IS世界のボン太くん (マガガマオウ)
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出会いはふもっふ!
20XX年 X月X日 ドイツ某所
『自分はどこに連れてこられたのだろう?』
そんな、ある意味で呑気なそして当然ともとれる疑問を少年織斑一夏は考えていた。
しかし、この場合は場違いなその疑問に答えてくれそうな人物などこの場にはいなかった。
そう何せ彼は誘拐されているのだから、彼の姉織斑千冬のモンド・グロッソ二連覇を快く思わない者たちの手によって。
「何故だ?こっちには人質がいるんだぞ!なのに何故、織斑千冬は決勝戦に出ている!」
困惑気味に話す男の声が聞こえる英語かドイツ語かはたまた別の言語かさっぱり分からないに一夏少年にはそれでも彼らの思惑が外れた事が理解できた。
それと、同時に自分は姉に見捨てられたという事実が少年を絶望させた。
「仕方ないわ。こうなった以上、こいつはもう用済みさっさと始末してしまいしょう。」
場が混乱する中、冷静に女が話しているのが聞こえる。
例によって何を言っているのか分からない状況でも自分の死がもうすぐそこまで近づいてきているのが彼には分った。
『せめてもう一回あの人に会いたかった。』
この状況で思い浮かべるのは自らの姉ではない。
しかし、姉の様に慕い初めて恋と言うものを自覚させてくれた人であった。
「残念だけど、恨むなら貴方のお姉さんを恨みなさい。彼女さえ、こちらの要求を呑めば無事に帰れたのよ。」
カチャッと自分を殺すであろう銃の弾が込められる音を聞きもはやこれまでと諦め掛けた。
しかし、神はどうやらこの少年を見捨ててはいないかったようだ。
ドッカン!
それは何か固い壁に猛スピードで何かが突込み破壊したような音だった。
「な、何だ!何が起きた!」
「この場所が、割り出されたのか!」
「落ち着きなさい!早く撤退するのよ!」
さっきまでとは別の意味での混乱が場を支配していた。
「なんだこいつら!ぎゃぁぁぁぁ!」
「ひぃぃ!た、助けt…。」
遠くから重火器の音と見張りをしていたであろう人物の断末魔の悲鳴が聞こえてくる。
パンパンパンギィバッタン
誰が聞いても扉を正攻法ではない方法で開けられた音が聞こえた。
「なに、あれ…きっ着ぐるみ!」
冷静だった女の声が一瞬にして困惑に変わる。
「ふもっふ!ふもももふるもふもっふ!」『突撃!人質の保護を優先して一人残らず無力感しろ!』
「「「「ふもっふ!」」」」『了解!』
この場の誰もその光景を現実のものと認識できなかった。
それだけの異常性がこの場を支配していた。
「はっ!撤退、早く撤退しなさい!もうこうなったら引くしかないわ。いくら可愛い着ぐるみが相手でもこっちにはISがある撤退の時間稼ぎはできるわ。」
いち早く意識を戻した女が仲間に檄を飛ばす。
「ふももふもっふ。」『奴の相手は私がする。』
着ぐるみ?集団のリーダーらしき一人?一体?が武装を展開して突出する。
ショットガンを構た着ぐるみリーダーが間合いを詰めながらおよそ着ぐるみとは思えないスピードで突進してくる。
「くぅ!早い、そして可愛い!弾が当たらない、何より可愛い!」
愛らしいやら、恐ろしいやら着ぐるみと侮ったかなかなか手ごわい!そして、可愛い!
「ふもっふ!」『止めだ!』
至近距離まで接近した着ぐるみリーダーはスタンロッドを引き抜くと一閃!
「あぁぁぁぁぁぁ!決め顔もかわいぃ…。」
女の絶叫が建物の外まで木霊するとその場にいた男たちの諦めた様な脱力した声が聞こえた。
着ぐるみ?に保護され、目隠しを外されて一部始終を見ていた一夏は…。
「かっけぇぇ。」
目を輝かせ憧れのヒーローに向ける眼差しで着ぐるみリーダーを見ていた。
一夏に気が付いた彼あるいは彼女は少年に近づき肩に手をかけて。
「ふも、もっふ!」『もう、大丈夫だ!』
声をかけるのであった。
少し時が過ぎモンド・グロッソ会場では二連覇を果たした織斑千冬が最愛にして唯一の肉親である弟が誘拐されていた事実を開催国であるドイツからの報告で漸くしり救出に向かおうとしていた。
『一夏、無事でいてくれお前がいない人生など…。』
「ふーも!ふもふもふっもふも!」
「「「「「ふーも!ふもふもふっもふも!」」」」」
そんなどこかのアメリカ映画の鬼軍曹が訓練中に歌っていたよな音楽が内容とは不釣り合いな緩いセリフで歌い上げてこちらに行進してくる珍妙なそして可愛い一団がやってくる。
「なんだ、こんな時に。」
一刻も早く一夏を助けに行きたい千冬はその一団を凝視した。
『奴らはいったい?なっ何故あの集団の中にお前が!一夏がいる⁉幻ではないだろうか…いやあれは間違いなく。』
妙に楽しそうにその一団の中で合唱に参加している自身の弟がこっちにやって来るをただ茫然と眺める千冬は一旦考えることを止め弟の方向に飛んで行った。
お互いの姿がはっきりと確認できるまで接近しただろか、一夏が姉を見つけ呼び掛けて来た事で漸く目の前の事が現実と理解した千冬は安堵の為か将又緊張の糸が切れたのか彼女にしては珍しく号泣しながら弟の方へと進んで行く。
「良かった!お前が無事で本当に良かった!」
「俺も心配かけてごめん…ごめんなさい!」
姉からのもらい泣きかこちらも号泣と言ってもいい泣きっぷり。
その様子を姉弟を囲み周りから見えないように隠す着ぐるみの団体…はっきり言おう、異様である。
その後泣き止んだ一夏より千冬にこれまでに起こったことを詳細に説明された。
「俄かには、信じ難いしかしここにこうして一夏が無事でいるのが何よりの証拠か…ありがとうございました。貴方方のお陰でまた私達姉弟は再開できた。この御恩は決して忘れはしません。」
「ふもっふ。」『気にするな。』
そう言い残すと謎の着ぐるみ達は何故かその場で軽く跳ぶとそのまま浮遊して高高度まで飛翔した。
最後は恐らく日本の方角へと尋常ならざるスピードで飛んで行った。
後に、この事件の事を人々はこう呼んだ。
ふもっふ事件と…。
更に時は進み2年後、織斑一夏が女性しか扱えないはずのISを使える事実を知った時かつての憧れからボン太くんと名付けられた専用機を駆るのはまた別の話。
?「束ちゃんよりかはマシだけど千冬ちゃんもそれなりに手が掛かるね。」
どうでしたでしょうか宜しければ感想などお願いします。
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ボン太くんのfirstmission
「ふもっふ。ふももふーもふ。」『各員に継ぐ。あと少しで作戦区域に入る。』
「ふもふももふーも。ふもっふふもふもるふも。」『ステルスを解除して。戦闘モードに移行しろ。』
「「「「ふもっふ!」」」」『了解!』
ドイツ上空を飛ぶ謎の着ぐるみ様な一団がいた。
『待っていて一夏君。すぐに助けるから。』
着ぐるみ集団の中の隊長である、相良愛子はそう心の中で呟く。
彼女と織斑姉弟の関係は端的に言えば幼馴染と呼べる。
何てことはないまだ幼い姉弟を残し失踪した織斑夫妻に代わり二人の面倒を見たのが隣家の相良家であったそれだけの事である。
愛子と他のメンバーが纏っている?着ている?着ぐるみに見えるそれは彼女の父親であり世界的有名企業ミスリルの日本支社代表取締役社長相良宗介が己の情熱とミスリルが持てる全ての技術を注ぎ込み作られた日本ミスリル最新のISである。
どうしてこうなった。(ボソッ)
目標の建物が見えてくるがどうやら四方を高く頑丈そうな壁で多い地上からの侵入は無理そうであり、かと言って空から入れば発見され逃げられるのは目に見えている。
じゃあどうするか?愚問である。
「ふもっふ!ふもふももふー!」『各員!突撃陣形!』
「「「「ふもっふ!」」」」『了解!』
「ふもっふ-!」『突撃ー!』
正面から破ればいい!彼女の指示で矢じり型の陣形を組んだ着ぐるみ達が隊列を乱すことなく突っ込んでいく。
その手にランスを持ち片方に大型の盾を持った姿は騎士の様にも見えてとてもシュールである。
ドッカン!
外で見張りをしていた犯人グループの二人は突如として起きた事に混乱していた。
「何!何が起きた!」
「分らん!多分、襲撃だろうけどここまで派手なのは見たことない。」
慌てる二人はしかしプロだったのだろう土煙が舞い上がる中で動く影に気づき銃を構えて発砲した。
チュンチュン カランカラン
だが聞こえた音は弾が当たったにもかかわらず命中を阻まれ地面に落ちた音だった。
煙がはれ襲撃者の正体がはっきり確認出来るようになるとその異様さに困惑する。
「なんだこいつら!ぎゃぁぁぁぁ!」
一人がそう言うやいなや撃たれて気絶した一応非殺傷のゴム弾ではあるが当たれば気絶するほど痛い。
そんな様子を見ていたもう一人は相方が殺されたと勘違いして恐れ慄く。
「ひぃぃ!助けt…。」
言い終わる前に撃たれて気絶した。
無力化した二人を超硬質ワイヤーで縛り建物内に侵入した着ぐるみ小隊は早速保護対処である織斑一夏の捜索を開始した。
『どこに居るの一夏君。』
弟の様に可愛がっている少年の安否が気になり内心焦っている愛子は高周波マイクが拾った男女数人の会話を聞いたそこだそこにあの子は居ると確信してその部屋の扉の前まで進む。
鉄製の少し錆びた扉はそれでも中々頑丈そうである。
しかし、愛子は扉の蝶番の辺りに拳銃を撃つ。
パンパンパンギィバッタン
侵入を阻むための扉があっけなくその役割を放棄して倒れた。
部屋の中に入れば一夏を探す愛子、居たやっはりここに居た!
思ったより元気そうだ。
「ふもっふ!ふももふもるふもっふ!」『突撃!人質の保護を優先にして一人残らず無力感しろ!』
「「「「ふもっふ!」」」」『了解!』
その後は迅速であった犯人グループから一夏を保護した愛子達は鎮圧用の武装を展開して今だフリーズしている犯人たちを取り押さえの係った。
「はっ!撤退、早く撤退しなさい!もうこうなったら引くしかないわ。いくら可愛い着ぐるみが相手でもこっちにはISがある撤退の時間稼ぎ位はできるわ。」
恐らく司令塔と思われる女がISを展開して応戦しよとする。
「ふももふもっふ。」『奴の相手は私がする。』
愛子は鎮圧用から戦闘用武装に切り替え応戦、この新型は機動力が凄い相手のマシンガンの弾より早く躱して避けて翻弄して手に持ったショットガンで牽制する。
「くぅ!早い、そして可愛い!弾が当たらない、何よりも可愛い!」
最早それは新型の独断場だった。
弾が当たらず距離は詰められあっという間に目と鼻の先まで詰め寄られる。
「ふもっふ!」『止めだ!』
最後は近接装備を展開する暇すら与えられずスタンロッドの一閃を諸に受けた。
「あぁぁぁぁぁぁ!決め顔もかわいぃ…。」
勝負あった!その場にいた男たちは脱力してへたり込み、後は超硬質ワイヤで縛り上げられた。
そして、一夏というと。
「かっけぇぇ。」
その一部始終を見てそう呟くのであった。
『よかった。一夏君は無事だケガもないみたいだしよかった。』
一夏の視線に気が付いた愛子はゆっくり近づいて肩に手をかけた。
「ふも、もっふ!」『もう、大丈夫だ!』
モンド・グロッソの会場までの距離を元気に行進する謎の着ぐるみ集団がいた。
「ふーも!ふもふもふっもふも!」
「「「「「ふーも!ふもふもっふもふも!」」」」」
一夏も一緒になっての歌っている曲はあのアメリカ映画の内容があれな曲だった。
愛子の父は元は腕利きの傭兵だったらしく今の会社もその時の縁で勤めているそのせいか社員も傭兵経験のあるものが多いらしい即ちあの手の映画は世話になった影響でよく見るのだそうだ。
そんな事をしていると、進路上に見知った顔が見える一夏の姉千冬がこっちに飛んで来ている。
「おーい!千冬姉ー!」
漸く再会できた一夏は千冬に呼びかけると千冬は号泣しだしてこちらに来た。
「良かった!お前が無事で本当に良かった!」
「俺も心配かけてごめん…ごめんなさい!」
そんな二人を背中で隠しながら愛子も少しもらい泣きしていた。
『良かったね。千冬ちゃん一夏君本当に良かった。』
二人にとって愛子が姉弟であるのと同時に愛子もまた二人は掛け替えのない姉弟なのである。
その後は泣き止んだ一夏からの説明で事情を知った千冬は信じ難いもの見る顔で着ぐるみ達を見ていたが。
「俄かには、信じ難いしかしここにこうして一夏が無事でいることが何よりの証拠か…ありがとうございました。貴方方のお陰で私達姉弟は再開できた。この御恩は決して忘れません。」
千冬の畏まった言葉を聞くも何を今更と思い。
「ふもっふ。」『気にするな。』
そう言うと日本へと帰った。
その道中、愛子はこの新型の名を何するか考えていた。
『そうだ!ボン太くんにしよう。』
その後、日本ミスリルが世界にボン太くんを売り込んだが注文を受けたのはマイアミ市警とFBIだけだったらしい。
その二年後、織斑一夏が専用機をボン太くんにするまで存在を一部のファン以外忘れられたのは言うまでもない。
宗介「やはり、使えるじゃないか?なぜ売れなかったんだろう。」
フルメタの世界とは違う世界線でミスリルが企業として残ってるという設定です。ついでに愛子の母親はかなめです。
どうでしたか、また感想などありましたらよろしくお願いいたします。
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動き出したふもっふprologue
早朝まだまだ薄暗く日も登りきらない時間、一人の少年が比較的広い通りをある程度のスピードで走っている。
織斑一夏だ、時はふもっふ事件から2年の時が過ぎていた。
あの日を境に彼は早朝と夕方のランニングや隣家の相良親子の特訓などのトレーニングを始めていた。
数か月前までは愛子の紹介で早朝と夕刊の新聞配達のアルバイトをランニングのついでやっていたのだが受験が近くなってきた事もあり辞めている。
そして今日これから高校受験の本番を迎え気合を入れるのと思考を落ち着けるために日課のランニングで汗を流していた。
『やれる事はやった。後はこれまで積み上げてきたものを出し切るだけだ。』
気合も自信も十分といった思いが彼の表情には現れていた。
そうこうしているうちにいつものランニングコースの終点の小高い丘の上にある広い公園に着く。
心地よい疲労感といつもの充足感を感じつつ昇り始めた朝日に目を細める。
今日は快晴であるちらほら見える雲が朝日に照らされいつ見ても幻想的なこの光景を彼は眩しそうに眺めていた。
受験前の彼にとってこの見慣れた景色はそれでも決意を固めるには十分なものだった。
『絶対合格してみせる!』
決意も新たに一夏は来た道をまたランニングしながら戻る。
辺りが大分明るくなり早朝の散歩などでちらほら人とすれ違い始める頃家の前まで来た一夏に誰かが声をかけた。
「おはよう。一夏君、今朝もランニング?」
「おはようございます。かなめ小母さん、はい、じっとしてられなくて。」
その人は隣家に住む相良家の家主相良宗介の妻相良かなめである。
千冬と同じ位の年齢の娘がいるとは思えない若々しい見た目だが肝は太く怒らせると怖いがとても優しい母親である。
織斑姉弟も実の母の様に慕うそんな人である。
「気合を入れ過ぎるとは本番でばてるわよ。一回深呼吸して落ち着きなさい。」
彼を幼い頃から見てきたかなめは自信が有り余って空回りする彼の悪い癖を心配してそう忠告してきた。
「分ってます。これからシャワーでも浴びて冷静になろかと思ってます。」
「それがいいわ。頑張りなさい一夏君!」
そんな他愛の無い日々の一幕の後一夏は帰宅してシャワーを浴びるもちろん冷水で運動で火照った体を冷たい水か濡らしとても心地がいい。
その後まだ時間があると感じた彼は英語の単語帳を持ち最後の追いこ込みに係る。
そうして時間を過ごしていると玄関から聞きなれた声が聞こえてきた。
「一夏君!お母さんがご飯できたから一緒に食べないかって言ってるけどどうする?」
相良家に一人娘愛子が朝食を一緒にどうかと誘いに来た。
「もちろん食べるよ待てって今行くから!」
一夏にとってこれも大して特別な事では無い幼い頃から相良家で食卓を囲むのはよくあっる事である。
千冬の帰りが遅い時などは愛子が織斑家に行って一夏を寝かせる事もあるぐらい両家の距離は近かった。
「おはよう一夏。今日が本番だな!」
相良家に上がると家主の宗介が声を掛けてきた。
「はい!今日が勝負の日です!」
一夏が答えると宗介が徐に何かを取り出してきた。
「これは俺が引退する前から使っていた御守りだこいつを持っていけ。」
宗介が出したのはアサルトナイフだったので一夏が困惑した。
悪気はないのだろうが宗介は偶に扱いに困るものを出してる。
スッパン!
そんな心地の良い音と共に宗介が前のめりに倒れる。
「あんたはまたそんな扱いに困るんを一夏君に見せて!一夏君が困ってるじゃない!」
音に正体はかなめが宗介の後ろからハリセンではたいた音だった。
音もそうだが大人の男を倒せる威力をただのハリセンで出すかなめも凄い。
「何故だかなめ?俺はこのナイフのお陰でやり過ごせた難局も数知れずあるのだ。きっと一夏の役に立t…。」
スッパン!
以外に大丈夫そうな宗介はいつもの様に反論しよとするもまたハリセンを喰らう。
「だからそういうのが困らせるんでしょが!いいあんたの常識は世間の非常識なの受験会場そんなの持ってたら一夏君が会場から締め出されるでしょうが!」
言い募る宗介を気にもかけず反論を封じるかなめ。
この夫婦大概こうであるので一夏も慣れた様子でリビングに向かう。
朝の夫婦漫才から復帰した相良夫妻と愛子それから一夏が朝食を食べ終わる頃には出発するには丁度いい時間になっていた。
「じゃあ行ってきます!」
「あっ!待って一夏君!」
意気揚々と家を出よとする一夏を愛子が呼び止めた。
「はいこれ合格祈願の御守り。」
それは勉学の神が祀られた神社の御守りだった。
「ありがとう。愛子姉さん絶対合格するから!」
「うん!頑張れ一夏君!」
その後、電車で数駅離れた試験会場に入った一夏だったが道に迷い右往左往していた。
「どこだ?試験時間には余裕が有るとはとは言え。こうしていても始まらないここは一つ勘を信じてどこかの部屋に入ろう。」
そう腹に決め、近くの扉を開けた先には待機状態のISが鎮座していた。
どうやら入る部屋間違えたらしい。
直ぐに出ようとした一夏だったが何故かIS気になり近づいて観察し始める。
何故こんなにISが気になるのか分からないが惹かれるものを感じて彼はISの触れた。
その時、脳内に直接情報が送り込まれたよな感覚に襲われ驚いた彼は一瞬目を閉じた。
恐る恐る目を開け視界が開けて来ると先ずいつもの視界より高い位置に自分の視線があることに気が付く。
落ち着いて自分の周りよく見るとさっきまで目の前にあったISがない事に気づく。
そして自分を見ると。
「なんだこれ⁉なんで俺ISを!!」
なんと一夏が女性しか使えないはずのISを纏っていた。
今の自分の姿に困惑していると出口の方から声がする。
「今だれかの声が聞こえたけど誰かいるのォオオオオ!」
「どうしたのよ?何かあったってえぇぇ!」
入ってきた女性たちは驚きの声を上げその声釣られて人が集まって来る。
そうして集まった人の中で一人が呟く。
「男がISを使ってる…。」
この事件は瞬く間に世間に知れ渡った。
男で唯一ISを扱える存在織斑一夏彼とボン太くんの再開まで後僅かである。
?「始まったね。いっくんこれから起こることを楽しみにしてるよ。」
いかがだったでしょうか。
ボン太くんが出てこないだけでギャグが不足しているこの話ですが。
感想などありましたどうぞよろしくお願いいたします。
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動き出すふもっふpreparatory period
ボン太くんもしかしたら最後の方でチョロっと登場するかも…。
織斑一夏がISを動かしてから四日が過ぎた。
最初は自宅で大人しく過ごしていたが三日が過ぎた頃、我慢の限界が来て外へ出た。
しかしそこには自宅の前を占拠した報道陣が詰め掛けごった返していたそんな中で外に出てきた一夏は取り囲まれインタビューを求められフラッシュは無数に瞬いて恐怖が駆り立てられる。
急いで自宅に戻ったが凄まじい圧迫感にすっかり参ってしまった一夏は隣家の相良家に助けを求めることにした。
「要件は分った。一日待っていろ俺が何とかしよう。」
電話越しそう頼もしく答えてくれた宗介に心の底から感謝した一夏は約束通り一日待った。
次の日織斑家の電話が鳴る宗介からの連絡だ。
「一夏取り敢えず裏口から外に出ろ今から迎えに行く。」
迎えに行くとどういう意味だと疑問に思っていると。
キィーバン!
裏口から何やらアクション映画でしか聞いた事が無いような車のブレーキ音が聞こえてくる。
『まさか宗介小父さんじゃないよな?』
しかし現実は非情である。
「一夏!まだ中にいるのか!早くしないとマスコミに嗅ぎ付けられる早く乗れ!」
大声で自分を呼ぶ少しズレた宗介の声に一周回って安心すら覚える。
急いで裏口から外に出ると宗介がワンボックスカーを横付けして待っていた。
表の通りが騒がしいどうやらマスコミが裏口側に一斉に移動を始めたらしい。
急いで車に飛び乗ると宗介は車をバックで急発進して広い通りで車体を前に戻した。
「どこに行くんだよ!宗介小父さん。」
「空港だ。一夏お前の身柄は日本政府との交渉でミスリルが預かることになった。」
「へ?あの俺の身柄がなんだって?」
「今は詳しく説明してる暇はない!向こうに着いたら説明する今は俺を信じろ!」
「う、うん。分かった。」
正直何が起きてるか半分も理解出来なかったがそれでも宗介の目が頼もしい父の目であった様に見えたのだ,だからだろうかこの人を信じてみることにした。
あれから数十分走り続けただろうか目の前に航空自衛隊の基地が見えてきた。
「身分証の呈示をお願いします。」
「日本ミスリルの相良だ話は通しているはずだ。」
「少しお待ちください今確認いたします。」
「早くしてくれ。マスコミに追いつかれる。」
「確認が取れました。どうぞ中へ。」
そんなやり取りが聞こえる。
どうやらこの人は自衛隊に顔が利くらしい。
今まで疑問にも思わなかった隣人の素性が今更ながら気になりだす。
基地の中を車で進み滑走路なのか広い場所に出た。
そこには一機のヘリがローターを起動させて泊まっていた。
「ここからはあれに乗って移動する。」
そう手短に言われ素直に従う一夏はこれからどこへ向かうのかという疑問を感じずにはいられなかった。
ヘリの乗って二時間半程たち目的地と思われる一つに島が見えてきた。
その島に上陸して辺りを観察すると綺麗に整備され何かの実験棟だろか高いビルが見える。
「宗介小父さんここはいったい。」
一夏の問いかけに。
「ここは俺の会社…さらに言えば俺はとある大企業で日本の支社の社長を任されていてな所謂ここもその支社の土地なんだ。」
「しゃっ社長!小父さんって何者?」
「一夏くーん!」
驚愕の事実の驚いているとよく聞きなれた声が聞こえてきた。
この施設での制服のような服装ではあるが愛子がこちらに走って来る。
「愛子姉sぶっ!」
「よかった。元気そうでもう大丈夫だよ。この島に居れば安全だから。」
出会うなり抱きしめられてどこにとは言わなないがうずめる愛子の体型はかなめ譲りなので大きさはかなりあるそんな地獄と天国を味わいながら放して欲しいと愛子の腕を軽く叩くことで漸く解放された。
「愛子すまないがこれから俺は用がある一夏の案内は頼んだぞ。それと一夏これはゲスト用の社員証だ使い方は愛子に教えてもらえ。」
そう言って宗介はその場を離れた。
「じゃあ案内するね。でもこの島て結構広いからゆっくり見て回りたかったらあれが一番かな。」
愛子の目線の先に二人乗り自転車があった。
それから愛子の案内で主要な施設と利用の上での注意事項等の説明を受けた一夏はここに来るまでに気になっていた事を聞いた。
「あの…宗介小父さんが言ってたんだけど。俺の身柄をミスリルで預かることになったてどうしてそうなったの?」
「えっ!あぁ、もうお父さんたら肝心な事を言う前にいなくなっちゃダメじゃない。」
「説明してくれる?」
「うん。いいよ、そうだねあれは昨日一夏君が電話してきた直ぐ後だったかな…。」
愛子は昨日の事を思い出しながら語ってきた。
~1日前~
「官邸にいってくる。」
自宅にいた宗介は突如としてそう言い出した。
「あんた急に何言って!そう…さっきの電話一夏君からなのね。」
久しぶりに見る夫の鬼気迫る表情で全てを悟ったかなめは上物のスーツをタンスの奥から出してきた。
立場は変わってもやはりこの人は戦士だこの表情がしっくりくる。
ならば今この戦士に最も相応しい最高の衣装を用意しよう。
「すまいない。かなめ…。」
「いつもの事じゃない。あんたはいつも人も為にその顔できる、だから精々政治家どもの顔でも引き攣らせてきなさいな。」
そんな両親の会話を聞いていた愛子に宗介が声をかける。
「愛子、お前も来い。お前の持ってるデータが必要になるかもしれない。」
「う、うん。分かった。」
普段と違う父の様子に戸惑いつつ自分も上物のレディーススーツに身を固める。
政府官邸に着くと直ぐに警備員止められるも移動中に愛子がアポイントを取っていた為すんなり通される。
向かった部屋の中には今回の騒動で動いている責任者が並んでいた。
「急な訪問にも関わらず応じて頂き感謝します。」
丁寧な言葉使いにも関わらずその言葉の端々に敵意が読み取れる。
「前置きはいい何かいいたいのだろさっさといたら言ったらどうだ。」
こちらは苛立ちを隠すつもりもないのか不躾である。
「はっ。では端的に申し上げます。織斑一夏とその周囲へ報道規制を敷いて欲しいとお願い申し上げたはずですが先ほど一夏本人からマスコミの囲い込みにあったと連絡がありました。これは一体どういうことか説明して頂けますか。」
宗介は事前に手を打って報道機関へ圧力をかけるように政府に進言していた。
しかし今朝の電話でこちらの要望が通ってないことの説明を求めたのである。
「呼びかけが遅れているのだろう何せ我々は多忙なのだから。」
返って来たか答えは余りのも横柄なものだった。
この分では他の申し出もどうだか分かったモノではない。
宗介は、早々にこの無意味なやり取り中断して強硬手段に出ることにした。
愛子に目配せ例のデータの準備をさせる。
「そう言うことでしたらこちらにも考えがあります。」
そう言い放つと愛子が持ってきた端末に繋がれたプロジェクターから関係者全員が見えるよにある画像が映された。
「なっ!貴様らどこでこれを!」
関係者全員が青い顔して映された画像を見ていた。
そう彼らのこれまでやって来た不正の証拠の数々をその内一つでも世に出れば彼らの政治家生命を絶ち兼ねない劇物ばかりがその画像の中にあった。
「私共の要求は一つ織斑一夏の身柄をミスリルに預ける事それだけです。」
冷ややかな視線を俗物ぶつけそう冷たく言い放つ。
「ふざけるな!あれはわが国がIS事業を躍進させるための貴重なサンプルだ!」
誰かがそう発言すると愛子が我慢の限界を超えて怒鳴りかかろうとしたがそれを宗介に制される。
宗介は胸元のポケットから棒状の物だしスイッチを押した。
先ほどのセリフが再生され発言した者は自らの愚行に顔が白くなる。
「勘違いされては困ります。これは提案などではない!脅迫と命令だ!」
その言葉で場が凍り付き一気に気温が下がった錯覚すら覚える程だった。
「分った。織斑一夏はミスリルに預ける。」
「長官!」
「黙れ!これは決定事項だ。」
漸く全てが終わり相良親子が退室しようとした時あの中の一人に呟きに宗介は我慢の限度を超えた。
「何故ただ家が隣と言うだけの小僧に肩入れする。」
「何故だと!あの子達を幼い頃から面倒見てきた俺の前で良くもそんな事を言えたな。あの子達は俺とかなめが育てた俺達の子も同然だ!」
それは父の初めて見る激怒だった。
父が怒った所を見なかった訳ではない。
しかしそれでもこれ程の怒りを見せたことは少なくとも私の前では初めてだ。
~現在~
愛子が語ったことの顛末を聞いた一夏は目頭熱くなるの止められなかった。
両親がいない自分を実の子でもない自分達をここまで思い愛してくれていた相良夫妻の感謝の念で心が溢れる。
その様子を優しく見守る愛子はふと気が付く。
「あぁぁぁ!あそこにまだ連れて行ってなかった!」
突如となりで大声を上げる愛子に驚き何ごとかと見つめる。
「一夏君!ここの施設の中にはIS部門もあるからせっかくだし見に行こう!」
そして愛子と二人でIS専門の施設に近づくと一夏はあるものみつけた。
それは運命の導きかそこにいたの紛れもなくあの日自分を救ってくれたヒーローであった。
「あれが気になる?あれはねぇボン太くんていうの今はもっぱり新技術や新武装のテスト機としてしか活動してなくて。って、あれ?おーい!一夏くーん!」
「愛子姉さん。俺あれに乗りたいボン太くんを操縦したい。」
それは運命の出会いだった。
導かれるように一夏とボン太くんと呼ばれたISは再開した。
宗介&かなめ「へっくしゅん!風邪でも引いたか/しら?」
長い!そしてギャグ要素がぁぁぁ。
次回からボン太くんが本格参戦です!
ギャグ不足で二話目投稿するのにギャグ減らしてどーすんだ!
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。(⤵」
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胎動のふもっふlearnihg period
これで前の二話から続くギャグ不足が!( ;∀;)
ミスリル島での話も今回で終わりの予定です。
どうぞ。
織斑一夏がミスリルに保護されて五日目。
彼は今、愛子と組み手をしていた彼だけボン太くんを装着して。
「大導脈流活殺術奥義!血栓掌!」
「ふもー!」『ぐはぁー!』
しかし、その勝率は圧倒的に愛子が勝っていた。
原因ははっきりしていた、愛子自身千冬や篠ノ之束と比べても遜色ないレベルの実力者に加えて一夏がISの操作に慣れていないのが原因だ。
実際5時間ぶっ続けでやってるこの組手でも普段なら勝てないにしても一本位は有効打を決めらるはずの所をいまだ決められずにいた。
二年間宗介は勿論愛子にも特訓をつけて貰っていた一夏ではあったが、それでも普段の動きが出来ない事にやり難さを感じていた。
その時、彼の耳元で機械的な音声が発せられた。
[ゲストユーザー一夏の格闘戦による行動パターンの解析率90%まで収集完了しました。これまでのデータを補助AIに転送します。]
「ふもっふ。」『やっとか。』
「お疲れ様。一夏君。」
「ふっもっふ!」『一夏君じゃないボン太くんです。』
「あ、アハハー…。」
何をしているかと言えばボン太くんには通常のISと違いコア以外に補助AIが搭載されており、今はその補助AIの一夏のパーソナルデータを送り学習させる作業をしていた。
勿論一夏のISの操縦訓練を兼ねてではあるが。
一夏の装着しているボン太くんトレーナーはそういったデータ収集を目的としたボン太くんのモデルであり練習用としても扱いやすい機体である。
ボン太くんを一旦脱いだ一夏は昼食を取るため愛子と共に食堂へ移動していた。
「一夏君、初めてISの操縦してみたけど感想は?」
「難しい?かな思った様に動けないってかんじだった、慣れていけば変わるかな。」
「それは何とも言えないね。そうゆうのって人それぞれ何だ直ぐ慣れちゃう人もいれば何年経っても慣れない人もいるから。」
「愛子姉さんは?」
「私?私の場合ね、乗った後すぐこの子は使いやすいって子に出会って慣れるは直ぐだった。」
「ISにも相性ってあるんだ。」
「そりゃあるよ、だってコアには意思があるんだから。」
「それよりお昼食べたら。座学をやるよ。」
「うへぇ~。」
「ISは乗るだけじゃダメちゃんと知識もないと非常時なんか対応出来なくなるし何よりよく知ってれば慣れるのも早くなるんだよ。」
「そうなんだ。じゃあしっかり知っておいた方がいいね。」
そんな話をしながら食堂に到着したらお昼時なのか中は混んでいた。
席が取れるか不安だった二人に声がかかる。
「愛子に一夏か昼飯か?丁度いい俺が席を取って置くから飯を取ってくると良い。」
宗介がそう声を掛けてきた。
愛子の話を聞いてまだ一日しか経ってなかった一夏はどう返せばいいか困っていると。
「ありがと。お父さんはもうランチメニュー取ってきたの?」
「いやかなめが弁当を持たせてくれたのでなそれですませる。」
愛子が宗介にそう返して逆に質問していた。
実のところ宗介は結婚してからずっとかなめの手製弁当以外は外ではあまり食べないのを知っていた愛子は一夏を気遣っての質問だった。
ここの施設の食堂はカフェテリア方式を採用している、働いてる職員が多国籍である為にそれぞれの食文化に合わせるよりもこちらの方が効率がいいのである。
愛子は、ここでの食事は中々楽しめるために気にっている。
そして一夏は準和食を中心におかずを取っていく。
二人とも自分のおかずを取り終えると宗介が待つテーブルへ足を運んだ。
「お待たせ。お父さん待った。」
「いや大丈夫だ俺もさっき空席を見つけたばかりだからな。」
「そっか。あっ一夏君どうしたのこち来なよ。」
一夏が宗介との距離の測り方に戸惑っているのを見てやれやれといった表情で愛子が声を掛けてきた。
「う、うん。宗介小父さんこんちは…。」
「うむ。一夏ここの生活はどうだ?少しは過ごしやすい場所を選んだつもりだが不都合はないか?」
気遣った表情でこっちを見て聞いてくる宗介に照れてるような気にして貰えて嬉しいような複雑な感情で答える。
「大丈夫。過ごしやすいよ。」
「そうか、よかったかなめにも相談して決めたから問題は無いとは思うがこれから何か不都合があったら言ってくれ。」
「あの…。」
「ん?どうした一夏どうかしたのか。」
「愛子姉さんから聞きました。あの、俺の為に怒ってくれてありがとうございます。」
「な!愛子お前!」
「おはは。独り言が聞こえちゃってたかな。」
悪びれた様子ない愛子に呆れた顔をした宗介は一夏の頭に手を置き。
「気にするな。子供の事で怒るのは親の義務だ。」
優しく微笑みながら頭を撫でた。
一夏はただ黙って受けてめていた。
それから昼食を食べ終わり宗介に礼を言うと別れ二人でスクリーンの付いた講習室のような部屋来た。
「早速始めるけど。初歩的の事からから聞くねIS呼ばれるパワードスーツは最初何の目的で作られたのか分かる?」
「うん。宇宙開発が目的だっけ。」
「そう、最初の目的はねじゃあ現在のISはどうかな?」
「競技用が主流で軍事目的での運用は原則禁止されてる。」
「ここまでは良し。じゃあ現在の形式なる切っ掛けとなった事件の総称は?」
「白騎士事件だよね。」
「大体は把握しているとじゃあ最後の質問世界中で存在してるISコアの総数とその数の訳は。」
「467個これは篠ノ之束博士が失踪前に作った数であり束さんしかコアは作れない為現状の数ではこれだけだったはず。」
「うん。それで当たってるよ。それじゃあこれからもっと踏み跳んだところを教えていくからね。」
「はい!お願いします。」
それからまた五時間位座学を習いお開きになった。
そんな日常を3週間程続けた時、宗介からの連絡で自分のIS学園への入学が決定された事を知らされる。
最初こそ抵抗した一夏だが愛子が教員として着いていくことで折れた。
時は一夏がIS学園入学が決まった日の夜、ここミスリス第7島のラボにうさ耳にゴスロリドレスと言った独特な服装の特異な雰囲気を纏った女性がいた。
「これがいっくんの専用機になる子かぁ、中々可愛いじゃない!」
異様にテンションが高いが成る程この人も女性可愛いものは大好物のようだ。
「おぉといけないいけない。じゃあ早速これをインストールさせちゃおう!」
「私の作品に何しよとしてるかな~束ちゃ~ん。」
「ひょわ~!ってなんだあーちゃんかぁ~びっくりさせないでよ~。」
気配も感ずさせずに自分の背後に居た幼馴染に驚き柄にもない声を上げる。
篠ノ之束と織斑千冬そして相良愛子は友人であった。
更に愛子は千冬に迫る格闘センスと束と引きを取らない頭脳と開発能力を有していたので二人に取っては無くてはならない人物でもある。
「それであの子に何しよとしたのかなぁ~。」
「ひぃ!いや、あの別に怪しい装備データをインストールしようとしてたわけじゃなくてですね。」
束の目が泳ぐそして自分から魂胆を暴露した。
「はぁ。いいよ入れてもその子なら通常とは違う形態時の主装備に組み込むだろうし。」
「へ!いいの!ていうか通常とは違う形態って何?」
「それは発動してからのお楽しみだよ。」
「う~ん。気になるけどそう言われちゃ仕方ないか。」
許しが下りた事に気をよくして束は武装データを機体にインストールすると帰っていった。
「さて!私も仕上げますか。アルビノを…。」
奇しくも二人の天災と天才の合作となった織斑一夏専用機はもうすぐ完成の時を迎えよとしていた。
千冬「一夏~!早く帰ってきてくれ~!」
ギャグ「今度から本気出す。」
本当に?
ギャグ「本当だ。」
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IS学園のボン太くんfirst volume
宗介からもう自宅に戻っても問題ないとの報告を受けた一夏は最後に自分の相棒を見ておくべくラボに向かって歩を進めていた。
思えば期間にして一か月はこの島で過ごした。
最初こそ勝手が分からず困惑する場面もあったがこのその度に職員やスタッフが声を掛けて助けてくれた。
名残惜しくはあれどしかし、千冬が心配である一夏は自分の専用機の姿を確認してから自宅に帰ることを決めた。
「失礼します。愛子姉さんはどこに居ますか?」
「いらっしゃい一夏君。愛子ちゃんなら二番ラックのはずだけど。」
「ありがとうございます。」
ラボの職員に愛子の居場所を聞くと二番ラックに向かった。
「あれ?一夏君、お父さんから帰宅できるて聞いて帰ったかと思ったけど?」
「うん。でもその前に相棒を見ておきたくて。」
「あぁ。成る程じゃあちょっと待って今カバー外すから。」
そう言うと愛子は専用機と思われる機体にかかったカバーを除けてその姿を現した。
「これが俺の相棒…!」
「そうその名もアルビノボン太くん!まだ完全じゃないけど一応作動はするよちょっと乗ってみる?」
愛子の申し出に一夏は頷きそうになるが。
「いや、楽しみは後にとっておくよ。」
「そう。じゃあ気合い入れ仕上げなくちゃ!」
この次会う時が真の意味での始まりと心に言い聞かせその場を後にする。
ヘリポートに行くと宗介がヘリを待機させて待っていてくれた。
「もういいのか?」
「うん。これ以上千冬姉を待たせたら家の中がどうなるか分からないし。」
「そうか。じゃあ出発するぞ。」
一か月前に来たこの場所に別れを告げ一夏は一路自宅への帰路に就く。
そうして久しぶりに帰って来た街は懐かしいよなそれでも変わらぬ風景で一夏を出迎えた。
自宅の前に着き深呼吸する。
家の中がどんな惨状であっても受け入れる心の準備を整え玄関の戸を開けた。
「うっ!」
予想より三倍酷い!外向けの顔がいい分私生活がボロボロの千冬はドイツでの教官時代で多少緩和されたと思ったがそうでも無かったらしい。
『これは骨が折れそうだ。』
一夏は腹を決め先ず目の前の散らかったゴミを片付け始めた。
片付け始めて三時間程経っただろうか。
二階建ての家の中も大分片付き纏めて洗った洗濯物が乾くまでの小休止を取るため五反田食堂に向かって歩いていた。
「こんちわっす。」
「おおぉ!一夏じゃねえか暫く顔見なかったけど元気にしてたか?」
来るなりそう出迎えてくれた中学から友人の五反田弾が店の手伝いの途中らしいが声をかけてくる。
「あぁ。少し宗介小父さんの会社の島で過ごしてた。」
「はぁ!会社で島!あの人どんな仕事してんだよ⁉」
「詳しくは教えて貰えなかった。結構規模の大きい企業の支社で社長やってるて言ってたな。」
「はぁ。世間て以外に狭いんだな。」
「それより注文頼むよ。」
「あぁはいはい。いつものでいいか。」
「それで頼む。」
「爺ちゃん!業火野菜炒め一つ!」
「あいよ。」
ここ五反田食堂は五反田弾とその妹蘭の祖父五反田厳の営む大衆食堂だ。
相良親子は勿論織斑姉弟も偶に立ち寄る事があり料金よりも大盛りのメニューが食べられると近所で評判の店なのである。
「業火野菜炒めお待ち。」
という威厳を感じる声で注文の料理を出す厳は一夏が来ている事に気が付く。
「一夏か随分久しぶりだな。」
「はい。厳さんもお変わりないようで。」
「蘭が会いたがっていた。顔見せていってやれ。」
そう言うと厳は厨房の奥に戻っていった。
「うん!やっぱここの野菜炒めは美味いな!」
が当の本人は出てきた料理に夢中の様だ。
「はぁ。これさえ無ければなぁ~。」
「何がだよ弾。」
「何でもねぇよ。」
久しぶりの五反田食堂の料理に舌鼓を打ちご満悦な一夏と呆れる弾が居るいつものひと時がゆっくりと流れていた。
「ただいま~。って一夏さん!」
どうやらタイミングが良かったのか蘭が帰宅するのと一夏の来店が重なった。
「ん?よう蘭、久しぶりだな。」
「おっお久しぶりです。あの今までどこに?」
「宗介さんの会社の保有する島だとよ。」
蘭の質問に一夏では無く弾が答えた。
「お兄には聞いてないって!会社で島~!」
さっき弾がしていたリアクションを同じようにとる蘭…やはり兄妹か。
それから一夏は弾にした説明を蘭にもして料理を綺麗に平らげてから五反田食堂を後にした。
自宅に戻った一夏は乾いた洗濯物を取り込み細かい所の掃除を終わらせて千冬が帰宅するのを待った。
「ただいま。うぉ!家の中が片付いているという事は一夏帰ったのか!」
それは千冬にしてはオーバーなリアクションだった。
どうやら暫く家を空けてるうちにどこかおかしくなったのだろうそう結論着け玄関に向かう。
「なんだその、可哀想なモノを見る目は。少し見ない間に随分偉くなったじゃないか?」
しかしそうではないと気付いた時には千冬の拳骨が頭を捉えていた。
久しぶりの痛みだ悶絶しながらも懐かしさがこみあげて来る。
そんな一幕からさっさとリビングに行った千冬と復帰まで少しの時間がかかった一夏は久しぶりに姉弟水入らずの夕食を取った。
「そうだ明日お前の試験があるのを伝えて置く。」
「え?あっ!うん分かった。」
試験と言えばIS学園関係だろうこの一か月の訓練の成果を見せるには丁度いいと意気込む。
しかし当日まさかの試験官のミスで不戦勝になった事は今の一夏には予想が出来無かった。
そんなこんなで時は過ぎ場所はIS学園。
織斑一夏は瞑想することで居た堪れないこの場を乗り切ろうとしていた。
ジィー
『心を無に!無にするんだ!お前ならできるそうだろ織斑一夏!』
無数の視線を感じる中で必死になって無になろとする一夏の想いが届いたのか。
チャイムが鳴った。
恐らくこのクラスの担当教師であろう幼さが残るある一点関してだけはしっかり成長した女性が教団に立った。
「おはようございます!今日からこのクラスを担当する副担任の山田真耶です。よろしくお願いします!」
反応がない事で心が挫けそうになるが必死に耐える真耶頑張れ!
「じゃあ先ず自己紹介からしてもらいましょか!右の烈から順番にお願いします。」
どうにか持ち堪え自己紹介まで持ち込んだは順繰りで一夏の番に差し掛かり。
クラス中の視線が一夏に集中する。
果たして一夏はどんな自己紹介をするのかそれは後半で。
ガタガタ
クラスメイト一同「今じゃないんかい!」
ギャグ「どうでした?」
落第点
ギャグ「何故だ!」
じゃあコメントにあった通り…。
ギャグ「待って後半戦!後半戦で巻き返すから!」
じゃあ後半まで待ってるから次しっかりやてね。
ギャグ「おうよ!ヤベーよ後がねぇ…。」
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IS学園のボン太くんlast volume
ギャグ「分ってる。」
自己紹介の順番が回ってきた一夏は瞑想から抜け出せていないのか反応が無い。
「あの~。織斑く~ん。聞こえてますか~。」
真耶のが声を掛けるも反応がない。
「あの~!織斑君!本当にきこえてますか~!」
焦りのあまり大人とは思えない落ち着きのなさで一夏に問いかける。
「ん?おわっ!」
「良かった。じゃあ自己紹介を織斑君の番ですよ。」
「あぁはい。」
席を立つとクラス中から期待の籠った視線が送られる。
「俺は織斑一夏。どおいった訳かISを動かしここに居るけど、男だからって煙たがる者もいるだろうが級友として受け入れてくれると有難い。以上だ。」
「なんだお前にしてはマシな自己紹介もできるじゃないか。」
「千冬ねぇっ!」
スコンッ!
教室に入ってきた織斑千冬の出席薄が縦にして一夏の脳天の突き刺さる。
その一撃を見舞う姿がかなめと被って見えたのは幻ではないはずだ!
やはり子は親に似るというのは古今東西どこに於いても通じるものらしい。
「ここでは織斑先生と呼べ。今回は手加減したが次はこうはいかん。」
「yes!ma'am!」
スゴンッ!
またも出席薄が脳天に突き刺さるしかもさっきより痛い!
「誰が!女軍曹だ!」
「いえ!そこまで言ってないであります!」
スッコン!
今度は腰を捻り威力を上げてきた!
「まあまあ。織斑先生それ位で後もつっかえてるみたいですし。」
女神の助けとはこのことか!
そこに居たのは女神様!いや違った!愛子さまがいた!
「相良先生。しかし…。」
「彼も理解したみたいですし。ねぇ織斑君。」
「はい!理解しました。」
「むぅ…。今回は相良先生に免じて許してやるが次はない。」
やっとコントが終わったと思ったら何やら教室の雰囲気が妙だやけに静かと言うかなんていうか嵐の前の静けさとでも例えようか。
いや実際嵐の前の静けさだったのだろうなにせ。
「諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。諸君等を一人前のIS乗りに育てる役目を私は担っているその為にきついことも言うがそれでもあえて言おう着いてこい!」
「キャ⁉」
「「「「「「キャー千冬様~!」」」」」」
中々の声量と破壊力!事実、一夏は耳を抑えて耐えていた。
「まったくなんで毎年こうバカが集まるのか。」
「アハハ。これはちょっと引くね~。」
中々収まらない千冬コールに真耶は今にも泣きだしそうになりながら必死に宥めようと試みている。
「はぁ。仕方ない。」
愛子がそう呟くと教壇に立ち。
パンパン!
この状況でもよく聞こえる音でクラスの注目を集めた。
彼女は手に銃を持っていた。
勿論音が出るだけの見せかけの銃だがクラスを静かにするには十分だった。
「私は相良愛子と言います!ミスリルからの派遣でこのクラスのもう一人の副担任をすることになりました。」
「あの…先生。今のって…。」
「今の?なんの事ですか?」
「いや。あのだから今!」
「何の事ですか⁉」
「いえ…何でもありません。」(涙)
愛子の行動で教室は静かになった。
そして、クラス全員が感じた事それは。
『相良先生だけは怒らせないようにしよう。』
そう固く誓ったのだった。
「助かりました。相良先生。」
「いえいえ。」
「…。」
自分の同僚二人を見てこれ一年やっていけるか不安になる真耶であった。
最初こそハプニングはあったもの後はこれと言って問題も起こらずと言うか愛子が居るから起こせず。
最初の授業は恙無く過ぎていった。
そして休憩時間になった。
さっきの事ですっかり気分が落ち着いた一夏はやはり瞑想に更けていた。
「少しいいだろか?」
彼に声を掛ける人物が一人。
ゆっくり目を開け目線だけをそちらに送れば。
「箒か。久しいな。」
瞑想のし過ぎで言葉遣いがおかしい。
篠ノ之箒である彼女は天災篠ノ之束の妹であり一夏が小学生の頃に転校したきっり疎遠になっていた。
「あぁ本当にな。今から少し着き合って貰っていいだろうか。」
「構わん。行こうか。」
やはり言葉遣いがおかしい!
そんな一夏と箒は教室を出て人目の付きにくい場所まで移動した。
「数年振りだな。一夏…。」
「あぁ。そう言えば剣道での大会の優勝の記事しかと拝見させてもらったぞ。」
「見てくれたのか!それはありがたい。」
「旧友の活躍だと聞いて心が躍ったぞ!おめでとう!」
「あぁ。ありがとう。」
言葉遣いがおかしいのはこの際置いておくにしてもだ。
箒。何故突っ込まないこれも恋に盲目な乙女の弊害なのかそうなんだな!
その時、チャイムが鳴る。
「戻ろうか。」
「うむ。そうだな。」
一夏と箒は少し急いで教室に戻る。
あっ!あの言葉遣い授業が始まったら直りました。
次の授業は真耶の担当だった。
授業を粛々進めていく中で真耶は一夏に聞いてきた。
「織斑君解らな無い所はありませんか。」
一夏が授業内容についてこれているか心配になった真耶は聞いてくる。
「今所は問題はありません。それよりその字も違ってますよ。」
愛子に一か月ミッチリ座学を教えて貰った一夏には復習をしている様なものだった。
そして、間違いを指摘された真耶は。
「あ!あぁ…本当ですね。何やってるんだろ。」
「落ち着いて下さい。とても解かりやすいですよ。」
「アハハ。ありがとうございます。」
生徒に慰められ煤けた顔見せる真耶に他の生徒は。
『いじられキャラだ…。』
全員そう感じた様だ。
そんなこんなあって休憩時間はやっぱり瞑想してる一夏君…彼の特攻と特防は十分上がっただろう。
「ちょっとよろしくて!」
そんな今にもテレキネシスで椅子から浮き上がりそうな一夏に高圧的な声が掛る。
「誰かな。」
また視線だけそちらに向けて話してきた相手を見る。
口調は…また変わってる。
「わたくしの事をご存じないなて!まあいいですわ。」
「わたくしはセシリア・オルコット!イギリスの代表候補生ですわ!」
「その様な御仁が私に何か用かな?」
「わたくし貴方に期待してましたの少しはマシなのかと思っていました。」
「それで?私とあってみていかがだったかな。」
「期待外れとは行かなくてもガッカリしたが正直なところですわ。」
「ハッハッハ!それは手厳しいではどう云う御仁であればお眼鏡にかなったのかな。」
「それを見抜いてこそ度量の見せ所と言うものですわ。」
「ふむ。それも一理あります。」
「はぁ。暖簾に腕押しですわね。どうやら試験官の勝利したのわたくしだけのようですし。」
「はて?それは異なことを仰る。私も運に救われたとは言え試験官殿に勝ちましたがな。」
「なっ何ですって!確かわたくしだけが勝利したと!」
「気を使われたか将又連絡が遅れたのやもしれもしれませんなぁ。何分、私が試験を受けたのは貴女より大分遅れてのことですから。」
「わたくしがこんな屈辱を受けたのは初めてです!覚えてらっしゃい。」
「騒がしいお方であったありました。」
そう言うとまたチャイムが鳴るまで瞑想を続ける一夏であった。
この会話が後に大きな事件の要因となるを一夏は知らなかった。
セシリア「いつか仕返しあげますわ!」
ギャグ「ど、どうでした。」
やればできるじゃない
ギャグ「あざーす。自分これからも頑張ります。」
いかがでしょうか。
また毎度ではありますが感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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一触即発のふもっふ!contact failure
セシリア・オルコットとの接触からすぐ後の授業中。
クラス担任の千冬がある事を思い出し授業を中断した。
「そう言えば。クラス代表を決めていなかったな。」
「この際だ、ここで決める。誰か立候補する者は居なか?推薦でも構わんぞ。」
千冬の突然の提案にクラス中が静かになる。
そして、一人の生徒が発言した。
「なら織斑君を推薦します!」
この発言に次々と賛同の声を上げるクラスメイト達に織斑一夏は少し大きな声で静止を呼び掛けた。
「少し待ってくれ!そもそも俺はクラス代表と言うものがどう言った役割なのかを知らない。決めるのはそれを知ってからでも遅くないだろう。」
「クラス代表と言うのは詰まる所クラス委員みたいなものですよ。ただこの学園の場合は、それに加えて代表戦などの行事に参加して貰う事になっています。」
「代表戦?」
「はい。一学年に各クラス一人のクラス代表を選出して同じ学年のクラス単位で試合を行う行事です。また優勝したクラスには商品が送られる為、どのクラスもそれなりの実力者が選ばれる事が多いですね。」
真耶の説明を聞いた一夏は少し考えてからもう一度クラスメイト全員に諭すように声を掛ける。
「今の説明で幾らか冷静になってもう一度よく考えるんだ。」
「俺個人で済むような役割が負える役割であるなら引き受ける。」
「それがこの学園で生活する上で必要な事だからだ。しかし、今回の場合は違う。」
「ただ優勝出来なかったで済むならばまだしも試合の結果如何ではこのクラスが受ける評価が勝敗に直結するだろう。それでは俺だけじゃなくこのクラスに所属する君達にまで迷惑を掛ける事になる。」
「それは俺として避けたい。どうかよく考えてから選んでほしい。」
一夏の説得は効いているのか、発言した生徒もそれに賛同した生徒も黙り込んでしまう。
しかし、千冬が発した言葉で事態が急変する。
「随分立派な高説だが。辞退は許可できない。」
「選ばれたからには選ばれたもの役目を果たせ。」
この千冬の発言に絶句した一夏は抗議する。
「待って下さい織斑先生!これは先生の受け持つクラスの生徒がこれから一年間いや下手したら卒業までその評価を受ける続ける事になるかもしれないないし貴女の評価だって落ちる可能性がある事案ですよ。」
「分っている。だからこそ辞退を許可できない。」
「どう言う事ですか?」
「こいつらは遊び半分いや物珍しさでお前を選んだ。このまま辞退させて選び直す事をすればこいつらはまた同じ事をやりかねない。」
「自分達の尻は自分達で拭いてこ意味がある。その為なら私は幾らでも泥を被ろう。」
『確かに、今の時期に失敗を経験しておけば後々同じことが起きてもそれを教訓できる。今回は俺が折れよう。』
そう納得して、了解の意を伝えようした時ヒステリックな声が静かだった教室に響き渡った。
「納得できませんわ!」
先の休憩時間中に高圧的な態度で話しかけてきたイギリスの代表候補生セシリア・オルコットである。
「納得できないとはどう云う事だ意見があるなら何故さっさと立候補しなかった。」
セシリアの身勝手な発言に眉間に皺寄せ不機嫌そうに聞いてくる千冬。
その表情に少し怯えながらも威勢よく反論する。
「そんなの聞くまでもないじゃないですか!クラス代表に相応しいのはこのセシリア・オルコットを置いて他に居ないのですから!」
自信満々に横柄で周りを見下した様な態度で答えたセシリアにクラスの雰囲気が少しばかり悪くなる。
「大体イギリスの代表候補生であるわたくしと極東の島国の猿ごときでは比べるまでも無いじゃないですか⁉」
今度は日本を見下した発言にクラスの空気は最悪である。
「ISの技術で後れを取るこの国とわたくしの祖国では位が違いすぎますは!」
最早我慢ならないと生徒の一人が抗議しようとした時怒りを抑えた低い声が聞こえ怯んでしまう。
「いい加減してくれ…。君は自分がどんな立場で発言しているか分かっているのか…!」
それは心の底から来る憤りを抑えどうにか平静を保っていた一夏の声だった。
「立場とは、何の事でしょうか?」
その声に、動揺しながらも聞いてくる彼女に一夏は呆れの籠った言葉で諭す。
「君は候補生であれ国家を背負ってここに来た。」
「君の発言が国家の意思と取られ両国の国際関係に悪化に繋がると何故分から無い?」
一夏の言葉に顔を青くするセシリア。
「さらに言えばIS技術で遅れを取っているという発言もまずい。そもそもISが誕生したのはこの日本だ!」
「その事実は、世界共通の揺るがざる答え。今君はそれを無視したことになる。」
今度は顔が青白くなり唇が震えだす。
「今すぐ謝罪するんだ。そうすれば個人の認識の誤りであった事にできる。」
「俺も今の発言は聞かなかった事する。皆もどうか許してやってくれ。」
セシリアの様子を見て故意で無かったと認識した一夏はクラスメイトに対して彼女を擁護するに語り掛ける。
他の生徒も一夏とセシリアのやり取りを聞いて矛を収めようとしていた。
しかし動揺したセシリアは思わぬ発言で事体をより難解にした。
「けっ!決闘ですわ!」
教室の空気が凍る、思いもよらぬ決闘宣言にクラスメイト達は困惑する。
「君は何を言っているんだ?」
「こうなればどっちの言分が正しいかを賭けて決闘するしかありませんわ。」
一夏は頭を抱えた、いくら動揺していたと言ってもこれではこちらの助け舟のつもりで出した提案も水の泡である。
「話は纏まったな。次の月曜日場所は第四アリーナで織斑とオルコットのクラス代表決定戦をする変更は受け付けない!以上だ!」
こうなれば腹を括るしかないと心を決めた一夏はセシリアを見て。
「はぁ。やるしか無い様だ、当日はお互い全力を出し合える試合になる事を望む。」
この一夏の発言にさっきまで困惑していたクラスメイトが人を馬鹿にした言動で囁き始める。
「織斑君何言ってるの?」
「男が強かったのは昔の話だよ?」
「今からでも手加減してもらいなよ~。」
このクラス中の発言に箒は苛立ちを隠せず抗議の為に立とうとする。
がしかしその前に一夏の声で遮らてしまった。
「戦う者を嗤っていいのは同じく戦う者だけ。彼女が決闘を申し込んだのは俺だ。」
「だから俺を嗤っていいのは彼女セシリア・オルコットだけだ!」
覇気を込めて発した言葉にクラスが静かになる。
「それにこの決闘に女も男も無い。在るは互いの意地と技量の差のみ!その様な些細な事は邪魔なだけだ!」
その言葉は重く自分達が如何に無粋で浅はかだったを知る。
その時今日最後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。
普通なら授業から解放され浮き立つはずの空気がクラス全員に重く圧し掛かっていた。
斯くして一夏とセシリア両名による決闘の火蓋は切って落とされたのである。
千冬「成長したな一夏。」
準備編ではあのボン太くんが再び登場します。
それでは感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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追憶のふもっふbelief
そして一夏の最初の恋の記憶のお話です
セシリア・オルコットとの決闘が決定した日の放課後一夏は箒と教室に残っていた。
「驚いた!一夏お前があれ程の啖呵を切るとは。」
「そうか?武芸の道を志すものなら当然だと思うが。」
話の内容的にクラスの女子に言ったあのセリフの事の様だ。
「それにしてもよくあの状況で決闘の誘いを断らなかったな。」
「師匠の教えだ。」
「武闘家として最も犯してはいけない決まりが二つある、一つは試合や決闘を申し込まれたら決して断ったり逃げてはいけない事だ。何故なら試合や決闘は相手が己と同格で認めた証でありそれから逃げることは負けを意味する事以上に同格と認めてくれた相手に失礼であるからだ。」
「成る程、その話から察するにオルコットの決闘を受けたのはセシリアの信頼に応えるためか。」
「あぁ。」
「それで二つ目はなんだ?」
「それは。」
「あぁ!良かったまだ残ってたんですね。」
一夏が二つ目を語ろとした時、教室に真耶が入って来る。
どうやら一夏を探していたようだ。
「どうしたんですか?」
「はい。織斑君の学生寮の部屋番号を伝えるを忘れてました。」
「うん?確か俺の部屋はまだ決まってないから暫く自宅通学のはずでは?」
そう全寮制であるIS学園ではあるが異例の男子生徒を受け入れるに当たって学生寮の部屋組が決まってなかったのである。
その為か暫く自宅からの通学が言い渡されていた。
「えっとそれは…。」
「上からの要望だ。」
そう答えたのは千冬である。
「上と言うと…政府からの依頼ですか。」
「そう言う事だ。理解が早くて助かる。」
「いえ。発覚したばかりの頃に色々ありましたから。」
「そうだったな。」
二人の間に沈黙が流れた。
宗介が手を回してくれなかったら今頃どうなっていたか考えるとあの人には頭が上がらないと二人は考えた。
「まぁ、そう言う訳だ。山田先生説明を。」
「あぁ!はい。えっと織斑君には暫くルームシェアをしてもらいます。」
「という事は、誰かとの相部屋ですね。何か、同居人について情報は教えて貰えませんか?」
「へぇ!いや、それは流石に何か問題が起きたら困りますし。」
「そうですか。いえ、相手に不都合な事や気に障る事などないかなど事前に知っておきたかったのですが。」
「あぁ!そう言う。」
「まぁ、無理ならそれでも構いません。」
「すいません。協力できず。」
「山田先生。お早く。」
「はい。それと大浴場が解放されていますが今の段階では織斑君は利用できません。」
「まぁ、当然でしょうね。しかし残念だ…。」
「えぇ!それはいくら何でも!」
「あぁ、すいません。誤解させたようで俺はただ湯に浸かる風呂が好きなんです。」
「一日の鍛錬の疲れが湯に溶けていくのが心地よくて。」
「分かります!私も特に肩が凝ってる時とか~って!何言わせてるんですか!」
「はて?俺が何か?」
「山田先生。今のは完全に自爆です。」
「一夏…。お前気付いて無いのか?」
「だから、何がだ?」
「いや、気付いて無いならいい…。」
一夏はやっぱり一夏である。
「部屋にはシャワーがある普段はそれで済ませろ。」
「分かりました。お手数をお掛けしました。」
「後、荷物の事だが。こっちで纏めて置いた。お前の私物が以外と少なくて助かった。」
「トレーニング道具は?」
「入ってるはずだ。」
「そうですか。」
「じゃあこれから会議があるので失礼する。」
それから箒と別れた一夏は一路学生寮へ向かった。
「ここか、まるでホテルだな。」
そこはホテルの様な外見の建物だった。
中に入れば益々国際ホテルと云った内装である。
自分の部屋の前まで来て扉をノックする。
「はい。」
「失礼本日から暫くの間部屋を共にする織斑一夏と言う者だ。今は中に入っていいだろうか。」
「へぇ!いっ一夏!」
「その声、箒か?」
「あぁ。どうやら同室の人間はお前だったらしいな。」
「その様だ、それで今は入っていいか?」
「す、少し待ってくれ!」
「どの位だ。それまで外を寮の中を見て回る。」
「十分いや二十分だけ待っていてくれ。」
「分かった。二十分だな。」
そう返ってきた返事を後に一夏は、部屋の前から離れた。
少し歩いたがやはりホテルにしか見えない内装はあの島での日常を思い出させてくれた。
「あれ?おりむ~だ~!お~い!おりむ~!」
恐らく自分の事を指しているであろうあだ名と少し間の抜けた声が聞こえる。
声の方に顔を向ければ癒しの言葉が服を着て歩いて様な雰囲気の少女と目が合った。
「君は確か布仏さん。」
「えへへ。自己紹介聞いてたんだ~。」
「あぁ。一様聴覚だけは外に向けていたのでな。」
「じゃ~あ、なんでやまちゃん先生に声を掛けられた時に直ぐ答えられなかったの。」
「うん。遠くの音を拾おうして近くの音が聞き取れていなかった。」
一夏が瞑想すると色々出来るように成るらしい。
「そっか~。ん~?お~い!二人とも~どうしてそんな遠くにいるの~。」
そう言う布仏の視線を追っていくとあちらも少し怯えた表情でこちらを見た。
『やはり、怖がらせてしまったか。』
そう己のさっきの言動に軽く後悔すると。
そちらに歩いて行った。
「あっ!あの織斑君さっきはその…ごめんなさい!」
「私達その全然そう言うの分からなくて。」
慌てて謝ってくる二人に。
「別にいいよ。俺こそ、怖がらせてしまったみたいだね。すまない。」
「そんな!悪いのは私達だし。」
「じゃ~あ、この話はここでお仕舞いでいいよね~。」
どうやら後から来た布仏さんが丸く収めてしまった様だ。
それから話題は変わりセシリアへの一夏の対応の話になった。
「それにしてもすごいよね!織斑君あのオルコットさんを丸め込んじゃうんだもん!」
「それ程じゃない。冷静に判断できれば誰でもできる。」
「そんな事ないよ!少なくとも私は無理かな~。」
「それにして最後でまさか決闘なんて言い出すんだもん!ビックリしちゃったよ!」
「ねぇ?織斑君なんであそこで断らなかったの?」
「武闘家の性だ。受けた決闘は受けないと武闘家は名乗れない。」
「へぇ~!おりむ~武闘家なんだ~。じゃあ試合とかするの~。」
「あぁ!自分の義を曲げない為に挑戦されたら受けるようにしている。」
「そっか~。ねぇその信念てどこから来るの~。」
「信念か。そうだなあの時あの人から貰ったんだよな。」
一夏は思い出していた自分が信念を持つきっかけをそして自分が生まれて初めて知った恋を。
そうあれは一夏が小学4年生の事だった。
その日一夏は校長室呼ばれていた、愛子との事を揶揄われつい同級生の男の子に習い始めたばかりの拳法の技を使ってしまったのだ。
当然千冬が呼ばれ愛子も同席していた。
相手の親は立腹していたが喧嘩の原因が相手の執拗な揶揄いだったこともあり厳重注意で返された。
その帰り何故こんな事をしたのか問いただしていた千冬に愛子が二人にして欲しいと頼まれ渋々了承してその場を離れた。
「一夏君ちょっとお話しよっか。」
黙ったまま俯く一夏にそれでも愛子は話しかける。
「相手の子の技掛けちゃっただってね。どうだったスッキリした?それともモヤッとした?」
「もやっとした。いつもみたいに全然楽しくなかった。」
「そっか。それはね一夏君の心がやりたくないって泣いてるんだよ。」
「でもあいつやめろって言っても止めなくそれで…。」
「一夏君。正義に見方はいつものどうして悪者向かって行くのかな?」
「悪者が皆をいじめるから…。」
「そうだよね。今日の相手の子は悪者だよねじゃあ退治したらスっきりした?」
「うんん。」
そう言って答えた一夏の横で近くにあった木の枝で地面に字を書く愛子。
「正義って文字はね、義を正すって書くの。義は信念を現している。」
「信念?」
「そう!信念、心の中心で決してぶれず曲がらない思い一夏君や私それに千冬ちゃんだって持ってる心も柱。」
「心の柱?」
「うん。それを心の柱を正し自分の心を曲げない思いそれが信念。」
「じゃあ。その信念を曲げないことが正義なんだね。」
「ピンポン!一夏君正解!」
「自分の心に真っ直ぐでいる事自分の思いを曲げない事とっても難しい事だけどそれができる人が正義の味方。」
「俺、愛子姉さんの事好きなんだろって揶揄われて恥ずかしくて!」
一夏は、涙が溢れ出して止められなかった。
「うんうん。恥ずかしかったよね。私だって好きだけど秘密にしてる物誰かに大きな声で言われたら恥ずかしいもん。」
「でもちゃんと言えたね偉いぞ~!」
「愛子姉さん。」(ぐず)
「じゃあ今度相手の子に謝ってこよう~。」
「うん!」
「ちゃんと一人で謝るんだよ。」
「分かってる。」
「良し!じゃあ指切りしよっか。」
「「指切りげんまん 嘘ついたら ハリセンボンの~ます 指切った!」」
その後見せた愛子の笑顔で全て悟った一夏はこれが恋だと知った。
次の日同級生に皆の前で謝ると向こうも謝ってくれたのでこの問題は円満に終わった。
『そうあの日からだ。俺の初恋が始まったのは。』
あの日の愛子の笑顔が今の自分に信念をくれた。
決して揺らがぬ心の柱を。
その後予定の時間になっても帰ってこない一夏を心配して、箒が迎えに来た。
一緒に居た3人と一夏を見て何があったか聞いた箒は寂しそうな顔を一瞬見せたがすぐに戻り。
一夏を現実に戻して。
そのまま夕食にいい時間なので五人で食堂へ向かう。
「それにしてもあのオルコットとか言うの本当に信用できるのだろうか?」
「問題ない。あの者からは強い信念を感じた、恐らく今は歪んだ思想を押し付けられ悪い夢を見ているのだろう。」
「決闘。頑張って!織斑君!」
「私達応援してるから!」
「あぁ。期待に添えるよう頑張ろう。それにあの真っ直ぐな瞳の持ち主を放ってはおけん。」
そうして一日は過ぎていった。
翌朝の早朝ミスリルの専有するドッグの中で一夏は自信の専用機の最終調整を行っていた。
アルビノボン太くんを装着し拳法の形を通して行う作業は最後の補助AIに一夏自身の身体能力値と親和性を持たせる工程である。
そして全て作業が終了した。
「ユーザー一夏の全データを収集しました。これより補助プログラムの立ち上げを開始します。………補助プログラムぐの立ち上げを完了。ユーザー織斑一夏 初めまして各種補助を担当するアルビノです よろしくお願いします」
遂に完成したアルビノボン太くん。クラス代表戦の準備は着々進みつつある。
箒「一夏…お前は。」
次回VSセシリア戦です!
何事もなくおわればいいな!
しつこい言われそうですが。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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青の雫と白いボン太くんduel
さぁ皆さん張り切って行きましょう!
IS~!fight!lady~!GO-!
IS学園には幾つかのアリーナが存在する。
その一つここ第4アリーナはいつもとは様相が違っていた。
「一夏君。アルファの調子はどう?」
「ふもっふ。ふももっふ。」『問題ないよ。なあアルファ。』
『はい。システムに異常は見受けられません。全て正常です。』
ピット内では二種類の空気が流れていた。
一つは戦いの前の高揚感そしてもう一つは…。
「織斑先生。何ですかあれ?」
「さあな…ただ一つ言えることは。あれが織斑の専用機という事だろう。」
「可愛い…。」
織斑一夏の専用機の異様さから来るある種の困惑であった。
なお、真耶のみ違う意味で思考が停止している模様である。
アルビノボン太くん先ず目に付くのは全身装甲である事と全身が白い事である。
アルビノとは本来遺伝子の異常で全身が白い個体の総称である。
またその存在の希少性から古来では神の使いとされ信仰されてきた。
アルビノボン太くんの姿は全身が白く赤い目をしている。
その特徴的な容姿に千冬と箒は只々気圧されていた。
「そう言えば。篠ノ之さんどうしてここに。」
以外にも他二人より早く復帰した真耶が箒に聞く。
「ピット内は関係者以外立入禁止はずですが?」
「あぁ。それは…。」
「私がある仕事を頼んだんですよ。」
箒が説明しよとすると、アルビノボン太くんのの調整を行っていた愛子がそう言って割り込んで来た。
「ある仕事とは、何です?相良先生。」
千冬が愛子に聞く。
「いえ。ミスリルに送るための記録映像を撮ってもらおうと思いまして。」
「それならアリーナのカメラでも。」
「それが国の機密に触れるらしくて。」
「なら相良先生がご自身で撮影すれば。」
「そうしたかったんですが。生憎試合中のオペレーションや計器の見ておかないといけないので。」
「それで仕方なく。織斑君と親しい篠ノ之さんお願いしたんです。」
「はぁ。一応理由は分りました。」
愛子の理が通った説明に一様の納得はした千冬は呆れながらに注意事項を箒に説明した。
試合時間が迫ってきた。
一夏はカタパルトに移動して出撃準備に入る。
「セシリアさんはもう外で待機してるみたいです。」
「自身のタイミングで出撃して下さい。」
真耶の通信のが入る。
「ふもっふ!ふももふももっふふもるもっふ!」『了解!アルビノボン太くん織斑一夏出るぞ!』
勢いよくピットから飛び出すアルビノボン太くんに観客席に居た生徒たちは一部を除いて皆固まった。
固まらなかった一部の生徒の一人である布仏本音と一緒に見に来ていた更識簪はその姿を見て。
「かんちゃん!あれは…!」
「うん!間違いないボン太くんだ。」
二人で興奮気味に話していた。
アリーナの中で待っていたセシリアはアルビノボン太くんが出てくのを見ていた。
「何ですかあれは!かっ可愛い…。」
様子がおかしい様だ。
「ふももっふ。」『待たせたな。』
声を掛けられ我に返ったセシリアは大慌てで返答を返す。
「逃げずに来ましたか。そっそれにしてその姿は一体何ですか?どっ動揺を誘うつもりなら当てが外れましたわね。」
「ふもるもっふ。ふももふもっふ。」『逃げるなどしない。それより最初に言っておくことがある。』
「何ですか?」
「ふもっふ!」『よろしくお願いします!』
それは試合前の挨拶だった。頭を軽く下げ手を腰の横の置くしぐさにセシリアは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
そして試合が始まった。
「ふもっふ!ふもるもっふ!」『アルファ!相手の機体の解析を懸けろ!』
『了解。対戦相手の機体解析を開始します。』
そうアルファに命令するとアルファはセシリアの機体の解析を開始した。
「させると思っていますの!行きなさいブルー・ティアーズ!」
セシリアはビットを射出して牽制をかける。
ボン太くんは両手にマグナムを構え応戦を開始した。
「くぅ!以外に素早いじゃないですの。何ですかその身のこなしは!」
ビットで取り囲みレーザーを四方八方か放つもギリギリの身のこなしで躱され中々命中しない。
その間も機体の解析を進めるアルファは一夏に接近を推奨した。
『一夏。私は接近戦を推奨します。』
「ふもっふ!ふもももっふ。」『接近戦!何か勝算が有っての提案か。』
『はい。取り敢えず接近を試みてください。』
「ふもっふ!」『了解!』
そして武器の片方をマグナムからナイフに持ち替えるとセシリアに突進をかける。
「読めておりましたわ。くらいなさい!」
近づいてくるボン太くんにミサイルビットを発射した。
「ふもっふ!」『無駄だ!』
しかしボン太くんは持っていたナイフをミサイルに投げつけるとミサイルに刺さりその後爆発する。
二機の中間で爆発してセシリアは一瞬爆炎でボン太くんを見失う。
その時センサーが敵の接近を知らせた。
しかし辺りを見てもボン太くんの姿は見えない。
『一体どこから?』
そう思っていると前方の爆炎の中からこちら向けて突出してくる影が見える。
『まさか爆発に紛れて!』
正にその通りであった。
「ふもっふ!」『捉えたぞ!』
そう言って拳を振り上げてパンチを放つ。
「ふももるもっふふももっふ!もっふ!ふももっふ!」『大導脈流活殺術!奥義!血栓掌!」
「キャ――――!」
辛うじて直撃を避けたセシリアであったが代わりに防御の為に盾にしたスターライトが破損した!
しかし仕掛けたら今度はこちらが仕掛ける番と無防備になった背中をビットで狙う。
「ふもっふ!」『なんの!』
レーザーが直撃したがタダでは転ばず、ビットにナイフを二本投げて直撃させまた二機落した。
『やりますわね。男だからと侮り過ぎましたは。』
こうして見ると自分の武装は大きく消耗させられていたビットはミサイルも含めると大半が落され残り三機更にメインウエポンではるスターライトMk-3はパンチの直撃で後一発が限界、まだ接近戦用に積んであるインターセプターがあるが付け焼刃もいい所だ。
「ここまで追い詰められるとはその機体。いえ貴方自身も相当鍛えておいでのようですわね。」
だが諦めないこんなに心が高鳴り血が肉が魂が沸き立つこの戦いここで終わらせたくはない。
『おそらく次が最後の一撃ならばこれまでよりも最高の攻撃をして見せますわ。』
彼が言う戦ってくれた者への最大の敬意は最大の攻撃で応える。
それがボン太くんにも解ったのか。
「ふもっふ。ふももふもるもっふ。」『アルファ。次で決める。』
「ふもっふふもるるふももっふ?」『この機体の最大の攻撃力のある武装はどれだ?』
『質問に関する返答は。白狼形態におけるメインウエポンが該当します。』
「ふもるもっふ?」『白狼形態?』
『はい。本機は各戦闘スタイルによって形態変化を行うことが可能になっています。白狼形態は高速格闘形態に該当します。』
「ふもっふふーもっふ!」『何でもいいやるぞ!』
『了解!モードホワイトウルフの発動を承認して下さい。』
「ふももーふもっふー!」『白狼形態発動!』
その時ボン太くんの体が輝いた!
セシリアも観客席の生徒もピットに居た千冬達もその光に一瞬目を閉じた。
そして光が収まるとそこには少しだけ姿の変わったボン太くんが居た。
『モードホワイトウルフアクティブ。』
「がるもっふ!」『さぁ決めるぞ!』
ヘッドパーツに狼の顔をデフォルメしたギア、肩から背中に伸びるスラスター、腰の辺りにはしっぽの様な姿勢制御ブースターが付き足と腕に狼の爪のようなクローが追加されている。
しかし、最も注目するべきはその手に持つ近接ブレードである。
それは嘗てブリュンヒルデが使用した武器と酷似していた。
「がるるがるも?がるもっふ!」『これは雪片か?そうかこれなら!』
雪片弐型嘗ての千冬の愛刀をベースに作り起された新たな妖刀である。
「姿が変わるとは思っていませんでしたわ。ですがそれでこそですわ!」
「がるもっふ!」『勝負!』
『エクストラアタックコード[ウルフアクセルストライク]発動。』
ボン太くんのギアが顔半分を覆うように降りてきて、背中のスラスターがエネルギ-を放出し始める。
『イグニッションブースト発動シークエンス完了。またエクストラアタックコードの発動により残り稼働時間が三分になりました。カウントを開始します。』
そうアナウンスが流れると視界の端に残り時間を知らせるカウンターが現れる。
「がるふがるもっふ!」『三分あれば十分だ!』
「行きますわよ!」
セシリアが最後のミサイルを放つとボン太くんは雪片でそれを切り裂き瞬間加速で駆けた。
残りのビットで応戦するもそれも切り伏せられがセシリアはそれが狙いだった。
「これで最後ですわ!」
スターライトMk‐3の最大のエネルギーを貯めボン太くんに向けて放つ。
その直後火を噴き沈黙したスターライトを投げ捨てインターセプターで追撃を仕掛ける。
『イグニッションブースト再開及び零落白夜発動。残り稼働時間一分です。』
「がるる…」『ウルフ…。』
零落白夜を纏った雪片でレーザーを裂き。
『残り稼働時間30秒』
「がるっふ…」『アクセル…』
セシリアの目の前まで近づく。
『残り10秒』
「がるもっふ!」『ストライク!』
そして縦に一閃!
「お見事ですわ。わたくしの負けですわ。」
この瞬間勝負は着いた。
【セシリア・オルコットのシールドエネルギー残量0により勝者織斑一夏。】
二人の健闘を称え観覧席にいた生徒たちが賛辞を贈る。
そしてボン太くんはセシリアに向かい合い。
「ふもっふ!ふもるるもっふ!」『ありがとうございました!良き試合でありました!」
「こちらこそ、ありがとうございました。そしておめでとうございます。」
最後の礼を開始時と同じように行うのであった。
「武闘家が決して犯してはいけない二つの決まり最後の一つは決して相手への礼を忘れてはいけない事である。
勝敗が着いた後もこれを怠ってはいけない。
勝者には敗者の健闘を讃える義務があり、敗者には勝者を敬い祝う権利がある。
それがあってこそ勝負に遺恨が残らないのである。」
師匠の教えを貫いたボン太くんとセシリアはその場で固い握手を交わした。
その光景にアリーナのムードは最高潮に高まっていた。
斯くして一年一組によるクラス代表決定戦は幕を閉じた。
アルビノボン太くんの白狼形態という事象は学校中が知る事になるがこれはこの機体の機能の一つに過ぎない事を一夏と愛子以外まだ誰も知らない。
簪「ボン太くん漸く会えた。」
どうでしたアルビノボン太くんの形態変化!
まだまだ秘密があるこの機能に期待していて下さい。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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恋をしたのは一夏かそれともふもっふかmascot
気になるの人もそうでない人見てって下さい。
一夏との試合後、自室でシャワーを浴びるセシリアは今日の事を思い出していた。
『初めてでしたわ。あんなに熱くなったのは。』
それは試合の中での自身の心情の変化だった。
『あそこまで興奮したのに、それが不快じゃない。むしろ心地よかった。』
己の全てを出し切った、戦いだ負けはしたが悔いは無い。
『お父様とも他の男性とも違ったお方、不思議な方でしたわ。』
自分が出会ってきたどの異性とも違う威風堂々とした態度、それでいて決して輝度礼節を忘れぬ義理堅さどれに置いても今までにないタイプの男性であった。
『そして、何よりあの方の相棒でもある…。』
その姿を思い浮かべるだけで胸の刻む鼓動が早くなるのを感じた。
『これが恋なのでしょうか?でしたら凄く嬉しいですわ。』
誰を思い浮かべてるのか?
しかし確かに彼女は恋に浮かれた顔をしていた。
時間は過ぎてその夜、寮の一室では一夏と箒が二人で今日の試合の映像を見ながら反省会をしていた。
「やはり実戦経験が欠けているな…。」
一夏は自分の戦い方を見てそう呟いた。
「そうか?私には十分戦えているように見えるが。」
そう返す箒にしかし一夏は厳しい目を向ける。
「今回はアルファが居たしそれにオルコットも最初は油断していた。それでも辛勝だ、まだ動きに無駄が多い。」
そう自分を評価した一夏はより鍛錬と実戦に近い訓練が必要と結論付ける。
「少し厳しすぎじゃないか?お前はよく戦ったしそして勝った。」
「今はそれだけで十分じゃないか。」
箒はそう語り掛け一夏を宥める。
「そう言ってくるのはありがたい。しかし、ギリギリの勝利であった事も事実だ。勝って兜の緒を締めよとも言う。」
「それに鍛錬の方向性も見えた。それだけでもこの映像の意味は大きい。」
そう言って立ち上がり部屋の扉に向かう。
「一夏ランニングか?」
「あぁ、一日でも休む訳にはいかんのでな。」
「なら、私も行こう。」
箒も立ち上がり二人で寮の外まで歩いて行く。
外はすっかり日が落ち辺りは薄暗くなっていた。
一夏と箒は走る前に軽く運動をして寮からグラウンドまで道を走り始めた。
「中々いいペースだな一夏。」
ランニングの途中で箒が話しかけて来る。
「あぁ。二年前から始めたからな。」
「二年前と言うとあの事件からか?」
箒はそう聞くと一夏はそれで合っていると答えた。
「あの日、俺は無力だった。」
「大した抵抗もできず簡単に攫われ挙句殺される寸前までだった。」
「だが俺は救われたあの人たちに。だから憧れたあの姿にあの力に。」
「俺は弱い自分を変えるために我武者羅になって努力して来た。今だってこうして努力を続けている。」
黙って一夏の言葉を聞く箒。
彼女には一夏が輝いて見えた。
それから夜は過ぎ翌日正式に一夏はクラス代表となった。
その日夜一年一組の面々はささやかな祝賀会を開いていた。
「一夏君クラス代表就任おめでとう!」
「いや~、中々魅せる戦いだったね~!」
口々に賛辞を贈るクラスメイトに対して一夏は困った笑顔を見せながらその言葉を受け取る。
「俺で良かったのか?勝ったとは言っても辛勝だぞ。」
少し謙遜しながら答えて一夏にそれは違うと誰かから声が掛る。
「確かにわたくしも最初は油断してました。しかし最後は本気でしたわ。」
「それでも一夏さんは勝った。それは誇るべき事です。」
そう言いながらこちらに歩み寄るセシリアは更に続ける。
「元はと言えばわたくしの失言が招いた事です。でも貴方は訂正を呼び掛けてくれましたわ。」
「それを無下にしてしまった責任はわたくしにあります。」
「皆さんもあの時は失礼な事ばかり言ってしまい申し訳ありませんでした。」
そう謝罪してくるセシリアにクラスメイト達は笑って許した。
「もう気にしてないよ。」
「そりゃあ最初はむっとしたけど。」
「でもその後の織斑君とのやり取りで本気じゃないって解ったし。」
「皆さん…はい!これから仲良くしてくさいな。」
どうやら和解はできた様だ。
そうこうしていると話題は代表戦に移った。
「代表戦頑張ってね!」
「織斑君なら楽勝だよ!」
「専用機持ちも四組しか居ないって話だし。」
クラスメイトがそう持て囃すが一夏は憮然と答える。
「いや。勝負に絶対はない常在戦場気を引き締めてかからなくては相手に失礼だ。」
「あぁ。そうだったね、ごめん。」
「また織斑君を怒らせるところだったよ。」
「いやだから怒ってるとかでは無く…。」
弁明しようと声を続けようとすると見慣れない人物が目に入った。
リボンの色から上級生であるらしいが何故ここに?
「えっと君が織斑一夏君でいいのかな?」
「はい。そうですが、貴女は?」
「私は新聞部二年の黛薫子って言います。インタビューに伺いました。」
「うっ!インタビューですか…。」
その言葉聞いて青い顔をする一夏。
どうやらマスコミに囲まれた事が軽いトラウマになったらしい。
「あの…何かまずかった?」
「いえ、以前にマスコミの襲撃に会いまして。」
「あぁ!うん。安心してうちはそう言うやり方しないから。」
薫子の説得で質問に答える気になった一夏は了解の意を伝えた。
「じゃあ最初はクラス代表に選ばれた意気込みを一つ。」
「意気込みと言うかまあ選ばれたからには選ばれただけの意味があると信じ期待に応えるだけです。」
「おお中々言うね~。じゃあ次に専用機について教えてくれる。」
「詳しくは言えません。しかし自分が望み選んだあの機体はまだ可能性を残しているとだけ言っておきます。」
「可能性か~。詳しく聞けないの残念だけどそこ新聞部の力で何とかして見せるよ。」
「じゃあ最後に何枚か写真を撮らせてね。」
そう言ってカメラを此方に向ける薫子に注文を受けながらポーズを取る一夏。
セシリアとのツーショットやクラスの集合写真などを撮影し終えた。
そして帰ろうとした時一夏とセシリアの会話で足を止めた。
「あの…一夏さん、聞いてみたい事があるのですの。」
「なんだ?」
「あの姿の、何ていうんでしょうか?」
「ボン太くんか?」
「はい!そのボン太くんのグッズなど販売してないでしょうか?」
「!今、ボン太くんグッズが欲しいと言ったか⁉」
「はい。あの、どうされましたの。」
「いや。何故欲しいんだ?」
「いえ。おかしな話ですけど。その…ボン太くんに心を奪われまして。」
恥ずかしそうに語るセシリアに自分と同じもの感じた一夏は疑問に答えようとした。
しかしその声は遮られる。
「その話!聞かせて貰ったわ!」
薫子である。
セシリアに近づいて手を取り。
「貴女も目覚めたのねボン太くんLOVEに。」
「!薫子先輩…。」
「何?織斑君。」
「…世にボン太くんの幸せが有らん事を。」
「!貴方。世にボン太くんの幸せが有らん事を。」
二人の謎の会話に着いて行けず困惑していると。
「オルコットさん明日の放課後新聞部の部室に来て。織斑君もそこで話しましょう。」
その頃、IS学園の校門付近に小さい影が一つ。
「遂にきたわIS学園!待ってなさい一夏!」
新たな風雲を告げる嵐がすぐ近くまで近づいていていた。
薫子「新たな仲間の誕生ね。」
セシリアまさかのボン太くんにフォーリンラブ。
一夏な謎言動も来なります。
最後に感想などありましたどうぞよろしくお願いいたします。
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斯くして少女はふもっふな再会をするlrrelevancy
若干原作と予定が前後します。
(忘れてたので二次創作をいい事に事象改変しましょう~何て言えなねぇな。)
IS学園1年1組のクラス代表決定から1日明けた今日。
ここグラウンドではISを用いた初めての実習授業が行われようとしていた。
「良し揃ったな。これよりISの実機訓練を行う。」
千冬の号令に返事を返す生徒一同。
「まず最初に注意しておく。これは訓練ではあるが実機を用いる以上絶対に安全と言う保証は無い。」
「此方も見張っているがそれでも限度がある。そうならない為に各員細心の注意を払うように以上。」
千冬に勧告に対してもさっきと同じように返事を返す。
「では先ず手本を見せて貰おう。オルコットと織斑、前に出ろ。」
指名された二人が前に出る。
「先ずISの形態について説明する。ISは基本持ち運びが出来ない。」
「しかし、専用機と呼ばれる個人用に調整された物に限り待機形態と呼ばれる姿が存在する。」
千冬の説明に耳を傾けていた生徒たちがセシリアと一夏に注目する。
一夏の腕には白いブレスレットが嵌っている。
全体は白く細いが対角線になる様に赤い石の様な物が見える。
それこそがアルビノボン太くんの待機状態である。
「お前たちには実際にISを装着を実演して貰う。先ずは織斑からだ。」
「はい。来い!アルビノ!」
腕を上げそう叫ぶと一夏の周りが変化して一瞬で姿が変わる。
「ふもっふ!」『完了しました!』
アルビノボン太くんに変わった一夏を見て千冬は頭を押さえる。
「その見た目さえ無ければな…装着タイムも申し分ないのに…。」
「やっぱり可愛い…。」
「調子は良さそうだね。」
教師陣の反応は三者三様である。
「あぁ~。やっぱり素敵ですわ~。」
そしてセシリアは相変わらずだった。
暫く遠くを見つめていた千冬は気を取り直し、次はセシリアに声を掛ける。
「次はお前だオルコット。少しはマシな奴を頼む。」
既に疲れた顔をする千冬はまるで祈る様にセシリアに念を押した。
「分かりましたわ。」
「来なさい!ブルーティアーズ!」
イヤリングに触れた後そう叫んだセシリアもさっきの一夏と同様に一瞬で姿が変わった。
「うん。これだ…これでいいんだ!」
「織斑先生、続きを。」
「あぁ?はっ!はい。」
「うん!二人とも中々な展開スピードだ。」
「ふもっふ!」『ありがとうございます。』
「それ程でもありませんわ。」
少し現実逃避していた千冬を愛子が呼び戻して授業が再開される。
「次に基礎的な飛行訓練に移る。織斑及びセシリアは飛行して上空へ移動しろ。」
「ふもっふ。ふーっも!」『了解。上昇!』
「あぁ!待って下さいましボン太くん~!」
黄色い声を出しアルビノボン太くんの後に続くセシリアに千冬は軽い頭痛を覚えた。
大体IS学園を見下ろせる高さまで昇ると千冬から静止の声が掛る。
「よしその辺りで良い。そこから急降下した後完全停止して見せろ。大体地表から10cm位が目標だ。」
千冬からの通信で指示が出た。
「ふもっふ。ふももふもるふーも。」『アルファ。地表から10cmまで高度を表示してくれ。』
『了解。急降下のサポートは要りますか?』
「ふもも。ふーもっふ。」『いや。いい自分で出来る。』
そうアルファに指示を出して急降下を開始した。
『間もなく目標高度です。』
「ふもっふ。ふももるもふー。」『了解。完全停止準備。』
『完全停止確認。お見事です。』
「だから!待って下さ~いですわ~。」
やはり黄色い声をあげて追いかけてくるセシリア。
「もう好きにやってくれ…。」
千冬は完全に匙を投げた。
授業が終わり、教室に帰る途中クラスメイトと遭遇した一夏はある話を聞く。
「織斑君。知ってる2組の転校生の事?」
「転校生?今の時期にか?」
「うん。そうみたいなんだよ。」
そう会話をしながら教室に入ると懐かしい顔と遭遇した。
「遅いわよ。久しぶりね一夏!」
「鈴か。あぁ久しいな。」
凰鈴音、一夏が箒と別れた後に越してきた少女である。
「一夏、彼女は?」
後から来た箒が一夏に尋ねる。
「あの者は凰鈴音。お前が引っ越した後すぐに越してきた。」
「成る程という事は私と入れ違いになった訳か。」
「そうなるな。」
二人が話していると鈴音が声を掛けてきた。
「一夏、私にも紹介してよそっちの彼女の事を。」
二人の親密な雰囲気から同じ何かを感じた鈴音は一夏に箒の紹介を勧めて来た。
「あぁ。すまん、こっちは篠ノ之箒だ前に言っていた最初の幼馴染だ。」
「そう。さっきこいつが言っていたけど私からも自己紹介させて貰うわね。」
「私は凰鈴音。所謂セカンド幼馴染みたいな感じよ。」
「そうか。私は篠ノ之箒だ。それに倣うならファースト幼馴染と言ったところだ。」
二人は気付いていた。お互いライバルである事を。
そして、一番のライバルは別に居て途方もなく強大である事も。
「箒で良いわよね。私は鈴って呼んで。」
「あぁ、それで構わん。」
「なぁ、鈴。少し二人で話さないか?」
「良いわよ。私も聞きたい事があるの。」
そう言って教室を出ていく二人を見送り一夏は最早恒例の瞑想をするのである。
一方、教室を出た二人は人目のつかない所で互いの意見を交換し合っていた。
「箒、今の一夏って昔の一夏と比べて違うの?」
「あぁ、基本は変わっていない様だが心構えはあの頃と見違えた。」
「やっぱり、そうなんだ…。」
「鈴。そんな事を話すために此処まで来たんじゃないだろ?」
「あははは!バレた。」
「バレバレだ。大方愛子さんの事だろ。」
「うん。一夏の初恋の人だって事は判ってる。」
「それに同じ女として憧れて無いと言えば嘘になる。」
「あの人は昔から優しさと強さをの両方を持っていた。正直あの人が姉さんだったらと思わない日は無かった。」
「でも一夏を好きになってどう付き合て行こうか迷ってるの。」
「あんたはどう箒?」
「私にも判らない。ただ一つ言えることは私たちの敵は強大だという事だ。」
「やっぱりそうか。でも愛子さんも相当鈍いのよねぇ。」
「まったくだ。」
二人は思ういっそ一夏と愛子が付き合ってくれればどんなに楽かと。
そうしたら諦めも付くのにと、しかし当の愛子が二人の妹の様な少女の恋路を後押ししているこの状況は二人にとって心地の良いものであった。
そうとは知らない愛子は鈴音の再開を楽しみに2組に足を運ぶのである。
愛子「鈴音ちゃん?どこかな?」
すいません。
かなりだらだらです。
結果的に鈴と箒の出会いは良き物になったにかな?
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ただ一つの願いのふもっふdream
鈴音との再会した日の放課後、一夏とセシリアは一路新聞部の部室へと移動していた。
セシリアは昨日の事を聞くために一夏はまた別の目的の為にである。
新聞部と書かれた表札が見えて来る、目的地は近いようだ。
「いらっしゃい。」
「来たわね。ようこそ新聞部へいえボン太くん愛好会へ。」
二人を出迎えた薫子と他の部員は部屋のあちこちから手製と思われるボン太くんグッズを取り出した。
「まぁ!」
セシリアは目を輝かせてその様を見る。
一夏もどこか嬉しそうに新聞部部員の様子を眺めていた。
「正しく、これぞ俺たちボン太くんファンの証…。」
「そう言う事は、貴方も二年前から…?」
薫子と一夏は二人の言葉に他の部員も嬉しくはあるが沈痛な面持ちで会話に耳を傾ける。
そんな室内の状況に耐えきれなくなりセシリアは切り出した。
「どうして、そんなに辛そうな顔を?だってここにはこんなにボン太くんがいるのに。」
「オルコットさん、ここにあるグッズはみんな私達と同じようにボン太くんに救いを求めた人の作品なのよ。」
静かに語りだした薫子の言葉に驚くセシリア。
「救いとは何ですの?」
「それを説明するには先ず今の社会の在り方を見るべきです。」
一人の部員が声を出した。
「今の社会と言うと女性権利主義の事ですわね。」
「そう、一方に偏った意見が尊重された歪な社会よ。」
「一方に偏れば必ず何処かでしわ寄せが来る。」
「えぇ。だから男性は肩身の狭い思いをしておいでなのでしょう。」
「しかし、ここに居るのは皆さん女性じゃないですの?」
「女性利権主義は確かに一部の女性からしたら理想的だったかもしれない。」
「だけど全員じゃない大半の女性もその主義の在り方を押し付けられて疲弊したのよ。」
その言葉を聞いたセシリアは驚愕した女性利権主義社会の被害者が男性だけじゃない事もそうだが、何よりも庇護の対象である女性にも被害が及んでいた事に驚いた。
「例えば仲の良い夫婦が居たとするよ、奥さんは旦那さんに尽くすのが好きで旦那さんも奥さんに尽くしてもらえるが嬉しいと思える。それがれがその夫婦の幸せだったしよう。」
「それがもし女性優位の社会になって、いつもの生活ここでは旦那さん尽くす事が悪だと言われ始めたら?」
「ましてやその夫婦に子供が居たらどお?」
「それは…。」
セシリアは言葉に詰まる。
自分の生い立ちとよく似ていたからである。
彼女の両親、父親は母親にまるで隷属した様な態度で接していた。
それが原因で彼女は男性不信に陥ったがよくよく思い出して見ると二人とも辛そうだったのを思い出した。
「それにそれだけじゃ無い、社会的に立場の弱い女性は?もしくは性格的に強く出れない女性は?」
今度は部員が語り掛けて来る。
「もしそう言った女性が趣味が違ったグループと一緒に居ても発言はできないでしょうね、それでもし仲違いの原因になったら?」
「そのグループから爪弾きにされますわね…。」
「そうよ。それだけにそれにそのグループの人だって中心人物に従ってるだけかもしれない。」
重い空気が部屋に流れる。
「そんな中でボン太くんは登場したわ。」
「女性が可愛いと思える外見やしぐさ。」
「男性が理想とするカッコよさと強さ。」
「二つが揃った双方の願望を形にした体現者だった。」
薫子と一夏の掛け合いにも思えるセリフに確かにと頷くセシリア。
「この奇跡とも言える存在に疲弊していた人は互いに意見を言い合ったわ。」
「ボン太くんが如何に素晴らしいか、どこが気に入っているかなど取り留めのない話ばかりだった。」
「でも楽しかった。その場に居る者は皆、笑顔で溢れてた。」
「男も女も無い。在るのはボン太くんが好きたったそれだけだった。」
「そんな中でファンはある決まりを作ったの。」
「それは何ですの?」
「一つ、他者の言葉を遮ってはならい。」
「一つ、他者の在り方を否定してはいけない。」
「一つ、決して自分の意見を押し付けてはいけない。」
「この三つだ。」
「はあ。」
「簡単に言うとね。一つ目は人の意見の途中で割り込んではいけないよ。」
「二つ目はそれは間違っているって頭ごなしに否定してはいけないよ。」
「三つ目はこれが絶対って決めつけてはいけないよ。って意味。」
「そうやって自分達にルールを作って語らいの場を作っていったんだ。」
その表情は幸せそうだったが次で一変する。
「だが女権者達は気に入らなかったらしい。男が女と同等の立場で意見を言える環境が…。」
「だから圧力を掛けて来た。時に強引な方法も使って。」
「そんな…!」
セシリアは困惑する。何故?自分達はただ好きな物を共感したいだけなのにどうして?と。
しかし理解も出来てしまう嘗ての自分ならそうだっただろうから。
「いつしか語らいの場は少なくなっていった。世間がボン太くんファンをカルト宗教の信者の様に扱い始めたからだ。」
「私達にそんな気は無くてもね。」
言葉もなく佇むセシリアに構わず言葉を続ける。
「ボン太くんファンは皆一つの願いを持つようになった。」
「誰の目の憚らず好きな物を好きと言える世であって欲しいと。」
「誰かを否定することなくボン太くんで笑い合える世になって欲しいって。」
「それが、世にボン太くんの幸せが有らん事を。この言葉の真意だ。」
「ボン太くんを愛する者が皆願う幸せの形。」
セシリアは憤っていた、今までの話で彼ら又は彼女らは一回も女権主義を否定してはいない。
にも拘らず女権主義者は一方的に否定して追いやった。
「納得いきませんわ!」
「オルコットさん…。」
「セシリア…お前。」
「だってそうじゃありません事、こちらは何か危害を加える事をしましたか⁉」
セシリアは叫ばずにはいられなかった。こんな理不尽許されてはいけないと。
「わたくし決めましたわ!自分がボン太くんファンである事を隠したりなど致しません。」
「わたくしは一人のボン太くんを愛する者として誇りを持ちますわ。」
部室に居た全員がその言葉に目を見開いた。
「そうね…そうよね!私達は何も間違ってない!」
「ただ好きな物を追いかける。それだけの存在だ!」
セシリアに賛同と称賛の声が上がる。
「感動したわ!貴女の言葉にそしてありがとう。」
「お陰で目が覚めた。」
「俺もです。よろしくな同志よ!」
「はい!こちらこそよろしくですわ!」
この場に居たボン太くんファンの心は一つだった。
それを外から聞く少女が二人。
鈴音「箒。何やってるのあいつら。」
箒「さぁ。なんだろうな?」
ある意味この物語の重要な要素に触れました。
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少女は想いは届かずのふもっふ unsendable
一夏は新聞部いやボン太くん愛好会の部室での一件からとても機嫌が良かった。
世間での自分達の印象は恐らくいや確実に悪いのだろう。
しかし、遠い異国から来たセシリアはそんな事関係ないと声を挙げた。
自分達に理解を示しただけでなく理不尽に吠えボン太くんファンである事に誇りを持つとまで言ってくれた。
その事実はこの学園に居る全てのボン太くんファンを勇気づけてくれるだろう。
その事を考えながら一夏は寮の自室へ向かっていた。
部屋の前まで行くと部屋の中に二人分の気配がする。
一方は箒だろうがもう一方は誰だろうか?
疑問に思いながら扉をノックする。
「は~い。」
中から箒の声がした。
「俺だ。今は入ってもいいか?」
「あぁ、一夏か大丈夫だぞ。」
箒からの了承の返答が返って来たので戸を開ける。
「メールしてくれればノックしなくとも済んだんだがな。」
中に入ると箒がそう話し掛けてくる。
「今度から気を付けよう。」
その様は何も知らない第三者から見れば夫婦の会話の様にも聞こえる。
現に鈴音はそのやり取りを聞いてそう考えた。
「ちょっと箒!今は私も居る事忘れてなかった?」
一夏はもう一人の正体が鈴音と気づき声を掛ける。
「鈴。来ていたのか?」
「うん。さっき振りね一夏!」
鈴は再開から数時間経っていた為に一夏とは話を出来ていない。
その為か同室の箒に頼み一夏が帰って来るまで一緒に待っていた。
「久しぶりなんだから色々話したい事があるのよ。」
「うん。俺もだ小母さんは元気にしているか?」
「お母さんなら元気よ。寧ろ元気すぎるくらい。」
「そうか、今度連絡する時にでもよろしく言っといてくれ。」
それから鈴と一夏は昔話に花を咲かせた。
時々箒からも質問があり。
二人はその質問にそれぞれ答えた。
そうしていると話題は別れの日の事に触れた。
「そう言えばだけど、あんた覚えてる?最後に私が言った言葉。」
「あぁ。毎日、私の作った酢豚を食べてくれる。だったか?」
「そう、それ。あの時あんた答えを濁したからもう一度聞こうと思って。」
鈴の言葉に箒は驚く。
だってそれはどこからどう聞いても告白だから。
しかし、一夏はそうでは無かった様だ。
「済まない。流石に毎日は無理だ。」
「そう…。じゃあ時々ならいいのね。」
「まぁ、そうだな。」
「そっか、了解。」
「しかし、何故そんな事を聞く。」
「何故って。そりゃ…。」
「わざわざ、ただ飯食べさせる為に…。」
「なぁ!」
やはり正しく伝わってなかったらしい。
と、言うよりは一夏が気付いて無いだけなのだが。
「あんた!今までタダでご飯食べさせるだけの為にこんな事言ってたと思っていたの!」
急に怒り出した思い始めた一夏は宥めにかかる。
「落ち着け鈴。何をそんなに怒っている?」
「うっさい!なんでもなにもあれは…。」
「なんだ?鈴どう言う意味だんだ。」
「あ~ぁもう!何で分からないよ!一夏の馬鹿~!」
不躾に意味を問うてくる一夏に羞恥心と怒りで訳が分からなくなった鈴は捨て台詞を残しその場から逃げ去る様に出ていた。
「何だったんだ?」
不思議に思う一夏の肩に手が置かれた。
振り返ると後ろに般若の幻影が見える笑顔の箒が居た。
「一夏~。少し話そうか~。」
「…はい。」
今夜は大荒れである。
一方その頃一夏達の下から飛び出した鈴は廊下の端で泣いていた。
『何であんな事言っちゃたんだろ。ホントはもっと素直に話そうと思ってたのに。』
鈴は鈴で自己嫌悪の陥っているらしい。
『大体何であいつはあそこまで鈍いのよ!』
先程の一夏とのやり取りを思い出して腹が立ってくる。
『あそこまで言われたら普通気付くでしょ!』
しかし、気付かないのが一夏と言う少年である。
『明日からどうしよう。どう一夏や箒と接すれば…。』
明日からの事で憂鬱になっていると前方から見知った相手が歩いてくる。
「や~参った参った!あんな千冬ちゃん見たの久しぶりだよ。」
愛子である、如何やら今日の授業の事で千冬から愚痴を聞かされたらしい。
まぁ、仕方なくはあるが。
そう、言っていた愛子は廊下の端で蹲り泣いていた鈴音を見つけた。
「あれ!鈴音ちゃんどうしたのこんな場所で!何かあったの?」
「愛子さん…。」
「うわ!鈴音ちゃん辛かったんだね。いいよ、思いっきり泣きなさい。」
愛子の姿を見つめると抱き着き暫く泣いていた。
十分位だろうか、泣き始めてからそれ位経った頃漸く泣き止んだ鈴音に愛子が優しく語り掛ける。
「もう、いいの?」
「はい…ありがとうございました。」
「いえいえ。どういたしまして。」
「…何があったか聞かないんですか?」
「鈴音ちゃんが話したくなったら話して。それまでは私からは何も聞かない。」
やはり愛子には敵わないそう思いぽつりぽつりと今まであった事を語りだした。
一通り聞いた愛子は鈴音の頭を撫でながらゆっくり言葉を紡いだ。
「そっか。そんな事があったんだ。」
「はい。」
「一夏君も中々罪作りな事をするね。」
「本当です。」
「じゃあ鈴音ちゃんはこれからどうしたいの?」
「それは…。」
「諦める?」
「それだけはあり得ません!」
「そうだよね。だったら振り向かせなきゃ!」
「それはそうですけど…。具体的にどうやって?」
「そこは自分で考えなきゃ。人に教えて貰ってたんじゃ何時までも片思いだよ。」
「うっ!分かってる。分かってるんでけど…。」
「それじゃあ、ヒントになるか判んないけど今度のクラス代表戦が在るのは知ってる?」
「はい。それが何か?…あっ!」
「うん。そう言う事。」
「分かりました。だとしたらこうしちゃいられない!明日クラスの人に頼んで代表を変わってくれるように頼もう。」
「やる事は決まった?」
「はい!ありがとうございました。愛子さん!」
「いいの。それより今は許してあげたけど。学校では相良先生だからね。」
「うぅ。気を付けます。それじゃあ!」
「うん。また学校でね鈴音ちゃん。」
そう言って愛子の下を離れていく鈴音の目にはさっきまで迷いは無かった。
そして翌日、昨日の事をクラス代表の生徒に話て変わってくれるよう頼んだ鈴音は事情を知った生徒から快くそも座を譲り受けたのだった。
こうして鈴音と一夏の試合が決定した、勝利の女神はどちらに微笑むのか。
そして同じ頃代表戦に黒い影が迫ろうとしていた事はまだ誰も知らない。
鈴音「覚えてなさい!一夏!」
次はクラス代表戦です。
恐らく二話に分けて更新すると思います。
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因縁のふもっふ much fight
本気勝負と合意と見てよろしいですね?
ISロボトルゥー、ファイト―ォ―!
鈴音がクラス代表となった日から数日が経ち、代表戦の当日となったこの日。
鈴音はピットの中でイメージトレーニングで最後の追い込みをかけていた。
『遂にこの日が来た。無理を言ってクラス代表を変わって貰ったんだ。』
『自分の為にも、クラスの為にも負けられない!』
気合は十分、一夏の専用機のデータも何度も見返した。
対策だって、クラスメイトと話し合って十分練った。
『クラスの皆が協力してくれたこの試合、絶対勝つ!勝って一夏に謝らせるんだ!』
鈴音の思いに釣られてクラスメイトも助力を惜しまなかった。
『待ってなさい!一夏、この勝負私が勝つ!』
沸々と闘志を燃やし勝つ準備を着々進めて来た鈴音には勝利した自分の姿が見えていた。
所替わって反対サイドのピットの中では相変わらず混沌とした空気が流れていた。
「ふもっふ。もふるふーも?」『アルファ。調子はどうだ?」
『問題ありません。オールグリーン。全て正常です。』
試合前の最終チェックを始めているアルビノボン太くんの横に千冬の全て悟った顔で佇んでいた。
「もう慣れた。何だ、慣れればどうって事無いじゃないか。」
「お~い!帰って来てくださ~い!織斑先生~!」
哀れな千冬を現実に戻そうと声を掛け続ける愛子である。
「ボン太くん…いつ見ても可愛いな~。」
真耶は最早ボン太くんファンに膝まで浸かり始めていた。
「ふもっふ!ふももふーもっふ!」『よし!全確認行程完了だ!』
「一夏。」
「ふも?」『なんだ?』
全ての確認を終えた一夏に箒が声を掛ける。
「鈴の事を思うと。はっきりとは言えないが。」
「ふもっふ…。」『箒…。』
「勝て一夏。勝ってそれから謝ってこい!」
「ふーもっふ。」『了解!』
されから試合の開始を告げるアナウンスが流れた。
両名、気合は十分後は技量と意地が勝負を決める。
互いが居るピットのカタパルトを睨みその時を待っていた。
そして時は来る。
「織斑君。出撃して下さい。」
真耶の通信が入る。
「ふもっふ!ふももふももっふふもるもっふ!」『了解!アルビノボン太くん織斑一夏出るぞ!』
カタパルトからアリーナの内部に射出されて飛び出るアルビノボン太くん。
その姿を確認したセシリアは他のボン太くん愛好会の面々と共に応援の声を出す。
「がんばれ~ですわ~!ボン太く~ん!!」
セシリアの声が聞こえたのかそちらに顔を向けて声援に応えるボン太くん。
「きゃ~!ボン太く~ん、愛してますわ~!」
セシリアの声援に負けずエールを送る会員達の声援を背中に受けて対戦相手の下に向かう。
「随分、人気じゃない。その姿だから?」
不機嫌そうに、皮肉を込めてそう問うてくる鈴音に。
「ふもっふもふもっふ!」『当たり前だボン太くんだからな!』
「うっ!そう、まぁいいわ。」
「それより分ってるんでしょうね。この勝負に勝った方がどちらかの言い分を聞くって話。」
「ふもも!ふーもふももっふふっもっふ!」『当然だ!一度決めたことは決して違えるつもりはない!』
「そう…なら、いいわ!」
「ふもっふ!」『よろしくお願いします!』
勝負の前、に決めた取り決めで勝者は敗者に何でも一つ言う事を聞くという内約が果たされていた事の確約を取ると鈴音は武装の双天牙月と言う青龍刀を構える。
ボン太くんも突撃槍と大型シールドを構える。
両者睨み合いそして激突した。
双天牙月を縦に振るい上段から叩きこみを掛ける鈴音に対してボン太くんはシールドを青龍刀に対して垂直なるように構える。
そして当たる直前に平行に反らして青龍刀の威力を逃がした後、出来た隙を見逃さずランスで連続で衝きを放つ。
「くっ!中々やるわね。でもこれはどお⁉」
そう言って不敵な笑みを浮かべる鈴音を不審に思っているとアルファが警告してきた。
『周囲の空間に異常を確認しました。離脱してください。』
「ふもっふ!」『了解!』
その場から退避した後どこからか衝撃が来る。
「あら?避けれたの、優秀な補助AIのお陰かしらね。」
「ふもっふ。ふもるるふっももっふ?」『アルファ。あの衝撃波は鈴の機体の武装か?』
『はい。おそらく周囲の大気を圧縮して放つ一種の衝撃砲と思われます。』
アルファの説明は当たっていた。鈴音のIS甲龍には龍咆と呼ばれる衝撃砲が搭載されている。
龍咆は空間自体に圧力を掛け砲身を作る、そして衝撃波そのものを砲弾として打ち出す装置である。
これの恐ろしい所は、砲身が見えずどこに狙いを付けているか分からない事とどこからでも発射できる所である。
しかし、長所ばかりでは無い勿論短所も存在する。
それは砲弾が大気である為に距離を空けられると途端に威力が落ちる事である。
それに気づいたボン太くんは突撃槍からバズーカに武装を変更して遠距離からの攻撃に切り替えた。
「ふもっふ!ふーももふる!」『アルファ!周囲の変化を逐一報告しろ。』
『了解。観測を開始します。』
「させますかってのよ!うぉぉー!」
距離を取って戦うボン太くんと距離を詰める鈴音。
一進一退の攻防が開始された。
「ふもっふ!」『喰らえ!』
ボン太くんがバズーカを放つ!
「無駄よ!」
双天牙月で弾頭を逸らし、龍咆で追い立てる。
そんな攻防が繰り広げられ一見ボン太くんが不利なこの状況はしかし、着実に鈴音を追い詰めて行った。
その予兆が現れ始めたのは戦いが始まって二十分が経とうした時だった。
「くっ!エネルギーが!」
鈴音の機体は鈍重な見て目ではあるが機動力は高い、それに加え龍咆などの空間に干渉する等のエネルギー多く使う武装を装備している為頗る燃費が悪い。
目に見えて動きが悪くなるのを見たボン太くんは一転攻勢に出る。
バズーカを放ちその後に再び突撃槍に持ち替えると突撃を仕掛ける。
「そんな物!くぅ、どうって事無い。」
弾頭を払い除けボン太くんの突撃を迎え撃つ。
『空間に異常を確認しました。』
「ふもっふ!」『分かった!』
アルファの忠告が聞こえ退避しようと後退したが今度はうまくいかなかった。
「そう何度も…逃がすとでも思ってる!」
双天牙月を投げ退路を封じた。
そして、龍咆の一撃を放とうとしたその時。
ドーン
突如天上から音がして鈴音とボン太くんの居る地点に閃光が降って来た。
「ふもっふ。」『間一髪か。』
「ありがと…その、一夏…。」
「ふももっふ。」『今はボン太くんだ。』
「あんた。こんな時までぶれないのね…。」
二人のそんな会話を余所に閃光を放ったと思われる機影が降りて来る。
「ボン太くん…何あれ?」
「ふもっふ。ふももっふふーもっふふもるる。」『分らん。しかし招かざる者という事ははっきりしてるな。』
謎の乱入者はISだった。
しかしその姿は異様である。
胴体は人が操るには細く何より手足が以上に巨大であり片側に巨大な銃と反対側にはこれまた巨大なブレードが装備されている。
何よりその雰囲気に生気を感じないのである。
明らかに善意のある存在ではない。
突然空から現れた敵にボン太くんは鈴音はどう対処するのか。
次回に語ろう。
?「さぁ、私を楽しませて下さいな。」
さて次の話決着です。
そして新たなる形態が登場する予定です。
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アンノウンとの対決のふもっふwarning
アルビノボン太くんの二つ目の形態変化は何でしょう?
鈴音との代表戦の最中に乱入した正体不明機は暫く沈黙していたが、唐突に動き出した。
巨大な銃の銃口をボン太くんに向け放つ。
「ふも!」『何!』
流石に除けるが如何やら威力が高くこれで恐らく天上に張ってあったシールドが破壊されたらしい。
「こっちを見なさい!」
鈴音がアンノウンの注意を引こうと双天牙月で攻撃を仕掛けるが巨大なブレードで阻まれる。
更に押し返され隙が出来た鈴音に銃口を向けその過剰な威力の閃光を放とうとする。
「ふもっふふーも!」『こっちだデカブツ!』
バズーカに持ち替えたボン太くんがアンノウンの頭部に狙いを定めて放つ。
しかしその一撃もブレードで防がれるが鈴音はその隙に離脱した。
鈴音の離脱を確認したボン太くんもその場を下がる。
そして一定の距離を空けて千冬に通信を繋いだ。
「ふもっふ!ふもるもっふ!ふーももっふ!」『織斑先生!こちら一夏です!応答願います。』
「一夏か!良かった無事だたんだな。」
「もふ!ふーもふもふももっふ!」『はい!それより状況を!』
「あぁ。現在、正体不明機がアリーナ内に侵入した。こちらから呼び掛けているが応答がない。」
「大変です!織斑先生、アリーナのシステムがハッキングされています!」
「何!それで状況は?」
「強制的にシールドのレベルが上げられてるね。しかも此方からじゃ解除できない。」
「何だと!観客席の様子は!」
「今は落ち着いていますが。パニックになるのは時間の問題です。」
「急いで生徒の避難誘導を。ただし慌てさせないよう慎重にお願いします。」
「はい!あれ?扉がロックされてる!」
「何だと!まさかアリーナ全体のゲートが…!」
「如何やらその様です。何とか主導権を此方に取り戻すよう試みますが、時間が懸かるかと。」
「どれ位ですか?」
「十五分程度持ち堪えてくれれば。」
「聞いたな。織斑、凰。」
「シールドが破れない以上外からの応援も期待できない。お前たちで奴を止めろ。」
「ふもっふ!ふもるふももっふ!」『了解!十五分持ち堪えればいいんですね!』
「ちょっと、待ちなさい。たかだか十五分たって相手があいつじゃ持つかどうか分かんないわよ。」
「ふももっふ。ふもるるふももーふ。」『問題ない。少し考えがある。』
「考え?何よそれ。」
「ふもっふもふふふーもっふ。」『奴は恐らく無人機だ。』
「無人機~!何でそんな事が分かるのよ!」
「ふ~もふもるふももっふ。」『奴の動きが機械じみていた。』
「たった、それだけで判断したの?」
「ふも。ふもっふ、ふももふもーふもふるふももるもっふ?」『あぁ。アルファ、奴に有効的に戦える形態はあるか?』
『敵対対象が、無人機の場合は火力砲撃による殲滅戦を推奨します。』
「ふもっふふもも。ふもるもっふ?」『火力砲撃戦か。それで形態名は?』
『白鯨形態です。』
「ふもっふ!ふもーふもふー!」『了解!白鯨形態発動ー!』
『モードホワイトホエール。発動。』
ボン太くんが叫んだ瞬間ボン太くんのボディーが光を放つ!
その光は、近くに居た鈴音は勿論の事アリーナに居た者全てが目を瞑った程だった。
如何やらアンノウンもカメラが一時的に機能不能になったらしい。
光が収まりその場に居たのはこの前とは違った姿のボン太くんだった。
『モードホワイトホエール。アクティブ。』
「もっふーん!」『これで決める!』
頭部はマッコウクジラをデフォルメしたセンサーが内蔵されたギアが付き、両肩にヒレをイメージしたフォノンメーザーが片翼に五か所両方合わせて十か所設置されたフィンメーザー、下半身には片側十発双方合わせて二十発の水陸両用誘導式ミサイルポットダイダロスが付き背中には尾びれに見えるテイルレーダーが装備された。
そして、主力武装は二門一対で片側は冷却収束砲(ニブルヘイム)拡散熱線砲(インフェルノ)氷獄と炎獄。
二つの相反する地獄の名を持つ大型砲を二門装備していた。
「もふーんもっふー!」『フィンメーザー発射!』
肩から発射したメーザー光線がアンノウンに直撃した。
しかし、大してダメージになってないのか此方に銃口を向ける。
「ふっもーん!ふーもーふー!」『ニブルヘイム!発射-!』
放たれた光弾に向けて冷却砲を放つと光弾は熱をみるみる奪われ小さくなっていく。
そして、掻き消えると次にインフェルノを相手に向けた。
「ふーもーん!ふもーる!」『インフェルノ!照射!』
インフェルノの熱線がアンノウンに当たった。
すると今度はダメージが通った。
「すごい…!」
鈴はただ見ていただけだがそれでも凄まじい火力である。
その時、放送室から聞きなれた声が聞こえた。
「一夏ー!その調子だ!」
箒が放送室のマイクで一夏に呼び掛ける。
その声に反応したのは残念ながら一夏では無かった。
「何やってんの!箒、逃げなさい!」
アンノウンが箒の声に反応したそちらに銃口を向けたのだ。
しかし、箒は恐怖で足が竦み動けない。
その時!
「もっふーる!ふーもっふー!」『ダイダロス!全弾発射!』
『了解!誘導支持は此方で行います。』
ボン太くんの指示で一斉にポッドから発射されたミサイル達はまるで意思を持つようにアンノウンに突撃していく。
さしものアンノウンも二十発のミサイルは一溜まりもなかった。
そして隙が出来る。
「もふーん!ふももーる!」『アルファ!決めるぞ!』
『了解!エクストラアタックコード[ディープオーシャンブラスト]発動!』
ボン太くんのセンサーギアが顔の上半分を覆いアンノウンの真上に移動した。
ニブルヘイムとインフェルノを銃口を合わせる様にドッキングする。
『ヘルエンドブラスター連結完了。エネルギーの収束を開始します。』
時間が懸かるらしい事をアナウンスで知った、ボン太くんは鈴音に通信で呼び掛ける。
「ふっもーん!ふーもるもっふー!」『鈴!時間を稼いでくれ!』
『エネルギー収束率20%。』
オープンチャンネルで全てを聞いていた鈴音は直ぐに行動に移る。
「まったく!あんたはいつも後の事を考えないで!」
『エネルギー収束率40%。』
アンノウンに陽動を掛け翻弄する鈴音。
しかし、機体の限界が近かった。
「くぅ!こんな時に!」
「誰かお忘れでは無くて!」
『エネルギー収束率80%。』
セシリアがアリーナ内に入って来る。
「ふぅ。どうにか一人はシールドの内側に入れられた。」
愛子がハッキングの隙を付いて一時的にシールドに穴を開けたらしい。
それからセシリアも加わり陽動に激しさが増す。
『エネルギー収束率100%。何時でも撃てます。』
「ふもーん!もふーる!ふっもーんー!」『ディープ!オーシャン!ブラストォォォ!』
その一撃は宛ら獲物を海の底深くに自らの巨体を押し付けて沈める白いクジラの様であった。
半ばやっけぱちとも思えるがシステムがそうさせるのだろう巨大なエネルギーの奔流に最早か細いとも言える光弾を撃つアンノウン。
しかし光弾はエネルギーの奔流に呑まれ消えた。
そしてアンノウン自体も飲み込まれ破壊されていく。
「終わった…。」
「えぇ。流石にあれ喰らえば無事では済まないでしょう。」
こうして乱入者との死闘は終わりを告げた。
その後予定されていた試合は全て中止となりこの第一回戦は無効試合となった。
試合の後の事である。
「結局、決着つかずか…。」
「まぁ、仕方ないわよ。あんな事があった後じゃねぇ。」
一夏と鈴音は保健室に居た。
激戦の後、何処か体に異変が無いかを調べるためである。
「その…なんだ。」
「何よ、言いたい事でもあるの?」
「この間の事は済まなかった。」
「へぇ!いきなり何よ?」
「あの後箒に叱られてな。正直言うと今でもなんで怒ったのか解らない。」
「一夏…。」
「だけど俺が悪いのは解る。だから済まなかった。」
「フフフ、もう良いわよ。あんたがそう言う奴だって事は知ってるし。」
「そうか…。」
「だけど。覚悟しなさいよ。何時か理解させてやるんだから!」
二人の和解はこれで成立したのか?
正直分からないが一つだけ少女の笑顔はここに来てから一番のものだった。
場所は変わりIS学園の地下の立入禁止エリア。
そこには三人の女性の姿があった。
「単刀直入に聞く。この無人機に使わていたコアの事だが…。」
「はい。如何やら登録が無いコアでした。」
「束ちゃん以外が作ったか。もしくは改造したかだね。」
そこにはあの無人機の残骸が安置されていた。
その頃世界のどこかの施設では…。
「強奪したゴーレムがやられましたか。」
「如何やらその様です。」
「彼も中々やりますね。流石はウルズ7を継ぐ者と言ったところでしょうか?」
「…。」
「楽しくなりそうですね。」
怪しい会話が繰り広げられる。
彼女等は一体誰なのかそれはまだ明かされない。
束「へぇー。盗まれたゴーレムがいっくんと…。」
白鯨形態いかがでしたでしょうか。
感想などありましたどうぞ宜しく御願いします。
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黄金の風と銀の衝撃のふもっふdualshock
風の力、お借りします!…すいません。
悪ふざけが過ぎました。
と、言う訳で二人の登場です。
ここはドイツ軍施設内の一室。
椅子に掛ける中年の男とその前に起立した二人の女性が居た。
「お呼びでしょうか!准将!」
呼び方から察するに椅子に座って居るのは少女達の上司の様だ。
「うむ。楽にしたまえ。」
「はっ!」
男の許可を得て姿勢を崩した少女たち二人は小柄な方と数歩後ろに女性にしては大柄な方であろうか。
「少佐。君を呼んだのは少し日本に行ってきて欲しいからだ。」
「はっ!発言を宜しいでしょうか!」
「許そう。なんだね?」
「これは軍の命令ですか?」
「いや。私個人の依頼だ。」
「准将個人の…?」
「あぁ。昔の知り合いに頼まれてしまってね。日本に居るある人物と接触して欲しい。」
「その人物とは?」
「詳しくは後で資料を送ろう。だが一つ明かすとすればウルズ7を継ぐ者と呼ばれている。」
「なっ!まさか、あいつでは!」
「少佐。頼めるかな?」
「はっ!この依頼引き受けさせて頂きます!」
その後、部屋を退室した二人を見送る。
そして、男。リチャードは嘗て自分が支えていた上司を思い出した。
「テッサは何をお考えなのか?」
ミスリルが解体した後、ドイツ軍に元の地位で迎えられてから早数年。
ずっと音信が無かった相手からの急な依頼だった。
しかも名指しである。
薄くなった頭皮が今度は無くなるかもしれないと危惧していた。
場所は替わりフランスのデュノア社の本社ビル。
社長室では密やかにある会話が交わされている。
「お前を日本に送る事になった。」
「…。」
「役割は理解しているな。」
「はい…。」
「ならいい。」
「あの!」
「何だ…。」
「いえ。何でもありません。」
「そうか。なら、もう行け。」
「はい。失礼します。」
一方が退室してから残された方、アルベール・デュノアは苦虫を嚙み潰したような顔で扉の方を見ていた。
「済まない。マリア…。」
そう、呟くと表情をいつもの素面に戻した。
それから数日後の日本、場所はIS学園。
この日、一年一組にはいつもの朝とは一風変わった空気が流れていた。
「織斑君!また転校生来るってさ!」
「またか…。」
「うん。それも二人だって話だよ!」
「二人か。それにしても随分急だな。」
「きっと、一夏さんの影響ですわね。」
「おはようセシリア。俺の影響とは?」
「おはようございます。世界で唯一の男性のIS装着者である一夏さんとコネクションを作りたい国家が多いという事ですわ。」
「成る程な、理解した。」
「それに、あわよくばデータも取れるって考える研究機関もあるだろうしね。」
「鈴か。おはよう。」
「うん。一夏、おはよう。」
「おはようございます。鈴さん。」
「おはよう。セシリア。」
「しかし、今の俺の身柄は日本ミスリル預かりになってるはずだが?」
「確かに、国家としてはそうでも個人としては違うという事ですわ。」
「そう言うものか?」
「そう言うものよ。」
「それより箒は?朝から見ないんだけど。」
「そう言えば、わたくしも見ていませんわね?」
「箒なら、少し考えたい事があると言って先に来ているはずだが。」
三人の話題に上った箒は剣道場に居た。
『あの時、私は足手纏いだった。』
思い出すのはクラス代表戦での一幕である。
放送室から一夏に呼び掛けた箒は結果として無人機に隙を作る事には貢献したが。
それでも一歩間違えれば死んでいた。
その事を教師陣から説教され大分落ち込んでいた。
『私に、専用機が有れば…。』
考えるのはあの時の事である。
あの時、自分にも専用機が有れば一夏と共に戦えただろうか?
鈴音やセシリアの様に一夏の役に立てただろうか?
そんな線無き事が頭をよぎる。
何を馬鹿なっと、心のどこかで囁く自分も居るがそれでも考えてしまうらしい。
そうこうしているとホームルームの時間が近くなっている事に気付く。
「こうしてはおれんな、先ずは目の前の事から当たらねば。」
そう意識を入れ替え剣道場を後にした。
教室に戻った箒は鈴音達から質問される。
「おはよう箒。どこ行ってたのよ?」
「あぁ。おはよう鈴。少し剣道場にな。」
「おはようございます。箒さん何か悩み事でもありまして?何時でも相談に乗りますわよ。」
「おはようセシリア。なに、そこまで深刻な問題じゃないんだ。」
「そうですか。でも言いたくなったら何時でも言ってくださいね?」
「あぁ。その時は頼む。」
「あ!そろそろ行かなきゃ!じゃあ次の休憩時間にまた来るわね。」
そう言って自分の教室に帰っていく鈴音を見送り自分の席に着く。
丁度始業のチャイムが鳴った。
教師陣が教室に入って来る。
そして何時もの様に真耶が壇上に上がって声を挙げる。
「おはようございます!皆さん、今日は転校生が来ています!」
真耶の発言に教室がざわつく。
「しかも二人です!」
前情報の通り二人転校してきたようだ。
「では、早速入って来てください!」
そう呼び掛けると教室の入り口から二人の制服姿の人物が入って来る。
その内の一人に教室に居た生徒はざわめきを強くする。
「じゃあ一人づつ順番に自己紹介をして下さい。」
「先ずは、ラウラ・ボーデヴィッヒさんからお願いします。」
真耶に促されラウラと呼ばれた少女が前に出る。
「うむ。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。」
「あの、それだけですか?」
「あぁ、ほかに何か?」
「いえ、それでよければ別に…。」
実に簡素な自己紹介である。
そんなラウラは教室を見回しある生徒を見つけるとその近くまで近づく。
「貴様が、織斑一夏か?」
「そうだが。」
「貴様が!」
何を思ったのか急に頬を叩こうと手を出すラウラ。
しかし、一夏は慌てず椅子を引くと迫る腕を掴み腹這いにになる様にラウラを机に押さえつける。
「直前まで殺気を隠していたのに最後は随分お粗末だな。」
そう言い放つ一夏に逆上したラウラは声を荒げる。
「貴様が居なければ。教官は今も…!」
「教官?」
熱くなるラウラに飽く迄でも冷静に対処する一夏。
ちなみに一夏は今まで一度も立ってない。
「織斑。いい加減離してやれ。」
「いいのですか?織斑先生。」
「構わん。こいつには後からきつく言っておく。」
「織斑先生がそう言うのであれば。」
漸く解放されたラウラは今度は千冬の方に詰め寄る。
「何故ですか!織斑教官!貴女ほどの人が何故っ!」
スパン
それ以上は紡がれなかった。
出席薄が彼女の脳天に突き刺さったのである。
「ここでは、織斑先生と呼べいいな。」
「はっ!織斑先生…。」
頭を押さえ涙目でそう返事を返して元の場所に戻る。
「えぇっと。じゃあもう一人もお願いします。」
空気を換えるために無理やり話題を逸らした真耶は佇んでいたもう一人の転校生に声を掛ける。
「はい。フランスから来ました。シャルル・デュノアです。」
「日本に僕と同じ境遇の人が居ると聞いてきました。宜しければ仲良くしてください。」
暫く沈黙した後誰かが小さく声を出す。
「男…!」
その声を皮切りにクラス全体がお祭り状態になる。
「二人目よ!」
「しかも織斑君とは違って守りたくなる系男子!」
朝から賑やかだ。
しかし、一夏は何処か訝しげにシャルルを見つめる。
一時間目の授業が差し迫っても静かに成らない教室に愛子が懐に手を伸ばす。
チャキッ
その音を聞いて教室が一気に静かになる。
「一時間目は二組と合同で実機訓練だ遅れるなよ。」
そう言って千冬が教室を後にすると生徒たちは粛々と移動を開始した。
シャルル「見られてる…!」
リチャードが何故ドイツ軍に居たか?
ミスリル解体→暫く引退して隠居生活→ドイツ軍が設立したばかりのIS部隊の指揮経験の無い状態→そこで隠居していたリチャードに依頼→リチャードを指揮官の補佐として着任→ところが指揮官陣営に汚職が発覚→そのまま責任者になってそれから纏めた部隊が功績を出し続けたので二階級特進これが一連の流れです。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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推察するボン太くんreasoning
実は前話でもあるフラグを立ててます。
ホームルームの直ぐ後。
生徒たちが着替えの為に移動を開始する中、シャルルは一夏とコンタクトを取ろうとしていた。
「えっと。織斑一夏君でいいんだよね?」
「僕は、シャルル・デュノアだよ。よろしく…。」
「すまんが話してる余裕はないぞ。」
「へぇ!ちょっと待って!僕色々聞きたい事が有るんだ…。」
「なら移動しながら聞く。今は急ぐぞ。」
「え?あぁ、うん。」
足早に教室を出ようとする一夏の後に続き廊下に出るシャルル。
そして何故、一夏が早く移動しようとしたかの意味を知る。
「居たわ!噂の転校生!」
「それも貴重な男性操縦者よ!」
廊下を埋め尽くす女子生徒の波がそこには広がっていた。
如何やら休憩時間の始まりからずっと待機していたらしい。
「一足遅かったか…。」
そう呟く一夏は女子の波の最前線を眺める。
すると何かを見つけた。
「シャルルと言ったか?」
「うん。そうだけど。」
「お前は運が良い。」
「え?」
「俺の後ろに付いて来い。」
手短にそう言うと女子の波のある一点に迷わず進んで行く。
「抜け道の確保、感謝します。」
「いえ、世にボン太くんの幸せが有らん事を。」
「世にボン太くんの幸せが有らん事を。」
そう小声で短く会話をする一夏と女子生徒。
如何やらボン太くん愛好会のメンバーが抜け道を作ってくれたらしい。
その遣り取りを後ろで聞いていたシャルルは目を輝かせた。
「これがボン太くんの生まれた国の…本場のファン…!」
とても小さな声で囁いたそれを一夏は聞き逃さなかった。
それから愛好会メンバーの助けで無事更衣室まで辿り着いたシャルルは詰めていた息を吐きだした。
「大変だった。これって毎回なの?」
何気なく聞くシャルル。
「あぁ、俺は慣れた。」
「だが、最初の頃は苦労したな。」
事も無げに話す一夏にシャルルは嘆息する。
「それより、お前ボン太くんファンなのか?」
「ふぇぇぇ!そうだけど…何でしてるの?」
「さっき、自分で言っていたじゃないか。」
「え!そうだったの!」
「あぁ。とは言っても、俺と近くに居た女子がやっと聞き取れるかどうかだけどな。」
「そうなんだ!良かった~。」
「先にボン太くん愛好会には明かしておけよ。」
「うん。でも何で?」
「日本のボン太くんファンは互いを助け合う。さっきのだってその一環だ。」
「成る程…。」
「それに、愛好会の所属人数はこの学園の三分の一を占める。」
「つまり三分の一の生徒を味方に付けられる。」
「そっそうなんだ!」
「うん。分かったよ。早速今日行ってくる。」
「それがいい。部室は新聞部だ。」
「ありがとう織斑君。」
「一夏でいい。それに俺もシャルルと呼んだしな。」
「そっか。じゃあ、改めてよろしく一夏!」
「あぁ、よろしくなシャルル。」
二人は軽く握手を交わす。
そっと部屋の時計を見ると時間が差し迫っていた。
「シャルル。俺は、向こうで着替える。」
「お前はこっちで着替えろ。」
「うん、分かった。」
そう言って一夏は向かい側のロッカーに移動した。
『さて、ここまでの観察した事を纏めよう。』
着替えながらある事を考える。
『顔の形、声帯、喉頭隆起の有無、以上の目で判断出来る差異を除外して考察してみるか。』
如何やらシャルルの事の様だ。
今挙げた個所は技術が発達した現在に置いて偽装が不可能な場所では無い。
『先ず見るべきは骨格か。』
この現在に置いても骨格を完全に変える技術は無い。
『解り易いのは肩と腰、肩から考察して見る。』
男性と女性の肩は骨格から大きく違う。
『服で隠してはいるがなで肩特有の腕の振りだったな。次は腰、これは歩行法と歩幅で判断出来る。』
『内股で歩幅は…いや、男性ではあの歩幅はあり得ない。どんなに短足でも、もう半歩前に出てる。』
『最後にしぐさはどうだったか…。多少矯正はされているがそれでもまだ女性らしい。』
細かく記憶から呼び起こされるシャルルの一挙手一投足を判断材料に彼なりに推理していく。
そして、結論は出た。
『男装の麗人....それにしては、変装がお粗末だな。』
しかし、新たな疑問に当たった。
「どちらにしても。今は、情報が少な過ぎる…もう少し様子を見よう。」
そう、結論付けシャルルに声を掛ける。
「お~い!シャルル~!着替えは終わったか~?」
少し大きな声で呼ぶと直ぐに返事が来た。
「一夏~!うん。終わったよ~。」
そう返事が来たのでシャルルの下に向かう。
「よし!行くか。」
「うん!」
グラウンドに移動した一夏達は整列した列に並んだ。
全員揃った事で千冬から号令が掛る。
「お前達!今日は二組と合同だからと言って浮かれるな!」
「前にも言った様、に実機を使った訓練には不確定要素が付き物だその事を良く理解しておけ!」
「「「「はい!」」」」
「よろしい。ん?山田先生は、まだ来てないようですが?」
真耶の到着が遅れている事を疑問に思っていると。
空から慌てた声が聞こえてくる。
「退いて下さ~い!」
ISを纏った真耶がこちらに向かって落下してくる。
『一夏。助言を宜しいでしょうか?』
ブレスレットから直接耳のマイクに音声が送られる。
「アルファか?何だ。」
『彼女の落下予測地点が今、一夏の立って居る場所ですが。』
「ふむ。しかし、ここで避けても良いが。俺の心象的には余りよろしく無いな。」
『では、空中で確保する事を提案します。』
「成る程な。アルビノ!」
そう言って腕を掲げるとアルビノボン太くんを纏った一夏が落下する真耶の元まで向かう。
『接近まで、約2分。』
「え!ボン太くん…!」
『接触します。』
「ふもっふ?」『大丈夫ですか?』
ボン太くんに優しく抱き留められた真耶は夢心地の様な顔で彼を見ていた。
「ボン太くんにお姫様抱っこされてる…キャッ!」
とても嬉しそうである。
「あ~ぁ。羨ましいですわ~。」
セシリアは平常運転。
「いいな~。ボン太くんにお姫様抱っこ~。」
シャルルも相当か!
「なっ何だあれは!」
「ボーデヴィッヒ!分かるぞその気持ち!」
「可愛いではないか!」
「ボーデヴィッヒ~!」OTL
「どうどう。」
唯一の理解者が現れたっと思ったら速攻で裏切られ落ち込む千冬を宥める愛子。
日常風景と化したこの惨状を幼馴染二人はとても冷めた目で見ていた。
転校初日の一時間目なのにえらいカオスである。
この後千冬が復活するまで暫く時間が係った事は言うまでもない。
千冬「神は、死んだ…。」
授業の後半はちゃんと書きます。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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波乱はすぐそこまでのふもっふaccident
千冬が復活出来たのは授業開始から十分が経過した後だった。
「え~ぇ、うん!授業を再開する。」
さっきまで落ち込んでいたのを見ていた生徒達の目が妙に生暖かい。
まぁ、あんな姿を目撃した手前威厳もへったくれもないが。
そして、そんな視線を鋼の精神で乗り切り如何にか授業を再開した。
「凰とオルコット。二人だけ出て来い。」
指名され前に出る二人。
「お前達には山田先生と模擬戦をして貰う。」
「はぁ。」
「あの、お言葉が過ぎるとは思いますが一ついいでしょうか?」
明らかに真耶の実力を下に見た態度で語る二人に千冬は意地の悪い笑みで返す。
「お前達、山田先生を嘗めてるな?」
「確かに普段の姿を見ていれば、そう思うのも分かるが。」
「こう見えて山田先生は日本の国家代表候補に上り詰めた実力者だ。」
「結局、候補止まりでしたけどね。」
千冬と真耶の掛け合いに生徒たちはどよめく。
無論それは鈴音とセシリアも同じ。
そして、二人の眼つきが変わった。
二人のやる気を感じ取り対峙する真耶。
「では、はじめ!」
千冬の号令で模擬戦が始まる。
「模擬戦なので何処からでも良いですよ。二人同時でも構いません。」
普段とは違い強気な姿勢を見せる真耶にセシリアは鈴音に提案を持ち掛ける。
「鈴さん。ここは、山田先生のお言葉を受けましょう。」
「セシリア?」
「さっき、織斑先生がおっしゃた様に山田先生は元国家代表候補だそうですし。」
「今のわたくし達では、一人ずつ戦った所で結果は目に見えていますわ。」
「成る程ね。どうせ戦うなら少しでも勝つ確率が高い方をって訳ね。」
「そう言う事ですわ。」
「いいわ!その提案、乗りましょう!」
会話は終わり、セシリアがスターライトで援護しながら鈴音が真耶に接近する。
しかし、真耶はセシリアの援護を躱し鈴音の攻撃を往なして押し込める。
攻めているのは二人の筈なのに終始押しているのは真耶だった。
「それまで!」
千冬の静止の声で二人は動きを止める。
「山田先生、ありがとうございました。」
「いえ、私もやっと教師らしい働きが出来ました。」
「お前達も、分かったか今の自分の実力が。」
「はい…。」
「一度も攻撃を当てる事が出来ませんでしたわ。」
専用機を与えられ少し調子に乗っていた自分を戒めた二人。
「後は、それぞれISの基礎操縦訓練を行う。」
「専用機持ちをグループリーダーに其々分れて訓練を行うよに。」
千冬の指示で、各専用機持ちの下に生徒が集まって来る。
やはり共呼ぶべきか、男子二人の下には大勢集まった。
「よろしくお願いします!ボン太くん!」
「一度近くであってみたい思ってました!」
「あの!握手して貰っていいですか!」
ボン太くんの方だけ違う目的だったらしい。
その光景を見ていたセシリアとシャルルは。
「くぅ!こんな立場でなければ!」
「羨ましいよ、皆…!」
ボン太くんファンに男女の感覚は無いらしい。
千冬はと言うと。
「何も聞こえん!何も見えん!ボン太くんの姿など!」
現実逃避していた。
何はともあれ無事授業も終わった。
そして昼休み、この日は転校したてのシャルルにささやかな昼食会が屋上で開かれていた。
しかし、箒は不満そうである。
「どうしてこうなった…。」
どうもこうも全ては一夏への説明不足が原因である。
前の時間、一夏に二人きりの昼食の誘ったと思っていた箒だったがその会話を鈴音に聞かれていた。
そして、自分も付いて行っていいかと一夏に聞き同意を得たのである。
ところが話はここで終わらなかった。
どうせならとセシリアやシャルルにも声を掛けた一夏。
セシリアは少し悩んだが状況を知らないシャルルに促され参加したらしい。
「ごめんなさい箒さん。事情を知ってはいるのですが、同じボン太くんファンに誘われては断り辛く。」
悪いと思ったのかセシリアが箒に謝罪してくる。
「僕も、ごめんね。事情も知らずに。」
シャルルも状況を察したのか謝って来る。
「いや、良いんだ。一夏の性格を知っていながらこうなる事を予測できなかった私が悪い。」
「そうよ。抜け駆けしようだなんて考える方が悪いのよ。」
「ぐぬぬ…!」
箒の自重に鈴音が被せる言葉は辛辣である。
その二人の様子を離れた場所で不思議そうに眺める一夏は四人を呼ぶ。
「お~い!どうした?そんな所で固まって。」
呑気に自分達を呼ぶ、事の元凶に不毛と分かりつつ怒り覚える箒であった。
そんな事もありながら昼食会は賑やかに始まった。
「一夏。お前の好きだった若鶏の唐揚げだ。」
「ん?おぉ!覚えていたのか、随分前の事なのに。」
「当たり前だ。お前の事は忘れはずが…。」
「ねぇ一夏!」
「鈴?何だ。」
「あんたこの間、偶になら私の酢豚食べたいって言ったわよね。」
「あぁ。確かに言ったが。」
「作ってきたから食べなさい。」
「うん。いただこうか。」
一夏を挟んで行われる箒と鈴音との睨み合いを蚊帳の外で見守るセシリアとシャルル。
二人は一夏の度を過ぎた鈍感さに疑問を持ちながら、事の成り行きを見守った。
ふと、一夏がシャルル達に気が付いた。
「どうしたんだ、そんな所でこっちで一緒に食べよう。」
一夏の声にハッ!と意識を外に戻した箒と鈴音も呼び掛ける。
「すまない。少し集中しすぎて気が回らなかった。」
「あんた達の分もあるから一緒に食べましょ!」
二人にも呼ばれては断り難いのか二人は近くに向かう。
「本当に美味しいね、箒の料理。」
「鈴さんの酢豚も中々ですわよ。」
「そんな事は無い。別に普通だ…。」
「そうよ、私も親が料理人ってだけだし…。」
一夏以外の誰かに料理を褒められるのが嬉しいのか二人とも照れながらも謙遜する。
「シャルル。これも美味いから食べてみろ。」
そう言って料理を皿に載せてシャルルに差し出した。
「あ!ありがとう一夏。」
礼を言って皿を取ろうとして二人の手が重なる。
「どうした?シャルル。」
「い、いや。何でもないよ。」
手が重なった時、箒と鈴音から凄まじい殺気を感じたシャルルは少し怯えた様に答えた。
この二人もしかして気付いているのか?
こうして昼食会は昼休みの終わりまで続いた。
シャルル「ばれてる?」
箒と鈴音はただの直感なのでこの時点では気付いてません。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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作られた悪意の片鱗のふもっふconspiracy
放課後、一夏は人気の無い教室である人物と接触していた。
「すいません薫子先輩。急な依頼を引き受けて貰って。」
密会の相手は薫子の様だ。
「いいのよ。それにしても、デュノア君の近辺を調べてほしいってメールを貰った時は如何したのかと思ったわ。」
「それで、何か分かりました?」
薫子は外に情報屋とのパイプが有り、一夏はそれを頼った。
全てはシャルルが此処までくるに至った経緯を知る為である。
「えぇ、如何やらデュノア社は数年前から赤字が続いてるみたいよ。」
「赤字?デュノア社と言えばフランスのIS関連のメーカーで大手のはず。」
「どうも、第三世代の開発がうまくいって無いみたいなの。」
「成る程。それで、男として…。しかし、ラファールはバージョンアップ機がまだ現役のはずでは?」
「それも他の企業に押され始めてるみたい。」
「それで俺の専用機のデータを…いや、それだけが狙いだとする余りにもリスクが大きすぎる。」
「そうよね。万が一、性別詐称が発覚したらと考えると余り合理的ではないわ。」
「やはり、そう思いますか。学園には各国から派遣された留学生や代表候補生が集まっている。そんな場所でこの事が露呈したらフランスの信用に傷が付く。」
「その事と、関係が有るかどうかは判らないけど。もう一つある情報が入ったの。」
「それは?」
「現在のデュノア社の経営権は二つの家が管理しているの。一つはデュノア家、そしてもう一つが奥様の実家のコールマン家よ。」
「それが何か?」
「うん。実は経営不振になる十数年前までもう一つ技術開発部門を受け持っていた三番目の家系があったの。」
「その家の名は?」
「ウェストコートよ。」
「ウェストコート家…。」
「今解ってるのはこれだけ、あと数日待って貰えれば他に分かるかもしれないけど?」
「はい。引き続きお願いします。」
「了解よ。」
その後、空き教室を出て少し過ぎた頃。
真耶と出くわした。
「織斑君。どこに居たんですか?」
「いえ、少し調べ物を。それより何か用ですか?」
「はい。今日からデュノア君と相部屋になったと伝えてなかったので。」
『何故、こうも必要事項を伝え忘れるのか。』
そう感じているのが顔に出ている為か若干涙目に成りながら必死に弁明の言葉を探る真耶。
ここに居ては埒が空かないと真耶を置いてその場を離れる。
寮に戻る道すがら薫子から齎された情報をもう一度思い出す。
『デュノア社の業績不振に、ウェストコート家の失墜か。』
パズルのピースはまだ足りてはいないが。それでも朧気ながら全容は把握出来つつある。
『あと少し、せめてシャルル本人から何か情報が得られれば。』
そう過ぎった考えを頭を振って追い払う。
『今はまだ確証が無い。変に勘繰り警戒されればより厄介だ。』
「先ずは信用を得る所からだ…。」
そう考え、一路寮までの道を行く。
信用を得る足掛かりとしては相部屋は良い環境だと気が付くのはシャルルと部屋で会話した時だったのは関係ない事である。
それから数日が過ぎたある日。
一夏はシャルルと自主訓練を行っていた。
「こうして見るとボン太くんって凄い機体だね。」
「ふも?ふももっふ。」『そうか?確かに汎用性は良いが。』
「うん。それもそうだけど、アルビノボン太くんに限った話なんだけど。」
「2.5世代と言ってるにしては第三世代並みの機体性能に加えて、それ単機で高速格闘や火力砲撃と云った複数の戦局に対応できる機体なんて聞いた事がないから。」
「ふもっふ。ふもーふもっふ。」『成る程な。だが長所ばかりでもないぞ。』
「そうなの?」
「ふも。ふーももっふふもーふ。」『あぁ。それだけ複雑な操作が出来る人間は限られるからな。』
「成る程ね。幾ら高性能な機体でもそれを扱えなければ意味が無いって事。」
「ふもっふ。」『そう言う事だ。』
そう、幾ら補助AIを積んでいても限度が有る。
やはり操作の大部分は人間の技術が必要なのである。
そんな二人の遣り取りを聞いてか挑発的な声がした。
「ほう。それは是非、お手合わせ願いたいな。」
ラウラが此方に嘲る様に言ってきた。
「ボーデヴィッヒさんだっけ、いきなり来てそれは無いんじゃないかな?」
ラウラの不躾な言動に反論するシャルル。
「誰かと思えば、何時までも第二世代に留まってるフランスの代表候補生か。」
「まだ、実用化出来てないドイツの第三世代よりかはマシじゃないかな。」
言葉自体は穏やかだが発せられる語気は攻撃的だ。
「ふもっふ。ふもふももっふ。」『シャルル。少し下がっていてくれ。』
「ボン太くん?」
「ふーもふももっふもっふーもふ?」『ボーデヴィッヒ、今のは模擬試合を申し込まれたと取って良いのか?』
「そうだと言ったら。」
「ふも。もっふもっふー!」『ならば。受けるのが礼儀!』
「ちょっと!ボン太くん!」
「ふもも。もふーもっふふもっふ。」『慌てるな。ここで受けなければ他に飛び火するかもしれん。』
「ふもふもふーも。ふももっふ!」『そうならない為にも。ここで手打ちにする!』
「ボン太くん…わかったよ。もう止めない。」
「ふもっふ。」『感謝する。』
そう言って、ボン太くんは捕縛用粘着弾ランチャーとワイヤーアンカーを装備した。
「ふもっふ!」『よろしくお願いします!』
試合開始の礼をの直後、二人の戦いは始まった。
先に動いたのボン太くんだった。
粘着弾ランチャーをラウラに向け放つと距離を離す。
「はっ!言った割には逃げるのか!」
それをラウラは躱して追う。
ボン太くんに向けワイヤーブレードを打ち、それをボン太くんはワイヤーアンカーを射出して先端を衝突させて逸らす。
ラウラの背後を取りたいボン太くんは蛇行しながら移動する。
大口径レールカノンの狙いが定まらず苛立つラウラは戻したワイヤーブレードを再び放った。
しかし、此方もさっきと同じようにワイヤーアンカーぶつけて狙いを逸らした。
焦るラウラは足元に気付かなかった。
先程ボン太くんが放った粘着弾を踏み足を取られる。
「くっ!こいつは!」
「ふもっふ!」『今だ!』
背後からアウラに接近するボン太くん。
アンカーの先端のクローを展開して接近戦に持ち込もうとする。
「ふっ。掛かったな!」
「ふも!」『何!』
接近したボン太くんの動き止まった。
「ふもっふ!」『アルファ!』
『データベースに、この現象についての記述があります。』
「ふもっふもっふ!」『早く開示しろ。』
『了解。AICとの記述あり。アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、PICの発展技術である。相手を任意で停止することが出来る。しかし、その為に対象にかなりの集中力を集めるため二人以上の相手及びビーム武器には不利になる。以上です。』
「ふもっふ。ふーももっふもふるもっふ!」『アルファ。この場に限り操縦権限を委任する!』
『了解!パイロット一夏を本機から離脱させます。』
一夏の命令で一夏から外れたボン太くんがAICの呪縛から解き放たれ、捕縛ランチャーをレールガンの発射口とワイヤーブレードの射出装置に向けて撃つ。
「何だと!」
急な事に反応が遅れ遠距離兵器を潰された。
そして動揺している隙にAICの効果範囲から抜けた一夏は再びボン太くんを纏う。
「遠隔操作だと!」
「ふもっふ。ふーもっふもっふーふもる。」『違うな。補助AIを積んだボン太くんタイプの特性だ。』
「機体特性だと!」
「ふもっふ。もふふもっふふももっふ。」『そうだ。一時的に補助AIに操縦権限を移した。』
「そんな事が…!」
「ふもっふ!」『仕上げだ!』
ボン太くんはワイヤーアンカーをラウラの周りを囲う様に打ち出し徐々に円を狭める。
「こんなモノ!」
「もっふ!ふーもっふ!」『無駄だ!ミスリル製の特殊ワイヤーだ!』
そう、このワイヤーはミスリルの技術で作られた超硬質ワイヤーの発展型なのである。
熱や摩耗に強くバーナーやナイフ、ハイバイブブレードですら切れなかった代物である。
段々動きが取り辛くなると決着がついた。
「ふもっふふももふもるもっふー?」『貴様は誰の意思で戦っている?』
「何?」
「ふもるもっふふもっふもーふ。」『少なくとも貴様の意思で戦っていたらこんなにあっさりは勝てなかった。』
「何を言っている!」
「ふもっふ。ふももるもふふもっふ?」『自覚無しか。初対面の時に言った事を覚えているか?』
「確か。直前までは殺気を隠していたのに最後は随分お粗末だな。だよね。」
シャルルが答える。
「ふもっふ。ふももっふ。」『そうだ。だから問う。』
「ふももふーもっふもっふ!」『お前は誰の意思で戦っている!』
この発言の後騒ぎを聞きつけた担当教諭に促されアリーナを出って行くボン太くんの背をただ茫然と眺めるラウラはボン太くんが発した言葉の意味を理解できなかった。
後にこの一件は千冬の耳に入る。
そして、二人は用務員の雑用の手伝いを言い渡されて事なきを得た。
千冬「IS学園最凶が目覚めなければいいが?」
千冬が恐れる最凶の用務員とは?
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本当の最凶は別にいるのふもっふberserker
IS学園最強は誰か?
こう問い掛けると教職員・生徒共に織斑千冬と答える。
では、今度は最凶は誰かと尋ねると。
生徒は此方も織斑千冬と返すが、教師は震えながら最凶は別にいると答える。
それは誰かと尋ねても怯えきりった表情で何も言わなくなるのである。
話は代わるが此処、IS学園には二人の用務員が居る。
一人は轡木十三、実はこの人物はこの学園の学園長と云う肩書きを持っている。
そして、もう一人が大貫善治である。
彼は、教師からは大貫さんと呼ばれ何処か彼に怯えた様な態度で接されている。
そしてこの日ある二人の生徒が史上最凶の用務員の片鱗を知る事になる。
それはこの日の朝に遡る。
「君達が織斑君とボーデヴィッヒさんだね。」
「はい!」
「あぁ、そうだ。」
休日の早朝、一夏とラウラはこの間起こした私闘の件の罰として今日一日用務員の雑務の手伝いをする事になっていた。
「織斑先生から訳は聞いておる。仲が悪い事もね。」
「はい。」
「ふん!」
「だが今日は、心を入れ替えてお互い協力しあって仕事に当たって欲しい。」
「努力します。」
「教官の命令だ従っておいてやる。」
「はぁ。兎に角、頼むよ。」
大貫さんは二人の態度を見て不安そうに念を押した。
先ずは校内のゴミ拾いからだ。
本来ならよく目を配らせて置けば直ぐに終わりそうなこの作業だが、如何せんこの二人だ平和に終わるはずが無かった。
「貴様!どこを見ているそこにまだゴミが落ちているぞ!」
「お前の方こそどこを見ている!まだ、あそこに取りこぼしがあるぞ!」
「ぐぬぬ…!」
「うぐぐ…!」
一様、真面目にやってはいるがお互いがいがみ合うこの状況で真面な清掃活動が行えるかと言われれば否である。
「もう、我慢出来ん!ここで雌雄を決するぞ!」
「望むところだ!」
やはり喧嘩が始まってしまった。
「貴様なぞ、ISが無くとも十分だ!」
ラウラは、小柄な体のどこに隠したのか。
ショットガンを取り出した。
「お前!銃を使うなど何と卑怯な!」
「卑怯などでは無い!」
「なにを…!」
「より良い兵装で挑むのが戦いの常だ!」
「言わせておけば…許さん!」
二人が乱闘を始め辺りが清掃開始時よりも散らかり始めた。
響く騒音を聞きつけて大貫さんが二人の様子を見に来た。
「君達!何をやっとるんだ!」
「大動脈流究極奥義!臨死堆拳!」
「ふん!あまいわ!」
「むぁぁぁ!」
ラウラが躱した一夏の拳術は後ろに居た大貫さんを捉えてしまった。
「大貫さん!大貫さーん!」
「しまった!えぇい、退け!私が介抱する。」
「いや、大貫さんを気絶させたのは俺だ!俺が介抱する。」
「いや、元はと云えば私が避けたのが原因だ。ここは私が…。」
気絶した中年のおじさんを巡って言い争う美男美女。
傍から見たら凄いカオスだ。
そして、そんなやり取りを続けていると大貫さんが目を覚ます。
「だから、私がやると言っている!」
「いや、だからここは俺が!」
「君達!一体、何をしているのだね!」
体の節々が痛く、うまく動けない状況でも。
今、自分の衣服が脱がされている事は確認した大貫さんは慌てて二人に呼び掛ける。
「あぁ!良かった、気が付きましたか。」
「何処かおかしな所はあるか?」
「落ち着きなさい!まずこの状況を説明してくれ!」
平静を取り戻し、状況を詳しく話す二人。
そして、一夏の一撃で暫く安静にしていなけれならない大貫さんは一抹の不安を感じつつ用務員室に連れていかれた。
「じゃあ、暫く休むから今度こそ協力するんだよ!いいね!」
「はい!」
「任せておけ。」
力強く応えた二人に更に不安を感じながらそれでも信じて見送った。
少しの間休んでいると漸く動けるようになる。
如何やら時間的に夕方頃に差し掛かっていた。
「どれ、二人がうまくやっているか見に行っているか。」
そう呟くと用務員室を出て外の様子を見回った。
そして見えてきたのは悲惨な光景だった…。
本来ならタイルが一枚剥がれただけの筈の床が接着剤でガチガチに固められ。
塗装が少し剥がれた程度の壁が迷彩模様に塗り直され。
花壇だった場所は大量に水が注がれまるで底なし沼の様相であり。
約5cm程度の穴が空いただけだった金網が有刺鉄線で補強され、更に高圧電流が流されていた。
たった半日の間に変わり果てた校内の様相に青筋が浮かびかける大貫さん。
しかしギリギリの理性でそれを止まった。
「怒ってはいかん。怒ってはいかん。こんな事は前にもあった。それに忍び難きを偲んできた人生だ、こんな事で怒っていては年上として示しがつかん。」
そう言って哀愁の籠った背中を向けて用務員室に一路足を向けた。
「貴様!何故、邪魔をする!」
「邪魔をしているのはお前だろう!」
部屋の中では一夏とラウラが言い争いの最中である。
そして、部屋の中の物が散乱する中偶々近くにあった卓袱台が入り口の方に飛んでいく。
「ぶはぁぁぁ!」
「「大貫さん!」」
偶然、帰って来た大貫さんに卓袱台が当たった。
「二人ともそこに座りなさい!」
大貫さんも我慢の限界が来たようだ。
「君達の熱意には大変感心しとる。仕事の内容は如何あれその努力は認めているつもりだ。」
「「はぁ…。」」
「だが、しかーし!どうして捨て置けない事が一つあるそれは君達のその関係だ。」
「どうしてそこまで仲が悪いのだね?つまらん事でいがみ合って、全く嘆かわしい。」
「争っていては何も生まれんよ。仲良くしろとまでは言わないまでももう少し協力し合う事はできんのかね?」
「そう言う事でしたら。」
「ついさっきやっていたところだ。」
「ほう。」
「今日の夕食にと作った魚の味噌煮だ。」
「ラウラが食材を用意して俺が調理しました。」
皿に出された料理を食べ始まる大貫さん。
「おお、うまい!」
「「はぁぁ。」」
「うんうん。何だやればできるじゃないか。ところでこの魚、何の魚かな?随分、懐かしい味だが。」
「鯉です。」
その答えを聞いた瞬間大貫さんの手が止まる。
「校舎裏の池で取って来ました。」
「デカかったな。」
「それによく暴れた。」
「殺すのに手間取ったぞ。」
「どうしました?大貫さん」
立ち上がり押し入れの方に進む大貫さんに一夏は問い掛けた。
「フフフ。君達あの鯉はね…。」
「あの鯉は?」
「私が、この学校に勤める前の学校から育てていて孫も同然。そんな鯉だったんだよ…。」
「はぁ。」
「名前は、以前飼ってた鯉の名前を引き継いでフランスの有名な女優のカトリーヌと名付けていたんだ…。」
「それを取って来た?殺すのに手間取った?剰え、それを私に食べさせた訳だ君達は…。」
「そうなるな。」
「うんうん。オジサン漸く思い出したよ。君達の様な子には熱意や善意など微塵も無い。」
「大貫さん?」
「有るのは私を困らせてやろと云う悪意のみだという事をね…。」
「それは違い…。」
「愛しいカトリーヌの無念を晴らさなければならない。」
ブゥゥゥン
「残念だけど、死んでもらうよ。織斑君、ボーデヴィッヒさん」
「「待っ…。」」
「ダーイ(死ね)!」
翌朝、千冬が学園に着くと。
校舎は半壊していた。
一夏とラウラは更衣室で見つかったが。
「一晩中、狂戦士化した用務員と…実弾が…弾丸が効かんとは…。」
「戦いは嫌だ…もう戦いたくない…俺はもう戦うのは御免だ…。」
譫言の様に同じ言葉を繰り返すだけだった。
そして少し離れた場所で気絶していた大貫さんを見て、千冬は全てを悟った。
なお大貫さんは昨晩の事を一切覚えていなかったらしい。
この後一夏とラウラは乱闘を控える様になったのは言うまでもない。
千冬「目覚めたのか…最凶が。」
正直に言います。
この話、ラウラを登場させる前からやりたいと思ってました。
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隠された真実と願いのふもっふaffection
その日の織斑一夏は少し遅れて寮に帰っていた。
あれから薫子からの連絡は無い。
それでも集められる情報は集めようと校内で聞き取りを行っていた。
『今日も収穫は無かった。皆、本当に気付いて無いのか?』
些細な変化や不自然なしぐさ等、気になる点は無いか?っと言う質問を何人かの生徒に投げ掛けて見たものの。返って来た答えは特に変わったものは無かった。
有るとすれば妙に話が合う事位でそれ以外は要領を得ないものばかりであった。
部屋に入るとシャワールームから水の音が聞こえて来る。
「シャルルは、シャワーか。」
自分がまだ帰ってこない内に済ませようと思ったらしい。
そこで、ふとボディーソープの替えが切れてる事に気が付く。
このまま気付いて出て来た所を鉢合わせても不味い。
一夏は愛子から受け取っていたモザイクゴーグルを付けてシャワールームに入った。
「シャルル。ボディーソープが切れていたはずだが?」
「あ!い、一夏!って、えっと…着けてるそれ何?」
「モザイクゴーグルだが?」
「へぇ~。何でそんなの着けてるのかな?」
「これ無しでお前の裸体を見るのは色々不味いだろ。」
「うん。ちょっと状況が見えないけど。もしかして、気付いてる?」
「当然だろ。あんな解り易い仮装…。」
「一夏、ちょっと外で待ってて。」
「うむ。分かった。」
ボディーソープの替えだけを置いてシャワールームから出ていく。
少し時間を置いてからシャルルがシャワールームから出て来る。
長い沈黙の後、シャルルが口を開く。
「何時から…気付いてた?」
「ほぼ最初からだな。」
何気なく返って来た答えにシャルルの顔に陰りが見えた。
「変装していたと思ったんだけど。」
「あのレベルでは最早、文化祭の仮装と言った方がまだ納得できるぞ。」
「ほっ他の人には言って無いよね!」
「一人だけ、信用できる人に情報収集の依頼目的で明かしはしたがそれ以外ではないぞ。」
「そうなんだ。誰なの?」
「済まんな。それは契約上の守秘義務と言う奴だ。」
「そっか。でも、まぁ一夏が信用してる人なら問題ないかな。」
「それで、話してくれるか?こうなった訳を。」
「うんいいよ、とは言っても一夏ならもう知ってるかも知れないけど。」
そこからの証言は薫子からの報告にあったものと大凡は同じだったがシャルル本人の出自が愛人の子である事など新たな事実も弁明された。
「シャルルと呼び続けるのもなんだ、シャルと呼ばせて貰うぞ。」
「うん。分かったよ。」
「それで、これから如何する?」
「如何するって?」
「生徒手帳を軽く見たが。校則の中に今回の事で応用出来る項目は確認出来なかった。」
「一部例外はあるが今回に関しては余り参考にはならなかった。」
「うん、そうだよね。」
「…シャル、一つ聞きたい。」
「何かな?」
「お前の元々の姓と母親の名前は?」
「?ウェストコートだけど、お母さんはマリア・ウェストコートだよ。」
それを、聞いた一夏の脳裏に一つ朧気ながら真実に近いものが見えて来た。
急に黙った一夏を不安そうに見つめる。
「シャル、愛子姉さんの所に行くぞ。」
「えぇ!如何したの急に。」
「愛子姉さんなら、何とかなるやもしれん。」
「それって、如何ゆう事?」
「今は、詳しく言えん。だが少なくとも、あの人であれば俺以上に今回の件の詳細を知ってる可能性がある。」
「そうなの⁉」
「取り敢えず、今は俺を信じろ!」
それから再び変装を施して愛子の居る教職員寮に足を延ばした。
愛子の部屋の前でノックすると中から声がする。
「誰かな?って、一夏君にシャルルちゃんか、そろそろ来る頃かと思ってたよ。」
「という事は、俺の考えてる事は大体合ってると思っても。」
「うん。取り敢えず、ここじゃ何だから中に入りなよ。」
愛子に促され部屋の中に入る。
着席を勧められ適当な所に腰を掛けると話し合いが始まった。
「それで、先ず何から話そうか。」
愛子が語りかけてくる。
「では先ず、現デュノア家当主とその奥方そしてシャルの母親マリア・ウェストコートの関係についってを。」
「そこから切り込むか…いいよ、結果から言えばその三人の関係は幼少の頃から交流があったみたいだよ。」
「という事は、幼馴染という事ですか?」
「客観的に見るならね。そもそもデュノア社は元々はこの三人のご先祖様が共同で経営してたみたいだし。」
「では何故、現在は二つの家だけに?」
「如何もそこが、今の状況と繋がってるらしいの。」
「と、言うと?」
「これは、前の代の当主たちの話になるんだけどね。」
「その頃、コールマン家の方にある政治家との不正な取引があったみたいなの。」
「それが、何処かで露見した?」
「そう、だけど当時のコールマン家は会社の人事に多く血族が居たの。」
「まさかですが。ウェストコート家に罪を…。」
「えぇ、その通りよ。この事件が、切っ掛けになったのかは定かじゃないけどこの時期に多くの技術者がデュノア社を離れてるのよ。」
「ウェストコートは、技術開発系を担っていた家系。それを切り離せば当然技術者も離れる。」
「だから、現当主と奥様は如何にか離れた技術者を呼び戻そうとした。」
「それが、幼馴染でもあるマリアの娘の保護…。」
「ちょっと、待って!それじゃあ、僕は誰の子なの⁉お父さんの子じゃ!」
「うん。貴女は、間違いなくアルベール氏のお子さんよ。ただ決して不義の上で生まれた子じゃ無いのは確かね。」
「どういう事ですか?」
「元々はアルベール氏の婚約者は貴女のお母さん、マリアさんだったって事。」
「え!」
「そこで、あの不祥事が起きてしまった。当然、婚約は破棄されたわ。」
「そんな…そんなのって…!」
「多分、妊娠に気付いたのは破棄された後だったんじゃ無いかしら。」
「現在の奥様、カレン・コールマン氏はこの事に気が付いて自分の血族から親友とその子つまり貴女を守ろうとした。」
「元を正せば、自分の両親が原因で二人の仲を裂いてしまった負い目もあったようね。」
「それから、二人は如何にかマリアさんだけでも経営陣に呼び戻せないか模索したみたい。」
「それで、漸く手立てが見つかった頃マリアさんは亡くなった。」
「まだ幼い貴女だけでも守ろうと必死だったのね。わざと突き放すことで両家からの干渉を防いでたらしいわ。」
「お父さん…。」
「ここまでは、飽く迄憶測よ。だけどこれから確かめればいい。」
「相良先生?」
愛子は、PCの画面を操作してあるページを見せた。
「ここには、貴方達の欲しがってる薬が詰まってる。これを、貴方の両親に送れば少し時間は係るけど。」
「今、貴方達が抱えてる問題を解決出来る力がある。」
「それじゃあ!」
「だけど、気を付けて、薬は時として毒になる。この情報が、貴女や貴女を守ろうとしてくれた人たちを追い詰める事もある。」
「それでも…それでも!僕は、真実が知りたい!」
「覚悟は、出来てるのね。」
「はい!」
シャルルの覚悟の籠った視線に、愛子は頷き電話を取る。
「私です。例の情報を、アルベール氏に…はい。よろしくね。」
「相良先生、俺達は当分の間どうすれば?」
「暫くは、このまま生活を続けて。何か変化があればメールで知らせるわ。」
「了解しました。失礼します。」
教員寮を出て、暫く二人で歩く。
「一夏…。」
「ん?」
「色々、ありがとう。」
「その言葉はまだ早い。まだ何も解決しちゃいない。」
「そうだけど。でも、言いたいんだ。」
「そうか…。」
「そう言えば、夕飯まだだったな。」
「そう言えば…。」
「何か、奢れよ。それでチャラだ。」
「うん!」
二人の影が長く伸び、寄り添い合う様に重なっていた。
少し後のフランス、デュノア宅には緊張と安堵が立ち込めていた。
「あなた、これは…!」
「あぁ、間違いない。私たちが探し求めた物だ…!」
「これで、漸く終わるのね。」
「うん。これで、マリアに顔向けが出来る。」
永く苦しい道のりをお互いに愛し支え合いそして、友の敵を討つと誓った夫婦の戦いにも終止符が打たれようとしていた。
シャルル「今度、聞かせて貰おうお母さんの事とか二人の事とか。」
今作のシャルさんは不義の子で無い設定で行きます。
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嵐の前は静かとは限らないのふもっふriot
鈴とセシリアは無事トーナメントに出られるのか!
第七ミスリル島。織斑一夏が受験日騒動の後、ひと月の間過ごした日本ミスリル保有の施設島である。
この日、一夏はシャルルを連れこの島に来ていた。
何故、シャルルが島を訪れたのか。
それは、例の情報がシャルルの父アルベールに渡った後に、それを証拠に前経営陣を纏めて告訴した為である。
これは、デュノア社内外に混乱を与えた。
株価も影響を受けて、大きく下がる事になった。
そんな中、フランスミスリルを仲介してミスリル本社が業務提携を持ち掛けたのである。
因みに、他社に流れたと思われていた技術者の殆どはフランスミスリルに一時的に身柄を預けていたらしく。
ミスリルで更に磨きをかけた技術を持って新生したデュノア社に戻りつつあるらしい。
そんな事もあって、シャルルは各国のミスリルが保有する施設を使用できる様になったのである。
「ここが、第七ミスリル島!」
「あぁ、ここでアルビノボン太くんは生まれた。」
二人は、離陸するヘリを見送り一路IS開発施設に向かった。
勿論、二人乗り自転車での移動だ。
施設が近くに見えて来ると、シャルルは最初に来た一夏と同じようにある一点に釘付けになった。
「シャル。お前が今抱いてる心情、俺には解るぞ。」
一点を見つめたまま視線を逸らさないシャルルに一夏は語り掛けた。
「一夏…。ボン太くんが…ボン太くんが動いてる!」
心の底から感動したと言わんばかりのリアクションに一夏は黙って頷いた。
「あれは、ボン太くんトレーナー。データを取る為に、稼働してるモデルだ。」
「ボン太くんトレーナー。」
「俺が、アルビノボン太くんを受け取る前に動かした機体だ。」
一夏は、懐かしそうにボン太くんトレーナーを眺める。
そこに、後ろから声がする。
「二人とも、外出許可が出てるのは夕方までだよ~。」
愛子の、急かすよな声で意識が遠い何処かへ飛んでいた二人の意識が戻る。
「そうだった!学年別トーナメント前にメンテナンスをするために来たんだった!」
「僕も、すっかり忘れてた!」
そう、IS学園の年間行事の一つ学年別トーナメント。
本来、個人戦で行う筈のこの試合は前回のアクシデントにより急遽タッグマッチに変更されていた。
この発表の直後に一夏はシャルルと組む事を決め、その為の準備として学園では行えない本格的な整備の行うために第七ミスリル島まで足を運んだのである。
「じゃあ、ラボまで付いて来てね。」
愛子の先導の下、ラボまで付いて行くシャルル。
一夏は通い慣れたのか愛子達を置いて先に向かったらしい。
「あの。」
「なに?」
「一夏はここに以前来た事があるんですよね?」
「うん。そうだけど、それがどうかした?」
「いえ、大した事じゃないんです。その時、どう過ごしてたのかなって?」
「ん~ん。そうだね、ボン太くんトレーナーで専用機の補助AI用にデータ収集兼操縦訓練をしたりISに関する基礎学習をしてたかな。でも如何してそんなこと聞くのかな?」
「それは…その…。」
シャルルの反応に、何かピンっと来た愛子はしたり顔でシャルルを眺める。
「シャルル君って呼んだ方が良いかな?それとも、シャルロットちゃんと呼んだ方が良い?」
「はっ!えっ!何で、僕の本当の…。」
「これでも、日本ミスリルの諜報部の部長をしてますから。」
「えぇぇ!」
「まぁ、そう言う事。」
そんな、会話をしているとラボに辿り着いた。
もう既に整備ラックに機体を展開した一夏の隣でシャルルも自分の専用機を展開する。
「やっぱり、この前のボーデヴィッヒさんとの試合で結構無理させたね。」
「すいません。」
「僕も、止められなくて。」
「いえ、いいのよ。お陰で相手の機体データは録れたんだし。」
「しかし、AICは厄介です。前回は模擬試合だからアルファに操縦権を移せました。」
「今回は、公式の試合だからあの手は使えない。」
「それに、向こうも対策はしてるだろうしね。」
「ステルス機能が使えたら良いんだけどね。」
「それも無理でしょう。そもそもの話、ステルス機能は戦闘時の強襲用の機能でしょ。」
「試合じゃ無理だね。」
『発言を宜しいでしょうか。』
「あれ?アルファ、如何したの?」
『はい。前回の戦闘データを基に戦闘をシミュレートしたのですが、ある形態の勝利の確率が断トツで出ました。』
「その形態のデータを開示しろ。」
『了解。これが、その形態のデータです。』
「これは…!」
「これなら…!」
「成る程ね。」
三人は、其々のしかし確かな勝算を確信した反応を見せた。
一方、此方はIS学園。
鈴音とセシリアがトーナメントを前にタッグ戦の練習を行っていた。
と、言うのも鈴音は最初は一夏をパートナーにしようと誘ったが既にシャルルと組んでおり、次点で仲が良いセシリアに声を掛けたのである。
この学年別トーナメントには、生徒達の間である噂が広がっていた。
学年別トーナメントで優勝すれば男子生徒の何方かと付き合えると言うものだ。
これは、箒がトーナメント戦の期間が迫る中、一夏に言った一言が原因とも呼べるこの事態に箒自身は頭を抱えていた。
そんな本人のあずかり知らぬ所で広がった噂は校内の三分の二を占める生徒たちの話題になっていた。
「ほう。中国とイギリスの専用機か。」
練習中の二人に声を掛ける人物が一人。
「あれ?アンタ確か、ドイツの…。」
「ラウラ・ボーデヴィッヒさんですわよ。鈴さん。」
「あぁ。ありがとセシリア。」
「いえいえ。」
割と良好な二人の友人関係を思わせるやり取りを横に置きラウラは言葉を続ける。
「それにしても、随分と貧相に見えるものだな。データ見た時の方が強そうに見えたぞ。」
「何ですって!」
「落ち着きなさい。ボーデヴィッヒだっけ、その挑発は意味ないわよ。」
「何だと?」
「織斑先生に釘刺されてるのよ。挑発されても受け流せってね。」
「教官が…!」
「それに、アンタもまた大貫さんの手伝いに駆り出されるは嫌でしょ。」
「ぐっ!ふん!そこまで言うなら引いてやる。命拾いしたな。」
明らかに怯えた表情で強がりを言ってもあんまり効果は無い。
さっきまで肩を怒らせていたセシリアも若干呆れた表情でラウラを見送った。
「懲りないのね、あいつ。」
「懲りませんわね、ボーデヴィッヒさんは。」
その後、何も無かった様に練習を再開した。
何はともあれ学年別トーナメントまでの期間は過ぎていく。
ラウラ「お、大貫さん!違うんだ!これは、喧嘩を吹っ掛けたとかじゃなく!」
前々回の今回のフラグでした。
という訳で鈴もセシリアもトーナメント戦には出ます。
本編で出て来るかは別として。
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黒い雨と忍びのボン太くんshadow
私はありとあらゆる事を公平にジャッジする!
チームミスリル~!バーサス、チーム武士っ子~!
レディ~!ファイト!
今日のIS学園には世界各国からIS関連の企業や軍から多くの観戦者が訪れていた。
この日、この学園では学年別トーナメントと呼ばれる行事が予定されている。
試合の結果では、各団体からのスカウトの申し出もあるほどこのイベントは注目されている。
「結構な人数が来ているな。」
「そりゃね。このイベントで将来有望な人材を引き抜きたい団体は多いし。」
「まぁ、俺は卒業したらそのままミスリル所属になるから関係ない事だが。」
「僕も、デュノア社に戻る事になってるしね。」
そんな話題で、花を咲かせる彼らはこの第一試合を控えてピットの中で待機している。
彼らの対戦相手は、ラウラと箒だ。
お互いにとってこの組み合わせはある意味、因縁めいたものを感じる。
試合の開始時刻が近づく。
「行くか。シャル!」
「うん。行こう、一夏!」
「来い!アルビノ!」
「来て、ラファール!」
其々の機体を纏いカタパルトに移動する二人。
その目にはピットの中の相手を見据えていた。
「先に行くね。」
「もっふ!」『おう!』
「シャルル・デュノア。ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ、行きます!」
「ふももふももっふほもるもっふ!」『アルビノボン太くん織斑一夏出るぞ!』
カタパルトから、アリーナに出るボン太くん。
ラウラ達の姿を確認するとシャルルの横に降り立った。
「来たか、一夏。」
「ふも。」『箒。』
「なんだ?」
「ふもっふ!」『ボン太くんだ!』
「あ~ぁ、うん。そうだったな…すまん。」
ボン太くんである事に、誇り持つ彼にとって。
対戦相手には基本ボン太くんと呼ぶ事を求めている。
その強い拘りに、呆れながらも敬服する箒であった。
「遂に、貴様を叩き潰す時が来たな!」
「僕の事、忘れてない?」
「貴様など、相手では無い!」
「ふ~ん。そう言う事言うんだ~。」
「何だ、貴様?」
「別に~。」
「ふももっふもふー。」『箒、ボーデヴィッヒ。』
「何だボン太くん?」
「ふもっふ!」『よろしくお願いします!』
「よろしくお願いします。」
武人同士の礼の後、試合が開始された。
「ボン太くん。例のやるよ。」
「ふもっふ!」『了解!』
「ふもるもーふ!ふーもっふ!」『白烏形態!発動!』
『モードホワイトクロウ。発動!』
開始直後、ボン太くんの叫びに応えてその体が光を放つ。
二回も経験した生徒と教職員は慣れたもので遮光眼鏡を掛けるが、来賓客はその発光に驚き目を瞑る。
光が収まるとその姿はまた違ったものと成っていた。
『モードホワイトクロウ。アクティブ。』
「くゎもっふ!」『忍んで参る!』
頭部のギアはカラスのデフォルメ額に兜巾と呼ばれる山伏の被る帽子の形を模した赤外線センサーが付いた。
背面から胴体全面を隠すようにカラスの羽根を片翼七本両翼十四本を取り付けた翼型ワイヤーダガーラック鞍馬を装備。
足にカラスの爪と高足下駄をイメージしたパーツが換装された。
腰には、小太刀型高振動刃カッター風魔を装備した。
そしてメイン装備は高圧放電ロッド狩魔丈が装備されている。
所謂、隠密強襲戦用形態それが白烏形態である。
「喩え、姿が変わろうと!」
「なっ!」
箒を無視してボン太くんに突撃するラウラ。
しかし、ボン太くんからしてみれば予想通りの動きであった。
「くゎーもっふ!」『あまいわ!』
ボン太くんは正面を向いたまま後方に飛ぶ。
そして、鞍馬を開き翼から羽根型のワイヤーダガーを二本取り出し投げる。
「この程度で、粋がるな!」
避けたラウラは、ボン太くんを捉えようと手を伸ばす。
これを宙返りの用量で躱し、背後に降り立った。
腰から、風魔を抜き斬る。
「ぬぁぁぁぁ!」
「私が相手だ!」
背面に一太刀を受け絶叫するラウラを助けるべく、箒がボン太くんに突貫する。
それを、シャルルが受け止める。
「君の相手は僕だ!」
ラウラと箒の連携は分断され、ボン太くん達の優位に試合が運ばれる。
「調子に乗るな!」
ラウラが、吠えてワイヤーブレードを放つ。
「くゎーくもっふー!」『それは見切った!』
狩魔丈で受け止めて、電流をワイヤーに流す。
「なっ!くぅあぁぁぁぁ!」
繰り出す攻撃全てを見切られ、返される。
この前の、戦闘から導き出された対抗策は見事にラウラを押し込めていた。
「ボン太くん!覚悟ー!」
「くゎーっふ!」『なに箒!」
シャルルの妨害を掻い潜り箒がボン太くんの目の前まで迫る。
突然の事に驚きつつ、冷静に鞍馬からダガーを抜き対処する。
「ボーデヴィッヒ!無事か!」
「ちぃ!邪魔をだー!」
「なっ!」
箒の救援も、ラウラには妨害に感じたらしい。
ワイヤブレードで箒を投げ飛ばしボン太くんの前に出る。
「漸く、捉えたぞ!」
AICの効果範囲にボン太くんを捉え、右腕からプラズマ手刀を発生させる。
「だから、僕を忘れてるよ!」
その声に、顔を向けるとライフルを構え此方に発砲するシャルルが見える。
急ぎ、回避した為直撃は避けたがボン太くんは解放される。
上手く連携を取り、ラウラと箒を追い詰めるボン太くんとシャルル。
試合の流れが決まりつつあるのは誰の目にも明らかだった。
「くゎーも!くゎーもっふ!」『アルファ。鞍馬の拘束機能を起動しろ!』
『了解。鞍馬対象の拘束を開始します。』
ボン太くんがラウラの周囲を飛行し始める。
アルファの操作で鞍馬がワイヤーダガーでラウラを拘束していく。
「くっ!またこれか!」
ラウラもレールカノンで応戦したが最後には身動きが取れなくなった。
「くゎーふ!くぁーもっふ!」『アルファ!ここで決めるぞ!』
『了解。エクストラアタックコード[ふもっふ流戦術雷光電招陣]発動!』
鞍馬の先端部がボン太くんの手に装着され、五本の手指となる。
そして、バイザーが降りて顔半分を覆いボン太くんは印を組み始める。
全ての印を組み終えると狩魔丈を天に掲げた。
「くゎーくくーくゎくっふ。くーくゎもっふ!」『ふもっふ流戦術。雷光電招陣!』
狩魔丈から膨大な電流をダガーに落としワイヤーを伝ってラウラに流れる。
「がぁぁぁぁぁ!」
この試合中、で一番強い電流を受け絶叫するラウラ。
『私は、負けるか…。』
電流を受け切り、満身創痍の中そう心の奥で呟いた。
『無様に負けてあの人にも見捨てられる…。』
精神では分かっていても心がそれを受け入れない。
そして、何処かから来る謎の黒い何かに飲み込まれていく。
ラウラ本人の意思に関係なく、仕組まれた悪意は今まさにその本性を曝そうとしていた。
箒「何だ、あれは…!」
ラウラ戦は、前後編の二回です。
という訳で、白烏形態いかがでしたか。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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王者の模造品と対決のふもっふforgery
張り切って行きましょう!
それはまるで虚無から這い出した憎悪の塊だった。
意思を持ち全ての憎しみをかき集め誕生した負の感情のヘドロ。
今それが、ラウラを飲み込み形を得ようとしていた。
次第に、形作られ輪郭がはっきりしてくる。
その姿は、鎧を纏った女性に変わった。
「ふも!」『あれは!』
「如何したのボン太くん⁉」
ボン太くんが、その異形の姿を確かめた時。
その声は、驚愕したものと成っていた。
「ボン太くん、あれはもしや⁉」
「ふも。ふーもふーもっふもっふ!」『あぁ。間違いない雪片だ!』
「じゃあ、やはりあの姿は暮桜…千冬さんの現役の姿…。」
箒は困惑した、何故ラウラがシュヴァルツェア・レーゲンがあの姿になったのか。
そして、一夏もまた噴き上がりそうな怒りを抑えていた。
『これが、違和感の正体か!』
ラウラに、感じ続けた違和感。
本来なの彼女であるならば感じるはず無い気配。
何処か、他者からの陰謀めいた意思の気配を常に感じ続けていた。
「ふもっふ。ふももっふふもるるもふっふ?」『アルファ。奴が今の状態の原因は何だ?』
『おそらく、VTシステムと思われます。』
「ふもっふ?」『VTシステム?』
『ヴァルキリー・トレース・システム。過去にモンド・グロッソでの優勝者した選手の戦闘データを再現、実行する為に開発されたシステムです。現在では、研究及び開発が禁止されています。』
「ふもっふ。ふもるふももふーもっふ。」『成る程。ただの悪質な模造品か。』
ボン太くんが、そう言い捨てると千冬から通信がはいる。
「お前達、試合は中止だ退避しろ。」
「ふもっふふもーもっふふもるもっふ。」『いえ、自分達で対処します。』
「…一夏、お前は何を言ってるか分かってるのか?」
怒気を孕んだ声で、ボン太くんに問いかける。
「ふも。ふももふもるるふももっふ。」『はい。しかし、あんな贋作とは言え貴女だ。』
憮然とした態度で応え更に続ける。
「ふももーふふもるもっふふーも。」『今の俺がいや、俺達が何処まで通用するか試したい。』
「…勝算は、あるんだな。」
「ふも。」『はい。』
「それならば、見せてみろ。今のお前達の実力を。」
「ふもっふ!」『ありがとうございます!』
「とは言うが、如何するつもりだ?」
「ふもふももーふふーもっふ。」『箒、お前に引き付け役を頼みたい。』
「引き付け役…?」
「ふもふもるふもっふふももっふ。」『あぁ、この中で千冬姉に対抗するだけの剣の腕を持つ者はお前だけだ。』
「それは!しかし…。」
「ふもっふ。ふもふーもふももっふ。」『アルファ。打鉄に強制強化を掛ける。』
『了解。打鉄の強制アップグレードを開始します。』
「えっ!それって、まさか!」
「デュノア?ボン太くんの言ってる事が判るのか?」
「うん。強制アップグレードっ言うのは、一時的にISに設定されてるリミッターを解除して限界値を引き上げる事だよ。早い話が一般機を専用機並みの性能に強制的に引き上げる事だよ。」
「そんな事が出来るのか!」
「うん。だけど、その為に機体の方には相当負荷が罹るんだ。それこそ、オーバーホールも充分あり得るかも。」
「ふもっふ。ふもるもっふふももふもっふ。」『そうだ。だが、今の状況を如何にかするにはそれ以外ない。』
「ふもっふふもるっふ。」『シャル、時間を稼いでくれ。』
「またっく。しょうがないなぁ、後で一緒に怒られてよ。」
「ふもっふ。ふもっふ!」『了解。アルファ!』
『強制アップグレード完了まで残り70%。』
打鉄の強制アップグレードの作業に専念する為に一夏も整備モニターを開いて操作し始める。
その間も、シャルルは贋作を引き付け気を逸らす。
『強制アップグレード完了。』
「ふもっふふももっふ!」『行けるな箒!』
「あぁ、行こうボン太くん!」
「やっとか~。早く代わって!」
「ふも!」『おう!』
「待たせたデュノア、後は任せろ!」
シャルルが下がり、ボン太くんと箒が前に出る。
箒は、贋作に切り込む。
『なんだ、この機動性はさっきまでの打鉄じゃない!まるで、別の機体だ!』
箒は、専用機相当まで性能の上がった打鉄に戸惑う。
『そうか、これが専用機の機動。成る程、さっきまでは確かに私が打鉄を動かしてる感覚だった。だが今は、私が打鉄に動かされている。』
訓練機と専用機の違いは操縦者の技量の違いが出やすい。
その上で云えば彼女はまだ専用機を御するに至っていない。
『こんな事も知らずに専用機を欲したのか。我ながら恥ずかしいものだ。』
専用機を与えられという事は、それだけの年月を費やし努力し続けたという事。
その事実から目を背けた自分を恥じる。
そして見据える今、己が、立ち向かうべき相手を。
『もう、泣き言は言わない。引き付け役を任せてくれた一夏の為にも!』
箒の動きが変わる、それまでよりも巧みに鋭く剣を奔らせる。
その後ろで攻撃の期を伺うボン太くん。
そして、その時は来た。
「ふももーふもっふ!」『白狼形態発動!』
『モードホワイトウルフ。発動!』
この日、二度目の形態変化は最初に発動した白狼形態である。
「がるふ!がるるもっふ!」『アルファ!新技で決めるぞ!』
『了解!エクストラアタックコードⅡ[白狼乱撃]発動!』
これまでの、データの蓄積が白狼形態に新たな力を宿した。
雪片を地面に刺し、いつもの様にギアが顔半分を覆う。
四肢のクローが発光して、風を纏う。
『イグニッションブースト発動シークエンス完了。』
「がるっふ!」『スタート!』
贋作までの距離を一気に詰める。
「がる!」『一撃!』
「がるる!」『二撃!』
一撃当てては引きまた一撃当てては引く。
群れをなし獲物に攻撃を仕掛ける狼の様に攻撃を続ける。
それが百回を数えた頃、遂に贋作は膝を着く。
「がるる!」『今だ!』
地面に刺した雪片を抜き正面に走る。
『零落白夜、発動。』
「がるがるるもっふ!」『白狼乱撃!』
ボン太くんの一太刀が贋作を裂き、ラウラが現れる。
その時、二人の意識は別の場所に飛んだ。
『何故だ?何故、お前はそこまで強い?』
『ボーデヴィッヒよ。強さとは何だろうな?』
『わからない…今の、私には…。』
『俺は、夢幻の様なものだと思っている。』
『夢幻?』
『あぁ、どんなに強くなったと思っていても。結局は、自分の中だけの話。夢幻の様に見せかけだ。』
『では、私の強さも夢や幻だったのか?』
『そうかもしれん。しかし、夢や幻を現実に変えるものがある。』
『それは…?』
『思いだ。借り物じゃない確かな自分だけの思い、こう強くありたい願う願望。』
『願望…そうか、私はずっと教官の背中ばかり追って。』
『如何やら、もうここまでらしい。後は、現実でな…。』
『なっ!待って!待って下さい!私はまだ貴方に教わりたい事が…!』
その不思議な空間から二人の意識は戻っていった。
この日の出来事は世界を駆け巡る事になったが、それはこの次に語ろう。
箒「私は、未熟だ…。」
長くなったので続きは後日になります。
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裁かれる悪と許し合う絆のふもっふchain
IS学園の校門に急ぐ人影が二つ。
「くそっ!何なんだ、奴は!」
「無駄口を言ってないで急げ!ここには、現ウルズ7がいるんだぞ!」
二人は、ドイツ軍でIS部隊の前指揮官の隠し刀とも呼べる将兵だった。
彼らが恐れるウルズ7とは、初代と当代で合わせて600人以上の凶悪犯やテロリストの捕縛及び200以上の犯罪組織を壊滅させた伝説を持つ傭兵である。
そして、二人が逃げる理由は今日の試合の中で発動したVTシステムに原因がある。
二人は、前指揮官と現在でも通じており現指揮官のリチャード失脚の為にラウラの洗脳とシュヴァルルツェア・レーゲンにVTシステムを仕込ませる指示を出した張本人達であった。
「しかし、これでリチャードも終わりだな。」
「あぁ、開発が禁止されたシステムを代表候補生の専用機に積んだんだ。軍もただでは済まさんだろう。」
急ぎながらも上機嫌で話す彼らは前方に居る人影に気付かなかった。
「ふ~ん、そう言う事だったんだ~。」
「「!」」
前から聞こえる声に驚き足を止める二人。
恐る恐る、前の人物に目を向けた。
「今の聞こえた~。二人とも。」
「えぇ、ばっちりよボス。」
「はっきり聞こえたぜ。こいつらの魂胆!」
女性が、携帯端末越しに二人の部下と思われる女性たちとこっちを見て話していた。
「誰だ貴様!」
「そこを退け!私達は…!」
「ドイツ軍IS部隊指揮補佐官アイフマン中佐とベートレン少佐ですね。」
「知っていたか。」
「ならば、通せ。今回の事は、上層部に急いで報告する義務がある。」
「そうですか。ですがお二人にはこの場での捕縛命令が出ておりますよ。」
「なっ!何故、貴様がそんな事を知っている!」
「ドイツ軍上層部からの依頼です。貴方がたが命令した技術士官の告発でね。」
「なん…だと!」
「大人しく捕まって下さいね。」
そう言って、その人物が手を挙げると自分達を囲う様に特殊装備に身を固めた集団が現れ拘束されて連行される。
「あぁ、忘れる所でした。お電話です。」
端末を捜査してとある人物に繋ぐ。
「やぁ君達、気分は如何かな?」
二人の良く知る人物からの声が聞こえる。
「如何やら、余りよろしく無い様だ。では手短に言おう、よくも私の可愛い部下に手を出してくれたな。」
静かだが怒気の籠った声が続く。
「私は、君達を決して許しはしない。」
その後に、続く言葉は無かった。
そこで漸く、彼らは自分達が獅子の尾を踏んだと気が付いた。
場所は替わり保健室だは第一試合に出ていた四人が居た。
ラウラは未だに眠っており一夏はついさっき目を覚ました。
「本当に大丈夫か?」
「あぁ、それよりお前達は?」
「検査の結果は異状なしだって。」
「そうか。」
「それより、織斑先生が後で職員室に来いって。」
「あ、あぁ。分かった…。」
あの後、打鉄はあらゆる個所に損傷が見つかり部品を総取り換えになった。
その事も、含め今回の責任者の一夏に呼び出していた。
「じゃあ、逝ってくる。」
「あぁ、頑張れ。」
「健闘を祈ります。」
もう既に怒られているシャルルと箒は死地へと赴く一夏を見送った。
「私も、失礼するぞ。」
「あれ?もう行くの?」
「あぁ、少し外の風に当たりたい。」
そう言って、保健室から出ていく箒を見送ってシャルルは一人になる。
ラウラを一人で寝かせておくのも気が引けた。
如何、暇を潰そうか考えていると携帯が鳴りだした。
相手の名を見て、一瞬だけ出る事を躊躇うが意を決して電話に出る。
「シャルロット無事か!」
「おゎ!声が大きいよ、お父さん!」
「むっ!済まん…。」
電話の相手は父親だった。
とても心配した声で叫ばれたので驚きで変な声が出た。
「全く、如何したの?急に、電話なんて。」
「いや、日本に行ってた社員から事件の事を聞いたらな…。」
「お父さん?」
「…済まなかった。」
「急に、如何したの?」
「お前の為とは言え、私達はシャルロットに…。」
「もう、いいよ。」
「シャルロット…。」
「辛かったけど、今ので大切にされてた解ったし。」
「…。」
「それに、僕より二人の方がずっと辛かっただろうし。」
「ありがとう。シャルロット…。」
「あっ!でも、家に帰ったらちゃんと教えてね。今まであった事やお母さんとの思い出とか。」
「あぁ、勿論だ。」
「約束だよ。じゃあ、もう切るね。」
「うん、またな。」
電話が切れると暫く感傷に浸る。
「父親からか?」
「うわ!何だ、ボーデヴィッヒさんか。起きてたの?」
「つい、先ほどな。」
「そっか、声うるさかった?」
「いや、大丈夫だ。」
「そっか、良かった。」
「…責めないんだな。」
「何を?」
「忘れた訳ではあるまい。私は、お前達に随分無礼な事を言った。」
「あぁ、気にしてないよ。一夏だって、本心じゃないって判ってたし。」
「それでも!」
「気が収まらない?」
「うむ…。」
「じゃあさ、今度からラウラって呼んでいい?僕はシャルロットでいいから。」
「そんな事で良いなら構わんぞ。」
「うん。よろしくねラウラ。」
「よろしくな、シャルロット。」
二人が名前で呼び合い握手を交わす。
「話は纏まったか?」
千冬が保健室に入って来る。
後ろに、疲弊した一夏を連れて。
「デュノア、織斑を連れて山田先生の下まで行け。彼女が呼んでいた。」
「はい。行こう一夏。」
「あぁ、行こう…。」
疲弊した一夏を庇いながら保健室を後にする二人を見送ると千冬はラウラに向き合う。
「ボーデヴィッヒ。VTシステムを知っているか?」
「はい。開発が禁止されたシステムの筈ですが…?」
「シュヴァルツェア・レーゲンにそれが搭載されていた。」
「なっ!」
「下手人はもう捕まっている。」
「狙いは?」
「現指揮官の失脚だそうだ。」
「…私は、教官になりたいと思っていました。それを、利用されたのでしょう。」
「今は、どうだ?」
「私が、思う強さは見せかけだけの夢幻と変わらないと判っただから、自分だけが見つけられる強さを探したいと思います。」
「そうか。まぁ、頑張れ。」
「はい!」
その頃、真耶の説明で今回にから時間を別けて男子にも大浴場が開放されることを聞いた一夏達は大浴場に来ていた。
勿論、一夏はモザイクゴーグルを着けてである。
「このモザイクゴーグル、完全防水な上に湯気の曇り防止レンズなのか。その上、対象以外はモザイクを外す事が出来るって凄い盛沢山だな。」
先に、湯に浸かっていた一夏は一人ミスリルの技術力に驚いていた。
「お待たせ~って、やっぱりそれ着けてるんだね。」
「あぁ、まぁな。親しき中にも礼儀ありって奴だ。」
「ふ~ん。あっ!そうだ、少し前にお父さんから電話がきたんだ。」
「そうか。どうだった?」
「心配してた。…一夏、ありがとう。」
「礼を、言われる事じゃない。それに、実際に動いたのは愛子姉さんだ。」
「うん。それでも、感謝してるんだ。」
「シャル…。」
「僕の本当の名前、まだ言ってなかったね。」
「聞いて無いな。何て言うんだ?」
「シャルロット…シャルロット・デュノアだよ。」
「良い名前だな。」
「うん。」
こうして、夜は更けるそして翌朝。
「えぇ、皆さんにお知らせがあります。」
一年一組は、朝から騒然としていた。
ある二人の生徒の姿が見えない為である。
「今日から、このクラスに転校生が来ます。」
真耶の言葉に動揺が奔る。
「入って来てください。」
「はい。」
返事と共に入ってきた姿にクラス中が困惑する。
「シャルロット・デュノアです。またよろしくお願いします。」
しばしの沈黙の後、嵐が来る。
「美少年かと思ったら、美少女だった何て…。」
「あやしいと思ってたのよ。男子の転校生何て…。」
教室あっちこっちから聞こえて来る落胆の声。
そして誰かが気付く。
「あれ?そう言えば昨日って、男子が大浴場を使ってたような?」
ドッカン!
その言葉の後、入り口の方から爆音が響く。
「一夏…質問に応えなさい。あんたなら気付いてたと思うけど。昨日、どうやってお風呂に入った?」
「一つ目の質問ならはい、だな。二つ目はミスリル特製モザイクゴーグルを着けて入ったが。」
「そう、なら良いわ。疑って悪かったわね。」
「気にするな。」
「でも、これもケジメって事で。」
「待て鈴…。」
龍咆の狙いを一夏にさだめる。
一夏は慌てずに説得を試みようとする。
しかし、放たれた後だった。
「お怪我はありませんか?師匠。」
それでも直撃する直前で一夏と鈴音の間にラウラが割って入った。
「助かったで、ボーデヴィッヒ。その師匠とは?」
「はい!先日の事件の後、ドイツに居る仲間に敬愛するに値する人物を何と呼べいいか聞いたところ、この呼び方が良いと聞きました。」
「織斑先生とは、違うのか?」
「はい。違いました、織斑先生から感じた力へ憧れとは違った。言い表すのなら、心からの感服。」
「…。」
「力じゃない、信念の強さそれを感じたました。だから、私は貴方から学びたいその心の在り方を。」
「そうか、だが俺もまだ半人前だ故に弟子はとらん。」
「師匠!」
「しかし、そう呼びたいだけであるならば好きにしろ。俺は、その自由を遮る事は許されない。」
「!ありがとうございます。師匠!」
「あと、練習相手位なら引き受けてやる。」
「流石は、ウルズ7を継ぐ者。」
「ラウラ、それはただ呼ばれてるだけだ。俺自身では、まだ名乗れない…継承の証が無い俺ではな…。」
「それは、如何ゆう…。」
ラウラの言葉に、陰りを見せた一夏に訳を問おうとするがその言葉は遮られる。
「お前達、そろそろ席に就け。凰、お前は自分の教室に帰れ。」
目に前の茶番に呆れつつ千冬は自分の役割をはたした。
斯くして、ここに奇妙な師弟関係が生まれ転校生を中心に起きた一連の騒動は終息したのである。
鈴音「何だったのあれ?」
綺麗に纏めようとしたらこんな事に…。
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デートの相手はボン太くんgentleman
それはさて置き最後にあの人が出てきます。
あの後の事を少し語ろう、学年別トーナメントはあの事件の後は一応第一試合のみ行われる事となった。
一夏に、弟子入りしたラウラは日が昇り沈むまで一夏と共に鍛錬に励むようになった。
時間を見つけては、一夏の様に瞑想に取り組む姿も教室ではよく見る光景と成りつつあるらしい。
そんなラウラとシャルロットが同室になり、その影響でラウラもボン太くんファンに成ったのは必然だったのだろう。
そんなこんなで日々は過ぎた。
そして、次の行事が予定が差し迫っていた。
「臨海学校が三日後に迫ってる。準備はしっかりしておけ。」
その日の、帰りのホームルームの終わり掛けに千冬が生徒たちにそう声を掛ける。
「織斑先生、準備とは?具体的にお願いします。」
「織斑、察しろ。男のお前には分らんだろうが女には色々必要なのだ。」
「?分かりました。」
一夏は理解できてないのか、煮え切らない返答を返した。
ホームルームが終わり、いつもの様に自主訓練に向かおうと席を立つ一夏にシャルロットが近寄る。
「一夏、今度の日曜日に何か予定ある?」
「いや、無いが…。」
休日の予定を聞いてくるシャルロットを不思議そうに見ている一夏。
「ならさ、ちょっとお買い物に付き合ってほしいな。」
「臨海学校の準備か?」
「うん、そんな所だよ。」
「分かった空けておこう。」
「師匠!今日は、第二アリーナが空いてるそうです!」
「ラウラか、承知した行こうか!」
「一夏、当日はお願いしたい事があるから後でメールするね。」
「了解した。」
そう言って教室を出ていく一夏を見送った。
そして日曜日。
シャルロットはリニアの駅の駅前で一夏と待ち合わせていた。
彼女は、傍から見てかなり目を引く。
当然、そう言う輩も近づいてくのは必然だった。
「ねぇ、少しの間で良いからさ~。」
「俺らと、遊びに行こうよ~。」
かなり毛羽着いた服装に軽い言動は、シャルロットが不快感を抱くのに十分だった。
その証拠に、彼女は一言として言葉を発しよとしない。
「車も有るしさ~、一緒に楽しいことしようよ~。」
「はぁ。あっ!」
いい加減、鬱陶しく思い始めた頃やっと待ち人が来た。
「ふもっふ?」『待たせてしまったかな?』
タキシードに身を包み、モフ口に付けひげを付けて手にステッキを持ったとても紳士的な格好のボン太くんが此方に歩いて来ていた。
「そんな事無いよ、行こう。」
彼の姿を、確かめると嬉しそうに近寄り声を掛ける。
「ふもふもっふふっふ。」『それは、良かった。』
親し気に話す二人を見て放心していた男達は我に返る。
「ちょっと待て、俺らの誘いよりそんな着ぐるみを優先するとかふざけんな!」
「こっちが下手に出てればこれとかねぇーだろ!」
男達の抗議の声に顔を顰めるシャルロット。
「ふもふももふーもふもっふ?」『彼らは、知り合いかな?』
「全然、ボン太くんを待ってたら声を掛けて来ただけだよ。」
「ふも。ふももふもふもるもっふほももっふ。」『ふむ。済まないが、彼女には先約があるのでね失礼させてもらうよ。』
そう言って、シャルロットの手を取りその場を後にしよとするボン太くんに男達は追い縋る。
「何、言ったか分かんねぇけど馬鹿にされた気がする!」
「この野郎、タダじゃ済まさねぇ!」
二人がボン太くんに殴り掛かろとする。
「ふも…。ふももっふ。」『仕方ない…。余り、やりたくなかったが。』
「がふっ!」
「ごっは!」
ステッキで一人目の首筋叩き昏倒させて、二人目の鳩尾に拳を叩きこんだ。
驚きの早業である。
「ふもふもっふ。」『さぁ、行こうか。』
「うん。」
気絶した二人をその場に残し、目的地へ向かう二人。
レゾナンス、そこは駅前にあるこの辺りでは一番広い規模をほこる大型ショッピングモールである。
大概の物はここで揃い、品揃えに無いものは無いと言われるほどである。
IS学園に暮らす多くの生徒がこの場所で休日を過ごす場所でもある。
二人は、その中で水着売り場に来ていた。
「ボン太くん、どっちが似合うかな?」
「ふも?ふももっふもふるふもっふ。」『ふむ?白の方が似合いそうだね。』
「こっち?そっか、うん。こっちにするよ。」
女性物の水着売り場に、紳士ボン太くんは異様である。
遠巻きに、他の客がその光景を見ていた。
そんな中、一人の女性が躊躇いがちに近付いていく。
「あの…。」
「ふも?」『はい?』
「一緒に写真撮って貰ってもいいですか⁉」
「…ふも?」『…はい?』
シャルロットの会計を済ませて、レゾナンス内に在るカフェで先程の女性の話を聞いていた。
「先程は、すいません。その…ボン太くんを見たら興奮しちゃって。」
「いえ、それは良いんですけど。」
「ふもふもっふ?」『何か、ありましたか?』
「聞いてくれますか?」
「ふもふもっふ。」『はい、私達で宜しければ。』
それから語られたのは女性の職場での事だった。
如何やら、この女性の職場では最近人事の異動があったらしい。
それで、上司が代わったのだそうだ。
前の上司は女性と同じボン太くんファンであり、性別や趣味に関しても寛容だったらしいのだが。
今の上司が女尊男碑の傾向が強くボン太くんファンにも厳しい目を向ける人物であった為に職場の環境が悪くなったらしい。
「それでも、自宅に帰ればボン太くんと触れ合えましたから。数か月は、我慢できたんです。」
「でも最近、職場の中に居た女権主義者の同僚たちがボン太くんファンの私達に仕事を押し付けるようになって。」
「そんな事が…。」
「それだけなら良かったんです。その上司は、自分の気に入った部下だけを評価する人でした、だから押し付けられた仕事が片付いても同僚たちが結果だけ持っていって…。」
「…。」
「どんどん、帰る時間が遅くなっていって。最近は碌に家にも帰れなくて。」
涙が溢れそうになるのを必死に堪え語る彼女に二人は同情した。
「ふもふもも。ふーもっふふももっふ。」『事情は理解しました。良いでしょう、写真撮りましょう。』
「うん。僕も、それが良いと思う。」
「!ありがとうございます!」
「ふもふもふもーるもっふ。」『いえいえ、世にボン太くんの幸せがあらん事を。』
「世にボン太くんの幸せがあらん事を。」
「世にボン太くんの幸せがあらん事を!」
この光景を、少し離れた所で見ていたセシリアと鈴音。
「うぅ、世にボン太くんの幸せがあらん事を。ですわ。」
「何なのかしら?この目から溢れ出した水は!」
その一幕があった頃、日本ミスリル支社本部の社長室では宗介が尋常じゃ無い程汗を流していた。
「テッサ様、今何と…?」
「様はいいですよ。それより、私も日本に行く事にしました。かなめさんも連れて来て下さいね相良さん。」
「な、何故ですか?」
「会ってみたいと思ったんです。相良さんや愛子さんが育てた後継者候補を。」
「しかし…。」
「もう決まった事ですよ。」
「はっ!了解しました!」
「では、当日を楽しみにしていますね。」
そう言い残し電話が切れる、後に残された宗介は頭を抱え暫く硬直していた。
テッサ「今から、会うのが楽しみです。」
という訳で、テッサが来ます。
楽しみしていて下さい。
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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潮と波と風のふもっふairy
一夏が言っていたウルズ7の継承の証の正体も判明します。
IS学園の一年生を乗せたバスが海に向かっている。
臨海学校の名を借りた校外実習の予定地へ進んでいた。
このバスの中で一夏は。
「なぁ、一夏…。」
「何かな?」
「ここでもなのか…?」
隣の座席に座っていた箒が呆れを通り越して敬服したと言わんばかりに聞いてくる。
「ねぇ、ラウラ…。」
「何だ?」
「君も、なのかな?」
後ろの座席から困惑したシャルロットの声が聞こえる。
「愚問だな。箒よ、常に精進を心掛けるのは何も体だけの話ではないのだ。」
「はぁ…。」
「精神もまた常日頃の精進が在ってこそ強き者と成れるのだよ。」
「分からない話でもないが…。」
「ラウラも、しっかり励みなさい。」
「はい、師匠。」
この師弟、こんなバスの中でも瞑想による精神修行を行っていた。
周りが浮かれて宴会ムードなのに、この二人の周りだけ禅寺の様な空気が流れていた。
「…集中している所、悪いのだがもう直ぐ到着だぞ。」
「ふむ、そうかでは此処までとしようかラウラ?」
「はい、師匠。」
瞑想の構えを解き、空気が緩和される。
「それで、今日の目的地は何処だったかな?」
「あ、あぁ。確か月花荘と言う旅館だったはずだが。」
まだ、精神集中の余韻が残ってるのか、随分まったりした口調で話し掛けられる。
急な事に驚きつつ質問に答えた箒であった。
その少し後、IS学園一年生一行を連れたバスは目的地の旅館に着いた。
女将を始めとした全従業員だろうか?
大勢の関係者に出迎えられる。
IS学園の代表として千冬が女将に挨拶する。
「今年も、お世話になります。」
「いえ、此方こそよろしくお願いします。」
「…織斑は…まあ、一応挨拶はだけはしておけ。」
「はい。暫くの間、世話になります。」
「まぁ!ご丁寧に如何も。中々、凛々しい男の子ですね。」
「えぇ、まぁ。」
基本的には、信用できても。
別の意味で、不安な千冬は曖昧に答える。
挨拶も終わり、各自部屋に別れるが一夏だけ自分の部屋を明かされていなかった。
取り敢えず、部屋の番号だけ教えられその場所へ向かう。
「おう、一夏!久しぶりだな!」
「少し見ない内に、また大きくなったかしら?」
部屋の中には、ここ数か月会っていなかった二人が居た。
「宗介小父さん!かなめ小母さん!如何して、ここに?」
「あぁ、本社のとある方からの注文でな。」
「一応、私達の部屋もここだ。」
「織斑先生、相良先生も…。」
「家族全員集合だね。」
千冬にしても、久しぶりにちゃんと二人と会えるのは嬉しいらしい。
いつもより表情が柔らかい。
「久しぶりだな!千冬!」
「中々、顔が見れないから。でも、元気そうね。」
「お久しぶりです。宗介さん、かなめさん。」
「お父さん、私は~。」
「ハハ。勿論、久しぶりだな愛子。」
「大丈夫よ。忘れてないから。」
中々、見れない安心しきった千冬の表情は育ててくれた相良夫妻の前でしか見せない顔である。
「一夏、今日はお昼までは自由時間だ暫く海で遊んでくると良い。」
「はい、織斑先生。では、行ってきます。」
積もる話があるのか千冬を部屋に残して一夏は更衣室へ向かう。
水着に着替え、砂浜に着いた一夏は軽く準備運動をする。
「早いな一夏。」
箒が、ゆっくり歩いて来る。
「あぁ、少し早く着すぎた様だ。」
「…その、今の私はどうだ?似合っているだろうか?」
「うん。よく似合っているぞ。」
「そうか!良かった…!」
「一夏~!」
水着姿を褒められて、上機嫌な箒。
そして、そんな二人の下に猛ダッシュで近づく小さい影。
「とぅ!」
「…中々良い、飛び蹴りだ。しかし、あまいぞ!鈴!」
「な、何ですって!」
鈴の蹴りを体を逸らして躱す。
その際、鈴が地面に激突しないように海の方へ投げ飛ばす一連の動作を無駄なく行う一夏のが一夏である。
「ぶっは!海まで投げるってどんな肩してるのよ!」
「百キロ越えの球を必ず投げられる肩だが。」
「うん。聞いた私が馬鹿だった…。」
「それより、鈴。急に、蹴りを入れるなんて危ないじゃないか。」
「だって....なんだもん。」
「何だって?」
「だって皆、胸が大きいんだもん!」
「…。」
「鈴さ~ん!待って下さ~い!」
鈴音に走り寄るセシリアの一点を恨めしそうに見る。
「着替えたら、先に行ってしまうんですもの。」
「…。」
「?如何しました、鈴さん?」
「何でもないわ。ただ、世の中の不平等さを呪ってただけだから。」
「はぁ?あぁ、一夏さんさっきぶりですわね。」
「うん。セシリア…鈴の事は任せた。」
「はい。鈴さん、向こうで日焼け止めを塗ってくれませんか?」
「はいはい。分かったわよ、行きましょセシリア。」
セシリアに連れられその場を後にする鈴音。
その光景を見送る箒と一夏にまた誰かが声を掛ける。
「やっほ~。一夏、箒。」
「あぁ、シャルか。」
「なぁ、シャルロット?」
「何かな、箒?」
「その後ろのミイラみたいな物は何だ?」
「あぁ、これ…もう、恥ずかしがってないで出てきなよラウラ。」
「ラウラなのかそれ!」
箒が驚きの声を上げる。
「やはり、こう言うのは私には似合わないと思うんだ。」
「大丈夫だよ。可愛いから出ておいでよ。」
「しかし…。」
「一夏も見たいよね。」
「うん?あぁ、勿論だ。」
「!分かりました。師匠がそう言われるのであれば…。」
意を決して、ぐるぐる巻きにしたタオルを解く。
「おぉ!」
「うんうん。」
「うむ。よく似合っているぞラウラ。」
「師匠!」
「一夏、僕は如何かな?」
「うん。前に、買いに行った時も思ったがよく似ている。」
「そっか、ありがとう。」
それから、鈴音たちと合流してビーチバレーや水泳競争などで時間を潰す。
浜に上がる途中でラウラは以前気になった事を切り出した。
「師匠。」
「如何したラウラ?」
「師匠は、以前に私がウルズ7を継ぐ者と言った時の事を覚えてますか?」
「あぁ、覚えているが。」
「その時、継承の証が無いとおしゃっていました。」
「うん。確かに言ったな。」
「師匠の言われる、継承の証とはいったい。」
「ラウラ、ラムダドライバと言う装置を知っているか。」
「ラムダドライバ?何ですかそれは?」
「虚現斥力場生成装置、不可視な斥力場を発生させる事が出来る装置だ。」
「そんな物が!」
「それを発現させ尚且つ使いこなす者、それがウルズ7だ。」
「…。」
「だが、アルビノボン太くんには積まれていなかった。」
「それが、証が無いの意味…。」
「如何ゆう過程で獲られる物なのかも分からない。ただ、今の俺では扱えない代物という事なのは解る。」
それ以上、ラウラは何も言わなかった。
いや、言えなかった。
自分では、師と仰いだ人の役に立つことは出来ないと、そう感じたからである。
その頃、とある輸送機の助手席に銀髪が特徴的な女性が乗っていた。
ラウラ「私では、師匠の役には…。」
次話でテッサの登場です。
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団欒と心労のふもっふthe preaident
お待たせしました。
臨海学校の一日目の夜。
箒は、ひっそりとある場所へ向かっていた。
目的地が見えて来るとそこには、先客が二人居た。
「何をしてるんだ鈴、シャルロット?」
「しっ!静かにして気付かれるでしょ!」
「そうだよ箒!今はバレたら不味いから!」
小さな声で、此方に注意してくる二人を訝しがり箒も二人の傍に向かう。
部屋の中からは一夏と聞き覚えのある声が聞こえる。
「あっ!あ~あ!そこよ、その辺りをお願い。」
「この辺かな?」
「そう、そこよ。」
「やっぱり、結構凝ってるね。」
「えぇ、こいつの相手してると腰にくるのよ。それにして悪いわね、折角の臨海学校の夜なのに。」
「気にしないでよ。普段、お世話になってるんだからこれ位はさ。」
「そうですよ。それに、最近はご迷惑も掻けて。」
「気にしなさんな。困った時は、お互い様よ。ねぇ、あなた。」
「そうだぞ。それに、お前達にはもっと甘えて欲しい位だ。」
「ありがとうございます。お二人の気持ちだけでも感謝しています。」
「あ~ぁ!一夏君、次もう少し下辺りをお願い。」
「了解。」
箒と鈴音はこの中に入る事を躊躇った。
今は、織斑姉弟が育ての親との団欒を楽しんでいる。
相良夫妻を知らないシャルロットも大体の事情は察した。
今日は、部屋に戻ろうかと立ち上がろとした時だった。
「あの、入らないんですか?」
「何よ?セシリアも来たのって!誰⁉」
セシリアによく似た声音なので聞き間違えたがセシリアよりも年上と思われる、銀髪が特徴的な女性が立っていた。
「私ですか?テレサ・テスタロッサと申します。気軽にテッサって呼んで下さい。」
「はぁ…?」
「あれ?その名前、何処かで聞いた事があるような…?」
名乗った女性、テッサの名前を何処で聞いたか思い出そうとするシャルロット。
「誰かいるのか?…あ、貴女は!」
「千冬?どうした!」
部屋の前が騒がしいので様子を見に来た千冬とその後に続いて出て来た宗介は硬直した。
「あら、相良さんお久しぶりですね。」
「は、はい!テッサもお変わりないようで…。」
「中に入ってもよろしいですか?」
「どっどうぞ、お入りください!」
「ありがとうございます。あぁ、良かったら、皆さんもご一緒にどうですか?」
緊張しきった宗介の表情と態度で目の前の人物が高位の立場だと判った三人は答えどうするか戸惑った。
「お前達も、来い…。」
「良いんですか?」
「今回は、特別だ…。」
「わ、分かりました。」
千冬の鬼気迫る顔に促され入室する。
「あら、テッサじゃない!お久しぶりね。」
「えぇ、お久しぶりです。かなめさん。」
「いつ来たの?」
「つい先ほどですよ。」
和やかに談笑を始めるテッサとかなめ、その光景を横に置いて宗介と千冬と愛子そして一夏が集まって小声で話し合う。
「宗介さん、もしかしてあの人いやあの方は…。」
「千冬ちゃん!それ以上、言っちゃだめだよ!」
「しかし!」
「千冬姉、分かっていても口に出しちゃいけない事もあるんだ…。」
「…そうだな、少し冷静じゃ無かった。すまん…。」
「如何にか、4人でこの状況を切り抜けるぞ…!」
「うん…!」
「はい…!」
「了解です!」
「そんな所で、集まって如何かしましたか?」
「「「「いえ、何でもありません。」」」」
「そうですか?」
決意を固め、一致団結してこの難局を乗り切る事を誓った四人は其々の役割をこなし始める。
「それで、お前達は如何いう用で来たんだ?」
「へ!」
「いや、あの…。」
「その、僕たちは…。」
話題を作る為に、今まで蚊帳の外だった箒たちに話を振る千冬。
そして、急に話を振られて困惑する三人にかなめが話しかける。
「箒ちゃんと鈴ちゃんよね、久しぶり。」
「あぁ、はい。お久しぶりです、かなめさん。」
「お久しぶりです。」
「二人とも、また可愛くなったわね。」
「いえ、そんな。」
「ありがとうございます。」
「で、そちらがシャルロットさんね。」
「はい。そうですが、何で私の事を?」
「愛子から、よく聞くのよ学園の事とかね。」
「へぇ!相良先生!」
「いや~、お母さんならその辺り察してくれるし口外もしないから大丈夫かな~なんて。」
「かなめさんなら、大丈夫ですよ。ねぇ、相良さん?」
「はっ!おっしゃる通りです!」
極度の緊張からおもわず声が上ずる宗介。
それを、不思議そうに見るテッサとかなめ。
「あっ!そうそう、三人ともここに来るって事は目的は一夏君かしら?」
「「「…!」」」
かなめに図星を衝かれて動揺する。
「うぅん!一夏、悪いが宗介さんと何か飲み物でも買ってきてくれ。」
「分かったよ。何が良い?」
「適当で、いいよ。なるべくじっくり選んできて。」
「うむ!そうか、では行くぞ一夏!」
「はい!宗介小父さん!」
やけにハイテンションで部屋を出ていく二人を部屋に残っていた全員で見送る。
「夜なのに、元気でしたねお二人とも。」
「まぁ、ちょっとテンションが高すぎる気もしなくもないけど…。」
「「そうですね…。」」
マイペースな二人のせりふを聞きながら、千冬と愛子は心の中で一夏と宗介に敬礼をした。
「それで、三人は一夏君に好意を持ってると思っていいのよね?」
「それは…。」
「その…。」
「あははは…。」
「一夏君も、罪な男よね~。こんなに可愛い娘に思われてるのに気付かないなんて、ねぇ千冬ちゃん。」
「はっ!ハハハ、まったく困った奴です!」
「そう言えば、一夏さんの歳の頃の宗介さんも同じような感じでしたね。」
「そうそう、ラブレターが入っていた下駄箱を爆破したりしてねぇ。」
「「「下駄箱を、爆破!」」」
かなめの思い出話に、ツッコミを入れる三人。
「そうなの、挙句に脅迫文だなんて言い出して。」
「フフ、相良さんらしいですね。」
「そこで、彼奴らしいって言うのはあんた位よテッサ。」
「まぁ!そうなのですか?」
「そうだ、折角だし一夏君が学校でどんな生活を送ってるのか聞かせてよ。」
「それは、織斑先生か相良先生に聞けば…。」
「篠ノ之、今だけ名前呼びを許す。それと、もう私達からは話してある。」
「わたしも、今回は愛子でいいよ。」
「?そうですか。」
「うん。それで千冬ちゃんと愛子からは、もう聞いたから今度は同じ生徒の目線で聞きたいなって思ってね。」
「私も、気になりますね。」
「でしょ、じゃあ箒ちゃんから。」
「はぁ。じゃあ、一夏の学校で印象から…。」
こうして、夜は過ぎていく。
一夏達が、飲み物を買って戻ってきたのは三十分位経った頃だった。
後に部屋に戻ってから、テッサの事を思い出したシャルロットはえらく慌てたらしい。
そして、臨海学校の一日は終わるのであった。
シャルロット「あれ?確か、ミスリル本社の最高責任者って…!」
物足りない?
仕方ないじゃない、宗介はテッサと絡むとあぁなっちゃうんだもん!
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天災=パンドラ+プロメテウスのふもっふforbidden
そして、テッサも引き続き登場…嫌な予感しかしない。
臨海学校二日目の朝。
セシリアは、早く起きたのか旅館の中を散策していた。
彼女は、こう云った体験は初めてだったので興味深々なのだろう。
ふと、中庭に目を向けるとその場には不釣り合いな物が視界に映る。
うさぎの耳だろうか、それが忽然と中庭の地面に直接刺さっていた。
はっきり言って、怪しい。
誰かの悪戯だったら撤去した方が良いのだろうが、個人的にはあれから発せられる謎のプレッシャーを感じる。
如何しよかと、戸惑っていると一夏がセシリアに気が付き声を掛ける。
「おはよう。そんな所で、何してるんだ?」
「おはようございます。それが…。」
彼女の視線を先を追って一夏もそちらに目を向ける。
一夏も、気が付いた。
「うむ。これは…。」
一夏は、一瞬たじろいだが取り敢えず中庭に降りる。
「アルファ。地中に生体反応は…。」
『ありません。しかし、上空には謎の反応が確認しました。』
「上か、これは所謂これを抜けと言いたいんだな。」
仕掛けた人物の意図を察してか疲れた表情になる。
しかし、こうしていても始まらないと意を決して抜く事をする。
地面から、うさ耳を抜くと直ぐにその場を離れる。
その直後、一夏が居た場所の手前辺りに上空から何かが落下してくる。
巨大なニンジンの形をした何かがそこにはあった。
ニンジンが展開して中から人が出て来る。
「うん、分かってた。」
「やっほー!完全に気付かれてたけど、束さんだよ~久しぶりだね~いっくん!」
「はい、お久しぶりです。束さん…。」
「いっくん!ちーちゃんは何処かな~!」
「たぶん、まだ部屋じゃないですかね…。」
「そっか!よ~し、待っててちーちゃん!今行くよ~!」
ハイテンションで、千冬を探しに行く束を二人は見送った。
「一夏さん、今の方ってまさか…?」
「あぁ、篠ノ之束さんだ…。」
「随分…独創的な方ですわね。」
「かなり、暈した言い方だな…。」
時間は流れて臨海学校二日目の予定が開始される。
千冬の朝の号令の後に人目のつきづらい岸壁に囲われた浜辺に集合した。
「今からISの装備試験を執り行う。各班に別れて迅速に取り掛かれ。専用機持ちは搬入された専用パーツの試験を行う。」
千冬の指示で、生徒たちが行動を開始する。
一般生徒は、持ち込まれた打鉄とラファール・リヴァイヴ用の特殊装備の癖や特色などを確認していく。
専用機持ちは、各国又は各企業からこの日の為に用意された装備やパッケージ等のデータを録る。
全て、最重要機密事項になる為この場所での試験が行われている。
当然、ミスリルからもエンジニアが来ていた。
勿論、その中にはテッサも居る。
「おい!織斑、何故あの方がここ居る!」
「ふもふもっふ!ふもーふもふる!」『自分は何も知りません!後、ボン太くんです!』
「織斑先生!ここは、なるべく穏便に事を運びましょう!」
「…それしか、無いですね。」
ボン太くんを纏った一夏と千冬、愛子がひっそりと話し合う。
遠巻きに、その光景を見ている生徒達は不思議な物を見る目で見ていた。
「あぁ、余りの事に忘れていた篠ノ之。」
「はい?」
「今日から、お前に…。」
「専用機が与えられるちゃうんです!」
突然の声に、驚き声の主を探す生徒達。
そして、岸壁の上に人影を見つけた。
「天が呼ぶ!地が呼ぶ!ちーちゃんが呼ぶ!私を愛せと束さんを呼ぶ!トゥ!」
そんな、何処かの仮面のカブトムシヒーローの掛け声を捩った叫びと共に断崖の上からジャンプする。
そして、そんな束を待ち受け見事なアイアンクローで受け止める千冬。
「よかった。今ほど、お前に出会えた事を感謝した日は無い…。」
「それは、良かったよ!所で、なんかどんどん力が強くなってない⁉」
「あぁ、ここの所ストレスが溜まっててな、いいサンドバックが向こうから来てくれ嬉しいよ…。」
「サンドバック!ちーちゃん今、束さんの事サンドバックって言った!」
「織斑先生、今は堪えて下さい。時間は、後でたっぷり作りますから。」
「あの、あーちゃんそれって庇ってる!束さんには、死刑宣告に聞こえるんだけど!」
「それもそうですね。今は、色々不味いですね。」
「どうしよう。助かったけど、余り助かった気がしない…。」
束が、幼馴染二人に戦慄していると箒が話しかける。
「姉さん、私の専用機とは?」
「箒ちゃん…うん、今の束さんには箒ちゃんでだけが癒しだよ…。」
「いえ、だから…。」
「専用機だよね、分かってる。」
束は、端末を取り出し操作すると空からコンテナが降りて来る。
「これが、束さんが箒ちゃんの為だけに作った専用機。名前は、紅椿!」
「これが、私の…。」
「うん!束さんが、作った第四世代型のISだよ!」
「…受け取れません。」
「うんうん。そうだよね~、受け取れないよね~って、えぇ~!」
「これは、今の私では受け取れません!」
「な、何で!専用機だよ!束さん特製だよ!」
「だからです。今の、私にはそれに乗る資格はない…。」
「あの、取り敢えず乗ってみるだけでもやってみませんか?」
「?貴女は?」
「急に、失礼しました。私はテレサ・テスタロッサっと申します。気軽にテッサと呼んで下さい。」
「はぁ…。」
「!テレサ・テスタロッサって、何でそんな人が!」
「知ってるのか?姉さん。」
「うん。一応ね…。」
「まぁ!篠ノ之束に認知して頂けるなんて光栄です。」
「うん。束さんも、貴女の事は無視出来ないから。」
「それで、箒さんでしたね。」
「はい。」
「何事も、経験です。先ずは、やってみてから判断しても遅くないと思いますよ。」
「…そうですね、姉さん。断って置いて勝手ながら悪いがそれに乗せてくれるか?」
「!うん!勿論、その為に作ったんだから。」
箒の気が変わらない内に、フィッティングとパーソナライズを完了させる束。
「如何かな?箒ちゃん…。」
「あぁ、今のところ違和感はない…ただ。」
「ただ何?」
「恐ろしいな…前までの自分がこれの乗っていたらと考えると。」
「箒ちゃん…。」
「うん。やはり、まだ慣れないな専用機というやつは。」
「そっか、でも束さん的には持っていて欲しいかな?」
「うむ、では暫く織斑先生に預けるとしよ。」
「ちーちゃんか、なら安心かな。」
「お話は、纏まりましたか?」
「うん。ありがとう、テッサさんが箒ちゃんを説得してくれなかったら…。」
「いえ、私は何していませんよ。」
珍しく、他人に誠意を示す束を物珍しく眺める千冬と愛子。
束が、ああいう態度を示す人間は自分達が知る限りでは相良夫妻以外はいなかったはずである。
その時、真耶が慌てた様にやって来て二人に耳打ちする。
「織斑先生、相良先生!大変です!」
「なんだ?」
「何事ですか?」
「それが…。」
「!何だと!」
「いやはや、何とも不味い事になったね。」
相当慌てた様子に生徒達も不安になる。
「お前達、今日の試験は中止だ!専用機持ち以外は、許可が出るまで部屋で待機していろ!」
何やら、新たな嵐が近づいてきているようである。
一夏達は、どうなるのだろうか?
?「フフ、さぁ。第二ラウンドと、参りましょうか?」
意外と平和だった…。
シルバリオゴスペル戦です。
最後の形態変化が登場予定です。
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災禍を呼ぶ銀鍾と大翼のボン太くんcalamity
ボン太くんの最後の形態変化は何でしょうか?
その場には、緊張した空気が張り詰めていた。
旅館の一室を借り、即席のミーティングルームになったその部屋には千冬をはじめ同伴の教職員と各専用機持ちが顔を揃えていた。
重々しい空気が立ち込める中、千冬が口を開く。
「先ずは、状況から説明する。IS学園上層部から連絡があった。内容は、ハワイ沖で試験中だったアメリカとイスラエルが共同開発した第三世代型軍用IS、機体名はシルバリオゴスペル。それが、制御範囲を離脱し暴走状態になったらしい。」
「それを、伝えられたという事は詰まる所、俺達に対処を依頼してきたと云う訳ですか。」
「あぁ。現在、対象機は監視空域を離脱後に衛星で追尾した結果、今から約五十分後にここから二十キロ程離れた空域を通過すると予測された。」
「その地点に、先回りして対象を抑えることが今回の作戦だよ。」
「現在の周辺海域及び空域の状況は如何なっていますか?」
「学園の教職員が、訓練機を使用して封鎖しています。」
「それでだ、今作戦の要はお前達専用機持ちになる。誰か、意見のある者は居るか?」
「はい。」
「織斑か、何か考えがあるのか?」
「いえ。まだ、現状では判断が出来ません。その為にも、対象の詳細なデータの開示を求めます。」
「ふむ。尤もな意見だな、相良先生。」
「はい。シルバリオゴスペルは、広域殲滅を目的に開発された特殊射撃型の機体だよ。その特色からオールレンジ攻撃も可能で、機動力も高いみたいだね。」
「どれ程ですか?」
「最高時速は2450kmを超えてる、マッハ2以上は出せるみたい。」
「アルファ。対抗できる形態は?」
『高速総合戦闘形態が存在します。此方のスペックを表示します。』
「白隼形態か、最高時速は2400kmは出せると。武装はエネルギー吸収盾と転用可能な実体剣それとサブブースター兼遠隔攻撃ユニットか。」
「ビットが搭載されていますの⁉」
「ボン太くんてなんでもありね…。」
「だが、納得も出来る。」
「ボン太くんだしね~。」
「…流石、ボン太くん…。」
「だが、確実に仕留めるにはまだ足りない。」
「そんな時こそ、紅椿の出番だよ~!」
戸が開けられ、束が入って来る。
「紅椿なら、高速戦闘パッケージを必要とせずに展開装甲の操作だけで超音速戦闘に対応出来るよ!」
「部外者は、出ていけと言いたいが。その話に嘘は無いな。」
「うん。そもそもの話、この事態を予測して準備したって所もあるからね。」
「如何ゆう意味だ。」
「実はさ、昔宗さん達が相手にしていたテロ組織の残党が別の組織と共謀して動き始めたらしいんだよ。」
「…今回の一件は、そいつらの仕業と。」
「うん。その可能性が高いよ。」
「篠ノ之、お前には悪いが出撃して貰えるか?」
「この状況です。私に、務まるかどうか判りませんが精一杯やらせて貰います。」
「箒ちゃん…。」
「作戦は決まったな。織斑と篠ノ之は準備をオルコットは念の為に待機していろ。」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
作戦開始前、箒は今日の事を思い返していた。
『まさか、私が一夏と飛ぶ事になるとは…。』
最初は、己の未熟さ故に受け取りを拒んだ紅椿の待機形態を眺める。
『今の私では一夏の足を引っ張るだけかも知れない。』
正直、不安が無いと言えば嘘になる。
『それでも、皆が任せてくれたこの大役、しっかり果たして期待に応えて見せよう!』
しかし、それ以上に信じて任せてくれた仲間たちの想いに応えたいと決意した。
「篠ノ之さん、作戦時間です。」
「承知しました。直ぐ向かいます。」
一人の少女が、決意を胸に戦場へと足を踏み出した。
「ふもーふふっふもふー!」『白隼形態発動!』
『モードホワイトファルコン。発動!』
輝くボン太くんのボディー。
そして、光が収まり変化した。
頭部に隼の頭にゴーグルを付けたギア、背面から前後左右に大きく突き出したジェットウィング、腰の両側にサブブースター兼大型遠隔攻撃ユニット。
そして、手にエネルギー吸収盾ファルコウィングシールド&転換実体剣ファルコカリバーを装備した。
パッと見ても、大翼を持つ天空の騎士の姿である。
『ホワイトファルコン。アクティブ。』
「ふぁーもっふ!」『音速を超えるぞ!』
「行くか。ボン太くん!」
「ふぁーっふ!」『おう!』
ボン太くんと箒の二人は、目標空域を目指し加速を開始した。
暫く、飛行していると対象が確認できた。
「ふぁーるっふ!」『対象確認!』
「了解!指示は、其方に任せる。」
「ふぁーもふぁーふもふぁーるるっふ!」『左右から距離を詰めて逃走経路を塞ぐぞ!』
「了解。」
ボン太くんの指示で、箒は右下方に回り込み、ボン太くんは左前方から接近する。
二人に、気付き攻撃を仕掛けるシルバリオゴスペル。
ボン太くんは、ファルコウィングシールドを前に出してエネルギー弾を吸収する。
箒も、二本のエネルギー放射型ブレードを薙いで光弾を弾く。
勝負は一瞬、だからこそ焦ってはいけない。
全方位にばら撒かれる破壊の光の嵐に盾と剣をもって挑む姿は、差し詰め開放を訴え天使に挑む騎士の様である。
そして、十分にエネルギーが溜まり接近する。
「ふぁーふー!」『先ずは一太刀!』
吸収したエネルギーをファルコカリバーに転換して抜き放つ。
一閃、抜きざまに斬った一太刀を寸前で躱す。
「ふぁーも!」『続けて一太刀!』
今度は、完全に捉えた。
直撃を避けようとして、シルバーベルの一翼を切り落とされる。
これにより、シルバリオゴスペルの機動力は大幅に削がれる。
更に、箒が放った斬撃がもう一翼に当たり損傷して使用が出来なくなる。
「ふぁーふ!ふぁーふぁーもふっふ!」『アルファ!ここで決めるぞ!』
『了解!エクストラアタックコード[ファルコンブレイズブレイカー]発動!』
頭部ギアが顔の半分を覆い、ファルコカリバーをシールドに戻す。
そのまま、残りのエネルギーをカリバーに移しゆっくり抜いていく。
全てを、抜き終わると刀身が赤く発行して炎の様な余剰エネルギーを放出していた。
カリバーを頭上に構え、一気に振り下ろす。
「ふぁーる!ふぁーる!ふぁーもっふ!」『ファルコン!ブレイズ!ブレイカー!』
カリバーから放出されたエネルギーが火柱の様に噴き上がりシルバリオゴスペルを薙ぎ払う。
そして、機動力を失い回避も出来ずに直撃を受け海に落ちて行く。
「やったな!ボン太くん!」
「ふぁーふ。ふぁ?ふぁるもーふ!」『あぁ。ん?いや、まだだ!』
「えっ⁉」
ボン太くんが箒を突き飛ばした。
そして、そのすぐ後に巨大な光の翼がボン太くんを穿った。
「ぼ、ボン太くん…!」
「…。」
急いで駆け寄って、支え声を掛けるが応答がない。
「…そんな…!」
さっきまで、自分が居た場所に目を向けると。
そこには、さっきボン太くんが倒したはずの機影が形を変えて存在していた。
「ふ…もっふ…。」『撤…退を…。』
「っ!此方、篠ノ之!」
「篠ノ之か!如何した⁉」
「敵が!対象が二次移行した模様!撤退の許可を!ボン太くんが…一夏が!」
「落ち着け、撤退を許可する!教師部隊を援護に向かわせる合流して後退しろ!」
「了解!」
箒たちの作戦は失敗した。
ボン太くんは、どうなるのだろうか。
何一つ、分からない状況でこの事実だけが少女の心に暗い影を落とした。
?「来るべき時が、来ましたか…。」
傷ついたボン太くんは、深い眠りの中で不思議な夢を見る。
白隼形態はどうでした?
感想などありましたどうぞよろしくお願いします。
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覚醒の兆しと奮い立つ思いのふもっふdormant
神聖を蓄え再誕の時を待ち静かに眠る…。
覚醒のその時が来ると少女達は信じて戦場に赴く…。
…プロローグ風に書いてて寒いぼたった!
敗走、シルバリオゴスペルとの戦いに敗れて切札たる一夏、ボン太くんが重傷を負った。
逃げ帰り、何も出来ずに目の前で仲間が倒されるの見ていた箒は塞ぎ込み、ただ無力な己を責めた。
たとえ、一度倒した後の油断が在ったとしても、彼は自分を庇って傷ついたのだと己の非を呪い続けた。
「箒!いつまで、そうしてるつもりよ!あんたが、そんなんじゃ庇った彼奴が浮かばれないじゃない!」
「鈴さん!落ち着いて下さい!」
「セシリア!でも…!」
「箒さん、わたくし達は貴女を責めてはいませんわ。あの場に、居なかったわたくし達がどれだけ喚こうと、目の前で彼が倒される姿を目にした貴女のショックは図り知ることが出来ません。」
「…。」
「そうだよ鈴。それに、箒は一度シルバリオゴスペルが海に落ちたの見たんだ。その上で、相手が二次移行を完了させて浮上するなんて、この中で誰が予想できたかな?」
「シャルロット…分かってる。分かってるわよそんな事、誰も責められない事位私にだって!でもね、例えそうだとしても割り切れない物が在るのよ…!」
「何方にしても、このままでは終われまい。」
「ラウラ?アンタ、何言って…。」
「師匠の敵は弟子が取る、それがセオリーだとクラリッサが言っていた。」
「敵って、一体どうやって取るつもりかな?」
「そうですわ。第一、相手の居場所も分からないのに…。」
「それなら問題ない。本国の部下たちが動いてくれている。」
「…あの。」
「あら?貴女は、確か4組の専用機持ちの更識簪さん…でしたわよね。」
「うん…その、さっきの話…なんだけど…。」
「なんだ?止めるつもりか?悪いが、その忠告は聞けないぞ。」
「うんん、違う…!私も…参加させて…!」
「何?」
「ちょっと、待って!更識さん…!」
「簪で良い…名字で呼ばれるのは好きじゃない…。」
「あぁ、ごめん。でも、簪さん!よく考えて、ボン太くんですら倒された相手にたった二人で、如何戦うのさ!」
「…二人じゃないわ。」
「え?」
「私も行くわ。」
「鈴!」
「これは、もう決めた事よ!それに、惚れた男の仇討ちは女の専売特許じゃない。」
「鈴さん…仕方ありませんわね。もう、止めたりはしませんわ。」
「セシリア!」
「ですが。どうせなら、わたくしも混ぜて貰いますわ。」
「セシリア、君まで。またっく、皆が行くのに僕だけ居残りはダメだよね!」
「…決まったな。後は、お前だけだぞ箒どうする?」
「私は…すまない。」
「そうかは…強制はしない。ボン太くんファンのルールの在り方は普段から使われるべき物だ…ただ、参加する気になったら来い。敵の居所が判ったら、お前にも伝える。」
「済まない…!」
「気にするな。お前の恐怖は判らない物じゃないのでな。」
ドイツで、経験と己の生い立ちがそれを言わせるのか。
ラウラ達は、箒を残し部屋を後にする。
その頃、一夏は謎の空間に佇んでいた。
澄み切った青空とそれが鏡の様に映る水面が永遠に続く世界。
そこに、一夏は立って居た。
「ここは…?」
「如何やら、ISコアの作り出した一夏の心象世界のようです。」
「その声は、アルファか?」
声のした方を見れば、自分より幼く見える少年が立って居た。
「アルファ、その姿は?」
「一夏。如何やら、これは此方での私のイメージを具体化したアバターのようです。」
「そうか。しかし、何故お前がここに?」
「それは、私がお二人をここへお呼びしたからです。」
落ち着いた、女性の声に目を向ける。
白い髪に白い肌、赤い目と白いワンピースを纏った不思議な存在感を放つ女性。
「君は、もしかしアルビノボン太くんの…!」
「はい、その通りです。私が、アルビノボン太くんのISコアです。」
「…私達を、呼んだとは?」
「その事について、説明させて頂きます。先ずは、これを見て下さい。」
ISコアが両手で何かを包み込む様な仕草をすると、その手の中に小さな光が現れる。
「それは?」
「これは、貴方が欲して求める物の種です。」
「!まさか⁉しかし、何故?今まで、予兆すら見せなかったのに…。」
「これは。つい最近、ドイツの専用機との戦闘で得られたデータが基になって生れました。」
「…AICか。」
「はい。ですが、まだ完成する為のデータが足りないんです…。」
「足りないとは?」
「まだ、あと少しとても大事なデータが足りてないんです。」
「それは、どういう?」
「詳しくは、言えません…ですが、あと三回なんです。」
「あと三回?」
「はい、それもこれまで使ったのとは別のパターンを揃えれば、この子は完成する。」
「別のパターン…まさか!」
「その可能性が、高いですね一夏。しかし、三回のあれに耐えられる対戦相手などいますか?」
「丁度いいのがいるだろ、一撃必殺の攻撃に耐えた奴が。」
「成る程、あれならば。」
二人の目に闘志が滾る。
「行こうぜ、相棒!」
「はい一夏。」
「俺とお前…。」
「私と貴方…。」
「「二人で揃ってこそ、アルビノボン太くんは完全になる!」」
一夏達は、そう言い夢の中から現実に帰って行った。
「後は、頼みました。一夏さん、アルファさん…。」
二人を、コアは祈る様に見送った。
一方、箒の下にはかなめが顔を見せていた。
「…かなめさん。」
「箒ちゃん、ちょっと小母さんの話を聞いてくれる。」
「…はい。」
「私もね、箒ちゃんと同じ年の頃に今の箒ちゃんと同じ様な体験をした事があるの。」
「…。」
「その時は、宗介がいつも助けてくれた。だけどね、卒業も間近って時期に学校が襲われっちゃってさ、その時に友達を人質されたのよ。」
「!」
「うん。そうだよね、今の箒ちゃんと同じ反応をその時の私もした、その前も自分と関係ない人たちが自分のせいで傷つくのいっぱい見ていたから怖くなって、ずっと信じていた宗介の事もしんじきれなくなってた…。」
「かなめさん…。」
「箒ちゃん。私はね、今でもその時の事を後悔してる。なんで、最後まで信じ切れなかったんだろうって、今まで散々助けてくれたのにどんなに危険が在っても助けに来てくれたのにってさ…。」
「後悔…。」
「箒ちゃんは如何?後悔してない?」
「私は…悔しい。」
「うん。」
「自分を信じ切れない自分が悔しい!慢心を恐れて、何も出来ない弱い己が!一夏を守れなかった私が悔しい!」
「うん。じゃあ、如何しようか?」
「それは…。」
「箒は、居るか⁉」
「敵の場所が判ったぞ!」
「!ラウラ…。」
「あんたの想いは判ったわ。私達も、同じだから。」
「鈴…。」
「恋する乙女の強さ!一緒に見せつけてやりましょう!」
「セシリア。」
「なんだかんだ言ってもさ、やらない後悔はしたくないでしょ。」
「シャルロット!」
「私には、恋愛は分からない…でも、悔しい気持ちは分かるから…!」
「…簪だったな。」
「うん。」
「私は、箒で良い。私も、名字で呼ばれるは苦手だ。」
「分かった箒!」
「皆、私も行かせてくれ。いや、例え断られて着いて行く!」
「誰も、拒みはしないぞ。」
「えぇ!」
「当たり前よ!」
「うん!」
「行こう箒、一緒に…!」
箒には、さっきまでの迷いは無かった。
ただ、頼もしい仲間と共に標的の居る決戦の地へ赴くのであった。
箒「待って居ろ!シルバリオゴスペル!」
次回は、BGMにjamprojectの決戦thefinalroundでも聴きながら書きたいと思います。
感想などありましたらよろしくお願いします。
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思い返す原初の願いのふもっふprimordial
一夏が目を覚ましたのは、あの夢の世界から出てほんの少し後の事だった。
目を覚ますと、手元にアルビノボン太くんがない事に気が付いた。
「どこだ⁉これから、やらなければならない事があるのに!」
「探してるのはこれか?」
「!宗介小父さん…。」
声の方に、顔を向けると宗介がアルビノボン太くんの待機形態を持って戸の前に立って居た。
「何処に行く気だ、そんな体で?」
「…。」
「お前が考えてる事を当ててやろうか?奴と、もう一度戦いこいつの進化に必要なデータを収集しようと考えてる。違うか?」
「はい。」
「っふ。まだまだ、詰めが甘いなお前は…一つ教えてやる、箒たちがシルバリオゴスペルの下に向かったぞ。」
「何だって!何でそんな危険な事を…。」
「分からないか?そうだろうな…確かにお前は、この二年の間に強くなった。お前自身の才能もあるだろうが、それでも強くなる事に貪欲になってどんなキツイ鍛錬にも耐えただが、お前にまだ足りない物がある。」
「それは一体。」
「分からないか?ならば、お前を行かせる訳にはいかない。」
「!何故ですか⁉」
「今のお前達なら、確かにラムダドライバを発現させる事は出来るだろう。」
「でしたら…!」
「だが、使いこなす事は出来ない!」
「な!」
「お前は、何故力を求める。」
「それは、弱い自分を変える為に…。」
「そうか。なら、その先は如何だ。」
「その先…?」
「そうだ、そな先で手に入れた力をどう使う。どういう目的で活かす。お前は、自分が如何ありたい。」
「それは…。」
「お前が幼い頃、俺はお前になら俺や後を継いだあいつの想いを理解し、正しく受け継いでくれると思った。しかし、今のお前はそれを感じる事は出来ない。」
「幼い頃の、俺は…!」
思い出す、小さい頃ヒーローに憧れ自分もなりたいと願っていた事に、ボン太くんを憧れと重ね見続けた夢を、失っていないつもりだった、でも失っていた弱きを守り強きを挫く正義の意味を。
二年前の、あの日が訪れる前の自分では無い誰かを守りたいと願ったあの頃を…。
「気付いたか。」
「はい…。」
「俺は現役の頃、今のお前の様に力の在り方に迷った事がある。その時、俺を支えてくれたのが仲間だった。」
「仲間ですか…。」
「そんな、仲間たちを守りたいと思い戦う内に、俺はあの力を制御していた。お前には居ないのか?守りたいと思える仲間が。」
「います。俺にも、守りたいと思える奴らが…!」
「それは、そいつらも同じなんじゃないか?」
「!まさか、あいつ等は俺の為に…!」
「飽く迄も、俺個人の予想に過ぎないがな。しかし、そうだとしてお前は如何する?」
「確かに、今の俺では足手纏いかもしれない。だけど、ここで大人しく待つよりも一緒に戦いたい!それで、皆を守りたい!」
「…覚悟は決まったな。」
「はい。」
「なら、行ってこい。」
アルビノボン太くんを一夏に投げ渡す。
「あぁ、少し待て。ウルズ7にはもう一つ受け継ぐ物がある。こいつは、俺が現役時代から使ってきた御守りだ。今度こそ、お前の役に立つかもしれない持っていけ。」
宗介は、受験日のあの日に持たせようとしたアサルトナイフを取り出した。
「…はい!」
「本当は、今のウルズ7が渡すべきなんだろうがな。」
「行ってきます!」
「おう、頑張ってこい!」
少し時間を遡り一夏が目覚める前の近隣空域。
静止したシルバリオゴスペルが駐留した区域の岸壁に箒たちの姿が在った。
「最後の確認だ、今ならまだ引き返せるぞ。下りたい奴は、下りても構わんぞ。」
「何、言ってんのよ。」
「そうですわ。ここまで来て、引き返すなんてありえませんわ。」
「あはは。まぁ、戻ったら先生達のお説教は確定かな…。」
「…それは、言わない方が…。」
「「「…。」」」
「何方にしても、覚悟の上だろ…。」
「も、勿論…。」
「お、お説教が怖くて敵討ちなんて出来ませんわ!」
「…声が震えてるよ、二人とも…。」
「そう言う、シャルロットもやけに静かだな。」
「ラウラは、平気そうだね…。」
「…ちょっと、目が潤んでる…。」
「な、何を言う!怖くなんかないぞ!先生達の説教など…!」
「声が、小さくなってるぞ!確りしろ、ラウラ!」
「ふ、ふふ…。何を言う、私は正気だぞ…。」
「あ~ぁ、もう!先に行くぞ。」
「あっ!待て箒!くぅ、お前達行くぞ!」
「…なんか、グダグダだね…。」
「否定…出来ないかな~。」
「でも、緊張は取れたわね。」
「ふふ、そうですわね。待って下さいまし~!」
「二人だけで、先に行くんじゃないわよ~!」
「僕達も行こっか!」
「うん…!」
其々の専用機を纏い、少女たちは目標まで距離を詰める。
近付く複数のISの反応に一時的に機能を休止していたシルバリオゴスペルが迎撃の為に動き出す。
最も早く接近できる箒とその後に続いたセシリアが戦闘を開始する。
シルバリオゴスペルが二次移行で得た光の翼から光弾の豪雨が二人を狙う。
紅椿とブルー・ティアーズの強襲用高速機動パッケージ[ストライク・ガンナー]の機動力で回避して、遠距離からの攻撃で揺動して海岸までおびき寄せる。
「おいでませ!」
「喰らいなさい!」
左右から、鈴音とシャルロットの挟撃で足止めをする。
ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡの防御パッケージ[ガーデン・カーテン]で光弾を防ぎ、重火器で牽制をするシャルロット。
甲龍の機能増幅パッケージ[崩山]龍砲を二門から四門に増設され、さらに不可視な砲弾から赤炎を纏う砲弾の拡散衝撃砲に変更されて威力が増した龍砲での広域爆撃で逃げ道を塞ぐ鈴音。
「行けるな、簪!」
「うん…何時でもいいよ…!」
「なら、タイミングを合わせるぞ!」
「うん…三つ数えたらで良い?」
「あぁ、それでいい!」
「それじゃあ…!」
「「1.2.3!」」
「発射!」
「いっけー!」
シュヴァルツェア・レーゲンの砲戦パッケージ[パンツァー・カノニーア]両肩に二門装備したレールカノン[プリッツ]がシルバリオゴスペルに狙いを定め放たれる。
打鉄二式の背部に二門搭載されてる荷電粒子砲[春雷]、マルチ・ロックオンシステムを搭載した六基に八門合計四十八発の独立稼働型誘導ミサイル[山嵐]を一斉に発射する。
「やったか!」
「ラウラさん、それフラグ…。」
攻撃による硝煙で視界が塞がり標的の状態が確認できない。
漸く、煙が晴れてシルバリオゴスペルの姿が見えてくる。
「な…んだと…!」
「そんな…!」
光に翼に包まり攻撃を耐えた、シルバリオゴスペルの姿が現れて茫然とする少女達。
しかし、ここからは自分達が攻撃される番だった。
意識を奮い立たせて防御態勢を取ろうとした時、何処かから飛んできた光の矢がシルバリオゴスペルに当たり海に墜落させた。
其方を見て、全員息を吞む。
そこに居たのは。白隼形態のアルビノボン太くんだった。
一夏「付き合って貰おうか、実験に…!」
遂に、アルビノボン太くんが復活しました。
遅くなって、すいません。
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赤弓と嵐波と暗刃のふもっふtrial
アルビノボン太くんを纏った、一夏は急いでいた。
今、戦っている仲間たちの下へ。
己の、可能性の覚醒とボン太くんの進化の為に、そして仲間と共に朝日に勝利を掲げる為に、ボン太くんは決戦の場へ急いでいた。
「ふぁーもっふ!」『見えた!』
白隼形態は、高速機動用の兵装である。
しかし、それだけではない。
近接戦闘は勿論熟せるが、遠距離精密狙撃用の機能も備わっていた。
その証拠に、ヘッドギアのゴーグルは光学スコープになっており、900m程度であれば僅かな誤差も無く精密狙撃を行えるようになっている。
「ふぁーふ!ふぁーるるふぁっもっふ!」『アルファ!早速始めるぞ!』
『了解。エクストラアタックコードⅡ[トライファルコンレイ]発動!』
ヘッドギアが顔を覆い、今度は目にゴーグルがセットされる。
サブブースターが外れ、ブースターのウィングが展開してエネルギーを纏う。
ファルコウィングシールドにファルコカリバーを収め、そのまま押し込むとシールドが展開してボーガン形状の狙撃用エネルギーライフルに変形する。
隼が翼をひろげた姿を模したライフルの嘴の部分から全体にエネルギーが集約される。
仲間たちの攻勢が止んで、標的が健在である事が判明するとボン太くんは集積させたライフルとブースターに集積されたエネルギー矢を解き放った。
「ふぁーもふぁーもるふぁーもっふ!」『トライファルコンレイ!』
其々の武装から放たれたエネルギー矢は隼の姿に変わり螺旋を描く。
やがて、一つに合わさり炎の螺旋矢と成ってシルバリオゴスペルに一直線に飛んでいく。
シルバリオゴスペルが翼を広げ、少女たちに反撃を仕掛けようとした時、炎矢が直撃して海に落とす。
通常であれば、必殺の一撃とも言えるこの攻撃でも相手は二次移行機。
海中に、まだ機体反応が感知される。
「ふぁーふ!ふぁーるるっふ!」『アルファ!形態変換白鯨形態!』
『了解。モードチェンジモードホワイトホエール!』
光を放ちながら海に潜るボン太くん。
今度は、海中での攻撃に移る。
白鯨形態は、火力砲撃戦形態であるが、それは地上に限った話ではない。
この形態の武装は、水中での使用も考慮された物であり、海中に於いても地上と変わらない威力の攻撃力を持つ。
そして、この海中という環境は今のシルバリオゴスペルにとって最悪と言ってもいい環境だった。
二次移行前から、武装を光学兵器に頼っていたこの機体は、二次移行後に、その特徴がより顕著な物になった。
その為か、光学兵器だと威力が分散しやすい水中では本来の威力の半分以下の攻撃力しか発揮できないのである。
「もっふーん!もふっふーん!」『アルファ!次に行くぞ!』
『了解。エクストラアタックコードⅡ[アイアンストームオーシャン]発動!』
ヘッドギアが下りて、全ての武装がマルチロック機能により連結される。
ニブルヘイムとインフェルノが水中モードに切り替わり、フィンメーザーが全門開放され、ダイダロスが発射準備に掛る。
シルバリオゴスペルが如何にか、海中から出ようともがくが先ほどの一撃で光の翼以外の推進器が故障し上手く作動しない。
当然、ここは海中の為光の翼での移動は制約されて移動速度も落ちる。
相手が、ごたついてる間に攻撃準備を終わらせ攻撃を開始する。
「ふもーんもっふーんふーもっふ!」『アイアンストームオーシャン!』
鈴音やラウラ、簪等が繰り広げた弾幕戦と同じ威力はあるであろう重厚な弾幕が海中で行われた。
凄まじい火力の嵐に呑まれながらその余波で如何にか空中に戻ろうあがく。
しかし、四方八方から繰り出される攻撃に阻まれ中々うまくいかない。
如何にか、攻撃の隙を見つけ海上に出るがボン太くんも動いた。
「もっふーん!ふーふーもっふ!」『アルファ!形態変換白烏形態!』
『了解。モードチェンジモードホワイトクロウ!』
海上に出た、シルバリオゴスペルを追って形態を変えた。
白烏形態の持ち味は、隠密強襲行動の為の認識阻害機能センサージャマーにある。
通常のカメラや熱源センサーは勿論、赤外線センサーなどにも認識されない特殊電磁波を放ち、更にボン太くんタイプには標準でステルス機能も付いて為に発見されづらい特性を持つ。
シルバリオゴスペルのセンサーには示されてはいないが、ボン太くんは確実に背後から接近していた。
風魔と狩魔丈を連結させた武装、風刃雷牙槍を手にして音もなく近づく。
「くぁーっふ。くーくぁーくっふ…。」『アルファ。最後のやつだ…。』
『了解。エクストラアタックコードⅡ[ふもっふ流暗闘術暗刃鳴雷斬]発動。』
風刃雷牙槍の刃が電気を帯び始める。
シルバリオゴスペルは背後の異変に気付いたがもう遅かった。
「くぁーるくーくぁっふ…くぁもっふ!」『ふもっふ流暗闘術…暗刃鳴雷斬!』
電気を帯びた風刃雷牙槍の上段からの振り下げで袈裟懸けに断ち切る。
今度は、浜辺に向けて斬り飛ばされるシルバリオゴスペル。
ボン太くん以外の誰もがボン太くんの勝利を確信したが次の瞬間、飛ばされた地点から広げられた光の翼を目にした。
信じられない光景に、今度こそ全てを諦めかける。
『二次移行に必要なデータの収集を完了しました。形態移行シークエンスの発動を承認して下さい。』
その、アナウンスはその場にいた全員が聞いていた。
「ふもっふ!ふももっふ!」『了解!二次移行開始!』
ボン太くんを中心に球体が展開して、二次移行が開始された。
『一夏。お前は諦めてないんだな…私も諦めない…!今度こそ、自分を信じて見せる。決して慢心や過信ではなく己の持つ可能性を信じてみせる。』
箒の決意が紅椿に伝わったのか、紅椿が輝き新たな力を解放した。
「これは…エネルギーが回復していく!」
自身の機体に起きた変化に驚く箒。
「絢爛舞踏…。これが、紅椿が持つ単一仕様能力。この機体の本来の力…これがあれば…!」
箒の単一仕様能力の覚醒とボン太くんの二次移行。
今、この戦場で起きた二つの奇跡が結びつきこの時を新たな局面へ進ませ始めたのである。
蓄えられた戦の記憶が、彼を新たなる力を宿した存在に生まれ変わらせる時は秒読みだ。
神聖を纏いしボン太くんの誕生は次回に明かされる。
一夏「今こそ、真の後継者となる時!」
ボン太くんのセカンドシフトを楽しみに待っていてください。
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目覚めるは神聖が宿りし白きボン太くんevolution
一夏の目の前には、先程も見た澄み切った空と水面が広がっていた。
「漸く、この時が来ました…。」
「あぁ…!」
「はい!」
そこには、アルビノボン太くんのISコアとアルファそして一夏が居た。
「私は、求めて来た。貴方達と会える日を…共にこの空を駆ける日を。」
「アルビノ…。」
「私達の願いは一つです。」
「ウルズ7を継ぎ、世の平穏を守る。」
「争いなき世界は無理でも、誰もが一度でも夢を持ち語る事が出来る世界を作る。」
「誰かの想いを否定することなく、自分の思いの丈を言葉にできる社会を目指す。」
「「「その為に、今こそ一つとなる!」」」
三人を、中心に世界が光で満ち溢れる。
ISコアと補助AIそして操縦者の精神が重なり神聖なる光が溢れ出す。
その光は、アルビノボン太くんを新たなる戦士に変えた。
『二次移行シークエンス完了。一夏、本機の今後の名称を決めて下さい。』
「ふもっふ!ふもるるふーもふっもふ!」『了解!セイクリットアルビノボン太くん!』
『機体識別名、セイクリットアルビノボン太くんを登録します。』
セイクリットそれは神聖を意味する言葉である。
その言葉が表す通り、ボン太くんは基本形状に変化は余りないが、確かに進化していた。
まず目を引くのは、機体の上半身に青地に黒のアーマージャケットを装備している。
次に、左目が赤から青に変わりオッドアイになった。
何より、その腕部に換装された腕全体を覆う謎のアーマーが何よりも存在感を放っていた。
敵対する者が見れば、その姿と覇気に畏怖を覚え。
味方が見れば、神々しさと力強さに奮い立つ。
正道を征き、邪悪を退ける神聖なるボン太くんが誕生した。
「!Laaaaa...!」
その姿を、遠くからカメラで見ていたシルバリオゴスペルは慄きと共にボン太くんに光弾を打ち出す。
「ふも!」『無駄だ!』
ボン太くんが片腕を前に突き出すと、まるで光弾からボン太くんに当たる事を拒むかのように弾道を逸らす。
これこそが、彼が求めた英雄ウルズ7の継承者の証[ラムダドライバ]である。
虚現斥力場生成装置、不可視の斥力場を発生させる効果のある特殊装置である。
だがそれだけではない、斥力とは物質同士の反発する力を指す。
その使用法は多岐にわたり、例えば機体の周囲に斥力場を発生させ不可視の防壁を形成してり、弾丸の周囲に発生させれば喩え小さな弾でも質量が勝る敵を吹き飛ばす、又は弾が無くとものイメージだけで不可視な弾丸を作り出し、遮蔽物を透過して内側の物を破壊する事も可能である。
言うなれば、ラムダドライバとは使用者の想像力次第で思うがままに、物理法則すら改変してしまう装置なのである。
エネルギーで作り出された、光弾も実体化と可視化の為に表面に粒子を纏わせていた、その為に粒子が斥力場に干渉して弾道を曲げたのである。
「師匠!そのお力は!」
「ふも…。」『ラウラ…。』
「手に入れられたのですね!継承の証を!」
「ふも…ふもふーもっふ!ふももっふ。」『あぁ…会得したぞ!お前のお陰でな!』
「私が…師匠のお役に…!」
「ふももふーもっふもふる!」『お前の機体のAICとの戦闘記録が基になった!』
「!あの戦いが、継承の証の基に…うぅ。」
「ふもふもっふ?」『ラウラ、何故泣く?』
「嬉しいのです…例え、その行動が偶然で自分の意思の下に行ったものじゃなくとも、貴方の役に立てたそれが堪らなく嬉しいのです!」
「ふもっふ!ふもももっふ!」『そうか!礼を言うぞラウラ!』
「はい!その言葉、有難く頂戴致しましす!」
『一夏、機体の残存エネルギーが10%をきりました。』
師弟の会話が終わるころ合いでアルファが一夏に告げた。
「ふも…ふももっふふーもふもるる。」『うむ…三連続エクストラアタックコードの後だからな。』
「ボン太くん~!」
「ふも?」『箒?』
「手を取ってくれ!」
「ふもも?」『手を取れ?』
「良いから早く!」
「ふも…ふもっふ!」『うむ…分かった!』
箒の手を取ると紅椿が金色に光り繋いだ手からエネルギーが流れ込む。
「ふも…!」『これは…!』
「紅椿の力だ。これで行けるか?」
「ふも!ふーもっふ!」『あぁ!十分に戦える!』
「ちょっと!そこの三人!」
「何時までそうしてるつもりですの⁉」
「用が済んだら早くこっちに加わってくれないかな⁉」
「持ち堪えるのも…大変…だから…!」
三人が固まり、話し込んでる間も鈴音たちはシルバリオゴスペルの足止めをしていた。
そして、中々此方に気を向けない三人にしびれを切らして催促してきたのである。
「ふも!ふもも…ふーもっふ!」『はっ!すまん…直ぐに向かう!』
「お供します!師匠!」
「私も、行くぞボン太くん!」
「ふもふもっふ!ふももっふ!」『ラウラ、箒!押して征くぞ!』
「「おう!」」
三人が加わり、七人となった専用機持ち達はボン太くんを攻撃の核として攻勢にでる。
光弾をまき散らし如何にか、攻撃を振り切ろうとするがラムダドライバを有したボン太くんにはもう通用しない。
接近され拳打を叩きこまれ、逃れても追いつかれまた拳打を叩きこまれる。
その攻防が繰り返され、気付けば東の空に朝日が昇り始める。
シルバリオゴスペルはもう闘争心を失い、ほぼ抵抗をしなくなっていた。
一応まだ悪あがき程度の反撃はあるものの、最早その攻撃には覇気を感じられなかった。
「ふもふもるふもっふ。」『此処が落としどころか。』
ボン太くんは、宗介から受け取ったアサルトナイフを構えて斥力場をナイフに纏う。
「ふももふもるっふ!」『これで最後だ!』
ナイフに纏わせた斥力場の刃をシルバリオゴスペルのISコアに直接叩き込む。
シルバリオゴスペルは機能を停止させてその場に静止した。
「ふもっふ!ふももっふふーふももっふー!」『皆の者!我々の勝利である勝鬨を上げるぞ!』
「ふも!ふも!ふもっふー!」『えい!えい!オー!』
「「「「「「えい!えい!オーーーーーーー!」」」」」」
「ふも!ふも!ふもっふーーーーーーー!」『えい!えい!オーーーーーーー!』
「「「「「「えい!えい!オーーーーーーー!」」」」」」
朝日を浴びて立つ、ボン太くん達の声が海岸全体に響き渡る。
こうして、災禍を呼ぶ銀鍾との戦いは幕を閉じた。
しかし、まだ帰ってからの地獄が待っている事を頭の中からすっぽり抜けたように忘れていた七人は、教師陣からシルバリオゴスペルとの戦いよりも過酷な折檻を受ける事になるのをまだ知らない。
千冬「ア・イ・ツ・ラ…!」
セイクリットアルビノボン太くんはまだ通過点です。
ラムダドライバを完全に使いこなす道程がまだ残ってます。
臨海学校編はもう一話か二話で終わらせます。
感想などありましたらよろしくお願いします。
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後始末は連帯責任のふもっふpunishment
テッサは一旦、本編から離れます。
早朝、月花荘に近い海岸に例の戦いを終えたばかり七人は仁王立ちの千冬の前に整列していた。
「…お前達、言いたい事は判るな…?」
「「「「「「「…。」」」」」」」
夏も近い、この頃だというのにその場の言葉だけで全身が凍り付きそうな程冷える。
後ろに控えていた真耶は顔を青くして、その隣に居る愛子はいつもの様に微笑んでるように見えて薄目を開けその眼光で心臓の弱い人物なら気絶できる威圧感を放っていた。
「まぁ、対象を抑えた事は評価してもいい…。」
「「「「「「「!それじゃあ…!」」」」」」」
「ただ、其れと是とは話が違う…。」
「そうだね~。無事だったから良かったものの、一つ間違えば如何なっていたかな~。」
「おっ織斑先生、相良先生…!」
「「何ですか⁉山田先生…。」」
「ヒェッ!いえ、あの…織斑君たちも疲れてるでしょうし、今は取り敢えず…。」
「そうですねぇ~。じゃあ、ハーフコースで勘弁してあげますか~。」
「!は、ハーフコース…!」
「一夏!」
「師匠!」
「相良先生、流石にそれは甘すぎます。せめて、それにA+位なければ…。」
「!ハーフコースに、A+…!」
「本当に如何した!」
「あの…一夏、そのハーフコースとかA+とか何のこと?」
「相良ブートキャンプの訓練メニューで三番目位にキツイメニューだA+はそれの追加項目で26通りある中の一番ヤバイ奴なんだ…。」
「相良ブートキャンプ…!彼の陣代高校ラグビー部が新入部員に対して行っていると云われたあれか!」
「?知っていますの、箒さん。」
「あぁ…しかし、あれはもう都市伝説だとばかり…。」
「箒…それは、飽く迄も入門編だ…トライアルコースの初歩中の初歩…相良先生が言っているのは本格的な奴だ…。」
「なん…だと…!」
「序に言えば、ハーフコースは通常一日全部を使って行う訓練を半日に凝縮して行う超ハードな過密日程…しかも、+メニューは達成ノルマが全体と個人で別れてる為に個人でクリアしても、全体がクリアしてなきゃ追加でやらされる、それもAはどちらもかなりエグイ達成ノルマだ…!」
「じゃあ、一旦解散してご飯食べたらすぐ集合ね。返事は!」
「「「「「「「はい!先生!」」」」」」」
「違う!ma'amと呼べ!」
「「「「「「「Yes,ma'am!」」」」」」」
それからの事は語らないで於こう…。
ただ最後の方は全員、人を殺せる人間の目をしていた…。
其れはさて置き、今回の事件が要因になったのか、臨海学校で予定されていた日程が中止され明日学園に帰る事が決まった。
その為、臨海学校最後の夜を箒は一人で月を眺めていた。
「箒、ここに居たのか?」
「?一夏、如何してここに?」
「色々あって、遅れたが誕生日だっただろ昨日?」
「…忘れてた…!」
「そうだろうな。遅れたが、誕生日おめでとう。」
「あぁ、ありがとう。」
「これは、ささやかだが祝いの品だ受け取ってくれ。」
小さな紙袋を、箒に差し出す。
「ありがとう。ここで開けても?」
「構わんぞ。」
一夏に了承を貰い、紙袋を開ける。
中身は、ボン太くんキーホルダーだった。
「これは…うん、分かってた。」
「中々手に入らない、レア物だぞ。」
「そうなのか…ありがとう。」
「箒~、一夏~そこで何して?そ、それは!」
「シャルロット?」
「今年の、ボン太くんスプリンターフェスで七十個限定で生産された春色ボン太くんキーホルダー!」
「そ、そうなのか~。」
「何よ、騒がしいじゃない。」
「シャルロットさん、如何されましたか?」
「シャルロット?如何した、そんなに騒いで?」
「皆…どうかした?」
シャルロットの声に、聴きつけていつものメンバー+簪がやって来る。
そして、箒の持つキーホルダーに気が付きひと騒ぎ起きたのであった。
その様子を、遠くから眺める人影が二つ。
「あいつ等…昼間にあれだけ扱いたのにまだあれだけの元気が有るとは…。」
「ホントだね~。あれは、束さんも引いたよ~。それにしても、ラムダドライバの発現か~。」
「そろそろ、代替わりか?」
「まだまだ、この座を譲るつもりは無いよ。千冬ちゃん。」
声と共に、愛子が二人に近づく。
「束ちゃん。それより、例の組織の事だけど…。」
「動いてるのは確実だね。ちーちゃんの両親が中心に近い位置に居るみたいだね。」
「あの人たちが!という事は共謀している相手は…。」
「束さんが人であれる理由をくれた。宗さん達がこの世界を守るなら、束さんもこの世界を守る為に力を使う、その為にもちーちゃんやあーちゃんの力を必要になると思うんだよ。」
「うん。その時は、力を貸すよ束ちゃん。」
「私も、宗介さん達には恩がある。何より、あの人たちが動いているなら無視は出来まい。」
「そっか、ありがとう。もう、行くね。」
「うん、じゃあね。」
「あぁ、またな。」
「うん!ばいば~い!」
崖から、飛び降りて姿が見えなくなる。
夜は、騒がしくだが穏やかに過ぎていく。
翌朝、帰りのバスが出発する前。
「失礼いたします。」
「!テッサさん!」
「そんなに、畏まらないで下さい。」
「しかし…。」
「あの…?」
「はい、何でしょうか?」
「わたくしは、セシリア・オルコットと申します。」
「セシリアさん?という事は貴女はオルコット財閥の代表の方ですか?あっ!私はテッサと呼んで下さい。」
「はぁ。では…テッサさん、何故あなたの様な立場の方が此方に?」
「ふふ、秘密です。」
「あの…そろそろ、宜しいでしょうか?」
「あぁ、失礼しました!一夏さん、こちらはナターシャ・ファイルスさん、シルバリオゴスペルの操縦者の方です。」
「貴方が、織斑一夏君ね。」
「はい、そうですが。如何してここに?」
「あの子を、止めてくれた事にお礼を言いたくて。ありがとう、貴方達のお陰であの子はあれ以上暴走しなくて済んだわ。」
「いえ、自分達は任務を果たしたまでです。」
「ふふ。初代ウルズ7も、そんな人だったわね。」
「それで、これから如何されるおつもりですか?このまま、軍に戻っても…。」
「彼女は、ミスリルが保護することになりました。」
「そう言う事よ、心配してくれてありがとう。」
「あ~ぁ、その…そろそろよろしいでしょうか?」
「はい。お時間を作っていただきありがとうございました。」
「じゃあね千冬。」
色々あった、臨海学校は思わぬ形で終了した。
しかし、これはまだ前哨戦に過ぎない。
ラムダドライバを手にした一夏には、これより先使いこなせる様に成らなければウルズ7は継ぐことは出来ない。
それは、新たなる試練の幕開けでもあった。
そして、何処かの研究施設では…。
「そうですか。ラムダドライバを発現させましたか…。」
「狙い通りですか?」
「えぇ、これで漸く叩き潰せますね。」
「千冬お姉さま、一夏お兄様そして、裏切り者の円夏お姉さまも皆纏めて…ふふ!フフフフフフ!」
狂った様に笑う、黒い髪の少女がそこに居た。
?「姉さん、兄さん待っていて下さい。もうじき、一緒に戦えます。」
次話から、夏休み編に突入します。
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ボン太くんファンの熱い夏summerfestival
この日、一夏をはじめとした一年生専用機持ち組+一人はこの夏、彼らにとって最も熱い祭りの会場の前に横並びで立って居た。
「ここが、ボン太くんサマーフェスの会場…!」
「此処からでも、熱気が伝わってきますわ…!」
「くっ!何というプレッシャーだ…!」
初参加となる、ヨーロッパ出身の三人組は会場から漏れ出るオーラの影響を受け始めていた。
「今年も、この時が来た!」
「狙いのサークルの位置は、把握済みだよカンちゃん!」
簪と本音は、毎回の事なのだろう、闘志を燃やしていた。
「今年の狙いは、全身20箇所稼働のアルビノボン太くんアクションフィギアだ!各形態換装パーツも忘れるな!」
「「「「「おう!」」」」」
目標物の確認と気合を入れる為に点呼を取る一夏に声を揃えて答えた。
そんな友人たちを眺める箒と鈴音。
「…箒、私達って場違いじゃ無いかしら…。」
「言うな鈴、薄々勘づいてはいたが口にしない様にしていたんだ…。」
「そっか、ごめん…。」
一夏達の影響で少しずつボン太くんを好きになりつつある二人でも、この状況に若干引いていた。
傍から見れば、何の変哲もないフリーマーケットに見える会場に目を向ける。
「しかし、本当にここで良いのか?」
「あぁ、ここで間違いない。」
「いや。どう見ても、フリーマーケットでしょ。」
「確かに、そう見えるかも知れない…けど、ボン太くんファンがイベントをしようとすると、必ず妨害がある…。」
「そうならない為には、屋内でなるべくボン太くんの催しである事を隠す必要があるんだよ~!」
「そ、そうなのか…。」
「知らなかったわ…。」
そう、一年目は普通に開催できたが二年目から女権主義者からの妨害であわやもう少しで中止になる事が起きていた。
幸いにして、その時は来場者の中に警察関係者の上層部の人間が居た為に妨害に当たっていた女権主義者は拘束され連行されたが、それ以来こう言った催しはひっそりと行うよになったのである。
「それより、もうじき開場時間だ。気を引き締めろ!」
「張り切って行きますわ!」
「集合は二時間後、中心の広場で!」
「其れ迄は、各々の健闘を祈る!」
「アルビノボン太くんアクションフィギアの購入整理券の配布は開場から二時間後の広場!」
「絶対に、皆で手に入れるよ~!」
そして、入場が開始される。
一夏は、箒たちと別れて目当てのサークルのブースに急ぐ。
時間は一刻を争う、早歩きになりながら一つ目のサークルに到着した。
一つ目のサークルでのお目当ての商品は、ボン太くんデザインのスマフォケースである。
これが、中々芸の細かい品なのだそうな。
カメラ端子の塞いで代わりにボン太くんの目の位置にカメラが来る仕様に成っていたり、スピーカーも耳に繋がっていたりと拘りが強い物らしい。
スマフォケースとしてもボン太くんグッズとしてもハイレベルなこれは、噂ではある有名携帯会社が匿名で製造していると言う話もあるほど人気の高い品なのだ。
それ故か、唯一販売されてるボン太くんフェスでは開始から3時間程で完売してしまう人気商品なのである。
「よし、次だ。」
「あれ?一夏じゃねぇか!」
「?あぁ、オータムさん!」
「久しぶりだな!」
「はい。何時、日本にお戻りに?」
「一週間前だ。いや~まさか、ドイツでの一件があそこまで長引くとは思わなかったぜ。」
「お疲れ様です。スコールさんは、お元気ですか?」
「あぁ、今日も一緒に来てるぞ。」
「そうですか。じゃあ、そろそろお暇しても?」
「うん?あっ!悪いな呼び止めて。」
「いえ、世にボン太くんの幸せがあらん事を。」
「世にボン太くんの幸せがあらん事を。」
その後、目当ての商品を手に入れつつ顔馴染みのボン太くんファンと交流して、合流までの間を楽しんだ。
そして、合流の時間が近くなり中央広場に向かった。
「すまん。待ったか?」
「大丈夫ですわよ。」
「寧ろ、時間ぴったりだった。」
「整理券は、まだ配布されてないから大丈夫…。」
「それより、成果は如何だった~?」
「ばっちりだ!」
「それは、何より~。」
「お前達は?」
「抜かり在りませんわ!」
「僕は、ラウラと回ったから問題ないよ。」
「はい!ボン太くんパジャマは際どかったですが、概ね問題なしです!」
「わたし達も、特に問題は無かったよ…。」
「うん。あっ!でも、一回ブースの場所が判らなくて迷ったかな~。」
「?大丈夫だったのか?」
「うん。綺麗なお姉さんと私達より小さい女の子の二人組が案内してくれたから大丈夫~。」
「もしかして、スコールさんか?」
「知り合い…?」
「あぁ、ミスリル関係でちょっとな。」
「今から、アルビノボン太くんアクションフィギアの販売整理券の配布を行います~!」
「始まったな…!」
「えぇ!」
「うん!」
「はい!」
「此処からが…本番!」
「よ~し!」
「皆、行くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
整理券の受け取りの列に並びに向かう一夏達。
その姿を、後ろから見ていた二人は。
「…置いてきぼりだな…。」
「…言わないで頂戴…。」
着いて行けてなかった。
「なんだと!もう、始まっているだと!」
後ろから声がする。
「?この声、数馬!」
「うん?おぉ、鈴か。久しぶりだな!」
「あぁ、うん。久しぶり、やっぱり来てたのね…。」
「当たり前だろ!俺が、来なかったら誰が来るんだ。」
彼は、御手洗数馬。
中学時代の一夏が、ボン太くん談義を唯一行えた五反田弾を除けば最も仲の良い友人である。
「すまんな。積もる話も有るが、今は…。」
「行って来なさいよ。買い逃したって恨まれたくは無いわ。」
「恩に着る。」
数馬も、列に加わりに行く。
それから、無事に目的の物を買えた一夏一行は数馬を加え昼食を食べに向かう。
「数馬、久しぶりだな!」
「おう!いつも、ニュースで見てるぞ、お前の活躍!」
「そうか、如何だった?」
「正直、羨ましい…。」
その言葉を、普通に捉えれば女子生徒しか居ない環境で、たった一人男子として入学した一夏に嫉妬していると考えてしまうだろう。
しかし、数馬も一夏に負けぬ程のボン太くんファンだ、普通であるはずがない。
「そうだろう!俺が、ボン太くんに操縦している事が、羨ましかろう!」
「くぅ!何故、俺では無かったのだ!俺だって、ボン太くんを愛しているのに!」
「ふっ。愛しているだけじゃ、足りないのさ…。」
「なん…だと…。」
その後、日本ミスリルがボン太くんの販売権を委託している[おおかわ豆腐店]がイベント限定で販売しているボン太くん豆腐の冷奴等の、会場限定グルメを昼食にして暫く喋っていたらしい。
なお、ここの限定商品を出してる屋台の主は、殆どが有名店のオーナーシェフだったりパティシエだったりするのだが、あまり知られていない。
鈴音「あいつ等、変わって無いわね…。」
ボン太くんフェスティバルは、春夏秋冬の四回行われたいます。
結構、有名企業が名を伏せて出店してるらしいです。
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閑話 ボン太くんが変えた嘗ての咎人達penance
日本ミスリルの社員寮の一室。
そこに、三人の女性が暮らしている。
年長のスコール・ミューゼルとオータムそして円夏呼ばれている少女は嘗て亡国企業と称したテロ組織に所属していた。
「円夏。今日は、楽しかったわね。」
「はい!アルビノボン太くんのアクションフィギアも買えました!」
「おぉ!良かったじゃねぇか!」
「はい!」
「そいつは、何より。」
「円夏、先にお風呂入って来てくれるかしら?」
「え!あぁ、もうそんな時間でしたか。」
荷物を床に置き、寝間着を取りに自室へ向かう円夏の後姿を見送る。
「ふっ…。あいつも、よく笑うようになったな…。」
「えぇ、あの子が笑顔を見せてくれるようになるまで色々あったわね…。」
「つい最近の、出来事の筈なのにもう昔の事に思えるぜ…。」
「あの子に、笑顔が今の私達の始まりだったものね…。」
二人は、思い出していた。
この、三人がミスリルに所属する切っ掛けとなった出来事を、自分達が亡国企業を抜け足を洗う決意を決めた時の事を。
「あれは確か、二年前の夏だったか?」
「えぇ、あの時もボン太くんフェスの時だったわね…。」
その日、彼女たちはある女性権利主義団体からの依頼でボン太くんフェスの会場に爆弾を仕掛けて中止かまたはテロを起こそうと潜入していた。
「あの時は、そこまでするかって思てたんだけどよ。」
「それでも、依頼だから行くしかなかったのよね…。」
それでも、作戦前に折角だからとフェスに参加した。
嘗ての二人は、実際に参加していても余り楽しめていなかった。
だが、同行していた円夏は違った。
「円夏のやつ、最初はいつもと変わらない面だったのにさ…。」
「ボン太くんファンと交流していく中に段々笑うようになっていたのよね…。」
普段、二人の前ですら見せなかった少女の顔。
年相応とも呼べる、子供らしい表情。
そんな、自分達がよく知っているはずの少女の、一度も見たことが無い屈託ない笑顔は二人の心の中で作られた円夏のイメージを壊すには十分すぎるものだった。
「そのすぐ後だったな…あいつが、円夏が組織を抜けようと考えてるのを知ったのは…。」
「最初は、貴女は止めるつもりだったのよね…。」
「あぁ、あの頃は組織を抜けても行く場所なんて無いだろって考えてた…。」
「私もよ。だけど、あの子の目が訴えて来たのよ。」
「あいつは、知ったんだよ…誰かを否定しても虚しいだけだってさ…。」
「そしてそれは、私達もそうだった…。」
「いつの間にか、爆弾を仕掛けるのが嫌になってたな…。」
「今にして、思えば私達もあの場の雰囲気が心地よかったのかもしれないわね。」
「男とか女とか、とてもちっぽけに思えてさ。正直、如何でもよくなってた…。」
「同時に、私はあの場所を壊すのが怖くなったのよ…掛替えの無い物を失うような気がして。」
「そこに、あいつが抜けるって話が出て来たんだよ。」
「あの時、あの子を一人で行かせたくなかった。」
「あぁ、だから一緒に抜けたんだよな…。」
その後、彼女たちはミスリルに保護を求めたのである。
当時、ミスリルでは三人の処遇を如何するか話し合いが行われた。
スコールの持つ、亡国企業の情報の真偽も定かではなかったためである。
そんな中、日本ミスリルの相良愛子が三人の監視役を名乗り出たのでた。
この意見に、各方面から愛子にやめるように声が掛けられたが。
結局最後は、テッサの一言と宗介の説得そして愛子自身の熱の篭った懇願で各関係人が折れた。
スコールとオータムは、愛子が部長を務める諜報部に配属され、円夏はミスリルの教育機関で教育を受ける事になったのである。
「それからは、ボスの命令でいろんな国を渡り歩いたっけ?」
「諜報部の仕事は、私達にはやりなれた事だったわね。」
「ただ、決定的に違うのは。」
「それを、決して悪事に使わない事ね。」
今の、二人のあの頃とは違う。
微笑みを奪って来たこれまでを悔い、贖罪の為にあらゆる悪意の証拠を集めて悪人を裁く為の力に換える。
そんな、今の在り方を二人は気に入っている。
そして、二度とあの頃に戻りたいとは思わない。
二人にとってボン太くんは自分達の再生の象徴だった。
ボン太くんが居たから円夏は笑顔になり、その笑顔が二人の心を変えたのである。
故にだろう、ボン太くんファンの集まりを妨げる者の存在が許せない。
例え、ボン太くんファンにとって絶対のルールを犯していたとしても、共感できる人々が一方的に迫害されている事実は耐え難い事であった。
実は、今日のイベントに爆破テロを起こそうとしたグループが居たのである。
それを阻止する為に、二人は活動していた。
結果として、テロは起こらなかった。
犯人グループが犯行を中止したのである。
「あいつ等も、もしかしたらボン太くんの幸せに気付いたのかもな。」
「えぇ、この世界で失われた真の自由と平等があの場所にはあるもの、きっと気が付いた筈よ。」
「まさに、『世にボン太くんの幸せがあらん事を』だな。」
「少しづつだけど、ボン太くんは世界を良い方に変えているわね。」
その時、スコールの電話に連絡が入る。
「私です。夜分遅くにすいません。」
「ハ~イボス。今度は、どんなお仕事かしら?」
「まだ先ですが。IS学園の文化祭をご存知ですか?」
「えぇ、それが?」
「…もしかしたら、厄介な事になるかも知れません。」
「どういう事かしら?」
「噂でしかありませが、亡国とアマルガムの残党が手を組んでるそうです。」
「事実よ、私達が抜けるちょっと前だったかしら、別のグループが接触をした話を聞いた事があるわ。」
「やはりですか…実は、その何方かがIS学園に乗り込もうとしてるらしいんです。」
「タイミング的な話で言えば、文化祭が狙われている可能性が高いってわけね…。」
「はい。けど今回頼みたいのはそれとは別件なんです。」
「別件?どういう事かしら?」
「その…文化祭当日、本部からある方が来日されるそうで…。」
「…その方の、護衛をして欲しいと…。」
「はい…。」
「分かったわ。それで、どんな人物なの?」
「…あの、名前を聞いても決して動揺しないでくださいね…。」
「随分、勿体つけるわね。」
「テレサ・テスタロッサ氏です…。」
「…ごめんなさいねボス、今なんて?」
「テッサ氏の護衛をお願いします。」
上司から、命令を聞いたスコールは固まった。
当然と言えば当然なのだが、これより先の詳細な説明をされたがききとれていなかった。
ただ、一つ言えるとすればこれより先の未来、彼女たちが胃痛に悩まされるのが確約された事である。
オータム「スコール?如何したんだ?」
亡国組は、こうして人の道に返るのであった。
着実に、ボン太くんは世界を変えてます。
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夏祭りと新たなる構想same type machune
「急にごめんね。」
「いえ、それにしても二次移行したアルビノボン太くんのデータは以前に収集しましたよね?」
「そうなんだけど、今回は別件でデータが欲しいんだよ。戦闘ログをコピーしたらすぐ返すから。」
一夏が愛子に呼ばれある場所に来ていた。
一夏が、第七ミスリル島以外の日本ミスリルの研究施設に来るのは初めてである。
ここは、あの島と違い本体テストのみに焦点を置いた施設の様である。
そして、愛子が欲しいデータは如何やらアルビノボン太くんの戦闘ログの中に在るらしい。
「まぁ、そう言う事であれば…どうぞ。」
「ありがとう。じゃあ、早速…。」
一夏から、アルビノボン太くんを受け取り、ログデータを立ち上げた。
この一学期までの、戦闘ログを見返して見るとやはりどう考えてもアクシデントが多い。
特に、行事関係に集中している気がするのは気のせいでは無いだろう。
「やはり異常ですね、この襲撃の回数は…。」
「ん?そうだね、ここ数年のIS学園の行事日程と比較したけど、毎回の如くトラブルが起きるのは異常だよ。」
「…例の連中が絡んでると見ていいですね。」
「うん。このままだと、確実に2学期以降もあるね。」
「戦力強化は、必須…ですか?」
「う~ん。今のところ、それは様子見かな~。」
「そうですね。まだ、ラムダドライバの制御も手探りな状況ですし…。」
「そうだね。それに今は、二号機の製作も控えてるし…。」
「?今なんて?」
「ん~?何でもないよ~。それより、今日は篠ノ之神社の夏祭りでしょ。」
「あぁ、そう言えばそうですね。」
「誰か、誘って行かないの~?」
「今の所、その予定はありませんが…愛子姉さん、久しぶりに二人で行きませんか?」
「えっ、私!」
「ダメですか?」
「う~ん。ダメじゃないけど…。」
「偶には、愛子姉さんとIS関係以外で出かけたいんですが?」
「…分かったよ。そうだね、偶には…良いかもね。それに、今日のお礼もしたかったし…丁度いいね!」
「ありがとうございます、愛子姉さん。」
「うん。待ち合わせは如何する?」
「鳥居の前で待ち合わせましょう。」
「了解。じゃあ、一旦帰ろっか。」
「はい。また後で…。」
「うん。また後で!」
愛子は、まだ用が在るらしく一夏は先に帰宅する事になった。
その後、自宅に戻った一夏は夏祭りまでの時間を家事と鍛錬で潰して待った。
夕方頃、一夏は篠ノ之神社の鳥居の前で愛子を待っていた。
服装は、青の甚平羽織を着ており中々に似合っている。
「お待たせ~。おぉ、似合ってるね甚平さん。」
「ありがとうございます。愛子姉さんの浴衣姿も、お似合いです。」
「ん~。そうかな?ありがとう。」
愛子は、赤地に白と黄の花柄の浴衣を身に纏っている。
遠巻きに見ていた通行人がおもわず立ち止まる程に似合っている。
一夏は、愛子を連れ立って境内に足を向けた。
「先ずは、腹ごしらえから如何ですか?」
「異存ないよ。」
「じゃあ、何を食べましょうか…。」
二人は、出店を覗きながら最初に何を食べるか話し合う。
「たこ焼きは、てっぱんかな。」
「焼きそばなんて、良いんじゃないですか?」
「見て一夏君!お好み焼きの店がある!」
「あぁ、本当だ!」
目に付いた店の商品を、粗方買って空いている場所を探す。
直ぐに空いているスペースを見つけて買った物をその場に並べて行く。
「うん!やっぱり、お祭りのたこ焼きはてっぱんだね!」
「はい。濃いソースとマヨネーズが食欲をそそります。」
「焼きそばも良いね!」
「ちょっと、甘めのソースがアクセントですね。」
「お祭りのお好み焼きは、大阪風と広島風があるけど、私的には広島風が好きかな~。」
「俺も、広島風ですかね。生地の下の焼きそばの麺が出汁のきいた生地と絡むともう…!」
二人は、屋台グルメに舌鼓を打ちつつ会話を弾ませる。
「なんか、のど乾いてきたね。」
「そりゃあ、あれだけ濃い物を食べたらそうなりますね。」
「飲み物買ってこようか?」
「いえ、ここは俺が。」
「えぇ、でも…。」
「こう言う、雑用は男の役目です。」
「ん~、じゃあお願いね。」
「はい、すぐ戻ります。」
そう言って、愛子の下を離れ近くの屋台に向かう。
そんなに時間を掛けずに戻ったつもりだが、やはり愛子の様な美麗な女性にはそう言う輩が集まり易いのだろう。
ただ、一夏は彼らの方が不運に思えた。
「ねぇねぇ、お姉さん~俺らと遊ぼうよ~!」
「ちょっと、付き合ってくれれば良いからさ~!」
雰囲気的に、チャラついた感じの若い男二人組だ。
だが、愛子はただ笑顔のまま何も喋らない。
いな、一夏だけが気付いたあれは笑顔であって笑顔じゃないと。
「だんまり決めてないでさ~、俺らと行こうって!」
「きっと楽しいよ、ほらほら!」
二人の内の一人が愛子の手首を掴んだ時、男の視界は180度回転した。
「?何が起き?ぎゃぁぁぁ!」
「お、おい!テメー何しやがる!」
掴まれた腕を中心に足払いで姿勢を崩し、宙に浮いた状態で腕の力で回転させるこれぞふもっふ流闘柔術車軸回しである。
ついでに、腕の関節を外したのは単なる意趣返しらしい。
「愛子姉さん、それ位で…。」
「あぁ、一夏君見てたの?」
「いえ、ちょっと離れた隙にこれですから驚いてます。」
「なっ!連れが居たのかよ!」
「あ~ぁ、あんたそいつのお仲間?」
「そ、そうだけど?」
「早く、医者に見せた方がいいぞ。多分、関節外れてる。」
「はぁ!今の、一瞬でそんな事できるのかよ!」
「出来るよ。」
「やれますね…愛子姉さんなら…。」
「マジかよ…!」
「一応、嵌めっとくから後は医者に見せろよ…。」
「お、おう…。」
関節を嵌め直しその場を離れる一夏と愛子、その後姿をその場に居た民衆は見送った。
その後、二人は花火が始まる少し前に昔見つけた花火がよく見える場所にやって来た。
「さっきは、ごめんね。」
「いえ、でも加減はして下さい。相手は、一般人ですよ。」
「あはは、ついイライラしちゃって…。」
「まぁ、愛子姉さんに大事が無くてよかったんですが。」
「心配してくれたんだ。」
「まぁ、愛子姉さんも女性ですし。」
「そっか、ありがとう一夏君。」
そんなやり取りの中で、花火が始まる。
こうして、愛子と花火を見るのは何年振りかと一夏は思い返してみる。
『少なくとも、2年以上前だな…箒が引っ越してからか?』
そう考えると随分時間が経ったものだと感慨に更ける一夏であった。
その最中、愛子の携帯にメールが送られる。
相手は、束だった。
内容は…。
束「頼まれてた、コアが完成したよ。」
ふもっふ流武術は、意外と方が多いです。
ラウラが、一夏から学んでいるのもふもっふ流武術です。
感想などありましたらよろしくお願いします。
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ラウラは武闘家の心得を知るのふもっふlaw
あの人がゲストとして登場します。
多分、前後編になります。
夏休みも終わりに近づいたこの日。
ラウラは、一夏に連れられある道場に来ていた。
深い森の中に立つが、この道場の周りだけはやけに開けている。
「師匠、ここは…?」
「うむ。ここは、八年ぐらい前から夏に修練の為に来ている場所だ。」
「?はぁ。しかし、何故今に…?」
「最近、俺に武闘家の道を説いて下さった先生が日本にお戻りになられてな。」
「師匠の師匠ですか?」
「そうなる、帰国の挨拶がてらお前を紹介する。決して無礼のないように。」
「はっ!承知しました。」
表門が見えて来ると、坊主頭の如何にもな風貌の男たちが門の前に立って居た。
「そこの方々、止められよ。」
「ここに来た目的を聴こう。」
「失礼、俺は織斑一夏こっちは弟子のラウラです。椿師範にお目通り願いたい。」
「貴殿が、一夏殿か師範から話は聞いている中へ。」
「開門~!」
男が声を上げると、門が内側に開き一夏達を中に招き入れる。
「お待ちしておりました。椿師範の下まで案内いたします。」
「はい。ラウラ、付いてきなさい。」
「は、はい。」
ラウラは、気押されていた。
門の向こうには、映画やアニメでしか見たことが無い世界が広がっていた。
乱れなく整列した門下生たちが、一糸乱れぬ動きで声を揃え拳を突き出す。
その光景に、只々圧倒されるラウラ。
「集団稽古が、珍しいか?」
「はい…凄い気迫です。」
「ここに、初めて来た時は俺も驚いたよ。普通に暮らしていたら、目にする事も無い光景だ。」
「師匠も、あの中に?」
「あぁ、とは言っても夏休みの間だけだったけどな。」
「集団稽古には、門下生同士での息を合わせる目的で行われます。」
「俺の弟子は、お前だけだからな。」
「はい…。」
「明日から、こいつも混ぜてやってもらえるか。」
「承知しました。まとめ役の門下生に話しておきます。」
「師匠、明日からとは?」
「言ってなかったな、今から三日ここで寝泊しながら稽古をつける。」
「!はい…?」
「着きました。中で椿師範がお待ちです。」
「ありがとうございました。ラウラ、行くぞ。」
「はい!」
短く礼を言い襖を開け中に入る。
そこには、瓶底眼鏡に袈裟を来た歳の若く見える男と、そば仕えの作務衣の巌い男が居た。
「来たか一夏。」
「はっ!お久しぶりでございます。」
「うむ。遠い所をよく来た。」
「これは、心ばかりの品ですが。」
持っていた風呂敷包みを解き中からカステラを出す。
「わざわざすまんな。おい、厨房に運んでおけ。」
「はっ!」
一夏の手土産を、そばに居た男に渡し控えさせる。
「それで、要件はそこの弟子に武闘家の心得を体験させる事だったか?」
「はい。最近、成り行きで弟子を取りまして。」
「愛子からも聞いている。ラウラだったか?」
「はい。精神集中と技はある程度身に着きましたが、まだ心得が教え切れておりません。」
「…だから、口で教えるよりも体で覚えさせるか…。」
「はい、ですから。師範が、アジア外延から戻られるを待って此方に足を運んだ次第です。」
「IS学園の、二学期は何時からだ。」
「今日を入れて一週間後です。」
「ならば、猶予は三日だな…良いだろう、その間は他の門下生と共に修行に励め。」
「はっ!お許しをいただき感謝いたします。ラウラ、お前も礼を言いなさい。」
「ありがとうございます。」
「うむ。あぁ、一夏。」
「何でしょうか?」
「お前に、外延の道中である話を耳にしてな。話すべきか、迷ったが一応伝えておく。」
「?何をございますか?」
「最近、台湾がIS学園に一人代表候補生を送るという話だ。」
「本当ですか?」
「さぁな…ただ、話していたのがIS関係者だったのでな。信憑性はある。」
「…心に留めておきます。」
「…そうか。」
「ラウラ、行くぞ。」
「はい。」
襖を開け、椿の方を向き一礼してから襖を閉める。
廊下に控えていた門下生に案内され、寝泊りする部屋に向かう。
案内を終え、その場を離れようとした門下生に一夏が声を掛ける
「すまない。この後、ラウラに手合わせをさせたい。誰か、腕の立つ者に声を掛けて置いてくれないか?」
「承りました。腕の立つ門下生の何人かに伝えておきます。」
「頼んだ。」
「師匠、ここの門下生は強いのですか?」
「それは戦ってみて判断しろ。それより、先ずは荷解きだ…。」
「はい…。」
荷解きを終えて、武道場に向かう。
「お待ちしておりました。」
「うむ、それで手合わせ相手は…。」
「あそこに。」
目で示された方を見る。
ラウラと、同じぐらいの背丈の男女が六人程居た。
「ラウラ、先ずは誰からいく。」
「はっ、ではあの髪の短い女性と。」
「承知しました。コロン!前へ!」
「はっ!」
前に出て、互いに礼をして構えをとる。
「はじめ!」
「やっ!」
「はっ!」
開始の合図で、互いに動く。
コロンと呼ばれた、少女が一歩前に出て牽制を仕掛ける。
ラウラは、これを冷静に凌ぎ距離をとった。
『動きが早い!それに、技も鋭い嘗めては係れん!』
コロンの動きは、一つ一つが鋭くフェイントの入れ方も上手い。
ラウラは、距離を空けつつ隙を見ては拳打を打ち込むが大概が誘い込みである為に返される。
何とか防ぎ、反撃に転じるも決定打が決まらない。
暫く、膠着状態になる。
漸く状況が動いたのは、コロンが大きく動いた時だった。
ラウラの集中力が切れ始めたのを、確信したコロンの足捌きが早くなり左右に大きく動く。
動きが変わったことに気が付いたラウラは守り固めて攻勢に備える。
コロンが、前に出て蹴りを入れる。
それを抑えよと、姿勢を低くして腕を下げる。
しかし、次の瞬間にはラウラの胴体を掌低が捉えていた。
「そこまで!」
茫然とするラウラに、相手が話しかける。
「お手合わせ、ありがとうございました。」
「いえ…こちらこそ、ありがとうございました。」
「お強いですね。流石は、最年少で免許皆伝された織斑師範の弟子です。」
「しかし、私は負けました。」
「それは、経験の差です。」
「いえ、それだけじゃない…私は、貴女を見縊っていた。」
「でしょうね。動きで分かりました。」
「私は、まだ弱い…力じゃない心が…。」
「織斑師範は、恐らくそれを分からせるために此処に連れて来たんじゃないでしょうか?」
「師匠が!心得を学べとはそう言う…。」
「ですが、技は仕上がってます。残り五人と、戦ってみてご自分の心の在り方を探ってみては如何ですか?」
「是非、お願いします!」
夏休みの終わり、ラウラは新たなる力を身に付けようとしていた。
ラウラ「掴んで見せる!己の、己だけの力を…!」
ラウラ、修行するってよ…。
椿が登場しました。
なお、彼は卒業後に大学に進学した後に道場を開きました。
今では、警察関係者や自衛隊の他に各国の護衛官にも門下生がいます。
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ラウラの中に眠れし力potential
一夏がラウラを椿の下に連れて来た日の夜。
ラウラは、夕飯の後の日課となった瞑想を始めていた。
しかし、今日は余り上手くいかない様だ。
『結局、六人の中の一人にも勝つことは出来なかった…。』
コロンとの、組手の後に残り五人とも戦ったが結果は芳しくないものだった。
何人かは、一撃を見舞う機会が訪れていたが、それを活かす事が出来ずもたついてその間に勝負が決まる。
原因は、分かってる。
焦ってしまうのだ、これまでISに頼った戦い方をしていた自分は生身のしかも無手の戦いに慣れてない。
そこに加え、師以外の同年代の相手との試合も経験が無い。
ドイツに居た頃は、皆年上か又は同じ施設の中の仲間だった。
その仲間にすら、これまで気を許す事が出来ない状況で自分は独りよがりの強さを身に着けた。
それが、ここでは通用しない。
組手をしてくれた相手全員が、敗者である自分を称えてくれた。
これまで、負けた者に容赦のない罵倒を投げつけ投げつけられる世界で生きて来たラウラには初めての経験だった。
『師匠が言っていた、[相手への礼を忘れてはいけない]の意味を漸く理解できた気がする。』
確かに、これまで違い己の中に相手への負の感情を感じない。
寧ろ、相手を尊重している自分が居る。
そして、冷静に試合の中での動きを冷静に分析できている。
ラウラは、気付き始めていた。
如何して、師があれだけ心得に重きを置くのかを。
今自分自身が、体験しているこの心情こそが答えだと気付き始めていた。
だからこそ、これまでの自分の行いを思い出し余り集中出来ていないのである。
「精神が、乱れているな…。」
隣で、瞑想をする一夏から声が掛る。
「はい…これまで、自分が他者にして来た行いを思い出していました。」
「…己の、生い立ちを顧みたか…。」
「私は、織斑教官に育てられて強くなった夢を見ていました。しかし、貴方に負けて自分に足りない物を諭されて尚も、己の中にまだ驕りがあった事に気付けなかった…。」
「ラウラ…人は皆、心の何処かで自分に驕るものだお前だけではないよ…。」
「しかし、私はその驕り昂ぶりに振り回されている…これまでも…今も…。」
「己で自らを御する事は、容易ではない…精々、行いを顧みて恥じる事が出来るぐらいだ…。」
「…礼を尽くす事が、如何に重要か分かりました。師匠、私は変われますか?」
「俺には、判らん…お前自身の事は、お前にしか分からない…。」
「そうですか…。」
「だが、猶予はあと二日ある、今のお前であれば変われるやもしれん…。」
「師匠…はい!必ず、変わってみせます!」
「…そうか…焦るなよ、ゆるりと励め…。」
「承知しました。」
「もうそろそろ、風呂も空いたかな?」
「織斑師範、ラウラ殿風呂の用意が出来ました。」
「うむ、ラウラを先ずは今日の汗を流そう。」
「はい!師匠!」
着替えを持ち、一夏とラウラは其々に分けられた風呂場へ向かった。
そして、二日目。
集団稽古に混じり体を動かした後、昨日の六人と共に鍛錬を始めた。
鍛錬の中で、ラウラは己の中で何かが変わっていくのを感じた。
一つ一つの技の動きが、これまでよりより鮮明に感じ取れる。
一打一打に、魂が篭りより力強く鋭くなる。
礼儀を心掛け、常に周りに感謝の意を示す。
たった、これだけで己の拳の一撃が、足の運びが、体の動きがまるで別物になっていた。
「ラウラさんはやはり凄いですね。たった一日で、動きが見違えたようです。」
「皆の、おかげです。」
「いえ、そんな。」
「ラウラさん。宜しければ、私とまた組手をして頂けませんか?」
「喜んで、受けさせて頂きます。」
「では、ホイミさん審判をお願いします。」
「承った。」
互いに、距離をとる。
「互いに礼!」
「「おねがいします。」」
「はじめ!」
昨日と同じように、互いに距離詰める。
コロンの素早い足捌きに、果敢についていくラウラ。
昨日とは、明らかに試合運びが違っていた。
いや、漸くラウラの持つ技量に心が追いついたっと言った所か。
一進一退の攻防が続く、ここ迄くると勝負の明暗を分けるのは運である。
そして、運であればラウラの方が秀でていた。
「はっ!」
コロンが、昨日と同じ様に蹴りを繰り出す。
しかし、ラウラは敢えて蹴りを受ける。
後に続く、掌低を受け流し返しでコロンの胴に拳を衝ける。
「そこまで!」
決着が着いた、ラウラの勝利である。
「「ありがとうございました。」」
「やはり、コロン殿の足運びは勉強になります。」
「いえいえ、ラウラさんのカウンターもお見事でした。」
「皆が、良ければこの後の五人ともまた一手お相手願いたい。」
「勿論!では、私から。」
そしてまた、ラウラは六人の門下生と組手を始めた。
そして、今度は善戦の末に全員に勝利したのであった。
それから、一日が過ぎた三日目。
一夏は、ラウラを道場の奥にあるある場所に連れて来た。
「師匠、ここは?」
「ここは、俺達の取って神聖な場所…一子相伝の技『大導脈流活殺術』の伝承の場所だ。」
「ここが…!」
「そう、ここで俺は愛子姉さんからその技の習った。」
「では、私も…!」
「その通りだ、だが時間は今日一日だけ。だから、いつもより厳しくいくぞ!」
「はい!」
一夏の修行が始まった。
いつもより辛く、苦しく、そして痛みも凄まじい。
何度も死にかけて、何度も倒れ伏せて。
それでもラウラは、立ち上がり続けて。
時に、弱音が零れそうになりがら。
時に、全てを投げ捨て死を覚悟しながら。
それでも耐え、震える体に喝を入れて。
やがてその目に、普段とは違う色が浮かんだ。
精魂尽きて、茫然とした瞳には執念が静かに燃え精神が高まりを見せる。
『静かだ…これまでに無い程、心が落ち着いている…。』
それは、自我を感じさせないものだった。
あらゆる感情が、静まりただ一つこの場に立ち己が生きているのか死んでいるのかも定かではない。
『だが…体の奥底、心の中心から来るこの熱は何だ…?』
それまで、感じた事も無い熱いはずなのに決して嫌じゃない体の突き動かす熱と力。
「無我に至ったか。」
一夏の声が聞こえる。
無我と言ったか?
『成る程、これが無我か…悪くない…。』
自分の精神と体が初めて本当の意味で同期した。
今までの、体を動かす感覚とはまるで違う感触である。
「放て。今のお前の全てを、この場所に…!」
師の言われるがまま、こぶしを握るラウラ。
『大導脈流活殺術奥義…血栓掌…!』
振り出した瞬間、拳を開き掌を岩に衝ける。
次の瞬間、岩が弾けた様に吹き飛んだ。
ここに、一夏より大導脈流活殺術をラウラは受け継いだ。
一夏「ついに、ものにしたか…。」
ラウラちゃん超強化!
次から二学期です。
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始まる新学期と集う新たなる勇士new forces
此処からオリジナル要素多めです。
IS学園の二学期が始まった。
夏休みの間、学園から実家や祖国に帰っていた生徒も戻り賑やかになる。
しかし、その賑わいとは別の話題が生徒たちの間で持ちきりだった。
此処、一年一組にもその話題は舞い込んできていた。
「おはよう!それと、久しぶり一夏!」
「うん。おはよう、シャル久しぶりだな。如何だった、フランスの実家は?」
「あぁ、うん…まぁ、かなり混沌としてたかな…。」
「?何があった…?」
「あはは…うん、お義母さんの事なんだけど…。」
「うん…。」
「その…ここに来る前はさ、ホントに他人に接する態度って感じの対応だったんだ…。」
「それで…。」
「それで、その…久しぶりに会ったらさ…。」
「会ったら?」
「…本当は、超過保護な人だった…。」
「…それの…何が、いけないんだ?」
「幸せな、悩みだってのは分かるんだけど…これまでの、ギャップがさ…。」
「あぁ、成る程…。」
「それより、一夏は?」
「おはようございます!一夏さん、シャルロットさんお久しぶりですわ!」
「セシリアか、おはよう。久しぶりだな。」
「おはよう!セシリア、久しぶり。」
「はい。あら?何か、お話し中でしたか?」
「うん。実は、さっき一夏にフランスの実家の事を聞かれてさ。」
「まぁ!それ是非、わたくしも加えて下さいな。」
「うん。いいよっで、一夏の実家は如何だった。」
「俺か?俺は…。」
「おはよう三人とも!シャルロットとセシリアは久しぶりだな!」
「箒、おはよう!久しぶり!」
「おはようございます。お久しぶりですね箒さん。」
「おはよう箒。」
「何を、話してたんだ?」
「ねぇ、箒は知ってる?一夏の実家の事?」
「!…うむ、知ってはいるぞ…。」
「じゃあ!」
「だが…私の口からは言えない…。」
「え?それって…。」
「如何ゆう事ですの?」
「俺には…いや、俺達姉弟には両親がいないんだ。」
「!それって…ごめん一夏!」
「わたくしも、そうとは気づかず…。」
「気にするな。俺が、物心つく頃にはもう居なかったしな…それに今は…何処に居るのか判ってるしな。」
「そう言えば、そうだったな…。」
「「…。」」
一夏の両親は、テロ組織の中心にいる事を今更ながらに思い出したシャルロットとセシリアは言葉に詰まる。
すると、廊下の方から言い争ってる声が聞こえた。
「乱!いい加減にしなさい!これ以上、言い掛かりをつけるなら本気で怒るわよ!」
「何でよ、鈴お姉ちゃん!前までなら、そんなこと言わなかったのに!やっぱり全部一夏って人の所為なんだ!」
「だから、違うって言てるでしょ!今の私とあいつは関係ない…私は、ただ自分の実力を知った…それだけよ。」
「鈴お姉ちゃん!」
「もう、この話はここで終わりよ…教室に戻りなさい…!」
「でも…!」
「お願い…私を、本気で怒らせないで…!」
「!…。」
鈴音と言い合っていた少女は、渋々ながらも自身の教室に戻った。
「おはよう鈴。」
「あぁ、一夏おはよう。久しぶりね!」
「うん。久しぶりだな、それで今のは?」
「あはは…聞かれてた?そりゃ、あれだけ大きな声出せば聞こえるか…。」
「何があったんですの?」
「おはようセシリア。何があったって、何でもないただのスランプよ。」
「スランプ?あぁ、おはよう鈴。」
「おはようシャルロット。えぇ、中国に帰ってった時にね…。」
「詳しく、話してくれないか鈴。」
「おはよう箒。本当につまらない事なんだけど、鍛えてくれた教官にこっちでどれだけ成長したか見せるって為ってさ、私は勿論全力でやったわよ。それでさ、龍咆の命中精度を確かめる時になって…その、余り良い結果に為らなかったの。」
「そうだったのか…。」
さっきまで、見掛けなかったラウラが会話に参加する。
「…急にきたわね、ラウラ。おはよう。」
「うむ、おはよう。」
「ラウラさん、おはようございます。」
「ラウラ、おはよう。」
「おはようラウラ。」
「来ていたか、おはようラウラ。」
「師匠それに皆、おはよう。」
「それで、さっきの少女は?俺達より、幼く見えたが?」
「あの子は、凰乱音。私の、台湾に住んでる従妹よ…。」
「鈴!従妹が、居たのか⁉」
「えぇ、昔から親戚の集まりとかで面倒を見て来たのよ。」
「…まさかだが…?」
一夏が、少し考える様に聞いてくる。
「見に来てたわ、あの子も…。」
「それでか。」
「教官にも、言われたけどスランプ何て誰にでもあるでしょ。現に、命中精度以外の項目は軒並み上がってたんだから。あのに、あの子は…。」
「乱音にとって、鈴は憧れなのかもな。」
「憧れですか?」
ラウラは、一夏の言葉をオウム返しに聞いた。
「ラウラ、お前にも経験があるだろ。」
「はい。今も、織斑千冬に憧れています。」
「そう、憧れとは人が心の中に描いた偶像であり、同時にこう在りたいと願う幻影だ。」
「幻影…。」
嘗てをあった事を、思い返し苦い顔をする。
「幻影は、影である以上実在する事は無い。だが憧れは違う、現実に存在し見る事も触れる事も出来る。」
「そうですわね…。」
一夏の意見に、セシリアは同意する。
「それでも、ただ一つ出来ない事がある。」
「それは何?」
今度は、シャルロットが訪ねた。
「自分が、その人物に成る事だ。」
「確かにね…。」
「その人物に近づけば近づくほど、自分の中で出来上がったイメージと懸け離れていく。当然だ、飽く迄もその人物は自分のイメージしたキャラクターのモデルであり、そのキャラクターその物ではない。」
「「「「「…。」」」」」
最後の言葉に、皆が黙る。
「今の乱音にとって鈴が見せた失敗は、初めて見る憧れから遠ざかった姿だったんだろう。」
「…はぁ~、しゃーないか。」
「鈴さん?」
「一夏、それとセシリア。」
「なんだ?」
「何ですか?」
「放課後、ちょっと練習付き合ってよ。」
「承知した…。」
「承りましたわ。鈴さん!」
「あっ!そろそろ良い時間ね、じゃあ私戻るわ。」
「あぁ。」
「えぇ、また休憩時間に。」
「そうだな。」
「うん。またね鈴。」
「鈴、お前さえ良ければだが、私も練習に付き合おう。」
「ふふ、ありがとうラウラ。また休憩時間に。」
皆に手を振り、二組の教室に戻っていく鈴。
その様を、見送る五人を遠巻きに眺める人影が六つ。
そして、一夏の言葉に深い影を落とす者が二人。
新学期は、風と共に新たなる出会いを連れて来る。
その出会いが、一夏達にどんな影響を与えるのか?
それは、まだ誰にも分らない。
?「痛い所、突いて来るな~。」
始まりました!
此処からの物語が如何ゆう編纂を辿るのか!
楽しみにしていて下さい。
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不調の原因と維持の神のふもっふ apprenticeship applicants
そして、外伝キャラの参入は此処から加速する!
放課後の第二アリーナ。
一夏とセシリアは鈴と共に、練習の為にここに訪れていた。
「先ずは、不調の原因から探るか。」
「えぇ、鈴さん。」
「分かったわ。来て、甲龍!」
甲龍を纏い、龍咆を発動準備に係る。
「セシリア、的を…。」
「分かりましたわ。今、準備します。」
「あぁ。セシリア、標的は常に移動してるタイプをお願い。」
「分かりましたわ、いつもの通りですわね。」
鈴達の会話を聞き、不可解そうに聞いてくる一夏に鈴は答えてた。
「いつもの?…鈴、若しや中国に居た頃もか?」
「えぇ、そうだけど?」
「…成る程な…鈴、今日はウォーミングアップも兼ねて安置タイプをやろう。」
「えっ⁉まぁ…良いけど。」
急な、一夏の提案に驚きつつ了解の意を示す。
「鈴さん、設定できましたわ。」
「ありがとう、セシリア。」
「それじゃあ、俺達はピットの中で見ているから、お前は自分のタイミングで始めてくれ。」
「分かったわ。」
一夏達がピットに入ったその少し後、鈴音は砲撃を始めた。
件の命中率は、別段問題ない程度だ。
「今の所は、特に問題なしですわね。」
「ふむ、龍咆自体に問題は無い様だな。」
「鈴、次は常に移動しているタイプに切り替えるぞ。」
「了解よ。」
マイク越しに鈴に要件を伝える一夏。
目でセシリアに合図を送り、一夏の視線を受けて標的のタイプを切り替える。
今度は、さっきの様に標的に当たらなかった。
少しずれて当たったり、目標の手前で誤爆したりなど、外れはしないが命中したとは言い辛い結果になった。
「成る程…大体、原因が判った…。」
「もう、ですか?」
「あぁ…。」
「それで…なんですの?」
「うむ…龍咆は、空間に圧力を加えて砲弾にする兵装だったな。」
「えぇ、その通りですわ。」
「つまり、操縦者は一度座標を指定する必要がある訳だ…。」
「そう…ですわね。」
「当然ながら、指定した座標は圧力を加える為に一度固定する必要がある、という事は少なくとも一機はその間使用が出来ない。」
「それも、当然と言えば当然ですわね…。」
「だが、もし空間を固定している時に新たな座標が指定されたら…?」
「!そうなれば別の一機がその指令を実行する、でもそのすぐ後にまた別の座標が入力されて処理が追い付かなくなる…。」
「鈴の指定タイミングが早くなったんだろな、甲龍が追い付けない程に。」
「では、まさか不調の原因は…。」
「そうなるな…一種の成長痛みたいな物か…。」
「これを、鈴さんに伝えますか?」
「いや、止めておこう…事実か判らない憶測を伝えるのは成長の妨げになる。」
「分かりました。一夏さんが、そう仰るのなら…わたくしも、その判断に従いましょう。」
ピットの中で頷き合い、友人がこの苦境を乗り切ると信じて見守る事を誓った二人。
そして、表層では楽観的に見えていた鈴音は内心で焦っていた。
『まただ。また、外れた…如何して。如何してなのよ!』
成長痛、人が成長するのに伴う痛みそれは進化する予兆であり、必ず訪れる試練である。
そして、最近それを乗り越えた者が一人。
ラウラは、ただ静かにその場に座り気を高めていた。
「ドイツ代表候補生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんとお見受けします。」
そんな、ラウラに声を掛ける人物が居た。
その声にする方に、目を開け視線だけを其方に寄越した。
「誰だ?」
「私は、タイの代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーと申します。」
「タイの…それで、何か御用か?」
「椿師範が、タイに居られる時に織斑師範の事を聞きました。」
「そうか。それで、私に如何しろと?」
「織斑師範に、お託を頼みたいのです。」
「…何故、私に?言いたい事があるなら、師匠に直接言いに行けばよろしいだろう。」
「いえ、自分で思ってもかなり失礼な内容なので直接は…。」
「…分かった、伝えておこう。」
「ありがとうございます。では、明日の早朝にて試合を申し込みます。貴方の実力が如何程のものか、私自身で確かめたい。場所は武道場にて待つ以上です。」
「…貴女も、過去の私の様にあの方の力を見誤っていないだろうか…。」
「それは…ですが、椿師範がお認めになった実力が本物かこの目で見た事が無いので…。」
「では、しっかり見てくると良い。あの方の、実力を…!」
「はい。では、伝言の方は頼みました。」
「必ず、伝えよう。」
その後、鈴の練習を終えいつもの様にラウラの稽古の相手をしに来た一夏にヴィシュヌの事を伝えた。
そして、翌日の早朝。
まだ、日も登り切っていない時間。
一夏は、ラウラを連れ武道場へ向かっていた。
「ラウラ、本当に立ち会うのだな。」
「はい。師匠の動きを見る事も今後の鍛錬に活かせる事と思いまして。ダメですか?」
「いや、見る事もまた鍛錬なりだ。しかし、ただ見るだけと言うのもあれだ…判事を務めなさい。」
「了解しました師匠。」
武道場に着いた。
戸が開いているのを見ると、ヴィシュヌはもう中にいるらしい。
静かに戸を引いて中に入る。
「待たせてしまったかな?」
「いえ、来て頂けて光栄です。」
「なに、試合を申し込まれたら受けるのが礼儀なだけさ。」
「では早速…!」
「うむ、ラウラ…!」
「はっ!」
ラウラが両者の中間に立ち、二人が互いに向かい合う。
「此れより、試合を開始します。両者、互いに礼!」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
試合の始まりは、礼にて静かに始まった。
両者ともに構えを執る。
「やっ!」
先に動いたのはヴィシュヌだった。
一蹴りで距離を詰め、一夏に懐に飛び込む。
「スゥ―――――。」
しかし、一夏も深く長く息を吸いながらをしながらヴィシュヌが詰めた距離の半分程下がる。
そして、ヴィシュヌの突き出された腕を躱す。
「ハァ―――――。」
今度は、息を吐きながら一瞬でヴィシュヌの横をすり抜ける。
一夏の一瞬の動きに気を取られたヴィシュヌは反応が遅れる。
その間に、背に回った一夏は相手の慣性に手を添えるよに背を押す。
「なっ!くっ…はっ!」
背を押され、前に体勢が崩れたが如何にか勢いを殺し振り返って一夏と向き合う。
「今のは、力が入り過ぎていましたな…。」
「!それが、如何しました?」
「では今度は、此方から動きましょう。フゥ――――。」
先程のヴィシュヌと同じ様に一足で距離を距離詰め相手の手首を取る。
そして、姿勢を低くして鳩尾に掌を当てる。
綺麗な、水が流れる様な体捌きにヴィシュヌは疎かラウラですら言葉を失う。
「はっ!そこまで!」
「ありがとうございました。」
「えっ?あっ!ありがとうございました!」
茫然としていたヴィシュヌは一夏の声で我に返る。
「では、そろそろ…。」
「まっ待って下さい。」
「まだ何か?」
「今日は、試合を受けて頂きありがとうございます。」
「いえ、最初にも言った通り。それが、武闘家として守られるべき礼儀だからですよ。」
「それでも、感謝します。」
「そうですか…では、受け取っておきましょう。」
「それで、ですが…私は、この試合で自分が負けたら一つ決めていた事があります。」
「それは?」
「織斑師範!私にも、稽古をつけて下さい!」
「君もか…勝手にしなさい。俺は、その権利を否定できないからね…。」
「ありがとうございます!」
この日、織斑一夏に二人目の教え子が出来た。
この光景は、外で見ていた一人の人物以外は三人しか知らない。
?「まさか…これは、若しかしたら…。」
ラウラに続き鈴ちゃんの強化フラグです。
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生徒の頂に立つ者のふもっふstudent council president
IS学園、男子更衣室。
一夏は、次の授業の為にISスーツに着替えていた。
「むっ…!」
着替え終わると共に背後に気配を感じる。
しかも、かなりの至近距離である。
「ここは、男子更衣室の筈では?」
「う~ん、やっぱり気付かれたか~。」
自分の背後に投げた質問に、返答が返って来る。
「折角だし、私は誰でしょう?」
「…少なくとも、初対面である事は確実ですね。」
「あぁ…うん。確かに、直接は初めてね。」
「後ろを向いても?」
「どうぞ。」
ゆっくりと、後ろを向く。
何処か、簪と似た容姿の女子生徒が立って居た。
彼女の容姿を見て、あごに手を当て少し考える仕草ををする。
「…IS学園生徒会長、更識楯無殿ですか?」
「うん、正解。」
記憶を探りながら、恐らくこれであろう人物を口に出す。
如何やら、当たっていた様だ。
思案した人物と目の前の人物が合致した事に安堵を示すと要件を聞く。
「それで、生徒会長が何故男子更衣室に?」
「聞かれると思ったわ…実は、頼まれて欲しい事があるの。」
「…何故。俺に?」
「貴方の事は、色々調べたわ…それで、ある案件の為に専用機持ちの生徒で独立治安部隊を作る事になったの。」
「それで、その案件とは?俺とその部隊に何の関係が?」
「アマルガムと亡国企業の共謀を知っているわね、今度の学園祭が標的にされている事も…。」
「…はい。」
「うん、素直で宜しい。それで、一学期の頃から学校行事の度に何かしらの妨害を受けてるでしょ。」
「…学園側の警備が問題視され始めたと。」
「その通りよ、だから教員だけでは無く生徒にも警備の一端を担わせようって話になったの。」
「それで、独立部隊を設立する話に…で、俺は何を?」
「今日の放課後、私と試合をしてくれるかしら。」
「詳しい話はその後ですか?」
「えぇ…。」
「分かりました。場所は?」
「第一アリーナよ、遅れずに来てね。」
「はっ!承知しました!」
盾無との会話が終わり、時計で時間を確認する。
「!急いで行って、ギリギリか…!」
かなり時間が過ぎていた。
それから、脱兎の如きスピードでグラウンドに急ぐ。
「残り三分。随分、遅かったな?」
「ハァハァ…申し訳ありません。来る途中で…生徒会長に捉まりまして。」
「…それで?」
「色々、用が有ったらしく…少し話をしていたら…。」
「遅れたと…。」
「はい…。」
「それで、話の内容は?」
「要約すると、今日の放課後に第一アリーナで試合をする事になりました。」
「ふむ…事情は分った。早く列に並べ。」
「はい…。」
千冬に促され列に並ぶ。
そのまま、授業を受けて時間が過ぎる。
そして、放課後。
第一アリーナの観覧席に、いつもの六人を加えて乱音とヴィシュヌそれに何故か最近、専用機を手にした本音と見知らぬ女子生徒が6人が集められていた。
「これは、如何言う選出なんだ?」
箒が疑問を口にする。
「多分…専用機を持ってる生徒が…集められてるみたい…。」
簪が答える。
「先ずは~、自己紹介からしよ~よ~。」
「そうだね…。」
本音の意見に簪が同意する。
「じゃ~あ、私から~。私は~、布仏本音です。よろしくね~。」
「次は、私ね。凰乱音、台湾の代表候補生よ!よろしく!」
「私は、ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー。タイの代表候補生です、よろしくお願いします。」
「ロランツィーネ・ローランディフィルネィだ。オランダの代表候補生だ、ロランと呼んでくれ。」
「ファニール・コメットよ、こっちは妹のオニール。二人で、カナダの代表候補生よ。」
「よろしく~。」
「ベルベット・ヘル、ギリシャの代表候補生よ…。」
「クーリャ・ルククシェフカ…ロシアの予備代表候補生…よろしく。」
「私は、フォルテ・サファイアっす。ギリシャの代表候補生やってます。ダリル。」
「あ~ぁ…ダリル・ケイシー、アメリカの代表候補生だ。」
本音を含む、9名が自分の名前と所属国を名乗り上げる。
各員の自己紹介を受けて、箒も名乗ろうとする。
「そうか、私は…。」
「あぁ、いいよいいよ。あんた等の事はここに居る全員知ってるだろうから。」
「そうなんですか?」
「はいっす。有名でしたよ、軍神の配下って。」
「軍神!誰が!」
フォルテの発現に驚く箒。
「織斑一夏に決まってるっす。」
「一夏が、軍神?」
「何だ、知らなかったのか?」
「はい…初耳です。」
「プロでも、匙を投げたくなる戦況を必ずひっくり返して来たっすから。」
「その様が、戦いを鎮める軍神に見えたんだとさ。」
フォルテとダリルが説明を続けた。
「何気に、織斑一夏の影響で世界にボン太くんファンがIS関係者を中心に増えてるらしいっすよ。」
「それは、本当ですの⁉」
「えぇ、事実よ…その…私も、最近ボン太くんファンになって…。」
ボン太くんファンが増えてる話に、セシリアが反応するとベルベットが同調した。
言葉に出てないが、この場に居る数人も顔を逸らした。
「セシリア!ラウラ!」
「うむ、そうだなシャルロット!」
「感動ですわ!」
一夏のいや、ボン太くんの歩んだ足跡は確かにこの世界に奇跡を起こし始めていた。
「…あの、それで。何で、私達は呼ばれたんだ。」
「あれ?箒、聴いて無いの?」
「うむ、ただ第一アリーナに集まれとだけ…。」
「それは~!これから~、ある試合を見て貰う為だよ~!」
箒が、困惑しながら発現していると本音が割って入る。
「ある試合?」
「うん!この学園で生徒最強の実力者とおりむ~の試合~!」
「何だって!」
「確か、師匠も生徒会長と試合をすると…。」
ラウラが、一夏の発現を思い出していると右手側のカタパルトデッキから一機のISが飛び立った。
「ふも?ふーふもっふもっふ?」『うん?今日は、ギャラリーが少ないな。』
セイクリットアルビノボン太くんが、飛び立ったのを見たその場のに居た者たちは色めき立つ。
そして反対側のカタパルトデッキからも一機、アリーナの中に出る。
「来たわね、一夏君!」
「ふもっふ。ふっもっふー!」『違います。ボン太くんです!』
「あ、あはは…ごめんなさい。以後、気を付けるわ。」
「ふもふももっふ?」『それで、この状況は?』
「言ったはずよ。全部、試合の後に話すって。勿論、そこに集まってる彼女たちの事もね。」
「ふも…ふもっふもっふー。」『ふむ…取り敢えず了解です。』
「ありがとう、それじゃあ!」
「ふもっふ!」『よろしくお願いします!』
軍神と呼ばれたボン太くんと、生徒最強の盾無。
二人の戦いが始まった、この戦いの目的とは如何に⁉
簪「お姉ちゃん…何を…?」
結果は、楯無と試合する事になりました。
感想などありましたらよろしくお願いします。
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白き牙を持つ狼のボン太くんstorm
IS学園生徒会長それは、この学園に於ける生徒の最強の実力者を意味する。
そして、現生徒会長更識楯無は現役の国家代表であり、その実力は突出していると云えよう。
その事を踏まえてみると、この状況が如何に衝撃的な光景であった。
「ふも!」『ここだ!』
「くぅ!なんの!」
国家代表を前に善戦し、同レベルの攻防を繰り広げるのはセイクリットアルビノボン太くん。
その手に、ハルバートを持って突撃しすぐさま横に抜ける。
hitandawayを基本戦術にして、常に間を置いた戦いを続けている。
決して楯無も攻勢に出てない訳ではない、しかしボン太くんの動きが早く押し込められてしまう。
ボン太くんにしても長く接近すれば不利になる為、一瞬で近づき攻撃した後に突進の勢いを利用して逃げる。
それは、一夏の勝負勘にから来る攻撃パターンだった。
楯無は、自分の攻撃範囲に入ってこないボン太くんに末恐ろしいものを感じていた。
「まさか、ここまで出来るとはね…。」
「ふもっふふっもふ。」『やはり、読みは当たっていたか。』
「さぁ、どうでしょう?ただ、そろそろお姉さんも焦れてきちゃったな~。」
「ふもふももっふもーふー。」『いや、その振りは無いでしょう。』
「もう!乗りが悪いんだから!そう謂う子には、お仕置きよ!」
「ふも!」『何!』
楯無が、専用機ミステリアス・レイディーの武装の一つ蛇腹剣ラスティ―・ネイルを伸ばしボン太くんの持つハルバートに巻き付ける。
そのまま、自分の手元に引き寄せランス蒼流旋のガトリングを放つ。
腕を突き出し、斥力場で弾丸を弾くのだが、まだ上手く扱えてないのか数発摺り抜けて本体に着弾する。
ハルバートを手を離し、ランチャーに持ち替えて撃ち放つ。
しかし、ナノマシンで構成された水のヴェールの阻まれてしまう。
「あら?戦法を変えてきたわね。そんなに、お姉さんと近づきたくないの?」
「ふもっふふもるふーもっふ!」『はい、正直嫌な予感しかしないので!』
「くっ!そこまで、はっきり言うこと無いじゃない!」
「ふっもふもふふ!」『これも、戦術です!』
「それ、言ってれば何でも許されると思ってない⁉」
「ふもふももっふ!」『それは、お互い様です!』
会話をしながら、一定の距離を空けてランチャーを打ち続けるボン太くんと如何にか接近戦に持ち込みたい楯無の激しい攻防が続く。
「あ~ぁ、もう!ホントにすばしっこいんだから!」
「ふもるるふーもふももっふ…ふもっふ!」『簡単には捉まりませんよ…ここだ!』
「へぇ!キャ――――!」
言い合いの最中ある宙域に、楯無が差し掛かった時であるボン太くんが手を下げた。
その動作の後に、盾無の周囲を囲んでいたステルス状態の浮遊機雷が爆発する。
爆発が終わり、爆煙が晴れると健在の楯無が姿を現す。
「ふも…ふもっふ。」『流石に…あれでは倒せんか。』
「結構ギリギリだったけどね…と言うかよ。よくもまぁ、あんな回りくどいトラップを仕掛けたわね…。」
「ふもっふふもるっふふーふもふもっもっふ。」『普通の射撃兵装でダメなら、もう爆弾しか無いと思いまして。』
「大した慧眼ね…お陰でちょっとヒヤッとしたわ…。」
「ふもるもっふふももるふーふるっふ。」『戦術的には、効果的だったみたいですね。』
「えぇ、だからこそお姉さんもちょい怒なんだけどね~!」
「ふもー!」『えぇ―!』
語尾が上がり、怒りを顕わにした楯無。
そして、ボン太くんの周りに濃霧が発生した。
「お返しよ…クリア・パッション!」
「ふも―――――!」『ギャーーーー!』
本来は、密閉空間に於いて最も威力を発揮する筈のこの技を広いアリーナの中で使ったのは先程のマイントラップの意趣返しに他ならなかった。
それでも、ボン太くんの健在だった。
「…やっぱり、防がれたか…本当に出鱈目よねラムダドライバって…。」
「ふもっふ!ふもるるっふふーもっふふもーる!」『やばかった!水蒸気爆発も防げる判っても怖い!』
水蒸気爆発、爆発的蒸発現象の総称だ。
自然界では火山の噴火等が代表例だろう、瞬間的に水が気化・膨張する事で起こる爆発に似た現象を起こす。
当然ながら、普通のISであればマイントラップもクリア・パッションも一発で機能停止に追い込めるレベルの攻撃だったのだが、二人は互いに大きなダメージは負ったものの戦闘続行は可能なレベルで耐え凌いだ。
「ふもっふ!ふーふもふももっふ!」『アルファ!こうなれば、白狼形態を使うぞ!』
『一夏。形態の識別ネームが変更されてます。』
「ふも⁉ふーもっふもふふもっふ!」『何⁉じゃあ、何と呼べば良いのだ!』
『白牙狼形態です。』
「ふも!ふーふーもっふふもっふ!」『了解!白牙狼形態発動!』
「早々、やらせるもんですか!きゃ!」
ボン太くんの形態変化が完了する前に、片を付けるべく接近する楯無の前に何かが突進して来た。
「ガウーン!」
白い狼型のロボットの様である。
『一夏、ビーストアーマーを換装して下さい。』
「ふもっふもっふ?ふもも?」『ビーストアーマー?あれか?』
『はい。装着白牙狼とコールして下さい。』
「ふも。ふも!ふーふーもっふ!」『了解。装着!白牙狼!』
『ホワイトファングウルフ!クロスオン!』
狼が分解され、其々のアーマーに変形する。
そして、天高く舞い上がったボン太くんのボディーに換装される。
胴体の上半分は大きめの狼の顔のヘッドギアに、後ろ脚はブースターになり前方の胴体から背中にを覆う、前足は腕の装甲の上から装着されてクローに変わり、尻尾と腰に姿勢制御装置として換装、最後に小さい方の頭部は胴体の下半分と共に足に装備されクローになる。
『一夏、主力装備が二種類になりました。何方を、使用するか選択して下さい。』
「がるがるるがっふ!」『風牙を選択する。』
『了解。風牙アクティブ!』
その手に、一本に日本刀型の近接ブレードが現れる。
風牙と名付けられた、白牙狼の新たなる主力兵装である。
その刀身に、風の纏い始めた風牙を前に突き出して必殺に一撃の準備に係る。
「がるもっふ!」『アルファ!』
『エクストラアタックコード[ホワイトファングハリケーン]発動!』
顔の上半分をギアが覆い隠しオッドアイが光る。
その変化を察した盾無も蒼流旋にアクア・ナノマシンを収束する。
装甲表面を覆う防御用のナノマシンも蒼流旋に集められ攻勢形成される。
互いに、この一撃に最後の力を注ぎ込む気概だ。
暫くの沈黙が流れ、そして互いに必殺の一撃を放つ。
「がるがるっふがるもーっふ!」『ホワイトファングハリケーン!』
風牙から風を纏った斬撃が飛び、渦を巻いて盾無を狙い進んで行く。
「ミストルティン!」
楯無の手から放たれた、蒼流旋がナノマシンによって作られた螺旋を纏わせながらボン太くんにめがけて真っ直ぐ飛んでいく。
「くぅ!きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「が!がるぅぅぅぅぅぅぅ!」『うっ!くぁぁぁぁぁぁぁ!』
ほぼ同時に、互いの攻撃が当りシールドエネルギーを0にする。
結果は、引き分けである。
しかし、この試合を観戦していた生徒たちは誰も声を上げる事は無かった。
ダリル「生徒会長と戦って…引き分けた…!」
セイクリットアルビノボン太くんは形態変化はクロスオン方式になりました。
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学び舎の守護者たちのふもっふguardian
「ありがとうございました。」
「うん。最後まで、自分の流儀を貫くのは感心ね。ありがとうございました。」
試合の後、アリーナの通路で感謝の礼を言う一夏。
「ところで。その子、試合中に現れたアーマーよね…?」
楯無の困惑気味な視線の先、一夏の隣に先程見たよりかは小さいサイズのメカアニマルがお座りをしていた。
「はい。アルファに聞いたら、ISを起動していなくても実体化出来るそうです。」
「そ、そうなの~。」
ビーストアーマー、アルビノボン太くんが二次移行を行った事で発現した機能である。
元々在った形態変化機能が、自己進化した姿で自立稼働型のビーストモードと追加外装型のアーマーモードを有する、また本体が非稼働状態でも実体化する事が出来る。
実体化した際は、性能を抑えてる為にサイズが小さくなり攻撃用の機能がロックされる。
「がう?」
「ファンウルが何か?」
さっきの、試合で見たファンウルと名付けられた狼メカにギャップを感じずにはいられない。
注視する楯無の視線を見つめ返し小首を傾げるファンウル。
「あぁ、何でもないのよ⁉何でも…。」
如何見ても、子犬ロボに見えるファンウルに戸惑いを隠せない。
「それで、ここまでの経緯について教えて貰っても?」
「あっ!うん、良いわよ。じゃあ、皆もう集まってるだろし行きましょうか。」
「皆もう集まってる?」
廊下を進みアリーナの中に在る放送室に移動する。
「ここよ。」
「放送室?」
「えぇ、ここなら盗撮・盗聴対策も取られてるから。」
「…関係者以外には、聞かれたくない話ですか?」
「そう言う事よ。さぁ、中に入って。」
「…失礼します。」
楯無に入室を促されて中に入る。
部屋の中には、先程観覧席に居たメンバーが揃ってた。
「集まってわね。それじゃあ、本題に入りましょうか。」
一夏の後に入って来た楯無が部屋の中を一瞥して、主要人物が揃ってる事を確認してから話し始める。
「もう、気付いてる人はいると思うけど。此処に集められてる人物は皆、専用機を持ってる生徒よ。」
「だろうな、それで?」
楯無の口から出た言葉に、返答を返し続きを促すダリル。
「今年の学園行事について、ここに居るメンバーはどう考えてるかしら?」
「今年…とにかく、妨害が多いっすね。」
「えぇ、それも正体不明の相手からね。」
フォルテの意見を固定して、更に続ける。
「臨海学校に行っていた子達なら、もう知っているでしょうけど。これ迄の事件には少なからずある二つの組織が関与してる可能性があるの。」
「…それは?」
「亡国企業と、嘗てアマルガムと呼ばれたテロ組織よ。」
その言葉に、この場に居た生徒が息を呑む。
「これから先は、他言無用でお願いね。実は、今度の文化祭も標的になってる可能性が出て来たの。」
「…」
部屋に居た全員が無言になる。
「それで、生徒主体で学園内またその周辺の治安維持を目的にした、独立部隊を作る事になったわ。」
「…成る程な、それで教師陣だけでフォロー出来なくなってきたから、警備を私等にもやらせようって事か。」
「そうなるわね…。」
「ふっ。まぁ…いいぜ、引き受けても。なぁ、フォルテ。」
「はい。自分も、参加させてもらうっす。」
「皆はどう?」
「愚問です。」
「当然、受けるわよ!」
「ここで、断るのは一生の恥ですわ。」
「僕も、やらせて下さい。」
「師匠は、参加を決めてるのですか?」
「あぁ。」
「では、私も参加します。」
「私も…!」
「かんちゃんなら、そう言うと思ったよ。」
「鈴お姉ちゃんが参加するなら…私もやるわ!」
「ラウラさん程では、ありませんが。私も、師範に従います。」
「オニール、如何する?」
「ファニール、やろうよ!」
「…うん、分かった。私達も、参加します。」
「ふむ、では私も引き受けよう。」
「…私も…やる…!」
「…はぁ、仕方ない。一人だけ除け者に為りたくないし、参加するわ。」
ここで集まった、上級生二人が部隊への参加の意を示した事を切っ掛けにして全員が参加を表明した。
「ありがとう。それで、その…部隊の司令官は私が勤めるのだけど、常に現場に居る訳にもいかないのよ。」
「!…それで、さっきの試合か…。」
一夏は、ここで楯無の真意に気付いた。
「えぇ。一夏君、貴方に独立部隊の隊長を任せようと思うのだけど引き受けてくれる?」
「俺の一存では判断しかねますね…皆さんは、如何ですか?俺が、隊長で不都合な事とか在りませんか?」
「私は、特に問題はないっす。」
「俺も無いぜ。つうか、あんな戦い見た後でいちゃもん付ける奴居ないだろ。」
「そうですか…分かりました。その部隊の隊長、引き受けさせてもらいます。」
「そう、それじゃあお願いね。」
生徒会主導の防衛部隊がこの時、発足された。
「それで、早速なんだけど。このメンバーを三つの小隊に別けたいのだけど、何かいい案はある?」
楯無の問いに、一夏は少し思案して答える。
「一先ず、全員の技能レベルを見ましょう。それを基準にして、グループを別けるのは如何ですか?」
「ふむ…それしか、手は無さそうね。」
「それじゃあ…。」
「あぁ!待って、折角だしこのメンバーに試合形式で技能試験を受けて貰いましょう!」
「…試合形式ですか?」
「えぇ。勿論、私と一夏君は除外してね。」
「具体的には?対戦形式は?対戦カードなどは、如何選定しますか?」
「それじゃあ、今から生徒会室で話し合って決めましょうか。」
「はぁ、分かりました。」
「そう言う事だから、今日は解散ね。皆、お疲れ様。」
一夏を連れ退室した楯無を、その場に残された16名の女子生徒達は茫然と見送った。
その後、話し合いの末にシングルで一人一戦のみの方式で行われる事になり対戦カードも伝えられた。
第一試合凰鈴音VS凰乱音
第二試合セシリア・オルコットVSダリル・ケイシー
第三試合フォルテ・サファイヤVSベルベット・ヘル
第四試合ファニール・コメット、オニール・コメットVS篠ノ之箒※コメット姉妹は二人で一人と換算
第五試合シャルロット・デュノアVSロランツィーネ・ローランディフィルネィ
第六試合ラウラ・ボーデヴィッヒVSヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー
第七試合更識簪VS布仏本音
例外としてクーリェ・ルククシェフカは試合日程が組まれず能力試験のみとなった。
虚「お嬢様、私が副司令官になってる理由を教えて貰えますか…?」
楯無さんはこの後、怒れる虚さんお説教されたそうな。
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発足IS学園防衛部のふもっふestablishment
IS学園第一アリーナ。
昨日、生徒会長とボン太くんの試合が行われた場所だ。
そこで、独立治安維持部隊の所属小隊を決める選定試合が行われていた。
第一試合は、場数を踏んだ鈴音の実力勝ちで終わり。
第二試合は、セシリアが善戦したが僅かに届かずダリルの勝利。
第三試合は、嘗ての好敵手同士の対決となり結果は引き分け。
第四試合は、コメット姉妹の戦法に翻弄されながらも、箒が紅椿の性能を活かして勝利した。
第五試合は、シャルロットの陽動が嵌り、終始主導権を握られてロランが敗北。
第六試合は、ラウラとヴィシュヌの試合。奇しくも、同流派同士の戦いとなったこの試合は奥義を取得したラウラの勝利。
第六試合は、本音が不慣れな専用機の操縦に手こずり、簪の不戦勝に終わる。
クーリェは…まぁ、試験の後はファンウルと終始じゃれ合っていた。
そして、全ての試合が終わり生徒会室で誰を何処に配置するかの会議を、楯無と虚そして一夏の三名が話し合っていた。
「やはり、一学期までの六名は一つのチームに纏めた方が良さそうですね。」
「そうね。じゃあ、あの六人はクイーン小隊で編成しましょう。」
「リーダーは、誰にしますか?お嬢様、織斑君。」
「ラウラが適任でしょうね。あいつは、既に祖国で一部隊の指揮官をしていますし。」
「現役の指揮官が居れば、小隊もまとめ易いと…うん、それで行きましょう。」
「他のメンバーは、どう振り分けますか?」
「二学期からの編入組も、一纏めで良いでしょう。ベルベットさんはクーリェと一緒の方が安心するでしょうし。」
「それが、ベストね。後は、本音ちゃんも配置しましょう。」
「それじゃあ、この8名はジャック小隊で編成します。」
「上級生二人は、俺と会長のチームに入れる方向でいきますか。」
「うん。それで良いわ、あの二人は実力的に突出してたしね。」
「では、お嬢様の小隊に二名を配属しますね。」
「チーム名は、キング小隊でお願い。」
「承知しました。」
一通りの話し合いが終わり、体を伸ばして息を吐く。
「ふぅ。やっぱり、優秀な部下が居ると仕事が早くおわるわね。ねぇ、虚ちゃん。」
「えぇ、お嬢様だけだといつもギリギリまで手を付けませんからね。」
「あはは…以後、気を付けます。」
「それで、部隊の活動拠点は何処になりました。」
「それね、一応部活動で通して部室を一つ用意したわ。」
「部活ですか。部の名前は?」
「IS学園防衛部よ。シンプルで良いでしょ。」
「…そのまんまですね。」
「はい。何の捻りもありませんよね。」
「ぐふっ!二人の辛辣な意見に心を抉られるわ…。」
あからさまにクサい演技をする楯無を無視して会話を続ける。
「部活となると、後は顧問の先生ですね。」
「相良先生に、お願いしようかと考えてますが?」
「ちょっと!無視!無視なの!」
構って貰えずに二人にかみついた。
「分かりました。相良先生には、俺から頼んでみます。」
「良いのです?」
「はい。俺から伝えた方が早いですし。」
「そうですか、お願いします。」
「二人が構ってくれない…。」
「それじゃ、部室の下見に行って来ます。」
「行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃい…。」
落ち込む楯無と虚に見送られて生徒会室を出る、そのまま職員室に向かい愛子に顧問の件を伝えた。
「防衛部の顧問か、別にいいよ。」
「ありがとうございます。」
「いえいえ。しかし、まぁご苦労様だね~。」
「これも、この学園で生活する為に必要な事です。」
愛子が一夏に労いの声を掛けると、一夏は当然の事と答えた。
「そっか、でもこれで部活の勧誘も収まるね。」
「はい。まぁ、最近はおとなしくなっていましたが…。」
愛子が言うように、一夏が入学以来様々な部活動からの勧誘を受けていた。
だが一夏としては、自己鍛錬に時間を使いたかった為にその申し入れを断ってきたのである。
「それで、この後どうするの?」
「この後は、使用する予定の部室の下見をして来ようかと。」
「そっか、私も行くよ。」
「相良先生もですか?」
「うん。なんか、その…悪寒って言うか嫌な予感がするんだよね…。」
「嫌な予感ですか…?」
愛子に言われて、自分も何やら人騒がせな天災が良からぬ事をしている気がしてならなくなった。
「…取り敢えず、行きましょうか…。」
「うん…そうだね。」
指定された部室が在ると言う場所は、部活棟からかなり離れた場所にあった。
外見的にはプレハブ小屋と言った方が、適切な気さえする見た目である。
地図を見間違えてないか、もう一度よく見てみてもここで間違いない様だ。
「…中に、入ってみようか…。」
「はい…。」
愛子と二人で、その場に立ち尽くしていたが取り敢えず中に入ってみる事にした。
入り口であろう、ドアの取っ手に掛けると何処かで聞いた声が流れる。
『指紋認証の確認が出来ました~!どうぞ中に~!』(ピー ガッチャン!)
「「…。」」
束の声で、アナウンスが流れロックが解除された音が聞こえた。
予想通りの状況に、二人は無言になる。
そのまま、中に入ると更に小屋の中とは思えない厳重な電子ロックの付いた自動ドアが設置されていた。
『網膜認証をお願いしま~す!』
「「…何故に、肉声?」」
流石に、二回続けて個人識別の音声を自分でアフレコにした束に突っ込んだ二人。
一先ず、その事はわきに置き扉の前のカメラに顔を向ける。
『網膜認証も確認終わったよ~!ようこそ!束さん特注の防衛部本部へ!』
「拘ってるな~。」
「音声は解除か変更はできますかね?」
『勿論、出来るよ~!』
「本当に、変な所で凝り性ですね…。」
自動ドアの中はエレベーターになっており、此処から下に向かうらしい。
エレベーターに乗って下りると、漸く部屋らしき場所に出た。
部屋の中は広く、中央に真ん中が立体映写装置になった円卓が設置されたいた。
そして、奥に扉が見える事からこの部屋以外にも、部屋が在るらしい事がわかる。
取り敢えず、一通り見てこようと扉から出て廊下を進む。
この建物自体が、かなり巨大である事が散策していると判った。
整備が出来るドック、寝泊りの為の住居ブロック、学園の教室位は広い食堂、何かを動かすための機動制御室など大凡ただの部活の為の部室には必要の無い部屋まで存在した。
最後に入った部屋で、ここが普通の建物で無い事を知る。
潜水艦のブリッジの様な内装の部屋だった。
一夏「これは…一体?」
束さん、とんでもない物を作る。
感想などありましたらよろしくお願いします。
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女神の血族の名を持つ艦のふもっふsubmarine
将来、IS学園七不思議の一つになりそう。
トゥアハー・デ・ダナン、そう呼ばれた強襲揚陸潜水艦が存在した。
その船は、嘗て対テロ傭兵組織だった頃のミスリルが保有・運用していた拠点の一つであった。
しかし、アマルガムとの戦闘の中でメリダ島の航海を最後に一部の船の修復用の予備パーツを残して大破した。
残った予備パーツは、全て一般企業として再編されたミスリルによって回収され保管されていた。
それから、時は過ぎた。
今、嘗て女神の名を与えられた船の血筋を継いだ潜水艦が、ある一人の天災によって建造され、IS学園の地下に着港した。
女神ダヌの息子にして最高神のダグザの別称から、ルアド・ロエサと名付けられこの学園を守る役目を背負った者たちの拠点と成るべく造られた。
そして、この場所に織斑一夏と相良愛子が来たのは運命と言わざる負えないだろう。
「相良先生…やっぱり、これって…。」
「うん、潜水艦だね…。」
「ここが、部室か~…楯無さんは、何を考えてこんな物を用意したんでしょうね?」
「束ちゃんも、如何して造ったんだろね?」
「「…。」」
一夏は自分の上司となる少女の顔を、愛子は傍迷惑な友人の顔を思い浮かべる。
『そう言えば…。』
『二人とも、似てるな~。』
『『人間性が…。』』
何となく、部室を此処に指定した理由を理解した二人だった。
「取り敢えず、音声の設定だけでも変えておきましょう。」
「そうだね。」
二人は、意識を切り替えてやるべき作業を開始した。
部員の認証登録から識別音声の変更までを行い、最後に部員の更衣室と自分が使う事務室などを確認して、この日は寮に戻った。
次の日、防衛部のメンバーを連れ拠点となるルアド・ロエサに来ていた。
「ここが、部室?」
「潜水艦じゃない!」
箒と鈴音は、ツッコミを入れ。
「驚きましたわ!」
「これはこれで…ありだね!」
「フフフ…血が騒ぐぞ!」
セシリア・シャルロット・ラウラの三人は意外に好感触だ。
「秘密基地…良い!」
「何だか、ワクワクするね~!」
簪と本音はいつも通りで。
「…IS学園って、一体?」
「気にしたら、負けですよ…。」
「うん。流石に、予想外だわ…。」
「予想外と言うより、規格外じゃないか?」
乱音とヴィシュヌ、そしてベルベットとロランは規模の大きさに愕然とした。
「オニール!こっちにも部屋が在るよ!」
「あっ!待ちなさいよファニール!」
「待って…!ファンウル!」
コメット姉妹は年相応に燥ぎ、クーリェはファンウルを追いかけている。
「隊長、本当に此処で良いなだよな?」
「はい…指令にも、確認は取りました。」
「そうか…。」
「まさか、こんな物を用意していたなんて思ってなかったす。」
一夏と共に楯無と同じチームに配属されたダリルとフォルテは少し遠くに見ていた。
各々が其々の反応を示す中、閉まっていたエレベーターの入り口が開き楯無と虚が入って来る。
「あら?皆、もう集まってるわね。」
「お嬢様、これは?」
「勿論、活動拠点の部室だけど。」
「…こんな物を、一体何処から持ち出したんですか?」
虚の静かだが迫力のある問いかけに、たじろぎながら真相を語りだす。
「うっ!最近ね、防衛部を作るって話になった時に電話があって。」
「それで?」
「電話の相手が、束博士でね。その…どうせなら、秘密基地ぽっくしないかって話になって。」
「それで、潜水艦ですか?」
「だって、向こうが良い物用意してくれるって言ってたから…。」
「…理由は、分かりました。」
「虚ちゃん…?」
「織斑君は、ここでいいですか?」
質問する対象を代え、一夏に聞く。
「俺は別に…ここには、訓練用の施設もありますし。」
「そうだな、ここでなら気兼ねなく訓練が出来るな。」
「私も、異存ないっす。訓練してる事を、隠せるなら隠しておいた方が良いですし。」
隊の中枢である三人からは反対意見は出なかった。
当然ながら、三人が了承した事で他のメンバーからも反対意見は無く、防衛部の拠点はルアド・ロエサに無事に決定した。
それから、楯無は大きめのダンボールを持って来ていた。
「指令、そのダンボールは?」
一夏が、それとなしに聞く。
「あぁ、これはね…。」
「昨日の夕方頃に、ミスリルから送られて来たんです。」
「うん。虚ちゃん、今それを私が言おうとしたんだけど?」
「ミスリルから…ですか?」
「はい…。まだ地上にもあるので、運ぶのを手伝って貰えますか?」
「了解しました。」
「ねぇ一夏君。ちょっと待って欲しいな。」
「お嬢様、私達も行きますよ。」
「最近、私の扱いがひどい…。」
拗ねる楯無を引きずって、地上からルアド・ロエサにダンボールを降ろす。
ダンボールの中身は、服だった。
それも、軍服の様なかっちりした物からラフな整備士用の作業着風の物などの、ある種のコスプレ衣装の様にも見える衣服ばかりである。
しかも、ご丁寧に人数分揃っていた。
「えらくしっかりした生地だな、いくら位するんだ?」
その中の一着を、ダリルが手に取り手触りを確かめる。
「多分、一着で25万弱はするわね…。」
「…へ?」
「全部、オーダーメイドですね。」
「えぇ、よく見ると名前が刺繍で縫われてるわ。」
「こっちは、靴と帽子ですか。」
「これも、見れば見る程高価な品ね。」
ダリルは、一夏と楯無の会話を聞いて愕然とする。
他にも、トレーニングウェアなどの衣類も中々値の張るものである事が判り、一部のメンバーが卒倒した。
最後に、この荷物の送り主が書いたと思われる手紙が出て来た。
一夏は、その手紙を読み始める。
「拝啓
IS学園防衛部の皆さん
私を、覚えていますでしょうか。
以前、臨海学校の際にお会いしたテッサです。
あぁ、まだお会いしていない方もいましたか。
では、今度の文化祭でお邪魔する際に挨拶させていただきますね。
いけないけない、本題に入らないといけませんね。
皆さんが、IS学園の治安維持の為の防衛部隊を設立した聞きました。
その話を、聞いて過去を思い出し懐かしく感じています。
その事で、皆さんの先輩として助言をさせて下さい。
組織が一つに纏まる為には、共通の服装を着る事が重要な要素となります。
制服は、その個人が何処に所属しているかを明確に外部に示しまた、個人も制服を着る事で自分が
組織の一部であると自覚するのです。
そこで、老婆心ながら以前のミスリルが使っていた物と似たデザインの制服を仕立てさせて頂きました。
皆さんが、その制服を着て一丸と成れる事を願っております。
最後に一つ、文化祭を楽しみにしています。
敬具」
手紙を読み上げた後、暫く固まる一夏と楯無。
テッサと交流のあるクイーン小隊の面々は茫然とし、テッサの正体を知らない他のメンバーはその様を不思議そうに眺めるのであった。
一夏「なん…だと…!」
送られた制服の採寸は愛子が提供したらしいです。
ついでに、ルアド・ロエサの事を知ってるのは学園長と織斑千冬を含む上層部の人間だけです。
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祭りの準備は騒がしくのふもっふplanning meeting
ここIS学園は、その名が示す通り少しばかり特殊な学校である。
しかし、その一部の特例を除けば一般的な私立の女子高等学校と変わらない。
当然ながら、全校集会も行われる。
「続きまして、生徒会長より本年度の文化祭についての説明をお話しいただきます。」
虚が口上を述べて、舞台袖から楯無が壇上に上がる。
「皆さん、おはようございます!」
壇上のマイクから、全体に聞こえる様に朝の挨拶をする。
「今年度、入学の方は初めまして。トラブルが立て続けに起こり、挨拶が遅れた事をこの場で謝罪します。」
素の彼女を、知っている者からすれば違和感を覚える態度である。
「私が、本校の生徒会長の更識楯無です。」
外向けの、凛とした佇まいの生徒の代表者足りえる姿で自己紹介を終える。
「皆さん、今年度の学校行事を思い返してどう感じていますか?」
本題に入る前に、質問を集まっている生徒全員に投げ掛ける。
「クラス代表対抗戦より始まり、学年別トーナメントそして一年生の臨海学校とこれまで何かの催しが始まる度に妨害に遭い中止になってきました。」
ゆっくりと諭す様に、語られる言葉に多くの生徒がその表情を曇らせる。
「ここに居る、誰もが思う事でしょう。今度の学園祭も、何かしらの妨害を受けるのではないかと。」
皆、言葉には出さないが不安ではあるらしく、内心の感情が表に出る。
「これ迄は、学園の警備を先生方に任せ切りになっていました。しかし、一学期の結果を見た学園上層部との協議の結果、生徒勇士の防衛部隊を設立する事になりました。」
集められた生徒達の間に、どよめきが起こる。
自分達が、学校生活を送る裏でそんな事が起きていると知らずにいた事に戸惑いを隠せない。
「メンバーは明かせませんが、生徒の中でも腕利きの人間を選出しました。だからと言う訳ではありませんが、皆さんは文化祭の準備に専念して下さい。」
楯無の演説が効いているのか、生徒達が次第に落ち着きを取り戻す。
「今回、防衛部隊の隊長と相談してとあるイベントを企画しました。今年度は、イレギュラーとは言え男子生徒が本校に入学しました、各部活動に所属している方は彼の勧誘に躍起になっている事と思います。」
防衛部の存在は、まだ一般生徒には公開されていない為にいまだ多くの部活動が彼を引き入れようと画策していた。
「今回、この状況を利用して彼がどの部活に所属するかを決めるイベント名付けて!」
煽り文句と共に手を挙げた、そして背後の大型空間ディスプレイが起動する。
「各部対抗織斑一夏争奪戦!」
ディスプレイに、一夏の姿が大きく映る。
そして、生徒全体が色めき立つ。
「ルールは、とても簡単です。基本的には、例年通りに各部活で催される企画に対して投票を行うだけです。ただし、今回は景品として授与してきた特別助成金ではありません…。」
勿体つけて、次に言葉の間を引き延ばす楯無。
「一位となった部活には、織斑一夏君を強制入部させる事になりました!」
一夏は、背後から複数の視線を感じた。
「これについては、生徒会長の権限を持って必ず実現させると約束します!」
「「「「「「うぉぉぉぉ!」」」」」」
生徒達の雄たけびが会場全体を揺らした。
盛り上がる生徒達を眺め見て、一夏に視線を送る楯無。
一夏はその視線を返して、静かに頷き合図を送る。
その合図に、楯無も頷き返した。
その後、教室に戻った一夏達は早速、企画会議を始めた。
だが、話が上手く纏まって無いらしい。
「ダメだな、却下だ。来てくれた、来場客が困惑する事は確定だな。」
「でも、私達は満足できるわ!普段隙の無い一夏君と、合法的に触れ合えるんだから!」
主に上がってる議題は、文化祭の出し物としては如何なものかと思わせる、[織斑一夏と○○]や[織斑一夏の○○]と言った、男性客も来るであろう文化祭からしたら余りにマニアック過ぎるものばかりであった。
気合の籠った熱弁で人数に物を言わせ大量に候補を挙げる女生徒と、冷静に捌きかなり鋭角に尖った反論で却下していく一夏。
物量で勝っても、辛辣に淡々と捌かれ二の句も上げさせない一夏の前では、女生徒側が明らかに劣勢だった。
「セシリア、何かいい案はあるか?」
このままでは、先に進めない思いセシリアに意見を求める。
「わたくしですか?そうですねぇ…ボン太くんと触れ合える、催しが良いと思いますわ。」
ボン太くんファンのセシリアらしい意見が出た。
「それなら、いっそ喫茶店と組み合わてみては如何ですか?」
ラウラがセシリアの意見に追従する。
「ボン太くんと喫茶店か…ボン太くんカフェと言えばいいか?」
「うん!良いよそれ!」
一夏が二人の意見を纏めると、シャルロットが賛同する。
他に意見も上がらず、一年一組の出し物はボン太くんカフェとなった。
「という事に、なりました。」
「うん…分かってた、こう言う結果に成る事は薄々気付いてた…。」
「ボン太くんカフェ…良い…!」
千冬が遠い顔をしている横で、真耶は高揚した顔で小さく呟いた。
千冬達への報告を終えて、今日のからの事を防衛部の面々と話し合う為、一路ルアド・ロエサの方へ足を進めた。
ルアド・ロエサに到着すると、自分以外のメンバーは揃っていた。
「俺が、一番最後か…。」
「あぁ。とは言っても、隊長が来るのが遅いわけじゃないけどな。」
「寧ろ、時間ピッタリっす。」
「そうですか…では、本日からの予定を話し合う。」
「その前に、一ついいだろうか?」
会議を始めようとした一夏を、箒が遮る。
「なんだ?」
「今朝の全校集会で、指令が言った事は本当か?」
「あぁ、本当だ…。」
「何故、あのような事を?」
「理由は、いくつかある。一つは、敵の狙いが俺である可能性が高い事だ。」
「それと、今回の事に何の関係が?」
「俺が、大々的に表に出ればそれだけアクションを起こしにくくなる。」
「注目が集まってる人間ほど、手を出し辛いと…。」
「うん。それに、紛れ込んだ敵を炙り出し易くなるのもある。」
「それが、もう一つの理由か?」
「あぁ。まだ、いくつかあるが解り易いのはそれだな。」
「…対策は、出来てるんだな…?」
「無論だ…。」
「なら…良い。」
その言葉を最後に、箒は沈黙する。
そして、本題に戻り文化祭期間の間の警備などの話し合いが行われた。
箒「一夏…お前の事は、私達で…。」
漸くです…漸く、話が進む。
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眠れし龍の息吹のふもっふfushimi dragon
文化祭の準備で賑わう、IS学園の地下。
防衛部の拠点、ルアド・ロエサの内部にある訓練施設に鈴音は居た。
防衛部の方針で、一日交替で見回りメンバーを決めて、当番の隊員は拠点に待機する事になっている。
だが鈴音は、今日は当番ではない。
では、何故彼女はルアド・ロエサで訓練を行っているのか。
それは、自身のスランプを克服する為である。
その為に、ほぼ毎日この訓練施設に入り浸り自主訓練を続けていた。
「今日も、ここに居たのね…。」
「…何しに来たの乱…。」
トレーニングルームの入り口に、乱が立って居た。
訓練の疲れと、内心の焦りから来るイラつきが言葉の端に棘を持たせる。
剣呑な雰囲気の、従姉に少し怯えた乱。
「この間の試合、本気じゃなかったでしょ…。」
「…あんた、何言ってるの…?」
「クラス代表対抗戦の記録映像を見たの…。」
「それで…?」
乱音の言葉に、怒気を滲ませながら先を促す。
「私の時と、全然戦い方が違った…。」
「…そうね…あの時は、勢いに任せた戦法だったわね…。」
「何で…⁉何でよ!私じゃ、相手にならないって言うの!」
「違うわよ…。」
乱音の発言を、静かに否定する。
「じゃあ、何で!」
「諸突猛進なだけじゃ、勝てないって理解しただけよ…。」
「鈴お姉ちゃん…。」
「乱、あんたはいいわね。ただ、誰かの背を追いかけるだけで良いんだから…。」
「えっ?」
いきなりの鈴音の発言に、動揺する乱音。
その乱音を、尻目に更に言い募る。
「私は、そうもいかないのよ…私は、国家を背負ってるの勢いだけで戦って、負けちゃいましたじゃ済ませれないのよ!」
「それは…。」
「あんたは、私への憧れだけで此処に来た…!」
「違っ…!」
「違うって言うの、飛び級までして追いかけて来たのが!」
「…うぅ…。」
鈴音の怒声に、怯えぐずりだす。
可愛がっている、従妹が泣き出したのを見て怒りが静まっていく鈴音。
「!乱、ごめんなさい…こんな事、言うつもりは…。」
「鈴お姉ちゃんの馬鹿!」
「乱!」
泣きながら部屋を飛び出した乱音を、ただ見送る事しかできなかった鈴音。
「何やってるのよ、私…乱に当たるなんて…。」
自分の不甲斐無さに独り言ちる鈴音の声はトレーニングルームに小さく響くのみだった。
そして、鈴音の下か逃げて来た乱音も深い影を作っていた。
【あんたは、私への憧れだけで此処に来た…!】
『図星だ、私はただ単に鈴お姉ちゃんみたいに成りたくて此処に来た…。』
鈴音に、言われた事が心の中で再生される。
【違うって言うの、飛び級までして追いかけて来たのが!】
『その通りだ…鈴お姉ちゃんに早く追いつきたくて飛び級して来たんだから…。』
己の覚悟の無さを、痛感させられた。
『私だって、台湾を背負って此処に来たのに…!』
国家を背負う事の重みを理解してなかった己に、只々呆れるばかりである。
「あら?貴女は、乱さんではなくて?」
「どうした、そんな所で?」
自己嫌悪で隅に縮まっていた乱音に、誰かが声を掛ける。
顔を上げると、そこには一夏とセシリアが居た。
「隊長、セシリアさん…うぅ…。」
「!如何したんですの!」
「…私…全然、理解できてなかった!何も、分かってなかった!」
「落ち着いて下さいまし!乱さん!」
「こんなんじゃ!こんな私じゃ、鈴お姉ちゃんに追いつけない!」
「落ち着け、先ずは何があったか話してくれ。」
「…(ぐずっ)…はぃ…。」
一夏に促され、小さく消え入りそうな声で答えた。
そこから、さっきあった事のあらましを包み隠さずすべて話した。
聞き終わり、難しい顔をするセシリア。
「随分…デリケートな部分を突きましたわね…。」
「うぅ…。」
「!攻めるつもりは、ありませんわよ。ただ、わたくしも大分気にしている部分の話ですねで…。」
セシリアの言葉に、更に顔を俯かせる。
「覚悟か…。代表候補生ともなれば、ある程度は出来ていないといけないものだったな。」
「えぇ。以前わたくしが、一夏さんに言われ事を借りるなら、わたくし達の発言や身振り手振り迄気にしないといけませんからね…。」
「…自覚は、出来てるよだな。」
「…はい。」
乱音の顔色を見て、反省は十分出来ていると認識した。
そして、一夏は静かに語りだす。
「乱、憧れを持つ事は悪い事じゃない。」
「…はい。」
「だが、その憧れを他者に押し付ける事はいけない。」
「…。」
「場合によっては、それでその人物を追い詰めてしまう事もある。」
「…はぃ…。」
諭されるように語られる一夏の言葉に、乱音は声を小さくしていく。
「…時には、現実を見る事も大事な事だ。」
「…。」
「それで自分を見失ったら、立ち止まって周りを見たり過去を振り返るのも悪くない。周囲に落ちている物や過去の記憶が、以外に今の自分に足りない物だったりするからな。」
「え?」
「過去の失敗から目を背ける者に未来は無い、過去の失敗を今に活かして活路を拓く人間こそが真に強き者と呼ばれるのだよ鈴。」
「えっ!鈴お姉ちゃん⁉」
「…やっぱり、気付いていたのね…。」
角の影から、鈴音が出て来る。
「乱。さっきは、ごめんね。」
鈴音が、先程の事を謝罪する。
「んん、私も無責任な事を言ったから。」
「私ね、焦ってたのよ…乱に憧れて貰って嬉しかった、でもそれが重圧に感じても居た…。」
静かに、胸の内を話す鈴音。
「鈴お姉ちゃん…。」
「この後、暇?」
「え?うん、今日は当番じゃないから…。」
「試合の記録映像を見返すから、付き合って。」
「!うん!」
「わたくしも、ご一緒してもよろしくて?」
「良いの?あんた、今日当番じゃ?」
「先程、終わりましたわ。それよりも、今は鈴さんのお力になりたいのですわ!良いでわよね?」
「勿論!忌憚の無い意見を聞かせてよ。」
「えぇ、遠慮なく言わせて貰います。」
セシリアも、加わり三人で過去の試合映像を視聴しに行く。
三人の背を見送りながら、一夏は静かに呟く。
「鈴、もう気づいてるはずだ。一人では、出来る事にも限界がある事をそして、仲間が居るから出来る事もある事に。」
その後、書類整理をしていた一夏の下に鈴音が駆け込んで来た。
「隊長!私に、トラップの仕掛け方を教えて下さい。」
「ふっ。成る程な…方向性は定まった様だな。」
「えぇ!もう、大丈夫よ!」
「良いだろう着替えたら、トレーニングルームに行こうか!」
ISスーツに着替えてトレーニングルームに歩を進める一夏と鈴音。
その歩みは、とても力強いものと成っていた。
眠れる龍の目覚めは近い。
鈴音「乗り越えてみせる!この逆境を!」
ラウラに続けるか鈴⁉
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学園祭の始まりのふもっふthe curtain
IS学園の正門ゲート、普段は部外者を阻む役目を持ったこの場所も、今日は学園の外から来る来客を迎える為に開かれていた。
「遂に来たな!女の園、IS学園!」
「うん?如何いう意味だ、良く分からんな?」
「数馬…お前…!」
「まぁ、良いさ。今日の、目的は一夏達のクラスでやっているボン太くんカフェだ!」
「数馬ぁぁ!お前はぁぁぁぁ!」
実質、女子校とも言えるIS学園を前に思春期真っ盛りの順当な反応を示す弾と、ボン太くんファンを地で行く数馬の会話は何処か噛み合わない。
「ふん!」
「げっふー!」
数馬に掴み掛ろうとする弾の腰に、蘭の蹴りが炸裂する。
「おい!大丈夫か弾!」
「気にしないで下さい!お兄なら、慣れてますから!」
勢いよく転んだ弾を心配して、駆け寄る数馬に静止の声を掛ける蘭。
「慣れてるって…蘭、流石にそれは…。」
「そうだ!もっと、言ってやってくれ数馬ぁ!」
思ったよりも、元気そうな弾を見た数馬は蘭の方を向く。
「…済まんな蘭、さっきの言葉は撤回しよう。」
「いえ、いつもの事ですから…。」
「いや!さらっと聞き流してるけど、何気に酷いからなお前ら!」
蘭に、同情の念を込めて謝罪する数馬と、その謝罪を受け取り疲れたような疲れた表情を見せる蘭、そんな二人に起き上がりツッコミを入れる弾。
普段から、よく会う三人のちょっとした寸劇を通行人が遠巻きに眺めていた。
「それにしても、数馬さんも招待状を送って貰えたんですね。」
純粋な疑問を口に出す。
「あぁ、ボン太くんサマーフェスの時に知り合った方から送って貰えてな。」
「そうなんですか!如何いう人なんですか⁉」
「確か、セシリアさんと言ったかな…?」
この手の話題は女性が食いつきやすい、無論蘭も興味津々で詳しく聞いてくる。
「数馬ぁぁぁ!お前だけ、既に出会いが在ったと言うのかぁぁぁ!」
「あぁ、もう!今は、私が聞いてるの!お兄は、大人しくしてて!」
「がっふ!」
再び数馬に掴み掛ろうとする弾の腹部に、蘭の右拳が炸裂する。
「はぁ…弾、蘭まだやるのか?先に、行くぞ?」
「あっ!待って下さい数馬さん!」
「ちょっ!待って…くれ…さっきの一撃が思ったより効いて…。」
「ふう…肩を貸してやるから、ほら掴まれ。」
「済まん数馬…。」
蘭の一撃を諸に受けて、動けない弾に肩を貸してやり、ゆっくり入場ゲートまで歩く。
「招待状の呈示をお願いします。あの…大丈夫ですか?」
入場整理をしていた、虚が数馬に肩を借りてる弾を気に掛ける。
「えっ!あぁ、こいつですか?弾、大丈夫そうか?」
「あぁ…うん、まだ少し辛いかな…。」
「そうですか…ここで少し休んで行かれます?」
「お願いできますか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「じゃあ、弾暫く休ませて貰え。」
「おう…回復したら追いかける…。」
「おっと、忘れる所だった。招待状の確認をお願いします。」
「私も、お願いします。」
懐から、招待状を出して虚に見せる。
「はい、確認できました。どうぞ、楽しんできてくださいね。」
「はい。弾の事は、頼みます。」
「お兄がご迷惑をお掛けします。」
蘭が、虚にお礼を言っていると、弾が思わず反論する。
「蘭…元はと言えば…お前が…!」
「はいはい、じっとして居て下さいね。」
「うぅ…お世話をおかけします。」
「いえいえ。」
弾を虚の下に預け、数馬と蘭は一年一組に向かう。
入場口で受け取ったパンフレットを頼りに目的地まで進むと、長い行列が見えて来た。
「並んでるな、最後尾は何処だ?」
「これって、一夏さんのクラスの出し物の行列ですよね?」
行列の最後尾を探して彷徨っていると数馬は、よく知る人物の姿が見えた。
「セシリアさん…。」
「まぁ!数馬さん!来てくださいましたの⁉」
「はい。ボン太くんファンとしては、ここに来ずして何処に行くってものです。」
「ふふ。それじゃあ、精一杯お持て成ししなければいけませんわね。」
「それで、最後尾は何処に?」
「そこの、廊下を突き当たった辺りですわ。」
「ありがとうございます。行こう蘭。」
「っ!あぁ、はい…!」
目の前で起きた事に驚きしばし固まっていた蘭が、列の最後尾に向かう数馬を追う。
あの、異性よりボン太くんを第一に考えていた数馬が、金髪の美しい女性とにこやかに会話をしていた、その事だけで色々理解が追い付かない。
「あの、数馬さん?」
「なんだ蘭?」
「さっきの人が、セシリアさんですか?」
「ん?あぁ!そうだ、あの人がセシリア・オルコットさんだ。」
「何だか、驚きました…数馬さんが、女の人と普通に話していて…。」
「うん…俺も、不思議なんだ。セシリアさんとは、初めて会った時から話の馬が合ってな。」
「はぁ…世界は広いですね…。」
「まぁ…な。」
行列の中間ぐらいまで進んだ頃、復活した弾が合流してきた。
「随分、時間が係ったな?」
「あぁ、あの人…虚さんって言うらしいんだけど、俺が回復を待ってる間話し相手になって貰ってさ…。」
「…それで、遅くなったと…。」
「お兄…!」
「いや、虚さんが話題の振り方が上手くてさ、つい話しこんじゃって…。」
「やれやれだな…。」
「ホントです…。」
何処までも、呑気な弾に呆れを滲ませる数馬と蘭。
その場で、立場が無く小さくなる弾であった。
それから、順当に列は動き数馬たちの番になる。
「いらっしゃいませ!ボン太くんカフェへようこそ!」
ボン太くんのファンキャップを付けたスタッフが対応してくれる。
「3名様ですか?」
「はい。」
「では、お席に案内します。」
スタッフに連れられ、ボン太くん一色に飾り付けられた教室に入る。
「こちらの席にどうぞ。」
丸形のテーブルにボン太くんの顔の形をした背凭れの付いた椅子が三つ並んだ席に通される。
「此方、メニューと為っております。」
背中のバックからメニュー表を取り出して渡す。
「ご注文が決まりましたら、声を掛けて下さいね。」
そう言い残し、その場を離れる。
「素晴らしい…ここまで、ボン太くんが前面に出ている催しは久しく見てないぞ。」
「当然ですわ。」
数馬が感嘆の声を漏らしていると、さっきも聞いた声が聞こえる。
「内装の大部分は、わたくしがデザイン致しましたの。」
「セシリアさん。」
「ご注文は決まりまして?数馬さん。」
「いえ、何かおすすめは?」
「では、このボン太くんワッフルなど如何でしょう?」
「おお!形が、ボン太くんの顔になってるのか!」
「はい!そこは、拘って型を選びましたの!」
「じゃあこれを、二人も同じ物で良いか?」
さっきの蘭同様、弾も目の前の光景にしばし固まっていた。
「あっあぁ!同じ物で…!」
「私も…。」
「ふふ、かしこまりました。」
オーダーを取り厨房に注文を伝えに行ったセシリアを見送り、弾は数馬に詰め寄る。
「数馬…おま、お前…女性と普通に…。」
「蘭と同じ反応だな。あぁ、彼女とは、何故か普通に話せる。」
「一体、それは…?」
「さぁ、自分でもさっぱり分からない。」
数馬は、それ以外はセシリアについて何も話そうとはしなかった。
だが、五反田兄妹は何だかんだで真相に近い物に気付いていた。
気付いていないのは、本人たちだけである。
セシリア「フフフ、数馬さんが来てくれました。」
此方の世界線だと、数馬君は一夏よりかは劣るもののそれなりにモテます。
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一夏隊長と楯無指令の長い一日のふもっふguest
セシリア達が、一年一組にてボン太くんカフェをやっている傍らで、防衛部の司令官である楯無と同じく防衛部の部隊長をしている一夏は、IS学園のヘリポートの傍の控室にて待機していた。
顧問である愛子は、朝から空港にとある人物の出迎えに向かい、二人は愛子と共に来るさる方を出迎える為にここで待っていた。
大分、緊張した面持ちの二人の耳に填っているインカムに通信が入る。
「お待たせ、もうすぐ着くよ。」
「了解しました。一夏君、お出迎えの準備を。」
「はっ!」
一夏が手に歓迎の花束を持ち、控室から楯無とヘリポートに向かう。
通信が入って十数分後、前方からゲストを乗せたと思われるヘリが見えて来た。
「来たわね…。」
「来ましたね…。」
引き締まった顔の筋肉を解し、笑顔を作る。
そして、笑顔で待つ二人の少し前にヘリが着陸する。
着陸したヘリの下に、ゆっくり歩み寄る二人。
ヘリの搭乗口も開き、愛子と二人の女性が先に降り、その後に続いて銀髪の女性が降りる。
「ようこそいらっしゃいました、テレサ・テスタロッサ様。」
「ミスリル本社からの、長旅ご苦労様です。」
楯無と一夏が、揃って一礼する。
「そんなに、畏まらないで楽にして下さい。」
「はっ!ありがとうございます。」
テッサの言葉に、姿勢を崩す二人。
「これは、学園長からの歓迎の品です。」
「まぁ!綺麗な花束ですね!ありがとうございます。」
重蔵から預かった、彼の花壇で育てられた花で作られた花束をテッサに手渡しす一夏。
「愛子さん。帰るまでの間、この花束を預かって貰えますか?」
「承知しました。」
「ありがとうございます。」
花束を手に持ち、愛子にそう聞くテッサに了承の意を告げる。
「テッサ、そろそろ移動しませんか?」
「あぁ!そうですね!」
脇に控えて女性が移動する事を進言すると、テッサが同意した。
「案内は、如何されますか?」
「お願いします。」
「では、一夏君に案内させる事にしますね。」
「はい。一夏さん、よろしくお願いします。」
「はっ!取り敢えず、校舎へ案内させていただきます。」
楯無に指名されて、テッサ一行と共に校舎へ移動する。
校舎迄の道中は、様々の部活の出店が並びとても賑わっている。
テッサも興味深そうにその様子を眺めている。
「何処かに、寄っていかれますか?」
「えっ!あぁ!すいません。」
その様子を見ていた一夏が、テッサにそう提案する、
彼女は、いきなり声を掛けられて驚いたが、直ぐに発言の意図に気付き驚いたことを謝罪する。
「いえ。それで、如何されますか?」
「では、お言葉に甘えて。」
「承知しました。何処に、なさいますか?」
「あそこが気になります。」
ベビーカステラを売っている出店に掛け寄るテッサの背を見守りながら、護衛の女性たちに近づく。
「スコールさん、お久しぶりです。」
「えぇ、久しぶりね一夏。」
顔をテッサに向けたまま護衛の二人の内、年が上と思われる女性スコールに話しかける。
「如何してここに?」
「お仕事よ。私達も、一応ミスリルの社員だからね。」
「初耳ですね。てっきり、下請けの企業の代表かと思ってました。」
「そう言う貴方は?」
「俺も、仕事ですよ。」
淡々と交わされる二人の会話は、通行人には聞き取れない程に小さいな声で交されていた。
「それにしても、これは貴方の発案?」
「これと言うのは、あの事ですか?」
「えぇ。」
「結論から言えば、その通りです。」
「…そう、考えたわね貴方。」
「あれは、今の世界に一石を投じれるだけの物です。」
「それだけに、慎重に扱わなければならいわ…。」
「だからこそ、世間の目がこのイベントに向いてる気風に乗じてこの学園に運び込む。」
「…適任者が来ているにね、此処に…。」
「はい…あいつは、今日間違いなく…IS学園に来ますから。」
「そう…その人物が、辿り着けると良いわね…アルビノ型三号機いえ、貴方から得られたデータを基に作られた男性でも適合できるISコアで作られた機体の下に…。」
「辿り着きますよ…あいつは、俺に劣らぬボン太くんファンですから。」
二人の会話を、聞く事が出来る人間がこの場に居るならばその機体を探し回る事だろう。
しかし、そんな人物はこの場には居合わせて居なかった。
「お待たせしました。」
「堪能出来ましたか?」
「はい!」
「それは、良かった。では、行きましょうか。」
出店を回り終えたテッサが戻って来たのを確認すると、また校舎に向けて移動を始めた。
校舎の中も、各クラスの出し物で賑わいを見せる。
その中で、最も話題になっていた出し物、一年一組のボン太くんカフェに到着した。
店の中から、箒が出て来る。
「お待ちしておりました、中へご案内します。」
「えっ!は、はい…よろしくお願いします?」
箒に、連れられ教室に入っていくテッサと護衛の二人を見送る。
「お疲れ様です、師匠。」
「あぁ。ラウラ、後は頼む。」
「はい、お任せください。」
外で、行列の整理をしていたラウラに後を託し、一夏はその場を離れる。
その時、誰かに呼び止められる。
「あの、織斑一夏さんで宜しいでしょうか?」
「…そうですが、貴女は?」
「あぁ!挨拶が遅れました、御剣コーポレーションの巻紙礼子と申します。」
呼び止めた黒髪の女性は、何処かのIS系企業の営業らしい。
「それで、何か御用ですか?」
「はい。実は、我社で開発した商品のテストをお願いしたいのですが。」
礼子と名乗った女性は、手持ちカバンから企画書の様な物を取り出した。
「そう言う事であれば、日本ミスリルの方にお問い合わせください。自分は、今はあそこの人間ですから。」
申し出を丁重に断ると、礼子は更に食い下がる。
「責めて、この資料だけでも拝見して貰えませんか?」
資料の束を差し出した礼子に、一夏は首を横に振り断った。
「すいません。これから、片付けなければいけない要件が有りますので失礼します。」
そうして、その場を離れる。
一夏は、インカムに指を付けた。
「ターゲットが接触してきた模様です。」
そう、小さく呟いた。
それから、尾行を警戒しながらミスリルが占有している整備棟の一画に向かった一夏。
そこには、布が被せられた一機のボン太くんが在った。
そのボン太くんは一言で云えば赤かった、それも燃え上がる様に鮮烈な朱の色をしたボン太くん。
そのボン太くんの前で、一夏は中空に作業用コンソールをだして何やら設定していく。
一夏「数馬…お前に託すぞ、ブレイブボン太くんを…!」
ここまで、数馬君がフィーチャーされた二次創作ってあったかな?
感想などありましたらよろしくお願いします。
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少女は自ら定めを変える為にのふもっふrebellion
アナザーのキャラを待っていた方、お待たせしました。
円夏は、正面ゲートの前で感慨に更けていた。
自らの生みの親に仕組まれた、彼女にとって忌むべき定めに抗う為に組織を抜けた過去を思い返して。
『ここが、姉さんと兄さんが居る場所…IS学園!』
ボン太くんに触れ、自らの存在理由の確定方法が意味のない事と知った円夏が、今まで会いたくても会えない自分の姉と兄のすぐ近くまで来る事が出来た幸福を噛み締める。
「円夏?如何したんだ、こんな場所で?」
同行人である女性から声が掛けられる。
「はっ!な、何でもありませんよ!アデリーナさん!」
「そうか?そうわ思えなかったが?」
同行者、アデリーナ・アレクサンドロヴナ・ケレンスカヤが心配そうに見て来る。
「察してあげなさいな、アデリーナ。」
もう一人の同行者、クララ・マオがアデリーナを制する。
「察しろとは?」
「ここは、円夏に取っては生まれてから一度も会えてない、姉兄が居る場所なのよ。」
「はぁ…。」
「事情が有るとは云え、この子からして見れば漸く面と向かって合う事が出来る機会なのよ。」
「そうだな…済まん円夏、不躾な事を聞いて。」
クララの説明を聞いて、自分の情緒の無さを詫びるアデリーナ。
「いえ、気にしないで下さい。」
円夏は困った様に、謝罪を受け入れる。
少し、しんみりした空気を変える為にクララは話題を変える。
「それにしても、よく私達の分まで招待状を用意できたわね。」
「あぁ。元々は、スコールさんとオータムさんに届いた招待状だったんですけど、二人とも今日は仕事が有ったみたいで…。」
「それで、折角だからと言う訳か。」
「はい!」
三人の和気藹々とした遣り取りは周囲の人間を和ませる。
その時、円夏は視界の端に兄と同じ位の年頃の三人の男女を確認した。
三人とも、顔立ちが良く遠くからでも目立つ。
その中の一人の、赤い髪にバンダナが特徴的な男性が何やら燥いでいる。
隣の黒髪に遠目からでも分かる、良く鍛えられ程よく筋肉が付いた体格の男性が赤髪の男性の様子を不思議そう見ている。
少し、観察していると赤髪の男性が黒髪の男性に掴み掛ろうとして、同じ赤い髪の女性に腰の辺りを蹴られた。
如何やら、あの二人は兄妹らしい。
女性に蹴られ、盛大に転んだ男性を助けようとしたのか、もう一人の男性が駆け寄る。
そこを女性に呼び止められ、困惑気味に振り向いた男性に転んだ方の男性が言い募っていた。
その様子に、呆れたように踵を返し女性の方むいてあの頭を下げる。
そして、気になる事でも有ったのか男性に詰め寄り何かを聞いている。
そうして居ると、赤髪の男性がまたも掴み掛ろうとして今度は腹に一撃を貰っていた。
仲の良さそうな二人を置いて、先に入場口に向かおうとする男性に慌てた様に着いていく女性と喰らった一撃が思いの外、結構なダメージになったらしい男性が追い縋り黒髪の方に肩を借りて入場口に向かって行った。
そんな、寸劇を一通り観察しているとクララから声を掛けられる。
「こんな事って在るのね~。」
「いえ…早々、お目に係れないと思いますよ…。」
「そう?」
「はい…私達も、行きましょうか。」
「そうね。」
「あぁ。」
円夏達三人も入場口に向かった。
「それで、ですね…あっ!招待状の呈示をお願いします。」
入場口の前には、先程の寸劇を見せていた赤髪の男性が休んでいて、入場整理の女生徒とにこやかに会話を弾ませていた。
「はい、確認できました。どうぞ、楽しんで来て下さい。」
招待状の確認を終えて、学園の中に入る。
学園に入った直後だろうか、クララの携帯にメールが送られてきた。
素早く携帯を操作してメールを確かめる。
「誰からだ?」
「愛子だったわ、円夏に用があるみたい。」
「私に?先に、済ませますか?」
「ん~ん…いや、用があると言っても準備に時間が係るみたいだから、少し学園祭を回って時間を潰してきてだって…。」
アデリーナが、着信元の主を聞くとクララから自分達とよく知るの名前が聞かれた。
クララの両親、メリッサ・マオ及びクルツ・ウェーバーは愛子の父と旧知の中に在る、その為か娘である二人も幼い頃から面識があり、メリッサがミスリルから独立して開業した民間軍事会社D.O.M.S.時は、クララを通して仕事の依頼の遣り取りをしていた程である。
円夏達も、愛子を通して知り合った口で、スコールとオータムは仕事を何度か共にしている。
そして、クララが続きを読み上げると、それ程急ぎの要件ではない事が判った。
「じゃあ、折角だしちょっと覗いていきますか!」
「はい!」
「そうだな…。何処から回る?」
「えぇっと、一年一組って所で遣ってるボン太くんカフェに行きたいです!」
「ふふ、了解!」
「あぁ、早速向かおう。」
愛子の用も気になるが、文化祭も楽しみたい三人は気持ちを切り替えて遊ぶことにした。
最初に向かった一年一組の教室の前には行列が出来ていた。
「凄い行列ね、まだ少し係りそうだわ…。」
「あれ?あの人、さっきの…?」
行列の長さに、クララが辟易していると円夏は再び入場口の前で見た人物を見つけた。
ウェイブの架かった長い金髪の女生徒と楽し気に話していた男性は、会話を終えると廊下の突き当りを曲がっていった。
円夏達も、その後に続くと行列の最後尾が見えて来る、彼女たちはアデリーナに列に並んで貰い校内を見て回る事にした。
色々見ていると、遠くにまたよく目立つ一団が見えた。
「!兄さん…!」
遠くからでも分かる、嘗ては憎しみを今は親愛の情を向ける兄の姿が見えた時、抑えていた感情が溢れるのを感じる。
「円夏…。」
クララも、そんな様子の円夏にハンカチを渡して背中から肩に手を置いた。
その後、アデリーナの連絡でもう少しで自分達の番になると伝えられ、彼女の下に戻る。
順番待ちをしていたアデリーナと合流する頃には、前には一組を残すのみであった。
その一組が案内されると、直ぐに円夏達の番になる。
「いらっしゃいませ!ボン太くんカフェへようこそ!」
ボン太くんのファンキャップを付けたスタッフに出迎えられる。
「三名様ですね?」
「はい!」
「元気のいい返事ですね~。そんな、貴女にはサービスです。」
スタッフは、手作りのボン太くんラバーストラップを円夏に手渡す。
店内に案内された三人は、それぞれ気になる物を注文して商品が来るのを待っていた。
その時、ロングストレートの黒髪のスタッフが入り口に向かう。
その直後、テッサと二人の護衛がスタッフに連れられ入って来る。
二人の護衛が店内を見回し、円夏達を見つけると驚いた顔をする。
間仕切りで隠された奥の席に向かった三人を見送った後、円夏の携帯にラインが来た。
相手は、スコールだった。
〈来ていたのね円夏。〉
〈はい…それより、スコールさん達は如何して?今日は、お仕事では?〉
〈えぇ、今そのお仕事の最中よ。〉
〈良いんですか?仕事の最中にメールなんて?〉
〈護衛対象から許しは貰ったわ。〉
〈あっ!注文した料理が来たので、切りますね。〉
〈了解したわ。〉
スコールとのラインを一旦止めて、注文した料理に注意を向けた。
「美味しそう…!」
「学園祭とは思えないクオリティーね…。」
「当然ですよ。」
料理の完成度に驚いていると、誰かに声を掛けられる。
「あっ!あの時の…!」
「うん、サマーフェスではお世話になりました。」
コック服を着たシャルロットが立って居た。
「このボン太くんカフェで提供する料理のアイディアは、サマーフェスで出店を出店して居た人たちから貰ったものですからね。」
「成る程…。」
あのサマーフェスに出店していた出店の主の殆どが、普段は有名店のシェフやパティシエなのはボン太くんファン公然の秘密である。
そんな、プロの意見を基にした料理ならば納得できる話である。
料理に舌鼓を打ちつつ、室内の内装も観察しながら時間は過ぎていた。
そして、粗方の料理を食べ終わった頃に愛子から連絡があり、代金を支払った後指定された場所まで移動する。
愛子が指定したのは校舎内に在る整備室だった。
「来たね、いらっしゃい円夏ちゃん…。」
ある一画に居た愛子は、円夏に気が付くと声を掛ける。
「あの…愛子さん。要件とは…?」
「うん。円夏ちゃんに、この子を合わせたくて。」
愛子が、視線で示した先には一機のボン太くんが居た。
黒い、それがこのボン太くんに抱く最初の感想だった。
「このボン太くんは、一体…?」
「この子は、アルビノ型二号機その名もリベリオンボン太くん…。」
「リベリオンボン太くん…。」
「自分の運命に抗おうとする、貴女の為に作ったボン太くんだよ…。」
「…これが、この子が…私のボン太くん…!」
感慨深く、その黒いボン太くんを眺める円夏。
リベリオン。それは反抗や反逆と言う意味の言葉、彼女は今まさに自分の仕組まれた運命に反抗しようとしていた。
同じ血を分けた姉兄と殺し合い、憎しみ合うそんな嘆きたくなる運命に反逆しようとしていた。
円夏「私は変えたい、この運命を…!」
取り敢えず、外伝の二人は出しました。
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シンデレラウォーin学園祭Maineevent
syaru wi battle?
織斑一夏は、今日の為に楯無や愛子、他に千冬と防衛部のメンバーを含めた学園警備に関わる関係者と綿密な打ち合わせを何度となく行ってきた。
そして、着替えを終えた一夏はこの時の為に作られたステージの裏手に入る。
「楯無さん、入りました。」
インカムを押さえ通信状態にして、楯無に準備が出来た事を伝える。
「了解。こっちも、確認したわ。」
「それでは…。」
「えぇ、始めましょうか…。」
「「作戦開始…!」」
「「「了解!」」」
楯無と一夏が同時に宣言すると、インカムから複数人の声が聞こえた。
裏手からステージの上部に移動する。
それから、楯無のナレーションが始まる。
「昔、遠く離れたとある国に、シンデレラと呼ばれた少女が居りました。」
如何やら、演劇のシンデレラが始まるらしい。
「シンデレラは義母と二人の義姉に毎日、過酷な仕打ちを受けていました。」
至って普通のシンデレラの内容に、肩透かしをくらった観客も居る。
「しかし、彼女は耐えました…来る日も来る日も続けられる肉体的にも精神的にも堪える所業に彼女は耐え忍びました、やがて彼女が待ち望んだ日がやって来ました。」
ステージ全体がライトアップされ明るくなる。
「舞踏会、それは一年に一度だけ行われる女たちの戦。その戦いに勝利し見事、王子から王冠を奪った者には王が何でも一つ願いを叶えてくれるというその祭りに少女は…魔女より送られた、美しいドレスと魔法のガラスで作られた武器を持って挑むのです。」
コテージに見立てて作られたセットの上に現れた一夏は、両腕を広げて大仰に語りだす。
「民たちよ、今年もこの日が来た!各々が願いを持ってこの場所に来たと思う…良かろう!我から、この王冠を見事奪い取って見せた者には、我ら王家に名を連ねる者が全力を叶えよう…ただし!我も、容易くこの王冠を奪われてやるつもりは無い!己が願いを叶えたいならば…躊躇うな!喩え卑怯と揶揄されようと!喩え国賊と罵られようと!我を、殺すつもりかかって参れ!」
饒舌に語られる一夏の長台詞は、会場に居た全ての観客の度肝を抜いた。
「王子!覚悟ぉぉぉ!」
台詞が終わった直後、白亜のドレスを纏った小柄な少女が九節棍を一夏めがけて投げる。
「勢いや良し…しかし、あまいわ!」
バックステップで、九節棍の少女鈴音の一撃を躱す。
「くっ!そう、容易くは行かないか…!」
悔しそうに王子を睨む鈴音。
「ふっ…それも読めておるわ!」
王子の方は、コテージを駆けだす。
その直後、王子が居た場所が突然弾けた。
「ここまで、距離が在るのに避けられるなんて!」
今度は、ライフルを構えた少女セシリアが吠える。
王子は、そのままテラスの柱の一つに手を掛け伝って下に降りる。
「貰った!」
下に降りた王子を狙って、黒髪の美しい少女箒から太刀が振り下ろされる。
「むっ!中々いい太刀筋だ、打ち込みも早い…だが、狙いが判りやすい!」
しかし、王子も腰に差していたサーベルを鞘ごと抜いて受け止めた。
「貴方が強者なのは、魔女から聞いているだから…ブロンド!今だ!」
「了解だよ!艶髪!」
箒の合図で、王子の背後の物陰からトライデントを持ったブロンドヘアーの少女シャルロットが飛び出す。
「成る程…だが、足りぬな!それだけではな!」
王子は体を捻り、トライデントの一撃を躱し後ろ蹴りを繰り出したそして、鞘を片手で押さえもう片方でサーベルを抜き刃を箒の腹に当てて斬る。
「ぐぅぅ!」
「ぐっは!」
箒は腹を押さえ後退り、シャルロットは蹴りをガードして吹き飛ばされる。
「ブロンド!艶髪!おのれ!」
「直情的だな…読み易い。」
乾坤圏を装備した眼帯の少女ラウラが突撃する。
王子は、彼女の動きを見切り躱す。
「私達は、貴方からその王冠を貰い受ける!」
「必至だな、何がお前達をそれ程までに駆り立てる。」
「貴方には分からない、自らが生まれた証を…親から貰った名前を奪われた者の気持ちなど!」
「銀髪…下がって!」
「水色⁉判った!」
「ほう…次は、お前が相手か…!」
「くっ!行きます!」
「来い!」
ショートバレルの銃剣を構え、狙いを付けながら発砲する水色の髪色が特徴的な少女簪が王子を打ち取らんとばかりに攻撃を続ける。
王子は、サーベルを振るい弾丸を落としながら駆けて柱の陰に隠れる。
「名を奪われた…そうか、貴様らはシンデレラか…!」
王子は、一通り相手をした少女たちの話から正体を見破る。
「そう、私達はシンデレラ…名を奪われ、隷属させられた者…。」
「この国は、周囲を列強諸国に挟まれた場所にある、だから…昔から、力の強さが絶対とされてきた。」
「単純な力の強さは勿論、頭脳の面でも賢い人間が優先される…それは、婦女子とて例外ではなかった!」
「国を守る為に優秀な人材が必要なのは判ります…ですが!」
「その為に、多くの者たちが蔑ろされて来た…!僕達も、奪われた…力在る者に、家族も…名前も!」
「だから取り戻す…貴方から、王冠を奪って…!自分達の、名前を…!」
鬼気迫る思いが少女達から流れて来る。
「…我の流した魔女達は、良き働きをした様だ…良いだろう!貴様らの願いの強さ…我から王冠を奪って示して見せよ!」
王子は、手を広げて少女たちを駆り立てる。
構えるシンデレラ達との間に緊張が走る。
「王子が国の各地に送った魔女は、その行きついた土地で芽のある者たちを育てた。それが、彼女達である。そして、魔女は一人だけではない勿論その教え子も…。」
緊張した空気を裂くように語られる楯無のナレーション。
その言葉が指し示す意味は一つだった。
「「「「王子~!その王冠、頂戴致す~!」」」」
無数の女性たちが、波と成り王子の下に押し寄せる。
「ふっ…いい気迫だ、漸く舞踏会も本調子になって来た…!」
王子が纏う気迫は、その場に居る者全てに恐怖を与えるに十分なものだった。
しかし、舞台の熱気と六人が演じた迫真のシンデレラが彼女たちの精神すら麻痺させた。
今の彼女たちは、
「ふむ…ここでは、些か手狭だな。」
王子は周りを見回し、そう呟いた。
「我を追えるならば、追って見せよ!」
「なっ!追うぞ皆!」
「「「「「おう!」」」」」
「「「「「「待て~!王子~!」」」」」」
そのまま、広い場所を目指して駆けだす王子を元々舞台上に居た六人と後から来た大群が追いかける。
そして、戦場が広い王宮の中庭に移ろうとした時…。
「何事ですの!」
「これは…⁉」
「くぅ!暗くて何も見えん!」
「証明が落ちた…?」
「これからだと言うのに!」
「でも…作戦的には成功…。」
突如、会場全体の証明が消えて辺りが暗闇に包まれた。
証明が復旧する頃には、王子の姿は何処にもなかった。
件の王子いや、一夏は…。
舞台下に、一人の女性と対峙していた。
一夏「始まったな、第二部だ…。」
武士っ子フィーバー!
そして、一夏と対峙した女性とは?
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蜘蛛の怪物と白き影のボン太くんArachne
演劇の舞台下、そこは普段はアリーナの地下通路として利用されてる場所だ。
そこに、先程の演劇の最中に消えた王子、一夏が立って居た。
「ふむ…あそこから下に落ちると、ここに出るのか…。」
走っている時に、急に下に落ちたのに冷静な一夏は自分に視線を向けている人影に目を向ける。
先程も声を掛けて来た、巻紙礼子と名乗った女性が何故かこの場に居た。
「織斑さん、大丈夫ですか?」
礼子は、気づかわし気に一夏に問う。
「心配ない、何時でも受け身は執れる様に訓練はしている。」
「そうですか。」
何の事も無く淡々と答えた一夏に、礼子も淡白に返す。
「それで、貴女が何故ここに?」
「いえ、織斑さんが此方に逃げて来るのが見えたので。」
一夏は、会話を交わしながら礼子の様子を注意深く監視する。
「実は、織斑さんにお願いしたい事があるのですが。」
「…何かな…?」
礼子の雰囲気が変わったのを肌で感じた一夏は、言葉を低くして答え臨戦態勢をとる。
「織斑さんの機体を頂けませんか?」
「それは、聞けぬ相談だな…。」
礼子の質問に、静かに否と答え何時でもボン太くんを起動できるように構える。
「そうですか…では、力尽くで奪う事にします。」
言葉遣いは丁寧だが、言ってる内容は物騒な言動の礼子。
その後、彼女の身長の二倍以上はあるISを装着した。
今の彼女の姿を一言で言うなら、ギリシャ神話に登場するアラクネに類似していた。
いや、正しく彼女の纏う機体の名はアラクネと言うアメリカで開発されていた軍事用ISであった。
「やっと、正体を現したか…アルビノ!」
一夏も、ボン太くんを纏って相対する。
「ふも!ふももっふふーふーもっふ!」『アルファ!白影烏形態発動!』
『了解。白影烏形態発動します。』
「やらせると思いますか?」
彼女は、ボン太くんにアラクネの歩脚を思わせる装甲脚を向ける。
装甲脚に内蔵されているマシンガンがボン太くんに放たれる。
「ふも…ふもっふ!」『そんなもの…俺には通じんぞ!』
「何ですって⁉」
飛び上がり空中回転の用量で彼女の頭上を通り過ぎる。
ボン太くんの身の熟しと素早い動きに驚くが、落ち着いて体を反転させる。
「くぁーー!」
「わっ!今度は、なんですか⁉」
反転しきったと同時に、彼女の顔めがけて何かが突撃してくる。
「ふも!ふも。ふーもっふ!」『アルファ!装着。白影烏!』
『ホワイトシャドークロウ。クロスオン!』
アラクネに突撃していたビーストアーマーがボン太くんの下に戻り、本体を分解してボン太くんに装着される。
翼は胴体前面を覆う形で装着され、鉤爪は展開して足に、尾羽は左右に別れ其々一本ずつ短刀が納まったサイドアーマーに胴体はビースト形態の時の腹部側が上下反転した状態で頭部に填りヘッドギアに、頭部は右肩に肩アーマーに成ると首の周りにビームで生成されたマフラーが巻かれた。
主装備の狩魔丈に電流を流し振りかぶる。
「くぁーもっふ!」『喰らっておけ!』
「それは流石に、ご遠慮します!」
しかし、大きさの割に動きが素早く後方に飛んで一撃を躱す。
それでも、狩魔丈を連続で振りかざしアラクネを追い立てる。
「くぅーくぁくーもっふ!」『まだまだ行くぞ!』
「くっ!避けるのに手一杯なんて⁉」
閉所での戦いに向いた白影烏形態と大きさで場所を取るアラクネでは戦闘の不利は明らかだった。
このままでは、此方がじり貧である状況を見た彼女は、自分に有利に戦える場所を求めて移動する事を決めた。
「くぁも!」『待て!』
しかし、ボン太くんも彼女の追撃しながら追う。
「くっ!何処か…何処か、戦いやすい場所は⁉」
激しい攻撃を如何にか躱しながら、彼女は血眼になって自分が有利なフィールドを探す。
「くぅーも!」『これで!』
「キャ―――!」
逃げ続けて疲れが出たのか、鋭い一撃を蜘蛛の腹部を彷彿とさせる背面ユニットに喰らい前方に大きく吹き飛ばされる。
「ここまで…ですか。うん?ここは…?」
吹き飛ばされて通路の壁を突き破ったのだろう、ロッカーが並んだ更衣室のような場所に出ていた。
「地獄に仏ですか…漸く、運が巡って来ましたね。」
戦況の不利が思ったよりも、彼女を追い詰めていたらしい。
取り敢えずの休息を取る、だが長く休んでも居られない。
『また何時、あのマスコット擬きがこの場所に来るか分かりません。』
今まで、一方的に追い詰められていた戦況をひっくり返すために行動を開始する。
ロッカーの上に登ると、腕から蜘蛛の巣状の捕縛ネットを辺りに撒いていく。
『仕掛けは張り終わりましたが、これで止める事が出来るか如何か…?』
前情報よりも、明らかに戦闘慣れした対象の動きとそれこそ情報にない自立稼働する感想武装に動揺して、今の戦法が有効なのか不安を誘う。
「くぁーっふ!」『此処か!』
「やはり、見つけられましたか!」
自分が突き破った穴から突撃してくるボン太くんに慄くアラクネ。
「くーもっふ~!」『そこか~!』
狩魔丈の先端をアラクネに向けて電撃波を放つ。
それを、ギリギリで躱すアラクネ。
「くっ!このままでは…!む?あれは…はっ!」
飛んで行った電撃波が蜘蛛の巣に当たり拡散していく、それを見たアラクネはある事を思いつく。
「もしや…いえ、これしかない!」
「くぁーっふ。くーくぁーくーふー!」『余裕だな。戦闘中に考え事か!』
再び狩魔丈を向け電撃波を撃つ。
「え~い、ままよです。」
電撃波に向けて腕から捕縛ネット撃ち放つ。
捕縛ネットと衝突した電撃波は、そのままネットに帯電してボン太くんに方に向かう。
「くぁーふ⁉」『何⁉』
帯電した捕縛ネットをギリギリで避けるボン太くん。
『一夏、狩魔丈ではこの場合の戦闘には適していません。』
戦況分析を終えたアルファが、一夏に提言する。
「くぅーくぁーもっふ。」『見ればわかる。』
『主力装備の変更を提案します。』
「くーくぁーくぅーもっふ。」『白牙狼の時と同じか。』
『はい。主力装備を狩魔丈から雲雷手裏剣に変更する事を推奨します。』
「くっふくーくぁもっふ…くぅーもっふくぁーくーふ!」『杖の次は手裏剣か…変更【雲雷手裏剣】!』
狩魔丈が粒子状になると、そのまま別の形状に変換する。
しかし、その隙を逃すアラクネではない。
「隙ありです!」
動きを止めたボン太くんに向けてネットを撃つ。
「くぁー!」『しまった!』
ネットが直撃して身動きが取れなくなった。
「ふぅ。さて、仕事を終わらせますか。」
捕縛され動かなくなったボン太くんを視認して、安堵の息を着いたアラクネはゆっくりと彼に近づいていく。
そして、長い緊張から解き放たれ安堵しきった彼女には此方に高速で近づいて来る物音に気付かなかった。
「きゃーもっふ!きゃきゃっふ!」『兄さん!やっと見つけました!』
蝙蝠の意匠があしらわれた装甲を着けた、黒いボン太くんが穴から侵入してきた。
アラクネ(仮)「今度は、何ですか⁉」
次は円夏ちゃん視点です。
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兄妹の絆のふもっふkinship
円夏が愛子の下を訪れてから数時間後。
普段はアリーナとして使用されている競技場は、現在は演劇の舞台と化していた。
演目はシンデレラだが、少し…いや、かなりアレンジされた内容であった。
「…。」
「凄いわね…。」
「あぁ…これは、その…独創的?な内容だな。」
舞台の上で暴れまわり、飛んだり跳ねたり時に鍔迫り合い等の大凡のシンデレラではやらないであろう大立ち回りを、演者達が活き活きした表情で演じている。
ここまで、シンデレラをバトルロイヤル風にアレンジした脚本は他に無いだろう。
事実、他の観客も唖然としながらも劇の内容に引き付けられていた。
王子とシンデレラの戦いも大分進み佳境に入ろうとした時、ナレーションの一言が更なる急展開を呼んだ。
「王子が国の各地に送った魔女は、その行きついた土地で芽のある者たちを育てた。それが、彼女達である。そして、魔女は一人だけではない勿論その教え子も…。」
ヒロインが六人いるだけでも驚きの状況なのに、まだシンデレラは追加される事を告げていた。
ナレーションの終わった後に、入場ゲートらしい所が開き多数のドレス姿の女性が殺気を放って駆けだした。
王子を演じる兄は、マイクに拾える程の音量で場所を変える事を呟くと広場風のセットの方に走って行く。
「兄さん…。」
幾ら演劇の内容があれで、バトルシーン多めの舞台でも。
あの人数を相手にする事になる、兄の身を案じずにはいらない円夏。
シンデレラの軍勢を引き離し、セットの間を移動している時である。
急に証明が落ち辺りが暗闇に包まれた、劇に魅入られ集中していた観客は暗転した会場で軽いパニックになっていた。
暗くなった瞬間、円夏の心に原因の判らない胸騒ぎを感じた。
この胸騒ぎには覚えがある。
『あれは確か…兄さんが臨海学校の為に海に向かっていた時だ!』
あの時、円夏は強い不安を感じていたが、それが何が要因なのか分からなかった。
事件を知ったのは、謎の不安感が無くなり安堵していた時だった。
『似ている、あの時と何かが!でも…何が?』
自分が生まれてから、知ってはいても実際にはあった事もない相手の事をこれだけ強く感じれるものだろうか?
そう自問自答を続けるが、答えは出ない。
『円夏。』
「ベータ!如何したの⁉」
そんな時、自身の胸元に填っているピンバッチ型の待機状態のリベリオンボン太くんの補助AIベータが話しかけて来る。
『円夏、落ち着いて下さい。』
「う、うん。」
ベータに促され、不安に揺れる心を鎮める。
『現在、アルビノボン太くんが起動状態にあります。』
ベータから伝えられた報告は、円夏の思考を暫しの間停止させた。
「ベータ…何で、そんな事が判るの…?」
動揺しながらベータに尋ねる。
『本機には、ISコアの反応からどの組織に所属し如何いった用途で製造されたか独自で判別できるサーチ機能が備わっています。因みに、アルビノボン太くんより前にもう一機アメリカ軍所有で現在強奪されているアラクネの起動も確認されました。』
「…って!兄さん、今戦ってるの⁉」
『状況から見て、迎撃又は自衛による戦闘行動の最中と推察されます。』
「…兄さんだったら、大丈夫だと思うけど…。」
「やっぱり、心配?」
「うぇ!クララさん!」
「これだけ近くに居て、聞かれて無いと思ったのか?」
「アデリーナさん…。」
自分を挟むようにして座っている二人から声を掛けられる。
そして、円夏は少し悩んだ後意を決した顔で立ち上がる。
「行くのね。」
「はい!」
「頑張って来い。」
「ありがとうございます!」
明かりが復旧すると同時に座席から一番近い通路に抜けて、人目のない場所でリベリオンボン太くんを起動する。
そのまま、ステルスモードで兄が今いるであろう場所まで移動した。
「ふもっふ。ふももふーもふもるるもっふ?」『ベータ。兄さんの正確な居場所を特定できる形態は?』
『黒蝙蝠形態の音波探知機能なら可能です。』
「ふも…ふもーっふ!ふーふもふももっふ!」『そか…よーし!黒蝙蝠形態発動!』
『モードノワールキロプテル。発動。』
リベリオンボン太くんは、アルビノ型と称される幾つかあるボン太くんのタイプの最新のバージョンの二番機である。
それ故に、アルビノボン太くんに有った形態変化機能も搭載しているし、そのプロセスも同じである。
一言で言えば、変化する前は必ず強い光を発するのだ。
『モードノワールキロプテル。アクティブ。』
「きゃーもっふ。」『探索を開始します。』
この光は、偏に武装を粒子から外装に変換するする際に発生する余剰エネルギーではあるが、形態変化が完了するまでの間、無防備になる本体を守る目晦ましとして意味もある。
光が収まると、彼女の姿は変わっていた。
頭部は蝙蝠の顔のヘッドギア、このギアには音波発生装置が組み込めれており蝙蝠の耳の部分で発せられた音波を背後の被膜をイメージした受信アンテナでキャッチして対象の居場所を探るのである。
そうして探索を続けていると、ある地点から音波が大きく乱れている事が判った。
そこに一夏が居ると確信した円夏の行動は早かった、所々に激しい戦闘の痕が見える廊下を進み目的地に着くと、そこには壁に空いた大きな穴が有った。
穴から中は見渡し難く辛うじて室内の内装を確認できる程度だった。
「きゃっふ。」『ベータ。』
『音波探知を室内に限定します。』
耳のスピーカーを室内に向け音波を送る。
『アルビノボン太くん及びアラクネの反応を室内に確認できました。』
ベータの報告を聞くと、目の前の穴から部屋の中に侵入した。
「きゃーもっふ!きゃきゃっふ!」『兄さん!やっと見つけました!』
室内に入った円夏の目に写った光景は、捕縛され身動きの取れないアルビノボン太くんと彼に近づくアラクネを纏った女性であった。
「今度は、何ですか⁉」
突然登場したリベリオンボン太くんに動揺して声を荒げるアラクネを纏った女性、円夏は彼女に目覚えが有った。
「きゃっふ⁉きゃーもっふ⁉」『ガーベラさん⁉何故、貴女がここに⁉』
「そう言う貴女は、もしやM⁉」
「きゃふー。きゃーきゃきゃっふ!」『その名は捨てました。今は、ただの円夏です!』
バイオレットと呼ばれた女性に対して、円夏は今の己の名を言い切った。
「くぁーも…くーくぁーくっふ?」『ちょっ…良いだろうか?』
一夏が、状況に着いて行けず待ったを掛ける。
「きゃーきゃっふ。きゃきゃきゃっふ?」『あぁ、ごめんなさい。何ですか兄さん?』
「くぁーく…くーくーっふ?」『その…兄さんと言うのは?』
「きゃーきゃきゃも…きゃーっふ?」『そ、それは…後でも良いですか?』
「くぁ~くーくぁもっふ。」『ん~まぁ、ちゃんと説明してくれるなら。』
「きゃっふ!」『ありがとうございます!』
目の前で繰り返される、傍から見たら謎の言語で交わされる兄妹のすれ違う会話を煤けた顔で見つめるガーベラ。
何にしても、二人は同じ型のボン太くんを纏いめぐり逢いを果たした。
ガーベラ「ホントに…何ですかこれは…?」
さて、ガーベラと呼ばれた彼女は一体誰でしょう?
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並び立つ白と黒のボン太くんalbino and rebellion
IS学園の地下にて出会った兄妹と、二機の兄弟関係にあるボン太くん。
彼らは暫く、微妙に噛み合わない会話を交わしていたが、一先ずこの状況を如何にかすべく行動を開始する。
「きゃーきゃっふ!」『先ずは、足止めです!』
「なっ!くぁぁぁ!これは…耳が!」
Rボン太くんの黒蝙蝠形態のヘッドギアから直接、音波攻撃を受けたガーベラは耳を押さえその場に蹲る。
「きゃーっふきゃふっふ。」『兄さん、じっとして居て下さい。』
手に主力装備の二本のダガーを持って、アラクネの捕縛ネットを切っていく。
「くぁーっふ。くぁぁ?」『助かった。えぇっと?』
「きゃるるっふ!」『リベリオンと呼んで下さい!』
「くゎーくーくっふ?くぁーふるくっふる?」『リベリオン?リベリオンボン太くんだからか?』
「きゃっふ!きゃっきゃっふ!」『はい!アルビノ兄さん!』
さっき迄とは異なり、和やかな会話である。
「あの…!いい加減!音波攻撃を止めて下さいませんか⁉」
自分に音波攻撃を続けながら会話をする、二人のボン太くんに心からの懇願をするガーベラ。
その声を聞いて、どうするか二人して考え出したボン太くんズ。
「いえ、あの…其方の白い方の着ぐるみは解放されたじゃないですか⁉」
焦ったガーベラは、ボン太くんファンに取ってのNGワードに触れてしまう。
「くゎーっふ!」『着ぐるみじゃない!』
「きゃ―もっふ!」『ボン太くんです!』
二人してガーベラの言葉を切り捨てた後、音波攻撃を止めステルスを機動させた。
如何やら、この二人は本気で絞め倒すつもりの様だ。
ステルスを起動させた状態でRボン太くんは背後に回り、Aボン太くんは頭上に陣取る。
「きゃーっふ!」『先ずは、こいつからです。』
「へぇ?な、何が起きて…!」
二人が見えなくなった事で、周囲を警戒していたガーベラは背後で突然聞こえた声に驚いた。
「!エネルギーが、どんどん吸われてる⁉」
突然現れた警告表示を見て、アラクネのシールドエネルギーが吸われている事に気が付く。
「きゃふっふ!」『それだけじゃありません!』
「なっ!操作が出来なく…!」
Rボン太くんがアラクネから離れると、急に制御を受け付けなくなった。
これがRボン太くん黒蝙蝠形態の主力装備、クラックダガーの力である。
クラックダガーは、刃の付け根にISのシステムを麻痺させるウイルスが仕込まれているつまり、攻撃を繰り出すと攻撃した部分からエネルギーラインに入り、直接システムをクラッキングして操作系統を麻痺させるとこが出来るのである。
エネルギー吸収は、その際に行われる副次的な効果であった。
コントロールできなくなったアラクネは、自らの背面ユニットを攻撃しだした。
「そんな…こんな事が…!」
「くゎっふ…!」『今度は、俺だ…!』
頭上から声がしたと思えば、ワイヤーダガーがガーベラを拘束するように降って来る。
「くーくっふくぁーくーもっふ…くゎっもっふ!」『さっきは良くもやってくれたな…お返しだ!』
手に持った大手裏剣を、ワイヤの引き戻しの勢いに乗せて叩き込む。
「ぐぁっは!」
お返しも何も、登場してから一回も攻撃らしい攻撃を出せてないガーベラからしてみれば踏んだり蹴ったりもいい所である。
「このままでは…!仕方ありません…。」
そう小さく呟くと、制御が利かないアラクネの背面ユニットを切り離し逃走を図る。
「きゃーもっふ!」『逃がしません!』
「くぁーもっふ!」『これで、終わりだ!』
二人のボン太くんが叫ぶ。
『エクストラアタックコード[ふもっふ流投擲術雷装大円光刃]発動!』
『エクストラアタックコード[ハウリングバットロアー]発動!』
アルファとベータから其々のエクストラアタックコードが告げられる。
Aボン太くんのヘッドギアが顔の半分を隠しオッドアイが輝く、首に巻かれていたビームクロスの発生器になっているクローヘッドを雲雷手裏剣の中心に取り付けた、雲雷手裏剣のプラズマ刃発生装置からビーム刃が生成される。
Rボン太くんも同様にヘッドギアが顔の半分を覆うと、被膜状の背部ユニットが反響スピーカーに機能を換えて耳の音波発生装置も最大放射モードになる。
見るからに、殺意しか感じられない二人の様相に怯えながら切り離した背面ユニットを盾にして逃げるタイミング図る。
先に動いたのはRボン太くんの方だった。
「ぎゃーもっふーーーー!ぎゃ!ぎゃっふーーーーー!」『ハウリングーーーー!バット!ロアーーーーー!』
凄まじい大音量の音声が部屋の中で暴れまわる、ロッカーは拉げてベンチは潰れ部屋に有ったあらゆる物が破壊される、勿論アラクネの背面ユニットも例外ではなく、辛うじて胴体だった部分は半分ほど形を残したがそれ以外は空間の振動に耐えられず粉砕された。
如何にか、Rボン太くんの攻撃を耐えきったガーベラだが安心しても居られなかった。
Rボン太くんのすぐ後ろで、エクストラアタックコードの影響を受けずに待機していたAボン太くんのエクストラアタックコードが直ぐに発動する。
「くーもっふくぁーっふ…くーくぁくゎもっふ!」『ふもっふ流投擲術…雷装大円光刃!』
ビーム刃を円形に発生させた雲雷手裏剣が高速回転しながら、残った胴体部ごと後ろに隠れてたガーベラに直撃する。
「がぁぁぁぁぁ!」
幾ら絶対防御があるとはいえ、高速回転しながら直進するビーム刃を纏った大手裏剣の一撃は重く、本日二度目の壁に激突からの突き抜けを体験する事になった。
「ふもっふ…。」『やり過ぎたか…。』
「ふも。ふもふもふももっふ。」『いえ。彼女は、あれ位じゃ死にませんから。』
「キング2!此方、クイーン3ですわ!先程の大きな音は何ですの⁉」
若干、遣り過ぎた感を思ってAボン太くんが小声で呟くと少しずれた返答をRボン太くんが返した。
その時である、部隊コードで通信が入った。
先程の戦闘の物音が外まで漏れていたらしい、慌てたセシリアの声が聞こえる。
「ふもふもるっふ。ふもふもっふ?」『いや、何でもない。それより、そちら如何だ?』
「え?あぁ、此方はもんだいありませんわ。」
「ふも。」『そうか。』
「それと…ん⁉何ですかあれは⁉」
「ふも!」『如何した!』
「謎のパワードスーツを着た一団が、学園敷地内に侵入した模様ですわ!」
「ふも!ふーもっふふもるるふもっふ!」『了解!一先ず、民間人を避難させるんだ!』
「了解ですわ。」
「ふもふももっふふーもっふ!ふもるっふふもーふもっふ!」『あとの指示は、合流でき次第行う!それまでは各員の判断で動け!』
「「「「「「了解!」」」」」」
通信が切れると、Aボン太くんはガーベラを確保する為に行動を開始させた。
遂に始まった、IS学園を戦場にしての初めての防衛戦、乗り込んできたのは亡国か?アマルガム残党か?今はまだ全容が知れないのであった。
一夏「操縦者が、生きていればいいが…。」
ボン太くん二体はオーバーキルでした。
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水銀化合物の残しだねalastor
アマルガムと呼ばれたテロ組織が嘗て存在した、その歴史は亡国企業と同じか少し後の頃と呼ばれている。
彼の組織の技術力はかなり高度なものだった言う話がある、正式名称アーム・ビルド・スレイブ・システムを簡略化してアーム・スレイブ、通称をASと呼ばれた大型人型兵器が主流だった頃の世界で最も最先端の技術力を保持していたらしい。
そんなアマルガムの製造したASの中には、人間サイズにまで縮小された対人型ASアラストルが存在した。
本来8mクラスの物が主流とされたASの中でこの機体は約2mと小型であったとされ、その運用方法も対人戦闘を主とした奇襲戦法が主だった。
ISの台頭や一部のASに積まれた兵器が使用禁止に成ったのも重なり衰退していった中で、この機体は様々の状況に対応できる汎用性と唯一ISに対抗できる兵器としてISを持てない国家の研究機関などに、現在も秘密裏に保管されてると言う噂も実しやかに囁かれる。
そして、文化祭に招待された一般人が来場しているIS学園の敷地の中には件のASが猛威を振るっていた。
学園側も、教師と防衛部のメンバーが迎撃に当たり、如何にか一般人への被害は食い止めていた。
「喰らえ…ふもっふ流拳闘術紫電突き!」
ラウラが、プラズマ手刀を発生させた状態で拳を握りアラストルの胴体に打ち込む。
拳打を受けたアラストルは煙を出して機能を停止させる。
敵が動かない事を確認したラウラは、別の機体の方に体を向けた。
その直後、背後で小さく爆発音が鳴る。
「くぅ!しまった…!」
ラウラの背後に潜んでいた、アラストルの腕部に内蔵された12.7mm機銃がラウラの背部に直撃した。
通常の弾丸であればISがダメージを受ける事は無い、しかし対IS用に作られた弾丸を装填したアラストルの機銃はラウラに確実にダメージを与えた。
「ふもっふ流射弓術迅風射矢…!」
追撃を仕掛けようとしたアラストルの胸部が彼方から放たれた矢に射貫かれた。
「ヴィシュヌか、助かった。」
「いえ。それにしても、数が多いですね…。」
「あぁ、一体何処にこれだけの戦力を潜ませていたんだ?」
ラウラが思わず口にした悪態交じりの疑問は、この場で防衛線を守ってる者全員の疑問でもあった。
急に現れたかと思えば警告も無しに襲ってきたのである、それもかなりの大勢だ。
唯一の救いは、これらが全て無人機であった事だろうか。
最初こそ、有人である可能性も有ったが動きが単調な事と誤って破壊した一機の残骸から無人である事が発覚してそれからは、手加減する必要も無くなり彼女たちは優勢とはいかなくとも五分五分の戦況の持ち直していた。
「ラウラ、交代よ。」
「お疲れ様ですわ。補給を受けて来て下さいな。」
前線で防衛していたラウラに、後方から補給を済ませた鈴音とセシリアが近づいて来る。
「判った、ヴィシュヌ行くぞ。」
「はい。」
前線を鈴音とセシリアに任せ、補給の為に後方に下がるラウラとヴィシュヌ。
二人を背後で見送って、眼前の敵に意識を向ける。
「さて…やりますか。」
「はい!少しでも多く、敵を減らしましょう。」
この他の場所でも迎撃戦が勃発している為に、ここに回せる応援が無い。
その為に四人を、二人一組で一時間ごとに交代する方法で凌いでいた。
「此方、キング2。本校敷地内に、敵勢力の尖兵と思われる人物が潜伏している模様。捜索は、しているが身柄を確保できていない。特徴は、黒の長髪に白のスーツ姿だ。各自、出来る限り警戒していてくれ。」
「此方、クイーン4了解。」
「クイーン3了解ですわ。」
一夏からの報告を、二人は身近く返した。
「一夏の奴、何してるかと思えば…。」
「しかし…これで、この襲撃の意図が読めましたわね。」
所謂、陽動か時間稼ぎ辺りだろうと見解を立てた。
そして、恐らくその人物を取り押さえる事が出来ればこの兵器たちは停止すると、確証は無いが確信できていた。
一夏が、対象人物を見つけて確保できるまでは如何にかこの場を持ち堪えて見せようと気合を入れる。
一方の一夏は、地下通路を抜けて地上の施設を探索していた。
「あの状況では、学外に逃げる事は出来ない筈なんだがな?」
「ふもっふふーふもっふふもるふももっふ。」『ISを纏っていたとは言え、相当なダメージを受けましたからね。』
「あぁ。しかし、手伝って貰って良かったのかな?恐らくだが、君は来場客の誰かだろう?」
「ふもふもっふふーもっふ!」『気にしないで下さい兄さん!』
「ふむ…そろそろ、話して貰えないだろうか?君は何故、俺を兄と呼ぶのか?」
「ふも!ふも…!ふもっふ…。」『えぇ!それは…!兄さん…。』
「…説明は、彼女を取り押さえた後か…。」
一夏の質問にどう答えようか思案していると、Rボン太くんのセンサーに反応が有ったのを確認した。
Rボン太くんが視線を向けた先は、閉じ切られた部屋の扉だったが一夏も室内から来る殺気を感じ取っていた。
ゆっくり近づいて、様子を伺う。
「リベリオン、前衛を頼めるか?」
「ふもっふ。」『了解です。』
Rボン太、ドアノブに手を掛けて少しづつ開ける。
「ふもっふふももっふ。」『トラップは、仕掛けられてませんね。』
「了解。引き続き警戒は続けてくれ。」
「ふもっふ。」『了解です。』
部屋の外で控えてる一夏からの指示に短く返す。
何者かが、潜んでる気配は感じるがどこに居るのか判別できない。
部屋の明かりをつける為に、ドアの知覚のスイッチに手を掛けようとした時、部屋の奥から物音が聞こえた。
「ふも?」『そこですか?』
音がした方に、ゆっくり近づいていくRボン太くん。
音の下と思われる場所まで来た時、扉の方で物音がした。
「ふも!」『しまった!』
揺動に嵌まり、入り口の警戒を疎かにした自分の短慮に悪態をつきながら扉に急ぐ。
「惜しかったな。」
「くぅ!」
扉の前のでは、一夏に組み伏されたガーベラが居た。
ガーベラを縛り上げると、一夏は耳に填ったインカムから全隊員に捕縛が完了した事を伝える。
「キング2より各員へ、標的は抑えた。これより、戦闘停止の為の方法を吐かせる。それまでは、どうにか持ち堪えてくれ。」
返答を待たずに終わらせると、一夏はガーベラに向き直った。
尋問を始めようとした時である、インカムに緊急通信が入った。
「こ、此方…クイーン3、敵勢力に増援を確認…敵は…強奪されたイギリスのBT実験機サイレントゼフィルスと思われますわ。」
動揺にしながらも、飽く迄冷静に告げられた報告を耳にして顔を顰める。
「此方、クイーン1。増援は私が抑える、お前達は戦線の意地を優先しろ!」
「ジャック3も同行します!」
ラウラとヴィシュヌが答え、増援の迎撃に向かったらしい事が知れた。
一夏は、この状況を打開すべく行動を開始する。
一夏「さぁ、喋って貰うぞ奴らの活動を止める方法を…!」
次は、ラウラとシュヴァルツェア・レーゲンに何かが起こるかも…?
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雷雲の様に迅く翔ける黒兎thunderstorm
これぞ、嵐呼びせし雷雲の如し!
ラウラはじっと前方を睨み付け、この場に招かざる客人を待っていた。
緊張はすぐ後ろに控えていたヴィシュヌに伝播していた。
「緊張しているのか?」
「へ!は、はい。」
ラウラが後方に居るヴィシュヌに問いかけると、彼女は驚いて吃りながら答えた。
初めて感じる張り詰めた空気に流されしまっている彼女は、落ち着き堂の入った彼女の佇まいに敬服していた。
「流石は、軍神の配下と呼ばれる一人ですね。」
「軍神か…確かに、他者から見ればそう映るのかもしれない…。」
称えたつもりで口にした言葉に、ラウラは前を見据えたままゆっくりと語りだした。
「それでも、あの方も苦悩を抱えておられる…。」
「?如何いう意味ですか?」
「それは…!如何やら、続きはまた今度になりそうだ。」
ラウラが見やった方向、自分達か見て丁度対峙する方角から一つの影が見える。
その正体はサイレント・ゼフィロス、イギリスがブルー・ティアーズで得られたデータを基に製作されたBT搭載型IS二号機である。
蝶の羽の様なブースターにソードライフル形状の実弾併用レーザーライフル、正式名称はスターブレイカーだったか、他にブルーティアーズと同じビットが六基に実験兵装としてシールドビットが搭載されているらしい。
「遠い所を遥々よく来られた。不肖ながら、私ラウラ・ボーデヴィッヒと此方のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーが心ばかりの出迎えをさせて貰う。」
高速で此方に近づいて来る相手に向けて、剣呑な雰囲気に似合わない語調で言葉を並べる。
台詞だけ聞けば、彼女の来園を歓迎している様にとらえる事が出来るが実際は真逆である。
彼女達は、招かざる客人に対して相応の対応を取ろうとしていた。
「先ずは、お引き取り願いた意味も込めて砲撃を送ろう。」
言うや否や、レールカノンが火を噴き対象を含めた前方空域が赤く染まる。
些か、物騒な出迎えの挨拶を向かい来る敵に見舞うラウラ。
初っ端から飛ばすラウラに、暫く茫然と見ていたがヴィシュヌは我に返り自身も砲撃に加わる。
視界が爆炎で遮られ、相手の姿が正確に見れない程の火力である、いかに機動力に優れた機体を装着していても無傷で抜け出す事は難しい。
しかし、止まない爆撃の中を搔い潜って近づいて来るサイレント・ゼフィロスの姿を二人は確認した。
「そんな…!」
ヴィシュヌの驚愕した声が漏れる傍で、ラウラは無言で構えた。
無論、ラウラとてあの程度で落とせる相手でない事は察していた。
だからこそ、心を落ち着かせ静かに相手に集中する。
急に動かなくなったラウラに、警戒を強めて接近する速度を落とす。
「?ラウラさん…?」
ヴィシュヌは状況が飲み込めず困惑気味にラウラを見つめる。
謎の静寂と肌を刺すような殺気そして、張り詰めた緊張感が入り交じり逆にこの場を冷やしていく。
一方のラウラの精神は極限の高まりを見せていた、あの夏の終わりに体験した己と言う意識の存在を忘れた忘我の境、あらゆる感情の波が静まり返り無と成った無我の極、精神と肉体が一体化した無心の頂き、ただ一度の経験は彼女の中で確かな感覚と成って残った。
そして、その精神状態は彼女のIS、シュヴァルツェア・レーゲンにも影響を与えた。
「驚いたな、自力で此処に来れる人間が居たのか…。」
そう囁く声が、黒い雲が隙間なく覆う空が直接見れる天井の無い手狭な部屋の中に居る黒い兎の耳を付けた軍服の少女の口から零れた。
「貴様は…?」
虚ろな瞳でその人物を見つめるラウラは静かに問うた。
「おや?気付いて無いのか?これまで、共に過ごして来たのに。」
これは意外と言わんばかりの大仰な反応である。
それでもラウラは、我を掴ませぬ対応を見せる。
「そうなのか…?普段の私であれば、何らかの反応を返せていたかもしれん。しかし…。」
「今は、そうでは無いと…ふむ、まぁ良いだろう。そんな事より、以前から聞いてみたかったんだ。」
「何をだ…?」
ラウラの問いに、一白置いてから残りを続けた。
「私は常に君を見て来た。ドイツで織斑千冬の下に居た時から、その弟の一夏の下で教えを受けてる今までをずっとね。だからこそ以前の君からは感じる事が出来なかったこの感情の事を知りたい。」
「以前の私には無かった感情…感謝の情の事か…?」
「感謝…それが今の君の中に生まれた想い…。」
「あぁ…人に作られ、常に競争の中に居た過去ならば決して気付くことは出来なかった。あの日、あの場で負けたからこそ学べた心根だ…。」
敗北は何も生まない。
そう考えていた過去の自分が見れば、何を世迷い言を吐き掛けられるだろう今の変化した己を思い浮かべ自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「敗北こそ、己の見つめ直すのに良き切っ掛けに成る。負けた時こそ、真価が試される。足りない物に気付き糧にするか、そのまま腐っていくか…私は、前に進んだ。」
「成る程。じゃあ、今の君は一体どんな強さを求めるの?」
一応の納得を示した彼女は、話題を変えて質問した。
「私が、今望む力の在り方は…。」
質問の答えに窮した時、一夏との修行の中で交わされた何気ない会話が脳裏に浮かぶ。
【前から思っていたが、ラウラの戦い方はまるで雷雲だな。】
何時もと変わらぬ組手の中で、ふと一夏が呟いたセリフであった。
【雷雲ですか?】
【うむ。ラウラよ人は何故、雷を強く恐れると思う。】
【何故と言われましても。】
突然、投げ掛けられた質問に困惑する。
そんな、ラウラの様子を眺めながら続きを口にした。
【太古から人は、自分達の手に負えない物に畏怖の念を持って暮らしてきた。特に、火を噴く火山や大地を大きく揺らす地震やうねりを持って全てを飲み込む濁流そして、手が届かぬ程の高所から大きな音と強い光を伴って訪れる雷をな。】
無言で、師から教えに耳を傾けるラウラ。
【だが時として、その強大さ故に強き者を喩える言葉として使われる事がある。ラウラよ、お前の最大の持ち味は躊躇いの無さだと私は思う。】
【躊躇いの無さ…ですか?】
【攻める時は、怒涛の勢いで攻め。守る時は、素早い動きで攻撃を躱す。攻防の切り替えが素早く、時に大胆に動く。思いっ切りの良さが、お前の戦闘スタイルと良いシナジーに成っている。】
そこまで思い出し、静かに口を開く。
「だからこそ、そんな雷を運ぶ雷雲の様に速く激しい戦い方こそが私の目指すべき力の在り方。」
「成る程、理解したよ。そして、了解した。君がそれを望むならば、私はその為の力添えをさせて貰おう。」
空が唸り出して彼方此方で放電の光が漏れる。
「そうか、ならば共に行こうシュヴァルツェア・レーゲン。」
「気付いてたのかい?」
「あぁ。」
「やれやれ、とんだマスターだ。」
したり顔のラウラとお道化た様な仕草を見せるレーゲンの下に雷光が落ちた。
そして、現実世界のラウラにも変化が起きていた。
「これ…は…?」
ヴィシュヌの困惑した声だけが唯一、この場を包む静寂を乱した。
その少し後方に居た、セシリアと鈴音にもその光景を見る事が出来た。
「二次移行…。」
何方が零した声だったのだろう、小さくだが確かにラウラの機体が進化した事を告げていた。
シュヴァルツェア・レーゲン ゲヴィッターヴォルケ、黒い雨は雷雲と成り敵を討つ雷を宿した。
ラウラ「ここからが、本番だ…!」
ラウラの覚醒は、もう一人の少女に影響を与える。
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拳に宿る雷thunderbolt
当然のラウラの変化、その事象に驚き固まっていた。
シュヴァルツェア・レーゲンのシルエットは、以前よりも小さく纏まっていた。
左右に浮遊していた大型の複合ユニットは小型され肩部に直付け装甲が追加された、腰部の大型スラスターは脚部アーマーと一体化しより小回りが利く形になった、プラズマ手刀発生器になっていた手首アーマーは前より小型になったが攻撃力は向上している。
何処を見ても、二次移行したにしてはコンパクトになったラウラの専用機には誰しもが懐疑的になる事だろう。
しかし、小型化したシュヴァルツェア・レーゲンにはこの半年間にラウラが経験した全てが反映されていた、その最たる物が背面に有っるヴォルケユニットだろう。
第三世代型ISの特徴とも言える展開装甲、その実戦を観察し続けたラウラとシュヴァルツェア・レーゲンはその有用性を確認していた、ヴォルケユニットはその観察から得られたデータをフィードバックして生まれた機構である。
背部からエネルギーラインが全身の装甲に繋がれており、戦況に応じて各部を変化させるギミックが詰め込まれている。
登場早々に砲撃の歓迎を受けてから回避以外の動きを見せなかったサイレント・ゼフィロスが、二次移行直後のラウラを取り囲むようにビットを展開した。
「漸く本腰を入れたか…。」
静止していたラウラが小さく呟く。
二人の間に流れる緊張感、何方が先に攻撃の口火を切るかは明白であった、無言の下に打ち出されたレーザー光を難なく見切り避ける。
「ふっ、そう簡単にはいかんか…。」
しかし、避けたはずのレーザーが屈折してラウラを狙う。
その光景を見ていたセシリアは驚愕した、何故ならその技法フレキシブルは彼女の機体ブルー・ティアーズにも想定されその為の機能も搭載されていたが、今だ彼女は成功していなかった。
そんなセシリアの様子を知らないラウラは、曲がった閃光も悠々と回避しているが敵対機に接近にすることが出来ずにやきもきしていた。
『隙が無いな、このままではジリ貧か…ならば、早速だが進化した力と云うものを試してみるか。』
繰り返されるレーザーの雨の中でラウラは現状の突破口を開く為、進化した愛機の力をぶつけ本番で試す事にした。
「ヴァルケユニット、迅雷フェイズ!」
ラウラの声に答え、ヴォルケユニットからエネルギーラインを伝い下半身に変化を促す、両脚部のパネルラインが開きブースターが光を放つと次には、視認する事が困難な程の加速して見せた。
「!…。」
行き成り高速機動を始めたラウラに驚きながらも、彼女を打ち落とそうと先程よりも激しい弾幕を張る。
「遅い!」
ラウラの動きを止めようとレザーを多方向から空間を狭める様に展開しても、それより先に彼女が抜け出して距離を詰める、スターブレイカーで牽制してもギリギリで見極め躱される。
幾らか動きは限定できてもじりじりと接近されるが、サイレント・ゼフィロスも場所を移動しながら攻撃を行っている為、ラウラも相手を捉える事ができない。
互いが一歩も引かない高次元の戦いを繰り広げる、傍観者と化した周りの人物は如何なる決着が着くか想像も出来ないだろう。
しかし胡蝶は、雌雄を決する算段があった。
「?攻撃の勢いが弱まった…釣りか?」
弾幕の勢いが落ち本体の動きも緩慢になる、それは明らかに誘いだった。
それでも、ここで攻めなければ次は無いかもしれないと思うとラウラは誘いに乗る事にした。
『ただし、此方も容易くやれる気は無いがな…。』
心の中の呟きが面の表情に現れる。
「轟雷フェイズ…。」
身近く下された命令に従い上半身のアーマーが稼働する、ショルダーアーマーが外れて手首から先に装着されて覆うと肩が露出した、ヴォルケユニットからエネルギーが供給されて全身が輝くと急加速をかける。
ガントレットとなったショルダーアーマーから放電が起こり電光が漏れる、この一撃で決めると言う意思が拳に雷を宿した。
あと少しの距離まで肉薄した時、ラウラと敵との間にシールドビットが割って入る。
「はぁぁぁぁ!」
裂帛の叫びと共に振り出した拳でシールドビットを殴る着け、払い落として尚も勢いをつけて接敵するラウラに相手がスターブレイカー向けた。
一撃の勝負、相手がラウラを打ち抜けばラウラが負け相手が勝利する、ラウラが撥ね退け相手を殴り貫けばラウラが勝ち相手が敗北する、互いに勝利条件は同じ相手を伏せさせるただそれだけだから尚、この場の空気が張り詰めるのである。
放たれたレーザーをガントレットで受け止める、躱しはしない躱せば逸れた弾道が曲がり己の背を突き刺すだろうから、だからここで打ち砕く。
電撃と閃光がぶつかり合い火花を辺りに撒き散らす、一歩も引かない攻防の中で少しずつラウラが前に出始める。
「うぬぅぅぅ!」
気合を入れ力を振り絞ったラウラの拳がスターブレイカーから放たれたレーザーを突き抜けた。
「大導脈流活殺術奥義…血栓しょっがぁぁぁぁ!」
誰しもが勝負が決したと、そう確信した時ラウラの叫びが木霊した。
「…漸く狙いが付けられました。」
「な…に…!」
ここまで、一言も喋らなかった相手から零れた言葉の内容に驚きの声が出る。
「二次移行をした時は、面食らいましたがそこ迄でしたね。」
淡々と語る声音からは感情を感じる事が出来ない。
「確かに、あの機動力には目を見張るものがありましたが…これで終わりです。」
後方からビットが自分に狙いを定めた気配を感じた。
『人間、早々変われないらしいな…最後の最後で油断するとは…。』
ビットの存在を忘れていた訳では無い、だが何処かで本体にばかり目を向けていた己が居るとラウラは自嘲した。
後方から撃たれブースターが機能不全に陥ている、これでは満足に回避も出来ない。
最早これまでと、一抹の悔しさを抱えながら最後の瞬間が来るのを待ったその時である。
「ラウラ~!しっかりしなさ~い!」
そう叫びながら、鈴音がラウラを救出する為に接近する。
「邪魔ですね…先ずは、貴女から落としましょうか?」
ラウラを狙っていたビットが鈴音に狙いを変えた。
「!逃げろ…鈴!」
「もう遅いですよ。」
鈴音に向けて放たれたレーザーが直撃する時、鈴音にも変化が起きた。
甲龍の眠れる力が今まさに目覚めの時を迎えた。
?「来ると言うのだな、我が操者よ…。」
今度は鈴ちゃんフェイズ!
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天龍覚醒awakening
眼前を埋め尽くす光が己が身を焼き尽くさんと迫る時、鈴音は誰かの声を聞いた気がした。
それは、とても穏やかで優しい声だった。
『我が操者よ…こちらだ。我の下まで来るのだ…。』
「えっ?」
まだ幼いだが威厳に満ちた声が聞こえた時、鈴音は不思議な光に照らされた洞窟の通路の真ん中に立って居た。
『こっちだ…我は、この先に居る…。』
またも聞こえて来る自分を呼ぶ声に従い、洞窟の奥に続いているであろう方向に歩き出す。
「此処って一体…?」
疑問は尽きない、さっきまで戦闘の最中に居た筈な自分が何故ここまで穏やかで静かな場所に居るのか、そしてこの場所は何処なのか。
やけに居心地がいいのもあり嫌な気はしないが、それでも気にしだしたら止められなかった。
何処まで歩いただろう気付けば、天井に大きな穴の開いた洞窟湖の様な場所に出ていた。
「良く来た、我が操者凰鈴音よ…。」
湖の中心に赤い鱗の竜が佇んでいる、鈴音に語り掛けた竜の声はついさっきまで自分を導いていた声だと気が付いた。
「我が操者って事は、貴女は甲龍?」
鈴音の問い掛けに竜はその長い体を擡げ静かに答えた。
「如何にも、我が其方の愛機甲龍のISコアである…。」
対面した甲龍のコアの姿を見た鈴音は驚いた、まさか自分の愛機のコアが人ではなく竜だったのである流石に面を食らう
「ふむ…この姿では話し辛いか、では…。」
その体を輝かせた甲龍は体積をどんどん縮ませて鈴音と同じ位の背格好にまで小さくなった。
容姿は、鈴音の様にツインテールで耳の少し上辺りから後頭部にまで角が伸び前頭部に冠を着けている、服装は中国の伝統衣装の漢服を纏い色は紅色だった。
「これで、話しやすかろう鈴音よ…。」
優しく微笑むと鈴音の方を向き語り掛ける。
目の前で色々起こり過ぎて、何が何だから分からなくなっていた鈴音は話し掛けられ我に返る。
「あっあの!…。」
「ふむ…鈴音よ、少しわれの話を聞いてくれ。」
何かを語ろうと口を開くが何を話せば良いか分からず口を閉ざしてしまう、その様子を見ていた甲龍は自ら話題を切り出した。
「我はな、こうして会う事を望んでおったのだ…会って汝に一言詫びを入れたかった。」
「え?」
甲龍の口から語られた言葉に疑問符が飛び出した鈴音、茫然とする相方を傍に置き続きを話す。
「口惜しかった、着実に力をつけていく汝に応えられるぬ己が。汝の成長に着いて行けぬ我が恨めしかった…。」
「そんな…!」
甲龍の独白に否定の言葉が飛び出しそうになる鈴音を手で制し更に続ける。
「我は考えた、如何すれば汝の想いに応えられるのか、その方法を…。」
「…思い付いたの?」
「あぁ。しかし、この方法は我一人では達成できない。」
「それで、私を呼んだのね…いいわ、私は何をやれば良いの甲龍?」
「鈴音、我と共にここから天へ昇ってくれ。」
「それだけ…?」
「うむ、それだけで良い。」
「何か、拍子抜けね。」
「そうでも無いわ。この空は、気流の流れが速い上に入り組んでおるただ真っ直ぐ天を昇るだけでも一苦労なのだぞ。」
「そ、そうなのね…取り敢えず、行きましょうか。」
「うむ…。」
竜の姿に戻った甲龍と共に天井の穴から天に昇る。
かなり高い位置まで昇った所で乱気流が二人を襲う。
「くっ!これは確かに、キツイわね!」
「大丈夫か鈴音?」
声を張り上げ強風を凌ぐ為に力を籠める、そんな鈴音を気遣う様に飛ぶ甲龍も苦しそうである。
「大丈夫!でも、このままじゃダメよ。何か打開策を考えなくちゃ!」
「うむ!そうであるな!しかし、この気流をどう打開したものか?」
風に煽られながら、二人で声を出し合いこの状況を脱しようと策を練る。
その時、偶然にも髪を止めていたリボンが解け風の舞った。
「あっ!リボンが!」
「何!直ぐに追うぞ!」
慌てた鈴音の声に反応して甲龍が風の舞うリボンを追いかけ始めた。
「くっ!早いな、追いつけない!」
必死で追いかける甲龍だが、風の勢いが強く中々追いつけない。
気付けば最初の位置よりかなり外れた場所まで来ていた、そして鈴音はある事に気が付いた。
「ねぇ甲龍、ここさっきよりも高度が上がってない?」
「むっ?そう言えば…。」
無我夢中で飛び続けた為に気が付かなかったが、確かにさっきよりも高い所まで昇っていた。
「甲龍、何かあたし打開策が判って来たかも…。」
「我もだ、鈴音…むっ?如何やら、あれも我らを待ってくれているようだぞ。」
荒れ狂う気流の中でそこだけ停滞しているかの様に、鈴音のリボンがその場に留まっていた。
「あれね、転校する前に一夏がくれた物なの…。」
「…リボンに宿った意思が、導いてくれておるのだな。」
「うん。いきましょうか甲龍!」
「承知した!」
二人は再びリボンを追って上昇気流に乗った、そうしている内に気流の向きが読めてきた。
気流の流れを読み上へ上へと昇っていく、そして雲の上に出た時リボンが風に吹かれて鈴音の下に戻った。
「風が穏やかね。」
「あぁ、さっき迄が嘘のようだ。」
さやさやと凪が吹く雲の上で、彼女たちは満足そうに語り合う。
手元のリボンを見て、鈴音が小さく囁く。
「ありがとう一夏。」
「我からも礼を言うぞ。此処まで導いてくれてありがとう。」
その時である、甲龍の体が強く輝きだしたのである。
「これは…?」
「うむ…鈴音よ、ここまで共に来てくれた事嬉しく思うぞ。」
「そっか、ここでお別れか…。」
「違うぞ鈴音、我は常に汝と共に居る。」
「そうだったわね…。」
別れを察して少し感傷的なる相方を、来た時と同じ優しい声音で語り掛ける。
甲龍の言葉に勇気付けられ、意識が現実に帰って行く。
そうして戻って来た現実では自分に向けられたレーザーの群れが眼前まで迫っていた。
しかし、鈴音は手を前に翳すと一言呟いた。
「気功龍鱗壁展開。」
その言葉の後に鈴音にめがけて直進していたレーザーが見えない壁に阻まれた様に屈折した。
「なっ!」
その現象を目にした時、サイレント・ゼフィロスの操縦者は漸く鈴音の纏う甲龍の異変に気が付いた。
「二人目の二次移行者…ですか。」
風を見極め気を御した方を我が物にした甲龍は天竜に覚醒した。
ラウラと鈴音、二人もの人間が二次移行を果たした事で戦況はより複雑になった事をこの場の誰しもが感じていた。
鈴音「私も混ぜてよ…その戦い。」
まだまだ引っ掻き回すぜこの戦い!
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迅雷風烈の如くfierce battle
二次移行を果たした二人の戦いの結末は如何に?
二次移行を果たした甲龍その名は甲龍天、中国語で空を意味する天を関した新たなる姿である。
その姿は以前よりも大きくまた雄々しく見せていた、胸から腹部までをアーマーが装着され首周りに金の装飾があしらわれた襟の意匠がデザインされている、腹部より下は腰の辺りから前が開くようにマントアーマーと胴体アーマーの下から伸びた前垂れが追加された、腕部は以前よりも延長されて肩に肩章の意匠が施されたショルダーアーマーと腕全体を覆う腕部アーマーが特徴的である、龍咆は丸い形状から中心が平円形の平太鼓の様な形になりブースターユニットはより大型に成っただけでなくに竜の球を思わせるデザインが施されている、脚部も竜の足の様な物に変化して、頭飾りは冠の様に成り竜の角をイメージしたアンテナが後ろに伸びている。
全体的に増加したアーマー類から得られる視覚的情報が、否応なしに威圧されまるで名立たる武将を前にしたかのような錯覚を与える。
客観的に見ても防御力は上がっており、半面下がったと思われる機動力もアーマー各部に小型ブースターが内蔵され見た目以上に機動力も上がっていた。
そして何よりも変化したのは龍咆ユニットであり、以前の様な衝撃砲としては勿論それ以外でも空間に干渉するならば多種多様な事が出来るようになった。
「鈴…⁉その姿は!」
「あんたと同じって事よ。」
鈴音の変化に驚きの表情で聞くラウラに、何時もの様に快活な笑みで答える。
二人の遣り取りの外側では、セシリアとヴィシュヌの両名が目の前で起きた奇跡を沈黙したまま見守っていた。否、正しくは傍観するしかなかったのである。
「私の前でお喋りなんて、随分余裕ですね!」
自分を無視して会話する二人に愚弄されたと思ったのか、サイレント・ゼフィロスの操縦者が声を荒げ再び攻撃を仕掛ける。
「甲龍!龍鱗壁!」
しかし、先程と同じ様にレーザーの光が弾かれた。
「っ!…矢張りですか。空間を固定して防壁を…。」
「その通りよ。でも、それだけじゃ無い!弾けなさい竜爆玉!」
「!くっ…!」
襲撃者の推測を固定した鈴音は更に手を掲げた時、襲撃者の周囲の空間が爆ぜた。
「まさか!圧縮した空間を爆雷に…!」
その様子を見ていたラウラが、驚愕した表情で自分の考えを語る。
「ご明察よ、これが新たな甲龍の力!龍操機構よ!」
高らかに新たな武装の名を宣言した、竜操機構とは龍咆を発展させた武装である。
空間に圧力を加える事が出来る性質を利用して、砲撃・防御・爆雷の三種類の能力を会得した。
「成る程、ですがこれは如何でしょうか?」
爆発に耐えた襲撃者が、今度は離れた所で防衛線を守っていたセシリア達にビットを差し向けた。
「させるか!電雷フェイズ!」
「龍咆!」
ラウラと鈴音が、其々の機体の遠距離攻撃兵装を展開する。
「アハハ。其方ばかり気にしてて良いんですか?」
ビットに狙いを付けようとした時、背後からスターブレイカーの一撃が放たれた。
「くっ!このままでは!」
「ラウラ、アンタは本体を叩きなさい!私は、ビットを押さえるわ!」
「了解した!」
鈴音の提案で襲撃者に接近するラウラ、そして鈴音も自分の役割を果たすべくブースターを最大出力にしてビットを追う。
「行くぞ。轟雷フェイズ!」
再び轟雷フェイズを発動して襲撃者との距離を詰める。
先程と違い、後ろからの攻撃を気にしなくていいがその代わりブースターの機能不全の状態から完全には復旧出来ていない為に十分な速度が出ない。
辛うじて修復が間に合ったブースターを最大限稼働させて、如何にか追いついている状況である。
「遅いですね~。さっきに比べれば、大分スピードが落ちましたよ。」
ラウラの機体状態を知ってか、逆上を誘って煽って来るがラウラは冷静に切り返した。
「ふっ、それは済まなかったな。さぞ退屈だろう、だが私に付き合って貰うぞ。」
「…ふふ、ふふふ、ア~ハハハ、そうで無くては、潰し甲斐がありませんね~。」
誘いに乗らないラウラに、狂った様に笑い猟奇的な笑みを見せると急停止して振り返る。
「逃げてばかりも退屈ですし、少し遊んであげましょうか?」
「これはこれは、態々此方の都合に合わせてもらうとは…光栄な事だ、では私はその誘いに乗らせてもらおう!」
明らかな挑発にも動じず逆に煽り返すラウラ、その一瞬の後激しくぶつかり合う両者の戦いが始まった。
ブースターが不調とは言え今のラウラはインファイトでの戦いに優位に成っている、一方のサイレント・ゼフィロスは元々は射撃特化の近距離を不得手としている機体だ、それでもラウラと互角に渡り合っているのは偏に操縦者の技術がそれだけ高度である事を意味している。
迫るラウラの右拳をスターブレイカーの強度に優れた部分で受け反対側からレーザーナイフを奔らせる、それを左腕で防ぎ左拳で弾くとがら空きの胴体に打ち込む、しかし当たる直前に体を後ろに逃がして直撃を回避して間を開けた、それの隙を突く様に左右に浮遊する複合ユニットをプラズマカノンモードに変えて打ち出す。
一瞬でも気を抜けばそれが致命的なミスに繋がる息の詰まりそうな攻防、互いが互いを仕留める為に繰り出され続ける一撃は二人の間に割り込む隙すら与えない程に威烈で圧倒的だった。
「楽しいですね!此処でこれ程の戦いが出来るとは思いませんでした!」
本当に心の底から戦いを楽しむ戦闘狂の様な発言にラウラも心の中でたじろいだ。
顔の半分を仮面で隠している為、口元しか確認出来ないがその口は見事に三日月の様に吊り上がっている。
戦いに魅せられ狂気に取り憑かれた様に両腕を振るい次第にラウラを追い詰める。
『不味い、このままでは…。』
『やあ、お困りのようだねマスター。』
勢いがました襲撃者の攻め手にじりじりと押され始めた事で内心で焦るラウラの意識の中で唐突に愛機のコア人格が語り掛けて来る。
『シュヴァルツェア・レーゲン⁉何だこんな時に!』
『薄情だな~。まぁいいや、ねぇこの状況が不味いって思ってるんだよね。』
見た目に似合わず剽軽な性格の相方に、何を当然な事をと苛立つ。
『どうどう。落ち着いて、この状況を打開出来るかも知れない方法が有るんだけど聞きたい?』
『!どんな方法だ、教えろ!』
相方の衝撃的な問いに、藁をも縋る思いで聞き返す。
『あぁ、良いよ。だけど先ずは落ち着いて。』
『…分かった。これで良いのか?』
『うん。まだ少し慌ててる様だけど、その状態で聞いて。』
『うむ、それでその方法とは何だ?』
『単一能力って知ってる?』
『あぁ…まさか…⁉』
『うん、使えるよ条件を満たしたらだけど。』
『条件?』
『そっ。二つ満たさなきゃならない条件が有るんだ、一つは冷静である事で二つが人機一体である事。』
『それならもう、満たしているだろう?』
『いや、私達はまだ完全に一つには成り切れてない。』
相方の発言を聞いて反論しそうな成るが、その前に続きを語られる。
『君はまだ私を受け入れきれてない、それどころか恐れてすらいる。』
後に続いた言葉はラウラを黙らせた。
『VTシステムの時の事を引き摺っているのは判ってる、あの時は私にも如何にも出来なかった。』
沈痛な感情が語られる声から流れ込んでくる。
『でも今は違う、君も以前より格段に強くなった体だけじゃない心も…だから、もう一度だけもう一度だけで良い。私を信じて心を開いて欲しい!』
共に在りたい、今度こそ本当の意味で共に強くなりたいと心に訴えかけ来る思いにラウラの心が揺れ動く。
『…本当に、信じて良いのか?』
『勿論!今度こそは大丈夫!』
『判った、私の全てをお前に託す!』
『ありがとうラウラ…。』
ラウラが心身ともに愛機に身をゆだねた時、脳内にある情報が流れ込んで来た。
「単一能力【アウゲンブリック】…刹那か、成る程な。」
ラウラは目の前の情景を見て一人、単一能力の効果に納得した。
先まで流れる様に見えた相手の動きが、今はスローモーションを見ている様にとてもゆっくりと視覚出来ていた。
実際はそうでは無いが、それでもラウラの感覚からしたら止まって見える程ゆっくりと動いてる様に見えている。
だからこそ受け止められるし受け流せる、相手が動くより先に攻め手を潰せる。
さっき迄とは全然違うラウラの感覚が鋭い動きを可能にして、反撃に移る余裕すら与えていた。
今の彼女は雷だ、闇を討ち悪を蹴散らす電光だった。
ラウラ「見える…見えるぞ!」
ラウラの単一能力は飽く迄も動体視力を上げるだけです。
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竜吟虎嘯の呼応best buddy
セシリア達に向けられたビットを抑える為に最高速度で追いかける鈴音、その様子を見ていたセシリアもまた応戦の構えを執る。
六基のビットが其々に意思が有るかの様に動き、三機がセシリアもう三機がヴィシュヌを狙い別れた。
鈴音はヴィシュヌの方に向かった三機を追い、残り三機はセシリアに迎え撃ってもらう事にした。
「ごめん!そっちは任せたわ!」
「お気になさらず、あれを抑え方ははわたくしの方が心得ておりますので!」
通信でセシリアに謝罪すると、彼女は気にするなと返してくる。
伊達にコンビを組んで戦って来た訳では無い、阿吽の呼吸とも呼べる信頼関係が二人の間には構築されていた。
そしてヴィシュヌは接近するビットにクラスター・ボウを向けて待ち構える、鈴音が竜操機構から龍咆を起動して前方と後方から挟撃を仕掛ける。
互いの射線に入らない様に位置を調整しつつ、ビットを射程圏内に誘導ゆる為に鈴音が龍咆を狙いを付けず適当に発射した。
鈴音の狙い通りビットは龍咆の砲撃範囲から逃れる、だが逃れた先はクラスター・ボウの射程範囲に入っていた。
「落ちなさい!」
ヴィシュヌの専用機ドゥルガー・シンの弓から放たれた矢が拡散してビットに降り注ぐ、ビットはレーザーを放ち迫る矢を打ち落として防御する。
本当に遠隔操作だけで此方に意思が無いのか甚だ疑問に思う程の対応力を見せるビットである。
そんな事を気にしてる余裕が無いのか二人は、ただ迫る脅威に応戦する事に集中している。
そして残った三機を相手にしているセシリアも、迫るアラストスを気にしながら戦っている為にやり辛そうにしていた。
ビットもアラストスも個々であれば大した相手では無い、だが二つ纏めてと為ると別の話である。
「くっ!鈴さんには大見栄張りましたが、すこしきついですわね。」
自身のビットも最大稼働で動かして漸く互角と言った戦況である、とは言え此処を通せば後方に控えてる生徒や一般客に被害が及ぶ、如何にか踏ん張り退かねばならない。
「…やらねばならぬですか…良いでしょう!このセシリア・オルコット、敵に背中は見せませんわ!」
逆境の中で決意を固め迫り来る敵軍に銃口を向けた、その姿は彼女の容姿も相まってワルキューレを彷彿とさせた。
この防衛戦で戦う、うら若き乙女たち全員がこの場の死守を絶対の目的に据えていた、だからこそ内二人が二次移行を果たす奇跡を起こし今も変化を続けている。
ラウラが鈴音がセシリアがヴィシュヌが全員が一丸となって、学園を侵そうとする脅威と戦っていたのである。
だからだろうサイレント・ゼフィロスのビットの動きが単調になったのは、気付けばラウラが襲撃者とドッグファイトを始めていた。
力と力、技と技がぶつかり合い互いの力量が競り合う激戦を繰り広げ、何人も介入する事を許さない。
その様子を少しだけ見たヴィシュヌは引き込まれ一瞬だけ神話の一場面を見ていると錯覚するほどだった。
「ヴィシュヌ!気を抜かないで!」
「はっ!すいません鈴さん!」
まだ気を抜けない状況で、意識を手放し掛けたヴィシュヌを鈴音が引き戻す。
鈴音もここで余り時間を使いたくないのだ、一刻も早くビットを落としてセシリアの下に救援に向かいたかった。
「鈴さん、このままセシリアさんと合流しましょう。」
「ヴィシュヌ!あんた何言って……そう言う事?」
「はい…今は、それしかありません。」
「……はぁ、仕方ないわね。但しやるからには派手にやるわよ!」
「はい!」
ヴィシュヌの提案を聞いて声を荒げそうに為るが少し考えて、相手の発言の意図を汲み取ったそして、ビットを引き付けながらセシリアの下に向かう。
「?如何しましたの鈴さん?ヴィシュヌさん?」
此方に向かって来る二人を確認して疑問を口にした、何か考えが有って行動している事は判るがその意図が読めなかった。
「セシリア、ちょっとそいつらの注意をこっちに向けて来るかしら?」
鈴音から通信でそう伝えられて、漸くその意図を汲んだ。
「そう言う事ですの…了解しましたわ!」
セシリアは自身の操作するビットを戻し高度を下げる、そしてそれを追った敵のビットをヴィシュヌが攻撃して注意を逸らした、後から来た三機と合わせて合計六基全てがヴィシュヌに集中するがそこに鈴音の龍鱗壁が行く手を阻み周囲を囲って封殺した。
「そのまま爆ぜなさい!龍爆玉!」
鈴音の命令で竜操機構が封じた空間ごと破裂させる、龍爆玉の中に閉じ込められたビットが爆発に耐えらる筈も無く原型はギリギリ留めたが飛行するのがやっとな程のダメージを負った。
「取り敢えず、面倒なのは片付いたわね。」
「はい。」
「えぇ、そうですわね。」
ビットが機能不能になった事は操縦者である襲撃者にも伝わった。
「落されてはいないようですね…。」
ラウラとのドッグファイトに集中していた襲撃者の動きが一瞬だけ止まった、その隙を突いてラウラは大技を仕掛ける。
「今度こそ喰らってもらう…!」
右拳に装着したガントレットアーマーから放電を起こし腰を引いて体を捻る、一撃必殺の気迫を籠め乾坤一擲の想いで拳を衝きだした。
「大導脈流活殺術奥義!血栓掌!」
師である一夏より受け継いだ一子相伝の暗殺拳、その全てを受け継いだ訳では無い事実あの短い時間の中で身に付けられたのはこの一撃のみ、否だからこそこの一撃に全てを籠められる。
「ぐっふ!」
胸部にクリーンヒットした拳が更にめり込み、拳圧が身を突き抜け背面から抜けた。
「はぁはぁはぁ…どうだ⁉」
単一能力の影響で精神力を大きく消耗して息を荒く吐くラウラは最後の一撃を放った後、消え入りそうな意識を再び搔き集め襲撃者を見る。
「がはっごふっごふっ…はぁはぁはぁ…くく…くふっ、くふふふふふ。ア~ハハハハハ!」
口から血を吐き呼吸が乱れた状態にも係わらず、尚もその口元は悦楽に染まり狂気に満ちた高笑いを上げた。
「良いんですね~!一瞬、意識が飛びかけましたよ~!もっと遊びましょうよ、ねぇ!」
大ダメージを追った筈の相手はさっきよりも饒舌に喋り、狂ったかの様に武器を振るう。
「くぅ…、化け物め…。」
意識を保ってるもやっとな状況で、心底愉快そうに武器を振るい子供の様に無邪気にそして、残忍にラウラを攻撃した。
「あれ?あれあれ⁉もう終わりですか⁉つまんないですねぇ!」
最早被ダメージの限界を超えてISの絶対防御が発動したラウラを見下ろし、おもちゃを取り上げられた子供の様に駄々を捏ねる。
「ラウラ!」
「ラウラさん!」
ビットを片付けラウラの救援に駆け付けた鈴音とセシリアは、絶対防御に守られたラウラに駆け寄った。
「鈴…セシリア…気を付けろ、奴は普通じゃない…。」
「ラウラ!」
「確りして下さいましラウラさん!」
そう言い残し、気を失ったラウラを抱え立ち竦む鈴音とセシリア、そして二人を見てスターブレイカーを向けた襲撃者。
「セシリア、ラウラを早く救護室へ連れて行って…。」
「鈴さんは、如何しますの⁉」
「決まってる、こいつを叩く!」
「鈴さん!」
「理解してる!こいつが異常だって事位、でもね誰かが此処でこいつを引き留めないと被害が広がるの。そして、そんな状態のラウラをこのまま放置も出来ない。」
「鈴さん…分かりましたわ。だけど誓って下さい、絶対無事に戻るって。」
「…了解したわ。」
傷ついたラウラを抱え医療施設の整った場所へ向かうセシリアを見送り、襲撃者と向き合う鈴音。
その瞳には、覚悟の火が宿っていた。
?「今度は、貴女が遊んでくれますか?」
そろそろブレイブボン太くんが登場しそう…。
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乙女の祈りは赤き勇者を呼ぶbraver
ラウラが襲撃者との戦いに敗れた、傷ついた彼女を医療施設に輸送しているセシリアの胸中はざわついていた。
『鈴さん、如何か無理はしないで下さいまし!』
幾ら鈴が二次移行を終えた機体に登場しているとは言え、相手の狂気は常軌を逸していた。
『ラウラさんを医療班に預けたら、直ぐ援護に向かいますわ。だから、如何かそれまでは持ち堪えて下さいな!』
今思うのは、戦地に残ったこの学園で出来た親しい友の顔であった。
そして、セシリアの思う当人は…。
「ふっ!」
「アハハハ!貴女も、楽しませてくれますね!」
「このっ!喰らえ!」
襲撃者と激しいチェイスバトルを繰り広げていた。
鈴音の甲龍天は、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンゲヴィッターヴォルケ程近接格闘に特化した進化では無く、何方かと言えば中遠距離に特化するように変化した。
その為、インファイトより一定の距離を空けて戦うヒット&アウェイを選択したのである。
鈴音にスターブレイカーの閃光を撃つ襲撃者、それを片方の竜操機構を操作し龍鱗壁で守りもう片方で龍咆を打ち出す鈴音。
「くふふふふふ!あの黒い方が倒れて退屈な戦いしか出来ないかと思っていましたが、貴女も相当な手練れでしたか!良かった、まだまだ楽しめそうです!」
「本っ当に、思考が狂ってるわねあんた!」
「あらあら!それは、私にとっては誉め言葉ですね!」
この状況でも発言を止めず寧ろ饒舌になるばかりの襲撃者に、思わず声を大にして反論してしまう鈴音。
彼女達の掛け合いと熾烈を極める射撃戦で、何度も雲が掻き消え空が震えた。
光の奇跡を描きながら、猛スピードで時に片方が接近してはすれ違う様に離れ、距離が空けばレーザーが奔りそれそれを空を切って躱せば不可視の弾道が目標に放たれるが着弾する前に離れる、ラウラの戦いがボクシングだと例えるなばこちらは騎馬戦の様なものだった。
一度でも気を抜けば若しくは立ち止まれば、次に待つのはハチの巣になる未来のみ。
それが直感で理解できる位には、両者の纏った気配が真に迫っているのである。
『流石に早いわね、如何にか足止めでき無いかしら。』
止める事さえ出来れば後は如何様にも出来ると言うのにと、歯痒く思っていた。
『ふむ、鈴音よ止められれば良いのだな?』
甲龍のコア人格が落ち着いた声で問いかけて来た。
『えぇそうよ、如何にか出来る?』
『任せろ。とは言え、お主にも手伝って貰うがな。』
『分かってるは、何をすればいいのかは。』
『流石鈴音だ、では良しなに。』
『了解!』
甲龍との相談を終えて、鈴音は何時もの様に地点を指定してその場所に意識を集中した。
「あら?追いかけっこは、もう終わりですか?」
急に立ち止まった鈴音を訝しみ、距離を離して観察した。
やがて、両者の中間に謎の引力場が発生した。
「なっ!これは、引っ張られる!」
突然生まれた引力に引き付けられる、急いでブースターを最大にして力場から逃れようとするが、現在の地点を維持しているのでやっとな状況である、当然ながら移動も制限される。
「くっ!落ちなさい!」
ついさっき迄の狂気は成りを潜め、必死に抵抗する姿を見せる。
現状で引力場を生成していると思われる鈴音にスターブレイカーのレーザーを照射するが、その光すら引力場に吸われ大気の渦の中に堆積した。
「こっこれが、貴女の単一能力だとでも言うのですか⁉」
「半分正解、半分ハズレね。」
「なっ!」
遂に堪え切れず、片手に持っていたレーザーナイフを手から放してしまう。
そのレーザーナイフが渦に吸い込めれそうになった時、ナイフが粒子化して吸収された。
「まさか…!貴女の単一能力は…!」
「何を考えたか知らないけど、恐らくその通りよ。喰らいなさい、天龍気功吼!」
堆積した大気や粒子が引力場から衝撃波となって放たれた。
「くぅぅぅ!」
大気と分解圧縮されていた粒子が渦となって、襲撃者を飲み込んだ。
これが、甲龍天に新たに会得した単一能力【龍的呼吸】である、詰まる所龍が呼吸する様をイメージした能力であり、操縦者が指定した地点に引力場を発生させ一定の大気や敵からの攻撃エネルギーなどを粒子化して堆積した後、衝撃波として打ち出すのである。
龍咆の欠点でもあった、距離が離れれば離れる程威力が落ちると言うものを克服する為に、甲龍が生み出した能力であり、この機体最大の攻撃力を誇る技でもある。
しかし、これを発動する為には竜操機構を最大出力で使用しなければならない為、一度発動すると長時間のクールタイムが必要なため暫くの間竜操機構が使用できなくなるのである。
「流石に、落ちたわよね…?」
あの一撃が自分達に取って必殺必中の一撃である、流石にあれ以上の攻撃はもう繰り出せない。
祈る思いで、襲撃者が飲み込まれた場所をじっくり見る。
「あ、危ない所でした。」
「う、うそ…。」
何と襲撃者は健在であった、半壊したシールドビットの後ろに隠れてやり過ごしていたらしい。
「ふぅ、やってくれましたね。フフフ流石に、もう駄目かと思いましたよ…。」
「タフ過ぎるでしょ、アンタ…。」
「お褒めに預かり光栄です…。」
あれだけやり合って、まだ落ちない襲撃者に頬を引き攣らせる。
「では、反撃させてもらいますね?」
「うっ、くぅぅぅ!」
竜操機構が使用できず、龍鱗壁が張れなくなった鈴音には相手の攻撃を止める術は無く避けて湾曲したレーザーに狙い打たれ、遂にダメージの限界を迎えた。
「鈴さん!」
「セシリア…。」
ここに来て漸く戻って来れたセシリアが鈴音を抱き留める。
「鈴さん…ごめんなさい。わたくし、結局間に合いませんでしたわ…。」
「気に…しないで、私がとちっただけよ…。」
「鈴さん…!」
攻撃を受け続け、ボロボロになった鈴音を強く抱きしめ自分の体で隠した。
「…貴女は、遊び相手にはならなさそうですね…。余計な時間を食いました、一瞬で終わりにしましょう。」
「逃げて…セシリア…。」
「嫌です!鈴さんを、置いていくなんて!」
冷徹に投げ掛けられる言葉に、唇を噛んで堪えこれから繰り出される攻撃から鈴音を庇おうと構える。
今の自分では如何に武器の数で勝ろうと追い詰められるが目に見えている、だからこそせめて傷ついた友の盾に成ろうと心に決めた。
「それでは、さようなら。」
冷淡に感情の篭らない声で、最後の一撃が放たれたその時。
「ふぇ?」
目を閉じて攻撃に備えていたセシリアは、いくら待っても訪れない衝撃に不審に思って目を開けるとそこには。
「ふもっふ?」『ケガは、ございませんか?』
巨大な戦斧を手にした赤いボン太くんが、此方を見てそう呟いた。
?「またですか…。」
最後チョロットだけ登場…。
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誓いの炎燃ゆるは勇者のボン太くんdetermination
御手洗数馬は、舞台上で公演されている演劇を観覧して自分でもよく分からない複雑な心境になっていた。
舞台の内容から言えば、大分アレンジされオリジナルからはかけ離れ過ぎたシンデレラであったが、ある少女が登場した時に彼は僅かだが何故だが心臓を掴まれたような痛みを感じたのだ。
この痛みが何なのか、この手の経験が無い数馬は理解出来なかった。
だが確かに、不快感に似た感情を感じている己が居る事に嫌悪していた。
『一体何だと言うんだ、セシリアさんが出会ってから可笑しいぞ俺…!』
夏休みにセシリアと出会ってから、時偶に彼女の事を思い浮かべては意味の分からない幸福感を覚えていた彼には、自分の心中を把握できずヤキモキしていた。
今日この日も、送られて来た招待状の送り主の署名の所に彼女の名前を見た時から必要以上に浮足立っていたのである。
まぁ、普段から感情を表情や行動に出さない様に訓練されて来た数馬だったからか傍目には分からなかったが、それなりに付き合いの長い弾だけは何となく察しいていた。
「落ち着けよ数馬、あの劇の内容からすれば一夏とセシリアさんが親密になる事は無いって。」
「…何を言っている、俺は落ち着いているぞ…。」
「あのなぁ…だったら、その潰れたパンフレットは何だってんだよ。」
「む?」
弾に指摘されるまで、自分の手の中でグチャグチャに潰れた校内案内のパンフレットの存在に気付かなかった、いつの間にか手に力が篭ってしまっていた事に気付けない程、数馬の心中は穏やかではなかった。
その後、王子に挑むシンデレラの人数が増え、戦いの場が広場に移ろうとした時突如照明が落ち会場全体が暗くなった。
辺りが少し騒がしくなるが直ぐに明かりが戻った、だが移動していた筈の王子役の一夏が忽然と姿を消していた。
何が起きたか分からず、騒然とする会場内の様相。
そして、数馬も突然一夏が消失した事に不穏なものを感じていた。
暫くの沈黙後、ナレーションの声を演じていた声の主から現状報告が告げられた。
「えぇっと、現在王子役の男子生徒の行方が分からなくなっております。所在が分かり次第、演劇は再開しますのでそれまでは現在のお座席からなるべく移動しない様にしていて下さい。」
王子役の行方不明の報に、会場全体に落胆の声が上がる。
「落ち着いて下さい。今、本公演の関係者が鋭意捜索中でございます。必ず見つけますので、それまではお座席を動かないようにお願いします。」
再三の座席での待機を促す言葉に、数馬は益々不信感を募らせた。
『まるで観客に、外は危険だから移動は控えろと言ってる様だ…。』
気付けば舞台上に居たシンデレラの殆どが退散していた、普通に考えれば王子役の一夏の捜索に向かったと考える所だが数馬は言い様の無い違和感を感じていた。
「……そうか!誰も、舞台のセットを調べようとしてなかったんだ!」
「え?」
「普通は、行方が分からない人間を探す時は失踪する前に居た場所を中心にして捜索網を形成するんだ、だが誰一人として舞台の上どころかセットにも捜査を行った形跡が無い…。」
「なっ!それって…。」
「恐らく、一夏はただ消えたんじゃない。誰かの手よって、何処かに連れ去られたんだ。」
「数馬⁉」
「そして、今はその人物と交戦状態にあるんだろう…俺が一夏なら、そうしてる。」
「じゃあ、シンデレラが全員舞台上に居ないのは…。」
「陽動か何かで襲撃戦になるのを警戒して待機してるんだろ…恐らくな。」
数馬が自身の推察を口にしていると、外から大きな音が響いてきた、その後に続いたのは逃げ惑う人の悲鳴と激しい戦闘音だった。
会場の中は少しずつ不安感が広がっていった、その時さっきの声とは別の人物の声が会場全体に諭すように語り掛けて来た。
「落ち着いて下さい。現在、会場の外で謎の勢力による攻撃を受けていますが、学園側も防衛措置を取っています。この場所は普段アリーナとして機能している施設ですので、セキュリティーのレベルもこの学園でも最高水準の物を使用されています。ここで安静にして下されば当面の安全は保障できます。」
このアナウンスの効果は定かではないが、先程よりか観客も落ち着きを取り戻していた。
しかし、数馬は席を立って通路に向かって歩き出した。
「お、おい数馬!」
「済まん。少し用を足してくる。」
「…そうか、ゆっくり済ませろよ。」
「あぁ、そうさせて貰おう。」
弾が何かを悟った様に数馬を送り出すと、彼は通路に出て脇目も振らずに通用口に直行した。
「まさか…な。」
今も感じている焦燥感、思い浮かべるのはセシリアの顔だった。
彼女の身に何か起きようとしている、そう思えてならないから数馬が焦っていた。
今の自分にできる事は無いだろう、だがそれを理解できていても彼の体は彼女を探して外に出ていた。
悲鳴が飛び交い人々が我先に逃げ場を求めて走り回る騒乱の中を、彼は目的の人物を求めて走り出した。
何時間も探し回り、時に危うい場面にも遭遇したが如何にか切り抜けセシリアを探す、そんな時である上空に傷ついた仲間を何処かに運ぶISを纏った彼女を見つけたのは。
最初は安堵した、しかし傷付いた人物を目にした時彼は目を疑った。
「あの人は……ラウラさん⁉」
彼女の事は一夏や鈴音から聞いていた、これまで出会った人間の誰よりも伸びしろの有る人物だと一夏から教えられ、鈴音からは一夏を除いたら今居る仲間の誰よりも強い猛者だと聞いていた、そんな彼女が見るも痛ましい姿で運ばれている、その光景が彼の心の冷やさせた。
もしあそこで運ばれていたのがセシリアだったらと、最悪な方向に思考が向かう。
『寒い…恐ろしい…俺は…俺は、何もできないのか⁉気高い彼女を、それでも何処か儚いセシリアさんを守れないのか⁉』
彼の心に失う恐怖が過ぎった時、何処からか特攻野郎的な音楽が聞こえて来た。
「何なんだ、こんな時に…?」
場違いに明るくある意味で現状とマッチしてなくもない少々不謹慎な音楽、しかし自己嫌悪と力不足の己に嘆き憾みかけていた彼の意識を良い方向に引き戻してくれた。
「何処から流れて来たんだ?」
冷静になった彼は、先程から聞こえているこの音楽が何処から放送されたものなのか疑問に思った。
何故なら、周りは錯乱状態なのである。
もし他にも、これを聞いていた人間が居たらその人物も彼の様に立ち止まって落ち着きを取り戻していただろう、故に彼は恐らく自分にしか聞こえていないであろうこの音楽の出所を探り始めた。
聞こえて来る音を頼りに、人込みを外れ学園防衛に駆り出されて全く人の居ない関係者以外進入禁止エリアにまで足を進ませた。
「此処か…この中から、この音が出ているのか?」
彼が辿り着いた場所は、何かの研究施設の様な出で立ちの建造物だった。
「なっ!ドアが勝手に…!」
彼が建物の入り口に近づくと、独りでに自動ドアが開き招き入れる。
訝しげにドアを潜ると、また音を頼りに通路を進む。
「この部屋からだ、音が大きく聞こえるのは…。」
そこには、もう既に開かれていた入り口が在った。
ここ迄くると彼はもう迷わなかった、音の発生源を突き止めるこの一点のみが彼を突き動かした。
そして、遂に埃避け様の布に覆われた何かを見つけ出した。
「これだ…。」
その存在を隠している布に手を掛け、一気に剥がした。
「なっ!これは、赤い…ボン太くん…!」
露になったその姿に数馬は息を呑む、朱の色をした鮮烈なる姿に男女両方いや人類の願望の体現者である愛らしく勇ましい出で立ちに自分達を魅了し引き付ける容姿にそれら全てを語ったとしてもまだ語り足りぬ程の魅力あるボン太くんが燦然と安置されていた。
「君が…君が、俺を呼んだのか?」
まるで神仏に触れるかのように恭しく、恐る恐る手を伸ばし赤いボン太くんに触れた。
「うっ!」
一瞬、目の前が眩く光その後で様々な情報が頭に流れ込んでくる。
行き成りの事で、目を瞑っていた彼だったが感覚が戻って来たのでゆっくりと目を開く。
「ふも?」『これは?』
『ブレイブボン太くん補助AI【ガンマ】起動します。』
「ふっふも⁉」『な、何だ⁉』
『パイロットネームを登録して下さい。』
「ふもも?ふーふもっふもふー。」『パイロットネーム?御手洗数馬だ。』
『了解。【御手洗数馬】を本機のパイロットとして登録します。』
驚き過ぎて一周回って冷静になった数馬は、淡々と現状を把握していった。
『私はガンマ、本機男性対応型ISコアテストタイプ及びアルビノ型三号機ブレイブボン太くんの補助AIです。これからよろしくお願いします。』
「ふもふーふももっふ。」『ガンマか、よろしく頼む。』
『早速ですが、動作テストを始めたいので指定の地点まで移動して下さい。』
「ふもっふ。」『承った。』
ガンマの指示で部屋を出たBボン太くんは、歩調を確かめながら指定された場所まで移動した。
「ふもっふ?」『カタパルト?』
『発進準備は完了している様です。そのまま、スタート位置でスタンバイして下さい。」
「ふもっふ。」『了解。』
指示通りカタパルトのスタート地点に移動すると、体が浮き上がり浮遊状態になった。
『出撃します、コールを。』
「ふもふーふもっふふるるっふ!」『御手洗数馬、ブレイブボン太くん発進する!』
カタパルトから射出され外に飛び出したBボン太くん、そして視界を確認しているとセシリアが飛び去って行くのを視認した。
「ふもっふ…ふもふももふーっも!」『セシリアさん…ガンマ、彼女を追いかけるぞ!』
『了解です。追跡を開始します。』
Bボン太くんが、彼女を追い掛け如何にか追いつくと正に鬼気迫る状況だった。
「ふも!ふっもふ!」『ガンマ!武器を!』
『了解。武装を展開します。』
展開された戦斧を振るい、セシリアとの間に入ってレーザーをかき消した。
攻撃を防ぐと、Bボン太くんは振り返り彼女と向き合った。
「ふぇ?」
閉じられていた瞳が開き、Bボン太くんをその双眸で視認した時彼はゆっくりと語り掛けた。
「ふもっふ?」『ケガは、ございませんか?』
Bボン太くんから見たセシリアの瞳は、青く揺れていた。
セシリア「貴方様は、一体…?」
あと一話で締められそうです。
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そのボン太くん宛ら阿修羅の如くfierce god asura
ここ迄、二度もの激戦を繰り広げその相手となった二人を悉く退いた襲撃者も、突如現れセシリアと自分の間に割り込んだ乱入者に底知れぬ圧迫感を感じていた。
今までの相手とは何かが違う、あの赤いボン太くんから流れ出る気配はここに居る誰より強く一線を画している。
例えるならば、鬼の様に恐ろしく反面神仏の様に神々しく穏やか、そんな相反する二つが同居したような気配を乱入者から感じ取っていた。
『ただそこに居るだけ、たったそれだけで震えが止まらない⁉』
セシリアを見ると怯えた様子がない事から、背中越しに更には自分だけにこのボン太くんは殺気を向けている。
まるで、今手を出したら命は無いと脅す様に威圧しているかの様だった。
「ふも…ふもっふ。」『さて…待たせたな。』
セシリアの無事を確かめたのも束の間、赤いボン太くんがゆっくり正面を向いた。
向き合ったからこそ判る、この人は自分を倒せると。
強者との戦いは望む所である筈の自分が、心の底から怯えこの場を離れたがっている。
認めたくない己の感情が、生存本能と言う形で否応も無し叩きつけられる。
恐怖で一言も話せない、さっき迄あれ程饒舌だった彼女の口は、この場を支配した圧倒的な殺気によって固く閉ざされもう開ける事すら出来ない。
「ふもふー?ふっふもっふ…!」『来ないのか?では此方から行くぞ…!』
その一撃は一瞬だった、手にした戦斧の大きさから考えられない程の加速で接近され振り下ろされた斬撃の重さと速さ全てが襲撃者の知るISのそれを凌駕していた、防ぐ事も躱す事も出来ぬまま得物の重量にスピードが加算され恐るべき破壊力となって襲撃者を捉えた。
「グッハッ!」
ただ一撃与えられただけである、それもただ巨大な斧をただ振り下ろされただけ、その筈なのに肺の空気を衝撃で押し出され一瞬呼吸が止まった。
「はぁはぁはぁはぁ!」
肺が空気を求めて呼吸が荒くなる、一時的な酸欠で思考能力が著しく低下し自分が今何をされたか理解できなかった。
それから暫く追撃は無かったが、ただ一撃でここまで自分が追い詰められた事に彼女の精神が理解を拒んだ。
「ありえない…遺伝調整を行われてる訳でも無いのに…そんな、篠ノ之束みたいな人間が居る訳…⁉」
「ふもっふ。」『黙れ。』
「がぁはっ!」
またして捉え切れない速さで一撃を放つ赤いボン太くん、襲撃者の精神はこの時点で崩壊寸前だった。
「ウ、ヴヴヴヴヴ!」
声にならない絶叫を伴って、襲撃者は自暴自棄の乱雑な攻撃を放ち続ける。
「ふもふもっふ。ふーもっふふももっふー!」『自棄になったか。そんな精細を欠いた攻撃で勝てると思うな!』
戦斧を盾代わりにして身を守り、何時に間にか展開していた斬馬刀で反撃する。
獣の様な猛攻をたった二本の腕で捌き、鋭い反撃を繰り出す様を見ていたセシリアは、赤いボン太くんの腕が六本有る様に錯覚した。
「あの…戦い方は、数馬…ね。」
「鈴さん!」
赤いボン太くんを見ていたセシリアの腕の中で、鈴音が痛みを堪えながら静かに語りだした。
「私が転校する前、丁度中学に入りたてだった時の事だった。」
「喋ってはいけませんわ!傷に障りましてよ!」
「大丈夫よ、今は聞いて。あれは、学校外でも相当幅を利かせていた二つの不良グループが抗争を始めた時だった。」
鈴音が語りだしたのは、彼女の中学時代の事だった。
「鈴さん…分かりましたわ、最後まで聞きましょう。」
「ありがとう。あの日の事は県内でも結構大きい話題になったのよ、その日はね別の中学の制服を着た男女数人が私達の通っていた学校の校門を占拠したの。」
「それは…確かに話題にもなりますわね…。」
「えぇ、実際当時も警察雑多に発展しかけた問題だった。何せ原因が、当の不良グループ同士の抗争にその学校の生徒が巻き込まれた事だったしね。」
鈴音の説明に補足するなら、被害に遭った他行の生徒というのはその学校の不良たちの顔役だった男子生徒の妹だったらしい。
しかも実害を与えた生徒は、その抗争の最中に大怪我を負い入院していた事も不運だったと言っておこう。
「下校時間も近かった事も有って、帰宅しようとしていた生徒も大勢居たのよ。その中に、一夏と数馬も居た…。」
彼らは、帰宅する生徒を強引に引き留め囲い込んだ後に件の生徒の事を聞き出そうとした、中には恐怖で泣き出し真面な受け答えが出来なかった生徒も居てそれも事態をややこしくしていた。
「そんな状態を見るに見かねて、二人が占拠していた他校の生徒達と話し合いで決着を着けようとしたのよ…。」
しかし怒りで頭に血が昇っていた男子生徒が一夏と数馬に掴み掛り黙らせようとし、それに続いた取り巻き達も二人を囲い込み逃げ場を塞いだのである。
「そこからね、あの二人が凄かったのは…。一夏は想像できるでしょうけど、数馬も相当だったわ。」
二人は囲い込まれても最初は静止するように声を掛けていた、それでも感情に引っ張られ攻撃を繰り出す男子生徒を往なしながら冷静になる様に再三亘り声を掛ける。
幾ら攻めても攻撃は当たらずだんだん疲弊の色が見え始めた時、風紀委員をやっていた女子生徒が輪の中に割り込んでくる。
「あれは度肝を抜いたは、流石に無茶が過ぎてたわ。」
無論、冷静さを欠いた男子生徒は急に乱入してきた彼女にも牙を剥いたのである。
彼女の顔を狙い右拳で殴りかかる光景を見た一夏は、男子生徒の腕を掴みアームロックを掛けた。
当然であるが痛みに悶絶する男子生徒を助けようと取り巻きも輪を崩して一夏に襲い掛かる、それを制したのは数馬だった。
襲い来る他校の生徒の急所を的確に狙い、ほぼ一撃で沈めていく。
「その時、余りに無駄なく仕留めていくものだから腕が六本に増えて見えたのよ。」
結局この後、校門を占拠していた生徒達は男子生徒を締め落した一夏も加勢して全員無力化された。
この時の二人の姿を見ていた、校内の生徒達は二人に尊敬と畏怖の意味を込めて、一夏にスサノヲそして数馬に阿修羅の君命を付ける事になった。
「それで、あのボン太くんを数馬さんだと…。」
「えぇ、でもそうとしか考えられないわ。あんな戦い方を出来る奴は、数馬しか知らないもの。」
鈴音の核心に迫った顔と言動に、セシリアはもう一度赤いボン太くんを見る。
「待たせたな、他を回っていたら遅くなった。」
「隊長!」
「待たせ過ぎなのよ…。」
一夏の通信が聞こえ後方を見やると、彼と学園に紛れ込んでいた密偵そして黒いボン太くんがそこに居た。
「此処が最後だ、早くしてもらおうか?」
「くっ!行動停止コード『スリープ』を実行…。」
密偵の声がキーとなりアラストルの大群が行動を停止した。
「ふっ!はぁぁぁぁ!」
赤いボン太くんに押されていた襲撃者が密偵を視界に捉えた時、最後の力を振り絞り密偵を捕えていた一夏達に攻撃を仕掛けた。
「ふも!」『何!』
「!ふもっふ!」『!兄さん!』
降り注ぐレーザーを一夏との間に入ったRボン太くんが受け止め彼には実害はなかった、そう彼には…。
「…随分ボロボロですね、結構手こずりましたか?」
「そう言う貴女こそ…いえ、相手が一夏兄さまと円夏姉さまでは仕方ありませんか。」
「取り敢えず今は、撤退を念頭に置いて行動に移りましょう。」
「はい…。」
「ふも!ふもっふ!」『待って!真冬!』
相手の陽動に気を取られ、密偵から気が逸れた瞬間を狙って彼女を回収した襲撃者、その背中にRボン太くんが声を大きくして呼び止めるが彼女たちは立ち止まる事はなかった。
「追いますか?」
「いや、深追いはするな今は被害の状況を確認したい。」
傍に来ていたヴィシュヌが一夏に問い掛けるが、彼は追跡よりも被害状況の確認を優先した。
「ふもっふ…。」『真冬…。』
「君も来なさい、事情を話して貰いたい…今回の事、そして彼女らの事もね…。」
「ふも。」『はい。』
IS学園襲撃は、ここで一旦幕を下ろした。
しかし、この事件は多くの疑問を残す事になる、二機のボン太くんの介入から黒いボン太くんが襲撃者に呼び掛けた真冬という名前、この事が後々に如何言う影響を与えていくのかは、まだ誰にも解らない。
円夏「真冬…ごめんね…。」
後日談挟んだら、次いきます。
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IS学園の祭りは内密に終わるfinal curtain
襲撃騒動から一夜明け、負傷したラウラと鈴音を除いた防衛部のメンバーがほぼ全員ルアド・ロエサに詰めていたが、ここにはそれ以外の人間も居た。
円夏と数馬の二人が、其々の円卓の席についたメンバーたちの注目を受けながら向かい合う様に立っている。
その他にも教師陣の代表者として千冬、防衛部の顧問の愛子それから何故かテッサと護衛のスコールとオータム、更には円夏の同行人としてクララとアデリーナもこの場に集められていた。
「二人とも楽にしてくれ、この場は尋問の場ではない。飽く迄、君達其々の事情を聞かせて貰う語らいの場だとことわって置こう。」
「はぁ…理解しました。」
「此方も承知した。」
全員の前で起立したまま発言のする様子が無い二人に、一夏は緊張をほぐす為に話し掛ける。
「隊長、彼女に一つ質問がしたいのですが。許可を頂けますか?」
箒が手を挙げ、一夏に質問する許可を伺う。
「クイーン5か、良いだろう質問を許可する。」
「ありがとうございます。では…。」
一夏が許可を出して、箒が円夏に視線を向け言葉を続ける。
「若しかしたら、今からする質問は貴女に取って答えたくない事に当たるかもしれない。その場合は答えなくても構わないが、もしそうで無ければ答えて欲しい。」
「分かりました。」
「貴方の容姿について聞きたい。貴女は、こうして見ても織斑先生とよく似た容姿をしている。如何言った関係にあるのかを聞きたい。」
「それは…。」
「その質問は、私達が答えるわ。」
箒の質問の答えに窮していると、見兼ねたスコールが代わりに答える。
「彼女は織斑円夏、織斑夫妻の下に居た千冬さんと一夏君の実の妹よ。」
「なっ!」
「……。」
スコールが語った衝撃的な事実に箒は驚き円卓に座るメンバーも殆どが無言の困惑を示した。
だが一夏に驚いてる様子は見られず、寧ろ承知していたんじゃないかと思わせる態度を取る。
「隊長…いや一夏、お前は知っていたのか?」
「知らなかった。だが予想は出来たよ、何せ彼女が初対面の筈の俺を兄さんと呼んだからな。」
「そうなのか、織斑。」
「はい。疑問に思っていましたが、彼女の容姿を見て合点がいきました。」
「ふむ……円夏と言ったか?」
「は、はい!姉さ…千冬さん。」
「……私の事は、姉とは呼んでくれないのだな…。」
「えっ?あっ!いえ、決して悪気があった訳じゃなくて……その、今まで会った事も無い私に姉さんって呼ばれるのは嫌じゃないのかなって…。」
「…はぁ、嫌な訳ないだろう。普通に姉さんで構わん。」
「!はい!姉さん!」
千冬の呆れた様な慈しむ様な声音を聞き、こみ上げて来るものを抑えられず少し涙ぐみ元気よく答えた。
微笑ましくも暖かな織斑家の会合は、緊張が取れてなかったこの場の空気を緩ませてくれた。
「あの…隊長、わたくしからも一つ宜しいでしょうか。」
円夏と織斑姉弟の事で流れつつあった状況を、おずおずと手を挙げたセシリアが引き戻した。
「何だ、クイーン3?」
「いえ。何故、彼が…数馬さんが、ISを動かしていたのかをまだ話し合っていませんので。」
「「「!」」」
セシリアの発言で出席者達は其々二種類の反応を示した、一夏以外の男性がISを動かした事実を思い出して困惑する者と訳を知っているのか平静を保った者、前者は真耶と円卓の席に座る防衛部のメンバーで後者はミスリルに深く関わりを持っている人間であった。
「クイーン3、それからここに居る全員にはこれから言う事は口外厳禁で頼む。」
「?はい…?」
「数馬、お前にも言っておかなければならない事だ…。」
「……分かった。」
全員に注意喚起を行い、一息入れてから一夏は語りだした。
「先ずは、何故数馬がISを起動させられたかについてだが、これの答えは数馬のBボン太くんが現在試験段階の男性反応型ISコアを使用されているからだ。」
「なっ!」
一夏の説明はとても衝撃的だった、それは何故一夏がそんな事を知っているかと疑問に思うよりも男性に対応できるISコアの開発が早すぎる事の方が大きかった。
「俺と言うベースが有るとは言え、研究から開発に至るまで膨大な時間を要する筈だったんだが…。」
「私が束さんの研究のお手伝いさせて貰いました。」
言葉を区切った一夏の後にテッサが続いた。
「そう言う事だ。他にも相良先生も関わっているからな、開発自体は早期に完成していたらしい。」
「成る程…理解しましたわ。」
この世界でもトップクラスの頭脳を持った人間が集まれば、原型が有る物ならばそこまで時間をかけずに形にできるのは道理である、しかも財力もあるから資金面の心配も無かった。
「ただ問題が一つあった、国際IS委員会の承認を得る為の実機試験を誰にやって貰うか、当然最初はミスリルの社員が候補に挙がったが直ぐに取り止めになった。」
「何故ですの?」
「一夏君の事があって警戒され始めてたんだよ、それで一般から応募を募ろうって案が出たんだけど…。」
セシリアの疑問に、今度は愛子が回答を示し最後は言葉を濁す。
「今度は女性権利団体からの妨害の可能性が出て来てしまった。だから最終案として、現状で唯一の男性IS操縦者である一夏君に候補者の選定を一存しようってなった訳よ。」
言葉を濁した愛子に代わり、スコールが続けた。
「そこで候補者として数馬を推薦した、勿論女性権利主義者からの目を逃れる形でBボン太くんを起動出来るように準備も整えてな。」
「…そう言う事ですの、何だか話が大きすぎて理解できてない部分も有りますが大体は読めましたわ。」
「待ってくれ!」
事情を理解して話をたたみに係る時に、件の話の中心人物であった数馬が声を出す。
「その話の内容だと、今日俺がこのBボン太くんを動かすのは確定事項だと聞こえるが、俺がBボン太くんの場所まで辿り着き更に起動できる確証なんてなかったはずだろ!」
「いや、確証は有った…。」
確かに数馬の意見も至極当然な事だった、だが一夏は静かにそれを否定した。
「Bボン太くんの機動のカギとなるのは、特定の誰かを強く意識する事とボン太くんへ愛の深さだった。俺が想定していた状況では、十中八九その条件が揃うと踏んでいた。何せお前は俺より熱くなりやすいタイプの人間だからな、あの場に居合わせれば必ず戦闘中のセシリアと遭遇する。」
「なっ!」
「へぁ!」
一夏の爆弾発言に揃って顔を赤くする二人、またも場の空気が生暖かくなる。
「さて、初々しい二人は置いておくとしてこれから如何する?」
そろそろこれからの方針についての話をしたい楯無が、一夏に話を振った。
「それについてですが、明日の全校集会で我々の事を公開しようと思います。」
「うん、私もそれは考えていたわ。でも、その後の事を此処で決めておきたいの。」
「大丈夫です。その後についても策は有ります、抜かりは有りません。」
「そう…今ここで、その策ってやつを聞かせて貰えないかしら?」
「すいません指令。実はこの策は即効性に優れる分、多少荒業な部分が有るんです。今ここで話したら、多分ですが数馬が反対します。」
「…おい、何やらせるつもりだ?」
「ふっ…当日のお楽しみだ。」
不穏さを隠さずに外に出す一夏の言動に、一同は一抹の不安が過ぎった。
数馬「何か…寒気がする。」
すいません遅くなりました。
そして、まだまだ後日談は続きそうです。
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種明かしと帳尻合わせalternative
以前にも、この空気は感じていた。
ただ、一つ違うとすれば……彼、織斑一夏の現在の所在だろうか?
暗転した舞台袖に控え自分の出番を待つ彼の表情は、何処か楽しそうである。
それは、彼の後ろに控えていた織斑円夏と御手洗数馬にも容易に汲み取れた。
今日この日、一夏は自分の立場を明かしその後来るであろう、非難の言葉を躱す為の己の策を使い時を今か今と待っていた。
「余裕ねぇ~一夏君。」
「えぇ勿論!寧ろ、ワクワクしています!」
「ははは、貴方も相当いい根性してるわね。」
数馬は、そんな一夏と楯無の間で交わされる不穏な会話を聞かない様にしていた。
「お嬢様、そろそろ。」
「あら、もうそんな時間?じゃあ、一夏君お先に。」
楯無を呼びに来た虚に顔を向けて答え壇上に進み出る、壇上から見回した生徒達の期待と不安の入り交じった視線を受けて、これからこの場が阿鼻叫喚に変わるのかと思い少しばかり不憫に感じる。
『でもこれも、学園を守る為よ!』
そんな心にも無い言い訳を、胸中で囁いて視線を前に戻す。
「皆さん、昨日までの文化祭はお疲れさまでした。最後はトラブルもありましたが、概ね平穏に終える事が出来ました。」
毎度ながら普段の彼女を知る者から見て、違和感を覚えずにはいられない生徒会長然とした態度である。
「さて、前置きはこれ位にして本題に移りましょうか?今皆さんが、最も関心を寄せている事象は存じています。」
凛とした態度のまま、本題に入る楯無の姿を見ていた群衆の視線が集中した。
「結果から言いましょう。各部対抗織斑一夏争奪戦の勝者は……!」
何処からか流れて来たドラムロールに煽られて、会場の空気が緊迫する。
「私達、生徒会です!」
「「「「「えぇ~!」」」」」
完全に騙し討ちを食らった生徒達のブーイングが、会場全体で巻き起こる。
矢張りこうなったかと、心中で呟くと表情に出すことなく、予定通りに事を進める。
「投票数一位は、生徒会主催の演劇【シンデレラ・ウォー】でしたのでこういう結果に成りました。」
「納得できないわ!」
「こんなの、いかさまじゃない!」
まるで、会場を煽るかのような発言に激しいバッシングが投げつけられる、しかしこうなる事は予想出来ていた事である。
ある程度の覚悟はしていた為、さして問題はない。
いや、覚悟などしなくとも、楯無なら受け流す事位は容易いかもしれないが。
何にしても、この空気では真面に話を聞いてはくれないだろう、そこで早々に場を落ち着かせる方策を取る事にした。
「皆さんの言分は判りました!しかし、このままでは埒が明かないと思います。ですので、今回の争奪戦のもう一人の企画者である防衛部の隊長からも説明をして貰おうと思います。」
その言葉の後に、舞台袖の近くにスポットライトが当りそこに立っていた人物が照らされた。
「え?」
誰の言葉だったのか、いや若しかしたらこの場に居る全員が思わず零してしまった呟きだったのかもしれない、何故なら…。
「では、防衛部隊長織斑一夏君。壇上までお願いします。」
「はい。」
それもそうだろう、渦中の人物である筈の織斑一夏が学園の物とは違う衣装を着て立っていたのだから。
そして、虚に促されて楯無の居る壇上に足を進める、一体全体何がどうなっているのか、状況を正確に把握できていない生徒達は、その光景を黙って見ていた。
「先程も紹介にありましたが、私からも自己紹介をさせてもらいます。私が、生徒有志防衛部隊通称防衛部の部長兼隊長を任せられている、織斑一夏です。」
「「「……えぇ~!」」」
現状を上手く汲み取れずに固まっていた生徒達が、一夏の自己紹介が終わると共に現実へ引き戻されて楯無の時よりも大きなどよめきとなった。
「ど、どいう事?」
「織斑君が、防衛部の隊長って?」
「いやそれ以前に、織斑君が部長って事は学園祭の前からもう既に防衛部に所属していたって事?」
「という事は、最初っから嵌められてたの⁉」
壇上の下から、困惑した生徒達の会話を聞いていた一夏は、心の中で意地の悪い笑みを浮かべて次の工程に移った。
「では、簡単にですが今回の経緯を説明させていただきます。」
一夏の一言で、ざわついていた生徒達が壇上の彼に視線を集中させた。
「事の起こりは、二学期の初め迄遡ります。私は、生徒会長より模擬戦の申し出を受けました。」
「「「!」」」
唐突に告げられた、自分達があずかり知らぬ場所で起きたであろう出来事に驚愕する一同、そんな彼女らの反応を見た一夏は先を続けた。
「結果から言えば、引き分けです。」
「この結果に、嘘は無いです。彼は、私と戦いそして引き分けになりました。」
「ですが、その試合の後に会長より学園側の警備が問題視され始めた事と生徒にも警備に携わるように通達があった話を聞き、その場に居た防衛部のメンバーと共に話を受ける事にしました。」
彼が防衛部に所属する切っ掛けを聞いて、何となくだが当時の事情を察した生徒達は何も言わなかった。
特に楯無と同学年以上の生徒達は、彼女がこの手の事で嘘を言わない事を十分承知しているからか、懐疑的な視線は送っておらず、寧ろそれだけの実力を示した一夏を称賛している。
「今回の催しは、学園祭をターゲットにした襲撃に備える為の防衛策として考案しました。皆さんは、票を集める為に出し物に集中して下さった事でしょう。無用な警戒は時として敵を用心深くさせてしまいます。此方の動きを悟らせない為にも、皆さんには普段通りに過ごしてもらう必要がありました。」
説明をしている一夏の姿は、隊長としての気概と風格も合わさって見る者聞く者に説得力を感じさせた。
「シンデレラウォーに関しては、来場者及び一般生徒を守る為の作戦であり、アリーナというある種のシェルターに収容する為の策です。」
この言い分にも筋は通っている様にも聞こえるが、問題は何故それで票が集まったかである。
「此処から先は、会長のテコ入れによるものなのでご本人から弁明をお願いします。」
「あれ⁉ここで私⁉」
良い笑顔のまま後方に下がり、楯無を前に出す。
自分の後ろに控えている一夏の顔が、如何にも普段からよく小言を零す従者の笑顔と被り軽く恐怖を感じた。
「え、えぇっと……その、皆さんがシンデレラウォーに進んで参加してもらう為に、こっそり一夏君と同室になる権利を与えられると言う噂を流しました。そして、参加条件に生徒会の出し物に票を入れる事を提示して……。」
「……それで、生徒会が優勝できたと……。」
「はい……。」
体が縮こまり声もか細くなった楯無を見下ろし、如何にも残念な子を見る表情で目元を手で覆い顔を上に向けた、そうして少しの間立ち止まっていた一夏は顔を前に戻し壇上へ進み出た。
「皆さん、私も認知していなかったとは言え、不利益を被る様な真似してしまい申し訳ございませんでした。」
「私からも、申し訳ございませんでした!」
全校生徒の前で、深々と頭を下げた一夏に倣い慌てて後ろで頭を下げた楯無の姿を見て溜飲が下がったのか、最早誰も文句は言わなくなった。
「せめてもの罪滅ぼしという訳では無いですが、私の予定に空きがある時は出来る限り各部活動の助っ人をさせて頂きます。」
「あの……一応、彼も生徒会に所属して貰う事になるので、助っ人を頼まれる際は予め申請を出して下さいね。」
顔を上げそう宣言した一夏に続ける様に、楯無が残りの要点を付け足した。
一夏が提案した代案なら、一応の納得は出来るだがまだ不安要素は残っている、それは……。
「しかし、防衛部と生徒会の兼任になると時間も取りずらくなるのでわ?っと、思われている方も居ると思われます。」
そうなのである、幾ら本人にその気が有りまた希望申請を出しても、一夏はクラス委員長と防衛部の部長兼隊長と言う肩書を持っている他に今度は、生徒会役員としての仕事も請け負う事になっている。
流石に予定は作られるだろうが、それでもかなり限られた日程になる事は目に見えている。
「確かに、今後は私自身が多忙になるでしょう。ならば、彼らにも手伝って貰う事にしましょう!」
一夏の一言の後に、再び舞台袖にスポットライトが当り二人の人物の姿が露になる。
「?……へ⁉」
「……やられた。」
いつの間にかスポットライトに照らされた円夏と数馬が其々の反応を示した、円夏は行き成りの事で状況が上手く読めておらず数馬は友人に嵌められた事を察した様でげんなりした表情で立っていた。
そんな二人に構わず、一夏は話を先に進める。
「彼らは学園の外部の人間です。ですが、今回の騒動で学園防衛に尽力してくれました。更に続けるのであれば男子の方は最近、ミスリルで開発に成功した男性対応型ISコア実験機のテストパイロットです。」
「「「「!」」」」
この場の全員が、一夏の発言に驚愕した。
まだ表のメディアにすら公表されず、風の噂程度ではあれ話題になっていた男性対応型ISコアの実験機を駆る事になった男子が目の前に居るのだ、当然ではあるのだが。
「彼らには、今回の活躍も踏まえて本日より、このIS学園への編入が決まっています。そして、この学園に於いて二人目の男子生徒も含め防衛部の参加して、私と共に各部活動へ助っ人派遣を行って貰います。」
「なっ!」
IS学園へ編入も防衛部の所属にも理解はあった数馬ではあるが、しかし助っ人の件は完全に不意打ちだったので泡を食らった、一夏はそんな事はお構いなしに話を続ける。
「さて、めでたくも二人目の男子生徒の誘致する事に為りましたが、皆さんは彼らの実力の程に興味がありませんか?」
「それは……。」
「確かに、気になる。」
ホールの彼方此方から、一夏の意見に興味を示した生徒達からの声が上がる。
「これは、防衛部の隊長としての意見なのですが。今日の放課後、第一アリーナにて編入生二人による模擬戦をやって貰おうと考えています。気になるならば、自分の目で確かめればいい。」
強かな眼光と落ち着きながらも何処か挑発的な口調で、ホール内に居た全校生徒の心を掌握した一夏が不敵な笑みを浮かべていた。
一夏の策略により、円夏と数馬の転入初日は波乱の幕開けとなったのは言うまでもない。
楯無「何だろう……一夏君が怖い……。」
今回の一夏はドS!
何気に以前から、Sっ気は出してました。
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賑やかしい試合前enlivening
件の全校集会より時は過ぎた放課後。
「一夏の奴……!」
ピットの中で観覧席に居るであろう、この事態を引き起こしてくれた元凶である自身の友人の顔を思い浮かべ憤っている数馬。
数馬も生粋の武人である試合をすること自体に異論はない、しかし試合をやるに至った経緯は彼に取って不本意な部分が多くその心中は中々割り切れたものではない。
試合前だというのに、壇上での友人の振る舞いが思い起こされ如何にも集中しきれない事も苛立ちを加速させていた。
「あの……お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「?はい、どうぞ!」
そんな数馬の下にとある人物が訪れた、まさか自分を訪ねて来る人が居ると思わず素っ頓狂な声で返してしまう。
「あらあら、失礼しますわね数馬さん。」
「せ、セシリアさん!」
尋ね人がセシリアであると知ると、先程迄の苛立ちが霧散して別の気恥ずかしさが心を満たした。
御手洗数馬と言う男は、一夏曰く激情に呑まれやすいタイプの人間であるという、情に厚い熱血漢と表現すれば解り易いかもしれない。
そんな彼でも、セシリアと共に居る時は精神の昂ぶりが収まり代わりに多幸感とも呼べる感情が沸き上がって来るのであった。
それは、セシリアも同じであるが動揺している数馬はそれどころではない。
「な、何故こちらに?」
「え?ご迷惑でしたかしら?」
怪訝そうな顔で質問した数馬に、セシリアは若干落ち込んだような声音で聞き返した。
その様子を見ていた数馬は慌てて弁明の言葉を紡ぎだす。
「いえ!そんな、迷惑だなんて!寧ろ、会いに来てくれて嬉しい言いますか?」
「まぁ!そうなのですか?」
「はっ!俺は何を⁉いや、今のは口が滑ったと言いますか、でもその……嘘でも無いと言いますか。」
「ふふふ、落ち着いて下さい数馬さん。」
「あぁ……はい。」
顔色をころころと変える数馬を落ち着かせる為セシリアはゆっくりとした口調で宥める、そんな彼女に促され数馬は段々と冷静さを取り戻していた。
「「………。」」
完全に平静を取り戻したは良いが、今度はお互いに会話が無く何とも歯痒い空気が流れだす。
「……あ~ぁ、もう!じれったい!」
「のぁ!鈴?」
「居たんですの?」
そんな二人の様子をピットの外で見ていた鈴音が、沈黙と気恥ずかしさに耐えきれず乱入した。
「あんた等ねぇ……じれったいのよ!何この、甘酸っぱい空気!青春か⁉ロマンスか⁉部屋の外で見てたら、口の中がじゃりじゃりして敵わんわ!」
「鈴音お姉ちゃん!気持ちは解るけど落ち着いて!」
顔を赤くして吠える鈴音を宥める為に、廊下側に隠れていた乱音もピットの中に入る。
「鈴が二人⁉若しかして双子か⁉」
「いえ数馬さん、サイドテールの方は従妹の乱音さんですわよ。」
「……そうなんですか?」
「そうなんですの。」
「あんた達……はぁ、もういいわ。」
「アハハ……。」
荒ぶる鈴音を置き去りにしてまたも二人の世界を構築する数馬とセシリア、そんな二人を当てられてか呆れてか怒りが覚めてしまった、そして乱音も乾いた笑いを漏らしていた。
そんなこんなして居たら、張り詰めていた空気もすっかり解けて和気藹々とした雰囲気になるのは必然であった。
「そんな事よりセシリア、隊長から伝言頼まれてなかったかしら?」
「あら?そうでしたわ。」
少し落ち着いてきた鈴音から本来の要件を伝えられて思い出したらしい。
「一夏から?」
「はい。とは言っても、これは今回試合をされるお二人に対しての言葉らしいのですわ。」
「もう一人にも、同じ内容の言葉が伝えられているという事ですか?」
「えぇ、それでは……数馬ならびに円夏両名には、急な試合を此方の勝手で組んでしまい申し訳なく思う。しかし、君達二人にはどうしても今日中に全校生徒の前でその実力を示してもらいたかった。何故ならばこのIS学園は良くも悪くも実力主義だからだ、それ相応の実力を示した者には誠意を見せるが実力の伴わない者には何処までも冷ややかだ、従ってこの試合は両名の学園生活が実り有るものかどうかを決める試合でもある。以上ですわ。」
「……成程、一夏らしいな気遣いが判りにくい。」
「数馬さん、これはわたくしの想いでもありますの。あの時、わたくし達の間に立った姿を知られずに下に見られるのは我慢できませんわ。勝ってほしいとは言いません……ですが、隊長のように尊敬されるだけの人物であると認識されるだけの実力は学園の皆様に示して欲しいと思っていますの。」
「セシリアさん……わかりました、貴女の向けてくれた信頼に必ず応えてみせます!」
セシリアの期待の籠った視線と言葉に心を掴まれた数馬の目には闘志が宿った。
「まぁ、頼もしいですわ。」
またしても二人だけの世界に浸り始めた数馬たちを見て、鈴音は一夏がセシリアに伝言を頼んだ真意に気が付いた。
「……もしかして、逃げ道を塞いだのかしら?」
「どういう事、鈴音お姉ちゃん?」
脈絡もなく不意を突いて出て来た従姉のセリフに乱音は疑問を投げかけた。
「いや、特に深い意味はないんだけど……数馬ってさ女の子相手だと無意識に手を抜いちゃうんだよね。」
「え、そうなの?」
「うん。本人も自覚はないみたいだけどね。」
「ふ~ん……あれ?でも、この間の襲撃の時は本気だったみたいに聞いてるけど?」
「そこが、隊長の狙いね。愛の力は偉大って事よ。」
「あぁ、成程……。」
多くを語らないが大体は察せた乱音が、二人だけの世界に居る数馬たちを生暖かい目で見守る。
そうこうしているうちに、試合の時間が迫った来た。
「セシリア、そろそろ。」
「あら、もうそんな時間ですの?」
鈴音がセシリアに時間が差し迫ってるのを告げると、セシリアは名残惜しそうに返す。
「それでは、お暇させていただきますわね数馬さん。ご武運をお祈り申し上げますわ。」
「はい!見ていてください。見応えのある試合にして見せます。」
期待の籠った視線を送りながらピットを出ていくセシリアを見送り、張り切った声音でカタパルトに移動していく。
『数馬、準備はよろしいですか?』
カタパルトに現れた数馬に、ガンマがそう聞いてきた。
「勿論だ、あそこまで期待されて腑抜けてはいられんよ。」
相方の質問に、しっかりと答えまだ相対していない相手を見据える。
『それを聞いて安心しました。相手は、私と同型機ですから。』
ガンマは数馬の返答に、AIであるにも関わらず安堵した様に返した。
しかし、用心深くなるのも致し方ない彼らアルビノ型は同型機同士での戦闘は初の事でデータがないのだから。
「御手洗君、出撃準備ができました。自分のタイミングで出てください。」
数馬がガンマとの打ち合わせをしていると、担当教諭からそう伝えられる。
「了解しました。行くぞブレイブ!」
グローブ形状の待機状態から、Bボン太くんを展開し纏う。
「ふもふもっふ!」『ブレイブボン太くん出るぞ!』
「張り切って行こう!」
遅くなりました。
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阻めない願いapplication
彼女と普段から接触を持っている人間が見たら、間違いなくギャップに戸惑うであろう年相応な雰囲気を醸し出す幼い人影。
織斑家の次女、円夏は視線を忙しなく動かし落ち着かない様子を見せていた。
姉の職場であり、兄の学び舎であるここIS学園に編入できた事にいまだに実感を感じらないらしい。
もっとも彼女の年齢から言えば繰り上げ入学といった方が適切かもしれないが。
「ここがIS学園……私、本当に入れたんだ。」
「あぁ、私たちの同志としてな。」
「ッ!誰?」
誰に言った訳でもない独り言に返事が返されて驚き、思わず声を荒げて声の主の方に体を向けた。
「いい気迫だな、流石は織斑家の血筋か。」
そこには片目を眼帯で覆い銀髪の小柄な女生徒とボーイッシュな雰囲気とあどけなさの残る金髪の美しい女生徒の姿があった、その容姿に該当する人物などこの学園においても僅かしかいない。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……さん、それとシャルロット・デュノア。」
「流石に、顔と名前は知っているか……気軽にラウラと呼んでくれ、私も円夏と呼ばせてもらう。」
「僕は、シャルでいいよよろしくね円夏ちゃん。」
「はい……それで、ラウラさんとシャルさんはどうしてここに?」
「さんは、要らないんだがな……まぁいい、用件は隊長からの言伝を伝えに来た。」
「伝言?」
「うん、でもこれは数馬くんに伝えられてる筈だよ。」
円夏の返しに若干不服そうな顔を見せたラウラは、表情を引き締めて向き直る。
「数馬ならびに円夏両名には、急な試合を此方の勝手で組んでしまい申し訳なく思う。しかし、君達二人にはどうしても今日中に全校生徒の前でその実力を示して欲しかった。何故ならばこのIS学園は良くも悪くも実力主義だからだ、それ相応の実力を示した者には誠意を示すが実力が伴わない者には何処まで冷ややかだ、従ってこの試合は両名の学園生活が実り有るものかどうかを決める試合でもある。」
「兄さん、やっぱり私たちを気づかってくれたんですね。」
薄々は気が付いていたが、それでも態々部下を伝言の為だけによこしてくれた兄の気遣いに心が温かくなるを感じた。
やはり会えて良かった、昔のように植え付けられた憎しみだけで対していては今この心情を感じる事が出来なかったのだから。
『真冬……。』
だからこそだろうか、組織を抜ける時に連れて来る事が出来なかった妹の姿が脳裏を過ぎる。
「……今まで気になっていたんだ、この間のサイレント・ゼフィルスの操縦者は妹か何かか?」
「はぇ?」
暗い顔になっていた円夏は、唐突にしかも今考えていたことを質問され驚いて気の抜けた声を出す。
「もっもうラウラ!ダメじゃないか、隊長も気にしても触れなかった事なんだから。」
「む?そうなのか、それはすまなかった。」
「ごめんね、気まずいこと聞いちゃって。」
無神経な質問をしたラウラを、シャルロットが窘めると彼女は無視訳なさそうに謝った。
「いえ、ここに来たのなら何れは知られていたと思いますから。確かに、サイレント・ゼフィルスの操縦者は私の妹です。」
別段隠すつもりもなかったようだ、質問されれば答えるつもりあったらしく素直に白状した。
「やはりか、真冬と言ったな。」
「僕は、直接相対したわけじゃないけど話を聞く感じだと相当強かったらしいね。」
「はい……私達は、幼い頃から組織の施設の中で暮らしていました。そこは、お世辞にも子供がいていい環境ではなかったんです。他者を害する悪意と私生活が同居していて、でも私達はそれをおかしいとは思わなかった。」
「「……。」」
静かに語りだした、円夏の話を黙って聞く二人を前に続きを話す。
「私達にとって、それが当たり前だった人を傷つけることも人から何かを奪うことも……気が付けば、私は心身とも荒み抜身の刃みたく心は空っぽにになっていたんです。妹の存在は、競り合う為の相手で身内という意味では認識できなくなっていました。」
あの頃を思い出したのか、沈痛な面持ちで部屋の隅を見たそこには嘗ての冷酷な自分の姿が見えていた。
「どれだけ奪っても倒して、満たされないどころか空虚になっていました。それでも、自覚はないとしても多少なりとも家族の情はあったのか妹と過ごした時だけは少し満たされたんだと思います。」
すぐ近くにいた時は気付かなかったが、こうして離れ離れになると自分がどれだけ真冬に助けられていたかと思い返される。
時にぶつかり合い、怪我をすれば心配もした千冬と一夏に出会えた今はさらにその思いが強くなっている。
「ボン太くんと出会って、いろんな価値観に触れてそこには他人から奪ったものは無くて、全部が全部じゃないけど好きなものを共有して影響を受けてそこから自分で創造して、それまでの私からしたら未知との遭遇でした。」
自分が暮らしている世界とは違う、そんな世界を目の当たりにして当時は困惑したものだと懐かしむ。
「けど、不思議と拒否感はありませんでした。それまでとは全く違うのに、その時はただただ心地よくて暖かかくて……。」
そしてその価値観に触れた後で今度はそれまで自分を鑑みた時、己の中には自ら生み出したものがただ一つを残して何もない事に気が付いてしまったのである。
姉と兄を恨む憎しみも奪わなければ保てなかった己の価値観も傷を負わせなければ持てなかった自己価値も、結局は他人に刷り込まれただけの紛い物だった、では唯一自分のものだと主張できるものは何かと問うとそれ妹への否家族へ向けた思いだった。
それを自覚した時、円夏のそれまで築いていたと思って来たものは脆く崩れ代わりにその土台に隠されていた信念が姿を見せた。
「それを見出した時にはもう、あの場に留まりたいなんて思えなくなっていました。だから、抜けようって考えたんです。こんな私だから、ここを出て行き場所なんてないってわかっていましたでも一瞬たりも居たくなかったんです。」
そして、スコールとオータムと共に逃亡したあの日、真冬も一緒に連れ出そうとした円夏の想いは届かず妹は今も組織の中にいる。
「あはは、因果応報ですよね。これまで散々家族扱いしてこなかった私が急にお姉ちゃんぶるなんて上手く行くわけなかったんです。」
自嘲気味に、己の浅はかさを嘲笑する円夏。
「……円夏、私には生き別れの姉が居るんだ。」
「えっ?」
さっきまで無言だった、ラウラが徐に自分の生い立ちを話す。
「安否は分かっていないがもし再開できたなら私は嬉しい、だがそれが出来なくとも生きていると分かるだけいい。家族っていうのはそう言う者じゃないのか?」
「僕は兄弟はいないけど両親はいるよ、とは言っても最近まで意思疎通なんてまるでやってこなかった。今のお母さんは、僕とは血縁が無くてね所謂妾の子みたいなものだったんだ、恨まれているの憎まれているのそれとも妬まれているのかってどうしても悪い方向に考えてしまったんだ。実際は、真逆でずっと心配もされてたし愛されてもいた。」
「はぁ。」
ラウラに続きシャルロットも身の内を明かす、それを呆然と聞いたいた円夏は生返事を返す。
「円夏ちゃん、僕は家族だからって無条件に信頼し合える訳ではないと思う、でも心から思いを伝えられたらきっと伝わると確信できるのも家族なんだ。一回ダメだったから諦めるの?諦められるの、その大事な妹さんの事を。」
「っ!」
シャルロットに問いかけられ息を呑む円夏、確かに諦めきれていない今もこうして残してきた妹を思うと張り裂けそうな自分が居る。
「諦め……きれません、だって真冬は大事な妹だから姉さんや兄さんと同じくらい愛してる家族だから……!」
「そうか、なら諦めなければいい。」
「うん、これから幾らでもチャンスはある筈だよ。何せ、君は彼女と相対する立場に立ったんだから。」
「……はい!」
迷いを振り切り諦めを捨てた瞳は、もう自嘲的な意思はなかった。
やがて試合時間が近づくと二人は何も言わずにピットを後にした、今円夏の胸の中には願いがあるどんな妨害でも壁でも阻めない願いが。
「ベータ、私決めたよ真冬を必ず私たちの元に連れてくる。もう、あんな場所には置いてきぼりには出来ない。」
『そうですか。では、私はパートナーとして円夏のサポートをします。』
「ありがとうベータ。じゃあ先ずは、この試合を全力で戦おう!」
『了解です。』
「リベリオン!」
決意の籠った声で愛機を呼び出した、円夏は静かにカタパルトの外に居るBボン太くんを見据えた。
「ふもっふ!」『行きます!』
気合の籠った声で勢いよくアリーナ―へと躍り出るのであった。
円夏「待っていて真冬、私は絶対に諦めないから!」
次は、遂に模擬戦です。
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獅子と蜂の闘争 lion&bee
今まさにアリーナは緊張に包まれていた、両雄並び立たず赤い情熱と黒い信念の対決の時が刻一刻と迫っている。
この場居る者の目は一様に品定めのするように、カタパルトに注がれていた。
その様子を放送室の中から眺める楯無と一夏は、満足気な表情をしていた。
「集まったわね一夏君。」
「えぇ、狙い通りです。」
この試合の仕掛け人である二人は、一般席に居る訳もなくアリーナを一望できるこの放送室に入っていた。
今この時も、アリーナの入場口には人が入ってきているのだから二人への関心が高いことを意味していた。
「さぁ、そろそろ始めますか。」
「ok!一夏君!」
マイクのスイッチを入れて、楯無がアリーナ内に向けて音頭の声を上げた。
「お集りの生徒の皆さん、お待たせしました!これより、防衛部新メンバー二人による模擬試合を始めます!実況は、生徒会長兼防衛部司令の私更識楯無が。」
「解説は、防衛部部長兼隊長の織斑一夏が担当します。」
放送が流れ出すと生徒たちも高揚した様に騒がしくなる。
「さぁ、先ずは本日の主役の二人に登場してもらいましょう!」
そう言うと片側のピットから赤い機体色が鮮やかなボン太くんが勢いよく出撃してきた。
「その身に纏った赤は情熱の色、燃える勇気をその名宿すアルビノ型3号機にして史上初男性対応型ISコア実験機ブレイブボン太くん!操縦者は、織斑一夏が好敵手と呼ぶ男~御手洗数馬だぁ~!」
ブレイブボン太くんの登場で、会場は大いに沸き上がる。
歓声に応えるように腕を全面で交差して力強く腰横に振り下げ片腕を突き出した。
その様は、見る者にこれからの活躍を期待させるに十分だった。
「続けて行きましょう。黒を纏う信念の戦士、運命に反旗を翻すのは同じくアルビノ型2号機リベリオンボン太くん!操縦者は、出自経歴一切不明しかし織斑の血統であることは真実ブリュンヒルデの妹織斑円夏~!」
その口上を聞いていた観客たちは一様に疑問符を頭に並べた、ブリュンヒルデの妹つまり最強のもとい織斑千冬の妹とは一体っという、直ぐには受け入れられない情報がついさっき楯無の声で唐突に聞こえてきたのだから無理もないが。
その会場の空気を余所に、反対側のピットから黒いボン太くんが姿を見せた。
レべリオンボン太くんが登場したことで観客たちは一旦思考を中断する、審議の有無はこの試合の中で決めようと思ったのかもしれない。
「さぁ両者揃いました、これよりルールを発表します。試合時間は30分、それまで決着が付けばそちらの勝利ですが、決着が付かなければエネルギー残量に関係なく引き分けとします。」
楯無の説明では、勝敗を決めるための戦いではなく実力を示すための試合である事が読み取れる。
「では、試合を開始します。両者戦闘態勢に入ってください。」
楯無からの指示に従い、数馬は大楯とバトルアックスを呼び出し円夏は対物ライフルを装備した。
「「ふもっふ。」」『『よろしくお願いします。』』
「はじめ!」
両者が、互いに向き合い礼をしたことを合図に楯無が試合の開始を宣言した。
「ふも!」『仕掛ける!』
先に動いたのはBボン太くんの方だった、楯を全面に出して防御を固めRボン太くんの特攻を仕掛ける。
「ふもっふ!もっふー!」『牽制します!ターゲット!』
それの反応して、牽制射撃を開始するRボン太くんの砲撃を直撃を避けつつ距離を詰めるBボン太くん。
「早速動きがありましたね、接近戦を仕掛けるようですが大楯を装備してるとはいえ対物ライフル相手には分が悪いのでは?」
「そうとも言い切れません、Rボン太くんは特殊戦闘に対して有利になるように調整・制作されましたがBボン太くんは一対一を想定して調整された機体です。それ故に、格闘能力は通常よりも高く設定されています。」
「成程、では敢えて遠方から打ち合いより自分の機体に有利な間合いで戦おうとしていると。」
「はい、ですがそれでも攻撃のリーチと言う面ではやはりRボン太くんに利があいます。これをどう攻略するかが試合の肝でしょう。」
まだ5分も経ってないが試合は早くも白熱しだす、Bボン太くんの的確な回避でじりじりと距離を詰めたかと思えばRボン太くんは回避を先読みして進路を塞ぐように砲撃を続ける命中させることよりも妨害に徹した動きの中に確実に当てよとした本命が混じっていた、一進一退の攻防が観客を引き込み釘付けにする。
この試合に、勝敗は関係ないだがどうせなら初試合は白星を飾りたいそんな、二人の想いが衝突してチリチリとした火花の幻影が見えるほどの静かな接戦が繰り広げられる。
しかし、的確な弾幕を越え遂にBボン太くんの間合いまで接近されるとRボン太くんの劣勢が明らかになった。
「ふも!」『捉えた!』
大楯を対物ライフルの方針に滑り込ませ銃口を外側に逸らすと、バトルアックスの重い一撃を叩きこむ。
「ふっ!ふもっふ!」『くっ!なんの!』
「ふも?」『何?』
咄嗟に、対物ライフルを話して体と斧の間に閃光弾を挟ませてピンを引き抜いた。
一瞬強い光が発生して、Bボン太くんの視界を塞いだその間にRボン太くんは再び距離を空けて追撃を逃れた。
「上手い!Bボン太くんに取り付かれた時は確実に決まったと思いましたが、咄嗟とはいえ閃光弾を使用したのはいい判断でしたね。」
「はい。距離も話すことが出来ますし、何より追撃を封じることが出来たのは大きいです。ですが、この一瞬でどうに生かさなければ再び窮地に立たされます。」
「では戦況は依然としてBボン太くんの優位のままと言うことですか?」
「そうなりますね。」
実際にRボン太くんは劣勢だった、距離を離せたとはいえ今だにBボン太くんは健在で今は視界保護のためにカメラを停止しているとはいえ、視界が回復すればまた組み付かれる事は明らかなのである。
「ふも……ふもっふふーも!」『仕方ないかな……やるよベータ!』
『了解、準備はできてます。いつでもどうぞ。』
「ふももふーっも!」『黒蜂形態発動!』
『モードノワールアベーユ発動!』
アルビノ型ボン太くんが形態を変える時に放つ、強い発光が始まり観客たちは慣れた様子に遮光レンズで目元を覆う、そして光が収まる頃に遮光レンズを外して変化したRボン太くんはを観察した。
『モードノワールアベーユ、アクティブ!』
「びーもっふ!」『押し返します!』
蜂の意匠が強く全身に黒と灰色の混じった黄色が印象的な姿になったRボン太くんは、手にニードル型の収束ビームキャノンを装備し、背部に羽根の形をしたブースターに何やら六角形を六つ繋ぎ合わせたユニットが二つ懸架していた、臀部からは開閉式の制御ユニットらしき蜂の腹部を思わせる物が追加されている、頭部も例のごとく蜂をイメージしたヘッドギアが装着された。
「遂に来ました、アルビノ型の代名詞形態変化!これがあるからこそ、現在IS業界でもボン太くん型が最強と目される一因ですね。」
「えぇ、ですが様々な戦局に対応できるが故にアルビノ型は総じてピーキーな機体です。これをどううまく扱うが操縦者の技量に反映されます。この形態が吉と出るか凶と出るかは分かりません。」
「ふもっふ。」『来たか。』
この試合中に形態変化が来ると予測を立てていたBボン太くんは特に慌てることはない、しかし警戒は厳にしていた。
「びーびっふ!」『ハニービット!』
『ハニービット展開します。』
背部に懸架されていたユニットが外れ、浮遊しながらRボン太くんの左右に陣取ったそして六角形の部分からミツバチ型のビットが放出される。
Bボン太くんを包囲するように展開して、母体であるRボン太くんの指示を待つ。
「びーっふー!」『攻撃開始ー!』
「ふっも!ふも!」『ビットか!くっ!』
一つのユニットに六機のビットが装備されそれが二つずつで十二機で全機展開しての包囲攻撃が開始された。
逃げ場など無いそれでも躱せるものは躱し、どうしても回避できないものは大楯て防ぎバトルアックスで払い除ける。
普通の機体であれば十分絶望的な状況でも、Bボン太くんにとっては対処可能な程度であった。
「びーもびっふびーふもっふ……びーも。」『やっぱりこの位じゃ落とせないか……ベータ。』
『パターンの照合を完了、ハニービット全機と本機を円夏の脳波とリンクさせます。』
「びっふびーももっふびーももびーっふびびーもっふびーもっふ!」
『攻撃パターン構築完了、射線予測値数確認、全機データリンク完了、オールコントロール!』
暫くの間、攻撃が緩慢になりRボン太くんの動きも止まって謎のコードを入力し始める。
「ふも?ふっもふ……。」『うん?何をするつもりだ……。』
さっきまで激しい弾幕から一転して、急に静かになったレーザーの雨に警戒するBボン太くんは訝しそうにRボン太くんの動向を探っている。
「びーもっふ!」『サイキックフェイズ!』
『サイキックフェイズ、発動を承認します。』
臀部のユニットが展開し、幾つもリングの様なパーツが回転するとハニービットたちがそれに呼応するように忙しなく動き回りだす。
「ふも!」『来るか!』
「びっもふもっふーーーー!」『タクティカルレイドーーーー!』
再度攻撃が来る事を読み防御を固めるBボン太くん、だが今度の攻撃は真っ直ぐに飛んでこなかった。
「も……ふ!」『何……だと!』
防御の隙間を縫うように、ビームが歪曲し躱してもヒットする防御してもすり抜けてまたも当たる、十二機のハニービットが複雑に動き回り、ほぼ一歩的に撃たれ始めた。
「一夏君!これって、一体?」
流石の楯無も同様した様子で隣に座る一夏を見る。
「……あれが、特殊戦闘特化機能か。」
Rボン太くんは、元々はEUミスリルの総合研究所で研究開発が行われていた試験機である、そのためEU各国にある支社からの実戦データを含めた様々な技術のフィードバックを受けて制作され、最後に愛子の手で調整された言うなればEUミスリル全体の最高傑作とも呼べる機体であった。
その為、基本構造こそAボン太くんと共通しているもの機能面は全くと言っていいほどにオリジナルと乖離していたのである。
現在世界各国が開発しているISの独自技術の殆どは、元を辿れば社長自らが所長を務める総合研究所から各国に売却されたものであることもその理由の一つではあった。
「ふも……ふもふーもっふ!」『このままでは……ガンマこちらもやるぞ!』
『了解しました。』
「ふーふーふーもっふーーーー!」『赤獅子形態発動----!』
『モードオラーンアルスラン発動!』
「びーもっふ。」『やはりそう来ますか。』
遂に発動されたBボン太くんの形態変化、眩く輝くBボン太くんは光が収まると鬣が雄々しいライオンの装甲を身に着けていた。
『モードオラーンアルスラン、アクティブ!』
「がおもっふーーーー!」『荒ぶるぞーーーー!』
その前身にAボン太くんの白隼形態時の主力装備であるフェザーシールドと同じ機能を有する装甲で固め、ライオンの頭の意匠が特徴的なヘッドギアの後頭部から背面更には顎下に延びる鬣が勇ましさ醸し出していた、主力装備として大型ブレードシールドが装備されている。
「……っは!おぉっと、ここでBボン太くんも奥の手の形態変化を使用してきた!」
「ふっ、漸くか……どの様な機能を持つにせよ、状況が見えなくなってきました。」
「はい!会場の皆さんも、大変興奮されてるようです。」
「試合時間も20分が過ぎました、そろそろ大詰めでしょう。」
一夏の言葉が示した通り、残り時間は10分をきっていた。
「びーもびーびっふ……びーっふ。」『これで同じ土俵……ですね。』
「がおっふがーおっふ……がーおふーも!」『退屈させたな……全力で行くぞ!』
「びー!びーびもっふ!」『はい!ハニービット!』
両者が形態変化を遂げた事で、試合は最後の盛り上がりを見せる。
双方が動きを止め睨み合うと、今度はRボン太くんが先制した。
ハニービットと本体のビームキャノンによる弾幕で牽制して見せると、それをBボン太くんはもう避けることもせずに受け止めビームを吸収してエネルギーを蓄えると鬣パーツが金色に光り輝く。
「びーもっふ……びーふもっふ!」『ビームはダメ……じゃあこれなら!』
『ワスプスティンガー、ネストビットに換装しました。』
「びーふー!」『ファイヤー!』
ハニービットを収容していたネストビットから、今度は誘導式ミサイルが打ち出される。
「がおっふ⁉がーおもふー!」『実弾も打てるのか⁉だがそれでも!』
『エネルギーチャージが完了しました。』
「がおーもっふー!」『バーストフェイズ!』
『バーストフェイズ発動、フォースフィールド展開。』
Bボン太くんの本体から球状になるとように、エネルギーフィールドが発生しワスプスティンガーの直撃を阻む。
「一夏君、もしかしてあれも?」
「お察しの通りです。とは言っても、Bボン太くん自体はモンゴルにある第二総合研究所の出ですが。」
「……ねぇ、ミスリルって一体幾つ研究施設を持ってるの?」
「正確に把握しているわけではありませんが、大型施設だけで約500でしょうか?IS以外の事業もやっていますから。」
「あぁ、そうなんだ……。」
巨大企業なのは知っていたが、まさかここまで規模が大きいとは思わなかった楯無は呆然とした。
「そろそろ試合も終わりですね。」
「……えぇ、そうね。」
表情を変えずアリーナに視線を送り続ける一夏の横顔を見て、楯無は末恐ろしさを感じつつ返した。
試合時間は残り五分を切った、行きつく暇もない怒涛の応酬もそろそろ決着を着けなければならなくなってきた。
『口惜しい、これが公式の試合なら。』
『ここまで、気分が上がる試合は久方ぶりです。』
ここまで戦ってきた二人にも、名残惜しいと感じる感情が生まれ始めていた。
『だが試合の終わりも近い、ならば責めて最高の一撃で勝負がしたい!』
『私の全力を、ぶつけてみたい!』
思うことは同じだった、この試合の最後に互いのすべてを出し切った攻撃を仕掛ける事が互いへの敬意であると理解した二人は最後の一撃を放つ準備を始める。
「びーもっふ!」『ベータ!』
『ネストビット、パワーゲートモード。』
ハニービットを格納したネストビットが、六つに分離してRボン太くんの目の前でビーム増幅フィールドを展開した。
「びーもっふふーもびーもっふ!」『ビームスピア展開良し、行くよベータ!』
『エクストラアタックコード、[ホーネットスクリュースピアー]発動!』
ヘッドギアを下ろしネストビットが展開しているフィールドを、ビームスピアーを構えて突き抜け螺旋状の光を纏ってBボン太くんに突貫する。
「がおっふがーお!」『ガンマ俺達も!』
『了解!エクストラアタックコード、[ライオネルパニッシャー]発動!』
Bボン太くんを包むフォースフィールドが獅子の形に変化し、ブレードシールドをバスターセイバーモードに換装して此方も突撃する。
それから衝突すまで、それほど時間を要しなかった。
「びーーーーーーもっふーーーーー!」『ホーネットスクリュースピアーーーーー!』
「がーーーーおっふーーーーー!」『ライオネルパニッシャーーーーー!』
互いの力と維持がぶつかり合い凄まじい衝撃が会場を揺らした、強者同士の試合が見応え有る物だと認識では知っていた、しかし体感で感じる衝撃は想像をはるかに超え闘争本能を否応なく駆り立てられる、疼くのだ心がそして体が熱を持って暴れだしたくなるのだ。
そして、その熱の中心にいる二つの衝撃は互いの力を受け止め合い静かに収まっていった。
全身全霊の一撃を受けて尚、二人は健常であった。
「試合時間終了、現時点を持って両者のエネルギーが残ってる事により引き分けとします。」
「「ふもっふ!」」『『ありがとうございました!』』
深い礼の後、この試合を両者の健闘を称える声はしばらく間止む事は無かった。
「山場は越えたか……。」
長い!只々長い!
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試合の終わりは新たな騒乱deisturbance
記録上初となったアルビノ型ボン太くん同士の試合の熱気冷めぬIS学園、同じ敷地の中に会って外の喧騒が嘘のように静まり返り呼吸の音すらはっきり聞こえてきそうな程の静寂に包まれた、ここルアド・ロエサの一室に四人の人影が居た。
「それで……話したい事とは?」
昼間の放送室の中で見せた顔とは違う緊張をはらんだ表情で、一夏が己の目前に座る二人の女生徒に質問した。
「あぁ……これはIS学園に籍を置き続ける為には、ずっと黙ってる訳にもいかなくてな……。」
「ダリル⁉話しておきたい事ってやっぱり……。」
一夏と楯無に向かい合うように座るダリルとフォルテ、彼女達は相当の覚悟をもってこの場所に居るそれが一目で分かる程表情が硬い。
「……人目があっては、話し難い事なんですね。」
「うん、実はアタシは……。」
彼女たちがこの時、何を語り何を打ち明けたのかは分からない……だがすべてを聞き終えた時、一夏は今後の防衛部が採るべき選択を決めた。
それから時間が過ぎ、またIS学園が学園祭に続く恒例行事を近くに控え慌ただしくなってきていた。
この学園の行事は、一学期は新入生は学園に慣れてもらう事を目的にしたリクリエーションの側面が強く二学期からが本格的な行事になる、キャノンボール・ファストと呼ばれるISを用いたバトルレースもそう言った意味合いを持った催しである。
例年通りであるならば、一般生徒とメインとなる訓練機部門と専用機持ち限定の専用機部門に別れるものの会場自体は同じ場所で開催されていた、だが今年は一年生に専用機を持った生徒が16人も居て専用機の総数は15機の大台に乗ってしまっている、幾らなんでも多すぎるしこれらを一度にレースさせるとなれば如何に総席数二万人収容可能な市のISアリーナであっても手狭になるのでないかと議題に上った。
「だからって、一年生の専用機レースをチーム制のリレー形式にするなんてね。」
「名案だと思ったんですけどね。」
そう今年のキャノンボール・ファスト一年生専用機レースは、我らが一夏の提案でチームで挑むリレー形式に変更されたのだ、流石に最初の内は反対意見もあったが防衛部の結成理由と活動方針も持ち出し市とIS学園それからの国際IS委員会の関係者などを説き伏せた。
「チーム対抗にして常に防衛戦力を一定数確保するか……確かにチームでなら競技に出てない人員が出てくるもんね。」
「宗助叔父さんに協力を仰げたのも、この案を決行に踏み切った理由ですけどね。」
15機も集まれば3機1チームに分ければ5つのチームに分ける事が出来る、それに合わせてレースのルートも大きく変更された、スタート地点に日本ミスリルが占有している島をゴールに市のアリーナを設定しその中間の海域をレースのコースに沿えた。
その結果、当日の警備に日本ミスリルの警備部隊が加わり、更に防衛部も三分の一程とは言え確保も出来た訳である。
「しっかし、よく考えるわね~今年の一年生の異例な専用機保有者数を逆手に取るなんて。」
「いやいや、実際に今の立場になれば誰でも思いつきますよ……ただ実践はしないでしょうけどね。」
生徒会室で書類に視線を送りながら声だけで会話をする一夏と楯無、それはここ数日で日常風景となり始めていた。
「確かに、思い至っても行動に起こそうという方はいらっしゃらいでしょうね、国際的な問題も関わってきますし。」
「えぇ、実際かなり力技で押し通した感はあります、宗助叔父さんが各国の関係者への説得を手伝ってくれなければ実現は出来なかったかと。」
二人の会話に虚が加わる、書類を持つ手を休めずにテキパキと仕事をこなす防衛部上層部員兼IS学園生徒会役員の三人、一夏が加入するまで生徒会長の仕事には殆ど手を付けて来なかった楯無も一夏が加わってからは監視の目を掻い潜る事も出来ずにこの部屋に缶詰め状態である。
「さて、これで最後か……虚さんここに置いておきますから後で確認お願いします。」
「はい、お疲れさまでした織斑君。」
「お疲れ様~。」
自分の仕事を終えた一夏は、席を立ち帰り支度を始める。
「そうだ、一夏君は出場チームって組んでるの?」
一夏が自分の荷物を鞄に仕舞い終えた時、楯無が唐突に思い浮かんだ疑問を聞いてきた。
「いえまだです、ですが既に決まってしまった様ではあるんですけどね。」
楯無の質問に対し一夏はまだだと答えた、だが本人の意思の所在は抜きにして彼等の周りではある動きを見せていた。
「決まってしまった?妙な言い回しね、また何か企んでるのかしら?」
楯無も一夏の返答の在り方を訝しみ、続けて質問を投げかける。
「企てたと云うよりは、企てられたと捉えた方がいいですね。」
「企てられたねぇ……って事は、やっぱりそう言う事?」
続けてとんできた質問にも曖昧にだが要点は抑えて返すと、言いたい事を大体理解できた楯無はしたり顔で一夏を見た。
「察して頂けたようで、では失礼します。」
「気を付けてお帰り下さいね。」
「また明日ね一夏君。」
一夏が生徒会室を退出すると楯無と虚の二人だけになった、そうなると一夏が加入する前の生徒会の日常風景に戻ったように見えるのは、彼を役員に加えてからここに流れる空気が少なからず変化していたからだと二人は気付いていた。
「さてと織斑君も帰ったことだし、ちょっと休憩しない虚ちゃん。」
「そうですね……キリもいいですし、そうしましょう。」
一年生の一夏に比べて二人の仕事量は多い、その為一夏が帰宅した後も二人は暫く残って書類を片づける、だがその前に挟む小休止は二人の日課に為りつつあった。
「それにしても、今年の一年生は賑やかねぇ。」
楯無は愛用の湯飲みを両手で包み、虚の淹れた湯気の出る緑茶を啜りながら一夏との会話を思い出してそう呟いた。
「えぇ、一学期の時点でも十分多い位でしたからね、二学期からの編入生も合わせると過去最多人数だそうです。」
話題は今年集まった一年生の専用機持ちの生徒たちの事だ、本来なら一学年に一人か二人位が通例だった専用機持ちが今年に限っては16名それも所属国家もバラバラだと言う、これだけ集まった要因は若しかしなくとも一夏であった。
「一夏君かぁ~…彼も不思議な子よね、彼に係わった生徒でもっと限定すると代表候補生レベルの子は通常では信じられない位に早く成長してる、先の文化祭で二次移行した鈴ちゃん然りラウラちゃん然り在学中それもたった数か月でここまでの力をつけた、これって一夏君の影響なのかしらね?」
本来なら二次移行に至るのは卒業後がざらなのだが、一夏本人を始め彼と日常的に親しくしていた生徒の内二人もその段階に至っているのは自然ではなかった、勿論編入生たちがIS学園の門戸を叩いたのはラウラと鈴音が二次移行する前の話ではあるが、それ以前から異常な速さで成長し続けている彼女たちの話は各国のIS開発に携わっていた関係者の間では話題になっていた。
「彼の元に居れば普通で起こり得ない事が起きる、学年別トーナメントやタッグ戦それから臨海学校と最近だと文化祭、今年は大きなイベントが起きる度に何かしらアクシデントがあったけど結果それが一年生の成長に繋がった……。」
一学期の間に起きた事件だけでも十分大事だったが、警備を強化していた筈の文化祭でも襲撃はあった。
「四度ある事は五度……あ~ぁ、後処理面倒くさそうだな~。」
本来なら楽しみに待って居られるイベントも、騒乱の種を孕んでいると思うと如何にも乗り気になれない。
「気にしても仕方ありませんよお嬢様、それより今は目の前の仕事に集中しましょう。」
先の事を案じる楯無を宥めつつ、今片付けなけらばならない書類に目を向けさせる虚。
「そうよね……はぁ、仕方ない今はこの書類と格闘することで気を紛らわせますか虚ちゃん。」
「はい、じゃあ私は織斑君の書類の確認をしてますね。」
こうしてIS学園生徒会の日常は過ぎていく、例えこれからどんな騒乱が待ち構えていようとこの風景だけは変わる事は無い。
遅くなりました。
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少女は悩み焦るagitaion
例年と違い各国より送り込まれた代表候補生たち、この状況を利用して今年のキャノンボールファストが異例の個人ではなくチーム別リレーとなった。
個人競技から団体競技へ変更は学園内外を大いに賑わせ、特に各国に政府やIS関連企業からはどの国の代表候補生とチームを組むのかと言う内容の問い合わせが各々の候補生に送られていた。
「ふぅ……行きなさいブルーティアーズ!」
ここにルアド・ロエサの訓練場にて自主練の精を出すセシリア・オルコットにもそれに順じた内容の連絡が来ており、これに中国の鳳 鈴音と台湾の鳳 乱音とチームを組む予定だと回答していた。
そう言う事で今頃は本国では、彼女の指名した二名の所属国の関係者と打ち合わせの真っ最中と思われ、事実この三国間でのIS関係者を始め各界の要人の接触が増えてきているらしい。
そんな最中にあって、当事者のセシリアはキャノンボールファストに向けての自主練習に興じているかと思えばそうではない。
「そこですわ!曲がって下さいな!」
そう彼女が命じたビットから照射されたレーザーは彼女の願い通りに曲がらず、直線のまま照射されていく。
「やはり……駄目ですの?」
目の見えて分かる程の焦燥感の溢れるセシリア、その原因はやはり学園祭での襲撃犯と対テロ組織の補強要因といして編入してきた一夏の妹円夏二人の存在があった、彼女たちが行使したフレキシブルと称される機能はセシリアの愛機ブルーティアーズにも内蔵され理論上は発動可能とされている、だが飽く迄理論上の話で実際彼女はブルーティアーズを受領してから一度も発動できていなかった。
「焦っていけないと……分かってはいるのですわ、だけどああも目の前で自分が出来ない事をされては……。」
この学園に来てから幾つものカルチャーショックを受け、その都度心境が変化していたセシリアにもこれだけは譲れぬと思っていたものがあった、それがビット兵器の操作練度である。
「一夏隊長もビットを使えると分かってから、これまでずっと前以上に鍛錬には熱を入れて参った自負しておりましたわ、決して操作技術で抜かれない様に……でもその努力でさえ才能の前に無力だと言われた様で、落ち込むなと言う方が無理な話ではないですか。」
ブルーティアーズに備わったビット装備は研究段階だった代物で、強奪されたサイレント・ゼフィロスの方は後発で完成度が高いのだが、そんな事実は今の彼女にとって何の慰めにならない。
「何がいけないのでしょう、わたくしの技術以上に何か決定的に不足している事でも……。」
我武者羅な努力は時間の無駄いかに効率的で的確な方法を早期に見つけ出すか、それさえ出来れば自ずと目指すべき目標を定められるのだが。
「鈴さんもこんな心境だったのでしょうか……そうですわ⁉円夏さんに伺えば何か分かるかもしれません!」
見えない活路への希望を求め思案を続けたセシリアは、つい最近まで焦りの中で足掻いていた親しい友人の事を思い浮かべ不意に妙案を思いつく、なぜ今までそこに至らなかったのか鈴音は自分一人の力だけで殻を破った訳ではない、彼女は一夏に助言を求め見事現状を打破して成長したのではないか、ならば自分もそれに倣い自分より優れた人物の師事を仰ごうと訓練場を離れルアド・ロエサの中で待機しているであろう円夏を探した。
「円夏さん!わたくしにフレキシブルの極意をご教授くださいませ!」
「えっセシリアさん⁉ちょっと、落ち着いて下さいどうしたんですか⁉」
円夏は普段非番の日でも部室として使われてるルアド・ロエサ内の何処かいる、だからセシリアも彼女を見付けるまでに然程時間は懸からず、目的の人物を見付けたセシリアは藁にも縋る想いで懇願しその勢いに驚いた円夏に落ち着くよう宥められ、平静を取り戻すに数十分懸かり。
「あぁ……わたくしとした事が、焦りのあまり取り乱してしまいましたわ。」
「よかった、やっと落ち着いてくれた……それで、どうしてそんなに焦っていたんですか?」
落ち着きを取り戻したセシリアにその焦燥に至る経緯を聞く為、円夏は一呼吸間をおいて話題を切り出す。
「それは……円夏さん、わたくし恥を忍んでお聞きしたい事がありますの聞いていただけますの?」
「……えぇ、いいですよ私でよければ。」
円夏から了承を得て口を開き出来るだけ簡潔に要点を絞りなら自分が抱えた問題と解決しようと行動した結果そして、それらを自覚した上で先だって己の望む技術を見せた円夏の意見を聞きたい事を伝えた。
「ん~成程、質問の内容は理解しました、理解したんですけど……ん゛~。」
大体の内容を理解した円夏は何とも悩まし気に唸り、申し訳なさそうにセシリアに視線を向けた。
「あの……ごめんなさい、その……セシリアさんの仰っているフレキシブルについてはお力に成れないかもしれません。」
「っ!そう……ですの、やっぱりそれはミスリルの独自技術で秘匿事項ですのね。」
本当に残念そうに協力不可の回答を返す円夏に、掴みかけた光明の糸が目の前で途切れた様に表情を暗くするセシリア。
「あっあの!別にそう言う訳じゃないんです!訳じゃないんですけど……なんて言ったらいいのかな?」
『円夏、ここは私が説明を致しましょうか?』
協力できない理由を説明する為の適切な言葉が浮かばずに困り果てる円夏、そんな彼女を援護するようにベータが語り掛けて来る。
「ベータ……うんお願い、私ってこういう経験がないから勝手が分からなくて。」
『了解しました円夏、セシリア様はフレキシブルの技術的操作法が知りたいのでしたね?』
ベータの提案を受諾した円夏、その回答を聞いたベータはセシリアにそう尋ねた。
「えぇ、わたくし自身学園に来る前から何度も試みて来たのですわ、けれども一度も成功したことが無く……それで、前回の試合の時に目の前で実践された円夏さんからヒントを貰えないかと思い立ちましたの。」
『成程、先ほど円夏にもお話しくださった内容と同様ですね、質問の対しての回答が決まりました。』
セシリアの告白を今一度聞いて、その内容に差異がない事を確認したベータはAIらしく簡潔に答える。
『まず先に言わなければならないのは、セシリア様の仰るフレキシブルと呼ばれる技術はミスリルの研究でそのままでは不可能と判断されています。』
「えっ⁉それは、如何いう理由で出された答えですの⁉」
「わっ!」
ベータが出した返答はセシリアに取って衝撃的な内容で、明らかに動揺した彼女は思わず円夏に詰め寄る。
『落ち着いて下さい、セシリア様の心情はAIの私でも理解は出来ます。理由については、光の速度に対して人の思考速度が追い付かない事や、そもそも大気中の微妙な変化に都度対応しなけらばならず屈折させるのに割けるリソースが圧倒的に不足する等の他にも上げれば幾らでもありますが、一番の理由は我々が使う光線を構築する粒子にあります。』
「粒子?それが何故、フレキシブルは実現不可能と結論付ける要因になりえるのですの?」
興奮したセシリアを窘めつつベータは大まかな理由を述べ最後に決定的とも言われる要素を切り出し、その回答の意味をセシリアは要領を得られず疑問符を頭上に幾つも浮かべた。
『我々が普段使っている光学武器と呼ばれる物は、粒子同士を衝突させて生じたエネルギーを放出する事で攻撃力に変えています、ですが反発し合う粒子は加速器の中では確かに密閉されていますが一旦外に出ると霧散しエネルギーも同時に消失する為、ISコアの絶対防御の技術を応用し反発し合う粒子とエネルギーに見えない管を作りそこを通過させているのです。真っ直ぐなストローを思い浮かべてください直線なら閊える事無く液体は通過できますがそれを無理曲げれば?』
「液体は停滞し曲がるどころか、管から溢れて流出してしまいますわね……。」
ベータは簡潔に事実を伝えその技術が如何に困難であるかを伝える、そして説明を聞いていたセシリアも非常な現実を知り落ち込んだ様に俯いた。
『それで今度は絶対防御以外の方法が検討され、結果粒子の周囲に透過性と反射性の高い素材で形成されたナノマシンを密集させる事で見えない管の中間に挟む技法が候補に上がり実際に検証実験も行われ一定の実験結果を出しリフレインと名づけられました。』
「っ!まさかそれが、この前ビームが曲がった理由ですの⁉」
次いで語られた代案について説明を始めたベータ、その内容を聞いたセシリアはここに至って円夏が言葉を濁した理由を察した。
「ふっ……ふふっ、そうでしたのね……そもそも、使われてる技術が違ったから教える事も出来なかった……そういう理由でしたのね。」
「あわわっ!どうしよう、セシリアさんがどんどん煤けて、大丈夫ですよ今度のキャノンボールファストではイギリス政府のIS関係者も来るみたいですしその時に何か進展がありますよきっと!」
ここまでの会話の内容で十分ショックを受けていたセシリアの姿が白けていくように放心して、それを円夏は如何にか励まそうと声を掛ける。
「ふっ……ふふっ……そうですわね、きっとわたくしのブルーティアーズにもそれに準じた機能が追加されるやもしれませんね……ふふふ。」
「あぁ……どうしよう、さらに真っ白に……。」
だが現状では何も出来ないと現実を突きつける結果となり、蠟燭の先の火程の希望の明かりを蛍の光程に減らしてしまう。
「円夏っとセシリアさん?珍しい組み合わせだな、どうかしたのか?」
風が吹けば今にも散ってしまいそなセシリアにしどろもどろするしていた円夏の下に、偶然ルアド・ロエサに立ち寄っていた数馬が気が付き声を掛けた。
「っ!数馬さんいいところに!あの今度のお休み、何か予定はありますか?」
「ん?今度の休みか、確か駅前のCDショップに予約していたCDを取りに行く予定はあったが……?」
セシリアの落ち込み様に四苦八苦する円夏はその場に現れた数馬に救いを感じ、そのまま駆け寄って休日の寄って意を聞き出す。
「そうですか!だったらセシリアさんも誘ってあげてください!このままだと、自分を追い込み過ぎて自重で潰れちゃいそうなんです!」
「お、おぉ……分かった、セシリアさん?あの、今度の休みなんですが……。」
円夏は必死な様相で数馬に懇願して、その迫力に押された数馬は流される様に白みがかるセシリアを休日の逢瀬に誘いに行った。
「た、助かった……あのままだと、本当にどうなってたか……はぁ、あの様子ならもう大丈夫そう。」
疲労の色を濃くする円夏は、離れた場所で数馬の当然の誘いに赤面しながら嬉しそうに受諾するセシリアを見つめ安堵の溜め息を吐いた。
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今の胸の内に宿った想い~notice~
先日、当然の数馬からの逢引きの誘いを受け、それまでの苦悩は何処へやら妙に心が騒ぎ浮かれる自分自身の心に驚かされるセシリア。
「と、とうとうこの日が来てしまいましたわ……!」
似た感覚は以前にもあった、一夏……アルビノボン太くんとの初試合の後も感じた仄かな熱、その時は微弱であったし何より、亡き両親の心象の誤認や今は関わりを断ったとは言え女性権利主義者との扇動もあって男性へ悪印象が心に蔓延っていた。
「思えばあの時、もう既に心に変化はあったのですわね……最も、その後の関わり方でその対象からは外れましたのですが。」
一夏の年不相応な貫禄と落ち着きがどうしても同じ年頃とは思えず、つい年上の兄の様な感覚を覚えてしまい、そして慣れてしまった今一夏を異性として見ようとは思えないのだ。
「数馬さんは最初の出会いから……でしたわね。」
出会いはボン太くんサマーフェスの会場で一夏と共に熱く語り合う姿を見た時から、見ているだけで伝わってくる情熱……一夏も熱い心は持っているが何処か精神力で抑え常に冷静であろうとしているが、数馬は一切抑えようとしていない寧ろ止めることなく感情を燃やしている、その情熱の熱波がセシリアの心の琴線を揺らした。
「出会った順番は一夏さんより後なのに心に与えた影響はそれ以上……出会いに順番は関係ないのですわね。」
気付けば視線は彼を追う、些細な仕草や一夏と見比べても頻度の多い年相応な子供らしさに胸が高鳴る、自分が精神的にまだ幼いが故に達観した存在より身近に感じてときめく。
「思えばわたくし、今まで一度も年齢に見合った行動を取れてこなかったのですのね。」
恋は相手が上で下でもダメ一夏の言う決闘感と同じ対等だからこそ成り立つ感情なのだ、両親を失い詰め寄る欲塗れの大人と渡り合うには子供らしさは抑えねばならない、これまではそうだっただが日本に来てIS学園の門をくぐってからは同年代の友人や同好の士そして尊敬できる相手と恋慕を寄せる人、思春期の少女らしい充実した日々があった。
「この短い期間に色々ありましたわね……楽しい事悔しい事悲しい事腹立たしい事それと嬉しい事、これまで経験できなかった事が沢山、短期間でこれでしたらこれからはもっと沢山……その為にも、わたくし達がこの学び舎を云え世界を守らねば!」
行き詰って忘れていた、何故そこまでの強さを求めるかを自分が国の代表候補だから?違う、思い出の詰まったこの場所を守りたいからだ、害する者たち個人か組織なんて関係ないここは侵されざる領域心の拠り所でありこれからの出会いと別れの中継地点、多くの未来ある若者が友と出会い少し先の未来では男子生徒も通えるようになるかもしれそしたら恋だって芽生えるかも、その光景を思い浮かべると心が温かくなる……だからさせない、この場所のこれからは奪わせない誰も誰からも!
「干渉に浸っているところ悪いんだけど、時間は良いのセシリア?」
「……えっ⁉もうこんな時間ですの⁉早く出なくては待ち合わせに遅れてしまいますわ!」
ずっと一人の世界に居たセシリアは空気を呼んで声を掛けなかった同室の鈴音の言葉で意識が現実に戻る、そして意識を外に向け時計を確認すると待ち合わせ時間が迫っていた事に慌てだす。
「ありがとうござます鈴さん!行ってきますわ!」
「うん、楽しんで行ってきなさい。お土産話を期待しているわね~って行っちゃた……やれやれ、すっかり恋する乙女になっちゃって。」
慌てて部屋のドアを開け待ち合わせ場所へと向かったセシリアの背を見送り、鈴音は一人ごちる学園で出会った一番親しい友人達のおそらく人生初の恋路を静かに暖かく見守る、どうかその恋の先が幸多い事を願って。
そんな友人の心持ちを知ってか知らずか待ち合わせ場所の駅前には、いつもより着飾った服装の出で立ちの数馬はここに来て強い緊張感を感じ顔を強張らせていた。
『円夏に言われて何も考えずに誘ったが、これは所謂"デート"では?』
同室の一夏に今日の事を話せば少し待たされ洒落た服を手渡され、途中であったシャルロットには髪を直され、ロランツィーネに出くわして香水を勧められ、終いには布仏姉妹&楯無に持っていけと動植物園の入園券を渡された。
『いや、セシリアさんには出会った頃からイツモとは違うと感じていたが……コレがそうなのか?』
以前に一夏は言っていた恋は偉大だと誰かに焦がれる事は辛い事もあるがその大半は悦びで満ちている、自分は好きな人が居てその人は自分の人生の大半を共にしてきただからこれが恋なのかは今まではっきりとしてこなかったが口にしてみれば簡単だった、その人の事を考えると自分でも面白いと思うぐらい気分は上ずったり落ちたりするのだと、考えてみると自分もセシリアの事を考え感じるだけで多幸感を覚え危機が迫れば焦燥感に駆られ異性と共に居る事を考えれば落ち込んだり或いは平静を保てなかったり、考えれば考える程に自身の心情の変化を世間一般の言う恋をしたと表される精神状態に類似していた。
「まさか、俺が恋煩いなどと面映ゆい経験をするとはな……。」
「恋煩いですの?数馬さんは誰かに思いを寄せておられて?」
これまでの人生、武術一本で生きて来た彼が初めて意識した異性の存在は彼の価値観意に霹靂となって罅を入れ、むさ苦しく険しいだけの世界に一輪の可憐な花となって明るく染めた、それはボン太くんが現れ存在を知った時以来の変化である、こんなことは二度と起こるまいと思っていた先でボン太くんが切っ掛けで起きた二度目の変化に無性に気恥ずかしさを感じて誰ともいない虚空へ投げたつもりで呟くと、誰も居ないはずの虚空から返答が返ってくる。
「あっ!いや……そうなのかとな?っと言う相手が現れたと言うだけですよ、はは……。」
「……そうですか。」
待ち合わせ時間の10分前に現れたセシリアに気が付きさっき迄思い浮かべていた事の気恥ずかしさからついついぼやかした返しをしてしまうが、彼女は数馬からの回答を聞いて少し悲しそうで不機嫌そうな顔を見せた。
「……あのセシリアさん?ここで立話もいいとは風情があって良いとは思いますがその……そろそろ移動しませんか?」
「え?あぁ、そうですわね。目的地はCDショップでしたかしら?」
溢れ出る幸せを押さえられず喜びを讃えたセシリアが急に表情を暗く曇らせたので一瞬言葉が詰まりどう言葉を続ければと内心焦った数馬は、結局気の利いた言葉が思い付かず場を移すことを提案する事でしか空気を変えられなかったが、内向的になりかけたセシリアにはそれでも十分だった。
そんなぎこちない二人を見守る影が複数……。
「何やってんのよ数馬の奴、セシリアを泣かせたらタダじゃ置かないんだから!」
「しぃー!声が大きいよ鈴音お姉ちゃん、二人に気付かれちゃうよ!」
鈴音と乱音の二人が二人して物陰から顔を覗かせ煮え切らない数馬に業を煮やして静かに語気を荒げる。
「二人とも煩い……静かにして。」
「はわわ~かんちゃんがいつになく燃えてるよ~。」
「本音、これは備考のとてもいい予行練習です。貴女も確り見届けるのですよ。」
「いや、それはオーバーでしょ⁉実際の尾行はこんな大人数で行動しないわよ?いつもと様子が違うわよ確りして虚ちゃん!」
本音の話を聞き後から合流した簪がいつにない真剣な表情で学園と街を繋ぐモノレールのホームに入っていく数馬とセシリアを観察しながら、近くの物陰で騒ぐ鈴音達に静かに注意を呼びかける。
そんな簪のいつもとは違う様子に驚く本音と彼女にも気を引き締めるよう呼びかける虚、当然その場には楯無も居て普段はツッコマれる側の筈の彼女も従者が普段より冷静でない今回はツッコム側に回っていた。
「あはは……キャノンボールファストの準備期間なのに出場選手がこんな場所で集団ストーカーって、客観的に見ると何とも言えないねぇ……。」
「そう言う君はどうなんだシャルロットさん?」
「それは、この人達だけだと良くない男の人が寄ってきそうだしさ。」
「あぁ!それで君も男装姿な訳だね。」
そう和気藹々と騒がしく忍ぶ一団の後ろを苦笑いを浮かべて見ていていたはシャルロットとロランツィーネの二人、女性ばかりで集まって行動すると今の世界でも軽薄な男は近寄ってきてしまうため今日は二人とも男装して男避けに徹するようだ。
「それにしても、マエストロと妹君は今日は不在かな?」
「うん?あぁ、一夏と円夏の二人か!二人なら朝からミスリルの日本支社に欧州のお偉いさんが来てるから会いに行ってくるってさ。」
ロランツィーネは視線を彷徨わせここにいない人物の姿を探し尋ねる、聞きなれない名称に首を傾げたがすぐに理解したシャルロットは探している当該の人物たちは別件の用でいない事を伝えた。
「う~むそうか……今日こそは僕のこの内から溢れ出る想いを伝えられると思ったのだけどねぇ。」
「えっ⁉溢れ出る想いって⁉」
「何よそれ⁉」
ロランツィーネから飛び出た一言でシャルロットと鈴音が反応、シャルロットは唐突に出て来た発言に動揺し鈴音は物陰から飛び出し詰め寄った。
「おぉう、これは聞いていた以上の反応だね……落ち着いてくれレディ、僕のマエストロへの感情は男女のそれを超越している、謂わばリスペクトの対象と言う意味だ。」
「リスペクト⁉」
鈴音に詰め寄られたロランツィーネは彼女の剣幕に少したじろぎ、間を置いてからゆっくり詳しい事情を語り出し、ロランツィーネの言い分に語気を荒げつつ疑問形で範唱した。
「あぁ、あのお方は僕如き一介の人間が傍に立っていい存在ではないさ。」
「……もしかして、君は?」
鈴音の勢いが落ち着いたと感じたロランツィーネは彼女なりの一夏との位置関係を述べ、その言葉の意味を
汲み取ったシャルロットは訝しみつつも何処か確信めいた視線でロランツィーネに問う。
「お察しの通りさ、僕は知ってしまった圧倒的な存在の前には多くを揃えた所で叶わない事にさ……。」
彼女は語り出したあの日、ロランティーネの取って自己価値観を覆された光の存在、ボン太くんを知った日の事を。
「あれはまだ僕が国で暮らしていた時、いつもの様に99人の彼女達と過ごす事を楽しいと感じていた時期の事だった……。」
「ちょっと待て、99人の彼女って何?」
過去の回想を語るロランティーネの言葉の中に無視できないワードが飛び出し、ついつい会話の腰を折りツッコミを入れるシャルロット。
「うん?あぁ、この国に来る前に付き合っていたレディたちの事さ、その時は彼女達と心の底から愛して会えてると思っていたんだけど……あの方の活躍を見て実際にお会いした後だと、そう思い込んでいただけだった気がするね。」
「「はぁ?」」
事も無し気に語った言葉は思いの外インパクトが有った、同性とは言えロランティーネにそれだけ思いを寄せて貰える人望と人気が有ったらしい、しかし今はその恋人たちはこと切れた様で少し寂しそうにはしても引き摺ってはいないようだ。
それでも人数が人数なだけに、シャルロットと鈴音は同時に間の抜けた相槌を打つ。
「それに気付いた切っ掛けは君達に戦いの記録を見せられた時だったよ、あの今年の春のシルバリオゴスペルの件の記録だ。」
「っ!あれって機密なんじゃ⁉」
あの臨海学校の話は当事者だけの秘密作戦であり、当然国家間でも箝口令がしかれ一般には詳細は伏せられていた、だからロランティーネの発言には驚きと若干の焦りを感じた。
「勿論、大部分はカット編集された切り取り映像だったけど、その映像は今や世界中で無数にアップと拡散がされているし、政府も虱潰しの対応しているけど間に合ってないんだ。それこそ、ソースが何処からなのかは巧妙に隠されているし、映像もアルビノボン太くんの活躍が中心だったからね。」
「それ私も見た!何か日本では公開されてない貴重な映像だって触れ込みだったよね?ウサギと人参のアイコンが共通のヤツ!」
「ウサギと……人参……。」
「あっはははは……。」
ロランティーネは日本では閲覧できないとある動画の話をしだして乱音も見た事があると同調した、乱音が語った投稿主のアイコンの特徴に見覚えは無くとも聞き覚えがある二人は苦笑いで流す他なかった。
「話を戻すけど、僕はその映像を恋人の一人だったレディが見ていた携帯端末から偶々見えたんだ……最初は視線を僕に向けて貰おうとしたんだけどね、結果は僕も引き込まれた僕だけじゃないその場に居た恋人たち全員が映像の中のあのお方の姿に魅了され目を離せくなった、圧倒的だった太陽の様に輝いて見えた同じ映像の中に居た登場人物全員が彼に照らされ存在感を持っていた、それでいてあのお方の邪魔になっていない完璧な調和が映像の中にあって……そんなに長くない動画なのに膝から崩れ落ちる程の感動を覚えたよ、それと同時に僕自身の至らなさも自覚してしまった。」
それは長編映画の山場、最も盛り上がるシーンも目を剥く迫力の場面の連続で見ていた当時の衝撃はロランティーネの人生観を根底から変えた、才ある者は引き立て役を作らずとも自ら輝けるその光は多くの羨望と嫉妬を集める人によって崇拝や信仰の域に達する者すらいる程に。
「僕はそれまでずっと自分をよく見せる事に執着して来たんだ、それこそ恋人たちへ愛を注ぐのも愛して欲しかったからだった……でもあの方の在り方は他者を引き立て自らも輝くそんな在り方は、僕の誰かを引き立て役にしなければ輝けない僕とは違っていた、多くの花を並び立てその中心で一人全く別の咲き方をする僕と皆を照らし光の舞台へ上げらるあの方、比べられる筈もない役者が違ったんだ。」
まるで違う生き方、まるで違う存在意義、まるで違う人間性、太陽を裸眼で見て目を焼かれたように視界が明るさで失われた、自身のなして来た行いの全ては他者の光を奪ってできた虚構でしかないと突き詰めてしまった。
「僕の心はあの方の光で一色に照らされて、これまで築いてきた価値観は砂の様に消えてしまったよ……僕がそうだった様に彼女達の心も変えられていた、お互いを恋愛の対象として認識できな程に魅了されて結局99人全員と話し合って別れ、僕は国に掛け合ってこの国に来た憧れのアルビノボン太くんに会う為にね。」
ロランツィーネは言い切った、自身のIS学園の門を潜った経緯をそれまでの生き方を赤裸々に告白して。
「ロラン……ここに一夏が居たらきっと、君と恋人たちの愛はまやかしじゃないって言うんだろうな。」
「そうね、後は強い光に目が眩んだだけ自分だって憧れを追って突き進んだ来た、その結果が今の自分だって言ってね。」
「うん、確実に言う。それから愛を知るっている君なら、きっと君の信じる未来を描き掴む事が出来る筈って締め括ると思う。」
ロランツィーネはまるでこれまでの自分が偽物であったと言っている様だと感じたシャルロット、鈴音そして簪は其々思い思いにここには居ないでも常に存在感を示す一夏の性格を思い浮かべ、彼が話しそうな内容を口々に語る。
「……すごいな、流石は軍神の眷属だあの方の考えている事が分かるのかな?」
「ううん、全然分かんない!」
「寧ろこっちの考えて来る事は、いつも初見である程度見空いて来るから心読めるのかって考えちゃうわよ?」
「それまで読んで普段の発言と行動である程度は察しが付くって言われてビックリした!」
一夏の言いそうなセリフを予測して言いのける三人にロランツィーネは感服しきって問い掛けるが、当の三人は驚くほど清々しく否定した。
一夏の行動はいつもミスリルや独自の筋から仕入れた情報から幾通りもの推察、相手の経歴や普段の生活姿勢から何手先までもある予測から決定と実行が為される、当然の事ではあるが仲間たちのデータも入っているから初見だろうと会話でも戦闘でも的確に対処されてしまうのだ。
「えぇ~、じゃっじゃあ何で?」
「そんな事、考えなくたって分るよ。」
「一夏はね、誰かを否定する事が嫌いなのよ。」
「特に自分で自分を否定する人は、反省は新たな道を見つけられるかもしれないが卑屈は可能性を潰すって言ったりしてね。」
彼は否定する事を否定する、彼自身が自分を信じ仲間を信じただから仲間も彼を信じまた自分を信じた、その共通の信頼感こそが自分たちの強みであると確信していた、だからこそ自分に悲観的な感情を持つ事は自分だけじゃなく信じてくれた仲間も裏切る事だと共通認識を持っているのだ。
「ははは、敵わないなあなた達には……過度な自己否定は却って未来を閉ざすか、また学ばせて貰ったよ。」
「うんうん、多少は自信を持っていた方が得だよ。特に僕たちは候補生でも国を背負ってるんだから。」
「そうよ、アンタだって実力が有ったから候補生に選ばれたって事を誇りなさい。」
「そうじゃないと、私達を選んでくれた国の人達の面目も立たないしね。」
彼女たちはただの学生じゃない各々の国家の要人の指名を受けて派遣された要人、自信過剰も困るが無さ過ぎるのもそれはそれで問題だ、選ばれた人間には選ばれただけの意味があるのだ。
「……あの~皆さん?当初の目的をお忘れでわ?もうセシリアちゃん達もう行っちゃわよ?」
彼女たちが全く別の空気感を漂わせる中、ずっと蚊帳の外で終わるのを待てった楯無が折を見て話を差し込んだ。
「あっ!すっかり忘れてたわ……行先はCDショップだったわね。」
「うん、確かそうだったはず……じゃあ、レゾナンスの中に入ってる所かな?」
「二人の居場所なら、あなた達がシリアスに話し合っている間に虚ちゃんを先に行かせたわよ。そろそろ連絡が来るかも、どう本音ちゃん?」
「ほいほい、噂をすればだよ楯無さん!二人はレゾナンスには行ってないって、えっとねぇ~学園前の街の最寄り駅から三駅目で降りた街のクラシック関係を専門に扱ってるCDショップに入ったみたい~?」
自分達の話に夢中で今日の目的がすっかり頭から抜け落ちていた楯無と布仏姉妹以外の全員が、慌てて目的の二人の足取りを追う為取り敢えず思い付く場所の検討を付け向かおうとすると、楯無が静止を呼びかける普段の姿どうであれ彼女は学園生の代表者だ仕切る時は仕切る。
何なら彼女の家柄的に言えば今回は専売特許とも言える活躍の機会である、ある意味手慣れた事であり従者を使いに出すのも自然にやっている。
「クラシック?なんだか以外ねぇ、彼の性格ならもっと激しい音楽が好きなのかと思ったのだけど?」
「……そう言えば、祖父と父親の影響でクラシックとかオペラあとジャズが好きって言ってたわねアイツ。」
本音が虚からの報告を伝えるとその内容に意外そうな反応をすると、鈴音は数馬がかつて話した自分の嗜好関係の事柄を話題を思い出した。
その数馬たちはと言うと……。
「まぁ!数馬さんもこのピアニストの方のファンでしたの?」
「えぇ、この人の旋律には、こう心に熱いも込み上げて来るんです。」
本格的に盛り上がっていた、実は数馬の生家の御手洗家は家格的には更識家の同格の旧家であり、彼の祖父は界隈では有名な武道家と名士の顔を併せ持つ人格者だったりする、最も彼の親族は総じてみな格式ばった行いは余りせず質実剛健のものを好む人物ばかり、華美な趣味は余り持たず唯一の例外で音楽関係には強い感心を寄せている。
数馬も例に漏れず、能や雅楽も嗜んでいたがクラシックやオペラを祖父から、ジャズは父からの影響で嗜好する様になった。
「静かだけど大人しくない穏やか情熱、血を沸かせるとは違う内からゆっくり温めらるような熱気を感じるんです。」
「えぇえぇ分かりますわ、一見閑静で清らかな泉を思わせておいてその下には沸々湧いて来る地熱の様な温かさが癖なりますの。」
二人の話題にしているのは最近名が売れ始めた少女ピアニスト、何でも海外の著名なコンクールで優秀な成績を残すまで一切が知られておらず、出身地や経歴が出て来ないすべてが謎の少女だが彼女が奏でる音楽は静かに人々を熱狂させていた。
「御手洗の坊ちゃんが女連れで来たから珍しいと思えば、随分仲良さそうじゃない?恋人でもできたのかい?」
「なっ!違いますよ彼女は友人ですよ店長!」
「そっ!そうですわね……わたくしはお友達、タダのお友達……。」
盛り上がる二人に温かい視線を向けていた男性店主が冷やかしの言葉を掛け、それに過剰に反応したのは数馬で慌ててセシリアと関係性を訂正するが、その言葉に静かに傷つき気を落としていく。
「えっ?えっ?ど、どうしたんですかセシリアさん⁉」
「あ~ああ~あダメだね坊ちゃん、女心が分かってない。」
目の見えて落ち込んでいるセシリアに如何していいか分からずオロオロして、店主はそんな二人の反応を面白がる様に揶揄い楽しんでいる。
「まぁ、お若い二人の初々しい反応を見るのもいいんだけどね~坊ちゃん、この後予定はあるの?」
「だから!って予定?……特には無かったかと。」
若い二人があたふたふる様子を眺めていた店長も流石に揶揄い過ぎたと感じたのか、表情を正しこの後に事を聞く。
放心状態のセシリアの介抱に手を焼く数馬はまた揶揄われたと思い反論しようとして虚を突かれ、店長からの問い掛けに少し悩み予定はない事を告げる。
「じゃあ、この先の動植物園で坊ちゃんが好きそうなイベントやってるぞ。折角だ二人で行ってきな。」
「俺が好きそうなイベント?」
「まぁ!数馬さんには他にも、お嗜みの事がありますの⁉」
御手洗家の一家には家族ぐるみの付き合いがある店長なので数馬の趣味も把握していて、彼がボン太くんと音楽以外で好きな事柄も理解している。
セシリアの数馬へ向ける想いを察した店長は、彼女にそれと無く数馬の趣味嗜好を教えるよう話すと、翳った顔を上げて興奮気味に店長に問い掛けた。
「嗜む……っと言えるレベルかは分かるませんが、祖母が活け花の師範を母がフラワーデザイナーをしておりますから、幼い頃から園芸を少し。」
「まぁ!わたくし、母国の屋敷の庭では多種多様の花木が植樹されていますのよ。特にローズガーデンの美しさには自信がありますの!」
彼の生家には広い庭が有りそこの一画の小さな花壇で花を育てている、その話を聞いたセシリアは自身の住む屋敷の庭園の事を嬉しそうに話す。
「薔薇かぁ~!私の一番好きな花です!いいですよね、可憐でありながら力強い!」
「えぇ、眺めているだけで力を貰えるようで、辛い事がある時はいつもそこで勇気を貰っていたんですの。」
「そうそう、その薔薇のイベント。何でも何処かの企業が、これまでに無い凄い品種を作ったんだと。」
また話題に花を咲かせる二人を今度は呆れながら、店長は人から聞いたイベントの内容を明かし勧める。
「これまでに無い新しい品種?気なるな、セシリアさん行ってみますか?来る前に布仏さん達と会長から二人分チケットを貰ったので。」
「えぇ勿論、ご一緒させて下さいまし数馬さん。」
好きな花の新たな品種の話に興味を惹かれた彼はセシリアを誘い、彼女は数馬からお誘いされた事が嬉しく穏やかに笑いながら了承の意を返し店を後にした。
「若いねぇ~見てるコッチが恥ずかしくなる、うまくやれよ坊ちゃん。」
二人の背中を見送った店長は、温和な表情で一人数馬に声援を送った。
「開花過程で花弁の色が変化する薔薇?これが今向かってるイベントの目玉ですかね?」
「開催場所を見てもそのようですわね?それにして成長する度に色が変わるななんて不思議ですわね?」
CDショップを出たその足で大通りへ出て二人並んで歩く道すがら、通り沿いの店舗の入り口付近に件の新品種の薔薇の催しを思われるポスターを見つけ足を止める。
見出しに大々的に載せられた宣伝文句には新品種は成長する毎に色に変化があると書かれていた、一緒に添付された写真には蕾の時は白で五分咲きで赤満開で青の色に変化した薔薇が見えた。
「別の苗を撮った写真じゃない……のか?」
「葉のつき方や房の位置的には同じ物の株の様にも見えますわね?」
「誰だ誰だ店先を立ち塞いでるのはって御手洗の坊ちゃん!随分ご無沙汰ですね、お隣の別嬪さんは彼女さんですかい?」
二人してポスターを注意深く凝視するので、冷やかしかと出て来たのは花屋の店主は数馬の姿を見て声を掛けた。
「なっ!違いますよ!セシリアさんは……!」
「お友達……でしたわね、考えてみれば出会ってまだ半年も一月も経ってない間柄でしたわ、ですから少しづつ意識して変えさせてみせますの覚悟してくださいな数馬さん。」
流石に三回目、数馬の反応にも耐性が出来たセシリアは後に続く言葉を奪い、改めて数馬に向き合い認識を友人から変えてみせると宣言する。
「は、はぁ?」
「それでは、お花屋さんお邪魔しましたの行きましょう?」
「え!あのセシリアさん⁉手が……!」
「おぉ~、楽しんでこいよ~……随分強気なお嬢さんだったな、テッサさんを思い出すな。」
急に狩人の目で挑発的めいたセリフを告げられた数馬は頭の上に幾つもクエスチョンマークを浮かべ気の抜けた返答を返し、気分を切り替え覚悟を決めたセシリアは勝気な笑顔で花屋の店主に一言侘びの言葉を掛けて数馬の手を引き目的地へ歩き出した。
それから雰囲気をがガラリと変わったセシリアに驚きつつも、触れ合う手から伝わるお互いの体温にドギマギする数馬とセシリアは緊張から何も言えず動植物園へ道を並んで進み辿り着いた。
「つ、着きましたよ……セシリアさん、その……手を、チケットが渡したので。」
「え?あっあぁ~はい……りょ、了解ですわ。」
入園ゲートの前で二人して心ここにあらずな様子で固まっていたが、数馬がゆっくりと意識を取り戻しセシリアに語り掛け、セシリアも自分の起こした行動で止まった思考が回り出してポツリポツリと回答を返す。
ぎこちないながらもチケットを受け取り二人でゲートを抜け園の中へ、中は家族連れとカップルで賑わいごった返すと言える程では無いにしてそれなりに賑わっていた。
「……………。」
チケットを受け取る為とは言え一度離した手をもう一度取ろうと延ばし途中で引っ込めてしまう、最初はその場の勢いで手を取れたが二回目ともなると相手を意識し気恥ずかしさで遠ざかる。
「……っ!セシリアさん、その……私は何度か来たことが有りますが、あっ貴女は今日が初めてですよね⁉」
「は、はい!」
そんなもどかしさに耐え切れなかった数馬が捲し立てる様に口早に聞くと、ずっと手を宙で彷徨わせるセシリアは急に大声かつ早口で話しかけられ驚きながらも頷く。
「じゃ、じゃあ……その、はぐれない様に手を。」
「え?えぇ……では、お願いしますの。」
緊張で顔を強張らせつつも如何にか笑顔を作ろうとして表情を引き攣らせながらセシリアに手を差し出し、まださっき余波が残ってはいたが大分落ち着いてきた彼女は出された手に自分の手を重ねた。
『数馬さんから手を伸ばしていただけるなんて……ふふふ、さっきの勢い任せの時はまるで違う感触ですわね。』
自分から奪うように繫いだ手の感触とは違う、意中の相手から差し出され結んだ手のひらの優しい暖かさに自然と笑みが零れた。
幸福に満たされたのはセシリアだけではない、目的の展示会場までの道を案内図と看板に従い進む間、数馬も頬を紅潮させながらも僅かに口角が上がっていた。
周りに人が居るにも拘らず二人はお互いの存在だけがそこにある感覚を覚えて、並び歩く道程ですら短く思える程だった。
「温室ドーム……ここですね。」
「えぇ、わたくし今から見るが楽しみですわ。」
ドーム状の天幕の中に多種多様な植物が植生している事を売りにしている施設の正面、イベントロゴが印刷された特設ゲートが置かれた入り口、来園者が今も入っていく中に混じり二人もドームへと入っていく。
目玉の新品種の薔薇の展示スペースまでの通路を挟むように植えられた様々な植物を見物していたら、いつの間にか緊張も解け二人の間にも他愛のない会話のできる程度の空気が戻っていた、ドームの天井から降り注ぐ太陽光に照らされ光満ちる風景の中、通路の終わり半屋外より屋根の覆う施設へ。
「見えてきましたね、あの一角がそうかな?」
「ふふ、沢山の方が集まっていますわね。」
施設の中の奥にあるウインドウの前に人が集まっていて、その人だかりの方へ向かえば写真に写っていたあの薔薇と同じ品種の株が展示されていた、横には成長過程を撮影した記録映像が早送りで再生され成長過程で色が変わっているのがよく分かった。
「……不思議ですわね。」
「えぇ、こうしてみると本当に色が変わるんですね。」
名前も決まってないただ新品種と書かれた周りの装飾から見ればとても質素な名札が付けられた今は青い薔薇、しかし開花までに二度も色彩を変えて今の姿にあるその一株は人の熱意が作り出した必然の奇跡である。
その姿に何を思浮かべたのか物憂げな表情で見つめ感慨深く呟いた、その言葉が如何なる真意で紡がれた言葉であるかは測りかねるが数馬は敢えて目の前の薔薇の感想で返す。
「くす、数馬さん。今、態と話題を逸らしましたわね?」
「……バレましたか。」
さっきまでの雰囲気が少し薄れしたり顔で僅かに数馬に顔を向けると、数馬も惚け様子でセシリアに顔を合わせる。
「又聞きではありますが、最初の頃のセシリアさんの印象は聞いていますから。」
「鼻持ちならない、驕り高ぶりの激しい女権主義者のイメージそのままの人間ですわね……今は、周りの人たちに諭されボン太くんに魅せられ変わりましたのよ?」
最初の彼女のイメージは何かと自分の立場を持ち出し他者に挑発を繰り返して、気に入らなければヒステリックに騒ぎ出す我が儘の子供そのものだった。
今の落ち着いた大人の女性像とは正反対と言っていいが、そこは一夏を初めてした級友と学園内に多く居たボン太くんファンの同志たちが変えてくれたもの、あのまま行けば最悪今でも自分こそが正しいのだと心から思う勘違い女となっていたと彼女は思っていた。
だからこそ……。
「今こうして、出会って日の浅い殿方と逢引きをしている自分にビックリしていましたの。」
「セシリアさん、私は過去の貴方を知りません、貴女がどんな幼少期を過ごしどんな過程を経て傲慢な人になったのかも……でもこれだけは言える、今の貴方を作ったのは貴女自身だ貴女がそうありたいと望んで変わるよう努力した、それこれも過去の貴女から今に続く貴女のヒストリーがあるから、恥ずべきと思う時代があるから今をより大事に出来る、最初から整た人間はいません。それこそこの薔薇の様に、関わった多くの人間の夢や熱意が合ったから、良い出会いも悪い出会いあったから今は私が隣に立てるんです。誇ってください今までの貴女も含めて、私はセシリアさんと出会えて良かった。」
セシリアの過去、両親への不信感と誤解そして行き成りの死別から始まり、強欲な大人たちから家を守るために精一杯強がり戦った日々、そんな日々で知らず溜まった年相応の鬱憤を不甲斐ないと断じた異性にぶつける様になった期間であり、今の友人に囲まれ充実した日々から縁遠い所にある。
だがそれでも、そんな過去する認めて傍に居てくれる人を望んでいたのかもしれない、そしてそれが……。
「貴方だったんですのね……数馬さん?」
セシリアは思う天国の両親に私はもう大丈夫と、この人が傍に居てくれるなら自分は望んだ存在になれると、だから願って欲しいこの人がこの先も自分の傍で支え合ってくると人になる事を、その努力は惜しまないからと。
そんな切なる願いを天の両親に送る頃、一夏と円夏はミスリル日本支社の社屋内会議室にてとある人物と対峙していた、それはヨーロッパミスリルラボの最高責任者であり。
「では、リフレクションの基本理論開示と技術提供の許可を頂けるんですね?」
「えぇ、他なるぬアイコ・サガラとテッサが認めた貴方がたが認めた潜在能力、私も見たくなりました。」
張り詰めた空気感の中で淡々と物事が決まり、事態は次の段階へ進もうとしていた。
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