東方虚悪魔異聞(原作厨が原作キャラに憑依してしまう話) (イベリ子)
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プロローグ

憑依もの大好きです。

※この作品は、 以下の通り
・地下図書館の名前がヴワル魔法図書館になっている
・小悪魔に「程度の能力」がある
・小悪魔が喋る
・設定の独自解釈
・原作厨(笑)

などの二次創作要素が含まれますので、不満がある方は閲覧をご遠慮ください。大丈夫、という方は明らかに二次創作な世界で奮闘する小悪魔をご覧下さい。


 幻想郷を紅い霧が覆った。

 

 後に紅霧異変と名付けられる事件。その解決のために二人の少女が空を駆けていた。

 

 

 

 1人は楽園の素敵な巫女、博霊霊夢。

 

 もう1人は普通の魔法使い、霧雨魔理沙。

 

 二人は幻想郷の守護、知的好奇心と動機に差はあれどともに異変の原因究明、そして解決のため霧の発生源と思われる深紅の館━━━紅魔館へ門番を倒して突入する。が、館は外見からは想像がつかないほどに広大だった。霊夢は己の直観に従い上へ、魔理沙は探索中に見つけた地下へと続く階段の先へ好奇心の赴くままに進んでいった。

 

 

 

 

「わあ、本が一杯だ!」

 

 地下への階段を進み、扉を開けるとこれまた外見とはかけ離れた広さを持つ空間の中には視界を埋め尽くすような本棚とそこに収められた本の山。しかも独学魔法使いの魔理沙にも分かるほど強力な力を持った魔導書が大量に含まれている。

 知識、特に未知の魔法に対して魔法使いが持つ知的好奇心は尋常ではない。魔理沙も例に漏れず今の自分の立場を忘れ魔導書へと手を伸ば━━そうとしたところで、遠方からメイド妖精と侵入者に反応した魔導書が弾幕を放ってくる。すぐに我に返り、箒に跨って空に浮かび回避し迎撃用の弾幕を張る。

 

(この宝の山は後回しだな。まずはバッチリ異変の首謀者をとっちめて、それから借りるとするか!)

 

 

 

 魔理沙が向かってくる敵を迎撃しつつ大図書館の奥へ進むこと、しばし。だんだんと向かってくるメイド妖精が少なくなってきていることに気付いた。いや、違う。数はむしろ増えてはいるが、そのほとんどは魔理沙へと攻撃することなく通り過ぎていくのだ。まるで━━

 

(なにかから逃げているみたいだ……ん?)

 

 魔理沙の脳内に疑問が浮かんだ直後、人影が見えた。そこに本が積み重なって塔のようになっており、そこに誰かが腰かけて本を読んでいる。まだ距離はあり、相手はこちらに気付いていないようだ。

 わずかに逡巡する。相手の準備が整っていないうちに攻撃するのはルール違反……のような気もする。だが、と魔理沙は思う。確かに弾幕ごっこは名乗りを含めての遊びだ。しかし相手は幻想郷を混乱させている異変の首謀者(の容疑者)だ。ここは一度牽制の意味も込めて攻撃してもよいのではないか?身なりからしてさっきまでの妖精メイドよりは格が高いだろう。もしかしたらこの図書館の管理人かもしれない。それなりの実力を持っているのなら、異変を真剣に解決しようというのなら先制攻撃も含め全力でかからねばならないのではないか?それで倒せたらこの辺りの本を私が入念に探索する時間も出来るかもしれないし……いや純粋な手がかりを求める気持ちでありそれ以外では断じてないが、それにそう、もし倒せなかったとしても、一発だけなら誤射かもしれない━━

 

 そんな逡巡という名の自己正当化を数秒で済ませ、マジックレーザーを放つ魔力をミニ八卦炉へと込める。すると高まる魔力に反応したのか、こちらに向けられた紅い瞳と目が合った。

 

 

 そう、

 

 

 

 ()()()()()

 

 

 

 

 ━━━瞬間、呼吸が止まる。

 

 

 

 姿は先程とまるで変わっていない。紅い髪、紅い瞳。背中と側頭部から蝙蝠のもののような羽が生えていることがどうしようもなく異形の存在であることを印象づけてしまうが、可憐な少女の姿のままだ。

 

 

 ━━なのに、ああ、なのに!

 

 勝てない、勝てない、勝てない!あまりにも彼女から感じる、感じ取ってしまうモノが大きすぎて体が勝手に屈服してしまいそうになる。

 博麗霊夢の持つ霊力は膨大だ。なんでも、歴代の博麗の巫女の中で一番の才能があるらしい。異変が起こる前に弾幕ごっこで遊んでいるとき、どれだけ戦っても涼しい顔をしているアイツに親友としてもライバルとしても嫉妬の念を抱いたことがないとはいえない。

 八雲紫の持つ妖力はおぞましい。視界に入れるだけで底のしれなさに不安を覚え、自分の存在がゆらいでしまいそうな恐怖を感じる。直に対面したことはなく、霊夢と話しているのを目撃しただけではあるが、最も強大な力を持つ妖怪として忘れることはなかった。

 紅霧に内包されていた魔力の大きさは自分の何倍もあった。太陽の光を遮るほどの霧で幻想郷を包み続けることができる異変の首謀者。危険は承知のつもりだった、そのつもりでここまできたのに、目の前のコレから今すぐにでも逃げ出したくてたまらない。

 

 膨大な力を持つものへの恐怖なら、強大な人妖に対する畏れなら抗えた。戦闘の中で一矢報いることもあったかもしれない。そうではない。蟻が巨象と相対しているような、根本的な存在としての絶対的な差を感じる。

 

 

 紅い瞳と見つめあい、蛇に睨まれた蛙のように微動だにせず、呼吸を止めてどれほどたったのか。永遠のように感じられたがようやく状況を理解し、生き残るために頭を動かし始め

 

 

「……あら、攻撃しないんですね?」

 

 

 その言葉とともに、彼女からの圧が増す。

 

 

 

 駄目だ。多分、私はここで死ぬ。さっきまでガチガチと音を鳴らしていた歯も、産まれたての小鹿のように震えが止まらなかった足も治まっていて、変わりに全身から力が抜け落ちて無様に箒から落下しそうになる。

 

 

 ━━━━だけど。

 

 

 全身に無理やり力を込め直し、ぐっと箒を握り締める。

 

 そうだ、さっき思い出したじゃないか。いくらスペルカードルールがあったとしたって、危険があることは百も承知だったって。それでも私は、誰にも頼らなくたって生きていけるって、私は普通の魔法使い霧雨魔理沙なんだって証明しに来たんだろ!

 

「……ああ、やっぱり本を読んでる奴には気を遣わないといけないと思ってな」

 

「あら、そうなんですか?意外です、こうして会話することになるとは思っていなかったので」

 

 本を読んでたのが原因ですかね?といって自問する彼女のその外見の可愛らしさと未だに発され続けている『圧』とのギャップに吐きそうになる。加えて今の言葉からして、魔理沙の不意討ちは見抜かれていたことになるだろう。最悪は免れた、と自分を奮い立たせる。

 恐怖は消えない。けど、立ち向かうと決めたんだ。

 

「なあ、そこを通しちゃくれないか?」

 

「うーん?そうしたいのは山々ですが、ご主人に怒られちゃうかもしれないですし……戦わないとダメでしょうね、やっぱり」

 

「そうかよ」

 

 軽口への答えは予想通り。彼女は言葉を言い終わると同時に『圧』をさらに強める。

 ……大丈夫。まだ体は震えるし、涙が勝手に浮かんでしまうけれど、立ち向かうことは出来る。だから

 

 

 

 

 

 

()()()?」

 

 

 

 

 

 まて。

 

 

 それは、つまり。

 

 

 

 

「ああ━━━━そういえば」

 

 

 

 

 まだ、名乗っていませんでしたね、と先程から震えを増し、血の気を引かせていく私に気付かないように優雅に一礼する少女の形をしたナニカ。

 

 

「私は━━━この館の主にして偉大なる吸血鬼、レミリア・スカーレット様……そのご友人の大魔女、パチュリー・ノーレッジ様と契約してこの図書館の管理を任されている、

 

 ━━━━━名も無き小悪魔で御座います。」

 

 

 

 末永く、よろしくお願いしますね?とにこやかに微笑む。小悪魔という名乗りとは正反対な、天使のような笑み。だけれど感じる『圧』は強まる一方で……

 

 

 

 

この化け物に、『小悪魔』と名付ける存在。

 

 

 

そんな、

 

 

 

こいつの上が。

 

 

 

 

少なくとも、二人、いる?

 

 

 

 

「ああ、よろ、しく」

 

 

 少女の、絶望的な戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あああああああああああああああああああああ話すだけに飽きたらず結局名乗ってしまったあああああああああ!!!こ、これもう原作と大分違う状況になっているのでは……いや待て諦めるな私!大丈夫大丈夫ここでしっかり原作の小悪魔っぽいeasy弾幕で負ければ……負ければ……あああああ緊張する!ヤバいヤバい目の前に魔理沙いるよリアル魔理沙!はあ可愛い!ちっちゃい!可愛い!声も可愛い!しんどい!ニヤケる!息が出来ぬ!抱き締めたいいっ!!!でもダメだ!ちゃんとちゃんと原作通りにするぞするんだしないと!原作より優れた二次創作なんてないんだから憑依したならしっかり原作通りに進めなきゃ!でもいざ直面するとヤバい!緊張がヤバい!過呼吸起こしそう!もー何で魔理沙無言で撃破してくれなかったんだくそうくそう…いや私が本読んでたせいなんだけど!はあああああああああやっちまったストレスと緊張でほんともう無理!生きるのがしんどい!でもそろそろ始めないと……もう会話終わる流れだし……うう頼む魔理沙!三秒で撃破してくれええ私弾幕出していられるの2分が限界なのおおおおおおおお!)

 

 

 




小悪魔★憑依
大きくする程度の能力
色んなものを大きく出来る。だけど中身は変わらないのでスカスカになる。なお緊張したり戦おうとするとハリネズミみたいに自分を大きく見せて威嚇する性質がある。(無意識)



小悪魔の能力なんだろなー

小悪魔の弾幕の特徴は大弾だなあ

せや!


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はじまり

お久しぶりです。
こっそり更新。



 私がどうしてこうなったのかは未だにわからない。一番初めに目に入ったのは、鮮やかな紫の髪を持つ少女だった。

 

 

 ……は?紫とはなかなかパンクな染め方を……っていうかここどこ?さっきまで何してたっけ?

 

 ぐるりと辺りを見回す。薄暗く埃が積もっているような場所だ。そして本。本。本。図書館のような場所だろうか?それにしてもやたらと天井が高く、それに合わせて本棚の高さが尋常ではない。空でも飛ばなきゃ届かないぞあんな所にある本。

 そして薄暗い中で私の足元がやたらと輝いている。これは……魔法陣、だろうか?そして下を見れば発覚する私の格好。白いシャツの上に黒のベストとロングスカート、胸元に赤いリボンを着けている。んんん着た覚えがないぞ?そして更に衝撃の事実として、視界に入る私の髪の色は、鮮やかな赤色。……これは。

 

 自分の髪を観察していた視線をおそるおそる正面へと向ける。さっきはその特徴的な髪色に目を奪われていたが、

 

 

 毛先をリボンでまとめられた紫の髪。

 

 縦縞の入ったパジャマのようなゆったりした服。

 

 何より特徴的な大きな三日月のマークがあるドアキャップに似た帽子!

 

 

 動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジ!

 

 

 そして彼女の眠たげに細められている半目に映る人影。それがおそらく今の私。これは……

 

 

『小悪魔』だぁーっ!!

 

 

 ま、まさか友人と二次創作についてのあれこれを話していた矢先に自分が二次創作みたいなことになるとは思ってなかった……しかも憑依!夢か!夢なのか!

 いやしかし待て、憑依?そうだ、私憑依してるんじゃん!自分で憑依系二次創作苦手って言ってたのに……でも自分の意志じゃないし仕方ない…よね?いや仕方なかったとしても頑張って原作の流れは保たねば!原作の小悪魔通りに……原作の……小悪魔……

 

 

 

 原 作 の 小 悪 魔 っ て な ん だ

 

 

 

 げ、げ、原作の小悪魔!?原作の小悪魔ってなんじゃ!?いや小悪魔はオリキャラとかじゃない立派な原作キャラだけど!東方紅魔郷のれっきとした四面中ボスだけど!でも露出が少なすぎる!名前がない!立ち絵がない!「程度の能力」がない!種族以外の設定がない!特に!

 

 会話が!一切!ない!!

 

 口調もなんもかんもわからない!な、何をどんな風にするのがいいの!?そもそも姿だって儚月抄ではロングだったけど神主のインタビューではショートだったし……あ、今ショートだ。二次イラストではロングばっかりだしちょっと新鮮……じゃない!

 

 ままままままマズイですよ!今パニクってたけどよく考えなくても目の前にパチュリー様がいる!ずっと黙ってキョロキョロしたりパチュリー様じっとみたり髪いじってたり明らかに無駄な動きが多すぎて不審者間違いなし!は、早くなんか言わないと!でもどんな口調!?どんな口上!?原作では一体どんな出会いだったんだよおおおおおおおお!

 

 ……うぶ、テンパりと緊張で吐きそうになった。そ、それでもそろそろ喋らないと!頼む私のアドリブ力!行くぞおおおおおお!

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

「……ふむ」

 

 読みきった本をぱたりと閉じ、浮遊させて自身を中心にして積み上がってる本の塔の一番上へと移動させる……が、

 

「あ」

 

 本の塔が足場から崩落していき、滝のように見えたのは一瞬のこと。私の周囲はあっという間に本の海へと変わってしまった。

 ……はあ、そろそろか。私はまだ読破していない数冊を脇によせ、読破済みのものを内容ごとに本棚に入れて整理するために自身と共に浮遊させた。

 

 

 一年と少し前、私パチュリー・ノーレッジは友人の吸血鬼であるレミィことレミリア・スカーレットと共に今住んでいるこの地……幻想郷へと移りこんだ。その際レミィが幻想郷征服という野望を完膚無きまでに叩き潰されたが、私にはそこまで関係のない話なので割愛する。

 私にとって重要な話は、紅魔館の瀟洒なメイドにより空間が拡張されたこのヴワル魔法図書館についてである。この図書館にはある魔法がかかっている。それは幻想郷という地自身が外の世界で失われ「幻想になった」ものを集める性質を持っている、それのランダムだった出現する場所を、「本」に限ってこの場所へ誘導する……それだけの魔法だったのだが、幻想郷に他に「図書館」などの本を保管する場所がないのも相まって本であるならば9割は誘導出来てしまっている。その結果いくら読みきったものを整理しようとしても追い付かないペースで本が増えていく。本の虫である自分にとっては嬉しい悲鳴ではあるのだが……

 

「この整理作業は、面倒よねえ」

 

 いくら自分が本の虫といっても、読み続けるのには限界がある。定期的に本の内容毎に本棚へと収納しなくてはならない。それでもなるべくまとめてやるようにはしているが、やはりこの広大な図書館を巡って収納していくのは気が滅入る。

 

 

 

「本の整理専門の使い魔でも召喚しようかしら」

 

 一段落ついて、思い付いた考えである。なんとなく自身の周囲に生き物がいるのは落ち着かないので使い魔は召喚したことがなかったが、これからもこの作業をし続けることを考えればいた方がいいのは間違いない。思い立ったが吉日と言うし、とりあえずある程度の命令が聞ける奴であれば問題なし。下級の使い魔を召喚してみることにする。場所は適当に開けた所があればよし、魔法陣も詠唱も頭の中に入っているから……

 

 

 

 

 そう。そして私は召喚した。して、しまったのだ。

 

 

 

「ソレ」は最初、本当に無力な悪魔に見えた。召喚されてからきょろきょろと辺りを見回して、こちらに視線を合わせてくる紅い髪の悪魔。なんとなく、友人よりも紅魔という文字が似合いそうだな、なんて考えていられたのはそこまで。

 しばらくして「ソレ」は顔を綻ばせ、見るものを魅了するような笑みをしながらこう告げたのだ。

 

 

 

「はじめまして! 『パチュリー・ノーレッジ』

 様!」

 

 

 ーーー身を震わせるようなプレッシャーと共に、私の真名を。

 

 

 悪魔とは契約をする怪異だ。存在としての強弱や契約者にもたらす災いや力に差異はあれど、悪魔としての力を現世で振るうためには召喚者と現世で契約を結ばなくてはならないということは共通している。

 そして、大多数の悪魔が契約を行う時に重要視するのが、双方の名前だ。なので悪魔を呼び出す時は相手の名前をこちらが知っており、こちらの名前を相手に知られないようにしなければならない。それは魔術師の中では一般常識といってもいい。それに従って私は念のため防心読の術と自身に対して別名を本名だと錯覚するような自己暗示をかけていた。

 

 しかし。しかし。目の前の悪魔はーーー

 

 

「ええ、よろしく。……それで、どうして私の名を知っているのかしら」

 

 手段が分からない。目的が分からない。こちらの名前を知られた以上既に契約の主導権は相手に握られている。しかし悪魔の契約はこちらが相手の存在を暴くことで解除されるというのも一つのルールだ。ならば今私がやるべきは目の前の存在がどんなものなのか、それを知るためのヒントを集めること。幸い、名前を知っていることを示すためとはいえ会話を仕掛けてくる存在だ。ならばそこから少しでも分かることがあるはず。

 

 

「………………(ホアアアアアアアアそりゃそうじゃん初対面で名前知ってる訳ねーじゃんバカバカバーカ!!!!!!どっふどどどどどうしよう、どうすればいいんだほんとに!!)」

 

 

「……ッ」

 

 じわり、と汗が吹き出す。

「ソレ」はニコニコと擬音がつきそうな笑顔をこちらに向けたまま微動だにしない。それでいて存在感はますます増して、相対しているだけで膝を突きそうになる。だが、魔法使いとしてここで屈するわけにはいかない。こちらが隙を見せたらそこにつけこまれるのは明白なのだから。

 

「そ、……そんなことはどうでもいいじゃない、いや間違いなくどうでもよくはないな、えー……企業秘密、ということでお願いいたします(パチュリー様めっちゃ睨んでるよめっちゃ怪しまれてるよー!)

 それよりも、私を呼び出したということは何かやらせたいことがあったんじゃないですか?早めに済ませてしまいましょう?(ダメだこれ以上話が長引くとボロしか出ない!とりあえず関係は結ばないと!そうじゃないと最早小悪魔じゃなくなってしまう!)」

 

 しかし、あくまで自らの手札は見せず契約だけを迫ってくる悪魔。

 内心で歯噛みする。会話はするが、必要な時だけということだろう。こうなると今この場で私から行える手はほとんどない。使い魔に限らず召喚というのは術者の都合で意思を持つものの力を使役する性質上、基本的には術者が関係としては不利な立場となる。本来ならば力によって屈服させられる相手を呼び出し、有利な条件を認めさせる算段だったが、コレ相手に対して行える手段ではないだろう。ならば、と私は事前に用意していた一つの魔術を起動させて一枚の紙を作り出し、悪魔へと送る。

 

「一利あるわね。けれど、私ばかりが名を知られているというのは良い気分ではないわ。

 ……あなたが真名を明かすというのなら、契約を結びましょう」

 

 それは契約書。必要なことはお互いがお互いの名を知り、契約を理解した上で相手が同意することだけ。それだけで相手は生殺与奪の権限を全て譲渡するようになる。呼び出した使い魔があまりにも悪性の強い場合を想定して作っておいた最も不平等な契約。

 端から契約されるとは考えていない。しかし、相手が契約を一度でも断ることがあれば、呼び出したもの/呼び出されたものという関係に新しく契約を断られたもの/契約を断るものという間柄が生まれる。出方次第ではあるが、私が下手を打たなければ「なるほど、それは確かに失礼なことをしてしまいました」「え?」

 

 考えを巡らせている間に、悪魔は契約書にサインを刻んで渡してきた。思わず呆けた声を出してしまう。この契約を結ぶ?考えが止まってしまいそうになるが、自分のミスか何かがないか契約書を確認する。しかし内容自体にも、現在結ばれた契約にも何の不備もなく私はこの得体の知れない悪魔の全権を握るようになった。

 

 そして、このふざけたサイン。言うまでもないが偽名などではこの契約は履行されないようにした。つまり今ここに書かれている名前は本人が自分の名前だと完璧に認識しているものとなる。それが……

 

 

「私、『小悪魔』と申します。力も何もないよくいる木っ端悪魔ですが、今後ともよろしくお願いします」

 

 

 ……「小悪魔」であると。

 

 




(小悪魔って……なんだ……?)


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あいさつ

TRPGのキャンペーンGMが終わった&HF見た&わたてんとかぐや様見た→三時間3000文字書けた。


「あなたもこの館の新しい住人である以上、館の主に顔は合わせておきなさい」

 

「了解しました!」(えマジですか?)

 

 

 なんとかかんとかパチュリー様と契約を結ぶことが出来て、紅魔館のヴワル図書館に住む小悪魔というところまでは持っていけたことで少々安心していた後の言葉である。

 今はレミィは食堂かしらね、と呟きながら巨大で重厚な扉をふわりと指をふるだけで開け、そのまま身体を浮かせて階段を昇っていくパチュリー様に、慌ててついていく。

 紅魔館の主。れみりゃーですか。レミリア・スカーレットですか。永遠に紅い幼き月ですか。正気というか理性を保つ自信がないんだが???

 というかさっきまで小悪魔的振る舞いをしなければならない使命感に燃えていて気付けていなかったが、今私幻想郷に入り込むとかいう全人類の夢みたいな状況がかなってるじゃん!実際小悪魔が原作に混じることとかほとんどないし、紅魔郷で変に霊夢とか魔理沙に絡まないことを心がければ、後は幻想郷の住人たちといくらでも交流が可能なのではないだろうか?実際小悪魔ってそこらへんの妖精たちと立場は一緒だとか神主が言ってた気がするし、4面中ボスの役割さえ果たせば原作に大きな関わりとか持つことなく見て回れるんじゃないだろうか!そしてすでにパチュリー様との契約を終えているし、あとは紅魔館メンバーとも好きなだけ絡んでいけるかも!ああ、夢が広がっていく!ふふふ、これこそ我が世の春が来たって感じなのかな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ̄ ̄ ̄

 

 

 

 

 

(一体こいつは何を考えているの?)

 

 小悪魔と名乗る悪魔を目の端に捉えつつ、私は考えを巡らせる。契約するまでその身に纏わせていた謎の『圧』を霧散させてニコニコと笑みを浮かべながら律儀に階段を歩いて私に付いてきている。契約がしっかり実行されているかを見るために保有可能な魔力を私の十分の一と設定をしてみたが、それも意に介していないように表情を変えずにいる。けれど、笑みの性質が今と先程とでは違ってきていることにも気がついた。先程までの笑みにも違和感があったわけではないが、今の笑みと比べると貼り付けた笑みだったように感じる。しかし何に反応したのかが分からない。単純に考えれば、レミィに会いに行く、ということだろうか。

 

 少し、思考を整理する。まず疑問として上げられるもの。

 

 なぜ相対していた時にこちらを威圧する行動を取っていたのか?

 

 なぜここまでの不平等な契約を了承したのか?

 

 今浮かべている笑みの正体は?

 

 そしてこいつの目的は?

 

 

 単純に考えれば、一つ目の答えは自身の有利な契約をすることだろうと思う。しかし二つ目の疑問がその答えを否定する。逆に二つ目の答えを単純に出すのだとすれば、どんな条件でもよいから契約をしたかった、または契約を行わなければならなかったということになる。仮にその状況であったとして、こちらを威圧することとどう繋がる?

 あの威圧によって私に起こった変化として、一番はこいつを警戒するようになったこと。次点で、武力による屈服を試みなくなったこと、か。

 ならば三つ目の疑問、先程からの笑みの正体。今こいつが契約を結んだことによって関われるようになったことは私、ヴワル魔法図書館、紅魔館、そしてレミィ。しかし笑みの性質が変化し始めたのは私の観察が正しければレミィの名を口に出したタイミングだった。

 

 まだまだ情報も考察も足りてはいないが、ここまでの情報と推測が正しいとするならば、謎の『小悪魔』さんの目的は、

 

 パチュリー・ノーレッジとの武力敵対をしない。

 

 どんな条件であれ契約を結びこの紅魔館、ヴワル魔法図書館、またはパチュリー・ノーレッジの側にいる。

 

 レミリア・スカーレットと会う。

 

 

 この三つである、とするのが今考えられるところだろうか。まあ、実際はどうであれレミィと会わせれば何かしらの状況は変化することでしょう。

 

 そんなことをつらつらと考えていると階段を昇りきり、食堂へと着くところだった。まだニコニコと笑みを浮かべている小悪魔へ振り返り、

 

「ここよ」

 

 とだけ声をかけて、さっさと扉を開け中にいるであろう彼女へと声をかける。

 

「レミィ、いる?新顔が……」

 

 

 

 

 

 途端。

 

 

 

 

 

 背後にあった吹けば飛びそうな小悪魔の気配が、契約前と同じような『圧』へと変貌した。

 

 

(バカ、なッ!?)

 

 

 契約によって魔力は最大でも私の十分の一にしているはず。ならばなぜこれほどの力を出せるのか?再び疑問が溢れてくるが、しかし契約は今でも結ばれている。ならばと私への危害を加えることの禁止、許可なくしての魔力の行使の禁止を付け加えようとする。しかし。

 

 

(くっ、ダメ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!)

 

 

 小悪魔は何も魔術への対抗などを示しているわけではない。ただ、そこにあるだけなのに、それは私の魔術理論を凌駕していた。使い魔との使役の方法は様々あるが、今回の私の魔術は相手の魂への書き込みによるもので、そして私が持つ万年筆では山に対して意味のあることは書き加えられない、ということだ。

 ギリ、と歯が音をたてる。契約を結び、魔力を制限したからといって油断した挙げ句、自分の友人を危険に晒している。鉄火場に立つことを嫌い、研究に没頭していたからなどと言い訳にもなりはしない。その研究すらこの場では何の役にも……

 

 

 

 

 

「気にしなくていいわ、パチェ」

 

 

 

 

 

 自己嫌悪の思考に取り込まれそうになった時、凜とした声が意識を戻した。目を向けると、テーブルに1人座っている少女が、優雅にティーカップを傾けていた。

 館の名と相反する蒼が混じる銀髪に、緋色のナイトキャップ、同じ色の中に赤のリボンが結われたドレスを纏っている、人間で言えば十歳ほどに見える少女。しかし、背中より広がる巨大な蝙蝠の翼と長い爪と牙、そして何よりも印象的なその紅い瞳が、彼女が人外の存在であることを強く印象付けている。

 

「なるほど。はじめまして、新顔。

 

 

 ようこそ紅魔館へ。ここは悪魔の住まう館。入り込むもの全て見る現実の紅い悪夢。

 

 そして、私がその主。永遠に紅い幼い月。スカーレット・デビル。

 

 

 

 私が、レミリア・スカーレットよ」

 

 

 

 

 彼女から紅い魔力が迸り、私の後ろにいる小悪魔へと叩きつけられる。ただの魔力である以上これだけで実際に傷が与えられるわけではないが、その殺気とともに与えられる彼女のカリスマとでもいうべきプレッシャーは、強者としての核がなければ膝を折り忠誠を誓うであろうことは想像に難くない。

 

 

 

「ーーーーーーッ、グッ」

 

 

 

 しかし自らを木っ端の小悪魔と名乗る少女はただ、その圧力を増した。それは今までのものが児戯に思われるほどのもので、思わず私は扉の横へと移動して道を開けてしまう。

 

 

 ……自分が蟻のように感じられるのは今日が始めてだ。小悪魔は、その笑みを全く崩していなかった。しかしその目だけは薄く、確かに開かれており、静かにレミリア・スカーレットを視界に入れているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まっまっまっまってパチュリー様がいきなり扉開けるし心の準備出来てなかったしれみりゃー様が可愛過ぎるし美人過ぎるしカリスマ過ぎるし怖過ぎるし!!!

 しぬ?しぬ?これ私殺されない?さっきまで夢広がってたじゃんなにこの急転直下!誰だよカリスマブレイクとか言ったやつそんな雰囲気まっっっっっったくないんだけど!なんか本当に死を直感すると体マジ動かないんだね始めて知った知りたくなかった!てかそれなんなんすか紅いオーラみたいな奴東方はドラゴンボールじゃないでしょおお!??目が開けらんないし目を離せば殺されそうで怖いし体動かないし!まずいまずいこのまま殺されると原作が!原作が!ごめんなさい小悪魔あなた一体どうやってこのスーパーライトニングデスファイヤー圧迫面接乗り切ったんですか教えてお願い!というか誰か!誰か助けてええええええええ!!)

 

 

 

 

 




小悪魔さんのハリネズミorフグ度
よつこそ ■■■■
ミスった ■■■■■■
契約完了 ■■
れみりゃ ■■■■
カリスマ ■■■■■■■■■■■■ No.1!


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めんせつ

ランキングに乗るという予想外の事態に喜びつつも困惑しています。
内容やら更新速度やら色々あると思いますがどうかぶたないでください。

感想、誤字報告ありがとうございます。どうして誤字は発生するんだろう?


「それで、名乗るのは私だけかしら?」

 

 

 席を立たず、あくまで上位者としての立場を崩さないで問答を続けようとするレミリア。しかし、それに対して何も答えようとせずに笑いだけを返す小悪魔。無論この間もお互いに威圧を放ち続けておりこの問答自体が前哨戦の様相を呈してきていることは傍らから見ているパチュリーにも理解出来ていた。

 

 

「ッハ、ハ、ハハ、ハ……(口が動かない……はじめましてが……言えない……!)」

 

 

 その当人を除いて。

 

 

 

 

 事態は膠着。このまま続くならば戦闘(虐殺)は避けられないことはお互いに理解しており、レミリアは少しずつ相手へのプレッシャーのためと戦闘への移行のために放出する魔力を大きくし、あいさつを返せない自分の失礼さと少しずつ増しているレミリアの殺気に泣きそうになりながら死にたくない、どうにかしなければという気持ちで無意識に自分を大きく見せていく小悪魔。結果戦闘はすでに避けられないものであり、あとはどちらが先に動くかであると小悪魔以外が考えている中。その膠着を破るものがいた。

 

 

 

「いらっしゃいませ。紅魔館へようこそ」

 

 

 唐突に響く声。それは今まで三人しかいなかった食堂の奥、レミリアの隣から発せられていた。

 

 その登場はあまりにも因果を無視したものだった。この世界が映像作品としてあるとするならば、今まで影も形もなかった人物が唐突に部屋に出現していれば非難が殺到するだろうが、しかしそれを可能にする人物であるならば話は変わる。

 

 魔の存在が集まるこの部屋において、人間でありながらその存在感を全く失わない銀の影。女性としては高身長のその姿は、青と白の二色で構成されたメイド服で身を包んでおり、銀髪のボブカットの下から覗く赤い瞳は一直線に小悪魔を見つめている。

 

 

「咲夜。今は主人が応対しているのだけれど?」

 

「お嬢様は私が知る限り来賓の対応をしたことがありませんので。何か失礼なことを仕出かしているのではないかと心配で心配で」

 

「お前中々言うじゃないの」

 

 

 彼女の名前は十六夜咲夜。 この紅魔館に拾われ雇われている完全で瀟洒なメイドである。紅魔館唯一の人間であり、書籍など露出も多く「時間を操る程度の能力」という人間の枠に収まらないほどの強力な能力を持っていて将来はレミリアの指示などで異変に介入して自機として活躍する人気キャラだ。

 

 そして、そんな彼女を見たのならば。

 

 

 

(うわあああああああ生咲夜さんだあああああああああ生レミリアと咲夜の掛け合いだあああああああ!!可愛い!きれい!美しい!そしてレミリアとめっちゃ仲いいね忠誠心バリバリモードじゃなくてもこれはこれでよい!素晴らしいねうん!ずっと見ていたい!壁になりたい!欲を言えばれみりゃーのティーカップとかになりたい!)

 

 

 

 先ほどまで死の恐怖に怯えていたのに登場人物に会えただけでこの思考である。ミーハー魂ここに極まれり。しかし咲夜の登場によって緊張と恐怖から解放されたこととなる。それによって際限なく肥大した彼女の(外から見た)存在感が元に戻る。不気味な笑みも収まり、キラキラとした目で咲夜とレミリアを見つめている小悪魔。そんな小悪魔に対して戦意を滾らせることなど、彼女らには出来なかった。はぁ、とレミリアはため息をついて放出していた魔力を元に戻す。そうすれば小悪魔も自身に来ていた殺気とレミリアから出ていた紅いオーラが収まったことに気付き、先ほどまでの状況も思い出して慌ててあいさつを本人なりに小悪魔らしく……することは第二で、第一には機嫌を損ねないことを心がけて出来る限り丁寧に行うのだった。

 

 

 

 

「偉大なる吸血鬼にして紅魔館の主、レミリア・スカーレット様、はじめまして。お会い出来て光栄です。

 私は、あなた様のご友人たるパチュリー・ノーレッジ様に本日より仕えさせていただく名もない無力な悪魔でございます。ですので、私のことはどうか小悪魔とでもお呼びください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中々面倒な奴を引き入れてくれたじゃない、パチェ」

 

 

 その後、咲夜とも自己紹介を済ませたあと、仕事を教えるからと「ヴワル魔法図書館から外出しない」「図書館内の物品に許可なく触れない」「紅魔館内の知的生命体に敵対しない」の契約を付け加えて先に小悪魔を図書館へと戻して、食堂に咲夜、レミィ、私の三人だけになった後の言葉である。

 

 

「申し訳ないとは思っているわよ」

 

「別にパチェに対して怒ってるわけじゃないさ、どちらかというと同情している。

 

 で、あいつは一体何者?」

 

 

 そういって鋭い目でこちらを見てくる。付き合いだけは無駄に長いから、彼女が自分への敵意を疑っている、ということではないだろう。ただ純粋に謎なのだ。魔力が無い悪魔ということはほぼ死んでいるのと同義であることを、同族であるからこそよく理解している。そしてひとかけらほどの魔力しかないのにも関わらず吸血鬼である自分に対して同等に対峙する『名もない小悪魔』が、どうしても不可解なのだろう。

 だが、

 

 

「そんなことを言われてもねえ。私もほんの少し前に会ったばかりだし。むしろあの対応からいってレミィの方が何か関係あるんじゃないの?」

 

「知らないわよあんな赤い変な奴。それを言うなら明らかに私と闘う意思を見せていたのに姿を出しただけで戦意を抑えてみせた咲夜こそ知り合いなんじゃない?」

 

「ええ、私ですか?」

 

 

 私たちのお茶を用意していた咲夜が予想外だ、と声をあげた。

 

 

「知りませんよ。私ここに来るまでお嬢様方みたいな人外と仲良くしてたことありませんし」

 

「じゃあ殺し回ってた時に逃した奴なんじゃない?」

 

「それであんなキラキラした目で見られるの?」

 

 

 話にならない、と首を振りつつ私のカップにお茶を注ぐ。大分メイド稼業が板についてきたようである。

 咲夜がこの館に来たのは一年ほど前、レミィが幻想郷を支配するために手下を集めている時にその首謀者の首を取りに来たのが咲夜なのだと聞いた。咲夜は幻想郷の生まれではない。彼女もまた、人間でありながら世界に忘れ去られてこの幻想郷へと飲み込まれた。そして自分すら忘れた名前、そのアイデンティティーを取り戻すために最も注目を集めていた妖怪を殺しにレミィへと挑み、敗北して……そして気に入られて、十六夜咲夜と名前を与えられてメイドとして雇い始めた。

 何故そうなったのかは分からないし、レミィに聞いても「運命が囁いたのよ」と言うだけ。まあ居候であるし、友人の決断にとくに何を言うつもりもないが、明らかに人外だけでなく同族である人間とも戦い、殺すための体術や時を操るという規格外の能力を持つなど、面倒事の臭いしかしないものをよくもまあ受け入れるものだ、と思わなくもない。

 しかし今咲夜以上の見えてる面倒事を引き入れてしまったのは私である。咲夜の我関せずといった態度に、道理は通っていないが少しモヤモヤするものを感じるのも事実であるので、そういえば、と彼女をからかうことにした。

 

 

「咲夜。あなたさっきはよくアイツの前に出てきたわよね」

 

 

 さっ、と目を逸らす咲夜。人ならざる身であるこの私でもあの二人の間に立とうとは思えなかった。そこに時を止めてまで介入しようとし、レミィの側へと立った。今の彼女の目は青く、先ほどの赤い瞳ではなくなっている。あれは彼女が本気で戦おうとした時の合図であり、あの小悪魔の戦意を収める判断が予想外だったということは、

 

 

「なんだかんだ、あなたもここに馴染んで愛着も湧いてきたんじゃない?」

 

「……………まあ、雇い主に死なれると私の日々の食事も無くなってしまいますしね」

 

「別にレミィのことについては言ってないけど」

 

「ぐっ」

 

 

 赤面して睨み付けてくる咲夜を、澄ました顔でスルーする。随分と人間みが出てきたものだと思う。はじめて顔を合わせた時には人形のようだと思っていたのに。

 

「その辺にしといてくれ、パチェ」

 

 保護者に釘を刺されたので、この程度にしておく。レミィも口には出さないが柔らかい微笑みを浮かべて咲夜を見ていて、咲夜はそんな彼女からますます顔を赤くして目を合わせないように顔を背けている。

 

 

「しかし、アイツの反応を見るに間違いなく私達の誰かが目的なのでしょうね」

 

 

 話を戻すために口を開く。そうね、とレミィが同意を示して、

 

「けれど実際、ヒントが少なすぎるわね。ただ小悪魔の方も私と……どちらかというと私と咲夜に対して積極的に敵対しようとはしないみたいだし、泳がしておくしかないんじゃない?」

 

「他人事ね」

 

「他人事よ」

 

「はあ……まあ契約を結んだ以上、こちらからの一方的な破棄を行えば面倒なことになるのは確かだしね。とりあえずはなんとか面倒をみるわよ」

 

「よろしく頼むわ」

 

 

 

 全くもって、とんだ面倒事を抱え込んでしまったものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、なんにしても小悪魔が自由に動き回らず図書館に閉じ込められてるっていうのが救いかしら。契約をさっさと結んでくれたパチェに感謝ね」

 

「ええ、本当に」

 

「はっ倒すわよ」

 

 




(司書ってなにするんだろ……)


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おしごと(1)

ランキング2位とかハードルが上がりすぎてませんかね……?

過度な期待はしないで欲しいとガラスハートは思っております。今回は長くなりそうだったので分けました。

ところで1/27日から第15回東方project人気投票があるんですよね。そこまで頑張って更新続けたいと思っているんですが、皆さんどなたに投票しますか?


「小悪魔。これお願いするわ」

 

「了解しました、パチュリー様」

 

 

 

 パチュリー様から召喚されて3日が経ち。

 

 

「あ、こら!駄目ですよ、それは魔導書ですから。危ないのでこちらの本を554の区域の、ラテン語の書架へと運んでください。迷わないように気をつけてね?」

 

「は、はい!了解しました!」

 

「ふふっ、ちょっと遠いけど頑張って。もし早く終わったら一緒にお茶でも飲みましょうか」

 

「!! が、頑張ります!」

 

 

 

 

 ─────私、充実しています!

 

 

 

 

 

 

 あの恐怖の圧迫面接のあと、なんとか自己紹介をしてパチュリー様の指示で図書館へと戻ってようやく息をすることが出来た。図書館の扉をあけるまでもう心臓をばくばくさせ続けていた緊張の糸がようやく切れて、そこにへたりこんで多分5分くらい天井をあー死ぬかと思ったーとか思いながら見つめていたと思う。そのタイミングでパチュリー様が帰って来なかったのは本当に良かった。まだ自分でも小悪魔像が固まってないのに、小悪魔(わたし)のイメージ崩壊ってレベルじゃないもんね。多分すでにこいつ雑魚やなとは思われてるけど。

 

 で、私が立ち上がってからしばらくしたのち、パチュリー様がメイド服を着た背中から羽が生えた女の子を1人連れて戻ってきた。これが妖精メイド!KAWAII!と思考を呑まれてしまっていたため聞き逃した部分があったかもしれないが、小悪魔の仕事は図書館の蔵書の整理であり、妖精メイドと協力してやるということらしい。その後仕事内容を直接教えてあげる、となんと魔法で直接脳内に書き込んで貰えたのである!改めて直で見る魔法初体験に興奮する私をパチュリー様と妖精メイドが変な顔で見ていたので慌てて取り繕ったが、それでも貴重な体験である。そういえばパチュリー様達が入ってきた時に扉の前で出迎えた時も変な顔をされたような。何か失礼なことをしてしまっていたのだろうか?不安である。

 

 そしてその日から仕事を開始したのだがこれまあ魔法のすごいこと!パチュリー様が刻印した本の分類がそのまま頭の中でああどこそこの書架分類だなと司書の経験が1mmもない私でも分かるようになった!いやあ魔法すごい!私も使いたい!……うん実際少しは魔法使えないとヤバいんだけどね。紅魔郷では空飛んでちゃんと弾幕打たないといけないし。小悪魔的に。

 

 そう、私は今のところまっっっっったく魔法が使えないし空も飛べないのである。まずもって自分の中に魔力らしきものを一般現代人が感じられるわけがなく、翼生えてますよと言われていきなりそれを動かすことなど出来ないのである。……多分。特別私が鈍いとかそういうのではないといいなあ。

 

 そうすると一つ困ったことになる。司書の仕事だが、普通の図書館なら魔法知識だけでどうにかなるだろうがあいにくここはヴワル魔法図書館。書架が分かっても、なんと高さ的にしまうことがほぼ不可能な場合があるのだ。それを仕事を始める前にあれ?このままだと私戦力外では?と運良く気付き、パチュリー様にある打診をしてみた。

 

 

『あの、パチュリー様。私の魔力の件はご存知ですよね』

 

『……ええ、そうね。だけど私からはどうにかするつもりはないわよ』

 

『ああいえ、パチュリー様には何もしていただかなくて結構です。ただ、妖精メイドさんたちがもう少しいてくださればよいのですが、可能ですか?』

 

『まあ咲夜がいいといえば、だけど。何を企んでいるのかしら?』

 

『お仕事を企んでいます』

 

 

 

 

 そして始まる、中間管理録コアクマ───

 

 

 

 どうやらパチュリー様からの仕事内容教育魔法は私しか受け取っておらず、他の妖精メイドたちはどの本をどこに置けばいいか分からない。けれど空を飛べる彼女達へそれを指示することで私も彼女達もしっかり仕事をしているように見える!そして妖精である彼女達がきちんと仕事をしているかを調べたり、低い書架の本を整理したりもしつつ私の指示を聞いてもらうための機嫌取りにお茶会をしたりする!ぐへへ可愛いな妖精メイドちゃんたちはとなるためでは断じてないのである!

 間違いなく効果は出ているようで、パチュリー様の前だからか初めて会った時はカチカチに緊張していた彼女たちとも徐々に打ち解けてきたように感じる。特に赤いメイド服を着てナイトキャップを被った、赤髪釣り目の妖精メイドは最初に私と出会ったこともあってか、非常に良く懐いてくれている。ああ、私はこれ以上ないほどに幻想郷を堪能出来ている!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、多くの同僚が逃げ出した。

 

 

 

 その気配が現れたのはお嬢様の居候であるパチュリー様の住まいであるヴワル魔法図書館。中はメイド長が空間拡張?とかをしたとかでやたら広くなってて本がびっくりするくらいあること以外はよく分からない。パチュリー様自体が他の人がいるのが嫌いだとかで私達は不必要に入ることを禁止されているからだ。まあたまに入っていく子もいるんだけど、大体変な本に手を出して一回休みになってる。

 で、ほんとに突然前触れもなく地下にでっかい何かが出てきたの。人間のメイド長とかは気づいてなかったけど、私達妖精はそういう大きい力とかに敏感なせいでみんなざわざわしてた。そしたらそれが地下からこっちに昇ってきたからさあ大変。ひえーって逃げ出す子、どうしようって部屋の隅で固まる子、正体を暴こうとする子。私は、正体を暴こうとする1人だった。

 私はそこそこ長くこの館に居着いている。どれくらいかは覚えてないけど、そのうちお嬢様からあなたもう大妖精ね、分かりやすいようにこれ着ときなさいと赤いメイド服を渡された。大妖精になれたのは私が初めてだったようで、つまるところ私はエリートなのである。

 そんな自信があったこともあり、正体を暴こうとする子たちで組み、赤い髪を肩で揃えている悪魔が正体であることを尾行によって突き止めて、そのまま食堂までバレずに着いていけたことを尾行グループで喜んでいた時。

 

 

 

 

 

 食堂から発せられていた気配が一変した。

 

 

 

 

 お嬢様の近くにいたから多少の強い人への慣れはあっても、それでも絶対にここから離れなくてはいけないと皆が感じてたと思う。仕事をほっぽって多くの子が外へと逃げ出していた。そういえばそこでようやくこの気配に気付いたのかメイド長が私達になにごとかを聞いてきたので食堂に赤い髪の悪魔がいることを伝えるとどこかへと消えていったこともあった。そんな中私は、食堂からは離れたくて距離を取って、それでもこのメイド服を捨てることが出来ずに私達に用意されてる休憩室で動けなくなってたの。

 

 しばらくして、食堂にあった大きなものはいきなり消えた。結局、何があったんだろうか。でも、私は自分を強くなったと思っていたのに、大妖精になったといっても私はなにが出来るというわけでもないんだな、と少し意地を張ってここに残っていることが虚しくなった。

 

 

 

 

 

 でもそこで話は終わらなかった。

 

 

 いきなり休憩室の扉が開かれたのである。そこには、

 

「あら、あなたしかいないのかしら」

 

 お嬢様の友人である、パチュリー様がいらっしゃったのである。

 

 

「あ、えっと他の子たちはちょっと今さっきので……えと逃げ出してしまった、です」

 

「そう、まあ仕方ないわね。あなたでいいわ」

 

「えっ」

 

 

 強引に休憩室から連れ出される。状況に付いていけてないのにこれはなにかまずいことが進んでしまっているような。

 

「あのこれはどこに向かっているんですか」

 

「図書館よ。あなたには私の仕事を手伝って貰おうかと思ってね」

 

「えっ、仕事って何されてるんですか」

 

「本の整理と新しくめんどくさい奴の見張りが加わったわ」

 

「ちょっと待って、そのめんどくさい奴って一体誰なんです」

 

「いいでしょ私だってあんな奴と二人きりとか想像するだけで胃が持たないのよ。ただでさえ喘息なのに」

 

 

 そうこう言い合っているうちに図書館前の扉についた。嫌な予感しかしない。見張りとかが必要になる方で図書館にいるパチュリー様以外の人物。

 

「あの、それってまさ「入るわよ」あっ」

 

 

 

 そして開かれた扉の先に待っていたのは私の予想通りの人物であり。

 

 

「おかえりなさいませ、パチュリー様。先ほどはご友人の前で見苦しい振る舞いをしてしまい申し訳ありませんでした。

 それでは……私にさせたいこと、なんなりと申し付けください」

 

 

 深々とこちらに向かって頭を下げているという予想外の姿なのでした。

 

 




私は「紅exパチュリーの前の赤い妖精メイド」ですかね……


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おしごと(2)

日刊ランキング1位ありがとうございます。
正直それに見合う作品を書けているかは不安ですしプレッシャーですが、皆さんが好きと言って下さるので続けていけます。

これからも細々と更新していこうと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。


 お行儀良く、しっかりと私達にお辞儀をしている赤髪の悪魔。

 目を疑ったけど、そこにいるのは間違いなく私達が尾行して正体を自分の目で確認した、あのお嬢様と対峙していた強大な悪魔だ。……たぶん。そうだよね?

 なぜ疑問形なのかというと、さっきまでと比べて余りにもその存在感が希薄だったから。それでも私達なんかよりも大きいけれど、明らかに同一人物とは思えないほどに違う。なんでだろう?ふつう強くて大きな人たちは、いくら力を抑えているといっても、不自然な感じが出るというか、そこからざわざわとした雰囲気を感じてしまう。でもこの人のはそういうのがなく元からこうだというか、こっちが自然なような感じ。そんなわけないのに、なんでそう感じるんだろう?

 今のこの人は丁寧な口調とその所作、それに大きさからもまるで私達と同じで、誰かに仕えてる人みたいだ。

 

 

「……………そうね、あなたは私の使い魔だものね」

 

「え?」

 

「その通りですパチュリー様」

 

「ええ?」

 

 

 なんだって?私と同じように悪魔の姿を見て固まっていたパチュリー様が言ったことに反応して、顔を上げた彼女は同意をしました。すっごく良い笑顔で。

 ……どういうこと?パチュリー様はお嬢様の友人なだけあってとっても強い方だけど、お嬢様の部屋から発せられていた気配と比べれば悪魔の方が絶対に大きい。それこそ神様でも現れたんじゃないかってくらいだったんだから。

 なのにパチュリー様はこの悪魔が自分の使い魔だと言って、悪魔もそれに同意を示している。にこにこ嬉しそうに。わけがわからない。パチュリー様はなんでこんなのを使い魔にしたんですかとか、なんであなたはそんなに嬉しそうにしてるんですかとか言いたいけど、下手に口を出して注目されたくないのでとりあえず黙っていよう……。

 

「おや、その娘はいったい?」

 

「あー……あんたのお目付け役の妖精メイドよ」

 

「へ、お目付け役って何ですか私聞いてな「妖精メイド!」ひゃい!」

 

 そっと後ろに隠れようとした私を無慈悲に突き出すパチュリー様。ついでにと言わんばかりに衝撃の事実を口に出し、私がそれに疑問を出そうとする前に目の前の悪魔から大きな反応が返って来て遮られてしまった。

 

「ほー、あなたが妖精メイド……!あ、突然申し訳ありません。はじめまして、私は名も無き小悪魔でございます」

 

「え、はいどうも。えーと、私は名も無き妖精メイドです」

 

「わあ……本当に働いているんですね……!」

 

「は、はあ」

 

 とてもキラキラとした目でみられてちょっと恥ずかしい。確かに妖精がメイドとして雇われているのは珍しいかもしれないけれど、忙しい時とかに私達をちょっとした手伝いに雇うことなんてどこでもやっている。なにが彼女の気を引いたんだろう?しかもえっと、名も無き小悪魔?誰が?

 

 

「……小悪魔。さすがにレミィと会わせた時のあなたの態度を見た後で一人で活動させる気は私にはないわ。だけど使い魔としてやるべきことはやってもらう。

 で、やってもらいたい仕事はここの本の整理よ。この子だけじゃなく、少なくとも一人は常に妖精メイドにつかせてあげるわ。下手なことはしないように」

 

「ええ、了解しました」

 

「……本当かしら。なんなら、その頭に直接教えてあげましょうか?」

 

 

 私に対する小悪魔?さんの反応を訝しげに見ていたパチュリー様だったけど、しばらくして私を挟んだまま仕事の内容を伝え始める。というかお目付け役って一番危ないやつじゃないですか!しかもそんな口調で、マインドコントロールの魔術を起動しますとか小悪魔さん絶対怒るよこんなの、

 

 

「え、是非お願いします!」

 

「「は?」」

 

「え?」

 

 

 思わずパチュリー様と声が合ってしまった。

 本当に何を考えているんだろうこの方は?悪魔であるなら魔術を知らないということはないはずだし、もし仮に知らなかったとしてもパチュリー様が起動した魔術は精神に干渉するペンを取り出すという、私でも分かるくらいにあからさまな魔術なのだ。精神に干渉されることに全く抵抗を示さないなんてことあるわけない。

 

「なにかあったんですか?」

 

 だけれど当の小悪魔さんはこんな調子。なにかあったんですかはこっちのセリフである。どう考えてもおかしいのはあなたの方です、と声を大にして言いたい。

 

「そうね。……あなたがいいならやってあげましょう。もともと用意していたものだし、使ってあげるわ」

 

「ありがとうございます!すいません、こういう魔術を使われるのは初めてだったのでつい興奮してしまって」

 

「そりゃそうでしょうね」

 

 はあ、と使う側のパチュリー様が大きく溜め息をついて行われるマインドコントロール。しばらく行われるそれを私はぼけーっと見ているしか出来ないのであった。

 

 でもこれでお目付け役とかの必要もなくなるし、私も元の場所に帰れるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、一緒に整理頑張りましょう!」

 

 

 

 

 

(どうしてこうなった)

 

 

 

 

 

 

 でもびっくりするくらい仕事が出来た。小悪魔さん凄い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、ここを真っ直ぐ、ちょうどあなたの背の高さ位の場所。具体的に言えば下から5段目の棚の端にMagical Realism って本を見つけるまで進んでください。そうしたら、左に曲がっていってもらって461と書いてある書架を見つけて、この本をしまってください。どう、大丈夫?」

 

「ええと、真っ直ぐいって、マジカル…ええと…」

 

「そうだね、メモをするからちょっと待っててもらっていいかな」

 

「そ、そこまでしてもらわなくても!」

 

「いやいや、慣れるまでは無理をしないでいいんですよ。まずは一つ、しっかりとやってみましょう!」

 

「わ、分かりました、頑張ります!」

 

 

 

 この使い魔を召喚してから3日が過ぎて、元々私しかいなかったこの図書館には良く声が響くようになった。

 原因ははっきりしている。あの小悪魔である。私が彼女に仕事内容を精神に直接書き付けた後、妖精メイドに仕事を手伝わせることを要求してきた。何を企んでいるにしても、頭数が増えればそれだけ私が監視しなくてはいけない時間は減るだろうと許可したのが間違いだったのか。こいつのせいで逃げ出した妖精メイド達を咲夜が引っ張ってきたりなにがあったか忘れて戻ってきたりした中から数人連れてきて、何をさせるのか見てやろうと思っていたら本当に妖精メイドたちを使って本の整理をしはじめた。しかも、妙に手際が良い。

 いくら妖精達を働かせようと思っても彼女達はひたすらに自由であり知能も低いので、しても無駄な努力になることが多い。しかし小悪魔は、妖精達があの威圧を知っていて指示を聞きやすいこともあるだろうが、まずはお茶会や休憩などで気を引く。出来るかどうかを確認もし、難しそうでもサポートを行って達成する喜びを味わわせる。そして気づけば……

 

 

「小悪魔さま!おっきな本運べましたー!」

 

「小悪魔さん!次の本はどこに運べばいいですか?」

 

「小悪魔さーん!噛みついてきた本やっつけましたー!」

 

「悪魔のねえちゃん!私も初めて運べたぞ!」

 

「小悪魔さま!今日はみんなでもう30冊も片付けたので、お茶会にしましょう!」

 

 

「そうですね。今日は皆さん頑張ってたので、一緒に休憩しましょうか」

 

 

『はーい!』

 

 

 この有り様である。……小悪魔が魅了などの魔術を使っていないかはもう6回確認したが、なんの魔術も使っていないことは明らかである。最初妖精メイドに会わせた反応からして初対面に違いないと思うのだが、なぜこんなにも人を使うのが上手いのだろうか?

 

 彼女は本当に訳がわからない存在だ。私やレミィの前で見せたあの強大さがあれば、人を従えることも、私に従うことも不必要だろう。けれど実際は私の使い魔になって、妖精達の機嫌を伺いながら過ごしている。空も飛ばずに。

 

 小悪魔は妖精メイドと会ってからあの威圧だけでなく、魔力の行使や飛行を一度も行っていない。おそらくではあるが、今彼女が行っている無力である擬態の為だと考えれる。

 妖精達は大きな力に敏感だ。彼女達は今なんの気兼ねなしに小悪魔へと話しかけているが、本来ならばそれはあり得ない。力を抑えるというのは言うのは簡単だが行うのは非常に難しい。そもそも幻想の存在である私達は、自分が強い存在であると認識していなければその強さを失ってしまうからだ。けれど小悪魔はそんなことに頓着せず、ただ妖精達を遠ざけないように力の行使を一切やめて、共に私からの仕事をこなそうとしている。

 

 

 一体、なんのために?

 

 

 

「───パチュリー様。紅茶、いかがですか?」

 

 

 

 はっと顔をあげる。そうすると、赤髪の悪魔が屈託のない目を細めて、満足そうに、得意そうに、罪もなく無邪気にニコニコと微笑み続けている。

 

 

 ああ、全く。

 

 

「そうね、頂くわ」

 

 

 本来ならば、こんなことは思索する必要がないことだ。私が彼女にブレインコントロールを使った際に全て暴いてしまえば良かったのだから。

 ブレインコントロールは私が専門にしているわけでもなく、小悪魔の力なら意思だけでプロテクトされることもあっただろう。けれど、彼女の意識には一切の抵抗がなかった。その全てを、私に投げ出していたのだ。

 

 罠という可能性を考えなかったわけではない。けれど第一は、私が無垢な好意を寄せてくる彼女の内を暴くのがなんとなく気に入らなかったのだ。

 

 

 

 だってそれだけでなく。彼女は、ずっと変わらない。私といるとき、妖精メイドといるとき、咲夜が現れたとき、その全てで彼女はいつだってニコニコと本当に嬉しそうに笑顔でいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 溜め息を吐く。本当に面倒なものを呼び出してしまったものだと思う。ただ者ではない力を持ちながらあっさりと全権を委ねて、混じりけのない好意を私達に向けながらその正体が一切わからないし話す気配も今のところなし。面倒なことだらけだ。

 

 

 

 ただ。まあ。

 

 

 

 

 

 机に妖精メイド達が集まって談笑している。その中心となっているのはあの怪しい使い魔で、いつも通りの満面の笑みだ。私が遠ざけていた喧騒が続いている。咲夜が来たときも思ったが、随分とうるさくなったものだ。けれど、

 

 

 

 

 

 

「落ち着くわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が淹れた紅茶を飲み、その家族の団欒のような喧騒を眺めるこの時間は、嫌いではない。

 

 




ここからは各キャラの交流をしてから紅魔郷に入りたいと思います。


このお話は最後のまとめ方が雑な気がするので書き直すかもです。


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こうりゅう caseめいどちょー

ちょっと長くなりました。こちらを読む前に、めんせつを読み返していただくとより楽しめるかと思います。

ところで話は全然変わるんですが、


「第15回東方project人気投票」投票開始しました!


「第15回東方project人気投票」投票開始しました!


「第15回東方project人気投票」投票開始しました!


はい。


 十六夜咲夜は、人間である。

 

 それにも関わらずこの吸血鬼が住み着く紅魔館に雇われて、メイド長という役職を請け負っている。それはここの主であるレミリア・スカーレットの気まぐれによるものであり、ここでメイドの真似事をやっているのも自らの食い扶持のためであってそれ以下でもそれ以上でもない。そのはずであった。

 

 しかし、その認識は一週間前に破られることになる。謎の悪魔がレミリアと対峙していると、食堂からなんらかの巨大な気配を感じて逃げ出す妖精メイドから聞いた時だ。

 

 咲夜は自分をある程度の強さはあると自負している。体の出力こそ人間並みだが、「時間を操る程度の能力」と自らも知らない過去に蓄積した体術とナイフ術があり正面からであっても大抵の妖怪には勝てるという経験と自信があった。

 

 しかし、食堂の気配は咲夜の記憶の中で最も強い妖怪であるレミリアをも凌ぐものである。そして彼女はまた賢明であり、自分の強さは人外を相手にした時にある程度「格」が違う相手には有効にはならないとも理解していた。所詮能力もナイフも体術も小手先の技であり、人間である以上小手先でどうにもならない相手もいるのだと。

 

 

 

 その上で、彼女は決断を迫られた。何をするか、だ。

 

 

 

 合理的に考えれば咲夜のやることは一つ、紅魔館から逃げ出すしかない。そもそも彼女がこの紅魔館にいた理由はレミリアに気に入られたことと、行き先も何もなかったこととで需要と供給が噛み合っただけに過ぎない。本来は名前のない根なし草なのだ。あのお嬢様がやられようが、自分には何の関係もないことである。そのはず、なのに。

 

 

 咲夜の体は、時を止めて全速で向かった。食堂で悪魔と対峙するレミリアの隣へと。

 

 

 

 

 時間停止を解除した咲夜の姿は、他からはレミリアの側に瞬間移動でも行ったかのように見える。悪魔の前に立ったことで、咲夜は先程までよりも強く強く自分との大きさの違いを感じていた。そして自分は何をやっているのかと笑ってしまいそうになる。しかし、

 

 

 

「いらっしゃいませ。紅魔館へようこそ」

 

 

 

 ────私は、紅魔館(ここ)にいたいのだ。

 

 

 

「咲夜。今は主人が応対しているのだけれど?」

 

 

 

 ────私は、紅魔館の十六夜咲夜なのだ。

 

 

 

 

 

 気づいたら幻想郷にいて、何もなかった。家も、食べ物も、仲間も、家族も、過去も、なにもかも。

 だから「何か」になりたかった。なんでもいいから。このままだと消えてなくなりそうなただの「私」を、誰でもいいから認めて欲しくて。

 そして、私には力だけがあった。妖怪のボスを殺せれば何かが起こると思って、勝てないと分かっていながら、半ば死ぬことを望んで紅魔館へと来たのだ。

 

 

 

 

 

『名前がないなら私があげるわ。貴方の名前は、十六夜咲夜。私の側に輝く月。

 

 ────十六夜咲夜。私のものになりなさい』

 

 

 

 

 

 ただの強者の戯れだと思っていた。勝者による敗者を使った暇潰しだと思っていた。

 

 

 

 それでもいい。

 

 

 

 それでも私は、十六夜咲夜(わたし)になれたのだ。

 

 

 

「お嬢様は私が知る限り来賓の対応をしたことがありませんので。何か失礼なことを仕出かしているのではないかと心配で心配で」

 

「お前中々言うじゃないの」

 

 

 

 レミリア、お嬢様との会話の心地好さに自然と口角が上がる。失いそうになってから初めて気づく、なんて陳腐な言い方だがその通りだと思う。一年もかかり、生き残れるか分からない戦いの前になって今さらだと自分でも思うが、随分と彼女を慕っていた私と、その気持ちに気付いていなかった私のどちらもが気恥ずかしい。

 

 

 

 けれど、この気持ちに気付いたならば。

 

 

 

 

 

 

 

 どうか、生きている間は、この方と一緒にいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に決意したりしたのが一週間前の話である。そしていまだに私は生きていて、今日も今日とてメイド業に励んでいる。そして

 

 

「お疲れ様です、咲夜さん」

 

「恐縮です、小悪魔様」

 

「……あの、その様付けやめてもらえませんか?(小悪魔って咲夜さんからなんて呼ばれてたっけ?もしかしたら原作でも小悪魔様とか呼んでたのかな。いやでもさすがにちょっと解釈違いだからやっぱりどうにかタメ口調にしてもらいたい……!)」

 

 

 

 あのとき決死の覚悟で挑んだ悪魔と、同僚になっていた。どうしてこうなったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が隣に立ってからの顛末は非常に簡単で、小悪魔が纏っていたその圧を霧散させて私とレミリアお嬢様に対して目を輝かせていて、それに毒気を抜かれたお嬢様も魔力を解いて、私と小悪魔同士で自己紹介をした。その後パチュリー様が図書館へと小悪魔を送ったということだけだった。彼女はパチュリー様が呼び出した使い魔ということらしく、とりあえず本の整理を手伝わせるという。正直パチュリー様は凄いことをやる人だな、さすがお嬢様の友人と思うだけで、小悪魔と関わることはあまりないだろうと思っていた(というかさすがにあまり関わりたくなかった)。

 しかし彼女の仕事が妖精メイドを使ったものであり、そして彼女らの懐柔のために使われるお菓子や茶葉の補充分を持っていかなくてはならなくなった。元々パチュリー様のために軽食は日に二回持っていっていたし、「自分で淹れるから紅茶の準備だけおいといて」と言われていた図書館にあるティーセットの用意を使用したら入れ換えることはやっていたのだが、一番困っていたのはやはりあの小悪魔様である。

 

 彼女は、私が図書館に入る度に話しかけてくるのだ。元々お嬢様に仇なす相手だと思っていたこともあるし、何より彼女は私に対してあまりにも好意を寄せすぎている。もしや淫魔の類いかとも思ったが、性的な接触どころか挨拶以外は私の仕事の何が面白いのかずっと見つめているだけなのだ。妖精メイド達はやたらなついているし、見張りをしておくといっていたパチュリー様ももう面倒臭がっているのか監視をせず普通に使い魔として使っている。魅了や洗脳の危険については、そういうものに敏感な美鈴が何も言ってこないということは自然な状態なのだろうが、強大な力を持っている彼女を契約によって縛ってるとはいえ警戒しなくて大丈夫なのか?

 

 特に私の困惑を強めているのが、彼女の私に対する態度だ。私は、人間である。得てして人外は人間を侮る。格下であるという前提がある。まあ彼らのエサでもあるのだから当然だとは思っている。思っているからこそ、小悪魔の態度は解せない。

 彼女は「私」に敬意を払っている。お嬢様という悪魔に仕える狗に対してではなく、私という個人に。あの相対の時から、私が彼女よりも圧倒的に弱いことは分かっているはずなのに。

 

 

 

「何故、私の敬語がご不満なのですか?」

 

「え、(いや不満、不満かな?でも実際にいる咲夜さんの行動が解釈違いって言うのすっっっっごい失礼だよねこれ間違いなく!どうしよう、えーとなんで解釈違いなんだろうまず咲夜さんはれみりゃー、妹様、パチュリー様に対しては敬語だったよね?そんで他の人には大体タメだったような……そうだ!めーりんにもタメだったじゃん!それだ!)

……私はパチュリー様に仕えているしがない使い魔です。対して咲夜さんはそのご友人であるレミリア様に仕えるもので、なおかつ実質的にこの館の管理を任されているメイド長という立場でしょう?であるならば、咲夜さんともなる人が私程度に敬語を使っていてはいけないと思いまして」

 

 彼女の返答を聞き、私の困惑はますます深まる。私が彼女に対して行ったことなどほとんどない。なのに、どうしてここまで純粋に敬意と好意を人間である私に表すのだろう?

 

 そう考えて、私は一つの可能性に気付く。

 

 もしかして、だが。

 

 

 

「小悪魔様は───私を知っていたのですか?」

 

 

 

 私が失った過去。世界にも、私自身からも忘れ去られた十六夜咲夜(わたし)の知らない私。それを彼女は知っているからこそ、こうしているのではないか、と。

 

 

 そして、反応は劇的だった。

 

 

「あっ……!?」

 

「ひい!」「きゃあ!」

 

「!小悪魔!」

 

 

 一週間ぶりに。パチュリー様から使われていた契約をものともせず、お嬢様と対峙していた時とは雲泥の差であるが、それでも私とは比べ物にならないほどの存在感を発する小悪魔。

 

 

 

「……(こ、これはもしや東方を作品として知ってる的なあの、憑依バレ!?憑依バレですか!?待て待て待て想定外!想定外でふなんでバレたの!?ど、どこだ?どこでミスしたのだ私は!?いや違うその前に何か答えないと小悪魔が小悪魔じゃないってバレちゃう!いや元の小悪魔をみんなが知ってるわけではないから大丈夫、なわけがない!四面中ボスのキャラは実は幻想入りした現代人ですなんて原作解離ってレベルじゃないもの!)」

 

 

 小悪魔は先程までと同じ笑顔でこちらを見つめ続けている。急変した彼女の気配に驚いた妖精メイド達のほとんどは一目散に逃げていく。そしてパチュリー様がこちらに来ようとするが、

 

 

「大丈夫ですパチュリー様」

 

「咲夜!?あなた……」

 

「いいんです。……聞かせてください、小悪魔様。あなたは私の、何を知っているんですか?」

 

 

 

「( 原 作 で す )」

 

 

 

 あのときお嬢様の隣に立ったからこそ分かる。彼女は威圧こそすれ、本気ではない。おそらく、彼女は私を試しているのだ。これで話を追及しなくなればそこまでであると。しかし私は、逃げはしない。胸を張って私は紅魔館の十六夜咲夜であると言うために。

 

 しばらくして。彼女は、はぁ、と溜め息をついて、その圧を霧散させた。残るのは、先程までと同じ無力なように見えるだけの姿。

 

 

 

「(し、仕方ない……もうバレてるとしても、せめて原作までは!原作まではなんとかしなければ……!)

分かりました。けれど、今は言うわけにはいけないのです。私が今後、一度だけ、私の存在を懸けて闘わなくてはいけない時が来ます。そして、私が私の目的通りに闘いを終わらせることが出来たとき。

その後には、間違いなくお伝えすると約束するので……どうかそれまでは、私を名も無き小悪魔であると扱ってくれませんか?」

 

 

 そういって、今までの無垢な笑みとは違う、縋るような目で私を見つめてくる小悪魔。意外だった。彼女のような絶対者が私に対してこんな、無力な人間のような目を向けるとは思っていなかったからだ。けれど、その彼女の新たな一面で、理解不能であった存在が急激に近くなったような気がして、途端に今の状況がおかしく感じてしまった。

 

 

 

「ふ、あはははは!そんな目で見てくるとか、もう……くく、反則よ、反則。はあ、これでいいんでしょ、小悪魔?」

 

「え、あ、はい!(わ、私の何がそんなに面白かったんだろう?もしかして咲夜さんSっ気が入っていらっしゃるのかしら、まあ東方キャラはみんな皮肉屋だったり煽ったりしまくるから不思議ではないのかな)」

 

「でも、約束よ?貴方の持ってる秘密、しっかり教えてよね」

 

「……はい。その時が来たら、お伝えします」

 

「じゃあ、まあ」

 

 

 私は彼女に手を差し出す。彼女はその手をきょとんと見つめているだけで、私の意図が掴めていないようだった。その姿にまた笑いが込み上げてくる。

 

 

「ふふっ、……握手よ、握手。これからよろしくね、っていう」

 

「えっ、(は?咲夜さん笑顔可愛い過ぎかよふざけんなというか握手?そんな私が原作キャラに触れるとかそんなの)

 

 

 はい!これからもどうぞよろしくお願いいたします!(きゃああああああああああああ手ぇすべすべええええええええ柔らかいいいいいいいいいいいいいい幸せええええええええええええええええええ!!!!!)」

 

 

 

「ええ。よろしくね、小悪魔」

 

 

 

 

 そして、彼女が見せる大輪の花のような笑みに私も笑みを返しながら、手を結べたのだった。

 

 

 




私は咲夜さんに投票します。


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こうりゅう caseもんばん(1)



今なら投稿しても……バレへんか……


 

 

「失礼します。御茶請けをお持ちいたしました」

 

「あ、咲夜さんこんにちは!」

 

「こんにちは小悪魔。今日も精が出るわね」

 

 

 こんな感じで。

 咲夜さんからの対応がなんとなく原作っぽく(???)なりはしたが、後で私が咲夜さんについて知ってることを話さなくてはいけなくなってしまった。どうしよう。でもまあ紅魔郷始まるのは大分後だろうし今はとりあえずこの環境を楽しんでいようかなぐへへ!

 

「では皆さん、休憩にしましょう」

 

「は、はい!」

 

「わ、私は大丈夫ですので」

 

「う、上の休憩室にいってきますー」

 

 この、環……境……。

 摩訶不思議なことに咲夜さんの態度が軟化するのと反比例してあんなに懐いてくれていた妖精メイド達が一気によそよそしくなっていた。なんでこうなったの。一応指示は今まで通り聞いてくれるし、唯一赤髪の子だけはこうしてお茶会に参加してくれるけどそれでも距離を感じる。

 前にそれとなく世間話の延長を装ってパチュリー様にそういえば最近妖精メイドから避けられちゃってーと聞いてみたら『そりゃあの威圧を受けたら距離取りたくもなるでしょ』との返答。

 威圧?何の話?でも指導に当たっている上で指導対象の現状に関する因果関係が把握出来ていないのは不味い。あくまで魔力クソザコナメクジの私が不思議図書館で司書っぽくやっていけてるのはこの子達のおかげ、指導員としての立場がなくなる=死を意味する以上下手に『あの子達にそんな威圧とかかけてくる人いるんですか?』とは聞くに聞けない……!

 

「あなたは一人で大丈夫?ごめんね、私からの誘いが断りづらいからって無理に付き合わなくてもいいんですよ」

 

「い、いえ!無理してるとかではないので、大丈夫です!」

 

「そう?仲間の妖精さん達と一緒がいいなら遠慮なくそうしてくださいね?」

 

 だから残ってくれるこの娘に感謝して、まずは相手の目線に立って、その上で妖精メイド達の等身大の意見を聞くことに徹しよう!彼女達の話を聞くのは仕事の一環だもんね!

 

「それでは私はこれで、あら?」

 

「あ、咲夜さんこんにちは。図書館に何か御用があったんですか?」

 

「私は御茶請けを出しに来ただけよ。あなたこそ門番の仕事はどうしたのかしら?」

 

「門番は今ちょっと妖精メイドに頼んで代わってもらってます。私もほら、新入りさんと顔合わせをしたいと思いまして」

 

「成る程。……ま、あんまり無駄に長居しないでね」

 

 気合いをふんすと入れて、椅子に腰掛けようとした時扉から聞こえてきた会話が私の動きを止めた。もしや、と振り返るとそこには、

 

 

「はじめまして、新入りさん?私、ここの門番をさせてもらってる紅美鈴っていいます」

 

 

 こちらへと柔和な微笑みを向ける女性。長身でありつつピンとした姿勢で赤い髪を腰まで真っ直ぐに伸ばし、髪に映えるような緑の華人服を身に付けている彼女!華人小娘紅美鈴!いつか会いたいと思ってたけど、まさかこんなに早く会えるとは!

 

「はじめまして、紅美鈴さん。私は名も無き小悪魔ですので、どうか小悪魔とお呼びください。お会い出来て光栄です」

 

「あはは、そんなに固くならなくてもいいですよ。……パチュリー様、ちょっとお時間よろしいですか?」

 

 気合いを入れてお辞儀して、今度あいさつするときはこうしようと考えてた通りのセリフを言うと美鈴は私を通りすぎてパチュリー様に話しかけにいってしまった。

 

 ……(´・ω・`)

 

 ま、まあいつでも話す機会はあるだろうしね。別に今すぐ話さなきゃいけない訳でもないし、全然気にしてないぞ!

 

 そのまま美鈴はパチュリー様と会話を始めた。距離があるので詳しい話は分からないが、何か頼みごとをしているようだ。ただあちらの話が気になって赤妖精ちゃんの話が聞けないのは本末転倒なので、とりあえずめーぱちぇのことは頭の片隅に置いてお茶会を楽しむことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 しばらくして。お茶会が終わろうとしていた時に、

 

「小悪魔さん。ちょっとお話しませんか?」

 

 こんなお誘いが美鈴から!

 勿論大歓迎ですとパチュリー様に仕事を一部抜ける報告をしようとすると、パチュリー様にはもうお伝えしているので大丈夫ですよ、とのこと。さすが「気を使う程度の能力」の持ち主である。

 

 

 だが。

 

 

 美鈴に連れていかれた私を待っていたのは、楽しいお話ではなく。

 

 

 

 私と1cmしか離れていない美鈴の拳と。

 

 

 

「余計なことはせず私の質問にだけ答えて下さい。いいですね?」

 

 

 

 という美鈴のギリギリと引き絞られた鋭い眼差し。

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、パチュリー様に結界を作って頂きたいんですよ」

 

「はあ……あんなのと二人きりになりたいなんて、物好きよねあなたも」

 

「いや~それほどでも~」

 

「誉めてないわよ」

 

 ため息をつきながらも淀みなく結界を作成していくパチュリー様。魔術はよく分からないが目の前で紡ぎあげられていく膨大な力が指向性を持ち精密にまとまる様は、おおーと感嘆の声が自然に出るようなものだった。

 

「それで、死ぬ気って訳じゃないんでしょう?何をしにいくつもりなのかしら」

 

 手を休めず、視線もこちらに向けないまま投げかけられる質問。相変わらず心配の仕方も信頼の仕方も素直じゃない人である。苦笑しながら、んー、と口下手なりに自分の考えをどうにか説明しようと考える。

 

「まず、死ぬ気はありません」

 

「でしょうね。でもそれでアレと二人きりになるのは矛盾してないかしら?」

 

「いえ、彼女は私……私達に危害を加えることはないと確信しています」

 

「へえ?」

 

 そこまで話すとようやく面白いことを聞いた、というような反応を示してパチュリー様はこちらへと向き直った。

 

「勝つ自信があるとかいうのかと思ってたわ。あいつのわけわからない内面が多少なりとも推測出来てるっていうのは、あなたの能力が関係してたりする?」

 

 淡々とした口調で、しかし常と比べるとはっきり分かる程度には早口でにやっと笑いつつ爛々と目を輝かせている姿は、なんというか魔女だなあ、と改めて感じる。大したことでもないので私の能力や過去についてはお話してないのが原因だと思うけれど、そんなに気になっていたのだろうか?

 

「ええまあ。私がレミィと会う前から紅魔館にいたみたいだし、私の知らないことがあるってだけで興味を引くのよ」

 

「ありゃ。顔に出てました?」

 

「大分ね。それで、魔女(わたし)の前で話を始めて、なあなあで済むとは思ってないわよね?」

 

「怖いなあ」

 

 言いながら、思い出す。地下の図書館に彼女の気配が出現した時。レミリアお嬢様と対立するように巨大化する気配を感じ取った時、私が彼女に対して思ったこと。それは、

 

「まず、私は「気を使う程度の能力」を持っています。気っていうのは、魔力とか妖力とは違う、武術的な教えの一部として身体にある精神的なエネルギーを指しています」

 

「思ったよりあっさりと教えてくれるのね。気ねえ……大陸の方の書籍にはよく出てきてたような……それで?」

 

「別に隠すようなものでもありませんし、お嬢様はご存知ですしね。……で、能力の延長線上で、他の人達の「気」はある程度感知することが出来ます。そして「気」は精神に大きく左右されるものですので、大雑把にではありますが感情なんかも感じとれると言うわけです」

 

「なるほど?」

 

 私の説明の途中、半分くらいでパチュリー様は話を理解してしまったように質問をしてくる。

 

「じゃあ美鈴はあの小悪魔から一体どんな感情を読み取ったのかしら」

 

「いやあ、話が早いですね。……うん。私の能力の本来のものではないですし、距離も離れている時のものなので詳しくは言わないでおきます」

 

 けれど、地下から。そして食堂から発せられた超巨大な気。しかし、それを私は感じ取った上で門番の仕事を続けることを選んだ。彼女、小悪魔の気に含まれていた感情。それは───

 

 

 

 

「ですので、間近でもう一度試してみたいと思います」

 

 

 

 

 

 

 ─────恐慌と、歓喜。

 

 

 

 





長くなりそうなのでまた分けます。


更新遅れて申し訳ないです。インフルエンザが長引いて一週間程死んでいたら休み開けの諸々に追われてしまい、しばらく間隔が空いたら小説の書き方を忘れてしまっていた感じです。

なので続きは書けたらとなりますので、気長にお待ち下さい。


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こうりゅう caseもんばん(2)

お久しぶりです。もう難産も難産でした。


「小悪魔さん。ちょっとお話しませんか?」

 

「ん、美鈴さん。勿論大丈夫ですよ! ただ、パチュリー様にお声がけしてお休みを頂けたらになりますが……」

 

「ああ問題無いです。私がもう話は通しておいたので」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

 

 そういって満面の笑みをこちらに向ける、小悪魔と名乗る彼女。今の彼女からは以前に発していた巨大な気配はなく、妖精と比べてもほとんど変わらない程度のものとなっている。パチュリー様が魔力に制限をかけていることは知っているが、それでも彼女からは自分の力を出そうという気配も、力を制限されていることに対する不満、窮屈さも私は感じ取れない。その上で空を飛ぶこともせずにこの広大な図書館の整理という雑用をこなしている。

 そして、今その微かな気で彼女から感じ取れる感情は、私への純粋な好意と高揚。ほとんど初対面の私に対してのこの感情。これは私が特別ということではなく、雑用をさせているパチュリー様も含めて、今のところ紅魔館の人員……例え妖精メイド達にであっても少なくはあるが普遍的に向けられているものである。そうなのだ、という現状把握は出来る。ただ、何故なのかは分からない。

 

「では、妖精メイドたちの邪魔になってもいけませんし、場所をお借りしましたので……付いてきていただけますか?」

 

「了解しました」(はああめっちゃ気遣いの塊やん美鈴! 背高いし姿勢綺麗だしかっこいいなあ……ニヤニヤが止まらん。もう理想の上司? 理想の姉? なんだろ正しい例えが思い浮かばないけど一生一緒にいたい)

 

 不可解だ。彼女の存在、彼女の力、彼女の感情。まるで理解が及ばない。

 

 

 

 

 

 威圧し力を誇示しながら、恐慌。────墓穴を掘り踏み潰されるのを待つ鼠のような。

 

 

 

 威圧し力を誇示しながら、歓喜。─────待ち望んでいた運命に出会ったかのような。

 

 

 

 

 

 

「美鈴さんは門番の仕事をされているんですよね? やはり襲撃を試みる妖怪はいるんですか?」

 

「ああいえ、最近は……お二人のおかげでこの辺りの妖怪の襲撃はごっそり減りましたね。ただまあ知能が低い妖怪がたまに……多くて日に数度侵入してくる感じですね」

 

「なるほど。大変ですね、やっぱり(少し前? 妖怪が減る? あああれかな、吸血鬼異変ってやつ。……あ、ということは今もう紅魔館が幻想入りした後ってことか。そりゃそうだよね、咲夜さんいるし他の吸血鬼見ないし。

 は! じゃ、じゃああの吸血鬼異変を叩きのめした『最も力のある妖怪』って結局誰なのか分かるのかな!? あれ友達の間で論争になってたんだよね)」

 

「いえ、大したことはありませんよ。言った通り最近は静かなものですしね」

 

 

 

 それはいけない。紅魔館の門を預かるものとして、紅魔館を守るために、紅魔館の内部の妖怪であっても誰がどの程度の脅威と成りうるのかは把握しないと。

 

 

「あ、こちらになりますね。どうぞ中へ」

 

「失礼します。……おや、ここは……(私が召喚されたところだ。なんか魔法研究する場所って感じなやつだー)」

 

 

 彼女も悪魔だ。もうこの場所にパチュリー様による結界が張られていることに気付いたのだろうが、もう関係ない。四肢に力を込め、全身に気を漲らせる。周囲に溢れる私の気、虹色の輝きを感じてか彼女がこちらに顔を向ける。

 

 

「小悪魔さん」

 

「はい?」

 

 

 変わらぬ笑顔を浮かべている彼女の眼前に拳を突き、当たる直前で止める。

 拳によって切り裂かれた空気が風圧となり、小悪魔さんの髪をなびかせて周囲に張り巡らされた結界を少し響かせた。

 

 

 

 

「余計なことはせず私の質問にだけ答えて下さい。いいですね?」

 

 

 

 

 しばらく間隔が空いて。笑顔のままの彼女から、巨大な圧。

 

 

 

 

「……(わあマジ顔。まなじりが垂れてたのが上がると印象変わるなー、ってえええええええええええなんでこうなるのおおおおおおおおおおお!?? ちが、違うじゃんもっと優しくお話して仲良くなりましょーってのが美鈴じゃないの!? 皆血気盛んな幻想郷の中での常識人&苦労人枠じゃないの!!? 私はいったい何をやらかしてしまったんだ今度は!! あああでも美鈴かっけええええ! 拳突き付けられる相手が私じゃなければ30分くらい眺めてたい!! 写真撮って飾りたいいやいや違う違うなんだどうして何をやればほぼ初対面の美鈴にここまでガチ顔させれるんだよバカ私! バカバカバカもう!!)」

 

 

 

 

 

 ────それと同時に、私への好意と共に恐慌。けれどそれら全てを埋め尽くすような底知れない程の自己嫌悪の奔流が流れ込む。

 

 

 

 

 

 私の「気を使う程度の能力」で他者の感情を感じ取るというのは本来の使い道ではなく、あくまで他者の精神エネルギーである気の中にどんな感情が乗っているかを感じる程度のものだ。だから普通はある程度の力を持ったものと相対して、相手が感情を昂ぶらせている時でなければほとんど分からない。そのはずなのに、図書館からでも門で感じ取れてしまった彼女の感情。

 彼女の感情はあまりにも大きすぎる。知性を持つ生き物が御せるとは思えないほどに。こうして眼前で見て、その異常性に改めて気付く。

 

 

 

 

 

 

 彼女の心は、壊れている。間違いなく。

 

 

 

 

 

「……あなたは、我々に危害を加える気はありますか?」

 

「(ハッ!? そうだ今問い詰められてる最中だった! ま、まだ挽回出来るな!? 美鈴のどんな逆鱗踏んじゃったか分からないけど誠実に回答すれば多少は印象を盛り返せるはず……! 自分のメンタルは無理だけど……!)……いえ、そんなこと考えたこともありませんよ。私はただ、パチュリー様のもとで……紅魔館で働くだけで幸せですから」

 

 

 

 こうして落ち着いて受け答えしているように見える時でも、その感情は荒れ狂っている。気は感情によって荒ぶり、左右されることはあっても、感情が気によって増幅されることはない。だから、こんなにも巨大な感情を彼女は、ただいつも持ち続けているのだろう。平静を保ち、危害が加えられそうになり感情が溢れだしたとしても決して力を振るわないように。

 

 彼女の言葉に嘘はないと思う。けれど、それを鵜呑みにすることは出来ない。心が壊れた妖怪は、その存在そのものが不安定になってしまう。肉体が生まれた後に魂が宿る人間と違い、幻想が魂を形作りそれを肉体で覆う我々にとって狂気は、重い。

 

 

 

「自分の力を過信しているとは考えられませんか? あなたは今もこうやって私に拳を向けられて気を発してしまっています。それが常に紅魔館に向かないでいられる、そんな保証は出来るのですか?」

 

「(気を……発するってなんだろ、アッ呆けちゃってたこと? あああもしかして原作キャラに会う度に内心発狂してたのバレたのかな!? それで仕事してないように見えたとか! それっぽい、ぽいぞだいぶ! えええ、でも紅魔館メンバーに対して気を向けない? そんなの)……そうですね、申し訳ありませんが保証は出来ないです」

 

「では、「ですが」」

 

 

 

 スッ、と彼女の赤い瞳が私を射貫く。それは常に柔和な笑みを絶やさずにいる、余裕を持つ強者である彼女が私の前で初めて見せた、真剣で、切実な、希うような───、

 

 

 

 

 

 

「私は、やめません。力不足は自覚しています、そのためにご迷惑をおかけしてしまうことはあると思います。……本当に、申し訳ありません。

 

 でも、私はここで、紅魔館でパチュリー様に従う使い魔の小悪魔であり続けます。……私はそのためにここにいるのですから」

 

 

 

 

 

 ───自分の存在に不安を覚える、迷子のような表情だった。

 

 

 

 

 

「はあ。私、それには弱いんですよねえ」

 

 

 握り拳をほどいて、脳裏をよぎった過去を振り払うよう努めて明るく声をかける。正直に言うとそもそも真剣な空気はあまり好きじゃないし、闘う必要がないのなら基本的に緩く付き合いたいのだ。

 いきなり緩和した私の態度について行けてないのか、眼をパチパチさせて困惑した様子の彼女に苦笑しながら声をかける。

 

「驚かせましたよね、無理矢理聞き出しちゃってごめんなさい。私心配性なので、自分で新しいお仲間がどんな人なのか確認したくてですね? ……でも、良い人そうで助かりました! これから同じ紅魔館の仲間としてよろしくお願い、って大丈夫ですか!?」

 

 

 目からぽろぽろと滴をこぼす彼女。先ほどまでの威圧感も気も一気に霧散し、ただの少女が泣いているようなその姿に動揺して彼女の背中をさする。触られて現状を把握したのか、うめきながら私に抱きついてくる。

 

「ごめ、ごめんなさい安心しちゃって……うぐぅ……(ほ、包容力の化身……まま……てか涙止まらない、みっともないなあ恥ずかしい)」

 

「ええ、大丈夫ですよ。ゆっくり、ゆっくり、落ち着いてください」

 

「う、うぅぅぅぅぅああああ」

 

 

 私の背に回された手は人間と見まごうほどに脆弱で、パチュリー様の封印が機能していることと、無力になった状態で過ごしてきた不安を想像させた。彼女の目指すところがなんなのかは分からないけれど、この子はきっと紅魔館(わたしたち)に危害を加えないよう努力し続けるのだろう。自分自身の感情と闘いながら。

 

 

 

 

「……落ち着きましたか? 小悪魔さん」

 

「…………はい。ありがとうございます、お見苦しい所を……(ひ、久しぶりに人前で泣いてしまった。でもなんかスッキリした、自覚無かったけどストレス溜まってたのかなあ)」

 

「それはよかった」

 

「……(うわあ美人の笑顔だあ)」

 

 

 

 私から顔を背けている彼女の頬は赤らんでいる。恥ずかしがる様子にかわいらしいと思いながらも、その横顔から険が取れていることに安堵した。

 

 

「……」

 

「(え? え? すごい髪梳かれてる、これ何のご褒美?)」

 

 この子にとって、「パチュリー様の使い魔である小悪魔」であることが何よりも大切なのだろう。もしかしたらそれすらも関係なく、「紅魔館にいたい」と思っているのかもしれないが。

 

 彼女の歓喜は、会いたかった人に出会えたから、自分の存在意義を見つけたから。

 

 彼女の恐慌は、命の危機から、存在意義の否定から。

 

 

 であれば、守ってあげよう。迷子の世話は慣れてるから。彼女が抱えるものが何であっても、紅魔館(いえ)の宝を守るのは、(わたし)の仕事だから。

 

 

「あ、あの美鈴さん」

 

「どうしました?」

 

「いえ、嫌ではないですけど……あの、どうして頭を撫でられてるんでしょう?」

 

「頑張ってくれてるんだなって分かったので、甘やかしたくなっちゃったんです。……嫌でしたか?」

 

「(バブみがすごい)」

 

 

 頭を撫でられ頬を染める彼女に、私は敵意を抱けない。だったらコレも私の家族で私の宝だ。そういうふうに生きてきたのだから、そういうふうにする。単純で重要なことだ、特に私達幻想の存在にとっては。

 

 

「小悪魔さん。これから紅魔館の一員として、どうか末永くお願いしますね?」

 

 

 

 愛してあげよう、彼女の心が癒えるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 甘々で蕩けさせられるかと思った。殺されそうなところからバブみ100%になるまでの落差が急すぎて本当に頭蕩けさせられそうよ。あのあとしばらく抱きしめられながら頭なでられ続けて、天国のような時間はパチュリー様が様子を見に来て終わりを告げた。

 

 めちゃくちゃな距離感の状態を見られて慌てる私と『へえ。………………随分仲が良さそうね?』とすっごい微妙な表情で言われてしまった。疑問と呆れと嫌なものみたわーという感情がないまぜになっており、その表情が効いたのかなんなのか美鈴は『仲良しの印ですよー』と言いながら解放してくれた。

 甘々タイムが唐突に終わり呆ける私を背景に二人は『聞くまでもなさそうだけどどうだった?』『お気に入りですね』『あんたらどっちか実は淫魔とかじゃないでしょうね』とそれこそ仲良さそうに会話しながら去っていく二人。今の時間は一体何だったのかと思考して、そして今仕事中だと気づいて急いで戻った私に待っていたのは非常にいつも通りの『はいこの分片しといて』という指示。あれ? 今の夢? と思いながら待っててくれた赤い妖精メイドちゃんと一緒に終業まで仕事をこなす。

 

 

 次の日に咲夜さんがお茶の準備を持ってきてくれたとき、美鈴も襲来。ギョッと構える私をよそに昨日の剣呑な雰囲気も甘々な雰囲気もなく、和やかにお茶会が進んでいきあれ? やっぱり本当に夢だった? と思って仕事に戻ろうと一人になった瞬間。『小悪魔さん』と呼び止められ、あの甘々バブみ100%の状態で抱きすくめられ、『お仕事頑張ってて偉いですね。今日は落ち着いてて何よりです』と囁かれる。ひゃい!! と大声を出してしまうと、くすくすと笑いながら身体を離していく美鈴。

 何!? 紅魔館原作乙女ゲーの世界に迷い込んじゃったの私!? と動揺を隠せない私と美鈴を見て、声に反応してか様子を見に来たパチュリー様が呆れ顔で『美鈴、ほどほどにしなさいよ』と言う。

……もしかして美鈴ってそっちの人!? しかも紅魔館の住民に周知されてるタイプ!? と戦慄する私をよそにはーい、と返事をして戻っていく美鈴。が、すれ違いざま『二人っきりのときは、呼び捨てでいいですよ』とそっと言われた。

 

 夢じゃなかったみたいだけど何このイケメン!? 百合は眺めるだけ派の私をこうも揺さぶるとは……と赤くなっていると本棚の陰で距離を取られてた妖精メイドたちに見られていた。その後咲夜さんと仲良くなる前みたいに動いてくれるようになったけど恥ずかしい。小悪魔って原作でこんないじられキャラだったの?? 

 

 

 でも仲良くなれてるのは嬉しい。この調子で紅魔館に溶け込んで原作通りの展開を特等席で見届けるぞ! おー! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん」

 

 

「あの悪魔本当にどういう正体なんだ? こんなに運命が操りやすいのにあの威圧?」

 

 

「まあ、折角だし、本当に操れてるか確かめてみるか」

 

 

「フランとも仲良くしてくれるかしら。あの子が外に出てくれれば万々歳ね」

 

 

 

 





ちなみにこの美鈴は小悪魔スキーではなく自分のお気に入りに入れた人(紅魔館は全員)と二人きりになるとだれにでもこうなります。誰だよ!!(←難産の原因)

クオリティはもうわかんなくなってきたのですがとりあえずプロローグにたどり着くことを目標に細々とやっていきます。ちなみにコミケの一般参加チケットの抽選申し込今日までですよ(二次創作モチベの要因)

リアルイベント開催できるようになって本当によかったですね。来年もあったらいいなあと切に思います。


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こうりゅう caseひもうとさま(1)

 更新待ってましたと感想頂きとても嬉しいです。また途中で区切ってしまってるんですが、変に長引く前に出来た所までをぽいぽいと投稿していきたいと思います。不定期ですが。

 感想、誤字報告ありがとうございます。この3年で色々ご時世は変わりましたが、自分の誤字力は変わってないようでなりよりです()


「あ、そうだ。小悪魔」

 

「はい、どうなさいました? パチュリー様」

 

「そろそろだと思うから、地下室に行って本を回収してきてくれる? レミィの妹がいるから」

 

「はえ?」

 

「(蝿?)あの子、出不精だから魔法で本を持っていくんだけど、返すの忘れがちなのよ。結構溜まってるはずだから顔見せついでに取ってきなさい」

 

「なるほど、かしこまりました。じゃあ妖精メイドたちに指示を出し終えてから向かいますね。(唐突だし思ったよりフランク! あの子って呼んでるの!? フランって狂気に侵されてるとかそういうのなかったっけ!? 原作設定少なすぎて二次創作設定が共通認識みたいになってるから想像がつかない……! いきなり『アハハ死んじゃえきゅってしてドカーン!』系のフラン様ではないってことよね……!?)」

 

(また威圧が少し出ている……フランと出会うことが嫌? もしくは……ああ、私がこれを思いついたのが()()()()()()()()()()()()()()ってことに気づいたとか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。辺りには寝る前まで読んでいた本が散乱していて、地下室の床の大部分が埋め尽くされている。ベッドに出来そうだな、と思ったがパチュリーに怒られるし、本が読めなくなるのは本意じゃないのでやめた。

 最近上の図書館に集まる本が増えたようで、適当に転送をかけても目新しい本がこっちに来るようになって嬉しい。活版印刷が発明された時よりも本の量が単純に増えてそうなのが外の世界の発展を表しているのだろう。まだ読んでない本は残っていたかな、と区別していると、図書館からの地下室に入る扉が開かれたのが分かった。

 誰だろう、と気配を探るが……知らない気配だ。侵入者? と頸を傾げるが、よくよく考えると最近何回かあった大っきな気配と同一人物だと分かった。お姉さまを殺しに来たのかなと思ったが結局どっちの気配も消えてなかったからどうでもいいかと忘れてた。なにしに来たんだろ? 

 警報もなってないし前に感じたほどの存在感もない。まあある程度の存在なら破壊できるしいいか、と自分の作業をつづけることにした。

 

 で、まあ周り道も特にない階段だけなので(律儀に空を飛ばずに歩いてた。暇人?)気配は段々と私の部屋に近づき、コンコン、と控えめなノックが響いた。

 

「入っていいよ」

 

 そう返すと、扉の前の気配が大きくなる。『(声かわわわわわわ!)』臨戦態勢でも取っているのかな? と思いながら待っていると、「失礼します」と言いながら一人の少女が入ってきた。

 

 悪魔だ。紅い髪に紅い眼、蝙蝠の羽に黒い服。

 いっそ模範的なまでに悪魔っぽい(山羊の角は生えてないけど)けれど、深々と頭を下げている姿勢だけが悪魔っぽくない。

 

 

「はじめまして、妹様。私は名も無き小悪魔ですので、どうか小悪魔とお呼びください。お会い出来て光栄です(超 か わ い い 。お人形みたいなって形容詞はこの子の為にあるんだな分かりました! ふわっふわの金髪にルビーみたいな紅い眼、そして羽根も宝石みたいにキラキラしてナチュラルレフ板みたいになってる凄……天使……?)」

 

 セリフも悪魔っぽくない。ただ、最近は低姿勢を貫いて契約をお願いして、契約したあとに本性をあらわす悪魔も増えてるからそういう系?」

 

「え、いや違います。私はすでにパチュリー様と契約していますので(悪魔っぽくないの!? 小悪魔ってこういうイメージあったのに!)」

 

「あれ、心を読まれちゃった。真名はダンタリオンだったりする?」

 

「心? いえ、普通に喋られていましたよ(ダンタリオン??)」

 

「あら失敗。じゃあしばらくは小悪魔って呼ばないといけないかー」

 

 

 名無しなんて悪魔はありえない。幻想の存在である私達はもう、曖昧な不安や自然への恐怖から発生することはほほとんどなく、名と伝聞によって骨組みがあるものだけが生き残っている。だからこの小悪魔も伝聞が人間の中で残っているか有名なものだったんだろうけど、今の姿と言動からじゃわからないな。別に分からなくてもいいんだけど。

 

 

「私はフランドール。フランドール・スカーレットって名前で、一応あいつの妹だね。妹様って呼ぶんなら分かってると思うけど」

 

「はい、よろしくおねがいします」(ほわー自己紹介聞いちゃった! あいつ呼びってことはやっぱりれみりゃーとは仲悪いのかな? お姉様呼びも聞いてみたいんだけどありのままで会話出来る幸運に感謝! ……殺されたりしないよね? 大丈夫だよね?)

 

 

 凄い良い笑顔。媚びてる感じじゃない、人慣れしてる自然な笑顔だ。会話もまともで、唐突なコッチの言葉に律儀に合わせようとするなんて、人でなしとは思えない。うーん? 

 

 

「あなたはもしかして人間?」

 

「はい?」

 

 

 瞬間、彼女の気配が大きくなる。気配? というよりは、存在感? 彼女から焦点をずらして周囲をちらり。異常なし。魔力感知。パチュリーもお姉様もいるし、いつもと変わりなし。幻覚幻惑の類じゃないね、視覚も魔力も変わらないけど存在感が大きくなれる。器用なことするなあ。 ()()()()()? 

 ちょっと萎縮してる身体だけど縫い止められてるような固まりじゃないな、本能的なものっぽい。じゃあきゅっとして、あれ? 

 おっきい。"目"がこんなに大きいのは初めてだ。でも……潰せそう。

 

「それは一体、どういう意味ですか? (え? え? 原作バレに続いて憑依バレ? いやそんなことなくない!? ちょっと悪魔っぽくない、いや小悪魔っぽい言い回しで挨拶しただけでそれは理不尽じゃない!? なにかすれ違いとかそういうので言われてるとかそっちじゃないですか?)」

 

 おっと。危ない危ない、壊しちゃったら元も子もないぞ、私。折角面白そうな娘が来たんだから謎解きに勤しもう。

 

「んー、ダンタリオンを知らないし幻想のくせに人に合わせるし。でも無理して合わせてる感じじゃないから、合わせ慣れてるってことは社会性に親しんでる人間の大人みたいな精神性だよね。私人間見たことないし、もしかして最近の人間は蝙蝠の羽生えてるのかなって」

 

「あ、あはは、そういうことですか。(めっちゃ鋭い! 何幻想郷のみんな探偵になれる洞察力もってるの!?)いや、私は由緒正しい小悪魔ですよ?」

 

「由緒正しき名無しかあ。Una Nancy Owen って名乗ってみる?」

 

「ユナナンシーオーエン?」

 

「特に意味はないよ。それで、何しにきたの?」

 

 深入りせずにいると、存在感は小さくなっていく。それに応じて、"目"も。存在感は扉を開ける時よりも小さく、"目"は片手サイズ。ふーん? 私の能力を知った上での対策だったのかな、それとも本来の大きさがさっきのもの? 小さくしているのか大きくしているのか、彼女の大元を知らない限り答えは出ないね。

 

「読み終えた本を回収するようにと、パチュリー様からのご指示で参りました。……(あれ? 小悪魔ってフランのことなんて呼んでるっけ? いや会話したことないんだもん一回も呼んでないわ! マズイ妹様かフラン様かフランドール様か決めてくればよかった! ええとどうしよっか雰囲気を感じ取って……いや)フランドール様、と呼んでよろしいでしょうか?」

 

「うん、いいよ。パチュリーの下に付いてるなら、私とお姉様は対等だもんね」

 

「ではフランドール様と(よし! そうだよね、れみりゃに仕えてる訳じゃないんだから妹様は変だよね!)」

 

 名前を呼ぶ前にまた威圧。うーん、意図も脈絡も掴めないなあ。呼び名に文句を付けられたくない? 自分が決めた通りの呼び名にすることに意味がある? もしくはこの威圧がこの妖怪にとっての本能だったりするのかな。その場合なんだろ、見上げ入道とか? でもどう見てもこの国原産の幻想ではなさそうだね。

 

 ふふ、面白そう。良い材料を拾ってきてるなあ、パチュリーってば。

 

「うん、ほとんど読み終わってるから全部持って行っていいわ。その代わり、少しお話に付き合ってくれない?」

 

「え、お話……ですか? (何それ、ご褒美以外の何物でもないですが! あ、いやまて、もしかして深追いすると憑依バレの可能性ある?)」

 

「ええ。私"小悪魔"って初めて見たの。貴方のこともっと教えて!」

 

 

 

 

 

 

 

 貴方という幻想(にくぶくろ)には、一体何が詰まっているのかしら? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パチェ、小悪魔はフランの所に行ったかしら?」

 

「勿論。レミィの意図通りでしょ?」

 

「糸細工は得意なのよ。新しく入荷した裁縫道具が随分手に馴染むから、ちょっと1回ね」

 

「可愛い妹に恐ろしい悪魔をけしかける吸血鬼はここかしら」

 

「可愛くないわよあんなの。本読んでばっかりの引きこもりのくせして変な正論でボコボコにしてくるんだから」

 

「あら、随分読書家の引きこもりに縁が繋がってるのね」

 

「おっと。やぶ魔女をつついたか」

 

「シャーってね。でも戦闘になったらどうするつもり?」

 

「うーん、謎小悪魔もフランもやる気にならないと思うけどね。あいつの悲観主義もお察しだし。まあもしやる気になったとしても封印が効いてる今ならきゅきゅっとしてお終い、じゃない?」

 

「……まあ死んだら死んだで人手が減るだけだしね。別に構わないわ」

 

「素直じゃないわね」

 

「は?」

 

「フフ、パチェにも美鈴にも怒られたくないからな。まあ私もあいつとは話したいことがあるから、悪い吸血鬼に襲われても救いの手を差し伸べるくらいはするさ。糸を垂らすのも得意なのよ」

 

「レミィが蜘蛛の糸? 策を練って釣り糸を垂らしてる方が似合うわね」

 

 

 

「私から言わせればそれこそフランのが似合いそうだけど。引きこもりの癖に知恵だけは回るんだから、困ったものよ」

 

「さて、ね。釣り人が逆に釣られることにならなければいいけど」

 

 

 

 

 

 




 3年前の自分の後書き前書き読むの恥ずかしいですね。消したい。けどこれも小説投稿サイトの醍醐味だと歯を食いしばってます。

 3年前との違いだと知霊奇伝が始まりましたね。フランドールのイメージが結構変わるくらいめっちゃ喋ってるので気になる方は是非。


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こうりゅう caseひもうとさま(2)

 いつも感想、誤字報告ありがとうございます。本当に励みになります。

 前回後書きで智霊奇伝の話をしたのですが、実際読んでみるとああフランドールって結構理性的なんだなとみんな思ったんですよ。
 だけどそのあと剛欲異聞でまさかの自機キャラになって、ワクワクしながらやってみると「破壊破壊破壊!私破壊神、破壊出来ないやつ全部破壊するぜキャハハ!」ってなってて脳が破壊されます。私フランのことわかんないよ!

 折角前回分けたのに長くなってしまいました。


 図書館の奥まったところにある扉を開けて、地下へと続く階段をドキドキしながら降りていった先でほぼ真っ暗な部屋の中で羽根をきらきらと輝かせながら佇むフランちゃんと遭遇しました。可愛い。けど中身バレしそうです。怖い。

 

「えーと、あまり面白い話ができるとは思えませんが……」

 

「期待はしてるけど、別に面白くなくてもいいよ? 習性だけでも知りたいから!」

 

 

 小悪魔の習性なんて私の方が知りたい!! でもお話が出来る事自体は嬉しいというかご褒美。ううう、小悪魔の習性もフランちゃんの習性もどっちも知ってればこんなに苦しまずに二つ返事出来るのに! ……いや、待てよ。

 

 

「……分かりました。じゃあ、フランドール様と私とで、お互いに質問をするというのはいかがですか? 私も吸血鬼について疎いので、色々教えていただきたいんです」

 

 

 これが私渾身の策! 時間稼ぎをしつつ、フランについて分からなかった色々を知れる! けど気分を害したらきゅドカられる危険性アリ! 本当に大丈夫!? 不安になってきた! やめとこっか! やめよう! 

 

「気分を害したのなら申し訳「いいよ。やろっか」……そうですか」

 

 にこやかに承諾されてしまった。いや嬉しいようなマズイような不思議な感覚だけど、話す以上は中身がバレないようにしながら、聞きたいことは聞こう! 頑張る! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 探られることで威圧、こちらへの質問をするという提案でまた威圧。お姉様みたいに反発心の固まりなら絶対この提案受けないだろうなあ。ほとんど『探るなよ? 断るなよ?』って脅しだもん。もしくは断ることで質問されたくなかった? なおさら知りたくなっちゃうね。

 質問をし合う。謎掛けか儀式にでもつながるのかな? どっちにしろ質問の仕方でも興味の方向性はわかるから、"私"を知られる以外にリスクはなし。逆に"私"を知られることがどれほどのリスクかは分からないけど、興味を優先しちゃお。

 

 

「じゃあ最初の質問なんだけど、悪魔としての役割と階級を教えて」

 

「…………(えっとおおおおおお?? 役割? 階級? 役割って……司書? 司書って言っていい? でも小悪魔自体が司書する悪魔って訳ではないよね? どうしようどっちもわかんない!)」

 

「…………んー? 答えられない?」

 

「……はい、申し訳ありません」

 

 

 威圧が強まったけど、誤魔化すでもなく答えられない、か。嘘を言ってはいけない? 性格的なものか規則的なものか、もしくは()()()()? 絶対に分かるはずのことを聞いてみるか。

 

 

「じゃあじゃあパチュリーと契約してるんだよね? どういう契約内容にしたの? あなたがパチュリーに求めたものが知りたい!」

 

「えっと……私から希望したことはありません。ここで働けるということだったので、それだけで」

 

「えー、変なの」

 

「あはは……でも、大事なことだったんです。私にとって」

 

「ふーん」

 

 

 苦笑気味だけど自然な笑顔だね。階級を聞いた時よりも表情が柔らかいし威圧もない、これは本当のことを言ってそうかな? 

 にしてもここで働きたかった、か。ヴワル魔法図書館のことを言っているのか紅魔館全体のことを言っているのか、ああ幻想郷のことを言ってる可能性もあるね。でもここで"働く"だもんなあ。"ここにいる"ことよりも"働く"が大事ってことは、何でもいいから契約をしたかった? 言葉全体の意味を素直に取るならパチュリーの使い魔で働きたい、ってことに聞こえる。それがコレにとって大事なこと。んーーーーー何でだろうね? 破壊魔女の使い魔知識の獲得魔導書破壊審判契約によって生きるもの実在破壊マザーグース忘れられた存在悪魔ではない破壊威圧社会性魔界神破壊

 

「(急に静かになってしまった……不興を買ってしまった? でも目が爛々としてるんだよね、綺麗。……あれもしかして私の質問待ち?)あの、私からもいいですか?」

 

「ん、なぁに?」

 

 また危ない。他人がいる時に考えに集中し過ぎちゃうのはよくないわ。久しぶりの話し相手に興奮しちゃってるみたい。まさか吸血鬼がアドレナリン分泌してる? 可笑しな話ね。

 

 

「(良かった、質問待ちだったみたい。えーと、何から聞こうかな……あっじゃあ)不躾な質問なのですが、フランドール様はどうして外に出ずにいるんですか? (原作の屈指の謎聞いちゃお!!)」

 

「なんだ、そんなこと。出る意味がないからよ」

 

「意味? というのは……」

 

 ちょっとドキドキしてたけど、予想の斜め下の質問だな。私があっちの立場だったら()()()()()()()()()が他にあると思うんだけど、というか外に出たことがないって事誰に聞いてたのかしら? 

 

 

「私達吸血鬼はそういうものでしょ? 日に一度血を啜れば生きていける。年も取らない、ビタミンもタンパク質も必要ないのにわざわざ外に行ってなにするの? 日にあたれば死ぬし、流水にあたっても死ぬし、銀にあたっても死ぬ。わざわざリスキーな行動を取るほうが変な話だわ」

 

「ああ、なるほど(すごい納得しちゃった)」

 

「その気になれば出れるけど、出る気は更々ない。Instinct is a shabby thing、ざまあないわ。理屈ではなく、それでも人間を襲いに行くプライドの高い凶暴で残忍な妖怪(モンスター)が吸血鬼のはずだから、生まれながらの本能が麻痺してる私が変ってことも理解しているけど」

 

「へえー(じゃあれみりゃのプライド高いムーブとか宴会派手好きとか吸血鬼の本能的なものなんだ。それでフランは本能が麻痺してるから興味が無いし、閉じこもってた方がいい、と。それが気が触れているとか狂気の妹とか言われる元になったのかな)。ありがとうございます、とても勉強になります」

 

「苦しゅうないぞ」

 

 

 まあ麻痺じゃなくて破壊したんだけど。産まれてからずっと頭の中に思考を歪ませる何かを感じていて、それが人間によって形作られた吸血鬼(わたし)の中にある吸血鬼の本能という枠組みと知り、鬱陶しくて鬱陶しくて仕方なくて破壊した。半分消滅したけど生き返ったしあの時の私の行動のIQ高かったなあ。あれしてなかったらお姉様のクローンみたいな性格になってたかもしれないって考えるとゾッとするね。破壊してよかったよかった。

 

 うーん、にしても今のところ全然ピンと来ないんだよな。72柱かその軍団に属するものであれば階級でも役割でも何かしらはあるはずだし、魔界に住んでる一般小妖怪なら紅魔館に執着する理由も無ければ威圧みたいな能力を持てない気がする。弱点? 出身? 使用言語? 血縁関係? 何となくどれを聞いても意味が無い気もしちゃうな、彼女の元となる強固なイメージの枠組みは無いとおかしいんだけど。価値観を聞いてみるか。

 

 

「あなたは何で出来てると思う?」

 

「何で出来てる? ですか」

 

「うん。私達は生物じゃないけど生きていて、人間を元にした姿を取っているけれど人間じゃない。じゃああなたは、自分の内側は何で出来てると思う?」

 

「えっと……(初耳学なんだけど。いや冷静に考えれば人間じゃないんだから人型でも中身は人間とは違うのは当たり前……なのか? 普通に生きてる間も中身なんて意識してなかったし小悪魔になっても身体に違和感とかないから人間のまんまなんじゃないの? 

 いや、これはあれかな? 社会心理学というかアイデンティティ的な問いでは。要するに自我はどこにあるのみたいな奴)魂、ですね(脳変わっても私は私だし、魂とか脳に付着してるだけの何かだと思ってたけど憑依できてるからそう答えるしかないなあ)」

 

「魂? じゃああなたを潰したら魂がまろびでるのかしら」

 

「(物騒!!! こわ!!!!)……いえ、この身は人間と変わらないものですので、まろびでるのは人間と同じようなものですよ。でも、私の内側は……私の精神は姿かたちが何であろうと変わりません。この小悪魔(すがた)でも、私はどうあっても人間(わたし)としてしか動けないのは、身にしみて分かってますから。(もう本当に。魔力とか感じたことないし空も飛べないし、そこらへん出来たらもうちょい小悪魔っぽくなるのになー)外見も内臓も、大事ではあるけれど私の全てではない。そう思いますよ」

 

 

 

 破壊したい。うわ、なんだろうコイツ、嫌。なんか苛つく。背筋がぞわぞわする。何? なんでこんな嫌悪感があるんだろう、破壊、いや違う、冷静になれ。

 

 苛つくわ。いや分かった、そうか、私この質問でコイツにも不安になって欲しかったんだ。価値観を聞くとかじゃない、理性的で変わった悪魔だから何がなんだかわからない私と同じUNKNOWNだから幻想の存在であることが嫌なんじゃ破壊の本能も嫌い不安に共感してほしい

違う!! 

 苛つく! ああ苛つくわ、コイツ自分の存在に全然不満も不安も抱いてない! うらやましい

 きっと甘やかされて育ったんだわ良い経験をしたんだわそれこそ悪魔かどうか疑わしいくらいに力を制限されても楽しいみたいに! 

 

 

 

「意見が銀河の彼方まで異なるわね。私にも人間みたいなものが詰まってるけど、一つだって意味がないわ。吸血鬼は死人がなるものだって論調が主流だったころには心音はなく、常に飢えてると言われれば胃が収縮して、見目麗しいと言われてるからこんな外見になった。人間が得た幻想に振り回されるのが私達なのだから、人間のイメージが曖昧になれば中身もスカスカになって消滅しておしまい。存在そのものが人間に依存している幻想に魂も何もあるわけないわ!」

 

 

 

 魔力が噴出する。苛々する苛々する苛々する! やっぱり話さずに破壊しておけばよかった、面白そうだからって話し始めたのが間違いだったわ! 

 私の魔力に応じて彼女の存在感が飛躍的に大きくなる。ああ、やっぱり強大な存在だったんでしょうね。それがUNKNOWN(名無し)になっても変わらないのは、消滅する不安に駆られないのは何故、何故、何故! 

 

 

 

「(ひえええええ何々怖い! ビリビリ殺気を感じるどうして!? 何か間違えたねこれ! ヤバイヤバイ私の初見コミニュケーション能力低すぎなマジで!)……すいません、私の返答に不備があったのですね。差し支えなければ教えて頂いてもよろしいですか? (もうとにかく落ち着いてもらうしかない! 怒ってる人をなだめるためにはこっちは落ち着いて相手の言い分を聞く! そんで謝る! しかない!)」

 

「それが次の質問ってことね! ええ、ええ不備だらけよ! あなたの質問も回答も不備不足不全! 魂があれば無問題なんて認めないし、あなたの質問も意味が分からないわ!」

 

「申し訳ありません。確かに魂なんて不確かなものを回答とするのはふざけてると思われても致し方なかったです。……質問についても、申し訳ありません。ふと思いついたのがあの質問だったので、他意はなかったのです(ヤバイ、何が問題だったのか全然わかんないわ! 頭わるわるなの本当に気になったのがあの質問ってだけなの!)」

 

「へえ、ふと思いついたのがあの質問? 私をアイツの妹だと知っておいて?」

 

「…………(ええええええわかんない! 何、なんて質問するのが正解だったの!? れみりゃの妹がフランって、いや当たり前じゃん! いや普通なら当たり前じゃないのかもしれないけど! なに本当の小悪魔ならここでなんて質問が思い浮かんでたんだ!?)」

 

 

 深々と頭を下げたまま微動だにしない小悪魔。姿勢だけは一貫して低姿勢だけど威圧はどんどん強まっていく。深入りするなってこと? 気づいていない? そんなわけない、吸血鬼がどんな存在か知ってるコイツなら真っ先に疑問に思うのは、

 

 

 

 

「吸血鬼であるレミリアお姉様の妹である私が、吸血鬼ならありえない羽根をしてることに。疑問に思わないのはどうして?」

 

 

「え?」

 

 

 

 私の姿を見たコイツは、羽根までしっかりと確認した。()()()()()()()()()()()()()()謎の羽根を。

 

 

 

「私は幻想によって生きていることが嫌だった。人間に媚びを売り人間に存在を認められないと持続出来ない生なんてまっぴらごめんだった! 本能を破壊した。蝙蝠の羽を破壊した。内臓を破壊した。そうして吸血鬼(わたし)じゃないUNKNOWN(フランドール・スカーレット)になろうとした結果がこの羽根さ。……何故疑問に思わない? お前は知ってるのかこの羽根を!」

 

 

 知っているはずがない。だってUNKNOWNでいるために外に出ていないのだから。知っているのはパチュリーとお姉様だけ、それも絶対にこの羽根を口外しないように契約した。それが既知の存在だったなら、私はまた幻想に縛られてしまう! 

 

 

「今はまだ吸血鬼の妹さ。吸血鬼のように血を吸わなければならない、流水も駄目日光も駄目。だがこのまま誰にも知られずにいたのなら、誰も知らないものになったのなら人間に縛られずに生きていけるかもしれない! まだ証明の途中だが、いつの日か証明してみせようとしているのに……なぜお前が私を知っているんだ!!」

 

 

 最悪だ。400何十年の月日の中でまだこの夢想を捨てられない自分も、幻想の本能を捨てきれていないのか、知られていることに安堵している自分も破壊したくてしかたない。

 羽根について質問してから呆けたようにして、存在感が元に戻っているこいつも。苛つく、苛つく、羨ましい、苛つく! 

 

 

 

 

「お前の質問には答えた、最期に質問に答える権利をやるよ。

 

 

 

 

 Who am I (私は誰でしょう) ?」

 

 

 

 

 

 

 "目"を掴んだ。どんな反応が来たとしても「フランドール・スカーレット様です」

 

 

 

「(色々衝撃の事実があって呆けてしまったけどこれは真剣な質問だよね。ちゃんと答えなきゃ)フランドール様がその羽根を持っているということを、私は知っていました。私は、ちょっとした理由で紅魔館に住まう方々を知っています。どんな姿形で、どんな能力を持っていて、そしてこれからどうなるか、をちょっとだけ知っています。でも、あなたはU.N.オーエンではなく、フランドール・スカーレットでした」

 

「おかしな話だね。何を知ってるって?」

 

「フランドール様について知ってることはほとんどありません(本当に謎が多いキャラだった)。でも、あなたが望んでいるのが誰でもないものになることで、その研究をしてたとしても。その495年の波紋は突破されます」

 

「495年の波紋? 何の話?」

 

「フランドール様が495才になるとき、人間が紅魔館に訪れます。その人間がフランドール様の遊びとして勝負して、あなたに勝ちます。この地下室は、そしてだれもいなくなることはなく、人間との遊びに満足したフランドール様はちょっと外に出るようになるんです」

 

 

 

 こいつ頭がおかしいのか。真剣な目で私を見つめながら語る内容は荒唐無稽な話だった。人間が来る? 私が負ける? 自慢だけど私は強い、しかも人間なんて見るだけで鳥肌が立ちそうな奴と遊んで、そして外に出るようになる? 私のUNKNOWNへの証明が人間によって破られる? 

 

 

 

「私は、その物語が好きでした。そこで戦うのはフランドール様だけでなくレミリア様も咲夜様もパチュリー様も美鈴様も、ついでに私もその人間と戦って、仲良くぼこぼこにされるんです。そのあと人間たちとも仲良くなって、……素敵な話なんです」

 

 

 

 そっと目を瞑り、大事なものを抱えるように胸に手を当てて話す小悪魔。お姉様もパチュリーも美鈴も人間に負けるとかそいつ本当に人間? というかこいつが負けるところも想像しづらいんだけど。

 

 

 

「フランドール様の悩みは知りませんでした。あなたの望みも知らなかったけれど、それでも私が知るあなたはフランドール・スカーレットとしてこの世界に存在していて、それはきっと素敵な話なんです。

 

 

 私があなたを知っていたことがあなたにとって許されないことだったなら、謝るしかありませんし、私の記憶を破壊しても構いません。でも、あなたにはフランドール・スカーレットとして生きていてほしい。吸血鬼でも吸血鬼じゃなくても、あなたは世界にいていいんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はあ。もういいよ」

 

 

 手のひらの"目"を霧散させる。もうやってらんないわこいつ。恥ずかしいセリフばっかり言って、聞いてるこっちの顔が熱くなりそう。結局私の能力も知ってるはずなのになんの抵抗もせずに握られっぱなしだし、Una Nancy Owenも知ってるしなんだかなあ。クリスティを知らないってことは古い存在のハズとか能力については把握されてなさそうとか色々考えてたのがバカみたい。

 こっちが臨戦態勢を崩したことでまたこいつぽかんとしてる。あんなん聞いてたら破壊する気も失せるわ、全く。

 

 

「もういいって。充分暇は潰せたし、本持って帰って」

 

「え? え、あの」

 

「はいもう疲れたから寝ます。起こしたら殺すわよ」

 

 

 棺桶の中に入って目を瞑る。ベッドも用意しているけど棺桶の中の方が落ち着く自分が嫌で無理やりベッドで寝てたんだけど、今日はもういいわ。久しぶりに話す相手がこんなんだった私が運の尽きね。

 

 戸惑っている雰囲気が続いていたけれど、そのうち控えめに周囲を本を集め始めたようだ。音を立てないようにしてるみたいだけど、飛ばず浮かさず本を運ぶのにどれくらい抱えていくつもりなのかしら。結構図書室まで長い階段のはずだけど。……5冊程度にしたようだ。何往復するつもり? 

 

 身体を起こして地下室の錠をきゅっとしてドカン。「わっ!?」あいつが抱えてる以外の本を全部魔法で浮かせて扉を開け放して階段の上の方へぶん投げる。よし。寝る。

 

あ……ありがとうございます

 

 小声で呟いてから、そっと開け放たれた扉へと向かっていく小さな気配。……………。

 

 

「ねえ」

 

「は、はい!」

 

 私が喋ると思っていなかったのか、不必要に大きな声で返事をするあいつ。なんだかなあ。本当に。

 

 

 

「……私、お前を小悪魔とは呼ばないわ。私がUNKNOWNになれずにいるのにお前だけ名無しなんて癪だもの。いつか、……あなたの名前を見つけ出して、それから名前を呼んでやるわ」

 

 

 

 ああ柄じゃない。顔が熱い、もう寝る、寝るわ。引きこもりに求めるにはこんなやつとのコミニュケーションはハードルが高すぎるのよ。さっさと出ていけばいいのにあいつはこっちをじっと見て離れずにいる。もう用は済んだでしょ何よ! 

 

 

「ありがとうございます。……いつか、私の名前を教えられればいいですね」

 

 

 

 そう呟いて、地下室から出て階段を登っていく気配。…………

 

 

 

 

「…………名も無き小悪魔なんて、嘘ばっかり」

 

 

 

 

 

 そして、私は眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 原作に小悪魔が出るのが紅魔郷だけなら多分紅霧異変のあとは教えても良いはず……だけど不安なんだよなあああ、ごめんねフラン、すっごい名前で呼んでほしいんだけど駄目なんだ! 小悪魔として登場する可能性があるなら駄目、私のポリシーだけなんだけどここは譲れないの!

 

 

 




 うちのフランドールはこんな感じです。書くのは楽しいんですけど伝わってるか不安。


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とあるようせいのいちにち (1)

 いつも感想ありがとうございます。前回は誤字報告がまだ来てないので克服したのかも。

 小話集みたいな形式にしたかったんですがまた長くなりそうだったので分け。もしかしたらあとからくっつけるかもしれません。今回と次回で妖精視点、次にれみりゃのお話をやってようやく異変かな?四年かかってて草


「ごめんなさい、今日は私がレミリア様に呼ばれているのでお仕事はありません」

 

 

 今朝、小悪魔様の元に行ったら申し訳無さそうにそう言われました。ぺこぺこ、と頭を下げながらメイド長に連れられて図書館を出ていく小悪魔様。……暇になっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 ① 妖精たちの作戦会議

 

 

「小悪魔様いないらしいよー」

 

「ほんと!?」

 

「やった、サボれる!」

 

「サボるじゃないよ、お仕事ないんだからお菓子もないよ」

 

「えー」

 

 

 一緒に図書館で働いてる妖精メイドたちの反応はこんな感じ。指示がなくても何冊か本を抱えてたちょっと真面目な娘もぽーいと落としている。こら、本を投げるな。大妖精になったばかりの娘は小さい姿からいきなり人間の子どもくらいまで大きくなった自分のサイズ感に慣れてないことが多い。危なく私がキャッチしたけど、落としてたらみんなまとめて一回休みだ。

 今日はいつもより数が少ないかもしれない。小悪魔様が優しかったり、指示がうまくてちょっと仕事が楽しかったり、他の娘たちが仕事してる中でお茶会が毎日出来るので館の掃除とかよりはよく集まるんだけどいかんせん小悪魔様が怖い時がある。普段は全然そんなことないしイタズラしちゃおうと作戦を練ることもあるんだけど、他の館の方々とお話しているときにいきなり強そうになるから及び腰になってます。大抵威圧を受けた次の日は私以外集まらなくなって、それからちょろちょろと威圧を忘れてまた集まって、の繰り返し。……私は、なんとなく一人も集まらないと小悪魔様が可哀想なのと、行くと凄い嬉しそうな顔をなさるので怖くてもとりあえず行ってます。あんなに喜ぶなら威圧しなければいいのに、強い妖怪の考えることは分からない。

 

 

「じゃあどうしよっか」

 

「霧の湖で遊ぶ?」

 

「門番寝てるかな」

 

「メイド長に捕まらない?」

 

「大丈夫大丈夫! さっき出ていったじゃん!」

 

 

 てんでバラバラに相談し始める他の娘たち。一応私と同じ大妖精たちがあつまってるんだけど甘い考えが多いし声が大きい。門番はたしかに寝てることが多いけど最近こっちのお茶会に顔を出すようになって以来門の中で寝てるから鍵を開けたらバレそうだし、メイド長も小悪魔様を案内したらたぶんすぐ戻ってくるでしょ。というか一番の問題は、

 

 

「「「ぴちゅん!!」」」

 

「ひえっ」

 

 

 ここが図書館の中だってこと。そそそっと離れてた私以外の娘は自動発動する魔導書からの『読書妨害を行うものを一回休みにさせる程度の魔法』の標的にあえなくなってしまった。これ妖精から大妖精までいっしょくたになっててもそれぞれちょうど一回休みにさせる程度の出力に調整されるんだよね。なんて無駄な技術。まあすぐに復活させないと仕事させられないってことなんだろうけど。

 

 

 うーん。一応のお目付け役に任命されてからずっと仕事だったし、他の娘がいなくなっちゃったからやることがない。とりあえずパチュリー様にお目通りしてからどこかに行こうかな。

 

 

 

 

 

 ② 動きたくない知識の少女と動いたら負けな悪魔の妹

 

 

「あのーパチュリー様ー」

 

「何」

 

 

 うわあ無愛想。でも読書中のパチュリー様はいつもこんな感じなので仕方ない。

 

 

「いえ、小悪魔様から今日のお仕事はなしと言われたので、外にでてもいいかなと」

 

 

 恐る恐るそう告げると、読んでいる本から目を話してこちらを見る。じとっとした目だけれど顔を向けてくれるということは結構意識がこちらに向いてくれている証。

 

 

「……妖精メイドが? わざわざ? ……ああ、ていうかあなたあれね、お目付け役って適当に押し付けた」

 

「あ、覚えていらっしゃったんですねこのこのこの!」

 

 

 絶対覚えてないだろうなあと忘れようとしていたのに! あの時本当に寿命が縮んだんですけど! 

 

 

「へー、目についただけだったけどあなたも結構変わり妖精ね。知能も高いし変な小悪魔にちゃんと従ってるし割と強いし」

 

「褒めてるんですか貶してるんですか」

 

「割と褒めてるわ。で、ああ外に出る? ちょっと客が来る予定だからソイツの話し相手してもらってからでもいいかしら?」

 

「え、客? こんなホコリ臭いところに人来るんですか」

 

「こういう暗くて空気が通らない空間が好きな人種はいるのよ」

 

「誰がキノコみたいって?」

 

「うわあびっくりした!」

 

 

 いつのまにか後ろにいた謎の少女。金髪赤目に……なんかよくわかんない羽根。枯れた木の枝に石がくっついてるみたいな。何の妖怪? 

 

 

「本当に来たのねフラン。もう正体不明になる研究はお終い?」

 

「いやこれは分身だからセーフ。本体が外に出なければノーカンよ」

 

「アウトっぽい」

 

「あ"?」

 

「ごめんなさい!」

 

 

 なんだかよくわかんないけど間違ってる気がしてぼそっと呟いたら睨まれた。怖い! しかも多分この人もめちゃくちゃ強い! どうやって来たの!? 

 

 

「破壊しないほうがいいわよ。その子一番小悪魔と関わってる妖精メイドだから」

 

「え、関わってるってどういうこと?」

 

「上司みたいな。あの通り空も飛べなくしてるから妖精メイドに指示出して本の整理をしているわ」

 

「え、空も飛べなくしてるって「へえ!」ごめんなさい!」

 

 

 グリンと頸を回してくる金髪妖怪。これ絶対面倒事じゃん、許さないぞパチュリー様。まあ許さなくても何にもできないんだけど。

 

 

「どう指示を出されてるの? 何語で? 最大何人くらい? 書架の分け方は?」

 

「いやいや、えっとぉ、どうと言われても集まってきた娘に応じてというか、休みが好きな娘は休みをお菓子が好きな娘はお菓子を報酬として与えていて、指示は日本語で、一番多くて指示を出していたのは20人くらい? 書架の分け方は分かりません!!」

 

 

 距離がどんどん近づいてくる圧が強い質問にひとつひとつ答えると、今度は金髪妖怪もパチクリと目を瞬かせた。今度は何? 

 

 

「ええ? あなた本当に妖精? 記憶力も高いし指示も聞くし……パチュリー、この娘になにかしたの?」

 

「不思議なことに何もしてないの。まあ霧の湖にいる妖精にも不思議なくらいの力を持っている妖精がいるらしいから、幻想郷ではこれくらいの妖精も産まれてくるってことかしらね。力だけならそこまででもないし」

 

「そうね、知恵が妖精としては尋常じゃなく回るけど別に強くはない」

 

「あの、これでも大妖精なんですが!」

 

 

 しかもこの館ではじめて大妖精になったエリートなんですが! そりゃお二方みたいな強さはないけど妖精の中ではかなり強い方だと自負しているんですが! 

 

 

「分かってるわよ。しかし、あなたみたいな妖精がいるって知ってたらあの得体のしれない奴を召喚しなくてよかったかもしれないのに」

 

「あ、それそれ。アイツを召喚した時の術式と反応を聞きたかったのよ」

 

「いや私に小悪魔様みたいな真似はできませんよ……」

 

 

 仮に私がみんなに指示を出しても誰も聞いてくれないだろうし結局一人でやることになりそう。むーりー。

 

 

「術式はごく普通の使い魔召喚ね。反応も消費する魔力も変わりなし、若干少なかったかもしれないけど誤差の範囲内。詠唱と魔法陣を今書きだしてあげるからちょっと待って頂戴」

 

「わーいありがと。同じ妖精だから指示を聞いてくれないなら蝙蝠の羽生やしてみたらいいんじゃない?」

 

「いやですよ。それに妖精が悪魔みたいになれるわけないじゃないですか」

 

 

「「出来るわよ」」

 

 

「ハモらないでくださいよ!」

 

 

 しかもなれるじゃなくて出来るって! 絶対魔術で改造されますよねそれ! 

 

 

「要は変化の一環でしょ? しかも悪魔なら悪魔憑きって術式もあるし、一定時間悪魔の姿と力を得るなんて簡単よ」

 

「知恵が回らないと無理やりしなくちゃいけないけど、知恵が回るのがラッキー。魔導書と憑かせたい悪魔を覚えられれば自由自在に出来ちゃうわ」

 

「やらないですから教えていただかなくて結構です!!」

 

 

 パチュリー様はさらさらとペンを動かしながら、金髪妖怪は未来視とかパラレルワールドとかの何の関連性があるんだか分からない書籍をふよふよ浮かせながら、にやにやしてこっちをおちょくってくる。もう! 

 

 

「話し相手にはなりましたから! もう外行きますからね!」

 

 

 よいしょ、と無駄にデカイ図書館の扉を頑張って開けながら廊下に出る。優しいのは小悪魔様だけだよ、もう! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白いね。髪も紅いし本当に悪魔みたくしたらアイツと姉妹みたいになれるんじゃない?」

 

「そうね。……それで、そんな分野に興味があったかしら?」

 

「んー、いや、アイツの名前が結局わからなくてさ。悔しいし、先に名無しになってるとか屈辱だから調べようと思って。集めてくれててありがとね」

 

「別に私が集めたんじゃなくて小悪魔に持ってこさせたものだから構わないわ」

 

「……ふーん。ま、まあ別にいいんだけど」

 

「(思いっきりこっちが釣られてるわね)未来を少し知ってるんだったっけ? それなら私の名前を先に知ってたことも納得いくし、信憑性は高そうね」

 

「まあそう。けど、アイツは自分の未来も知っていたけれど、その紅魔館にはすでに……小悪魔、と名乗るものがいるような口ぶりだった。もしかしたら未来視じゃなくて並行世界の観測が出来るのかもしれない、かな」

 

「まあ目的と手段が分かっても正体には届かない、か。レミィは何を話しにいったのかしらね」

 

 

「個人的な勘だと、多分くだらないことだと思うわ」

 

 

 




 この妖精が実はタグの半オリキャラ成分だったりします。


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とあるようせいのいちにち (2)

 いつも感想、誤字報告ありがとうございます。前回の前書きから5件くらい誤字報告を頂きました。そう簡単には直りませんね。

 なんだか最近東方原作の作品が活発で嬉しいですね。もっと増えてもっと。あなたの幻想郷が見たいわ!あなたの幻想郷を見せてちょうだい!


 ③ 完璧で瀟洒なメイドは友達が少ない

 

 

 謎の金髪妖怪とパチュリー様のおちょくりから逃げて廊下を歩くこと数分。風景が変わりません。

 

 

「絶対この長い廊下無駄だよ~」

 

 

 メイド長が趣味で空間を拡げてるらしいけど悪趣味この上ない。お客様も来ないし私達の遊び場になるくらいしか使いみちないのに、わざわざこんなに長くする必要あったの? 外に出られる気配がない。

 

 

「もうもう、窓割って外出ちゃおうかな」

 

「あら、犯罪者予備軍を見つけてしまったわ」

 

「ひょえ!?」

 

 

 後ろから聞こえた声はうわさをした陰。なんで強いひとってみんな気配を消して背後を取るの? まあメイド長の場合は時? を停めてるらしいから気配を消すとかじゃなくて今いきなり現れたんだろうけど。……いや違う声聞かれてたってことはやっぱり気配消して覗かれてたんだ! 

 

 

「人聞きが悪いわね、覗きじゃなくて驚かせるのが趣味なのよ」

 

「自然に心を読まないでくださいよ!」

 

「あなたが特別わかりやすいだけよ」

 

 

 やっぱり悪趣味! 私よりちょっとだけ早く紅魔館にいただけで(まあそこから大妖精になるまでまたちょっとかかったんだけど)人間のくせにメイド長なんかなっちゃって! 手品みたいにナイフ出すし時停めるし空間拡げるし生意気だわ! 

 

 

「あら、じゃあ闘る?」

 

「遠慮しておきます!」

 

 

 ナイフをちらつかせて眼を赤く輝かせるメイド長。こいつ本当に人間なのかしら、聞けばお嬢様を殺しに来たとか言ってたし種族間違えてない? 普通の妖精が何十何百集まってイタズラしに行ってたときも一瞬で(かっこよく倒すために1時間くらい細工してたとかいってたけど)全員細切れにして一回休みにしてたし。それ以降ちょっと頭が回る娘たちは逆らわなくなったけどみんなメイド長が種族詐欺してるんじゃないって疑ってる。人間がこんなに強いわけないだろ! 

 

 

「残念、あなたが闘ってくれないと暇つぶしに門番にナイフを刺しにいくことになるけど」

 

「別にいいですよ……」

 

 

 あのひとも種族わかんない妖怪だけど、暇つぶしと称してメイド長にナイフ千本にされてた(比喩じゃなくて本当に千本刺さってた)ときもあいててー位で全く意に介してなかったし異常すぎる。小悪魔様ってもしかしてかなりまともなんじゃないの? 

 

 

「というか何の御用ですか? 私外に行こうとしてるところだったんですけど」

 

「うーん、まあ特に用はないんだけど目についたからおちょくってみようかなと」

 

「はた迷惑」

 

 

 一応妖精メイドとして働き始めてからメイド長とは何度か会う機会があったんだけど、基本私達を当てにしていないメイド長は(ちなみに正しい判断だと思う)個体をあんまり区別しなくて一方的に私が知っているような関係だった。

 それが小悪魔様のお目付け役に私が任命されてから、お茶会の準備を手伝ったりするうちに「なんであなた真面目に働いてるの?」と声をかけられてたまに話すようになった。まあそもそもメイド長がこっちに来る時は小悪魔様とお話に来ることがほとんどなので本当にたまにだけど。あれ、というか

 

 

「小悪魔様はどうしたんですか? 一緒に出ていったんじゃ」

 

「小悪魔はお嬢様に引き渡したわ」

 

「動詞それで合ってます?」

 

「お嬢様が何するかわからないし気分的にはドナドナよ」

 

 

 はあ、と溜め息をつくメイド長。珍しい。自分で完璧で瀟洒な従者を自称する程度には隙を見せない彼女だけど、どうやら結構不安な様子。もしかして私に声をかけてきたのもそれが原因なのかな。

 

 

「まあご友人ですもんね。何事もなければ「待ちなさい」はい?」

 

「何って?」

 

「え? ご友人ですから、心配するのも無理はないかなと」

 

「ユウ……ジン……?」

 

 

 目をまんまるにしているメイド長。何だその初めて言葉を聞いた原始人みたいな反応。というか、

 

 

「友達じゃなかったんですか? なんか私達は対等みたいな話もされてたような気がしたんですが」

 

「え……ええ、まあ、対等……そうね、まあそれはそう。それはそうなんだけど」

 

 

 ここで私、気づく。あーそうか、メイド長ほとんどメイド長としてしか館の人と接してないんだわ。一応同じくお嬢様に仕える門番とか私達は対等になれそうだけど上から接してるからなあ。友達って感じとは程遠いか、それで小悪魔様がはじめての友達だと。はいはいはい、なるほどなるほどね? 

 

 

「待ちなさい。その不愉快な顔は何を考えているのかしら」

 

「え? いやあ何も考えてないですよ、メイド長は可愛いですね」

 

「あなたに言われる筋合いはないわ! 記憶が消えるまで一回休みにしてあげる!」

 

「いや勘弁してください! 私達だって生きてるんですよ!」

 

「そうね、コイン一個くらいの価値は認めましょう! 生きて外に出られたらね!」

 

 

 顔真っ赤にしてかわいいね、とか言ってる場合じゃない! 照れ隠しにか思いっきりナイフをばらまいてくるメイド長から逃げ出して、魔力弾で少しでもナイフを落としながら能力も使って飛ぶ! あはは、でもいいこと知っちゃった! わーい! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ④ 色鮮やかな虹のぐーぐー具現者

 

 

 命がけの追いかけっこ(でもメイド長は近づいてこなかったから本気じゃなかったと思う。多分)を辛くもやり過ごし、外に通じる扉を開けて出てすぐ閉める。するとヒュガガガガと扉にナイフが刺さる音が響く。絶対まっすぐじゃなくてホーミングして飛んできてるんだけどどういう原理? 

 

 でもこれでひとまずミッションコンプリート。あとは門番に一応話してから外に出よう。……やっぱり寝てる、しかも門の内側で地面に寝そべって。なんでこんなのお嬢様は雇ってるんだろ? 

 

 

「あの、門番さん。外出ますからねー」

 

 

 よし、それじゃ「曲者!!」「きゃあああ!?」

 

 

 私の顔の横寸前を拳が通り抜けていく。びっくりした! びっくりした! 今日一日で何回一回休みになるかもしれないわけ!? 

 その下手人は拳を振り抜いた姿勢で半目でこちらを見ている。もちろん門番だ。半目も睨んでるんじゃなくてぽけっとした感じの目。こいつ! 

 

 

「ちょっと! 寝ぼけてたでしょお前! 何が曲者! ですか妖精メイドよ私は!」

 

「んー、あー、いや違いますよ。おふざけ、ドッキリ、そういうあれです」

 

「寸止めする気もなかったでしょ勢いよく振り抜いておいて! 少しはまともに門番の仕事してくださいよ!」

 

 

 たはー、と頭をかく門番に私の怒りは有頂天。ほんとなんでこんな奴雇ってるの! 

 

 

「いやー厳密には雇われずに勝手に住まわしてもらってるだけなので。一応仕えてるつもりですが、立場としてはあなた方妖精メイドとそう変わりませんよ」

 

「え、そうなの? じゃあお給金は?」

 

「そんなものないない。たまにやってる庭仕事の方はもらえますけど、門番の方は趣味みたいなものだから」

 

 

 とたんに可哀想な妖怪に見えてきた。私達だってお菓子と紅茶、たまに遊び場とかをもらってるのに、ここから動けずに過ごすしかない、更に何ももらえないなんて。私だったら耐えられない! 

 

 

「いやいや、私はどこかに住まわせてくれるだけでありがたいんですよ。懐が深い家主に認めてもらわないと雲の彼方までふわーっと飛んじゃうので、護るものをくれてるだけでありがたいです」

 

「なにそれ、門番って風船の妖怪だったの?」

 

「まあ……空に浮くってので似たようなものかな? 一応虹の化身みたいな感じですよ」

 

「へー、綺麗。じゃあ紅魔館はいつでも虹がかかってるの?」

 

 

 そう続けると、ふっと笑みを深くした門番は紅魔館のほうを見つめる。私も振り返って見てみるけど、真っ赤で趣味の悪い洋館がただ建っているだけで虹なんてみえない。虹の妖怪も自在にかけられるわけじゃないのかな? 

 

 

「うん、虹が似合うな。ここに来る前と比べて随分数が減って屋敷も小さくなってしまうかと思ったけどとんでもない。守護りがいのある、いい家だよ」

 

「……何いってるのか分からないですけど、虹かかってませんよ?」

 

「あなたも素敵ないい子ですよ。特にあの娘と関わり始めてから、とっても綺麗になりました」

 

「ほんとに何の話ですか?」

 

 

 何だか優しげな目で見つめられて困惑する。私の知ってる門番とキャラが違うんですけど。雰囲気の違いもそうだしそんな目で見られたことがないから居心地が悪い。えーと、そうだ。

 

 

「あのー、そういえばさっきメイド長がすっごい面白かったんですよ。小悪魔様とあんなに仲いいのに自分では友達と思ってなかったらしくて、私がそれ指摘したら顔真っ赤にしてて! メイド長あんな顔もするんだなあ、って」

 

「へー、それは見たかったな。あの娘も名無しのころから比べて随分感情豊かになってたけど、やっぱり友達の影響は大きいんだなあ。私じゃ保護者か同僚にしかなれないし、難しいもんだ」

 

「あ、メイド長って結局人間なんですか? 眼の色変わるしやたら強いし人間じゃないと思うんですけど」

 

「一応素体となってるのは人間だし、彼女を定義する種族がない以上人間で合ってますよ」

 

「そんな消去法で決まる種族ってありますか?」

 

「あるんだな、これが。まあどうせなら十六夜咲夜って名前で呼んであげてください。メイド長でもいいんですけど、彼女は望んで忘れられたわけじゃありませんから」

 

 

 また優しい顔をして、ちょっと寂しげな雰囲気で語る門番。なんだか不思議な空気だ、どうして今日はこんなふうになってるんだろ? 

 

 

「まあ別に名前で呼ぶのはかまいませんけど。怒ってナイフで刺されたりしそうですよ」

 

「あはは、しないしない。友達が増えたって喜んでくれますよ、たぶん」

 

「ともだちぃ?」

 

「嫌ですか?」

 

「嫌、というか……釣り合ってないですよ、私妖精ですし」

 

「そんなことないですよ。そもそも人間と妖怪が友達になるのも変なんですから、妖精と人間が友達になってもいいでしょう?」

 

「んー、でも私の方が名前ないですよ」

 

「え、名前ないんですか!?」

 

 

 ぽろっと言った言葉に非常に驚かれた。な、なに? 

 

 

「このまま生きてたら妖怪になれそうな力は持ってるのに、名前がまだないってのは珍しいですね」

 

「え、だって名前ってつけてもらうものじゃないの?」

 

「人間はそうですけどほとんどの妖怪や妖精は違いますよ。ある程度強くなったらひとりでに名乗る名が思い浮かぶんですけど」

 

 

 そんなこと言われても思い浮かんだことなんてない。というか妖怪? 妖精って妖怪になれるの? 

 

 

「そりゃあある程度強くて人から畏れられれば勝手になりますよ。名前は必須ですけどね」

 

「ていってもなあ。そんな自分の名前なんて思い浮かぶ所が想像つかないよ」

 

「ううん、純粋な自然から産まれた妖精じゃないからかな? その"気"を見るに、図書館で発生したんですよね?」

 

「そうです」

 

「発生のタイミングか大妖精化したタイミングにか魔導書の影響を受けたりしたのかな? でも名前が無いのは不便ですねえ」

 

 

 不便って言われても。名前が無いのが当たり前だったし思い浮かばないし、髪の色とかから赤ちゃんって呼ばれるので十分だったしなあ。

 

 

「じゃあ名前付けてもいいですか? 屋内で産まれた子なので生中(シェンチュン)とか」

 

「嫌」

 

 

 可愛くない。というか屋内で産まれたって、もうちょっとあるでしょ。一時的にでもそんなの名乗りたくないよ。

 

 

「えー、じゃあどういうのがいいんです」

 

「どうって言われても……」

 

 

 なんていうか、()()()()。今のままがいい、ような気がする。自分でも理由が思い浮かばないけど。

 

 

「……そう、あなたも本当に素敵ね。じゃあ名前なんてなくても大丈夫。きっと友達になれますよ」

 

「はあ」

 

 

 なんだろう、この感じ。嫌ではないんだけど、さっきから門番が変なんだよね。むずがゆいし不思議とちょっと危機感を覚えるというか。……そもそもどうして門番と話してるんだっけ? あ、そうだ。

 

 

「あの、今日お仕事お休みなので。霧の湖のほうへ遊びにいってきますね」

 

「ああ、そんなこと言ってましたね。いいですよ。今日は遅くまで遊んできて良い日のはずなので」

 

「絶対適当に言ってますよね……じゃあいってきまーす」

 

「はい、行ってらっしゃい。ゆっくりしてきてね」

 

 

 

 うーん、半日が凄く長く感じたけど、ようやく外に遊びに……でも、もうお昼じゃん。最近暑くなってきたしなあ、チルノに声かけてみようかな? 出会い頭に凍らされなければ。

 

 

 

 

 あれ。館の方に虹が架かってる! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの子も歪だなあ。自覚はしてないみたいだけど、だからこそ見守りがいがあるね。どう転んでも私で対処出来ないようなことにはならなさそうだし」

 

「この館も閉じてばかりはいられないからね。この地に合わせて形を変えていく必要がある。その時をこちらから決められないのは窮屈だけど、こればっかりはお嬢様が負けたのが悪いから仕方ない」

 

「ただ、この館が甘く見られたままなのは納得いかないしね。賢者は随分とあの娘に怯えてるみたいだけど、ついでに私にもビビってもらおうかな」

 

 

 

 

「……うん、よし。あの娘の真似事だけど上手くいったんじゃない? 私にしては、だけど。……手加減とかあんまり得意じゃないからなあ。その点見習った方がいいよね、物質的な影響をまるで与えずに力を誇示出来るの」

 

 

 

「さて、陰気なお客は帰ったみたいだし、お嬢様も小悪魔さんも問題なし! 久しぶりに虹蛇を飛ばして疲れたし、寝よっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次話が終わったらようやく異変です。次話も分けるかもしれませんが。
 あと紅魔館メンバーのざっくり紹介を載っけようと思っているのですが、作品ページに載せるのと活動報告に載せるのだとどっちがいいでしょうか。アンケート作るので御協力いただければ(アンケート取ってみたいだけ)


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紅貴なる悪魔との邂逅、それは長い長い舞台のカーテンコール

 感想、誤字報告いつもありがとうございます。考察感想とか見るとはえー頭良いーってなったりしてます。あと誤字以外にも読みづらいかな? と思った所はちょこりちょこりと変えているので、読みやすくなってるといいなあと思います。

 今回1万字超えてしまいました。そして全編シリアスっぽい雰囲気で進みます。小悪魔もシリアスになってます。ごめんなさい。


 こうりゅう、なんて言葉で片付けないでほしいわね。あなたにとっても私にとっても、これは酷く甘美な運命の緒となるものよ? 言葉は着飾ってこそのもの、大仰で派手で目立つ方がいいじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小悪魔。あんた今日は司書の仕事しなくていいわ」

 

「そうなんですか? では何を」

 

「レミィがあなたと話したいことがあるってさ」

 

「レミリア様が?」

 

「ご案内します、小悪魔様」

 

「わ、びっくりしました。どうしたんですか咲夜さんその口調」

 

「……客人に対しての対応よ。主の客に軽口叩くメイドはいないでしょう?」

 

「私はかまいませんし、他に聞いてる人もいないのでいいのでは?」

 

「うーん、調子狂うわね。じゃあまあ案内するわ」

 

「はい、よろしくおねがいします。あ、その前に妖精メイドたちに伝えてきますね」

 

「あなたのところの妖精メイド本当に働き者よね。掃除班と交換したら私も楽になるかしら」

 

 

(何でしょうね。あの時と同じようになるかもしれないし、一応警戒したほうがいいはずなのに気が抜けるわ。咲夜もまるで警戒してないし、こんなんでいいのかしら)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖精メイド達に言伝をしてから咲夜さんと合流し、案内されることになった私。

 

 

「レミリア様は何の御用事なんでしょう?」

 

「全く分からないわね。あの人何か考えてそうで何にも考えてないこともあるから」

 

 

 ここに来てからしばらく経ったけどほとんど図書館で過ごしているせいで廊下に出たのがしばらくぶりだったりする。最初に案内されたのはパチュリー様にだったなあ、と考えながら廊下を歩きはじめて30秒。

 

 

「はい、着いたわ」

 

「え、あれ?」

 

 

 早。まだ10歩くらいしか歩いてないけど着いてる。あ、これあれか! 

 

 

「ああ、空間の操作ってことですか! へえ、実感出来たのはじめてですよ! すごいなあ」

 

「……ま、まあこの程度なら別にすごくないわよ? なんならあなたの寝床を100畳くらいにしてあげましょうか?」

 

「パチュリー様のお部屋に間借りしてる身分なのでそれはちょっと……」

 

 

 パチュリー様は割と昼夜感覚がしっかりしているようで、ご飯は食べないし居眠りもまるでしないけれど決まった時間に「今日の仕事は終わりよ。休んでいいわ」と告げられる。

 パチュリー様のお部屋は元々家主があまり眠らないようで埃を被った簡素なベッドが一つと、図書館に持っていけない研究用の道具が散らばっていた。色々あった1日だったけど、ちょっとこれでパチュリー様を寝させるのは良くないよなあと寝る前に同じく埃を被っていた替えのシーツの中で一番マシなものでパチュリー様のベッドメイキングをした後、適当なシーツにくるまって初日は夜を過ごしていた。

 次の日起きたら私もベッドの上で寝ていたのでパチュリー様が移動させてくれたんだろうなあ。今はどこから持ってきたか分かんないけど2台目のベッドを用意してくれたので、そこで寝させて貰っている。

 

 

「ああそれは確かに私も嫌ね。パチュリー様の部屋は触っていいものと悪いものの区別がつかないし勝手に空間に触って紅魔館が爆発したら目も当てられないわ」

 

「さすがにそんなことは無いと思いますけどね。私は使い魔としてそこら辺は教えて頂いたので(はじめて魔法受けたんだよねえあの時。私も魔法使いたいなあ……あれ私このままだと弾幕出せない?)」

 

「ふーん、じゃあ今度私も掃除させて貰おうかしら。って、ここで長々と話してても仕方ないわね、お通しするわ」

 

「あ、よろしくお願いします」

 

 

 失礼します、と前置きしてれみりゃが使うにしろ誰が使うにしろ幻想郷の住人には大きすぎる扉を片手で開ける咲夜さん。パワー系過ぎんか?? まあ霊力とかなんかがあるんだろうけど170cmくらいしかない女の子が動かしてる姿は違和感しかない。でも東方の世界はこれが普通なんだろうなあ、慣れればいいけど。

 

 扉の先はれみりゃの私室。真っ赤なクロスが敷かれた円卓の端にれみりゃが座っていて、目が合う。吸い込まれるような()()()()()。私に気づいたれみりゃもちょっと笑みを浮かべてふりふりと手を振ってくれる、かわいい。

 でもここも見るのはあの地獄の面接以来だなあ。いっちゃなんだけど無駄に広いよね。でも端に置かれてる棺桶はベッドなんだろうなあとかレース付きのテーブルクロスなのに綺麗に保ってるのすごいなあとか気づけて自分があの時より余裕があるのが分かるね。……? なんで私こんなに緊張しないでいられてるんだろ? 

 

 

「よく来たわね、座って頂戴? 咲夜、お茶を」

 

「お持ちしました」

 

「(早業! いや時停めなんだろうけど)ご案内、ありがとうございました。では失礼して」

 

 

 れみりゃに着席を勧められると隣の手ぶらだった咲夜さんがティーセットを用意済になっている。この唐突さ何度見てもびっくりするなあ。とりあえず私もれみりゃの対面に座ると、目の前でカップに紅茶を注いでくれる。ここは時停めないんだ。

 

 

香りも楽しんでもらいたいからね。お待たせしました」

 

「ありがとう、咲夜。下がっていいわ」

 

「失礼します」

 

 

 耳元でそっと囁いてからサーブしてくれる咲夜さん。お茶会に来る時も毎度見てるけど無駄がなくて綺麗だなあ。今日は一緒に飲めないけど、咲夜さんが淹れた紅茶を一緒に飲めるとか贅沢な経験してるよな、私。そんでこれかられみりゃと一緒に二人きりでお茶会でしょ? 夢みたいだよ本当に。

 

 

「さて、これで二人ね。といっても、そんな格式張ったものじゃないから気楽にしてね?」

 

「はい、分かりました」

 

 

 にこりと笑みを浮かべるれみりゃ。前回はカリスマと殺気がやばかったけど今日は凄い穏やかな雰囲気だ。普段なら絶対気楽に出来ないしテンパってそうだけど私も落ち着いて会話出来ちゃうな。さて、と前置きしてれみりゃが口を開く。

 

 

「ここに来てしばらく経ったでしょう? 大体館の者たちとの顔合わせも済んだようだし、色々感想を聞きたくてね」

 

「感想ですか?」

 

「そうそう。周りからは大分気に入られたみたいだけど、あなたからはどう思ってるのかな、ってね。さっき帰った咲夜については? あの娘について知ってそうだったけど」

 

 

 感想、感想ねえ。本物の紅魔館勢ってこんなキャラなんだ! っていう驚きは全員に共通して思ってたけど、それぞれに対して、か。でも()()()()()()()()()()()()()だし、なるべく()の言葉で伝えよう。

 

 

「咲夜さんについて知ってることはありますけど、言えないです。やっぱり所作が綺麗だし背が高いし素敵だなあ、と思いますし仲良くしてもらっているのに心苦しいとは思っているんですが」

 

「何よケチ。というかあなた図細いわね、気に病むくらいなら言えばいいじゃない」

 

「簡単に言ってくれますね……(図細い? 繊細ってこと?)」

 

 

 確かに東方のキャラは全員変な図太さがあるけどね。でもよく話しかけてくれるようで、友達(恐れ多いけど)みたいに接してもらえるようになってから尚更心苦しいのは仕方無くない? 咲夜さんは本当に何のわだかまりも感じさせずに話しかけてくれるのに、言えない事情って言っても完全に私のエゴみたいなもんだし、お前何様だよと。

 

 

「別に言いたくないなら堂々としていなさい、仲良しなら隠し事しないだなんて今日日人間でもしないでしょ。私もパチェのプロフィールほとんど知らないし、覚えてない咲夜は仕方ないにしても美鈴のことも何も知らんしなあ」

 

「ええ? 雇用主として大丈夫なんですか、それは」

 

「だって面白そうだったんだもの。いきなり中国からきた奴が何も言わずに住まわせてほしいだなんて言われたら二つ返事しかないわ」

 

 

 しれっとした顔でそう言ってからじゃあ美鈴についてはどう思うのよ、と言うれみりゃ。いやどうと言われても、その馴れ初めのほうが気になるんですけど。

 

 

「うぅん、一番は泣いてしまって恥ずかしいなあ、と。それとあれから話しかけてくれるようにはなったんですが、ちょっと手のかかる子だと思われてそうで複雑です。一応大人のつもりでいるので」

 

「まあ美鈴からしたら大体子供みたいなものだしあいつそういうところあるからなあ。確か中国のシンって国のときに一緒に産まれたはずだからもう1億歳くらいでしょ? 全員赤子だと思ってるに違いない」

 

「どのシンだったとしてもそんな前では無いと思いますが……」

 

 

 でもやっぱり中国出身だったんだ美鈴。シンってめちゃくちゃ色々あるから何の参考にもならないけど、やっぱりキャラのこと知れると嬉しいなあ。

 

 

「まあ美鈴がこの場所を住処にしている以上はその扱いは避けられないわね。あいつは自分の居場所が無くなるのを嫌うことと住処の中身を愛でることが本能だから」

 

「へえ。思ったよりれみr……リア様も美鈴のことご存知なのでは」

 

「同居してたらある程度は勝手にね。あなたはどうやら幻想の存在のくせにかしこまるのが得意なようだけど、大人のふりをした所作を行うよりは素直に接していたら素直な反応が帰ってくると思うわよ?」

 

「いえ、大人のふりというよりこれは、……やらなくてはいけないことなので」

 

 

 危ない危ない。今小悪魔のイメージとしての動きって言ってしまいそうだったわ。ちょっと今日はなんでだか口が滑っちゃうなあ。さっきだってれみりゃってそのまま口に出しそうになっちゃったし。

 落ち着くために紅茶を一口。美味しいなあ、技術が進歩したと言ってもティーバッグと本当の紅茶なら味が違うのは当然だよね。これ毎日飲めるれみりゃは幸運よね、とちらりと窺うと()()()()()がきらりとまたたいたような気がした。「素敵」

 

 

「うん、何が素敵って?」

 

「レミリア様の瞳は、綺麗だなと。……あれ?」

 

「うん? そうかい、でもうちの妹も同じ目をしてるじゃないか。フランのことはどう思ってるんだい?」

 

 

 なんだか今までよりも特に落ち着いた、優しい声で問いかけられる。フラン、フランかあ。あの娘は、あの娘も、

 

 

「フラン……ドール様は、私も詳しくは知らなかった彼女の目的や頑張りを知れて嬉しかったのと、偉い娘だなと思いました。495年もの間自分を破壊してでも独りで成り立つための研究をしていた努力家で健気で誇り高い娘。彼女が放っていたスペルやU.N.オーエンって言葉に想いを馳せて、……それでも、彼女の目的を応援してあげられない自分が嫌になりました」

 

「へえ、甲斐性がないのね」

 

「あはは、495年の研究だなんて気が遠くなるようなものを私ごときが否定していいはずがないんです。でも、私はフランが好きだから。私が知ってるフランはアンノウンじゃなくて、フランドール・スカーレットだったから。酷い話ですよね、本当に」

 

 

 本当に酷い話だ。あの時咄嗟にフランに原作の話を語ったときは、この娘を誰も知らない存在にしたくないって無我夢中だった。だけど、アンノウンになって欲しくなかったのは、私が原作通りにしたかっただけじゃないか? この世界で生きていない私の話を伝えて、私のエゴまみれの勝手な言い分を聞かせて、優しいフランはそれを尊重した。なんだそれ。

 

 

「頭が良くて、優しくて。この世界で必死に生きてる彼女が一途に続けたものを、ぽっと出の私の言葉で歪ませてしまったんじゃないかって「お前馬鹿??」ええ!?」

 

 

 この世界に来てから一番上がり気質の自分を責めたあの時を思い出していたら心底馬鹿を見る目でれみりゃに見られた! いきなり何!? 

 

 

「アイツがやってる研究なんて歪みに歪みまくってるだろ。自分で自分を破壊してた時だって私が助けないとアイツそのまんまお陀仏だったわよ?」

 

「え、で、でもそれでも続けてるのなら」

 

「持って産まれたものを消すなんて土台無理な話。あなたも幻想としての価値観がズレにズレまくってるわ。私達はね、深く考えたら負けなのよ」

 

 

 カチャン、と音を立ててカップをソーサーに置くれみりゃ。その()い瞳は私を真っ直ぐに射抜いていて、なんでだか今日はじめて目を合わせたような気がした。

 

 

「私は別にアイツのやりたいことを否定しないわ。やりたいならやればいいし、やりたくなくなったらやらなければいい。死にそうになったら助けてやるけど、研究とか私にとってはどうでもいいからアイツにとってどれだけ大事でもどうでもいい。お前もそうなりなさい」

 

「そ、……れは、無責任というか、私は」

 

「責任なんてあるわけないでしょ? お前の言葉で曲げる程度の研究ならその程度、どれだけ長く研究していようがその時間よりお前の言葉が刺さったのよ。私はお前の責任という言葉が気に入らないわ。()()()()()()()()()()()()()()()()。お前は何に責任を持とうとしているの?」

 

 

 何に。何に? 責任、私が感じている責任。それは、

 

 

「……この世界が、夢ならいいのにと思うんです」

 

「……胡蝶の夢だって? お生憎様、私もあなたも生きてるわ」

 

 

 そう、生きている。寝て、起きて、ベッドの上は暖かくて、紅茶は美味しくて、みんな生きていて。でも、それなら、

 

 

「なら、この世界が正しい世界なんですか?」

 

 

 

 違うんだ。それはあってはならないんだ。だって私は小悪魔じゃないから。頑張って小悪魔みたいに仕事して、小悪魔みたいに会話して、小悪魔みたいに振る舞おうとしても空も飛べない魔法も使えない、ガワだけ悪魔の人間みたい。

 紅魔館の人たちと会話するのは楽しい。夢みたい。東方ファンならみんな喜ぶよ。()()()()()()()()()()? この世界が本当に本当の幻想郷で、自分の振る舞いが()()になったら? 自分が小悪魔として認められたら? 

 

 

 嫌、嫌、嫌! だってそんなの、()()()()()()()()()()()()()()じゃないか! 自分のこれが、現実のワタシの二次創作ならいい。いいよ、全然いい。この意思もこの行動もこういう動きをする憑依キャラとしてならいい。でも、でもこれが原作になるのなら。神主が私を見ていたら? 小悪魔が……■■(ワタシ)になったら? そうしたら、ワタシの世界も、私の世界も、全部私のせいで壊れちゃう! 私とワタシの世界を繋ぐ(よすが)であるはずのこの記憶も、ただこの妄想を抱えたものになっちゃう! 

 

 ずっと目を背けてきた。楽しい毎日に浮かれて、頑張って原作と同じような動きはしてるからって自分を誤魔化して。でも駄目だ、私はこの世界を認められ「正しいに決まってるでしょ?」

 

 

 滲んだ視界のままぽかんと口を開いてレミリアの方を見る。涙が口に入ってしょっぱい。レミリアはやれやれ、と頸を振ってこちらを見ている。

 

 

「あなたもなかなか難儀な思考をお持ちのようだけど、残念ながら全て杞憂ね」

 

「……それは、何故ですか」

 

「あら、さっきも言ったでしょう? 

 

 

 私が生きているからよ!!」

 

 

 立ち上がり、胸に手を当てて小さい背でも堂々と胸を張るレミリア。魔力も殺気も発していないのに、そこには確かにカリスマのような人を惹き付ける何かを感じた。

 

 

「ええまああなたは難儀な性格のようだし出身も難儀なのはなんとなく存じているけれど、断言してあげましょう。何を持って正しい世界とするか? それは世界の主役たるこの私の運命力よ!」

 

「……ええ?」

 

 勘違いだったかもしれない。何だ運命力って、いきなりIQが低下したぞこのおぜうさま。

 

「フン、運命力がピンと来ないなら意志でもいいわ。あなたは延々にそこを間違えているようだからもう一度言うけれど、私たちは好きに生きている。好き勝手にやっているのよ、自分勝手にやっているの。

 

 だって自分が世界の中心だから!」

 

 

「えええ?」

 

 なんか途中までいい話かもしれなかったのに! よく分からない話の方向にいったけど!? 

 

 

「私はね、あなたが何を思って何をしようがどうだっていいわ! 好きにしなさい! あなたはあなたの世界の中心なのでしょうから!」

 

「え、それはどうなのかなはい」

 

「でも、あなたがあなたらしくあるのと同じように、私たちは私たちらしくあるのよ。

 

 

 あなただけじゃない、他の誰の言葉だって私を真に変えるなんて出来はしないわ。それは咲夜も美鈴もフランもパチュリーもそう、あなたという存在によって行動は変わったわ。けれど歪ませたなんて思い上がりも甚だしい。教えておくけどね、この世界にあなた程度の存在で芯が変わるやつなんてそうそういないわ!」

 

 

 だからね、と言葉を切るレミリア。その姿ははじめて出会った時よりも強大で、誇り高く見える。

 

 

 

 

「舐めるなよ、名も無き小悪魔。あなた程度に生きる責任を負わせるほど私たちは弱くないわ」

 

 

 

 

 

 なので、お前はお前で好きに生きるように。

 

 

 

 そう続けて、椅子に座るレミリア。

 

 

 

 

 私は呆然としていた。我に帰ったと言ってもいいかも。話さないようにしていた本心をペラペラと喋ったこと、それでレミリアを怒らせたこと、そして、……心が軽くなってること。

 

 

 そうだろうな、と納得出来た。私が間違えても、私が小悪魔じゃなくても、レミリア達の物語が壊れることはないだろうな、と。

 それと、私の好きに生きること。……私、この小悪魔として振る舞うことは、好きでやってたことだったわ。私としてこの世界に来たんじゃなくて、この小悪魔の体に憑依したんだから原作っぽく振舞って原作通りの関係性になれたらいいなって思ったんだった。

 

 あー駄目だなー。元々深く考えないようにしてふらっと生きてきたのにこっちの世界に来て幸せ過ぎて逆にネガティブになってたわ。レミリアって凄いなあ。伊達に6面ボスやってないわ。……本当凄いなあ。

 

 

 

 

「……はい、お手数お掛けしました。本当にありがとうございます」

 

「ま、面倒な事情持ちには慣れてるから別にいいわ。それにしてもあなた、幻想郷(ここ)に来る前どこで何をしていたの?」

 

 

 返答に窮する。……どうしよう。原作云々の話はしたくない、んだけど。でも、言って貰ったこの娘に不義理な真似もしたくない。うーん、ぼかして伝える? 

 

 

 

「そは、

 

 

 

 そこまでですわ。そんな言葉が聞こえてきたと同時に、私の意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら。魅了が解ける前にさくっと答えて貰おうと思ったのに」

 

 机を挟んで吸血鬼に対面していた少女が、電池が切れたかのようにうつむき動かなくなる。あからさまな異常事態に、しかし吸血鬼は動揺を見せずに紅茶を飲み、虚空へと声をかける。

 

 

「スキマ妖怪。客人はいつでも歓迎するが、先客に割り込むのは関心しないな」

 

 

 館の主と招かれたものしか入れない吸血鬼の私室に、世界にインクを落としたような真っ黒な影が一文字を描いている。かわいげのアピールか、両端に結われているピンク色のリボンを眦としたように、眼が開かれる形で影が広がった。そこから美しい一人の少女が顔を覗かせ、妖しい雰囲気をまとわせながら口元に弧を描く。

 

 

「ごめんあそばせ。いささか不躾な行動の自覚はありましたが、急用だったもので」

 

 

 たっぷりとしたゆるいウェーブがかかっている長い金髪をたなびかせ、紫色のドレスに隠された白い足を組んで虚空の上に座る少女。たおやかに笑みを浮かべ、口元を隠すその仕草は見るものを魅了するだろう。しかし空間に広がる影のような歪みに腰掛け、金色の瞳を輝かせているその光景は美しさも得体の知れない不気味さに変えてしまっていた。

 

 

「急用とはな。私の侵攻以来ろくに顔も見せなかったのに、今更何の用事があったのかしら?」

 

「あなたの謹慎処分が終わる目途がつきましたの」

 

「へえ?」

 

 

 お互いに同じ空間にいながら、眼を合わせることなく別々のものに腰掛けたまま会話を続けていた二人。しかしその言葉に初めて吸血鬼は金髪の少女へ視線を向ける。

 

 

「嘘だね。誤魔化せると思っているのかい?」

 

「あらあら、本当ですのよ? あなたと紅魔館の面々も館から出られないのは窮屈でしょう」

 

「だけどその件は急用じゃない。こいつだろ? 本題は」

 

 

 つ、と長い爪に覆われた指を対面していた紅い髪の少女に向ける吸血鬼。その動作に金髪の少女は表情を動かすことなく、ただ慎ましやかに笑みを浮かべている。

 

 

「こいつの運命は独立しすぎている。一人一種族の妖怪であったとしても、発生に人間の恐怖の縁が絡みつき、弱く貧小な存在であれば周囲のありとあらゆる運命に絡みつかれ翻弄され、強く強大な存在になればなるほど世界の運命という大本線のせいで動きづらくなる。でも、こいつは違う」

 

 

 吸血鬼はそのまま指を少女の上へと滑らせる。そこにある人形遣いの糸を探るように。

 

 

「こいつの運命は一本きりだ。辿っても辿ってもそこには何もない。他の何者にも左右されず、自分自身の強固な幻想により成り立ってる幻想の存在……なんて、厄介なもんだと思っていたけど」

 

 

 そこで言葉を切って、ニヤリ、と悪辣な笑みを浮かべる吸血鬼。笑みを浮かばせ続ける金髪の少女とは対照的で、妖怪らしい仕草だった。

 

 

「お前にとっても非常に厄介なんでしょう? こいつの運命の起点、召喚されたその日の小悪魔と私の小競り合いは門番でも感じ取れてる。ただでさえこの世界への関所みたいな役割を持っているお前が気付かないはずはないのに、これまでちょっかいをかけてこなかった。理由までは分からないけれど、下手に刺激したく無かったのよね?」

 

 

 そう断言されて、金髪の少女はほう、と息をつき、やれやれ、とかぶりをふって笑みを崩した。その仕草すらも演技がかったようで不気味さが減ることはない。

 

 

「……そうね、正直にお答えしますわ。下手に刺激したく無かったのは本当。詳細はお話出来ませんが、その悪魔はあまりにも未知数なのでございますわ。解体方法が見つかるまで、不発弾には触らないに限るでしょう?」

 

「不発弾、ねえ。お前が私の心配するはずないし、爆弾の影響は紅魔館って訳じゃなくてこの世界ってところかしら?」

 

「聡明なのはいいことですわ。具体的な影響は不明ですし、そもそも杞憂の可能性もございます。しかし、ご理解頂けるのであればその悪魔への干渉は控えて貰いたいのです」

 

 

「え? 嫌よ」

 

 

 きょとんとした顔で返事を返す幼い顔をした吸血鬼にぴくり、と眉を動かす金髪の少女。

 

「あら、聡明という言葉を撤回したくなりましたわ。どういう意図で断るのでしょう? 脅しなら……」

 

 

 

 

「だってその方がカッコイイでしょう!」

 

 

 

「は?」

 

「あなたも分かっていないわね、八雲紫。あなたへの隔意も支配欲も知略もこの決定には一つも関係ないわ。

 

 いい? 私達妖怪は人の幻想に左右される。その代表となる強き妖怪の支配者が、強く、賢く、カッコよく無くてどうするの! あなたは裏方に回るドールマスターを気取っているようだけど、策謀を巡らせて不気味がらせるのが最も強き妖怪だなんて真っ平御免! 

 

 このレミリア・スカーレットは誰であろうと拒まない。まともな魔女も神みたいな怪物も忘れられた殺人鬼も世界を崩壊させ得る不発弾も、私はこの館に受け入れるわ。懐が広いほうがカッコイイから! そして私は目立つわ、タイトルロールで居たいから!」

 

 

 朗々と歌い上げるように言葉を続ける紅い悪魔、レミリア・スカーレット。そして呆気に取られたまま話を聞いていた少女、八雲紫にその眼差しと指先を向ける。

 

 

「謹慎処分が終わるって? 業務連絡ご苦労。であればその処分が終わる時刻を覚えておきな。それこそがこのヴラドの末裔、レミリア・スカーレットが幻想郷に妖怪の支配者として名を知らしめる時となるだろうさ!」

 

「あらあら、500歳児のお子様はもうお眠の時間だったのかしら? 寝言が少々過ぎるようね。……まあ、処分自体に変更はありません。藍、説明をしておいて」

 

 

 宣誓を受けても表情を変えない八雲紫が腰掛けている空間から、導師服に身を包んだ9本の尾を持つ狐の少女が顔を出す。

 

 

「かしこまりました。では、こちらを」

 

「おや、もうお帰りかい? 急用と言って割り込んで来たり要件を従者に任せたり、随分勝手が得意なのね?」

 

「私どもは自分勝手に生きるもの、なのでしょう? 他にも急用を抱えておりますので、これにて御免」

 

 

 皮肉を意にも介せず空間のスキマに吸い込まれるように姿を消す八雲紫。それを見てつまらなそうに鼻を鳴らすレミリアは、従者である八雲藍に目を向ける。

 

 

「それで? 私に何をさせたいって?」

 

「ああ、お前には異変を起こしてもらう。新しい幻想郷のルール、スペルカードルールでな」

 

「はあ? 異変ってのは問題を起こすってことなのは分かるけど、何よそのスペルカードってのは」

 

「それを説明する。いいか、スペルカードというのは……」

 

 

 

「はあ、飛び道具を使った遊び。弾幕ごっこ? 弾幕を張るってことね。それで人間と闘うぅ?殺すでしょそんなの」

 

 

「で、ルールとして技に名前を付けて回数制限も決めてやる、と。ふんふん、いいじゃない私名前付けるの得意よ」

 

 

「美しさを競う! 何よあのスキマ妖怪分かってるじゃない、戦闘に置いて何より大事なのは華ってことよね!」

 

 

「なるほどね。避けきった方の勝ちってのが大前提にすることで実力差があっても勝ちの目を作ってあげる、と。実力があるものは如何に美しくそれでいて避ける可能性がある弾幕を作れるか、で余裕と誇りを表すのね!」

 

 

 

「理解したわ。めっっっっちゃくちゃ面白そうね! やるやる、やるわ! 明日から異変始まるまで紅魔館全員弾幕ごっこ練習期間よ!!」

 

 

 

 

 

「(コイツ本当にさっきまで紫様に宣戦布告してたのと同じ妖怪か……?)」

 

 

 

 

 




 レミリアは主人公っぽいカッコ良さにしたいです。うちの主人公主人公っぽくないので……

 次話から異変のつもりだったんですが、ちょっとシリアスに疲れたのでまた小話みたいなのを入れてからになるかも。


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本筋とはまるで関係のない、紅魔館に集う人々の話(1)

 あけましておめでとうございます。思ったより更新が遅れてしまいましたが、更に内容が本編と関係の無い話となっています。

 アンケートを取っていた紅魔館のざっくりキャラ解説を書いていたら、もう過去話として別に書いた方がいいなと思いこんな形になりました。想像100%かつ全編シリアス、小悪魔(笑)は出てこないと色々申し訳無い感じです。読まなくても問題ない内容なので、捏造設定が苦手な方はご注意を。


 ①黄金の炎は紅い月を見た

 

 

 

 

「名前を教えたくない? 地下室に篭もりたい? ……お前本当に私の妹?」

 

「ま、好きにすればいいんじゃない? 私も好きにやっとくから」

 

「ただ、名前を呼べないのは不便だから。金髪で綺麗な紅い瞳だし、私は貴方のことゴールデンフレイムって呼ぶわ!」

 

「え? 嫌? ……んー、じゃあFlamme d'Or《フランドール》でどう? 意味一緒だけど、フランス語よ? かっこいいでしょ!」

 

「どうでもいい? ま、もし呼ぶ機会があったらフランドールって呼ぶわ」

 

 

 

 そんなやり取りが、私が閉じこもる前にした最後の会話だった。

 

 産まれ落ちた瞬間から「狡猾で凶暴な悪魔」という幻想が基盤にあった私は、幻想の存在(わたしたち)に課せられた呪縛から抜け出したくて仕方なかった。そのための方策を朧げながら構築していた私は同じ吸血鬼の妖怪とそんなやり取りをしてから彼女の館の地下室に引きこもり、誰からも認識されないようにした。

 

 たまに外の様子を魔術で覗き見ることがある。同じ地、同じ種族に産まれたはずだというのに彼女は私の性格とはかけ離れていた。強者を楽しみ、支配を楽しみ、吸血鬼を楽しんでいた。その支配も人間から忘れ去られるまでの仮初のものだと分からないのだろうか? 私達が"生"を楽しむには吸血鬼でいてはならない。そのためには誰にも知られてはならないのに、何を邁進しているのか。

 日光、流水、銀に十字架。危険を侵し外に行き、ただでさえ短い運命を更に縮める愚か者。5年は早く産まれ落ちたはずなのに、まるで人間のガキのよう。やはり植え付けられた本能のまま動くものは知能が低下してしまうのかな? 

 

 だけど、私はこれで正しいのか。飢えを感じる機能は破壊したけれど、毎日血を飲まないと頭が働かなくなって身体が動かなくなる。名前を知られていないはずなのに吸血鬼と定義された身体は正常に機能していて腹が立つ。何でだ。畜生。あああ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ忘れられたくないよ。

 違うだろ馬鹿。こんな本能から解き放たれるためにやってるんだろ。でも怖い。あいつが正しいんじゃないか? だって血を吸わないと動けないんだから、人を襲うのが普通なんだよ。その普通が受け入れられないんだろうが! 

 

 嫌だ。イラつく。嫌だ。イラつく。イラつく。イラつく! 何に? 私に! 

 

 私の理性は間違ってない。私の理性が目指すものは正しい。身体が嫌い。本能が嫌い。あれ、じゃあこれ壊していいんじゃない? 壊そ。きゅっとして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ? くらい。め、ひらいてる? とじてる? なんだろ、これ。

 

 

 うごけない。うごかすものがない。でも、さむい。

 

 

 

 

 

 あ。きえる。わたしが、せかいから、はなれて

 

 

 

 

 

 

「何やってんのフランドール!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちょっとだけ、あかるい。……つき? 

 

 

「お前めちゃくちゃやるわねえ! 運命が全部解れてる奴なんて初めて見たわ、肉体もボロボロだけど自分自身の運命全部破壊しやがって!」

 

 

 

 ちがう。ひと? だれだろう、しらない。

 

 

 

「へー運命の糸が全部解けるとこうなるのね! どの運命も引っ掛けられないし勝手にふよふよ浮かんで楽しそうねえ! 勝手に行くなよフランドール!」

 

 

 てをのばされてる。けど、とおい。ふらんどーる? だれのなまえ? 

 

 

 

「好きにしろと言っておいて悪いけど私の館で妹を消させたくないんでね! 私も好きにする……けどどうなってんのよこれ! 糞、私が運命に縛られてる? 運命の糸があるから届かないのか……おいフランドール! お前も動きなさい!」

 

 

 

 あ。ふらんどーる、わたし? わたし、ふらんどーる? 

 

 よかった。さいごに、わたしをしってるひとがいてくれて。わたしは、ふらんどーる。このひとの、いもうと。それがあれば、わたしは、じゅうぶん。

 

 

 

「あああお前ふざけんなよこらぁ! 何満足そうにしてんの絶対消させないからね! ……ぐぐぐぐこれしかない? これしかないか? 畜生私も消えたら祟るぞフランドール! いや絶対に消えないけど! 消させないけど!! オールベットだ覚悟しなさい!」

 

 

 

 え? 

 きえるちょくぜん、めのまえのひとも、きえちゃった。

 

 まって。それはだめ、だってわたしは、あのひとの────

 

 

 

 

 

 

 

 

 背中に、暖かな感触が伝わる。目の前に、あの人が立っていた。紅い、紅い瞳が私を射抜いている。蒼白い髪が赤い魔力によって靡いていて、紅い月のようだった。

 そして、背中に回されていた手でそのまま抱き締められた。ずきん、と身体が痛みを訴えている。喉に溜まった血を吐き出す。後から後から血が溢れてくる、中身が壊れてるし外傷も酷そうだ。でも、自分の身体よりも、添えられている手と彼女の身体から熱が伝わってきて火傷しそうだった。

 

 

 

「がぼ。……おね"え、ざま?」

 

 

 今までそんな呼び方したこと無かったのに、自然とそう声が出た。だって私が産まれてから、引き篭ってから初めての会話だ。ただ、抱き締められた手が暖かくて。助けてくれた、そう思うと訳が分からない感情が溢れてくる。でも分からなかった。

 

 

「どうじて。……だすげて、くれたの?」

 

 

 私は彼女を覗き見て知っている。けど、彼女からしたら同じ種族なだけの訳の分からない存在のはずだ。なのにどうして? 今まで見向きもしなかっ「うるせー馬鹿!!」

 

 

「お前馬鹿馬鹿馬鹿過ぎる! 馬鹿過ぎて死ぬかと思ったわ! もう本当に馬鹿!」

 

「え、え? げぽ、何? ごめんなさい?」

 

「謝って済む問題だけど何の事か分かってないだろ馬鹿!」

 

 

 抱き締められた体勢のままぱんぱんと軽く背中を叩かれる。怒っているようだけど手つきは優しい。何となく、優しさ、を感じて嬉しくなる。でも、怒らせているのは申し訳ないな。その理由が分からないことも。

 

 

「別に何してても良いとは言ったけどやりすぎってことよ。……名前、もう思い出せないでしょ」

 

 

 言われて、自分の名前を思い出そうとする。『フランドール・スカーレット』。それが私の、あれ? 

 

 

「元のお前の運命は途絶えた。もう名前も無くなってそのまま消えそうになってたから、無理矢理私の運命に引っ掛けて戻したのよ。でもお前の名前知らないから、私の呼び方がそのまま名前になっちゃってついでにファミリーネームも付いちゃったわ。……謝らないわよ」

 

 

 ああ、それでお姉様って呼び名が私の中から出てきたのか。私の記憶にある通り本能と身体を破壊出来て、それがやりすぎちゃって死にかけてたんだね。

 

 

「謝る必要なんてないよ。呼んでくれて嬉しかったし……むしろ私がお礼を言わなきゃ」

 

「嬉しかった? いやお礼なんていらな「嬉しくなんかないけど!!」おおう?」

 

 

 口が滑った! くそ久しぶりの会話で気が緩んでるな私! でもお礼は言おう! 

 

 

「げほ、助けてくれてありがとうお姉様。消えるあの時、私もお姉様も消えちゃったんじゃないかと思って本当に不安だった」

 

「要らないって言ってるでしょうに、怪我してるんだから黙ってなさいよ。ま、私じゃなかったら間違いなくお陀仏だったわね」

 

「あは、思ったよりお姉様変な人」

 

 

 ぎゅっと抱き締められた感触が心地よい。私の身体は血塗れになってるだろうに、離さないでいてくれてる。……? あれ、違う。お姉様の手、震えてる? 

 

 あ。いや、忘れてた。さっき私が言ってたじゃないか、あの時お姉様も世界から消えたように見えた。もしかして、

 

 

「……お姉様、私も怒っていい?」

 

「は? 何によ、一応言っておくけど名前はどうしようもないからね」

 

「そんなことどうでもいいわ。ねえ、私をどうやって助けたの? 世界から消えたように見えるくらいで、手が震えるくらいなどんなことをしたの?」

 

 

 問いかけると回されていた手がぴくり、と一瞬私の背から浮く。けれど、諦めたようにまた強く強くぎゅっと抱き締められた。

 

 

「そこは強くてかっこいいお姉様がかっこよく助けてくれたんだろうなあ、で終わりなさいよ」

 

「嫌。思ったより、というか思ってた通りお姉様も馬鹿みたいだから怒んなきゃダメ」

 

「私のイメージどんなんだったの? 

 ……まあ、フランドールに運命を引っ掛けるためにちょっと無茶したのよ。そのままだと世界の運命に縛られてる私の力が届きそうになかったから、貴女の真似をして世界から浮いてみるかって」

 

 

 私に繋がってた運命を全部引きちぎって、ね。

 

 

 そう続けるお姉様。何でもないように話しているけれど、そんなことしたらどうなるか、私が1番良く知っている。自分が誰だか分からなくなって、この世から浮いていく。死ぬじゃなくて、存在そのものがテクスチャから消去されるような、思い出すだけで足元が崩れそうになる感覚。そんな状態になって、私を助けて引っ張って世界にもどって来たの? 

 

 胸が熱い。手の感覚もまだ戻ってないけど、溢れる感情のまま無理矢理手をお姉様のもとに回す。ブルブル震えてみっともないことこの上ないけど、強く強く彼女の背中を握り締める。私の熱がこの馬鹿な人に届くように。

 

 

「げほっ、げほ。……ほ、本当に馬鹿。何の関係もない、私を助けるためにそんなこと、する意味ないでしょ。自分が、……消えちゃうかもしれなかったんだよ?」

 

「……うーん、まあそうね。妹とはいえここまでやる必要があったのかは微妙、っていうか無かったかもしれないわ」

 

「だったら!」「でもねフラン」

 

 

 何を言えばいいか分からなくて、自分の中の熱を何とか言語化しようとしたけど的外れな皮肉しか出てこない。

 それをぶつけると、お姉様は薄く微笑んで、私が失った蝙蝠の羽で2人を包み込み、落ち着いた声で私の耳元に囁く。

 

 

 

 

「こうやって姉妹で抱き合えてる。それが出来るようになったのなら、私の無茶にも意味があったさ」

 

 

 

 

「まあ、もうお前は純正な吸血鬼って訳じゃなくなっちゃったみたいだから色々不便があるかもだけど。今回くらいの問題なら手伝ってやるから1人で突っ走らないように」

 

 

 そう言い残し、羽と手をほどいて私を棺桶まで運んでくれた後、地下室を去るお姉様。人間だったら不謹慎極まりないな。さっきまで気づかなかったけど、お姉様から感じる魔力がほとんど空っぽになっている。疲れてるんだろうな、とぼんやり思う。あー。

 

 

「……お姉様、ありがとう」

 

 

 まだ、私は幻想の存在が嫌、UNKNOWNになりたい。でも我慢じゃなくて、研究をしよう。好きなことをやる、けどあの人に迷惑はかけないように。自分でやれることをやる。そして、人間に依らずとも生きていけるようになろう。……2人で。

 

 

 

 

 

 

 でもお姉様は思ったより大した人じゃないというか、あの人の方がよっぽど周囲に迷惑かける奴だと気づくのはすぐだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ②家出する知識の魔法使いは紅い悪魔と契約する

 

 

 

 

 

 私が産まれたのは、知識の名を冠する魔術師の家系だった。

 喘息と引き換えに手に入れた五大元素+天文への理解と操作する能力は、まあごくごく当たり前に親より優秀な魔術師となることを意味している。昔ならね。

 

 

 

「ゲホッ、ゲホッ、ガホッ」

 

 

 私は産まれてくる時代が200年遅かった。今の都市はスモッグとガスに覆われていることがほとんどで、私が生きるのにまるで適していない環境だった。それは体質も魔術も家も、あらゆる意味で。

 

 自然科学の発展によって、魔法という幻想の駆逐が始まっている。それはどの魔術師にとって火を見るより明らかで、ゴーレムを操る錬金術師なんかは自動機械が開発されて以降出力が致命的な程落ちているらしい。まあ両親による又聞きで信憑性は低いが、原理的には当然でもある。

 幻想が衰退する前ならば常に結界を貼って過ごすことでガスから身を守ることが出来たかもしれないが、幻想を駆逐している証拠である機械化によって産まれたガスは遮断する魔法の構築が難しい。自身にフィルターをかけて何とかこれまで過ごしてきたが、後どれだけ保つか分からない。

 

 

 そして、後どれだけ保つか分からないのは、家の中での私の立場もだ。

 

 

 

 ────パチュリーはもう駄目よ。魔力量が減らない内に取引材料にして他の家から世継ぎを貰わないと。

 

 

 ────何とかノーレッジ家の血を受け継ぐことは出来ないか? もう初潮は来たんだ、受精さえ出来ればいい。

 

 

 ────母体があの調子じゃ出産が上手く行く訳ないじゃない。はぁ、あの娘が苗床になってくれればノーレッジ家は安泰だったのに。

 

 

 

 

 こんな調子でね。非常に腹立たしい。現実が見えてない愚か者め、何の策も練らずにただ世代を繋ぐだけじゃ魔術師としての寿命は変わらないということから目を背けている。

 

 下手に歴史と地位を持ったのが難点だったのだろう。両親は家系を残すことが第一と考えて、魔法の研究は第二第三だ。いや社交界が第二でプライドが第三かしら? なら魔法はもっともっと下ね。馬鹿らしい。

 

 けど、今の私はそんな愚か者に頼らないと生きていけない弱者である。なのでどうしようもなかった。今日まではね。

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ。どうも、お父様お母様」

 

 

 ────ん? おお、パチュリー。立てるなんて珍しく調子がいいじゃないか。

 

 

 ────ああよかった。死ぬんじゃないかと心配していたわ。

 

 

 にこやかで嬉しそうに満面の笑みを浮かべているが、全く心は揺れない。本当にどうしようもない奴らだな、こいつら。

 

 

「ええまあ。げほ、げほ、捨食の魔法と捨虫の魔法を使ったので。人間から魔法使いという妖怪になったんですよ」

 

 

 あえて素っ気なく、何でもないことのように続ける。どのような反応をするか観察してみて……ああダメ、予想通りっぽいわ。

 

 

 ────なんと素晴らしい! ■■歳で不老の術を会得出来るとは! パチュリーはノーレッジ家の誇りだ! 

 

 

 ────最高よパチュリー! これなら貴女の婿も選り取りみどり、ノーレッジ家も安泰ね! 

 

 

 馬鹿過ぎ。はああ、と大きく溜め息をつき、きょとんとしている両親を通り抜けて屋敷の扉へと向かう。

 扉の前まで私が来てもこちらをただ見ているだけの彼ら。……これ無言じゃ駄目かしら。いやまあ、ここまで育ててくれた恩はあるし一応ちゃんと伝えよう。

 

 

「では。けほ、私が魔法使いになったとしてもその方策に興味を示さずに家の存続ばかり気にかけてる魔導の落伍者さん、貴方たちが読まずに埃をかぶせてた本のおかげでこれからは1人で生きていけそうです。けほ。

 

 私は魔法使いとして生きる、あんたたちは大事な大事な貴族のプライドだけもって魔術を失い生きていけばいいんじゃない?」

 

 

 それだけ言い残して扉を開け、視界を真っ白に埋めるガスを突っ切るように空へ飛ぶ。結界は貼っているけれど今まで私を殺しかけてきた霧だと考えると息を止めてしまうわね。そのまま上へ上へ、この霧が晴れるまで。

 

 

 

 開けた視界。満天の星空と満月。霧に包まれた都市はあちこちにガス灯でぼんやりと灯りが灯っていて、都市の周囲にある海、川、山林の自然を見下ろす。……見える。今日の夜は元々かなり明るいけれど、こんな風に夜目が効くなんて。魔法使いとして動けるようになったことを実感出来て、高揚してるのとこれからの一人旅にちょっとドキドキする。素体が貧弱な私だからさほど身体は強くなってないことは弁えておかないといけないけど、躊躇することなく山林の方へ今度は一気に高度を下げる。魔術の研究が出来るかどうかは、まず都市から離れないと話にならないからね。死ぬし。

 

 林冠に凹みが見えたのでそこへ。林道が着いてないと進めないだろうし、とりあえず視界が確保出来ないと普通に死ぬ。妖怪になったとしても過信してはいけないけれど、妖怪も近代化の流れによって力を削られている。それでも強大な力を持っている妖怪はいるし、私が用があるのもそのうちの1つだ。

 林道、というよりは獣道を通ることしばらく。目当ての物が見えてきた。

 

 紅い、見渡す限り全てが紅い館。遠目に見えて居るだけでも禍々しい妖気が渦巻いている。ふぅ、と息をつく。別に戦いに行くわけでもない、皮肉なことに礼儀作法は完璧。あの館の主の不興を買わずに、傘下に下ることが出来ればそれで「こんばんは、良い夜ね」

 

 

「っ!?」

 

「あら、私に用があって来たのではなくて? 他の者が間に入るよりも直接の方がいいと思って来たのだけど」

 

 

 背後から聞こえてきた声に振り返り、距離を取る。そこに居たのは、小さい吸血鬼。蒼白い髪に紅い眼を持ち、小さい身体に不釣り合いな程の魔力が詰まっている。間違いない、こいつがあの館の主、吸血鬼レミリア・スカーレット。

 

 

「げほっげほっげほっ。お気遣いありがとうございます、レミリア様。お手数をおかけして申し訳ございません。お初にお目にかかります、魔法使いとして妖怪になりましたパチュリー・ノーレッジと申します。ご慧眼の通り、レミリア・スカーレット様にお目通りを願いたく訪れました。お会いできて光栄です、げほ」

 

 

 急に身体が緊張して咳が止まらない。無駄に驚かせないでよね強い妖怪でもマナー守りなさいよこっちは喘息持ちよ、と思っても身体はしっかりと跪いて頭を垂れる。咳だけは出てしまうけれど、頭を垂れていればそこまで失礼には当たらないはず。

 

 

「……んー、何か違うわね」

 

「げほっ、……何か、粗相がありましたか」

 

「いやまあ、……まあ、いいか。紅魔館に住みたいんでしょ? いいわよ、大図書館を管理してた妖怪が消滅しちゃったしちょうど良かったわ」

 

 

 こっちよ、着いて来なさいなと館の方へと歩みを進めるレミリア・スカーレット。話が早くて助かるが、何か不興を買っていたとすると気が気でない。しかし大図書館と言われたら着いて行かざるを得ないのが魔法使いの所以。むしろちょっとワクワクするわね、けほ。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ヴワル魔法図書館に大興奮しながら外見は取り繕い、住み着くようになってからしばらくして。

 

 

 

「いやー人間の兵器ってどんなものかしらと思ってチャレンジしてみたら思ったより破壊力あってびっくりしたわあはは」

 

「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどここまでとは思わなかったわ! なんで侵略の計画とか練れるのにそんな短絡的に行動起こせるわけ!? ゲホッ、身体半分ちぎれてよく帰ってきたわねっていうか私の所に来ないでよもう!」

 

「回復魔法使えるだろ〜? でもパチュリー私に畏まった言葉使わずに今みたいなのでいいわよ? やっぱそのほうが良い気がするのよね、うん。あと地雷踏まないほうがいいわ」

 

「ええ、ええ絶対に踏まないわ外に出ないから! ゲホッていうかあんた重症通り越して致命傷なの分かってるわけ「お姉様!? どういうことなにその怪我誰にやられたの!?」うわ誰!?」

 

「お、フランドール久しぶりじゃないの。地雷踏んでみたら思ったより強くてさ、パチュリーに治して貰えたらいいかなって」

 

 

 

 レミィ(この後愛称を勝手に決められた。友達を選ぶ権利は私にもあると思うのだが家主権限で強行された)が頭良いのに好奇心に赴くまま周囲を振り回す馬鹿ってことと、同じくこいつに振り回されるフランドールという地下室に住む妹を知ることになった。この後もレミィの謎の思い付きに度々付き合わされることになり、思ってたのと違う……が、まあ魔法使いとして充実してることは確かだし。周囲の人間も、まあ、家族よりはマシでしょう。まあまあ充実した日々を送ることが出来るようにはなったわね、一応。

 

 

 




後書きに書くことかとも思いますが、タイトルを変えました。それに合わせて米田さん(Twitterアカウント @yuRyone5 )に表紙を書いて頂きました、ありがとうございます。


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原作東方ではパッチェさんは先天性の種族魔法使いです。フランドールと言い捏造設定ばっかりだな!
次の話で美鈴と咲夜の紅魔館加入小話を書き、キャラ解説を載せ、本筋に戻ります。まさかこうなるとは…


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ぴえん小悪魔


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