これはいい!幸い、この間見ていた画像の中にいいものがあった。 それをもとにして設計図を引けば、何とかなるかもしれない!
「いやー!ありがとうデュノアさん!こうしちゃ、いられない!簪さん、本音さんよろしくね!」
「え、あ、うん」
簪さんに、俺の背中で寝ていた本音さんを渡し、早速教室に。 意欲がわいたというのもあるが、すぐに設計図などを書き上げ整備課に行ったのだが、あいにくあの人はいなかった。 なので、受付に伝言を頼んで教室に帰還した。 だが、すっかり忘れていたのだが、設計図を書き上げた時点で行き返りでギリギリな時間だったのだ、それに探す時間が加わったとなれば当然次の授業に遅れるわけで...... 出席簿アタックを食らった
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第三十九話 新兵器
2018.6.10 話数修正しました
いつもの訓練、嫌もはや大所帯すぎて訓練と言えなくなってきたが。 人数がね、多くなってきているんだ...... 最初は俺と山田先生だけだったのに、オルコットさんがちょこちょこ加わるようになり、次に織斑先生と鈴さんが同時期くらいかな? そして今回、簪さんと楯無さんが加わることになった。 俺の周り、戦力過剰じゃないとか思い始めてきたところだ。 だって、
「もしもーし」
と言ってから入る。 ノックの必要も、声をかける必要もなく、自由に入っていいといわれているのだが。 一応ね? こないだそれで酷い目にあったし。 中で爆発したときに入ってしまい、俺の髪までアフロになったのはたまげたなぁ......
「おや?」
「どうも、ジェイルさん」
「やあやあやあ!」
俺の姿を確認すると、気味の悪い笑顔を浮かべながらこちらに来るジェイルさん。 本名ジェイル・スカリエッティさん。 何でこの世界にいるのなんて野暮なツッコミはしないが、転生者ではないらしい。 それとなくぼかして聞いてみたのだが、全く反応しなかったし。 ともかく、ジェイルさんはクリーンな科学者なのだ。 原作みたく悪役ではないが、ただちょっと人より欲望が強く、マッドな科学者なのだ。 そんなわけでジェイルさんと話す
「早速ですが、例のものは?」
「勿論できているとも!いやー、君の図解は分かりやすくて助かるよ!本当に君といると飽きが来ないものだ、解剖していいかい?」
「ダメに決まってるでしょ、何言ってんのアンタ?」
馬鹿なことを言うのはいつものことだが、部屋の奥に案内される。 そこにあったのは俺の設計図通り、と言うよりもあの絵師様たちの絵がそっくりそのまま出来上がっていた。 今回製作を依頼したのはKIKU。ゲームであるACfAで登場したアルゼブラの変態の努力の結晶。 BLADEカテゴリーで最高威力、最長ブレードレンジを誇る。 ゲーム内では直撃なんてすればネクストのAPの何倍ものダメージを与えることができる。 まぁそもそも、ゲーム内では多段Hitなんかもあり得るが、そんなことはできません。 そしてもう一つKO-4H4/MIFENG。 言わずと知れたACVDのラスボスの最速クリアには欠かせないヒートパイルだ。 よくお世話になったなー
「KO-4H4/MIFENGは少し大きくなってしまったが、君の言う通りリボルバー機構を採用したから、炸薬交換さえすれば弾が尽きる間で撃てるよ。 まぁ、最も全部の弾を打ち切る前にとっつきの杭が駄目になると思うけどね。 ククク、威力重視の方を大きくなってもいいからリボルバー機構にするなんて、正気の沙汰とは思えないよ。 KIKUに関しては威力をある程度下げているから、マガジンの炸薬が切れるまで打ち込むことが可能だよ。 よっぽど変な使い方をしなければ、が付くけどね。 と言っても、シールドピアーズのそれとは威力も連射速度も全くと言っていいほど違うけどね。 それ、KIKUに関しては絶対防御を抜くか抜かないかのギリギリだよ。 KO-4H4/MIFENG関しては、余裕で絶対防御抜くから相手のことを考えるんだったら装甲が厚いところを選ぶか、使わないに越したことないけどね」
「いや、それ設定したのアンタだろ。 威力に関しては俺のせいじゃないだろ」
KO-4H4/MIFENG関しては、よっぽどなことがない限り使わないことに決めた俺だった。 それにしても、作ったといわれたが何故どっちも四つあるんだろうか? ジェイルさんを見ると、つっこんでくれと言わんばかりの顔だ。 正直すごく嫌なのだが、一応聞いておこう
「なんで四つもあるんですか?」
「何でって、君がとつおんだと思ったからなんだけど。 両腕に一個ずつ、予備も併せて二セット持っておけばどんな戦いでも安心だろう?」
「殺意高いな!? 俺そんなんじゃないし!」
「なに、君が恥ずかしがってそう言ってくることが分かっていたからね!とっつきのカバー、所謂シールドをつけておいたよ。 これで杭が曲がる可能性は減ったわけさ!」
「余計なお世話だ!!」
これ以上ここにいると頭がおかしくなりそうなので、さっさと拡張領域にとっつき二種を仕舞、部屋を出ようとする。 何気に容量少ないな、おい...... 無駄に優秀なところを発揮していた
「あぁ、待ちたまえ。 今日のレポート、提出していってくれたまえ」
「あぁ、そういえば。 ほい」
ジェイルさんに投げ渡すと、喜んで飛びついた。 やっぱこの人やばいわ
「何かあったらまた来てくれたまえ。 君は面白いからね」
「へーい」
部屋を出て一言
「疲れた」
--------------------------------------------
「あーぁ、本当に今日は疲れた」
織斑先生の授業中や授業前に思っていたことに対する私怨の憂さ晴らし、山田先生と一緒に考えて考案した訓練、簪さんや他の専用機持ち(楯無さん、鈴さん、オルコットさん)との模擬戦。 なんかだんだんと過激さを増しているような気がするが、俺はこんな具合で持つのだろうか? いや、体力には自信あるし現在進行形でついてはいけてるが。 精神的にね? 織斑先生の地獄の模擬戦は置いておいて、一番の問題は楯無さんだ。 何が問題ってね、あの人簪さんに対する愛が深すぎて、それを糧に戦ってる節があるんだよ。 主に朝や、昼の出来事の恨み節が炸裂で手加減があるなんて次元じゃない。 アレだね、実力の120%じゃなくて150%くらい出てると思う。 水蒸気爆発とか俺には平気でやってくるし、遠距離から撃とうにも水でガードされる。 あー、今度ジェイルさんに頼んで一発の威力がバカ高い銃作ってもらおうかな。 それか、ウェイトの軽いガトリングとかね。 もしかしたらもしかすると、ナノマシンの生成が追い付かないほどの物量なら何とかなるんじゃないかな? まぁ、水でだいぶ威力減衰されるから微々たるダメージだろうけど。 ウェイトが軽ければ、動きながらでも打てるから対応できるだろうし。 それかー、ビームライフルとか? カートリッジ式にすれば、自分のエネルギー使わないし。 アレか、ビームマグナムでいいじゃないか? 弾数少ないのがネックだが、そこは改造で何とかなりそうだし。 そんなことを考えながら、部屋の前に着く。 アッレー? なんか、この扉開けてはいけないような気がする。 だが、俺は早く休みたいんだ! ためらいながらも扉を開けると
「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ た し ?」
扉を勢いよく閉める。 夢かな?
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第四十話 ご飯にする? お風呂にする? それとも(ry
2018.6.28 誤字修正しました。 報告ありがとうございます。
あまりの出来事に扉を閉めてしまったが、たぶん幻覚でも見たんだろう。 俺って一人部屋のはずだし、楯無さんがいたような気もしないでもないけどきっと幻覚だ。 アレだよ、きっと性欲の溜まりすぎでありもしないものが見えたんだ。 あの人プロポーションめっちゃいいし、だから多分そう言う幻覚なんだ。 裸エプロンの楯無さんは俺の幻覚で、扉を開ければ現実は誰もいないはず。 そう思って扉を開けたのに
「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わたし?」
楯無さんがいた。 アレか、白昼夢か。 夢なら好きなことをしても許されると思うので
「それじゃあ楯無さんで」
「ふぇ?」
俺は中に入り、扉の鍵を閉める。 そして楯無さんを逃げ場がないように壁際に追いやり、片手をとって、その手を壁に押さえつけて逃げ出せないようにしてから言った。 すると楯無さんはかわいい声を上げ、少しずつ顔が赤くなる。 あー、なんか妙に感触がリアルだし、かなり初々しい反応だが、ぶっちゃけ好みです。 GJ、俺の夢!そんなことを考えながら、次の行動に移る。 そう、まずは熱いキスからだと思うんだ、俺は。 顎に手を添え、こちらを向かせる。 その際に
「あっ......」
とかか細い声が聞こえたが、なんかゾクゾクした。 俺にはSの気でもあるのだろうか? そんなことをどこかぼんやりと考えながら、楯無さんに顔を近づける。 どこか何時ものはつらつとした、ネコっぽい感じの楯無さんと違い、弱弱しい感じがさらにそそるのだが。 だんだんと近づいていく顔、楯無さんはだんだんと俺の顔が近づくのを見て
「きゅ~......」
目を回して気絶した。 あれ? ここでこんな終わり方? どういうことだ、俺の夢!もっと熱くなれよ!!かなり不完全燃焼だ、俺の夢なのに...... 童貞では、この先はいけませんよってか!? どどど、童貞ちゃうし!脳内での一人漫才は置いておいて、流石に夢と言えど楯無さんをこのままにしておくのは忍びない。 どうせ夢だしということで、お姫様抱っこでベッドまで運ぶ。 どうでもいいことだけど、エプロンの下は水着だった。ちくしょう!畜生畜生畜生!!こんなとこまで、こんなとこまで童貞の想像力の限界が!割と本気で、心の中で泣いた。 後さっきから思うんだが、夢なのに重ない? いや、楯無さんが重いとか失礼なことじゃなくて、夢なのに重さ感じるとかどういうこと? どうも少しおかしく思った俺は、楯無さんをベッドまで運び上に一枚布団をかけると自分をつねってみる。 痛かった、夢でも痛みって出るんですね。 ・・・・・・いやいやいや!夢で痛みなんか出るわけないじゃん!? てことは何? これは現実?
「は、ははは......」
思わず乾いた笑いがこぼれる。 今までのことは現実で、ということは本気で楯無さんに手を出そうとしていたということで
「うん、とりあえずシャワーを浴びてご飯作ろう」
一週回って思考がクリアになった俺は、シャワーを浴びて、身を清めることにした。 そして、最後の晩餐だ。 とりあえず、冷蔵庫の中にあるもので料理を作って、テーブル出して並べて。 料理を置き終えると、ちょうど楯無さんが気が付いたようだった
「う、うん?」
「・・・・・・」
起き出して、周りをキョロキョロする楯無さん。 あ、そうだ簪さんに介錯頼もう。 そう思って、簪さんにメールをいれておく。 俺の部屋に来てくれと。 そして俺は土下座に移行する。 いやー、こんな世の中だし、女性を襲おうとしたということで死刑でしょ。 短い人生だったなー
「あ、あの、蒼海君、何してるの?」
「見ての通り土下座です。 さっきは勘違いとはいえ楯無さんを襲おうとしたわけですし、えぇ、覚悟は決まってます」
この間ずっと頭を下げっぱなし。 なんか襲おうとしたといったとき、ガサガサってすごい音がしたがたぶん気のせい。 頭を下げているが、一向に返事がない。 だが、失礼どころの話じゃないが、無礼を働いたのは事実。 頭を上げることはしない。 時間にしたら数分だろうか、俺からしたら数時間くらいの疲労感だが。 ようやく楯無さんから声がかかる
「あの、えっと、頭を上げてもらえないかしら? その、お話も出来ないから」
「・・・・・・わかりました」
一応楯無さんの許しが出たので頭を上げると、そこには布団を引き寄せ顔を隠そうとしている楯無さんの姿が。 その姿に俺が思うのは、無だ。 もはやさっきのことで逆に冷静どころか、覚悟が決まっているので何も感じない
「あの、その、うぅ......」
「・・・・・・」
恥ずかしそうに縮こまる楯無さんに、背筋を伸ばし正座している俺。 第三者から見たら限りなくヤバイ事確定だが、俺はそれだけのことをしでかしたので甘んじて受けよう。 控えめにノックする音が聞こえる。 たぶん簪さんだろう、ようやく来たか。 俺は楯無さんに許可をもらうことにした
「すみません楯無さん。 お客さんの確認をしても?」
「い、いいけど......」
そう言ってすっぽりと布団をかぶってしまう楯無さん。 俺はありがたく思いながら、対応する
「お待たせしました」
「あ、翼君。 どうしたの部屋に来てくれって? まさか、私がいなくなって寂しい、とか?」
上目遣いで見られる。 いつもなら天使とか思う行動も、今の俺には響かなかった
「いろいろとすまんが部屋にはいてくれ」
「う、うん」
俺の様子がおかしいことに気が付いたのか、首をかしげて部屋に入る簪さん。 そして
「それで、どうしたの?」
「あぁ、悪いんだが俺を介錯してほしい」
「本当に何言ってるの!?」
凄く驚いた様子の簪さんだが、俺が胡坐をかいて座り拡張領域からKO-4H4/MIFENGを取り出したところで本気だとわかったのか、腕をつかんで止めようとする
「本当に何してるの!?」
「そ、そうよ蒼海君!死ぬことなんてないわ!!」
それまでベッドで丸まっていた楯無さんも簪さんと一緒に止めようとしてくる
「お姉ちゃん!? その恰好、と言うよりもなんでこの部屋に!?」
「あ、えーっと、それは......」
「HA☆NA☆SE!俺は死んで償わなきゃいけないようなことをしたんだー!!」
「本当にどういうこと!?」
「だからやめてー!」
かなり場がカオスになりました
--------------------------------------------
「それで、本当に何があったの?」
仁王立ちする簪さんお前には、正座する俺と楯無さん。 もちろん楯無さんは服を着替え、今は制服着用だ。 カオスな場にはなったが、何とか簪さんが抑えてくれて、今は事情説明だ
「えっと...... 俺は簪さんと別れて、野暮用を済ませてきたわけです。 それで、部屋に帰ると楯無さんがいまして。 ドアを閉めて、もう一度ドアを開けるとそれでもまだ楯無さんがいまして、それで夢かと思いまして......」
「うん、そこでまずおかしいけどそれで?」
「はい...... そこで夢だと思った俺は楯無さんに迫り、あまつさえ唇を奪おうとしてました」
「へぇ......」
横では思い出したのか顔を赤くし身を縮ませる楯無さんだが、前からのプレッシャーがやばい。 怖くて顔があげられないレベルです
「それで? お姉ちゃんは、なんであんな恰好してたの?」
「それは、そのぉ...... なんとなく」
「ふーーーーーーん...... お姉ちゃん、お話決定」
「ピィッ!?」
楯無さんは奇声をあげながら、部屋の隅に連れていかれる。 なんかとても怖がってたけど、やばそうだ
「あ、翼もお話だから」
「はい......」
簪さんから死刑宣告がなされ、俺はうなだれる。 その後のお話はただ一言、やばかったといっておこう。 俺と楯無さん、よく生き残ったな......
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第四十一話 謝罪
2018.6.10 話数修正しました
一応簪さんには許してもらい、一難は去った。 と言うよりも、なんで俺簪さんに許してもらったんだ? よくよく考えたら、簪さんは俺が介錯に呼んだだけであって、お礼こそすれど謝る必要はないのではと思った。 いやまぁ、迷惑かけたから謝るのは当たり前なのだが、これ以上気にしてたらなんかドツボにはまりそうなのでやめる。 それよりも問題は、この空気だ
「「・・・・・・」」
簪さんがいたときは何とかなっていたが、簪さんがご飯を食べて帰ると気まずい空気だ。 あの裸エプロン来ていた時よりはだいぶ緩和されたが、それでも気まずい。 とりあえず、襲おうとしたのは事実だし謝らないとな
「「あの」」
何でかなー、こういうときって話かぶるよな。 そして、余計に気まずくなる。 だが、俺はそんなこと気にしない
「あの、楯無さん!さっきは、すみませんでした!」
「え?」
頭を下げる。 一応簪さんを緩衝材にして許してもらってはいるが、それでは俺の気が済まない。 なので頭を下げる。 なんか頭を下げてるけど、楯無さんが慌てているような気がする。 何故に? 数分頭を下げていると、ようやく楯無さんから声がかかる
「あの!頭を上げて!」
「はい」
頭を上げると、何故か泣きそうになっている楯無さん。 えっと、本当に何故に? 今のどこに泣きそうになる要素があったのか、本当にわからず内心首をかしげる
「「・・・・・・」」
そのまままた無言の時間が続く。 楯無さんは何か言おうとして顔を上げるが、言うことができないのかわからないが下げるを繰り返している。 俺も俺でどうすればいいかわからず、待っているがなかなか言葉が出てこない
「えっと、楯無さん?」
「なんで、なんで先に謝るのよ......」
「えぇー...... 理不尽」
「貴方のほうが理不尽よ!人が勇気を出して謝ろうと思ってたのに、先に謝ってきて!」
「・・・・・・」
なんというか、癇癪起こした子供みたいだなーと思った。 簪さんからも聞いてた印象と違い、何と言うか微笑ましかった。 いつもはどこか大人っぽくて、猫みたいな感じの楯無さんがこんなに素直に感情をぶつけてくるなんて。 まぁ、それが俺に対する文句じゃなきゃよかったんだけどね? 今も、だいぶ前の恨み言が炸裂してるし。 どうも感じていた嫉妬の視線、楯無さんだったようだ。 今自分で自白してる。 自分が簪さんと話したくても話せないのに、赤の他人である俺が話している。 昔のように本音さんと笑い合い、俺とも笑顔で話しているのが悔しかったらしく、それがあの視線の正体だったようだ。 他にも、俺と言う人間を知るために家の人間を動かしたとか。 ん? いやいやいや、到底流せる内容じゃない。 良いところの育ちとは聞いていたが、まさか極道系? 冷汗が垂れる。 ま、まさかね...... 他にも大証の小言を貰い、ようやく気が済んだのかマシンガンのような文句や小言は止まった
「えっと、気が済みましたか?」
「・・・・・・すんだ」
どこかすねたふうに言う楯無さんに少し笑いそうになるが、そんなことをすればまたマシンガントークは再開されるだろう。 俺は空気が読める男
「あの、ところで聞きたいことがあるんですけど」
「なになに、お姉さんのスリーサイズ?」
この言葉にはさすがに呆れてしまう
「・・・・・・あの、さっき簪さんに言われたこと忘れたんですか?」
「あっ......」
どうやら忘れていたらしい。 さっき注意された中にも、軽はずみな言動はしないというものがあったのだが。 どうやら調子に乗って忘れていたらしく、青い顔をしていた。 俺はそれにため息を吐きつつ、やんわりと注意しておく
「一応言っておきますけど、そういう言動は控えておいたほうがいいですよ? さっきの裸エプロンもそうですけど、楯無さんかわいいですし魅力的なんですから。 今はほぼ女子高みたいなものですからいいですけど、社会に出たら大変ですよ? 野郎どもは勘違いしますから。 現にさっきの俺がそうだったわけですし......」
目をそらしておく。 幻覚なんだって言って手を出そうとしたわけですからね、ハハッ。 なんか注意はしたが、反応がない。 楯無さんを見てみると、なんか顔を真っ赤にして俯いてるでござる。 あれ? なんか気に障るようなこと言ったか? はっ!? 社会に出たらッて言ったけど、家が極道ならそれを継ぐ可能性があるわけで、もしかして拘束きつい家庭なら外に出ないかもしれない。 これはやってしまったか!? なんて思っていたが、それは次の言葉で杞憂だったようだ
「・・・・・・できるだけ、気を付けます」
「え、あぁ、はい」
どうやら素直に言うことを聞いてくれるようだった。 杞憂だったのはいいが、ならなんで顔を赤くしてたんだろうか? とりあえずわからないことは置いておいて、聞きたいことを聞くことにした
「それで、さっきの話に戻るんですけど」
「えっと、はい......」
なんか楯無さんが目を合わせてくれないのだが、何故? やっぱり怒らせた? などと考えながら、続きを話すことにした
「あの、俺のことを知るために家の人間を動かしたって、どういうことですか?」
「あっ」
しまったみたいな顔したぞこの人!たぶんそのことを言うつもりはなかったんだろうけど、感情の爆発って怖いね。 ため息をついて、まぁいいかってどこか投げやりの顔になった楯無さんは自分の家の説明をし始めた
「これから話すことは他言無用でお願い」
「は、はい」
「私の実家、ううん、私と簪ちゃんの実家は代々裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部なの。 そして私はその更識家17代目の当主なの。楯無と言う名前は当主の証で、代々当主が襲名してきた名前なの」
「ということは、楯無さんは楯無と言うのが本当の名前じゃないと」
「うん、そう言うことね」
バッと扇子を広げるが、そこには何も書かれていなかった。 あら珍しい。 その話は置いておいて、いいところの育ちと言うよりやばいところの育ちだったようだ。 それで今の更識家当主は、目の前のお姉さんで。 簪さんからある程度話をぼかして聞いてたとはいえ、喧嘩の原因はなんとなくわかった。 たぶん、お姉さんは優しいから、簪さんを自分と同じ世界に引き込みたくなかったんだろう。 まぁ、言い方の問題はあると思うけど。 なんか、無事に解決してよかった気がする姉妹喧嘩。 ともかく、俺の情報を調べるのにその部下を使ったと
「私的利用もいいところじゃないですか?」
「蒼海君、知ってるかしら。 往々にして、権力とは行使するためにあるのよ」
「ウインクして言うことじゃないですからね、それ」
茶目っ気たっぷりに言うお姉さんだが、たぶん大丈夫なのだろう。 でなきゃ、たぶん今ここにはいないと思うから。 俺には組織を率いた経験はないけど、たぶん生半可なことじゃないと思うから。 さて、疑問は氷解したが、大本はまだだ。 そこを聞くことにした
「それじゃあ本命です。 何故お姉さんはこの部屋に? 山田先生からは一人部屋だといわれたんですが?」
「それも、更識としての命令もあるから、かしら」
「命令?」
対暗部組織に頼むようなことがあるのだろうか? 少し考えたがわからず、素直に聞くことにした
「どういうことでしょう?」
「貴方は二人目の男性操縦者、それは知っての通りね? でも、あなたの立場は非常に危ないわ。 さっきも言った通り、貴方のことは更識の力で調べさせてもらったけど、武道等の経験はあっても、長続きしてない。 それに、貴方には後ろ盾がない」
そこまで言われて、ようやく合点がいった。 もし仮にだが、俺が政府のもの、それとは違うものにさらわれても何も守るものがいないということだ。 織斑には
「なるほど、合点が行きました」
「理解が速くて助かるわ。 それでなんだけど、なるべく私も護衛するし、私がいない場合護衛者も出すけど」
「手っ取り早いのは、俺自身が強くなれということですね」
「イグザクトリー!」
そう言って扇子には、正解!と書かれていた。 どちらにしろ俺は弱い。 武道たしなんでいるといっても、本当にかじった程度だ。 それでは、もしもの時に危うい。 自分の立場が危ういと理解したなら、俺はそこに胡坐をかいているつもりはない
「早速明日からお願いできますか?」
「おー、やる気満々ね。 流石男の子」
「茶化さないでください」
俺が真面目にしているのが分かると、お姉さんも居ずまいを正す
「ごめんなさい」
「それで、もしできればなんですが朝からお願いできますか? 早朝走り込みしてますんで、それを早く切り上げてと言う感じで」
「私としては大丈夫よ」
なら、明日からは朝からハードになりそうだ
「ところで、俺はお姉さんをなんて呼べばいいですか?」
「? どういうこと?」
「さすがに本名は教えてもらえないわけですし、でも楯無さんて呼ぶのはそれを知ったら呼べないなーと」
「貴方、律儀なのね......」
少し苦笑するお姉さん。 律儀、なのだろうか?
「私としてはそのままでもいいんだけど」
「まぁ、それなら楯無さんてこれからも呼ばせてもらいます」
「そうして頂戴。 んー、そうだ!お姉さんに勝ったら、本名教えてあげる」
「お!ちょっとやる気出てきました!」
「ふふっ、男の子って単純ね」
そう言って笑う楯無さんは、少し楽し気だった
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第四十二話 朝練!
2018.6.10 話数修正しました
「はっはっはっは......」
日課となっている早朝ランニング、一応楯無さんを起こさないように気を付けて出てきたが、どうなのやら。 いつもよりペースを上げ、走り込む。 今日から楯無さんに組み手してもらうわけだし、昨日と同じメニューでは駄目だろう。 俺は弱いのだから、少しでも積み重ねを作らないと。 それに、さっきも思ったが今日から楯無さんと組み手なのだ、その分の時間が走れないわけだからやらなくては。 そんなことを思いながら広いトラックを走っていく。 ただ走ってるだけと言うのもつまらないので、途中に腿上げや、ダッシュなどを織り交ぜる。 ペースを速めたおかげか、いつもよりも早く終わり、ちょうどいい時間だった。 楯無さんから武道場に来てくれと言われているのだ、ちょうどその時間になる
「あら、時間ぴったりね」
「いえ、稽古つけてもらうのに遅れるわけにはいきませんから。 それに、ランニングも終わりましたしね」
武道場に入ると、楯無さんはもう来ていて中心で目を閉じていた。 たぶん俺が来たのが分かって、目を開けたんだろうけど。 それにしても道着か、俺も着て来ればよかったかな? 一応持ってはいるが、サイズは小さいし走り辛い。 なのでいつも着ていないのだが。 楯無さんは柔軟をし始める。 確かに、いきなり運動すると体を痛めるかもしれないしね。 俺は走ってきたこともあり、体は温まっている
「それじゃあ、始めましょうか」
「よろしくお願いします」
お互いに構える
--------------------------------------------
「いやー!思ってたよりも強かったわね」
「俺のことを軽々投げ飛ばした人が何を言ってるんですか......」
組み手も終わり食堂、楯無さんは上機嫌に扇子で口元を隠していた。 今回の扇子の文字は、あっぱれだった。 やかましいわ!
「あら、これは本心よ? 何度かヒヤヒヤする場面があったし、筋はいいと思うわよ? 長続きしなかったのがもったいないと思ったほどだもの」
「褒められてるのに嬉しくないのはなぜなんだろう......」
おばちゃんに食券を渡し、注文したのを受け取る。 あー、今日はいつもより疲れたし、ちょっと多めになってしまった。 楯無さんは昨日と同じくらいだった。 あの運動量でもそのくらいなのか、ある意味羨ましい。 楯無さんと話しつつ指定席の方に行くと
「つばっち~、おはよう!」
「翼君、おはよう」
本音さんと簪さんが食べていた
「おはよう」
「おはよー、二人とも」
「あ、お嬢様もおはようございます~」
「おはようお姉ちゃん。 翼君に迷惑かけてない?」
「うっ......」
ちょうど本音さんたちの席からは死角になって見えなかったのか、楯無さんが挨拶をすると二人も返事をしていた。 そして、簪さんがのっけから辛辣だった。 いや、たぶん純粋に心配してるんだろうけど、その言葉は楯無さんに効く、そして俺にも。 そして本音さんは何のことかわからないのか首をかしげていた。 いやまぁ、当たり前だよね
「翼君は?」
「うん、とりあえず簪さん、その話はやめて。 色々とダメージを負うから。 昨日のうちに解決したから大丈夫です」
「そう? ならよかった」
やっぱりいろいろと心配だったのか、ホッとしている簪さん。 あぁ、本当に天使や...... でも、昨日のことは思い出したくないので、それは話題に出さないでくれ
「うん? 何があったのかんちゃん?」
「えっとね、まぁ、いつものお姉ちゃんの悪ふざけ。 それが、変な方向に行った、っていうところかな」
「簪ちゃん酷くないかしら!?」
簪さんが本音さんに説明していると楯無さんは抗議の声をあげたが、まぁ当然の結果なんだよなぁ......
「お姉ちゃん反論できる?」
「・・・・・・うわーん、蒼海くーん!」
俺はどこかのネコ型ロボットかと言いたくなったが、特に何も言わなかった。 と言うよりも、巻き込まれたくなかったからな。 楯無さんを放っておいて、俺はご飯を食べる。 と言うか楯無さん、懲りませんね。 昨日注意されたばっかりで、俺もそれとなく注意して気を付けるっていたのに
「・・・・・・お姉ちゃん?」
「お嬢様?」
「ピィッ!?」
哀れ楯無さん、簪さんと本音さんのダブルお話のようだ。 なんと言うか、年上なのに立場弱いね。 とりあえず一言
「自業自得ですからね、楯無さん。 それに昨日、俺にも気を付けるって言ったのにしてしまったんですから」
「それじゃあ、お話しようか?」
「ふふっ」
どこか本音さんの笑いに背筋が凍る思いをしながら、二人の方に楯無さんが引き込まれてしまう。 俺がちょうど食べ終わり、お茶を飲んでいると鈴さんとオルコットさんが来たようだ
「おはよー、ってどうしたの?」
「あら? 見ない方がいますが......」
「とりあえず、おはよう。 オルコットさんには後で説明するよ。 今は、お話し中だし」
「何やら聞かないほうがよさそうね」
「察しが良くて助かるよ」
俺は肩をすくめながら、鈴さんに言う。 鈴さんてかなり勘が鋭くて空気の読める人だから、こういうことは聞いてこない。 オルコットさんは気になっているようだが、後で説明するといわれているので、食事を優先したようだ。 数分後、話も終わり楯無さんはなぜか顔を真っ青にして縮こまっていた。 本当に何を話したんだ、簪さんと本音さん。 そんなことを思っていると、本音さんが駆け寄ってくる
「ねぇねぇ、つばっち。 話があるんだ」
「・・・・・・えーっと、用件は?」
「昨日の事」
語尾に音符マークが付きそうなくらいの勢いで言っているが、薄く開いた眼は笑ってはいなかった。 そんなプレッシャーを感じたのか、鈴さんとオルコットさんは俺から離れる。 いや、あの...... 話したであろう簪さんを見るが、涼しい顔をしてお茶を飲んでいた。 逃げようにも、すでに本音さんに腕をつかまれているために不可能。 俺は怒られる覚悟を完了したのだった
--------------------------------------------
突然だが、教室の空気が悪い。 いつものように挨拶をしながら教室に入ると、織斑と仲のいい女子に睨まれたが俺だとわかるととたんに興味を失くしたようだった。 それは別にどうでもいいのだが、どうも空気が悪い。 空気清浄機である本音さんが来て少しは俺の周りの空気はよくなったが、教室全土の浄化にはいたらなかったようだ。 本音さんのお話? アレは無事に済んでいる。 俺はどうにも被害者ということになっているらしく、幻覚どうのこうのと考える前に、よく確認しろとのことだった それはおっしゃる通りなのだが、その後に襲うなら私かかんちゃんじゃないとと言う訳の分からない言葉を貰った。 いや、意味は分かるけどいろいろな意味でアウトでしょ、それ...... とりあえず、後から来た本音さんがなぜ空気が悪いのが分かるはずもなく、他の人に聞くことにした。 俺と仲のいい女子の情報を統合すると、昨日アリーナで決闘があったらしい。 その決闘の内容自体は知らないが、そう言うことがあったのは知っている。 それで、その決闘は織斑とボーデヴィッヒさんらしい。 ここら辺はあいまいな情報しかなかったので不確定だ。 それで、教室内の空気が悪いらしい。 要は、織斑と仲のいい女子の逆恨みみたいな感じか。 いや、手を出したボーデヴィッヒさんも悪いんだろうが
「なんか、聞いて損した」
「あはは~」
本音さんは笑うだけだった。 それは答えを言っているようなものだぞ、本音さん
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第四十三話 騒ぎ
突然だが、アリーナの予約がダブった。 普段ならこんなことはないのだが、この学園にもいろんな人がいるようで、こういうことがたまに起こるらしい。 本来受付の人に予約があいてるかどうかを確認し、それで予約を入れてもらうシステム。 または、自分で受付のところにある端末を操作し、空いているところに予約をするという方法なのだが。 受付の人曰く、言うだけ言って去る人や、話を聞かないで去る人もいるらしく、そういう予約を調整しているのだが、調整しきれないものは本人同士で話し合って決めてもらうことになららしい。 さて、その予約がダブった人なのだが織斑だったらしい。 もともと、織斑、篠ノ之さんが予約を取っていたらしいが、そこにデュノアさんと鈴さん、オルコットさんが追加されたらしい。 まぁ、今回は全面的に向こうが悪いのだが。 基本俺たち男性操縦者は週のすべての予約を取ることはできるのだが、それではほかの人に悪いと、俺は週3から4くらいの使用率なのだ。 それだって、受付の人に前もって予約を確認してとったりはしているのだから。 なので今回、悪いのは向こうなのだが、何を言っても篠ノ之さんがこちらの悪いの一点張りだ。 正直言って話にならず、鈴さんやオルコットさん、デュノアさんは謝ってくるが話は難航。 幸いだったのは、今回は山田先生や織斑先生はこれない日だったので、簪さんと本音さんと来ていたのだが、空気が悪くなる。 仕方なくこちらが折れ、大体こちらが三分の一くらいの利用時間になってしまった
「なんなのアレ!」
「とりあえず落ち着こう簪さん、篠ノ之さんのアレはいつものことだから」
「でも、今回のしののん、いつもよりひどかったよ~?」
「俺にはいつもの織斑至上主義にしか聞こえなかった」
暇だということで、アリーナの観客席で練習を見ていたが呆れた。 確か織斑先生が白式には拡張領域に空きがなく、後付けの装備ができないとは言っていたが、デュノアさんとの模擬戦にぼろ負けしていた。 問題は操縦技術云々と言うよりも射撃武器の特性の把握、および射撃型との距離の取り方と言う基礎中の基礎が駄目だった。 基本、鈴さんやオルコットさんには織斑の練習のことは聞かなかったが、そういえばたまにぼやいていたな。 阿保にどうやって教えればいいか。 俺は知らんと返したけど。 それよりも先に、感覚や専門知識満載で教えても初心者じゃわからないから、もっとわかりやすくかみ砕いて教えろといったら二人とも落ち込んでた。 それ以来は、説明が少しだがは分かりやすくなった、という話はちらほら聞いた。 話はそれたが、織斑は
「これために翼君は譲ったの? ありえない」
「俺もこのレベルだとは思わなかったけど、仕方ないんじゃない? あれ以上嫌な思い、したくなかったでしょ?」
「・・・・・・むぅ」
「むふふ~」
口をとがらせそっぽを向く簪さんだが、それを本音さんは微笑ましそうに見ていた。 実際、俺だけならいくらでも対応していたが、簪さんは見るからに不機嫌になっていったし、本音さんも少しイライラしていた。 なら不毛な会話は終わらせるに限る。 そう思って、譲ったのだ。 まぁ、今回の件は楯無さんに報告して、しかるべき対応をとってもらうつもりだが。 楯無さんも言ってたしね、権力は使うためにあるって。 まぁ、あの無人機の事件もそこまでの処罰は下されなかったし、焼け石に水だろうが。 さてさて、織斑の練習を見るが、デュノアさんは頑張って教えているようだが、鈴さんとオルコットさんはお手上げ状態だった。 実際、こっち見て早く来なさいよ的な顔で見てるし。 実際、時計を見るとそろそろ交代の時間だった。 すでに、織斑とデュノアさん、篠ノ之さんの姿はなかった
「それじゃあ、俺たちも行こうか簪さん」
「うん、わかった」
俺たちは歩き出そうとしたのだが
「あれ? 何でラーちゃんが?」
「いや誰よ?」
本音さんのあだ名ってたまに予想の斜め上を行くので、誰だかわからないときがある。 しかも本人に無許可で、俺の知らない人まであだ名をつけているからあっているのかすらわからない。 なので今回の哀れなあだ名被害者の確認をすると、同じクラスのボーデヴィッヒさんだった。 ラウラ・ボーデヴィッヒでラーちゃん...... 微妙だし、しかもラーって言われるとOCG化して、可哀想になったヲーさん思い出すからやめようか。 関係ない話はさておき、どうも揉めているというかボーデヴィッヒさんが突っかかってる様子だ。 だが二人は取り合わず、話を聞いているだけだった
「なーんか、見たことある状況のような気がするんですがそれは......」
「さっきの篠ノ之さんと翼君」
「なるほどね」
納得した。 納得したのはいいのだが、どこから聞きつけたのかギャラリーが増え始める。 何この学校、喧嘩とかにうえてんの? そうこうしている間にボーデヴィッヒさんが肩のレールカノンを発射、なし崩し的に戦闘になってしまう
「蒼海君、お待たせ。 って、なんでボーデヴィッヒさんと凰さん、オルコットさんが戦闘を!?」
「いやまぁ、なし崩し的にな?」
「何やってるんだ、シャルル?」
「・・・・・・」
こちらに来たらいきなり戦闘が始まっていることにびっくりしたデュノアさんと、能天気な声を出す織斑。 さらに、織斑が来たことで不機嫌になる簪さんに、戦いが怪しくなってきたのか表情が険しくなる本音さん。 この際織斑は無視して、戦闘を見る。 やはり、昨日俺と山田先生にやられた影響か、互いの動きをよく見るようにはなったが、所詮付け焼刃だ。 言い方は悪いが、互いに遠慮して足を引っ張り合っている。 それにしても、ボーデヴィッヒさんはやけに自信満々だが、何か秘策でもあるのだろうか? そんなことを思っていると、鈴さんが龍咆を撃つ。 だが、ボーデヴィッヒさんは動かず手をかざすだけ。 だが、龍咆は何かに
「なんだ、アレ?」
「AIC」
「AIC?」
「アクティブ・イナーシャル・キャンセラーの略だよ~。 もともとISに搭載されているPICを発展させたもので~、対象を任意に停止させることができるんだ~。 1対1では反則的な効果を発揮するけど~、使用には多量の集中力が必要で~、複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いんだって~」
「へぇ......」
かなり厄介だな。 たとえ奇襲とかしかけても、分かっていれば止められるわけか。 銃弾とかも意味ないし。 とすると、攻めるならビームマシンガンか?。 後は、いつものように策を練るしかないか。 タッグマッチに向けての対策を練る中、相手が悪いのか鈴さんがワイヤーブレードに捕まってしまう。 それに動揺したオルコットさんも攻撃の手が止まってしまい、二人まとめて地面に落とされる。 追加でワイヤーブレードを出し、計六本のワイヤーブレードを使いオルコットさんと鈴さんの自由を奪い首を締めあげていく
「おいおいおいおい、アイツ何やってんだよ!」
「酷い......」
「あれじゃあ、シールドエネルギーは常に削られて、ISが強制解除されれば、命に関わるよ!?」
俺たちが焦っている中、ラウラ・ボーデヴィッヒはこちらを、正確には織斑を見てニヤニヤしていた。 アイツ、織斑をおびき寄せるためにこんなことを!織斑はこの際どうでもいいとして、それとは無関係な鈴さんとオルコットさんを巻き込むのは許せなかった。 そして何より、ISを相棒をそんなことに使うのが許せなかった。 だが、俺がいる場所は観客席だ。 ここから、アリーナに出るまで時間がかかる。 だが、今のダメージレベルなら問題はないはず。 俺は少し不安に思いながらかけ出そうとしたその時
「うらぁぁぁぁぁぁ!!」
遮断シールドを破り、アリーナの中に飛んでいく織斑の姿があった
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第四十四話 結局、厄介ごと
2018.6.10 話数修正しました
「次から次へと!」
織斑が観客席から飛び出していったということは、そこのシールドはなくなっているわけで、織斑はそんなこと関係なしにラウラ・ボーデヴィッヒに向かっていく。 織斑はどうでもいいが、鈴さんたちの方には向かいたい、だが避難の問題もある。 このまま、何かしらの攻撃がされれば、その流れ弾がもしシールドがなくなっているところに入ったら、それでもう大惨事である。 とりあえず相棒を展開し、盾を構えてスタンバっておくのだが
「行って、翼君」
そう言って、俺の盾をとりそう促す簪さん。 本音さんの方は、どうやら避難を呼びかけてくれているようだった。 その様子に俺は
「ありがとう、簪さん、本音さん。 デュノアさん、手伝てくれ!」
「う、うん!」
一応、盾の設定をアンロックにしておき、簪さんでも使えるようにしておく。 穴から、アリーナ内に侵入しデュノアさんに作戦を伝える
「織斑はこの際置いておいて、先に鈴さんとオルコットさんの救出を行う」
「でも、どうやって?」
「俺がスモークグレネードを撃つから、その隙に頼む。 弾頭じゃグレネードかスモークグレネードかなんてわからないし、AICも封じることができると思う」
「わかった」
「それじゃあ、行くぞ!」
俺はグレネードランチャーを展開し、織斑相手にAICを使っているラウラ・ボーデヴィッヒに向かってグレネードランチャーを発射する。 ラウラ・ボーデヴィッヒは意識外からの攻撃に一瞬驚いたようだが、織斑を蹴ることで距離を離しAICを発動する。 なるほど、動きを見ること含めて発射したが、AICに頼っている傾向があるようだ
「ふん、そんなもので私に不意打ちできるかと思ったか」
「別に、そんなことはどうでもいい」
こちらに意識が向いた瞬間、デュノアさんは作戦通りに鈴さんたちの方に向かったようだ。 俺はそれを確認しつつ、グレネードランチャーを収納しつつ、ハンドガンを展開しグレネードに向かって撃ち込む。 そんな俺の行動を見下したように見るラウラ・ボーデヴィッヒだが、弾が着弾した瞬間に煙に包まれる
「くそ!スモークか!」
何かわめいているが、気にせずにデュノアさんに秘匿通信をいれる
『そっちはどう?』
『このワイヤーブレード、固くて!』
『今そっちに向かう』
織斑がスモークの中に突っ込んでいったが、気にせずにデュノアさんの方に向かう。 デュノアさんはナイフで必死に切ろうとしているようだが、ワイヤーは固く切れないようだ。 俺も葵を展開して切ろうとするが、やはり切れない。 かといって、爆発物系もあまり効果をなさないだろうし、そもそも鈴さんたちが居る状況で使えるはずもない。 残る手は......
「これか」
「それは、パイルバンカー?」
展開したのはジェイルさんお手製のKIKUの方で、既存のパイルバンカーと違うためデュノアさんは目を丸くしていた。 俺はワイヤーを持ち、とっつきを使う。 すると、いとも簡単に切り裂く。 細いから当てづらいとも思ったが、どうにか当たったようだ。 デュノアさんもグレースケールを展開し、同じようにやろうとするが当たらないようだ。 俺が計六本のワイヤーを破壊し、鈴さんとオルコットさんはようやく解放される。 ちょうどスモークも晴れ、織斑とラウラ・ボーデヴィッヒの姿が確認できた。 俺とデュノアさんはその隙に、鈴さんとオルコットさんをアリーナのはじまで運ぶ
「まったく、あそこから華麗に逆転するつもりだったんだから、手を出さないでよね」
「お見苦しいところを、お見せしました」
「オルコットさんはともかく、鈴さんは軽口言えるくらいだからまだまだ大丈夫だったか」
鈴さんの軽口に、苦笑する。 どう見ても、捕まってもがいていたようにしか見えないのだが、本人曰く、華麗に逆転(笑)するつもりだったらしい。 直後、ロックの警告が出され、俺は盾を展開し構える。 盾に何かが当たりすごい衝撃が走ったが、何とか空の方に受け流した
「雑魚が、手間取らせる」
撃ってきたのはもちろんラウラ・ボーデヴィッヒで、多分肩のレールカノンを撃ってきたのだろう。 それにしてもすごい衝撃で、こんなのが観客席に行ったらひとたまりもない。 観客席を見るとまだ避難は始まったばかりで、大勢の人がいる。 一部とはいえシールドもない状態だ、下手に弱っているところに直撃して全体が割れたら目も当てられない。 やはり、あのレールカノンは破壊すべきだろう
『デュノアさん、鈴さんとオルコットさんをお願い』
『待って!彼女を一人で?』
『まぁ、やるしかないでしょ。 織斑は戦闘不能になって転がってるし、鈴さんやオルコットさんはダメージが蓄積されてて危ない。 どっちにしろ守る人は必要だし、だから頼む。 幸い、一撃必殺があるから』
そこで秘匿通信を切り、盾を構えなおし右手にはマシンガンを呼び出す
「ふん。 貴様のような雑魚が、私とこのシュヴァルツェア・レーゲンに勝てると思てるのか?」
「勝つとか負けるとかどうでもいい。 いや、勝つに越したことはないが。 お前が危ないから止める、それだけだ」
「ならば、やってみろ!!」
レールカノンを発射し、さっき切り裂いたはずのワイヤーブレードを伸ばしてくるラウラ・ボーデヴィッヒ。 俺はレールカノンを空に逃がし、空へと飛び立つ。 別に地上でそのまま戦ってもいいのだが、レールカノンを撃たれると厄介なため空に飛んだのだ。 ワイヤーブレードを避けながら、ラウラ・ボーデヴィッヒに向かってマシンガンを撃つ。 だがラウラ・ボーデヴィッヒは、AICで銃弾を防ぐ。 やはりと言うか、あのAICには効果範囲があるようだ。 正確な距離までは分からないが、自分の周り、しかも目に届く範囲かな? そこまでしか銃弾が止まっていない。 これなら、一撃与えるのも安易だ
「ふん、ちょろちょろちょろちょろ。 まるでハエだな」
「なんだと!?」
これは怒ったふりだ。 流石にこんな状況で、こんなこと言われてくらいで怒りませんよ? 明らかに挑発だってわかるし、それに戦闘は冷静に、だ。 俺はキレたふりをし、動きを直線的にする。 ほら、こうやってわかりやすい動きにすれば、相手もご満悦だ。 事実、ラウラ・ボーデヴィッヒは口元をニヤつかせている。 さて、そろそろかな? そう思った時だった
「まったく、この程度で私を止めると...... お笑い草だな」
「クッソ!!」
「ダメだよ蒼海君!」
デュノアさんの声が聞こえるが、俺はそのままマシンガンを連射しながらラウラ・ボーデヴィッヒに突っ込む。 その途中でマシンガンの弾が切れ、ラウラ・ボーデヴィッヒはその笑みを深める。 まぁ、弾が切れるのは分かってたし、吶喊するのもシナリオのうちだ。 俺は盾を目の前に構え、そのまま突っ込んでいく。 盾は俺より少し大きいので、俺の姿は余裕で隠れる。 そのまま突っ込み、そして
「バカが!その程度で私のAICを突破できると思ったか!」
「いや? 全然」
「なっ!?」
驚いたラウラ・ボーデヴィッヒだが、もう遅い。 俺は
「私は、私は!!うわああぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「っ!?」
嫌な予感がして、一気にスラスターを吹かして距離をとる。 俺がいたところには、黒い剣が通り過ぎていた。 一歩遅れれば、直撃していた。 ラウラ・ボーデヴィッヒは手を伸ばすが、その手は取られることなく黒い泥のようなものに飲み込まれていった。 そこにさっきまでのラウラ・ボーデヴィッヒやシュヴァルツェア・レーゲンの姿はなく、何かが立っていた
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第四十五話 ヴァルキリートレースシステム
「これは何の騒ぎだ、蒼海!」
「織斑先生、来るの遅すぎますよ......」
いつもの姿で、何故か近接ブレードを持って現れた織斑先生。 俺に状況説明を求めるが、俺に思何がなんやらだ。 織斑先生はラウラ・ボーデヴィッヒだったものを見ると、表情が変わった
「アレは、暮桜? どういうことだ?」
「暮桜って、織斑先生が現役時代に乗っていたISですよね? なんでラウラ・ボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンが?」
「待て、アレはボーデヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンだったのか?」
織斑先生が俺に聞いてくるが、俺はそれをこたえている暇はなかった。 突如として、暮桜(仮)は俺の目の前で黒い剣を振るってくる。 俺は葵で受け流したのだが、腕がしびれた。 おいおい、パワーもスピードも段違いじゃないか!? 受け流したり、つば競り合うのが今の精一杯だった。 下手に動いて織斑先生の方に向かえば、危なすぎる。 なんか、生身でもISを圧倒できそうではあるが、万が一ということがある。 早く移動してほしいという俺の内心を知らず、織斑先生はこの現状についての解説を始める
「蒼海、それはおそらくVTシステムと言うものだ!!」
「いや、それはいいから移動を!」
「いいから聞け!そのシステムは、過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現、実行するシステムなんだ。 パイロットに能力以上のスペックを要求するため、肉体に莫大な負荷が掛かり、場合によっては生命が危ぶまれるものなんだ!いいか、過度な戦闘は避けろ!今教師部隊に連絡して!」
「そんな時間ないでしょう!?」
思わず織斑先生に向かって叫ぶ。 システムがどうとかはどうでもいいが、いやよくないけど。 こうしている間にもラウラ・ボーデヴィッヒは危険になっているわけで、いくらいけ好かないやつでも死んでほしいわけじゃない。 改めて相手の機体状況を見るが、不明のまま。 さっきのシュヴァルツェア・レーゲンで行けば、残りのシールドエネルギーはほぼゼロに近いだろうが、イグニッションブーストやエネルギーを使うような行動をしているわけだから、シールドエネルギーは回復、または無理くり使っているかのどっちかだろう。 そして、絶対防御が働いているとも限らない。 今回、こういうことを起こしたということは、少なくとも中の人間がどうなろうが構わないということだ。 胸糞悪い話だが。 下手に攻撃すれば、ラウラ・ボーデヴィッヒ自身が死にかねない。 どうすればいい!?
『あの子を、あの子たちを救ってあげてください!!』
謎の声が聞こえる。 そうしてやりたいのは山々だが、織斑先生はいるし、相手は織斑先生のコピーだ。 中の人を気にしている余裕はない。 もちろん、俺は相棒で人殺しがしたいわけじゃないし、助けられるなら助けたい。 だが、手段がない
『・・・・・・まだかすかに意識が!』
『あの子を......どうか。 お願い......します!』
謎の声の次は、聞き覚えのない声が聞こえ、目の前の暮桜(仮)の動きが止まる。 まさか、さっきの声の主が? 考えている暇はなく
『今です!絶対防御は発動してますから、遠慮なくやっちゃってください!!』
そんな声が聞こえ、相棒が軽くなる。 これなら!俺は声に導かれるように暮桜(仮)に近づき、KIKUを構え引き金を引く。 瞬間、抵抗するように泥が来たが、連続のKIKUには無力でラウラ・ボーデヴィッヒの姿が見える
「フィーッシュ!!」
『あり......がとう』
『ダメ!』
だんだんと弱くなる声、前から聞いているほうはそれを呼び止めるように強く叫ぶ。 いや、本当に意味が分からないが、消えるのはだめだな、うん。 ボーデヴィッヒさんを織斑先生に投げ、もう一つ取り出す。 ISのコアだ。 たぶん、こいつが隙を作ってくれたんだろうからな。 コアも織斑先生に投げ、目の前を見る。 コアも抜いたから止まると思ったのだが、意外にも形を保っていた。 と言っても、所々ドロドロとして、崩れ始めているが。 なんだえろう、怨念、みたいなものなのだろうか。 まぁ、どうでもいいよ。 剣を振るってくるが、それはあまりにもお粗末で。 俺はそれを軽くよけ、頭にKO-4H4/MIFENGを突き付ける
「消えろ、亡霊」
そのまま引き金を引くと、頭は飛び散る。 俺はそれに構わず、引き金を引き続け跡形もなく消し去った。 そして、ようやく一息ついた。 周りを見回せば、織斑先生が何とも言えない表情で俺を見ていた
「あ、怪我人投げてすみません」
「いや、それはいいが...... はぁ、まぁいい。 全員聴取をとらせてもらう。 今回の関係者は職員室に集まるように」
それだけ告げ、織斑先生は去って行った。 たぶんボーデヴィッヒさんを保健室に運ぶんだろうけど、今回の訓練ができないことがここに決定した。 まぁ、どちらにしろアリーナのシールドが破られている状況で訓練ができるはずがないのだが......
--------------------------------------------
今回、なぜこうなったかを事細かに説明した。 まずは、予約のダブりから。 山田先生に考えてもらったメニューをやろうと、簪さんと本音さんと予約してあったアリーナに向かうと織斑たちがおり受付の人ともめていたこと。 内容が予約のダブりで、先に予約したのは俺たちの方だったが、篠ノ之さんが俺たちが悪いと譲らず、結局俺たちが折れたこと。 交代の時間になり、鈴さんとオルコットさんがアリーナ内に残り、そのほかの人達は譲るために終えたこと。 デュノアさんが交代の声をかけてきたので行こうとすると、突如アリーナ内にボーデヴィッヒさんが乱入していたこと。 そのままなし崩し的に鈴さんとオルコットさんは戦闘になり、ダメージを受けたこと。 その時、織斑が後先考えずにアリーナのシールドを破り突撃したこと。 その際に、流れ弾等が飛んでくる可能性があったため、俺と簪さんがISを展開し、観客席の生徒を守ろうとしたこと。 本音さんには避難の誘導をしてもらい、簪さんをディフェンス、デュノアさんに協力してもらい、戦闘行為をやめさせること。 織斑とボーデヴィッヒさんの戦闘は中断することができ、鈴さんとオルコットさんを救出したこと。 その際、織斑は再度ボーデヴィッヒさんと戦闘、倒されて矛先がこちらに向く。 やむを得ず戦闘となり、ボーデヴィッヒさんを撃破
「その後は、織斑先生が合流した状況です」
「あぁ、分かった」
「蒼海君も簪さんも無事でよかったです...... 凰さんとオルコットさんは怪我は大したことはないんですが、機体自体のダメージレベルがCになってます。 デュノアさんと蒼海君の救出が遅かったら、強制解除になっていたかもしれません。 ボーデヴィッヒさんは特に目立った外傷もないですし、VTシステムの影響もそこまでひどくはないみたいです。 今は疲れて眠っていますが」
説明を終えると、織斑先生はこめかみを押さえていた。 うーん、まぁ色々と大変そうですね。 山田先生は俺と簪さんの無事が分かり、かなりホッとしていた。 いや、いろいろとやばかったですが、何とか大丈夫でした師匠。 これも、師匠や皆さんのおかげだー
「まぁ、今回の処分はおって話す」
「処分て、どういうことでしょうか?」
簪さんが反論する。 まぁ、納得いかないのは分かる
「ISを無断展開、許可されていないのにもかかわらず戦闘に介入、こちらの警告無視。 流石に今回の事は事がことだが、見逃すわけにはいかない」
「なんで!翼君は被害を抑えたし、ラウラ・ボーデヴィッヒの事だって!」
「簪さん抑えて。 俺も処分しないと、他の処分も困るから、そうでしょう、織斑先生?」
「「・・・・・・」」
難しいような、申し訳なさそうな顔で頷く教師二人。 今回の事に関しては、多分俺を処分するのは許せないのだろう。 それが分かっただけでも十分だ。 怒り出す簪さんを抑えつつ、先生たちに頭を下げ退出する。 これ以上いると、簪さんが何を言うかわからないからね。 俺としては、俺のために怒ってくれるのは嬉しい限りだが。 外で待っていた本音さんに簪さんを預けつつ、俺は一人校内を歩く。 なに、織斑先生に頼まれた野暮用を済ませに来ただけだ。 これから事後処理等をする織斑先生に代わって、ボーデヴィッヒさんの様子を見に来たのだ。 それにしても
『ボーデヴィッヒ、いや...... ラウラのことを頼む』
なんて神妙な顔で言ってたが、ボーデヴィッヒさんのお母さんか何かですかね? 織斑先生は。 そんなことを思いながら、保健室の引き戸に手をかけた
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第四十六話 保健室
保健室に着いたのはいいものの、ボーデヴィッヒさんは寝ていた。 お見舞いに来たのはいいものの、はっきり言って暇だ。 いや、そもそも目が覚めていたとしても何を話せと? 俺はボーデヴィッヒさんをとっつきでボコボコにしたわけで、被害者と加害者でどう話せと? あー、戦闘不能にするために君をとっつきでどついたんだー。 あー、そうなんですかー。 なんて、朗らかな会話になるわけがない。 織斑先生、何を考えて俺にお見舞いをしろと? 人選間違えてるし、会話にすらならないかもですよ!まぁ、そのことも考えずに、お見舞いを了承した俺も俺だが。 とっつきでどつきまわしたこと謝れればいいかなーって感じだったんだ、深く考えてなかった...... ともかく、ボーデヴィッヒさんが目を覚ますまで、適当にいるか。 そう思ってスマホを出し始めた矢先、目を覚ましたようだ
「んっ...... ここは?」
目を覚ましたボーデヴィッヒさんは起きようとしたのだろうが、体が起こせずに顔をしかめていた。 山田先生曰く、疲れて眠っていただけっぽいけど。 それとボーデヴィッヒさん、オッドアイだった。 眼帯をしていたからわからなかったが、隠していたほうはきれいな金色だった。 いつまでも黙っているわけにはいかないし、ここがどこくらいは答えてもいいかな
「ここは保健室。 ボーデヴィッヒさん、俺が誰だかわかる?」
「ん? あぁ...... 二人目か」
悲報、俺は名前を憶えられていなかったでござる。 そのことに少なからずショックを受けながら、話を続ける
「えーっと、直前までの事は覚えてる?」
「・・・・・・私は、負けたのか?」
今までの自信にあふれていたボーデヴィッヒさんは何処に行ったのか、今のボーデヴィッヒさんはどこか危ない感じがした。 ともかく、ボーデヴィッヒさんに状況説明をする。 一応、織斑先生には機密事項だが、状況の説明はしてもいいといわれている。 まぁ、本人にもかかわることだしね
「うん、まぁ、そうかな。 俺がボーデヴィッヒさんにとっつきでどついて、地面にたたきつけられたのは覚えてる?」
「あぁ......」
「その後ボーデヴィッヒさんは黒い泥のようなものに包まれたんだ。 織斑先生がVTシステムと言えばわかるって、言ってたけど」
「VTシステム...... ヴァルキリートレースシステム。 あの時、私が望んだからか。 力が欲しいと、教官のようになりたいと......」
それっきりボーデヴィッヒさんは喋ることなく、膝を抱えて丸まってしまう。 うん、正直言ってついていけない。 いや、あの後織斑先生から詳しい説明があったから知ってるといえば知ってるけど。 ヴァルキリートレースシステム。 ISコアを解析して分かったことだが、シュヴァルツェア・レーゲンに搭載されたものは機体の損害がレベルDに達し、最大限に達したボーデヴィッヒさんの負の感情を起動キーに発動するように設定、欺瞞されていたらしい。 ちなみにISコアだが、奇跡的に無事だったらしい。 良かったよかった。 負けそうになった時に力を望むのは当然だし、織斑先生のようになりたいと思うのも間違ってないと思う。 まぁ、その者にはなれないけどね? 今回、いくらシステムや無理やり体を動かしたといっても、織斑先生の動きには程遠かった。 流石に実物を知っているせいか、剣の振り方が雑だし、何よりも動きが雑すぎる
「うーん、別にボーデヴィッヒさんが言ってることおかしくないと思うけど」
「気休めはよせ......」
「いや、負けそうなときに力があればとも思うし、誰かを目標にするのはいいことだと思うよ? 俺だって、師匠、山田先生を超えることが目標だし。 まぁ、今回みたいに織斑先生になるのはやりすぎだと思うけど」
「貴様に、貴様に何が分かる!!」
突如怒り出す、ボーデヴィッヒさん。 えぇ、何か気に障ること言いましたか? 普通に慰めてただけだと思うんですが? 慰めはいらないとか? なら、目の前で落ち込まないでください。 怒りのままに、ボーデヴィッヒさんは自分のことを語り始めた。 なんとボーデヴィッヒさんさん、試験管ベビーらしい。 より正確に言うなら戦闘のためだけに生み出された、遺伝子強化試験体。 別にボーデヴィッヒさん自体にそのことに不満はないらしく、気にしていないとのことだった。 非人道的だとか、本人が思ってもいないのでそこについてはツッコミは入れないことにしておく。 本人が言うには、優秀な成績を収め続けたらしい。 過去形なのは、ISの登場によって。 ISの登場によって、こういう言い方は嫌なのだが、世界の兵器の主流はISになった。 もちろん条約によって兵器としての使用は禁止されているが...... 話はそれたが、ボーデヴィッヒさんは適合性向上のために肉眼へのナノマシン移植手術が施されたらしい。 結果は失敗、左目は変色して金色になり能力を制御できずに成績はガタ落ちしたそうだ。 出来損ないの烙印を押されたボーデヴィッヒさんだったが、そこで織斑先生の登場だ。 文字通り教官として、ボーデヴィッヒさんと言うより、IS専門になった部隊の指導をしていたようだ。 やっぱり、教官だったんだなあの人。 しかも軍隊の。 関係ない思考になったのは、訓練メニューを聞いてだ。 たぶん、あの人が普段厳しいのって、周りがキャッキャウフフな学生っていうのもあるんだろうけど、軍隊でたたき上げた指導法があるからな気がしてきた。 さておき、指導を受けたボーデヴィッヒさんは文字通り体に覚えさせる訓練で、見事部隊最強に返り咲いたのだ。 ちなみに、今回の転校の真意は、織斑先生にもう一度ドイツの部隊に戻ってほしかったから、だそうだ。 本当に織斑先生好きだな、ボーデヴィッヒさん。 さて、話は聞いたが
「うん、まぁ、それはボーデヴィッヒさんの体験だし、俺は気軽にわかるなんて言えない。 でも、君は織斑先生じゃない」
「なに、を?」
「だから君は織斑先生じゃないんだ。 憧れを持つのは構わない、俺だって憧れ、尊敬し、越えたい人がいる。 でも、どうあがいたってその人は他人だ、俺じゃない。 だから俺は、俺らしく強くなってその人に見せつける」
「自分らしく、強くなって......」
どこかボーデヴィッヒさんも思うところがあるのか、再び俯く。 そこにさっきまでの弱弱しいボーデヴィッヒさんはおらず、どうにか持ち直してきたようだ。 うーん、多分こういうことを見越して織斑先生は俺をよこしたのかな? 別に織斑先生でよくない、このポジション。 てか、織斑先生がやるべきだよね、これ? 内心ため息をつきながら、そろそろいいかと席を立つ。 だが
「聞きたいことがある」
「なに?」
「なぜおまえはそんなに強いんだ?」
何か答えを求めているような、迷っているような顔だが
「俺が強い? 冗談でしょ?」
「お前はこの平和ボケした学園で、唯一私に勝った。 それに、中国とイギリスの代表にもだ。 元日本代表候補生と組んでいたとは言え、見事な操縦だった。 だからお前に聞くんだ、なぜおまえはそんなに強い」
「・・・・・・」
何故強いか。 はっきり言って、
「いろいろな想いを背負っている、からかな。 朝は
そう言って待機状態になった相棒を掲げる
「まぁ、そもそも。 相棒は翼で、俺は空を自由に飛びたいだけなんだけどな」
「・・・・・・ぷっ」
ポカンとした顔をしていたと思ったら、いきなり笑い始めたボーデヴィッヒさん。 え、なんぞ? 俺、おかしなこと言った? 俺の不思議そうな顔がツボったのか、声をあげて笑うボーデヴィッヒさん。 正直言ってひじょーに不本意なのだが、元気が戻ったということで無理やり納得した。 ひとしきり笑ったためか、すっきりした表情のボーデヴィッヒさん
「そうか。 うむ、そうかそうか!」
「何がそうかなんだ? 俺には全くわからんのだが」
「なに、気にしなくていい。 ありがとう、お前のおかげで私は私の道が見つけられた」
「それは、聞いても?」
「もちろんだ!私は私なりのやり方で強くなり、教官を、いや......
挑むような目で見られる。 そこに今までのボーデヴィッヒさんの姿はなく、どこか吹っ切れたような、それでいて闘志を燃やしているボーデヴィッヒさんがいた。 その闘志を燃やしている相手が、俺じゃなければよかったんですがねぇ...... まぁ、ここでやる気をそぐのもどうかと思うので、俺は背を向けて手をあげる
「あぁ、待て。 もう一つ」
「ん?」
「私はラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「あー、そう言うことか。 俺は蒼海翼だ」
「これからよろしく頼む、翼」
「はいはいよろしく、ボーデヴィッヒさん」
「ラウラでいい」
「よろしく、ラウラさん」
俺は保健室の引き戸を開け、閉める。 そして一言
「やっぱり、名前覚えられてなかった......」
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第四十七話 夜、自室で
「はぁ~い」
「楯無さん。 すみませんが、今日はあんまり相手できないですよ。 すごく疲れたんで」
部屋に帰ってドアを開ければ、楯無さんが出迎えてくれる。 ニヤニヤしていたからいじられると思い、先に釘を刺しておく。 すると、不満顔に代わる楯無さん。 いじる気、満々だったんかい...... そんな楯無さんを無視し、着替えを持ってシャワー室に入る。 結局あの後着替えることしかできず、シャワーを浴びていなかったからだ。 臭くなかったかな、俺? 本音さんはそこらへん気にせず背中に飛び乗ってくるし、簪さんも気にせずに隣歩くからなぁ...... 俺臭くない? なんて聞くに聞けないし。 ともかく、シャワーを浴びて戻ると楯無さんは暇そうにベットに腰掛け、足をぶらぶらさせていた。 俺のベッドで
「あ、あがったのね」
「まぁ、体洗って、シャワー浴びるだけですし。 あぁ、風呂が恋しい......」
本当はベッドで寝ながら作業しようと思ていたのだが、仕方ない。 俺は机へと向かい、パソコンを起動する。 いつもの通り武器の設計や、機体の設計図だ。 流石にジェイルさんに渡しはしないがね。 なんというか、俺の妄想設定だし。 こんなもの渡したら黒歴史決定だし、考えているだけでも楽しい。 ・・・・・・たぶん、ジェイルさんなら普通に作る。 しかも、性能を凶悪なものに変えて。 パソコンをいじり始めると、そろそろと近づいてくる気配がする。 いやまぁ、楯無さんなんだけど
「どーん!」
「なーにやってるんですか、貴女は......」
「あら? 本音ちゃんだってやってるんだから、私がやってもいいじゃない」
楯無さんは後ろから抱き着いてきた。 後ろから画面を覗き込むように見ているのか、声が耳のすぐそばに聞こえる。 正直言って、やめてほしいのだが。 部屋って完全なプライベート空間じゃん? 学校なら人の目があるから、こらえられるじゃん? 人の目ないじゃん? じゃんじゃん? ともかく、関係ないことを思っていないと、理性が振り切れそうでヤバイ。 この人、しっかりしてるのに微妙に無防備なところがある。 しかも、からかいのためにやっているならかわいいものだが、無意識の時にやってるのは本当にわからないらしく、首をかしげたりする。 破壊力、やばいだろそれ!と、何度戦慄したことか。 これが、女子高のノリかぁ...... 男子には、絶望しかない
「手が止まってるわよ?」
「こういうことして、簪さんに怒られますよ?」
「今はいないもーん」
「俺が言うことを考えないんですね......」
ため息をつくも、どこ吹く風。 よっぽどご機嫌なのか、鼻歌まで歌い出す始末だ。 ともかく、平常心、平常心。 背中に当たる柔らかい感覚とか、首元に回されてる腕や密着している体からいい匂いがするだとか、気にしない気にしない。 って、めっちゃ気にしてるじゃないですかー!ヤダー!! 一人でセルフツッコミをいれながら、設計図と睨めっこ
「これって、簪ちゃんが見ていたアニメと似ているけど、それをもとにしたの?」
「えぇ、そうですよ? ちなみに、これを凶悪にしたのが、こちらになります」
「どれどれ...... うわ......」
違うデータを呼び出し、楯無さんに見せると、心底うんざりしたような声を出される。 まぁ、太陽炉搭載型でツインサテライトキャノンが付いて、ツインバスターライフル装備とか、火力過多もいいところだ。 ちなみに、フルバーストしたら、余裕で国どころか世界が滅びる試算が出た。 まぁ、ツインサテライトやツインバスターライフルなんかは開発できたとしても、太陽炉は無理だが。 ちなみにコイツ、ファングも付いてるため身を守ることも、攻撃もできる。 まぁ、装備の数やビッド操作など、やることが多すぎて人が操る機体じゃないのは確かだ。 考えるのって、楽しいよねということで設計図は引いたが、作るつもりはない。 ちなみにこの機体、簪さんに見せた時めっちゃ瞳がキラキラしていた
「まぁ、ISにする気はないですからいいですが。 他には、こんな武器とか」
「これも、ガンダムっていうのの武器なのかしら?」
「それ、簪さんに言ったら駄目ですよ? これはアーマードコアっていうゲーム、それに登場する武器です」
俺が見せたのはグラインドブレード。 そう、あのチェーンソー六機が付いた、素敵武器だ。 左腕をパージし、そこからジェネレータに直接接続、エネルギーをチャージし敵に六機のチェーンソーを回転しながら突撃する素敵ロマン武器。 設計図は引いたものの、これって殺意高すぎじゃね? と言うのと、やったらトラウマ確実と言うので断念した。 こうやってロマンは否定されていくのだ、私は悲しい...... ポロロン。 たぶん、ジェイルさんに渡せば完徹してでも一日で仕上げてくれると思う。 とっつき作ったし、あの人もロマン分かる人だから。 ただ、注意しておかないと原作リスペクト癖があるから、リアル左腕パージになりかねないことだ。 注文すればとっつきみたく改善してくれるだろうが、そうし忘れた時がやばい。 たぶんとっつきも一つくらいは弾数二の奴が作ってあると思う。 話はそれたが、これにも楯無さんは顔が引きつっていた
「とりあえず、簪ちゃんと話すときは調べてから話すようにするわ」
「それか、あえて会話を広げるために簪さん自体に聞くとか」
「そうする!」
あれ? いつの間にか、簪さんの相談会になってるぞ? 恐ろしい、これがシスコンの力か!? おふざけはさておき、俺はパソコンをいじりながら会話を続ける
「そうそう、今日はお疲れ様」
「? 何がですか?」
「ラウラ・ボーデヴィッヒちゃんの件よ」
俺は思わず手を止める。 何で知ってるのかと思ったが、楯無さんは生徒会長で対暗部組織の長だ、知ってて当然か。 そう納得し、再び手を動かし始める
「それはどうも」
「あら? あんまり驚かないのね」
「まぁ、
「なーんだ、残念」
本当に残念そうにしていた。 オ、ノーレー!本当にからかい癖が抜けないな、この人。 とりあえず、俺の言いたいことは伝わったらしい
「にしても、楯無さんがいればもっと早く、安全にラウラさんを救出できたのに」
「しょ、しょうがないじゃない!生徒会の仕事が溜まって...... ラウラさん?」
ヤバイ、地雷踏んだっぽい。 楯無さんがラウラさんと言った瞬間、刺すような、それでいてどこか楽しそうな視線が飛んでくる。 まぁ、俺は冷や汗かいてますけどね!急いで話題変更せねば!
「生徒会の仕事が溜まってって...... 無理そうなら、指導は良いって言ったじゃないですか......」
「う、そ、それは...... だ、だって簪ちゃんといられるしぃ!それに私が本気を出せば、すぐに終わる仕事だもの、大丈夫よ!」
「・・・・・・それって暗に、簪さんを理由に逃げてるだけでは? それと、本気出せばすぐに終わる仕事って、普段はさぼってやってるということですよね?」
「うっ......」
図星らしく、言葉に詰まる楯無さん。 うむ、役員の人が可哀想だ。 これはアレか? お菓子とか持って行ったほうがいいのだろうか? 迷惑かけてるし。 割と本気で悩んでいると
「そうよ!翼君が生徒会に入ってくれれば、万事解決よ!」
「いや、何がどうしてそうなったんですか? それと、俺が入るなら、簪さんとか本音さんを」
「本音ちゃん、生徒会役員よ?」
「え?」
「え?」
わずかな沈黙。 楯無さんは、だんだんとジト目になっていく
「さーて、ご飯でも作るかな!楯無さんはどうします!?」
「誤魔化したわね。 私も食べる」
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第四十八話 朝の一幕
俺の体が宙を舞う。 いや、比喩とかではなく、本気で。 朝も恒例になっている楯無さんとの組手、いいところまで行くのだがやはり投げ飛ばされてしまう。 まぁ、最初よりはましなのだが。 この頃は楯無さんも本気を出さないと勝てないといっている。 本当かどうかは分からないが
「これで終わりかしら?」
「まだまだ!」
負けずと楯無さんに向かっていく。 隙を探して襟をつかむが、どっしりと構えているため投げれない。 かといって足払いなどをしようものなら、こっちが不安定になりカウンターを食らう。 かといって硬直がずっと続けば、投げ飛ばされる。 中途半端でやめたせいか、俺の重心移動は中途半端らしい。 そこらへんは、ランニングの後に徹底的に見直しなどを行ったから、直ってきているのだが。 いつもは攻めてばかりなので、今回は引いてみた。 ほらいうじゃん? 押して駄目なら引いてみろって。 まぁ引いてみたのだが、投げ飛ばされた。 そもそも、カウンターは楯無さんの見様見真似、付け焼刃でかなうわけなかったでござる......
「いやー、驚いたわ。 カウンター、うまいじゃない」
「楯無さんの見様見真似ですが、うまくはまらないと無理ですね。 練習あるのみかぁ......」
「見様見真似と反復練習、イメージトレーニングを欠かさないといってもこんな短期間でできるようになるなんてすごいわねやっぱり」
練習も終わりということで、タオルで顔を拭く楯無さん。 いやー、動作の一々が絵になるから美人て得だな。 そして楯無さん、組手のせいで帯が緩まって道着が外に出てるの、気が付いてください!たまにちらちら白い肌が見えます!
「でも、勝てないですけどねー」
「すねない、すねない」
頭撫でられたって嬉しくないし!
「それじゃあ行きましょうか」
「ええ」
--------------------------------------------
「今日もお姉ちゃんと一緒」
「えぇ...... 何をすねてはるんですか、簪さん......」
「女の子は複雑なのだ~、とう!」
「うん、食堂まではちょっとの距離なんだから歩こうか、本音さん」
「むふふ~」
楯無さんと一緒に居ると、出会い頭で簪さんにすねられたでござる。 頬を少し膨らませるのはかわいいのだが、解せぬ。 後本音さん、女心が複雑とは? 俺と楯無さんが一緒に居るのが気に入らないとか? なるほど、お姉ちゃんと一緒に居たいのか、簪さんは
「違うからね~?」
今日も絶好調の本音さんの読心術、俺の考えは見当違いだった。 まぁ、考えてもわからないので、後回しにしよう。 ご飯食べないと、腹減って仕方ないし。 そんなことを考えていると、楯無さんから声がかかる
「はいはい、話をするなら食堂に行って座ってからしましょう」
特に否定も、と言うよりも俺は早くご飯を食べたかったので、さっさと食堂に行くことにした
「それで、なんで簪さんは拗ねてたのさ」
「だって、この頃朝毎日お姉ちゃんと一緒」
「同じ部屋だもの、一緒にもなるよ。 簪さんときもそうだったでしょ?」
「それは......むぅ」
本当のことなので、簪さんは黙り込む。 まぁ、一緒なのは楯無さんが待っているからなのだ。 一応、楯無さんは汗は武道上の横にあるシャワールームで流すのだが、部屋に帰ってからもう一度シャワーを浴びるのだ。 そのほうが制服に着替えられるしということで。 俺はその後にシャワーを浴びるのだが、先に行ってもいいと言っているのだが、楯無さんは聞かない。 そう言えば、簪さんもそうだった気がする。 こういうところで姉妹、なのか?
「まぁまぁ、簪ちゃん」
「むぅぅぅ、お姉ちゃんばっかりずるい!」
むくれる簪さんに困っている楯無さん、ここで本音さんが爆弾を投げ込んだ
「なら~、お嬢様の力で~大部屋で皆で住めばいいんじゃないかな~」
「「それだ!!」」
「何がそれだ!!だ、俺が大変になるわ」
色々と。 すると、本音さんは反論してくる
「なんで~? こんな美少女たちと住めるんだよ~、つばっち的にいいことずくめだと思うけど~」
「いやいやいや、確かに本音さんや簪さん、楯無さんは美人だよ? でもね、男と女じゃ違うとこあるし、それに俺がいるの嫌じゃないの?」
「「「いやじゃない」」」
あの、即答なのは嬉しいんですが、顔が近いです。 それと、真顔で返事するのやめて、怖いから。 それにしても、嫌じゃないのならいいの、か? なんか、押し切られているような気もしないでもないが
「とりあえず、一年寮長である織斑先生に許可が取れたらじゃないですかね」
俺が食べ終わり、お茶を飲みながら言うとこの騒動は収まった。 後日、楯無さんが織斑先生に聞きに行ったらしいが、返事はもちろんNOだった。 楯無さんや簪さん、本音さんは妙にショックを受けていたけど、そんなに俺と相部屋になりたいのだろうか? よくわからん。 ちなみにちなみに、その後織斑先生から苦情が来た。 馬鹿なことを私に聞きにこさせるな、だそうだ。 えぇー...... なんで俺にそんなこと言うんですか、と思った俺は悪くない、はず
「おはよー、今日もアンタたちは元気ね」
「鈴さんおはよー」
やってきたのは鈴さん。 今日はオルコットさんは別メンバーと食べているのか、姿がない。 今日の鈴さんの朝はラーメン。 いや、朝から重くないのか?
「それで、今日は何の話をしていたの?」
「翼君と同室になる話」
「いや、何それ」
素でわからないのか、俺に聞いてくる鈴さん。 まぁ、今の話じゃわからないわな。 それと鈴さん、俺に呆れた顔を向けないで、発端は俺じゃないから、多分
「いや、この頃毎日朝は楯無さんと一緒だから、簪さんがすねちゃって」
「すねてない」
「簪、少し黙ってて、話が進まない」
鈴さんパネェっす!簪さんが否定した瞬間、話が進まないからと簪さんの意見をバッサリと切り捨てた。 そして俺には、早く話せと睨みつけてくる
「それで、楯無さんとは一緒の部屋だし仕方ないって話をしたら」
「本音ちゃんが、みんな一緒に住めば解決だって、ベストアンサーを出したのよ!」
「あ、そうですか」
鈴さんはとたんに興味を失くしたように、ラーメンを食べ始めた。 途中までは興味があったようだが、最後の一言で興味がなくなったようだった。 その様子は、存外結果をわかっているものには興味がない、と言っているようなものだった。 ものだったのだが、鈴さんは何かを思い出したように、爆弾発言をした
「それ、やめたほうがいいですよ?」
「あれ~? りんりんなんで~?」
「たぶん、それってこれから増えるから」
鈴さんがそう言うと、じろりとこっちを見る三人。 いや、言った本人見ようよ。 俺見られたって、分かるわけないじゃん。 それに増えるってどういうことさ、鈴さんや
「それもそうね、はぁ...... まぁ、聞くだけタダだし、聞くけど」
「頑張ってください、ごちそうさまでしたっと」
そうして鈴さんが時計を見る。 俺もつられて時計を見ると、もうそろそろいい時間だった
「さて」
「そろそろ行きましょうか」
そう言って立ち上がる俺、簪さん、本音さん、鈴さん。 あれ、この光景見たことあるぞ?
「これ二回目!」
そう言えばそんなこともありましたねー、また
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今日の教室は、どこかそわそわしていた。 本音さんにお菓子をあげ、情報収集したが、なぜかみんな口を割ろうとしなかった。 何故なのだろうか?
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第四十九話 嫁!
一時間目が始まる。 教室内には、二つの空席がった。 一つは織斑の席だ、 今回の事は織斑先生もかばいきれなかったようで、謹慎が言い渡されたようだ。 俺は反省文の提出、一週間の奉仕活動で決着がついたと、昨日の夜に織斑先生が部屋を訪ねてきた。 そもそも、前回の件で厳重注意を言い渡された織斑、それを破ったのだから当然ともいえる処置だ。 甘いというのは学園側も重々わかっていることだろう。 そもそも、一般生徒で行けば前回の件で即退学ものだ。 運よく退学にならなかったとしても、今回の件で退学は確定だろう。 それもこれも
「すみません、遅れました」
「ボーデヴィッヒさん、体の具合は大丈夫なんですか?」
「はい、保健医には大丈夫だといわれましたので」
「なら、大丈夫そうですね。 遅れたことについては特にありませんので、席に座ってください」
今回遅れてきたラウラさんの席だ。 昨日のこともあり、今日は来ないと思っていたのだが、凄い回復速度だ。 山田先生が席に座るように言うが、ラウラさんは動こうとしない。 それどころか、突然頭を下げ始めた
「その、今まですまなかった!」
これにはみんなも困り顔だ。 うん、かくいう俺も何が何だかわからない。 山田先生を見るが、ワタワタシて俺のほうを見ていた。 いやいやいや、先生なんですから収集着けてくださいよ!? 無理です、と言わんばかりに首を振る山田先生。 その間も、ラウラさんは頭を下げたままだ。 あぁ、なんかみんなから視線を感じる。 畜生!こういうときだけ頼りやがって!俺は仕方なく、ラウラさんに声をかけることにした
「あー、その、ラウラさん、いきなり謝られてもみんな困惑してるから。 何に対して謝ってるのさ」
「ラウラさん?」
クラスが、一斉にひそひそし始めた。 き、貴様ら!自分で何とかしようとせず人に振っておいて、こういうときだけ!それと、ラウラさんと言った瞬間、覚えのある冷たい視線を感じる。 これはアレだ、振り向いた瞬間、俺を待っているのは死だ
「む、それもそうか、すまない。 正直に言って、私がこのクラスの空気を悪くしていたのは知っていた。 前の私なら別にどうでもよかったが、少し思うところがあってな、だからみんなに謝ったのだ。 許して、もらえるだろうか?」
なんか、教室の所々から、はぅっ!? だとか、苦しそうに萌え死ぬとか、お持ち帰りぃ!!とか聞こえるが気のせいだと信じたい。 このクラスって、そこまで変態性高かったっけ? まぁいいや、考えたって仕方ない。 確かに、上目遣いで、瞳をウルウルさせ、身長の小ささも相まってかわいいとは思うが、今授業中よ? そこらへんわかってる? 昨日の空気はどこへやら、今やラウラさんはクラスから許されている。 わー、ちょれー、とか思わなくはないが、一緒に学ぶのだから、仲が悪いよりはいいほうがいいかと考え気にしないことにする。 とりあえず
「まぁ、こうやって謝ってるし。 許してもいいと思うけど、どう思うデュノアさん」
「えぇ!? ここで僕に振るの!? いや、いいと思うけど」
まさか話を振られると思っていなかったのか、驚いたデュノアさんだったが、デュノアさんがいいと思うと言った瞬間、クラス内から歓声が上がった。 いやだから、授業中。 あぁ、山田先生がクラスから出て行って、他の教室に謝りに行ってる...... そんなことはお構いなしに、ラウラさんを囲むクラスメイト達。 あっちはワイワイやっているからいいが、こっちは......
「「・・・・・・」」
本音さんが俺の目の前に来て、無言で俺を見下ろしていた。 いや、あの、怖いんですけど、本音さん
「後でお話。 かんちゃんとお嬢様にも来てもらうから。 りんりんは証人」
「あぃ......」
本音さんの迫力があまりにもすごくて、俺はそれだけしか言えなかった。 あぁ、俺の命日は今日かなぁ...... なんてことを考えていると、人だかりが開きラウラさんがこちらに向かってきていた。 モーゼかな?
「翼、お前に話がある」
「ん? 何さ」
話があるということで、本音さんは俺の前から移動し横で見ている。 ラウラさんは俺の前に立つと、そのまま襟を持ち顔を
「いやいや、何してるのさ?」
俺は冷静に手を払い、顔を遠ざける。 するとラウラさんは少しむっとした表情になり、再度俺の襟をつかもうとする。 それを冷静に払う俺、掴もうとするラウラの図が出来上がる。 これにはクラスメイト達もポカーンとしていたが、俺だって何か聞きたい。 数分間くらいだろうか? そのやり取りが続いたが、やがてラウラさんは諦めたように腕を下す
「むぅ...... キスはお預けか」
「いや本当に何言ってるのさ!?」
「・・・・・・」
これには俺もびっくり。 そして本音さん、これは俺のせいじゃない! 絶対零度の瞳を俺に向けてくるが、理不尽すぎる
「ん? 翼は私のライバルであると同時に、嫁にすることを決めた!」
「へーい!誰か隣のクラスから鈴さん呼んできて!ツッコミが追い付かない!」
この娘は何を言っているのだろうか? いや、昨日の会話で王道漫画ならライバルっぽい発言は飛び出したが、嫁が意味が分からない。 どっから嫁って単語が出てきた? マジでだれか説明してくれ!しかも俺が嫁入りするの? ふつう逆じゃない?
「む? ツッコミ? どういうことなんだ」
「こっちが聞きたいわ!まず、なんで嫁!?」
「決まっているだろう? 男女のライバル関係なら、互いを切磋琢磨し合う過程で、友情が愛情に変わり、やがて憎しみになるのだろう? そう副官から聞いた」
「どこのハムだよ!!いや、武士道仮面か? どっちも出いいが、憎しみに変わったらダメだろ!?」
はー、はー、と肩で息をする。 もうまじむり、つっこみが追い付かない。 やはり王道漫画の影響だったが、その副官いろいろと間違ってる。 後、首にしたほうがいいその副官。 でなきゃ、一から日本の知識叩き込みなおしたほうがいい
「何をつかれているのだ、嫁よ!」
「いや、ラウラさんのせいだからね!?」
「つばっち......」
本音さんが同情したような目で手をつないでくれる。 うぅ、その優しさが染みる。 でもお話ありなんですよね、この世は無常だ
「そ、そうだったのか、すまない......」
あー、犬耳とか尻尾があったら絶対にシュンて感じで垂れ下がってる。 ほらー!クラスのみんなからも、何やってんだこの野郎!見たいな目が来てるからー!!くそぅ!本当に他人事だと思いやがって、畜生!俺は頭をガリガリ掻くと、ラウラさんの頭をなでる
「別に謝らなくてもいい。 日本に不慣れなんだ、これから勉強していけばいい」
「いや、別に不慣れでは......」
「副官の言った日本の知識はすべて忘れろ、いいな?」
「あ、はい」
俺が凄みを利かせて言うと、ラウラさんは多少顔を青くしながら答えた。 ちなみにこの時、後日聞いた話だがすごくイイ笑顔を浮かべていたそうだ。 それはそうだろうな、周りの無責任さにイライラしてたし
「そういうわけで少しづつ日本になれてけ。 わからないことがあったら俺に聞いてもいいし、ここにいるクラスメイトや、織斑先生でもいい。 もちろん、挑戦は受け付けるけどな」
「あぁ!」
そう言うと、表情が明るくなる。 いやー、ひと仕事すんだ。 周りを見回すと、みんなグッジョブと言わんばかりに親指を立てていた。 無責任な奴らはいいな!
「むぅ」
あの本音さん、なんで隣でむくれてはるんですか?
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第五十話 一難去ってまた一難
お話を乗り越えた昼休み、食堂でご飯を食べているが一人増えた。 言わなくてもわかると思うが、ラウラさんだ。 まぁ、それはいいのだが
「あはは!それで山田先生は謝りに来たわけね、アンタモテモテじゃない」
鈴さんが朝の一件を聞いて、爆笑していた。 こっちは、笑い事じゃないやい!結局あの後、山田先生は帰ってこないわ、もはや授業どころの雰囲気ではないわで、そのまま終わり。 休み時間になり、俺は織斑先生に呼び出された。 騒ぎを起こさないでくれだとか、他のクラスに迷惑かけるなとか、山田先生を困らせるなだとか、いろいろ言われた。 なぜか、俺だけ。 しかもその時、俺は放課後の訓練、倍プッシュ宣言されたので地獄が確定した。 でも、ラウラさんのことに関しては織斑先生に感謝された。 どうも、織斑先生もラウラさんの様子は気がかりだったようだが、仕事や先生と言う立場上、介入はできなかったらしい。 だが、過程はどうあれ結果的に見れば、ラウラさんは明るくなりクラスにもなじめた。 そういう意味では感謝された。 まぁ、いろいろな意味ではっちゃけたのは否定しないが。 とりあえず、騒ぎの発端は副官のせいなので、織斑先生直々に電話をしておいてもらった。 今後こう言うことがないと信じたい
「いえ、まぁ、いろいろと大変だったんですよ、蒼海さんは」
「まぁまぁ、いいんじゃないの? これからいろんな意味で苦労するのは簪たちなんだから」
「それは、まぁ」
なんかひそひそ話し始めたと思ったら、鈴さんたちは、簪さん、本音さん、楯無さんをそれぞれ見ていた。 俺にはよくわからなかったが、女子同士で感じ合うものがあったのだろう、なんか力なく笑っていた。 そんな様子に首をかしげたのはラウラさん
「なぁ翼よ、あいつらは何をやっているんだ?」
「俺にもわからん」
何故俺に聞いてくる、本人たちに聞け。 そう思いながら、漬物をパリポリ。 あ、今日の漬物美味しい
「そう言えば楯無さん、今日の放課後の訓練は来ます?」
「ん? そうね、蒼海君に言われたし、ちゃんと仕事をすることにするわ」
「わ~、お嬢様が珍し~」
「本音ちゃん、どういう意味かしら?」
本音さんの本音に楯無さんが食いつくが、いつものように笑顔で言い放つ本音さん
「そのままの意味ですよ~? お姉ちゃん、いつも愚痴ってますし~」
「グフッ......」
本音さんの本音に楯無さん、撃沈。 少し行儀が悪いが、机に突っ伏す。 そんな楯無さんに、簪さんからの追撃が入る
「お姉ちゃん、また虚さんに迷惑かけて。 ダメだよ、迷惑かけちゃ」
「・・・・・・」
簪さんの言葉がクリーンヒットしたのか、楯無さんは動かない。 やめて簪さん!楯無さんのライフはもうゼロよ!どこかのカードゲームの次回予告が聞こえてきそうな感じだな
「なぁ、翼よ」
「ん?」
「姉なのに威厳が」
「ストップ!それ以上はいけない!!それに、ここぞというときにはしっかりした人だから、普段は見逃そう」
「それって、普段はだめだめだって言ってるわよね!?」
どうやらラウラさんとの話が聞こえていたようだ。 てっきり、生ける屍よろしく、聞こえてないのかと思っていた。 若干涙目だが、ここは心を鬼にして
「自業自得です」
「・・・・・・すみませんでした」
お茶を飲みながら言うと、がっくりとうなだれながら返事をする楯無さん。 これに反省して、日常的に仕事をやってくれるようになればいいのだが
「アンタも鬼ね。 ともかく、何で楯無さんに放課後の訓練、来れるか聞いたのよ?」
鈴さんがもっともなことを言うと、全員の視線がこっちに向く。 俺は力なく笑いながら
「織斑先生にね、訓練、倍プッシュって言われたからね」
「あぁ、それはなんというか、ご愁傷様......」
「ふふっ、なんで俺だけ.......」
「翼君、よしよし」
「つばっち、よしよし」
頭に何かが触れる感触がする。 たぶん声的に、簪さんと、本音さんが撫でてくれてるんだと思う。 うぅ、優しさが身に染みる...... そんな俺は放っておいて、鈴さんたちは話しこんでいた
「織斑先生直々に訓練か、羨ましい限りなのだが」
「あー、まぁ、ラウラからしたらそうなんでしょうけど、アレは訓練の皮を被った何かよ」
「そんなに、なのか?」
「えぇ、まぁ...... 織斑先生との模擬戦は当たり前。 時には山田先生と組んだ時もありましたわね」
「あー、アレね。 アレは見てるこっちもかわいそうだった」
「後は、お姉ちゃんと、織斑先生タッグと翼君とか」
「でも蒼海君、才能がすごくあると思うわよ? もちろん本人の努力もあるけど、いくら装甲が硬くなって、スラスターの数を増やしたといっても訓練機よ? 初期化と最適化はしてあるといっても。 それであそこまで扱えるんですもの、専用機があったら彼の実力は計り知れないわ」
「・・・・・・意外にすごかったのだな、翼は」
なーんか、視線が集中しているような気がするが、今の俺にそんなのを構っている暇はない。 と言うか、ようやく回復してきたところだし
「簪さん、本音さん、ありがとう。 持ち直してきた。 それで、何の話をしていたんですか?」
「いやー、ただアンタの才能が恐ろしいって話をしていただけよ」
「いやいや、織斑先生や師匠に比べたらまだまだでしょ。 それに、鈴さんやオルコットさんのタッグに負けることあるし」
「いえ、そもそも比較対象が...... そもそもこのやり取り、何回もやってるのですが」
鈴さんがそんなことを言うが、俺としては織斑先生や師匠の足元にも及ばないためそんなこと言われても困る。 オルコットさんも同意のようだが、そもそもこれに関しては、他の人の意見を聞くつもりはない
「むぅ...... 私もシュヴァルツェア・レーゲンが修復中でなければ、参加したのだが......」
「まぁいいんじゃないの? 短い息抜きということで。 ちゃんと機体も直って、ラウラさんも十分な休養を取ってからで」
「それもそうだな」
難しい顔をしていたラウラさんだが、俺がそう言うと機体が直るまでは休むことに決めたようだ。 安静にしているようにって話だし、あんなハードなものをやらせるわけにはいかない。 そんな少し騒がしい昼を終えた
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「し、死ぬ......」
「えっと、お疲れ様、翼君」
「今日も大変だったわねー」
「これで楯無さんがいたら、蒼海さん死んでいてもおかしくなかったのではないでしょうか?」
「・・・・・・正直言って、私の想像以上にきつい訓練だった。 本国にいたころよりも、スパルタになっているかもしれん」
「グフッ......」
ラウラさんの言葉を聞き、俺は膝から崩れ落ちた。 じゃあ何か? 軍人でもきついと思われるメニューを、俺は毎日こなしていたのか? ・・・・・・俺、今までよく生きてたな。 ちなみに鈴さん、オルコットさん、ラウラさんは専用機を修理している状況だが、いろいろと参考になるということで、観客席で見ていた。 疲れていると、なんだか足音が聞こえてくる。 しかも複数人だ。 まっすぐ、この控室を目指しているようだ
「「蒼海君!!」」
「めっちゃ、人いるんですけど.....」
「うわぁ......」
そこには、入り口に群がる、人、人、人。 その手には紙が握られ、全員が俺に差しだしてきた。 いや、怖いから。 内心そう思ったが顔には出さず、そのうちの一枚を見る。 すると、今月末に行う学年別トーナメントだが、タッグ戦なったらしい。 あぁ、これか
「あー、みんなには悪いけど、簪さんと組むから」
皆落ち込んだ様子だが、これはもともと決めていたことだし。 正直って前から聞いてたし、申し込みはまだしていないが。 そういうわけで、皆さんにはお引き取り願った。 関係ない話だが、簪さんと組むといったとき、心なしか簪さんの顔がどや顔に見えたが、きっと気のせいだろう
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夕飯後、俺は一人で外を歩いていた。 気晴らしに外でも歩こうかなと思っていたが、それが間違いだった
「うぅ、グスッ......」
なんか見覚えのある人が、ベンチで泣いている。 いやまぁ、ここは人通り少ないけどさ。 いいのかよ、そんな風に泣いてて
「・・・・・・どうした、デュノアさん」
「蒼海君?」
デュノアさんは泣きはらした目でこちらを見る。 どう見ても、長い間泣いているのが分かるありさまだった
「誰かに見られたか?」
「そ、それはないと思うけど......」
戸惑っているデュノアさんだが、無理やり引っ張りベンチから立たせる
「な、何を!?」
「お前、今の恰好を見てからいえ」
「え? あっ......」
何があったのかは知らないが、一部が隆起していた。 それは少なくとも昼までは見られなかったもので。 端的に言えば、胸が膨らんでいた
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第五十一話 一難去ってまた一難 2
「「「・・・・・・」」」
重苦しい沈黙。 場所は外から俺の部屋に移り、くつろげるはずの部屋も今では重苦しい雰囲気に包まれていた。 原因はデュノアさんだ。 男装は、まぁ、楯無さんからの情報や自分でも何となくわかっていたので別に驚きはない。 だが、厄介ごとに自ら首を突っ込んだということで、気分は最悪だ。 我ながら、何故放っておかなかったのか。 ちなみに部屋に来るまでの間、奇跡的に誰にも見られなかった。 この時間なのに珍しい
「はぁ...... この際
楯無さんはため息をつきながらそう言った。 その際デュノアさんは肩を震わせたが、楯無さんは気にせずに俺に厳しい視線を向ける。 まぁ、そうなりますよね。 この状況が分かっていても、なお俺が連れてきたのだ。 楯無さんが厳しい視線を向けてきても仕方がない
「それで? 蒼海君には警告していたはずよ? シャルル・デュノアは怪しいって。 それなのに、なぜここに連れてきたのかしら?」
「楯無さんの言いたいことは分かってるつもりです。 警告もされてましたし、自分でも気が付いてました。 怒りももっともですが、俺の言い訳を聞いてください。 まず、デュノアさんが泣いている場所が悪かった。 人通りが少ないとは言っても学園、誰かしら通る道でその恰好で泣いてたんです。 下手をすれば情報を拡散され、面倒ごとになるのは目に見えてる。 なら、情報を拡散される前にどこかしらに連れ込むのがいい。 それで、ここに連れてきました。 そして、まぁ、単純に泣いているのを放っておけなかったといいますか」
あははと力なく笑うと、楯無さんはジト目を向けてきた。 いや、しょうもないとかは分かってるんですよ? でも、そんな風にみられるのはいささか心外と言うか。 まぁ、俺が全面的に悪いんですが。 ジト目をやめた楯無さんは普通に話し始めた
「後半はともかく、確かにシャルル・デュノアが女だったという情報が学内に拡散されれば、面倒になるのは目に見えてるわね。 一つ訂正するなら、わざとここに連れてきたんでしょ? 私は生徒会長で、やろうと思えばいろいろと出来るから」
「あはは...... ばれてましたか」
「だって蒼海君、私と同じような人間じゃない。 使えるものは使う、そうでしょ?」
「ははは」
笑って誤魔化しておく。 まぁ、人の迷惑も考えず、面白いことをしていた時期がありましたしですしお寿司。 とりあえず、今は関係ないので昔を思い出すのはやめよう
「それで? なんでデュノアちゃんは、外で泣いてたのかしら?」
追及を始める楯無さん。 デュノアさんから語られたのは、衝撃の真実だった。 まずは学園に潜り込んだ真実から。 デュノアさんの名前からわかる通り、デュノアさんの実家はデュノア社。 俺の使っているラファールリヴァイブの製造元だ。 そこの社長、デュノアさんのお父さんらしいのだが、その人から直接命令されたらしい。 理由は、まぁ、デュノア社自体が経営危機に陥っているから。 これは世界的には知られていないが、少し調べれば簡単にわかることだ。 俺も自分の相棒の製造元が気になったから調べた程度だったが。 デュノア社の主力は、ラファールリヴァイブだ。 これは広く知られており、訓練機、カスタム機問わず多く使われている。 だが、ラファールリヴァイブは第二世代型。 いま世界中では第三世代型の開発が主流になっている。 鈴さんの中国、オルコットさんのイギリス、ラウラさんのドイツ。 他にもいろいろな国が第三世代型になり始めている中フランス、その主要開発社であるデュノア社はいまだ第三世代型の開発ができていない。 このままではフランスは世界から出遅れる、そしてデュノア社は開発権をはく奪される、そこ苦し紛れの策がデュノアさんの男装だ。 そうすればデュノア社は広告塔を、しかも同じ特異ケースである俺たちに接近しやすいというわけだ。 そこで俺たちのデータか、白式のデータでも取れればデュノア社的には万歳、フランスにとっては第三世代型の開発ができるといいことづくめらしい。 正直言って、フランスとデュノア社には呆れしかない。 楯無さんを見れば、俺と同じように呆れていた。 まぁ、デュノアに男のふりは無理だということだ。 体のつくりにしてもそうだし、所作とかもどこか女っぽかったしな。 とまぁ、話はそれたがここまでなら、別に俺は衝撃の真実なんて言わない。 俺が衝撃と言ったのは、その後だ。 それで、泣いていた理由だが、織斑だった。 デュノアさんと織斑は同室だったのだが、当初から篠ノ之さんに文句を言われていたらしい。 織斑も気にしなくていいって言っていたし、そこまでなら気にしていなかったらしい。 だが、態度が豹変したのは昨日の夜の事。 織斑先生から電話連絡を貰い、謹慎を発表された直後だ。 その時は放心状態だったらしいが、シャワーを浴び部屋に戻ると豹変していたようだ。 デュノアさんが女ということを知っており、それで脅してきたらしい。 まぁ、普通なら抵抗するのだが、そこで白式のデータをつけるといわれたようだ。 どちらにしろ織斑にばらされれば、デュノアさんはこの学校には居れなくなる。 そして、白式のデータはデュノア社とフランスが欲しがっているのも。 元より道はなく、織斑の指示に従っていたらしい。 なるほどな。 今日、教室でほとんどデュノアさんの姿を見かけなかったのはそのためか。 大方、織斑の召使のように働いていたんだろうけど。 だが、ついさっき要求がエスカレートしたらしい。 それで、織斑のところから逃げてきて泣いていた、そういうわけだったらしい
「「・・・・・・」」
それを聞いた俺と楯無さんは無心だった。 まぁ、信じられないわけではないのだが、スパイをやっているようなデュノアさんだ、全部が全部信用できるわけじゃない。 デュノアさんもそれが分かっているのか、薄く笑うだけだった
「まぁ、事情は分かった。 だがシャルル・デュノア、お前のすべてを信用できるわけじゃない。 確かにお前は被害者かもしれないが、自分で選んでここに来たんだ。 もうその時点で、お前は被害者から加害者になってる。 たとえ、親の権力にかなわなくて仕方なくだったとしても、お前は選んでここに来た」
「それは、うん、そうだね......」
「はぁ...... 俺もつくづく甘いな。 楯無さん、何とかできません?」
「え?」
「・・・・・・あの話を聞いて、信用できないといったのに、何故そんなことを言うのかしら?」
デュノアが呆けた顔をするが、気にしない。 楯無さんは厳しい目で、俺を見てくる。 まぁ楯無さんもわかっているとは思うが、一応俺を見定めるためだろう
「信用はできませんけど、このままじゃ俺たちにも被害が来ます。 それは、
苦笑する俺に、楯無さんは苦笑していた。 やっぱりわかっていたらしく、どうやら俺らしい答えに納得してもらえたようだった
「まったく、こんなことに私を使うだなんて、高くつくわよ?」
「それは俺じゃなくてデュノアさんに払ってもらいたいところですが、仕方ないでしょう。 要求は?」
「そうねぇ...... なら学年別タッグマッチが終わったら、生徒会に副会長待遇で入ってもらいましょうか!」
「わぉ、意外に穏便に済んだ。 まぁいいけど」
そんなわけで契約成立の握手をすると、デュノアさんが突っ込んでくる。 どうでもいいけど、何で楯無さんそんなに悪そうな顔しているんですかねぇ......
「ま、待ってよ!」
「なに?」
「なにかしら?」
「二人は何を言ってるの!? 被害がくるって、そんなの僕を本国に送還すれば!」
「それじゃあ、意味がないだろう?」
「え?」
「俺たちに迷惑かけたんだ、ちゃんと清算してもらわないとな。 それに、クラスの奴らもだましてたんだ、謝ってもらわないとな」
「わーお、蒼海君悪い顔してる」
そういう楯無さんも、この状況楽しんでますよね。 そうは思ったが、言わないでおいた。 その時のデュノアさんの顔は面白かったが、まぁいいでしょう
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第五十二話 一難去ってまた一難 3
一難去ってまた一難、今度は部屋割りの問題だ。 流石にこればっかりは生徒会長権限でも長期の部屋替えは望めないということなので、織斑先生に連絡することにした。 ただ、デュノアさんの部屋割り変更の理由を話さなければいけないのがネックだ。 え? デュノアさんが女なのは良いのかって? あの織斑先生だよ、気が付いてないはずがない。 たぶん下手につつけば国際問題になりかねないのが分かっていたから、動きが分かるまでまたは調べが付くまで何もしなかったんだと思う。 まぁ、一応織斑先生を部屋に呼んだわけだ
「ふむ、これはまた厄介な状況になっているな」
「いや、まぁ、迷惑かけます」
「気にするな。 それで用件を聞こう」
そこから、どうしてこうなったかの説明をし始める。 と言っても、デュノアさんの身の上は知っているそうなので、簡単に話何故この部屋に連れてきたのかを話した。 まぁ、話したのはいいのだが、ヤバイオーラが立ち込めてる。 流石にこのオーラには楯無さんも青い顔をしているし、デュノアさんなんか震えている。 俺なんか目の前で、もろに受けてるからね? そうか、これが覇気か!
「蒼海、あまりつまらんことを考えるなよ?」
「サー、イエスサー!!」
いつもの笑顔も、何故かオーラのせいで五割り増しくらいに感じる。 おっと、これ以上考えるのはよそう、消される。 織斑先生は立ち上がると、どこかに行こうとする。 流石に声をかけたくないが、織斑のところに行かれるとまずいので、声をかける
「織斑先生、どこに行くつもりですか?」
「決まっているだろう、愚弟のところだ」
やはりと言うか、家族だからそんなことをしているのが許せないのだろうが、少し待ってほしい
「すみません。 今行かれても困ります」
「何故だ!」
「冷静じゃないからです。 それに、デュノアさんの件もまだ決着はついてません。 今の状況で織斑のことを織斑先生が問い詰めれば、織斑が向こう側に情報を漏らす可能性がある。 そうなればデュノアさんは向こうに強制送還されます」
「私がすべて何とかする!だから部外者は黙っていろ!!」
「貴女が!!貴女がすべて何とか出来るんですか!!一歩間違えば、人一人の人生が一生塀の中なんですよ!!何のために俺が楯無さんに頼んで慎重に事を進めていると思っているんですか!!少しはデュノアさんの事だって考えたあげてください!!貴女は教師でしょう!」
冷静じゃない織斑先生につい怒鳴ってしまったが、俺は怒鳴ったことを後悔しない。 だって、俺が言った通り人一人のこれからがかかっているのだ
「・・・・・・すまない。 少し冷静じゃなかったようだ。 だがどうするつもりだ? 楯無がいくら有能でも、できることは限られるぞ?」
「まぁ、楯無さんが有能で人脈が広くても、できることは限られます。 部屋割りのことを相談したかったのもそうですが、織斑先生、いや、
「ふっ、教師と言ったりブリュンヒルデを頼ったり、都合がいいなお前は」
「え? 知らないんですか織斑先生。 権力とは往々にして振りかざすためにあるんですよ?」
「えぇー...... 貴方がそれを言うの?」
楯無さんから突っ込みを貰うが、全力スルーした。 いまだに関係各所に大きな影響力を持つ織斑先生だ、その人の発信ということになれば、嫌でも世界は重い腰を上げるだろう。 つまりは、そう言うことだ
「まぁ、何と言うか」
「やり方がいやらしいわねぇ......」
それを説明すると二人は苦い顔をしていたが、納得していた。 ぶっちゃけ、俺ではこれ以上思いつかなかったので二人に任せたいところだったのだが、これで行こうということになった。 さっきあんな顔しておいて、案を出したら乗っかるって酷いと思うの
「まぁ、デュノアの件は私と楯無に任せておけ。 それと部屋割りの件だが、適当な理由をつけて誤魔化しておこう。 どちらにしろ怪しまれると思うがな」
「まぁ、デュノアさんの件が終わるまでですから。 その後は、いろんな意味でご自由にどうぞ」
「ふん」
部屋から出ていく織斑先生に、俺はようやく一息をつけた。 あー、本当にあの人のプレッシャーすごいわ。 普通に話しているように見えて、俺は気絶しないように必死でした
「はぁ、これから忙しくなりそうね」
「お手数をおかけします」
楯無さんの肩をもみつつ、呆けているデュノアさんに声をかける
「と言うわけで終わったから、男装してどこかの部屋に泊まるといいよデュノアさん。 織斑先生も許可だしたし」
「え、あ、えっと......」
いきなりのこと過ぎて理解が追い付かないようで、デュノアさんは戸惑っていた。 俺はそれを見つつ、楯無さんの肩をもむ。 あのー楯無さん、色っぽい声を出すのはやめてほしいんですけど。 それにしても、なんで俺は肩をもんでいるのか。 自分の行動ながら謎だ
「その、助けてくれて、ありがとう......」
「いや、まだ助けてないし。 そもそも、俺の目的は君を助けることじゃなくて、クラスのみんなに謝らせることだから」
泣きそうな顔でお礼を言うデュノアさんに、俺ははっきりと告げておく。 なんだろう、本心からの言葉なのに言い訳みたく聞こえる。 事実、楯無さんはニヤニヤしながらこちらを見ているし、デュノアさんもまだ泣きそうだが、少し笑っていた
「うん、そうだね。 楯無さん、あの、よろしくお願いします」
「まぁ、蒼海君からのお願いだしね。 それに私としても、優秀な人材が生徒会に入ってくれるわけだし、いいんじゃないかしら?」
俺のお願いというところを強調して、心なしかどや顔しているように見える楯無さん。 うーむ、俺に頼られるのがそんなにうれしいのだろうか? 割と、普段から頼っているような気がするが。 まぁ、楯無さん上機嫌だし、わざわざツッコミを入れることもないか
「それにしても、空き部屋なんてあるのかな?」
「ここも一応空き部屋扱いにはなってるけど......」
そう言って楯無さんを見るが、楯無さんは気にせず肩もみを気持ちよさそうに受けていた。 その様子から察したのか、苦笑するデュノアさん。 だが、空き部屋ねぇ
「空き部屋空き部屋...... あー、ラウラさんのところでいいだろう」
「ボーデヴィッヒさん? でも......」
「昨日の一件なら気にしてないし、そもそもラウラさんもデュノアさんが女だって気が付いてたし」
「え”っ」
さらっと爆弾発言した俺に固まるデュノアさんだが、当たり前だろう。 俺で違和感が出るレベルだ、軍人で観察眼を持っているラウラさんなら見破っていてもおかしくない。 今日の昼食時、シャルル・デュノアに注意しておけって言われたし。 俺が知ってると言うと、流石だななんて言ってたしな。 よくよく考えたら、これは好条件なんじゃないだろうか? ラウラさんは軍人だ。 その軍人に手を出せば、ドイツが黙ってないわけだし。 セキュリティー的にも、安心だろう
「事情を説明すればわかってもらえるだろうし、織斑先生に許可をもらってるっていえば一発だと思う」
「あ、あはは、僕の努力っていったい......」
「それは仕方ないわよ、プロの軍人だし。 そもそも、私も一発で見破ったし、蒼海君も違和感持ってたみたいだから」
「・・・・・・」
もはや力なく笑うこともしなくなったデュノアさんにちょっぴり同情しながら、衣服を整えさせラウラさんの部屋に向かわせた。 いやほんと、面倒なことに首を突っ込んでしまったものだ
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第五十三話 訓練! ~VS織斑先生~
学年別タッグトーナメント前日、俺と簪さんの姿はアリーナにあった。 アリーナの使用時間はもう少し、ちょうど模擬戦一回分というところだろうか。 それなら模擬戦するしかないなと、嬉々として模擬戦をしようとする織斑先生。 まぁ、なんだ? こうなったら織斑先生は止まらないので、俺と簪さんはそれぞれ武器を構えつつ織斑先生と対峙していた。 織斑先生は夕日をバックに、葵を持ちこちらを睨みつけている。 それだけで、やばいのだから手に負えない
「それではボーデヴィッヒ、合図を頼む!」
「はい、織斑先生!5、4、3、2、1......開始!」
ラウラさんの掛け声と同時に織斑先生が突っ込んできた。 もともと簪さんとのタッグの相性は悪くないのだ、トーナメント前日ともなればコンビネーションも完璧。 目で合図し、俺は前に出て、簪さんは後ろに下がる。 元々構えていた葵二本をクロスし、織斑先生の葵を受け止める。 いや、あの、本当に一撃が重いんですが...... 両手で受け止めているのにもかかわらず、押し返せもしない。 男として情けなく感じる一方、こんな人に勝てる人類がいるのかとも思う
「ほう!私も本気なのだがな!!」
「俺も本気ですよ!?」
何を思ったのか体重までかけてくるが、こっちもスラスターをふかし拮抗状態までもっていく。 ふぇぇぇ、織斑先生楽しそうで怖いです!だが、この間簪さんが何もやってないわけがなく、春雷を撃つ。 流石先生で、ぎりぎりのタイミングで避ける。 俺から距離が離れた織斑先生、簪さんはすかさず山嵐を起動し、全弾撃ち尽くす。 拡張領域に予備のミサイルは入れているが、リロードには時間がかかる。 それが分かっている簪さんは、すぐにリロードを開始する。 48発のミサイルが織斑先生に迫るが、織斑先生は驚きもせず切り裂いていく。 だが、そこで俺も見ているわけじゃない
「ぬっ!?」
織斑先生が
「翼君!」
後ろから声がかかり、俺は織斑先生の攻撃をそらし回避行動をとる。 俺がいたところには春雷が通り過ぎ、織斑先生をかする。 おいおいおいおい!俺だってギリギリで避けたのに、なんであの人がかするくらいなんだよ!? どういう反射神経してんの!? 心の中で毒づくながら、再度切りかかる。 だが今度は切り合うのではなく、避ける織斑先生。 ヤバイな、作戦がバレてる。 足を止まらせることでロックする時間を作っているのだが、こうも避けられるとロック自体が追い付かない。 チラリと簪さんを見るが、頷いている。 なら、作戦変更か
『簪さんも』
『わかってる』
簪さんの姿を見せないようにするため、盾とナイフを構え突進する。 まぁ、ハイパーセンサーがあるからそう言うのは効かないが
「私にナイフ相手とは...... 悪手だな!」
ナイフがはじかれ宙を舞うが、そのナイフがはじかれた右手に盾を展開してイグニッションブーストを発動。 織斑先生に突っ込む。 超至近距離でのイグニッションブーストだ、当然押し返せるはずもなく当たるかと思われた。 だが俺の攻撃は空を切る。 いや、正確には俺が織斑先生を追いかける形になる。 あの土壇場で先生は、後ろ向きにイグニッションブーストをしたのだ。 いやいやいやいや、俺も技術的にできるけど少しは驚いてくださいよ。 イグニッションブーストの切れ目を狙い、織斑先生は前にイグニッションブーストをしてくる。 俺はそのまま盾を一つ収納しどっしり構えるが、イグニッションブーストがプラスされたパワーに勝てるはずもなく、吹き飛ばされる
「貰った!」
「いやです!」
だが、俺は右手に展開していたグレネードランチャーを織斑先生に打ち込む。 イグニッションブースト中で避けられるはずもないので、当然切り裂かれる。 だが弾頭はスモークグレネードだ、意味がない。 飛ばされる俺とは対照的に、勢いよく煙に入っていく影が一つ。 この場にもう一人の操縦者は一人しかおらず、簪さんだ。 夢現を構え、煙の中に突っ込む。 俺はそれを見送り、すぐに姿勢を制御。 遅れて、葵を二本構え煙に突っ込んでいく。 織斑先生の姿が見え、葵を振るうがガードされる。 俺と簪さんの波状攻撃なのだが、ダメージは入ったがそんなに多くはなかった。 逆にこっちが反撃貰ったりしたし。 でも
「この距離なら、外しません!」
「ぐっ!」
山嵐と春雷のフルバースト。 クリーンヒットなどもしたが、大部分はよけられてしまう。 俺はそれの命中率を増やすため、ミサイルと荷電粒子砲の雨の中、織斑先生と斬り合う
「貴様もなかなか自殺志願者だな!」
「このぐらいなら、まだ!」
そう、このぐらいなら。 えぇ、師匠のガトリングとミサイルの嵐に比べれば。 思い出すととたんブルーになるので、意識の隅に追いやりきり合う。 まぁ、それでも被弾は微々たるものだった
『簪さん、残り山嵐の弾数は?』
『拡張領域の容量的に大体二発から三発分で、今回は後一発分撃てるか撃てないかってところ』
『なら、あれを合わせれば?』
『一発分辛うじて撃てるよ』
『なら、準備お願い』
短い会話をしつつも、織斑先生と斬り合う。 俺が与えるダメージよりも、織斑先生から受けるダメージのほうが多いが、まぁ仕方ないですよねぇ...... そんな風に切り合っていると、準備が整ったのか簪さんから声がかかる
「翼君!」
俺は頷き、山嵐が発射される。 織斑先生はそれを気にせずに、俺と斬り合う。 そして、俺にもいくつかミサイルが着弾するが、それは織斑先生も同様だ。 お互い少なからずダメージを受け、煙に包まれる
「ふっ、この程度か?」
「いえ、これで最後です」
どうやらミサイルの中にもスモークが混じってるのがわかっていたのか、織斑先生は動かない。 だが、別に俺はこのスモークを目くらましに使っているだけで、動くか動かないかは関係ない。 織斑先生に近づきとっつきを打ち込む。 だが、先生は葵でガードする。 だが、これがKIKUならそれでもよかっただろう。 だが、今使っているのはKO-4H4/MIFENGのほうだ。 葵は折れ、その殺し切れなかった衝撃は織斑先生にも伝わる
「なっ!?」
驚いた織斑先生の顔ゲット!だが、それじゃあ終わらないんだなー。 織斑先生にKIKUを構え、引き金を引く
「くっ、私の負けか」
「俺たちの勝ちです」
「やったね、翼君!!」
思わず抱き着いてきた簪さんを受け止めつつ、相棒を解除する。 お疲れさん、相棒。 声をかけつつ、とっつきがあってよかったと心の底から思う。 たぶん、最終局面でマシンガンだのアサルトライフルなどを撃っても、銃弾斬られてただろうし。 観客席に向かってピースしたら呆れられたでござる。 解せぬ
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第五十四話 タッグマッチトーナメント、始動
「ついに始まったね」
「そうだな」
モニターに映るのは、アリーナ内の様子。 来賓等が入ってきて、今回参加しない人たちが観客としてみている。 てか、こんなに生徒数がいるんだな。 モニター内どこを見回しても、女子女子女子。 来賓は除くけどな? ここに来る前には、華やかだという感想しかなかっただろうが、今これを見ても寒気しか感じない。 主に、俺のリビドー的な意味で
「緊張してる?」
「程よくね。 全然てわけじゃないし、緊張で動けないほどじゃない」
「そっか。 私はちょっと緊張してるから」
そう言う割には、いつもと同じような感じだが。 簪さんは、俺の隣に来ると手を取った。 そのつなぎ方は恋人つなぎと言われるものだが、今回は何も言うまい。 一応、緊張しているようだし。 まぁ、よくよく考えれば普段はもっと恥ずかしいことしているような気がするが
「落ち着いたか?」
「うん」
モニターを見ていると、新たな表示が。 どうやら対戦表のようで、一回戦の相手は織斑と篠ノ之さんのようだ。 運がいいというか、何と言うか。 他の対戦者を見るが、まぁ鈴さんたち主要な専用機持ちがいなく、訓練機だ。 俺も一応改造モデルと言え、訓練機だけど。 どんな奴らが相手だろうが、油断するつもりはない
「一回戦の相手」
「関係ないだろ? 俺と簪さんなら」
そう言って簪さんを見れば、驚いたような顔をしたけど、笑顔になる
「うん、私と翼君なら、負けない」
『一年生、第一試合を始めます、選手の方は準備をしてください』
アナウンスが入り、俺と簪さんはカタパルトに上がる。 すると
「ありゃ、鈴さん、オルコットさん、ラウラさん、デュノアさん」
何故かいつもつるんでいるメンバーが勢ぞろいしていた。 なんだろうか?
「大会だから緊張してるかと思ったけど、大丈夫そうね」
「俺が緊張とか、すると思う?」
「無縁だろうな」
「簪さんの方も...... 大丈夫そうですわね」
「うん、ばっちり」
「頑張ってね、二人とも!」
「つばっちもかんちゃんも、頑張れ~!」
なんか、妙にデュノアさんが力んでいるが...... あぁ、そうか。 ややこしいことになったのも織斑のせいだったな。 ここ最近忙しくて忘れてた。 デュノアさんの件だが、上手く行っている。 今日織斑先生が各メディアに情報を流すつもりらしいが、思った以上に胸糞悪い話となった。 まぁ、それはまた今度の機会に語るとしよう。 いまは、試合に集中だ
「それじゃあ行こうか!簪さん、相棒!」
相棒を展開し、カタパルトに乗る。 そして、カタパルト上に設置された信号が青になる
「ラファールリヴァイブ改、蒼海翼、出る!!」
いつもの気持ちい風を感じたが、今回は大会だ。 すぐに降下し、所定の位置に着く。 すると、すでに待っていた織斑は俺を睨んでいた。 まぁ、どうでもいいことだが。 簪さんも俺のすぐ隣に降り立ち、前を見る
『お前を殺す!』
なんか物騒な秘匿通信が来たが、無視をしておく。 反応すれば面倒なことになるし
『聞こえてるんだろ!? まぁ、いい。 今回の大会で事故に見せかけて殺せば、みんなは僕のものになるんだ!!』
なんか、妄想通り越してうすら寒い幻想を見ているようだ織斑は。 てか、一つ言いたいのがお前の実力じゃ俺は殺せないだろうといいたい。 まぁいいや
『簪さん、一瞬で終わらせよう』
『もちろん』
簪さんから頼もしい返事が返ってきた。 カウントが始まり、一気に緊張感が高まっていく。 そして、俺は開始の合図とともに織斑に突っ込んだ。 織斑も俺と同じようにイグニッションブーストを使い、一気に間合いを詰めてきた。 見え見えの大ぶりな一撃、当たるかと思われたその攻撃を俺は地面をえぐることで無理やり減速し、避ける。 まさか外れると思ってなかったのか、驚いた顔をして慌てて体制を直すが遅すぎる。 俺は両腕にKIKUを展開、その両腕のKIKUを織斑にぶち当てる。 織斑はすごい勢いで飛んでいったが、俺はイグニッションブーストで追いかけ連続でぶち当てる。 そして
「あ、それと、これはデュノアさんの分、なっ!」
壁にぶち当たった織斑に、最後の一撃をくれてやる。 ISの展開は解け、織斑はその場に崩れ落ちた。 気絶したようだが、絶対防御は抜いてないし大丈夫だろう。 簪さんを見れば、フルバーストしてさっさと終わらせていた
『しょ、勝者!蒼海、更識ペア!』
会場は盛り上がるどころか、ポカーンとしていた。 なんだ、勝負がつくのが速すぎたか? 何とも微妙な空気の中、俺と簪さんは待機場所に戻る。 すると、なぜかみんな俺たちのことを呆れたように見ていた
「つばっち、かんちゃん、お疲れ様~!!」
「きゃっ!? もう、本音は」
「危ないから本音さん。 それで、みんなはなんだよ」
「いや、もはやあれ試合じゃなくて熟練者が初心者いじめる構図だったでしょ......」
鈴さんがみんなを代表して、そんなことを言ってきた。 いやいやそんなこと言われても困るし、それに
「それは違うだろ。 あの程度の実力でタッグマッチに出るのがいけないだろ」
「うむ!翼の言うことも一理あるが、多分お前たちが強すぎるだけだと思うぞ!」
「ラウラ、それ笑顔で言うことじゃない」
「いえ簪さん、はっきり言って一年同士の戦いではなく、代表候補とか代表クラスの実力だと思いますわよ?」
「うん、僕もセシリアの言うことに賛成かな」
解せぬ。 俺は簪さんと二人でしきりに首をかしげていた
--------------------------------------------
どうやらみんなが言っていたことは本当で、俺と簪さんペアは無傷で優勝した。 うーん、まぁ、相性や専用機持ちということもあるのだろうけど、まさか無傷とは...... しかも、二、三年はまだ試合中だということで、一番早く終わった影響か、かなり暇になってしまった。 でもさっきの事だ、来賓のほうが俺と簪さんの試合をもっと見たいということで、急遽二、三年の優勝者と戦うことになってしまった。 まぁ、これも圧勝してしまったのだが...... 流石に無傷とはいかず、簪さんも俺もダメージは負ったが、基本シールドエネルギーが70%を下回ることはなかった。 もはやここまでくると、来賓だけでなく学校全体で盛り上がり、教師陣も悪乗りしてきているせいか、学園最強、つまり楯無さんの試合となったのだ。 いや学園側、どうしてこうなった!ちなみに楯無さんが二年の優勝者じゃないかということだが、実は違う。 楯無さんの称号は学園最強、つまり一番強いということ。 なので、楯無さんは基本こういう行事には参加できないのだ。 なのにもかかわらず、今回楯無さんをこういうことに引っ張り出してきたのだ。 学園側、ノリノリだな......
「でもさ簪さん」
「なに?」
一時休憩ということで、俺たちは二人で控室にいる。 だから周りに気にせず、話ができる
「意外に早く再戦の機会、訪れたよね」
「うん。 正確には私と翼君でだけど」
「まぁ、勝負で向こうも了承してるからいいんじゃないかな?」
二人で笑い合う。 まぁ、この一件、一応楯無さんも了承済みと言うわけだ。 もしかして学園側じゃなくて、楯無さん個人で仕組んだ場合も出てきたわけだが。 まぁ、いいか
『それではエクストラマッチを始めます、選手の方たちは指定の位置についてください』
「それじゃあ、行こう!」
「今度は勝つよ、お姉ちゃん」
俺たちは互いにISを展開し、カタパルトからピットに出る。 反対側からも、ちょうど楯無さんが出てきたようだ
「はぁ~い、二人とも」
陽気に手を振ってくる楯無さんだが、その表情は真剣そのもの。 かつて見た、簪さんと真剣勝負をした時の、そのものだった
「どうも楯無さん。 今日は、勝たしてもらいますよ?」
「行くよお姉ちゃん」
「来なさい!学園最強を、ロシア国家代表を、更識楯無を倒してみなさい!!」
「行くぞ相棒!力を貸してくれ!!簪さん!」
「行こっか弐式!うん、翼君!」
『試合、開始!!』
ちなみに、オリ斑君コロコロ回のもう一つの候補
簪さんから頼もしい返事が返ってきた。 カウントが始まり、一気に緊張感が高まっていく。 そんな中、俺は織斑に話しかけた
「なぁ織斑、ブーストチャージって知ってるか?」
「はぁ? なんだよそれ?」
呆ける織斑だが俺は開始の合図とともに織斑に突っ込んだ。 織斑は呆けていた影響か、スラスターをふかすだけだった。 対して俺はイグニッションブーストを使い、一気に間合いを詰めている。 織斑は攻撃しようとするが、遅い。 俺のブーストチャージ、簡単に言えば蹴りは織斑の腹に突き刺さり、そのまま織斑はアリーナの影に飛んでいく。 俺はそれを逃がさず、二回目のイグニッションブーストを発動しその後を追いかける。 壁にめり込む織斑だが、動きがない。 構わずに両腕にKIKUを構え、引き金を引く。 順調にシールドエネルギーは削れ、最後の一発
「これはデュノアさんの分、なっ!」
こんな感じですかね? 殺意高いのは向こうですけど、こっちは最初に蹴りいれてるので、多分観客が騒ぎそう
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第五十五話 学園最強
試合開始の宣言と共に、俺と簪さんは後方に下がる。 開始位置は楯無さんの距離で、危険だからだ。 事実、俺がついさっきいたところはは水蒸気爆発が起こり、地面がえぐれている。 相変わらず、えげつねぇ...... 避けられても大して気にしていないのか、楯無さんは笑顔で話しかけてくる
「あら、いきなり逃げるなんてお姉さん傷つくわよ?」
「いきなり爆発させておいて、よく言いますよ!」
マシンガンを構え、撃ち込むが水をガードに使いことごとく落とされる。 だが、俺は簪さんとのタッグだ。 簪さんは楯無さんに効果のある、春雷を撃ち込む。 まぁ、そうやすやすと受けてくれるはずもなく、避けられる。 だが、春雷には弾切れがある。 そうバカスコ撃っていられないので、俺も援護に入る。 楯無さんの避ける場所を予測し、グレネードランチャーを撃ち込む。 そうすれば、楯無さんは俺に意識を向けざるおえない。 蒼流旋に装備されているガトリングを俺に向かって撃ってくるが、俺は回避しながらなおもグレネードを撃ち込む。 流石に直撃はしないものの、爆発を受け足がたまったりする。 その時はすかさず春雷が飛んでくる。 直撃とはいかないまでも、かすったり、水でガードしていくらかはダメージを軽減している
「あぁ、もう!やりずらいわね!!」
「そりゃあ、そういうふうに戦ってますからね!」
「そこ!」
「くっ!?」
一発一発は小さなダメージと言っても、塵も積もれば山となるだ。 ダメージ量はまだそこまででもないが、イライラしてきたのか動きが乱雑になる。 それを待っていたかのように簪さんの春雷が直撃し、楯無さんが一瞬ひるむ。 まぎれもない隙ができ、俺は弾切れのグレネードランチャーを拡張領域に戻し、スナイパーライフルを展開、撃ち込む。 ボルトアクションも趣があっていいのだが、残念ながらビームのスナイパーライフルがある以上どうしても連射が重視となってしまう。 好きなんだけどなー...... ともかく、春雷の直撃、スナイパーライフルの直撃によってかなりのダメージを受けた楯無さん。 対して、俺たちはそこまでダメージを受けてはいないのだが、嫌な予感がする。 簪さんを横目で見れば、頷いていた。 ここで一気に決めたいところなのだが、俺はある異変に気が付く。 いや、何故
「うふふ、本当はここまでするつもりはなかったのだけど。 蒼海君も簪ちゃんも強いんだもの、お姉さん奥の手を出しちゃったわ」
「麗しきクリースナヤ!」
「え、何それ?」
簪さんがまずいみたいな感じで言ってるけど、俺は知らなかったので思わず素で聞いてしまった。 空気読めないよか思われるかもしれないが、仕方ないじゃん? 、聞かなきゃ対策立てられないもん
「アレはミステリアスレイディの超高出力モード。 本当は専用のユニットが装備されないと、出来ないモードのはずなのに......」
「まぁ、そこはあれよ。 試験装備を持ってきたんだもの、使わないわけにはいかないでしょ?」
笑顔で言う楯無さんだが、それって割と絶望的じゃない? 出力が上がったってことは今まで通りに行かないわけで、そこまで思って気が付いた。 出力が上がったなら、当然今まで
「ふふっ、流石蒼海君ね。 気が付くとは思ってなかったけど、ギリギリのところで気が付くなんて」
「褒められても嬉しくないですよ」
元々油断なんてできる相手ではなかったが、状況はさらに厳しくなった。 さらに、楯無さんの口から絶望的な言葉が紡がれる
「さて、いいことを教えてあげる。 単純に出力が上がったということは今までできなかったことができる。
「っ!!」
会話の途中だったが、春雷を撃ち込む簪さん。 だが、蒼流旋を突き出し、いつものように水でガードする楯無さん。 春雷の砲撃は、水によって完全に阻まれる
「こういうことも可能になったのよ? それを踏まえて聞くわ、それでも私に挑むのかしら?」
蒼流旋を構え、問いかけてくる楯無さんに俺たちの答えは決まっていた
「当たり前ですよ楯無さん。 今日は勝たしてもらいます、そう言ったはずです」
「私も翼君と同じだよ」
「そう......」
俺たちが答えを言うと、楯無さんは嬉しそうに笑い、そして
「なら、第二ラウンド開始ね。 だけどお姉さん、時間がないから飛ばしていくわよ?」
そう言いながら指パッチン。 大爆発が起こる。 避けることのできない、楯無さんがいる所を除くアリーナ全体の大爆発。 本当に手加減はないようで、爆発に巻き込まれてシールドエネルギーは大幅に削られるが耐えきる。 もはや逃げ場は何処にもないし、思い切って突っ込むことにした。 俺は葵を両手に展開し、簪さんは夢現を展開。 俺が先に突っ込む
「あら? 今度はダンスのお誘いかしら?」
「物騒なダンスもあったものですね!まぁ、せいぜい退屈させないようにしますよ!!」
葵の連続攻撃を仕掛けるが、槍でことごとく防がれる。 うわー、なんで俺の周りにはこういう人外しかいないんですかね!槍の突きを上手く挟み込んだところで、簪さんが夢現で死角から攻撃を仕掛けるが、ラスティーネイルを連結させ、受ける
「この距離なら!!」
「ざーんねん!」
至近距離の春雷だが、やはり高出力になった水でガードされてしまう。 小爆発を起こすことで俺と簪さんを離れさせ、ラスティーネイル本来の使い方である、蛇腹剣で俺を攻撃してくる楯無さん。 だが、俺はそれにあえて向かっていく。 盾を展開し、ラスティーネイルをそらし、隠していたKIKUを楯無さんに突き付ける!
「・・・・・・驚いたわね。 まさか、これでも防ぎきれないなんて」
「まさか、一発で杭が駄目になるとは」
水の出力が高すぎるのか、一応ダメージは与えられたが微々たるものだった。 だが、あれを破る方法は見つけた。 でも、完璧にとっつきを警戒するだろう。 どうしたものかと絶えず動きながら考えていたが、簪さんが合流したところで状況が一変した
「なんだ、これ!機体が重い!」
「ミステリアスレイディの単一使用能力!」
「正解よ簪ちゃん。 高出力ナノマシンによって空間に敵機体を沈めるようにして拘束する超広範囲指定型空間拘束結界。 対象は周りの空間に沈み、拘束力はAICを遥かに凌ぐの。 本当は使いたくなかったのだけど、蒼海君の
機体がいきなり重くなったと思ったのだが、どうやら違ったらしい。 楯無さんのISの単一使用能力で、拘束結界らしい。 飛んでいる機体はどんどん地面に近づき、やがて地面に降りてしまう。 スラスターを全力で稼働させてはいるが、結界の効力が強すぎるらしく、地面に膝をつきそうだ
「でも楯無さん、いくら出力が上がったクリアパッションでも、俺と簪さんを削りきるのは結構手間じゃないですか?」
「ええ、そうね。 だから、とっておきを使わせてもらうわ」
赤い水が蒼流旋に集まっていく。 なるほど、そのコンボは強力だ。 ミストルテインの槍。 通常時は防御用に装甲表面を覆っているアクアナノマシンを一点に集中、攻性成形することで強力な攻撃力とする一撃必殺の大技。 本来なら自らも大怪我を負いかねない諸刃の剣なのだが、この間ようやく完成したといっていた。 通常、槍を持ったまま突撃しなければいけないといっていたのだが、
『ねぇ簪さん、飛び切り分が悪い賭けをしてみる?』
『どういうこと?』
槍を投擲しようとしている楯無さんを見据えながら、俺はそう簪さんに提案する。 簪さんは聞き返してきたので、簡潔に説明をする
『なに、簡単だよ。 俺が投擲されるであろう槍に突っ込むから、簪さんは楯無さんを頼むってこと』
『危険だよ!!お姉ちゃんにアレの威力聞いてたでしょ!』
『なら、このまま素直に負けてもいいと? 俺は嫌だね』
『・・・・・・でも、もし仮に相殺しきれたとしても私のシールドエネルギーは残り少ないし、春雷も全弾当たったとしても削りきれない』
俺の言葉に、若干の間を置きつつも答えてくれる簪さん。 ふふん、どうやら簪さんもただで負けるつもりはないようだ。 そして、そこは心配ない
『それなら、これを』
『いつの間に......』
『いや、楯無さん対策で作ってもらっただけ。 でも、これがぶっつけ本番だから通るかわからない。 一応試算では、貫通可能らしい』
『乗り掛かった舟だし、やるよ。 でも、翼君も気を付けてね?』
『善処しよう』
とある装備をアンロックし、簪さんに渡しておく。 すぐに拡張領域に入れてもらったし、見えなかっただろう
「さて」
「それじゃあ、これで私の勝ちよ!!」
「行きますか!!」
楯無さんが槍を投げた瞬間、俺はイグニッションブーストを発動し、勢いよく空中に上がる。 まぁ勢いよくは俺の体感で、実際はかなり遅めにブーストをふかしたぐらいの速度なのだが。 俺は両腕を前に突き出し、KO-4H4/MIFENGの引き金を引く。 瞬間、吸収しきれなかった衝撃が腕に走るが、気にしていられない。 拮抗どころか、俺が押し返されているが引き金を引き続ける
「もっと、もっとだ!!」
俺がそう言った瞬間、スラスターがさらに点火する。 これ以上吹かせないはずなのだが、相棒が俺の声にこたえてくれたのだろうか? だが、そのおかげで少しずつではあるが拮抗状態までもってきている。 でも、それも長くは続くはずもなく、スラスターが壊れると同時にとっつきも弾切れとなり、俺は衝撃で地面にたたきつけられた
「っ!?」
かなりの衝撃が襲い、俺のシールドエネルギーはゼロの表示が。 あぁ、もうちょっと頑張りたかったのだが後は簪さんに任せるしかない。 俺が地面にたたきつけられたことで、砂ぼこりが上がる。 上空から楯無さんが下りてくるが、もう赤くはなかった。 どうやら時間制限があったのか。 なら、
「なっ!?」
だが、土ぼこりが晴れ、簪さんの姿を見た楯無さんの表情は、驚きに染まっていた。 なぜなら、簪さんはバカでかいガトリングを片腕二門、計四門装備していたからだ。 これが、対楯無さん最終兵器、35ガトことAM/GGA-206の改造モデルだ。 重量がと心配した諸兄らもいるだろうが、心配ご無用。 ジェイルさん印の魔改造仕様なので、見た目ほど重量がない。 普通に動きながら撃てるし、高速戦闘なんかも可能な一品。 ただ、不満点があるとすれば、大きいので取り回しが悪い。 二門にする必要があるのかと問われれば、ロマンだよ。 なお、これの製作を依頼したときジェイルさんに
「本当に君は頭がおかしいんじゃないだろうか? いい意味でだが。 あぁ!解剖させてくれ!!」
とか言ってたが、設計図を置いてさっさと部屋から出たから問題ない
「本当に軽い...... これなら」
「はっ!」
ガトリングが火を噴き、それでようやく楯無さんは再起動した。 簪さん、フルバースト状態だ。 なんだろうか、心なしか楽しそう。 一方の楯無さんだが、俺の目論見通り防ぎきれていない。 水を展開するが、圧倒的物量の前に処理が追い付かない
「うそでしょ!?」
そこに春雷や山嵐から発射されたミサイルまで飛んでいくのだから、見る見るうちに楯無さんのシールドエネルギーが削られていく
「こうなったら!!」
防ぐのをやめ、楯無さんはラスティーネイルを振りかぶる。 だが、それを避けながら射撃を続ける簪さん。 どこまで削れるか。 たがいに削り合い、そして
『試合終了です!結果は、ドロー!同時にシールドエネルギーが尽きました!!』
引き分けだった
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第五十六話 試合が終われば
流石一日一投稿だけあって、前から連載していたリリなの超えた...... ちょっと悲しく思いつつ、流石一日一投稿と思っていたり
これからも何かなければこのペースを続けますので、よろしくお願いします
本編どうぞ!
「お姉さん、納得いかないー!!」
「騒がないでくださいよ、楯無さん......」
「お姉ちゃんうるさい」
「がーん!」
試合も終わり、タッグマッチトーナメントも無事に終了した。 一年の部の優勝者はもちろん俺と簪さんで、二、三年生も一緒に表彰された。 なのだが、二、三年の顔ははっきり言って微妙そうだった。 まぁ、気持ちはわからないでもない。 学年最強と言っても過言ではないんが、学園最強である楯無さんと二対一とは言え引き分けにまで追い込んだ一年と一緒に表彰されたのだ、そりゃあ微妙だろう。 しかも、その一年に倒されたわけなのだから。 そんなわけで表彰式が終わり解散となったのだが、これまたうざかった。 簪さんは一応倉持技研所属の日本代表候補生と言う肩書があるからいいが、俺は何の肩書もない。 強いてあげるなら、二人目の男性操縦者だ。 それもあるのだろうが、スカウトがやばかった。 まぁ、よくよく考えれば現ロシア国家代表を二人がかりとは言え倒しているのだ、企業や他の国がスカウトにきてもおかしくはない。 とりあえず、俺は今のところ何処にも所属するつもりもないので、織斑先生に連絡して丁重に帰っていただいた。 そんなこともあり遅くなってしまったが、相棒の整備に来たというわけだ。 まぁ、整備もくそもないくらいボロボロなのだが。 いつものようにPCに接続してみれば、異常個所は数えきれないほど。 基礎のフレーム関連は大丈夫なのが救いだが、配線や外装は丸々交換が必要だった。 特にひどいのはスラスター関連。 最後の時に限界以上の力を発揮したせいか、スラスター自体熱で溶けてるため交換になった。 まぁ、こちらの方はもともと交換予定だったからいいのだが...... いつものように簪さんや本音さんと三人でやろうとしたのだが、何故か楯無さんが現れた。 それで冒頭に戻るというわけだ。 ガーンと口で言うのはどうでもいいが、抱き着かないでいただきたい。 今相棒の整備中だし、もしもということもある。 そして、簪さんや本音さんからの視線が痛い。 俺のせいじゃないのだが、注意しないのがいけないらしい。 注意したところで離れるわけないので、俺は放っておいているわけなのだが
「にしても、装甲丸々交換はやっぱり手間がかかるな......」
「翼君の場合、通常のラファールリヴァイブよりも装甲多いもんね」
「まぁ、俺の戦闘スタイル的に全然あってるんだけどね」
話をしながら整備を進める。 本音さんはと言うと、お菓子を食べながら整備中である。 いつもののほほんとした空気はどこへやら、鬼気迫るように打鉄弐式の整備をしていた。 なんというか、こういう時は人が変わったようになるよな本音さん。 別に悪いわけじゃないけど。 普段ののほほんとしているときもいいけどねー。 なんて思いながら整備を進めていく
「それにしても、整備の手際いいわね」
「そうですか?」
「うん、私も思うよ? 最初は驚いた」
「独学でどこまでいけるか、なんて考えてたけど、本音さんにはお世話になりっぱなしだよ」
「そんなことないよ~。 私だって、つばっちの見て学ぶこと多いし~。 かんちゃん、打鉄弐式の方整備終わったよ~」
「ありがとう、本音」
丁度作業が終わったのか、こっちに来てお菓子を食べ始める本音さん。 うむ、やっぱりお菓子を食べてる時の本音さんは幸せそうで、癒される。 楯無さんを背中に引っ付けながら作業をしているが、いい加減慣れてきた
「あれ? つばっち、前よりスラスター大きくした?」
「さすが本音さん、よくわかったね」
「それはそうだよ~、私だって整備手伝ってるもの~」
そうなのだ。 さっき交換予定だといっていたが、そろそろ俺の反応速度にスラスターが付いてこれなくなったのだ。 なんか言ってることが、某ライトニングカウントと同じようなことを言っているが。 ちなみに、スラスターの数が増え、最初の搭乗の時は殺人的な加速だ、なんて言いそうになったのは秘密である。 話はそれたがそういう経緯もあり、ジェイルさんにスラスターの大型化と速度アップを頼んでいたのだ。 なんか俺の専属のIS技師のような扱いになっている感じがするが、そうでもない。 基本、あの人自分が気に入った人にしかこういうことをやらない。 まぁ、その気に入りが、イコール研究対象ということなのだけど...... ともかく!
「これで、もっとヒットアンドウェイがやりやすくなった」
「とっつきで?」
「とっつきで」
簪さんと笑い合うが、内容はシャレになってない。 とっつき自体一撃離脱みたいなところがあるのに、さらに磨きがかかるとか。 KIKUだろうがKO-4H4/MIFENGだろうが、一撃が大きすぎるのだ。 どっちにしてもトラウマものである
「あー!とっつきで思い出したけど、最後のあのとっつき威力がおかしいんじゃないかしら?!」
ちょちょ楯無さん、首が極まってます。 後ろの胸の感触で中和されているものの、苦しいことには変わりない。 首を極めている腕をタップするものの、興奮しているのか気が付いてない。 こうなったら他の人に頼るしかないということで、簪さんを見たのだが、なぜか自分の胸を見て落ち込んでいた。 いや、なんで? 少し、意識が遠のいてきている中本音さんを見る。 すると、気が付いてくれたのか楯無さんに声をかけてくれる
「お嬢様~、つばっちの首極まってますよ~」
「へ? あぁ!ごめんなさい」
驚いてすぐに離してくれた。 危なかったような気がするが、まぁいい。 吸えなかった分の息を吸いつつ、説明を始める
「いえ、大丈夫です。 それで最後のとっつきの話でしたっけ? 最後のと言うと、楯無さんが高出力モードで放ったミストルテインの槍をとっつきで迎撃したときの事ですよね?」
「そう、それよ!麗しきクリースナヤを発動してたんですもの、いつもより攻撃力が出てたはずなのに、とっつき二つで相殺、しかも蒼流旋は破壊されるし」
「まさかそこまでとは...... と言っても、あれジェイルさん印ですし」
俺がそう言うと、あぁ、あの人か...... みたいな空気になる。 まぁ、学園内でもいろんな噂が流れてるから仕方ないね!そんなわけで説明終了、整備を続ける。 とりあえず、配線類はないので外装だけは仕上げたがとても疲れた。 しかも、楯無さんをぶら下げて作業してたし。 別に、楯無さんが重いわけではない
「そろそろ時間か」
「でもラファールリヴァイブ、直ってないよ?」
「配線関係はストックがなくなったのよ。 だから、ジェイルさんに頼んで、明日」
「ある意味大丈夫なの、それ?」
「大丈夫ですよ、俺気に入られてますから」
「本当に大丈夫なの、それ!?」
楯無さんが少し騒がしいが、まぁいいだろう。 俺が立ち上がると、楯無さんが離れた隙に本音さんが俺の背中に飛び乗ってくる。 相変わらず、何と言うか、まぁ....... そう言えば、俺や簪さんは自分の相棒を直したが、楯無さんはどうなんだろう? そこらへん、気になったから聞いてみた
「そう言えば楯無さん、自分のISは?」
「修復ならもう済んでるわよ? 虚ちゃんも手伝ってくれたし」
どうやらもう終わっていたらしかった。 流石楯無さんだ。 俺は相棒に触れる。 お疲れ様相棒、今日はありがとな、ゆっくり休んでくれ。 相棒からなんか温かい気持ちが流れてきたが、簪さんと楯無さんに引っ張られ、俺は歩き始める
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第五十七話 シャルロット・デュノア
タッグトーナメントの次の日、IS学園は休みと行かず普通に授業がある。 まぁ、そもそも全員強制参加ではないのだ、休みでなくても当然か。 そんなわけでいつものように楯無さんと朝の組手、昨日の私怨で組手の本数が増えていたが。 を行い、朝ご飯を食べ、HRとなったわけだ。 なのだが、山田先生の表情は晴れない。 せっかくの朝なのにどうしたのかと思いつつ、空席があるのを確認し当然とも思う。 だいぶ、昨日の夜に流れたニュースが尾を引いているらしく、食堂でもその話でもちきりだったし
「えーっと、今日は転校生を紹介しまーす。 それではどうぞ......」
テンションが低い山田先生に促され、入ってきたのは見覚えどころか昨日まで一緒に授業を受けていた人物だった。 違いがあるとすれば、男物の制服が女ものに変わっているところか。 誰かと問われれば
「シャルロット・デュノアです。 これからもよろしくお願いします」
「デュノア君は、デュノアさんでしたー...... はぁ......」
山田先生、朝からお疲れ様です。 そんなわけで、シャルル・デュノアは、実はシャルル・デュノアという女でしたと言うオチだ。 クラスの中から、あーやっぱりーだの、あんなにかわいい子が男のはずがないとか言っているやつがいるが、本当に気が付いていたのか...... ともかく、これからはシャルロット・デュノアは偽ることなく学校生活を送れるというわけだ。 そして突入した授業前の休み時間、デュノアさんはみんなに謝り回っていた。 俺との約束を果たそうとは、律儀なこって。 その様子を俺は何処か他人事のように見ていた。 織斑と俺を除くクラス全員に謝ると、デュノアさんは俺の席に向かってくる
「おはよう、デュノアさん」
「うん、おはよう。 それと、ありがとう」
不意に涙ぐむデュノアさんに、俺はハンカチを差し出す。 いやいやいや、この状況で泣かせたら俺が悪いみたいやん。 まぁ、お礼を言っていたのでそんなこと思われるはずはないのだが。 そのハンカチを受け取ると、大事そうに握りしめる。 何のために渡したんや...... ともかく、話を続ける
「別に、お礼を言われるようなことしたつもりはないけど?」
「ううん。 蒼海君は僕を助けてくれた、だからありがとう」
今明かされる衝撃の真実!みたいな声がそこかしこから聞こえたが、いやそれ勘違いだから。 いろんな意味で騒がしくなる教室に、聞き耳を立てる周りの奴ら。 本当に外野は自由でいいよな!!俺もそっちのポジションに回りたかった
「俺自身は何もやってないよ。 お礼なら、あの人たちに言うべきだ」
あえてここで名前は出さないが、実際調べていたのは楯無さんと織斑先生だ。 俺は何もしていない。 そう言ってるのだが、デュノアさんは首を振って否定する
「その人たちにはもう行ってきたよ。 でも、それとこれとは話が別だよ。 あの時、僕を連れてあの二人に話をしてくれなかったら、僕は今頃牢屋の中だった。 でも、蒼海君は相談に乗ってくれて、こうやって自由の身にしてくれた。 この恩は返しても返し切れないよ」
ヤバイヤバイヤバイ。 何がやばいって、この子周りを気にしないで牢屋の中って言ってるのがやばい。 しかも、あの時の事もぼかしてはいるけど微妙に本当のこと言ってる。 そのおかげで、他のお嬢様がたの妄想が激化してるのか、鼻血まで出して倒れてる人がいる。 衛生兵!衛生兵はいないか!? と言うよりも、ナニを想像したんですかねぇ...... やばそうな話はさておき、一刻も早くこの話を終わらせなければ!
「勝手に恩を感じないでくれ。 それに俺は何もしていない、それでいいだろう」
「なら、僕が恩を感じるのも勝手だよね? ふふっ」
ヤバイ、早まったかもしれない。 そう思ったときには遅く、もはや撤回はできなかった
「授業を始める、席に座れ!デュノアの件もあるが、皆は普通に接するように」
織斑先生が教室に入ってくれば、聞き耳を立てていたやつらは速攻で座った。 その様子にどこか満足そうな織斑先生は授業を始める。 さて、前に今度語るといって語ってないから、鼻☆塩☆塩。 なんか、文字がおかしいがいいか。 アレは今から...... エルシャダイごっこはさておき、真面目に話をする。 さて、今回の男装して潜り込ませるという計画をしたのは、デュノア社の社長なのは間違いない。 だが、その理由はデュノアさんが語ったものではなかった。 会社ともなれば派閥が出てくるのは当然で、その派閥の中でも過激派がいたらしい。 それが、デュノアさんを亡き者にし、きたるデュノアの総帥に自分の傀儡を置こうとしようとする人物たちだ。 そもそもデュノアグループ自体、親族経営じゃないはずなのだが...... そう言うわけで、今回の男装という形でデュノア社の手の届かない、治外法権であるIS学園に編入させたらしい。 デュノアさん入学の経緯はこのぐらいだろう。 付け足すとすれば、デュノアさんがIS学園に通っている間に、その反対派閥を一掃しいつ帰ってきても構わないようにする算段だったらしい。 そして、第三世代型のデータ取りの話だが、これに関しては偽の指令だったらしい。 あくまでポーズをとっておかないと、怪しまれるためだそうだ。 実はデュノア社、いつでも第三世代型の開発に乗り出せる準備は整ていたらしい。 デュノアさんのラファールリヴァイブカスタムⅡと俺の使っているラファールリヴァイブ改(これは俺が勝手に呼称しているだけだが)のデータをもとに、新たな機体の開発が行われるはずだったのだ。 出来なかったのは、その反対派が足を引っ張りその確保していた予算を経営の方に回さなければならなかったためらしい。 政府からの支援の打ち切りの話も、反対派と癒着している議員が言い始めたことらしく、まだ会議中だった議題を強行採決し決定したそうな。 正直言って、なんでここまで内部の事情が調べられたのかはわからないが、あの二人ってすごいと思う。 そのことが明るみに出て、デュノア社の反対派は大慌て。 社長に責任を擦り付けようとしたようだが、証拠がそろいすぎているためにあっけなく御用となったようだ。 もともと反対派を一掃しようとしていたデュノア社の社長だ、多分更識のエージェントかなんかが接触したときに証拠を渡すかしたのだろう。 そんなわけでフランスはてんやわんやらしい。 一部議員の癒着、フランスの有名会社の闇。 大変そうだね。 そうそう、これはニュースでやっていたのだが、今回の騒動を受けデュノア社の社長は第三世代型の開発が終わったら辞職するといっていた。 次の社長は誰になるんですかねー。 さて、今回の騒動はこんな感じで終わりを迎えた。 デュノアさんもクラスのみんなに許してもらえたようだし、めでたしめでたし。 少し問題があるとすれば、俺に恩を感じすぎているくらいか? 後日、その理由を聞けばさっき言った理由もあったのだが、お父さんやお義母さんとも腹を割って話せたらしく、そのことで恩を感じているらしい。 すれ違いがなくなったのは確かに嬉しいことかもしれないが、それで俺に恩を感じるのは間違いなきがする。 だって話したのはデュノアさんだし、すれ違いが解消できたのだって家族で話し合ったからだと思う。 俺のおかげっていうのは、また違うような気がするけどなぁ......
なんかシャルロットさん、ヤバゲなキャラになってしまったが私は気にしない
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第五十八話 生徒会
その日の放課後、俺は早く訓練を終え、相棒を整備した後生徒会室に向かっていた。 と言うのも、デュノアさんの件での契約を果たすためだ。 まぁ、別に生徒会役員になるのは構わないのだが。 それにしても今日の訓練は平和だった。 それ訳は、織斑先生が来なかったからだ。 織斑先生が来なかった理由? そんなもの、織斑をしめるために決まってる。 デュノアさんの件がマスコミなどメディアに知れたということは、織斑先生との契約は果たされたわけだし、その後はお好きにどうぞと言ってあったので特に問題はない。 織斑はそんなことも知らずにのこのこついていったようだが。 ここはあれだろうか、織斑のご冥福でもお祈りしたほうがいいのだろうか? まぁ、それこそどうでもいいが。 そんなわけで、本音さん案内の元生徒会室に向かっていた。 そのナビゲーターは、俺の背中でご満悦なのだが...... 訓練が終わってすぐのため、今回は簪さんとシャルロットさんも付いてきている。 何で呼び方が変わっているって? そんなものデュノアさんに頼まれたからだ。 別に俺はデュノアさんでもよかったのだが、シャルロット方がいいということで、シャルロットさんになったわけだ。 簪さんも少しは驚いていたが、ニュースや情報を聞いたのかシャルロットさんが女の子ということにはそこまで驚いていなかった。 まぁ、何故か最初は笑顔で威圧していたのだが、二、三言話すと普通に戻っていたが。 さておき、ようやく生徒会室に着いたようだ。 なんか普通に来るより長かった気がするが、気のせいだよね? ノックをすると、中から聞きなれた声がする
「どうぞー」
「失礼します」
一応、楯無さんの声が聞こえてから一拍おいて入ったが、特に問題なし。 中には会長専用なのだろうか、豪華な椅子に座った楯無さんと眼鏡をかけた三つ編みの秘書っぽい人がいた。 楯無さんは知っているとして、その秘書っぽい人は誰? なんか本音さんに似てるけど。 そこまで思い、思い出す。 確か本音さんにはお姉さんがいるといっていたが、彼女がお姉さんだろうか? 俺たちが入ってきたことを確認すると、立ち上がる
「今もですけど、いつも本音がお世話になってるみたいで......」
開口一番それだった。 そして、俺は悟ってしまう。 この人苦労人だと。 簪さんは全然迷惑とかかけないけど、楯無さんは性格的にやらかすし。 本音さんは、まぁ、ねぇ? 迷惑とかはかけないだろうけど、基本的にマイペースだから。 そんなことを思っていたのがバレたのか、耳に息をかけられる。 うーむ、別に弱くはないのだがやめてほしい。 そして諦めているが、考えを読むのはやめてほしい。 そんな思考は置いておいて、いつまでも返事をしないのは失礼なので返事をする
「いや、そんなことは。 逆にこっちがお世話になってるくらいですし、本音さんにも簪さんにも楯無さんにも」
「そう言っていただけると...... 申し遅れましたが、私は本音の姉で布仏虚と言います。 以後、よろしくお願いします」
「あ、ご丁寧に。 俺は知ってると思いますけど、蒼海翼です。 一応、生徒会所属になりますのでこれからよろしくお願いします」
お互いに頭を下げ合い自己紹介をしていると、楯無さんが面白くなさそうに割り込んできた
「ぶーぶー!お姉さんを無視して、虚ちゃんとばっかり喋ってー!」
「いや、何ですかその子供みたいな理由...... 初めて会ったんですから、自己紹介は必要でしょう?」
そう言うと、とたんに黙ってしまう楯無さん。 その顔にはありありと不満が見えており、俺がどうにかするしかなかった。 虚さんはどうやら紅茶を淹れているようだし、他の面々からは俺が何とかしろ見たいな視線を感じる
「あー、その、すみませんでした。 その、生徒会のこと説明してくれませんか?」
「もう...... さて、それじゃあ改めて。 ようこそ、生徒会へ!」
「ようこそ~!」
しょうがないという顔をしながらも、機嫌を直してくれたようだ。 その代わり、周りからは無言のプレッシャーが来たがな!どないせいと? そんな俺の内心には気が付かず、上機嫌な楯無さんは扇子を開き俺を歓迎していた。扇子には歓迎しよう、盛大にな!と書かれているが、今のどこが盛大なのだろうか? 本音さんもそんな楯無さんにつられてか、ようこそーって言ってるし。 虚さんは全員分の紅茶を出しながら、お辞儀をしていた。 とりあえず、立っている俺たちは適当な席に腰掛ける
「ところで気になってたんだけど」
「どうしたの、簪ちゃん?」
「なんで~、つばっちは生徒会入ることにしたの~?」
「「あっ......」」
思わず揃う俺と楯無さんの声。 そのせいで、部屋の温度が急激に下がったような気がした。 虚さんは大丈夫なのか苦笑していたが、簪さんと本音さんのプレッシャーがすごい。 二人の瞳が話せと叫ぶぅ!真実話せと、轟叫ぶぅ!!別にこうやって世間に発表されているわけだし、話してもいいのだが。 シャルロットさんを見れば頷き、なぜこういう状況になったのか話し始めた。 するとそれまでのプレッシャーは消え、どちらかと言うとしょうもないという空気が流れる。 主に、俺に向かって。 いや、あの、その空気やめてくれませんか?
「まぁ、つばっちだしね~」
「まぁでも、シャルロットにそういう気持ちがないから救いかな?」
納得したようだ。 納得したようだが、俺に向いている視線はそのままだ。 シャルロットさんを見れば、にこにこしたままだ。 ふぇーん、俺に味方はいないのか? 虚さんは相変わらず苦笑しているし、楯無さんは微妙な表情だった
「まぁ、ともかく。 ごめんなさいね簪ちゃん、どうも隠し事みたいになってしまって」
「ううん、事情が事情だし仕方ないと思う」
謝る楯無さんに、それを許す簪さん。 相変わらず姉妹仲は良いようで、よかったよかった
「お嬢様、そろそろ生徒会の業務の方を説明したほうが...... 時間も迫ってきていますし」
「あぁ、そうね。 それじゃあ、蒼海君には副会長としての業務を、シャルロットちゃんには役員としての業務を教えるわね」
さも当然のように言う楯無さんだが、俺には気になることがあった。 いや、扇子の字も気になるけど。 今回はお勉強だった。 さも当然のことのようにシャルロットさんもと言ったが、俺はその話を聞いていないのだが? 俺の疑問を代わりに質問してくれたのは、簪さんだ
「あれ、シャルロットもなの?」
「えぇ、本人の希望よ? 学園には迷惑かけたし、それに蒼海君にも迷惑かけたから、恩返しみたいな感じでやりたいって。 本人から相談を受けたの」
俺の知らないところでそんなことが...... シャルロットさんを見れば、笑顔で頷いている。 別にそこまで恩を感じなくてもいいのだが...... いや、もう思うのはよそう。 今日で、何回思ったか。 こういうのはね、諦めがね、肝心なんですよ......一人納得していれば、簪さんは考え込んでいるようだが、やがて
「・・・・・・なら私も所属する」
「簪ちゃん?」
「シャルロットが所属するんだもの、私が所属してもいいはず」
「それは構わないけど」
「私も構いませんよ? お嬢様を抑える人が一人増えるのですから」
簪さんの言葉よりも、虚さんの言葉のほうが衝撃的だった。 あー、多分苦労してきたんだろうなぁ...... 俺と簪さんは目を見合わせ、そして
「「いろいろとお疲れ様です......」」
そう口にしていた。 それを受けた虚さんは、寂しそうに微笑むだけだった。 そんなこんなで、俺の生徒会副会長としての活動が始まるのだった
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第五十九話 準備
タッグマッチトーナメントの週末、つまりは休みと言うことだ。 疲れをとるためにゆっくり休むというのも手だが、俺は軽めに体を動かしていた。 まぁ、せっかくの休みだ、トーナメントや行事があるならまだしも、そう言ったものがないので軽めにだ。 そもそも、休みであるGWもろくに休めなかったしね...... そんなわけでいつもの筋トレに走り込みなど軽く汗をかいたため、シャワーを浴びていた。 今日はこの後ISの訓練も予定も入っていないため、ゆっくり休む予定だ。 山田先生も織斑先生も買い物に行くって言ってたし、ゆっくり休めるだろう。 臨海学校の買い物と言っていたが、先生方ともなると大変だな。 そんな風にしか考えていなかった
「あ、ようやく見つけた!」
「シャルロットさん」
俺は苦い顔になる。 いやね、自由になってからと言うものね、何かと俺の後ろに控えようとするのよこの子。 理由を聞いたら、恩を返すためだとか、護衛とかね? どうも恩以上の何かを感じているような気がしてならない俺だが、実害ないし楯無さんも私がいないときに頼めるって、護衛のイロハを教え込んでるからいいんだけどね? さて、話はそれたがシャルロットさんだ。 ようやくということは、俺のことを探していたんだろうか?
「何か御用?」
「何か御用って、臨海学校の買い出し、行かなくていいの?」
「買い出し?」
素で聞き返す。 臨海学校と言えば、海沿いの旅館に二泊三日でという話だが。 それだって、専用機持ちはISの訓練などをやるって話だし、持ってない人だって体力の向上などの強化合宿みたいな感じだと思っていたのだが。 それなら別に特に買うものなんかないと思うのだが? そんなことを考えていると、いつの間にかいつものメンバーが集めっていた
「ようやく見つけたのね」
「ごめん鈴、ちょっと手間取って」
「蒼海君、女の子を待たせるのはちょーっと感心しないわよ?」
「そうですわ!」
「行こう、翼君」
「レッツゴ~!」
「行くぞ翼よ!」
みんながみんな一斉に話してくるので分からないが、何故か簪さんとラウラさんに引っ張られる。 流石に状況が分からな過ぎて、待ったをかける
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
全員が歩き出そうとしていたので声をかけると、不思議そうな顔でこっちを見てくる。 いや、不思議なのは俺なのだが
「買い出しって、なに?」
「買い出しは買い出しだよ~」
「水着とか、買わないの?」
「水着って、必要あるの?」
「蒼海さん、向こうに行っても自由時間ぐらいはありましてよ?」
呆れたように言ってくるオルコットさんだが、俺そんな話聞いてない。 それが顔に出ていたのか、シャルロットさんが説明してくれる
「IS学園を朝に出発して、向こうに着くのが昼の少し前。 旅館に挨拶や荷物の整理をしたら、自由時間だよ? 訓練とかがあるのは二日目以降なんだ」
「まじか......」
皆が頷く。 なんで俺はそんなことを聞いていなかったんだ...... そう言うことなら水着は必要だ。 もともと荷物などは持ってきていたが、水着なんか持ってきていないので買わないといけない。 そもそも、水着自体小さくなっていたから買わなくてはと思っていたのだが
「其れじゃあ行くぞ翼!」
妙に張り切っているラウラさんに引っ張られ歩き始めるのはいいのだが、一つ気になることがある。 楯無さんの存在だ
「楯無さん、楯無さん」
「何かしら?」
「何故楯無さんまで?」
「そんなの決まっているじゃない!楽しそうだからよ!」
何とも楯無さんらしい理由だった。 今回開かれた扇子には、夏だ、海だ、水着だ!と書かれていた。 いや、その通りかもしれないけど、なんでそのチョイス?
「そ、れ、に。 お姉さんだけ仲間外れじゃ寂しいじゃない?」
「あ、絶対に比重そっちのほうが大きそう」
いたずらっぽくウインクする楯無さんに苦笑しつつ、もはや俺はされるがままだ。 そんな俺に楯無さんは楽しそうに近づき、耳元でささやく
「それに、貴方が外出するわけだし、護衛が必要でしょ?」
その言葉に俺は楯無さんを見るが、楯無さんは微笑んでいた。 ・・・・・・なるほど、それも理由の一つか。 妙に納得しつつ、そのまま引っ張られ買い物に行った
--------------------------------------------
買い物が終わった夜、俺は部屋で疲れ果てていた。 女の子の買い物が長く、いろいろなものを見るのは知っていたが、それにしたって疲れた。 なんか訓練よりも疲れたような気がするが、気のせいだろうか? やはり、慣れないことをするものじゃない。 一緒に買い物に行っていた楯無さんだが、元気だ。 そもそも、女子たちは俺に水着を選ばせるだけ選ばせ、連れまわしていたのだ。 全く疲れを感じさせずな。 あれほど、いつも一緒に居るメンバーが恐ろしく感じたことはない。 簪さんは恥ずかしがりながらも、大胆な水着を選んで着てくるし。 もちろん、そこは楯無さんと二人で止めておいた。 俺のために着てくれるのは嬉しいが、流石に他の女子の目があるし。 二人きりならいいけどね、とかなりぶっちゃけた発言をしたら顔を赤くしながら引き下がってくれた。 まぁ、どこからかその発言を聞いていたシャルロットさんと本音さんがかなりきわどい水着を持ってきたが...... 楯無さん? もとからきわどい水着でしたが? まぁ、簪さんと同じく、かなり恥ずかしがっていたが。 意外にも、この水着騒動に乗ってこなかったのは、ラウラさん。 そもそも、きわどい水着が恥ずかしかったらしく、どうしたらいいかわからなくて俺に聞きに来たし。 いや、そんなことしたら本末転倒じゃないかとも思ったが、普通に水着を選べばいいといっておいたが。 そんな状況に鈴さんは面白がってはいたが、大部分は呆れていた。 オルコットさんはどっちかと言うと、騒ぎを鎮めようとしたところかな? さておき
「これで、水着は安心かなー」
「ふふっ、ならみんなに感謝しなとね」
「なら、楯無さんにはもっと感謝しないといけないですね」
俺がそう言うと楯無さんは驚いたような顔をしたが、言いたいことが分かったのか苦笑していた
「毎回言ってるけど、そこまで気にする必要はないわよ?」
「たとえ任務でも、今回に関してはシャルロットさんもいましたし、ラウラさんだっていたんですから十分ですよ。 それなのに貴女は俺の警護をしてくれた。 感謝してもしきれないですよ。 こうやって、俺が平和に暮らせるのも楯無さんのおかげですって」
「ふ、ふ~ん」
そっぽを向いて顔を見られないようにしている楯無さんだが、残念ながら耳まで赤いから照れてるのはばれているのだが。 あえて言うことでもないので、そのまま寝るまで楯無さんと話をしていた
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第六十話 夏だ!海だ!臨海学校だ!
俺は今、砂浜に立っている。 朝早くからバスで移動し、やってきたのは臨海学校のある海。 天気は快晴、絶好の海日和だ。 まぁ、海より湖とかのほうが俺は好きなのだが。 だって海って海水でべたべたするじゃん? その点湖ってすごいよな、別にベタベタしないし。 地元はド田舎だったためか、夏と言うか暑い日になれば毎日のように友達と湖に飛び込みに行っていた。 水もきれいだし。 あぁ、久しぶりに飛び込んで思いっきり泳ぎたい。 あー、夏休みも近いし、帰省する予定だからその時にでも行こう。 俺は密かに心に誓った
「とう!」
「いきなりはやめようね、下も不安定で危ないから」
海を見つつ仁王立ちしいると、飛びついてきたのは本音さん。 いつものように定位置である背中に来たら、一息つく。 それにしても、その着ぐるみいつのまに買ったんだ!? 本音さんが来ているのは着ぐるみで、この間買った水着ではなかった。 いや、そもそも何で着ぐるみ着てきたし。 本音さんの着ぐるみ好きは知っていたが、ここまでとは。 ちなみにだいぶ前の話になるが、本音さんは簪さん相部屋になったらしく、たまにおそろいの着ぐるみを着た簪さんとのツーショット写真が送られてくる。 いやね、本音さんももちろんかわいいのだが、簪さんがものによってはノリノリで着て居たり、恥ずかしがっていたりしてかわいいのだ。 楽しみにしつつも、悶死しないか心配だ。 さてさて、本音さんは俺の考えを読んだのか、そっと耳打ちする
「これは着ぐるみ型の水着だよ。 買った水着は、二人きりの時に、ね?」
「・・・・・・」
これには俺も無言だ。 いや、流石にこれは照れる。 何か別のことを考えようとして、俺は大変なことに気が付いてしまった。 着ぐるみ型の水着って、何ぞや? いや、それも大変なことだが、もっと大ごとだ。 一応水着ということは、もしかしてつけてない!? なんか別のことを考えようとして、さらにドツボにはまったような気がするが気のせいだろう。 内心慌てていると、本音さんの顔が耳元にもっと近くなったような気がする
「確かめてみる?」
「ファッ!?」
驚いて変な声が出てしまったが、仕方ないと思う。 いや、もぅ、ほんとにやめて...... そんなふうに一杯一杯になっていると、助けが
「お待たせ......」
「「おぉ......」」
本音さんも驚いたようだ。 着替え終わったのか、声をかけてきたのは簪さんだ。 買い物の時一応見ていたとは言え、ビーチで見るとここまで変わって見えるとは、と感心していた。 簪さんの水着はグレーに近い青、表示だとミッドナイトブルーだったか? そのような色で、どちらかと言えば肌が白い簪さんを引き立てていた。 そして頭には、日差し避けか麦わら帽子が。 それで恥ずかしそうに微笑むとか、もう、ね......
「天使かよ」
「て、天使って...... 恥ずかしぃ」
恥ずかしがって縮こまる簪さんだが、やめてくれ。 そそるだろぅ? 馬鹿な考えはさておき、本当に似合っていた
「さすが男子、早いわねー」
「すみません蒼海さん、パラソルを立てるの手伝ってくださいませんか?」
次に現れたのは、鈴さんとオルコットさんだ。 オルコットさんはイメージカラーでもある青で、鈴さんは活発な彼女に似合うマリーゴールド。 うむ、どちらも美少女だし眼福です。 それと、オルコットさんのパラソル立てはバスの中でも約束していたので、すぐに手伝う。 と言っても浅く穴を掘り、そこにパラソルを差し込んで穴を埋める、と言う簡単作業だ。 次に来たのはシャルロットさんとラウラさん、なのか? シャルロットさんは自身のイメージカラーでもあるオレンジの水着なのだが、ラウラさんはなぜかバスタオルをぐるぐる巻きにしていた
「ほらラウラ!」
「う...... 恥ずかしい、恥ずかしすぎるぞシャルロット!」
「試着でも着てたじゃないか」
どうやらラウラさんであっていたようだ。 てか全身まいてるせいか、お化け屋敷なんかでよく見るミイラ男みたいになってる。 いや、男じゃなくて女だが。 口もまいてるのによく苦しくないよな、後よくしゃべる。 なかなかバスタオルをとらないラウラさんに、シャルロットさんは呆れているようだ
「ラウラ、まだ?」
「うん、だから困ってるんだよ」
「ラウラの場合、なまじ身体能力が高いだけに無理やりとるっていうことができないのよね......」
「そもそも、嫌がっている人のタオルを無理やりとるのは......」
「取ろうとしたら全力で抵抗するぞ!」
「それじゃあ~、何のために海に来たのかわからなよ~ラーちゃん」
皆の言う通り、無理やりとることはできない。 まぁ、それで誰かが吹っ飛ばされるのを見るのは面白そうだ。 そうなると真っ先に候補にあがるのが俺と言うのが悲しいところだが。 本音さんの言う通り、着替えてバスタオルぐるぐる巻きは、何のために海に来たのかわからない
「ほらラウラ、蒼海君の前だよ」
「なに!?」
気が付いてなかったのかよ...... どことなくポンコツ臭のするラウラさんを無視し、現状をどうにかしたい。 いやだって、このままじゃ泳ぐに泳げないでしょ? 俺だって泳ぎたいし。 そんなわけで
「ラウラさんの、ちょっといいとこ、見てみたい!」
「「「えぇ......」」」
この状況を手っ取り早く打開するには、おだてるしかないだろうと思ったのだが、簪さん、鈴さん、オルコットさんには理解してもらえなかったようだ。 おれはそのまま、ラウラさんをおだてる
「いやー、残念だなー!ラウラさんの水着見たかったけど、ラウラさんが恥ずかしくて駄目だって言うなら今回はお預けかー」
「うっ......」
「楽しみにしてたんだけどなー、残念だなぁ!!」
「うぅ......」
あともう一押しと言ったところだろうか? そんなことを思いながら、シャルロットさんを見れば、親指を上に立てていた。 あともう一息らしい
「少しでもいいから見たかったんだけどなー!」
「わ、私も女だ!少しだけだぞ!!」
そう念を押すラウラさん。 その瞬間、俺の顔を見てうわっという鈴さんとオルコットさん。 たぶんかなり悪い顔をしているのだろうが、デュノアさんは涼しい顔だ。 簪さんと本音さん? いつもの事と放っておかれている。 そして、バスタオルをとれば黒い水着を着たラウラさん
「うん、普通に似合っていてかわいいと思う」
「似合って!かわ!?」
なんか驚いたと思ったら顔が赤くなり、そこから手を合わせもじもじしているラウラさん。 あの試着の時にも思ったが、普通に似合っている。 何をそんなに恥ずかしがる必要があるかわからない。 さっきまでの恥ずかしがっていた様子はどこへやら、別の意味で恥ずかしがっているラウラさん。 ぼそぼそと何かを言っているが、よくわからない。 あぁ、これは完璧にポンコツになってしまったようだ。 そんなラウラさんに苦笑し、シャルロットさんはさっき立てたパラソルに入っていく。 鈴さんとオルコットさんはそのパラソルの下で、鈴さんがオルコットさんに日焼け止めを塗っているようだった。 さてさて、俺も泳ぎますかね。 そう思い、俺は本音さんを下し、準備体操を始めるのだった
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第六十一話 夏だ!海だ!臨海学校だ! Ⅱ
「お、泳ぐ気満々ね。 どう、競争でもしない?」
俺が体操していると、鈴さんが声をかけてきた。 ふっ、俺に競争を申し込むとは
「よかろう!地元じゃ水の申し子と呼ばれた俺に実力、見せつけてやろう!」
「いや、それって泳ぐの関係なくない? まぁ、いいけど。 なら、あのブイまで競争よ!よーい、ドン!」
言うのが速いか、早速水の中に飛び込み泳ぐ鈴さん。 俺はそれを見送り、遅れてみずにはいる
「甘い甘い、砂糖菓子よりも甘いわ!!」
水の申し子という二つ名はあの宴会芸もあるが、泳ぐ速さでも付いた二つ名なのだ。 代表候補で体を鍛えているといっても、負けるほどではない。 事実、離れていた距離はどんどん詰められ、ついには鈴さんに追いつく
「んな!?」
「お先ー!」
余裕をもって抜き去れば、鈴さんも負けず嫌いが発動したのか必死に食い下がってくるが、徐々に差が付き始める。 ついにブイをタッチし折り返すが、鈴さんの姿がない。 差が開いたと言っても、そこまで本気で泳いでいないので一定距離保ったままのはずなのだが...... そこまで考え、嫌な予感がよぎる。 鈴さんは準備体操などしていなかったはずだし、もしかして! そう考えているとそこまで離れていないところに片手が見える。 やっぱりおぼれてる!多分、準備運動せずそのまま入ったため、足とかつったのだろうと思うけど。 息を大きく吸い込みそのまま潜れば、苦しそうな表情をしながら徐々に沈む鈴さんの姿が。 俺は素早く鈴さんに近づき、鈴さんを抱えて海面に出る
「ゲホッ!ごほっ!」
「鈴さん、大丈夫か!?」
「な、なんとか」
どうやら意識などははっきりしているようで、俺の受け答えもばっちりだ。 一息つきつつ、何故おぼれたのか聞いてみれば足をつったとのこと。 まぁ、準備運動もせずにあんだけ泳げばなぁ、 そんなことを思いつつ、砂浜を目指す。 砂浜を目指せば気が付いたシャルロットさんが俺の助けにと、一緒に鈴さんに肩を貸しつつ泳いでくれる。 まぁ、そんなことをしなくても余裕なんだけどね。 ありがたく思いつつ、地上につけば
「鈴!? どうしたの!?」
「あはは、泳いでたら足をつっちゃって」
「む、それは大変だ。 あのパラソルの下で休みつつ、マッサージなどをしたほうがいいぞ」
「そうさせてもらうわ」
俺とシャルロットさんでパラソルの下まで運べば、マッサージしつつこちらを見る鈴さん
「まぁ、準備運動しないで入るからだよね」
「うぐっ、言われなくてもわかってるわよ」
罰が悪いのか、そっぽを向く鈴さん。 俺とシャルロットさんは笑いつつ、その場を離れようとする。 さっきから、本音さんやクラスメイト達に呼ばれているのだ。 すると
「ちょっと待ちなさい」
鈴さんに呼び止められる。 なんだと思いながら、そちらを向けば妙に恥ずかしがっている鈴さんの姿が。 はっ!まさか告白とか!?
「今の状態でそれはないから安心しなさい」
さっきまでの恥ずかしがっていた鈴さんは何処へやら、ジト目いただきましたー!だが、隣のシャルロットさんは違ったようで
「へぇー、今は、ね」
小声で言っていたため聞こえなかったが、どこか感心したような表情をしている。 鈴さんはその俺とシャルロットさんに呆れたのかため息を一つ吐き
「助けてくれて、ありがとう」
そう短く言って、そっぽを向く。 お礼の言葉なのに、なぜ耳まで真っ赤にしてそっぽを向く必要があるのか? まぁ、鈴さんだしね。 ここは、ツンデレいただきましたー!と喜ぶべきだろうか?
「それやったら、マジ殴りよ」
妙に座った眼で言われ、俺はシャルロットさんの手をつかみ、急いでその場を後にする。 だって怖いんだもの。 向かった先は、俺を呼んでいたクラスメイト達のところだ
「それで、どったの?」
「ビーチバレー、やらない?」
こっちに軽くビニール製のボールを投げてくる。 ふむ、ビーチバレーと言えば海の目玉の一つやな。 それを了承し、いざ対決。 チームはラウラさん、シャルロットさん、相川さん対俺、本音さん、七月のサマーデビルこと谷本癒子さん。 まぁ、一応バランス的には良い別れ方をしたのではないだろうか。 ・・・・・・たぶん
「さぁ、こっちから行くわよー!!」
谷本さんのサーブで始まった試合だが、なかなか面白い。 相川さんがレシーブをし、比較的身長のあるシャルロットさんがアタックするが、俺はブロックすればラウラさんがすぐにカバーに入る。 それを相川さんがトスして、シャルロットさんがスパイク。 するかと思えばそれはフェイクで、アタッカーはラウラさんだった。 それを本音さんが冷静に対処し、俺がトス。 相川さんがアタックする。 ちなみに俺は男子ということがあり、アタックは禁止されている。 まぁ、ラウラさんといえど身長と力の関係で、俺のアタックが返せるかどうかわからないということでだ。 シャルロットさんも同様で、俺が最初に言ったということもある。 そんなわけで、意外に接戦な試合となった。 下が砂浜ということもあり、普段使わない筋肉を使うせいか疲労が濃くなる。 それは相手チームも同様で、だんだんと動きが鈍くなる。 相川さんなんか、普通の人より体力があるのに大息ついてるし。 俺? もちろん余裕だよ?
「いやいや!はぁ......みんなの動きがすごすぎるんだってば!!」
そんなことを相川さんが言っているが、俺たちは首をかしげる。 そんな中、それに同意を示したのが谷本さんだ。 ということで、ダブルスの試合になった。 得点はそのままで、ラウラさん、シャルロットさん対俺と本音さんペアと言う対決になった。 そこから試合はさらに激化し、そして
「俺らの勝ちー!」
「いえーぃ!!」
俺と本音さんのハイタッチ。 試合は接戦も接戦。 だったのだが、ラウラさんとシャルロットさんの小さなミスが重なり、俺たちの勝利となった。 周りのクラスメイト達や、他のクラスの見ていたやつらも手に汗握る戦いだったのか、試合をしていた俺たちに拍手を送っている。 てか、皆さん見ていたんですね。 そこから抜け出し、俺は一人で砂浜を歩いていた。 すると
「簪さん?」
「あ、翼君」
そこには、パラソルの近くで山を作っている簪さんが。 と言うよりも、砂浜の砂ってカラカラだから山作るのに向かないと思うのだが。 話を聞けば、やはりと言うか積んでも積んでも山にならないという。 そんなわけで近くからバケツを拝借し、いっそのこと山ではなく城を作ることにした。 したのだが
「こだわりすぎた......」
「うん、こだわりすぎとかの次元じゃないよね」
簪さんの冷静なツッコミがいたい。 まぁ、あの水の駄女神のせいだろうが、俺は昔から絵やそこらへんがうまい。 それは、こういうアート関係にも波及する。 なので気合を入れて作れば、こんな事も出来てしまうわけだ。 それがクラスメイトに見つかり、あれよあれよと言う間にいろんなものを作らされてしまう。 まぁ、俺も途中から乗りに乗ったところあるけど
「これで、どうよ!!」
今回作ったのは砂の像。 それも、専用機持ちのIS装着バージョン。 うーん、やりすぎた。 クラスメイト達は喜んでくれているが、作られた専用機持ちプラス山田先生、織斑先生は苦笑いだ。 結構会心の出来なのだが。 え? そう言うことじゃない? ショボーン。 他には遊び心満載で
「どうだ、翼よ!」
「すっごく、マッチョです......」
ラウラさんを砂に埋め、その山になっている砂をボディビルをやっているような、ムキムキにしてみたりなど。 一日目の海を大いに楽しんだ
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第六十二話 夏だ!海だ!臨海学校だ! Ⅲ
「うまい!」
日も暮れて夜、俺は海の幸を食べていた。 うーむ、隣が海だけあって取ってきたものをそのまま使っているんだろうか? そこらへん気になるところだが、まぁ、美味いし良しとしよう。 あの海を楽しんだ昼、旅館に帰ってくればすぐに露天風呂に入り、ご飯と言うわけだ。 なんと露天風呂、男の貸し切りだったのだ!例年までなら先生たちだけという話だったのだが、今年は俺と織斑と言う男子がいる。 その辺気を使ってくれた女将によって、俺と織斑は露天風呂になったというわけだ。 俺は先生たちに断って露天風呂に入ったのだが、その時に織斑の姿はなかった。 まぁ、そもそもあんな奴と一緒に入りたいとも思わないが。 そんなわけで、本当の貸切露天風呂になった俺は伸び伸びと風呂に入った。 いつもはシャワーだしね、感動だ。 まぁ、この後先生たちが露天風呂に入ったのを確認したら、掃除をしないといけないんだけどね。 先生たちが借りていた時でも、最後の人は掃除をしていたらしい。 もともと少ない人数だし、先生たちのために沸かしてもらっているため、そう説明を受けた。 なんか、体のいい生贄にされた気分だが、掃除する前に露天風呂につかるつもりなので、いいとしよう。 そんなわけで、もう一口
「うまい!」
「さっきからそれしか言ってないじゃない」
「なにをぅ!なら鈴さんは美味くないっていうんですか!?」
「なんで敬語なのよ...... うまいけど」
俺の勢いに押され、ちょっと引き気味に答える鈴さん。 おいしければいいじゃないかと、俺はそのまま食事に戻る
「新鮮でとてもおいしいですわ、ワサビはちょっとあれですけど」
「まぁ、慣れないときついとね。 日本人でも嫌いっていう人多いし」
と言いながら、マグロの刺身に少量つけ、一口。 うむ、鼻に抜けて美味い。 それを見てシャルロットさんも真似してつけるが
「ちょちょ、多い多い。 食べるのは初めてでしょ?」
「う、うん、そうだけど」
「ならこれくらいで十分」
つけていたのの半分、くらいにする。 いや、びっくりしたよ。 俺より少し多いくらいつけるのだもの。 今は本当の少量なので、安心して食べられると思うが
「あーむ。 うっ...... これでも少しからい」
「まぁ、しょうがないんじゃないかなぁ......」
苦笑いしながら、刺身につけてたべる。 ちょっと量が多かったのか鼻に来るが、まぁこのくらい誤差範囲ないでしょ
「ぬぉー!!??」
「アンタも馬鹿ねぇ、ラウラ」
どうやら俺の忠告を聞かず、一口で盛られていたワサビ全部行ったようだ。 しかもワサビ単品で。 そら辛いわ。 鈴さんもそんなラウラさんに呆れながら、お茶を渡していた。 それを勢いよく飲み干し、肩で息をするラウラさん。 涙目のところを見ると、想像していたよりもからかったようだ。 子供のころ、親が食べてるのみにて自分も挑戦したが、予想以上に辛く、慌てたのを思い出し微笑ましい気持ちになる
「むぅー!翼、何だその目は!」
「いやー、なんでもないよー」
周りを見れば、俺と同じ様な目をしたクラスメイトがちらほら見受けられる。 たぶん俺と同じ気持ちなのだろう、親指を立てればみんな笑顔で返してきた。 そんな俺の様子に頬を膨らませ、不満顔のラウラさん。 あ、鼻血を出して何人か倒れた。 なんてことはない、この頃よく見る光景だった
「ワサビもいいけど、やっぱり素材そのままが一番」
「私はワサビはいいや~」
「いや、本音さんはともかく、簪さんはその発言控えたほうがいいよ? 戦争になる」
とんでもないことを言い出したのは、隣に座る簪さん。 素材そのままが一番だなんて、ワサビ至高派に怒られる。 実際、簪さんの発言に何人かが睨んできている。 あぁ、困ります困ります!そこで火花を散らさないでください!織斑先生が睨んでますから!馬鹿なことを考えていると、隣に座っている本音さんから耳打ちが
「ねぇねぇ、つばっち~」
「なんじゃい?」
「かんちゃんああいってるけど、実はね~、ワサビあんまり食べられないんだー」
「そうなの?」
驚いて本音さんを見ると、いつもの笑顔だが、そこにはいたずらっぽい笑みもプラスされていた
「うん~。 小さい頃の話なんだけど~お嬢様が進めて食べてみたんだけど~、その時に辛すぎて泣いちゃったんだ~」
「どのくらいで?」
「でゅっちーが食べたよりも少量で~」
「ほほぅ」
シャルロットさんが食べた量ということは、相当少ないはずだがそれでも泣いたと。 まぁ、子供のころの話だし普通かと思うけど。 本音さんの薄く開いた眼から、やれとの指令が。 あー、本音さんからの命令なら仕方ないよねー。 免罪符を盾に簪さんに仕掛けることにした。 シャルロットさんが食べたのと同じくらいの量で、ワサビを挟み込み簪さんの肩をたたく
「簪さん、簪さん」
「なに?」
「はい、あーん!」
「えぇ!?」
なんか周りの空気が一気に冷え込んだ気がするが、気にしない。 妙に慌てる簪さんだが、ちょっと見ていて面白い。 笑顔で、箸をそのままに待つが。 やがて俯き、かなり恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、そして
「あ、あーん......」
口を小さく開ける。 このまま写真を撮りたいくらいかわいいが、それをしたら簪さんに嫌われるだろうし、何より、楯無さんに殺されてしまいそうだ。 衝動をぐっとこらえ、俺は簪さんにマグロを二枚食べさせる。 ワサビサンドだけどね! と言うより、食べさしてから思ったが、これやったら簪さんに嫌われるのでは? なんて思ったが、後の祭りだ。 最悪本音さんを盾に使えばいい
「んむ、んむ、んっ!?」
「か、簪? どうしたの?」
簪さんが口元を抑え、いきなり俯いたからか、心配そうにシャルロットさんが声をかけるが、手を振って何でもないようなアピールをする簪さん。 誰の目から見ても何かあるのは明らかなのだが、簪さんが大丈夫と言っているので何もできない。 やがて簪さんは顔を上げ、何事もないように
「何でもない」
というが、瞳の端には涙がたまってるし。 顔も少し赤い。 だが、何でもないとい簪さんに、何もつっこめない。 唯一、鈴さんが俺の顔を見て、皿を見て気が付いたようだが、呆れた表情だった。 違うんだ鈴さん!本音さんがやれって!
「いや、本音がやれって言ってもアンタがやったんでしょうが」
その声に反応したのが簪さんだ。 俺のことを無言でポカポカ叩いてくる。 力が入ってないため痛くないのだが、申し訳ない気持ちになる
「えっと、その、ごめん簪さん」
「びっくりした。 とってもびっくりした」
涙目で訴えてくる簪さんに、不謹慎にもかわいいと思いつつ。 言ってはいけないことを口にした
「いや、本当にごめん。 どうすれば許してくれる、何でもするからさ?」
「これ全部、あーんしてくれたら許してあげる」
そう言って簪さんが示したのは、自分の料理。 少しずつ食べていたのか、料理は結構残っていた
「こ、これ全部?」
頷く簪さんに、俺はがっくりと肩を落とす。 なんでもやるといった手前、やらないわけにはいかないし。 むしろいたずらをしたのだ、この程度で許されるのを幸運と思うべきか。 もはや、何時ものどーにでもなーれ、精神で乗り切ることにした
「・・・・・・はい、あーん」
「あーん」
さっきまで恥ずかしがっていたのに、今度はすんなりと食いつく簪さん。 そして、今回は笑顔だ。 その笑顔に浄化される人が続出し、周りはいつも居るメンバーを除いて、倒れている。 まぁ、これに浄化されそうになるのは分かる。 今も、今か今かと瞳を閉じて、どこか楽しみに簪さん待ってるし。 口に入れてあげれば、満面の笑みで食べてるし。 まぁ、いつも居るメンバーは呆れてたり、悔しがったりしてるけど
「あ、本音は後でお話ね」
「なんで!?」
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第六十三話 動き出す心、変わる関係
俺は一人、夜空を見ながら風呂に入っていた。 夜もそこそこいい時間だが、山田先生に言って風呂掃除に来ているというわけだ。 山田先生からもあまり遅くならなければゆっくりしてきていいとお墨付きももらっているので、安心だ。 さて、何で山田先生の話が出てきたかと言うと、山田先生が相部屋だからだ。 これも学園側からの配慮、と言うわけだ。 もし織斑と同じ部屋、または一人部屋と言うとになれば女子が乱入、風紀が乱れるというわけだ。 そんな学園側からのいろんな意味でありがたい配慮で、俺は山田先生と同室と言うわけだ。 ちなみに織斑だが、織斑先生と一緒だ。 まぁここ最近、例の一件で織斑の性根が腐っているということで、織斑先生が監視がてら一緒に居るというわけだ。 それでも俺との模擬戦が減らないあたり、ストレスたまってるんでしょうね。 そのストレス発散される俺の身にもなってほしいものだが。 体もあったまったのでそろそろ上がって掃除しようかと思ったのだが、何故か扉が開く
「いっ!?」
「お邪魔しま~す」
「お、お邪魔します」
何と入ってきたのは簪さんと本音さんで、水着着用だった。 いや、そこは安心したけど何故ここに。 お風呂で水着と言うアンバランスさにドギマギしていることを悟られないように平静を装いつつ、簪さんと本音さんに聞く
「な、なんでここに!?」
「私は~、後で水着を見してあげるって約束を果たしに来たんだ~」
「わ、私はその付き添いに」
いつものように間の抜けた声を出す本音さんに、恥ずかしそうな簪さん。 いや本音さん、約束はしたけど何も今じゃなくても! 俺は風呂に入ることしか頭になく、装備は腰に巻いてるタオル一枚。 あまりにも心もとない。 それに逃げようにも扉は簪さんや本音さんの後ろ、そして足場は悪い。 逃げ道はあるようでなかった
「それじゃあ~、諦めたところでこっちこっち~!」
本音さんに引っ張られ、シャワーのあるほうに引っ張られる。 そして椅子に座らされれば、本音さんは背中を流し、簪さんは頭を洗う。 あぁ、天国はここにあったのかと思いつつ、ある意味で地獄だった
「うんしょ、うんしょ!」
「かゆいところはない?」
「大丈夫......」
背中では本音さんが一生懸命洗い、髪は簪さんがあらってくれる。 本音さん、本音さん!一生懸命洗うのはいいんですけど、時々胸が当たってるんですけど!簪さんに頭を洗ってもらうのは気持ちいのだが、立っているため俺の股間が見えないか心配だった。 反応すれば即終わりだ。 俺は無心になりながら、洗い終えるのを待つ。 そして、洗い終えれば
「「「・・・・・・」」」
いきなり抱き着かれた。 いきなりのことに頭が真っ白になるが、簪さんも本音さんもかすかにふるえている。 それが気になった
「簪さん? 本音さん?」
「好き、なの......」
「え?」
「好きなんだよ!私も、かんちゃんも!」
突然の告白に、さっきまで真っ白になっていた頭は、普通に戻る。 わかっていた、簪さんや本音さんが好きなのは。 そりゃあ、あんだけアタックされれば気が付かないわけがない。 だが、俺は問題を先延ばしにしていた。 だって、この日常が楽しかったから。 誰かの思いに応えれば、この楽しい日常が終わってしまうから
「わかってたんでしょ?」
「・・・・・・ごめん」
「謝らなくて、いいよ。 つばっちの気持ちは分かってたから。 今が楽しい、そうでしょ?」
本音さんの言葉に頷く。 どうやら本音さんたちは分かっていたようだが、あえて見逃していてくれてたらしい。 だが、それならなんで?
「私たちも楽しかった。 今までじゃ考えられないくらい、でも」
「でも、もう我慢できないんだよ。 別につばっちを独り占めしたいわけじゃないけど、このあやふやな関係が嫌なの......」
あやふやな関係。 確かに言う通りだと思う。 友達と言うには近すぎるし、恋人と言うのは少し遠い。 そんな感じだと思う。 でもそれが心地よかったから、何も言わなかった。 でも、簪さんも本音さんも、心地よかったけどいい加減はっきりさせたいみたいで。 ここまでくると、俺が選べなかったせいだよな。 俺は二人の手をやさしくほどき、二人に向き直る。 二人の瞳は不安そうだけど、でも答えを言わなければならない
「その、すまなかった。 たぶん、俺は二人に、いやみんなに甘えてたんだと思う。 でも、それも今日で終わりにする。 その、ちゃんと答えを出すから、もう少しだけ待ってくれないか? 虫のいい話なのは分かってるけど、ちゃんと考えたいんだ。 今までは考えないようにしていたけど、それはもうみんなに失礼だから」
二人の目を見て真剣に伝えれば、二人は頷いてくれる
「うん、待ってる」
「でも、私たちもそんなに長く待てないからね?」
「あぁ」
ちゃんと答えを出すことを決めたから、俺はもうそこから逃げることはしない。 そう決意を込めて、俺は頷く。 すると二人は
「なら改めて。 私は翼君のことが好き」
「私もつばっち、ううん、翼君のことが好きです」
二人は改めて告白をしてきた。 俺の返事はさっき言ってあるのだが、二人は何も言わなかった。 話が終われば少し気恥しいのだが、二人は逃がしてくれなかった。 俺がその場を去ろうとすれば、腕をがっちりホールドする
「・・・・・・あの?」
「ふっふっふ、逃げようとしてもそうはいかないよつばっち!」
「うん、一緒にお風呂に入ってもらう」
あぁ、困りますお客様!!お二人の実った果実が腕に当たって、マイサンが反応しそうに!? 静まれ、静まれマイサン!!そんな俺の内心を知ってか知らぬかわからないが、二人は楽しそうに俺を風呂の中に引きづり込む。 そして一息なのだが
「あの、お二人とも。 いつもより、近くないでせうか?」
「そんなことないよね、本音?」
「だよね~、かんちゃん」
二人とも笑顔でそう言っているが、そんなことあるから!いつもより顔の位置が近いし、それに胸が当たってるから!足も絡めないでください!!告白したことでどこか大胆になった二人に圧倒される。 手を出せばいいだろう? とか悪魔のささやきが聞こえるが、そう言うのは返事してからじゃなきゃダメだろうが!告白を考えさせてくれって逃げてる俺が言うことじゃないが、そこまで屑じゃねぇ!それに手を出したら最後、絶対既成事実で迫ってくる。 ふたりにそんなことをさせるわけにはいかず、そして俺自身がちゃんと答えを出すために俺はその誘惑に必死に耐える。 結局その誘惑は俺たち三人がのぼせそうになるまで続き、その後二人はお風呂掃除まで手伝ってくれた。 そう言うところは優しいね、二人とも。 それには嬉しく思うのだが、その後は許さない。 部屋に帰った俺を待っていたのは、山田先生によるありがたいお説教。 どうやら消灯時間を大幅に過ぎていたらしく、そのことについてたっぷり絞られた。 まさか簪さんや本音さんとお風呂でいちゃついてましたなんて言えるはずもなく、俺は粛々と説教を受けた。 途中織斑先生が乱入し、学園に戻ったら地獄行きが決まった。 わーい、どうしてこうなった!
そしてこの次の日、俺にとって忘れられない出来事が起こった。 それはいろいろな意味で、だが
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第六十四話 不穏な空気
「朝から何か騒がしかったけど、何かあったのか?」
「私が知るわけないでしょ」
朝からすごい轟音が旅館に轟いたのだが、あまり興味もなかったので見に行くことはしなかった。 なので、鈴さんに聞いてみたが知らないの一点張り。 他のみんなにも聞くが、知らないそうだ。 今日から専用機持ちはパッケージ、要は追加装備のようなものを試し、他の生徒は、体を鍛えるらしい。 そんなわけで、俺たち専用機持ちは別個で集合をかけられたのだが、何故か篠ノ之さんがいた。 織斑先生はまだ来ておらず、聞くに聞けない状態で、馬鹿どもはこれ幸いといちゃついていた。 少し空気が悪いが、心頭滅却すれば火もまた涼しと言う精神で織斑先生を待つ。 ていうか、そんなことを考えないとやってられない
「よし、専用機持ちは全員揃っているな」
「せんせーい。 篠ノ之は専用機持ちじゃないと思うんですけど」
鈴さんがそう声をかければ、何故か胸を張り前に出てくる篠ノ之さん。 そこで若干嫌な予感がしたが、織斑先生が前に出て抑える。 どうやら、代わりに説明するようだ
「それは私から説明しよう、実はだな「・・・・・・ちゃーん!!」・・・・・・」
何かが聞こえた。 それは説明しようとした織斑先生を遮り、誰かを呼んでいるようだ。 ・・・・・・なんか、声が近づいてきている気がする。 その聞こえてくる声に、織斑先生は眉間の皺をほぐすように揉んでいた。 あー、織斑先生の知り合いなんだ。 そんな様子を見て、俺は確信する。 そして姿を確認できるところまできて
「ちーちゃーん!!」
斜面から織斑先生めがけ飛ぶ。 うん、あの人も体のつくりがおかしいらしい。 あれだろうか、類は友を呼ぶ的な。 そして、織斑先生の止め方が想像以上にえぐかった。 自分に向かってきている友達? にかかと落としを炸裂させ、地面へと着陸させた。 流石にこれには俺たちは引きつった笑みを浮かべるが、なぜか織斑先生は俺を睨んでくる
「おい蒼海、お前類友とか思っただろう?」
「滅相もございません!!」
どうやら考えていたことがばれていたらしい。 ちょっと絶望的になるが、今回はおとがめなしのようだ。 見れば、友達? の方に視線を向けていた。 俺も視線を向ければ、今は篠ノ之さんと手をつないでいた。 どういう状況だこれ? そんな俺たちの思いが伝わったのか、本当にメンドクサイのかすごく深いため息をする織斑先生。 やばい、ここまでの織斑先生は見たことない
「束、自己紹介くらいしろ」
「えぇー、めんどくさいなぁ、もう...... 私が天才束さんだよ~、ハロハロー!」
一瞬の間。 へぇー、束さんね...... ISの開発社やんけ...... 周りが騒がしいが、俺はそれよりも
「思ってたイメージとだいぶ違う......」
「そらをちゅーもーく!!」
そんな俺の様子はお構いなしに、空を指さす篠ノ之束博士。 空を見れば、光る物体が俺たちに接近して...... 接近して!? みんなは予想外すぎて動けないようだが、俺は相棒を展開して盾を構える。 構えたが、砂ぼこり等が襲ってくることはなく、そこには紅いISが
「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機の紅椿!全スペックが現行のISを上回る、束さんお手製のISだよー!なんたってこの紅椿は、天才束さんが作った第四世代型のISなんだよー!」
その言葉に俺たちはひたすら圧倒される
「第四世代型......」
「各国で第三世代型の試験機がようやく開発され始めたのに」
「そこはほら、天才束さんだから!さて箒ちゃん、今から初期化と最適化を始めようか!」
「はい!姉さん!!」
その様子に俺は心配になる。 そこには、まるで新しいおもちゃを貰ってはしゃいでいる子供がいた。 織斑を除く、俺たちの顔は険しくなる。 どう考えても、いや考えるまでもなく今の篠ノ之さんに専用機は危険だった。 織斑先生を見るが、何を考えているのかわからなかった。 初期化と最適化はすぐに済み、今は試験飛行だ。 織斑と一緒にはしゃいでいるようだが、あれでは性能を生かし切れていない。 乗って数分とは言うが、そう言う次元じゃないのだ。 機体に遊ばれている、それを篠ノ之さん自身が気が付いていない。 さらに顔が険しくなる中、話しかけられた
「気に入らない、みたいな顔だね、イレギュラー君」
「篠ノ之束博士」
さっきまでの笑顔はそこにはなく、どこか冷めた表情で俺を見る篠ノ之束博士。 俺はその目をまっすぐ見返す
「そんなに箒ちゃんが紅椿に、新型に乗っているのが気に入らない?」
「別に、新型どうこう言うつもりはありませんよ。 ただ、篠ノ之箒があの機体に乗って足る人物なのか、俺はそれが疑問なだけですよ」
「おい、イレギュラーごときが、箒ちゃんを語るんじゃない」
「おい束!!」
「ちーちゃんは黙ってて」
俺が篠ノ之さんを貶せば、篠ノ之束博士は銃を取り出し俺に突き付ける。 周りの奴らが動こうとしたが、俺が手で制する。 一方、織斑先生が止めようとすれば、その静止に耳を傾けない
「お前の事は知っている。 お前みたいな凡人、調べるのも嫌だったけど。 昔からISに憧れ、それ関係の道を選ぼうとしていたことも。 何故男なのにISにこだわる」
「男ですからね、ロボットとかに憧れるのは普通でしょ? それじゃなくても、俺は空にあこがれた。 この大空を、自由に飛べれば、と。 最初は自分も操縦者に、なんて思ってましたができないことを知った。 でも、自分の夢を誰か気の合う人に託せるかもしれない。 そう思って、整備の道に進んだ。 まぁ、こうやって相棒のおかげで自分で飛べるわけですが」
俺の思いを、心からの思いを開発社である篠ノ之束博士に伝えていく。 だが、俺の思いは届かなかった。 篠ノ之束博士は表情を変えるどころか、無表情で俺を見る。 その精気のなさに怯みかけるが、ここで目をそらしてはいけないような気がしたから
「お前の言っていることは信用できない。 前にもお前はちーちゃんに向かって同じようなことを言っていたけど、私は信用できない」
何処でそれを、そんなこと言える雰囲気ではないことくらいわかっている。 だが、精気のなかった表情に、一瞬だけ悲しみが見えた。 どういうことだ? そんなことを考えている暇もなく、やってきた山田先生によってそれは告げられた
「織斑先生、大変です!!」
「山田先生?」
山田先生が走ってきて織斑先生に端末を渡せば、それを見て表情を険しくする織斑先生
「匿名任務レベルA。 現時刻より対策を始められたし、か...... テスト稼働は中止だ!お前たちにやってもらいたいことがある」
俺たちはその言葉に移動を開始する。 この時俺は気が付かなかった。 狂った兎が笑っていたことに
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旅館に移動し、開かれた作戦会議。 今回のターゲットはシルバリオゴスペル、通称福音というISが実験中に制御下を離れたのとことだった。 つまり暴走したISの捕縛、または破壊任務と言うわけだ。 どうも無人機らしく、パイロットの心配はいらないらしいのだが、軍用ISということもあり、危険度はかなり高い。 そんなものを学生である俺たちに事態の鎮静に当たれというのだから、どこか作為的なものを感じる。 だが、近くを通る無人機がもし進路を変更しこの旅館に来れば、被害は計り知れない。 元より、高速で移動する機体だ、逃げることもままならない。 ここまで説明され、俺たちの作戦会議が始まる
「はい!暴走したISの詳細なスペックデータを要求します」
オルコットさんが挙手をし、暴走したISのデータを要求する。 織斑先生はそれを了承し、注意を促してくる。 俺たちは表示された情報をもとに、対策を立てていく。 相手のISは広域殲滅を目的とした特殊射撃型のISで、攻撃と速度に特化した機体だということが分かる。 特殊兵装も厄介だし、格闘能力が未知数と、穴だらけの情報だった。 ラウラさんが偵察を提案するが、音速飛行相手のため無理との結果に。 その速度からか、アプローチも一回が限度、と悪条件ばっかり揃っていく
「一撃必殺の攻撃力が必要ですね」
山田先生の言葉に、織斑に視線が集まる。 ISの絶対防御を抜き、本体にまでダメージを与えるとなれば俺か織斑しかいない。 だが、俺のとっつきは押し付ける武装のため間合いが短い。 いつものように接近もままならない相手ということで、織斑のほうがリーチが長いので織斑に視線が向いたのだが
「え? 行かないけど?」
織斑は呆けたように言う。 初めからわかっていたことだ、逆にくれば足手まといになる。 それだったら来ないほうがましだ
「ならアタッカーは俺がやる。 KIKUだと威力的に心もとないからな、KO-4H4/MIFENGなら敵の装甲を貫いて機能停止できるはずだ」
「そんな不確かなものに頼るより、いっくんの零落白夜と紅椿ならこんなもの余裕だよ?」
さっきの無表情から一転、にこにこしながら入ってきた篠ノ之束博士だったが
「なんで、行かなきゃいけないんですか?」
「一夏もこう言っていますし、私も行くつもりはありませんよ姉さん」
「あれ? あれれー!?」
二人の言葉はよほど予想外だったのか、驚く篠ノ之束博士を放っておき、 作戦を詰める
「それしかあるまい...... 蒼海、お前に高機動パッケージは?」
「あるにはありますよ、えぇ...... ジェイル印が」
場が凍る。 ここでもジェイルさんは健在のようで、慌てている篠ノ之束博士以外の時が止まる
「・・・・・・大丈夫なのか、それは?」
「まぁ、一応設計図は俺が書いたんで大丈夫ですが......」
「不安が残るが、仕方あるまい。 他のものは?」
「はい。私のストライクガンナーが」
「なら、オルコットが牽制しつつ蒼海が仕留めろ。 もろもろの準備があるため、出撃は三十分後とする!」
こうして決まった作戦だが、どうも嫌な予感がするのだった
今回で始まらなかったでござる...... 次話は、次話は必ず!
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第六十五話 決戦、シルバリオゴスペル
「オルコットさん、牽制は任せる」
「私はとどめをお任せしますわ」
作戦空域が迫ってきており、オルコットさんと最終確認をしていた。 まぁ、作戦はオルコットさんが射撃で牽制しつつ、俺が隙を見て福音を撃墜と言う手はずだ。 もし撃ち損ねてもKO-4H4/MIFENGならば、かすっただけでも相当のダメージが出る。 後方にはほかの専用機持ちも控えているので、もしもの時も安心だ。 ・・・・・・それにしても、気持ち悪い。 出力がいつも以上に強化され、足には高機動用ブースターが装着されているためスピードがけた違いに早い。 一番近いものはガンダムハルートの最終決戦仕様だろうか。 ともかく、いつも以上に強化された速度で、福音に迫っていた。 ちなみに、この脚部ブースター、エネルギー充填式なので相棒のエネルギーは全く使っていない。 しかも後付け装備なので、切り離せばデッドウェイトなしと言う優れもの。 切り離すのがもったいないのならば、拡張領域に収納すれば次回以降も使える。 そして、ここがジェイル印の魔改造ポイントだ。 もし、内蔵のエネルギーが切れたとしても、任意で切り替えれば相棒のエネルギーを使用できるという優れもの。 うん、ここまでなるとは思っていなかったのでジェイルさんには感謝なのだが
『そろそろ作戦領域だ、気を引き締めろ!』
「「了解!!」」
俺とオルコットさんは返事をし、再度正面を見る。 すると、小さな点のようなものが見えた。 直後ロックの警告と共に、無数のエネルギー弾が飛んでくる
「オルコットさん、手筈通りに!」
「お任せしますわ!」
俺とオルコットさんは散開し、別々に福音へと向かう。 俺は濃い弾幕を避けながら、正面から突っ込む。 両手でマシンガンを連射するも、避けられてしまうがそこに遠距離の狙撃が。 惜しかったが、当たらなかったようだ。 福音はそっちにきをとられたのか、俺の方のロックの警告が消えるが、その隙を見逃さない。 流石にこの速度で使いたくはないのだが、イグニッションブーストをし、一気に距離を詰める。 目の前には福音がおり、俺は葵を振るう。 無人機ということもあり、普通の人間ならできないような軌道で避けるが、オルコットさんの予測射撃に当たる。 徹底的にオルコットさんの方に行かせないように立ち回らせ、ロックをこちらに集めるのだが、やはり厄介なのは
『すまない、待たせた!』
『意外に早かったな。 それじゃあ頼む!』
秘匿通信が入る。 その相手はラウラさんで、予想よりも早く着いたようだ。 ということは、他の奴らもそろそろつくはずだ。 葵を両手に展開し、俺は再度福音の濃い弾幕に突っ込んでいく。 これもなぁ、
『初弾命中!次弾を発射する!!』
ラウラさんだ。 肩に装備されているレールカノンを発射し、福音の体勢を崩したのだ。 無人機とは言え、レールカノンの一撃はまずいのか回避を試みる福音だったが。 俺がいることを忘れてもらっては困る。 体勢を崩し、ラウラさんに意識が向いた一瞬、俺はその一瞬で肉薄しKO-4H4/MIFENGの引き金を引く。
「らぁ!!」
「!?!?!?」
KO-4H4/MIFENGは二枚あるウイングスラスターの一機に命中し、その翼を落とすことに成功した。 声にならない声のようなものをあげ、混乱したようなそぶりを見せる福音。 その予想外な行動に俺は距離をとり、様子を見る
『翼君、ごめん遅れた』
『僕も』
どうやら遅れていた専用機持ち、簪さんとシャルロットさんも到着し、これで全員揃ったのだが。 誰も福音に手を出せずにいた。 どうも、福音の様子がおかしい。 さっきまでは機械的な動きだったが、どこか人間臭い。 開示された情報では無人機だったし、さっきから人が行ったら無事では済まない軌道をしていたため、中に人は乗っていないだろうが...... だが、そんな混乱したような素振り束の間。 本部から通信が入る
『シルバリオゴスペル、エネルギー急上昇!そんな、こんなデータ......』
山田先生の声が聞こえ、その直後片翼がなくなったはずなのだが、さっき以上の密度、威力が上がったエネルギー弾が飛んでくる
『各機散開!同じところにとどまるな!!』
総司令は織斑先生だが、現場の指揮はラウラさんに任されているため、俺たちはラウラさんの指示に従い散開する。 比較的動きの遅いラウラさんと、今回の戦闘で使用するパッケージのせいで重くなった簪さんはシャルロットさんと合流し、避け、時には盾で防いでもらう。防御パッケージ、ガーデン・カーテン。 今回の作戦に当たり、シャルロットさんが選んだパッケージだ。 実体シールド2枚、エネルギーシールド2枚により防御機能を向上させる。 そのため、今回の壁役はシャルロットさんだ。 鈴さんは中距離で避けつつ龍砲を撃つが、福音にはあまり効果が見られない。 それは遠距離型のオルコットさんも同様で、さっきまでは効果があったが、今は異常なまでのエネルギーのためか、効果を示していない。 と、なると。 俺のKO-4H4/MIFENGと、まだ試していない簪さんの重砲撃戦パッケージが攻撃の要となるだろう
『翼、頼みがある』
『なにさ?』
ラウラさんが静かに話しかけてくる。 俺は福音の攻撃を避けながら聞く。 まぁ、ほとんどわかってるけどね
『囮になってくれ』
『・・・・・・』
ここにいる全員が沈黙する。 まぁ、それしかないだろうな。 この中で一番スピードは速いし。 オルコットさんも高機動型パッケージだが、接近戦に向いているとはいいがたい。 どっちにしろ、ファンネルも封印して高機動型としているのだ。 いつもの戦い方ができないのがいたい
『いいよ』
『すまない...... これしか作戦が思い浮かばないんだ!』
一瞬ラウラさんを見れば、悔しそうな顔で歯を食いしばっていた。 別に、そこまで気にしなくてもいいと思うんだが。 まぁ、いいや。 早めにやらなければ、エネルギーが危ない。 もはや内蔵は切れかかっているので、相棒のエネルギーを使わなければならない
『構わない、それだけ信頼してくれてるんだろ? とりあえず、簪さん、頼むよ?』
『任せて、必ず隙を作る、だから』
『任せとけ』
俺と簪さんは頷き合い、他のメンツを見れば頷く。 どうやら決まったらしい
『行くぞ!!』
俺がそう声をかけ、各々福音に攻撃し始めた
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第六十六話 決戦、シルバリオゴスペル Ⅱ
第二ラウンド開始、とでもいうのだろうか。 俺が福音を撹乱しつつ、ロックを集めている。 他のメンツも攻撃しつつ、ある地点に誘導しようとしている。 そして、時は来た
「山嵐ロック、完了。 ハッチフルオープン!」
すさまじい音とともにミサイルが発射され、あまりの弾幕に福音の足が止まる。 簪さんのガトリングの有効射程距離までみんなで誘導していたが、こうも上手く行くとは。 簪さんの今回のパッケージ、重砲撃戦パックは、俺の装備でもあった35ガトをジェイルさんに作って貰い、それを渡した。 そして、俺が設計図を書いて簪さんに意見を貰いつつ、ジェイルさんに作って貰った追加装甲からなるパックだ。 追加装甲分の重量の増加によって機動性は損なわれてしまったが、別に動けないわけではない。 追加装甲の内容は、胸部ガトリング4門、フロントアーマーを追加し、そこにミサイル三門計四セット、元からあったミサイルポットを二機増やし計八機のミサイルポットを有するという中々の火力機体だ。 そのフルオープンアタックともなれば相当な物量になるというわけで、やばい、これ俺近づけないよ...... 福音も攻撃しようとするが、鈴さんやラウラさんが邪魔をし思うように攻撃ができない。 やがて、福音に動きがなくなる。 俺たちは様子を見るため攻撃をやめる。 動きはないのだが....... その時、センサーが警告を発する。 見ると船のようだが、この海域は先生たちが訓練機で封鎖しているはずだ
『山田先生、船がいるんですがどういうことでしょうか?』
『ふね、ですか? 確認できました、密漁船です!!』
どうやら面倒な事態になったようだ。 流石に巻き込むわけにはいかず、誘導することになったのだが。 福音が再び動き出す。 さっきの攻撃を食らっているのだ、シールドエネルギーは少しのはずだが。 さっきの異常な出力もある、慎重に行かねばならない。 とにかく、攻撃される前に誘導を行わねばならない
『ラウラさん』
『シャルロット、頼めるか?』
『まぁ、この中で防御特化のパッケージは僕だからね、了解』
すぐに動き出す俺たちだが、作戦はさっきのまま。 ただ、シャルロットさんが抜けたため防御面に不安が残る。 AICは近づかねば使えないし、そもそも集中する必要がある。 攻撃を止められるかと言われれば、ビーム兵器は相性が悪い。 なので、簪さんは撃ち尽くした追加装甲分をパージし、機動性をあげる。 残ったのは35ガトと山嵐だ。 ミサイルで撹乱したいところだが、ビーム兵器では相性が悪い。 そもそも、簪さんは実弾兵器ばかりなのでとことん相性が悪いのだ。 ・・・・・・今度ビームガト開発してもらお。 だが、大体のロックは俺に向いているので何とか攻撃は通している。 徐々にエネルギーは減っていくが、元からエネルギー関係はあまり使わないので大丈夫だが。 福音も焦っているのか、動きが雑になってくる。 ビームも途切れ途切れになってきたし、動きも鈍い。 異常なエネルギーもここで終わりらしい。 だが、嫌な予感は止まらない
『ラウラさん、どう見る』
ここはリーダーでもあり、軍人でもあるラウラさんに聞いてみることにした。 ビームは途切れ途切れなので、合流は楽に出来る。 それにスピードも落ちてきたこともあり、残りのエネルギーが少ないオルコットさんと比較的に余裕があり前衛のできる鈴さんが福音の対処に当たってくれている。 簪さんの方は、片手の35ガトを打ち切ったらしく、収納していた
『さっきの異常なエネルギー上昇の原因が分からない以上、ここは慎重に事を進めるべきだ。 無人機ではあるが、さっきから不可解な行動をとっている。 ブラフ、と言う可能性もなくはない。 もしブラフでなくとも、こちらは数的に有利だ。 防御役のシャルロットが合流してからでも、一気に畳みかければいいと思う』
『だな』
どうやら同意見のようだ。 ちょうどシャルロットさんから通信があり、もう少しで合流できるとのことだった。 福音を逃がさないように適度に攻撃しつつ、シャルロットさんの合流を待っていたのだが、事態は最悪の方向に動き出した。 味方の識別反応が近づいてきた。 シャルロットさんかと思えば、反応は二つ。 俺たちが嫌な予感をしてみれば、凄い速さで紅と白が福音に一直線で進んでいく。 まて、アイツ等は!
『チィ!!何故アイツらがここにいる!!』
俺たちも慌てて追いかけるが、流石第四世代型とでも言おうか。 加速、機動性が全く違う。 見る見るうちに離されていく
『織斑先生!敵の位置は?!』
ラウラさんが焦って聞くと、最悪な展開は続くのか
『クソっ!!封鎖海域ギリギリだ!今訓練機の職員に対応はさせているが、長くは持たん』
『ぐぅ!!翼、セシリア!』
『俺が行く!!』
『すみません蒼海さん、お願いします!私は、もうエネルギーが!』
通信はそのままに、俺は脚部ブースターにエネルギーを送り加速する。 そうすれば、追いつきはしたのだが、早すぎる。 あの異常なエネルギーのせいもあるのだろう、スピードが段違いなのだ。 織斑と篠ノ之は追いつけてはいるようだが、ハッキリ言って遊ばれていた。 当たり前だ、あの程度の訓練しかしていないのに福音に勝てるはずもない。 正直言ってこれ以上はエネルギーを消費したくないのだが、さらにエネルギーを送り込み最高速度に達する。 そして福音に追いつき、ブレードを振るう。 それを見事な軌道で福音は避け、そのまま近接戦闘に移行する。 織斑と篠ノ之も入ってこようとするが、俺は二人にサブマシンガンを発射し牽制する。 この二人に入ってこられたら、誘導しているのが台無しだ。 福音を逃がさないようにしつつ、教員の訓練機部隊から離し、他の専用機持ちの方に誘導しているのだが、やはり織斑と篠ノ之が邪魔だ
『邪魔を、するな!』
『邪魔は貴様たちだ馬鹿者!!即時帰投しろ!!』
俺に通信をしているということは通信を切っているということはないだろうが、織斑たちは織斑先生の言うことを聞かない
『翼!』
『翼君!』
やっとの思いで他の専用機持ちの方に近づけば、ラウラさんと簪さんから通信が入る。 俺は蹴りで福音との距離を離し、少し離れたところで待機する。 織斑はチャンスと思ったのか福音に向かっていったが、濃い弾幕に福音と共に撃たれる。 ヘイトが溜まってたにしても、容赦ないな簪さん。 そう、簪さんが35ガトとミサイルを発射したのだ。 それに巻き込まれたのは織斑だが、知るところではない。 ラウラさんも援護として、レールカノンを撃っているようだ。 さっきのダメージもあり、まともに食らう福音。 徐々にだが、高度を落としていく。 濃い弾幕は弾切れと共に晴れ、もはや満身創痍の福音。 ここで、ようやくシャルロットさんが合流と言うときに、またしても織斑が余計なことをする
『これで倒せば僕こそが!!』
もはやビームも放出できなくなり、ただの鈍器とかした雪片弐型を持って正面から突撃する織斑。 だが、福音も最後の悪あがきとばかりにビームを収束して撃ちだした。 織斑のシールドエネルギー的に、あの一撃に耐えられないのは明白で、シャルロットさんのガードは間に合わない。 篠ノ之の武装にシールドのようなものがあったような気がするが、気が動転しているため何もする気配がない。 この状況で間に合うとすれば俺だけで
「クソがっ!!」
ブースター装備のままイグニッションブースト。 とてつもない加速力で、体が軋むが、そんなことを構っている暇はない。 織斑を蹴り飛ばすと同時に、ブースターの片方に収束されたビームがかする。 エラーの表示が出るが、それを無視して二回目のイグニッションブースト。 両手にKO-4H4/MIFENGを装備し、つっこむ。 福音はビームではなく、拳を握り迎撃態勢だ。 一撃を繰り出されるが、俺は盾でガードする。 福音は一つ勘違いしている。 このとっつきはジェイルさんお手製のもので、とっつき自体に小さいながらも盾をつけることが可能なのだ。 ブースター付きのイグニッションブーストの加速と重い拳により、盾は砕けてしまったが
「はっ!!」
そのままとっつきを押し付ける。 頭部に撃ったものはよけられてしまったが、残っていた翼に命中。 福音はそのまま海に落下する。 福音はただ落ちていく。 俺はそれで気を抜いてしまった。 それがいけなかった
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「なっ!?」
篠ノ之が俺に向かって剣を振るってくる。 とっさの事だったので、腕でガードしてしまったが。 装甲はひび割れ、衝撃が骨まで達した。 つまり、折れたということだ。 痛さに顔をしかめつつ、振るわれていたもう一方を抑える
「何しやがる!!」
「一夏を、一夏をぉぉぉぉぉ!!」
まるで死んだかのような言い方だが、織斑は生きている。 ただし、俺に蹴られたことによって明後日の方向に飛んでいき、今はラウラさんに抑えられているが
「アンタ、何やってるのよ!!」
「命令無視した挙句、仲間を傷つけるなんて何を考えていますの!!」
篠ノ之は鈴さんとオルコットさん、二人がかりで抑える。 流石最新鋭とでも言うべきか。 その力が俺に向けられたのだから、笑えない。 取り押さえた二人、一息ついたところで本部に通信をしようとしたが、それはかなわなかった。 突如せり上がる海面。 何事かとそちらに視線を向ければ
「福音......」
福音から膨大なエネルギーが漏れ出ており、形作られる翼。 福音の
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第六十七話 シルバリオゴスペル Ⅲ
『状態を見るに、今までの傷は完全回復とはいかないまでも、ある程度は回復しているようだな』
ラウラさんが冷静に判断する。 その言葉に、ハイパーセンサー越しに福音を観察すると、所々ボロボロなものの装甲自体が新しくなっているところがあった。 移行するときにそんな機能があるとは知らなかった。 そもそも、セカンドシフトも世界で数件確認されている程度らしいのだが。 対してこちらは、それまでの戦いもあり弾薬、エネルギーともにほぼ空だ。 いや、福音にダメージを与えられる武器類の残弾がと言う話だが。 それに、足を引っ張るのが二人いる。 状況は最悪だ。 唯一の救いが、移行中で攻撃が来ないことだ
『状況は最悪だけど、どうする?』
『撤退、出来ると思うか?』
ラウラさんに聞けば、そんな答えが返ってきた。 流石にこの状況では軽口など叩けるはずもなく、俺も黙り込む
『・・・・・・作戦は失敗だ、帰投を命じる』
『織斑先生!しかし!!』
『ボーデヴィッヒ、お前もわかっているはずだ』
歯を食いしばるラウラさん。 まぁ、こういう状況だ、 福音を放っておくのは気が引けるが、俺たちもまずい状況だ。 補給なりも済ませなければ、次につなげる事も出来ない。 酷な話だが、この海域には教員部隊もいる。 一時的、という話なら任せられる。 その場合、俺とオルコットさんが同じように先行してと言う形になるだろうが。 みんなもラウラさんの指示を待っているのか、ラウラさんを見る
『・・・・・・撤退する』
俺たちは頷き、旅館の方に進路をとろうとすれば。 ロックの警告が鳴り響く
『シャルロット!!』
『わかってる!』
さっきの最後の悪あがきの砲撃が、かわいいと思えるくらいの砲撃が飛んでくる。 シャルロットさんはガードではなく、ビームを弾くように盾を構えるが勢いに押される。 何とか明後日の方向に弾くことはできたが、盾は消えてしまう
『この威力は、まずいね。 連続してなんて、無理だよ』
盾を再展開するが、顔は厳しいままだ。 防御特化のパッケージでも防ぎきれない砲撃、それはこの状況では絶望的だった。 この状況に、ラウラさんは素早く指示を飛ばす
『鈴とセシリアはそのまま篠ノ之を、私は織斑を抱えてこの場を脱出する!シャルロットさんは防御、簪と翼で牽制を頼む!』
『ダメだ、それじゃあイタチごっこだ』
ラウラさんの指示に、俺は待ったをかけた。 それじゃあ、駄目だ。 俺と簪さんと言うが、簪さんはエネルギーに余裕があるものの残弾がほぼない。 俺はエネルギーは少し心もとないが、切り札がある。 それに俺は片方がエラーを起こしているとは言え、この中では唯一福音のスピードについていける。 なら
『俺が残って福音を抑える』
『それは!』
『・・・・・・それしかないわね』
オルコットさんが何か言おうとしたが、鈴さんがそれを遮る。 そんな鈴さんの顔も、悔しそうだった。 誰が考えたって、分かることだ。 スピードや攻撃力、福音に対抗しうる力を持つのは俺だけだ。 うぬぼれてるわけじゃないが、状況的にはそうするしかない
『くっ!!翼、足止めは任せる!』
『まぁ、泥船に乗った気持ちで安心してくれ』
右手には葵、左手には
『翼君』
『簪さん?』
最後まで残っていたのは簪さんで、ハイパーセンサーで確認すればこちらをじっと見ていた
『必ず帰ってきてね、返事、まだ聞いてないから』
『・・・・・・あぁ、本音さんと待っててくれ。 それと、出来るだけ早く来てくれよ?』
『うん』
俺に背を向け離れようとする簪さんに、そう言えばと俺は装備を渡す。 もちろん、ロックは解除してある
『これ......』
『備えあれば憂いなしってね。 もしもの時は、頼む』
『・・・・・・』
簪さんは高速で飛び去って行く。 これで俺一人になったわけだが、状況は相変わらず最悪。 脚部ブースターは相変わらずエラーを吐き続け、心なしか少し熱くなってきたような気がする。 ビームマシンガンを撃つが、効果がない上に当たらない。 かといって、35ガトを持とうにも今より遅くなればハチの巣だ。 それに、この濃い弾幕の中ガトにまで気を使って飛んでいる余裕はない。 一応近づくことはできるので、葵をたたき込んではいるのだが、学習しているのかだんだんとこちらに傷が増えてきた。 切り傷なんて当たり前で、深いところもある。 いやぁ、格闘一発一発が絶対防御越えてくるってどういうパワーしてるんだよ。 左腕は折れているし、とっつきを装備しているため本当の隙にしか使えない
「本当に、最悪な状態だ。 悪いな相棒、こんなことに付き合わせて」
一瞬相棒に視線を移すが、すぐに前にいる福音に戻す。 それにしても、エネルギー垂れ流しにもかかわらず、エネルギーが切れないこと。 軍用だとしても、おかしい。 となると、あの異常なエネルギー反応なのだが、正直言って原因は不明。 一瞬、特殊なシステムでも積んでるのでは、とも思ったがそんなの公開するはずがないし。 そんなことをのんきに考えてる暇はなく、途切れていた弾幕が再開される。 避けはするのだが、段々と脚部ブースターの調子が悪くなってくる。 まぁ、エラーをそのまま放置して飛び続けているのだ、そんなことは当たり前だ。 そして、最悪のタイミングで脚部ブースターが壊れる。 再度接近して攻撃を仕掛けようとブースターにエネルギーを送り込んだ瞬間、爆発。 一応福音には向かっていくが、片足のブースターが壊れたためかうまく操縦できない。 スピードも遅くなり、ここぞとばかりに弾幕が集中する。 方向転換しようにも、ブースターを収納しなければならず、そんなことをすればスピードが落ち余計にハチの巣にされる。 俺は一か八かかの賭けに出ることにした。 エネルギー消費が激しいため最大加速まではしなかったのだが、一気に最大までもっていく。 それによりスピードが上がり、一気に弾幕を突っ切る。 それすらも予想の範囲内ということだったのか、福音から砲撃が発射される。 だが、俺はそれを真正面から盾で受ける。 この盾も改良に改良を重ね、あの時の無人機の砲撃も数分単位で耐えられようになったのだ。 それを構え真っ向から近づく。 福音は砲撃をやめ、迎撃態勢だが俺はそこで盾を離し宙返り。 そのまま、
「本命は、こっちなんだよ!!」
煙も晴れ、よく見えるようになった福音の頭にとっつきを振りかぶるが、すんでのところで弾かれてしまう。 だが、頭のバイザーなのだろうか、そこにひびを入れることができた。 だが、その腕も捕まれ。 翼に包まれ、そして。 無数の衝撃と共に閃光に包まれる。 ようやく視界が戻った時には、俺は落下していた。 機体はダメージレベルDにちかいCで、展開しているが奇跡的な状態だ。 シールドエネルギーは一桁。 ・・・・・・ほんと、よく残ったよな。 だんだんと福音が遠ざかっていく。 夕暮れの赤と青が混じった空と、どこか悲しそうに見える福音。 俺の見間違いかもしれないが、顎のふちに水滴のようなものが見えた
『オ.......イ。 オウ......シロ!!蒼海!』
織斑先生の声が聞こえた。 だから俺は
『すみません織斑先生。 あと、簪と本音にごめんと......』
これ以上言葉にならなかった。 俺は海に落ちる。 さっきまでは明るかったのに、もはや真っ暗だ。 俺はそっと意識を手放した
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第六十八話 決戦、シルバリオゴスペル Ⅳ
目が覚めれば、不思議なところにいた。 立ってはいるが、感覚はなく浮いているのか立っているのかわからなかった。 下を見れば青い地面。 いや、少し足を動かすと波紋みたいなものが広がった。 ということは水の上に浮いているようだが、俺は何時から波紋使いになったのだろうか。 軽いボケは置いておいて、目的もなく歩き続ける。 上を向いても、蒼が広がっている。 雲があるから、空というところだろうか。 まるで飛んでいるときの景色のようだが、あいにく俺は相棒なしには飛べない。 ひたすら歩き続けるが、何もなく同じ景色のところを延々と歩いている。 何が目的で俺を閉じ込めているのやら...... 少し休みたくなった俺は、切り株に腰を下ろす。 いや、待て。 なぜこんなところに切り株があるんだ? 歩いているときは何もなかったはずなのに、俺が休みたいと思った瞬間にこの切り株はあった。 よくわからない
「こういう形では会いたくなかったですが、ようやく会えましたね」
気配も何も感じなかったのに、気が付けばその少女はそこにいた。 声を聴くと懐かしさを感じるとともに、毎日会っているかのような気やすさを感じるような声だ。 と言うよりも、まえに、どこかで?
「不思議そうにしてますけど、覚えていませんか?」
顔を上げれば、優しそうな雰囲気をした青い髪の少女がこちらを見ていた。 覚えていないかと問われれば、覚えていない。 覚えていないはずなのだが、いろいろな感情がごちゃ混ぜになり、答えが出ない。 でも
「君は...... この前の夢の?」
口が勝手に動いていた。 この前の夢、学園が未確認機体に襲われて、俺が意識を失ったとき朧げだが夢で見たような気がする。 いや、思えばその前の不思議な声も、ラウラさんを救ったときも聞こえていたような気がする。 俺がそう言うと、少女は驚いたようだが、すぐに笑みに変わる
「まさか覚えているなんて、嬉しいです」
本当にうれしそうに笑う少女につられ、俺まで笑顔になる。 だが、その平穏も長くは続かなかった。 どこかからか、泣き叫ぶ声と戦闘音のようなものが聞こえてくる
「これは?」
「福音と、貴方の仲間の戦闘です」
言われて思い出す。 俺は福音にやられて海に落ちたわけだが、その時に意識を手放している。 とすると、ここは死後の世界かなんかだろうか? それにしては、
「戦闘って...... みんなは撤退したはずじゃ」
「はい。 貴方の最後の通信の後、皆さんは作戦を練るために待機を命じられてましたが、いてもたってもいられず、補給完了と同時に無断で出撃を」
「いや、それはまずいでしょ......」
総司令は織斑先生だ、帰ったらまずいことになりそうだが...... 少し帰った時の想像をすると、寒気で体が震える。 だが、少女は意外なことを言い始めた
「貴方のため、なんですよ?」
「どういうことだ?」
「最後の通信、ノイズが混じっていたのは機体のダメージが超過しすぎたため。 その状態で海に入ったんですから、反応はロスト。 でも、福音がいるから海域封鎖のため教師部隊の派遣も出来ない。 時間がたてばたつほど、貴方の状態はまずくなる。 だから命令を無視してまで、貴方を救いに。 福音を倒しに来たんです」
「・・・・・・」
自体は思ったよりも深刻だったようだ。 無断出撃も俺を探すためと言うと、怒ることもできないし。 みんなの気持ちに感謝しつつ、俺は立ち上がる。 そんな俺を不思議そうに見る少女
「どうしたんですか?」
「みんなが俺のために頑張ってくれているなら、俺はこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。 一刻も早く脱出してみんなを安心させないと」
「今の状態で福音の前に出れば、死にますよ?」
確かにそうだ。 左腕は折れ、体の所々傷ついている。 相棒もボロボロ、そんな中戦場に飛び出せば死ぬのは確実だ。 でも
「アイツ等が俺のために頑張ってくれてるんだ、ここで無理しなきゃ男じゃない。 ・・・・・・それに、福音が泣いていたような気がしたから。 泣いてる奴がいるなら、泣き止ましてやらなきゃダメだろ?」
そう笑いかければ、びっくりしたような顔をしたが、すぐに笑顔になる
「・・・・・・貴方は、変わってますね」
「そうか?」
「はい!質問です。 貴方は、何のために力を欲しますか?」
「何のために、か......」
いきなりの質問。 だが聞いてきた少女は真剣そのもので、茶化す雰囲気ではない。 何のために力を欲するか...... そんなもの決まっている
「大切な人を、いや...... 大切な人たちを守るために。 最初はさ、相棒でただ飛べるだけでよかった。 それが夢だったし。 でも、その過程で戦って、勝って、負けて。 競い合って、互いに高め合って。 そして、大切なものも出来た。 いろんな人に手伝ってもらって、強くはなれた。 だからそれを、大切な人たちを守るために俺は力を欲する。 ある人が言ってたけど、どんな理不尽も跳ね返すほどの力を。 それに、飛んでるうちにさ、宇宙にも興味が出てきたんだ。 だから、相棒をISを本当の意味で使えるように、俺はしたい」
「ふふっ、やっぱりあなたは思っていた通りの人なんですね」
本当に楽しそうに笑う少女。 そして、俺の意識が混濁し始める
「これ、は?」
「目覚めの時です」
どこか寂しそうに言う少女。 あぁ、そう言えば。 前もこんな感じになって、目覚めたような気がする。 そう言えば、まだこの少女の名前を聞いていない
「君の、名前は?」
「名前ですか? 名前はないですね。 コアに付けられたナンバーならありますけど」
そう言って苦笑する少女。 そこまで聞いて、俺はようやく少女の正体を知った。 いや、思えば俺と俺のISである相棒しか知らないようなことを言っていた。 ヒントは出されてたのに気が付かないとは、不覚だ。 だが、ならばだ。 なら、こんな寂しい空間に相棒を残しておくわけにはいかない。 混濁する意識の中、俺は必死に
「手を、だせ!!」
「手を、ですか?」
不思議そうに手を出す青い少女の手を握り、こちらに引き寄せる
「お前を、追いて行ったりはしない。
「っ!? はい!!」
弾けんばかりの笑顔、俺はそれをまぶしく感じながら。
「お前は今日から青だ。 安直かもしれないが、今日からそう名乗れ」
「はい...... はい!!」
青は嬉しそうに笑う。 瞳に涙をためながら。 そろそろ意識が限界だ
行くぞ、青
はい、翼!
俺の意識は真っ白になった
--------------------------------------------
『翼、翼!起きてください!』
頭の中に少女の声が響く。 その声に起こされるように、体を起こす。 状態を確認しようと顔に手をやるが、固い感触がする。 そこで気が付いたが、どうも装甲の形状が違う。 それは腕だけでなく、全身だった。 濃紺だったカラーリングは青を基調としたトリコロールカラーになり、かなり見覚えのある機体だった
「この機体......」
『翼が自分用に設計図を引いていた、翼のための
やはりそうのようだ。 武装欄を確認すれば、そのままの名前が載ってるし。 まぁ、ぶっつけ本番になるが
『私と翼なら大丈夫です!』
「あぁ」
体のいたるところにガタが来ているようだが、それでも無理やり立ち上がる。 ウイングスラスターを点火すれば、周囲に泡が立ち込める
「ウイングゼロK、蒼海翼」
『青』
「『行く!』」
そのまま勢いよくスラスターを吹かせば、一瞬で海上に出る。 どうやら所々に損傷はあるようだが、みんなは無事のようだ。 俺はそれをわき見しつつ、意識を福音に向ける
「さて」
『泣いてる子を泣き止ませに行きましょう!』
俺はウイングスラスターからビームサーベルを抜き去り、福音に突撃する
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第六十九話 終了、シルバリオゴスペル
ウイングゼロKはまんまウイングガンダムゼロ(EW)です。 武装欄は少し違いがありますが、ほぼ見た目に差異はありません。
今までの苦労は何だったのだろうかと言うほど、福音に接近する。 性能が上がったというのもあるが、装甲が硬い。 たとえ砲撃が来ても、ウイングスラスターを防御に用いれば無傷で耐え抜ける。 だが、福音もそう簡単に攻撃当たってくれない。 リミッターがかけてあるとはいえ、ツインバスターライフルは論外だ。 他の射撃武器と言えば、メッサーツバークか、肩に搭載されているマシンキャノンがあるが。 メッサーツバークとマシンキャノンを併用して使っていくことにする。 腰のあたりから伸びたサブアームにあるメッサーツバークを両手に持ち、射撃戦を開始する。 こいつの仕様上一発づつしか撃てないのがネックだが、そこはマシンキャノンで牽制しつつ撃つ。 流石にマシンキャノンはビーム攻撃に消されるが、こちらがメッサーツバークを撃てば、福音のビーム攻撃はかき消される。 えぇ...... 威力高すぎちゃう?
『でもこれ、翼が設計図引いて、プログラムなんかも翼が使っていたものをそのまま使ってるんですよ?』
悲報、原因は俺だった件について。 まぁ、そもそも威力測るなんてこと出来るはずがないですからね。 そもそも、ネタガチ問わず色々なもの設計図引いてたし。 そんなことを考えつつ、福音にダメージを与える。 異常な出力や、セカンドシフトして上がった性能ですら、俺と青の力にはついていけないらしい。 だが、何事にも限界がある。 いくら生体維持機能と呼ばれる最終防衛ラインがあっても、元々受けていた傷などは治らない
「ぐっ!?」
『翼、これ以上の戦闘は!』
「でも、これは声が聞こえる俺だからこそできる仕事だ。 青、どうにかならないか?」
『一つだけ、一つだけこの戦闘を早期に終わらせる事ができます』
そして目の前に表示されるのは、
「青、ワンオフ使用だ」
『了解、コードZERO。 ゼロシステム、発動します』
その瞬間、思考がクリアになり、体が軽くなる。 同時に各部の装甲が展開され、排熱が始まる
『その体だと、持って数分です。 それまでに』
「あぁ、福音のコアを救い出す!!」
両手に持っているメッサーツバークを連結させ、ドライツバークにする。 ここで収束砲にしてもいいが、ゼロによる補助で計算すると余裕で福音を焼き払うことになることが判明した。 なので砲撃は行わず、増えた砲門で個別に射撃をしながら接近していく。 機動性も上がったためか、割とすぐに接近。 格闘攻撃を仕掛けてくるが、こちらもドライツバークを離し、殴る。 拮抗したように見えた拳は、そんなこともなく、出力が上がっている俺はそのまま福音の右腕を破壊する。 これには福音も驚き逃げようとするが、反対側の腕をつかみ逃がさない
「青、コアの位置は?」
『胸の中央です!』
青の指示の元、胸部の邪魔な装甲を剥がせばISのコアが見えた。 それを引き抜こうとすれば、福音は抵抗を見せる。 俺を翼で包み込み攻撃しようとしているが、それよりも先に福音を離し自分の翼で俺を覆う。 さっきは一瞬の事だったが、翼内で絶えず攻撃しているようだ。 その攻撃がやむまで、俺は青と話をする
「なんでこんなに激しい抵抗を? 俺が怖いとかなら仕方ないが」
『そう言うことじゃないと思います。 暴走事件を起こしたともなれば、そのコアは封印、一生使われないと思います。 この子、福音のコアは空を飛ぶのが好きだったみたいですから......』
それっきり黙ってしまう青。 空を飛ぶのが好きなISか...... それは必死に抵抗するわな。 今この瞬間も、福音は攻撃を続けている。 いや、攻撃長すぎちゃう?
『・・・・・・救い出すって言いましたけど、私たちはどうすればいいんでしょうか? このままこの子を捕まえたら、この子は一生空を飛べません。 でも捕まえなかったら、被害は拡大する一方です』
青の悲しそうな声に俺は
「なぁ、青。 俺とお前が出会った場所に、福音のコアは引き込めるか?」
『あの世界にですか? 現実じゃない夢みたいな空間ですから、引き込めないことはないと思いますけど......』
「なら決まりだな!」
ウイングスラスターからマルチビットを射出し、福音に向かわせる。 すると翼の攻撃は止み、俺は福音のコアをつかむ
「青!」
『はい!』
青に声をかければ、俺の意識は混濁していく。 そして目が覚めれば、あの空間。 空と海がずっと続く空間だ。 周りを見れば、青とすぐ近くに銀髪の泣いている少女がいた。 たぶん、泣いているあの少女が福音んだろうか? 俺が近づくと、何故か青の後ろに隠れた
「何故?」
「えーっと、多分ファーストコンタクトが悪かったんですよ」
苦笑しながら説明してくれる青。 第二ラウンド開始する少し前、俺がとっつきを当てたところだろうか。 その衝撃で正気に戻った福音のコアだったが、目の前にはとっつきを持った俺。 パニックになった隙にまたも正気を失い、あのエネルギー上昇と言うわけだ。 それで次に目が覚めた時には海の中で、嫌になりセカンドシフトしたというわけだった。 はっはっはー...... 全部俺のせいじゃないか。 落ち込む俺に肩をたたいてくれる青。 その優しさが身に染みる...... 気を取り直しつつ、福音のコアに話しかける
「えっと、その、怖い思いをさせてすまなかった......」
「・・・・・・」
瞳に涙をためながら、コクコク頷く福音のコア。 これ、かなりダメージがあるんですが...... 青を見れば、福音のコアに話しかけてくれるようだ。 ・・・・・・俺から少し離れたところで。 こちらをちらちら見る福音のコアにダメージを負いつつ、話が終わるのを待つ。 すると
「ごめん、なさい......」
何故か謝られた。 ここで、助けて青を発動する!すると、青は解説してくれた。 気が動転していたとは言え、俺を撃墜したことを悔やんでいたようだ。 だから謝ってくれたらしい。 その行動に俺は思わず、福音のコアの頭をなでる。 俺の手が出た時点で体をビクつかせ、頭に乗るとガタガタ震えたが、そのままなで続けると徐々にだが震えが収まってきた
「そう言えば君にも名前がついてないの?」
「・・・・・・」
無言でコクコク頷く福音のコア。 まぁ、青の話によればこうやってコアの人格と話をするなんて、ほとんどいないらしい。 そもそも、コアにナンバーはついて入るが名前なんかあるはずがないとのことだった。 でも名前がないと不便だし
「ベル」
「?」
「お前の名前だよ」
「ベル、ベル......」
どうやら気に入ってくれたようだ。 さて、ここからが本題だ
「なぁベル、お前が良かったら俺達と一緒に来ないか?」
「どういうこと?」
「お前のコアはたぶん、今回の事もあって凍結処分になると思う。 そうなったらもう空は飛べないし、これから先起動することもないかもしれない。 でも、そんなのはかわいそうだからさ。 さっき言ってたけど、正気に戻ったっていうことはどっかからハッキングなりをして、操られてたってわけだろ? それならお前も被害者だし、俺達と一緒に来れば空を飛べる。 悪い話ではないと思う」
俺の言葉に考え込むようなベルだが、やがて
「本当にできるの? 私はもう一度、空を飛んでもいいの?」
そう、俺に尋ねてきた。 その不安そうな瞳に俺は
「大丈夫だ。 な、青」
「た、多分!」
青も不確定みたいだが、一応は返事をくれる。 その様子に
「あり、がとう!」
泣きながら答えるベル。 もうそろそろ時間なのか、また意識が混濁し始める
「それじゃあ青、何とか頼む」
「任せて下さい!行きましょう、ベル!」
俺と青、それにベルは手をつなぎ意識を手放す。 次の瞬間、場面が切り替わったかのように福音が目の前に。 だがその動きは停止し、動きそうもない
「青」
『これで!』
『わわ』
聞きなれた声が聞こえた。 どうやら成功したようだ。 安心したのも束の間、専用機持ちのみんなが俺をとり囲む
「翼君、だよね?」
唯一、設計図を見せたことがある簪さんは俺のことが分かっていたようだ。 ウイングゼロKはフルスキンなので顔まで隠れてしまうのだ。 俺はゼロシステムを切り、顔の装甲だけ収納する、すると
「翼君!」
「翼!」
「蒼海君!」
鈴さんとオルコットさんを除く、三人が俺に抱き着いてきた。 俺はそれを受け止めながら、徐々にだが意識が薄れていく
もう、ここら辺でええやろ? 満足やろ? (小声
そんなわけで、福音戦終了です。 それと、活動報告にてこの作品についての大事な話がありますので、皆さんお手数ですが意見をください
それでわ、感想評価お願いします
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第七十話 目が覚め、散歩をすれば......
ふと、目が覚めた。 周りを見渡せば、誰もおらず。 だが、見覚えがある部屋だった。 周りが暗いところを見れば、夜、なのだろうか? まさか福音戦は夢だった? なんて、淡い幻想を思い浮かべてみたが、痛む左腕に、全身の痛み、そんなものたちが嫌でも現実だと教えてくれた。 痛む体にムチ打ちながら、体を起こす。 やっぱり無理は禁物だな。 音が鳴った左腕を見れば、鐘に天使の羽のようなものが付いたブレスレットが。 あぁ、青たちの待機状態か
『そうですよ。 こんな時間ですが、おはようございます翼』
『おはよう』
『あぁ、おはよう』
青たちと話していると、少し外の空気が吸いたくなった。 ばれないように抜き足差し足で、窓からの脱出をはかる。 まぁ、寝込んでいたのに監視はついていないようで抜け出すのは安易だった。 俺は砂浜を歩きつつ、青たちに話を聞く
「それで? 俺は何時間くらい寝てたんだ?」
『翼が意識を失ったのは大体明け方、そこから旅館に帰還して、処置やもろもろを受けたわけで。 気絶した時間を考えれば、半日以上は寝ていた計算になります』
「そんなに、か......」
『簪たちも、ISのみんなも心配してた』
「うげ......」
ベルからの言葉に、思わず苦い顔になる。 本音さんと待っててくれとか言いつつ、最後の通信で簪さんに謝ってくれとかやばすぎちゃう? てかそもそも、死にそうになったのすら知ってるわけで。 これは、簪さんと本音さんが一緒にお話コースですわ。 あ、胃が痛くなってきた。 思わず腹を抑えるが、症状が一向に良くなることはない。 病人ということを甘く見ていたのか、意識がもうろうとしてきた。 失うというほどではないが、少し休まないと本格的にまずそうだ。 なので休める所を探していると、話声が聞こえてきた
「とある天才が、大事な妹を晴れ舞台でデビューさせたいと考える。 そこで用意するのは、専用機とどこかのISの暴走事故だ。 暴走事故に際して、妹の乗る高性能機を作戦に組み込む。 妹は華々しくデビュー」
「すごい天才がいたものだね」
大きな声でもないのに、それは聞こえてきた。 話声から織斑先生と篠ノ之束博士のようだが、今のが本当なら......
『『翼......』』
その声にハッとし、手を見てみれば、いつの間にかこぶしを握っていた。 それを苦笑しながら、力を抜いていると、衝撃の話が聞こえてきた
「あぁ、とんだ天才もいたものだな。 かつて12か国の軍事コンピューターをハッキングした、とんだ天才がな」
それを聞き、俺は衝撃が走った。 12年前? 軍事コンピューターをハッキング? そんなもの、思い当たるのは一つしかない。 白騎士事件、ISが初めて世に出た事件だ
『なぁ、青、ベル。 今の話は本当なのか? お前たちの生みの親が、篠ノ之束があの事件を引き起こしたのか?』
『・・・・・・』
ベルは答えなかったが、青は答えてくれた
『詳細は分からりません。 白騎士はいるけど、
『そうか......』
その事実にいったんは頭が冷えた。 織斑先生と篠ノ之束博士の会話を聞くことにした
「ねぇちーちゃん、今の世界は楽しい?」
「そこそこな」
「そうなんだ」
そこで嫌な予感がした俺は、声をかけることにした
「篠ノ之束博士はどうなんですか?」
「蒼海、お前......」
織斑先生がこちらを見るが、気にしない。 俺は篠ノ之束博士の目を見ていた。 真実を見逃さないために
「イレギュラー君」
「再度質問します。 篠ノ之束博士は今の世界が楽しいですか?」
「・・・・・・」
沈黙する篠ノ之束博士。 だが、視線はこちらを外さない。 その目は昼間のように冷たくはなく、答えを言っているようなものだった。 楽しくない、楽しいはずがない。 そう、言っていた
「おい、蒼海、体は大丈夫なのか?」
「いや、ぶっちゃけ立ってるだけでもきついですが、今はそんなこと気にしてられないです。 篠ノ之束博士、さっきの織斑先生との会話を聞いてました。 そのうえで、質問します。 白騎士事件もそうですが、福音の暴走事故、それを起こしたのも貴女ですか?」
これは真面目な質問だ。 もし、起こしたのがこの人なら、それは俺は許せない
「・・・・・・」
否定も肯定もない。 俺も篠ノ之束博士も視線をそらさないが。 篠ノ之束博士は耐えきれないのか、視線をそらした。 その瞬間、俺は何かが切れそうになったが、必死にこらえる
「だったら」
「あん?」
「だったら何だっていうのさ」
次に視線を合わせた時、昼間のような無表情をしていた。 その瞬間、俺の中で何かが決定的に切れた。 気が付けば、俺は篠ノ之束博士に詰め寄り、肩をどついていた
「蒼海!!」
「だったら? だったらって言ったか!?アンタは
俺は待機状態になった青とベルを見せる。 それでも、篠ノ之束博士の表情は動かない
「なのに、それをそんなくだらないことに使って、何迷惑かけてるんだよ!!こいつらに意志をつけたのはアンタだろ!?こいつらだって、何かを想い、大事にしてるんだよ!!福音のコアは、ベルは空を飛ぶのが大好きだった!だがアンタは、その空を奪ったんだぞ!!」
「だったら...... だったらどうすればよかったのさ!!世界のゴミどもはISを認めなかった!だから私は白騎士事件を起こした!ISを、子供たちを認めさせるために!!でも結果はこうだよ!毎日毎日、コアネットワークに接続しては、悲しいことばっかり!どうすればよかったのさ!教えてよ!!」
今度は逆に押し倒され、馬乗りになられる。 左腕が痛みを訴えるが、それを無視する。 ここで引いてはいけないから。 ここで引けば、同じことが繰り返される、そんな気がするから
「甘えんな!!一回認められなかったからって、そこでアンタは諦めた!アンタは俺ら凡人より頭がいいんだろ!!ならその頭で考えろよ!あんなことすれば、軍事利用されるに決まってるだろ!!一回で諦めずに、小さなことからコツコツやればよかっただろ!そうして認められれば、少なくとも今よりはましだったはずだ!!アンタは逃げたんだよ、ISから、子供と言ってる存在から!アンタの発言なら、多少はもうちょっとましな現実になったはずだ!!アラスカ条約だって、ちゃんとしたものになったはずだ!!」
「・・・・・・」
その言葉に、篠ノ之束博士泣くだけだった。 声も上げずに、うつむいたまま。 そして俺は、それを見て頭が冷えた。 まぁ馬乗りになられてるわけで、上を向けば当然見えるわけで...... 罪悪感がパないんですけど...... とりあえず
「過ちを気に病むことはない。 ただ認めて、次の糧にすればいい。 それが、大人の特権だ。 アニメの中のセリフですが」
「え?」
「篠ノ之束博士は自分がしでかしたことの大きさを、理解してると思います。 なら、そのしでかしたことを認めて次に生かせばいい。 一回駄目なら二回でも、二回で駄目なら何回でも。 頭のいいやり方は言えませんけど、辛抱強く宇宙への道を示せばいい。 貴女になら、それが出来るはずだ。 なんせ、ISっていう素晴らしい翼を開発したんですから」
「っ!?」
その俺の言葉を受けて、篠ノ之束博士は決壊したのか、俺に抱きついて泣き始めた。 いやあの、腕が...... 織斑先生に助けを求めるように見るが、何もしてくれない。 鬼、悪魔、千冬!! ヒィッ!? 睨まれた。 それから仕方ないとばかりにため息をつき、ようやく篠ノ之束博士を引きはがしてくれた
「いい加減にしろ束」
「うぅ、グスッ...... ごめんちーちゃん」
「ちーちゃんやめろ」
なんか漫才してるけど、何なんだろうか? 俺は帰ってもいいかな? そんなことを考えながら、服に着いた砂を払う。 それと、腕どころか全身が痛い。 早く帰って休みたい
「おい蒼海。 今回、ここで聞いたことは他言無用だ」
「いや、喋っても何を荒唐無稽なことをなんて言われるのがオチですよ? 喋るつもりはないですけど」
「ならいい」
それだけ言うと、話は終わったといわんばかりに腕を組む織斑先生。 俺は帰ってもよろしいのだろうか? そう思っているのだが、何故か頬を赤らめながら、こちらをチラチラ見る篠ノ之束博士。 いやー、なんかすごく嫌な予感がしたので帰りたい。 織斑先生に視線を向ければ、何故か睨まれた
「おい束、言いたいことがあるなら言え。 私としても、このバカ者を早く休ませねばならないからな」
「えぇ!? そんないきなり......」
馬鹿者と言われたでござる...... 俺がショックを受けていると、何やら織斑先生と篠ノ之束博士が話している
「乙女か貴様は」
「ま、まだまだ乙女で通じるもん!」
「はぁ...... もういいから、早くしてくれ。 実際、こいつは福音戦のせいで体がボロボロなんだ、早く休ませたいのは本当だ」
「わ、分かったよ。 えーっと、イレギュラー君...... ううん、なまえ、教えて?」
「え? あぁ、はい。 蒼海翼です」
「ならつっくんだね!」
俺の名前が知れただけで、嬉しそうに笑顔を浮かべる篠ノ之束博士。 ほんと、どういうこっちゃ? 織斑先生はヤレヤレと頭を振ってるし
「束」
「はいはい。 その、もし私がまた宇宙を目指したいっていったら、手を貸してくれる?」
「はぁ、まぁ、全然手を貸しますけど。 こいつらだって、宇宙に行きたいって言ってますし」
「うん、うんうん!ありがとつっくん!」
「ぎゃー!?」
思いっきり飛びつかれ、俺の腕が悪化したことは言うまでもない
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第七十一話 解放
抱擁二回目を受け、俺が悲鳴を上げた後、数分間抱き着いていた束さん(こう呼べって言われた)。 引きはがしてくれたのはいいのだが、すげー呆れてたからね織斑先生。 それで準備があると言て帰って行った束さんだが、また後でねとか言っていた。 なんか織斑先生と話していたが、織斑先生が絶望的な表情を浮かべていたのがすごい印象的だった。 そんな絶望的な表情を浮かべていた織斑先生だったが、旅館に着くころにはある程度回復していた。 俺がそのまま部屋に帰って寝ようとしたら
「バカか貴様は。 その恰好で寝るつもりか? そんな薄汚れた格好で? 特別に許可をやるから、その薄汚れたネズミみたいな恰好を何とかしてこい」
と、何時もより悪口マシマシなお言葉を貰い、風呂にやってきた。 正直、脱衣所に来るまで泣かなかったことを誉めてほしいくらいだった。 正直言ってね、あんなに言うことないと思うんだ。 確かに馬乗りになられたり、押し倒されたりしたから汚れてはいたが、そんな心がボロボロになるまで言わなくてもいいと思うの。 さて、怪我をしたのに風呂に入っていいのかと言う諸兄もいると思うが、そこはノープログレム。 表面上の傷はちゃんとふさがっている。 残るは骨や、内部のダメージなので入浴自体はOKだったりする。 その骨とかも、学園に帰れば治療用のナノマシン投与するので問題ないらしい。 前回の学園襲撃時の時も、俺はナノマシン投与があったらしい。 まぁ、今回と同じで左腕やばかったしね。 そんなわけで、湯船につかっていると、また引き戸の開く音がする。 ま た か! 正直言って二番煎じだが、まぁ、今回は仕方ない。 死にかけたわけだし、簪さんや本音さんも怒っているだろう。 返事の件もなあなあになるところだったわけだし。 今回は甘んじて受けようと覚悟を決めたのだが、予想外の光景が広がっていた
「・・・・・・」
「「・・・・・・」」
おかしいなぁ、簪さんや本音さんはもちろんいるのだが。 そこにシャルロットさん、ラウラさんがいる。 うーん、見間違いであってほしかった。 これが正直な感想だった。 しかもラウラさんに至っては、一瞬だから目の錯覚かどうかわからないが、裸だったような気がする。 俺は背を向けたはずなのだが、それをいいことに何故か皆さんが湯船につかってきた。 しかも隣の簪さんと本音さんは俺の腕と足をホールドし、逃げられないようにする。 あー、よかった、俺の見間違いだったらいい。 ラウラさんはちゃんとバスタオルを巻いていた。 誰も、何もしゃべらない時間が続くがいい加減気まずい。 なので、俺から話かけることにした
「その、ごめん」
まずは謝ることにした。 織斑先生から旅館に帰るときに聞いたのだが、俺が一人になったあたりから通信が極端に取りにくくなったらしい。 一応、機体の反応から位置を割り出したりして、モニターはしていたのだが。 だが、福音にやられたあの時、俺の反応は消えたらしい。 しかも、バイタル等送っているものも消え、完全に反応が消失。 青の言った通り福音がいるため教員部隊は動けず、専用機持ちは拘束されている織斑、篠ノ之以外は全員無断で出撃したらしい。 そして俺はあの状況と言うわけだ。 だから俺は謝っている
「話は聞いた。 とっても心配かけた。 だから、ごめん」
「ごめんじゃ、ないよ」
本音さんは足の拘束を緩め、俺に抱き着いてきた。 その際左腕を全く気にせず突っ込んできたのでかなり痛かったが、それぐらい心配かけたのだと甘んじて受けた
「私、とっても心配したんだよ? 専用機持ちじゃないからろくに情報入ってこなかったし、帰ってきたと思ったらつばっちの姿だけないし...... ようやくみんな帰ってきたと思ったら、つばっちボロボロなんだもん!心配、するよ!」
それっきり泣きついて離れない本音さん。 俺はその泣いている本音さんをなでつつ、謝る。 次は簪さんだ
「約束、破ったね」
「何とか持ちこたえられてればよかったんだけど、左腕折れてたし、ブースターも片方エラー吐いてたからね、流石に無理だった」
「左腕もブースターもあの時からだったんでしょ?」
「あぁ......」
簪さんには何もかもお見通しらしい。 まぁ実際、バレバレだろう。 一応持ちこたえるつもりではいたけど、簪さんにKO-4H4/MIFENGと35ガトをを託していた時点で分かってたと思う。 だがそれでも、可能性をつなげるために簪さんはあの場から飛び去った。 かなりつらい思いをさせたと思う
「無理しないで、なんて言わない」
「・・・・・・」
簪さんは何かを決意したようだ。 目を見て居ればわかる。 だから俺は、何も言わずに聞くことにする、簪さんの決意を
「また同じような状況になった時、貴方は無茶をすると思うから。 前回の
「・・・・・・うん」
その言葉に嬉しく感じるとともに、不甲斐なく感じた。 簪さんがこう決心したのは、俺のせいだろうから。 俺がうまくやってればなんて思うが、一人でできることなんか限られている。 だから俺は、簪さんの意思を尊重した。 次はシャルロットさんだが、シャルロットさんは落ち込んでいた
「僕は、君の護衛なのに君を守ることができなかった」
「適材適所、あの場合は仕方なかったでしょ」
「それでも!それでも僕は、君を守り切れなかった。 恩は一杯受けてるのに、君には何一つ返せてないよ......」
悲しそうに言うシャルロットさん。 正直に言って、俺はピンと来ていない。 確かに俺は自分に被害が来るのは嫌だから、楯無さんに頼んで動いた。 だがふたを開けてみれば、実際にやったのは織斑先生と楯無さんだ。 なのに、シャルロットさんは俺に恩義を感じている。 わからないけど、でも今のシャルロットさんは嫌だった
「シャルロットさんが俺に恩を感じているとか、この際置いておく。 今回守れなかったって悔しいなら、強くなればいい。 俺はそうしてきた」
「・・・・・・うん、そうだね。 いつまでも落ち込んでる場合じゃない、か。 うん、ありがとう」
どうやら迷いは吹っ切れたようで、いつものように明るく笑うシャルロットさん。 そして最後はラウラさんだ。 ラウラさんはとても悔しそうな顔をしていた
「すまなかった、私の作戦の甘さで、お前には一番迷惑をかけた」
「さっきも言ったけど適材適所、仕方なかった部分もあるさ」
「そんなことはない!私は軍人でもある。 軍人は市民を守る義務がある。 なのに、お前を一番危険な作戦の要に置いた。 何の根拠もないのに、お前ならできると。 それが私は、たまらなく悔しいんだ。 お前の反応はロストし、事実上死んだも同然だ。 確かに時として仲間を見捨てる冷酷さも軍人には必要だが、そこまで行く前に何らかの手は打てたはずだ」
「ラウラさん」
俺はラウラさんの悲痛な叫びを遮る。 これ以上は聞いていられなかったからだ
「人一人ができることなんてたかが知れてる。 それなのにすべてできる何でいうのは、傲慢な考えだよ。 そんなもの捨てたほうがいい。 それに、俺は自分で考えていいと思ってラウラさんの命令に従ったんだ。 ラウラさんがそこまで責任を感じることはない」
「お前は、お前は優しすぎるんだ......」
そう言って泣きついてきたラウラさん。 流石に骨折していることもあり撫でられないが、抱き着いているだけで満足らしい。 全員ひとしきりいうことを言って、泣いてすっきりしたのか清々しい顔をしていた。 そんななか、本音さんが爆弾発言をする
「ねぇ、つばっち」
「ん?」
「その、告白の返事は?」
「・・・・・・」
明らかに空気がおかしくなる。 それは簪さん本音さんだけではなく、シャルロットさんとラウラさんもだ。 その空気にうかつなことが言えないと固まる俺だが、本人たちは待ってくれない
「翼君......」
「翼く~ん」
「蒼海くん」
「翼」
あー!あー!!お客様!お客様こまります!? 何でバスタオルをとって、迫ってきているんですか!? 理性が、理性がピンチですから!? あ、あー、あー!!
その日俺は、四人の彼女ができた
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第七十二話 学園に帰れば......
福音迎撃と言う予想外の事態があったものの、臨海学校は終了を迎えた。 帰りのバスの隣は、もちろん本音だ。 本人が譲らなかったのもあるが、他の奴らが譲ったというのもある。 まぁ、その譲ったやつらも、前とか後ろの席にいるんだけど。 俺がボロボロになって帰ってきたのを見かけていた生徒がいたらしく、バスに乗ると同時に質問攻めにされたが、山田先生や他の専用機持ちが
「話すのはいいけど、自分たちも行動の制限が付きたいのか」
と言う問いに対し、質問攻めは沈黙を見せた。 さて、作戦無視をした織斑だが、顔を腫らしながら俺を睨んでいる。 どうやら、帰ってくると同時に織斑先生から手厚い歓迎を受けたようだが、興味がなかったので詳しくは聞かなかった。 ただ、今も青あざが残っているところを見ると、かなり手厚い歓迎を受けたんだろう。 それで、俺を睨むのは逆恨みだと思うが。 しかも、どうやって知ったか知らないが、今回の織斑の攻撃が失敗したのは俺のせいらしい。 本当に、どうやって知ったんですかねー。 大体の想像はついて入るが。 まぁ、そのおかげで織斑派の女子たちが睨んでくるが、平常運転だ。 表立って何かをやってくることはないしね。 こうして学園に帰っているわけだが、学園に帰っても俺のやることは多い。 まずは腕の治療。 それと並行して、今回の作戦の事情聴取。 それが終われば、ウイングゼロKの解析が始まる。 ウイングゼロKなのだが、第二形態と言い難いらしい。 姿かたちは変わることもあるらしいのだが、俺の場合ラファールリヴァイヴからウイングゼロKと言う全く別の機体に変わっている。 もっとも、前にも話したと思うがセカンドシフトは世界でもごく少数しか確認されてなく、こういうこともあり得ないとも言い切れない。 まぁ、だから解析と言う形になっているのだが。 このことを青とベルに聞いたのだが、情報をやるつもりはないとのこと。 まぁ、メッサーツバークだけでも、威力面を見れば他のISを軽く凌駕しているのだ。 下手にデータを渡して、量産なんかされたらたまったものではない。 これに関しては、プログラム関連をジェイルさんと見直すことが決定している。 ・・・・・・そっちのほうが心配と言えば心配だが、まぁきつく言っておけば大丈夫だと思う。 最終手段として、織斑先生けしかけるといえば大丈夫だろう。 そんなわけで、リミッターをかけてもなおツインバスターライフルとメッサーツバークはお蔵入りになるだろうことが決定しているので、新しいライフルの製作を依頼することにする。 そんなわけで、半場学校に帰った後も、俺の予定は決まっていた。 事情聴取にしても、ISの解析にしても織斑先生が付いてきてくれるそうなので、心配はないと思う。 いざとなれば、青とベルも対応してくれるというし。 そのもしもが来なければいいけどね。 大半の生徒は疲れているのか眠ってしまっているので、俺も眠ることにする。 お休みなさーい
--------------------------------------------
学校につけば黒服さんたちがお出迎え。 いやー、びっくりした。 すぐに簪さんや本音さん、シャルロットさんやラウラさんが俺の前に出てくれたけど、今回の事情聴取に来たお役人さんだったようだ。 なので、作戦にかかわった全員、もちろん織斑や篠ノ之も一緒に、学園の応接室に連れてかれた。 それからは事情聴取と言う名の取り調べ。 主に、俺にだけど。 なんというか、黒服の質問があからさまに俺の相棒、つまりセカンドシフトしたウイングゼロKのことについての質問だった。 もちろん、すべての質問に黙秘してやったけど。 お役人も諦めなかったが、一応は仕事ということで、今回の事故についての聞き取りも行われた。 そこらへんはありのまま起こったことを話すだけなので、織斑先生が総司令としてすべてを話していた。 学園側も政府側の人間がいるのがあまり好ましくないのか、仕事が終わればすぐに追い出す始末。 そんなわけで予定は多少前後してしまったが、腕の治療が行われる。 と言っても、治療用のナノマシン投与なので特に何かがあったわけではない。 いや、なんか医者が見覚えある人だったけど、多分違うと思う。 織斑先生も頭を抱えてたけど、違うはずだ。 そして次は、ウイングゼロKの解析なのだが。 あぁ、やっぱり知っている人だった......
「やっほー!さっきぶりだねつっくん!」
「あぁ、はい...... 束さん」
篠ノ之束博士、本人が何故かIS学園に居た。 いつもの整備棟ではなく、地下に行くあたりおかしいと思ったのだが。 ちなみに、この地下区画限られた職員しか入れないはずなのだが、俺はさっきパスを貰った。 いやー、どういうことなのでしょうか? 理解したくないけど、本能的にわかってしまう
「それじゃあ、ウイングゼロKの解析を始めよっか」
「おい束、何ナチュラルに私を無視してるんだ」
「あはっ!ごっめーん!」
ペコちゃんのように舌を出す束さんに、織斑先生は我慢ならなかったのかアイアンクロウを炸裂させていた。 なんか織斑先生からなってはいけない音と、束さんが痛がっているが気のせいだろう。 てか、そう思わないとやってられない
『大変なことになりましたね......』
『ほんとに、そう思う......』
『はぁ......』
青とベルも呆れた感じだ。 流石に束さんが口から泡を出し始めた時点で止めたが、織斑先生は不満げだった。 いや、これ以上やったら死にますから束さん。 そんな束さんを無視し、織斑先生は無慈悲にも質問する
「おい束、なぜおまえがここにいる。 あの時似たようなことは聞いていたが、こんなに早いとは思わなかったぞ」
「ちーちゃん、この状態で聞く? まぁ、答えるけどさ......」
涙目で織斑先生を睨みながら、立ち上がる束さん。 一応、今回は真面目な雰囲気だ
「簡単に言えば、悪の科学者束さんは改心した!って感じかな!」
全然そんなことなかった。 まぁ、織斑先生の一睨みで真面目な雰囲気に戻ったが
「恥ずかしい話だけど、つっくんみたく私のこと本気で気にして怒ってくれた人っていなかったからさ...... だからかな、私の心に届いたのは。 今まではどうにでもなれと思ってたけど、もう一度だけ頑張てみようかなって。 昔みたく、ちーちゃんに手伝ってもらって宇宙を目指していたころみたく。 私が逃げたせいで
そう言いながら、俺のブレスレットを労わるように撫でる束さん。 その表情に嘘はなく、瞳も真剣だった。 そして、その真剣な瞳を俺と織斑先生に向ける
「だからお願い!私の手伝いをしてほしいんだ!
頭を下げる束さんに
「俺でよければ、もちろん!」
「ふっ...... とんだ寄り道をしたものだな、お前も、私も」
俺と織斑先生は、手を差し伸べる。 もちろん
『そう、ですね。 私も宇宙を見てみたいです、ベルや翼と一緒に!』
『お母様のしたことは許せないけど、でも...... また空を飛べるなら、手伝ってもいい』
青もベルも、歩み寄る
「・・・・・・うん、うんうん!あり、がとう!!」
泣きながら俺たちの手を取る束さん。 こうして、宇宙への道が再び踏み出され始めた
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第七十三話 学園に帰れば...... Ⅱ
うれし泣きをした束さん。 それを泣き止ますのに思ったよりも時間がかかってしまい、俺は寮の門限の時間になってしまった。 一応寮長である織斑先生が一緒のため、過ぎても問題ないのだが織斑先生の
「ここで私だけ帰ったら、お前が何をするかわからないからな」
という鶴の一声ならぬ、鬼の一声によりそのまま青とベルを置いて俺と織斑先生は帰ることになった。 いや、うん。 多分あのまま二人きりにされたら、食べられてたと思う性的な意味で。 そんなわけで織斑先生に感謝しつつ、寮に帰っている。 ちなみに束さんだが、IS学園のセキュリティー最深部にいるため、ごく少人数の学園の人間には存在が知られているらしい。 これは国際IS委員会にも知られているらしくて、身柄を明け渡すように言われてるらしい。 学園側も、束さんも拒否してるらしいけど。 理由を聞けば
「うん? 何で私の夢をこんな形にしたやつらの言うことを聞かなくちゃならないの?」
と、もっともらしいことを言っていた。 まぁ、今までどこにいるかわからなかった束さんが、IS学園にいるということが分かってるからいいのだろうけど。 なんか、今回の福音の事件で俺の周りが一気にやばくなったが、どうしましょう。 そこらへんは、明日あたりでも楯無さんと織斑先生と要相談、ということで
「ほら、寮に着いたぞ」
「あぁ、ようやく......」
昼頃に到着して、もう夜になっている。 本当に長く拘束されていたものだ。 なんか二、三日寮を空けていただけなのに、久しぶりに帰ってきた感覚だ。 寮に入ろうと一歩踏み出すと、織斑先生が声をかけてきた
「蒼海」
「はい、何でしょうか?」
「今回の件、ウチの愚弟がすまなかった」
そう言って頭を下げる織斑先生。 正直な話、織斑先生に頭を下げられても困る。 織斑先生は家族として頭を下げているのだろうが、これは当人同士の話だ。 いくら家族と言えど、正直な話口を出してほしくなかった。 まぁ、織斑先生もそこらへんは分かってると思うけど
「頭を上げてください」
「・・・・・・」
申し訳なさそうな顔の中に、やはりだめだったかと言う感じがある。 やはりわかってはいたが、我慢できなかったという感じか
「言わなくてものわかると思いますが、これは当人同士の話なので口を出さないでください」
「・・・・・・あぁ、分かった」
「ですけど、織斑先生からの謝罪は受け取っておきます。 まぁ、当の本人が謝ってこないから、どうしようもないですけどね。 あぁ、無理やり謝らせなくていいですよ。 そんなことされたって嬉しくないですし、正直言って
「・・・・・・」
これにはむすっとする織斑先生。 わかりやすぃ!だが本当のことだ
「これから、もっと忙しくなると思います。 俺のセカンドシフトした
「・・・・・・ふん、ガキがよくしゃべる」
そう言ってこの場を去って行く織斑先生。 だが、俺の見間違いじゃなければ、織斑先生の顔は獲物を見つけたような、そんな表情をしていた
--------------------------------------------
「あー、やっとですわ......」
部屋のドアノブに手をかけ、そう呟く。 織斑先生と別れ特に誰とも会わず、部屋の前にやってきた。 本当に、行く前と後じゃ状況が全然違うからびっくりだ。 だがドアノブを回せば、こんにちわ日常!ただいま平穏な時間!そんな思いでドアノブを回し、ドアを開けた。 だが、気を抜いていたのがいけなかった。 ドアを開けた瞬間、そのまま中に引き込まれ、押し倒された。 あー、ドアは鍵まで閉めてある。 こんな状況にもかかわらず、俺は冷静だった。 部屋の中は真っ暗だったが、俺を押し倒した人物は確認できた。 薄い水色の短髪、癖毛なのか外側に跳ねる髪。 赤い瞳には涙が溜まっていた。 いつもの人をからかうような顔は、涙で歪んでいた。 まぁ、ルームメイト(仮)の楯無さんだ。 泣いているのは...... まぁ、予想はつく。 と言うか、
「「・・・・・・」」
互いに無言。 だが、不意に楯無さんの顔がゆがみ、途切れ途切れに言葉を紡ぐ
「ごめん、なさい!貴方の事を守ると言っておきながら、守れなくて!」
「・・・・・・」
やはり、このことだった。 別に全く気にしてはいなかった。 今回の臨海学校、行っていたのは一年だけだ。 楯無さんがいけるならまだしも、これは学年行事だ。 二年生で生徒会長の楯無さんがいけるはずもない。 だが、それが分かっていても楯無さんは気にしているんだろう
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「楯無さん」
「貴方のことを守れなくて、ごめんなさい!!」
「楯無さん!!」
「っ!!」
うわごとのようにごめんなさいを繰り返す楯無さんについ怒鳴ってしまったが、効果はあったようで。 ようやく謝罪が止まり、俺の方を見る
「気にしないでください、なんて言っても楯無さんは気にするでしょうからね、気にしないでとは言いません。 でも、必要以上に自分を責めないでください。 俺は自分の意志で福音の暴走を止めようとしたんです。 実際、織斑なんかは作戦を辞退していたんですから。 まぁ、その後待機命令を無視して戦闘を混乱させたわけですが。 逃げようと思えば逃げられた、でも俺は逃げなかったんです。 仲のいいクラスメイト達、そして本音さんを守りたかったから。 それに、他のみんなが傷つくのは嫌でしたから......」
なんか行ってて恥ずかしくなるし、青いセリフを言ってるなぁ...... なんて思うけど、これは本心なのだ。 そう、想いを伝えれば、俺の胸板に顔を押し付ける楯無さん。 泣きながら、俺に文句を言う
「貴方は、貴方は優しすぎるのよ。 これで私を罵倒してくれれば、どれだけ私が楽だったか...... バカ、バカよ蒼海君は......」
「あはは、なんかすみません」
そうして、俺は空いている右手で楯無さんの頭をなでる。 楯無さんは特に嫌がることをせず、静かに俺の胸の上で泣いていた。 暗いからか、どのくらいの時間が経ったかはわからないが、ふいに楯無さんが話し始める
「蒼海君」
「なんでしょう?」
「今度は、何があっても貴方を守るから」
これまた重い宣言だが
「俺がいつまでも守られてるだけ、だと思いますか?」
「・・・・・・」
俺は良しとしない。 そんな俺の思いが分かっているのか、楯無さんは押し黙る。 さて、黙ってはいたんだがそろそろ限界だ
「あの、楯無さん」
「なに?」
楯無さんは顔を上げず聞いてくる。 まぁ、それでもいいんですが
「そろそろ左腕がですね、限界なんです.......」
「え? あ、あぁ!ごめんなさい!」
別に踏まれていたというわけじゃないんだが、いつまでもホールドアップの状態はきつい。 慌てて俺の事を起こしてくれたのはいいんだが、焦っていたのか数歩歩いて転んでしまう。 まぁ、手をつないでいたこともあり、今度は俺が押し倒すような形になってしまったのだが
「「あっ......」」
幸い倒れたのがベッドの上と言うのはよかったのだが、ある意味で場所が悪かった。 気が多いと言われるかもしれないが、楯無さんの事も好きなのだ。 そんな状況で押し倒したと言いうことになれば、ね? その後の状況は察してくれ
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番外編 もしも翼が落ちて帰ってきたとき、ヒロインたちが病んでしまっていたら
突然だが、俺の周りの人間。 と言うよりも、俺の恋人たちが過保護だ。 自己紹介が遅れた、蒼海翼だ。 福音に落とされ、その後奇跡の復活で福音を倒し、無事とは言い難いが帰ってきた。 帰ってきたのはいいのだが、みんな過保護になってしまった。 いや、原因は分かってる。 青やベルの協力があったとはいえ、今回の福音戦間違いなく死んでもおかしくなかったのだ。 俺の責任ということもあり、我慢をしていたのだが
「さすがにこれはないだろ!?」
「何がだ、翼よ?」
「そうだよ、蒼海君。 これでも心配なくらいだよ」
両脇をがっちり固めるのはシャルロットとラウラ。 あ、恋人たちと言ったが複数だ。 最低とかの声が聞こえてきそうだが、まぁ、その、はい...... その通りです...... なし崩し的とはいえ流されて関係を持ったわけだし、それを後悔しているのかと言われれば、後悔はしていない。 話はそれたが、両脇をがっちり固められているのだ。 クラスにいようが、廊下にいようが、恋人たちの誰かが二人体制で俺のことを守っている。 酷い時などはトイレなどにもついて来ようとしたが、そこは織斑先生に丁重にお話してもらった。 いや、その織斑先生のお話でさえ、ひと悶着あったのだが思い出したくもない。 そんなわけで、ついに言ったのだが当の本人たちはかわいく首をかしげるだけだった。 と言うかシャルロットさん、これでも心配ってどう言うことでせうか? 聞いたらいけないことだと思ったので心の中で問いかけたのだが、シャルロットにはお見通しだったようだ
「え? そんなの決まってるじゃないか。 本当は部屋でおとなしくしていてほしいくらいなんだから」
「いや、流石にそれは......」
素敵な笑顔で言うシャルロットだが、そんなことは笑顔で言うことではない。 今は廊下にいるため、他の女子たちもびっくりしていた。 ラウラさんはラウラさんで、そうなった場合どれだけ安全かをシュミレートしていた。 俺は内心ため息をつく。 最近はいつもこんな感じなのだ......
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山田先生も織斑先生も緊急の会議のため、急遽取りやめになってしまった訓練。 この頃ずっとこんな感じだが、やばい気がする。 束さんに打ってもらったナノマシンのおかげで怪我は完全に治っているのだが、完全に治ってからと言うものISに触れていない。 もちろん、青、ベルの待機状態であるブレスレットは肌身離さず持ってはいるが。 この状況に青もベルも不満はないのかと思ったが、今はみんなの好きにさせてあげたいらしい。 まぁ、自主練も出来ない状態なのだが
「本音、はなれ「いや......」ふぅ......」
あの日から笑うことがなくなった本音。 俺の責任のため強く出る事も出来ず、本音のされるがままだ。 大体、本音は俺に抱き着いている。 流石にお風呂屋トイレなどは離れているが、それ以外はほとんどべったりだ。 こんな状況だが、俺は強く言うことはできない。 本音の笑顔を奪ったのも、俺がふがいなかったせいだから。 それに、本音は俺から離れると途端に不安定になる。 簪や刀奈(楯無の本名)、ラウラやシャルロットが近くにいないとすぐに泣き出してしまう。 こんな状況になったのも、俺のせいだ。 だから多分、俺は本音に逆らえない
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「お待たせー」
「遅くなってごめんなさい」
何故か俺たち専用に急遽変更された大部屋。 学園の寮にこんな部屋あったのかと最初は思ったものだが、暮らしているうちにそんなことは気にならなくなってしまった。 帰ってきたのは刀奈と簪だった。 入れ替わるように出ていったのは、シャルロットとラウラ。 部屋でもこうして監視がついてるのだ。 この頃どこか機嫌の悪かった二人だが、今日はどこか上機嫌だ。 だが、そんな上機嫌な二人を見た途端、俺は猛烈に嫌な予感がした。 そして、刀奈から漏れたのはその嫌な予感が的中した言葉だった
「フフフ、これで貴方を守る環境が整ったわ」
「へ?」
その時の俺はとても間抜けな声を出していたと思う。 まぁ、いきなりあんなことを言われれば誰でもそうなると思う。 何かの冗談かとも思ったが、目を見れば冗談じゃないのが分かる。 笑っていないのだ、目だけが。 顔は笑っているのに、目は笑っていない。 この時からだろうか、俺が諦めたのは
「翼君は何も考えなくてもいいよ」
「そうよ。 お姉さんたちが貴方をすべてから守るから、だから貴方はここにいてくれればいいの」
「・・・・・・」
あぁ、俺のしでかしたことは、俺が思っていた以上に大きいことだったらしい。 人の人生を狂わせ、自分の未来も殺してしまった。 この後俺は何も考えず、ただただ部屋で平穏な人生を過ごした
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「ふぁっ!?」
俺は飛び起きる。 時計を見れば、かなり早い時間だが隣のベッドには人がいない。 いや、一人部屋だから人がいないのは本当なら当然のはずだ。 どこかの生徒会長が強権を発動して、相部屋にねじ込んでいるわけだが。 その相部屋の刀奈がいないのだ。 不思議に思いつつ、思考に没頭する。 昔、夢は記憶の整理とか無意識の願望を形にするとか言っていたが...... そこまで思って、俺は愕然とした
「俺は、ああいう風にされるのを無意識に望んでいる?」
「なにが~?」
「っ!?!?」
布団の中から声が聞こえ、急いでめくればそこには本音さんの姿が。 なんか眠そうに目をこすっているが
「なんでいるんだ? 昨日の夜はいなかったような......」
「う~ん? なんでいるんだろ~?」
「俺に聞かれても......」
本音も、なぜ自分でもここにいるのかわからない様子だ。 ひとしきり首をかしげ、分からないことで考えるのをやめたのか笑顔でこちらを向く
「おはよう、翼君」
「・・・・・・あぁ、おはよう本音」
「わぷ」
無性に笑顔に安心し、本音を衝動のまま優しく抱きしめる。 やはり、本音には笑顔がよく似合う
「む~? まぁいっか!そう言えばお嬢様が今日は早めに待つって言ってたよ~」
「そっか、なら準備しないと」
本音の感触を失うのを若干惜しいと思いつつ、離れる。 すると本音も寂しそうな顔をしていたので、頭をなでておいた。 後ろ髪惹かれる思いだが、刀奈との約束もむげにはできない。 俺は急いで着替え始めるのだった
こんな感じで、いいですかね(小声
夢落ちとさせていただきましたが、ありえたかもしれない可能性です。 主人公、上手くやったもんだ
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第七十四話 時は流れて
体育館に集まる、生徒たち。 周りを見渡せば、集まっているのは女子、女子、女子!後、野郎が一人。 先生も女性しかおらず、男がいるとしたら用務員のおじさんだけだろう。 そんな女子しかいない体育館の中、俺は壇上に立っていた。 本当は面倒で、こんなところにいたくはないのだが...... 元凶を見れば、三年生のところからのんきに手を振っていた。 あぁ、後で簪に言ってシメてもらおう。 後ろにいるであろう副会長を思い浮かべながら、内心ため息をつきながらマイクに向かって話す
「皆さん、お久しぶりです。 少なかった春休みですが、皆さんどう過ごしたでしょうか?」
新会長としての挨拶。 そう、新学期、いや、終業式の時に突如刀奈からのカミングアウトにより、俺は生徒会長になった。 いや、させられたと言うべきか。 IS学園の生徒会長は代々、学園最強がなるもの。 その学園最強が非公式とは言え、負けが続いていたこともあり、それを刀奈がカミングアウトしたのだ。 その後行われた公式戦で本気の刀奈に勝ってしまい、文句なしの生徒会長が決まった。 こればっかりは俺も悪いが、刀奈も刀奈だ。 めんどくさいことを押し付けるとは。 まぁ、報復としてアドバイザーとして刀奈の席は残してあるので、これからもめんどうなことはガンガン押し付けるつもりだが。 そう言うわけで、俺は新生徒会長として始業式に挨拶を行っていた。 これは新生徒会のお披露目も兼ねている。 刀奈はアドバイザーのため前にはいないが、新生徒会の面々は副会長に簪、書記に本音、会計にシャルロット、庶務にラウラと見事に身内で固まった。 まぁ、先生にも俺や刀奈のパイプがあるし、生徒人気もあるシャルロットや本音、所属はしていないが非公式で平会員となっている鈴さんやオルコットさん(本人たちは知らな)のため、非常に動きやすい
「さて、ここからが本題ですが、今年からパイロットコースに宇宙課と言うものができました。 今のところ所属はごく一部の生徒となってますが、これから条件は緩めていくつもりです。 なのでもうしばらくお待ちください」
そう、二年からは整備課、パイロット課と言うのに分かれるのだが、そこに宇宙課がプラスされた。 それもこれも、束さんの宣言のせいなのだが...... ともかく、IS学園、ひいては世界のIS事情は変わり始めていた。
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「あぁ、疲れた......」
「お疲れ様~」
「ありがとう本音」
ところは変わって、生徒会室。 新生徒会長としての初めての挨拶を終え、机に突っ伏す。 紅茶のいいにおいがすると思ったら、本音がいれてくれたようだ。 見れば全員分をいれたようで、すでに全員に配り終えていた。 お礼を言って一口飲めば、変わらない味がした。 そう、生徒会室でいつも飲んでいた味と変わらないのだ
「うむ、さすが本音だな」
「えへへ~、ありがと~。 でもお姉ちゃんと比べたら、まだまだだよ~」
これでまだまだと言うのだから、よくわからないものである。 素人の舌には変わらないように思うのだが
「それにしても、よく似合っていたじゃない生徒会長」
「あ、簪、そこの人の処理よろしく」
「わかった」
「ちょっと、なんでよ!? 簪ちゃん、怖いわよ!?」
「お姉ちゃんはちょっとお話ね」
「いやー!?」
ちなみに生徒会室の隣の部屋はお仕置き部屋となっています。 便宜上そうやって呼んでいるだけで、ただの倉庫なのだが。 何かやれば、簪にお話をされる場所。 なので、お仕置き部屋と言うわけだ。 ちなみにここにいる全員、あそこへ連行されたことがある
「それじゃあ本日の議題だけど」
「え~!終業式終わったばっかりなのに、仕事するの~?」
萌えを袖をぶんぶん振りながら、頬を膨らませて言う本音だが
「「本音の言うことじゃない」」
「ぶぅ!」
普段あまり仕事をしていない本音には発言権はないとばかりに、ラウラとシャルロットから意見を黙殺される。 俺はそれを気にせず、今回の議題について話す
「ファントムタスクやその他ISを使ったテロリスト集団の活動がほぼなくなった今日この頃。 宇宙に行くことにシフトしたISを遊ばせておくわけにはいかないということで、各国から代表候補生が送られてくるわけだが、ぶっちゃけ数が多い」
「台湾にタイ、オランダ、カナダ、ギリシャにロシア、ブラジルなんかも希望してるみたいだね」
「まぁ、ここに来れば束さんともコンタクトが取れるからな。 各国としても、そこが狙いだろう」
「まぁ、コンタクトとってくれるかは別として、な......」
思わずため息をつきたくなるが、そこはそれ。 予想と言うよりも、確信に近いがたぶん会わない。 いくら人間不信や人嫌いが直り始めたと言っても、完全じゃないし。 そもそも、束さん自体気に入った人しか会わない傾向がある。 そんなわけで、束さんの警備に関してはそこまで問題視していない
「問題があるとすれば、各国の代表候補生が問題を起こさないか、その点だな」
そう言って、視線を巡らせばさっと目をそらす二人
「ラーちゃんは乱闘騒ぎで~、でゅっちーは男装だったよね~」
「「・・・・・・」」
「なんでそこで傷えぐるのさ本音さん......」
二人は無言。 本音さんは何故か、二人を笑顔で威圧していた。 学園側からもらった代表候補生の資料を机に投げつつ、これからのことを思う。 宇宙行きの訓練や調整も大変だろうけど、また今年も楽しくなりそうだな
「去年は楽しいというよりも、大変だったと思う。 おもにもう一人の男のせいで」
「あ、簪、終わったんだ」
「うぅ~、酷い目にあった......」
前書きの方で書きたいことは書きましたので、後書きでは特に
それでは皆様、また会う日まで!
あ、話は変わるんですけど、なんか今日夢見たんですよ。 何故か夢にのほほんさん登場しましたが。 ・・・・・・欲求不満かな?
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第七十五話 夏休み、始動
この数か月、色々あった。 いや、あったなんてものじゃない。 ありすぎた。 まずIS動かして、IS学園入って、同性の奴には絡まれ、クラス代表決めるため戦って、無人機が襲撃して、VTシステムだったか? それからラウラを救い出して、シャルロットを助けてもらって、死にはぐって...... うん、内容濃すぎだね。 あぁ、後彼女が五人出来ました...... 付き合ったことに後悔はないが、雰囲気に流されすぎ感はある。 さて、なんで俺がこの数か月のことを思い出しているかと言うと、今日夏休みになったからだ!普通ならやったぜ!となるのだがここはIS学園で、俺は貴重な男性操縦者。 そして、世界で数件しかないセカンドシフトを果たしたIS持ちということで、帰省しようにも許可が出るまで時間がかかるとのこと。 どうしてこうなった!
『気を持ち直してください、翼!』
『頑張って』
『あぁ、ありがとう青、ベル......』
青とベルに励まされ、俺は少し元気になった。 まぁ、これから行うことも俺のテンションを下げる一因なんですけどね...... これから行うこと、いつも通り師匠と織斑先生との模擬戦だ。 ただ、セカンドシフトしたこともあり先生たちは本気だ。 いやまぁ、その本気にも勝ってしまう俺も俺なのだが。 二人相手でもワンオフであるZEROシステムを発動しないで、勝率七割を叩き出している。 と言っても、リミッターをかけてもなお強力なツインバスターライフルとドッペルのおかげでもあるのだが。 それを抜けば、勝率は五割となる。 射撃武器が肩部マシンキャノンしかないのがきつい。 専ら、サーベルとマルチビットで対応しているが。 織斑先生は接射のマシンキャノン撃っても、全部切り裂くし。 師匠はその凶悪な性能の35ガトを使ってくるので、気を抜けばハチの巣にされる。 とりあえず目下の問題は、ライフルだ。 そちらも、ジェイルさんと束さんに依頼して、作って貰っている
「翼!」
「おはよう、簪」
寮を出ると、入り口で待っていたのか簪が腕に抱き着いてくる。 夏休みが開始したということで寮内、校内問わず人が少ない。 みんな帰省したようだが、俺もしたいものだ...... 知り合いの中だと、オルコットさんは当主として代表候補生として、イギリスに帰省したらしい。 鈴さんも代表候補として、帰ると言っていた。 まぁ、本国に居ても暇なのですぐに帰ってくると言っていた。 なーんか、その時の表情が含みあったんだよなぁ...... しかも、小さい声で突っかかってくるやつもいるし、と言っていたような気がする。 さて、簪も実家に帰省する予定だったのだが、俺がいるということで帰る気はないらしい。 それでいいのか...... いや、俺的には嬉しいのでいいのだが
「それで、また訓練の方に来るのか?」
「うん、私も強くなりたいし。 織斑先生も山田先生も来て良いって言ってたし」
「・・・・・・あんまり無理はするなよ?」
「それは翼も、でしょ?」
俺の顔を覗き込みながらどこか楽しそうに言う簪に気恥しくなった俺はそっぽを向く。 隣からはクスクスと笑い声が聞こえるが、まぁいいか。 夏の暑い日差しに少しげんなりしながら、ゆっくり歩く。 すると、前方に見知った姿が
「あれって、お姉ちゃん?」
「たぶんそうじゃないか? 楯無さーん!」
大きな声を出して呼べば、合っていたようで。 笑顔でこちらに駆け寄ってくる。 駆け寄ってくるのはいいのだが、何故か減速しない。 あのー、まさかとは思うんですけどー
「簪ちゃん、翼君、おっはよーう!」
「きゃっ、お姉ちゃん!?」
「あの楯無さん、危ないんで一切減速なしプラス抱き着くのはやめましょう?」
「んふふー」
上機嫌で俺と簪に顔をこすりつけている刀奈さんは、話を全く聞いていなかった。 その様子に俺は苦笑しつつも、歩みを再開する。 まぁ、刀奈さんが人の話を聞かないのは今に始まったことではない。 されるがままになりつつも、歩く俺と簪。 顔を押し付けて上機嫌の刀奈さんと、この頃の定番となりつつあった。 それにしても、器用に歩いてるな。 しばらくすると満足したのか刀奈さんは離れる
「それじゃあ改めて、おはよう簪ちゃん、翼君」
「おはようございます、楯無さん」
「お姉ちゃんは...... おはよう」
「それで、二人は訓練?」
俺の隣に並ぶと聞いてくる刀奈さん、俺と簪は同時に応える
「「そうですよ(うん)」」
「うんうん、仲がよろしいこと。 私も出来れば行きたかったんだけど......」
「やめてください、俺が話聞くことになるんですから......」
ちょっと残念そうに言う刀奈さんだが、虚さんの愚痴と言うかなんというか、そう言う話を聞くのは俺だからやめてほしい。 実際、生徒会の仕事をやっているとき、刀奈さんのさぼり癖や本音の怠けの話などよく聞いていたのだ。 しかもすべて俺関連ときたものだ。 そのため、俺は口を酸っぱくして注意したのだ。 それもあるし、俺が仕事を手伝うようにしたというのも大きい
「まぁ、そうよね。 それじゃあ私はこっちだから、二人とも頑張ってね!」
元気よく駆け出していく刀奈さんに暑くないのかなー、と場違いなことを思いつつ、アリーナに向かっていく
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