京太郎「ミーはおフランス帰りざんす☆」 (狗頭郎)
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Va où tu peux, meurs où tu dois.
01 Créer, c'est vivre deux fois.


京太郎が主役。スレ建てて始めようかと思ったのがキッカケです。
試用がてら自分でサイコロを転がしたら、ナカナカにぶっ飛んだ設定の京太郎になり、面白そうだったので、投稿してみることにしました。


サブタイトルの意味を書き忘れてました。
意味は『創作することは二度生きることだ』。
フランスの作家、アルベール・カミュの有り難いお言葉。
京太郎は、何度人生を送ることになるんでしょうか。


『京太郎!』

 

どん。

人1人ぶんの体重が身体を襲った。

 

散々ハンドでこなされた身には、ほとんど重さを感じない程度だったが、不意打ちと驚きからたたらを踏んでしまった。オレもまだまだ鍛え方が足りねーわ。

 

つい反射的に抱きとめた。この特有の柔っこい感触。女子か。

ふわりと香る、同じ人間とは思えない甘い香りに、思わず頬が緩みそうになる。

ホント女子ってなんで同じシャンプーとか使ってても匂い違うの?汗腺から香油でも出てんの?

しかしこのフローラルな香りと感触、そして綺麗な金髪と聞き慣れた声…。

 

『ひょっとして…明華か?』

『はい、明華ですよ。あぁ良かった、やっぱり京太郎でした!』

 

ぎゅーっ、と首に巻きつく力が増した。締まる事はないが正面から抱き合ってる所為で密着度が!おもちの感触が!すばら!!

 

しかし、この状況は少しばかりマズイんでは?

190cm越えのガタイの男。オマケに金髪で黒服とグラサン着用。

そんなヤツが女子校前で女子高生と抱き合っているという状況。

間違いなく事案じゃねーか!言い逃れできねー!

 

『ちょっと待った』

『むぐぅ!?』

 

アブねー。少し考え事してたら明華の顔がもう眼前だった。

取り敢えず彼女の口を手で覆って防いだけど、掌に柔らかな唇と息が当たってくすぐったい。

 

『何をするんですか京太郎!』

『それはこっちの台詞だ!オレを社会的に殺す気か!!』

『恋人同士がベーゼをするのは当然の事ですよ!至極普通です!真っ当で正当な行為です!』

『誰と誰が恋人だ!そもそもオレとお前がベーゼなんてやったら、日本じゃ1発で終わりなんだよ!ビズでも問題になるわ!』

『ひどい!あんなに熱い思いを打ち明けあったのに!遊びだったんですね!?』

 

顔を両手で覆った明華は、よよよと泣き崩れ始めた。

いやどう考えても嘘泣きだろ。散々フランス語で喋っといて、その辺はメチャクチャ日本風だな。しかも古い。

 

しかしヤベーな。見え透いた芝居だが、周りでヒソヒソと会話を楽しんでる女子高生の皆さんは、オレとは違う感想をお持ちのようだ。

 

オマケにここは留学生の多い臨海女子。フランス語が理解できる娘も少なくないはず。

現に今も1部の女子から犬のフンを見るような目を向けられてる。

花のJKがなんて顔してんだよ。さすがに凹むわ。須賀だけにな!

 

ヤバイヤバイ、携帯取り出してるよあの娘。こんなんでサツの世話になった日には、お嬢からどんな顔されるか分かったもんじゃねーぞ。

 

いい加減この状況をなんとかしようと、オレはミョンファの肩に手をおいた。その時だった。

 

「何をしているんだお前は」

 

突如、地獄の底から響くような声が聞こえた。

さっきまでヒソヒソと好き放題言ってた生徒たちが、蜘蛛の子を散らすようにサッと消えていく。

待って、オレも消えたい。いやホント待って。

急に寒くなってきた。どっと背中から冷たい汗が溢れ、首の後ろの毛が逆立つ。

こんなのはアイツと対峙した時以来。いや、もしかしたらそれ以上のプレッシャーかも。

ギギギ、と55-6が必要そうな動きでオレはその声の方へと顔を向けた。

 

 

そこには、背中に修羅を背負い、能面みたいな表情で仁王立ちする【お嬢】-辻垣内 智葉-がいた。

 




京太郎の喋り方がしっくりこない不具合。もっと原作で喋ってどうぞ。

因みにサイコロがたたき出した須賀氏のステータス
須賀 京太郎 22歳
STR16 CON18 POW14 DEX15 APP16 SIZ16 INT14 EDU12 運99 財力18
麻雀能力
速度2(9) 防御2(9) 耐性3(1)

クトゥルフTRPG基準なのは趣味。
ぶっ壊れなフィジカルとそれ以上にぶっ飛んだ運と財力。こりゃシャンメリー確実ですわ。


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02 Un malheur ne vient jamais seul.

『不幸は1つでは済まない』
不幸が起きるときは、1つだけではない、不幸なできごとは続く、悪いことは重なる、というフランスのことわざ。

まさに原作での京太郎を表す良いことわざですね。


「おや、智葉に明華。帰ったのではなかったんデス?」

 

部室へ入るやいなや、褐色の長身少女-メガン・ダヴァン-が部室へと舞い戻ったお嬢たちへ声をかけてきた。

話に聞く通りズルズルとヌードルをすすっている。良い小泉さんっぷりだ。

 

その見た目や立ち振る舞いから、カッコいいという印象を強く受ける娘だが、口いっぱいに麺を頬張るその姿は、年相応の可愛らしさで溢れている。

ただ、雀卓に汁が飛ぶから、食べるときは別席に移った方が良いと思うぞ。たまに牌がベタベタするってお嬢がボヤいてたし。

 

「何、忘れ物でもしたの?だったらネリーが届けてあげたのに。モチロン有料でね!」

 

派手な民族衣装の少女が、小さい身体をぴょいんぴょいんと跳ねさせお嬢へ向かってゲスいアピールを行ってきた。

 

ネリー・ヴィルサラーゼ。

幼い見た目と1年という年齢ながら、臨海の大将を務める大物だ。

こっちもお嬢から聞いた通り、見事な銭ゲバ娘だな。

 

「ん?」

 

お嬢へ向けられていた青い瞳がオレを捉える。

きょとんとしていた顔が徐々に険しくなり、そして驚愕へと変わっていった。

 

「ちょ、サトハ!誰なのコレ!?なんかスッゴイけど!!」

 

大きい目をめいっぱいに開き、噛みつきそうな勢いでお嬢へと飛びくネリー。

本来なら未然に引き剥がすべきなんだろうが、生憎今のオレは身動きが取りづらい。

それに正直女の子2人がじゃれあってるだけだし、助ける必要はないだろう。

なのでお嬢、そんな剣呑な表情で催促しないでくださいよ。ちびりそうっす。

 

「落ち着けネリー。コイツは私の運転手だ」

「ネリーにちょうだい!」

 

おうチミっ子、オレはモノじゃねーんだぞ?あとまず本人に許可取ろうな。

思わず口にしそうだった言葉は、結局オレの喉に引っかかったまま消えた。

 

隣人のお天気具合が一瞬にして大崩れしたからだ。

右腕に感じていたおもちの感触が強まり、急に部室内を陰風が撫でた。

窓が開いている訳でもないのに、風が吹き荒んでいる事から、彼女の能力によるものだろう。

先程まで彼女が纏っていた、暖かくて柔らかな薫風はすっかりなりを潜めている。代わりに吹き荒ぶのは、冷たく鋭い風巻。

彼女と組んでいる腕から、急速に体温が抜け落ちていく。畜生、おもちの感触が消えた!

 

「おやぁ、ネリーは冗談があまり得意ではないようですね。まったく笑えませんよ」

「冗談?ネリーは本気だけど。どうかしたの、ミョンファ?」

 

風神の放つ暴風を、しかしネリーはどこ吹く風だ。心底不思議そうに小首を傾げてる。

なるほど臨海の大将を張るだけのことはある。たいしたタマだ。

 

「その辺の詳しい話をしてもらおうと思ってな。

 ついでだからメンバーにも話を聞いて貰おうかと、こうやって戻って来たんだ」

 

そう言うと、お嬢は頭痛を抑えるように眉間を揉みほぐした。眼精疲労っすか。温めます?

さっとホットアイマスクを差し出したら、なんでかギロリと睨まれた。解せぬ。

その割にしっかり受け取ってるけど。相変わらず女心はよく分からん。

 

「それで、いったいお前と明華はどういった関係なんだ?」

「ふふふ、私がご説明しましょ~♪」

 

あ、これダメなやつだ。喜色満面な明華に嫌な予感しかしない。

絶対にあることないこと喋る気だ。何としても止めなくては。

しかし、オレの不安は杞憂に終わった。乱入者によって。

 

「アンタ達まだいたの?それに誰?ここには関係者以外入って欲しくないんだけど」

 

ツカツカとヒールの音を響かせて、女性が部室内へ入ってきた。

振り向くと、そこにはミドルヘアをセンター分けにした、パンツスーツの美女がいた。

おもちはお持ちではないが、スラリとした体型に美貌。身長と相まってモデルのようだ。

臨海女子麻雀部監督、アレクサンドラ・ヴィントハイム。この人もお嬢から聞いてた通りだな。

 

明華のスキを突き、組んでいた腕をスルリと抜き取ったオレは監督と正対した。

 

「勝手に入り込んでしまい申し訳ありません。私はおj…辻垣内智葉の身内の者でして…」

 

ガシリ。サングラスを握ってた手を思いっきり掴まれた。握られたのが手首で助かった。下手したらサングラスでケガしてたわ。

いつの間にか距離を詰めていた監督の仕業だ。また不意打ちかよ。

まさか釈明もなしにケーサツへ突き出されるのだろうかと、思わず慌てた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

しかし、焦るオレをヨソに監督はピクリとも動かない。

いや、動いてた。なんかプルプルしてる。

 

何だか様子がおかしい。よくよく見れば心なしか顔も赤いし。

美人に上目遣いでそんな色っぽい表情されると、ドキドキしてしかたないんだが。

しかしこの反応。また嫌な予感が…

 

「す、好きです!!」

 

部室が暴風圏に突中した。

 

 

 




明華さん一応メインヒロインなんで能力強化されてまっせ。世界ランカーですし。
あと、京太郎の運がえらい事になってる影響でネリーからの評価が高めです。

本来ならサイコロ判定で
00~50 不審者扱い
51~70 普通
71~90 好意的
91~  欲しい!
といった感じでした。運極な上に財力ぶっ飛んでるからね。仕方ないね。
でもまだ恋愛感情とかは皆無ですよ。純粋に財布的に欲しいって感じ。

同じ様な理由で監督からも最初から好印象。監督の場合は現役時代の京太郎の大ファン。
ドイツもハンドボールは相当人気らしいですからね。同じヨーロッパならフランスで活躍してた京太郎の事も知ってるでしょう。ヨーロッパリーグとかもあるらしいですし。


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03 Petit à petit l'oiseau fait son nid.

日曜日更新と言ったな。アレは嘘だ。

本当は明華が1年時に再会のはずだったんですが、うっかり原作基準の年齢で再会させてしまいましたわ。
差し替えようかとも思いましたが、もうこのまま行くことにします。
その影響で知り合いリストに咏たんと久保コーチが増えました。

タイトルの意味は『鳥は少しづつ巣を作る』
「千里の道も一歩から」、「継続は力なり」、「ローマは一日にして成らず」的な意味合いです。
これもまた京太郎を表すことわざですね。特に二次創作で顕著。


「ただいま、カピー」

 

電子ロックの扉を開けると、すぐさまカピーが奥からトコトコと現れ、オレを出迎えてくれた。

嬉しそうに喉を鳴らし、オレの足元へとすりすりと身体を擦り付けてくる。

ゴワゴワとした毛の感触のくすぐったさと、その巨体の割にぼんやりとした顔。

ついついその平和的な雰囲気に笑みが溢れた。

 

抱きかかえたカピーをひとしきり撫で回し、どかりとソファーへ腰掛ける。

黒い革張りのソファーのひんやりとした感触に、思わず「んあー」とおっさんくさい言葉が出てしまうのはまぁご愛嬌。

カピーを隣におろして頭をグリグリと撫でさすりながら、オレはテレビを点けた。

 

『はっやり〜ん☆ミ 今日は放銃を回避する重要な技術、スジ読みについてお話するよ☆』

 

ぴたり。チャンネルを弄っていた手が止まった。

瑞原はやり(28)。ご存知「牌のおねえさん」。ハートビーツ大宮所属。称号は「Whirlwind」。

誕生日は7月13日生。島根県出身。身長151cm。体重49kg。血液型はA型。

和了の速さと抜群の防御力に定評のあるプロ雀士。実家は洋菓子を商ってるんだったか。

 

「わっかんねーけど、何でそんな詳しいん?」と咏ちゃんに突っ込まれた事があったっけ。

咏ちゃんって呼び方も「年上をちゃん付けってなくね?知らんけど」とか言われてたな。

 

『スジを理解するとね、防御だけじゃなく攻撃にも使えるんだよ☆

 スジひっかけっていうんだけど、その辺は追々説明していくね☆

 そんなスジをみんなもマスターして、はやりんみたいに相手をテダマに取っちゃおう☆』

 

星飛び過ぎだろ。にしても、はやりんからスジなんて言葉を聞くとクるものがある。

 

麻雀かぁ。好きだけどあんま得意じゃないんだよなぁ。

そのせいで昔から明華にムシられては、お菓子セビラれてたっけ。

最初は既製品だったけど、小遣いの圧迫がキツくて手作りするようになったんだよな。

まぁお蔭でお菓子作りも少しばかり得意になった。咏ちゃんも喜んでたし。

 

「そういや貴子のヤツも好きだったな」

 

ヴァレンタインにチョコ送った時は感激してたな、アイツ。

最近は連絡とってなかったけど、確か母校でコーチをやってるんだっけ。

今はマズイが、実家共々1度は顔見せに行きたいなァ。

 

その願いが叶う事はもうなさそうだケド。

 

『今日はこの辺でお別れだねー☆ 次も絶対観てね☆

それじゃみんな行くよー☆ せーの、はっやり〜ん☆ミ』

 

気が付けば、はやりんの番組が終わっていた。

笑顔で画面の向こう側へ手を振る姿が、実に様になっている。さすがは牌のお姉さん。

立派なおもちも、手の振りに合わせて暴れまくってて大変にすばらだ。

バッチリ次回からの録画設定をしといた。

 

さて、もう1つ伸びをしてソファから立ち上がると、オレはカピーの餌箱に牧草を追加した。

硬めのペレット数個と、好物のリンゴも忘れずにエサ皿に置いておく。

 

因みに、カピバラはその惚けた見た目に反してリンゴを1噛みで粉々にできる。

指とか気をつけないと、何のヘマもしてないのに詰める事になるぜ?

 

カピーが一心不乱に牧草を食べてる中、オレは次の仕事に取り掛かった。

中庭にある温水プールの掃除だ。

カピバラは1日の大半を水中で過ごし、オマケに排泄もそのまま行う。

なので小まめに洗っておかないと、臭う上にカピーがヘソを曲げる。

水底をデッキブラシで擦り、水面に浮かんだゴミをさらう。最後に水を張り直して終わりだ。

終わった頃にはじっとりと汗をかき、息も上がっていた。温水だから尚更暑い。

 

「しっかし、いくら一人娘助けたからってここまでするかね」

 

東京に温水プール付きの1戸建て。オマケにセキュリティーもばっちし。

一応家の代金は払ったケド、明らかにケタが1つか2つ少なかった。

まぁ正直かなり助かってる。電気代や水道代も明らかに格安だし。

 

さっそくプールに飛び込むカピーを尻目に、オレは近くのデッキチェアに腰掛けた。

懐から【ゴロワーズ・ブロンド】を取り出し、火を点ける。

青いグラデーションのパッケージに羽つき兜のロゴ。

チャコール・フィルター越しでも感じる、香ばしさと深いコクと甘さ。

【カポラル】に比べたらパンチは弱いが、充分に旨い。

 

カポラルが馬糞クサイとお嬢に不評なので、代わりに吸い始めたが、最近はわりと気に入ってる。

疲れた身体に紫煙の旨味が染み渡り、まだ少し冷たい夜風が火照った頬を撫でた。

 

―――ピンポーン。

 

こんな時間に誰だ?

作り置きのブイヤベースを肴に【バイ・オット・ロゼ】でも楽しもうと思ってたのに。

懐の携帯灰皿に吸い殻を入れると、オレは中庭から出てインターホンを覗き込んだ。

 

『こんばんわ~京太郎♪』

 

ふわり、室内にも関わらず風が頬を撫でた。

インターホンには、図らずも今日再会した明華が映っていた。なぜ?

 

 




一応フランス暮らしが長かったんで、ここの京太郎は無駄にフランスかぶれです。
しかし東京で中庭プール付きのお家っていくら位するんでしょうね。
財力ロール18で貯金が2億5千ユーロ以上あるはずなんですが、足りますかね?

それとカピバラの成体は全長1.3m、体重66kgにもなるとか。
それを軽々と抱えあげる京太郎のフィジカルパフォーマンス。マサラ人もビックリ。


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04 Bon repas doit commencer par la faim.

『よい夕食は必ず空腹によって始まる』
空腹は最高の調味料的な意味ですね。

でもウチの明華にとっての最高の調味料は京太郎ですよ。
食事においても、人生においても。


「ご馳走さまでした。相変わらずの腕前ですね」

「お粗末さん」

 

満足気にビズをしてくる明華に、俺はため息混じりにそう返した。

正直美人とのビズとか純粋にご褒美です。ありがとうございます。

そう思っても絶対に口には出さない。だってぜってー調子乗るし。たぶんバレてるけど。

 

「また京太郎の手料理が食べれるなんて夢のようです。今度はイクラをお願いしますね♪」

「明太子ご飯で勘弁してくれ」

 

相変わらずの魚卵好きか。今はまだ若いから良いけど、ホドホドにしないと痛風になるぞ。

そーいや、よくキャビアのカナッペをおやつで作らされてたな。俺の自腹で。

そのたびに明華のとびっきりの笑顔が見れてたが、財布へのダメージも半端なかったなァ。

おっと、思わず遠い目をしちまった。

 

「それでデザートはまだですか?」

「清々しいほど図々しいな。週末でもないのにあるかよ」

 

須賀だけに。ごめんなさい。心の中で謝っておきます。

何故今日来ると思ってなかった相手のために、デザートを用意しておかなければならないのか。

実はありまぁす。だがムザムザ奪われてなるものか。

 

「ふふ、嘘はいけませんよ。京太郎は変な所で拘りますからね。絶対に作ってあるハズです。

 たとえなかったとしても作らせます。麻雀で!」

「こちらが本日のデザートのブラマンジェになります!」

 

俺が冷蔵庫から取り出したのは、フランス語で【白い食べもの】を意味する冷製のデザート。

中に肉や魚を入れたりもする。昔は甘いスープとして食べてたらしい。

本来は牛乳に砂糖と生クリーム、アーモンドミルクを加えてゼラチンで冷やし固めて作る。

今回は牛乳ではなく豆乳を使い、アーモンドミルクの代わりに白ごまを加え、仕上げにきな粉と黒蜜をかけてある。

ブイヤベースに鰹節やいりこ出汁を使ってたので、同じく和風に合わせた。

なかなかに上等な出来だと思われるそれが、明華の胃袋へと消えていく。

 

因みにだが、ゼラチンではなくコーンスターチで固めたものがパンナコッタ。

アーモンドミルクではなく杏の種の中にある【仁】を入れたものが、杏仁豆腐だ。

でも最近では杏仁が貴重なんで、代用でアーモンドミルク入れたりするらしい。

もう区別ねーじゃん。

 

「おいしい! まったく京太郎は天才ですね!」

「だとしたら、それは間違いなく明華のお陰だな」

 

明華に麻雀で負け続けてたお陰で、料理人としても菓子職人としても腕を磨けた。

…あれ、喜んで良いことなんだろうか?

もっと負けん気を発揮して、麻雀の腕を磨くべきだったんじゃなかろうか?

 

「ふふ~ん、京太郎は私が育てました♪」

「ドヤ顔すんな」

 

メチャクチャ可愛いけどウゼー。

明華の頬を突きながら、俺は食後のホット・カフェオレを差し出した。

美味しく入れるコツは2つ。

カップをよく温めておくことと、よく冷えた牛乳をスチームドミルクにすることだ。

あと、脂肪分の多い牛乳のほうが、きめ細やかで舌触りの良いスチームドミルクになる。

少量の砂糖を入れても、泡立ちがよくなるぞ。

 

「それで、結局今日はどんなご用でお越し頂いたのでしょう、お嬢様?」

「あら、好きな殿方に会いに来るのに、それ以外の理由が必要なんですか?

 もう私の気持ちは正直に伝えているんですから、あまり意地悪な事は言わないで下さい」

 

カフェオレを飲んみながら、にこやかな顔でどストレートをぶん投げられた。

ここまでストレートに好意を伝えられると、ドギマギしてしまう。顔が熱い。

さすがは愛の国フランス。長いことあの国にいたが、俺の性分ではそこまで素直になれねー。

嬉しい半面、いたたまれない気持ちになる。水を飲んで落ち着こう。

恥ずかしさを誤魔化すために半眼で睨んでみたが、明華の余裕顔は崩れる気配はない。

 

「ふふふ、京太郎は本当に昔からシャイで可愛いですね。

 なんだか年下と接しているような気分になります」

 

おのれ明華、調子にノリやがって!でも俺自身でさえ明華の事を年上に思える事があるのも事実。

クソ、また明華のペースにハメられてる。咳払いを1つして気持ちを切り替えよう。

 

長年の付き合いで分かる。言ってる事は本心だが、彼女が来た本当の理由は別にある。

 

思い当たるフシは1つ。

俺が日本に来た理由であり、そして恐らく明華が日本に来た理由だ。

 

―――明華は俺を殺しに来たんだ。

 




イチマツがオソマツとかいうギャグ。
そろそろ話に動きを出していきたい所存。
好きだけど殺しに来たんだろうなという発想。京太郎はサイコパスか何かなんだろうか。
明華がやたら食べる娘みたいになってますが、フランス人なんでしゃーないね。
大食い家というより、食べる事が好きって感じのイメージです。



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05 Qui se ressemble s’assemble.

今回のタイトルのことわざは『似たものは集まる』。
要するに類は友を呼ぶ。

誤字報告を頂いたので、ちょっと分かりにくかった部分を修正しました。
ご報告頂きありがとうございます。



 

 

 

――Aux armes, citoyens,

 

『ラ・マルセイエーズ』。

フランスを代表するこの曲は、フランス革命政府がオーストリアへ宣戦布告した時に生まれた。

 

――Formez vos bataillons,

 

後にテュイルリー宮襲撃以降、パリ入城でマルセイユ義勇兵が口ずさんだ事から民衆へと広がる。

 

――Marchons, marchons !

 

ナポレオンが皇帝時代には、現在の軍歌である『出陣の歌』が国歌となった。

しかし、七月革命以降は再び『ラ・マルセイエーズ』が国歌に返り咲いた。

 

――Qu'un sang impur

 

かなりの声量だが不快には思わない。

乾いたスポンジに水が染み込むように、身体の中に入って来る声だ。

 

――Abreuve nos sillons !

 

魂を震わせる勇壮さと気高さを併せ持つソプラノ。

歌が歌だけに、その姿はまるで白百合の旗を振り、戦場を駆けたジャンヌ・ダルクを思わせる。

 

「何時にも増して機嫌が良さそうだな」

「ええ、お陰様で。

 改めてありがとうございます、智葉。京太郎を捕まえておいてくれて」

「まぁウチにも益になる話だったからな。金も貰ったし」

「ネリー達も協力したんだから、ちゃんと感謝してよね。形のあるもので」

「私自身はラーメンで大丈夫デス。組織にはすでに便宜を図って貰ってますノデ」

 

和やかに卓を囲むお嬢とネリー、メグ、そして明華。和やかじゃないのは俺の心だけです。

現に今の会話だけで胃がキリキリする。

 

つまるところ、最初から全部仕組まれてた訳だ。

お嬢がハイエースされてた事も。その現場を俺が目撃し、助けることも。昨日の再会も。

全てが全て仕組まれた事だった。

俺は、日本に来た時点で既に詰んでいたんだ。

ただ、結果として俺は死なずに済んでいる。もう墓場に入ってるようなもんだけど。

しかし昨日のお嬢の般若顔。あれも演技だったのか。

代紋背負うより女優になった方が良いんじゃねーのかな。

 

パタリ。子気味いい音とともに明華の手牌がさらされた。

 

{白白東東東西西西南南南北北北}

 

「字一色、四暗刻、大四喜ですね。

 点数は32000オールで許しておきますよ」

「トップな上にラス親で何してるんだお前…」

 

お嬢がドン引きなさっておられる。そういう俺も開いた口が塞がらない。

ダブル役満の点数で言ってるがトリプル行ってないか?1生に1度あるかないかの確率なんじゃ…。

 

「少し気合が入りすぎました」

 

麻雀って気合でトリプル役満上がれるゲームだったのか。んなわけねーだろ。

見ろ、同卓のネリーとメグも何言ってんだコイツ?みたいな顔してるじゃねーか。

 

「トップなんだから、そこは安目早上がりで良いでしょうニ」

「取り敢えずお金かけてなかった事に、ネリーは死ぬほど安心してるよ」

 

終わって早々にメグはラーメンをすすり、ネリーは空気の抜けた風船のように卓に突っ伏した。

明華の和了によって場の空気が緩んだようだ。

 

「余程貴方との再会で気を良くしているようですね」

 

…びっくりしたぁ。いつの間に隣に来たんだ。

内心の動揺は表に出さず、俺は隣に立っていた香港からの留学生―郝慧宇―へと目を向けた。

中国麻雀小学生チャンピオン、仁川アジア大会銀メダリストの実力者。

アジアンビューティーという言葉がよく似合う、クールな少女だ。

 

ただそんな彼女もまた明華たちと同類。闇社会の住人、マフィアなんだよな。

 

「京太郎、卓へどうぞ」

 

にこやかな顔で対面を勧めてくる明華。

さっきまで座っていたメグは、すでに端でカップ麺をすすってる。

 

「京太郎が勝ったら私を好きにして良いですよ。

 私が勝ったら京太郎を好きにする上に、今日の夕飯はイクラです♪」

 

……選択肢がねーじゃん。

 




最大のアンチ・ヘイト要素。臨海女子みんなマフィア説。
まぁ麻雀関係なんだし、そっち筋は連想しやすいですよね。

原因は智葉サン関係でお嬢とかカタギとかのそれ系の単語から。
智葉サンはまぁ長ドス持ってるし、どう考えても極道。火消しの血を継いでるとか言ってますし。
明華さんはユニオン・コルス。
出身のソフィア・アンティポリスを調べたら、マルセイユとコルス島とイタリアのど真ん中という、ちょっと背筋が寒くなるポジションだったので。
ネリーはロシアン・マフィア。ハオは鴻門もしくは青幇。

あと、ラ・マルセイエーズの歌詞はリフレイン部分です。以下ウィキペディアの意訳。

武器を取れ 市民らよ
隊列を組め
進もう 進もう!
汚れた血が
我らの畑の畝を満たすまで!

咲関連のスレで出てくると明華がよく歌ってますが、何度見ても殺す気満々の歌詞で草生える。
因みに国賓を歓迎する際や、テロの追悼式典でも歌われるらしいですよ。


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06 La curiosité est un vilain défaut.

タイトルは『好奇心は邪悪な欠点』。
日本で言う好奇心は猫をも殺すです。
もともとアメリカなどでは9つの魂を持つと言われている猫。
そんなしぶとい猫でさえ、好奇心によって簡単に命を落としてしまう。
そういった戒めのあることわざらしいですよ。


――曰く、健全な青少年の育成を目的としたスポーツ麻雀の普及。

何故そこで麻雀なのか。

こんな運の絡むゲームより、チェスや将棋などでも良かったし、よっぽど健全だ。

何故オカルトなどという曖昧なものが存在し、黒い噂の絶えない麻雀が選ばれたのか。

まぁ、それが答えの全てなんだろうけど…。

 

 

【マフィア】。

もともとは、イタリアのシチリア島から発生した「シチリア・マフィア」だけを指す言葉だった。

それが今では、闇社会の住人の総称として使われてる。

マフィアやギャングをひっくるめて、ヤクザものと呼ぶ感覚に近いかな。

 

そういった闇社会の事を、フランスでは【ミリュー】と言う。

そんなミリューの中でもっとも有名な組織はどこか?

 

――それが明華の属する組織、【ユニオン・コルス】だ。

 

ユニオン・コルスは、地中海に浮かぶコルシカ島の文化と、それを取り巻く環境が作り上げた。

血族を重んじるコルシカ人は氏族(クラン)と呼ばれる集団を作り、クラン同士での仇討ち(ヴェンデッタ)や、山賊行為(バンディティスム)などの文化を持つ。

そんなコルシカ出身のある2人が、売春で資金を稼ぎ、マルセイユで暗黒街を組織した。

それがユニオン・コルスの始まりだ。

 

ユニオン・コルスは、ベトナム南部がコーチシナと呼ばれてた頃、あるものの密輸を始める。

麻薬だ。

 

1930年。

ユニオン・コルスは、東洋のパリと呼ばれた上海租界から、阿片をフランス本国へと運び始めた。

その上海を牛耳っていたのが青幇だ。

青幇はフランス総領事まで便宜を図っていたので、植民地機関の郵便袋まで密輸の道具だった。

 

更に、ユニオン・コルスはシチリア・マフィアやカモッラと協力し、タバコも密輸した。

タンジールで仕入れたキャメルやマールボロが、7倍の価格で転売できた。

 

その繋がりは麻薬でも応用される。

トルコ・マフィアが【黄金の三日月地帯(ゴールデン・クレセント)】などから集めてきた阿片を買い付け、ユニオン・コルスはマルセイユ近郊の工場でヘロインを製造した。

 

第2次世界大戦後、ユニオン・コルスはトルコから仕入れた麻薬を、シチリア・マフィアを通してアメリカへ流通させる。

かの有名な【フレンチ・コネクション】だ。

 

こうして麻薬によって隆盛を誇っていたユニオン・コルスも、フレンチ・コネクションの崩壊によってすっかり鳴りを潜めた。

シチリア・マフィアに吸収されたとも言われている。

 

でも、未だにユニオン・コルスはフランス南東部の政治に対して深く食い込んでいた。

考えてみて欲しい。かつて世界を麻薬で支配していた組織が、そう簡単に消えるものだろうか?

 

彼らは消えたわけではない。ただ姿を変えただけだ。

時代を経て、ヨーロッパの姿も大きく変わった。

E.Uの締結後、ヨーロッパでは多くの国が、シェンゲン協定で国境検査が消えた。

それは、マフィアにとって密輸や人身売買などの犯罪行為が、より行いやすい環境になったことを意味する。

そんな環境の変化から、彼らも国を越えて1つとなる道を選んだ。

 

今、彼らは【ユーロ・マフィア】と呼ばれている。

 

 

 

「要するに今のユニオン・コルスは、ヨーロッパ内のフランスみたいなものです。

 美味しい麻薬(ごはん)をたくさん作って皆様にお届けする。素敵ですね♪」

 

全然素敵じゃないです…。

あとその美味しいは、食べる側じゃなくて作る側にとっての美味しいですよね。

なんでこんな重い話聞かなきゃなんねーんだ。そりゃ関係者以外立ち入り禁止になるはずだよ。

 

「折角ですからもう1つ面白い話をしましょうか。

 日本にもフランスの総領事館はありますが、そういった在外公館は外交特権を持っています。

 例え話になりますが、在外公館内でどんなレートのゲームが行われようが、どんな品物が取引されようが、それはフランス国内で起こることであり日本は介入できません。

 知ってましたか?フランスの外交ネットワークはアメリカに次いで世界2位の規模なんですよ。

 面白いですよね~」

 

すんません明華さん、全然面白くないです。さっきから胃がキリキリして仕方ないです。

俺、絶対に見てはいけない深淵を覗きこんじまってますよね?

 

「それにしてもビックリだよねー。みんな昔から顔見知りだったけど、まさかこうやって偶然にも同じ学校になるなんて」

「そうですね、ネリー。私達青p…いえ、洪門も昔から仲良くさせて貰ってましたが、学校どころかクラスまで同じになるとは不思議な縁です」

「まったくだな。本当に偶然や縁とは面白い。そういえば偶然にも皆麻雀が得意だな」

「これが運命を感じるというやつでスネ」

 

神はサイコロを振らない。この世に偶然はなく、全ては人間の行動による必然だ。

同卓のネリーとお嬢、そして慧宇とメグを見ながら、俺はそんな得にもならない事を考えてた。

 

「おや、手が止まってますよ?あまり長考がすぎるのは関心しませんね」

 

普段どおりの微笑み顔で、明華が俺にツモを促す。

10人が見れば、10人ともが顔を赤らめる美貌だ。俺の顔はきっと違う色だろうが。

ふと気がつけば、お嬢とネリーも俺を見つめていた。恐らくメグや慧宇も俺を見てるんだろう。

 

美少女たちに囲まれてるハズなのに、気分はライオンに囲まれた草食動物(カピバラ)だ。

生きてる心地がしねぇ。背中も冷や汗でビッショビショ。

正直ハンドの試合で出会った誰よりも怖い。腕力や体力で圧倒してるのに勝てる気がしねぇ。

恐怖で腕が震え、奥歯もカチカチと鳴っていた。

だが。

 

「へへっ…」

 

自然と笑いが漏れた。口の端が釣り上がるのを止めることができない。

込み上げる高揚感が、俺の胸を燃やす。

 

彼女たちは間違いなく強く、そして恐ろしい。

麻雀の技量も、経験も、知識も、戦略も、そして情熱も、何もかもが俺よりも上だ。

ただでさえ男子と女子の間には隔絶した力の差があるといういうのに。

圧倒的な力量差。まず俺は蹂躙されるだろう。勝てる確率は0に近い。

でもだからこそ、全力でぶつかっていける。

 

――タン。

 

不要牌を捨てた音が耳を打つ。指の震えはもう止まっていた。

 




※あくまでフィクションです。実際の団体や組織とはいっさい関係ありません。
 臨海女子は可愛くて麻雀の強い素敵で立派なカタギの女子たちです。いいね?

マフィアの話で分量使いすぎました。今までで1番長いですねぇ。
その割に中身が薄くて話が進まない。
追い詰められて闘争本能に火がボーボーの京太郎氏。なお次回冒頭でロンを喰らう模様。

在外公館の所で、ベトナムの話したかったんですが上手く書けませんでした。無念。
折角なのでここで書いておきます。

ベトナムにもフランスの総領事館はあります。場所はホーチミン市。
市はベトナム最大の経済都市であり東南アジア最大の世界都市でもあります。
そんなホーチミン市の市街中心部の旧称はサイゴン。
フランスの傀儡国家、コーチシナ共和国の首都だったところです。
それと、黄金の三日月地帯が広がるアフガニスタン、パキスタン、イランにもフランスの在外公館はあります。トルコにもあります。

いやぁ偶然って怖いですねぇ。調べれば調べるほど邪推できる事案がポロポロ出てきますねぇ。
でもあくまでフィクションですので。全部偶然ですよ?

それと、チェスや将棋でも賭けはあります。特にチェス。
チェスや将棋で賭け事をする人の事を、真剣師と言うらしいですよ。


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07  ნადირობენ თაგვის კატა ~nadiroben tagvis k’at’a~

タイトルは『窮鼠猫を噛む』。
でもカピバラに噛まれたら大怪我じゃすまねーぞい。

今回はグルジア語。翻訳で見た時わが目を疑いましたわ。




 

 

 

麻雀。

今や世界中で圧倒的な競技人口を誇るボードゲーム。

本来なら老若男女関係なしに遊ぶ事ができる遊び。

だけど10人に聞けば、間違いなく10人がこう答えるだろうね。

 

麻雀では男子は女子に勝てない、って。

 

その原因が『オカルト』。

曰く、自風牌が集まる。

曰く、槓すると嶺上牌で上がれる。

曰く、悪い待ちをすると上がれる。

曰く、東場だとヒキが良くなる。

ワカメ。

 

冗談みたいに聞こえるけど、麻雀の世界では普通の事なんだよね。主に女子にとっては。

そういう超常的な能力を相手に、人間的な打ち方しかできない男子が勝てるワケがない。

まさにゾウとアリの対決。無理無茶無謀、無駄なあがき。

 

プロの世界でもそうなんだから、アマチュアだと余計に差が出る。

その上、臨海女子のレベルはそんな女子麻雀界でも一際高い。

しかも卓を囲んでいるのは、世界ランカー2人に国内女子3位。

いくら運が太くても、シロウト同然な腕前じゃ…

 

「ロン! 3900」

 

波が来てないネリーでも、簡単に勝てちゃうよ。

あ、キョウタロー凄い驚いた顔してる。

ポカンとしてて何だか可愛い。少しミョンファの気持ちがわかった気がする。

 

「ふふふ、真剣な顔で見詰めてくれるのは嬉しいですが、麻雀は4人でやるものです。

 他の2人を疎かにしてはダメですよ」

 

ネリーへ点棒を渡すキョウタロー。それをニコニコと見守るミョンファ。

よっぽどキョウタローと打てて嬉しいんだろうね。でも正直ニコニコし過ぎてて気持ち悪い。

それをハッキリとミョンファに伝えても、

「ネリーも恋をすれば分かりますよ。あ、でも京太郎はダメですよ。私のですから」

っていう答えが返ってくるのは分かりきってるケド。

 

恋かぁ。それよりネリーにはお金の方が大事だけどな。

キョウタローを欲しいと思ったのだって、お金になりそうだからってだけだし。

でも、いくら凄い運があるって言っても、この程度の腕なら期待はずれだったかな。

 

 

 

 

 

結局、その後もキョウタローは点棒を吐き出し続けた。

放銃こそなかったけど、ツモで徐々に削られたって感じだね。

東3局現在の持ち点は、サトハが11700、ミョンファが49100、ネリーは31400。

そしてキョウタローが7800。

 

ラス親とはいえ、正直勝ちはかなり薄い。世界ランカー相手に保ったほうだけど。

シロウトのわりには打牌も早いし、読みもナカナカだと思う。

ただなんていうか、上手く立ち回ろうとしてるね。

勝つって感じじゃなくて、負けないようにしてるって感じ?

真剣ではあると思うけど、本気ではないみたい。

 

「リーチ」

 

ドラ:{⑧}

{二三四四四赤③④⑤⑥⑦234}

 

まぁ良いや。勝負に来ないなら潰すだけだ。

正直あんまりヤル気はないけど、雀士として好手は捨てれない。

イッパツと三色が付けば倍満まで伸びる。

 

「くっ…」

 

キョウタローの捨牌を選ぶ手が止まった。苦しげなうめき声まで上げてる。

悩んだ末、キョウタローの切った牌は一筒。惜しい。

 

「ポン」

 

ミョンファから鳴きが入ったので、イッパツは消えてしまった。でもまだ跳満は狙える。

ミョンファの手牌から一筒が晒され、キョウタローの捨牌とくっつく。

そして、ミョンファの手牌から1枚河へと捨てられた。

 

「なっ…!」

 

ミョンファの捨牌に思わず声が漏れた。やってくれたね、ミョンファ。

 

捨牌は一筒。明らかなイッパツ潰しの食い直しだった。

 

やられた。確かに食い直しについて、試合前に何も決めてなかった。

でも好形だっただけに、やっぱりムカつく。

 

ムカつくのはイッパツ潰しだけじゃない。

今の鳴きでさっきまでの太い波が、嘘のようになくなってしまった。

これじゃツモ和了は難しい。誰かの放銃を期待するしかない。

ベタオリどころかやる気もないサトハは、既にツモ切りマシーンになっている。

最悪の場合、サトハへのロンを狙おうかな。間に合えばだけど。

 

逆に、今の鳴きでミョンファへ大きな波がきていた。

ミョンファを中心に、流れが急速に集まってってるのが分かる。

天へと登る竜のような流れ。それをまとうその姿は、まさに風神と言う名前に相応しい。

 

「ツモ、6000・12000」

 

ドラ:{⑧}

{⑨⑨⑨東東東北北北1} {①横①①} {1}

 

次巡、結局ミョンファのツモ和了で終わった。

結果はなんと3倍満。今卓1番の大物手。

倍満を潰された上に、ワザワザ役満を捨てての食い直し3倍満。

正直、ミョンファに殺意を覚えるよ。

 

これでキョウタローとミョンファの点差は70000を越えた。

もうミョンファへ役満を直撃でもさせない限り、勝ちはない。

相当追い詰められちゃってるね。キョウタローの顔色がすっごい事になってる。

 

「ふーむ、やはりイマイチ本気になれてないようですね。

 麻雀ではケガすることもないですし、京太郎にとっては致し方ないのかもしれません。

 折角役満を捨ててオーラスに繋げたんですから、もう少し頑張って欲しいところですが…」

 

やっぱりミョンファはワザと役満を蹴ったんだね。

気持ちは分かるけど、食い直しで潰されたネリーはたまったもんじゃないよ。激おこだよ。

 

「そこまでミョンファがキョウタローに拘る理由が、ネリーにはまったく分からないよ。

 正直、最初ほどキョウタローの事欲しいって思えないし。

 キョウタローのどこがそんなに良いの?」

「おいおい、随分な事言ってくれるじゃねーか、このちみっ子が」

「ネリー、トラッシュトークはほどほどにしておけ」

 

もー、サトハは堅いなぁ。別にネリーは間違った事言ってないと思うんだけど。

確かにキョウタローの運は凄い。それはネリーも認める。

麻雀の腕もなかなかある。スジの読みも出来てはいる。

でも所詮それはシロウトにしては出来ているってだけ。

運にしてもそうだ。いくら凄くても、それを全然活かせてない。

折角、撃てば必ず当たるS&W M500を持ってるようなものなのに。勿体無い。

必殺の銃も、引き金を引けないのなら何の意味もないよ。

 

「良いことを思いつきました」

 

どうやらミョンファに名案が浮かんだらしい。悪い顔になっている。

 

「もし次の闘牌、私が本気だと感じなかった場合は、ご両親を殺すことにしましょうか」

 

あー良いんじゃない? ネリーはなかなか面白いと思うよ。

サトハも眉根を寄せたけど、特に止める様子もない。

やっぱり何だかんだ言って、サトハもミョンファが拘る理由が知りたいみたいだね。

 

ネリーもサトハも、会ったことも見たこともない人間がどうなろうが、知ったこっちゃない。

そんなどーでも良い理由で、ミョンファの拘ってる理由が分かるなら安いもんだね。

 

「…明華、本気で言ってんのか?」

「ふふふ、私が京太郎に嘘を吐くわけないじゃないですか」

 

キョウタローへ自分の携帯を差し出すミョンファ。

ネリーも確認してみたけど、それには1組の男女が映し出されていた。

東洋人って見た目から年齢が判断出来ないんだよね。彫りも浅いから見分けがつかないし。

話の流れからしてキョウタローの両親なんだろうけど。

 

「そうか…」

 

一瞬、キョウタローの存在が大きくなったように感じた。もともと大きいけど。

ネリーと同じように、その圧力に反応したメグと慧宇が、キョウタローへ銃を突きつける。

ガバメント?これだからアメ公は。やっぱトカレフでしょ。慧宇を見習いなよ。

 

「大人しくしててくだサイ。雀卓を血で汚したくはありまセン」

「銃弾が効けばの話ですけれど。

 ……効きますよね?」

 

そこ疑問に思うんだ。キョウタローも人間だし、さすがに効くと思うよ、慧宇。

あと、狙うなら肝臓や腎臓は止めてよね。高く売れるんだから。精々手足にしといてよ。

 

銃を突きつけられても、キョウタローは固く目をつぶったままだった。

その姿に緊張や恐怖は感じられない。むしろリラックスしてるようにさえ感じる。

 

え、まさか本当に効かないから余裕なんじゃ…。

 

1度コブシをぐっと強く握りこみ、一気に力を抜くキョウタロー。

そして、深く息を吐く。

 

5秒。10秒。

たっぷりと時間をかけて肺を空っぽにしたキョウタローは、ゆっくりとその両目を開いた

 

「そんじゃ、オーラス始めるか」

 

何事もなかったように手牌を作るキョウタロー。その動きに続くサトハとミョンファ。

でも、ネリーはそんなに冷静でいられなかった。サトハが怪訝そうにネリーを見ている。

手牌を作る手が震える。こんな事は生まれて初めての事だ。

ミョンファは気付いてるハズ。よく冷静でいられるね。

 

なんでミョンファが、そんなにキョウタローに拘るのか分かったよ。

これがキョウタローの本当の力なんだね。

凄まじい運の流れが、渦のようにキョウタローを取り巻いている。

最大の波が来ているネリーと同等。いや、もしかしたら…。

 

「リーチだ」

 

キョウタローの手から、牌が横向きに捨てられた。

開幕からの親リー!? まさかここまでだなんて!

ようやくサトハも異変に気付いたらしい。珍しく思いっきり驚いていた。

 

「ツモ。 4000オール」

ドラ:{七中}

{二二三四五⑥⑦⑧55567} {8}

 

次巡イッパツでのツモ和了。サトハがトバないギリギリの点。

これでキョウタローが逆転できる可能性が出てきた。

 

「確か俺が勝ったら、明華の事好きにして良いんだったよな」

「えぇ、京太郎のお好きにしてくれて構いませんよ」

 

あぁ、そう言えばそんな話だったね。すっかり忘れてたや。

キョウタローに答えるミョンファの顔は、なんだか凄く愉しそうだ。

間違いない、あれはエロいこと考えてる顔だね。

そんな卑猥なミョンファに対し、キョウタローは不敵に笑った。

 

「そうか。

 んじゃ、俺が勝ったら明華の尻をペンペンしてやるぜ!

 泣いて謝っても許してやらねーからな!」

 

お尻ペンペンって…。

やっぱキョウタローも、ミョンファに劣らずのヘンタイなんじゃ…。

 

「なるほど、京太郎は後ろからがお好みという事ですか。

 ふふ、ならば私が勝ったら2人でお馬さんごっこしましょうか」

 

最後の最後で緊張感ない2人だよ。まったく…。

 

オーラス1本場。泣いても笑ってもこれが最後の勝負になる。

ミョンファの持ち点は69100。対するキョウタローは13800。差は55300点。

普通に考えて、まず覆ることはない絶望的な差だ。

直撃なら3倍満以上。ツモなら役満以上でなければ、キョウタローの勝ちはない。

 

でも今のキョウタローなら、ひょっとするかもしれない。

ネリーは奇跡なんて信じてない。だってこの世に神様なんていないことを知ってるから。

 

でも、今だけ、今だけなら。

 

奇跡を信じてみたくなった。

 




長い。ただただ長い。
闘牌描写難しすぎて時間かかったわりにはイマイチ。もう少し盛り上がりが欲しい。
でも熱血とかシリアスってどうも苦手。どうしてもギャグに逃げてしまう。
それと手牌の説明のために画像変換使ってますが、必要ですかね?

今回は、京太郎の運の凄さを客観的に表現したかったんで、ネリー視点で書いてみました。
臨海勢は全員悪人って事を描写したかったってのも理由ですけどね。

ガバメントはダメだけど、S&Wは許すネリーの趣味がよー分からん。
トーラス・レイジングブルと迷ったんですがね。

次回、京太郎は逆転できるのか?それとも明華が馬乗りになるのか?
個人的には馬乗りの方が見たいぞ!誰か描いて下さいお願いします!


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08 La fin justifie les moyens.

気がつけばUAが10000を越えました。感謝、感激、雨、嵐ですわ。
これからも頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

タイトルは『結果は手段を正当化する』。日本語的には『嘘も方便』でしょうか。
この場合の結果は、良い結果の事だけを指し、決して結果のためなら何をしても良い、という意味ではないらしいです。
まぁ今回は誤った意味の内容ですけどね。


 

 

 

『京太郎、どうしてそう役満ばかり一生懸命覚えてるんですか?

 まずはもっと基本的な事の勉強をしてくださいよ』

『だってさー、点数計算とか覚えるの面倒すぎるよ。頭がこんがらがっちまう。

 それに、何か役満の名前って必殺技みたいでカッコいいじゃん?

 ほらコレ。日本語で言うとめっちゃカッコよくね?俺もこういう人間になりてーわ』

 

手牌の影響からか、懐かしい話を思い出しました。

あれは、私が麻雀を始めたばかりの頃だったでしょうか。

結局、あの頃の京太郎は役満くらいしか覚えてくれませんでした。

 

そんな役満の中でも、京太郎が特に好きだった役がそれでしたね。

中国漢時代の三傑。サイコロと麻雀の始祖として、台湾で博徒の神と崇められる英雄の異名。

【他に比類なき者】。まさに京太郎そのもののような役。

 

「ツモ、国士無双。役満だ」

{一九①⑨19東南西北白發中} {中}

 

残念、殴り合いは私の負けですか。

いや、ガチでやれば1発でミンチですけどね、私が。STR16をナメてはいけません。

 

京太郎の行った役満プンリー。愚行も愚行です。普通ならそんなバカな勝負には乗りません。

鳴きでツモ順をズラしていれば私の勝ちでしたし。

 

ですが、逃げるわけには行きませんでいた。

やっと、京太郎が本気になってくれたんですから。

 

しかしお尻をペンペンですかぁ。後ろからパンパンならバッチコイなんですけどねぇ。

痛いのはイヤですが、上手いこと責任を取ってもらう方向に持っていきましょう。

 

などと考えてた矢先、突如部室に乾いた轟音が響いた。銃撃でしょうか?

懐かしいですねぇ。ヨーロッパの賭場を荒らしていた頃は良く聞いてました。

 

まぁそんな物騒な事がこんな場所で起こるはずもなく、正体は京太郎が雀卓へ突っ伏した音です。

なかなかの勢いだったようですね。牌が雀卓だけでなく、床にも飛散してます。

 

「京太郎!?おい、しっかりしろ!」

「大丈夫ですよ智葉。少し気を失ってしまったんでしょう」

 

だからさっさと京太郎の肩から手を離しなさい、このデコメガネ。離れろデコメガネ。

 

なまじ能力を律してるのがダメなのでしょう。いざ本気を出すと負荷で気絶してしまうのは。

最初は私も驚きましたがもう慣れました。

それでも心配ではありますが、それだけ本気になってくれたことを嬉しくも思います。

 

やっと、彼と対等になれた気がする。

これを機に、もっと麻雀に興味を持ってくれるとなお嬉しいのですが。

 

「…んぁ?あれ、もしかして俺、気ぃ失っちまったのか?」

 

その後5分もしないうちに京太郎は意識を取り戻しました。

相変わらず回復が早いですね…。こういう時は本当に人間なのか疑わしくなります。

 

「悪ぃ、ちょっと気張りすぎたわ」

 

2、3度頭を振った彼は私たちの顔を目を向け、恥ずかしさを誤魔化すように頬をかいた。

見かけによらず、そういう仕草が本当によく似合います。キュンキュンしますね、子宮が。

 

さり気なく携帯の無音カメラで撮影したので、あとで待ち受けにしましょう。

毎日おはようからおやすみまで眺めることにします。

 

「いえいえ、それだけ約束通り全力で挑んでくれたという事ですからね。

 嬉しく思いこそすれ、悪しく思うことなどありません」

 

ないんですが…お尻ペンペンですかぁ。うぅ~、やっぱり痛いのはイヤです。

何とかパンパンに変えれないでしょうか。gagner-gagner(win-win)の良い話だと思うんですが。

 

「あぁ~、ところで結果ってどうなったんだっけ?

 途中から、なんか記憶が曖昧でさ」

 

……おや?おやおやおや~?ふふ、ふふふふふふふ。これは来ましたね。

吹いてます。今確実に吹いてますよ、私への追い風が!

さすが私!風神の名は伊達ではない!

 

「あぁ、それなら京t「京太郎の負けです」

 

なんです智葉、その顔は。こんな絶好の機会を逃す人間がいるでしょうか。

いえ、いません。

 

「闇社会の住人とは言え、雀士の誇りすらないのかお前は」

「ネリーもコレには苦笑いだよ」

「さすがの外道っぷりですネ、明華」

「羞恥心というものを何処に落としたんですか?

 貴女を見てると、まだ自分がマシな人間だと自信が持てます」

 

ふふ、外野に何と言われようと私は揺るぎませんよ。

何と思われ見られようが、京太郎を手に入れるという目的の前では些細なことです。

 

「そうか…。

 頼む明華。俺のことは煮るなり焼くなり好きにしてくれて構わない。

 俺に出来ることなら何でもする!だから、親父とお袋の命だけは助けてくれ…!」

「ん?今、何でもするとおっしゃいました?」

「ああ、俺に出来ることなら何でもするし、絶対に明華には逆らわない!

 だからお願いだ。あの2人は何も関係ない。手を出さないでくれ!」

 

ふふ、ダメです、まだ笑ってはダメですよ私。取り敢えず足をつねって気を紛r痛い。

 

だいたい、本当に京太郎のご両親を殺すわけないじゃないですか。まだ挨拶もしてないのに。

アレだけ言って本気を出さないなら殺す気でしたが、京太郎はそんな人間ではないですからね。

 

「安心して下さい京太郎。

 気絶するほど本気を出してくれたのですから、約束通り手は出しませんよ」

「本当か、明華!」

「はい、私が京太郎との約束を破るわけないじゃないですか♪」

 

思わず土下座までしていた京太郎へ、そう私は声をかけました。

まるで子犬のようなキラキラした目で見上げてくる京太郎。たまりませんね。

 

私は平気で嘘を吐きますけど、京太郎との約束は破りません。

ええそうです、決して破りません。なので今日はお馬さんごっこを必ずやりますよ。絶対に。

 




明華が下ネタ系変態美少女という風潮。あると思います。
だってフランス語ってダーリン的な意味で、私のタマ●ンとか言うんですよ?

慧宇と敬語キャラが被ってますが、下ネタの有無で見分けて下さい。
下ネタと毒を吐きやがるのが明華で、ただ毒だけ垂れ流すのが慧宇です。

それと、明華がここまで京太郎の事好きなのはダイス神の仕業です。
初対面の好感度チェックで80なんて出るんだもん…。一目惚れやん…。

まぁ見た目髪がフサフサでハニーフェイスなジェイソン・ステイサムだから仕方ないね。中身も超善人だし。
その後いろいろあってヤンデレ化するんですが、その辺はまたいずれ書いていきます。


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09 棚からぼた餅

棚からぼた餅。略して棚ぼた。難しく言うと僥倖。意味は思いがけない幸運。

タイトルが日本語なので、今回の主観は長ドスでこメガネです。


「まさか京太郎があれほどの打ち手だったとはな。

 明華が打たせたがった理由もわかる」

 

興奮冷めやらぬ室内。しかしその中心人物であった2人はすでにいない。

現在部室に残っているのは、ネリー、メグ、慧宇、そして私の4人。

渦中の人物である京太郎は、さっさと明華に連れて行かれてしまった。

 

「技術面は素人同然といったところでシタ。しかし、見ていて面白い打ち手デス」

「賭場での同卓はご遠慮願いたいですね。あんな打ち方でムシられるのは御免です」

 

メグ、慧宇の感想には納得できる。

確かに京太郎の腕前は、精々が中の中か、中の下といったところだな。

しかし雀士として、他人を惹き付ける力を持っているのも確かだ。

それは打ち回しといった技術ではない。彼の持つ天性の才能だろう。

そしてあの強運。ダブリーに続いて役満ツモとは恐れ入る。

 

「ネリー、お前はどう感じた?」

「もうなんか凄かった。バーって光ってて、こうガーッて感じ。

 役満プンリーの時なんて、いつもサトハが卓上で振り回してる長ドスみたいなの見えたよ。

 それに霧!キョウタローがリーチ宣言した瞬間、何か牌が霞んで見えた!」

 

おい、まるで私が何時も対戦相手に長ドス突きつけてる奴みたいに聞こえるじゃないか。

私はそんな狂人ではないぞ。明華と一緒にするな。

 

「確かに私も感じた。刀というよりは剣という感じだったが。

 剣だけでなく戦斧や弓、盾といった雰囲気もあったな。

 2人の勝負であったから、私とネリーは手牌を伏せてツモ切りのみを行っていたが、恐らくあの時だけに限り、京太郎が私達に放銃する事はなかっただろう」

「剣に弓、戦斧に盾、それに霧ですか。まるで【蚩尤】のような化物ですね。

 ますます同じ卓につきたくないです」

 

どうやら慧宇の中で、京太郎は同卓したくない人間のトップにまで上り詰めてしまったようだ。

 

 

【蚩尤】。

中国神話に登場する三皇五帝の内、炎帝神農の子孫とされる、獣身牛頭、四目六臂の魔神。

全ての兵器の産みの親とも呼ばれ、戦の神、兵主神として崇められている。

 

かの神は81人の兄弟と魑魅魍魎を従え、黄帝へ反逆を行った。

それ故、この世で最初に「反乱」を生み出したとも言われている。

 

その存在は朝鮮半島に伝わり、後に牛頭天王として日本へと渡る。

そして牛頭天王は神仏習合により、日本に伝わるある神と融合をはたす。

 

その神こそが、剣の神であり、嵐の神である三貴神のひとり。

 

――建速須佐之男命だ。

 

 

 

案外、その辺も他人を惹き付ける力の遠因なのかもしれないな。

明華が言っていた以上に、京太郎は組織にとって使えるヤツかもしれん。

 

あまりの僥倖にほくそ笑んでいると、ふいに足音が聞こえてきた。

ヒールの甲高い音が近付いてくる。なかなかの勢いだ。コケるぞ。

 

続いて、部室の扉が乱暴に開く音が響いた。

2、3軍メンバーの挨拶が聞こえるが、足音の主はスピードを緩める気配がない。

 

足音の主―監督―はそのままの勢いで、1軍の部室へと滑り込んできた。

余程急いできたのだろう、普段のクールな姿は見る影もない。

その顔には大玉サイズの汗が流れ落ち、膝に手を付き大きく肩を揺らしていた。

 

「ぜぇ…ぜぇ…職員、会議で…遅くなったわ…はぁ…。

 す…須賀君は?今日は…彼が、麻雀を、打つって…話だったけど…はぁ…まだ来てないの?」

「キョウタローならもう帰ったよ」

 

やばい。監督の動きが止まった。あんなにぜーはー言ってたのに。

すごい無表情でネリーを見てる。かなり怖い。ヤクザもびびる怖さだぞ。

あ、崩れ落ちた。膝から落ちたが大丈夫か?ゴッみたいな音したけど。皿砕けてないか?

 

やれやれ、これがかつては裏で名の通った打ち手とはね。

今の姿を見て、幾度もの鉄火場を潜り抜けてきた歴戦の猛者と見抜ける者は何人いるだろうか。

 

うわ、無表情のまま泣き出した。

 

 




今後、アレク監督は車イス生活を余儀なくされた。嘘です。
最初は、今回の話を8話として投稿しようと思ってました。
が、話の流れ的にイマイチだったので、急遽別の話を執筆。
ぶっちゃけ特に必要ない無駄話です。
ただ、どうしてもオチの下りを使いたかったので無理矢理投稿。

次回は恐らく飯テロ回。京太郎、明華とイクラを食す。以下有名なコピペ。

やめて!
明華の魅力で京太郎の理性を焼き払われたら、咏ちゃんとの縁で繋がってるアラフォーの婚期まで焼き払われちゃう!

お願い、死なないで京太郎(の理性)!
あんたが今ここで倒れたら、清澄や白糸台メンバーとのフラグはどうなっちゃうの?
理性はまだ残ってる。ここを耐えれば、明華に勝てるんだから!

次回「京太郎(の理性)死す」。夕飯スタンバイ!

まぁ実際に(理性)死ぬんですけどね。


あとがき書き忘れてました。
スサノオと蚩尤の関係は、そうだったら面白いな程度で読んでおいて下さい。
それと今回の京ちゃんは、一時的なパワーアップです。
今後の頑張り次第では強くなるんでないですかね。
タイプとしては、

スサノオ→対オカルト特化型。オカ持ちに素敵滅法強いが、オカルトのない雀士には弱い。
オオクニヌシ→連携タイプ。師匠や同じ部活の雀士との絆で強くなるタイプ。
蚩尤(牛頭天王)→バフ、デバフタイプ。自己を強化しつつ、同卓雀士の能力をゴリゴリ下げる。弱点はバフを無効化されると防御が薄いこと。
ヤマタノオロチ→オカルトのない雀士に対してめっちゃ強いが、その分オカ持ちには弱い。

こんなところですかね。
何処かで見たり聞いたりしたことある?はは、スサノオネタって時点でもうお察しですよ。

ただ、今回の京太郎は元ハンドボール選手なので、圧倒的に麻雀の経験が足りません。
そのため、オカルトは発現しない可能性があります。


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10 Après la pluie, le beau temps.

タイトルは『雨の後は良い日が来る』。
日本でいう『雨降って地固まる』。

描写はどうあれ、今までで1番のラブコメの波動。
もっと血で血を洗う抗争を書きたいけど、なかなか話が進まない。
10話書いてるのに、作中まだ2日か3日しか経過してないって何よ…。



 

「みょん…ふぁ…やめ…」

 

馬乗りになった明華が、俺の唇を貪るようについばんでくる。

そのしっとりと柔らかい感触に、否応なく身体が熱くなった。

抵抗しようにも身体は鉛のように重い。オマケに明華の両腕がガッチリと俺に回されてる。

 

「ふふ、京太郎のお口は素直じゃありませんねぇ。下は正直なのに」

 

ようやく唇を離した明華は、しかし腕を解く素振りはない。

艷やかに濡れた唇から伸びた唾液が、銀糸のように俺と繋がっていた。

その唇を真っ赤な舌でちろりと舐め、嗜虐的な笑みを浮かべる明華。

それだけで俺の心臓はドキドキ、バクバクを通り越した激しい早鐘を打った。

 

「好きですよ、京太郎。本当に、本当に大好きです」

 

俺の身体がぐいっと引き寄せられ、視界が明華の顔で埋め尽くされる。

会ったのは1年ぶりだったけど、相変わらず、イヤ、前にも増してキレイになった。

今日もすれ違う男が全員振り返ってたし、贔屓目じゃないハズだ。

 

そんな唯でさえ美少女な彼女が、濡れた瞳で俺をじっと見詰めてくる。

白磁のような肌はほんのりとピンクに色付き、つややかな唇から蠱惑的な吐息が溢れていた。

少し水気が残る、星を溶かし込んだようなその髪もまた、彼女の色気を一層引き立たせている。

 

彼女の言葉。彼女の姿。彼女の気持ち。

全てが全て、俺の情欲を燃焼させるガソリンだった。

 

そんな俺を、明華は更に追い詰めてくる。

円を描くように腰を回してきやがった。布越しでも、グリグリとした刺激に腰が粟立つ。

更にその動きで、ブラから零れそうなほどのおもちが上下に弾んだ。すばら。

 

明華の今つけている下着は、今日の帰りに俺が買わされたものだ。

最終的に明華が選んだのは、高級なレースと刺繍がふんだんに使われた、黒い下着だった。

散々に試着を見せつけられ、周りから白い目を向けられたのは記憶に新しい。

あの時もかなりの恥ずかしさと、明華の艶やかさにドキドキとしてたが、今はその比ではない。

心臓が弾けそうなほどの高鳴りが俺を支配し、目を釘付けにさせていた。

ぶっちゃけ、ヘタな裸よりよっぽどエロい。

お陰で俺の息はだいぶ荒い。喉もカラカラだ。内側にドロドロのマグマが流れてるように熱い。

彼女の身体を持ち上げる勢いだってのに、視覚と物理の両面からの刺激が、俺の血液を更に一箇所に集めさせた。

今にも噴火してしまいそう程の昂ぶりを、俺は奥歯を噛み締め必死に耐えた。

 

「大丈夫ですよ、京太郎。私は、大丈夫です」

 

そう囁いた明華は、俺の頭をその胸に抱き寄せた。力強く、そして優しい抱擁だった。

やっと、彼女が震えてる事に気がついた。まったく自分のヘタレさがイヤになる。

 

「明華…あの日の約束覚えてるか?」

「えぇ、ちゃんと覚えてますよ。

 ごめんなさい、先走ってしまって」

 

少し、彼女の顔が曇った。俺の物言いで勘違いさせてしまったかな。

悲しませるつもりで言ったんじゃなかったのに。ホント、上手くいかねーな。

 

誰だって、拒絶されるのは怖い。その怖さは、俺自身よく分かってる。

そんな恐怖を押し殺して、彼女はいつもまっすぐ俺に向かって来てくれた。

麻雀の時も、今のこの状況も、本当は彼女の望んだものじゃないハズだ。

なのに彼女はそれを押して、臆病風に吹かれっぱなしの俺の尻を蹴り飛ばしてくれた。

 

情けねー。情けねー上にかっこ悪ぃ。こんなクソッタレな姿が、俺が望んだものだったのか?

こんなクソッタレた姿を、いつ迄好きな女に晒してるつもりだ?

 

そう、俺は明華が好きだ。彼女の正体を知った今だって、その気持ちは揺るがない。

今まで散々理由を付けて誤魔化し通してきたが、それももう終わりだ。

 

好きな女にここまでさせて、これで逃げたら本当に男が腐っちまう。

 

「今までごめんな明華。こんなに待たせちまって。

 今更かもしれないけど、約束を果たさせてくんねーか?」

「きょうたr…んぅっ!?」

 

この日、初めて自分から彼女の唇を奪った。少しばかりガッツいたけど、そこは勘弁して欲しい。

くぐもった水音が脳髄に響く。久々ってのもあるけど、相手が明華だから余計クる。

最初は戸惑い気味だった明華も、すぐにチロチロと反応を返してきた。

彼女の小さな頭と、その細い腰に手を回す。悪いケド、もう逃がすつもりはない。

 

今は男らしく、心ゆくまで彼女を貪ろう。

 

 

 

 

 

 

「昨夜はお楽しみだったようだな」

「はい、お陰様で。どちらも大変美味しく頂きました♪」

 

朝のお迎えにあがると、お嬢は開口一番、どこぞの宿屋みたいなセリフを吐いてきた。

些か下衆すぎやしません?

明華も明華で余計なことは言わないで欲しいんだが。美味かったとしたら夕飯だけだろうに。

因みに昨日の献立は、ものの見事に鮭とイクラばっかだった。

今度の健康診断で引っかかんないと良いけどな…。

 

それにしても、明華のヤツ元気そうだな。あんなに痛がってたのに。

 

「まぁ別にお前たちがどんな関係になろうが私には興味もないし関係ない。

 仕事さえキッチリこなしてくれれば、後は好きにしてくれて構わん」

 

お嬢、それは昨日送迎しなかった俺への当てつけも入ってんですかね。

ミラーで確認してみても、お嬢は腕を組み、ただつまんなそうに外を眺めていた。

その表情からは、お嬢の本位を探ることはできない。

 

因みに明華は助手席に座ってる。何故?あと何でずっとこっち見てるの?

ちょ、太ももに手乗っけるのはダメでしょ!? 内もも擦るのもヤメテ!

 

「そう言う訳でだが京太郎」

「は、はいお嬢!」

 

ビックリして身体が跳ねた。恥ずかしっ。

そんな俺とは対照的に、明華は怯む様子も手を止める様子もない。いや止めてよ。

逃げるのは止めるって言ったけど、今じゃない! 事故る!

 

「お前の麻雀の腕前を見て、ひとつ良いことを思いついた。

 そのついでに、ちょっと他所の高校に行って何人か拐かして来い」

「あぁ、はい分かりましたぁ」

 

思わず生返事したが、なんだか重要な話を聞き逃した気がする。

でもお嬢、すいませんがそれどころじゃないっす。

お願い明華、夜まで待って!

 

 

 




折角マフィアものなんだから、もっと鉄火場に突っ込ませたい。
ブラッドバス職人、須賀京太郎の本領を発揮させたい。
そう思いつつ予告どおりのお食事回。ん?食べるものについては何も言ってなかったよね?
因みに、当然のように京太郎は一服盛られてます。

R-15って本番書かなきゃオッケーって認識なんですが、どうなんでしょう。
少女漫画のほうがもっと過激だし、このくらいヨユーだよね。
一応頑張って描写したんですが、なんかイマイチ。もう少しクる感じに書きたかった。
今後のためにも、フランス書院とか読み漁ろうかな。
そんな訳で、恐らくこの話が1番修正される予感。

本当は本来のメシ描写用に、めっちゃ献立も考えてたんですけどね。
話長くなりそうだから今度に持ち越しますわ。

取り敢えず京太郎の出張が(強引に)決定。その辺の詳しい話も次回。


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à côté de K ~長野篇~
K-01 Bon voyage.


タイトルの意味は『良い旅を』。
たぶんフランス語で1、2を争う有名な言葉じゃないですかね。
旅立つ相手に言う言葉ですが、今回の京太郎はすでに旅立ってます。


「ツモ、4000・2000」

 

傾いた日差しの入る静かな部室に、涼やかな和了声と倒牌の音が響いた。

4巡で満貫和了とか。いくら麻雀の修行も仕事の内とはいえ、あれは同卓したくねぇわ。

まぁそもそも仕事じゃなきゃ、他校の部活になんか顔を出さないけどな。

 

あの日、俺がお嬢に言い渡された仕事は3つ。

その内の1つが、麻雀の腕を上げるための武者修行だ。

 

どうやら明華との1戦が原因らしい。確かにあん時の俺は神がかってたな。

お嬢は、俺をプロ雀士としてデビューさせ、組の資金源にする腹積もりなんだとか。

男子リーグは女子に比べて人気も実力も下火らしく、あの日の実力なら余裕で人気も金も稼げるとかなんとか。

 

そのため、少しでも経験を積んでこいと今回の出張が決まった。

同じメンバーで打つより、色んな打ち手と卓を囲んだほうが経験になる、って事らしい。

まぁ確かにそのほうが腕は磨けそうだ。その点には不満はない。

 

ただ明華がめちゃくちゃ反対してたな。でも気持ちは分かる。

いくら仕事とは言え、折角両思いになったのになぁ。10年越しの恋人だよ?

まぁそんなにかかった理由は、俺がウジウジしてたせいだけど…。

あぁ~、新婚早々単身赴任する旦那の気持ちってこういう感じなのかなぁ…。

 

それにしても、プロ雀士…ねぇ。そんな上手くいくか?

幸せの絶頂から絶望のズンドコへ落とされた所為か、どうも考えが後ろ向きになっちまう。

俺のプロ雀士化に乗り気なのも、明華となぜかネリーと監督くらいだ。

メグや慧宇は懐疑的。お嬢も上手く行けば良いな、くらいの様子だったし。

 

俺自身、あの日は単なるまぐれなんじゃという気持ちが強い。

現に、あれ後はいまいちな闘牌しか出来てないし。

 

そう言えば、部室でやってる間はやたらと監督の視線を感じたな。

俺の腕がヘボすぎて気に入らなかったんだろうか?

そりゃ1軍の練習時間潰して俺みたいなヘボが打ってちゃ、監督も良い気しないか。

 

「先生、今は部活中ですよ」

「あぁ、だからこうして部活に出てるんじゃないか」

 

じゃなきゃ今頃喫煙所で一服してるよ。

そして窓から、運動部の揺れ弾むおもちを眺めていたと思う。

 

「タバコを吸うことを、部活に参加してるとは言いませんよ」

「雀荘に行けば紫煙がモックモクだぞ?

 そういう場所で打つこともあるだろうし、今のうちに慣れておくんだな」

「だったら指導なり何なりしながらでも良いじゃないですか!」

「悪ぃ、俺って麻雀は初心者だから。むしろ俺のほうが教えてほしいわ」

 

いや割とガチで。

これで何一つ腕を磨かず帰ったら、お嬢はおろか明華からも何されるかわかんねーよ。

それに、お前たちだって部活中に平然とベッドで寝てるじゃないか。

というか、部室にベッドあるって何だ。麻雀部っていう建前のヤリ部屋かと思ったぞ。

 

「部長!なんでこのような方を顧問にしたんですか!!」

「アナタの反応が面白いから。ごめんなさい、嘘です。

 そもそも顧問って生徒が選べるものじゃないわよ?」

 

元気だなぁ、女子高生って。

お嬢や明華達と違い、普通の高校生って感じがして安心する。

 

そう、ここは高校。そして今の俺は先生。

お嬢はどんな手を使って偽物の教員免許を手に入れたんだろうか。

知りたいけど知りたくない。知ったら、今度から何かの片棒を担がされそうだ。

 

何故雀荘巡りではなく、ニセ教師なんかになってまで高校に来ているのか。

モチロン、俺が女子高生好きだから、なんて理由じゃない。いやマジで。

それが残った仕事の理由。というか、1つ目はオマケでこっちが本命。

 

今回の俺の仕事の目的。

それは他校の戦力の調査と、将来的に使えそうな雀士を見つけ、手駒にすることだ。

 

そう手駒だ。手篭めではない。

そういった手を使う可能性もあるけど、間違っても明華の前で言ってはいけない。

例え話で話題にしてしまったお嬢は、明華から凄い目で見られていた。

そしてその晩、俺はクスリを盛られた。死ぬかと思った。腹上的な意味で。

 

「もう我慢できません。先生、私と勝負して下さい。

 そして、私が勝った場合は部活の顧問を辞めていただきます」

 

見た目に反して喧嘩っ早い奴だな。

まぁそういった闘争心が、インターミドルチャンプになれた理由なのかもな。

 

それにしても、顧問を辞めてくれと来たか。

周りからチヤホヤされて育った所為か、随分と考えが甘い。

世の中の全部が全部、自分の思い通りにでもなると思ってんだろうか?

 

「分かった、分かった。

 それじゃ、俺が勝ったら何して貰おうかなぁ」

「貴方のような素人に負けるなんて、そんなオカルト万が一にもありえません」

 

まぁ確かに、普通ならタイトルホルダーに素人が勝てるわけがない。

でも俺も俺で仕事なんでな。負けるわけにはいかねーよ。

 

それにここで勝てば、いい感じに弱みを握れるだろう。

インターミドルチャンピオンなら、良い稼ぎ頭になってくれそうだし。

何より、生意気な小娘の天狗っ鼻をへし折るのも面白そうだ。

 

よっし、少しばかり気合を入れるか。

 




毎度毎度アホみたいな長いあとがきで申し訳ない。いっぱい喋りたいことあるんですよ…。

元ハンドボール選手である京太郎を、どうやって麻雀に関わらせれば良いんだろうか…。
そう必死に考えた末の答えが、この流れです。
正直京太郎スレとかでよくある展開ですが、コレ以外に関わる方法がないので仕方ない。
あと潜入するなら偽名とか使うんでしょうが、読者も作者も混乱するので本名で行きます。

生意気な小娘の鼻っ柱を、麻雀で折るために気合を入れる京太郎氏。
気合入れたら麻雀に勝てるのだろうか。
それとも、気合を入れてぶん投げた麻雀牌でへし折るんでしょうか。

1話のあとがきで京太郎のステータス貼りましたが、特徴を書き忘れてました。
京太郎の特徴は、ペット、鋼の筋力、投擲の才能、の3つです。
ペットは事前に決めた特徴ですが、残り2つに関しては、サイコロアプリ誰かに操作されてんじゃね?と思ってしまいました。いやマジで。
因みに特徴の内容を簡単に説明すると、
 ペット :触れ合うことで精神が安定する。
 鋼の筋力:ダメージが上がる。
投擲の才能:投擲の命中率の上昇と、威力が2倍になる。
京太郎がものを投げると人が死ぬ。鼻どころか頭が消し飛ぶ。

だいぶ関係ない話ばかりしましたが、京太郎先生の赴任先は、分岐ルート的な感じで全部書く予定です。
といっても長野、奈良、大阪、福岡といったくくりですけど。
東京は…どうしよっかな。明華たちが勝手に練習試合とかやっててくれるんでね?


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K-02 À Rome, fais comme les Romains.

原村の申し出は半荘4回勝負。

原村が勝てば、俺は顧問を辞める。俺が勝てば、原村のおもちを揉みしだく。

おもち云々は冗談にしても、ここで凹ませて何か弱みでも握ろうという腹づもりだった。

 

『おい教師。あと早々に浮気とは感心せんな。

 唯でさえ面倒な事になっているのに、これ以上私に火消しをさせるな』

「いやぁ、冗談のつもりで言ったんですけどねぇ。奴さん相当キてたみたいです。

 それに血筋なんだから良いじゃないっスか。得意でしょ?」

 

今、明華は賭場荒らしがマイブームらしい。相当手ひどく潰し回ってんだとか。

お嬢が何を言っても、

「ムシャクシャしてやりました。反省して欲しかったら京太郎をシルヴプレ」

と言ってまったく反省する気配がないとの事だ。

 

『で、お前の鼻っ柱がへし折られたのか?』

「もっとオブラートに行きません?」

 

事実だけど。

流石はインターミドルチャンプ。ぽっと出のシロウトじゃ太刀打ちできねーわな。

まぁアイツのお陰で、その話自体有耶無耶になってるけど。

 

『それにメガネかけたままだったんだろ?』

「あぁ、すんません。そういや今もかけたままでした」

 

いけねぇいけねぇ、どうもまだ慣れてないせいか、ついつい忘れちまう。

メガネをケースにしまい、ゆっくりと目を見開く。

それだけで、俺の意識は切り替わった。

 

「失礼しましたお嬢。随分と失礼な口をきいてしまいました」

『気にするな。そういうお前も新鮮で面白い。

 しかしクスリまで使って自己暗示を行うとは…。お前も真面目というか、不器用な奴だな』

 

俺にとっての1番の懸念は、他人を騙し通せるかという事だった。

いたいけな少女たちの一生を左右する仕事だ。

明華たちの世界で生きていくと決めたからといって、素面ではキツイ。

なので俺は一計を案じることにした。

自己暗示と明華に用意してもらったクスリ。その2つを使い、俺は疑似人格を作り出した。

そのスイッチがさっきまでかけていたメガネだ。

少し陰気な体育教師。麻雀に対する興味はそれほどなく、仕方なく顧問をしている。

明華が言うには、「砕けた調子の、少し煤けた京太郎」らしい。

 

『正直お前がそこまでするとは思っていなかったよ』

「やるからには徹底的にやる性格なもので。

 それに、1番の目的は龍門渕ですからね。これくらいやっておかないとボロが出そうで」

 

――龍門渕。

6年連続で県代表となっていた風越女子を抑え、全国出場を決めた前年の長野代表校。

何気にうちとは因縁持ちだったりする。

理事長の孫である龍門渕透華を筆頭に、メンバーの誰もが一流の雀士。

その中でも頭1つ抜けた化物が、龍門渕透華の従姉妹。

牌に愛された子――天江衣。

 

そんな天江衣の情報を収集するのが今回1番の仕事だ。

残念なことに、前年ではメグが他校を飛ばしたせいで天江衣の出番がなかったらしい。

オマケに、彼女は公式戦にほぼ出ていないため、碌な牌譜が存在しない。

なんとかして情報が欲しいが、龍門渕に潜り込むのは不可能。

なので、こうして清澄に潜り込んで情報を収集する、という作戦を取ることにした。

清澄を選んだ理由は、単純に他に目ぼしい高校がなかっただけだ。

敦賀は女子校だし無理。風越も同様。まぁ風越の場合はそれだけではないけど。

 

『ああいう輩は消すのが1番なんだがな。家が家だけに簡単には手が出せん。

 お前、何とかしてハイエースできないか?』

「出来なくはないですが、そのネタ自分で言います?」

 

俺、その偽造ハイエースでお嬢達に嵌められたんですよ?まだトラウマなんですけど。

 

『すまんすまん、冗談だ。私も雀士の端くれ。正々堂々叩き潰してやるよ』

「さすがですお嬢」

 

でもお嬢は先鋒ですよね?絶対に天江衣とは当たらないですよ。

 

「それでお嬢、清澄の話に戻るんですが、少し気になる娘がいます」

『なんだもう乗り換えるのか?』

「滅多なこと言わないでくださいよ!」

 

どこで明華が聞いているか分からないのに!バレたら俺の下半身がヤバイんですよ!?

ほら、今にも携帯にメールg…。

 

 

 

差出人:雀明華

宛先:須賀京太郎

――――――――――

後でお話があります。

 

 

……俺、週末東京に戻るのやめようかな。

だめだ、その場合明華が来る。もっとヤバイ。

 




タイトルに意味は『ローマにおいては、ローマ人のようになせ』。
日本で言う、郷に入っては郷に従え。
高校に入っては高校生か教師のようにしないとね。ヤクザのままじゃ捕まるよ。

京太郎に新しい設定が盛られちゃった回。
京ちゃんはブラクラのエダみたいなもんです。
因みにサングラスかけるとヤクザっぽさが増えます。マサオくんかな?

京ちゃんは毎週末は東京に戻ります。戻ったらエロ回だね。
そろそろ闘牌描写をまた書きたいですけどなかなか難しい。


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K-03 Il pleut des hallebardes.

「先生、タコス!」

「先生はタコスじゃありません」

 

まるで小学生のような問答をしやがって。見た目だけでなく頭の中もお子様か。

――片岡優希。

よくわからん語尾と、猫蛇セアミィのアクセサリーを身に着けた、ネリーみたいな体型の娘だ。

要するにお子様体型。俺の守備範囲の圧倒的外側。パンチラも裸もノーセンキュー。

速攻を得意とし、東場では無類の強さを発揮する。が、その分南場での失速が半端ない。

あとやたら「タコ」と付く食べ物が好きで、それがないと力が出ないらしい。

 

「いや~ん、そんなイケズな事言わないでよ、アナタ。

 はやくアナタのステキなものをちょ・う・だ・い」

「おいバカやめろ。冗談でもそういう事言うな」

 

どこに明華の目があるか分からんのだぞ!バレたらお前の命と俺の下半身があぶねーぞ!

 

『東京都内で起きた発砲事件ですが、犯人は依然として捕まっておらず、警察は付近の住人に…』

 

不意に流れてきたニュースの内容に、俺は優希にタッパーを差し出しすぐさま距離を置いた。

ちょっと眩しいなー。カーテン閉めとくかなー。

 

因みに、優希に渡したのは自作のタコスもどきだ。

切れ込みを入れたバゲットに、レタスとタコミート、トマトと玉ねぎ、アボガド、青唐辛子で作ったサルサとチーズをたっぷり挟み込んである。

タコミートにもサルサにも、コリアンダーなどの香辛料を多めに使ってあるので、かなりスパイシーな仕上がりだ。

本当ならトルティーヤで包みたかったが、良いコーン粉が近場に売ってないので妥協した。

うーん、誰か売ってる店知らないかなぁ。

 

「嶺上開花自摸、タンヤオ、三槓子。12000」

ドラ:{■3中①①■■■}

{六七} {⑤⑤⑤横⑤} {四■■四} {5■■5} {五} 

 

なんて無駄にタコスに思いを馳せていたら、宮永の和了が染谷に刺さった。

また嶺上開花か。そして相変わらずのプラマイゼロ。

順位は宮永、竹井、原村、染谷という結果だった。

染谷は最後の最後に宮永の嶺上開花に捕まったのが痛かったな。

原村も原村で、竹井の悪待ちに良いように翻弄されちまったようだ。

 

「っ…!」

「の、和ちゃん!?」

 

ガタン、と大きな音をさせながら立ち上がった原村が、そのまま出口へと駆けていった。

静止の声も聞かず、そのまま飛び出していった和を追いかけようとした宮永。

しかし、追いかけることが出来ず、結局伸ばした腕をスゴスゴと下げてしまった。

麻雀やってる時は鬼のような奴なのに、ネト麻と普段はほんとヘタレだな。

 

「きふぉうふひひふふぉひまふぇふぁふぉふぉふぁふぉっふふぃふぁいふぁふぉ」

「食ってから喋れよ」

 

バル●ン星人みたいになってんじゃねーか。

 

「うーん、良かれと思って靖子に凹ませてもらったけど、少しやり過ぎたかしら…」

「何してんだよ…。ちゃんとフォローしとけよ?」

「あら、先生こそ部活中に抜け出した生徒を連れ戻すべきなんじゃないの?」

 

面倒事をコッチに押し付けようとしてやがるな? この悪女め。

宮永に頼めよ。最初に煽りすぎたせいで、未だ俺は原村に嫌われてるってーのに。

がしかし、面倒臭いが放っておくわけにもいかねーか。

あんまり関わらないようにしときてーんだけどなー。

 

「ぶちょー、備品の買い出しに行ってくるわー」

「はーい、いってらっしゃーい。ついでにこのリストの物も買ってきて下さいねー♪」

「ふぁふぉふふぉふぁっふぇふぃふぇふぉふぃーふぉ」

 

まだ食っとったんかバ●タン!どーせタコスって言ってんだろ!

 

 

 

「こんなところにいたのか」

 

結果として、原村はあっさり見つかった。

学校から少し離れた公園。そのベンチに腰掛け、彼女はぼーっと空を眺めていた。

 

「…先生こそどうしてこんなところに?」

「俺はコーン粉を探してるだけだ」

 

両手の買い物袋が見えるだろ?あとそれ1つでリストは終わるんだよ。

あと、今明らかにガッカリしたな?来たのが宮永じゃなくて思いっきりガッカリしたよな?

原村の反応をあえて無視し、俺はベンチの隣まで移動した。

流石に隣に座るほど厚顔ではない。むしろベンチ側に移動しただけで少し嫌がられて凹んだ。

 

「…原村…お前、昨日雀荘に行ったみたいだな」

「…えぇ、咲さんと一緒にm「原村」

 

少し強めの口調で名前を呼ぶと、原村はビクリと身体を震わせた。

手を強く握り込み、俯いたままこちらを見ようともしない。

 

「染谷の家の話じゃない、その後だ。お前、レート麻雀打ちに行っただろ?

 バレたら大会どころじゃ無いぞ。

 それに、そんな場所にひとりで行って何かあったらどうする気だ」

「…先生には関係ありません」

 

血が出そうなほど唇を噛み締めた彼女は、絞り出すようにそう答えた。

いや、大会云々は俺にも関係あるんだけど…。俺、一応顧問だよ?

原村は優希と違って頭の良い娘だ。こんな事をすれば、どうなるか十分理解している。

それでも、そこまでしなければならないほど追い込まれてしまっていたんだろう。

 

「何をそんなに焦ってるんだ?」

「関係ないって言ってるじゃないですか!」

 

血を吐くような声を上げた原村は、脇目も振らず公園の外へと走り出していった。

うーむ、追い込みすぎたかな。

ペットボトルを投げつけて気絶させても良かったが、ケガさせそうだし止めておこう。

まぁ上手く行くとは端から思ってはいなかったし、次の手を打つとするか。

 

「……あ、すいませんお嬢、頼んでいた例のやつの準備をお願いします」

 

さて原村、俺は忠告したからな?

痛い目に遭っても、自己責任って事で勘弁してくれよ?

 

 




うっかり投稿してしまった…。
タイトルの直訳は『斧槍が降る』。
スプラッタというわけでなく、土砂降りの表現らしいですよ。
気がつけば清澄は原村ルート。
あと、そろそろ死人が出る予定。

それと、落描きで描いたうちの京太郎のイメージ画。

【挿絵表示】

だいたいアニメ版を元にしてます。


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