ハイスクールD×D英雄譚 ロンギヌス・イレギュラーズ (グレン×グレン)
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おまけ サーヴァント風ステータス表

ちょっとした息抜きで追加してみました。いや、考えると面白いですよね、こういうの。


 

◎ヒロイ・カッシウス(ランサー)

 中立・善

 筋力C 敏捷B 耐久B 魔力D 幸運C 宝具EX

 『クラス別スキル』

 対魔力:B

 『保有スキル』

 心眼(真)C+

 真面目に修業したことによって得た戦闘論理。

 数パーセントしかない勝機を適格に見極め、それを実行に移すことが可能。さらに神器の特性もあり、電磁力に関する現象で対処可能な場合、ランクが上昇する。

 『宝具』

 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 対神宝具 ランクA++ レンジ:2~3 最大補足:1人

 神器と呼ばれる、神が生み出した異能の一つ。其の中でも神や魔王にすら届くといわれる神滅具と呼ばれる究極の1。

 武器としての性能もさることながら、最強の神殺しであり最強の聖遺物の神器。

 

 無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し(トゥルー・ロンギヌス・アポカリュプス)

 対聖槍宝具 ランクEX レンジ:1~99 最大補足:13本

 黄昏の聖槍の禁手と呼ばれる究極形態。

 能力は黄昏の聖槍の能力に干渉すること。黄昏の聖槍の力を弱体化させることのみに全出力を振った亜種禁手。

 

 覇輝(トゥルース・イデア)

 対城宝具 ランクEX レンジ:不定 最大補足:不定

 黄昏の聖槍だけが持つ特殊な能力。槍の中に封じられている聖書の神の遺志を開放。聖書の神の遺志が独自に状況を判断し、行動を起こす。

 文字通り神霊レベルの魔術行使。発動される現象は多岐にわたるが、聖書の神の遺志に判断がゆだねられているため、何も起きないということもあるため切り札としては使用しづらい。

 

 

 

◎リセス・イドアル(キャスター)

 中立・中庸

 筋力C 敏捷C 耐久C 魔力A 幸運D 宝具EX

 『クラス別スキル』

 道具作成:E

 キャスターはそういった技能を持っていない。其のため非常に低ランク。

 

 陣地作成:EX

 宝具の効果もあり、工房とは異なり都市規模の天候を操作することができる。

 リセスは天候操作はあまり得意としていないが、その気になれば都市規模で災害を発生させることも可能。

 『保有スキル』

 黄金律(体):C

 生まれながらに女神に準ずるほどの最高水準の美しき体を持つ。

 

 魅惑の美声:D

 先天的才能による美声。人を引き付ける魅了系スキル。

 意志力次第で抵抗可能ではあるが、一種のカリスマとして運用できる。

 

 フェロモン:C

 異性を惑わす色香を現すスキル

 

 戦闘続行:D+

 二人の大事な人たちの自慢でい続けるためのやせ我慢。

 重傷を負っても戦闘を可能とする。対象である二人が近くにいる場合は格好をつけるため能力が倍加される。

 『宝具』

 煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)

 ランクA++ 対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人

 聖書にしるされし神が作り出した、極めれば神や魔王すら殺しうるとされる13の異能が一つ。

 能力は天候操作と属性支配。あらゆる属性を支配して操り、天災クラスの天候を自在に生み出すことができる。

 古来より天災は神の御業とされており、リセスがキャスターとして召喚されたのはこれが理由。

 リセスは属性支配に特化した能力を発揮しており、相手の技量次第ではあるが相手の放った属性攻撃を操作して反射するカウンター攻撃を行うことも可能。

 

 煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)

 ランクEX 対軍宝具 レンジ:1~99 最大補足:1000人

 煌天雷獄の発展形態にして、リセスが編み出した奥義である禁手と呼ばれる形態。

 その能力は矛盾融合。聖と魔、祝福と呪い、高熱と冷気などといった相反する存在を融合させて運用する。

 リセスはこの状態では聖と魔のオーラを融合させて運用することが基本。

 

 理想へと足掻いたこの道に偽りなし(ディストピア・アンド・ユートピア)

 対人奥義 ランク:無し(EX相当) レンジ:1 最大補足:一人

 煌天下の矛盾によって発動する、リセスの必殺奥義。超高熱と極低温の矛盾融合によって発動する攻撃。

 熱相転移の領域にまで高められた熱衝撃によって、物理的結合を粉砕するという大技。煌天雷獄の出力もあり、核シェルターすら一瞬で粉砕する破壊力を発揮する。

 反面魔力結界などの物理強度を伴わない防御方法に関しては、通常運用の方が燃費的に有利というピーキーな性能を持つ。

 

 



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赤龍帝の信頼の譲渡

これ、単独で分けた方がいいんじゃないかと思ったので、単独でコーナーを作ってみることにしました!


赤龍帝の信頼の譲渡(ウェルシュ・リライアント・トランスファー)

 兵藤一誠が土壇場に覚醒させた、悪魔の駒のブラックボックスを利用した赤龍帝の籠手の拡張発展能力。

 本来なら原作通りの三叉成駒になるはずだったが、長可の介入でそれではどうしようもない状況下に追いつめられる。……そこで機転を利かせた一誠が、その出力を仲間に譲渡する事で、味方の強化形態を作るという方向に発展させた。

 将来的に手に入る深紅の滅殺龍姫及び真紅の破壊竜騎士に比べると、接触する必要があるという欠点がある。ただし、イッセー自身の能力を制限させるなどといった事がない事もあり、使いようによってはそれ以上の効果を発揮する。

 適合する人物が限られているという欠点はあるが、それぞれ個性のある形態に変化する。特徴としては、僧侶の駒によるプロモーションの場合は譲渡の能力の拡張発展が行われる。

 

 

 ★龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)

 ヒロイがイッセーとの連携で発動する、強化形態。

 赤龍帝の騎士にプロモーションされた力を譲渡される事によって、赤い龍の軽装鎧を身に纏う。

 鎧そのものに追加されたスラスターによって、超音速域での高速飛行を行う事ができるというシンプルな能力。また鎧も頑丈であり、身体能力も赤龍帝の鎧の疑似禁手クラスには引き上げられるという特性があり、全体的に大幅に強化される。

 ▽詠唱

 我が英雄とは、輝き照らす光なり。

 陽光に焦がれ、閃光で照らし、そして人々を栄光に導かん。

 我、赤き龍の輝きに照らされ、同胞を照らす強き輝きになることを誓う

 

 ★龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)

 リセスがイッセーとの連携で発動する、強化形態。

 僧侶の駒で強化された赤龍帝の力を譲渡する事で発現する。

 能力は赤龍帝の贈り物を応用発展させた遠隔属性付加。離れた味方に属性を付加させる事で、戦闘能力を大幅に向上させる。敵に対しても使用する事は理論上できるが、これに関してはしても基本意味がない為、基本使用されない。

 現段階においてはキョジンキラーに雷撃を付加させる事により、遠隔操作する事で戦闘の幅を広げるという事が基本。

 ▽詠唱

 我が英雄とは、心折れぬ力なり。

 心を強く、体を強く、そして心体を支える魂こそ強くあれ。

 我、赤き龍の強さを宿し、弱き己を乗り越える圧倒的な強者であり続けん。

 ▼詠唱(真)

 我が英雄とは、輝きが掲げる誇りなり

 罪に惑い、強さに縋り、されどゆえにこそ手にできた栄光。

 我、赤き龍の優しさのように、愛おしき双翼を纏いて天へと飛び立たん!!

 

 ★龍鬼の魔獣(ドラゴンオーガ・ビースト)

 天界襲撃事件で全てを吹っ切り、敵対を決意したニエと、それを認めたイッセーの2人の共感によって生み出された戦車の力を譲渡された形態。

 自身を龍を模した魔獣へと変成させる。また二天龍の「透過」と「反射」を獲得し、攻防において優れた能力を発揮。

 反面龍の特性を最も強く受ける為、龍殺しが弱点になりやすいという欠点も持つ。

 ☆詠唱

 我が英雄とは、我にとっての敵対者なり。

 

 されどそれでも立ち上がり、進み続けてきたことを我も認めよう。

 

 我、赤き龍の怒りと響き、赤き龍に怒りの具現を教えよう。

 

 ★龍刃の魔剣(ドラゴンナイト・ブレイド)

 ジークフリートとの戦いで追い詰められた祐斗が発現させた、僧侶の力を宿した強化形態。

 いわゆる貴族服の形で展開し、また典型的騎士である祐斗との相性が悪いと錯覚する事もあるが、特種能力特化型である。

 リセスの龍天の賢者と同じく譲渡と自身の能力を融合させており、触れた剣をなんでも聖魔剣に変化させる。持っている物が元から伝説クラスの聖剣や魔剣の場合、バランスこそ乱れやすいものの性能が聖魔剣化する事でより向上する。後に聖魔剣の能力が進化した事で、この欠点も克服される。

 祐斗の技量がずば抜けて高い事もあり、剣以外の物も低性能ながら聖魔剣化させる事が可能。この応用で、キョジンキラーを運用する事もできる。

 ▽詠唱

 我が英雄とは、我らを救いし赤龍帝なり。

 明星にすら抗い、悪神すら恐れず、その果てに栄光すらその手に掴む。

 我、赤き龍の想いとともに、主と同胞を守りし守護騎士であらん!

 

 ★龍光の天使(ドラゴンライト・エンゼル)

 天界襲撃事件で、紫藤イリナが発動させた、騎士の力を宿した強化形態。

 背中の翼が龍の鱗が混ざり合った特殊な形状になる。

 能力は龍のオーラと光力を込めた灼熱の放出。通常時はスラスターとして使用されるのみだが、広範囲攻撃や攻性防壁として運用する事もでき、練習次第で龍槍の勇者よりもそれぞれの性能の最高値では上回る事もできる。

 反面翼からしか発生しない為、龍槍の騎士と比べると安定性や不意打ちでの安全性に難がある。

 ▽詠唱

 我が英雄とは、我と共にある比翼なり。

 相反し、相克し、然し共存を選びし和議の栄光を作りし者。

 我、赤き龍と共にあり、天界と天龍の加護与えし天使とならん!

 

 ★龍王の獅子(ドラゴンキング・レオーネ)

 魔獣騒動で、覇光に対抗する為にサイラオーグが発動させた、戦車の力を宿した強化形態。

 獅子王の獣皮に龍の装甲が付いたグレート合体方式であり、能力はシンプルに獅子王の獣皮の強化。

 その戦闘能力はのちの覇獣式に匹敵しており、覇光を単独で抑えられる最後の切り札と言っても過言ではない。

 ▽詠唱

 我が英雄とは、同胞と共にある我自身なり。

 魔の力持たず、劣等たる我なれど、しかし栄光をつかみ取らん。

 我、赤き龍に並び立つ獅子として、万難を砕く拳を振るわん!

 

 

 



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魔改造、技術設定

オリキャラの分だけでも設定が多すぎたので、ドーインジャーや魔改造などはこちらで書くことにしました。そっちの方が読みやすいと思ったので。


◎独自技術

 

 ★禁手 魔獣創り(アナイアレイション・)出す工房(クリスタル・ファクトリー)

 独立状態で禁手化させた魔獣創造の亜種禁手。

 作り出した魔獣を結晶体の形で生み出し、半永久的に保存する事ができる。

 また、非常に大型化するが工場型の人工神器の開発にも成功。一つ一つの生産速度では劣るが、ドーインジャーを生産する事でヴィクター経済連合を支えている。

 ▽ドーインジャー

 魔獣創り出す工房によって生産される魔獣。

 数々の研究によって生成難易度を下げており、そのうえで戦闘能力は並の下級悪魔の兵士を上回る。ヴィクター経済連合の魔獣創造の使い手は、先ずこれの生成を学ばせる事でノウハウを得ている。最低でも戦闘装甲車両に匹敵する戦闘能力を保有している。

 両腕から光弾及び光剣を生み出す事ができ、それによって戦闘を行なう。

 ▼A型

 陸戦使用。背中にも腕を装備しており、それによる制圧射撃が持ち味。

 最も量産性が高いモデルでもあり、対空迎撃も可能な事から基本兵器として運用されている。

 下級クラスと同等の能力しかないが、その戦闘能力を中級クラスにまで高めたA2型も運用されることとなる。

 ▼B型

 空戦使用。背中に翼を装備しており、それにより高い空戦能力を持つ。

 並の戦闘機なら一蹴できる攻撃力と、翻弄できる機動力と、安心して倒せるだけの防御力を保有している為、人間で制空権を確保する事は不可能。

 下級クラスの戦闘能力が基本だが、のちに中級クラスの戦闘能力を発揮するB2型が開発される。

 ▼C型

 砲撃戦仕様。背部にキャノンアームを装備しており、それを展開して砲撃戦闘を展開する。

 自走砲や榴弾砲の代替品としての運用が主であり、魔獣創造の技術を流用して、榴弾魔獣を生成することで曲射軌道で砲撃を行う。

 基本的には下級クラスだが、戦闘能力を中級クラスにまで向上させたC2型がのちに生産される。

 ▼D型

 対悪魔仕様。攻撃がタダの光弾ではなく光力を纏っており、悪魔相手に高い戦闘能力を発揮する。

 戦闘能力は中級クラス以上。その分生産性は下がっており、基本的にはアンチモンスターの生成に長けるレオナルドが即時生産して運用する。

 ▼E型

 対天使・堕天使仕様。光力に対する高い耐性を発揮しており、光力の運用が基本の天使や堕天使に対して相性がいい。

 反面生産性が低いが、戦闘能力は中級クラス。基本的にはアンチモンスターの生成に長けるレオナルドが運用している。

 

 

 ☆イグドラシステム

 ロキとの一戦で手に入れた、彼の切り札たる魔獣達を利用して開発した、特種兵装。

 それぞれがベルトの形をしており、そこに一つ一つのモンスターコアを埋め込む事で変身する。更に人造神器技術と魔法使いの技術協力で開発された空間圧縮型核融合炉を搭載しており、常時覇を発動させた状態で戦闘する事が可能。

 イグドライバーを装着したうえで、更に専用のジェルカートリッジを接続する事で戦闘形態へ変身する。

 ★イグドライバー

 イグドラシステムを使用する為のコアユニット。ベルト型のユニットであり、中心部にジェルカートリッジを装着する。

 ★ジェルカートリッジ

 イグドラシステムを使用する為のカートリッジ。これをイグドライバーにセットする事で変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇異能自衛官

 政府直轄の異能組織として生み出された自衛隊の特殊部隊。

 元々五代宗家などの冷徹な対応に悩まされた結果生み出されたもので、宗家の異能を持たないが故に追放された者達を中心に集められていたが、虚蝉機関の事件を機に、先代総理が本格的な強化を決断。極秘裏に大量の資金が投入された。

 国内の神器保有者や術者の素質を持つ者を集めて組織されており、五代宗家から追放された者はその技術指導官として運用されている。更にロキとの一戦があった後はその存在を公表して、各神話から教官役の人材を派遣してもらうなど、精力的に強化を行っている。

 主な装備としては空蝉機関が開発したウツセミが使用されており、最初の出番であったロキ一派との戦闘で戦力として十分に仕えることを証明。その後も精力的な技術交流により、対異形用の装備を開発し続けている。

 

☆01型魔導小銃

 人造神器技術を流用して開発された、普通科などが運用する特殊装備。

 意志力をエネルギーに変換して、弾丸として射出するというシンプルな者。人工神器技術としてはかなり低レベルな代物だが、その分安全性と生産性は抜群であり、下級悪魔クラス相手なら十分対応できる。

 

☆02型戦術歩行機 『防人一式』

 対異形戦闘を考慮し、三大勢力と合同で開発した、人型機動兵器。

 人工神器技術を流用し、さらに大型化させることで運用能力を増大。思考操縦、斥力場発生、龍脈からのエネルギー吸収などといった機能を保有する。さらにキョジンキラーの人工筋肉を量産向きに改良。筋力など様々な性能低下と引き換えに、エネルギーの蓄積機能と燃費の大幅向上を果たすことに成功した。

 これらの機能から最大限の機能を発揮するために四肢を保有する人型兵器として開発されている。

 装備としては、シールドとメイスというシンプルな装備を運用。また、射撃線を主眼に置いたしようとして、車載兵器などを接続できるガンマウントシステムを保有する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎魔改造

 

 

◆ディオドラ・アスタロト

 純血悪魔でも珍しい、神器多重保有者になれる存在。ゆえに厚遇されている。

 その来歴ゆえに龍との相性が強く、数少ない高位封印系神器を与えられる。

 

 ☆神器 龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)

 龍を模した大砲を形成する神器。極東の龍の中でも強大な部類である八面王を封印した神器。

 上級悪魔相当の破壊力の砲撃を放つ事が出来る。シンプルで隙も大きいが、それゆえに扱いやすい。

 ディオドラの場合は亜種で、背中から龍の首が生えて砲撃を行う。この特性から両手が開く為、欠点をカバーする事も出来る。

 ☆神器 龍の外装(ドラゴナイト・メイル)

 龍を模した鎧を身に纏う神器。西洋の龍の中でも強大な部類であるリンドドレイクを宿した神器。

 身体能力も大幅に強化される為、高位異形存在を打倒する事も可能。

 ★複合禁手 双龍の覇道(ジャガーノート・ドラグ・ブースト)

 龍の咆哮と龍の外装を複合させて産まれた禁手。

 翼の代わりに八つ首を生やした巨大な人型の龍になる複合禁手。

その戦闘能力は龍王クラスともまともに闘う事が出来る程。

 

☆神器 野獣の指導者(プレジデント・ビースト)

 知性の低い獣を、強制的に使役する神器。

 使い手の能力次第では、数十体を同時使役する事が可能。

 ★禁手 龍の指導者(プレジデント・ジャガーノート)

 野獣の指導者の亜種禁手。知性の低い状態の龍を強制的に使役する神器。

 暴走状態で理性が吹き飛んでいる覇龍にとっては天敵ともいえる能力。下手に使用した場合、味方だけを狙って攻撃させられることも十分にあり得る。

 

 

 

◆ゼファードル・グラシャラボラス

 リムヴァンに乗せられ、打倒サイラオーグの為に改造を受けた上で投入される。その本命はリセス対策にプリスを引き入れる事だが、無駄に律儀なリムヴァンによって、蛇を埋め込まれるなどかなり強化されている。

 ☆神器 拡散する波動(インパクト・サイレンサー)

 物理衝撃を吸収する防御系神器。

  ★禁手 反転する波動(インパクト・リフレクター)

 拡散する波動の禁手。物理衝撃を吸収するのではなく、反射する。

 ただし限界物理衝撃量には限界がある為、それ以上の攻撃を受けるとオーバーフロー分は喰らってしまうという欠点がある。

 

 

◆カテレア・レヴィアタン

 ☆神器 不死鳥の灯火(ランプライト・フェニックス)

 受けた傷が炎と共に再生するようになる回復系神器。その特性上、目立つ為迫害されやすいという欠点を保有している。

 

 

 

 

◎魔改造 英雄派

 リムヴァンが派遣した長可の昔話によって、「英雄とは人より前に進んだ者」という信念を獲得。それを成す為に人より過酷な訓練や、魔術的な制約、積極的な改造手術などにより前に進む事を選んでいる。

 

◆曹操

 本作主要ライバルキャラ。この世界の聖槍の持主であることから、後天的な聖槍使いであるヒロイを敵視している。また、英雄を自称する曹操と英雄でいたいリセス、そして英雄になりたいヒロイはある種の表裏一体の存在。

 

☆神器 魔剣創造(ソード・バース)

 自らがイメージした魔剣を生み出す神器。曹操がヒロイに対する当てつけとして移植したもの。

 曹操は聖槍の穂先に魔剣を組み込む事で、疑似的に聖魔剣化させて高出力で運用する。

 

☆神器 始原の人間(アダム・サピエンス)

 身体能力強化型神器。筋力とか移動速度などではなく、人間の持つ身体能力そのものを強化する。リセスの物と同様の物。

 その広げられる幅は数広く、それこそ五感はもちろん内蔵の機能なども強化可能。極めた使い手の中には高い自己再生能力を発揮する。

 曹操は自己再生能力が特に高く、フェニックスの涙が必要ないほどの再生能力を発揮する。

 

★複合禁手 覇光(ヒューマンズ・イデア)

 覇輝の運用は不可能に近いと判断した曹操が編み出した、身体強化術。

 強制的に覇輝を支配し、自身の能力強化につぎ込んだ能力。

 その能力向上率は極覇龍状態のヴァーリと同格。加えて持続時間では遥かに上回っており、曹操の技量と相まって、龍神化状態ですら苦戦必須の化け物と化している。

 加えてその本質は複合禁手であり、再生能力や五感も桁違いに強化。同時に肉体そのものを聖魔剣化させる事で様々な特性を得る事も出来るという、破格の能力を持つ。

 ▽詠唱

 神を射貫く真なる聖槍、そこに眠りし死した神の残滓よ。

 

 我がうちより湧き上がる、覇道と理想を浴びて、祝福と滅びの間を抉る唯の槍と化すがいい。

 

 汝よ、遺志すら語れぬ傀儡と成りて、その子らの道筋を照らす極星となり果てよ!

 

◆ジーク

 リセスにこっぴどくやられたうえに自戒の言葉を罵倒と受け取った事が原因で、早い段階から教会を疾走。その際、魔剣をグラム一本で対応している。

 ☆神器 龍の手(トゥワイス・クリティカル)

 自分の力を二倍にする、よくある神器。しかしドラゴンを封印している為、その潜在能力はかなり高い。

 ジークはグラム一本で戦うつもりである為、サブウェポンを保持する事に限定して運用している。

 ★禁手 龍を纏いし魔剣士(カオスエッジ・テスタメント)

 龍の手の亜種禁手。龍の力を宿した全身鎧を展開する。

 背中の手も強化されており、翼を生やした巨大な腕へと変貌。その怪力で敵を握り潰す事も可能で、楯として運用する事もできるなど性能が大幅に向上している。

 また、グラムの悪影響にある程度耐える事が出来る程の防御力も強化しており、より性能を高くしている。

 

◆ジャンヌ・ダルク

 ☆神器 魔剣創造(ソード・バース)

 聖剣創造の補佐として運用するべく移植している。

 

 ★複合禁手 聖魔龍の巣窟(ビトレイヤー・ドラグ・スクワッド)

 魔剣創造と聖剣創造を複合させることで覚醒した、複合禁手。

 能力は聖魔剣の創造及び、それによって構成されるドラゴンを複数体使役するというもの。

 木場の二種類の禁手と似て異なるものであり、同時に発動するという点で彼を凌いでいる。

 

◆ヘラクレス

 移植パターンとして、自分の元々持っていた巨人の悪戯を多重移植するという方法をとっている。

 ★禁手 偉人による決意の飛行(デトネイション・マイティ・フライト)

 爆発力をジェット推進のように使い、高速飛行を行う能力。

 一つの神器を飛行という現象に割り切った形で禁手にさせているため、その機動力は神滅具クラス。

 ★禁手 越人による戦意の一撃(デトネイション・マイティ・ブレイク)

 爆発力を収束させ、さらに指向性を加えて放つ禁手。

 一種のモンロー効果を発揮しており、その破壊力は通常状態の神器とは比べ物にならない。

 ★禁手 鉄人による覚悟の防壁(デトネイション・マイティ・アーマー)

 自分の体に触れた攻撃を爆破する攻性の防御能力を得る禁手。

 自身には一切の悪影響がない爆発により攻撃を弾き飛ばす。その特性上、物理攻撃に対してはめっぽう強い。

 ★禁手 死人による決死の自殺(デトネイション・マイティ・ジエンド)

 自分自身を高性能の爆薬へと変え、自爆する亜種禁手。

 英雄として華々しく散ろうという考えが根幹にあり、更に最後に少しでも戦果を上げようという、英雄派の英雄感が根幹にあるからこそ生まれた亜種禁手。

 

 

◎別勢力

 

◆ロキ

 原作よりも遥かに混乱状態に陥っている世界情勢を利用して、アースガルズの権威を北欧に取り戻し、そのうえで鎖国政策を取ろうという考えを持つ。

 其の為、真逆の方向である交流の活発化はより阻止したいと考えており、裏で情報を入手していた事で万が一の保険としていた捧腹と接触。敵の敵は味方理論で、和議阻止の為に行動を開始。

 彼の技術を利用してヨルムンガルドとスルト・サードの開発にも成功。更に同じ野望を持つエインヘリヤルやヴァルキリーを差し向け、時間差攻撃でオーディンを殲滅しようと企む。

 ……が、大尽の事前準備で催涙ガスによる足止めを喰らい、更に彼が内密に準備していた自衛隊がシトリー眷属やリセスと共闘した事で形勢逆転。加えて意図的に流していた情報でその戦闘がネット中に拡散し、大尽の想定通りに事が運び、挙句の果てに大尽自ら殴り込みをかけられ、「人間界の政治的重鎮は戦闘能力を考慮してない」という思考上の盲点を突かれて重傷を負うという、策謀でも戦闘でも人間に大敗を喫するという大打撃を喰らう事となる。

 

☆ムジョルニア

 ロキが開発したミョルニルのレプリカ。

 ロキだけが運用する事を前提としている為、ミョルニルの欠点である心が清い者でなければ使えないという問題点を克服している……が、それでもオリジナルのミョルニルに比べると出力は劣っている。

 

☆ヨルムンガルド

 ロキが、対オーディンを主軸にして開発した新たなるミドガルズオルム。

 自我が薄い代わりに戦闘用として特化した構成になっており、口から放つプラズマ砲と、全身から放つ自動追尾龍気弾による殲滅能力は、小国なら一日で壊滅状態にできるほど。

 

☆スルト・サード

 ロキが、対オーディンを主軸にして開発した新たなるするとのコピー体。

 全長20メートルの炎の巨人。見かけ通りの怪力であり、自我こそ薄いがそのポテンシャルは龍王クラスとも渡り合える。



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設定資料集

要望があったので作ってみました。

2018年 6月5日作成

2018年 6月5日追記

2018年 6月9日追記

2018年 7月26日追記

2018年 7月27日追記

2018年 7月28日追記

2018年 7月31日追記

2018年 8月8日追記

2018年 9月14日追記

2018年 10月4日追記

2018年 11月17日追記


2018年 12月12日追記

2018年 4月 28日追記


◇主人公 ヒロイ・カッシウス。

 

 教会の悪魔祓いをしていた主人公。

 

 リムヴァンの神器移植実験を受けた事のあるストリートチルドレン上がり。其の為信仰心が緩いのだが、聖槍を持っているうえに神器を二つ持っていた為、聖書の神の死を知るまでは教会も追放したくてもできなかった。

 

 リセスに救われて以来、英雄を目指す。しかし彼にとって英雄とは輝きとルビを振るもので、リセスが第一人者である。其の為考え方の異なるヴァスコ・ストラーダの事がどうしても受け入れられない。是もまた、問題児として認定されていた理由。

 

 聖書の神の死を知った事で教会を追放。その際リアスに自分を売り込み、最終的にサーゼクスに雇われる形でリアス達の護衛となる。因みに年俸を一億二千万貰っているが、大半を孤児院や自身と同じストリートチルドレンの保護活動に寄付している。後に三大勢力合同での契約になり、二億四千万円に増額した。

 

 ☆神滅具 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 ヒロイの移植された神滅具。基本的に主武装として運用している。

 曹操と比べると、単純な出力や機能の引き出し方では劣る。反面、聖槍の遺志そのものからは好感を抱かれているのか、加護を受けている為防御力が人間離れしている。

  ★禁手 無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し(トゥルー・ロンギヌス・アポカリュプス)

 ヒロイ・カッシウスが目覚めた黄昏の聖槍の亜種禁手。

 能力は、聖槍に対する干渉一点特化。ヒロイの聖槍から放たれる黒い輝きを浴びた聖槍は、其の力を格段に落としてしまう。

 曹操の覇光に対抗する事に全性能を傾けたと言っても過言ではない亜種禁手であり、同種の神滅具が複数存在しているこの世界線だからこそ発現する意味のある亜種禁手。

 

 ☆神器 紫電の双手(ライトニング・シェイク)

 ヒロイが移植された神器。両手から紫電を発生させる神器。

 ヒロイは牽制の為の広範囲攻撃及び、魔剣と能力を同調させての攻撃力上昇に使用している。

 ★禁手 紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)

 紫電の双手の亜種禁手。出力向上はそこそこだが、精密動作性が大幅に向上している。

 これによって磁力や生体電流を操作する事も可能となっており、とれる手数が大幅に向上している。

 ▼槍王の型

 紫に輝く双腕の電磁王の応用で放つ必殺技。生体電流を強制的に超強化して操作することにより、瞬間的に限界を超えた攻撃を放つ。

 刺突の流星(ながれぼし)、薙ぎ払いの箒星(ほうきぼし)、更に二つの構えから聖槍を回転させる打撃技の崩星(くずれぼし)の三種類存在する。

 悪神ロキですら構えから軌道を予測しなければ回避できないほどの速度で迫る聖槍の一撃は、必殺技とするにふさわしい威力。反面、文字通り限界を超えているため負担もすさまじく、一日に何度も放てるような技では断じてない。

 のちに応用技術によって、生体電流を数パーセントだけ強化することによって身体能力を強化することで、通常戦闘での運用版を編み出すこととなる。

 

☆神器 魔剣創造(ソード・バース)

 ヒロイが移植された神器。木場のものと同一。

 ヒロイは聖槍が使いづらい状況におけるサブウェポンとしての運用に特化していたが、アザゼルの指導もあり、体に付ける事で戦闘の幅を広げるといった運用にシフトする。

 木場とは違い科学的なアプローチから運用を行っており、防御用に特化した魔剣を作るなど、独特の発想で戦闘を行っている。

 ▽ホンダブレード

 防御用にヒロイが開発した魔剣。

 硬くて粘りのある芯の周りに脆く柔らかい金属を包む形で生んだ魔剣、これによりワザと砕ける事で攻撃の衝撃を吸収する。

 日本車の作りを参考に開発された魔剣。

 ▽エペタングステン

 後述のマスドライバースティンガーで運用する刺突剣。

 全長二メートル以上の超長刺突剣で、更に唾の部分が三角翼となっている。

 これによりいわゆるAPSFDSと同様の理論で作られており、それをマスドライバースティンガーで放つことによって桁違いの火力となる。

 ▼マスドライバースティンガー

 ヒロイが開発した必殺技。電磁王を利用することによるレールガンでの攻撃。

 更に魔剣をレールとして運用することでより加速するようにしており、第二宇宙速度に匹敵する速度で叩き込む。弾丸が魔剣であることもあって、その攻撃力は神クラスですら負傷させるほど。

 

 

◇リセス・イドアル

 

 本作のヒロイン。ただし、立ち位置とストーリーとしてのヒロイン。そしてストーリー構成的には真主人公。

 

 色事が大好きな性分だが、英雄を目指しており基本的には正義の人。割と常識人でありグレモリー眷属の奇行にはツッコミを入れる立場。なお芸能関係に一家言ありで、それが絡むと微妙にキャラ崩壊を起こす。……それが自傷行為である事を知る者は、第四章終盤まではペトとプリスぐらいだった。

 

 孤児院出身で弱い立場である事にコンプレックスを持ち、それを克服する為に迷走を続ける人生を送ってきた。彼女にとっての英雄とは、そのコンプレックスを克服する「強者」であり、かつて失ったものをその代償にする事で贖罪するという、迷走を続けてきた結果が開始時点の彼女。それを否定させられたうえで、なお慕ってくれるヒロイとペトの2人が誰にはばかることなく自分を慕う事を「自慢」とするべく、新たに英雄を定義づけている。

 

 グリゴリに雇われている神滅具の使い手。ヒロイと同じくリムヴァンの神器移植実験に関わった適合者。グリゴリに関わる前は教会の流した仕事を請け負っている。その際ジークと因縁をつけられているなど、割と苦労人体質。

 

 ☆神器 始原の人間(アダム・サピエンス)

 身体能力強化型神器。筋力とか移動速度などではなく、人間の持つ身体能力そのものを強化する。

 その広げられる幅は数広く、それこそ五感はもちろん内蔵の機能なども強化可能。極めた使い手の中は高い自己再生能力を発揮する。

 

 ☆神器 異界の倉(スペイス・カーゴ)

 大容量の異空間を保有する神器。その格納用量は大型の輸送船に匹敵する。

 いわゆる四次元ポケットであり、中に入れるものを確保する事が出来て初めて意味を成す。リセスは神の子を見張る者に与する事で、それをクリアーする事に成功した。

 

 ☆神滅具 煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)

 上位神滅具の一つ。あらゆる属性と天候を支配する神滅具。

 神滅具の中でも広範囲の攻撃に特化した性能を持つ、リセスはあえて装備に属性を与える事で点の攻撃力を高める運用方法をしている。

 本来の使い手であるデュリオに比べると、オーラの出力と広範囲攻撃では劣るが、扱えるオーラの種類などでは勝るタイプ。龍殺しや神殺しのオーラすら操る事ができ、そういう格上を撃破する事も可能。

 ★禁手 煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)

 煌天雷獄の亜種禁手。リセス・イドアルの弱さを受け入れ強さを求める決意が生み出した亜種禁手。

 属性支配の発展形であり、能力は矛盾許容。聖と魔、高熱と冷気など相反する属性を融合させることで、聖魔剣のような高出力化を発揮する。そして魔剣創造より出力が高い事からその出力は相乗効果でうなぎ上りしており、攻撃力と能動的な防御力に関しては真女王を超える上昇率を誇る。反面鎧として常時具現化するのではなく、意図的に展開するため不意打ちには比較的弱く、出力が高すぎる為、持続力も不安定な為、イッセーが禁手に目覚めたての頃に次ぐレベルで使いどころが難しい。

 高熱と冷気の融合は熱相転移レベルの熱衝撃を生む為、単純物理防御でその状態の攻撃を防ぐのは困難。その一撃―ディストピアアンドユートピア―は、条件次第では覇龍すら超える一撃と化す。

 

 ☆人型決戦兵器、キョジンキラー

 アザゼルが半分趣味で開発した、人工神器研究を流用した人型兵器。

 正体をあらわにしたドラゴンや、巨人族などといった大型存在用の兵器。大きさゆえに脅威な敵に対抗する為、同じサイズになって殴り飛ばす事を目的として開発された。

 試作型の人工筋肉による圧倒的な馬力が最大の持ち味で、筋力だけなら龍王クラスとまともにやり合えるほどの出力を発揮する。加えて製造費用と維持費用もかなり安く、大量に生産する事も可能。

 反面、燃費があまりにも悪い事から量産計画が打ち切られるも、リセスを味方に引き入れた事で計画が再燃。煌天雷獄の雷撃を動力源とする事で、まともに運用可能なレベルに迄完成した。

 異界の倉の格納用量の大半をこれで占めており、必要に応じて召喚して運用する。

 

 

◇ペト・レスィーヴ

 

 リセスの妹分。上級堕天使と人間の間に生まれたハーフ堕天使。

 

 お姉さま命の軽い女の子でリセスと一緒に色事にふける堕天使らしい少女。精神的に壊れているところがあり、敵に対してはかなり容赦しないという二面性を持つ。

 

 狙撃に関しては形容する言葉が見つからないレベルだが、反面それ以外は格下にも苦戦する、典型的な一芸特化型。

 

☆神器 万象見通す眼(ガナ・フライ・アイ)

 見ることに関して驚異的な能力を発揮する神器。

 単純な視力強化だけでもちょっとした天体望遠鏡クラスの視力を発揮する事ができ、加えて動体視力も桁違い。

 

☆人工神器 堕天の祝福受けし魔弾(スナイパー・ザミエル)

 ペト専用に開発された人工神器。

 光力の消耗を五発分チャージする代わりに、速度を桁違いに上昇させる銃型の人工神器。その弾速は第三宇宙速度を凌ぐ。

 威力こそ上級堕天使としてはギリギリといったレベルだが、彼女の神器と合わせる事によって、数十キロ離れた距離から一秒と掛からず光の弾丸を叩き込む事が可能。威力を下げる事により連射性能も向上する為、雑兵の殲滅から強敵の暗殺まで幅広い運用が可能。

 元々技術試験で開発されていたが、この圧倒的な弾速による攻撃を真の意味で発揮するには、超人的な狙撃能力を持つペトしかいない為、専用人工神器として調整し直した背景を持つ。

 

 

☆ 魔弾の蛇(ウロボロス・ザミエル)

 オーフィスが、主観的に恩義のできたペトに対するお礼の為に、黒歌とルフェイの協力のもと作った、専用の蛇。

 もとよりヴィクターでは、重要幹部クラス用に、専用調整された蛇を開発するプランがあった。最終的にそれに回すコストをより多くの蛇の使用者を生み出すことに回したため白紙に戻ったが、それを再利用した形になる。

 上級堕天使として及第点だったペトの身体能力や光力の出力はこれで最上級クラスにまで高まった。光力の狙撃はもはや砲撃レベルであり、中級クラスの火力に下げれば、堕天の祝福受けし魔弾を併用することで弾幕を張ることも可能。戦闘の幅も大きく向上している。

 

 

◇シシーリア・ディアラク

 

 ディオドラ・アスタロトの眷属悪魔。騎士の駒を担当する。

 

 元々教会に縁のある聖女だったが、性質的にネガティヴな子供だった為重圧に耐え切れず、そのままディオドラの魔の手に堕ちる。……割と聡い性分だった為に重圧に苦しめられ、更にそれゆえにディオドラの本性にもいち早く気づくなど不幸体質。しかしその前にヒロイと出会っていた事が、巡り巡って立ち直る切っ掛けとなる。

 

 紆余曲折あり、アジュカ・ベルゼブブの部下として活動。加えて対ヴィクター用の強化プランの被験者でもあり、更にアジュカを経由して優れた教育者の下指導を受ける事で飛躍的に戦闘能力を向上させている。

 

 ☆神器 聖女の洗礼(ホーリーライト・エンチャント)

 触れた物体に神の祝福を与える神器。祝福される事によって病の回復などを行う事が出来るが、悪魔などには効果がないどころか痛痒を与えてしまう。

 是の応用で武器を疑似的な聖なる装備にする事が可能。シシーリアはハルバードに付加して運用する。また、聖なる物体の力を高めるという応用も可能。

 

 

神代小犬(かみしろ こいぬ)

 

 京都勢力に属する少女。神格化された犬神を祀る一族の出で、巫女の特性を持つ。

 

 ペトの幼馴染であり、ペトと同じ経験を持つが、リセスの荒療治で変な方向に吹っ切れたペトとは違い、数年かけて医学的な治療を受けている為、精神年齢は低めだが常識人度は高い。

 

 リセスには恩を感じているが、同時に少し苦手意識を持っている。

 

 戦闘においては、犬神の加護を受け取ることで自身の能力を大幅向上させて闘う前衛タイプ。

 

 

大尽統(だいじん すべる)

 本作品における、内閣総理大臣。

 

 自身を俗物の王と自称し、国益を優先する人物だが、日本という国の発展と未来を真剣に考える高潔な人格者。自分の前から細々と続いていた異形を取り込む活動を、ヴィクターの活動に合わせて即座に本格化させるなど、政治家としてのポテンシャルはかなり高い。

 

 同時にサイラオーグ・バアルと殴り合うことすら可能なレベルの体術を保有。加えて高位神器を保有しており、人間という枠内ならば準最強の領域にいる化け物。ただし、シビリアンコントロールが基本の現代日本で、総理大臣が直接介入するのは本来あり得ない為、戦闘に関しては動かしづらい立場。……そこ、三章ほぼでずっぱりとかいわない。

 

☆神器 龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)

 大尽が保有する高位神器。日本の強大な龍種である八面王を封印した神器。

 一言で言えばビームランチャー。その火力は上級悪魔でも出せない程であり、極めれば神にすら痛痒を与えるほどの火力を発揮する。

 

★禁手 咆哮纏いし龍の戦士(ドラグレイ・ロア・ファイター)

 龍の咆哮の亜種禁手。

 八つの龍の頭の意匠を持つ、全身を覆うボディアーマーを展開する禁手。

 

☆嵐砕丸

 新造されたミョルニルのレプリカの一つ。

 ロキ撃退に貢献し、かつ本格的に交流を結んだことで信仰復活の兆しを作ってくれた大臣に対するお礼兼護身具として、アースガルズが作ったもの。

 

 

 

 

 

 

◎ヴィクター経済連合

 原作における禍の団を実働部隊として取り込んだ、超国家組織。

 

 ある人物の協力を得たリムヴァンが結成した組織で、禍の団だけでなく、人間側の異形に対する不満を漬け込んだりするなどして生み出された大規模共同体。

 

 リムヴァンによる神器移植や、科学と異形の融合を行った兵器によって、軍事的に国連軍を一蹴するほどの戦力を保有。三大勢力の和平を逆手に取り、大義名分を経て活動している。

 

 反面禍の団を実働部隊にしている事もあり、客観視して悪の組織と言っても過言ではない構成員の黒さを保有。加えて大局的な判断ができなかった旧魔王派の暴走によって、先制攻撃で得た戦力の何割かが離反するなど、割と隙がある組織でもある。

 

 

◇リムヴァン・フェニックス

 

 本作の敵組織「ヴィクター経済連合」の盟主ともいえる、本作の黒幕ポジション。

 

 第四の超越者と呼ばれたこともあるという、驚異的な神器適合能力を持つ化物。更にどこからか同種の神滅具を複数保有するというあり得ない現象を巻き起こし、ヴィクター経済連合とその実働部隊である禍の団を指導している。

 

 軽い人物だが危険人物でもあり、また、リムヴァン・フェニックスはこの世界では死亡が確認されているなど、非常に謎が多い。

 

 超越者としての特性と数々の非人道的実験により、神器研究においてはアザゼルとは別の意味で天才的な成果を上げている。更に自身の特性と合わせて保有する複合禁手と神滅具により、拡張性という意味では他の超越者を歯牙にもかけない。加えて遊びはあるが割と堅実に仕掛けるタイプ。

 

 

 

 ☆神滅具 究極の羯磨(テロス・カルマ)

 あり得ない可能性を生み出す神滅具。思い入れがあって複数集める事に懸念があるのか、彼はこれを一つだけ保有している。

 主に攻撃と防御に特化した運用を行い、それぞれ敵の攻撃の暴発もしくはミスと回避時におけるトラブル発生に発動する。

 また収束運用を行なう事により、覇軍の方程式の影響を大幅に抑え込む事が可能になっている。

 ★禁手 究極の旅立ち(テロス・カルマ・トラベラー)

 一つ目の究極の羯磨で発現させた禁手。能力は平行世界の移動。

 発動までのチャージに十年かかるという欠点はあるが、発動させる事で平行世界への門を開き、異なる可能性世界に転移する事ができる。

 発動を許せば追撃は事実上不可能なうえ、来訪される世界は全く想定外の襲撃を受けるという、二重の意味で最悪な禁手。これにより同種の神滅具を複数集めるという奇跡こそが、リムヴァンの凶悪さを磨いている。

 

 

 

☆神滅具 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 最強の神滅具とも称される神滅具。最高峰の聖遺物にして、最高峰の神殺し。

 リムヴァンは、ヒロイと長可にそれぞれ一本を移植している。それでも11本保有しており、蹂躙旅団との併用で神々相手に規格外の攻撃力を発揮可能。

 

 

☆神滅具 蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)

 神滅具の一つ。自身の理想世界ともいえる箱庭を作り出し、更に箱庭限定だが生命の創造すら可能とする神滅具。

 ★禁手 蒼き無神論の箱庭(イノベート・クリア・エイシズム)

 蒼き革新の箱庭の亜種禁手。

 神々の力を大幅に削減する箱庭を作り出す神滅具。

 神クラスの戦闘能力を、上級悪魔一人でも対抗可能なレベルに迄高める事が可能。リムヴァンの戦闘能力と組み合わせれば、一神話体系の神々を蹂躙する事すら可能とする。

 

★複合禁手 上流階級の代行者(パペット・オブ・ミラー)

 独立具現型神器などを複合して作り上げられた複合禁手。

 ある程度の戦闘能力を発揮し、神器を遠隔操作できる分身を作り出す能力。

 超越者であるリムヴァン本人に比べれば劣るが、神器抜きで最上級悪魔クラスの戦闘能力を発揮する事ができる。

 

★複合禁手 滅殺の敵対者(レジスタンス・オブ・バエル)

 魔力を消滅させる神器や、敵の能力に干渉する神器を融合させて誕生させた複合禁手。

 能力そのものを消滅の魔力の無効化に特化させる事で、消滅の魔力を問答無用で無効化させる。

 最強の魔王たるサーゼクス・ルシファーを狙い打った複合禁手。サーゼクスがこれを発動させたリムヴァンに対抗するには、分身相手ですら真の姿になる必要がある。

 

★複合禁手 一騎当千の魔の貴族(フィネクス・オブ・サウザンド)

 身体能力を強化する類の神器を集めて開発された複合禁手。

 神滅具の全身鎧型禁手に匹敵するレベルで、身体能力を向上させる。超越者であるリムヴァンが使えば、分身ですら鎧を纏ったヴァーリを超えるほど。

 

★複合禁手 魔聖剣の蹂躙旅団(ブリゲート・オブ・ビトレイヤー)

 魔剣創造と聖剣創造を大量に導入して作られた複合禁手。

 聖魔剣と同等の性能を持つ魔聖剣を生み出し、更にそれでできた騎士団を文字通り旅団単位で生み出す複合禁手。伝説クラスに匹敵する装備による数の暴力で敵を文字通り蹂躙する事が可能。

 神殺しまではまだ作れないが、龍殺しまでは生み出す事が出来る為、様々な相手を殲滅する事ができる。

 

★複合禁手 万象の殲滅砲兵(バスター・オブ・マテリアル)

 属性系神器をかき集めて生み出された複合禁手。

 あらゆる属性を秘めた砲撃を大量に放つ事ができる。更に放たれた砲撃は当たった対象に合わせて属性を変化する為あらゆる相手に効果的な攻撃力を発揮可能。対神属性まではまだ生み出せてないが、それでも主神クラスを凌ぐ砲撃戦闘能力を発揮できる。

 

★複合禁手 傷心の追撃者(リプレイ・オブ・トラウマ)

 精神干渉系神器を複合して作り出された複合禁手。

 対象のトラウマを把握する能力。そこに聖杯を組み合わせる事で、相手にとって最も精神的悪影響を与える存在を復活させるという戦略を運用できる。

 更に応用として、そのトラウマを他者に強制的に知らしめる事も可能。相手はよほどの精神力がない限り、そのショックで自失状態となる悪辣な禁手。

 

 

★複合禁手 神酒の魅了者(ソーマ・オブ・ドラッグ)

 魅了系や薬物生成系神器を複合して作り出した、複合禁手。

 驚異的な多幸感を与える液体を生成する能力。最大の特徴はその出力で、神器無効可能力すら突破する。

 これによってリゼヴィムを支配下に置く事に成功しており、更に傷心のカテレアにも命令を利かせる事が出来る。

 

★複合禁手 夢幻の捕縛者(キャプチャー・オブ・ドリーム)

 リゼヴィムがファーブニルによって窮地に陥ったため、即興で開発した複合禁手。

 夢に干渉する事ができる複合禁手であり、業魔人を使う事でリゼヴィムの神器無効化能力すら突破する事ができる。

 これによりファーブニルの魂を捕え、イグドラシステムに組み込む事に成功した。

 

★複合禁手 極刑の宣告者(デス・オブ・ルーラー)

 リムヴァンが開発した複合禁手の中でも、最も凶悪な代物。

 発動までに数週間単位のチャージを必要とする代わりに、同時に二人に限り強制的に死の呪いをかける事ができる。

 この呪いを受けた者は、力を開放すればする程寿命が高速で削れていく。安静にしていれば人間なら十数年程度の余生を送れるが、全力で戦闘を行えば半日と持たずに寿命が削れ切ってしまう。

 治療の為には神クラスでも百年単位の時間が必要であり、人間の場合治療が絶対に間に合わない。その分消耗も激しい為、中々運用する事ができない奥の手中の奥の手。

 

 

 

 

 

◎イグドラフォース

 リムヴァン・フェニックスの直属部隊。イグドラシステムの適合者であり、同時に神滅具移植者。そしてそれ抜でも最上級悪魔に届く実力を持った精鋭戦闘要員。

 

☆イグドラシステム

 変身根幹システムである「イグドライバー」と、変身用封印コアである「ジェルカートリッジ」の組み合わせで変身する、堕天龍の鎧を参考にした兵器。

 ロキが生産した高性能の魔獣をコアにしている事から、実力者が使用すればヴァーリですら覇龍なしでは押される程の戦闘能力を発揮する。また、拡張性を考慮している為、並の神器よりも後天的な強化が用意という利点を持つ。

 イグドラシステムそのものは量産可能な為、このデータをもとにより強力なジェルカートリッジを用意する事も、理論上は可能。

 

◇ヒルト・ヘジン

 

 ヴィクター経済連合の派閥の一つ、反アースガルズ団体「ノイエラグナロク」のメンバーである女性。のちにイグドラフォースのメンバーとなる。

 

 ジークが手放した魔剣の内二つに適合し、そしてそれを使いこなす猛者。ロキの攻撃をデイアとの連携で捌ききるほどの技量を持つ。

 

 ☆魔剣 ディルヴィング

 一振りで巨大なクレーターを生み出すほどの衝撃はを発生させる魔剣。

 本来はジークの魔剣だったが、ジークが手放したことで適性のあるヒルトの手に渡る。

 

 ☆魔剣 ダインスレイヴ

 巨大な氷柱をいくつも生み出すことができる魔剣。

 ヒルトとヘジンの殺し合いの伝承がある魔剣であり、それゆえにそれなりに愛着がある。

 

  ☆神滅具 時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)

 リムヴァンが、ここに転移する前に発見した神滅具と同等の特性を持った新種の神滅具。

 すべてを喰らう闇を生成し操り、あらゆるものを停止させることが可能。因みにリムヴァンはギャスパーから奪った時彼がほぼ赤子だったため、正体に気づくのに遅れていた。

 ヒルトは闇をマント化させて防具としているが、自由に形状を変化させれるため、応用範囲が幅広い。

 ★禁手 時空支配の邪眼すら(フォービドゥン・バロール・)屠りし戦士(ザ・ブリューナク・ウォーリア)

 時空を支配する邪眼王の禁手。能力は、薄い闇の姿をした停止結界の生成。

 あらゆるものを停止させる力を秘めた結界で、あらゆる攻撃や妨害を停止させる。イッセーですら透過抜きでは乳語翻訳も洋服破壊もできず、加えてそのうえでイグドラスコルに身を包んでいるため、洋服崩壊でも全裸にできない。とどめに再生能力も高いため瞬時に連撃で叩き込まないとすぐに再び無効化されるという対兵藤一誠禁手といっても過言ではない防御力を発揮する。

 自らの防衛に特化した能力であり、本来の使い手であるギャスパーですら突破できない。個と質と深度に特化した亜種禁手。

 

 ☆イグドラシステム イグドラスコル

 スコルを利用したジェルカートリッジを使用するイグドラシステム。

 神殺しの特性を攻撃に付加することが可能であり、それを最大限に生かした近接戦闘を得意とする。

 

 

 

◇デイア・コルキス

 

 ヴィクター敬愛連合の派閥の一つ、反オリュンポス団体「アルケイデス」のメンバーである魔法使い。後にイグドラフォースのメンバーとなる。

 

 コルキスの女王メディアに連なる魔法使いで、魔法使い全体で見ても有数のレベルの猛者。加えて回復系の神器を保有しており、その価値は非常に高い。

 ☆神器 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)

 神に祝福されていないものだろうと治療することができる神器。

 デイアは驚異的な回復範囲が持ち味。更に魔法と併用する事で、敵の聖母の微笑をフィールド内に飲み込む事で干渉することが可能。

 ☆神滅具 蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)

 異空間の中に自分の理想とする空間を作り、其の中限定ならば生命の想像すら可能とする神滅具。

 デイアは箱庭そのものを魔法使いの杖として使用する事で、箱庭の中でオールレンジ攻撃を行う事ができる。

 ★禁手 箱庭の中に、神の威光は届くこと能わず(イノベート・シェルター・システム)

 蒼き革新の箱庭の亜種禁手。

 箱庭の中の神器の出力を大幅に低下させる亜種禁手。その特性上神器に対しては圧倒的な相性を誇り、禁手に目覚めていない神器使いなら、何もさせずに倒す事が可能。

 逆に、禁手の更に上や極めて特異な過程を遂げて禁手に至った相手には戦闘能力低下が起こりづらく、禁手を昇華させたイッセーや、龍王化ができる匙との相性はかなり悪い。

 

☆イグドラシステム イグドラハティ

 ハティを利用したジェルカートリッジを使用することで変身するイグドラシステム。

 神殺しすら可能とする牙と爪を利用することで、近接戦闘の低さを補うことが可能。また、その敏捷性能でそもそも接近戦が困難。

 

 

 

◇キュラスル・スリレング

 

 ヴィクター経済連合に所属している、神器使いの1人。後にイグドラフォースのメンバーとなる。

 

 基本粗暴で雑な人物だが、それを補って余りあるほど戦闘能力が高い。典型的なパワータイプであり、生半可なテクニックなら神器を使わずに粉砕できるほどの戦闘能力を持つ。

 ☆神器 剛力の王(マッスル・ブースト)

 筋力を大幅に強化する神器。能力そのものは単純だが、その出力は引き出す事ができれば王の駒にも匹敵する。

 単純なパワーだけでなく、スピード及びディフェンスも結果的に大幅に強化される為、かなり隙がない能力。

 ★禁手 剛力の帝王(マッスル・ブースト・カイザー)

 剛力の王の禁手。能力は筋線維の増大。

 筋肉そのものの量を増やすことで、より強大な力を発揮するというシンプルな禁手。

 

  ☆神滅具 幽世の聖杯(セフィロト・グラール)

 キュラスルが委嘱した神滅具。生命の理に干渉する神滅具であり、キュラスルは精神汚染に対する耐性が非常に強い。そのうえで何重にも悪影響が出る防護措置をとっている為、基本的には自分の再生にのみ使用される。

 ★禁手 幽世に身を沈めし狂戦士(セフィロト・グラール・ベルセルク)

 幽世の聖杯の亜種禁手。能力は、指定した対象を対抗するのに最も適した状態へと肉体を編成させること。

 ドラゴンと相対する時は肉体そのものが龍殺しの毒となり、悪魔と相対する時は肉体そのものが聖なる存在となる。またある程度のデータがあればよりピンポイントの変質も可能であり、劇中では主にギャスパー対策として使用されている。

 

 ☆イグドラシステム イグドラスルト

 イグドライバーにスルト・サードのジェルカートリッジを投入して変身するイグドラシステム。

 炎を全身に纏えるだけでなく、ただでさえ強大な筋力が更にこう乗じて手が付けられなくなる。

 

 

 

◇ジェームズ・スミス

 

 ヴィクター経済連合に所属している、戦闘員の1人。後にイグドラフォースのメンバーとなる。

 

 正規の軍事訓練を受けており、異形達の戦闘におけるセオリーなどに呆れを見せている。加えて新種の神器を保有しており、その戦闘能力は上級悪魔クラスなら苦労せずに撃退できるほど。

 ☆神器 流星破装(メテオ・バスター)

 神器システムが生み出した、かなり新型の神器。外見は銃剣付の短めのライフル。

 上級悪魔に匹敵する威力の荷電粒子を射出……もしくは銃剣に纏って攻撃する神器。

 

 ☆神滅具 究極の羯磨(テロス・カルマ)

 神滅具の一つ。13番目という不吉な序列を持つ。

 あり得ない可能性を無理やり引き出す事ができる神滅具。歴史上の原因がよく分かっていない不可解な出来事に関与しているとされている。

 ジェームズは魔法などの精密な制御が必要な技術を強制的に失敗させる事に特化した運用を行っている。其の為、シンプルな攻撃が有効。

 リムヴァンが引き出した相手はニルス・カタヤイネン。

 

 ☆イグドラシステム イグドラヨルム

 イグドライバーにヨルムンガルドのジェルカートリッジを投入することで変身するイグドラシステム。

 唯一龍王クラスを投入している為、四人の中では高性能。龍の鱗によって頑丈さもある為、素体の防御力では一番上ともいえる。

 

 

 

 

●ノイエラグナロク

 禍の団の派閥の一つ。反アースガルズを標榜する組織。

 エインヘリヤルの末裔やドワーフなどで構成されており、どちらかといえば裏方担当が多い。何らかの形でアースガルズの神々の横暴の被害を受けてきた者達の末裔が多くを占め、アースガルズに報復する事を目的としている。

 

 

 

●アルケイデス

 禍の団の派閥の一つ。反オリュンポスを標榜する組織。

 ギリシャ神話とは神々によって運命を翻弄された者が多く、彼らはその子孫。それゆえに大半のオリュンポスの神々に恨みがあり、その報復を行なう事を目論んでいる。 

 

 

 

◇森長可

 英雄派のメンバーの一人。戦国時代に活躍した、正真正銘の森長可。若いメンバーだらけの英雄派の御意見番として、リムヴァンが聖杯で復活させた。

 

 戦闘狂で殺しに頓着しないが、歴戦の武士なだけありシビアな視線で幹部に意見する人物。

 

 当時の黄昏の聖槍の保有者であり、リムヴァンから聖槍を渡されている。

 

 ……ちなみに裏設定だが、当時の教会による事実上の植民地政策から日本が逃れる事の出来た理由の一つ。そりゃ聖遺物の持ち主を配下にしている奴が相手じゃ、枢機卿も強引な真似は心情的に出来ないのであった。

 

☆神滅具 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 生前保有していたことから、リムヴァンから渡された神滅具。

 

 能力的にはオールマイティに適合しており、曹操やヒロイに比べると秀でたポテンシャルはないが、逆にどこかが大きく劣っているというところもない。

 

 ちなみに、長可はその武器としての性能を気に入っており、「人間無骨」と呼んで愛用していた。

 

 

 

◇ニエ・シャガイヒ

 リセス・イドアルとプリス・イドアルの幼馴染。二人はほのかな思いを抱いていたが、一人の外道によって人生をかき回されて死を選ぶ。そして、リセス対策にリムヴァンが聖杯によって蘇らせた。

 

 人間的には非常に好人物なのだが、それでも普通の領域内であり、ゆえにリセスの結論にはリムヴァンにあおられた事もあり憎悪を抱いている。そして根本的には一般人である為、リセスに対する復讐心のままにリセスを殺せば、その時点で後戻りできない程精神が歪む事になる。

 

☆神滅具 魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)

 自身が想像した魔獣を現実に生み出す神滅具。リムヴァンから移植されたもの。

 ニエのポテンシャルはリムヴァンの想定外レベルで高く、ドーインジャーの大量生産という及第点を超え、独自の生体ミサイルや砲撃魔獣を生み出す事も可能。

 実は二つ保有しており、別々の禁手に至っている。

 ★禁手 魔獣変成(アナイアレイション・メタモルフォーゼ)

 魔獣創造の禁手の出力を、自身を魔獣に編成させる事に向けた亜種禁手。個人戦闘能力が桁違いに上昇するうえ、魔獣創造の特性ゆえにカタログスペックをある程度返る事が出来る為、汎用性や状況対応能力においては二天龍の通常禁手を凌駕する。

 反面、生成される魔獣は一切変化しない、適切な変化を遂げるには所有者の反応速度が重要などといった癖の強い能力であり、経験の浅いニエには使いずらい能力。

 

 ★禁手 大魔獣(アナイアレイション・)師団創造(クリーチャー・メーカー)

 もう一つの魔獣創造の亜種禁手。

 ダイドーインジャーを瞬時に100体生成する能力。本来ダイドーインジャーは即座に生成する数には限界があるのだが、これにより一瞬で大量生成する事で圧倒的火力による殲滅戦闘を行う事ができる。

 魔獣創造のポテンシャルからするとレベルが低めの亜種禁手だが、その分の余剰出力を魔獣変成に回す事で、より強大な戦闘を可能とする。

 

 ★龍鬼の魔獣(ドラゴンオーガ・ビースト)

 天界襲撃事件で全てを吹っ切り、敵対を決意したニエと、それを認めたイッセーの2人の共感によって生み出された戦車の力を譲渡された形態。

 自身を龍を模した魔獣へと変成させる。また二天龍の「透過」と「反射」を獲得し、攻防において優れた能力を発揮。

 反面龍の特性を最も強く受ける為、龍殺しが弱点になりやすいという欠点も持つ。

 ☆詠唱

 我が英雄とは、我にとっての敵対者なり。

 

 されどそれでも立ち上がり、進み続けてきたことを我も認めよう。

 

 我、赤き龍の怒りと響き、赤き龍に怒りの具現を教えよう。

 

 

◇プリス・イドアル

 リセス・イドアルと同じくイドアル孤児院出身で、姉妹のように仲が良かった少女。後にグラシャラボラス家に奴隷同然で確保され、ゼファードルの僧侶となり、ヴィクター経済連合に亡命したゼファードルの取引でニエに売られる事となる。

 

 自身の行動に絶望しており、ニエに道具に近い扱いを受けているが気にもしていない。かつては天真爛漫な少女だったが、その絶望で見る影もない。

 

 戦闘能力は高く、炎や氷を生み出して戦闘を行う。サイラオーグとゼファードルのレーティングゲームでは唯一白星をあげる程で、レグルスやリセスを同時に相手取って足止めが行える程。

 ☆神器 相克天秤(デュアル・マクスウェル)

 プリスの神器。能力は熱量操作。

 超高熱から極低温まで、自由に熱量を操作する事が可能。応用する事で触れた物体の温度に干渉する事もでき、プリスは魔力操作の応用で形成した、超高熱と極低温の刃を交互に用意した丸鋸を形成して敵を切り裂く戦法を得意とする。また、魔力を併用する事で氷と炎を生み出す事もでき、普段はそれに偽装している。

 

 

 

◇七夜

 京都の妖怪の一人である、九尾の狐の一匹。立ち位置的には八坂の親戚であり、九重に並ぶ京都の重要人物。

 しかし各勢力の和平に関しては反対派であり、むしろ大手を振って歩ける機会をくれたヴィクター経済連合に肩入れしようと企んでいる。その為のクーデターの準備すら行っており、かなりの危険人物。

 狐火の使い手であり、龍王クラスの戦闘能力を持つ猛者だったが、旧魔王派幹部と同じく状況認識能力に欠如が見られ、英雄派に利用される形で大尽に文字通り叩きのめされる。

 

 

 

 

☆コノート組合

 禍の団の派閥の一つ。厳密にいうと傭兵たちが意見具申のために集まった、一種の寄り合い所帯。

 中心となったのは割と大規模なケルト系統の傭兵部隊。

 ◇メーヴ・コノート

 コノート組合(ギルド)のギルド長を務める女性。

 ケルト神話のコノートの女王であるメイヴの末裔。

 先祖の失態を乗り越える為にチーズを武器にするという一見馬鹿にしか見えない発想をするが、其の為に数々のケルト由来の魔法を研究し、更に鍛え上げた肉体はサイラオーグとまともに格闘戦ができるほど。元から投擲に向いている人間の骨格と組み合わさったチーズの投擲は、最上級悪魔の骨すら折れる。

 ☆神器 異界の倉(スペイス・カーゴ)

 リセスが持っているのと同じ神器。メーヴは大量のチーズを格納している。

 

☆リヒーティーカーツェーン

 禍の団の派閥の一つ。アースガルズの和平反対派が結成した組織。

 英語で読むとトラッシュK10。「ゴミの軍用狼」と意訳する。その名の通り、ラグナロクをオーディンが阻止する方向に動いたことで失望したエインヘリヤルが中心になった組織。

◇グルズ

 リヒーティーカーツェーンの最強戦力。北欧のエインヘリヤルの一人にして、かなり古いシグルドの末裔。

 エインヘリヤルとしてラグナロクにて巨人と戦う狼である自負を抱いており、それを翻したオーディンに反旗を翻し、ヴィクターと組む。

 グラムの量産計画で出来たグラム・レプリカを使用することができる数少ない人物。その剣腕も優れており、最上級悪魔クラスの戦闘能力を持つ。

 ☆グラム・レプリカ

 グラムの量産を目論んで生み出されたレプリカ。

 本来のグラムと違い龍殺しの特性を持っていないという欠点があるが、それ以外はグラムと同等の超高性能な魔剣。

 

 

 

☆アステカ

  禍の団の派閥の一つ。かつて聖書の教えによって滅ぼされた、アステカ文明の関係者によって構成されている。

 反聖書の教えを筆頭とする組織であり、その特性上聖書の教えに味方する勢力も敵として認識している。

 聖書の教えの文化を避けるという利点から、遺志を魔術的に強化する方法をとっており、基本的に黒曜石製の武器を主武装として使う。

 ……あくまで一部のはぐれ者が結成した組織であり、無名どころはともかく名の知られている神は一切関わっていない。念の為。

 ◇ヤコブ

 アステカのリーダーにして最強戦力の戦士。

 半ば失われた文明であるがゆえにアステカ人としての名前を名乗れないのがコンプレックス。それゆえに開き直って、聖人の名前を名乗っている。

 優れた戦士としての技量を持ち、それによって敵を刈り取る。

 

 

☆ファミリア

  禍の団の派閥の一つ。反聖書の教えを基本とする組織だが、他の神話体系に関しても敵対活動を行っている。

 中世の魔女狩りで理不尽に迫害された者達の末裔達が、それに対抗する力を求めて本当に魔法を研究した事が始まり。其の為戦闘技術に特化しており、武闘派が集まっている。

 その特性上隠匿にも優れており、受精卵の段階から魔法的に調整する為、目立ちすぎない程度の美貌しか持たないのが特徴。

 またもう一つの特徴として、大半のメンバーは神器を好まず、持っていてもリムヴァンに除去してもらっている。これはその来歴上、聖書の教えに由来する力を好まない事が理由。

 ◇アンナ・ヴェーゲリン

 ファミリアのメンバーの一人である魔法使い。クラスで一二を争う程度の普通な美少女。

 魔女狩りの被害を受けてきた者達の末裔であり、その護身と報復の為に編み出した魔法を最も高レベルで習得している実力者。

 教会勢力を完膚なきまでに破壊する事を目的としており、その一環として重要拠点である駒王町の襲撃を目論む。

 死霊魔術を得意としており、亡霊と契約を結ぶ事で、その技量を模倣する事ができる。其の為近接格闘や接近戦を高水準で習得しており、かなり凶悪な部類に属する。

 

 

 

 

 

 

 

◎別勢力

 

◇捧腹

 京都の妖怪の一人にして、鬼神の研究などを行っている専門家の鬼。普段は姿を人間に擬態させている。

 孤児院を経営するなど善良な人物だが、自立して海外旅行に行った者が、日本神話体系からの密偵だと勘違いされてトラブルが発生して事故死して以来、北欧神話体系を恨んでいる。……質の悪い事に反魂法の応用で引き寄せた子供達の怨霊も同調しており、この手の基本説得パターンが通用しない。

 それに目を付けたロキが、北欧神話と日本神話の和議を教え、敵の敵は味方理論で、和平阻止のために共闘を決意した。

 そしてお互いの術を使ってソウメンスクナを召喚して攻撃を開始する。

 高位の鬼である為、そこそこの戦闘能力を保有し、相手を幻惑する術も保有するなど、厄介な戦闘を可能とするが、しかし本職は研究者である為、戦闘は得意なわけではない。

 

☆ソウメンスクナ

 日本神話に登場する大鬼神、両面宿儺の末裔ともいえる鬼神……を素体にして開発された、邪法によって生まれしリビングデッド。

 龍王クラスの戦闘能力を持ち、更に触れた者を呪う邪炎を放つ存在。

 素体となった鬼神ソウメンは、ペトと小犬の両親を殺して彼女達を蹂躙した元凶である。

 

 

 ガールヴィラン

 ヴィクター経済連合から離反した、魔法使いの集まり。

 魔法少女という概念を毛嫌いしている者達が集まっており、冥界で魔法少女をやっているセラフォルーを優先目標としている。

 魔法少女という概念を滅ぼす事に執念をダメな方向に燃やしており、ヴィクター経済連合を離反するほどに暴走。日本の魔法少女フェスタの人間をゾンビに変えて魔法少女アニメを作ったアニメ制作会社を中心にした大量殺戮を行おうとしたが、それを察知したフォーリン☆ダーテン及びたまたま来ていたセラフォルーと激突。加えてヴィクター側からもコノート組合が介入し、彼女達の通報で参戦した自衛隊やグレモリー眷属の介入もあり、壊滅的打撃を受ける。

 

◇ゴーデル・シスター

 ガールヴィランの指導者である、妙齢の魔女。因みに好みのタイプは魔女としての技量で判別してくれるものである為、あえて外見を若作りしない為その手の挑発が効かない。

 魔女という者に対してものすごいプライドを持ち、其の為魔法少女という文化が嫌い。其の為日本文化が嫌いであり、実は捧腹を開放したのもこいつだったりする。

 ちなみに得意なのは炎の魔法。元々得意ではなかったが、妥当セラフォルーの為に一生懸命努力して磨き上げたという逸話を持つ。其の為ガールヴィランにおけるカリスマ性は抜群。

 

 

 

フォーリン☆ダーテン

 ガールヴィランと敵対する、悪の魔法少女を自称する軍団。

 悪堕ちこそ至高の文化という頭のおかしい持論の元、万引きからテロ行為まで数多くの犯罪行為を働く集団。因みに性風俗産業にも手を広げており、曰く「悪落ち魔法少女として当然の行動」としている。ぶっちゃけカルト宗教。

 元々性的犯罪の被害を受けた魔法使いが変な八茶け方をした組織であり、魔法少女を悪落ちさせて犯罪行為をさせる事に並々ならぬ決意を持っている。

 

 

◇触剣魔法少女マジカル♪テンタ

 フォーリン☆ダーテンのエース。悪の魔法少女を自称する魔法使い。

 触手という概念に魂を明け渡した使徒を自称しており、世界中の女性に専用の触手を移植させるのが夢だと豪語する人物。

 



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第一部 プロローグ 赤龍と聖槍の出会い
プロローグ1 英雄譚の始まり


はい、新たな整理の一環として、新作品に手を出してみました!!


 

 英雄とは、何か。

 

 これに関して、ある枢機卿はこんな言葉を俺に告げた。

 

「自ら英雄と名乗るなど、愚かなことだ」と。

 

「英雄を目指すのではなく、がむしゃらに一生懸命生きた者がたまたま英雄と呼ばれるのだ」と。

 

 ……この言葉を聞いてから、俺は彼に対してどうしようもない嫌悪感を覚えた。

 

 そりゃぁ英雄なんて非現実的だ。人間相手にしろ化け物相手にしろ命がけで殺し合いをするんだから、ある意味忌避感があるのは当然だ。

 

 なろうと思ってなれる者でもない。そんな簡単なもんじゃないだろう。

 

 だけど、夢を目指した瞬間に、目指す事そのものが間違っているなんてふざけてるだろ。

 

 英雄はいる。いるんだ。そして、其れは決して忌み嫌われるものなんかじゃない。

 

 殺し合いという悲劇。血と臓物の匂いがこびりつき、そして心もやんでいくだろう地獄。それが戦場というのは分かっている。

 

 だけど、だからこそ。

 

 そんな地獄でなお輝くものは綺麗だって思えるんだよ。

 

 俺は知っている。そんな風に輝いている人を。

 

 俺は、ストリートチルドレンってやつだった。

 

 親の顔なんて覚えてない。

 

 あのスラム街のど真ん中で物心がついたんだ。ろくでもない親の可能性の方がでかいしな。

 

 そんな中、本能で雑草や残飯を食い漁って生活していた俺達は、化け物になった住人に襲われた。

 

 本国で違反行為をして追放処分を受けた吸血鬼達の仕業だった。

 

 ……人間だったものが人間を食い散らかすその光景は、間違いなく地獄だ。少なくとも、俺が今まで戦ってきた戦場であんなものは基本見ない。

 

 何とか一生懸命頑張ってスラム街の外に出ようとして、だけど化け物達に追いつかれた。

 

 その時は、なんていうかさ? あ、これで終わりかって自然と思ってたんだよ。

 

 俺の人生は不幸続きで、不幸しか知らなかったといってもいい。だから、怖くはあったけどそれが普通だとすら思っていた。

 

 幸せなんてそこになかった。本能で逃げていただけだ。

 

 だから、そこで終わりと思った瞬間に―

 

「……そこまでよ!!」

 

 舞い降りたその雄姿に、俺は恋をした。

 

 着地すると同時に化物達を一刀両断したその女性は、俺を見ると笑みを浮かべた。

 

「安心しなさい。あなたは、きちんと安全なところまで運んであげるから」

 

 そこから先は、正真正銘の英雄譚だった。

 

 襲い掛かる人間だった化物達を一人で叩き潰した彼女は、更に現れた本丸である吸血鬼達も、教会の悪魔祓いと協力して撃退した。

 

 貴族の出らしい高位の吸血鬼相手に、悪魔祓いにも何人か犠牲が出る中、彼女はボロボロになりながらもそれを成し遂げた。

 

 そして、俺は彼女に連れられて教会がバックについている孤児院へと送られた。

 

 初めてだった。

 

 温かい食事も

 

 暖かい寝床も。

 

 お湯で体を洗う事も。

 

 この時になって、俺はようやく自分が不幸だったということを実感した。

 

 生活費に困って人体実験じみたことを受けた事を伝えると、孤児院の院長は涙を流して抱きしめてくれた事も覚えている。

 

 ああ、俺は本当に不幸だったんだなぁって、その時ようやく自覚できた。

 

 そして、不幸なまま終わらせようとしていた化物達みたいなものは、世の中にいくらでもいる事を知った。

 

 故に俺は教会の悪魔祓いになる道を選んだ。

 

 それは決して、自分と同じ目に合う人を救いたいという正義感なんかじゃない。そんなものが形成されたのは、もっと後だ。

 

 最初に俺の心の中にあったのは、たった一つの想い。

 

 あの時、俺を救ってくれた彼女。

 

 あの英雄と同じ場所に立ちたい。

 

 そう、俺はあの時から彼女に―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えて、俺はふと我に返った。

 

「あれ? ヒロイくんどうしたの?」

 

 と、俺の頬っぺたをつついてくる、今回の仕事のメンバーである紫藤イリナを顔を見る。

 

 そして、俺はボケっとしていた事に気が付いた。

 

 ああ、そういえば昨日は思い残しの内容に溜まってた古本全部読んで寝不足だったんだ。

 

 飛行機に乗っている時間を全部睡眠に費やせばいいと思っていたが、思ったより眠れなかったな。

 

 ……まあ、いいか。久しぶりにいい夢を見る事ができたしな。

 

 ああ、そうだ。

 

「死ぬ前にいい夢を見れてよかったなぁ」

 

「ちょっとヒロイくん!? 縁起でもない事を言わないでくれるかしら!?」

 

「まったくだ。人がいい気分で寝ていた時に、気分を害する事を言わないでくれ」

 

 と、イリナ及びイリナの相方であるゼノヴィアに文句を言われるが、しかしそう言われてもなぁ。

 

「いや、俺達若手三人でコカビエルの相手何て、死んでもおかしくないだろ。っていうか全滅の可能性の方がでかいって」

 

 そう、なにせ相手はコカビエルだ。

 

 堕天使陣営の中でも十指に入るだろう超大物。聖書にすら記された歴戦の実力者だ。

 

 そんな奴を相手にするのなら、こっちだって大天使様の一人や二人には出てきてほしい。せめて噂の神滅具使い、デュリオ・ジュズアルドとか出て来いよ。

 

「失礼な奴だ。私が切り札を切れば、勝率は六割は硬いぞ」

 

「それは向こうだって同じだろ? エクスカリバーを強奪するなんて真似するんなら、そりゃもうぶちぎれたセラフ相手に通用するような切り札の一つや二つ持っていたっておかしくねえよ」

 

 そりゃあ、俺達は上級悪魔や吸血鬼だって返り討ちにした事のある実力者ですよ?

 

 俺なんて単独で上級吸血鬼をしとめた事もあるぜ?

 

 だが、今回は流石に状況が違う。

 

 かつての三大勢力の戦争で七つに砕かれ、そして教会が六つ確保していた伝説の聖剣、エクスカリバー。

 

 そのうち三本が、コカビエルによって奪われるという非常事態が発覚した。

 

 犠牲を出しながらも追撃したエージェントが見つけたやつの逃げ場所は、駒王町という日本の地方都市。

 

 よりにもよって、現四大魔王サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹が管轄している土地だ。

 

 ……悪魔と堕天使。冥界を二分する勢力が手を組んで、天界を含めて教会を潰しに来た可能性は少なからずあると、上層部は考えている。

 

 故にエクスカリバー使いを二人も投入し、俺も投入するという割と本気な作戦だ。一応それなりに力を入れている事は間違いない。

 

 間違いないが、できればもう一押し欲しいところだ。

 

「ああ、できれば死にたくねぇなぁ」

 

「ヒロイ。君は信仰心に問題があるようだね」

 

 ゼノヴィアが軽く睨みつけてくるが、しかしだね、君?

 

「こんな大ごとに、実力があるとはいえ若手だけで事に当たれって酷くね? 勝率六割って事は四割は死ぬんだぜ?」

 

「充分な勝算でしょ? それに、殉教は信徒の本懐よ! ああ、主よ、砕け散った私達をどうか身元へとお運びください」

 

 イリナがなんか感極まっているけど、命投げ捨てるのはどうよ?

 

 あと、負けること前提に会話するのやめようか。

 

「しかもグレモリーに「手出しすんなよボケ」とかいちいち言えってんだろ? 素直に言えってんだ、「まず悪魔殺しとけ」ってよ」

 

 上は阿保なのか?

 

 自前の領地に敵の幹部が潜伏してたってだけでむかつく事実だろうに。挙句の果てに手出し無用だなんて言われたら、先ず言ったやつの首を飛ばして警告してくるぞ。

 

 下手すりゃ三大勢力での戦争再開だ。人間だって巻き込まれるだろうし、場合によっては他の神話体系だって関わってくるだろ。

 

 泥沼の戦争なんて、今時はやらねえよ。

 

 少なくとも、この状況下で余計な火種を投下するなんて、英雄のする事じゃねえ。

 

 とはいえ、主の名のもとに邪悪を滅ぼしたい教会側からしてみれば、なあなあで小競り合いに終始している今の現状こそ最悪何だろうがな。

 

 なんか憂鬱な気持ちになりながら、俺は飛行機の窓から空を眺める。

 

 ……嫌になるほど快晴だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、俺ことヒロイ・カッシウスが「英雄」を目指す物語だ。

 

 光を目指して飛翔しよう。

 

 俺もまた、輝く存在になりたいと願うから。

 

 そう、これは「英雄」の物語だ。

 




かつて、英雄譚の物語の基本傾向としては、英雄の末裔や憧れた者が、自らも英雄足らんとする者が多かった。

それが、いつの間にか時代の定番は「英雄を目指すものはその時点で英雄失格である」に代わっていった。

この原作でもそれは言われている。


しかし、ハイスクールD×Dはスケベな主人公より草食系が中心となる昨今の業界で逆風に立ち向かう作品である。

なら、あえてこの言葉に立ち向かう作品があってもいい。

そう思って、この作品を書いてみました。


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プロローグ2

 

 駒王町に到達した俺たちは、宿代わりにする廃教会に行く前に寄り道することにした。

 

 ま、下手すりゃ死ぬ危険極まりない任務だからな。思い残すことはないようにしないと。

 

「んじゃ、イリナは昔の知り合いのところに行ってこいや。俺は一発風俗店でヌいて思い残しがないように―」

 

「ふざけるな貴様」

 

 俺の首根っこをゼノヴィアがつかむ。

 

 あの、すいません。首締まってるんですが。

 

「貴様、信徒のくせに春を売るような店の世話になるとはどういうつもりだ? 純潔を尊ぶがいい」

 

「す、すんませんゼノヴィアさん。だから首絞めるのやめてほしいっす」

 

「……まったく。なんでこんな男が「教会の秘密兵器」などと呼ばれてるのか」

 

 ゼノヴィアはそう嘆息するが、其れには深いわけがあるのだ。

 

 ぶっちゃけ英雄になるための力を手に入れるために悪魔祓いになった俺としては、信仰心というのはそんなにない。

 

 っていうか、神話伝承などを紐解くと神とか基本的に問題児しかいないというか傲慢だろう。とても信仰できない。

 

 ぶっちゃけ、あんだけどん底の生活を送らせておいて、今更救ったから信仰しろと言われても……ねえ。

 

 せっかく日本に来たんだし、オリエンタルな美女と色っぽいことしてから死にたい。

 

 それに俺は秘密にしている兵器ではない。秘密にしておきたい兵器だ。

 

「言っとくけどヒロイくん。日本じゃ風俗店の本番は違法よ?」

 

「ガッデム!!」

 

 何てこったい!!

 

 そんな感じでへこんだ俺は、其のままドナドナドーナーされて、イリナの幼馴染の家にあいさつに来た。

 

 なんでも、イリナの親父さんがこの地の担当をしていた時になじんでいたらしい。

 

 そういや、今は教会はこの駒王町から手を引いてるんだったな。悪魔側の戦力が向上したのか?

 

 などと思いながらイリナがピンポンを鳴らそうとして、俺達は一斉に気が付いた。

 

 ―悪魔の臭いがする。

 

 それも、隠す気配がみじんも感じられない。

 

「……イリナ、この兵藤さんとこの人は悪魔と関係しているのか?」

 

「そ、そんなことないとは思うけど? でもなきゃクリスチャン(ウチ)と仲良くなんてしないわよ」

 

 イリナもまた戸惑うが、しかしそれが払拭されるより早く家のドアが開いた。

 

 そこにいたのは、どこにでもいそうなマダムが一人。

 

 俺たちの姿を見てけげんな表情を浮かべたが、すぐにイリナの顔をまじまじと見つめると嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「あら! もしかして紫藤イリナちゃん? 久しぶりねぇ」

 

「は、はいおば様。仕事の一環でここに来ることになったので、ご挨拶しようと思いまして」

 

 と、イリナは嬉しそうにしながら頭を下げる。

 

「どもっす。イリナの同僚のヒロイっす」

 

「……ゼノヴィアだ」

 

 俺とゼノヴィアも頭を下げるなか、兵藤さんは俺達を歓迎してくれた。

 

 悪魔と関係しているのなら、堂々と十字架を下げている俺達を見て警戒心を抱かないはずがない。

 

 ということは、悪魔が変なことを画策しているのか?

 

 と、思ったがそういうわけでもないようだ。

 

「え? ホームステイしている人が二人もいるんですか?」

 

「そうなのよぉ。それも、花嫁修業の名目でホームステイなの? イッセーは気づいてないけど、どう考えてもそういうことよねぇ?」

 

 ほほう。美人で可愛い女の子二人が、そのイッセーとやらに惚れている可能性があるのか。

 

 それはまた、うらやましい!!

 

 俺が心の中で血涙を流していると、兵藤さんは涙すら浮かべていた。

 

「あの子ったらもうおじいちゃんに似てスケベに育って、高校に行っても覗きで何度もお仕置きされてるのに全然懲りないから嫁どころか女友達も一生無理だと思ってたのよ」

 

「……普通に警察案件っすよね、それ」

 

 あ、本音出ちゃった。

 

「そこは本当よね。でも名前の通り誠実に育ってくれたから、もしかしたらという希望があったんだけれど……まさかあんな可愛い女の子たちに気に入られるなんて!!」

 

 そうか、そのイッセーってやつは、いいやつなんだろう。

 

 ……覗きの常習犯なのは致命的だが。致命傷だが。

 

 だが、それでも付き合いたいと思っている奴が二人もいるってことは、悪人ではないようだ。

 

 さすがはイリナの幼馴染ってところだな。

 

 信仰によっているせいで暴走気味なところはあるが、俺みたいなやつにもフレンドリーに接してくれるいいやつだからな、イリナは。

 

 ふむ、しかしそんな家に悪魔がかかわってるのか。

 

 ……悪魔という種族が全部極悪非道だとは限らないかもしれないけど、しかし一応釘は刺しとかないとな。

 

 そう思った次の瞬間―

 

「あ、ちなみにこれがその子たちの写真ね。赤い髪の子がリアス・グレモリーさんっていうのよ」

 

 ―俺たちは、戦慄を隠すのに一生懸命だった。

 

 そこから先の会話は耳に入らなかった。

 

 気づけば、いつの間にか件の兵藤一誠が姿を現していた。

 

「………お、女の子、だったのか」

 

 なんか向こうも別の意味で戦慄している。

 

 っていうかちょっと待てボーイ。

 

「おいちょっと待てや。お前まさか、イリナのこと男だとでも思ってたのか?」

 

 なんて奴だこの野郎。

 

 確かにハイテンションでサイコ入っているところはあるあほだが、しかし魅力的な女の子だろう。

 

 それを、男として認識していただと?

 

「……てめえふざけんな!! それは大罪だぞ!!」

 

「そ、そこまで怒ることないだろうが!!」

 

 男が反論するが、ふざけたことだ。

 

 てめえそれでも男か!!

 

「こんなセックスアピール抜群な女の子なら、お前のデザートイーグルがいつセーフティ解除されてもおかしくねえだろうが!! お前それで男かふざけんなぁぶろ!?」

 

「ふざけているのはお前だ」

 

 ゼノヴィアが手に持っていた包みで俺の後頭部を攻撃してきやがった。

 

 あの、それ殺し合い用に使う武装ですよね? それも攻撃力特化型の破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)ですよね?

 

 かなり重い音がしたので、結構本気でぶつけてきやがったな?

 

「……すまないな。コイツは信徒としての心構えがあれなんだ。……まあ、君は気が合うかもしれないが」

 

 微妙に険が入った声色でそう告げ、ゼノヴィアは立ち上がる。

 

「そろそろお暇しよう。これ以上は彼の母親にも迷惑がかかるだろう」

 

 と、ゼノヴィアは足早に立ち去ろうとする。

 

 その意図は明白だ。

 

 ……兵藤一誠は、おそらく悪魔だ。

 

「じゃあイッセーくん、またね?」

 

「まあ、縁があったらまた会えるだろ」

 

 イリナと俺はそう言葉をかけて兵藤宅を出る。

 

 おいおい、なんていう運命の悪戯だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさか、幼馴染が悪魔に惑わされて転生悪魔になっているだなんて!」

 

「心底同情するよ。主よ、これも試練ですか」

 

「まあ、さすがにこれはショックだよなぁ」

 

 嘆くイリナに対して、ゼノヴィアも俺も流石に同情する。

 

 俺はイリナやゼノヴィアとの付き合いはそんなに長くない。

 

 諸事情あって単独行動が多い俺は、まあ変人《同類》と認識されているのか、チーム単位で行動するときはこの二人と組まされることが多いってぐらいだ。

 

 とはいえ、変人ではあるが悪い奴じゃないのは知っている。だからまあ、報われた人生を送るべきだということも知っている。

 

 しかしこれはない。これはないだろう。

 

 何のロミオとジュリエットだ。さすがにきついぞこれは。

 

 ……イリナ、大丈夫だろうか。

 

「イリナ。気持ちはわかるが、グレモリーの名を持つ者が同居しているということは、十中八九彼もまた―」

 

 ゼノヴィアが何か言おうとしたその時、イリナは振り向いた。

 

 ……なんか、目が輝いてんですけど?

 

「い、イリナ?」

 

「ゼノヴィア、ヒロイくん!」

 

 イリナは何というか、すごいやる気になっていた。

 

「これは主が下さった試練だわ」

 

 ついに狂った?

 

「主が私を試しているのよ。かつての友であったとしても、悪に堕ちるのなら倒せるかどうかを!! そう、この悲劇を乗り越えてこそ信徒の本懐なのよ!!」

 

 ………俺は、ゼノヴィアに視線を向ける。

 

 具体的には、こいつ馬鹿じゃねえの? って感じの同意を求める的な。

 

「……なるほど。確かにかつての友とはいえ、邪悪に堕ちるのなら切らねばなるまい。いい心がけだ」

 

 信仰心がろくにない俺にはわかんねぇ。

 

 俺ならそんな試練与えられたら信仰心捨てそうなんだが。

 

 それに、一応上は警告しろとは言ってきたけど、別に速攻で殺せなんて言ってねえよな?

 

 なんか、俺すごく嫌な予感がしてきたぞぉ?

 



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プロローグ3

 

 そんなこんなで話し合いの当日。

 

 俺達は、悪魔が裏で支配している駒王学園に来ていた。

 

 どうやら、今回の話し合いはそこですることになるらしい。

 

「流石に自分の家に招き入れるのは嫌だったってわけかねぇ?」

 

 俺はそんなことを邪推するけど、ゼノヴィアはすでに調べてたのか首を振った。

 

「いや、どうもエージェントによるとリアス・グレモリーはこの学園の旧校舎を仕事場にしているようだ」

 

「学校で悪魔の仕事をするなんて、そのグレモリーさんはよっぽど学校が大好きなのかしら?」

 

 イリナが興味本位にそういう中、俺達は旧校舎にたどり着く。

 

 ……ぶっちゃけそこにつくまで視線が集まって大変だった。

 

 俺は一応仕事着じゃなくて普通のシャツにジーンズで来ようと思ったんだけど、ゼノヴィアとイリナは平然とローブ姿で来ていたので、逆に悪目立ちすると思って俺も神父服にローブだ。

 

 時間帯は放課後だが、しかし時間帯はまだ夕方なので部活などで残っている生徒も多い。

 

 つまり結構人がいるわけで見られて困ったもんだ。

 

 この学園は異能関係者が多いって話だけど、それでも絶対数が少ないからなぁ。悪魔祓い(俺ら)は目立つよなぁ。

 

「なあ、やっぱ着替えた方が良かったんじゃね? これ悪目立ちじゃね?」

 

「た、確かに。これ、結構恥ずかしい時は恥ずかしいのよね……」

 

「知るものか。理由はどうあれ悪魔に頭を垂れた学園だろう? 意に介す必要はない」

 

 おやおや、イリナはともかくゼノヴィアは辛辣なこって。

 

 ま、それはともかく俺たちは古びた小さな校舎の中を案内された。

 

 出迎えたのは黒髪の美少女。

 

 歳は俺より一つ上ぐらいか? いや、おれ物心つく前からストリートチルドレンだがよくわからんけど。

 

「あらあら、そんなに警戒しなくても、そちらが何もしなければ手は出しませんわよ?」

 

 そんなことを言う手を、俺は即座に手をとった。

 

「いえ。俺はむしろあなたという悪魔に誘惑されてしまった愚かな男なのでむしろ出してくださばばばばば」

 

 し、しびれるるるるるるるるるる!?

 

「うふふ。これは自業自得ですわよ? 私、気になっている子がいますから」

 

「気にしなくていい。この男にはいい薬だ」

 

「不用意に悪魔の女の子なんかに手を出すのは悪いことよ?」

 

 じょ、女性陣の視線が痛い。

 

「馬鹿かお前ら。美少女が目の前にいるならとりあえず口説くのが礼儀だろうが!!」

 

「そんな礼儀は無礼の極みだ。相手が悪魔ごときとはいえ、やっていいことと悪いことがあるぞ」

 

 ゼノヴィアさん? それこそすっごく無礼だと思いません?

 

「あらあら。なかなか威勢のある子たちですわね。可愛がりがいがありそうですわ」

 

 え、可愛がってくれるの? やったー!

 

「ヒロイくん。それ、絶対かわいがるの意味が違うと思うの」

 

 え、そうなの? そんなー!

 

「ぐ、具体的には?」

 

「そうですわね。あなたには……」

 

 そういいながら、お姉さんは指からバチバチと電撃を鳴らした。

 

「ビリビリ……と?」

 

「すいませんっしたぁ!!」

 

 速攻でジャパニーズドゲーザを敢行しましたとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、お馬鹿をやるのもこの辺にして、俺達はまねかれた部屋に入る。

 

 そこには、紅の髪を持つお姉さんが一人。そしてその後ろに四人の少年少女。

 

 一人は前にも見た兵藤一誠。一人はその兵藤一誠と一緒にいた金髪美少女。

 

 金髪美少女のほうはどっかで見たことがあるような気もするな。どこだったっけ?

 

 気を取り直して確認すると、一人は白い髪の小さな女の子。

 

 ジュニアハイスクールあたりだと思うけど、なんか可愛いな。

 

 でもって最後の一人は金髪のイケメン。

 

 確実にモテそうな顔つきしてやがるな。クソ、俺もあれぐらいイケメンならより英雄っぽくなっただろうになぁ。

 

 ……などと内心で愚痴ってみるが、しかしそうも言ってられない。

 

 なにせ、ものすごい敵意を見せつけてきてるんだから。

 

 他の連中は程度はともかく警戒心程度だが、あいつだけはものすごい敵意を向けてくる。

 

 やばい。やばいぞ。

 

 ゼノヴィア達はかなり高圧的に行くつもりだったはずだ。なんでも教会の使いとして舐められたら終わりだとかそんな感じで。

 

 でも、其れで暴発したらややこしいことになること請け合いだ。

 

 よっし! ここは英雄としてかっこよくうまく交渉してやろうじゃねえか!!

 

「ゼノヴィア、イリナ。ここは俺に任せてくれ」

 

「ほう?」

 

「あら、いいの?」

 

 二人は興味深そうにしながら、しかし俺に譲ってくれた。

 

 ふっふっふ。いずれ英雄となるべく鍛え上げてきた俺の数多くのスキルを使う時が来たようだ。

 

「とりあえずは初めまして。俺の名前はヒロイ・カッシウス。後ろの2人は青い髪のがゼノヴィアで、茶髪のがおたくの眷属の幼馴染の紫藤イリナだ」

 

「ご丁寧にどうも。私はこの駒王町を管理する、リアス・グレモリーよ」

 

 リアス・グレモリーはそういうと、俺達に視線を向けた。

 

「……それで? 神に仕える教会の戦士たちが、私達と話し合いをしたいとは興味深いけれど、何かしら」

 

 ここからが本番だ。

 

 つかみが肝心。最初は重要。ここで躓きゃ台無しだ。

 

 魅せるぜ、英雄となるべく俺が習得したスキル!!

 

「……いろいろご迷惑おかけになると思うので、まず最初に謝らせてもらいますぅうううううううう!!!」

 

 ジャパニーズ土下座だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……え? 英雄のスキルじゃない? そんなー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、この渾身の土下座でつかんだ場の空気が交渉を進めた!!

 

 そもそもこれは堕天使と教会のもめ事。悪魔側が積極的にかかわる必要はない。

 

 なにせ、幹部とエクスカリバーが勝手につぶし合ってくれるんだ。高みの見物としゃれこんで、あざ笑ってくれればいい。

 

 俺達は敵対勢力で信用なんてしてないんだから、敵同士が同盟を結ぶことも警戒してしかるべきなんだからな。

 

「……そういうわけで! どうか、どうかお目こぼしぉおおおおおおお!!!」

 

「わかったわ。駒王町の人々に被害が出てない以上、当面は放っておいても問題ないでしょう。堕天使もこの状況下で私たちまで敵に回したりなんて考えないでしょうし、少しの間はようすを見てあげるわ」

 

 俺の土下座マシンガンに、リアス・グレモリーは面白そうにしながら了承してくれた。

 

 よっしゃぁ!! これで当分の間は大丈夫だ!!

 

「神の使徒でありながら、悪魔相手になんという……。これが終わったら上に通達するし、金輪際チームを組まさないでくれと言っておくからな」

 

「いいえゼノヴィア。あえて任務を遂行するために心を痛めつけながらも悪魔に頭を下げるという苦渋の決断をしたのよ、ヒロイくんは。主よ、この苦渋の献身にどうか答えてやってください!!」

 

 ゼノヴィア。そういう態度がもめ事生むから抑えてね? あとイリナ、俺は信仰心そんなにないです。

 

 とはいえ、もはや俺たちの関係は漫才トリオか何かと判断されたのか、リアス・グレモリーは敵意が薄れているみたいだ。

 

 金髪の優男だけは何やら敵意通り越して殺意向け続けているけど、主の手前かどうやら抑えてくれてるみたいだ。

 

 よし! このまま帰ろう!! そうすればどうにかなるはずだ!!

 

「あ、それじゃあ俺たちはこの辺でー。もし死体が見つかったら、せめてバチカンに送ってくれると嬉しいかなー?」

 

「縁起でもないこと言うのね。まあ、それ位の弔いはしてあげるわ」

 

 よし! どうやら反応はだいぶましだ!!

 

 あとはこの調子で終われば―

 

「……いや、少し待て」

 

 と、ゼノヴィアは視線を金髪の子に向けた。

 

「おいゼノヴィア。これ以上もめ事を起こすんじゃ―」

 

「いや、信徒としてこれは見過ごせない。……君はアーシア・アルジェントだな?」

 

 アーシア・アルジェント?

 

 それって確か―

 

「たしか、魔女認定されて追放された子よね?」

 

 イリナの何気ない一言に、グレモリー眷属側からの敵意が微妙に増した。

 

 こと変わってないのは最初からマックスの美少年だけ。

 

 リアス・グレモリーたちは微妙に険が入っているだけだが、兵藤一誠はかなり敵意が上がっている。

 

 えっと、確か教会内に入り込んで重傷を負っていた悪魔を治療して、それが原因で追放されたっていう元聖女だっけ。

 

 そりゃまあ、教会としては厳罰必須なのはわかるから追放も人によってはあり得るが……。

 

「ゼノヴィア。すでに追放処分を受けている奴を悪魔が抱え込むぐらい普通にあるだろ? 追放されておいて信仰しろだのなんだの言うのも無理難題じゃねえか?」

 

「いや、どうやら信仰は捨ててないようだ」

 

 ……ゼノヴィア。俺は遠回しに「余計なこと言うな」って言ってんだよ。

 

「え? でもその子は魔女なんでしょう? 信仰心を持ってたら追放されるようなことしないと思うけれど?」

 

「イリナさ~ん? 言ってることは信徒なら当然だけど、ここ悪魔の拠点ですからね~?」

 

 せっかく! せっかく俺が放った英雄スキル「土下座押し切り」が無駄になるぅううううう!?

 

 ああもう!! これだから信仰心強すぎるのはダメなんだよ!!

 

 自分たちに絶対の正義があるって思ってる人は、ゆえに自分を曲げたりなんて決してしないからな。だって間違ってるのは相手だもんね!!

 

「いや、どうやら信仰心を残しているようだ。私はそういうのには聡いんだ」

 

「……捨てきれないだけです」

 

 と、アーシア・アルジェントもまたそう答える。

 

 そ、そうなの? すごいなこの子。

 

 と、感心したのがいけなかった。

 

 ゼノヴィアは、聖剣の包みをアーシア・アルジェントに突き付ける。

 

「ならば私に切られるといい。君の信仰心が真実本物なら、主の元に召されるだろう」

 

 うぉおおおおい!?

 

 こ、この馬鹿!! ただでさえむちゃくちゃな要求しに来てストレスたまってるだろうに、自分の眷属を切ろうとか殺しに来るぞ!?

 

「……おい、ちょっと待てよ」

 

 兵藤一誠が、怒気もあらわに割って入る。

 

 あ、これやばい。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ、アーシアのことを魔女魔女と……っ! どういうつもりだ!!」

 

「魔女を魔女といって何が悪い? 少なくとも悪魔を滅ぼす格好の機会を、よりにもよって悪魔を癒すという行動で台無しにした彼女は魔女と蔑まれても文句は言えないと思うが?」

 

 兵藤一誠の言葉に、ゼノヴィアは特に感情も見せずに応じる。

 

 いや、そのね? ゼノヴィアさん?

 

 日本人はそういう過度な信仰心はあまり受け付けないって聞いたことがあるんですけど?

 

「ふざけんなよ! 悪魔だからって見捨てなかったアーシアの優しさを寄りにもよって魔女だと!? 聖女聖女と持ち上げて、誰一人として友達にならなかったくせに!!」

 

「ふざけたことを。聖女に必要なのは慈悲と献身、友など必要ないだろう。つまり、彼女は聖女として失格だったということだ」

 

「自分達が思ってたのと違ってたからって、それで魔女かよ……ふざけんな!!」

 

 あ、だめだ。考え方が全く違うから相いれない。

 

「はーいゼノヴィアさーん!! これ以上ヒートアップするとまずグレモリーと殺し合いになるから抑えようねぇ!? さもないと責任取って俺がお前殺すぞホント!?」

 

 こ、ここは俺が動くしかねぇえええええ!!

 

 頼むから落ち着いてくれ。お願いだから余計な敵を増やすな。

 

 英雄としてはこの街を陰から支配する悪魔を倒して大喝采とかありかもしれないけど、さすがに今から魔王怒らせて生き残れると思ってませんよ、俺は!!

 

「……途中から口に出てるぞ?」

 

「すいません! マジすいません!!」

 

 兵藤一誠のツッコミに、俺は心から土下座する。

 

 英雄としては強大な敵と相打ちになって死亡ってのいい感じの死に方かもしれないけど、さすがにこっち側がいらんケンカを売ってそれはかっこ悪い気がするからね!!

 

「……なんか一周回って落ち着いてきた。とりあえず、最後に一つだけ言っておくぜ?」

 

 兵藤一誠は、強い敵意を込めてゼノヴィアをにらみつける。

 

「アーシアにこれ以上手を出すっていうなら、俺は一人でも相手になってやる。……悪魔祓いだろうが聖剣使いだろうが、天使だろうが神だろうがなっ!!」

 

 今度はお前が問題発言かい!!

 

「ちょ、お前!! ガチ信徒相手にその啖呵は逆鱗でタップダンスぅ!?」

 

「………イッセーくん? さすがにちょっと聞き捨てならないかな?」

 

「一介の悪魔ごときが、主に対して相手になるなどと……っ! リアス・グレモリー。下僕の教育が足りてないのではないか?」

 

 あ、ヤバイ。臨戦態勢。

 

 どうすんだ、コレ?

 

 俺が途方に暮れたその時だった。

 

「いいだろう。なら、僕が相手になろう」

 

 今まで黙っていた、金髪イケメンが剣を引き抜きながら一歩前に出る。

 

 そのとたん、部屋中に大量の魔剣が現れた。

 

「……最初からいい殺気を放っていたが、誰だ君は?」

 

 ゼノヴィアがエクスカリバーを引き抜きながら視線を向ける中、そのイケメンは壮絶な笑みを浮かべた。

 

「君たちの先輩だよ。失敗作だけどね」

 

 ……失敗作? 失敗作ってーと………ハッ!!

 

 希望の光は今ここにぃ!!

 

「ぐ、ぐぐぐグレモリー!! 騒がせ賃として提案がある!!」

 

「……この期に及んで何かしら? 今更血を流さないでおさまりが付くとでも思ってるの?」

 

 心底頭痛をこらえながら、リアス・グレモリーがしかし話を聞く姿勢を見せる。

 

 よし、こうなったらこれしかない!!

 

「その前に聞きたい。その女に不自由しなさそうなくっそうらやましいイケメンは、聖剣計画の関係者か?」

 

「……そうだよ。君たちが失敗作として処分した、同胞たちの生き残りだよ」

 

 すでにイケメンが逆効果になるような形相を浮かべてくるイケメンだが、しかしこれで何とかなる。

 

「あの件は現場の連中の暴走だ! 今責任者は堕天使側にいる!!」

 

 そう、その可能性については資料で見た。

 

 聖剣計画の最大の汚点。それは現場の責任者が被験者を殺害したことだ。

 

 救い上げるべき孤児たちを、当時の責任者はよりにもよって毒ガスという表の世界でもタブー視される代物で皆殺しにした。

 

 確か何人か生き残りがいる可能性について指摘されてたが、まさか悪魔になってたとはな。

 

 だが、これはいい。

 

「名前はバルパー・ガリレイ。当時の写真でいいなら今回の参考資料に書いてある」

 

「待てヒロイ!! 教会の資料を悪魔に見せるなど―」

 

 気色ばむゼノヴィアに、俺は魔剣を生み出すとその切っ先を突き付ける。

 

「もとをただせばお前がいらんことしたのが原因だろうが!! これ以上何か言うってんなら、俺はグレモリーにつくぞ!!」

 

「……やはり君の信仰心には問題があるな……っ!!」

 

 うっせぇ。もとから大してねえよ。

 

「とにかく!! 騒がせた詫びだ。今回の件でそのバルパーの奴がかかわっている可能性があるから、そいつを見つけたら可能な限り生きて捕まえてそちらに引き渡す!! 煮るなり焼くなり好きにしていいから、とにかくこの場は抑えてください!!」

 

 さらに土下座泣き落としをぶちかましながら、俺は何とか抑えようとする。

 

 これで収まってくれないなら、もうどうしようもない。やるしかない。

 

 あっははは! 魔王ルシファーを敵に回すのはさすがに怖いぜぇえええええ!!!

 

「………イッセー、祐斗。ここは抑えなさい」

 

 心から疲れた表情を浮かべながら、リアス・グレモリーはそう告げる。

 

「部長……」

 

「イッセー。気持ちはわかるけど流石に言いすぎよ? いざとなったら魔王様もあなたを切り捨てることを選ぶでしょうけど、私はそんなことしたくないの。お願いだから落ち着いて頂戴」

 

「わかりました。まあ、言いたいことは言い切ったんでもういいです」

 

 いや、そこは呑み込んでほしかったです。

 

「祐斗も。元凶を引き渡してくれるというのならそれにこしたことはないわ。好きにさせてあげるから、ここは抑えて頂戴」

 

「……………部長がそこまで言うのなら」

 

 よし! イケメンも元凶の存在で少しは落ち着いたようだ。

 

「よしこれで話は決まりましたね俺たちはもう帰りますんでこれ以上引き留めないでくださいよほらゼノヴィアもイリナも帰るぞこの馬鹿どもあとで上に報告しておくからな馬鹿コンビ!!」

 

「ま、まてヒロイ!! 主まで愚弄した兵藤一誠には言いたいことが」

 

 やかましい! これ以上問題を起こすんじゃねえ!!

 




土下座が英雄のスキルと思い込んでいるあたり、ヒロイはD×Dらしく天然度合いの強いキャラでもあります。主人公って天然入ってる方が人気あるらしいってホント?


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プロローグ4

 

「……どういうつもりだヒロイ!!」

 

 強引に引っ張っていた手を振り払い、ゼノヴィアが鋭い視線を向ける。

 

「こっちのセリフだ馬鹿。外様には外様の礼儀があるだろうが。相手が敵とはいえ無茶な要求を通したのはこっちだぞ馬鹿」

 

 なのに高圧的な態度を取ったうえ、相手の眷属を勝手に殺そうなどとふざけたことを。

 

「お前は悪魔祓いとして慈悲をあたえたつもりなのかもしれねえが、あんなことしたら戦争の火ぶたが切って落とされるぞ? ここでグレモリーの機嫌を損ねて何か得するか、ああ?」

 

「だからといって、魔女に堕ちた信徒がさらに転生悪魔になっているなど看過できるか? 浄化するのは間違いなく情けではないか」

 

「ま、まあゼノヴィアの言うことにも一理あるわよね? 信仰心があるなら悪魔でい続けるのは苦痛でしかないと思うわよ?」

 

 こいつらは……!

 

 これだから信仰心の強い連中は困るんだ。正義が自分にあると確信している連中は、正義だからとよく考えずにごり押しする。

 

 その妄信は一歩間違えれば英雄になるための障害となる。戦争がそう簡単に起きないこの世界ならなおさらだ。

 

「あいつ等が悪なのはこの際どうでもいい。だが相手の陣地で好き勝手すればむかつくのは当たり前だろ? せめてコカビエルを倒すまでは冷静になってくれ」

 

「おかしな奴だ。英雄になると公言しているのなら、悪魔に支配されているこの土地を解放するのは当たり前じゃないのか?」

 

 ゼノヴィア。確かにそれはそうかもしれない。

 

 英雄とは何か。それはこれからも考えなければならないと思ってる。

 

 だけど、信徒にとっての英雄ならば、それは信仰のために生きるものだ。

 

 その中でも悪魔祓いになっている奴らが英雄になるのなら、それは神の教えに反するものを倒すのが近道だ。

 

 例えば、司祭枢機卿ヴァスコ・ストラーダ。

 

 彼はバチカンのイーヴィルキラーと呼ばれるほどに多くの悪魔や堕天使を屠り、悪魔からは真の悪魔とまで呼ばれるほどだった。

 

 聖剣デュランダルを振るい、現役時代は多くの上級以上の悪魔や堕天使を倒したと聞く。

 

 それによって解放された土地は数多い。

 

 俺はある子どもっぽい理由であの人のことが好きじゃないが、だが彼は英雄と呼ばれているのは確かだ。

 

 なら、悪魔が裏で実権を握っているこの街を解放するのは英雄になる近道かもしれない。

 

 だけど……。

 

「……ゼノヴィア。一応言っておくぞ?」

 

「なんだ?」

 

 これだけは譲れない。

 

「俺にとって最大の英雄は、俺を光射す場所に送ってくれたあの女性(ひと)だ。断じてヴァスコ・ストラーダじゃない」

 

 その言葉にゼノヴィアは顔を怒りで真っ赤にさせるが、だけどここは譲れない。

 

「英雄は、輝きだ」

 

 そう。俺にとって一つだけ断言できる英雄の形がある。

 

 英雄は、輝いてるんだ。

 

 光り輝くかっこいい奴。それが英雄だとだけは言い切れる。

 

 たとえ世界中の人間が、いいや。

 

「たとえ主が否定してもそれだけは譲れない。そして、あそこで強引にグレモリーを殺せば、俺はきっと輝けない」

 

 だから―

 

「俺はコカビエルをぶっ倒す気はあるが、グレモリーに迄喧嘩売る気はねえ」

 

「私の前で、猊下をただの賞金稼ぎより格下というか……っ!!」

 

 聖剣を町中で引き抜かんばかりにゼノヴィアの怒りをかったが、かまうものか。

 

 これ以上こいつらと行動を共にすることはできないけど、だけどこれは仕方がねえ。

 

「ちょ、ちょっと二人とも!! 落ち着いて落ち着いて―」

 

「イリナ。ここは別行動といこう」

 

「そうだな。そうするか」

 

 俺とゼノヴィアは正反対の方向に進む。

 

「これ以上、俺らが一緒に行動しても足並みそろわねえしな? それなら分かれて捜索した方がいいだろ」

 

「ああ。これ以上貴様と一緒にいたら、後ろから切りかかってしまいそうだからね」

 

 意見がようやく一致したぜ。

 

 上には悪いが、セッティング間違えたそっちのミスだ。文句は聞かねえ。

 

「あ、ああもう!! ヒロイくんが悪いんだからね!! 仮にも信徒が猊下を下に扱うんだから!!」

 

 どうやらイリナはゼノヴィアと一緒に行動することにしたみたいだな。

 

 ……ま、そりゃ相方と一緒に行動するにきまってるよな。

 

 だけど、さすがに俺も限界だ。

 

 そりゃぁ、英雄ってのは敵を倒すもんだ。

 

 聖書の教えの英雄の代表格、ジャンヌ・ダルクがいい例だろう。

 

 戦争で英雄になった彼女は、裏を返せば多くの人間の死を生む要因だ。

 

 だから、彼女はイングランドに捕えられたとき処刑された。

 

 勢力同士の戦いの英雄は、相手にとっては恨みつらみたまる極悪人だ。

 

 一人殺せば犯罪者だが、百万人殺せば英雄。

 

 英雄ってのは、つまり殺しをするもんだからな。

 

 ……だから、俺は納得できない殺しはしたくない。

 

 これで俺は人を救ったんだって、断言できることをしなけりゃ、俺は英雄として輝けない。

 

 たとえ誰に後ろ指をさされたって、俺は英雄だと断言できることをしていたい。

 

 もとより、そうでないなら―

 

「………あ、経費持ってんのイリナじゃん!?」

 

 やっべ、財布の金いくら残ってたっけ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……日本のコンビニ飯、美味ぇ」

 

 俺は宿代を浮かすために公園で眠り、そして朝飯としてコンビニ飯を食っていた。

 

 なんだこのうまさは。場末の飯屋よりうまいんじゃねえか?

 

 そう思いながら、俺はほうれんそうのお浸しとやらを食べる。

 

 食事は三食! 栄養を考えて!! そしてできれば腹いっぱい!!

 

 英雄を目指す食の大切さを知っている俺は、食生活にはこだわりがあるのさ。

 

 食は健康の基本。健康を維持できなけりゃ体を鍛えることもできねえし、鍛えなけりゃ英雄何て夢のまた夢だからな!

 

 さて、それはともかくどうしたもんか。

 

 ぶっちゃけ現地に派遣されたエージェントは全員殺されてるからな。俺らが囮になってコカビエルをおびき寄せるしかねえわけだ。

 

 だけど普通に考えれば、エクスカリバー盗んだんだからエクスカリバーを狙うよなぁ。

 

 このままだと高確率でエクスカリバーに狙いが集中するんだが、どうしたもんかな……。

 

 そう思った時、俺の視界にある男が映った。

 

 確か、兵藤一誠……とか言ったか?

 

 まあ、そりゃ地元なんだからいてもおかしくないわな。

 

 そう思って視線をそらそうとしたが、向こうが俺に気づいて顔を向ける。

 

「あれ? カッシウス……さん?」

 

「ヒロイでいいさ。……悪いが今、俺はイリナ達とは別行動中だ」

 

 幼馴染であるイリナ相手に思うところはあるんだろうけど、悪いがそりゃ無理だ。

 

 バチカンに戻ったら間違いなく今後組まされることはないだろうしな。

 

 そんなことを説明しようと思ったが、しかしそれより先に兵藤は考え込んだ。

 

「……考えてみりゃ、あんたの方が協力してくれそうだしな」

 

 ん? なんか嫌な予感がすんだけど……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、え、え、エクスカリバーを破壊したいだとぉ!?」

 

 匙元士郎とか言ったやつが、絶望の表情を浮かべる。

 

「ふざけんなぁ!! 誰が手伝うかそんなこと!!」

 

「落ち着け匙とやら。さすがにこの時間帯でその大声はうるさい」

 

 俺がそういうと、匙は周りを見て座り込んだ。

 

 あの後話があると兵藤に言われて付き合ってみれば、今度はシトリー眷属の一人と合流して話があるってことになった。

 

 で、お茶奢ってくれるということで聞いてみればこんな話だ。

 

「いやいやお前さん? そりゃちょっと考えなしじゃねえのか?」

 

「いや、それが木場の奴が今にも先走りそうでさ? 勝手に動く前に許可がもらえればそれに越したことはねえかなぁって」

 

 聞くと、件の金髪イケメンこと木場祐斗くんはかなりイラついているらしい。

 

 もうすぐにでも飛び出してバルパーを探しかねないぐらいに張り詰めてるってことだ。

 

 だが、引き渡すところまでは俺が無理やり言い出したが、それ以上のことをしたら俺はともかくゼノヴィアとイリナが何かしかねない。

 

 そんなわけで、許可がもらえればとダメもとで聞きに来たわけだ。

 

「木場はエクスカリバーやバルパーってのに復讐したい。あんた等はエクスカリバーを破壊してでも悪用させたくない。利害は一致してるだろ?」

 

「まあ、俺は別に構わねえんだけど……上から何言われるかわかったもんじゃねえなぁ」

 

「いいのかよ!!」

 

 匙から渾身のツッコミが来るが、しかしだなぁ。

 

「なにせ相手はコカビエルだからな。戦力はあるに越したもんじゃねえし?」

 

 うん、普通に考えたら命がいくつあっても足りねえよ。

 

「バルパーの奴が組んでいるかどうかは可能性段階だが、研究の第一人者である奴がいるなら、コカビエルがエクスカリバーの使い手になってるかもしれねえ。……そんなことになったら、間違いなく俺とゼノヴィアが切り札を切っても勝率は五分が限界だ」

 

 俺は自分を過信してない。

 

 英雄を目指している俺としては強大な邪悪に挑むのはまあ構やしないんだ。だがだからといって無謀に突っ込む気はかけらもねえ。

 

 せめて命かけるだけの価値がある勝算がほしい。

 

「だが、仮にも悪魔と共闘……ってのはさすがに俺が上からただじゃすまなくなる。一応育ててもらった恩義はあるんで、裏切り行為はできればしたくねえってのが本音だな」

 

「ほ、ほら! こいつもそういってるし、やっぱやめとけって!! っていうか俺は帰るからな!? 聞かなかったことにするからな!!」

 

 そういって匙は即座に逃げの姿勢をとる。

 

 まあ、こんなこと巻き込まれたら普通は逃げたくなるだろ。止めやしねえよ。

 

 と、思ったのだが匙の移動が止まった。

 

 ん? んん!?

 

「逃がしません」

 

 匙の袖をつかんて動きを封じているのは、兵藤一誠と同じくリアス・グレモリーの眷属だった小柄な女の子だった。

 

「こ、小猫ちゃん!?」

 

「話は聞かせてもらいました。それなら屁理屈程度の言い訳なら用意できます」

 

 と、無表情に告げる小猫と呼ばれた子は、イッセーを指さした。

 

「悪魔の力ではなく、赤龍帝の力を借りるのはどうでしょうか?」

 



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プロローグ5

こんな言葉を知っていますか?









英雄、色を好む


 

 塔城小猫から話を聞くと、これまた驚くべきことをきいた。

 

 俺たちのトップである、聖書の神。

 

 その神が作り上げた人に宿される奇跡の力、神器(セイクリッド・ギア)

 

 その中でも、十三個しか存在しないとされる、神すら殺せる力の具現、神滅具(ロンギヌス)

 

 そのうちの一つ。ブリテンの赤い龍を封印した神滅具、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

 その今代の持ち主が、目の前にいる兵藤一誠だった。

 

「お前、すごい奴だったんだな、兵藤一誠」

 

 俺は素直に褒める。

 

「いや、赤龍帝の籠手はすごいけど、俺自身は大したことねえし……」

 

 兵藤一誠はそう謙遜するが、隣にいる塔城小猫は首を振った。

 

「そんなことないです。イッセー先輩は頑張り屋さんで、ライザー・フェニックス相手に一歩も引かずに立ち向かう強さを持ってます」

 

 へぇ、フェニックスってことは、72柱直系の奴のはずだ。

 

 それと真っ向から戦えるだなんて、やるじゃねえか。

 

「それも、イッセー先輩が神器に目覚めたのは悪魔になってからです。……わずか数か月でそこまでできればすごいと思います」

 

「いや、そりゃすごいってもんじゃねえよ。お前は少年漫画の主人公か」

 

 むしろ唖然となったは俺は。

 

「そ、そうか?」

 

「お前さん。俺は五年かかってようやく教会の秘密兵器と呼ばれるようになったんだぞ? 何分の一で72柱直系を倒してんだよ」

 

 もう戦慄するよりあきれるほかない。

 

 いや、だがしかし……。

 

「悪魔の力は借りない。だがドラゴンの力は借りる。……屁理屈としてはまあいけないこともねえか」

 

 ま、コカビエルをどうにかするだけなら、十分何とかなるか。

 

「OKOK。どうせ単独行動で困ってたんだ。……それでいいぜ」

 

 ああ、これはもう仕方がない。

 

 ゼノヴィアの阿呆がいらんことしたせいで俺がしりぬぐいする羽目になり、さらにそのせいで単独行動までする羽目になったんだ。

 

 もう全部ゼノヴィアのせいってことにしておこう。俺はもう限界だ。

 

「……ただし、こっちも一つ条件がある」

 

「え?」

 

 兵藤一誠たちが息をのむ中、俺はその条件を口にした。

 

「まずはその、木場祐斗ってのと話がしたい。……詳しく話を聞かせてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「詳しい事情は分かったよ」

 

 ものすごーく心外そうな表情で、木場祐斗は話を聞き終えた。

 

「教会の連中が許可を出した……っていうのが気に食わないけどね」

 

「……言ってくれるねぇ。まあ、上の連中の管理不行き届きってのは事実だが」

 

 反論しづれえのがまたキッツい話だ。

 

「まあ、教会は規模があまりにでかいからな。どうしても腐敗する部分が生まれるってことだろ。そっちだって、人間を無理やり転生させてこき使ってるって聞いたことがあるぜ?」

 

 実際、教会ではそうやって教えられている。

 

 転生悪魔は大きく分けて二種類しかない。悪魔に拐かされて人としての誇りを失った売国奴か、無理やり悪魔にされて尊厳を傷つけられた被害者か。

 

 そういう意味じゃあ、ゼノヴィアの反応は当たり前なんだ。

 

 悪魔を真っ当な存在として認識するような教育を、俺達は受けてない。

 

「まあ、それは否定できないね。実際貴族たちの多くはそうしていることが多いって聞くし」

 

 痛いところをつかれた表情で、木場祐斗は肩をすくめる。

 

「お、おいちょっと待てよ!! んなことねえだろ!!」

 

「そ、そうだぜ!! 会長はそんなことしない!!」

 

 それに立ち上がって反論するのは兵藤一誠と匙元士郎だ。

 

「リアス部長もそうだ! それにライザーもなんていうかいろいろむかつくけど、眷属からは基本的に慕われてたぜ!!」

 

 そう告げる兵藤一誠だが、木場祐斗は首を振った。

 

「確かに眷属のことを家族のように大切にする悪魔もいる。部長や会長はその通りだ。だけどそれだけじゃないんだよ」

 

 そう木場祐斗が告げ、二人は沈黙した。

 

 ふむ。転生悪魔の側からそれが認められるということは、何も間違った教え方ってわけでもないようだな。

 

 しかし、そこに塔城小猫が反論する。

 

「……でも、それだけじゃないです」

 

 そう告げる塔城小猫は、まっすぐに俺を見た。

 

「リアス部長のように、大切に扱ってくれる人もいます。それだけは覚えておいてください」

 

 そう告げるその瞳に映るのは、一体何なのだろうか。

 

 主を愚弄されたくないという想いか。それとも「自分は被害者なんかじゃない」という反感か。

 

 まあ、それはいいだろう。

 

「OK。覚えておくよ。悪魔の中にも、仲間のために命を懸けられるようないいやつはいるってな」

 

 俺はそういうと、まっすぐに木場祐斗に視線を向ける。

 

「それで、だ。……あんたは初期段階の聖剣計画で被験体だったってことで、いいんだな」

 

「ああ。そして、僕たちは使い捨てられた」

 

 ああ、毒ガスで殺されたんだってな。

 

 ふざけた話だ。神に仕える者が、愛を注ぐべき子供たちを失敗作として殺すんだから。

 

「……あの件は教会でも汚点として唾棄されてるよ。少なくとも、当時の上は知らされてなかったそうだ」

 

 ったく。英雄となる男のいる組織にイラン汚点をつけおってからに。

 

 しかも子供殺しだぞ? 普通まともな信徒は子供に手を差し出すもんだろうが。

 

「………うぅ」

 

 と、すすり声が聞こえたので視線を向けたら、匙元士郎はものすごく泣いていた。

 

「なんてひどい話だ!! そんなことがあっていいわけがねえ!!」

 

 ボロボロと涙を流しながら、匙元士郎は木場祐斗の手を取る。

 

「木場ぁ!! 俺ははっきり言ってイケメンでモテるお前のことが気に食わなかったが!! そういうことなら話は別だ!! ……たとえ会長に怒られても、俺は手を貸すぜ!!」

 

 お、おお。なんかやる気になっている。

 

 なるほど。こいついいやつだな?

 

「ま、そういうことなら断る理由はかけらもねえ。英雄になる男としては、こういうのを黙って見過ごすわけにはいかねえからな」

 

「ん? 英雄?」

 

 兵藤一誠が聞きとがめて首をかしげるが、俺はちょっと肩をすくめた。

 

「将来の夢ってやつだよ。俺は英雄に救われて人になれた。だから俺も英雄になりたい」

 

 そう、俺はあの人に救われた。

 

 ただのぼろ布だった俺は、彼女のおかげで人間になれた。

 

 暗闇の中にしかいなかった俺は、あの人に照らされた。

 

 だから、俺も誰かを照らす存在になりたい。

 

「餓鬼っぽいのはわかってる。だけど、それでも憧れたからな」

 

 そう、俺はもうなると決めた。なれないなら死んでいいと心から思った。

 

 だから、目指す。輝けるその先を目指して進む。

 

「俺が教会の悪魔祓いをやってるのもそれが理由だ。ほら、英雄って基本的に戦いで生まれるだろ? 正義を示す宗教の戦士なら、人々を虐げる悪い連中をぶっ倒せそうじゃん」

 

「「マジで餓鬼っぽい理由!?」」

 

 悪かったなこの野郎。

 

「兵藤一誠と匙元士郎。そういうお前らにだって夢の一つぐらいあるだろう!!」

 

「ああ、俺はハーレム王になることさ!! おっぱいいっぱい夢いっぱい!!」

 

 うん、わかりやすい。

 

 だが、ハーレムか。

 

 …………うん。いいな!

 

「男なら一度は考えるよな!!」

 

「お、あんた話が分かるな!!」

 

 俺たちは思わずハイタッチを交わした。

 

「……仮にも信徒がそれでいいんですか?」

 

 塔城小猫にツッコミを入れられるが、それはそれ。

 

「英雄色を好むっていうだろ? 英雄を目指すなら色事の経験も積んでおかねえとな」

 

「お前、形から入るんだな」

 

 匙元士郎にすらあきれられた!?

 

「まあ、俺も男だ。そういうのにロマンを感じるのはわかる。……だが!! 俺はそれ以上に夢がある!!」

 

 眼をくわっと広げて匙は決意の表情を放った。

 

「俺の夢は!! ソーナ会長と!! できちゃった婚をすることだ!!!」

 

 な、なんだと!?

 

「出来ちゃった婚!? お前、それは人生の汚点だぞ!!」

 

 結婚してからできるならともかく、致してできちゃったってそれどうよ!?

 

「汚点いうな!! だって、できちゃった婚ってまずする必要があるじゃねえか! そこにロマンを感じたんだから仕方ねえだろ!!」

 

 いや、おれが言うのもなんだけどどうかと思う。

 

 思わず同意の視線を求めて視線をさまよわせるが。

 

 木場祐斗と塔城小猫は俺と同意見のようだ。

 

 さあ、あとはお前だけだ兵藤い……せ……い?

 

「う、うぅうううう!!」

 

 なんか涙すら流してるんだけど!?

 

「匙! 俺も、部長のおっぱいを吸いたいという目標がある!!」

 

「な、なんだと!?」

 

「主のおぱーいを!?」

 

 匙はもちろん俺も愕然とした。

 

 あ、相手はグレモリーの次期当主だぞ!? そんなこと、許されるのか!?

 

「あ、主のおっぱいだぞ兵藤! そ、そんなことが……」

 

「……できちゃった婚よりはるかに簡単かと」

 

 塔城小猫がツッコミを入れるが、それはスルー。

 

「できる!! 少なくとも、俺はリアス部長の胸を揉んだことがある!!」

 

 その言葉に、俺は意識が真っ白になった。

 

 り、リアス・グレモリーは立派なものをお持ちだった。

 

 あれを、揉んだだとぉ!?

 

「……すげえな兵藤一誠!!」

 

「ふっ。俺のことはイッセーって呼んでくれ、カッシウス」

 

「ああ、訂正するぜ。すげえなイッセー!!」

 

 俺たちの間に、何か共感するものがあった。

 

 エロス。それは種族の垣根を超えて友情を築く魔法の概念。

 

 ふっ。俺たちは今、敵対関係を超えた絆で結ばれたのさ。

 

「おいおい、俺を忘れるなよ、兵藤、カッシウス」

 

「そうだったな匙。俺たちは、同士だ」

 

「夢の内容はともかく、そこに賭けるエロスを俺も否定しないぜ」

 

 匙の差し出した手に、イッセーも俺もすぐに手を取る。

 

 ああ、主よ。どうかこの絆だけはお目こぼしください。

 

「……バカばっかです」

 

「あ、あはははは……」

 

 外野二名。冷めた視線向けんな!!

 




まあ大体わかっているとは思いますが、ヒロイも対外スケベです。

とはいえ一応協会暮らしであることもあって、イッセーほど暴発はしませんが。


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プロローグ6

 

 そんなわけで俺は、兵藤一誠達と一緒に行動していた。

 

「……そういえば、言ってなかったね」

 

 そのその移動中のなか、木場祐斗が思い出したかのように口を開いた。

 

「数日前の夜に、エクスカリバーの使い手と戦ったんだ」

 

「おまっ! そう言うことはもっと先に言えよ!!」

 

 イッセーが怒るのも当然だろう。

 

 すでに悪魔側に喧嘩売ってたのかよ、コカビエル達は。

 

 これをリアス・グレモリーが知っていれば、交渉は決裂してたな。

 

 だってすでに堕天使の方から喧嘩売ってんだもん。眷属に対する情愛の深いグレモリーが、この喧嘩を買わない理由がねぇ。

 

「名前はフリード・セルゼン。聞き覚えはあるかい?」

 

「ふ、フリード!? あの野郎、また駒王町に来てたのかよ!!」

 

 イッセーとも因縁があるみたいだが、一体なんだ?

 

「天才といわれてた悪魔祓いだよ。ま、俺以上に信仰心が欠片もなく、狂気を味方にもぶつけてたんでさっさと追放されたけどな」

 

 戦闘能力だけなら若手の中でも有数だからな。そんな奴がエクスカリバーまで持ってたら面倒だな。

 

「つーか、イッセーがそんな奴知ってることの方が驚きなんだが。アイツ何やったんだよ」

 

 ホント、あいつなんで日本くんだりにまで来てんの?

 

「……悪魔稼業の仕事で行ったら、出くわしたんだよ」

 

 心底いやな思い出ですと顔に書いてある表情で、イッセーがぼやいた。

 

 ああ、そちらでもご迷惑かけてたんですか。

 

「……上が、始末できなくてマジすまんかった」

 

「いや、お前のせいじゃねえだろ? だから気にすんな」

 

 ふっ。いいやつだな、イッセー。

 

 などと馬鹿をやりながら歩いていた時、上から殺気を感じた。

 

「神父御一行さん、さようならーっと!!」

 

 狂気をまき散らしながら振り下ろされる一撃を、俺は即座に魔剣を呼び出して受け止める。

 

「おっほぉ!! それは素敵神器の魔剣創造(ソード・バース)じゃあーりませんか! なかなかイカス神器を持ってんなぁ!!」

 

 その言葉とともにバックステップで距離を取り直したフリードに、木場祐斗が殺気をまき散らしながら突貫した。

 

「エクスカリバーぁあああああああああ!!!」

 

「おんやぁ? 君はこないだの騎士(ナイト)くん! やぁ、こないだぶりだね」

 

 後半やけにさわやかな口調で答えながら、フリードは聖剣で木場の魔剣を受け止める。

 

 ふむ、あれもか。

 

「どっちもこっちもそぅううううどぶぅわぁああああす!! なんだこりゃ、面白展開だねぇ!!」

 

 テンションを上げながら、フリードは即座に反撃を叩き込む。

 

 そしてそのまま、超高速での切り合いが勃発した。

 

 ……さて、できることなら木場祐斗に戦わせてやりたいが―

 

「さっすが騎士(ナイト)くん速いねぇ!! だっけどぉ!!」

 

 しかし、フリードの速さは木場祐斗を凌駕する。

 

「この天閃の聖剣(エクスカリバー)、ちょっ早の剣のまえにゃぁ止まって見えるぜ!!」

 

 ……相性が悪いな。これは仕方がない。

 

「イッセー!! 下がってろ!!」

 

 俺は即座に魔剣を作ると、攻撃を仕掛ける。

 

 種類は手数重視で二刀流。聖なるオーラを吸収する対聖別仕様の魔剣で切りかかる。

 

「俺が相手をしよう!!」

 

「むむむっ! 俺のナイスバトルセンサーがきゅぴーんと反応しましたよん! おたく、できそうだね!!」

 

 フリードは即座に反転して俺と切り結ぶ。

 

 さすがに天才と謳われた者がエクスカリバーを使っているだけあって強敵だ。

 

 ましてや攻撃速度を上げる天閃の聖剣。一発でもあたればそれで決着がつきかねない俺では、危険度が高い。

 

 だが!!

 

「舐めるなよ、外道!!」

 

 俺は即座に風を放つ魔剣を創造すると、砂ぼこりを巻き起こす。

 

 視界を遮られて一瞬動きが止まったフリードに、後ろから木場祐斗が迫る。

 

「できれば一対一で戦いたかったんだけどね!!」

 

「悪いがこっちも仕事なんでな」

 

「チッ! 魔剣創造が二人もいると厄介だぜ!!」

 

 前後からくる魔剣を、しかしフリードは聖剣一振りでさばき続ける。

 

 こっちは攻撃を何度か叩き込むと剣が砕けるのに、一切傷一つつけずに攻撃を繰り返すとはさすがはエクスカリバー!!

 

 しかし、是でも止められねえか!!

 

「しつっこいんだよ! そろそろ切られてくれませぇえええんかぁあああああ!?」

 

「断る!!」

 

 俺はそう吠えるとさらに攻撃を増やそうとするが、しかしそれより先に視界に銃口が映る。

 

 いっけね。奴の戦闘スタイルはオーソドックスな悪魔祓いだった!!

 

 とっさに上体をそらして回避するが、その隙をついてフリードは駆け出す。

 

 それを追撃する木場との間で、こんどはヒット&アウェイに徹した攻防が行われる。

 

 あれは……介入しづらいな。

 

「ええい! 動きを止めないと割って入るのも難しいな!!」

 

 さて、どうするよ?

 

 そう思ったその時、俺の後ろから紫の紐みたいなものが飛び出て、フリードの足に絡みついた。

 

「何だこのベロ!! くそ、切れろ!!」

 

 心底うざがりながらフリードは切ろうとするが、しかし切れない。

 

 ほほう? なかなか強力な神器だな、あれ。

 

「いまだ兵藤!!」

 

「行ってください、イッセー先輩」

 

 と、匙に促され塔城小猫に投げ飛ばされて、イッセーが木場祐斗に向かって飛んでいった。

 

「うぉおおおおおおお!!! 木場ぁ! 譲渡するぞぉおおおおお!!!」

 

 その瞬間、木場祐斗の力が大幅に向上した。

 

「できれば、一対一で倒したかったけどね!!」

 

 微妙な表情を浮かべながらも、しかし木場祐斗は勝利を得ようと動く。

 

 そのままフリードを切り捨てようとしたその時だった。

 

「……ほぅ。魔剣創造とはまた珍しい神器を保有しているな」

 

 暗がりから、興味深そうな声が届いた。

 

 新手か!! そう思い俺たちは警戒しつつ視線を向ける。

 

 そこにいたのは、神父服を身に包んだ太った中年男性……って!!

 

「バルパー・ガリレイ!!」

 

 間違いない、今回の参考資料でみたバルパー・ガリレイだ。

 

 エクスカリバーの使い手を見繕うのに奴ほどの適任は堕天使業界にはいないとは思っていたが、やはり参加していたか!!

 

「バルパー……ガリレイ……っ!!」

 

 木場祐斗が憎悪の表情を浮かべる中、バルパーは視線をフリードに向けるとため息をついた。

 

「フリード。私が与えた因子を有効活用してくれ。因子を剣に収束させればその程度の神器は切れる」

 

「マジっすか? んじゃぁ……切れろ、ベロ!!」

 

 そしてその一太刀で触手は切り裂かれた。

 

 チッ! さすがはエクスカリバーか。

 

「いよっしゃぁ!! これで再びマジバトルができるってもんよぉ!!」

 

 そのままフリードは戦闘態勢を取るが、しかしすぐに飛び退った。

 

 そして、そのまま地面が豪快に陥没する。

 

 生まれるクレーター。その中心部に立つのは―

 

「―これはどういうことだ? いくら行ってほしかったとはいえ、悪魔と協力というのはどうかと思うが?」

 

 ぜ、ゼノヴィア!?

 

「ヒロイ君!! さすがに悪魔と共闘するのはどうかと思うの? 主に土下座して詫びるべきよ?」

 

 イリナにまでツッコミ入れられたよ!! 反論できない!!

 

「む~ん。バルパーの爺さん、これはさすがの俺様ちゃんもキッついので、逃げよっか?」

 

「そうだな。いかにエクスカリバーといえ、一本でこれだけの敵をどうにかするのは困難か」

 

 と、逃げの算段に入ったフリードは閃光弾を構えると、投げつける。

 

 うぉっ、まぶしっ!!

 

「逃がすかぁあああああああ!!!」

 

「待て、背信の徒め!!」

 

「あ、待ってよゼノヴィア!!」

 

 あ、木場祐斗およびゼノヴィアとイリナが走っていった。

 

「やっべ。ちょっと待てお前ら!!」

 

 俺も慌てて追いかけるが、しかしあいつら足が速いな。

 

 しかも日本の道わかりずら!!

 

 結局、俺は道がわからなくなり見事に道に迷ってしまった。

 

 ……合流、どうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、携帯で呼び出しをかけてみたが結局出てこない。

 

 おいおい。あいつらまさか突っ走って死んだんじゃねえだろうな?

 

 流石にそれは目覚めが悪いんだが、どうすんだよ。

 

 心底困り果てた俺は、仕方がないので最終手段に頼ることにした。

 

「……来ちまったか。だが、もう夜中だな」

 

 散々道に迷ってようやく近くまで辿り着いたイッセーの家。

 

 もうこうなったら、悪魔の力を借りるほかない。

 

 イッセーとの共闘はドラゴンの力を借りるという屁理屈だったが、もうこうなったら力を借りるしかない。

 

 上には交渉が失敗して監視役を付けられる羽目になったとでも言って誤魔化そう。うん、其れで無理やり誤魔化そう。

 

 そもそも現地で行動するのにその現地を縄張りにしている奴の干渉を受けるなってのが問題なんだ。

 

 敵対勢力の戦い何て黙ってみてるわけにはいかないし、こっそりやるにしても知られた時点で大騒ぎだ。

 

 こうなったらやけだ。エクスカリバーさえ回収できれば上もそこまで文句は言わねえだろ。

 

 と、言うわけで―

 

「さて、それでは助けを求めることに―」

 

「―ヒロイ!! 無事だったのかよ!!」

 

 と、なんか壮絶に緊張感のある表情をしたイッセーがそこにいた。

 

「イッセー? どうしたんだ一体?」

 

「そ、それが―」

 

「ヒロイ・カッシウスね?」

 

 と、リアス・グレモリーが鋭い視線を向けながら近づいてきた。

 

「状況が変わったわ。悪いけど、無理にでも共闘してもらうわよ」

 

「……何があった?」

 

 おいおい。なんか状況がややこしいことになってるみたいだぞ、コレ。

 

 詳しく聞いたらいろんな意味で文句言いたくなる展開だった。

 

 コカビエルの目的は三大勢力の戦争の再開。エクスカリバーを奪い取ったのは、セラフのミカエル様を怒らせるための挑発行動。

 

 それがうまくいかなかったので、こんどは魔王サーゼクス・ルシファーの妹であるリアス・グレモリーを管轄地であるこの駒王町ごと滅ぼして怒らせようとか考えているらしい。

 

 ……ふざけんな!!

 

 俺は英雄になる男。いずれは戦争という土俵に行く必要があるとは思っている。

 

 だが、名誉と栄光のために意図的に戦争を起こすつもり何てどこにもない。

 

 それ以上に、何の罪のない無辜の民を、積極的に生贄にささげるなんてどう考えても英雄のやることじゃねえ。

 

「……もとをただせばこっちの問題だ。積極的に協力させてもらう」

 

 どうやら、場合によっては俺も最終手段をこの場で使うことになりそうだ。

 

 マジで、腹をくくるとするか。

 







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プロローグ7

 

 駒王学園には、急ピッチで結界が張られていた。

 

 とはいえこの強度。最上級堕天使であるコカビエルがその気になれば突破できるだろう。

 

 なにせ、奴は堕天使の中ではトップクラスの猛者なんだ。

 

 エクスカリバーなんてなくても、自分一人でこの駒王町を灰燼に帰すことなんて余裕でできるだろう。

 

「……で? 俺は上に増援を要請したぜ? そっちは?」

 

 背に腹は代えられんので、俺はすでにバチカンに増援要請をした。

 

 コカビエルの目的をきちんと語った上で、マジでヤバいから今すぐ増援をすぐに送り込めといっておいた。

 

 増援が間に会わないなら悪魔と共闘するともハッキリ言っておいた。

 

「……好きにしろ」とのお達しはもらった。

 

 ああ、何の問題もない。

 

「いえ、それはやったらやったで処罰を下すということではないでしょうか?」

 

 と、結界を張っているソーナ・シトリーが告げるが、それはもう仕方がない。

 

「ふっ。英雄足るもの、無辜の民を守るためならばこれ位何ともない。……処刑されそうだったら亡命させてください」

 

「し、しまらねぇ……」

 

 なぜか尻を時々さすっている匙がうるさいがとりあえずスルー。

 

 だって俺、まだ英雄になってないもん。できれば生き残りたいです。

 

 コホン。それはともかく。

 

「で、上に増援は? いくら72柱の末裔とはいえ、18の女の子にさせるような事態じゃねえだろ?」

 

「……誠に遺憾だけど、朱乃が魔王様に増援を要請したわ」

 

 すごく納得いってない顔で、リアス・グレモリーは告げた。

 

「ライザーとの一件で迷惑をかけたばかりだっていうのに、コカビエルぅ……っ」

 

「よくわかんねえけど、足引っ張んねぇのも立派な貢献だと思うぞ? できないことはできないんだからそこは割り切っとかねぇと」

 

 実際できないことしようとして、町一つ吹っ飛んだらそれこそことだからなぁ。

 

 そんなことになったら戦争を起こしたい奴らが勢いづいて動くだろうしな。そんなことを起こす方が大問題だろう。

 

「まあ、魔王ルシファーが戦争起こしたがってるっていうなら、適当に戦って逃げかえるっていうのも一つの手だけどな」

 

「ふざけないで頂戴。お兄様は悪魔の平穏を第一に考える人よ。戦争再発何て望むはずがないわ」

 

「だったらなおさら力を借りなって」

 

 そう言い合いながら、俺は駒王学園の門を見据える。

 

「んじゃ、この激戦に参加したい奴はついてきな!!」

 

 俺はそういうなり、突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対光力の魔剣を生み出し、俺は一気に突入をしかける。

 

「コカビエルぅううううう!!!」

 

「ほぅ? 貴様が報告にあった魔剣使いか」

 

 黒髪を長く伸ばした、明らかにやばそうな顔つきの堕天使が俺に視線を向ける。

 

 間違いない、奴がコカビエルだ。

 

 ……ここで討ち取って戦争再発を阻止すれば俺は英雄として教会の歴史に名を残すだろう。

 

 最も―

 

「だが雑魚に用はないんだ」

 

 ―この槍の嵐を潜り抜けられ無きゃ何の意味もないんだがな!!

 

「うぉおおおおお!! 燃えろ、俺の中の英雄魂ぃいいいいい!!!」

 

 文字通り死ぬ気で放たれる攻撃を切り捨てる。

 

 もちろん俺の両手だけでは限度があるので動き回って狙いをつけさせないようにしながら、回避も全力で行いつつ行っている。

 

 だけど多い!! 数が多い!!

 

 やっぱり奥の手抜きではこれが限界か! だけど使うと後がうるさいし―

 

「雷よ!!」

 

「滅びなさい!!」

 

 後ろから放たれた雷と消滅の魔力が、光の槍を吹きとばした。

 

「先走りすぎよ!! そんなに殉教したいのかしら?」

 

「悪い!! ちょっとテンション上がりすぎた!!」

 

 リアス・グレモリーに謝りながら、俺はいったんバックステップで距離を取る。

 

 そこに、三つ首の巨大な犬が左右から襲い掛かってきた。

 

 これは地獄の番犬ケルベロス!! こんなもん人間界に持ち込むな!!

 

「俺のペットだ。さあ、楽しませて見せるがいい!!」

 

 この巨体相手に魔剣で切るのは愚策か。……なら―

 

 俺は魔剣を消して両手をそれぞれ左右のケルベロスに向けると、想いを強くする。

 

 その直後、俺の両手から紫電がほとばしった。

 

「吹っ飛ばせ、紫電の双手(ライトニング・シェイク)!!」

 

 放たれる雷撃は致命傷こそ与えられなかったが、ケルベロスの全身を焼いて動きを封じる。

 

 そして、その隙をついてイッセーが全力で一体を殴り飛ばす。

 

「うおりゃぁ!! ……あれ? 部長たち、なんでポカンとしてるんですか?」

 

 イッセーが首をかしげるが、しかしそれはそうなのである。

 

「……ほぅ。神器を二つ保有するとは、珍しいな」

 

 コカビエルが興味深そうにこちらを見る。

 

 まあ、気持ちはわかる。

 

神器(セイクリッド・ギア)は原則一人につき一つ。後天的に移植することも可能だが、しかしミカエルがそんな奴を教会の戦力として堂々と使うとは、正直意外だな」

 

 物珍しいのは自覚しているから、その珍獣を見る目はスルーしてやる。

 

 と、新たなケルベロスがポンポン出てきたうえで、さらにさっきのケルベロスも襲い掛かる。

 

 なるほど、これでは無理か。

 

 なら!!

 

「魔剣創造&紫電の双手!! ダブルサンダーブレード!!」

 

 雷の魔剣を生み出しつつ、さらに紫電の双手で雷撃を放つ。

 

 二つの雷撃が一つに合わさり、超高出力になった雷の剣が、こんどこそケルベロスを消し炭にした。

 

 よし! まずはこんなものか!!

 

 俺はすぐに振り返ると、こんどこそコカビエルに向き合った。

 

 なぜか、奴はポカンとしていた。

 

「スキありゃああああああ!!!」

 

 渾身の一撃をもう一度たたきつけようとするが、コカビエルはそれを受け止める。

 

 翼で受け止めやがった!?

 

 ちっきしょうが!! これが最上級堕天使の力ってやつかよ!!

 

 いや、英雄となるにはこいつらと真正面から渡り合えるぐらいなくてはいけない。

 

 この程度じゃへこたれないもん!!

 

「貴様……何者だ?」

 

 コカビエルは、なぜか変なものを見つけたかのように視線を向けた。

 

「あんだよ。ただの神器多重保有者ですがそれが何か?」

 

「大ありだ。いかに興味がないとはいえ、アザゼルのせいで俺も神器には詳しい」

 

 俺の攻撃を軽々とかわしながら、しかしコカビエルは妙なものを見る目つきを変化させない。

 

「二つの神器の同時使用はアザゼル曰く消耗するものが大きすぎる。神滅具の使い手ですら最後の手段にしていた方法だ」

 

 え? そうなの?

 

「いや、おれは全然平気なんだけど。やりづらいけど普通に使うのと消耗は変わんねえけど?」

 

 何言ってんだこいつ。

 

 こんなもん、やるのが面倒くさいだけだろうに。

 

 慣れれば単純作業位なら苦労しないぜ?

 

 そんな風に思ってたけど、コカビエルは異質なものを見る目つきになってきた。

 

「……どうやら、お前は思ったより危険なようだ。ここで始末した方が―」

 

 そう告げようとしたその時だった。

 

 強大な光が、放たれる。

 

 そして同時に聖歌が聞こえる。

 

 視線を向ければ、そこでは木場祐斗が涙を流しながら聖歌を口すさんでいた。

 

 悪魔が聖歌を口ずさむ。その異質な光景は、だけどどこか美しかった。

 

「ほぅ? どうやら正当な方の異常が形になって表れたようだな」

 

 コカビエルが感心するなか、俺もまた驚くべき事態を目にすることになった。

 

 ……あれは、禁手だ。

 

 こりゃすごい。まさか禁手はもちろん、そこに至る過程を観れるなんてマジで俺は得したかもな。

 

「く、くくく。さすがに禁手とは珍しい。これはすこしは楽しめそうだな」

 

 コカビエルも感心し、攻撃の手を止める。

 

 ……確かに、ここは見届けるときか。

 

「……ほぅ。どうやら見せ場はもらえたようだな」

 

 と、声が聞こえて俺は振り返る。

 

 そこには、いくつか負傷はしたがいまだ健在のゼノヴィアが立っていた。

 

「……とはいえ、エクスカリバーの不始末を悪魔にくれてやる気はない。私も一枚噛ませてもらうか」

 

「空気読めよ、お前」

 

「まったくだ。たかだかエクスカリバーの一振りごときで、バルパーが復活させた合一化したエクスカリバーに勝てるものか」

 

 俺とコカビエルの間で意見が一致するが、しかし少し食い違っているところもある。

 

 なにせ、どうにかできる切り札持ってるからな、こいつ。

 

「……さて、それでは切り裂いてくる」

 

「へいへい。行ってこい切り姫」

 

 さて、それじゃあそろそろ大詰めだ。

 

 俺も、切り札切らないとダメかねぇ。

 



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プロローグ8

はい、ついにこの作品の特色が出てきます!!


 

 デュランダルと聖魔剣による連携は、所詮四本しか合一していないエクスカリバーでは役者不足の相手だった。

 

 そして使い手であるフリード・セルゼンは重傷をおい戦闘不能。

 

 これで終わりか。

 

「……バルパー・ガリレイ。お前はここで終わらせる!!」

 

 木場祐斗が剣を向けるが、バルパーはしかしそれを見ていない。

 

 エクスカリバーが敗北した衝撃以上に、聖魔剣の存在に狼狽しているみてぇだな。

 

 ま、聖と魔の融合とか普通考えねえもん。どんな中二設定だよって感じだよな。

 

 さて、とりあえず俺はコカビエルに集中を―

 

「―そうか、わかったぞ!!」

 

 その時、バルパーが声を荒げた。

 

「……チッ。いらんことに気が付いたか」

 

 コカビエルが舌打ちしたその瞬間、俺はバルパーとコカビエルの間に割って入った。

 

 悪いが、バルパーの始末は木場祐斗に着けさせるって約束したんでな!!

 

 放たれた光の槍を俺は両手に魔剣を構えて防ぐ。

 

 そして―

 

「―神もまた、魔王とともに死んでいたということか!!」

 

 ―その言葉を聞いた。

 

「…………は?」

 

 俺は、思わず振り返った。

 

 完膚なきまでに隙だらけだったが、しかしコカビエルは攻撃をしない。

 

「……褒めてやるよバルパー。そこに思い至るとは、お前はやっぱり優秀だ」

 

 コカビエルは、ため息をつきながらそう告げる。

 

 それは、つまり合っているということで―

 

「……主が、死んで……いる?」

 

 その言葉に、ゼノヴィアは思わずデュランダルを取り落としそうになる。

 

 そしてまた、木場祐斗も聖魔剣を持つその手を地面へと下ろしていた。

 

「え? え? 神が死んでるって、え?」

 

 状況がよくわかっていないイッセーが周りを見渡しているが、それ以外の殆どが狼狽していた。

 

「コカビエル!! それは一体どういうこと!?」

 

 目を見開いたリアス・グレモリーが問いただすなか、コカビエルは少し考えこむと口角を吊り上げる。

 

「そうだな。どうせ戦争をするなら隠す必要もないか」

 

 この野郎、何を知っている!

 

「さっきバルパーが言った通りだ。かつての大戦で、四大魔王とともに神もまた死んだのさ」

 

 サラリと、何でもないようにコカビエルは告げた。

 

 今度こそ完膚なきまでにバルパーの言葉を認めやがった。

 

 おいおい、ちょっとまずくねえか!?

 

「嘘だ、嘘だ!!」

 

 ゼノヴィアが顔真っ青にして否定するが、しかしコカビエルは嘲笑を浮かべた。

 

「だからだよ。信徒どもに神がすでに死んでいるだなんて知られれば、今のお前のように我を失う。このことを知っているのは三大勢力でも上層部のみだ。天使共も下級や中級にはまったく知らされてないだろうな」

 

 だろうな。

 

 一神教の聖書の教えで、その神が死んでいるなんて知られればどんなことが起こるかわからねえ。

 

 しかもこの世界の主要どころは聖書の教えを信仰してる。こんなの知られたら世界中大パニックじゃねえか!!

 

「人間とは支えがなければ生きていけない弱い生き物だ。だから悪魔も堕天使も人間はおろか下の連中にだって知らせてない。……まったくふざけた話だ」

 

 コカビエルは吐き捨てる。

 

 誰が見ても分かるぐらい、コカビエルはイラついていた。

 

「そのせいで、どこもかしこも戦争には二の足を踏んでやがる。神に縋っている天使共や魔王に仕える悪魔どもはともかく、俺達堕天使まで、アザゼルが二度目の戦争はないと言っているほどだ!!」

 

 なるほどねぇ。

 

 やけに戦争が起きなさすぎると思ってたけど、そういう事情だったってわけか。

 

 それなら下の連中の小競り合い位しか起きるわけねえわな。トップは戦争する気がねえけど、理由が理由だから積極的に終戦させるのも一苦労ってわけだ。

 

 俺が納得してると、ふらふらとしながらアーシア・アルジェントが前に出る。

 

 目の焦点もあってねぇ。これ、かなりやばくね?

 

 現役信徒のゼノヴィアでも崩れ落ちかけてる程度で済んでるってのに、この子に至っては未だ現実を受け止め切れてなさそうだ。

 

 マジで悪魔になったのに信仰心持ってたのかよ。驚きだな。

 

 だけど、それがなおさらかわいそうだ。

 

「主が、もういない……? それでは、私達に対する救いは……」

 

「死んだ奴が何もできるわけがないだろう」

 

 縋りつくようなアーシア・アルジェントの言葉を、コカビエルはぶった切った。

 

「今はミカエルが聖書の神が残したシステムを動かしてる。よくやっていると褒めてやるが、神ほどの効果は望めないな」

 

 な、なるほど。聖書の神はそんな器用なまねをしてたのか。

 

 って感心してる場合じゃない! 

 

 アーシア・アルジェントの奴、もう気絶しようとして―

 

「―っと」

 

 それを、兵藤一誠が受け止めた。

 

「………コカビエル、だっけか?」

 

 そして、イッセーはアーシア・アルジェントを地面に横たえながら、声を出す。

 

「俺、バカだからよくわからないけどさ、それでなんで戦争するんだよ?」

 

「馬鹿馬鹿しい。すでに振り上げた拳をぶつけることなく下すだと? そして今度は馬鹿馬鹿しい神器などという玩具にこだわって研究し続けろとでも!? ふざけるなよ!!」

 

 コカビエルはマジギレの表情でそう怒鳴るが、その答えを聞いて、イッセーもまたマジギレの表情を浮かべる。

 

「ふざけんじゃねえぞこの野郎!! お前の、お前のそんな自分勝手な野望のために、俺のハーレム王になる夢を邪魔されてたまるか!!」

 

 おお、理由はどうだか知らねえけど、すごい気迫だ。

 

 あのコカビエル相手にそこまで言えるならいい啖呵だ。すげえな、おい。

 

「……お前はハーレムを作りたいのか? 二天龍なら役には立つだろうし、俺についてくるというのなら適当に見繕ってやるが」

 

 おお、出たよ魔王とかが勇者相手に言いそうなセリフ。

 

 だけどまあ、そんなもんに引っかかる流れなわけないのはわかってるだろう。単純な挑発だ―

 

「……………マジか」

 

 うぉおおおおおい!!!

 

「イッセー!! てめえここで考えるか!? 考えるのかよ!?」

 

「イッセー!! 平常運転にもほどがあるわよ!!」

 

 渾身のツッコミが俺とリアス・グレモリーから飛び出した。

 

「す、すんません!! どうにもハーレムって言葉には抗いがたい誘惑が……その、おっぱいが……いっぱいで……」

 

 しどろもどろになるイッセーを見てると、俺もまあ、なんというかあれだ。

 

 力が、抜けたな。

 

「……ったく。こりゃまったくもって期待できねえ」

 

 俺はなんかため息つきたくなった。

 

 だけどまあ、こっちもおかげで余計な力が抜けたぜ。

 

「仕方ねえから俺が何とかしてやるかぁ!! ほら、お前ら下がってな!!」

 

 俺はイッセーの肩に手を置くと、一歩前に出る。

 

 こりゃ、俺がどうにかするしかねえだろう。

 

 おそらく、まともに勝ち目があるのは俺ぐらいだしな。ここは気合入れでかっこつけるか。

 

「バカ! 一人でどうにかできる相手かよ!! 俺達だって―」

 

「だからパワー溜めておけって言ってんだよ。オフェンスは俺がやる」

 

 俺はコカビエルを真正面から見据える。

 

「ハッ! 確かにお前はこの場で最強の実力者だ狼。過ぎた神器(おもちゃ)を二つも持っていればまあ当然だが―」

 

「―なに勘違いしてんだ、てめえ」

 

 コカビエル。お前は一つ勘違いしてるぜ。

 

「なに?」

 

 俺は魔剣を消すと、深呼吸を一つ。

 

 ああ、これ間違いなく俺やばいことになるわ。

 

 だが、この男は間違いなく邪悪だ。

 

 戦闘能力は桁違いだ。

 

 そしてこのままだと無辜の民にたくさんの被害が出る。

 

 ああ、正直に言おう。

 

 おあつらえ向きに()()()()()じゃねえか。

 

「―ヒーローは、追い込まれてからが本番だ。……俺の神器は二つじゃねえ!!」

 

 その言葉とともに、俺の両手の間にオーラが放たれる。

 

 さっきの聖歌など比べ物にならない聖なるオーラが形となり、そして一振りの槍となる。

 

「………ほぅ。これは面白い」

 

「………あれは……」

 

「う、美しい………」

 

 コカビエルが楽しそうに唇を吊り上げ、アーシア・アルジェントとゼノヴィアが呆然となる。

 

 是こそが、問題児である俺が教会の秘密兵器と呼ばれる所以。

 

「最強の神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)。……これが、俺の本命だ」

 

 そして、俺はにやりと笑った。

 

「覚悟しやがれ、コカビエル!!」

 




史上最強の力を宿した少年。主人公として定番だがそれがいい!!









え? 聖槍がこんなところにあるのなら、英雄派は大丈夫かって?

大丈夫!! 詳しいことは後で説明します!!


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プロローグ9 現れる聖槍と潜む聖槍

 

 コカビエルは心底楽しそうにしながら、俺に向かって接近する。

 

 その両手には光力でできた剣。左右どちらも、デュランダルとすら打ち合えるであろうレベルで力が篭っている。

 

 まともにやり合うと手数でやべえな。

 

 だったら強引にでも攻めるしかねえ!!

 

「オラオラオラオラオラァ!!」

 

 俺は聖槍を短めに持って連続で振り回す。

 

 この際切っ先に当たるかどうかは関係ない。石突と穂先を同じように扱って、足りない数をフォローするぜ!!

 

「ふはははは!!!我武者羅に振るう程度で俺は倒せんぞ!!」

 

 コカビエルはこの乱撃をたやすく捌きやがる。

 

 だが舐めんなよ?

 

「ここで紫電の双手(ライトニング・シェイク)!!」

 

 俺はコカビエルが聖槍に集中している隙をついて、一気に雷撃をばら撒いた。

 

 そして一瞬だけ止まったところを容赦なく突き刺しに行く。

 

「死ねヤァ!!」

 

 そして、血が舞った。

 

 だけど、浅いなこりゃ。

 

「やるな! まさか神滅具との同時併用もできるとは!!」

 

 脇腹を浅いとはいえ抉られたのに、コカビエルはむしろ喜んでる。

 

 この戦闘狂がっ!!!

 

「そうだ、これが戦争だ!! 俺はこういうのを待っていたんだ!!」

 

 コカビエルは嗤うと、そのまま翼も広げた。

 

 まずいな。さすがにあれを全部捌くのは―

 

「さあ、これもしのいで見せ―」

 

 ヤバイ、かわし切れ―

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでよ、コカビエル」

 

 その瞬間、いくつもの光線がコカビエルに叩き込まれる。

 

「うぉおおおおおお!?」

 

 思わず全力で飛び退ると同時、俺とコカビエルの間に割って入るライダースーツの女性の姿。

 

「大丈夫でいいわね!! 援護するわ!!」

 

「え、あ……」

 

 一瞬味方かどうか悩んだけど―

 

「……何のつもりだ、貴様ぁあああああ!!!」

 

 コカビエルは切れてるっぽいので敵の敵ではあるようだからいいか!!

 

「仕掛けてきたら刺すからな!!」

 

「そんな狡いことしないわよ!!」

 

 俺たちはその短い会話だけで腹をくくった。

 

 女は両手に光り輝く剣をもってコカビエルの攻撃を裁きまくる。

 

 そして、俺は聖槍を両手にその間隙をついて攻撃を叩き込んだ。

 

 なんでだろう。この女と連携すると、すごく動きやすい。

 

 まるで、俺がこの動きに合わせるために鍛えてきたような―

 

「面白い!! 面白いぞ!!」

 

 そんな発想をぶった切って、コカビエルが声を上げる。

 

 あの野郎、テンションが高まってハイになってやがるな!?

 

 そして、その舞い上がりまくりのテンションで、コカビエルは飛び上がった。

 

「次は打ち合いと行こうか!! 躱して見せろ!!」

 

「あ、あの野郎!!」

 

「下がってなさい。ここからは私が―」

 

 飛べない俺が舌打ちして、女が俺をかばうように前に出たときだった。

 

『Transfer!!』

 

 その音とともに、莫大なエネルギーが生み出された。

 

「俺達を忘れてんじゃねえぞ、コカビエル!!」

 

「私の前でこの街を滅ぼそうとしたその罪、その身で思い知りなさい!!」

 

 あ、イッセーの倍加を譲渡されたリアス・グレモリーが魔力をむちゃくちゃ集めてやがる。

 

 っていうかあれ、最上級クラスでも消し飛ぶんじゃね?

 

「流石は赤龍帝と魔王の妹!! 二人掛かりならこうまで力が高まるか!!」

 

 コカビエルはテンションを上げると、その一撃をあえて受け止めた。

 

「ぬぉおおおおおお!!! これだ!! 是こそが俺の求めていた―」

 

 歓喜の表情を浮かべるコカビエルだが、しかしその頭上から落雷がたたきつけられた。

 

「……悪いけど、隙だらけなんだけど」

 

 この姉ちゃん、怖い!!

 

 雷撃で動きが止まったコカビエルを消滅の魔力が一気に飲み込む。

 

 そして、俺は一気に前に出た。

 

「……おのれ! この俺を舐め―」

 

 消滅の魔力が消え去った中、コカビエルは全身をぼろぼろにしながら苛立たしげな表情を浮かべていた

 

 あれを喰らって耐えるとは見事!! とか言われるんだろうが―

 

「いや、耐えると思ったよ」

 

 ―俺はそうだと思ってたぜ?

 

 隙だらけだったコカビエルのどてっぱらに、俺は遠慮なく聖槍を突き刺した。

 

「がぁっ!?」

 

「これで終わりだ! これで俺は三大勢力の歴史にコカビエルを討った男として歴史に残った英雄となるわけだな」

 

 槍を引き抜いて、俺は得意げな笑みを浮かべる。

 

 ああ、三大勢力の戦争を再び激化させようとした男を打ち取った英雄。なんていい響きだ。

 

 まあそれはともかく。一応油断はしないでおこう。

 

「おら、まだ立ち上がれるなら相手してやるが?」

 

「舐めるな、糞餓鬼がぁあああああ!!!」

 

 ……ほら立ったぁ。立つと思ったよホント。

 

「いいぜこの野郎!! あと十回ぐらい刺せば死ぬだろう!!」

 

「やってみるがいい!! 不意打ち程度で勝った気になるなよ!?」

 

 俺とコカビエルが向かい合い、そして攻撃を叩き込もうとしたその瞬間―

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、これで終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 白い流星が、コカビエルを討ち据えた。

 

「が……ぁ……っ!!」

 

 コカビエルは何が起こったのかもわからず悶絶する。

 

 全員何があったのかわからない。正直唖然者っていうかぽかんものっていうか。

 

 その光景を見て、女がため息をついた。

 

「……今更登場? 聖槍がどこまでやるか見てみるって言ってたじゃない」

 

「なに、コカビエルがあまりに無様をさらし続けるのでね。これ以上はアザゼルたちの名に傷がつく」

 

 女にそう答えるのは、全身鎧に身を包んだ男。

 

 声からして年齢は若い部類か? 顔も隠れてるのでよくわかんねぇな。

 

 特徴といえそうなのは、その鎧が龍を模してるってことぐらいだな。

 

 ……いや待て、こいつまさか―

 

「まあいいわ。さっさと回収して帰るわよ、ヴァーリ」

 

「わかってるさ、リセス。君はどうせ飛べないだろう? 先に帰っているといい」

 

 やっぱり! マジで白龍皇かよ!!

 

 たしかヴァーリって名前だったと記憶してるけど、マジでか、初めて見た。

 

 ……教会の戦力としては、堕天使の戦力は倒しておくべきなんだろうが、間違いなく大変だろうなぁ。

 

 ……うん、コカビエルを止めにきたみたいだし、今回のところは我慢するとしよう。

 

 っと。其れよりも―

 

「―おいゼノヴィア。大丈夫かよ?」

 

「……主が、すでに死んでいる? それでは、私はどうすれば……」

 

 呆然としてぶつぶつつぶやいているゼノヴィアに、俺はチョップを叩き込んだ。

 

「痛い! この一大事に何をする!!」

 

「いや、確かに一大事だが、だからこそやるべきことは決まってんだろ?」

 

 ゼノヴィアめ。何を考えてるんだか。

 

 俺は腰に手を当てると、ゼノヴィアを見下ろした。

 

「主が死んでいようが、主が残した教えは残ってるだろうが。だったらそれを実践するだけだろ? 別に何も変わらねえよ」

 

 俺ははっきりそう言った。

 

 主が死んだのは一大事だが、主の教えが正しいならその教えは大事にしなけりゃならねえだろ。俺は馬鹿だがそれはわかる。

 

 つーかむしろもっと頑張らなきゃなんねえだろ。

 

 主の遺したシステムが機能を発揮しない分、教会の奴らが信徒のために奔走しなけりゃならないはずだ。

 

「気合入れろ。それがお前ら教会の役目だろ?」

 

「………ヒロイ…」

 

 ゼノヴィアはそういうと、ふらふらしながらも立ち上がった。

 

「そう、だな」

 

「ああ、そうだ。だからまず、やることをきちんとやるんだな」

 

 俺はそういうと、空を見上げた。

 

 見れば結界はすでに消え、見渡すばかりの星空だ。

 

 いいところを取られたので英雄扱いはされねえだろうが、まあ、これが報酬ならいいもんだろう。

 

「さぁて。こっから忙しくなりそうだぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コカビエルはやられたみたいだね」

 

「そうか。戦争が起きてくれれば間隙もつきやすかったんだが、そうもいかないか」

 

「まあ、どちらにしたって俺たちがやることは変わらない。俺たちが戦争を起こしてしまえばそれでいいだけさ」

 

「だろうな。そのためにも活躍してもらうぞ、ゲオルク」

 

「もちろんさ。……それで、彼とはいつぶつかるつもりだい」

 

「そうだね。近いうちに本物の聖槍の使い方を教えてやるつもりだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「真の聖槍の担い手としては、ヒロイ・カッシウスには負けられないな、曹操」

 

「もちろんさ。この蒼天をすすむ聖槍の担い手は、この俺だ」

 




曹操もまた聖槍の使い手。

二つの英雄を目指す聖槍の使い手がぶつかり合うのがこの作品の基本骨子。曹操は初期の段階から何度も出てきて、ヒロイたちにぶつかり宿敵となります!!

……そして、神滅具のダブリはこんなもんじゃ終わらないですぜ?


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第一章 あり得ざる第四の超越者
第一章 1 聖槍使いの悲劇


 

 俺、ヒロイ・カッシウスは目を覚ました。

 

 昨日の晩飯は焼いた川魚と木の実。この時期は食べるものがそこそこあっていいが、いい加減水浴びじゃなくてシャワーが浴びたいと思ってしまう。

 

 汗を流すなんて発想すら出てこなかった頃に比べて、色々とぜいたくな存在になったもんだ。

 

 しっかし、いい加減どうしたものかと思っているが、さてどうしたものか。

 

 ああ、どうしようかなぁ。

 

 今俺がどうなっているかを一言で言うとこうなる。

 

 教会から、追放された。

 

 ……いや、教会まで戻ろうと思ったんだが、その前に上に連絡したのがいけなかった。

 

 報告内容をしっかり言いすぎて、うっかりコカビエルが聖書の神の死をばらしたことまで話しちまった。

 

 結果として、俺達は教会を追放された。

 

 さて、どうしたもんか。

 

 いや、俺としては悪党と戦う状況が作りやすいってのとプラス一応食わせてもらった恩があるってだけだから、追放するって言われたらもう追放されるしかないわけだ。

 

 元から信仰心に欠けていた俺が教会に居たってのも問題だった。

 

 それでも俺が追放されてなかったのは、俺が聖槍を持っていたということだけだ。

 

 聖遺物の最高峰たる聖槍の保有者である俺は、必然的に教会にとって貴重だった。

 

 万が一にでも聖槍の持ち主が教会を離れて、堕天使や悪魔の側についたらもはや笑い話にもならなかっただろう。

 

 だけど、それでも俺の信仰心の緩さは問題で、それが聖書の神の死という厄ネタを知ったことで天秤が傾いた。

 

 ま、そういうわけで俺は追放。これからの食い扶持を探さなければならないわけだが……。

 

「まずった。ノウハウがねえ」

 

 まったくもってノウハウがねえ。どこに行けばいいかわからない。

 

 この世界でも有数の平和国家日本で、何処からともなく取り出せる槍やら剣やら雷なんぞ生活に必要ない。

 

 故に異形稼業で食ってくしかないんだが、その辺りのコネが全くない。

 

 ……あれ? これ、浮浪者生活に逆戻りじゃね?

 

 俺は少し真剣に考えて、決意した。

 

 うん、この街救ったんだから、少しぐらいお礼を貰ってもいいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、再び駒王学園に戻ってきた。

 

 携帯は教会からの支給品なので既に解約されている。と、言うわけでアポなしだ。

 

 怒られるかね。説教位はあるだろうなぁ。たぶん文句は確実に言われるんだろうなぁ。

 

 だけど、それでも、これしかねえ!!

 

「よし、それじゃあ頼み込むとするか!!」

 

 別に雇えなんて言わない。そんなことまで言う気はない。

 

 其れじゃあ英雄スキルとして鍛え上げた土下座が再び唸りを上げ―

 

「―部長ぅううううううううううううううううううううううううううううううううぼらぁ!?」

 

 ぐあぁ轢かれたぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、うん。もう痛くないから大丈夫」

 

 俺は、オカルト研究部部室でアーシア・アルジェントに治療を受けていた。

 

 あの後、なんか知らんけど堕天使総督のアザゼルが正体隠して客やってたことを知ったイッセーがpanicを起こして全力疾走(自転車)して俺を轢いたわけだ。

 

 自転車による交通事故だって人死に出んだぞ畜生め。しかも悪魔の全力疾走とかシャレにならんわ!!

 

 そんなわけで同じく吹っ飛んだイッセーの首根っこひっつかんで、オカルト研究部室まで連れて行ったわけだ。

 

 まったく。マジ勘弁してくれ。俺は基本人間だから耐久力低いんだよ。

 

 ま、これで何とか話に持ち込めそうだな。

 

「部長ぅうううう!!」

 

「私のイッセーの営業妨害だなんて! しかも会談前のこのデリケートな時期に!! あとで堕天使側には正式に抗議を入れさせてもらうわ!!」

 

 すっごくプンプンしながら、リアス・グレモリーはしかし俺の方に顔を向ける。

 

「悪かったわね。イッセーが勢い余って轢いてしまって」

 

「あ、まあ治してもらったしな。あとでイッセーは一発ぶん殴るとしてそれ以上はしねえよ」

 

「いや、悪かったから殴らないで!!」

 

 イッセーの懇願はスルー。俺だったからよかったものの、一般人だったら即死もありえたぞ馬鹿野郎。

 

 ま、これで話を持って行けそうだ。

 

「それでグレモリー。コカビエルをぶちのめしてあんたの管轄地救っただろ? その貸しを返却してほしいというか助けてほしいというか……」

 

「知ってるわ」

 

 俺の言葉をさえぎって、リアス・グレモリーはそういった。

 

 へ? 知ってるって?

 

「どうせあなたも教会を追放されたんでしょう? それに関係してるんじゃないかしら?」

 

「なんで知ってんの!?」

 

 俺はそう度肝を抜かれて立ち上がるけど、肩に手が置かれた。

 

 違う、これ置かれたとかそういう力加減じゃない!?

 

「痛たたぁあああああ!? ちぎれる!!」

 

「やあヒロイ。会いたかったぞ?」

 

 激痛に悶えながら振り返れば、そこにはすごくキレそうになっているゼノヴィアの姿が。

 

 馬鹿な!! なぜここにいる!!

 

 お前は俺の説得で信仰を取り戻してバチカンへと戻っていったはずではないのか!!

 

 そう思った直後、ゼノヴィアの背中から翼が広がった。

 

「ちょうどいい。悪魔になった私の身体能力がどれぐらいかお礼参りで試させてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁあああああああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺されるぅううううううう!! 腕はそんな方向に曲がらなぃいいいいいいいい!?

 




今回の悲劇とは

1 教会から追放されて山暮らし

2 イッセーに撥ねられる

3 ゼノヴィアにボコられる(実は身から出た錆)

の三つでお送りしました!


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第一章 2

ヒロイは確かにゼノヴィアの心を救った。それは事実である。


しかし、持ち上げて落としたら恨まれても同然である。


 

「まったく。イリナにまで火花が飛ばなかったからいいものの、君は私を説得しておいてそれを自分で台無しにするとか馬鹿なのか」

 

「マジすいませんっしたぁああああ!!!」

 

 ゼノヴィアに対して俺は速攻で土下座をぶちかます。

 

 なぜそんなことになっているのかというと……。

 

 俺、ゼノヴィアと一緒にいる時に聖書の神の死を知る。

 ↓

 俺、それをできるだけ正確に上に報告。教会を追放。

 ↓

 俺の報告が正確だったので、ゼノヴィアも神の死を知っていることに上が気づく。

 ↓

 ゼノヴィアも追放処分。

 

 ……全面的に俺が悪いです!!

 

「それでやけになってな。もうこうなったら悪魔にでもなってやろうかと思い部長に自分を売り込んだんだ」

 

「ふふふ。あなたのおかげでデュランダルの使い手を眷属に引き込めたんですもの。私としてはお礼を言うべきかしら」

 

 リアス・グレモリーはそう言っているが、微妙に笑顔がひきつってる。

 

 まあ、ゼノヴィアが信仰心を持ち直したところはこいつらも知ってるからなぁ。

 

 それが持ち直させた俺が台無しにした何て知れば、呆れ果てるのは当然か。

 

「そういうわけだから、私は貴方も何かしらの形で私に接触してくると思ってたのよ。……なんで遅かったの?」

 

「いや、口封じに殺されるかと思ったんで、山に篭って隠れてました」

 

 マジでそれぐらい危険があるからなぁ。

 

 追放された連中が神の死を言いふらしたところで信じる奴はいないだろうが、なにせ俺には聖槍があるからな。

 

 元から俺が聖槍の持ち主だってことに不快感を抱いてる連中は多いし、この機に暗殺命令が出てもおかしくねえし。

 

「ただ、其れなら後ろ盾をもらって安全確保した方がましだと思ってな。街を救った恩を返してもらおうかと思ってきました助けてください!!」

 

「お前も大変だよなぁ」

 

 イッセーがしみじみ言うけど、お前も大概だと思うぞ?

 

 なにせ堕天使総督にちょっかいかけられたんだからな。

 

 赤龍帝ともなれば、各勢力の上層部クラスが接触してきてもおかしくねえ。白龍皇も堕天使上層部と繋がってるみてぇだしな。

 

 はっはっは。お互い神滅具持ちは苦労するぜ。

 

「でも困ったわね。あなたを私の眷属悪魔にするのは不可能だわ」

 

「え、なんで!?」

 

 いやいやぁ。ちょっと待ってくださいよお姉さん!

 

 俺ほどハイスペックな人間もそうはいねえっつの!!

 

 神器いくつもあるよ! 一つは神滅具だよ!?

 

 教会でも「頭の痛くなる奇跡」とか呼ばれたよ!?

 

「俺神滅具持ちだよ!? 他にもあるよ!?」

 

「だからよ」

 

 そう言って、リアス・グレモリーは箱を取り出すとチェスの駒をだした。

 

 おお、これが悪魔の駒(イーヴィル・ピース)か。初めて見た。

 

 あれ? でも一個しかなくね?

 

「私の手元に残ってるのは、駒価値5の戦車だけ。で、残りはどうしたかというと……」

 

 まずは黒髪の姫島朱乃に視線が。

 

「女王を朱乃」

 

 続いて小猫ちゃんに。

 

「戦車の一つを小猫」

 

 そして木場とゼノヴィアに

 

「騎士の駒はそれぞれ祐斗とゼノヴィア」

 

 そしてアーシアちゃんに

 

「僧侶の駒はアーシアともう一人に。そして―」

 

 そして、イッセーに視線が向く。

 

 あれ? 確か悪魔の駒ってチェスの駒を基にしてるんだよな?

 

 だったら八人用意できるんじゃねぇの?

 

「兵士の駒は八つ全部イッセーに使ったわ」

 

 ………へ?

 

「イッセーの神器は神滅具である赤龍帝の籠手。そしてあなたの黄昏の聖槍もまた神滅具」

 

 えっと、つまり神滅具持ちを転生悪魔にするにゃ、悪魔の駒が八個必用ってわけで?

 

 そんでもって、俺はそれだけじゃなくて他にも神器を二つは持っている。

 

 つまり……。

 

「戦車の駒一つじゃ足りないのよ」

 

 ガッデム!?

 

 ど、どどどどどうすんだぁああああああ!!!

 

 これではグレモリー次期当主の後ろ盾を得られない!

 

 ってことは、このままいくと……。

 

「ゼノヴィア、短い付き合いだしむかつくところも多かったが、お前のこと、戦力としては信用してたぜ」

 

「待てヒロイ。お前諦めるのか?」

 

 いやいや、流石の俺も教会全部を敵に回して勝てるとは思わねえよ。

 

 同じ神滅具持ちのデュリオ・ジュズアルドとか、強いの他にもいるしな。総力を上げられれば確実に殺される。

 

 厄ネタばらまいてかく乱するという開き直り方もあるけど、それは使えねえ。

 

 そんなことになれば世界は大混乱だしな。死人大量だしな。

 

 命惜しさにそんなことするやつは、英雄なんかじゃねえ。

 

「俺は歴史には残らなかったが、しかし英雄を目指したことに後悔はしてねえ。だから最後まで英雄らしく生きることにするさ」

 

「あ、諦めんなよ!! ほら、この学校には生徒会長だっているし!!」

 

「……御免なさいイッセー。ソーナも8以上の組み合わせられる駒は持ってないはずだわ」

 

 ほら詰んだー!!

 

 これ確実にお陀仏じゃねえか!!

 

 くそ! 後悔はないが無念はあるぜ!!

 

 ここで俺の英雄街道はデスエンドか此畜生!!

 

「いや、まだ慌てる必要はない」

 

 と、後ろから声が聞こえた。

 

 俺はとっさに聖槍を展開しながら声から下がる。

 

「誰だ!」

 

 そこにいたのは、紅の髪を持つなんか豪華な服を着た男。

 

 ……まずい、低く見積もってもコカビエルクラス!!

 

 いったい何者だ。こんなところに現れるなんて―

 

「……待ってヒロイ! 彼は魔王様よ!!」

 

 え?

 

 俺は、声を出したリアス・グレモリーを見る。

 

 よく見れば、その髪の色はそっくりだった。

 

 っていうか顔とかも色々似てるな。家族?

 

 そんで魔王と言いますと―

 

「サーゼクス・ルシファー?」

 

「……そうよ」

 

 …………

 

「まっじすいませっんしたぁあああああ!!!」

 

 俺は前転土下座で速攻謝罪する

 

「はっはっは。ちょっと驚かそうとしてみたけど、中々良い反応をみれた。流石はコカビエルを滾らせるほどの使い手たる教会の秘密兵器―」

 

 スパン!

 

 そんな擬音がばっちり似合う、ハリセンのいい音が響いた。

 

 おお、あれがジャパニーズハリセン。

 

「……申し訳ありませんヒロイ様。我が主は何といいますか、プライベートでは悪ふざけをすることも多々ある人物でして」

 

 そういうメイドさんがしっかりと頭を下げた。

 

「このようなことで首を飛ばすなどということもありませんので、どうか立ち上がってください」

 

「そ、そっすか……」

 

 あ、この人もコカビエルとマジでやり合えそうなレベルの猛者だ。

 

 うっわぁ、魔王サーゼクス・ルシファーのメイドも魔王クラスだよ、驚愕。

 

「そ、それで魔王様。慌てる必要はないとおっしゃいましたか?」

 

 リアス・グレモリーの言葉に、サーゼクス・ルシファーは微笑んだ。

 

「ああ。後ろ盾の件については私が引き受けよう。それに、上手くすれば教会側にも話を通せるかもしれない」

 

 ん? どういうこった?

 

 敵対勢力同士にホットラインなんてないと思うんだけどな。

 

「詳しく説明いたします。実は、三大勢力で一度本格的な会談が開かれることが決定いたしました」

 

 と、メイドさんがそう説明を始める。

 

「場所は魔王の妹二人と教会の聖剣と堕天使の幹部が集い、それぞれが保有する神滅具までもが揃ったこの駒王学園を全勢力が希望。今回サーゼクス様が来訪したのも、其の為の下見の一環なのです」

 

 その言葉に、俺達は全員ちょっと驚いた。

 

 千年以上いがみ合ってきた三大勢力が会談ってだけでも前代未聞なのに、しかもここでかよ!!

 

「つきましては、魔王ルシファーの妹君であるリアス様と、魔王レヴィアタン様の妹君であるソーナ様をお救いになられた形になるヒロイ様の助命に関しましても我が主は考慮しております」

 

「君は私とセラフォルーにとって妹を救ってくれた恩人だからね。ある程度の監視はつけることになるだろうが、私達の管理下に置くことになればバチカンの枢機卿達も了承はするだろう」

 

 そ、そっか。俺、助かるかもしれないのか。

 

 そりゃ72柱より四大魔王の方が格高いもんな。後ろ盾としては最高だな。

 

「其れとは別に個人的に礼もしたい。何かあるなら可能な範囲で叶えよう」

 

 え、マジで!?

 

 じゃ、じゃあ―

 

「お抱えになるにあたって金せびってもいいっすか!? 調子に乗っちゃうとメジャーリーガーの年俸ぐらい!!」

 

「本当に調子乗ってんなお前!!」

 

 イッセーからツッコミが来るけど、いや俺だってダメもとだよ冗談だよ。

 

「そうだね。じゃあ日本円で一億二千万にしよう。月払い一千万円でいいかな?」

 

「落ち着いてくれ魔王様! ヒロイも流石に本気で言ってない!!」

 

 ルシファー様があっさり快諾して、ゼノヴィアが思わず止めに入った。

 

 え、マジで!?

 

「いやいや。実際神滅具の保有者でコカビエルと渡り合えるほどの実力者なら、それぐらいは払っても安いものだ。今ぐらいなら私の私費で払えるしね」

 

 いやったぁ!!

 

「これで世話になった孤児院に仕送りできるぜ!! あとストリートチルドレンの保護活動にも!! さらに風俗行き放題!!」

 

「最初はよかったのに最後が俗っぽい!!」

 

 イッセー、ツッコミうるさい。

 

「安心しろ。金に困らん生活が約束されたから、お前も連れて行ってやる」

 

「ありがとうございますヒロイ様!!」

 

 速攻で跪くな。

 

「……いえ、確か高校生が風俗を利用するのは違法だったはずでは」

 

 なんだって? それは本当かい小猫ちゃん!!

 

「あ、あはは……。彼、だいぶはっちゃけてないかい?」

 

「いや、こいつは日本に来た当初から春を買いに行こうとしてたからな。あれが平常運転だ」

 

「あらあら。教会の秘密兵器とは秘密にしておきたい兵器ということでしたのね」

 

 木場やらゼノヴィアやら姫島朱乃さんやら外野がそういうが、まあ事実なのでそこは気にしないぜ!!

 

 そんな感じでハイテンションだったが、しかしそこでサーゼクス・ルシファーは意味深な笑みを浮かべる。

 

「とはいえ、それだけの年俸を払ってただ働きをさせるわけにもいかない。そこで、君に依頼をしたい」

 

「なんですかい?」

 

 俺は首を傾げるが、サーゼクス・ルシファーの発現は結構驚くべきものだった。

 

「単純なことだよ。……その会談まで、この駒王町を守ってほしい」

 

 




ヒロイ「冗談半分で言ってみただけなんです」


ヒロイ、物事を正確に報告しすぎるの巻。報告は正確にするのが一番ですが、状況を考えてしましょう。


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第一章 3 英雄との再会

たとえ自分が、その他大勢の一人でも構わない。

俺は、彼女の輝きに焦がれているだけなのだから。


 

 まあ、そりゃそうだよな。

 

 三大勢力は何処も痛い目を見たが、だからといって全員がもう戦争嫌って思うわけじゃない。

 

 コカビエルがいい例だ。あいつはあくまで堕天使の中で戦争再開を目論んでた一人。

 

 教会のお偉いさんや悪魔祓いだって、結構な割合で悪魔と堕天使を滅ぼす為の牙を研いでいる感覚の奴らは多かった。

 

 悪魔だって、旧魔王派程血気盛んじゃねえけど戦争再開を目論んでるやつもいるだろう。

 

 その悪魔が、魔王ルシファーが和平を結ぶつもりだなんて知ったらどうなるかわかったもんじゃない。

 

 其の為の護衛って仕事で成果を上げて、其れで俺の助命をよりしやすくするって腹か。

 

 いや、良い人で良かった良かった。悪魔にも良い奴はゴロゴロいるんだな。実感したぜ。

 

 俺の助命の為の理由作りまでしてくれたんだ。精々頑張るとするか!

 

「それはともかく今はこの桃源郷を目に焼き付けねば!!」

 

「焼き付けんな!!」

 

 後頭部に衝撃が走る!

 

「イッセー! てめえ、籠手まで出して殴るか普通!!」

 

「俺の部長に色目使ってるからだろうが!!」

 

「あんなナイスバディに色目使わねえ方が問題あるわ!!」

 

 俺とイッセーは胸倉掴みたいけど掴めねえ。

 

 なぜって?

 

 それはね、俺達が水着だからだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは今、プールにいる。

 

 駒王学園のプールだ。

 

 なぜかって? リアス・グレモリーこと俺の暫定的な監督役になったお嬢が生徒会に依頼されたからだ。

 

 代金はプールの使用権。つまりプールをオカルト研究部で独占するというこった。

 

 で、俺もご相伴に飽津駆らせてもらってるってわけだ。

 

 わけなんだが―

 

「私のイッセーに色目を使わないでくれる!?」

 

「いいじゃない! 別に告白してるわけでもないんでしょう!!」

 

 今、壮絶な戦いが切って落とされていた。

 

 お嬢と朱乃の姉さんが壮絶な戦いを繰り広げてる。

 

 いや、あんた等普通に上級悪魔クラスだから、ヒートアップするとプールが吹っ飛ぶんすけど。

 

 アーシアと小猫は泳げるようになる為の特訓で疲れて眠ってるし、これ、俺が止めんといかんの?

 

 でも、これ止めたら矛先が俺に向けられそうだしなぁ。仮にも監督役とその側近に手を出したら、一気に悪魔側の上が俺の助命に文句付けそうだしなぁ。

 

「よし、逃げよう」

 

 俺はそう結論付けると、退出を開始した。

 

 こっそりと忍び足でプールから離れると、そのまま更衣室に向かい―

 

「―イッセー、私と子供を作らないか?」

 

 ―その言葉を聞いた。

 

「ちぃょっとむぅわったぁ!!」

 

 強引に女子更衣室の扉をけ破り、俺は突入する。

 

 そこには、上半身裸のゼノヴィアに迫られるイッセーの姿が。

 

「ひ、ヒロイ!? ちょ、ちょっと待ってくれ。俺も状況が全く分かんねえんだ!!」

 

「鼻血流してる当たり肝心なところはわかってそうだがな」

 

 流石ゼノヴィアだ。スタイル良いぜ。

 

 っていうかいきなり何言ってんだこの阿呆は。

 

 お嬢がイッセーに懸想してるのは、短い付き合いですでに分かってんだけど。っていうかイッセーは何で気づいてないんだ?

 

 主が狙ってる男寝取ったなんて知られれば、ただじゃ済まねえぞアホ。

 

「……ふむ、そういえば君でもいいかもしれないな。ヒロイ、私と子供を作らないか?」

 

「「えぇえええええ!!!」」

 

 俺たちは渾身のツッコミを入れた。

 

 え? なに?  3ピー!?

 

 うっそぉ!! まじで!! そんなアブノーマル!!

 

 などとパニックになりながら、俺はしかし気を付けないといけない。

 

 仮にも信心深かったゼノヴィアが、なんでいきなりそんなことを?

 

「お、おいゼノヴィア! どういうことか説明しろ!! 何がどうして血迷った!」

 

「……ふむ、確かに説明は必要か」

 

 ゼノヴィアはそういうと、遠い目をした。

 

「ヒロイの叱咤もあって、私は主の死を知ったうえでなお信仰に生きようと思った。それは確かだ」

 

 あ、ああ。それがなんでいきなり淫行を?

 

「だが、バチカンはデュランダルを切り捨ててでも主の死を知った私を追放した。その後は君たちも知っての通り、やけっぱちになってリアス部長の眷属となった」

 

 確かにひどい話だ。主の死を知っても信仰捨てねえ信心の徒を切り捨てんだからよ。

 

 しかもデュランダルの使い手とデュランダルのセット。将来的に最上級悪魔だって倒せそうな戦力を、上はあっさり切り捨てた。

 

 それほどまでに厄ネタってわけか。主の死って知った時点で教会にデメリットでもあんのかねぇ。

 

「なんというか、私は途方に暮れていた。そこで、リアス部長にどう生きればいいのか聞いてみたんだ」

 

 そしてお嬢はこう答えたらしい。

 

 悪魔は欲に生きるもの。好きに生きなさい。

 

「そこで、私は信徒として生きていた時に投げ捨てていた女の喜びを追求しようと思ったんだ。そう、子作りだ」

 

 な、なるほど。言いたいことはわかった。

 

 確かに子を産むってのは女だからこそできる喜びかな?

 

「そしてどうせなら強い子がほしい。そういう意味では二天龍であるイッセーや、神器をいくつも宿しているヒロイは血統的にすごそうだ」

 

 け、血統ですか! 確かに俺やイッセーは神器関係ですごい引きがいいし、血統としては良いのかな?

 

「ああ、子供ができた後のことは気にしなくていい。基本的には私が育てる。ただ、父親からの愛を望んだら、その時は遊んでやってくれ」

 

 すでに人生設計までし始めてやがる!?

 

 い、いやいやいやいや。

 

「ちょっと落ち着け、お馬鹿!!」

 

 俺は勢いよくゼノヴィアの肩をつかんだ。

 

「お前は今高校生になったばかりだろ!! この国保守的だから、フィクションはともかく現実で高校生ママは難しいんじゃねえの!?」

 

「いや、しかしこういうのは早い方がいいと―」

 

「勇敢と無謀は違うっつの!! いいか、落ち着け!!」

 

 俺は渾身の想いを込める。

 

「エロいことするのはいい。俺もお前みたいなスタイル良い美人とエロいことできるのは最高だ!」

 

「あ、ああ! 最高だよな! 超最高だよな!!」

 

 イッセー黙ってろ!!

 

「ってか童貞卒業がお前みたいな美人とか最高だよ! 人生の自慢になるね!!」

 

「……ヒロイ、さんざん風俗に行きたいとか言っておきながら童貞だったのか?」

 

 そこはどうでもいいですよゼノヴィアさん!!

 

 だが、しかし!!

 

「ゼノヴィア! 学生生活ができるだなんてすっごいいいことなんだぞ!」

 

 おれは、そこが黙ってみていられない。

 

「勉強がしたくてもできない奴なんていくらでもいる! そもそも勉強ってものがあることすら知らねえ奴ら何て腐るほどいる!!」

 

 ああ、俺がそうだ。

 

 勉強ができるってのは、実はすごい恵まれてるんだ。

 

 この広い世界、ヨーロッパですら、勉強をすることができない人は数多い。

 

 俺は教会の孤児院に送られてから、悪魔祓いとしていろいろなことを学んだけど、それができることがどれだけ幸せかわかってないぞこいつは。

 

「せっかくできたそのチャンスを捨てるような真似はすんな!! できない奴に失礼だ……なんていうつもりはねえけど、しそこねて後悔するのはお前だぞ!!」

 

 せっかく学校に通うことができるのに、それを台無しにしかねないのは黙ってられねえ。

 

「いや、しかし悪魔は子供が作りにくいらしいし、十年ぐらいは大丈夫だと―」

 

「一発ぐらいは大丈夫ってよくある話だっつの!! 悪魔祓いの中にもこっそりやらかして追放された奴いただろ!!」

 

 一回劣情に駆られてそれが致命傷になったやつとか何人かいたはずだぞ!! 忘れてんのかたまたま聞いてねえのか、どっちだ!!

 

 俺の渾身の説得に、ゼノヴィアは考え込んで、うなづいた。

 

「……そうか。わかった」

 

 わかってくれたか。

 

「今は練習で我慢しよう。そうだな、子作りは子供を作らない子作りも楽しいというし、悪魔らしく退廃的な生活を送るのもいいかもしれないな!!」

 

 そう来たか!!

 

「だがそれならオールオッケーだ!!」

 

「今の流れでそれはねえだろぉ!?」

 

 イッセー、渾身のツッコミ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、避妊用の道具がないので結局お開きになりました。

 

 あと、お嬢に「イッセーの貞操を捨てる方向に誘導されるとはどういうことかしら?」と説教されたが、それはまた別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそぅ!! 俺の初体験が!!」

 

「ヒロイ、血涙流すなよ」

 

 俺はイッセーに慰められながら校門へと向かって歩いていた。

 

 はあ、この歳だと風俗店行けないらしいし、こんなことなら俺の年齢は十八だって嘘つけばよかった。

 

「くっそぉ! どうしたら俺はエロいことができるんだ! 英雄色を好むというのに、俺は色事を楽しむことができねえ!!」

 

「俺は英雄ってよくわからないけどさ、お前は形から入りすぎだと思う」

 

 馬鹿野郎。見てくれってのは大事だろ。

 

「しっかし赤龍帝の血かぁ。俺のハーレムって、そういう方向で行ってもいいのかな?」

 

「別にいいんじゃねえの? ほら、野生の世界って強い雄が一夫多妻って珍しくねえし?」

 

『まあ、ドラゴンはドラゴンでハーレムを作るなど珍しくもないしな。相棒には前にも言ったが、歴代の赤龍帝は異性に囲まれてない方が珍しかったぞ』

 

 ドライグがそんなこと言うが、そうなのかよ!

 

 マジか。聖槍の使い手もモテたんだろうか?

 

『聖遺物の持ち主がそれはどうかと思うぞ?』

 

「うっせえよ!!」

 

 そんな馬鹿話をしながら歩いていたら、視界の先に男が映る。

 

 俺と同じで明らかに外人だとわかる男。

 

 年齢も俺達と同じぐらいか? しっかしイケメンだな。くそむかつくぅ。

 

 絶対女に不自由しねえだろ。そしてこういうやつに限って女がらみで遊んだりしねえんだ。くそ、恵まれてることを理解してねえ。

 

 そんな愚痴を心の中でこぼしていると、その男がこっちに気づいて顔を向けた。

 

「やあ。良い学校だね」

 

「え? あ、どうも」

 

 イッセーがそうなんとなく返すが、俺はその瞬間に気が付いた。

 

 ……こいつ、超できる。

 

 とっさにイッセーをかばうように前に出ると、俺は静かに戦闘態勢を取る。

 

「……サーゼクスさんの部下か何かか?」

 

「え? ヒロイ、どういうことだ」

 

 いや、悪魔の縄張りに実力者が来るなら、悪魔の関係者の可能性はあんだろ。

 

 むしろそうじゃなかったら問題じゃねえか。

 

 だからそうだと言ってほしいんだが……。

 

「ああ、俺は今代の白龍皇のヴァーリだ」

 

 ……最悪だぁ。

 

 総督のアザゼルにしろ、白龍皇にしろ、堕天使は何考えてんだ!

 

「何しに来やがった。今三大勢力はピリピリしてんの忘れたか?」

 

「ああ、警戒しなくていい。ここに来たのはただの興味本位だ。俺の宿命のライバルがどんな男か見てみたかったんだ」

 

 確か白龍皇はイッセー相手に強くなれとか言ってたんだよな。

 

 既に禁手に至ってんだから、ライバルがど素人に毛が生えた程度ってのは気になんのか?

 

 つまりそそる戦いがしたいタイプってことか。戦闘狂とかコカビエルと気が合いそうなんだが、何考えてんだろうな。

 

 だが、ヴァーリはにやりと笑うと一歩前を踏み出した。

 

「だが、つい気が変わって赤龍帝に魔術の一つでも掛けたら―」

 

 その瞬間、切っ先が三つほど突き付けられた。

 

 一つは俺。神滅具が相手なら遠慮の必要はないんで、当然聖槍を突き付けた。

 

 一人は木場。今回は別件で参加してなかったはずだが、いつの間にやら聖魔剣を構えていた。

 

 一人はゼノヴィア。速攻でデュランダル引き抜く辺り、こいつは本当に判断速いな。

 

 しかし、向けられるヴァーリは余裕の表情だった。

 

「やめておけ。震えているじゃないか」

 

 ……そりゃそうだ。

 

 目の前にいるのは神滅具を禁手へと至らせたもの。さらにこっちがボコボコにしていたとはいえ、コカビエルの意識を一瞬で刈り取ったやつだ。

 

 恐怖を感じない程、俺達はいかれていない。

 

「いや、恥じることはない。相手が格上だとわかるのは強くなれる。そして、コカビエル如きに手こずった君達じゃ俺には勝てない。だからやめておくといい」

 

 余裕の表情でこっちを褒める余裕すら持っている。

 

 なるほど、間違いなくハイスペックだ。コカビエルを取り押さえる為に派遣されてきただけのことはある。

 

 だが―

 

「舐めるなよ、ヴァーリとやら」

 

 俺は、その切っ先を一ミリほど近づけた。

 

 震えはある。恐怖もある。それは当たり前の戦力差だ。理解している。

 

 だが、()()()()()()()

 

「怖かろうが相手が強かろうが、だからといってむやみやたらに縮こまってるほど、俺は卑怯者じゃねえ」

 

 しっかりと、まっすぐと、奴の目を見返して俺は言う。

 

「お前が俺の護衛対象の1人に手を出すっていうなら、俺は死んでも腕の一本ぐらいは持っていくぞ? はっきり言ってやる、悪ふざけは状況考えろ」

 

「……面白いな、君は」

 

 ヴァーリは、心底面白そうにそう言った。

 

「いっそのこと、君が赤龍帝の籠手を宿していた方が良かったよ。名前を聞いてもいいかな?」

 

「ヒロイ・カッシウス。いつか英雄として名を遺す男の名前だ。覚えとけ」

 

 圧倒的強者の脅威に震えながらも、俺ははっきりとそう言った。

 

「ああ、覚えておくよ。いつか君が至って、俺と戦う時を心待ちに―」

 

 そこまで言いかけた時だった。

 

 暴風が吹き荒れ、俺達を押し飛ばす。

 

 そして、その間にいくつもの氷の槍が浮かんでヴァーリを取り囲んだ。

 

「そこまでにしてくれない? 悪ふざけが過ぎるわよ、ヴァーリ」

 

 その声に、俺達は一斉振り返った。

 

「……この色々刺激を加えたらいけない時期に、アザゼルにしてもあなたにしてもなんで悪戯に刺激するのかしら? 暴発させるぐらいなら、私は貴方を殺すわよ?」

 

 ライダースーツを身に纏い、そしてヘルメットを脇に抱えた女性。

 

 緩やかにウェーブした金色の髪は適度に伸びて風に揺れる。

 

 そしてまるで貴族のお嬢様とでも形容するべき優雅な身のこなしは、同時にいくつもの戦場を潜り抜けてきた力強さを持ち、姫騎士とでも形容するべき独特の美しさを持っていた。

 

 何より、その瞳は決意にあふれ、自信に満ちた気配を身に纏っている。

 

 ……ああ、俺は本当に馬鹿だ。

 

 顔を隠していたとはいえ、彼女のことを見間違えるだなんて。

 

「何の用だリセス。別に俺は何もしてないぞ?」

 

「ふざけないで。独断で白龍皇が赤龍帝に接触とか、神の子を見張る者(グリゴリ)が他につつかれるでしょうが」

 

 氷の槍をいつでも放てるようにしながら、彼女はあの時そのままの笑みで俺達を安心させる。

 

「ごめんなさい。馬鹿が迷惑をかけたわ。……でも私が来たから安心しなさい」

 

 ………きっと、あなたは俺のことなんて覚えてないだろう。

 

 きっとあなたはいつものことといわんばかりに俺達を助けてくれていたはずだ。

 

 それでいい。だからいい。

 

 貴女こそ、俺の英雄なんだから。

 

「……あの、名前を聞いてもいいか?」

 

 俺は、ついそんなことを言ってしまった。

 

 いや、アホか俺は。このタイミングでそんなこと言うか、普通。

 

 だけど、彼女はちょっときょとんとしただけで、まるで野に咲く花のような美しさで口から歌のように言葉を紡ぐ。

 

「ああ、あなた聖槍使いね? ……リセス・イドアル、今は堕天使に面倒を見てもらっている、ただのしがない賞金稼ぎよ」

 

 そうか、そんな名前だったのか。

 

 ……俺は、絶対一生忘れないことを心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お姉さまの手をてこずらせんなこの白蛇がぁああああ!!!」

 

 と、そんな風に気取られている間にヴァーリの後頭部にケリが直撃した。

 

 バゴン! とかものすごい音が響き渡る。どう考えても、人間サイズの人型種族の後頭部を蹴る時のような音ではない。

 

 蹴りを放ったのは桃色の髪の少女。歳の頃は俺と同じぐらいか?

 

 で、その轟音とともにヴァーリは当然バランスを崩し―

 

―ブスリ

 

「あ」

 

 聖槍が眉間に刺さった。

 

「ぐぉおおおおお!? こ、これは想定外だ! 流石に聖遺物はキツイ!!」

 

「え? なに? お前実は妖怪か何か!?」

 

 うっわぁ! これは想定外だぞ!!

 

 な、なんかごめん!!

 

「ふん! お姉さまに苦労かけた報いッス! 反省するといいスよ、ヴァーリ!!」

 

「ペト。これは反省する前に激怒すんじゃないかしら?」

 

「へ? 自分、なにか問題でも起こしたッスか?」

 

 う、うわぁ、ぐだぐだ!!

 




悲惨なことにリセスはヒロイのことを覚えていません。

残酷なことを言うようですが、ヒロイは彼女が助けた多くに人々の一人でしかないのです。

まあ、上級吸血鬼による町の一角を巻き込んだ大騒ぎですので、詳しく話せば「ああ、あの時の!」ってことになるはずですが、ヒロイ自身もそこまでして思い出してもらうつもりはないわけなのですよ。


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第一章 4

ここから先を読む前に、この言葉を魂に刻み込め。









英雄、色を好む。


 結局、ヴァーリはそのままリセスに首根っこをつかまれて帰っていった……というか搬送された。

 

 ちなみにペトとか呼ばれた少女もあの女性(ひと)からゲンコツをもらってKOされ、そのまま搬送された。

 

 いや、何だったんだ一体。

 

 ま、それはともかく。

 

「はっじめまして! 俺はヒロイ・カッシウス!! 特技は荒事全般と食えるものの目利き! 好きなことはひと夏のアバンチュールと知識を増やすこと!! よろしくな!!」

 

 ヒロイ・カッシウス、駒王学園に転校したぜ!!

 

 いやぁ、プールでゼノヴィアに説教した内容を聞かれていたらしく、「よければ駒王学園に通ってみる?」ってお嬢が誘ってくれてよ。

 

 はっはっはぁ!! これでも俺は教会では勤勉だったからな。学ぶって楽しいぜ!!

 

「ひ、ヒロイ!? お前も来たのかよ」

 

「ほぉ。これは面白くなりそうだね」

 

 と、HRが終わって短い時間のあいだ、俺はイッセーやゼノヴィアに詰め寄られた。

 

「やだ、彼かっこいいと思ったけど兵藤の友達なの?」

 

「あ、でもひと夏のアバンチュールが好きとか言ってたし、気が合うのかも」

 

「ノリ軽そうだし、実はかなりいい加減とか?」

 

「けっこうイケメンなのに……。残念だけど近寄らない方がいいわね」

 

 あっれぇ? 女子からの評判がいきなり底辺だぞぉ?

 

「おい、どういうことだイッセー!!」

 

「え、俺のせいなのか!?」

 

 思わず胸ぐらをつかみたい衝動に駆られちまうじゃねえかよ!!

 

 くっそぉ! つかみが肝心だからファッション感覚の学生っぽい軽い恋愛を楽しみたかったのによぉ!!

 

「ふっ。どうやらお前は俺たちと同様にエロに生きる者のようだな」

 

「今度の夏休みにナンパに行こうぜ? お前イケメンだから意外と女が寄ってきそうだしよ」

 

「元浜、松田……。お前ら初対面の男に言うことがそれか?」

 

 イッセーがツッコミを入れてくるが、つまりどういうことだ?

 

 疑問に思っていると、松田と呼ばれた坊主頭が俺に耳打ちする。

 

「なあ、実は女子バレー部の更衣室に覗けそうな穴を見つけたんだ。一緒に覗きに―」

 

「……こぉんのド阿呆がぁ!!」

 

 俺は速攻でボディブルォーを叩き込んだ。

 

 巻き舌がポイントだよ♪

 

「松田ぁああああ!!! 今天井まで浮いたけど大丈夫か!!」

 

「お、お前いきなり何をする!! 何が気に食わなかった!? え、エロビデオで勘弁してくれ!!」

 

「お前も何をこんなところでエロビデオ出してんだぼけぇ!!」

 

 俺は渾身のツッコミを入れた。

 

 ああ、そういやイッセーが覗きしてるとか言ってたなオイ。

 

 ……一言言おう。阿保か。

 

「おいイッセー!! お前もてたいんじゃなかったのか!? ハーレム王になるとか言ってなかったか!?」

 

「言ったにきまってんだろ!!」

 

「そうだ! 俺たちはハーレムを作るために駒王学園に入ったんだ!!」

 

「女子の比率がでかいからな!!」

 

 三人がかりで言いやがった!

 

 っていうかそれなのに覗き!?

 

「覗きがばれてモテるもくそもねえだろうが!! もてたいならもてるための努力をしろ!!」

 

「ふむ、興味本位で聞くがどうしろと?」

 

 おお、聞いてくれるかゼノヴィア!!

 

「狩場にしている場所で性犯罪などもってのほか!! そんなにたまってんならバイトして風俗行け、アホ!!」

 

 そんなあほなことして女が寄ってくると思ってんのか!!

 

「一周回って感心するぐらいの阿保だなテメぇら」

 

「そこまで言うか!?」

 

 元浜とかいわれた眼鏡が文句を言うが当たり前だ!!

 

「馬鹿野郎!! 女性に迷惑をかけない!! これはプレイボーイの作法だろうが!!」

 

 俺はこのド級の馬鹿野郎に渾身のツッコミを入れる。

 

「モテたいなら女性に嫌がられることをするな!! エロいことはあくまで同意の上でやるものです!! それが無理なら風俗に行け!!」

 

「いや、たしか小猫が高校生の風俗はダメらしいといってなかったか?」

 

 ハッ! そういえばそうだった!!

 

 しかし、俺だって成長してるのさ!!

 

「……ふっふっふ。そこについては安心しな」

 

 俺はにやりと笑うと、イッセー達の耳元に顔を近づける。

 

「昨日のうちにヤンキーどもをシメて聞き出した。……この近くにいわゆるヤ〇部屋がある」

 

「「「な、なんだって!?」」」

 

 三人が同時に食いついた。

 

 ああ、そうだろうそうだろう。

 

「女に迷惑をかけるような連中がモテようなんぞ千年早ぇ!! その性根を鍛えなおしてやるから、今日の放課後は俺に付き合ってもらうぜ!! ついでにゼノヴィア、お前も付き合え!!」

 

「「「え? 女子も!?」」」

 これに関しては大声で反応しやがったがまあ問題ない。

 

「ハッ! ゼノヴィアはバリバリの武闘派だからな!! 男子高校生の五人や十人、片手間にぶちのめせるわ!!」

 

 そういうことじゃねえがそういうことにしておくぜ!!

 

 ふははははは!!! この変態どもめ。俺の英雄譚の礎となるがいいわ!!

 

 学生生活で問題児を飼いならした男として、俺の英雄譚の添え物になりやがれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういえば君に説教されて私も下準備を整えた。確かこのゴム製品を使えば子作りをしても問題ないんだったな?」

 

「「ここで出すな!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、俺達は一つのアパートに来ていた。

 

 ……ああ、これがジャパニーズヤ〇部屋!!

 

 ついに、ついに、ついに!!

 

「ついに童貞を捨てられる……っ。 くふふふふふふはははははははっはっはっはっはっは!!!」

 

 俺は期待を押し殺さず、堂々とアパートの指定された部屋に入る。

 

「なあ、冷静に考えるとやばい連中の部屋に報復目的で誘導されたって方が正しいんじゃないか?」

 

「確かにな。アイツヤンキーをシメて聞き出したっていうしな」

 

 後ろで元浜と松田がそんなこと言って躊躇するが、しかし俺は気にしない。

 

 そして当然イッセーとゼノヴィアも気にしなかった。

 

「あ、大丈夫大丈夫。アイツむちゃくちゃ強いからヤクザぐらいなら返り討ちにするだろ」

 

「そうだな。その時も私が刀の錆にする……とか言えばいいのだったな、この時は」

 

 ふっふっふ。かのグレモリー次期当主の眷属悪魔二人がついているなら問題ねえ。

 

「良かったなゼノヴィア。こういうところの常連は経験豊富だし、練習相手としては童貞の俺やイッセーより妥当だろ」

 

「ふむ。しかし子作りの本命はお前かイッセーだ。しいて言えば木場も対象だな」

 

 いや、神器はランダムに人間に宿るらしいから、あまり意味がない気もするんだが。

 

「しかし、いかに追放されたとはいえ仮にも信徒がいきなりこれはやけになりすぎな気もしてきたな。……ああ、私は暴走しすぎではないでしょうか、主よ……あう!!」

 

 ゼノヴィア、お祈りする癖は治ってなかったんだな。

 

「ヒロイ! いざという時は本当に頼むぜ!! そして俺は童貞を卒業できるんだろうな!?」

 

「安心しろ。奴らの住所は確認済みだ。……違ったらもっと〆る」

 

 ここまで英雄を期待させておいて、だましだったりした時はただじゃ済まさねえ。

 

「「こ、怖ぇ~」」

 

 松田と元浜が震える中、俺は渡された鍵をドアノブにさす。

 

 よし、回る!!

 

 では、輝く未来へさあ行くぜ!!

 

「失礼しマッス!! ここでエロいことができるって聞いてきましたぁ!!!」

 

 ドアを開けて開幕速攻声を出し―

 

「……むぅ?」

 

「ふにゃ?」

 

 顔を赤くした、リセスとピンク髪がいた。

 

「あ、あの時の!?」

 

「まさかこんなところで出会うとはな」

 

 イッセーとゼノヴィアがそう反応してから、俺は我に返った。

 

「なんでだぁあああああああ!?」

 

 俺は絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おにいさぁん? 一応ね、ここがおまわりさんにばれると説教されるんだよ。静かにね?」

 

「あ、すいません」

 

 あ、しっかり説教されました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、念のためということで今回はお開きになってしまった。無念!!

 

「お姉さまぁ。この人たちってグ……駒王学園の人スよね? なんであんな所に来たんスか?」

 

「ああ、俺達をヤ〇部屋に招待するとか言われてな。……なんで上げて落とされたんだよ、くそ!!」

 

 ピンク髪の疑問に元浜が答える。

 

 ああ、俺もマジでビビったぜ。度肝抜かれたぜ。

 

 そのせいで台無しになってマジすまん。だからハンバーガー奢ってんだろ赦して頂戴!!

 

「まあ、普通に高校生だって利用してるところだもの。進学校の生徒が来るななんて法律はないわね」

 

 リセスはそう答えると、ふふっと笑う。

 

「そこの2人は初めまして。私はリセス・イドル。ヨーロッパを中心に賞金稼ぎと……私立でボディガードをしてるわ」

 

「ぼ、ボディガードですか?」

 

 松田がカメラを構えそうになりながら聞くが、リセスは得意げに笑うとピースをした。

 

「とってもいいわよ? いつか英雄として名を遺すつもりだし、記念写真はいつかプレミアつくわね」

 

「色んな意味でマジですか!」

 

 すごいこと言ったので、松田はカメラを取り落としそうになった。

 

 なるほど、この人も俺と同じなのか。

 

「奇遇だな。俺もいつか英雄となるべく頑張ってるんだ!」

 

「そうなの? お互い変な目標を持っちゃったわね」

 

「ああ。だけど光に焦がれちまったからな。ま、くたばるまで進み続けるだけさ」

 

「確かにね。私も、どうしても強くなりたいからやめられないのよ」

 

 俺たちは会話がどんどん弾んでいく。

 

 そして、俺は心から歓喜に包まれていた。

 

 俺にとっての英雄もまた、英雄になろうとしている。

 

 俺にとってはもうすでに英雄だけど、彼女は英雄になろうとしている。

 

 もしかしたら、彼女は本当に英雄となれるかもしれない。人々から英雄と称えられるかもしれない。

 

 もしそうなったら、俺はきっとうれしすぎて死んじゃうかもしれない。

 

「なあ、あんたのこと姐さんって呼んでいいか?」

 

「……別にいいけど、そんなに長い付き合いにならないかもしれないわよ?」

 

 姐さんはそういうけど、俺はそれで十分だ。

 

「ああ、それでもいいんだ」

 

 俺たちの望む未来は困難だ。

 

 なりたいと思ってなれるほど簡単じゃない。おそらく高確率でなる前に死ぬような夢だ。

 

 でも、俺達はそれに焦がれた。

 

 俺が輝きに見せられたように、姐さんも何か理由があるんだろう。

 

 そして、姐さんでも死ぬかもしれないぐらいこの世の中には化け物が多い。もちろん俺だっていつ死ぬかわからねえ。

 

 だけど、それでも―

 

「英雄を目指すあんたのことを、俺は姐さんと呼びたい。いや、呼ばせてくれ」

 

「ふふっ。おかしな子だけど、気に入ったわ」

 

 姐さんはそういうと、俺の肩に手を置いた。

 

「私達が止まっているホテルに来なさい。台無しになったぶん、可愛がってあげる」

 

 ……………え?

 

 ヤ〇部屋が台無しになった代わりに可愛がってくれる?

 

 それって、つまり―

 

「………最高の童貞卒業だフヌォ!?」

 

「ヒロイ!? ヒロイしっかりしろ!!」

 

「おい、どうしたヒロイ!!」

 

 俺は歓喜のあまり意識が飛びかけ、イッセーとゼノヴィアは慌てて抱きかかえる。

 

「わ、我が人生無念はあっても後悔なしぃ~」

 

「本気でしっかりしろ!! お前には私に子供を作ってもらわなければ困る!!」

 

「お、俺が相手でもいいんだぜ? それよりしっかりしろよ! まだ童貞卒業してないぞ!!」

 

 わ、わかってるさ二人とも。俺はこんなところで死なねえよ。

 

 そうさ、あの日の輝きである姐さんで童貞卒業するまで、死んでたまるかぁあああああああ!!!

 

「……あ~、そういえば最近チェリー食べてないッスね。……そこの童貞臭いお二人さん? 良ければ自分に食べられるとうれしいッス」

 

「ま、マジか!! うっひょぉおおおおお!!!」

 

「胸がでかいのは残念だが、しかしこれはこれで!!」

 

 おお、松田と元浜も卒業ほぼ確定おめでとう!!

 

「んじゃ、先にいってるッス、お姉さま!!」

 

「ええ、私は支払いを終わらせてからいくから」

 

「「やっほーっい!!」」

 

 先にピンク髪が松田と元浜を連れてそのホテルとやらに出発していった。

 

「あ、おいてかれた!? おい、ヒロイしっかりしろ!! 俺もチェリー食べてもらいたい!!」

 

「待て。私の子作りの練習はどうなるんだ? 私はそのために連れてこられたはずなんだが?」

 

「それなら赤龍帝はその子で卒業したら? 私がサポートしてあげるわ。そういうのもやったことがあるから大丈夫」

 

「………マジで? うっわぁ、なんかアブノーマルで興奮してきた!!」

 

 お、おおおおおお!!! 起きろ俺の中の英雄魂!!

 

 ホテルで童貞卒業パーティとかすごいぞ!! 美女と美少女ってのがまじすっげえ!!

 

「うぉおおおお!! 限界を超えろ俺の中の英雄魂!! 英雄色を好む!!」

 

 俺は渾身の力を込めて立ち上がる。

 

 起き上がれ折れの中の何かぁああああああ!!!

 

 よし、立ったぞ! 立ったぞ俺!!

 

 いざ、童貞卒業の旅へとレッツご―

 

「ヒロイ、ゼノヴィア。……イッセー?」

 

 ピシリ

 

 そう擬音で表現するべき声が響きやがった。

 

 その声色、まさに音の絶対零度。

 

 怒りのオーラで俺の聴覚神経が震えあがる。

 

 俺たちは、恐る恐る後ろを振り返った。

 

「うぅうう。ヒロイさんたちが私を置いていってしまったので部長さんたちに相談してみたら……イッセーさんのなにをゼノヴィアさんは食べるんですか!?」

 

 アーシアが、何かを勘違いしながらも、嫌な予感を感じて涙目に!!

 

 俺の良心にクリティカルストライク!! 俺は死ぬぅ!!

 

「あらあら。こんな形でいいところを奪われるとは思いませんでしたわ。ゼノヴィアちゃんったら、不倫は私のジャンルですわよ?」

 

 朱乃さんが、ニコニコ笑顔の中に黒いオーラを込めてるよぉ~!

 

 俺の生存本能がエマージェンシー! 笑顔という名の雷撃が今にも落雷しそう!!

 

「ヒロイ。私のイッセーの貞操を勝手に捨てさせようとするなんて、覚悟はできているのかしら?」

 

 お嬢に至っては表情という名の表現が無の境地へと!!

 

 俺の危機察知能力よなんでバグった!! これは無表情という名の激怒の表情だよ!!

 

「姐さん。俺、姐さんとまた会えてよかった」

 

「いや、ちょっと待って? これ、私も危険なんだけれど」

 

 大丈夫だよ姐さん。俺が命懸けでしぶとく生き残るから、その間に逃げてくれ。

 

「どうしたんだみんな。……さあ、早く子作りの練習をしに行こう」

 

「空気読めゼノヴィア。俺たちは今、死地にいるから!!」

 

 イッセー。早くゼノヴィアから離れて逃げろ。

 

 あ、結界張られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、かろうじて生き残ったことだけは報告しておく。

 




エッチなお姉さんは好きですか? 自分は好きです!!


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第一章 5

子どもたちのヒーローたちはすべからく英雄である。byヒロイ


「死ぬかと思ったな、イッセー」

 

「生きてるのが奇跡だよな、ヒロイ」

 

 俺とイッセーは生きて駒王学園の門を潜れたことを、内心で喜び合った。

 

 マジで死ぬかと思った! あっぶねえ!!

 

「おいイッセーにヒロイ。昨日はどうしたんだよ」

 

「まったくだ。ゼノヴィアも来なかったし、リセスさんも苦笑いして何も説明してくれなかったんだぞ?」

 

 松田と元浜がそう聞いてくるが、しかし表情はにやけている。

 

 くそ、ぶち殺してぇ。

 

「昨日はお楽しみだったようだなぁ。ああ?」

 

「そりゃもう! 俺達はもう覗きは卒業するぜ!!」

 

 俺の怒りすら込めた言葉に、松田の野郎はサムズアップまで返してきやがった。

 

 その調子だと、姐さんとまで致しやがったな、こいつら!!

 

「イッセー。スマンがエロビデオはこれからは家で交換しよう。学校にまで持ち込む気にはもうなれんのだ」

 

「お前達も早く追いついてこい。この果てしなく続く漢坂をよ」

 

「「マジで殺していいか、コラ」」

 

 馬鹿二人がすっげえドヤ顔してくるのマジむかつく。

 

「やあ、皆」

 

 と、そこでゼノヴィアが教室に入ってきた。

 

「おお、ゼノヴィア。昨日はどうしたんだよ」

 

「そうだぜ? 俺達待ってたんだが」

 

「いや、あの後部長に見つかってしまってね。よくわからないんだがあの部屋に行ってはいけないときつく厳命されてしまった」

 

「俺もだよ。うぅ、部長はそういうの潔癖なのかなぁ」

 

 ゼノヴィアもイッセーも眷属悪魔だからな。主の厳命は断れないか。

 

 まあ、俺は監督されているだけだから必ず行くがな!! 命かけるぜ!!

 

「しかしイッセーやヒロイとの子作りは諦めん。練習用の避妊具とやらも用意したし、隙あらば実行するので覚悟だけはしておいてくれ」

 

「ゼノヴィア。そういうのここでいうのやめてくんない? 視線が痛い」

 

 イッセーさんや。エロビデオ堂々と教室で交換してる時点で十分アウトですぜ?

 

 そんなことを思っていると、今度はアーシアが俺の方に近づいてくる。

 

「ヒロイさん。聞きましたよ」

 

「ん?」

 

「イッセーさんたちをや、や、や……あんな部屋に誘ったのはヒロイさんだったんですね!」

 

 と、アーシアは顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。

 

 顔が真っ赤なのは怒ってるのかヤ〇部屋といえないほどの恥ずかしさからなのか。

 

「イッセーさんをそんなところに連れて行かないで下さい! ひ、卑猥です!」

 

「え~。いいじゃん歳頃の男なんてそんなもんだしさ~」

 

 それにこいつらはそういうことさせないと犯罪に走りそうだし。

 

 俺も童貞卒業したいし。その気持ちはイッセーも強いはずだ。

 

 ああ、憧れの英雄で大人の階段上るとか、マジ最高の一夜だったろうに……此畜生!!

 

「まさかマジで行くとは思わなかったわ。この藍華の目をもってしても以下略って感じ?」

 

 と、そこでクラスメイトの桐生まで割って入った。

 

 この女。性犯罪者予備軍のイッセー達と堂々とつるめる剛の者だったりする。

 

「うっせぇ。高校生の利用者もゴロゴロいたっつーの」

 

「ふ~ん。でも、話を聞く限りじゃ言い出しっぺのあんたは卒業できなかったみたいね」

 

 悪かったな!

 

「まあ、あんたのあれの長さからすれば、初心者なりにそこそこ評価されると思うわよ」

 

「なんでわかんだよ!!」

 

 な、なんだこの女! まさか神器を持っているというのか!?

 

 え、ええい! 気を取り直せ!!

 

 今日は公開授業。それも英語だ。

 

 腐っても俺はヨーロッパ出身。英語は一応勉強している。

 

 興味本位で習得した世界でも有数の難易度を誇る日本語もだいぶいけるんだ。英語の方は完璧に近いといってもいい。

 

 さあ、かかってくるがいい! 親御さんが来る人達を差し置いて、俺が好成績を決めてやるぜ!!

 

 ふははははは! 勉強する羽目になるのが当たり前とかほざく連中には負けん!! 国語以外は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは皆さん。今配った紙粘土で何か作ってください。そういう英語もあります」

 

「あるか!!」

 

 俺は渾身のツッコミを叩き込んだ。

 

「いいえ! あります!! あるのです!!」

 

「あるわけねえだろアホ教師! こういう時こそ普通に授業しろよ! PTAが苦情出すぞ!!」

 

 ホントだしそうで怖いんだけど!?

 

 なんで英語の授業で芸術やらなきゃいけないんだよ!! 普通に英語してよ!!

 

 俺、仕事がら色んな国行ってるから言語系は大得意なんだよ!! だからお願いリスニングでいこう?

 

「た、確かに! これ英語の授業かって言われると……」

 

「そうだよ! 普通これって、真面目な授業の合間に息抜き感覚でやる感じだろ! おかしいって!」

 

 俺の渾身の文句に、何人かの生徒が同意する。

 

「言われてみればそうよねぇ」

 

「ここ進学校よね。……大丈夫なのかしら」

 

 親御さんも疑問符を浮かべてくれたぜ!

 

 よっしゃぁ! この調子で俺は文句を続けるぞ!!

 

 まずは増援の確保だ。意外と常識人なイッセーなら、このノリなら援護射撃ぐらい入れてくれるはず―

 

「イッセー! お前も何とか言って……」

 

 そして振り返った俺の視線の中、おっぱいが映った。

 

 ああ、勘違いすんな。なにも生乳がいきなり出てきたわけじゃねえ。

 

 正確には、精巧な生乳の模型が誕生していた。

 

「ひょ、兵藤君……!」

 

「え? ……おお!!」

 

 教師に言われて初めて、イッセーは自分が凄い事やったのに気付いたらしい。

 

 すげえ。お嬢の裸体が完全再現されてるよ。

 

 いや、俺は水着迄しか見たことねえけど。それでもだいたいこんな感じだよな。

 

「な、なななななな! なんでだイッセー!」

 

 松田が驚愕の表情を浮かべるが仕方がねえだろこれ。

 

 だってすっげえリアルな裸婦像なんだもん。

 

「うそでしょ? なんで兵藤がこんなことできるの!?」

 

「あ、相変わらず厭らしい。厭らしいけどすごい!!」

 

「あ、ありえん! これはまさしくリアス先輩の体形!!」

 

 女子達が瞠目する中、元浜が眼鏡を切らんとさせて断言したことで、さらにどよめきは激しくなる。

 

「素晴らしい! 素晴らしいですよ兵藤君! 私はまた生徒の可能性を発掘しました!!」

 

「確かに素晴らしいわ。こんな完全再現ができるぐらい見てるってことね」

 

 教師と桐生が感心するが、これもう授業じゃなくね?

 

 ああもう。仮にもここは進学校だろ。もっと為になる授業しろよ。

 

 俺がツッコミを入れようとしたその時。

 

「五千円出す! くれ!!」

 

 財布を取り出した男性との声が、授業を完全に崩壊させた。

 

「させるかぁ! 俺は六千円出す!」

 

「まて、俺のこの作品と交換してくれ!!」

 

 松田と元浜も速攻で動く。

 

「いいえ! お姉さまのなら私は一万円出すわ!!」

 

「リアス先輩の裸はぁはぁ……。一万二千円出すから譲ってくれないかしら?」

 

 女子まで動いた!?

 

「なるほど、授業参観とは、学校で行われるオークションのことだったんだね」

 

「いえ、これはたぶん例外だと思います……」

 

 アーシア。ゼノヴィアのマジボケの対処は任せた。

 

 ここは、俺も動かないといけない。

 

 この事態、もはや黙ってみているわけにはいかん!!

 

「……二十万!!」

 

 俺が貰う!!

 

「いや、やるわけねえだろ! 俺の部長だからねぇえええええええ!!!」

 

 イッセーのけちんぼ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくできてるわね」

 

 お嬢はそう言いながら、イッセーが手に持っている紙粘土細工をしげしげと眺める。

 

 勝手に裸婦像を作られたというのにこの態度。この人意外と痴女い?

 

「しっかしよくできてると断言するとは、イッセーに裸見せただけのことはありますね」

 

「一緒に住んでるのだから、お風呂ぐらい入るでしょ? それに私は裸じゃないと眠れないもの」

 

 すんませんツッコミどころ多すぎんですけど。

 

「あらあら。これは私の分も作ってほしいですわ。もしよろしければ脱ぎますわよ」

 

「マジですか!?」

 

「ええ、おさわりありで」

 

 っていつの間にかすごい商談が朱乃さんとイッセーの間で発生!?

 

「お、俺も見ていいですか!?」

 

「駄目ですわ」

 

 すんませんでした。

 

 調子に乗ってましたからこんなところでビリビリ出さないでください。

 

「それでイッセーくん。お返事は?」

 

「駄目に決まっているでしょう」

 

「駄目に決まってます」

 

 なぜイッセーではなくお嬢とアーシアが言う。

 

 いや、わかってるけどね?

 

 あんたらイッセーにホの字なんだな。くっそぉうらやましい。

 

 しかしイッセーの奴はそれに気づいてないっぽいな。気づいてたら童貞卒業はそっちでするだろ、うん。

 

「あれ? 皆さんお揃いでどうしたんですか?」

 

 と、そこに木場がやってきた。

 

 俺は片手をあげて挨拶する。

 

「おお、木場。どうしたんだ?」

 

「いや、実は気になる話を聞いてね」

 

 気になる話?

 

 ま、まさかお前もお嬢の裸婦像に興味が?

 

 聖魔剣と赤龍帝が裸婦像を奪い合う光景を幻視したが、どうやら違うっぽい。

 

「なんでも、体育館で魔法少女が撮影会を開いてるとか」

 

 ………は?

 

「い、嫌な予感が……」

 

 あれ? お嬢、心当たりでも?

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……」

 

 お嬢が額に手を当てて頭痛を堪える中、実際に魔法少女が撮影会していた。

 

 うっわぁ。すっげ人だかり。

 

 つーかオイ。なんでこんなにフラッシュたかれてるんだよ。其のカメラは父兄として子弟を写す為のものじゃねえのかよ?

 

 なんてツッコミを心の中で入れる中、その魔法少女はすっげえいい表情で写真撮影に応じていた。

 

「ぶ、ぶりっ子ポーズでお願いします!」

 

「こっち! こっちに笑顔を向けてくれ!!」

 

「はーい♪」

 

 完全に写真撮影会になってるな、オイ。

 

 っていうかコレ、保護者以外にも人集まってねえか?

 

 このままだと収拾つかねえな。しゃあねえ動くか。

 

 俺は深呼吸して気合を入れると、勢いよく地面を踏み込む。

 

 悪魔祓いとして人間離れしていると断言できる身体能力で起きたそれが、体育館を揺らし轟音を放つ。

 

 いわゆる震脚ってやつだ。インパクトあるから気分転換に習得してたが、こんなところで役に立つとはこのヒロイさまも思わなかったぜ!

 

「……すいませーん。今日は公開授業でPTAも注目してるんで、そういうゲリラコスプレイベントはご遠慮願いまーっす」

 

 ニコニコ笑顔で、しかし声にはドスを効かせる。

 

 この脅威度満点の警告に、大半の連中は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

 さて、それじゃああとは元凶の魔女っ子だな。

 

「そこのアンタ? 誰の生徒の妹さんか知らないけど、服装は場所と状況を考えてくんない?」

 

「えー? だってだって、これが私の正装なんだもん☆」

 

 ………このアマ。

 

「1、1、0。……あ、警察ですか? 駒王学園の者なんですけど、悪質なコスプレイヤーが公開授業に乱入して写真撮影会をしてるんでとっ捕まえてください」

 

「ちょ!? 魔法少女レヴィアタンに警察とか対応が酷過ぎるのよん!?」

 

 うるせえ。俺達は今学生やってんだ。迷惑な人がいたら専門家に通報が基本だっつーの!

 

 さて、これでさっさと退散してくれればめっけもんなんだけど―

 

「ヒロイ君ではないですか? 何か起きましたか?」

 

 と、そこに生徒会長が現れた。

 

 あれ? よく見ればサーゼクス様にさらにお嬢含めてよく似たダンディなおっさんも……。

 

「よう、ヒロイ。今魔王様とリアス先輩のお父上様に学園のご案内してるところなんだが……あれ? 会長どうしました?」

 

 匙が挨拶しながら、しかし会長が硬直してるのを見てきょとんとする。

 

「あ、ソーナちゃん!」

 

 さらに魔女っ子が固まってる生徒会長に抱き着いた。

 

「「「あれ? 似てね?」」」

 

 俺、イッセー、匙はその時になって気が付いた。

 

 会長と魔女っ子。そっくりなんだけど……。

 

「セラフォルーじゃないか、君も来ていたのか」

 

「あ、サーゼクスちゃん! 貴方だって妹の晴れ舞台を見に来てるじゃない」

 

 おい、ちょっと待て。

 

 魔王サーゼクス・ルシファーにタメグチ可能な、会長のそっくりさん?

 

 しかも妹の晴れ舞台を見に来たぁ?

 

 そ、其れってまさか―

 

「お嬢!? あ、あの魔女っ子ってまさか―」

 

「……ええ。信じたくないでしょうけど、あのお方がソーナの姉君である魔王レヴィアタンさまよ」

 

「「「えええええええええええ!?」」」

 

 俺とイッセーと匙は、同時に絶叫をあげた。

 

 いやいやいやいやちょっとまてぃ!!

 

 何で魔王が魔法少女コスプレ!? しかも正装ぅううううう!?

 

 え、なに? 俺ってもしかしてこんなのと戦う可能性があったの?

 

 悪夢じゃん!? ある意味!!

 

 想像の斜め上をスピン入れて突っ走ってるんですけど!!

 

 こんなのとシリアスに殺し合いしてたのかよ天界は! マジ哀れ!!

 

 イメージ戦略が色々間違ってねえか、オイ!!

 

「聞いてください小父様! ソーたんったら、今日の授業参観のこと黙ってたんですよ? レヴィアたんはショックで天界に攻め込みそうになっちゃいました」

 

「……この人魔王として大丈夫なんですか?」

 

「安心して。あれはあくまで話のタネのはずよ。仮にも外交担当がそんなことは……しないといいわね」

 

 自信ねえのかよお嬢!!

 

 外交担当!? いや、アイドル戦略とか聞いたことあるけど、トップがやるの!?

 

「あれ? そういえばリアスちゃん、その子達は?」

 

「……イッセー、そろそろご挨拶をなさい」

 

「え、あ、はい! リアス・グレモリー様の兵士をさせていただいている、兵藤一誠です!!」

 

「貴方が赤龍帝ちゃんだったの。初めまして♪ 私は魔王のセラフォルー・レヴィアタンです♪ 気軽にレヴィアたんって呼んでね?」

 

 どこの世の中にたんづけをねだる魔王がいる!?

 

 おい、冥界大丈夫か!? 他に適任はいなかったのかよ!!

 

「あの、お姉さま。それはともかくここは学び舎です。ましてや私はここの生徒会長を任されている以上、お姉さまといえどこのような行動と格好は容認できるものではないです……」

 

 あ、生徒会長が話を戻した。

 

 うん、そうですな! 姉なら姉として色々と責任がありますよね!?

 

 しかしセラフォルーさまは心底不満そうだった。

 

「酷いわソーナちゃん! お姉ちゃん本気で悲しいのよん!? お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーナちゃんも知ってるじゃない!!」

 

「いやちょっと待てコラァ」

 

 俺はつい我慢できずにツッコミを入れてしまった。

 

 だがしかし、これに関しては納得いかん。

 

「……誰? 今私はソーナちゃんと話してるのよん?」

 

「セラフォルー。彼がコカビエル相手に渡り合った聖槍使いのヒロイ・カッシウスくんだ」

 

「説明ありがとうございますサーゼクスさま。……で、レヴィアたん?」

 

 俺は真剣な表情で、レヴィアたんに詰め寄ると―

 

「こぉおおおのバカチンがぁああああ!!!」

 

 渾身のチョップを叩き込む!!

 

「きゃん!? な、なにするの!?」

 

「何するの!? じゃない!!ふざけんな、こらぁ!!」

 

 俺は今、マジギレしている。

 

 魔法少女……だと?

 

「魔法少女は知っている。あれは俺にとって英雄の亜種パターン。故に多少は知っているとも」

 

「知っているならなんで!?」

 

「だからこそだ!!」

 

 ふざけるな、ふざけるなよ!?

 

「魔法少女とは困っている人を助ける少女の英雄!! あんたは当然困っている人達を助け、少女の心に輝きを灯さなければいけないだろう!! それが輝きである英雄の役目だろう!!」

 

 それなのに、其れなのに!!

 

「その英雄が、常識とTPOもわきまえずに実の妹の心を照らすのではなく曇らせて、何が魔法少女だ、笑わせるな!!」

 

「………ががーん!!」

 

 俺の心からの言葉に、レヴィアたんはショックを受けた。

 

 そして、そのまま崩れ落ちる。

 

「そ、そんな……! 皆の魔法少女であるレヴィアたんが、自分の妹の心をまず真っ先に曇らせていた……?」

 

「そんな様で魔法少女など笑わせる。三流どころかまがい物にすぎねえな」

 

 俺は心底蔑んだ。

 

 そのざまで何が魔法少女だ。呆れ果てる。

 

「まずはTPOをわきまえて、変身していいタイミングを計るところから出直すんだな」

 

「う、うう! 反論できない!!」

 

 レヴィアたんはショックで涙をぽろぽろこぼしながら、しかし俺の言葉に反論だけはしない。

 

 ふむ、これならまだ見所はあるか。

 

 こういうのは飴と鞭っていうし、そろそろ飴をやらないとな。

 

「まあ安心しな。英雄だって挫折して立ち直ったやつもいる。過ちを犯して再起した奴だっている」

 

「れ、レヴィアたんは魔法少女としてやり直せるの……?」

 

 ふ、何言ってやがんだ。

 

「それが魔法少女(英雄)だろ? 魔法少女(輝き)なら復活して見せな。まずはTPOをわきまえるところからな」

 

「う、うん……うんっ!!」

 

 ふっ。どうやら話の分かる女でよかったぜ。

 

 俺も、魔法少女という英雄の名にどろを濡らせなくってよかったぜ。

 

 泣きじゃくるレヴィアたんの背中をぽんぽんとたたきながら、俺は英雄の迷走を阻止したことに安心し―

 

「あ、すいません。駒王町警察署の者です」

 

「あれが通報にあった魔法少女だな! こら、こんな場所でコスプレなんて何考えてるんだ!!」

 

 あ、そういえば通報してた。

 




輝きと書いて英雄と読み、また逆もしかりな男、ヒロイ・カッシウス。

子どもたちのヒーローもまた、彼にとっては英雄なのです。


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第一章 6

 

 警察に連行されたレヴィアたんは置いといて、俺達は旧校舎に戻ってきていた。

 

 なんでも俺がレヴィアたんに説教している間に、お嬢の最後の眷属であるその僧侶の封印を解くことが決定したとかなんとか。

 

 っていうか封印? 穏やかな話じゃねえな。

 

「そういや、ライザーとのレーティングゲームの時にはもういたのに、参加してなかったな」

 

 そんなことをイッセーが言うが、そうなのか?

 

「うん。部長は彼を助けて眷属にしたんだけど、上が部長では扱えないとして、封印を命じていたんだ」

 

「一応夜は封印が解けるのですが、彼自身の意志でこの部屋に残っているのですわ」

 

 木場と朱乃さんの説明を聞きながら、俺達はその封印された部屋の前に立つ。

 

 なんか、犯罪現場にある感じの黄色いテープで封されてるんだけど。

 

 もっとこう、オカルトというかファンタジー的なのなかったの?

 

「しっかしそんな封印されてんのが、なんでまたこの時期に?」

 

 おっかしいだろ。今、この街は三大勢力のトップが集まる予定の危険地帯だぜ?

 

 誰もカレも町中で大暴れしたりはしないだろうけどよ、そんな時に封印する必要があるほどの制御不能な奴を開放するってどうよ?

 

「ある意味あなたとイッセーのおかげでもあるわね」

 

「へ?」

 

 お嬢の言葉に俺はきょとんとした。

 

 なんで俺が。しかもイッセーと。

 

「……フェニックスとの一戦と、コカビエルとの戦いが原因です」

 

 コカビエルの時以外にもなんかあったのか?

 

「何があったんだ?」

 

「ああ、イッセーくんがフェニックス家の三男坊であるライザー氏相手に、赤龍帝の籠手を疑似的に禁手にして撃破したんだよ」

 

「さらにコカビエルを相手に真っ向から戦いを成立させたヒロイくんがおりますので、この二人がいればあの子も抑えられると判断したのでしょう」

 

「イッセー先輩に関しては、リアス部長が禁手に至らせる要因だと上は判断してます」

 

「……ようは、今の私なら扱いきれると思われたってことでしょうね」

 

 ふむふむ、古参グレモリー眷属の方々、ご説明ありがとうござーい。

 

 っていうかまさか、俺はその封印僧侶の監視役もさせられるのか?

 

 まあ、月一千万円も貰ってんだから仕事はしますが……。

 

「で? 神滅具よりも危険視されるその僧侶って、いったい何者なんですかい?」

 

「そうね。まずは見てもらった方が早いでしょうね」

 

 お嬢はちょっと困った表情を浮かべると、とりあえずテープを剥がして部屋の中に入った。

 

 数秒後。

 

「いやぁああああああああああああ!?」

 

 絹を裂くような悲鳴が響き渡った。

 

「部長!?」

 

 悲鳴に反応して、イッセーが慌てて部屋に飛び込む。

 

 いや、流石にそんな大事には……ならないよな?

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あの子は基本的に他者に悪意を向けたりしないから、危害は加えないし」

 

「そうですわ。なにせ、悪魔の仕事においていうならば、リアスの眷属で一番の出世頭ですもの」

 

 マジか。こんなところに封印されてんのに?

 

「……引きこもりの割には働き者なんです」

 

 小猫ちゃんや。なんか微妙に辛辣じゃね?

 

「ちなみに、引きこもってんのにどうやって悪魔の仕事を?」

 

「ああ、ネットを利用した契約も悪魔はやってるんだよ。直接顔を合わせたくない人とかがいてね」

 

 マジか。悪魔の世界もIT化が進んでんだなぁ。

 

 などと語り合いながら、俺は部屋の中を覗く。

 

「う、うわぁああああ! また増えたぁ!?」

 

 と、涙目で震えてるのは金髪の可愛い女の子。

 

 そして、なぜかイッセーは崩れ落ちていた。

 

「お、おいイッセー!? お前ならむしろ歓喜するところじゃねえの!?」

 

「そ、そんな……ついてるだなんて!?」

 

 イッセーはそう言って呆然としている。

 

 へ? どういうこと?

 

「ああ、あの子は女装趣味があるのですわ」

 

 そうなんすか朱乃さん。

 

 ………女装趣味?

 

「引きこもりが女装して、なんか意味あんの?」

 

 俺はちょっと思考停止した。

 

「う、うぅ! 俺は、俺は一瞬で金髪ダブル僧侶ガールの夢を見たというのに!!」

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

 小猫ちゃん? 流石に今のイッセーにその追撃はやめたげて?

 

「あらあら。封印が解けたのですよ? もうお外に出てもいいのですよ?」

 

「い、いやですぅうう! 僕は一生ここにこもるんですぅうううう!! お外怖い、怖いのぉおおおお!!!」

 

 おい、これもう重症だろ。

 

 なんかのトラウマになってるとしか思えん。

 

「ゼノヴィア。PTSDになった悪魔祓いにもこんなのいなかったか?」

 

「ああ、外に出るのすら怖がるようなレベルはいなかったが、戦うことができなくなるほどトラウマが刻み込まれたのはまれにいたな」

 

 俺とゼノヴィアは殺し合いに慣れていることもあり、そういうやつを見たこともある。

 

 任務の中で死の恐怖に心が折れて、日常生活すら困難になったやつも少しはいるんだ。

 

 だが、それにしてもこれはひどいだろ。精神科医のお世話になった方がよくないか?

 

「お願いだから外に出ましょう? もうあなたを閉じ込める必要なんてなくなったんだから」

 

「いやですうううう!! 僕は一生この部屋の中にいたいんですぅうううう!!! 箱入り息子ってことで勘弁してくださいぃいいいい!!!」

 

 ……お嬢に言われてもこれか。やっぱりかなり重症だ。

 

 しっかしこれはどうしたもんかね。お嬢の性格からいって、封印なんて真似は嫌だったろうから好都合なんだろうけど相手がこれじゃな。

 

 そんなこんなで眺めていると、イッセーがじれたのかその女装男子の腕を掴む。

 

「あのなあ。部長が外に出ようって言ってんだろ?」

 

「おいイッセー。この手のタイプに強引な真似は逆効果―」

 

 俺がそう言おうとした瞬間だった。

 

「ひっ―」

 

 女装男子の目が光り、そしてそのまま部屋の隅に駆け出そうとして。

 

「待て待て」

 

 俺はとっさにそれを止める。

 

「ふぇええええええ!? なんで動けるんですかぁああああ!?」

 

「よくわかんねえけど、とりあえずこの部屋の中でぐらいは逃げ出すなや。俺は何もしねえからよ」

 

 何を言ってんだ、オイ。

 

「―あれ?」

 

「今、一瞬意識が……」

 

「彼が何かしたようだね」

 

 イッセーやアーシアやゼノヴィアがなんか戸惑っている。

 

 視線を逸らすと、お嬢達は「またか」といわんばかりのため息をついていた。

 

 ん? どゆこと?

 

 首を傾げていると、お嬢はちょっと驚きに目を大きくして俺を見た。

 

「聖槍の使い手なだけあるわね。ギャスパーが止められないなんて上級悪魔でも上位の実力者ぐらいなんだけれど」

 

「あの、部長? 何があったんですか?」

 

 イッセーが全くついて行けなくて、お嬢にどういうことか説明を求める。

 

 お嬢は苦笑すると、女装男子に近づいて優しく抱きしめた。

 

「この子は、興奮すると視界にあるすべての物体の時間を一定時間停止してしまう神器を暴走させちゃうのよ」

 

 あーなるほど。そういうこと。

 

 教会でもたまに話を聞いたことあるぜ。

 

 神器を制御できなくて生活に困ったり、酷いのになると命の危険すらある手合いってのがいるんだったな。

 

 泣きじゃくる女装男子をなでながら、お嬢は苦笑を浮かべてそいつを抱きしめる。

 

「この子はハーフヴァンパイアのギャスパー・ヴラディ。停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)を持つ、私の僧侶の一年生よ」

 

 その時点で、俺は何となく想像がついた。

 

 あ、こいつも金髪なだけあって、木場やアーシアに負けず劣らず面倒な来歴なんだなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、そのふぉ、ふぉーびん」

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)な? ケルト神話の神、バロールに由来を持つ神器だよ。俺も一度戦ったことがある」

 

 イッセーが名前をよく覚えられないけど、長いもんな、アレ。

 

「あの時は情報がわかってたからガスマスクと催涙ガス用意してもらって速攻でカタにはめたんだが、まさか俺に通用しなかったとは」

 

「貴方も実戦経験が豊富ねぇ」

 

 お嬢に呆れられるけど、俺もまさか止まらないとは思わなかった。

 

「まあ、実際お兄様クラスともなればまったく停止できないのだけれど。この調子だと勝手に禁手に至って停止できるようになるのでは……とも言われているわ」

 

「マジっすか!? なんツーとんでもない神器だよ」

 

 イッセーが驚くやら感心するやらの視線でギャスパーを見るけど、当のギャスパーは誇るでもなく段ボール箱にこもるばかり。

 

「み、みみみ見ないでくださいぃいいいい!!! 注目しないでぇえええええ!!!」

 

 これが、そんなすっげえ神器ねえ?

 

 ま、それはともかくこのショタDI〇はすっげえ才能らしい。

 

 なんでも吸血鬼に大派閥の一つ、ツェペシュ派でも有力な貴族であるヴラディ家の出身。さらにデイライトウォーカーという日光でも平気な種族というレアキャラ。

 

 魔法使いとも関係していたらしく、魔法にも造詣が深いところは僧侶っぽい特徴。

 

 とどめに人間である妾との間に生まれたことから、そんな強力な神器をゲット。

 

 だが、そうもいかねえんだよな。

 

「確か吸血鬼って、悪魔が目じゃねえぐらいの純血主義で血統主義でしたよね?」

 

「ええ。故にハーフであるギャスパーは元から扱いが悪かったのよ」

 

 お嬢がそう言ってギャスパーにいたわりの視線を向ける。

 

 そんでもって神器が制御できないのがさらに状況悪化ってわけだ。

 

 ま、意識も止められてるんだから何してくるかわからねえもんな。ふつうビビル。

 

 そして、そんな差別を生みやすい環境で怖がられる要因が生まれるとなりゃぁー、当然迫害されるわけだ。

 

 なにせ、悪魔の上役も問題視するようなレベルだ。吸血鬼だって警戒するだろう。たぶん家の連中も止められたことがあるんじゃねえか?

 

 

 で、そのギャスパーがすごいのはお嬢達も良く分かっている。

 

 変異の駒(ミューテーション・ピース)

 

 悪魔の駒の中にたまに混じっている、駒価値の上限がなんか高い代物。なんでも開発者が「それも一興」とかでそのままにしてるバグだとか。

 

 レーティングゲームという競技においてそりゃどうよ? せめてどの上級悪魔にも一つぐらいくれてやれよと思うんだが。

 

 ま、そんなもんが必要なだけあって才能はめちゃ高い。

 

 高すぎるのが問題ってわけだ。

 

 このままいけば自然に禁手に至るといわれるぐらいスペック激高。しかもそれを制御できないぐらい引き出しちまう。

 

 そんなわけで、家を追放されてからもギャスパーに安住の地はできず、挙句の果てにヴァンパイアハンターに狩られて死にかけていたところをお嬢に拾われたと。

 

 だっけどこれは流石にまずいよなぁ……。

 

「そういや吸血鬼は血が必須でしたよね? その辺大丈夫なんですかい、お嬢」

 

「ハーフだから輸血用パックを定期的にとればそれで十分よ。ただ、この子血を吸うことも嫌いみたいで」

 

 吸血衝動とか、ねえの?

 

 視線を段ボール箱INヴァンパイアに向ければ、そこから悲鳴が響き渡る。

 

「生臭くて嫌ですぅううう! レバーも嫌いぃいいいい!!!」

 

「吸血鬼失格にもほどがあるだろ」

 

「ヘタレヴァンパイア」

 

 俺の呆れ果てた声に小猫ちゃんもシンクロした。

 

 ちょっと属性がレアすぎやしませんか、この後輩。

 

「とりあえず、私と朱乃は会談の下準備の為に一度出るわ。祐斗もお兄様が聖魔剣で知りたいことがあるということで連れて行くから、イッセー達はギャスパーのことを見ていて頂戴」

 

「わかりました部長! 誠心誠意頑張ります!!」

 

 イッセーが元気よく頷くが、これ、どうすんの?

 




ギャスパー、初登場。

しっかし、これが一年足らずであれだけ根性ある奴に成長するんだから、男子三日会わざれば刮目してみよとかよく言ったもんですよねぇ。









イッセーと同じく神器を禁手に至らせてないながらもギャスパーの停止を無視した広いですが、これに関しては種があります。

まあ、何事も得手不得手というものはあるということです。


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第一章 7

 

 で、まかされた俺たちはいま、外に出ていた。

 

 とりあえずジュースを買って飲むことにして、金持っている俺が買いに行くことに。

 

 で、戻ってきてみれば―

 

「さあ、走らなければデュランダルの錆になるぞヴァンパイア!!」

 

「ギャーくん、ニンニク食べてスタミナ付けよう?」

 

「いやぁああああ!! ニンニクきらいぃいいい! 浄化されちゃぅうううう!!!」

 

 ゼノヴィアと小猫ちゃんに追いかけまわされるギャスパーの姿が!!

 

「いや、何やってんだよお前ら」

 

 どう考えてもPTSD発症してる連中に荒療治とか駄目に決まってんだろ!

 

 俺はとっさに聖槍を出すと、二人とギャスパーの間に割って入る。

 

「こういうのはこっちの寛容と忍耐が大切なんだよ!! そんなぶち殺す気満々の装備で追いかけましたら悪化するだろうが、馬鹿ども!!」

 

「何を言うか。健全な精神は健全な肉体に宿るというではないか」

 

「……それは誤用です」

 

 小猫ちゃんや。わかってるならなぜ追い掛け回す。

 

「ひぃいいいい!? ヒロイ先輩、助けてくださいぃいいい!! 聖剣いやぁ、浄化いやぁぁぁあああああ!!!」

 

「ほらもうさらにひどくなりかけてるだろうが!! おい、イッセーもアーシアも何か言ってやれ!!」

 

 俺は増援を求めて二人に視線を向けるが。

 

「お、男だと? あんな可愛いのに、ついているだと?」

 

「匙さん? なにがついているのかわかりませんが、元気を出してください」

 

 匙までもが現れて、心底落ち込んでた。

 

 いや、まあこのレベルのかわいい子が実は男だとか俺もちょっとショックだけどよぉ。

 

 にしても、これどうすんだ? どうにかして止めねえと……。

 

「おーおー。悪魔どもと聖槍使いがあつまって何してんだ?」

 

 と、そこに着流しを着たオッサンが現れた。

 

 悪魔の存在を知ってるってことは、異形関係者か?

 

 しかし、相手が悪魔なら俺たちに一言連絡があってもいいはずだし……。

 

 俺がそんなことを考えたとき、イッセーが目を見開いて神器を展開して大声を張り上げた。

 

「……アザゼル!!」

 

「へ? アザゼル? アザゼルって……堕天使総督!?」

 

 イッセーの声に少し遅れて、匙がパニックになりかけながら神器を展開する。

 

 おいおいおいおい。なんでこんなところに堕天使総督が現れんだよ!!

 

 俺たちは全員で得物を展開したり身構えたりする。

 

 そんな全力警戒態勢にもかかわらず、アザゼルの奴はものすごく平然としてあくびまでしやがった。

 

 こ、この野郎ものすごい余裕じゃねえか。俺たち相手なら束になってかかってきても平気だって言いたいのか?

 

「落ち着けよ餓鬼ども。こんなところで弱い者いじめするつもりはねえって」

 

「ふざけるな。堕天使総督が悪魔側の陣地に無断で侵入など、看過できるか!」

 

 ゼノヴィアが今にもデュランダルで切りかからんとしているんだけど、アザゼルの奴はかなり余裕の表情を見せていた。

 

 っていうか、これもうあきれてる感じなんだけど。

 

「コカビエルにてこずってたお前らごときが俺を倒せるわけねえだろ? そんなことする暇があるなら、こびてた方がまだ効果的じゃねえか?」

 

「ハッ! なめたこと言ってんじゃねえぞオッサン」

 

 俺はそれに鼻で笑う。

 

 このオッサン、自分の勝ち目が圧倒的に高いからってなめてんじゃねえか?

 

「最低でもルシファー様に連絡させる時間ぐらい稼いでやるよ。堕天使と悪魔で冥界の覇権を決める戦争を再開させるか、ああ?」

 

 こいつがコカビエルの言う通りに戦争をする気がねえなら、さすがにこれでとどまってくれるはずだが……。

 

「……わーったよ。これ以上お前らに近づかねえから、とりあえず俺の話を聞け」

 

 よし、譲歩は引き出せた。

 

 俺は全員から一歩前に出て、アザゼルをにらんだ。

 

「アンタにしろ白龍皇にしろ、神の子を見張るもの(グリゴリ)は挑発するのが好みなのか? 平和主義って聞いてたんだがな」

 

 本当に何考えてんだこいつらは。

 

 コカビエルが戦争を起こす気がないとこき下ろしていたうえ、そのコカビエルを止めるために戦力迄派遣してきたのがこいつらだ。なら戦争を起こす気がないというのは本当だと思う。

 

 それなのに、会談前でピリピリしているこの時期にこのいい加減な行動。ふざけてるとしか言いようがねえ。

 

「噂の聖魔剣を見に来たんだよ。俺が神器の研究してのはコカビエルから聞いてんだろ? 前代未聞の聖と魔の融合の実例を観たいと思うのはそんなに変か?」

 

「会談の時に提案しろよ……」

 

 あ、この男はあれだ。

 

 基本的に自分のペースで動いて、相手を振り回すタイプだ。トラブルメーカーだ。

 

 本気で頭痛くなってくるんだが。

 

「木場ならいないさ!! 木場に手を出すってんなら、容赦しねえ!!」

 

 イッセーもイッセーで見事にボルテージ上げてるし。

 

 あの、ここ一応結界もはってない学校だからね?

 

「頼むからアンタも余計な挑発しないでくれ! ホントにぶっ刺すぞ」

 

「へいへいわかったよ。帰りゃいいんだろったく」

 

 アザゼルはため息をつくと踵を返そうとする。

 

 んの野郎。マジで聖魔剣みたいってだけでこんなとこまで来やがったのかよ。

 

 状況ホントにわかってんのか、あぁ?

 

 もうさっさと帰れと思ってんだけど、しかしアザゼルは足を止めたらギャスパーの方を見た。

 

「ひぃっ!?」

 

 ビビるギャスパーの目は赤く光るが、アザゼルは全く止まらない。

 

 さすがは三大勢力重鎮クラスってか? 確かに言うだけのことはあるってわけだな、オイ。

 

「ふむふむ、なるほど」

 

 アザゼルはしげしげとギャスパーを眺めていたが、やがて納得したのかうなづいた。

 

 そんでもって、心底ため息をついた。

 

「ったく。殺すつもりはねえが制御する手段もねえってか? 悪魔の連中は神器ってのがどんだけすごくてどんだけヤバイかよくわかってねえのかよ」

 

 そうあきれると、アザゼルは匙を指さした。

 

「そこの転生悪魔」

 

「へ? お、俺?」

 

 匙がビビりながら答えると、アザゼルは指の方向を匙の神器に向ける。

 

「そいつは黒い龍脈(アブソーション・ライン)だろ? そいつをそのヴァンパイアにつなげれば余分な力を吸い取れる。そうすりゃ暴走させずに練習させることもできるだろうよ」

 

 え?

 

「お、俺の神器ってそんなことできんのかよ!?」

 

「んなことも知らねえのかよ。ホントに悪魔の連中は神器の研究が遅れてんな」

 

 あきれ果てた表情を浮かべると、アザゼルはなんか見えない黒板をたたくみたいなしぐさをする。

 

「いいか? その神器は黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)の異名を持つヴリトラの魂を宿した神器の一つ。かなりすっげえ神器なんだぜ? もうちょっと自分の神器について詳しく知る努力をするんだな」

 

 そういうと、アザゼルは今度こそ振り返る。

 

「ま、ヴァーリがこないだは迷惑かけたな。そこだけは謝っとくぜ」

 

「え、あ、どうも……じゃなくてあんたのほうは!?」

 

 思わずうなづいたイッセーが我に返ってツッコミを入れるが、アザエルの奴は完璧にいたずらっ子の笑顔を向け敵やがった。

 

「そいつは俺の趣味だから謝らねーよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、アザゼルがそんなことを」

 

 会議が終わって戻ってきたお嬢が、ギャスパーをなでながらそうつぶやいた。

 

「わざわざこちらの神器の問題点を解決する方法を教えるなんて、どういうつもりかしら?」

 

「普通に考えれば、その程度なら問題ないという余裕の表れでしょう。堕天使は神器研究の第一人者ですから、そういう傲慢や油断をしてもおかしくありませんわ」

 

 お嬢の疑問に朱乃さんはそう答えるが、この人ちょっと堕天使に当たりきつすぎね?

 

「しかし素直に試すのもどうでしょうか? もしかしたら、こちらにダメージを与えるための誤情報の可能性もあります」

 

「あ、悪い木場。俺達もう試した」

 

 木場の懸念に関してはイッセーの言う通り大丈夫だった。

 

 いや、いざという時のために聖槍を出して警戒してたんだが、あっさりと事態は解決して拍子抜けだったぜ。

 

「肩透かしでした」

 

「もしかしたら、アザゼルさんはいい人なのかもしれないです」

 

 小猫ちゃんは力が抜けてるし、アーシアに至ってはアザゼルを信用し始めている。

 

 まあ、戦争関係に関してはコカビエルの言う通りその気はないんだろうが……。

 

「だからってこっちの情報不足をあえて補うなんて、何考えてんだ、あいつ?」

 

「まったくだ。しかも見てくれよヒロイ」

 

 俺の独り言に反応したイッセーがそう言って携帯を見せる。

 

 そこには一通のメールがあった。

 

―追伸。一番手っ取り早いのは赤龍帝の血を飲ませることだ。

 

 ……至れり尽くせりってこのことかねぇ?

 

 ま、実際に試してみたら暴発もだいぶましになった。

 

 少なくとも発動までのハードルは大きく上がったのか、暴発する回数は大幅に低下。範囲もまた小さくなった。

 

「……目に見える変化が出てきたのはいいことだわ。そこまで急ぐ必要もないし、まずは食事にしましょう」

 

 そういって、お嬢は自分で作ったと思しきサンドイッチをふるまってくれる。

 

 び、美少女の手作りサンドイッチ。初めて食べる。

 

「た、食べるのがもったいねえ!! 冷凍庫に入れて一年ぐらい保存を……」

 

「「しっかりしろ、ヒロイ」」

 

 一瞬トチ狂いかけるが、イッセーと匙が俺を正気に戻してくれた。

 

 持つべきものは友達だな。心強いぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日の夜、俺が周辺のパトロールを行って旧校舎に戻ると、泣き声が聞こえてきた。

 

 なんだと思いながら校舎内を歩くと、そこでお嬢に遭遇する。

 

「お嬢、どうしたんですかい?」

 

「ええ、ちょっと失敗してしまったわ」

 

 なんでも、ギャスパーをイッセーの仕事に同伴させたらしい。

 

 小猫ちゃんの常連だったので人格面は大丈夫だと判断したんだけど、男の娘萌えだったらしく興奮して迫ってギャスパーが暴走したらしい。

 

 で、戻ってきたらこのありさま……と。

 

「あの、これはお嬢だけじゃなくて上役の人たちにも言いたいことなんすけどね?」

 

 前から思ってんだけど、まずやるべきことはこれじゃない気がする。

 

 だって相当のトラウマ刻まれてんだろ。まず間違いなくPTSDもんだろ?

 

 そんなのだったら、いっそのこと精神病院に入院させて投薬も考慮に入れた治療をするべきだ。少なくとも人間の世界なら医者の判断でそうするだろう。

 

「冥界の医者もビビッて接触してないんですか? これ、本当に専門家の治療が必要な手合いですぜ?」

 

「……そうね。確かにそうかもしれないわ。……今度、悪魔関係の事情を知っている医者をあたってみるわ」

 

 お嬢はあっさりと理解を示すが、その分どんどん落ち込んでる。

 

「やっぱり私は未熟だわ。可愛い眷属の心の傷にもまともな対処ができないなんて……」

 

「いや、それは違うでしょう」

 

 俺はそれを否定する。

 

 だって、これはむしろ上役の問題だ。

 

「お嬢はまだ高校生ですぜ? だったらまだまだ成長途上で未熟なのが当然。専門家だってうかつには手が出せないPTSDを封印して放置するような命令を下した上役の方が問題です」

 

 まったくだ。PTSDを自然回復に任せるとか、何考えてんだ?

 

 しかもお嬢の実力が上がったと判断したら、全部丸投げ。それも心の傷に関しては全く持って考慮してないと来たもんだ。

 

 はっきり言って、バカだろう。

 

「……そうね。貴族の悪魔たちの多くは、眷属を家族ではなく駒として認識しているものも多いから」

 

「自力で治せねえなら捨てることもありってか……」

 

 やべぇな。俺、後ろ盾にする勢力間違えたかもしれねえ。

 

 いや、お嬢と魔王様はそういう方向では割とまともっぽいし、ちょっと答えだすのは早すぎたかな。

 

 俺がそんなことを考えていると、お嬢は疲れた表情を浮かべながらも無理に笑顔を見せる。

 

「とりあえず、私は朱乃たちと一緒に会談のための準備があるから行ってくるわ。……イッセーがギャスパーは任せてくれっていうし、ここは任せてみようと思うの」

 

「うっす! 俺もサポートできるところはサポートしてみるんで、お嬢はお嬢のやるべきことをやってください」

 

 俺はそういうと、お嬢の肩をたたいた。

 

「ま、愚痴ぐらいは雇われている分少しは付き合うんで、少しは肩の力抜いてくだせぇ」

 

「ええ、お願いね」

 

 そう言って俺たちは別れる。

 

 しっかしまあ、冷静に考えれば本当酷い話だ。

 

 酷い心の傷を負っている奴をいきなり封印しろとかもう鬼だ。いや悪魔か。

 

 腹を割って会話した悪魔はお嬢が初めてなんで勘違いしてたけど、悪魔の中にも外道はけっこういるってことか。

 

 そんな中でルシファー様は、大丈夫なのかねぇ。

 

 俺は、そんなことを思いながら空を見上げる。

 

 何ていうか、きれいなはずなのに胸騒ぎがしちまって、俺は頭を抱えたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒロイ!! 木場がグレモリー眷属男子フォーメーションに協力してくれないんだ! お前が代わりに協力してくれ」

 

「それは女子に迷惑が掛からないフォーメーションか?」

 

「………」

 

「沈黙は否定とみなす死ねやぁ!!!」

 

 夜食作って持ってきてやったら、イッセーがあほなこと言ってきたので思いっきり〆てやった。

 




良くリアスは眷属の精神的問題を何年もたってるのに治せてないから無能っていう人いるけど、これどう考えても無能なのは上だと思います。

ことギャスパーに関しては、まず間違いなく精神病人に入れるなり投薬を前提とした治療をするべき事案で、それを子供であるリアスに教えることが役目だろうに封印しろとかいう意味不明な行動をしてる。

このあたり、どうしようもないなら役立たずの駒もから駒を好感してもらえばいいだろうとか考えてるんじゃないでしょうか? 実に老害。


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第一章 8 

ついに始まる三勢力の会談。









そして、そこから戦いは激化します。


 

 そして会談当日の夜、ついに会談まで十分を切ろうというタイミング。

 

 外の様子を見てきた俺は、部屋に入るなりため息が出た。

 

「すっげぇピリピリしてるんすけど。これ、最終戦争の幕開けになるんじゃないすかね」

 

「できればそれはやめてほしいわね」

 

 冗談一割で言ってみたんだけど、お嬢も真剣に同意しやがった。

 

 いや、だってこれは流石にねえよ。

 

 どこもかしこも厳命されてるのか挑発行為こそしてねえけどよ? ちょっとでも火種があったら即座に戦闘を勃発しかねねえ程の緊張感。

 

 即座に動ける分、コカビエルとやり合ってた時の方が遥かにましだったね。

 

「確かに、すごい緊張感がここからでも感じ取れるよ。それも納得だけどね」

 

「三大勢力が殺し合うわけでもなく一堂に会すのは、本当に珍しいですもの」

 

 木場と朱乃さんも同じように緊張感を感じているようだ。

 

「まったくだわ。かつての二天龍との戦いのとき以来といってもいいほどの事態。敵意を抱いているのもあるけど、前例がないに等しい状況に不安を感じているのかもしれないわ」

 

「んなこと言われてるぞ、ドライグ」

 

『悪かったな、相棒』

 

 お嬢の言葉に、イッセーがドライグをからかってドライグが憮然とする。

 

 ん? なんかイッセーの緊張感がかなり緩くないか?

 

「どしたんだよ、イッセー。なんか緩くねえか?」

 

「いや、実は昨日天使長のミカエルさんに会ったんだけどさ」

 

 なんでも、イッセーは昨日の夕方にあのミカエル様からアスカロンを受け取ったらしい。

 

 なんでも三大勢力が手を取り合う理由となった二天龍が関わっているので、戦闘能力の低いイッセーの戦力向上もかねて願掛けで渡したとか。

 

 ……いや、龍殺しの聖人の聖剣を天龍の変態の悪魔に渡すのって、どうよ?

 

 まあ、そんなこんなで色々話したそうだ。そこでミカエル様は今回の件で和平を結ぶ気だとおっしゃったそうだ。

 

 アザゼルもコカビエル以外は戦争に興味がないと言っていたし、これはいけるか?

 

 サーゼクス様も和平を考慮に入れていたはずだし、一応どの勢力も戦争を和平で終わらせる気ではあるわけだ。

 

 あとは、その後の交渉関係でこじれないかどうかってわけだな。

 

 あとあるとすれば―

 

「周りの護衛連中が揉めなければ、問題はないということか」

 

「それが少し心配なのよねぇ」

 

 俺の軽口にお嬢がマジ反応を返してきた。

 

「…下手につつけば大戦争ですね」

 

「ま、流石にトップの近くで馬鹿やらかすほど阿保じゃねえとは思うけどな」

 

 小猫ちゃんの軽口にそう答えながら、俺はソファーにどっかり座る。

 

「んじゃ、すんませんけど後はよろしくお願いしますわ」

 

「……本当にいいの? コカビエル打倒に尽力した貴方は、むしろその場にいた方がいいと思うけれど」

 

「流石に信仰心ねえ追放者が、ミカエル様のすぐ近くにいるだなんて信徒達がキレるっすよ」

 

 お嬢に俺はそう答える。

 

 ああ、俺は教会の信徒を見てきたからよくわかる。

 

 信徒達の多くは、悪魔と堕天使を滅ぼそうとする熱意にあふれている連中だ。

 

 それが、もしこの会談で本当に和平が締結されたらどうなることか。

 

 裏切られたと思い、信仰を捨てるのならまだいい。

 

 もし、これまでの信仰心がひっくり返って教えに対する怒りや恨みになったら、確実に大騒ぎになる。

 

 俺が頑張ったところで避けられるとは思えねえけど、それでも余計な突っつきどころを残すわけにもいかねえしな。

 

「ま、一緒に暇を持て余してくれる奴もいるんで、大丈夫っしょ」

 

 俺はそういうと、段ボール箱を突っついた。

 

「ぼ、僕のことは気にしないでくださいぃいいいいい!!」

 

 ビビリの感情が割と出てきている声が返ってきた。

 

 今回、ギャスパーは会議に参加しない。

 

 そもそもコカビエルの一件に関わってないのもあるが、まだ神器の制御ができているとは言いにくいからだ。

 

 うっかり暴発してどっかのトップに停止を仕掛ければ、止まった止まらなかったに関わらず周りが黙っちゃいない。

 

 その所為で、まとまりかけていた会議が破たんして戦争勃発もありうるからな。そこはきちんと考慮しないといけねえ。

 

「御免なさいね。本当なら、皆揃って出たかったのだけれど」

 

『いえいえいえいえ! 使いこなせてない僕が行ったら大変ですぅうううう!! それに、そんなところ行ったら間違いなく倒れちゃいますぅううう!!』

 

「「それは同感」」

 

 俺とイッセーがはもって同意を返した。

 

 そんでもって、イッセーが紙袋を俺に手渡す。

 

「ギャスパーのこと、頼むぜ」

 

「おうよ。年俸分の仕事はすっぜ? 俺は」

 

 中身を見ると、そこにはゲーム機とソフトがいくつか。しかも菓子も結構入ってる。

 

「ヒロイに時間潰せるもん渡しといたからな。あと、寂しくなったら紙袋も被ってろ」

 

『は、はいぃいいい!!』

 

 なして紙袋やねん。

 

 あ、菓子は俺も食べるとするか。まだジャパニーズお菓子には挑戦してなかったんだ。

 

「ま、俺は周辺の映像を見て警戒もするから、ゆっくりしてろよ、ギャスパー?」

 

「はいぃい!! 死ぬ気で落ち着きますぅううう!!」

 

 これ、進歩したんだろうか?

 

 なんかこれ、長い夜になりそうだぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この予測が、別の意味で当たる事を、俺はまだ知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そ、想像以上に緊張感なく終わりそうだな、オイ。

 

 俺ことイッセーは、会談の展開に呆れかけてた。

 

 だって、全勢力のトップが全員和平のつもりで上に話通してたんだもん。意外と揉めなかった。

 

 既に戦争の要因だった聖書の神とかつての魔王が死んでるから、戦争する意味もない。ましてや、戦争を続けてもどこもかしこも滅びるだけ、で意見が一致してるんだもん。

 

 いや、皆平和が優先だって聞いてたけど、それでもこうなるとやっぱり驚くって!

 

 それに、ミカエルさんからアーシア達を追放した理由も聞いた。

 

 なんでも、聖書の神の遺したシステムを、天使達が動かしているとどうしても限界があるらしい。

 

 もう信徒全員に加護を起こす事はできない。そして、システムに悪影響をもたらす可能性があるものは、例え神器でも教会に近づける事は困難だ。

 

 俺の赤龍帝の籠手や木場の魔剣創造もその危険な神器の一つ。そして、アーシアの聖母の微笑も。

 

 神の祝福を受けた者しか治せないはずなのに、神器で悪魔すら治せてしまう。それは信仰に悪影響があるってさ。

 

 なんか、理不尽だよな。

 

 でも、アーシアもゼノヴィアもミカエルさんを責めず、ミカエルさんは頭まで下げてくれた。

 

 だったら、俺がこれ以上言っても意味ねえよな。

 

 そんなこんなで話がだいぶまとまってきて、そしてアザゼルが変なことを言ってきた。

 

「んじゃ、世界に影響を与えかねない連中の意見を聞くとするか」

 

 ん? そんなのいるのかよ?

 

 魔王様や天使長や堕天使総督の他にどんなのが?

 

「おい、言っとくがお前のことだぞ赤龍帝」

 

 へいへい。わかってますよアザゼル……へ?

 

「お、俺ぇええええええ!? 俺、ただの下級悪魔ですけど!?」

 

 なんで俺が!? 俺、そんなにすごい奴だったっけ?

 

 なんか驚くけど、何故か皆何言ってんだこいつ? ってな顔してた。

 

「何言ってんだバカ。お前は二天龍だぞ? もちろんヴァーリにも聞くし、リセスにも聞かないとな」

 

「俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

「コカビエル捕縛に私が関与したことを大々的に宣伝してくれれば文句はないわ。ぜひ私を和平成立の英雄の一人としてもてはやしなさい」

 

 と、アザゼルの護衛っぽいヴァーリとリセスさんが答えてくれた。

 

 あ、リセスさんはけっこうヒロイと相性いいかも。

 

「ったく。本当なら聖槍の坊主にも聞きたいところなんだが、とにかく今はお前だ、赤龍帝」

 

 と、そんなこと言われても反応に困るんだけど……。

 

「んじゃ、わかりやすく説明してやる。和平にならなければ戦争が勃発だ。そうなれば……」

 

 そう言って、アザゼルは少し溜めてあたりを見渡した。

 

 そんでもって、部長を指さして告げた。

 

「リアス・グレモリーを抱けねえぞ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 部長を、抱けない?

 

 抱くって、つまり、H?

 

「逆に平和になったらあとは種の繁栄と存続だ。生めよ増やせよ地にみちよってな! 戦争だったらそんなことしてる暇はねえ。さあどっちだ?」

 

「和平です!! 和平オンリー!! 和平一択!! 部長とエッチしたいです!!」

 

「イッセーくん? 部長のお兄様も見てるんだよ?」

 

 木場に言われて、俺はふとサーゼクス様を見た。

 

「ふふふ。イッセーくん、私が言ったことを覚えているかね?」

 

「はい! 俺はいつか、部長のお乳に譲渡をして見せます!!」

 

 俺が答えると、グレイフィアさんが容赦なくサーゼクス様の後頭部をハリセンでど突き倒した。

 

「……実の妹に何をやらせるつもりですか?」

 

「はっはっは。ちょっとした男同士の馬鹿な会話というやつだよ」

 

「そうそう。まだサーゼクスの奴は悪魔の年じゃあ餓鬼みたいなもんなんだからよ。馬鹿な会話の一つでもしたっていいじゃねえか」

 

 アザゼルが引っ掻き回しに来たよ!!

 

 で、でも、俺も女とエッチなことはしたくてしたくてたまらないです!!

 

「あら、赤龍帝はそんなにエッチなことがしたいの? ……もしよければ本気で私としてみる?」

 

 リセスさん!?

 

 いいんですか!? ホントに今度こそ再チャレンジしていいんですか!?

 

 していいなら俺はぜひしたいです!!

 

 俺はなんとなくアザゼルに視線を向けると、すっごく面白そうな表情をしていた。

 

「おいおい、今の時代は神滅具持ち同士が子作りすんのかよ? こりゃ強いガキが生まれそうだぜ」

 

 おお、堕天使総督から事実上のOKがでた。

 

 これ、マジでできる痛い痛い痛い!?

 

「イッセー! わたしと子作りしたいといったその口で、他の女と淫行したいとかどういうつもり!?」

 

「しゅ、しゅいませんぶひょぉ!?」

 

 しまった! つい欲望に駆られて周りを見てなかった!!

 

 でも、あんな綺麗なお姉さんにエロいこと誘われて嬉しくならない男っているんですか!?

 

「……白龍皇と刃狗(スラッシュ・ドッグ)以外にも神滅具の保有者を集めていたとは。いったい何を確保したんですか? 絶霧(ディメンション・ロスト)とか魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)とか言い出さないでしょうね?」

 

 ミカエルさんが頭痛を堪える表情になり、アザゼルは面白そうな表情を浮かべた。

 

「ところがどっこいそれ以上だ! 聞いて驚けぇ」

 

 なんかすっごい面白そうな表情を浮かべて、自慢げにリセスを指さした。

 

「なんと煌天雷獄だ! どうだ、二番目に強い神滅具だぜ!」

 

 その言葉に、ミカエルさんは―

 

「―寝言は寝て言いなさい、アザゼル」

 

「イヤ本当だって!?」

 

 アッサリとぶった切った。

 

 いや、そのぜにすなんたらはよくわかんないけど、こんなところで嘘を言うほど馬鹿な奴だったのか、アザゼルって。

 

 流石にちょっと疑問に思うけど、近くにいたゼノヴィアも呆れ果てた表情を浮かべた。

 

「バカなことを言うなアザゼル総督。煌天雷獄は教会の戦力だ。彼女が持っているわけないだろう」

 

 あ、そうなんだ。其れじゃあ確かに嘘ってわけで―

 

「……いや、彼女は確かに煌天雷獄の使い手だ。まだ未熟だが中々のものだぞ」

 

 ヴァーリが、ぶった切るようにそんなことを言った。

 

 その言葉に、会議室中の空気が冷たくなる。

 

「……冗談は休み休み言ってください。何度も言いますが煌天雷獄は正真正銘デュリオ・ジュズアルドの保有する神滅具です。亡き主に誓って断言できますし、何なら今から呼びましょうか?」

 

 かなりイラっと来たのかミカエルさんの口調が冷たくなるけど、アザゼルたちはきょとんとして真顔で答える。

 

「………いや、本当にうちのデータで確認が取れてる。なんならこの場の天気を雷雨に変えてやろうか?」

 

 え? え? 何がどういうこと?

 

「あ、あの……。其れってつまり、そのぜにすなんとかが二つあるってことなだけじゃないですか?」

 

「確かに、神滅具が一世代に一つしかないのはあくまでそういう前例でしかない。限りなく低いが、その可能性は確かにあるはずだ」

 

 俺の疑問にサーゼクス様もそう同意する。

 

 あれ? 神滅具って一種類一つだったっけ? そういえばそんなことも言っていたような気がするけど。

 

 そんな時、リセスさんがぽかんとしていった。

 

「えっと、そういえば言ってなかったことがあるんだけれど……」

 

「なにかしら? ちょっとこの状況を収めてくれるものだといいのだけれど」

 

 なんか今までになくシリアスになってるセラフォルーさまの言葉に、リセスさんはすごく言いにくそうにしてた。

 

「……その、私の神器、どれが自分の生まれ持った物かよくわからないの」

 

 はい?

 

 疑問符が部屋中に浮かんでる中、アザゼルだけが何かに気づいた。

 

「……そういやお前は言ってたな。神器のうち二つは金で買ったと」

 

 その言葉とともに、轟音が響き渡った。

 




この轟音が世界を変える。

こっから先、禍の団は大幅に強化されて大暴れします。


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第一章 9 

 

 その轟音の轟が、世界を文字通り揺るがす号砲となったことを知るものはまだこの場にはいない。

 

 しかし、其れこそが文字通り世界を揺るがす大戦の火ぶたを切ったことだけは間違いない。

 

 それは、三代勢力を巻き込むなどという生ぬるいものではなかった。

 

 アースガルズ、オリュンポス、須弥山。

 

 インド神話、ケルト神話、エジプト神話、日本神話。

 

 妖怪、獣人、吸血鬼、妖精、巨人、魔獣。

 

 日本、アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツ、エジプト、中国、ロシアその他もろもろ。

 

 異形も人間も関係ない、文字通り世界を大きく塗り替えることになる戦いの、文字通り最初の一歩がここに踏み出されてしまったのだ。

 

 のちの歴史にこの戦いはこう記されることとなる。

 

 真なる意味での世界大戦。第一次新世界大戦と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会談に波乱が起きる数分前、俺はあることに気づき、立ち上がるとギャスパーの肩に手を置く。

 

 ヤベ。ちょっと油断してたか?

 

「ふえっ!? ど、どうしたんですかぁ?」

 

 震えながらもギャスパーは尋ねてくるが、しかし状況はかなり悪い。

 

「ギャスパー。俺の背中にしがみついてろ」

 

「はい?」

 

「いいから急げ」

 

 ギャスパーにきつめの口調で告げると、戸惑いながらも素直にしがみついてくる。

 

 よし、これで両手は使えるな。

 

 しかしそれで必ずしも切り抜けられるとは限らないのがつらいところ。これ、本気で窮地だぞ?

 

「よく聞け、ギャスパー。……この部屋、包囲されてる」

 

「え?」

 

 一瞬で包囲されたとしか言いようがない状況だ。プロフェッショナルというよりスペシャリストだな、敵は。

 

 狙いは俺かギャスパーかそれとも両方か。そのどれにしても、間違いなくややこしいことになるのは読めている。

 

 と、言うわけで―

 

「強行突破して会議室に逃げ込むぞ。口を開くなよ舌噛むぞ!!」

 

「ええええええええええ!?」

 

 ギャスパーの悲鳴を無視して、俺は全力で駆け出した。

 

 すでに隠す必要もないので、遠慮なく聖槍を展開。其のまま勢いよく天井を突き破る。

 

 そして切れ味を極限まで鈍くさせた魔剣を用意すると、それを足場にして勢いよく飛びあがった。

 

 すぐにでも気が付いて外から突入してくるが、そんなものはもうどうでもいい。

 

 炎を放つ魔剣を生み出すとそのままいくつもぽいと投げ、即座に屋根を突き破って屋根の上に飛び出る。

 

 下の連中はいきなり発生した火事にパニックを起こしているはずだから、これで少しは時間が稼げる。

 

「なに!? 下の連中は何をしていた!?」

 

 おっと、ここにもいたのかよ!

 

「とりあえず雷撃!!」

 

「ぎゃあぁああああ!?」

 

 紫電の双手でしびれさせながら、俺は即座に屋根をかける。

 

 方向は新校舎。そして距離は百メートル前後。

 

 行けるか? いや、やるしかない。

 

「歯を食いしばれ、ギャスパー!!」

 

「ひぃいいいいいいい!?」

 

 俺は全力で助走すると、さらに風を放つ魔剣を大量に呼び出して追い風を作り―

 

「アイ・キャン・フラァアアアアアイ!!」

 

 そのまま大ジャンプ!!

 

「いかん、捕まえろ!!」

 

「逃がすかコラ!!」

 

 悪魔祓いの光の弾丸やら、魔力の塊やら、マジで天使クラスの光の槍やらが飛んでくるが、俺はそれを聖槍ではじいて一気に五十メートル前進。

 

 そのまま落下体勢に入るが、しかし遠慮なく俺は聖槍を振り下ろす。

 

「更にジャンプ!!」

 

「ひえぇえええええええええ!!」

 

 底に棒高跳びの応用で追加ジャンプ!! これでいけるぜ!!

 

「きゅ、旧校舎が大変ですけどいいんですかぁああああ!!?」

 

「高額年俸もらってよかったぜ!!」

 

 弁償できるっていいね!!

 

 そんな漫才をしでかしながら、俺は強引に聖槍で新校舎の壁を突き破り―

 

「タッチダウゥウウン!!」

 

 その勢いで会議室まで飛び込んだ!!

 

「うっわぁあああああ!?」

 

「ヒロイ!? ギャスパーまで!!」

 

 イッセーとお嬢が即座に反応する中、俺はすぐさま立ち上がった。

 

 仮にも元悪魔祓いとしてはミカエル様にあいさつをするべきだろうが、そんなことをしている暇はない。

 

「敵襲です!! 天使堕天使悪魔悪魔祓い!! 混成部隊が旧校舎を包囲してます!!」

 

 くそ! いったいなんでこんなところに出てくるんだよ!! いや、こんな時だからか!

 

「ほほぉ。やっぱり出てきやがったか」

 

 と、アザゼルはゆっくり立ち上がりながら俺が破壊した壁に結界を張る。

 

 こいつ、のんきだな。

 

「出るとは思ったがギャスパーくんとヒロイくんを狙うとは。聖槍を使って私とセラフォルー相手に優勢に立とうとしたのか、それとも邪眼で私達全員の動きを止めようとしたのか……」

 

「しかし三勢力合同ですか。何処の勢力も単独で実行できるほどの戦力は集まらなかったということでしょうか?」

 

 あれ? サーゼクス様もミカエル様も案外驚いてないな。

 

「なんでそんな落ち着いてるんですか!? て、て、敵襲ですよ!? それも三大勢力からっぽいですよ!?」

 

 イッセーの反応が当然だよな。

 

 三大勢力からそれぞれ戦力が出てきて、会談の会場近辺で動くなんておかしいだろうに。

 

「まあ、当然といえば当然なのよん」

 

 そこに、レヴィアたんが平然と立ち上がるとさらに結界を厳重にする。

 

「戦争前に和平を結ぼうなんてしたら、戦争をしたい人たちは邪魔したくなるもの。だからこんなに護衛が多いのよ」

 

 あ、それもそうだな。

 

 はっはっは。俺もまだまだ未熟だってことか。

 

 そして三大勢力首脳陣は、当然その手のことも想定済みってことか。仮にも三大勢力のトップなだけあるぜ。

 

「しかし、あの結界を突破したうえでさらに各勢力の合同部隊とは。流石に妙ですね」

 

 ミカエル様はそういってけげんな表情を浮かべるが、少し嫌な予感がする。

 

 まさか、護衛の中に手引きした奴がいるってのか?

 

 少なくとも会談の関係者に内通してる連中がいんのは間違いねえが、それにしても手際がいいな。

 

 これ、相手も相当の実力者がいねえと成立しねぇぞ?

 

「裏切り者の捜索は後でいいだろ。其れより今はそのはねっかえりをぶっ潰すのに集中した方がいいんじゃねえか?」

 

「それもそうだな。すぐに護衛部隊に連絡しよう。情報を聞き出すためにも捕縛に意識を向けてもらわなければ」

 

 アザゼルの言葉にサーゼクスさまが頷き、すぐに通信用の魔方陣をグレイフィアさんが展開する。

 

 そして一分もせずに、一気に戦闘の音が発生し―

 

「―サーゼクス様。緊急事態です」

 

「どうした?」

 

 グレイフィアさんが顔色を変えた。

 

 なんだ? 確かに数は多いが、上級クラスだっているあの警護部隊を相手にしてどうにかできるとは思えねえんだが―

 

「……この結界の上部に大型航空機が確認されました。それも、B-2スピリットと軍事マニアの悪魔が報告してます」

 

 ―なんかとんでもないこと言ってきたんだけど!?

 




三大勢力トップ「魔法使いが来ると思ったら、爆撃機が襲ってきたでござる(´・ω・`)」

更にハードモードが高ぶってくるぜ!! こっから先はどんどん難易度向上するから4649!


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第一章 10 

 

「B-2スピリットだと!? 何の冗談だそりゃ!!」

 

 真っ先に、アザゼルが大声を上げた。

 

 それもさっきまでの余裕の表情じゃない。明らかに焦りが見える。

 

「びぃつぅすぴりっと?」

 

 なんだそりゃと言いたげな顔でイッセーが繰り返す。

 

 関係者の多くもよくわかってないようだが、しかしすぐに小猫ちゃんが手を上げた。

 

「B-2スピリットはステルス爆撃機です。部長達も映画で見たことがあると思います」

 

 ああ、どっかで聞いたことがあると思ったらそれか。

 

「ステルスか。それなら日本の自衛隊が気づかなくてもおかしくねえな。なにせステルスだもんな」

 

「はっはっはぁ! そんなこと言ってる場合じゃねえだろうが馬鹿野郎が!!」

 

 俺が感心してると、アザゼルが大声で怒鳴る。

 

「B-2はアメリカの虎の子だぞ!! 作んのも維持すんのもアメリカ位じゃなきゃできないぐらい金かかるのが、この人間世界じゃ大して意味のねえ地方都市の上を飛んでるって意味が分かんねえのか!?」

 

 いや、確かにちょっとは警戒してるぜ?

 

 だけどよ、三大勢力の実力者が作った結界が、バンカーバスター程度でやられるわけねえだろ?

 

「言っとくが威力の問題じゃねえ。そんな事よりもっとヤベえ問題があるんだよ」

 

「と、言いますと?」

 

 木場が聞き返す中、アザゼルは冷や汗すら流していた。

 

「つまりだ。……アメリカ合衆国の、其れも相当のレベルの奴が俺達三大勢力をピンポイントに攻撃する気でもなけりゃ、あんなのが動くわけがねえ」

 

 ……あー。確かにその通りだ。

 

 三大勢力がどっかの神話体系が、態々そんなもん運用するわけねえもんな。

 

 つまり、アメリカが三大勢力に牙をむいたってわけか。

 

「……あ、アメリカが敵ってことですか!? なんで? アメリカって基本聖書の教えを信仰してますよね!?」

 

「んなこと俺らがわかるわけねえだろ!! くそ、本気でアメリカと事を構えたら、下手したら人間世界にシャレにならない被害が発生するぞ!?」

 

「すぐにでもバチカンから合衆国に問い合わせます。いくらなんでもこれは看過できません」

 

 アザゼルもミカエル様も割と本気で焦ってる中、さらに事態は変化する。

 

「皆様方。B-2スピリットがウェポンベイを開放。小さな結晶体のようなものが結界上部に向けて降下中です」

 

 その言葉とともに、今度は上から大きな音が響き渡り、さらに振動迄響いた。

 

 今度は何だよ!?

 

「サーゼクス様!!」

 

 グレイフィアさんも、なんかさらに顔色が変わって焦り始めてる。

 

「どうしたのグレイフィアちゃん!」

 

「結晶が突如人間サイズの魔獣へと変貌。更に結界を透過して駒王学園の敷地内に侵入しました。数は千を超えます!!」

 

 おいおいマジかよ!?

 

 外を見れば、確かに人間サイズの魔獣がポンポン現れて、両手から光弾を連射して飛んでいる三大勢力の護衛部隊を攻撃してる。しかも背中からもう一対腕をはやしてるのでマジで光弾の嵐だ。

 

 護衛部隊は反撃しようとしてもできない状況で、障壁を展開して防ぐしかできない状態。

 

 そして、さらに上から降下してきた魔獣は背中の腕の代わりに翼を生やしてその護衛部隊を後ろから強襲する。

 

 おい、これってマジでやばくねえか!?

 

「単純な戦闘能力は下級の連中に毛が生えた程度だが、この数は流石にヤベえな」

 

 アザゼルも警戒心を強くして、攻撃を叩きこむが、数が多すぎてなかなか減らない。

 

 と、思ったら今度は霧みたいなものが出てきて、さらにその魔獣がポンポンと姿を現してきた。

 

 出てくるのは一度に数十体程度だけど、これじゃあ焼け石に水じゃねえかよ!!

 

「これほどの数を投入してくるとは……!」

 

「しかも見たことのない魔獣だ。文献でも出てないと思うけれど……」

 

 ゼノヴィアと木場が驚く中、アザゼルはその様子を見て舌打ちした。

 

絶霧(ディメンション・ロスト)魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)か!! なんでこんな地方都市に上位神滅具が揃って出てくんだよ!?」

 

 絶叫すら上げたアザエルは、即座に後ろに振り向いた。

 

「ヴァーリ、リセス!! 今すぐ地面の連中をぶっ潰してこい。建物の被害はこっちで防ぐし直す!!」

 

「いいね。退屈していたんだ」

 

「同感ね。悲劇を終わらせるこの会談を台無しにする者から和平会談を死守するなんて、英雄らしい戦いだわ」

 

 二人同時に不敵に笑い、同時に飛び出す。

 

「暴れなさい、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)!」

 

「やるぞアルビオン、禁手化(バランス・ブレイク)

 

 その瞬間、ものすごい勢いの破壊の嵐が巻き起こった。

 

 姐さんは文字通り嵐を巻き起こし、魔獣達を空にかちあげる。

 

 そして空中で自由が利かない魔獣達を、ヴァーリが波動弾で一気に撃ち落とした。

 

 魔獣達は攻撃を二人に集中させるけど、姐さんは光力の幕を作って軽々と防ぎ、ヴァーリはヴァーリで意にも介してない。

 

 やっべえ。流石歴戦の神滅具使いだ。マジ強ぇ!!

 

「あ、あれが二天龍の真の力ってやつなのかよ!」

 

『まだまだあんなもんじゃないさ。あれぐらいなら、相棒も禁手になればすぐできるようになる』

 

「まだ、代償なしじゃ禁手にはなれないけどな……」

 

 ドライグがフォローするけど、フォローの仕方を間違えていイッセーはさらに落ち込んでる。

 

 とはいえ、これなら何とかなるか?

 

 と、思ったその時―

 

「……なるほど、どうやら俺が出るしかないようだ」

 

 その言葉とともに、炎の槍がヴァーリに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ」

 

 ヴァーリは舌打ちすると、その攻撃を避けた。

 

 そう、避けたんだ。

 

 さっきまでの魔獣の攻撃を全く気にもしてなかったヴァーリが、攻撃を真剣に回避したんだ。

 

 あのヴァーリがだ。さっきまで魔獣の攻撃を完全に気にしてもいなかったヴァーリが、攻撃を避けた。

 

 そして、その攻撃は矢継ぎ早に表れる。

 

 周囲を取り囲む霧の中から、ヴァーリを狙ってポンポンポンポン大量にぶっ放される。

 

 それをヴァーリは素早くかわすけど、何発が当たって鎧にヒビが入った。

 

 マジかよ。そんなに威力があるのか、アレ。

 

「なるほど、流石は神滅具の使い手だと言っておこうか。なら、これでどうだ?」

 

 と、ヴァーリは両手に魔方陣を生み出すと、部長が俺と協力して放ったような規模の砲撃をぶっ放す。

 

 そして、その攻撃が霧を吹っ飛ばした。

 

 そこにいるのは、眼鏡をかけたローブを着た男だ。

 歳は俺と同じか少し上ぐらいか? なんかやばい雰囲気を纏っていて、怖いな。

 

 と、さらにヴァーリはさっきと同じぐらいの砲撃を叩き込んだ。

 

 って嘘だろ!? 俺と部長がさんざん頑張って練り上げた砲撃を、連射すんのかよ!?

 

 その攻撃はその男を吹き飛ばそうとして、しかし吹き飛ばされない。

 

 男が手をかざすとさらに大量に霧が出て、その砲撃を防ぎ切ったからだ。

 

「……流石にできるな。こちらより格下とはいえ、流石は白龍皇といったところか」

 

「そっちこそ、流石は上位神滅具なだけはあるな」

 

 ヴァーリと男は不敵に笑う。

 

 あの、何通じ合ってるの!

 

 そして、次の瞬間には戦いが再開した。

 

 うぉおおおおおおお!!! なんか、すごいとしか言えねえ!!

 

「チッ。絶霧の使い手は魔法に関してもスペシャリストってことか。まだ若いのによくやるぜ」

 

 アザゼルがそういうと、俺とギャスパーに腕輪のようなものを投げて寄越す。

 

「赤龍帝とハーフヴァンパイアはそいつを付けとけ。特にハーフヴァンパイアは必ず付けろ。それで暴走を制御できる」

 

「は、はい!!」

 

 アザゼルにギャスパーはそう答えるけど、俺は一応制御できるんだけど。

 

「いや、俺はどうしてだよ」

 

「いざという時はそいつを使えば禁手の代償を肩代わりしてくれるんだよ。神滅具が六つも集まってるんだ。お前も疑似的に禁手になるぐらいしねえと死ぬぞ」

 

 マジか! 俺、あんな戦いをすることが前提か!

 

 しかも禁手の代償を肩代わりしてくれるのかよ! 堕天使の技術ってホントに進んでんな!

 

 俺が感心していると、アザゼルは光の槍をヴァーリとやり合ってる魔法使いに放つ。

 

 で、でけえ! あんなの当たったら一発でお陀仏だ!

 

 でもその魔法使いはあっさりと霧で防ぎやがった。あっちもすげえ!!

 

「これはこれは。かのアザゼル総督の一撃を味わえるとは、英雄冥利に尽きる」

 

「そいつはどうも。……禍の団(カオス・ブリゲード)の神滅具使いさん」

 

 挑発交じりの会話が飛び交うけど、今、なんて言った?

 

「カオス・ブリゲード?」

 

「いったいなんですか、それは」

 

 サーゼクス様とミカエルさんの質問を受けて、アザゼルはため息をついた。

 

神の子を見張る者(ウチ)から技術を持ち出して暴走した阿呆を追っている最中に、そいつを含めた三大勢力のはぐれ者や神器保有者達が寄り合い所帯になってる事を掴んだ。その組織の名が、禍の団だ」

 

 マジか、そんなやばそうな組織が誕生してたのかよ!!

 

「ああ。英雄派のゲオルクと言う者だ。お見知りおきを、総督」

 

 ゲオルクとか言ってるその男は、不敵な笑みを浮かべると霧を広げる。

 

「何か質問があるかな? 一つぐらいなら応えてもいいんだが……」

 

「んじゃ、確認したいことがある」

 

 アザゼルは、今までにない真剣な表情を浮かべてゲオルクを見据える。

 

「禍の団のトップが無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)というのは本当か?」

 

 う、うろぼろすどらごん? なんだそりゃ?

 

 俺は全然こっちのこと知らないからわからないけど、とりあえずすごそうなのはわかった。

 

『おいおいマジかよ。まさかあいつが出てくるとはな』

 

 ドライグ、知ってるのか?

 

『この場の会談に出席するような奴ならほぼ知ってるさ。周りを見てみな、相棒』

 

 ドライグに言われて周りを見てみれば、殆どみんな絶句してた。

 

 ギャスパーに至っては、もう立ったまま気絶してるんじゃないかってぐらい顔を青ざめさせている。

 

 そ、そんなにすごい奴だってのかよ。

 

 しかもサーゼクス様やセラフォルー様、ミカエルさん迄顔色が悪くなったり表情がひきつってるところを見ると、この場にいる人達でも勝ち目がないぐらいの化け物だってのか?

 

 俺が何とかやばいことだけは理解すると、同時に魔方陣が現れて声が聞こえる。

 

『ええ、その通り。オーフィスこそが我ら禍の団(カオス・ブリゲード)のトップです』

 

 その言葉に、魔王様達が一斉に顔色を変える。

 

「―いかん!!」

 

「皆伏せて!!」

 

 二人の声が飛ぶと同じタイミングで、大爆発が起きた。

 

 な、ななな、なんだこりゃぁあああああ!!!

 




本作では、英雄派はガンガンしょっぱなから話にかかわっていくスタイルをとっております。

というのも、いろいろあって曹操たちの考え方に変化が起こっているからです。

……そのせいで、被害の規模などがシャレにならないレベルに高まっているのですがね。


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第一章 11 二つの聖槍

 

 ……爆発が起きるが、奇跡的にも全員無事だった。

 

 危ねぇなオイ。間違いなく今ので俺達の半分以上をぶち殺す気だったぞ、オイ。

 

 そんな攻撃を喰らって、人間である俺、ヒロイまで完全に無事だったのは、各勢力の首脳陣が一斉に防御障壁を張っていたからだ。

 

 とっさに張ったものとはいえ、協力しなければいけなかったとか、どんだけだよ。

 

 俺がちょっと戦慄していると、まだ輝いている魔方陣から一人の美女が姿を現す。

 

「ごきげんよう、偽りの魔王とそれに与する愚かな天の使い達。私のことは覚えていますか?」

 

「……カテレア、やはり君達も動いていたか」

 

 その女性に、サーゼクス様が苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。

 

 カテレア、カテレア……ねえ。確かどっかで聞いたことがあるような気がするんだが、どこでだ?

 

 俺の疑問に答えるように、ミカエル様が警戒心を強めて口を開く。

 

「先代レヴィアタンの末裔、カテレア・レヴィアタン。和平成立を真っ先に妨害するのはあなた方旧魔王派だと思っていましたが、やはり来ましたか」

 

 思い出した!

 

 先代四大魔王の血を継ぐ者を筆頭とする旧魔王派。

 

 先代魔王が滅びた後も徹底抗戦を主張して、現四大魔王達に追放されたとかいう、あの旧魔王派の代表の一人か。

 

 確かに、徹底抗戦を謳っていた奴らなら、和平なんぞ認めるわけがねぇわな。

 

「わかっているとは思いますが、あえて言いましょう。我々旧魔王派はその殆どが禍の団への参加を決定しました」

 

 その言葉に、俺達は全員警戒心を強める。

 

「……カテレアちゃん! なんでこんなことを!?」

 

 セラフォルー様の悲し気な声に、カテレアは忌々し気に顔をゆがめる。

 

「貴女に言われたくありませんね、セラフォルー。この私からレヴィアタンの座を奪っておきながらよくもぬけぬけと……!」

 

 かなりイラついた状態にカテレアだが、状況が有利とみたのかすぐに冷静さを取り戻す。

 

 状況は自分に有利だとわかってやがる奴の表情だ。

 

 んの野郎。神滅具が四つもいるってのに余裕綽々じゃねえか。

 

「ここになって新旧魔王の確執が爆発したってわけか。ま、動くとしたらここしかないわけだがな」

 

「すまない。こんなことが起きないよう、目を光らせていたつもりだったのだが……」

 

 サーゼクス様。アザゼルは茶化しているだけだと思うんでスルーでいいっす。

 

 てか、余裕だなアザゼル! 状況わかってんのか!?

 

「カテレア・レヴィアタン。オーフィスに下ったというのですか?」

 

「その通りですミカエル。オーフィスによってもたらされる力を使い、私達は世界を変革します」

 

 ミカエル様の言葉を肯定したカテレアは、得意げな笑みを浮かべる。

 

「とはいえ、あくまでオーフィスは我らが新世界の象徴ですが。システムそのものは私達が構築します」

 

 スケールでかいな、オイ!!

 

 なに、こいつら世界征服でもする気なの!? 馬鹿なの!?

 

 ってかオーフィスとか世界最強らしいじゃん! そんなの敵のバックについてるとか、かなりやばくねぇかよオイ!!

 

 俺達が、そのちょっとシャレにならないやばさに程度はともかく戦慄したその時だった。

 

「……くっくくく」

 

 アザゼルが、腹を抱えて笑いをかみ殺していた。

 

 いや、これ声がでかいから挑発でそうしてんだろう。

 

 もちろんカテレアも聞こえているから、一気に不機嫌な表情を浮かべる。

 

「何がおかしいのですか、アザゼル」

 

「いや、だってお前さんよぉ。さっきからテレビ番組で真っ先にくたばる悪の幹部が吐くセリフだぜ?」

 

 その言葉に、カテレアの頬がひきつった。

 

「いや、しっかしそういうやつに限って最初の難関らしく結構強いから困るんだよなぁ。……どうせ、オーフィスから何か貰ってんだろ?」

 

「ええ、彼には力を貰いました。この力をもって私達は冥界を変革する」

 

「だからそれが真っ先にくたばる連中の定番だってんだよ、馬ぁ鹿」

 

 カテレアの宣言をそう茶化すと、アザゼルは一歩前に出た。

 

「サーゼクスにセラフォルー。こいつは俺がもらう。いいな」

 

 つやのある黒い翼を広げて、アザゼルは臨戦態勢に入る。

 

 それをみて、サーゼクス様は視線をカテレアに戻した。

 

「………下るつもりはないのか、カテレア」

 

 正真正銘の最後通告。返答次第で戦闘が勃発する。

 

 そして、その返答は俺でもわかるぐらいわかりきっていた。

 

「あなたは良い魔王でした。ですが最高ではありません。私達は新たな魔王として君臨させてもらいます」

 

「そうか。……残念だ」

 

 その言葉を合図に、二人は壁を吹っ飛ばして戦闘を開始した。

 

「堕ちた天使の総督よ! 我らが新世界の礎となりなさい!!」

 

「かかってこいや終末の怪物の末裔! いっちょハルマゲドンとしゃれこもうや!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の目の前で、とんでもない超絶バトルが繰り広げられている。

 

 コカビエルとコカビエルが戦ったらああなるんだろうなってレベルの激しい戦いだ。流石各勢力のトップ同士の激突。

 

 ぶっちゃけ、近くにいたら余波で俺死にそう。

 

「……リアス、いや、皆」

 

 その戦いを見守りながら、サーゼクス様がお嬢を含めた俺たちに告げる。

 

「私達は人間達に被害を生ませない為にも結界を維持しなくてはならない。そして護衛部隊は地上の対空砲火と空の攻撃を同時に凌ぐので手いっぱいだ。誰かが数を減らす必要があるが、白龍皇は絶霧が抑えている」

 

 その言葉に視線を逸らすと、既にヴァーリとゲオルクの戦いはヒートアップしていた。

 

 霧に紛れてあらゆるところに転移しながら、霧を利用してあらゆるところから魔法を叩き込むゲオルク。

 

 その攻撃を時に半減して時に弾き飛ばして迎撃しながら、反撃の砲撃を放つヴァーリ。

 

 こっちもこっちで超絶バトルだ。どこもかしこも俺より格上が多すぎだろ。

 

 で、今は姐さんが一人で魔獣の相手をしてるが、流石に数が多すぎる。

 

「リセスくんのサポートを頼む。おそらく敵も追加が来るはずだ」

 

「魔王様の勅命とあれば、断る理由はありませんわ」

 

 お嬢は真剣な表情で頷くと、後ろを振り向き俺達に檄を飛ばす。

 

「私の可愛い下僕達! 三大勢力の会談を妨害した狼藉の報いを味合わせるわよ!」

 

『はい、部長!!』

 

 一斉に返事を知るイッセー達を見て、俺も聖槍を構える。

 

「んじゃ、俺も仕事をきちんとするしかないわな」

 

「同感ですね。私達も私達にできる事をしなくてはいけません」

 

「了解です、会長」

 

 ソーナ会長と椿姫副会長も戦闘態勢に入る。

 

「サポートタイプのギャスパー君とアーシアちゃんは任せてねん」

 

「何とか通信の復旧も試みます。皆さん、どうか凌いでください」

 

 セラフォルー様とミカエル様の言葉に頷き、俺達は覚悟を決める。

 

 そして、俺達は一斉に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姐さん! 無事か!」

 

「ヒロイ? あなたも来たの?」

 

 かすり傷一つなく戦闘をこなしている姐さんに駆け寄り、俺は聖槍を構える。

 

 魔獣達は姐さんが起こした竜巻に吹き飛ばされるが、しかしそれでも数が圧倒的に多い上に、いい加減学習したのか近づいてこない。

 

 これは俺も接近して戦闘した方がいいかね。

 

「流石に疲れただろ? 一回アーシアのところに行って休憩しとけよ。こっちは俺が何とかする」

 

「大丈夫よ。この程度でやられるほどやわじゃないわ」

 

 くぅーっ! 震えること言ってくれるぜ!! 流石は俺の英雄だな、オイ!

 

 いかんいかん。今は戦闘中だから気を引き締めねえと。

 

「ここは大丈夫だから、あなたは他の方面を頼むわ。これでも期待してるのよ?」

 

「OK姐さん! 期待に応えて見せるぜ俺は!!」

 

 気合入る声援までくれるとは最高だな。よっしゃ、俺も頑張るぜ!!

 

 そしてとにかく敵の集まっているところに駆け出そうとした時だった。

 

「……いや、その必要はないさ」

 

 声が、後ろから聞こえてきた。

 

 俺と姐さんは同時に振り返り、得物を突き付ける。

 

「誰かしら? まあ、予想はできてるけど」

 

「どうせ敵だろ? 遠慮なくぶっ飛ばしてやろうぜ?」

 

 この状況下で俺達に突っかかってくる奴は敵でいいだろ。

 

 どちらにしたって、遠慮何てしてる必要はないんだからな。

 

 その対応に、目の前にいる奴は苦笑を浮かべる。

 

「やれやれ。流石に神滅具の使い手なだけあって勇ましいことだ」

 

 目の前に立っているのは一人の青年。

 

 イッセーより少し年上程度のその男は、学生服のような服に、さらに中国に民族衣装を腰につけていた。

 

「初めまして、リセス・イドアルにヒロイ・カッシウス。俺は禍の団の英雄派を率いている、曹操というものだ」

 

 その曹操とか名乗った男は、笑みを浮かべると楽しそうな表情を浮かべた。

 

「神滅具の偽りの使い手二人よ。どうか、俺が今どこまでできるかの試金石となってくれ」

 

「……偽りぃ? おい、俺にしろ姐さんにしろ、正真正銘神滅具の使い手だぜ?」

 

「デュリオとかいうのが煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)を持っているのと何か関係があるのかしら? それなら、聞き出しておいた方がよさそうね」

 

 俺と姐さんはいつでも仕掛けられるように腰を落としながら、曹操を警戒する。

 

 よくわからねえことを言っているのは確かだが、わかることもある。

 

 こいつは、おそらく俺達よりもテロ勃発前に発覚した煌天雷獄のダブリについて詳しい。

 

「あなたは、私に神器を売った男の知り合いか何か?」

 

「肯定しよう。だが、それ以上を知りたいのなら手合わせをしてもらう」

 

 なるほどわかりやすい。

 

「つまりぶっ倒せば吐くってことか!!」

 

 俺は遠慮なく聖槍を構えて接近する。

 

 何だろうが、どっちにしたって敵だってことには変わらねえんだ。

 

 だったらさっさとケリをつける!! 奴に何かさせる隙は与えねえ!!

 

 俺の突進を見て、曹操はにやりと笑う。

 

「手札を出させることなく倒す算段か。だが―」

 

 曹操は一瞬だけ手元を光らせると、俺の聖槍を受け止める。

 

 ―いや、ちょっと待て。

 

「―偽りの使い手である君に後れを取るほど、真の使い手は甘くないさ」

 

 なんで、嘘だろ?

 

 なんで、奴の手元に―

 

「―黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)が、二つ?」

 

「―その通り。さあ、奇跡の共演を始めようか」

 

 ―聖槍があるんだよ!?

 




ついに邂逅、二人の聖槍使い。

次の話では、この話の最も重要な人物が登場します!!


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第一章 12 第四の超越者。汝は神器の支配者なり

明日は投稿できないので、常連さんの感想も来たしもう一つ投稿します


 

Other Side

 

 その光景を見て、最も衝撃を受けたのはミカエルだった。

 

「あ、あり得ない……っ」

 

「ミカエル様、結界が綻びます、落ち着いてください」

 

 グレイフィアに指摘されてすぐに我に返るが、それでも動揺は消しきれない。

 

「あり得ません。煌天雷獄はともかく、黄昏の聖槍に同型が存在できるわけがない」

 

「そうね。一部の神滅具は代えの利かないコアが使用されてる。聖槍もそのうちの一つだったはずよん」

 

「ああ。二天龍の魂を核にする赤龍帝の籠手と白龍皇の光翼など、一部の神滅具はその製法ゆえに同じものは作れない。……あれは本当に本物なのかね?」

 

 セラフォルーとサーゼクスもまた、僅かながらに動揺していた。

 

 神器の中でも、ポテンシャルだけなら神殺しを単独で可能にするレベルで高い神滅具。

 

 これまでは全十三種でかつ同型が存在しないがゆえに各勢力もそこまで重要視していない節があったが、これが現実である以上、状況は大きく動くだろう。

 

 なにせ、聖槍であるはずの黄昏の聖槍すら2本目が前に存在しているのだ。

 

『その通り♪ 神滅具が一種類一つしかないのは、もはや過去の出来事なのさぁ!!』

 

 そんな声が、響いた。

 

 サーゼクス達が一斉に声のした方向へと視線を向けると、結界の一部が裂けて人影が舞い降りる。

 

 しかし、その頃には既に戦線は三大勢力側に傾いている。

 

 地上の魔獣の対空砲火をリアス達が減らした事で、空で戦っている護衛達が体勢を立て直す事に成功したのだ。

 

 今回の会談は、その前代未聞さゆえに過剰なまでの戦力が投入されている。それこそその気になれば他の神話体形の拠点の一つぐらいなら楽に攻め落とせる量と質だ。

 

 それがそれぞれの勢力の分だけ存在している。……ただの魔獣でどうにかできるような規模ではない。

 

 ゆえに、一部の者達が速攻で動いた。

 

 それをなすのは最上級悪魔とその眷属。

 

「魔王様の御前でこの狼藉! 死によって償うがいい!!」

 

 莫大な魔力が集まり、そして放たれる。

 

 その火力は間違いなくこの場の者達でも最高峰の一撃であり、その気になれば神クラスにも深手を負わせる一撃だ。サーゼクス達でも本気の迎撃を必要とするほどのものである。

 

 誰もが、この場に現れた新参者に痛打が入ることを確信した。

 

「―ちょっとうるさいよ」

 

 その瞬間、深手を負ったのはその最上級悪魔の方だった。

 

 乱入者が放ったのは素手の一閃。単純に魔力によって攻撃を強化して放ち、余波を飛び道具にするというシンプルなものだ。

 

 しかし、その一線で最上級悪魔クラスの渾身の一撃はあっさり霧散。

 

 そして、余波はそれだけで最上級悪魔に即座の治療が必要なほどの重傷を負わせたのだ。

 

「主!?」

 

「貴様……っ」

 

 王を傷つけられたことで激昂する眷属達が襲い掛かろうとするが、しかしそれに割って入るように魔力の塊が割って入る。

 

 一発一発のサイズは大したことはない。しかしそこに込められた魔力は上級クラスすら一撃で消し飛ばすほど強力。そしてその数は一瞬で十数発も存在する。

 

 滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)。サーゼクス・ルシファーの放つ妙技である。

 

「下がっていたまえ。君達では勝てる相手ではない」

 

 サーゼクスが、いつの間にか空へと浮かび男と相対する。

 

「しかし魔王様! このままでは結界が―」

 

「気づいていないのかね? 彼が来たその時点で、その数倍は強固な結界が張られている」

 

 転生悪魔の進言は、もう意味のないものと化していた。

 

 既に三大勢力の重鎮達が張った結界は意味をなさない。其れよりはるかに強固で頑丈な結界が薄皮のように張られているからだ。

 

 そして、其れをなしたのもおそらく目の前の男。

 

 まず間違いない。この男こそ、今この場で最強の存在である。

 

「オーフィスではない。ならば君は一体誰だ?」

 

 それがあまりにも危険度を感じる。

 

 これほどの実力者が、今まで無名だということが信じられない。

 

 だが、間違いなくサーゼクスは知らない。そしてこの場にいる者達が誰も知らない。

 

 神滅具が児戯に感じるほどの妙技。それほどの使い手ならば、まず間違いなく名と顔が知られてなければならない。

 

 まるで、突然いきなりこの世界に現れたかのような違和感すら感じさせる。

 

「こちらでははっじめまして、サーゼクス・ルシファー!」

 

 その男は、その声とともに両手を大きく広げる。

 

 そしてその瞬間、滅殺の魔弾がすべて消滅した。

 

「……っ!」

 

 その芸当にサーゼクスはさらに警戒度を上げ、そしてそれゆえに即座に動けない。

 

 どう考えても彼の戦闘能力は桁違いだ。

 

 低く見積もっても神クラス。それも主神クラスの領域だとすら考えられる。下手をすれば龍神をもってしてもてこずるかもしれない。

 

 それほどまでの実力者と戦う方法は一つしかない。少なくともサーゼクスが取れる行動では一つしかない。

 

 そして、そんなものを発動させれば、この場にいる大半のものを消滅させてしまう。

 

 そんな状況下で、男は不敵な笑みを浮かべると、優雅に一礼した。

 

 道化師のようなおどけた態度。それがむしろ警戒心を強くする。

 

「僕の名前はリムヴァン。禍の団副官、リムヴァン・フェニックスっす!」

 

 軽く手を挙げての挨拶。

 

 その軽さが、むしろ恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前にいる男は、槍を肩に置きながら自然体だった。

 

 そして、俺は動けない。

 

 脇腹を刺され、さらに人間とは思えない威力の蹴りを叩き込まれた。

 

 こりゃあばらが五本は折れてんな。

 

 くそ、アーシアも近くにいないし、これはまずい。

 

「まったく。これがまがい物とはいえ聖槍の使い手とは……と、言いたいところだが驚いたよ」

 

 曹操はなぜか感心してやがる。

 

 苦も無く俺をぶちのめしておきながら、なんだ、この態度は。

 

 俺が睨むと、曹操は片眉を上げて怪訝な表情を浮かべる。

 

「……気づいていないのか? 君は一つだけ、俺よりも槍の性能を引き出している」

 

「敵を前に講釈とは余裕ね!」

 

 そんな曹操相手に真正面から光を放つ姐さんだが、その肩から血しぶきがほとばしる。

 

 いつの間にか、槍そのものが十メートルも伸びて姐さんの肩を切り裂いていた。

 

 いや、むしろ姐さんは反応してとっさに体をずらしていた。そうでなければ頭をやられていたはずだ。

 

 しかし姐さんはそれを気にせず、逆に槍を掴む。

 

 そして、強引に引っ張った。

 

 なんつー馬鹿力だよ姐さん! そこも素敵だ!!

 

 姐さんはそのまま強引に曹操を引き寄せると、蹴りを放つ。

 

 その足裏には氷の槍が形成され、そのまま止めを刺す体勢だった。

 

「流石はジークを一蹴した多重神器保有者。やるね」

 

 それを、曹操は膝蹴りで砕く。

 

 そしてそのまま強引に姐さんの腕を振りほどくと、一回飛び退って後退すると同時に、槍からオーラを放った。

 

 それを氷の壁を作って迎撃しながら、姐さんは俺を庇う。

 

「無事ね!? とにかく意識をしっかり持ってなさい!」

 

「いや、姐さんも肩が……」

 

「それは大丈夫だよ、偽りの使い手くん」

 

 曹操が、俺の言葉を遮る。

 

「彼女は始原の人間(アダム・サピエンス)を移植している。それは人間が持つ機能をすべて向上させる神器でね、自然治癒力もずば抜けているのさ。既に血は止まってるよ」

 

 マジだ。本当に出血は止まっているし、傷口も塞がりかけてる。

 

「あなたも持っているようね。さっきの交通事故じみた威力の蹴りはそれによるものね」

 

「正解だ。俺は弱っちい人間なんでね、それ位の備えはしておかないと」

 

 そう告げる曹操は、再び俺に視線を向ける。

 

「で、彼が大丈夫だという理由だが、それは単純だ。彼は槍の加護を俺より受けている」

 

 や、槍の加護だと?

 

「槍そのものの攻撃力、さらに槍の伸長やオーラの放出といった機能の引き出しぶりに関しては俺の方が圧倒的に上だ。だが、性格上の問題か、槍の中に眠る聖書の神の遺志から加護を受けているという点だけは、彼は俺より優れているということ。だから致命傷は負ってない」

 

 そういうと、曹操は苛立たし気な表情を僅かに浮かべる。

 

「まったく、この英雄の末裔より一点でも聖槍を引き出すとはね。俺もまだ未熟ということか」

 

 その言葉で苛立ちを吐き捨てきったのか、曹操は再び薄ら笑いを浮かべると、姐さんへと視線を向ける。

 

「さて、リセス・イドアル。今回俺が来た理由は大きく分けて二つだ」

 

「何かしら?」

 

 両手にいつの間にか斧を持ち、さらに炎を纏わせながら姐さんは聞き返す。

 

 それに対して、曹操は指を一本たてた。

 

「一つは見せつけだよ。そこの偽りの聖槍使いが、真なる聖槍の担い手だと思われ続けるのは屈辱でね。真の使い手としての能力を見せつけたかった」

 

 さっきから俺のことを偽りだのなんだのと、マジでむかつく。

 

 むかつく……けど、実際手も足も出てないんじゃ意味がない。

 

 くそ! 英雄の末裔とかほざきやがったが、英雄本人ってわけでもねえのにこれだけ強いのかよ。

 

 俺のいら立ちを知ってか知らずか、曹操の野郎は不敵な笑みを浮かべてもう一つの指も立てる。

 

「二つ目は体験したかったのさ。俺達という完成品を生み出す礎となった、二人の成功作の性能を……ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……君が、ヒロイ君とリセス君に神器を移植したというのか?」

 

 サーゼクス様の攻撃を全部無効化しながら、リムヴァンとか言う野郎はとんでもないことを告げた。

 

「YESYESYES! ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルに神器を移植したのは、何を隠そうこの僕だよん!」

 

 ふふんと得意げになりながら、リムヴァンはそう言い切った。

 

「君は既に、神滅具の製造にまで成功しているというのか」

 

「黄昏の聖槍も絶霧も魔獣創造も十個前後持ってるネ。封印系は相性が悪かったから木っ端もんしか保有してないけど、大小合わせて数千個はかき集めたアルよ」

 

 ふ、ふざけた物言いだけどマジでヤベえこと言ってる。

 

 だって、神滅具って聖書の神様が作った、ものすごい神器なんだろ? しかも一つ一個しかないはずの。

 

 それをいくつも持ってるなんて、いったい何者だよ、こいつ!!

 

 ああもう、サーゼクス様も絶句してるし。とんでもないことだけは嫌ってぐらいよくわかる。

 

「何てこと……っ! 同種の神滅具を複数確保しているなんて、異常としか言いようがないわ」

 

「しかもそれをテロリストが保有しているなど。最早これは、三大勢力だけの問題ではありません……!」

 

 部長も会長も驚いていることが隠せていない。

 

 他の皆も、ヤバイのがよくわかっているのか動けない。

 

 これ、マジでやばいんじゃねえか、おい!

 

 そんな視線を浴びながら、リムヴァンはなぜか不機嫌な表情を浮かべた。

 

「む~ん。テロリストとは失礼だなぁ。僕達禍の団は、もっとすごい組織なんだからね?」

 

 子供を叱るようにそんなこと言うけど、テロリスト以外の何物でもないだろうが。

 

「危険因子の集まりをテロリストと呼称しない程、我々は耄碌してはいない」

 

「……ああ、確かに今の段階だとそうなるかな? ま、すぐにその認識は変わるだろうけどね」

 

 サーゼクス様の言葉に、リムヴァンは不敵に笑うだけ。

 

 くそ、なんだこいつ。

 

 得体が知れない。わけがわからない。

 

 とにかく、こいつはやばい!!

 

「……一つ聞こう。この結界や私の力を無効化したのは、神器によるものだね?」

 

 サーゼクス様の確認するようなお言葉に、リムヴァンは小さく頷いた。

 

「もち。僕が研究して開発した、複合禁手によるものさ!」

 

 ふ、複合禁手?

 

 聞いたことないぞ、そんなもの。

 

 皆疑問に思ったのを察したのか、リムヴァンは小さく笑う。

 

「簡単だよ。複数の神器を組み合わせて一つの禁手を生み出すのさ。神器の組み合わせ方や数次第じゃ、神滅具の禁手を超える出力だって発生できる」

 

 な、なんだそりゃ。マジかよ。

 

 そ、其れなら。神器をいくつも集めている堕天使側は同じようなことをすることができるってことか。

 

「んなことできるわけねえだろうが馬鹿野郎!!」

 

 と、そこでカテレアと戦ってるアザゼルが声を荒げた。

 

「神器は移植するだけでも本来の能力の低下や寿命の削減が起こるリスクがでかいしろもんだ! しかも同時使用なんてそれだけで失うもんがでかすぎる!! それを複合させて禁手に至らさせるなんて―」

 

「できるんだよ、僕はね」

 

 アザゼルの言葉をさえぎって、リムヴァンははっきり言った。

 

「……生まれつき究極の羯磨(テロス・カルマ)を持っていた影響か、僕はその手の可能性をある程度操作できる。だから神滅具を十個以上移植したうえで同時運用できるし、その気になれば引っこ抜けるよ? それも、相手を殺さずに」

 

「………っ」

 

 さらりと言われて、アザゼルは目を見開いて固まった。

 

「神滅具の適合者の発見が、さらに他人にも理論上複合禁手を発動させるところまで行かせてくれたよ。あの手この手で実験したけど、成功体のヒロイくんとリセスちゃんには感謝しないと♪」

 

 それを面白そうに見て、リムヴァンはさらに告げた。

 

 そ、そんなにすごいことなのかよ、其れって!

 

「あり得ない。そんなことが本当にできるのなら、それはもう超越者の領域だ……っ」

 

 サーゼクス様も顔色が真っ白になってるし!

 

 そんな二人の様子を見て、リムヴァンは得意げに嗤った。

 

「四番目の超越者……な~んて、呼ばれたこともあったっけ」

 

 な、なんかよくわからないけど、こいつ化物だ。

 

「恐ろしいでしょう、アザゼル。ある意味であなたすら凌駕する神器の含蓄は、我々にとっても大いなる力となりました」

 

 カテレアも、あえてアザゼルを攻撃しないで挑発してくる。

 

 その言葉に、アザゼルは青筋を浮かべてカテレアをにらんだ。

 

「……これだけの化け物を保有してたとはな。この調子じゃ、俺達の想像を超えた強者達がゴロゴロいそうじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ。俺もいるしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、アザゼルが全く想定してない奴からの攻撃を受けて地面に墜落した。

 

 Side Out

 




ついに登場、本作の最重要キーパーソン、リムヴァン。

原作と違う要素は大体この男が根幹にかかわってます。つまり本作における大体こいつのせい担当。

本当に神滅具を大量に確保している男であり、アザゼルですら困難かつ失うものが多いと断言する神器の多重移植を平然と行える化け物じみた体質の持ち主です。相性というものはありますが、それでもその能力は驚異的。拡張性に特化した超越者といっても過言ではありません。


そんな奴が今まで無名だったのには理由がありますが、それはまだこの段階ではわからないはずです。

ですが、いくつもの神滅具、こと上位陣滅具を平均して十個以上持っているのは明確な事実。其の影響力によりこの男は禍の団の事実上のトップに君臨しております。B―2の派遣もこいつがやったこと。

ちなみに精神性としてはリゼヴィムに近しいタイプです。……嫌な予感を感じた貴方。それは正解です。








ちなみに、本作における敵キャラ強化はリムヴァンが提供した神器によるものだとお考えください。オリジナルにしろ原作にあったものにしろ、いくつもだしてきますのでお楽しみに。


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第一章 13

運良く投稿できましたー♪




 それと、感想で指摘されたので補足説明。

 ヒロイは曹操と比べると聖槍使いとして格が数段劣りますが、唯一聖槍に宿る聖書の神からの加護だけは上回っております。この辺、アーシアの即効性やレオナルドのアンチモンスター精製能力などを参考にしました。都合が合えば同じ神器でも性能さが出るような描写を出したいです。

 ヒロイの場合は聖槍からの加護により、ディフェンス面が曹操より上です。破壊の聖剣や赤龍帝の籠手でどつかれたり、全力疾走の悪魔の自転車ではねられても割とぴんぴんしてるのもそれが理由だったります。




 それと、箇条書きマジックですがヒロイと曹操の来歴は結構似通っていることに今日気づきました。

 どちらもはたから見れば底辺といわれるような環境の出身で、化け物に襲われたことがきっかけで人生が一変し、そして英雄を目指している。

 ……ヒロイの方が環境的には下ですが、曹操は半端に親に愛されていたため、死んだこと射思うところがあるなどの違いはありますけどね。


 なんだぁああああ!?

 

 俺は、いきなり自分のすぐ近くに墜落してきたやつを見ていろんな意味でびっくらこいた。

 

「おやおや総督殿。その様子ではついにあいつが動いたようですね」

 

 曹操が言う通り、墜落したのはアザゼルだった。

 

「痛てて……っ。この状況で反逆かよ、ヴァーリ」

 

 起き上がったアザゼルの視線の先には、ヴァーリがいた。

 

 おい、叛逆ってことは……っ。

 

「貴方、まさか禍の団についたの!?」

 

「そうだよリセス。こっちの方が面白そうなんでね」

 

 そう告げるヴァーリは、宙に浮かびながら平然としていいた。

 

「真なる白龍神皇になるといっていた男が、夢幻の宿敵たる無限に降るの?」

 

「そんなつもりはない。あくまで協力するだけだよ。魅力的なオファーをもらったんでね」

 

「いつの間にそんなもんもらったんだよ。聞いてねえぞ?」

 

 姐さんに対してこたえたヴァーリの言葉に、アザゼルが追加で質問する。

 

 ホントだよ。っていうかオファーってなんだオイ。

 

「オファーを受けたのはコカビエルを連れて帰るときさ。そして、オファーの内容は「アースガルズと戦ってみないか」」

 

 アースガルズ。北欧のアース親族の集まりか。

 

 なんだそりゃ。こいつ、強い奴と戦うためだけに組織を裏切るってのか!

 

「アザゼルは絶対に反対するだろう? 戦争が嫌いだもんな」

 

「当たり前でしょう!! あなた、アザゼルに「世界を滅ぼす要因にだけはなるな」って言われたの、忘れたの!?」

 

「関係ないね。俺は強い奴と戦えればそれでいい」

 

 姐さんの言葉もヴァーリには届かない。

 

 そして、其れをあざ笑うかのようにカテレアの声が響いた。

 

「彼の性根を知っておきながら放置していたあなたの失態です。世界の安定を壊しかねない神器の持ち主を殺害してきたあなたらしくもない」

 

「痛ぇところをついてくんな、カテレア。俺だって殺さずに済ませられるならできるだけそっち取ってんだよ」

 

「その甘さが原因で、白龍皇の造反を招いては意味がないでしょう」

 

 反論できねー。

 

 暴走の危険性がある神器保有者を殺しておきながら、一番危険な奴を放置してたとかさすがにないわー。

 

 いや、暴走は暴走でも神器じゃなくて使い手が暴走してるんだけどよ。

 

 くそ、こんな時戦えないとかさすがにキツイ……っ。

 

「ヒロイ!」

 

「大丈夫かよ!?」

 

「すぐに治します!」

 

 と、そこにお嬢がイッセーとアーシアを連れて駆け寄ってくる。

 

 よし。これでとりあえず怪我を治療することはできるはずだ。

 

「悪ぃ! 直ぐに回復を頼む。……こんなところで寝てらんねぇ」

 

「はい! 直ぐに治しますからしっかりしてください!!」

 

「ヴァーリ! 裏切り者はてめえか!!」

 

 アーシアが俺を治してるなか、イッセーはヴァーリに指を突き付けてにらみつける。

 

 それを不敵に笑って受け流しながら、ヴァーリは視線を俺に向けた。

 

「しかし君は曹操に一蹴されたか。しょせん後天的な保有者では、先天的な保有者にはかなわないということかな?」

 

「それが聖槍から加護を強く受けているようでね。そこ()()は俺より上だよ」

 

 だけを強調すんな、曹操!!

 

 くそ、事実だけにマジでむかつく。

 

「天然もの……。つまり、そちらの彼は生まれつき聖槍を保有していたということね?」

 

「御名答。そちらの彼とは違い、俺は生まれつき聖槍に選ばれたものさ」

 

 お嬢の言葉に曹操は得意げに嗤う。

 

 そして、その隣によくわからない奴が降り立った。

 

 ……いや、あいつどっかで見たことあるぞ?

 

「やっほぃヒロイ君とリセス君! 僕のこと、覚えてるかなー?」

 

「あなたは……っ」

 

 やけになれなれしく挨拶しやがる奴をみて、姐さんは目を見開いた。

 

 そして、すぐにアザゼルに顔を向ける。

 

「アイツよ! あいつが私に神器を金で売ったやつよ!!」

 

「ああ。そうらしいな……っと」

 

 そう答えながら立ち上がると、アザゼルは鋭い視線を奴に向ける。

 

「リムヴァンとかいったか! ヒロイとリセスが神器を複数持ってるのは、お前が移植したから……でいいんだな!」

 

「ザッツライト! 神器の複合保有の研究のためにね! 金で釣ったり金をせびったりは気分でやらせてもらったぜぃ!!」

 

 即答されて、俺はようやく思い出した。

 

 まだ俺が姐さんに救われて孤児院に入る前、俺は食い物に困って人体実験を受けた。

 

 ……冷静に考えりゃどう考えてもあぶねえ橋渡ったんだが、それはもういい。

 

 つーか、奴が移植したってことは―

 

「てめえが、俺に神器をあたえたってのか!」

 

「そ・の・と・お・り!! いや。神器を全く持ってない子が、あっさり二つも適合したってのがマジすごくてね! ついでに聖槍を移植させてみたらこれまた成功したんだよぉ」

 

 しみじみとうなづいたリムヴァンは。其のままにやりと笑うと軽く手を上げた。

 

「サンキュっ。君のおかげで研究が十段飛ばして進んだぜ!」

 

 くそむかつくことを言ったうえで、さらにリムヴァンはリセスにも笑みを向けた。

 

「そして最後のデータが君のおかげで集まった。おかげで誰をどうすれば神器を安全に移植できるのかがわかったよ」

 

「だから君たちは試作品の成功作なのさ。君たちのおかげで俺達完成品が誕生したんだよ」

 

 リムヴァンの言葉を曹操が継ぐ。

 

 ってことは。曹操の野郎も神器をいくつも移植してやがるってことかよ!!

 

「じゃあリムヴァン。俺はやることも終えたし先に帰る。君は?」

 

「もうちょっと様子を見てからにするよん。カテレア、誰か一人ぐらい殺せそうかにゃん?」

 

「安心なさい。オーフィスから蛇を賜った今の私なら、確実に一人は殺せます」

 

 そう思い思いに言葉を放ちながら、カテレア・レヴィアタンは一歩前に出る。

 

 俺も傷の回復が終わったんで戦闘しようとするが、其れより先にアザゼルが前に出た。

 

「思った以上に力が出てやがったが、お前、オーフィスに何かもらったな?」

 

 オーフィス? オーフィスが何かしたってどういうことだ?

 

 アザゼルの言葉に、カテレアは不敵に笑う。

 

「彼には力をもらいました。この力をもって、私は貴方はもちろんセラフォルーも倒します」

 

 それができると確信してんだな、アイツ。

 

 すっげぇ自慢げなんだけど、ものすごくカマセっぽいのは俺の気のせぇか?

 

 俺と同じことを思ったのか、アザゼルも鼻で笑った。

 

「はっ! お前にセラフォルーの代役は務まらねえよ。第一……俺の研究の邪魔するやつは消えてなくなれ」

 

 そう言いながら、アザゼルは懐から何か取り出す。

 

 それは、一本の短剣……というより単槍か?

 

 なんか金色で目立つ感じだ。しかもなんか強いオーラも感じてんだけど。

 

「あら、それ使うの?」

 

「ああ。今のカテレアならテストにはもってこいだろ」

 

 姐さんにそう答えると、アザゼルは取り出したその短槍を見せつける。

 

「これが、戦争なんぞよりよっぽど楽しい俺の研究、その集大成である人造神器、堕天龍の閃光槍《ダウンフォール・ドラゴン・スピア》だ」

 

 人造の神器!? 堕天使の神器研究は、そんなところまで進んでやがったのかよ!

 

 リムヴァンも大概だったが、こいつもこいつでとんでもねえなぁ、オイ!!

 

 そう思った瞬間、槍を中心に光が発生して、アザゼルを包み込んだ。

 

 そしてそれがやんだ時には、アザエルの全身が金と黒の鎧に包まれていやがった。

 

「で、これがその人造禁手、堕天(ダウンフォール)龍の鎧(ドラゴン・アナザー・アーマー)だ。すげえだろ?」

 

 さ、さらに禁手まで再現だとぉ!? いや、神器の人工品だっていうなら、禁手も再現できなきゃいけねえってのか!?

 

『いや、厳密にはあれは禁手ではない』

 

 と、イッセーの籠手からドライグの声が聞こえた。

 

 あれ? でも禁手っていってたじゃねえか。

 

『あれは神器を暴走させて、禁手に近い状態にしているだけだ。アザゼルめ、あんな使い方をすればすぐに壊れるぞ』

 

 ああ、さすがにそこまで研究は進んでなかったのか。

 

 あー、びっくりさせんなよ。

 

 ……いや充分すげえじゃん!?

 

「そんな馬鹿な! そこまで研究は進んでなかったはずです!!」

 

「うちにも内通者がいるって言ってるぞ、それ。まあ、こっちも内通者に対する警戒の一つぐらいはしてんだよ」

 

 驚愕するカテレアにアザゼルはそういうと、槍の先端をしっかりと突き付けた。

 

「ほら来いよ。オーフィスさまの蛇があるんだろぉ?」

 

「な……めるなぁあああああ!!!」

 

 激高したカテレアは、両腕に魔力を込めながらアザゼルに仕掛ける。

 

 あ、馬鹿。それ完全に負けフラグだって。

 

 俺がそう思った瞬間に、一瞬で勝敗は決した。

 

 アザゼルの鎧には傷一つなく、そしてカテレアの体からは鮮血は吹いた。

 

 あれは致命傷だ。遅かれ早かれ治療しなければすぐに死ぬほどのな。

 

「舐めんな。黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)ファーブニルを封印して作った特注品だ。神滅具相手だって引けはとらねえよ」

 

「すっげぇ!!」

 

 得意げなアザゼルにイッセーが感嘆の声を上げる。

 

 そりゃそうだろ。なんだあの性能は!!

 

 今まで互角の勝負になってたのに、一瞬で状況をひっくり返しやがった。

 

「まあ、材料が材料だから当たり前だけどね」

 

「おまえ、一言多いぞ」

 

 姐さんの軽口にアザゼルがぼやく中、カテレアはそのまま立ちすくんでいた。

 

「まさか、オーフィスの力を借りながら届かないとは……」

 

 カテレアはそう呆然とつぶやき―

 

「―まさかこれまで使うことになるとは、思いませんでした」

 

 そして炎に包まれた。

 




やっぱり裏切るヴァーリ。まあ、ここで裏切ってくれないと話が進みませんし。


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第一章 14

 

 

 炎が噴き出るのはアザゼルにやられた傷口から。

 

 勢いよく噴き出た炎は傷口を焼かない。

 

 それどころか、炎が収まるころには傷口は完全にふさがっていた。

 

 その光景に、俺達は目を見開くしかない。

 

 馬鹿な。あれはまるでフェニックスの炎の再生!?

 

「そんな馬鹿な! レヴィアタンの家系にフェニックスの血が混ざっているだなんて、聞いたことがないわよ!?」

 

 お嬢が動揺する中、カテレアは得意気に微笑むと傷があった個所をなでる。

 

 すでに傷があったことすらわからない状態になっている肌を見せつけながら、カテレアはアザゼルに視線を向ける。

 

「アザゼル。あなたならわかっているでしょう?」

 

「……不死鳥の灯火(ランプライト・フェニックス)か」

 

 アザゼルのその言葉に、カテレアは笑みを深くし、リムヴァンはパチパチと手をたたく。

 

「そのとおりSA! 傷口を炎で包み再生する神器。カテレアっちはそれとの適合値が高いんだよNE」

 

「複合移植はもちろんのこと、神器をノーリスクで移植させることも余裕だってのか」

 

 リムヴァンをにらみながら、アザゼルは唸る。

 

 だけど、リムヴァンは少しだけ残念そうな表情を浮かべて苦笑した。

 

「ま、誰にでもできるってわけじゃないんだけどねぇ。これが複数となると一気にできる奴が減るんだよ。それが限界ってやつさ」

 

「そうかい。俺から言わせりゃ十分すぎる強さだがな。……お前も増やすのか、ヴァーリ」

 

 アザゼルに話を振られたヴァーリは、しかし静かに首を振った。

 

「いや、俺は光翼(コレ)だけでやっていくつもりさ。余計な追加装備に興味はない」

 

 そう告げると、しかしその視線をイッセーに向ける。

 

「だが、君には必要不可欠だろう。できれば大量に移植してもらいたいところだね。……いけるか、リムヴァン」

 

「いや無理だねー。彼にそこまでのポテンシャルはないかなー?」

 

 リムヴァンの言葉に、ヴァーリは心底残念そうに肩を落とした。

 

「まったく。本当に残念だ」

 

 うわ、この野郎本気で言ってやがるな?

 

「……この野郎! 人のこと残念って、どういうつもりだ!!」

 

 イッセーは当然むかついて怒るが、しかしヴァーリは兜を除装すると、憐憫の視線を向ける。

 

「事実そうだろう? この()()()()()たる俺の宿敵が、ろくに才能のないただの一般人の出なんて笑い話にもならない。」

 

 確かにイッセーは一般人の出だが、そこまで言うか。

 

 ……いや、ちょっと待て?

 

「待ちなさいヴァーリ。……魔王の末裔ってどういうこと!」

 

 お嬢も聞きとがめたのか、ヴァーリに向かって鋭い声を浴びせる。

 

 それに反応したのはカテレアだった。

 

「あきれましたねアザゼル。まさか、まだ言ってなかったのですか?」

 

「ああ、そういやいうタイミングを失ってたな」

 

 アザゼルがついと視線を逸らす中、姐さんが苦虫をかみつぶした顔をして口を開いた。

 

「落ち着いて聞いて。あいつはヴァーリ・ルシファー。……正真正銘本来のルシファーの末裔よ」

 

 は、はぁ!?

 

 ルシファーの末裔ってことは、奴は旧魔王の血族ってことか。

 

 それが何で堕天使側の子飼いになってたんだよ!!

 

 っていうか、なんでそんな奴が白龍皇の光翼を!?

 

「俺は死んだ先代ルシファーの孫と人間の間に生まれた者でね。魔王の力から莫大な魔力を、人間の力から神滅具を手にすることができたんだ。……奇跡とは、俺のためにあるような言葉だ」

 

 つまり、悪魔と人間のサラブレッドってわけか。

 

「そんな……嘘でしょう」

 

「現実よ。よく言うでしょう、事実は小説より奇なりって」

 

 現実を認められず狼狽するお嬢に、姐さんがかばうように前に出ながらそう言い切る。

 

 うっわぁ。いくらなんでもありえねえだろ、オイ。

 

「しかし、運命とは残酷だと思わないか?」

 

 と、ヴァーリは唐突に話を変えた。

 

 その視線の先にいるのはイッセーだ。何がどういうことだ?

 

「俺のように伝説の魔王と龍の組み合わせという、子供が考えたような最強の存在がいる。しかし同時にただのなんにもない人間に伝説の龍が取りつく場合もある。いくらなんでも、この偶然の組み合わせは残酷だ。両者の間にある溝が深すぎる」

 

 確かに、いくらなんでも土台が違いすぎるな。

 

 いくら死んでいるとはいえ、悪魔の、それも魔王の末裔に神殺しを宿すとか、神器のシステムはどうなってんだよ。

 

 そしてイッセーをさらに見ると、やれやれと首を横に振った。

 

「君について調べたよ。父親は普通のサラリーマンで母親はたまにパートに行く程度の普通の専業主婦。先祖もある程度は調べたが、神器持ちも魔法使いも特にいなければ、悪魔と契約したものもいない。本当に、本当に何の特殊な事例もない、たまたま悪魔に転生しただけの普通の男子高校生だ」

 

「それが、どうしたっていうんだよ!!」

 

 何を言われているのかよくわからねえ。

 

 イッセーも同じ気持ちだからこそそう怒鳴ったんだろう。

 

 そして、その言葉を受けてヴァーリはあからさまにため息をついた。

 

「こう言いたいんだよ。「ああ、なんでこんな男が俺と同時期の赤龍帝なんだろう」ってね」

 

 その言葉に、イッセーは当然顔をしかめた。

 

 当たり前だな。寄りにもよって目の前で「赤龍帝として落第点」とまで言われやがったんだ。むかついたっておかしくねえ。

 

 だが、ヴァーリはその表情を見ても何も感じないらしい。

 

「ああ、何もかもがありきたりだ。ありきたりな家族にありきたりな環境。……そこで俺は考えた。じゃあ、どうすればありきたりじゃなくなるか」

 

「ヴァーリ。あなたろくでもないことを考えてるんじゃない?」

 

 姐さんの言葉に、ヴァーリはもったいぶらず口を開いた。

 

「簡単だよ。彼を復讐者に仕立て上げようと思ってるんだ」

 

 ―なんだと?

 

「俺が兵藤一誠の両親を殺す。そうすれば少しは身の上もありきたりじゃなくなるだろう。なにせ、両親を殺したのはアザゼルが「現在過去未来含めて最強の白龍皇になる」とまで言ってのけた男だ。そんな男に復讐するために生きるなんて、ありきたりな人生では決してない」

 

 とてもいいことを思いついたかのように、ヴァーリの奴は饒舌だった。

 

「どうせ彼の両親は、今後も普通に暮らして普通に老いて普通に死んでいくつまらない人生だ。そんな人生より俺たちの戦いを彩った方が華やかで素晴らしい人生だと思わないかい?」

 

 ………この野郎。

 

 自分が面白い戦いをするためだけに、イッセーの両親を殺すだと?

 

「―ぶち殺すぞ、この野郎」

 

 イッセーが、特大の殺気を放ちながら口を開いた。

 

 短い付き合いだが、たぶん今までで一番の殺気を放ってやがる。

 

 だが、それは俺も同じことだ。

 

「そんなこと、させるとでも思ってんのか、あ?」

 

 俺も、まだ完全に治療されてないが立ち上がる。

 

 ああ、こんなことを聞かされて、怒りに燃えないで何が英雄だ。

 

 いや、英雄以前に人として許せねえ!!

 

「さっきから黙って聞いてりゃ。白トカゲ風情がなに寝言ほざいてんだ、あぁ?」

 

 俺の言葉に、ヴァーリは不快な表情を浮かべる。

 

「トカゲ? 俺たちをトカゲといったか」

 

『後天的に神滅具を宿しただけのただの人間が、我ら偉大なる白龍皇を侮辱するか』

 

 アルビオンもまた不機嫌さを声だけで出してくるが、知ったことか。

 

「てめえの享楽のために罪のねえ連中殺そうとかするやつと、それをたしなめもしねえ奴が、御立派な存在なわけねえだろうが。そんな連中はトカゲで十分だ馬ぁ鹿」

 

 俺は聖槍を突き付けると、心の底から殺気を出す。

 

 親がいる。そして愛される。

 

 その当たり前がどれだけ素晴らしいことか、こいつはかけらもわかってねぇ。

 

 その大事なもんを、お前の退屈しのぎにぶっ壊すだと。

 

「……害獣風情が御大層な演説述べてんじゃねえ。どうやら神器に封印されても欠片も反省してねえようだな。……駆除の時間だ」

 

 いうが早いか、俺は速攻で聖槍をもってとびかかる。

 

 無論、雷撃も纏わせて一気に叩き潰すつもり満々でな。

 

 くたばれ、この野郎!!

 

「なるほど、俺は何処までも馬鹿にされたらしい」

 

 それを、ヴァーリは結界を張って受け止める。

 

 チッ! さすがに魔王と神滅具のコンボはきついか。

 

「なら、それ相応の報復というものを―」

 

 その瞬間、上部から落雷が降り注ぎ、ヴァーリに直撃する。

 

「……身内の恥は身内で濯ぐものよ」

 

 姐さんもまた声に怒りのオーラをのせていた。

 

「この英雄の目の前で、邪悪になり果ててただで済むと思ってるの?」

 

「ふふふ。まさか神滅具持ち二人が同時に仕掛けてくるとはね」

 

 ヴァーリは楽しげな表情を浮かべると、兜を展開して顔を隠す。

 

 俺は着地しながら素早く槍の切っ先を向ける。

 

 んの野郎はマジでぶち殺す!

 

 そして、其れは俺達だけじゃねえ。

 

「おらイッセー! お前もすこしは気合を入れやがれ!!」

 

「ここまで言われて黙ってる気? 少しは男を見せなさい!!」

 

 俺と姐さんが撃を飛ばし、そしてイッセーは前にでる。

 

「……確かに、俺の両親は普通だよ」

 

 一歩、右足が前に出る。

 

「父さんは毎日俺たちの生活のために働いてる」

 

 一歩、左足が前に出る。

 

「母さんは毎日俺たちのために家事をしてる」

 

 二歩、右と左の足が前に出る。

 

「でも、それは俺にとって大切な生活だ」

 

 そして、怒りに燃える目が、ヴァーリを貫いた。

 

「俺の両親を! 俺の生活を! お前が楽しむためなんかにぶち壊させねえぞ、ヴァーリぃいいいい!!!」

 

 その瞬間、イッセーの全身が赤い龍の鎧に包まれた。

 

 おお、ヴァーリにも負けねえオーラだ。

 

 そして、そのオーラを見てヴァーリはビビるどころか喜んでやがる!

 

「ははは! 見ろアルビオン! 赤龍帝のオーラがここまで高まるとは思わなかった!!」

 

『想いが純真であればあるほど、神器の力は増大する。神器とは人の想いを力に変えるもので、ドラゴンにとっても純粋な心はよきものだからな』

 

「なるほど、曹操にとってのヒロイ・カッシウスと同じく、俺の方が二天龍として圧倒的格上でも一つぐらいは劣るといったところか」

 

「わけのわからねえこと言ってんじゃねぇええええ!!!」

 

 イッセーは鎧からオーラを放ちつつ、一気にヴァーリに殴り掛かった。

 

 そして、其れをヴァーリは地面に降下して躱す。

 

「だか単純すぎる! 馬鹿というのは罪だよ、兵藤一誠―」

 

「―だったらお前は大罪人だな」

 

 イッセーは、そうにやりと笑った。

 

 ああ、まったくだ。

 

「俺がいることを忘れてんじゃねえぞ?」

 

 すでに、お前は俺の射程内だ。

 

 何の躊躇もなく、俺はヴァーリに槍を突き出した。

 




何でもかんでも誰にでもいくつでも移植できるわけではないのです。移植できる神器にも適正がありますし、複数移植可能なのは、全体でも一握りです。




そんでもってノリノリで悪党やってるヴァーリ。おかげで神滅具三種を同時に敵に回しました。

しかしヴァーリは覇すら制御する難物、そう簡単には倒せませんです、ハイ。


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第一章 15 神滅具の共演

 狙いは体のど真ん中。そこを最小限の軌道で一気にぶっ刺す。

 

 これが一番かわしづらい。そのままくたばれ白龍皇!!

 

「……まったく、ふざけた話だ」

 

 それを、ヴァーリは魔力を収束させた腕ではじいた。

 

 そしてその瞬間、今度は姐さんが炎をまとった斧で切りかかる。

 

 超高熱で溶断することを目的とした一撃を、しかしヴァーリは魔力を込めた籠手で受け止める。

 

 しかしそこにさらにイッセーが攻撃を仕掛ける。

 

「アスカロン!!」

 

 籠手にはミカエル様からもらったアスカロンを展開し、一気に真正面から切りかかった。

 

 しかし、其れすらも収束させた魔力による障壁が受け止めた。

 

「三人がかりでも余裕だってか!」

 

『当然だ。しょせん完全な禁手など一つもないのだから、魔王の血を継ぐ白龍皇ならできて当然だな』

 

 アルビオンが俺の文句にあっさりと答える中、ヴァーリはマジで不機嫌な感情を流していた。

 

「二天龍の血統に横槍を入れるとは。君たちには礼儀というものが欠けているな」

 

「礼儀? あなたにそんなものがあるなんて驚きね」

 

 ヴァーリの言葉に、姐さんは力を籠め続けながらも鼻で笑う。

 

「おのれの趣味のために、罪のない民間人を殺そうとする三流の屑が。初代ルシファーも子孫がこれじゃあ嘆いてることでしょうね!」

 

 その言葉とともに、雷撃をまとった蹴りがヴァーリを襲う。

 

 ヴァーリはそれを飛び上がって躱すが、しかし姐さんは俺に視線を向けて声をかける。

 

「ヒロイ! 紫電の双手!」

 

「……! 了解だ姐さん!!」

 

 俺は紫電の双手を発動し、さらに雷撃を上乗せする。

 

 それをヴァーリは結界を張って防ぐ。

 

 くそ、これでも無理だってのか―

 

「だったらこれだ!!」

 

 その瞬間、イッセーが俺と姐さんの肩に手を置いた。

 

『Transfer!』

 

 譲渡が発動し、相乗効果で上昇し得ていた雷撃がさらに極大になる。

 

 そして、其れを俺たちはとっさにヴァーリの方向に向けてぶっ放した。

 

「チッ!」

 

 ヴァーリは躱しきれないと判断したのか、結界を全力で展開して防御に徹する。

 

 そして、その瞬間イッセーが突っ込んだ。

 

「ちょっと!?」

 

「おい馬鹿!?」

 

 俺も姐さんも同時に叫ぶ。

 

 馬鹿かてめえ! 死ぬぞ!?

 

「死ぬ気でやりゃぁ―」

 

 イッセーは雷撃をもろに喰らいながら突進し―

 

「一発ぐらい殴れんだろ!!」

 

 渾身の右ストレートを、ヴァーリの結界をぶち抜いて叩き込んだ。

 

「ドライグ! アスカロンに力の譲渡だ!!」

 

 そしてさらに顔面をつかんで引き寄せると、腹に向かって左腕をたたきつける。

 

 龍殺しであるアスカロンの力が込められてるので威力は抜群。ヴァーリは思わず血反吐を吐く。

 

 そしてさらに、イッセーはヴァーリの光翼をつかんだ。

 

「ドライグから聞いたぜ! お前は半減で吸い取った力をそこから噴き出してるんだってな!!」

 

 なるほど! でもそこに譲渡してどうすんだ!?

 

「その能力をお前でも制御できないぐらい高めたらどうなるかな!!」

 

 イッセーの言う通り、ヴァーリの光翼はむちゃくちゃに輝くと機能を停止する。

 

 そして、其れを見逃すイッセーではない。

 

 左腕での拳をヴァーリは直接受けずに手首をつかんで受け止めるが、イッセーはそれに歓喜の声を上げてその腕をつかむ。

 

「捕まえたぜ、ヴァーリ!!」

 

 そのまま強引に、イッセーはヴァーリをつかんだっまこっちに向かって全力で突進する。

 

 ははぁん?

 

「どうする、姐さん?」

 

「決まってるでしょ、ヒロイ」

 

 だよなぁ。

 

『いかん! 振り解けヴァーリ!!』

 

 アルビオンが声を上げるがもう遅い。

 

「「「いっせーのーっせ!!」」」

 

 そのままイッセーに投げつけられたヴァーリに、俺と姐さんは渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリの鎧が砕け散った。

 

 いや、それは厳密に言えば砕かれたのではない。

 

 意図的にヴァーリが砕いたのだ。

 

 それによって一瞬だけだが攻撃の速度が低下し、ヴァーリは軌道を修正して空へと逃げる。

 

 それをリセスが追撃するが、しかしヴァーリは魔力を打ち込んで相殺した。

 

「ふははははは!!!」

 

 そして、ヴァーリは歓喜の笑いを全力で浮かべる。

 

 神滅具一つに対して三つ掛かりで挑む。

 

 少々情けない恰好ではあるが、しかし自分の特別さを考えれば当然の対応だ。

 

 すでに覇すらある程度制御できるようになった魔王の末裔たる自分の禁手を相手にするのだ。禁手も使えない異能に関わりないただの人間の保有者たちが立ち向かうのならば、それぐらいはするべきだろう。

 

 そして、結果的にまともに戦えていることがとても楽しい。

 

 もっと楽しみたい。もっと鎬を削りたい。

 

 ではどうすればいい?

 

 兵藤一誠は、どんなときにより強くなった?

 

 そう考えた視界に、リアス・グレモリーたちが映る。

 

「そういえば、君は仲間のために奮起できる男だったな」

 

 なら、これをすればより力を引き出してくれそうだ。

 

 ヴァーリは魔力を込めると、その戦いに介入する隙を見いだせなかったリアスとアーシアに向かって魔力弾を放つ。

 

「そら、防いで見せろ兵藤一誠!!」

 

 間違いなく、上級悪魔といえどただでは済まない一撃。

 

 さて、兵藤一誠はどうでるか。

 

 そう考えた次の瞬間―その一撃はやすやすと聖なるオーラに吹き飛ばされた。

 

「む?」

 

 視線を向ければ、そこにはデュランダルを構えた青い髪の少女の姿があった。

 

「無事かアーシア、部長!」

 

「そういえば、リアス・グレモリーにはデュランダル使いがいたな。忘れていたよ」

 

 そうつぶやいた次の瞬間、後ろから来た雷撃をヴァーリは悪魔の翼で防ぐ。

 

「我らが主に手を出すとは、お仕置きが必要ですわね」

 

「バラキエルの娘か。だが、この程度とは片手落ちだな」

 

 心からヴァーリは落胆するが、しかしその瞬間に雷の威力は大幅に向上する。

 

「私を! あの者の娘と呼ぶな!!」

 

 そして、その雷撃の隙間を縫って、戦車の小娘がとびかかる。

 

「えい」

 

「おっと」

 

 ヴァーリはそれを片手で受け止めると、そのまま振りほどく。

 

「黒歌の妹がその程度なわけがないだろう? もう少し種族特性を活かすことをお勧めするよ」

 

 そうつぶやいた次の瞬間、ヴァーリの動きが一瞬にぶった。

 

 そして、その瞬間振り払われた聖魔剣がヴァーリの鎧を通り越して頬に傷をつける。

 

「ぶぶぶぶちょうぅうううう! 大丈夫ですかぁあああ!?」

 

「アーシアさんも下がって! こいつは危険だ!」

 

「停止世界の邪眼と聖魔剣も来たか! 本当に優秀な者たちを集めたな、リアス・グレモリー!!」

 

 グレモリー眷属の素質の高さに、ヴァーリは舌を巻いた。

 

 しかも、先日出くわしたときは圧倒的な戦力差に震えすら見せていたにもかかわらずこの勇敢さ。

 

「命を投げ出してでも守ろうと思わせるほどのカリスマ性。リアス・グレモリー、君はいい王になれる」

 

 素直に心から評価した。

 

 一人二人はまだまだ問題があるが、これだけ有望な若手が集まることなどそうはない。

 

 彼らはいずれ、冥界でも有数の戦力になることだろう。そしてその日はそこまで遠くはないのかもしれない。

 

 それだけの資質ある者を引き寄せるリアス・グレモリーに心から敬意を表し―

 

「こっちを忘れてんじゃねえ!!」

 

 兵藤一誠の渾身の拳を、ヴァーリは避け切れずに喰らってしまった。

 

 鎧が一時的に大きく砕かれ、しかしヴァーリはすぐに修復する。

 

 いったん仕切り直しの形となり、ヴァーリは地面へと降り立つ。

 

 そしてグレモリー眷属をカバーするように、リセスとヒロイもまた立ちふさがった。

 

「チンピラの分際でしつこいトカゲだな、この白野郎が!!」

 

「おいたの時間はそこまでよ。覚悟しなさい」

 

 二人の鋭い視線にさらされながら、しかしヴァーリは決して追い込まれたとは思っていない。

 

「そろそろ兵藤一誠の疑似禁手も切れるころだな。……できればもう少し見せてほしいんだが、何かないかい?」

 

 そう、所詮兵藤一誠の禁手は疑似的なものだ。

 

 アザゼルの研究によって完成した腕輪は強力だが、それでも限度というものが存在する。

 

 もう残り十分を切ったところだろう。それぐらいなら十分に凌げる。

 

「さあ、魅せてくれ兵藤一誠。そうでなければ君の仲間の一人ぐらいは殺しておくぞ?」

 

「上等だ。だったら見せてやるよ」

 

 即答だった。

 

 さすがに想定外だったのでヴァーリはいぶかしんだが、その視線の先に一つの球体が映る。

 

 先程砕かれた白龍皇の光翼。その抗生物質の一つである宝玉だった。

 

「……ヴァーリ、目ん玉ひん剥いてよくみやがれぇええええ!!!」

 

 その言葉とともに、兵藤一誠は宝玉を握りつぶす。

 

 そしてその瞬間、赤龍帝の鎧がめちゃくちゃに光を放った。

 

「ぐ……がぁああああああああああああ!!!」

 

 激痛に悶えるかのように絶叫を上げる兵藤一誠。

 

 何が何だかよくわからなかったが、しかしアルビオンが何かに気づく。

 

『正気か赤いの! 私の力を今代の赤龍帝に取り込ませるなど、無謀を通り越して馬鹿の所業だぞ』

 

『ああ、確かに馬鹿の所業だ。……だが、バカも貫き通せば結果を残せると相棒が教えてくれた!!』

 

 二天龍が言葉を交わす中、赤龍帝の鎧の一部が白く染まる。

 

 その右腕は、まるで白龍皇の籠手とでもいうべきものだった。

 

「俺の半減の力をものにしただと!?」

 

「ああ。木場の聖魔剣みたいに、反発する属性を取り込むことも聖書の神様が死んでるならできると思ってな!!」

 

 さすがに驚愕したヴァーリに、イッセーはにやりと笑って見せる。

 

「どうだこの野郎! 馬鹿だと思って甘く見るなよ!」

 

『流石に寿命が縮んだがな。十年や二十年ではないぞ』

 

 ドライグがあきれ、全員の視線がイッセーに集まるが、しかしイッセーは特に気にしていない。

 

「一万年も生きる気はねえよ。やりたいことは多いけどな」

 

 何の後悔も見せずにそう告げる兵藤一誠に、ヴァーリはその評価を修正する。

 

 確かに素質そのものは最低だろう。

 

 だが、この男は何をやってくるかわからない。

 

 面白い。彼と戦えば、まだ見ぬ地平を見ることができるかもしれないとさえ思う。

 

 ゆえに、ヴァーリは礼節をわきまえた行動をとった。

 

「いいだろう、なら、こちらも少し本気を出そう」

 

『Harf Dimension』

 

 白龍皇の翼が輝き、そして周囲の空間が圧縮される。

 

 力だけでなくあらゆるものを半減させる力。白龍皇の光翼を極めて高い次元にまで突き詰めた自分だからこそできる能力。

 

 さあ、赤龍帝は果たしてどういう方向でこれに応えてくれるのか?

 

「ああもう! 今代の白龍皇はまともじゃないわね……っ」

 

 リセスが頭を抱えてうめく中、カテレアとにらみ合っているアザゼルが面白そうに笑い始めた。

 

「こりゃいいぜ! だったらもう片方のまともじゃねえとこ突いてみるか」

 

 そう言って、アザゼルは兵藤一誠の方に顔を向けた。

 

「お前の頭でもものすごくわかりやすくいってやる。……このままだとリアス・グレモリーやリセスの胸が半分個になるぞー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、兵藤一誠の動きが完全に止まり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 次の瞬間、ヴァーリは顔面に拳を叩き込まれたのに気付くのに一瞬遅れた。

 

 俺が……気づかなかっただと!?

 

 そう思うのも無理はない。

 

 現状、兵藤一誠がヴァーリ・ルシファーに買っているのは赤龍帝の籠手との精神的相性がいいというただ一点のみ。それ以外のすべてにおいてヴァーリが格上だといっても過言ではない。

 

 神器の到達段階においては次元が違う。種族的なアドバンテージでも圧倒的。戦闘経験に至っては比べるのもおこがましい。

 

 だが、それなのに反応することすらできなかった。

 

「これは、部長のおっぱいの分!!」

 

「くっ!」

 

 とっさに距離を取るが、一瞬でそれが詰められる。

 

「俺より早…グッ!」

 

「これは、朱乃さんのおっぱいの分!!」

 

 カウンターでさらに頭突きが入り、鎧がお互いに粉砕される。

 

「これはアーシアのおっぱいの分!!」

 

 反撃の拳を放つが、クロスカウンターで逆にこちらが一撃もらう。

 

「これが、ゼノヴィアのおっぱいの分!!」

 

 更に膝が股間にめり込む。地味に一番痛い。

 

「これが、リセスさんのおっぱいの分!!」

 

 そして、渾身のアッパーカットがヴァーリの意識を一瞬だけだが吹き飛ばした。

 

「これが、半分になったらまるっきりなくなっちまう、小猫ちゃんのロリおっぱいの分だぁああああ!!!」

 

 その瞬間、ヴァーリは心のどこかで認定した。

 

 この男、歴代赤龍帝でおそらく一番面白いと。

 




イッセー。原作通りおっぱいでブチギレる。

しかしこの展開、ある意味秀逸だと思いますね。

想いの力で機能する神器の機能を改めて説明し、そこからイッセーのスケベ根性がシャレにならないことを示す展開。おかげで後々のおっぱいブーストも説得力があります。


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第一章 16

区切りがいいのでちょっと短め。

……でも感想次第じゃ今日中にもう一話出すかも


 ………ぽかーん。

 

 ぽっかーん。

 

 ぷぅぉおおおおっくわぁあああああん。

 

 え? え? えええ?

 

 え? えっと……なにこれ。

 

「私も入れてくれたのは、喜ぶべきかしら?」

 

「……後でシメます」

 

 姐さんはどう反応していいのかわからず、小猫ちゃんは完全に怒っていた。

 

 そしてほかのメンツはどう反応していいのかもわかっていなかった。

 

 だってそうだろ。

 

 周りの女性の胸を半分にするなどといわれて、ぶちぎれて圧倒的格上をボコボコにするとか、普通わけわかんねえよ。

 

 見れば、魔獣をほぼ掃討した護衛部隊も呆気に取られていた。

 

「あっははははははははあははははははははははあ!! マジかよ! マジで主様の胸が半分になるといわれてブチギレやがった!!」

 

 言い出しっぺのアザゼルは大笑いしてる。

 

「ぶははははは!! うっそぉ! こんなの見たことないよ!!」

 

 そしてリムヴァンもまたかなり受けていた。

 

 そして、倒れ伏すヴァーリをカバーするように曹操とカテレアが立ちふさがる。

 

「……今代の赤龍帝は意味不明ですね」

 

「まったくだ。まさかこんな形でヴァーリに勝つとは」

 

 あきれ半分驚き半分ってところだよなぁ。

 

 いや、おれもどうすればいいのか反応困るっつの。

 

 だが、こっから先がまた大変だ。

 

 神器まで移植してパワーアップした魔王血族と、生まれつきで神滅具持っている英雄の末裔。

 

 間違いなく、こいつらだって強敵だっつの。

 

 俺たちは静かに構えて、にらみ合う。

 

「……待ってくれ。ここからがいいところなんだ」

 

 と、そこでヴァーリが立ち上がる。

 

 口から流れた血をふき取って、ヴァーリは静かに闘士を燃やしてやがる。

 

 んの野郎! むしろ今のでスイッチでも入ったのか?

 

「ああ、とてもいい攻撃だ。俺も返礼に何か見せねばならないだろうな。……そうだ、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)はどうだろう?」

 

『やめておけ、ヴァーリ。あれを使えばお前もただではすまんぞ ドライグも力を開放するかもしれん』

 

 アルビオンがとがめるが、しかしヴァーリは笑みを浮かべたままだ。

 

「そうでなくては困るさ。我、目覚めるは―」

 

『ヴァーリ! 我が力に翻弄されるのがお前の望みか!!』

 

 詠唱を始めるヴァーリにアルビオンが叱責しようとしたその時だった。

 

「……いや、今日のところはここで引き揚げよう」

 

 と、リムヴァンが指を鳴らす。

 

 それと同時、白龍皇の鎧が掻き消えた。

 

 ……神滅具の禁手を強制的に封じただと!?

 

「……何のつもりだ、リムヴァン」

 

「いやいや。さすがにそろそろ三大勢力の増援も来るでしょ? 引き際はわきまえないといけないよん?」

 

 そうおどけるリムヴァンをヴァーリはにらみつけるが、そんなヴァーリに声をかける者がいた。

 

「いやいや。結局こっちの手勢は壊滅してるんだし、これ以上は他の魔王やミカエルもくるぜ? その辺にしとこうや」

 

 現れるのは、中国風の鎧を着た猿みたいな奴だった。

 

 その姿を見て、アザゼルは片眉をあげた。知り合い?

 

「美候か。お前さんも禍の団に参加したのかよ?」

 

「かっかっか! 俺っちは仏になった爺さんとは違い、自由気ままに生きたいんでねぃ。ヴァーリとは気が合うしよ」

 

 そうからからと笑う猿顔は、興味深そうな顔で俺たちを見る。

 

「おーおー。お前さんがリムヴァンが神滅具を移植したっつー連中かい? なかなかできそうじゃねえか」

 

「まあ、見所はあるといったところかな?」

 

 ヴァーリがそう答えるが、しかし誰だよコイツ。

 

「そっこーで馬鹿でもわかる名前を言ってやる。西遊記の孫悟空、その末裔さ」

 

 ………大御所キタコレ。

 

 っていうか孫悟空の末裔ってことは、まさか中国からも参加者が出たってことかよ!!

 

 まじか、さすがにそれは想定外だぜ。

 

 俺たちが唖然とする中、イッセーの鎧が粒子となって消える。

 

 チッ! 腕輪の方は時間切れか!

 

「どうやら本当にこれまでのようだ。……また会おう兵藤一誠、今度会う時は、ぜひ禁手に目覚めていてくれ」

 

「あばよ赤龍帝。今度は俺っちとも戦ってくれると嬉しいぜ!」

 

「今回は失敗しましたが、我々の牙があなたたちに届くことは証明されました。……次に会う時は、必ず倒させていただきます」

 

「真なる聖槍の使い手がどういう者か知ってくれたと思う。それでは、人間の強さと恐ろしさを思い知るといい」

 

 思い思いに捨て台詞を吐きながら、ヴァーリたちは霧の中へと消えていく。

 

 そして、最後に残ったリムヴァンは不敵な笑みを浮かべた。

 

「三大勢力の諸君! 我々禍の団のスポンサーが、少し後に大きな祭りを行う」

 

 スポンサー?

 

 オーフィス以外にどんな後ろ盾を得たってんだ、あいつらは!

 

 つーか祭りってなんだよ? 今度は何処で暴れるつもりなんだよ!!

 

「ぜひ鑑賞してくれ! そして、思い知るといい」

 

 そしてリムヴァンは霧に包まれ―

 

「……これが、本当に世界を股にかけた大戦争なのだということを!!」

 

 ―最後に、そんな不吉な言葉を残した。

 

 

 



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第一章 17 駒王会談成立、そしてその次の日にて

さて、今回はあえてここまで持っていきたかったので長いです。


駒王会談は無事終結。そして、若き英雄たちの敵の正体は……


 

 

 

 うっへえ。死ぬかと思った。

 

 三大勢力の会談で、テロが勃発。

 

 しかもそのテロリストのボスはあのオーフィス。史上最強の存在ときたもんだ。

 

 それもさらに宰相は神滅具を何十個も持っていて、しかも神器を組み合わせて禁手に至らせることができるというマジで化物。

 

 ……そして、俺と姐さんはそいつによって神器をいくつも保有した存在になった。

 

 畜生がっ! 礼を言うべきなんだろうけど、やってることがひどすぎていう気になんねぇ。

 

 大体、なんでリムヴァンの野郎は俺たちをその場で捕まえて洗脳したりしなかった?

 

 三大勢力に与したのは偶然だけど、だからって神滅具をほっぽるとか、何考えてんだ?

 

 わからないことだらけでわけわかんねぇ。

 

 髪をかきむしって考えてるあいだに、戦後処理は進んでいく。

 

 幸い、倒した魔獣は溶けるように消えていったので味方のけが人の治療とかに集中してればいい。

 

 そのせいでアーシアちゃんが大活躍。あの子本当に便利だなぁ。

 

「……お疲れ様」

 

 と、そこに姐さんが缶ジュースをもってこっちに来てくれた。

 

「お互い、いろいろと大変だったわね」

 

「確かに。ま、これも英雄の乗り越えるべき試練ってやつかねぇ」

 

 俺は缶ジュースを受け取りながら、そうおどける。

 

 姉さんも同感だったのか、クスリと笑うと缶ジュースを飲んだ。

 

 そして、耐え切れなくなったのか苦笑を浮かべる。

 

「こういうの、喜んだらいけないってのはわかってるんだけれど……」

 

 その表情には、間違いなく喜びの色が映っていた。

 

「英雄が活躍するにはいい機会が訪れようとしているのよねぇ。どうあがいても、戦争が英雄を生むことには変わりないもの」

 

「闘うことでつかめる栄光だもんなぁ」

 

 そう、それが英雄の困ったところ。

 

 血なまぐさい戦争が起きないと、英雄が生まれる環境が生まれねえことだ。

 

 駄目なんだけど喜んじゃうあたり、俺達はいろいろ駄目な奴だ。

 

「……でも、示したいのよね」

 

 そう、姐さんはつぶやいた。

 

「私は英雄になりたい。人々を魅せるぐらい、強くなりたい」

 

 その声は、どこか震えていた。

 

 ……姐さんにも、いろいろあるんだろう。

 

 英雄を目指すだけの理由が、きっかけが、あるんだろう。

 

 それを俺は知らねえし、多分教えてくれねえだろうけど……。

 

「大丈夫さ、姐さん」

 

 俺は、姐さんににやりと笑う。

 

「姐さんはすでに英雄だぜ? あとはそれを知らしめればいいだけさ」

 

 ああ、姐さんは英雄(輝き)だ。

 

 俺の心をともしてくれた輝き。そう、間違いなく英雄なんだ。

 

 だから、姐さんには自信をもって英雄を名乗ってほしい。

 

 コカビエルを止めて、俺達を助けて、三大勢力の戦争再開を止めたのは、間違いなく英雄なんだから。

 

 俺の想いは全く届いてないだろうけど、姐さんはクスリと笑ってくれた。

 

「ありがとう。よくわからないけど、あなたの期待に応えられる英雄でい続けたいものね」

 

 そういうと、姐さんは立ち上がる。

 

「其れじゃあ行くわ。そろそろあの子が抱き着いてくることでしょうし」

 

 あの子?

 

 ん? なんかそらの向こうから高速で接近してくるやつがいるような……。

 

「お姉さまぁあああああ!!!」

 

 へぶぁ!? はねられたぁ!!

 

「こらこら。ヒロイを轢いちゃったわよ、ペト」

 

「お姉さまお姉さまお姉さまぁあああああ!!! お姉さまの帰りをホテルで待っていたらこんなことになるなんてぇええええ!! このペト一生の不覚ッスぅうううう!!!」

 

「御免マジで俺に謝ってくれない!?」

 

 わずか数週間で二回も轢かれたじゃねえか!! なんだよこの交通事故遭遇確率!!

 

「あ、すいませんッス。……お姉さまぁああああ!!!」

 

 くそ、適当に謝られたし!!

 

「はいはい。あなたは今回の場合相性が悪いから、仕方がないでしょ? 今度闘う時は期待してるわよ」

 

「はいッスぅうううう!!! 今度会う時は禍の団だか渦の団だか知らないっすけど、バンバン風穴開けてやるっすぅうううう!!!」

 

 姐さんに期待されていることがよっぽどうれしかったのか、ペトは別の意味でわんわん泣き始めた。

 

 ……なんか、ここにいると邪魔になるだろうから退散するといいかねぇ。

 

「んじゃ、俺はイッセーたちの方見てくるわ」

 

「ええ。悪いけど任せたわ」

 

 そう言って別れ、俺達はイッセーを探す。

 

 と、ついたとこじゃぁ三大勢力のトップたちが集まっていた。

 

 俺はすぐに離れようとするけど、其れより先にサーゼクス様が俺に気づく。

 

「やあ、ヒロイくん」

 

「……うっす」

 

 いや、ミカエル様までいるからあまり近くにいるわけにゃいかないんすけどね。

 

 どうにかして離れる理由を作ろうと思ったけど、其れより先にミカエル様が俺に歩み寄った。

 

「あなたが、ヒロイくんですね?」

 

「うす。ヒロイ・カッシウスですが、えっと……」

 

 うわめっちゃ気まずい。

 

 信仰心ないからこそ気まずい。めっちゃ気まずい。

 

 だってそんな奴が聖槍持ってるってだけでもアウトに近いってのに。しかも悪魔側についてるとか……。

 

 そう思った瞬間、ミカエル様は俺に頭を下げた。

 

「……この度は、あなたを追放して本当に申し訳ありませんでした」

 

 うぇええええええええ!?

 

 み、み、ミカエル様が頭下げたぁあああああ!!!

 

「ままま待ってくだせえ!! 俺みてぇな信仰心も欠片もない半端もんが追放されんのは当然なんですぜ! 主の代行が頭下げるなんてそんな!!」

 

「しかし、あなたはコカビエルを倒すために全力を尽くし、三大勢力の戦争再開を止めてくださいました。……本来なら、我々は貴方に感謝するべきなのに」

 

「いや、本当にそういうのいいですから、頭上げてください」

 

 俺は、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

 

 だってそうだろう。俺は、最初から信仰心なんて碌に持っちゃいない。

 

「俺は、俺が英雄になるために悪魔祓いとしての教育をうけるために教会に所属したんですぜ? そんないい加減で不信心なやつ、追放されるのが当然でさぁ」

 

 ああ、本当に俺は失礼な奴だ。

 

 主の教えを信じ、主のために命を懸けて戦うことを目的として勉強してる連中の中で、俺は異端児だ。

 

 俺が一生懸命だったのは、何処にでもいるような悪魔祓いじゃ英雄何てなれないからだ。人の何倍も勉強して訓練するぐらいじゃなけりゃぁ、英雄なんて頂にはたどり着けねえからだ。

 

 俺の努力に信心なんて欠片もねえ。むしろ、異端者として殺されたとしても文句は言えない。

 

「だから、俺に関しちゃ気にするこたぁありやせんぜ。その頭はもっと下げるにふさわしい時に取っといてください」

 

「……わかりました。ですが、いつかあなたを信徒たちの前で賞賛できる日が来るよう、努力だけはさせていただきます」

 

 それはありがたい。

 

 どうせなら、英雄としてもてはやしてくれるとうれしいしな。

 

 と、そんな俺の視界にイッセーの姿が飛び込んできた。

 

 見れば、グレモリー眷属も何人も一緒にいる。

 

「魔王様。ご無事で何よりです」

 

「リアスか。戦後処理の打ち合わせは終わったかね?」

 

 ああ、確かに駒王学園はお嬢の担当だから、当然戦後処理の下準備とかに駆り出されるわな。

 

 お嬢は一礼すると、うっすらと笑みを浮かべた。

 

「護衛の方々が手伝ってくれたおかげで、すぐにでも終わりそうですわ」

 

 マジか。結構破壊されてると思うんだが、そんなすぐにおわんのかよ。

 

 いや、コカビエルとの戦いのときもドッカンバッカン壊されてたのに、あっという間に直してたしな。案外早くできるんだろう。

 

 お嬢とサーゼクス様は少しの間打ち合わせの話について話し合い始めるが、その間にイッセーがミカエル様に駆け寄ってきた。

 

「ミカエルさん。実は、お願いがあるんですけど」

 

「何でしょう? 内容にもよりますが……」

 

 イッセーは、視線をアーシアとゼノヴィアに向ける。

 

 二人はきょとんとするが、イッセーは視線をミカエル様に戻すと質問をする。

 

「神に祈りを捧げた悪魔がダメージを受けるのって、聖書の神様のシステムのせいなんですよね?」

 

 ああ、そういえばコカビエルが似たようなこと言ってたな。

 

 主は信徒への奇跡などをシステムによって運営していて、それをミカエル様が代わりに使うことで何とか動かしてるって。

 

「はい。アレは神が残したシステムの基本部分ですので、主がおられなくても当然機能します。それがなにか?」

 

 その答えを聞いて、イッセーは意を決したかのように頭を下げる。

 

「アーシアとゼノヴィアが祈っても、ダメージが出ないようにできませんか?」

 

 その言葉に、俺達は全員目を見開いた。

 

 そういや、ゼノヴィアもアーシアも時々神に祈ってダメージ受けてたな。

 

 それだけ信仰心が強いことの証明だけど、確かにちょっとかわいそうだ。

 

 でも、そんなことをわざわざミカエル様に直談判するとか、コイツ根性あるなぁ。並の精神じゃ恐れ多くてできねえぞ。

 

 こいつ、もしかしてすっごい大物なのか?

 

 ミカエル様も少しの間言葉を失ってた。

 

 だけど、すぐに考え込む。

 

「……確かに、悪魔なら教会に近づいたりはしないでしょう。二人分ぐらいなら何とかなるかもしれませんね」

 

 そういうと、ミカエル様はゼノヴィアとアーシアに向き直る。

 

「アーシア、ゼノヴィア、問います。神はすでに不在ですが、それでも祈りを捧げますか?」

 

「もちろんです」

 

「私もです。ミカエル様への感謝も込めさせていただきます」

 

 二人は、迷うことなく答える。

 

 その答えを聞いて、ミカエル様は優し気に微笑んだ。

 

「神に祈りをささげる悪魔ですか。これもまた、和平の象徴かもしれませんね」

 

 確かに、主に祈りをささげる悪魔なんて和平にでもならなけりゃみられねえわな。

 

 ああ、これが和平の良さってやつか。

 

「「ああ、主よ。感謝します!!」」

 

 あ、バカ!

 

「「あう!?」」

 

「あーあーあーあー。まだシステムは弄くられてねえってのに」

 

 俺は額に手を当てるとため息をついた。

 

 とたんに、おかしくなってみんなが少し笑ってしまう。

 

「ふふふ。すぐに戻ってシステムを調整しなくてはいけませんね」

 

 そうミカエル様は笑うと、サーゼクス様に向き直る。

 

「私はこれから天界に戻ります。和平はもちろん、禍の団についても対策を講じなければ」

 

「すまなかった。会談の場をセッティングしたものとして、謝罪させてくれ」

 

「いえ、悪魔祓いや天使の中にも同調したものがいるのです。お互いさまということでしょう」

 

「……だろうな。うちもヴァーリが迷惑かけた」

 

 アザゼルもそこに現れ、頭を下げる。

 

「アザゼル。やはり彼は……」

 

「ああ。あの馬鹿の育て方を間違えたのは俺の責任だ。その分俺たちはしっかり団結しないといけねえな」

 

「いや、こちらもカテレアが迷惑をかけた」

 

 サーゼクス様の言葉に、アザゼルは頭を掻いてそっぽを向く。

 

「カテレアなんて小物なんかより、ヴァーリの方がシャレにならねえよ。……こっからが大変だぜ」

 

「確かにその通りです。ですが、それに対抗するためのとっかかりができただけでも充分でしょう」

 

「その通りだ。我々三大勢力が手を取り合えた。これはとても大きなことだ」

 

 アザゼルに対するサーゼクス様とミカエル様の言葉に、アザゼルは苦笑した。

 

 そして、息を吸い込むと後ろにいる堕天使たちに大声を放つ。

 

「お前ら!! 堕天使はこれより三大勢力と和平を結ぶ!! それが嫌な奴は禍の団に移籍してかまわんが、敵対するなら容赦なくぶち殺すから覚悟だけはしとけ!!」

 

『『『『『『『『『『『我らが命、アザゼルさまとともに!!』』』』』』』』』』』

 

 一斉に帰ってきたその返答に、アザゼルは満足げにうなづいた。

 

 そして、振り返るとイッセーの方を見るとにやりとする。

 

 なんだ? なんか嫌な予感がすんだけどよ。

 

「ま、詫びと行っちゃなんだが、赤龍帝は俺が鍛えてやるよ。ついでに聖槍使いもな」

 

「「へ?」」

 

 え、俺も?

 

 っていうか、俺は仕事があるから堕天使側にはいけそうにないんだけどよ。

 

「くっくっく。白は戦で赤は女。どっちも決着以外にやることがあるとはな……」

 

 そうつぶやいたアザゼルの言葉が、やけに印象的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもって次の日の放課後。

 

 いつものようにオカルト研究部の部室に入ると、そこにはアザゼルがいた。

 

「……なんでいんの?」

 

「明日から駒王学園(ここ)の教師に就任したぜ。これからはアザゼル先生と呼べ」

 

 ふふんと得意げにしているアザゼルに、俺はどうしたもんかと視線を向ける。

 

 すると、そこには姐さんとペトまでいた。

 

「姐さん!? どうしてこんなところに!!」

 

「おい、俺とは反応が全然違うんじゃねえか?」

 

「お前と姐さんが一緒なわけねえだろうが。寝言は寝て言えや」

 

 姐さんをあんたと一緒にすんなや。

 

「私はアザゼルの護衛よ。護衛もなしにこんなところに送り込んだら、周りがうるさいのよ」

 

「自分はお姉さまのものッスから。あ、ちなみにあんたのクラスに入ることになったッス」

 

 マジか。俺もそうだがうちのクラス転校生多すぎ問題。

 

「それで? なんであなたがここで教師なんてすることになったのよ」

 

 お嬢が頭を抱えながらも前向きに話を勧めようとしている。

 

 そんなお嬢をみて、アザゼルはからからと笑った。

 

「いやな? セラフォルーの妹に話したら、ここの教職をあたえられたんだよ。ま、これでも堕ちてきた者たち(ネフィリム)っつー学校みたいなもんを運営してたからよ、人並程度にゃ教えられるぜ?」

 

「……ソーナ?」

 

 お嬢の鋭い視線が生徒会長に突き刺さる。

 

 生徒会長は即座に視線をそらした!

 

「何とかしないと代わりに学校に来るとお姉さまに脅され……もとい懇願されまして」

 

 あ、それは仕方ねえな。

 

 あのキャラが学校に来るのはダメだろ。悪い意味でインパクトでかすぎるわ。

 

「要するに、オカ研を売ったのね?」

 

「私はこれで」

 

 早口で逃げに徹した会長は、即座に部室から退出する。

 

 にしても、堕天使の総督が悪魔が運営している学校の教師ってどうよ?

 

「どうすりゃそんな我儘が通せるんだよ……」

 

「簡単だぜヒロイ。こっちが本命だが、グレモリー眷属及びお前の神器を成長させるのに俺が適任なんだよ」

 

 ……へ?

 

「いや、ヴァーリの奴はどうやらイッセーに目を付けたらしいからな。あいつは禍の団でも専用のチームを作ってるらしいし、グレモリー眷属及びその護衛といってもいいお前さんは、いやでも強くなる必要がある」

 

 ヴァーリの奴、そんな待遇で参加してんのかよ。

 

「てっきり旧魔王派につくんだとばっかり思ってたぜ」

 

「彼、魔王の末裔であることは誇りに思ってるけど、基本的に面倒ごと嫌いだから」

 

 姐さんが俺のつぶやきに反応するが、確かにそういうの気にしなさそうなやつだったな。

 

 指導者とかそういうのには向いてないだろ。豆腐の角に頭ぶつけるぐらいしねえと変わらねえんじゃねえか?

 

 とは言え、相手は白龍皇の光翼を禁手に至らせた実力者。油断できる相手じゃねえな。

 

 そういう意味じゃあ、神器研究の第一人者が協力してくれるってのはいいことか。

 

「……できるんだろうな、アザゼル」

 

「安心しな。俺の指導をうけりゃぁ、神器の使い方は大幅にうまくなることだけは保証するぜ?」

 

 にやりとアザゼルが笑うが、しかしホントに大丈夫なんだろうな。

 

「いやいや、神滅具三つに噂の聖魔剣、更には停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)とはな。心が躍るぜ!!」

 

 ……ほんとに信用して大丈夫なんだろうな。

 

「ひぃいい。僕のことなんて注目しないでほしいのにぃいいい」

 

 ギャスパー。段ボール箱がしゃべるとか意味不明な現象に注目すんなって方が無理だぞ。

 

 まあ、堕天使は神器研究の第一人者だ。ギャスパーの時もアドバイスは的確だったし、たぶん大丈夫だろ。多分。

 

「俺、ハーレム王になりたいだけだってのに、なんでこんなトラブルに巻き込まれまくってんだろうな」

 

 イッセーはイッセーで遠い目をすんな。

 

 そしてアザゼル。なんで目を輝かせてんだ。

 

「なんだ? お前まさか童貞か?」

 

「「童貞で悪いか!!」」

 

 やべ。つい俺も反応しちまった。

 

 まずい、この手の輩だから確実にからかってくるよな。

 

 だが、アザゼルはむしろあきれたような眼をしていた。

 

「いい年こいた赤龍帝が童貞とか一周回って不憫にしかなんねえな。……ちょうどいい、神滅具持ちの男が相手となりゃぁ、うちの女どもも乗り気になるだろ」

 

 へ?

 

 ま、まて。

 

 乗り気になる……だと?

 

「よし! イッセーにヒロイ、お前らこれから俺と一緒に童貞卒業ツアーだ!! 俺はハーレムを何度も作ってきた男だからな、その辺に関しちゃ遠慮はしねえから安心しな」

 

 な、なんだとぅ!?

 

 童貞卒業ツアー。なんていう素晴らしい響きなんだ。

 

 この世にそんな素晴らしいツアーが存在していただなんて。俺は、俺はまだまだ無学だった。

 

「は、はい!! 一生ついて行きま痛い痛い痛い!!」

 

「イッセー! 堕天使の誘惑に乗るなんて何を考えているの!!」

 

 あ、姫様が乱入した。

 

 ヤバイ。これはどうあがいても無理になりそうな流れだ。

 

「イッセーさん!? わたしを置いてどこに旅行するつもりなんですか!?」

 

 アーシア。それたぶん何か勘違いしてる。

 

「イッセーくん、僕のこと悪く言えなくなってきてるよね」

 

「イッセー先輩はいつも元気そうでうらやましいです」

 

 木場、お前はちょっと黙っていてくれねえか!

 

 あとギャスパー。それ、嫌味じゃねえよな?

 

 ああもう! こんな調子じゃ童貞卒業何て夢のまた夢じゃねえか!!

 

「あらあら。私が食べてもいいんだけど、この調子だとグレモリーに怒られそうね。ペトも食べたら駄目よ?」

 

「了解ッス。……でも赤龍帝の童貞かぁ。ちょっと食べたかったッス」

 

 俺の童貞は食べていいですぜお二人さん!! あ、できれば姐さんでお願いします!!

 

「……ま、とにもかくにもまずは夏休みに特訓だな。たしか、若手悪魔で会合も開かれるんだろ?」

 

 アザゼル、まだ話戻さないでくれねえか!?

 

 だが残酷なことに、お嬢もまたその流れに乗り始めた。

 

「ええ。次期大王と大公、そして現四大魔王を輩出した72柱の後継者が同時期ということで、ちょっとした集まりが始まるの」

 

 そんな面倒なことがあんのかよ。

 

 上級悪魔の会合とか、なんかギスギスしてそうだな。考えただけでもうへえってなるぜ。

 

 こりゃ、お嬢の眷属になれなくて正解だったかもしれねえな。よかったよかった。

 

「ま、そのついでに冥界で特訓でもするか。お前らも参加だからな」

 

「はいはい。せいぜい英雄らしい実力者に育てて頂戴」

 

「らじゃッス」

 

 マジか。つまり俺も禁手に至れる可能性があるってことか!

 

 神器の禁じ手にして究極、禁手(バランス・ブレイカー)! そんなのになったらもう英雄街道まっしぐらだろ!!

 

 俺も、姐さんのように人の心を照らせる輝きに……。

 

「アザゼル先生! 俺を強くしてくだせえ!!」

 

「おう! 安心しな! どっちにしたって将来的な抑止力に放ってもらわねえと困るからよ!!」

 

 期待してるぜ先生!!

 

「まあ、問題は連中の規模だ。サタナエルのあほが関わってた時は魔法使いの組織や日本の五大宗家のはぐれもんとかも参加してたからな。おそらくほかの神話関係者や世界各国の異能持ちにもつてがあると考えるべきだろうよ」

 

 アザゼル先生が怖いこと言ってきやがる。

 

 マジか。そんなに規模がでかいのかよ。

 

「それだけの戦力をもってして、ここに攻め込んでくる可能性があるの?」

 

 お嬢が不安げに聞くが、そこに関してはアザゼルが首を振った。

 

「流石にその線は薄いな。三大勢力のトップをまとめてつぶせるあのチャンスを逃したんだ。わざわざここに大戦力をぶつける意味は薄いだろ。よほどのことがない限り、お前らが在学中は平和だと思うぜ?」

 

「本格的な戦争前の小競り合いってことね」

 

 お嬢の言葉が一番わかりやすいか。

 

「まあ、まだ準備期間だということよ。おそらくヴァーリの馬鹿はイッセーに突っかかってくるでしょうけど、それでも学生生活を謳歌する余裕ぐらいはあるわよ」

 

 姐さんが安心させるように微笑み、しかし鋭い視線を向ける。

 

「だからって強くなることを怠らないようにしなさい。……世の中、心も体も強くあろうとすることを忘れた者は食い物にされるわ」

 

 それは厳しいが、しかし気遣いに満ちた言葉だった。

 

 なんか、深いな。

 

 そして、実感がこもってる。

 

「私はそれがいやなの。もう、弱い雌犬でいるのは御免だしね。……あなたは弱いままでいいの?」

 

「まさか。そんなわけがないでしょう?」

 

 その姐さんの言葉に、お嬢は毅然として返す。

 

「私はグレモリーの次期当主。そして赤龍帝の主よ。弱いままなんて、負けっぱなし何て絶対に嫌だわ」

 

「その意気があれば、大丈夫ね」

 

 そういうと、姐さんは微笑んだ。

 

 それを見て、アザゼルは俺達神器持ちを見渡した。

 

「ま、まずは神器持ちの強化が必要不可欠だがな。聞けば木場の奴も禁手を一日も持たせられねえそうじゃねえか。ヴァーリはひと月は持たせられるぞ?」

 

「一か月ぅ!? オレなんて条件付きで数秒ですよ!?」

 

「オイコラ。それは禁手に至ってすらいねえ俺やギャスパーに対する嫌味か、ああ?」

 

 一遍どついたろか、イッセー。

 

「ま、それはおいおいな。白龍皇の力も要練習だろうし、俺が直々に見てやるよ。そんでもって―」

 

 アザゼルの視線が、朱乃さんに向いた。

 

 その視線に朱乃さんは不快げな表情を浮かべる。

 

 考えてみりゃ、朱乃さんはアザゼルを視界に移してからずっと不機嫌そうな表情を浮かべてやがった。

 

 なんだ? 前から思ってたけど、朱乃さんって堕天使に対してかなりあたりきつくないか?

 

「……まだ俺たちが、バラキエルの奴が憎いか?」

 

「赦すつもりはありません。母はあの男のせいで殺されたのですから」

 

「……まあ、そうだろうな。だが、グレモリーに身を寄せたのは正解だと思うぜ? 他のところだったらアイツは殴りこんでたろうな」

 

 その言葉に、朱乃さんは何も言わなかった。

 

 ……なんか、事情でもあんのかねぇ?

 

「ま、何はともあれそろそろ期末試験もあるしな。まずはそこを何とかするとこから気合入れとけよ」

 

「よっしゃぁ! 現代の英雄は頭もよくなきゃやってらんねぇしな! 国語以外は学年一桁台目出すぜ!!」

 

 俺は気合を入れて両手を鳴らす。

 

 ふっふっふ。話題の転校生が成績優秀ともなれば、注目度は抜群。

 

 その勢いで彼女作ってやるぜ! 勉強できるチャラい男とか、年頃の女の恰好の獲物だろ!!

 

「おやおや、これは負けてらんないね」

 

「ふむ、私も国語以外なら頑張れる自信はあるぞ?」

 

 ちっ! 木場とゼノヴィアもやる気になりやがったか。

 

「あ、あうぅう。皆さんやる気になってますぅ」

 

「マジか。俺なんて赤点回避すんので大変だってのに……」

 

 アーシアとイッセーはさすがに大丈夫か?

 

 ま、そんなこんなで俺たちも気合を入れて行きますか!!

 

 英雄目指して一生懸命! ヒロイ・カッシウスは頑張るぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだった。サーゼクスから伝言があったんだ」

 

 ん? なにアザゼル?

 

「……眷属同士の結束を強めるため、グレモリー眷属は兵藤一誠の家に住めとよ。必要なら金は出すから増築していいとか言ってたぜ?」

 

 なんだとぅ!?

 

 こ、この誰がどう見ても美人だらけのグレモリー眷属が、変態と同じ屋根の下とかふざけんじゃねえ!!

 

「はいはいはい!! 俺もオカルト研究部所属なんだから、広義の意味でグレモリー眷属だと思いまっす!!」

 

 俺だってお色気ハプニングとか会いたいっす! てか合わせろやコラあ!!

 

「なあ、お前らもそう思うだろ!?」

 

 俺は援護射撃を求めて木場とギャスパーに助けを求める。

 

「いや、僕は別にいいよ」

 

「人の多いところ嫌ですぅうう!!」

 

 役に立たねえ!!

 

「イッセー!! 女だらけの空間に押し込められてもなぁ! ガールズトークばっかりで居心地悪くなるんだぞ!! 俺を入れとくとお得だぜ?」

 

「………いや、っていうか俺んちそんなにでかくねえって」

 

 あ、それもそうか。

 

 ごく普通の日本の家って感じだったな。なんかものすごく狭くなりそうだな。

 

「だから出資するって言ってるだろ? 悪魔の技術なら増築に一日もかからねえよ」

 

「なおさら入れてほしいと思います!!」

 

 俺は渾身の押し売りを仕掛ける。

 

 だってそうだろ!?

 

 この、明らかにハイスペック美少女の群れと同じ屋根の下!!

 

 男として、このシチュエーションは見過ごせねえ!!

 

 え? リアスのお嬢もアーシアの嬢ちゃんも朱乃の姉さんも全員イッセーに懸想してる? 知ってんだよそんなことは!!

 

 それでも!! 同じ屋根の下に入れるってことが重要なんだからな!!

 

「あら、だったら私も家賃を浮かせたいから下宿させてもらおうかしら」

 

「お姉さまが済むなら自分も住むッス!!」

 

 おお、さらに美人が増えた!!

 

「ま、いいんじゃねえか? 女だらけってのもイッセーの居心地が悪くなるだろうしな」

 

 よっしゃ! アザゼルからも言質取ったぁ!!

 

 この調子で、俺もまた美少女御殿へレッツゴ……。

 

「……リアス! アザゼル総督!!」

 

 と、生徒会長がやけに慌てた表情で入ってきた。

 

 な、なんだなんだ?

 

 その焦っているとしか思えない表情に、俺達は全員緊張する。

 

 なんだよいったい。まさか、言ったそばから禍の団が攻めてきやがったのか?

 

「どうした。何があった?」

 

 アザゼルが、今までのおちゃらけた表情を消してた会長に促す。

 

「……口で説明するより見てもらった方が早いでしょう。すぐにテレビがある部屋に来てください」

 

「其れならすぐに用意できるわよ」

 

 会長の言葉に、姐さんがどこからともなくテレビを取り出した。

 

 え、何それ。

 

「私の神器。曹操の言い分だと、これが私の本来の神器らしいけどね」

 

 そう言いながら姐さんはテレビを起動させ―

 

『繰り返します! これは映画ではありません!! ……謎のモンスターが、米国基地を襲撃しています!!』

 

 ―あれは、和平会談を襲った魔獣じゃねえか!?

 

 

 




どうしても、平穏から一転して急転直下の展開を出したかったんや!

ここから数話は完全に禍の団のターンです。……いや、違いますね。



















ここから、この物語の真の敵が姿を見せつけます。


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第一章 18 その名はヴィクター経済連合

はい、アップダウンの激しかった前の話から続けていきます!




 

 

 

 

 米国陸軍は、未曽有の事態に対してしかしかろうじて反応していた。

 

 テレビの取材に応じた基地が、突如として霧に包まれ、そしてそれが消え去ったときには大量のモンスターが現れたのだ。

 

 それに対して、基地の司令官の反応は迅速だった。

 

 これを強襲と判断した基地司令は、即座に攻撃命令を発令。

 

 万が一、これが何かのサプライズだとしても、あまりにも悪質。ならば自分が責任を取ってでも即座に迎撃するべき。

 

 そう判断した基地司令は英断であり、どちらかといえば善な判断を下したといえるだろう。

 

 だが、それは焼け石に水だった。

 

「……第三分隊通信途絶! これで部隊の二割がMIAです!!」

 

「弾丸が効いてません! 突撃銃はおろか、重機関銃の弾丸すら意に介してません!! 対戦車兵器の許可を要請してます!!」

 

「機甲部隊の攻撃が通用してません! HEAT弾の攻撃すらモンスター一匹倒すのに数発は必要の模様!」

 

「攻撃ヘリ部隊、すでに飛行型モンスターによって全機撃墜!!」

 

 通信兵が報告する内容は、全てにおいてこちらの圧倒的不利を告げていた。

 

 世界最強の軍隊と断言できる、この米国の基地。それも国境近辺にあるがゆえに相応の戦力を集めているこの基地がまともな抵抗すらできずに蹂躙されている。

 

 しかし、それでもなお闘う余地は残っていた。

 

「滑走路は死守しているな!? A-10で攻撃しろ!!」

 

 かろうじて滑走路にだけはろくに敵がいない。まず真っ先に確保するべき滑走路に、敵がいない。

 

 相手が何者かはわからないが、少なくとも現代戦の基本を理解していないことだけは確かだ。

 

 制空権を確保することは戦場において非常に重要。そのための施設である滑走路の制圧は、間違いなく重要なピースの一つである。

 

 このチャンスにすべてを掛け、司令官は攻撃機を緊急発進させた。

 

「A-10部隊に連絡。基地の被害はある程度無視していい。まずは基地内に侵入したモンスターを殲滅しろ!!」

 

「しかし指令! 一部では乱戦状態になっている地帯も―」

 

「責任は私がとる!! ここでこの基地が落とされてみろ! 本国にこのモンスターの群れが突入するぞ!!」

 

 部下からの反論を一蹴して、指令は即座に攻撃命令を下す。

 

 今ここでこのモンスターを撃破しなければ、どのみちこの基地は終わりである。

 

 最悪、自分の首で済ますと覚悟を決め、司令官は攻撃命令を下し―

 

『こちらヘッジホッグ1! こちらヘッジホッグ1! 攻撃を受けている!!』

 

 ……その攻撃機部隊が壊滅寸前であることを思い知らされた。

 

「ヘッジホッグ1! 敵とはなんだ! こちらのレーダーには何も映っていない!!」

 

『こちらヘッジホッグ1! 敵は人間だ!! 人間が、箒に乗って空を飛んでいる!!』

 

 その言葉に、全員の思考が一瞬真っ白になった。

 

 気が狂っているとしか言いようがないが、しかし通信の声は真剣で正気を感じさせる。

 

『信じられねえ。こいつら、A-10(俺達)より速い!! もう俺しか残って―』

 

 その直後、通信が途切れて、ノイズだけが残る。

 

 その事実が、すでに打つ手がなくなったことを示していた。

 

 そして、その瞬間指令室の壁が破壊される。

 

 ……対戦車兵器の直撃程度なら一発ぐらいは耐えられるはずの頑丈な壁が、まるでバターのように切り裂かれた。

 

 そして、そこに入ってくるのはおかしな格好の青年だった。

 

 まるで日本のハイスクールの制服のような恰好をして、さらに中国の民族衣装を腰に巻いている。

 

 そしてその手にあるのは、凝った装飾の一振りの槍。

 

 どう考えても、現代の戦争に参加するものではない。

 

 まるで日本のコミックに出てくる主人公のような青年の姿に、その場にいた者たちは訳が分からなくなる。

 

 だが、それでも相手が敵であることだけはわかった。

 

「……撃て!!」

 

 司令官の言葉とともに、MPが遠慮なくサブマシンガンを発射する。

 

 訓練のたまものでオペレーターのほとんどが伏せていたこともあり、その弾丸は遠慮なく青年に襲い掛かる。

 

 そして、その弾丸の嵐を青年はそよ風のように受け止めた。

 

「……さすがに、この程度が限界か」

 

 其の在りえない光景に、全員が恐怖にかられる。

 

 今目の前にいるのは本当に人間なのか。そんな可能性すら考えてしまった。

 

 そして、その一瞬の隙をついてその青年は司令官に槍を突き付けた。

 

「司令官殿、投降をお勧めする。無駄に死人を出すのは、英雄のすることじゃないからね」

 

「英雄だと? ……ふざけるなよ、テロリストめ」

 

 最後の抵抗とばかりに毒づく司令官だが、青年はそれに微笑を浮かべた。

 

「いや、英雄だよ。世界のゆがみを正す組織の、れっきとした一番槍さ」

 

 その言葉とともに、青年はリモコンのようなものを取り出すとスイッチを入れる。

 

 その瞬間、指令室のモニターの一つが一つの放送を映し出す。

 

 その映像を見て、青年以外の誰もが息をのんだ。

 

「ほら、俺達はテロリスト何てちゃちな組織じゃないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その放送の中で、リムヴァン・フェニックスは優雅に一礼した。

 

「お初にお目にかかる、神々に騙されている人間たちよ。僕の名前はリムヴァン・フェニックス。今起きている全世界同時クーデターの首謀者だ」

 

 その言葉とともに、彼の後ろのモニターで数々の戦いの光景が移されていた。

 

 場所はそれぞれ違うところを移しているが、しかし一つだけ共通点がある。

 

 すべてにおいて、魔獣と生身の人間が、戦車や戦闘機などを圧倒していることだ。

 

「これは言っとくけどCGじゃない。っていうか、空を飛ぶとか人間ならだれもが一生懸命勉強すれば死ぬまでにできるようになるからNE!」

 

 そうおどけていうと、リムヴァンはさらに続ける。

 

「我々の組織名は、ヴィクター経済連合。人類に新たな発展を与えるものだ」

 

 そう告げるとともに、彼は魔法陣を展開する途中に浮かぶ。

 

「といっても、別に新しい技術を提供するとかいうわけじゃない。そもそもこの技術は千年以上前にとっくの昔に実用化されていたものだよん?」

 

 そういうと同時、今度は炎を生み、氷を生み、雷を生み、暴風を生む。

 

「この技術の名前は魔法。かつて人間が神秘的な存在の力を模倣しようとして生み出し、神々によって隠された力さ」

 

 そして、指を鳴らすと今度は魔獣達が姿を現す。

 

「この魔獣はドーインジャー。これは、神器(セイクリッド・ギア)という聖書の神が作り出した能力の一つを使って作ったものだ」

 

 そこまで告げ、リムヴァンははっきりといった。

 

「今ここで真実を告げよう。つい先日、日本の駒王町という地方都市で、聖書の神の勢力は、悪魔及び堕天使と和平を結んだ」

 

 そう、はっきりと告げた。

 

 その言葉の意味を、見ている者たちはよく理解していなかっただろう。

 

 しかし、それは大きな衝撃を数十億の者に与える。

 

 当然だ。聖書の神、すなわちヤハウェを信仰するものは数多い。

 

 キリスト教だけで二十億、イスラム教やユダヤ教も含めれば、世界人口の半分を占める。

 

 そして、その前提として悪魔は神の敵である。

 

 それが、和平を結んだ。すなわち、これから仲良くしていくということなのだ。

 

「これは真実だ。そして、暴挙はそれだけにとどまらない」

 

 彼は苦笑を浮かべると、さらに指を慣らす。

 

 そしてモニターの映像が変化して、様々なこの世のものとは思えない光景が映る。

 

「北欧神話、アースガルズ。ギリシャ神話、オリュンポス。中国神話、須弥山。……それ以外にも数々の神話の神々と彼らは和議を結ぼうとしている」

 

 その言葉の意味を、映像を見ている者たちの殆どは理解していないだろう。

 

 だが、それでもこの映像を世界に流しているという事実は大きなものを生む。

 

 なにせ、この映像を流している男は、数多くの国で軍事クーデターを起しているのだ。

 

 それも、モンスターと空を飛ぶ生身の人間という異常極まりない光景とともに。

 

 この事実はどうあがいても消すことはできない。まず間違いなく世界中の人間が知ってしまった。

 

 この時点において、もう聖書の教えと神々は後手に回ってしまったのだ。

 

「なによりも問題なのは、この事実を最大多数である人間の君たちの九割九部が知らないことだ」

 

 そう、この事実を普通の人間は知らない。

 

「そして、たいていの国のトップたちはそれを知っておきながら、その事実を公表しなかった。これは君たちに対する裏切りだ」

 

 そして、その衝撃に彼は付け込む。

 

「われわれ、ヴィクター経済連合はこの一方的な支配を打破するために結成された。彼らはその出資者だ」

 

 その言葉とともにカメラが動き、何百人もの人々の姿を映し出す。

 

 その姿を見て、彼らが誰かを知るものは数多いだろう。

 

 財閥の長。石油王。小国のトップ。

 

 人間世界で相応の地位についている者たちが、そこにはいた。

 

 この事実が、彼らに現実味を与える。

 

 人間世界において有数の地位を持つ者たちが、この荒唐無稽な話を認めているのだ。

 

 これは事実だと、多くの者たちが思い知ってしまった。

 

「繰り返す。我々はヴィクター経済連合! そして、その実働部隊、禍の団(カオス・ブリゲード)! 神々の一方的な支配に対し、人類の尊厳と発展を勝ち取るための組織!!」

 

 一呼吸貯められ、そして言い切った。

 

「歪んだ秩序を生み出す者たちに、(わざわい)をもたらす軍団だ!!」

 




第一次真世界大戦の幕はついに開かれました。

ちなみに、各機会があるかどうかわからないのでここで書きます。

ヴィクター経済連合のスポンサーである金持ちの思惑は様々です。

実際に大義名分の通りに異形たちによるある種の支配ともいえるこの現状に憂いているもの。ただ単に異形の技術を使ってより儲けたいもの。異形の力があれば回避できた不幸を嘆くもの。

それらに対して、リムヴァンの協力者が言葉巧みに近づいて、スポンサーにしました。









………あれ? どっかでそういうの得意な奴がいたような?









ちなみにヴィクター経済連合のヴィクターは、ヴィクター・フランケンシュタインから名付けました。

人によってとんでもないものを創造してしまったという意味です。









ちなみに一章はあと一話。そして、次がヴィクター経済連合による最初の異形勢力に対する大戦果となります。


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第一章 19 カーディナル・カタストロフィ

はい。これで第一章はラストです。










……自分で書いててあれだけど、この作品消されないかちょっと不安になるなこの展開。


 その光景に、俺達は息をのんだ。

 

『まず謝っておこう。我々は三大勢力の和平という信徒に対する裏切りを阻止するべく立ち上がったが、力及ばず和平成立を止めることはできなかった。心より謝罪する』

 

 そう言って、リムヴァンは頭を下げる。

 

 ふざけやがって、あの野郎……!

 

「あの野郎、なんてマネをしやがった!!」

 

 アザゼル先生が机を叩く。

 

 そのあまりの力に机にひびが入るが、そんなもんを気にしている場合じゃねえ。

 

 あの野郎、とんでもないことをしやがった!!

 

「何てこと。我々異形社会でタブー視されていた、人間界への情報開示をこんな形で行うなんて……っ!」

 

 お嬢に至っては顔色が悪い。いや、ほかのみんなも真っ青だ。

 

「だけど、有効な手ではあるわね」

 

 そんな中、姐さんは苛立たし気に歯をかみしめるけど、納得したかのようにうなづいた。

 

「確かに異形勢力は、そのことごとくが人間世界に秘匿しながらもある程度の影響力を持っていた。それは、裏から支配されていると受け取られかねない……!」

 

 たしかに、堂々と活動している教会はともかく、悪魔と堕天使に関しては十分言える内容だ。

 

 リムヴァンの奴、自分たちのことをテロリストじゃないとか言ってやがったがこういうことか……っ! むしろ、俺たちに対抗するレジスタンスとでも言いたいのか!

 

 あれだけの協力者が一斉にクーデターを起した以上、もはやこれはテロリストとの戦いなんかじゃねえ。

 

 アイツは、テロリストどころか国作って宣戦布告しやがった。

 

『だが、この悪辣な支配に対抗する者たちは数多い。我々悪魔の派閥、旧魔王派は人類の解放のために立ち上がることをここに宣言する』

 

 そう告げると同時、魔法陣が発生して三人の人物が現れる。

 

 そのうちの一人はカテレアだった。

 

 ってことは、残りの2人も旧魔王派の奴か!!

 

『彼等四大魔王の末裔たちが、我々とともに立ち上がってくれた同士達だ』

 

 そして、言葉とともに霧が生まれ、さらに大量の人々が姿を現す。

 

 其の中には、曹操とゲオルクの姿もあった。

 

 英雄派の連中、ここにきて堂々と姿を現しやがったのかよ!!

 

「曹操……っ」

 

「まさか、彼も出てくるとは!」

 

 イッセーと木場が唸る中、リムヴァンはカメラに向かって笑みを浮かべる。

 

「世界各国に告げる。これから一定の猶予期間をあたえよう。それまでに、我々ヴィクター経済連合とともに人類の真なる発展のために立ち上がるか、傲慢たる神々に飼いならされるかを選ぶがいい!!」

 

 そして、リムヴァンは宣言した。

 

「宣言しよう。是こそが真なる世界の命運をかけた戦い、第一次真世界大戦であると!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この緊急事態に対し、聖書の教えでは急遽緊急会見が開かれることとなった。

 

 当然である。なにせ、悪魔とは聖書の教えに対する悪徳の象徴なのだ。

 

 その悪徳の象徴たる悪魔と和平を結ぶなどという事実に、すでに世界各国で大規模なデモが発生していた。

 

 本来鎮圧するべき警察も、デモが起きている国では大半が聖書の教えを信仰している。ゆえにその動揺はすさまじく、むしろ武器を提供して参加するものまでいる始末。

 

 さらにリムヴァンによってその神話的勢力とのつながりが示されたことで、数多くの国の国会議事堂などといった政治的重要施設を目標として暴徒が押し寄せているほどだ。

 

 一部の国に至っては、すでに国会議員などに死者が出ているほどの緊急事態。最早看過する余裕などなかった。

 

 会見に詰めかけた報道陣の中にも殺気立っている者がおり、一歩間違えれば大惨事が起きることもあり得た。

 

 ゆえに、会見場には多数の悪魔祓いが姿を現していた。

 

 聖水と聖書を使って悪魔を払う悪魔祓いではない。

 

 天使たちより光の力を借り、光の剣と銃で悪魔を殺す裏の悪魔祓いたちだ。

 

 その姿に、報道陣たちは戸惑うが、しかし注目するべきはそこではない。

 

 そんな緊張感のなか、教皇が姿を現す。

 

「……今回の、ヴィクター経済連合について、我々からの正式な見解を―」

 

 その、まさに同じタイミングで、ローマ教皇の背中に映像が映った。

 

 それは、どこかの学校の会議室を移していた。

 

 問題は、そこに映っている人たちだ。

 

 まるでお伽噺の世界から抜け出してきたかのような格好の者たちが集まっている。

 

 裏の業界になれているものなら、それが三大勢力の重鎮であることに気づいただろう。

 

『会談を始める前に、前提条件を一つ言っておこう』

 

 そして、紅の髪の男が口を開く。

 

 そして、其れに気づいた教皇は顔を真っ青にして叫ぶ。

 

「……待て、やめろぉおおおおお!!!」

 

 その狼狽ぶりに報道陣と護衛の悪魔祓いが唖然とする中、紅の髪に男は口を開いた。

 

『この場にいる者たちは全員、我々三大勢力の最重要禁則事項である、聖書の神の死を認知している』

 

『知ってるよ。うちのコカビエルがバラしたからな』

 

『もちろんわかっております。出なければ、この会談に参加することなどありえません』

 

 その瞬間、ローマ教皇は崩れ落ちた。

 

 その顔色は青を通り越して真っ青であり、呼吸も荒い。

 

 その反応が、今の言葉が事実であることを証明していた。

 

「お、おい。今……なんていった?」

 

「神が死んでる? 唯一神たる我らが神が!?」

 

「ど、どういうことですか教皇猊下!?」

 

 報道陣がカメラを取り落としながら口々にまくしたてる中、教皇は何とか口を開こうとして―

 

「どういうことも何も、何百年も前に聖書にしるされし神は四大魔王とともに死んだのよ」

 

 その言葉とともに、霧が生まれる。

 

 そして、其の中から一人の少女が姿を現した。

 

 金色の髪を伸ばした、一人の少女。

 

 その少女は、優雅に一礼した。

 

「初めまして、皆様。私、オルレアンの聖女であるジャンヌ・ダルクの魂を継ぐものです」

 

 その言葉とともに、ジャンヌ・ダルクを名乗った少女は微笑を浮かべた。

 

 しかし、それをすぐに消すと彼女はローマ教皇の前に立つ。

 

「さて、今まで信徒を騙していたことをバラされた気持ちはどうかしら、教皇猊下?」

 

「お前たちは……お前たちは、自分が何をしたのかわかっているのか!?」

 

 唾をまき散らしながら糾弾する教皇に、しかしジャンヌは平然としていた。

 

 何を言っているのかわからないとでも言いたげに、小首すらかしげる。

 

「あら? 本来速やかに公表するべき緊急事態を、今までセラフとともに隠してきたのはアンタたちでしょ? 私たちはその真実を公表しただけよ?」

 

 さらりと返答すると、ジャンヌは何処からともなく剣を生み出すと、それを大上段に振りかぶる。

 

「な、なにを―」

 

「決まっているでしょう? 20憶もの信徒たちをだまし、人類を裏から支配してきたものたちの小間使いになることで尊敬を集めていた、大罪人を罰するの」

 

 その言葉に、教皇は自分が何をされるのかを理解した。

 

 視線を周りに向けるが、しかし悪魔祓いたちは動こうともしない。

 

 それどころか、憎悪の視線すら向けて教皇を睨む。

 

「俺達を騙してやがったのか!!」

 

「今まで俺たちは、何のために生きてきたんだ……っ」

 

「返せよ、死んでいった同胞たちを返せ!!」

 

 糾弾すらする悪魔祓いたちは、教皇を助けようなどという意志をかけらも見せていない。

 

 もはや彼らに信仰心などありはしない。唯一絶対の存在を謳っておきながら、自分たちが生まれる前に死んでいたものなどを信仰してきたという無常さと、そこから反転した怒りと憎悪があるだけだ。

 

 あまりにもタイミングが悪かった。

 

 ただでさえ、これまで敵と教えられてきた悪魔や堕天使との和平で、彼等もまた気が立っていたのだ。

 

 それでもそれが主の決定ならばと我慢した。不満はあったがそれを飲み込んでいた。

 

 しかし、その主はとうの昔に死んでいたという。

 

 この急展開に、彼らははっきり言って血迷っていた。

 

 そして、それは取り返しのつかないところまで来てしまう。

 

「さあ、罰をうけなさい!」

 

 その言葉とともに、ジャンヌは剣を振り下ろす。

 

 その瞬間、世界中で絶叫がほとばしった。

 

 目の前で世界的に重要な立場であるローマ教皇が殺されたのだ。当然だろう。

 

 だが、それと同時に喝采もまたほとばしった。

 

 神の名を騙り、人類を先導してきた者たちの使いっパシリに裁きが下った。そう認識するものも数多くいた。

 

 そして、ジャンヌは教皇の首を切り落とすとそれを掲げる。

 

「今ここに! 我ら禍の団は最初の成果を上げた!! そして、偽りの支配から脱却する第一歩となる!!」

 

 その言葉に、報道陣は一斉にカメラのシャッターを切る。

 

 目の前で人が死んだことに対する恐怖はある。しかしそれは、それ以上の衝撃の事実の群れにかき消されていた。

 

 そして、その勢いで起こったこの断罪に、多くの者たちが興奮していた。

 

 悪魔祓いたちも、それがまるで正義の断罪であるかのように思い喝采を上げる者がいる。

 

「私はこの首とともに禍の団の本部へと凱旋するわ。……三十分だけ時間をあげるから、ついてきたい人はここをくぐりなさい」

 

 その言葉とともに、多くの者たちが躊躇する。

 

 なにせ、禍の団には旧魔王の末裔が存在している。

 

 いかに教えの根本が崩壊していたとはいえ、これまで敵対していた者たちと協力するのには躊躇いもあった。

 

 だが、やがて一人の悪魔祓いが一歩前を踏み出した。

 

「……俺はいくぞ」

 

「お前、何を言ってるんだ!?」

 

 止めに入る同僚を振り払い、彼は叫んだ。

 

「俺達は騙されてたんだ!! しかも、バチカンの連中はそれを知っていてずっと黙っていやがった!! 赦せるか!!」

 

 その言葉に、どよめきが起こり、同じように歩き出す者たちが次々と出てくる。

 

 また、会見場の外側にいた悪魔祓いたちも、次々と押し寄せてきていた。

 

「俺も行くぞ!! もうこんなところにいる意味なんてねえ!!」

 

「そうだ!! ヴィクター経済連合にこそ正義がある!!」

 

「俺達みたいな被害者を、出すわけにはいかねえんだ!!」

 

 彼らは意気揚々と声を張り上げ、霧の中へと入っていく。

 

 そして三十分が過ぎようとしたとき、ジャンヌはカメラに向かって深く一礼した。

 

「ヴィクター経済連合に与したいものはいつでも電話で連絡して頂戴。 私たちは、霧とともに迎えに行くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この日、世界は文字通り二分された。

 

 神々及びそれに従うことを良しとする勢力と、それを良しとせず、神々から独立することを選んだ勢力。

 

 大義と大義がぶつかり合う、文字通りの大戦が幕を開けることとなる。




曹操・リムヴァン「大義と戦果げっと!!」

はい。実は一度でいいから自分がやりたかった「聖書の神の死をばらす」をやってみました。

ぶっちゃけ、旧魔王派はまずこれをやるべきだと思うんですよ。そうすれば聖書の神の勢力はほぼ確実に大打撃を与えられますから。








とりあえず、これで第一章は終了しました。

次からは冥界合宿のヘルキャット編と体育館裏のホーリー編を続けざまに行う、話になると思います。

いまだ戦ってないペトがどういうタイプなのか。そして彼女が神滅具持ちであるリセスの相方として相応しい存在であるのかを刻み込んだりします。

それに、こっから魔改造キャラもポンポン出てきますので、お楽しみに!


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第二章 赤龍、覇を駆ける
第二章 1 一周回って落ち着くってよくあるよね


第二章に突入しました。

この第二章。いうなれば赤龍帝覚醒編とでもいいましょうか……。とりあえず、VS旧魔王派偏といったところですね。原作でいうのなら、ヘルキャット編とホーリー編をやります。

ですが、双方ともに後半の展開は原作とは異なります。……なにせ戦争やってますから。思い通りに行くわけがない。



 ……ヴィクター経済連合の設立から数週間。意外なほどに世界は静かだった。

 

 ヴィクター経済連合は「民間人に罪はない」として、経済活動そのものは連合以外に対しても多少割高に行っていたからだ。

 

 それも魔法を組み込んだことでより物価はむしろ安くなり、多くの国がその恩恵を受けてる。

 

 その所為で、クーデターで独立したり政権奪取された国家以外にも、協力を表明する国家がいくつも出てきてた。

 

 日本に関しては、敵に回すとややこしいことになると判断したのかアメリカがかなり優遇政策をとってるので今のところは落ち着いてる。

 

 しかも平和ボケと揶揄されるこの日本。不安になってるやつもいるけど、夏休みってことで観光ムードになってるやつらもゴロゴロいる。

 

 流石にちょっと安心しすぎじゃねえか?

 

 憲法九条はこっちから殴りかからないってだけで、それをいいことに殴りに行く馬鹿はいくらでも出てくると思うんだけどよぉ。

 

「ま、平穏無事に過ごせるってのはいいことなんだけどよ」

 

「まあそうね。この国のいいところは世界でも有数に平和なことなんだし、それがなくなるのは寂しいわ」

 

 俺のボヤキに、姐さんも同意する。

 

 姐さん、もしかして結構荒れた地域に住んでたのか? 平和とか大事にしてるっぽいけど。

 

 ま、英雄なら戦争を好むより平和の為に戦う方がいいか。そんな英雄が俺の輝きだってのは、最高にラッキーだぜ。

 

 そんなことを思っていると、ペトが姐さんの持っている地図を覗き込んだ。

 

「お姉さま。それでイッセーの家は何処っすか?」

 

「そうね、地図ではこの辺りのはずなんだけど……」

 

「あ、其れなら俺行ったことあるから大丈夫だって。そこの角を曲がったところに……」

 

 と俺は指を指して、固まった。

 

「んん? あんなビルあったか?」

 

 なんか、イッセーの家がある方向に、どでかい建物があった。

 

 何ていうか、明らかにビルじゃねーか?

 

「なんだ、あの場違いなビル」

 

「無駄に豪華っスね」

 

 ペトと俺はぽかんとするが、姐さんは何かに気づいたのか苦笑した。

 

「あらら。グレモリー家は娘の仮住まいにも本気を出しすぎでしょ」

 

「「へ?」」

 

 二人揃って首を傾げると、姐さんはクスリとほほ笑んだ。

 

「たぶん、あれが増築されたイッセーの家よ」

 

 俺とペトは、その言葉に顔を見合わせて。

 

「「えぇええええええええ!?」」

 

 一斉に絶叫した。

 

 いや、増築しすぎだろうが!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、マジでびっくりしたって。朝起きたらいきなりでかくなってんだもん」

 

 と、イッセーは感想を漏らした。

 

 おいおい、肝心の本来の住人に何も言ってなかったのかよ。

 

「リアス。あなたはあくまで居候なんだから、もう少し礼儀というものを弁えなさい」

 

「い、いいじゃない。どうせ遅かれ早かれ私の家にもなるんだから……」

 

 姐さんに説教されて、お嬢は口を尖らせる。

 

 お嬢。あんたちょっとは自重しましょうや。自分のペースで活動しまくり。

 

 この新生兵藤邸。地上七階建てで地下三階というものすごいスケールだ。

 

 ちなみに俺や姐さん達は七階に住むことになってる。

 

 地下には大浴場があるんだが、たぶん女性陣が占有するんだろうなぁ。ま、俺はシャワー派だからそこまで気にしねえけどよ。

 

「俺、自分()の改装計画に一切関わってなかったんだけど。なんで?」

 

「つーか、お前の親父さんとお袋さん、こんな謎現象にパニクってないわけ?」

 

「なぜか平然と受け止めてた」

 

 すげえ。大物だあの二人。

 

「それにしても、今年の夏はあまり楽しめないんじゃないかしら」

 

 と、姐さんは呟いた。

 

 それには俺も同意だな。

 

「それもそうだよな。せっかく教会の仕事から解放されたんで、夏はナンパでもしようかと思ってたんだけどよ」

 

「マジか! 俺も参加させてくれよ。松田と元浜の奴、童貞卒業して悟ったのか乗り気じゃなくてさぁ」

 

 お、気が合うなイッセー。

 

 平和ボケ日本万歳! 童貞卒業を試みるチャンスが、まさかあんな大事が起きた後に起ころうとは!!

 

 俺達はそのまま馬鹿な話で盛り上がろうとして―

 

「あら? 私達は夏は冥界よ?」

 

 お嬢から、そんなお言葉をもらいました。

 

「……………え?」

 

 イッセーが、即座に地獄に落ちた人間のような顔をしやがった。

 

「イッセーくん、もしかして何か勘違いしてないかい?」

 

 と、木場が苦笑して、イッセーの顔に表情が戻る。

 

「ただの里帰りだよ。故郷から離れてる学生が、夏休みに実家に戻るなんてよくあることじゃないか」

 

「あ!」

 

 その言葉にイッセーはすぐに正気に戻ったらしい。

 

 目に涙迄浮かべてほっとしてやがる。どんなこと考えてたんだよ。

 

「もう、イッセーったら。私とあなたは病める時も健やかなる時もずっと一緒よ? 千年万年単位で一緒にいるんだから」

 

 お嬢、それもう告白っすよ?

 

「つーことは、当然眷属も連れていくっすか?」

 

「当たり前でしょ。上級悪魔の里帰りに眷属がついて行かないなんて、笑い話にもならないわよ」

 

 ペトの軽口にお嬢は笑って答えた。

 

 ま、貴族の里帰りなら側近は当然ついて行くわな。

 

「生きているのに冥界に行くなんて緊張します! 死んだつもりで行きます!!」

 

 アーシア。君達悪魔なんだから死ななくても冥界行けるから。

 

「冥界には前から興味があったよ。だが、天国に行く為に主に仕えてきた私が悪魔になって冥界に行くとは。なんというか、皮肉を感じるよ」

 

 ゼノヴィア。お前は自発的に悪魔になったんだろうが。

 

 信徒悪魔二人が大ボケかましてる中、イッセーは少しだけ残念そうな表情を浮かべていた。

 

 なんだ? 夏休み予定があったのか?

 

「そっかー。俺、夏休みもこっちにいるもんだと思ってましたよ。海行ったり温泉入ったりするつもりでした」

 

「其れなら大丈夫。うちのお城には温泉もあるわ。海はないけど、湖ならあるもの」

 

 と、お嬢はイッセーに微笑んだ。

 

 わーお。流石72柱の直系。格が違うぜ!

 

「それと前にも言ったけれど、同世代の若手悪魔が集まって、上役達に挨拶するから、それにも参加ね?」

 

「そういえば、四大魔王を輩出した世代と大王及び大公の後継者が同世代だったらしいわね」

 

 お嬢の言葉に姐さんが、ふと思い出したかのようにそう言ってくる。

 

 ああ、そういやそんなこと言ってたな。

 

 出生率の低い悪魔で、そんな偶然が起こるとか、冷静に考えると驚くな。

 

「ちなみに俺も冥界行きだ」

 

 と、そんな声が聞こえた。

 

 俺達は驚いて顔を向けると、そこにはアザゼルが堂々とソファーに座っていた。

 

「そうなの? てっきりこっちで色々動くものだとばかり思ってたけど」

 

「ま、堕天使総督となると色々忙しいんだよ」

 

 姐さんは平然と話してるけど、いつの間に!?

 

「あ、アザゼル? あなた、どこから入ってきたの?」

 

「あ? 玄関からに決まってんだろ」

 

 平然とアザゼルは答えるけど、其れってつまりドア開けたのかよ!?

 

「全く気付きませんでした」

 

「そりゃ修行不足だな。俺は本当に普通に入ってきただけだぜ?」

 

「常態でそんなに気配消せるあなたは十分化物でしょうが」

 

 木場に呆れるアザゼルに呆れる姐さんという、コンボが成立してやがる。

 

 とは言え、最近のアザゼルにはめっきり助けてもらいっぱなしだ。

 

 アザゼル自身が頭いい上、神器に対するアドバンテージが圧倒的に豊富だから、神器の性能向上に一役買ってる。

 

 俺の場合、聖槍のオーラがあまり漏れ出ないようになって、なんていうか、より静かにより高出力になった。

 

 これなら曹操ともっかいやり合った時はもうちょっと善戦できるたぁ思う。

 

 木場やギャスパー、イッセーもだいぶ成長したみてえだしな。

 

「ぶっちゃけ俺はかなり忙しいが、其れでも面倒見てやるからありがたく思え。敬っていいんだぞ、エッヘン」

 

 とても敬えない餓鬼っぽさを見せつけるアザゼルに、ペトが勢いよく右手を上げた。

 

「流石総督ッス! ついでに自分もご指導お願いするッス!!」

 

「いや、お前は今のスタイル完成してるから無理だな」

 

「酷いッス!!」

 

「だってお前、既に並の上級堕天使なら型にはめれる必勝パターン作ってんだろうが。最上級クラスとまでやり合えるレベル何て、もう俺が何か言うより自分で見つけた方が早いっつの」

 

 なんだと!? そ、そんなレベルに迄高まってるってのか!?

 

 思わず俺達は一斉にペトを見る。

 

 その視線に気づいて、ペトはでかい胸を張った。ちなみに姐さんよりでかい。

 

「ふふっんス! 自分、これでもお姉さまの妹分やってるッスから!!」

 

 すっげぇむかつくどや顔を見せつけるペトの後ろで、姐さんは苦笑してる。

 

「まあ、型にはまらないと同格相手じゃ勝率低いけれどね」

 

「あ、お姉さま酷いッスぅ!!」

 

 おやおや、微笑ましい。

 

 さて、それはともかくとして、冥界か。

 

 実はちょっと興味があるな。俺も行けたら行ってみたかったんだが、流石に無理があるかねぇ。

 

「ああ、ヒロイもついでに来い」

 

「そうね、ついでに来るといいわ」

 

 と思ったら、アザゼル先生とお嬢が同時にそう言った。

 

 え? いいの?

 

「でも俺人間ですぜ!?」

 

「だったら俺がリアスの護衛として呼んだことにしてやるよ。ねえとは思うがヴァーリが仕掛けてくる可能性があるってことにしてな」

 

 アザゼルがそういうと俺の頭をポンポンと叩く。

 

 そんでもって、お嬢は俺の手を取ってくれた。

 

「あなたはもう、私達オカルト研究部のメンバーでしょう? それ位の我が儘は通せるわよ」

 

 お、お嬢……っ

 

 俺は、なんかぶわっと目に来るものが出てきてしまった。

 

「いよっしゃぁあああああ!!」

 

 なんかすっげえレアな体験できるぜ!!

 

 この夏休み、面白いことになってきたかもな!!

 

 俺が思いっきりはしゃいでると、アザゼルはやれやれといわんばかりにため息をついた。

 

「そんなにいいことばかりでもねえだろ。お前ら、禍の団の事忘れてねえか?」

 

 その言葉に、俺達は全員はっとなる。

 

 そうだ。禍の団は宣戦布告を文字通り全世界に行いやがったんだ。

 

 既に全世界の四割が事実上奴らの支配下に置かれている。

 

 更に、突発的に反撃をしに行った国連軍は数時間で壊滅した結果、世界中で敗北ムードが漂ってるとのことだ。

 

 無理もねえ。あのドーインジャーとかいう魔獣で乗り込んで、全ての軍艦を破壊することなく占領して勝っちまったんだからな。

 

 実際、大半の連中は色々と落ち着いているというか状況を把握しきれてないたぁいえ、分かってる連中は割といる。

 

 自殺者の数は、既に例年の数倍いってるし、キリスト教圏の国はかなり経済的にも混乱してるからな。犯罪件数だって軒並み急上昇だ。

 

 ったく。ヴィクター経済連合め。なにもあんなことしなくていいだろうが。

 

「夏季休暇の最中かその後かは分からねえが、お前らはレーティングゲームを何度か経験する事になるだろう。俺はその方向でサーゼクスに打診してる」

 

 アザエルは、そう俺達を見渡して言い放った。

 

 いや、レーティングゲームってその名の通りゲームだろ? それも大人の悪魔の。

 

 いろんな意味でお嬢達がやっていいのか?

 

「こんな時期にゲームなんて、していいの?」

 

「こんな時期だからだよ。転生悪魔は人間に堕天使、妖怪といった様々な種族が集まってるからな」

 

 お嬢の怪訝な質問に、アザゼルはそう答えた。

 

 なるほど。つまり様々な種族が集まっている禍の団との戦いの予行練習にはもってこいってやつか。

 

 うっわぁ。俺もちょっとやってみたくなったぜ。

 

「しかも様々なルールでやり合うから、臨機応変に対応する能力も身につく。案外サーゼクス達はそこら辺を考えてこんなもん作ったのかもな」

 

 そういうと、アザゼルはにやりと笑った。

 

 ま、なんにせよ俺達は修行ってわけだ。

 

 ……俺の脳裏に、曹操の余裕ぶっこきまくりの表情が浮かぶ。

 

 マジでむかつくが俺はあいつより弱い。少なくとも、あいつが本気出さずにおれをボコボコにしたのは間違いなく事実だからな。

 

 だからって、そんな簡単に負けるわけにはいかねえ。

 

 俺は、英雄になる男だ。あの時俺を照らしてくれたリセスの姐さんみたいに、人の心を照らす輝きになるって決めたんだ。

 

 この夏休み、俺はフルに活用して強くなってやる。

 

 ああ、待ってろよ冥界!! 俺は本気で修業させてもらうぜ!!

 




衝撃が強すぎて、一周回って落ち着いている世界。……ことが起こりすぎて誰も状況を受け入れられてないともいえます。

兵藤邸は上に一回分でかくなりました。そこにヒロイたちの住むスペースがあります。……メタ的に、主要オリジナルキャラはイッセーの家に住んでくれないと書きずらいというのがありました。




アザゼルですら手が付けられないぐらいに完成しているペトの戦闘スタイル。この子は本当に自分のペースに持ち込みさえすればかなり強い、神滅具の相方にふさわしい猛者です。おそらく初戦闘シーンは引くんじゃないかと思っております。


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第二章 2

 で、冥界に出発するその日になって、俺達は近くの家の駅に集合することになった。

 

 ちなみに、アザゼルと姐さんはスーツ姿だが残りは駒王学園の制服だった。なんでも、グレモリー眷属にとってはこれが一番の正装だとか。

 

 聖槍使いの正装……我ながらだせえおやじギャグ考えついちまったぜ。

 

「つーかお嬢。冥界行くのに、なんで人間界の駅に向かってんすか?」

 

 マジでそこが疑問だ。

 

 普通に考えりゃぁ、魔方陣使って転移とかじゃねえのかよ?

 

「すぐにわかるわ。まずはイッセーとヒロイとアーシアとゼノヴィアがついてきて頂戴」

 

 と、そういわれて俺たちはエレベーターに乗り込む。

 

 そして、お嬢はポケットからカードを取り出すと、エレベーターの電子パネルに向けた。

 

 そして、エレベーターは下に降り始める。

 

 ふんふん。ここまでは何の問題もねえな―

 

「ぶ、部長。このエレベーターって地下とかないはずじゃありませんでしたっけ!?」

 

 イッセーが驚いてお嬢に質問する。

 

 あ、そういうことか。

 

 イッセーはまだド新人だから、こっちの事情には詳しくねえもんな。

 

「悪魔と契約してる場所には、悪魔関係者しか入れない特殊な場所ってのが用意されてんだよ」

 

「そういうこと。ここは悪魔専用のルートだから、普通の人間には一生たどり着けないわ」

 

 悪魔と密接につながっている場所にはこういうのがいっぱいあるからなぁ。

 

 俺も、悪魔祓い時代にはそういうところに逃げ込まれて任務失敗になりかけた例が多かったぜ。特に聖書の教えが広まってないところだとそういうの多いし。ま、聖槍で無理やり結界をぶち壊してぶっ倒したんだがな。

 

「そういうこと。普通の人間には一生かかってもたどり着けない場所よ」

 

 そうそう。普通の人間には必要ない場所でもあるからな。知らなくても何も困んねえ。

 

 だが、お嬢は苦苦しげな表情でさらに続ける。

 

「それも、今後の流れ次第では公表していくことになるでしょうけどね」

 

 その言葉に、俺達は沈黙する。

 

 禍の団を擁するヴィクター経済連合によって、異形の存在はばらまかれたといってもいい。

 

 今はまだ半信半疑な連中だらけだ。火消も一生懸命されている。

 

 だが、間違いなく数年のうちにばらされるだろうな。それもどの勢力も大々的にだ。

 

 なんたってもう隠せねえもん。隠しようがねえもん。禍の団も隠す気ねえもん。だから、どうあがいてもばらす以外の選択肢はねえ。

 

 あとはいつばらすかってだけの話だ。

 

 ため息つきたくなる空気の中、エレベーターが停止する。

 

 そしてドアが開いた先には、そのしみったれた空気をぶっ飛ばすぐらいでかい空間が広がってやがった。

 

 なんつーか、でかい駅のホームを思わせるなこれ。線路もあるし。

 

 でもって少しすると、姐さんたちもやってきた。

 

 そんでもって俺たちは、専用列車のある三番ホームとやらに向かっていく。

 

 ちなみに、イッセーは朱乃さんと手をつないでいた。

 

 それをお嬢とアーシアはぷくーってかんじで見据えてる。

 

 ……おのれイッセー! なんでその奇跡的な優遇に対して全く気付いてねえ!!

 

 漫画の主人公とかで異性からの好意に全然気づかない奴とか多いけど、現実にいるとマジ害悪だな! 色んな意味で問題多すぎだろ。マジ殴りてえ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 んでもって、俺達は列車に乗って揺られている。

 

 お嬢は主であるということで一番前の車両に乗ってる。俺たちはだいぶ後ろの方だ。

 

 なんでも、眷属は中央から後ろの車両に乗らなきゃならねえ決まりらしい。護衛関係者の俺たちも、それに倣う。……めんどくせえな。悪魔のしきたりってやつか?

 

 ちなみにイッセーとアーシアが一緒の席。でもってその対面席に朱乃さんとゼノヴィア。その隣の席にはギャスパーと木場で、俺と小猫ちゃんがその対面席。その後ろで姐さんはペトといちゃついてる。

 

 んでもってアザゼル先生は端っこの方で爆睡中。

 

 速いだろうが! あんた、悪魔のルートで冥界に行くのは楽しみだとか言ってなかったか!?

 

「それで、どれぐらいで冥界につくんですかい?」

 

 俺は一番慣れてそうな朱乃さんに、時間を聞いた。

 

 電車の移動って結構時間かかることが多いからな。もしかしたら丸一日とかあるんじゃねえかと心配になってんだけど……。

 

「一時間ほどでつきますわ。この列車は、次元の壁を正式な方法で通過するので、そんなにかかりませんの」

 

 お、其れなら退屈しないで済みそうだ。

 

「てっきり、魔方陣を使っていくんだとばっかり思ってました」

 

「普通ならそれでいいのですけれど、イッセーくんたち新しい眷属の悪魔は、一度正規なルートで入国する決まりなのです。婚約パーティの時はサーゼクス様が直々にご招待なさったので特別ですわ」

 

 ふーん。冥界もいろいろあるんだな。

 

 つーか婚約パーティって何なんだ? いろいろあるみたいだな、オイ。

 

「ああ、ヒロイくんたちはアザゼルの要望もあってサーゼクス様から正式に認可が下りていますので、安全は保障されておりますからご安心くださいな。堕天使でも大丈夫ということです」

 

 と、朱乃さんは追加した。

 

 最後の堕天使の方にいささか嫌悪感が込められてた気がするけど、何なんだ一体?

 

 まあ、悪魔と堕天使は長年敵対してたんだから、嫌悪感の一つや二つぐらいあってもおかしくねえけどよ。和平そのものには特に反対してる風には見えなかったがな。

 

 などと思っていると、朱乃さんがイッセーに乗っかって何やら密着してきた。

 

 う、うぉおお。これは見てるだけでも波動砲がエレクトするぜ!!

 

 そのまま朱乃さんはイッセーの手を自分の胸にまで持っていこうとするが、そこにアーシアがブロック!!

 

「……朱乃さんのせいで、イッセーさんが変態さんになってしまいます」

 

「いや、もとから変態だと思うぞ?」

 

 俺はつい突っ込んだ。

 

「あらあら。男は少しぐらい変態な方がいいですわ」

 

 朱乃さん、それは暴論っす。

 

「そうね。変に皮をかぶって下劣な発散方法を考えてくるよりかは、女として素直に好感を見せてくれる方がいいわね」

 

「むしろペトはエロい子っすから!! 女は男に見られて輝く生き物っす!!」

 

 おお、このスールは堂々としてやがるな。

 

「いや、おれが変態なの前提で話するのやめてくれませんか!?」

 

「いや、変態ッスよね?」

 

 ペト、イッセーの渾身のツッコミなんだからもうちょっとオブラートオブラート。

 

 っていうか、そういえばこういう時は小猫ちゃんがツッコミ入れるのが基本じゃなかったっけか?

 

 そんな気がして視線を向けると、小猫ちゃんはずっと外を見てだまっていた。

 

 ……なんだ、一体?

 

「朱乃? 下僕のスキンシップは主の仕事よ? なんであなたが出るのかしら?」

 

 あ、お嬢が来た。

 

 この後、激戦が繰り広げられたことだけは言っておくぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、いざ冥界にご到着。

 

 グレモリーの領地が日本の本州並の広さだってのにはマジで驚いたが、ポンと眷属に領地をプレゼントしたのにも驚いた。

 

 あの年で土地持ちとかむちゃくちゃ勝ち組じゃねえか。くそ、俺も眷属になればよかったか?

 

 などと思いながら駅に到着すれば、なんていうかコレものすごい歓迎なんだけど。

 

 空には騎士が舞う。楽隊が一斉に豪華な音楽を慣らす。更に花火迄打ち上げられる。

 

 こ、これが72柱の歓迎か。なんつースケールだよ。

 

「ギャスパー。大丈夫ッスか? 顔色蒼いっスよ?」

 

「だ、大丈夫ですぅうううう」

 

 ペトにそう答えるギャスパーだけど、俺から見てもマジで心配になるんだが。

 

 そんな中、お嬢は平然と対応している。これが貴族の常態ってやつか。

 

 スケール違いすぎだろう。亡きローマ教皇だってここまでの待遇そうそう受けねえぞ。

 

 と、そんなこと考えていると、いつの間にやらグレイフィアさんが一歩前に出ていた。

 

「おかえりなさいませお嬢様。道中、ご無事で何よりでした」

 

 そう言ってグレイフィアさんは深く一礼する。

 

 そういや、この人引く手数多っぽいけどまだ結婚とかしてないんだろうか?

 

 間違いなくもてるよな。いや、魔王の眷属だから逆に引けてんのか?

 

「本邸までの馬車をご用意させております。眷属の皆様もお乗りください」

 

 おお、馬車もすっげえ豪華だ!! こりゃもてなしも期待できそうじゃねえか?

 

「お姉さま! グリゴリもこういったイメージが大事な気がするッス!」

 

「そうね。研究者肌が多いからこういう方向性はなかったものね」

 

「そ、そうなんですかぁあああ。それはそれで怖そうですぅうう」

 

 いつの間にやらギャスパーは姐さんとペトの手をにぎってた。どうやら対人恐怖症を抑えるために人の力を借りたらしい。

 

 ま、そんなこんなで馬車に乗って運ばれるが、乗り心地もいいな。

 

 つーか良すぎて逆に落ち着かねー。ほかのメンバーも結構違和感感じてるみたいだ。

 

「ギャスパー。よく耐えたわね」

 

 と、姐さんがギャスパーを褒めていた。

 

「ひ、人が多くて気分が悪くなりましたぁあああ」

 

 まだ顔色の青いギャスパーに苦笑しながら、姐さんはかがみこんでギャスパーに視線を合わせる。

 

「ギャスパー。弱いのはだめ。心にしても体にしてもね。でも、あなたには停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)という強さがある」

 

 そういって、姐さんはギャスパーの肩に手を置いた。

 

「まずはそれに寄りかかっていい。いつか強くなりなさい? この世界、寄りかかる物すらない心の弱いものは、家畜に堕ちることが多いのだから」

 

「は、はい……」

 

 真剣な表情で姉さんが告げる言葉に、ギャスパーはきょとんとしながらもうなづいた。

 

 俺たちは、それをちょっと意外な感じで見る。

 

 ……そう言えば、姐さんは英雄の強さにあこがれを抱いているような印象だった。

 

 神滅具を金で買ったといったし、強さに渇望があるんだろうか。

 

 なんか、すごく気になった。

 

 姐さんは、何がきっかけで英雄を目指したんだ?

 

 

 

 




ケイオスワールドの兵夜とは違い、ヒロイはイッセーのトラウマに気づいてません。

まあ、美人局されて殺されたのが悪魔になったきっかけとか普通は誰も言わないですので仕方ないです。リアスたちだってイッセーの嫌な思い出を人に見せるような奴じゃないですしね。


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第二章 3

 

 

 

 

 で、着いた場所はものすごく巨大な城だった。

 

 何あれ? 何十階建てだよ。

 

「ぶぶぶぶ部長? あの……ものすっごい巨大な城って何ですか?」

 

 もう目玉が飛び出そうな顔で、イッセーがお嬢に質問する。

 

 それに対してリアスのお嬢はニッコリ笑顔。

 

「私のおうちの一つで本邸なの」

 

 家の一つ!? いくつもあるの、家って!?

 

 さ、流石72柱の直系。ものすごいセレブだ……。

 

 そんなこんなで馬車の扉が開かれてカーペットの上に足を置いた時だった。

 

「リアス姉様! おかえりなさい!!」

 

 そう言って、紅髪の少年がお嬢に抱き着いた。

 

 お嬢も優しそうにその少年を抱きしめる。

 

「ミリキャス! ただいま、大きくなったわね」

 

「部長? あの、この子は?」

 

 少年をなでるお嬢に、イッセー恐る恐る尋ねる。

 

 そして、お嬢は少年の肩を抱くとイッセーの前に進ませる。

 

「この子はミリキャス・グレモリー。お兄様の子供なのよ。私の甥ってことになるわね」

 

 ―サーゼクスさま、子供いたのか。つーことはつまり結婚もしてるわけだな。誰が奥さんなのか少し気になる。

 

 ま、いずれ紹介してくれるだろ。

 

「ちなみに、私の次の当主候補でもあるわね。四代魔王は世襲制じゃないから、この子はあくまでグレモリーの子なのよ」

 

 なるほど。確かに称号となってる以上、世襲にする意味はねえわな。

 

 ミリキャスくんと手をつないで進みだしたお嬢を戦闘に、俺達は城の中に進んでいく。

 

「うっわぁ。でかいッスねぇ」

 

「まあね。仮にも魔王を輩出した72柱の本家だからさ」

 

 と、ペトと木場の会話を聞きながら、俺達は玄関ホールに到着した。

 

 まじででかい!! シャレにならないぐらい広い!! そしてメイドも多い!!

 

 いろんな意味で度肝を抜かれる。イッセーとアーシアもなんかふらふらしてるしな。

 

 むしろギャスパーがふらふらしてねえのが驚きだよ。なんだかんだで少しは慣れてるみてぇだな。

 

 などと思ってたら、階段から女性が下りてきていた。

 

「あら、リアス。帰ってきたのね」

 

 亜麻色の髪の猛烈美少女! しかも胸もでけえ!!

 

 お嬢とそっくりな顔つきだな。姉妹か何かか……?

 

「お母様、ただいま戻りましたわ」

 

 と、お嬢はにっこり微笑みながら挨拶する。

 

 ん? 今、お母様とか言わなかったか?

 

「お、おおおおお母様ぁあああああ!?」

 

 イッセーが絶叫するが、そりゃ当然だ。

 

 どう見ても母親って外見じゃねえよ。お嬢の歳考えろや。

 

「……むしろ女の子って言った方がいいんじゃないかしら。少し羨ましいわね」

 

 と、姐さんも流石に驚いてる。

 

「あら、女の子だなんて嬉しい事を言ってくれるわね」

 

「悪魔は年を経れば、見た目を自由に変えられるのよ。お母様はいつも今の私ぐらいの年恰好を好んでるわ」

 

 ―それ、若作りじゃ―

 

「何か仰いまして?」

 

 ハッ! 殺気!?

 

「悪魔の力は素晴らしいと思っていだけでございます、マダム!!」

 

 俺は速攻で久々の土下座を敢行した。

 

 ……あれ? でもサーゼクス様に子供がいるってことは、この人とお嬢っておばあちゃんとおばちゃん?

 

「「何か考えたかしら?」」

 

 俺は土下座を続行した。

 

 悪魔は読心能力持ってんのかよ! 思うだけなら自由じゃんかぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで夜になり、俺達は夕食をごちそうになった。

 

 なったはいいが、ものすごい豪華なコース料理で困ってんだが。

 

「お嬢!! 俺、そういった礼儀作法とか全く心得ないんすけど!!」

 

「ごめんなさい。私もそういったのは慣れてないから、無作法になりそうだわ」

 

 俺も姐さんも困り顔になるが、お嬢の親父さんであるジオティクスさんは朗らかな笑みを見せた。

 

「はっはっは。あまり気にしなくていいよ。しょせんこれは身内の食事なんだからね」

 

 おお、心の広いお人や……。

 

 お袋さんであるヴェネラナさんも、ニコニコ笑顔で気にしないでくれているようだ。

 

 しかし、何かに気づくと少しこっちに顔を向けた。

 

「とは言え、これからリアスと行動を共にするのならば会食の機会もあるでしょう。よければ執事に指導をさせましょうか?」

 

「「ぜひお願いします」」

 

 俺も姐さんも即答した。

 

 お嬢やサーゼクス様に恥かかせるわけにはいかねえ。戦闘の特訓ついでに礼儀作法も最低限習得しとかねえとな。マジで必要だこれ。

 

 まあ、そんなこんなで意外に朗らかに食事は進んでたんだが、しかし何やら方向性がおかしくなってきた。

 

「イッセーくん。これから私のことはお義父さんと呼んでくれたまえ」

 

 ………何言ってんだこのオッサン。

 

 いや、お嬢がイッセーに懸想してるのは知ってるけど、肝心のイッセーが気づいてないんだが。

 

 そんな状態でそんなこと言われたって反応に困るだろう。その辺何も考えてねえのか?

 

 っていうか、どっちにしてもいろいろ段階すっ飛ばしてんじゃねえか!!

 

 どうやらよっぽど気に入られてるらしいな、イッセーの奴。何があった?

 

「あなた、さすがに性急ですわ。物事には順序というものがあるでしょう?」

 

 さすがに急ぎすぎだと思ったのか、お袋さんが親父さんをたしなめた。

 

 だ、だよな! さすがにこれはいろいろ速いよな!

 

「し、しかし、赤と紅なのだ。ピッタリではないか」

 

「浮かれるのはまだ早いということですわ」

 

「そ、そうか……。ふむ、ライザー君の時といい、私は急ぎすぎるきらいがるようだ」

 

 あ、どうやら親父さんは奥さんの尻に敷かれるタイプだな。

 

 亭主関白の時代は悪魔でも終わってんのか。ま、いまの時代は男女同権だわな。いや、女性上位になってるきがすっけど。

 

 と思ってたら、お袋さんがイッセーに顔を向ける。

 

「兵藤一誠さん。一誠さんとお呼びしていいかしら?」

 

「は、はい!! もちろん大丈夫です!!」

 

「しばらくはこちらに滞在するのでしょう?」

 

 ふむ、確かに夏休みのあいだはずっといる予定だな。

 

 そもそもお嬢の眷属悪魔なんだから、理由もなくお嬢より先に帰るわけにもいかねえだろう。

 

「ぶ、部長……じゃなかった。リアスさまがこちらにいる間はずっといますけど……」

 

 と、イッセーが戸惑いながら言うと、お袋さんはぽんと手をたたいた。

 

「なら、あなたには紳士的なふるまいを身に着けてもらいましょう。すこしこちらでマナーの勉強をしてもらいます」

 

 その瞬間、お嬢がテーブルをたたいて立ち上がった。

 

「お父様もお母様も!! 先程から、私を置いてどんどん話を進めすぎですわ!!」

 

 ああ。俺もそう思った。

 

 なんで付き合ってもない時から、結婚することを前提とした話になってんだ?

 

 お袋さんも親父さんに負けず劣らず性急すぎんだろ。

 

 俺はそう思ったんだが、お袋さんは目元を鋭くした。

 

「お黙りなさい、リアス」

 

 なんというか、絶対零度だった。

 

 怖ぇえええええええええ!!!

 

「あなたは一度、ライザーとの婚約を解消しているのよ? それを私たちが許しただけでも破格の待遇だということを理解しなさい。お父様もサーゼクスも、他の上級悪魔の方々にどれだけ根回しをすることになったことか。……あなたはどうあがいても「グレモリーのリアス」であることから逃れられないのは理解しなさい」

 

 その言葉に、お嬢はうぐぅという顔になる。

 

「……一部の貴族には、「我儘娘がドラゴンの力で無理やり婚約を解消した」といわれてるのですよ? いくら魔王の妹とは言え、限度があります」

 

 さらにお袋さんは畳みかける。

 

 う、う~ん。これはどうしたらいいのか全く分からん。

 

 てか、ライザーって確かイッセーが殴り込みしたフェニックスの三男坊だよな?

 

 細かい事情は分かんねえけど、どういうこった?

 

 と、思った時だった。

 

「……お言葉ですが奥方さま。それもさすがに性急すぎですわ」

 

 と、姐さんが声をかけた。

 

「……と、言いますと?」

 

「子どもの恋愛に、余計な介入をしてももろくなことにならないということです」

 

 お袋さんの視線を真っ向から受け止めて、姐さんは告げる。

 

「考えてもみてください。今の年頃は恋愛についてつつかれるといろいろと変な反応を返してしまう年頃です。ましてや婚約どころか付き合ってもいない男女の関係について、善意にしても悪意にしても、周りが不用意に介入しても、いい結果は生まれません」

 

 そういうと、しかし笑みを浮かべる。

 

「もちろん、ほおっておけばいいというわけではありません。恋愛というものをよく理解していない年頃の子供は、それを獲物とする悪い獣に食われやすいものです。……まず気を付けるべきは、そういったものでしょう?」

 

「……なるほど、一理あります」

 

 お袋さんはそれに感じるものがあったのか、少し考えこんだ。

 

 さらにねえさんはたたみかける。

 

「まだお嬢さんは十代の高校生です。それも、一万年を生きる悪魔の生まれ。……いくら戦争が起きる以上何が起きるかわからないとはいえ、親がするべきは過度な干渉ではなく野犬から子供を守ることでしょう? それに―」

 

 そこまで言うと、姐さんはイッセーの方に向いた。

 

「イッセー。グレモリー卿にお義父さんと呼ぶように言われた理由、わかる?」

 

「へ? いや、気に入られてるんだな~ってことはわかりますけど……」

 

 と、イッセーは考えて込んだ。

 

 そして数分後。

 

「あ、そうか! 部長は眷属のことを家族と思ってるもんな! だから部長のお父様にとっても家族なのか!!」

 

 そんな頓珍漢な答えが飛んできた。

 

 その有様に、親父さんとお袋さんは目を丸くした。

 

 そして俺たちはいっせいにため息をついた。

 

「……まあ、そういうことで前途多難ですので、急いでも変な方向に行くだけですから」

 

 と、姐さんは苦笑するのであった。

 

「まずはイッセーに自覚を与えること。これが一番ですわ」

 

 そう、姐さんは締めくくった。




長命な割に急ぎすぎではないだろうか、悪魔という種族は。

そう言うツッコミを入れたくなることも、いくつもあります。


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第二章 4 

名前が出ないのも含めて、因縁キャラが登場します!


 

 それから数日、俺たちは冥界観光を楽しんでいた。

 

 冥界って、実は人間界にも匹敵するぐらい栄えてるな。しかも人口が圧倒的に少ない分空気がうまい。

 

 とはいえ、街のどこかしこでは暗い表情を浮かべている人も何人もいたけどな。

 

 やっぱり、あれだけのことがあった以上、心配になる奴は多いか。

 

 なにせ、下手をすれば人間の軍隊がこの冥界に襲い掛かりかねない。

 

 数の上で人間は知的生命体の中でもぶっちぎりトップなんだ。それも、神器や魔法という悪魔に対抗する手段は数多い。

 

 ヴィクター経済連合はそれを積極的に人間に教えているはずだ。それが利用されれば悪魔にとっては最悪だ。

 

 かつての三大勢力の覇権争いなんて目じゃない規模の戦いになりかねない。下手すりゃ、核戦争だって起きかねねえ。

 

 そんなことになれば地球が死の星になるから、いまのところは三大勢力が各国家に働きかけて仕掛けられないように抑えているけど、それもいつまで持つことやら。

 

 兎にも角にも、禍の団の連中は本気で俺たちと全面戦争をぶちかます気だってことだけはよくわかった。

 

 ……そんでもって、それをさせる気になるほどのきっかけの一つを俺が担ってるってこった。

 

 食うに困って受けた人体実験。まさかそれが、神器を移植するものだってのはさすがにな。

 

 それが奴らのテロを勃発させるきっかけの一つになってたってのに、俺はその力で英雄になれるかもしれないと思っていた。

 

 ちょっと……ショックだよな。

 

 はあ。こんなこと考えちまうのも、一人寂しくビルの入り口前で待ってるからだ。

 

 いま、お嬢たちは若手悪魔の会合に参加してる。

 

 上級悪魔のお偉いさんがこぞって参加して、その若手悪魔の目的の表明とかを聞いたりするそうだ。

 

 で、そんな会合に俺たちが参加できるわけねえから、こうしてビルの下で待機してるってわけだ。

 

 ぶっちゃけ暇を持て余しながら、三人そろってスマホをいじったりして時間をつぶしている。

 

「あ、またどっかの国がヴィクターに喧嘩売って瞬殺されたそうッスよ?」

 

「核攻撃の準備までしてるって噂になってるわね。……さすがにこちら側の上が止めてるみたいだけど」

 

「……なんか、数年前から勢力圏じゃストリートチルドレンを引き取っている財閥がゴロゴロ出てたとか判明したぞ。わかりやすい洗脳教育じゃね、これ?」

 

 などとだべりながら、俺たちはお嬢たちが戻ってくるのを待っている。

 

 ま、こういう会合はかなり長くなるって相場が決まってるからな。たぶんあと小一時間ぐらいたつかもしれねえなぁ。

 

 しかし、ヴィクター経済連合と禍の団は、初戦において圧倒的に動いているといってもいいなオイ。

 

 そして、その要因の大きな一つは―

 

「……姐さん。俺たち、どうしたらいいんだろうな」

 

「ヒロイ?」

 

 俺は、どうしてもそれを言いたくなっちまった。

 

「ヴィクター経済連合の主力はほとんどが神器を移植してて、しかもそのデータは俺が原因だ」

 

 俺は、うれしかったんだ。

 

 神器を三つも持っていて、しかもそのうち一つは神滅具。

 

 神器は持っているだけでレアで優秀になれる。それがいくつもあってうち一つは最強の代物。どう考えてもチートだった。

 

 そんなものがあって、俺は英雄になりやすいってことは思ってたんだ。

 

 それなのに……っ。

 

「俺は、英雄どころか災厄の原因じゃねえか……っ」

 

 ふと思ってしまうと、もう考えっぱなしだ。

 

 英雄に、なりたかった。

 

 俺にとっての姐さんみたいに、誰かの心をともす輝きになりたかった。

 

 それが、戦争の切り札を生み出す理由になって、誰かの心を曇らせる要因になるとか、最悪だろ。

 

「だったら、強くなりなさい」

 

 そんな俺に、姐さんはそう言い放つ。

 

「誰かの心を曇らせてしまったのなら、それ以上の人々の心を照らす存在になりなさい。そうすることでしか、それを清算することはできないのよ」

 

 突き放すように、しかし言い聞かせるように姐さんは、リセス・イドアルはそういった。

 

「忘れちゃだめよ。英雄とは何かを斃した者。どうあがいても倒した誰かの家族の心は曇るのよ」

 

 それは、どこか自分に言い聞かせてるように思える、そんな言葉だった。

 

 そして、其れは英雄の真理だ。

 

 英雄とは、戦って勝った奴のことだ。

 

 つまり、死人の一人や二人は最低でも出すような連中なんだ。

 

 そんな奴が讃えらえられるのは、人の心を照らす輝きだからにほかならねえ。

 

「少なくとも、(要因の一つ)はそうするわよ。あなたはそれを黙ってみているつもり?」

 

 そう、姐さんは不敵に笑う。

 

 俺は、まっすぐにそれを見据えて答えるしかねえ。

 

「まさか、俺は輝き(英雄)になるって決めてんだぜ、姐さん」

 

「それでいいと思うッスよ?」

 

 と、ペトが俺の方を見てほほ笑んだ。

 

「第一悪いのはリムヴァンの奴で、お姉さまもヒロイも被害者みたいなものッス。迷惑料としてしっかり受け取っとけばいいんスよ」

 

 た、確かにそうじゃねえか!!

 

 俺たち人体実験うけてんだもんな! それぐらい請求しても罰は当たらねえよな!!

 

 ああ、そう考えたら少しは気が楽に―

 

「……クソが! あの無能、次のレーティングゲームでぶち殺してやる!!」

 

 ってな大声が響いてきて、なんか台無しなんだけど!?

 

 視線を向けてみれば、なんか明らかにガラの悪そうな悪魔が、同じくなんというかヤンキーとかビッチとかの印象が強い連中を連れてずかずかと歩いてきていた。

 

 なんだありゃ? ここは貴族の跡取りがあつまってる場所じゃねえのかよ?

 

 てか、なんか顔がはれ上がってるな。喧嘩でもしたか?

 

 それで負けてイラついてると。……典型的な馬鹿だな。

 

「ああ!? 見世物じゃねえぞ!!」

 

 周りの連中に当たり散らしながら、そいつはずかずかと俺たちを通り過ぎる。

 

「ゼファードル様、と、とりあえず顔を冷やしてくださいませ!!」

 

 と、そのうちの一人。濃い茶髪の少女悪魔が俺たちのすぐ近くを通り―

 

「「―っ!?」」

 

 ―姐さんと目が合うと、お互いにぎょっとした。

 

 なんだ? 知り合いか?

 

「貴女……」

 

「り、リセ……」

 

「何してやがんだ!! とっとと帰んぞ!!」

 

 お互いに何か言いかけたけど、不良悪魔が怒鳴るとすぐにその子は走り去っていった。

 

「お姉さま、知り合いっすか?」

 

「い、いえ……。よく似てただけで別人でしょう。上級悪魔がわざわざ眷属にするような子じゃなかったしね」

 

 ペトにそう答える姐さんだが、しかし明らかに嘘だって俺でもわかる。

 

 だってあの子の方も面識ある感じだったからな。

 

 それでもそういうってことは、なんかあるってことか?

 

「……ヒロイ」

 

 と、ペトは俺に耳打ちする。

 

 タイミング的に露骨すぎだろとは思うけど、幸い姐さんはその子が去っていった方向に顔を向けていて気が付かなかった。

 

「姐さん、あれでナイーブなところもあるんス。聞かないでやってほしいッス」

 

「オーライ。俺も姐さんを困らせたくねえしな」

 

 俺がそう答えていると、さらに悪魔が何人もぞろぞろと出てきた。

 

 ああ、もう終わって帰るところだってのか。

 

「……ディオドラ様。これからどうしますか? 私は何のお役にも立てない気がしますが……」

 

「そこまで自分を卑下することはないよ。其れより、彼に連絡を取るからもてなしの準備をしておこうか」

 

 そう話し合っている主と下僕がいたが、下僕の方は主に顔を向けていたので―

 

「―あ」

 

「っと」

 

 俺とぶつかってしまった。

 

「悪い。話してたんで反応が遅れちまった」

 

「い、いいえ!! 私が愚図なだけなんです。前をちゃんと確認してなかったから―」

 

 なんか勢いよく自虐しながら、その少女は顔を上げて―

 

「……シシーリア?」

 

 俺は、その顔に見覚えがあった。

 

「……ぃ……ん」

 

 その少女は、俺の顔を見ると目を見開いて硬直する。

 

 お、オイオイオイオイ。なんでこんなところに彼女が―

 

「……すまない。悪いけどこれから用事があるんだ」

 

 と、其の主悪魔が割って入ってきた。

 

「あ、すいません! 主のお手間を取らせるなんて、私は本当に愚図で……」

 

「いや、僕が注意しなかったのも悪かったよ。気にしなくていいよ」

 

 頭を下げるその少女に、主の悪魔はそう和やかに答える。

 

「眷属が済まなかったね」

 

「いや、俺たちもこんなところで突っ立ってて悪かった」

 

 俺はすぐにそういうが、それを聞いた主悪魔は眷属の手を取ると足早に去る。

 

「悪いけど用事があるんだ。縁があったらお詫びにお茶でも奢るよ」

 

 俺は、その背中を見つめて声も出せない。

 

 ……まさか、彼女は本当にシシーリアなのか?

 

 いや、いくらなんでも彼女が悪魔になってるとは思えねえ。

 

 あんなに、信仰心が強くて聖女とまで呼ばれた彼女が、悪魔になってなってるわけがねえしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもってイッセー達と合流したが、結構ひと悶着があったらしい。

 

 例の不良悪魔はゼファードル・グラシャラボラス。凶児と呼ばれる、グラシャラボラス家でもかなりの厄介者だそうだ。実力だけはあるんでちょっと前に事故死した当主候補の代わりに次期当主になったとか。

 

 で、その素行不良の阿呆がアガレス家の次期当主に「処女なら俺がもらってやろうか」とかぶちかまして殺し合い一歩手前になったらしい。

 

 阿保じゃねえの?

 

「あの子……苦労してるのね」

 

 姐さん、あの子と知り合いなの隠す気ねえだろ。

 

 で、それに関しては何とワンパンで終了。

 

 お嬢の従兄弟のサイラオーグ・バアルとかいうのがゼファードルを殴り倒して終了したらしい。

 

 マジでワンパンだったとか。あれ? ゼファードルって素行の悪さを差し引いても次期当主に選ばれたんじゃねえのかよ?

 

 で、それが終わってお目通りがかなったわけだが、ここでイラつく出来事があったとか。

 

 なんでも、ソーナ会長の夢を上役たちが笑ったとか。

 

 ソーナ会長の夢は、誰もが通えるレーティングゲームの学園設立。

 

 それを「非現実的な夢」とか言ったそうな。

 

「ったく。古い悪魔ってのは教育の力を何もわかってねえ」

 

 俺は心底ため息をついた。

 

 教育ってのがどれだけ重要なのか、上役は理解してねえな。

 

 日本人でもそうだが、誰もが普通に教育をうけることができるってのがどれだけ素晴らしくて力になるかわかってねえよ。

 

 失敗国家ってのがある。

 

 簡単に言えば、国家として機能してねえ駄目な国ことだ。問題国家でおなじみの北〇鮮もなかなかトップテンに入らねえ。いや、この場合はワーストか。

 

 で、その判断基準の一つは、「教師にきちんと給料が払えているか」。

 

 一部のエリートを育てるだけじゃねえ。底辺の水準がある程度高いことが、いい国の条件ってやつだ。

 

 先進国の大半は、教育がしっかりしてるし義務教育もきちんとある。これが人間の発展の理由だろうに。

 

 ちゃんと周りのいいところを理解しねえとだめだってのによぉ。何考えてんだ、上役は。

 

「……上役は、冥界を豊かにしたいんじゃなくて冥界でお金持ちになりたいんでしょうね」

 

 といったのは姐さんだった。

 

「だから、冥界の下民がいくら貧困にあえいでいても気にしない。冥界という世界で、自分たちが上の立場になることしか考えてないのよ」

 

 そういうと、姐さんはため息をついた。

 

「……私も貧困層の出身だから、そういうのはむかつくわね」

 

「まったくね。耳が痛いわ」

 

 お嬢もそれには同意見だった。

 

「悔しいけど、お兄様たちはまだ若いから、上役たちには強気に出れないことも多いわ。天界や堕天使領との付き合いで軟化してくれればいいのだけれど……」

 

「悪魔は何処も大変だな、オイ」

 

 アザゼルはそうまとめるが、さてどうしたもんか。

 

 ま、俺たちが何か言っても聞くわけねえんだろうけど。

 

 悪魔は寿命がなげえから、老害とかがなかなかくたばらなくて困ったもんだなオイ。

 

「ま、それはともかく今気にするべきはレーティングゲームだな。……ソーナのところとするんだって?」

 

 と、アザゼルは話を変えてくる。

 

 ああ、そういやサーゼクス様の発案で、若手悪魔でレーティングゲームをするんだったな。

 

 たしか、アガレスとアスタロト、バアルとグラシャラボラス、で、お嬢と会長だったな。

 

 ……いきなりサイラオーグとゼファードルって、上役面白がってねえか?

 

「凶児と無能。どっちが勝ってもどっちが負けても、面倒な奴を笑えてラッキーとでも考えてんだろうな。悪魔の上役は趣味が悪いぜ」

 

 と、アザゼルがぼやくが、俺たちとしては気になるのはお嬢と会長の試合だ。

 

 ……全体的にはチートが四人もいるお嬢の方が有利か?

 

 聖魔剣の木場。デュランダルのゼノヴィア。聖母の微笑のアーシア。そして赤龍帝のイッセー。

 

 この四人は、一人確保できただけでレーティングゲームで名を上げれそうなチート枠だしな。そんなの全部確保してるとか、お嬢のチームは反則だろ。

 

 並の現役上級悪魔のチームなら、一蹴できるんじゃねえか?

 

「で、リアス部長はどうするんスか? 勝てると思うっすか?」

 

「勝つわ。ソーナには悪いけど、こんなところで躓いていられないもの」

 

 と、気合万全のお嬢。

 

 ダチ相手でも容赦ねえってか。ある意味熱い友情なのかねぇ。

 

 と、俺が思った時だった。

 

 グレイフィアさんが、リビングに姿を現した。

 

「皆様、温泉の用意が整いました」

 

 ………お、温泉、だと?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ~。酒が染みるぜぇ!!」

 

 アザゼルが、文字通り羽を伸ばしながら酒を飲んでる。

 

 今俺たちは、温泉に入ってる。

 

 ヨーロッパでも温泉はあるところはあるから、仕事のついでに入ったことはある。いや、おれはシャワー派だけどな?

 

 しっかし、これどう見ても日本風なんだが。旅館かここは。

 

 そういや、お嬢ってなんか勘違いしてる感じだけど日本大好きだったな。当主継いでも日本と行き来したいとか言ってたし。親父さんかお袋さんの影響なのかもな。

 

 しかも天然温泉。マジで金掛けてるなグレモリー。

 

「イッセーくん。背中、流していいかな?」

 

「嫌だ! 俺は初めて背中を流し合いするのは女って決めてんだ! 気持ち悪いぞ木場!!」

 

 木場、お前は何をしてぇんだ。

 

 男同士で背中の流しあいとか、誰得だよ。一部の腐った女どもにしか需要ねえよ。

 

「で? ギャスパーはなんで胸までタオルまいてんだ」

 

 お前、男だろう。

 

「い、いいじゃないですかぁああああ!!! そんな事より恥ずかしいですぅうううう!!」

 

 男同士で何言ってんだよ。

 

 ま、いいか。たまには湯船につかるのもいい……

 

「あら、リアス、胸が大きくなったのではなくて?」

 

「あなたには負けるわよ。……ちょっと、揉まないで……あんっ」

 

 つかるのも……

 

「アーシア。女の胸は人にもまれると大きくなるらしい。ここは一つもみあおうじゃないか」

 

「ぜ、ゼノヴィアさん!? く、くすぐったいですぅ」

 

 つかるの……

 

「お姉さまぁ。自分、ちょっと湯あたりしちゃいましたぁ。何か冷たいものないですかぁ」

 

「あら。だったらちょうど水風呂に入ったばかりの私の胸とか……どう?」

 

 つかる……

 

 いかん! ちょっと水を浴びて冷静に冷静に!!

 

 勢い余って透視能力に目覚めようとすんな俺!! 女子に迷惑はかけないのが、プレイボーイの作法!! やるなら堂々と誘って混浴でだ!!

 

 とにかく水風呂にダイビングを―

 

「これが一流だ! 男なら混浴だぞ、イッセー!!」

 

「うわぁあああああ!!!」

 

 何やってんだぁ、この駄天使!!

 




教育関係がしっかりしてるかどうかって、実は意外と大事なんですよね。恵まれてるやつは自分が恵まれてる自覚がないってよく言ったもんだと最近思います。

皆も勉強してもいいかなーって思ったら、ちゃんと勉強しよう!


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第二章 5

更新いっぱいで感動( ;∀;)

でも、数が多すぎてGOOD評価を付け加えきれなくなったので、これからはかなり感銘を受けた作品にだけGOOD評価をすることにします(´・ω・`)


 そして次の日。俺らは城の前で集合していた。

 

 来ているのは駒王学園のジャージ。姐さんだけは市販のものだが、しかしその辺合わせてくれる当たり素敵だぜ姐さん。

 

 で、俺たちの前にはアザゼルが立っていた。

 

「よっし! じゃ、これから二十日間ほど特訓だ! 気合入れろよお前ら」

 

 と、アザゼルは前置きする。

 

 さて、堕天使総督にして教育関係者の指導とはどんなもんなのかねぇ?

 

「最初に言っとくが、今回のメニューは将来的なものを見すえている。即効性がある奴もいるが、長期的に続けなければならない鍛錬の奴もいる。今回の特訓で成果が出るとは限らねえ」

 

 そう前置きしてから、しかしアザゼルはにやりと笑う。

 

「だが、お前らは若手の中でも生粋の逸材ぞろいだ。方向性さえ見失わなけりゃ、いい成長は見込めるぜ」

 

 人を乗せるのがうまいオッサンだ。

 

 だが、その言葉乗ってやるぜ!!

 

 で、真っ先にアザゼルの視線が向いたのはお嬢だった。

 

「リアス。おまえは上級悪魔として間違いなく一級品だ。まず間違いなく最上級悪魔クラスになる。だから積極的にトレーニングをする必要はねえが……」

 

「いいえ。今すぐにでも強くなりたいわ」

 

 と、お嬢ははっきりと言い切った。

 

 その表情に浮かんでいるのは、悔しさだった。

 

「ヴァーリとの戦いのとき、私は何もできなかった」

 

 そういやそうだったな。

 

 ヴァーリが挑発目的でお嬢たちに突っかかったとき、お嬢とアーシアだけが何もできなかった。

 

 アーシアは回復担当だから、戦闘可能なグレモリー眷属の中じゃ、一人だけ無力だとでも思ってんだろ。

 

 タイミングが悪かったといやぁそれまでなんだが、それでも思うところはあるんだろうな。

 

「だろうな。じゃ、この紙に渡しているメニューと同時に、この術式を掛けろ」

 

 アザゼル先生が渡した紙を、お嬢は見る。

 

 その表情が、なんか疑問符だらけだった。

 

「これ、基本的なメニューな気がするのだけれど」

 

「それでいいんだよ。ぶっちゃけ総合的にまとまってるから、基本的な修行で十分だ。あとは過剰なトレーニングにならない程度に負荷をかけて、その間はレーティングゲームを学べ」

 

 と、アザエルはどんどん資料を出してそれをお嬢に渡した。

 

「王に必要なのは、武力以上に眷属を率いる能力だ。戦闘能力が眷属の中で下位の部類でも、知略で率いている王なんて何人もいる。……要は王ってのは統率者だ。眷属の力を発揮させてこそ真の王だぜ?」

 

 おお、含蓄のある言葉だ。

 

 さすがは堕天使の長。普段はダメなおっさんだけど、やるときはやるな。

 

「で、次は朱乃だ」

 

「……はい」

 

 と、朱乃さんは実に不機嫌。

 

 そういや、ペトともあまり話してないな。前の辛口意見といい、朱乃さんは堕天使が嫌いらしい。

 

 で、そんな朱乃さんにアザゼルはどんなアドバイスを?

 

「おまえは自分の中に流れる血を受け入れろ」

 

「―――ッ!」

 

 その一言に朱乃さんはキレそうになるが、アザゼルはそれを視線で黙らせる。

 

「ライザー・フェニックスとのレーティングゲームはなんてざまだ? 堕天使の力を使っていりゃぁ、あの程度の『女王(クイーン)』は苦も無く斃せたはずだ」

 

 す、すさまじいレベルの酷評だ。

 

 つーか朱乃さんって堕天使だったのか。

 

「私はあのような力に頼らなくても―」

 

「それがお前の欠点だ」

 

 朱乃さんの反論を、アザゼルは切って捨てる。

 

「いいか。最後に頼れるのは己の体だけだ。どんな理由があろうと、自分をすべて受け入れない奴は今後の戦闘で邪魔になる。『雷の巫女』から『雷光の巫女』になって見せろ」

 

「………」

 

 朱乃さんは何も言わなかったが、かなり不満があるようだった。

 

 ……ま、確かに持ってるもん使わねえのは損だよな。

 

 つっても、俺はそれが英雄らしくねえなら死んでも使わねえと思うから、何も言えねえ。

 

「で、木場。お前は禁手を開放してできるだけ長くもたせろ。それ以外リアスと同じく基本トレーニングで十分持つ。……剣術の方はあてがあるんだよな?」

 

「はい。師匠の下で一から鍛えなおす予定です」

 

 ほほう。木場にも師匠がいるのか。

 

 お嬢が用意したんだろうし、きっと悪魔関係者の中でも凄腕なんだろうな。

 

「で、次はゼノヴィア。お前は被害を気にしなくていいフィールドで、デュランダルの扱いに慣れろ。あともう一つ使い慣れてほしい聖剣があるから、其れの練習も並行して行え」

 

「もう一本の聖剣か。それは気になるね」

 

「ああ、きっと気に入ると思うぜ」

 

 ふむ、堕天使側が用意する聖剣か。俺も気になるな。

 

 そして視線がギャスパーに移り、ギャスパーがビクリと震える。

 

「ぼ、僕はなんでしょうかぁああああ!!!」

 

 ……いつ段ボール箱に逃げ込むか気になるな、このビビリぐあいだ。

 

 アザゼルもため息をついた。

 

「おまえはもうそれの克服が最優先だ。専用の引きこもり脱出計画を作ったから、先ずは真っ当な心構えを身につけてこい。……いや、それができるかどうかでお前本当に化けるから」

 

「はぃいいい!! 当たって砕けろの精神でやってみますぅうううう!!!」

 

 ホントに砕け散りそうで怖いんだけど。

 

 てか、やっぱり段ボール箱の中に入ったし。

 

「んで、同じく僧侶のアーシアは、神器の拡張だ」

 

「は、はい! 神器の拡張ですか?」

 

 神器の拡張?

 

「先生。アーシアの回復能力は最高ですよ? 触れるだけで怪我なら何でも治せるじゃないですか」

 

「そう。触れることができれば……な」

 

 イッセーに対する言葉に、俺は思いつくところがあった。

 

「おい先生。まさか遠隔回復とかできるのか?」

 

「ああ。裏技みてえなもんだが、聖母の微笑は効果範囲の拡大こそが真骨頂だ」

 

「あら。あの回復力が離れた所でも使えるとかすごいわね」

 

 姉さんが感心するが、アザゼルはそれに対してにやりと笑う。

 

「ああ。ま、性格上の問題で、普通に拡大すると敵味方問わず治しちまいそうだからな。飛び道具の感覚で発射できるように強化する」

 

 まじか。芸が細かいな、聖母の微笑。

 

「ま、直接触れるよりかはパワーが落ちるだろうが、それでも戦略の幅は大きく広がるな。前衛がきちんと育ってりゃ、理想的なフォーメーションが組めるだろうよ。それと体力も鍛えること」

 

「は、はい!! がんばります!!」

 

 アーシアが勢いよく先生に頭を下げる。

 

 そして、先生の視線は小猫ちゃんに向かった。

 

「で、次は小猫だ」

 

「……はい」

 

 小猫ちゃんは、かなり気合が入っている。

 

 ……なんか最近調子が悪そうだったけど、何だろうか。

 

「おまえは戦車として普通に高水準だ。しかし、禁手の聖魔剣を持つ木場と、聖剣デュランダルを持つゼノヴィアがオフェンスでは圧倒的に上だ。さらに目論見通りイッセーが禁手になれば、その程度じゃ足を引っ張ることになるだろうな」

 

 うわ、辛辣。

 

 だがまあ、事実だろ。

 

 二人の戦闘能力は、グレモリー眷属でも頭一つとびぬけてやがるからな。さらにイッセーがマジで禁手になれれば、その上を行くわけだ。

 

 そんな状況じゃあ、小猫ちゃんは確かにかなりレベルが低い部類になる。それをどうにかできるかでアザゼルの腕の見せ所になるんだが……。

 

「おまえの一番やるべきことは、朱乃と同じだ。自分を受け入れなけりゃあ、大きな成長なんてできねえよ」

 

「………っ」

 

 その言葉に、小猫ちゃんは黙り込んだ。

 

 なんだ? この子も実はレアキャラだったりするのか?

 

「大丈夫だって。小猫ちゃんならソッコーで強くなれるって」

 

 そうイッセーは気軽に言って頭をなでようとするが―

 

「そんな、軽く言わないでください……っ」

 

 不機嫌そうに払いのけられる。

 

 ふむ、やっぱりこれは何かありそうだな。

 

 木場にしろギャスパーにしろいろいろあって、朱乃さんもどうもなんかあるみてえだし、この子もなんかあるのかねぇ?

 

「んじゃ、ちょっとイッセーは飛ばして次行くぞ。まずはペト」

 

「うッス!!」

 

「おまえは戦闘スタイルが完成してるからそれ磨くのが基本だ。お前専用に人造神器を用意したから、それに慣れろ」

 

「流石総督っす!! なんだかんだで手を用意してくれると信じてたッス!!」

 

「はっはっは。一応お前の頭だからな、もっと褒めろ」

 

「いや、自分はお姉さまの物っスから」

 

「俺総督なのに!?」

 

 漫才が勃発したよ。

 

 ってか、ペトってそんなに強いのか?

 

 確かにヴァーリに不意打ちぶちかましたが、それも結構空気が空気だったからだしなぁ。

 

 完成されてる戦闘スタイルってのが実に気になる。それが重要なんだろうな。

 

「んで、リセス」

 

「ええ、私はどうすれば英雄の領域に至れるのかしら?」

 

 姐さんは余裕の表情を浮かべている。

 

 必ず試練を乗り越えるという、決意がそこには見て取れた。

 

「おまえは異界の倉(スペイス・カーゴ)を重点的に鍛える」

 

「え? あれ、必要あるの?」

 

 姐さんはきょとんとしてそう答えるけど、アザエルはそれに肩を落とした。

 

「あのなぁ。リムヴァンの話が正しけりゃぁ、お前の本来の神器はそれだ。だったらまず真っ先に使いこなせなけりゃ始まらねえよ」

 

 なるほど。確かに朱乃さんと小猫ちゃんにも自分の力をまず使えといってるしな。

 

 そういう意味じゃあ、方針としては筋が通ってる。

 

 で、異界の倉ってなに?

 

 俺たちの疑問に気が付いたのか、アザゼルが指を立てる。

 

「異界の倉ってのは、要は四次元ポケットみたいなもんを思い浮かべりゃいい。ちょっとした輸送船ぐらいの異空間を保有して、そこから自由にものを取りだす神器だ」

 

「はっきり言って、始原の人間(アダム・サピエンス)煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)が汎用性高すぎて、エンチャントさせる武器を格納するぐらいしか役に立ってなかったんだけど」

 

 なるほど、確かに煌天雷獄は何でもありだもんな。

 

「だが、今後を考えれば必要になる。安心しな、煌天雷獄との併用をかんがえた特注品を用意してやるぜ」

 

 なんか、不安。

 

 姐さんが変なことにならねえか、其れだけが不安だぜ。

 

「で、ヒロイ。お前は当分聖槍を使うな」

 

「はぁ!?」

 

 不意打ちでそんなことを言われて、俺は文句を言いたくなった。

 

 いや、おれ神滅具使いだぞ!? 別に本来の神器とかねえぞ!?

 

 だったら、聖槍が一番重要じゃねえか?

 

「聖槍重視で考えてたのが丸わかりだ馬鹿野郎。それじゃあ絶対に曹操には勝てねえぞ」

 

 その言葉に、俺はとりあえず話を聞く気になる。

 

「おまえは普段は魔剣創造(ソード・バース)を使って、本気を出す時は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、双方ともにサブウェポンが紫電の双手(ライトニング・シェイク)ってスタイルだ。……教会が不信心なお前に聖槍が宿ってることを知られたくなかったとしても、そのせいで追い込まれたら聖槍に任せるスタイルが出来ちまってる」

 

 まあ、聖槍の方が強力だからな。

 

「だから、おまえの将来的なビジョンは聖槍と魔剣を併用することだ」

 

 ……併用?

 

「魔剣創造によってつくられた魔剣は、体に付属させるというやり方もできる。お前はそれを使いこなせるようになれ」

 

 アザゼルはそういうと俺に視線を合わせる。

 

「まだ技術的に不明瞭な時期に移植された試作型のお前が、聖槍の使いこなし方だけで本来の持ち主である曹操と渡り合うのは難しいとみている。本気で奴らと戦うのなら、持てるもん全部使った戦い方を覚えろ。リセスにもそれが必要だと思ったから、異界の倉の使用方法を考えてる」

 

 な、なるほど。

 

 姐さんの特訓には、そんな意図があったのか。

 

 俺は、曹操に一蹴されたときのことを思い出す。

 

 曹操も、神器をいくつも移植している。そのうえで聖槍をもとから宿している。

 

 そんな奴に俺が勝つには、確かに持てるもん全部使いこなせてこそだな。

 

 よし。気合入れるか!!

 

 そんな俺の様子がわかったのか、アザゼルはうなずくと視線をイッセーに移す。

 

 そんでもって、空を見上げた。

 

「よしイッセー。お前の専属コーチが到着したぞ」

 

 そういうと同時に、でかい影が俺たちを包み込む。

 

 なんだ? 殺気は感じねえが……。

 

 そう思った瞬間、地響きとともに何かが着陸した。

 

「アザゼルか。堕天使の総督がよくもまぁグレモリーの城の前までこられたものだ」

 

 そう言いながら立ち上がったのは、人間のような姿をした、でかいドラゴンだ。

 

 で、でかい。十五メートルぐらいはあるんじゃねえか? 人型ロボットか何かと喧嘩するのかよ。

 

「ど、どどどドラゴン!?」

 

「おう、その通りだ」

 

 慌てるイッセーに、アザゼル先生はそうこたえる。

 

 そ、そういや、イッセーはマジのドラゴンと対面するのは初めてか。ドライグもアルビオンもヴリトラも封印されてるからな。

 

「あら、タンニーンじゃない。あなたがイッセーを指導するの?」

 

 と、お嬢が親し気にドラゴンにあいさつした。

 

 おお、さすがお嬢だ。ドラゴンとも知り合いなんだな。

 

「久しいなリアス嬢。……ドライグも、聞こえているのだろう?」

 

 と、そのドラゴンがイッセーの左腕に視線を向ける。

 

 それにこたえるためか、赤龍帝の籠手が展開された。

 

『久しいな、タンニーン』

 

 ドライグが、俺たちにも聞こえるように声を発する。

 

 意外とコイツ、イッセーにしか聞こえないように話すことが多いからちょっと新鮮。

 

「知り合いか?」

 

『ああ。こいつは魔星龍(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)、タンニーン。かつて五大龍王が六大龍王と呼ばれていたころの龍王だ。聖書にしるされた龍をタンニーンというのだが、こいつを指してる』

 

 ああ、確かにそうだったな。

 

 そうか、こいつが聖書にしるされた龍か。……とんだ縁もあったもんだ。

 

「タンニーンが悪魔になったから、六大龍王は五大龍王になったのさ。今じゃ、最上級悪魔の1人ってわけだ」

 

 と、アザゼル先生が補足する。

 

 転生悪魔って、ほんとに種族を選んでねえんだなぁ。何でもありだ。

 

 で、なんでそのタンニーンさんがこんなところに?

 

「で、タンニーン。この赤龍帝のガキを鍛えてやってくれ。ドラゴンの力の使いかたを一から丁寧にな」

 

「……ドライグが直接教えればいいと思うのだが?」

 

 アザゼルにそうタンニーンさんがきくが、アザエルは首を振った。

 

「其れじゃあ限界があるからな。ほら、ドラゴンの修行っていやぁ―」

 

「―実践方式か。なるほど、俺にこの少年をいじめ抜けと」

 

 え? なんか物騒な会話が聞こえてきてるんですけど?

 

 イッセーもなんか顔色が悪い。嫌な予感を覚えてるようだ。

 

「じゃ、イッセー。死なない程度に頑張れ」

 

「ええええええ!?」

 

 イッセーが目玉をひん剥いて絶叫する。

 

 いや、最上級悪魔とワンツーマンとか、いくら赤龍帝とはいえド素人にはきつくねえか?

 

「ではリアス嬢。あの辺りにある山を貸してもらう」

 

「ええ。しっかり鍛えてあげて頂戴」

 

 お嬢、ちょっと鬼じゃね?

 

 俺は気づいたよ。この人、むちゃくちゃスパルタだ。

 

「ぶ、部長ぅうううう!!!」

 

「頑張りなさい、イッセー!!」

 

 いやお嬢、イッセー泣いてる。

 

 あ、そのままタンニーンさんにつかまって空を飛んでいく。

 

「だれかぁあああああああ!! 助けてくれぇえええええええええええ!!!」

 

 イッセー。……死ぬなよ!!

 




まあ、原作と同時にオリキャラの指導も行いました。



ペトは前にも書きましたが、すでに完成されていて手が付けにくいので、専用人造神器を作ってそれに慣れさせることです。

これのせいで、のちにある精鋭がマジでやばいことになりますのでお楽しみください


リセスは本格判明した本来の神器を有効活用する方針に。ヒロイも言及しましたが、アザゼルの指導方針的にはこれが一番自然かと思いまして。

実際身体機能をまんべんなく底上げする始原の人間と、あらゆる属性と天候を司る煌天雷獄の組み合わせは遠近両用にまんべんなく最高水準なので、運用方法としては変化球になりますね。



そしてヒロイに関しては、文字通り百パーセントのポテンシャルで戦闘を行うための指導です。

最初の戦闘からそうでしたが、基本的にヒロイは魔剣は聖槍の前座として運用しており、聖槍を使う時は魔剣は武器としての運用はしないように書いてきました。槍+剣の武器日本持ちとか、普通はできませんし。

ですが、今後早々と戦うのであればフル活用は必須。サブウェポンにするにしても、聖槍と組み合わせて運用する方針です。


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第二章 6 

はい、そういうわけで特訓風景です。

まずはイッセー編


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっす! 俺イッセー。

 

 皆は夏休み、何してるかな?

 

 海でひと泳ぎ? 山でキャンプ? それとも遊園地でデートか? 糞羨ましいから最後の奴は死ね!!

 

 俺は今、地獄の山で地獄の特訓を受けています!

 

 具体的には、伝説のドラゴンに追いかけまわされてます!

 

 もう色々と大変で、心が病みそうだよ。

 

 具体的には、追いかけまわされている最中だってのに、裸の女の子の妄想が止まらない。前は普通に特訓が終わって休んでる時だけだったのにこの有様。自分でもどうかと思う。

 

 まあ、今死にそうだけど。

 

「うぉおおおおおお!?」

 

「どうした! 逃げるだけでなく戦って見せろ!!」

 

「無茶言うな!! 俺なんかがオッサンみたいな伝説のドラゴンに勝てるわけねえだろぉおおおお!!!」

 

 最上級悪魔だって言ってたし、元龍王らしいし。

 

 まともに戦って勝てる相手じゃねえよ。間違いなく一瞬で消し炭だよ!!

 

 もう逃げ足ばかり強くなってるって。だって攻撃してる余裕ないもん。

 

 ああ、部長のおっぱいに包まれて眠りたい。アーシアに抱き着きたい。朱乃さんにちゅぱちゅぱされたい。っていうかゼノヴィアの子作りを受け入れればよかった。

 

 あ、気づいたら俺、宙を舞ってる。

 

 ……走馬灯が、見えるよ~。

 

 そんな瞬間、俺の顔は柔らかいものに包まれた。

 

「おっとッス」

 

 あれ? これはペト?

 

「……地獄絵図ね。素人に毛が生えた悪魔にさせる特訓じゃないわ」

 

 そう言って額に手を当てるのは、リセスさんだった。

 

 あれ? なんでこんなところに?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっひゃぁああああ!! 気持ちいいぜぇええええ!!」

 

 俺は、久しぶりに熱いシャワーを浴びていた。

 

 火を起こすのも一苦労だから、お湯を浴びるなんてこの数週間全然してなかった。

 

 ああ、これが文明人の生活ってやつだよ!!

 

 ま、実際はシャワーってわけじゃないんだけどね。

 

「ふふ。ま、これも煌天雷獄の応用技ってところね」

 

 そう言って微笑むリセスさんのおかげで、久しぶりに快適な生活が送れるぜ!!

 

「ふむ。煌天雷獄は天候と属性を支配すると聞いていたが、このような使い方もあったのか」

 

 そうタンニーンのおっさんが感心する。

 

 そう、今俺が浴びてるのは暑いお湯にシャワーじゃなくて、熱いお湯の雨だ。

 

 天候操作でピンポイントに大雨を作って、さらに熱を生んでお湯にしてるんだ。

 

 煌天雷獄ってすっげえ便利だ。神滅具にもこんな使いかたがあるんだなぁ。

 

 あ、でも俺の赤龍帝の籠手も譲渡があるから、車とかに使用したら便利になるかも?

 

『俺としてはどうかと思うが、それはあり得るな。歴代の使い手の中には、譲渡をメインに使っている奴もいた』

 

 マジか。俺も懐中電灯とかに使ってみようかな?

 

「お姉さまー! 準備できたんでこっちにも一雨欲しいっス!」

 

「はいはい」

 

 と、俺がシャワーを浴びてる間にペトが河原に穴を掘っていた。

 

 なんでも、そこに水を溜めてからあっためてお風呂にするとか。至れり尽くせりだ!!

 

「まったくもう。アザゼルも数日で逃げ帰るとか言ってたけど、適応してるとかすごいわね」

 

 そう呆れるやら関心するやらのリセスさんは、今晩御飯の準備をしていた。

 

 材料はレトルトだけど。久しぶりのまともな料理だ!!

 

 もう俺は最近料理なんて食べてない。冥界の見たこともない動物や木の実を、オッサンに食べれるかどうかだけ判別してもらってから焼いたりしたりした程度だよ。

 

 ああ、なんか涙出てきそう!!

 

 ま、裸見られてるからちょっと恥ずかしいんだけどね!

 

 二人とも全然気にしないから、なんかこっちが馬鹿らしくなってきた。

 

「ほら、お風呂もできたからつかりなさい。薬草も持ってきたから薬湯にしましょう」

 

「なんかマジでありがたいです!!」

 

 俺はリセスさんにお礼を言うと、湯船につかる。

 

 ああ~。久しぶりのお風呂は気持ちいいぜ!

 

 しかも星空が見えるからなおさら気分がいい。

 

 これだよ。これが夏休みの楽しみってもんだよ。いや、どっちかっていうと冬休み?

 

 なんか、久しぶりにバカンスっぽいのした気分だぜ!

 

「いや~。こういうのも乙ッスね~」

 

「まったくね。たまにはこういうのもいいかしら」

 

 うんうん。どうだよねお二人さん……って!?

 

「な、なんで二人とも入ってるんですか!?」

 

 き、気づくの一瞬遅れたけど、二人とも一緒にお風呂に入ってきたし!

 

 もちろん二人とも裸だよ!!

 

 す、すごい眼福だけどいいんですか!?

 

「おやぁ? 散々童貞捨てたいとか言ってたくせに、なにどもってるんスかぁ?」

 

「どうせ一度見てるじゃない。気にしなくて触っていいのよ?」

 

 お、おおおおおお!

 

 二人が別々の方向から迫ってくるから、豊かなおっぱいが両腕に当たってうぉおおおお!?

 

 こ、これはもしかして童貞卒業ですか!?

 

「……お前ら。種族が違うから気にしないとはいえ、俺がいるんだぞ?」

 

 オッサンの声に、俺は正気に戻った。

 

 そうだよ。オッサンいるじゃん!! 人がいるよ、ドラゴンだけど。

 

 ど、童貞卒業はしてみたいけど、これはちょっとアブノーマルすぎる!!

 

「……確かに、龍王の前でまぐわうというのもあれね。あなたが嬉しくないのなら、しない方が礼儀だわ」

 

 リセスさんもそれに気が付いたのか、タオルを出すとペトに渡しながら自分もまいた。

 

 お、おお。ちょっと残念。

 

「さ、そろそろ晩御飯ッス」

 

「お風呂で食べるってのもなんか贅沢ね。ほら、アーンしてあげる」

 

 と、俺は左右から美女と美少女にアーンされながら夕食を食べ始める。

 

 な、なんかすごい贅沢な状況だ。部長やアーシアと一緒にお風呂入ったことはあるけど、お風呂につかりながら晩御飯とか初めての経験だぞ。

 

 童貞も卒業してないのに、すごいエロエロシチュエーションだ。俺、なんか素敵すぎる体験してるって!

 

「お、オッサン。これ、夢じゃないかな?」

 

「夢じゃないが、俺に見られながらでいいのか坊主?」

 

『気にするなタンニーン。相棒はどうもこういう時暴走するんだ』

 

 悪かったね伝説のドラゴンコンビ!!

 

「祐斗もゼノヴィアも山小屋とか別荘で修業してるっすよ? なんでイッセーだけサバイバルなんすか?」

 

「え、マジで? 俺だけこんな環境なのかよ」

 

 ペトによって、衝撃の事実迄明かされたよ。

 

 勘弁してくれ。俺だって人間の生活したいんだけど。

 

 いや、寝てる時もオッサンは攻撃してくる時があるから、別荘とかいくつあっても足りないのか。

 

「凄まじい特訓ね。レトルト食品は置いておくから、好きな時に食べなさい。時々運ぶわよ」

 

「あ、ありがとうございます!! マジでありがとうございます!!」

 

 俺は心から感謝した。

 

 リセスさんが女神に思える。マジで救いの女神だよ。

 

「でもまあ、これぐらい過酷な特訓を潜り抜けないと、ヴァーリに追いつけないっていうのも分かるのよねぇ」

 

 リセスさんはそういうけど、確かにそうだ。

 

 魔王の末裔にして白龍皇。ヴァーリは俺のライバルになるんだけど、ちょっとシャレにならないぐらい強すぎる。

 

 そんなのに追いつくなら、まともな特訓だと無理だってわけか。なにせ俺は禁手にもなってないからな。

 

 そりゃ、ヴァーリも落胆するわけだ。バトルマニアとしちゃ、宿命のライバルがこんなのだとがっかりするんだろうなぁ。

 

「……だからって、俺の両親を殺して復讐者にするとか、マジむかつくぜ」

 

 俺は、思い出してむかついてぽつりとつぶやいた。

 

 ……その瞬間、なんかお湯の温度が下がった気がした。

 

 あれ? リセスさんが熱は送ってるからまだ冷めないと思うんだけど。

 

「へぇッス。そんなことやろうとしたんすか」

 

 と、ペトが呟いた。

 

 そして俺は気づく。

 

 これはお湯が冷めたんじゃない。寒気がするんだ。

 

 ぺ、ペトが怖い! 怖いよ!?

 

 俺に冗談半分で抱き着いてくるペトの腕も、かなり力が入ってるし!!

 

 こ、怖い。もしかして俺、とんでもない地雷踏んじゃったぁあああ!?

 

「ああ、言っちゃったわね、イッセー」

 

 リセスさんが、遠い目をして空を見上げていた。

 

「タンニーンさん……だっけ? 修行の理由がなくなるかもしれないわね」

 

「そうなのか? その小娘が怒っているのはわかるが、上級堕天使の下位で白龍皇に勝つのは困難ではないか?」

 

「……この子、典型的な特定条件下で化けるタイプだから。……こうなると思ったから流石に言わなかったのに」

 

 と、おっさんとリセスさんが話してたけど、俺はおっぱいの感触すら感じない恐怖でその意味をよく考えられなかった。

 

 あれ? ペトってもしかしてそういうのマジギレするタイプ? 

 

 少なくとも、マジでキレてることだけはわかる。

 

 俺とペトはまだそんなに仲良くなってるわけじゃない。なのに、俺の両親を殺すと言ってきただけで、ものすごく怒ってる。

 

 ……もしかして、ペトは両親を誰かに殺されてるのか?

 

 いや、それは俺から聞いたらいけないよな。

 

 ……ただし、ヴァーリには黙祷しよう。

 

 あいつ、余計なこと言いまくったんだろうなぁ。

 

 俺はそんなことを思いながら、とりあえず晩御飯のカレーをかっくらった。

 




ヒロイ「憎しみで人が殺せたら……っ」

羞恥心があまりないリセスとペト。まあ、いろいろあったのです。

それはともかくとして、異界の倉にしろ煌天雷獄にしろ戦闘以外の用途にも使えるのが便利ですよね。煌天雷獄のシャワーとか、神滅具の無駄遣いだけどサバイバルとかにきゃんぴとかに超便利!








それはともかく、本日ヘルキャット編までは書き溜めました。

こっからホーリー編を書き始めてきますので、当分は毎日投降できると思います。


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第二章 7

 

 俺ことヒロイ・カッシウスは、今グレモリーの図書室で勉強中だ。

 

 今回、俺に課せられたトレーニングは魔剣創造の鍛錬だ。

 

 アザゼルの指摘は正しい。俺は、魔剣創造を聖槍の前座にしか使ってこなかった。

 

 なにせ手持ち武器だ。槍は基本両手で使う武器だから、魔剣と聖槍の同時運用なんて、基本的には考えてこなかった。中には同時運用するやつもいるけど、かなり難しいらしかったからな。

 

 だが、確かに曹操と戦うのなら聖槍だけでは無理だろう。

 

 なにせ俺は後天的に移植されたタイプで、曹操は元から持っていたタイプだ。

 

 曹操の方が聖槍の適性は高いはずだ。真っ向から聖槍で勝負しても勝ち目は薄い。

 

 なら紫電の双手を使うってのもありだが、それだけじゃ足りねえだろうしな。

 

 だって曹操も神器移植してっからな。その分も考えりゃあ、魔剣も使うのが正しいだろ。

 

 そんでもって、魔剣創造はイメージが重要だ。

 

 自分が思った通りの魔剣を作るってことは、具体的なイメージがあってこそだろうしな。

 

 さらに剣の形もちゃんと考えないと、肝心の剣として落第な代物を作っちまうかもしれねえ。

 

 だから、冥界の資料で剣の勉強だ。

 

 アザゼルの指摘した体につける形で運用するってなら、防具としての機能も考慮しねえといけねえしな。

 

 ……まあ、悪魔の文字を覚えるという第一関門を乗り越える羽目になったんだが。

 

 ま、俺は勉強嫌いじゃねえしそれは良いんだけどな。これからお嬢達と関わってくなら、当然覚えておかねえといけねえしな。

 

 さぁて、イッセーはイッセーで未だに山から逃げ帰ってこねえし。俺も気合入れて頑張らねえとな。

 

 と、考えていたらなんか騒がしくなってきた。

 

 どうもメイドさんや使用人が慌ただしく動いてる。

 

 なんだ? まさかヴィクター経済連合の襲撃か?

 

「どうしたんですかい?」

 

 俺は、そのうち一人をとっ捕まえて聞いてみる。

 

 敵襲なら俺が出張るべきだろう。なんたって神滅具持ちだかんな。

 

「それが、小猫さまがトレーニングルームで失神なされまして……」

 

 にゃ、にゃんだとぅ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、急ぎ足で部屋に行くとドアをノックする。

 

 そして数秒後、朱乃さんが顔を出した。

 

「あ、ヒロイも聞いたのね」

 

 お嬢の表情は暗い。

 

 まあ、自分の眷属が倒れたとなりゃぁ当然だがな。

 

 俺も短い付き合いだが、ちょっと気になっちまうぜ。

 

「お嬢。小猫ちゃんは?」

 

「ただの過労らしいわ。今は眠ってるけど、時間が経てば目を覚ますはずよ」

 

 そうか。なら大丈夫だと思うんだけどな。

 

「……オーバーワークは基本的に毒なんだがな」

 

「ええ。でも、アザゼルの言うとおりにするのが怖かったんでしょうね」

 

 お嬢の返答に、俺はちょっと疑問に思った。

 

 小猫ちゃんが受けたアドバイスは、自分の力を受け入れろ……だったっけか?

 

 朱乃さんや姐さんにしたのと大きく変わらねえアドバイスだが、一体なんでそんなに嫌なんだ?

 

 いや、朱乃さんが嫌がってるのもそうなんだが……。

 

「ヒロイには、話しておくべきかしらね」

 

「いいんですかい?」

 

 結構深入りする話な気がすんだが、本人が寝てんのにいいのか?

 

 そう思ったが、お嬢は苦笑を浮かべると頷いた。

 

「ええ。どうせいつまでも隠せておけないでしょうし」

 

 そう前置きしてお嬢が言った話は、無茶苦茶ヘビーだった。

 

 小猫ちゃんは、元々白音という名前で姉の黒歌と一緒に暮らしていたらしい。

 

 両親を早くに亡くした小猫ちゃんは、姉が72柱の系譜に眷属悪魔としてスカウトされて、そのままその家にお世話になってたらしい。

 

 その黒歌って姉は、すげえ才能の持ち主だったらしい。

 

 僧侶の駒を二駒も使う必要になるほどの才能。複数の駒価値がある兵士以外の駒で、いくつも使うのは割と珍しいし、こりゃすげえ。

 

 なんでも妖術や魔法をいくつも習得し、さらには一部の妖怪しか使えねえ仙術まで習得したとか。

 

 が、それがいけなかったらしい。

 

 仙術は、気を取り込んで生命に干渉する術。使い方を誤ると精神に悪影響があるってデメリットがあるそうだ。

 

 その結果、暴走した黒歌は主を殺して逃亡した。

 

 さらに追手もことごとく返り討ちにしてそのまま行方不明。今ではSSランク級のはぐれ悪魔という、神滅具()が出張りそうなレベルの存在になっちまったと。

 

 あげく、その上役関係でなんかあったらしく、それもあって上役は不安になっちまったというコンボ。

 

 で、そんな化け物と才能だけなら同格と思われた小猫ちゃんこと白音を、上役は処分しようとした。

 

 それを「妹には罪はない」と言って上役を説得し、何とか助命することに成功したのがサーゼクス様だ。

 

 そして、既に眷属が埋まっていたサーゼクス様は、駒の余っているうえに歳の近いお嬢の眷属にさせるという手段を取った。

 

 そんな来歴だからこそ、小猫ちゃんは自分の力を使いたがらない。

 

 なぜなら、小猫ちゃんが自分を受け入れるということは、その妖怪の力をフルに発揮しろということだからだ。

 

 その果てに悪鬼と化した姉のことを知ってるんだから、当然躊躇するだろう。

 

 俺が思うに、だからこそ小猫ちゃんは戦車の転生悪魔になったんじゃねえだろうか?

 

 そんな才能なら、普通は僧侶の駒がいいだろう。普通に考えればウィザードタイプが適任。まかり間違ってもフィジカル優先の戦車の駒は相性が悪い方のはずだ。

 

 だけど、小猫ちゃんは化け猫としての特性を使いたくない。だったら真逆のアプローチ……ってのは納得だ。

 

「……そういうことですので、小猫ちゃんにとってしてみれば、アザゼルの指導内容は受け入れられるものではないのでしょう」

 

 と、途中から用事で抜けることになったお嬢に変わって朱乃さんがそう言った。

 

 ……そりゃトラウマを自分から掘り起こす奴は普通いねえしなぁ。

 

「正直な話、私も似たようなものですわ」

 

 そういうと、朱乃さんは翼を広げた。

 

 それは悪魔の翼じゃない。堕天使のそれだ。

 

「……ヴァーリがバラキエルうんぬん言ってたのはそういうことですかい」

 

 バラキエル。悪魔祓いなら覚えてねえと落第点クラスの大物堕天使だ。

 

 単純戦闘能力なら、堕天使の中でもトップクラスの実力者。神の子を見張る者(グリゴリ)きっての武闘派だろう。

 

 雷と光の混ざり合った、雷光を放つ使い手。まともにやり合ったら俺なんて返り討ちになるぐらいの壮絶な使い手だったはずだ。

 

 確か諜報部隊から聞いた話によると、少し前に日本の五大宗家と揉めたって聞い……た……ぁ!?

 

「……朱乃さんの姫島って、五代宗家の姫島ですかい!?」

 

「ええ。五代宗家の一つ。朱雀を司る姫島ですわ」

 

 マジか。超大物じゃねえか。

 

 日本の異能者の中では最高峰の五大宗家。

 

 そんなところの出身が、まさか悪魔の眷属になってたなんてな。五代宗家って排他的じゃなかったっけか?

 

 って待てよ? それがバラキエルって……ぇえ!?

 

「あ、朱乃さんってまさか、五代宗家とバラキエルの娘ぇ!?」

 

「はい。姫島朱離とバラキエルの血を継いだ娘が私です」

 

 そう、すっげえ複雑な表情で朱乃さんは言った。

 

 まじか。ある意味ヴァーリにも負けねえサラブレッドじゃねえか。

 

「……私はそのことを恥じて、この翼を消す為に悪魔になることを選びました。まあ、結局消せなかったのですけれど」

 

 そう自虐的な笑顔を浮かべる朱乃さんだけど、すぐに真剣な表情を浮かべる。

 

「ですが、私もまた堕天使(それ)が必要になっている。小猫ちゃんの気持ちが痛いほど分かりますわ」

 

 ……なんか、訳ありっぽいな。

 

 堕天使の幹部の娘が、当時敵対していた悪魔の、其れも魔王の妹の眷属とか、どう考えてもおかしいだろ。

 

 これうかつに聞けねえよ。聞けるわけがねえよ。

 

「……あ~。俺はこんな時なんていやぁいいのかわかんねえんですがね?」

 

 何ていうか、どういえばいいのか……。

 

「イッセーは、たぶんあまり気にしねえと思いますぜ?」

 

「ええ。笑顔で受け入れてくれましたわ」

 

 ああ、だからゾッコンなのか。

 

 気に入ってる男が、自分のトラウマを気にしないとか言ってくれりゃぁ、そりゃ惚れるわな。

 

 しっかし、グレモリー眷属は色々抱えてんなぁ。

 

 聖剣計画の被害者の木場。才能が呪いにしかならなかったギャスパーとアーシア。そして小猫ちゃんと朱乃さん。

 

 こりゃ、イッセーも実は一般人の出なだけでハードな来歴を持ってたとしてもおかしかねえぞ。聞けるわけねえけど。

 

 ………この特訓。平穏無事には終わりそうにねえなぁ。

 



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第二章 8

切りどころに苦労しました!!


 そんなこんなで一月弱の時間は過ぎ、そしてイッセー達が帰ってきた。

 

 俺は、早朝のランニングを終えて戻ってきたタイミングでそれに出くわす。

 

「お、木場!」

 

「久しぶり、ヒロイくん」

 

 まず真っ先に出くわしたのは木場だ。

 

「……なんか、見た目はあんまり変わらねえな」

 

「ははは。僕は筋肉が付きにくいタイプだからね。そういうヒロイ君もあまり体格は変わってないけど?」

 

 そりゃ、俺はどっちかっていうと研究とか勉強中心だったからな。

 

 第一訓練は毎日やってんだ。一月弱で変わるほど、俺はなまってねえよ。

 

 ま、イッセー辺りはかなり変わってるだろうがな。あいつは元が一般人だし、鍛えてねえから伸びしろがでけえはずだ。

 

 と、思ってたら、何か少し離れたところにタンニーンさんが舞い降りた。

 

 そんでもって、一分ほど経ったら飛び上がっちまった。

 

「おいおい。出来りゃぁ挨拶ぐらいしたかったんだがな」

 

 そう言いながら、俺はタンニーンさんが運んできたらしいイッセーへと近づき―

 

「其れなら大丈夫よ。今夜のパーティに運んでくれるって言ってくれたから」

 

 なんで姐さんがいるんだよ!?

 

「ヒロイ! 木場! リセスさんのおかげで俺は文明人の暮らしをかろうじて送ってきたぜ!!」

 

「自分もちゃんと数えてほしいっす!」

 

 なんでペトまでいるんだ……って、姐さんがいるならペトがいても不思議じゃねえか。

 

 っていうか文明人の暮らしって、どんな目にあってたんだ?

 

 しかし姐さんの世話になるとは羨ましい。俺も山に篭って修行するべきだったか。いや、そんなことしたら今の発展はあり得なかったから無理か。

 

 くそ! 俺も姐さんとおまけのいる修行がしたかった!!

 

 などと俺が思ってたら、木場がなぜか顔を染めている。……イッセーを見て。

 

 頬を染める相手が違うだろ。姐さんやペト見て染めろって言いたいんだが。お前ホモか何かか?

 

「ふむ、皆修業はきちんとしてるようだな」

 

 そんなことを言いながら合流してきたのは、包帯まみれのゼノヴィアだった。

 

「「なんでそんな格好?」」

 

 俺とイッセーの声がハモる。

 

 ああ、やっぱりイッセーと俺は波長が合うな。童貞同士だもんな。

 

 で、ゼノヴィアはなぜか胸を張った。

 

「ああ。修行して怪我して包帯を巻いての繰り返しでこうなった」

 

「ミイラにでもなる気かよ」

 

 イッセーのツッコミももっともだ。

 

 そんなことをしながらだべりつつ城に向かっていると、そこにはお嬢達が集まっていた。

 

 なんだこれ。最終決戦前の集合シーンかよ。

 

「眷属が集結するのは何週間ぶりかしら。……みんな、おかえりなさい」

 

 そう言ってお嬢は微笑んだ。

 

 ま、何はともあれグレモリー眷属は全員集結したわけで、おまけの俺達も修行は完了ってことか。

 

 さて、どれだけ頑張れるのかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アザゼル先生の馬鹿野郎!! なんで俺だけあんなサバイバル生活だったんだよ!!」

 

 アザゼルまで迎えての修行の過程についての話し合いの前に、イッセーがキレた。

 

 ま、当然っちゃぁ当然だわな。

 

 一人だけ生活水準が圧倒的に低いだろ。なんだその原始人一歩手前の生活は。

 

 イッセーって冥界には慣れてねえし、サバイバル技術も特に習得してねえはずだろ? なんで食い物とかの準備ができてねえんだよ。

 

 気を利かした姐さんがナイスフォローすぎる。俺の姐さんは気の利く素晴らしい英雄だぜ。

 

 しかし姐さんとの露天風呂とは許せん!! お嬢達も嫉妬心剥き出してイッセーにツッコミを入れたぜ。その所為で少しボロボロのイッセーだが気にしねえ。

 

 ま、それはそれとしてイッセーの修行の成果はあまり出てねえ方なんだがな。

 

「なんであんな酷い修業したのに、俺は禁手に至れなかったんでしょう、先生」

 

「そりゃお前。禁手なんてそう簡単になれるわけねえだろうが。ぶっちゃけ想定内だ」

 

 イッセーの沈んだ声に、アザゼルは特に気にせず答える。

 

 酷い話だが仕方がねえな。

 

 木場を思い返せばよくわかる話だ。

 

 まず間違いなく全世界トラウマランキングで上位に入賞するだろう酷い過去を持ち、それで生まれた憎悪を数年間くすぶらせ、それが一気に解消されたことで至った。

 

 悪魔祓いにも神器持ちは多いが、禁手にまで至ったやつはごくごく僅か。

 

 日本じゃ何が近いんだろうな? ……あ、卍〇だ。神器を具現化させるのが始〇だな。

 

「ぶっちゃけ修業期間が足りねえってことだ。あと一月ぐらいは―」

 

「絶対ヤダぁああああああ!!! 部長のおっぱいから離れたくないですぅうううう!!!」

 

 イッセーがギャスパー化しやがった。

 

 お嬢の胸に顔を埋めて、号泣して嫌癒してやがる。

 

 ま、気持ちはわかるな。

 

 龍王とマンツーマンで山に篭りながらスパルタ特訓とか、普通に考えなくても地獄だろ。死んでもおかしくねえハードトレーニングだな。

 

 ちょっと前までただの高校生だったイッセーにそれはキツイ。俺も流石に同情するわ。

 

 しっかしだったらどうやって禁手になるってのが重要だよな。

 

 こいつのスケベ根性から考えて、童貞でも卒業したら覚醒しそうだが……。

 

 誰が卒業させるかでどんな戦いになるかわかったもんじゃねえ。下手したら死人が出る。

 

 なんかゼノヴィアもイッセーに重点を絞ってるからな。どうやらミカエル様に直談判したのが相当きたらしい。

 

 ま、一国のトップに直談判してるもんだから、根性ねえと無理だもんな。男見せたぜイッセーは。

 

 さて、シトリーとのレーティングゲームはどうなることやら。

 

 場合によっちゃぁ、それでさらにモテ始めるとかありえそうだな。最近は俺が目を光らせてる上に松田と元浜が童貞と共に覗きを卒業したから、めっきり覗きも少ねぇしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを思ってた、かつての俺をぶん殴りたくなるのは、パーティが開催した数時間後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティ会場に行く前に、俺は駒王学園の制服を着ていた。

 

 なんでも、それが正装だと言われたんでな。ま、女性陣はドレス着るみたいだけど。しかもギャスパーもドレスで行くらしい。

 

 しっかし上流階級のパーティか。ちょっと勘弁してほしいぜ。

 

「うっへぇ。ちょっと乗り気にならねぇ」

 

「す、すごく嫌な感じだな」

 

 イッセーには引かれるがよ? お前、考えてみろよ。

 

「元ストリートチルドレンの俺が、そんな礼儀作法に慣れてっと思ってんのか?」

 

 いや、あるわけねえだろそんなもの。

 

 そりゃ教会で礼儀作法とかは練習してっけどさ? お嬢のお袋さんのサポートあったけどさ? 

 

 それでも付け焼刃だから心配だっての。

 

「そういうイッセーこそ大丈夫なのかよ?」

 

「ああ、俺は部長のお母様に教えてもらったから……っていうか、ストリートチルドレン?」

 

 ああ、そういや言ってなかったか。

 

「ああ。俺は元ストリートチルドレンだ。その上はぐれ者の吸血鬼の所為でリアルバイオハザードに巻き込まれてな」

 

 よく考えりゃぁ、俺、何で生き残ってんだ?

 

 いくら姐さんに助けられたとはいえ、それまでしのげた俺が怖いって。あの時は神器にも目覚めてなかったはずなんだが。

 

「お、兵藤にヒロイじゃねえか」

 

 と、そんなことだべってたら匙も来た。

 

 こっちもこっちで学生服。会長も同じ判断ってわけか。

 

「よう、匙。レーティングゲームの準備はできてんのかよ」

 

「おうよ! 一生懸命特訓したぜ?」

 

 俺の挑発じみた挨拶に、匙は元気よく答える。

 

 ま、会長もお嬢と同じタイプだからな。そりゃトレーニングぐらいはしてっだろ。

 

 それはそれとしてイッセーのドラゴンとのワンツーマンは想定外だったのか、少し引いてたがな。

 

 ……しかもイッセーの女体関係の圧倒的格差に絶望してやがったし。

 

 匙、マジで頑張れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、俺達はタンニーンさんや眷属のドラゴンに乗って、パーティ会場近くまで飛行中。

 

 いやぁ、俺達ってすげえ経験してるな、オイ。

 

 悪魔の長い人生ならあってもおかしくねえだろうが、俺は人間だからな。こりゃ奇跡に近いだろ。

 

 で、俺はイッセーに付き合ってタンニーンさんの頭の上に乗って話してた。

 

 そこで聞いたのは、タンニーンさんが転生悪魔になった理由だ。

 

 なんでも、ドラゴンアップルとかいう果実が冥界にしか生息してないからだそうだ。

 

 元々地球にもあったんだが、環境の変化で絶滅。しかもそれしか食えないドラゴンもいて、マジで絶滅の危機。

 

 かといってドラゴンは悪魔にも迷惑をかけてたから、ただでくれるわけがねえ。

 

 そこで、龍王クラスが傘下に入ることでどうにかしようってことだ。

 

 実際上級悪魔になり、さらに最上級悪魔にもなってっから、領地貰えてるしな。

 

 しかもドラゴンアップルの量産の研究もしてるとか。マジですげえ立派なドラゴンじゃねえか。

 

 二天龍はこの人の爪の垢呑め。煎じずに垢ごといけ。

 

「すっげぇなぁ、オッサン」

 

 イッセーもそれに感心してた。

 

「俺なんて、ハーレムを作りたいってだけだからさ、なんかすごいぜオッサン」

 

「はっはっは。若いうちならそれでいいさ。雄ならば富や雌を求めるのは当たり前だ。それが原動力になるのなら、それでいい」

 

 おお、しかも世俗的なものに理解まである。

 

 なんつーか、この人マジでまともすぎね? むしろまともすぎて苦労背負いこんでね?

 

 なんて思ってたら、タンニーンさんの口調が真面目になった。

 

「だが、それを最終目標にするのはもったいないぞ? 強くなれば雌が寄ってくるのは当たり前だ。問題はその後だろう」

 

 ……その後、か。

 

 俺は、英雄になりたい。

 

 姐さんのように心を照らす輝きになりたい。

 

 だけど、英雄になった後はどうするんだろうな。

 

 そこは、考えてなかったぜ。

 

 イッセーはタンニーンさんの話を聞いて考えこんでたし、俺も考えた方がいいのかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーティ会場で、俺はもうへばってた。

 

 こういうのは慣れてねえんでマジ疲れる。つーか、こういうところでの作法は慣れてねえからうかつに飯も食えやしねえ。

 

 途中で抜け出して下の階で飯屋でも探すか? いや、普通に考えりゃぁこんな高級ホテルならどこもかしこもマナー重視だろう。無意味だ。

 

 ……終わってからお嬢に頼んでサンドイッチでも作ってもらうか?

 

「ん? ヒロイか? どうしたんだ?」

 

 と、ゼノヴィアがドレス姿でかなり食事を喰っていた。

 

 流石にガワが良いだけあるな。あんな格好でも絵になってやがる。

 

「いや、こういう場所には慣れなくてな。うかつに飯も食えねえ」

 

「なら私に隠れて食べるといい。食べないと持たんだろう」

 

 おお、ありがてぇ。

 

「ヒロイさんもいっぱいいっぱいでしたか。私は目が回りそうです」

 

「僕も限界ですぅ」

 

「だよなぁ」

 

 俺はアーシアちゃんやギャスパーと、苦労を分かち合う。

 

 分かち合う。……だけどギャスパー。お前は、貴族出身だから比較的慣れてないと駄目じゃね? いや、この状況下で段ボールに入らないだけ回復してるのか?

 

 ああ、なんか俺も混乱してきた。

 

「で、そういやイッセーはどこ行った? お嬢と木場と朱乃さんは一緒に行動してるんだろうけどよ?」

 

 そういやイッセーの姿が見えねえな。

 

 お嬢は挨拶回りで忙しいだろうし、側近である朱乃さんも同様。そして木場はフェイス的にも能力的にもその護衛として適任だ。

 

 普通に考えりゃ、慣れてねえイッセーはそろそろ一回休憩してると思うんだけどよ?

 

「それが、イッセーさんは個人的な知り合いを見つけたから挨拶してくると走っていきました」

 

 ……こんな場所で走っていった?

 

 どういうこった……あ。

 

 今気づいた。そういや小猫ちゃんもいねえ。

 

 いや、小猫ちゃんもお嬢の古参眷属だし、対人恐怖症のギャスパー以外が挨拶回りってのも納得の組み合わせなんだが……。

 

「……ようやく見つけたわ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 その、緊張感のある声に俺達は振り向いた。

 

 そこには、微妙にマジ顔をした姐さんがいた。

 

「リセスさん? どうしました?」

 

「……その様子だと、もしかして気づいてないようね」

 

 姐さんは、俺達に顔を近づけると小声で呟いた。

 

「小猫が外に出て、それをイッセーとリアスが追っていったわ」

 

 なんだって?

 

「それは本当かい? イッセーは知り合いと会うと言っていたが?」

 

「余計な騒ぎにしたくなかったんでしょうね。適当ぶっこいたのよ」

 

 ゼノヴィアに姐さんはそう答えると、視線を外に向ける。

 

 おいおい。最近小猫ちゃんは調子が悪かったんだぞ? それが急に外に出ていくとか、何があったんだ?

 

「一応ペトに追いかけるように言ったから何かあったらわかるはずだけどね。あの娘は目がいいから」

 

「……一応追いかけてみるか、姐さん?」

 

 俺はそう言うけど、姐さんは首を振った。

 

「余計な騒ぎになる方がまずいわね。こんなパーティが台無しになったら、悪魔のメンツに関わるでしょ」

 

 あ、そっちも気をつけなきゃいけねえのか。

 

 大騒ぎになって、結局大したことが無かったら貴族連中が何て言ってくるかわかったもんじゃねえ。

 

 一応俺の直属の上司はお嬢だし、その辺のメンツも考えねえとな。

 

 つっても、ペトってそんなに大丈夫なのか?

 

 なんていうか、戦ってるところを見たことがない。だからどれぐらいできるのかが不安なんだが。

 

 ぶっちゃけ、身体能力は高いけどそこまでできる風に見えねんだが……。

 

 そう思ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはぁ!! パーティ中に失礼するよん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともに、霧がパーティ会場を包み込んだ。

 




ここから、ヘルキャット編はオリジナル色が強くなります!!


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第二章 9

はい、ちょっと切りどころが見つからなかったので長めでございます。








ちなみに、これを投稿した後の段階で書き溜めは180kb弱でございます。感想がたまり次第即更新するんで、ぜひプリーズ!!


 出てきた霧を見て、俺たちは警戒心を底上げする。

 

 これは、絶霧!?

 

 っていうか、この声はよく覚えてる。

 

 ………リムヴァン! こんな時に来るのかよ!?

 

 そして霧があつまると、そこから数人の人影が出てきた。

 

 一人はリムヴァン。ご丁寧にドレスコードを意識した、パーティ用のタキシードでご登場しやがった。

 

 妙なところで空気を読んでやがる。こいつマジでむかつくなオイ。

 

 一人はヴァーリ。こっちはいつも通りの私服で登場だ。まだ鎧も展開してない。

 

 こっちも余裕を感じさせやがる。マジでむかつく。

 

 そして最後の一人は、白髪の男。

 

 ……最悪だ。寄りにもよってアイツが出てくるのかよ。

 

「馬鹿な。まさかあの男が禍の団に属しているのか……っ!」

 

「……アイツ、あの時の?」

 

 ゼノヴィアと、ついでになぜか姐さんもアイツを見て警戒心を強める。

 

 いや、ゼノヴィアはわかるけどなんで姐さんも知ってんだ?

 

「ゼノヴィアさん? あの方、御存じなんですか?」

 

 アーシアの質問に、ゼノヴィアはアーシアをかばうようにしながらうなづいて答える。

 

 まあ、悪魔祓いなら一度は聞いたことがある有名人だからな。

 

「あの男は魔剣(カオス・エッジ)ジーク。フリードと同じ戦士育成機関の出身で、日本で堕天使側と揉めたときに負傷して以来、精神の均衡を崩して出奔した男だ!」

 

 ゼノヴィアの言う通り。あいつはかなりやばい。

 

 なんで、あの男がこんなところに出てくるんだよ!!

 

「……え”?」

 

 そしてなぜか、姐さんはものすごく気まずそうな顔をした。

 

 あまりに大きな声に、その場にいた全員がぎょっとして顔を向ける。

 

 そして、ジークもまた其の声で姐さんの姿を目にとめた。

 

 そして数秒後。俺たちは、姐さんがなんでそんな声を出したのかを理解する。

 

「……見つけたよぉ」

 

 まるで数年間合ってなかった愛する人を見たかのような声色で、ジークは嗤った。

 

 一言言おう。マジで怖い。

 

「ああ、リセス・イドアルっていったっけ? 君の名前を知ってから、すぐにでも会いたくてたまらなかった」

 

 よだれをたらしそうなぐらい喜色を浮かべて、ジークは姐さんを見る。

 

 その目は、同じ戦士育成機関らしいからか似た外見をしてるフリードを思わせる。

 

 そして、其れとはまったく違う狂気を感じさせた。

 

「ああ、安心してくれ。今度は失望させない。僕の剣を余すことなく味合わせてあげるよ」

 

 そして、ジークは一振りの剣を取り出す。

 

 赤黒い禍々しい魔剣。奴を魔剣(カオス・エッジ)と称させる要因となった、最強の魔剣。

 

 その名を、魔帝剣グラム。

 

「さあ! 僕を見てくれ、リセス・イドアル!!」

 

 そしてその瞬間、ジークは姐さんにとびかかった!

 

「リセスぅううううううう!!!」

 

 ジークは俺たちに目もくれず姐さんに魔剣を振り下ろす。

 

 その狂気っぷりに俺たちは反応が遅れ、しかし姐さんは即座に対応してのけた。

 

「アザエル特性超合金シールド!」

 

 即座に盾を取り出すと、姐さんは魔剣を受け流す。

 

 直接ぶつけるのではなく、斜めに受け止めることで攻撃をそらすやり方。そしてそれはとても重要だった。

 

 まるで氷を削るかのように、楯が一瞬で大きく削れる。

 

 もしこれを直接受け止めていたら、姐さんはそのままぶった切られていただろう。

 

 その証拠に、斬撃の直線上にいた壁は綺麗に切られて外の様子を少しだけ見せやがった。

 

 壁際にいたからよかったものの、下手したらこれで犠牲者大量に出てたぞ!?

 

「てめえ!!」

 

 そしてようやく反応した俺は速攻で聖槍をぶちかます。

 

 遠慮なく首を狙った刺突は、しかしグラムによって受け止められた。

 

 さすがは世界最強の魔剣! 聖槍とも打ち合えるってか!!

 

「……邪魔しないでくれないかな? 僕はリセスと殺し合いたいだけなんだけど?」

 

「いや、姐さんは俺たちの仲間なんだからさせるわけが―」

 

「―ないだろう!!」

 

 即座に俺は伏せて、そこからゼノヴィアが横凪に剣を振るう。

 

 それはデュランダルじゃなくてアスカロン。

 

 そう、アザゼルが指導した新たな聖剣とは、イッセーがもらったアスカロンだ。

 

 デュランダルのシャレにならない攻撃力の高さから生まれる被害を防ぐため、アザゼルはアスカロンを利用するという方法を取った。

 

 アスカロンは単体でも比較的強力な聖剣だ。さらにイッセーの龍のオーラを受け取ったことで、かなり強化されてる。とどめにデュランダルのオーラだけを与えることで攻撃力をさらに上昇させることも可能だった。

 

 そんな超パワーアップを果たしたアスカロンを、しかしジークはグラムで捌く。

 

 チッ! これだけ上乗せされててもグラムの方が圧倒的に各上か!

 

 そして次の瞬間、ジークは俺たちに攻撃を放っていた。

 

 しかも動きも早い!! これは防げ―

 

「待ちなさい」

 

 しかし、その攻撃は灼熱の炎によって遮られる。

 

 灼熱をまとった剣が、ジークを向かって振るわれたことで、ジークは攻撃を回避する羽目になったのだ。

 

 姐さんの動きがものすごくよくなってる。さすがは姐さんだ、むちゃくちゃ特訓の成果が出てる!!

 

 ……いや、姐さんの特訓は異界の倉の練習だったはずだ。今回は動きを鍛えるのは中心じゃねえはず。

 

 それなのに動きまで抜群に良くなってるのかよ。それと並行して鍛え上げてきたのかよ。すげえな姐さんは!!

 

 そしてその攻撃をかわしたジークは、バックステップでリムヴァンたちのところまで戻ると、心底嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「ふふふ。やはり君も強くなっていたようだ。これはとてもうれしいことだね」

 

「……やっぱりあなた、あの時の魔剣使いね」

 

 ジークと姐さんは、そういって何かをわかり合う。

 

 おいおい、まさか知り合いかよ。

 

「いやいやジークフリート。そろそろ落ち着いてくれないかい?」

 

 と、そこでリムヴァンが割って入る。

 

 そして、リムヴァンは周りを見渡すと謝意の一例をして見せた。

 

「申し訳ない、貴族の方々。どうしてもリセスちゃんと会いたいというから連れてきたんだけど、まさか挨拶をする前に切りかかるとは非礼の極み。禍の団を代表してお詫びしよう」

 

 優雅に謝意を魅せるが、それが演技なのは誰が見ても明らか。

 

 相変わらず、ふざけた連中じゃねえか……っ!

 

「お初にお目にかかるものも多いので自己紹介を。まずは彼は禍の団英雄派のサブリーダーである、英雄シグルドの末裔ジーク。魔剣(カオス・エッジ)ジークやジークフリートと呼ばれてるね」

 

 ジークはそういわれながらも、全く気にせず視線を姐さんに向けていた。

 

「なあリムヴァン。早くリセスと殺し合わせてくれないかい?」

 

「はいはい。今回は顔見せって約束だったでしょ? 護衛に徹してくれよん」

 

 ……護衛として不向きじゃね?

 

「そして、隣の彼はヴァーリ・ルシファー。そこのまがい物のサーゼクス(ルシファー)君じゃなく、正真正銘本物のルシファーの末裔にして、今代の白龍皇だよ」

 

「……まあ、一応よろしく頼む」

 

 その言葉に、悪魔たちが一斉にどよめいたのがわかる。

 

 ま、話には聞いてただろうがマジモンのルシファーの末裔を見たのは初めてな奴も多いだろうしな。

 

 そして―

 

「そして初めまして諸君! ぼくの名前はリムヴァン・フェニックス! 禍の団の宰相を務めさせてもらってるよん♪」

 

 その言葉に、全員が警戒心を大幅に引き上げる。

 

 奴が禍の団を大はば強化しているもう一人の元凶なのは事実。

 

 さらに、このタイミングで絶霧を使っているということにより、上位神滅具を大量に確保しているということも可能性がでかくなりやがった。

 

 そのせいで、誰もがうかつに仕掛けられない。

 

 なにせ奴は、聖槍も二けた保有しているとか言いやがった。

 

 聖槍は悪魔にとって天敵の一つ。最強の神滅具でもある。

 

 つまり、死人が大量に出ることが確実。

 

 だから誰もうかつに手が出せない。

 

 そんな中、人込みから姿を現すのは四人の男女。

 

 サーゼクス様とレヴィアたん。さらに二人の男。

 

 こりゃ、あの二人がアジュカ・ベルゼブブとファルビウム・アスモデウスか。

 

「……初めまして、リムヴァン・フェニックスを(かた)る者。俺がアジュカ・ベルゼブブだ」

 

 と、片方の男がそうリムヴァンに告げる。

 

 やっぱり、奴がアジュカ・ベルゼブブ。レーティングゲームや悪魔の駒をはじめとする、今の悪魔の根幹を作った男。

 

 ん? リムヴァンを(かた)る?

 

 その言葉に、リムヴァンも苦笑した。

 

「ま、その結論に至っちゃうのも当然だよねぇ。そうでなきゃおかしいし」

 

「その通りだ。フェニックス家分家の系譜に連なるリムヴァン・フェニックスは、数百年前に死亡が確認されている。……俺が死なせたといわれても仕方がないから、よく覚えている」

 

 リムヴァンの言葉に、アジュカさまはそう答えた。

 

 ……ってことは、リムヴァンはフェニックスじゃない?

 

 そう思ったが、しかしリムヴァンは静かに首を振る。

 

「いや、僕は正真正銘リムヴァン・フェニックスだよ。少なくともそう名乗るにふさわしい存在ではある」

 

 なんか訳が分からねえ。

 

 少なくともリムヴァンは、名乗る理由があるってことか?

 

「……そうか。なら、俺は君を殺そう。それがリムヴァン()に対する罪滅ぼしとなる」

 

 その言葉とともに、アジュカ様は一歩前に出る。

 

 そして、その間に入るようにジークとヴァーリが割って入る。

 

「悪いが、今回は護衛という名目で顔を見に来たんでね。そう簡単にはさせない」

 

「僕も同感だ。せっかく彼女に僕の成長を見させてくれたんだ。これぐらいはしないとね」

 

 最強の白龍皇と最強の魔剣を前に、アジュカ様も一歩止まる。

 

 そして、その向こう側でリムヴァンは寂しそうな笑みを浮かべた。

 

「……できればあなたには殺されたくないね。あなたは僕の命の恩人なんだから」

 

 ん? どういうことだ?

 

 俺はそれを疑問に思うが、しかしリムヴァンはそれにこたえるわけがねえ。

 

 リムヴァンはにやりと笑うと、パーティ会場とそこに参列する者たちを見渡し―

 

「―ほほう。お主がリムヴァンとやらか」

 

 その時、声が響く。

 

 其の声を放ったものは、ローブをまとった長いひげを生やした老人。

 

 俺は、その男を知っている。

 

 あいつは―

 

「やあ、北欧アースガルズの主神、オーディン。まさか貴方がゲストで来るとは思わなかったよ」

 

「ホッホッホ。若造共の悪あがきを笑ってやろうと思ってな。そしたらその元凶が来てるとは、面白いわい」

 

 オーディン神は面白そうに笑うと、その偽眼を輝かせる。

 

 リムヴァンはそれを平然と受け止めるが、しかし其の場は緊張に支配される。

 

 当然じゃねえか。あれは正真正銘の主神クラス。普通に考えりゃぁ、この場で最強の存在だ。

 

 それが、何を考えているのかわからない。それもリムヴァンが出てきてるというタイミングで。

 

 その場の貴族たちが誰も動けない中、オーディン神は視線をジークに向ける。

 

「しかし、我らが神話を代表する英雄の末裔が、教会の悪魔祓いからテロリストのメンバーとはの。これを日本では諸行無常というのじゃったか?」

 

「ええ。しかも魔帝剣グラムもセットですからね。……良ければあなたも切りましょうか? リセスの前の試し切りにはもってこいだ」

 

「まてジークフリート。彼は俺も戦いたいと思っている相手の一人だ。勝手にとらないでくれ」

 

 ものすごい余裕というか楽しそうな表情を浮かべてジークとヴァーリ。それを見て、オーディン神もまた興味深そうに頬をゆがめた。

 

 おい、この爺さんマジで楽しんでねえか?

 

「この儂を前座扱いにし、さらに取り合いとはのぅ。歳はとってみるものじゃわい」

 

 そう言いながら、オーディン神は一歩前に出ようとし―

 

「下がってくださいオーディン様。この不敬者をオーディン様に近づけるわけにはいきません!!」

 

 そう言って、銀髪の鎧を着た女性が割って入った。

 

 ……まさか、半神で有名なヴァルキリーか?

 

 この場でオーディンのおつきをするということは、相当の実力者だろうな。たぶん、低く見積もっても上級悪魔クラスはあるんじゃねえか?

 

 その女性は鋭い目つきでリムヴァンたちをにらむが、後ろでオーディン神は詰まらなさそうな顔をした。

 

「ロスヴァイセ。こんな若造共に儂が後れを取ると思っとるのか? 少しはあの搾りかす共に、真の神を見せつけさせんか」

 

 すっげえ不服そう!!

 

 それを聞いて、ロスヴァイセと呼ばれたヴァルキリーは不服そうな顔をする。

 

「駄目です! オーディン様は主神なのですから、こんなところでおふざけにならないでください!!」

 

 あ、あの人お堅そう。

 

 そんでもって、オーディン神はこの状況下でいたずら小僧みたいな笑みを浮かべると、わざとらしくため息をつく。

 

「……そんなだから、その年になっても彼氏の一人もできん処女のままだろうて」

 

 その言葉を聞いて、ヴァルキリーは崩れ落ちて号泣した。

 

「それは関係ないじゃないクソジジイぃいいいいいい!!! わたしだって、好きで処女なわけないじゃないですかぁああああ!!」

 

 ………すんません。空気読んでくれませんか?

 

 ほら、ジークとヴァーリも何とも言えない表情になってるじゃねえか。リムヴァンは興味深そうにしてるけどよ。

 

「愉快な側近ダネ! 僕にくだサイ!」

 

「ほっほっほ。断るわい」

 

 緊張感がねえなぁ、オイ。

 

「……まあ、こちらとしては我々の神話の実在を堂々と公表してくれたようなもんで、ある意味感謝するべきなんじゃがのぅ」

 

 そう髭を撫でつけながら微笑み―

 

「―人間に無用の混乱を生んでおいて、それを野放しにするのは神としての怠慢じゃのう。……わしが直々につぶしてやろうか?」

 

 ―その瞬間に絶大な殺気を放った。

 

 一瞬でヴァルキリーもジークもヴァーリも緊張感を取り戻し、しかしリムヴァンだけは余裕の表情を崩さない。

 

 むしろ面白そうに、一層笑みを深くした。

 

「はっはっは。かつては英雄を集めるために、戦争を引き起こしマッチメイク迄していたアース神族が、まさか戦争を起こしたことで怒りを見せるとは。歳を召されて牙が抜けましたか? 英雄を集め放題かもしれませんよ?」

 

「かもしれんのぅ。じゃが、ラグナロクを迎えずに済むのなら、そんな必要もなくなるじゃろう?」

 

 そんな言葉の応酬が交わされ、そしてリムヴァンもまたオーラを集める。

 

 オーディン神もまた、槍をどこからともなく取り出すと構え―

 

「―いえ、オーディン神様の出番はまだ後です」

 

 姐さんが、携帯電話を耳にあてながら一歩前に出た。

 

 それに機先を制された二人の視線が姐さんに集まる。

 

 姐さん、何考えてんだ?

 

 底の見えないリムヴァンと、主神のオーディン神の戦いに割って入るとか、下手したらマジで死ぬって!!

 

「別嬪さんじゃのう。名前を聞いてもいいかの?」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)総督アザゼルの護衛役という名目で戦闘要員をやっております、リセス・イドアルです。……オーディン様、その戦いの前に、邪魔者を排除させてください」

 

 そう言いながら割って入ると、姐さんはヴァーリに視線を向けた。

 

「ヴァーリ。……単刀直入に言うわ」

 

「なんだい? こんな面白そうな戦いが始まるかもしれないっていうのに、まさか投降しろだなんて、言わないだろう?」

 

 何をするのか楽しみにしながら、ヴァーリは姐さんに向き直る。

 

 そして、戦闘が勃発しようとしたその時―

 

「……アーサー・ペンドラゴンと黒歌のどちらかもしくは両方を殺されたくないなら、今すぐに投降しなさい」

 

 そう、はっきり言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 は? 黒歌って、小猫ちゃんの姉貴のはぐれ悪魔だよな?

 

 それにアーサー・ペンドラゴンって、あのアーサー王の末裔のペンドラゴン家の関係者か?

 

「……どういうつもりだ?」

 

 ヴァーリは口調に感情をこめずそう聞くが、その時点で動揺してるのが明らかだ。

 

 今までの余裕が消えている。それも、少しの間沈黙してる当たり結構動揺してる。

 

 っていうか、その二人とヴァーリにどんな関係が?

 

「この会談を黒歌と美候がこっそりのぞきに来てたようね。そして、あなた達がドッキリを仕掛けるとか言ってたみたいだけど、他にも何かあるんでしょう?」

 

「……リセス、一体何を言っている?」

 

 どんどんヴァーリの声から感情が消えていく。

 

 それを無表情に見ながら、姐さんはさらに説明を続けていく。

 

「……黒歌の使い魔を発見した小猫が外に飛び出し、それに気づいたイッセーとリアスが追跡。そして二人が発見されて、結界に閉じ込められ、ぎりぎりで間に合ったタンニーンさんとともに戦闘が勃発したわ」

 

 はぁ!? あいつらそんなことになってたのかよ!?

 

 っていうか、いくらタンニーンさんがいるっちゃぁいえ、生き残れたのか。

 

 と、とりあえずそこは一安心か。

 

 そして、次の言葉を紡ぐ前に姐さんは微妙な表情をした。

 

 あ、イッセーが乳ギレでヴァーリぶちのめしたときと同じ顔だ。こりゃ、イッセーの奴なんかあほなことしやがったな? 乳でも舐めたか?

 

「なんでも、リアスの乳首をつついてイッセーが禁手に覚醒したそうよ。黒歌が攻撃力低めとはいえ、まったく攻撃が通用してなかったみたいね」

 

 その瞬間、空気がものすごく弛緩した。

 

 いや、もっとひどかったわ。

 

「あっはははははははははははははは!!! あの子またやったの!? うっわぁ、生で見たかった!!」

 

 リムヴァンが大笑いするなか、姐さんはため息をついた。

 

 ま、まあ、そんな方法で禁手とか、いろいろとあれだよな。

 

 ってかイッセー、木場に謝れ。これまで禁手に目覚めたすべての連中に土下座しろ。

 

 せめて童貞卒業で覚醒してくれや。

 

「で、迎えにアーサー・ペンドラゴンが来たわけね。最後のエクスカリバーをいつの間にやら回収してるとか、貴方方もやるわね」

 

 と、そんな空気の中、姐さんはそれでもさらに説明を続けてくれた。

 

 いま、さらりと重大情報が出てたけどどう反応したらいいんだよ。

 

 そして、そんな弛緩した空気の中―

 

「……そのアーサーと黒歌はペトが致命傷を与えたわ。早く投降しないと、二人とも死ぬわよ?」

 

 そう、言い切った。

 

 その言葉に、会場の空気が一瞬で冷え切った。

 

「………何を言っている? ペトごときが、あの二人を相手に致命傷を与えるだと?」

 

 ヴァーリは、怒りすら込めて姐さんをにらむ。

 

「あの、遠距離から正確に攻撃を当てるしか能のない一芸しか持ってない奴が、アーサーと黒歌をそこまで追い込めるわけがない。……寝言で冗談を言えるとは、驚いたよ」

 

 ヴァーリは、鋭い視線で姐さんを見据える。

 

 そこには、二人に対する絶対の信頼があった。

 

 なるほど、その二人はヴァーリのチームメンバーってわけか。

 

 白龍皇のチームメンバーなら、それ相応の化け物だろう。少なくとも、並の上級クラスでは苦戦必須の化け物のはずだ。

 

 言っちゃなんだが、ペトが勝てるイメージが浮かばねえ。

 

「笑わせるな、俺はあの女相手に鎧は愚か光翼を使用せずに余裕で勝てる。あの二人なら遊びでも―」

 

「―当然でしょう。そもそもあなたとペトでは勝負にならない」

 

 ヴァーリの言葉をさえぎって、姐さん自身がそれを肯定した。

 

 そして、不敵な笑みを浮かべる。

 

「だって、戦いの土俵がかみ合ってないもの。よっぽどちらかが手加減しなければ、どちらかのワンサイドゲームしか成立しないわ」

 

 その言葉を合図にしたのか、ヴァーリのすぐ近くに通信を目的とした魔方陣が届く。

 

 そして、そこから聞こえたのは美候の悲鳴だった。

 

『ヴァーリぃ!! まずい、このままだとアーサーと黒歌が死んじまう!!』

 

 その言葉に、ヴァーリは絶句する。

 

 それを見て、姐さんは不敵に笑った。

 

「ね? 私の妹分は、相手を戦闘の土俵にすら立たせないのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、其の数分ほど前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 俺は、ついに至った。

 

 そう、赤龍帝の籠手の禁手、赤龍帝の鎧を完全に発動させた!!

 

 そのきっかけは、アザゼル先生の言葉だった。

 

 乳首はつつくといやーんとなる。女の乳首はある意味でブザー。女の胸はオーフィスよりも可能性にあふれている。

 

 その言葉に魅了された俺は、部長の胸をつつきたいと考えていた。

 

 そして、禁手の覚醒は心に大きな影響があってこそ。

 

 ああ、だから気づいたんだ。

 

 俺が禁手に至るために必要なことはたった一つ。リアス部長の乳首をつつくことなんだって。

 

 じぶんでもこの状況下でするのはどうかと思ったけど、部長はそれを了承してくれた。

 

 つついた時は感動ものだったね! ああ、宇宙の始まりが見えたとも!!

 

 だから、至れた。だから、戦える!!

 

 実際、黒歌の本気の攻撃は俺には通用しない。そして勢い余って森をごっそり削って山すら吹っ飛ばした。……ま、ちっさいけどね。

 

 真の赤龍帝の鎧スゲー!! 是なら十字架と聖水がなくてもライザーの奴に負ける気がしないぜ!!

 

「……この、ガキっ」

 

 黒歌は飛び退って俺をにらみつけるけど、ビビってるのが丸わかりだ。

 

 そりゃ、渾身の攻撃が全然効いてなかったんだから当たり前だろう。俺だってそんな状況じゃちょっとはビビる。

 

 ホントならそのまま一発ぶんなぐってもよかったけど、それはやめといた。

 

 なんたって小猫ちゃんの姉だしな。まずは警告で充分だろ。

 

 これで帰ってくれりゃあいいんだけど……。

 

「ひゃはははは!! こいつはいいや。ドラゴンの親玉が二匹!! こいつぁ本気で楽しめそうだぜぃ!!」

 

 その光景を見て、美候の奴はやる気になりやがった!!

 

 なんでだよ! 相方むっちゃビビってたじゃん!!

 

 くそ、これが戦闘狂ってやつか。そんなに強い奴と戦いたいのかよ。

 

 おれには理解できない!!

 

 ヴァーリもそうだ。俺は部長のおっぱいに倍加を譲渡するのに夢を感じた。だけど、あいつは部長のおっぱいを半減させるという。

 

 間違いない。俺とこいつらはわかり合えない。合えるとするならそれは神の奇跡だ。

 

 だけど、今の攻撃で部長と小猫ちゃんを苦しめてた毒ガスも吹っ飛んだ。外側からの感知も通信も突入も妨害する結界も吹っ飛んだ。ついでに山も吹っ飛んだ。

 

 なら、きっと悪魔の増援も来てくれるはず。下手すりゃリセスさんとヒロイがタッグでやってくる。

 

 そこまでしのげば、行けるか!!

 

 俺は闘う姿勢を取り戻し、そしておっさんもまだまだやる気だ。

 

 なら、何とかしのいで見せる!!

 

 そう決意したその時―

 

「―そこまでです。美候に黒歌。ほかの悪魔たちも気づきますよ」

 

 そんな言葉とともに、空間に裂け目が生まれた。

 

 そっから出てきたのは眼鏡のイケメン。なんか手にも腰にも剣がある。しかもオーラから言って聖剣だ。

 

 そして、黒歌も美候もそっちに視線を向けた。

 

「アーサーじゃねえか。お前はルフェイと一緒に待機してたんじゃねえのかよ?」

 

「あなた達が遅いからようすを見に来たんですよ。そしたらなんですか、この光景は」

 

 なんか親しげに話してんな。やっぱお仲間?

 

 緊張感が微妙に緩んだけど、オッサンだけはなんか戦慄してた。

 

「三人とも! その男に近づくな!!」

 

 かなりやばげに危険視してる。

 

 やっぱり、あの聖剣が原因なのか?

 

「奴が持っている聖剣は危険だ。選定の剣カリバーンこと最強の聖剣、聖王剣コールブランド! まさか白龍皇の元に下るとはな……」

 

 まじか! 最強の聖剣!!

 

 つまり、ゼノヴィアのデュランダルよりすごいってことか。そんなのまであるだなんて、禍の団は戦力集めすぎだろ!!

 

 てことは、腰に差してる剣もすごいのか?

 

 俺の視線に気づいたのか、アーサーはその剣も引き抜いた。

 

「こちらは行方不明になっていた最強のエクスカリバー、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)です」

 

 最後のエクスカリバーまでかよ! どんだけ聖剣集めてんだこの男!

 

 おいおい。聖剣って悪魔の天敵だぜ?

 

 そんなのの持ち主が出てきたら、増援が来るまで持ちこたえられるのかよ!!

 

 まだ部長と小猫ちゃんは回復しきってない。戦闘ができるかといわれるとちょっと厳しいはずだ。

 

 俺とオッサンだけで、ヴァーリのチームメンバー相手に持ちこたえられんのか?

 

「そんなに話して平気なの?」

 

「大丈夫ですよ黒歌。それに、私としてはリアス・グレモリーの眷属であるデュランダル使いと聖魔剣使いには興味がありましてね」

 

 おいおい。俺がヴァーリに、小猫ちゃんが黒歌に目をつけられてるように、木場とゼノヴィアもあの野郎に目をつけられてるのかよ。

 

 白龍皇のチームはマジで俺たちの宿敵だな、おい。

 

「リアス・グレモリー。あなたの眷属の2人に、私が一剣士として相まみえたいといっていたことをお伝えください。その代わりといっては何ですが、我々はここでお暇させていただきます」

 

 それだけ言うと、アーサーはコールブランドを後ろに振り向きながら振り下ろして、空間に裂け目を作って―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いや、それは無理な話ッス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともに甲高い音がして、アーサーの腕が大きく切り裂かれた。

 

 




前に行ったひどい目に合う精鋭部隊は、ヴァーリチームの黒歌とアーサーでした! 黒歌についてはぼろぼろにされる詳細は次の話になります。

次の話にて、ペトの本気が垣間見れます。ドンビキタイムは近いぜ!! 被害者も増えるぜ!!











……で、この作品における精神的魔改造2トップの片割れ、ジークくん。

リセスと因縁ができており、間接的にペトとかかわっております。っていうか、リセスがペトと知り合った事件でジークは精神を病みました。

なんつーかヤンデレになっておりますが、これにより魔改造が伝染することとなります。狂気のストーカーとなった魔剣ジークフリートにご期待ください!!


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第二章 10 堕天の魔弾

それでは皆さん、お待たせいたしました。

ペトによる、おそらくロンギヌス・イレギュラーズ一の凄惨な戦闘シーンです。


 

 

 そして、返り血を浴びながら、コールブランドがくるくる回って俺たちの頭上に飛び上がる。

 

「な……っ」

 

「ちょ、それはさすがに!!」

 

 アーサーが訳も分からずうめくなか、黒歌が慌てて落ちてくるコールブランドを、袖から木の根を出して受け止めようとする。

 

 あ、聖剣だから悪魔がじかに触れたら痛いからか。

 

 そんでもって俺たちも美候も、何があったのかわからなくて呆然としてたので動けず―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はい隙ありッス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともにまた金属音が響いた、コールブランドがはねた。

 

 そして、其のまま勢いよく回転したコールブランドは、黒歌のおなかを横一文字に切り裂いた。

 

「………え?」

 

 何が起こったのかわからなくて、黒歌は唖然としながらそのままゆっくりと地面に倒れる。

 

 な、なにが起こったんだ?

 

 突然金属音が響いたと思ったら、アーサーのコールブランドがいきなり動いて、アーサーと黒歌が切り裂かれた。

 

 そんな意味不明な光景に、俺や部長はもちろん、オッサンだって動けない。

 

「ね、姉様!?」

 

「「黒歌!?」」

 

 そして、すぐに我に返った小猫ちゃんと美候とアーサーが、黒歌に駆け寄ろうとする。

 

 あ、駄目だ小猫ちゃん!! その二人はまずいって!!

 

 っていうか美候もアーサーも意外と仲間思いだな! ただ強い奴と戦えればいいってわけじゃないのか?

 

 なんて思ったその瞬間―

 

『だから動かないッス』

 

 その瞬間、アーサーの胸に小さな穴が開いた。

 

「な……っ!!」

 

「アーサー!?」

 

 そのまま倒れるアーサーをみて、美候はどっちを助けに行けばいいのかわからなくなった。

 

 小猫ちゃんも訳が分からず、立ち止まってしまった。

 

 な、なんだなんだ? 何が起こってんだ!?

 

 そう思ってたら、いきなりでかい腕に俺と小猫ちゃんがつかまれる。

 

 タンニーンのおっさんの腕だ、コレ。

 

 そして、オッサンは俺たちをつかんだまま部長のところまで向かうと、そのまま俺たちを包み込むようにかがみこむ。

 

「全員おれの陰から出るな!! 狙撃だ!!」

 

 そ、狙撃!?

 

 狙撃って、狙い撃つぜぇ!! ……のあれ? 眼鏡割れるの!?

 

 でも、最後にアーサーの胸を打ち抜いたのはわかったけど、それ以外は!?

 

 俺たちは突然の事態に困惑するけど、すぐに声が響いた。

 

『安心するッス。自分ッス』

 

 と、また声が聞こえる。

 

 みれば、小さなドローンがふよふよと浮いていた。

 

 あ、この一人称としゃべり方は!!

 

「ペト! おまえペトか!!」

 

『そうっス。外に出てったのに気づいたんで、気になって空から様子をうかがってたら、結界に包まれたんでちょっとビビったスよ。大丈夫ッスか、イッセー?』

 

 その言葉とともに、さらに美候の足元に何かが突き刺さる。

 

 あれは……光でできた針?

 

『そこのお猿さん? 動くと今度は眼球ごと脳みそをぶち抜くッス。いくらなんでも上級クラスの貫通性特化なら眼玉ぐらいは貫けるっすよ?』

 

 す、すっげええげつねえことをペトははっきり言い切った。

 

 よく聞くと、俺たちに対して話してる時よりも、声に感情が乗ってない。

 

 何ていうか、氷みたいに冷たい言葉だった。

 

「てめえ! 何しやがった!!」

 

 美候が額に青筋を浮かべながら、大声で怒鳴る。

 

 た、確かに、いったいなにしたんだ?

 

『別に、コールブランドの柄を撃って、弾き飛ばすついでにそこの眼鏡と猫を切り裂いただけっス』

 

 平然と、ペトはそういった。

 

 いや、口で言うのは何だけど、それめちゃくちゃ難しいよね!?

 

「ふざけんな! こんな森の中でそんなことできる場所、俺と黒歌が気づかねえわけがあるか!? どこにいやがる……っ!」

 

 視線をさまよわせながら美候がわめく。

 

 た、確かに、多分近くにいるはずだよな?

 

 仙術を使えれば隠れてても気を感知できるって言ってたはずだし……。

 

 そのよくわからないその狙撃場所に気づいたのは、俺じゃない。

 

「……ち、違う、美候……」

 

 黒歌が、口から血をこぼしながら声を出す。

 

「……あいつ、2キロぐらい離れてる。……そこから、私達をっ!?」

 

『はいちょっと黙るッス』

 

 しゃべりかけた黒歌の足を撃って黙らせて、ペトはその軽い口調を続ける。

 

 こ、怖い! 怖すぎるよペトさん!!

 

 っていうか、2キロっていうと意外とそんなでもないような……。

 

「あ、あり得ません……」

 

 小猫ちゃんが、いろんな意味で顔を真っ青にしながら震える唇を開く。

 

 え? なんで?

 

「イッセー先輩のような攻撃範囲の広い砲撃ならともかく、狙撃は1km先から撃ったら、人体のどこかに当たるだけでも奇跡といわれているんです。それを2kmも先から、動いている剣の柄にピンポイントであてるなんて……神業だなんてレベルじゃありませんっ」

 

 ま、マジで!? そんなに難しいの!?

 

「実弾に比べれば光力ならまっすぐ飛ぶのでまだ難易度が下がりますが、それでもそんな速度じゃ時間差が―」

 

『あ、アザゼル総督から弾速強化型の人造神器もらったんで、チャージさえできれば第三宇宙速度超えるッスよ』

 

 さらりと、なんかものすごいことをペトは言い切った。

 

 え? 第三宇宙速度? なんかわからないけど、宇宙何てつくからにはものすごく速いんだろうなぁ。

 

『ちなみに自分は上級堕天使。威力を中級クラスまで下げれば、一秒に一発は撃てるっすね。だからこんな風に……』

 

 その言葉とともに、地面に落ちたコールブランドがはじけた。

 

 そのまま何回も空中ではじけ飛んで、その軌跡が一筆書きの五芒星を描いて、地面に垂直に突き立った。

 

 す、すげええええええ!!!

 

 なにあの曲芸。人間業じゃねえ。

 

 くるくる回転してるコールブランドの柄に正確に当てて、五芒星描いたよ!?

 

「……ヴァーリの奴、なにが的あて程度しか能のない上級堕天使より芸人が似合う奴だよ……っ!!」

 

『そりゃ、専用武器までもらったッスからね』

 

 美候がうめく中、ペトは得意げにもせずにそういう。

 

 そして次の瞬間、アーサーと黒歌の足が続けざまに光の針で打ち抜かれる。

 

 ……もう、悲鳴を上げることすらしなかった。

 

「……てめえ!!! 何のつもりだ!! やるなら真正面から戦いやがれ!!」

 

『逃げられないように足の腱を撃ち抜いただけっスよ。それと戦う気ッスよ。……狙撃主として』

 

 美候の怒りの声に、ペトは何言ってんだお前って感じで答える。

 

 其の声に、恥なんてものは一切ない。

 

『狙撃手は戦士とまともに戦わないスよ。離れたところから、敵の動きを妨害し、足手まといを作って泥縄式に敵を無力化する、戦士と同じ土俵で戦わない存在。それが、狙撃手ッス』

 

 せ、正論だけど、えげつねえ!!

 

 むかし松田や元浜と試しに見た戦争映画で、狙撃手がリンチされるところを見たけど気持ちわかる。

 

 そんなのに痛い目を見せられたら、そりゃむかつくなんてもんじゃねえよ!!

 

 しかも2km先から動いてる剣の柄にピンポイントで当てる!?

 

 そんなの無理だよ。絶対無理だよ!!

 

 俺も鎧を着たドラゴンショットなら2km先の家も吹っ飛ばせるだろうけど、あんな精密狙撃は絶対無理!!

 

『っていうか、パーティ会場にリムヴァンがヴァーリとか連れて乱入してるっすよ。何考えてんっすか』

 

 まじか! リムヴァンとヴァーリがパーティ会場にきましたか!

 

「な、なんてこと……っ。最悪…‥だわ」

 

 まだ毒が抜けきらない部長が、顔を青くする。

 

 あの二人が暴れたら、何百人の悪魔が犠牲になるじゃねえか!

 

 あそこには戦えない人たちだって何人もいるんだぞ。何とかしねえと!

 

 そう思ったその時、さらに狙撃が放たれる。

 

 ちょうど倒れてる黒歌とアーサーの頭のすぐ近くに、正確に光の槍が突き刺さった。

 

『……今すぐヴァーリに助けを請うッス。出ないとホントに撃ち殺すッスよ?』

 

 ペト。すごく頼りになるけど、それどう考えても悪党のやり方だよ。

 

 た、頼もしいけどマジで恐ろしい!

 

 俺、絶対ペトを怒らせたらこっちから謝ることにしよう。狙撃されたら絶対にかわせないよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちの目の前で、とんでもないことが言われた。

 

 っていうか、ペトの奴、なんて化物だよ。

 

 間違いなく狙撃の化け物だ。アイツ、下手したら俺やイッセーよりよほどシャレにならねえんじゃねえか!?

 

 あまりの事態に、その場にいる全員が何も言えない中、姐さんは絶対零度の視線をヴァーリに向ける。

 

「ヴァーリ。私は孤児院の出身よ」

 

 ……姐さんも、親がいなかったのか。

 

 俺は共感を覚えたが、さらに衝撃的な言葉を姐さんは口にした。

 

「ペトは、両親を目の前ではぐれ者の妖怪に殺されたわ」

 

 な、なんだって?

 

 あいつ、普段はものすごい軽いのに、そんなにひどい目にあったっていうのかよ。

 

「両親を殺されるだけでもひどいのに、それが目の前だなんて……っ」

 

「ひどすぎます……っ」

 

 ゼノヴィアとアーシアが絶句する。

 

 俺は、両親がいない。

 

 だけど、両親がまともに親をしてくれるってのはすごいいいことだってのはわかる。それが幸せだってのも分かる。

 

 それが、目の前で殺された……だと?

 

「そのあとのペトはひどかったわ。あの子の心は今でも少し壊れてる。私はちょっとした経験で演じるのがうまいから、それを隠す技術を教えたけど、それでもあの子の心の傷は深いのよ」

 

 姉さんも一瞬目を伏せるが、だけどすぐにヴァーリをにらんだ。

 

「そんなあの子の耳に、あなたが自分の趣味をよりよくするためだけに罪もないイッセーの親を殺すといったことが届いた。……あなたにわかる? あの子がどれだけあなたに怒りを覚えたか」

 

 一歩一歩前に進み、姐さんはヴァーリの前に立つ。

 

「そのあなたとチームを組むほど馬が合う連中。……同類だと判断してもおかしくないわね。そりゃぁ遠慮何てものないでしょう。あの子の心の破壊は、こういう時容赦する無自覚のブレーキを踏まないという利点になってるしね」

 

 そして、真正面からヴァーリの目を見て、はっきりと告げる。

 

「投降しなさい。あの子は殺すと言ったら本当に殺すわよ」

 

「リセス、ペト……っ」

 

 歯ぎしりをして、ヴァーリは姐さんをにらむ。

 

 だけど攻撃しない。戦闘もしない。

 

 すれば、そのアーサーと黒歌ってのが殺されると本当にわかってるんだ。

 

 お姉さま命のペトが把握できる状況でそんなことをすりゃぁ、最後の一線すら踏み越えるってわかってんだろうな。

 

「……どうします、宰相?」

 

「流石に少し様子を見ようか。僕たちが動いても殺しに来るだろうし……僕らを拘束してこない限りは僕らも動かないようにしようね」

 

 ジークもリムヴァンも様子見に徹している中、姐さんは答えを聴こうと、あえて何もいわない。

 

『まずい! アーサーも黒歌も急所をやられちまった! 俺も二人同時にカバーはできねぃ!』

 

 通信越しでわかる美候の追い詰められ具合も半端じゃない。

 

「人間と悪魔なら、中級クラスの光力でも十分致命傷を狙えるわ。さすがに闘戦勝仏の末裔を相手にしてはペトだと火力負けしそうだけど、いかに仏の末裔とは言え、カバーできる人数には限界があるわね」

 

 姐さんは油断なく全身からオーラを纏いながら、静かにそういう。

 

 ああ、そういう倒れ方するように狙撃したのか。ペトの奴抜け目ねえな。

 

 これ、完全にヴァーリのやつ詰んだんじゃねえの?

 

『すまねえ! ルフェイ……。面倒ごとになっちまった……!』

 

 美候はここにはいない誰かに謝罪する。

 

 こりゃ、相当追い詰められてんな。

 

 だが、ヴァーリが今から動こうとしてもその隙にペトはどちらかを殺すだろう。

 

 完璧に、勝敗は決したな。

 

「……ヴァーリ。あまり時間は与えられないわよ? せいぜいあと一分―」

 

「―ってくれ」

 

 ヴァーリが、姐さんの声をさえぎって小さく告げる。

 

 其の声に、姐さんは目を見開いた。

 

「……あなた、正気!?」

 

「正気だ。撃ってくれと、俺は言ったんだよ」

 

 そう返すヴァーリは、普段の余裕に満ち溢れた態度を取り戻していた。

 

 その発言に、全員が唖然となる。

 

 おい、さっきまで動揺するぐらいに仲間思いな感じを見せていたはずだろう。それが何でいきなり見捨てる方向に!?

 

「ああ、一応言っておくが―」

 

 ヴァーリは姐さんを見る。

 

 あ、いや違う。

 

 ヴァーリが見てるのは、あいつが声をかけているのは―

 

「―俺たちは、まだ()()じゃないし、今のはペトには言ってない」

 

 その言葉に、姐さんは何かに気づいた。

 

 そう、ヴァーリののど元に、魔方陣が展開されている。つまり―

 

「ペト! 逃げて!!」

 

 ……ペトじゃない、別の誰かだ!!

 

 

 




狙撃一点特化型ハーフ上級堕天使。それがペトです。バケツ頭に一発かます、成層圏まで狙い打つ人が声優にふさわしいでしょう……いや、ペトは女だった。

狙撃に限定すれば格上すらあのように圧倒できる猛者ですが、それ以外だと格下にすら圧倒的敗北をしかねない、非常に偏った戦闘能力を持っております。

くわえてリセスの言った通り壊れた精神性を持っているため、時に敵の1人を動けなくしてから助けるために飛び出した増援を狙い打つなどといった真似をする必要にも迫らる狙撃手としては、かなり精神的な適正も保有。怒らせるとご覧の通り容赦がないです。



ちなみに、人工神器は五発分のチャージを代償に第三宇宙速度にまで弾速を上げる仕様です。狙撃の難点の一つである、弾着までの時間差を可能な限り解決した人工神器ですが、それを異形で発揮できる距離からピンポイント狙撃できるのがペトぐらいしかないため、専用人工神器として開発してデメリットを極限まで減らしました。







しかし、総取りを狙った結果痛恨のミスをしでかしました。


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第二章 11

ヴァーリチーム壊滅の危機。

それを救う伏兵は、現段階におけるヴァーリチーム最後の1人!

そう、魔女っ子です!!


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と、着弾は同時だった。

 

「あうっ!?」

 

 放たれた攻撃は、更に追撃が放たれる。

 

 それを乱数回避で無理やり避けながら、ペトはそれを見た。

 

 神器、万象見通す眼(ガナ・フライ・アイ)

 

 人間と上級堕天使の間に生まれたからこそ手にしたこの神器は、視力を強化する。

 

 ヴァーリとは違い、これは一般人の世界でも流通するレベルの神器だ。神器全体で言ってもレベルが低い神器だ。

 

 しかし、それは伸びしろが非常に高い神器でもある。

 

 自覚して、ちょっとした自慢で、実際努力してきたこともあって彼女の視力は、安物の天体望遠鏡に匹敵する。更に動体視力も桁違いに上昇した。

 

 しかし、彼女の戦闘技量は上級堕天使の子であるにも関わらず低かった。

 

 特に接近戦は致命的と言ってもいいだろう。神器ほどではないが人並程度の努力は行ってきた。その結果、中級堕天使と人間のハーフ相手に二回に一回は組み伏せられる程度にまで伸ばせた。

 

 中距離戦でも駄目だった。これも同待遇の中では最低ランクで、防戦に徹されれば格下相手に長丁場になる事もしばしばだった。

 

 そんなことでくさりかけ、人間の友達と一緒に戦場から離れて生きてきた時、それは起こった。

 

 当時ペトは、親の仕事の都合で京都近辺で活動。近くのさびれた神社の娘と友達になっていたのだが、その神社をはぐれ者の妖怪がねぐらにしようと襲撃してきた。

 

 かなり強力な部類の鬼達が相手で、両親達は目の前で殺され、子供達であった自分も酷い目に遭った。

 

 ……時々思うが、普通エロい子にはならないよなぁとは自分でも思う。

 

 おそらく自分はそれで壊れて、しかも現在進行形で、たぶん一生そんな感じなのだろう。

 

 だけど、壊れ切ってはいない。

 

 それは、リセスが助けてくれたからだ。

 

 そして、彼女の話を聞いて人間界の戦闘職についてある程度知った。

 

 その中の狙撃手という役割なら、自分はまだ役に立つのではないかと思った。

 

 リセスの役に立つ自分になりたい。敬愛するお姉さまの足手まといになりたくない。その一念で頑張りたいと思った。

 

 ……そして、その決意は馬鹿らしくなるぐらいあっさり形になった。

 

 圧倒的なまでの遠距離から放つ光力は、10km離れたバスケットボールにも簡単に当たった。

 

 その狙撃手としての圧倒的な一点特化の才能は、環境次第では全く役に立たないだろう。屋内戦や、結界内などの狭いフィールドでは無意味に近い。

 

 だが。広い範囲での戦闘ならば、自分は上級堕天使どころか最上級堕天使でも突破できないレベルの戦術的価値を発揮できる。

 

 アザゼルが、専用に人造神器を開発してくれたというのは伊達ではない。リセスから、戦力として頼りにされているというのも酔狂ではない。

 

 狙撃という土俵において、ペトを凌ぐ者など神の子を見張る者には存在しない。

 

 しかし、それは狙撃という土俵に持ち込まれなければ、彼女は上級堕天使の名折れだということだ。

 

「……他にもいたッスか!?」

 

 狙撃とは、本来狙撃手以外に観測手と護衛をつけて行う作業だ。

 

 しかし状況が状況なので単独行動で狙撃ポイントに移動していたが、それが見事に仇になった。

 

 そこにいるのは、古くからの魔女と現代の魔法少女を足して二で割ったような少女。

 

 箒に乗って高速で突撃している彼女は、既にペトから数百メートルの距離にまで近づいていた。

 

「此畜生がッス!!!」

 

 ペトは人造神器を使わず即座に光の槍を多重展開して放つ。

 

 まっすぐ直線的に仕掛けてくるなら、いくらなんでも当てられる。

 

 何の遠慮もなく、全力で十本以上の光の槍を放つ。

 

 ……しかし、相手が悪かった。

 

 彼女の名は、ルフェイ・ペンドラゴン。

 

 アーサー・ペンドラゴンの妹にして、サーゼクス・ルシファーの眷属であるマクレガー・メイザースが深く関わる黄金の夜明け団に所属していた、近代魔術や他の魔法使い組織が躊躇するような魔術すら習得する才女。そしてヴァーリ・チームの最後の1人。

 

 彼女は非常に優秀であり、そしてかなり怒っていた。

 

「よくもお兄さまをっ!!」

 

 敬愛する兄を追いかけて禍の団に入ったルフェイからしてみれば、その兄が殺されかけているなど看過できる事態ではない。

 

 そして、ペトはその撃った女。

 

 とどめに、今の自分以外に状況を打破出来る者もいなかった。

 

 それら全てが、ルフェイに思い切った選択をさせる。

 

 すなわち、防御範囲を極端に狭めて防御力を向上させた結界を展開しての特攻。

 

 迎撃を選択したペトは、これ以上ないほど選択を間違えた。

 

 攻撃全てを負傷しながらも防いだルフェイと、そんなやり方に一瞬とはいえ狼狽したペトが激突する。

 

 そして、其れゆえにルフェイが更に攻撃をするチャンスは出来た。

 

「……受けてください!!」

 

 ゼロ距離で、いくつもの魔方陣が展開される。

 

 ……僧侶の駒二駒を消費するマクレガー・メイザースが関わる魔法。そのフルバーストがこの距離で放たれる。

 

 その相打ち覚悟の攻撃に、ペトは寒気を感じた。

 

「ちょ、ま―」

 

「待ちません!!」

 

 そして、空中で大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその瞬間を、白龍皇の同胞達は見逃さない。

 

支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)よ!!」

 

 アーサーが、鞘に刺した剣を引き抜いて全力を込めると、彼の体が即座に動く。

 

 足の腱が切れている状態で立ち上がり、そして同時に黒歌も動いた。

 

「SS級はぐれ悪魔を……舐めないでよね!」

 

 木の根が仙術によって動き、そしてコールブランドを弾き飛ばす。

 

 それを受け取ったアーサーは、素早くコールブランドを振るいながら黒歌を抱え上げる。

 

「美候! ルフェイを頼みます……!」

 

 支配の聖剣は、あらゆるものを支配する。ゆえに使い手が受け入れれば、無理やり使い手の体を操作すること程度は可能。

 

 そしてそれを理解していたからこそ、黒歌も渾身の力でこの場から離脱する為にコールブランドをアーサーへと投げ渡したのだ。

 

 お互いがお互いの能力を把握し、信頼していなければ成り立たない連携。その点において、ヴァーリチームはまるで主人公の仲間達のような力を発揮していた。

 

 だが、二人揃って時間が掛かれば死に至ることが確実な負傷を負っている。これ以上戦闘を行う事などありえない。当然、美候とルフェイの足を引っ張る事は確実。

 

 だからこそ、これ以上足を引っ張らない為に二人は逃げを選択する。

 

 そして、それを美候もまた理解していた。

 

「まっかせろぉおおおおお!!!」

 

 筋斗雲を呼び出し、美候は即座に空を駆ける。

 

 突然の展開に虚を突かれたイッセー達は反応が遅れた。

 

「いかん! 兵藤一誠、リアス嬢達を守っていろ!!」

 

「あ、オッサン!?」

 

 その場を一誠に任せ、タンニーンは全力で空を飛ぶ。

 

 ……仲間を傷つけられ、挙句ヴァーリを投降させる為のだしにされた。

 

 とどめに、そんな自分達の窮地を助ける為に、最後の仲間が特攻まがいの戦法を選んでいる。

 

 まず間違いなく、美候はかなり怒り狂っている。

 

 そして、その懸念はまさに現実となる。

 

 ゼロ距離からの打ち合いに対して、ペトもまたそれをあえてなすことに光明を見出していた。

 

 爆発するがゆえに自他共にダメージを負うルフェイの攻撃に対し、光の槍の投擲は突き刺さるがゆえにこちらのダメージはほぼないと言っていい。

 

 無理に振りほどこうとするよりそれは正解で、ゆえにそれは功を奏した。

 

「離れるッス!!」

 

「きゃぁ!!」

 

 即座に腕を刺して力を抜けさせ、強引にペトはルフェイを引きはがす。

 

 そして再び狙撃体勢に入った時、既に美候は彼女を間合いに収めていた。

 

「延びろや如意棒!!」

 

「ぐはっ!」

 

 伸びた如意棒を叩き付け、美候は強引にペトを叩き落す。

 

 衝撃で一瞬意識が飛んだペトを、しかしタンニーンが受け止める事で地面への激突だけは免れた。

 

 しかし、受け止めるという事は攻撃しないという事だ。その間美候はフリーになる。

 

「しっかりしろよルフェイ! ここは逃げるぜ!!」

 

「は、はい……」

 

 全力で美候は距離を取り、そしてその進行方向の空間が裂ける。

 

 更に避けた空間から霧が大量に生まれ、攻撃の狙いをつけさせない。

 

「ルフェイ!」

 

「美候、急いで!!」

 

「おうよ!!」

 

 そして美候が突入した瞬間に、裂けた空間は即座に閉じた。

 

「……逃がしたか」

 

 それをタンニーンは確認して、しかし念の為に周りを警戒する。

 

 あれが黒歌と美候の独断行動だというなら、ヴァーリチーム以外の干渉は薄い。

 

 しかし、ペトは肩の骨が砕けている。リアスと小猫もまた、毒の影響はまだ残っている。

 

 万が一の強襲を警戒するのは当然だった。

 

「おい、堕天使の娘。致命傷ではないから気をしっかり持てよ」

 

 タンニーンは、あえてペトを一誠達の方に運ぶ。

 

 赤龍帝の鎧を身に纏った一誠なら、背中を預けるに値する。即座の治療が必要でない以上、リアスと小猫の警護も同時にできるあそこに行くのが妥当な策ではあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえるか、リセス嬢。お前の妹分はダメージを負っているが、致命傷じゃない。リアス嬢の眷属ならすぐに治せる』

 

「……そう。ありがとう、タンニーンさん」

 

 タンニーンにそう答えると、リセスはため息をついてバックステップを行う。

 

 それをあえて受け入れながら、ヴァーリは静かに苦笑を浮かべた。

 

「……まったく。数度の見当違いの模擬戦で勘違いした結果がこれか。あいつ等には本気で謝らないとな」

 

 そうため息をつくと、ヴァーリは静かにリセスを見据える。

 

 そこには、静かな怒りと心からの謝意、そして正真正銘の尊敬が込められていた。

 

「リセス。ペトに言っておいてくれ。君の本質を見誤って軽んじたことを、心から謝罪する……と」

 

 そう、ヴァーリは心からペトを低く見積もっていた事を申し訳なく思っていた。

 

 その実力が発揮できない状況で勝負を挑んで、その実力を測る事などできはしない。

 

 むろん、仕方がないと言えばそれまでだろう。

 

 超遠距離での狙撃に先鋭した超特化型と、自分のような相手とのまともな撃ち合いや殴り合いを求める手合いでは、戦闘の形を成立させる事は困難だ。

 

 超遠距離からの不意打ちで一撃で沈むか、狙撃できない状況下に持ち込んで蹂躙するか。この二択に終わるのが当然だ。

 

 しかし、伏札にされていたとはいえどそれを知らずに馬鹿にしていたのは完全な失態だ。

 

 ゆえに、ヴァーリは心から謝罪し―

 

「―ただし、俺の仲間をここまで痛めつけてくれた以上、それ相応の落とし前をつけさせてもらおうとも伝えておいてくれ」

 

 それはそれとして割と怒りに燃えていた。

 

「させると思うかしら?」

 

 その言葉とともに、リセスはオーラを放って殴り掛かる。

 

 それをヴァーリは鎧を展開して受け止めようとして、しかし回避を選んだ。

 

 攻撃が僅かに鎧にオーラが触れる程度にとどまり、しかしそのオーラが鎧にひびを入れる。

 

 そして、回避したヴァーリはそのひびを面白そうに触れる。

 

煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)はあらゆる属性を支配する……か。まさか龍殺しの属性すら使えるとは思わなかったよ」

 

「イッセーからアスカロンを借りて徹底的に参考にしたわ。煌天雷獄(これ)の出力なら、更に上を狙えるわよ」

 

 静かに睨み合う二人は、いつ攻撃に入ってもおかしくなかった。

 

 ヴァーリは神滅具を禁手にまで至らせているが、リセスに特別効く攻撃を持ってない。リセスは神滅具を禁手に至らせてないが、ヴァーリに特別効く攻撃を行うことができる。

 

 リセスは上位神滅具の持ち主だが、素体はただの人間である。ヴァーリはただの神滅具の持ち主だが、素体は魔王の末裔である。

 

 お互いに優れた面と劣った面を持つのが今の2人。ゆえにまともに戦えば、お互いにただでは済まない。

 

「和平会談を台無しに仕掛け、人類まで巻き込んだ戦いを起こすテロリストとなったあなたとその仲間に遠慮するわけないでしょう? テロリストには容赦も譲歩もしない。人間世界を巻き込むなら、人間世界の国際常識も理解しなさい」

 

「なるほど、確かに正論だ。だが、仲間を痛めつけた者を、作戦の範囲内で痛めつける程度はどんな戦争でもやっているんじゃないかい?」

 

 静かに言葉をぶつけ合いながら、二人は攻撃を再び放とうとし―

 

「待ってくれ、ヴァーリ」

 

 其の間に、魔帝剣グラムが差し込まれる。

 

 かなり不満げな表情を浮かべながら、ジークはヴァーリに非難の視線を向けた。

 

「彼女は僕の得物だ。君の得物は妹分の方なんだろう? 横取りはやめてくれ」

 

 するようならば切る。それを言外に殺意を込めながら、ジークはヴァーリを止める。

 

 その様子を見て、ヴァーリは肩をすくめると後ろに下がった。

 

 そして、其れを見てリムヴァンは苦笑した。

 

「……一時はどうなることかと思ったけど、とりあえず本来の役目に戻るとするかな」

 

 そういうと、リムヴァンは指を慣らす。

 

 そして、いくつもの映像が宙に映し出された。

 

 そこにいるのは、文字通りの混成軍。

 

 悪魔祓いがいる。堕天使がいる。妖怪がいる。吸血鬼もいる。巨人もいる。魔獣もいる。

 

 多種多様な種族が、軽く見積もっても万を超える数で集結していた。

 

「第一ラウンドの駒王会談襲撃作戦は失敗。第二ラウンドのヴィクター経済連合設立戦は大成功。……てなわけで、第三ラウンドに行ってみようと思うんだよ」

 

 そう言うと、リムヴァンは声を張り上げる!!

 

「御観覧の皆様!! 彼らは威勢よく禍の団の快進撃を続ける為、貴方方の首を取らんと息巻いている我らの軍団です!! この建物に進軍中でございまーす!」

 

 その言葉に、全員が魔方陣を展開しながらそれを確認する。

 

 確かに、この場を目指して進軍中なのが確認できた。

 

 ヴィクター経済連合は、最初にまず三大勢力の和平を阻止するという方法を取った。

 

 そして次は、足場作りとして人間世界で同時多発クーデターを行い、成功させた。

 

 そして三番目。今度は悪魔達の重鎮を狙い、大規模な戦闘を仕掛けてきたのだ。

 

 それを貴族達が理解している隙に、リムヴァンはジークとヴァーリも含めるように、霧を生み出して展開する。

 

「それでは皆さん! ぜひこの窮地を潜り抜けていただきたい!! 出来るものならやってごらんなさい!!」

 

 その言葉とともに霧は彼らの姿を隠し、そして消え去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 




と、言うわけでルフェイの頑張りによって、ヴァーリチームは大損害から辛うじて脱出。もてるものすべて使ったヴァーリチームが、かろうじて生存をつかみ取った形です。


 一方ペトの来歴と神器の説明もしました。ちなみに神器の名前は最近連載再開した漫画の目のいいボクサーの「あれ、武器だったんかい!!」からです
 ペトの両親が殺された事件についてもある程度説明、まあ、濁していますがそういうことです。


 そしてリセスはリセスで独自トレーニングにより新たな力を確保。これによりヴァーリたちに対して神器の到達段階では劣りながらも優勢に立ち回ることができるようになりました。因みに彼女の禁手はライオンハート編までお待ちください。




そして二章中盤の山場、一万を超える軍勢によるパーティ会場襲撃戦。

とはいえ、この作戦、リムヴァンの本命は別にあり………?


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第二章 12

 

 

 

 

 

「とりあえず、全員生きてて何よりだな」

 

 と、アザゼル先生はそう言ってくれた。

 

 まったくだ。一時はどうなることかと思ったぜ。

 

 下手をすりゃ、あの場でリムヴァン達との殺し合いが本格的に勃発してたかもしれねえ。っていうかならないのがびっくりだ。

 

 ま、そんなことになったらただの従業員にもシャレにならない被害が出てただろうがな。ホテルも倒壊間違いなしだ。

 

「つーかお嬢に小猫ちゃんにペト。作戦会議に参加して大丈夫なのかよ?」

 

 そこが疑問だ。

 

 ぴんぴんしているイッセーはともかく、この三人は割と大ダメージだったはずだ。

 

 特にペトなんて、たぶん殺す気でど突き倒されたからな。普通に考えれば、それから一時間もたってない今のタイミングで動くのどうかと思うんだけどよ。

 

「お姉さまにハグしてもらってるから大丈夫ッス! 元気百倍!!」

 

「そもそも怪我はアーシアに治療してもらってるもの。ありがとう、アーシア」

 

 と、ペトと姐さんはそう言うけど、どっちも大立ち回りだったな。

 

 特にペト。姐さんは駒王会談の防衛には向いてないと言ってたけど、確かにその通りだ。

 

 強力な結界で覆われている、学園規模の敷地内だとあの圧倒的遠距離狙撃はぶちかませねえ。そう言う意味だと本領は発揮できねえわな。そりゃ外されるって。

 

「同感ね。第一、既にここに敵が来ているのでしょう? 72柱の一員として、休んでなんていられないわ」

 

「……もう大丈夫です」

 

 お嬢と小猫ももう大丈夫みてえだな。なら、いいのか?

 

 つっても結構強力な毒みたいだったしな。念には念を入れた方がいいと思うんだが……。

 

 俺がちょっと不安に思ってると、アザゼル先生はやれやれと肩をすくめた。

 

「安心しろ。基本的にリセス以外は後方だからよ」

 

「え? なんで!?」

 

 ちょ、ちょっと待ってくれ!!

 

 英雄を目指す者として、こんな緊急事態に後方待機とか流石に黙ってられねえんだがな。

 

「言っとくが、前線で暴れるのはあくまで大人だ。お前らガキを、必要がねえ時にまで積極的に動かすわけねえだろ?」

 

「え、でも先生。戦力かき集める必要がありそうなんですけど? あれ、一万超えてるとか言ってたんじゃないでしたっけ?」

 

 イッセーがそう言うけど、アザゼルは結構平然としていた。

 

 あれ? 数だけなら圧倒的不利だと思うんだけどよ?

 

 圧倒的な数の暴力に対抗するには、こっちもそこそこの数を用意する必要があるだろ。出し惜しみしている暇なんてあるのかよ?

 

 俺達はそう思うが、しかしアザゼルは結構余裕だった。

 

「あのな? ここにいったいどれだけの数の上級悪魔がいると思ってやがるんだ? 貴族のパーティだぞ?」

 

 ……あ。それもそうか。

 

 正真正銘大人の上級悪魔たちが、眷属たちとともに集結している。それも、四大魔王までセットでだ。

 

 挙句の果てに神の子を見張る者の幹部もゴロゴロ参加してる。そんなわけで護衛も武闘派ぞろい。

 

 とどめに北欧の主神であるオーディン神。しかも護衛にヴァルキリー迄ついているという至れり尽くせり状態。

 

 確かに、こんだけ実力者が揃ってたら、普通に考えて実戦経験の少ない子供を前線に投入するのもあれだな。

 

 しかも、お嬢はグレモリーの次期当主。悪魔の出生率を考慮すりゃ、積極的に出さねえ方が良いに決まってる。

 

 あれ? でも俺は?

 

「因みに、リセス以外はペトの護衛だ。防衛ラインから10kmほど離れた丘陵で、ペトには定点狙撃を行ってもらう」

 

 こいつに関しちゃ凄腕すぎて使わないのもあれだしな。そうアザゼルは付け加えた。

 

 ああ、確かにものすっげえ狙撃ぶちかましたからな。

 

 さっすが、姐さんの妹分。やるじゃねえか。

 

 いずれ弟分の英雄となりたい俺としちゃぁ、クロスレンジで鬼と言われるような技量を手にしてぇもんだ。いや、なってやるぜと気合を入れるぜ!

 

「で、チームメンバーをコテンパンにしまくったことでヴァーリがお冠だから、念の為護衛として神滅具持ちのお前らだ。ヒロイが右翼でリアス達が左翼な?」

 

 なるほど。そう言うことか。

 

 確かに、脅しかけてなけりゃぁ二人は殺せてたもんな。ぶちきれていてもおかしくねえ。

 

「むぅ。自分が一人も仕留めれなかった所為で済まねえッス」

 

「いや、仕留めてたらヴァーリはもっと本気出すんじゃないか?」

 

 すまなそうに謝るペトに、イッセーがツッコミを入れる。

 

 むしろ撤退せずに覇龍出していただろ。こっちも被害者多数だっただろ。

 

 そういう意味じゃあ、仕留め損ねたのは短絡的にゃぁよかったのかねぇ。

 

「ちなみに若手の連中はその狙撃箇所の警護だ。できれば逃げられるように転移魔方陣の近くに待機させたいが、上役達の多くは将来を見越して、大規模戦闘の空気だけでも味合わせておくべきという意見が強くてな」

 

 な、なるほどな。

 

 確かに、世界大戦レベルの激戦が勃発するんだ。そうなれば大多数同士の戦いだって何度も起きるはず。慣れないとな。

 

 上役も決して馬鹿じゃねえってことか。転んでもただでは起きない精神は認めるべきかねぇ?

 

「ですが先生。イッセーくんは禁手にまで至りました。今の彼なら並の上級悪魔を凌駕しますし、主戦力とは言わないまでももう少し前線に押し上げるというのも上役達は思いつきそうですけど」

 

 木場が手を上げてそう言い、全員納得する。

 

 ま、SS級はぐれ悪魔の黒歌を苦も無く一蹴してるからな。

 

 あいつ、火力は低いたぁいえ最上級悪魔クラスに認定されてたはずなんだけどよ。

 

 そんな実力者、それも死んでも心が痛まない転生悪魔という駒を使いたがらねえとか、上役は冷酷なうえに阿保なのか?

 

 と、思ったけどアザゼル先生はため息をついた。

 

「いや。今回イッセーは戦力としては不安定だ」

 

 へ?

 

「赤龍帝の鎧は今回、通常の禁手として発動は不可能だ。……ゆえに緊急手段としての疑似禁手用の腕輪を装備して参加する」

 

 ど、どういうことだ!?

 

「あ、マジで悪い。……今からだと時間が足りないんだよ」

 

 と、イッセーがすまなそうに言った。

 

 更に、補足説明の為かドライグが具現化する。

 

『今の相棒では、禁手になる為には神器を不使用状態にした上で二分間しのぐ必要がある。更に発動時間は30分で、それが終われば神器もろくに使わずに、一日のインターバルが必要だ』

 

 ……使いづれぇえええええ!!!

 

 三十分の使用制限はまあいいだろ。更に発動までに二分かかるのもまあいい。あんな大技、溜めに数分かかってもおかしくねえ。その辺は、こっちでサポートすりゃいいんだからな。

 

 だけどよ、使った後一日使えねえとか流石にまずいだろ!! 神器すら使えねえって、其の三十分で勝てなきゃ詰むじゃねえか!!

 

 ウルトラマンか、お前は。

 

「でも、姉様を歯牙にもかけなかった強さは本物です。十分に価値はあるのでは?」

 

 小猫ちゃんが反論するが、しかしアザゼルは首を横に振る。

 

「それは黒歌が下手を打っただけだ。むきになって攻撃に頼らず、幻術で足止めに徹して精神干渉を仕掛けりゃ、勝算は十分にあったからな。もう二度と真っ向勝負で仕掛けりゃしねえよ」

 

 ま、確かに。

 

 調べた限り、黒歌は直接火力よりそういったからめ手に長けてるタイプだからな。仙術も、直接攻撃力とは別の意味でキッツいタイプだしよ。

 

 そして、ヴァーリ相手に禁手になっただけじゃあ勝ち目がねえ。

 

「ペトの狙撃で分隊長や小隊長クラスを仕留めて前線を混乱させる。お前らはペトを狙ってくるだろうヴァーリ相手の時間稼ぎだ。本命は、お前らの一番近くの前線で総合指揮を執る、タンニーンが受け持つ」

 

 なるほどな。それぐらいしないと勝てない相手ってわけか。

 

 つまり、駒王会談の時はまだまだ手加減してたってことかよ。

 

 ………いつか、必ず禁手になって追いついてやる。

 

「それで先生。現状はどのような形になっているのでしょうか?」

 

 木場が、気を取り直して話を進める。

 

 確かに、俺達のやることは分かった。

 

 だが、敵は一体どんな戦術でくるんだ?

 

「敵の出方次第では危険ですわね。一万を超える戦力を投入している以上、相応に本気と思われますわ」

 

「そ、そそそそうですぅううう! 悪魔は数が少ないから、数ではやっぱり不利ですぅううう!!!」

 

 

 朱乃さんもギャスパーも不安になるが、しかしアザゼルは結構普通だった。

 

 と、いうより肩透かし感を感じさせてやがる。

 

「それが、敵勢力はまっすぐこっちを目指してやがる。魔法で視認する限り、本当に混成軍だった。ありゃ、勢いに任せた暴徒も同じだな」

 

 アザゼルは本気で呆れ果てている。

 

 ん? 上級クラスや最上級が動けば、一気にごっそり削る事だって出来るはずだよな?

 

 人間の軍隊も関わっている組織なんだから、そんな大部隊を戦線に集めたまま投入とかやらないと思うんだけどよ? 確か絨毯爆撃とかで一蹴されるからとか。

 

「だからこそ、逆に何か仕掛けてくる可能性もある。……お前ら! こんなところで死ぬんじゃねえぞ?」

 

「「「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」」」

 

 俺達は一斉に返事をする。

 

 そして戦闘開始は、朝日が昇る頃になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リムヴァン様。治療は完了いたしました」

 

「よし! これでもう大丈夫だね。ありがとう、デイア」

 

 治療を行っていた部下に礼を言い、リムヴァンは後ろを振り返った。

 

「デイアちゃんに感謝するように。体力の消耗が激しいから明日の戦闘は無理だけど、これでもう死なないからね?」

 

「はい! ありがとうございます!!」

 

 ベッドの上で眠るアーサーと黒歌の表情が安らかな事もあり、ルフェイは安堵して頭を下げる。

 

 そのわき腹を、容赦なくリムヴァンはつっついた。

 

「あうっ!?」

 

「次は君だからね? いくらデイアちゃんが広範囲での即効性が薄いからって、君も重症なんだから無理しない。傷跡が残っても知らないよ?」

 

「は、はい……」

 

 涙目で頷くルフェイを部下に預けてから、リムヴァンはヴァーリの方に視線を向ける。

 

「……礼を言う」

 

「お構いなく。ここで君達を失うのは、流石に得策じゃないからね」

 

 そう言って、リムヴァンは戦場へ向かって行軍する部隊の映像を見る。

 

 それを見て、リムヴァンは嘲笑を浮かべた。

 

「しかし、彼らもホント阿保だね」

 

「教皇の首を取ったやつがいるからな。その勢いに乗じたいのだろう。よほどこのひと月、積極的に侵攻せず訓練だけなのが不満らしい」

 

 ヴァーリはそう言うが、リムヴァンは肩をすくめる。

 

「今はまだお互いに準備期間だってのが分かってないねぇ」

 

 そう、この戦争は、長い時間を掛ける事が想定されているものだ。

 

 リムヴァンと曹操はある目的の為に、戦争が泥沼になる事こそ望んでいる。

 

 そして短期決戦などもっての他だ。如何に人類の多くを味方に出来たとはいえ、彼らの水準は異形達と戦争できるほどに高まっていない。

 

 万が一追い込みすぎて全面核戦争になれば、せっかく世界を統一しても旨味が薄いので、スポンサー達も難色を示している。

 

 様々な理由があり、全面戦争を行うにはお互いに準備期間が足りてないのだ。

 

「いくら数年間の準備期間があったとはいえ、量産型の工場が出来てないからね。ドーインジャーの大量生産体制を真の意味で完成させるには、あと半年ぐらい欲しいところなんだ。それに……」

 

 リムヴァンは、心底ため息をついた。

 

「……威勢がいいだけの雑魚に神器を与える気はないよ。独創性を得るべきなのは、元から実力のある連中だけだしね」

 

 そう、これの目的は正真正銘の間引き。

 

 勢い良く集めた勢力をふるいにかけ、強化に値する者を選ぶ為の儀式だ。

 

 有象無象の雑兵ならば、ドーインジャーで事足りる。マンパワーが必要なのは、むしろ生産や通信といった後方支援だ。

 

 神器を移植して戦闘能力を上げるにしても、決して無限に保有しているわけではない。使う相手は厳選する必要がある。

 

 それを見計らう為に訓練を積ませているのに、即座に実戦が出来ない事に不満が多く、訓練に実が入らない馬鹿どもが多すぎる。

 

 ゆえに、この戦いでふるいにかける。

 

 作戦も何もろくにないこの戦いを避ける事を選ぶ者は、神器を与えるだけの見所があるだろう。

 

 そして、この戦いの引き際を見計らった者は次点といったところ。

 

 これが出来ない輩は、力を与えても暴走するだけだ。例え強大な力を持っていようと、否、持っているからこそ力を与えるわけにはいかない。

 

「そんでヴァーリきゅん。君はどうするんだい?」

 

 その答えを知っているにも関わらず、リムヴァンはあえて尋ねる。

 

 ヴァーリは目を伏せていたが、しかし立ち上がる。

 

「美候。ルフェイ達を頼む」

 

「わかったぜぃ。俺は一発ぶちかましたから、後はおまえに譲ってやる」

 

 美候の笑顔を受けて、ヴァーリは外を見る。

 

 既に、冥界の連合軍は出陣を始めていた。

 

 それを見下ろして、ヴァーリは静かに目元を鋭くする。

 

「……ペトは一回殴らないと気が済まない。アーサーと黒歌、そしてルフェイの分は返しておかないとな」

 

 そこにいるであろうペトを見据えて、ヴァーリははっきりと宣言する。

 

 それに答える者は、決してペトではない。

 

 それに答えたのは、部屋に入ってきた一人の若手悪魔だった。

 

「おやおや。ルシファーの正当たる末裔は恐ろしいね」

 

「……ディオドラか」

 

 ヴァーリは振り向きもせずに、ディオドラ・アスタロトに返事をする。

 

 ……そう、ここはディオドラ・アスタロトがとっているホテルのスイートルーム。

 

 リムヴァン達はまずここに転移してから、頃合いを見張らってパーティ会場に転移したのだ。

 

 まさか転移して離脱した手合いが、同じ建物の中にいるなど普通は考えない。その盲点を突いた策だった。

 

 それに、魔王を輩出した名門が、まさか自分の親族である現魔王を裏切るなどと即座に想定できるものはそうはいない。

 

「いいのか? 新魔王の血統たる君なら、あちら側にいた方がいい思いができると思うんだが」

 

「それは無理だ。三大勢力で和平が結ばれ、更に君達があんなことをしたから、僕の好きなことを好きなようにするにはこちらにつくしかないからね」

 

 ヴァーリにそう答えると、ディオドラは下を見て鼻で笑う。

 

「それで、一応タイミングだけでも教えてくれないかな? 疑われない為に、一応本気で行くんだろう?」

 

「まあね。ほら、時間を教えるから、時計を合わせといてよ」

 

 そういいながらリムヴァンは、視線を外に向ける。

 

 そこにいるであろうリセス・イドアルを探し、しかしすぐに諦めた。

 

 それより先に、やるべき事がある。

 

「ああ、そうだディオドラ君。実は頼みがあるんだけど―」

 

 この戦いで彼女を殺せるとは思っていない。

 

 大きな成功を約束させてくれた事もあり、あえて泳がしておいたがそれも限度があるだろう。

 

 幹部達から反逆されない為にも、最低限の対策は整えておかなければならない。

 

 そして、やるからには面白くしなければいけないので―

 

「……ゼファードル・グラシャラボラスをこっち側に引き込んでくれないかな?」

 

 ―悪党らしく、派手にやってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 




イッセー、次の戦いでは禁手を出せないの巻き。

ぶっちゃけ肩透かしですが、しかしそれゆえにこそイッセーの特訓の成果を出せるというものです。

なんだかんだでやるときはやる男なのだということを駆けたらうれしいです。








そして悪党らしく相手を掌の上で転がすリムヴァン。

……ぶっちゃけ、ドーインジャーの大量生産が可能になれば、下級クラスの戦力は必要なくなりますからね。動かす側からすると、個々の性能にばらつきがないのでドーインジャーは指揮しやすい手ごまでもあります。

リムヴァンが欲しているのは特殊部隊的な運用ができる少数精鋭。能力が個性的な神器は、そういう任務にこそ向いていると判断しております。なので雑魚には渡す気なし。

さらに、たかだかひと月に準備期間で文句を言いだすような手合いは、もし力を与えても勝手に動き出す危険性があるので、間引いておこう。ついでに敵将の首の一つでも挙げれればたなぼたらっきー! って考えてます。


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第二章 13

第二章前半の山場、大激戦勃発です。










因みに、現段階での書き溜めは200kb強。

感想のたまり方次第で連続投稿しますので、感想待ってます!!


 戦闘が勃発してから一時間。既に敵の被害はかなりでかくなっている。

 

 俺達が担当している後方に敵が来ている事は全くない。むしろ敵が全く来なくてあくびが出てきそうになるぐらいだ。

 

 ……流石最上級悪魔にして元龍王のタンニーンさんだ。有象無象をちぎって投げちぎっては投げてるんだろうなぁ。

 

 う~ん。英雄になる男としては、こういう時こそ勇ましく前線に出て暴れたいところなんだが。既に実戦経験だっていくつも積んでんだし。

 

 ま、子供に人殺しさせたくないって心境もあるんだろうけどな。あの戦線の状況下じゃ、死人を出さないように暴れるのは困難だしよ。

 

 それに、どうやら俺がここにいる意味もきちんとあるみたいだしな。

 

「お、おお。あれが黄昏の聖槍か」

 

「そんなのがいるんだから、ここに敵が来ても大丈夫だよな?」

 

「あったりまえだろ! なんたって最強の神滅具様だぜ?」

 

 ……わりと、ビビってる奴が多いな。

 

 ま、ここにいるのは貴族の若者とその眷属が多い。

 

 お嬢と違って冥界で暮らしているらしいし、まだ実戦の経験はないんだろ。

 

 そういうのがいきなり実戦に出ても、足を引っ張る事が多いからな。こういうのは空気に慣れてないと何をしでかすわからねえところがあるしよ。

 

 ま、そういう意味じゃあパニック防止も兼ねてるってことか。最強の神滅具の使い手が付いてるってのは、安心感が違うからな。

 

 反対側にイッセーが付いたのも同じ理由ってことか。

 

 仮にもイッセーも神滅具の使い手だ。それも、一応ではあるが禁手に至っている。コカビエル相手に大打撃を与えたり、ヴァーリ相手に一時は圧倒したりといった戦果も上がってるしな。

 

 分散させたのは、一か所に集めっとそこ以外が逆に不安になるとかなのかもな。流石総督。少しはちゃんと考えてるな。

 

 ……さて、それでヴァーリ達は何時になったら来るのかねぇ?

 

 あの野郎に限って不意打ち暗殺だまし討ち何て好まないだろうし、多分来るなら堂々と仕掛けてくるはずだろう。

 

 だから、何かあったらすぐにでも助けに行ける位置で待機してる。具体的にはペトから1kmほど離れたところだ。

 

 ここなら、徹底的に鍛えた俺の足なら二分もかからない。あそこにも護衛役はいるから、それ位は稼げるはずだ。

 

 後方部隊の指揮を担当する奴も相当の実力者だ。簡単に聞いたが、最上級悪魔ほどではないが、レーティングゲームでタイトルを取ったほどの猛者だとか。最上級悪魔昇格も、十年以内に見込まれてるとか。

 

 そんなのが、眷属も込みでいるなら大丈夫だとは思う。如何にヴァーリでもすぐに倒し切る事はねえだろう。

 

 おそらく、その時はイッセーも来るから何とかなるたぁ思うんだが……。

 

「お、おい! 前線で戦闘してる叔父から通信があった!」

 

 む? 周りが騒がしいな。

 

 独断で私用の通信か? まあ、少しぐらいはお目こぼしがあってもいいたぁ思うけどよ。

 

「そ、それで? どうなんだ一体?」

 

 前線の様子を確認したいのか、何人もの悪魔が詰めかける。

 

 それに戸惑いながら、しかし連絡を受けた悪魔は嬉しそうな表情をしていた。

 

 お、こりゃ優勢ってわけか。

 

 人が集まりすぎてこっちには声が聞こえてこねえが、この調子ならどうやら安全に終わりそうだな。

 

 俺の出番がねえのは残念だが、こんなところまで戦線が下がったら、若手の連中がパニック起こして犠牲も増えちまう。

 

 そういうことがないのは、まあいいのかねぇ。

 

 ……んじゃ、そろそろ俺達はいったん食事の時間だ。

 

 簡単にサンドイッチにしてもらう予定だから。パパッと食べてすぐに護衛任務に復帰―

 

「お、おい」

 

 戸惑った声が、聞こえた。

 

 何人かがその声を出した悪魔に振り向くが、悪魔はそれに気づかない。

 

 そいつは、後ろを見て顔を真っ青にしてる。

 

 ………あ、これやばい。

 

 俺は即座に振り返り、かなりやばいことに気が付いた。

 

 防衛拠点として使っていたはずのホテルから、数百体のドーインジャーが出てきやがった。

 

 それもどいつもこいつも、空を飛んで制空権を確保して来てやがる!

 

 い、いつの間に潜伏してやがった!?

 

 くそ! まずはペトの護衛に回らねえと―

 

「ひ、ひいい!」

 

「嘘だろ!? 俺達、実戦なんて一回も……っ!」

 

「いやだ、死にたくない……死にたくない!!」

 

 くそ! どいつもこいつもパニックを起こしてやがる!

 

 今俺が抜けたら、確実にこいつら蹂躙される!

 

 ああもう! こうなったらやけだ!!

 

「……静まれ!!」

 

 俺は震脚を叩き込んで、同時に大きな声を出す。

 

 幸い、まだドーインジャーは射程まで来ていない。今から少しぐらいくっちゃべっても、攻撃が飛んでくることはねえ。

 

 俺の大声と物音に反応して、多くの悪魔がこっちに視線を向ける。

 

「……敵はたかだか下級悪魔と同程度!! それも千体にも届かねえ!! 上級悪魔なら十体以上まとめて相手できるし、下級の眷属でも数人がかりで挑めば大丈夫だ!! やり合ったことがあるから分かる!!」

 

「お、おお! マジか!?」

 

「おれ知ってる! あの人、駒王会談の護衛だった人だ!!」

 

「ってことは、マジか?」

 

 俺の言葉を聞いて、悪魔達は少しだけだが冷静さを取り戻していく。

 

 よし、ここが正念場!

 

 俺は聖槍を出すと、それを突き出した。

 

「それにここには(聖槍)がある!! 自分の身を守る事を優先していれば、俺が迫りくる雑魚を突き倒してやる!! だから安心してろ!!」

 

 い、言っちまった!!

 

 こうなったらやるしかねえ!! 意地でも大半は片づけてやる!!

 

 ……イッセー! 任せたぞ!! あとヴァーリ、来るなよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! やっぱり一ひねりしてやがったか!!

 

「……ホテルから強襲ですって!? リムヴァン達、本部に逃げたんじゃなくてホテル内に隠れてたっていうの!?」

 

 部長も流石に驚いたけど、だけどすぐに冷静になった。

 

「イッセー! 私達はペトの所に向かうわよ! ヴァーリ・ルシファーがいる可能性がある以上、ペトに報復する可能性は十分にあるわ!!」

 

「はい、部長!!」

 

 流石部長だ! 突然の事態にもすぐに反応してくれる!!

 

 たぶんヒロイもすぐに向かうはずだ。特訓の成果をきちんと出した俺達が二人掛かりなら、きっとヴァーリ相手でもおっさんが来るまでは持ち堪えられるはず!!

 

 待ってろよ、ペト。ヴァーリの相手は俺達がするからな―

 

「イッセーくん、後ろだ!!」

 

 木場の声が、俺を現実に引き戻す。

 

 振り返るながら籠手を前に出せば、そこに光の弾丸が直撃した。

 

 な、何が起きたんだ!?

 

「まずいです先輩。この挟み撃ちで前線が混乱した隙に、突破してきた人達がいます」

 

 小猫ちゃんがプリティな猫耳を出しながら、警戒心を見せてそう教えてくれる。

 

 仙術を開放した小猫ちゃんは、気を感知することで敵の位置を知ることができるんだ。マジすげえ。

 

 って敵が突破してきやがったってのか!? くそ、マジでヤベえって―

 

「みろ! 赤龍帝だ!!」

 

「ブリテンの赤い龍か! しかも女を裸にする技を使うとか!!」

 

「女の敵! 死になさい!!」

 

 すごい勢いで、悪魔祓いの一団が迫ってくるぅうううう!?

 

 お、俺恨まれてますか!? なんで?

 

 あ、覗きの常習犯だからか。清貧を重んじる教会的に、エロの権化の俺は嫌いってことかな?

 

「よくもゲオルギウス様の聖剣を汚してくれたな!!」

 

「この変態が! 聖人を汚すな!!」

 

 ……そっちもかぁ。そっちもかぁ。

 

 確かゲオルギウスって、アスカロンの元々の持ち主で龍殺しの聖人だったんだっけ。

 

 あ、聖人の聖剣を変態の龍が持ってたら、そりゃ確かにむかついてもおかしくないよな。

 

 俺も、部長達のおっぱいを半分にしようとしたヴァーリが豊胸グッズ持ってたら、なんかむかつくし。

 

 でもさぁ。

 

「………そんなの、渡したミカエルさんに言ってくれよぉおおおおお!!!」

 

 り、理不尽だ! 理不尽すぎる!!

 

 こんな理不尽あっていいのかよ!! いくらなんでも理不尽だぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神父の服装や、ゼノヴィアのような戦闘服をきた一団が、一斉に襲い掛かる。

 

 だけど、彼らは悪魔祓いの一団ではない。厳密には()悪魔祓いの一団だ。

 

 当然だろう。ヴィクター経済連合に与した悪魔祓いは、その大半が信仰を捨てている。

 

 ヴィクター経済連合によって知らされた聖書の神の死。それによって、信仰心が反転してヴィクター経済連合に与した者が、今の彼らのはずだ。

 

 だが、それでも信仰に生きてきた者たちだ。その性質は静謐を尊ぶのだろう。

 

 つまり、エッチなことはいけません的な感情を持っているはず。イッセーくんのような性欲の塊との相性はかなり悪いだろう。

 

 更にイッセーくんはアスカロンを持っている。

 

 かの聖人ゲオルギウスの遺品ともいえる聖剣。それを変態であるイッセー君が持っているのは、かなり苛立たしいのだろう。

 

 ……ミカエル様。なんでイッセーくんにそんなの渡したんですか。何か他になかったんですか?

 

 それともかく、これは流石にまずいな。

 

 イッセー君は正式な禁手を今発動する事は出来ない。まだ一日経ってないから、禁手のインターバルが終わってないんだ。その所為で神器の性能もまだ完全には回復してない。

 

 今のままでは、イッセー君が危ない!

 

 乱戦になる前に助け出さなければ―

 

「おーんやーん? そーこにいるのは、僕ちんをエクスカリバーごと切ってくださった、木場祐斗くんじゃありまぁああせんかぁあああん?」

 

 ―その声に、僕は足を止めた。

 

 まさか、この声は―

 

「―フリード・セルゼン!!」

 

「イエスッ! 僕ちんフリードきゅんでっす!!」

 

 にこやかに手を振るのは、既に二度に渡り戦ってきたフリードだった。

 

 まったく。彼が腕利きの悪魔祓いだったという事実が苛立たしいよ。

 

 だけど、それも過去の話だ。

 

 ……一からだ。一から剣を鍛え直した。

 

 聖魔剣という規格外の力を持つ禁手を手にしておきながら、僕はイッセー君を守る事が出来なかった。それほどまでにヴァーリ・ルシファーは強かった。

 

 心から悔しかったんだ。心から。

 

 だから師匠に一から剣術を叩き込んでもらった。聖魔剣も徹底して鍛え直した。

 

 もはや、彼が合一化されたエクスカリバーを持っていたとしても一瞬で切り刻める自信がある。

 

「時間がないんだ!!」

 

 一瞬でトップスピードに乗り、そして切りかかる。

 

 それをフリードは棒立ちで見て―

 

「―そんなつれないこといわないでん♪」

 

 フリードは、一振りの剣で僕の聖魔剣を受け止めた。

 

 なんだって?

 

「ふっふーん! 俺様ちゃんも、それ相応にパワーアップをとげてんのよん?」

 

 そう自慢げに言うフリードの手に持つ剣は、禍々しいオーラを放っていた。

 

 これは……魔剣か!

 

「人呼んで魔剣ノートゥング! 俺呼んでぇえええええ!!」

 

 振るわれる斬撃を横にずれて回避すれば、一瞬で地面が数メートルは切り裂かれた。

 

 何て切れ味を持っているんだ。これは、四本を合一化したエクスカリバーを超えている!

 

「―ぶった切りの剣! どうよ? これなら君の聖魔剣くんとも切り結べるぜ?」

 

 そういうと同時に、フリードは銃を突きつけると攻撃をそれを撃ってくる。

 

 そういえば、彼は射撃も中々の腕前だった。中々に正確で、しかし適度に射線が読みにくい。

 

 僕はそれを聖魔剣を地面から何本を突き出してガードする。

 

 だけど、一気にたくさん生成したから強度が足りなかった。

 

 フリードはそれを勢いよく両断すると、更に切りかかる。

 

「僕ちん、これでも蛇を使って強化したんですよーん? 俺様みたいな天才が蛇使えば、これぐらいはできるってね!!」

 

 なるほど。どうやら僕もなめてかかっていたようだ。

 

 だが、お前程度に躓いているようでは、イッセー君の隣に並び立つことなどできはしない。

 

 ここで終わらせるぞ、フリード!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、混迷する戦いの中、ある意味で最大の窮地が幕を開ける。

 

「うっわぁ。やっぱり来たッスかぁ」

 

 ペトが、心から嫌そうな表情を浮かべながらも、然し狙撃体勢だけは崩さない。

 

「……最悪、ですね」

 

 今後を見据えた勉強の為、あえて後方の指揮ポイントであるこの場所を選んで待機していたソーナが、歯噛みする。

 

「くそ! マジで来やがった!?」

 

 未だ実戦を殆ど経験していない、匙元士郎は狼狽していた。

 

「……下がっていろ。下手に前に出たら、死ぬぞ!!」

 

 そして指揮官である上級悪魔は、周りの者を下がらせながら、眷属とともに総攻撃の準備をする。

 

 それら全ての視線を浴びながら、その原因は静かに闘志を燃やしていた。

 

「さて、ペト以外の有象無象に用はない。邪魔をしなければ、痛い目を見なくて済む……とだけ言っておこうか」

 

 白い龍を模した鎧を身に纏い、魔王の系譜がそう宣告する。

 

 盟友を撃ち抜いた魔弾の射手に報復するため、明けの明星の末裔は戦意を高ぶらせた。

 

 のちに明星の白龍皇と呼ばれる男。ヴァーリ・ルシファーの明確たる敗北が刻まれる戦いが、今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




まさかホテルからくるとはこのリハクの目をもってしてもうんぬんかんぬん状態。

間引きが目的とは言え、一応戦果を挙げれるのなら上げておこうてきなてきとうな感覚で挟撃しやがりましたあの野郎。

そのせいでペトにヴァーリが接近したにもかかわらず、ヒロイもイッセーも駆けつけれない状況。さてどうなる!!


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第二章 14

 

「ハイ次ぃいいいい!!!」

 

 俺は速攻で敵をぶった切り、速攻でケリをつけた。

 

 これで九十体! あと十体!!

 

 はっはっは。特訓の成果が出てきたぜ。思った以上に攻撃が速くできる。

 

 聖槍だけだと攻撃速度に限界があったが、全身から魔剣をはやすことでそれもカバー!

 

 ハイタックルぅううううう!!! 残り9体!!

 

 この調子でこの辺りのドーインジャーを全部ぶちのめして、すぐにでもペトの護衛に戻らねえとな。

 

 ほら、残りはどこ行った?

 

 と、思った次の瞬間―

 

「……おい、誰か追い込まれてるぞ!!」

 

 其の声に、俺は振り向いて全力疾走。

 

 見れば、ハルバードを持った少女悪魔が追い込まれていた。

 

 どうも動きが鈍いな。まともな指導を受けてないのか?

 

 ハルバードはかなり万能性の高いポールウェポンだ。だけどその分扱いが難しい。

 

 どちらかというまでもなく上級者向けの武器だぞ? 実力者が使うべき獲物のはずなんだが……。

 

 そう考えながら、俺は遠慮なく回し魔剣蹴りでドーインジャーをぶち壊す。

 

 纏めて三体撃破! 残り五体!!

 

「よし! 俺が討ち取ったぞぉおおおお!!!」

 

 と、勝鬨が上がる。

 

 お、どうやら他の連中も頑張ってたみてぇだな。

 

 もう全滅か。思ったより早く片付けれたぜ。

 

「……おい、大丈夫か?」

 

 俺はとりあえず、倒れた悪魔に手を貸す。

 

 とりあえず立たせる程度の事はしても大丈夫だろ。

 

「あ、ありがとうございます。こんな愚図の為に……」

 

 なんかものすごいネガティヴなことを言いながら、その悪魔は顔を上げて―

 

「―やっぱり、シシーリアか」

 

 俺は、その懐かしい顔を確認した。

 

「……英雄の目はごまかせませんね。ヒロイさん」

 

 そう、彼女は寂し気に微笑んだ。

 

 シシーリア・ディアラク。教会の孤児院出身で、神器を保有していた少女。

 

 その能力から、聖女とまで言われて祭り上げられていた、アーシアに近い来歴の少女だ。

 

 一度、其の力を活かす為により大きな教会に連れて行く時に護衛やったんだけど……。

 

 まさか、アーシアに似た来歴だと思ってたらこいつまで悪魔になってたとはな。

 

「シシーリア」

 

「っ! は、はい! こんな聖女失格の馬鹿に何か御用でしょうか!?」

 

 怯えたように肩をすぼめるシシーリアに、俺は携帯を向けた。

 

「携帯持ってたら、番号交換してくれ」

 

「へ? ……あ、一応、持たされてます」

 

 あ、最新型だ。

 

 どうやら主にはそこそこ大事にされてるらしいな。

 

 よし、番号交換……っと。

 

「じゃ、悪いけど俺は本命の仕事があるから」

 

「え? 何も、言わないん、ですか?」

 

 シシーリアは、震えながらそう尋ねる。

 

 ああ、悪魔になってたから怒られると思ってんのか?

 

 ったく、バカだなぁ。

 

「お前にも色々あったんだろ。俺も色々あって悪魔の護衛役やってるからな。そもそも三大勢力は同盟結んでるしよ」

 

 そんなことで一々怒れねえよ。

 

 ま、どうやらシシーリアは色々あったみたいだ。元から悲観主義なところがあるが、なんか酷くなってる。

 

 だから、俺はかつて彼女に言った言葉をもう一度言う事にした。

 

「俺は、輝き(英雄)になる男、ヒロイ・カッシウス!!」

 

 その言葉に、ビクリと肩を震わせながら、シシーリアはだけど思い出したみたいだ。

 

 俺は、それに応えるようにニカリと笑った。

 

「お前の心が暗いなら、俺のことを思い出せ!! 英雄だからな、……照らしてやるよ。何か相談があったら、そこにメールしてくれや」

 

 最後にもう一つ付け加えると、俺は一気に走り出した。

 

 思ったより早いが、それでも時間食っちまった。

 

 頼むから、ヴァーリに襲われてるとかいうのだけは勘弁してくれよ、ペト!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵を全滅させて、味方の援護に行くヒロイを、多くの若手悪魔達が喝采で背中を押す。

 

 一時はどうなることかと思った真後ろからの強襲を、彼の激励と奮闘が覆したのだ。

 

 その喝采の声を一人だけ出さずに、シシーリア・ディアラクは涙をこぼした。

 

 ……思い出した。

 

 あの笑顔に、自分は一瞬だけとはいえ救われた。

 

 だけど、自分は致命的な間違いを犯している。

 

 もう、戻る事はできない。

 

「ごめんなさい。……私は、貴方に照らされるような立派な女じゃ、ないんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉおおお! 危ねえ!!

 

 俺は振るわれる槍を避けて、後ろに飛びのいた。

 

 かすめてもないのに体が痛い。肌はちりちりとして、煙すら上がってる。

 

 そりゃそうだ。あれ、聖なる武器だよ。

 

『ほぅ。面白い物を見たな』

 

 ドライグ、知ってんのか?

 

『あれはアスカロンの相方だ』

 

 アスカロンの相方?

 

 でも、ゲオルギウスは人だよな?

 

『龍を退治したゲオルギウスは、先ず槍で龍を串刺しにした。そして龍に苦しめられていたものが改宗を約束すると言ってから、龍の首をアスカロンではねたのさ』

 

 ……なるほど。馬鹿の俺でもよく分かった。

 

 つまり、あの槍も龍殺し(ドラゴンスレイヤー)ってことか。

 

 それに光の剣も銃も一応持ってるみたいだ。

 

 どんな距離でも対応できる武装。これに対抗するには……。

 

「部長! 女王(クイーン)にプロモーションします!!」

 

「かまわないわ。イッセー、やってしまいなさい!!」

 

 周りの悪魔祓い達を吹き飛ばしながら、部長が俺に許可を出してくれる。

 

 ああ、ありがとう部長。俺を信じてくれて。

 

 思えば、禁手に至った時もそうだった。

 

 乳首をつつかせてくれ。自分でも、冷静に考えて頭がいかれてると思う。戦闘中にそんなこと言われたら、普通オッサンみたいに怒鳴るのが基本だよ。

 

 でも、部長は俺がそれで禁手に至ると信じてくれた。

 

 だから、俺は今回も期待に応えるぜ!!

 

「うぉおおおお!! プロモーション・クイーン!!」

 

 俺は女王にプロモーションすると、一気に接近する。

 

「舐めるな!」

 

 もちろん相手だって馬鹿じゃないから、カウンターで突きかかる。

 

 それを滑るように交わして、俺は懐に潜り込んだ。

 

 そして、其れに相手の少女はカウンターで光の剣を引き抜いた。

 

 そこを、俺は方向を転換して一気に距離を取って躱す。

 

 最初からそこまで考えてスピードを調整した。だからここまで回避できる。

 

「だったら銃で―」

 

「それも読んでる!」

 

 一気に反転して、俺は光の中に赤龍帝の籠手を叩き付ける。

 

 勢いよく叩き付けられて銃が壊れた。これで遠距離戦に持ち込める!!

 

 よっしゃ! そしてこのお姉さん相手に、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を叩き込んで―

 

「……やられてたまるかぁああああ!!!」

 

 そう思った瞬間に、顔面に拳が叩き込まれた。

 

 お、思った以上に鋭い拳……。かなり効いた……。

 

「覗きの常習犯なんかに! 淫蕩の罪を犯しまくりのクソ野郎なんかに!! 負けてたまるか!!」

 

 そこで空いた隙をついて、お姉さんは槍を振り下ろす。

 

 俺はとっさにそれを籠手でガードするけど、更に光の剣が突きこまれた。

 

 とっさにアスカロンを伸ばして軌道を逸らすけど、肩をかすめる。

 

 あ、これちょっとヤバイ。

 

 禁手に成れたからって調子に乗りすぎたか?

 

「ここで死ねぇえええええ!!!」

 

 ……その目は心から本気で、マジで俺をぶち殺す気満々の目だった。

 

 俺は、こんな目で見られたのは初めてかもしれない。

 

 レイナーレも、コカビエルも、ヴァーリも、俺を殺す気で来た奴は、だけどどこか俺を馬鹿にしてた。

 

 だけど、この人は違う。

 

 心から全力で、俺を見て殺そうとしてる。

 

 少なくても本気だ。俺を殺すのに本気を出して、全力で向かってる。

 

 ……それが、ちょっとだけ嬉しい。

 

 こんなに本気で倒す気で向かってこられたのは初めてだ。

 

 ……だから、俺も本気を出す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペトのところにヴァーリが!?」

 

 敵と戦闘しながら、リセスはその咆哮を聞いた。

 

 その可能性は想定して、念には念の為に近くに神滅具を二つ配置するという対抗策を取ってはいた。

 

 だが、状況が悪かった。

 

 どうやらまだホテルに潜伏してたらしいリムヴァン達によってドーインジャーによる挟撃をうけ、さらにその混乱に乗じて前線から敵が一時突破。

 

 ヒロイは後方から現れたドーインジャーで混乱する後方のサポートに回るはめに。イッセーは突破してきた元悪魔祓い中心の戦力相手に迎撃に。どちらも現状動けない。

 

 加えて、ホテルに待機していた護衛部隊も中に出現したドーインジャーの相手に手が離せない。

 

 護衛として指揮を執っている上級悪魔も、史上最強の白龍皇となるだろうヴァーリの前には流石に勝ち目が薄い。

 

 ペトの命が本気で危ない状況だった。

 

『リセス嬢! こちらも勢いづいた連中の所為で時間が掛かる。ここは良いから妹分を助けに迎え!』

 

 連絡を入れてくれたタンニーンが気を利かせてくれるが、リセスは静かに首を振った。

 

「それは出来ないわ。英雄として、やるべき事をやらずにそんな事をすれば、それこそペトに怒られるもの」

 

 今、狙撃で一人上級クラスの敵が負傷した。そしてそこをついて味方陣営が攻撃を集中させる。

 

 ヴァーリの強襲という緊急事態であるにも関わらず、ペトは自分の仕事に集中している。

 

 本来なら、敵に発見されたのなら即座に逃げるのが狙撃手の基本だ。至近距離で敵との戦闘を無視して狙撃を続行するなど、アホでしかない。

 

 だが下手に逃げに回って、業を煮やしたヴァーリに覇龍を使われれば、それこそ終わる。後方での被害が甚大になり、戦線は完璧に瓦解するだろう。

 

 だから、あえてペトはそのまま狙撃を続行している。

 

 それだけの胆力を持つ妹分の期待に、自分は応える義務があった。

 

 そうでなければ英雄ではない。英雄としての強さを持ってない事になってしまう。

 

 それを感じて、リセスは身震いする。

 

 ……とはいえ、身震いするのはそれだけが理由ではないのだが。

 

「どちらにしても、目の前の強敵を打破しないと。……背中を向けて全力疾走する余裕はないのよ。っていうか寒すぎ」

 

「それはそうだろうなぁ!!」

 

 振り下ろされる巨大な拳を飛び退って躱し、リセスは火球を叩き付けた。

 

 しかし、その一撃は氷の鎧によって簡単に防がれる。

 

「ぐっはっはぁ! このギガターン様の前に、そんな火の玉が通用するものかよ!!」

 

 豪快に罵倒して氷の塊を投擲するのは、この場の戦場でおそらく最強の敵手。

 

 全長20メートルに届かんばかりの、巨人がリセスと激突していた。

 

 体格と能力からして、北欧神話体系のヨトゥンヘイムの霜の巨人。それも相当に高位の存在だろう。

 

「ラグナロクが起きそうにねえから、禍の団に参加してみりゃ訓練ばかりで退屈でよぉ!! ようやく暴れられるぜ!!」

 

 そう粗野な笑みを浮かべながら暴れる巨人を放置すれば、間違いなく多大な被害が出る。

 

 明らかに短絡的で思慮が足りない性格だから、何をしてくるか判らないというのもある。

 

 そして何より……。

 

「こんな野蛮な屑を、ペトの視界に見せるわけにもいかないしね」

 

 万が一にでも、この巨人が前線を突破してペトに接近するのだけは避けたい。

 

 この巨人の性根は、あの鬼に近い。

 

 ……あの鬼は確実に仕留めたと断言できる。首を氷の刃で切り落としておいた。

 

 だが、あの性根の腐った鬼にペトと彼女がされた所業を思えば、それを連想させる下衆を近づけさせるのは避けたかった。

 

 ゆえに、こちらも特訓の成果を見せる時だ。

 

「行くわよ、異界の倉(スペイス・カーゴ)

 

 静かに、リセスはその為の装備を起動した。

 




フラグ成立。伏線はしっかり撒きました

と、いうことで逆転フラグをきっちり出して今回は終了。続きをお楽しみくださいな


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第二章 15

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむぅん。そろそろ潮時かにゃ~ん?」

 

 撃ち合いを続けていた僕たちは、しかしフリードが距離を取ったことでいったん仕切り直しになる。

 

 銃撃を仕掛けてくる気配もない。距離を詰めなおす気配もない。そもそも戦意が消えていた。

 

「どういうつもりだい?」

 

 何を考えているのか全く分からない。

 

 この挟撃。おそらく禍の団からしてみればこの戦いで最大の好機のはず。

 

 それでも現状では勝算は僕らの方が圧倒的に上だけど、だからこそここにかけるしかないとしか思えない。

 

 だけど、フリードは満足げに伸びをするとノートゥングすらしまう。

 

「いんやー。いい感じに殺し合えてスッキリしたし、僕もうお家帰るよん? これ以上は間引きに巻き込まれるしねぇ?」

 

 ……間引き?

 

 いったい何を言っているのかわからないが、首をひねったのがいけなかった。

 

 その隙に、彼は例のごとく閃光弾を取り出していた。

 

「んじゃ、バイビー♪」

 

 閃光が走り、それが消えることにはすでにフリードは混戦の中に紛れて消え去っていた。

 

 くそ、またしても逃がしたか。

 

 とは言え、イッセー君も戦っている。悔やむ前に、先ずはそこを何とかしなければ。

 

 ぼくはすぐに気を取り直し……しかしその心配は無用だったみたいだ。

 

「が……ぁ……!?」

 

「ぐぅ……あぁ?」

 

 悪魔祓いの服装をした男二人が、苦痛の表情を浮かべて崩れ落ちる。

 

「馬鹿な。俺は、衝撃吸収の神器持ちだぞ? それが、こんな小娘の拳で……」

 

「あり得ない、雷撃無効の神器を持つ、この俺が……?」

 

 どうやら神器を保有するものだったみたいだ。それも、割と高位の類みたいだね。

 

 だけど、その二人がすでにやられたことで、敵の悪魔祓いたちの戦意は低下していた。

 

 それも、僕から見ても相性が悪いはずの、小猫ちゃんと朱乃さんが返り討ちにしたのだ。これはさすがに驚いたよ。

 

「全身の気を乱しました。いくら体が無事でも、生命力が乱れれば動けません」

 

「私が放ったのは雷光ですわ。雷を無効化できても光が無効化できなければ、どうしようもありません」

 

 どうやら二人とも、自分の力を受け入れる決心ができたようだ。

 

 小猫ちゃんは、仙術すら使うことができる最高位の化け猫。そして仙術は生命力に直接干渉することができる。

 

 以下に肉体が頑強であろうと、気を乱されれば動けなくなる。こうなれば相性差は逆転する。

 

 朱乃さんは、雷光という異名そのままの能力を持つ最高位の堕天使であるバラキエルの子供だ。

 

 雷光は、文字通り雷撃と光力の複合。いかに雷撃に対する耐性があろうと、雷光を無効化することは不可能だろう。

 

 二人とも、自分自身が忌み嫌っていた力をあえて使うことで、敵の中でも高位の使い手を撃破した。

 

 これだけのことができたのも、イッセー君が心の支えになってくれたからだろう。

 

 やっぱり、彼はすごい。

 

 そう思った瞬間、体の痛みが引いて傷が治る。

 

 振り返ると、部長とギャスパー君に護衛されていたアーシアさんが手をのばしていた。

 

 アーシアさんも、回復のオーラを飛ばせるようになった。これで僕たちの戦術の幅はより大きくなった。

 

「……皆さん、お疲れ様ですぅ!!」

 

「朱乃と小猫が敵の主力を倒してくれたことで、彼らも戦意を喪失したみたいね」

 

 ギャスパー君とリアス部長がそう言ってくれる。

 

 うん、みんな本当に強くなった。

 

 しかし、敵も流石に強くなったみたいだ。

 

 まさかフリードに伝説の魔剣が渡るとは。それも、オーフィスの蛇で強化されているだなんてね。

 

 しかし、だからこそあっさり撤退したのが気になる。

 

 これだけの戦力を投入した戦いだ。ここで成果を上げずに撤退するのは損な気がするんだけど……。

 

 そして、そう考えたその時にはイッセー君の方も決着がついていた。

 

『Divide!』

 

 その音声とともに、龍殺しのオーラが大幅に減少する。

 

 そして、イッセー君はそのまま強引に槍を振り払う。

 

 そして、一瞬のスキをついて相手の体に触れた。

 

「行くぜ俺の夢能力! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 その言葉とともに、相手の衣服が一瞬でバラバラになる。

 

 さすがに失礼だから視線をそらしたよ。うん、失礼だからね。

 

「……ふむ、助けに行くつもりだったけど、どうやら必要ないみたいだね」

 

 と、周りの敵を拘束したゼノヴィアが告げた。

 

 よく見ると、周辺の地形が谷間だらけになってる。どんだけ暴れたんだい、ゼノヴィア?

 

「……く、く……そぉっ」

 

 顔を真っ赤にしながら、しかし敵の女性は戦意を消していなかった。

 

「もうやめよう、ラシア」

 

「そうだ! とにかく服を着ないと……」

 

 戦意を失った元悪魔祓いたちが、押しとどめるように手を触れたり、上着を脱いで着せようとする。

 

 それを強引に振り払いながら、ラシアと呼ばれた悪魔祓いは一歩前に出る。

 

「……負けられるか! こんなところで負けられない!! ここで負けたら、私は―」

 

 羞恥で顔を真っ赤にしながら、だけどラシアは槍を構え―

 

「―やけを起こした上、負けて何もかもなくしちゃうから」

 

 その言葉を、イッセー君が引き継いだ。

 

 え? イッセーくん、何を?

 

 僕が首をかしげると、だけどラシアは羞恥の感情を消して、愕然とした。

 

「な、なにを言って―」

 

「聖書の神の死を知って衝動的に禍の団に入ったけど、冷静になってみればそれでも神様の教えも神の奇跡を代行するシステムも残ってる」

 

 ぺらぺらとしゃべるイッセー君に、ラシアは別の意味で顔を真っ赤にする。

 

 そして、丸裸の恰好をイッセー君は気にもしないで、気づかわしげな表情を浮かべていた。

 

 あ、あのイッセー君が女性の裸に目を向けないなんて!

 

「だけどもう戻れないから、禍の団で成功するしかない。あんなことがあったんだから、戻っても殺されるだけだから頑張るしかない……か」

 

 はぁ。とイッセーくんはため息をついた。

 

 それに対して、ラシアは反論しない。というより、表情が誰がどう見ても図星のそれだった。

 

 た、確かに。あんな衝撃の出来事の連続だと、衝動的につい魔がさしてしまう人もいるだろう。

 

 だけど、イッセーくんがそこまで見抜くなんて!!

 

 そういう駆け引きには向いてない性格だと思ったんだけど……。

 

 イッセーくんはぼりぼりと頭をかくと、籠手を消して手を差し出した。

 

「……ミカエルさんやアザゼル先生に相談するから、投降してくれよ。俺もそんな理由で仕方なく戦うことになってる人を倒すのは嫌だしさ」

 

「だ、だけど……」

 

 ラシアはそれでも槍から手を放さない。

 

 まあ、ここまで大きな戦いを仕掛けたり、意気揚々と教会から離反しておいて戻れるとも思わないだろう。

 

 だけど、イッセーくんはニカッと笑った。

 

「アンタみたいな可愛い女の子を倒したくないしさ? 俺も一緒に頭下げてやるから、一緒にミカエルさんに謝ろうぜ?」

 

 その言葉に、周囲の悪魔祓いたちは一様に崩れ落ちた。

 

 ……どうやら、ここにいる人たちは、冷静になって後悔した者たちがほとんどだったらしい。みんな涙を流して戦意を完璧に喪失した。小猫ちゃんと朱乃さんに倒された悪魔祓いも、涙を流している。

 

 うん。確かにこれはいい結果かもしれない。

 

 小猫ちゃんは、イッセー君に優しい赤龍帝になってくれと言ったらしい。

 

 うん、もうすでに、とっても優しい赤龍帝だ。

 

「ご苦労様、イッセー」

 

「イッセーさん。かっこよかったです」

 

 部長とアーシアさんが、へたり込んだイッセー君に駆け寄る。

 

 そしてアーシアさんの回復のオーラを浴びながら、イッセー君はほっと一息をついた。

 

「いやぁ。新技作って成功でした。おかげで死ななくていい人を見つけられましたしね」

 

「それはよかったけれど、一体何をしたの? 読心術?」

 

 部長の質問は、僕も確かに気になった。

 

 ペトのことは心配だけど、どちらにしてもいったん回復する必要がある。

 

 アーシアさんが広範囲に回復フィールドを張っている間に、ちょっと気になったので聞いてみた。

 

 そして、イッセー君はかなり自慢げににやりと笑った。

 

「俺、おっぱいの声を聴けるようになったんです!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーくんの頭に、回復のオーラが集中した。

 

 ちなみにラシアはマジギレして槍をイッセー君にたたきつけたよ。さすがに刃は立てなかったけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐはぁああああ!?」

 

 ギガターンは、悲鳴を上げてもんどりうって倒れた。

 

 三回転ぐらいして、そのまま受け身を取れずに地面に倒れこむ。

 

 それを冷ややかに見つめて、リセスはため息をついた。

 

「少なく見積もっても数百年は生きてるんでしょうし、受け身の取り方ぐらい覚えなさいよ」

 

 まさか、()()を同じにしただけで、ここまで楽に戦えるとは思わなかった。

 

 アザゼルの策がうまくはまったというべきか、それとも敵が阿呆というべきか。

 

 巨大兵器に対する対抗策は、小型機が翻弄して潰すことが現代の基本だが、もう一つの定番もなかなかに有効だったらしい。

 

 そう思いながら、リセスは立ち上がるギガターンの文句をあえて受け止める。

 

「な、な、なんだ! その人形はぁあああああ!!!」

 

 ギガターンが狼狽するのも当然だろう。

 

 今、リセスは20メートル近い巨人に乗り込んでいる。

 

 その結果、同レベルのサイズの殴り合いが勃発。

 

 格闘技も当然習得していたリセスが、勢い任せで野蛮な戦法しか使ってこないギガターンを圧倒していた。

 

「これは、アザゼルが開発していた対大型異形用兵器、名前は……キョジンキラー」

 

 まんまである。正直名乗るのが恥ずかしいが、さすがに説明しないのもかわいそうな気がした。

 

 これは、神の子を見張るものが開発した、人工筋肉が使われている。

 

 驚異的な生産性と維持コストと馬力が圧倒的であり、格闘戦に限定すれば龍王クラスとまともに戦えるといわれるほどの代物だ。反面燃費が非常に悪く、まともに運用するならばバラキエルやリセスクラスの電力を確保できるものが必要になる。人間の技術で運用するには、大型発電施設が必須だろう。

 

 しかも格納用量が大きい。さらい図体がでかいため、すばしっこさを中心に翻弄するという戦法が有効なので、まともに運用するならば、必要に応じて引き出せて動力を確保できる、自分以外に適任がいなかった。

 

 これ、アザゼルが運用したかっただけではないだろうか? などと少し思ったが、運用技術を習得して正解だった。

 

「さて、あまり時間がないから……」

 

 リセスは、絶対零度の微笑を浮かべる。

 

 その意味を理解して、ギガターンは悲鳴を上げそうになった。

 

「……さっさとノしてあげるわ」

 

 その五分後、ミンチといいたくなるほどの跡形もないギガターンの磔が、敵の戦意を喪失させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 




乳語翻訳は出ますよ。イッセーですもん。

でもこの技ホントチートですよね。相手の思考を直接読むわけじゃないから、頭に血が上ってたりして話を聞いてない相手であろうと聞く可能性がありますもん。

それとルセスさんたちに関しては、この戦いのためにだした特撮の怪獣的なキャラですが、同時にいそうなキャラでもあります。じっさいあの前提条件の崩壊の連発なら、追加ッとなって脱走しちゃう人とかいるでしょうしね。









そしてリセスもしっかり仕事しました。新兵器お披露目。

ケイオスワールドの方でも兵夜の兵器として考えてたんですが、出す機会がなかった巨大ロボット。こっちで出してみました。


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第二章 16 ジャイアント・キリング

別の作品でも言ってますが、ここでもいいます。









自分は、匙のこと気に入ってます。


 

 俺は、全力で走る。

 

 ……ヴァーリは間違いなく強敵だ。なにより直接戦ったことのある俺だからこそ分かる。

 

 負傷していたとはいえ、不意打ちとは言え、あのコカビエルを一瞬で倒したのがあの野郎だ。

 

 しかも、まともな禁手が誰もいなかったとはいえ、神滅具持ちの俺と姐さんとイッセーを三人同時に相手して余裕だったマジ化物。

 

 そんな奴を相手にして、狙撃ポイントの連中が無事で済むとも思えねえ。

 

 しかもイッセーと姐さんもそこそこできる奴と戦ってて足止めくらってるし! 想定外!!

 

 くそ、間に合え間に合え間に合え間に合え―

 

「さて、それじゃあそろそろペトを―」

 

「間に合ってないか此畜生が!!」

 

 俺は、飛び蹴りをヴァーリに叩き込んだ。

 

 それをヴァーリはあっさりと鎧で受け止めるが、とりあえず隙は作れた。

 

 そのまま本命の聖槍を振り回す。

 

「おらよっと!!!」

 

「おっと!」

 

 流石に聖槍はやばいと判断して、ヴァーリは飛び上がると距離を取る。

 

 そして俺は着地して、一瞬で周りを確認する。

 

 ……結構やばいな。

 

 こっちの担当だった上級悪魔と眷属は半殺しにされている。それを見て、周りの悪魔達は大半が戦意を喪失。戦意が残ってるのは、会長達シトリー眷属ぐらいだ。

 

「ヒロイか! 来てくれたのか!!」

 

「おうよ! 後はこの英雄様に任せとけ!!」

 

 俺は匙にそう答えると、ヴァーリを真正面から見据える。

 

 ヴァーリは、俺を見て楽しそうにしていた。

 

「いいね。前闘った時より格段に強くなってるのが分かる。アザゼルに指導されたのだからそれも当然か」

 

 鎧越しでもにやけてるのが分かる気配をビンビン出だしてやがる。

 

 この野郎。これでもまだ余裕だってのか?

 

 いや、こいつ、強い奴と全力で戦えたのならば死んでも悔いなさそうだかんな。たぶん普通に喜んでんだろうな。

 

 っていか、ペトは無事なのか?

 

「ペト! まだ生きてるな!?」

 

「今キルスコア三桁の大台突入寸前ッス! そろそろいくんで時間稼ぎよろしくッス!!」

 

 余裕だなこの女!!

 

「……それに、ここで仕事しとかないと、それこそ守ってもらってる人に悪いっすからね!」

 

 ……前言撤回。姐さんの妹分なだけあって、こいつも英雄の相があるな。

 

 いいぜ。同じ女性を敬愛する者同士、少しはいいところ見させてやろうじゃねえか。

 

「……姐さんとイッセーが来るまでは、粘らせてもらうぜ!」

 

「いいね。兵藤一誠も禁手に目覚めたというし、疑似禁手であったとしても戦闘能力は向上してるだろう。前よりも楽しめそうだ」

 

 チッ! 既にイッセーが今回禁手になれないのも想定済みか。

 

 ま、どっちにしてもこの戦闘狂なら喜ぶだろうがな。前回と同じシチュエーションで、どれだけ強くなったのかよくわかんだからよ。

 

 ああ、よく分らせてやる。

 

 俺も姐さんもイッセーも、強くなったって事をよ!!

 

 だから、ここは俺一人であいつらが来るまでしのぎ切って―

 

「おいおい、勝手に二人で盛り上がってんじゃねえよ」

 

 其の声に、俺達は視線を向けてしまった。

 

 俺の隣には、何時の間にか匙元士郎が並び立っていた。

 

 んの、バカ!!

 

「下がれ!! お前でどうにかなる相手じゃ―」

 

 そう言いかけた俺の前で、匙は神器を展開する。

 

 それは、今まで見てたようなトカゲのデフォルメなんかじゃなかった。

 

 黒い蛇のような触手が、両手を覆うようにいくつも顕現している。

 

 おいおい、完璧に別物じゃねえか。何があったらそんなに変化するんだよ!?

 

「驚いたかよ。俺だって、兵藤が禁手になる事を前提に対兵藤を考えて修行してきたんだよ」

 

 今までの匙とは、明らかに段違いだ。

 

 この野郎。どんな特訓したらそんなことになるんだ?

 

 上昇率だけで言うなら、お嬢達の眷属でもここまでの奴はそういねえぞ!

 

「……なあ、俺達はお前らにむかついてるんだよ」

 

 そして、その怒気を匙はヴァーリに向けた。

 

 それをヴァーリは平然と受け流し、それがさらに匙の怒気を爆発させる。

 

「俺達の夢の為に必要な、グレモリーとのレーティングゲームが、お前らの所為で台無しだ。……その所為で会長の学園建設が遠のいたら、どう責任取ってくれるんだ、ああ?」

 

「ふむ、まるで赤龍帝と聖魔剣を代表に、逸材が揃っているリアス・グレモリーの眷属を倒せると思っているようだね」

 

 匙の視線を真っ向から受け止めながら、ヴァーリはため息をついた。

 

「彼我の実力差が分らないのは弱者の証明だ。君では兵藤一誠を倒す事など夢のまた夢だよ。……何なら証明してやろう」

 

 そう言うと、ヴァーリは足を踏みしめ―

 

「手加減した俺に瞬殺されれば、身の程を知るかな?」

 

 その瞬間、一気に匙を間合いに捉えた。

 

 させるか! 俺がいるのを―

 

追憶の鏡(ミラー・アリス)!!」

 

 その瞬間、ヴァーリと匙の間に、一枚の鏡が浮かんだ。

 

 ヴァーリはその鏡を意にも介さず拳で割るが、その瞬間―

 

「かかりましたね?」

 

 ―にやりと、会長が嗤った

 

 ものすごい衝撃が、ヴァーリに襲い掛かる。

 

 その衝撃がヴァーリの鎧にヒビを入れたその時、匙の触手が俺の聖槍にくっついていた。

 

「先手はもらうぜ、この野郎!!」

 

 そして、匙の拳がヒビの入ったヴァーリの鎧を砕き、ヴァーリに明確な打撃を叩き込んだ。

 

「何だと!?」

 

「死ぬほど痛ぇが、聖槍のオーラも移動できるみたいだな、これは!!」

 

 この馬鹿! なんつー無茶を!!

 

「会長も止めてくだせぇよ!! ったく!」

 

 だが、この一撃は十分だ。

 

 俺は聖槍で一気に仕留めにかかる。

 

 それを即座にかわしながら、ヴァーリは静かにほほ笑んだ。

 

「ほう? 今のは追憶の鏡か。砕いた攻撃の衝撃を反射させる、比較的珍しい神器だ」

 

 流石にアザゼルのところにいただけあって、少しは神器について知識があるんだな。

 

 なるほど衝撃反射か。物理攻撃の天敵みたいなもんだな。こりゃすげえ。

 

 ヴァーリは割と全力で叩き込んだようだ。その所為で攻撃の威力をもろに喰らっちまったと。

 

 ……だが、ヴァーリは静かに首を振る。

 

「だが、この程度ではね。俺のオーラを奪い取るにはまだ足りない」

 

 そういうと、ヴァーリは自分の体に繋げられたラインを見てため息をつく。

 

「さっきから全く力を吸い取れてないぞ? 聖槍のオーラを経由した影響で、ラインが焼け付いたと見える」

 

 チッ! やっぱ悪魔が聖槍のオーラを使うのは無理があったか!

 

 匙の野郎、死んでも責任取れねえってのに。

 

「そうかよ。だけど、雑魚に一発もらって悔しいのはそっちじゃねえのか?」

 

 匙くんや! 挑発しない。そいつ意外と乗るから。

 

「なるほど。油断した所為で夢を見せてしまったようだ。なら……」

 

 その瞬間、白龍皇の光翼が光り輝く。

 

 あ、あれマジモード入ったか?

 

「ラインを経由して、本気の半減を味合わせてやろう!!」

 

『DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!』

 

 その瞬間、一気に半減が多重化して匙を襲い掛かり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「反転(リバース)!!」」」」」」」

 

 その一斉に放たれた掛け声とともに、ヴァーリ・ルシファーのオーラは急激に減少した。

 

 そして、その瞬間に匙元士郎のオーラは爆発的に上昇した。

 

「……なんだと?」

 

 あり得ない現象に、ヴァーリは思考が一瞬止まる。

 

 あり得ない現象だ。白龍皇の光翼の力は、相手の力を半減してそれを上乗せする事。まかり間違っても相手の力を強化したり、自分の力を弱体化させる能力ではない。

 

 そして、その一瞬のスキをついて、匙の拳がヴァーリにめり込む。

 

 容赦なく、再形成されて傷も修復したはずの鎧を砕いた上で、肉を潰し骨すら砕いた。

 

「が……はぁ!?」

 

 内蔵すら破裂寸前になり、ヴァーリは血反吐を吐いて殴り飛ばされる。

 

 たった一発で数十メートル吹き飛ばされ、ヴァーリは地面を転がった。

 

 あり得ない。あり得ない事だ。

 

 匙元士郎の神器は、龍王の魂をそのまた大量に分割したものだ。天龍そのものを宿している自分とは比べるのもおこがましい。

 

 確かに鍛え上げられた事で大幅に上昇したがそれでも差は歴然。兵藤一誠ほど楽しませる者ではない。

 

 だが、それでもヴァーリは大きなダメージを負わされていた。

 

 そして、そのカラクリもまたヴァーリはグリゴリに所属していたがゆえに気が付いた。

 

「……反転(リバース)か!」

 

 グリゴリで研究していた、神器技術の発展形。

 

 聖と魔、光と闇などといった相いれない属性を反転させる事を目的とした力だった。

 

 つまり―

 

「半減して奪い取った力を自身に上乗せするのではなく、自身の力を差し出して、相手の力を倍化させる……というわけです」

 

 ソーナ・シトリーが、前に出てそう告げる。

 

「今のあなたは素体の能力だけなら下級悪魔と同レベルでしょう。白龍皇の光翼と鎧までは無理なようですが、それでも状況はひっくり返せました」

 

 その鋭い視線を浴びて、ヴァーリ・ルシファーは笑みを浮かべる。

 

 なるほど。自分は彼女達を舐めていた。

 

 あの赤龍帝を倒す為に、彼女達はそれなりの手段を講じていたらしい。

 

 ならば、こちらも返礼をしなくてはならない。

 

 ヴァーリは、覇龍を使う決心すらし―

 

「それに、もう詰んでます」

 

 その瞬間、ヴァーリは目の前が暗くなるという現象を体験した。

 

 もはや立つ事も出来ず、ヴァーリは崩れ落ちる。

 

「え? えええ?」

 

 ヒロイ・カッシウスもまた、何が起こったのか分かってない。

 

 だが、ヴァーリもヒロイもすぐに気づいた。

 

 この謎の現象は分らないが、現在進行形であるそれを起こしているかもしれないきっかけだけは分かっている。

 

 匙元士郎の打撃でつけられたラインを、ヴァーリは即座に引きちぎる。

 

 その瞬間、血が勢いよく噴出した。

 

「……ラインを利用して血液を奪い取り、レーティングゲームのシステムで強制的に退場させる。それがレーティンゲームにおける赤龍帝対策でしたが、白龍皇にも通用するとは思いませんでした」

 

 眼鏡を光らせながら、ソーナ・シトリーはそう告げる。

 

 そして彼女を護衛する為に間に入りながら、匙元士郎はヴァーリを睨みつけた。

 

「……会長は、この冥界に誰でも通える学校を作るのが夢だ」

 

 それは、日本での生活を送っていた匙達にとっては当たり前の事。

 

「……それを、冥界の貴族達は馬鹿にしやがった」

 

 そして、冥界では当たり前でない事。

 

「……俺達には結果がいるんだよ。……会長の夢は実現可能で現実的な夢だって」

 

 それを叶える為に、レーティングゲームは必要だった。

 

 それが、この襲撃の所為で中止になった。

 

「……それを、お前らは邪魔しやがって!」

 

 そして、匙は全力で駆け出した。

 

 一気に出力が上昇した事で発生した大量出血の影響から、ヴァーリはまだ回復してない。

 

 ゆえに、それを回避する事はヴァーリには不可能であり―

 

「……人の夢の邪魔すんな、この馬鹿野郎が!!!」

 

 渾身の拳で、意識を喪失する瞬間、ヴァーリは己の敗因を悟った。

 

 ―なるほど。これがジャイアントキリングというやつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺、殆ど何もしなかったんだけど。

 

 聖槍を取り落としそうになりながら、俺は( ゚д゚)とした。

 

「あれ? なんかヴァーリの気配が消えたんすけど、逃げたんすか?」

 

「いや、倒した……シトリー眷属が」

 

 俺は、なんか無常感に包まれた。

 

 え、えっと……ええ?

 

 あれ、白龍皇だよな? 魔王の末裔だよな?

 

 史上最強の白龍皇とか言われてたよな? それが……えぇ~?

 

 禁手にもなってねえ下級悪魔が、仲間達のサポートを受けてとはいえ、倒しちゃったよ。

 

「……私達は、確かにリアスやリアスの眷属に比べれば、素質は低いです」

 

 唖然としてる俺の隣に並びながら、会長がそう告げた。

 

 しかし、その表情は少し得意気だった。

 

「ですが、やりようはあります。私達はそうやって強くなりますので」

 

 そう、はっきり言った。

 

「貴方が聖槍の使い手であろうと、油断していたら追い越していくので覚悟してください」

 

 ……ははっ。

 

 おいイッセー、お嬢。

 

 同時期にすごい逸材がいるぜ。なんたって、史上最強の白龍皇をあっさり撃破した激やばチームなんだからよ。

 

 俺も気合入れ直さねえとな。ああ、曹操とか言ってる場合じゃなかったわ。

 

「匙、お前らすげえよ」

 

「あったりまえだろ! 会長はすげえんだよ!」

 

 匙の笑顔を見て、俺はしっかり覚悟を決める。

 

 ああ、やっぱり英雄になるのは大変だ。

 

 同時期に、こんな化物がいるんだからよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「会長! 霧が出ました! 絶霧です!!」

 

「あ、ヴァーリがいねえ!!」

 

 しかし、まだまだ若いので詰めが甘かったです。

 




ヴァーリ「ペトをボコるどころか逆にボコられた。見所がある奴を見つけたので満足している」

ヒロイ「助けに来たつもりが全く必要なかった。なんか複雑」









ジャイアントキリング達成。ある意味最大の戦果ですが、捕縛できなかったのがネック。


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第二章 17

戦闘終了後のあれこれをかましたいと思います。


 

 そんなこんなで大激戦が終わり、数日後。俺は姐さんやペトと一緒に、グレモリーの城でテレビを見ていた。

 

 絶霧を利用したとはいえ、冥界の重要人物がゴロゴロいる地区に、大部隊が進行するという大事件。ヴィクター経済連合の脅威度の高さを思う存分知らしめる出来事だった。

 

 ちなみに、さらに数時間単位のずれで各神話体系の拠点にも攻撃が来たが、それも撃破されたようだ。

 

 もちろん、予定されていたレーティングゲームは当然中止。俺達は追撃が来るかどうかの様子見をしている間、城に軟禁状態と言ってもいいほど籠る羽目になった。

 

 まあ、ヴィクター経済連合有する禍の団の襲撃相手にこの成果。まず間違いなく大戦果だろうな。

 

 功を焦って訓練期間が足りなかったというところかねぇ。

 

「それでお姉さま? なんで私達は表彰されないッスかぁ?」

 

「文句言わない。これは悪魔の受勲式だもの。悪魔以外が報奨されたら、悪魔の重鎮としては面子にかかわるんでしょうね」

 

 文句たらたらのペトを宥めながら、姐さんは苦笑した。

 

 そう。今日はその戦いにおける功労者達に対する受勲式だ。

 

 ただし、大量の敵を撃破したうえ巨人族の精鋭をぶっ倒した姐さんと、敵の部隊長クラスをことごとく狙撃して撃破に貢献したペトは参加してない。

 

 ……一応悪魔における受勲式ってのが理由だが、ま、実際のところは姐さんの言った通りだろう。

 

 サーゼクス様曰く。

 

『現大王などが難色を示していてね。まあ、成果は上げたので悪魔と別種族で時期をずらして受勲式をすると言う事で落としどころをつけたのだよ』

 

 と、苦笑いしてた。

 

 ったく。悪魔業界は大変だな、オイ。

 

 ま、ドーインジャーの後ろからの襲撃を凌いだ俺も含めて、褒章そのものは既に秘密裏に貰ってるから別にいいんだがよ。

 

 でも、できればあの悪魔全国ネット放送で姿を見せつけたかった。

 

 そうすれば、俺は悪魔界の若き英雄の一人にノミネートされたのに!! おのれ老害どもめ!!

 

 ちなみに、姐さんも同じ気持ちなのか、ペトを撫でてない方の手はプルプル震えている。

 

 まあ、そんなこんなで重鎮クラスや現役の上級悪魔やその眷属の褒章式は終わった。

 

 そしてここからが俺達にとっての本番だ。

 

『それでは、この戦いで活躍した若き英雄達の番となりました!』

 

 司会の言葉とともに、三組の若手悪魔の眷属が姿を現す。

 

 うち二組は、お嬢と会長だ。

 

 そしてサーゼクス様が一歩前に出る。

 

『サイラオーグ・バアル。戦線が混乱した状態で、眷属達を率いて前線への支援を行い、敵上級クラスを打ち取った事を祝し、褒章を行う』

 

『は! ありがとうございます!!』

 

 おお、あれがサイラオーグ・バアルか。

 

 仮にも実力重視で次期当主となったゼファードル・グラシャラボラスをワンパンで沈めた男。

 

 姉さんの知り合いの主でもあるあの男を一蹴した、若手最強にして無能と言われるよくわからん次期大王ねぇ。

 

 なんでも、戦線が混乱した時に、最も近くにいた敵主力部隊に突貫して、指揮官を含めた実力者をぶちのめしたらしい。

 

 こっちとは違う戦線だったけど、中々の大活躍だな。

 

『だが、独断専行はいただけない。ゆえに今回の章では差額を引いて最も小さい賞となる。悪いがね』

 

『いえ。こちらも慣れない大規模戦闘で判断を仰ぐのを失念しておりました。賞を頂けるだけでも僥倖です』

 

 おお、中々謙遜してるな。

 

 しかしできるな、あの兄ちゃん。

 

 動きに無駄がない。更に体つきも隙が無い。

 

 あれが無能と言われてるんだって? どういうことなんだか全くわからねえな。

 

「なんかごつい兄さんッスね」

 

「ああ。かなり鍛えてるな、ありゃ」

 

 ペトに同意しながら、俺は後ろに下がるサイラオーグ・バアルをながめた。

 

 そして、今度はお嬢の番だ。

 

『リアス・グレモリー。前線を突破した敵部隊を迎撃し被害を抑え、さらには大半を生存させたまま投降させた手腕を認め、ここに賞を授ける』

 

『はっ! ありがたくいただきます』

 

 流石に公の場なので、お嬢もサーゼクス様も他人行儀だ。

 

 だが、そこには確かに信頼と絆があった。

 

「兄妹ね。少し羨ましいわ」

 

 姉さんが、ぽつりとそう呟いたのが印象的だった。

 

 そして、最後に賞を受け取るのは、ある意味最も大活躍した功労者。

 

『ソーナ・シトリー』

 

『は!』

 

 一歩前に出る会長の前に立ち、サーゼクス様は厳粛な顔つきで告げる。

 

『後方から強襲してきた、禍の団の最高クラスの戦力の1人である白龍皇の無力化、ご苦労だった。ゆえに、ここに特別な褒章を授ける』

 

『謹んで受け取らせていただきます』

 

 静かに、しかし最も注目を浴びているのは会長だろう。

 

 なにせ、あの白龍皇を返り討ちにしたんだから。

 

 白龍皇の名は広く知れ渡っている。しかもルシファーの末裔だと言う事で、上役達の警戒度はかなり高いってよ。

 

 それを、神滅具も禁手もなしに返り討ちにしたんだ。そりゃ褒められる。

 

 噂じゃ、そのソーナ・シトリーが関わるのなら評価できるのではないかと学園設立について話を聞く気になった上役も多いとか。

 

 そして三人が受賞を終え、そろそろ終わりになり―

 

『そして、これはサプライズだが、北欧アースガルズの主神、オーディン殿から特別賞がある人物に授与される』

 

 ………なにぃ!?

 

 オーディンって、あの御老体だよな!?

 

 北欧神話領域にも襲撃があったらしいが、まだ帰ってなかったのかよ!?

 

 というより、北欧の主神オーディンが、態々名指しで賞を授与するとか、サプライズにも程がある!!

 

「ね、姐さん! 誰だかわかるか!?」

 

「お姉さま! 予想をッス!」

 

「わかるわけないでしょう。とりあえず見守りなさいな」

 

 パニクった俺とペトに、姐さんの呆れ声が届く。

 

 そ、それもそうだ。俺らだって、戦場を全部把握してるわけじゃねえんだしな。

 

 よし、見守ろう―

 

『シトリーの兵士、匙元士郎とか言ったかの?』

 

 ―ああ、なるほど。

 

 言われてみりゃ納得の人選だったな。

 

『……………はい?』

 

 そして、当人はぽかんとしていた。

 

 本来会長に叱責されてもおかしくねえが、しかし会長も何も言わない辺り、予想外だったらしい。

 

 っていうかコレ、リハーサルなしでやってたのかよ。サプライズすぎるだろこれ。

 

『白龍皇ヴァーリ・ルシファー退治で、最も危険な役目を負ったその度胸と、決着をつけたその拳を儂が褒めよう。北欧の主神から褒められる機会など滅多にないぞ? 素直に受けとれ』

 

 そういいながら、オーディン神は半ば強引に匙の手にメダルを握らせる。

 

 そして、さらに会長に視線を向けると、こう告げた。

 

『いつか、レーティングゲームが儂らや天界も混ざって行う時代が来るじゃろう。その時、ただ上級悪魔だからと王になったものと、決意と目的をもって王の資格を勝ち取ったもの、果たしてどちらが楽しめる相手になるのかのぉ?』

 

 ……こ、このジジイどこからその話聞いたんだよ!?

 

 今この場で、上役に喧嘩売るような発言はまずいんじゃ―

 

 と、思ったらオーディン神の後頭部にハリセンが叩き付けられた。

 

『オーディン様! 一神話体系の代表が、相手側の思想の批判をこんなタイミングで言ってはいけません! これから会合もあるんですよ!?』

 

『まったく、そんなだからお主はモテんのじゃ』

 

『モテないのは関係ないって言ってるでしょぉおおおお!!!』

 

 なんか、漫才が始まったぞ。

 

 ちなみにこれでうやむやになったらしい。

 

 ま、それはともかく―

 

「嫌な時代に生まれたもんだぜ、俺達も」

 

「そうね」

 

 俺と姐さんはそう言って苦笑し合った。

 

 ペトも、それを見て複雑な笑みを浮かべている。

 

 そりゃそうだろう。英雄を目指すのなら、それ相応の戦果ってのが必要だ。

 

 だが、俺たちの同期はどいつもこいつもめちゃ凄腕。

 なにせ史上最強の白龍皇となる男がいる。そのライバルとして最近評価を上げている赤龍帝もいる。

 

 そして、そんな二天龍に牙を届かせることができる、凄腕の神器使いがいる。

 

 ……俺達も、負けてられねえな、こりゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、夏休みの終了。

 

 帰りも今回は列車で行くことになり、俺達は見送られるわけなんだけど―

 

「ぁあああああ!!! 宿題忘れてたぁああああああ!!!」

!!!」

 

 イッセーが、大事なことを思い出して絶叫していやがる。

 

 ま、まあ。山籠もりしながら学校の宿題とか普通しないわな。無理やり連れていかれたから、宿題を持っていく暇もなかったろうしよ。

 

 流石に写させるとばれた時怖いからできねえが、ま、教えるぐらいはしてやるか。

 

「あらあら。イッセーさん? 学業をおろそかにしてはいけませんよ」

 

 部長のお袋さんも苦笑してる。

 

 ま、確かにこの人達は学校の授業とかはきちんとこなしてそうなイメージもあるからな。

 

「しかし、神器に目覚めてから半年もたたずに禁手にまで目覚めるとは。リアスのむ……げふんげふん」

 

 親父さんがいらんこと言いかけてすぐにごまかし、そしてきりっとした表情を浮かべた。

 

 ぶっちゃけ何だが、なんでこれでイッセーは気づかねえんだよ?

 

「眷属がこれほどとは、グレモリー家の将来は安泰だ」

 

 うんうんと、感動の涙すら浮かべて親父さんはなにかを感じている。

 

 ま、まあ、赤龍帝を眷属悪魔にするとか、前代未聞だから気持ちはわかる。

 

 ですが親父さん。その子、史上最強の白龍皇になる男とやらに目をつけられてんですけど? 宿敵がシャレにならないチートみたいなやつなんですぜ?

 

 ま、それは俺らがフォローすりゃいいか。

 

 と、思っていると、ミリキャス様がグレイフィアさんに連れられて、俺達に挨拶する。

 

「皆さん! またいつか来てくださいね!」

 

「もちろんですミリキャスさま。またいつか会いましょう」

 

「今度は一緒にゲームするッス! 人間界の面白いの持ってくるッス!」

 

 姐さんとペトがそう返事をし、ミリキャス様はグレイフィアさんに笑顔を向けた。

 

「か……グレイフィア。また来てくれるって!」

 

「良かったですね、ミリキャス様」

 

 その光景は、主の息子とメイドというより、なんというか……。

 

「……あの、お嬢。もしかして……」

 

 俺はふと何かに勘付いて、お嬢にそれを聞こうとする。

 

 だけど、お嬢は無言でほほ笑んだ。

 

 それが、皆納得できる答え何だろう。

 

 おいおい、メイドさんがお嫁さんとか、すごい属性持ってるなサーゼクス様―

 

「何か変な勘違いをしてないかしら?」

 

 え、違うんですかいお嬢!?

 




リアス「違わないけど違うのよ」

ヒロイ、あってるのに勘違い。









そんでもって授賞式。上役としては悪魔と同列で多種族が冥界で報奨されると面子保てないので、形だけでもなんとかしないと必死だったり。


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第二章 18 嵐の前にも波乱は起きて

大体後半戦の前段階でございます。


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 禍の団の軍事施設で、リムヴァンは詰め寄られていた。

 

 詰め寄ってくる相手は、禍の団の派閥の中でも特に大きな派閥、旧魔王派。

 

 かつての戦争の終盤である、四大魔王と聖書の神が死んだ直後の、戦争継続派である。

 

 その最高指導者である、ベルゼブブの末裔であるシャルバ・ベルゼブブに、リムヴァンは詰め寄られていた。

 

「どういうつもりだ貴様!! せっかく集めた駒を十数万も消耗させて!!」

 

 殺意すら込めてシャルバはリムヴァンをにらみつける。

 

 圧倒的戦力差があることと、下手に手を出すと禍の団内部で内輪もめが起きることを知っているからかろうじて手は出さない。

 

 しかし、リムヴァンの返答次第ではそれも怪しい。そう確信させるほどに、シャルバは怒り狂っていた。

 

「だーかーらー。僕らに必要なのは後方支援の作業員と神器を移植させるに足る精鋭だけだって言ってるでしょー? 有象無象の雑魚なんて、ドーインジャーで事足りるじゃないか」

 

 その様子に心底うんざりしながら、リムヴァンはそう告げる。

 

 それに関しては真実本音だ。嘘偽りなどみじんもない。

 

 なにせ、リムヴァンが保有している神器も無限ではない。数に限りがあるのなら、移植可能なものからさらに厳選するのは当たり前の行動である。

 

 ましてやドーインジャーはその名の通り動員からとられた大量生産仕様とはいえ兵器である。下級の兵隊程度なら十分渡り合える性能があるのだ。人間の兵隊相手なら一個小隊もあれば歩兵大隊を蹂躙することもできる。

 

 指揮する立場からしてみれば、特性がバラバラゆえに個性の強い神器保有者は部隊に少ない方がいい。雑兵はある程度無個性である方が運用しやすいのだ。

 

 だからこその訓練だ。お互いに準備期間であろうこの数か月の間、雑兵であるドーインジャーより上の実力のものを少しでも用意して、それ以外はあくまで後方の警護程度にするつもりだった。

 

 しかし、人間相手に連戦連勝したのが悪かったのかすでに暴れ始める馬鹿が多かった。

 

 勢いづいた威勢だけのチンピラなど、いてもかえって邪魔になりかねない。無能な働き者ほど組織にとって害になるものはないのだ。準備もろくにせずに戦争を仕掛けようとする無駄に個性のある雑兵など、まさにその筆頭である。

 

 今の段階は準備期間だととらえているリムヴァンからしてみれば、当然止めたいところだ。第一訓練を申し付けているのであり、それに我慢できなくて暴発するような輩を切り捨てるのもある意味当然。大半はよりよい代替物が大量に確保できる有象無象に、そこまで意識を割くほど彼はお人よしではなかった。

 

 しかし、シャルバはそれを理解しようとしなかった。

 

「そんなもの、オーフィスの蛇をあたえればいいではないか! それさえあればあの偽物共の軍隊などこの時期だけで―」

 

「無理だね。いかに出力が上がっても、技量がなければ双方そろった実力者には勝てない」

 

 シャルバの反論を、リムヴァンは切って捨てる。

 

 額に青筋迄浮かべ始めるシャルバに、リムヴァンは指を突き付ける。

 

「シャルバ。今の君はおもちゃをあたえられてはしゃいでる子供と同じだ。戦争に勝つには、上が大人じゃなければならない」

 

「私が……餓鬼だと!? この偉大なるベルゼブブの末裔を、たかが貴族の末裔ごときが……っ!!」

 

 すでに全身から魔力を垂れ流し始めるシャルバに、リムヴァンも戦意を見せ始める。

 

 一触即発。その空気を換えたのは、その場にいた別の人物だった。

 

「落ち着きなさい、シャルバ」

 

 カテレアが、静かに割って入る。

 

 シャルバの敵意はカテレアにも向くが、しかしカテレアは落ち着いていた。

 

「シャルバ。しょせん今回の脱落者は我ら偉大なる悪魔とは違う下等な種族です。ドーインジャーで替えが効く以上、使い捨ててもいいではありませんか」

 

「何を言うかカテレア! そんなことでは―」

 

「確かに、オーフィスは蛇を無限に生み出せるが、生産速度まで無限というわけではないな」

 

 食って掛かるシャルバに、最後の一人であるクルゼレイ・アスモデウスがなだめるように声を出す。

 

 オーフィスの蛇は、確かに禍の団の力の根源の一つだ。

 

 しかし、各派閥にできる限り均等に提供し、さらに能力強化だけでない用途に使用しているものもある以上、現段階では生産速度に限度があった。

 

 ヴィクター経済連合として、全世界の四割を味方につけた今の禍の団の人員全てに蛇を与えるには、どうしても限界がある。

 

 むろん、最も多く確保しているとはいえ、いまだ全員に提供されているわけではないのは旧魔王派も同じ。

 

 それを思い出し、シャルバは少し溜飲を下げる。

 

「……今回の作戦で浮いた蛇は我々がもらう。あと、貴様は、この偉大なる真なる魔王の居城に当分顔を出すなよ!」

 

「……呼ばれたから来たんでしょうが」

 

「何か言ったか?」

 

「はいはい了解ですよ」

 

 そういい合い、シャルバは舌打ちをしてから部屋から出ていく。

 

「……すまんな。シャルバとしては、できる限り早く偽りの魔王どもを始末したいのだ。そのための肉壁が急激に減って、動揺しているのだろう」

 

「ま、オーフィスに許可取ったけど、彼に連絡が届いてなかったのは謝るよ」

 

 シャルバほど怒り狂ってないクルゼレイに、リムヴァンは肩をすくめて応じる。

 

 しかし、怒りの表情を示しているのはクルゼレイも同様だった。

 

「……いくら我ら悪魔以外は滅びるべき種族だとは言え、これだけの任務を我らに連絡しそびれるのは、72柱の末裔としていささか情けないぞ」

 

「わかったわかった。これからは直通ラインを作るから、それで勘弁してくれよ」

 

 そのリムヴァンの言い分に、一応の納得を見たのか、クルゼレイも矛を収める。

 

「ではクルゼレイ。私達も行きましょう」

 

「そうだな。……リムヴァン、見送りは―」

 

「結構。いちゃつきを見る気はかけらもない」

 

 熱いムードを見せ始める二人にひらひらと手を振り、リムヴァンは部屋から外に出る。

 

 そして城から出ると、ため息をついた。

 

「ご苦労様。我らが宰相殿」

 

「曹操に、ゲオルクも」

 

 そして、待ち構えていた曹操とゲオルクの姿を見て、ため息をついた。

 

 それは、曹操とゲオルクに対してついたのではない。彼らを見たことで気が緩み、つい出てきてしまったものだ。

 

「ったくもう。あいつら、僕の方が立場上だっていうことがわかってないよ。タメグチOKにしたのがまずかったかなぁ」

 

「古くからの名誉にとらわれて、周りが見えてないのだろうさ」

 

 リムヴァンの愚痴に、ゲオルクがそう皮肉を返す。

 

 実際そうだろう。

 

 確かに旧魔王派は、数と質のバランスでは有力な派閥の一つだろう。

 

 だが、数においてはすでに人類側のスポンサーが圧倒的であり、質についても英雄派と並んでいるといってもいい。そしてオーフィスとは比べるまでもない

 

 はっきり言って、組織の立ち位置では三強の一つ程度の派閥なのだ。宰相相手にそこまで偉そうにできる立ち位置ではない。

 

 しかし、彼らは身の程をわきまえていない。

 

 人生を健やかに生きるコツは、身の程をわきまえることである。

 

 身の程をわきまえないということは、ハイリスクな人生を送ることである。それを自覚しなくてはいけないのだ。

 

 しかし、シャルバたちはその双方ができていない。

 

 はっきり言おう。割と迷惑な存在である。

 

「カテレアは神器を移植できたからまだこっちの意見聞いてくれるけど、適合できなかったシャルバとクルゼレイはいつか暴走しそうで怖いんだよね~」

 

「そのカテレアも思想的には二人よりだろう? あまり信頼するのもどうかと思うけどね」

 

 曹操にそんなことを言われて、リムヴァンは苦笑した。

 

 極めて正論だが、しかし性分なので仕方がない。

 

「何事にも遊びを入れるというか、ギャンブル要素がないと燃えないタイプでねぇ」

 

「そうかい? 割と堅実に動いている風にも見えるけどね?」

 

 意外そうに、ゲオルクがそう漏らす。

 

 じっさい、ここまでの手腕は見事なものだというほかない。

 

 サタナエルが行動を起こすよりはるか前から行動を起こし、ヴィクター経済連合の前身ともいえるスポンサーの集団を集めた手腕は見事なものだ。

 

 ましてや、ジャンヌというある意味最大のプロパガンダを使い、教会の勢力を壊滅寸前にまで持っていったその作戦は見事極まりない。聖書の神の死を駒王会談で告げられたことを利用した、非常に即興のものであるにもかかわらずだ。

 

 しかし、リムヴァンはそれを苦笑しながら首を振って否定する。

 

「あれはサポート役がいたからね。Lはそういうスカウトとかアジテーションが得意なんだよ。彼を最初に味方につけれたからこそ、ここまで動くことができたからね」

 

「そうか。あなたの秘蔵っ子はそれほどまでの逸材なのか」

 

 一度会ってみたいものだと、曹操は思いながらも話を続ける。

 

「それで、今後の予定は?」

 

「そだねー。まずは今までと同様、ドーインジャーを生産する工場の生産だよ。あとは……そうだねー」

 

 リムヴァンは歩きながら考えこみ、そしてにやりと笑った。

 

「どっかの魔獣を、奪いに行こうか」

 

「ほう、魔獣退治なら英雄の仕事だけど、魔獣確保とは変化球だね?」

 

 曹操は面白そうにしながら、話を促す。

 

 それにうなづきながら、リムヴァンはある映像を映し出した。

 

 そこに映し出されるは、堕天使の総督アザゼルが開発した、人造神器の姿だ。

 

 龍王ファーブニルを封印して作られた、アザゼルの最高傑作。蛇で魔王クラスにまで強化されたカテレアを、神器を移植してなければ一蹴していたであろう代物だ。

 

 これはいい。実にいい

 

 封印系神器とは相性が悪いので、少しだけ確保するにとどめていたが、これなら一から設計すれば、自分用に高性能なものを作ることができるかもしれない。

 

 何より、強大な敵を捕らえて封印すれば、敵戦力を削減しつつこちらの戦力を強化するという皮算用すら狙える。

 

 そこまでかんがえて、リムヴァンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「この発想、マルパクしちゃおう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ~。ついたついたー。

 

 俺たちは、列車に乗られた体をのばしながら、駅に到着した。

 

「うっへぇ。とりあえず宿題は半分片付いたぜ」

 

「そんだけ出来りゃぁ、たぶん今日中に全部終わるんじゃねえか?」

 

 心底疲れてるっぽいイッセーに、俺はからかい半分でそういう。

 

 いや、でも半分ぐらいマジで言ってるぜ? だって結構多かったのに、もう半分もやっちまってるんだからな。

 

 その調子でやれば、宿題何てすぐ終わるだろ。

 

「……先輩、やっぱりやればできますよね」

 

 と、小猫ちゃんも同意する。

 

 そして、そのままイッセーにすり寄った。

 

「こ、小猫ちゃん?」

 

「にゃぁ」

 

 ……やべえ。可愛い。

 

 いつもクール系だった小猫ちゃんが、満面の笑みを浮かべてるぜ。これはすげえ来る。

 

 いや、問題は、それが、俺の、ほうに、向いて、ない、ことだよ!!

 

「お姉さま。ヒロイがなんか赤い涙流してるッス!? 敵襲っすか!?」

 

「いえ。あれは醜い男の嫉妬だからスルーしていいわ。半分ワルノリでしょうし」

 

 姐さん、きついですぜ!!

 

 だって、俺はまだ童貞なんだぜ!? いや、イッセーもまだ童貞だけど。

 

 だが、イッセーはいつでも童貞を捨てようと思えばすぐに捨てれる環境だってのに、俺は捨てたくても捨てれない環境。なんなんだこの違いは!!

 

 泣いていいか、マジで。

 

「キャッ!」

 

 と、そんな時悲鳴が上がった。

 

 これは、アーシアの悲鳴?

 

 殺気は感じないが槍を出しつつ振り向くと、そこにはアーシアに詰め寄る一人の少年悪魔の姿があった。

 

「やっぱり……やっぱりだ……」

 

 その少年悪魔は、何やら感慨深げな表情を浮かべていた。

 

 あれ? あいつ、どっかで見たような気がするんだが、誰だ?

 

 っていうか、アーシアのことを知ってるみたいだが……。

 

「おい! うちのアーシアちゃんにいったい何の用だ!!」

 

 イッセーが割って入るが、その少年悪魔は意に介さない。

 

 むしろ、何やら寂しそうな表情を浮かべていた。

 

「僕を忘れてしまったのかい、アーシア。僕たちはあの時出会っていたはずだよ」

 

 そういうなり、その少年悪魔は胸をはだける。

 

 まず悲鳴を上げて張り倒されても文句の言えない光景だったが、しかしそれどころじゃない。

 

 その胸には、ひどい傷跡があった。

 

「……あ、あなたは―」

 

 アーシアはそれを見て、目を見開いた。

 

 なんだ? その傷跡に見覚えがあるのか?

 

「ディオドラ……? あなた、ディオドラね!!」

 

 そして、騒ぎに気付いたお嬢が、その少年悪魔の顔を見るなり声を上げる。

 

 ディオドラって……あ。

 

 思い出した! あいつ、シシーリアを連れていたあの上級悪魔!

 

 しかもディオドラって、現ベルゼブブを輩出した、アスタロト家の家系じゃねえか!! つまりこいつが次期当主ってことか!!

 

 そ、そのアスタロトがいったいなんでここに?

 

「そう、僕はディオドラ・アスタロト。かつて君に助けられた悪魔だよ」

 

 そういうなり、ディオドラはアーシアにほほ笑んだ。

 

「傷跡を消してもらうことはできなかったけれど、僕は君のおかげで救われたんだ」

 

 そういうと、ディオドラはイッセーをすり抜ける。

 

 お、思ったよりできるな。

 

「会合の時はあいさつできなかったけれど、僕は君にお礼を言いたかったよ。そして―」

 

 そして、ディオドラは、アーシアの手の甲にキスをする。

 

 こ、こここ、この展開は、まさか!?

 

「君と出会えたのはきっと運命だ。どうか、僕の妻になってほしい」

 

 きゅ、求婚きやがったぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 旧魔王派の城の廊下を、シャルバ・ベルゼブブは苛立たしげに歩いていた。

 

 その後ろを、カテレアとクルゼレイがついて歩く。

 

 まるでベルゼブブがレヴィアタンとアスモデウスを従えているかのような状況に、シャルバは少しだけいい気分になる。

 

 だが、それもいら立ちの方が勝る。

 

 この禍の団の中でも最も偉大たる真魔王派。それを旧魔王派と言い放つ、72柱という配下の家系であることの自覚の足りないリムヴァンにはもううんざりだ。

 

「あの男に禍の団は任せておけん。貴重な駒を悪戯に消費するような馬鹿者の好きにはさせんぞ」

 

 殺意すら込めて、シャルバはここにいないリムヴァンに対する恨み言を漏らす。

 

 それをたしなめるように、カテレアは嘆息した。

 

「落ち着きなさい、シャルバ。今回の作戦で我々には痛手はないのですから」

 

「だが、我ら悪魔がこの星唯一の種となるための努力が足りないのは事実だ。すこし発言力をそぐ必要はあるだろう」

 

 それをさらにたしなめるようにクルゼレイが発言し、そして視線をシャルバに向ける。

 

「そのための策、すでにできているのだろう?」

 

「無論だ。神器については私も少しは詳しい。内通者に助言を告げれる程度にはな」

 

 そう告げると、シャルバはドアを開けて部屋に入る。

 

 そこには、一つの拘束具があった。

 

 神滅具、絶霧(ディメンション・ロスト)。その亜種禁手たる霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)によってつくられた、特殊な結界装置。

 

 そして、これに磔にされる予定の贄は、アーシア・アルジェント。

 

「我々の内通者が見つけたあの小娘がいれば、この結界装置で神々すら一網打尽にできる」

 

 そうすれば、その圧倒的な戦果によってリムヴァンを黙らせることもできるだろう。

 

 そして、そのための準備は刻一刻と進んでいる。

 

「待っていろよ、リムヴァンめ。貴様は我々に傅く立場だということを、思い知らせてやる……!」

 

「流石にそれは恩知らずだと思いますが……」

 

「だが、真なる魔王をないがしろにしすぎではある。私は協力しよう」

 

 ため息をつくカテレアを、少し考えこみながらも同意するクルゼレイを背に、シャルバは醜く笑った。

 

 旧魔王派の作戦は、其の開始まであとひと月を切っていた。

 




身の程をわきまえてない自覚がない馬鹿って、迷惑ですよね。

わきまえてるなら謙虚だし、身の程を超えているとわかっていながらも求めるならそれなりの立ち回りはできるはず。だけどどっちもできてない奴ははた迷惑。しかもそいつに権力があると迂闊に排除もできない。

本作のシャルバはそんなキャラです。あ、原作でもそんな感じか








そんな感じで、リムヴァンも扱いに困っています。


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第二章 19

後半戦のプロローグみたいなものなので、今回は短め。


 

「うぁああああああああ!!! アーシアぁああああああああああ!!!」

 

「………うるっせえええええっ!!!」

 

 早朝からの絶叫に、俺は渾身のツッコミを入れて飛び起きた。

 

 まだ五時だぞイッセーの奴。しかも何度目だよ。

 

 どうせまた、アーシアとディオドラの結婚式の夢でも見たんだな?

 

 あの馬鹿、なんでそんなことがあり得ると思い込めるのかが謎だ。どう見てもアーシアはお前に惚れてるだろうが。

 

 ったく。人がいい気分で寝てたって時に。

 

 あとちょっとで、夢の中とはいえ姐さんと一晩を共にするところだってのに、なんで男の絶叫で起こされなけりゃならないんだよ。

 

「ったく。こうなったらなんか食べるか」

 

 そう言いながらエレベーターで一階まで下りれば、そこには大量のプレゼントの山が今日もあった。

 

 冥界から帰還して、ディオドラがアーシアにプロポーズした日。そこから全てが始まり、今の今までプレゼントが絶えなかった日はない。

 

 愛をささやく手紙。食事の招待状。映画のチケット。高級な家具。宝石などのアクセサリー。更に缶詰詰め合わせなどの消え物。

 

 金が有り余っている元72柱の末裔。それも、技術職ゆえに更に金が集まってくるアジュカ・ベルゼブブの血縁に連なるアスタロト家。その圧倒的な財力による物量作戦。

 

 ちなみに、消え物は眷属の失態の詫びと言う事で俺も食べていいと既に言われている。気前がいいな、ディオドラ。

 

 そんなわけで今もストレス発散に高級チーズを食べていると、お嬢がため息をつきながら降りてきた。

 

「……そろそろアスタロト家に抗議を入れるべきかしら。イッセーのお父様とお母様に悪いわ」

 

「そうっすね。保存の効く食い物だけにして貰いましょうか。流石に毎回これは多すぎますわ」

 

「いえ、食べればいいと言うわけではなくてね?」

 

 冗談ですよお嬢。いや、食いたいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わり、二学期がやってきた。

 

 いやぁ。また勉強ができる日々がやってきた!

 

「学生ってホント得だよなぁ。駒王学園(ここ)は名門校なのに学費も結構安いしよ。勉強し放題だ」

 

「あんた、学生とは思えないぐらい勉強好きよねぇ」

 

 桐生に呆れられるが、しかしやっぱり学生は勉強だろ?

 

「勉強できるってのは恵まれてる証拠だからな。せっかく勉強する機会に恵まれてんだ。授業ぐらいはきちんと受けねえと」

 

「アンタ、どんな生活送ってきたの?」

 

 それは知らねえ方がいいと思うぜ?

 

 ったく。態々名門校にまで来てんだから、勉強はきちんとした方が得だろうに。

 

 ……それはそれとして、なんかあか抜けたやつが多くなってんな。

 

 これがいわゆる夏休み明けってやつか。教会の施設だとあんまし見たことなかったぜ。

 

 しかし、落ち着いた感じで可愛かった子がギャルみたいになってんのはきついな。自分の持ち味殺すのはどうよ?

 

 男にしてもだ。なんか、松田や元浜みてねえなうぜえ感じの奴が増えてねえか?

 

 そんでもって松田と元浜は、静かに優雅にコーヒー牛乳をストローですすりながら話し合いをしていた。

 

「元浜さん? 隣のクラスの吉田は、夏休みにようやく三年生の人相手に決めたそうだぜ?」

 

「松田さん? 大場も今頃になって、一年の子を相手にしたそうだぜ?」

 

 大場に視線を向けると、さわやかな笑顔で手を振っている。

 

 ぶっちゃけマジでむかつくが、二人は平然と手を振ると、強者の余裕を見せていた。

 

「「ふっ。遅いな」」

 

「「「うざい! 果てしなくウザイ!!」」」

 

 俺と桐生とイッセーは、心からこの二人に対するうざさでつながり合った。

 

 ああ、なんでこいつらは遊びで童貞捨てただけで、彼女ができたやつと自分を同一視できるんだ。

 

 いや、言うな、わかってる。だって姐さんもペトもかなりレベルの高い女だからな。芸能界でも一線級で通用しそうなレベルだしな。

 

 ぶっちゃけ、並の彼女では相手にならないだろう。しかもこの二人、あの部屋の常連になって経験豊富らしいし。

 

 おかげで覗きをイッセー以外はしなくなったのは良い事なんだけどよ。

 

 ……すっげぇ、果てしなくウザイ!!

 

「ちょっとカッシウス。あんたの所為であの二人、とことんうざくなってるんだけど?」

 

「あのなあ、色々遭ってあそこ行けなくなってる俺にそれ言うか?」

 

 部屋そのものに魔術を掛けられたらしく、近づくだけでお嬢が携帯に電話入れてくるんだよ。おかげで近づけねえ。

 

 お嬢、イッセーに紹介したのはいい加減謝るから、俺が行く分には勘弁してくれねえっすかねぇ。

 

 そんなハッピーからブルーな気分に変転した俺と、そしてイッセーに桐生は声をすぼめて尋ねた。

 

「そういやさ、二人とも」

 

 桐生が聞きたい事はなんとなくわかった。

 

「アーシア。最近遠い目になる事があるんだけど、なんか知ってる?」

 

「え? いや、よくわかんないな」

 

 イッセーはそう言うが、そんなもんは一つだろう。

 

 ディオドラの求婚活動以外の何物でもねえ。

 

 ま、アーシアはディオドラと一緒になる気はねえから当然だな。イッセーの奴にぞっこんだしよ。

 

 だけどイッセーは自分が惚れられてる事に全く気付いてねえ。それがややこしくなってる。

 

 もうこれ、俺達が指摘した方がいいんじゃねえかって気分になるんだけどなぁ。

 

 ほら、アーシアは明らかにぎこちない笑み浮かべてるしよ。

 

 そんな時、どたどたとした音が響いた。

 

「お、おい! 皆大変だ! 落ち着いて聞いてくれ!!」

 

「まずあんたが落ち着くッス」

 

 ペト、ナイスツッコミ。

 

「おお! あれがゴ〇ラの名シーンだな!?」

 

 ゼノヴィアうるさい。

 

 あ、でもそのボケのおかげで相手も落ち着いたみたいだな。怪我の功名ってやつか。

 

 で、その生徒は呼吸を整えてから大声を出した。

 

「このクラスにまた転校生だ! それも、めちゃめちゃ美少女!!」

 

 このクラスにまた転校生かよ。

 

 あ、これもしかして、また異形関係?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、こんな時期に珍しいですが、このクラスに転入生が入ってくる事になりました。さ、入ってきて」

 

 担任に促されて、入ってきたのはよく見知った美少女だった。

 

 元気のよさそうな活気のある顔つきに、均整の取れたスタイルは野郎どもを魅了する。松田と元浜も久々にスケベな表情を浮かべやがった。

 

 が、童貞なので一番がっつくはずのイッセーが魅了されてない。

 

 ま、当然だろう。俺もゼノヴィアもアーシアもペトも驚いてるからな。

 

 首から下げた十字架が光を反射し、そしてそれをきっかけにしてそいつは頭を下げる。

 

「紫藤イリナです。皆さんどうぞよろしくお願いします!!」

 

 ……コカビエル襲来以来だな、イリナ。

 




童貞を卒業した瞬間に男として成長した気になる奴って、たぶん多いんだろうなぁ。

ことリセスもペトも外見においてはハイスペックですので、まず間違いなく自慢になる女性です。









ですが、遊びで卒業するのと恋愛で卒業するのとの間には大きな差があるのでご注意を。


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第二章 20

今回は原作とそう変わらないですね。ほぼヒロイ視点ということだけです。


 

 そしてオカ研部室にて、俺たちはイリナを迎え入れた。

 

「貴女の来訪を歓迎するわ、紫藤イリナさん」

 

 お嬢がにこやかにイリナを迎え入れ、イリナも改めて一礼する。

 

「はい! 初めましての方もいれば、もう会った方の人も多いですね。教会の……いえ、天界の使者として、駒王学園にやってまいりました!!」

 

 パチパチパチと、拍手が鳴り響く。

 

 まあ、確かに考えてみりゃそうだよな。

 

 この駒王学園。三大勢力の和平の象徴みたいなもんだ。天界からも一人ぐらいスタッフが来たっていいもんな。

 

 ほら、俺一応追放されてるから教会の所属じゃねえし。

 

 ちなみにイリナは「主への感謝ー!」「ミカエル様ー!」とかいつも通り。

 

 ……だけどよ?

 

「なあ、イリナ。聖書の神は……」

 

 ああ、すでにばらされてるとは言え、それでもちょっと気になっちまう。

 

 聖書の神は、すでに死んでる。

 

 それをヴィクター経済連合は堂々とばらしやがった。どうやらヴァーリに盗撮させて、それを公表したようだ。

 

 だから、もう知ってないとおかしいんだが、イリナの信仰心だと記憶をねつ造してもおかしくねえ。

 

 俺たちはものすごく心配なんだが、イリナは静かに首を振った。

 

「大丈夫よ、ヒロイ君。私はすでに主の消滅を受け入れてるわ」

 

 そ、そうか。

 

「意外にタフなんだな」

 

「ああ。信仰心が人一倍タフだったのに」

 

 イッセーとゼノヴィアが感心する。

 

 ああ、俺もそこそこ付き合いがあったが、正直意外だ。

 

 下手したら、精神病院に入院してる可能性すら考えてたからな。

 

「まさかショックを受けずにここまで来れるたぁ―」

 

「ショックに決まってるじゃないぃいいいい!!!」

 

 反応するまもなく、俺は胸ぐらをつかまれてぐわんぐわん前後にゆすられる。

 

 しかも勢いよく涙を流してるから、飛び散って顔が濡れる…‥っていうか口に入った!!

 

「心の支え! 宇宙の中心! あらゆるものの父がすでに亡くなられてるとかショックに決まってるでしょ!? 私は知ったとき一瞬で気絶して七日七番寝込んだし! そのあと二週間ぐらい、やけになってヴィクター経済連合に入ろうか悩んだし!?」

 

 あ、やっぱりショックだったか。

 

 あとすいません。勢い良く揺さぶられすぎて、後頭部とかがガンガンぶつけられていたいんですぜ嬢ちゃん!!

 

「はいはい、そこまで。とりあえず落ち着きなさい」

 

 姐さんありがとう。イリナを取り押さえてくれなかったら、俺気絶してた。

 

 そしてイリナはそのまま大号泣。やっぱショックはひどすぎるレベルか。よくひと月そこらで立ち直れたな、オイ。

 

 あまりに同情を誘うその泣きっぷりに、ペトはあたりを見渡し、お茶請けのクッキーを取り出した。

 

「ほら、ヒロイにたんこぶができてるッス。クッキーあげるから落ち着くッス」

 

「あ、ありがとう。うぅ、美味しさが心にしみるわ」

 

 ようやく泣き止んだイリナに、アーシアとゼノヴィアも思い出し涙目になりながら隣に寄り添った。

 

「わかります、その気持ち」

 

「ああ。私もやけを起こしかけたからな。……どこかの誰かのせいで持ち直した意味もなくなったが」

 

 マジごめんなさい!!

 

「ああ、ゼノヴィア、アーシアさん!! この前は二人ともごめんなさい!!」

 

 イリナは別の意味で涙を流しながら、二人に謝った。

 

 ……ああ、アーシアは最初にあったときの魔女扱いか。

 

 ゼノヴィアに関しちゃぁ……別れ際に揉めたとか言ってたな。

 

「いえ、気にしないでください」

 

「そうだ。あれは何の説明もしなかった私も悪かった」

 

 二人とも、気にせず笑顔で許してくれた。

 

 それにさらに感動したのか、さらに別の意味で涙を浮かべながらイリナは手を組んだ。

 

「ああ、主よ! この慈悲深い二人に祝福を!!」

 

 いや、その主はもう死んでるんすけど、イリナさんや。

 

 しかしなんか妙なテンションに同調したのか、アーシアとゼノヴィアもお祈りを開始する。

 

「いえ主よ。なにより今でも信徒として頑張ってるイリナさんにお慈悲を」

 

「その通りです主よ。まずはイリナにこそお慈悲を」

 

 ああ、そういや二人とも、もうお祈りできるようになってたよな。

 

 ホントに二人が祈れるようにするとは、ミカエル様も太っ腹だ。

 

 それもこれも、イッセーがミカエル様に直談判したからだな。大勢力のトップに直談判するとか、並の根性じゃできねえ。マジすげえぜイッセー。

 

 ゼノヴィアはイッセーにばかりモーションをかけてるし。イッセーのやつゼノヴィアをあれで堕としたしな。おのれむかつく!

 

「で、お前さんはミカエルからの使者ってことでいいんだな?」

 

「はい、ミカエル様はここに天使側からのスタッフがいないことを懸念されておりました。三大勢力の平和のシンボルにして、ヴィクター経済連合に名指しで指定されたこの場所を、天使側が守護しないのは問題だと」

 

 ああ、そういうことか。

 

 確かに、三大勢力の重要要素が集まって戦争寸前の事態になり、三大勢力のトップが集まって和平を行い、そしてそれを名指しで指摘されて第一次真世界大戦とすら呼称されているこの戦いの勃発の場所となったこの駒王町に、天界側が一人もいないってのは問題だな。

 

 俺、一応悪魔側の食客になってるし。

 

 ま、資金面とか結界の調整などではものすごい支援を受けてんだけどな。バックアップ体制だけならおつりがくるぐらい受けてるぜ。

 

「今いる人員だけでも充分なんだがよ。お人よしすぎるぐらいのバックアップで十分だろうに」

 

 アザゼル先生も苦笑してる。ま、確かに同感。

 

 ……しかし、だとするとちょっち疑問だな。

 

「でもよ。それなら信徒1人ってのも形だけすぎねえか? どうせ和平成立の場所として名指しされてんだし、枢機卿とかセラフとか言わないまでも、もっとお偉いさんが出てきたっておかしくねえんじゃねえか?」

 

 俺としちゃぁそう思うんだが、その辺どうよ?

 

 いや、イリナも聖剣使いという実力者なわけで、そういう意味じゃあ護衛としちゃ十分なんだがよ?

 

「それに関しては、すでに例の廃教会を改修中よ。それに、今の私は一信徒なんてレベルじゃないわ」

 

 ふふんと得意げに笑ってから、イリナは祈りをささげる。

 

 その瞬間、背中から後光が指す。

 

 さらに、頭上に光輪が浮かび、背中には一対の白い翼すら生えてきた。

 

 な、なんだなんだ!?

 

「すっげえ! まるで天使じゃねえか!」

 

「いや、こりゃマジで天使だな」

 

 イッセーが感嘆の声を上げると、アザゼルがそれに同意する……にしちゃなんか否定のニュアンスがあるんだが。

 

 その言い回しに視線が集まってることに気づくと、アザゼル先生はイリナに顔を向ける。

 

「理論段階では最近提唱された転生天使の技術。もう完成してやがったのか」

 

「その通りです! 悪魔の駒の技術をベースに、トランプをイメージした御使い(ブレイブ・セイント)と称す配下12名を、十四柱のセラフの方々が王の立場で編成することになりました!」

 

 て、転生天使!

 

「あらあら。天界も技術革新が進んでいるようですわね」

 

「転生悪魔の応用で転生天使だなんて、三大勢力和平の象徴になりそうだわ」

 

 二大お姉さまがそう感心するが、確かにこりゃすげえ。

 

 アザゼル先生も、素直に感心してた。

 

「こっちが提供した人工神器の技術も入ってんな。早速面白いもんを開発しやがる」

 

 しげしげとイリナを見ながら、アザゼル先生は考え込み始めた。

 

「悪魔がチェスなら天使はトランプか。トランプには切り札って意味もあるが、まさに増えなくなった天使にとっての切り札ってことか。組織合同のジョーカーとかいそうで気になるが、先ずはお前さんのスートだな」

 

「ミカエル様の(エース)をやらせてもらってます!!」

 

 えっへんと胸を張りながら、イリナは右手の甲とそこに浮かび上がったAの文字を見せつける。

 

 おお、セラフのトップでもあるミカエル様のエースとは、ものすごい名誉だな。

 

「くそ!! 私も破れかぶれで悪魔にならなければ転生天使になれたかもしれん。リアス部長には悪いが、ちょっと後悔が再燃してきたぞ!!」

 

「うらやましいでしょゼノヴィア! 私はこの栄誉だけで死んでいいわ! これからはミカエルさまのAであるという事実を糧に生きていくのよぉおおおお!!!」

 

 心底うらやましがるゼノヴィアに、イリナは勝ち誇った。そしてついでに祈りをささげた。

 

「……今度の生きる糧はミカエル様ってか」

 

「まあいいじゃない。生きる糧っていうのは、必要なものだと思うわよ」

 

 ちょっとあきれるイッセーをたしなめるように、姐さんがそう言ってフォローする。

 

 確かに、生きる目的ってのは重要だよな。俺や姐さんにとっての英雄しかり。イッセーにとってのハーレムしかり。

 

 うん、そういう意味じゃ、少しほっとしたぜ。

 

 そして、なんかほのぼのした空気の中、イリナは告げる。

 

「ぶっちゃけ、いい悪魔なら仲良くしたいと思ってました、紫藤イリナです!! ミカエル様も「みんな仲良くヴィクター経済連合を叩きのめしましょう」とのお達しですので、真剣に頑張らせていただきます!!」

 

 おう! よろしくな、イリナ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで新しい日常がやってきた。

 

 現在絶賛にらみ合い状態の第一次真世界大戦。日本は基本的に平和である。

 

 世界各国ではパニックが起き、そのはけ口として反撃を行っては返り討ちという流れができているが、日本は他国に仕掛けないという憲法があるから平和そのものだ。仕掛けてないから反撃もされてないしな。

 

 いや、他国からの輸入品が価格上昇ということで、経済的にはそこそこダメージがあるんだが、それを総理大臣が解決した。

 

 ……真っ先に異形の存在との交流を図るといい、枢機卿に使者を送ったのだ。

 

 さらに、日本の異能組織の存在を公表。彼らを筆頭とした防衛体制の確立に全力を尽くしている。

 

 その結果、三代勢力とのパイプが大きくなると同時、日本国民の精神的動揺も大幅に減衰。日本は正真正銘平和な時と同じぐらいの状況になっていた。

 

 いや、勢い余って落ち着きすぎな気もすんだけどよ。平和ボケってやつじゃねえか?

 

 ま、そのおかげで俺は体育祭に参加できるというラッキーな出来事に恵まれたわけだが。

 

「はいはい、それじゃあ、希望の競技を言ってきてねー」

 

「はいはーい! 私は―」

 

 と、桐生が自薦で参加する人を募り、イリナが勢いよく真っ先に名乗りを上げるなか、俺はどれに参加するか悩んでいた。

 

 やっぱここは綱引きか。悪魔祓いの身体能力なら、確実に力になれる自信があるぜ。

 

「……わ、私は二人三脚がいいです」

 

 と、そこでアーシアが手を上げた。

 

 そして顔を真っ赤にして視線をイッセーに向ける。

 

 ……その瞬間、このクラスの心は一つになった。

 

「イッセーイッセー。脇が破れてるっすよ?」

 

「え、マジで!?」

 

 考え込んでいたイッセーに、ペトが指摘する。もちろん本当に敗れてるわけじゃない。

 

 しかしイッセーは素直に反応して手を上げる。

 

 その瞬間、俺たちはカメラ機能を全開にした携帯やスマホでその証拠写真を撮った。

 

「実行委員! ブツは確保しました!!」

 

「はいよ~。其れじゃ、兵藤とアーシアは二人三脚っと」

 

 松田の声に即座にうなづき、桐生はイッセーとアーシアの名前を二人三脚の下に書き込む。

 

 ……しかし、ちょっと意外だったな。

 

 ゼノヴィアはイッセーに惚れてしまったと思ったんだが、張り合う気がなさそうだな。

 

 いや、アーシアのこともものすごく大事に思ってるし、アーシアとやりたがるという可能性もあったんだが。

 

「ゼノヴィア、お前は良いのか?」

 

「ん? ああ、そういうことか」

 

 そういうと、ゼノヴィアはふふっとほほ笑んだ。

 

「アーシアには借りもあるしな。イッセーを一番最初に好きになったのは彼女なんだし、それ位の役得はあっていいだろ?」

 

 ……ああ。最初にあったときの一件か。

 

 アーシアはもう全然気にしてなさそうだけどよ、それでも考えるあたり、こいつもいいやつではあるんだよな。

 

「そうだな、じゃ、先ずはディオドラのこと何とかしねえとな」

 

「ああ。まあ、私達はもめ事にならないと動けないんだけどね」

 

 そうなんだよなぁ……。

 

 いっそのこと、業を煮やしたディオドラが喧嘩でも売ってくれりゃぁ都合がいいんだけどよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、体育祭に向けての練習が始まった。

 

「勝負だイリナ!」

 

「負けないわよゼノヴィア!!」

 

「漁夫の利をいただくッス!!」

 

 ゼノヴィアとイリナのデッドヒートになるかと思われたかけっこで、隙をついてペトが追い抜いた。

 

 ……転生悪魔と転生天使とハーフ堕天使によるかけっこか。しかも体育祭の練習。

 

 なんかこれ、三大勢力の和平の象徴とみるべきかねぇ? それとも一種の代理戦争?

 

 なんか、マジすごい光景だよなぁ。数か月前じゃ考えられねえよ。

 

「しかし、高速で動かれるとおっぱいの動きが把握しづらいな」

 

「だな」

 

「やはり適度な速度が一番だよな」

 

「確かに風情がねえな」

 

 俺たちはそうしみじみと同意した。

 

 ああ、松田も元浜も、最近うざかったが根っこは変わらねえ。こういう時の馬鹿話に関しちゃ問題ねえな。

 

「……何してんだ、お前ら?」

 

 と、そこに匙がメジャーやらなんやら抱えて通りがかった。

 

「おう、匙。揺れるおっぱいを観察中だぜ!」

 

 とあほな返答しやがったイッセーと一緒に、俺は匙に近づいた。

 

 イッセーや。そこは嘘でも「速い走り方を足の速いやつ見て考えてた」とか言えねえのか。

 

 そんなんだからお前もてねえんだよ。いや、モテてるけど。

 

「相変わらずだな、お前ら」

 

「いや、おれも確かにそうだけど一緒にしないでくれねぇか?」

 

 同類扱いして勝手にドン引きする匙に、俺は文句を言う。

 

 ……プレイボーイの作法は心得てんだよ。俺は覗きはしねえ。

 

 ん? なんか腕に包帯が巻き付けられてねえか?

 

 イッセーもそれに気づいたのか、気づかわし気に視線を向けた。

 

「どうしたんだよ、その包帯? アーシアよんでこようか?」

 

「いや、怪我じゃないんだよ」

 

 そういって匙は包帯をめくる。

 

 ……そこには、大量の黒い蛇がのたうってるかのような入れ墨っぽいのが浮かんでた。

 

 一言いうけど、マジでキモイ。

 

「……呪いの文様?」

 

「やめろ兵藤。ヴリトラは良い伝説残してないんだよ」

 

 心底いやそうに匙は反論した。

 

 いや、呪われてもねえのになんで生徒会役員がそんなもん入れてんだよ。

 

「アザゼル先生に聞いたら、禍の団の襲撃でヴァーリ相手にラインをつないだのが原因じゃないかってさ」

 

 ああ。

 

 血を吸ってたな。二天龍の血を。

 

 オーラも流し込まれたな。反転した白龍皇のオーラを。

 

「なんか、やばいことになんねえかそれ?」

 

 俺は心底不安になったが、匙はあまり気にしてないみたいだ。

 

「いや、悪影響はないみたいなんだよ、特に不都合もないしな。で、お前らは何の競技に出るんだ?」

 

「ああ、綱引きだ綱引き。目立たず確実に貢献できるからな」

 

「俺はアーシアと一緒に二人三脚だ。仲よくゴールしてやるぜ!!」

 

 にやけるイッセーに、匙は心底嫉妬の視線を向けてきた。

 

 激しく同意だ。一万年ぐらい末永く幸せな生活を送ってから大爆発しやがれ。むしろ核爆発しやがれ。

「ケッ! うらやましい奴め。俺はパン食い競争だよ畜生め」

 

 そんだけ文句をついてから、匙は遠い目をした。

 

「……俺は、いつになったら主様の胸を揉めるんだろうな。お前は揉み放題だってのに」

 

「……俺も、姐さんと混浴したかったなぁ」

 

 二人でジト目でにらむと、イッセーは何を言ってんだって顔になる。

 

「いや、俺だってそんな毎回揉めてるわけじゃねえし、リセスさんと毎回風呂に入ってるわけじゃねえよ。普段は部長やアーシアと一緒に風呂に入ってるんだ。幸運が重なって何とか揉めてるんだ」

 

「「死ね!!」」

 

 渾身のツッコミを入れた。

 

 そんなことを言ってたら、いつの間にか鋭い視線が突き刺さる。

 

 振り返ると、そこには生徒会長と副会長だ。眼鏡が光って怖い!!

 

「匙、これからテントの設営個所のチェックだといったでしょう?」

 

「男手が少ないのですから、ちゃんと働いてくださいな」

 

「はい! じゃ、俺はこの辺で……」

 

 完璧にしりに敷かれてるな。上下関係が二重で成立してっから当然だけどよ。

 

 これじゃあ、できちゃった結婚なんて夢のまた夢だな。アーメン。

 

 んなこと思ってると、ドライグの声が響いた。

 

『ほう。ヴリトラの魂が濃くなってきたようだな、あの坊主』

 

「え? なに、どういうことだよ?」

 

 イッセーがよくわからないって顔になる。

 

 ……そういや、あいつの神器はヴリトラの魂を宿してるって、アザゼルが言ってたな。

 

 しかし、ドライグは詳しい説明をしてくれない。

 

『気にするな、白いのとの直の接触が影響を与えたらしい。俺も近くにいたしな、さすがは邪龍といったところか』

 

「……匙に変な影響は出てこないだろうな」

 

 なんか、すごく不安になってきたんだが

 

『流石にそこまではないだろう。なにせ、奴が宿しているのは魂のごく一部だ。まあ、ファーブニルやヴリトラが近くにいて、タンニーンに鍛えられるとはな。相棒は龍王に縁があるようだ』

 

「マジか。じゃ、ほかの龍王とも会うのかもしれないのかよ」

 

 ドライグは俺を安心させるつもりだったみたいだが、逆にイッセーが不安そうになった。

 

 た、確かにそんな大御所と連続して出くわすのは、心臓に悪いな。

 

 たしか、あとは中国と北欧とシュメールだったか?

 

『……相棒、ティアマットにだけはかかわらないでくれよ。奴とだけはまだ会いたくない』

 

 ……ドライグ。ティアマットは雌のドラゴンらしいが、まさか付き合ってたんじゃないだろうな。

 




イリナ「本気でヴィクター経済連合に入ろうかと思ったわ」

ペト「身体能力は一応上級クラスあるんッス」

ドライグ「いや、借りたものを強奪されてな……」


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第二章 21

お気に入りは順調に増えっててるけど、評価は着実に下がっててる……(泣

10とか9とかわがままは言わない。8とか7とか増えてくれぇええええ!!! なぜお気に入りは増えてるのに高評価は増えないんだ!!


 

 で、数日後。

 

 事態は急展開になりやがった。

 

 例の次期当主候補同士のレーティングゲームだが、マッチングを変えて再開されることになった。

 

 バアルとグラシャラボラスの戦いは、ゼファードルが熱望したことで続投だが、ほかが変わる。

 

 なんでも、ディオドラが積極的にグレモリーとのレーティングゲームを求めたらしい。同時にお偉いさんは会長を指揮方面に長けていたアガレスの次期当主とぶつけたくなったとか。それでマッチングが変更になった。

 

 まず一回目が、サイラオーグ・バアルVSゼファードル・グラシャラボラス。

 

 二回目が、お嬢ことリアス・グレモリーVSディオドラ・アスタロト。

 

 そんで最後が、生徒会長ソーナ・シトリーVSシーグヴァイラ・アガレス。

 

 ……ディオドラの奴、お嬢とのレーティングゲームの景品にアーシアを求めるとか言い出さないだろうな。

 

 いや、相当ご執心のようだし、可能性は考慮すべきか?

 

 とにかく、そういうわけで急遽作戦会議が開かれた。

 

 幸い、すでに参考資料としてバアル対グラシャラボラスの戦いはすでに終わっている。バアルの圧勝だそうだ。

 

 ……で、それを見ることになったわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、俺たちは部室に集まった。

 

 いや、グレモリー眷属だけでもいいと思ったんだが、関係者も含めて集まった。

 

 すでに身内って認識されてるってことなんだろうな。ちょっとうれしい。

 

「それじゃあ、みんな集まった所で始めるわよ」

 

 お嬢が確認して、記録メディアらしきものを取り出す。

 

 ここに、ちょっとまえに行われたバアルVSグラシャラボラスの戦いが映ってるわけか。

 

 で、それを見た。

 

 ぶっちゃけ、最初は面白全部だ。だって俺、レーティングゲームには参加しねえもん。

 

 んなわけで完璧にスポーツ観戦のノリだった。ポテチとか持ってきてたし、イッセーの膝の上に座っている小猫ちゃんにもプレゼントしたし。

 

 だけど、ちょっとマジでビビった。

 

 はっきり言おう。サイラオーグ・バアルは圧倒的な存在だ。

 

 どちらの眷属も、はっきり言ってこれまで戦った悪魔の眷属の中でも有数だ。

 

 さすがは次期当主候補の眷属。選球眼が優れてるって断言できる。

 

 ゼファードルの眷属も、俺が戦った正式な悪魔の眷属の中でも有数だ。それも、全員。

 

 特に、姐さんが気になった少女悪魔が強い。

 

 名前はプリス。担当の駒は僧侶だ。

 

 僧侶の駒の名に違わず、魔力によって炎や氷を即座に大量に操る手際はすごい。下手すれば、お嬢や朱乃さんにも匹敵するんじゃねえか?

 

 更に丸鋸のような魔力を形成して、バアル眷属の騎士のランスや剣をぶった切る手際は見事だな。

 

 こっそり姐さんがガッツポーズしてたのは、俺とペトの内緒だ。こっそり顔を見合わせて、ほほ笑んだのも内緒。いや、可愛いところ見れました。

 

 だが、それもすぐに掻き消えた。

 

 バアル眷属は、さらにその上を行っていると断言できる戦力だった。

 

 全員の能力も技術も練度も、ゼファードルの眷属を平均して圧倒的に上回っていた。しかも、兵士を運用していないため数で不利なのにもかかわらずだ。

 

 サイラオーグ・バアルの眷属はほとんど無事な状態でゼファードルの眷属は全滅。かろうじてプリスが敵の戦車の1人を道連れにしたが、それだけだ。

 

 で、追い詰められたゼファードルはサイラオーグに一騎打ちを誘った。

 

 一発逆転に全てかけたんだろうな。ま、普通は乗らねえが。

 

 しかしサイラオーグはそれを承諾。最終決戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 ―そこから先が真の意味で圧倒的だ。

 

 ゼファードルの戦闘能力は、間違いなく高水準だ。少なくとも同年代の上級悪魔の中では頭一つどころか二つは飛びぬけてるな。ちょっと前の俺なら聖槍を抜いているところだ。

 

 特に攻撃力が高い。見た通りの脳筋かと思ったが、魔力の運用もそこそこできる。

 

 さすがは凶児と呼ばれてんのに次期当主の代役やってるだけあるな。実力だけは本物ってことか。

 

 だけど、サイラオーグ・バアルの前には霞んじまう。

 

 放たれる魔力弾を、サイラオーグ・バアルは素手で全弾迎撃。展開された魔方陣を素手で全部粉砕。そして喰らったゼファードルは悶絶。

 

 ぶっちゃけ圧倒的だろう。かわいそうになってきたぞ。

 

 その後も圧倒的な戦いにもならないゲームは続く。

 

 ゼファードルは意地で攻撃をサイラオーグに当てることができたが、ちっとも効いてなかった。

 

 もう、その時のゼファードルの絶望の表情とか、マジでシャレにならねえ。

 

 しかも何とか攻撃をかわしたはいいが、そのパンチの余波で建物が吹っ飛んだ。拳で、建物が、吹っ飛んだ!

 

 その時のゼファードルのビビりっぷりとか、マジで見るのがかわいそうになるぐらいだ。

 

「凶児と呼ばれ忌み嫌われた、ゼファードル・グラシャラボラスがこうも一方的にとは。……これほどのものなのか、サイラオーグ・バアル……っ」

 

 木場もその光景に驚愕する。っていうか、グレモリー眷属最速の木場の動体視力ですら把握できてないっぽいぞ、コレ。

 

 ぶっちゃけ俺は何とか見えた。聖槍を展開して加護受けてようやくだがな。

 

 そして、建物の陰に隠れながらおびえ切ったゼファードルが降参を宣言して、圧倒的な勝利をサイラオーグ・バアル眷属は見せつけた。

 

 下馬評の時点で勝ち負けはわかりきってたけど、ここまでかよ。

 

「ゼファードルって、どれぐらい強いんですか?」

 

「若手悪魔全体でいえば、決して弱い悪魔じゃないわ。本来の次期当主が死亡したうえでの代理とは言え、次期当主として出てきたわけじゃないもの」

 

 お嬢はそういうが、それがわかってるからこそ戦慄してる。

 

 下馬評じゃあゼファードルは若手六組の中でも最弱だったが、それは逸材ぞろいの若手当主の中での話だ。俺からすればチンピラのくせして化け物だといいたいね。

 

 それが、一蹴といってもいい大敗北。こりゃすげえ。

 

「恐れ入った。さすがは大王家バアルの次期当主。才能に恵まれてるというほかない」

 

「そうっスね。あの年で魔力も使わずあの拳、格闘技の天才といっても過言じゃないッス」

 

 ゼノヴィアとペトも、少し気圧されながらも認めるしかねえわな。

 

 いや、ペトも狙撃の化け物って意味じゃあ規格外なんだけどな?

 

 ……あれにダメージ与えるのは、光力の弾丸でも目玉とか狙うしかねえんじゃねえか?

 

 そんなわけで評価うなぎのぼりなんだが、アザゼル先生は首を振った。

 

「いや、奴はバアル家きっての無能といっても過言じゃない」

 

 はぁ? アザゼル先生、アンタ目の病気か何かじゃねえの?

 

 俺はそう思ったけど、姐さんは何かに気づいたみたいだ。

 

「……リアス、アザゼル。もしかして、彼が魔力を使わなかったのは手加減とか舐めプとかじゃないの?」

 

 あ、そういやあの人、魔力で戦闘しなかったな。

 

 純血悪魔の戦闘といやぁ、魔力が基本だ。

 

 特に、バアルの特色である消滅は強力。その血を引くお嬢やサーゼクス様の戦闘能力が規格外なのも、それが要因の一つといってもいい。

 

 使う必要もないから使わなかったとか、主義に反するだけとか思ったんだが。

 

「そうよ、リセス。サイラオーグは、産まれたときから魔力をかけらも宿してなかった、悪魔として無能の存在なの。現当主は、彼のことを欠陥品と蔑んでるわ」

 

 マジか。あれだけの戦闘能力なのに?

 

「……ま、バアルの血筋で今強力なのは、ヴェネラナ女史の方だからな。その血を継いだリアスやサーゼクスは規格外の領域だし、バアル本家としちゃぁ、もうご立腹だろうよ」

 

 あぁ~。それは本家の連中はマジギレしそうだな、オイ。

 

 本家のプライド丸つぶれだもん。仲悪いんじゃねえか、コレ。

 

「で、でも! ゼファードルの奴ぼっこぼこにされてたじゃないですか!!」

 

 イッセーがそう反論するが、アザゼルはそれに対して静かに告げる。

 

「本来上級悪魔の家系がしないことをして、極限まで力を高めたんだよ」

 

 そういって、アザゼルが指を慣らす。

 

 そして、ステータスが浮かび上がった。

 

 ……細かいところは省くと、こうなる。

 

 サイラオーグ・バアルのパワーは、二番手のゼファードルの数倍。天井にまで棒グラフが上りやがった。

 

「血がにじむなんて目じゃないぐらいの修行と鍛錬。尋常じゃない修練の果てに、奴はこれだけのパワーを得ることに成功したのさ」

 

 し、神器も魔力もなしにこれだけの身体能力を……だと!?

 

 ふざけんな、努力だけでここまで到達できるとか、そっちの方が化物じゃねえか。

 

「……才能は、あったんでしょうね。だけどそれは、本家が望むものではないから、本来日の目を見ないはずだった」

 

 そう、姐さんが感慨深げにつぶやく。

 

「だけど彼はあきらめなかった。それが、その才能を引き出したのね」

 

 それは、どこか共感の感情を感じさせるものだった。

 

 姐さん……?

 

「……ごめんなさい、こっちの話ね」

 

 姐さんはそれ以上その話には触れず、アザゼルに視線を向ける。

 

「だけど、そんな来歴だと、あそこまで行くまで相応の苦難が降りかかってきたようね?」

 

「ああ。魔力を持たない純血悪魔が、それを翻して次期当主と認められるなんて壮絶すぎる来歴さ。……そういう連中は例外なく本物だ」

 

 その言葉に、俺たちはしんとなった。

 

 そして、映像が終わってから、アザゼルは告げる。

 

「先に言っとくが、ディオドラと戦ったら次はサイラオーグになるはずだ」

 

「少し早いのではなくて? ゼファードルの方と先にやることになると思うのだけれど……」

 

 ほとんどのメンツの驚きを代表して、お嬢が聞く。

 

 そして、其れに応えたのは俺だ。

 

「いや、ゼファードルは完全につぶれましたよ」

 

 ああ、あの姿を見ればわかる。

 

 震えながら、みっともなく泣きわめきながら、そのうえで恥も外聞も投げすてて降参するゼファードル。

 

 ああ、あいつは間違いなく―

 

「―奴は心に恐怖が刻み付けられて、そのまま折れました。ああなったら再起不能ですよ」

 

 悪魔祓いの中にも、そういったやつがいたことがある。

 

 圧倒的強者とやり合う羽目になり、生き残ることはできたが闘志が死んだ手合いがいる。ゼファードルもそういった手合いになった。

 

「たかが競技試合であそこまでへし折るとか、あの男は殺す気でやってんですかい?」

 

「だろうな。お前らも気をつけろよ。あいつは本気で魔王になろうとしている。そこに一切の躊躇も妥協もねえから、相手の精神をへし折る程度のことは造作もなくやるだろうよ」

 

 アザゼル先生の忠告に、グレモリー眷属が気を引き締め治して頷いた。

 

「じゃあ、そろそろディオドラの対策を考えましょ―」

 

 その瞬間、部屋の片隅に転移用の魔方陣が展開された。

 

 あ、この文様は―

 

「これは、アスタロトの……」

 

 そして閃光が輝いた後、そこには優男が、美少女を伴って姿を現した。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。こちらは護衛のシシーリア・ディアラク。アーシアに会いに来ました」

 

 …………俺は、その顔を見た瞬間心に決意をした。

 

 英雄(輝き)として、これだけは譲れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 なんかマジでむかついてきた。

 

 ディオドラの奴、アーシアをトレードしたいとか言ってきやがった。

 

 トレードについては、前にライザー(焼き鳥野郎)の妹のレイヴェルから教えられたから知ってる。悪魔の駒を保有している者同士で、駒を宿した転生悪魔や駒そのものを交換するというレーティングゲームにも認められた公式ルールだ。

 

 だけど、ディオドラは惚れた女と一緒になるためにトレードを使ってこようとかしてる。

 

 何考えてんだこいつ。順番が間違いなく逆だろ。部長もマジでキレてる。

 

 しかも、それを断られたら、今度は今度のレーティングゲームの勝敗で賭けてきやがった!

 

 ……本気で何考えてやがんだ、こいつは!

 

「……ディオドラ。何度来られようと私の答えは変わらないけど、一度叩き潰されないとわからないのなら、本気でつぶしてあげるわ」

 

「怖い怖い。だけど、勝つのは僕ですよ?」

 

 そう視線をぶつけ合う二人の間に、バチバチと火花が散ってるのがわかる。

 

 俺たちもかなりイラついてる。ゼノヴィアなんか今にも切りかかりそうで、ペトとリセスさんは抑えるために後ろに回り込んでる。

 

 そして、ディオドラの視線はアーシアに向いた。

 

「ああ、アーシア。君の目はつらい出来事のせいで曇ってしまったようだね。……必ず目を覚まさせてあげるから―」

 

 んの野郎、その汚らしい手でアーシアに触れ―

 

「……とりあえず、そこまでにしてくだせぇ」

 

 そこに、ヒロイが割って入った。

 

 い、いつの間に!! さすが歴戦の悪魔祓い!!

 

「……邪魔しないでくれないかな? 転生悪魔にもなってない、下等生物に邪魔されるのは心外だね」

 

 んの野郎……っ! それがお前の本性かよ!!

 

 ニコニコ笑顔を全く崩さず、平然と毒舌をぶちかましやがった!!

 

 そんな言葉を平然と受け止めて、ヒロイはニヤニヤと笑みを崩さない。

 

「いや旦那ぁ。今このタイミングでアーシアに触れたら、周りの連中全員ぶちぎれますぜ? 神滅具二つも向けられると、いくら上級悪魔の跡取りといっても危険じゃないっすかねぇ?」

 

 その言葉に、ディオドラは少しだけ考えこむと、小さくうなづいた。

 

「確かにそうだね。この程度なら僕一人で十分だろうけど、グレモリーの次期当主が癇癪に任せて暴れだしたなんて醜態、さすがにちょっとかわいそうだ」

 

 なんつー余裕だ。どんだけ自分の実力に自信があるんだこいつ?

 

 たしか、前評判ではディオドラの方が部長より下だったよな? なのに全員総出で勝てるという自信がある?

 

 なんだ? いったいディオドラの奴、どんな隠し玉をもってやがる?

 

 俺たちがその余裕に怪訝な表情を浮かべる中、動く人がいた。

 

 ディオドラの護衛として来てた、シシーリアだ。

 

「でぃ、ディオドラさまに手を出すなら、微力な雑魚ですが妨害させていただきます」

 

 震えながら、だけどハルバードを構えるそのシシーリアに、俺たちはちょっと戸惑う。

 

 そ、そこまでディオドラの奴、この子に忠誠を誓われてんのかよ。

 

 な、なんでそんなに……?

 

「……シシーリア」

 

 と、ヒロイがシシーリアに声をかけた。

 

 ん? なんだなんだ?

 

「お前は、照らされてるか?」

 

 ん?

 

 て、照らされてるか? 意味が分かんねえぞ。

 

「………」

 

 シシーリアさんも視線をそらした。

 

 意味が分からないから引いてんのか?

 

「……すまん」

 

 ヒロイの奴が謝ったけど、もう何を考えてるのか全く分からねえ。

 

「よくわからないことを言う下等種族だ。できればお仕置きをしたいけど、そんなことをしたらグレモリーが怒り狂いそうだ」

 

 ニコニコ笑顔を全く消さず、ディオドラはそんなことを言うとシシーリアの肩に手を置く。

 

「今回はここで帰るとするよ。シシーリア」

 

「は、はい!! 反応が遅いポンコツですいません!!」

 

 こ、この人自分のこと卑下しすぎだな!

 

 ディオドラも困り顔になったよ。さっきまで笑顔を消さなかったのに。この子ある意味すごいな。

 

 そして、ディオドラは魔方陣の輝きに包まれて転移する。

 

「……朱乃、塩をまきなさい!!」

 

「全くですわ」

 

 部長、日本の文化詳しいですね。

 

 俺が感心してると、ヒロイは何も言わずに部室のドアを開ける。

 

「悪い、ちょっと外の空気すってくる」

 

 そして返事も聞かずに外に出ていった。

 

 ………もしかして、アレ、口説き文句?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




そう言うわけでディオドラの本性が出始めた回。

意味深というか意味不明なことを言ったヒロイですが、読者の視点からならよくわかると思います。

ヒロイ・カッシウスにとって、英雄とは輝きなのですから。



それと、リセスに関与しているグラシャラボラス眷属の名前はここで判明。

ちなみにリセスとプリスは同じ単語からとっている名前でもあります。結構すぐにわかると思いますよ?


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第二章 22

今回、切りどころに苦労したのでかなり長めです。


 

 その日の夜、俺は会長を呼び出すと、隣町のラーメン屋に誘った。

 

「なんだよカッシウス。俺と会長を呼び出して何の用だ?」

 

「悪魔の依頼だよ、依頼。親しき中にも礼儀ありってこの国じゃ言うだろ?」

 

 ああ、ちょっと色々あるからな。少し人の力が借りたかったんだ。

 

 お嬢達はレーティングゲームが近いから、あまり人手を割かせたくねえ。ディオドラにも関わるから、ちょっとあれだしな。

 

 つーわけで、俺の近くでお嬢達以外の悪魔の集まりといや、会長達ってわけだ。

 

 ちなみに、お嬢達に心配かけたくねえから今回の依頼は「近場の美味い飯屋を教えてもらう」ってことにしてる。匙は数駅離れた所に住んでるらしいからな。

 

「……依頼そのものは匙という事にして、本当に依頼したい事は私にですか。冥界そのものに関わっている可能性もありそうですね」

 

 会長がため息交じりにした推測は、見事に大当たり。

 

 ああ、ちょっと気になる事があってな。

 

「ディオドラの眷属の一人について、詳細なデータが知りたいんだよ」

 

「……確か、夕方にリアス達が揉めたと聞きましたが」

 

 会長には少しは話が通ってるようだな。

 

 と、いうわけで俺は簡単にまとめて説明する。

 

 当然、反応はよろしくなかった。

 

「……婚約の成立をレーティンゲームで賭けたリアスでは断りづらいですね。あの時とは状況が何もかも違いますが」

 

「惚れた女をそんな形でものにしようとか、何考えてやがんだ!」

 

 二人とも割と不機嫌になったけど、匙、お前はちょっと反論難しくねえか?

 

 できちゃった結婚を狙うってのも、色々あれだぞ、マジで。

 

「しかも和平が成立して人間との交流も考えられる時期に、その態度はいただけませんね。せめて人間がいないところで言ってもらわないと」

 

 やれやれといわんばかりに、会長はまたため息をついた。

 

 まったくだ。アイツ和平が結ばれたって自覚足りねえんじゃねえか?

 

 ま、俺が相対した悪魔の連中は、はぐれ正統含めてかなりの数の連中が人間を見下してたけどよ。

 

「俺のダチを馬鹿にしやがって! 会長! いっそのこと俺達がレーティングゲームでボコボコにしましょう!!」

 

「落ち着きなさい、匙。気持ちは分かりますが、それはリアスに譲りましょう」

 

 おや、たしなめてるつもりがあまりたしなめられてねえな、会長。

 

 ま、そんなことしてるうちに目当ての店に到着。

 

 隣町の名店らしい。安くて美味くて早いという三拍子揃った店で、匙はよく世話になってるとか。

 

「……俺、夏休みのごたごたの成果で年俸上がったから、家族も呼んだらどうだ? 奢るぞ」

 

「気持ちだけもらっとくよ。元吾も華穂ももう寝てるからな」

 

「いや、親御さんはまだ起きてるだろ。明日土曜だし―」

 

 俺は最初から親御さんを呼ぶつもりだった。

 

 いや、確かに都市の小さな弟妹がいるみたいだし、両親を二人とも連れ出すのはまずいのか?

 

「―両親は、二人とも死んでんだ」

 

「……あ、悪い」

 

 マジかぁ。俺、地雷踏んだぁ……。

 

 この日本で学生が両親と死別とか、そうはねえだろ、なんだよこのピンポイント。

 

 こ、これは俺の英雄スキルである土下座を披露する時か?

 

「……親に捨てられたお前よかマシだよ。気にすんな」

 

 い、言われてみれば俺のが酷いか……?

 

「ま、そういうわけで俺が悪魔稼業で稼いだ金で食ってるようなもんなんだ。気にしてんなら、報酬は割高で頼むぜ?」

 

 そうおどけて言われちゃ、あんまり気にするわけにもいかねえか。

 

「よっしゃ! そんなんじゃ高いもん食ったことねえだろ! 会長も一緒に一番高いメニューと行きますか!! トッピングもマシマシでな!!」

 

「お、いいねぇ!! 会長も思いっきり食べてやりましょう!!」

 

「この時間帯の暴食は太るのですが……。まあ、たまにはいいでしょう」

 

 お、会長も乗ってくれたよ!

 

 よっしゃ! ここはいっそのこと太りそうなラーメンを頼んじゃうかな!!

 

 そう思いながら扉を開けようとすると、それより先に扉が開いた。

 

「お、聖槍と邪龍の兄ちゃんじゃねえか」

 

「ほう。偶然だな」

 

 ―そこに、美候とヴァーリがいた。

 

「「「!?」」」

 

 俺達は度肝を抜かれたが、すぐに下がって警戒する。

 

 お、オイオイオイオイ! こんなところで戦闘したらこの店が吹っ飛ぶどころの騒ぎじゃねえぞ!?

 

 どうすんだよ、この状況!

 

 とにかく戦闘態勢を取ろうとするが、それより早くヴァーリは掌を見せて制止する。

 

「まあ待て、この良い店を吹き飛ばすような真似はしない。俺達も用事は済んだしもう帰る」

 

「……流石に、ここで人間界に危害を加えるわけにはいきませんか。二人とも、矛を収めなさい」

 

 か、会長がそう言うなら仕方がねえか。

 

 俺と匙はしぶしぶ闘う姿勢を解除する。ヴァーリもすぐに笑みを浮かべると手を下げた。

 

 そして、美候はヴァーリの後ろから匙を見て片手を上げた。

 

「よぅ! おまえさんがヴァーリを沈めたって? そこの嬢ちゃんも見事な作戦じゃねえか!!」

 

「お、おう……」

 

「一応、誉め言葉と受け取っておきましょう」

 

 匙と会長はそう答えるが、しかし何考えてやがる?

 

 こいつら、よりにもよってテロリストの精鋭部隊だってのに、こんなところにのこのこと現れやがって。

 

 何かあったら、すぐにでも戦闘を開始しないとまずいな。会長と匙も警戒だけは解いてない。

 

 それを見て、ヴァーリは苦笑した。

 

「そう警戒しないでくれ。せっかく見つけた輝く原石だ。磨かれるまで俺から手を出すつもりはない」

 

「まったくだぜい。やるならせめて、そこの邪龍の兄ちゃんが禁手に至ってからだぜい」

 

 このバトルジャンキーが。そんなに戦いたいか。

 

 そりゃ俺だって戦果は上げてえが、其の為に罪のない連中を不幸にする気はねえぞ。

 

 こいつら、遠慮なく和平会談でテロったからな。全く信用できやしねえ。

 

「まあいいさ。ついでに君達にも伝えておこう」

 

 ヴァーリは苦笑して帰り支度を始めながら、俺達にこう言った。

 

「……ディオドラ・アスタロトには気を付けた方がいい。兵藤一誠にも伝えておいたが、一応言っておこう」

 

 ……おいおい、この男がわざわざ名指しで指定するほどの奴だってのか、あの野郎は。

 

 ちなみに、ラーメンに関しては深夜だったので学生お断りと言われてしまった。残念!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うっへぇ。残念無念。

 

 と、思いながら帰ってきてみれば、そこにはエロいコスプレをした美少女達の姿が。

 

「イッセーもげろ」

 

「なんでだよ!?」

 

 とりあえず、イッセーにはそう言っておいた。

 

 だって、アーシアも小猫ちゃんもこっそり俺から見えないように移動してんだぜ?

 

 あのゼノヴィアですら、いつの間にやらイッセーの近くによっている。まあ、とっくの昔にイッセーに狙いを定めたのは知ってるけどな。

 

 つまり、この馬鹿は自分が気づいてないだけでもうハーレムできてるようなもんなんだよ。

 

 悪魔は実力さえあればハーレム作れるし、まず間違いなくイッセーは戦闘能力だけなら上級余裕で狙えるし、もう障害なくね?

 

 くそ! 俺はまだ童貞なのに許せん!

 

 そんな俺の両肩に、やわらかい感触が振れた。

 

 ん? なんぞこれ?

 

「おやおや~? ヒロイ、英雄が嫉妬はダメだと思うっすよ?」

 

「そうそう。私達が可愛がってあげるから我慢しなさい」

 

 ……お、おお! エロアニメで見るようなサキュバスの恰好をした姐さんとペトが、俺の体にくっついてふっはっ!

 

「ヒロイしっかりしろぉおおおお!!!」

 

 ふと気づくと、俺は鼻血を流しながらイッセーに抱きかかえられていた。

 

「死ぬな! 俺達はこれからこの桃源郷で人生ゲームをするんだ!! だから死ぬな!!」

 

「イッセー。はは、幸せすぎて死ぬところだったぜ……」

 

 俺達は、お互いに鼻血を流しながらも根性で命をつなぐ。

 

 ちなみに人生ゲームは割と面白かった。ボードゲームも結構いいな、オイ。

 

「まさか、ここまで効果覿面だなんて……。ちょっと可哀想だと思っただけなんだけど」

 

「そう言えば、ヒロイさんはリセスさんを初対面の時から慕ってますね。なんででしょう?」

 

「それが心当たりがなくて。悪魔祓いとは共闘したことあるけど、それ五年も前だから彼は現役じゃないし」

 

 と、姐さんは小猫ちゃんと会話していた。

 

 ああ、そういえば言ってなかったな。言う気もなかったけど。

 

「あと二年ほど前に敵対したことがあるわね、京都府で」

 

「そうなのか? 確か、ジークはその時から精神の均衡を崩したらしいな」

 

 と、俺が指摘する前に会話の矛先がジークってやつに映る。

 

 確か、どっかの戦士育成機関出身のスーパーエリートだったな。俺が現役の頃には精神に異常をきたしかけてたとか聞いたけど。

 

 それ、姐さんが関わってんのか?

 

 と、姐さんはすごく言いづらそうに視線を逸らしていた。

 

「……はぐれ者の妖怪と出くわして退治したんだけど、そいつ信徒にも危害を加えてたみたいなのよ」

 

「そうなんすよ。自分もその時襲われて、その時お姉さまに助けてもらったッス!」

 

 ペトが姐さんの会話をつなぐ。

 

 ああ、どこで接点があったのかと思ったけど、そこで接点があったのか。

 

「その時は、総督と気の合った神社にお世話になってたんすけど、そこを狙った犯罪者の妖怪に襲われて大変だったッス。で、そいつが殺した信徒の仇討ちの為に実力者揃いの悪魔祓いが介入してきて三つ巴になったッス」

 

 ……ああ、そういえば日本で現地の連中や堕天使勢や妖怪と揉めたって話があったような。

 

 で、その時にジークを倒しちゃったと?

 

「確か、その時は魔剣を五本も持ってたっスね、お姉さま」

 

「ええ。腕が三本もあって持ち替えながら仕掛けてきたけど、魔剣に頼り気味だったから思ったより楽に勝てたわ。調子に乗ってたんでしょうね」

 

 と、姉さんはそういうが、なんかすごく言いづらそうにしていた。

 

 それにちょっと気になるんだけどよ。あの時ジークの奴、グラムしか使ってなかった気がするんだけどよ。

 

 まさか、何かしたのか?

 

「……その時、独り言でぽつりと感想漏らしたのよ。自戒も込めて」

 

「なんて言ったんだ?」

 

 ゼノヴィアが先を促すと、姐さんは少し躊躇して―

 

「―すごいおもちゃをたくさん持ってるからって、強くなれるわけじゃないわよね……って」

 

 少し顔が赤かったのは、責任感じてるからなんだろうな。

 

 確かに、それが聞こえてたならジークの奴、アイデンティティぶち壊れるだろ。

 

 魔剣五本に選ばれるとか、自慢にしかならねえだろうしな。まず間違いなく心の拠り所っつーか、柱になってただろ、それ。

 

 それが負かした相手にそんなこと言われたら、ショックもでかかっただろうなぁ……。

 

「リセスさん。それ、とどめだったんじゃないですか?」

 

「……責任をもって倒します」

 

 珍しく姐さんが敬語使ったよ、それもイッセー相手に。

 

「たっだいまー! なんかリアス部長と朱乃さんが喧嘩してたけど、何かあったの?」

 

 と、そこでイリナが帰ってきたので空気がやんわりとなった。

 

 イリナの奴、こういう時ムードメーカーになってくれるから役立つな。明日学食奢ってやろう。姐さんを助けてくれてありがとよ。

 

「あ、悪魔式の人生ゲームとかすごく面白そう!! 転生天使が悪魔の人生を追体験とか、複雑怪奇で楽しくなるわね」

 

 と、イリナはこっちのゲームに興味をしめした。

 

 いや、それどうよ。

 

 なんつーか、こいつなんだかんだで人生楽しく生きていきそうなタイプだよなぁ。前向きっつーか立ち直りが意外と早いっつーか。

 

「……ふふっ」

 

 と、そこでアーシアがクスリと笑う。

 

 ん? なんだなんだ?

 

「なんだか、すごく毎日が楽しいです」

 

 そういって、アーシアは笑顔を見せた。

 

 そっか。毎日楽しいか。

 

 それってすごく幸福な事だ。嬉しいなんて感情をろくに知らない路上生活を送ってきた俺だからこそ、断言できる。

 

「ずっと、こんな毎日が続くといいです」

 

「……そうだな」

 

 イッセーがそう答え、俺達は皆でほっこりする。

 

 ああ、こりゃディオドラに負けるわけにはいかねえな。いや、俺や姐さん達は関われねえんだけどよ。

 

 こりゃ責任重大だぜ、イッセー?

 

 そんなこんなで人生ゲームを仕切り直してると、お嬢が入ってきた。

 

 つかなんでバニーガール? いや、似合ってるけどよ?

 

「……冥界から、連絡が来たわ」

 

 と、なぜかお嬢は戸惑ってた。

 

 部屋中の視線が思わず集まる。いったい何事ですかい?

 

「私達グレモリー眷属に、冥界のテレビ局が番組に出演してほしいって……」

 

 三秒ぐらい沈黙した。

 

「「「「「「「「て、テレビ番組ぃ!?」」」」」」」」

 

 おいおい、マジかよそれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、俺や姐さんは参加しなかったんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶはははははは!!!」

 

「わ、笑うなよヒロイ!!」

 

 俺は、駒王学園に返ってきたイッセーの説明を聞いて爆笑した。

 

 いや、マジで笑える。ホント笑える。

 

 なんだよ、乳龍帝って!!

 

「お、おま……っ。流石にそれはねえだろオイ!」

 

 俺は目に涙を浮かべながら、笑いを抑えるのに必死だった。

 

 テレビ番組に出演する事になったイッセー達だが、理由は結構単純だった。

 

 夏休みの終盤に起こったヴィクター経済連合の襲撃事件。その事件で活躍して賞を受賞した若手眷属。そして悪魔祓いを迎撃し、大半を投降させたグレモリー眷属。

 

 それに対するいわゆるインタビューってやつだ。会長やサイラオーグ・バアルも眷属もろもろインタビューを受けたそうだ。

 

 その時、サイラオーグから「小細工無用の真っ向勝負」をしたいとイッセーが言われたそうだが、それはまあ置いといて。

 

 なんだかんだで美男美女が揃っているグレモリー眷属だから、割と冥界でも人気が出てるらしい。特に木場と朱乃さんがそれぞれ異性から人気抜群だとか。

 

 で、イッセーは子供達に人気らしいんだが、そこで名付けられたのが乳龍帝!

 

 ゴロが合ってるのがマジでキツイ。腹がいてえ。

 

『……マジで泣くから勘弁してくれ』

 

「済まねえドライグ。ツボにはまった……ブフッ」

 

 駄目だ。思い出しただけでマジで笑いが出てくる。

 

 乳首つついて禁手に至ったのが知れ渡った事が原因でこんな異名が付いたらしいが、冥界って意外と緩いんだな、オイ。

 

 ま、二天龍は三大勢力に多大な迷惑かけてるからな。それぐらいで済むなら安いもんだろ。

 

 しっかし、もうすぐレーティングゲームだってのにすげえもん見せてくれるな、イッセーめ。

 

「こりゃいろんな意味で負けられねえな。負けたら子供達泣くぜ?」

 

「分かってるよ。ディオドラの野郎はぶちのめしてやるさ」

 

 そう言いながら校庭を歩いていると、校門の前に何人かの男性がいるのが見える。

 

 なんか高級そうなスーツを着たオッサンが一人。加えて何人ものSPみたいな連中がいた。

 

 なんか全員鍛えられてるみたいな感じだけど、いったい誰だ?

 

 ふむ、ここは英雄としてあえて危険を確認して犯してみるか。禍の団じゃねえだろうが、それでも警戒は必須だろ。

 

「……すいませんがぁ、ここ部外者は立ち入り禁止なんですわ。誰かに用があるなら、放送委員に呼んでもらいましょうか?」

 

「お前、怖いもの知らずだな」

 

 イッセーに呆れられるが、お前に言われたくねえよ。

 

 ミカエル様に直談判する悪魔よりかはましだ。いや、こいつは本当に知らねえだけか?

 

 ま、今はこのオッサン達だな。

 

 俺は一応体に適度に力を入れながら観察するが、そのオッサンは物珍し気に俺達を見ると、豪快に笑った。

 

「はっはっは! 悪い悪い、仕事が早めに片付いたんでな、近くに来てたからこの学園を見てみたかったんだよ。いや、怖い兄ちゃん達引き連れてて悪いな!」

 

 そういうオッサンは、俺達をしげしげと眺める。

 

 ……なんだ? 俺達に興味があるのか?

 

 それにこの学園に興味がある? 一応進学校だし、子供を通わせてえのかねぇ?

 

 いや、そういえばこのオッサン、どっかで見たことがあるような……。

 

「…………あ゛」

 

 と、イッセーが焦った顔をした。

 

 なんだ? 知り合いか?

 

「お、気づいちまったか。こりゃ騒ぎになりそうだし、そろそろ退散するかねぇ」

 

 といって、黒づくめの男達に指を鳴らすと、そのオッサンは車のドアを開ける。

 

 こっちも高級そうな車だな。相当の金持ちかこのオッサン。

 

「ま、いっそアザゼルやグレモリーの嬢ちゃんに挨拶しておきたいとこだけどよ。この業界、アポなしで突然の来訪とか非常識な行動だからな」

 

 アザゼル先生やお嬢の知り合いか? いや、そもそも業界的に非常識って、どういうこった?

 

 そう思った俺達だが、その疑問にそのオッサンは答えない。

 

「ま、赤龍帝と聖槍使いを見れたから良しとすっか。……近いうちにまた会おうや。その時は土産もんも持ってくるとすっか! 帰るぞ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 そんなことを言いながら、オッサンは黒服を連れて去っていく。

 

 な、なんだったんだ一体……。

 

「ひ、ひ、ヒロイ……」

 

 と、イッセーが我に返ったのか目をまん丸くして俺の肩に手を置く。

 

 そういや、なんかに気づいたみたいだったな。

 

「知り合いか?」

 

「違う、でも、めちゃくちゃ有名人だ」

 

 ほほう。そんな有名人なのか。芸能人か何かか?

 

 流石に日本の芸能界にはまだ詳しくねえからな。定住してから数か月だし、ひと月ぐらい冥界に行ってたし。そもそも勉強とかやること多かったしな。

 

 で、誰?

 

「だ、大尽(だいじん) (すべる)だ。……今の総理大臣!!」

 

 ほほう。総理大臣か……。

 

 ………って―

 

「この国で一番偉い奴じゃねえか!!」

 

 総理大臣かよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 専用の送迎者の中で、大尽統は含み笑いをしていた。

 

 ようやく仕事を片付けて暇ができたので、ちょうど近くにあった駒王学園を覗き見してみたが、まさか赤龍帝である兵藤一誠と、聖槍使いヒロイ・カッシウスを生で見ることができるとは思わなかった。

 

「総理。こういった形でフットワークの軽さを見せないでください」

 

「悪ぃ悪ぃ。どうしても生で一度見ておきたかったんだよ」

 

 秘書に軽い調子で詫びながら、大尽はミラー越しに駒王学園をもう一度見る。

 

 駒王学園。悪魔陣営でも有数の名家である、72柱のグレモリー家次期当主が管轄する学園。

 

 この街の異形的な意味での支配者であるリアス・グレモリーには、この国のトップとして感謝するべきか文句を言うべきかわからない。

 

 なにせ、彼女がいたからこそコカビエルを撃退してこの街は救われたわけだが、彼女がそもそもいなければ、この街がターゲットになることはなかったのだ。

 

 この情報化社会の先端側にいる日本で、都心にも割と近い地方都市が吹き飛ぶなど、大事件だ。

 

 異形側の対応で秘匿する必要があるが、その負担は間違いなく日本政府にも来る。

 

 そんな面倒事と多大な被害発生を食い止めた事を感謝するべきか、それともそんなターゲットになる要因を作った事で文句を言うべきか、それを考える必要もある。

 

 まあ、幸か不幸かそんなレベルを超えた事態の所為で問題にならないわけだが。

 

「さて、確かそろそろ北欧のジジイが、この国の神話体系に接触するんだったよな?」

 

「はい。主神オーディンは、三大勢力の和平に関しても積極的に賛同しているとの事です」

 

 秘書の説明に頷きながら、大尽は一瞬で今後の行動を決めた。

 

 なにせここは日本だ。そして自分はこの国の表のトップの1人である、総理大臣だ。

 

 なら、できない事もないだろう。そう大尽は判断した。

 

「その会談に俺達も一枚かませるように言ってくれや。官邸を場所として指定できねえか打診しろ」

 

「……よろしいので? 五代宗家や各妖怪組織が何か言ってきそうですが」

 

「んなもん無視しろ。この国で政治会談するってのに、俺ら日本政府を無視して話進めさせるわけにもいかねえだろ。なにせもう存在が公表されてんだからよ」

 

 秘書にそう答えると、大尽は静かに思考を巡らせる。

 

 自分が総理大臣に当選した時にこんな事が起こるとは想定外だが、だからこそ、自分は総理大臣としてするべき事をしなければならない。

 

 そして、この事態は自分の願いを叶える最高のチャンスだ。

 

「各神話の和議。それをなすのにこの国は都合がいいのは分かってるぜ? なにせこと神話と宗教に関して、この国ほど良くも悪くもいい加減な国はそうはねえしなぁ?」

 

 だが、自分達国家に一文の得もないというわけにはいかない。

 

 そもそも、そんな事が何の問題も起きないわけがない。

 

 そして、其れは利益を得る最大のチャンスでもある。

 

 こんな言葉がどこかの創作物であった。

 

 国家とは、ヤクザである。

 

 ゆえに、利益を得る為ならば手段は選ばない。非合法組織による暗殺や謀略など、しない国の方が少数派だ。

 

 それに、異形の存在が知れ渡ればこちらもややこしいことになるのは確定だ。

 

 どこぞの老害どもの所為で、この国は国際問題の火種を抱えている。

 

 その遠因となった神の子を見張るもの(グリゴリ)には、迷惑料を払ってもらってもいいだろう。

 

「五大宗家の奴にはこう伝えとけ。空蝉機関の件、殆ど全部そっちの落ち度だろうが……ってな」

 

 あれの真相を公表する羽目になるのも時間の問題だ。

 

 自分の任期中に発生した事件でないとはいえ、あれだけの大問題を日本政府に意見できる異能組織の不始末で起きたなど、間違いなく大問題に発展する。少なくとも国際的につつかれることは明白だ。

 

 なにせ、外国の人間にも死者が出ているのだから。

 

 ゆえに、その分の埋め合わせぐらいはそろそろしてもらわねばならない。ちょっと強引に関わるぐらい見逃してもらわなければ割に合わない。

 

 その為の準備に必要なものを考えこんでいると、秘書のスマートフォンが振動する。

 

 そして、車の中にいる者達が全員警戒心をあらわにした。

 

 この振動回数は、割とレベルの高い揉め事が発生した場合の震え方だ。それも異形方面の問題である。

 

「……総理。どうやら我々は運が良かったようです」

 

「あん? トラブルが起きてんのにか?」

 

 自国内の予定外のトラブルで運が良いとはどういうことだ。どう考えても問題だろう。

 

 しかし、秘書は静かに駒王学園に視線を向ける。

 

「駒王学園で異形のものと思われる武装勢力が、リアス・グレモリーの僧侶(ビショップ)を誘拐したとか」

 

 その言葉に、大尽はため息をついた。

 

「……この街は、飽きさせてくれねえなぁオイ」

 

 果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。もし凶と出るならどうやって被害を最小限に抑えるか。

 

 大尽は、その計算を即座に始めながら、さっき顔を見たばかりの2人の少年のことを少しだけ心配した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




リセスとジークの因縁を少し説明。そしてリセス、教会との共闘は覚えているのにヒロイについては未だに気づいておらず。

それはともかくとしてジークがリセスを執拗に狙う理由も発覚。これはリセスにも問題がありますね。






総理大臣登場。そりゃ人間世界も巻き込んだ作品にしてるんですから、一人ぐらい表世界の政治関係者を出しますよ。


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第二章 23

こっから一気にオリジナル展開です!!


 

 ま、まさか総理大臣がこの学園に興味があるとは思わなかった。

 

 つい失礼な口をきいちまったが、仕方がねえだろ此畜生。

 

 だって俺、外国人だよ? 別の国の政府関係者の顔を覚えてなくても問題ねえだろ。

 

 ……ま、日本に住んでて総理大臣の顔知らないのは確かにツッコミどころがあるかもしれねえけどな。

 

 しっかし、総理大臣は何考えてんだろうな。

 

 あの総理は、ヴィクター経済連合が異形の存在を公表してから、かなり早い段階でそれを認めた国家首脳陣の一人だ。

 

 野党からはかなりの批判を浴びたそうだが、国民からの受けはいい。

 

 他の国はいまだその事実を認めることが遅れてることも多い。聖書の教え方面に至っては、とにかくヴィクター経済連合ぶっ潰せで進んでるからな。そして返り討ち。

 

 ぶっちゃけ、出遅れてるといっても過言じゃねえ。

 

 そういう意味じゃあ、とりあえず異形の存在を認めることから始めたのは、まあ堅実だろ。

 

 しかも大まかな日本の異能関係組織などについてもある程度開示して、政府が異能とかかわりを持っていることも公表。隠してきたことを土下座で謝罪した。

 

 この潔い対応が高評価なのか、与党の支持率は10パーセントほど上昇したとか。

 

 思い切りがいいというべきか、深く考えてねえというべきか。

 

 ま、どっちにしても今のところは良い感じに進んでんな、あの総理。

 

 しっかし、お嬢やアザゼル先生に接触することまで考えてるようだし、これはあのオッサンとまた会う時も近いかねぇ。

 

 それを伝えるために、イッセーは部室に急いで向かったしな。

 

 ……さて、俺はジュースでも飲んでから行くとするか―

 

 その瞬間、俺は感じ慣れてない気配を感じて立ち止まった。

 

 なんだ? 悪魔の気配がするな。

 

 ……たぶん来客だと思おうが、一応見てみるか。

 

 そして俺は校舎裏を走り、そして―

 

「ひ、ヒロイさん!!」

 

「しまった! 聖槍か!!」

 

 ―アーシアが、見知らぬ悪魔にとっつかまっているところを目撃した。

 

 ………はぁ!?

 

「おいコラァ!! ウチの奴に何してやがる!!」

 

 俺は相手が反応するより早く、飛び蹴りを敢行。

 

 即座に魔剣を足に展開。ちなみに拘束重視で呪いをかけるタイプだ。

 

 このために黒魔術を勉強して組み込んだ特注品。喰らっとけや!!

 

 そして、その悪魔はもろに喰らった。

 

 ―自分から体当たりしてきやがった。

 

「真なる魔王のために……行け!」

 

「わかった。その犠牲は無駄にはしない!!」

 

 しまった! 伏兵がいたのか!!

 

 俺はすぐに追いかけようとするが、それより先に魔剣が刺さった悪魔が爆発した。

 

 体勢が体勢だったので、もろに俺は宙を舞う。

 

 う、うぉおおおお!?

 

「ヒロイくん!!」

 

 と、木場が俺を抱きとめる。そして翼を広げて軟着陸した。

 

 男に抱きしめられるのは残念だが、とりあえず助かった。

 

「木場! アーシアが悪魔にさらわれた!! 俺にかまわず急げ!!」

 

「わかってる! すでにイッセーくんとシトリー眷属が追いかけてる!!」

 

 そうか! なら大丈夫か―

 

 その瞬間、黒い霧が俺たちを包み込む。

 

 そして、気づいた時にはイッセーとシトリー眷属が勢ぞろいしていた。

 

「あ、あれ? アーシア!?」

 

 しまった! また絶霧か!!

 

 くそ、っていうことは―

 

「敵は、ヴィクター経済連合か!!」

 

 ゲオルクとかいうやつか、それともリムヴァンの糞野郎か。

 

 どっちにしても、この調子だと……!!

 

「アーシア……アーシアぁあああああ!!!」

 

 イッセーが地面をたたきながら叫ぶ。

 

 クソッ! ディオドラの野郎が何か言ってくるのが目に見えるし、アーシアに何されるかわかったもんじゃねえ!!

 

 いったい、どうすればいいんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちは、部室に集まってすぐに会議を開いた。

 

 くそ! 俺の目の前でアーシアがさらわれちまった!

 

 守るって言ったんだ。ディオドラはもちろん、それ以外のアーシアをひどい目に合わせようとする全てから。

 

 なのに、ちょっと目を離したすきに……。

 

「すまんイッセー。俺が付いていながら―」

 

「ヒロイ先輩のせいじゃありません。むしろ、敵をひとり倒せただけでも僥倖です」

 

 ヒロイを小猫ちゃんがかばうけど、俺もヒロイを責める気はない。

 

 だって出くわしたのは偶然だ。ヒロイはただあそこの自販機にお気に入りのジュースがあっただけだ。それがたまたま、アーシアの誘拐現場に近かっただけだ。

 

 悪いのは、守るといっておきながら目を離した俺だ!!

 

「……イッセー。自分を責めるのはやめなさい」

 

 俺を抱きしめて、リアス部長は苦しげな表情を浮かべる。

 

「最近強化されたばかりだからって、この学園の結界を過信していた私にも責任はあるわ。……まさか、結界を担当していた人員が内通者だったなんて……」

 

 俺たちがアーシアの誘拐に気づいたのはたまたまだ。

 

 俺が部室に入ったちょうどそのタイミングで、天界から連絡があったんだ。

 

 ……教会から派遣された結界を担当するスタッフが、ヴィクター経済連合に亡命したって。

 

 教会は今でも大混乱で、時折離脱したりラシアみたいに出戻りする奴もよく出てくる。それ位聖書の神の死のショックは大きかった。

 

 そんな中、真っ先にヴィクター経済連合を批判していた人たちを中心に教会からのサポートスタッフは編成されていたけど、まさかその中に裏切り者がいたなんて……!

 

 念のための身辺捜査の見直しで怪しいところが出てきたため、念のために確認しようとしたその瞬間に逃げ出されたらしい。それで急いで連絡してきたんだ。

 

 くそ! ヴィクター経済連合は、どんだけこのために準備してんだよ。内通者の準備も万端だったってわけか!!

 

 とにかくそういうわけで急いで結界を調べようとしたら、うちのクラスの女子生徒が魔力で精神を操作されてるのがわかった。しかもアーシアと親しい子だ。

 

 それで急いでアーシアを探したけど、間に合わなかった……!

 

 くそ! あいつ等、一体なんでアーシアを……っ!!

 

「先生。それで誘拐されたアーシアさんの足取りは?」

 

「現在捜査中だ。とはいえ、絶霧が相手だと難航するし、何よりヴィクター経済連合の勢力圏内に転移されてたら、即座の救出作戦の許可なんておりそうにねえな……っ!!」

 

 木場の質問に、アザゼル先生は苦虫をかみつぶした表情で答える。

 

 そんな! アーシアを助けに行けないって!!

 

「正論ね。いくら72柱の時期当主の眷属とは言え、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は保有者がほかにも確保されてる。言っては何だけどここで敵の勢力図に突入するほどの救出価値があると、上が判断する可能性は低いわ」

 

「悪い、現段階では堕天使の勢力を積極的に動かすのも困難だ。組織の長としてそんな横暴は通せねえ」

 

 リセスさんがいやそうに納得し、アザゼル先生は頭を下げる。

 

 た、確かに。アザゼル先生が無理を言えば堕天使は動かせるだろうけど、いくら俺たちのためだからって、組織のトップがそんなことをしたらいろいろ問題だ。

 

 普段は勝手に暴走するけど、こんな時はトップとしての責任感が出てくるのか。こんな時だけどちょっと感心した。

 

「おそらくこちらの上役たちも難色を示すはずだわ。最悪、変異の僧侶の駒を渡して、それで新しい下僕を探せとか言い出しかねないわね……っ!!」

 

 本当ですか、部長!?

 

 なんだよそれ、上役は、俺たちのことなんだと思ってんだ!!

 

「サーゼクス様といえど……いえ、サーゼクス様だからこそ、それに異を唱えるのは困難でしょう」

 

 朱乃さんまで!! いや、あのサーゼクスさまだと、確かに組織のトップとしてそんなことは言えないだろうけどさぁ!!

 

 みんな暗い顔をする中、ゼノヴィアはデュランダルを持つと、決意を決めた顔をする。

 

「ならば私達だけでも行けばいい!! 少なくとも、私ははぐれ悪魔になってもアーシアを助けに行かせてもらうぞ!!」

 

 ゼノヴィア。お前、そんなにアーシアのことが……。

 

「あんなにひどいことを言った私を、アーシアは受け入れてくれた。友だといってくれたんだ!! その友のためならば、私はいかなる不名誉も受け入れるからな!!」

 

 安心しろ、ゼノヴィア。その時は俺も一緒に行くからな。

 

 俺にとってもアーシアは大事な女の子だ。はぐれになる覚悟を決めてでも、アーシアを助けに行こうとしたのは俺だからな。

 

 ……ちょっと嫌なことを思い出して背筋に寒気が走ったけど、だけど俺の決意は変わらない。

 

 上が何を言っても、俺とゼノヴィアはアーシアを助けに行かせてもらう!!

 

「で、でも、アーシア先輩は一体どこに連れていかれたんでしょう……」

 

「そうっス。それがわからなけりゃ助ける助けないなんて話にならないっすよ」

 

 あ、それもそうだ。

 

 ギャスパーとペトの言う通りだ。そもそもどこに行けばいいのかわからねえ!!

 

 さすがにこの街に残ってるだなんてオチはないだろうし、どうすんだよ。

 

「……天界も、責任をもって探しているところだけどまだ見つかってないわ」

 

「堕天使側もだ。いや、怪しい奴はいるんだが、さすがに今の段階じゃ速攻で動かすには証拠がない」

 

 イリナとアザゼル先生もそういう。

 

 そんな。其れじゃあ手詰まりじゃ……ん?

 

「あ、アザゼル先生? 怪しい奴って、いったい誰なんですか?」

 

 それってつまり、ヴィクター経済連合の誰がアーシアを求めてるのか、ピンポイントでわかってるってことじゃないですか!!

 

 いつの間にそんな情報を!

 

「ああ、それは―」

 

 アザゼル先生が口を開きかけたとき、携帯の着信音が鳴った。

 

「……すまん。電源切ってなかった」

 

 ヒロイがすごく申し訳なさそうな顔で、携帯を取り出した。

 

 いや、まあ気にすんな。

 

 そんなことを気にしてる状態じゃなかったもんな。俺も確認しとこう。

 

「こんな時にいったい誰……だ……ぁあ!?」

 

 と思ったら、いきなりヒロイは大声をあげた。

 

 な、なんだなんだ?

 

 みんなの視線がヒロイに集まり、ヒロイはアザゼルに視線を向ける。

 

「……おいアザゼル。その怪しい奴って、まさかディオドラじゃ、ねえっすよね?」

 

「な、なんでわかった!?」

 

 え、ええええええ!?

 

 ディオドラって、ディオドラ・アスタロト!?

 

 いや、あいつ一応こっち側じゃん!! 裏切る必要ないじゃん!!

 

 なんでそんなことを!?

 

「ヒロイ、なんでそんなことが分かったの?」

 

「そのメールが関係してるの、いったい誰から……」

 

 部長に同意しながら、リセスさんがヒロイの携帯をのぞき込んだ。

 

 ……そして、ヒロイとリセスさんの顔が真っ赤に染まった。

 

「アザゼル。悪いが俺は今回の作戦に参加させてもらう」

 

「というより、すぐに悪魔の政府に打診しなさい。今回の件、思った以上に大ごとよ」

 

 な、なんなんだ?

 

 アーシアの誘拐が、悪魔のお偉いさんを動かすほどの大ごとになるのか?

 

 俺としては大助かりだけど、いったいどういうことなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ヒロイは携帯のメールを見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな……そんなことって………っ




ゲームを待たずに動いたディオドラ。其れにはある事情がありますが、それはまた後程。






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第二章 24

評価上がったと思ったらまた下がったぁあああああ!?

くそ、本当に7か8でいいんだ。ファンの方々、おらに評価を分けてくれー(懇願


 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元72柱の一つ、アスタロト家はかなり有力な家系である。

 

 現ベルゼブブであるアジュカ・ベルゼブブを輩出したことで、政治的な権力は大幅増大。さらにアジュカによってもたらされた技術革新により、其の影響力は桁違いに上がっている。

 

 さらにその特許料などにより財政的にも豊かになり、レーティングゲームが国際的にも行われる可能性が出てきたことで、その注目度はうなぎのぼりだ。

 

 それゆえに、ベルゼブブ家の中には、レーティングゲームを利用した専用の異空間を持っているものも何人かいる。

 

 現ベルゼブブ家の次期当主、ディオドラ・アスタロトもその一人だ。

 

 彼が保有する異空間の居城。そこに、多くの悪魔が眷属を連れて集まっていた。

 

 そして、その周囲を大量の悪魔が警護していた。

 

 そこに関しては問題というほどではないだろう。

 

 これだけの催しを行っているのならば、警戒は厳重になって当然。派手に警戒することによって、威圧するというのも一つの手段である。つい先日に襲撃があったのならなおさらだ。

 

 問題は、その警護を担当している悪魔の八割が旧魔王派の悪魔だということだ。

 

 そして、来訪している悪魔たちにも大きな問題があった。

 

 その多くの悪魔には、一つの共通点がある。

 

 彼らが和平によって不都合な目にあっていること。そしてその方向性が似通っていることだ。

 

「お集まりの皆さん! この僕、ディオドラ・アスタロトの誘いに乗ってくださってありがとう!!」

 

 そんな悪魔たちの集まる広間で、ディオドラは笑みを浮かべて一礼した。

 

「お互い、現魔王や重鎮の勝手な判断で実に困ったでしょう。僕もです」

 

 その言葉に、来訪した悪魔たちの(キング)達は口々に現政権に対する不満を漏らし、それに反発するかのように、一部の悪魔が暗い顔をする。

 

「まったく困ったことです。天界との和議のせいで、僕たちは趣味のコレクションができなくなってしまいました」

 

 そうディオドラはあえて告げた。

 

 ……そう、この場に集まった悪魔の王たちの共通点とはただ一つ。

 

 悪質な方法で、人間を集めている者たちだ。

 

 あるものは、人間を誘拐して無理やり眷属にしている。

 

 あるものは、人体改造を行って人間を強化してから、成功したものだけを下僕にしている。

 

 そしてまたある者は、信徒を惑わして、下劣な遊びを教え込んでいる。

 

 眷属悪魔にしろ、それ以外のコレクションにしろ、そう言ったことを趣味としてやっている貴族は何人もいた。

 

 彼らにとって人間とはすなわち放し飼いの家畜。欲しいときに欲しいものを好きに奪うことに、良心の呵責など感じない。

 

 しかし、それも和平によって大きく制限された。

 

 信徒相手にスカウトするときは、大きな監視や制限がつくだろう。少なくとも意図的に悪辣な手段をとることは不可能だ。

 

 さらに進行している他の神話との和議。これが進めばその影響は他の神話体系の勢力圏でも起こるだろう。そうなれば趣味を楽しむことができなくなってしまう。

 

 それに困り果てた者たちは、ディオドラの誘いに乗ってここに集まった。

 

 そして、それをディオドラは改めて言葉にした。

 

「……今日、僕たちはヴィクター経済連合に亡命します。旧魔王派の幹部たちが、その受け入れ先を用意してくれました!!」

 

 その言葉に、悪魔の王たちが歓声を上げる。

 

 旧魔王派は旧来の悪魔の在り方を良しとする者が多い。

 

 ならば、自分たちの行動を阻害することはないのではないかという希望をもって、彼らはその誘いに応じた。

 

「もちろんご安心ください。彼らは敵陣営の人間に限定しますが人を好きにすることを許してくださって、さらに蛇を王に供給してくれました」

 

 そういって、ディオドラは自分の右手を上げる。

 

 底には、禍々しいオーラを宿す蛇がまとわりついていた。

 

「当然対価は請求されましたが、それは真なる魔王の一派がヴィクター経済連合の盟主になる力添えです。そうなればヴィクター経済連合の領内でも好きにできますので、願ったりかなったりでしょう?」

 

「まったくだ!」

 

「これで家畜共から好きに奪い取れる生活が戻ってくるんだ!!」

 

「あの偽りの糞魔王どものせいで、いろいろ制限されていた生活からもおさらばだ!!」

 

 歓声を上げる王たちは、意気揚々と腕を突き出す。

 

 そして、そのうちの一人が飛び上がって声を張り上げた。

 

「俺たちは、理想郷に向かうんだ!!」

 

 そして満面の笑みを浮かべて窓から外を見上げ―

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャックポットっス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、その悪魔の頭がはじけ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一分後、外周を警護する悪魔たちに叱責が飛ぶ。

 

 だが、彼らには何を言われているのかがわからなかった。

 

 結界は感知重視で数百にわたって張られている。これをくぐりぬけて狙撃可能範囲に移動するなど不可能だ。

 

 ましてや、これは極秘に行われている。そもそも気づかれることが不可能に近い。

 

 なにせ、重鎮クラスすら関与して行われているのだ。其の根回しは万全であり、()()()情報が洩れでもしない限り気づかれる可能性はゼロに近い。

 

「いったい主たちは何を言っているんだ?」

 

「狙撃? こっちの方向?」

 

「馬鹿な! 5kmは離れてるぞ!!」

 

 そう口々に同様を漏らす悪魔たちの視界に、ふと人影が写る。

 

 十人足らずのフードをまとった一団に、警護部隊は即座に立ちふさがる。

 

 もとよりここはディオドラ・アスタロトが個人的に保有する専用異空間だ。そして来客はすでに終わっている。

 

 すなわち、不法侵入者だ。

 

「止まれ曲者!! ここをどこだと思っている!!」

 

 一応形式として警告をするが、しかしその瞬間すべてが終わった。

 

 一瞬でローブをまとった紅色の髪の少女が、消滅の魔力を放って警護団を吹きとばしたのだ。

 

 そしてその一撃はその場でとどまらない。

 

 巨大な消滅の奔流と化した一撃は、一気に3kmまで防衛線を押しつぶした。

 

 下級悪魔は問答無用で消滅。中級クラスはとても運がよくて半死半生。上級クラスですら、防御が間に合わなかった者には死亡者が生まれる。

 

 その一撃を放った少女は、苛立ちと憎悪を込めてどすの利いた声を吐き出した。

 

「知ってるわよ。ディオドラという裏切り者が、外道どもを集めて亡命するための会合を行ってることわねっ」

 

 その言葉とともに、空間の三か所で一斉に転移の魔方陣が生まれて輝く。

 

 さらに最後の一か所では嵐が巻き起こり、一瞬で護衛団が蹂躙されていく。

 

「リセス。そちらは任せるわよ。神滅具の本領、魔王様に見せて頂戴」

 

『ええ。英雄の力というものを、倒されるべき悪党たちに見せてあげるわ』

 

「ペト。城内に狙撃は続行可能? できなければ外周部の敵部隊長を狙って頂戴」

 

『流石に目隠しが張られたんで城の中はむりっス。ご要望通りに敵部隊を混乱させてやるっすよ』

 

 頼りになる二人の女戦士にそう指示を出しながら、彼女は一歩前に出る。

 

 紅髪の滅殺姫(クリムゾン・ルイン・プリンセス)。リアス・グレモリーが、ディオドラの城をにらみつける。

 

 そして、眷属たちとヒロイが、同じように隠密用のローブを脱いだ。

 

 すでに自分たちの進行方向に敵はほぼいない。

 

 あの夏休みで圧倒的な圧迫を受けて成長した、リアス・グレモリーの消滅の魔力。限界までチャージを受けたそれは、赤龍帝の籠手の力を借りずとも、最上級悪魔ですら出せるものは少ないだろう圧倒的最大火力をたたき出していた。

 

「イッセーとゼノヴィア、そしてヒロイはアーシアの奪還を最優先にしなさい。他の連中には目もくれなくていいわ」

 

「わかってます、部長。アーシアは必ず助け出します!!」

 

「ああ、邪魔するものは遠慮なく切り捨てる……っ!!」

 

「俺はその命令は聞き切れませんね。同時に照らさなきゃならない少女がいるんで」

 

 三者三様に応えるオフェンス勢が、鋭い視線で城をにらむ。

 

 そして、後ろに待機する眷属達もまた、殺意のこもった視線を向けていた。

 

 それを見ずに理解して、リアスは告げた。

 

「私のかわいい眷属達! あの城に、私達の大切なアーシアがとらわれているわ」

 

 そう、そこに誘拐されたアーシア・アルジェントは捕らわれの身になっている。

 

 内部告発によって送られた情報によって、内通がほぼ確定とされていたディオドラ達が、すでに亡命寸前の状態になっていることが発覚した。

 

 警護の配置図もそのメール通り。ここまでくれば、信用していいだろう。

 

 そして、そのメールに書かれていたある真相が、彼らに怒りを通り越して殺意を生ませていた。

 

「アーシアの救出は三人に任せて、私達は露払いに徹するわ。……そして、魔王様からの許可もいただいた」

 

 その事実を前に、温厚で知られるサーゼクス・ルシファーも、ディオドラの親族であるアジュカ・ベルゼブブもこれを了承するほかなかった。

 

 それほどまでに、ディオドラの所業は彼女たちの逆鱗を踏みつけたのだ。

 

 そして、その決定をあえてリアスは宣言する。

 

邪魔するものは全員その場で殺して構わない(キル・ゼム・オール)。それが貴族であろうと、旧魔王の末裔であろうと、もちろんディオドラであろうとも」

 

 そう、それだけの特権を、彼女たちに与えるしかなかった。

 

 それほどまでに、魔王たちも怒っているのだった。

 

「私達グレモリー眷属の仲間たちの心を弄んだその罪は、万死に値するのだと教えてあげなさい!!」

 

「「「「「「「はい、部長!!」」」」」」」

 

 そして、其れに呼応するかのように転移した魔王軍も進軍を開始する。

 

 それを迎撃するべく、さらに旧魔王派に与した者たちの魔方陣が展開し、増援が召喚される。

 

 今ここに、新旧魔王の末裔による、壮絶な戦争が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、来たようだな」

 

「ああ、盛大なノックだったよ」

 

 ため息をつきながら、皆の視線を浴びて二人の悪魔が一歩前にでる。

 

 一人は、旧魔王派最高幹部、シャルバ・ベルゼブブ。

 

 一人は、新魔王ベルゼブブの親族、ディオドラ・アスタロト。

 

 二人はしかし余裕を崩さず、はっきりと宣言する。

 

「慌てるな! お前たちには蛇がある。それがあれば偽りの魔王におもねるものなどモノの敵ではない!!」

 

「いい機会だから凱旋しよう。彼らの首を手土産に、僕たちの立場を盤石にしようじゃないか」

 

 その言葉に、パニックを起こしていた者たちは方向性を得た。

 

 これまでの不満により苛立ちと、突然の狙撃に対する恐怖が爆発する。

 

 そしてその瞬間、彼らは転移を行い敵に対して戦闘を開始した。

 

 そして、ディオドラはそんな者たちの一人の肩に手を置いた。

 

「待つんだゼファードル。君は先に転移してくれ」

 

「ああ!? ふざけんじゃねえ、バアルの無能もいるんだろ? 蛇の力でぶち殺してやるぜ!!」

 

 そうまくしたてるゼファードルの目は、明らかに正気のものではない。

 

 恐怖と怒りと歓喜がないまぜになった、狂気の視線が、ディオドラに突き刺さる。

 

 しかし、ディオドラの余裕は崩れなかった。

 

「今回の戦いでバアルは出ないよ。それに、サイラオーグ・バアルを蹂躙するにはもっといい機会と力を用意してあげるからさ」

 

「いい機会……だとぉ?」

 

 唾すらまき散らすゼファードルに、ディオドラは微笑んで告げる。

 

「そう。もっと確実に、かつ屈辱的に無能を蹂躙するための準備がある。君はまずそっちに行くんだ」

 

 その言葉に、ゼファードルは納得した。

 

 まだ潜在的に刻み込まれている恐怖が、それを助長した。

 

「いいぜ。だったら無能の奴は残しとけよ。……行くぞお前ら!!」

 

「「「「「「「「「「「「「「「はっ!!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 いやいやながらを装ったゼファードルに続き、眷属たちも返礼をしながら転移していく。

 

 そして、そのうちの一人が後ろを振り返った。

 

「……リセスちゃん」

 

 何かをためらうかのようにするが、その肩にディオドラが手を置く。

 

「すまないね。君は確実に連れて行くように、リムヴァンから言われてるんだ」

 

「え?」

 

 意味が分からないディオドラの言葉に、その眷属は首をかしげる。

 

 その耳元に口を近づけ、ディオドラはこう告げた。

 

「ニエ・シャガイヒが待っているよ、イドアル孤児院の出身、プリス・イドアル」

 

「…………っ」

 

 その言葉に、プリスと呼ばれた悪魔は顔を真っ青にした。

 

 そして、茫然としながら幽鬼のような足取りで転移魔方陣に乗り、転移していく。

 

「律儀なことだな。わざわざ守ってやる必要はないだろうに」

 

「一応、誘いをかけてくれたのは彼だからね。最低限のお礼はしておかないと」

 

 つまらなさそうに言うシャルバにそう答えて、ディオドラは肩をすくめる。

 

 このままでは趣味ができないと思ったディオドラに光明を授けてくれたのはリムヴァンだ。その返礼はしなければいけない。

 

 もっとも、今回の作戦は旧魔王派が出してくれたものなわけで、リムヴァンは好待遇を約束してくれただけなのだが。

 

 結果的にシャルバから新たな誘いをかけられたので、まあ間接的には恩人だろう。その程度の感謝しかない。

 

「それじゃあ、僕はアーシアを結界装置につなげてくるよ。ついでにネズミの始末もね」

 

「そうだな。もうあの娘は用済みだ。……即興とは言えこちらに踊らされたとは知らず、いい気なものだ」

 

 二人はそういうと、醜くゆがんだ笑みを浮かべる。

 

 そう、この展開は二人にとって問題ではない。

 

 むしろ、この展開になる要因に気づいたからこそ、敵の数はこの程度で済んでいるのだ。

 

「蛇は本来の悪魔には皆渡してあるな、ディオドラ」

 

「下賤な下級中級には渡してないけどね。上級には皆渡してあるよ。あと僕の眷属にもね」

 

「ならいい。できれば他の神話体系のものもまとめて始末しておきたかったが、しかし戦力差があることも事実だ。ここは堅実にいこう」

 

 そう言葉を交わしてから、二人は別れる。

 

 一人は作戦の指揮を執るため、一人は作戦の要を得るため。

 

 本来なら、この作戦はディオドラとグレモリーの小娘とのレーティングゲームの時に行う予定だった。

 

 和議に賛同の意向を見せている神たちがゲストとして招かれる場所で、真なる魔王とそれとともにある眷属たちとともに襲撃、そしてアーシア・アルジェントを使い一網打尽にする計画。

 

 しかし、偽りの聖槍使いによって裏切り者が出たため、こうして即興で組み替えたのだ。

 

 とはいえ敵戦力は不意打ちであるため少なく、しかしそれを補うために魔王と神の子を見張る者は数多く出てくるだろう。そう言う意味では堅実な成果が出るといえる。

 

「覚悟するといい、偽りの魔王とそれを助長する屑どもめ。リムヴァンに目に物を見せるいい機会だ……!」

 

 憎悪に燃えながら、シャルバ・ベルゼブブは勝利を確信して作戦を続行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、戦いの炎は激しく燃え盛った。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




オリジナル展開で言っております。

旧魔王派、もろに暴走。

有象無象や小物に用はないリムヴァンの威光を無視して、そういうタイプばかりかき集める旧魔王派。そう言う自分たちと同様なタイプを集めて戦力拡大による発言力強化を図っております。

さらに、まあわかりきってるけどあえて名前隠している人物の裏切りが想定できたので、ディオドラのレーティングゲームを利用する予定だった作戦をあえてこのタイミングで結構。討伐に動いた三大勢力を一網打尽にする腹積もりです。




そして5km離れたところからのヘッドショットをぶちかましたペト。曲撃ちじみた芸当をしなければここまで行けます。

オカルト研究部マジ切れ。内通者のメールにより、ディオドラの趣味に関しても告げられています。アーシアの事件の詳細に関しては彼女ではわかりませんから推測ですが、それが当たっているのは原作通り。




そして、ゼファードルはこちら側に。見事に精神的な隙をつつかれて載せられました。

さらにちなみにリセスとプリスは姉妹というわけではありません。


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第二章 25

さて、そういえば気になっていることもあるでしょう。

有象無象の小物は切り捨てるべしのリムヴァンが、なぜもろに該当するディオドラをあえて迎え入れたのか。

 同類のゼファードルは、ぶっちゃけ物のついでです。ここまで読めばわかると思いますが、本命はプリスの方です。









 では、ディオドラはなぜか?


 

 俺、ヒロイ・カッシウスは、オカルト研究部の仲間たちとともに全力でディオドラの城に向かっていた。

 

 あるタレコミからアーシアの居場所とディオドラの糞っぷりと奴らに同調した連中の亡命計画を知り、俺たちは速攻で魔王様のところに向かった。

 

 あらゆる状況が後押しし、サーゼクス様はおろか大王派、さらにはディオドラの親族であるアジュカ様の許可すら取り付け、俺たちはディオドラ捕縛の任務に参加することができた。

 

 なにせ、俺たちは対テロ戦闘の許可を得た悪魔の眷属とその仲間。その仲間が誘拐されたのだから、救出に協力する許可位は出るとは踏んでいた。

 

 それが、状況次第ではディオドラを殺していいという許可まで下りた。こりゃ僥倖すぎる。

 

 そういうわけで、俺たちは全力疾走で走っていく。

 

 与えられた情報は、今のところ全部正しかった。

 

 なら、アーシアの位置も情報通りのはずだ!!

 

「部長、城から大量の気が接近してきてます。どうやら徹底抗戦のようです」

 

「そう。なら私たちは全力で叩き潰すわ。イッセー達は予定通り隠し通路を通って、アーシアを救出して頂戴」

 

「「「「「「「はい、部長!」」」」」」」

 

 部長からの再度の指示も出て、俺たちは隠し通路のある位置まで走る。

 

 しっかし、思った以上に敵が出てるが、これ大丈夫かね?

 

 と思ったら、小猫ちゃんがイッセーに走りながら耳打ちする。

 

「え? そんな事でいいの?」

 

「はい。それで朱乃さんは全力を出します」

 

 ん? なんだなんだ?

 

 イッセーは少し戸惑っていたが、やがて決意すると朱乃さんに声を投げかける。

 

「あ、朱乃さん。これが終わったらデートしましょう」

 

 ちょうど同じタイミングで、敵の一団が現れた。

 

 貴族二人と、その眷属フルメンバーか。これは少してこずりそう―

 

「……やったぁああああ!!!」

 

 普通の女の子みたいに歓喜の声を上げた朱乃さんが放った雷光に、全員撃墜されましたー。

 

「え、え~……」

 

 すごいテンションでぶっ倒しやがった。鬼か。いや、悪魔だ。

 

 しっかし俺たち、ディオドラぶっ殺す&アーシア絶対救出の決意で来てたのに、一気にムードがぶち壊しになったな、オイ。

 

「ちょっと朱乃!! 私のイッセーと私より先にデートするってどういうこと!?」

 

「あらあら。リアス? イッセーは私とデートしてくれるって言ったの、これはイッセーの意思よ」

 

 いや朱乃さん。いま小猫ちゃんが耳打ちしたの忘れてませんか?

 

 あ、かろうじて動けた敵をギャスパーが停止させて小猫ちゃんが殴り飛ばした。

 

 ついでに木場は警戒を引き受けてくれてる。

 

 そんでもってゼノヴィアはすでに隠し通路の扉を開けていた。おまえ、この空気で救出作戦続行する気か?

 

 ま、すでに朱乃さんとお嬢はイッセーとキスした回数で喧嘩がヒートアップしてやがる。これはほっといた方がいいか。地雷踏みたくねえ。

 

「い、行くぞイッセー。ここにいるとお前に火が移るから」

 

「え、あ、うん。なんかよくわかんないけどわかった」

 

 ………ああ、いろんな意味で空気が台無しじゃねえか此畜生!!

 

 それはともかく!

 

「待ってろよ。今度こそ照らしてやる」

 

 ……それが、英雄(輝き)として俺がやるべきことだからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 堕天使総督である俺、アザゼルは、今この襲撃作戦に参加していた。

 

 俺もオカ研の顧問だからな。流石に今回はあそこで一番偉い奴としての責任ってのがある。

 

 それに、できれば会いたい奴もいたからな。

 

「……よぅ、オーフィス」

 

「アザゼルか。久しい」

 

 そこにたのは、露出度の高い黒のゴスロリをきた幼女といってもいい女の子の姿。

 

 だが、こいつは女の子だなんて言うような奴じゃねえ。年齢なら少なく見積もっても万は越える。そもそも俺が前見たときは、よぼよぼのジジイの姿だったしな。

 

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。ヴィクター経済連合有する禍の団の、真のトップだ。象徴だろうが、ヴィクター経済連合のトップと言い換えてもいいだろう。

 

 まず間違いなく史上最強の存在。それが、目の前の奴だ。

 

 こいつと同格の奴なんて、俺が知っている限り一体しかいねえ。そして奴はこっちから手を出さない限り、無害といっていい。

 

 このフィールドにオーフィスの反応を感知してから、部隊は割と大混乱だったが、俺を中心とした三大勢力最強格で相手するってことで、とりあえずは収まった。

 

 どうやらこいつも暴れる気はないみたいだしな、こりゃほっといてもよかったんだが……。

 

「オーフィス。確認したいんだが、一体何がしたいんだ?」

 

 そう、それが気になる。

 

 虚無を司るといわれているコイツが、俗世の覇権に興味があるとは思えねえ。世俗的なことに興味をとんと示さないのが目の前の奴だ。

 

 にもかかわらず、こいつは禍の団の頂点に立ち、蛇によって多くの者たちに力を授けている。

 

 はっきり言って目的が見えねえ。それがどうしても気になる。

 

 それを解明することができれば、今の状況をひっくり返すこともできるかもしれない。

 

「言っとくが暇つぶしだなんてふざけたこと言うなよな? この大騒ぎのせいで、文字通り世界がひっくり返りかけてるんだからよ」

 

「……静寂」

 

 は? 静寂?

 

 今の状況は、静寂なんかと全く関係がないじゃねえか。むしろ真逆だろ。

 

 そこまで考えて俺は気づいた。

 

「……おい、どこで静寂がほしいんだ、お前は」

 

「無論、次元の狭間」

 

 ………最悪だ。そう言うことかよ、畜生め!!

 

 次元の狭間はオーフィスの生まれ故郷。あいつはそこに帰りたいってわけか。

 

 だが、そこにはグレートレッドがいる。

 

 オーフィスと唯一互角の存在。赤龍神帝グレートレッド。

 

 そうか、オーフィスの目的は奴を倒すこと。それを餌に禍の団はオーフィスをトップに引き入れたということか!!

 

 そこまで考えて、俺もようやく理解できた。

 

 ヴァーリ、お前の目的もグレートレッドか!!

 

 そこに俺が思い立った瞬間、魔方陣が展開して悪魔が現れる。

 

 その男は、不敵な表情を浮かべると、俺に対して一礼した。

 

「カテレアが世話になった。俺はクルゼレイ・アスモデウス。真なるアスモデウスの末裔だ」

 

「……旧魔王派の幹部か。こんなところまで出張ってくるとはな」

 

 俺が軽口をたたくと、奴はいきなり殺気を全力でたたきつけてきやがった。

 

「旧などという頭文字をつけるな! 俺こそが、真なるアスモデウスの後継者にふさわしい存在、真なる魔王派の指導者の一人に舐めた口を……っ!!」

 

 おーおーあっさりぶちぎれてやがる。

 

 旧魔王派の嫉妬心は根深くて怖いねぇ。

 

「で? 何の用だとその真なる魔王様? こちとらオーフィスを相手にしなきゃなんねえんで大変なんだがよ」

 

「知れたこと。カテレアをいたぶってくれた貴様を見つけたのでな。ここで殺してやろうと思ったのだ」

 

 へいへい。こいつはカテレアの男か何かなねぇ。

 

 だがまあ、好都合だ。

 

 禍の団の主要派閥である旧魔王派。その指導者の一角を滅ぼすことができれば、こっちにとっては大きな戦果になる。

 

 オーフィスの奴をここで倒すのは困難極まるし、ここはあの小物で我慢するとしますかね。

 

 俺は遠慮なく人工神器である堕天龍の閃光槍を取り出して、即座に変身しようとし―

 

「―待ってくれ、アザゼル」

 

 その声とともに、サーゼクスが其の場に現れた。

 

 おいおい。こいつは今回の作戦の指揮官じゃなかったのかよ?

 

「なんでここに来てるんだ、サーゼクス」

 

「ここにクルゼレイが来ていることを索敵部隊がつかんだのでね。……どうしても、彼を説得したかったのだ」

 

 甘い奴だ。目の前の馬鹿がそんなものを受け入れるとはとても思えねえんだがな。

 

 だがまあ、そんな奴だからこそ冥界の民衆はこいつを王として認めてるんだろう。なら、少しぐらいは好きにさせてやってもいいか。

 

 俺は少し後退し、サーゼクスにその場を任せる。

 

 そして、サーゼクスはクルゼレイの殺意のこもった視線を真っ向から受け止めた。

 

「偽りのルシファーが! 今更俺たちに何の話があるというのだ!!」

 

「……クルゼレイ。どうか矛を収めてほしい」

 

 ダメもとなのはわかっているが、それでも真剣な声だった。

 

「私は今でも、旧魔王の末裔である君たちを追放したことに対して、ほかの手段がなかったのか考えている。ここで貴重な悪魔の民を減らすことは得策ではない」

 

 サーゼクスはサーゼクスなりに、悪魔の未来を真剣に考えている。

 

 少なくとも、戦争継続やこの大戦が悪魔のためになるとは欠片も思ってねえ。

 

「そして、君たちに対して詫びたい気持ちもあるのだ。どうか矛を収めてくれ、君には、現アスモデウスであるファルビウムと対話する機会を設けたいとすら思っている」

 

 そういって、サーゼクスは頭を下げた。

 

 さて、予想はできてるがその答えはどうだ、クルゼレイ?

 

「……ふざけるなよ、貴様」

 

 ……だろうな。

 

「この俺に、真なるアスモデウスに、偽物のアスモデウスと対話しろだと、寝言は寝て言うがいい!!」

 

 はっ! 寝言言ってるのは自分達だって自覚はねえんだろうなぁ。

 

「悪魔とは! 人間を堕落させ地獄に誘い、神と天使を滅ぼす存在!! 和平などというふざけたことをぬかし、其の力を天使や堕天使に向けん貴様らが、魔王を語るな!!」

 

「よく言うぜ。お前らのところだって、三大勢力のはぐれ者が集まってできたようなもんじゃねえか」

 

 俺がついあきれて突っ込めば、クルゼレイの奴は鼻で笑った。

 

「そんなもの、利用しているだけに決まっているだろう! この世界に我ら悪魔以外の種族など不要。そして我ら魔王の末裔こそが、その世界を統べるに値するのだからな」

 

 ………ここまで身の程知らずの雑魚の親玉のセリフをほざくとはな、今時漫画でもお目にかかれねえぞ。

 

 種の存続そのものが困難なこの時期に、そんなもん言える神経が理解できねえ。頭の中がどうなってんのか、マジで調べてえな。

 

 そして、サーゼクスもその言い草に腹をくくったらしい。

 

「……いいだろう。ならば私は魔王として、悪魔の未来を脅かす貴様を討つ」

 

「貴様が悪魔を語るな! だが、それでいいのだよサーゼクス!!」

 

 あ~あ~あ~あ~。サーゼクスの奴も苦労してるな。

 

 クルゼレイの奴、ここまでどうしようもないとはな。なんでこんなのに旧魔王派は付き従ってんのかマジでわからねえ。いや、マジでコカビエルの方がめちゃくちゃマシじゃねえか?

 

 そんなこと思ってる中、サーゼクスとクルゼレイが激突しようとして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いい加減にしてくれないかい、クルゼレイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その怒気に、俺たちは全員動きを止めて下を見た。

 

「まったく、こそこそとディオドラくんに何か仕込んでるみたいだから調べてみたら、なんだよこの展開は。曹操も面白がって手を貸しちゃうしもぉ」

 

 心底苛立たし気にしながらため息を、ついているのは、金髪の悪魔。

 

 間違いない、あれはリムヴァンの野郎だ。

 

 だが、その気配は今までの軽い調子とは全然違う。

 

 あの野郎、本気で怒ってやがるな。

 

「アザゼル。これはまさか」

 

「ああ。どうやら旧魔王派の連中。独断でこれだけの大ごとをしでかしやがったな」

 

 リムヴァンのやったことにしちゃぁ、なんかおかしいと思ったぜ。

 

 何ていうか、違和感を感じていた。

 

 絵とか何度も見てると、だれが書いたかわかる奴がいるが、そんな感じだろうな。

 

 描いている奴のセンスが違う。なんというか、これじゃない感じがしやがった。

 

 なるほど、どうやら旧魔王派はリムヴァンの奴がむかついてるらしい。それで勝手に動いたのがこの作戦だと。

 

「前にも言ったよね。無能な働き者なんて必要ないって。それなのになんでかき集めてる上にこんなことになってるのかな?」

 

「それは、離反者にあえてこの情報を流させたからにきまっている」

 

 いやまてクルゼレイ。今なんて言った?

 

 ま、まさか、こいつらの目的は―

 

「すでに英雄派の連中から聞いているのだろう? この調子でいけば我々は確実に勝てる。あれをどうにかできるものなど魔王ですら不可能なのだからな!!」

 

 マジか! 旧魔王派の奴、どんな奥の手を用意しやがった。

 

 状況次第じゃイッセー達を呼び戻すことも考えなきゃいけねえかもな。くそ、こいつは参ったぜ。

 

「クルゼレイ、お前たちは一体何を切り札にしている!」

 

「そこまで言うほど馬鹿ではない!! せいぜい悩んで終末の時を過ごすがいい!!」

 

 その言葉の応酬とともに、サーゼクスとクルゼレイは魔力を同時に放ち―

 

「いや、僕が一番怒ってるのはそこじゃないんだよ!!」

 

 リムヴァンの一喝とともに、その魔力が吹き飛んだ。

 

 おいおい、サーゼクスだけでなくクルゼレイの魔力すらかき消すのかよ! すげえ出力だな。

 

 クルゼレイも蛇によってそこそこ強力になってるはずだってのに、マジか。

 

 あの野郎。まだ本気のほの字もだしてねえのかよ。

 

「……クルゼレイ。ここは僕が引き受けるから、今すぐディオドラ君を連れて撤退しろ」

 

「ふざけるな! ここでアザゼルとサーゼクスをまとめて屠れるチャンスを逃せだと!? そんなまねができるわけ―」

 

 反論するクルゼレイの頬を、灼熱がかすめる。

 

 何て威力だよ。普通に最上級の火力はあるじゃねえか。

 

 さすがは超越者を名乗るだけのことはあるってか。あの野郎、神器の多重適合も含めりゃ、もう魔王クラスだなんて領域をぶっ飛んでやがる。

 

 しっかしディオドラの救出を最優先だと?

 

 あの野郎にそこまでの価値があるとは思えねえ。所業が知られればバッシングは受けるし、器は小せえし、何より戦闘能力だって若手では高い方とは言えそこまでのレベルがあるとも思えない。

 

 いったい、ディオドラの何がリムヴァンに執着されてんだ?

 

「……クルゼレイ、これは宰相命令だ。いいよね、オーフィス」

 

「リムヴァンが言うなら、それでいい」

 

 お飾りとは言えトップの許可ももらい、リムヴァンは溜飲を下げたらしい。

 

 おどけたいつもの空気に戻すと、押し黙るクルゼレイに苦笑を浮かべる。

 

「ディオドラ君は、純血悪魔ではありえない神器複合適正の素質を備えてるんだよ。この意味が分かるね?」

 

「! ……そういうことなら早く言えばいいのだ。なるほど、それは貴重だ」

 

 チッ! ディオドラのやろう、そんな希少体質だってのかよ!!

 

 クルゼレイの奴もすぐに踵を返して回収に向かいやがった。

 

 そんな希少なデータが禍の団にわたってみろ。複合神器保有者や複合禁手の使い手がゴロゴロ産まれちまう可能性がある!

 

「待て、クルゼレイ!!」

 

 サーゼクスは即座に魔弾を放つが、それらはすべて掻き消える。

 

 俺も禁手を発動させて追撃するが、リムヴァンが割って入って剣で受け止めた。

 

 光が吸収される? 魔剣創造(ソード・バース)で作った魔剣か!!

 

「まったくシャルバたちには困ったもんだよ! こりゃ謀殺しといた方が得だったかなぁ?」

 

「だろうな! あんな小物を放し飼いにするから、こういうことになるんだよ!!」

 

 直接殴り掛かっても、リムヴァンの奴はすぐに回避して距離を取る。

 

 そして大量の炎が巻き起こされ、俺たちとクルゼレイの間に壁を作りやがった。

 

「さて、僕の複合禁手、滅殺の敵対者(レジスタンス・オブ・バエル)は消滅魔力を問答無用で打ち消す複合禁手。元の神器が魔力に効果抜群なのだらけだから、悪魔じゃ僕を倒すのは困難だぜぃ?」

 

 ふふんと得意げに胸をそらしやがる。餓鬼っぽいのがなんかむかつきやがる。

 

「さぁてお二人さん? 悪いけど、徹底的に時間稼ぎに付き合ってもらうぜぃ? ディオドラ君は基本的に無能な働き者だけど、検体としては垂涎物だから譲れないのさっ!!」

 

「………はっ!」

 

 俺は、そんなリムヴァンを鼻で笑った。

 

「どうしたアザゼル。ディオドラ、我の蛇をあたえた。楽には勝てない」

 

 なるほど、確かにそれ位の備えは奴もするだろう。

 

 だが甘い。甘すぎる。

 

「残念だったなオーフィスにリムヴァン。イッセーがどんな特訓してきたか、知らないからこそそんなことが言えるんだよ」

 

 そう、イッセーに施した特訓を、リセスは地獄絵図と例えた。

 

 まさにその通りだ。

 

 いくら手加減しているといえど、あのタンニーンがつきっきりでしごいたんだ。かつての六大龍王の一角である、タンニーンが。

 

 普通なら死ぬ。どう考えても死ぬ。だから逃げ帰ることを前提に組んでた特訓だ。

 

 それをひと月近くも乗り切ったイッセーの地力は、お前らの予想なんかよりはるかにでかいんだよ。

 

「イッセーを舐めるんじゃねえ。アイツはヴァーリの宿敵だぜ? 蛇を当てた程度じゃどうしようもねえよ」

 

「その通りだ。私の義弟を舐めないでくれないかな」

 

 サーゼクスも俺と並び立ってそう答える。

 

 おいおい。イッセーのやつは鈍感すぎて、まだリアスが惚れていることに気づいてないぜ? 気が早ーよ。

 

 だが、実際そんな感じだ。

 

 そこに怒り心頭のヒロイとゼノヴィアまでそろってる。

 

 むしろ、ディオドラの奴はもうすでに死んでるかもしれねえなぁ。

 

「なるほど。腐っても赤龍帝。蛇を持っているとはいえ、上級悪魔の子息程度では荷が重いNE」

 

 リムヴァンはそれを認め―

 

「―だけど残念だNE」

 

 ―にやりと嗤った。

 

 なんだ? あの野郎、何の隠し玉をディオドラに仕込みやがった?

 

「こっちも、とっておきの貴重な神器を彼に移植したのSA!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、これやばいかもしれねえ。

 

 イッセー、ヒロイ、ゼノヴィア。……死ぬなよ!!

 




かつてここまでディオドラを魔改造した作品が存在しただろうか!!









はい、そんなわけでリムヴァンがディオドラを気にかけている理由はその適正故です。

ぶっちゃけ、この作品のディオドラは強敵です。マジ強敵です。強敵です。


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第二章 26 

ここで視点はシシーリアサイドに。




流石に少しは掘り下げませんと。ある意味章ヒロインですから。


 

 シシーリア・ディアラクは元聖女である。

 

 もともと信仰心の強い家系に生まれたが、しかし事故で両親を失い、教会の神父を務める親戚が運営する孤児院に送られる。

 

 そして、彼は神器に対する造詣が深い神父であり、自分には神器があった。

 

 聖女の洗礼(ホーリーライト・エンチャント)。それがシシーリアの神器の名前だ。

 

 触れた者に神の祝福を高密度で与えるそれは、病や怪我の後遺症に苦しむ信徒を癒すのに、それなりに効果的だった。また、武器に祝福をかけることで疑似的に聖剣に匹敵する効果を得ることができる。

 

 それゆえに、地方のマイナーな聖女として祭り上げられることになったのは、光栄だと思っていた。

 

 そして、そのままより大きな教会に移送されるとき、彼に出会った。

 

「シシーリア様。彼が同じ車両での直衛につきます、ヒロイ・カッシウスです」

 

「初めましてシシーリア様。将来英雄になる男、ヒロイ・カッシウスと申します」

 

 さらりとすごい発言を聞いた。

 

 そして直後、ゲンコツが彼に叩き込まれた。

 

「申し訳ありません。何分まだ若いもので、あほなことを言ってしまいました」

 

「いや、本気なんですけど……」

 

「……いい夢だと思いますよ?」

 

 自分を見て、自らも敬虔な信者足らんとする者たちは数多い。

 

 そんなシシーリアにしてみれば、ヒロイの英雄になるという自負も、決して悪いものとは思えなかった。

 

 とはいえ、護衛がぺらぺらと彼女としゃべるわけにもいかない。車両の中は割と沈黙が続いていた。

 

 静かなのは嫌いではないが、しかしこの沈黙は居心地が悪い。

 

 そう思って、ヒロイにつと視線を向けると―

 

「………」

 

 無言でパントマイムをしていた。

 

「ブフッ!」

 

 思わず吹いた。

 

 運転手を気遣わせてはならないと、何とかおなかを押さえてこれ以上笑い声をださないようにこらえる。

 

 それを見て、ヒロイもパントマイムを終了した。

 

 ぶっちゃけ下手だ。これをストリートでやっていたら、警察が来る前にブーイングが来るだろう。

 

 だが、こんなところでやっているということに隙を突かれて、久しぶりに吹き出してしまった。

 

 ああいけない、私は聖女なんだから、こんなところを見せてはダメだろう。

 

「あの、そういうのはできれば…‥っ」

 

 笑いを何とか抑えながら、しかし一応たしなめようとして―

 

「うん、よかったよかった」

 

 そう、ヒロイは安堵していた。

 

「え?」

 

 なんで彼は安堵しているのだろう。

 

 なにか、心配にさせるようなことをしてしまっていただろうか。

 

 それはいけない。自分は人々を安心させる聖女なのに、人々をおびえさせてはダメだろう。

 

 そう思ったその時、不意打ち気味に言葉が飛んできた。

 

「シシーリア様の心が曇ってるようでしたから」

 

「―っ」

 

 図星だった。

 

「……私は、聖女と呼ばれるような立派な人物ではありませんから」

 

 すこし、肩を落としてシシーリアは本音を漏らす。

 

 信仰心の強い親に育てられたからか、自分は節制を心掛けていた。

 

 神父の親戚に引き取られ、神器を保有していたことで彼からは神の祝福を受けた者として心から褒められた。

 

 だけど、シシーリアも15歳の子供なのだ。

 

 遊びたい。おいしいものを食べたい。面倒くさいことをしたくない。そう言った感情はちゃんとある。

 

 だけど、聖女に祭り上げられてそんなことを言うわけにはいかない。

 

 そして、それを素直に全部言うわけにはいかないことも理解している。

 

 自分にかけられている期待は莫大だ。そして、この神器で救える者たちも数多い。

 

 そんな自分が聖女として生きていかなければ、きっといろいろな人が不幸になってしまうのではないか。

 

 そう思うと、彼女の心はキリキリと痛み―

 

「俺は、輝き(英雄)になる男、ヒロイ・カッシウス!」

 

 その手を、ヒロイが優しく包んだ。

 

 驚いて顔を上げれば、ヒロイはニコニコ笑顔を浮かべながらシシーリアをやさしく見つめていた。

 

「英雄ってのは、暗いところにいる人の心を照らす輝きだ」

 

 そうはっきりと確信をもって告げると、ヒロイはシシーリアに微笑んで、そして一枚のメモ用紙を渡す。

 

 そこには、電話番号が書かれていた。

 

「だから、つらくて心が沈んだ時はここに電話してくれ。愚痴ぐらいは聞いてやる!」

 

 そうはっきり言うその姿。

 

 ……その姿に、シシーリアはどこか救われた気がした。

 

 もちろん、そんなものは幻だ。

 

 大きな教会に移ったことで、彼女の心労と周囲の期待は大きくなり、いつの間にかそのことも忘れてしまった。

 

 そして、信徒に紛れて潜入した悪魔に誘惑され、それに逃げた自分は悪魔となった。

 

 人を祝福する神器の力は、敵を滅ぼす悪意の力として使われるようになる。

 

 そして彼の本性に勘付いてしまった彼女は、いつの間にか自分のことをさらに卑下して、そのまま暗くて冷たいところで人生を終えるしかないとあきらめていた。

 

 ……だけど、彼は微笑んでくれた。

 

 ……彼は、自分のことを覚えていてくれていた。

 

 ……彼は、自分のことを元気づけようとしてくれていた。

 

 ……彼は、自分に助けを乞えるようにしてくれた。

 

 そして彼は……。

 

「お前は、照らされているか?」

 

 まだ、自分の願いをしっかりと持っている。

 

 シシーリアは、自分が何になりたかったのかをいまだによくわかっていない。

 

 いや、そもそもそんなレベルの話ではない。まず前提条件として何かなりたいものがあると考えるのが間違いだ。そんなビジョンを自分は持ってない。

 

 だが、もし一つだけ強いてあげるのだとすれば―

 

「……あの笑顔は、裏切りたくないです」

 

 それを自分が曇らせてしまった。

 

 その事実に歯向かいたいと、心から思った。

 

 なにより―

 

「……イッセーさん………っ」

 

 泣いている彼女を、自分と同じ目に合わせることは彼に顔向けできない。

 

 だから、彼女は精一杯の勇気を振り絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アーシアさん」

 

 その言葉に、アーシアは顔を上げる。

 

 自分がここに誘拐されて、まだ一日もたってない。

 

 だが気づけば、この拘束具に体を拘束されて、そのまま数時間も無理のある体勢を維持されていた。

 

 それで疲れて気絶してしまったらしいが、その肩に置かれる手がある。

 

 それに気づいて顔を上げると、そこには白い髪を伸ばした少女がいた。

 

「あ、あなたは……」

 

「シシーリア・ディアラクです。とりあえず、これを飲んでください」

 

 そういって水差しで水を飲ませてくれた。

 

 相当高級な天然水なようで、乾いたのどにとても心地よい。

 

 そして喉がうるおされて気持ちに余裕ができたのか、周りの状況にようやく気付けた。

 

 部屋が、振動で揺れている。いや、そんなレベルの話ではない。

 

 これはつい数週間前に経験した音と振動だ。

 

 すなわち、大規模な戦闘の音と振動である。

 

「いったい、何があったんですか?」

 

「いま、あなたを助ける人が来てくれたんです」

 

 即答で、すごいことを言われた。

 

 真っ先にアーシアはイッセーとリアスを連想するが、しかしおかしな話だ。

 

 ここの居場所をイッセーたちがすぐに気づくとは思えない。三回ぐらい転移を経由していたし、どうも神滅具まで使ったようだ。

 

 いくらアザゼルがついているとはいえ、そんな簡単に足取りがつかめるのだろうか?

 

 そんな疑問を浮かべたアーシアに、シシーリアは答えを教えてくれた。

 

「私が密告しました。ここの警備の状況も、ディオドラが貴族の方々を誘って亡命をたくらんでいることも、亡命先が旧魔王派なことも」

 

 その言葉に、アーシアは驚いた。

 

 素直なアーシアでも、絶霧とディオドラが手を組んでいる以上、ディオドラが禍の団と内通していることはなんとなくわかっていた。

 

 だが、ディオドラの眷属である彼女がそれを密告する理由がわからない。

 

「それで、貴女はなんでこちらに?」

 

「もちろん、あなたを守るためです」

 

 シシーリアはそういうと、持っていたハルバードを拘束具にたたきつける。

 

 しかし、拘束具はびくともしなかった。

 

「やはり私みたいな塵屑の一撃では壊れませんね。……まあ、壊しても部屋からは出ませんが」

 

 そう言いながら、シシーリアはアーシアに微笑んだ。

 

「大丈夫です。この部屋までの行き方はメールに添付しました。きっと救助はきますよ。……たぶん、ヒロイさんが」

 

 前にディオドラが来た時に話していたからうすうす勘付いていたが、どうやら彼女はヒロイの知り合いらしい。

 

 あの時はこんな決意のあるような表情を見せていなかったが、あの会話で彼女の何かが変わったのだろう。

 

「でも、よろしいのですか? 貴女はディオドラさんの眷属悪魔なんでしょう?」

 

 こんなことに気づかれれば、まず間違いなく重罰を受けることになる。それ位はアーシアにも予想できた。

 

 それも、護衛としてわざわざ侍らせるような待遇だ。その期待を裏切ったことで、彼女は殺されるかもしれない。

 

 だが、シシーリアはそれに対して表情を変えた。

 

 それは後悔からくる悲嘆ではない。

 

 嫌悪感からくる怒りだった。

 

「……彼は、私のことも貴女のことも愛してなんていません」

 

「え?」

 

 求婚されたという事実から、アーシアはディオドラが自分を愛しているというのだけは想定していた。

 

 レーティングゲームの景品扱いされたことはあれだが、然しそれも彼なりの歪んだ愛情表現だと解釈していた。

 

 そもそも、アーシア・アルジェントは人を嫌ったり憎むことができない性分である。

 

 アザゼルの示した神器発展が、遠距離射撃の応用なのがその証拠だ。彼女は広範囲にフィールドを張って回復を展開すれば、敵味方を識別せず無差別に治してしまう。それを治すのは困難だと、アザゼルが確信していた通りの性分なのだ。

 

 自分を殺すために迎え入れ、実際一度殺したレイナーレのことを様付けしてしまうところからも、それは表れている。

 

 ゆえに、この手の悪意を前提とするだましには鈍感なのだ。

 

 そして、シシーリアはそれをわかったうえで逃げ出すことも死を選ぶこともできなかった臆病者だが、しかしそれを悟る程度には、人を嫌うことも憎むこともできる性分だった。

 

「……彼は、私達のことをコレクション程度にしか思ってません。だから彼に同情してはいけないんです―」

 

「わかっているじゃないか」

 

 その言葉に、シシーリアは飛び跳ねるように振り返った。

 

 扉が爆発して吹き飛び、そしてそこからディオドラがずかずかと侵入する。

 

 その表情は、明らかに侮蔑と蔑みの入った嘲笑だった。

 

「ディオドラ……っ」

 

「ご苦労様、シシーリア。君のおかげで計画の確実性は増したよ。成果は小さくなっただろうけどね」

 

 歯を食いしばってハルバードを向けるシシーリアを無警戒で睥睨し、ディオドラはそう告げた。

 

 その言葉に、シシーリアはすぐに勘付いてしまった。

 

「私みたいな愚図が出し抜けたのは不思議でしたけれど、わざと泳がせていたんですか!?」

 

 もとから嫌な予感はしていたのだ。

 

 携帯のメールだなんて簡単な方法しか思いつかなかったので、すぐに勘付かれて殺されるものだとばかり思っていた。

 

 しかし、ここに至るまで全く指摘されなかった。

 

 それをおかしいとは思っていた、しかし、策謀に長けているわけではないシシーリアでは、そこから先は思い至らない。

 

 ゆえに、彼女がディオドラ達を出し抜くことは困難だった。

 

「ありがとう、シシーリア。君は僕の予想外の動きをしたけど、僕の期待通りの働きをしてくれたよ」

 

 心からの嘲りを込めて、ディオドラはそう言い放つ。

 

 それに、シシーリアは心から歯噛みした。

 

 アーシアを助け、そしてヒロイに恥じない自分に戻る。

 

 その決意を込めた行動は、結局ディオドラの対処の範囲内だった。

 

 その事実が、たまらなく悔しい。

 

「……それでも、彼女は守って見せます!!」

 

 ハルバードを振るい、シシーリアはディオドラに迫る。

 

 聖女の洗礼によって祝福されたこの武器は、生半可な聖剣を超える性能を発揮する。無論、悪魔にとっては天敵だ。

 

 ならば、直撃を当てることさえできれば勝ち目はあると判断し―

 

「甘いよ、シシーリア」

 

 その攻撃は、無防備に挙げられたディオドラの腕に止められた。

 

 聖なる装備に弱い悪魔という種族でありながら、ディオドラは祝福を受けたハルバードの攻撃を平然と受け止めた。

 

 もはや、圧倒的なまでの戦闘能力の開きがある。そしてそれは、相性で突破できるようなものではない。

 

 その事実に愕然とするより早く、ディオドラの平手がシシーリアを打ちのめす。

 

 平手でありながらその威力は激しく、シシーリアは一気にアーシアの元まで弾き飛ばされた。

 

「シシーリアさん! ディオドラさん、やめてください!!」

 

 アーシアは動けないながらもなんとかせんと叫ぶが、それをディオドラはスルーする。

 

 そして、それを最初からわかっていたシシーリアは、意地で立ち上がるとハルバードを構えた。

 

「無駄です。この男に、そんな感情はありません!」

 

「わかってるじゃないか。なら、無意味な抵抗はしなくていいよ」

 

 ディオドラはそういい、顔を気色にゆがめる。

 

 シシーリアを痛めつけるのが楽しくてたまらない。だからできれば抵抗してほしい。

 

 その感情がありありと伝わり、二人はどうしても浮かび上がる恐怖に震えを生む。

 

 それを見てさらに喜びながら、ディオドラはアーシアにほほ笑んだ。

 

 その笑みはまるで聖人のようだった。

 

 しかし、彼は聖人ではない。むしろその性根は、悪魔という言葉がぴったり合うほどに腐り果てている。

 

 そんな彼が、そんな無垢な笑顔を浮かべられることに、シシーリアは歯噛みする。

 

 自分が無理をして何とか形にしていた笑みを、こんな平然と彼のような悪党が浮かべられることが、悔しくてたまらない。

 

「それにアーシアは殺しはしないよ。彼女はこの作戦の要だからね」

 

 その言葉の意味は分からない。

 

 だが、それを告げた意味だけは分かる。

 

 おまえは、ここで無意味に死ね。

 

 ディオドラはそう告げたのだ。

 

「……それじゃあ、さようなら、シシーリア。君はなかなか好みだったけれど、再起した君にはがっかりだよ」

 

 その言葉とともに、ディオドラの右手から魔力があふれ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「させると思うか!!」」」

 

 その直後、壁が破壊されて聖なる輝きが飛び込んできた。

 

 その光景を、おそらくシシーリアは一生忘れない。

 

 そして、アーシアも決して忘れないだろう。

 

 それは、まさしく悪の魔王にとらわれた姫君を救う勇者の姿。

 

 それをまとって、お互いが心の支えとしていたものが現れたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっしゃ間に合ったぁ!!

 

 滑り込みセーフで俺はシシーリアとディオドラの間に割って入り、聖槍で魔力砲撃をかき消す。

 

 即座に放たれた迎撃の魔力砲撃を、ゼノヴィアが遠慮なくデュランダルでぶった切る。

 

 そして、そんなディオドラに対してイッセーが聖剣のオーラを込めた渾身の拳を叩き込んだ。

 

「ちぃ!!」

 

 ディオドラは何とかガードするが、しかし勢いを殺せず十メートルは吹っ飛ぶ。

 

 そして、そんな隙を見逃すほど、ゼノヴィアは甘くない。

 

「私の友達を、よくも捕らえてくれたな!!」

 

 遠慮なくゼノヴィアはデュランダルを構えると、そのオーラを限界まで高める。

 

 ゼノヴィアは、攻撃に威力を求める性分だ。どうしても本能的なセンスとして、それが引き出される。

 

 どうにもデュランダルはそのあたりの性質に素直に反応する性分らしい。まあ、見た感じバスターソードだし威力重視なんだろ。

 

 聖剣適性を得た木場も使ってみたが、切れすぎるとこぼしていた。

 

 で、ゼノヴィアはついに威力を制御することを放り投げた。

 

 もうデュランダルの威力を引き出すことに意識を集中させる。万が一威力を制御するときは、アスカロンを借りると割り切ったのだ。

 

 その結果生まれるのは、イッセーですら楽には放てないほどの圧倒的な攻撃力。

 

 ましてやデュランダルは最高峰の聖剣で、威力重視。悪魔との戦闘においては赤龍帝以上の効果を発揮するだろう。

 

 それが、何の遠慮もなくぶっ放された。

 

「消え去れ、この外道がぁあああ!!!」

 

 一瞬で、城の区画の三割が消し飛んだ。

 

 もう1kmぐらい切れ込みが走り、豪快に破壊の跡が産まれる。

 

 なにこれ。すでに最上級クラスの一撃に匹敵するんじゃねえか?

 

「……ふぅぅ。すこしすっきりしたな」

 

「いや、味方巻き込んでねえか不安なんだけどよ」

 

 俺は心底そう思った。

 

 これ、乱戦じゃ使えねえぞ。やっぱり威力制御する方向も視野に入れてくれませんかい、ゼノヴィアさん。

 

 ちなみにイッセーはいやらしい顔をしていた。

 

 ここに来るまでにディオドラの眷属を相手にした時、遠慮なく洋服崩壊(ドレス・ブレイク)乳語翻訳(パイリンガル)のコンボを決めて無双したのだ。

 

 なんでも読心術の対策を取っていたらしいのだが、全部筒抜けだったらしい。

 

 おいおい、乳語翻訳チートすぎね?

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさん!」

 

「「待たせたな、アーシア!!」」

 

 感極まったアーシアに、二人は真剣な表情で答える。

 

 そして、俺は俺が照らすべき存在に向き直った。

 

「よ、シシーリア」

 

「ヒロイ……さん」

 

 シシーリアは、なんだか暗い表情をしていた。

 

 そういや昔からこうだったな。

 

 シシーリアは、いつもなんというか暗かった。たぶん性根がネガティブなんだろうな。マイナス方向に考えがちで、そういう性分だから直せない。

 

「ごめんなさい、私は……結局―」

 

「ほい!」

 

 俺は遠慮なくシシーリアにチョップを叩き込んで黙らせた。

 

 ったく。何があったかは知らねえが、そういうのは聴く気はねえぜ。

 

「はう!? な、なにを!?」

 

「お前が言うことはそっちじゃない。そして、俺が言うことは決まってんだ」

 

 ああ、俺が言うことは、もう最初っから決まっているといってもいい。

 

 俺は英雄だ。そして、英雄とは人の心を照らす輝きだ。

 

 だから、俺が言うことは決まりきっている。

 

 努めて笑顔で、俺ははっきり言いきった。

 

「お前の心は照らされてるか? 英雄()が照らしに来たんだけどさ」

 

 その言葉に、シシーリアは少しだけ黙っていた。

 

 だけど、やがてその口元が弧を描いた。

 

「……まだなので、できれば照らしてください」

 

「ああ、任せろ!!」

 

 これで負けられない理由が増えたな、オイ。

 

 さあ、腐れ外道ことディオドラ・アスタロト。

 

 ……英雄に倒される魔王の役目、ちゃんと果たしてもらおうか!!

 




そういうわけでシシーリアが内通者でした。とはいえディオドラ達は即座にプランを修正したので出し抜けませんでしたが。


シシーリアの来歴はこんな感じで。もとからネガティヴだったので、ストレスゆえにかどわかされた感じです。

だけど、心の奥底に残っていた思い出が最後の一戦をギリギリのところでふみとどまらせました。

そして、其れでもなお暗く染まりかけたシシーリアを照らす輝き到着。

こっから、本格的なバトルタイムです!!


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第二章 27 VS双龍

はい、本格的なバトルスタートです!!


 

 俺達の目の前で、聖剣のオーラが消える。

 

 そして、ボロボロの服を纏ったディオドラが姿を現した。

 

 くそむかつくことに、あの野郎の体はほぼ無傷だ。

 

「やってくれるね。この服はお気に入りの服だったんだけどさ」

 

 ぱんぱんと、服についたほこりを払いながら、ディオドラは余裕の表情だ。

 

 いくらなんでもお嬢の同期で格下にしちゃぁ強すぎる。こりゃ、オーフィスの蛇とやらを移植してやがるな?

 

 上等だ。移植しまくりの俺が言うのもなんだが、ドーピングした程度でいい気になるなよ、三下!!

 

「ディオドラぁ!! てめえがシスター堕として悦に浸ってる下衆だってのはすでにシシーリアのメールで知ってんだ!! 今更俺たちがタダですますと思ってんじゃねえ!!」

 

 俺は、英雄魂が許すなと叫ぶ巨悪に対してドスをきかせる。

 

 こいつの趣味はよく知っている。シシーリアがメールで教えてくれた。

 

 シスターを堕として囲うのが趣味の下衆野郎。眷属の女性もほとんどがその手のタイプで、シシーリアもまたその類。

 

 和平成立前ならそれもまた許されただろう。だが、今は教会と仲良くやっていこうとしている時期なんでな。これ以上の狼藉は認められねえ。いい時代だ。

 

「アーシアの神器の特性をどこで知ったかは知らねえが、それをつついて教会から追放させるたぁいい度胸だ。聖遺物の裁きを食らわせてやるから覚悟しやがれ!!」

 

 俺は本気でムカついている。

 

 この下衆野郎は、今ここで叩き潰す!!

 

 待ってろシシーリア。お前をたぶらかしたこの腐れ外道は、ここでぶちのめす。それも、殺すつもりでだ!!

 

「……あの、私アーシアさんにはそこまで伝えてないんですけど」

 

 シシーリアがそう戸惑いながら言った。

 

 俺は固まった。

 

 イッセーも固まった。

 

 ゼノヴィアも固まった。

 

 ディオドラですら固まった。

 

 そして、視線がアーシアに集まった。

 

「………そ、そんな………」

 

 もはや表情すら消え失せて、アーシアは泣いていた。

 

 ………や、やらかしたぁああああああああ!?

 

「誠にすいませんでしたぁああああああああ!!!」

 

 俺は渾身バク天ひねり土下座を敢行する。

 

 そして、その俺の頭の横にアスカロンとデュランダルが突き刺さる。

 

「なんで言ったんだよ、ヒロイぃいいいい!!!」

 

「君は本当に持ち上げて落とすな、ヒロイ」

 

 いやぁああああ!!! ディオドラに対する殺意が全部こっち向いたぁあああああ!!!

 

 なんで俺は上げて落とす! そんな英雄スキルはかけらも必要としてねえのに!!

 

 助けに入って心照らした後じゃん! ある意味ドンピシャのタイミングで最悪の情報をアーシアに漏らしてるじゃん!!

 

「……ヒロイさん、英雄に向いてないんじゃ?」

 

 シシーリア! 酷い!! この場で一番酷い!!

 

 くそ、何が一番酷いって反論できねえことだ。

 

 なんか、自分でも心底納得しちまった。こういうところが俺の要修行ポイントなんだよ。クソッタレがぁああああ!!!

 

 見ろ! ディオドラですら呆気に取られて口をぽかんと開けている。まさかこのタイミングでと顔に書いてあるのが馬鹿な俺ですらわかるよ此畜生。

 

「と、とりあえず元凶ぶちのめす!! 謝罪はそっからだ!」

 

「後でホントに謝れよな!」

 

「まったくだ」

 

 ゴメンイッセー、ゼノヴィア!!

 

「シシーリアさんだっけ? アーシアを安全な場所まで送ってくれ」

 

 イッセーがシシーリアに振り返って、声を張り上げる。

 

 確かに、これ以上アーシアをここに置いておくのは逆に危険性がでかいな。

 

 だけど、シシーリアは涙をにじませながら首を振った。

 

「無理です! 私の力じゃこの拘束具を壊せないんです!!」

 

 そんなに頑丈な拘束具なのか? アーシアの身体能力で、そこまで頑丈な拘束具を用意する必要なんてないはずだ。

 

 いや、そもそも拘束具にしてはなんかでかくないか? 明らかに必要以上の造形をしてっぞ。

 

 くそ! まさか拘束具自体が変な能力持ってるんじゃないだろうな!!

 

「イッセー、ゼノヴィア! ディオドラをぶちのめして情報を吐かせるぞ!! 増援が来るまでにケリをつける!!」

 

「おう!」

 

「無論だ!!」

 

 俺たちは同時に飛び出すと、三方向から攻撃を叩き込む。

 

 なんでぴんぴんしてるのかは知らねえが、同時に聖なる武器三つはきついだろう!!

 

「ふふふ。君たちも強くなったんだろうけどねー」

 

 左右から迫る俺とゼノヴィアの攻撃を、ディオドラは腕を構えて防ぐ。

 

 気づけば、その腕には鎧が展開されていた。しかも、かなりのオーラが込められている。

 

 そして真正面から迫るイッセーには―

 

「―僕も強化させてもらったんだよ?」

 

 背中から生えた龍が、砲撃を叩き込む!

 

 イッセーはそれを両手を交差させて防ぐが、しかし防ぎきれず十メートル以上吹っ飛んだ。

 

 なんツー火力だ! SSランクはぐれ悪魔の黒歌でもびくともしなかったんだぞ!?

 

『……ほぅ。そう言うことか。こりゃまいったな』

 

 ドライグが、感心したのかあきれたのかよくわからない口調でそうつぶやいた。

 

 なんなんだドライグ。アイツの手品の種がわかったのか!?

 

「痛たた……。ドライグ、何か分かったんなら教えてくれ!!」

 

 イッセーの言う通りだ。

 

 俺たちはこれからこの馬鹿をとっちめなきゃならねえんだ。すぐにでも教えてくれないと困るぜ?

 

 つっても、ドライグも隠すつもりはないのかすぐに教えてくれた。

 

『あのディオドラとかいう悪魔。高位の龍の神器を二つも持っているぞ』

 

 ………はいぃ?

 

 思わず、俺たちは一瞬ぽかんとなった。

 

 その瞬間、大量の魔力弾がばらまかれて俺たちに迫る。

 

 少なく見積もっても一発一発が上級悪魔クラス。直撃すればリアスのお嬢ですら、ただでは済まない攻撃が十発以上。

 

 普通なら、恐怖で絶望してもおかしくねえ。

 

 だが、俺たちを舐めるよ!!

 

「吹きとばせ、デュランダル!!」

 

 豪快にゼノヴィアがデュランダルを振るい、大半を薙ぎ払う。これで半分以上が吹き飛んだ。

 

 さらに、俺も聖槍で打ち漏らしを迎撃。これで九割ぐらいが消滅した。

 

 そして、残りの魔力弾をもろに受け止めながら、イッセーが突撃を敢行する。

 

 そしてその後ろから俺とゼノヴィアが追撃のために走り出した。

 

 くらえ、ジェットスト〇ームアタック!!

 

「なるほど。蛇で強化された僕の魔力も簡単に防ぐんだね。だけど……」

 

 ディオドラは、まず蹴りでイッセーの拳をはじき、追撃の俺の聖槍をさらに蹴り飛ばす。

 

 この時、ディオドラの両足にさらに鎧が形成される。

 

 そして、ゼノヴィアのデュランダルを紙一重で避けた。

 

 さらに、胸部に鎧が生まれる。

 

 そして同時に三方向から仕掛けた俺たちに、カウンターで魔力を放って回避させる。

 

 直後、ディオドラの全身に鎧が形成された。

 

 んの野郎、すでに禁手にまで至ってんのか!!

 

『これは警戒した方がいいぞ、相棒』

 

「んだよドライグ! あれを知ってるなら早く教えてくれ!!」

 

 イッセーが、すぐに立ち上がりながらドライグに説明を促す。

 

 まったくだぜ。はよ能力を教えてくれ。

 

『奴は今、二つの高位のドラゴンを保有している。日本の八面王と、西洋のリントドレイク。……どちらも、龍王程じゃあないが、並の上級悪魔なら眷属ごとぶちのめせる化け物だ』

 

 にゃ、にゃんだとぅ!?

 

 八面王ってのは知らねえが、リントドレイク!?

 

 結構有名なすっげえドラゴンじゃねえか!

 

 そんなものを神器に封印した主もすげえが、なんでそんなもんをディオドラが二つも持ってるんだよ!!

 

「驚いただろう? これが龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)龍の外装(ドラグナイト・メイル)さ」

 

 そう自慢げに答えて、さらにディオドラは指を慣らす。

 

 その音とともに壁が崩れて、大量のケルベロスが姿を現す。

 

 お、おいおい。なんだこのケルベロスの数は!!

 

「そして、知性の少ない獣を使役する野獣の指導者(プレジデント・ビースト)だよ。……これで君たちは詰みだね」

 

 そう、ディオドラが得意げな表情を浮かべたのが、鎧越しでも嫌って程わかる。

 

 こ、この野郎……!

 

「……ごめんなさい。ごめんなさいっ!」

 

 いらだつ俺の耳に、声が届いた。

 

 シシーリアが泣いていた。

 

「私が利用されなければ、歯向かう気概もない屑のままだったら!」

 

 床にいくつもの涙の跡を作りながら、シシーリアは後悔している。

 

 なるほど。ディオドラの奴、俺たちをおびき寄せるために、わざとシシーリアを泳がせやがったな?

 

 シシーリアは、そのまま地面に崩れ落ち、ハルバードを取り落とす。

 

「……私は本当に、愚図で、ゴミで、役立たずで―」

 

「そいつは違うぜ、シシーリア!!」

 

 これ以上、そんなことは言わせねえ。

 

 俺は震脚を叩き込むと、その空気を一蹴する。

 

 全員の視線が集まる中、俺は聖槍を掲げて断言する。

 

「お前は! 何人もの人の病を癒してきた!! 聖女シシーリア・ディアラクは! 荷が重いとわかっていても、聖女であろうと努力してきた!!」

 

 俺は、それをすごいと心から思う。

 

 そりゃぁ、そこをつつかれてディオドラに転がったのは痛いところだけどよ、お前が救ったやつらがいたことだけは否定しようのねえ事実だろうが。

 

 だから、これだけは言わせねえ。

 

「お前は、屑でもゴミでもカスでも塵でも駄馬でもない!! 何より……」

 

 俺は、攻撃が来る可能性があるけど構わず、シシーリアと視線を合わせる。

 

「俺が照らすと最初に約束した、女の子だ」

 

「……あ」

 

 その言葉に、シシーリアは目を見開いてくれた。

 

 ああ、そうだろう。シシーリア。

 

「英雄が初めてその役目を果たすといった女の子。つまり俺の初めてさ。姐さんに次ぐすっげえ奴なんだぜ、お前は」

 

 ああ、だから泣くなシシーリア。

 

 いろいろ道を踏み外したお前だが、しかしお前は間違ってない。

 

 だから、必ず照らして見せる。

 

「……覚悟決めるぞイッセー、ゼノヴィア!! ここで、俺達が、ディオドラを、倒すんだよ!!」

 

 負けられねえ理由が、増えちまったなオイ!!

 

「ふっ。確かにその通りだね」

 

 一瞬気圧されていたゼノヴィアだが、すぐにデュランダルを構えて立ち上がる。

 

 その目に、躊躇は欠片もない。

 

「悪魔でありながら信徒であることを許された身として、彼女も救わないとな」

 

 ああ、そうだろうゼノヴィア。

 

 お前は特にそうだ。やけになって悪魔になっても、結局信仰を捨て切れなかった。

 

 ある意味生粋の信徒なんだ。だったら自分の所為じゃない罪すら悔いているこの子を助けなきゃダメだろ!!

 

「ああ、まったくだな、オイ」

 

 イッセーもまた、鎧からオーラを全力で出して気合を入れる。

 

 その目はやる気と怒りと、何より闘志に満ち溢れていた。

 

「アーシアを苦しめただけでも許せねえってのに、こんな可愛い子泣かせてんだ。ここで立たなきゃ男じゃねえ」

 

 そうだな。お前はハーレム王になるんだもんな。

 

 ハーレム作る男が、女の子に優しく出来なきゃ駄目だろうよ。それも、自分の女ならなおさらってやつだ。

 

 気合を入れろイッセー。ここで決めなきゃハーレム王の名が廃るぜ!

 

「いいねぇ。それ位噛み付く気概がなければ、叩き潰し甲斐がないよ」

 

 そうほざきながら、ディオドラは片手を上げる。

 

 そして、同時にケルベロスたちが飛び掛かる体勢に入った。

 

 さて、ここからどうやって凌ぐか……。

 

「イッセー! アスカロンを貸せ!!」

 

 ゼノヴィアが、声を張り上げた。

 

 アスカロンを? 確かにあれは中々強力な武器だし、イッセーの場合は剣術の心得がないから使いこなせてるたぁいいがたいが。

 

 いったい何に使う気だ?

 

「よ、よくわからないけどわかった!!」

 

 イッセーは籠手からアスカロンを外すと、ゼノヴィアに投げて渡す。

 

 それを見ずに受け取り、ゼノヴィアは両手に聖剣を構えた。

 

「……アーシアは私の友達だ。それも、イッセーと同じぐらい大事な存在だ」

 

 静かに、ゼノヴィアはオーラを高めていく。

 

 そして、それに応えるかのようにアスカロンとデュランダルは共鳴する。

 

 もとから、ゼノヴィアはアスカロンを運用する時にはデュランダルのオーラを併用していた。

 

 だからだろう。二つの聖剣の親和性は、マジで究極の二文字をつけるぐらい上昇している。

 

「そして、シシーリアは踊らされていたとはいえ、そんなアーシアを助けてくれた恩人だ」

 

 ゼノヴィア。シシーリアのことまでそんな風に思ってくれてるのか。

 

 俺はちょっと目頭が熱くなった。よかったな、シシーリア。

 

 そう、だからゼノヴィア。

 

 シシーリアとアーシアを助けてくれや。

 

「だから助ける! だから救い出す!! 誰が相手だろうとそれだけは諦めるものか!!」

 

 その思いに応えるかのように、さらにデュランダルとアスカロンは輝いた。

 

「な、なんだその出力は! あ、あり得ない! 下級悪魔ごときが……!」

 

 流石にディオドラもビビリが入りやがった。

 

 ま、当然だろう。

 

 人間の俺ですらピリピリしてる出力だ。悪魔のアイツからしてみりゃぁ恐怖を感じたっておかしくねえだろうしな。

 

「デュランダル、アスカロン! 私の想いに、答えてくれぇええええええ!!!」

 

 その思いとともに、ゼノヴィアはそのオーラの剣を真横に勢いよく振り払った!!

 

 その瞬間、城が勢いよく吹っ飛んだ!!

 

 すいませぇえええええん!! 流石に、非戦闘員まで巻き込むのは心苦しぃんだけどぉおおおお!?

 

 俺の心のツッコミとともに、ケルベロスが勢いよく吹っ飛んだ。

 

 さらに、アスカロンの龍殺しのオーラをもろに受けて、ディオドラも吹っ飛んだ。

 

 ああ、あいつ高位の龍を封印した神器を二つも装備してたからな。しかも悪魔だから龍殺しの聖剣のオーラとか天敵だろ。ついてない奴。

 

「このぉ……薄汚い下級転生悪魔風情がぁあああああ!!!」

 

 吠えるディオドラは、背中の龍から大規模な砲撃を放ち、さらに自分も魔力の槍を放つ。

 

 そして、それに立ち向かうのはイッセーだ。

 

「全力全開、ドラゴンショットぉおおおお!!!」

 

 大火力の砲撃と砲撃がぶつかり合い、せめぎ合う。

 

 しかし、その合間を縫って魔力弾がイッセーの全身に叩き付けられた。

 

 その大半は鎧でたやすくはじかれるが、一部の攻撃はピンポイントに鎧の隙間や装甲の薄いところに突き刺さる。

 

「ぐぁ!?」

 

 その激痛で威力が落ち、砲撃のせめぎ合いはディオドラが押し始めた。

 

「あはははは!!! いくら二天龍を宿していようと、しょせん君は屑なんだよ! 魔力の扱いで僕に勝てるものか!!」

 

 ディオドラが勝ちを確信して吠えた。

 

 確かに、ゼノヴィアもまた負担が大きかったのかへばっていて、イッセーはこのままなら押し切れるだろう。

 

 ……うん、バカだ。

 

「屑はお前だ、ディオドラぁあああああ!!!」

 

 俺を忘れてんじゃねえ!!

 

 全速力で、俺はディオドラに突進する。

 

 今奴はイッセーとの撃ち合いで動けない。下手に動けばドラゴンショットが直撃するってわかってるからだ。

 

 すなわち、攻撃し放題!!

 

 ここで一気にケリをつけて―

 

「……バカは君だよ」

 

 その瞬間、俺の周囲を魔力の杭が包囲する。

 

 なるほどなぁ。まだ余力を残してるってわけか。

 

 流石はドーピングだよりとは言え、魔王を輩出した72柱の次期当主だ。やるじゃねえか。

 

「この数を全部捌くことはできないだろう? 君の動きは見切ってるんだよ!!」

 

 その言葉とともに、一斉に杭が襲い掛かる。

 

 ああ、流石にこれは躱しきれないし捌ききれないな。

 

「「ヒロイさん!!」」

 

 シシーリアとアーシアの悲鳴が重なる。

 

 ああ、確かに絶体絶命。悲鳴も上げる。

 

 状況は確かに大きく不利だ。

 

 そう、奴の現段階での出力は俺よりでかい。

 

 死闘を繰り広げた。

 

 致命の攻撃を叩き込んだ。

 

 そして、勝利を確信した。

 

「だから断言しよう。……いいや、まだだ。勝つのは俺だ」

 

 英雄譚のお約束をありがとうよ!!

 

 これで、俺の逆転フラグは積み立った!!

 

 放たれる魔力の杭がピンポイントで俺の急所に当たる直前に―

 

魔剣創造(ソード・バース)ぅ!!」

 

 俺は、その急所をピンポイントでカバーするところに魔剣を生み出す。

 

 直撃する魔剣と魔力。

 

 だがしかし、是は木場との協力で確保した魔力吸収用の魔剣。そう簡単には壊れない。

 

 そして、その瞬間俺は限界を超える。

 

 呼吸を整え、全身を脱力させ、そして一気に力を込め直す。

 

 放たれた魔力の杭の一部を、逸らしてあえて受けることで、推進力へと変換。

 

 割とダメージはでかいが、意地で無視。そのまま全速力で突っ走る。

 

 一気に、距離を詰めた。

 

「舐めるな!!」

 

 しかしディオドラは攻撃をやめない。

 

 槍に狙いを定めて魔力砲撃を発射。それで俺を止める算段だろう。

 

 だから、俺は槍を手放した。

 

「なぁっ!?」

 

 想定外の行動に狼狽するディオドラは隙だらけだ。

 

 そしてそのまま、俺は右腕に爪のように魔剣を伸ばして―

 

「シシーリアを包む小汚い闇風情が―」

 

 懐に飛び込み―

 

「―てめえはもう、黙ってろ!!」

 

 渾身の力を込めて、魔剣の拳で殴り飛ばした!!

 




ディオドラ、超強化。

因みに龍の外装は文字通り龍の鎧を展開する神器なので、まだディオドラは禁手に至っていません。

龍の咆哮もハイスクール・ストラトスとは形状が違いますが、ただの亜種です。こちらも禁手にはなってません。

野獣の指導者も、今回しか出てこないんで、禁手もだすつもりです。








ディオドラは、まだ奥の手をいくつも隠し持っているといっておきましょう。ここで倒せなかったのは痛いです。


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第二章 28

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、リセス・イドアルもまた、城内に突入することに成功していた。

 

 もともと警備網がある意味で一番少ないところをかく乱するために単騎突入していたのだ。そのため難易度は一番低いといってもいい。

 

 そんな中、いきなり大規模なオーラによって城の一部が吹き飛ぶという事態が発生。これによって戦線は混乱状態になった。

 

 そして、其れを好機と判断したリセスは戦線を突破して城内への突入を選択する。

 

 なにせ、今回の首謀者は旧魔王派の最重要幹部であるクルゼレイ・アスモデウスと首魁であるシャルバ・ベルゼブブだ。

 

 ヒロイたちの任務はあくまでアーシアの救出。それ以外についてはかかる火の粉を振り払う……もとい、吹き飛ばすこと。幹部格との戦闘はさすがに考慮していない、というかできなかった。

 

 仮にも魔王末裔ゆえに最上級クラスの戦闘能力を持っているシャルバとクルゼレイ。さらに彼らが蛇を持っていれば、その戦闘能力は魔王クラスであるアザゼルですら苦戦するほどだ。

 

 英雄として、そんな事態を見過ごすわけにもいかない。それを見過ごしたら自分は強さから遠ざかる。

 

 ゆえに、リセスは全力で城内に突入を試みた。

 

 ……その瞬間、さらに強大なオーラが、今度こそ城をごっそりと吹き飛ばした。

 

 カウンターだった。それも、たぶん味方による。

 

「し、死ぬかと思ったわ」

 

 冷や汗をぬぐいながら、リセスは破壊された城を見る。

 

 下を思いっきり吹きとばされたことで、かなり倒壊している。

 

 これ、ヒロイたちも埋もれてないだろうかと心配になるが、どうも中央部あたりで強大なオーラが放たれている。

 

 どうやらこの調子なら大丈夫だろう。

 

 そう考え、しかしここまで来たのだからと支援を行おうとし―

 

「っと」

 

 とっさに、聖なるオーラを放って放出された魔力を迎撃する。

 

 神滅具のオーラと激突した魔力は、お互いに相殺して吹き飛んだ。

 

 激戦なので特に手加減してなかったはずの一撃。しかし、それを相殺するほどの莫大な魔力。

 

 間違いなく、相手は強敵と認識するべき相手だった。

 

「どちら様かしら?」

 

 振り返るリセスの目に入ってきたのは、軽装の鎧を身に纏った、貴族らしき男。

 

 しかし、見るからになんというか嫉妬深そうというか、偉そうというか、悪そうというか……。

 

 とにかく、悪の幹部というのがぴったりな雰囲気だった。

 

「貴様が偽りの神滅具使いか」

 

「英雄になる女、リセス・イドアルよ。そちらは旧魔王派の幹部でいいのかしら?」

 

 静かに戦闘態勢を取りながら、リセスはそう尋ねる。

 

 それに対して不快げな表情を浮かべながらも、しかしその男はうなづいた。

 

「真なるベルゼブブの後継者。シャルバ・ベルゼブブだ」

 

 ……これを吉と取るべきか凶と取るべきか。

 

 吉と取るなら、手柄を立てるチャンスだ。

 

 なにせ、敵の大きな派閥の首魁なのだ。討ち取れば名が上がるのは確実。その功績で自分はこの戦争の英雄になることだってできるだろう。

 

 凶と取るならば、これは自分の命の危機だ。

 

 なにせ相手は旧魔王の末裔がドーピングという組み合わせをした凶悪コンボ。その戦闘能力は魔王クラスでも苦戦するだろう。

 

 いかにアスカロンの研究で聖なるオーラも使えるとはいえ、禁手に至っていない自分では勝てるかどうかがわからない。

 

 英雄になる前に死ぬのは、できれば避けたいところだった。

 

「然し好都合だ。ここで貴様を確保すれば、死体から神滅具を奪えるかもしれん。秘匿して我らの力として運用しよう」

 

「言ってくれるわね、そう簡単に私を殺せると思っているのかしら?」

 

 内心の警戒心を隠し、リセスはシャルバの皮算用を皮肉る。

 

 しかし、それに対してシャルバは嘲笑を浮かべた。

 

「貴様ら愚か者にはわかるまい。この会合はな、ディオドラのところにいる、躾のなってない雌犬に漏らすところが肝要なのだよ」

 

 ……その言葉に、リセスは警戒心をはね上げた。

 

「シシーリアとか言った子に、わざと詳細情報を漏らしたのね?」

 

「ああ。あえて探せばすぐ見つかる場所に無警戒に置いておいた。もっとも重要な部分を隠してな」

 

 そう言い放つと、シャルバは腕をリセスに向ける。

 

 そこに取り付けられた機械から、光力が放たれた。

 

 リセスはそれを同じく光力をぶつけて相殺するが、然しその余波で周囲の瓦礫が吹き飛んでいく。

 

「新兵器の実験だなんて余裕があるわね。でも、堕天使と天使も協力してるのよ?」

 

 悪魔にとって光力は天敵。確かにこの装置を運用することができれば、旧魔王派は現政権に対して有効な武器を手に入れただろう。

 

 だが、恐らくこれが切り札ではないとリセスも分かっている。

 

 おそらく、もっと強大な切り札がある。それも、確実に圧勝できると確信しているレベルの切り札が。

 

「ああ。アーシア・アルジェントは素晴らしい。彼女の存在がこの作戦を成立させてくれたのだよ」

 

 そして、其れは想像以上に最悪だった。

 

「……あの子に何をしたの!?」

 

 勝負を急ぐ必要があると判断し、リセスは風を利用して飛び上がる。

 

 そして、光力を剣に付加して切りかかった!!

 

 それを魔力をまとった拳で受け止めながら、シャルバは蔑むように笑う。

 

「白龍皇ヴァーリをシトリーが叩きのめしてくれた時は嬉しかったぞ。あの誇りとは無縁の男が下級ごときにたたき伏せられたのも、いいデータが取れたのもな」

 

 その言葉に、リセスはまだまだ此方に内通者が多いことを察する。

 

 そして、その時のことについての知識を一瞬で掘り返した。

 

 あれは、たしか生徒会の匙元士郎が中心となった作戦だった。

 

 女王である椿姫がカウンターでヴァーリの鎧を下し、そして匙がラインをつなぐ。

 

 そして、其れを経由して血を奪い取ることで、白龍皇を戦闘不能にする妙手だった。

 

 さらに半減の力すら、堕天使から供与してもらった反転(リバース)で自己強化へと変化させる。

 

 あれは、本来の用途とはまったく別のアプローチでの運用だった。アザゼルも試作段階でリスクが大きいことからいい顔をしなかったが、データが取れたことには感謝していた。それほどまでに神器の能力そのものを反転させることには新しい意味があり―

 

「―っ!?」

 

 その瞬間、リセスは何かを察した。

 

 そして、其れが致命的だった。

 

「どうした? 隙だらけだぞ?」

 

 気づけば、大量の蠅がリセスを取り囲む。

 

 ベルゼブブとは、蠅の王を意味する名。それはつまり、シャルバの血がなせる固有能力。

 

 そして次の瞬間、大量の魔力攻撃が、一気に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、アザゼルたちは徹底的に時間を稼がれていた。

 

 リムヴァンはぼろぼろになりながらも、堕天龍の鎧を時間切れまで防ぐことに成功。この時点で大金星といってもいい。

 

 さらに、サーゼクスが消滅の魔力を相殺されているというのも大きい。

 

 消滅の魔力を的確に扱うことに人生をかけてきたといってもいいサーゼクスは、その操作能力こそが真骨頂だ。

 

 それこそが、彼を魔王にまで押し上げた理由の一つ。ウィザードタイプとして極めて高い戦闘能力を発揮する。

 

 それを、完全に無効化された。

 

 魔力を中心とする悪魔に対する防御を中心とした神器の数々。そしてそれを複合禁手と化し、さらには消滅の魔力を無力化することに特化した。

 

 完膚なきまでのサーゼクス封じ。それがサーゼクスを通常の最上級悪魔レベルに迄落とし込んでいる。

 

 炎や雷など、魔力の運用を変えることでしのいでいるが、しかしそれでは真価を発揮することはできない。

 

 さらに足止めに徹した戦法で動くリムヴァンの戦い。

 

 これにより、三大勢力のトップ二人が完全に縫い付けられているという事態が発生していた。

 

「ふっふ~ん♪ この体、思ったより頑張れるね~♪」

 

 明らかに上機嫌になっているリムヴァンの口調は神経に障るが、しかしそれ以上にこの状況が神経に障る。

 

 アザゼルにとってイッセーたちは教え子だし、サーゼクスにとってイッセーたちは妹の家族も同様だ。

 

 その彼らが、クルゼレイによって害されようとしている。これがさらに焦りを生み、隙を生む。

 

 そして、そのうえでリムヴァンは攻撃を多用せずあくまで足止めに徹していた。

 

「この野郎が! 俺たちをここで倒せなくてもいいってか!」

 

「そりゃもうNE! まだまだ序盤だってのに、君たち倒したら楽しめないじゃんKA?」

 

 その言葉に、アザゼルは警戒心をはね上げる。

 

 この男がいう超越者の言葉の意味はアザゼルも知っている。

 

 悪魔という種族に生まれる、魔王クラスすら圧倒するであろう強大な存在。そもそも、悪魔という次元でくくっていいのかすらわからない存在。そんな文字通り悪魔を超越したものの名だ。

 

 彼らは三人しか確認されていないが、リムヴァンの能力が彼の言った通りなら、確かに彼は超越者だ。

 

 神器を大量に移植してデメリット無し。しかも、それを適正次第で自由に操れる。まさに超越者だろう。

 

 あの男とは正反対の位置に属する超越者。こと拡張性という点において、彼の戦闘能力はとんでもないレベルだ。

 

 だが、ゆえにこそ今のこの男を積極的に殺す必要性がなかった。

 

「……リムヴァン。俺たちの目の前にいるお前は、本物じゃねえな?」

 

 その言葉に、リムヴァンは答えない。

 

 だが、しかし絶対に本物ではない。

 

 彼の戦闘能力は、高く見積もって最上級悪魔の上といったところだ。超越者としてはあまりに低すぎる。

 

 第一フェニックスに由来する存在にもかかわらず、傷が再生していない。これはどう考えてもおかしい。

 

 ゆえに、アザゼルは確信すらしており―

 

「―バカのフォローのために、本体がわざわざ出てくる必要はないからね」

 

 ―そして肯定した。

 

「分身ですらその戦闘能力。それも複合禁手によるものかね?」

 

「イッエ~ス! 複合禁手、上流階級の代行者(パペット・オブ・ミラー)だよん?」

 

 そうおどけると、リムヴァンは自分を見せびらかすようにクルリと回る。

 

「本物とそっくりでしょ? 持ち出せる神器には限りがあるし、戦闘能力も最上級悪魔クラスだけど、有利に立てる神器を持ってきたうえで足止め限定なら、君たち二人でも何とかなるよん♪」

 

 腹立たしいが、実際に足止めされていては文句も言えない。

 

 まるでこちらの手の内を全部知っているかのような的確な防御と遅滞戦術に、二人は見事に足止めを喰らっていた。

 

「例の人工神器には苦労したけど、まだまだ試作段階みたいだしね~。そ・れ・に!」

 

 指を立てて、リムヴァンはサーゼクスに視線を向ける。

 

 その視線は、同情すら浮かんでいた。

 

「味方を守るためとはいえ、本気を出せないサーゼクス君なら、さすがに負けないさ」

 

 その言葉に、サーゼクスは静かにため息をついた。

 

「……そこまで知っているのか。やはり、君の情報網は相当根深いところまで冥界を侵食しているようだ」

 

 その言葉は、肯定だった。

 

 サーゼクスは、心から目の前の分身の本体を警戒する。

 

 自分が超越者として呼ばれる所以を、この男は知っている。

 

 秘匿事項というほどではないが、彼の本領を知っている悪魔は数少ないにもかかわらずだ。

 

 だからこそ、対消滅に特化した禁手を持っているのだろう。それほどまでの警戒が、同じ超越者であっても必要だと確信しているのだ。

 

 しかし、だがそれでも彼は甘い。

 

「……リムヴァン、君に一つ忠告をしておこう。どうせすぐに身をもって実感するだろうからね」

 

 その言葉に、リムヴァンは怪訝そうな表情をした。

 

 そして、その直後彼らを包み込むように結界が張られる。

 

 それは、別に彼らの脱出を阻害するような結界ではない。

 

 しかし、その結界の意味に気づいたことで、リムヴァンの表情は引き締まった。

 

「……こりゃ、あと十分も足止め出来たら奇跡かなぁ?」

 

「安心したまえ。……五分で終わる」

 

 リムヴァンにそう答え、サーゼクスは覚悟を決める。

 

 この結界は、万が一のために眷属たちが総出で張った結界だ。

 

 自分が全力を出しても、周囲に被害を出させないようにするための特注結界。自分の僧侶であるマクレガーが、全力をもってして作り上げた傑作だ。

 

 ゆえに、遠慮なく全力を出すことができる。

 

「君がどれぐらい私のこの力を知っているかは知らない。だけど、それが間違ってないかどうかをあえて試させてあげるよ」

 

「御親切にどうも。()()()の君がどれぐらいできるか、僕もデータがとりたかったしね」

 

 その言葉の応酬とともに―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超越者同士の戦いの意味を、アザゼルはその目に焼き付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

「……え?」

 

 アーシアの声に、俺たちはとっさに振り返る。

 

 いつの間にか、アーシアを封じている拘束具が、何かしらオーラを生んで妙なことになっていた。

 

 な、ななななんだ?

 

「ふふふふふ」

 

 と、殴り飛ばされたディオドラが、含み笑いとともに立ち上がる。

 

 な、なんだ一体?

 

「ディオドラ! てめえ、アーシアに何をしやがった!!」

 

 イッセーが怒鳴りつけると、ディオドラは勝利を確信したもの特有の態度を見せつける。

 

 一体どういうことだ? 状況は俺たちに傾き始めてるはずだぞ。

 

「それは、絶霧(ディメンション・ロスト)の禁手で作られた結界装置なんだ」

 

 な、なんだと!?

 

 絶霧といやぁ、リムヴァンが大量に保有していて、さらにゲオルクとかいうヴァーリと互角に戦ったやつが持っていた神滅具!!

 

 神滅具の中でも特に強い、上位神滅具の一つ。結界系最高といわれる、禍々しい霧の神器。

 

 霧に包まれたものを封じ、そして転移させる、転移と結界の力を持った神滅具だ。

 

 その禁手でなんで拘束具ができるんだよ!!

 

「名前は霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)。霧の中から所有者の思い通りの結界装置を作り出すって代物さ」

 

 な、なるほど。ようは結界発生装置限定の創造系神器になったってわけか。

 

 ってちょっと待て。それに態々アーシアを組み込むってことは……。

 

「アーシアをコアにすることで発動する結界でも張るってのか!?」

 

「ああ。さすがに何でもできるってわけじゃないからね。こと回復の力を利用するには、それなりの材料が必要なのさ」

 

 俺の言葉にディオドラはうなづいた。

 

 そして、得意げに説明を始める。

 

「発動条件は、僕が倒されるか戦闘開始から一定時間がたつか。そしてその効果はアーシアの力を広範囲に展開し―」

 

 て、展開し?

 

 アーシアの回復力をフィールド全体に張れば、すごい回復空間ができそうだな。

 

 そ、それに神滅具の結界装置なら敵味方の識別も可能かもしれねえ。そうなったら戦況はこっちがむちゃくちゃ不利になるぞ。

 

 だが、ディオドラの次の言葉はその斜め上をぶち抜いた。

 

「その回復力を反転させる。そして蛇を持たないものに効果を等しく与えるのさ」

 

 なんだと?

 

 おい、ちょっと待て。

 

 アーシアの回復力は、致命傷でも即座に回復しかねねえ代物だ。フェニックスの涙にもケンカ売れるぐらいのレベルだぞ。

 

 その回復力が、反転するだと?

 

 それも、蛇を持ってないのは基本的に俺たち側だぞ。

 

 そんなことになったら……っ!

 

「私達が……全滅するかもっ」

 

 最悪の答えに至り、シシーリアが顔を真っ青にする。

 

 ま、マジでやばい! それだけはマジでやばい!!

 

「さあ、これで終わりだよ下級悪魔ども!! 君たち全員、まとめて死ぬといいさ!!」

 

 ど、どうすんだよ、この状況!!!

 




リムヴァンは複合禁手をかなり大量に用意しています。

そのうちの一つが分身生成。この分身、素体状態でも最上級悪魔クラスある上に、さらに神器を一部狩りてくることが可能。今回は堕天使用の対光力魔剣と、対サーゼクス用の複合禁手を持ってきました。

そして、相性抜群とは言え三大勢力首脳陣を同時に相手にして足止めする分身。因みに本体はこんなもんじゃありません。

なお、最初に登場してからポンポン不思議なことを言っているリムヴァンですが、全部伏線ですのでお楽しみください。


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第二章 29 アスタロト

はい、ちょっと長めです。







この章のボスが、ついに本気を見せます


 

 とっさに全力で叩き壊したくなるが、しかしそんなことをしてる暇はない。

 

 ここでディオドラに背を向けるわけにはいかねえからだ。

 

 だったら―

 

「イッセー! おまえは全力でその拘束具を引きちぎれ!!」

 

 一番場慣れしてない奴にして、一番馬鹿力のあるやつ。それがイッセーだ。

 

 だから、イッセーが離れるのが一番いい。

 

 戦闘技量が少ないからディオドラを足止めするのには一番役に立たねえが、単純な腕力ならぶっちぎりでトップだから、物破壊するだけならもってこいだ。

 

「ゼノヴィア! 俺たちはディオドラを足止めするぞ!!!」

 

「わかっている!!」

 

 そういうなり、俺たちはディオドラに攻撃を再開する。

 

 ここでこいつに何かさせるわけにはいかねえ! なんとしてもここで押しとどめる!!

 

「あはははは!!! 無駄だよ! いくら神滅具の禁手とはいえ、格上の神滅具の禁手でできた結界装置を壊せるものか! シャルバやクルゼレイですら無理だったんだからね!!」

 

 大笑いしながら、ディオドラは俺たちと攻防を再開しやがる。

 

 くそったれ! イッセーが抜けたから攻め切れねえ!!

 

 そしてイッセーも何とか結界装置を破壊しようとするが、びくともしやがらねえ。

 

 なんだあの頑丈な拘束具! 二天龍ですらびくともしねえだと!?

 

「イッセーさん! 時間がありません、私を―」

 

「ふざけんな! そんなことできるわけねえだろ!!」

 

 アーシアの言葉をさえぎって、イッセーは何とか破壊しようとしてるみたいだ。

 

 だが、結界装置は壊れない。

 

「無理だね。其の装置は機能の関係で使い捨てだけど、だからこそ頑丈に作られている。君たちでは壊せないよ」

 

 黙ってろ、ディオドラ!!

 

 俺とゼノヴィアは連続で攻撃を仕掛けるが、イッセーが抜けた分の穴でディオドラは防戦に成功している。

 

 くそ! できりゃあ三人がかりで壊したいってのに、そんな暇もねえ!!

 

「お願いします! このままでは先生も魔王様たちもミカエル様も! そんなことになるぐらいなら―」

 

「駄目に決まってんだろ!!」

 

 イッセーはアーシアの言葉をさえぎって、何度も何度も結界装置に攻撃を加える。

 

 だが、それでも結界装置は壊れない。

 

 クソッタレ! 神滅具の禁手で壊せないとか、どんだけ頑丈なんだよあれは!

 

「俺は二度とアーシアに悲しい思いをさせないって決めたんだ! 絶対に助けるから、だからそんなこと言うなよ!!」

 

 ドラゴンショットを何度もたたきつけるが、それでも結界装置は壊れない。

 

 俺たちも加勢したいところだが、しかしディオドラがそれをさせてはくれない。

 

「情愛が深いと大変だねぇ! そのままアーシアに殺されるといい。僕はそれで心が死んだアーシアを愛でて楽しむからさぁ!!」

 

「マジで黙ってろ、この外道が!!」

 

 全力で聖槍をたたきつけるが、龍の咆哮のゼロ距離射撃で相殺される。

 

 この野郎が! その腐臭のする口を閉じやがれってんだ!!

 

 だがどうする? このままだとマジで手詰まりに……!

 

「……そうだ。もしかしたら」

 

 ん?

 

 なんか、イッセーが何かを悟ったかのような表情を浮かべたぞ?

 

 なんだろう。すごい嫌な予感がする。

 

「ドライグ、お前を信じるぞ。それとアーシア、先に謝っとく」

 

「『?』」

 

 ドライグとアーシアが疑問符を浮かべる中、イッセーは静かにアーシアに手を触れた。

 

 な、なにをする気だ?

 

 俺たちが、思わず見守ってしまった次の瞬間―

 

「高まれ、俺の性欲、煩悩、スケベ心!! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)禁手(バランス・ブレイカー)ブーストモードぉおおおおおおおお!!!」

 

 え、なんでここで衣服破壊技を?

 

 そう思った次の瞬間、アーシアの服が木っ端みじんに破け、拘束具の枷も破壊された。

 

「「「ぇええええええええええええええ!?」」」

 

 俺とシシーリアとディオドラの叫びが響き渡る。

 

 いや、そりゃそうだろ。

 

 あんだけ二天龍の力もってしても破壊できなかった拘束具が、よりにもよって洋服を破壊させる技で破壊されたよ。そりゃ驚くって。

 

 壊せたことにも驚きだけどよ、なんで行けると思ったんだイッセー。

 

「きゃっ」

 

「眼福です!」

 

 体を隠してへたり込むアーシアに、鼻血をだらだら流してガン見するイッセーというシュールな光景。

 

 今この空間で殺し合っている連中全員に謝れ。旧魔王派にも含めて土下座しろ。

 

「だ、駄目ですヒロイさん! 見たらだめです!!」

 

 あわててシシーリアが両手を広げて俺たちの視線からアーシアを隠した。

 

 いかん、うっかり裸を見ていた!

 

 なんてことだ、英雄としてなんという失敗を!!

 

 ごめんアーシア。でも、眼福っしたぁ!

 

「流石だイッセー! おまえならやってくれると信じてたぞ!」

 

 ゼノヴィアが、そういってガッツポーズをぶちかます。

 

 いや、すいませんゼノヴィアさん。まだディオドラが残ってるんですけどね?

 

「う、嘘だ……。そんなふざけた技で、上位神滅具の禁手を突破するだなんて……」

 

 あ、ディオドラの奴も隙だらけだ。よっぽど驚愕してるらしい。

 

 まあ、そうだよなぁ。こんなの想定外だよなぁ。

 

 何ていうか、俺慣れてるけどまだダメージがでけえわ。これ慣れたらいけない気がするけど、連続できやがったからどうしても少し慣れちゃうわ。

 

 いや、これを平然と受け止められるようになったらそれはそれでいけねえとは思うんだけどよ。でもなんか、この調子だと慣れちまう気がすんだよ。

 

「……さて、これで四人がかりでどうにかできそうだなぁ、オイ」

 

 ぽきぽきと、俺は指を鳴らしてディオドラを睨む。

 

 さて、これでアーシアという回復薬迄運用できるわけだ。

 

 祝福により疑似的に聖なる武装を用意できる、元聖女シシーリア・ディアラク。

 

 伝説の聖剣に選ばれまくりの、天然聖剣少女ゼノヴィア。

 

 アスカロンに適合した、煩悩赤龍帝兵藤一誠。

 

 そして、聖槍の使い手の一人であるこの英雄候補生ヒロイ・カッシウス。

 

 これだけ悪魔の天敵がゴロゴロいる状況下で、さらに回復担当のアーシアがいれば、ディオドラが相手だろうと押し切れる。

 

 ディオドラも、形勢が逆転に近づいていることに気が付いて、警戒心をあらわにした。

 

「どうやら、僕も切り札を切る他ないようだね……っ」

 

 へぇ。まだ奥の手を持ってたのかよ。

 

 だが、今更この場の流れをひっくり返せると思うなよ。

 

「覚悟決めてもらうぜ、ディオドラ」

 

「貴様は殺していいといわれている。久しぶりに悪魔を滅するとしようか」

 

「ディオドラぁ。俺んちのアーシアを泣かせやがって、覚悟しやがれ!!」

 

「貴方に飼われていた人生を、今日ここで終わりにします!!」

 

 アーシアを後ろにかばいながら、四人がかりで仕掛けようとしたその時―

 

「え?」

 

 その声に、俺たちはとっさに反応できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく。蛇に神器まで重ね掛けしておきながら、子守一つできないのか」

 

 シャルバ・ベルゼブブは、そういって嘆息した。

 

 発動時間を過ぎても何も起きないので、気になってきてみればこの様だ。

 

 作戦の肝である結界による殲滅ができなくなった以上、この作戦は失敗といっていい。これだけの戦力を投入したにもかかわらず、情けない話である。

 

 そして戻ったら戻ったで、立場を弁えないリムヴァンが何を言ってくるかわかったものではない。それを考えるだけで腸が煮えくり返る。

 

 苛立ちを鎮めるために、回復使いの女を次元の狭間に吹き飛ばしたが、然しそれだけでは収まりがつかなかった。

 

 ゆえに、先ずはディオドラに向かって攻撃を放った。

 

「な、なにをぉおおおおお!?」

 

 まさか自分に向かって攻撃をしてくるとは思ってなかったのだろう。ディオドラは直撃を受けて吹き飛ばされる。

 

 殺すつもりで放ったのだが、しかしそうもいかないようだ。物事は思い通りにいかないものである。

 

 しかし、是で溜飲はさらに下がった。ならば良しとしよう。

 

「所詮偽りの魔王の血族ではこの程度か。貴様はもう用済みだ、ここで死んで―」

 

「まて、シャルバ」

 

 追加の攻撃を放とうとしたシャルバの腕をつかむ者がいた。

 

 視線を向ければ、それは同胞であるクルゼレイだ。

 

「何のつもりだ。作戦は失敗した以上、責任を取ってもらわねば」

 

「そいつにはかなり利用価値がある。我々が神滅具を手にするためにも、生きていてもらわねば困るのだ」

 

 その静止の言葉に、シャルバも一考した。

 

 偉大なる魔王の正当たる血族である自分たち。それが神滅具を宿すことができれば、確実に偽りの魔王たちを滅ぼすこともできるだろう。

 

 どうやら、あの男はまだ生かす必要があるようだ。

 

 それをなぜクルゼレイが知ったのかは知らないが、とりあえずは殺すのを保留するべきだろう。

 

 そう判断し、シャルバは視線を呆然としている転生悪魔たちに移す。

 

 転生悪魔。悪魔の特性を付与された、下賤な者たちによる悪魔の名を汚す存在。

 

 よりにもよって、それを生み出したのはアジュカだ。

 

 自分からベルゼブブの立場を奪った、いくら憎んでも憎み切れぬ存在。あの男のせいで悪魔が穢れされているなど、腸が煮えくり返るほどの怒りを感じてしまう。

 

「我が名はシャルバ・ベルゼブブ。そしてこの男はクルゼレイ・アスモデウス。偉大なる真なる魔王を継承するに相応しい者だ」

 

 ここでまとめて殺してしまうべきかと判断し、せめてもの情けで偉大な自分の名を教えることにした。

 

 そして、その言葉で四人は我に返った。

 

「貴様! よくもアーシアを!!」

 

 即座に動いたのは聖剣使い。

 

 デュランダルとアスカロンを同時に構え、真向から切りかかる。

 

 その猪武者ぶりに、シャルバはあきれ果てる。

 

 偉大なるベルゼブブの末裔である自分に、この程度の速度で挑もうなど片腹痛い。

 

 ゆえに、本気を出すのもうっとおしくケリを叩き込んだ。

 

「がはっ!?」

 

「しっかりしてください!!」

 

 倒れ伏す聖剣使いに、獅子身中の虫だった小娘が駆け寄る。

 

 そして、其れをカバーするかのように聖槍使いが割って入った。

 

「シャルバ・ベルゼブブ……っ!!」

 

「ふん。虫を一匹始末しただけで激昂するとはな。貴様らは本当に物の価値がわかってないと見える」

 

 その醜い姿に、シャルバは嫌悪感を強くする。

 

 神すら殺せる力を持ちながら、外敵を倒すのではなく協調しようなどという愚かな存在。

 

 わざわざ自分が殺すのも嫌だが、しかし作戦を台無しにしてくれた礼はしておかなくてはならない。

 

「ちょうどいい。取り逃がしたあの女の代わりに死ぬといい。あの虫の元に送ってやる」

 

「そうだな。ディオドラを連れ戻す前に、赤龍帝の首を持って帰るか。そうすればリムヴァンもうるさく言わないだろう」

 

 クルゼレイもそれに同意し、そしてともに戦闘を開始しようとしたその時だった。

 

『おい、ヒロイ。今すぐ娘たちを連れてここから逃げろ』

 

 呆然としている赤龍帝の籠手から、声が響く。

 

 おそらく、籠手に込められたドライグというトカゲの声なのだろうと、シャルバは判断した。

 

「ど、ドライグ……?」

 

『死にたくないなら急げ。もうこうなったらどうしようもないぞ』

 

 怪訝な表情を浮かべる聖槍使いに、念押しのように声が響いた。

 

 なるほど。確かに自分たちと戦えば確実に死ぬが、然し逃がすわけがないだろう。

 

 そう馬鹿にした瞬間、籠手の意識が自分に向けられたことを感じた。

 

『クルゼレイとかいうのはとばっちりだが、シャルバ……お前は自業自得だ、同情の余地はないな』

 

 まるで、自分たちが今から倒されるといわんばかりの口調に、シャルバもクルゼレイも疑念を浮かべる。

 

 どう考えても、今この場での二強は自分たちだ。そこに疑念を挟む余地はない。

 

 聖槍使いが禁手に至っていれば話は別だが、この状況下で何をするというのか。

 

 そこまで思ったその時だった。

 

「我、目覚めるは」

 

 赤龍帝の小僧が、ようやく言葉を発する。

 

 しかし、それは自分たちに対する糾弾でも、仲間たちに対する鼓舞でも、先ほど次元の狭間に飛ばした虫に対する哀悼でもなかった。

 

「覇の理を神より奪いし二天龍なり」

 

 感情が残ってない声が響く。

 

 それは、まるで詠唱だった。

 

「無限を嗤い、夢幻を憂う」

 

 兵藤一誠という薄汚い転生悪魔に、魔法の心得はなかったはずだ。

 

 しかし、その詠唱はとても流暢だった。

 

「我、赤き龍の覇王となりて―」

 

 そう、まるで生まれたときから刻まれている―

 

「汝を紅蓮の煉獄に沈めよう!」

 

 ―システムの起動コードをしゃべるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、地獄は顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、イッセーの姿が掻き消えた。

 

 そして、次に姿を現したのは旧魔王幹部二人の後ろ。

 

 その姿は赤龍帝の鎧から大きく変化してやがる。

 

 まず図体がでかい。そして人間の形をしてねえ。さらに、まるで手のような翼を広げてやがる

 

 そして、その両手には幹部共から千切り取った腕がつかまれていた。

 

「「ぐ、ぐぉおおおおおお!?」」

 

 何が起こったのかをいまさら理解して、シャルバとクルゼレイが絶叫を上げる。

 

 は、早い。目にも止まらねえって言葉を体現しやがった。

 

 あいつ等でも反応できなかっただと!? いったい何が起こりやがった!!

 

「ふ、ふざけるなぁああああああ!!!」

 

 シャルバは絶叫しながら腕から光を放つ。

 

 悪魔が光を放つだと!? 是も禍の団の技術ってやつか!

 

 そう思った次の瞬間、その光が一瞬で減少していく。

 

 いや、あれは半減か!!

 

「これは、ヴァーリの……!」

 

「おのれ、どこまで私の前に立ちふさがれば気がすむのだ、ヴァーリぃいいいい!!!」

 

 クルゼレイは瞠目し、シャルバはいら立ちの声を放つ。

 

 っていうかあいつ等、旧魔王の末裔同士なのに仲悪いのか?

 

 いや、問題児の方向性が全然違うからそりが合わねえのか。

 

 何て言ってる場合じゃねえ!!

 

 なんか、イッセーの胸部装甲が展開すると、なんていうかどっかのアニメに出てきそうな砲身が出てきやがった。

 

 ……あれ? この位置だと俺たちも巻き込まれね?

 

「ヤバイ! 逃げるぞシシーリア! ゼノヴィアは俺が運ぶ!!」

 

「は、はい!!」

 

 慌てて射線上から俺たちは離れる。

 

 そしてクルゼレイも慌てて後方に飛びのくが、シャルバは動揺して下手を打った。

 

 魔方陣を展開して逃げようとしたのだ。

 

 いや、それ時間かかるからタイミングぎりぎり……。

 

 と、思った瞬間シャルバの腕が止まる。

 

 なんとなくイッセーを見ると、その目が怪しく輝いていた。

 

 え? これって、停止世界の邪眼? なんであいつが使えるんだよ。

 

 などと思っている間に、すでに莫大な力がチャージされ―

 

「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 そのまま、莫大なエネルギーの奔流がぶっ放される。

 

「お、おのれ! まだサーゼクスにもヴァーリにも一泡も吹かせていないのに!! 白い龍め、赤い龍めぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

 絶叫とともに、シャルバはエネルギーの奔流の中に消えていく。

 

 あ、これ死んだだろ。

 

 と、とりあえずあとはクルゼレイだけなんだが……。

 

「なんということだ。あれが、二天龍の覇龍(ジャガーノートドライブ)だというのか。データ上のスペックをはるかに逸脱しているではないか」

 

 唖然となるクルゼレイは隙だらけだ。

 

 今なら、俺でもやれるか? やったら敵の幹部を打ち取って俺も英雄か?

 

 なんて、もう急展開すぎて変な方向に考え始めたその瞬間だった。

 

「おやおや。かの二天龍が覇龍とは、困ったものだね」

 

 その言葉とともに、イッセーに鞭のようなものが巻き付いた。

 

 そしてイッセーの動きが一気に静まる。

 

 どうした? まだ覇龍は発動したまんまみたいなんだが? 完全に制御されたかのように動きが止まったぞ?

 

 そう思った俺の視界に、ディオドラの姿が移る。

 

 割と深手を負っているが、しかし致命傷からは程遠い。そして鞭は奴の手から伸びていた。

 

「ディオドラか。一体何をしたのだ?」

 

「僕のバランスブレイクだよ。野獣の指導者(プレジデント・ビースト)の亜種禁手、龍の指導者(プレジデント・ジャガーノート)。これなら暴走状態なら二天龍だって制御できる」

 

 そう得意げに、ディオドラは告げる。

 

 な、なるほど。覇は使用者を暴走させるから、知性が低くなるともいえる。

 

 それなら、あの神器の能力で干渉できる。禁手でブーストされているならなおさらだってわけか。

 

 ……あれ? 俺たち詰んだ?

 

「そ、そんな。ここまで来て……」

 

 シシーリアが絶望を感じて崩れ落ちる。

 

 クルゼレイも同じことを思ったんだろう。逆にあいつは勝利を確信して、歓喜の表情を浮かべた。

 

「そうか! この力があれば、偽物共に目にもの見せてやることが―」

 

 そしてその瞬間、イッセーの腕がクルゼレイを貫いた。

 

 って制御できてねえじゃねえか!!

 

 あれ? 是って状況的に吉なのか凶なのか。

 

 そう思ったが、然しディオドラは平然としている。

 

 お、おかしい。味方の上司が致命傷を負っていれば、普通に考えてパニックを起こすはずだ。少なくとも、覇龍が抑えられてないだなんて緊急事態で平然としていられるわけがねえ。

 

 いったいどうして……。

 

「ああ、なんということだ。赤龍帝の覇龍によって、真なる魔王の末裔が二人も殺されてしまった」

 

 そう、ディオドラは棒読みで言った。

 

 その瞬間、俺もシシーリアもクルゼレイも、全てを悟った。

 

 これは制御できてないんじゃない。その逆だ。

 

 制御できているからこそ、イッセーはクルゼレイをピンポイントで攻撃したんだ。

 

 ディオドラの奴、クルゼレイを後ろから刺しやがった!!

 

「ディ、ディオドラ……! なぜ……」

 

 呆然としながら、クルゼレイはディオドラに手を伸ばす。

 

 それを悪辣な笑みで見ながら、ディオドラは両手を広げて勝ち誇る。

 

「この力があれば、僕はヴィクター経済連合の幹部になれると思ってね。ちょうどいいから箔をつけさせてくれよ。「旧魔王の末裔()()を始末した赤龍帝を操り、現魔王をことごとく始末した偉大なるアスタロトの悪魔」っていう名目をさぁ!!」

 

 こ、この野郎……っ。

 

 性根が腐ってるとは思ってたが、ここまでかよ!!

 

「ディオドラぁああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

 クルゼレイは絶叫し、渾身の魔力を込め始める。

 

 自分が死ぬのは避けられない。ならば、せめてディオドラを道連れにしようという決意が込められていた。

 

 それを見てもなお、ディオドラは平然としながら力を溢れ出させる。

 

「さようなら、クルゼレイ。冥途の土産に、僕の切り札を見せてあげよう」

 

 ディオドラはそういうと、鎧から輝きをあふれさせる。

 

 そして、その輝きを俺はよく知っている。

 

 あれは―

 

「―禁手化(バランス・ブレイク)

 

 禁手(バランス・ブレイカー)、だと!?

 

 その光とともに、ディオドラの姿は大きく変わる。

 

 全身が歪み、肥大化し、そして生まれるのは異形の龍。

 

 全体的な姿かたちは、翼がないタイプの西洋の龍。だが、その翼がない代わりに生えているものが問題だった。

 

 八つ首の東洋の龍が、翼の代わりに生えている。

 

 それは、まるでドラゴンのキメラだった。

 

龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)龍の外装(ドラグナイト・メイル)の複合禁手(バランス・ブレイカー)双龍の覇道(ジャガーノート・ドラグ・ブースト)。さあ、さようなら、クルゼレイ!!」

 

 そのシャレにならないオーラを見せつけながら、異形の龍の咢から一斉にオーラの奔流が放たれる。

 

 それは、クルゼレイを一瞬で包み込んで吹きとばした。

 

 悲鳴を上げる暇すら生み出さない。そんな圧倒的な力が、致命傷のクルゼレイを完全に消滅させる。

 

 そして、クルゼレイを始末したディオドラは、わざとらしく嘆きの声を上げる。

 

「ああ、なんということだ。旧魔王の末裔二人が、薄汚い転生悪魔のせいで死んでしまったではないか」

 

 こ、この野郎、よくもまあぬけぬけと……!

 

 だが、さらにこの後吐き捨てた言葉が、事態がそんなもんじゃ済まないことを教えてくれやがった。

 

「今すぐにでも血の報復をしなくては。そう、先ずは薄汚い転生悪魔を下僕にした、リアス・グレモリーに報いを与えないと……ね?」

 

 なんだ……と?

 

 おい、ちょっと待て。

 

 今、イッセーはディオドラの支配下にある。さらに暴走状態で元から理性があるかわからねえ。

 

 そんな状況でこのセリフ。

 

 一言で言える。最悪だ。

 

「行くがいい、赤龍帝。その圧倒的な力をもってして、リアス・グレモリーたちを血祭りにあげるんだ!!」

 

「ふ、ふざけんなぁああああああああああああああ!!!」

 

 俺が怒りの絶叫を上げたのを合図にしたかのように、赤龍帝は翼を広げて空を舞った。

 




まさか章ボスをディオドラにする作品なんて、この作品ぐらいだろう……。









ディオドラの神器は、禁手の場合も含めて全部が竜に関係するものにしました。

アスタロトは龍に乗っているという逸話があったので、龍を支配することに特化した形で運用する形になります。


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第二章 30 覇龍の危機

覇龍を外部からコントールされて、現勢力側は割とやばめ(サーゼクスはリムヴァンと超絶バトル中)。

そしてヒロイたちは満身創痍で、三人がかりでも倒しきれなかったディオドラの本気モード。

マジで絶体絶命。さて、どうする?



 

 クソ! こうなったらもう、やることは一つしかねえ!!

 

 イッセーが被害を出す前に、何としてもディオドラをぶち殺す。これ以外に事態を打開する方法を、俺は思いつけねえ。

 

 ディオドラの禁手でイッセーを制御している以上、それさえ何とかすればまだ何とかする余地が生まれるかもしれねえ。っていうかほかに思いつかねえ。

 

 問題は、ゼノヴィアが動けなくなってるから俺がやるしかねえってことなんだがな。

 

「シシーリア。ゼノヴィアを連れて逃げてくれ。隠し通路の入り口でお嬢たちが踏ん張ってるはずだ」

 

 お嬢たちはまず間違いなく近くにいる。

 

 なら、お嬢たちのところにゼノヴィアを連れて行ってそのままいったん逃げてもらわねえと。

 

 万が一にでもイッセーがお嬢たちを殺すだなんて真似だけは、させるわけにはいかねえ!

 

 だが、シシーリアはなぜか走り出さない。

 

「ま、まってください!! 捨て駒なら背信者の私が―」

 

「馬鹿言うな!」

 

 何言ってんだこの馬鹿は。

 

「お前はアーシアを助けようとしてくれたじゃねえか! 俺たちに、仲間を助けようとした奴を見捨てろだなんて言うんじゃねえ!!」

 

 そんなことは断じてできない。

 

 そんなことしたら、それこそアーシアに顔向けできねえからな。

 

 第一……。

 

「誰が捨て駒になるって? 安心しろ、きっちりケリをつけて帰ってくるさ」

 

 俺は、ディオドラをきちんと殺す気だぜ!!

 

「だから行け、シシーリア。ゼノヴィアをかばう余裕はねえんだ。今、ここでゼノヴィアを頼めるのはお前しかいねえんだよ!!」

 

 そう、問題はディオドラの戦闘能力だ。

 

 高位の龍を封印した神器を二つも持ち、さらに組み合わせて禁手にしやがった。その戦闘能力はどう低く見積もっても龍王クラスと闘えるだろうな。相性次第じゃ勝っちまうかもしれねえ。

 

 たしか伝承じゃ、アスタロトは龍に乗ってるらしい。

 

 そんな奴が竜の力にかかわる神器や禁手をもってるたぁ、シャレがきいてるじゃねえか。

 

 だが、英雄相手にそんなはったりで倒せると思われちゃ心外だ。

 

 必ず、ぶちのめしたうえで生きて帰ってやる。

 

 そうじゃなきゃ、ようやく照らされそうになったシシーリアの心がまた曇っちまうしな。

 

「行け、シシーリア!!」

 

「……はいっ!!」

 

 涙声になりながら、シシーリアは駆け出した。

 

 そして、ディオドラはそれを黙って見送る。

 

「舐めてくれるな。邪魔する気もねえってか?」

 

「当然だよ。赤龍帝がどうせグレモリーごと殺すだろうしね。シャルバを圧倒した覇龍を、どうにかできるほどグレモリーは強くない」

 

 ま、確かにそうだろうな。

 

 あれはまさに神すら超える化け物だ。マジンカイザ○かよ。ほんと、シャレにならねえ。

 

 だが、お前はそれほどじゃねえだろう?

 

「言っとくが、俺の聖槍は赤龍帝の籠手(あれ)より格上だぜ?」

 

「潜在能力は、だろう? 君じゃあ僕にも勝てないよ!!」

 

 そうかい。なら試してやるよ!!

 

 俺は腹をくくって、聖槍を持って駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グレモリー眷属は、あらかたの敵を片付けることに成功していた。

 

 アザゼルの的確なアドバイスと、非常に優秀な素質は見事に噛み合っている。

 

 すでに、その戦闘能力は若手眷属の中でも最高位に属するだろう。それほどまでの力がグレモリー眷属にはあった。

 

 ゆえに、切り札たる一誠と要たるアーシアを欠いてもなお、リアスたちはさほど苦労することなく敵を殲滅していた。

 

「蛇を使用しているにしては、弱かったですわね」

 

「そうですね。カテレア・レヴィアタンの時のような圧倒的な強化をされている敵はいませんでした」

 

 朱乃と祐斗がそう言うのも仕方がないだろう。

 

 それほどまでに、リアスたちは苦労せずに敵を倒していたのだ。

 

「おそらく、禍の団の構成人員全員が蛇を使っているわけではないのでしょうね」

 

 リアスの推測は見事に当たっている。

 

 オーフィスによってつくられる蛇は、確かに大幅な強化を与えることができる。そして、無限であるがゆえに無限に製造することができるだろう。

 

 だが、どんな蛇口も一度に出せる水の量には限度がある。

 

 以下にオーフィスとは言え、一瞬で構成人員すべての分の蛇を用意できるわけがない。ましてや、世界を二分する大勢力の兵員ともなればその数は圧倒的である。

 

 少なく見積もっても数十年はかかるだろう。さすがにそこまでヴィクター経済連合のスポンサーは待てなかった。

 

 そして、有力派閥であるとはいえ派閥の一つでしかない旧魔王派は、そこまで優先して蛇をもらえるわけでもない。

 

 そのため、現在の戦闘も大局的に見て現政権側が優勢である。

 

 このままいけば勝利は目前であり、ゆえにリアスはそれを懸念する。

 

 いくら不意打ちであったとはいえ、相手には絶霧が複数存在するのだ。

 

 その気になれば、一都市すべての人々を一斉に転送することも理論上は可能な神滅具。こと転送においては規格外の神滅具。それこそが、絶霧だ。

 

 さらに絶霧は防御系の神滅具でもある。うまく使えば安全に離脱させることも容易なはずだった。

 

「まさか、これは旧魔王派の独断?」

 

 リアスがその可能性に気づいたのも、当然だった。

 

 もとより種の絶滅の危機だというのに徹底抗戦を主張し、先代魔王の末裔でありながら現政権から追放された勢力だ。状況認識にかけていたとしてもおかしくない。

 

 もとより傲慢な者たちが多かったはずだ。ヴィクター経済連合は元より、禍の団でも折り合いの悪い派閥の方が多いのかもしれない。

 

 その事実に、リアスは独自にたどり着くことができた。

 

「……バカの暴走」

 

「こ、小猫ちゃんが辛辣だよぉ」

 

 年少組もそれに納得し、グレモリー眷属の中であきれの感情が浮かんでくる。

 

 もしかすると、この激戦は敵味方の膿を出しただけになるのではないだろうか?

 

 ふとそんな思いにとらわれた時だった。

 

「ぐぎゃぁあああああああああ!!!」

 

 其の声とともに、赤いオーラをまとった存在が突撃してくる。

 

 そして、問題が二つあった。

 

 一つは、そのオーラが自分たちのよく知るそれであったこと。

 

 二つ目は、そのオーラの出力が自分たちが知るものよりはるかに強大だったことだ。

 

「イッセー!?」

 

 反射的に顔を向け、しかしリアスは凍り付く。

 

 向かってきていたのは、まるで龍の化け物とでも形容するべき存在だった。

 

 どう見ても尋常な事態が起きたわけでないことを、リアスたちは実感する。

 

「イッセー……くん?」

 

「イッセー先輩……?」

 

 朱乃とギャスパーが唖然とするのも当然だろう。

 

 それほどまでにあれはおかしい。しかし一誠であることだけはわかってしまった。

 

 そして、その隙は致命的だ。

 

 今の兵藤一誠は、覇龍を発動させている圧倒的強者。

 

 一対一でどうにかできるようなものなど、現状ではリムヴァンに足止めされているサーゼクスしかこの戦場には存在しない。

 

 そして、その圧倒的な能力はスピードも圧倒的だった。

 

 ゆえに、その隙は致命的。

 

 一瞬で間合いに入り、そしてディオドラのコントロールのままに仲間たちを殺戮する。

 

 それを止めるものなどこの場には―

 

「しっかりしなさい!!」

 

 ―ここにいた。

 

 一瞬で数十メートルもの厚さの氷が生まれ、赤龍帝は激突する。

 

 その九割が一瞬で砕かれるが、然しその隙があれば十分だった。

 

 血まみれになったリセスが、その隙を逃さず龍に組み付く。

 

 その瞬間、圧倒的だったオーラは一気に減少した。

 

「リセスさん!?」

 

「早く逃げなさい! 彼女を連れて!!」

 

 反応した祐斗に叫びながら、リセスはゼノヴィアを投擲する。

 

 風によって運ばれたゼノヴィアをかろうじて確保したリアスたちは、しかしどういうことかの判断が追い付かない。

 

 其の間にも、赤龍帝はリセスを引きはがさんと暴れまわり、リセスはさらに怪我を悪化させていく。

 

 当然だ。覇龍とは龍を封印した神器だけが持つ、禁手すら超えた領域。さらにその中でも最高峰である神滅具、赤龍帝の籠手の覇龍である。

 

 いかに煌天雷獄が格上とは言え、リセスは本来の使い手ではない。さらに神器の覚醒段階でも禁手にすら到達していない。この時点で圧倒的不利なのはリセスである。

 

 しかし、それ以上に消耗しているのは一誠であった。

 

 それに真っ先に気づいたのは、生命力にかかわる仙術を扱える小猫だった。

 

「イッセー先輩の生命力が急速に減少しています! このままだと、あと一時間も持たずに死んでしまいます!!」

 

 その言葉に、リアスたちは戦慄する。

 

 一誠が死ぬ。その可能性に、全員が大きな恐怖を感じてしまう。

 

 だが、それは致命的な隙となる。

 

 強引にオーラに干渉されたまま、暴走した赤龍帝は口を開くとブレスを撃つ構えに入る。

 

 衝撃の事実に隙ができたグレモリー眷属は対応できない。リセスも現状では精いっぱい。

 

 ゆえに、それを防ぐのは―

 

「おらよっとぉ!!」

 

「せい!!」

 

 ―新たなる乱入者に他ならない。

 

 如意棒とコールブランドの一撃が、赤龍帝の装甲を損傷させながら、強引に頭部を真上に反らす。

 

 その直後、最上級悪魔すら一撃で焼き尽くしかねない炎が天を染め上げた。

 

 そして、その一撃の隙をついて、白が舞い降りる。

 

 赤龍帝と同じように、しかしそれ以上に洗練された龍が、赤龍帝を押さえつけた。

 

 赤龍帝は無理やり振りほどこうとするが、その白い龍たるヴァーリは、それを難なく押さえつける。

 

「あの龍は!?」

 

「―もちろんヴァーリに決まってるにゃん♪」

 

 リアスに返答するその言葉とともに、周囲一帯が霧に包まれる。

 

 そして、其の中から黒歌もまた姿を現した。

 

 小猫があまりに早い再会に、目を見開くのも仕方のないことだろう。

 

「姉様! なんでここに!?」

 

「ちょっと野暮用で、近くの次元の狭間にね~」

 

「はい。いろいろと探し物をしていました」

 

 黒歌の後ろから、ひょっこりルフェイもまた顔を出す。

 

そして、その背中には見慣れた少女がおぶさっていた。

 

 全員が、彼女を見て目を丸くする。

 

「アーシア!?」

 

「アーシアちゃん!?」

 

 リアスと朱乃が叫ぶのも無理はない。

 

 アーシアは、禍の団の一員である旧魔王派にとらわれているはずなのだ。それを救出するためにイッセーたちが向かったのである。

 

 それがなぜイッセーがあんなことになって、挙句の果てに禍の団の一員であるはずのヴァーリたちに連れられているのか?

 

 その疑問に支配されるリアスたちに、美候が面白がりながら訳を話す。

 

「俺たちもよくわからねえんだが、なんかいきなり目の前に転移してきたんだよ。あのときは驚いたぜ」

 

「実に運がいい。私たちが助けなければ彼女は無にあてられて消滅していたでしょう。ですから借りを返すために彼女には撃たないように言ってください」

 

「白音? お姉ちゃんに感謝しなさい? だからあの堕天使を抑えといて」

 

「お兄さまも黒歌さんも落ち着いてください。目隠しはしてますから大丈夫なはずです」

 

 よほどトラウマになったのか、ペトの狙撃から保身を図り始めているアーサーと黒歌をルフェイがたしなめる。

 

 リアスも小猫もあの凄惨な光景を見ていたので、とりあえずスルーするという慈悲を見せることにした。

 

 そして、その光景を見てリセスも気を緩めないようにしながらも安堵する。

 

「良かったわ。取り逃がしたシャルバがアーシアを次元の狭間に飛ばしたと聞いた時は、心臓が止まると思ったもの……!」

 

「なるほど。そのせいで不完全な形で覇龍を暴発させたというわけか……!」

 

 覇龍で暴走する一誠を押さえつけながら、リセスとヴァーリはそれぞれ納得する。

 

 それで状況だけはわかったリアスは、然しすぐに我に返る。

 

 ゼノヴィアは気絶しているが無事だ。イッセーはいろいろ危険だがまだ生きてはいる。

 

 だが、もう一人は?

 

「リセス! ヒロイはどうしたの!?」

 

 その言葉に、リセスは全力を出しながらも苦渋の声を漏らした。

 

「いま、ゼノヴィアを運んできた子が援護に向かってるわ。だけど、状況はかなりまずいみたい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やべ。これ死ぬかも。

 

 俺は悟りの境地に至りかけていた。

 

 禁手なめてた。それも高位神器のはシャレにならねえ。

 

 すでに俺は三十回は瓦礫を突き破る砲弾にされてる。あばらにもひびが入っていた。

 

 瓦礫を三十回も粉砕する鈍器になりながら、この程度で済んでるのは奇跡だ。

 

 聖槍の加護すげえ。そして特製魔剣すげえ。つまり俺の素質と勉強はすげえ。

 

「……頑丈だね、人間のくせに」

 

「そのための魔剣だからな」

 

 魔剣、ホンダブレード。

 

 日本の車両の事故対策を参考に創ったこれは、衝撃を受け止めて吸収することに特化した魔剣だ。

 

 柔らかく脆い金属を外周に配置することで、くだけて受け止めることで衝撃を吸収する。防御して即座に取り換えることを目的とした、魔剣創造だからこそ実用化できる魔剣。科学的なアプローチで作り上げた特注品。

 

 伝説クラスのドラゴンと防戦できるとは、さすがは英雄となる男だ。俺、すごいぜ。

 

 だが、このままだと英雄にならずに死にそうだな。

 

 なんか諦めの感情が浮かんでくると同時に、さらにディオドラが突撃をしかける。

 

 あ、諦めるな俺!! イッセーやお嬢たちのピンチなんだぞ!!

 

 へたしたら姐さんにも危機が迫る。いろんな意味でこいつは何とかしねえと。

 

 こ、こうなれば相打ち覚悟で特攻するしかねえか!? そんな英雄も存在してたよな確か!!

 

 俺が覚悟決めないといけない、そんな気になったその時だった。

 

「ヒロイさん!!」

 

 その声に、俺はもちろんディオドラも顔を向けた。

 

 息を切らして駆けつけたのは、シシーリアだ。

 

 あいつ、まさか戻ってきたのか!?

 

「リセスさんにゼノヴィアさんは預けてきました。私が囮になりますから逃げてください! 愚図ですけど五秒ぐらいは隙を作ります!!」

 

 どこから反応していいかわからねえよ!!

 

 と、とりあえず一番重要なところ言うけど、それ言ったらディオドラも無視すんじゃね?

 

「馬鹿だねぇ。君なんていくらでも無視できるんだよ。愚図の君で何ができるんだい?」

 

 腹立つ言い方で予想通りに行動するな!!

 

 だが、シシーリアはそれでもハルバードを構えて戦う姿勢を見せる。

 

「私は愚図でどうしようもない女ですけど、だからこそ、せめて自分でけじめはつけます。ディオドラ、あなたの好き勝手にはさせない」

 

 やめろシシーリア。それは意味がない。

 

 今のシシーリアではディオドラにはかなわない。

 

 奴が禁手を発動させる前ですら、ろくに戦いにならなかったんだ。どう考えても勝ち目はない。

 

 自分を囮にして俺を逃がす。其のためなら死んでも構わないだと?

 

 それはやけになってるだけだ。自己犠牲にすらなってねえ。

 

 ………ああ、そういうことか。

 

 俺は嫌というほど実感する。

 

 俺はシシーリアの心を照らせてない。まだ、光が足りない。

 

 これじゃだめだ。英雄じゃない。

 

 がむしゃらに生きろ? 結果的に呼ばれるだけ?

 

 ふざけんな。其れじゃあ俺は英雄にはなれないんだよ。すごくないんだよ。輝きになれないんだよ。

 

 忘れるな、ヒロイ・カッシウス。俺の英雄はヴァスコ・ストラーダじゃない。リセス・イドアルだ。

 

 照らされただろ。闇が掻き消えただろ。輝いてたのが目に焼き付いているだろ。

 

 今必要なのは暖かい陽光じゃない。神々しい星光でもない。

 

 目がくらむような閃光だ。

 

 今すぐ何とかして見せろ。足りないのなら考えろ。

 

 おまえの原点を思い出せ、ヒロイ・カッシウス!!

 

 ここで、俺が、照らすと誓った、女の子をつぶさせるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 プツン、と、音が聞こえた。




ディオドラの失敗はただ一つ。

……狙いをシシーリアに変えたことです。ガン無視してヒロイをつぶしておけば、奴を覚醒させずに済みました。









皆様、お好きな処刑用BGMのご用意を


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第二章 31 紫に輝く双腕の電磁王

それでは皆さん。








処刑用BGM、スタート!!


 Other Side

 

 その瞬間、ディオドラは恐怖を感じて振り向いた。

 

 時間は掛かるが確実に叩きのめせると判断したヒロイは置いておいて、先ずは利用できたとは言え裏切り者のシシーリアを殺そうとしていた時だ。

 

 なにせ、この感覚は自分が至った時と同じだ。

 

 すなわち、神器の究極段階。禁手(バランス・ブレイカー)

 

 ディオドラは、これでも一応ヒロイのことを警戒しているのだ。

 

 自分と同じく三つの神器を保有している、神器多重保有者。それも、最強の神滅具たる黄昏の聖槍(トゥルーロンギヌス)の持ち主だ。

 

 悪魔にとっての天敵の一つにして最高峰たる聖槍。それが禁手に至れば、自分にとっても脅威となる。

 

 特に、聖槍の亜種禁手の中には対龍種に特化した黄昏の光にて眠れ蛇よ(トゥルー・ロンギヌス・サマエル)があるという情報を掴んでいる。

 

 もしそんなものに覚醒されれば最悪だ。自分は高位の龍を封印した神器を、二つも保有している。カモである。

 

 ゆえに、シシーリアを後回しにて振り返り―

 

 その視界に、八つ首の雷の龍を見た。

 

「なっ!?」

 

 否、それは目の錯覚である。龍ではない。

 

 だが、八つに分裂した雷が、一気にディオドラに襲い掛かる。

 

 それを同じく八つ首の龍で迎撃しながら、ディオドラはさらに攻撃を叩き込もうとメインの頭部からブレスを放とうとする。

 

 ……その瞬間、ディオドラの左右を巨大な魔剣が挟み撃ちにした。

 

 攻撃そのものは鎧で防げたので衝撃が通っただけだが、刃渡り数メートルのバスターソードが直撃した事で、割と効いた。

 

 そして、さらに聖槍だけが突進してきた。

 

「まさか、三つ全部至ったのか!?」

 

 とっさに飛び上がって回避するが、聖槍はまるで意志を持つかのようにディオドラを追撃する。

 

 雷撃を放出するだけの、紫電の双手(ライトニング・シェイク)。それが、雷撃を分裂させて曲射するという芸当を可能とする。

 

 魔剣を生成するだけの、魔剣創造(ソード・バース)。それが、魔剣そのものが独自に動いて攻撃を行う。

 

 聖遺物にして神殺しの槍であるだけの、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)。それが、自分を追尾して攻撃してくる。

 

 恐ろしい事に、三つ全てが能力を拡張させていた。

 

 その想定外極まりない事態に、ディオドラはパニックに陥った。

 

 当然だ。神器全てを禁手に至らせているという最大の優位点が、これで一気に無効化された。

 

 種族の優位性や蛇という強化はあるが、しかしこれは明らかに異常なレベルの覚醒だ。明らかに脅威である。

 

 この時点で、ディオドラはヒロイのとっさに取った策にはまっていた。

 

 本来なら、ディオドラも高度な教育を受けた上級悪魔だ。当然この仕掛けと誤解に気付いたはずである。

 

 だが、決意と怒りに燃えながらも、しかしそのうえで思考を回転させたヒロイの策は成功した。

 

 そして、それに気付かないままディオドラはパニックを起こしながら、全方位から迫りくる大量の攻撃を回避し続ける。

 

 魔剣、雷撃、聖槍。それら全てが自由自在に空を舞いながら死角はおろか、あえて真正面から襲い来る。

 

 その三次元立体攻撃に、ディオドラは完全に翻弄されていた。

 

 これはディオドラの失策である。

 

 彼は、慣らし運転すらろくに行わずに複合禁手を使用していた。

 

 自分は現魔王の末裔である。自分はオーフィスの蛇で強化された。自分は複数の高位の神器を受け入れる事が出来て、更にそれを禁手に目覚めさせている。

 

 その傲慢が隙を生む。その油断が、弱点となる。

 

 巨大な体に慣れていない状態では、ディオドラは命懸けで聖槍だけを回避する事に精一杯だ。他の攻撃が次々と当たっていく。

 

 それらは全てかすり傷だが、しかし回避に専念しているにも関わらず、攻撃が当たっているという事実にパニックを起こしていた。

 

 重ね重ね言おう。ディオドラは高い素質を持つ存在だ。

 

 72柱直系の次期当主は伊達ではない。魔王の血族というのは、間違いなく素質の証拠だ。オーフィスの蛇の強化は凄まじい。神器を三つも移植できるなど、悪魔の身ではヴァーリが白龍皇を宿した事にも匹敵する奇跡だ。さらに全てが高位で、禁手に至っているなど冗談と言われた方がいい。

 

 だが、ディオドラはその全てを研鑽させなかった。

 

 ヒロイ・カッシウスは英雄を目指す者である。

 

 彼は、英雄というものが簡単に成れるものではない事を嫌という程理解している。

 

 だから、努力を怠らない。

 

 だから、勉強も真剣に受ける。

 

 それらが戦法を鍛え上げて戦術を組み立てる。それが彼の力となる。

 

 ヒロイ・カッシウスは、まず間違いなく馬鹿なところがあるが、同時に頭の回転は決して悪くないのである。

 

 その差が決定的な差となる。圧倒的な違いを生み出す。

 

 ゆえに、ディオドラは完璧に罠にはまった。

 

 攻撃をかわそうとして地面スレスレを移動したその瞬間、その罠が成立する。

 

 地面が隆起し、崩れた残骸から鉄製品がディオドラを拘束する枷となる。

 

「な、な、なんだぁああああ!?」

 

 ディオドラは暴れるが、然しその隙は致命的だ。

 

 魔剣がさらに圧し掛かり、さらに雷撃が消え失せたかと思えば、その馬力が大幅に上昇する。

 

 ディオドラは、完全に動きを封じられていた。

 

 そして、その隙を逃さず聖槍が突き刺さる。

 

「ぐぁああああああああ!? 痛い痛い痛いぃいいいいい!!!」

 

 聖なるオーラに体を焼かれ、ディオドラは絶叫を上げる。

 

 むしろ、この直撃を受けて致命傷になっていないという事実にこそ驚愕すべきだ。それこそ今のディオドラが、化け物と呼称されるべき領域である事の証明である。

 

 戦い方次第では、本当に魔王クラスともまともに渡り合えただろう。研鑽を積めば、勝つ事も不可能ではないはずだ。

 

 だが、その怠慢が全てを台無しにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、何とかなったな。

 

 俺は、立ち上がってディオドラの体をよじ登る。

 

 くそ、でかいから上るの大変だな。結構ボロボロだから痛ぇしよ。

 

「お、お前ぇえええええ!!! なんで、なんで三つも禁手に目覚めてるんだよぉおおおお!!!」

 

 聖槍に体を焼かれながら、ディオドラは絶叫する。

 

 よっしゃ! どうやら俺の策は成功したみたいだな。

 

「あ、やっぱ驚くか? 驚くよなぁ。いきなりそんな連続覚醒、パニック起こして当然だよなぁ?」

 

 まさに想定通りの展開。

 

 土壇場での多段覚醒。そんなとんでも状態は意味不明だから、パニックを起こしてもおかしくない。

 

 三つの神器がそれぞれ拡張されてる風に見えんだから、そりゃそうとしか思えないわなぁ。

 

「ああ、まんまと引っ掛かってくれて助かったぜ」

 

「え?」

 

 ああ、そうだ。お前が狼狽するのは当然だ。

 

 禁手に目覚める事はそれだけでも奇跡と言ってもいい芸当。そんなのが三連続で起きるだなんて狼狽して当然。普通そんな事はあり得ない。

 

 そう、()()()()()。普通無理だ。

 

 だから、あえてそう見せかけた。

 

「……お前、いったい何の禁手に目覚めたんだ!?」

 

「冥途の土産に教えてやる。俺が至ったのは紫電の双手だけだよ」

 

 そう、それが俺の作戦だった。

 

 英雄とは、何も圧倒的な身体能力と武技だけで戦う生きもんじゃねえ。

 

 かの英雄シグルドは、ファーヴニルの通り道に穴を掘り、そこに隠れる事で最高の一撃を叩き込むことに成功した。

 

 かの大英雄ヘラクレスは、十二の難行を勇気と武技と、そして知恵をもってして乗り越えた。強敵を相手に待ち伏せで暗殺という手段を取った事もあるらしい。

 

 かの聖女ジャンヌ・ダルクは、奇襲や夜襲などを駆使する事で、オルレアンを奪還した。

 

 そして三国志の曹操など、指揮官としての側面を持つ英雄は数多い。

 

 英雄ってのは、なんだかんだで考える存在だ。圧倒的な存在や化物と戦う為に、脆い体を補う知恵を武器にしてきた。

 

 だから、俺も先人に倣った。

 

 どんな相手でも立ち向かう事ができる方法。それすなわち手数である。

 

 陽光でも星光でもなく閃光を求めた俺に応えたのは、雷光を司る紫電の双手だった。

 

 ゆえに、俺の禁手は出力だけなら大したことがない。単純に至った事によるグレードアップ分だ。

 

 だがしかし、その能力が規格外だった。

 

紫電の双手(ライトニング・シェイク)の亜種禁手(バランス・ブレイカー)紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)。能力は電磁力の精密制御だ」

 

 そう、単純にいえば、電磁力を操る。

 

 だが、それは圧倒的な手数を生み出す事ができる手数特化型だ。

 

 雷撃そのものを操作する事により、多角的攻撃を可能とし、磁力を操作する事によって魔剣と聖槍を自在に操った。

 

 そして、ゆえにここでとどめを刺す事が出来る。

 

 俺は、遠慮なく聖槍を掴むと、そのまま全力を込める。

 

「これで終わりだ……ディオドラぁあああああ!!!」

 

「ふ……ざけるなぁああああああ!!!」

 

 増幅された聖なるオーラに焼かれながら、しかしディオドラは全力で抗う。

 

 この野郎! どんだけ頑丈なんだ!!

 

 いや、俺が性能を引き出せてねえだけか! くそ、マジでむかつく展開じゃねえか!!

 

 ここにきて未熟で敗北とか、マジで最悪じゃねえか!!

 

「魔力を持たないバアルを蹂躙する予定なんだ!  情愛なんかがあふれているグレモリーの尖兵なんかに負けてたまるか!! 僕は神器多重適合者のディオドラ・アスタロトなんだぞぉおおおおお!!!」

 

 激痛で動きがぎこちないながらも、しかし背中の龍の首を無理やり動かす。

 

 くそ、ここにきて最後の凌ぎあいってか―

 

「―いえ、ここで終わりです、ディオドラ・アスタロト」

 

 そんな聖槍を、シシーリアの手が包み込んだ。

 

 シシーリア、お前……。

 

「ヒロイさん。今なら、はっきり言えます」

 

 シシーリアは、俺の顔を真正面から見つめて、微笑んだ。

 

 ……ああ、これこそまさに聖母の微笑《トワイライト・ヒーリング》だ。ボロボロの体の痛みが全部吹っ飛んだぜ。

 

「私は、今、貴方に照らされてます」

 

「……そうか」

 

 ああ、なんていうか、俺―

 

「俺は、輝き(英雄)に成れたぞぉおおおおお!!」

 

「そ、そんなもののついで感覚で……ぎゃぁあああああ!!!?」

 

 あ、ゴメンディオドラ。

 

 最後のセリフを言うの忘れてた。

 

「……あばよ、腐れ外道」

 




紫に輝く双腕の電磁王は、書いた通り攻撃力はそこまで上がってません。

しかし、その汎用性においては他の追随を許さないレベル。おそらく禁手としての多様性の向上率では、霧の中の理想郷に匹敵するレベルで手数が向上します。

電磁力という様々な現象を司る能力なので、使用者の科学的知識次第で様々な応用が可能です。









こんな能力にしたのは、ひとえに今後のストーリーが長くなるため。

なにせまだ、原作6巻ですから。この時点で短編集の番外編含めれば20巻以上あります。

なんとか展開に合わせて成長できる禁手を一つは用意しないと、主人公であるヒロイに空きが来てしまいますから。









圧倒的強者を、知恵によって打倒する。是もまた、英雄譚にしるされし英雄たちの戦い方の一つ。それが兵法。

そういう意味では、ヒロイは英雄派と近い思考なわけです。


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第二章 32 おっぱいドラゴンのその裏で

はい、章ボスであるディオドラも倒して、あとはイッセーをどうにかしたら終わりです。









つまり、そういうことです


 

 とりあえずディオドラを始末する事は出来た。これで難関の一つはどうにかできた。

 

 しかし、それでイッセーの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が解除されるかってのが疑問だ。

 

 流石にお嬢達を襲ったりはしねえだろうが、このままほっとくわけにもいかねえ。

 

 いくら悪魔の寿命がシャレにならないぐらい長いとはいえ、削れていいってわけでもねえからな。

 

 と、言うわけで俺とシシーリアは全力で走っている。

 

「え? 姐さんに預けた……っていうかボロボロなのかよ!?」

 

「ね、姐さん……? ヒロイさん、この愚図が知らない間にそんな人ができたんですか……?」

 

 シシーリア。お前は自分のことを罵倒しないとしゃべれないシステムでも組み込まれてんのか?

 

 なんか、初めて会った時からこいつ後ろ向きっつーか自分のこと卑下してるよな。ディオドラの所為でさらに悪化してやがる。

 

 おのれディオドラ許すまじ。いろんな余裕がありゃぁ、磔ぐらいにはしてたぜこの野郎。

 

 少しは英雄を目指すと公言してる俺を見習えって。仮にも聖女と呼ばれるまでのその特性、もっと誇った方がいいぜ?

 

 っと。今はイッセーに集中しねえと!!

 

 そして、俺達はお嬢達がいる隠し扉の先に入って―

 

『おっぱいドラゴン、はっじまっるよ~!!』

 

『『『『『『『『『『おっぱい!』』』』』』』』』』

 

 立体空間に、イッセーと子供達が映っていた。

 

「「はい?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乳龍帝おっぱいドラゴンの歌

 

 作詞 アザ☆ゼル

 

 作曲・企画 サーゼクス・ルシファー

 

 ダンス振り付け セラフォルー・レヴィアたん

 

 バックコーラス 聖歌隊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか、テロップが出てるね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………楽になったな」

 

「楽に……なったわね」

 

 なんで姐さんはともかく、ヴァーリまでイッセーを取り押さえてんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「狙撃は、来ないですよね?」

 

「狙撃こわいにゃ狙撃こわいにゃ狙撃こわいにゃ」

 

「二人ともしっかりしろぃ!」

 

「お兄さま、黒歌さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリチームまで全員集合してんじゃねえか。

 

 あと、アーサーらしき人物と黒歌らしき人物が、完璧に狙撃恐怖症になってる。

 

 ペト、恐るべし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おっぱい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセー。暴走状態でなんで流暢におっぱい言ってやがんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 っていうかなんだあの三大勢力豪華メンバー。総力挙げすぎだろ。

 

 三大勢力和平の結晶がこんなのでいいのかよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リアス! 今こそあなたの乳首の力を使うのよ!!」

 

「ええ!?」

 

 なんか異次元の狂人の言葉が飛んだ気がするんだけどよ。

 

 おいこら朱乃さん。あんた、この意味不明空間でSAN値0になったか?

 

 とりあえず、一言いいか?

 

「「なにこれ」」

 

 俺とシシーリアのツッコミが、ハーモニーを奏でるのも当然だ。

 

 いや、ホントになにこれ?

 

 子供向け番組のオープニングみたいだけど、なんでおっぱい?

 

「イッセー君の禁手の覚醒の逆を行うの。あなたの乳首をつつかせれば、イッセー君は正気に戻るはずだわ!!」

 

 あ、朱乃さん? まだ話してんの?

 

「あ、ヒロイ君」

 

 と、立体映像発生装置を起動させているイリナが手を振ってきた。

 

「い、イリナ? これどういうこと?」

 

「うん! イッセー君が大変になった事にミカエル様達が気づいたから、アザゼル先生がこれを届けてくれたの! 実際効果があるからすごいわ。さっすが堕天使総督の切り札よね!!」

 

 お前はそれでいいのか。天使としてそれでいいのか。

 

「ぽちっと、ぽちっと・・・・・・ずむずむ…いや~ん」

 

 イッセーお前黙ってろ!!

 

「こ、こんな歌で反応するなんて……」

 

「流石はイッセー君だよね……」

 

「イッセー先輩がイッセー先輩たるゆえんです……」

 

 ああ、小猫ちゃんも木場もギャスパーもなんていうか微妙な感じになってるし。

 

「ぶ、ぶふ・・・・・・っ。は、腹が痛いぜ」

 

 美候、お前大丈夫か? これ、笑ってられる空気でもない気がするんだけどよ?

 

「よ、よくわからないけど……わかったわ」

 

 お嬢、大丈夫ッスか?

 

 いや、確かに神器は想いに応えるシステムだ。

 

 覇龍もまた、神器のシステムの一つには違いねえ。

 

 なら、精神的に莫大な衝撃を与えりゃ正気に戻るってのは理屈じゃ合ってるが……。

 

 とりあえず、お嬢の胸は眼福だぜ!!

 

「いやんっ」

 

 その言葉とともに、イッセーの鎧が解除された。

 

「……リアス・グレモリーの胸は、兵藤一誠の制御スイッチか何かなのか?」

 

「なるほど、スイッチ姫か! そりゃおもしろいねぃ」

 

 ヴァーリと美候の漫才はスルーして、俺はとりあえず天を仰いだ。

 

 ああ、特に信仰してませんけど主よ。俺なんかすごく疲れたんで帰って寝ていいですかい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、ものすっごい面白い見世物を見逃した気がする」

 

 半分ぼけて言ってみたが、しかし反応が返ってこない。

 

 それを残念に思いながら、リムヴァンはカテレアに視線を戻す。

 

 カテレアは、明らかに沈み切っていた。

 

 理由は三つもある。それら全てが、旧魔王派のカテレアにとって大きなダメージであった。

 

 一つ目は当然作戦失敗。

 

 旧魔王派の蛇保有者の八割を投入したこの作戦。ものの見事に失敗して、参加者の多くが討ち死にもしくは捕縛された。

 

 独断専行の果てに大敗。これによる精神的苦痛は相当なものだろう。

 

「とりあえず、旧魔王派の権限の大半は凍結させてもらうよ。……悪いけど、悪魔の妙技を利用して、工兵として活動してもらうからね」

 

 そして、その後の処罰も大きなダメージだ。

 

 あくまで三強の一角とは言え、旧魔王派はヴィクター経済連合でも有数の派閥だった。

 

 そして旧魔王の末裔は魔王の末裔なだけあって、プライドが肥大化しているといっても過言ではない。

 

 それが、今回の処罰で大きく立場を失墜することとなった。

 

 流石に末端派閥ほどにまで縮小される事はないが、しかし有力派閥などとはとても言えない。精々が中堅どころと同じだ。

 

 大きな弱体化と失態及び暴走の処罰。これによる社会的地位の失墜は、カテレアの心に大いなる負担をかけていた。

 

 そして、最後の一つ。

 

「……クルゼレイ………っ」

 

 クルゼレイ・アスモデウスの戦死である。

 

 今回の暴走に関わった二人の幹部はどちらも敗北した。

 

 赤龍帝、兵藤一誠を暴走させた挙句、内通者であったディオドラの暴走。これにより、シャルバ・ベルゼブブはかろうじて生き残っていたが瀕死の重傷。そして、クルゼレイ・アスモデウスは戦死した。

 

 ある意味二階級特進であり悲劇の死であるクルゼレイはともかく、シャルバを追求するものはゴロゴロ出てくるだろう。

 

 有力幹部の一人でしかないにも関わらず、まるで禍の団およびヴィクター経済連合の盟主のように振る舞うシャルバの傲慢さは、連合内でも毛嫌いされていた。

 

 まず間違いなくこれを機に徹底的に追及が行われるだろう。連合内での権威は地に落ちると言ってもいい。下手をすればこのまま処刑だって十分にあり得る。

 

 とはいえ、そんな事をすれば旧魔王派の残存勢力が暴走を起こしかねない。彼等は偉大なる魔王の末裔に忠誠を誓っている存在で、それ以外を見下していると言ってもいいのだから。

 

 ゆえに、なんとしてもカテレアには持ち直してもらわないと困るのだ。

 

 リムヴァンとしても、いまだ旧魔王派の力は利用したい。悪魔の妙技による建築速度の速さは、今後の勢力拡大に大きく貢献するからだ。

 

 だが、其の為にはカテレアの再起が必要不可欠だ。

 

 今のカテレアは抜け殻一歩手前といってもいい。それほどまでにクルゼレイの死が大きな傷となっている。

 

 ヴァーリが旧魔王派側についてくれない事もあり、このままでは旧魔王派はさらに暴走を悪化させる。それを抑えてくれる者がいないからだ。

 

―仕方ないな。

 

 そこまで考えて、リムヴァンは最終手段をとる事にした。

 

「ま、とりあえずやけ酒でも飲んで気を晴らしなよ。……ここからが大変なんだしそれ位の気遣いはするさ」

 

「気遣い? 処刑としての毒殺ではないですか?」

 

 疑心暗鬼に陥っているカテレアに、リムヴァンは苦笑する。

 

 カテレアクラスの存在は貴重だ。権威が失墜したとはいえ、旧魔王派はわりと価値のある戦力でもある。

 

 ゆえに、そんな事はしないとリムヴァンはワインをあえて自分のグラスに入れ、一息にあおった。

 

 最高の多幸感が体を襲い、リムヴァンは身震いする。

 

 そして、其れに任せて満面の笑みを浮かべた。

 

「ほら、大丈夫。毒なんて入ってないでしょ?」

 

「そうですか。まあ、毒でもいいんですけどね」

 

 そう言いながら、カテレアは自分のグラスに酒を入れる。

 

 そして、其れを飲む姿を眺めて、リムヴァンはにやりと嗤った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、毒は入ってないし美味しいでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その直後、ワイングラスが床に落ちて砕け散った。

 

 

 

 




今回は短めでした!









原作以上に盛り込まれたおっぱいドラゴンの歌。教会もサポートしている本気仕様です。まさに三大勢力和平の象徴(汗









その裏でリムヴァンは行動開始。旧魔王派をどうにかするため動きました。

割と何でもありなのがリムヴァンのいいところ。なにせ神滅具級の奇跡すらこいつなら比較的楽に出せるので、説得力が違う。

さて、カテレアがどうなったのかはまた次の機会に……。


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第二章 33 聖女の笑顔とその裏で

第二章もこれでラストです!!





さて、シシーリアはどうなるのか……


 

 

 

 

 イッセーはとりあえずお嬢達に任せて、俺達はとりあえず城に戻った。

 

 この城の中にはディオドラ絡みでの不正の証拠もゴロゴロあるとシシーリアが言ったので、それを回収しに来たんだ。

 

 なんていうか、すごく微妙な空気と感動的な空気が混ざってカオス空間だから、居たくなかったってのが本音だ。

 

 ま、それなら残敵掃討をしてりゃいいんだが、っていうか英雄としちゃぁそっちに集中した方がいいんだがぁ……。

 

「シシーリアだったかしら? ここでいいの?」

 

「はい。愚者の記憶ですが、ここにディオドラが誘いを掛けた者達の名簿が残ってます」

 

 姐さんにシシーリアが答え、そしてシシーリアが隠し扉を開け、記録媒体を取り出す。

 

 これで、今回の件で逃亡した連中の指名手配も簡単にできるだろう。

 

「それに、旧魔王派との取引の内容や、会議の内容も録音されてます。この情報があればヴィクター経済連合の名声をある程度堕とす事が出来るはずです」

 

 なるほどな。この会話の内容を公表すれば、旧魔王派のヴィクター経済連合での地位は地に落ちるかもしれねえな。

 

 シシーリアの話じゃ、悪魔以外は滅ぼすべきだとか、実権を握ったら人間を飼い慣らすとか言ってたからな。そんなことを知ったら、ヴィクター経済連合の連中も旧魔王派をバッシングするはずだ。

 

 これで、どんどん傾いてる形勢を押し留める事が出来りゃぁいいんだがな。

 

「……それでは、これでお別れです」

 

「は? 何言ってんだシシーリア?」

 

 シシーリアの言葉に、俺は嫌な予感を感じる。

 

 おい、この馬鹿何を考えてやがる?

 

「理由はどうあれ、私は現魔王の政府を罠に掛けた愚か者です。今までディオドラを告発しなかった罪もありますし、処罰を受けないといけないでしょう」

 

 シシーリアはそういうが、その表情は明るかった。

 

 もう救われたから怖くない。そう表情が言ってやがる。

 

 お、おいおい! 何を考えてるんだよ!!

 

 漸くディオドラから解放されたんだぞ。これからじゃねえか。

 

 処罰だなんて……。

 

「待てよシシーリア!! お嬢達に相談するから、落ち着けよ!!」

 

「ヒロイさん……。でも―」

 

「でもじゃねえ!!」

 

 俺はシシーリアの肩を掴む。

 

 何言ってんだこの馬鹿。

 

 今までディオドラに散々苦しめられてきたんだぞ? 身に余ると思っている聖女の重圧にも耐えてきたんだろう?

 

 それから漸く解放されたってのに、そんな結末なんて認められるかよ!!

 

 まだまだ、お前は幸せになるべきだ。

 

「今回の件や前回の襲撃で、冥界には恩を売ってる!! せめて恩赦ぐらい引き出させて見せる。お前がそこまで責任取る事なんて―」

 

「いや、その必要はない」

 

 その言葉に、俺達は振り返った。

 

 そこには、貴族服を着た男が一人。

 

 アジュカ・ベルゼブブ様!!

 

 このタイミングで、なんでこんなところに!?

 

 まさか、ディオドラが裏切っていたのはこの人も関わってんのか? 同じアスタロトだし、可能性はあるかもしれねえが……。

 

「魔王様? 必要ないって、どういうことかしら?」

 

 姐さんも嫌な展開を予想したのか、警戒心を見せながらそう尋ねる。

 

 それに頷きながら、アジュカ様はシシーリアに向き直った。

 

 一瞬だが、俺も姐さんもいつでも飛び掛かれる様に構えている中で、アジュカ様は―

 

「これまで、ディオドラの蛮行を見落としてきた罪、その事で生まれた君の苦しみに対して、本心から謝罪させてくれ」

 

 ―そう言って、頭を下げた。

 

 え、ええええええ!?

 

「ま、ままま待ってください!! こ、こんな駄馬の為に頭を下げるだなんてそんなこと―」

 

「いや、全てとは言わないが、気づかなかった俺にも責任がある」

 

 た、確かにこんな事になったら、アジュカ様の責任は大きいと思うけどよ……。

 

 思わぬ展開に、俺も姐さんもシシーリアもどうしていいかわからねえ。

 

 いや、ちょっと待て。まさかと思うが……。

 

「そんな事を言う為に、態々こんなところまで?」

 

「ああ。一応このフィールドも俺が基本設計をしていたからな。やろうと思えば特定の人物を探す事もできる」

 

 さらりと凄い事言ったな、オイ。

 

 この人、確か悪魔の中じゃあ一番の技術者なんだっけか? レーティングゲームや悪魔の駒も、ほぼこの人が作ったとか。

 

 そんな人に頭を下げさせるとか、シシーリアすげえ。

 

「その情報媒体は君が持っておくといい。俺もできる限り君の安全を確保するが、なにせ身内がこれだけの不祥事を起こしたんでね、俺も自分の身が危ういところがある。君自身が大きな貢献をしたという事実が必要だろう」

 

 そういうと、アジュカ様は視線をあらぬ方向に向けた。

 

「……最も、彼らが居れば万が一の事はないわけだが」

 

 と、さらに天使や堕天使の部隊も大量に増援が出てきていた。

 

 既に城の残骸を取り囲んでおり、もう大勢は決したと言ってもいいだろう。

 

 まだ警戒を全部解く訳にはいかねえが、とりあえずこれで安心か。

 

「……アジュカ・ベルゼブブ殿。彼女がシシーリアか」

 

「あら、可愛らしい方ですね」

 

 と、ごつい堕天使と美人な天使が、何人もの部下を伴って現れる。

 

「ああ。俺の場合はディオドラの件があるから怪しまれるしね。あなた達に護衛を頼みたい、グリゴリのバラキエルとセラフのガブリエルが直傍にいるなら、例え神クラスでもバカな事はしないだろう」

 

 なんつー豪華な護衛ぃいいいいい!?

 

「……が、ガブリエル様に護衛されるなんて!? こ、こんな塵屑にはもったいない光栄です!!」

 

 あのすいません。シシーリアがいろんな意味で死にそうなんだけど。

 

 アジュカ様もとんでもない護衛呼んできたな。確かにディオドラの親族だから、ちょっと心配になるところはあったけどよ。

 

 ま、流石にこれなら大丈夫か。

 

「シシーリア」

 

「は、はい?」

 

 まだ現実に戻り切ってないシシーリアに、俺はちょっと聞いてみた。

 

「俺は、お前の英雄(輝き)だって自慢していいか?」

 

 ああ。完膚なきまでにこの戦いは激戦だった。

 

 そして俺は彼女を救った。その事実を誇りたい。

 

 俺のその、なんというかちょっと心配になる願いに―

 

「―はい。すっごく照らされましたっ」

 

 ……陰りのない、満面の笑みがそこにあった。

 

 ああ、最高の報酬だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもって、俺達は体育祭!!

 

 綱引きに関しては、完膚なきまでに俺達が勝利だ。

 

 ま、英雄となる男を味方につければ当然だな。えっへん。

 

「あらあら、ヒロイはこういうところが可愛いわね」

 

 と、作業服を身に着けた姐さんが笑ってくる。

 

 なんだろうか。褒められたはずなんだが、どことなくからかわれているような気分になるな。

 

 ちなみに姐さんは用務員兼警備員として駒王学園に在籍する事となった。

 

 俺達と行動を共にしまくりだからな。教師という案もあったのだが、姐さん学歴は高校中退で、不可能だと。

 

 お、俺、姐さんを学問で上回ってるのかよ。冷静に考えるとすっげえな。

 

「ペトぉ。頑張りなさぁい!!」

 

「……全力全開っす!!」

 

 姉さんの声援を受けて、ペトが障害物競走で凄まじい速度を発揮している。

 

 信じられるか? ペトの奴、あれでも上級堕天使としては狙撃以外型落ちなんだぜ?

 

 ま、実際のところ冥界ではてんてこまいなんだろうがな。

 

 ……あの後、禍の団では旧魔王派の権威は失墜したとの事だ。

 

 大規模勧誘をワザと襲撃させて返り討ちにする計画が、よりにもよってセクハラ技で台無しになったんだ。もうこの事実で一部の重鎮が憤死したとか言われてる。その前に幹部の死でショック死しそうだけどよ。

 

 特に俺達の口からディオドラの暴走が出たのも大きい。

 

 なにせ、計画の要ともいえるアーシアを監視していたディオドラの失態ともいえるからな。さらに、幹部格であるクルゼレイをその手で殺し、実権を握ろうなどという暴挙。そんな致命的な人選ミスは、いかに禍の団の有力派閥といえどどうしようもない。

 

 クルゼレイ・アスモデウスは、それによって死亡が確認。シャルバ・ベルゼブブはかろうじて生存したが、重傷で当分は動けない。ヴァーリ・ルシファーは幹部として迎え入れようとされたそうだが、然し断ったそうだ。カテレアが生存してなければ、派閥として終わっていたかもしれない。

 

 因みに、今回の件でシシーリアが回収した会議の内容を冥界政府は公表。これによりヴィクター経済連合の重鎮達や民衆は旧魔王派をバッシングし始めている。

 

 あくまでシャルバ達の一派の暴走という形で抑え込まれているが、それでもさらに大打撃だろう。

 

 当面の間、旧魔王派がヴィクター経済連合の活動に口出しする事は不可能。政府はそう結論付けている。

 

 ちなみに、そのヴァーリがあそこにいた目的は、グレートレッドを見る為だそうだ。

 

 黙示録の赤い龍、オーフィスと互角の世界最強の存在。真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)。真龍。D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)。夢幻。そんな数々の名を持つ存在。

 

 それが、たまたまあの近くを移動していたとの事で、ヴァーリは見学に来てたとか。

 

 それが巡り巡ってアーシアを助ける事になったんだから、あの子はあの子で色々運がいいよなぁ。

 

 で、其の場には禍の団のトップであるオーフィスもいたらしいが、戦闘せずに帰ったらしい。

 

 なんでもロリッ子だったそうだが、どういうこった?

 

 因みに、ヴァーリはそのグレートレッドを倒す事が夢らしい。

 

 なんでも、真なる白龍神皇となり、赤の最上位に並び立つ白の最上位になる事が目標だとか。

 

 オーフィスもグレートレッドを倒す事が目的らしいし、その辺で意気投合したのかねぇ。

 

 だがまあ、それを認めるわけにはいかねえ。

 

 今の研究者の間では、次元の狭間はグレートレッドがいる状態だから安定していると認識されている。だからそんな事は認められない。

 

 今のオーフィスは変質してるから、次元の狭間にいさせると何が起こるかわからないって判断らしい。

 

 俺は英雄になりたいが、無用な犠牲を生みたくはねえ。姐さんもそれは同じだ。

 

 だから、いざとなれば―

 

「俺達も、オーフィスを倒さないといけないのかもな」

 

「ええ。そうしないといけないわね」

 

 俺も姐さんも決意を新たにするが、しかしそれも大変だ。

 

 なにせ神クラスが何柱も出たって勝てる可能性が低めの化け物だ。

 

 はっきり言ってディオドラ如きに策で嵌めて漸く勝った俺や、シャルバに倒されかけた姐さんでは話にならねえ。

 

 しかも、その所為でイッセーに覇龍を使わせる始末だ。

 

「……イッセー。人間と同じぐらいしか生きられないそうね」

 

「小猫ちゃんなら治療できるそうだけどな」

 

 俺はそう軽く言うけど、姐さんの表情は暗い。

 

 なにせ、シャルバにアーシアが殺されたと思い込んだ事が、イッセーが衝動的に覇龍を発動させた原因だ。

 

 その所為で残り寿命は百年足らず。人間としては長生き過ぎるぐらいだが、悪魔としちゃぁ短命何てレベルじゃねえ。

 

 それが、姐さんがシャルバを抑えられなかった所為で起きた。

 

 姐さんからしちゃ、本当にショックだろう。イッセーの事も気に入ってるしな。

 

 仙術である程度治療できるたぁいえ、減った事実は変わらねえしな。気にもなんだろ。

 

「本当に弱いわ、私。こんなんじゃ、強者(英雄)になれないわね」

 

 そう独り言ちる姐さんに、俺は何も言えなかった。

 

 姐さんは輝き(英雄)だと、俺は胸を張って断言できる。

 

 だけど、それを他ならぬ姉さんが認められねえってわけだ。これじゃあ俺が何を言っても意味がねえ。

 

 ……ほんと、強くなりてえよなぁ。

 

「でも、あなたはもう既に英雄と言われてもいいんじゃないかしら」

 

「へ?」

 

 俺が暗くなっていると、姐さんがそう言って茶化してきた。

 

 いやいや。姐さんに比べれば俺はまだだって。

 

 そう言おうとするが、それより先に姐さんはニヤニヤしてきた。

 

「……シシーリアって子から、メール来たんでしょう?」

 

 う、そこを突いてくるかよ。

 

 あの後、シシーリアからメールが来た。

 

 内容は主に近況報告だ。

 

 今は、アジュカ様の元で世話になっているそうだ。ついでに色々勉強してるとの事。

 

 結局、アジュカ様はあまりダメージを受けなかった。

 

 ぶっちゃけあの人は何も関与してない事が判明したし、しかも替えの利かない人材だからやめさせるわけにもいかないとか。三大勢力のトップが全員お人好しってところもでかい。

 

 ま、アスタロト家の権威は失墜し、次期魔王輩出の権利も失ったそうだが。

 

 ちなみに、数少ない亡命に成功した現政権側の悪魔の中には、ゼファードルもいたそうだが、こっちは半分スルーされた。

 

 むしろ面倒な奴がいなくなったとどこもかしこも喜んでるらしい。そんなの腕が立つからって次期当主にするなよ。

 

 シシーリアの手紙には、これから鍛え直して三大勢力に貢献すると書かれていた。

 

 なんでも、ディオドラのところでは本格的なトレーニングはあまりしてないそうで、アジュカさまはその辺を考慮して、自分のゲームを利用して鍛えないかと誘ったとかなんとか。

 

 ゲームで鍛えるとかどういうこった?

 

 なんかよくわからねえが、とりあえず強くなる気があるのはいいこった。

 

 そんでもって、シシーリアの手紙はこの言葉で締めくくられていた。

 

―また、いつか必ず照らされに来ます。

 

「あれ、半分ぐらいプロポーズじゃないのかしら?」

 

「いや、あれは流石に違うだろ」

 

 どっちかというと、憧れとかそんな感情だと思う。俺が、姐さんに向けている感情に近いと思うんだ。

 

 だけど、また会おうって気になってくれるのは嬉しいこった。

 

 ああ、いつかまた会おう。

 

「おや、二人ともそんなところにいたのかね?」

 

 と、サーゼクス様が微笑みながら歩み寄ってきた。

 

 この人、この日の為に全力出して仕事終わらせて予定を空けたらしい。

 

 どんだけシスコン。

 

「そうだ、イッセー君が目を覚ましたよ。すぐにここに転送する手はずだ」

 

「マジですか!」

 

「それは良かったわ」

 

 俺も姐さんもほっとした。

 

 アーシアの奴、イッセーと二人三脚できないかもしれないって、落ち込んでたからな。

 

 お、噂をすれば影とかここでは言うらしいな。イッセーとアーシアが合流してる。

 

 あの野郎、アーシアの心を照らすとは中々英雄じゃねえか。俺も負けてられねえな。

 

「イッセー! アーシア!! 一番取れよぉおおおおお!!!」

 

 俺は、全力で応援をぶちかました。

 

 何はともあれ、良かったな、アーシア!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「曹操、分かっててゲオルクに結界装置を作らせたでしょ?」

 

「いやいや。元々はアスタロトとグレモリーのレーティングゲームの予定だったんだよ。だから伝えただろう?」

 

「ドンピシャのタイミングだったけどね。ったく、内通者をあえて泳がせるなんて阿呆しなければ、そこそこ行けそうだから協力したのに」

 

「君を出し抜きたかったんだから、そりゃ無理だろう。ま、これで鬱陶しい馬鹿は退場したから都合がいいじゃないか」

 

「起死回生の自殺行為をしなけりゃいいけど。ま、カテレアは説得できたし何とかなるかNA?」

 

「あれは説得とは言わないと思うけどな。……さて、そろそろ俺達も人材集めを終えないとな」

 

「あんまり外道行為はしないでよね? 自発的な志願者だけにしてくれないと、これからのネガキャン合戦でぼろ負けするから」

 

「おいおい、洗脳教育は君達の十八番だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい曹操にリムヴァン、なにを悪役っぽくくっちゃべってんだぁ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こらこら。僕達は悪党だZE?」

 

「一緒にするなよ。俺達は大義を持つ立派な英雄だぞ?」

 

「喧嘩すんなよお前ら。……それで? 俺様はいつになったら本格的に動けんだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ実戦で肩慣らしをしてくれYO。少しは勝っておかないと士気に関わるからSA」

 

「そう言うことだ、聖槍の使い方を勉強させてくれ、先輩。……いや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦国の猛者にして、当時の教会が恐れた聖槍使い。森長可殿」

 




シシーリアは今章のゲストヒロインですが、また後程きちんと出番は作ります。

そして、英雄派のオリジナルメンバー登場。

……この作品が英雄を根幹にする以上、敵方にも英雄が一人ぐらいいていいと思いました。








次の話から第三章です。

第三章は7巻から9巻までの内容で、オリジナルの話を途中で挟みます。

日本が戦場になる話なので、当然ちょい役だった総理も出てきますぜ?


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第三章 日出国の大動乱
第三章 1 ほのぼのとした日常の裏側で謀略が進んでるってよくあるよね


はい、第三章がついに始まります!!

まずはラグナロク編からスタートです!!


 

 北欧の片隅にある喫茶店で、一人の男が紅茶をたしなんでいた。

 

 その美しさは、まるで神像をそのまま肉体にしたかのようで、周りの女性たちはおろか、一部の男たちも見惚れている。

 

 それもそのはず。彼は正真正銘の神である。

 

 北欧のトリックスター、ロキ。世界でもトップクラスに有名な神の一柱である。

 

 こと、北欧神話においての知名度では三強に入るだろう。北欧神話の名前は知らなくても、ロキという名前に心当たりがあるものはたくさんいるはずだ。

 

 そんな彼は、今ある人物と会うべく人間の世界に足を運んでいた。

 

 そして、その人物がロキの前の席に座った。

 

 一見するとこの国ではどこにでもいるような風貌の男性。ロキも、一瞬人違いかと勘違いしかけた。

 

 だが、魔術に長けるロキは、それが隠匿の術によるものだと一瞬で理解した。

 

「ほう。一瞬とはいえこの我の目を欺くとは、極東の術式もなかなかのものだ」

 

「ふん。貴様らごときに一瞬で見破れるとは不快な限りだ」

 

 ロキの掛け値なしの賞賛に、男は心底苛立たし気な返答を返す。

 

 まるで、彼らに評価されることそのものが侮辱と思っているかのような態度だった。

 

 仮にも神の賞賛を素直に受けない態度は、いつものロキなら苛立ちの一つも覚えていただろう。

 

 だが、この男ならその反応もまあおかしくはない。ついでにいえば、こっちからわざわざ強引に呼び出した負い目もある。

 

 なにより、そういう人物だからこそ協力者になりえる。相いれない敵同士だからこそ、彼らは協調関係を結んできたのだから。

 

「この地域の人間が平和に過ごしていることすら苛立たしい、八つ当たりなのはわかっているが、ヴィクター経済連合は核でも落としてくれないものかと思うさ」

 

「貴殿の国ではできないしな。核も持てなければそもそも他国に攻め込もうともしない。それで大丈夫だと妄信しているものだらけだということは不幸だ」

 

 微妙に挑発の応酬になっているが、ロキは彼のことを評価している。

 

 自分からしてみれば関わるのは最低限に抑えたい勢力の存在だが、しかし同時に警戒するべき勢力でもある。

 

 そして、彼に匹敵する実力者など、北欧のヴァルキリーでも五人もいないだろう。

 

 研究方面に限っていえば、あのゲンドゥルですら劣るところも一つはあるだろう。戦闘に持ち込まれても、あのブリュンヒルデにも食い下がるだろう。

 

 それほどまでの人物と、しかし彼は本来相容れない。そう言う不倶戴天の立場なのだ。

 

 だが、自分達の願う世界の為には、だからこそ協力が必要だった。

 

 ゆえに、男はロキに話を進めるよう持ち掛ける。

 

「それで? オーディンが我が国に来訪するというのは本当だな?」

 

「ああ。忌々しいことにそちらの神話及び政府と和議を結ぼうとしている」

 

 ロキの言葉に嘘偽りはない。

 

 嘘は時として有効だが、正直に話す方が有効な時もある。それをロキは熟知しているのだ。

 

 そしてその予想通りに、男は顔を真っ赤にして怒りをあらわにする。

 

「……なんとしても阻止しなければならんな。北欧の神々との和議など、私の目の黒いうちは断じて許さん……っ」

 

 その決意を見て、にやりとロキは笑みを浮かべる。

 

 北欧神話と相いれない勢力のものは、だからこそ和議を結ぼうとするときにおいては頼れる味方となる。

 

「では、話を進めようか、鬼の研究の第一人者足る鬼、反魂法の使い手たる捧腹よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふはははは!!! ここが貴様の墓場だ、おっぱいドラゴン!!』

 

 テレビの向こう側で、明らかに悪役っぽい恰好をした男がそう言い放つ。

 

 それに反発するように立ち向かうのは、赤い龍を模した鎧をまとった男。

 

『それは無理だ。守るべきものがある限り、俺は負けない!!』

 

 そして戦いが始まる。

 

 説明しよう。伝説のドラゴンと契約したおっぱい大好き若手悪魔、イッセー・グレモリー。彼は悪魔の平和を守るため、おっぱいドラゴンに変身して悪の組織と戦うのだ!!

 

 ……その番組を、俺たちはリビングで集結してみていた。

 

 ちなみに、著作権はグレモリー家が仕切っており、すごい儲かってるそうな。

 

 すでにブーステッド・ギアのおもちゃ版も試作品が完成してるそうな。仕事速いな。

 

 そして、そんなおっぱいドラゴンは子供たちに大人気だとか。初放送から視聴率50パーセントを超えてるらしい。

 

「……すっげぇな、イッセー」

 

 俺は、素直にモデルであるイッセーをそう褒めた。

 

「いやぁ、それほどでもあるな」

 

 そしてイッセーは調子に乗ってやがる。

 

 これ、そんなに調子に乗れるようなもんでもねえだろうに。

 

 だって……。

 

『どうした? この程度か、おっぱいドラゴン!!』

 

『く……っ! 子供たちのためにも、負けるわけには……っ』

 

 おっぱいドラゴンは敵の新兵器によって追い込まれていた。

 

 そう、子供のヒーローはたいていの場合、何かしらの追い込まれを見せるのだ。

 

 それがあるからこそ、その次での逆転劇が映える。これぞエンターテイメントとしての英雄物の妙技なり。

 

 そして、逆転タイムはやってきた。

 

『またせたわね、おっぱいドラゴン!』

 

 そこに現れるのは、部長をモデルにしたヒロイン、スイッチ姫。

 

 文字通りおっぱいドラゴンの覚醒スイッチである。

 

 で、何がスイッチなのかというと……。

 

『おっぱいドラゴン! 私のパワーを受け取って!!』

 

 そしてさらけ出されるスイッチ姫のオパーイ(修正済み)!

 

 くそ、なんで修正した、言え!!

 

『これで、俺たちの勝ちだ!!』

 

 その言葉とともにパイタッチ。

 

 そして、処刑用BGMとともに逆転した。

 

 ………ほんと、なにこれ。

 

「説明しよう!! おっぱいドラゴンは、スイッチ姫の胸にタッチすることで、パワーアップすることができるのだ!!」

 

 原案に関わりまくりのアザゼルがノリノリで開設する。

 

 そして、その後頭部に全力のお嬢のハリセンが叩き込まれた。因みに顔は真っ赤ですわい。

 

「グレイフィアから聞いたけど、スイッチ姫のアイディアを出したのは貴方なんですって!? おかげで私は、私は……っ」

 

 軽く殺意がにじんでる。

 

 だが、アザゼルはどこ吹く風で、むしろ自慢げというか一仕事終えた顔してやがる。

 

「何言ってんだ。そのおかげでガキからも人気がでてるんだろ? よかったじゃねえか」

 

「いや良くないでしょう。さらし者よ、コレ」

 

 姐さんが見事にツッコミを叩き込んだ。

 

 うん、これはこっぱずかしい。

 

「あのねえ。芸能業界っての魔窟なのよ? うかつにリアス見たいな美少女を送り込んだら、どんな野獣が襲い掛かるかわからないわ」

 

「いやいや。グレモリーの次期当主に手を出そうってバカはいねえだろ」

 

 確かにアザゼルの言う通りだ。

 

 お嬢に手を出したなんて知られたら、確実に死ぬぞ、いろんな意味で。

 

 だが、姐さんはビシリと指をアザゼルに突き付ける!!

 

「甘い!! 魑魅魍魎がうごめくのは、政界だけじゃないのよ!!」

 

「いえ、私が言ってるのはそういう意味じゃないのだけれど……」

 

 そう弱弱しくツッコミを入れながら、お嬢はソファーにへたり込んだ。

 

 あ、背中がすすけてる。

 

「恥ずかしくて、外を歩けないって言ってるのよ」

 

「それは我慢しなさい。多少の恥をかく気じゃなければ、芸能人にはなれないわ」

 

 いや姐さん、あんたが芸能人の何を知ってるんだ。アイドルか何かかよ。あとお嬢は芸能人になる気はねえと思う。

 

 いや、そういう意味じゃイッセーも心配だな。冥界を歩いたら注目されまくりになるよな、コレ。

 

 それに俺もだ。

 

 英雄も、また人々の注目を浴びるのは珍しくねえ。注目の的になる覚悟ってもんをしねえとな。

 

 それができて、初めて英雄ってわけか。

 

『フッ。相棒もここまで来たかぁ。俺とお前でおっぱいドラゴンかぁ』

 

 と、そこに落ち込みまくっている龍が一匹。

 

 ドライグ、ものすごく落ち込んでるな。

 

 まあ、乳だもんな。おっぱいだもんな。いろいろあれすぎてドライグとしてはきついだろ。ぶっちゃけ俺も思うところがある。

 

「いいじゃねえかドライグ。たまにはこういうのもさ?」

 

「いやぁ、人によっては一生御免って人種はいると思うっすよ、自分」

 

 励ますイッセーに辛辣なツッコミをペトが入れる。正論ではある。

 

 実際、ドライグみたいなタイプからしてみれば、おっぱいではしゃぐとか人前に見せるのは限度超えてるだろ。

 

『まったく。お前といると飽きないよ。そう言う意味じゃあ、歴代最強の赤龍帝だ』

 

 ドライグ……。

 

 背中があったら、すすけて見えるだろうな。それ位憔悴しきってやがる。

 

 ま、まあ元気出せ。おっぱいおっぱいってるところを除けば、特撮としちゃぁいい線いってるからよ。いやマジで。

 

「でもほんとイッセー君はすごいわね。幼馴染がヒーローってかっこよくて自慢になるかも!」

 

 と、イリナがポーズを取りながらはしゃいでるんな。

 

 こいつは何でも楽しめてうらやましいなぁ。俺、ちょっと引いてるところあるわ。

 

「そういや、イリナとは子供の時にヒーローごっこしたっけ。あの男勝りのイリナが、こんなかわいい女の子になるとか俺も自慢だぜ」

 

 イッセー。お前何サラリと口説き文句ぶちかましてんだ、オイ。

 

 ああ、イリナも顔真っ赤にしてやがるしよ。

 

「い、イッセー君ったらそんなこと言ってリアスさんたちを堕としてきたのね!? あ、わ、私も堕ちちゃうぅううう!!」

 

 あ、天使の羽が白黒に瞬いてるな。

 

「こんなことで堕天するの? 天使も大変ね」

 

「ペトは生まれつき堕天使だったので新鮮ッス!!」

 

「いやいや。当人にとっては一大事だからね?」

 

 感心する姐さんとペトに、木場が苦笑しながらツッコミを入れた。

 

 そんな空気の中、何も言わずに機嫌がよかったのは朱乃さんだ。

 

 いったいどうしたんだ? 誕生日とクリスマスが一緒に来たような感じの上機嫌だけどよ。

 

「朱乃さん、どうしたんですか?」

 

 小猫ちゃんがそう尋ねると、朱乃さんは今までにないニコニコ笑顔で振り向いた。

 

 そして、その視線はイッセーに向けられる。

 

「そろそろイッセーくんとのデートの時期ですもの。当然機嫌もよくなりますわ」

 

 ああ、旧魔王派の時のあれか。

 

 ちなみに、今ので空気が三度ぐらい下がって俺は風邪ひきそうだぜ。

 

 イッセー。小猫ちゃんに言われたことに疑問持たなかったお前が悪い。責任取って責められやがれ。

 




ロキ勢、超強化されますと予告します。









なにせ神滅具が三つもありますからね、駒王町。そこに逃げ込んだオーディンを殺すのなら、それ相応の戦力も必要です。











次、章ヒロイン登場。


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第三章 2

本章ゲストヒロイン登場回。およびラグナロク編でヒューチャーされるキャラもここでわかると思います。


 北欧神話の大本、アースガルズ。

 

 アース神族が一大勢力であるユグドラシルの神話体系。その長であるオーディンは、長いひげをなでながら、空を飛ぶ馬車で外を見ていた。

 

 窓の向こう側には海が広がっている。その名は日本海。

 

 ヨーロッパからユーラシア大陸を横断して、この馬車は日本へと向かっていた。

 

「それでロスヴァイセ。あと何時間ぐらいでつくかのぅ?」

 

「そうですね。この調子ならあと十分もかかりません」

 

 お付きのロスヴァイセが、メモを確認しながら予定を告げる。

 

 とはいえ、それを実行するのはだいぶ後になるだろう。

 

 本来なら何日も後になってから向かう予定だ。それを、急遽早くして来日しようとしているのだ。

 

「オーディンさま。ロキさまは本当に動くのでしょうか?」

 

 ロスヴァイセは不安げにそう告げる。

 

 オーディンが急遽来日予定を早めたのは、ひとえにロキ神の暗躍が原因だ。

 

 アースガルズと、そこのトップであるオーディンのとっている路線である和平路線。これに悪神であるロキが強硬に反発をしているのだ。

 

 彼は勢力圏の人間の国家にアースガルズの神々をしらしめ、鎖国政策をとるべきだと強硬に主張。妥協案としても、近年増えてきている中立国との連携を取るべきと訴えている。更にはそれが無理ならせめてヴィクターの方と和議をするべきだと主張していた。

 

 なんだかんだで神話のトリックスターゆえにフットワークの軽い彼に対抗するには、こちらもフットワークを軽くするほかなかった。

 

「動かないなら観光を楽しむまでじゃ。じゃが、奴のことだから何かしら行動を起こすじゃろうて」

 

「考えたくはありません。この世界の一大事に、仮にも神であるかたが自陣営の利益のみを追求するというのは……」

 

 ロスヴァイセの意見は希望的観測ではあるが、しかし人々が神に持つイメージではあった。

 

 だが、それは若さゆえの妄信というものだ。

 

 オーディンはかつて自分がそうであったように、神というものを語る。

 

「神とは割と我儘で傲慢な物じゃよ。こと儂らアースガルズとゼウスたちオリュンポスは、我が強いからの」

 

 神話を紐解けば、神の傲慢で悲劇が起きた例など数多い。こと北欧神話とギリシャ神話は有名な部類だ。

 

 実際、自分たちは神々の黄昏(ラグナロク)を乗り越えるための英雄(エインヘリヤル)を生み出すために数々の戦いをマッチメイクしたことがある。

 

 その過程において、戦いの流れすら動かしたこともある。その過程においていくつもの悲劇が生まれた。

 

 当時の北欧の文化において、戦死とは最高の名誉である。それを踏まえれば悪行ではないかもしれないが、その価値観すらも自分たちの考えが影響しているのだ。

 

 その傲慢さをいまだ持っているのが、ロキという神だ。

 

 間違いなく、あの男は和議阻止のために行動を起こすだろう。ゆえに必然的に早く動く必要があった。

 

「それに、日本の内閣も動いておるのじゃろう? 総理大臣とかいう日本のトップが会談場所を用意するとか言っておるが?」

 

「はい。日本の実質的代表である大尽統内閣総理大臣が、総理官邸を会談場所に指定してます。すでに根回しもすんでいるらしく、会談日時に変更はないとのことです」

 

 その事実に、オーディンは考え込んだ。

 

 この大混乱の情勢下で、こうも手際よく動く手腕。日本の政治家も侮れない。

 

 しかし、今の混乱する情勢下でこうも手早く事を運べば、何かしらのトラブルが発生することを予想しているのだろうか?

 

 人間の勢力が動くだけならまだいい。しかし、異形の勢力が動く可能性もきちんと考慮するべきだ。

 

 人間の国家が保有する軍事勢力で、裏の戦力に対抗するのは困難だ。それは、世界各国の軍隊の大敗で証明されている。

 

 しかも日本の軍隊は実戦経験をろくに保有していない。こういうのはどうしても実戦経験というものが大きく影響を受けるからだ。

 

 加えて国民の多くが平和ボケを起こしているとも聞く。憲法そのもので戦争を外交手段にすることを禁じているからだが、それは諸外国がそれを使ってこないという妄信によって成り立っている安心といってもいい。

 

 馬鹿というものは、相手が殴り掛かってこないのをいいことに一方的に殴りつけて悦に浸る類も多い。そしてそれは異形社会にも存在している。

 

 そのあたりの理解が足りていないものが、政治家にもいるのは問題だ。

 

 まさかと思うが、総理大臣ともあろうものがそのあたりの危険性も理解できていないのだろうか? 他人事だが少し心配になってくる。もっとも、その火種を持ち込むことになると確信している自分にいう権利はないのだろうが。

 

「まあよい。それで、そろそろ日本からの護衛と合流する頃合いかのぉ。確か、京都の方も協力者の人間を派遣するとうるさかったが」

 

「反発勢力に対する警戒でしたね。……ですけどコレ、本当に注文したんですか?」

 

 ロスヴァイセは、メモを見ると半目になる。

 

 具体的には、オーディンからの要望だった。

 

 一つ、三大勢力の上級クラスとも渡り合えるレベルが戦闘能力の最低条件。一つ、できれば自分のおつきとは別ベクトルで美女。一つ、お忍びで観光もする気なので、祖父が秘書を連れて孫と遊びに来た感じに装えそうな外見年齢。

 

 オーディン自身も思うが、ぶっちゃけこれ、難癖付けて護衛を断ろうとしている風にも思える。

 

 京都が要望通りのものを用意して見せるといって見せたので、少し悪乗りしすぎた。さすがにこれは無理だとオーディンでも思う。なぜか京都は適任がいると断言したが。

 

「……ババアを術でごまかしてとか言う意趣返しをされるのは嫌じゃのぉ」

 

「それ位されても自業自得だと思いますが」

 

 お付きに冷たい視線を向けられたが、さすがにその通りなので反対できない。

 

 因みに、堕天使からも護衛が派遣される。

 

 グリゴリ幹部の一人、バラキエル。純粋な堕天使の中では最強と称されるほどの実力者で、雷光の異名を持ち神クラスとも戦えるだろう。なんでも日本には割と長く住んでいて詳しいとか。

 

 それなら観光も楽でいいと思いながら、オーディンは合流ポイントに視線を向ける。

 

 ……そこには、一人のガタイのいい男と、一人のかわいらしい少女がいた。

 

 男性がバラキエルなのは間違いない。そして、少女の方も要望通りであることを考えると京都から派遣された護衛だろう。

 

 そして馬車が降り立ち、オーディンたちは一度馬車から降りる。

 

「ほっほっほ。待たせたの。いや、待たせなさすぎた……のほうがいいかのぅ?」

 

「いえ、誤差の範囲内ですので、お気遣いなく」

 

 外見通りの武骨な物言いで、バラキエルらしき人物は返答する。

 

 しかし、時々視線を少女の方に向けると、少し困ったような顔をしていた。

 

 それにつられて、オーディンは視線を少女に向ける。

 

 それに気づいて、少女はオーディンの………髭に視線を向けた。

 

「あ! すっごいお鬚!! もしかしてお爺ちゃんがオーディン様?」

 

 少ししたったらずな、無邪気な言い回しだった。

 

 演技かと一瞬思ったが、しかしその必要性もない。それに完全に髭に熱視線が向いている。

 

「……あの、バラキエル様。彼女は?」

 

「京都からの伝言なのだが、「要求は全部クリアした。多少の問題は目をつむれ」……と」

 

 丸聞こえだが、小さい声でロスヴァイセとバラキエルがぼそぼそと会話している。

 

 どうやら、さすがに京都側も腹を立てているらしかった。ちょっとワルノリが過ぎたと反省する。

 

 とはいえ、邪気の類は全く持って感じられない。天然で孫のようにふるまってくれそうだし、そういう意味では好都合だ。

 

 ……なにより、まず間違いなく実力者だ。

 

 体の動きに隙がほぼ見えない。しかも、かなり天然の感性によるものだと見える。素質だけなら、アースガルズに仕える英雄(エインヘリヤル)でもそうはいないだろう。

 

 意趣返しと要望の完全クリアを同時にかなえられる人材だということか。京都も個性的な人材がいるらしい。

 

「ほっほっほ。自慢の髭を褒めてくれてありがとうの。仕事中はお爺ちゃんといってくれてよいぞ」

 

「うん! よろしくね、お爺ちゃん!」

 

「ほっほっほっほ」

 

 この国では、若い学生に「パパ」と呼ばれたがる中年男性が多いと聞くが、その気持ちがよくわかった。

 

 これはいい。実にいい。スケベ根性的に素晴らしい。

 

 オーディンはポケットから飴を取り出すと、少女に渡す。

 

「ほれ、ご褒美をやろう」

 

「やたっ! ありがとうお爺ちゃん!!」

 

 和やかな雰囲気が生まれる。

 

 あてられてロスヴァイセとバラキエルも緊張感が自然と和らぐ。これならほぼ家族連れと思われることだろう。

 

 ここまで考えて送り込まれたのかもしれない。そうだとしたら、京都もなかなかやりてのようだ。

 

 そこまで考えて、オーディンは大事なことを忘れていたことに気が付いた。

 

「そうじゃった。お嬢ちゃんの名前を聞いてなかったの」

 

 孫と祖父に見せかけるのなら、名前ぐらいは知っておかないといけないだろう。孫をお嬢ちゃんなどと呼称する祖父は間違いなく珍しい。呼び捨てで呼ばなければ。

 

 飴を舐めるのに夢中になっていた少女は、それに気が付いて慌てて一礼した。

 

「あ、お仕事忘れてた! ごめんね、お爺ちゃん」

 

 そして、少女はにっこり微笑む。

 

「ボクは神代小犬(かみしろ こいぬ)っていうんだ! よろしくね、お爺ちゃんっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、そんなこんなで学生生活も満喫中だ。

 

 なにせ秋となればイベントの宝庫。学業が基本の学生だが、こういうイベントも楽しまねえとな。

 

 ちょっと前は体育祭。あと少しすると修学旅行。そしてそのあとは文化祭。マジで楽しいイベントが盛りだくさんだ。

 

 ま、さすがにこれは余裕がありすぎるとは思うがな。それでも楽しめるなら楽しまねえと。

 

「ヒロイ! 修学旅行は京都だそうだな! 日本が代表する観光地らしいじゃないか!!」

 

 すでにパンフレットをもってノリノリなゼノヴィアに俺はちょっと苦笑した。

 

 おまえももうちょっと緊張感持とうぜ? 俺たち一応現役の戦闘要員だろ?

 

 ま、ゼノヴィアは旅行なんてやったことねえから仕方がねえか。

 

 任務で世界各国に行ったことはある。だが、ゼノヴィアは当時楽しむということをあまりしなかったからな。ついでに観光するとか言った感覚は、あまりねえんだろ。実際そんなことしてたら怒られるだろうから俺もしてねえし。

 

 何ていうか、学生生活を俺よりも満喫してる気がする。悪魔になってから女の子っぽさが急上昇してるな。

 

 こんな感じなら俺も即口説いてたね。今はイッセーに夢中なのがわかってるからやらねえけどよ。クソうらやましい。

 

「だが、修学旅行は俺たちでやることになったな」

 

「ああ、女子で俺たちと組んでくれるのは、お前らぐらいだもんな」

 

 と、松田と元浜がすこし寂しげに納得していた。

 

「……男どもも一緒に行動してくれねえしさ」

 

 イッセーも遠い目をした。

 

 まあ、班と部屋割りが一緒になるんだからな。こうなるよな。

 

 イッセー達、覗きの常習犯だから一緒になってくれる奴が少ねえもん。この辺は完璧に自業自得だがよ。

 

 むしろ一緒の班になってやる俺に感謝しやがれってんだ。お前らのとばっちりで俺も女子人気低いんだぞ。もっとかわいい子とお近づきになりてぇのに!!

 

「そんな変態どもと一緒に組んでやる、自分たちに感謝するッスよ!」

 

 と胸を張るのはペトだ。

 

 まあそりゃそうだろ。こいつらの童貞食べたこいつなら、その辺のことは気にしねえだろうしな。

 

「この学園で自分がご相伴にあずかった男子たちからのお誘いは多かったんスよ。それを蹴って二人と組んでやることに感謝するッス!!」

 

「え? ペトってそんなに食べてるの、性的な意味で!?」

 

 イッセーが驚愕するが俺も驚くぞ。

 

 お前、なに食い散らかしてんの?

 

「そりゃもう、そこの一ノ瀬とかあっちの佐藤とかも食べたッス。でもこの二人に比べると豪快さというか野性味が足りなくて物足りなくって……」

 

「「わぁああああああ!?」」

 

 ペトが何も気にせずとんでもないことを言って、一ノ瀬と佐藤が絶叫を上げた。

 

 あ、あの反応だとマジで下の口で食べられたな。

 

 男女問わず半目が浴びせられ、二人はこそこそと隠れ始める。

 

 うん、ペトさんや。そう言うのはもっと小さい声で。

 

「因みに女子なら佐々木とか山田がおいしかったっス」

 

「「きゃぁああああああああ!?」」

 

「「「「女子も食べたんかい!!」」」」

 

 女子も絶叫をぶちかまし、俺たち四人はそう突っ込みを入れた。

 

「え、レスィーヴさんって女子も行ける? あ、じゃぁ私も……」

 

「お、俺、遊びでいいからレスィーヴで童貞卒業したいかも……」

 

 一部男女がすごいこと言ってきたな。

 

 いや、声でかいぞ? 丸聞こえだぞ?

 

 ちなみにレスィーヴってのはペトのファミリーネームだ。今までろくに出す機会がなかったので、ここで言ってみる。言いにくいけど覚えとけよ?

 

 そして、一躍注目の的となったペトは、色っぽい目つきで誘うようにスカートをちらりとめくる。

 

「なんなら京都でしっぽり貪り合うっすか? 修学旅行ではめ外すとか、意外とよくある話っスよねぇ」

 

「「「「「「「……ごくり」」」」」」」

 

 俺も含めて、その色っぽい誘いに結構な人数が生唾を飲み込む。

 

 え、いいの? マジで?

 

 しゅ、修学旅行でエロスとか、同人誌とかエロマンガじゃ定番だけど、マジでいいの?

 

 まず間違いなく本気にするぞ!! 俺はできることならマジでそんな展開がしたくてたまらないのですが!!

 

「ちょ、ペトさんったらいやらしすぎよ!! 学生は学生らしくもっと清く健やかに!!」

 

「いや、私はイッセーとそういうことがしたいな。リアス部長もいないのだし、好都合だ」

 

 イリナは顔を真っ赤にするし、ゼノヴィアはゼノヴィアで爆弾発言をぶちかましやがる。

 

 すでにアーシアは赤くなりすぎて気絶しそうだ。想像したな、このむっつりシスター。

 

 桐生すらうかつに介入できていない。この匠にエロ会話で介入すらさせないとは見事だ。さすがは経験者なだけあるな。

 

 しっかし、このクラスだけでも相当数が餌食になってんな。松田と元浜だけじゃなかったのか。そもそもクラスメイトを食べるな、気まずくなるぞ。

 

 この調子だと、この学園全体でいえばどんだけになるのか想像もつかねえ。相当数の童貞がペトに食われてんじゃねえか?

 

 いや、そもそもペトは姐さんと一緒にヤリ部屋の常連やってたな。学園外でもかなりオイタしてそうだ。

 

 先生方ー? ある意味イッセーよりペトの方が問題児ですよー? とんだビッチが潜んでますよー?

 

 っていうか思い出したが、こいつ転校したての時にとんでもないことをぶちかましてたな。

 

『ペト・レスィーヴっす! エロいこと全般が大好きっすので、下半身が暴発寸前の野郎どもは、暴走するぐらいならペトに食べられるッス!!』

 

 ……速攻で職員室の世話になったよ。もう少し隠せと思ったね。

 

 ちなみに、一気に松田と元浜が落ち着いてたんでだいたいそういうことだと納得した連中が相当いたらしい。

 

 イッセーだけ落ち着いてないんで、つまりそういうことだとも納得されたらしい。男どもからすごい同情の視線が集まったとか。女子も覗きの体罰ではなく説教になっていた時期があるぐらい同情したとか。

 

 そりゃ食べ放題だよ。食べに行けるよ。

 

 よし、こうなりゃ俺も混ぜてもらえないか交渉を―

 

「こらこら、そこまで」

 

 と、教室の窓を開けて、作業服姿の姐さんが苦笑した。

 

「あ、お姉さま!!」

 

「「リセスさん! ちーっす!!」」

 

「反応が遅れた!? 姐さんどうも!!」

 

 速攻でペトと松田と元浜があいさつして、それに出遅れた俺もすぐに追随する。

 

 用務員やっている姐さんも結構人気者だ。

 

 なにせ美人だからな。そのくせエロいスタイルだし、そりゃ男子からの人気も集まる。

 

 そのくせ仕事はきちんとこなすし、女子生徒からの受けもいい。

 

 同時期に教師をやり始めたアザゼルと同様に、高い人気を誇っている。

 

「あまり羽目を外しすぎると、アザゼルもフォローできなくなるわよ? 私もつまみ食い程度で我慢してるんだから、少しは抑えなさい?」

 

「うぅ……。お姉さまがそう言うなら、京都の食べまくりツアーは我慢するッス」

 

「「「「「「「「「「そんな!?」」」」」」」」」」

 

 姐さんの言葉にペトが素直に従って、一斉に絶叫がほとばしる。

 

 俺は言ってねえのになんで増えてんだよ。どんだけ食べられたいんだこいつら。

 

「ま、まあ三人とも感謝しなさい。このクラスでの有数の美少女五人組と一緒に行動できるんだからね」

 

 この空気の流れを見事につかみ、桐生が自慢げに胸を張る。

 

 まあ、アーシアとゼノヴィアは間違いなくイッセーと行動を共にしたいんだし、そうなったら桐生とイリナもついてくるわな。ペトもそうなる可能性はでかいか。

 

「ああ、お前以外全員美少女な」

 

 元浜がいらんことを言うので、俺はチョップを叩き込んだ。

 

「おい、桐生も性格はともかくものすごい美少女だろうが」

 

「どこに目をつけてるっすか。ぶっちゃけペトは食べたいっす」

 

「あら、私も食べたいわね。こういう子がかわいい反応を返してくれるし」

 

「はいぃ!?」

 

 すさまじい連続コンボが俺から生まれてしまい、桐生が珍しく顔を赤くする。

 

 あ、確かにこいつ耳年増っぽいし、シリアスにそういうことになったら意外とかわいいかもな。

 

「っていうか姐さん? そういうこと言うのも問題じゃねえの?」

 

「用務員何てそれ位の役得がないとやってられないわよ。じゃ、私はそろそろ仕事に戻るわ」

 

 俺のツッコミをさらりと流し、姐さんは仕事に戻っていった。

 

 まあ、そんなこんなでちょっと空気はピンク色になったが、修学旅行の準備も進んでるぜ。

 

 さて、修学旅行は何事も起きないといいけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、その前に野暮用を片付けねえといけないんだがよ。

 




本章ゲストヒロイン、神代小犬嬢が登場です。年齢はイッセーと同年代です。

イメージとしてはケイオスワールドのナツミに近い精神年齢のキャラですね。その辺に関してはまあのちのち事情を説明します。


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第三章 3 

ちょっと感想の変身と投稿にずれが出ましたが、お許しください。


 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本の山中で、十数人の者達が走っていた。

 

 確実に三大勢力の勢力圏に入る為に、かなり大雑把に転移術式を組んだのがまずかった。

 

 雑すぎたが為に隠匿も不可能で、即座に追手のドーインジャーが差し向けられた。

 

 かろうじて今は死亡者はいないが、このままでは全滅の可能性も大きい。

 

 だが、それでも自分達はヴィクター経済連合を抜けたかった。そこに後悔は全くない。

 

 旧魔王派の暴走による激戦が終わってから、ヴィクター経済連合と現体制側との戦いは、ネガキャン合戦になったとも言える。

 

 なにせ旧魔王派の会議内容が公開された事で、これまで正義の執行者と思われていたヴィクター経済連合が、実は問題を多く抱えている事が発覚したのだ。

 

 悪魔以外を家畜と蔑む旧魔王派の実態。さらにヴィクター経済連合のスポンサー達による、ストリートチルドレンの洗脳教育。そして禍の団を構成する組織の数多くが、人体実験や凶悪犯罪、さらには人食いなどを行っているものまで参加しているという事実。

 

 ヴィクター経済連合の負の側面の多さは、彼らに衝撃を与えるのには十分すぎた。

 

 しかしヴィクター経済連合も負けてはいない。それ相応の報道合戦の準備はきちんとしていた。ただ単に、それが泥沼になると分かっていたから相手がするまでしたくなかっただけだ。

 

 現政権側である三大勢力の数多くの不祥事を即座に公開。特に悪魔側の転生悪魔に対する非道な扱いに対して、批判を行う事でカウンターを叩き込む。

 

 具体的に口喧嘩の形にすると、こんな感じだ。

 

現政権「お前さんの有力組織、人間の味方する気欠片もなさそうなんだけど? ほれ、証拠の会話ー」

 

ヴィクター「あいつらが勝手に暴走しただけだし! 処罰したし!! っていうかそっちの悪魔もゴロゴロ同意してんじゃねえか!!」

 

現政権「既に和平成立と同時に引き締め行ってるわ!! 第一、そんな連中の大半がそっちに亡命しようとしてましたけどー!!」

 

ヴィクター「馬鹿が暴走しただけだしー? 既に馬鹿は処罰したっていったしー? そもそも、肝心の教会側も外道行為してんじゃねえか!! 堕天使側も問題行動してるしよぉ!!」

 

現政権「当然処罰や追放や解散させ始めてるわい!! つか、堕天使側の連中はそもそも禍の団の前身だろうが!!」

 

ヴィクター「主流派も神器保有者始末とかしてんだろうが!! 現政権側の方針だって知ってんだぞ、あぁ!?」

 

現政権「似たようなことは何処の国もやっとるわい!! それに技術交流による発展でどんどんしなくても良くなってるしぃ!? ストリートチルドレンを洗脳してるお前らに言われたくないわい!!」

 

ヴィクター「そっちが和平結んでる連中はどうなんですかー? アースガルズとかオリュンポスとか、割と外道行為ぽんぽんしてますけど? 正義謳ってるならむしろ滅ぼさんといかんのとちゃうんかい!!」

 

現政権「だからそういうことさせない為の和平だっつってんだろ!! つか、お前らの構成組織、半分ぐらい犯罪組織や外道行為やってる連中じゃねえか、あぁん!?」

 

 ……泥沼の罵倒合戦である。

 

 実際に、これによって「どちらにもつきたくない」という者達もどんどん生まれており、そちらに亡命する両陣営も数多い。

 

 人間の国家だけでも、現政権・ヴィクター・中立を分けて大勢力と化している。

を分けて大勢力と化している。

 

 単純な数だけなら、4・5対3・5対2といったところか。割と伯仲していると言ってもいい。

 

 当面の間は、各神話も含めてそう言った浮動票を獲得する方向でいくだろう。この調子で戦争を行っても、現政権もヴィクターも共倒れする可能性が大きい。

 

 その為、どこの勢力もどこかの誰かが亡命して、それを追いかけて戦闘をするという形が大きくなっている。

 

 こと三大勢力関係においては、教会の人員が大きく動いている。

 

 亡命の為の準備を前から行っていたヴィクターは、いまだに教会に対してのロビー活動や勧誘を行っている。

 

 なにせ前提条件である主が死んでおり、さらに天界は悪魔と和平を行っている。そしてその悪魔や堕天使には問題行動も数多い。教会内部にすら存在した。それらの公表で新たに愛想が尽きた者も多いのだ。

 

 反面、ヴィクター側に付いた者達が改めて現政権に亡命する事も多い。

 

 聖書の神は死んだが、彼の遺したシステムは確かに奇跡を起こしている。それを思い出した者達には、短慮を起こして後悔した者も多いのだ。さらに少し前の激戦で、悪魔側がその後悔を受け止めて投降を了承した事も大きい。

 

 その亡命合戦の一つとして注目されているのが、日本である。

 

 なにせ、日本の駒王町は和平会談の場所だ。どちらの勢力にとっても、その精神的価値は大きい。

 

 加えて、あそこはかなりの戦力が集まっている。悪魔側は大活躍した魔王の妹が二人。堕天使側は総督自ら。天界側も、セラフのトップが直属の部下を送り込んでいる。

 

 さらにその悪魔側は、我に返った信徒がやけを起こして強襲を仕掛けてきたのにも関わらず、受け入れてくれた懐の広さを持つリアス・グレモリーが代表だ。さらに眷属の赤龍帝は、女性限定で強力な読心能力を持っている。

 

 ここに女性を連れて亡命すれば、そこに嘘はないことを確実に理解してとりなしてくれる。

 

 その希望が、日本の関東地帯を裏で激戦区にしている要因だ。

 

 ヴィクター側の教会関係者が絡まった亡命は、その五割が駒王町周辺に収束している。それゆえに文字通りの激戦区なのだ。

 

「あとちょっとだ! もう少し踏ん張れ!!」

 

「駒王町の結界まであと3kmだ!! 走れ!!」

 

 悪魔祓いの女性を庇いながら、亡命者達は全力で走る。

 

 ドーインジャーだけでなく、英雄派からの神器使いも突撃してくるが、しかし後ちょっとだ。この調子なら逃げ切れる。

 

 なにせ森が多いので、狙撃の危険は少ない。これなら何とか結界の範囲内に逃げ込める。

 

 ゆえに後少し。

 

 そして、その油断を遠慮なく敵はついてくる。

 

 爆発が、亡命者達を襲ったのはまさにそれだった。

 

「「「ぐぁああああ!!!」」」

 

 連続で起きたその爆発に、多くの者達が重傷を負う。

 

「なんでだ!! 狙撃できるような環境じゃないはずだぞ!?」

 

「い、一体どこから……!」

 

 慌てて周りを見渡しても、敵を視界に捉える事は出来ない。

 

 そう思った次の瞬間、とっさにメンバーの一人が結界を張る。それも、上方にだ。

 

 何をしているのかと思った次の瞬間、結界に何かがぶつかって爆発が起きた。

 

 しかし、上空にも敵はいない。だから攻撃が来るはずもない。

 

 疑問に思う亡命者達に、軍隊上がりのその男は声を張り上げる。

 

「曲射だ!! あいつ等、砲弾みたいな軌道を描く装備で、間接照準射撃を行ってやがる!!」

 

 人間の世界での砲撃は、基本的に重力の影響を受ける。

 

 つまり、弾道は下に曲がっていくのが基本だ。

 

 ゆえに長距離射撃を行う時はその分だけ計算が必要で、最初から曲がることを利用して、遮蔽物越しに砲撃をあてる装備も数多い。そちらの方が射程距離が長いのが基本とも言える。

 

 そして、其れを利用したドーインジャーは既に開発されていた。

 

 ドーインジャーは、魔獣創造を利用した兵器である。

 

 そして、兵器にはバリエーションというものが存在する場合もある。

 

 ドーインジャーはまさにそれを前提とした兵器だ。素体を用意したうえで、それを最大限に利用してバリエーションを作る事で戦術や戦略の幅を広げる。

 

 陸戦や対空迎撃を前提とし、腕を一対増やしているA型。これが一番生産性が高い。

 

 制空権確保や飛行可能な存在との戦闘を想定し、背中に飛行ユニットをはやしているB型。こちらも生産性が高い。

 

 そして、遠距離からの火力支援や砲撃戦を考慮し、背中にキャノンアームを装備したC型。これが今の砲撃の正体である。

 

 これによる狙撃ではなく砲撃が、亡命者達を足止めする。

 

 そして、追撃に部隊が襲い掛かる。

 

 A型B型のドーインジャーが、それぞれ百を超える数投入された。

 

 さらに、英雄派から神器保有者が追撃を仕掛ける。

 

「くそ! このままだと!」

 

 数が圧倒的すぎる。このまま追いつかれれば確実に終わる。

 

 その事実に恐怖に震える者達まで出る中、負傷した亡命者達が一歩前に出た。

 

「俺達が足止めする。お前達は先に行け」

 

「馬鹿言うな!! ここまで来たんだ、見捨てられるか!!」

 

 何とか抱え上げようとする者達もいるが、しかし負傷者が声を荒げる。

 

「俺達はもう走れない!! このまま共倒れする気か!!」

 

「気にすんな。教会を裏切った罰だ!!」

 

 一度は離反した悪魔祓いからの亡命者である彼らは、命を捨てる覚悟も決めた。

 

 もとより、一度は離反した身だ。そもそも今更戻るというのが虫の良すぎる話でもある。

 

 失敗しても当然の自業自得。そう言う気持ちで行った事だ。

 

 だが、後少しで逃げられるところまで来ている。そして、同じ亡命者達の中にはヴィクターに参加した国家の兵士もいる。

 

 彼らはどうしようもない状況下だったのだ。だから、自分達とは違い許されるべきである。

 

「ふ、亡き主が天罰を下したのだと思えば、これで地獄ではなく煉獄に行けるという事だろう」

 

「むしろ安心出来るってもんだな」

 

 ゆえに、だから気にせず走れと言い出そうとして―

 

「……いいえ! 主ならその覚悟にお慈悲を与えよとおっしゃってくれるはずよぉおおおおお!!!」

 

 場の雰囲気にそぐわぬ、ハイテンションな声が響き渡り、追撃してくるドーインジャーB型が数体両断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 よし、間に合った!!

 

 俺も魔剣を磁力操作でサーフボードの様に操り、空から亡命者達を支援する。

 

 禁手の出力ゆえに、手数特化型といえどかなりの磁力が運用できる。それゆえにサーフボード型魔剣によって空を飛ぶ事ができるのだ。それも複数名を輸送しながらな。

 

 そして俺に輸送されたアーシアちゃんが下りて、回復オーラを広範囲に展開する。

 

 一瞬で亡命者達の傷が治り、捨て駒になろうとした悪魔祓い達も走れるようになった。

 

「さあ、ここから先は私達に任せなさい!!」

 

 そして、お嬢ことリアス・グレモリーが一気に数十体のドーインジャーを消滅させた。

 

 相も変わらず大火力だな、オイ。一人でドーインジャーを全滅させれるんじゃねえか?

 

「早く逃げなさい!! ソーナ・シトリーとその眷属が、あなた方を保護する準備を整えているわ!!」

 

 その言葉に、亡命者達の目に希望の光が灯る。

 

 なにせソーナ会長達は、あの白龍皇を伸した猛者チームだからな。

 

 さらに、赤龍帝を擁するリアス・グレモリー眷属。そして黄昏の聖槍と煌天雷獄という名の二つの上位神滅具。

 

 この救出部隊を前に、希望を感じない方がおかしいってもんだ。

 

「はい、怪我を治しました。これで走れるはずです」

 

「おお、まるで聖女だ!」

 

「ありがとうございます! アーメン!!」

 

 アーシアに癒された者達が、礼を次々に言いながら後方へと走っていく。

 

 さて、それじゃあ俺達も戦闘を開始しますか!!

 

『こちらリセス。砲撃部隊を確認したわ。護衛はいないから、数十体まとめて屠ってあげる』

 

「頼んましたリセスさん!! 俺と木場は、神器使いをぶちのめします!!」

 

 別行動していた姐さんが、砲撃を行っている部隊を発見。広域殲滅に優れた煌天雷獄ならすぐに終わるな。

 

 そしてイッセー達は、英雄派の神器使いと戦闘開始。こっちも何とかなるだろう。

 

 なにせ、イッセーの禁手は覇龍の影響で大幅に性能が向上した。

 

 二分も掛かったチャージ時間は三十秒に減少。持続時間も大幅に向上。さらに、使用後のインターバルも、持続時間が残っているのならほぼないに等しい。

 

 シャルバのクソ野郎にはむかついたが、結果的にイッセーの大幅パワーアップをしてくれた事には感謝しねえとな。おかげでイッセーの欠点がむちゃくちゃカバーされたぜ。

 

 生き残ったみたいだし、もし再会したらお辞儀してお礼しよう。きっと憤死するぐらいぶちぎれてくれるだろうしな。

 

「アーシアの護衛は私に任せろ!!」

 

「あらあら。ゼノヴィアちゃんだけには任せませんわよ?」

 

 と、回復の要であるアーシアの護衛はゼノヴィアと朱乃さんが受け持ってくれている。

 

「ヒロイ先輩! 神器使いが迂回して亡命者を追いかけてます!! ドーインジャーは停止しましたけど、他には抜けられました。カバーお願いします!!」

 

 と、蝙蝠状態で広域監視をしていたギャスパーが俺に要請。

 

 見れば、木場と小猫ちゃんは敵の神器使いの相手で忙しそうだ。

 

 ギャスパーも、イッセーの血を飲んで神器を制御しているのだが、どうやら対策を敵もとっていたらしい。

 

 見れば敵の神器使いには光力の使い手もいる。其れなりに考えてるってわけか。

 

 性能差を作戦で補う。是もまた人間の力で、英雄の多くもそれによって強者を屠ってきた。俺も参考にしないとな。

 

 と、言うわけで俺は一気に追撃開始。

 

『こちらペト! 足止めしてるから今のうちに追いついてくださいッス!!』

 

 と、ペトからのナイスサポート!

 

 この森の中で狙撃なんて高難易度だろうに、相変わらず狙撃に関しちゃ神業だな、ペトの奴。

 

 そういうわけで、俺も即座に追跡完了!!

 

 敵の神器使いは二名。

 

 その多くは、ヴィクター経済連合が集めて洗脳教育を施したストリートチルドレンだとか。

 

 俺も近い来歴だから、できれば殺すのは忍びねえ。雷撃をスタンガン代わりにして抑え込むか。

 

 そう思った瞬間、一瞬で魔剣が磁力制御を失って墜落する。

 

 あれ? まだ禁手の持続時間は無くなってねえぞ?

 

 疑問に思ったが、そもそも紫電の双手そのものが使えなくなっている事に気が付いた。

 

「我が異能の棺(トリック・バニッシュ)の前には一芸特化型など無意味!! ……今だ!!」

 

「おうよ!! 目覚めろ、天使の鎧(エンジェル・アームズ)

 

 チッ! 敵の神器は能力封印系か!!

 

 しかも攻撃担当も光力使い。どうやらイッセーの赤龍帝の鎧対策らしい。

 

 だが、相手を間違えたな!!

 

「吠えろ、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

 俺は遠慮なく聖槍と魔剣を展開すると、敵の光力使いを一蹴する。

 

 洗脳されてる連中かもしれないから、殺しはしてねえ。即死しなければアーシアが治してくれるしな。

 

「て、てめえ!! まさか頭の痛くなる奇跡、ヒロイ・カッシウスか!!」

 

「せめて教会の秘密兵器といいやがれ!!」

 

 なんでそっちの異名を知ってんだ! 身内の恥一歩手前だから、上の一部しか使ってねえ記号だぞ!!

 

 そう思いながらも、俺は敵の封印能力者に回し蹴りを叩き込む。

 

 どうやら所有者の負担が大きいタイプの神器みたいだ。ろくに動けなかったな。

 

 さて、それじゃあ拘束して―

 

「……負けてたまる……かぁ!!」

 

 おお、意外とガッツあるな。

 

 骨をへし折るつもりで蹴ったんだがな。魔剣も切れ味はろくにないが、頑丈差なら伝説級に次ぐ割断しようだ。間違いなく重傷のはず。

 

 だが、そいつはふらつきながらも血を吐きながらも、戦意を消さずに立ち上がった。

 

「てめえには……負けねえ。我は……てめえには……負けられねえ!!」

 

 ん? 俺、なんか恨みでも買ったか?

 

 特に見たことねえし、人間と敵対したことはそんなにないはずなんだがな。

 

 だが、その男はかなり本気モードだった。強い意志をもって俺と戦う決意を持っていた。

 

 そして、神器は想いを力に変える能力。

 

 それは、当たり前っちゃ当たり前だった。

 

「うぅ……ぉおおおおおっ!!!」

 

 その男が、強大なオーラを発動させながら光り輝く。

 

 なんだ、何が起きた!?

 

 俺はバックステップで警戒しながら、戦闘態勢を取り直す。

 

 だが、俺が戦う事はなかった。

 

 気づけば奴の足元に魔方陣が展開される。

 

 悪魔式じゃない。堕天使式でもない。って事は、魔法使いのどっかか?

 

 結構な数の魔法使い組織が、禍の団に参加しているとは聞いている。そいつらの何割かが、一部の魔法を人間の軍隊に指導しているということも聞いている。

 

 チッ! 既に実戦投入できるレベルにまで、鍛えられたって事か?

 

 俺は警戒したが、だけどそれは戦闘用じゃなかった。

 

 一瞬でその男に光が纏わり付くと、そのまま男は姿を消した。

 

 ……ん? 逃げた? かなりやる気だったみたいだけどよ?

 

 俺はなんか拍子抜けするが、その耳にお嬢の通信が届く。

 

『ヒロイ? そっちで急激な力の上昇が確認されてすぐに転移したけど、もしかして……敵は至ったの?』

 

 俺は、その言葉にピンときた。

 

 あ、あれは禁手だ。俺や木場が至った時と似てやがる。

 

「多分ですかねぃ。ってことはそっちも?」

 

『ええ。私達が倒した影使いも、祐斗が至った時のような現象を起こしてから転移したわ。他の人達も転移したけどね』

 

 あ、あの野郎に気を取られてたけど、あの光力使いも何時の間にか消えてやがる。

 

 しまったぁ。やらかしたぜ。

 

『……紫藤さんの指摘で気づいたのだけれど、今回の目的、もしかすると脱走者の追跡だけじゃなくて、禁手に覚醒を促す為の実験の可能性もあるかもしれないわ』

 

「マジですかい?」

 

『ええ。脱走者の追跡だけなら、私達がいる以上もっと戦力を投入するはずだもの。……あえて戦力を減らして窮地に追い込む事で、禁手に覚醒させる環境を作ってる可能性もあるわね』

 

 なるほどな。確かに覚醒を促すなら、そうなるような環境を作るのが効果的か。

 

 ……こりゃ、向こうも色々考えてるってわけか。

 

 俺も、一つ禁手に至ったからって、調子に乗ってるわけにゃいかねえなぁ。

 




そういうわけでヴィクター経済連合との戦争は泥沼のでぃすり合戦へと突入。それにより亡命合戦にも突入。

脛に傷者同士がその辺を突っつきだすと泥沼です。








そして次はデート回です。


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第三章 4

イッセーと朱乃のデートスタート!!


そして備考作戦もスタート!!


 

 つっても、俺達もはしゃぐんだけどな!!

 

「……こちらガイウス1。目標、水族館に入りましたって言っても分かってますよね、オーヴァー」

 

『こちらディアボロス1。もちろん追跡中よ、オーヴァー』

 

 分かってるよ。集団でゴロゴロ後ろからついてってるから、目標のイッセーと朱乃さんより分かり易いって。

 

 あの、尾行って言葉の意味分かってるんですか? 美候みたいに目立つ格好じゃいけないんだよ、びこうだけに。

 

 で、俺達が何をしてるのかっていうと、イッセーと朱乃さんのデートを見張ってるわけだ。お嬢に要請されて俺達も参加してる。

 

「こちらガイウス2。あの、これ本当に尾行する気あるの? オーヴァー」

 

『……こちらディアボロス2 こんなに本気を出しているのに何でそんな質問が? オーヴァー』

 

 姐さんのツッコミも当然なんだけどよ。なぜか、接近追跡組であるディアボロスチームの大半が気づいてねえ。小猫ちゃんすらだ。

 

 ……お嬢もアーシアちゃんも小猫ちゃんもギャスパーも、ただでさえ目立つのに変装じゃなくて仮装してやがる。気づかれて当然だ。木場は気づいてやがるがもうツッコミを放棄してやがる。

 

 ぶっちゃけ、俺達はお嬢達に視線が行き過ぎてイッセー達を見逃すところだった。

 

 あの、それは尾行じゃなくて威嚇っていうんですぜ、お嬢?

 

 まあ、俺達遠距離監視組であるガイウスチームは、水族館の中では監視できないので休む事にする。

 

 まあ、面白そうなので観察する程度だからな。あとは勢い余ってお外でやり始めないようにする監視だ。

 

 姐さんとペト曰く、お外でやるのは上手くしないと気づかれるからとのことだ。そんな事がばれたら、イッセーも流石にただじゃ済まねえだろうし、朱乃さんの心象が最悪になる。

 

 ま、朱乃さんはイッセーに嫌われなければ周りの印象とかあまり気にしないかもしれねえがな。それ位にはぞっこんだしよ。

 

 つっても、エロキャラを堂々とぶちかましてるペトや姐さんはともかく、朱乃さんが変態ぶちかますと色々と問題が発生する。オカルト研究部の活動にも支障があるかもしれねえ。そこは気を付けねえとな。

 

 しっかし、水族館でイッセー達がデートしてる間は暇だねぇ。

 

 ああ、そうだ。ちょっと聞いてみるか。

 

「……なあ、暇なんで姐さんやペトに聞きたいんだけどな? ちょっとあれな質問なんで、言いたくねえならそう言ってもいいんだけどよ?」

 

 俺、ちょっと気になる事があったんだよ。

 

「何かしら? まあ、私達は過去についてあまり話さないから、気になっても仕方がないけど」

 

 う、すぐに突っつかれた。

 

 だ、だって気になったんだもん。気になっちゃうんだもん!

 

 俺の輝き(英雄)たる姐さんと、その妹分たるペト。それも、かつては教会の悪魔祓いと共闘しながらもグリゴリに囲われている姐さんの来歴だ。

 

 前にもイッセーやお嬢とだべってた時に話題になったんだよ。

 

「……やっぱいいです。ちょっと気になっただけなんで」

 

 なんか恥ずかしいやら申し訳ないやらという気分になって、俺はすぐに話を戻そうとするが―

 

「……あれは、二年前の京都府での出来事だったッス」

 

 ペトぉおおおお!! お前、無視して話し始めるのやめてぇええええ!!!

 

「あら、いいのペト?」

 

「別にいいっす。……壊れてる自分としては、話していざという時フォローしてもらえる方がいいっすから」

 

 そ、そんなにヘビーな話なのか!?

 

 俺、ちょっと後悔してきたぞ!?

 

「……自分は両親と一緒に、日本の京都の近くで活動してたっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……そこからの話は、マジでヘビーだった。

 

 グリゴリに所属する上級堕天使だったペトの親父は、神器を研究していたお袋さんと恋に落ちてペトという子宝に恵まれた。

 

 そんでもって、他の神の力と神器の力の研究の為、当時からそういうの無頓着だった日本の土地神の力を借りようと画策した。

 

 で、その的になったのが京都の辺境に位置する犬神信仰のさびれた神社。

 

 日本は宗教的にイレギュラーで、日本神話……すなわち神道もそういうのに緩い。

 

 まあ、その神は犬神を供養する過程でマジで神様扱いしたところであり、神と言ってもかなり下位の部類でサポートが欲しかった。

 

 そういうわけで、その神主とペトの親父さんは仲が良かったらしい。

 

 ペトもそこの子供と仲良く遊んでおり、一緒の中学に通っていた事もあったそうだ。

 

 だが、事態は一変する。

 

「……さびれていて、元々妖怪に近い犬神を利用しようと、はぐれ者の妖怪共がそこを占拠したんス」

 

 平然と答えるペトに、姐さんは寂しげな表情を浮かべる。

 

「それも、日本でも屈指の実力を持つ鬼神、両面宿儺の末裔という大物、ソウメンって実力者よ」

 

 かなりの実力者だったそうだ。少なくとも、上級堕天使と神の力を借りたその神主が迎撃して殺されたほどには。

 

 その鬼は人間達も集めて相当の犯罪組織を作っており、日本神話体系に関しては一種のテロリストだったらしい。

 

 そして戦力を求めていたソウメンとかいうのは、優れた素質を持つペトとその子供に目を付けた。

 

 ソウメンは男で、ペトとその子は女。これ以上は言わせないでほしい。聞いてて俺はやっぱり聞かなきゃよかったと後悔したし、そいつが生きてたなら殺しに行ってたと確信してる。

 

「ま、それが狙い通りに行く前に、お姉様が助けに来てくれたんすけどね」

 

 ……なんでも、日本に観光に来て道に迷って遭難しかけた姐さんが、たまたま救出部隊に出くわしたらしい。

 

 ソウメンを追いかけていた京都の妖怪達と、ペトたちの救出に来た堕天使幹部のバラキエルの連合軍。ついでに言うと姐さんは当時、教会の流した仕事を主に受けていた。

 

 一触即発になりかけたが、バラキエルが手を引かせる為に事情を説明して説得し、それを聞いた姐さんは即座に自分の神器が煌天雷獄であることを告げ、協力を約束したらしい。

 

 そしてそのころ、日本の支部が襲われた教会も、実力者を呼び寄せて戦闘態勢だった。

 

 それも、妖怪と堕天使が絡んでいる事を知った為現場が暴走。もろとも滅ぼさんとしていたらしい。

 

 そして結果として三つ巴の大激戦が勃発。日本の異形関係では、コカビエルの暴走やら、姐さんやヴァーリと同じグリゴリ側神滅具使いが四年前に関わった大激戦に次ぐ、かなりの規模の殺し合いだったらしい。

 

 そこでソウメンを討ち取り、ついでに教会側の最強戦力である魔剣(カオス・エッジ)ジークを撃退した姐さんは、教会に追われそうになった事と神滅具を研究する事もあって、グリゴリに所属。

 

 その縁でペトの面倒を見て、ペトに上辺のごまかし方などを教えていたらなつかれた……と、言う事らしい。

 

「……正直言って自分、人とかみ合わなくなった事は苦労しても、そっちに関してはあまりショック受けてないんすよ」

 

 そう、ペトは自虐的な表情を浮かべた。

 

 両親の死がショックにならないほどに、それを感じさせないほどに、ペトの心は壊れていた。

 

 肉体的にも過度の負担が掛かっており、裏取引でフェニックスの涙を手に入れる必要があったほどだ。

 

「どっちかっていうと、其の仲の良かった友達と会えなくなった事の方がショックなんすよねぇ。……子どもとしては、親不孝なんすかねぇ」

 

 そう言いながら、ペトは姐さんにすり寄りながら俺に苦笑を浮かべる。

 

「ま、そういうわけなんで。自分のフォローとか、時々気にかけてくれると嬉しいっす」

 

 ……本当に、オカルト研究部はヘビーな来歴持ちが多すぎる。

 

 この調子じゃ、姐さんもまた、すっごい過去を持ってるんだろうな。

 

 俺も底辺だが、ペトも相当だ。マジで聞いた事が申し訳ねえ気分になる。

 

「ま、親の顔も知らない浮浪児だったヒロイも大概っスけどねぇ。ベクトル違うけど自分と同じぐらい酷いじゃないっすか」

 

「同感。浮浪児を古巣に送った事はあるけど、あなたも大概酷いわよねぇ」

 

 おまえも同類なんだから気にすんな。そんな感じでペトも姐さんも努めて軽く言う。

 

 あと姐さん。たぶんそれは俺です。孤児院の名前はイドアル孤児院っす。

 

 カッシウスは自分でつけた名前です。聖槍の持ち主だった聖ロンギヌスと名前が似ている、ガイウス・カシウス・ロンギヌスから取りました。聖槍無関係だと指摘されたけど、かっこいい響きだったんで気にしてねえっす。

 

 っていうかこの時点で姐さんの来歴に気づけよ俺。馬鹿か俺は。偶然って怖いとか思うな俺。

 

 まあ、ややこしくなりそうなんでそこんところは内緒にしとこう。

 

 しっかし、これ、どういったらいいもんか……?

 

 そう思った瞬間、ペトが視線を逸らした。

 

「あ、イッセーと朱乃さんが尾行を撒こうとしてるッス」

 

 チャンス!

 

 俺達はそのまま話を中断して、一気に追撃を開始する。

 

 ペトの超視力を利用して、俺達は遠距離から追撃している。お嬢達は撒かれたが、何とか発見できた。

 

 ……って、あそこラブホ街じゃねえか!!

 

 おいおいおいおい。流石にそれはまずくねえか? 高校生はラブホは禁止だろ!?

 

 万が一この事が知られれば、流石に駒王学園の教師達も問題にするぞ!!

 

 と、と、とめ―

 

 そう思った瞬間、何やらイッセー達が揉め始めた。

 

 どっかで見た覚えのある爺さんやお姉さんと口論を始め、そして朱乃さんが同じくどっかで見たことのあるガタイのいいオッサンに腕を掴まれてる。因みに見慣れない少女が一人いるがそこはどうでもいい。

 

 チッ! 警察の補導か何かか!?

 

 どうしたもんかと思った瞬間、ペトが前に飛び出した。

 

「あ、コラ馬鹿!!」

 

 いくら異形の存在が公表されたからって、堂々と活動してるわけじゃねえんだぞ?

 

 そう思ったが、その人達が一斉に振り向いた瞬間に俺の懸念は霧散した。

 

「あら、オーディン神じゃないですか」

 

 あ、そうだ。あの爺さんは北欧の主神であるオーディン神だ!!

 

 そしてあれは、そのオーディンのお付きだった人。ハリセンによるツッコミが印象に残ってるからよく覚えてる。

 

 そしてあのおっさんは、シシーリアを保護してくれた堕天使のバラキエルさんだ。

 

 服装が違うからすぐに分からなかった。

 

 っていうか、バラキエルさんは目の前で娘がラブホに男と入ろうとしてるところを見たのか。ああ、俺は親心なんてわからねえけど、色々思うところはあるんだろうなぁ。

 

 ってことは、あの女子も異形関係者か?

 

 そう思ったその時には、ペトは涙まで浮かべてその子に抱き着いていた。

 

 ……俺は、ふとその時思ったんだ。

 

 ペト。お前、そんなに壊れてないだろ。

 

 だって、そんなに嬉しそうな表情、壊れてるやつが浮かべられねえよ。

 




グレモリー眷属とはハードの方向性が違うハードなペトの来歴。まあ、ヒロイは知っての通りこれまたハードで、説明してないけどリセスもかなりハードな経験を積んでいるのですが。


ちなみにペトの名前の由来はペットとスレイヴからもじりました。

リセスのペット的立場を辞任し、かつてスレイヴ(奴隷)的立場だったことを暗に示しているのです。


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第三章 5

 

「ほっほっほ。ま、ちょっと日本に来日したぞい」

 

 と、兵藤邸のVIPルームで、オーディン神はそう告げた。

 

 もちろんその場でデートは中止だ。ま、あんな流れじゃデートなんて続けられねえがな。

 

 そのせいか、それともバラキエルさんに出会ったことがきっかけなのか、朱乃さんはものすごく不機嫌だ。

 

 いつも作ってるニコニコ笑顔すら見せてねえ。終始、自分はむかついてますって顔だよ。

 

 うっわぁ。あれはマジギレって感じだな。

 

「おい爺さん。来日はもっと後って話じゃなかったのかよ。俺も聞いてねえぞ」

 

「それはスマン。来日を早めるのはグリゴリに伝わっていたのだが、最近のごたごたで行き違いがあったらしい」

 

 と、文句を垂れるアザゼルにバラキエルさんが謝った。

 

 ああ、ヴィクター経済連合との小競り合いは頻発してるからな。

 

 お互いに亡命をサポートしたり阻止したりで、忙しかったからなぁ。そりゃミスの一つもするか。

 

「北欧神話と日本神話。そして日本政府との会談が行われる予定でして、それでこちらに来日したのです」

 

 そう告げるのは、褒章式でオーディン神にハリセンを叩き込んだヴァルキリーの姉ちゃん。

 

 そう告げてから、その人は一礼した。

 

「お初にお目にかかります。私はオーディン様のお付きをしているヴァルキリー、ロスヴァイセです」

 

「顔を合わせるのはほとんどの者が初めてだな。私はグリゴリの幹部をしているバラキエルだ。よろしく頼む」

 

 と、バラキエルさんも挨拶をする。

 

 そして、二人の視線が女の子の方に向かった。

 

「……お前もオーディン神の護衛だろう。一応挨拶をした方がいい」

 

「そうですよ小犬さん。こういう礼儀作法は大事です」

 

 そういわれて、その女の子はハッとなった。

 

「あ、そうだね! ごめんごめん」

 

 そういって二人に謝ると、ぺこんと俺たちに一礼する。

 

「京都からお爺ちゃんの護衛を頼まれました、神代小犬(かみしろ こいぬ)です。よろしくおねがいします」

 

 そう、子供っぽく一礼すると、小犬はオーディンの膝の上に座った。

 

 いや、それマジで大丈夫なのか?

 

 俺たちはかなり気になるが、オーディン神はむしろ嬉しそうだった。孫ができた感覚なんだろうか。

 

 バラキエルさんとロスヴァイセさんも慣れているのか、もう平然と対応している。

 

「気になされないでください。オーディン様が調子に乗って京都に無茶な注文をしまして、それだけクリアーしたからもういいだろ的な人選で選ばれたんです」

 

「精神年齢は低いが、実力は確かだし善良だ。それは付き合いの長い私や、ペトが保証してくれるだろう」

 

 なるほど。二人ともすでにいやというほど思い知ったのか。

 

 なんか、苦労してんな。

 

「ほっほっほ。可愛い女の子になつかれるとは、長生きはするもんじゃわい」

 

「お爺ちゃんの膝の上、座り心地がいいんだもんっ。死んだお父さんみたいであったかいんだ」

 

 ……その返答に、割と全員がほっこりするべきか暗くなるべきか一瞬悩む。

 

 っていうか、妖怪がらみでペトの知り合いってことは……。

 

「あ、ヒロイの予想通りっす」

 

 小声で、ペトはそう言ってから小犬の隣に座る。

 

「小犬も久しぶりっす! 元気だったッスか?」

 

「うんペッちゃん! もう元気になったから大丈夫!!」

 

 そういって、二人は微笑み合った。

 

 それを同じく微笑みながら、姐さんもうれしそうだ。

 

「良かったわね、小犬」

 

「……うん」

 

 あれ? なんかそっけないな。

 

 姐さんはある意味命の恩人みたいなもんなんだし、ペトほどじゃねえがなついてもいい気がするんだが……。

 

「それでオーディン様。そろそろ話を進めてもよろしいでしょうか?」

 

 と、ロスヴァイセさんが話を進めたいのか咳払いをする。

 

「まったく、お堅い奴じゃのう。そんなだから、いい年こいても彼氏の一人もできんのじゃ」

 

「それは関係ないって言ってるじゃないのおおおおおお!!!」

 

 この人、パーティ会場でも褒章会でもこのネタでいじられてたな。

 

 いい加減慣れたら? それとオーディン神もいい加減飽きたら?

 

「……そのヴァルキリー、あの戦闘でもかなり活躍してたはずだがな。なんでそんなできるのが秘書みたいなことやってんだ? もっと武闘派で行けるだろ?」

 

「ヴィクター経済連合が馬鹿なことをやらかすまで、このご時世は英雄や勇者は現れんかったからの。ヴァルキリー部門は最近まで縮小傾向だったんじゃよ。それにこいつ、意外と器量がなくてのぉ」

 

「なるほどなぁ」

 

 泣き崩れるロスヴァイセさんをスルーして、ロスヴァイセさんの話をしてやがるよ、こいつら。

 

 鬼か。いや、堕天使と神だ。

 

 北欧神話の神って、結構ドぎついこともやってたらしいからなぁ。ドワーフを相手に詐欺まがいのことしたり、戦争をあおったり。

 

 オリュンポスも鬼畜が多いっていうが、アースガルズもなかなかだぜ。

 

「そう言うわけで、スマンがおぬしらには護衛を頼むわい。日本からは小犬、堕天使からはバラキエルが来とるが、何が起こるかわからんからの」

 

「よろしく頼む」

 

「よろしくね!」

 

 と、オーディン神の説明に、バラキエルさんと小犬がそう続ける。

 

 なんか知らんが、この三大勢力のバックアップがむちゃくちゃある駒王町が待機するには一番都合がいいらしい。ま、神滅具が三つもあれば防衛戦力としちゃ過剰だがな。

 

「そんで? ごり押ししてきた日本政府からは、護衛はつかねえのかよ?」

 

「無茶言うな。表の軍隊が堂々と護衛したら息が詰まるし、奴相手じゃ勝てんわい」

 

 アザゼル先生の皮肉に、オーディン神はため息交じりにそうこぼす。

 

 ってちょっと待とうか? 今気になること言わんかった?

 

 アザゼル先生もそれに気づいたのか、怪訝な表情を浮かべる。

 

「……おい。まさかヴァン神族が突っかかってんのか? 頼むから、日本でラグナロクなんて引き起こすんじゃねえよ」

 

「いや、そっちはどうでもいいんじゃがのぉ。ある意味もっと厄介な奴が和議に文句をつけてての。行動を起こされる前に先手を打ったというわけじゃ」

 

 な、なんか面倒なことが勃発しそうなんだが。

 

 たのむぜ神様。ただでさえ亡命関係でもめてるのに、修学旅行前にこれ以上のもめ事は勘弁してほしいんだけどよ。

 

「……なるほどねぇ。どこもかしこも阿保ってのは上にも出るもんだな」

 

「ああ全くだ。うちもコカビエルやサタナエルがあほなことやらかしたからなぁ」

 

「まあ、そういうことじゃ」

 

 と、オッサンやら爺さんやらがうんうんとうなづいている。

 

 うんうん。教会にも阿保はいたし、その辺は同感だぜ…‥ってちょっとまて。

 

 今、最初にオーディン神に同情したの、だれ?

 

 若手組が一斉に顔を向ければ、そこにはこんなところにいるはずがねえ顔がいた。

 

「よ、赤龍帝に聖槍の。顔を合わせるのは二度目だな」

 

 そういって片手を上げてあいさつするのは、前に駒王学園の前に出てきたオッサン。……いや―

 

「そ、総理ぃ!?」

 

 イッセーが度肝ぬかれて大声を上げる。

 

 そう。このオッサンは今の総理大臣。大尽統(だいじん すべる)総理大臣……ややこしい!!

 

 思わぬ人物の登場に、俺たちは警戒心を上げた。

 

 見れば驚いてないのは小犬と姐さん以降の年長組だけ。ロスヴァイセさんすら驚いてやがる。

 

「ど、どこから入ってきたの?」

 

「おう! 玄関からだぜ? ここの家主さんには挨拶と土産の饅頭とサインをくれてやったが?」

 

 いろいろ渡しすぎだろ。お嬢が驚くのも当然だ。

 

 慌てて俺を含めた何人かが窓から下を見れば、何処にでもあるようなセダンが二台ほど止まっていた。

 

「悪目立ちしねえように、秘密会談専用の車できたぜ? 護衛の車も分散して配置済みだ。その辺の気遣いはちゃんとさせてもらったよ」

 

 こ、心配りがちゃんとしてる……。

 

 げ、現職の総理大臣すげえな。一般人が住んでるこんなところに総理専用車が止まったら、絶対に噂になるしな。気が利いてる。

 

 いや、しかしこれはまたすごいことになってんな。

 

 生きてる間に生で総理大臣見れる輩とか、そうはいねえだろ。日本人でもそうはいないはずだぜ?

 

 と、オーディン神が興味深い目で総理を見据えた。

 

「ほっほっほ。それで? 先に聞いとくが、なんで儂らの和議に一枚かもうとしたんじゃ?」

 

「決まってんだろ? 国益最優先だ」

 

 即答だった。

 

 総理大臣は、不敵な笑みを浮かべると、両手を広げる。

 

「日本は選挙で総理を決める。そして人間の多くは俗物だ。なら、国のトップになりやすいのは俗物の望みを叶える奴だってのは、考えてもみりゃ道理だよなぁ」

 

 み、身も蓋もねえが確かにそうだ。

 

 だからって、いくら放送とかされてねえからってここで言うか?

 

「だから総理大臣()はいついかなる時も国益と民衆の人気取りを考える。堂々と異形の存在を公表したのに、神話の会談に政府がノータッチとか、間違いなく揉めるぜ?」

 

 確かにそうだな。

 

 この国は、他のどの国家よりも早く様々な神話の存在を認めて、交渉を開始している。

 

 もし、アースガルズと日本神話の会談が行われたことが知られるなら、そこに日本政府が関わってないのは問題になるだろう。

 

 しっかし、堂々と言いやがったなこのオッサン。

 

 国益と人気取りを優先って、このご時世でか?

 

「悪く思うなよ? 俺たち政府ってのは国家って会社を運営してんだから儲けはもちろん考える。慈善事業だって赤字になるほどやる馬鹿はいねえよ」

 

 ホントに身も蓋もねぇ。

 

 ま、正論っちゃぁ正論だから反論しづれぇがな。

 

「ほっほっほ。ゆえにアーズガルズの魔法やグリゴリの技術がほしいというわけか。正直じゃのう」

 

「おうよ! 他の国からの輸入も減ってるからな。他国の輸入が必須のこの国は結構大変なんだよ。そちらさんたちの力で領海内のメタンハイドレードを取れるようにしねえと干上がっちまうからな!!」

 

 あ、やっぱり日本は今でも大変なんだな。

 

 たしかに日本って、食い物も資源も輸入に結構頼ってるからな。技術大国ニッポンの悲しい懐事情ってやつか。

 

 ヴィクター経済連合相手にボコボコにされて、どこの国も輸出を渋ってるらしいからな。そりゃ、この国にとっちゃぁ死活問題。どうにかすんのは政治家の義務か。

 

 そういう意味じゃあ、神々の力を手に入れればどうにかなるってなら、そりゃそうするか。

 

「協力してかなきゃならねえって時に、自分とこ最優先かよ」

 

「当然だろう総督さんよ。飢えるとわかってるなら、先ずは自分の食い扶持を確保しなきゃならねえだろ?」

 

 アザゼル先生の文句をさらりと切り返して、総理大臣はにやりと笑う。

 

「安心しな。取引ってのはWINWINが基本だ。そっちがこっちに利益をくれんなら、こっちもそっちに利益を提供するぜ」

 

「ほっほっほ。わかりやすくて簡単じゃのう」

 

 オーディン神は面白そうに笑うけど、すげえ会話だな。

 

 国や勢力や神話のトップが、俺たちの目の前で国家運営クラスの会話してんだもんな。

 

「さて、しかしこのままでも暇じゃのう。ちょっと観光してもいいかの?」

 

「お、そう来るかい? どこに行くんだよ?」

 

「高級料亭でも行くかい? 総理大臣のコネを見せてやるぜ?」

 

 と、アザゼルと総理はのっかった。

 

 こ、この二人が協力すれば確実に日本国内ならどこにでも行けそうだ。

 

 さて、日本神話とかかわるっていうからにゃぁ、伊勢神宮とか……?

 

「―おっぱいパブにいきたいのぉ」

 

 アザゼル先生以外の全員がずっこけた。

 

 あ、アホかぁあああああ!!! 阿保なのかこのジジイはぁあああ!!!

 

 アザゼル先生だけはノリノリで笑い始めるしよぉ!!

 

「見る目が違うな爺さん!! よっしゃ、実はうちのところの若い娘たちがVIP用の店を開いてんだ!!」

 

「うっほっほ~い!! 流石はアザゼル坊じゃ!! そこの総理大臣もどうかの?」

 

「……総理大臣がそんなとこ行ったなんて知られた日にゃ、支持率急降下だ馬鹿野郎」

 

 おお、総理はツッコミポジションだ!! よかった!!

 

 総理はため息をつくと、背を向けた。

 

「俺は会談の準備もあるから帰るわ。……お好きにどーぞ」

 

「そんじゃ、俺たちはこのまま日本の代名詞のお代官様ごっこと行こうじゃねえか!!」

 

「たまらんのー!!」

 

 ふざけんな、このドスケベ馬鹿コンビ!!

 

「あ、いけませんオーディン様! 私も行きます!!」

 

「お前さんは残っとれ。アザゼル坊がいるなら問題あるまいて」

 

「駄目に決まってます!!」

 

 ……廊下であほなやり取りが勃発してるわ。

 

 なんだろう。俗物的なセリフぶちかました総理が、一番まともに見える。

 

 会談、別の意味で無事に済むんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。なんか眠れないので俺は夜食を食べにダイニングに降りていた。

 

 今頃阿保共はおぱーい音頭で戻ってんだろうなぁ。なんかむかつく。

 

 そんな事を思いながらダイニングのドアを開けると、そこにはすでに来客がいた。

 

「あら、ヒロイ」

 

「ふむ、君がヒロイ・カッシウス君か」

 

 あ、姐さんとバラキエルさんが酒飲んでる。

 

 っていうかバラキエルさん、なんか煤けてるな。

 

「どうしたんだよ姐さん。バラキエルさんと一緒に酒飲んでるなんて」

 

 なんか真面目な印象あったから、仕事中は酒飲まないのかと思ってたぜ。

 

 っていうかバラキエルさん、なんというかやけ酒モードに入ってねえか?

 

 俺がそんなことを思ってると、バラキエルさんは言いづらそうにしながらも、しかし俺に顔を向ける。

 

「ちょうどいい。二人にあの乳龍帝について聞きたいのだ」

 

 ……この真面目な顔で乳龍帝とか、引くわぁ。

 

 っていうか、この事実を知ったらドライグ、失神するんじゃねえだろうか?

 

 ま、娘がラブホに連れ込もうとしたのをみたら、親父としては気になんのかね? 俺は親父の顔も知らねえからわかんねえけど。

 

 さて、それじゃあどういったもんか……。

 

「……ドスケベだけどいいやつっすよ?」

 

「そうね。スケベすぎるけど下手な枢機卿より善人ね」

 

 俺と姐さんは同時に言った。

 

 ああ。スケベなのはかけらも否定できねえ。覗きの常習犯だから、万人受けもしねえだろうな。

 

 だが、同時にものすごくいい奴だ。

 

 実戦経験も訓練もそこまで積んでねえのに、仲間のために命を駆けれる奴なんてそうはいねえ。そこに関しちゃぁ誰にだって断言できる。

 

 んでもって、根性もすげえ。スケベ根性もだがよ、普通の根性だってシャレにならねえ。

 

「たしか、日本語で一つのことに誠実とかいて一誠って読むんだったかしら? その名の通りの人物よね」

 

「ったくだ。この英雄がダチ認定するやつですぜ? 信頼していいですわ」

 

 俺たちはそういうが、しかしバラキエルさんは頭を抱えている。

 

「……だが、人の娘をラブホテルに連れこもうとしたんだぞ!?」

 

「あ、それペトが見てたわ。連れこもうとしてたのは朱乃のほうよ」

 

 姐さんの言葉に、バラキエルさんは愕然となった。

 

 む、娘がそんなふしだらになっているだなんて!? だなんて表情だった。

 

「つーかイッセーの奴、なぜかわからねえけどあからさまなアプローチを曲解してるよな」

 

「ラブホに連れ込まれかけたのも、後輩に対する愛情表現とかで勘違いしてそうね。頭どうかしてるんじゃないかしら」

 

「別の意味で心配なのだが!?」

 

 いや、大丈夫だと思います。

 

 だってあいつ、そっち方面ヘタレだしよ。

 

「しかもアザゼル曰く、奴は女の乳を喰らうと言ってたぞ!!!」

 

「「悪ふざけ100%」」

 

 なんでそんなこと信じるの? 馬鹿なの?

 

 ああ、バカか。親バカ。

 

 俺たちにツッコミ入れられて、ようやく冷静になったらしい。顔を赤くしてる。

 

「まあ、誰か騙すような悪知恵働く奴じゃないんで。いつもまっすぐ愚直にしかぶつかれない難儀な奴です」

 

 うん。そのせいでこっちが苦労することもあるんだけどな。

 

 あいつ、からめ手とか謀略とかには才能まったくねえだろ。ある意味子どもたちのヒーロー向きの性格してやがる。

 

 そういうわけだから、ハーレム作るのはともかく男としてはそこそこ信用してもいいと思うぜ。

 

「つか、そんなに心配なら直接ききゃぁよかしませんか?」

 

 俺はそこが気になる。

 

 朱乃さんはバラキエルさんのこと嫌ってみるみたいだけどよ? アザゼル先生が朱乃さんの住んでるここに連れてくる許可だしてんだろ?

 

 この人が質の悪いことしてんなら、許可は出さなええだろ、あの人。

 

 だけど、バラキエルさんは表情を暗くすると、うつむいた。

 

「……私は、朱乃に恨まれてるからな」

 

「酔った勢いで若い子といたして離婚したとか?」

 

 俺はぶしつけに聞くけど、それ位しか思い当たらねえ。

 

 だってこの人、どう考えてもいい人だぜ?

 

 そう言うことじゃなけりゃぁ、恨まれるほど嫌うことなんてねえと思うんだが……。

 

「いや。……そうだな、君たちは朱乃と親しいのだし、知っておいた方が話が早いか」

 

 そういって、バラキエルさんは話し始めた。

 

 ……グリゴリの幹部であるバラキエルさんが、姫島朱離という五代宗家の娘と出会ったのは、今から何十年も前。

 

 敵の襲撃を受けたバラキエルさんは、そのまま負傷してとある神社のテリトリーに迷い込んだ。

 

 そこを出くわして治療したのが、その朱璃さんだ。

 

 そんなラブドラマでも始まりそうな王道パターンの通り、二人は恋に落ちた。そんでもって熱烈なラブの末、朱乃さんを授かった。

 

 近年はだいぶ緩くなったが、当時の五大宗家はむちゃくちゃほかに対して排他的。そんな中でも二人は仲睦まじく暮らした。

 

 バラキエルさんはグリゴリの最高幹部の一人だが、それでも子供と妻のために、できる限り一緒に住んでいた。

 

 だが、五代宗家はそれを許そうとはしなかったそうだ。

 

 ある日、五代宗家は刺客を放ち、抹殺を図ったという。

 

 そこはグリゴリでも最強戦力であるバラキエルさん。ものの見事に返り討ちにしたそうだ。

 

 が、その刺客は憂さ晴らしに、堕天使を嫌っている勢力に朱乃さんたちのことをリーク。

 

 更に悪い出来事は重なる。ちょうどそのタイミングで、バラキエルさんしか対応できない任務が発生したのだ。その隙を見事に敵はつくことに成功した。

 

 その凶手の襲撃に気づき、バラキエルさんが戻ってきたときには、半分手遅れだった。

 

 朱乃さんは無事だった。……朱璃さんがその身を犠牲にしたことで。

 

 そしてその刺客は、堕天使のことを悪し様に罵ったらしい。

 

 おまえの父親が堕天使だから、母親は死んだと。

 

 ………下衆野郎が。とんだ責任転嫁もあったもんだ。

 

「朱乃は、襲撃者の言うことを鵜呑みにすることでしか精神を保てなかった。そして、そんなことになったのは私の不注意が原因だ」

 

「バラキエル。それはちょっと責任を負いすぎじゃ……」

 

 姐さんはそういうが、バラキエルさんは首を振る。

 

「いや。私の権力なら護衛をつけることはできた。無理にでも朱璃をグリゴリの勢力圏内に連れていくこともできた。……恨まれて当然だ」

 

 そういって、バラキエルさんは酒を口に運ぶ。

 

 俺たちは何も言えない。

 

 いや、朱乃さんもいい年なんだから、ちょっとは冷静に考えるべきだとは思う。

 

 だって父親なんだぜ? それも、娘をしっかり愛してくれているいい親父さんだ。

 

 浮浪児あがりの俺からすりゃ、ちょっとうらやましいぐらいだってのに。

 

 ……姐さんは、窓から外を見るとため息をついた。

 

「世の中、本当に悲劇が転がっているものよね」

 

 姐さんもそんな経験をいくつもしてきたんだろう。なんか実感がこもってた。

 

「そして、心が弱いとそれを素直に受け止められない。……英雄(強さ)が必要なのよ、人にはね」

 

 姐さんは、そういうと酒の飲みほして息をつく。

 

 その表情にはいろんなものが混じっていたが、其の中には確かに期待があった。

 

「だけど、それも強者(英雄)が心の支えになれば乗り越えられるわ。……赤龍帝、兵藤一誠がいればどうにかなるかもしれないわね」

 

 俺は、その言葉に納得する。

 

 木場の問題を解決しようと尽力し、ギャスパーに体当たりでぶつかって心を開かせ、そして小猫ちゃんと朱乃さんが自分の苦難を乗り越える支えとなった。

 

 確かに、イッセーがいれば、朱乃さんは立ち上がれそうだよな。

 

 あれもまた、一つの輝き(英雄)だ。スケベ根性以外はリスペクトする余地があるぜ。

 

 ぞっこんの男がフォローすれば、朱乃さんも少しは向き合えるはずだ。もしかしたら、問題解決がこの期間で何とかなるかもしれねえ。

 

 イッセー。お前の出番はすぐそこだぜ?

 



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第三章 6

はい、それではこの話でロキが登場しますよ?


 

 そんなこんなで俺たちは、オーディン神の護衛を行っていた。

 

 すでに何日も付き合わされてるんだが、ぶっちゃけ殺意がわいてきた。

 

 このジジイ。都内のキャバクラやら遊園地やら、すし屋やらに連れ回してきやがる。

 

 俺たちは学生だからキャバクラとかいけねえしな。待合室とかで待機とか普通にあるしな。

 

 たまに総理が手回しした料亭とかに行くときは、総理が土産の手配までしてくれてんだが。

 

 おい、人間のトップの方がこっちに気を回せるとかどういうこった。っていうかなんでてめえは観光旅行に来たとか見たいなノリなんだよ。

 

「くそ。キャバクラを一回ぐらい奢ってくれてもいいじゃねえか」

 

 俺は、飛行のトレーニングもかねて外の護衛をしながら、思いっきり愚痴をぶちかました。

 

 どうせ中まで聞こえてねえだろうし、普通の音量で愚痴をぶちかますぐらい別にいいだろ。いくら英雄だろうと我慢の限界はあるんだよこの野郎が。

 

「まったくっス。自分もたまには美人の年頃のお姉さんにアーンってされたいっす!!」

 

 真っ先に便乗するのがペトってどうよ?

 

 しっかしあのジジイ。こっちが文句言うとぼけたふりして逃げやがって。一遍聖槍叩き込んでやろうか……っ

 

「まあまあ。すこしは落ち着きなさいな」

 

 と、俺とペトの肩に手を置いて姐さんがなだめてくる。

 

 ちなみに姐さん、煌天雷獄の応用で風を使ってジェット推進みたいに空を飛んでる。

 

 ほんと、便利だな煌天雷獄。汎用性が抜群すぎるって。

 

「なんだかんだで調べてみたけど、意外に日本神話が関わってるところも多いわよ? 狙ってだとしたら、意外としたたかなお爺さんだわ」

 

 えぇ~? ホントでござるか~?

 

 そんな事を思っていたが、しかしそれももうすぐ終わりだ。

 

 割と強引に持ち込まれた日本政府の介入だが、思った以上に手回しがいい。

 

 すでに総理官邸での会議の準備は万全。予定では、あと数日で会議は行われる予定だ。

 

 あとちょっとだ。あとちょっとであの面倒な爺さんから離れられる。あとちょっとの辛抱だ。

 

 そう、あとちょっとトラブルが起きなけりゃ―

 

 そう思ったのが悪かったんだろう。

 

「待て、そこで止まってもらおう」

 

 目の前に、二人の男が浮かんでいた。

 

 ―っ!?

 

 俺たちはいっせいに寒気を感じる

 

 一人はローブを纏って顔が見えないが、もう片方はかなりのイケメンだ。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 あのイケメン。ただものじゃねえ!?

 

 仮にも蛇で魔王クラスにまで強化されたシャルバが、まるで三下に見えるレベルのオーラだ。いや、シャルバは正真正銘三下なんだが。

 

 禁手に至ったディオドラを一蹴しかねないオーラ密度。こいつ、いったい何者だ!?

 

 イッセーたちも外に出て戦闘態勢を取る中、その男は両手を広げて声を張り上げる。

 

「はっじめまして諸君!! 我こそは、アースガルズの悪神、ロキだ!!」

 

 ロキ!? それもアースガルズってことはマジモンの神様じゃねえか!!

 

 そんな奴が、なんでこんなところに!?

 

「これはこれは、ロキ殿ですか。オーディン殿の進行を妨げるとは、いったいどういうご了見ですかな?」

 

 と、アザゼル先生が下手に出ながら質問する。

 

 その瞬間、ロキは腕を組みながらにやりと笑った。

 

「いやなに。我らが主神が我ら以外の神話体系に接触することが苦痛極まりなくてね。我慢できずに邪魔しに来たのだ」

 

 すっげぇ悪意全開の発言だぁあああああ!!!

 

 え、なに? 俺たち神と戦うのかよ!!

 

 神滅具使いとしては光栄なのか? 英雄としては神と戦うとか喜ぶべきなのか!?

 

 喜べるかぁ!!

 

「言ってくれるじゃねえか、ロキぃ……っ」

 

 アザゼル先生も、敬語ぶん投げたしな。

 

「堕天使総督アザゼルよ。本来は貴殿たちと接触したくもないのだがそうも言ってられん。他の神話体系との交流など我慢ならん」

 

「アンタが他の神話体系に手を出すのは良いのかよ?」

 

「ふん。我らが領域に土足で踏み込んだ貴様らに言われたくはない。邪魔者を滅ぼすのは何処の神話もやっているだろう?」

 

 バチバチと火花を散らすロキと先生。

 

 各勢力の筆頭格のにらみ合いとかめったに見れないな。でも光栄には思えそうにねえ。

 

 そして、敵意満々のロキに、アザゼル先生は指を突き付けた。

 

「一つ聞くぜ! お前らはヴィクター経済連合と関わってるのか!? ま、馬鹿正直に答えるわけねえか」

 

 あ、そうか。ヴィクター経済連合は聖書の教えの大敵も同じだ。

 

 聖書の教えが嫌いなら、ヴィクターと組むという可能性も十分にある。

 

「まだしてない、とだけ言っておこう。我としては、貴様らと組むぐらいなら奴らと交流した方がまだましだと思ってはいるのだがな」

 

「そうかい。なら、怨敵とみなして構わねえようだな」

 

「そう取ってくれて構わんよ。まあ、最善は我らが領域に残る貴様らの残党を滅ぼし、鎖国をすることだと再三告げていたのだがね」

 

 す、すげえこと言いやがった。

 

 各勢力が手を取り合って対抗しなけりゃいけねえと言われてるこの状況下で、鎖国とか言い出しやがったぞ。しかも人類巻き込む気満々じゃねえか。

 

 しかもそうでないならヴィクターと組むだと? この野郎、この状況下でとんでもないこと言いやがる。

 

 神話体系の中にはヴィクターの活動を認めるという動きもあるみたいだけど、あのテロリスト一歩手前の集団を認めてまで三大勢力をボコりてえってか?

 

 勘弁してくれよ。俺らが生まれてねえ時の出来事に俺らを巻き込むんじゃねえっての!!

 

「オーディンよ。最後に確認するが、本当にこの国の神話と和議を結ぶつもりか?」

 

 殺意満々のロキの言葉に、オーディン神は髭をなでながらうなづいた。

 

「そうじゃ。少なくとも、お前よりアザゼルたちと話していた方が万倍も楽しいわい。それに日本の神道ともお互いに興味があっての。和議を果たし次第、異文化交流をさせてもらうわ」

 

 その返答に、ロキは殺意をさらにまき散らす。

 

「愚かの極みと認識した。ならば、ここで黄昏を―」

 

 その瞬間、莫大なオーラが交差した。

 

 こっちからロキに。あっちからもオーディンに。

 

 どっちもあっさり弾き飛ばすが、最後まで聞こうよ!?

 

「先手必勝のつもりなんだが、さすがは神か」

 

「聖剣デュランダルか。さすがの威力だが、神にとってはそよ風も同じよ」

 

 ぶちかましたゼノヴィアにロキはそう言い放つと、隣のローブの男にあきれた視線を向ける。

 

「無礼に無礼で返すのは無粋の極みではないかね?」

 

「別によかろう。……いまさらそんなことをほざく老害は、さっさと殺した方が得策だ」

 

 そう告げるローブの男の右手には、魔剣を思わせるオーラをまとった日本の剣があった。

 

 刀じゃない。まっすぐ伸びた両刃の剣だ。それも結構長い。

 

 それを見て、馬車からこっちを見ていた小犬が目を見開いた。

 

「あぁああああ!!! それ、十束剣(とつかのつるぎ)!? なんでこんなところに!?」

 

 十柄剣ってーと。日本製の聖剣の一種だったか?たしか何本か存在してるって聞いたことがあるけどよ。

 

 そして小犬の言葉に、ローブの男はローブを投げ捨てながらうなづいた。

 

 見た感じは初老のオッサンだが、額に角が生えている。どうやら異形だな。

 

「研究用に日本神話から取り寄せた者だ。私が扱えるようにいじくらせてもらったがね」

 

 そう言い放ったオッサンは、俺たちに視線を向けて苛立たしげに吐き捨てる。

 

「忌々しきオーディンに与する三大勢力共。私は捧腹。ロキとは利害の一致により、和議を妨害するために手を組ませてもらった」

 

 捧腹? よくわかんねぇ名前だな。

 

 だが、そのオッサンを見てオーディンは目を見開いた。

 

「……お主は! ロキ、まさかそやつと組んでおったのか!?」

 

 本気で驚いているオーディン神をみて、ロキはざまぁといわんばかりに口元を吊り上げた。

 

「万が一に備えたパイプというものだ。和議を求める愚か者共はどちらにもいるのでな。互いに利用し合うぐらいのことはするのだよ」

 

 なんか得意げに言ってやがるが、とりあえず敵でいいんだよな?

 

 だったら―

 

「イッセー、姐さん! 合わせるぞ!!」

 

「もちろん。これを潜り抜けてこそ英雄だものね!!」

 

「おうとも!!」

 

 俺と姐さんとイッセーは、三人がかりで一気に仕掛ける。

 

 まず真っ先に姐さんが天候操作で雷撃を落とし、イッセーはドラゴンショットをぶっ放す。

 

 そして、俺はその十字砲火を隠れ蓑に聖槍で突きかかった。

 

 そして、ロキはそれを全部反応してのけた。

 

 魔方陣の楯で落雷とドラゴンショットを防ぎ、そして何処からともなくハンマーを取り出すと、聖槍にぶつける。

 

 その瞬間、姐さんの全力でも出るかどうか微妙の雷が俺の視界を覆った。

 

 とっさに禁手を使って抑え込みながら下がるけど、威力がシャレにならねえ!?

 

 避けたはずなのに体がびりびりと痺れる。これ、まともに喰らってたら跡形もなく吹っ飛んでたぞ!?

 

「……ミョルニルの複製まで作っていたとはのぅ。ロキよ、お主何処までも本気じゃな」

 

 オーディン神がそのハンマーを見て、あきれるやら感心するやらの声色になる。

 

 そして、ロキはハンマーを掲げて自慢げな表情を浮かべた。

 

「そう。これは我が作り上げたミョルニルのレプリカであるムジョルニアだ。神滅具が三つもあるとわかっていて、対策の一つも立てんほど愚かではない」

 

 そう告げるロキは、しかし俺たちを見ると目を細める。

 

「とは言え、神殺しが三つもあるのは警戒に値する。―呼ぶぞ、捧腹」

 

「無論だ。それでは呼ぶぞ」

 

 二人は同時に術式を駆動し、そして空間が歪む。

 

 明らかにサイズがでけえ。魔獣か何かか?

 

 そして、その瞬間それは現れた。

 




ロキ陣営もまた、超強化。

この作品、味方より敵の方を強化して激戦にするノリでいっております。


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第三章 7 神喰狼と神殺槍

ヒロイ「男のロマン、出します」


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、来るがいい我が息子、フェンリルよ!!」

 

「目覚めろ、ソウメンスクナ」

 

 二人がそう名前を呼び、そして姿があらわになる。

 

 現れたのは、巨大な狼と巨大な鬼。

 

 それだけでも問題だが、特に問題なのは鬼の方である。

 

 顔が前後に二つあり、首がない。そして腕は二対存在する。

 

 その異形の姿に多くの者達が目を見張り―

 

「………あ、ああ、あああ」

 

 ペト・レスィーヴは、明らかに動揺していた。

 

 目は見開かれ、瞳孔も開き、全身から脂汗が流れ出る。

 

 構えていた人工神器すら取り落とし、そしてそれにすら気づいていない。

 

「……いや、いや……いやぁ……」

 

 後ろに後ずさりながら、ペトは明らかに狼狽していた。

 

 そしてそのまま狙撃ポイントとして確保してた馬車から、足を踏み外す。

 

 空を飛ぶ事も忘れ、墜落しかけるペト。

 

 その手を、ぎりぎりで小犬が掴んだ。

 

「ペッちゃんしっかり!! 臭いは似てるけど、あれはソウメンじゃない!!」

 

 ペトに声を掛けながら、小犬は鬼を睨み付ける。

 

 その目には、僅かな怯えとそれ以上の疑念があった。

 

「でも、臭いがすごく似てる。……ううん、勝手に変えたような―」

 

「ほう。鼻が鋭いようだ」

 

 それを称賛するかのように、捧腹は頷いた。

 

 そして、鬼を見て蔑むような視線を向ける。

 

「私は対外法の研究を専門に行っていてね、翻せば、京都では一番外法に詳しい。これはその実験作だよ」

 

「……ソウメンを材料に、リビングデッドを作ったって事ね!!」

 

 全てを察したリセスが、殺意すら籠った視線を捧腹へとぶつける。

 

「この外道!! それを、よりにもよってペトと小犬に見せる!?」

 

「それについては謝罪しよう。私は死体の情報はある程度聞いているが、基本的にはスペックしか知らんのだ。奴が危害を加えた者達のパーソナルデータまでは把握してなかった」

 

 そういって、捧腹は素直に頭を下げた。

 

 しかし、だからと言ってソウメンスクナを下げる事はしない。

 

 なぜなら、捧腹と対峙する者たちはオーディンの護衛。オーディンを害そうとする自分達からすれば、遠慮する必要はないのだ。

 

 そして、其れはロキも同様だった。

 

「ふむ、どうやら思わぬ成果が出たようだな」

 

 むしろ僥倖といわんばかりの表情を浮かべて、ロキは顎を撫でる。

 

「かの禍の団のヴァーリチームを捕縛寸前にまで持ち込んだ狙撃の技術、敵に回せば神滅具に匹敵する脅威と見ていた。それが使えないというのならば僥倖か」

 

「……てめえ!!」

 

 それが癪に障った一誠が前に出ようとするが、それをアザゼルが肩を掴んで静止させる。

 

 その目は、ロキが召喚した巨大な狼に向けられている。

 

 その目が移す感情の名は最大級の警戒。

 

 今この場にいる敵手は皆強敵。そして、ロキが連れた巨大な狼こそ、最大級の強敵。それも、下手をすれば自分達の全滅すら考慮しなければならない。

 

 それほどまでの最大級の警戒。それをアザゼルは目の前の狼に対して持っていた。

 

「迂闊にあの狼の前に出るな!! 奴の牙と爪はシャレにならねえ!!」

 

 額に汗すら流しながら、アザゼルは叫ぶ。

 

 その声に全員が警戒心を強める中、アザゼルはその狼の名を呼ぶ。

 

「……神喰狼(フェンリル)! あれは、全盛期の二天龍にも匹敵する化け物だ!!」

 

 全盛期の二天龍に並ぶ。その意味を理解出来ない者はここにはいない。

 

 なにせ、いまだ不完全な力しか発揮できないイッセーですら、この場においては最高峰の戦力なのだ。それの全盛期をはるかに上回るとなれば警戒せずにはいられない。

 

 その事実に全員が瞠目する中、ロキは得意気な表情を浮かべる。

 

「そう。こいつこそ我が子の中でも最強のフェンリルだ。おそらく噛み付けさえすればどこの神話体系の神にも届くだろう」

 

 そう言い放つと、ロキは視線をリアスに向ける。

 

 その目は、明らかに危険な意志を宿していた。

 

「本来北欧の者以外に我が子の牙を使いたくはないが、まあ、たまにはいい経験となるだろう」

 

 そして、その指先がリアスに突き付けられる。

 

 誰もが、嫌な予感を察した。

 

「魔王の血筋、その血を味わうのも一興か。―やれ」

 

 その瞬間、フェンリルは一瞬で間合いを詰めた。

 

 それに反応できたのはごく僅か。そしてそれを対応にまで持って行けたのは更に僅か。

 

 それほどまでの神速を持つ事が、フェンリルがこの場で最強の存在だという事を示す証明だった。

 

 反応速度。

 

 戦闘能力。

 

 そして位置取り。

 

 それら全てが重なり、対応できたのは僅かに二人。

 

「俺の部長に触るんじゃねえぇええええ!!!」

 

 フェンリルの攻撃からリアスを守ったのは兵藤一誠。

 

 潜在能力に限定すれば、フェンリルに並ぶドライグを宿した者。それゆえに対応できる余地があった。

 

 しかし、一誠はフェンリルからリアスを守るのに必死でそれ以外にまでは頭が回らない。

 

 一方フェンリルは、一誠の攻撃を回避こそ出来なかったが、対応は出来た。

 

 カウンターにより爪が襲いかかり、一誠は反応どころか認識すら出来ていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―そして、其れに対応したのがもう一人。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「槍王の型、流星(ながれぼし)

 

 

 

 

 

 

 

 

 その迫りくる爪。それを持つフェンリルの前足を、神々すら滅ぼす槍が貫いた。

 

 口と前足から血を流し、吹き飛ばされるフェンリル。

 

 そしてその勢いに巻き込まれ、ヒロイ・カッシウスもまた吹っ飛ばされる。

 

 かろうじて槍こそ握ったままだったが、何故か彼は全身を震わせながら動けない状態になっていた。

 

 その光景に、ロキや捧腹すら含めた全員が対応しきれない。

 

 あまりの神速の攻防。それも事実上フェンリルが返り討ちにあったという状況。それが、ロキ達に衝撃を与えていた。

 

 ……しかし、感情を持たない死体人形だけは別。

 

 ソウメンスクナは機械的な反応で動くと、その腕に邪炎を纏わせて殴り掛かる。

 

 ヒロイはそれに反応できない。いや、反応はしているが行動できない。

 

 そしてそのまま攻撃が当たりかけ―

 

「ぅぉおおおおおおおおおおおおおんっ!!!」

 

 遠吠えが、その動きを一瞬だが止める。

 

 そしてその隙に、真っ先に我に返ったバラキエルがヒロイをかっさらった。

 

「しっかりしろ!! 大丈夫か!?」

 

「す、すんません……っ」

 

 バラキエルの声に、かろうじてヒロイは反応する。

 

 明らかに大丈夫じゃない。

 

 全身からは脂汗が流れ、痙攣も収まってない。

 

 そして、その非常時を見逃すほどソウメンスクナも捧腹も愚かではなかった。

 

「仕掛けろ、ソウメンスクナ!!」

 

 捧腹の指示に従い、更に全力の邪炎を纏ってソウメンスクナは仕掛ける。

 

 しかし、それに対応する者はきちんといた。

 

「もう一度殺してあげるわ、ソウメン!!」

 

 これまでにないほど高出力の炎を展開し、それをバスターソードに巻き付けながらリセスが仕掛ける。

 

 超高熱による両断。焔には炎をといわんばかりの正面突破。

 

 そして、鬼神と神殺しが正面からぶつかり合った。

 

 余波で周囲一帯に炎をまき散らしながら、その激突はお互いを相殺するにとどまる。

 

 そして、その光景を見てロキは目元を歪めた。

 

「……我が子に反応し手傷を負わせ、更にソウメンスクナと渡り合うとは。今のうちに始末しておかねばな」

 

 神滅具(ロンギヌス)。神すら屠る可能性を秘めた、神器の究極十三種。

 

 そのポテンシャルを改めて思い知らされ、ロキは警戒度を大幅に高めていた。

 

 自らの最高傑作といえるフェンリル。そして協力者の最高傑作として認める他ないソウメンスクナ。

 

 それらとまともに戦える敵を見逃すほど、ロキは油断していない。

 

「させると思うかぁ!!」

 

 そこをアザゼルは光力で狙い打つが、しかしロキは魔方陣で即座に受け止める。

 

「その程度で我らが北欧の術式は破れんよ。我を倒したいのなら、例の龍の鎧を持ち出すがいい」

 

「なら、同じ北欧術式で!!」

 

 ロスヴァイセが即座に同様の魔方陣を作り出す、全力の魔法攻撃を叩き込む。

 

 それをロキは余裕で防ぐが、しかしその隙を逃すほどこの場にいる者達は甘くなかった。

 

 バラキエルを筆頭に多くの者達が一斉に攻撃を放つ。

 

 その猛攻に、ロキの魔方陣すら完全には防ぎきれず頬を掠めて微かな傷をつけさせた。

 

「……神を相手にここまで出来るとは見事! なら、こちらもそれ相応の手段を用いるまで―」

 

 ロキがそう言い放ち、更なる魔方陣を展開しようとする。

 

 ―その瞬間、白い流星が舞い降りた。

 

『Harf Dimension!!』

 

 フェンリルを中心に空間が歪む。その圧倒的な半減の力に、一瞬とはいえフェンリルは身動きが出来なくなった。

 

 しかし、牙をもってその歪みを食い破り、フェンリルは攻撃態勢を取る。

 

 それを真正面から見返しながら、白い流星―ヴァーリ・ルシファーは戦意を高ぶらせた。

 

「ヴァーリ!?」

 

「久しいな、兵藤一誠」

 

 そう告げるヴァーリは、兜を解除し、ロキに対して熱視線を向ける。

 

「初めましてだな、北欧の神、ロキよ。……貴殿を屠りに来た、白龍皇ヴァーリ・ルシファーだ」

 

 大胆不敵にヴァーリは堂々と宣戦布告をする。

 

 この状況下にヴィクター経済連合の介入。状況はあまりに混乱状態に陥りかけていた。

 

 そして、其れに対してロキは満足げな笑みを浮かべる。

 

「……今日は二天龍が見れて満足だ。捧腹、ここは出直すぞ」

 

 そう言い、ロキはフェンリルを自身の元へと引き寄せる。

 

 そして転移の魔方陣を展開した。

 

「いいのか?」

 

「かまわんさ。どうせやるのなら派手に行くべきだ」

 

 その返答に、捧腹も指を鳴らすとソウメンスクナを下がらせ、魔方陣の内側に移動させる。

 

 それを確認して、ロキは敵である一誠達を、そしてオーディンを鋭く見据える。

 

「この国の神々と政府に会談するその日! その時が我が子によって貴様が飲み込まれる時だと知るがいい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……させると思うか、ああ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、膨大な殺意がロキを貫く。

 

 そちらに視線を向けたロキは、それを見る。

 

 レール上に配置された巨大な魔剣。その先に、一本の長大な刺突剣を構えたヒロイが、顔を青くしたままで立ち上がっていた。

 

 その瞬間、ロキはとっさに首をひねり―

 

「ぶち抜けエペタングステン!! 必殺、マスドライバースティンガーぁあああ!!!」

 

 その頬を深く切り裂き、刺突剣が宙を飛翔した。

 

 フェンリルですら反応しきれなかった超超高速の一撃。

 

 それに対して、ロキもまた、目を見開いた。

 

「なるほど、電磁投射砲(レールガン)を魔剣と紫電で再現したか。……人間の技術を神器で再現するとここまで高まるとは―」

 

 ロキは心から賞賛し、そして鋭い敵意をヒロイに向ける。

 

「良かろう。貴殿はこのロキが滅ぼそう。神が直接殺しに来るのだ、名誉と思うがいい」

 

「そりゃいい。神殺しだなんて英雄でもやったことねえだろ」

 

 そう凄絶な表情で視線を交わし合い、ロキとヒロイは宣戦布告した。

 

「オーディンを死なせたくないなら、我を止めてみろ」

 

「オーディン神を殺したいなら、この俺を倒してみろ」

 

 そして、戦いは僅かな間で中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




ペト、トラウマ直撃。

反面、小犬はあまり大したことがありません。これに関してはペトのメンタルが弱いのではなく、きちんと過程を踏んで回復した小犬が強いのです。

ソウメン復活は誰もが予想してましたが、実際のところは変則的な運用。別に捧腹は無差別テロがしたいわけではないので、そのまま復活という真似はしませんでした。……ペトの心に大打撃を与えるのには十分すぎましたが。









そしてヒロイ、フェンリル相手に有効打。

いわゆる必殺技です。男のロマンです。ただし読んでいればわかる通り、現段階では反動がでかすぎる大技です。

因みに紫に輝く双腕の電磁王を利用した必殺技です。金成科学的なアプローチを使って編み出しました。


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第三章 8

第一波は何とかしのぎ、然し思った以上に状況は最悪。

そんな時差し出される、救いの手は……ヴィクター経済連合!?


 ……んぁ?

 

「あ、起きました!!」

 

 アーシアの嬉しそうな声が聞こえて、俺は目を覚ました。

 

 どうやら、ロキに宣戦布告した後で気絶したらしい。

 

 編み出した必殺技を当てれなかった挙句、撤退されて気絶するとか正直ちょっと恥ずい。

 

「起きたようですね、ヒロイ先輩」

 

「おはようさん」

 

 と、小猫ちゃんとイッセーもいた。

 

 どうやら、イッセーの倍加を使いながら小猫ちゃんの仙術とアーシアの神器による治療を行っていたらしい。

 

 ああ、槍王の型は負担でかいからな。実戦投入もお初の隠し玉だったし、心配かけたか。

 

「悪い、心配かけた」

 

「まったくだぜ。アーシアのあんまり効果がなかったし、小猫ちゃんの気の方が良かったんだよなぁ」

 

 だろうな。負担はでかいとはいえ、肉体のダメージはそこまで高くないし。

 

 そういう負担のかかり方がする仕組みなんだよ、アレ。

 

 だがまあ。ヴァーリの来訪もあったとはいえ何とかしのげた。

 

 神クラス相手に全員生存は、間違いなく誇っていいだろ。

 

「……気の流れがめちゃくちゃでした。どんな無茶を?」

 

「ん? ああ、後で話す」

 

 俺は小猫ちゃんにそう言った。

 

 今から話してもいいんだけど、言ったらなんか怒られそうだし。

 

 それに、今は元気を使うべき事があるからな。

 

「ったく。肝が冷えたけどおかげで助かったぜ。ありがとな」

 

「ああ。それで……ヴァーリはどうした?」

 

 イッセーのお礼を受け止めながら、俺はヴァーリについて聞いた。

 

 ヴァーリの奴、何考えてやがる?

 

 ロキは俺達三大勢力より、ヴィクターに協力する方がましだと言った。いや、本命は鎖国らしいけど。

 

 まあ、そいつぁすなわちロキはヴィクターと共闘できるわけで、ヴァーリからすれば挟み撃ちのチャンスだ。

 

 なのに、ヴァーリはフェンリルを攻撃しやがった。

 

 相変わらず、何考えてんのかわからねえ奴だ。

 

 だから聞いてみたら、イッセーは警戒心を見せて指をさす。

 

 馬車の外で、ヴァーリはお嬢達と向き合っていた。

 

 駒王学園の校庭に止まった馬車の近くで、ヴァーリチームは勢揃いしてやがる。

 

 ……そしてアーサーと黒歌は、馬車から隠れるようにヴァーリの後ろにいた。

 

 見れば、ペトが俺とは別の席に寝かされている。

 

 あのソウメンスクナを見てから、ペトはかなりパニックを起こしてたからな。

 

 話を聞く限り、ペトの両親を殺してペトすら襲ったソウメンとかいう鬼を素体にした人形があれらしい。無理もねえな。

 

「ペト、どうしたんだろうな」

 

「ああ、それは後で姐さんから聞いてくれ」

 

 俺はペトに上着をかけると、外に出る。

 

 それを見て、姐さんがほっと息をついた。

 

「ヒロイ、大丈夫?」

 

「おうよ姐さん! もうばっちり回復したぜ!!」

 

 俺はそう元気よく言うと、ヴァーリ達に視線を向けた。

 

「一応礼を言っとくべきか?」

 

「一応受け取っておこう。……だが、大変だな君達も」

 

 そういうと、ヴァーリは苦笑を浮かべる。

 

「オーディンの会談を成功させるには、ロキを撃退するしかない。だがこのメンバーではロキ達だけならともかく、あの術者と鬼神までは対応しきれないだろう? 今は亡命絡みの戦闘で、どこもかしこも手いっぱいだから増援も見込めないしな」

 

 苛立たしい事を言ってくれるじゃねえか、ヴァーリ。

 

 確かに、今はどこもかしこも小競り合いだらけで増援は難しい。

 

 自衛隊は協力してくれるだろうが、それにしたって限度があるしな。そもそも彼らの戦力じゃあ、あの化け物共の相手は手厳しい。

 

 せいぜい目くらましがいいところだろ。集中砲火を受けても大したダメージにならないのが明白だって感じだ。

 

 とは言えイラつくのはイラつく。特にイッセーはイラついていた。

 

「随分偉そうに言ってくれるじゃねえか。お前がロキを倒してくれるってのか?」

 

「いや、流石に俺でもフェンリルとロキ、更にあの鬼神を同時に相手取るのは不可能だ」

 

 ……随分殊勝な事で。

 

 で? だったらなんでこんなところに来てやがるんだ?

 

 こいつらがテロリストの特殊部隊なのはもう分かってんだ。イッセーの件で借りがあるたぁいえ、何度も見逃せるかっているとまた別の話だ。

 

 場合によっちゃぁここで戦う事になる。

 

 そう俺達が緊張してるなか、ヴァーリはとんでもない事を口にしやがった。

 

「……だが、二天龍が組めば話は別だ。俺たちは、今回共闘を申し出たい」

 

 ………はぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その次の日。

 

 兵藤邸の地下。そのホールにかなりの人数が大集合していた。

 

 ペトを除いたいつもの兵藤邸メンバー。更に近くのマンションに住んでる木場とギャスパー。さらにオーディン護衛団からバラキエルさんと小犬。そこにシトリー眷属も追加。とどめにヴァーリチーム。

 

 で、こんな事になった理由はヴァーリの爆弾発言。

 

 北欧と日本神話と日本政府の和平会談を妨害したいロキと捧腹。奴らとの戦いに一枚かませろと言ってきやがったからな。

 

 流石に即答出来ないわけで、ちょっと時間を取ってからこうして集まったわけだ。

 

 つっても事態はあまりに難易度が高い。

 

 なにせ、今は何処の勢力も亡命合戦で色々と手が離せねえ。亡命しようとしてくる連中が出ないように取り締まったり追撃したり、亡命してくる連中を助けたり受け入れ先探したり。

 

 と、言うわけで上の方針は俺達でどうにかしてくれとほぼ丸投げだ。

 

 そして、其れをなすのが大変だ。

 

 なにせ敵は神と鬼神。更に外法の使い手と伝説の魔獣。

 

 どいつもこいつもハイスペック。一人だけでも充分脅威って言えるレベル。それが半分は文字通り伝説級で、もう半分もそれに近いと来てやがる。

 

「で、ヴァーリ。俺達と共闘するわけは何だ? 何企んでやがる?」

 

「純粋に神と戦いたいだけだ。美候達も了承してくれている。……不服か?」

 

 いや、信じられるか。

 

 っていうか正気じゃねえ。俺達大絶賛戦争してるんだぞ? お互いの特殊部隊的な扱いなんだぞ?

 

 それが神との戦いに共闘? それも、共通の敵じゃなくヴィクター経済連合(ヴァーリ側)とは交渉の余地のある奴と?

 

「不服な上に解せねえよ」

 

 アザゼル先生の言う通りだ。誰も納得出来るわけがねえ。

 

 だけど、アザゼル先生はため息をついた。

 

「……だが、戦力が必要不可欠なのは事実だな」

 

「でもいいのかしら? ヴィクター経済連合からしてみれば、ロキは交渉の余地があるんじゃないの? こちらよりはいいと言っていたわよ?」

 

 姐さんがそう言うけど、ヴァーリは首を横に振った。

 

「いや、ヴィクター経済連合には半アースガルズ団体が所属していてね。あそこには武器を作っているドワーフが在籍しているから、発言力が大きめなんだ。こと、彼らの先祖が作った武器を半ばだまし取ったロキは有力粛清対象だよ」

 

 あら、ロキはともかくヴィクターの方は共闘勘弁ってわけか。

 

「そういうわけでリムヴァンからの許可は得ている。本格的な戦闘時には、向こうからも増援を派遣するとの事だ」

 

「……大盤振る舞いだな、オイ」

 

 ああ、ヴィクター経済連合は何考えてやがる?

 

 ここで日本神話や政府と、アースガルズが連携をとるのは面倒だろうに。

 

「ねえねえ。それで、ボク達が断ったらどうするの?」

 

 と、小首を傾げて小犬が聞いた。

 

 それに対して、ヴァーリは不敵に笑う。

 

「その時はまとめて相手にするだけだ。元々敵同士なのだから当然だろう?」

 

 ……これ、共闘しないとホントに死者が出るな。

 

 つっても俺達が勝手にやったら上から怒られそうだ。いや、アザゼルは総督だけど独断で動ける内容じゃねえし……。

 

「……サーゼクス達からは苦渋の決断ってやつが出てる。旧魔王の末裔のお前の申し出を無下に断るわけにはいかねえってな」

 

「現場としては納得出来ない事も多いけどね」

 

 アザゼルの言葉に、お嬢は不満げだった。

 

 まあ、ヴィクター経済連合に迷惑かけられまくっている三大勢力の本音だろ。会長も不機嫌さを隠してもいねえしよ。

 

 とはいえ、悪魔側としちゃぁそんな事を言われたら断れねえな。トップの許可は出てんだしよ。

 

「……不穏な動きを見せれば、さっさと後ろから刺せばいいでしょう。精々肉の楯に使えばいいわ」

 

 と、姐さんがさらりと怖い事言い放った。

 

 が、ヴァーリ達は苦笑するだけで特に気にしてねえ。

 

 それどころか、アーサーと黒歌に至っては割と上機嫌だ。

 

「……ふっ。狙撃でなければ全部回避して見せますよ」

 

「狙撃さえなければ全部惑わして見せるにゃん!!」

 

 こいつら、ペトがまだ寝込んでるの喜んでるな?

 

 オカ研メンバーはそれにイラつくが、しかしイラついてないメンバーも何人かいた。

 

「まあ、そうなるよな」

 

「……ですね」

 

「そうよね」

 

 イッセーに小猫ちゃんにお嬢だった。

 

 ……間近であの二人が撃たれるところを見たメンバーは納得してやがる。

 

 ペトよ。お前はどんだけドン引きさせる方法で狙撃をぶちかましやがったんだ。

 

 思わず俺達は結構ドン引きした。

 

 仲間思いでこういう時真っ先に怒りそうなイッセーに、そこまで言わせるとは。相当怖い撃ち方したらしいな、オイ。

 

 今後、ペトを怒らせないように気を付けよう。俺達の心は一つになった。

 

「まあ、お前らはこの際置いておく。……それとだ」

 

 そして、アザゼルは言いにくそうにした。

 

「……ロキの協力者について、京都から情報がでた」

 

 そして、アザゼルは言葉を続ける。

 

「奴は捧腹。京都出身の術者である鬼で、主に外法対策を専門にしていた」

 

 ふむふむ、あいつ鬼だったのか。

 

 パッと見人間に見えたが、どうやら変化していたらしいな。

 

 で、なんでそんな奴がロキと組んでんだ?

 

 ロキは他の神話と関わりたくないって言ってやがった。日本神話と協力関係にある京都の妖怪が、なんでロキと組んでやがる?

 

「……それについてだが、アースガルズとの間で起きた事件が原因らしい」

 

 その事件は、今から十年ほど前に起きた事だ。

 

 捧腹は、児童保護施設に出資するなど、善良な人物で知られていた。

 

 そいて、慈善事業として、私費を投じて施設の子供達を海外旅行に連れて行ったりもしたのだ。

 

 なんつー素晴らしいこったよ。俺もそんな人と知り合いになりたかった。

 

 ……だが、そこで問題が発生する。

 

 旅行に行った子供達が、アースガルズの神話勢力圏内に近づいてしまったのだ。

 

 当時のアースガルズは鎖国も同然で、排他的だった。そして、その旅行に行った子供達には、捧腹のつてで妖怪の護衛がついていた。

 

 不幸な、行き違いだったのだろう。

 

 結果として小競り合いが勃発し、最悪な事に子供達に犠牲者が出てしまった。

 

「それ以来、奴は北欧との交流だけは断固として反対していた。アースガルズに敵対しているテロ組織に出資しているという噂もあったそうだが、まさかマジだったとはな」

 

 そう言って、アザゼル先生はため息をついた。

 

「調べた結果、その組織の一つはロキが情勢をコントロールする為に立ち上げた、いわゆるスパイ的な組織だったらしい。それをつてに、お互いの交流断絶の為に敵の敵は味方理論で動いていたってところだろうな」

 

 うっへぇ。どす黒い協力関係だなオイ。

 

 だがまあ、そういう事ならちょっと可哀想な気もするが……。

 

「だからと言って、遠慮する気は欠片もないけどね」

 

 姐さんは、かなり怒気を強めてそう切り捨てた。

 

「恨みつらみがあるのは結構。だけど、憎しみに囚われてこれだけの騒ぎを起こすっていうなら遠慮はしないわ。……何より、ペトと小犬の前でソウメンを使った兵器を見せるだなんて………」

 

 うっわぁ。姐さんマジギレしてる。

 

 ペトのこと可愛がってたからなぁ。当然姐さんとしちゃぁブチギレ案件って事か。

 

「うん。ペッちゃんの仇はボクがとるよ!!」

 

 小犬さんや。お前なんか他人事。

 

 っていうかペト死んでない。寝込んでるだけ。

 

「ま、そういうわけで俺達も対策が必要ってわけだ。まずは五大龍王の一角、終末の大龍(スリーピング・ドラゴン)、ミドガルズオルムに接触する」

 

 と、アザゼルが建設的な意見を持ってきた。

 

「み、ミドガルズオルムって?」

 

「タンニーンと同じ、龍王の一角よ」

 

 と、イッセーの質問にリアスが答える。

 

 そして、其れに続く声があった。

 

「……ロキが作ったカイブツの一匹ッス」

 

「「ぅっ!?」」

 

 その声に、アーサーと黒歌が肩をビクリと震わせ、ルフェイが警戒心をあらわに二人を庇う。

 

 が、ルフェイもその姿を見て息をのんだ。

 

 ……ペトは、いまだに額に汗を浮かべている位不調だった。

 

「ペト!? いいから寝てなさい!!」

 

「ペッちゃん! 落ち着いてよ!!」

 

 姐さんと小犬が慌てて駆け寄るが、ペトは明らかに無理のある笑顔を浮かべてピースサイン迄浮かべる。

 

「寝てたらだいぶ良くなったッス! それに、作戦会議はきちんと聞かないとッス」

 

「いえ。無理は禁物です」

 

「そうよ、何なら寝れるように術をかけようかにゃん?」

 

 アーサーと黒歌も気遣うが、お前ら狙撃が怖いだけだろ。

 

「とにかく寝とけ。必要な情報はあとで教えてやるから」

 

「その通りだよペトさん。ここは無理せず回復に専念するんだ」

 

 と、アザゼル先生と木場からも言われて、ペトはうぐっと答えに詰まる。

 

「その通りよ。これは部長命令だから素直に従いなさい」

 

 更にお嬢が強権発動。これで完璧にペトは休む事決定だ。

 

「うぅ……。わかったッス……」

 

 そう言ってとぼとぼふらふらと戻って行くペトに、殆どのメンバーが痛ましい視線を向けていた。

 

 美候も、何やら思うところがあったのか眉間にしわを寄せている。

 

「……あのむちゃくちゃ怖かった嬢ちゃんがあれとは、そのソウメンってのはどんな奴だったんだよ」

 

 確かに、事情を知ってるのは殆どいないだろうしな。

 

 全員、よく分かってないのが見て取れる。つっても、俺達の一存だけで言える相手じゃないし……。

 

「ま、僕もペッちゃんも家族殺されて襲われてるしね。トラウマだよ普通」

 

 って小犬さんんんんん!?

 

 お前それ言っちゃう? そんなヘビーな過去さらりと言っちゃう!? 平然とのたまっちゃう!?

 

「小犬、貴女しゃべっていいの?」

 

「え? でもこうなったら話さないといけないよね? それに、もう終わってるし」

 

 な、なんか平然とぶちかましたな。

 

 この子、実はペト並みに壊れてるんじゃねえか?

 

 俺は心配になるが、小犬はその視線に気づいたのはにこりと笑う。

 

「大丈夫っ! 二年ぐらいずっと病院にいたけど、もう大丈夫だって先生もお墨付きだもん!!」

 

 ……そうか、餓鬼っぽいのは二年分遅れてるからか。

 

 まあ、それなら大丈夫なのかねぇ?

 

 

 

 

 




ヴィクター経済連合「お前なんぞこっちから願い下げだ!!」

過去の失態が原因で嫌われているアースガルズ。いや、禍の団が各勢力のはぐれ者の集まりなので、いろんな勢力を出したかったんです。





捧腹についての来歴も説明。すべては排他的なかつての異形勢力の在り方が生み出した悲劇。乗り越えねばならない過去の傷です。


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第三章 9

今回はちょっと短め


 

 

 

 

 

 そして、小犬はソウメンとのことを話して聞かせた。

 

 大体のところは、視点を変えただけでペトが言ってくれたことと同じだ。

 

 そして話を聞き終わると―

 

「……捧腹か。手段を選ばないのは俺も同じだが、同類扱いはされたくないな」

 

「同感だぜぃ。ついでにぶちのめせてよかったじゃねえか」

 

「まったくだにゃ」

 

「そうですね。まあ、特に切っても問題ないでしょう」

 

 ヴァーリチームも捧腹をぶちのめすのには同意してくれた。っていうか割とやる気だ。

 

 いやすいませんヴァーリさんや。あんた方向性違うけど似たようなことしてますよね?

 

「べ、別にそれは悪気があってしたわけじゃないんだし、別にいいんじゃない?」

 

 むしろ小犬の方がフォローしてる。あれ? 何かが逆になってねえか?

 

「俺の両親を殺そうとしたお前が言うことかよ」

 

 ほれ、イッセーも苛立たしい。

 

 それに対して、ヴァーリは軽く片手を上げる。

 

「あれは俺の早とちりだった。君は十分今のままでも急成長できる。あの挑発はあれで楽しめたが、俺も必要ないことはしないよ」

 

「偶然の事故と不必要だからしない。いったいどちらの方がましなのかしらね」

 

 お嬢からの皮肉も、ヴァーリはあえてスルーした。

 

 まあ、どっちにしても今は戦力が足りてねえからな。力借りるしかねえか。

 

 戦闘能力の高い肉壁が手に入ったってことでいいだろ。そうやって割り切るか。

 

「んじゃ、俺たちはミドガルズオルムを呼び出す準備だな。匙、お前も参加してもらうから覚悟しとけよ?」

 

「えぇ!?」

 

 思わぬ展開に、匙がぎょっとして自分を指さす。

 

 まあ、匙も一応龍王を宿してるしな。効果はあるんだろ。

 

「ま、要素の一つってだけだよ。深く考えるな。ってことでタンニーンとか呼ぶから、バラキエルはシェムハザとの対策会議を頼むぜ?」

 

「わかっている」

 

 と、アザゼル先生とバラキエルさんは大広間から出て行った。

 

 ……ぶっちゃけ、ヴァーリチームのせいで居心地が悪いな。

 

 そう思ったその時だった。

 

「……なあ、赤龍帝。一ついいかい?」

 

 と、美候がイッセーに気軽に話しかける。

 

 こいつら、一応俺たち敵同士だってわかってるのかねぇ?

 

 俺たちが微妙に警戒する中、美候は下を指さした。

 

「この家にあるプール、使ってもいいかい?」

 

 俺は速攻で聖槍を構えた。

 

「てめえは自分の立場わかってんのか、あぁ!?」

 

「そ、そんなに怒んじゃねえよ!! 地下にある巨大プールなんて珍しいからひと泳ぎしたくてよ!?」

 

 このテロリスト共が! 自分の立場ってもんを考えろや!! 刺すぞ!!

 

 お嬢も流石にこれはと思ってんのか、割とビキビキしてる。

 

「あのねえ! ここは私とイッセーの家よ!! 好き勝手つかわないでくれる!?」

 

「いえ、あなた金は出したけど一応居候よね?」

 

 姐さんからツッコミが飛んだ。

 

 お嬢、いくら下僕の家だからって自分の物扱いは限度がありますぜ? 自重、自重。

 

「いいじゃねえかよスイッチ姫。何かいるってんなら、黒歌の妹の仙術修行を手伝ってやるか―」

 

 その瞬間、消滅の魔力が美候に直撃した。

 

 お嬢ぅううううう!? あんた何やってんのぉおおおお!?

 

 俺たちがぎょっとする中、お嬢は目に涙迄浮かべてプルプルと震えていた。ついでに言うと顔も恥ずかしさと怒りで真っ赤だ。

 

「あなたの……あなたのせいで、私は冥界をまともに歩けないのよ!?」

 

 あ、そういやスイッチ姫って最初に言ったのは美候らしいな。アザゼル先生がそれを取り入れたとか。

 

 ああ~。めちゃくちゃ恥ずかしがってたからな。そりゃ恨み骨髄だわ。

 

 と、美候はぴんぴんして立ち上がった。

 

 あの野郎、消滅の魔力を喰らったのに無事だと? 仙術か何かで防御したのか?

 

「いいじゃねぃかい! 俺も見てんだぜおっぱいドラゴンは! ぶっちゃけ俺の付けた名前がついててうれしかったってのによぉ!!」

 

「そのまま昇天させてやろうかしら……?」

 

 お嬢と美候の間でにらみ合いが勃発した。

 

 あの、貴重な肉盾消さないでくださいよね?

 

 で、なんか空気が変な感じになったのか、和気あいあいと言った雰囲気になった。

 

「おお~! これが最後のエクスカリバーなんですね! 強そう!!」

 

「はい。ヴァーリが得た独自の情報とペンドラゴン家の伝承を照らし合わせて、見つけ出しました」

 

「貴方可愛いわね。テロリストにするのがもったいないわ。ペトと一緒に可愛がってあげようかしら…‥?」

 

「え? あ、あの、目つきがいやらしいです!!」

 

 と、イリナがアーサーと聖剣談義をぶちかまし、姐さんはなんか自棄になったのかルフェイに粉かけてる。

 

 と、いつの間にかアーシアはヴァーリに助けてもらった恩を言って、黒歌がイッセーにモーションをかけて小猫ちゃんに止められてるな。

 

 一応木場とゼノヴィアは警戒してるが、なんかバトル空気でもねえな。あとギャスパーはすでに段ボール箱に入ってる。

 

 で、お嬢と美候はいつの間にか下のトレーニングルームでバトり始めている。魔王の妹と仏の末裔の激突とか、すごい貴重な戦いだ。激突の理由がアホすぎるけど。

 

 さて、シトリー眷属はシトリー眷属で今後の会議を始めてるし、俺はどうしたもんかねぇ。

 

「む~。ボクだけ暇だよ~!」

 

 と、そこで小犬がぶーたれていた。

 

 ちょうどいい。こいつとも親交を深めるか。

 

「よぅ、小犬……だっけか?」

 

「うん! ヒロイだっけ? よろしくね♪」

 

 と、元気よく答えられるとちょっとうれしい。

 

「だけど大丈夫か? ソウメンとかいうクソが材料になってるアレは……」

 

 俺はちょっと不安だ。

 

 なんたって、壊れてるから平気とか言っていたはずのペトがあの調子だからな。不安にもなる。

 

 ぶっちゃけ、この作戦から外れたとしても誰も文句は言わないと思うんだけどよ。

 

「え? 大丈夫大丈夫。お爺ちゃんの護衛はちゃんとやるよ?」

 

 と、小犬は平然と返す。

 

 さっきもそうだが、なんでこいつはそんなに平気なんだ?

 

 親を目の前で殺されて、自分のものすごくひどい目にあったはずだ。ペトはそういっていた。

 

 なのに、そいつが形を変えて自分達と戦うってのに平然としている。トラウマの一つぐらい刻まれてたっておかしくねえはずなのに。

 

 小犬は俺のその言葉に、にこりと笑った

 

「……二年ぐらい、ずっと病院で治療うけてたもん。大丈夫だって言われたし、大丈夫になったよ」

 

 二年……か。

 

 そのあいだ、いろいろ取りこぼした物は多かったんだろうな。

 

 だけど、それを乗り越えたってわけか。すげえよ、こいつは。

 

「それにバラキエルたちに助けられたもんね! だから、元気にならないとお母さんにもお父さんにも怒られちゃうからさ?」

 

 ああ、そうだな。

 

 俺は親がいないからうらやましいぜ。そう言う風には頑張れねえ。

 

 ああ、ホントにすごい奴だ。

 

「そんなすごい奴を助けたんだから、姐さんはホントにすごい人だな」

 

 俺は話を切り替えることにする。

 

 いや実際姐さんはすげえ奴だと思う。こんな頑張ってるやつを助け出したんだからな。

 

 俺はともかくペトもすごい狙撃の名手だし、すごい奴ばっかり助けてる気がするぜ。

 

 それに比べて俺なんか、良く上げて落とすからなぁ。自信なくすぜ。

 

 だけど、小犬はなぜか微妙な表情を浮かべた。

 

「それ、どうかな?」

 

 ん?

 

 なんだ?

 

 そういや、小犬は姐さんに挨拶されたときも、そっけない対応だった。

 

 もしかして、姐さんのこと苦手なのか?

 

 そうおれが思ってると、小犬はさらに続けた。

 

「リセスさん、自分を助けたいんだと思うよ?」

 

 ………その言葉は、やけに俺の心に届いた。

 




本日の教訓。何かあった先ず病院に。

割といちいち覚えてられないぐらいにリセスにゆがみについてはちっちゃい伏線を張ってきたりしてますが、ここで小犬が直感的に指摘。

実際、リセスの来歴を知ったら「コイツ人助けしてる余裕ねえだろ」とか言われてもおかしくないんですよねぇ。ペトのあたりのフォローが足りてない……というより壊れている部分を隠す演技指導など変な方向に行っているのですが、そのあたりが原因。


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第三章 10

対ロキ会議、スタート


 それから数日後、俺達は作戦会議の場所に集まっていた。

 

 アザゼル達によるミドガルズオルムとの接触は成功。フェンリルとロキ対策が何とかなったとのことだ。

 

 なんでもダークエルフやドワーフの力を借りる事で対策が出来たとの事。すっげえ共同作戦もあったもんだ。

 

 で、今からそれが説明される。

 

「よっし、集まったなお前ら! これから、北欧神話勢と日本神話勢及び日本政府との会談を妨害する、ロキと捧腹に対抗する方法を説明する」

 

 ホワイトボードを背に、アザゼルは今回の作戦の概要を説明する。

 

 ヴァーリチームが面白そうに、そして俺達が真剣に見つめる中、アザゼルはまず一つのハンマーを取り出した。

 

「ロキの対する切り札はこれだ。北欧の闘神トールが保有するミョルニルのレプリカだ」

 

 おお、あれがミョルニルか。

 

 レプリカはロキも作っていたが、こっちも凄い感じがするな。

 

 一見するとただの豪華な金槌だが、しかしイッセーが魔力を流すと一気にサイズを変える。

 

 単純な性能ならムジョルニアを超えるとの事だ。ただし、再現されすぎていて使える奴も限られている。使う奴が肝だな。

 

「まず、ロキの相手はミョルニルを装備したイッセーを中心に、ヒロイとヴァーリで行う。基本はヴァーリとヒロイの攻撃で追い詰め、イッセーがミョルニルでとどめだ」

 

「了解です!!」

 

 元気良くイッセーが頷く。

 

 ああ、こういう時素直なイッセーは士気を上げてくれるぜ。

 

 反面、ヴァーリは少し残念そうだった。

 

「できればフェンリルと戦いたかったんだがな。まあ仕方あるまい」

 

 はいはい。お前ら敵対勢力なんだから、見逃してるだけでありがたく思えってんだ。

 

「で、フェンリルに関してはタンニーンとヴァーリチームが前衛につき、今回の為にダークエルフが強化したグレイプニルで封じる。突破されたときはタンニーンを中心に叩きのめす」

 

「……ヴィクターと組む事になるとはな。妙な動きをするなら即座に噛み砕くから覚悟しておけ」

 

 ミニドラゴンに変化したタンニーンさんがそう凄みを見せるが、ヴァーリチームはその大半が不敵な表情を浮かべていた。

 

 こいつら、こっちが状況悪いからって挑発的な目をするな。

 

「駄目ですよ、皆さん。ここは仲良くしませんと」

 

 と、ルフェイがたしなめている。

 

 さて、とりあえずロキ対策はこれでいいとして、次は捧腹とソウメンスクナか。

 

「ソウメンスクナはリセスに任せる。オリジナルのソウメンをぶちのめしたお前がキョジンキラーを使えば、勝ち目は十分にある。そして足止めに徹してくれても構わねえよ」

 

「あら、強者(英雄)に失礼ね。直ぐ始末しろと言ってもいいのよ? こちらもする気だし」

 

 姐さんすげえやる気だ。もう殺る気と書くぐらいだ。

 

 だが、アザゼルはそれに対して首を振った。

 

「いや、あれは捧腹が半分ほど制御しているから、奴をどうにかしてからの方が楽だろう。捧腹に関してはグレモリー眷属とイリナが受け持ってくれ」

 

「分かったわ。彼は滅してもいいのかしら?」

 

 お嬢がそう聞くと、アザゼル先生はうなづいた。

 

「ああ。奴は今回の件で京都が切れてる。ぶち殺してくれて構わねえってお達しだ」

 

 あらら。相当暴走したみたいだな、おい。

 

「ロスヴァイセとバラキエルは北欧式魔法と雷光で臨機応変にサポート。俺も行きたいところだが、会談の方に行かなきゃならねえんでな。……で」

 

 そして、アザゼル先生はペトの方を向いた。

 

「……ペトは小犬と一緒に総理官邸の護衛だ。シトリー眷属もそっちに付く事になる」

 

「!? なんでっすか!?」

 

 ペトは食って掛かるが、しかし誰もそれに続かない。

 

 ヴァーリチームが面白がって突っつくこともしない。そんな気分になれないって方が近いだろう。

 

 それぐらい、ペトの調子は未だに悪かった。

 

 それをちゃんと分かってるから、俺達は何も言わない。

 

 それに気づいて、ペトは落ち込むと座り直す。

 

「ペト。今のお前は自覚はあるだろうが絶不調だ。そんな奴をロキ達との戦いに送り込んだら間違いなく足を引っ張る。そもそも、転移で同じ戦場に飛ばす予定だから、お前は本領を発揮できねえよ」

 

 その肩に手を置いてアザゼルは諭す。

 

 確かにそうだ。

 

 この戦いは、シトリー眷属達の協力の元、ロキとフェンリルを戦場となる採石場に転移させる事から始まる。

 

 だから、距離を取りにくいのが実情だ。距離を開けての狙撃戦に特化しているというかそれ位しか能がないペトではヤバイ。

 

 ……小犬も下げたのは配慮なんだろうな。それと、万が一の護衛役が必須だと判断したのか。

 

「あと、会談場所の総理官邸では護衛として自衛隊も展開する。まあ、国民に対する一応の言い訳ってやつだ。目くらまし程度にはなるだろうよ」

 

 なるほどな。日本政府も大変だな。

 

 神と魔獣が相手じゃ、戦車だって役に立たないだろうに。それでも動きましたって形を見せないと国民からツッコミが出かねねえ。

 

 実に面倒だ。総理大臣にも同情するぜ。

 

 と、そこまで聞いて俺はふと気になった。

 

「すんません。そういや匙の姿が見えねえんすけど?」

 

 匙は一体どこに消えたんだ?

 

 なんだかんだでヴァーリを撃破したジョーカーだ。シトリー眷属の切り札にすらなりえるアイツが、なんでいねえんだよ。

 

「ああ、あいつは今グリゴリの施設で強化改造……もとい特訓中だ」

 

 誤魔化してるつもりか、オイ。

 

 な、何で強化改造!? あいつそこまで重要視されてんのかよ!?

 

「ヴィクターからの亡命者のおかげで技術流出もあってな。アイツなら神器複合移植者になれるはずだ……たぶん」

 

「それモルモットだろぉ!?」

 

 ああ、匙、頑張れ。

 

 生きて帰ってきたら、お前の弟妹もまとめて回らねえ寿司をおごってやる。金はあるから安心しろや。

 

 っていうか万が一の時は俺が何とかしよう。実は報酬のいくらかは日本の児童保護施設にも送ってるんだ。何とかねじ込めるだろ。

 

 アーメン!!

 

「ロキ戦については以上だ。それまでは各員英気を養え。んじゃ、解散!!」

 

 その言葉とともに、一旦会談は解散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなんで暇して家をうろついていたら、ヴァーリに出くわした。

 

「……何してんだ、ヴァーリ?」

 

「北欧の術式を調べていた。これでロキと戦う時にはそこそこ動けると思っている」

 

 なるほどマジか。俺はそっちの辺りからっきしだからな。

 

 なにせ教会では物議かもしてたからな。開き直って使ってた連中もいるけど、俺の場合使っているとさすがに限界超えたお偉いさんに追放されそうだったからよ。

 

 しっかし魔法かぁ。最近ゲームやってるから、少し興味はあるな。

 

 魔法剣士ならぬ魔法槍使い! なんか英雄っぽくてかっこいい響きがするぜ!

 

 ……いや、ただでさえ電磁王で手数が増えすぎて正直そっちの研究で忙しいんだ。これ以上手数を増やすのはいったん終了だな。

 

「しっかし、手数増やすならなんか頼めばよかったんじゃねえか? このタイミングなら新武装の一つぐらい貰えただろ?」

 

 俺はそういって茶化すが、ヴァーリは首を横に振る。

 

「リムヴァンからも誘いがあったが断った。俺は強い武装ではなく、俺自身の力を高めて強くなりたいんでね」

 

 なるほど。俺の英雄道と似たようなもんか。そういうのはちょっとはわかるぜ。

 

 しっかし、それで何とかなるんだからこいつはバケモンだ。マジ最強というか天才というか、とにかく才能がバカげている。

 

 そういう意味じゃあ俺もそこそこあるんだろうがな。なにせ、実験段階で神器に三つも適合したんだ。それも一つは神滅具。

 

 だが、同時に俺には才能がなかった。なにせ、生まれ持っている神器や異能の類は全くない。

 

 才能がないのかあるのかわからねえな。

 

 そういう意味じゃあ、俺はサイラオーグ・バアルと近いのかもな。野郎も魔力の才能は欠片もねえそうだが、体術の才能は間違いなくあるだろうからよ。

 

 そして、才能に満ち溢れてんのがこいつか。

 

「……お前さんは良いよなぁ。親父は魔王でお袋の血から神滅具か。親御さんも鼻たかだかだろうな、オイ」

 

 俺はそう嫌味を言うが、その瞬間、ヴァーリは動きを止めた。

 

 ……なんかすごい空気が固まってる。どういうこった?

 

「ヒロイ・カッシウス。君の親はどんな人なんだ?」

 

 と、なんか微妙に歯切れ悪くそんな質問が来やがった。

 

 この野郎。今度は俺を挑発する為に俺の両親に危害加えようとかそういう腹か。そこまで強い奴と本気でバトりたいか。

 

 だが残念だったな。その戦法は俺には通用しねえ。

 

「捨て子の浮浪児だよ、俺は。お前さんとは違って豪遊の経験なんてつい最近だ」

 

「そうか。俺も経験があるからわかるが、浮浪児は大変なものだ」

 

 そうかい、嫌味……あれ?

 

「お前が浮浪児? 何の冗談だ」

 

「冗談ではない。俺は家から逃げ出して浮浪児をしていたことがある。6、7年ほど前にシェムハザにつかまってグリゴリに送られた」

 

 は、はあ?

 

 あのプライドの塊で新魔王を敵視している旧魔王派の生まれのこいつが、家を逃げ出したぁ?

 

 なんでまたそんなことを。

 

「自慢の息子と愛でられてたろうに、なんでそんな真似を」

 

「自慢を通り超して恐怖だったのさ。あの男にとってはな」

 

 そういうと、ヴァーリは遠い目をした。

 

「奴は、俺に暴力を振るっている時しか安心していなかった。それほどまでに俺の才能が怖くてたまらなかったんだろう。忌々しい事に実の父親に続いて息子も化け物だったからな」

 

 な、なんかわからんが、こいつも色々あるんだな。

 

 しかしそれって虐待かよ。何考えてんだ、こいつの親父は。

 

 新魔王に対する切り札になりかねないチートの極み。魔王の血筋と神殺しのコンボ。それを利用すれば、真四大魔王に対するカウンターにだってなるだろうに。

 

 いや、教会の連中に対する交渉材料にも使えるはずだ。堕天使側だって、神器研究に熱心なんだからやりようによっては交渉できただろうに。

 

 ほんと、旧魔王派ってバカばっかりなんだな。カテレアも割と嫉妬心の塊だったけど、あいつサーゼクス様のこと「良い魔王」って言えるだけましだったわ。現実見えてたわ。

 

「母は神器も持たない只の人間だったからな。俺を庇って殴られる姿を見るのは、忍びなかった」

 

 そう告げるヴァーリの横顔は、なんというか寂しかった。

 

 ……現在、過去、未来。そのすべてにおいて最強の白龍皇となるだろうとまで称された男。ルシファーの末裔、ヴァーリ・ルシファー。

 

 あらゆるものをもって生まれたような男は、だけど家族にだけは恵まれなかったって事か。

 

 今になってふと気づく。

 

 あの時、ヴァーリはイッセーのことを普通の男子高校生といった。

 

 そして、イッセーの両親をありきたりだといった。だからありきたりじゃなくする為に殺そうとも。

 

 だけど、こいつもしかして―

 

「ヴァーリ。お前……イッセーに嫉妬してるのか?」

 

「何だと?」

 

 ヴァーリが心外そうに見るが、おれにはそう思えてならねえ。

 

 だってそうだろ。

 

「自分は特別すぎる存在で、イッセーは平凡すぎる生まれ。なのに、そんな完全な下位互換が親の愛情だけはきちんともらっている。……俺はうらやましいぜ? 親の顔も知らねえし」

 

 ぶっちゃけそこは恵まれてるって思ってる。

 

 あんだけ問題行動ぶちかましておいて、なんだかんだで普通に愛してくれてるんだ。愛想を尽かしたりもしてねえ。

 

 それだけでも、イッセーはかなり恵まれてる。

 

 強くなる何もかもを持つ特別な存在ながら、家族の愛だけは持てなかった男。強くなる要素が少なすぎる平凡な存在なのに、平凡以上の家族愛を持っている男。

 

 ……隣の芝生は青く見えるって、この国じゃ言うんだっけか?

 

「お前、平凡って言葉をうらやんでるだろ。特にこの国の平凡は、水準高いからよ」

 

「………っ」

 

 ヴァーリは言葉に詰まった。

 

 完璧に図星……っていうか、そもそも自覚してないことを突かれてはっとなったって顔だ。

 

 なんか、一気に旧魔王派との共通点見つけちまったぜ。

 

 こいつも、劣等感というか嫉妬で暴走する事があるんだなぁ。

 

「お前、腹を割って話したらカテレアあたりとは気が合うんじゃねえか?」

 

「……心外だな」

 

 ヴァーリはそう言って本に没頭しようとするが、上下さかさまになってやがる。

 

 おお、そう思うとなんか一気に怒りというか敵意が消えたぜ。

 

 ようは餓鬼の癇癪だからな。小学生が好きな女の子に悪戯するあれに近いか?

 

 ふっふっふ。これは良い精神攻撃のネタが手に入ったぜ。今度激戦するときがあったら、思いっきりつついてやる!!

 

 俺はそう思うと、持ってきたカップラーメンを取り出してお湯を注ぐ。

 

 さて、夜食でも食うか。

 

「……ほ、ほぅ。それは秋限定の日本でしか売られていないカップ麺だな。俺も気に入っている」

 

 なんでそんなもん知ってんの? お前、日本在住が基本だとか?

 

 っていうか動揺してるな。思ったよりやばいとこつついたか、コレ?

 

「お前、日本歴長いのか?」

 

「割と長いな。四年ほど前はサタナエルが暴走した件で割と楽しく過ごせていたよ」

 

 そうかい。そういやグリゴリと五代宗家がその時揉めてたとか聞いたことがあるようなないような。

 

「カップ麺は良い。手軽に腹を満たすという点では、これほど優れた物はないからな」

 

「ああ、日本が発明したんだってな。流石技術大国ニッポン」

 

 俺はそういうと、お代わりの為に持ち出したカップ麺を取り出して渡す。

 

「喰うといい。俺は金持ってるからいくらでも買える」

 

「そうか、いただこう」

 

 そして、俺達はカップ麺をすすった。

 

 うん、ホント美味いわこれ。

 

「……麺類も、こんなに美味い物なんだな。だが、やはり薄めの塩と胡椒のスパゲッティが一番だ」

 

 と、ヴァーリは独りごとをつぶやいた。

 

「あの男の元で育てられている時は、あれだけが楽しみだった。彼女はこんなものしか作れないことを詫びていたが、俺にとってはご馳走だ」

 

 ……その女が、きっとヴァーリの母親なんだろうな。

 

 ふん。俺にはお前もうらやましいぜ。

 

 片親だけでも、そんなに愛してくれてるんだからよ。

 



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第三章 11

ヴァーリとの会話、まだ続きます


 

 俺らがそうやってカップ麺をすすっていると、寝間着姿のイッセーが入ってきた。

 

「なんかいい匂いしてんな。俺の分ない?」

 

「あ、悪い、これは品切れだ。汁ならやるが?」

 

「男の食いかけなんて誰が食うかよ」

 

 だよなぁ。

 

 そんな軽口をたたき合いながら、イッセーはソファーに座る。

 

 そして、ふぅ……と息をついた。

 

「……朱乃さんに夜這いされた」

 

 ……俺は勢いよくカップ麺の汁を吹き出すところだった。

 

 つ、ついに夜這いと来ましたかあの人。業を煮やしすぎっつーか。不倫狙いなら童貞食うのはどうよ?

 

「そ、そうか。まあ死線だしな」

 

 思い残すことがないように、覚悟決めるってわけか。

 

 俺も童貞捨てりゃぁ良かったかねえ。強引にでもあのヤ〇部屋にダイビングして。

 

「童貞卒業おめでとう」

 

「いや、しのいだからね!? してないからね!?」

 

 と、おれが褒めたらイッセーはぶんぶんと首をふった。

 

 お、お前正気か!?

 

「死んでもおかしくねえんだし、そこは童貞捨てとけよ。無念はねえほうが人生の終焉は満足いくぜ?」

 

「いやだよ。あんな形で寝たら、傷つくのは朱乃さんの方だろ」

 

 そういうもんか。俺としちゃあ、朱乃さんはむしろ奮起しそうだけどよ。

 

 いや、逆に心残りがなくなって死にやすくなるのか? う~む。難しい。

 

「よくわからないが、バラキエルの娘も俺ほどではないが優れた存在だ。ここで死なれては困るから、そのあたりはしっかりしてほしいな」

 

 ヴァーリ。お前本当に戦闘のことしか頭にねえのか。

 

 イッセーもあきれたのか、どっかりとソファーに座り込んだ。

 

 そして、窓を外を見ながら、ぽつんとつぶやいた。

 

「……まさか、神様と戦うことになるなんて思わなかったよ」

 

 まあ、イッセーは平和に暮らしたい派だからなぁ。

 

 レーティングゲームで活躍して、上級悪魔になりてえとは思ってるようだが、それも悪魔とのゲームだったわけだし。

 

 それがコカビエルと揉めたことが原因で三大勢力で和平成立。そしてそのタイミングを見計らったかの如く世界大戦勃発。とどめに今回のロキとの一戦ときたもんだ。

 

 新米転生悪魔がやるような戦いじゃねえわな。いくらイッセーが赤龍帝だって、そんなの嫌だろ。

 

「まあ、世界にはいい神も悪い神も存在するものだ。

こと、ある神話では善神とされていたものが異なる神話では悪神とされていることなど珍しくもない」

 

 ヴァーリがそんなことを言った。

 

 確かになぁ。そう言うの探せばよくある話だしよ。

 

 だが、イッセーはよくわかんねえのか首をひねる。

 

「何で平和にやってく邪魔すんのかね? おれは悪魔だけど、部長たちと楽しく過ごせればそれで十分なのに」

 

「ま、教会は神の名のもとに他の神話体系迫害しまくりだからな。千年以上後に生まれた俺らに言われても困るけどよ」

 

 いやマジで困る。そんなの当事者に言ってくれよ。

 

 まあ、当時から現役の神からしたら、現在進行形の恨みなんだろうけどよ?

 

 アースガルズだって、ラグナロク対策の名目で起こさなくていい戦争をマッチメイクしたりしたじゃねえか。そこまで偉そうに言えた義理かよ。

 

 損害賠償とか請求することもできんだろうし、なんでわざわざこっちが下手に出てるのにバトろうとするのかねぇ?

 

 俺たちの疑問に気づいたのか、ヴァーリは苦笑を浮かべた。

 

「君たちにとっての平和が、苦痛にしか感じないものもいるということだ」

 

「それ、すっごく悲しいことじゃねえか?」

 

 ま、イッセーの言う通りだよな。

 

 分かり合えない連中がいて、そのせいで争いが起きる。

 

 英雄を目指す身としては好都合なんだろうが、戦争なんて御免ってやつには、迷惑以外の何物でもねえ。

 

 ほんと、英雄ってのは因果な存在だぜ。

 

 一人殺せば殺人鬼だが、百人殺せば英雄とはよく言ったもんだ。

 

「しかも、そういうやつに限って強い奴ばかりだしよぉ。マジで勘弁してほしいぜ」

 

 うっへぇとイッセーがいやな顔をするが、ヴァーリの方はむしろ楽しそうだった。

 

「俺としては好都合だ。平和を望む気持ちを否定する気はないが、俺としては退屈でね。個人的には今回の一件は実に楽しみだよ」

 

 ……やっぱコイツは戦闘狂だ。この辺に関しては天然だ。

 

 俺は戦果は上げたいが、戦争が好きなわけじゃ断じてないからな。やっぱそりが合わねえ。

 

 イッセーはむしろ、その辺はどうでもいいや的な感じっぽかった。

 

「上級悪魔になって、最高のハーレムを作れればそれでいいや。最強の兵士(ポーン)にはなりたいけどな」

 

「君はそれでいい。神器は想いに応えるものだからね。そうであってこそ君は強くなれるさ」

 

「なら俺は真剣に英雄目指し続けるか。その方が強くなれそうだ」

 

 ああ。神器は想いに応えるんだから、真剣な思いの方が都合がいいよな。

 

 と、イッセーは何かに気づいたのか、ヴァーリを見据えた。

 

「あ、あと一つあったぜ。―お前を超えたい」

 

 その言葉に、ヴァーリはものすごくうれしそうな顔をした。

 

「それは実に楽しみだ。一時は君に失望していたが、しかし今の君は可能性の宝庫だ」

 

『同感だな。今までの二天龍は、誰もかれも元ある機能を高めて覇龍を使えるようになることばかりを考えていた』

 

 アルビオンがのっかり、ドライグもまた姿を現して嬉しそうにする。

 

『ああ。女の服を破壊する技なんて開発したのは相棒ぐらいだ。それに、俺とこんなに話してくれるのもな』

 

『それに関しては同感だ。我らをここまで友のように扱う二天龍の宿主は、間違いなく今代の者たちだけだからな』

 

 そうか。これまでの歴代二天龍は、二人と仲良くなろうとはしなかったと。

 

 それはつまんねえなぁ。俺の聖槍はそういうの見せてくれねえし。

 

「マジか? でも、俺はドライグが使い方教えてくれないとなかなかうまく使えねえしさ」

 

『それがよかったのだろう。これまでの歴代は力に溺れる者がほとんどだから、ヴァーリやお前のようにさらなる研鑽を積むものは少なかった』

 

 そうアルビオンがいい、ヴァーリもうれしそうにする。

 

「だからこそ、君は想定外の方向に強くなるのだろう。確かに現段階では最弱かもしれないが、反面最も二天龍の力を調べようとする赤龍帝だ」

 

 その誉め言葉に、イッセーは何やらわからない感じの顔をする。

 

 いや、確かにそれはすごいぜ?

 

「ま、俺の禁手みたいに、自分の力で何ができるのか真剣に考えないと真価発揮できない能力は多いしな」

 

『そういう意味ではお前もドライグの宿主と同じぐらいやりづらい。その手の手合いはなかなか隙を見せてくれないのでね』

 

『ああ。話していて楽しいし、俺たちの新たな可能性を見つけ出そうとしてくれる。これまでにないいい相棒を俺は得たもんだ』

 

 アルビオンもドライグも、かなりべた褒めだ。俺も褒められたが。

 

 そして、おれはふと気になった。

 

 和平会談の時に現れた曹操。

 

 奴もまた英雄になることにこだわってたが、あいつはどんな感じに強くなるんだろうか。

 

 奴もまた神器を複数移植している手合いだ。俺と同じように前例のない存在っつってもいいからな。

 

 ……俺は、あいつには負けたくねえ。

 

 英雄として、あいつには……負けたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うんうん。いいものを見させてもらったわい」

 

 と、いつの間にやらオーディン神がなんか感慨深く現れた。

 

 前触れってもんを見せてくれませんかねぇ? 正直心臓に悪いぜ。

 

「今代の赤白は個性的じゃ。昔はみんなただの暴れん坊で、各地で勝手に赤白対決をやっては死んでもうた。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)も好き勝手に使うから、いくつもの山や島が消えてしまったしの」

 

「……迷惑すぎるだろ、歴代二天龍」

 

 大義も何もあったもんじゃないな。

 

 そういう意味じゃあ。ちゃんとした戦争ぶちかましてる今代の方がまだましだな。

 

 まさか、ヴァーリの暴走っぷりがましだと思わせられるとは。恐るべし、歴代二天龍。

 

「……ところで白龍皇? お主は何処が好きじゃ」

 

 ものすごいいやらしい視線で、オーディン神が質問してきやがった。

 

 ああ、イッセーの乳に相当するフェチ属性聞いてやがるな? この変態主神は本当にいやらしいぜ。

 

 しかしヴァーリは答えない。っていうか、質問の意図がわかってねえ気がする。

 

「何処が好きとは?」

 

「女の好みの体に決まっとるじゃろう。赤のほうの乳みたいに、好きな場所をきいとるんじゃよ」

 

「心外だ。俺はおっぱいドラゴンとは違う」

 

 心の底から言いやがった。

 

 まあ、女の乳をつついて禁手に至るトンデモ野郎と同類の変態扱いは誰だっていやだろ。俺だっていやだ。

 

 っていうか、イッセーのそれはギネス記録のレベルだから比較対象がねえだろ。

 

「そういうな。お主も男なんじゃから何かあるじゃろ?」

 

「そういうのに関心はないな。まあ、しいて言うなら臀部か? そのあたりが女性らしさを見せると聞くが―」

 

「―ケツ龍皇か」

 

 ゴロがいいのが腹立つ。

 

 そしてツボにはまりそうだ。わ、笑いが出てくるのを我慢しなければ!!

 

『オーディン貴様ぁああああ!!! 俺と赤いのと同じところに突き落とす気かぁあああ!!!』

 

『白いのぉおおおお!! それはどういう意味だぁ!?』

 

 二天龍の口論が勃発したよ。

 

 しかも二人とも、速攻で涙声だ。

 

『生涯のライバルがテレビでおっぱいドラゴンなどと呼ばれている私のふがいなさがわかるか!?』

 

『泣きたいのは俺だ!! 毎度毎度相棒の乳覚醒には正直こころがいたいんだよぉ!!』

 

 泣くなお前ら。散々好き勝手に暴れたツケが来たと思え。

 

 ……それにしたってなんかねえのかとは思うけどな!!

 

「ほほう。これはかわいそうなドラゴンでお伽噺でも作れそうじゃ」

 

「やめて爺さん!! 今こいつらすごく繊細な時期なの!!」

 

 イッセーが絶叫してオーディン神を止めるけど、元凶お前だからな?

 

『うぅ……。情けない、情けないぞ赤いの……』

 

「泣くなアルビオン。おっぱいドラゴンを見てる時もいつもそうだが、俺なら相談に乗る」

 

「そもそも見るのやめろ」

 

 俺は渾身のツッコミをヴァーリに叩き込んだ。

 

 なんで子供向け番組見てんだお前は。

 

 暇か? こいつら暇なのか? 仕事しろよ戦争中だぞ!!

 

「ところで聖槍使い。お主は何処がいいんじゃ?」

 

 俺までとばっちりだよ!!

 

 おい、なんでヴァーリ迄興味深そうに視線を向けてきやがる。イッセーのガン見は想定内だから気にするな。

 

 ってか、おれの体の好みって言われてもな。

 

「スタイルのバランスが取れてりゃなんでもいい。女の乳に貴賤はねえ!!」

 

「……平凡すぎてつまらん」

 

 このジジイ……っ!

 

 ロキの前にお前を聖槍の錆にしてやろうか。

 

「ま、何にせよ若いっちゅうのはええもんじゃ」

 

 そういうと、オーディン神はため息をついた。

 

「儂らはずっと、年寄りの知恵こそが何でも解決すると思っとったが、若さこそ力なんじゃろうなぁ。その傲慢が、ロキのような阿呆を生んどると思うと落ち込むわい」

 

 ……まあ、確かに老害って言葉もあるしな。

 

 あのロキも、外見は若いけど何千年も生きてるだろうしよ。そう言う意味じゃあ、悪魔の上役と同じか。

 

 つっても、若いってのもいいことばかりじゃねえだろ。

 

「若いってのも未熟ってことだろ? それがいいことばかりってわけじゃねえだろ。気にしすぎだと思いますがねぇ」

 

 俺はそういってフォローする。

 

 ヴァーリはその辺気にしないのか、スルーの方向だ。

 

 でもお前、現在進行形で若さゆえの暴走してるからな?

 

 で、イッセーはどういうんだ。

 

「よくわかんないけどさ、そういう時は一歩ずつ前に進んでけばいいんじゃねえの?」

 

 ……イッセー。たぶんそれが大変だってよくわかってねえだろ。

 

 やってみるとわかるがマジ大変だぞ。姐さんがいなけりゃ無理だったぞ、俺は。

 

 だけどまあ、オーディン神が呆気にとられるのは十分だったな。

 

「そういうところがいいのじゃ。やはり若さはええのぉ」

 

 ったくだ。若いってのは怖いもの知らずでいいねぇ。

 

 ……いや、俺も同年代だしっかりしろ!!

 




ヒロイ「若さゆえの過ちwww」

ヴァーリ「黙れ」


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第三章 12

そして、オーディンとの対話は終わり……。


 そんなこんなで解散した。

 

 北欧の主神と二天龍の会話。ある意味すごい貴重だな、オイ。いや、俺も聖槍使いだけどよ。

 

 ま、そろそろ寝るとするか。

 

 俺はそう思って自分の部屋に行こうとすると、その前にペトが立っているのを見つける。

 

「何やってんだ、ペト?」

 

 お前が俺の部屋に来るなんて珍しい。

 

 ここの女達は殆どイッセー狙いだから、入ってくるのなんてイッセーぐらいだ。

 

 ペトは姐さんと一緒に行動してるからな。お互いの部屋に入る事の方が基本だし、そうでない時も女子会モードで他の女子の部屋だ。

 

 なんで、俺の部屋に入ろうとしてやがんだ?

 

「あ、ヒロイ。外に出てたんすか?」

 

「ちっとな。ヴァーリの奴のつつきどころを見つけれたぜ」

 

 家族ネタはいじりづらいが、ケツ龍皇は容赦なくつつこう。敵対勢力に遠慮は無用だ。

 

 アルビオンが不調になれば、こっちとしても得になるだろ。戦法レベルだが制御が乱れるかもしれねえしな。

 

 さて、そんな事より今はペトだ。

 

「……ペト。姐さんのところの方がよくねえか?」

 

「お姉様は、戦闘場所の下見に行ってるッス」

 

 ああ、あの採石場か。

 

 一応念の為に下見に行っておこうって腹か。なるほど、それは確かに有効だな。

 

 俺も連れてってもらえばよかったかねぇ。いや、そろそろ寝ないと明日に響くか。

 

 で、それはペトがここにいる理由とはまったく関係ないわな。

 

「ま、とりあえず中に入れよ」

 

「了解っス」

 

 俺はペトを中に入れると、とりあえず何か飲み物を用意しようとする。

 

 食うのは大好きだから、ミニ冷蔵庫とかを用意してんだ。普段はそれ食いながら勉強している。

 

 最近の研究はローレンツ力の研究だ。

 

 それにより、電磁投射砲(レールガン)の技術を学んでいる。地下の特訓場とかで、実際に創れないかどうか実験もしてる。

 

 電磁力操作能力を持つ俺の禁手は、つまり電機や磁力について詳しければ詳しいほど使いこなせる手数特化型だ。

 

 そのうえで金属製品を作れる魔剣創造を考慮すると、いつの間にやらその最大の利用方法は一つに絞られた。

 

 具体的には、レールガンだ。

 

 現在科学世界でも研究中の、超兵器。ローレンツ力で弾丸を超加速させる、砲撃装備だ。

 

 其の為の弾丸としてエペタングステンという魔剣は開発させた。更に電力操作の魔剣を利用して、砲身も開発した。その上でローレンツ力の再現で、発射する事も可能になった。

 

 結果として、ロキに負傷させる事も可能になった。これはいい必殺技だ。

 

 紫電の双手だと中距離が限界だったからな。これで砲撃戦ができるようになったのはでかい。

 

 オールレンジに対応できるってのは、それだけで強みだ。こと実弾砲は距離が近ければ近いほど威力が上がるし、中距離でなら必殺技としても運用できるだろ。

 

 おっと。話がそれた。

 

 で、とりあえずミネラルウォーターをペトに渡すが、ペトはそれに口をつけない。

 

「……ヒロイ。ペトは自分のことがちょっとわかってなかったっす」

 

 そう、ペトは俯きながら漏らす。

 

「ペトは、ペトが思ってるほど壊れてなかったっす……」

 

 それは良い事だろ。

 

 人の心が壊れてないって事は、良い事以外の何物でもねえ。悪い事と考える方がどうかしてるからな。

 

 だけど、それをペトは喜んでねえのはわかる。

 

「ペトは、その所為で肝心な時にお姉さまの役に立たないッス……」

 

 そう。ペトの心はペトが思うほど壊れてない。

 

 壊れてないから、ソウメンスクナが怖くて仕方がない。

 

 目の前で実の両親を殺して、さらには自分自身すら苦しめたソウメン。

 

 その体を使って作られた、ソウメンスクナ。

 

 あの時のペトは、完膚なきまでにトラウマを刺激されたそれだ。それは、普通の人間の反応だった。

 

 そして、その所為でペトはソウメン達と戦うには足手まといになり下がった。

 

 たぶんだけど、今まではただ感覚がマヒしてただけだったんだろうな。ショックで数年間、実感できなかっただけだ。

 

 それが、ソウメンと疑似的な再会をしたショックで強制的に叩き直された。

 

 だから、ロキとの戦いでペトは運用できない。

 

 実際問題ペトは戦力として換算できる状態じゃねえし、例え出来たとしても、誰も使いたくはないだろう。

 

「……お父さんと、お母さんはもう死んじゃったッス」

 

 ぽろぽろと、ペトは涙をこぼす。

 

 今心から、ペトは家族の死を悲しんでいた。

 

「怖くて、悲しいッス。それが、今は邪魔なのに。お姉さまの、役に立てないのに……っ!!」

 

 悲しみと怒りで震えながら、ペトは自分のふがいなさを悔やんでいる。

 

 グリゴリにおいて並ぶものがいない狙撃の名手。あのヴァーリチームを捕縛寸前にまで追い込んだ神域の射手。悪神ロキすら警戒した魔弾の使い手。

 

 それが、この大激戦の時に事実上の後方待機。

 

 ペトとしてはショック極まりねえんだろうな。姐さんの妹分としての責任が果たせねえと思ってんだろ。

 

 ……だけどさ。

 

「正直、俺はお前が羨ましいよ」

 

「…‥へ?」

 

 妙な事を言われて、ペトは涙を流すのも止まっちまった。

 

 まあ、そりゃそんなことをこんなタイミングで言われたら、訳も分からねえわな。

 

 だけど、実際そうなんだよなぁ。

 

「俺は、親が死んだのか生きてるのかもわからねえ。だから死んだといわれてもショックになれる自信がねえ」

 

 ま、捨てられたようなもんだからな。そんな事した親に感謝の気持ちとか親愛とか持てるわけがねえ。

 

 だから、親の死を悲しむ事がちゃんと出来たペトの事は羨ましい。

 

「きっと姐さんも少しはほっとしてるぜ? ペトがちゃんと親御さんの死にショック受けれた事はさ?」

 

「で、でもっす! 今は神と戦わなきゃならない時で―」

 

 ペトはそういい募るが、俺は切り札を抜いた。

 

「俺は、輝き(英雄)になる男、ヒロイ・カッシウス!!」

 

 その大声に、ペトは一瞬黙る。

 

 だが、それが俺のモットーだ。

 

 英雄とは、心を照らす輝きだ。それが俺の信じる英雄の姿で、姐さんの姿だ。

 

 あの絶望しかありえない状況。それを絶望とも思えない程暗く沈んだ世界にしかいなかった俺を、姐さんは照らしてくれた。輝く世界に連れ出してくれた。

 

 だから、俺もそれになる。必ず、心を照らせる輝きになる。

 

「だからお前も照らしてやるよ。……安心しな。お前が役に立てなくて姐さんに何かあるかもしれないって不安なら、俺がその分頑張る事で埋め合わせしてやるさ」

 

 仲間なんだしな。当然だ。

 

 俺達はペトの狙撃に何度も助けられた。おかげでだいぶ楽に戦う事だって出来た。

 

 だから、ペトが戦えない時ぐらい俺達がフォローする。当然のこった。

 

 それでもペトは不服そうだったから、俺は切り札を切る。

 

「五年前に、姐さんが悪魔祓いと共闘したって前に聞いただろ?」

 

 凄くこっぱずかしいし、姐さんには言いたくねえんだが仕方がねえ。

 

「あれで、俺は姐さんに助けられたんだ」

 

「え、ええええ!? お、お姉様そんなこと一言も言ってないっすよ!?」

 

 ペトは度肝抜かれた顔をするがまあ当然だな。

 

 そして、姐さんが言ってねえのも当然だ。

 

「気づいてねえんだろ。まさか助けなきゃいけねえ子どもが、教会の秘密兵器になるだなんて思いもしねえだろうしな」

 

 イドアル孤児院の出身だってのも気づいてねえだろうな。俺、英雄になると決意してから苗字変えてるしよ。

 

 あ、念のために念押ししとこう。

 

「あ、姐さんたちには言うなよ? それにかこつけて構ってもらおうとか思ってねえんだ」

 

 ああ、そういうことは英雄らしくねえしな。

 

 英雄たる者。構ってもらうのならばそういうの関係なしでやるべきだ。そっちの方が俺もうれしい。

 

 そして、だからペトは今戦えないのは気にしなくていいんだ。

 

「……お前と同じように俺も助けられた。だから、お前が戦えない分は俺がお前の分まで姐さんの力になってやる」

 

 そういって、俺はニカリと笑う。

 

 ああ、これで元気になれなんて言わねえよ。

 

 だけどな? それでも、最低でも少しは吹っ切ってほしいんだよなぁ。

 

「出来ねえ事を無理にする必要はねえ。出来ない現実は受け止めて、だったら何をすればいいか考えな」

 

 ああ、俺はそういうこと本気で考えてるぜ?

 

 夢を叶えるってのはそういうことだ。

 

 出来ない事を分からずに、無理にぶつかってるんじゃない。その結果壁をぶち壊してんじゃない

そんな事できるのはごく一握りだ。

 

 むしろ出来ない事は出来ないって分かってる。そのうえで出来る事をちゃんと考える。そして壁を乗り越える方法をきちんと考えて実行に移す。

 

 そういう意味じゃあ、俺の禁手は都合がいいな。

 

 汎用性が高いって事は、手数が多いって事だからな。どれか一つぐらいは、壁を乗り越える手段が用意できそうだ。

 

 だからさ、ペト。

 

 今戦えないっていうならそれは受け入れろ。

 

 そのうえで、出来る事を考えるんだ。

 

「……無理に頑張るな。俺達はお前の仲間なんだから、頼っていい時は頼ってくれや」

 

 俺はそう言ってニカリと笑うが、ペトはさらに泣き出した。

 

 あれぇえええええ!? 対応間違えたぁああああ!?

 

「わ、悪い!! なんか間違えた―」

 

「違うッスよ。……これは、嬉し泣きッス」

 

 そういうと、ペトは俺に近づいて―

 

―頬に唇が、触れた。

 

 ………え?

 

「ちょっと元気出たッス。ありがとうっすよ」

 

 そういうと、ペトはミネラルウォーターを一気飲み。そしてドアを開けて外に出る。

 

 そしてドアを閉める前に、ニコリとほほ笑んだ。

 

「ま、実は抱いてもらおうかとも思ったっすけど、気が楽になったんで今日は良いっす!」

 

 それだけ言うと、ドアを閉めた。

 

 ……童貞卒業のチャンスが!?

 

 いやいやいやいや。英雄としてこれはこれで良い事したんだから良いに決まってるぜ。そうだそうに決まってるぜ。そうだと思え、馬鹿。

 

 俺は、ちょっと悶々として眠れなかった。

 

 ……唇、柔らかかったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもって次の日の放課後。

 

 会談当日にも関わらず、俺達は駒王学園に登校していた。

 

 ここ数日はお嬢達の使い魔が代わりに授業受けてたけど、今回だけは特別に駒王学園に登校した。

 

 で、この放課後に何をやっているのかといえば―

 

「おっぱいメイド喫茶希望です!!」

 

「却下」

 

 イッセーの妄言を、お嬢が切って捨てた。

 

 今俺達がやってるのは、学園祭に何をするかという会議だ。

 

 なにせ、ロキ戦が終わったら結構間を置かずに修学旅行だからな。オカルト研究部の半分以上を占める俺ら二年生組は準備ができねえ。三年生の二大お姉さまと一年生コンビで動かすしかねえわけだ。

 

 そういうわけで、俺達は何を出しものにするかもう決めとかないといけないわけだ。

 

 何を出すのかさえ分かっていれば、四人だけでも最低限の準備はできるからな。

 

「部長!! 部長と朱乃さんの二大お姉さまのおっぱいがあれば、学園祭どころか駒王町の天下取れます!!」

 

「天下取る前に教師達に討ち取られるッス。全員退学もあるッス」

 

 ちょっと調子を取り戻したペトが、イッセーに辛辣なツッコミをぶちかます。

 

 うん。おっぱいメイド喫茶って、完璧に風俗店じゃねえか。

 

 高校生がすることじゃねえよ。いや、大学だってそんなこと堂々とやったら即座に罰受けるっての。

 

「イッセー君。その意見が通ったら、他の男子もお二人の胸を見る事になるんだよ?」

 

「そうだった!? それじゃあ、おっぱいお化け屋敷も無理か!!」

 

「……そんな馬鹿な事考えてたんですか」

 

 木場の指摘に愕然となるイッセーに小猫ちゃんが呆れ返る。

 

 阿保だ。アホすぎる。

 

「あの~。手堅く去年と一緒にするってのはどうですかい?」

 

「それもいやね」

 

 俺の意見に、お嬢が首を横に振った。

 

 いや、でも例年通りって定番だよな。少なくても、去年のノウハウが活かせるんだしよ?

 

 だが、お嬢は乗り気にならないみてぇだ。

 

「去年と同じというのも芸がないわ」

 

「そうですわね。それに、去年は生徒会から「やりすぎ」と苦言が呈されましたもの」

 

 と、これまた調子が少し戻った朱乃さんがそう指摘する。

 

「去年は何をしたのかしら?」

 

 と、ほぼオカルト研究部員のイリナが首を傾げた。

 

 確かに。ってか、やりすぎっていったい何したんですかい?

 

「去年はお化け屋敷だったんだけど、暇していた妖怪をスカウトして本格的なのをやっていたんだよ」

 

 木場、お前止めろよ。

 

 学園祭は生徒が主軸になってこそだろうよ。そこで外部の人をメインにしたらいかんだろうよ。

 

 ……え? そこじゃない?

 

「だったら、普通にオカルトの発表会をしたらどうでしょうか?」

 

 と、ギャスパーが冷静に考えると当たり前の意見を言ってくれた。

 

 確かに。ここオカルト研究部なんだもんな。そりゃ普通に考えてオカルト絡みでやるべきだろ。

 

 当たり前すぎて想定外だ。目から鱗だ。

 

 だけど……なぁ?

 

「それ、人集まらねえだろ」

 

「ッスよねぇ」

 

 俺とペトは顔を見合わせて頷き合った。

 

 なんか、昨夜の件で俺達に共通の意識が芽生え始めてるな。まあ、同類なのを理解しあったから当然か。

 

 とはいえ、それは今何の役にも立たねえわけだがな。

 

「……いっそ、オカルト研究部(うち)限定でミスコンとかやっちゃったり?」

 

 イッセーのその呟きが、女子全員の顔を見合わせる結果となる。

 

 人集まりそうだな、それ。

 

 なにせ、この学園を代表する二大お姉さまの三年生。一年生にも学園のマスコット小猫ちゃん。二年生に至っては信徒三人衆にペトがいる。

 

 ……すごく大盛況になりそうだ。しかも接戦になるぜ?

 

「「一番は私ね」」

 

 と、お嬢と朱乃さんがハモった。

 

 その瞬間始まる火花と口撃。

 

 ロキと戦う前に激戦が勃発しそうになったが、しかしふと夕日が差し込んだ。

 

 それを見て、俺達はしんとなる。

 

 北欧神話に伝わる、神々の黄昏、ラグナロク。

 

 まさに黄昏時だった。

 

 ……だが、そんなことは起こさせねえ。

 

「お前ら、気張るぞ」

 

 アザゼル先生がそう告げ、俺達は無言で頷いた。

 

 さて、やるかロキ!!

 




イッセーは、なんで学園祭で風俗店作ろうとしたんですかね……。


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第三章 13 ラグナロクの始まり

そして、黄昏は始まった。


 

 そして夜、総理官邸に俺たちは集まった。

 

 その屋上で、俺たちはロキを待ち受ける。

 

 空にはタンニーンさんも浮かんでいる。その姿はすでに衆目に知れ渡っていた。

 

 本来の予定なら、術によって認識を阻害して一般人の目には映さないように配慮する予定だった。

 

 だが、日本政府からの要請でそれは却下される。

 

 この機に、少しでも異形の存在に慣れさせるべき。それが、日本政府が下した決断だった。

 

「―時間ね」

 

 すでに会談は始まった。ロキも捧腹も確実に仕掛けてくるはずだ。

 

 さて何処からくる? 悪戯の神ともあろう神だ。少しぐらいひねっていてもいいだろう。

 

 もしかすると、周辺を警護している自衛隊の中に紛れ込んでいる可能性もある。不意打ちには注意しねえとな。

 

 そう思った瞬間、ヴァーリが愉快そうに笑って、空を見上げた。

 

「小細工なしとは恐れ入るね」

 

 総理官邸屋上の空間が歪み、大きな穴が広がった。

 

 その光景に、自衛隊の人たちからどよめきが広がる。

 

 そして、其れをBGMに、ロキとフェンリル、そして捧腹とソウメンスクナが姿を現した。

 

 真正面から来やがったか。思ったより豪胆な神経してやがるな。

 

「目標確認、術式を展開せよ」

 

 バラキエルさんが無線でそう伝え、屋上全体が転送魔方陣で包まれる。

 

 シトリー眷属総出で展開された転移術式。それでもロキが本気になれば破れるが―

 

「―面白い」

 

 ロキはそういうと、不敵に笑ってそれを受け入れる。

 

 そしてその瞬間、戦場として用意された採石場跡に転移した。

 

 イッセーもすでに鎧を形成。俺たちも全員戦闘態勢に移る。

 

「逃げないのね」

 

「その必要などない」

 

 お嬢の言葉に、ロキはそう返す。

 

 圧倒的な余裕を見せながら、ロキはそう告げる。

 

「抵抗があるのは想定済みだ。それに―」

 

 その瞬間、ソウメンスクナの姿が歪む。

 

 そしてそこに現れたのは、赤い炎に包まれる巨人の姿だった。

 

 その事実に、俺たちは度肝を抜かれた。

 

 お、おい、どういうことだ!?

 

「ソウメンスクナじゃない!? ロキ、これはどういうこと!?」

 

「策謀の神が真正面からくると思ったかね? ソウメンスクナはある程度は自立稼働も可能なのだよ」

 

 そう愉快そうに笑いながら、ロキは種明かしをする。

 

 そして捧腹もまた、俺たちをあざ笑った。

 

「和議に反対なのが我々だけとでも? すでに別動隊が総理官邸を強襲している。オーディンはソウメンスクナが滅ぼすだろうさ」

 

 ……なんだとぉ!?

 

 今回の敵は、ロキだけじゃなかったのかよ!?

 

 俺たちが度肝を抜かれる中、ロキも捧腹も俺たちを馬鹿にした笑みを浮かべる。

 

「アースガルズからはヴァルキリーと英雄(エインヘリヤル)。日本からの術者と妖怪。其の混成軍が今頃総理官邸を襲っているころだろう。シトリーの娘とあの狗神付きごときでどうにかできるとは思えんな」

 

「そして貴様らは我々が滅ぼす。各勢力の和議など結ぼうとする愚か者共が、滅びるがいい」

 

 その言葉とともに、炎に包まれた巨人が一歩前に出る。

 

 それを自慢げに見つめながら、ロキは声を張り上げた。

 

「魔王ルシファーの眷属に下ったスルト・セカンドの失敗を糧に調整した、簡易生産型のスルト・サードだ。龍王が相手でも戦えると自負している」

 

 す、スルト・サード!? そんなのまで用意してんのかよ!?

 

 さらにロキは指を鳴らすと、フェンリルが身を沈めてとびかかる体勢に入った。

 

 だが甘い!!

 

「させないにゃん♪」

 

 そう得意げに黒歌が指を鳴らすと、一気に改良型グレイプニルがフェンリルを拘束する。

 

 よし。どうやら強化は成功したみたいだな。

 

 だが、ロキの余裕は全く持って止まらない。

 

「なら、性能は堕ちるが追加するとしようか」

 

 さらに指を鳴らすと魔方陣が展開され、そこから一回り小さいフェンリルが二体現れた。

 

 ちぃ! スルト・サード以外にもあるとは思ってたが、さらに追加かよ!!

 

「行くがいい、スコルにハティよ。お前の父をとらえた愚か者共を食いちぎれ!! そして―」

 

 さらにロキの影が広がると、そこから大量の龍が現れる。

 

 多数現れた龍は十数メートル。だが、その数は十体を超える。

 

 そしてさらに、数百メートルを超える巨大な龍が、俺たちを見下ろしていた。

 

「あれは……ミドガルズオルムだと!?」

 

 タンニーンさんが目を見開き、それにロキは気分よさそうに嗤う。

 

「ミドガルズオルムの戦闘特化型仕様、ヨルムンガルド。それと量産型も多数用意させてもらった」

 

 あ、ヤバイ。これはヤバイ。

 

 数ならこっちが上だと思ったけど、そっちでも上回られてるじゃねえか!! これ、やばくね?

 

「ど、どうするんだ、姐さん……んん!?」

 

 俺は姐さんに振り向いて、そして気が付いた。

 

 あれ? 姐さんいない!?

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 リセスがそれに反応できたのは、偶然だった。

 

 ソウメンのことを死してなお憎悪すらしているリセスは、奴のことは鮮明に思い出すことができる。

 

 そして、ソウメンスクナとは一戦交えていたからぎりぎりで判別できた。

 

 ―あれは、ソウメンスクナではない。

 

 とっさに転移魔方陣から距離を取り、転移から逃れるという判断を取ることに成功した。

 

 むろん、これで予想が間違っていたら大目玉だ。処罰を受けてもかしくない。敵前逃亡まがいである以上当然だ。

 

 だが、どうやらその可能性はないようだ。

 

 ロキが消えた瞬間、総理官邸を包囲しながら大量の魔方陣が展開される。

 

 その数は百を超える。地上にも空中にも展開されたそれは、人影を吐き出した。

 

「……なるほどね。和議を阻止したいのはロキと捧腹だけじゃないってことかしら」

 

 そこから現れるのは、北欧風の恰好をした者と和風の恰好をした者。

 

 人間もいれば妖怪もおり、ヴァルキリーもいる。

 

 北欧と極東の混成軍。それが総理官邸を包囲して攻撃を仕掛けようとしている。

 

 そして、自分の目の前には巨大な鬼神が一体。

 

「……死んだくせに、私達の前に立ちふさがるのね、ソウメン」

 

 邪炎をまき散らすソウメンスクナに、リセスはため息をついた。

 

 ペトの両親を殺し、そしてペト自身も辱しめた外道。

 

 過去を思い出して念入りに殺しておいたのだが、まさか首だけにとどめていたのがこんな形で仇になるとは。

 

 その失態を心から反省し、リセスはキョジンキラーを呼び出した。

 

 ……今度こそ、遠慮なく殺し尽くす。

 

「あなただけじゃない以上、こっちも時間をかけるつもりはないのよ!!」

 

 その巨大魔人の激突と同時に、総理官邸の防衛戦もまた、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったようじゃのう」

 

 戦闘の振動に気づいて、オーディンはため息をついた。

 

 転移が失敗したのか、それともロキが策をめぐらせたのか。そのどちらかはわからない。

 

 だが、こうなった以上は会談を進めるほかないだろう。

 

 それを理解しているアザゼルは、会談を進行させるために立ち上がる。

 

「それじゃあ、会談を始める前に一つ聞いておこうか」

 

 そういって見据えるのは、日本政府からの代表者。

 

 そこにいたのは、外務大臣だった。

 

「大尽総理は何処に行った? この会談、ねじ込んできたのはお前らだろう?」

 

 不機嫌な表情をアザゼルが浮かべるのも無理はない。

 

 あれだけ豪快かつ強引に事を進めておいて、なぜ総理大臣が今回の会談に参加してないのか?

 

 まさかと思うが、怖気づいたという可能性が脳裏をよぎる。

 

 だとするならば話にならない。

 

 各勢力の和平を結ぶ会談にトップが出てこないというのも問題だ。

 

 だが、その外務大臣はにこやかな表情を浮かべる。

 

「各国との外交政策は私の仕事ですので。最初から総理はこの会談に出席する予定はございません」

 

「そうかよ。で? 大事な和平会談よりも重要な予定ってのは何なんだ?」

 

「それは決まっております」

 

 と、外務大臣はにやりと笑った。

 

「我々の希望通りにこの会談を襲撃してくださった、ロキ神にお礼をしたいとのことです」

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ロキ陣営。超強化。

これに関してはリムヴァンが原因ですね。いろいろ暴発などを練らんで突っついていたため、ロキ側も賛同者をこっそり集めやすかったのです。其のため規模がでかめ。








そして、日本政府の意味深な行動。この真の意味はラグナロク編終盤で明らかになります。


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第三章 14

 

 ね、姐さん! 勘付いて官邸の護衛に回ったってのか!!

 

 さっすが俺の輝き《英雄》!! いい仕事するぜ!!

 

「ソウメンの気配を察したか。流石は神滅具の担い手と言っておこう」

 

 そう言いながら、捧腹は俺に切りかかる。

 

 それを聖槍で防ぎながら、おれは捧腹をにらみつけた。

 

「てめえ! この状況下で和平妨害とか、ちょっと個人的感情に走りすぎなんじゃねえのか!?」

 

「何とでも言うがいい。そもそも、歪みの象徴たる三大勢力の和平などという愚行に走った貴様らに言われる筋合いはない」

 

 そうかい。だったら会話は平行線だな。

 

 ならこっちも、遠慮はしねえ!!

 

 俺は聖槍で十束剣を弾き飛ばすと、一気に魔剣のケリを叩き込む。

 

 そしてそのまま、磁力操作で強引にロキに突進した。

 

 捧腹を盾にロキに接近する。さあ、これをどうさばく!!

 

 だが、捧腹はそれに対してにやりと笑った。

 

「ロキ! 私ごと聖槍使いを滅ぼせ!!」

 

「言われずとも、我らはその程度の関係だ」

 

 その瞬間、ロキは躊躇することなく魔法攻撃を俺たちに叩き込んだ。

 

 そして捧腹が影になって、俺は攻撃を回避しきれなかった。

 

 うぉおおおお!? いくら俺が聖槍の加護で頑丈だからって、限度があるんだぞこの野郎!!

 

「てめえ正気か!?」

 

「そんなもの、あの子たちが死んだ時に投げ捨てたとも!!」

 

 鬼の頑丈さで強引に動きながら、捧腹は俺を羽交い絞めにする。

 

 この野郎。このまま俺もろとも死ぬ気か!?

 

「聖槍使いと引き換えなら、充分な成果だ。ソウメンスクナと別動隊で、十分にオーディンは屠れるだろう。……我が冥途の土産と成れ!!」

 

 んの野郎。そこまでの覚悟をもってしてここに来たってわけか。

 

 だが、おれを舐めるなよ!?

 

「目覚めろ、紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)

 

「愚かな。雷撃で私は倒せんよ」

 

 ふっ。甘いな。

 

 俺は勝つさ。鬼退治なんて日本の英雄の基本パターンだしな。

 

 その瞬間、捧腹の拘束は俺の読み通りに緩んだ。

 

 そして俺は拘束を振りほどき、聖槍を叩き込む。

 

 こいつの反応速度なら対応は簡単だ。かわすぐらいのことは十分にできるようなテレフォンパンチならぬテレフォンスティンガー。

 

 だが、捧腹の脇腹を聖槍が傷つける。

 

 よし、効いてるな。

 

「う、動きづらい!? ……きさま、何をした!!」

 

「誰が答えるか!!」

 

 ええい、本当なら俺はロキの担当だってのによぉ。

 

 捧腹の担当だったお嬢たちは、現れた量産型の相手で手一杯だ。いや、圧倒されてると言ってもいい。

 

 このままだと、確実に俺たちはやられる。

 

 いったいどうすれば……。

 

 その瞬間、量産型のミドガルズオルムに大量のエネルギー弾が直撃した。

 

 文字通り弾丸の嵐を受けて、量産型ミドガルズオルムが押されて倒れる。

 

 なんだ!?

 

「……あんたが噂の聖槍使いね」

 

 と、俺の隣に一人の女が立っていた。

 

 両手に禍々しいオーラの剣を持った、一人の女。

 

 そいつは、俺に視線を向けると剣を構える。

 

「アースガルズと組んでくれてありがとね。おかげでアース神族に堂々と殺し合いが挑めるわ」

 

 そういうと、その女はイッセーやヴァーリと超絶バトルを繰り広げるロキに剣の切っ先を突き付ける。

 

「悪神ロキ!! 我らが同胞の先祖のドヴェルグから、ミョルニルをはじめとする最高の一品をだまし取った報いを受ける時よ!! 覚悟しなさい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪だぁあああああ!!!

 

 ミョルニルのレプリカ、使えねぇえええええ!!!

 

 ヒロイが捧腹に仕掛けられて、しかもリアスたちが量産型のフェンリルやらミドガルズオルムやらスルトやらと戦ってる中、俺たちは一生懸命頑張った。

 

 そして、隙をついてミョルニルのレプリカをたたきつけたんだけど、雷が欠片も発生しない。

 

「フハハハハ!! レプリカを渡す相手を間違えたな、オーディンよ!!」

 

 ロキの奴は、高笑いして俺の持っているミョルニルのレプリカにムジョルニアを突き付ける。

 

「それは邪な心を持つものには使えんのだ。貴殿はおっぱいドラゴンなのだろう? それではミョルニルは答えんよ」

 

 マジか! 俺が邪念ありまくりだから無理なのか!!

 

 それなら納得するしかねえ。俺、スケベだもん!!

 

 夏休みの合宿じゃあ、頭の中を煩悩だけにしたこともあるからね! そりゃ無理だ。

 

 アザゼル先生、なんで俺にミョルニルを託したんですか!?

 

 そう思った瞬間、状況が大きく動いた。

 

 量産型のミドガルズオルム達に、攻撃がエネルギー弾がものすごい数浴びせられる。

 

 その方向を見れば、ドーインジャーが軽く数百体は現れていた。

 

「来たか」

 

 ヴァーリがそう言って、俺は思い出す。

 

 そういえば、ヴァーリの奴はヴィクター経済連合の派閥の一つが反アースガルズだって言っていた。

 

 そこそこ有力な組織で、ロキとの戦いでは増援も出すって。

 

 つまり、これはそいつらか!!

 

 俺がそう思っている間に、何やらすごいオーラをまとった装備を身に着けた戦士たちが、量産型のミドガルズオルムに突撃する。

 

 量産型のミドガルズオルムは火炎を吐くけど、盾を持った戦士たちがそれを防いだ。

 

 そして、斧を持った戦士たちが飛び掛かって切り刻んでいく!!

 

 つ、強い!

 

 動きも隙が無いし、そして早くて力強い。俺なんか鎧を纏ってなければ一瞬で倒されるんじゃねえか!?

 

 戦士たちも負傷するけど、すぐに立ち上がると傷も消えている。

 

 なんだあれ? 回復力を高める神器でも移植したのか!?

 

「悪神ロキ!! 我が同胞の先祖のドヴェルグから、ミョルニルをはじめとする最高の一品をだまし取った報いを受ける時よ!! 覚悟しなさい!!」

 

 と、その声が響いた。

 

 見ると、ヒロイをカバーする形で、美人のお姉さんが剣を突き付けている。

 

 両手に持ってる剣からは、禍々しいオーラが垂れ流されていた。

 

 な、なんかすっげえ怖い感じがする! もしかして、噂の魔剣ってやつなのか?

 

「魔剣ディルヴィングにダインスレイヴ。我ら北欧から流出し、忌々しき教会の手に渡った魔剣が巡り巡って我に牙をむくか」

 

 その魔剣の持ち主を鋭い視線で見つめて、ロキは苛立たしげな声を上げた。

 

「私はノイエラグナロクの戦士、ヒルト・ヘジン!! 貴様らアースガルズによって弄ばれた、我が先祖ヘジンの無念を晴らさせてもらうわ!!」

 

「我らが神々を興じさせるという栄光を忘れ、牙をむくか! ならその愚行の罪、その身で受けるがいい!!」

 

 その言葉とともに、ロキが大量の魔方陣を展開して魔法を放つ。

 

 一発一発がシャレにならない。上級悪魔だってふっ飛びそうな一撃が何発も放たれた。

 

 だけど、ヒルトはビビりもせず両手の魔剣で弾き飛ばしていく。

 

 でも、両手じゃ捌ける数には限度がある。このままだと吹っ飛ぶぞ!?

 

「ヒルトさん、前に出すぎないで!!」

 

 その瞬間、魔法使いっぽいローブをまとった女性がその隣に並び立つ。

 

 その女性が魔方陣を展開して、攻撃の何割かを防ぎ切った。

 

 すげえ。ロキの本気を二人掛かりとは言えしのぎ切ったよ。

 

 そして、そのローブの女性を中心に光のオーラが放たれると、戦士たちの傷が回復していく。

 

 こ、これって、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)!?

 

「お初にお目にかかります。ヴィクター経済連合所属、反オリュンポス団体「アルケイデス」のデイア・コルキスです」

 

 そう丁寧に告げると、同じくこっちもロキを睨み付ける。

 

「神々の傲慢に牙を剥く者同士、ノイエラグナロクとは共同戦線を張らせていただきます。お覚悟を」

 

 こ、この人も神相手にすげえ敵意むき出しにしてるよ。

 

 っていうか、ヨーロッパの神々って一体何したんだよ。むちゃくちゃ敵意向けられてるじゃねえか。

 

 見れば、あの人たちの援護のおかげで一気に趨勢が傾いてる。

 

 だけど、厄介な連中はまだ残ってる。

 

 スコルとハティは部長たちとヴァーリチームが抑え込んでる。スルト・サードもタンニーンのおっさんとロスヴァイセさんが抑えてる。

 

 だけど、ヨルムンガルドがまだ残ってやがる!!

 

 と、ヨルムンガルドは炎を吐くのをやめると身をかがめる。

 

 なんだ? 隙だらけってわけでもないけどよ?

 

 と、思ったその時だった。

 

 ヨルムンガルドの体の節々から光が漏れる。

 

 お、おい。なんか明らかにやばいオーラが漏れ出てるんだけどよ……?

 

 その瞬間、大量のエネルギー弾がヨルムンガルドの全身から射出された。

 

 そしてそれは弧を描くと、そのまま地上に向かって落ちてくる!!

 

 う、うぉおおおお!? ミサイル攻撃ぃいいいい!!?

 

 や、やばい。あれじゃあ量産型のミドガルズオルムを抑え込んでるドーインジャーが一網打尽に―

 

「―っはっはぁ!! そんなもんじゃぁ英雄は倒せねえぜ!!」

 

 その瞬間、ドーインジャーの中からたくさんのとげが射出された。

 

 それは空中でエネルギー弾とぶつかると一斉に爆発する。そして全弾迎撃してのけやがった。

 

 な、な、なんだぁ!?

 

 俺がロキと戦いながら驚いていると、ドーインジャーの中から一人の男が突進してくる。

 

 歳は俺と同じぐらい。だけどガタイはまるでサイラオーグさんのようにごつい。そして髪の毛は割と長く、簡単な鎧を身に着けてるけど、服は学生服っぽい。

 

 そして、あいつは間違いなく強い。

 

「喰らいやがれ、巨人の悪戯(マイティング・デトネイション)!!」

 

 そしてヨルムンガルドを殴りつけると、殴りつけた箇所が大爆発を起こした!!

 

 おお! ヨルムンガルドが思いっきり揺らいだ!!

 

 あの巨体をあんなに勢いよく殴り飛ばすなんて! どんだけ馬鹿力ですごい神器なんだよ!!

 

 そして、殴りつけた男は着地すると、そのまま胸を張った。

 

「ヴィクター経済連合、英雄派所属!! ヘラクレスの魂を継ぐ者よぉ!! どうした、この程度かぁ!?」

 

 すっげえ堂々と名乗り上げやがった。

 

 っていうかヘラクレス!? 無知な俺でも聞いたことのある、ギリシャの大英雄じゃねえか!!

 

 英雄派ってあんなのまでいんのかよ。敵さんもすごいの連れてきてるな、オイ。

 

 と、思ってたらロキの攻撃がさらに強くなった。

 

「なるほど、これはさすがにてこずるな。特に二天龍がすごい」

 

 魔法攻撃を全方位に放ちながら、ロキはうんうんとうなづいた。

 

「白龍皇のほうは熟練した強さと経験。赤龍帝は思いを込めた渾身の一撃。さらに周りの者たちも有数の実力者だ。ミョルニル抜きでもここまでとは驚いた」

 

 なるほど、ロキがそこまで言うことかよ。

 

 つまり、俺たちでも勝てない相手じゃない。俺とヴァーリが二人掛かりならこいつを倒すことだってできる。

 

 と思ったその時、ロキの視線が俺をしっかりと見据えた。

 

「だが軌道が単純ゆえに、赤龍帝の方がとらえやすいな。倍増した力を誰かに譲渡されても面倒だ。まずはそちらからぶっ潰しだ!!」

 

 えぇえええ!? 俺、ターゲット認定!?

 

 思わずミョルニルを構えたけど、ロキはムジョルニアを構えて振り下ろす。

 

 とっさにミョルニルをぶつけて防ぐけど、雷撃が放てないんじゃ衝撃だけしか防げない。

 

 そのまま雷撃が、ミョルニルのレプリカを吹っ飛ばした!!

 

「さあ、とどめと行こうか赤龍帝!!」

 

「―いや、俺を忘れてもらっては困るな」

 

 そのロキの後ろに、ヴァーリが回り込んだ。

 

 あの野郎抜け目ねえな。だけど、これで一撃は―

 

「―いや、我が子を忘れてもらっても困るな」

 

 その瞬間、ヴァーリの姿が掻き消えた。

 

 そして、少し離れたところにフェンリルが立っていた。

 

 その口にはヴァーリが咥えられている。牙が鎧を突き破って、肉に食い込んでた。

 

 ど、どういうことだよ!? なんで、フェンリルがヴァーリを!?

 

 だって、グレイプニルでがんじがらめにされているはずじゃぁ―

 

 そう思って顔を向けると、そこにはフェンリルの子供が鎖をかみちぎっていた。

 

 あの野郎! 戦闘すると見せかけて親を解き放ったのか!!

 

「ふむ、先ずは白龍皇をかみ砕かせてもらったぞ」

 

 くそ、これじゃあヴァーリが!!

 

 待ってろよヴァーリ! 決着付ける前に死なれちゃ困るんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




三大勢力+ヴィクターの共同戦線。ロキはヴィクターとは交渉の余地ありと思ってましたが、構成派閥の都合上無理でした。

そしてヘラクレス登場。とりあえず、これで英雄派の主要メンバーはほぼ一度は登場しました。


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第三章 15

 クソ! ヴァーリの奴がやられやがった!!

 

 あれはもろに内臓にまで達してるぞ。是じゃあ戦闘はできそうにねえ。

 

 アーシアも他の仲間の回復で手一杯だ。第一、かみつかれたまんまじゃ治し様がねえな。

 

 しかもイッセーとタンニーンさんが救援に行くが、それをフェンリルはやすやすと一蹴する。

 

 あれが、全盛期の二天龍に匹敵する化け物の力かよ!!

 

 ってそんなことを考えている場合じゃねえ!!

 

「それでは、手が空いたので聖槍使いを相手しようか!! 捧腹、貴様はそこの小娘どもを頼むぞ」

 

「承知した」

 

 ロキの野郎がこっちに来やがったか。

 

 上等! 神殺しの槍の本領をおしえてやるぜ!!

 

「ぶち貫く! マスドライバースティンガー!!」

 

 速攻でレールガンを形成すると、おれは突っ込んでくるロキにカウンターで一発ぶっぱなす。

 

 放たれる攻撃は超音速なんてもんじゃねえ。いくら神でもこの距離で視認しての回避ができるわけが―

 

「―どこを見ている?」

 

 気づけば、後ろにロキの姿が。

 

 な……にぃ!?

 

 振り返らずにおれは肘で迎撃。むろん魔剣は生成済みだ。

 

 だが、ロキはそれを片手で受け止めると魔方陣を俺の至近距離に展開する。

 

 くそ、迎撃してる余裕が―

 

「では、次は聖槍使いだ」

 

 その瞬間、おれは至近距離で魔法フルバーストを喰らって吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、リセスもまた追い込まれていた。

 

 ソウメンスクナそのものとはほぼ互角だ。

 

 死体を基に作られたにもかかわらず、ソウメンスクナの戦闘能力はかつてのソウメンを超えている。

 

 これが、捧腹の外法によって作り出された死体人形。鬼神の末裔の潜在能力を、正真正銘引き出すことに成功している。

 

 だが、それでも研鑽を積んで強化されたリセスは当然強くなっているのだ。

 

 ましてや、グリゴリの技術の粋を集めて作られたキョジンキラー。名前はあまりにも馬鹿らしいが、その戦闘能力は馬鹿にできた物ではない。むしろ馬鹿らしいぐらい強い。

 

 豪腕と豪腕がぶつかり合い、そして押し勝ったのはキョジンキラー。

 

 さらに邪炎を聖なる炎を生み出して相殺し、そして少しずつ焼いていく。

 

 単純な戦闘なら、ほぼ拮抗状態だった。

 

 だが―

 

「させると思うか!!」

 

 放たれる攻撃が、キョジンキラーの装甲に傷をつける。

 

 今、強襲してきた者たちの攻撃はキョジンキラーに集中していた。

 

 オーディンを殺しうる戦闘能力を持っているのはソウメンスクナのみ。ゆえに、キョジンキラーの撃破こそが最優先。

 

 ゆえに、その大半が自衛隊の攻撃を無視してキョジンキラーに攻撃を集中させていた。

 

 自衛隊は攻撃を放ってその数を減らそうとするが、しかしそれを敵は全員無視する。

 

 かくいうリセスも、この攻撃をあえて意識しない。

 

 なぜなら、そんな余裕はかけらもないのだ。

 

 もとからソウメンは強敵だった。かつての自分が勝てたのも、それなりに幸運と状況に恵まれていたからだろう。

 

 リョウメンスクナの末裔を名乗るだけのことはあった。最上級悪魔と戦ってもいい線いくだけの実力はある。伊達や酔狂でバラキエルが出てきたわけではないのだ。

 

 それがさらに強化されて現れたことで、こちらも意識は向けないといけない。有象無象にかかわっている余裕はない。

 

 しかし、それゆえにダメージはたまる一方。このままではキョジンキラーが破壊される恐れもある。

 

 それまでにソウメンスクナを屠ることができるかどうか。この戦いはそんな状況下になっていた。

 

 そして、そんな戦いにも光明はある。

 

「ゥオオオオオオオッン!!」

 

 遠吠えとともに、攻撃を仕掛けている妖怪たちが一斉に浄化され悲鳴を上げる。

 

 そして、地上で戦闘をしていたエインヘリヤルたちが切り刻まれ、鮮血をまき散らす。

 

 それをなすのは一人の少女。名を、神代小犬。

 

 かつて救った時の彼女は、狗神と相性がいいだけのただの少女だった。

 

 だが、今の彼女はオーディンの護衛として京都から派遣されるほどの存在。その実力は非常に高い。

 

 神降ろし、というものがある。

 

 巫女が託宣を神から受け取るために、神の力を下す能力だ。

 

 狗神憑きという存在がいる。

 

 一種の式神使いで、術者の意を受けて物を取ってきたり敵に害をなす存在である。

 

 そして、神代家は代々神格化された犬神を祀ってきた家系。

 

 その二つを組み合わせ、神代小犬は犬神の力をその身に宿す。

 

 その咆哮は清めの力をもってして邪気を浄化し、その身は弱小とは言え神格の力を発揮して敵を屠る。

 

 まさに獣のごとき俊敏な動きで、小犬は的確に敵の数を減らし、陽動していた。

 

「リセスさん! 数が多いよ~!」

 

 だが、それでもその数は多すぎる。

 

「……これは、こっちも覚悟を決めないといけないようね!!」

 

 最悪、生身であの巨体と殺し合わなければならない。

 

 かつてソウメンと戦った時は、ここまでの巨体に変化することはなかった。是もまた、捧腹の強化ということなのだろう。

 

 まず間違いなく脅威である。だが、それでもやるしかない。

 

 そうでなければ。強者(英雄)になどなれるわけがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! なんて奴だよ、フェンリル!!

 

 ヴァーリが、オッサンが、俺が、まるで相手にならねえ!!

 

 これが、二天龍に匹敵する怪物の本気ってことかよ。なんでヒロイの奴はこいつが反応できない速度で、俺を狙ったカウンターを貫けたんだ?

 

『流石にまずいな。正真正銘全盛期の俺たちとも渡り合えるレベルだ』

 

 ドライグ。せめてどうにかする方法だけでも考えてくれないか!?

 

『無理だな。今の相棒では荷が重い』

 

 マジか。

 

 畜生。せめてミョルニルが本当の意味で使えれば勝ち目があるのに。

 

 エロ根性あってこその俺じゃあ、とても邪な感情を捨てるなんてできそうにない。だからミョルニルは真価を発揮できない。

 

 そのままでもすごい強力なハンマーとしては使えるけど、それじゃあロキのムジョルニアはどうしようもない。雷が出なけりゃ勝負にもなりゃしねえ。

 

 今は何とかみんなが頑張って量産型のミドガルズオルムやフェンリルを抑え込んでる。

 

 だけど、タンニーンのおっさんが抜けたせいでスルト・サードはロスヴァイセさんを追い込んでる。

 

 まずい。このままじゃぁ……っ!!

 

「……兵藤……一誠」

 

 俺が焦ったその時、ヴァーリが息も絶え絶えに声を出した。

 

 いやお前、明らかに重症じゃん。何も言わない方がいいんじゃねえの!?

 

「ロキは君に任せる。……フェンリルは、俺が相手を何とかしよう……」

 

 な、なんだって?

 

 ヴァーリ、お前、その状態でフェンリルをどうにかできるのか?

 

「はっはっは。瀕死の状態で何ができる? 強がりは二天龍の名を貶めるだけだぞ?」

 

 ロキが笑うけど、確かにその通りだ。

 

 この状況で、どうやってフェンリルを倒す気なんだ……?

 

「天龍を、この、ヴァーリ・ルシファーを……舐めるなよ?」

 

 その時、寒気が走った。

 

「我、目覚めるは―」

 

 その時、白龍皇の鎧が輝き始める。

 

「覇の理にすべてを奪われし、二天龍なり」

 

 鎧の宝玉が輝いて、オーラを放つ。

 

「無限を妬み、夢幻を想う」

 

 そして鎧の形状が、少しずつ変化していく。

 

「我、白き龍の覇道を極め―」

 

 そしてフェンリルが警戒したその瞬間―

 

「―汝を無垢の極限へと誘おうッ!!」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!!!』

 

 激昂よりも強く輝く七色の光が、フェンリルに咥えられたヴァーリから解き放たれた。

 

 うぉ、まぶし!!

 

「黒歌! 俺をフェンリルごと予定のポイントまで転送しろ!!」

 

「了解にゃんっ」

 

 黒歌が転送術を起動して、一瞬でフェンリルとヴァーリを包み込む。

 

 気づいた時には、ヴァーリとフェンリルは姿を消していた。

 

 よ、予定のポイント? 何の話だ?

 

 あいつ、まさか俺たちに黙って変なことでも企んでるんじゃないだろうな。それが本命の目的とか?

 

 いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。

 

 フェンリルがいなくなったから、これでオッサンはスルト・サードに集中できる。そのあいだ俺はロキを抑えて―

 

「朱乃!?」

 

 部長の悲鳴に、俺は振り返った。

 

 見れば、子フェンリルの一匹が朱乃さんに噛み付こうとしてる。

 

 くそ、やらせるかよ!!

 

 俺は全力で朱乃さんに向かって飛ぶ。

 

 だけどマズイ。是じゃあギリギリ間に合わない!!

 

 くそ、こんなところで―

 

「朱乃っ!!」

 

 その時、バラキエルさんが割って入った。

 

 勢いよく朱乃さんを抱きかかえて、そのまま距離を取る。

 

 だけど、子フェンリルの動きは早く、爪を勢い良くふるった。

 

 ……鮮血が、飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




どこもかしこも苦戦続き。

ですが、それこそが少年漫画の王道。


……そして来ますよ、D×D史上トップクラスに頭の痛い展開が!!


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第三章 16 ………なにこれbyヒロイ

……はい、ついにD×Dでも屈指の頭痛い展開が勃発します。









これをシリアス展開に持って行けるんだから、原作者は頭おかしい(誉め言葉


 

 ロキの攻撃で吹っ飛んだ俺は、何とか意地で立ち上がる。

 

 え、英雄はそう簡単に倒れたりしない。どうせ死ぬなら前のめりだ。

 

 が、そんなときにすでに趨勢は大きく傾いていた。

 

 ……俺の目の前で、背中を深く切り裂かれたバラキエルさんが朱乃さんに寄りかかるようにして倒れる。

 

「ぐはっ」

 

 背中と口から、大量の血が流れ出た。

 

 まずい、あれはすぐに治さねえと致命傷になるぞ!!

 

「な、なんであなたが……」

 

 朱乃さんが呆然とする中、バラキエルさんが手を伸ばす。

 

「お前迄、失うわけには……いかない」

 

 その言葉に、朱乃さんはものすごくつらそうな表情を浮かべる。

 

 ……バラキエルさんは、朱乃さんが自分を恨んでるって言ってた。

 

 だけど、朱乃さんもいい年してるんだ。いい加減、あんな詭弁を鵜呑みにし続けるのも限界だろう。

 

 あんた、実はもうわかってるんじゃないのか?

 

 つってもこういうのって、長い年月が経ってるから素直になりにくいもんだ。

 

 どう考えても、時間が足りな過ぎ―

 

「おまえ、いったい誰だ!?」

 

 ―いきなりイッセーが変なことを言いだした。

 

 朱乃さんを指さして、なんか変なことを言ってきてる。

 

「だから誰だよって言ってるんだよ!!」

 

 いや、お前どうしたんだよ。

 

 なんかものすごく動揺してるのだけはわかる。これまでにないぐらい動揺してんのはわかる。

 

 だが、なんでだろう此の妙な感じ。

 

 かつて、ヴァーリの技を見て変な解釈して暴走した時と似てる。そもそも最近だと、覇龍の暴走を鎮めるときのあの阿保騒ぎと似てる。

 

 ま、また乳か?

 

「お、おっさん!!」

 

「何だ!? また乳か! 今度は何だ!!」

 

 タンニーンさんも、激戦を潜り抜けながらも律儀に聞いてくれてる。

 

 この人ホントいい人だ。俺は金には困らねえ生活送ってんだし、今度ドラゴンアップル人工生産に投資しよう。

 

 で、どうしたんだイッセー?

 

「乳神様って、どこの神話体系の神様だ!?」

 

 ……………………。

 

 沈黙が響いた。

 

 ち、乳神? 乳神って……何だよ?

 

「北海道に乳神神社ってあるぜ。岡山県とか熊本県にもあるぜ?」

 

 と、総理が教えてくれた。

 

 流石総理だ。日本に詳しいな。

 

「……てっきり致命傷を受けたのかと思ったが、そんなものが日本にはあるのか」

 

「おうよ、龍王さんよ。母乳の出とか安産とかにご利益ある神様だぜ? 俺もカミさんが妊娠した時、五円玉十万枚用意してご利益求めたもんだぜ」

 

 なるほど。そうだったのか。

 

 さすがヤオヨロズの神々。ジャンルが幅広いな、おい。

 

 と、思ったんだが、イッセーは少しの間うんうんとうなづくとさらに声を出した。

 

「……そんなまがい物と一緒にすんなって怒ってる!! 正真正銘お乳に加護を与える神様だって、朱乃さんのおっぱいが言ってるんだけど」

 

「……次元の狭間から変なもんでも来たんじゃねえか?」

 

 総理。真面目に答えなくていいと思うんですけど。

 

 アーシアも致命傷だと思ったのか、回復のオーラをイッセーの頭に与えてるしよ。

 

「貴様、私の娘がそんなわけのわからん神様だと? おのれ、おっぱいドラゴン……」

 

 バラキエルさんがキレた!

 

 あの、落ち着いてくださいな。その状態で怒ったら、血流がよくなりすぎて出血多量で死にますぜ?

 

 っていうか、お乳そのものに加護ってどうよ? どんな変態な神様だよ。

 

 あ、ギリシャあたりか? あそこ近親相姦の本場っていうし。

 

『……とんでもないが総理の言う通りだ。俺の知らない世界の力を感じる』

 

 ドライグがそんなことまで言ってきた。

 

 え? マジで異世界? 嘘だろ?

 

 おいおい、戦闘中の奴らが全員唖然となってるよ。

 

 戦いを止めるほどの衝撃が、この場に走ってやがる。

 

 そしてそんな中、イッセーは乳神の声を聴いているらしい。

 

 いや、訳が分からねえよ。俺たちにも声を届けてくれよ、乳神様とやらよぉ。

 

 あ、イッセーぐらいのおっぱい好きにしか声を届けたくねえのか。そんなにこだわってんのかおっぱいに。乳神だもんな。

 

「俺の望む奇跡? わ、わかったけど、おれだけ聞いても意味ねえし、朱乃さんとバラキエルさんにも聞こえるようにしてくれないか?」

 

 ん?

 

 イッセーは一体何をしようとしてるんだ―?

 

 その瞬間、朱乃さんの胸が光り輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その光が終わったその時、朱乃さんは泣いていた。

 

 さらに、朱乃さんとバラキエルさんを抱きしめるように、半透明な女の人が映っている。

 

 ど、どういうこった?

 

『なるほど、乳神様の力を、その槍に込められた神の残滓が増幅したようですね』

 

 だ、だれだ!

 

 は! まさかお前が乳神か。

 

『いえ。私は乳神様に使える精霊です』

 

 そうか。なんかよくわかんねえけどスルーするわ。

 

 俺がパニックを起こしかけてる中、その朱乃さんにそっくりな女の人は、朱乃さんにやさしく告げる。

 

『朱乃。何があっても父様を信じてあげて。あの人は、たくさんの人を確かに傷つけてきたけど―』

 

 その人は、朱璃さんは、朱乃さんに微笑んだ。

 

『あの人が私と朱乃を愛してくれているのは、本当だから』

 

 そして、その女性は姿を消した。

 

 そして、その言葉は、確かに朱乃さんにしっかりと届いたんだろう。

 

 だって、朱乃さんは確かに泣いているから。

 

「母様、私は……父様ともっと会いたかった! もっと頭をなでてもらいたかった! もっと……三人一緒にいたかった!!」

 

 それが、朱乃さんの嘘偽りのない本音か。

 

 ったく。やっぱり親子は仲いい方がいいに決まってるぜ。

 

 その時、赤龍帝の鎧が強く輝いた。

 

『乳龍帝よ。あなたはこの娘の想いとおっぱいを救いました。さあ、乳神様の加護を使いなさい。今なら、ミョルニルも使えるはずです!!』

 

「よ、よくわからないけどわかったぜ!! あ、でもミョルニルは弾き飛ばされて―」

 

「ほいよ。拾っといたぜ」

 

 と、総理がミョルニルのレプリカをイッセーに手渡した。

 

 おお、いつの間に!! 流石総理だな!!

 

 しかも本当にミョルニルが使えてやがる。今までとは比べ物にならねえオーラがぶっ放されてるぜ。

 

「何やら見知らぬ神格の波動を感じる。異世界の……乳神? 今代の赤龍帝は不思議がいっぱいだな!!」

 

 その言葉とともに、ロキはさらに何体もの量産型ミドガルズオルムを召還する。

 

 まだ出し惜しみしてやがったのかよ!! 

 

 いい加減こっちもばてるぞ。増援は来ないのか?

 

 と、思ったその時、黒い炎が巻き起こった。

 

 しかも蛇の形をしている。いや、これは龍か?

 

 その炎は俺たちをスルーして、ロキたちだけを包み込んだ。

 

「なんだ、この炎は! 力が……ぬける!?」

 

 な、なんか知らんが、味方か!?

 

「こ、今度は何だ!? 尻か、うなじか!?」

 

「馬鹿かお前は!! あれは、黒邪の龍王(プリズン

ドラゴン)ヴリトラだ!」

 

 俺がパニクってると、タンニーンさんからの渾身のツッコミが飛んできた。

 

 ヴリトラって、匙か?

 

 いや、だがあれは魂を分割した上での一つだとかいう話だった気がするんだけどよ?

 

 その時、俺たちの耳に取り付けられたイヤホンから声が聞こえてくる。

 

『皆さん、聞こえますか? 私はグリゴリ副総督のシェムハザです』

 

 おお、堕天使のナンバーツーか。

 

 そういや、匙はグリゴリで特訓だったな。

 

 で、特訓の成果があのドラゴンと。

 

 ……どんな特訓だよ。

 

『ヴリトラを封印した神器を、グリゴリが保有している分全部埋め込みました』

 

 あほかぁああああ!!!

 

「何ていう無茶苦茶。ヴィクター経済連合でもそんな多重盛りしないわよ」

 

「リムヴァン様でもそんな無茶はしません……」

 

 ほれ、ヴィクターのヒルトとデイアだっけ? とにかくドンビキしてんじゃねえか!!

 

 っていうかこれ、意識あんのか?

 

『まあ、暴走してますが意識は残ってます。二天龍である兵藤さんならコンタクトが取れるはずです』

 

 グリゴリはこんなのばっかりか。

 

 と、とにかく意識を切り替えろ。

 

 これはチャンスだ。ミョルニルが使えるようになり、さらに敵もこの炎で身動きが取れない。

 

 この機を逃さず、一気に叩き潰す!!

 

 俺は、速攻で量産型のミドガルズオルムに狙いを定めると、聖槍でぶった切った。

 

 ぶっちゃけ回復が追い付いてねえが、仕方がねえ。やるしかないし普通は回復とかないしな。

 

 と、言うわけで量産型ミドガルズオルムをぶった切りまくり、そしてお嬢たちもヴィクターの連中も一気に攻勢に打って出る。

 

 そして、イッセーがロキに迫った。

 

「くらいやがれぇえええええ!!!」

 

「舐めるな、赤龍帝ぃいいいい!!」

 

 そしてミョルニルとムジョルニアがぶつかり合い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ムジョルニアが、砕け散った。

 

 よし! こっち側の方が精度は高かったみたいだな。

 

 だが、余波でこっちも炎が吹き飛んだ。

 

 こっから先が大変だな。行けるか?

 

 そう思った次の瞬間だった。

 

「うぉ!? 重い!?」

 

 イッセーが急にバランスを崩す。

 

 なんだ? どうした?

 

 俺たちが一瞬パニックを起こす隙を、然しロキは見逃さなかった。

 

「隙ありだぞ赤龍帝!!」

 

「うわぁあああああ!!」

 

 至近距離から魔法攻撃が放たれ、イッセーはミョルニルを取り落としながら吹っ飛ばされる。

 

 オイオイオイオイ。どうしたイッセー!?

 

「どうやら乳神とやらの加護はもう無いようだ。先の一撃で我を倒せなかったこと、後悔するがいい!!」

 

 マジか!

 

 くそ、後一手足りない状況だってのに、この状況下で……!

 

 と、とにかくミョルニルを確保しねえと―

 

「おっし! ミョルニルは確保したぜ」

 

 おお、総理!!

 

 すげえぜ総理!! 抜け目がねえ………。

 

『『『『『『『『『『え?』』』』』』』』』』

 

 今、気づいた。

 

 本当に、今更になって気づいた。

 

 ………なんで、こんなところに総理がいるんだぁああああああああ!?

 




ムジョルニアは何とか壊せましたが、ムジョルニアのせいでロキ撃破には一歩足りず。





そしてついに総理登場。さて、暗躍していた日本政府の目論見とは……?


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第三章 17

はい、裏でこそこそ何かしていた総理と日本政府のたくらみが、ついにばらされます。


 総理が、ミョルニルを構えながら不敵な表情でロキを見据えていた。

 

 おいおい。一国のトップ、それも戦闘能力が関わらねえ人間の政治家がなんでこんなところに来てるんだよ。

 

 この国はシビリアン・コントロールだろうが!! 危ないから下がれって!!

 

「この国の政治家か。我は勢力外の人間にまで興味はない。ミョルニルを置いて失せるといい」

 

 ロキがそう警告するが、総理はニヤニヤ笑いを止めずに動かない。

 

 あの、その神はたぶん本気で攻撃するだろうから、下がったほうがいいですぜ?

 

「んな硬い事言うなよ。こっちはあんたに恩があるから、態々足を運んでこんな危ねえところまで来てんだからよぉ」

 

 総理はそう言うが、ロキが何をしたってんだ?

 

 今大絶賛、総理官邸ではロキ及び捧腹と協力した一派が攻撃を仕掛けている真っ最中だ。下手したら総理官邸崩壊する。

 

 むしろ恨みしかねえだろ。怒っていいだろ。

 

「ふむ。貴殿に何かした覚えはないのだがね」

 

「んなこたぁねえよ」

 

 ロキの返答に、総理はそうさらりと答えた。

 

 へ? なんかマジで恩があるのか?

 

 でも、一体何が……。

 

「俺達内閣のお望み通り、都心の真ん中で大暴れしてくれてんじゃねえか」

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

「……総員、時間稼ぎは終了だ」

 

『『『『『『『『『『はっ!』』』』』』』』』』

 

 自衛隊の指揮官の言葉に、戦闘中だった全員が声を張り上げる。

 

 その声は自信に満ちており、勝利の可能性を信じているものの声だ。

 

 まったくもっておかしな話だと、自衛隊員以外の全員が思った。

 

 彼らの攻撃は自分達には通用しない。それほどまでに圧倒的な差が表の軍隊と自分達にはあった。

 

 対戦車兵器クラスの兵器を持ってくれば話は別だが、都心のど真ん中でそこ迄の行動をするのは野党が許さないだろう。それ位にはこの国の政治についても調べがついている。

 

 だがら、銃火器程度で自分達を倒せるわけが―

 

「全部隊、ウツセミ起動!!」

 

 その言葉とともに、大量の化け物が自衛隊員達の足元から姿を現した。

 

 そしてその化け物達は地上で戦っている妖怪と戦士達に襲い掛かる。

 

 明らか人間のそれを凌駕した肉体の能力。更に、口から火炎を吐いて空の敵も攻撃していく。

 

 この戦いは襲撃者側が優勢だった。それは、ひとえに闘える人材がごく僅かだからだ。

 

 圧倒的な数の差。古来より戦略の基本であるそれが機能していたからこそ、リセス・イドアルも神代小犬もシトリー眷属も苦戦していた。

 

 だが、ここにきて自衛隊員が明確に戦力として機能するようになった。

 

 それが、趨勢を一気に押し返す。

 

「これは、一体……」

 

 その光景に、椿姫が状況を飲み込めず思わず戸惑う。

 

 その隙をついて攻撃しようとした妖怪を、自衛隊員が化け物を使って叩きのめした。

 

「悪かったな! ようやくこの区域に侵入していたパパラッチとか報道陣を強制的に避難させたんだよ」

 

 そういう隊員は、催涙弾で妖怪達を足止めしながら、化け物を使って撃退していく。

 

 そして、椿姫達にすまなそうに謝った。

 

「子ども達にだけ頑張らせてすまなかった。ここからは本格的に戦わせてもらうぜ!!」

 

「ああ、役に立たない()()ももう必要ねえ。思う存分やり返すぞ!!」

 

 そういいながら、自衛隊員たちは一斉に反撃を開始する。

 

 まったくもって想定外の戦力の思わぬ奮起に、一気に趨勢は傾いた。

 

「……なるほど。総理が会談に一枚かんだ理由はこれですか」

 

 ソーナはそう言ってため息をついた。

 

 その手にはスマートフォンがあり、それが動画配信サイトに繋がっている。

 

 そこには、自衛隊の攻撃を無視して周囲を暴れまわる、ヴァルキリーや妖怪達の姿が映っていた。

 

 自分達にはローブを被って戦闘するようにと連絡があったが、どうやら自分達の学生生活を守る為の配慮だったらしい。

 

 そして、そんなものが流れている理由は一つだ。

 

 この警備網に意図的に穴を作り、民間人や報道陣にこの戦闘を中継させる事。それも、自衛隊が苦戦している事実を見せつける事が狙いだったからだ。

 

 おそらく、反撃に移るまでの間に殆ど全てが退去させられているだろう。

 

 それゆえに、人々はこの事実を脅威と見るはずだ。

 

 憲法によって戦争を否定しているこの国は、半世紀以上もの間、戦乱と国民は無縁だった。

 

 その所為か、この国は過剰なまでに軍事に対して危険視する反応も多い。

 

 自衛隊など必要ない。この国は九条があるから攻め込まれない。そう思っている国民も数多い。

 

 そして、戦争を経験していない所為でもし攻め込まれたとしても自分達は大丈夫だと、根拠もなく信じている者達も多かった。

 

 しかし、この戦いが報道された事で人々は思い知るだろう。

 

 ……そんなものは、幻想なのだと。

 

 そしてこの戦いは、ヴィクター経済連合との戦いが激しくなればちゃちなものでしかなくなる。

 

 少なくとも戦闘範囲はこんなものでは済まない。都市の一部分などという、小さな範囲ではなく、東京都全てを巻き込む可能性もある。下手をすれば一地方が丸ごと炎に包まれる可能性もあるだろう。

 

 その際、日本人のこの意識はいずれ致命的なものとなる。少なくとも、避難に対して危機意識が足りなければそれが犠牲者を増やす事に繋がるだろう。

 

 ……ゆえに、その認識を叩き壊す。

 

 其の為に都合がいいのが、各神話勢力の和議だ。

 

 これまでの冷戦に近い関係からいきなり和平が進むことで、反発する勢力は必ず出る。三大勢力の和議に起きた戦いのように、激戦が起きることは十分に考えられた。

 

 そして、一発目でこれだ。

 

 総理官邸及びその周辺を舞台とする、大激戦。しかもこれが民間人によって知らしめられた。

 

 この事実が、国民の危機意識を急速に高める事になるだろう。

 

 そう、それこそがあの総理大臣の本命の目的だったのだ。

 

「食えない御仁です。しかし、彼が現職の総理大臣なのは間違いなくこちらにとっても好都合でしょう」

 

 眼鏡を輝かせ、ソーナはふと笑みをこぼした。

 

「……そしてロキも哀れなものです。今頃彼も気づいている頃合いでしょうしね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様ぁぁああああああああ!!」

 

 真相を大尽の口から告げられ、ロキは激昂する。

 

 当然だ。ロキは自他共に認める北欧神話のトリックスター。

 

 それが、策謀で百年も生きてない人間相手に一杯食わされたのだ。この屈辱はハラワタが煮えくり返るなどというものでは済まない。

 

 だが、大尽の表情はあくまで普通だ。

 

 別にこんなもの、すごくも何ともない。

 

 そう、目が言っていた。

 

「別段仕方がねえよ。こっちは和議ブームのうちに一回でも同じ事が起こればそれでよかったんだ。てめえを狙い撃ちにしてねぇ撒き餌なんだから、気づかなくても無理はねえ」

 

 そう。これはロキの行動を予期していたわけではない。ロキを狙い打っていたわけでもない。

 

 ただ、妨害されやすいだろう和平会談を何度も総理官邸で行わせるだけ。そしてそれを報道陣でも民間の動画投稿でもいいから、襲撃されていくところを国民に見せつければいいだけ。

 

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。まさにそんな方法で戦闘勃発を待っていただけだ。

 

 むしろ、大尽の方が予想外だと言ってもいい。

 

 まさか一回目で、しかもこれほどまでの大規模な戦闘が起きてくれたのだ。

 

「感謝するぜぇ、ロキ。これで阿保共の目も覚める。もしくはノイローゼで引退するだろうな」

 

 その様子を想像して、大尽はくっくっくと、笑みを浮かべる。

 

 念入りに立てた作戦が、想像以上に大成功したものの顔だ。

 

 それはそうだろう。これほどの作戦。一回一回の下準備だけで莫大な金が動く。その負担は文字通り国家予算レベルだろう。

 

 それが一回目で成功した。外れると思った事が思わぬラッキーヒットを起せば、誰だって喜ぶだろう。

 

「俺は総理大臣になった以上、政策の一つ位は意地でも成功させたかったんだよ」

 

 大尽はそう言いながら、ロキを見据える。

 

 その目は、本心からの感謝に染まっていた。

 

「割ときなくせえ国が周りに多いこの国の、防衛事情を立て直すってのが一番大事だ。おかげで叶えられそうだぜ。ありがとよ!」

 

 正真正銘、本心からの言葉だった。

 

「さて、出来れば任期中に防衛費の上限を二倍にしてえもんだぜ。それだけありゃぁ、異形技術の取り込みも含めて莫大な増強が見込めるだろ」

 

 うんうんと、今後を想定して大尽は皮算用を始めた。

 

 だが、それも決して夢物語ではないだろう。

 

 既にネットでの反響は莫大で、国内中でこの事態に対してパニック一歩手前の状態となっている。

 

 既に自衛隊が殆ど戦えてない事に危機感を抱いている国民も多く、この調子なら防衛費増大を望む声は大きくなるだろう。

 

 そして、其れを利用した準備も既に整えている。

 

「五大宗家の阿呆がやらかした先代の時点で、こっちも色々異形対策を独自に考えててよ。グリゴリの人造神器を流用して、虚蝉機関が作ったウツセミってのを回収して研究してたんだよ。ま、ちゃちなもんだが戦力として計算できる程度にはなるだろうな」

 

 その辺りの下準備もきっちりしているのがこの男の恐ろしいところだ。

 

 ……と、言いたいが、その時点では大尽は一有力政治家程度なので、別に関係してない。

 

 だが、それを的確に利用して水面下で動いていたのは事実だ。

 

 そして、其れをこの情勢を利用して一気に進めたのは、まさにこの男の手腕である。

 

 現職総理大臣、大尽統。

 

 この乱世を乗り切るのに相応しい、まさに時代に選ばれた総理大臣だった。

 

 そしてそれ以外にも数々の下準備を彼の内閣は行っている。

 

 どさくさに紛れて流れ出た魔法使いなどに声をかけ、メタンハイドレートの実用化や採掘技術に対する魔法などの転用は計測済み。表立った協力さえ可能になれば、一年と経たずに日本は資源大国となる。

 

 ウツセミの技術に関しても独自研究は進んでいる。政府機関の主導ゆえに人体実験などはあり得ないが、それゆえに安全に運用する技術は確立した。グリゴリからの人工神器技術の提供があれば、即座に大量生産できるだろう。

 

 亡命合戦を利用する事で、様々な魔法使いを雇い入れる準備も出来ている。軍事転用を前提とした魔法使いなら、増大化がほぼ確実な防衛費で雇い入れ、即座に技術を指導させる環境を整えられるだろう。

 

 そして、其れを民間技術にスピンアウトする為の下準備も整えている。

 

 こういう時において、日本という国の環境は圧倒的なまでに有利に働く。

 

 他の国ではこうもいかない。善悪を個人の主観ではなく信仰する神が定めると定義する国では、その神が前提条件を翻してたり実はすでに死んでいるなどという事実に対応しきれない。大国レベルは聖書の教えというある種排他的な教えを信仰しているため、間違いなく出遅れる。

 

 国防方面での大改革を行うついでに、超大国の座をアメリカから奪うぐらいの腹積もりで、大尽は動いていた。

 

 それを理解し、ロキも捧腹も怒りに燃える。

 

 自分達の勢力の未来まで考えた行動を、よりにもよって人間の政治に利用された。

 

 その怒りのままに、ロキも捧腹も瞬時に動く。

 

 そして、其れをイッセー達は庇い切れない。

 

 位置取りが特に悪かった。弾き飛ばされたミョルニルを回収しに行った関係上、孤立している。

 

 ゆえに、総理は接近する捧腹の十束剣を自力でどうにかするしかなく―

 

「……なめんなよ、化け物共」

 

 ……見事に捧腹の顔面に蹴りが叩き込まれた。

 

 同時に、ロキが放った魔法攻撃を大砲で打ち抜く。

 

 神と鬼の同時攻撃を余裕でさばいたその動きに、更に全員が我を忘れた。

 

 そして、その隙を大尽は逃さなかった。

 

「……禁手化(バランス・ブレイク)

 

 大尽が持っていた大砲が輝きながら八つの蛇に分裂し、そして大臣に絡みつく。

 

 更に形状は変化し、スマートな形状の鎧に変化した。

 

 頭、胸、肩、腕、足を龍の頭のような装飾が覆う、ボディスーツとプロテクターの組み合わせのような鎧。

 

 そして、そこから放たれるのは間違いなく龍のオーラ。

 

龍の咆哮(ドラグレイ・カノン)の亜種禁手(バランス・ブレイカー)咆哮纏いし龍の戦士(ドラグレイ・ロア・ファイター)、ここに参上ってなぁ!!」

 

 その言葉と共に放たれた裏拳が、十束剣をへし折り、捧腹の意識を一瞬で刈り取った。

 




A:ショック療法。









別にロキじゃなくてもよかったんです。北欧神話と二本神話の和議じゃなくてもよかったんです。

とにかく何らかの形で反対派が暴発しかねない和議を総理官邸……じゃなくても政府関係の重要地点で起こして、そこに一度でいいから暴走した馬鹿が襲撃を仕掛けてきてくれればそれでよかったのです。

内閣は完璧に一枚岩。其の暴発を求めていた理由は。ひとえに今後の国家情勢のため。

ヴィクター経済連合と敵対する以上、まず間違いなく日本は国際紛争に巻き込まれます。それも、超大国であるアメリカが一周されるほどの戦力がしけてくる。それに対抗するためには、自衛隊の強化が必要不可欠。

然し日本は軍事力を毛嫌いするものがゴロゴロいる国。平和ボケ筆頭国家日本。まず間違いなく色々揉めるのは明らか。








そこで、大尽内閣はこう考えました。「じゃあ、このままだとどうなるか実感させてみよう」と。

で、こうなったということです。

因みに自衛隊が無能を装ってまで本気で反撃しなかったのは、撃退しちゃったら平和ボケが維持されかねないから。

そのため、命の危険を覚悟してでも、報道陣を退出させるまでは防戦に徹するほかなかったのです。









ようは、あれです。人間は経験から学ぶ生き物なので、先ず国内での大規模武力抗争……それも異形がかかわっているものを経験させて、強引に教え込んでやろうというわけです。

そのため、妨害されやすい和議をとにかく国民の目につくところでやらせるつもりでした。もちろんパパラッチや各種マスコミが撮影できたのも、自衛隊が念入りに確認して比較的安全な撮影場所を調べて、そこに誘導するようにわざと締め出しに穴をあけたからです。

そして目論見通りに全国ネットで配信。もちろんマスコミも特別番組で報道中。これによって、強引に自衛隊不要論などを現状でもぶちかますような手合いを黙らせる作戦でした。







あと総理がむちゃくちゃ強い剣。棒ライジングの大統領候補と真正面から殴り合いできるスペックです。

なんで前線に出てきたかって? そりゃもちろん、それはそれとして落とし前就けるためですよ。外務大臣に全部任せて、狙い通りとは言え国内で大暴れしてる阿呆を殴りに行きました。


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第三章 18 

ちょっと切りどころの都合上、短めです。


 一方その頃、リセス達の戦いも終局を迎えようとしていた。

 

 自衛隊の思わぬ戦闘能力向上により、敵部隊は混乱していた。

 

 今まで障害物としても認識していなかった敵部隊。それが、最低限敵として認識するべきレベルに一斉に上昇した。

 

 更に催涙弾などの足止めを行う者達も大量に現れ、挙句の果てに攻撃ヘリや戦車まで攻撃を開始。

 

 その段階になって、ようやく彼らは理解した。

 

 自分達は、今まで踊らされていたのだと。

 

「エインヘリヤルでもないただの人間風情……がっ!?」

 

「うるせえよ、姉ちゃん」

 

 激昂するヴァルキリーの口の中に催涙弾を叩き込んで、一人の自衛官が怒りをあらわに睨みつける。

 

「民主主義は英雄を駆逐するっつってな。この国は、一握りの英雄だけに未来を託したりしねえんだよ。日本国内に来てんなら、日本のルールに従いやがれってんだ」

 

 更にウツセミで拘束し、そしてその自衛隊員は戦闘を再開する。

 

 如何に頑丈になっていようと、強烈な光や臭いによる刺激は有効。少なくても隙を作る事は出来る。

 

 ゆえに閃光弾や催涙弾による牽制や不意を作ることは有効。いざという時の為に開発された、対異形世界マニュアル通りに事は運んでいる。

 

 加えてウツセミ。かつて罪のない学生達を数百人も巻き込み、教師などに犠牲者を出した忌まわしき事件の産物だが、しかしそれだけの凶行を下手人達が行っただけの事はあり、確かな力になっている。

 

 今ここに、自衛隊は明確な戦力として異形達に対抗していた。

 

 少なくともドーインジャー程度なら対抗できるだけの戦闘能力がある。そして、其れは他の国家では珍しいレベルの成果だった。

 

「ああ、総理からの許可も出た。……こっからは俺達の仕事だ!!」

 

 そう声を張り上げると、更に答える声もある。

 

「そうだ。ここは俺達の国だ」

 

「それを子供達に任せるわけにはいかねえ!!」

 

 状況の変化に対応しきれない敵達を追い込み、集団戦法で、密集していた敵を攻撃していく。

 

 その集中砲火にさらされ、妖怪やヴァルキリー達は明確に劣勢に立たされていた。

 

「俺達は国を守る戦力だ。そして、この会議はこの国の為に必要だ」

 

「そうだ。だったら、俺達自衛隊がこの会議を守らなくてどうするんだ!!」

 

 その決意に、その執念に、襲撃者達は気圧され、そして捕縛される。

 

「覚悟しやがれ化け物共、人間を、国家を、そして何より自衛隊を舐めるなよ!!」

 

 決意とともに、自衛隊による一斉攻撃が残敵を掃討する。

 

 彼らの最大の失態は、完膚なきまでの己の傲慢にあった。

 

 人間の国々など、所詮神話に比べれば弱きもの。ゆえに危険視する必要はなく、うっとおしいということもないだろう。

 

 その怠慢が、いつかを見据えて動いていた人間達によって一気に覆される。

 

 奇しくも、オーディンがロキの在り方を憂いた言葉が現実となったのだ。

 

 短い寿命ゆえに若い命が、今その若さを武器に形勢をひっくり返す。

 

「神の加護も薫陶も持たぬただ人風情がぁあああ!!」

 

 激昂するヴァルキリーやエインヘリヤルに対し、自衛隊員は真っ向から激突した。

 

「全部隊! 上から目線の神の使いっ走りに、人間の恐ろしさを叩き込んでやれ!!」

 

『『『『『『『『『『了解ッ!!』』』』』』』』』』

 

 今ここに、異形の技術によって返り討ちに遭い続けてきた人類の、反撃の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その戦いの中一人だけ俯いてるのが、ペト・レスィーヴだった。

 

 その目は決して逸らしたりなどしていない。それだけの強さを彼女は持っていた。

 

 しかしだからこそ、彼女は震えて動けない。

 

 ソウメンスクナを見据えているからこそ、ソウメンに刻み込まれた恐怖が彼女を襲い続けている。

 

 目の前で、両親がミンチにされた。

 

 すぐ近くで、小犬の両親が肉の塊にされた。

 

 そして自分と彼女は、あの鬼に汚された。

 

 ……救出された当時のペトは、すぐに生活を送る事が出来た。

 

 だが、それはあくまで最低限の生命活動の維持だった。

 

 朝起きて、顔を洗い、朝食を食べ、何もせず、昼食を食べ、うつむいて、夕食を食べ、そしてシャワーを浴びて眠る。

 

 そんな抜け殻のような日々の中、しかし体は疼く。

 

 外法の心得があったソウメンに穢し尽くされ、彼女は何もかもが壊れていた。

 

 そんな中、親身に接してくれたのがリセスだった。

 

『―そんなに疼くなら、開き直って男をあさりに行きましょう』

 

 そんなことを、彼女はあっさり言った。

 

『ソウメンだけしか男知らないからそういう混乱するのよ。安心しなさい。世の中の男はもっとまともな奴が多いから』

 

 そう続けたリセスは、ペトにだけ自身の来歴を話して聞かせた。

 

 自分が英雄になろうと思った、最大の傷。そして、その英雄になる為の来歴。

 

 衝動的に持ち金全部を売り払い、神器を移植する実験を自滅覚悟で受けた事。

 

 そして、その上で英雄として活動する為に金が必要であることを忘れていた事。

 

 どうせ自分はもう気にする必要がないからと、移植した神器と持っていた神器を二年間練習している間、必要な金を春を売って稼いでいた事。

 

 そして、その経験が彼女の認識を改めた事だ。

 

『世の中、下半身が緩くてもそれ以外がまともな男は数多いわ。自分がすっきりするだけじゃなく、相手にも楽しんでもらおうってやつはゴロゴロいるもの』

 

 その言葉に縋って試してみたら、本当だった。

 

 こと二年の間春を売り、その後も三年の間ストレス発散や単純な娯楽として性別問わず性を楽しんできたリセスの審美眼は的確だった。

 

 リセスが選んで誘った相手は、自分のことを優しく扱ってくれた。

 

 ソウメンが段違いで酷いだけだ。彼らは自分のことを玩具扱いなど決してしなかった。

 

 一緒に楽しむ相手としての礼儀というか気遣いがあった。ともに楽しもうという心遣いを感じた。

 

 それが、心から救いになった。

 

 壊れてまともな生活などできなくなった自分でも、折り合いをつけさせてくれる環境がある。この喜びは壊れた者を知らない者達には分からないだろう。

 

 勢い余ってすごく開き直っている自覚はあるが、それによって磨かれた審美眼は確かなので気にもならない。

 

 もとから堕天使という、堕ちた存在の出身である事もあり、皆自分の復調を喜んでくれた事も大きい。

 

 そして自分は、いつの間にかリセスのことが大好きになっていた。

 

 堕天使である自分の方が圧倒的に長生きするだろう。人間でしかないリセスとは、短い間しか一緒になれない。それが種族の違いという現実だ。

 

 だが、それでもその数十年間は掛けがいの無いものになるだろう。

 

 ペトはうすうす勘付いている事がある。

 

 彼女の語った過去の来歴。そして英雄を目指す理由から、分かる事がある。

 

 リセスはあの時、ペト・レスィーヴという堕天使の少女を助けたのではない。

 

 ペトを助けることで、かつてのリセス・イドアルを助けたのである。

 

 彼女は英雄になることで、自分自身を救いたいのだ。

 

 だけど、それでもペトはかまわない。

 

 ペトは知っているからだ。

 

 リセス・イドアルは善良な女性である。そして、善良であろうと努力している女性である。

 

 リセス・イドアルは英雄になりたいと思っている。強者になりたいと思っている。心も体も強くなりたいと思っている。それが無理なら、せめて心を支えられるぐらい体を強くしたいと思っている。

 

 そして、そんなリセスだからこそ自分を救ってくれたと知っている。

 

 そして―

 

「……ぅ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その敬愛するリセスが、窮地に陥っていた。

 




川上作品は癖が強いけど名作。っていうかモブがかっこいいとかすごく憧れるぜ!!








自衛隊大奮闘により、状況ひっくり返し。

なにせ準備万端で待ち構えていたので、数だけならまず間違いなく自衛隊がうえ。加えて防衛線は数的さをひっくり返しやすい。とどめに敵からしたら今まで無視できたのがいきなり戦力になるという想定外。

この三連コンボで、物の見事に情勢をひっくり返しました。とりあえず有象無象はほぼこれで殲滅できます。





そして、小犬が直感で察したリセスのゆがみを、ペトは結構要因からして知っています。

だからこそ、ペトはリセスになついているのです。

……そして、ペトは壁を乗り越えることができるのか。それは次の話で。


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第三章 19 ラグナロク、終焉

ついにラグナロク編の戦いもクライマックス!

さあ、決着がつきますぜ!!


 

 それは、一瞬の出来事だった。

 

 周囲の敵が自衛隊に手いっぱいになっている状態を、リセスは決して見逃さなかった。

 

 そのチャンスを狙い、リセスは全力でソウメンスクナに猛攻を加える。

 

 元々巨人用の装備として開発されたキョジンキラー。その性能は巨人との殴り合いで真価を発揮する。

 

 かつて、リセスはソウメンを一対一で殺したことがある。それも、生身でだ。

 

 ソウメンスクナは確かにソウメンを素体により強化されているが、しかしその強化はリセスの成長速度を超えてはいない。

 

 そして、リセスは鍛え上げられたと同時に対巨人兵器を装備している。そのアドバンテージは大きい。

 

 その猛攻が、一歩先を行く。

 

 キョジンキラーの拳がソウメンスクナの頭部を砕き、そしてそれを見つけた。

 

「あれが、核ね!」

 

 ソウメンスクナの頭部の中には、小さな核があった。

 

 一センチ四方の球体の物体。それが、ソウメンスクナを動かす頭脳体。

 

 あれを破壊すれば、ソウメンスクナは機能を停止する。

 

 そうすれば、少なくともこの場の敵でオーディンを殺せるものはいなくなる。後はヒロイ達がロキを何とかすればいいだけだ。自分が援護に行く事も出来るだろう。

 

 そして、今度こそペトの過去を苦しめる呪縛を砕くことができる。

 

 かつて、自分はペトという少女を救った。

 

 ソウメンという鬼の所業が、あの男を遥かにしのぐ外道だったからこそ、自分は動いた。

 

 だが、もはやペトはそれ以上の存在だ。

 

 彼女は自分の大事な妹分。その幸せを心から願っている。

 

 だからこそ、この場で砕く事で決着をつける。

 

 その決意を込めて拳を振りかぶり―

 

「っ!?」

 

 そのまま、キョジンキラーの腕がちぎれ飛んだ。

 

「ダメージを受けすぎた!? こんな時に!!」

 

 これまでの損傷のダメージが大きすぎた。

 

 少しずつ、しかし確実にキョジンキラーは損傷を受け続けた。そしてそれは各部を摩耗させ、キョジンキラー自身の駆動にすら耐え切れない程追い込んでいた。

 

 そして、その隙をソウメンスクナは見逃さない。

 

 一騎に二対の腕を振るい、キョジンキラーのコックピットブロックを潰しにかかる。

 

 鬼神の圧倒的出力によりコックピットが歪み、そしてリセスは一瞬でキョジンキラーの放棄を決意した。

 

 もとより、燃費以外は桁違いに安い代物だ。リセスという動力源がある以上、そのコストはあり得ないほどに低価格である。

 

 ゆえに、リセスは即座に脱出し、しかしソウメンスクナの人工知能はそれを読み切った。

 

 腕の一本が即座に動き、リセスを握り締める。

 

 そしてそのまま、一気に握り潰しにかかった。

 

 リセスは神器を全力で稼働させ、それを防ごうとする。

 

 力比べが起き、そして拮抗。

 

 だが、リセスは体全部を使って踏ん張っているのに対し、ソウメンスクナは腕を一つしか使っていない。

 

 即座にキョジンキラーを潰していた腕を使い、さらなる圧殺を仕掛けようとする。

 

「リセスさん!!」

 

 即座に小犬がカバーに入ろうとするが、それは悪手だ。

 

「かまわないで! ソウメンスクナのコアの方を!!」

 

 ソウメンスクナが全ての腕を使えば、いかに小犬が犬神の力を宿しているとしても力比べでは勝てない。それは悪手だ。

 

 だが、既にソウメンスクナのコアは露出している。其れさえ壊せばソウメンスクナはもう意味をなさない。

 

 だが、それを指摘している時間がまず意味をなさなかった。

 

 一瞬で、ソウメンスクナは小犬すら掴む。

 

 小犬もまた強引に抵抗するが、さらに残りの腕が止めを刺さんと行動を開始しした。

 

 シトリー眷属も自衛隊も援護射撃を行うが、しかしソウメンスクナを倒すには足りない。

 

 ピンポイントに核を狙い打とうにも、しかし小さすぎて自衛隊もシトリー眷属も攻撃が当たらない。

 

 ……ここまでなのか。

 

 死に物狂いで努力をした。

 

 持っている資金を惜しげもなく投入した。

 

 体が快楽から逃れられなくなるぐらい、体すら差し出した。

 

 そして、能力を最大限に発揮する為、体も虐め抜いた。

 

 しかし、それでも英雄という頂には届かない。

 

 そして、自分が助けた少女すら死なせて人生を終える。

 

 それが、たまらなく嫌だ。

 

「いやよ、こんな終わりは……」

 

 これで終わりだなんて受け入れられない。

 

 強者(英雄)になるどころか、助けた少女を巻き添えにするような弱者として終わるだなんて、認められ無い。

 

 いやだ。いやだ。これは嫌だ。

 

「……誰か、助けて」

 

 其の声は、誰にも届かなかった。

 

 だが、そんなものがなくても助けてくれるものはきちんといる。

 

 それだけの事を、リセス・イドアルはきちんと積み上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここで、見捨てていいのか?

 

 ここで、彼女を死なせていいのか?

 

 せっかく再会できた友を、こんな形で失っていいのか?

 

 ……敬愛する者を、こんな場所で、英雄にさせずに失わせていいのか?

 

 一瞬で、答えは出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様ぁ!!」

 

 其の声が届くと同時、ソウメンスクナの動きは止まった。

 

 ペト・レスィーヴの人工神器、堕天の祝福受けし魔弾(スナイパー・ザミエル)は、第三宇宙速度で光力の弾丸を放つ。

 

 その弾速は、秒速15kmを超える。対して音速は精々秒速400メートル足らず。

 

 ゆえに、その言葉が届く前に全ては決着していた。

 

 リセスの視界にあるソウメンスクナの核は、見事に撃ち抜かれていた。

 

 そしてソウメンスクナは脱力し、そのまま倒れる。

 

 大きな轟音を響かせて、ソウメンスクナは無力化された。

 

 そして、その場にいる者達は敵味方問わず唖然としていた。

 

 無理もない。この場にいる者達の大半は、頭部にソウメンスクナの核がある事をすら認識していなかった。

 

 かろうじて認識していた者も、その神業に目を見張るほかない。

 

 1km近い距離離れている、1cm四方の物体を、速射で撃ち抜く。

 

 断言しよう。神業という言葉すらぬるい。

 

「な、何が……起こった?」

 

「そ、ソウメンスクナが……」

 

 術者やヴァルキリー達は、どういう事なのかすら分かってない。

 

 大火力での広範囲殲滅などを考慮する彼等だからこそ分からない。その神業が、どれほどの偉業なのかを。

 

 そして、其れを理解する事の出来る自衛隊もまた、硬直していた。

 

 銃による射撃を行う彼等だからこそ、狙撃の難易度も承知している。

 

 はっきり言おう。この場にいる自衛隊員に、あれと同じ事ができる者などはいない。

 

「おい、マークスマン。お前、出来るか?」

 

「百回撃ってもできねえよ! しかも、さっきの子って……」

 

 自衛隊員はよく知っている。狙撃に関して異常な拘りがある狙撃職人と揶揄される日本の自衛隊だからこそよく分かる。

 

 神業である。狙撃の神の御業である。

 

 作戦開始前の彼女の様子は分かっている。

 

 誰が見ても絶不調。なんでこんな場所に配属されたのかすら分からない程、バッドコンディションだった。

 

 それが、誰も真似出来ないような狙撃を行ったという事実に、自衛隊員は思考を停止していた。

 

 そして、其の間に動くものはシトリー眷属。

 

「今です! 勝敗は決しました!!」

 

 其の声とともに、シトリー眷属が敵部隊を捕獲する。

 

 ペトの圧倒的な狙撃技量を知っている彼女達だからこそ、この事態に対して比較的冷静に動く事が出来ていた。

 

 それで我に返った者達は、勝敗が決した事を悟ってそのまま縛につく。

 

 そして、すぐに正気に戻った自衛隊員も捕縛を開始した。

 

 そんな中、リセスと小犬は疲れ果てて背中を合わせて座り込んだ。

 

「な、何とかなったわね」

 

「うん。疲れたぁ~」

 

 ヒロイ達の援護に行くべきなのだろうが、かなり消耗してしまった。

 

 できれば少し休みたい。一息つくだけの時間が欲しかった。

 

 そして、そんな二人に涙を流しながら文字通り飛んでくる少女が一人。

 

「小犬ちゃん、お姉様ぁあああああ!!!」

 

 鼻水すらたらしながら、ペトは二人に抱き着いた。

 

「心臓が止まるかと思いましたぁああああ!! 小犬ちゃんも無事でよかったぁああああ!!」

 

 そのまま抱き着いて号泣するペトに、リセスも小犬も苦笑する。

 

「……ね、リセスさん」

 

 そして、リセスは小犬のその言葉を聞いた。

 

「まだ、自分の事助けたい?」

 

 その言葉に、リセスは苦笑する。

 

 この子は直観力に優れているが、まさかここまでとは思わなかった。

 

 ペトにしか話していない自分が英雄を目指す理由。それに勘付いているらしい。

 

 そして、其れに対する答えも決まっていた。

 

「そうね。救いたくてたまらないけど……」

 

 そこで言葉を切り、リセスはペトの頭をなでる。

 

「今は、この子が救われた事で十分だわ」

 

「そっか。そだね」

 

 そして小犬もペトを抱きしめる。

 

 まだ戦いが続いているところはあるが、しかしこの場の勝利は確実だった。

 

 だから、ここは少しだけ休んでもいいだろう。

 

 彼等もまた、英雄と名乗るにふさわしい猛者なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 俺はこっそり移動しながら、その大暴れを目に焼き付けた。

 

 現職総理大臣、大尽統が、ロキの眷属を相手に無双をぶちかましている。

 

 そのオーラを纏った攻撃が、量産型のミドガルズオルムをことごとく殴り飛ばし、蹴り飛ばしていた。

 

「おのれ! 人間風情が!!」

 

 そしてロキの放つ魔法攻撃すら、オーラを纏った拳で弾き飛ばす。

 

 あ、あり得ねえ。あのオッサン、民間人で、政治家で、しかもオッサンだぞ?

 

 なんであんだけ強いんだよ。異形組織の長か!!

 

「馬鹿な、ただの人間が、十束剣を持った捧腹を倒すなど!! ブリュンヒルデにすら食い下がるだろう猛者だぞ!!」

 

 相当強力な実力者だったのは分かる。捧腹の奴は強敵だった。

 

 それを、一瞬で無力化した総理は一体何なんだよ。

 

 そして、その攻防の中総理は余裕すら見せている。

 

 なにせ片手はミョルニルで埋まっている。そのハンデは大きいはずだ。

 

 にも関わらず、俺達が唖然とする中今度はスルト・サードの股間に上段蹴り!!

 

「舐めんな!! 俺は空手が趣味でな、それ位出来なきゃ話にならねえ!!」

 

「武器を持った鬼をその程度で倒せるかぁあああ!!!」

 

 渾身のツッコミを入れながら、ロキは再び魔法攻撃を放つ。

 

 それを倒れたスルト・サードを盾にして防ぎ、総理は吠えた。

 

「馬鹿野郎!! 空手ってのは素手で刀持った武士から身を守る為の武術だ。武器持ちぐらい倒せて当然だ!!」

 

 その言葉とともに、総理が空を飛んだ。

 

 ボディアーマーの一部である足にある龍の頭から、ブレスが放たれてジェット推進になる。

 

 そのどっかのスーパーヒーローみたいな飛び方に、ロキは唖然となった。

 

 そして、その隙に総理は懐に潜り込む。

 

「なあ、オイ。言っとくがむかついてんのは俺もなんだぜ?」

 

 ―そのすごみに、ロキすらたじろいだ。

 

 こっそり位置取りしていた俺も、我に返って援護しようとしたタンニーンさんも、いざという時の根性なら人一倍のイッセーすらビビった。

 

 そんぐらいのマジの怒気が放たれている。

 

「いくら利用したとはいえよ。その為に何人うちの自衛隊員が死んだか分からねえ。……そんな大騒ぎ起こしておいて、まさかこの国からただで出られるたぁ思ってねえよなぁ?」

 

 そして、その拳は今まで以上のオーラが込められ―

 

「この国のトップの被戦挙拳を舐めんじゃねえ!!」

 

 豪快に地面に叩き落とした!!

 

 ってか字が違う!! おやじギャグ!? 余裕あるなオイ!!

 

 そして、総理はロキが体勢を立て直す間も与えずにミョルニルのレプリカを振りかぶる。

 

 そのミョルニルから雷がほとばしり、そして轟音をまき散らした。

 

 おい、イッセー並みにミョルニルを使いこなしてねえか、あのオッサン!!

 

「馬鹿な! 俗物にミョルニルが使えるわけがない!?」

 

「ほざけ! 確かにおりゃぁ俗物の王だが―」

 

 狼狽するロキに、総理は大上段からミョルニルを振りかぶり―

 

「―この国の未来を思う気持ちに、よこしまなもんなんて一つもねえぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 そのまま、雷撃が一帯を包み込む!!

 

 ロキはかろうじてかわすが、その衝撃と雷撃は、残っていたロキの眷属を全員まとめて叩きのめす!!

 

 これでロキの手勢は全滅。後はロキのみだ。

 

 そして、運がいいことにロキは俺の目の前に立っていた。

 

 この隙、逃さん!!

 

「槍王の型、流星(ながれぼし)

 

 俺は躊躇することなく必殺技を叩き込み―

 

「―甘いぞ」

 

 その瞬間、ロキの姿がまた掻き消えた。

 

 そして、俺の後頭部にロキの手が当たる。

 

 またか! また幻術か!!

 

「貴様の攻撃は見切った。生体電流の操作が肝だな?」

 

 なるほど、気づきやがったか。

 

 俺の編み出した必殺技、槍王の型は、生体電流を操作する事で発動する奥義だ。

 

 人間は筋肉を生体電流で動かす。脳とは言わばタンパク質でできた生体コンピューターだ。そして、人間は基本的に体がリミッターを本能的に掛けている。

 

 槍王の型は、紫に輝く双腕の電磁王を利用してその生体電流を操作し、リミッターを解除して脳の機能を向上させ、更に生体電流の性能も強化する。

 

 その上で放つ、俺の限界を三段飛ばしした攻撃だ。

 

 ゆえに、体の負担がとてもでかい。

 

 脳もオーバーヒートするし、激痛は走るし、体も無茶な電流操作でしびれる。

 

 何とか二発撃てるようにしたが、それでも限界はある。

 

「この状態で刺突はできまい。我の攻撃の方が、構えを取り直すより早いぞ?」

 

 なるほど、確かにそうだ。

 

 だが……。

 

「言ったよな? オーディン神を殺したいなら、俺を殺してみろって」

 

「そんなことを言ったな。ならば、ここで実行させてもらおう」

 

 ………誰もが動けるかどうか分からない状況で、俺達は一瞬だけ呼吸をし―

 

「死―」

 

 ロキが魔方陣から魔法を放つ―

 

「―槍王の型、箒星(ほうきぼし)

 

 ―その一瞬で、俺は決定打を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、その光景を目の当たりにした。

 

 圧倒的不利な状況のはずのヒロイが、逆転した。

 

 いつの間にか移動してた所為で、誰も援護できない中、ヒロイはロキを吹っ飛ばした。

 

 おい、ロキが言うには、槍王の型は出す余裕がないんじゃなかったのかよ?

 

 そんな中、ヒロイはふらふらしながらも、得意げな顔をして見せた。

 

「……悪いな。槍王の型はバリエーションがあるんだよ。さっきのは刺突の流星(ながれぼし)で、今のは薙ぎ払いの箒星(ほうきぼし)だ」

 

 な、なるほど。隠し玉がまだあったのか。

 

「バリエーションがいくつかあれば、戦術の組み立てができるだろ? 俺は手数特化型だから、これぐらいの伏札は持ってんだよ」

 

 そう得意げに言って、ヒロイはそのままぶっ倒れる。

 

 あ、限界だったのか。

 

 俺達は慌てて駆け寄ろうとするけど、それより先に総理がヒロイを受け止めた。

 

「切り札は最後まで取っておけ。出すなら更に奥の手を……ってか」

 

 そう面白そうに言う総理は、気絶したロキを掴んでた。

 

 あの、ミョルニル置きっぱになってんだけど? レプリカだけど、一応神様の武器なんだけど?

 

 ツッコミいれてぇえええええ!! でもお偉いさんだからうかつにできねぇえええええ!!!

 

 俺達がどうしたもんか思ってる中、総理は気絶したヒロイを背負うと、俺達に親指を立てる。

 

「……勝ったぜ、野郎ども!!」

 

 ………ああ。勝ちましたね。

 

 死亡者を一人も出す事なく、俺達は神様の軍勢を返り討ちにしたんだ。

 

 やったな、ヒロイ!!




相も変わらず狙撃に関しては化け物なペト。超遠距離から狙撃をぶちかます猛者です。


それはともかく総理大臣、無双。例えるなら内閣無双?

まあ、政治家なのでうかつに前線に出てこれませんが、かなりシャレにならない戦闘能力です。神すらぶんなぐりました。




そしてヒロイの必殺技、槍王の型の詳細説明。能力は超精密な生体電流操作です。

人間の体にかかわる微細な電流を操作することで、無理やり限界を超えた動きをぶちかますのがこの技。捧腹の動きに干渉したのはこの技の余技にすぎません。

もっとも、反動が大きすぎるため現段階ではご覧の有様ですが。

そしてラグナロクは


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第三章 20

本日は完全な会話パート。

いや、結構長くなりまして……。


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで! これからは俺ら日本政府も一枚かませてもらうぜ、三大勢力のトップさんよぉ」

 

『へいへい。事実上ぼろもうけした勢力は言うことが違うねぇ』

 

『まあいいじゃないか、アザゼル。日本は世界でも有数の国家だ。それが本格的に味方になるならそれに越したことはない』

 

「魔王様は言うことが違うぜ。ま、アースガルズの協力もあったおかげでこっちはメタンハイドレートの採掘も実現秒読みだしよ。ロキ達(むこう)自衛隊(こっち)を舐めプしてたおかげで、負傷者はいても戦死者はいねえ。ま、総督さんの言う通りにぼろもうけだな」

 

『さらに九条を妄信してた連中は、今回の件でノイローゼ起こすわPTSD起こすわの大騒で引退祭り。国内の連中もパニックが大きいが、結果的には今後の利になりまくりだなぁ、総理さんよぉ』

 

「ああ。既に防衛費の増大は決定。更にウツセミの改良もそっちの協力を取り付けれたわけだ。そもそもそっちの失態で迷惑かかったんだし、しっかり協力してもらうぜ?」

 

『それにより、国連加盟国初の異能運用による正式軍事組織の設立宣言か。……そして総理、例の話は本当なのか?』

 

「ああ。増大した分の防衛費を数割回して、本格的に外部から戦力を貸してもらうつもりだ。……今のところは、アースガルズのヴァルキリーとかエインヘリヤルだけだがよ、他の神話体系と和議が結ばれ次第、アグレッサーとして運用するぜ」

 

『末恐ろしい限りだな。……それで? それはつまり、本格的にヴィクターと敵対するって事でいいのかよ?』

 

『三大勢力和議の地を持つ国家が味方に付いてくれるのは嬉しいが、いいのかね?』

 

「……お前さん達は気づいてねえのかい?」

 

『なにかね、総理?』

 

「ヴィクターのスポンサー共からは賢人どころか俗物の匂いもしねえ。……あれは欲に目のくらんだ外道の匂いだ。国家の首脳として、あれと手を組めばこの国は大きく腐敗する。それは国家としての死だぜ? 俺は総理大臣として、日本という国を失敗国家にする気はねえ」

 

『『………』』

 

「だから負ける気もねえ。まあうちは九条の全面撤廃は無理だろうから戦力提供はできねえが、仮想敵の名目で演習相手ぐらいにはなってやるよ。第一、仕掛けてくるなら遠慮なくぶちのめせるしな」

 

『抜け目がねえ事言ってくれるな。必要ならわざと挑発して仕掛けさせる事もいとわねえってか?』

 

「んなもんは先代の頃からやるさ。……この国はな、自分から戦争仕掛けりゃしないが、それ以外で敵を恐怖に陥れるぐらいのことはやってのけるんだぜ?」

 

『敵に回したくないものだ。だが、味方に回せばこれほど頼もしい国もそうはいない。そうだろう、アザゼル?』

 

『だな。世界の殆どの大国は、聖書の教えを信仰していたせいでいまだにパニック状態だ。他の神話体系の力を借りようにも、一神教の思想に染まっているゆえに中々進まねえと来てる。その隙に第三世界に追いすがられるのも近いだろうな』

 

『そう。そしてそんな中有利なのは、帝釈天が裏で手をまわしているだろう中国と、インド神話の大手であるインド。どちらも人口が圧倒的なのもある』

 

『魔法技術が広まれば、人口がもろに影響出すからな。ま、インドの方はカースト制度の影響で遅れるだろうが、あそこはクーデターの影響が少ないし、充分スピードが出せるだろうよ』

 

『そう。そして中国はクーデターの影響こそインドより大きいが、それでも世界最大人数の国家だ。魔法技術が広まることにより、マンパワーがそのまま国力増大につながる』

 

「……だが、その二つの国はこの国ほど無茶苦茶な宗教観を持ってねえ。その分各勢力、それも民間の伝説レベルに迄貶められた神話とかはこっちに食いついてくるだろうよ。現にアースガルズとはとんとん拍子で話が進んで、オリュンポスとも会談の申し込みがあったしな! それもこれも聖書の教えが宗教的侵略をしてくれたおかげだぜ!!」

 

『それ、ミカエル達には聞かせるなよな? ま、この国のそういう宗教的寛容さがあれば、そいつらの復権には大助かりか』

 

『恐るべしだ、日本。鎖国政策によりヨーロッパの侵略を潜り抜けた侍の魂は受け継がれているということか』

 

「俺は侍の家系じゃねえがな。……ま、須弥山の方も色々動いているようだがよ」

 

『何だと? 帝釈天の野郎、何しやがった?』

 

「来月にやる京都の妖怪との和議に、俺達も参加してみたらどうだといってきやがった。日本(ウチ)をアメリカから引きはがしたいのかねぇ?」

 

『それともインド神話との協調を取られたくないのかもしれないな。あの神はシヴァのことを敵視している。協力されて挟み撃ちになるのを嫌ったのだろう』

 

『抜け目ねえなあの野郎。……で? おたくの親分のアメリカさんはどうすんだよ』

 

「そこはほら、総督さんの元同僚のセラフの方々に説得をお願いするぜ? ま、いっそのこと上下関係を逆転ってのも……面白いけどな?」

 

『原爆二世の母親を持つ身としちゃ、アメリカの下っ端な生活にはうんざりだってか?』

 

「良く調べてんな総督殿。……別に、好きじゃあねえがそれを仕事には入れねえよ。ジジババの恨みつらみをガキどもにまで背負わせるわけにはいかねえだろ?」

 

『なるほど、素晴らしい姿勢だ。我々も見習わねば』

 

「真っ先に和平した三大勢力の一角が言うなよ、魔王さんよ。……で、話進めるぜ? おたくらのお気に入り、かなりの速度で出世するんじゃねえか? 元々うちのもんなんだから、唾つけていいか?」

 

『どっから聞き出しやがったんだこのオッサンは』

 

『耳が早いね。イッセー君の昇格はほぼ確定だろう』

 

『なにせコカビエルが暴走した事件に始まり、和平会談テロ、冥界のパーティ襲撃事件。とどめに現勢力から旧魔王派への亡命騒動など全てに関わり、その全てで成果を上げてるからな。いくら上役の頭が固かろうと、これをガン無視するなんて世論が許さねえさ』

 

『そういうことだ。出来ればイッセー君にはもう少し「おっぱいドラゴン」でいてほしいのだが、個人的にも彼には冥界の希望になってもらいたい』

 

「うちの国民をどんな存在にする気だよ……。ま、人間世界(こっち)じゃ受けが悪そうだからそっちで預かってくれるってのも好都合なんだがよ」

 

『確かにな。学校じゃ今でも嫌ってる奴多いしよぉ。あれぐらいスケベな方がむしろ安心なんだがな』

 

「うっせぇよ総督殿。特にこの国はそういうのうるせぇの。エロスはいけませんなんだよ。政治家であんなことすりゃ、確実に政治家人生詰むっつの」

 

『世界を代表するポルノ大国がよく言うぜ! 日本のエロビデオは割とすげえんだがよ』

 

「フィクションと現実は違うのー。フィクションだから許される事ってあるんですー」

 

『……すまないが、グレイフィアに睨まれるので話を戻そう。とにかく、イッセー君は間違いなく昇格資格を獲得する』

 

『だろうな。後は聖魔剣の木場と雷光の朱乃ってところか。木場はイッセーの次にチートじみてる特例だし、朱乃はバラキエルの娘ってのが大きい』

 

「他の連中もレアキャラ揃いだろうが。ソシャゲでコモンばっかり引く俺の身にもなってもらいたいぜ」

 

『その分内閣(同胞)はやり手揃いではないか。……まあとにかく、イッセーくんはいやがおうにも注目の的だということだ』

 

「羨ましいぜぇ魔王様よ。人間の世界じゃあいつは表だと癖が強すぎるからよ、ま、俺から言わせりゃ異形はリベラルか老害の二択なんでめんどくせえんだがな」

 

『頭が固いか柔らかいかの二択って言ってほしいな。……で、サーゼクス。タイミングはどれぐらいになるよ?』

 

『駒王学園の学園祭が終わる頃だろう。その頃には例のゲームも終わっているだろうし、その成績次第で確定……だろうね』

 

「ああ、確か次期大王とのレーティングゲームなんだって? いいねぇ。俺も招待してくれよ」

 

『かまわないよ。それに、人間世界の各国代表に、冥界の文化を知ってもらういい機会だ』

 

『中々面白い展開になってきたじゃねえか。……イッセー、念願の上級悪魔の道、案外短いかもしれねえぜ?』




と、言うわけで総理大臣、魔王代表、堕天使総督による会話でした。因みに割とプライベート。

まあ、そんなわけで現内閣はヴィクターとの敵対はほぼ確定。あんなのに政治に干渉されたら、確実に国内情勢が悪化すると判断しました。旧魔王派とか味方にしてるようなれんちゅだから是非もないね!!


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第三章 21

はい、ラグナロク編のエピローグになります。

……まあ、これは原作とあまり返れないのですが。


 

「………ぶははははははははは!!!」

 

「リムヴァン、どうしたんだ?」

 

「聞いてよ曹操! イッセー君ったら、異世界の神様とコンタクトしたんだってさ! それもおっぱいの神様だって!」

 

「………どこから反応していいのかわからないな。だが、納得できてしまうのはこれまでの実績ということか」

 

「ああもう! 乳首つついて覇龍解除するところマジで見たかった!! なんで倒されたんだよ、僕の分身は!!」

 

「ある意味興味は沸くね。俺も見てみたかったよ。……で、ロキから奪った魔獣たちは?」

 

「大量大量。ロキが和議を妨害するなら、間違いなく相当の魔獣を用意すると思ったよ。……準龍王クラスの魔獣を四匹も確保できるだなんて、ラッキーだね」

 

「さらに量産型のミドガルズオルムも十匹近く。……研究材料には事欠かないな。これは面白そうだ」

 

「ヒルトちゃんもだいぶ溜飲が下がったそうだよ。……ま、彼女の本命はフレイヤとオーディンなんだけどね」

 

「それでも、同胞の先祖の無念を晴らせたのはいいことだね。いや、俺が倒すべきだったのだろうけどね」

 

「聖槍を宿す英雄としては、ヒロイくんに神を取られたのは不満かい?」

 

「ああ、だからできるだけ早く意趣返しをしたいね」

 

「それなら大丈夫だよ。彼らの修学旅行、京都だってさ?」

 

「……それはいい。最高だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さあ、どれだけ強くなったのか教えてくれ、まがい物君?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほっほっほ。この会談は有意義じゃったのぉ」

 

「よかったねお爺ちゃん! それで、どんな感じ?」

 

「ああ。日本神話とも日本政府とも仲良くできそうじゃ。特に日本政府は、最近縮小傾向だったヴァルキリーたちを魔法の指導員として招きたいと言ってての?」

 

「女性の自衛隊員がヴァルキリーになりそうだね!」

 

「東洋人からのヴァルキリー登用か。オリエンタルなヴァルキリーとは最高じゃの」

 

「うんっ! それなら、またお爺ちゃんと会えそうだね!」

 

「ほっほっほ。わしの護衛の名目で北欧旅行に来たのじゃからもうちょっと一緒じゃよ」

 

「わーい! ユグドラシル観光とかできる?」

 

「もちろん。なあ、別にいいじゃろうロスヴァイセ?」

 

 

 

 

 

 

「え? ロスヴァイセはついてきてないよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ゛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、俺達はロキを撃退する事に成功した。

 

 んでもって俺達が見てるニュースでは、大尽総理が映って丁寧な口調で喋ってる。

 

『では総理。これと同様のことが確実に起きるとお考えですか』

 

『まず間違いないでしょう。なぜなら、ヴィクター経済連合は世界各国でクーデターを起し、現世界各国に対して敵対を宣言したのですから』

 

 総理の地を知る俺達からするととても違和感があるが、しかしまあ、外向けの顔ってのは誰にでもあるんだろう。

 

『そもそも、外国の憲法まで詳しく知っている者はこの国にも少ないのです。である以上、日本国憲法の九条は抑止力にはなりえません。例え知っていたとしても、馬鹿はするのです!』

 

 そう、熱意を込めて総理は告げる。

 

 まあ、俺も行った事のない外国の理念とかなんてさっぱりだ。行った事のある国でも法律や憲法を知っているかって言われるとよく分からねえ事が多いしな。

 

 総理の言ってることは正論だ。

 

『そして、馬鹿が国家盟主である国は残念なことに多い。我々は賢者の反応を前提にするのではなく、愚者の反応を前提に対応を想定しなければならないのだということを―』

 

「……とんだ役者ね。この会見、ヴィクター経済連合が動いた時から準備してたんでしょうね」

 

 半目でお嬢がそう言うが、まあこの場の皆の総意だろうな。

 

 なにせ、最初からそう言う事が起きる事を願って異形勢力の和議に首を突っ込んでたのは既に俺達は知っている。つーか本人が言ってた。

 

 当然襲撃をいつか受ける事を前提として動いていて、だからこそのあの対応だ。

 

 そして、其れは成果を出しまくってやがる。

 

 既に防衛費の増大は確定。更にそれを利用して、流出した人工神器技術を使って作られたウツセミという兵器の実用化及び大量生産を即座に決定し、動いている。更には和議を結んだばかりのアースガルズで縮小気味ゆえに浮いていたヴァルキリーを、今後の対ヴィクターの為の戦技教導官として雇い入れるということまで確定だ。

 

 凄まじい勢いで日本は大躍進を遂げてやがる。コレ、あっさりとアメリカを追い越すんじゃねえか?

 

 これに追随するかのように、中国やインドも自国の神話体系との連携を正式発表。それに引っ張られる形で、世界各国も異形勢力との連携を視野に入れ始めているとのことだ。

 

 ……本格的にヴィクターに対抗する為の動きが進んでる。この調子なら、ヴィクターと雌雄を決する日も近いかもしれねえな。

 

「この国は私達悪魔にとっては活動しやすい地域だったけれど、他の神話にとっても活動しやすい地域だったとはね」

 

「良くも悪くも神という存在を一括りで見てますもの。……アースガルズの神々もオリュンポスの神々も、自分達の神々と同じく神の一柱という認識なのでしょう。本職の人達は排他的ですが、一般人はそういう認識が強いのですわ」

 

 そう朱乃さんが苦笑するが、まあそうだろうな。

 

 この国、いろんな意味で、宗教的に緩いって言われてるしよ。俺も日本に行く時には言われたぜ。

 

 その利点が最大限に発揮されてるってわけか。この国、下手すると世界の盟主になるかもしれねえわけか。

 

 まあ、ヴィクターの方もそう簡単にはやられねえだろうな。

 

 俺達がロキと最終決戦してるどさくさに紛れて、ヴィクターはロキが連れていた魔獣のエース格をことごとく持って帰っていきやがった。

 

 ヴァーリチームの本命もフェンリルだ。どうも、フェンリルは支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)でヴァーリチームの支配下に置かれたらしい。

 

 あの野郎。それが狙いだったってわけか。味な真似を。

 

 そしてそれ以外のヴィクター経済連合にも、ロキが連れていた魔獣達が倒されて捕縛。

 

 いったい何に使うのかは分からねえが、ろくな事にならねえのは分かり切ってやがる。

 

 こりゃ、この戦いは長く続きそうだぜ。

 

 ま、それはともかく俺達も色々と頑張ってるわけで、そんな俺達にはご褒美もある。

 

 今回のロキの襲撃によって、この国の危機意識は改革されてる。防衛費の増大が速攻で可決されたのもその一つ。その結果として、日本の平和ムードは大きく変わり始めてる。

 

 そんな中では学生生活を満喫するのもあれだ。特にイベント関係は色々と自粛している学校もある。

 

 この駒王学園でもその動きがあった。特に修学旅行は、日本政府が京都に妖怪勢力がある事を認めた事もあり、何か起きかねないからどうかという声もあった。なにせ生中継で妖怪が自衛隊ボコってるところが映ってたしな。危機意識もでかいだろ。

 

 ……そんなご時世だが、修学旅行は例年通り続行ってことだ。

 

 具体的には三大勢力から護衛部隊が派遣されるという事だ。表向きには駒王町にある学校の修学旅行全部で行われるが、駒王学園は特に警備が厳重。京都が同じタイミングで異形勢力の会談が起きるとのことで、そこも踏まえて有事の際は動くってことだ。

 

 最近の俺達、かなり規模のでかい戦いばかり経験してるからな。亡命合戦が落ち着いてきた事もあり、念の為に用意してくれるらしい。

 

 この厳重な警戒態勢もあって、PTAも修学旅行を承認した。

 

 まあ、俺達に対するご褒美も兼ねてるんだろう。サーゼクス様達の粋な計らいってやつだな、うん。

 

「何はともあれ、修学旅行は行けそうで何よりだよ。ヒロイくん達は京都は初めてなんだろう?」

 

「おうよ! 日本が誇る古都。どんなところがちょっと興味があったんだよな」

 

 木場にそう答えながら、俺は、ちょっと楽しみにしている。

 

 なにせ悪魔祓いの仕事じゃあ観光旅行ってわけにはいかなかったしな。こういうのは楽しみだ。

 

 ああ、教会追放されて本当によかった……と、言いたいところだけどよ?

 

「実は俺、教会に間接的に復帰することになってな。土産代は全額出してやるぜ?」

 

「そうなのかい? サーゼクス様との契約は解除ってことになりそうだけど……」

 

 木場はそう言って俺の懐事情を心配してくるが、心配無用だ。

 

 悪魔側との契約を解除したわけじゃねえ。そう言うわけじゃねえ。

 

 それを、お嬢が先に言ってくれた。

 

「ヒロイは今回の功績を受けて、三代勢力合同で雇われたのよ。その為の年俸契約は各勢力が折半して、二億四千万円に上昇したのよ」

 

「そういうことさぁ!! 俺、金持ち!!」

 

 ふはははは!! 俺はついに真の意味でメジャーリーガー級の金を稼ぐ事に成功したのさ!!

 

 この中でも屈指の金持ちだ。やっほい!!

 

「なるほど。今度から金に困ったらヒロイに奢ってもらえばいいのか」

 

「流石ヒロイくん! 太っ腹ね!!」

 

「……ご馳走様です」

 

 あれ? ゼノヴィアもイリナも小猫ちゃんも俺から貪りつく気満々?

 

 京都での土産代を払うとは言った。だけど、別にそれ以外に関して何でも払うなんて言ってねえぞ?

 

 つか、ゼノヴィアと小猫ちゃんはお嬢にたかれよ!

 

 クソが! これが口は災いの元ってやつか!!

 

「ヒロイ! 俺のエロ本代も奢ってくれよ! 見せてやるから!!」

 

「もげろ!!」

 

 お前はもう必要ねえだろうが!! 

 

 っていうか自分で買えよおっぱいドラゴン。お前おっぱいドラゴンの興行収入稼ぎまくりだろ。俺より稼いでるかもしれねえだろうが。

 

 とにかく俺達がそんな教徒絡みの話題にシフトして揉めていると、泣き声が響いた。

 

「うわぁあああああん!! 完全にリストラよこれぇえええええ!!!」

 

 泣き続けるのは、スーツをまとった銀髪の女性。

 

 そう、ロスヴァイセさんだ。

 

 この人、どうやらオーディン神に置いて行かれたらしい。

 

 色々あったからなぁ。うっかり忘れてたんだろう、オーディン神も。気が抜けてたんだろうなぁ。

 

 と、携帯を開いていたペトが顔を上げる。

 

「……小犬からメールが来たッス。オーディンさま、今気づいたそうっスよ?」

 

「ちなみに、もうユグドラシルに着いてるって」

 

 姐さんが頭を抱えるけど、そこには同意だ。

 

 アウト! なんで小犬を連れて行ってるんだよ!!

 

「もう終わりだわ!! 今更戻ったところで、「主神を置いてのこのこと何をしに戻って来た」とか言われて閑職に追い込まれること確定だわ!! これもうリストラでしょぉおおおおお!!」

 

 絶望に包まれて、崩れ落ちるロスヴァイセさん。

 

 その肩に、お嬢の手が置かれた。

 

「そんなに泣かないで。駒王学園で働けるようにしておいたじゃない」

 

 あ、そうなんだ。

 

 ってちょいまち。なんで働く? 生徒じゃねえの? 大学の方の。

 

「で、希望は教諭ってことでいいのよね?」

 

「はい。私は飛び級で大学は卒業してますし、教員免許も取ってますから」

 

 まじか。この人本当に才女だな。

 

 俺達とそう変わらねぇ年齢だろうに、もう大学を卒業してんのかよ。

 

「……私、高校中退」

 

「お姉様しっかり!!」

 

 姐さんが崩れ落ちてる! この高学歴の群れの前に大ダメージを受けてる!!

 

 しっかりするんだ姐さん! 高校中退でも大検っての取れば大学は受けれるから! 三十代の大学生だって存在するから!!

 

 俺が姐さんを慰める為の方法を考えてる中、ロスヴァイセさんもまた落ち込んでた。

 

「で、でもこの国の学校で教師としてやっていけるのかしら? せっかく就けれた安定した職業だったのに……!」

 

「うふふ、そこでこのプラン」

 

 と、お嬢がロスヴァイセさんに近寄ると、悪魔の駒を片手になんかスカウトを始めやがった。

 

 ……なんかすごい待遇だし。俺の時もそうだけどよ、悪魔ってホント金持ってるからホワイト企業だよな。

 

 教会に所属してるより悪魔に雇われてる方が生活楽だし。おい、仕事の待遇がぱっと見のイメージと逆転してんのはどういうこった。

 

 と、ロスヴァイセさんがスカウトされている間にペトが姐さんをなだめながら俺に顔を向けた。

 

「ヒロイ、お姉様が大変っす。自分も手伝うから何とかするッス」

 

「つっても、俺も家庭教師とかできるわけじゃねえから大検は自分で取ってもらうしかねえんだが」

 

「……あ、アザゼルは教師やってるッス! 教えてもらって大検取るっすよ! そして一緒に駒王学園の大学部通いたいっす!!」

 

「それいいな! 姐さんと一緒のキャンパスライフとかマジでいいな!!」

 

 ペト、お前マジで良い事言った!

 

 俺は本気でそれに乗っかった。っていうか、姐さんとのキャンパスライフとか夢が広がるぜ!!

 

 英雄は頭使う事も多いからな。勉強はした方がいいぜ、姐さん!!

 

「そ、そうね。大学ぐらい出た方がいいかしら……」

 

「「もちろん!!」」

 

 俺とペトは同時にそう言う。

 

 そして、ふと目が合った。

 

 その目は、すっごくきれいで、一瞬見とれてしまった。

 

「……ヒロイ」

 

 と、ペトは満面の笑顔を浮かべる。

 

「一緒にお姉さまの勉強を見るッス。アザゼルだと悪戯で変なこと教えそうっスからねっ!!」

 

 その、曇りの全くない笑顔を見て、俺は―

 

「―おう!!」

 

 ―全力の笑顔でそれに応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、ロスヴァイセさんは見事に術中にはまって、お嬢最後の眷属として転生悪魔になった。

 

 そして朱乃さんがどさくさに紛れてイッセーにキスをしていたが、俺達はガンスルーで姐さん大学受験計画を練り始める。

 

 ……ペト。俺とお前は姐さんに助けられた。

 

 だから、俺達も姐さんを助けような。

 




三大勢力:アースガルズ及び日本と本格的な協力体制確定。アースガルズ側は大規模な生み出しに成功。

ヴィクター:魔獣大量確保


と、言うことでロキ勢以外はほぼ犠牲を出さずに設けたラグナロク編でした。

年長者なのにいちばん学歴があれなリセス。実は勉強もあまりしてないので、まともに学業成績で勝負すると確実にあの面子で一番低いです。駒王学園は名門校だからね、一年生でもへたな高校の二年生より頭いいしね!!








そして次は、8巻の書下ろし編の間にヒロイたちに起きた出来事を書いていきます。

まあ、ライオンハート編に備えたネタだしや、生来的に描くかどうかは未定のアザゼル杯編への伏線とかですね。


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第三章 22

はい、一種の番外編となります!

部隊は8巻書下ろしの次期。イッセーとリアスが儀式を受けるタイミングですね。

ちょうどその裏で起きたこの出来事。この混迷の世界で起きる、ある一つの争奪戦……。


 

 ある日、俺は帰りを遅くするという手段を取った。

 

 なんでも、その日はお嬢に会う為にグレイフィアさんがオフをとってやってくるらしい。

 

 ……なんか嫌な予感がしたというか、メイドの立場から解放されたグレイフィアさんには近づかない方がいい気がした。

 

 ほら、俺結構いい加減じゃん? 何か口うるさく言われそうじゃん?

 

 と、言うわけで夜まで姐さんの勉強に付き合ってから、俺達はお嬢の家に帰ろうとしたんだが……。

 

「……依頼ですかい?」

 

 と、ミカエル様から通信が来て、俺達はその依頼を聞いた。

 

『はい。実は亡命者の受け入れを行う部隊に参加してほしいのです』

 

「それは良いですけど、なぜこの時期に?」

 

 姐さんの疑問ももっともだ。

 

 既に亡命騒動もひと段落しているこの時期に、あえて亡命する理由が分からねえ。

 

 そんな事になったら目立って、あっさりヴィクターに討伐される可能性だってあるぜ?

 

『実は、その亡命者は旧魔王の末裔なのですが、旧魔王派はだいぶ混乱しているようで、その隙をついての亡命なのです』

 

「なるほど、むしろ今の時期だから亡命で来たッスか」

 

 ペトが納得するのも納得だ。

 

 こういう時期じゃなければ亡命できないような、注目を浴びる人物だということか。

 

『彼らはあえて人間世界のルートで亡命しています。そして自衛隊が不法入国して取り押さえたという名目で、彼らを保護する手はずなのですが……』

 

 どうやら、それを勘付かれている可能性が発覚したようだ。

 

 このままだと、自衛隊とその追撃部隊との間に戦闘が勃発しかねない。

 

 そこで、比較的自由に動ける俺達が助っ人して選ばれたってわけだ。

 

 ま、俺としちゃぁ断る理由なんてねえか。

 

「OKですぜ! もとより年俸の分は働かねえといけませんからねぇ」

 

「私も同意。英雄としては敵からの亡命者は保護してあげないとね」

 

「お姉様とヒロイが行くなら自分もッス!!」

 

 と、言うわけで俺達は自衛隊の助っ人として、今から準備をして助けに行く事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、仕事が決まって戻ってきてみりゃぁ……。

 

 なんかお嬢が顔を赤くしてんだけどよ?

 

 イッセーもイッセーでなんか緊張してるし。

 

「で、グレイフィアさんは一体何をしに来たのよ?」

 

「ちょっとした、家族認定試験みたいなものですわ」

 

 と、姐さんに朱乃さんが答える。

 

 ん? 家族認定試験?

 

「どういうことッスか?」

 

 と、俺達の疑問をペトが真っ先に口にする。

 

 見れば、ゼノヴィアやイリナ、ロスヴァイセさんも疑問符を浮かべていた。

 

 ん? どういうことだ?

 

「……部長は婚約を破棄したことがあるんです」

 

 ああ、そんなことも言ってた気がするな、小猫ちゃん。

 

 そして、木場もまた苦笑を浮かべて説明する。

 

「お相手はフェニックス家の三男、ライザー・フェニックス氏。レーティングゲームによる決定戦では負けたんだけど、サーゼクス様が気を利かせて、イッセーくんとライザー氏のタイマン勝負の機会をくださってね。それでイッセー君がギリギリで勝って婚約は破棄されたんだよ」

 

 なるほど。貴族様からしてみれば、既に一度レーティングゲームで決まった事をひっくり返されたからいい気分じゃねえと。

 

 ま、貴族の婚姻ともなるとただ愛しているってだけじゃあ駄目になるところは多いよなぁ。下に見る連中はゴロゴロいそうだ。

 

 で? それとその儀式に何の関係が?

 

「ああ。だからイッセー先輩が貴族社会でもやっていけるって証明したいんですね」

 

 と、ギャスパーがなにかに気づいてそう言った。

 

 ……んん?

 

「そういうことですわ。イッセーくんは赤龍帝ですし、万が一の場合はその次の当主のミリキャス様がおられます。ですから、イッセー君が貴族社会でやっていけるだけの器量がある事を証明すれば……」

 

 ああ。そう言う事か。

 

 つまり儀式ってのは、婚約者にふさわしい存在である事を示す為の、一種のテストだと。

 

「……ダンスや貴族の常識、食事のマナーを確かめる類です」

 

「そういうことですか。確かに、高貴な身分ともなればそれ相応の気品や知性が求められますからね」

 

 小猫ちゃんの補足説明に、ロスヴァイセさんが納得する。

 

 なるほどねぇ。確かに、貴族様ともなれば一般人とは異なるところを気にするべきか。

 

 教会の枢機卿とか聖女様とかも作法とか求められるし、ま、当然っちゃぁ当然か。

 

 だけどよ、一番肝心なところが出来てねえ気がするんだけどよ?

 

「……それ、肝心のイッセーがどういうことか理解できてないんじゃない?」

 

「そうなんですよね。イッセー君、未だに部長が向けている感情を下僕に向けるそれと思い込んでて……」

 

 姐さんのツッコミに木場が苦笑し、全員が同時にため息をついた。

 

 視線を向けると、イッセーはどうも戦闘のイメージトレーニングをしているようだ。この儀式を何らかの決闘的な何かと勘違いしてるみたいだな。

 

 いや、ホント流石に鈍すぎねえか?

 

 お嬢の愛情表現もなんかあれなところあるけどよ? それでも好意的な感情なのはすぐわかると思うだろ? それも、ラブ的な。

 

 そりゃ告白もしてねえのに裸で抱き着いたりエロ的アピールするのはあれだけどよ? それをイッセーに集中させてるってことはつまりそういうことだろ。

 

 なんつーか、特別扱いされてる事すら気づいてねえ節があるんだがよ。

 

「……朱乃さんとのデートについて、聞いたことがあるッス」

 

 と、ペトは朱乃さんに言いにくそうにしながら手を上げた。

 

「予行演習でこんなに喜んでくれるなんて嬉しいけど、それが他の男に向けられるはずのものって思うとマジその男に嫉妬する……とか言ってたっすよ?」

 

 俺達は更にため息をついた。

 

 あの馬鹿。なんでそんな方向に解釈すんだよ。

 

 戦闘中なのに無茶苦茶喜んでたろうが。小猫ちゃんがそれで朱乃さんのやる気が出るって言ってただろうが。

 

 なんでやる気出るのかが全く分かってねえ。どうでもいい男でやる予行練習で機嫌良くなる奴はいねえだろ。

 

「あなた達も大変ね。そんなのに惚れて」

 

 姐さんが、すっごく同情の視線をアーシア達に向ける。

 

 確かに同感。

 

 この調子じゃ、アーシアがおはようのキスをイッセーにするのもどういう意味か理解できてねえんじゃねえか?

 

「因みにアーシアに関しては「恋人とか兄妹とかじゃない、家族って感じがする」とかほざいてたっす」

 

「……よく後ろから撃たなかったわね。偉いわ」

 

 凄まじい事を相談されたペトに、姐さんが素直に褒めてなでなでした。

 

 あ、イッセーLOVE勢の表情が苦笑を通り越して暗くなった。

 

 だよなぁ。普通落ち込むよなぁ。

 

「これではイッセーと子作りするのもいつになるかわからないな。……出来れば愛も欲しいのだが」

 

「それはゼノヴィアが最初にあんな事言ったのが悪いんじゃない。そもそもあなた、基本的なアプローチはそこから変わってないんでしょう?」

 

 ゼノヴィアまで落ち込むが、まあそ関しちゃイリナのツッコミが正しいな。

 

 まずそこの認識を変える為のアプローチをする事から始めやがれってんだ。

 

「いや、これでも頬にキスしたりとかしたんだぞ? イッセーが独立したら私もアーシアと同じようにトレードしてほしいとも言ったし……」

 

「……それで気づくなら、部長達が苦労してません」

 

 しどろもどろに言い訳するゼノヴィアに、小猫ちゃんからの鋭いツッコミが飛んだ。

 

 くそぅ。分かっちゃいたけどやっぱりイッセーに惚れたか。これじゃあゼノヴィアとエロい事は無理か。

 

 ほんとイッセーもげろ。っていうか俺がもぐぞ。

 

 駄目だ。この会話続けてると俺達のストレスがどんどん溜まる。

 

 それに木場も気づいたらしい。話を変えてほしいと目配せしながら話を切り出した。

 

「……話を変えるけど、そう言えばヒロイ君達は何してたんだい?」

 

「小言言われそうだから、姐さんの勉強見てた」

 

「今日はもう、勉強したくないわね。ペトとキャンパスライフしたいからもうちょっとやるけど」

 

 俺に続いて姐さんがそうぼやく。

 

 どうも姐さん、ハイスクールでもあまり勉強してなかったらしい。更に七年間も学業から離れてたから、成績は芳しくない。

 

 ただやる気はあるので、あとは教え方が上手い奴が教えれば、大検はすぐに取れるだろう。あとは大学部の試験に合格すればいい。

 

 まあ、それも結構大変なんだがな。

 

「そしたら帰りに急にミカエルさんから依頼があったッス。ヴィクターからの亡命の支援っス」

 

「……この時期に珍しいですね」

 

 ペトの言葉に疑念を感じた小猫ちゃん達に、俺達が補足説明する。

 

 なんでも旧魔王の末裔だそうで、詳しい情報は俺達にも教えられなかった。

 

 旧魔王派はシャルバ達主導による暴走の影響で混乱期だが、更に方針の大幅転換をカテレアが打ち出して混乱が加速してるらしい。

 

 日本政府が保護をするのは、この時期に旧魔王末裔が来ても現政権の悪魔側が困るということからだとさ。

 

 大王派は旧魔王の栄光を出来る限り削ぎたい分らしい。魔王をお飾りにして、事実上の家紋としての栄光のトップを大王が独占したい節があるとの事だ。

 

 どっちにしても、今の魔王が確定している状況で、いきなり戦争中に旧魔王の末裔が来ても居場所を作りづらい。かといってセラフやグリゴリが確保してもそれはそれで政治的に混乱を引き起こす。他の神話体系とかもっと勘弁してほしい。

 

 で、いっそのこと人間世界に任せちまえばいいんじゃねえかと総理大臣が名乗りを上げたそうだ。それに大王家が飛びついたらしい。

 

 ……あの総理大臣のことだ、生来的な政治のカードにするつもりなのが透けて見えるぜ。甘いぞ大王。

 

 ま、それはともかくそういうことで、自衛隊が不法入国者の確保を行ったら、逃亡していた旧魔王末裔でした~! って感じで保護する手はず。

 

 つっても、追手が来る可能性は捨てきれねえので、三大勢力側からも戦力を送り込もうという話になった。

 

 そこで、三大勢力共同保有の戦力となり、かつ神滅具持ちという強キャラの俺が選ばれた。

 

 ……しっかし、旧魔王末裔の逃亡とか向こうも阻止してえだろうな。

 

 よし、ここはちょっと誘いをかけるか。

 

「なあ、この日暇してるなら、ちょっと手を貸してくれねえか? 悪魔の仕事って感じで対価は俺が払うからよ」

 

 と、俺は木場達に誘いをかけた。

 

「……私は無理ですね。まだ教職などの関係で忙しいので」

 

 と、ロスヴァイセさんには断られた。

 

「イッセーくんと部長も難しいね。ちょうどその日が儀式の日だから」

 

 なるほど、あんがとよ、木場。

 

 ってことはそれ以外のメンバーは―

 

「私はかまいませんわ」

 

「私も構いません」

 

「はい。私も協力します」

 

「私も構わんぞ」

 

「ミカエル様からの依頼、ヒロイくんが独占するなんて見過ごせないわ! 私はミカエル様の(エース)だもの!!」

 

「ぼ、僕はたくさん人がいるところはまだキツいです~」

 

 ギャスパーには断られたが、しかし結構集まったな。

 

 ああ、これはまるで疑似ハーレムだ。美少女に囲まれてウハウハだぜ!!

 

 問題は、その大半が俺以外の野郎に惚れてるってことだけどな!!

 




そういうわけで、三大勢力の預かりとなったヒロイはいろいろと仕事を受けるようになりました。

なにせ神をぶちのめした男ですから。集まる期待も生半可なものではないのです。


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第三章 23

そんなこんなで亡命の支援に向かうヒロイたち。

さて、どうなる古都やら……。


 

 そういうわけで、今俺たちは自衛隊の護衛艦に乗って合流ポイントに移動している真っ最中だ。

 

 今頃イッセーとお嬢は儀式の真っ最中か。食事マナーのテストもあるっていうし、きっとうまい飯食ってんだろうな。うらやましい。

 

 ……いや、そんなこと言ったら失礼か。

 

「……ここの飯もうめえしな」

 

「……食事の質は士気に影響しますから」

 

 俺と小猫ちゃんは、もぐもぐと自衛隊から供給された飯をかっ込んでる。

 

 なにせごたごたが起きる可能性だってあるからな。下手したら俺たちの誰かが死ぬ可能性だってある。

 

 割とうまいことで有名な海上自衛隊の糧食。食わずに死んでたまるものか。最後の晩餐はうまい方がいいに決まってるぜ。

 

「それでヒロイ先輩。一つ聞きたいことがあるんですが」

 

「あんだよ。言っとくが俺の分はやらねえぞ」

 

 俺は飯をガードしながら、小猫ちゃんの話を聞く態勢に入る。

 

「……リセスさんとペト先輩、どちらを選ぶんですか」

 

 俺は、かっくらったグラタンを吹き出しそうになった。

 

 耐えろ俺。うまい飯を吹き出すなんてそんなもったいねえことはできねえ。

 

 気合と根性と意地でなんとか抑え、俺は水で流し込む。

 

 よし、抑え込んだ。

 

「何の嫌がらせだ」

 

「いえ、リセスさんのことを慕っているようでしたし、ペト先輩とも最近親し気ですし」

 

 む、確かにそれはその通りだ。

 

 姐さんこそ俺の輝き(英雄)。俺が姐さんのことが大好きなのは当たり前だといってもいい。

 

 そしてペトは、俺が姐さんを慕っている理由を知っている。俺とペトは同じ人に救われてその人を慕っている者同士だ。それをお互いに理解している。

 

 だからか、最近俺はペトと仲が良くなっている。それはエロ仲間であるイッセーたちより上になっている節がある。

 

 まあ、そういう意味じゃあ気になる質問として出てきてもおかしくねえわな。俺と小猫も気心知れたなかだしよ。

 

「俺と姐さん、そしてペトはそういう関係じゃねえよ」

 

「ああ、リセスさんを中心とした二等辺三角形ですか」

 

 小猫ちゃんや。お前、そんなキャラだっけか?

 

 えっちぃのはいけません(物理)なキャラじゃありませんですかぃ?

 

 あ、イッセーに惚れてるからか。イッセーの奴はスケベだもんな。

 

「……染まったな、男に」

 

「部長や朱乃さんを見ていると、そっちに移行した方がいい気がして」

 

「いや、独自色ってのは大事だと思うぞ?」

 

 俺はそう突っ込みを入れる。

 

「つかよ。猫又って発情期あるって聞いたぞ。だったら発情期以外はエロくならねえんじゃねえか?」

 

「いえ、別に発情期じゃなくてもエッチな気分にはなります。少なくともそういう猫又は多いです」

 

 マジか。動物の発情期って、それ以外は性欲ねえとか聞いたんだが。

 

 いや、猫又は人っぽいところもあるからな。そのあたりが融合されて、そんな難儀な体質になったのか。大変だな。

 

 俺が同情の視線を向けると、小猫ちゃんが一味唐辛子をかけてきやがった。

 

 め、目がぁああああ!!

 

「難儀な体質ですいませんね。それに、房中術とかした方がイッセー先輩のためにもなりますし」

 

 ぼ、ぼうちゅうじゅつ?

 

「いわゆる男女が一つになることで行う術です。それをした方がイッセー先輩の寿命を回復させるのには効果的なんです」

 

「そういう方面から攻めれるのかよ。アドバンテージがでかいな」

 

 まず既成事実からか。お前すごいアドバンテージあるな。

 

 そしてできちゃった結婚とかいけるわけだな。なるほど、ハーレム作るならそういう方向の責任の取り方がメインになる。そう言う意味じゃあ、かなり有効な立ち位置だな。

 

 しっかしエロいことして生命力を増大か。イッセーはインキュバスか。いや、奪い取るんじゃなくて押し込まれるんだけどよ。

 

「しっかし、イッセーは趣味があれだしなぁ……ぶるうぉっ!?」

 

「どうせ、胸も体も小さいですよ」

 

 わ、悪かった小猫ちゃん。だからボディはやめて。

 

 周りの人も飯食ってるし! げろ吐いたらいろんな意味で失礼だし!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな漫才をヒロイと小猫がしてる中、ペトは教会三人娘に捕まっていた。

 

「それでだ、ペト。イッセーと子作りしたいのだが、男を誘惑する方法を教えてほしい」

 

「はいはい。いつか来ると思ったッスけど、イリナは良いんすか?」

 

 ペトが半目でイリナに視線を向ける中、イリナは翼を白黒させていた。

 

 明らかに堕天の兆候である。

 

 積極的にエロ話に関与したうえで堕天使となったミカエル直属の転生天使。醜聞以外の何物でもないことぐらいは、ペトだってわかる。元凶になるのは避けたい。

 

 だが、イリナは真剣な表情でずずいと攻め込んだ。

 

「実はイッセーくんが欲しがってたエロゲを買いに行ったことがあるのよ。それでちょっと気になるのよねぇ」

 

「天使が何してんすか?」

 

 ツッコミどころしか存在しない。突っ込まないところが存在しない。

 

 なぜ天使がエロゲーを買っているのか。しかもイッセー(悪魔)の欲しがっているエロゲーをわざわざ買いに行くとかなおさらすることではない。そしてなぜ興味を持つ。

 

 しかしそんなものを三人組はまったく気にしていない。むしろ疑問にも思っている素振りすら見せない。

 

 あれ? もしかして自分が一番常識人っすか?

 

 ふと、ペトはそう思って自分を振り返る。

 

 精神面でぶっ壊れている(ショック療法でだいぶ治った)狙撃手適正抜群の冷血な行動のできるスナイパー。好色家のお姉さまを敬愛する妹分堕天使。さらには変態たちと堂々とエロ会話を行い、母校で童貞食いをするのが趣味と化している。

 

 ……そこまで自分を客観視して、どう考えてもおかしいと結論付けた。

 

 目の前の三人は、三人そろって敬虔な信者のはずである。エッチなのはいけないだろう。

 

 ゼノヴィアとアーシアは確かに悪魔だ。悪魔は欲房に素直な生き物だ。しかし神の代行たる熾天使ミカエルから直接神に祈りを捧げることを許されたすごい信者でもある。

 

 イリナについてももう一度言うが、そのミカエル直属の転生天使。その前も生粋の信徒である。

 

 一言言おう。なんでエロ話を持ち掛けられるんだ。

 

「私としてはイッセーと速やかに子作りをしたい。いや、ヒロイから「在学中はまずい」といわれたが、その練習位はしたいんだ」

 

「……別に、練習ならイッセー以外でもいいんじゃないっすか?」

 

「いや、練習も含めてイッセーがいい。むしろイッセー以外は嫌だ!」

 

 すごくイッセー推しだ。

 

 ここまで好かれているとは、イッセーは男冥利に尽きるだろうなぁ。そんな感想をペトはした。

 

「でもなんでそんなに? 血統的なのなら、もっとすごいのも探せば確保できそうっすけど」

 

「いや、そういうことじゃない」

 

 ゼノヴィアはそういって首を横に振る。

 

 そして、素晴らしい思い出を思い出しているもの特有の輝いた眼をした。

 

 自分も最近よく見る。具体的にはヒロイがリセスのことを思い出して語っているときそれだ。

 

 あ、これぞっこんだ。ペトはそう確信した。

 

「祈りをついつい捧げては、システムによる裁きを受けてしまう私とアーシアのために、イッセーはあのミカエル様に直談判してくれた」

 

「はい。あの時は本当にうれしかったです」

 

 そういえばそんなことを聞いたこともある。

 

 敬虔な信徒なので祈りを捧げるのも当然だと思ってスルーしてたが、冷静に考えると悪魔は祈りを捧げるとあれなのだ。

 

 それを可能としたのが、イッセーの直談判だと聞いている。

 

「それ以来決めたんだ。私はイッセーの子供を作りたいとな。それにあいつは悪魔らしくスケベだがまっすぐだ。よくよく見ているといい男だとおもうぞ」

 

「そうです! イッセーさんはとてもやさしい人です!! 私の時も、レイナーレ様やたくさんの元悪魔祓いの方々がいるところに乗り込んでくれました!!」

 

 と、アーシアもまたそれに乗っかって赤い顔で熱弁する。

 

 たしか、グリゴリの潜入暗殺犯が独断で神器を確保しようとした事件だったはずだ。

 

 そのおこぼれに預ろうとかなりの人数が関わっていたが、リアスたちによって殲滅されたと聞いている。アザゼルが会談前の情報として教えてくれた。

 

 不必要な神器保有者の殺害を好まない、アザゼルの意向に反している暴走だ。おそらくその堕天使は、成功していても何らかの処罰を受けていただろう。

 

 憧れは理解から最も遠い感情だとこの国の漫画で呼んだが、まさにその通り。

 

 自分達の理想を求めるあまり、その手の想像がダメになるのはよくあることだ。自分やヒロイも気を付けないといけない。よくリセスを見よう。

 

 自分は二年の付き合いでそこそこリセスを理解しているが、ヒロイは付き合いそのものは短いのでちょっと不安だ。今度からリセスの日常生活について語って聞かせるとしよう。

 

 できれば、それで幻滅してくれないことを心から願いながら、話をさらに聞くことにする。

 

「でだ。イッセーが私達のような美少女が周りにいるのにえろげに熱心なので、いっそのことやってみたことがあるんだ」

 

「ふむふむ」

 

「でもまあ、私達ってえろげについてはよくわからないのよね」

 

「まあ、そっすね」

 

「なので、リアスお姉さまたちと一緒にイッセーさんに説明してもらったんです」

 

「はいアウトっす」

 

 ゼノヴィアとイリナまではよかったが、アーシアでアウトだ。

 

 イッセーは突き抜けているが方向性そのものはノーマル側である。おっぱい大好きなのは性癖としてはノーマル側である。

 

 そんな退廃的なものはきっと求めていない。やるとしても、自分のようなネタで済むようなタイプが限度だろう。

 

 どう考えてもこれはアウトだ。イッセーは引いてるにきまってる。

 

「とりあえず、年頃の男のノーマルな性癖という物から説明するッス。座るッス」

 

 と、とりあえず正座させて講座を始めようとして、その手に肩が置かれた。

 

 振り向くと、そこには顔を真っ赤にした自衛隊員一同がいた。

 

「わるい、お嬢さんたち。護衛艦の中の生活って女っ気がねえから」

 

「いろいろ溜まるから、こういう職業のこういう部署って」

 

「御免。ボルテージがやばいからマジでやめて」

 

 涙すら浮かべての懇願に、ペトは素直に納得して―

 

「じゃあ、あとでまとめて抜いてやるから一般人からの視点でこのお馬鹿トリオに指導お願いするッス!!」

 

 ……いろいろ説教されそうになったことを、追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてリセスは、甲板で割と警戒していた。

 

 戦闘経験が多い身としては、何かあると考えて動く方が必要だと思っている。こと海上での戦いは慣れてないので、それなりの警戒心は必要だ。

 

 ゆえに、今回の駒王学園組最年長としてそれなりの責任感をもって行動していた。

 

 そして、どうやら責任感を持っている年長者は他にもいたようだ。

 

「あらあら。姿を見ないと思ったら、こんなところにいましたのね」

 

「あら、朱乃」

 

 朱乃に声を掛けられながらもリセスは合流ポイントの方向から目を離さない。

 

 それに苦笑しながら、朱乃もまた隣に立つ。

 

「旧魔王派からの亡命者……ですか。どんな方なのでしょうね」

 

「罠の可能性もあるけど、別段おかしな話でもないのが何なのよね」

 

 旧魔王派と聞くと、状況認識能力に欠ける上に気位の高い問題児のイメージが強い。

 

 出くわした旧魔王派三人はたいていそれに該当しているので仕方がない。カテレアはサーゼクスのことを評価していたので比較的マシだが、セラフォルーに対する嫉妬心が強いので和解は難しいだろう。

 

 だが、けっして旧魔王末裔が亡命してくる可能性がないかといえばそんなことはないだろう。

 

 そもそも、現政権から旧魔王派に亡命しようとしたものはゴロゴロいる。ゴロゴロ出た。

 

 旧魔王派と現魔王派の大きな差異は、三大勢力の戦争をそのまま継続するか否かが大きなポイントだ。けっして血統主義の否定ではない。

 

 ゆえに、現四大魔王側の中にも多くの傲慢な者たちがいる。血統主義が多いのも、わかりきっている。

 

 さらに当時では種の存続の危機すらあった三大勢力の戦いも、天界側が大きな打撃を受けたことで希望の光が見えてきた。

 

 そういう意味では現魔王派から多くの者たちが亡命しようとしたのも当然だ。内乱の時とは状況が大きく違う。

 

 そして、状況が大きく違うのは旧魔王派も同じだろう。

 

 オーフィスの蛇という切り札を得た。ヴィクター経済連合という後ろ盾を得た。さらに、天界と教会は聖書の神の死を知らしめられたことで大打撃を受けている。状況は、大きく悪魔側に傾いたといってもいい。

 

 だが、内乱からすでに数百年もた経っているのである。

 

 その数百年の間に生まれた者たちは、そもそも戦争を経験していないのだ。

 

 中には戦争なんてもうどうでもいいと思う者もいるだろう。ヴァーリも、旧四大魔王の末裔であることに誇りを抱いていはいても、覇権とかそういう者には興味を示していなかった。

 

 旧魔王派の中にも、種の存続の方を優先して戦争を避ける存在がいてもおかしくない。

 

 そして、其れがいることは都合がいい。

 

「その末裔が現政権側に迎え入れられる時がくれば、旧魔王派をこちらに引き入れることもできるかもしれないわ」

 

 少なくとも、現四大魔王はそう言った方向で動くはずだ。

 

 彼らは戦争を避けたがっている。其れさえできれば、旧魔王の末裔をそこそこの地位につけることもやぶさかではないだろう。現にサーゼクスは、クルゼレイ相手にかなり下出に出たと聞いている。

 

 その旧魔王末裔の考え方にもよるだろう。大王派もまた妨害をしてくる可能性だってある。

 

 だが、それでも―

 

「そういう形で平和を築けるのなら、それに越したことはないわね」

 

「ええ。平和が一番ですわ」

 

 旧魔王の末裔が復権すれば、旧魔王派の中にも矛を収める者が増えるかもしれない。

 

 そうなれば、悪魔の問題のいくつかは解決するかもしれない。

 

 リセスは英雄になりたいし、英雄とは戦いの中で生まれるものだ。だが、平和を作るための戦いで英雄になる者だっているだろう。

 

 だから、そのきっかけを作るのに貢献したという形で英雄になるのもそれはそれでいいはずだ。

 

 問題は―

 

「―まぁ、私が英雄にふさわしいかどうかで言うと別問題なんだけれどね」

 

 自分が英雄にふさわしいかどうかだ。

 

「リセスさん?」

 

「朱乃。私はね、自分が弱いのがいやなのよ」

 

 ふと、そんなことを朱乃に漏らしたのはどうしてだろうか?

 

 なんとなくわかっている。それは、朱乃が自分の弱さを克服したからだ。

 

 堕天使であることを嫌悪してた朱乃が、堕天使の力をあえて使う決意を決めた。そして、それどころか堕天使であることの嫌悪そのものを乗り越えた。

 

 それはまさに強者(英雄)だ。己の醜さを受け入れて乗り越えるなど、すごいことだろう。

 

 だが、リセスの場合はそれができない。

 

 彼女の感じる醜さは一種の誤解というか思い込みだ。

 

 だが、自分の醜さは百人中百人が問題視するようなものだ。そう言う常識的なものだ。

 

 概要を説明しただけで、多くの者たちがバッシングをするだろう。少なくとも業界で生きていくことは難しくなる。そう言う、致命的な問題だ。

 

 そして、その醜さを開き直ろうとしたのが自分だった。そういう弱者(畜生)と化していたのが自分だった。

 

 そしてそれを自覚して拒絶しても、その後始末をすることすらできなかった。

 

 弱いのだ。心も、体も。

 

「私にとって英雄とは強いものなの。心も体も強い。少なくとも、心の弱さをどうにかできるぐらいには強い何かがある」

 

 その弱音を、リセスはつい漏らしてしまった。

 

 弱さを克服した朱乃にだからこそ、言えたことだろう。

 

 ずっと、強さがほしかった。英雄みたいな強さがほしかった。

 

 だから、全財産を払ってでも、命の危険があると確信できる人体実験を受けることができた。

 

 同じ醜さをあえて武器にしながらでも、強くなるための努力ができた。

 

 そして、かつてと違い倒せた悪がいくつもある。救えた()がいくつもある。

 

 だが、それでも結局ソウメンスクナを倒すことはできなかった。

 

 ペトの傷を乗り越えさせたのは、自分の危機という情けないものだった。

 

 そういう意味では、ペトは自分で乗り越えたのだ。

 

「私は、ペトやヒロイが慕ってくれるような、立派な英雄になれてる自信がないのよ」

 

「なるほど。確かに、そう思ってしまうと大変ですわ」

 

 朱乃はそれに理解を示した。

 

 そして、リセスの肩にそっと手を置く。

 

「そういう時は、心の支えになる人がいるといいですわ」

 

「イッセーみたいな?」

 

 リセスの返答に、朱乃はにっこりと笑顔を浮かべる。

 

「誰かがどんな時でも支えてくれる。そんな事実が、人を強くしてくれますの。私がこの黒い翼を乗り越えれたのも、それが理由ですわ」

 

 正論だ。まごうことなく正論だ。

 

 人は一人じゃ生きていけない。どこかに支えが必要なのだ。

 

 人と人とが支え合うことで、人は強く生きることができる。

 

 だが、それをリセスは呑み込むことができない。

 

 飲み込もうとした瞬間に映る光景がある。それを認められない傷がある。その事実がその手段を取らせてくれない。

 

 それに何より―

 

「朱乃。一つ聞くけど―」

 

 リセスは、顔を向けて朱乃に尋ねる。

 

 そう、支えになるものがいると人は強くなれる。それが縋れるものだとしても同じことだ。

 

 縋る方向だと人は畜生になるが、それでも普通では行けない距離を進めることができるという意味ではそれなりの価値があるだろう。

 

 だが、それには一つの欠点がある。

 

 縋れる、支えてくれる、そんな人物がもし―

 

「―イッセーが死んだら、貴女前に進める?」

 

「……………え?」

 

 その言葉に、朱乃は虚を突かれた。

 

 考えたこともないと言うより、考えたくもないことを突かれた顔だ。

 

 だが、リセスは続けて聞くことを止められない。

 

 だって自分は失ったから。なくしてしまったから。

 

 支えてくれる存在も。縋ることができる悪党も。

 

 そんな存在がなくなって、リセスは強者(英雄)になろうと前に進む。そう言う強者になろうと、支えになれる側になろうと努力することを選んだ。

 

 だが―

 

「彼を失った時、貴女は前を見ることができるの……?」

 

 どうしても聞かずにはいられない。

 

 リセス・イドアルは、その苦しみを知っているから。

 

 その絶望を知っているから。

 

 そこから強者(英雄)になろうとしたから。

 

 だから、それを乗り越えてもいないものにそんなことを言われても納得できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その二人の前方で、爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




と、日常回みたいな和気あいあいとした会話の裏で、リセス姐さんによる鋭い指摘。

実際まさにもろに喰らいましたからね。直撃でしたからね。


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第三章 24

はい、そんなわけでそううまくいくわけがありません。


 

 何が起きたぁ!?

 

 俺は速攻で走り出しながら、通信を開く。

 

 くそ、合流まで時間があるから飯食ってたんだぞ!!

 

 今から動いたら横っ腹がいてえ。腹に傷がついたら間違いなく大打撃だ。

 

 もしこれが全くの別件だったら俺は切れる自信があるぞ!!

 

「すんません! これ何事ですか!?」

 

『緊急事態だ。……亡命予定の船が襲撃を受けている』

 

 あ、今回の件ドンピシャってわけか。

 

『すまないが、君達には戦闘の主力を担ってもらうことになるだろう。……子供達を前線に送るのは心苦しいが、ウツセミの数にも質にも限度があるのだ』

 

「それに関しちゃお構いなく。元々その為の人員ですぜ、こっちは!」

 

 むしろ、異形側は結構徹底的な実力主義だからな。こういう気遣いは新鮮でいいね!

 

「……サポートをお願いします」

 

 小猫ちゃんもそういう中、俺達は甲板に飛び出て空を飛ぶ。

 

 翼を持つメンバーは自力で飛び、俺と姐さんも神器で飛行を行う。

 

 そして数分後、すぐに目標を発見した。

 

 方向では、偽装タンカーで接近して合流する手はずになっていた。

 

 そして、タンカーなのは問題ない。

 

 問題は、そこにいる悪魔達が一生懸命結界を張って、ミサイル攻撃を防いでいるという事だ。

 

『―聞いてくれ』

 

 と、護衛艦の艦長から通信が届く。

 

『亡命者のガードはこちらで行う。君達はその間、攻撃を行っている敵艦の注意を惹きつけてくれ』

 

 なるほど。確かにそうなるな。

 

 少数精鋭の俺達は点のオフェンスが向いている。逆に数は多いが性能が低めのウツセミを中心とする自衛隊は面のディフェンスに回るべきだ。

 

 この護衛艦の武装は。もとから持っている武装とウツセミの展開機能の後付けだ。カバーできる範囲には限度がある。現段階では、離れたところにいる敵にウツセミを送り込むのは不可能だ。

 

 ゆえに、遠くまで行ける俺達がオフェンスだ。

 

「戦闘開始! 朱乃はアーシアの護衛に徹しなさい!! ペトはミサイルを撃ち落として!!」

 

 最も戦闘経験豊富の姉さんが指示を出し、俺達は戦闘を開始する。

 

 俺もまた、ミサイルの射出方向から敵艦の方向を割り出して接近する。

 

 対空砲火を避ける為に出来る限り海面すれすれを真剣で移動しながら、そしてそれを見た。

 

 敵艦艇は駆逐艦1隻とコルベット二隻。クーデターで独立した連中が確保した奴だろう。

 

 それがミサイルを定期的にぶっぱなしながらこっちに向かって迎撃態勢を取る。

 

 まずはロケットが射出され、俺達の上空で爆発。大量の結晶体をばらまいた。

 

 あの結晶体は、禍の団が三大勢力の和平でばらまいたのと同じもの。つまりはドーインジャーの卵だ。

 

 アザゼルの推測では魔獣創造の禁手によって作られたものだと推測されている。作り出した魔獣を結晶体にする事により、長期間の維持を可能にした代物。更に運搬も容易になるという優れモノだ。

 

 そして想像通り、その結晶体はドーインジャーとなって攻撃を開始する。

 

 なるほど、想定通りだが―

 

「ペト!!」

 

『OKッス!!』

 

 その言葉とともに、駆逐艦に備え付けられた単装砲が爆発する。

 

 ペトの狙撃で破壊されたのだ。

 

 流石ペトだ。10kmは離れてるのに目標をピンポイントでぶち抜きやがった。っていうかもうポイントに到着してたか。

 

 更にCIWSすら破壊され、ミサイルも発射された瞬間に撃ち抜かれる。

 

 相変わらず、できるな。すげえ狙撃能力。

 

 さて、これで駆逐艦は俺達をピンポイントで攻撃出来ない。そして―

 

「あらあら。これはもう、濡れ手に粟ですわね」

 

 朱乃さんが雷光でごっそりドーインジャーを吹っ飛ばす。

 

 よし、これがウツセミなら苦戦しただろうが、俺達なら余裕だ!!

 

 小猫ちゃんがアーシアの護衛に回り、朱乃さんとペトがそのままミサイルの妨害に回る。

 

 それに対して駆逐艦は管内の格納庫に格納していたドーインジャーを展開。それを分散させながら攻撃を仕掛ける。

 

 だが甘い!!

 

「ヒロイと祐斗は駆逐艦、ゼノヴィアとイリナはそれぞれコルベットを潰しなさい!! 私と朱乃でドーインジャーを減らすわ!! 小猫はアーシアと一緒にタンカーの護衛と怪我人の治療に回りなさい!!」

 

「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

 こっちには広範囲攻撃ができる女傑が二人もいるんだよ!!

 

 ドーインジャーの相手を姐さんと朱乃さんに任せ、俺達は駆逐艦を占拠する為に突貫を試みる。

 

 狙いはCICとブリッジ。そこを占拠すりゃぁ、こういうのは動かせなくなると相場が決まっている。

 

 自衛隊の護衛艦も二隻で行動しているし、この調子でいけば十分勝ち目がある!!

 

『聞こえるか! こちらはタンカーを視認した。多少の打ち漏らしはウツセミで迎撃するから気にするな!!』

 

 更に後詰もOKときたもんだ。これは良い感じだぜ!!

 

 さて、あの駆逐艦に英雄の敵手にふさわしい連中がいるかどうかを期待させてもらうぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして駆逐艦に突入して五分後。

 

 とりあえずブリッジから突入して、徹底的に航行システムをぶち壊した。

 

 敵も兵士を何人も用意していたし、蛇の保有者も何人かいたが、あっさり返り討ちだ。

 

 なにせこういう通路は狭いからな。ドーインジャーも二列が限界だし、進むのは難しいがやられるのも難しい。そう言う意味じゃあうっとおしいだけだ。

 

 船の航行システムに関しても簡単だ。なにせ俺の紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)は電磁力操作。

 

 ハッキングなんて言う真似はまだまだ要修行だが、電磁パルスをぶっ放して大雑把にぶっ壊すのは簡単だ。まあ範囲がまだまだ小さいがな。

 

 そういうわけでブリッジの航行システムは修復不能だ。そして電磁パルスを垂れ流しにしながら移動しているので、この調子ならこの駆逐艦はもう使い物にならなくなるだろう。

 

 既にミサイルの発射も止まってる。こりゃ後は艦長を捕まえれば終わりだな。

 

 艦長クラスならそこそこ情報を知っているだろう。捕まえれば多少は状況を楽にする事が出来るかもしれない。もし女ならイッセーに頼もう。一発で終わる。

 

 と、言うことで俺達はCICの入り口に到着した。

 

「……木場、行くぞ」

 

「ああ、行こうか」

 

 俺達は頷いて、速攻で扉―

 

 ―の横の壁を切り裂いて突入した。

 

 だって扉開けたら速攻で撃たれるだろうしな。

 

「英雄参上! おとなしく投降しな!!」

 

 俺はそう言いながら槍を突き付け―

 

「ハッ! やだね!!」

 

 目の前に迫りくる拳を移した。

 

 とっさに伏せてかわすが、衝撃波で駆逐艦の内部に破壊の嵐が巻き起こる。

 

 あぶねえなオイ。っていうか、これでとどめになったんじゃねえか!?

 

「お前正気か!?」

 

 この船いくらすると思ってるんだよ! 日本円換算で数百億はするだろ、オイ!!

 

 そして俺は見た。その男を。

 

 ……明らかに悪そうな、筋骨隆々の大男だった。

 

「どうでもいいぜ! 上からはぶっ壊してもかまわねえって言われたしな!!」

 

 その言葉とともに、今度は両手を組んで振り下ろしてきやがった。

 

 俺はとっさに転がって交わすが、然しすぐに振り返った大男は殴り掛かる。

 

 それをバックステップでかわしながら、俺は即座に聖槍を壁に叩き込んだ。

 

 壁を破壊して船外に離脱し、甲板に避難。敵も勢いのままに甲板に躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロイくん!!

 

 くっ! CICの中にはあの男以外誰もいない。どうやら既にこの船を放棄したらしい。

 

 有効性が低いと分かっていながらドーインジャーを船内で運用したのは時間稼ぎか。

 

 向こうとしては意地でも亡命者は阻止したいと思っていたが、既にヴィクター経済連合は旧魔王派に利用価値なしと判断したのか?

 

 ただでさえ旧魔王派が大敗を喫したこの状況。そのうえで末裔が亡命に成功すれば、一気に旧魔王派からの亡命者が増える可能性がある。それだけは旧魔王派としては防ぎたいはずだ。

 

 それが、ふたを開けてみれば悪魔からの刺客は一人もいない。既に発言力が低下しているのにも関わらずだ。

 

 これは、形だけの追手だとでもいうつもりか?

 

 いや、今はそんな事を考えている時ではない。

 

 今やるべきはヒロイ君の援護……でもない。

 

「そこにいる君。……もう気づいているよ」

 

 というより、僕を試しているんだろう。

 

 レベルの低い相手なら気づかないが、一定以上の実力者なら確実に分かる。そういうギリギリの塩梅の気配の殺し方をしていた。

 

 そして、CICの壁を撃ち抜いて砲撃が放たれる。

 

 僕はそれを横っ飛びで回避して、一気に接近する。

 

 同時に、敵もまた壁を破壊してこちらに突撃を仕掛けてきた。

 

 一見すると普通の風貌。だけど相当の修羅場を潜ってきた事が分かる体つきをした人間がそこにいた。

 

 英雄派の神器使いか? いや、それにしてはかなり軍人的な服装をしている。

 

 英雄派の神器使いは僕達と同年代が多い。そして、服装も学生服のような制服を基本としている。

 

 つまり、彼はそれ以外の派閥ということか?

 

「誰かな? 出来れば所属を教えてくれると嬉しいんだけど」

 

 そう言いながら切りかかると、その男はそれを交わしながらため息をついた。

 

「異形ってのは阿保が多いのか? んなもん素直にしゃべる兵士はいねえっての」

 

 なるほど。確かに正論だ。

 

 だけど、愚痴をついたのは失敗だったね。

 

「つまり、ヴィクターに参加したクーデター部隊や国家の兵士か。見た目はアジア系じゃないけど、今回のために派遣されたことを見るに、それなりに優秀な人物ということかな?」

 

「チッ! 育ちのいいガキだ。羨ましいなぁ!」

 

 いやいや、僕も結構ハードな生い立ちだよ。

 

 もっとも―

 

「部長に拾われてからは良い生活だったからね!!」

 

 ……出来るね、これは。

 

 ヒロイくん、悪いけどそっちは任せたよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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第三章 25 

駆逐艦の中で戦闘勃発!!


 

 甲板の上で、俺達は睨み合った。

 

 見るからに荒くれ者って雰囲気のガタイのいいオッサンだ。

 

 チッ! 禍の団のメンバーなのは間違いねえが、一体何もんだ?

 

「おいオッサン! てめえ、どこの所属だ!!」

 

「オッサンじゃねえ! 俺はまだ二十代だ!!」

 

 そう言うなり、野郎は俺に殴り掛かる。

 

 この怪力。もろに喰らうと加護ブーストとホンダブレードでも結構痛いな。避けるか。

 

 跳び退って攻撃を回避しながら、俺は更に魔剣を展開すると遠距離攻撃を放つ。

 

 と言ってもマスドライバースティンガーじゃねえ。あれは交わされやすい。

 

 そもそもレールガンは割と隙がでかいからな。この距離で運用するのは危険だ。

 

 ツーわけで新技。

 

「くらえコイルガン!!」

 

 放つのは磁力で攻撃を行うコイルガン。もしくはガウスキャノン。

 

 弾速はどうしても遅くなるが、消費電力は大幅に低くなるので、こういう戦闘でも運用できる。

 

 ようは対物ライフルとサブマシンガンだな。何事も適切な運用が必要なのさ。エッヘン。

 

 だがオッサンは軽快に飛び跳ねながらそれを回避しやがる。

 

「中々やるなガキぃ! だが、俺には効かねえぜ!!」

 

 そして距離を詰めると、再び殴り掛かる。

 

 俺はそれを素早くかわすと、聖槍をカウンターで突き込んだ。

 

 それを、オッサンは素手で掴む。

 

 ……なんツー反応速度! しかも度胸と確かな技量が無けりゃぁできねえぞ!!

 

 このオッサン、筋肉だるまと思ったら中々の技巧派じゃねえか!!

 

「名乗りがいるなら教えてやるぜぇ? 俺はフリーのキュラスル・スリレングだっ!!」

 

 そう言うが早いか、キュラスルのおっさんは俺を投げ飛ばすと、そのまま飛び上がった。

 

 空中ならかわせないとでも思ったか? 甘いぜ!!

 

「磁力操作もできるんだよ!!」

 

 俺は自分に磁性を付加すると、駆逐艦の鋼材に干渉して空中で方向転換。そしてカウンターでコイルガンをぶちかます。

 

 それをオッサンは素手で弾きながら、こっちも平然と着地しやがった。

 

 あの野郎、まだ遊んでやがるな?

 

「神滅具相手に遊び半分たぁやるじゃねえか。キュラスルとか言ったか? やるじゃねえか」

 

「てめえもな。俺が殴り飛ばした連中の中じゃあ、てめえが一番出来るぜ?」

 

 お互いに挑発目的で褒めて、俺達は睨み合う。

 

「そんなに出来るなら最初から出て来いよ。一体ヴィクターは何を考えてやがる?」

 

「はっ! んなこと俺が知るかよ」

 

 ……ほんとに知らなそうだな。

 

 ま、現場の連中に上の思惑までご丁寧に教えたりはしないってか。明らかに雇われ人事らしいこの手の輩相手なら尚更か。

 

 やっぱし、ヴィクターは軍隊じみた運用もきちんとするってか? 異形社会としては能力がヤバイ兵隊とかやりづらいな。

 

 キュラスルは面白そうに肩を慣らすと、そのまま隙を見せない程度に伸びをする。

 

「俺ぁ、少しでも楽しく暴れられればそれでいいんだよ。ただちょっと色々暴れすぎてな、反省する事にゃぁヴィクターじゃねえと暴れにくくなっちまったってだけさ」

 

 なるほどねぇ。どうやら犯罪者崩れの傭兵らしいな。

 

 だったら加減する必要はねえか。殺す気で言っても問題ねえだろ。

 

 キュラスルもそんな俺の考えを察したのか、歯をむき出しにしながら笑い始める。

 

「お、いいねえ。殺す気の目だ。そう言うのをぶちのめす機会にゃ恵まれねえから楽しみだ」

 

 そういうなり、キュラスルは一気に俺に迫った。

 

 ……っていうか早い!? 今までより無茶苦茶―

 

「てめえ、まさか!?」

 

「応よ!」

 

 ぎりぎりでガードしたが、やっぱりさっきより攻撃力が上がってやがる。

 

 んの野郎!! 今まで手を抜いてたにしてもやりすぎだろ!?

 

「こっからギアを上げていくぜぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 CICの中で、僕達は接近戦を繰り広げていた。

 

 狭いゆえに足を止めて戦うしかなく、スピードで翻弄するタイプの僕は結構きつい。

 

 そして、敵もまたかなり実力が高かった。

 

 彼が使っているのは銃剣付の小銃。イメージは短めのライフル銃といったところかな。

 

 それを巧みに使い、二刀流で攻め立てる僕と互角に渡り合っている。

 

 自分で言うのもなんだけど、僕の戦闘能力は上級悪魔クラスだ。失礼な言い方だけど、リアス部長や朱乃さんが相手なら一対一なら勝てる。

 

 もちろん、部長や朱乃さんは砲撃戦闘タイプだから、多くの敵を倒す殲滅戦などではむしろ優位に立ち回れるだろう。こと火力に至っては、限界までチャージしたリアス部長は、禁手状態のイッセー君や二刀流のゼノヴィアに並ぶ。

 

 だけどスピードで距離と詰めて聖魔剣で切りかかれる僕は、二人に対して相性がいい。そして平均的な戦闘能力なら上回っていると断言できる。戦士という土俵ならばこちらが上だ。

 

 相手の位置さえ確認できていれば、ペトさんの狙撃にも対抗できるだろう。もっとも、狙撃は味方のサポートが基本だし、位置が分かった状態での狙撃続行は悪手だから前提がおかしいけどね。

 

 そして、敵の戦闘タイプはオフェンスだ。

 

 あくまで接近戦におけるフェイルセーフティ機能が基本の銃剣だけど、これが意外と馬鹿にならない。

 

 銃の性能向上で接近戦闘能力が高くなっている現代でも、銃剣を採用している軍隊は数多い。自衛隊でも運用していたはずだ。柔剣道という武術も存在しているしね。

 

 そして、目の前の彼はそれを高水準で使いこなしている。

 

 だけど無理にでも距離を取るのは悪手だろう。

 

 なにせ相手の武装はあくまで銃剣付の銃だ。むしろ射撃戦闘こそが本命と言ってもいい。

 

 距離を取れば相手の土俵に入る。そうなれば敗北の可能性は一気に上がる。

 

 とはいっても、ヒロイ君のことも心配だ。そろそろ決めるしかないね。

 

「悪いけど、すぐに終わらせてもらうよ」

 

「はっ! 俺なんて雑魚だとでも言いたいのか、あぁ!?」

 

 そうは言ってないけど、あまり時間もかけてられないね!

 

 僕は戦闘に使っていた聖魔剣を手放し、同時にナイフ型の魔剣を形成する。

 

 そして一気に懐へと潜り込もうとする。

 

 当然、相手も反応する。それに対抗する為に、銃身を盾にして防いだ。

 

 いい反応だ。その動きじゃなければ確実に仕留めていた。

 

 そして残念だったね。この攻撃は、分かっているから防げない!!

 

「もらった!」

 

 僕は膝に魔剣を形成すると、そのまま相手の鳩尾を狙って攻撃を仕掛ける。

 

 距離が詰まったからこそ出来る攻撃だ。そして防御に使っている銃剣では防げない。

 

 迎撃するならば銃を手放すことを視野に入れないといけないけど、武器さえなくなれば押し切れる自信はある。

 

 さて、これで詰みだ。

 

「チィッ!」

 

 相手もそれに気づいたのか、舌打ちをする。

 

 ……そして、適切な対応を行った。

 

 彼は、銃を()()()

 

 その事実に僕は一瞬の隙を見せてしまう。

 

 そしてそれを、彼はもちろん見逃さなかった。

 

「っしゃぁ!!」

 

 その隙をついて、彼は後方に飛びのくのではなく聖魔剣をかすめさせながらも更に密着する。

 

 そして僕にしがみついたと思ったら、浮遊感を僕は感じだ。

 

 しまった、これは―

 

「実戦でこんなの使うとは―」

 

 プロレスの―

 

「―思わなかったぜ!!」

 

 フロントスープレックス!?

 

 衝撃に息をつめながら、僕は未熟を痛感する。

 

 まさか一種の劇である、プロレスの技をもらう事になるとは。未熟以外の何物でもない。

 

 勝負を焦った結果、逆に相手の攻撃を喰らうだなんて。師匠に知られたら説教を喰らう事は間違いない。

 

 そして、これは確実にまずい。

 

 僕の防御力では有効打を一撃もらうだけで大きく危険域に到達する。はっきり言って足がふらついている。

 

 そして、敵は素早く小銃を生み出した。

 

 まさか、あれは神器なのか!?

 

 油断した。聖書の神が作り出した神器である以上、近代的な武装は存在しないと思い込んでいた。

 

 ……どうやら神器システムは、日々自動でアップデートしているらしい!!

 

 そして、敵は僕を狙って勢いよく銃剣を突き出し―

 

「甘い!!」

 

 僕はそれを、頭突きで迎撃する!

 

 もちろんただの頭突きじゃない。

 

 頭に角のようにはやした聖魔剣を用意している。しかも形状はソードブレイカーだ。

 

 それによるカウンターで動きを再び止めると、僕は地面から聖魔剣を生み出して反撃する。

 

 敵は素早く前転してかわし、ヒロイ君達が破壊した穴から外に飛び出る。

 

 遠距離戦闘に持ち込む気か。そうはいかない!

 

 僕は素早く翼を広げて外に飛び出す。

 

 翼による飛行なら、足ががくついていても問題ない。それに三次元的な飛行なら、ある程度は敵の射撃戦にも対抗可能だ。

 

 そう思った僕の目の前に―

 

「―あ」

 

「え…‥?」

 

 なぜか吹っ飛んできたヒロイ君が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アッぶねぇ!! 木場と激突しかけた。

 

 ぎりぎりで磁力制御が間に合ったからセーフだったけど、交通事故じみた接触は紙装甲の木場にはきっついからな。

 

 くそ、あばらにひびが入りやがった。単純なパワーなら禁手状態のディオドラに匹敵しやがる。

 

「木場、無事か?」

 

「君こそ大丈夫かい? お互い良いのをもらったみたいだね」

 

 そう言いながら、俺達は甲板上の敵を睨み付ける。

 

「おいおいジェームズ、お前さんもてこずるたぁ、グレモリー眷属ってのはガキのわりに中々やるみたいだなぁ」

 

「馬鹿、お前敵の前で名前とか名乗るんじゃない」

 

 キュラスルにそう指摘するジェームズとかいうのは、そう言って舌打ちすると、時計に視線を向ける。

 

 そして、ため息をつくとキュラスルの肩に手を置いた。

 

「時間だ。撤収するぞ」

 

「……チッ。もうちょっと遊びてえが、仕方がねえか」

 

 あ? もう逃げる気か?

 

「逃げる気かい? 今なら僕達のどちらかは倒せるんじゃないかな?」

 

「馬鹿か。お前ら倒す前にお前らの仲間がこっちに来るっての」

 

 木場の挑発に乗らずに、ジェームズとかいうのはすぐにキュラスルと一緒に走り出し。

 

 んの野郎、逃がすか!!

 

 そう思ったが、それより先に護衛艦の後部から霧が展開される。

 

 チッ! 流石に絶霧はヤベえな。

 

「楽しかったぜ、聖槍使い!! 今度はお互い禁手も使って殺し合おうや!!」

 

「できれば使わせずに倒してくれ。そいつ強敵って話だろうが」

 

 別れの言葉を告げるキュラスルと、それにぼやくジェームズ。

 

 その言葉を最後に、敵は撤収しやがった。

 

「……見逃してもらった、いや、向こうが逃げの手を打ったってだけだかな?」

 

「イリナとゼノヴィアはコルベットを制圧したってことだろうよ。もしくは、乗員を逃がすまでの時間稼ぎってことだろ」

 

 最初からマジでやり合う気はなかったってこった。

 

 どうやら、今回の件は失敗するならそれでも構わねえって程度の作戦だったみたいだな。

 

 しっかし、旧魔王派の離脱を促進しかねない、旧魔王末裔の亡命をスルーするたぁどういうこった?

 

 ……まさか、敵の中にはすっげカリスマを持った旧魔王末裔がまだ残ってる……とかねえよなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして帰った俺達を待っていたのは、お嬢達のところに行く為の転移魔方陣だった。

 

 なんでも、儀式は大成功したらしい。全部大した問題もなくクリアーとか。

 

 これでイッセーはお嬢の婿の資格を正式に得たって事か。なるほど、そりゃよかったな。糞羨ましい。

 

 だけど肝心のイッセーはどういうことか全くわかってねえ。

 

 お嬢からしてみりゃ、かなりぐぎぎ展開だな。そこに関しちゃ同情しますぜ、お嬢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しっかし、結局俺達はその旧魔王末裔とは会えなかったぜ。

 

 ……できりゃぁ、ちょっとぐらい挨拶してPRしたかったんだけどなぁ。

 




ヒロイの推測でヴィクターの考えはほぼあたりです。誰がいるかは皆様の予想通りかと。


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第三章 26

はい、それではパンデモニウム編へと突入します!!

まずはイッセーとサイラオーグの模擬戦からですね。


 

 ふぁあ、眠い……。

 

 俺はあくびをかみ殺しながら、グレモリーの城でお茶会をしていた。

 

 どうもこの手の高級的な感じには慣れねえなぁ。英雄としては授賞式とかには出なきゃなんねえから、貴族の流儀にも少しは慣れねえといけねえんだがよ。

 

 やっぱこういう時は地が出るな。どうにも慣れねえ。

 

「ヒロイ。お父様の前なのだから、少しはキチッとしなさい」

 

「どっかの誰かさんが夜に喧嘩してるから寝不足なんすよ」

 

 俺はお嬢に文句をつける。

 

 夜寝ようとしたら、イッセーを巡っての恋の鞘当ての騒音に巻き込まれて寝不足なんだよ、俺は。

 

 いつもお嬢とアーシアで川の字なんだから、たまには譲ってやれよ。イッセーのハーレム形勢は認めてんだろ。

 

 その揉めに揉めた声が聞こえて、俺は寝不足なんだよ。

 

「はっはっは。リアスはまだまだ無邪気で可愛いものだ。ヒロイくん、良ければ部屋を貸すから仮眠でも取るかね?」

 

「いえいえ。さすがにそこまで図々しくはなれねえですわ」

 

 俺は遠慮するけど、ちょっとそれもいいかもと思ったのは秘密だ。

 

 ちなみに、ロスヴァイセさんは悪魔からヴァルキリーを輩出することすら視野に入れているなど将来設計は豊かだ。

 

 この辺、英雄になってから何をするかを考えてねえ俺は参考にするべきかねえ?

 

「ああ、そういえばサーゼクスが帰ってきているんだ。帰る前に会っておくといい」

 

 と、親父さんが言ってくれたので、父親に会いたいミリキャス様と一緒にサーゼクス様に会いに行くことに。

 

 しっかし広いなこの城。ぶっちゃけ生活するのにこんなにデカくする必要あんのかねぇ?

 

 などと思いながら一緒に歩いてきてみれば、サーゼクスさまがガタイのいい男と談笑していた。

 

 誰だったっけ? 確かどっかで見た気がするんだがよ……。

 

「おお、若手最強のサイラオーグ・バアルッス! 生で見たのは初めてっすね!!」

 

「あれが、若手悪魔最強の男……」

 

 ペトの言葉に、姐さんが目を細める。

 

 俺もそれで気が付いた。ああ、お嬢の再従兄弟のバアル家出身とかいうやつか。

 

「サイラオーグも来ていたのね」

 

「ああ。今度の俺たちのレ―ティンゲームの件で話をしていてな」

 

 と、サイラオーグ・バアルとお嬢が挨拶する。

 

「彼はわざわざバアル領原産の果物まで届けてくれてね。リアスも機会があったらバアル領迄顔を出すといい」

 

 と、サーゼクス様はミリキャス様をあやしながら言って、そして次に進める。

 

「話の内容はこういう物だ。……次の2人のゲームは、戦闘能力を制限するルールを除外したいといっている」

 

 その言葉に、俺たちは目を見張った。

 

 若手の中でも火力なら、お嬢たちは最強格だろう。

 

 雷光の朱乃さん。消滅のお嬢。デュランダルのゼノヴィア。そして、赤龍帝のイッセー。

 

 火力においては若手どころか、下手な最上級悪魔の眷属すら凌駕する、圧倒的大艦巨砲主義チーム。それが、リアス・グレモリー眷属だ。

 

 そのお嬢たちを相手にするのに、わざわざ制限が付けられる可能性を除外するだと?

 

「そうだ。赤龍帝の乳技も、そこのハーフヴァンパイアの眼も、全部ぶつけてほしい。それでこそ、バアル家次期当主の戦いだろう」

 

 すっげえなこの人。

 

 根性あるっつーか、度胸がある。

 

 一般的な英雄のイメージはこういう人のことを指すんだろうな。そう言う感じだ。

 

「ぼ、僕の眼まで許容するなんて逆に怖いですぅうううう!!」

 

 ギャスパー。お前は俺の背に隠れないでくんない。

 

「ははは。しかし、是はいい機会かもしれないな」

 

 と、サーゼクスさまはイッセーとサイラオーグをみて、ほほ笑んだ。

 

「そういえばサイラオーグは、イッセー君の拳を味わってみたいといっていたね」

 

 ほう? そんなこと言ってたのかこの旦那は。

 

 あの魔王すら超えると言われている、二天龍が片割れ赤龍帝とやり合いたいか。

 

 すっげえ根性だな、すっげえよまじで。

 

「ちょうどいい。ここで一度手合わせしてみないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして手合わせを見ている俺たちだが、しかしすげえ。

 

 真っ向勝負上等といわんばかりに、イッセーが禁手に至るまでの時間を何もせずに待機。そして味わいたいと言ったことに嘘はなく、あえて真正面から受け止めた。

 

 そして、そっから反撃の拳が巻き起こる。

 

 かすめただけでイッセーの鎧にはひびが入った。コレ、マジですげえな。

 

 俺の聖槍なら高確率で貫ける自信がある。姐さんも本気を出せば砕くことができるだろう。

 

 だが、それは聖槍及び龍殺しのオーラを使うことが前提だ。しかも格上の神滅具というおまけつきだ。

 

 そんなもんがないただの物理攻撃で、あの野郎はイッセー相手に優勢に立ち回ってやがる。

 

 しかも、しかもだ……。

 

「……あれ、リアスが夏休みの特訓でつけてたのと似た術式ね」

 

 属性やオーラに精通する神滅具を研鑽した姐さんが、その特性を把握していた。

 

 あの野郎。寄りにもよってギプスを付けた上で戦ってやがる!?

 

 手加減ってつもりはねえんだろう。おそらくだが、あくまで手合わせだからこそだ。

 

 つってもまさかここまでとはな、サイラオーグ・バアル……!

 

 お嬢たちも目を見張って、全体的に苦戦しているイッセーを不安げに見つめていた。

 

 おいおい、こりゃ俺も槍王の型を連発するか、さらにパワーアップさせるかしねえと勝ち目がねえぞ。

 

 これが若手最強のサイラオーグ・バアル。魔力を生まれ持たなかった代わりに、徹底的なまでに体を鍛え上げた最強の猛者。若手最強の上級悪魔……!

 

 魔力というアドバンテージ抜きに、悪魔はここまで強くなることができるのかよ!?

 

「……センスは見えるわ。だけど、ペトの狙撃に匹敵するほどの素質ではないわね」

 

 姐さんは、息をのんでその光景を見る。

 

 あの赤龍帝が、神にすら評価された神滅具の使い手が、しかし苦戦を強いられている。

 

 そこに才能はある。確かにある。

 

 だが、それ以上にここまで築きあげるだけの努力がある。

 

「あそこまでの努力、やれと言われてできるものじゃないわ。……よほどの強迫観念に迫られでもしない限り、努力するのにも才能はいるもの」

 

「お姉様……」

 

 悔し気に歯をかみしめながら、姐さんはその光景を目に焼き付けようとする。

 

 それは、まるで自分が手に入らなかったものを見る、嫉妬の感情だった。

 

「あれだけの努力。……やれと言われてできるものじゃないわ。……何があれば、そこ迄修練を積み続けることができるというの……?」

 

 もうその目は、怒りを通り越して自分に対する哀悼の色があった。

 

 

 

 

 

 

 ……と、そこ迄行けばシリアスだったんだがそこはおっぱいドラゴンだ。

 

 なんかよくわからねえが、女王じゃなくて戦車にプロモーションしてから状況が変わった。

 

 少なくとも今までのような一方的な戦いではなくなった。サイラオーグ・バアルにもダメージが入るようになった。

 

 何か知らんが、そっちの方がイッセーには効果的なようだ。

 

 そしてイッセーは素直に褒められて、なんか戸惑ってた。

 

「どうした? 俺が相手では不服か?」

 

「い、いえ……。俺、上級悪魔と戦う時はいつも舐められてたんで、なんかまっすぐ見られてんのが不思議な感覚で……」

 

 ああ、そういやそうだな。

 

 ヴァーリなんて下に見すぎて両親殺して焚き付けようとしてたしな。

 

 ディオドラも終始舐めてた。なにせ禁手を使ってこなかったしな。三人がかりなのにだ。

 

 ライザーってのはよくわからねえけど、この調子だと結構舐めてかかってたみたいだな。

 

 そして、サイラオーグバアルは不敵に笑う。

 

「そうか。お前は不当に評価されていたのだな」

 

 そして、真向からイッセーを見返した。

 

「安心しろ。あのアースガルズの悪神ロキ相手に生き残ったお前を、どうして低く見積もることなどできるか」

 

 そういうと、サイラオーグ・バアルは拳を構えなおす。

 

「さあこい! おまえの拳に対して、俺もまた真剣に答えよう!!」

 

 おいおい。この調子だとあの野郎、リミッターを解除することも考えてるんじゃねえだろうな?

 

 レ―ティンゲーム前に隠し玉全部出すとか、豪快すぎんだろ両方とも!!

 

 そう思った瞬間だった。

 

「イッセーさん! おっぱいです!!」

 

 ―渾身のアーシアの言葉が、全ての空気をぶち壊した。

 

「リアスお姉さまのおっぱいをつついてください! そうすれば、イッセーさんなら絶対負けません!!」

 

「なるほど! イッセーとくればリアス部長のおっぱいだ。リアス部長! スイッチ姫のお役目を果たしてください!!」

 

「そうね。イッセーくんの煩悩はパワーの源だわ」

 

「イッセー先輩! おっぱいです!!」

 

 と、アーシアから始まってゼノヴィアやイリナやギャスパーが口々におっぱいコール。

 

 あれ? なにこれ?

 

「あのねえ。あなた達今は真剣勝負なのよ?」

 

「私達は真剣です!! おっぱいの力で逆転するんです!!」

 

 頭を抱えた姐さんのツッコミに、真向からアーシアは反論した。

 

 いや、お前らそれでいいの?

 

 俺は確かにすごい納得だけどよ?

 

「本当に、乳をつつくとパワーが上がるのか?」

 

 サイラオーグも何とも言えない表情になってるじゃねえか。

 

 だが、小猫ちゃんがその目を真正面から見返してうなづいた。

 

「……本当です」

 

 言いやがった。

 

 さすがは禁手になる光景を至近距離で見た小猫ちゃんだぜ。説得力が違う。

 

「毎度こういうノリなのですか? アースガルズにはない文化なんですが」

 

「ははは……。まあ、僕らの定番パターンかな?」

 

 木場。ロスヴァイセさんに特殊すぎる文化を教えるな。

 

 いや、どうせあと一回や二回はなるだろうしな。今のうちに慣れさせた方がいいのかねぇ。

 

「あらあら。それでどうするの、リアス?」

 

「い、イッセーが望むなら……私は……っ」

 

 おいおい。覚悟入っちゃってるよ、オイ!!

 

「いやいや。イッセーも流石にこれは空気アレすぎて無理っスよ。……ねえ?」

 

「え、え? えっと……俺は部長がOKなら、つつきたいです!!」

 

 ペトのフォローを無にするんじゃねえよ!!

 

「な、なんか……すんません」

 

 俺は謝るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ちなみに、これで空気がいい意味で入れ替わったのか、手合わせはお開きになった。

 

 しかしまあ、シャレにならん化物だぜ。

 

 サーゼクス様が言うには、簡単な手合わせで自慢の魔力が効かなくて心が折れた上級悪魔もいっぱいるとか。ま、当然っちゃあ当然だな。

 

 だが、こんな奴を相手にイッセーたちは勝たなきゃならねえんだから大変だな。

 

 ……がんばれ、イッセー。俺は応援してる。模擬戦もしてやる。

 




リセス「あれだけ過酷な鍛錬を積める精神力がうらやましい……」


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第三章 27 真相を知られた後のイッセーの冥福を祈る。

さあ、京都に行こう!


 

 そして修学旅行当日。俺たちは東京駅で、お嬢の見送りを受けていた。

 

 ……因みに、意外と護衛のメンツがいるにもかかわらず、空気は和やかだった。

 

「よお! 学生のみんな!! 俺がバチカンから派遣された護衛のネロ・ライモンディだ!! ゼノヴィアとイリナは久しぶりだな」

 

「ネロか。護衛というのはお前たちか」

 

 と、ゼノヴィアと護衛の一人が知り合いだということが発覚して、そのネロとかいうのが質問攻めにあいかけたからだ。

 

「はいはい。ちょっとその辺は職務規定に違反するからノーコメントなぁ。ネロも余計なこと言うなよ」

 

 護衛団の一人がそう言って収めたが、こりゃ俺たちの情報を開示する日も近いかねぇ。

 

 ちなみに粋な計らいってやつか、バチカンから派遣された護衛団は全員十代だった。

 

 十代の護衛団ってのも国際条約的にあれって感じだけどよ。これなら生徒たちの緊張感ってのは低くなるのから有効か。

 

「よ、ネロ。久しぶり」

 

「おうヒロイ! お前がいるならお前らの班には護衛はいらないか?」

 

「それに関しちゃ大丈夫だ。面子が面子だからな」

 

「ああ。ま、お前はちょっと気に入らないけど、腕は確かだもんな」

 

 俺はネロと簡単にあいさつを交わしてから班に戻った。

 

 まあ、あのネロはイリナと同じくセラフの(エース)やってるからな。若手悪魔祓いの中じゃあシャレにならねえ奴だ。

 

 まあ、かのヴァスコ・ストラーダ猊下から直々に技を教えられた存在だから、そのストラーダ猊下が気に食わねえ俺とは一種のライバル関係だがな。

 

 聖拳と聖槍の戦いは激しかった。模擬戦で思わずトレーニングルームをぶち壊して、説教されたのもいい思い出……じゃねえな。

 

 金が入るようになったことで、バチカンから「修復費払って」といわれたことを思い出した。おのれ、いろいろ大変ってことは理解るがケチんぼめ。

 

「ヒロイ。お前知り合いなのか?」

 

「ああ。俺孤児院出身なんだけど、教会の系列でな。アイツとはその縁でちょっと揉めたことが。詳しいことは職務事項に引っかかるから秘密ってことで」

 

 松田にそう返して、俺は一旦お嬢たちのところに向かう。

 

 そして、お嬢は苦笑を浮かべていた。

 

「これはまだするかどうか決まってないのだけれど、駒王学園の防衛戦略の一環として、元悪魔祓いのメンバーがそうだということをあえて漏らすことを考えているそうよ」

 

 なるほど。やけに口が軽いと思ったらそれが原因か。

 

 確かにもう、いろいろと情報は公開されて来てるからな。俺たちに関していえば少しぐらいはばらしてもいいだろう。そういう仕事をしてるわけだしな。

 

 つっても転生天使とか悪魔関係はもっと時間をかけてってのが上の意向ではある。なにせそこまでばらすと、学生生活が難しくなるからな。

 

 駒王学園関係でばらすとするなら、まずは駒王学園に在籍している人間の異形関係の関係者を紹介する方向で進むはずだ。魔物使いとか、退魔師とか。

 

 たしか一年には五代宗家の出身がいたはずだ。そいつとかを基本として、さらに数年後に在籍している悪魔などの情報を公開することになるだろう。

 

 イッセーたちが転生悪魔だということが知られるのは、大学部に入ってからになるはずだとさ。

 

 それが、高校生活位は楽しませてやりたいという、サーゼクス様達の計らいってやつだ。

 

 で、俺たちはお嬢から京都のフリーパスってのをもらった。

 

「それがあれば、悪魔や堕天使でも京都で自由に過ごせるわ。制服かスカートの裏ポケットにしまっておきなさい」

 

 ホントに至れりつくせりだ。

 

 そして、緊急時のイッセーのサポートのために、代理の王としての証明書をアーシアに渡す。

 

「さて、それじゃあ俺は先に行ってるんで、行ってきますぜ、お嬢」

 

「ええ。何かあったらすぐに連絡して頂戴」

 

 了解、お嬢。

 

 さて、そういうわけで真っ先に席を確保しに、俺は一歩先に向かう。

 

 そうしてると、ペトが俺の隣に並んできた。

 

「お前はもうちょっといてもいいんだぞ?」

 

「お構いなくッス。ここは眷属水入らずが一番ッスしね」

 

 なるほど、気を使ったのか。

 

 でも、イリナは普通に残ってるぞ? 是だと意味なくないか?

 

「そういえばヒロイ。お姉さまのことっすけど」

 

 ん? なんだなんだ?

 

「……こっそり休暇を取ってたっす。それも、関西地方の観光名所を調べてたっす」

 

 ………。

 

「万が一のためにこっそりカバーする気なのか?」

 

「面倒ごとしょい込みたがる苦労性なんすよ」

 

 そうため息をつくと、ペトは俺に苦笑を浮かべた。

 

「そんなわけなんで、いざという時はお姉さまに相談するッス。自分もそうするッスよ?」

 

「了解。ま、何もなければ姐さんも普通に観光できるだろ」

 

 ああ、そうであることを祈るぜ、ホントによ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は新幹線の中、高速で変わる景色を楽しんでいた。

 

 つっても長い間運ばれてるとのどが渇くんで、水を飲みにちょっと席を離れる。

 

 と、そこでネロと出くわした。

 

「よぅ! ヒロイ」

 

「おぅ、ネロ」

 

 俺たちは軽く挨拶を交わすと、そして軽くにらみ合う。

 

 ぶっちゃけいうと、俺はネロが苦手だ。一方的に距離を置いているといってもいい。

 

 なにせ、ネロはあのストラーダ猊下の指導をよく受けている。デュランダルの使い手のゼノヴィアよりも受けているんじゃねえかって思うぐらい受けている。なんかすごい技を伝授されたらしいってぐらいにはうけている。

 

 そして、俺はストラーダ猊下のことが好きじゃない。ぶっちゃけかなり苦手だ。

 

 そういうわけで距離を取ってるんだが、ネロの奴はかなりフレンドリーな性分だからな。

 

「学生生活楽しんでるか? お前、勉強好きだから満喫してるだろ」

 

「当然だ。そう言うお前はラファエル様の(エース)なんだってな」

 

 同期じゃイリナに匹敵する大出世だ。普通に自慢になる。

 

 当然、ネロにしても誇らしい限りだろう。ちょっと自慢げだ。

 

「まあな! そして、俺はさらにやることがあるんだぜ?」

 

 そういうと、ポケットからアメコミのヒーローのようなマスクを取り出した。

 

 そして、勢いよくかぶる。

 

 似合ってるな。だけどここでかぶると悪目立ちするぞ。ぶっちゃけ、変質者にしか見えねえ。

 

「これはキャプテン・エンジェル!! 天界でもおっぱいドラゴンみたいなヒーローを作ろうって話が合ってな! 俺が立候補したぜ!!」

 

「ここでやるな!」

 

 悪目立ちにもほどがあるわ!!

 

「……で? 悪魔祓い関係者の中で有名どころはお前だけか? 意外と警護が甘いんだな」

 

「そういうなよ。第一お前らがいるなら百人力だろ? 猊下もお前の実力は認めてんだぜ?」

 

 と、ネロははっきり言いきるが、しかし周囲の視線を気にすると、小声になった。

 

「……それに、ジョーカーは先に京都に行って京料理食べてるからよ。何かあったらあの人が何とかするさ」

 

 へぇ。

 

 ジョーカーってことは、やはり転生天使には切り札的な人員がいるってわけか。

 

 ストラーダ猊下か? クリスタリディ猊下か? それとも神滅具持ちのデュリオの奴か?

 

 まあ、あの三人ならだれが選ばれてもおかしくねえ。それだけの化け物共だからな。

 

 そんなのがいるなら、京都はたぶん大丈夫だろ。……下手にテロを仕掛ければ、まとめてぶちのめされるのが目に見えてるな。

 

 さて、それじゃあ水呑んで戻るとする……か………っ!?

 

 俺は、突然の衝動にうずくまる。

 

 な、なんだこれは!? 

 

 俺じゃない俺が頭の中で叫ぶ。俺が本来こんなところで考えるはずのない衝動が暴れまわる。

 

 まずい。このままだと俺は正気を失う……っ!!

 

「おい! ヒロイ、どうした!?」

 

「ネロ、敵の精神攻撃だ……っ」

 

 くそ、場合によってはネロに俺の介錯を頼むしかねえ。

 

 この精神攻撃は凶悪だ。一歩間違えれば、俺は英雄として生きていけなくなる……!

 

 その前に俺を殺してもらわねば。そんな暴走をするぐらいなら、俺は死を選ぶ!!

 

「ネロ、俺を倒してくれ。……俺が………俺が………っ」

 

「しっかりしやがれヒロイ! 馬鹿なこと言うな!!」

 

 時間がない。

 

 頼むネロ。俺を倒せ。

 

 俺の衝動が限界を超える前に、そう、俺が―

 

「おっぱいをもむ前に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほいっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、やらかい感触とともに衝動が霧散した。

 

 はっ! なんだこの柔らかい感触は!? 新触感!!

 

 柔らかいものに俺の頭がうずまっている。そして、おっぱいをもみたい衝動があっさり霧散した。

 

 思わず顔を上げれば、そこにはペトが俺の顔を胸にうずめていた。

 

「なんかよくわからないっすけど、これが若さっすね。しっかりするッス」

 

「いやいや。これは敵の精神攻撃だって。だって俺、その辺はしっかり分けて考えられるし」

 

 英雄を目指すものとして、プレイボーイの作法ぐらいは守るぜ? 信じてくれよ。

 

 おいやめろ。その「わかってるから」って顔やめろ。俺は三馬鹿じゃない。

 

 くそ、信じてくれよ。

 

「……悪いヒロイ。俺は天使だからそういうのは―」

 

「だから精神攻撃だって言ってんだろ!!」

 

 クソ、誰か信じてくれぇえええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は結局、ネロはおろかペトにも信じてもらえなかった。

 

 さんざん童貞卒業したいといってたのが悪かったらしい。どうも、あいつらの中で俺はトチ狂ってそういうことを言いだしかねないキャラだと思われてるみたいだ

 

 なんてことだ。未来の英雄たるこの俺が、そんなことをすると思われてるとは。信じがたい風評被害だ。

 

 俺はそんな感じで落ち込んで、バカ騒ぎをしているイッセーたちのところに戻る。

 

「おい、何やってんだ?」

 

「ああ、ホテルについてから見るエロビデオの予定を話してるんだ」

 

 俺はこの憤りのない感情をこめて、全力でぶん殴った。

 




………まあ、そういうことです。題名的にもね。

ある意味理由はあるけど理不尽な暴力がイッセーを襲うことが確定しました。

ヒロイ「イッセー絶許」


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第三章 28

 

 そして京都に着いたが、しっかし何なんだろうな。

 

 京都駅の中で、俺達は痴漢に遭遇した。

 

 すでに地元の有志達が取り押さえていたけど、明らかに正気じゃなかった。

 

「おっぱいを……おっぱいをくれ……」

 

 痴漢にしても限度がある。あれは常軌を逸していやがった。

 

 しかも、俺がおっぱいを強烈に求めたそのちょっと前に松田もまたおっぱいを求めて暴走していたらしい。

 

 まさか、これは禍の団による無差別テロか?

 

 とにかく、そんなわけで俺達はホテルに到着した。

 

 京都サーゼクスホテル。

 

 きょうとさーぜくすほてる。

 

 冥界は、日本にどんだけ影響力有るんだ。近くには京都セラフォルーホテルとかあったしよ。

 

 東京アジュカホテルとか、神戸ミカエルホテルとか北海道アザゼルホテルとかもありそうだな。

 

 ま、だからこそこんだけ豪華なホテルに泊まれるんだろう。サーゼクス様の粋な計らいってやつだ。そう言うことにしておこう。

 

 部屋に荷物を置こうかとしたその時、アザゼルから鍵を渡される。

 

「ほら、これがお前らのカギだ」

 

 ……凄まじい嫌な予感を感じたんだが。

 

 俺はそれをぶん捕ると、即座に走り出した。

 

 他の生徒とは階からして違う。この時点で嫌な予感しかしねえ。

 

 くそ、なんか部屋の感じも全然違うぞ!!

 

「な、なんじゃこりゃぁああああ!!!」

 

 俺は愕然となった。

 

 なんかぼろい和室だ。しかも六畳一間。

 

 こんな高級ホテルに、なんでこんなもんがある。まずそこからツッコミを入れてえんだがよ。

 

 ……なるほど、これは嫌がらせだな?

 

「ヒロイ! いきなり走ってどうしたんだ……ってなんじゃこりゃぁ!!」

 

「ぶはは! なんだこれ、和室じゃねえか!」

 

「まさか修学旅行の資金面が足りなかった……とかか?」

 

 三人組の言葉を無視し、俺は深呼吸を一つ。

 

 よし、殴り込みだ。

 

「俺は元凶を殴り倒してくる。なに、たぶんアザゼルだろうから大丈夫だ」

 

「「「いやいやちょっと待て!!」」」

 

 とっさに三人同時に止められるが、しかしこれ許せるか!!

 

 高級ホテルに泊まるなんて、実はちょっと期待してたんだぞ? それがこれだぞ!!

 

 聖槍をこの場に展開してないだけでも我慢してる方だよ。槍王の型を使うこともいとわねえぞ!!

 

「とりあえず落ち着いてください、二人とも……というよりはヒロイ君」

 

 と、ロスヴァイセさんがため息をつきながらこっちに来た。

 

 なんだと? まさかあんたも一枚かんでるのか!!

 

「……ここは万が一のための集合場所として確保したものです」

 

 万が一? ……ああ、ヴィクターとかの。

 

 にしてもこれはねえだろうに。

 

「言ってくれれば自腹でスイート取りましたよ?」

 

「学生が修学旅行でスイートルーム何て駄目です。風紀が乱れます」

 

 くそ、お堅い人だ。

 

「ええい。帰ったら姐さんとお嬢に告げ口してやる。どうせアザゼルが面白半分でこんな部屋にしたんだろうからな」

 

 俺は心底腹が立ったが、しかし反論しづらいのでそういうことにする。

 

 ため息をつきながらいったん集合すれば、そこで班に分かれて護衛役との挨拶回りだ。

 

 さて、俺らの護衛はいったい誰になることやらと思ったが、そこでゼノヴィアとイリナが頷くと立ち上がった。

 

「先生。私達の分の護衛は、全体の統括に回してくれ」

 

 と、ゼノヴィアが言い切った。

 

 まあ、下手な護衛より俺達の方が強いからな。神滅具使いが二人もいるし。

 

 だったらそういうのがいない他のクラスの警護の方に意識を向けた方が有効だろう。そうすれば安全も確保しやすくなる。

 

 つっても、そういうことはこっそりアザゼル先生やロスヴァイセさん辺りに言えよ。一般教師は俺達の正体知らないんだぞ?

 

 ほら、一般教師がそれに怪訝な表情を浮かべてやがる。

 

「何言ってるんだ? 万が一の保険とは言え、それでは危険だと―」

 

「実は私達、ネロ君達とは元同僚なんです」

 

 そのイリナの言葉に、クラスメイト達の視線が集まった。

 

 でもってお護衛の悪魔祓い達は今言うかという顔になる。

 

 確かに同感。後々やりづらくなるんじゃねえか?

 

 と、思ったんだが、ゼノヴィアはすらすらと言葉を紡いだ。

 

「……諸事情あって私はクビになってしまったんだがイリナは現役でな。ほら、駒王町で三大勢力の和平会談があったのは宣言されていただろう? そのあたりでトラブルが発生する可能性を考慮して、前から三代勢力は人を送っていたんだ」

 

「私は年齢が合っているということで、駒王学園の担当なの! 主の代行足るミカエル様直々の判断よ」

 

「ま、マジなのイリナっち?」

 

 流石に度肝抜かれた桐生が、イリナに確認を取る。

 

「おう。ゼノヴィアとは同じ師に指導を受けたこともある同期ってやつだ」

 

 と、そこでネロがさらに念押しした。

 

 おぉ……と注目が集まる中、ゼノヴィアは笑みを浮かべると胸を張る。

 

「まあ、今は武器を持ってないからイリナに任せることになるだろう。それに、今の立場の都合から時々学業を休むこともあるかもしれない。……事前に知ってもらっていた方が心配されないと思ってね」

 

 な、なるほどそういうことか。

 

 確かに、こうやって前もってある程度の来歴を説明おけば、有事の際に動きやすくなる。

 

 しかもゼノヴィアとイリナが元悪魔祓いである事を教えた事で、悪魔絡みのトラブルが起き後期の対処も楽になるだろう。

 

 なるほど。信徒らしい自己犠牲精神だ。どうせいつかはばらすんだし、少しぐらい言っても罰は当たらない―

 

「因みにヒロイ君も同期だったわ」

 

「ああ。かなりの凄腕だな」

 

「ついでに言うと、私が首になったのはこいつの所為だ」

 

 三連コンボでとばっちりぃいいいいい!?

 

「お前ら! 俺を巻き込むな!!」

 

「黙れ。お前は大金をもらって警護役として駒王町に配属されたんだろう。だったら1番、動かなければならないのだから、理解を得てもらった方がいい」

 

 ゼノヴィアはそう言うが、目には「ざまぁ」という感情が浮かんでいた。

 

 この野郎、いらんこと言って追放のきっかけを作ったのをまだ根に持ってやがるな!?

 

「ぜ、ゼノヴィアさん! 前職っていったい何をしてたの!?」

 

「っていうか紫藤さんって現職? 仕事しながら学校通ってるんだ!!」

 

 と、生徒達はちょっとおどおどしながらも、二人に質問をしまくった。

 

 おいおい。結構距離をおいてもいいだろうに、平気でこういう方向に持ってくんだな。

 

 この学園の生徒達、意外と民度が高いっていうか度胸があるっていうか……。

 

 ああ、俺、この高校は言ってほんとに良かったぜ。

 

「皆さん! とりあえず静かに!! あとゼノヴィアさんとイリナさんは修学旅行が終わったらお説教ですからね!!」

 

 と、ロスヴァイセさんが大声を張り上げて空気を塗り替える。

 

 そして、其のままの勢いで駅の方向に指をさした。

 

「とりあえず! 必要なものがあったら京都駅地下にある百円均一で買いなさい! こういうところでお金を無駄遣いするのはいけませんよ!!」

 

 ………それ、今言う事?

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、護衛は用意しておくべきだったかねぇ。

 

 俺は内心で愚痴りながら、回し蹴りを天狗に叩き込んだ。

 

 ちょっとドタバタしたが、結果としてフットワークが軽くなった俺達は、京都の観光を楽しんでいた。

 

 そして山登りをしながら京都巡りをしていたんだが、いきなりイッセーが妖怪らしき連中に襲われて今この状況になる。

 

 動きは結構訓練されているな。こういう連中はフィジカルスペックだよりが多いんだが、俺達ほどじゃないが鍛錬を積んでいる。

 

 率いてる狐娘が偉そうというか高貴さを感じさせているし、どっかのお偉いさんの私兵か何かか?

 

 一応今、桐生達はゼノヴィアとイリナが護衛してる。そしてこいつら程度の戦闘能力なら、しのぐ程度の事は十分できる。

 

 旧魔王派の強化兵士や、神の作り出し魔獣軍団相手にしのいだ実績舐めんな。この程度ならせめて十倍は出して犠牲覚悟の波状攻撃をかまされなけりゃあ、やられたりはしねえよ。

 

 つっても、状況が全く分からねえから消滅させるわけにもいかねえわな。これでうっかりただの手違いだとしたら、まず間違いなく問題になる。

 

「ちょっとタンマ! ホントに俺達は何も知らないんだってば!!」

 

「何も知らんじゃと!? ならばなぜ、悪魔がこの京の街を堂々とうろついておるのじゃ!!」

 

 イッセーの静止の声にも耳を貸さないガキンチョだが。しっかしちょっと待てよ?

 

 これ、駒王学園生徒(俺ら)が来るって事を知らされてねえだけか?

 

 なら……。

 

「ほら、これ見てくれ!!」

 

 俺は、制服に入れていたフリーパスを見せる。

 

 その瞬間、仕掛けようとしていた妖怪達の動きが止まった。

 

 イッセーもすぐに俺に倣ってフリーパスを見せる。

 

 ……よし、これが偽物ってことはなさそうだな。

 

「ほら、証拠だ! 賊がこんなもん持ってるわけねえだろ? 俺達は駒王学園ってところの修学旅行で来てて、京都サーゼクスホテルにいるから……さ?」

 

 俺がそう言うと、狐娘がむぐぐと不満げな表情を浮かべてたが、やがて何かに納得したのは距離を置く。

 

「嘘偽りじゃったら許さんからな!! 皆の者、引くぞ!!」

 

 どっちにしても状況不利と思ったのか、妖怪たちはその声に一斉に引いていった。

 

 さて、とりあえず問題の一つはどうにかなったか。

 

 しっかし、これ流石にまずくねえか?

 

 事前に話が通っていたはずなのに襲撃されるとか、明らかに京都側に問題が起きてるだろ。

 

 ……マジで護衛が役に立つ事態になりそうで怖いな、オイ。

 

「イッセー。とりあえず先ゼノヴィア達と合流してろ。俺はお嬢に連絡する」

 

「え? いいのかよ、アザゼル先生に黙ってそんなことして」

 

「緊急事態だ。眷属の危機をお嬢が知らねえってわけにもいかねえだろ」

 

 イッセーにそう返しながら、俺はお嬢に連絡した。

 

 こういうのはメールじゃなくて電話でするのが基本ってやつだ。

 

『……ヒロイ、どうしたの?』

 

「お嬢。京都観光をしてたら、妖怪の集団に襲われました。それもはぐれ者じゃなく、正式な訓練を積んでいると思しき戦闘集団のようで……」

 

 俺はそう説明しながら、嫌な予感を覚えまくっていた。

 

 これ、確実に大騒ぎになるだろ。

 

 浮浪児生活と教会の施設生活の二つのコンボで、修学旅行なんて一度も経験したことがないってのによぉ。

 

 俺の唯一の修学旅行が、激戦で潰れるとかマジで勘弁してくれぇ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもってホテルに足早に戻ると、アザゼル先生達にもきちんと報告した。

 

 俺がお嬢に連絡した事を告げると、アザゼルは何やってんだお前って顔をしやがったが、その辺に関してはスルーだ。

 

 トラブルが発生した事を何も教えられてない方が、向こうとしても気にするだろうしな。何かあったらすぐにでも助けに来てもらわねえと困るしよ。

 

「しかし、京都の許可はちゃんととってたはずだ。それが何でイッセー達を襲撃するんだ?」

 

「気になりますね。どうも現地についてから京都の方々と連絡が取れなくなってますし、何かあったんじゃないでしょうか?」

 

 アザゼルとロスヴァイセさんはそう言って首をひねる。

 

 ……まさか、また禍の団か? またヴィクター経済連合か?

 

 あいつ等、あの連続襲撃以外で組織全体としての大規模な戦闘は行ってなかったくせに、一体どういうつもりだ?

 

 京都とくれば、妖怪達の重要拠点の一つだ。更に陰陽師などの日本古来の術者達も数多い。

 

 とどめに、日本は世界でも有数の異形及び神話の受け入れ先だ。今迂闊に日本で事に及べば、返り討ちにあう可能性はでかいってのに。

 

 何がそんなに日本を引き付ける……?

 

「いや、なんか色々と大変な事になってるみたいだね」

 

 と、そこに軽そうな男が現れた。

 

 だが、そいつを舐めてかかることなんて誰にもできねぇだろう。こと人間で、こいつを舐めてかかれる奴なんていないだろう。

 

 それほどまでに、目の前の男はシャレにならねえ実力者だ。

 

「よ、デュリオ。久しぶりだな」

 

「お久ーヒロイきゅん。いや、俺が京料理を食べてる間に大変な事になってるみたいだね」

 

 そう言って苦笑するのは、教会でも最強クラスの実力者。若手で言うならナンバーワン。そんな男、デュリオ・ジュズアルド。

 

 移植した姐さんとは違い、先天的に煌天雷獄《ゼニス・テンペスト》を保有している生粋の神滅具使いだ。

 

 そして、そんなデュリオの後ろから現れたのは姐さんだった。

 

「いきなり大変なことになってるようね。あなたも」

 

 姐さん!? 京都にいるらしいのは分かってたけど、なんで姐さんがここに!?

 

「お姉様~♪」

 

「ペトはいつも可愛いわねぇ。でも、今は結構真剣な時よ?」

 

 そう言ってなだめながら、姐さんはとなりのデュリオに視線を向けると、苦笑した。

 

「お汁粉を食べてたら隣に座ってきてね。どうも私は英雄らしく有名人だから」

 

「いや、俺と同じ煌天雷獄の使い手だってことで写真見せてもらってたからね。美味しそうな甘味処に入ったら出くわしたんで、つい声を掛けちゃったよ」

 

 ナンパか!? 姐さんに!? 仮にも悪魔祓いが!?

 

 ゆ、許さんぞ! 俺の目の黒いうちは姐さんにナンパしようなんて!!

 

 いや、姐さんは行きずりの男を一夜を楽しむタイプだ。だったら別に構わねえのか?

 

 いや、相手は仮にも教会の悪魔祓いだぞ? そんなことになったら問題だらけだ。むしろ姐さんにこそ釘をさすべきじゃねえだろうか?

 

「お姉様。この人イケメンですけど、食べたいですか」

 

「残念だけど今日はお汁粉でおなか一杯よ」

 

「いや、俺転生天使だからね? そんなことしたら堕ちちゃうからね?」

 

 あ、そんな心配はいらないみたいだな、うん。

 

 つか、やっぱりデュリオも転生天使か。スートの相当のレベルのになってそうだな。

 

「……それで、アザゼル先生。これから私達はどうすればいいんだ?」

 

 ゼノヴィアが話を進めるが、アザゼル先生は苦笑するとその頭をなでる。

 

「とりあえず、その辺のところは俺達がやっとくさ。お前らはもう休んどけ」

 

「いいんですか? 学校の皆にまで危害が加えられたら……」

 

 イッセーが不安げな声を出すが、しかしアザゼル先生は肩をすくめる。

 

「大打撃を受けたとはいえ、世界最大宗教に迂闊に喧嘩売るほど奴らも馬鹿じゃないさ。フリーパスを確認したら引いたんだろ? それ位の頭は残ってるよ」

 

 確かにな。ホントに馬鹿だったら、フリーパスを見ても「そんなの知るか!」とか言い出しかねねえな。

 

「そうそう。そう言うのは俺らの仕事だからね。もっと食べたかったけど、護衛の仕事で来たんだし、頑張りますか」

 

「私もこのホテルに部屋を取ってるから、全体的な監視位はさせてもらうわ。ペトはお友達と一緒に楽しんできなさい」

 

 と、デュリオと姐さんもそう言ってくれている。

 

 これはお言葉に甘えないといけないだろ。大人の人たちが俺たち子どもに気を使ってくれてるんだからな。

 

 でも、何かあったらすぐに呼んでくれよな?

 



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第三章 29

さて、修学旅行で温泉。









……覗きを敢行する馬鹿がいるのはデフォルトです。


 

 そして京料理に舌鼓を打った晩飯も終わって風呂の時間だ。

 

 京料理、うまかったなぁ……。

 

 そんなことを思いながら、俺は階段を上っていた。

 

 なんでかって? 決まってんだろ。

 

 イッセーを監視するためだよ。

 

 あのやろう、早々に姿をくらましたからな。間違いなく覗きに動いてやがる。

 

 駒王学園なら後でボコられたり説教されたりすれば済むかもしれねえが、ここは京都だ。

 

 うっかり一般客に発見されて、警察を呼ばれたりしたら大打撃だ。さすがにイッセーも停学じゃ済まねえだろう。

 

 このトラブルが予想されまくりの状況下でそれはまずい。なんとしても阻止しねえとな。

 

 ツーわけで、俺は両手をバチバチ鳴らして階段を上り―

 

「いっけぇ!! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ぅうううう!!!」

 

 その声に、俺は出遅れたことを察した。

 

 慌てて階段を急いで登り、俺はイッセーの後頭部を見つけたとたんに飛び蹴りを放つ。

 

 体内電流の操作によって敏捷性を増した俺の蹴りがイッセーを襲う!!

 

「はうぁ!? いきなり何すんだ!」

 

「こんなところで何してやがる!!」

 

 俺は速攻で怒鳴ると、さてどうしたもんかとあたりを見渡す。

 

 そこには、ビリビリに敗れたジャージの残骸。そして、そのジャージを着ていた裸のロスヴァイセさんの姿があった。

 

 あーあーあーあー。味方にまで使いやがったの、この馬鹿。

 

「お前なあ。ここは駒王学園じゃねえんだぞ。マジで警察が来たらどうするつもりなんだ、ああ?」

 

「かまわない。俺は、女子の裸が見られるなら捕まってもいい!!」

 

 ホントに警察呼ぶぞ、この馬鹿野郎。

 

 だがお前が捕まると後がややこしいんだよ。マジで自重しろ。

 

「ロスヴァイセさん。説教をどうぞ」

 

「もちろんです!! せっかくセールで購入したジャージをどうしてくれるんですか! あんなに安く買えるチャンスなんて、もうないですよ!!」

 

「「そっちですか!?」」

 

 俺とイッセーのツッコミがはもった。

 

 いや、全裸に剥かれてまずすることが服の心配ってなんでだよ?

 

 っていうか、そのジャージセールで見たぞ。確か二千円もしてなかったはずだけどよ?

 

 なんで高給取りのお嬢の眷属がそんなことを気にしてんだよ。あんた仕事してんだからもっと高いの買えるだろうが!! 次期当主の眷属だろぉ!?

 

 いや、どうもイッセーたちはグレイフィアさんに管理されてるみたいだけどな。俺も悪魔側の報酬は管理されていたが、堕天使側と教会側の報酬は何とか死守した。

 

 金を使える時に使うことの大切さがわかってるから譲れなかった。金は天下の回り物というが、回すのは金持ちの務めなんだ。

 

 って違う、話を戻せ。

 

 っていうかそれより先に気にすることあんだろ。

 

「そんな安物よりも裸にされたことを気にしてくださいな!!」

 

「はっ! まだ誰にも見せたことなかったのに!!」

 

「今更ぁ!?」

 

 イッセーすらツッコミに回ったよ。

 

 だが、ロスヴァイセさんは顔を真っ赤にしながらも何言ってんだお前らって顔をする。

 

 いや、それ俺らがしたい顔なんですけど。

 

「いいですか? 衣服というものは貴重な資源です。高級品なんです。大事にしないといけないんです」

 

「確かにそれはもっともっすけど……」

 

 服を何着も持てるってのは、意外と立派なことだからな。俺は同意するしかない。

 

 俺も浮浪児の時は、捨てられた服を時々拾う程度のことしかできなかった。マジで大変だったぜ。

 

 そういう意味じゃあ確かに大事なんだろうが……。

 

 なんだろう。どうしてもツッコミどころとしか認識できなくて、どう反応すりゃぁいいのかわからねえと気がある。

 

 少なくとも、今は女の尊厳の方が大事じゃねえか?

 

 二千円足らずの服より安い価値じゃねえだろ?

 

「……お楽しみのところ悪いんだけどよ、ちょっといいか?」

 

 と、そのタイミングでアザゼルが姿を現しやがった。

 

 ……なんだなんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちが連れてこられたのは、京都の料亭だった。

 

 そして、一見すると気づかねえがかなりの人数が警備にあたってやがる。

 

 なんだ、この警戒網。昼に仕掛けてきた連中よりも練度が高いぞ?

 

「……お待ちしておりました、総督殿」

 

 と、そこに朱乃さんと雰囲気が似た女性が現れて敬礼する。

 

 見れば自衛隊の制服だ。

 

 と、その人は俺たちの方に少しずれながらも敬礼をした。

 

「お初にお目にかかります、グレモリー眷属の方々。私は、異能自衛官を務めております姫島鈴女一尉であります」

 

 い、異能自衛官ってーと、確か最近公表された自衛隊の特殊組織だったよな。

 

 ウツセミ以外の対異形装備を中心に運用する、極秘裏に設立されていた、自衛隊の特殊部隊。それも精鋭だ。

 

 そんな人物がいるってことは、結構やばい問題が起きてるってことか?

 

「……あの、姫島って名乗ってましたけど……朱乃さんの知り合いか何かですか?」

 

 と、案内されながらイッセーがそう質問する。

 

 ああ、確かにイッセーとしては気になるか。

 

 敬愛する二大お姉さまの1人と同じ苗字だもんな。気になるのは当然ってところだろう。

 

 それに対しては、鈴女さんは前を向いて案内しながらも朗らかに答えた。

 

「ええ。姫島は分家も含めるとかなりの数になりますので。……もっとも、私は追放された身ですが」

 

 追放か。

 

「何かしたのか? いや、そういう人物が自衛隊に所属できるとは思えないが……」

 

 ゼノヴィアが首をひねるが、それに鈴女は苦笑した。

 

「自分は姫島の血に反する異能を宿したもので。当時の総理に拾われなければ、今頃空蝉機関の一員としてヴィクターに所属していたかもしれません」

 

 そんな物騒なことを言いながら鈴女さんが案内したのは、料亭の一室だった。

 

 そして、そこには生徒会とセラフォルーさまが先にいた。

 

 おお、セラフォルーさまは着物姿だ。ツインテールじゃなくて髪をまとめているのもいいな。こっちの方が大人っぽくて俺は好みだ。

 

 そして、そんなセラフォルー様のとなりには総理がいた。

 

「よ、グレモリー眷属の諸君。久しぶりだな!」

 

「総理大臣? なんでこんなとこに!?」

 

 イッセーが真っ先に驚く中、総理はお茶を一口飲むとため息をついた。

 

「須弥山の帝釈天が、京都の妖怪との会談に一枚かまねえかって言ってきてよ。そう言うわけでちょっと来てみたんだが……」

 

 そこまで言うと、もう一回総理はため息。

 

 それに苦笑しながら、セラフォルー様もまた頬に手を当てると暗い顔をする。

 

「それがねん。その京都のトップの人が、行方不明なのよん」

 

 はい?

 

「九尾の狐の八坂っていう子持ちの姉ちゃんがどっかに消えちまったんだとさ。そのせいで京都の妖怪陣営は大混乱だ。俺も待ちぼうけで、一回帰ろうかと思ったぜ」

 

 と、総理はため息をついた。

 

 なるほど。それで混乱して暴走した一部の連中が、こっちを勘違いして攻撃を仕掛けてきた……と。

 

「あの子も狐でしたけど、もしかして?」

 

「そうでしょうね。九尾の娘さんだと思うわん」

 

 イッセーが何かに気づき、レヴィアたんがそれにうなづく。

 

 なるほど。お袋さんがいなくなって、パニック起こしてたってわけか。

 

 っていうかお付きが止めろよ。諫言もまた忠臣の役目と思うけどな。

 

 つか、そんなことをこのタイミングでぶちかますってことは―

 

「十中八九禍の団が関わっているだろうさ」

 

 アザゼル先生の言葉に、俺たちは息をのんだ。

 

 なるほどね。ヴィクター経済連合はそろそろ活動を本格的にするってわけか。

 

 休息期間はこれにて終了。そろそろ本腰を入れようって感じかねぇ。

 

「お前ら、また厄介なことに首突っ込んでんのか?」

 

 匙がちょっとドンビキしてるんだが、俺らに言われても困る。

 

 トラブルの方がこっちに向かってやってきてるんだよ、基本的に。

 

 俺たちが意図的にトラブルに首突っ込んでるわけじゃない。ましてやトラブルを起こしてるわけでもねえ。

 

 そこはしっかり認識してくれや。

 

「ったく。こちとら修学旅行で学生の面倒みるだけで精いっぱいなんだよ。やってくれるぜ」

 

 アザゼル先生がすっごいいやそうな表情を浮かべる。

 

 いや、アンタ舞妓と遊ぶとか言ってなかったか、オイ?

 

 どっちかというと観光気分じゃねえか。遊び半分じゃねえか。

 

 絶対そっちの方で切れかけてるな。このオッサンはもう少し痛い目見せていいですぜ、ヴィクター経済連合の方々。

 

「この国に侵入しすぎだろ、どいつもこいつも」

 

「まあまあ。転移が使えると潜入そのものは楽なのよん」

 

 頭を抱えている総理を、レヴィアたんが肩に手を置いて慰めた。

 

 そのまま酒を注ごうとするけど、総理は仕事中だからと断った。

 

「ま、今そんなこと言ったら余計にパニックになっちまうがな」

 

「そうなのよん。まずは私達と協力してくださる妖怪の人たちと一緒に事の収集を図るつもりなの」

 

「俺もまあ、仕方ねえから独自に動くぜ。すでに部下を動かしてる」

 

 トップ陣営が本腰入れてるなら、意外と早く事が終わりそうだな。

 

 旅行初日から大変だけどよ、俺たちもこれは動くべきかねぇ。

 

「先生! 俺たちは何をすればいいですか?」

 

 と、イッセーが気合を入れてアザゼル先生に聞く。

 

 こういう時のイッセーは本当に行動力があるな。さすがは正義のヒーロー、乳龍帝おっぱいドラゴンだな。

 

 だけど、アザゼル先生は苦笑するとその頭に手を置いた。

 

「いや、先ずは俺たちで何とかするさ。いざとなったらちゃんと言うから、今のところは旅行を楽しみな」

 

 そう言ってから、俺たちを見渡すアザゼル先生。

 

 その顔は、まるで子供を見る親のようだった。……いや、俺はそういうのよくわからねえけどさ。

 

「こういう青春ってのはガキの頃しか体験できねえもんだ。大人ができるだけ何とかするから、その時が来るまで楽しんでろ」

 

「僭越ながらその通りです」

 

 と、今まで黙っていた鈴女さんもそういって俺たちに微笑んだ。

 

「子どもはちゃんと楽しみながら成長するのが義務です。基本的に世界をめぐる面倒ごとは、大人に任せてください。本格的に関わるのは、大人になってからで十分です」

 

 おお、なんというか大人の意見。

 

 この人も結構いろいろあったっぽいけど、やっぱりちゃんとした教育うけてる大人なんだなぁ。

 

 実力主義の俺らの社会じゃ、あまり見られない光景だ。やっぱり表の世界に深く関わってるから、そういう意見を言えるんだろう。

 

 ……割と煩わしい時もあるけど、表の世界も表の世界でちゃんとした言い分や理があるもんだな。

 

「よく言った姫島一尉! そうさ、子供を積極的に苦労に巻き込んじゃあ、大人のメンツが立たねえってもんよ!」

 

 と総理が鈴女さんを褒めると、鈴女さんは顔を紅くして慌て始める。

 

 あ、ああいう立場だと首脳陣の会話とかには迂闊に関われないか。ちょっと僭越な立場って感じか?

 

「か、勝手な発言失礼しました!」

 

「いんや、立派な大人の発言だった。総理大臣として褒めてやる! ほら、お前も腹減ってるだろ、一口食っとけ」

 

 と、総理は鈴女さんにも食事を勧める。

 

「お前らも、面倒ごとに巻き込んだ詫びに食っちまいな。どうせ俺たちだけじゃ食いきれないしよ」

 

 アザゼル先生も進めるけど、俺たち晩飯きちんと食いましたぜ?

 

「よし! 外の警備の連中にもなんか包んでやるか! 総理大臣としてそれ位のチップは弾んでやらねえとな!!」

 

「良いこと言ったわ大尽ちゃん! お金はレヴィアたんが出してあげる!!」

 

 首脳陣の大盤振る舞いっぷりがすげえな、オイ。

 

 ……しかし、禍の団による誘拐事件か。

 

 いったい、何を考えてやがる?

 




日本政府も動く一大事。大尽総理またも登場。

今回の一件、英雄派はかなり本腰を入れて動いております。……多少ですが魔改造がぶちかまされますのでお楽しみに。


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第三章 30

今回は、ちょっと短め


 

 そして早朝、俺は伸びをするとシャワーを浴びた。

 

 ったく。個室にも風呂があるのは好都合だが、それはそれで小さい奴だな、オイ。

 

 八畳一間に二人で寝る。これ、高級ホテルの生活じゃねえだろ。どう考えても安い旅館のそれだ。

 

 これも普段高級な豪邸で暮らしている反動かねぇ? いや、ゼノヴィア達女性陣は普通に高級な部屋に泊まってるんだけどな。

 

 第一あそこはイッセーの家なんだから、イッセーは高級な部屋に泊まらせてやれよ。何がこいつをそこまで不憫な目に合わせる?

 

 ……っていまだに覗きの常習犯だった。それも、この京都ですら覗きを敢行しようとしてたしな。俺はともかくイッセーに関しちゃ当然の対応な気がしてきたぞ?

 

 とはいえ、そのイッセーは朝からトレーニングの真っ最中だ。

 

 いつものことだが元気なもんだ。たまには完全休養日を入れてもいいだろうによ。

 

 ……ま、俺は俺でいろいろやることがあるけどな。

 

 俺はマスドライバースティンガーやコイルガンの研究のために、最先端技術の研究を行い始める。

 

 俺の紫に輝く双腕の電磁王は知識が肝だからな。その辺の精密動作こそが真骨頂。勉強もまた必要なのさ。

 

 ……ペルティエ効果? なんかすごそうだな、少し調べてみるか。

 

 と思っていたら、とんとんとノックが聞こえる。

 

「ハイどうぞー?」

 

「どうもっスー」

 

 と、入ってきたのはペトだった。

 

「どうしたよ、ペト」

 

「いやぁ、ヒロイの勉強に触発されて、自分ももっと狙撃の勉強をしようと思ってッス」

 

 というと、俺が持っていたパソコンを指さした。

 

「ついては感覚でやってた距離計算とか勉強したいんで、ネット貸してくれないっすか?」

 

 ほほう。ペトもやはり、まだまだ精進するつもりだということか。

 

 いいことじゃねえか。俺たち激戦続きだからな。やっぱり強くなるための特訓は大事だな。

 

「いいぜ。あと、俺もマスドライバースティンガーの研究があるから、良さそうなページはお気に入りに登録しといてくれ」

 

「OKっす!」

 

 そして、俺たちは朝ごはんに呼ばれるまで、思い思いに勉強を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あとで男女が朝っぱらから一緒の部屋にいたことで、先生方に怪しまれたが。

 

 ほら、ペトは色々いかがわしいことしまくりじゃん? 変なことしてると勘違いされてもおかしくねえじゃん?

 

 逆に全くそういうことをしてなかったので、変な心配の視線が向けられたけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで観光タイム!

 

 修学旅行~修学旅行~♪ 古都の京都で観光だ~っと!

 

「因みに、こっちから行くと近道っす! 前に友達に教えてもらったッス!!」

 

「おお! ペトがすごく頼りになる!!」

 

「いつもお世話になります!! 下半身も!!」

 

 松田と元浜に感心されながら、ペトがスピーディに抜け道を教えてくれるおかげで、あっさり清水寺についた。

 

 流石は元京都府在住。田舎の方に住んでたと聞いてたけど、時々京都に来てたみたいだな。

 

「知ってるアーシア? 三年坂で転ぶと、ホントに三年で死ぬらしいわよ~?」

 

「はぅう! 転びたくありません!!」

 

 と、桐生にからかわれたアーシアがイッセーに抱き着いた。

 

 もろとも転びそうだからやめときなさい。あと、そんな呪いみたいなものは俺が聖槍で弾き飛ばすから。

 

 と思ったら、ゼノヴィアまでイッセーに抱きついていた。

 

「日本は恐ろしい術式を仕込むんだね」

 

「恐るべし日本。私、生まれ故郷だけど怖くなってきたわ」

 

 イリナまで抱き着きやがった。

 

「ま、まってくれ三人とも。歩きづらくて俺が転ぶ……いや最高ですけど」

 

「「「お前だけ転んで死ね!!」」」

 

 思わず松田や元浜と一緒に悪態ついたぜ。

 

「いや、自分五年前に転んだッスけど全然大丈夫ッスよ」

 

 ペト。お前転んだんかい。

 

 などとやっていたら、清水寺に到着した。

 

 意外と低いな。これなら落ちても別に死にゃしないと思うけどよ。

 

「因みに、落ちたけど生きてるって人は結構多いわよ」

 

 マジか桐生。物知りだな。

 

「前に小犬が落ちたけど、あっさり着地してたっす。おひねりもらってたっす」

 

 いらん情報ありがとよ、ペト。

 

 まあ、あいつなら普通に三回転半ひねりとかして着地しそうだよな。身体能力抜群だし。

 

「おお! 俺とアーシアの相性は抜群だってさ!!」

 

「はい! 最高です! 最高の気分です!!」

 

 なるほど、アーシアとイッセーはおみくじで相性を占ってたんだな。

 

 お嬢が後で嫉妬で狂いそうだぜ。いや、アーシアには甘いし大丈夫か?

 

「さて、俺もおみくじでもするかねぇ」

 

 これぐらいなら主の遺したシステムもお目こぼしするだろ。

 

 と、思っておみくじを開くと凶だった。

 

 あれ? 駄目っすか清水寺の仏様?

 

 いろいろと微妙な評価だったが、何より気になるのは恋愛だった。

 

―想い人に、試練来る。乗り越えれるかはあなた次第。

 

 ……想い人? 俺、恋愛的な意味で惚れてる人なんていねえぞ?

 

 やっぱおみくじ何てこんなもんか。当たるも八卦当たらぬも八卦……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金閣寺は金で、良かったぁ」

 

「はい、良かったですねゼノヴィアさん」

 

「これで金じゃなかったら、ゼノヴィアは倒れてたわね……。主よ、お慈悲をありがとうございます」

 

「寺に聖書の神の遺志が関わるわけないっすよ?」

 

 ほっとするゼノヴィアに対するアーシアに続いたイリナに、ペトがツッコミを入れた。

 

 割とボケキャラのイメージがあるが、周りの方がボケだよな、うちのメンツ。

 

 ゼノヴィアの奴、歴史の教科書見てたはずなのに、銀閣寺に銀が使われてると思ってたからな。

 

 事前にそういうのは調べとけよ。画像あるだろうに。

 

 しっかし、生で見るとすごく輝いてるな、金閣寺。すげえ。

 

「金……金色……」

 

 茶屋で休憩しているときもゼノヴィアはそんな事ばかりだった。

 

「キャー! 痴漢よー!」

 

「おっぱい、おっぱいをちょうだいぃいいいい!!!」

 

 と、またも痴漢騒ぎ。しかも今度の下手人は女っぽいな。

 

 同性愛者の痴漢とか、珍しいな。同性愛者自体が結構珍しいから痴漢なんてもっと少ないからな。

 

「なんか、京都じゃ痴漢が多いな」

 

「そうね。もっと平和なところだと思ったんだけど」

 

 と、元浜と桐生がちょっとうんざり気にぼやく。

 

 確かに多いな。昨日の夜も、泊まりに来ていた観光客が「痴漢を見かけた」とか言ってたし。

 

「そういや、俺もなんか無性におっぱい揉みたくなったんだよなぁ」

 

 松田もそうだったな。かくいう俺もそうだ。

 

 俺がそんな暴走をするわけねえし、これはやっぱりヴィクター経済連合による精神攻撃か?

 

 いや、こんなあほなことするメリットがわからねえ。犯罪を起こさせて治安を悪化させる作戦なら、もっとやるべき犯罪があるはずだからな。

 

 しっかし、だとしたらなんだこれ? いくらなんでも痴漢多すぎないか?

 

「……え? 狐?」

 

 ん? イッセーが電話で誰かと話してるぞ?

 

 それも何やら警戒心が出てきてる。どういうこった?

 

 気になったんで俺が聞こうとしたその時だ。

 

「あれ? なんか……眠……」

 

 と、桐生が急に眠りこけた。

 

 それだけなら昨日寝れなかったのかと思ったが、そうじゃない。

 

 松田と元浜もまた、気づいたら眠っている。

 

 それどころじゃない。ほかのお客さんたちもまた、眠りこけていた。

 

 ……チッ! また攻撃か?

 

 そう思って警戒態勢を取る俺たちの前に、人影が出てくる。

 

 とっさに戦闘準備をとった俺たちだが、その姿を見て警戒心が緩んだ。

 

「ペッちゃん、やっほー♪」

 

「小犬ちゃん?」

 

 あ、神代小犬とか言ったっけ?

 

 以前オーディンの護衛で出てきた、小犬が姿を現していた。

 

 ど、どういうことだ?

 

 疑問に思う俺たちの前で、ロスヴァイセさんもまた姿を現した。

 

「皆さん。すいませんがちょっとお時間を取らせてください」

 

 ん? どゆこと?

 

 首をかしげる俺たちの前で、小犬が勢いよく頭を下げた。

 

「こっちゃんが本当にゴメン! ちゃんとわかってくれたから、ちょっとあってくれないかな?」

 

 ……これは、状況に変化があったとみていいのかねぇ?

 




はい、観光編終了です。

そういうわけで、次は状況説明会ですね。


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第三章 31

ようやく誤解がとけましたー


 

 そして小犬に連れられた先は、中々特殊な空間だった。

 

 江戸時代とかの京都とか見たいな感じがそうなんだろう。そんな感じの街並みだった。

 

 まだ昼間だってのに空は暗く、そしてそこにいるのは人間とは違う姿形をしたものだらけだ。

 

 てっきり妖怪達は人間の姿に化けて過ごしているのが基本だと思ってたんだが、異空間に籠ってたとはなぁ。

 

「ここはいわゆる裏京都ってかんじかな? 妖怪たちはこの異空間で普段は過ごしてるんだっ」

 

 と、説明しながら小犬は店先で団子を買うと俺達に渡した。

 

「こっちゃんが迷惑かけたお詫びに奢るよ。美味しいから食べてね?」

 

「オッケーっす! ……あ、美味しいッス!」

 

 ホント仲良いな、こいつら。

 

 ……しかし、結構色々な視線が集まってるな。

 

 興味本位の視線などはまだいい。中には警戒心のものもある。そして、一部だけだが敵意も向けられている。

 

 聖書の教えは日本じゃ大手を振るえなかったはずなんだがな。悪魔や堕天使を過度に敵視してたのは、あくまで人間の五大宗家を中心とする連中のはずなんだが。

 

 まあ、中にはロキみたいな保守派も多いだろ。中にはヴィクターにつくべきだという意見を言う異形達もいるらしいし。つまりは、そういう気持ちがある連中だということだろ。

 

 ま、こんなところにまだいるって事はそこまで考えてねえだろうがな。

 

 さて、そんな食べ歩きをしてる間に、俺達はでかいところに辿り着いた。

 

 見るからにあれだな。むちゃくちゃ大物が住んでそうだな。お嬢のところの城にも匹敵するな。

 

 そんな建物の入り口付近で、姐さん達が集まっていた。

 

 そして、沈んだ顔をしたあの時の狐少女が一人。

 

「よぅお前ら。何とか話は通したぜ」

 

「ええ。誤解は何とか解けたわよ」

 

 そう苦笑する先生と姐さんの間から、狐耳少女が一歩前に出る。

 

 そんな少女に並んで、小犬がその子の頭を撫でた。

 

「この子は九重ちゃん。八坂さんの子供なんだ」

 

 そう紹介された九重は、ものすごく申し訳ない顔をした。

 

「……この度は、誠にご迷惑をかけて申し訳なかったのじゃ!!」

 

 勢いよく、九重は頭を下げた。

 

「九重ちゃんに説明が遅れてごめんなさい!」

 

 ついでに小犬も勢い良く頭を下げた。

 

 更に、九重の頭にはたんこぶがあった。

 

 すっげ痛そう……。

 

「一応示しはつけておいたわ」

 

 姐さんが拳を見せてそう言ったけど、貴方の拳は上級悪魔すら殺せますよね?

 

 ま、まあ問題があるとすれば、こんな子供の暴走を止めれなかった大人の方に問題があるだろうしなぁ。俺は、まあいいか。

 

「俺はまあ、別にいいぜ」

 

「ふむ、確かに襲われたのはイッセーとヒロイだけだしな。ならばイッセーが許すなら私達は別に構わないか」

 

 と、ゼノヴィアの視線がイッセーに移る。

 

 ま、イッセーはこの状況下で怒ったりはしねえだろう。その辺に関しては想定内だな。

 

 さって。じゃ、俺達は建設的に話を進めるか。

 

「姐さん! それで状況はどんな感じなんですかい?」

 

「ええ。やっぱり八坂さんは誘拐されていたようね。それも、絶霧が関わっているそうよ」

 

 ってことは、ゲオルクやリムヴァンの奴が関わってるってわけか。

 

 どっちにしても強敵。こりゃ、この修学旅行はかなりややこしいことになってきそうだな、おい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まぬな。事情説明も兼ねていたので、あえてこちらに呼び出させてもらった」

 

 で、集められた席で、一人のオッサンに出迎えられた。

 

「……申し遅れた。私は七夜というもの。九重殿の親戚筋に当たる狐だ」

 

 なるほど。彼が今の代理のヘッドということか。

 

「九重の暴走を止められずに済まん。こちらも八坂殿の捜索などで慌ただしく、対応が遅れてしまった。九重の警護を小犬に命じるころには、すでに手遅れでな」

 

 そう言って、七夜さんは頭を下げる。

 

 ……気の所為か、頭を下げるのが遅れたような気がするんだが……やっぱプライド的なあれか?

 

「まあそれはかまわねえよ。其れより、事情を説明してくれや」

 

「そうだな、総督殿。……とは言え、事情は先程説明した通りだ。八坂殿が誘拐された」

 

 ……一勢力のトップが誘拐とか、ヤベえ話だな、オイ。

 

「数日前に、京都の御大将である八坂殿は、須弥山の帝釈天殿が遣わした使者と会う為に出立したのだが……その会談の場に姿を現していないという連絡があったのだ」

 

 そう告げると、七夜さんは頭痛を堪えるように顔をしかめる。

 

「慌てて調べれば、どうも何者かに攫われたようだ。……おそらくは―」

 

「―禍の団だろうな。生き残りの言っていた内容が、今代の絶霧の使い手であるゲオルクと一致した」

 

 アザゼル先生が続けた内容に、俺達は警戒心を高める。

 

 禍の団の大手派閥の一つである、英雄派。

 

 そのメンバーの中でも有数の実力者であるゲオルクが動いているとなれば、曹操も動いている可能性が高いな。

 

「総督殿、魔王殿……八坂殿を助ける可能性はあるだろうか?」

 

 七夜さんはそう言うと、俺達にまた頭を下げる。

 

「九尾の一族の長を失うのは痛手なのだ。手勢でよければいくらでも貸そう」

 

 つっても、どこに行ったのかもわからねえんじゃどうしようもねえだろ。

 

 下手しなくても、もうヴィクターの勢力圏に連れ去られていると考えるべきだし……。

 

「それは意外に行けそうだな」

 

 マジか、アザゼル先生!!

 

「京都は世界でも有数の術式都市だ。そしてその中枢にいるのが九尾の狐である八坂姫。……この辺りの場が乱れてない以上、八坂姫はまだ京都にいる可能性が高い」

 

 マジか! なら……行けるか?

 

「因みに、これが八坂姫の絵姿だ」

 

 そういって、巨大な巻物が開かれた。

 

 そこに映っているのは、確かに九重の面影がある美人さんの姿。

 

 あ、イッセーがいやらしい顔してる。

 

 そんな中、それが目に入ってない九重が丁寧なお辞儀をする。

 

「頼む……いや、お願いします。どうか、母上を助けてくださいませ」

 

 ……こんな小さな子に涙流させる真似するたぁふてえ野郎だ。

 

 よっしゃ! 英雄としちゃぁ、ここはやるしかねえか!

 

「俺は良いぜ。英雄としてこれは見逃せねえな」

 

「私ももちろん! 天使としてここはやるしかないわね!!」

 

 イリナが速攻で俺に続き、そして皆も同意する。

 

 ……ちなみに、絵を見て鼻血を流していた阿保という名のイッセーが一番最後だったのはご愛敬。

 

「よし、じゃあ有事の際は力を借りる。……明日は謝罪もかねて姫様が観光案内をしてくれるってよ」

 

「よろしく頼むぞ」

 

 おお、アザゼル先生の粋な計らいってやつか!

 

 じゃ、その分救出作戦では頑張らねえとな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は外で聖槍を出して練習をしていた。

 

 思い出すのは、かつての曹操の動き。

 

 今まで反応することが出来なかったそれを、イメージトレーニングとは言え反応してさばいていく。

 

 そして、同時にカウンターとしての攻撃も忘れない。

 

 時に聖槍を、時に魔剣を使って攻撃を叩き込む。

 

 だが、このイメージトレーニングはそこまで大きな意味を巻き起こすとは限らないだろう。

 

 なにせあれから何か月も経っている。曹操も特訓して強くなっているはずだ。そしてあいつはそもそも本気を出してない。

 

 むしろ、これをやるのはそこそこにしておかないと、逆に本来のアイツの動きについて行けずに倒される可能性だってある。

 

 ……ホント、気を付けねえとな。

 

「……お、頑張ってるっすねヒロイ」

 

 と、ふろ上がりのペトが、タオルで髪の水気をふきながら現れた。

 

「どうした、ペト?」

 

「そろそろ男子の使用時間ッス。適度に終わらせるといいっすよ」

 

 そう言いながら、ペトはホテルの屋上からビルの屋上を見渡す。

 

「……一応京都でもやり合いそうっすからね。狙撃ポイントになりそうな場所は調べとかないと」

 

 なるほど、こいつも色々考えてるな。

 

「ペト、姐さんは?」

 

「今は京都中を、妖怪の人達を連れて捜索中っす。いざとなったら呼ぶって言ってたっすよ」

 

 そうか。姐さんには苦労を掛けるな。

 

 年長者として当然って言ってくれるとは思うけど、俺は英雄としてちょっと微妙だ。

 

 ……いや、そうまでしてまで俺達が修学旅行を楽しめる時間をくれてるんだ。俺達は修学旅行をちゃんと楽しまねえとな。

 

「………ヒロイ」

 

 と、ペトは俺の方に顔を向けて、寂しげな笑みを浮かべていた。

 

 なんだ? なんか、すごく暗い感じなんだが。

 

「お姉様が助けを求めたら……助けてやってくれないっすか?」

 

「あったりまえだろ」

 

 何言ってんだお前。俺が姐さんの力にならねえわけがねえだろ。

 

 おまえには、俺が何で姐さんのこと慕ってるか教えただろうに。なんでそんな状態でそんな感想が出てくるのかがショックなんだけどよ。

 

 俺のそんな不満げな表情が目に入ったのか、ペトは気まずそうに頬を書いた。

 

 そして、そのうえでまっすぐ俺を見る。

 

「お姉様は、英雄になると決めた時からずっと苦しんでるッス」

 

 ………え?

 

「詳しいことはお姉様が話すべきっすけど、あれでお姉さまはリアス部長の眷属にも負けないぐらい、つらい過去を背負ってるッス。それも、半分ぐらい加害者なんでペトにしか教えてくれなかったつらい過去が」

 

 姐さんが……加害者?

 

 いや、英雄は戦いによってなるものだし、そういう意味じゃあ加害者なのは当然だ。

 

 ……以前、姐さんが言っていた事を思い出す。

 

 誰かの心を曇らせてしまったのなら、それ以上の心を照らす存在になるしか、それを清算することはできないと、姐さんは言った。

 

 姐さんは、誰かの心を曇らせたことがあるのか?

 

「おい、それはどういう―」

 

「―悪いけど、これ以上はお姉さまの許可もなく言えないっす」

 

 と、ペトは断ち切った。

 

「でも、ヒロイにはしっておいて欲しかったっす。……ヒロイなら、きっと……」

 

 何か、俺に期待する気持ちをほのめかせて、ペトはそのまま階段を下りて行った。

 

 俺は、もやもやした気分を振り払うように空を見る。

 

 そこには数多くの星が瞬いていた。

 

 ……それが、死んでいった人の魂のような気がして、俺は少しいやな気分になった。

 




リセスに関しては第四章で詳しく……というかほぼ全部出す予定です。


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第三章 32

 

 そして次の日、俺は寝不足で欠伸をした。

 

 ただでさえモヤモヤした事をペトに言われた挙句、戻ったら戻ったで、イッセーが三人娘と一緒にロスヴァイセさんに説教されてたからな。

 

 なんでも押し入れの中で半裸になって絡まってたとか。

 

 イッセーの奴、天使まで誑し込む気かよ。どんだけハーレムのバリエーションを広げる気なんだ、オイ。

 

「マジ眠い。なんでお前らの説教に俺まで巻き込まれなきゃならねえんだよ」

 

「待ってくれ! あれは俺も何が何だか分らなくて―」

 

 イッセーがしどろもどろになって言い訳しようとするが、まあそれはいい。

 

 こういう阿呆なアプローチをするのは、基本的にゼノヴィア達の側なのは分かってるからな。イッセーは基本巻き込まれる側だ。

 

 まあ、変則的ではあれど好意だけは隠していないあのアプローチを天然スルーするイッセーはイッセーで問題だらけだがな。

 

 さて、それで俺達はちょっと待機中だ。

 

「それで、兵藤にカッシウス。誰か待ってるの?」

 

 と、ちょっと業を煮やした桐生が俺達に詰め寄ってくる。

 

 ちょうど、そのタイミングだった。

 

「ペッちゃん!」

 

「あ、小犬ちゃん!」

 

 駆け寄ってきた小犬が、ペトに勢い良く抱き着いた。

 

 ペトも勢い良く抱きしめ返して、二人してにっこりと笑う。

 

 そして、その光景を見て松田と元浜が驚愕の表情を浮かべた。

 

「なんと!? ペトがエロ的な表情を浮かべてねえ!!」

 

「完膚なきまでに純真な少女の笑顔! あんな笑顔も出来たのか!!」

 

 まあ、お前らとペトはエロ友達だからな。エロい表情ばっかり見てたとしてもおかしくないな。

 

「小犬! お主は私の護衛であろう! 置いていくでない!」

 

 と、慌てて追いかけてきた九重が、小犬に文句をつける。

 

 ははは。小犬って結構餓鬼っぽいからなぁ。こういう時はつい忘れちゃうか。

 

「なんだイッセー? こんなちっこい子をナンパしたのか?」

 

 松田が怪訝な表情をイッセーに向ける。

 

 確かに、どう考えてもナンパするような歳の子供じゃねえしな。まず間違いなく事案案件だ。

 

 第一イッセーはおっぱい星人だからな。ロリッ子は範囲外だろう。

 

 そう、ロリっ子が本命なのは元浜の方で―

 

「はぁはぁ(*´Д`) ちっこくて可愛いな~」

 

 元浜が暴走した!?

 

 いかん、九重に阿呆が手を出した何て知られれば、大問題に発展する!!

 

 慌てて俺が引きはがそうとしたその時、それより先に桐生が元浜を弾き飛ばして九重に抱き着いた。

 

「や~ん! 可愛い~!」

 

「こ、こら! 馴れ馴れしいぞ小娘!」

 

「しかかもお姫様口調だなんてキャラも完璧!!」

 

 おい、もしかして桐生ってそっちの趣味か!?

 

 いやしかし可愛いのは同意だ。見ててほっこりする。

 

 そして女の子同士の絡みも萌える。ああ、これがジャパニーズ文化、萌えか。

 

「ペッちゃんのおっぱいおっきいよね~」

 

「褒めてくれるとは嬉しいっすね~。はいぱふぱふ~」

 

 こっちは微妙にエロくなってるぞ!!

 

 と、とりあえず引きはがし、そして自己紹介。

 

「コイツは九重と小犬。俺やアーシア達のちょっとした知り合いなんだ」

 

「今日はこの二人が京都案内をしてくれるってよ」

 

 俺とイッセーがそう言って説明する。

 

 いや、正直京都はそれどころじゃねえとも思うんだが、しかし結構気を使ってくれているみたいだ。

 

 是には感謝しねえとな。

 

「ああ、頼むぞ九重。期待している」

 

「よろしくお願いしますね」

 

 ゼノヴィアとアーシアも、今日の観光は楽しみっぽいな。

 

 なにせ、実際に京都暮らしをしている二人が案内してくれるんだ。こりゃガイドとしてゃ優秀だぜ。

 

「それじゃあ、京都観光三日目、スタート!!」

 

 イリナの元気のいい掛け声とともに、本格的な京都観光がスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして天竜寺などを回り、俺達は今昼飯タイムだ。

 

「京都の豆腐うめえ!! これが、真の豆腐か……!」

 

 俺は日本の豆腐を舐めていた。やっぱスーパーの市販の代物とこういうところのは桁が違うな。

 

 グレモリーのお城で豆腐なんて出てくるわけがねえし、さすがに鮮度じゃ後れを取るだろう。しっかり味わっておかねえと……。

 

「ここの湯豆腐は絶品じゃからな! 私は毎日湯豆腐でも平気じゃ」

 

 と、元気よく九重が言ってくれる。

 

 確かに湯豆腐美味いな。今度家に帰ったら作ってもらおうか……。

 

「……じゃが、一番大好きなのは母上が作ってくれた湯豆腐じゃ」

 

「八坂様、お料理上手だもんねっ」

 

 ……その二人の何気ない言葉に、俺達はしんみりする。

 

 禍の団が何を企んでいるのかはわからねえが、やり合う時になったら遠慮はしねえ。

 

「はい小犬っち。あーん」

 

「小犬ちゃんあーん」

 

「あーんっ! うん、美味し~!!」

 

 小犬、それは餌付けだぞ。

 

 桐生は落ち着け。ペトも、友達を何だと思ってるんだ。

 

「こ、小犬ちゃん……あーん!」

 

「お前は事案案件だからやめろ」

 

 具体的には顔があれだぞ、松田。

 

 やっぱお前スケベだ。根っこからスケベだこいつ。

 

「九重ちゃ~ん? あ~ん」

 

「お前はマジでやめろ」

 

 元浜は事案案件通り越して事案確実だからやめろ。

 

「ふむ、一見すると同じ行為なのに、やる相手が変わるとまったく違って見えるな」

 

「そうね。これが現実の悲惨さってやつなのね……アーメン!」

 

 ゼノヴィアもイリナも感心してないで止めてくれ。

 

「い、イッセーさん! あーん!!」

 

 アーシア、どさくさに紛れていつの間にそんなに大胆に……。

 

 と、そんなこんなで昼飯の湯豆腐も食べ終わり、俺たちは退店しようとすると―

 

「お、イッセーもこっちにいたのか」

 

「ペトも食事中。一緒の席で食べればよかったわね」

 

 と、姐さんとアザゼル先生が一緒に食事を……って。

 

「教師が昼酒はいかんでしょう!!」

 

 イッセーのツッコミが響き渡る。

 

 あのオッサン、酒飲んでやがる。

 

 しかも姐さんに一緒にだと? うらやまけしからん!!

 

「イッセー君の言う通りです。この人達、何度言っても聞かないんですよ」

 

「あら、私は本来休暇で来てるんだから、文句を言われる筋合いはないわよ?」

 

 あ、ロスヴァイセさんを軽くスルーしてる。でも姐さん、日本酒って酔いつぶれやすいって聞くぜ?

 

 そしてアザゼルに関しては職務中だから完璧アウトだろう。告げ口してやろうか。

 

「まぁそういうなよ。ちょっとした休憩だ」

 

 と、さらにおちょこに酒を注ぐアザゼル先生。懲りてねえな。

 

 それに業を煮やしたのか、ロスヴァイセさんが強引にお猪口を奪い取り―

 

「貴方に飲ませるぐらいなら私が飲みます!!」

 

 ―って飲んだぁああああ!?

 

「―ひっく」

 

 え? ちょっとまって?

 

 今呑んだのおちょこいっぱいだよな? 普通に考えて酔っぱらったりしねえよな?

 

 酒に弱すぎだろぉおおおお!?

 

 一杯っつーか一口で酔っぱらうとか、マジか? お酒ってそんなに効果あんのかよ!?

 

「らいらいれしゅね? わひゃひはオーディンのクソジジィのおちゅきをしれるころからおしゃへにりゅきあってれすね」

 

 ろれつが全く回らねぇええええ!!!

 

 何言ってんのか全く分からねえよ。どんだけ酔っぱらってんの、この人!!

 

「……アザゼル。責任取るわよ」

 

「……だな。ほら、お前らさっさと行け。愚痴には俺が付き合うからよ」

 

 姐さんの諦めの声に賛同したアザゼル先生に追い立てられ、俺達は飯屋から退出した。

 

 うん、あれは俺らにはどうしようもねえだろうしなぁ。

 

「おしゃけじゅっぽん追加れ~!」

 

 しかも頼みすぎだろ……。

 

「お姉様……おいたわしや……」

 

「いや、大丈夫でしょ」

 

 相変わらず、ペトと小犬の姐さんがらみの温度差は激しいな。

 

 これで二人は仲のいいままだからなんかよく分らん。普通ならこれぐらいの温度差があると仲良くなりにくいんじゃねえか?

 

 皆、ロスヴァイセさんの酒癖の悪さにちょっと引いていたが、渡月橋を渡る頃にはだいぶましになっていた。

 

 しっかし、振り返ると知恵が吹っ飛ぶか。迷信だとは思うが、出来る限り振り返ったりしないようにするか。

 

 お、離れたところには木場の姿もある。意外なところで合流で来たな。

 

 よし、ちょっと挨拶して―

 

 その瞬間、霧が辺りを包み込む。

 

 そして霧が引いたと思ったその時には、既に周りから人が消えていた。

 

 松田も元浜も桐生もいない。木場の周りにも人がいない。

 

 ……これは、まさか敵襲か……っていうかそうだな。

 

 今の切りはまず間違いなく絶霧(ディメンション・ロスト)だ。だとすれば間違いなく禍の団だろ。

 

「この霧は……っ!」

 

「くっちゃん、下がって!」

 

 九重をカバーする小犬の後ろから、アザゼル先生と姐さんが駆けつける。

 

「お前ら! どうやら奴さん、仕掛ける気だ」

 

「酔い覚ましにしてはハードな運動のようねぇ」

 

 姐さんは余裕を見せているが、しかしこれは中々面倒な展開になってきたぜ。

 

 まさか真昼間から仕掛けてくるとはな。やってくれるぜ!

 

 そして霧の中、何人もの人影が見える。

 

 あるものはナイフを持ち、あるものは鉄球を持ち、あるものは斧を持っている。

 

 そして、その姿はおそらく全員が人間だ。

 

 ……英雄や勇者の末裔を中心として組織され、神器使いを雑兵として運用する、禍の団の派閥の一つ。それが英雄派。

 

 なるほど、英雄派様はここで俺達相手に仕掛けるつもりって事か!!

 

 そう思ったその瞬間、霧の向こうから莫大な聖なるオーラが放たれる。

 

 そして同時にアザゼル先生と姐さんが同時に防護を行った。

 

 障壁とオーラがぶつかり合い、同時に爆発する。

 

 そしてわずかに霧が散り、そしてそこからよく覚えている男が一歩前に出る。

 

 俺と全く同じ槍で肩をぽんぽんと叩き、あの時と同じ表情を浮かべて、俺達を見据える。

 

「……久しぶりだね、紛い物。……そして初めての顔も少し入るかな」

 

 その余裕の体勢のまま、あの男は……曹操は俺たちに対峙する。

 

「改めて自己紹介しよう。俺は曹操。三国志で有名な曹操孟徳の末裔だよ。……一応ね」

 

 ああ、会いたかったぜ、曹操……っ!!

 




改めて曹操登場。こっから本格的に強敵として出てきます。



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第三章 33

 

 この世界における、本当の聖槍の担い手。

 

 それが目の前の男、曹操だ。

 

 ヴィクター経済連合実働部隊、禍の団の有力派閥、英雄派の最高幹部という、ヴィクターでも有数の地位に立つ男。

 

 絶霧が出てきた時点でその可能性はわかっていたが、ここで出てくるか!!

 

「母上をさらったのはお主たちか!! 母上を返せ!!」

 

「くっちゃん! 危ないから下がってて!!」

 

 小犬に抑えられながらも、九重は怒りの表情で曹操に怒鳴る。

 

 当然だ。こんな小さい子が母親を誘拐されてるんだ。思うところがあって当然だ。

 

 それに対して、曹操は慇懃無礼な態度で返答する。

 

「申し訳ありませんが、もう少しお待ちください。お母上には我々の実験にお付き合いいただいておりますので」

 

 実験……だと?

 

 この京都から逃げてねぇのも、その実験に必要だからってことか?

 

 勢力図から遠く離れたところに何日もこもりっぱなしとは、いい度胸だな、オイ。

 

「だがその前に、最近メキメキ実力をつけている赤龍帝たちと手合わせしたいと思いましてね」

 

「そいつはかまわねえぜ」

 

 アザゼルはそういうと、速攻で龍の鎧を身に纏う。

 

 そして、光の槍を構えると曹操をにらみつけた。

 

「だが、九尾の姫君は返させてもらう!」

 

「できるのなら、どうぞご自由に」

 

 そういいながら、曹操は指を鳴らした。

 

 そして、一人の子供が前に出る。

 

「レオナルド。D型とE型を4対1の割合で頼む」

 

「ん」

 

 そう頷いた、レオナルドとかいうガキが力を籠めると同時に、黒い靄が生まれる。

 

 それらは一気に百体近くのドーインジャーを生み出した。

 

「やはり、ドーインジャーは魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)で作られた魔獣だったか!」

 

 アザゼル先生が舌打ちするのも分かる。

 

 ……魔獣創造。それは想像系神器の中でも最高峰に属する神滅具。

 

 使用者がイメージした魔獣をそのまま生み出し、自由に操ることのできる神滅具だ。

 

 なるほどな。大量生産できているとは思っていたが、ドーインジャーは最初から魔獣創造で作られた魔獣ってことか!!

 

「その通り。リムヴァン曰く、規格を同じにすることで誰もが魔獣創造を高い性能で発揮させる……ということを狙っているようでね」

 

 なるほどな。リムヴァンの奴は本気で世界征服でもする気ってことか。いやだねぇ、マジで。

 

 しっかしあっという間に百体以上作りやがったな。こりゃ、さすがに厄介か?

 

 しかし、アザゼル先生はこの厄介な数の差には警戒心を抱いていないようだ。

 

「……各勢力の超大型魔獣を送り込まないところを見ると、まだどの使い手もそこまで習熟してるわけじゃないようだな」

 

 その言葉に、曹操は答えない。

 

 ただ、静かにほほ笑みを浮かべるだけ。それが逆に気持ち悪い。

 

 そして、アザゼル先生は光の槍を大量に形成すると、一斉に放つ。

 

 その瞬間、ドーインジャーのに十体近くが一斉に立ちはだかる。

 

 そしてその光の槍を無造作に受け止め―

 

「―チッ! 光力対策万全の、対天使堕天使用のアンチモンスターか!!」

 

 半分近く生き残りやがった。

 

 仮にも最上級堕天使のアザゼル先生の攻撃を耐えるだと? マジかオイ!!

 

「御明察。レオナルドは特にアンチモンスターの生成に特化していてね。ちなみにそれがドーインジャーE型で、大半のD型は―」

 

 その瞬間、残ったドーインジャーの大半が一斉に両手から光弾を放つ。

 

 ……って、この感覚は!?

 

「下がりなさい!!」

 

 とっさに姐さんが氷の壁を作り、その光弾を防ぐ。

 

 間違いない。これ、エネルギー弾とかじゃなくてマジで光力の弾丸だ!!

 

「―悪魔用さ。どっちも中級クラスの戦闘能力はあるから気を付けるといい」

 

 そして、曹操は空いた手で指示を出すと、ドーインジャーが一斉に襲い掛かった。

 

 ちぃ! 対天使堕天使やら、悪魔やら、マジで戦力だしまくりだろ!!

 

「チッ! 俺は曹操を相手にする、お前らは九尾の娘を守れ!!」

 

「英雄らしい闘いで何よりね!!」

 

 そういいながら、姐さんは天候を操作しようとする。

 

 なるほど。相手が天使や悪魔の対策を考慮したモンスターなら、暴れるのは俺や姐さんが適任か!

 

 そう思った次の瞬間―

 

「リセスぅうううう!!!」

 

 霧を突き破って、白髪の男が突進する。

 

 奴はジーク!! あの野郎も来てやがったのか!!

 

「させるか!」

 

「このぉ!!」

 

 木場とイリナがとっさに迎撃するが、ジークは全力疾走でそれをやり過ごす。

 

「雑魚に用はない!!」

 

「チィッ!!」

 

 姐さんは天候操作をあきらめ、龍殺しのオーラを展開してその一撃をやり過ごす。

 

 同時にめちゃくちゃでかいトンファーを呼び出して、返す刀のグラムを受け止めた。

 

 それの余波で、渡月橋がぶっ飛びかけてやがる。なんツー威力だ!!

 

 っていうか、それを捌いている姐さんは姐さんで何なんだオイ!

 

「会いたかったよリセス。さあ、強くなった僕を見て、僕に切られてくれ」

 

「あの、あの時の発言は悪かったから落ち着いてくれない?」

 

 姐さんは正直引きつっているが、然しジークはまったく気にしない。

 

 顔をほんのりと赤く染めて、姐さんをうっとりと見て舌なめずりをする。

 

 一言言おう。キモイ。

 

「つれないことを言わないでくれよ。さあ、楽しもう……!」

 

 そしてさらに連続で攻撃を叩き込む。

 

 それを姐さんは全て捌くが、そのせいで完全にかかりきりになっている。とても他の奴の相手をしている暇がない。

 

 チッ! これは俺たちでやるしかねえだろうが!どうすんだ、オイ!

 

 さて、こういう時はどうすれば―

 

「木場! おまえの神器で光を喰う魔剣が作れたよな!? それを人数分作ってくれ!!」

 

 真っ先に、イッセーが声を張り上げる。

 

 ほうぅ、そんなことまでできんのか、やるな。

 

 なら、さらに重要なアーシアと九重のディフェンスは―

 

「―イリナ! アーシアと九重のディフェンスを頼む!! おまえなら光力のダメージは低いし、対天使型はディフェンス重視だから防戦に回れば天使でもやり合えるはずだ!!」

 

「普通にダメージ喰らうんだけど!? っていうかヒロイ君は!?」

 

 俺か? 俺は―

 

「オフェンスやるにきまってんだろ!!」

 

 そして喰らうがいい、新技!!

 

 大量に魔剣を展開し、そしてそれらに磁性を付与。そして一気に反発する磁力で吹っ飛ばす!!

 

「串刺しになれ、ヘッジホッグストライク!!」

 

 放たれる多方面魔剣投射に、ドーインジャーの多くが串刺しになる。

 

 そしてそれで空いた穴をついて、俺は勢いよく突撃した。

 

 あの手の使役するタイプの攻略法は本体狙い!大抵の場合は使役される側の方が戦闘能力が高いというのがこの手の常道!!

 

 ましてや相手はガキンチョ。本人の戦闘能力はそこまで高くないと見た!!

 

「させるかぁ!! 猛き炎の一撃(キャノン・オブ・プロミネンス)!!」

 

 横合いから禁手の一撃が襲い掛かるが、しかしそんなもんな大したことがねえ。

 

 魔剣をのばして足場にして、飛び上がって回避。

 

 そのまま一気に聖槍でレオナルドとやらを突きかかる。

 

 そこに、割って入る影があった。

 

「おぉっと。そうはいかねえなぁ」

 

 と、その言葉とともに聖槍がはじかれる。

 

 ……な、馬鹿な!?

 

「なかなかいい突きだが、まだまだ未熟だな、ガキンチョ」

 

 そう言い放つのは、三十手前の男。

 

 無精ひげを伸ばしたそのオッサンは、片手でよく見覚えのある槍を構えていた。

 

 見間違えるはずがねえ。あれは……黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)!!

 

 リムヴァンの奴、移植者を増やしやがったのか! 味なまねを!!

 

「上等だこの野郎!!」

 

 俺は足に魔剣を形成して、即座に回し蹴りを放つ。

 

 しかしそのオッサンは一歩前に踏み込むと、その足をつかんで俺を投げ飛ばす。

 

「五点。この程度じゃ意味がねえな」

 

 そして落下地点に回り込むと、そのまま聖槍を突き出した。

 

 ……なめんな!!

 

 俺は磁力操作の応用で無理やり身をひねり回避。そして着地と同時に槍を振り回す。

 

 それをオッサンはバックステップでかわすと、聖槍をのばして攻撃を叩き込む。

 

 チッ! このオッサンも俺より聖槍との相性がいいのかよ!!

 

「……ヒロイ下がれ! そいつはまずい!!」

 

 と、アザゼルが強引に割って入った。

 

 無理やり強引に割って入ったことで、曹操からの攻撃を喰らうが気にせずに牽制を叩き込む。

 

 それを素早く聖槍ではじくと、オッサンは不敵に笑う。

 

「おーおーアザゼルのオッサンじゃねえか! 久しぶりだなぁ、オイ!」

 

「……手前、なんで生きてやがる!!」

 

「いや死んだよ。俺が生きてたのが何百年前だと思ってんだぁ? 死んだよとっくの昔によぉ」

 

 くっくっくと笑いながら、そのオッサンはニヤニヤ笑う。

 

 え、なに? 知り合い?

 

「……おやおや総督殿。せっかく楽しんでいたのに、水を差すような真似はよしてくれよ」

 

 さらに曹操までやってきやがった。……面倒だな、コレ。

 

 ……つか、黄昏の聖槍三本とかどういう状況だよ。何がどうしてこうなった。

 

「……まさか、ここでお前と会うことになるたぁな。地獄でせんと一緒に暴れてると思ってたんだがよぉ」

 

「くっくっく。もしかしたら、せんも来るかもしれねえなぁ。リムヴァンには戦果次第で呼ぶように頼んでるからよぉ」

 

 アザゼルとよくわからん話をするオッサンは、聖槍の石突を橋に置くと、声を張り上げる。

 

「……遠からん者は音に聞け!! 近くば寄って目にも見よ!!」

 

 豪快に声を放ち、その場にいる者たちに知しめる。

 

「やあやあ我こそは、戦国乱世に生き抜いて、戦の中で死んだ者!! 我こそは、ああ我こそは―」

 

 聖槍のオーラを増大化させる。それこそが、あの男が一流の使い手であることの証明。

 

「……森長可なり!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『後ろからの不意打ちと見せかけて、えんきょりしゃげきでたおすのだー』

 

「なら無視して離れたところの奴から洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

 ふっ! 乳語翻訳と洋服崩壊のコンボは無敵だ!!

 

 すでにこの戦法で、女の英雄派メンバーを十人は撃破したぜ!!

 

 おっぱいが教えてくれる限り、俺には不意打ちは通用しない。そして洋服崩壊がある限り、オンナは一撃で戦闘不能だ!! 

 

 フハハハハ! これが無敵ってやつだ。俺は、女相手なら無敵だ! 鼻血がとまらねえぜ!!

 

「……なら男ならどうだ!!」

 

 あ、男は無理です!!

 

 いかん、後ろから男の不意打ちはさすがにキツイ―

 

「えいや!」

 

「へぶぁ!?」

 

 と、思ったら勢いよく殴り飛ばされて吹っ飛んだ。

 

 あ、小犬ちゃん!

 

「大丈夫?」

 

「もちろんさ! ありがとな!」

 

 俺は指を立てて返事をする。

 

 すげえな小犬ちゃん。洋服崩壊と乳語翻訳なしじゃ、俺ともまともに渡り合えるんじゃねえか?

 

 まさかそこまで強いだなんて思わなかった。さすがはペトの友達だ。

 

 そう思ったその時、大きな音が響いた。

 

「遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ!!」

 

 振り返ると、そこには曹操と一緒に先生やヒロイと向き合ってるオッサンが一人。

 

「やあやあ我こそは、戦国乱世を生き抜いて、戦の中で死んだ者!! 我こそは、ああ我こそは―」

 

 若い奴らだらけの英雄派の中で、一人だけ異彩を放ってる。

 

 しかも、先生がマジで警戒している。……なんて奴だ、あいつ!!

 

「……森長可なり!!」

 

 ……森、長可!?

 

 って確か、織田信長に仕えていた、戦国武将ぅうううう!?

 

 英雄の末裔って聞いてたけど、オッサンも参加してんのかよ!!

 

 と思ってたけど、先生が大声を放って俺のそんな考えを吹きとばす。

 

「全員気をつけろ! こいつはマジモンの森長可だ!!」

 

 え? マジモン?

 

 でも、森長可って何百年も前の人ですよね!? 生きてるわけないですよね!?

 

 あ、もしかして転生悪魔だったの!?

 

「いや、こいつが生きてるわけがねえ。当時のグリゴリ(俺たち)が危険視して、暗殺した筈だ! そもそも悪魔側も警戒してたしな」

 

 え? じゃあなんで生きてんの!?

 

「ま、種晴らしはまた機会があったらな……ツーまでもなく、お前さんたちなら知ってるだろうけどなぁ?」

 

「聖杯か……! リムヴァンの野郎、そんなもん迄確保してんのかよっ!!」

 

 アザゼル先生だけが何かに気づいたけど、まったくよくわからねえ。

 

 っていうかどうすんだこれ? なんか、思った以上に敵の戦力が多いっていうか……

 

 そう思ったその時、轟音ともに着地する人影が二人。

 

「ストーカー被害で訴えるわよ、ホント!!」

 

「それは仕方がないね。人は皆、愛をもとめるストーカーなのさ」

 

 あ、リセスさんとジークだ。

 

 っていうかジークキモイ。血まみれで頬を染めてるとかマジで怖い。

 

「やれやれ。これはまた仕切り直し……といったところかな?」

 

 と、曹操の奴が苦笑を浮かべる。

 

 なんかわからないけど、英雄派の連中も本気ってことか。

 

 こりゃ厄介だな。ホント俺の周りには強い奴がどんどん集まってきやがるぜ。

 

「………曹操!! お前らは言った何のつもりでこんなことをした!! 何を目的としてヴィクター経済連合に憑着いた!! ……ま、答えるわけがねえか」

 

 思わぬ展開にアザゼル先生も焦ってるけど、それをあえて飲み込んで曹操を問いただす。

 

 た、確かに。

 

 ヴィクター経済連合は確かに大義名分があるけど、上の連中は独自の思惑がある。

 

 利益目当てだったり、冥界の主権確保だったり、赤龍神帝を倒したかったり、アースガルズに復讐したかったり。

 

 だったら、英雄派の目的って何なんだ?

 

 それに対して、曹操はふっと笑った。

 

「総督殿。我々の目的はシンプルだ。……人間がどこまで行けるのかを知りたい」

 

 ……人間が、どこまで?

 

「登山家の言葉、そこに山があるからだ。そして数々のギネス記録。それらが証明する通り、人間というものは己の限界を知りたがり、そして超えたがる生き物だ」

 

 槍と天へと突き上げ、曹操はさらにそれを上へと伸ばそうとする。

 

「もっと高く。もっと強く。もっと遠く。もっと凄く。そう、この国の作品で例えるのなら、あの山の向こう側へと行きたい。……そういうロマンを追求する組織が、英雄派だと思ってくれればいい」

 

 い、言いたいことはなんとなくわかる。

 

 俺もおっぱいは追及したい。そのために何度も覗きを繰り返したし、ハーレムを作ってもそれをよりよくしたいという願望はある。

 

 それと同じものを英雄派は持っているのか。そして、其のためならば世界大戦すら辞さないってか?

 

 は、はた迷惑すぎる!! やるなら人に迷惑をかけない範囲で……あれ? 俺人のこと言えなくね?

 

「……どうやら、俺たちは同類らしいな」

 

『『『『『『『『『『一緒にするな、変態!!』』』』』』』』』』

 

 集中砲火で反論されたよ。ひどい!!

 

 そんなにエッチなことはいけないことですか! 生きとし生ける動物は、エッチなことしなけりゃ増えたりできないんだぞ!! 必要なことなんだぞ!! 本能なんだぞ!!

 

 くそぅ。俺の方から歩み寄ってみれば、なんだこの展開は!!

 

 是じゃあ、まるで俺が……。

 

「お前らより悪い奴じゃねえかよ!!」

 

「いや、仮にも大義を掲げている俺たちヴィクター経済連合と、純粋な覗き魔じゃあ、比べるのが変じゃないかな?」

 

 マジ返しすんな、曹操!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ロマンで戦争する組織、英雄派。

そしてそんな連中からもツッコミが出てくるイッセー。でもある意味正論なので反論がしづらいという罠。


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第三章 34 京都大動乱

お待たせいたしました。今後の展開をいろいろ考えていたら、長くなりました。


 

 なんかグダグダな雰囲気になったその時だった。

 

 突然川の水面が盛り上がると、いきなりなんかでかいのが起き上がった。

 

 なんだあれ? でかい石像?

 

「ありゃ、ゴグマゴグじゃねえか!!」

 

 アザゼル先生が目を見開いた。

 

 ゴグマゴグ? なんか悪役っぽい響きだな、オイ。

 

 つーか強そうだな。でかいこともあるし、やり合うとするなら姐さんのキョジンキラーがいるか。

 

 あれ、修復されてたよな?

 

「古の神々が作った古代兵器……。確か、あれは全部が次元の狭間で機能停止ていたはずだぞ?」

 

 怪訝な表情を浮かべるアザゼル先生の前で、転移用の魔方陣が浮かび上がる。

 

 そしてそこから、見慣れた姿が現れた。

 

「お久しぶりです、オカルト研究部の皆さん」

 

 そういって姿を現したのは、ルフェイ・ペンドラゴン!?

 

 なんでこんなところに? つか、ゴグマゴグと関係あるのか、オイ?

 

「曹操さん、ヴァーリ様から伝言を伝えに来ました」

 

 と、ルフェイは曹操に向き直る。

 

 伝言? にしては穏やかな雰囲気じゃねえんだが……。

 

 と、ルフェイは咳払いをした。

 

「邪魔だけはするなと言ったはずだ」

 

 ……声真似? これ、ヴァーリか?

 

 意外と似てるな。

 

 っていうか、わざわざ伝言で声真似する必要あるのか?

 

 そして、ルフェイはなんかにやりと笑った。

 

「私達のところに監視役を送り込んだ罰ですよー? ゴッくん、やってください!」

 

 その瞬間、ゴグマゴグが腕を振り上げ―

 

「いや、もとはといえばそっちが悪いだろうが」

 

 その言葉とともに、足を滑られてスッ転んだ。

 

 な、なんだぁ!?

 

 見れば、長可が聖槍をのばしてゴグマゴグの足を払っていた。

 

 この状況でもう判断したのかよ。すげえなオイ!

 

「あ、ゴッくん―」

 

「そして判断も遅ぇな」

 

 その瞬間、長可はルフェイを間合いに捉えていた。

 

 あ、これやばくね? 確実に抹殺コースじゃね?

 

「返答はお前の首で返してやるぜぇ!!」

 

 いきなりの急展開にルフェイが反応できない中、長可は遠慮なく聖槍を突き出し―

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―龍の鎧を纏った、イッセーの左腕がそれを受け止めた。

 

「……っ! 味方を殺そうとするか、普通!!」

 

「敵を庇うか、普通よぉ?」

 

 そのままお互いに距離を取る。

 

 つかイッセー。お前聖槍とかやばいだろうに、大丈夫か?

 

「大丈夫、イッセー君の左腕はドラゴンだから、悪魔の欠点は通用しないよ」

 

 そうか。納得納得。

 

 木場、説明ご苦労さん。

 

 そしてイッセーはルフェイを引っ張ると、俺達の側に移動する。

 

 ちょっと顔を赤くしたルフェイに向かって、イッセーは顔を向けた。

 

「ヴァーリ達にはアーシアを助けてもらったしな。これで貸し借り無し……いや、もうちょっとあるか?」

 

「あ……」

 

 ルフェイはちょっとぼんやりしてたけど、我に返ると右手を出した。

 

「なら、握手してください。私、おっぱいドラゴンのファンなんです!」

 

 え、そうなの?

 

 チームリーダーの宿命のライバルのファンとか、それでいいのかルフェイ・ペンドラゴン。

 

 そういやヴァーリも見てたって言ってたな。暇なのかあいつ等?

 

 あ、ルフェイがものすごく喜んでる。

 

 イッセーは少しあっけに取られてたけど、我に返るとすぐに指を突き付けた。

 

「オイコラこの野郎!! ヴィクター経済連合同士で何やってんだ!?」

 

「それは失礼。だが、ある意味君の所為でもあるんだよ、この事態は」

 

 イッセーに対して、曹操は平然とそう答える。

 

 あ? イッセー達の所為?

 

「……かの旧魔王派の暴走。しかしディオドラによる赤龍帝の制御はうまくすれば大きな戦果を上げれたと上は判断していてね。それを妨害したヴァーリチームは睨まれているのさ。俺たち以外にも監視している奴らはいたはずだが?」

 

「それについては、後程お仕置きする予定なんですが……」

 

 ああ、それが原因か。

 

 旧魔王派の独断だったからうやむやになったのかとも思ってたけど、冷静に考えれば利敵行為だよな。

 

 上に許可なくそんなことやってたら、そりゃ文句の一つも出るか。

 

「お前ら、組織人に向いてねえぞ」

 

「そ、そんな!?」

 

 流石裏切り者のヴァーリのチーム。アウトローが多すぎる。

 

 素直に謝ればいいものの、そんなことしてたらヴィクターからも追い出されるぞ。

 

 色々問題児が多いな。これはヴィクターに同情した方がいいんじゃねえか?

 

 ……いや、何も言わないでおこう。俺も問題児だったからおまいう案件になる。

 

 さて、とりあえず仕切り直しになったが、どうしたもんか……。

 

「ぅぃ~……ひっく」

 

 と、そこに後ろから声が聞こえた。

 

 なんか嫌な予感がして振り返ると、そこにはふらふらしているロスヴァイセさんの姿が。

 

 ……そういや、全然出てこなかったけどどういうこった?

 

 そんな時、俺の鼻はある臭いを捉えた。

 

 ……酒臭い!!

 

「人がいいきぶんで寝てるときにずどんばこ~んって……うるさいんれすよぉ!!」

 

 酔っ払いだぁああああ!!!

 

 しかも、完璧に絡み酒だぁあああああ!!!

 

 この先生、酒癖が悪すぎるぅううううう!!! お酒飲ませたらいけない類だぁああああ!!!

 

 お、おい。こんな状態で戦闘なんてできるわけが……。

 

「くーらーえー!」

 

 その瞬間、ロスヴァイセさんの背中から百を超える魔方陣が展開された。

 

 お、多すぎ!?

 

「北欧式魔術フルバースト! 全員まとめてふきとべぇええええ!!!」

 

 その瞬間、仮想渡月橋の半分が吹っ飛んだ。

 

 ついでに言うと残っていたドーインジャーも吹っ飛んだ。

 

 そして英雄派のメンバーは……吹っ飛ばない!!

 

 ぎりぎりのところで発生した霧が、その攻撃を受け止めていた。

 

 絶霧のゲオルク! まあ、俺達をこんなところに連れてきた以上、出てくるとは思ってたよ!!

 

「少々手はずは狂ったが、しかし祭りの始まりとしては上場か……」

 

「はっはっは! 確かに、これなら余興としちゃぁ十分だな」

 

 と、聖槍2人組が何やら悪だくみしてやがるぞ?

 

 くそ、九尾の姫様を使っていったい何を企んでやがる!!

 

 そう思ったその時、曹操が槍を掲げて声を張り上げた。

 

「アザゼル総督に赤龍帝達!! 俺達は今夜、二条城を利用して一つ大きな実験を行う!」

 

 実験だと? ……いったいなんだ?

 

「是非邪魔しに来てくれ! 俺達の理念としてはいい刺激になる!!」

 

「もっとも、あいつらをどうにか出来りゃぁの話だがな!!」

 

 長可の奴が不吉なこと言ってきたんだがぁああああ!?

 

 と、その瞬間に霧が発生する。

 

「お前ら! 武装を解除しろ! 通常空間に戻るぞ!!」

 

 アザゼル先生の声で、俺達はとっさに武装を解除する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして霧が消えて通常空間に戻った瞬間、俺達は武装を解除したのを後悔した。

 

「……な、なんだよ、これは!?」

 

 霧が晴れてから見えた景色に、俺達は愕然とした。

 

 京都の町から、大量に煙が上っている。

 

 それどころか、大量のドーインジャーが空を飛んで妖怪と戦闘を繰り広げている。……いや、違う。

 

「妖怪が……ドーインジャーと一緒に妖怪と戦っているですって!?」

 

 姐さんが愕然として、歯を食いしばる。

 

 おい、なんだこれは!? どういうことだ!?

 

「な、なんだこれ!? 霧が晴れたと思ったら……なんなんだよ!?」

 

 松田が、あり得ない光景にビビっている。

 

 当然だ。こんな光景をいきなり見せられたら、普通こうなるのが一般人の反応だ。無理もないっつーか対応できる方が無理だ。

 

「おい! スマートフォンのニュース見てみろ!!」

 

 元浜の声に、俺達は一斉にスマートフォンを取り出してワンセグを起動する。

 

 そこには、世界各国の都市でドーインジャーが異形の勢力とともに町を攻撃している光景が映し出されていた。

 

『緊急放送です! 本日日本時間14時に、この国の京都市を含めた世界各国の軍事施設や都市で、ヴィクター経済連合賛同者による反乱が行われました!!』

 

 アナウンサーの声に、俺達は唖然となる。

 

 長可の言っていたことは、これか!!

 

「ど、どうすんのよコレ!? どっかに逃げなきゃいけないけど、どこもかしこも―」

 

 桐生が顔を真っ青にしながら周りを見渡す。

 

 流石にこの状況じゃあ、割と大物な桐生でも無理があるか。

 

「九重さま」

 

 と、その時一つ目の鬼が二条橋に歩み寄る。

 

 おいおい。流石に今の段階で姿を現すのはまずくねえか!?

 

 ああもう、周りの奴らが悲鳴上げてやがる。堂々と動きすぎだろ。

 

「お前は! どうしたというのじゃ!?」

 

 九重が慌てて駆け寄ると、その男は合わせた顔つきで告げる。

 

「七夜さまが謀反を起されました。裏京都は既に制圧されており、賛同者達が表京都を襲撃しております」

 

「はぁあああああ!?」

 

 イッセーが大声を上げるのも無理はねえ。

 

 くそ、妖怪迄暴れてやがると思ったら、謀反かよ!!

 

 他の勢力も、この調子だと賛同者達によるクーデターみたいだな。ヴィクターもやってくれる!!

 

「いや、ちょっと待ってくれ。九重ちゃんがなんで妖怪と話してんだ?」

 

「色々あるんだよ、ちょっと黙ってろ」

 

 俺は松田を一睨みで黙らせると、すぐに聖槍を出せるように覚悟だけは決めておく。

 

 くそ。このレベルの大事は、流石にまずいんじゃねえか?

 

 その一つ目は。俺達の方にも顔を向けると声をかける。

 

「既に裏京都を脱出した者が陣を敷いております。九重様はもちろんですが、皆様もそちらに避難してください」

 

 なるほど。其れなりに動いているようだな。

 

 だが、流石に甘い。

 

 ゼノヴィアもそれに気が付いたのか、その妖怪に近づきながら声をかける。

 

「……一つ聞きたい。そこの妖怪」

 

「何でしょうか? 現状は時間があまり―」

 

 その一つ目の首元に、ゼノヴィアはイッセーから借り受けたままのアスカロンを突き付けた。

 

「それほどの事態だというのに、なぜ貴様は傷どころか汚れ一つもなく、息も切らしていない?」

 

 ったくだ。流石に甘いぜこの野郎。

 

 そんな非常時にのんびり歩きながらトップの娘さんを探していただぁ? 流石に暢気すぎんだろうが。

 

 それに、それだけ素早く動いてるのに、なんで脱出できたのかもおかしいしな。

 

「……チッ! 蝙蝠風情が生意気な―」

 

 その一つ目は即座に拳を握りしめ―

 

「アーメン!!」

 

 速攻でイリナの攻撃を喰らってぶっ倒れた。

 

 よ、弱い!

 

 俺達を誘導する役目なら、上級悪魔クラスだとばかり思ったんだが? なんだこれ、下級レベルじゃねえか。

 

 なんか、これあっさり終わりそうじゃね?

 

 クーデター起こした七夜とか言ったやつの器が知れる。これ、旧魔王派とどっこいどっこいじゃねえだろうか。

 

「三人とも! 護衛の悪魔祓い達がいるホテルまでいったん逃げるぞ!! ついてこい!!」

 

「後ろは私達が務めるわ! 大丈夫、ミカエル様の加護があるから!!」

 

 正体をある程度ばらしているイリナとゼノヴィアを中心に、俺たちは京都サーゼクスホテルに避難するべく走り出した……。

 

 既にこの近くも戦火が広がっているのか、火の手が上がっていた。

 

 ……くそ、せっかくの修学旅行が台無しだ。それに、このままじゃあ堅気にも被害が大量発生するぞ……。

 

「京都の街が……。なぜじゃ七夜殿。それに……母上……」

 

 九重の泣きそうな声が、やけに印象に残る。

 

 クソッタレ。ヴィクターの連中、ただじゃ済まさねえ……!

 




京都市大混乱。まあ、英雄派もヴィクター経済連合として動く以上ある程度の言い訳を作る必要があったので。


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第三章 35

はい、スケールがさらにでかいことになった京都大決戦

さて、どうなるかなぁ?


 

 サーゼクスホテルに着いたはいいが、既に同じように集まっている生徒達が恐慌状態になっていた。

 

「どうなってんだよコレ! クーデター? テロか?」

 

「これ、大丈夫なの? 私達、大丈夫なの?」

 

「死にたくない、死にたくねえよぉ!!」

 

「ママ―!! いやー!!」

 

 パニックを起こしている生徒や、泣いている生徒はまだましな方だ。

 

 既に茫然自失になっていて、へたり込んでいる生徒だっている。

 

 怪我人が出てねえのが奇跡だが、これってまずくねえか!?

 

「兵藤!!」

 

「匙か!」

 

 匙が俺達に気づいて駆け寄ってくる。

 

 見れば、少し額を切っていた。

 

「大丈夫か!?」

 

「こんなもんへでもねえよ。アーシアさんも、悪目立ちするから治さなくていいぜ」

 

「は、はい……」

 

 匙は回復しようとするアーシアを止めると、煙が上っている京都市中心部を見据えた。

 

 既に悲鳴はもちろん爆発音迄響き渡っていて、さらには一部で血の跡まで見た。

 

 マジで戦争じゃねえか。こんなレベルの被害、まだ見たことがねえ。

 

 今まで、曲がりなりにも表の世界に存在が漏洩しないように気を付けてきたってのがよくわかる。

 

 そういうのを気にしねえと、ここまで被害が派手になるのかよ!

 

「どうするんだ、先生。すぐにでも生徒を連れて避難しなければ被害が増えるぞ!」

 

「わかってるが落ち着け! 相手方の配置がわからなけりゃ、下手すらそれ以上に被害が増えるぞ」

 

 焦るゼノヴィアを押しとどめながら、アザゼル先生は眉間にしわを寄せる。

 

 護衛の悪魔祓いたちも警戒を強めているが、それにしたって限度はあるな。

 

 ……しかし、生徒達が全員いるわけじゃないな。護衛もいるし、そう簡単に死んだりしないとは思うんだが……。

 

 より戦闘の規模が激しくなれば、このホテルが倒壊する可能性だってある。避難するならできるだけ早くする必要があるんだが……どうする?

 

「お前ら! 最悪の場合は正体を明かして強行突破もありうる。覚悟だけはしておけ」

 

 アザゼル先生がそこまで言うほどかよ。

 

「そうですね。転移で逃げたいところですが、どうやら転移封じを広範囲にわたって展開されているようです。これは、絶霧の禁手の結界装置でしょうか……」

 

 ロスヴァイセさんがこっそり魔方陣を展開しながら、こっちも苦苦しげな表情を浮かべる。

 

 くそ、学園生活の終焉も近いってのか? 流石にマジでヤベえぞ。

 

 既に生徒会のメンバー達は、異形関係者の生徒達にも声をかけている。

 

 結構な人数が集まってるな。二年、それも生徒会とオカ研抜いても結構いるじゃねえか。

 

「どうするッスか? やるなら早く狙撃ポイントに移動したいっす。後流石に護衛をつけてほしいっす」

 

「ちょっと待ってください。今探知結界を張って周囲の状況を確認―」

 

 そう、ロスヴァイセさんが言ったその瞬間―

 

「ここにいましたか、九重どの」

 

 その言葉に、俺達は一斉に振り返った。

 

 そこにいたのは、明らかに妖怪だと分かる風貌の連中。

 

 ドーインジャーはいないな。ヴィクターなら頭数はきちんと提供すると思ったんだが、もしかして独断か?

 

「貴様ら! 母上を誘拐した者達と手を組むとは、どういう了見じゃ!!」

 

「ちょ、九重ちゃん落ち着いて!! 危ないから下がって!!」

 

 食って掛かろうとする九重を、桐生が慌てて取り押さえる。

 

 その隙に、ネロが割って入ってその妖怪達を睨み付ける。

 

「……お前ら。ここに手を出すって事は、バチカンに喧嘩売るって分かってるのか!!」

 

「当然。南蛮のキリシタンどもは目障りなのでな。あのラファエルのエースを殺せば、聖書の教えも日本から手をひくだろう」

 

 チッ! こちらの戦力もある程度分かってるってか!

 

「ようやく京の都で大手を振って歩くことができる。そう言う意味では、お前たちの失墜は助かったぞ」

 

「痛快だったしな。それを八坂のアバズレは、和議などとふざけた事を言いやがって」

 

 そう言って下品な表情を浮かべる妖怪共は、それぞれ武器を構えた。

 

 既に護衛の悪魔祓いと、生徒会を含めた俺達はいつでも戦闘できるように構えている。

 

 まったく。どこにだって和平反対派はいると思ってたが、九尾の狐が反対派とは大事だな、オイ。

 

 上等だ。こうなったら本格的に暴れてクラスメイトを逃がす時間稼ぎを―

 

「あー。ちょっといいですかねぇ」

 

 と、間延びした声が聞こえた。

 

 見れば、妖怪達の間に一人の見慣れたオッサンが立っていた。

 

「京都サーゼクスホテルってところ探してるんですけど、ここで合ってますかい?」

 

「ぁあん!? うるせえぞオッサン! 状況分かってんのか!?」

 

 当然、妖怪達は怒鳴る。

 

 あったりまえだ。状況分かってないと思えるアホな質問が、このタイミングで出てくればツッコミの一つも入れたくなるだろう。

 

 もう殺してしまおうかという勢いで、妖怪達の殺気がそのオッサンに集まる。

 

「ついでだ! あそこの餓鬼どもと一緒にこいつもぶち殺すぞ!!」

 

「おうオッサン。こんなところにのこのこ来た、自分のあほさ加減を恨むんだなぁ?」

 

 妖怪達はそのまま武器の切っ先を向けるが、それはまずい。

 

 いや、そのオッサンがまずいんじゃない。むしろやばいのは妖怪達の方だ。

 

「……そうか。うちの国民、それもガキどもに手を出そうってか……」

 

 その瞬間、オッサンの顔を妖怪達は確認した。

 

 そして、すぐに反応して目を見開いた。

 

「ぁあ! こいつ、総理大臣―」

 

「うおらぁ!!」

 

 その瞬間、上段回し蹴りがその鬼の顎骨をたやすく砕いた。

 

 そしてその鬼が外にぶっ飛ばされる間に、狐と河童、そして化け猫が一瞬で拳の嵐によって叩きのめされる。

 

 この間わずか二秒。文字通りの早業だ。

 

「……この国を預かる者として、この国の未来を担う若者達に危害は加えさせねえぜ、古狸共」

 

 総理大臣、大尽統!!

 

 この人超強いんだよな。相手がパニクってんなら神クラスすらぶん殴れる猛者だ。

 

 すっげえ心強いけど、立場考えて!!

 

「こ、このじじぃ!! 百年も生きれねえ下等種がなにを―」

 

 そうきれた天狗が刀を構えるが、横から錫杖を叩き付けられて悶絶した。

 

「……私達の前で総理に危害を加えようとは、ふざけてるわね」

 

 そういって天狗を踏みつけた鈴女さんが、符をばらまいた。

 

 自由自在に宙を舞う符が、倒れた妖怪達に張り付いて動きを封じていく。

 

 それを確認して、鈴女さんは困った顔を総理に向ける。

 

「総理。お願いですからもう少しご自愛ください。 フットワーク軽すぎです」

 

「いいじゃねえか。どっちにしたってここがこの辺じゃ一番安全だしよぉ」

 

 そういって軽く流した総理は、状況が呑み込めてない生徒たちに手を振ると、不敵な笑みを浮かべた。

 

「大丈夫か餓鬼ども!! 悪いが俺達も入れてくれや。ちょっと腹減ってよぉ」

 

 と、まるでおなかがすいたから飯屋で相席するようなノリで、総理はずかずかと俺達に近づく。

 

 そして、へたり込んでいた生徒の一人に手を貸すと、その頭をポンポンなでた。

 

「護衛の自衛隊も連れてきた。是で少しは安心していいぜ?」

 

「………ぐすっ」

 

 その言葉に気が緩んで涙を流す生徒をもう一名だして、総理は後ろを向くと大声を上げる!!

 

「野郎ども! 何の為に今まで学校ですら金貰ってきたか思い出せ!! 仕事の時間だぞこの野郎!!」

 

『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』

 

 その言葉とともに、完全装備の自衛隊員がホテルにばらけ、即座に防衛体制を整える。

 

「結界構成用の符、即座に展開します!!」

 

「狙撃班と機関銃班は屋上に移動! 不用意に接近する連中は即座に撃ち落とせ!!」

 

「装甲車はホテル周辺をカバー! ここを避難地点にするぞ!!」

 

 少々手間取りながらも、手早く動く自衛隊員。

 

 実戦経験こそないとはいえ、そこは世界各国でも割と優秀な訓練を積んでいると言われているだけあるな。こりゃ優秀だ。

 

 しかも異能も高水準で使えやがる。これならドーインジャー程度なら返り討ちにできるんじゃねえか、オイ。

 

 そして、あっという間に京都サーゼクスホテルは一種の要塞と化した。

 

 その間わずか十分。俺達が唖然としている間だ。

 

 恐るべし呪術大国ニッポン。軍事大国を名乗る日も遠くねえな。

 

「総理、一尉! 迎撃態勢完了しました!!」

 

「了解しました。其れでは第一種警戒態勢のまま待機。周囲の警官や機動隊に連絡を行い、ここを市内の避難拠点の一つとします。……総理、最優先に避難を」

 

「かまうな」

 

 と、鈴女さんの言葉を総理は切って捨てる。

 

「まずは中部方面隊と連絡を取って、京都市内の敵の配置を確認だ。その後、難易度と重要度を比較して、五段階で避難体制をとり、その段階ごとに全員避難させろ。俺はこの学生達とひとまとめで避難だ」

 

「お、お言葉ですが総理! 現状のこの国は、総理無しでやっていけるとは思えません!」

 

「ご自愛ください! 国会がロキの襲撃の影響でガタガタになっている今、総理に何かあればこの国は崩れます!!」

 

 慌てて自衛官が苦言を言うが、総理は首を横に振った。

 

「いや、俺達は国民を守る者だ。その国民を見捨てて真っ先に逃げ出せば、それこそ国を引っ張れなくなる。世論が俺達を認めねえよ」

 

「慧眼ですね、総理。……ですが、この国を背負って立つお方がむやみやたらにその身を危険にさらされても困ります。この場の救出優先度は、一段階上げさせてもらいますので、ご了承ください」

 

 鈴女さんがそう厳しめにいう。

 

 なんだが……これ、棒読みっぽくね?

 

 総理もあっさりと受け入れたのか、小さく頷いた。

 

「その辺が落としどころか。……ただし、こいつらもまとめて避難させろよ? 出なけりゃマスコミが何か言ってくるだろうし、寝ざめが悪すぎて職務に支障が出るからな」

 

「了解しました。……総員! 直ぐに最寄りの駐屯地と通信を繋げろ!!」

 

「はっ!!」

 

 即座に敬礼をして、自衛官達は周囲の警戒に映る。

 

 ……こりゃ、万が一のことを考えて、緊急避難用プランをあらかじめ用意してたな。用意周到なこって。

 

 そして、総理と一緒に避難できるとわかって、全員少しだけだが冷静さを取り戻した。

 

「おっしゃ! 避難の段取り就けるから、ちょっと待ってな! 野郎ども、誰一人にも傷をつけさせるんじゃねえぞ!!」

 

『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』

 

 よし、これならだいぶ展開は安心できそうだ。

 

 ……問題は、この後どうするか……だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ホテルの小ホールで俺達は会議をする事になった。

 

 メンバーは自衛隊の分隊長以上と、アザゼル先生及びロスヴァイセさん。そして俺達オカルト研究部と生徒会。更に護衛団からリーダー格とネロ。

 

 デュリオはどうやら、ホテルに辿り着けなかった学生達の保護に回っているとのこと。合流は遅れるらしい。

 

「俺、部屋を取った意味ないじゃん」

 

 イッセーが少し落ち込んでるが、まあ気持ちは分かる。

 

 なにせ、一人だけぼろ部屋に入れられたのに、そもそもの目的である会議が別の部屋で行われる羽目になってるもんな。そりゃ落ち込む。

 

 ま、この人数なら仕方がねえ。本来なら少人数で会議する予定だったしな。これは流石に想定外の緊急事態だろう。

 

「とりあえず状況を説明するぜ。……無茶苦茶纏めると、裏京都の一部がヴィクター経済連合に寝返ってクーデターを起した」

 

 総理が、一番重要な部分をまとめて説明してくれる。

 

 そして、その隣に立っていた自衛官が一歩前に出た。

 

「クーデターの首謀者は、裏京都の副官ともいえる、九尾の狐の七夜と判明。どうやら八坂殿の誘拐も彼が手引きしたと思われます」

 

「七夜殿。なぜだ……」

 

 九重が悲しそうな表情をするが、アザゼル先生はむしろ納得だった。

 

「まあ、各勢力の和議に反発する連中は多い。聖書の教えをがたがたにして、堂々と世界に名乗りをあげる機会を作ったヴィクターに、感謝の念を持つやからも多い。……あっちにつきたがる連中がいるのも想定の範囲内だ」

 

「元々こちらも容疑者の一人として怪しんでいました。そこで総理を一端避難させるつもりだったのですが、まさにそのタイミングでこのクーデターが起きまして……」

 

 と、鈴女さんが頭を抱える。

 

「まず総理を避難させてから連絡するつもりだったのですが、敵の動きが思った以上に早く、京都市周辺は完全に包囲されています」

 

 振動が爆音が響く中、鈴女さんはそう言って京都市の地図を出す。

 

 全体的にマーブル模様の中、外周部と二条城の辺りだけは見事に真っ赤だった。

 

 つーことは、赤いのがヴィクター経済連合か。

 

 そして、アザゼル先生が説明を引き継いだ。

 

「現在、俺達で動かせる戦力全てを動員して、京都の奪還作戦を遂行中だ。クーデターを逃れた妖怪達も協力しているし、対異能者装備を整えた特殊作戦群と第一空挺団。そして異能自衛官を動かせるだけ総動員してもらってる」

 

「俺の救出っていう大義名分があるからな! 感謝しろよ、お前ら」

 

 総理がちょっと偉そうでイラっと来るが、実際そうでなければこの迅速な総動員は無理だろうし納得するしかねえ。

 

 自衛隊が戦力として換算できるのは、ロキとの一戦で分かってる。

 

 ロキと捧腹が送り込んだ、数多くの混成部隊。それを半ば不意打ちに近いとはいえ、翻弄した自衛隊の戦力は本物だ。

 

 ウツセミってのは色々と曰く付きらしいが、戦力になるなら頼りにするしかねえな。

 

 さて、俺たちはこれからどう動くか……だな。

 

「とりあえず、俺達がどう動くかだ。……まずシトリー眷属はバチカンの警護団及び、自衛隊員と協力してホテルの防衛。救出部隊が来るまで、このホテルを死守しろ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 思わぬ大展開に少し緊張しながらも、シトリー眷属は元気よく頷いた。

 

 そんな気張っている生徒会たちに、自衛官たちが朗らかに笑う。

 

「気張るなよ。我々も全力を尽くす」

 

「っていうか、俺らだけで全部返り討ちにしねえとなぁ」

 

「だな。学生に獲物取られたら、給料泥棒ッてどころじゃねえなぁ」

 

 その半分ジョークじみた会話に、場の空気が適度に弛緩する。

 

 流石は総理の護衛。なんというか豪気だな。

 

 そして、少し空気が弛緩してから、アザゼル先生が話を進めた。

 

「オカルト研究部とリセスはオフェンスだ。お前らは敵の囲いを突破して、八坂姫を救い出せ。こっちにもウツセミを投入するように自衛隊には伝えてある」

 

「既にヘリボーンと空挺効果の準備は万全だ。ウツセミなら敵の対空砲火の射程外から降下できるからラッキーだぜ」

 

 頼りになる上役二名の頼もしすぎる発言だ。

 

 俺らだけでやるわけじゃねえってのがいい。マジで助かるぜ。

 

「それとセラフォルーも眷属を動員してそっちに向かう。……更に須弥山からも助っ人が来るとよ」

 

 助っ人? いったい誰だ?

 

 確かに須弥山と妖怪が会談する予定だったんだから、須弥山から増援が来るのは理に叶ってるが……。

 

「先生。誰なんですか?」

 

「須弥山を代表する精鋭部隊とだけ言っとくぜ。……あいつらがチームで出るって時点で、かなりやばいってことの裏返しだけどな」

 

 なんかすごい連中が出てきそうだ。聞いたイッセーも少し息をのんでる。

 

 こりゃ、相当の精鋭部隊が来そうだな。神クラスも視野に入れるべきか?

 

 そして、総理が俺達の前に出ると小瓶を出した。

 

 これは、フェニックスの涙!?

 

「一応渡しとくぜ。万が一のために冥界から取り寄せてたもんだが、今はお前らに渡しとくべきだろ」

 

 ありがてえ! 大盤振る舞いだな、総理大臣!!

 

 こんな状況だから、フェニックスの涙を取り寄せる余裕もなかったんだよ。大助かりだぜ!!

 

「あと、匙もオフェンスだ。龍王の力ならグレモリー眷属とも肩を並べられるだろ」

 

「は、はい!!」

 

 ……天龍と龍王のコンビか。これでもなお不安になるってのが悲しいところだねぇ。

 

 そして、俺達を見渡してアザゼル先生が告げる。

 

「家に帰るまでは修学旅行だ。……死ぬなよ!!」

 

「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」

 

 よっしゃ! これで気合も入った。

 

 それじゃあ、英雄らしく人助けをするとしますか!!

 

 

 

 




頼りになる総理大臣、大尽統。


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第三章 36 京都を襲いし悲劇の真相(苦笑)

 

 

 

 

 そして俺達はホールに降りて、戦闘準備を整える。

 

 姐さんが移動の為の準備をしている間、俺は自販機でジュースを買って飲んでいた。

 

 これが最後の晩餐になるってのは勘弁だな。意地でも生き残らねえと。

 

 さて、それじゃあ行くとするか……。

 

「うそだぁあああああ!!!」

 

 と、イッセーは絶叫を上げた。

 

 なんだなんだ?

 

「どうしたイッセー」

 

「ヒロイ! 俺の可能性が痴漢を生み出してた!?」

 

 ………はい?

 

 いや、お前は覗きはするけど痴漢はしてないだろ。その辺に関しちゃ俺はよく知ってるぞ?

 

 意味が分からん。どういうこった?

 

「俺の体から飛び出た俺の可能性が、入り込んだ人を次々と痴漢にしてたんだ!!」

 

 さらに意味が分からん。

 

 いや、お前が歴代赤龍帝最強の女戦士の協力の元、可能性を開放させたのは知ってる。確か、元々がアジュカ様が悪魔の駒のブラックボックスを使ったとかなんとか。

 

 で? それが何で痴漢を生み出してんだ?

 

 訳が分からねえ俺に、アザゼル先生がため息をついて肩をすくめた。

 

「ようは、可能性と一緒にイッセーの乳に対する欲求まで入り込んだ結果、乳が欲しくて欲しくて堪らなくなって痴漢に及んだってわけだ」

 

 ………なんだそのバイオハザード。

 

 いや、つーかイッセーの乳に対する欲求は、常人じゃ理性が保てなくなるレベルってことだよな。そうじゃないといけないわけで。

 

 どんだけ乳好きなんだよ。てかそれでよく覗き程度で済んでたな、オイ。

 

「松田には謝らねえと。その所為で、あいつは男の乳なんぞに……」

 

 松田も駄目だったんかい!

 

 てか男の乳!? そんな見境なくなるレベルで乳が欲しくなんのかよ!?

 

 ……ん?

 

 つまり、それって……。

 

「―あの精神攻撃はお前の所為かぁああああ!!」

 

「ぎゃぁああああああ!?」

 

 俺が我慢できずにイッセーの顔面をぶん殴ったのは、仕方がないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、どうすんだよこの馬鹿野郎」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

 イッセーが戸惑う気持ちも分かるが、しかしこれはまずいって。

 

 パワーアップを試みたら、京都の人達を痴漢にしてましたってどういうこっちゃ。

 

 可能性と一緒に色欲迄持ってくなよ。どんな仕組みで起きたのか本気でわからねえ。

 

 っていうか、お前の色欲ってどんだけなの? ただの人間がおっぱいジャンキーになるとか異常だろうが、なあ。

 

 なんか、そんなレベルの色欲を持っておきながら、強姦と化してないこいつがものすごいまともな奴に思えてきた。

 

 覗きで済んでるだけコイツ我慢してるよ。褒めていいよ。

 

 でも怒られた方がいいな。示しは付けねえとな。

 

 アザゼル先生も頭を抱えている。

 

 そりゃぁなあ。こんな大騒ぎの中、更に別の大騒ぎがこっちの所為だって知ったらなぁ。

 

「ま、こういう事情なら流石に仕方がねえ。後で俺達がフォローするとするか」

 

「イッセーの名前出すのは流石に可愛そうですけど、掛かった費用はイッセーが払うべきだと思うんすけど」

 

「反論できない……」

 

 仕方がないだろうイッセー。人生台無しになるレベルの非常事態だぞ。訴えられたら確実にお前が負けっぞ。

 

 まあ、手持ちの金じゃ足りないってなら無利子で貸してやるから我慢しろ。

 

 英雄派の連中と戦う前に、ややこしい展開になったのは面倒だな、オイ。

 

 ……英雄派、か。

 

「ヒロイ、どうした?」

 

 と、アザゼル先生に勘付かれちまったな。

 

「いや、英雄派についてちょっと思うところがありやしてね」

 

「ああ……。俺も、確かにちょっと考えてるところはあるな」

 

 イッセーも思うところがあったのか、うんうんと頷いた。

 

「英雄って、なんなんだろうなって、俺も考えてるよ」

 

 ああ、そうだな。

 

 英雄派。英雄の末裔達を中心として構成された、禍の団の大規模派閥の一つ。

 

 数においてはもっと上回っている派閥は多いが、質においては高水準だ。

 

 神滅具保有者が三人もいることから言って、個々の戦闘能力なら禍の団でもトップクラスだろう。

 

 そんな連中が、敵になっている。

 

「……人間の時は凡人だった俺からしてみれば、英雄ってのは、羨望の的なんですよね」

 

「あ~なるほど。それが敵になったから、色々考えこんじまったって事か」

 

 やれやれといわんばかりんに、アザゼル先生は肩をすくめた。

 

「イッセー。お前がなりたいものは何だよ」

 

「そりゃもちろんハーレム王!! それもレーティングゲームでも連戦連勝の、最強のハーレムを作りたいです!!」

 

 先生の質問に、速攻でイッセーはガッツポーズまでして答えた。

 

 もはや脊髄反射レベルだな。ここまで執念があるからこそ、常人では耐えられない強大な煩悩を持ってんだな。

 

 だけどまあ、それがあるからこそここまで頑張れたわけで……。

 

「それでいいじゃねえか。お前はお前のままでいろ」

 

 そう言って、先生はイッセーの肩を叩いた。

 

 ふむ。普段はいい加減だけど、なんだかんだでいい先生してるんじゃねえか。

 

 流石堕天使の総督だ。言う事が違うぜ。

 

 そして、その視線は俺に映る。

 

「まあ、英雄を目指しているヒロイからしてみりゃ、色々と複雑か?」

 

「まあ、思うところはありますわな」

 

 俺は苦笑する。

 

「そもそも英雄なんてのは、神話の時代でもなけりゃぁそれなりに大義や正義のある連中同士の殺し合いですぜ? そういう意味じゃあ、あいつらは立派に英雄をやってますわ」

 

 そう、英雄なんてのはそんなもんだ。

 

 一人殺せば殺人者だが、戦場で百人殺せば英雄。それが真実だ。

 

 歴史上、様々な英雄は敵対している者にとってはただの人殺し。しいて言うなら、彼らが勝者になったから褒められているようなものだ。

 

 それに敗者となった側だって英雄が生まれることはある。第二次世界大戦の英雄筆頭格何て、基本的に枢軸国側(負けた方)だ。

 

 だから、俺は英雄に変な夢は見てない。

 

 戦いにおいて、現代から見れば悪逆非道である虐殺という行為を行った英雄は数多い。時代を先取りしすぎて、当時にとってノンマナーな行為をした英雄も数多い。そしてそれらを行っておきながら、英雄ともてはやされる存在は数多い。

 

 英雄とは総じて血生臭いものだ。そこに異論は欠片もねえ。

 

「英雄ってのは輝きだ。例え血濡れであろうと、それすらかき消すほどに輝いてるから讃えられる。そんなもんはとっくの昔に分かってんだよ」

 

 そう、それが本音だ。

 

 ジークの本家である英雄シグルドは、穴に隠れて不意打ちという、暗殺者じみた真似でファーブニルを倒した。

 

 ヘラクレスのオリジナルは、酒に酔って喧嘩して、師匠を殺した男だ。暗殺行為も実行に移した事がある。

 

 ジャンヌ・ダルクのオリジナルは、当時の騎士達にとってのタブーを犯して勝利を手にした。文句を言った婦女子に暴行を加えたという逸話を聞いた事もある。

 

 そして、三国志の英雄である曹操も基本悪役の側だ。

 

 英雄には負の側面がある。それは確固たる事実だ。

 

 だが、それでも……。

 

「それでも俺は輝きたい。あの輝きに見せられた者として、俺は彼女みたいに輝きたい」

 

 そう。それが俺の原点だ。

 

 あの時の姐さんみたいになりたい。その決断に変わりはない。

 

 だから、特に戸惑うことはない。

 

 ……あいつらは大義あるヴィクター経済連合に与して英雄になる事を選んだ。英雄の末裔として、自らも英雄になろうとしている。それはある意味で当然の事だ。少なくとも尊敬する存在や先祖のように自らもまた英雄足らんとするのは褒められるべき行いだ。

 

 俺は姐さんに助けられて、同じように輝きたいと願った。それこそが原風景だから、そうなりたいと目指している。それは誰にも否定させない。

 

 英雄としてあの悪辣ぶりは許しがたいが、定義の問題だ。もうどうしようもないだろう。

 

 だから、後はぶつかり合うだけだ。

 

「行ってくるぜ、アザゼル。ちょっと英雄倒して英雄になってくる」

 

 さて、そういうわけで頑張るとするか。




ヒロイは英雄に幻想を見ていません。

英雄とは、基本的に殺し合いで歴史に残る成果を上げてきたものだという事実を彼はしっかりと認識しています。

だから近年の創作作品でもあるように「英雄ってのはただ敵を倒したから英雄になったんじゃねえ!! 人間的にも素晴らしい奴のことを言うんだ!!」なんて反論はしないです。むしろそういうのを「わかってないなお前は」とか言っちゃえます。

そのうえで、自分を救って照らしてくれたリセスという「英雄という輝き」に焦がれ、自分もまた輝きになりたいと思っているだけなのです。







実際、英雄について調べてみると英雄派のやり方はそこ迄見当違いではないですからね。

強大な相手を倒すため、きちんとそれなりの準備や策を用意したうえで立ち向かってる英雄は数多い。英雄派のオリジナルや先祖については本編で書いた通り。

彼らはりっぱに先祖をインスパイアしたうえで戦ってます。そう言う意味では原作五章の策投げ捨ててもぶつかるぜって乗りの方が「先祖参考にしろよ……」といわれてもおかしくありませんね


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第三章 37

 

 そして俺達は、警戒厳重の防衛線から外に出ようとしていた。

 

 既にクーデター部隊が遠距離から睨みを利かせている。こっから外に出たらもろに仕掛けられるだろう。

 

 まず間違いなく、俺達は命がけで戦線を突破しなけりゃならないって事だ。

 

「いい? 私が霧を展開して隙を作るから、一気に突破するわよ。イッセーは譲渡で装甲車の強度向上。二条城迄止まらないからね」

 

「分かりました!! 意地でも硬くし続けます!!」

 

 突破する為に、自衛隊から装甲車を貰った。

 

 一応免許は持っている姐さんが運転して、俺たちは強引に二条城まで突入する予定だ。

 

 もちろん敵も攻撃してくるだろうが、そこはイッセーが譲渡で装甲を強化する事で無理やり突破する作戦だ。譲渡便利だな、オイ。

 

 そして俺達が突入しようとした時―

 

「―赤龍帝! 私も連れて行ってくれ!!」

 

 強引に囲いを突破して、九重が俺たちに懇願してきた。

 

「下がってろお嬢ちゃん! 荷が重い!!」

 

「そうだ! 流石にまずいぞ!!」

 

 周囲を警戒していた自衛官が受け止めるが。九重は勢い良く頭を下げる。

 

「母上は私が助けたいのじゃ!!」

 

 ……気持ちはわかるけど、さすがに……。

 

「―足手まといよ。帰りなさい」

 

 と、姐さんがバッサリと切り捨てた。

 

 お、おいおい。ちょっとさすがにそれは言いすぎだろ、姐さん。

 

 イッセーたちもさすがにちょっとかわいそうになって、表情が曇っている。

 

「待ってくださいよ。何かの役に立つかもしれないじゃ―」

 

「こういうのは悲観的観測で行くべきよ。立つかもしれないじゃなく、確実に立つと断言できる戦力しか連れていけないわ」

 

 イッセーの反論もバッサリと切り捨て、姐さんはかがみこむ。

 

 そして、九重と目線を合わせて、その肩をがっしりと掴む。

 

「……あなたがそうやって無理に行きたがるのは、あなたが弱いからよ。心が弱いから、何かしないと我慢できないだけ」

 

 はっきりと、そう告げた。

 

「貴方が役に立つ可能性より、貴方をフォローすることで発生する負担の方が大きいわ。そしてそれは、ヴィクターの精鋭である英雄派と戦うにあたってマイナスにしかならない。……いい、この世界は無条件に弱さを受け入れたりはしないの。あなたの弱さの補填に、私達を使わないで」

 

 ものすごい辛辣な意見だが、然し正論でもある

 

 ……間違いなく、この戦いは激戦だ。下手すると俺たちが経験した闘いの中でも最高峰かもしれねえ。

 

 なにせ敵の精鋭部隊である英雄派だ。それも幹部クラスと直接激突する可能性がある。少なくとも質なら最高レベルだ。

 

 確かに、不安要素はできる限り減らすべきだ。

 

「攻撃を避けれない的を増やす余裕はないの。恨むなら、確実に役に立つと断言できるものを持てなかった自分を恨みなさい」

 

 そういうと、姐さんは立ち上がって運転席に座る。

 

 そして―

 

「ここは強い私たちに任せなさい。身の程をわきまえて足を引っ張らないように動く立ち回りの良さも、立派な強みと心得なさい」

 

 そういって、親指を立てた。

 

 ……姐さん。さすがに英雄なだけはあるな。

 

 厳しいだけじゃない。確かにフォローをするだけの能力はきちんとある。

 

 そして、俺達を見渡した。

 

「悪いけど、意地でも救出する羽目になったわ。気合を入れてね?」

 

 ふっ。とんだ無茶振りを強いられたもんだぜ。

 

 だが、そんなのは当然だな。そもそも選択肢ですらねえ。

 

 イッセー達も気合を入れて、装甲車に乗り込んだ。

 

 そして、一気に姐さんがアクセルを踏み込み、敵の中へと切り込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、何とか二条城まで突入した。

 

 既に銃声が響き渡り、ところどころで悪魔やウツセミが暴れている。

 

 そして、ドーインジャーとウツセミが激戦を繰り広げていた。

 

 とどめにレヴィアたんが暴れたのか、あちこちが氷に包まれている。……加減しろレヴィアたん。

 

 そして、戦況はどうやらこっち側に傾いているようだ。それも圧倒的有利レベルで。

 

「なんか、俺達って来る必要あったのか?」

 

 イッセーがそんなことを言うのも仕方がないだろう。

 

 見た感じ、死傷者も殆ど出ていないようだ。アーシアを出張らせる必要もないってレベルだな。

 

「グレモリー眷属のものか!」

 

「よくここまで来れたな。すごいじゃねえか!」

 

 と、自衛官がウツセミを伴ってこっちに駆けつけてきた。

 

 その表情から見ても、なんか状況は有利みたいだな。

 

 いや、いくらレヴィアたんの眷属がいるっつっても、かなり優勢じゃねえか?

 

「すいません。状況はどうなってますか?」

 

「ああ。英雄派の主力は既に撤退に移行している。今はドーインジャーを足止めに展開している形だな」

 

 木場の質問に、自衛官達はすぐに答える。

 

 あれ? 英雄派、思った以上に雑魚い?

 

「……それで、八坂様はいったいどちらに?」

 

 ロスヴァイセさんが周囲を確認しながら、一番肝心な事を聞く。

 

 おっとそうだった。一番重要なのは八坂さんの救出だ。九重も泣いていたしな。

 

 そして、それをおそらく英雄派も守護していたはず。

 

 態々場所まで指定したんだ。曹操達がここにいないわけがないんだが……。

 

「現在、我々が制圧した二条城には影も形もない。おそらくまだ制圧できていない地点のはずだ」

 

「英雄派に連れ去られた可能性はあるかしら」

 

 姐さんが確認するが、それにも自衛官は首を振る。

 

「撤退している者達は目視で確認されている。そこには八坂様と思われる人物は確認できない」

 

 ……目視で確認?

 

 その言葉に、俺は違和感を覚えた。

 

 なにせ英雄派は絶霧を独自に保有している。

 

 態々走って逃げる必要なんてないはずだ。

 

 何か、おかしくないか?

 

 俺以外の皆もそう思ったのか、一気に表情が険しくなる。

 

 そして、真っ先に姐さんが反応した。

 

「……全員、周囲を警戒しなさい!!」

 

 直ぐに姐さんは周りを見渡すと、全身にオーラを纏う。

 

 その理由は、すぐにわかった。

 

 これは、絶霧の霧か!!

 

 その瞬間、俺は思い出した。

 

 渡月橋で英雄派達が襲い掛かる時に展開した異空間。渡月橋周辺にそっくりなだけじゃなく、かなりの広さがあった。それも、一つの都市を丸ごと展開できるぐらいに。

 

 やられた! あいつらが言っていた二条城は、ここじゃない。

 

 あの時展開した異空間。そこにある二条城って事だったのかよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺は異空間の京都タワーにいた。

 

 ……なるほど。取り込む際に個別に転移させる事も出来るってわけか。芸が細かいな、オイ。

 

 で、つまり各個撃破が目的のようだが、誰が来る?

 

 曹操か? ヘラクレスか? それとも教皇の首を取ったジャンヌとかいう女か? 

 

 ゲオルクは違うだろう。アイツがやられたらこの空間が消え去っちまうはずだ。

 

 ジークも違うだろう。あいつは間違いなく姐さんを狙うはずだ。

 

 しっかし困ったな、オイ。

 

 最初は八坂姫を救出さえ出来れば、さっさと逃げる事が前提だった。

 

 だが、この状況では無理だ。この異空間を生み出しているゲオルクを倒さねえ限り、脱出できるとは思えねえ。

 

「チッ! つまり英雄派をどうにかするしかねえってことか」

 

 俺が舌打ちしたその直後、殺気を感じた。

 

 素早く飛びのいて攻撃をかわし、そして即座に聖槍を抜き―

 

「させねえよ」

 

 その瞬間、聖槍が消滅する。

 

 それだけじゃない。事前に準備していた魔剣すら消え失せ、しかも電磁力を操作する事も出来ない。

 

 ……これは、異能の棺(トリック・バニッシュ)! それも、禁手(バランス・ブレイカー)に覚醒してやがる!!

 

「……我を覚えてるかぁ? 聖槍ぅ」

 

 そこに現れたのは、見覚えのある男。

 

 俺は数秒間考え込んで……思い出した。

 

「お前、亡命者を追っていた英雄派の―」

 

「その通りだぜぇ!!」

 

 即座に拳が飛んで、俺はそれを受け止める。

 

 チッ! 神器が一つも使えねえってのは、流石にきついな!!

 

 しかも異能の棺は負担がでかいはずなのに、まったく消耗してる様子がねえ。

 

 めちゃくちゃ動きが軽い。しかも拳も重い。止めに隙もねえ。

 

 この野郎、この数週間でどこまで鍛えやがった!!

 

「我の異能の鎮魂歌(トリック・バニッシュ・レクイエム)と、この拳の前に、死ぬがいいヒロイ・カッシウス!!」

 

 この野郎! そう言っておきながら、致命傷にならないところばかり狙ってやがる。

 

 いたぶって殺す気か? 性格悪いな、オイ!!

 

「我がてめえが大っ嫌いだ! できるだけ苦しんで死にやがれぇ!!」

 

 ……この野郎、あんまりなめんじゃねえぞ!!

 



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第三章 38 拳と拳

神器全部封印されたヒロイ。

さあ、どうする!!


 

 俺は、渾身の拳を叩き込んだ。

 

「グハァ!?」

 

 野郎はたたらを踏むが、すぐに立ち直る。

 

 そこを狙いすまして膝蹴りを叩き込む。

 

「グフォッ!?」

 

「……どうした? 苦しめて殺すんじゃなかったのかよ?」

 

 俺はステップを踏んで体勢を取りながら、野郎を睨み付ける。

 

 俺が、神器頼りだとでも思ったか?

 

 聖槍をできる限り使うなって言われてたから、これでも聖槍以外の戦闘技術だって習得している。拳銃なら片手撃ちでも結構命中率でかいんだよ。

 

 格闘技については当たり前だ。アザゼル先生から提案された魔剣創造の運用方法の都合上、殴り合いの技量は絶対いるからな。ちゃんと鍛えてる。

 

 ……そもそも数々の化け物相手に渡り合ってきた俺が、フィジカル弱いわけねえだろ。なめんな。

 

「クソ……がぁ!!」

 

 野郎はすぐに立ち直って殴りかかってくる。

 

 俺もそれに対応して殴り返す。

 

 連続して拳の応酬が繰り返され、俺達は割とボコボコになった。

 

「負けてたまるかぁ!! 我は、リムヴァン様と曹操の為に、命ぐらい賭けてやるって決めてんだよ!!」

 

「洗脳されたわけじゃねえみたいだな! だったらなんでヴィクターにつく!!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、血がにじむ。

 

 そして組み付いて睨み合い、俺達は頭突きをぶつけ合った。

 

 この野郎、石頭してんじゃねえか。

 

「ああ!? 決まってんだろ!! 糞みてぇな人生にチャンスくれたからに決まってんだろうが!!」

 

 更に頭突きが叩き込まれて、俺の視界に火花が散った。

 

「我は手前と同じ浮浪児だよ!! そんなクソみたいな人生で、まともな飯をくれる奴がいるってんなら、そりゃ命ぐらい賭けんだろうが!!」

 

 そうかい。そう言うことか。

 

 確かに、現場で殺し合いする奴の動機なんてそんなもんか。

 

 学のねえ奴は食う為に殺し合いするしかねえもんな! 昔の傭兵とかそんなのだけらしいしよ!!

 

「この糞みたいな人生、漸く少しはまともになったんだ!! 手を伸ばしもしなかった連中がとやかく言ってんじゃねえぞ!!」

 

 ……なるほどな、正論だ。

 

 闇の中で光が見えれば、そこに縋りつくのが普通だ。

 

 闇の中で道も見えないのに、前に進めるほど人間は強くねえ。よしんばいても一握りだ。

 

 ……ごく当たり前の、どこにでもある話だ。

 

 それが、世界の現実だ。

 

 そして、野郎の敵意の視線は俺に向けられる。

 

「ついでにいえば、我は逆恨みだがお前が大嫌いだ!!」

 

 俺の拳を交わし、鳩尾に拳がめり込んだ。

 

 意地で何とか我慢するが、その隙にさらにワンツーパンチが叩き込まれる。

 

「我と違い何も持ってないにも関わらず、我よりも良い生活しやがって! 挙句の果てに神滅具込みとはいえ神器三つ移植だと!? ふざけんなこらぁ!」

 

 いやそれは流石に言いがかりだ!!

 

 俺だって苦労してんだぞ、この野郎!!

 

「流石に知るかボケぇええええ!!!」

 

 俺は渾身の拳を叩き込む。

 

 のけぞる野郎に更にボディーブローを叩き込んで駒の字に曲げる。

 

 そのまま後頭部に一撃叩き込もうとしたが、それより先に復帰した野郎が俺にアッパーカット。

 

「「クソッタレ!!」」

 

 そして体制を整えたやろうと、同じくリカバリーした俺は全力で右手を握り締め―

 

「「ぶちのめす」」

 

 全力で顔面に拳を叩き込んだ。

 

 ……そして衝撃が叩き込まれ―

 

「俺の、勝ちだ!!」

 

 ―俺は、野郎を叩きのめした。

 

 ……悪いな。こちとら実践と訓練を高水準で潜り抜けてんだ。神器一つしか持ってねえ格下に負けるわけにはいかねえんだよ。

 

 英雄の道はとても険しいんだ。そう簡単にはやられられねえ。

 

 だが……。

 

「いい拳だった。心に響いたぜ、この野郎」

 

 これだけの拳を喰らったのは、初めてかもしれねえな。

 

 そういえばイッセーが言ってたな。

 

 龍王タンニーンさん曰く、どんなものにしろ、籠った一撃は真に響くって。確かにその通りだぜ。

 

 いい拳だったぜ。だが、負けてやるわけにはいかねえ。

 

 さて、それじゃあさっさと合流するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして電話で連絡を取って、俺達は門の前で合流した。

 

「うぉぇええええええ……!」

 

 そしていきなりげろってるロスヴァイセさんを目撃した。

 

「あの、大丈夫っすか?」

 

 匙が背中をさすってるが、なんだこの光景は。

 

「つか、イッセー達は大丈夫だったか?」

 

「ああ。何とか返り討ちにしたぜ!!」

 

 そういうイッセーだったが、何気にボロボロでアーシアに治してもらている。

 

「一番ボロボロじゃねえか」

 

「……物理攻撃が効かない相手だったから、大変だった」

 

 なるほど。そんな禁手もあるのか。

 

 神滅具の禁手だからって、何でもかんでも圧倒できるわけじゃない。相手も禁手なら相性で覆せる場合もあるってことか。

 

 深いな、神器の世界も。

 

 そんなことを思っていたら、二条城の門が音を立てて開いた。

 

「熱烈歓迎ってことか」

 

「まったくだね。……なめてくれる」

 

 イッセーと木場がため息をつく中、姐さんは静かに目を細める。

 

「英雄の闘う舞台としては良い感じね。……ペト、貴女はビル街に移動して狙撃準備をお願い」

 

「了解っス!! ロスヴァイセ先生には護衛をお願いするッス」

 

「え、……わかりまし……うっぷっ」

 

 確かに、ペトの本気を考慮すれば、間違いなくそっちの方がいいな。

 

 あとロスヴァイセさんは前線には出せねえ。ぶっちゃけ足手まとい一歩手前だ。どんだけ飲んだんだよ。

 

 ……そして、俺達の仕事は必然的に前衛と言う事か。

 

 さて、待ってやがれよ、曹操。

 

 漸くだ。漸く奴にリベンジが出来る。

 

 魔剣創造を鍛え上げ、そして紫電の双手は禁手へと至った。今の俺はあの時の俺より遥かに強い。

 

 むろん、曹操の奴も鍛えているだろう。ついでにいやぁ、そもそも奴はあの時本気を出してねえ。

 

 だが、それでも勝ち目はきちんとある。

 

 覚悟しやがれ、曹操……っ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、京都サーゼクスホテルでは戦闘が勃発していた。

 

 総理大臣と長の娘が避難しているホテルともなれば、制圧して殺害もしくは確保すれば大きな手柄となる。

 

 そう目論んだ妖怪達が、大挙として押し寄せている。

 

 そして、自衛隊の警護体制も甚大だ。

 

 更に九重の無事を知った妖怪達も、戦力をそちらに集中させていた。

 

 これにより、この京との戦闘の中でも、最大級の激戦が繰り広げられる事となる。

 

 既にビルが何棟か倒壊するほどの激戦だが、それでもお互いに加減……もしくは防護策を取っているからこそのこの程度だ。

 

 本来なら、京都市そのものが更地になっていてもおかしくないほどの火力が行きかっている。

 

 そして、その戦場で遂に敵は業を煮やした。

 

「おい! なんだあれ!?」

 

 窓からその光景を見ていた生徒が、恐怖に震える。

 

 そこにいるのは、全長十数メートルを超える巨大な狐。

 

 まるで怪獣映画のような光景が、正真正銘現実に起きている。その事実に、それを見た者達が全員怯え始めた。

 

「くそ! 九尾の狐がお出ましかよ!!」

 

「怖気づくな、一斉射撃!!」

 

 即座に攻撃が集中するが、然し九尾の狐たる七夜は意にも介さない。

 

「ふん。呪術も使えぬ猿風情が。私をそんな玩具で倒せると思ったか」

 

 舌打ちをしながら、七夜は静かにホテルを見る。

 

 そして、その獲物の豪華さに舌なめずりをする。

 

「ふん。ヴィクターと組んだ方が我らが大手を振って歩けるというのに、それを分かっておらん八坂の娘が。そして我らを差し置いてこの国を我が物顔する猿の長」

 

 殺せば確実に大きな影響が出る。

 

 そして、其れは自分達にとって得となる。

 

 それだけの影響は、ヴィクターにとっては好影響だ。すなわち自分達の手柄となる。

 

 それを足場に、この日の本を自分達が手中に収める。そして妖怪達が堂々と人間の上に立つ国として作り変える。

 

 その理想郷を夢見て、七夜は息を吸った。

 

 まずはうっとおしい連中をまとめて吹き飛ばす。この九尾の狐の狐火なら、ホテルごと吹き飛ばす事など造作もない。

 

 堕天使の総督などの不確定要素はあるが、しかしこれなら確実に九重は殺せる。

 

「あの猿に甘い八坂の娘が。……奴の娘として生まれてきた事を後悔するがいい!!」

 

 そして、瞬時に放った。

 

 その劫火は結界などでは防ぎようがなく、間違いなく龍王クラスの一撃だった。

 

 そしてその火炎は一気にホテルを―

 

「おぉっとさせねえぜ?」

 

 ―前に、雷撃で吹き飛ばされる。

 

 そして雷撃は炎をかき消しただけではなく、七夜の前にいる妖怪達すら吹き飛ばした。

 

 更に七夜もその余波を喰らう。そして一気に百メートルは後退する。

 

「んぅうううう!? なんだ、この雷撃は!?」

 

「……北欧の神の一撃の模造品だよ。効いただろう?」

 

 その言葉と共に、降り立つは一人の男。

 

 赤いボディアーマーをその身に纏い、そして豪奢な鉄槌を構えた一人の男。

 

 その男は、七夜に鉄槌を突き付けながら声を張り上げる。

 

「俺の名は、謎のマスク総理大臣!! 仮面の下は開帳厳禁だ!!」

 

「……ふざけるなよ貴様ぁあああ!!!」

 

 大尽の阿呆な発言に、心から七夜はぶちぎれた。

 

 往年の特撮番組のパロディをぶちかます余裕の発言に、殺意が燃え広がる。

 

 この古都京都はおろか、日の本との真の支配者になろうとする自分の道を、猿風情が阻むな。

 

 その殺意をもって、七夜は再び炎を放つ。

 

 そして、其れを大尽は真正面から打ち砕いた。

 

「……どうしたぁ? この国支配しようとする、その手前の一撃はそんなもんか?」

 

 平然と()で砕き、大尽はため息をついた。

 

 ああ、情けない。九尾の狐というのはこの程度か。

 

 龍王にすら比肩する其の力。まさか下位の龍種の力であっさりと砕けるとは思わなかった。

 

 しょせんは俗物以下の外道の一人。この程度の力量しかないくせに、力でこの国を支配しようなど笑わせる。

 

 ……否、一周回って怒りすら燃え広がる。

 

「……この民主主義国家を拳で支配しようって時点で気に入らねえ。しかもこの程度の力で引き入ろうってのが尚更むかつくな」

 

 静かに、まるで青い炎のように怒りに燃え、大尽は鉄槌を構える。

 

 その瞬間、その鉄槌は巨大化した。

 

 そこから生まれる稲光を見て、七夜は警戒心をより強める。

 

「貴様、その槌はまさか―」

 

 それ以上言わせるまでもない。

 

 速攻でカタをつけるべく、大尽は一歩前に踏み出す。

 

「そ、そそそ総理!? 危ないですから下がって―」

 

「安心しろぃ。すぐに終わるぜ」

 

 押しとどめようとする自衛官を手で制して、大尽は一歩踏み込んだ。

 

「アースガルズから和議の証として貰った、俺専用のミョルニルレプリカ。……嵐砕丸。……最初の獲物がてめえ如き三下なのは残念だが、てめえにしちゃぁ身に余る光栄だろ!!」

 

 その瞬間、このクーデターの根本が決着した。




何気に素手でも充分強かったヒロイ。腐っても戦闘職ではないのです。

そして京都の方では総理が大活躍。しかも超強力武装を引っ提げて登場。

因みに嵐砕丸、とある方から「味方側のミョルニルはストームブレイカーって名付けたら?」とか言われたのでひねりました。漁船みたいとかいうツッコミは受け付けません。


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第三章 39

ついに英雄派幹部との戦闘が本格的にスタート。


 

 レプリカの二条城の敷地内を進み、そして俺達は、曹操達を見つけた。

 

 曹操、ゲオルク、ジーク、ジャンヌ・ダルク、ヘラクレス、森長可。

 

 英雄派の主力はレオナルド以外全員登場か。至れり尽くせりだな、オイ。

 

「やぁ。二人ほどいないけど、片方がペト・レスィーヴだということはもう片方も護衛として残った感じかな?」

 

 曹操は一瞬で見抜くと、そして俺達を見渡して苦笑を浮かべた。

 

「彼らは全員、英雄派(うち)でも中堅どころの戦力だったんだけどね。誰一人として退場したものがいないとは驚いた」

 

 面白そうに見て、曹操はにやりと笑う。

 

「うん。君達は既に並の上級悪魔なら返り討ちにできるよ。シャルバもよくもまあ馬鹿にできたもんだ。馬鹿はアイツだろ、あいつ」

 

「信長公をうつけっつってた連中と同じだな。自分の方が馬鹿だってことに気が付いてねえ」

 

 曹操と長可は、呆れ果ててため息をついた。

 

「見下しすぎるあまり、登ってくる者を意識してなかったんだろうね。さて、どうする?」

 

 と、ジークが頬を赤く染めながら姐さんを見据える。

 

 やる気満々だ。ものすごいやる気満々だ。

 

 あ、英雄派の連中も全員引いてる。流石にきもいよな、これは。

 

「まあ待ってくれ、ジークフリート。ここまで来たんだ、彼等にも事情を説明するべきだろう」

 

「……こういう時に遊びを入れすぎるのは悪い癖だぜ? ()る時はきっちり殺しとかねえと、後で痛い目見るのはお前だぞ」

 

 楽し気な曹操に長可が不満げな表情を見せる。

 

 が、曹操は肩をすくめるだけだった。

 

「いいじゃないか。英雄譚には語らいも必要だよ」

 

「戦場で調子ぶっこきすぎると命取りだっつの。……ま、見張ってやるからさっさとやりな」

 

 やれやれと肩をすくめて、長可は俺達に槍を向けて腰を落とす。

 

 ……奴がいつ動くか分らなくて、俺達は直には動けなかった。

 

 そして、曹操が指を鳴らすと、英雄派の構成員に連れられて一人の女性が姿を現す。

 

 ……間違いない。絵で見た通りだ。彼女が八坂姫だ。

 

「ゲオルク、やってくれ」

 

「了解了解」

 

 曹操の指示に従い、ゲオルクが魔方陣を展開する。

 

 ……かなり色々な種類の魔方陣だな。悪魔が使ってるのもありやがる。

 

 流石はあのヴァーリとすら渡り合った猛者。魔法に関しては天才的か。

 

 そして次の瞬間、八坂姫の姿が変貌した。

 

 タンニーンのオッサンと比べてもそん色ない、巨大な狐。

 

 あれが、九尾の狐の本来の姿だってのか!!

 

「曹操! てめえ、何が目的だ!!」

 

 事態のやばさにイッセーが食って掛かる中、曹操は不敵な笑みを浮かべる。

 

「古都京都は世界的に見ても優れた呪術装置と言ってもいいものだから、リンクしているこの疑似京都も効果的だ。加えて、九尾の狐である八坂姫の力は龍王に匹敵する。言ってみれば、必要なピースが揃っていたのがここだった。……七夜殿のクーデターを利用して、我々は実験を始める準備をさせてもらったのさ」

 

 実験だと?

 

 確かに京都はものすごく優れた場所だ。この街を使えば相当高レベルの魔術や呪術を行う事もできるだろう。

 

 で、その中枢は九尾の狐って事か。確かに、神滅具の禁手もびっくりのものすっげえ事が出来そうだな。

 

 で? いったい何をやるつもりだよ?

 

「それでちょっとグレートレッドをここに引き込むつもりなのさ」

 

 グレートレッドだと!?

 

 あ、そういや禍の団のトップのオーフィスの目的は、グレートレッドの撃破だっけか。

 

 なるほど。トップの意向を叶える事が目的ってわけか。

 

 意外とマジでやってんだな、禍の団。てっきり適当に乗せてるもんかと思ったぜ。

 

 つっても、こいつら勝てんのか? 

 

「とりあえず、龍喰者(ドラゴン・イーター)を試すというのもいいね。……っと。これ以上は流石に言いすぎか」

 

 どらごんいーたー?

 

 対龍特化の禁手使いか何かか? そんな物騒な異名な辺り、かなりできる奴っぽいな。

 

 それはともかく。そろそろやる気っぽいな。ま、いい加減話しすぎた感じでもあるが。

 

 そして、ジークは今にもよだれをたらしそうな表情で、グラムを姐さんに突き付ける。

 

「リセスは僕が貰うよ。他は?」

 

「私は聖魔剣の坊やをもらうわ」

 

「じゃ、俺は信徒二人か」

 

 と、ジャンヌとヘラクレスも相手を決める。

 

 阿呆か。誰が素直にお前らの選んだ相手で勝負すると思ってんだ?

 

「……なめんな、お前ら全員ここで串刺し刑だ、馬鹿が!!」

 

 素直にお前らの思い通りに動かされると思ってんのか! さっさと死ね!!

 

 俺は大量に魔剣を展開すると、一斉にコイルガンをぶちかます。

 

 真剣の散弾は速度が遅いが、それは狙い通り。

 

 それを盾にして、俺は聖槍を構えて一気に接近した。

 

 狙うは大将首……の前にふざけた事を言っている馬鹿どもだ!!

 

 先手必勝で、聖槍をぶんまわし、真っ先に選んだのはジャンヌ・ダルク。

 

 理由? 一番近かったしこいつが一番やらかしてるからだよ。ローマ教皇を全国ネットで切り殺した女、元悪魔祓いとしても見過ごせねえし、何より手柄的にでかいし。

 

 だが、ジャンヌは即座に剣を生み出すと、それであっさりと俺の一撃をいなす。

 

「こんなもの? 曹操の足元にも及ばないのね」

 

 言ってくれるな、この女……!!

 

 俺は素早くバックステップで後退しながら、素早く魔剣によるコイルガンを連射する。

 

 その弾幕ならぬ剣幕を、ジャンヌは聖剣を地面から生み出して防ぎ切った。

 

「これが私の神器、聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)よ。君達の魔剣創造(ソード・バース)の姉妹品ってところね」

 

 そういうジャンヌは、ウインクまでしやがりやがった。

 

 この女、どこまでも余裕満々だな。

 

「この程度なら、禁手無しでも充分勝てるわね。ヘラクレスはどうするの?」

 

「んじゃ、俺もこの紛い物に一発かましてやるか!!」

 

 言うが早いか、ヘラクレスの奴が突貫する。

 

 遠慮なく魔剣を展開して、俺はレールを展開。

 

 真正面から来るなら、遠慮なくぶちかます!!

 

「ぶっ飛べ。マスドライバースティンガー!!」

 

 勢いよく魔剣のレールガンをぶちかます瞬間、ヘラクレスは射線を読み切って拳をぶちかました。

 

 そして魔剣が拳に激突した瞬間、大爆発が起きる。

 

「これが俺の神器、巨人の悪戯(マイティング・デトネイション)よぉ!!」

 

 チッ! 龍王の後継種をぶん殴った拳は健在ってか! シャレにならねえ威力だな、オイ!!

 

 更に放たれたカウンターを躱すと、更にジークが突進してくる。

 

 上等! やってやろうじゃ―

 

「リセスぅううううう!!!」

 

 の野郎! 流れをガン無視して姐さん狙いか!!

 

 姐さんも呆れ顔になりながらも、カウンターで氷の槍を射出する。

 

 しかも目くらましに巨大な氷の槍を出して、その後ろから小規模な氷の弾丸をぶっ放すという二段構え。遠慮がねえ。

 

 それをグラムで一刀両断し、更にジークは背中の腕を展開すると、同時に異空間を展開して巨大な楯とその手に持った。

 

「防具は必要だよね!」

 

 そして弾幕を強引に突破して、ジークは姐さんにグラムを振り下ろす。

 

 それを暴風を生み出して素早く後ろに飛び退ると、姐さんは巨大なメイスを二本も構えて戦闘態勢を取った。

 

「あの、余計なこと言ったのは謝るから少し落ち着いてくれない?」

 

「無理に決まってるじゃないかぁああああ!!!」

 

 姐さん頑張れ!!

 

 そんなことしている間に、曹操も聖槍を構えて、俺達に切っ先を向けていた。

 

「長可。ペト・レスィーヴの警戒を頼む。俺達は余興を楽しませてもらうよ」

 

「そういう遊び心は嫌いじゃねえがな。やり方間違えると痛い目見るぜ?」

 

 そうため息をつきながら、長可はしかし了承する。

 

 そして、鋭い視線をペトがいる方向に向けた。

 

 ……気づいてやがる。こいつ、狙撃に対して敏感すぎやしねえか!?

 

 そして、ジャンヌは木場に、ヘラクレスはゼノヴィアとイリナに突撃を仕掛ける。

 

 クソ。結局奴らの思い通りかよ!!

 

 しかもこの空間は英雄派のお手製だ。八坂姫を連れて脱出しようにも、どうすればいいのかがわからねえ。

 

 普通に考えればゲオルクを倒すのが一番。だがそんなことを英雄派も許さないだろう。とどめに一番頑丈だから、不意打ちで仕掛けても倒す前に邪魔が入る。

 

 どっちにしたって、ここで曹操達を倒さねえ限り意味がねえな、これは!!

 

 迫りくる曹操の攻撃を、俺は素早く弾く。

 

 だが、衝撃で大きく俺の槍も弾かれた。

 

 そしてその隙をついて素早く連撃。

 

 これを魔剣で横から蹴って弾き飛ばす。

 

 そしてその瞬間、槍が回転して石突が叩き込まれる。

 

 迎撃こそ出来なかったが、打突部位にホンダブレードを展開して衝撃吸収。

 

 そして、俺の顔面に曹操の肘が直撃した。

 

 クソが! こいつ、前回の時より強くなってやがる!!

 

 っていうか全然本気出してなかったな!? 野郎、どこまで強くなってる!!

 

 更に追撃が放たれようとした瞬間、曹操はバックステップを行って距離を取る。

 

 そして、俺の目の前の地面が粉砕された。

 

 この攻撃力、イッセーか!

 

「んの野郎! とにかくお前はぶん殴る!!」

 

「無理だね。俺は弱くないよ」

 

 赤龍帝を前にして、しかし曹操は余裕の表情だった。

 

 そして、一瞬で懐に入ると素早くイッセーの懐に槍を突き出す。

 

 ってさせるか!

 

「危ねえイッセー!」

 

「ぐはっ!?」

 

 とっさに蹴り飛ばしてイッセーを槍から離れさせ、即座に迎撃。

 

 近接戦闘だと未だにきついから、魔剣によるコイルガンで牽制する。

 

 むかつくがまだアイツの方が強い。クソムカつくがオリジナルの強みってのを思い知らされたな。

 

 そしてイッセーが復帰して、即座に反撃を開始した。

 

 速攻でドラゴンショットをぶっ放し、曹操がそれを弾き飛ばしている間に俺達は合流する。

 

「どんな勢いで蹴るんだよ!」

 

「スマン勢い!!」

 

 俺達は漫才をしながら、連携で俺達は曹操に仕掛ける。

 

 それを、曹操は的確に回避しながら聖槍で反撃する。

 

 だが甘い。二対一になったことで一気に対処が楽になった。

 

 もろに喰らえば悪魔のイッセーはやばいが、イッセーの左腕はドラゴンだ。悪魔の欠点は通用しない。

 

 それを最大限に活かして、俺達は全力で戦闘を行う。

 

 そして数回続けて、曹操は心底楽しそうに口角を吊り上げる。

 

「いいね! 流石に君達は凄腕だ! ロキを撃退しただけの事はあるじゃないか!!」

 

 その言葉と共に、曹操はイッセーの拳に足を載せて距離を取る。

 

 槍そのものを伸ばして遠距離戦闘を仕掛ける気か? だがそれはもう見た!

 

 遠距離戦なら、マスドライバースティンガーが付開ける。それを考慮すればこっちが有利!!

 

 そして俺達が踏み込んだ瞬間―

 

「モード・バムルンク」

 

 曹操は、ドリルのようなオーラを生み出すと突進を仕掛けてきた。

 




いつから、曹操が移植した神器が一つだけだと錯覚していた?


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第三章 40

 

 条件反射で、俺たちは横に飛んでそれを躱す。

 

 だが、そのオーラがイッセーの鎧を削り、更に俺の体をズタボロに切り刻んだ。

 

 くそ! いくら加護があるからって、鎧みたいな頑丈さはないってか!!

 

 しかも切っ先がバムルンクに近い形状になっている。

 

 これは、まさか―

 

「ああ、君に対する意趣返しとして、魔剣創造を移植させてもらったよ」

 

「ヒロイさん!」

 

「おっと、させないよ」

 

 アーシアが回復のオーラを放つが、それを曹操が弾き飛ばす。

 

 まずいな、コレ。何とか奴を出し抜かないと、死ぬぞ俺。

 

 そう思った瞬間、イッセーが俺と曹操の間に割って入る。

 

 そして、イッセーは渡されていたフェニックスの涙を俺にかけた。

 

「……悪い」

 

「気にすんな!」

 

 イッセーにはそう言われるが、しっかしこれで後がねえ。

 

 アーシアの回復も警戒されているし、これは流石にまずいんじゃねえか?

 

「そうだったそうだった。フェニックスの涙はそっちも持ってるか。いや、忘れてたよ」

 

 そう思い出したかのように言った曹操は懐に手を突っ込んで、見覚えのある瓶を取り出す。

 

 あれは……フェニックスの涙!?

 

「なんで、お前らが持ってやがる!!」

 

「旧魔王派に属したフェニックスの家系。裏ルートによる三大勢力からの横流し。そもそもリムヴァンもフェニックスの家系だ。俺達が持ってない方がおかしいぐらい、手に入れる方法はいくらでもあるさ」

 

 曹操は何言ってんだお前って顔で俺達にそうはっきり告げる。

 

 あまりに堂々と言ってきたので、イッセーが歯噛みするぐらいだ。

 

 くそが! 特に裏ルートが存在することがマジでむかつくな、オイ。

 

「まあ、俺にはあまり意味がないものなんだけどね。其れでも一応、組織のトップとして保険は必要ってわけさ」

 

 そうかい。そりゃご苦労なこって。

 

 しかも自信に満ち溢れてやがるな。そこも含めてマジでむかつく。

 

 しかし、その戦闘能力は驚異的だな。どうやって倒せばいいのか見当もつかねえ。

 

 くそ、このままだと確実に負ける……。

 

「あら? まだやってたの?」

 

「おいおい。肝心の大将が苦戦してどうすんだよ」

 

 そのジャンヌとヘラクレスの声に、俺たちは怖気すら感じて振り向いた。

 

 見れば、二人の足元に木場たちがボロボロで転がっている。

 

「おやおや。二人に本気どころか禁手も出させられないとは、思ったよりは簡単だったかな?」

 

 そう苦笑する曹操の声を聞いている余裕もねえ。

 

 マジかよ。あの三人を余裕で一蹴だと!?

 

 みたところ、大きな怪我をしている様子もねえ。息も切れている様子が見られない。

 

 くそ、なんて連中だよ!

 

『こちら狙撃班! 長可とかいうのが睨みきかせてて狙撃できないッス!』

 

『迂闊に仕掛ければ逆にこちらが攻撃されます。どうにか注意を逸らして……うぷ』

 

 チッ! 狙撃も無理かよ!!

 

「さてゲオルク。そろそろ龍喰者の準備を頼むよ」

 

「おい曹操。さすがにそれは余裕を見せすぎだぜ? そろそろ殺しとかねえと反撃喰らうぞ」

 

 いつの間にかこちらを見てすらいない曹操に、長可が注意する。

 

 くそ、最悪槍王の型で一発逆転を狙いたいってのに、あいつが邪魔で動けねえ!!

 

 クソッタレ! このままだと逃げることだってできねえってのに!!

 

 どうする? どうすれば……。

 

 そう思った瞬間、イッセーが光った。

 

 ……俺は即座に嫌な予感を覚える。

 

 これは、あれだ。乳ギレとか乳覚醒とか乳抑制とか乳神降臨とかした時と同じあれだ。

 

 乳か。また乳か!!

 

 もうあれだな。すでにこう、グレモリー眷属の必勝パターンと化してるよな、コレ。

 

 そう思っている俺の目の前で、イッセーから放たれたオーラが大量の人の形をとる。

 

「おっぱい」

 

「ぱいぱい」

 

「おっぱい」

 

「おっぱい」

 

「おぱ~い」

 

「おっぱい」

 

「おっぱいん」

 

「おっぱい」

 

「おぉおおおおっぱい!!」

 

 ……頭痛くなってきた俺は悪くないよな?

 

 っていうかいま、俺の声まで聞こえてきたんだが。そりゃそうだけど勘弁してくれや。

 

 これが終わったらイッセーを殴ろう。それも全力で殴り飛ばそう。

 

「おっぱいゾンビか?」

 

 曹操も、何が何だかわからない表情を浮かべてポカーンとしている。

 

 気持ちは痛いほどよくわかる。いい加減何度も目の前で経験している俺も、未だに慣れねぇ。

 

「リセスぅうううう!! さあ、僕の本気を受け取ってくれぇええええ!!!」

 

「いま、それどころじゃ、ないでしょ!!」

 

 姐さんガンバ!! あとジークさんキモいです!!

 

 ジークフリートが全く持って意に介していない中、おっぱいゾンビたちは溶けると魔方陣を形成する。

 

 な、なにが起こるんだ? 少し期待してきたぞ、俺は。

 

『……さあ、今こそ呼ぶのよ』

 

 と、そこで俺の耳に聞きなれない声が聞こえてきた。

 

 これは、乳神の時とおなじか!! またイッセーにしか聞こえないはずの声を聖槍が拾ってるのか!!

 

 っていうことは、この声の人物がエルシャとかいう人か。

 

 で、何を呼ぶんだ?

 

『貴方だけのおっぱいを!』

 

 ………はい?

 

 意味不明っぷりに俺がポカンとしてると、イッセーはものすごい勢いで拳を天に突き上げた。

 

「さ、さもん! おっぱいー!!」

 

 もう何が何だかわからねぇ!!

 

 だが、魔方陣は強く光り輝く。

 

 どうやら本当に呼ぶらしい。すげえな、オイ。

 

 そして、紅色のオーラが放たれ、そして一人の女性を召還した。

 

「急ぎなさい! 私のイッセーが英雄派と戦って……えぇ!?」

 

 お嬢だった。

 

 どうやら俺たちのところに向かう準備をしていたらしい。制服に着ている途中だった。

 

 そして、状況が全く分かってないのか、気づいた瞬間にポカンとしている。

 

『つつきなさい』

 

 ……なんか頭の痛くなる言葉が聞こえてきたぞ?

 

 つつくって……なに?

 

『彼女のおっぱいをつつきなさい』

 

「「なんでぇ!?」」

 

 思わずイッセーと一緒にツッコミを入れたよ。

 

 入れるしかねえよ! なんでそうなるんだよ!!

 

 おい姉ちゃん! あんた馬鹿なのか!?

 

「ぶ、部長の乳首は俺の覚醒スイッチじゃないんですよ!?」

 

 イッセーがまたツッコミを入れたじゃないか!

 

 変態に変態的な行動でツッコミを入れさせるなよ! あんたあれか、頭のネジがぶっ飛んでるのか!?

 

『いえ、あれは貴方の覚醒スイッチよ』

 

 ……反論しづれぇ。

 

 実際つついて覚醒したのは事実だしな。そりゃ覚醒スイッチと言われたら、ちょっと同感と思ったり思わなかったりするけどよ……。

 

「……あの、部長? 乳首つつかせてください!!」

 

 イッセー。お前ももうちょっとこう、言い方ってもんをだな?

 

「あれは英雄派? ……そういうことなのね、覚醒の時が来たということかしら」

 

 お嬢! なんでいきなり理解してるんですかい!?

 

 いやいやいやいや。ここはもうちょっとこう、警戒心というかなんというかいろいろあんでしょうが。落ち着きなさいなお嬢。

 

 と、思ったらお嬢は勢いよく胸を肌蹴ていた。

 

 …………。

 

 よし。脳内に急いで保存しなければ。

 

 俺が真剣にガン見していると、イッセーが鎧の指先を解除して、その乳首をつつく。

 

「いやん」

 

 鼻血が出そうになったが、出たら英雄として何かが終わる気がする。根性で抑え込め、俺。

 

「ぁあああああん!!」

 

 そして光に包まれたお嬢は、そのまま天に昇ると消えていった。

 

 ……ん? お嬢どうなった?

 

『するべきことが終わったので、元の場所に戻っていったわ』

 

 ひどすぎるわ!!

 

 え、ちょっと待て! つつくために呼び出しただけ!? そのためにこんだけの被害を生み出したのかよ!?

 

 おかしいだろ!! 痴漢を大量発生させるという大惨事を引き起こしておいて、やることがタダの転送!? 

 

 見た感じ千人以上いたぞ。それだけの人間の尊厳を地に落としてやることがこれかよ!!

 

 確かに神滅具で作られた特殊な空間に送り込むというのは恐るべし能力だ。これだけのことをするのは困難すぎるから、そういう意味じゃあマジすごい。ムクチャクチャな話もあったもんだ。

 

 だが、もしこれがこの場所じゃなくても結局呼び出してそのまま送還ってオチが見えてる。最悪、その場にいたら転送すら無いって感じだろう。

 

 ひどすぎる。千人以上の人の尊厳は、そこまで安いのかよ!!

 

 俺がその残酷な真実に涙を流す中、イッセーの鎧が赤く輝いた。

 

 な、ななななんだ!!

 

『……至り方は涙が出るほど最悪だが、しかしこの展開は最高だ! 相棒、これなら奴らに一発かませるぞ!!』

 

「ああ、この力なら―」

 

 なんかわからねえが、覚醒は成功したってわけか。

 

 そりゃあんだけ酷い展開だったんだからな。全部ひっくり返すぐらいの奇跡を望むぜこの野郎!!

 

 そして赤龍帝の鎧が赤く輝き―

 

「―おっと」

 

 ―その瞬間、イッセーの体が聖なるオーラに貫かれた。

 

 何……だと?

 

「反応が遅れたぜ。あぶねえあぶねえ」

 

 その攻撃の方向を見れば、そこには槍を構えた長可の姿があった。

 

 あの野郎。ここで狙撃をぶちかましやがったのか!?

 

「おいおい。空気を読んでくれよ長可。せっかく余興が面白くなりそうだったのに」

 

 曹操がつまらなさそうにそう文句をつける。

 

 英雄派の面々も同感なのか、かなり不満げだ。

 

 それを見て、長可は何考えてんだコイツらはという目でため息をつく。

 

「阿呆が。相手の成長なんぞ潰すのが定石だろうが。こんなわけのわからねえ展開、させねえに越したことねえだろ」

 

 そう言いながら、長可はこちらに向かって駆け出す。

 

 チッ! ここで一気に俺達を殺す算段か!!

 

「させるわけがないでしょう!!」

 

 とっさに姐さんが攻撃を放ち、さらにジークを投げ飛ばして長可の進行を阻む。

 

 そして俺と一緒にイッセーをカバーするように割って入った。

 

 つってもこの状況、戦力が一気に下がったな、オイ。

 

 イッセー抜きで戦えるか? こいつ、俺らの中でも単純戦闘能力なら最強格なんだぞ?

 

「つれないなぁ、リセス。もっと楽しもうじゃないか……」

 

「おら、お前らもさっさと参戦しろ。倒せる敵を倒さねえのは悪い癖だぜ?」

 

 ジークフリートも長可も戦闘可能。これは……まずいか?

 

 そう思ったその瞬間、俺達に触れる手があった。

 

「……上等だ。だったらこうしてやるよ」

 

 イッセー? 相当やばいはずだし、無茶しねえほうがいいと思うんだけどよ?

 

 そう思った、その瞬間だった。

 

『Transfer!!』

 

 一瞬で、赤龍帝の力が俺と姐さんに流れ込む。

 

 いや、これは赤龍帝の籠手の力じゃない。それどころか赤龍帝の鎧の力ですらない。

 

 これはそれ以上。今までを圧倒する圧倒的な力の奔流だった。

 

「俺がなるはずだった赤龍帝の可能性。全部ヒロイとリセスさんに明け渡す!!」

 

「あんだとぉ!?」

 

 イッセーの言葉に、長可が度肝を抜かれた。

 

 俺も驚いたぜ。おいおい、正気かよ。

 

 赤龍帝の可能性を、今ここで俺達に譲渡するだって!?

 

 友が託した力でパワーアップとか、ヒーローって感じでいいじゃねえか!!

 

「上等だ! 意地でも活路を開いてやるから、待ってやがれ!!」

 

「……やるしかないわね。いいわ。成果を獲得してあげる!!」

 

 俺も姐さんも一瞬で覚悟を決める。

 

 そして、決意を表明した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が英雄とは、輝き照らす光なり。

 

 陽光に焦がれ、閃光で照らし、そして人々を栄光に導かん。

 

 我、赤き龍の輝きに照らされ、同胞を照らす強き輝きになることを誓う!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が英雄とは、心折れぬ力なり。

 

 心を強く、体を強く、そして心体を支える魂こそ強くあれ。

 

 我、赤き龍の強さを宿し、弱き己を乗り越える圧倒的な強者であり続けん!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、一対の龍が其の場に現れた。

 

 一人は、赤き龍を模した羽衣をその身に纏う歌姫(ディーヴァ)

 

 一人は、赤き龍を模した軽装鎧を着こなした勇者(ヒーロー)

 

 そして、其の力は圧倒的なまでに、今までを超えて高まっていた。

 

 そして、静かな瞳が若き英雄達を貫く。

 

 その瞬間、英雄派の者達は認識を改めた。

 

 この敵は、まず間違いなく強敵だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「名付けて、龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)ってところか」

 

「なら、龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)と名付けましょう」

 

 ヒロイもリセスも、静かにそう告げ、そして静かに戦闘態勢を取る。

 

「待ってなイッセー。いいもんもらった分成果は上げるぜ」

 

「そうね。さっきまで好きにやっていた分、反撃するとしましょうか」

 

 そして、戦闘は再び激化する。

 

Other Side

 




曹操の魔剣創造は、聖槍と合体させて行うスタイルです。悪魔で聖槍中心なのが曹操のこだわり。

さらに原作よりも強化されいているため、ジャンヌもヘラクレスも禁手すら使ってません。かなりやばいです。



とどめに容赦ない長可。イッセーの覚醒を台無しにしました。……が、イッセーは頭が意外と回る男なので速攻で反撃しました。因みにリアスは前もって連絡されていたので急いで駆けつけるところでした。









メタ的な理由を言うと、原作でも影が薄いトリアイナは別の形に進化させる方向にもっていきたかったのです。そして後半になっても登場できるように改造したい。

そこで、ヒロイたちのパワーアップに使用しました。譲渡の応用ですね。イッセーファインプレー。


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第三章 41 激戦決着

ついにこの戦いも終幕を迎えます。

さあ、赤き龍の願いを受けて、駆け抜けろ! 二人の英雄よ!!








それはともかく、リセスの過去編を現在執筆中。

人によってはペトの過去がかすむかもしれないぐらい鬱なので、今のうちに覚悟しておいてください。



 この力。これが、赤龍帝ドライグの秘められた力ってやつか。

 

 それが、悪魔の駒によって本格的に解放されたのがこれだってのか。

 

 ははっ! すげえな、オイ!! 俺の語彙じゃあ、いい言い回しが全然思いつかねえぜ!!

 

 だが、これだけは断言できる。

 

「……やろうか、姐さん」

 

「やりましょうか、ヒロイ」

 

 俺たちの反撃は、ここからだ!!

 

「ここで強くなったか、いいね、リセス!!」

 

 そう言うなり、ジークが一気に突進して、グラムで切りかかる。

 

 そしてその瞬間、その姿が変質した。

 

 背中の腕がより巨大になり、さらに横から翼が映える。

 

 そして全身が鎧に包まれ、一気に出力が増大化する。

 

「これが僕の禁手、龍をまといし魔剣士(カオスエッジ・テスタメント)! このグラムを使うことに特化した禁手なら、やりようはある!!」

 

「上等よ!!」

 

 真正面から姐さんは、その一撃を白羽取りした。

 

 そしてその瞬間、グラムから力が解放される。

 

「終わりなさい!!」

 

「な!?」

 

 ……グラムから、ジークフリートに向かってオーラが放たれる。

 

 煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)はあらゆる属性を支配する神滅具。姐さんは、特訓の果てに龍殺しのオーラすら支配できるようになった。

 

 だからって、グラムのオーラを使い手を無視して操って使い手を攻撃ってできるのかよ!!。

 

「そんなあからさまに龍の神器を使っているなら、貴方もグラムには弱いでしょう!!」

 

「……いい。いいよ、リセス!!」

 

 血反吐を吐きながら、しかしジークは満面の笑みを浮かべる。

 

 おいおい。本気で喜んでるやつの顔だよ、アレ。

 

「グラムのオーラが僕を祝福してくれる。そう、これは呪いなんかじゃない、祝福さ!!」

 

 あ、これ、ホントにやばい方向に覚醒してる。誰がどう見てもヤンデレのそれだよ。キモイよ。

 

 そしてジークは血反吐を吐きながらも、狂喜の表情で立ち上がった。

 

 そしてグラムを頬で撫でて、姐さんにニヤケヅラを見せつける。

 

「ありがとう、リセス。やっぱり君は最高だ!!」

 

「そう。あなたは最悪よ!!」

 

 そして再度激突。

 

 流石に使い手なだけあり、半ば不意打ちだったさっきとは違って、グラムのオーラを制御されたりはしない。

 

 だが効果的なのは確定した。だから姐さんはもちろん龍殺しのオーラを使って戦闘続行。遠慮なくぶち殺しに挑む。

 

 そして、其れをついて英雄派の構成員が攻撃を仕掛けてくる。

 

 させると思うか―

 

「ヒロイは大将首に集中しなさい!!」

 

 え!?

 

 でも姐さん? ジークフリートを相手にしながらその数は流石に……。

 

「邪魔するな、殺すぞ!」

 

 あ、かなり切れてる。

 

 どうやら一対一でぶちのめすことに拘りがあるようだ。かなりマジ切れだ。

 

 だが、姐さんはそれを意に介さず指を鳴らした。

 

 その直後、現れるのはキョジンキラー。しかも三体同時。

 

 その上、キョジンキラーにぴったり合うサイズのガトリングガンを装備している。どう考えてもオーダーメイドだよ。装備強化してるよ。

 

 だけど、普通に考えてジークの奴が乗せる隙を作ってくれるわけがねえし―

 

「エンチャント!!」

 

 その瞬間、キョジンキラー三体に雷撃が纏わり付いた。

 

 そしてキョジンキラーが駆動し、ガトリングガンで一斉に構成員に弾幕を張る。

 

 秒間数十発の弾丸が、遠慮なく英雄派を足止めする。

 

「これが龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)の固有能力。属性のエンチャントよ!!」

 

 おお、そういう能力なのか!! すげえな!!

 

 なら、俺も成果を出さねえとな!!

 

 狙うは大将首一つ。足止めされている間に曹操を叩き潰す!!

 

龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)の能力はシンプルだ」

 

 龍の翼を模したウイングスラスターが稼働し、更に体の各部を覆うプロテクターからスラスターを展開して駆動。

 

 一瞬で、内臓が潰れそうなほどのGがかかる。

 

 だが、その瞬間には曹操を間合いに収めていた。

 

「推進力重視の超強化だ!!」

 

「これは速い!!」

 

 放たれる攻撃を曹操はギリギリで槍でさばく。

 

 やるな。だが、この速度にはついてこれないだろう!!

 

 俺はヒット&アウェイに徹底して連続して一撃離脱の攻撃を叩き込む。

 

 もちろん、離れる時にコイルガンで牽制することも忘れない。

 

 最高速度があれすぎるので、流石に命中させるのは難しすぎる。だけど多少ばらけているからこそ、曹操の動きを抑制する。

 

 あまり長時間は出せないだろう。だから、これで決める!!

 

「曹操ぅうううう!!!」

 

「紛い物風情が、ここまでできるとはね!!」

 

 連続攻撃による一撃離脱を、曹操は回避し続ける。

 

 しかも、いつの間にか反撃を行っている。しかも俺の軽装の鎧を避けて、体に当てるような狙いの付け方だ。

 

 野郎! 既にこっちの動きに対応してるってか!!

 

 だが、なめんな!!

 

「槍王の型」

 

 この超高速で、一気にぶちのめす!!

 

「……甘いな!」

 

 そしてその瞬間、曹操は槍の切っ先に聖槍を叩き付ける。

 

「これで、槍王の型は出せないだろう―」

 

「―崩星(くずれぼし)

 

 その瞬間、スナップを効かせて回転させた石突が、曹操の後頭部に直撃する。

 

 これが、槍王の型の第三の型。

 

 槍を回転させることで石月を叩き付ける、流星(ながれぼし)箒星(ほうきぼし)の迎撃を打ちかましてきた相手用の崩星だ。

 

 威力は堕ちるが、これは二つの対策を取った以上、逆にこれは防げないだろう!!

 

「なるほど、ここまでやるとは―」

 

「遅い!!」

 

 そして、その隙をついて曹操の腕を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 よっしゃぁ!! やってくれたぜ、ヒロイ!!

 

 ヒロイが勢いよく曹操の腕を切り落として、そしていったん距離を取った。

 

「チッ! だから遊びすぎるなって言ったんだよ!!」

 

 そう言い捨てながら、長可がキョジンキラーの一体を聖槍でぶった切ったからだ。

 

 これでリセスさんが抑えていた英雄派のメンバーがだいぶ自由になった。

 

 だけど、少しは何とかなった。

 

「……ゴメン、待たせたよ」

 

 木場が立ち上がって、聖魔剣を構える。

 

 よし。俺も含めてみんな回復した。これで俺達も戦える。

 

 ヒロイとリセスさんがいるなら対抗はできる。それに、長可を押さえる事が出来ればペトの狙撃もある。

 

 まだ負けてないぜ、曹操!!

 

「……いやいや。俺もまだ若いな」

 

 そう苦笑しながら、曹操は切り飛ばされた腕を、器用に切れた腕とくっつける。

 

 そして一瞬でその手の指が動いた。

 

「よし。これでいい」

 

「……んなあほな」

 

 ありえない。回復力ありすぎだろう、それ。

 

 切り落とされた腕を、空中でくっつけるとかマジかよ。再生能力が高いつったって限度ってもんがあるだろ。

 

 くそ。リセスさんのと違って、やつの始原の人間は再生能力が高いってわけか。やってくれるな、オイ。

 

「さて、どうやらまだまだやれそうだけど、こっちも実験を成功させたいし……どうしたものかね」

 

 曹操がそう言いながら、聖槍を向ける。

 

 こりゃ仕切り直しか、いいぜ、やってやる。

 

 こうなったらとことんまでやってやる。命かけてでもあいつをぎゃふんと言わせてやるぜ。

 

 そして、八坂さんを取り戻す!!

 

 そう思ったその瞬間、天が裂けた。

 

 ……嘘だろ!? このタイミングでグレートレッドか!?

 

「どうやら実験は成功のようだ。ゲオルク、龍喰者(ドラゴン・イーター)の準備を―」

 

 そう言いかけた曹操の表情が引き締まる。

 

 ああ、俺だっておかしいことは分かる。

 

 グレートレッドは黙示録の赤き龍だ。つまり西洋系のドラゴンだ。つまりはトカゲに羽生えた感じが正解だ。

 

 だが、あれは蛇に手が生えた感じだ。東洋系の龍なのは確定的に明らか。

 

 つまり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事情は大体理解する事が出来たぜ。

 

「実験は失敗したみたいだな、曹操!」

 

「まあ、こういうのはトライ&エラーだしね」

 

 チッ! 煽ってんのにスルーしやがった。

 

 っていうか、アレ、なんか龍王クラスのオーラがしてんだけど何もんだ?

 

「あれは玉龍!? と言う事は……」

 

 なんか目を見開いている曹操の視線の先、その玉龍の上から、三人のちっこい人影が降り立った。

 

 よく見ると、猿と豚とかいるんだけど……。

 

「まさか西遊記!? と、言うことは最後の一人は河童ぁぶろぉ!?」

 

「河童言うな」

 

 さ、沙悟浄は河童じゃないのか……?

 

 と、とりあえず、この人達が増援と言う事か。

 

 西遊記で有名な三人組。孫悟空、猪八戒、沙悟浄。

 

 た、確かにこの伝説級のドリームチームをチームで投入するとか、須弥山の本気具合が見えるってもんだ。

 

 そこまでしねえと勝てねえってのかよ。ちょっとシャレにならねえな、オイ。

 

「これはこれは闘戦勝仏殿。かつての三英傑を揃えて参上するとは、流石に想定外でした」

 

「そりゃぁ、今のお前さん達は儂一人じゃ荷が重いからのぉ。お主ら相手じゃ儂らも本腰入れんとあかんわい」

 

 と、孫悟空らしきお猿さんがそうため息をついた。

 

 ま、マジか。マジでそのレベルなのか。

 

「坊主達もこいつらの相手は大変じゃったろう? 後はこの老いぼれ達に任せときな」

 

 そう孫悟空が言った瞬間、持っていた如意棒らしき棒がぶれた。

 

 そして金属音が鳴り響き、聖槍が弾かれる。

 

「……流石に手抜きで倒されてはくれませんか」

 

「まったく。関帝は神にまでなったというのに、こっちは異形の毒になるとはのぉ」

 

 そしてその瞬間、一瞬で攻撃の群れが放たれた。

 

「いつの世も覇道は長続きしないもんじゃわい!!」

 

「永く残るのは名声で結構!!」

 

 そんな猛烈バトルが繰り広げられている間、更に猪八戒と沙悟浄も激戦を繰り広げている。

 

 わ、割って入るのも一苦労レベルだ……。

 

「河童風情が!! リセスとの語らいの邪魔をするな!!」

 

「河童いうな!! しつこいわ!!」

 

 マジギレしているジークとマジギレしている沙悟浄の戦闘には割って入りたくない。っていうか入れない。

 

 入ったら絶対俺が殺される。こんなあほな死に方はごめんだ。

 

 そして、猪八戒の方はジャンヌとヘラクレスが相対していた。

 

「実験失敗のやけ食いは豚の丸焼きかよ!!」

 

「太っちゃいそうね!!」

 

「……飯、食っときゃよかったなぁ」

 

 それぞれがハイレベルの激戦を繰り広げながら、しかし決着はつかない。

 

 おいおいマジかよ。西遊記の英雄三人が総出を上げて是か。

 

 あいつ等、まだ本気じゃなかったって事か!!

 

「あの御三方を相手にして一歩も引かないとは。……これが、禍の団の精鋭部隊、英雄派の真の実力なのか……」

 

 回復した木場が、息を呑んでこの激戦を見る。

 

 ああ、俺も驚いているって。

 

 流石にこれはやばすぎる。龍槍の勇者状態の俺ですら、一撃離脱戦法に特化しなけりゃ対抗できそうにねえ。

 

 これが、最上級の連中によるガチバトルって事か……!

 

 その瞬間、狐の遠吠えのような悲鳴が響く。

 

 見ればヴリトラと玉龍に取り押さえられて、八坂姫が動けなくなっていた。

 

 よし! こっちはこれで何とかなるか!!

 

 その瞬間、長可が動いた。

 

 後ろから孫悟空に飛び掛かると、そのまま聖槍で切りつける。

 

 当然避けられたが、その隙をついて曹操と長可は距離を取った。

 

 更に二人が聖槍を伸ばし、猪八戒と沙悟浄の2人に牽制を入れて仲間に離脱する隙を作り上げる。

 

「……引き時だぜ、曹操」

 

「だろうな。実験も失敗したし、引き上げるか」

 

 ……潮時か。

 

 とりあえず、これで何とかなったと言う事か。

 

 だけど、このまま逃がすってのも癪だな。

 

 さんざん調子に乗せられておきながら、このままやられるってのは流石に……なぁ。

 

 そう思っていたその時、イッセーが一歩前に出る。

 

「……流石に、一発ぐらいかまさねえと気がすまないよな」

 

 だよなぁ。こんだけやられて何もしないってのも癪に障る。

 

 出来る事なら一発ぐらいかましたいところなんだが……。

 

「……ほぅ。面白い事しようとしてるじゃねえかい。じゃ、わしの代わりに一発かましてみるかい?」

 

 と、孫悟空殿がポンとイッセーを軽く叩く。

 

 その瞬間、イッセーのオーラが瞬間的に増大した。

 

 是なら、行けるか?

 

「散々好き勝手やって、このまま帰れると思ってんじゃねえぞ、曹操ぅうううううう!!!」

 

 イッセーがとっさに一撃を放つ。

 

 それを曹操達は冷静に受け止め、曹操は槍を射線に構えた。

 

 チッ! あれは防がれるか―

 

「曲がれ、ドラゴンショットぉおおおおお!!」

 

 その瞬間、ドラゴンショットが山なりに軌道を逸らした。

 

 槍を交わしたその一撃は。曹操の目をかすめる。

 

「……ふ、ふふふ」

 

 思わず目を抑えて、曹操は含み笑いを漏らす。

 

「だから言ったんだよ。てめえは油断しすぎだ」

 

「みたいだね。やっぱり、俺もまだまだ若いな」

 

 長可にそう言われて苦笑した曹操は、不敵な表情を浮かべて槍を構えた。

 

 それを見て、ジークとゲオルクが目を見開いた。

 

「覇輝《トゥルース・イデア》か!?」

 

「待て、流石にまだ早いぞ!!」

 

「いや、今だからこそやるのさ」

 

 そうあっさりと振り切った曹操は槍を構える。

 

 そして、槍の輝きが一層増した。

 

 おいおいなんだ!? まさか禁手でも使うつもりか!?

 

「下がれ坊主達! 下手すると儂らでもまずい事になるぞ!!」

 

 その言葉に俺達が後退する中、曹操は槍を構えて言葉を紡いだ。

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ。汝よ、遺志を語りて、輝きとなせ」

 

 そう、なぜか棒読みで告げられた言葉とともに、輝きは一気に増大化し―

 

「―まあ、こうなるか」

 

 ―そのまま、何事もなく消え去った。

 

 ………あれ?

 

 今、明らかにかなり本気でぶちかましてたよな、あれ。

 

 誰が見ても切り札的な運用だよな。すごい必殺技的なことをやろうとしてたよな、オイ。

 

 なんで不発? もしかして、まだ試作段階でよくわかってないとかそういうオチの類なのか?

 

「やはり神頼みはよくないね。やるならヴァーリのようにねじ伏せる方向で努力するべきか」

 

 そう呟くと、曹操は踵を返した。

 

 んの野郎。ここで逃げる気か!?

 

「兵藤一誠、ヒロイ・カッシウス。……次に当たる時までに、其の力をより高めておいてくれ。……俺もその時は禁手をお披露目しよう」

 

 禁手をお披露目しよう……ねえ。

 

 つまり、今回の戦いでは禁手は使えたけど使わなかった。その必要もないと判断されていたってことなわけかよ。

 

 本当に、なめられたもんだ………!

 




ジークの禁手はもちろん変化させました。イメージモデルはテスタメントガンダ〇ですね。

リセスのパワーアップは属性の制御能力を上昇させたと思ってください。不意打ちなら魔剣のオーラを操作して操ることも、属性を離れた味方に付加することもできる。キョジンキラーの操作は電撃属性付加の応用によるものと思ってください。

そして本気の片りんを見せた英雄派たち。強化された彼らの戦闘能力は、すでに神クラスと戦っても渡り合えるほどにまで強化されています。本当に遊び半分の余興のつもりだったからこそ、イッセーたちは生き残ったのです。

そして曹操も覇輝が使えないことにはうすうす気づいてました。……まあ、聖書の神の意志が放つってんだから、聖書の教えと敵対してたら出ない可能性は考慮するべきでしょうねぇ。


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第三章 42 

 

 そして、西遊記の英雄達に連れられて、俺達は何とか本来の京都に戻ることができた。

 

 そして、目の前に紅い髪が映った。

 

「イッセー! みんな!!」

 

「ぶ、部長!?」

 

 お嬢達の姿を見て、俺達は目を見開いた。

 

 ああ、そういや召喚されたとき、お嬢達は京都に向かう途中的な事を言っていたな。忘れてた。

 

 で、今まさに到着したということか。

 

「何が何だかわからなくて心配したわ。無事でよかった……」

 

「部長のおかげです! 部長のおっぱいがあったおかげで、曹操の奴に一発かましてやれました!!」

 

 イッセー。そう言うことは言わなくていいからな?

 

 っていうか、おっぱいの力で一発かますって、なんだそのパワーワード。誰がどう聞いても言ったやつの正気を疑うっての。

 

 でも、俺も姐さんもおっぱいの力でパワーアップしたってことなんだよなぁ。

 

「……冷静に考えると、すごい複雑ね」

 

 姐さんが苦笑しながら遠い目をするけど、その通りだ。

 

 俺も、冷静に考えるとすっごく複雑。

 

「ひっく。結局何も活躍できなかったっす~」

 

「よしよし。ペトさんの狙撃は驚異すぎるから、警戒されるのは当たり前だしね」

 

「私も何もできませんでした……うっぷ」

 

 ペトが木場に慰められてるが、狙撃を警戒されて長可は本腰入ってなかった節あるしな。それが無かったらやばかったかもしれん。

 

 そういう意味じゃあ大活躍だ。マジ助かったぜ、ペト。

 

 そして、ロスヴァイセさん。あんたまだ悪酔いしてるんですか?

 

 もう、アンタ酒飲むのやめた方がいいって。向いてねえよ、酒に。

 

「しかしまあ、よく曹操達相手に生き残ったもんじゃな、坊主達」

 

 と、孫悟空殿がこっちに来ながらからからと笑った。

 

「奴を相手にするのは、儂らでもわりとしんどいんじゃがのう。並の上級悪魔と眷属なら、遊び半分で皆殺しって程の猛者共になってるしなぁ」

 

 そういって、孫悟空殿はため息をつく。

 

 そういやなんか知り合いっぽかったな。前にも何度かやり合ってるのか?

 

「あいつらが遊び半分とは言え、全員生き残ったのは凄い事じゃ。お前さん達なら、最上級悪魔になることだって夢じゃないだろうよ」

 

 そう言いながら、孫悟空はぽんぽんとイッセーをなでる。

 

「特にお前さんの進化の仕方がええ。今までの二天龍はただ暴れとっただけじゃが、お前さんは仲間とともに強くなっとる。そう言う方向でいきな」

 

「へ? ……あ、はい」

 

 イッセーはよく分かってないのか、ぽかんとしながらも頷いた。

 

 だが、なんとなく俺は分かる気がする。

 

 誰かと手を取り合って強くなれる。それはきっと、とても良い事のはずだ。

 

 そういう方向で強くなる事が、悪い事のはずがないんだからな。

 

「で、ですけど、京都が凄い事になってますぅううう!」

 

 ギャスパーがビビりながら、周りを見渡すのも気持ちは分かる。

 

 既に京都市はどこもかしこも火の手が上がっていて、被害は甚大というほかない。

 

 ビルも二割ぐらいは崩れて落ちているし、戦場だから火災も消火されてない。

 

 このままいけば、かなりの規模の被害が生まれるだろう。

 

「あらあら。ですが、クーデターの首謀者は既に捕縛されたそうですわ。英雄派も撤退しましたし、私達の仕事はないかもしれませんわね」

 

「……総理大臣が倒したそうです」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんが、そうほっとさせることを言ってくれる。

 

 なるほど。あの総理相手に勝負を挑んだのか、七夜とかいうやつは。

 

 あほな奴だ。あの人相手にして勝てる輩なんて、そうはいないってのに。

 

 まず間違いなく最上級悪魔クラスだろう。それも上から数えた方が早い部類の実力者だ。間違いなく世界の政治家で一番強い存在だと、心の底から断言できる。

 

 そんなのに突っかかるとか、七夜の奴も馬鹿な奴だ。あいつ、旧魔王派の幹部に匹敵する馬鹿だったんだなぁ。

 

 さて、それじゃあ俺達も残敵掃討をするべきか。

 

 ……と、思った瞬間缶詰が差し出された。

 

 見れば、そこには自衛官が戦闘糧食を抱えていた。

 

「お疲れ様です。あとはこちらで引き受けますので、皆さんは休息をとってください」

 

 ……どうやら、自衛隊としてはこれ以上高校生を戦わせる気はないみたいだ。

 

 口調は丁寧だけど、語気は強いよ。これ、断れねえな。

 

 ま、兎にも角にも京都はほぼ守れたってわけか。

 

 ふぅ。とんだ修学旅行だったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奇跡的なことに、駒王学園生徒に死者は一人としていなかった。

 

 しいて言うなら少し軽傷を負った程度で、病院送りにされるものすら一人としていない。

 

 まず間違いなく奇跡だ。神死んでんのに奇跡が起きたぞ。

 

 まあ、転生天使や悪魔祓いを中心とした人員がきちんと安全確保に動いていくれたおかげと言っていいだろう。ジョーカーに至っては相当大暴れした結果、クーデターを起した連中の一割ぐらいを一人で壊滅させたらしい。恐ろしいな。

 

 ま、とはいえ京都は現在大騒ぎの真っ最中。この日本で戦渦に巻き込まれるという、とんでもない事態ゆえに色々と大変だ。

 

 もちろん俺達も緊急避難。修学旅行は中止確定で、このまま戻ることになっている。

 

 ……ちなみに帰りは飛行機だ。新幹線の線路がクーデターの影響で破壊されたので、サーゼクス様が急遽用意してくれたらしい。

 

 因みに、テレビではアジュカ様が特番に出演している。

 

『この度は、俺の判断ミスで大きな騒ぎを起こしてしまい申し訳なかった』

 

『え、えっと……。何がどうすれば痴漢が発生したんですか?』

 

『強大な色欲を持つ者に使用されていた、悪魔の駒のリミッターを解除した結果、彼の色欲が京都の人達にコピー&ペーストされたと思われます。その結果、色欲を制御する事ができずに乳房に襲い掛かるという行動をとってしまったものと思われており……』

 

 などと、現在会話している内容はイッセーの可能性によって発生した、痴漢騒ぎの釈明である。

 

 うん。誰も予想できねぇしな。

 

 なんで可能性を解き放ったら飛び出るんだよ。しかも、なんでイッセーの煩悩までコピーしてくんだよ。

 

 そのせいで大騒ぎじゃねえか。大惨事じゃねえか。

 

 俺も酷い目にあった。ペトがパフパフしてくれなければ、きっと我慢できずにおっぱいに襲い掛かってきただろう。

 

 ……想像するだけでビビる。マジ助かったぜ、ペト!!

 

「ありがとう、ペト!!」

 

「ふふん。自分に感謝するッスよ」

 

 ペト、ありがとう!! 大好きだ同士!!

 

 そして、イッセーはテレビを遠い目で見て黄昏ていた。

 

 その背中は煤けている。ものの見事に落ち込んでいる。

 

「……これ、全国ネットでばらす必要あったのかよ」

 

 絶望の表情をイッセーは浮かべている。

 

 まあ、自分の煩悩が原因で痴漢が大量に発生したとか、普通は言われたくねえよな。悪意もなかったんだし尚更だ。

 

 だが、異形の存在が公表されている今の情勢で隠しとくのは無理だ。ある程度、説明しておかないと大惨事に直結する。

 

 下手したら、日本でデモが起きて三大勢力との連携が台無しになる……こともあるよな。

 

 だから、ある程度は説明しないといけないわけだ。仕方ねえことだろうしな。

 

 流石に可哀想になったので、電磁王の能力を使ってチャンネルを変える。

 

『……昨日のクーデターは自衛隊と三大勢力の派遣部隊、そして京都の妖怪達の手によって速やかに鎮圧されました。今回の件について総理は「一部の愚か者が暴走しただけであり、大半のものは我々と同じくこの国を愛する者達である以上、妖怪達への短絡的な排斥はしてはならない」と見解を述べており……』

 

『同時多発的に行われた、親ヴィクター経済連合派によるクーデターはほぼ成功。唯一鎮圧に成功したのはこの京都のみであり、総理の先見の明による三大勢力及びアースガルズ、オリュンポスとの協調体制があったからこその……』

 

『現時点において、死者及び行方不明者の数は専門家の見識によれば「奇跡的に低い」とのことです。其の裏には別件で派遣されてきたバチカンの悪魔祓い達の協力があり……』

 

 どこもかしこも京都の一件の特別番組。当たり前とは言え個性がねえ。

 

 総理官邸で起きた和平阻止の騒動は、あくまで総理官邸とその周辺という狭い範囲で行われていた。そういう意味では、テロと大して変わりがねえ。

 

 しかも、マスコミなどが侵入しやすいようにわざと穴が開いていたとはいえ、一応は周辺を封鎖していたわけだ。映像越し程度でしか見られることはなかった。

 

 それが今回は普通に人がいる時でのクーデターだ。

 

 もちろん民間人が巻き込まれるのは当然。死傷者の数は奇跡的に低いとは言われてたが、裏を返せば死者だって少しは出てるってことだからな。

 

 明らかに大惨事。緊急事態。

 

 総理は会談が終了次第、霞が関に戻って本格的に動くそうだ。

 

 既に三大勢力に対しては協力の見返りとして融資を貰っている。そしてその殆どを防衛費にあてて自衛隊の増強を急いでいる。残りは京都の復興にあてるそうだ。

 

 古都京都を巻き込んだ大騒ぎ。この程度で済んだのは奇跡だ。そして、日本では未曽有の大被害だ。

 

 それだけ日本が平和だって事なんだが、しっかしこれは流石に質が悪いな。

 

「で? ネロ達はどうすんだ?」

 

「俺達は半分ぐらい京都に残ることになってるぜ。まだクーデターを起した連中が隠れてるかもしれないから、その辺りの探索役が欲しいんだとよ」

 

 ネロがそう言って肩をすくめる。

 

 ちなみに、総理が気を利かせてくれて護衛を用意してくれるとのことだ。

 

 これは俺達だけじゃなく、かなりの数が護衛に割かれるそうだ。

 

 とにかく国民及び観光客の安全確保が第一。それが国が下した結論らしい。

 

 ま、三大勢力がかなりの数を投入してるし、対異形対策はまだまだだしな。いても役に立たない人は多いだろう。

 

 俺達の護衛も、あくまで形だ。なにせ俺やイッセーがいるからなぁ。

 

 まあ、それでクラスメイト達の心が少しでも和らぐなら、それに越したことはねえわな。

 

「んじゃ、護衛もちゃんと頼むぜ?」

 

「おうよ!」

 

 そういって別れて、俺は姐さんの方に向かう。

 

 お嬢達はすぐに駒王町に戻っていったが、姐さんは一応念の為に残ってくれた。

 

 いわば護衛の1人ってことだ。いざという時は姐さんがメインになって対応するって手はずになってる。

 

「姐さん。姐さんがいてくれて助かったぜ」

 

 心からの本音だ。

 

 だって姐さんがいなけりゃ、少なくともジークがフリーになってたしな。

 

 しかも最後の最後ではキョジンキラー複数を操って英雄派のメンバーを足止めという、なんだかんだで絶妙にいい仕事をしてくれたぜ。

 

 姐さんが足止めしてくれなかったら、俺は曹操の腕を切り落とせなかったしな。マジ助かったぜ姐さん。

 

 だが、姐さんは答えない。

 

 難しい顔をして、黙ったままだ。

 

「……姐さん?」

 

「……」

 

 もう一度呼び掛けても、姐さんは答えない。

 

 ん? なんだなんだ?

 

「……結局、私は足止めが限界なのね」

 

 そう、姐さんがぽつりと呟いた。

 

 それが、とても印象に残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして帰ってきてから、俺達はお嬢の部屋で感想タイムだった。

 

 襲撃を受ける前に買っていた八つ橋を喰いながら、俺達はため息をつく。

 

「……ヴィクター経済連合には、本当に困ったもんだな」

 

「まさか京都でも動くとはね。識者の意見だと、京都の実験に合わせて各地でクーデターを起したらしいよって」

 

 俺のボヤキに、木場がそう説明する。

 

 なるほど。連続襲撃作戦で大打撃を受け、更に旧魔王派が暴走して派閥として終わったからな。

 

 更に京都の実験は失敗する可能性が高かった代物らしい。なんでも、本来なら龍王クラスのドラゴンを使って行うのが正しいやり方だとか。

 

 そういうわけで、失敗して更に士気が下がってもあれだと言う事で、都市規模での同時多発クーデターを行ったってとこらしいな。

 

 結果的にヴィクターの勢力圏は少しではあるが増大。京都以外は異形の力を運用する体制が整ってなかったこともあってすべて占領されたそうだ。

 

 怖いな、ヴィクターの連中は。

 

 そして、そういう意味では日本の撃退は数少ない明るいニュースってことになってるらしい。

 

 宗教的理由で中々他の神話体系の力を借りれない他国は、日本を経由することでおこぼれにあずかれないかどうか行動中。ただし日本は憲法上の都合で本格的な協力はとれない。そこが困りどころだ。

 

 現在のところは三大勢力が技術支援を取り付けようとしているが、聖書の教えを信仰してきたからこそ、悪魔や堕天使の力を借りることに抵抗のある者達も数多い。

 

 こりゃ、世界大国が入れ替わる日も近いんじゃねえだろうか。

 

「とは言え、私達が来た時にはほぼ終わっていたわね。日本の自衛隊は優秀だわ」

 

「同感だ。ドーインジャー相手にあそこまで渡り合うとは、ウツセミというのは優れた性能を持つんだな」

 

 と、お嬢とゼノヴィアが感心する。

 

 反対にアザゼルは苦い顔だ。

 

 凄い事は良いんだが、なんか複雑な理由でもあるんだろうか?

 

「……ありゃ、結構曰く付きの代物なんだけどな」

 

 そういうアザゼル曰く、元々ウツセミはグリゴリの技術を基にして作られた、人工独立具現型神器らしい。

 

 暴走した幹部が魔法使いの組織や五大宗家のはぐれ者を利用して生産した物だとか。

 

 なんでも、修学旅行中の学生を誘拐して非検体にしたという代物らしい。

 

 それが、五代宗家のはぐれ者が宗家によってボコられているどさくさに紛れて日本政府が回収。その前からこっそり集めていた魔法使い達に研究させた結果、今のウツセミが生まれたとか。

 

 技術大国日本すげえな。しかもそんなもん使うとか、相当肝が据わってねえとできねえだろ。清濁併せ呑むってこういうことか。

 

「ま、俺達としても今後の対ヴィクターの橋頭保ができたってのは喜ぶべきことかねぇ。元々五代宗家の在り方が原因の一つだし、その辺のごたごたは宗家に任せるか」

 

「あらあら。これは朱雀姉様も苦労しそうですわ」

 

 と、アザゼルと朱乃さんは苦笑する。

 

「俺としては凄く複雑な戦いでした。……俺のスケベ根性って、普通の人だと耐えられないってことですから」

 

 そう、イッセーは遠い目でぼやく。

 

 ああ、あれは強烈だった。

 

 この俺が、英雄魂を胸に秘めるこの俺が耐えられずに胸をもみに行きかねなかったからな。ペトがあと少し遅かったらどうなっていたことか。

 

「ペト。今日何が食いたい? 奢るぜ」

 

「え? じゃあヒロイ食べていいっすか?」

 

 …………いいかも。

 

「そういう学生らしくないことはほどほどにしてください」

 

 と、ロスヴァイセさんがばっさり切りすて、そしてため息をついた。

 

「イッセーくんの所為で痴漢をしてしまった人のフォローも大変です。京都のクーデターによる死者及び行方不明者より多いですからね」

 

 確かになぁ。

 

 千人は超えてたよな、アレ。

 

 まあ、イッセーも被害者っていやぁ被害者なんだが、これ絶対ややこしいことになるって。

 

「フォローにかかった金額は、アジュカ様が全額負担してくれるとのことです。あとでお礼を言っておいた方がいいですよ」

 

「そうします! いや、ホントマジでありがたいです!!」

 

 ロスヴァイセさんの言葉に、イッセーはここにはいないアジュカ様を拝み倒す。

 

 まあ、それはともかく。

 

 何とか全員無事に帰ってこれた。駒王学園の生徒も、軽症者はいても重傷者も死者もいない。こりゃ幸運だろうな。

 

「とりあえず、学園祭は例年通りに行われるんですよね」

 

「その様ですわ。むしろ修学旅行があんなことになってしまったからこそ、学園祭で取り返そうという形になりましたわ」

 

 木場と朱乃さんの会話を聞いて、俺は少しほっとした。

 

 修学旅行は酷い事になったからな。せめて学園祭は普通に楽しみたいぜ。

 

 ああ、学園祭学園祭。楽しい楽しい学園祭!!

 

「ちょうどその頃には、フェニックス家の御令嬢がこの駒王学園に転校してくるそうだ。オカルト研究部が預かることになってるからな」

 

 アザゼル先生の追加報告は俺達も受けている。

 

 なんでも、部長の元婚約者だったライザー・フェニックスとやらの妹さんが、この駒王学園に来るらしい。

 

 ちなみに一年生だ。後輩が増えたぜ!!

 

「本当に、イッセー君は僕のことを悪く言えなくなってきてるよね」

 

「イッセー先輩、すごいですぅ」

 

 木場とギャスパーがそう言いながら視線をイッセーに向けるが、肝心のイッセーは全く分かってなさそうだ。

 

 俺でもこの流れで一瞬で分かったぞ。完璧にイッセー狙いってことじゃねえか。

 

「ん? どゆこと?」

 

 イッセーは膝上の小猫ちゃんに尋ねるが、小猫ちゃんはそっぽを向いた。

 

「知りません」

 

 あらあら。小猫ちゃんも流石に嫉妬してるか。

 

「まあ、あなた達の場合はその前にバアルとのレーティングゲームがあるでしょうけどね」

 

 と、姐さんが引き締めるようにそう告げる。

 

 そうだったそうだった。イッセー達にはその前にイベントがあったんだった。

 

 若手最強、サイラオーグ・バアル。

 

 その男とのレーティングゲームが、ついに始まろうとしていたんだった。

 

 さて、一体どうなるのかねぇ?

 

 どっちが勝つのか、ものすごい見ものだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで右目がダメになったのかい? うっかり屋さんだなぁ」

 

「反論できないね。とはいえ、グレモリー眷属の強さを肌で堪能できたのはいい土産になったよ」

 

「グレートレッドの方はどうしようもないけどね。ま、望み薄の実験だしねぇ」

 

「やはり龍王を確保するべきだったと反省してるよ」

 

「……で、件のバアルVSグレモリーにはちょっかいかける気なんだよ。ヴァーリぶちぎれるのは確定だけどね」

 

「彼らが理由なんだけどね。俺達は虎の尾を踏む気は今のところないから、悪いがパスだ」

 

「……OKOK。なら、こっちも秘蔵っ子達に動いてもらうとするよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、僕はその時リセスの相手をするってことでいいんだね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろんだともニエくん。思う存分、復讐するといいよ」

 

「ジークには悪いけどな。まあ、これぐらい乗り越えなければ、相手をする意味もないということか」

 

「わかったよ。……あの、見当違いの罪滅ぼしにはいい加減うんざりだ。どうせ捨てた命だ、思いっきり暴れてやるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ってなよ、リセス。今会いに行くからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リセス、ちゃん……」

 




京都での激戦、何とか決着。





京都の痴漢騒ぎについて、イッセーについてなど一部をぼかしてですが魔王様直々に説明する羽目になりました。まあ、異形を社会に公表することになってるこの情勢で隠しておくのは無理がありましたしね。

一応イッセーは未成年で、かつ意図的にやったわけでないので今回は顔見世や名前の公表は無し。ですがもう一人の元凶であるアジュカ・ベルゼブブは直々に出て公式謝罪会見です。一番最初にマスコミに出てきたのがこの人で、しかも謝罪会見とか誰が想像できただろうか……。






ヒロイたち視点だと返り討ちにしてばかりのヴィクター経済連合ですが、実際のところは少しずつ勢力を広げており、十分危険です。……ネガキャン合戦で敵味方共に結構減ってるけどね!!

そんなわけで、クーデターそのものを阻止できたのは京都だけ。是の異形たちとの連携が取れてたおかげであるということで、総理の支持率はうなぎのぼりです。








第四章はライオンハート編です。とはいえ、普通にグレモリーVSバアルのレーティングゲームをしても原作通りにしか動かせないので、かなりオリジナル展開です。

具体的には

 大決戦! グレモリー&バアル&ルシファー! 倒せ、ヴィクター精鋭、イグドラフォース!!

 ですね。え? 後半意味わからない? 大丈夫、そこ迄は書き終わってるから遅かれ早かれ投稿するから!

 と、これだけなら熱い展開ですが、かなり鬱い展開にもなります。

 具体的に言うと、ついにリセスの過去について踏み込んだ説明をさせてもらいます。

 ヒロイにとっての英雄の基本骨子たる、リセス・イドアル。なによりも強い英雄であることを望む女。

 彼女がなぜ英雄になろうとしたのか、その裏にあるどす黒いものをついに全公開いたします。

 一応伏線は張っておきましたが、あれだけで詳細を全部図ることはできないので仕方ないですね。一応、「ああ、そういうことか」的な感じにはなるとは思いますが。

 名前だけ出てきたニエと、ちょい役だったプリスも本格的に絡むので待っていてください。









 と、言いたいところですがその前にもう一度オリジナル展開です。

 鬱に入る前の清涼剤。徹頭徹尾ツッコミどころだらけで構成される激戦です。

 三章なので戦場は日本。そしてでるぜぇ、彼女がでるぜぇ!!


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第三章 43 

はい、第三章ラストとなる、半分ギャグ編です。

……どっちかっていうとシリアル編が近いだろうか?



 

 修学旅行も終わり、学園祭の準備が本格的にスタートしたある日のことだ。

 

 俺達オカルト研究部に、二人のお客さんが現れた。

 

「お久しぶりですわ、リアスさまにイッセーさま」

 

「は~い! リアスちゃん達、お久~♪」

 

 一緒に現れたのは、件のレイヴェル・フェニックスとセラフォルーさま!!

 

 な、なんだなんだ?

 

「ごきげんようレイヴェル。そしてお久しぶりですわ、セラフォルー様」

 

 とにこやかに挨拶するお嬢だが、その表情は少しだけ強張っている。

 

 無理もない。セラフォルー様は割とトラブルメーカーだからな。何が起きたとしてもおかしくない。

 

 なんでもイッセーが映画の撮影に付き合わされて、吹っ飛ばされたとか。しかもメインどころを段ボール箱にとられたとか。

 

 冥界はおかしいと思う。

 

「とりあえず、私のお願いはレイヴェルちゃんの後でいいのよん」

 

「ありがとうございますわ、セラフォルー様。……それで、実はご相談があるのですが」

 

 と、言う事で相談してきたのは、レイヴェルちゃんの兄であるライザーの事だった。

 

 どうやらイッセーに一騎打ちで負けた事が酷くショックだったらしく、引き籠りになってしまったらしい。

 

 それもドラゴン恐怖症を併発しているとか。トラウマ刻み込まれまくりだろう。

 

「それで、専門家に相談したのですが……」

 

 その結果、なんでもグレモリー眷属のように根性を鍛えてみたらいいのではないかという意見になった。

 

 まあ、聞いている限り負け知らずゆえに慢心していたガラスのエリートっぽいしな。

 

 少しぐらい精神的なタフっぽさを手に入れなけりゃ、確かにやばいと思うな。

 

 今後、ヴィクター経済連合との戦いは激化する一方だろう。そうなれば、若手とはいえ現役であるライザーなどは前線に出る事も多いはず。

 

 前線ってのはハードな環境だからな。ある程度根性が無けりゃあやってられない。

 

 そうしなけりゃ、周りの輪を乱してどんどん状況が悪化する事だってあるだろう。それが原因で大敗を喫する事もある。その結果軍法会議にかけられる……って落ちもあるな。

 

 確かに、これは必要か。

 

「そういう事なら任せてください!! そもそも俺が負かしたのが責任ですから!!」

 

 と、イッセーが名乗りを上げたのでここは任せるべきか。

 

 なにせ根性ならイッセーが一番ある。むしろ適任だ。

 

 根性=イッセーと言っても過言じゃない。ここは任せてもいいだろうって気にはなるな。

 

「それじゃあ、次は私の番ね」

 

 と、何故かセラフォルー様は顔を少し赤くしていた。

 

 ……なに? この中の誰かに惚れたとか?

 

「こんなことをこのタイミングでいうのはちょっと恥ずかしいのだけれど……」

 

 うん。なにかな?

 

 そして、セラフォルー様は一枚のチラシを取り出した。

 

「お願い! 誰かこれに一緒に参加してほしいのよん!!」

 

 そこには、何らかのイベントっぽい感じのチラシがあった。

 

 俺は、それを目を凝らしてよーく見る。

 

―第一回、魔法少女フェスタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女フェスタ。それは、日本のアニメーションを代表するジャンルの一つ、魔法少女のフェスタだ。

 

 古今東西の様々な魔法少女のフェスタであり、小さな子供達から大きなお友達迄、数多くの魔法少女のファンが一堂に集結するイベントである。

 

 ちなみにエッチなお友達専用の同人誌コーナーまで完備してあるとのこと。至れり尽くせりである。

 

 そしてもちろんそれは幅広いジャンルを取っている。

 

 アニメの名シーンプレイバックはもちろん。

 

 この為だけに、絶版されたグッズの再生産が行われる。

 

 コスプレコーナーなど当然確保。

 

 主題歌を歌った歌手やアイドルも再結集して、ライブも開かれる。

 

 そして、そのイベントにセラフォルー様が参加する事は前から決まっていたらしい。

 

 その為に毎日頑張って仕事を終わらせて、ちゃんと休暇も申請している。

 

 まあ、普通に頑張ってるよな。これぐらいなら認めても罰は当たらねえだろ。

 

 と、言いたいのだが……。

 

「全てはヴィクター経済連合の所為なのよん!!」

 

 セラフォルー様が、魔法少女が決してしちゃいけない類の表情を浮かべている。

 

 ……俺の説教を受けて私服で活動しているからいいようなものの、いつものコスプレだったら大惨事だ。ほんと、説教してて良かった。

 

 まあ、それはともかく。

 

 このイベント、本当ならもっと前に行われる予定だった。

 

 だが、東京都でロキが和議を妨害した一件の所為で延期が確定。伸びに伸びてこの時期になったのだ。

 

 ロキが派手に動いたのも、本を正せばヴィクター経済連合が動いた為。そう言う意味ではヴィクターの所為と言っても過言ではない。

 

 そして何とか日程のずれをフォローする事に成功したセラフォルー様だが、護衛の日程までは上手く行かなかったのだ。

 

 ついてない事に近年に日本での連続の大事に上役が警戒心を強くしており、セラフォルー様の派閥とでもいうべき者達は「腕利きの護衛を必ずつける」事を参加の条件にした。

 

 ……で、白羽の矢が立ったのが俺だと言う事だ。

 

「別に契約金は貰ってるからいいですよ? その日は学校も休みだし」

 

「ホント!? あとで無理って言ったら氷漬けにするのよん?」

 

「言わないから言わないから。頼むからこの時期に氷漬けは勘弁してください」

 

 俺もそこまで鬼じゃねえよ。

 

 頑張って仕事終わらせたんだから、楽しむぐらいしてもいいじゃねえか。俺はそれには理解あるぜ?

 

 魔王なんて重責背負ってんだから、息抜きする時間ぐらいはあってもいいだろうしな。

 

「御免なさいねヒロイ。私達もできれば手伝いたいのだけれど……」

 

「学園祭の準備もありますもの。学園を留守にするわけにはいきませんわ」

 

 と、二大お姉さまが謝るが、まあそれは仕方がねえだろ。

 

 学園祭の準備もあるしな。無茶はできねえ。

 

 まあ、魔王をターゲットにして暗殺者が出てくる可能性ってのは確かにある。だけどお忍びだから可能性そのものは少ねえだろ。

 

 それにあまり多いと逆に目立つからな。あとは一人か二人ぐらいでいいんだが……。

 

「それなら私も参加するわ。2人もいれば十分でしょう」

 

 姐さんが、そう言って立ち上がる。

 

 おお、姐さんが来てくれるなら百人力だぜ!!

 

「ありがとうリセスちゃん! これで魔法少女フェスに参加できるわ!」

 

「気にしなくていいわ。たまにはこういうお祭り騒ぎもいいでしょうしね」

 

 ……よし! これで準備は整った。

 

 さて、魔法少女フェスタに向けて、準備スタート!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして参加しました、魔法少女フェスタ!!

 

 参加したのは良いんだが……。

 

「……大きなお友達、なめてた」

 

 つ、疲れるなコレ。

 

 戦闘とか訓練とかに比べると、別の意味で疲れるな。

 

 人ごみの中を掻い潜るのがまず大変だ。これでも噂のコミケと比べるとだいぶ少ないってんだから驚くしかねえ。

 

 レヴィアたんとはぐれないようにするので大変だ。

 

 っていうかレヴィアたんすげえな! 全然迷わず進んでやがる。

 

「しっかりしなさいヒロイ。この程度で気圧されているようじゃ、芸能界で生き残る事は出来ないわよ」

 

「いや。俺は芸能界に参加する気はないんだけど!?」

 

 だから姐さんはなんで芸能界に詳しいんだ!!

 

「アイドルのイベントならこの程度の混雑は当たり前。受け容れなさい!!」

 

「俺は芸能界に興味ないから!!」

 

 うぉお! 潰れる!!

 

 っていうかレヴィアたんどこ行った?

 

 いかん、護衛が護衛対象を見失ったなんて知られたら目も当てられねえ!!

 

「こっちよ。私の手をしっかり握ってなさい」

 

 と、姐さんが俺の腕を掴むとそのまま、人込みを綺麗にかき分けて迷いなく前に進んでいく。

 

 …………。

 

 姐さんの手、トレーニングで硬いけど、どこか柔らかい。

 

 やべえ。気が一瞬遠のいた。マジで感動ものだよ。

 

 アイドルと握手して、もう手を洗いたくないとかいう馬鹿いるよな。そんなことしたら汚いから色んな意味で問題なのに。なんでそんなことすんのかよくわからないってんだ。

 

 今気持ちわかった! 俺、今日、手を洗うのに覚悟がいるかもしれない!!

 

 うっひょぉおおおおお!! 俺、ついてるぜぇえええ!!!

 




セラフォルー様は少しだけTPOを身に着けた!

ライザーはこれから根性を身に着ける予定だ!!

と、いうことで時系列が少しずれてる気もするけどライザー特訓編の裏側で行われる相同です。

今回の戦いで、募集したオリジナル勢力が出てくるので、ぜひお楽しみに!!









こっちを第四章にするという発想もなかったわけではなかったのです。京都が激戦だからだ速週あるしね。

でも、四章はリセスの試練偏でもあるのでちょっとこれだとあわないし、日本を舞台としているので三章でまとめた方がいいと思いました。


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第三章 44

いやぁ、話数の三倍の感想ってのはうれしいもんですなぁ。

そんな作品ってそうはない。しかもこの作品、スタートダッシュで連続投稿してたからその分で送れるし。

やっぱり感想はいっぱいあった方がうれしいです!! 評価やPVもうれしいけど、直接喜んでくれる声が届くってのがいいですね!!









それはそれとして魔法少女フェスタですが、ミルたんのことすっかり忘れてました(汗

そして濃すぎる展開なので入れてる余裕がないです(滝汗


 

 魔法少女フェスタ、飲食物コーナー。

 

 魔法少女の中には、親が飲食店を経営していたりする者がいる。

 

 お菓子をテーマにした魔法少女もいる。

 

 魔法少女の好物がヒューチャーされたものだってある。

 

 そんなこんなで、このフェスタには飲食物もしっかりと構成されていた。

 

「まさか、こんな本格的なオムハヤシが食えるとは思わなかったぜ」

 

「貴方今三時よ? あ、このパフェ本格的」

 

「ジュースも美味しい! 力がいっぱい入ってるわねん」

 

 俺達は一通り回ってから、こうしてだべっている。

 

 いやぁ、疲れた疲れた。

 

 テンションがMAX状態のレヴィアたんに付き合ってたら、いつの間にやらもう三時だ。

 

 ……今日はよく眠れそうだぜ。疲れた。

 

 しかしホント人がいるなぁ。

 

 子どもはもちろんのこと、大人もたくさんいる。

 

 子供に付き合わされただけの親御さんだけじゃない。大きなお友達もたくさんいる。

 

 驚くべきは女の大人も多いってことだ。女子高生とか中学生がコスプレしてる。

 

 なんでも、コスプレ専門コーナーまであるってことだ。マジで色々と考えてやがるな、オイ。

 

「今日はいっぱい堪能したのよん。夜のライブも楽しみねん」

 

 と、ものすごい満喫しているレヴィアたんだが、しかし俺は疲れた。

 

 寝たい。一時間ぐらい寝たい。マジで寝たい。

 

「気張りなさい、ヒロイ。アイドルのライブは、別の意味で体力を浪費するわ」

 

 マジですか、姐さん。

 

 うわぁ、これが年俸二億四千万の重みか。難易度高いぜ。

 

 き、気合を入れろ、俺。万が一にでもこのフェスタでテロが起きたら、俺が動かなけりゃならないんだからな。

 

 ……起きるわけねえよなぁ。レヴィアたんがいるだなんて、誰も知らないだろうし。

 

 そんなことを思ってたら、スプーンを取り落としてしまった。

 

 いかん、地面に堕ちたらオムハヤシが食えなくなる―

 

「―おっと。大丈夫か?」

 

 と、親切な人がさっとスプーンを取ってくれた。

 

 おお、親切な人だ。ありがたい。

 

「あ、ありがとうございま―」

 

 顔を上げた俺の目の前に、総理がいた。

 

「よう、聖槍の坊主。京都ぶりだな」

 

「そ、そそそそうむぐっ!?」

 

 思わず大声を出しかけた俺の口を、姐さんが勢いよく塞いだ。

 

 ね、姐さんの匂いがぁああああ!!

 

 別の意味で興奮する俺の耳元に口を寄せて、姐さんがため息交じりに口を開いた。

 

「落ち着きなさい。こんなとこに総理がいるなんて知られたら大騒ぎよ。フェスタの中止もあり得るわ」

 

「………ヒロイ君、静かにしてね?」

 

 レヴィアたん、怖い。冷気漏れてる。

 

 そんな様子を見て、総理は含み笑いをしながらビールを傾けた。

 

「いや、ようやく京都の件も落ち着いたんでよ。たまには孫にサービスしてやろうと思って連れてきてたんだよ」

 

 な、なるほど。総理が大きなお友達というわけではないと。

 

 それにしたって豪胆だな。よくもまあ、こんなところに護衛もなしで来てやがる。

 

 流石は次代を牽引する総理大臣。この乱世を生き残るのにふさわしいと褒められるだけのことはあるじゃねえか。

 

 俺達が感心してると、総理は飲み干したビールをテーブルに置きながら、ニヤリと笑った。

 

「ま、それにこんなところをテロったところで旨味はねえしな。ヴィクターの連中は異形に関係ない民間人にスポットを当てたテロはしねえし、こんなサブカル関係のイベント襲撃するほど阿呆じゃねえだろ―」

 

 その瞬間、俺の視線の先に魔方陣が展開された。

 

 転移用の魔方陣が、一斉に大量に数百ぐらい展開される。

 

 それはフェスタの会場を包み込むようにして展開され、そして人影を吐き出した。

 

 さらに、人工的に生み出されたっぽい十メートルを軽く超える巨大な熊やライオンが何体も現れる。

 

「「「「…………」」」」

 

 え、え……ええ?

 

 唖然とする俺達の視線の中、会場は一斉に包囲されてしまった。

 

 既に魔法が展開して、土が盛り上がってゴーレムが大量に生み出される。

 

 何が何だか分かってない……というか訳が分からない人達の前で、あっという間に包囲が完了された。

 

 その包囲する者達は、ローブを纏った魔法使い。

 

 三角帽子を被った者もおり、典型的な中世の魔女や魔法使いのイメージそのものな格好だった。

 

 そして、少し豪華な意匠が施された魔女らしき人物が、空中で魔方陣を展開して声を張り上げる。

 

「偉大なる我ら魔導の徒を愚弄するゴミムシども!! 我らは魔法使い連合体、ガールヴィラン!!」

 

 ……なんか宣言してるんですけどー。

 

「魔法使いという文化を愚弄する存在、魔法少女を信奉する愚か者どもめ。今日が貴様らの命日と知るがいい!!」

 

 ……敵意バリバリなんですけどー。

 

「おのれ、何が魔法少女だ」

 

「ぶりっこなんぞ魔法には無用の産物だぞ」

 

「我々の文化を勘違いさせる、最悪の存在め」

 

 周りの人達が魔法少女ディスりまくりなんですけどー。

 

 と、とにもかくにも、この場を包囲した魔法使い達は、ゴキブリを見るような視線を、大きなお友達や子供達に向ける。

 

 特に子供達に向ける視線がどぎつい。隙を見せたらすぐにでも攻撃を仕掛けてきかねないぐらいどぎつい。

 

「サバトの概念も知らぬ小猿共が。今すぐにでも焼き殺してやりたいところだが、然しそれではむしろ気がすまん……」

 

 ……サバトって確か、乱○とかするんだよな。

 

 そんなもん子供に教えるわけねえだろ。教えたらそいつが逮捕されるっての。

 

 などと思っている暇もなかった。

 

 その魔法使い達は杖を掲げると、高密度の呪いの塊を展開する。

 

 直接人を殺すのには不向きな能力だが、しかしそれには便利なものがある。

 

 一言で言う。死体が五体満足で残りやすい。

 

「今から我らがすることを教えてやる。これから貴様ら全員、呪いで皆殺しだ」

 

 そう言った魔女は、その事実を認識して恐慌状態になる前に、更に続けた。

 

「そして貴様らの死体でゾンビを作り出し、魔法少女などという文化を創り出す日本のアニメ会社をまとめてその信奉者によって食い殺してくれるわ!!」

 

 ……その瞬間、俺達は速攻で動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女達が動き出す数分ほど前、僕達は生徒会室に呼ばれていた。

 

「先日は姉が失礼しました」

 

 と、ソーナ会長が頭を下げる。

 

 どうやら、数日前のセラフォルー様のお願い事の件で謝りに来たかったらしい。

 

 なにせ生徒会長ともなれば、学園祭前は忙しいからね。本来なら会長が監視するつもりだったんだろうけど、そうもいかなかったということか。

 

「大丈夫でしょう。あのセラフォルーさまを説得したヒロイ君なら、きちんと手綱を握れるはずです」

 

 椿姫さんがそう言うけど、ソーナ会長はしかし首を横に振った。

 

「いえ。本来ならこういうのは眷属、もしくは妹である私の役目です。このようは私事に三大勢力共用のヒロイくんを使うのは、やはり問題があるのではないでしょうかと思うと……」

 

「多分大丈夫だと思いますぅ」

 

 ギャスパー君にまで言わしめさせるとは、ソーナ会長も色々と苦労しているようだ。

 

 なんだかんだでお姉さんのことが大好きだってことだろうね。だからどうしても気になってしまうんだろう。

 

 まあ、ヒロイ君なら大丈夫だと思うんだけどね。

 

 なにせリセスさんもついている。あの二人の戦闘能力は折り紙付きだ。

 

 そしてセラフォルー様も魔王の1人。其の力は並の最上級悪魔を圧倒するほどのものだ。

 

 そんな三人がいるなら、もしヴィクター経済連合が攻めてきたとしてもどうとでもなるだろう。

 

 そう思った瞬間だった。

 

「た、大変です会長!!」

 

 慌てて、会長の兵士である仁村さんが飛び込んできた。

 

「どうしたのです。部屋に入る時はまずノックを―」

 

「ヴィクター経済連合から通信が入ってきてます!! 緊急事態だとか言ってますけど!?」

 

 その言葉に、たしなめようとした会長はすぐに考え込んだ。

 

 当たり前だ。

 

 ヴィクター経済連合。旧魔王派閥を筆頭に、三大勢力のはぐれ者を多数所属させている組織。更には和平を結んだアースガルズやオリュンポスに敵対する派閥も数多い。

 

 ましてや、彼らは聖書の神の死を堂々と公開した存在だ。それによって発生した被害は甚大で、死亡者はもちろん、精神を病んだ者は数多い、やけを起こして犯罪組織に属しているものも少なくない。

 

 僕達三大勢力にとっての怨敵と言っても過言ではない組織だ。

 

 確かにロキとの一件では共闘したけど、それも戦力が足りない状況ゆえに苦肉の策。それにメインで動いていたのは反アースガルズ団体であるノイエラグナロクだ。

 

 話によると、ノイエラグナロクはエインヘリヤルの親族の末裔や、ドワーフで構成されている組織らしい。

 

 かつてのアースガルズは、ラグナロクを乗り越えるためにエインヘリヤルをかき集めたり、強力な武器を用意していた。

 

 その過程でロキに事実上ミョルニルを騙し取られていたり、意図的に戦争を引き起こして誰が死ぬかまで入念にコントロールしていた時もある。

 

 それらの恨みを引き継いだ者達が参加した組織が、ノイエラグナロク。真なる神々の黄昏を自称する者達だ。

 

 つまりは敵の敵は一時的な味方という理論。優先順位の差を利用して、先ずはロキに武具を騙し取られた意趣返しをしたにすぎない。

 

 アースガルズと和平を結んだ以上、僕達も彼女達にとっては倒すべき敵だろう。いずれ本格的に殺し合いが勃発すると見ていい。協力態勢を取るとは思えない。

 

 それなのに、一体なんで?

 

「……まずは最低限必要な情報を伝えさせなさい。会話するかどうかはそれから判断します」

 

「了解です! ……え゛!?」

 

 仁村さんが、目を見開いて顔を真っ青にした。

 

 そして、油の切れた機械のようなぎこちない動きで、僕達の方を向く。

 

「……魔法少女フェスタに関わった人達を皆殺しにしようとして、派閥の一つが暴走したって言ってるんですけど……」

 

「すぐに会話をします。それとお姉さま達に緊急連絡を!!」

 

 判断は迅速だった。

 

 いや、訳が分からない。

 

 なんで魔法少女フェスタを襲撃するんだ? それも、関わった人達を皆殺しにするなんて、問題行動すぎる。

 

 ヴィクター経済連合は、大義名分を持つ立派な国際同盟だ。少なくとも向こうはそう振舞っている。

 

 旧魔王派が暴走して余計なことを口走っていたが、それに対してきちんとペナルティを用意するなど、最低限の体裁は保っているのがあの組織だ。少なくとも、無意味な虐殺は行わない。

 

 あの同時多発クーデターだってそうだ。あくまであれは賛同者の為に行われたものだ。そう言う大義名分があった。

 

 それなのに、民間人のイベントで虐殺を行うなんてありえない。

 

 どう考えてもヴィクターの名声が大幅に落ちる。しかも戦略上の価値が全く持って分らない。意味がないと言ってもいい。

 

 それなのに……いったいなんで!?

 

 そんな僕達の混乱をよそに、魔方陣が展開して一人の女性の姿が移る。

 

 金色の髪を持つ、グラマラスな女性だった。

 

『初めまして。私はヴィクター経済連合、コノート組合(ギルド)の代表、メーヴ・コノートだ』

 

 傭兵らしいラフな格好をし、そして鍛え上げられた隙の無い動きを見せている女性だ。

 

『挨拶は無用なので要件を話す。本日有明で行われている魔法少女フェスタに、我々の派閥だったガールヴィランが離反して襲撃を仕掛けた。目的はフェスタに参加する者達全員を殺し、其のゾンビによって日本のアニメ会社の人間を皆殺しする事だ』

 

 あらゆる意味で頭が痛くなる。

 

 残虐非道にもほどがある所業。

 

 戦略的価値が全く見えない目的。

 

 そしてそれを、ヴィクター経済連合を離反してまで行おうとする意志。

 

 すべてにおいて意味不明だ、一体どういうことだ?

 

「……そういう事ですか」

 

 分かったんですか会長!?

 

 僕には全然意味不明です。どういう事か説明してください!!

 

「もとより、日本発祥の魔法少女という概念を嫌っている魔法使いは多いです。「魔法使いという存在を間違って認識される」として憎悪している者も数多い」

 

 会長は、かなり真剣な表情で歯ぎしりする。

 

 ま、魔法少女ッて概念そのものが日本発祥だったんですね。それこそ初めて知りました。流石お姉さんが魔法少女マニアなだけあります。

 

 そして、メーヴを名乗った女性もそれに対してうんうんと頷く。

 

『禍の団に所属する魔法使い団体でもそういった者は多い。それらが独自に集まったのがガールヴィランだ』

 

 そ、そんな馬鹿らしい理由で結束した派閥がいるのか……。

 

 僕は違う意味で戦慄するけど、そんな事をしている場合でもない。

 

『宰相達は「民間人をメインターゲットにするのはまずい」と抑えていたのだが、魔法少女に固定化したイベントがあると聞きつけて、ついに我慢の限界に達したらしい。我々から離反すると一方的に通告して、襲撃を開始しようとしているのだ』

 

「……何てこと。あそこにはお姉さまが!」

 

 ああ、なんて事だ。

 

 セラフォルーさまがいらっしゃるところで本当にテロが起きるだなんて!!

 

 ヴィクターを離反してまで魔法少女を滅ぼしたいのか! どれだけ魔法少女が嫌いなんだ!!

 

 セラフォルー様を狙って暗殺計画ならともかく、この調子だとセラフォルー様がいる事すら特に気づいていないっぽいぞ?

 

 なんてことだ。これは本当にテロだ!!

 

『……とはいえこれを見逃しては管理不行き届きで支持率が低下すると判断し、我々が派遣されたのだが。何分いきなりなので戦力が足りなくてな。苦肉の策として三大勢力と日本政府に緊急連絡をしたのだ』

 

「事情は分かりました。すぐに向かいます」

 

 ソーナ会長はそう断言すると、すぐに立ち上がった。

 

「すぐに動かせる戦力をかき集めてください。それとお姉さま達に至急連絡を」

 

「了解です会長」

 

 こんな馬鹿らしい展開で起きたテロにすぐに対応できるだなんて、会長はやはりすごい女性だ。

 

 正直、展開があれすぎて僕は反応できてない節がある。 

 

 イッセーくんのおっぱいネタとは別ベクトルで酷い。魔法少女を撲滅する為に、ヴィクター経済連合を離反してまでテロ活動って……。

 

『しかも、我々と敵対状態にあるテロ組織が勘付いて動いているという情報もある。あいつらも上級悪魔クラスが数十人いるから気を付けるといい』

 

「詳細情報をうかがってもよろしいでしょうか?」

 

 会長がそう促すと、メーヴ・コノートは目を伏せて頭痛を堪える表情を浮かべた。

 

 なんだろう。ガールヴィランとは別の意味で頭が痛くなる展開な予感がしてきたぞ?

 

『そいつらは―』

 

 その瞬間、僕は急性神経性胃炎を起こしてフェニックスの涙のお世話になった。

 

 世界でも類を見ないアホらしい理由でフェニックスの涙を使ってしまった。作っているフェニックス家の人達には、心から謝罪をしたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ケルトネタは募集したものです。ありがとうございます。








それはそれとして魔法使い団体襲来。ヴィクター経済連合のロビー活動が変な方向に化学反応を起こして、魔法少女撲滅派閥が本格的に始動しました。

あと、魔法少女ッて概念は日本が発祥なんだって! すごいね日本!

そして頭の痛くなる展開はまだ続きますよー! これも募集したネタを使ってるぜー!


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第三章 45 ……頭痛いbyヒロイ

はい、この作品でも屈指の頭痛い展開が勃発します!!


 俺達が一瞬で動こうとした、その時だった。

 

「そうはさせないのよん!!」

 

 其の声とともに、虹色の輝きが天から降り注ぐ。

 

 な、なんだ!?

 

 驚く俺達の視界に、明らかにファンシーな感じの魔方陣が天に浮かび上がる。

 

『『『『『『『『『『プリティー、ダーティ、マジカルダーク! 魔法の神髄ここにあり!!』』』』』』』』』』

 

 そんな声とともに、数多くの少女達が天から舞い降りながら変身バンクじみた格好をする。

 

 すいません、マッパで変身しないでください。

 

 しかもアップ映像を天に出さないでください。マジで勘弁してください!

 

『『『『『『『『『『触手と発情大歓迎! 魔法少女の萌え万歳!!』』』』』』』』』』

 

 一瞬で理解した。

 

 あいつ等、頭がおかしい人達だ。

 

『『『『『『『『『『堕落魔法少女軍団、フォーリン☆ダーテン、退廃的にただいま見参!!』』』』』』』』』』

 

 ……頭痛い。

 

「ままー。あれも魔法少女ー?」

 

「見ちゃいけません!! あと聞いてもいけません!!」

 

 保護者が大変な事になってるな。

 

 そして、ガールヴィランの連中は目を血走らせながらそのエロい恰好をした魔法少女達を睨み付ける。

 

 っていうか格好エロいな! 普通に夜のおかずに使えそうなんですけど!?

 

「おのれぇフォーリン☆ダーテン!! 魔法少女を標榜するにっくき狂人どもめ! 魔法使いを誤解させるな!!」

 

「堕落する心を忘れた可哀想な魔法使いさん! 私達が快楽堕ちさせてあげる!!」

 

 そう言って睨み合う、変人達を見て、俺は心底思った。

 

 ……すいません。帰っていいですか?

 

「ちょっと待てやこらぁ!!」

 

 と、怒声が辺り一帯に響き渡る。

 

 そこには何時の間にか禁手化した総理が、とりあえず高いところに上って双方に指を突き付けていた。

 

「さっきから黙って聞いてりゃアホな事ばかり言いやがって!! てか孫の教育に悪いんだよ、帰れ!!」

 

 ド正論である。

 

 こいつらどっちもアホな事しか言ってないもん。

 

 魔法少女嫌い過ぎて暴走してるガールヴィランもそうだし、悪落ち魔法少女ってエロゲの世界か。

 

 凄まじく疲れた。ただでさえ疲れてるのに更に疲れた。

 

 もう胃もたれしてんだけど。帰って!!

 

「黙るがいい、魔法少女などという下品な文化を生み出した下衆の親玉がほざくな」

 

 ガールヴィランのボスはものすごい冷たい目線を向けてくる。

 

 どんだけ魔法少女嫌いなんだよ。魔女と魔法少女はもう別物だろ。

 

「待っておじ様。偉いおじさんなんて悪堕ちに最高だわ、ぜひ犯してちょうだい」

 

「死んでくんねえか、マジで」

 

 そして魔法少女共に関しては頭がいかれているとしか言いようがねえ。

 

 総理もマジ切れで絶対零度の死ね発言だよ。そりゃ言いたくなるよ。

 

 っていうか、名誉棄損で訴えたら? ほぼ確実に勝てるだろ、コレ。

 

「そんな! 魔法少女は犯されて堕ちる為の存在なのに!! 魔法少女の存在全否定!?」

 

 白目向いてショック受けるな。

 

 っていうか何だその狭い存在意義。

 

「それは一部の大きなお友達限定だ、馬鹿! ここは大きなお友達と小さな子供達が一緒に楽しむ空間なんだよ!!」

 

 総理、ツッコミご苦労様です。

 

「そうだそうだ! エッチなのはリアルじゃいけません!!」

 

「そういうのは子供の前でしちゃいけないんだよ!!」

 

「18禁コーナーは住み分けが大事なの!! ただでさえこの国は意外とそういうの住みづらいんだから勘弁してくれ!!」

 

 大きなお友達からも非難轟々だぜ!!

 

 そのあまりの非難の嵐に、その悪の魔法少女達はショックを受ける。

 

「何てこと! 性の導きを受けてないだなんて!!」

 

「魔法少女は私達のバイブル、エロゲの鉄板なのに!!」

 

 何にショック受けてんだ、こいつら。

 

 そして何やら会議を始めると、一気にまっすぐこっちを見据えた。

 

「大丈夫! 魔法少女と交合う事の喜びを教えてあげるから!!」

 

「そう、悪落ち魔法少女は性的に襲う事も当たり前!!」

 

「サバトの時間よ!!」

 

「子供達にも性教育ね!」

 

 ……あ、これやばい。

 

「させるか! そいつらは我々がゾンビにするのだ!!」

 

「東○を滅ぼす戦力にしてくれる!!」

 

「先手必勝!!」

 

 魔法使いも動きやがった!!

 

 やばいやばいやばいこれやばい!!

 

 この数を同時に相手するのは流石に無理だって! コイルガンでも限度があるんだけど、マジで!!

 

 総理でもこの数を全部捌くのは無理があるって! どうしようもないって!!

 

 ちょ、ちょちょちょストップストップ―

 

「待ちなさい!!」

 

 その瞬間、大きな声とともに雷が落ちた。

 

 一斉に数十本落ちた雷により、何人もの魔法使いや魔法少女が感電して墜落していく。

 

 そして、其れをなしたのは宙に浮かぶ一人の女性。

 

 っていうか姐さん!?

 

 覆面をつけてヒラヒラの服を着てるけど、あれ姐さんだ!!

 

「天の裁きと恵みをここに! 悪には罰を善には徳を!!」

 

 なんかポーズを取りながら、姐さんがびしっと声を張り上げた。

 

 あ、そうか。……正体バレたら学園での用務員生活が送れなくなるから、その辺考えたんだ。

 

 いないと思ったら何時の間にか変装してるとか、流石姐さん!!

 

「天候魔法しょ……淑女!! マジカルウェザー! 悪い馬鹿どもに天罰覿面!!」

 

 おお、凄い台詞を顔色一つ変えずに言い切った。

 

 まるで演技派俳優のようだ。

 

 あと少女と言わなかったのは流石に無理があると気づていたからか。姐さん二十四だもんな!!

 

「おのれ、ここで新手の魔法少女だとぉ!?」

 

 魔法使い達はツッコミ入れずに驚愕してる。

 

 いやすいません。あんた等ヴィクター経済連合、姐さんに結構痛い目見せられてると思うんですが。

 

 ツッコミ入れられないのは幸か不幸か。とりあえず俺は気づかなかった事にしておくべきか?

 

「貴方も魔法少女なのね! なら触手を味わいましょう! それこそ魔法少女の神髄よ!!」

 

 なんか阿保共が頭わいた発言してるんですけど!!

 

「間に合ってるわ!!」

 

 間に合ってるの姐さん!? いや、姐さんビッチだけど!!

 

「とにかく! 魔法少女を愛する人達が、老若男女問わず楽しむこのイベントを邪魔して、お仕置きされないと思わない事ね!!」

 

「だな。ここにマスクド総理大臣とマジカルウェザーがいる限り、お前達の好きにはさせねえ!!」

 

 お互いに背中合わせになりながら、姐さんと総理が敵の魔法関係者を睨みつける。

 

「堅気の輩に手を出すやつにゃぁ、鉄拳制裁天罰覿面!!」

 

「天に代わってお仕置きタイムよ!! 物理的にお仕置きしてあげるわ!!」

 

 おお、息を合わせて口上のべた!

 

 これは、中々良いタイミングなのか!?

 

「ほざくなぁあああああ! 新たな魔法少女など、塵と期してやるわ!」

 

「快楽に堕ちないなんて魔法少女の名折れ! まずお仕置きしてから堕としてあげるわ!!」

 

 そして、一気に大激戦が勃発し―

 

「とぅ!!」

 

 ―我慢できずに、レヴィアたんまでもが飛び出していった。

 

 空中で魔力を使って変身モーションをぶちかまし、そして一瞬で魔法少女に!!

 

「……そこ迄よ、魔法少女の敵は私の敵なのよん!!」

 

 その姿に、敵対している連中が全員目を見開いた。

 

 ああ、そりゃそうだろう。

 

 満を持して魔王少女が登場しちまったよ。

 

「……静まりなさい。私は、三大勢力が一角、悪魔を収める4大魔王の1人、セラフォルー・レヴィアタンよ」

 

 おお、しかもシリアス入ってるな。

 

 あ、これ違う、マジギレしてるんだ。

 

「可能性は考慮していたが、本当に来ているとは思わなかったぞ、セラフォルー・レヴィアタン」

 

 ガールヴィランのトップの方が、やる気満々で怒りに満ちた視線を向ける。

 

 それに対して、こちらも絶対零度の視線を、魔法少女の恰好で向けるのがレヴィアたんだ。

 

 怖い。展開は阿保らしいのにマジで怖い。

 

「魔法少女を嫌うだけじゃなく、魔法少女を愛する人達を襲って、更に魔法少女を生み出す人達まで殺そうとするなんて……。レヴィアタンは、本気で怒ってるわ」

 

 パラパラと、雹が降ってくる。

 

 あ、これやばい。

 

「煌めくハートで、まとめてお姉さん達を滅☆殺しちゃうんだから!!」

 

「よくぞ吠えた!!」

 

 その瞬間、魔法使いのリーダー格が莫大な炎を生み出した。

 

 炎の塊は100メートルを超える蛇の形を取り、その咢をレヴィアたんへと向ける。

 

 そして、その大出力の炎と氷がぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 更にそれと同時に、ダークサイドガールズもまた動き出す。

 

 それに対して、大尽とリセスもまた動いていた。

 

「大粒は任せるわ。私は雑魚散らしに専念させてもらうわよ!!」

 

「適材適所だな。広範囲殲滅型の神滅具の恐ろしさを教えてやりな!!」

 

「当然!!」

 

 言うが早いか、リセスは速攻で広域天候操作を展開する。

 

 直系10センチを超える雹の嵐と、ピンポイントで放たれる雷撃が、魔法少女を騙るビッチ達に襲い掛かった。

 

 その猛攻に瞬く間に墜落する魔法少女擬き達。

 

 しかし、その攻撃をかいくぐる猛者も少なからず存在する。

 

「させないわ! 行きなさい、リリカルテンタクル!!」

 

 その言葉とともに、海から大量の触手が飛び出してくる。

 

 遠慮なく近くの女性に襲い掛かった。

 

「さあ、女の子達に触手の愛を教えてあげるのよ!!」

 

「さぁせるわけがねえだろうがぁ!!」

 

 嵐砕丸が、強引に触手を吹き飛ばす。

 

 そしてさらに接近しての拳が、似非魔法少女を遠慮なく殴り飛ばした。

 

「んもう! 触手の快楽を知らないなんて、女の子の人生を損させないで!!」

 

「お前らは人生損しすぎだろうが……」

 

 もうどこから突っ込んでいいか分らなかった。

 

 そして厄介な事に、彼女達の戦闘能力は想像以上に高い。

 

 まず間違いなく各勢力の精鋭部隊に匹敵する。それほどまでの実力者が何人も存在していた。

 

 それらが全員魔法少女フリーク。それも、悪堕ちする事に意味を見出している。ツッコミどころしかない。

 

 頭痛を真剣に堪えながら、大尽は素早く各個撃破を狙っていた。

 

「させないわ! 快楽に染まった女の子の力を見せてあげる!!」

 

「えろえろ、マジカルビーム!!」

 

 喰らったら何かが終わる。政治家として致命傷な気がする。

 

 渾身の意地をもってして、大尽は嵐砕丸の雷撃でその攻撃を吹き飛ばした。

 

 そして、そこをついてリセスの援護射撃が的確に放たれる。

 

 直径10センチ以上の氷を大量に集中攻撃。まるでガンシップの援護射撃のように大火力の攻撃が叩き込まれた。

 

 それらを魔法障壁で防ぎながら、魔法少女?達は反撃を行う。

 

「貴女も快楽に酔いしれる悦びを味わうのよ!!」

 

「人生損してるわ!!」

 

「だから間に合ってるって言ってるでしょ!!」

 

 渾身のツッコミを返して、リセスな頭痛を堪えながら攻撃を行う。

 

 天候操作による広範囲殲滅はどちらかというと苦手である。

 

 彼女が得意とするのは属性支配。そしてそれを武器や四肢に付属(エンチャント)させることによる近接接近戦が得意ジャンルだ。

 

 とはいえ特異な戦闘手段じゃないだけだ。使えないわけではないし、役に立たないわけではない。なにより弱いわけでもない。

 

 腐っても神滅具の使い手としての意地がある。加えて、和平会談襲撃事件などで、広範囲攻撃も多少は慣れている。

 

 ゆえに、こんなところでやられる気など、リセスにはなかった。

 

「快楽堕ち何て、快楽に逃げ込んでるだけの馬鹿な所業よ。……私は二度とそんな逃げ方はしないって決めてるの」

 

 フォーメーションを組んで襲い掛かるエセ魔法少女を見据えながら、リセスは両手に剣を持って戦闘態勢を取り直す。

 

 そして、鋭い視線で構えを取った。

 

「……私は快楽に堕ちるんじゃなくて、快楽を飼いならすのよ! あなた達とは……違う!!」

 

 そして、再び激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




……ヴィクター経済連合の派閥を募集する中で、こんなものが出ました。

悪の魔法少女軍団。

ガールヴィランを思いついた時点ですでにその話も書いていたためヴィクターにはくみさせられませんでしたが、しかしもったいない設定なのでこんな風に再現してみました!!

……はいそこ、誰がそこまでやれといったとか言わない!!



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第三章 46 

 

一方その頃、俺はどうしたもんかと思いながらこの戦いを見つつ、避難誘導を行っていた。

 

 避難誘導と言っても、周囲を囲まれている状況で避難もくそもねえ。避難するところがねえ。

 

 上級クラスの火力攻撃が行きかってるから、建物の中に入れても逆に大変な事になる。

 

 とにかく戦闘が集中しているところを見極めて、比較的戦火が届きにくい場所に誘導する事しか出来なかった。

 

 そして最低限それが終わってから、俺は即座に戦闘準備を取る。

 

 ……まだ正体ばらして学園生活を終わらせるのは何なんでな。できれば正体を隠しておきたかった。

 

 と、いうわけでコスプレコーナーを物色して、変装。

 

 とりあえず服を着替えて、髪をスプレーで染めて、とどめに仮面もつけて準備万端。

 

 さあ、どっからでも掛かってこい!!

 

 その瞬間、俺の目の前に巨大なクマの化け物が突貫してくる。

 

 ガールヴィランが用意した使い魔だな。おそらく人工的に作った合成獣だろう。

 

 ふっふっふ。俺をその程度で倒せると思ってもらっては困る。

 

 デカブツだろうと、頭を潰されれば一撃で吹き飛ぶだろう。

 

「一撃必殺! マスドライバー・スティンガー!!」

 

 全力でレールガンをぶちかまし、巨大熊を一発で仕留める。

 

 やっぱり大した事はないな。デカブツなのでそれなりにタフだろうが、これまで戦ってきた敵の中では大した事がねえ部類だ。

 

 この調子で確実に潰して行って……。

 

「いって、てんたっくん!!」

 

 其の声に、俺はとっさに飛び退った。

 

 直後、先端に棘が生えている触手が叩き付けられた。

 

 それを即座に切り落とそうとするが、触手は意外にも素早く移動して、その攻撃をかわしてのけた。

 

 ……そしてその触手を操っている者は……。

 

「貴方の相手は、この触剣魔法少女マジカル♪テンタがやらせてもらうわ!!」

 

 うん、魔法少女っぽいフリルが多いのは良い。

 

 悪堕ちなどと名乗っているから、露出度が多いのも構わない。

 

 だが、少し待とうか。

 

 触手がスカートや服の内側から出てるのはいただけない。それは流石にツッコミどころしかない。

 

「……まさかマ(pi-)に入ってるとか言わないだろうな」

 

「え? に(pi-)やお尻にも入ってる決まってるじゃん」

 

 よし! 頭のおかしい人だ!!

 

 すいません。此処は現実であって断じてエロゲーの世界じゃないんですが!

 

「エロゲの世界に帰れ!!」

 

 俺は渾身のツッコミを叩き込みながら、コイルガンを乱射した。

 

 なんというか近づきたくなかった。勘弁してほしかった。

 

 たぶん近づいて触手の攻撃を喰らったら、英雄として何か大事なものを失ってしまうだろう。それだけは断言できる。

 

 あれは、まともな人間が関わったらいけない類の人物だ。気を付けなければ!

 

「させないもん! 世界中の女の子に、触手を植え付けて触手について語ったり交換したりするのが夢なんだもん!!」

 

「叶うな、そんな夢!!」

 

 俺は渾身のツッコミを再び叩き込んだ。

 

 駄目だ。こいつらカルト宗教とかそんなノリだ。

 

 確実に頭がいかれているタイプだ。何か酷い目にあって精神がぶち壊れているとしか思えねえ。

 

 とりあえず関わり合いになりたくねえけど、どうもこいつかなりできる。

 

 なんとしても俺が相手するしかねえのか。これも、英雄を目指す者として背負わなければならねえカルマってやつなのか。

 

 ええい、やってやらぁ!!

 

 そう思って俺が一歩前に踏み出し―

 

「ぐがぁああああああああ!!!」

 

 突貫した熊を避ける為にお互いに飛び退った。

 

 ええい! 三つ巴の乱戦だと流石に厄介だ。

 

 っていうか、ガールヴィランの連中が本腰入れてきやがった。

 

 このままだと、民間人の被害を押さえる事が不可能じゃねえか!!

 

 くそ、どうすれば―

 

「隙ありなのねん!!」

 

 その瞬間、先端がバチバチスパークしている触手が襲い掛かってきた。

 

 いかん! これはマジで危険だ!!

 

 精神的にも肉体的にもヤバイ。もろに喰らえば本当に命の危険すらあるぞオイ!!

 

 う、うぉおおおお! 何とかかわさなければ―

 

 フルパワーで回避に回ろうとした瞬間―

 

「そうはさせませぇえええん!!」

 

 その言葉とともに、触手の動きが停止した。

 

 見れば、俺達の周囲にたくさんの蝙蝠が浮かんで、その目が赤く輝いている。

 

「ギャスパーか!」

 

「何とか間に合いましたぁ! 潜入成功ですぅ!!」

 

 おお、この事態に気づいてくれたのか。助かったぜ!!

 

「貴方が噂の男の娘ね! あなたも魔法少女になって堕ちましょ?」

 

「いやですぅううううう!!!」

 

 本気で気味悪がりながらも、ギャスパーは追撃の触手を次々と停止させていく。

 

 な、なんという緊急事態なんだ。

 

 日本がいろんな意味でカオスな展開になってきやがった。

 

 っていうかこの一月足らず、日本大変な事に巻き込まれすぎだろ!!

 

 どんだけ大規模な戦闘を連発すりゃ気がすむんだ。トラブル頻発にもほどがあるじゃねえか!!

 

 っていうか、魔法少女イベントを襲う魔法少女撲滅団体と快楽堕ち魔法少女軍団ってなんだこれ。いろんな意味でツッコミどころしかねえ!!

 

 くそ、ヘタレのスパルタ特訓なんかに付き合ってるイッセーが羨ましい。

 

 ちょっと面倒な事になってるなぁと思った事もないでもないが、これに比べたら軽いにもほどがあるじゃねえか!!

 

 もう嫌だ! 俺はものすごく帰りたい!!

 

 誰かぁああああ!!! 助けてくれぇえええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その心の叫びに、答える者は確かにいた。

 

 英雄ですら心折れそうになるこの非常事態に、しかし真剣に立ち向かう者達がいる。

 

 それこそが公務員。国民の血税で動く彼らは、それゆえに国民の危機を見逃さない。

 

 そう、コノート組合は確かにこう言ったのだ。

 

 日本政府にも協力を要請した、と。

 

 その瞬間、巨大なクマの顔面に爆発が起きた。

 

 それは致命傷には程遠いが、確かに大打撃を与えて痛痒を与える。

 

 そもそも、この魔獣はそこまで強い存在ではない。

 

 大型ゆえに中級悪魔でもてこずるほどの戦闘能力はあるが、所詮は有象無象の魔法使い達が作った魔獣である、たかが知れている。

 

 ゆえに、通常兵器でもある程度の痛痒を与える事は出来る。

 

 それをなしたのはAH-1コブラ。

 

 自衛隊に配備されている攻撃ヘリ部隊が、一番槍を担当して攻撃を開始する。

 

「おいマジかよ。俺は初めて引き金を引くのは北の連中だとばかり思ってたんだがなぁ」

 

 その先陣を切るヘリのガンナーが、呆れ半分でそう漏らす。

 

 当然だろう。彼らは基本的に対人を想定した組織であり、この攻撃ヘリも人間の軍隊を返り討ちにする為の物である。

 

 それが、まさか―

 

「こんなコスプレ連中と、映画に出てきそうな化物だぜ? 俺は別の意味で引き金が鈍るぜ」

 

「いいから撃て!!」

 

 いつ攻撃されるか気が気でないパイロットの方が、ガンナーに怒鳴り散らした。

 

 既に全武装の使用許可は得ている。ならば遠慮する必要はない。

 

 なにせ、敵は一般市民を標的としたテロリスト。

 

 ヴィクター経済連合からも、遠慮する必要がないというお達しが出ている。

 

 故に遠慮なく対戦車ミサイルを斉射して一撃当てた。

 

 そして、ここからはロケットランチャーでの攻撃に切り替える。

 

 相手の攻撃を警戒しながら、適切に攻撃を叩き込むが、致命傷を与えるのは中々困難である。

 

 しかもこれが初の実戦。色々と混乱する他ない。

 

 だが、しかしこれでいい。

 

「……本部よりヘリ部隊に通達。陽動ご苦労、これより本隊が攻撃を開始する」

 

 その言葉より、自衛隊の真の意味での反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それに真っ先に気づいたのは、ガールヴィランの魔法使いだった。

 

 ビルの隙間を、何かが移動した。

 

 大きさはこちらが運用している魔獣に匹敵する。十メートル強といったところか。

 

 戦闘の轟音の所為で、駆動音が聞こえてこない。つい視線がずれてなければ、こうなっている事はあり得なかった。

 

「気をつけろ! 何か来たぞー」

 

 そう声を張り上げたその瞬間―

 

『―ああ、来たぞテロリスト』

 

 ビルの上から、巨人が舞い降りた。

 

 それは、全身を鋼で包んだ機械の巨人。

 

 それが、巨大なブレードを魔獣に対して振り下ろした。

 

 高さを利用した落下による重量物の一撃に、魔獣が一撃で頭部を断ち切られて絶命する。

 

 それだけで、その巨人の戦闘能力がかなり高い部類であることの証明になった。

 

「ばかな! からくり細工如きに我らが魔法の作成物が―」

 

 狼狽したその瞬間、その視界に銃口が映りこむ。

 

 口径70mmを超える滑空砲が至近距離で火を噴いた。

 




出てきた巨人は、アーム・スレイヴとシルエットナイトを足して二で割った感じでお願いします!!

さあ、馬鹿どもにお仕置きの時間だ!!


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第三章 47

今回はちょっと短め


 

「なんだとぉ!?」

 

 ガールヴィラン首魁、ゴーデル・シスターは目を見開いた。

 

 下手なドーインジャーを超えると自負する自分達の魔獣が、文字通り現代兵器に撃破された。

 

 数を揃えてようやく中級と戦える程度と思っていたガラクタに一杯食わされ、ゴーデルは激情にかられる。

 

 そして、その隙を躊躇なくセラフォルーはついた。

 

「隙ありなのよん!!」

 

 一瞬でゴーデルはもちろんのこと、その向こう側にある海面すら凍り付く。

 

 それほどまでの絶対的な氷結の魔力に襲われ、しかしゴーデルは耐え切った。

 

「舐めるな数百歳がぁあああああ!!!」

 

 渾身の力で炎を生み出し、一瞬で凍結した表面を解凍する。

 

 そして、反撃の炎の槍をあえてばらつかせて叩き込む。

 

「卑怯よ!」

 

 それを全弾セラフォルーが迎撃している隙に、ゴーデルはいったん距離を取り、解除してしまった蛇を再召喚する。

 

 直撃では確実に防御されるが、ばらけて打てば回避してしまった場合、確実に周囲に被害が出る。

 

 その精神的な隙をついた、卑劣ではあるが堅実な戦術だった。

 

 そして、そうまでして食い下がるゴーデルの雄姿にガールヴィランの魔法使いや魔女達が、渾身の力で戦意を滾らせる。

 

「そうだ、負けてなるものか!」

 

「ゴーデルさまは奴を倒す為に苦手な炎魔法を魔王クラスにまで極めたのだ!!」

 

 そう、勝つ為に努力をするのは自分達も同じ。

 

 ゴーデルは、凍結系において悪魔最強と言ってもいいセラフォルーに対抗する術を磨いた。だからこそ、ここまで拮抗する事が出来ている。

 

 なら、ここで自分達が足を引っ張るわけにはいかない。なんとしても勝利をつかんで見せる。

 

 その想いが、想定外の強敵に浮足立っていたガールヴィランの統率を取り戻す。

 

 そう、全ては魔法少女という概念を滅ぼす為。魔法使い及び魔女の概念を正しく人々に知って貰う為。

 

 其の為に自分達は結集した。そしてその為に自分達はここにいる。

 

 ヴィクター経済連合という、圧倒的な後ろ盾をあえて捨ててでも、この機会を逃すわけにはいかなかった。

 

 そうだ。これこそが、最大のチャンス。世界最大級の魔法少女の祭典で、我らが怒りを示す。そしてその勢いで魔法少女という概念を生み出した日本のアニメーション会社をことごとく滅ぼし尽くす。

 

 その決意が、彼らを滾らせる。

 

「っていうか数百歳で少女とか名乗ってんじゃねえぇえええええ!!!」

 

「この年増が! 俺達なんぞよりよっぽど歳食ってるじゃねえか!!」

 

「失せろ魔法老女!!」

 

 罵詈雑言という援護射撃で、ゴーデルを援護するのも忘れなかった。

 

「私悪魔だもん! まだまだぴちぴちだもん!」

 

「ぴちぴちってのが既に死語だし。時代が分かるし!!」

 

 口撃という名の援護射撃を受け、ゴーデルは全力で攻撃を叩き込まんと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃、自衛隊の戦闘もまた激化していた。

 

 自衛隊が投入したこの人型兵器こそ、堕天使陣営と共同開発した、対異能用兵器。

 

 局地戦闘用人型機動兵器。02型戦術歩行機『防人1式』。

 

 キョジンキラーを参考にして開発された、人型の戦闘兵器である。

 

 もとより、対異形の戦闘を考慮した場合、龍や巨人などといった大型の生命体との接近戦闘はいずれ起きると推測されていた。

 

 また、それ以外に関してもあのキョジンキラーの性能を参考にした場合、例の人工筋肉の性能は一考の価値がある。

 

 足を持つ兵器の踏破性は非常に高い。こと山岳地帯を多く持つ日本という国のお国柄では、キョジンキラーを参考にした人型兵器の存在には一定の価値がある。

 

 そして、その結果としてこの防人1型が開発された。

 

 市街地及び森林地帯での秘匿性を考慮した結果、サイズこそ10メートル強にまで低下しているが、その分状況対応能力は大幅に向上された。

 

 更に、五代宗家相手に総理大臣命令までして全面協力させた事により、人工筋肉の改良に成功。

 

 馬力や生産性こそ低下したが、燃費を大幅に向上させる事に成功。更に蓄電能力を確保する事によって、兵器としてのバランスを桁違いに上げる事に成功した。

 

 加えて人工神器技術と百鬼家の特性を付与した結果、龍脈からのエネルギー供給を実現。これにより、分隊単位でのインターバルを加える事で、半永久的な戦闘すら可能となった。

 

 それによって開発された、対異形用人型機動兵器、戦術歩行機防人1型。

 

 その性能は、分隊単位なら上級悪魔の足止めすら可能とする機動性と攻撃力を併せ持った兵器となった。

 

「ゴリアテ1よりゴリアテ各機へ! せっかくのお披露目だ! 俺達には勝ちしか許されんぞ!!」

 

『『『『『『『『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 敵大型魔獣に対抗するべく投入された部隊の内、1個中隊が一気に前線での戦闘を開始する。

 

 専用に開発された牽制用の滑空砲で牽制しつつ、ブレードによる近接戦闘で、的確に自らより大きい魔獣達を刈り取っていく。

 

 更に攻撃ヘリや対戦車部隊による攻撃が足止めとなり、魔獣達は一気に動きを取る事が出来なくなっていた。

 

 中には一本背負いを決める強者までおり、その圧倒的な力が魔獣達を殲滅していく。

 

 そして、そんな防人1型部隊に海中から触手が襲い掛かる!!

 

「魔法少女の戦いに、そんな無粋なものはいらないのよん!!」

 

 襲い掛かる触手は、直径1メートルを超える太さを持ち、遠慮なく防人1型を拘束しようとする。

 

 だが、それを許すほど彼らも馬鹿ではない。

 

 軽快に数十メートルの高さと距離を跳躍し、一気に敵の触手から距離を取る。

 

 そして、サイドアーマーからこの手の敵に対抗する為の切り札を取り出した。

 

「試作HEATパイル、起動!!」

 

 再び拘束にかかる触手にあえて接近し、前衛を担当する六機が突進する。

 

 そして、遠慮なく攻撃をかわすとそのパイルを叩き込んだ。

 

 そして全てが爆発し、触手に勢いよく穴を空ける。

 

 断末魔の代わりに悶え振るえる触手から距離を取りつつ、防人一型部隊であるゴリアテ小隊は、戦いになる事を確信した。

 

 対上級クラスの敵に対抗する為に開発された、240mm口径のHEAT弾。

 

 それを射出する兵器を用意するのではなく、近接兵器として運用するHEATパイル。

 

 その威力は、まさしく上級クラスにすら通用する火力だった。

 

「よし! このまま防戦重視で攻撃を再開する!! いいか、誰一人死ぬなよ!!」

 

『『『『『『『『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

 そして、魔法少女や魔女やら魔法使いやらその使い魔やらを相手に、人型機動兵器が挑むという前代未聞の激戦は続けられる。

 

 目の前にいる相手は、常識はずれの恰好をしながらも確かに脅威だ。

 

 その戦闘能力は一対一ならたやすく戦車すら蹂躙し、こちらをたやすく屠る敵だったのだろう。

 

 だが、自分達もまたそれに対抗する為に進化して行っている。

 

 その成果をここに見せつけんと、自衛隊員達は一気呵成に躍りかかった。

 




シーグヴァイラ様超歓喜な展開でした。


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第三章 48 迫りくる獅子との決戦

第三章もついにラスト。

魔法少女撲滅団体と、快楽堕ち魔法少女推進団体。

これまででもトップクラスにアホだらけの戦いも、ついに決着です!!


 

 そして、戦いは最終局面へと入る。

 

 大量の魔法と魔力が交差して、そして相殺して爆発する。

 

 その攻撃を放ちながら、セラフォルーとゴーデルは猛攻を行いながら負担を意地で抑え込むという、消耗戦に突入していた。

 

 灼熱と凍結による攻撃の交錯は、それほどまでの消耗をお互いに与えていた。

 

 そして、それに対して有利なのは本来セラフォルーである。

 

 そもそも魔法というのは魔力を再現する為のもの。そして悪魔というものは基本的に人間より性能が高い生命体だ。

 

 その二点があるゆえに、本質的にこの戦いはセラフォルー有利なのだ。

 

 だが、しかしゴーデルは執拗に食い下がっていた。

 

 その理由は単純明快。

 

「ゴーデルさま、ご武運を……」

 

「ゴーデルさまには、指一本触れさせん!!」

 

 それは偏に単純な理由。数であった。

 

 ゴーデルと意志を同じくする魔法使いたち。

 

 ひとえにそれは、魔法使いという概念に対する誇りゆえに生まれし意志。

 

 日本より産まれ、子供達の夢となった概念。魔法少女。

 

 それを許せぬと思う心。名誉棄損だという怒り。誇りを汚された事に対する憤怒。

 

 それらによって想いを同じくする同士達は、時として命を犠牲にする事すらいとわない。

 

「分かっている、同志達よ。……お前達の犠牲、無駄にはしない!!」

 

 そして、その犠牲がゴーデルの戦意を燃やし、セラフォルーに食い下がる原動力となり燃え盛る。

 

 その執念に、セラフォルーは思わず息を呑む。

 

「そんな! そこまで魔法少女を認めないというの!?」

 

 魔法少女を心から信奉するセラフォルーにしてみれば、これほどまでの魔法少女を排斥する思想は理解の埒外だ。

 

 だが、それほどまでに魔法少女という存在を認めない意志が、極限までに高まっている。それほどまでの集団がガールヴィランだという事だけは嫌というほど理解してしまった。

 

 その瞬間、セラフォルーはショックにより隙をさらす。

 

 そして、それを見逃すほどゴーデルは甘くなかった。

 

「もらったぞ、魔王老女!!」

 

 炎の蛇が灼熱の吐息を放つ。

 

 一瞬のスキを突いたその一撃に、セラフォルーは僅かに反応が遅れた。

 

 そして、それが致命的な攻撃と化し―

 

「回転側壁、チーズシールド!!」

 

 ―その瞬間、薄く伸びた直系十メートル以上のチーズの壁が、その灼熱を防ぎ切った。

 

「「「「「「「「「ぇええええええええ!?」」」」」」」」」」」

 

 セラフォルーとゴーデルを含めた全員が度肝を抜かれた。

 

 そして、その一瞬のスキをついて魔法使いの一人の体に風穴が空こうとする。

 

「速球即殺、チーズマグナム!!」

 

「げふぁ!?」

 

 ―これまた、超高速で放たれたチーズによって。

 

「「「「「「「「「ぇえええええ!?」」」」」」」」」

 

 これまた理解不能な展開により、思わず絶叫が上がる。

 

 だってそうだろう。

 

 チーズである。

 

 食べるあのチーズである。

 

 美味しい食品であるあのチーズである。

 

 三回言った。

 

 それほどまでに異常事態だったが、しかしその隙を見逃さず攻撃が放たれる。

 

「散弾必殺、チーズレイン!!」

 

「「「「「「「ぎゃぁあああああ!?」」」」」」」

 

 これまたチーズだった。

 

 もうすがすがしいほどチーズである。

 

 チーズに魂賭けてるのかというぐらいのチーズ尽くし。そしてその威力はすべてにおいてシャレにならない。

 

 絶望とともに魔法使い達は絶命し、そしてそれをなした者が着地した。

 

「そこ迄だ。組織を離反してまでの暴走、これ以上は見逃せない」

 

「貴様は、メーヴ・コノート!?」

 

 ゴーデルはかろうじてシリアスを保っているが、然し色々と何も言えないので視線を逸らしたくなる展開だった。

 

 それはそうだろう。

 

 よりにもよって、セラフォルー対策として連れてきた精鋭が、よりにもよってチーズによって殺されたのだ。

 

 悪夢以外の何物でもない。思わず絶望しそうになる。

 

「貴様ぁああああ!! 我らが大望をチーズで阻もうとは、どういうつもりだぁああああ!?」

 

「……ん? どういうことだ?」

 

 メーヴは何を言ってるのか分らないといった表情だ。

 

 そして、ゴーデルの視線が手に持っているチーズに向いているのに気づいて、得心したのか頷いた。

 

「ああ、気にするな。私は先祖の汚名を雪ぐ為、チーズだけを使って戦う事にしているのだ」

 

「馬鹿か貴様はぁああああ!!」

 

 のどが痛くなっているが、叫ばずにはいられない。

 

 全力で叫んだが、そんな事をしているのがいけなかった。

 

「隙ありなのよ!!」

 

 気づけば、既にセラフォルーは全力で攻撃を放つ準備を整えていた。

 

「………くそがぁあああああああああ!!!」

 

 全力で無念の叫びを上げながら、ゴーデルは一瞬で凍結粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦局は決着がついたな。

 

 ヴィクターからの増援達によって、完全にバランスはこっち側に傾いた。

 

 これでガールヴィランの方は何とかなった。

 

 あとは……っ!

 

「てめえらだ、変態!!」

 

「変態じゃないわ! 仮に変態だとしても、変態という名の魔法少女なのよ!!」

 

 いや、変態で終わってくれないか?

 

 もうこの激戦。いろんな意味で小さな女の子のトラウマだっての。特に触手。

 

 とにかく! ここで、ぶちのめす!!

 

「行って、テンタっくん!!」

 

 放たれる触手と魔法攻撃を俺は一生懸命回避する。

 

 一発でも当たれば、連続攻撃が叩き込まれる事は確実だ。そしてそうなれば触手が一発は確実に入る。

 

 それは嫌だ。何が何でも避ける!!

 

 そして、俺は間合いに入り―

 

「もらったぜ変態がぁ!!」

 

「甘いのよん!!」

 

 その瞬間、地面を突き破って飛び出てきた触手が俺の鳩尾に叩き込まれる。

 

「がはっ!?」

 

「ヒロイ先輩ぃいいいい!!」

 

 んの野郎、先端が鋭いから、脇腹に刺さったぞ!

 

 全力で激痛を堪えながら、俺は何とか攻撃を叩き込もうと聖槍を突き出すが、魔方陣がそれを防ぎきる。

 

 まずい。このアマ、最大の厄介な部分はあまりに頭がおかしい事だ。

 

 頭がおかしすぎるから、シリアスに脅威として認識すんのが難しい。だからこういうところでつい油断しちまう……っ!

 

「さあ、悪落ちタイムよ!! まずはお尻を―」

 

 ―いろんな意味で窮地ぃいいいいい!!

 

「魔法淑女キック!」

 

 その瞬間、奴の後頭部に蹴りが叩き込まれる!!

 

 ぉおおおおお!!! 姐さん!!

 

「……人の仲間に何をするつもりなのかしら?」

 

 半目で馬鹿を睨み付けながら、姐さんが両手に雷撃を込める。

 

「貴女も魔法少女ね? だったら一緒に快楽を貪りましょう!!」

 

 そしてキチガイが振り返りながら防御用の魔方陣を二つ展開。そして攻撃用も展開する。

 

 一瞬でもいいから雷撃を防ぎ、その瞬間をついて攻撃を叩き込む腹か!!

 

 そして姐さんもそれに気づいて―

 

「―あなたは、勘違いしているわ」

 

 ため息とともに、落雷が叩き付けられた。

 

 そう、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)は属性支配と()()()()だ。

 

 頭上は常に注意しないといけない。それを阿呆は忘れていた。

 

 そして音もなく崩れ落ちる魔法少女擬きに、姐さんは寂しげな表情を浮かべる。

 

「快楽を貪るのと、快楽に貪られるのは違うのよ。あなたは、それを混同してしまったのね」

 

 それは、明らかに敵に向けるそれとは違っていた。

 

 むしろなんていうか、自分に向けるそれのような……。

 

「私は、二度と、貪られたりしないって決めてるの。だからあなたの側にはつけないわ、断じてね」

 

 その言葉は、まるで言い聞かせるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってなことがあってなぁ」

 

「訳が分からねえよ!!」

 

 ヒロイ達の話を聞いて、俺は心からそう叫んだよ。

 

 当たり前じゃん! なに、魔法少女イベントを襲う魔法少女撲滅団体と、悪堕ち魔法少女(リアル)って!

 

 しかもそれを救う為に自衛隊とヴィクターが共闘して、ロボットとチーズが大暴れとかカオスすぎるよ!!

 

 しかもロボットの方はキョジンキラーの量産型みたいだし。しかも実戦配備する予定が確定してるみたいだし! っていうか既に十機以上量産されてるし!!

 

 もう何なんだよそれは! どっから反応していいのか訳分からねえじゃん!!

 

 俺がライザーから部長達の裸を守る為に奮戦している間に、そんなシリアスなようなシリアルなような訳の分かんねえ戦いが起きてるとかどういう事さ!!

 

「俺とライザーのシリアスオンリーの戦いを参考にしろよ!!」

 

「それをシリアスと言えるのはイッセーくんとライザー氏だけじゃないかな?」

 

 うるせえよ、木場!!

 

 温泉に入る部長達の裸がかかってんだぞ!! 命の一つもかけるっての!!

 

 ま、まあ。命がかかっている人の割合だとどう考えてもあっちの方が多いんだけどさ。

 

「それで、こうなったのかよ」

 

 と、俺はテレビに視線を向ける!!

 

『マジカ~ル! レヴィアたん!! 参上なのよ~ん!!』

 

 なんと人間界のテレビで魔法少女レヴィアたんが放送開始だよ。

 

 なんでもセラフォルーさまに救われた人達が熱望したらしい。小さな子供達も大きなお友達も凄い熱意だったとか。

 

 ガールヴィランだっけ? そいつ等、完璧に逆効果な事してんじゃん。

 

「でも、これも冥界と人間界の歩み寄りの結果なのだと思うと微笑ましいわね」

 

 セラフォルー様の大暴れを見ながら、部長はふふふと笑みを浮かべる。

 

 確かに。この調子ならおっぱいドラゴンが人間界で放送される日も近いのかもな。

 

 ……いや、あれは流石に人間界だと放送無理か?

 

 っていうか放送されたら俺は人間界でとんでもないことになりそうだな。顔そのものは嵌めてあるからな……。

 

「しっかし疲れたぜ。ヴィクターも暇人多かったんだな」

 

 うっへぇとため息をつきながら、ヒロイはジュースを飲んでため息をついた。

 

 ああ、お前は大変だったよな。

 

 ただの護衛で終わるかと思ったら、ものすごい規模の大激戦だもんな。普通に死にかけてるし。

 

「あの程度で疲れているようでは片手落ちよ。イッセーはそんな風になったら駄目だからね」

 

 と、リセスさんは苦笑を浮かべて俺の肩に手を置く。

 

「貴方はもはや芸能人の一人なんだから。あの程度でへばっている資格は決してないのよ」

 

 り、リセスさん……?

 

 リセスさん、芸能界に対して一家言ありすぎません?

 

 まあ、とりあえずは皆無事で何よりだな。

 

 サイラオーグさんとのレーティングゲームが、こんな事でケチついたらあれだしさ。

 

 待っていてくださいよ、サイラオーグさん。

 

 レーティングゲーム。俺達が勝ちますからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




と、いうわけで、日本国領内を舞台にした騒動が連発する第三章はこれにて終了。

連続して日本国内が戦場になるので、ひとまとめにした形になります。








そして、サイラオーグ・バアルとのレーティングゲームが舞台となる第四章がついに始まります。

そしてそのテーマはリセス編。

オリジナルキャラクターでメインを張る、ヒロイ、リセス、ペトの三人。

語るような過去がろくにないヒロイ。すでに過去を語り終えているペト。そして、いまだ過去をろくに語っていないリセス。

聖槍の担い手であるヒロイと神域の狙撃手であるペト。この二人の心を照らす、リセス・イドアル。

その彼女の原点。それが第四章で語られます。


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第四章 失墜する歌姫の再飛翔 歌唱大会のディーヴァ
第四章 1 説教・OF・デイーヴァ


第四章、ついにスタート。








リセス編の始まりです。まだ序章ですが、鬱展開があるので心の準備を今のうちにお願いします。



 

 そしてある日の冥界で、俺は子供向けヒーローショーを見学する事となった。

 

 え? なんでだって?

 

 いや、身内が出る奴ともなれば、たまには見る事もあるだろうよ。

 

「ふははははは!!! おっぱいドラゴン!! 出てこないのならスイッチ姫はこのままいただいていくぞ!!」

 

「た、たーすけてー、おっぱいどらごーん」

 

 ものすごく迫真の演技のダークネスナイト・ファングこと木場と、完璧に棒読みのスイッチ姫ことリアスのお嬢。

 

 そして、視界のお姉さんが観客席の子供たち(一部大人含む)に向かって大声を張り上げる。

 

「大変! スイッチ姫が捕まったわ!! さあみんな、おっぱいドラゴンに助けを求めてー!」

 

「その通り! さあ、大きな声で!!」

 

 イリナさんや。司会のお姉さんの仕事を奪わない。

 

 っていうかこれ、俺も叫ぶの?

 

 くそが付くほど恥ずかしい! ど、どうすりゃいいんだ!?

 

「さん、はい!!」

 

『『『『『『『『『『おっぱいどらごーん!!』』』』』』』』』』

 

 あ、出遅れた!!

 

 しかも姐さんとペトも普通に一緒に大声出したし! ノリいいな、オイ!!

 

「いっやぁ、面白いっすねぇ」

 

 おまえノリノリだな、ペト!!

 

 んなこと言われても、恥ずかしいのは恥ずかしいし……。

 

 そんなことを言っている間に、スポットライトとともに赤龍帝の鎧に身を包んだイッセーが登場する。

 

 そう、もうわかってるたぁおもうが、これは乳龍帝おっぱいドラゴンのヒーローショーだ。

 

 娯楽の少ない冥界を楽しませようと、こういった企画が起きて、イッセーたちが出てきたってわけだ。

 

 ……普通、こういうのってセリフだけとってやるのが基本じゃねえの?

 

 俺はそんなことを思うが、冥界は多芸がノリなんだろう。そう言うことにしとくか。

 

 そしてイッセーと木場の、子供たちがきちんと見ることのできる速度のバトルが繰り広げられる。

 

 ワイヤーアクションやスモークを的確に使ってのこのバトル。なんだかんだでよくできてるな。

 

 なんだかんだで大盛況。大人気だなおっぱいドラゴン。

 

 でも、普通本人登場とかやらないよなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでヒーローショーも終わり、俺たちはだべりながら裏手でイッセーを待っていた。

 

「しっかし、大人気だなおっぱいドラゴン」

 

「面白いっすからねぇ。まあ、すごい勢いでおっぱいおっぱいっすけど」

 

「確かに、人間界だと子供には向いてないわね」

 

 そうだべりながら、俺たちは夕暮れ時のショー会場を散策していた。

 

 しかしこのおっぱいドラゴン、すごい人気だ。

 

 イッセーの禁手が変身ヒーローに見えるってのもそうだが、それ以外にもここ最近の活躍も要因の一つらしい。

 

 なんでも、イッセーたちの活躍がテレビのおっぱいドラゴンの活躍と混同して受け取られているとか。

 

 つまり、乳龍帝おっぱいドラゴンの主人公イッセー・グレモリーと、そのモデルである現実の赤龍帝であるイッセーの奴が混ざってると。

 

 まあ、子供ってのはそんなもんだろう。俺はガキの頃はあれだったからわからねえけど。

 

「しかしまあ、冥界の芸能界も甘く見た物ではないわね。なかなかやるじゃない」

 

 と、姐さんは真剣に考えこみながらうんうんとうなづく。

 

 時々、姐さんは芸能関係で一家言あるかのようなことを言ってくるな。ちょっと引くぐらい真剣に言ってくるのが印象に残ってる。

 

 ……姐さん、過去にいったい何があったんだ?

 

 俺が知ってるのは、少なくとも五年前には賞金稼ぎなどをしていたこと。そして二年前にペトを助けた縁で神の子を見張る者に所属していたことだけだ。

 

 まあ、そういうのを聞くのは野暮だってのはわかってるんだけどな。

 

 それでも、気になるんだよなぁ。

 

 ふとそんなことを思っていると、子供の泣き声が聞こえてきた。

 

 視線を向けると、そこには困り顔の係員と、子どもを連れた母親の姿が。

 

「申し訳ありません。握手会の整理券はすでに配布が終了ていまして……」

 

「整理券……ですか? ……ごめんねリレンクス。もう無理なんですって」

 

「やだぁああああ!! おっぱいドラゴンに会うのぉおおおお!!!」

 

 あっちゃぁ。整理券をとりっぱぐれたのか。

 

 そもそも整理券って文化が冥界だと馴染みがないからなぁ。まったくよくわからなくて、ついスルーしてたって感じかねぇ?

 

 さてさて、ちょっとかわいそうな気もするが……。

 

「あ、どうしました?」

 

 と、そこにイッセーが姿を現した。

 

 ………鎧姿で。

 

 あの野郎、聞いたうえで出てきやがったな。

 

「まったくもう。ああいうのは芸能人がやっちゃいけないことだってのに」

 

 はぁ、と姐さんはため息をついた。

 

 だけど、即座に張り倒しに行くことだけはしない。

 

「いいか、リレンクス。男の子は簡単に泣いたりしたら駄目だ。お母さんを守れるぐらい強くならなきゃだめだぞ?」

 

 と、いいことを言っているので邪魔しづらいんだろうな。

 

 そして、リレンクスを見送って、スタッフがはあとため息をついた。

 

「兵藤さん、こういったのは困ります。一度特例を作りますと、それ全て適用しろという声が必ず出てくるんですから」

 

「……その通りよ、イッセー」

 

 と、姐さんがため息をつきながら苦笑を浮かべて近づいてくる。

 

「あ、リセスさん」

 

「貴方の性格ならほっとけないのは分かるけど、あれは芸能人としてかなり駄目な行為よ。……あなたはあの子の夢を守ったつもりかもしれないけど、逆にきちんと整理券を受け取った子達の夢を傷つけたんだから」

 

 と、姐さんは首を振る。

 

「確かに、自分の事を好いていてくれるファンが泣いているところを見たらああ思う事も仕方がないわ。だけど、それをされたら一生懸命苦労して整理券を手に入れた子達が報われないわ」

 

「はい、すいません」

 

「反省してても次もやりそうだから言ってるのよ」

 

 頭を下げたイッセーに対しても、姐さんはしかし辛らつだ。

 

「芸能界にはね、ファンにはファンの守るべきマナーがあるの。それをきちんと守れなかった子が得をするのはいけない事だわ。特にこういうイベントの時は尚更よ。……これをあの子が自慢したら、きっと周りの子は「僕たちちゃんとしたのに、リレンクスだけずるい!!」ってなっちゃうのよ」

 

 みょ、妙にリアリティのある話になってきたな。

 

 説教が具体例にまで及んでるってのが中々凄い。スタッフの方もまだそういう業界関係に慣れてない事もあるし、ぽかんとしてるぞ。

 

 いや、ホント姐さんは芸能関係について一家言ありすぎじゃねえか?

 

「ああいう時は、サインと握手はきちんと断って、単純な会話とかにするべきね。あくまで偶然出会ったからちょっとしたファンサービスをした程度にするべきよ。あと、これからはたまたまファンに気づかれたら似たようなファンサービスをきちんとする事。それがやってしまったあなたがこれからするべき事よ」

 

「は、はい……」

 

 イッセーが反省するより気圧されてるって気づいてるかな、姐さん。

 

 しっかし、姐さんホントに芸能関係に対して一家言あるなぁ。

 

 まさか、芸能業界に携わっていた事があったりするのか?

 

 いや、高校中退でそっちの業界に入ってから更に異形社会の戦闘職ってどんな来歴だよ。

 

 流石にそれは……ねぇ?

 

「そういう意味ではあなたは芸能人になってしまったという意識が足りないわね。まあ、ちゃんとした芸能人としての教育すら受けてないんだから仕方ないといえば仕方ないんだけど。その辺りは異形社会のノリゆえに発生する問題かしら。とにかくこういうのはきちんと整理券を受け取っている人を優先した考えで行動しなきゃダメ。今回はサインと握手のイベントで整理券まで用意してるんだから、それでサインと握手をしちゃうのはプロ意識に欠けているわ。そうしないと無理だっていうのなら、いっそのことおっぱいドラゴンはあくまであなたがモチーフということだけにして、ショーとかイベントに関しては普段のおっぱいドラゴンをやっている芸能人の方に任せるというのも一つの手で……」

 

「お姉様、区切って、区切って」

 

 ペトが止めに入るぐらいマシンガントークをぶちかましてきやがった姐さん!!

 

 ホントに芸能界に関してうるさいところがあるなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時の俺は、まだ姐さんについて何も知らなかった。

 

 知っていたら、これを微笑ましい光景として見るのは無理だっただろう。

 




ちなみに、これまでにもやってきた伏線を今回もはっています。


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第四章 2

日常回となります


 

 学園祭の準備は、大変だ。

 

 特に今回は大変だ。オカルト研究部の出し物がかなり規模がでかいからな。

 

 その名もオカルトの館。旧校舎をごっそり利用して、色んなものをやる。

 

 喫茶店、お化け屋敷、研究発表、巫女的なお祈りイベント等々。そう言った数々のイベントを、十人ちょっとで回さなきゃならねえ。普通に考えたら一クラスぐらい投入してやるような出し物だ。

 

 ほんと、異形社会はハードスケジュールが好みのようだなぁ、おい。

 

 学園祭の準備に関しても、異能は使わずあくまで学生としての力のみでやろうって感じだ。ま、そういうのに味があるんだろうけどな。

 

 そんなわけで、俺達は大絶賛大仕事の真っ最中だ。

 

 俺とイッセーと木場で、木材を切ったり色々やったりしている。

 

「木場、釘どこだっけ?」

 

「あ、イッセーくん。足元にあったよ」

 

「あぶね、踏むとこだった」

 

 などとだべりながら、俺達は作業を続けていく。

 

 ま、この程度なら会話を片手間にできるぐらいだからいいんだけどな。

 

「で? かのサイラオーグ・バアルとのレーティングゲームの準備は進んでんのかよ」

 

「大絶賛特訓中さ! なにせ、京都で手に入った新技は使えないしな」

 

「確かに、あれは完全にヒロイ君とリセスさんに固定化されてしまったみたいだしね」

 

 思わず三人揃って苦笑が浮かぶ。

 

 そう、京都でイッセーが得た新たな力は、長可の不意打ちとイッセーのとっさの判断で大きく変わった。

 

 本来なら、赤龍帝の力にプロモーションの特性が合わさって特化型に変化する程度だったのだろう。

 

 だが、あの時点でイッセー本人が動けるような状態じゃなくなった事で、其の在り方は大きく変化した。

 

 すなわち、他者に赤龍帝のプロモーションされた力を譲渡する。

 

 俺の場合は騎士の力を譲渡される事で、機動力を中心に能力が向上する。

 

 姐さんの場合は僧侶の力を譲渡される事で、遠隔属性付加という荒業を可能とする。

 

 英雄派との戦いではどっちにしても大活躍した能力だけど、欠点も明白。

 

 単純明快。イッセーは何の強化もされないという事だ。

 

 完膚なきまでのサポートタイプ特化型のパワーアップ。状況的にそうするしかないとはいえ、よくもまあこんな思い切った方法を実行に移したよな、イッセーも。

 

 しかも戦車の駒に関しては、試してみたけど誰も譲渡できなかった。

 

 どうやら、適合する奴といない奴がいるらしい。俺が騎士の駒で姐さんが僧侶の駒だったのも、あくまでたまたま合致したからだけという事か。

 

「だから伏札としては全く使えない。やるとするなら、ゼノヴィアのエクス・デュランダルと僕のあれぐらいかな」

 

「だな。期待してるぜ、木場!」

 

 と、イッセーが木場に発破をかける。

 

 ああ、木場の新技は度肝を抜かれること確定だからな。誰も想像できないような、驚くべき新技を引っ提げて登場しやがったしな。

 

 しかし、レーティングゲームか。やる方も見る方も熱狂してるな。

 

 冥界に関しては娯楽が少ないしな。それに、人間界と交流が進んでも人気が出るだろう。

 

 なんたって、こういった系統での競技試合なんて人間界じゃ聞いた事ないしな。多分人間界でも結構楽しめるんじゃないだろうか。

 

 それにやる方にしたって、勝てば地位も名誉も金も女も手に入ると言われてるしな。そりゃやりたがる連中は多いだろう。

 

 ま、俺は英雄になりたいわけで、競技選手になりたいわけじゃないから、興味があるかって言われるとあまりないんだけどな。

 

「つかレーティングゲームも一長一短だよな。実戦訓練にはなるがよ、全国放送だから手の内いろんなところにばらまかれるじゃねえか」

 

「確かにね。でも、様々な種族を相手に自分の能力を試せるというのはそれを補いうるほどのいい経験にもなるよ」

 

 俺の指摘に木場はそう答える。

 

 なるほど。確かにそう言った見方もあるってわけか。

 

「だよなぁ。それに、俺の新技とかは実戦でお披露目する事が多いから、ぶっちゃけレーティングゲームとかで練習した方がいいかもしれねえしな」

 

 イッセー。確かにそれはそうなんだが、それはお前達含めたごく一部だけだと思うぞ?

 

「それにレーティングゲームと実戦は、似て異なるものだよ。最初は実戦を考慮していたルールが多かったけど、次第にゲームだからこそできるルールも増えているしね。分けて考えた方がいいと思うよ」

 

 なるほど。考えてるな、木場。

 

 つまり、実戦用とゲーム用の技を別々で考える必要もあるって事か。確かにその通りだな。

 

「シトリー眷属とかそんな感じだよな。レーティングゲームのルールの特性をつく方を考えた編成かもしれないし」

 

「そういうゲーム特化型のチームもいるってことか」

 

 イッセーの言葉に、俺はなんとなく頷いた。

 

 ああ。イッセーの奴も結構色々考えるんだよな。

 

 流石名門校に入学しただけのことはあるな。なんだかんだで頭も回るじゃねえか。

 

「そう。だから、レーティングゲームトッププレイヤーが必ず実戦で活躍できるとも限らない。逆に実戦での強さから選ばれた四大魔王様が参戦したとしても、必ずしもレーティングゲームでトッププレイヤーになれるかはわからないね」

 

 木場の言葉に、俺はふとあることを思い出す。

 

 そういえば、四大魔王とその眷属はレーティングゲームには参加してないんだったな。

 

 眷属は独立して自分も眷属悪魔を持てば参加することはできるらしい。だけど、あくまで四大魔王の眷属として生きることを理念としてるらしい。だからレーティングゲームに参加している四大魔王眷属なんて話は聞いたことがない。

 

 少しぐらい興味がある奴がいてもいいと思うけどな。敵に情報が漏れることを恐れたりとかしてるのかねぇ。

 

 直属の部隊を作るってのも、ある意味でありだと思うんだけどな、俺は。

 

 しっかしレーティングゲームのトッププレイヤーか。強いんだろうなぁ。

 

 俺はふと、今のトップ連中のことが気になった。

 

「たしか、ナンバーワンがディハウザー・ベリアルとかいう悪魔なんだっけか?」

 

「そうだよ。そして二位がロイガン・ベルフェゴールさまで、三位がビュディゼ・アバドンさま」

 

 ふむふむ。ベルフェゴールとアバドンねぇ。

 

「なあ、木場。ベルフェゴールとかアバドンって、72柱の名前になかったよな?」

 

「彼らはいわゆる番外の悪魔(エキストラ・デーモン)だからね。本家の方は現政権とは距離を置きたがってるから、ゲームにかかわっている番外の悪魔の方が少ないはずだよ」

 

 イッセーに木場が説明する間、俺はふと空を見上げて考える。

 

 競技世界にも英雄と呼ばれる者はいる。

 

 大活躍をしたり、チームの黄金時代を作り上げた者とかだ。

 

 そういう意味じゃあ、その三人も、レーティングゲーム界の英雄なんだろうな。

 

「……特にトップテンは規格外の化け物と呼称されているからね。其の中でも上位三人のあの三人は、魔王クラスとすら呼ばれているよ」

 

「マジか。部長の夢の為には魔王クラスも倒さなきゃらなねえのか。……大変だな、部長も俺も」

 

 と、イッセーは木場の言葉にごくりとつばを飲み込む。

 

 まあお前ならいつかは善戦できるようになるだろ。魔王すら倒せる神滅具の禁手に至ってるんだしよ。

 

 などと思っていると、ノックとともにアザゼルが入ってくる。

 

「あ~面倒な会議だったぜ。ああいうのはロスヴァイセに丸投げしとくに限るな」

 

 このサボり魔! あんたはまじめに仕事しろ。

 

 などと思っている間に、アザゼル先生はイッセーの左腕に視線を向ける。

 

 赤龍帝の籠手の新能力が気になるのかなどと思ったけど、どうも違うみたいだ。

 

「ドライグ、例の件、カウンセラーの準備が出来たぞ」

 

 ………

 

「「カウンセラー!?」」

 

 俺とイッセーは同時に驚愕した。

 

 そりゃそうだろ。ドラゴンがカウンセラーとか聞いたことねえよ!!

 

「ドライグ、調子悪いのかい?」

 

『そうなんだ。最近は元気が出ず、気づくと泣きたくなる事が多くてなぁ』

 

 木場にそう答えるドライグだが、確かに元気がなさそうだな。

 

 な、なにがあった? 敵の精神攻撃か?

 

「お、俺が突拍子もないパワーアップしてるから、その反動か?」

 

 イッセーも心配して左腕をのぞき込むが、アザゼル先生が静かに首を振った。

 

「いや、俺が思うにお前のパワーアップの反動じゃなく、パワーアップの方法が原因で心労が溜まったんだろうよ」

 

 ………それもそうか。

 

「そりゃお前、毎回毎回乳だしな」

 

 俺は心底納得した。

 

 乳を減らすと聞かれて格上をボコった。

 

 乳首をつついて禁手に至るほどの精神的覚醒を果たした。それも、戦闘中に。

 

 暴走した状態から、乳首をつつくことで元に戻った。

 

 ロキの戦いでは、異世界から乳を司る神が接触してきた。それも割とマジで大貢献した。

 

 でもって、大量の痴漢を作り上げるという過程の末にあの新技だ。

 

 前代未聞ってのはこのこったろうな。俺も今更思い返してみて、頭痛くなってきたぜ。

 

 そりゃショックの一つも受けるだろ。トラウマにもなる。

 

「ま、封印される前もされてからも赤白対決で迷惑かけまくった罰が当たったと思って諦めろ」

 

『そこを突かれると返す言葉もないがな。しかし……他になかったのか……』

 

 む、ちょっとは怒って元気出るかと思ったところもあったんだけどな。納得しかけてるぞこいつ。

 

 思った以上に重傷だな。こりゃ酷い。

 

 ……でもドライグ、お前忘れてないか?

 

 まだ戦車の駒と女王の駒のプロモーションが残ってるんだぞ?

 

 それも、乳で覚醒する可能性はマジであるんだぜ?

 

 俺は覚悟を決めとこう。頑張って覚悟しとこうか。

 

「ドライグ! これからも乳ばかりだろうけど、それでもオマエのこと大事にするよぉおおおおお!!!」

 

『ああ、これからも俺は苦労するだろうが、それでも相棒には期待しているさ』

 

 イッセー。お前はもうちょっとお乳以外のパワーアップを努力しろよ。

 

 ドライグも、それはもう諦めてるだけじゃねえか?

 

 などと漫才を眺めていると、お嬢が部屋に入ってきた。

 

「あ、すんませんお嬢。なんか頭痛い展開になって作業が止まってました」

 

「ああ、それは別にいいわ。それよりイッセーにちょっと用事があるのよ」

 

 ん? 監督活動の為にこっちに来たわけじゃねえのか?

 

 んじゃ、なんでお嬢はここに?

 

「イッセー。ちょっと一緒に付いて来てほしいところがあるの」

 

 ………このタイミングに何があったんだ?

 




イッセーのトリアイナに代わる新技は、割と欠点も多いです。

ドラグナーと違って直接接触する必要があるため、分断されるとできないというのが良さ代のデメリット。チームで行動していないと発動できないという意味では、戦略的な運用が困難という問題点を抱えております。

この作品では、その辺を白龍皇の妖精達で克服したのがドラグナーになる……という展開も面白そうですね。


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第四章 3

 

 なんでも、イッセーの乳技を使ってサイラオーグのお袋さんを治せないかどうかとか言われたらしい。

 

 阿保じゃねえの?

 

 俺はそんなことを思いながら、テレビを見てポテチを喰っていた。

 

「あんまり食べると太るッスよ?」

 

「俺はその分動いてるからいいんだよ」

 

 ペトに半目でそう返すが、そういうペトもクッキーを喰ってるんだが。

 

 お前が太るぞ。俺より動いてねえだろ。

 

「人のこと言えねえだろ」

 

「ペトはお姉様とベッドの上で運動するからいいっす」

 

 ……混ざりたい。

 

 だけど言えない。なんか言うタイミングを逃してここまで来ちまった気がする。

 

 くそ! ペトはこういう時いいよなぁ。姐さんの体を堪能しまくりで、味わいまくりなんだから。

 

 いい加減本気で羨ましい。俺も姐さんに美味しく食べられて、ついでに姐さんを美味しく食べたい。ねちょねちょな関係になりたい。

 

 いや、別に付き合いたいとかそういうわけじゃないんだよ。恋愛感情があるかと言われると、ちょっと微妙なんだ。

 

 だが、憧れのアイドルとエロい事できると言われて、それを一瞬でも本気で望まない輩はむしろ少ないだろう。つまり、そういうこった。

 

 そんな馬鹿な事を思いながら俺達が見るのは、グレモリーVSバアルのレーティングゲームの記者会見。

 

 まったく、注目選手同士の試合って感じだな。

 

 既になんというかプロって感じで記者が集まってて、質問が頻発している。

 

「一万年生きる悪魔でまだ十代かそこらだっていうのに、すごい注目度ね」

 

 ビールを飲みながら姐さんが感心するけど、確かにそうだな。

 

 一万年生きる悪魔からしてみれば、十代なんて赤ちゃんみたいなもんだろう。

 

 それが注目されてるんだから、この二大チームがどれほど凄いってのか分かるもんだ。

 

 特にお嬢達のチームに関しちゃぁ、俺らが一番良く分かってるって言っても過言じゃねえ。

 

 なんたって、ヴィクターとの戦いにおいてほぼすべて共闘してるからな。嫌って程分かってるぜ。

 

 魔王の末裔やら英雄の魂を継ぐ者やら神そのものまで、本当に凄まじい敵達とばかり闘ってきたからなぁ。なんで全員無事なのか、分らないところもある。

 

 そんなことができる連中なんて、上級悪魔とその眷属にもいないだろうな。下手したら、最上級悪魔にだって少ねえかもしれねえ。

 

 そんなすっげえ奴らと肩を並べて戦えるってのは、英雄冥利に尽きるってもん―

 

『―今回の試合では、リアス姫の乳首をどうつつくのでしょうか?』

 

 ―はいぃ!?

 

 俺達が目を見開いてテレビを見る中、取材陣の1人、おばさんの悪魔がド真剣な表情でイッセーにそんなことを聞いてきた。

 

 何言ってんだこのおばさん。そんなこと真剣な表情で聞くとか、頭わいてんじゃねえの?

 

「……冥界は、自由ね」

 

「堕天使もフリーダムっすけど、悪魔もすごいっすね……」

 

 姐さんもペトも遠い目をし始めている。

 

『情報によると、乳龍帝おっぱいドラゴンと同様に、兵藤一誠選手もリアス姫の乳首をつつくことでパワーアップすると聞きます! 今回はどのようなパワーアップをするのでしょうか?』

 

 確かにそうだけどさぁ。そうだけどさぁ!!

 

 ここで聞く事じゃねえだろ! 状況考えろ!!

 

『え、えっと……ぶ、ぶちょ……』

 

 イッセーも動揺してるし。

 

 っていうか部長って言いかけたな。冥界の記者会見で部長はまずいんじゃねえだろうか?

 

 そう思った次の瞬間、記者はペンを取り落とした。

 

『ぶちゅぅ!? ま、まさか……吸うのですか!?』

 

「「「阿保か!!」」」

 

 トリプルシンクロハモりツッコミが飛んだぜ。

 

 阿保だこの記者。常識でものを考えろ。

 

 絶賛生中継予定のレーティングゲームでそんなことできるか! 放送事故以外の何物でもねえだろうが!!

 

 イッセーは馬鹿だけど、意外と常識人なんだぞ。そんなことするほどどうしようもなくねえよ。

 

 時々思うんだけどよ、冥界って実はバカしかいねえんじゃねえか?

 

 んなこと思っている間に、記者達は凄い勢いで注目している。

 

『つついて禁手になるのなら、吸うとどうなるのですか!? 冥界が崩壊するのでしょうか!!』

 

 殴りに行きてぇ!!

 

『サイラオーグ選手! 対抗する立場として、どう思われるかお聞きしたいのですが!!』

 

 そしてなんでそっちに振る!!

 

「……サイラオーグ・バアルも災難ね」

 

 姐さんが頭痛を感じたのか、眉間に指を当ててため息をついた。

 

 ああ、これ怒ってもいいんじゃねえだろうか……。

 

『……ふむ、兵藤一誠がそんな事をしたら、急激なパワーアップを果たしそうだな』

 

「「「真面目に答えた!?」」」

 

 しまった。忘れてたぜ。

 

 あの人はサーゼクス様の従弟だった。あのノリが軽いサーゼクス様の従弟だった。

 

 意外とノリがよかったな、オイ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで記者会見も終わったけどよ、コレ、どうなんだろうな。

 

 何ていうか、悪魔の文化にゃついていけねえ時がゴロゴロあるぜ。自由っつーかなんつーか。

 

 ま、それはともかく、俺も色々と動き始める時が来たようだな。

 

 ……深夜、俺はこっそりと兵藤邸の地下に来ていた。

 

 目的は、この階にある大浴場だ。

 

 ぶっちゃけ、一度は行ってみたかった。

 

 基本的にイッセーと女子しか入れねえという、ツッコミどころだらけの展開だ。イッセーもげろ。

 

 っていうかあいつは、なんでそんな混浴パラダイスが出来ている状況でハーレム出来てねえなんて思えるんだ? 普通に考えてそういうことだと納得しろよ。

 

 特にアーシアだアーシア。

 

 そもそも最近はエロシスター化が進行しているとはいえ、アーシアはシスターだ。それが子供産むとか飛んでも発言してるんだっての。そもそもその前に校舎裏でキスまでして告白してるんだろうが。

 

 それが何で

 

『兄妹とか恋人とかと違う、家族っていうのかな?』

 

 なんだよ。

 

 ……いかん。頭痛くなってきた。

 

 とにかく俺も一度ぐらいこのでかい風呂に入りたかったんだ。待ってましたって感じなんだ。

 

 そういうわけで、入らせてもらうぜ!!

 

 そんなこんなで脱衣所に突入して―

 

「―あら、ヒロイじゃない」

 

 あ、姐さん。

 

 姐さんが服を脱ぎながら俺の方を向いた。

 

「姐さんも風呂に入りに来たのか?」

 

「ええ。たまには一人でこの大きいお風呂を楽しみたかったのよ」

 

 ああ、西洋とかだとシャワーで済ます事が多いらしいからな。

 

 ってか姐さんはいるのかよ。こりゃ俺は退散した方がいいかねぇ。

 

 そう思ったけど、ふと気づくと姐さんは俺の腕を掴んでいた。

 

「まあいいわ。一緒に入らない? 背中を流すわよ」

 

 ……………ふぉおおおおおおおおお!!!

 

 お、おれはついに大人の階段を全力疾走で登りあがるのか!!

 

 大丈夫か? 松田や元浜みたいに気持ち悪くならねえかな?

 

「待ってくれ姐さん。俺は間違いなく暴走する」

 

「あら、だったら童貞も食べてあげようかしら?」

 

「ありがとうございます!!」

 

 勢いよく頭を下げた。

 

 さ、最高だ。輝かしい英雄たる姐さんで童貞を卒業できるとか、英雄冥利に尽きる。

 

 お、おれはもう興奮して、逆に気が遠のきそうに―

 

「―イッセーの馬鹿!!」

 

 と、勢いよく浴場のドアが開いて、裸のお嬢が飛び出してきた。

 

 ……ヤバイ、死んだ!?

 

「お、お嬢ごめんなさい! でも事故なのでどうか情状酌量を!! 明日帰りにスタバ奢りますから!!」

 

 まず謝って、そこから弁明して、そしてわいろを提出するところまで慌てていうが、お嬢は何も聞いていないのかさっさと裸のまま脱衣室から出て行ってしまう。

 

 あれ? いったい何事?

 

 っていうかお嬢、泣いてなかったか?

 

「……あ、リセスさんにヒロイ! 部長見なかったか?」

 

 と、イッセーが恐る恐る顔を出した。

 

 え、え、え? 何事?

 

「……いったい何をしたの? リアス泣いてたわよ」

 

「それがさっぱり……。部長がいきなり迫ってきたかと思ったら、急に怒りだして……」

 

 姐さんに詰問されても、イッセーは要領を得ないのか首をかしげる。

 

 それを見て、姐さんは額に手を当てた。

 

「男女の色恋沙汰に突っ込むのは本意じゃないけど、流石にそうも言ってられないかしら」

 

 はぁ、と姐さんはため息をついた。

 

 ぶっちゃけ俺もイラついてきた。

 

 お嬢がイッセーに懸想してんのは、誰がどう見たって明らかだ。

 

 学校中でも噂になってんだろうが。何故かオカルト研究部の女子達はイッセーに夢中だって。

 

 なのにイッセーは、別に夢中なんじゃなくてそういう風に見えるだけだとかほざいてやがる。

 

 ……そろそろ本気で殴った方がいいんじゃねえか?

 

 なんか、風呂入る気分じゃなくなってきたな。

 

「とりあえず、なんでそんなことをしてくるのか考えてみなさい。リアスだけじゃなくて、アーシアや朱乃達に関してもね」

 

「は、はい。よく分かりませんけど考えます」

 

 なんで分らないのかが分からねえ。

 

 少なくとも、アーシアと小猫に関しちゃ考えやすいと思うんだけどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを考えながら、俺達オカルト研究部は、部室で文化祭の準備をしていた。

 

 しかし、お嬢はちょっと限界らしい。

 

 かなり無表情で行動していて、イッセーと目を合わせようともしない。

 

 半年そこらで限界ってのも早すぎる気もするが、まあ、状況が状況だからな。

 

 この半年そこら、なんでオカ研全員が生き残ってんのか分からねえ位の激戦だった。マジで全員生存ってだけでもすげえ成果だと思う。

 

 つまり、イッセーはいつ死んでもおかしくなかった。っていうか生き残ってんのが奇跡だろ。

 

 そんな環境で、自分の恋心が気づかれてもいない。そのまま気づかれずに死ぬかもしれねえ。これはかなりストレス何だろうな。

 

 しかも周りの女の子もモーションを駆けてくるから、色々とやきもきする環境ってわけだ。

 

 ……ちょっとイッセー、罪作りすぎだろ。

 

 第一イッセーを特別扱いしてんのは誰の目から見ても明白だ。オカルト研究部員はもちろんのこと、駒王学園の連中も全員分かっているしな。

 

 なのにイッセーだけが気づいてねえ。鈍感にもほどがあるだろ。

 

 ……いい加減にした方がいいんじゃねえか、イッセーの奴。

 

 そんなことを思っていると、いきなり魔方陣が展開されて、金髪の美女が姿を現した。

 

 んん? なんだなんだ?

 

「お、お母様!?」

 

 と、転校生にして新入部員のレイヴェルが目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、最後の爆薬になったわけだ。

 




はい、修羅場まで秒読み段階です

ほんと、この展開はすごいと思いましたよ。

ラノベの主人公が恋愛に鈍感なのはもはや常識。そこを逆手に取った展開ですからね。なかなかないでしょう、こういうのは。


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第四章 4

はい、ついに修羅場に突入


 

 レイヴェルのお袋さんは、露骨にレイヴェルがフリーだと繰り返した。

 

 お袋さんはレーティングゲームをしないとのことで、今はそのお袋さんの僧侶をやっている。つまりトレードを受け付けるってことだ。それをイッセーに執拗に繰り返した。

 

 もうこれ、直接明言してねえけどそういうこったろ。イッセー大人気だな、冥界だと。

 

 で、そんなこんなで通信が途切れる中、イッセーは首を傾げた。

 

「……どういう意味なんだろうな」

 

 俺は、つい聖槍を槍王の型を叩き込みたい衝動にかられた。

 

 一発ホントに叩き込んでやろうか。こいつせめてトレードさせたいとかいうことくらい気づけよ。

 

「イッセー。イッセーって馬鹿っすよね」

 

「酷いなペト! 確かに俺は馬鹿だけどさ、レイヴェルが今は主がいないようなもんだってことはわかるぜ?」

 

 ペトの辛辣な言葉にも、イッセーは的外れなことを言ってくる。

 

 こいつ本当に駄目だろ。どこまでも駄目だろ。

 

 一発本気でぶん殴ってやろうかと思い始めたが、それより先に限界超えたやつがいた。

 

 ……お嬢が、無言で立ち上がると部室を出ようとする。

 

「あれ? 部長、どうしたんですか?」

 

 イッセーが気になったのか声をかけたけど、これまずくね?

 

 実際、お嬢はぷるぷると肩を震わせていた。

 

「……イッセー。貴方にとって、私は何?」

 

「え?」

 

 イッセーは、明らかに訳が分からないって感じだった。

 

 あ、これマジでまずい。

 

「イッセー! いいか、よく考えて答えろよ!!」

 

 俺はとっさに声を上げるが、そこでイッセーは首をかしげながらも深呼吸した。

 

 そして一言。

 

「よくわかりませんけど、部長は俺にとって立派な主様で尊敬する部活の部長です!!」

 

 沈黙が響いた。

 

 これ、一発本気でぶん殴った方がいいんじゃねえか?

 

 割とマジで殺意がわいてくる中、部長はもう我慢できてねえのか涙すら流した。

 

「……馬鹿!!」

 

 そして勢いよく走って駆け出していく。

 

 うん。これはさすがにストレスがやばいことになるわなぁ……。

 

「イッセー君。さすがにこれはひどいよ」

 

 木場が、いつもの笑顔を完全に消してイッセーを避難する。

 

「え? 酷いって、なにが?」

 

 まったく訳が分からないって表情で、イッセーはそう答える。

 

 それに、木場はさすがに苛立ちを隠せてない。

 

「そういうところさ。流石にものには限度があると思うよ」

 

「同感だ。私もこういうことには鈍いが、イッセーはさすがにひどすぎる」

 

「ほんとよ! リアスさんがかわいそうだわ!!」

 

 木場に乗っかってゼノヴィアとイリナもかなり怒っている。

 

 うんまあ、さすがにこれはむかつくな。

 

 そりゃぁ、直接的にはこくってないぜ? アプローチだけだぜ?

 

 それにしたって、一線超えるところまで言っておきながら、好意をかけらも想定しないってのはさすがにまずいんじゃねえか?

 

「……最低です」

 

 うわぁ、小猫ちゃんの今までにない絶対零度の罵倒が出たよ。

 

「酷いですイッセーさん! なんでリアスお姉さまの気持ちに気づこうとしないんですか!!」

 

 アーシアなんて涙迄流してる。

 

 そして、肝心のイッセーは……。

 

「………え?」

 

 何もわかってない。

 

「現実にいると糞でしかないって属性はあるけどさ、なんでお前は二つも持ってんだよ。さすがに最悪だぞ」

 

 俺はそういうほかねえ。

 

 覗きの常習犯と、女の子の露骨なアプローチを無自覚スルーする鈍感野郎。

 

 どっちもリアルにいたら相当嫌悪感抱く奴はいるけど、なんでこの馬鹿二つも同時に持ってんだよ。

 

 何が何だかわからないなりにイッセーはお嬢を追いかけようとするが、しかし朱乃さんがその肩に手を置く。

 

「今イッセー君が行っても逆効果ですわ。おとなしくしていてください」

 

 ニコニコ笑顔をしっかり消して、こちらもかなり険しい表情。

 

 まあ、朱乃さんとしても少しはストレス溜まってたのが、ここで爆発したって形何だろうな。

 

「なあ、ギャスパー。俺ってそんなにダメか?」

 

「………はい。かなりダメダメかと」

 

 ギャスパーもフォローの余地がねえな。

 

「あの、お母様の所為ですよね?」

 

「いやいや。これはイッセーにそもそもの原因があるッスから、レイヴェルは気にしすぎない方がいいっすよ」

 

 おろおろするレイヴェルにペトがフォローを入れるが、そのペトもイッセーになんというか微妙な表情を浮かべている。

 

 そして、イッセーは全く持ってそれを理解していなかった。

 

 こいつ、ちょっといくらなんでも病気なんじゃねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、これより「イッセー流石に鈍感すぎ会議」を始めたいと思います!」

 

 イッセーはとりあえず作業に行かせて、俺達はいったん会議を行うことにした。

 

 既にアザゼル先生とロスヴァイセさんも呼び出して、準備万端だ。

 

「あの野郎、まさか今だにまったくモテてるのに気づいていないとかマジか」

 

「レイヴェルさんのお母さんの念押しも理解してないようですね。イッセー君はそういう方向でも問題児なんですね」

 

 アザゼル先生も呆れ、ロスヴァイセさんもため息をついている。

 

 ああ、これは流石にまずいだろう。

 

「……とりあえず話をまとめると、流石にこれはちょっとおかしいわね」

 

 姐さんが、とりあえず木場がまとめた資料を見て眉をしかめる。

 

「百歩譲ってリアスの行為に鈍感なのはいいわ。そもそも初めての出会いで裸を見せている辺り、イッセーの中でリアスに痴女的な印象が出てくるのは当然といえば当然。そこで私とペトで慣らされていれば、そういう方向になってもおかしくないもの」

 

 ……そんなことしてやがったのか。別の意味で殴りたくなってきやがったぜ。

 

 だが、問題はそこではない。

 

 ペトもそこは気づいているのか、同じく資料を見ながら首をかしげる。

 

「でも、最初の子作りだけを目的にして、更に今でも子作り主体で迫っているゼノヴィアはともかく、アーシアや小猫まで同じようにスルーするのはおかしくないっすか?」

 

「同感だね。特にアーシアさんの件はわざとやっているとしか思えないスルーの仕方だよ」

 

 木場もそれに同意を示し、全員が続いて頷いた。

 

 そう、百歩譲ってお嬢はまあいいんだ。

 

 最初に裸を見せてしかも気にしないだなんて真似ぶちかませば、誰だってイメージに痴女とか性に開放的な属性が加わるだろう。それが原因でスルーしてしまってもおかしくない。お嬢にも問題があるってんだ、これは。

 

 だが、アーシアに関してはおかしい。

 

 なんでも最初から嫁入り修行とか言って同居を勝ち取ったらしい。その時点でつまりそういう意味だという方向で取ってもおかしくねえはずだ。

 

 はっきり言って最近は痴女化が進んでるけど、その前からアーシアはイッセーに好意をしっかり示している。それは誰の目から見ても明らかだ。

 

 ゼノヴィアに関してはペトの言った通りではある。イッセーを子作りのターゲットにしたことが原因で、全てにおいてそれがイメージになってもおかしくない。しかし俺もターゲットの一人になっていたにもかかわらず、完全スルーされているということを忘れてはいけない。

 

 朱乃さんに関しても不倫狙いと堂々と公言しているのにもかかわらず、遊ばれているとか可愛がられている認識で統一されている。プールでの喧嘩のときとか、男嫌いとかいう情報が出ていたにも関わらずイッセーを特別視している発言も出てたというコンボがあった。つかデートの件で気づくべきだったな。

 

 小猫ちゃんに至っては露骨だろう。この子はその辺の貞操観念がかなりしっかりしている部類なのに、子どもを作る相手としてイッセーをターゲットにしている発言をしていたと自己申告がある。この時点で少なくともそういう相手の候補として見られている事ぐらいは分かってもいいはずだ。

 

 ……そもそも学園中で「催眠術で魅了している」だなんて噂になるぐらい、オカ研女性陣のイッセーに対する好意は誰の目から見ても明らかだ。

 

 イッセーだけだ。イッセーだけが「そう見えるだけ。実際は違う」だなんて考えている。

 

 なんでだ? なんでハーレム王になりたいとかいうぐらいガッツいてるのに、女子からの露骨な行為やアプローチをスルーする?

 

「……ねえ、イッセーって実は恋愛に興味がないってことは考えられない?」

 

 と、姐さんがそんなことを言ってきた。

 

「リセスさん? イッセー君はハーレム王になりたいと、堂々と言いきってそれを原動力にしていますのよ?」

 

「ハーレムを作りたいと恋愛をしたいというのはまた別よ」

 

 朱乃さんの呆れ半分の反論に、姐さんはそう告げた。

 

「こういうのはイッセーに悪いけど、女を自分のものにしたいっていう執着心と、恋愛感情ってのはまた別だわ。欲望のはけ口としてしか見ない輩ってのは少なからずいるもの」

 

 と、嫌そうな表情を浮かべるけど、しかし口調そのものは平然と姐さんは告げる。

 

 ……ああ~、ディオドラとかまさにそういうタイプだよなぁ。

 

「もちろんイッセーがそうだなんて言うつもりはないわ。だけど、恋愛的なアプローチをここまでスルーするってことは、恋愛をする気がないってことじゃないかしら?」

 

 姐さんはそういうと、とりあえず出されたお茶に口をつける。

 

「でも、イッセー先輩はリアス部長と恋人になれたらいいとか言ってた時ありましたよ?」

 

 ギャスパーがそんなことを言うが、確かにその通りだ。

 

 イッセーがお嬢に好意を抱いてるのは、誰の目から見ても明らかだ。

 

 それなのに、お嬢からのアプローチをイッセーはスルーしている。

 

 ……もう訳が分からねえ。

 

 俺達が顔を見合わせて首を傾げていると、ペトが手を上げた。

 

「あの、イッセーと一番付き合いが長いイリナに聞きたい事があるッス」

 

「なになに?」

 

「イッセーて、さらし者になった経験とかはあるっすか?」

 

 その質問に、俺達は首を傾げた。

 

 ん? どういうこった?

 

「どゆ意味?」

 

「いや、告白の手紙出したらそれを黒板に張り出された……とか、そういう恋愛がらみで酷い目にあって、本人気づいてないけど無自覚に恋愛ごとを避けるようなトラウマになってる……とかあるのかなぁって思ったッス」

 

 なるほど。それはありうるな。

 

 そもそも朱乃さんとのデートの時、朱乃さんが超うきうきしていたのに「本命の前の予行演習」だなんて発想する事がおかしいんだ。

 

 自分で気づいてないだけで、恋愛ごとを避けている……っていうのはあるかもしれねえな。

 

 俺は感心してるが、なんかかなり沈黙が響いた。

 

 具体的には、俺がグレモリー眷属と関わる前のメンバーだ。それもギャスパーを除いた。

 

 なんだ? すごい汗流してるぞ?

 

「「「「ぁあああああああああ!!!!!」」」」

 

 一斉に天啓が閃いたかの如く大声を上げる。

 

「なんだよ。なんかあいつトラウマでもあんのか? まぁ覗きの常習犯とか、表の人間は嫌いそうだから手酷い振られ方してもおかしくねえけどよぉ」

 

 アザゼル先生が苦笑を浮かべるが、その先生にすごい勢いで四人の視線が集中した。

 

 それも、ものすごい非難の視線だ。

 

「あらあら。ある意味全ての元凶が何をほざいておりますの?」

 

「アザゼル先生。ことの発端は貴方ですよ」

 

「……先生が作ったようなものです」

 

「アザゼル先生。すいませんが朱乃さん達の言う通りです」

 

「………え゛?」

 

 アザゼルが何を言われているのか分らないという顔をする中、四人を代表して木場が口を開いた。

 

 それは、兵藤一誠という男が悪魔になる、その最初の出来事になる。

 



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第四章 5

ようやく判明したイッセーの鈍感さの根源。

そして、其れを知ってリセスは……



















あ、ついでに設定資料集も本日更新しましたので、ぜひご覧ください


 イッセーの奴が悪魔になったのは、俺がイッセーと会う前、あいつが二年生になった少し後の事だ。

 

 この頃のあいつは純粋な人間。しかも、神器に対する適正も低い。加えて、それに気づく事ができる異能関係者の知り合いなんて誰もいなかった。

 

 だが、あいつは神滅具という最強クラスの神器を保有していた。

 

 これは、下手するとマジで大災害が勃発するレベルの非常事態だ。

 

 普通に行けばいつか暴走して大災害が発生する。割と人口の多い地方都市でそれが起きれば、死者の数は万を超えることすらある。どちらにしても隠匿は非常に困難だろう。

 

 そしてこの段階において、各神話勢力はおろか三大勢力の和平すらなされていない時期だった。

 

 こういうタイミングでこのピーキーな代物に対する対応は、大抵が抹殺だ。

 

 教会でも暗部でそういう事をする場合がないではない。悪魔でも勢力の危険を考慮して暗殺するという動きがないではない。

 

 そして、神器研究の第一人者と言ってもいい堕天使勢力は、そういう事を積極的に行う役目を暗黙の了解で引き受けていた。

 

 そしてイッセーは暗殺されるが、この時奇跡が起きる。

 

 たまたまその前に悪魔召喚のチラシを持っていたイッセーは、悪魔の召喚に成功したのだ。

 

 相当強く願ったのか、その時出てきたのはリアスのお嬢。そして、お嬢はイッセーの素質を知ったのもあり、兵士八駒を全部使ってでも転生させる事を決定する。

 

 で、その後暗殺した堕天使が暴走して、アーシアの神器を奪って自分の移植使用した関連で戦闘を開始。アーシアもまた神器を奪われて一端死んだ為、神器を戻すついでに悪魔に転生させる事で蘇生を試みた。

 

 ……ここまでは良かった。

 

 問題は、その過程だ。

 

 その件のレイナーレとかいう堕天使なんだけど、そいつが暗殺に使った手口が問題だ。

 

 ぶっちゃけいえば、イッセーに告って彼女として接近。デートをしてから殺したらしい。

 

 しかもその後、アーシア奪還作戦の時にそのデートをつまらないと酷評してたそうだ。

 

 木場も小猫ちゃんもアーシアも詳しくは言わなかったけど、かなり悪し様に罵ってたらしい。

 

 ………ああ、なるほど。

 

「ペトさんの言う通りだ。おそらくイッセー君は、その時の事がトラウマになっているんだろう」

 

「……かなり下衆でしたから。相当トラウマなのかと」

 

 木場と小猫ちゃんが納得している中、俺達の視線はアザゼルに集まる。

 

 うん、そりゃそうだろう。

 

 だって、その堕天使のトップはアザゼルだぞ?

 

「総督、これ、堕天使側の責任問題じゃないっすか?」

 

「大王派に勘付かれたらことね。喜び勇んで責任問題を追及するわよ」

 

 一応堕天使側のペトと姐さんも納得したかのようにため息をつく。

 

「アザゼル先生、どうするんですか? これ、誰がどう見ても堕天使側の責任ですよ?」

 

 ロスヴァイセさんもその辺に関しては同意らしい。

 

「ま、待て待て待て! 確かにそういう方針を取ってたのは認めるけど、そんな末端の任命責任まで俺が持ってるわけねえだろ!? 知ってたら流石に怒るって!」

 

 いや、確かにそれはその通りだぜアザゼル。

 

 だけどよ? その所為で教え子がトラウマ刻まれてんだぞ。問題だろ。

 

「アザゼル。ドライグより先にイッセーにカウンセラーを紹介してやれよ」

 

「そうです! このままじゃ、イッセーさんもリアスお姉様も可哀想です!!」

 

 俺の指摘にアーシアが涙ながらに同意して懇願する。

 

 だよなぁ。そりゃ恋愛とかに近づかねえわけだよ。

 

 っていうか、普通女性恐怖症とか女嫌いとかにならね? 女性不信確実だろ。

 

 なんで普通に覗きに行く。お前の何がそこまで女に対する欲望を駆り立てるんだ。

 

 一周回ってホモに走っても全くおかしくねえよ。そんぐらいにはトラウマになってもおかしくねえよ。いや、マジで。

 

 うっわぁ……。これはひでぇ。

 

「……時々、イッセー君が私達を怖がっている目で見ていた事がありましたけどそれが原因ですか」

 

 朱乃さんが、落ち込んだ表情でそう呟いた。

 

「そんな事、ありましたっけ?」

 

「あの事件を知らない人には、分らなかったと思います」

 

 首をかしげるロスヴィアセさんに対して、小猫ちゃんはむしろ納得だった。

 

 しっかし、そんなことを担ってもなおハーレムを目指し、そして恋愛恐怖症ねぇ。

 

 根性があるのかないのか分からねえな。いろんな意味ですげえよ、イッセーの奴。

 

 しっかしこりゃ根深い問題だな。ちょっとやそっとで治せるようなもんじゃねえぞ。

 

「これは、数年ぐらいかけて治す事を考えた方がいいのかもしれないわね」

 

 と、姐さんは窓の外を見ながらそう言った。

 

 確かに。完璧にトラウマになってるもんな。

 

 そんなもんを治すのに時間がかかるのは当たり前だ。下手すりゃ一生ものかもしれねえだろうしな。

 

「恋愛がらみのトラウマは、心に残るもの」

 

 そう告げる姐さんは、ここじゃないどこかを見据えていた。

 

 ……そう、まるで、どっか昔の憧憬を見ているような………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセス・イドアルは、そのあと一人でリアスを探していた。

 

 用務員の仕事をしながらなので色々と大変だ。仕事をきちんとしなければ駒王学園にいることもできない。

 

 だが、それでもそれなりに本気で探して、そしてリアスを見つけた。

 

「ここにいたのね、リアス」

 

 屋上で、黄昏ていたリアスを見つけてリセスは隣に立つ。

 

「……いっそのこと、私から告白した方がいいのかしら」

 

 そう、リアスはぽつりと呟いた。

 

「できればイッセーから告白して欲しいのだけれど、それだとイッセーはいつまで経ってもしてくれそうにないもの」

 

「そうね。好きなら自分から告白する度胸は必要ね」

 

 そう言いながら、リセスはリアスの肩を抱く。

 

 気づかわし気に労わられている事に気づいて、リアスは少しだけ気分を楽にした。

 

「あの後話したんだけれどね。どうもレイナーレとかいうのとの一件がイッセーにトラウマを刻んでるんじゃないかって話になったのよ」

 

「………そう、そういうこと」

 

 リアスは、自分の浅慮に項垂れる。

 

 そんな理由では、イッセーから告白してくる事などありえないだろう。自分から告白しても、果たして良い返事が返ってくることか。

 

 だけど、それでも欲しいのだ。

 

「我儘……なのかしら?」

 

「そこまで言ったりはしないわよ」

 

 さらりと、リセスはそう答えた。

 

 その言葉に視線を上げると、リセスは遠くを見つめていた。

 

「好きな男の子に好きって言ってもらいたいのは、女の子のロマンだもの。あなたの年なら当たり前といえば当たり前だわ」

 

 そういうリセスは、どこか寂しい表情を浮かべていた。

 

 そして、リアスに顔を向けると、苦笑を浮かべる。

 

「だけど、いつ死ぬか分らないわよ? 貴女も、イッセーも」

 

 その言葉に、リアスは背筋が冷えるのを感じる。

 

 この思いを届ける前にイッセーが死ぬ。

 

 この思いを知られることなく、自分が死ぬ。

 

 どちらも恐ろしい事だ。そして、今まで起きなかった事が奇跡に近い。

 

 魔王の末裔、北欧の悪神、そして、英雄の魂を継ぐ者達。

 

 そんな彼らを敵に回して、メンバー全員が生き残るのは当たり前でも何でもない。むしろ圧倒的に難易度が高い事で、明らかに奇跡的な事だ。

 

 そんな事実に今更気づいて、リアスは心が凍り付く錯覚に陥る。

 

「だから、本当に愛しているならできるだけ早く告白した方がいいわ。……目の前で死なれる可能性だって、ないわけじゃないもの」

 

 そうリセスは言うと、再び彼女は遠くを見る。

 

「私は、目の前で死なれたわ」

 

 その言葉を理解するのに、リアスは少しの時間を必要とした。

 

 そういえば、リセスの過去について聞いたことは一度もない。

 

 そして、その過去について初めて聞いたのがそんなことになるとは思わなかった。

 

「そしてそれは私の所為。私が畜生だった所為で、彼は死を選んだ」

 

 その言葉は、いったいどういう意味なのだろうか。

 

 自分の弱さが原因で死んだことに対する自己責任なのか。

 

 それとも、本当に彼女が原因で自殺でもされたのか……。

 

 気にはなるが、然し本当に尋ねたりはしない。

 

 親しい仲にも礼儀がある。それに、これはかなり踏み込んでほしくない事のはずだ。

 

 それを、自分の為にあえて語っている。それほどまでに自分は気を使われている。

 

 だったら、せめてその分の礼儀を守るべきだ。

 

 ゆえに、リアスはリセスと同じように空を見る。

 

「……私から、踏み込んだ方がいいのかしら」

 

「そうね。好きだという気持ちが強いなら、自分から行動する根性が必要ね」

 

 そう、リセスは苦笑とともに言葉を返す。

 

「名前で呼んで欲しいなら、自分で言った方がいいわよ? 男ってのは馬鹿なんだから、そっちの方が遥かに良いわ」

 

「そうね。踏ん切りをつけたら言うことにするわ」

 

 そうリセスに応えてリアスは皆のところに戻る事にする。

 

 だいぶ心配させてしまっただろう。主として、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。すぐに大丈夫なところを見せてやらねばならない。

 

「ありがとう、リセス。少し元気が出たわ」

 

「どういたしまして。さ、そろそろ戻ってあげなさい」

 

 そういって背中を押し、リセスはリアスを見送った。

 

 そして、なんとなく太陽に視線を向ける。

 

「………ニエ。私は、貴方に許されるような英雄になれたかしら」

 

 その言葉に、答える者は誰一人としていなかった。

 




相手の気持ちをきちんと考えながらも、シビアな状況を認識しているリセス。

時々リアスに対して「イッセー生きてそばにいんだからそれでいいだろ」っていうアンチとかいますけど、いつ死ぬかわからないからこそ、想いを成就したいっていうのもあると思うんですよね。


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第四章 6

はい、ついにレーティングゲーム開幕です!


 

 アグレアス。

 

 アガレス領に存在する、宙に浮かぶ島。

 

 レーティングゲームの聖地とすら呼ばれており、その特異な地理から様々な理由で注目されている。

 

 で、なんでこんなところで若手のレーティングゲームが行われるかっつーと。上が揉めたらしい。

 

 魔王領もしくはグレモリー領で開催したい魔王派の連中と、バアル領で開催したい大王派の連中。その双方で壮絶な泥仕合が起きたとかなんだとか。

 

「政治権力のもめ事ってめんどいな、オイ」

 

「同感ッス。堕天使はコカビエルとかがあれなんで、一枚岩で何よりっす」

 

 んなこと言いながら、俺達は試合中に食べる食い物をどれにするかで悩み中だ。

 

「缶ビールをとりあえず三缶頂戴。あと、おつまみとしてそのプレッツェルを」

 

 姐さんはもうさっさと決めているけど、俺達酒飲めない側は色々と悩み中だ。

 

 ああ、こういう時大人は羨ましいぜ!

 

「それで、どっちが勝つと思うっすか?」

 

「そりゃお前、俺達はお嬢達応援するに決まってんだろ」

 

「いや、それはそうっスけど勝算がどっちにあるかは別問題っすよ?」

 

 意外とドライだな、ペトめ。

 

 ま、確かに楽に勝てる相手じゃないだろうがな。

 

 サイラオーグ・バアルは若手悪魔最強。更にお嬢達と同じで特訓を積んで強化していくタイプだ。

 

 メンバーも72柱出身の悪魔も多い。つまり、素の戦闘能力が上級悪魔クラスあってもおかしくねえ。

 

 如何にお嬢達の眷属がシャレにならない化け物揃いでも、楽に勝たせてくれるほど簡単じゃねえって感じだな。

 

 さて、お嬢達はどうやって勝つのかねぇ?

 

 そんなことを思いながら、俺達は食い物を買って応援席に向かう。

 

 今回のレーティングゲーム。なんとおっぱいドラゴン専用の応援席が用意されてんだとよ。

 

 俺達もおっぱいドラゴンの関係者だから、そこで観戦するという流れっぽい。既にイリナとレイヴェルはそっちに行ってるはずだ。

 

「ああ、あれじゃないかしら」

 

 と、姐さんが子供達が集まっているところを指さした。

 

 確かにあそこっぽいな。しかも、イリナとレイヴェルもいやがるな。

 

「よぅ、イリナ、レイヴェル」

 

「あら、ヒロイさん。もう来ましたのね」

 

「待ってたわよ! こっちは応援用の旗も用意して準備万端よ!!」

 

 俺が挨拶すると、レイヴェルもイリナもすぐに気が付いた。

 

 つーかイリナ、ノリノリすぎだろ。

 

 いくら和平結ばれているからって、天使が悪魔のイベントでここまでノリノリにならなくてもいいんじゃねえか?

 

 ま、それでも子供達がいるから仕方がねえか。

 

「因みに! イッセー君達が入ってきたらおっぱいドラゴンの歌を皆で斉唱するからね?」

 

「よし、俺はトイレ行ってくる」

 

「私もビールを買い足してくるわ」

 

 俺と姐さんは速攻で逃げに徹した。

 

 待ってくれ。英雄的にそれはこっぱずかしい。マジで恥ずかしい。

 

 とにかく全力で逃げようとするが、イリナは速攻で俺と姐さんの襟首を掴んだ。

 

 おのれ素早い! これが、セラフ代表である熾天使ミカエルのAの力か!!

 

「逃げちゃダメよ! こういう時こそ仲間達の声援が力になるのよ!!」

 

「い、イリナ! 悪いけど私、英雄を志したその日から人前で歌は歌わないって決めてるの!!」

 

 どんな決意表明だよ姐さん! 無理があるって!!

 

「そんなウソには騙されないわ、リセスさん!」

 

「嘘じゃないから! 私、二度と音楽業界には関わらないって決めてるの!! だから、お願い!! 今度ベッドの上で可愛がってあげるから!!」

 

 姐さん。マジで焦っているのは分かる。心底分かる。

 

 だけどその言い訳はどうよ。あとその賄賂はまずいだろ。転生とは言え天使なんだから、エロいことを代償にしても靡くわけにはいかねえだろ。

 

「ヒロイ、お姉様」

 

 と、逃げ出そうとする俺と姐さんに、ペトは優しげな微笑を浮かべる。

 

 な、なんだなんだ?

 

「人生、時には諦める事も重要っすよ」

 

「ペトが裏切った!?」

 

 姐さんは心からショックを受けて愕然となる。

 

 っていうかコレ、俺も歌わなきゃいけないノリか、ノリなのか!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全力で抗議した結果、口パクを許可するということになり、何とか逃げることができた。

 

 そして、そんなこんなで試合はついに始まった。

 

『さあ、ついに始まりますサイラオーグ・バアル選手対リアス・グレモリー選手のこの試合! 実況は私、もの72柱のガミジン家出身、ナウド・ガミジンが送らせていただきます!!』

 

 おお、歓声が鳴り響いた。

 

 っていうかなんというか濃いオッサンだな。すごいぞマジで。

 

 さて、そんなこんなで、お嬢達とサイラオーグ・バアル達が入場してきたな。

 

 さらに歓声が鳴り響き、テンションも最高潮になっていく。

 

 さてさて、それじゃあ何が起きるのか気になってきたぜ。

 

 そして、それぞれ対をなしている浮島に集まり、実況が始まろうとしたその時―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、あーあー。テンションが最高潮のところ申し訳ありませんが、邪魔しに来ましたー』

 

 その言葉とともに、試合会場の上に霧が発生した。

 

 同時に、会場の周囲を結界が展開して包み込む。

 

 何よりも、この声そのものが苛立たしさを増してくる。

 

 ああ、忘れるわけがねえ。

 

 この声は覚えている。

 

 リムヴァンの野郎、ここで来やがったか!!

 

 どよめきに包まれる観客達の声をBGMにし、霧から数十人の悪魔や人間が現れる。

 

 そこにはもちろんリムヴァンもいる。更に、ヒルトやデイア、更にキュラスルやジェームズ達、見覚えのある顔までいる。

 

「あの悪魔は、確かゼファードル・グラシャラボラスっす!!」

 

 あ、ペトの言う通りだ。アイツあの時のヤンキー悪魔!!

 

「プリス……っ!」

 

 姐さんも、見知った顔を見て歯を食いしばる。

 

 そんな大注目を集めながら、リムヴァンは不敵な笑みを浮かべると一礼した。

 

『知ってる人も多いけど、改めて自己紹介するZE! 僕はヴィクター経済連合の宰相、リムヴァン・フェニックスでっす!』

 

 相も変わらずふざけた口調で、リムヴァンは一礼した。

 

 そして、会場を睥睨するとふっと微笑を浮かべる。

 

「申し訳ないが、グレモリー眷属とバアル眷属を暗殺しに来たよ。ああ、民間人に余計な被害をうむ気はないから安心していいよ?」

 

 んの野郎! このタイミングで来やがったか!!

 

 よりにもよって、この注目の試合を台無しにして迄襲撃だと!? あの野郎、正気か!!

 

 確かアザゼルが、ヴァーリが邪魔するやつを叩きのめすとか言ってなかったか? まさか、やられたのか!?

 

 そんなことを考えている間に、リムヴァンは自分を睨み付けるお嬢達を見て、面白そうな表情を浮かべた。

 

「やっほー、リアスちゃん! サイラオーグくんは初めましてー! 悪いけど死んでもらうよー!」

 

「リムヴァン・フェニックス……っ! 神聖なレーティングゲームを台無しにしようだなんて、万死に値するわ!!」

 

「同感だ。この戦いに何かを賭けている者達全てを愚弄する行為。断じて許されるものではないぞ!!」

 

 敵意満々の2人の鋭い視線を受けて、リムヴァンは心底愉快そうに唇を吊り上げる。

 

「いいねいいね。強さに裏打ちされたいい視線だよ。だ・け・ど」

 

 そういうと、リムヴァンは苦笑を浮かべながら周りを見る。

 

 そこには、サーゼクス様とアザゼル、そして見知らぬ悪魔がいた。

 

「サーゼクスくんにアザゼルくん。それにかの有名な皇帝(エンペラー)、ディハウザー・ベリアルくんかー」

 

 興味深そうな表情を浮かべて、リムヴァンは更に笑みを深くする。

 

 ってかディハウザー・ベリアルって、サイラオーグ・バアルのアドバイザーしてるとかいうレーティングゲームNo1じゃねえか!!

 

 なんツー最強軍団が来てるんだよ。たぶんゲスト何だろうけど、ものすごい大戦力じゃねえか。

 

 そしてさらに、いつの間にか大量の人影がリムヴァンを取り囲んでいた。

 

 悪魔はもちろん、オーディン様を含めた有数の神々が大量に出現。

 

 そうそうたる面子だ。もうこの人達だけで地球を更地にできるだけの戦力が集まってやがる。

 

 どんだけ注目されてんだよ、このレーティングゲーム。

 

 これ、俺達出番なくね? まず間違いなく出る必要なくね?

 

 そんなことを持った瞬間だった。

 

「……言っとくけど、僕は別にリアスちゃんもサイラオーグくんにも手を出す気はないよん」

 

 そういうと、リムヴァンは指を鳴らした。

 

「ぼくの役目は重鎮(きみ)たちの足止めさ」

 

 その瞬間、神と悪魔が一斉に、リムヴァンとともに消え去った。

 




はい、レーティングゲーム終了です。あ、石は投げないでくださいね!!

ヒロイたちはリアスの仲間であって眷属でない以上、試合の流れは全く同じになって介入ができないので、こういう形になりました。









今回、分身ではなく本体を直々に出したリムヴァンですが、これに関してはこの試合を直接見に来ている神クラスが多いことからとった措置です。自分が直々に出張るほかないと、彼が判断しました。それ位には彼は主神たちを舐めてかかってません。









次回、リムヴァンがついに本気出します。ちょっとだけ彼の戦闘能力を表記しますとこれぐらいになります。









原作三強を含めたうえで、上位五指に確実に入る化け物。それが、リムヴァン・フェニックスです。


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第四章 7 リムヴァンの本気

はい、スーパーリムヴァンタイム、はっじっまっるっよ~!



今回ちょっと長めですが、本来なら庭に分けるつもりでした。

ただ、ちょっとこっちで手違いがありましたし、ついでなのでイレギュラーズの大ボスであるリムヴァンの本領を丸ッと見せようと思い、こうして一話にまとめさせていただきました


 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づいた時、俺達は荒野の真っただ中にいた。

 

 観客の悪魔達はもちろん、リアス達やサイラオーグ達もいない。

 

 ここにいるのは俺達や神々、そしてリムヴァン。

 

 ……絶霧による疑似空間か? いや、霧に包まれた感覚はなかったが……。

 

蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)。独自の異空間を作り上げ、その異空間の中限定ならば生命の創造すら可能とする、十三ある神滅具の一つだよ」

 

 リムヴァンは得意げにそういうと、指を慣らす。

 

 その瞬間、大量のドーインジャーが地面から沸き上がった。

 

 そして次の瞬間、それを包み込むほどの圧倒的なオーラが放たれる。

 

「……舐められたものじゃのう。いかに数があるとはいえ、ドーインジャー如きでわしらを倒すつもりか?」

 

 グングニルを構えたオーディンが、呆れ果てた表情を浮かべる。

 

 ったくだな。神クラスを舐めてかかるにもほどがある。

 

 神滅具は確かに、理論上は神すら殺せる性能を持っているものばかりだ。極めれば魔王クラスに匹敵する戦闘能力を得れるだろう。

 

 だが、神を同時に何十体も相手にして倒せるほどの性能は未だ誰一人として到達してねえ。

 

 そんなことができるのは、オーフィスかグレートレッドぐらいだ。

 

 ドーインジャーを一瞬で数千体生み出したその手腕は見事だが、しょせんその程度で神々を滅ぼせるわけが―

 

「その程度で?」

 

 その言葉とともに、攻撃をかいくぐってドーインジャーが突撃を始めた。

 

 なんだと?

 

 オーディンのジジイのグングニルを喰らって、この程度の被害で済むはずがねえ! いったい何が起きた!?

 

「チッ!」

 

「ガッハハハ!! 面白いな!!」

 

 他の神々もまた同時に攻撃を叩き込むが、ドーインジャーはしぶとく突貫する。

 

 なんだと!? まさか、対神用のドーインジャーができやがったのか!!

 

「下がっていただきたい。ここは私達が!」

 

 サーゼクスが一歩前に出て、消滅の魔力を叩き込む。

 

 そしてその瞬間、残っていたドーインジャーは一瞬で吹き飛んだ。

 

 な、なんだ? 対神用にしちゃ、かなり弱くねえか?

 

 ……どういうことだ? 神の力を無効化する事に特化した魔獣創造の亜種禁手ってわけでもねえだろうし……。

 

 その時、俺の脳裏に嫌な創造が閃いた。

 

「………おい、リムヴァン」

 

「うん、たぶんその想像で合ってるよー」

 

 マジか、最悪だ。

 

 この状況、あまりに致命的だぞ!!

 

「アザゼル。リムヴァンは一体何をした?」

 

「答えは簡単だ。この異空間は、神の力を抑え込む事に特化している。いわば神封印特化型の禁手だ!!」

 

 蒼き革新の箱庭。俺も詳しくは知らねえが、実際リムヴァンの言う通りってところだろう。

 

 この空間の中限定なら、ドーインジャーの大量投入を魔獣創造の使い手レベルで可能とする。そして、更にその空間は特別製。

 

 おそらく奴の蒼き革新の箱庭は、空間そのものに封印などの属性を付加する能力に向いているタイプだ。

 

 そして、主神クラスがゴロゴロいるこの状況下でやってるって事は……!

 

「神の力を封印する異空間を作る。それが、お前の蒼き革新の箱庭の禁手か!!」

 

「イッエース! 蒼き無神論の箱庭(イノベート・クリア・エイシズム)だよん!」

 

 くそが! 対神特化型の禁手かよ。神滅具の名に恥じねえ禁手を作り出しやがって!

 

 まずいな。ここにいる面子の大半は神だ。神封じの力はもろに喰らう。

 

 俺達があっさり吹きとばせるドーインジャーすら、全力でも一割減らせればいいレベルに迄力が抑え込まれちゃぁ、リムヴァン相手だと苦戦なんてもんじゃねえ。

 

 しかも、おそらくこのリムヴァンは正真正銘本物だ。

 

 オーラが依然やり合った時とは比べ物にならねえ。マジであの時のサーゼクスに匹敵するレベルだ。

 

「今回は特別に大盤振る舞いさ。蒼き無神論の箱庭は前座だよん♪」

 

 その言葉とともに、リムヴァンの周囲の地面から、大量の剣が突き出る。

 

 マジかよ。この反応……聖魔剣じゃねえか!

 

 しかもその聖魔剣は、鎧の形をとる。

 

 それも、一体や二体なんてもんじゃねえ。少なく見積もっても数千体はいやがる。

 

 これが、禁手で生み出された騎士団だってのか!?

 

「これが、聖剣創造と魔剣創造を複数融合させて作り上げた複合禁手、魔聖剣の蹂躙旅団(ブリゲート・オブ・ビトレイヤー)さ。ま、神殺しはまだ使えないけど―」

 

 リムヴァンは指を鳴らすと、蹂躙旅団の内十体前後が手に持っている聖魔剣をかき消した。

 

 そして、リムヴァンの右手とそいつらの右手に、聖なるオーラを放つ槍が発現し、握られる。

 

 ……間違いない。あれは全部黄昏の聖槍だ。

 

「神殺しはこれで十分かな? さあ、それじゃあそろそろ全力で行こうか」

 

 そういうリムヴァンの背後に、大量の魔方陣が展開される。

 

 そしてそこから、明らかに一つ一つが最上級悪魔の全力にも匹敵する火力のエネルギーが集まっていく。

 

「そしてこれが属性系神器の複合禁手、万象の殲滅砲兵(バスター・オブ・マテリアル)

 

 その強大なエネルギーは、何故か属性が理解できない。

 

 その俺達の戸惑いを見て、リムヴァンはにやりと笑う。

 

「威力はもちろん高いけど、その真価は別にある。あらゆる属性を込めたこの砲撃は、当たった瞬間そいつに最も効果的な属性に変化する。……神殺しはこっちもまだできないけど、司る属性次第だと結構効くよん? 最上級悪魔でも出すのが大変な威力だしねぇ」

 

 そして次の瞬間、俺達は嫌というほど思い知る。

 

「言っとくけど、神様数十(この)程度で僕を倒せると思わないでよね」

 

 ……第四の超越者、リムヴァン・フェニックス。奴の戦闘能力は、たった一人でオーフィス相手にやり合えるようなシャレにならねえレベルにまで到達してるって事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 現れた数十人の悪魔や人間達が、ドーインジャーを呼び出しながらイッセー達に向かって襲い掛かる。

 

 しかもそいつらを包囲した神々や最上級悪魔派、全員まとめてリムヴァンと一緒にどっかに転移してきやがった。

 

 くそが、これまずくねえか!?

 

「レイヴェル! 子供達を任せたわよ!!」

 

 姐さんが真っ先に反応して、風と共に空を飛んでそれを迎撃する。

 

 全身から雷撃を放って一瞬でドーインジャーを百体近く吹き飛ばすが、呼び出されたドーインジャーは軽く千体は越えている。

 

 って解説してる場合じゃねえ!!

 

「イリナはペトのガードを頼む! ペト、狙撃で確実に数を減らしとけ!!」

 

「分かったわ!」

 

「了解っス!!」

 

 俺は即座に聖槍を呼び出し、魔剣で空を飛んでドーインジャーをぶちのめす。

 

 即座に十体ぐらい吹っ飛ばした時、悪魔が真上から強襲を仕掛けてきた。

 

「死ね、人間!!」

 

「なめんな!!」

 

 即座に魔剣をコイルガンで発射して迎撃するが、魔力とぶつかって相殺された。

 

 チッ! こいつらも蛇で強化されてやがるな?

 

 神器移植しまくりの俺が言うことでもねえけどよ、ドーピング主体ってのもどうよ、マジで。

 

 そんなことを思いながらも、俺達は戦闘を継続する。

 

 何故か、ジェームズたちは動きを見せてないのが気になるが、つってもそんなこと気にしてる暇もねえ。

 

 俺は敵の上級悪魔を迎撃しながら、素早く周囲を確認する。

 

 お嬢達もサイラオーグ・バアル達も、襲い掛かってきた上級悪魔とその眷属相手に勇猛果敢に渡り合っている。

 

 幸い敵も観客には積極的に手出しをしてこないので、その辺は安心できるな。

 

 そして、そんな中突出した悪魔が一人、サイラオーグに殴り掛かる。

 

「バアルの無能がぁあああああ!!」

 

「……ゼファードルか!」

 

 真正面からくる攻撃をサイラオーグ・バアルは避け、そして拳を叩き込む。

 

 そういや、レーティングゲームじゃゼファードルは一撃で悶絶してたな。

 

 ……だが、今回は平然と受け止めると更に攻撃を叩き込んだ。

 

 それをサイラオーグは軽く肌を赤くする程度で防ぐが、然し確かにダメージが入っている。

 

 なるほど、蛇の強化は効果はあるってことか。

 

 いや、それにしても頑丈さの理由にゃ足りねえ。……あいつも神器を移植したのか?

 

「どうだ無能! これが拡散する波動(インパクト・サイレンサー)の力だ! てめえの攻撃はもう通用しねえ!!」

 

「なるほど、流石に何も考えずに再戦を挑んだわけではないようだな」

 

 サイラオーグも少しは感心してたようだが、然し平然と拳を握る。

 

「なら効く迄殴るのみだ!!」

 

 そして拳を正確に叩き付け―

 

「甘いんだよ、無能!」

 

 その瞬間、サイラオーグの拳が弾き飛ばされた。

 

 なんだ!? まるで衝撃そのものが反転したみたいに―

 

「これが拡散する波動の禁手、反転する波動(インパクト・リフレクター)だ! てめえの攻撃は俺には通用しねえ!!」

 

 得意げに嗤うゼファードルに、サイラオーグはふぅと息を吐く。

 

「……なるほど、後付けしたものとはいえ、禁手にまで至ったのなら、少しは評価せねばならんな」

 

「余裕ぶっこいてるんじゃねえ。てめえの攻撃は全部跳ね返るって言ってんだろうが!!」

 

 その余裕っぷりが気に入らないのか、ゼファードルは大量の魔力球を発生させる。

 

 んの野郎、攻撃が効かない事を良い事に、じわじわと削り殺すつもりか?

 

 確かに物理攻撃反射ってのはきついな。

 

 サイラオーグ・バアルは魔力を一切持たない。そしてそれを補う為に肉体を徹底的に鍛え上げた。

 

 それはすなわち物理攻撃しかできないってこと。限度ってものはあるはずだ。

 

 これはまずいな。援護に行った方がいいか ?

 

 そう思った次の瞬間、サイラオーグはため息をついた。

 

「だがこの程度か。この程度で俺に勝てると思っているのなら、興ざめだぞ、ゼファードル」

 

 その言葉とともに、サイラオーグの四肢が光り輝く。

 

 なんだ? 魔力じゃなくて魔法か何かを使うってのか?

 

「これは、俺の力を封印している術式だ。今からこれを解除する」

 

 そして解除した瞬間、サイラオーグの動きがシャレにならない速度になった。

 

 聖槍の加護と日々に訓練を積んでいる俺でも見切れるかどうか怪しいレベル。低く見積もっても木場と並ぶかそれ以上じゃねえか。

 

 そして、そのままサイラオーグはゼファードルの眼前に立っていた。

 

 それに気が付いた瞬間、勢いよく拳がゼファードルに叩き込まれる。

 

 そして、サイラオーグの拳とゼファードルの顔面が勢いよく弾き飛ばされた。

 

「……流石に痛いな」

 

「がぁあああああ!?」

 

 サイラオーグは軽く手を振って痛みを紛らわし、ゼファードルな悶絶しながらその場を転がる。

 

 な、なんだなんだ?

 

「て、てめえ何しやがったぁああああ!!!」

 

「大したことはしてない。自分が喰らっても大丈夫な勢いぎりぎりで拳を叩き込んだだけだ」

 

 ………はいぃ?

 

「神器にも限界があると思って試してみたが、どうやらその通りなようだ。問答無用でどんな打撃も無効化など聖書にしるされし神でも不可能だと思ったのでな」

 

 ああ、確かにその通りだな。

 

 封印系神器でもない限り、主以上の力を発揮する事なんて、主の力で作ったものにできるわけがねえわな。

 

 なんツー脳筋だよ、おい。

 

「ふ、ふざけんなぁああああ!!! そんな威力、出せるわけが―」

 

「出せる。その為に修練を積んできたからな」

 

 そうゼファードルの反論を叩き切ると、サイラオーグは再びゼファードルを間合いに収める。

 

「さて、それでは終わってもらう!!」

 

 そして次の瞬間、拳の連打がゼファードルに叩き込まれた。

 

「ぐばばばばばばばばばばばばばばばばばばらっはぁ~っ!!」

 

 全身を滅多打ちにされて、ゼファードルはぼろぼろになって地面に崩れ落ちた。

 

 ああ、これ再起不能だ。

 

「……ふむ、こんなものか」

 

 サイラオーグは赤くなった拳を軽くひらひらさせると、そのまま天に浮かぶジェームズ達を睨み付ける。

 

「それで、お前達の引き連れた悪魔達はもう終わりのようだぞ? まさかこの程度ではないだろうな?」

 

「……思ったより役に立たないな。しょせん、鍛えるという事をしない連中はこの程度か」

 

 ジェームズはため息をつくと、地面に降り立った。

 

「ったく、思う存分暴れてえなら、その為の努力ぐらいはしねえと駄目だって話だな!」

 

「脆いわね。この程度で神々に喧嘩売りに来るなんて馬鹿じゃないの?」

 

「流石に言いすぎかと。一応蛇による強化はしていたんですよ?」

 

 そう思い思いに言いながら、キュラスルにヒルトにデイアもまた降り立つ。

 

 気づけば、リムヴァンが連れてきた手勢で動けるのはこいつら含めた後七人。

 

 ……思った以上に優勢ムードだが、たぶんこっからが大変だよな。

 

「ロキとの戦いでは世話になった顔も何人かいるわね。だけど、まさか見逃してもらえるとは思ってないでしょう?」

 

 お嬢が代表してそう告げる中、七人はしかし戦闘態勢を取らない。

 

 なんだ? 何か待っているような―

 

「……来たわね」

 

 そして、ヒルトが俺達の後ろを見てそう言葉を継げた。

 

 それが気になって、俺は魔剣を作ると鏡代わりにして後ろを確認する。

 

 そして、俺達の後ろでは空間が裂けていた。

 

「………俺は、警告したはずなんだけどね」

 

 そう静かに言い放つのは、白い龍の鎧に包まれた一人の男。

 

 闘戦勝仏の末裔を、SSランクのはぐれ悪魔を。聖王剣の担い手を、担い手の妹を、古き巨大兵器を、そして一匹の狼を。

 

 それぞれが一騎当千の猛者である実力者を引き連れて、正当たるルシファーの末裔であるヴァーリ・ルシファーがその戦場に到達した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴぁ、ヴァーリ!?

 

 ヤバイ、これってまさか挟み撃ち!? 完全に挟撃された!?

 

 俺は一瞬ビビるけど、ヴァーリは俺達に視線を向けると軽く頭を下げる。

 

「悪かったな、兵藤一誠」

 

 え? なにが?

 

「曹操達に睨みを利かせていたんだが、まさかリムヴァン本人が動くとは思わなかった。すぐに追いかけたんだが、どうやら間に合わなかったようだ」

 

 え、ああ。そう言えばそんなことをアザゼル先生が言ってたっけ。

 

 サイラオーグさんと俺達の試合を楽しみにしてるから、邪魔させたりはしない。そうアザゼル先生に伝えてたはずだ。

 

 俺達は英雄派が仕掛けてくるものとばかり思ってたけど、確かにリムヴァンが自分から仕掛けてくるとか流石に予想外だ。

 

 もしかして、助けに来てくれたのか?

 

「どういうつもりですか、姉様」

 

「つれないわねぇ白音。せっかくお姉ちゃんが助けに来たんだから、少しぐらい感謝してもいいのよ?」

 

 警戒心丸出しの小猫ちゃんに、黒歌が割とマジ顔でそう答える。

 

 そして黒歌は小猫ちゃんを庇う様に前に立つと、ヒルト達を睨み付けた。

 

「どういうつもり? ヴァーリは「この試合の邪魔をするな」って警告したはずよ?」

 

「まったくだぜぃ。俺達楽しみにしてたんだからよぉ、落とし前つけてくれんのかよ」

 

 美候も前に出て、如意棒の先端をヒルト達に突き付ける。

 

 マジで殺気立ってる。これ、返答次第で俺達置いてきぼりになりそうだぞ?

 

 だけど、それに応えたのはヒルト達じゃない。

 

「……いや、落とし前をつけに来たのは僕達の方なんだけどねん?」

 

 そういって、四人の後ろにいた男が、フードを取る。

 

 そして、その男の姿を見て俺達は度肝を抜かれた。

 

 り、り、リムヴァン!?

 

「てめえ! なんでこんなところにいやがる!?」

 

 ヒロイが槍を突き付けて、歯を食いしばりながら大声を出した。

 

 当然だ。リムヴァンの奴はサーゼクス様やアザゼル先生と一緒にどっか消えたんだ。

 

 しかも、あそこには大量の神々迄セットだった。万が一倒されたにしても早すぎる。

 

「心配しなくても、まだ誰も死んでないよん。ここにいる僕は最上級悪魔クラスの分身さ」

 

 そう苦笑を浮かべるリムヴァンは、しかし両手に炎をともしながらニコニコと笑う。

 

 それに対して、ヴァーリがマジギレの視線で睨みを利かせる。

 

 それを楽しそうに受け止めるリムヴァン。こいつ、根性あるな。

 

「落とし前……とはどういうことだ?」

 

「決まってるだろう? グレモリー眷属に対する利敵行為。更にその所為で出てきた監視に対する反撃行為。……僕はともかく、首脳陣は割とキレてるんだよ。だから制裁を下すべきだといっててねぇ」

 

 苦笑を浮かべながらリムヴァンはそう告げ、そして俺達を見る。

 

「何がお仕置きに一番いいかって、そりゃぁ一番気にしてる事を台無しにする事だって意見が大多数なのさ。だから、このレーティングゲームを台無しにする事でテストを行うつもりなんだよねぇ」

 

 ま、マジかよ!!

 

 その為に態々俺達のレーティングゲームを邪魔したってのか!?

 

 勘弁してくれ! そんなのあんた等だけの間で終わらせてくれよ!!

 

「……すまなかった、兵藤一誠。どうやら白龍皇を舐めてかかりすぎているのがあいつらのようだ。もう少し仕事をして脅威度を見せるべきだった」

 

 ヴァーリは目を伏せてそういうと、更に一歩前に出る。

 

「この詫びは、こいつらを血祭りにあげることでさせてもらうとしよう……!」

 

 その瞬間、ヴァーリの姿が掻き消えた。

 

 そして、リムヴァンの腕がぶれた。

 

 そして次の瞬間、ヴァーリの拳をリムヴァンが受け止め―

 

「あまいYO!」

 

 ―一瞬で殴り飛ばす!!

 

 轟音を上げてヴァーリは弾き飛ばされ、そして俺たちを通り越して壁にたたきつけられた。

 

「……分身だからって舐めないでもらいたいねん? これでも、身体強化系の複合禁手、一騎当千の魔も貴族(フィネクス・オブ・サウザンド)を持ってきたんだよん? それ込みなら神クラスだよん?」

 

 ふふんと得意げに嗤いながら、リムヴァンはヴァーリにあきれ果てた視線を向ける。

 

「……腐っても超越者をその程度で倒せるわけないだろん? やるならせめて、開幕速攻覇龍ぐらいは使ってくれないと困るねぇ」

 

 あっさりとヴァーリを殴り飛ばしたリムヴァンは、しかも無茶苦茶余裕モードだ。

 

 マジかよ。あのヴァーリをあっさりと殴り飛ばした?

 

 ……分身だろ。性能は最上級悪魔クラスが限界何だって話だろ。それも本体は大絶賛神や魔王の軍団と激戦中だろ。

 

 これが、超越者リムヴァン・フェニックス……っ!!

 

「さぁて、それじゃあそろそろ本命の実験を始めるかなぁ?」

 

 その笑みが、俺達は何よりも怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上等だ、この野郎!!

 

「槍王の型、流星(ながれぼし)!!」

 

 俺は渾身の一撃を、堂々と立っているリムヴァンに叩き込む。

 

 完全な不意打ち。かわせる余裕があるはずがない。

 

 あのロキですら不可能だったことを、仮にも悪魔のこいつができるわけが―

 

「甘いねぇ」

 

 一瞬で、リムヴァンは身をひねって回避した。

 

 んだとぉ!?

 

 くそがぁ! ヴァーリをワンパンでぶっ飛ばしたのは伊達じゃねえってか!?

 

「こらこらっ。僕は今回あくまでサポートなんだからねぇ?」

 

 そう言って俺の額に指をこつんと充てると、リムヴァンはバックステップをしていったん下がる。

 

「さてそれじゃあ、そろそろ本格的に動くとするかな?」

 

 そう言って指をパチンと鳴らすと、四人が前に出る。

 

「ロキをボコる時は世話になったけれど、オーディンと組するのなら容赦はしないわ」

 

 ノイエラグナロクの戦士、ヒルト・ヘジン。

 

 二振りの魔剣を保有する、超一級の剣士の1人。その剣腕は悪神ロキの野郎でも舐めプでは倒せなかった。

 

「すいませんが、こちらもオリュンポスの主流派と与するのなら、遠慮はしません」

 

 アルケイデスの魔法使い、デイア・コルキス。

 

 ロキすら感心するほどの魔法の使い手。おそらくロスヴァイセさんとまともにやり合えるレベルはあるだろう。

 

「久しぶりに暴れられるぜ。ワクワクが止まらねぇ!」

 

 かつてイージス艦でやり合った、キュラスル・スリレング。

 

 俺を相手に互角以上に渡り合ったそのパワー、驚異以外の何物でもねえ。

 

「コンバットプルーフならもっと楽な奴がいるだろうに。ま、これも仕事か」

 

 そして木場とやり合った、ジェームズ・スミス。

 

 あの木場を追い込んだ新種の神器の使い手。こいつも間違いなく面倒だ。

 

 ……だが。

 

「舐められたものだね」

 

 木場は静かにため息をつく。

 

 そう、確かにこいつらは脅威だ。それは間違いねえ。

 

 だけど、ちょっと俺達全員を相手にするには役者不足じゃねえか?

 

 グレモリー眷属とバアル眷属。そしてヴァーリチーム。とどめに俺やら姐さんやらペトやらイリナがいる。

 

 ……仮に英雄派の幹部クラスの実力を得たとしても、流石にこれはきつくねえか?

 

「ヴァーリきゅん。実は今回の目的にはついでにもう二つあるんだ」

 

 リムヴァンは、得意げな表情を崩さねえ。

 

 まるで、たった四人で俺達全員を相手にできると思ってるみてぇだ。それほどまでの確信がありやがる。

 

 なんだ? こいつ、今度何を移植しやがった?

 

「なんだい? これ以上、俺の神経を逆なですることがあるのか?」

 

「いやいや~? むしろ、これは楽しんでもらえると思うよ?」

 

 そういうと同時に、リムヴァンは片手を上げる。

 

「……新兵器の、テストさ。さあ、四人とも装着しな」

 

「わかったわ」

 

「了解です」

 

「おうよ!」

 

「ラジャー」

 

 そう口々に言いながら、四人は腰に何かを巻き付ける。

 

 ……なんか、変身ヒーローみたいなベルトつけたんだけど。

 

『『『『イグドライバー、オン!!』』』』

 

 なんか合成音声が鳴り響いてるんだけど。

 

「「「「ジェルカートリッジ、セット」」」」

 

 なんかベルトに装着したんだけど。

 

『『『『OK! レッツ、イグドライブ!』』』』

 

 なんか奴らの全身をジェルが包んでるんだけど。

 

「「「「イグドライブ!!」」」」

 

 なんか掛け声出したんだけど!?

 

 そして―

 

「―これが新兵器。封印系神器を参考にした強化装甲服、イグドラシステム」

 

 得意げなリムヴァンの言葉とともに、四体の変身ヒーローが其の場に立った。

 

「……イグドラスコル。ヒルト・ヘジンよ」

 

「イグドラハティ。デイア・コルキスです」

 

「イグドラスルト! キュラスル・スリレングさ!!」

 

「……イグドラヨルム。ジェームズ・スミス」

 

 四人の戦士達はそう名乗り―

 

「そうか、なら試してやろう」

 

 その瞬間、ヴァーリの魔法攻撃が一斉に放たれる。

 

 そして迫りくるその攻撃を、四人はガード体勢こそ取ったがあっさり受け止めた。

 

「じゃあ、そろそろ仕事だ」

 

 ジェームズが気迫が僅かに籠った声を放ち、そして四人は戦闘を仕掛ける。

 

 おい、これまずくね?

 




リムヴァン、超無双。

ぶっちゃけ、リムヴァンは本人だけでの戦闘能力なら超越者の中でも最弱です。ですが、彼の特性は拡張性に特化しており、それゆえに現時点の戦闘能力なら超越者の中でも最強です。本体が出張ってくれば、対サーゼクスようの複合禁手もあるので、一対一なら負けることはありません。

そしてその拡張性を最大限に発揮した結果の一つが、蒼き無神論の箱庭。取り込んでしまえば神との一対一ならほぼ確勝を約束できます。神滅具の禁手を対神に特化した結果の産物です。

くわえて、今回お披露目した複合禁手のうち二つは、理論上は神殺しの特性も発現可能。これを発現させてしまえば、一神話体系の神々を一人で蹂躙することも夢ではありません。そう言う相性も含めれば、ある意味で三強よりも厄介といえるでしょう。

くわえて言えば龍殺しの聖魔剣ぐらいはいまでも使えるので、アザゼルも切り札を使いづらく、サーゼクスはさっきも言いましたがメタ張られています。聖魔剣なのでディハウザーも確実に苦戦必須。足止めどころか、長期戦に持ち込めば皆殺しも狙えます。それぐらい圧倒的有利な状況下です。

ですが、リムヴァンは今回一つだけ見落としをしています。其れさえつつくことができればこの圧倒的窮地を脱する可能性も……。


そしてこれだけの大ごとをした最大の理由は、ヴァーリに対する嫌がらせです。

感想ではヴァーリどうする気なのかてきな質問がありましたが、そもそもヴァーリに対するお仕置きなので当然あいつらの意見など虫です。むしろ警告していたから実行しました。

分身が言った通り、テストしたいこともあったので強敵が必要だったこと。加えて本章の本題でもあるリセスの試練……というよりさすがにそろそろ対策を取った方鎧レベルになったこともあり、それらすべてが組み泡った結果、このレーティングゲームを台無しにすることが決定されたわけです。








そして登場、イグドラシリーズ。

実はオリジナルの適精鋭は出す予定でした。その際イメージしたのは、本来ならカイザーシステム。

外見がよかったうえに、スコルとハティという存在がちょい役なのが残念だったのでマジだしたかったのですが、二人だけってのも少ないし、ブロスにそうとうする女性関係の略称があまりなかったし、そもそも女だけだとイッセーが圧倒するし、銃型のアイテムだとこの世界線だと強者が使いづらいしで、最終的にスクラッシュドライバーをイメージした変身装置になりました。

素手も強い上にイグドラシステムの適合値もたかく、さらに本章の終盤で明かされますがもう一つの強みを持っていることから選ばれた、四人の精鋭。

彼らがどんだけ強いのかは、次の話をお楽しみに。

あと、次の次の話あたりで、リセスの過去関係が一気に紐解かれるので、鬱展開の覚悟もお願いします


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第四章 8

第四章の戦いも激化。



まだまだ敵のターンです


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃぁ、そこのパワフル野郎から相手してもらぜぇ!!」

 

 イグドラスルトを纏うキュラスルがターゲットにしたのは、ガンドラ・バラム。

 

 怪力を特性としてもつバラム家の出である、れっきとした上級悪魔を前に、キュラスルは仮面の下に獰猛な笑みを浮かべて攻撃を開始する。

 

「むぅん!!」

 

 それを真正面から迎撃するべく、ガンドラは拳を叩き込む。

 

 まともに喰らえば中級悪魔程度なら粉々に砕け散ってもおかしくない攻撃。それに対してキュラスルは真正面から受け止めることを選んだ。

 

 轟音が鳴り響き、誰もが体格で劣るキュラスルが叩きのめされることを想像する。

 

 だが、キュラスルは文字通り一歩も引かなかった。

 

「あんだぁ? こんなもん、禁手もイグドラシステム(こいつ)も使わなくたってどうにかできるぜ、雑魚が」

 

 平然と受け止めたキュラスルは、遠慮なくその腕をつかむと、一瞬で握りつぶす。

 

「ぐぅぉおおお!?」

 

「しかも脆いじゃねえか。若手最強眷属ってのはこんなもんか、あぁ?」

 

「……そうかぃ、ならこいつはどうでぃ!」

 

 嘆くキュラスルの後ろから、美候が如意棒をたたきつけようと―見せかけてケリを叩き込んだ。

 

 美候は馬鹿ではあっても無能ではない。ガンドラの戦闘能力の高さを今の一撃でよく理解した。

 

 単純な一撃の重さでは、それを平然と耐えるキュラスルは倒せない。

 

 ゆえに仙術を叩き込む。気によって生命のバランスを乱せば、どうにかできると判断した。

 

 そして、叩き込んだ瞬間に理解する。

 

 ……その程度の対策、リムヴァンは用意してないわけがないことを。

 

「流石に仙術(そっち)は生身じゃきつかったぜ!!」

 

 その言葉とともに、初速の時点で音速を超過した裏拳が叩き込まれ、美候は一瞬で弾き飛ばされた。

 

 そしてその眼前に、大量の雷光が放たれる。

 

「ならば、これならどうかしら!」

 

 放つのは当然姫島朱乃。

 

 最上級堕天使バラキエルと、日本最高峰の異能の家系、姫島家のハイブリットである朱乃の力は、この場においても上位に入る。

 

 ことその雷光の火力は、ヴァーリチームでも油断すれば命取りになるだろう。

 

 そしてそれが直撃し―

 

「こんなもんじゃなぁ!!」

 

 それを平然と受け止めながら、キュラスルは突進する。

 

 まったく意にも介していない突撃が、朱乃を一瞬で弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、仕事の時間だ」

 

 ジェームズが変身するイグドラヨルムの戦闘能力は、現段階のイグドラシステムの中でも最高峰だ。

 

 イグドラシステムは、ユグドラシルの別称であるイグドラシルからとられている。

 

 その素体となったのは、ロキから奪取した四体の強大な生体兵器。

 

 すなわち、スコル、ハティ、スルト・サード、ヨルムンガルド。

 

 そしてヨルムンガルドだけは、正真正銘龍王であるミドガルズオルムの後継種として生み出されたものだ。

 

 ゆえにその戦闘能力は、間違いなく最高峰だった。

 

「遅いぜ、バアル」

 

「あの木場祐斗と渡り合ったものが、龍王クラスの力を手にするとこれほどまでか」

 

 サイラオーグ・バアルに一瞬で間合いを詰められながらも、ジェームズはそれの攻撃を冷静にかわし続ける。

 

 イグドラシステムによって反応速度まで強化されたジェームズは、その圧倒的な反応速度でサイラオーグの拳をかわし続ける。

 

 そして、彼ではなくそれ以外に攻撃を開始する。

 

 放つのは、ヨルムンガルドの力を借りたエネルギーミサイル。

 

 オーラの塊を誘導弾として放つその力によって、まず真っ先に狙うのは兵藤一誠。

 

 まず間違いなくこの場でも強敵の筆頭格を、不意打ちで叩き潰す。

 

 まさか若手最強のサイラオーグ・バアルの猛攻をしのぎながら、それと並行作業で他の相手を狙うとは思わないだろう。そう言う発想がこの根幹にはある。

 

 そして放たれたエネルギーミサイルにイッセーが気づくより早く―

 

「させません!!」

 

 一斉に放たれた魔力砲撃が弾き飛ばす。

 

「チッ! 流石オーディンの元お付きだ。抜け目がないな」

 

 舌打ちするジェームズは、その瞬間についに一撃をもらう。

 

「俺を無視して兵藤一誠を狙うとはな。そいつは俺の相手だぞ?」

 

「そうかい。そりゃ悪かったな」

 

 怒りをにじませるサイラオーグにそっけなく答えながら、ジェームズは空中で態勢を整えると、即座に反撃を叩き込む。

 

 神器、流星破装(メテオ・バスター)。それは神滅具ほどではないが高位の神器だ。

 

 使いこなせば最上級悪魔相手にも闘うことができる、小銃型の神器。しかも新種ゆえにまだ相手はデータを取り切れない。

 

 それを宿すジェームズは、さらにイグドラシステムの力で強大な戦闘能力を発揮する。

 

 いったん大きく距離を取ることに成功したジェームズは、それを利用してサイラオーグを間合いに近づけさせない。

 

 相手より間合いを取って、遠距離から攻撃する。

 

 その戦争の発展の基本形を、ジェームズは冷静沈着に遂行する。

 

 さらにエネルギーミサイルもばらまくように放ち、その場にいる者たちに攻撃を叩き込む。

 

 味方が巻き込まれることは意に介さない。そんなことにならない実力者だからこそ、イグドラシステムの使用者に選ばれたのだから。

 

 ゆえに、敵の最強戦力も恐れはしても恐怖には陥らない。

 

 放たれたヴァーリの魔法攻撃を、遠慮なくジェームズは弾き飛ばした。

 

「……思った以上に高性能だな」

 

「その様だな。俺としては面白そうで楽しめそうだ」

 

 ヴァーリのその答えにあきれながら、ジェームズはしかし冷静に戦闘を続行する。

 

 そして、グレモリー眷属の屋台骨に関しては意にも介さない。

 

 なぜなら、彼女はこの戦いでは確実に無力化されるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでは、貴方たちの相手は私が勤めます」

 

 イグドラハティを装着したデイア・コルキスは、静かに自分の担当を相手にする。

 

 そのターゲットはアーシア・アルジェント。ある意味でこの戦いで最も重要な存在だ。

 

 なにせ彼女の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は反則に近い。

 

 その回復力はまさに圧倒的。致命傷すらタイミング次第では瞬時に治療することができる圧倒的な即効性を保有する。

 

 さらにそれを遠隔発動できるというのが反則に近い。これで当人の戦闘能力も高かったのなら、もうどうしようもないのが普通だ。

 

 だが、デイアはイグドラシステムがなくても普通ではなかった。

 

「そ、そんな……」

 

 アーシアは、絶望に近い表情を浮かべて呆然となる。

 

 そこには、自分をカバーするために傷つき倒れる仲間たちの姿があった。

 

 それを癒そうとするのは、アーシアの本能といってもいい。そしてそれができる力を持っていることは間違いなく幸運だった。

 

 だからこそ、ショックが大きいのだ。

 

 治そうとしても、治すことができない。

 

 イグドラシステムの身体能力を回避に収束し、デイアは魔法攻撃で着実に仲間たちを負傷させた。

 

 いかに破壊力の権化であるゼノヴィアとエクスデュランダルであろうと、当たらなければ意味がない。

 

 視界に映ったものに捕縛同様の重圧を与えるリーバン・クロセルであろうとも、視界にとらえることができなければどうしようもない。

 

 仙術による探知をおこなえる小猫と黒歌も、それに反応することができなければ意味がないのだ。

 

 木場祐斗に匹敵する高速戦闘をおこなえるベルーガ・フールカスがいなければ、すでに一人ぐらい殺されていただろう。

 

 そして全員が重傷を負っているこの状況下で、一刻も早く治療戦とアーシアは全力を出していた。

 

 しかし、回復のオーラがその力を発揮しない。

 

 敵であるデイアすら回復させかねないことを覚悟のうえで広範囲フィールドを展開するが、然しそれでも誰一人として癒さない。

 

「無駄ですよ。いかに貴女が優れた聖母の微笑の使い手でも、今はどうしようもありません」

 

 それを見て、デイアは少し苦笑を浮かべながら、両手をかざす。

 

 そこに現れた指輪を見て、ベルーガは目を見開く。

 

「それは、アーシア殿と同じ……!」

 

「ええ。私も聖母の微笑の使い手です」

 

 そう。聖母の微笑は神滅具ではない。

 

 ゆえに、複数存在してもおかしくない神器だ。実際駒価値一つで住んでいるような代物でもある。

 

 そして、かの嬢は超一流の魔法使いだった。

 

 かのコルキスの女王メディア。その傍流に属する彼女は、ギリシャ式の魔法に関しては最高峰だ。

 

 それが、神器と組み合わさったことで圧倒的な力を発揮する。

 

「……あなたと私の聖母の微笑を、リンクさせていただきました」

 

 超高速でのヒット&アウェイを交わしながら、デイアはそう冷徹な事実を告げる。

 

 同種とは言え神器同士をリンクさせる。もしアザゼルが聞けば、その事実に驚愕することだろう。それほどまでの高等技能だ。

 

 デイア・コルキスはコルキスの女王、メディアの末裔である。

 

 その血筋に由来する魔法の技術は最上級悪魔と対抗することすら可能。それこそ、トップランカーや魔王血族が相手でもまともに戦うことが可能だろう。

 

 それによってなされる妙技。それこそが、同種の神器同士のリンクだった。

 

 そして、それが意味することはどうなるか。

 

「私はあなたほどの即効性はありませんが、然し敵味方の判別はできる。これがどういうことかわかりますね?」

 

 その言葉に、アーシアはアザゼルの指導を思い出す。

 

 聖母の微笑は、敵味方の識別を行うことができる。しかし、それをなすことはアーシアには優しさゆえにできないだろうとも。

 

 しかし、デイア・コルキスはそれ位の冷徹な判断を行うことができる。

 

 そして、制御が共有されている状態で、そんなことがされればどうなるか。

 

「……一応味方ですし、治しておくとしましょう」

 

 その言葉とともに、回復のオーラがさらに広範囲になって倒れ伏す襲撃者たちの傷がいえていく。

 

 意識を絶たれているがゆえにそのまま立ち上がることはないが、しかし負傷は完全に治療された。

 

 その事実にアーシアは様々な理由で愕然となる。

 

 自分では決して出せない広範囲回復フィールドが形成され、そして自分の即効性で怪我が治療される。

 

 それをなされることは、すなわち―

 

「私は広範囲フィールドの展開が得意なんです。その分即効性は薄いのですが、そこは貴女の力を利用させてもらいました」

 

 そう言い放ち、デイアは魔方陣を展開する。

 

「貴女を倒すのは後に取っておきましょう。とりあえず、先ずは他の敵を始末しませんとね」

 

 その瞬間、大量の魔法砲撃が戦場を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イグドラスコルことヒルト・ヘジンは、余裕を持って対応していた。

 

 おそらくもっとも脅威であろうヴァーリ・ルシファーと兵藤一誠、そしてサイラオーグ・バアルをジェームズが抑え込んでくれている以上、こちら側の難易度は大幅に低下しているといってもいい。

 

 ゆえに、こちらは余裕を持って対応できる。

 

 そして、その余裕分を使って何もない空間から突き出されたコールブランドの切っ先をディルヴィングで弾き飛ばした。

 

「貴方も剣士なら、そういう奇策に頼るのはやめたら?」

 

「耳が痛いですね。しかしいい剣筋です。ジークにも匹敵するでしょう」

 

 カウンターの斬撃を軽くいなしながら、アーサーは感心してうんうんとうなづく。

 

 しかし、その表情は微妙に険しくなっていた。

 

 当然だ。すでにアーサーの体にはいくつもの切り傷が刻まれている。

 

 そして、イグドラスコルの想甲には傷一つない。それどころかこちらの攻撃を一発ももらっていない。

 

 そしてそれは圧倒的有利な状況だった。

 

 なぜならば、こちらにはそれ以外にも強者が山ほど襲い掛かっているのだから。

 

「これは! 何て速さだ!!」

 

 大量の聖剣の竜騎士を、一瞬で薙ぎ払う。

 

「お兄さま! 下がってください!!」

 

 放たれる高位の魔法攻撃を、一息で切り刻む。

 

「おのれ! これほどまでとは!!」

 

 龍に変化した悪魔のブレスを、凍結させて無効化する。

 

「なぜだ……! なぜ、封印できない……っ!」

 

 強固な封印攻撃も、英雄派の協力で切ることができるようになった。

 

 人間最強クラスであろうアーサーを、他の上級悪魔クラス以上の実力者を相手にしながら対応する。それほどまでの絶技をヒルトはなしていた。

 

 むろん、自分がそのままではできなかっただろう。

 

 これほどまでの奇跡といってもいい能力を手にできたのは、ひとえにリムヴァンに見込まれたからだ。

 

 彼に見込まれたから、伝説の魔剣を二振りも手にすることができる。

 

 彼に見込まれたから、神滅具級の力を手にすることができる。

 

 彼に見込まれたから、イグドラシステムの装着者に選ばれた。

 

 たとえ利用されているとしても、それはお互い様だ。彼に利用されるだけの価値があったことを幸運に思うできだろう。

 

 少なくとも、彼の表向きの行動と自分の願望は一致している。

 

 だから遠慮せずに利用されてやろう。その分自分もしっかりと利用してやる。

 

 その覚悟と共に、ヒルトはアーサーのコールブランドと撃ち合った。

 

 余裕を持つということはいいことだ。いざという時に余力があるということは、それだけで安心感をうんで焦りをなくしてくれる。

 

 余裕を持ちすぎてぼけてしまえば失態だが、それはもはや余裕ではなく油断の領域だ。戦士として極力さけている。

 

 余裕がなくなればミスを併発しやすくなる。それがないということはいいことだ。

 

 実際、コールブランドによる攻撃を避けることができるのそのおかげだ。この余裕があるからこそ、自分は戦うことができる。

 

 そして支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を併用した二刀流に持ち替えてきたアーサーを相手に、然しヒルトは余裕だった。

 

 二刀流ならこちらがもっと慣れている。この程度で倒されると思っているのなら、片腹痛い。

 

 遠慮なく、ヒルトは剣劇を続行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




イグドラシステムは素体となる魔獣が魔獣なので、アザゼルの堕天龍の鎧に匹敵する性能を発揮します。加えてヴィクター側の技術力により、安定性では上という後発ゆえに利点もあるので、かなり有利。


 さらにアーシアの回復という生命線が封じられたため、現状一方的な展開となっております。
 お忘れかもしれませんが、第二章で黒歌とアーサーを治療したのがデイアです。名前もきちんと出しているはずなので、お忘れの方は読み返すといいかも。
 彼女は範囲は広いがアーシアに比べると即効性で劣るタイプ。ですが、その卓越したまほうによって神器同士を共有させて制御を乗っ取るというものすごい真似をしております。精鋭は伊達ではありません。そしてアーシアの即効性を奪い取ったうえで、制御を完全にのっとったことで圧倒的優位になっております。

 ちなみにイグドラシステムは、イグドライバーとカートリッジのセットです。コアとなる魔獣があれば量産できるのが最大の利点。今回は単純戦闘能力とカートリッジとの相性と隠し玉の適合率の三つのバランスを考えた運用でしたが、展開次第で新たな変身者が現れるかもしれませんね。


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第四章 9

この調子なら、リセスの過去編は日曜日に全部投稿できそうでよかったです。

……鬱すぎるから投稿に長い時間を駆けたくないんですよねぇ


 

 イグドラシステムによる猛攻は、若手悪魔最強格を圧倒している。

 

 熾烈な激戦を潜り抜けてきた、リアス・グレモリー眷属。若手最強とまで称される、サイラオーグ・バアル眷属。そして、禍の団特殊部隊、ヴァーリ・ルシファーチーム。

 

 若手の領域においては規格外の化け物たちを相手に、それをたった四人で相手にして優勢に立ち回る化け物たち。

 

 間違いなく断言してやろう。こいつら化物だ。

 

 残りのメンバーとともに俺たちも助けに行きたいが、しかしそれを許さない者たちがいる。

 

「させないよ、リセスちゃん!!」

 

「なんでなのよ、プリス!」

 

 放たれる炎と氷の攻撃を、俺たちは一生懸命回避する。

 

『くっ! これではサイラオーグ様に近づけない!』

 

「狙撃も無視されてるッス! 泣きたいっす!!」

 

 巨大な獅子と化したバアルの兵士(ポーン)とペトが歯ぎしりするのもよくわかる。

 

 プリスとか言ったゼファードルの僧侶、むちゃくちゃ腕を上げてやがる。

 

 とうかこっちの攻撃が欠片も当たらねえ。狙ったところにぶっ放しているのに、なぜかかすりもしない。

 

 なんだ? 幻覚魔法でも習得したのか!?

 

「プリス! ゼファードル・グラシャラボラスはもう倒れたのよ!!」

 

 反対の属性でプリスの攻撃を相殺しながら、姐さんは苦しそうな声を出す。

 

 なんで自分たちが戦っているのか、もうそれ自体がいやな気分になっていたのがよくわかった。

 

「……あなたが、そこまでするほどの価値がこいつにあるの!?」

 

「違うよ、プリスちゃん」

 

 姐さんの本心からの言葉に、プリスは静かに首を振った。

 

 なんだ? 何が違うってんだ?

 

 プリスの奴がゼファードル・グラシャラボラスの僧侶だってのはとっくの昔に知っている。姐さんも知っている。

 

 それに間違いがあるわけが―

 

「私はもう、ゼファードル様に売られたから」

 

 ………なんだと?

 

 んの野郎、自分の眷属を売ったってのか?

 

 いや、上級悪魔の中にはそういう連中もいるっちゃいるって聞いたことはある。

 

 むしろ、自分の眷属の強化でトレードは基本って話だ。努力をないがしろにする貴族らしい考え方だなとは思ったぜ。

 

 つまり、寝返った上級悪魔の中で、トレードが行われたってわけか?

 

 そう思った俺たちだが、それは一つの足音とともに否定された。

 

「しゃべりすぎだよ、プリス」

 

「……っ!?」

 

 フードをかぶった最後の1人が声を出し、プリスが肩を震わせる。

 

 なんだ? 特に武術を習得している動きじゃねえけどな。

 

 この状況下でまだ動いてないってことは、出し惜しみするような戦力だってことだ。下手すら相当の実力者だって可能性もある。

 

 リムヴァンの野郎が用意した、神滅具の保有者か何かか?

 

 そう思った俺は、その瞬間ぎょっとした。

 

「…………………嘘、でしょ?」

 

 目を見開いて、球粒のような汗をいくつも流しながら、姐さんが顔を真っ青にさせる。

 

 息は荒く、瞳孔はひらき、そして体中が震えている。

 

 なんだ!? どうしたんだ、姐さん!?

 

「姐さん!? 姐さんしっかりしろ!?」

 

 俺はとっさに割って入ろうとするけど、それより先にフードの男から声がかかる。

 

「邪魔しないでくれないかな? せっかくのあり得ない再会なんだから……さ」

 

 その言葉共に、フードの男はフードを取った。

 

 そこにいたのは、割とイケメンだが特徴の薄い男の顔。

 

 歳は俺と同じぐらいか? 十七か十八ってとこだよな?

 

 いったい誰だ? 姐さんの知り合いっぽいのは間違いねえが……。

 

「初めまして。僕はニエ・シャガイヒっていうんだよ。よろしくね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういって微笑を浮かべたニエは、姐さんに視線を向けた。

 

「やあリセス。久しぶりだね」

 

「………嘘よ。貴方が、貴方が生きているわけがない!!」

 

 姐さんはそう断言すると、憎悪の表情を浮かべてリムヴァンの分身をにらむ。

 

「悪趣味にもほどがあるわよ! ニエを模した魔獣を作るなんて―」

 

「いやいや、彼は正真正銘ニエ君だよ」

 

 姐さんの言葉をさえぎって、リムヴァンはそう言い切った。

 

 絶句する姐さんを面白そうに見ながら、リムヴァンはしっかりとはっきりとまっすぐな視線を向け、にやりと笑う。

 

「魂のサルベージさえできれば、死者の蘇生すら可能とする。それが、神滅具が一角である幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の力さ。反動がでかいから気を付けたんだよん♪」

 

「ああ。僕は正真証明ニエだよ。そこに誓って嘘はない」

 

「‥‥‥‥だったら、なんで!?」

 

 心から悲しそうな顔をしながら、姐さんは叫んだ。

 

 そこに、いつもの強さを魅せてくれる姐さんの姿はない。

 

 そこにいるのは、絶望に暮れる女の子の姿だった。

 

 そして、それを見たニエの表情がはっきり変わる。

 

 そこに映っていたのは、嫌悪感だ。

 

「リセス。僕が死んでからの君の行動は彼から聞いたよ」

 

 ニエの言う彼ってのは、リムヴァンのことなんだろうな。

 

「神滅具を含めた神器を移植し、特訓を積み、傭兵として活動。そしてその報酬は相場より安めで、そして多くをイドアル孤児院などに寄付。……すごいね、まるで英雄だ」

 

 そういうニエの表情は、どんどん苦虫をかみつぶした感じになっていく。

 

 なんだよ? コイツ、何がそんなにむかつくんだ?

 

 姐さんのやってきたことは、決して悪く言われるもんじゃねえだろう。もし売名目的だとしても、やってきたことそのものは褒められたっていいはずだ。

 

 それなのになんでー

 

「―それで、僕が許すとでも思ったのかい?」

 

「………え?」

 

 姐さんが、凍り付いた。

 

 それを薄ら笑いを捨て去り、侮蔑の表情で見ながら、ニエはため息をつく。

 

「英雄になれば、正義の味方になれば、多くの人を救えば、誰かのためになる人間になれば……僕が許すと思ったのかい?」

 

 つらつらとニエは語り、そして姐さんはそのたびに肩が震える。

 

 そんな中、ニエの顔面に光の弾丸が襲い掛かる。

 

「それ以上、その口を開くなッス!!」

 

 こっちはこっちでマジギレで今までにない表情になっているペトが、渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 そして、それが結界で防がれた。

 

 それを張ったのはニエじゃない。いつの間にかニエの周りに待機していた、ドーインジャーだ。

 

 まさか、こいつは!

 

「―魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)……っ」

 

「ああ、リムヴァンさんからもらったんだよ。君を殺すのなら神滅具は必要だってね」

 

 震える姐さんにそう答え、そしてニエはまっすぐにリセスを見る。

 

 その目は、嫌悪感もあるがそれ以上に疑問の色があった。

 

「教えてくれないか、リセス。なんで君はそんなことで僕が君を許すと思ったんだい?」

 

「そんなの……決まってるじゃない」

 

 絞り出すように、姐さんは答える。

 

「貴方は死んだのよ? 私が殺したようなものよ? 私が弱かったせいで、貴方は死ぬことになったよ!?」

 

 弱弱しく頭を振りながら、姐さんはそう叫ぶ。

 

「だから強くなりたかった。だから強者(英雄)になりたかった! もう二度とあんな弱い奴がなるようなことから逃れて、そして、貴方を死なせた分それ以上の人たちを助けたかった!!」

 

 髪を掻きむしりながら、姐さんはニエに縋りつくように視線を向ける。

 

 そこには、今までの英雄という輝きを見せつけてきた姐さんはいなかった。

 

 そこにいるのは、自分の罪におびえる一人の道を踏み外した少女だ。

 

「そうでもしないと、私はずっと弱いままだったから! そんなのは嫌だったから!! もう、二度と心も体も弱くなんてありたくなかったから!!」

 

 ふらつきながらも、途中で精神的ストレスから吐きながらも、しかし姐さんはそれでも、ニエから視線をそらさない。

 

 どうか自分を見てほしいと、そんな懇願が感じられる。

 

「なのになんで、なんでなの!? 私は一生懸命頑張ったわ! 多くの人を助けて、助けることで得た金も、イドアル孤児院を中心に大半を注ぎ込んで!! せめて堕天使の勢力圏内では私やプリスみたいな子が生まれないように、アザゼルに頭だって下げたのに―」

 

 そして、姐さんは心の底から―

 

「―貴方は、私を許して、くれないの……?」

 

 ……それが、姐さんの原点(オリジン)

 

「辛くて、痛くて、悲しくて、それでも、貴方に償いたいから耐えられた。だからここまで頑張ってこれた」

 

 それは、罪滅ぼし。

 

 震える手を、ニエに伸ばす。

 

「……ねえ、私、頑張ったわよ? とっても、とっても、強くなったのよ?」

 

「そうだね。確かに君は強くなったし、頑張ったのは認めるよ」

 

 ニエはそう答える。

 

 それに救いを得たのか、姐さんは一歩前に踏み出す。

 

 誰も何も言えない。戦闘すら中断されて、俺たちはその光景を見ることしかできなかった。

 

「全部、全部強くなるため。貴方を殺した自分(弱者)を乗り越えるため。心も体も強くて、悪意のささやきをしてくる連中なんて片手で殴り飛ばして、そしていっぱいたくさんの人を笑顔にできる、そんな英雄(強者)になれば、そうすれば―」

 

 ひきつったうつろな表情で、姐さんはニエに手をのばし―

 

「―いつか、貴方は私を許してくれるんじゃないかって……」

 

「そんなご都合主義な考えを持っていることがまずイライラするね」

 

 言葉でも、体でも。ニエは姐さんを一蹴した。

 

 骨にひびが入る音が響き、姐さんが宙を舞う。

 

 そしてその瞬間、ニエの足元から闇が噴出し、大量の魔獣が発生する。

 

 まるで魚のようなその魔獣は、一瞬で百に届く数生まれると、そのまま姐さんに連続でぶつかり、爆発する。

 

 その勢いでさらに宙を飛ぶ姐さんの真上に、巨大なドーインジャーが出現する。

 

 キョジンキラーより一回りほど小さいその巨体の拳が、姐さんを地面にたたきつけた。

 

「がふっ!!」

 

 地面にたたきつけられた姐さんを、ニエは容赦なく踏みつけた。

 

 その瞬間、俺は目の前が真っ赤になって突撃を開始する。

 

 展開されていたドーインジャーを吹きとばし、俺はニエに聖槍を叩き込んだ。

 

「―てめぇ!!」

 

「邪魔だよ」

 

 そんなニエの声とともに、横からプリスが現れる。

 

 ―魔獣によって勢いよく投げつけられたプリスが。

 

 魔獣を操作して、ニエがプリスを投げつけた。

 

 それがわかったからこそ、そんなわけのわからない展開に俺は一瞬だけ隙を作って、プリスをもろに喰らう。

 

 そしてもんどりうって地面に倒れた俺たちに、魔獣がのしかかった。

 

 んの野郎っ! う、動けねえ……っ!

 

「プリス? できれば邪魔をさせないでくれないかな? 今はリセスと話してるんだよ」

 

「ごめんなさい。もう、させないから……っ!」

 

 プリスはニエの絶対零度の声に従って、自分ごと俺を氷で拘束する。

 

 魔獣すら巻き込んで創り出す氷の枷が、俺の動きを大きく封じた。

 

「あんたなぁ! そんな扱いされてまで、どうしてあんな奴に従ってんだ!!」

 

 訳が分からねえ。

 

 どう考えてもひどい扱いじゃねえか。道具みたいに扱われてる……いや、ひどい扱いを積極的にしてるじゃねえか!

 

 なのに、なんであんな野郎の味方をしてるんだ、この女は!!

 

「当たり前だよ。それが当然だよ!!」

 

 無理やり引きはがそうとする俺を抑え込みながら、プリスははっきりと言い切った。

 

「全部悪いのは私とリセスちゃん。だから、これは当然なんだから!!」

 

 なんだ? なんなんだ!?

 

 いったい姐さんは何をしでかしたんだ!?

 

「んじゃぁ、そろそろ種晴らしでもしようかな?」

 

 面白そうに姐さんがズタボロになっていくのを見ながら、リムヴァンはニエに視線を向ける。

 

 何かをしてもいいのかといわんばかりのその言葉に、ニエは静かにうなづいた。

 

「ああ。この女がどんなことを僕にしたのか。それを思い知らせてやってくれ」

 

「あいあいさー」

 

 そう答えると、リムヴァンは会場全体を包み込むほどの大きなフィールドを展開する。

 

「それではお客様。今から僕が放つのは複合禁手である傷心の追撃者(リプライ・オブ・トラウマ)でございます」

 

 名前からしてろくなもんじゃねえのがよくわかるな、オイ!!

 

「能力はシンプル! 相手の心的外傷(トラウマ)を把握する能力でっす! 応用技で君たちにそれを見せつけることもできるぜぃ!!」

 

「ふ、ふっざけるなぁあああああああああああああああ!!!」

 

 その楽しそうな言い回しに、ペトは切れた。

 

 そしてそれをガンスルーして、リムヴァンはにやりと笑った。

 

「さあ、回想タイムのスタートさ!!」

 




ようやく本格登場したニエ・シャガイヒ。これでリセスの過去をようやく出せます。

……ぶっちゃけ、かなり鬱ですからご覚悟ください。


因みにニエ・シャガイヒの名前の由来は贄となった被害者です。

リセスという英雄を生み出す贄となった、正真正銘の被害者。それが巡り巡って加害者となるのだから、書いてる自分が言うのもなんだけど運命というのは残酷です。







リセスの過去を描くのに、ニエの存在は切っても切り離せません。そして、リセスにとってニエとは精神的な意味で天敵以外の何物でもない。

彼の恨みは正当といえます。彼の怒りも、彼の立場に立ってみれば、多くのものが納得できるでしょう。それを理解すらできないのは、おそらく聖人君子の類だと思います。

……前に、作品のネタ探して色んな作品の情報をしらべているなか、こんなのを見かけました。

要約すると「殺した者の命を無駄にせず背負うのはりっぱだが、殺されたものからすればそれがどうした」。

あともう一つありますね。アニメ化された漫画で「自分が家畜の立場なら、おいしく食べられるのもまずく食べらえるのも嫌だ」

ニエ・シャガイヒは善良です。ニエ・シャガイヒは基本褒められる人格です。普通の形でイッセーと出会っていたのなら、その覗き癖は不快に思いながらも、本質的な善良さには好感を抱き、イッセーたちも彼のことを言い人だと思っていたでしょう。

ですが、彼は決して高潔な英雄でも聖人君子でもない、探せばどこにでもいる程度の人物でしかない。

だから、彼はリセスを恨んでいます。プリスを恨んでいます。リセスの行動が癪に触って神経を逆なでされているのです。


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第四章 10 リセス・イドアル(前編)

ついに紐解かれるリセスの過去。

一応多少は伏線を張っていただけあり、フアタさんがいいとこ突いてくれました。




あと、感想の中でちょっとここで出した方がいいところがあったので説明を。


まず烈さんの方ですが、イグドラシステムそのものに隠し玉は「まだ」ありません。

イグドラシステム適合者の四人は、「本人の戦闘能力」「イグドラシステムの適合値」「リムヴァンが用意した隠し玉の適性」「ある程度以上こっちの言うことを聞いてくれるか」で選ばれております。全部別々のものです。

ただ、イグドラシステムは仮面ライダービルドのドライバー関係を参考にしております。なので、イグドラシステムは人工神器よりも兵器としての側面が強いため、拡張性も考慮しています。そのため、ハザードトリガーやエボルトリガーみたいな拡張ユニットを用意する可能性は現段階では「あるかもしれない」とだけ言っておきます。




あと九尾さんの感想ですが、これに関してはリセスはともかくニエの怒りとは違うとだけ言っておきます。

どうしても作者という作品の神の視点で自分は見てしまうので、そういう可能性については失念していました。このへんは用精進ですね


Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある国のとある街。そしてそのとあるビルの地下で、小規模なライブが開かれていた。

 

 観客はまばらというほどでもない程度に集まっており、そして男たちは熱狂していた。

 

 それをなすのは二人の美少女。

 

 桃色の髪を左右でまとめた少女と、金色の髪を長く伸ばした少女。

 

 日本のアイドルのような衣装を着た二人は、かわいらしいポーズで踊りながら、可憐な声で歌を紡ぐ。

 

 そして歌が終わり二人がちょこんと一礼すると、歓声が巻き起こった。

 

 そして舞台裏に入った二人を、今と姿の全く変わらないニエ・シャガイヒが迎え入れる。

 

「おかえりなさい。プリスにリセス」

 

「ニエく~ん! 今日もいっぱい人が集まったね~!!」

 

「プリス? この程度で満足してはいけませんわ。私達はこんな場末のライブハウスで終わる逸材ではありませんのよ?」

 

 勢いよくニエに抱き着くプリスとは異なり、今よりはるかに若いリセスは、意識の高い言葉を放つ。

 

 だが、その口元はにやけており、実は喜んでいることが隠せていない。

 

 それを見て、ニエもプリスのニコニコしながらリセスを生暖かい視線で見る。

 

 そしてその視線の温度に全く気付かず、リセスは水を飲みながら、一枚の紙に目を落とす。

 

「……でも、このライブハウスとももうお別れですわね」

 

「そうだね……」

 

 リセスの寂しげな言葉に、プリスもまたしんみりとする。

 

 それに苦笑を浮かべながら、ニエは二人の肩に手を置いた。

 

「いいじゃないか。二人のすごさが認められたってことなんだろう? だから、メジャーデビューのお誘いが来たんじゃないか」

 

 ニエの言葉に、リセスもプリスも、大事なことを思い出して表情を明るくする。

 

 プリス・イドアルとリセス・イドアルは、孤児院の出身だ。

 

 2人とも、物心ついた時には親元ではなくイドアル孤児院で生活していた。

 

 人間というものは自分とは異なるものを排斥したがるもので、孤児院出身という理由だけでいじめてくる質の悪いものは数多い。中には、二人が美少女であることをいいことに強引に女にしようとしてくるものもいた。

 

 ……のだが、裏では教会とつながっているイドアル孤児院でそれを行うのは容易ではなく、イドアル孤児院出身の悪魔祓いがこっそり叩きのめしたり、教会から直々にクレームが親御さんに届けられたり、とどめに民事で訴えられたりしているため、二人がそれでそこまで苦労したことはない。

 

 それどころか、ニエ・シャガイヒのように自分達に同情して、見守ってくれる人に出会うこともできた。

 

 孤児院からいつかは自立しなければならない二人が、日本のアイドルを参考に芸能界を席捲しようという野望を抱いた時も、ニエは手伝ってくれていた。

 

 思い付きといってもいい真似だったのにここまでこれたのは、ひとえにニエの献身的な支えのおかげだ。

 

 ……リセスもプリスも、ニエに恋している。

 

 だけど二人はそれを言わない。お互いの気持ちにうすうす勘付いているが、然しそれを指摘したりもしない。

 

 わかっているのだ。それをしたら何かが壊れてしまいそうになる。それがたまらなく嫌だと。

 

 この三人の関係は心地いい。できることなら、ずっとこのままでいてほしい。

 

 そう思ったその時、こんこんとノックが聞こえた。

 

「リセスちゃ~ん? スポンサーが呼んでるよ? 今度の単独ライブの件でちょっと相談したいことがあるんだってさ」

 

「………わかりましたわ」

 

 その返答が遅れたのは、決して呆けていたからではない。

 

「リセス、僕も一緒について行こうか?」

 

「あ、じゃあ私もいっしょに行こうかな?」

 

 気づいてないながらもなんとなく妙な感覚を覚えたのか、ニエもプリスもついて行こうとする。

 

 それを、リセスはやんわりと手を出してとどめた。

 

「大丈夫ですわよ。……それより二人とも? 私がいないからってねんごろな関係になってたら……許しませんわよ?」

 

「「えぇ!?」」

 

 顔を真っ赤にする二人を流し目で見ながら、リセスはスポンサーの元に向かう。

 

 ……いろんな意味で息を吐きたくなり、そしてリセスは誰にも気づかれないようにそうした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ、リセス。最近は人気が出てきてるようで何よりだな」

 

 そういう髭面のスポンサーに、リセスは少なからず嫌悪感を抱いている。

 

 彼はこの界隈でも有能な人物だ。まず間違いなく成功している側の人物だし、彼の恩恵があったからこそ、自分もプリスも芸能界で成功している。

 

 芸能界で成功したい。それは、リセスにとってはある意味とても強い願いだ。

 

 自分は弱い立場だ。それを痛いほど理解している。

 

 孤児というのはそういう者だ。あって当たり前の親という存在がないのだから、とても弱い立場だ。

 

 他の子供達よりもわがままを言うこともできない。それが痛いほどわかっているから、言ったこともない。

 

 だから、リセスは自分のしゃべり方だけでも強い立場のものにしようと、お嬢様のような口調を好んでいる。

 

 それが痛可愛いということで、ニエからもプリスからも孤児院の人たち全員からも生暖かい目で見られているが、然しそれに気づいていない。

 

 そして、だからこそ彼女はアイドルになりたかった。

 

 自分の数少ない持っているものである、美貌と美声。それを最大限に生かせる職業につきたい。そしてのし上がりたい。

 

 金を稼ぐことができれば、孤児院の人たちを楽にさせることができる。今まで育ててくれた恩を返すこともできる。

 

 金を稼ぐことができれば、ニエにも恩返しができる。ニエにプレゼントを贈ることだってできるはずだ。

 

 そして、芸能人としてのし上がれば、もう弱いだなんて思われない。明確な立場として、強い存在になれる。

 

 だから、リセスはその誘いに乗るほかなかった。

 

「んじゃ、わかってるよなぁ?」

 

 下品な笑みを浮かべながらのスポンサーの要求に、リセスはため息をわざとらしくついた。

 

 この男は、確かに有能だ。こいつほどの有能な男を自分は知らないといってもいい。

 

 だが、その精神性は下劣以外の何物でもない。

 

 その立場を利用して、セクハラを通り越して肉体関係を迫ってくるその性根は腐り果てている。自分以外にも何人ものアイドルがいるが、然し彼女たちの大半もとっくの昔に手を付けているのだろう。

 

 そして、彼に妨害をうければせっかくここまで積み上げてきたものが台無しになる。

 

 それを痛いほど理解しているから、リセスは要求に逆らったりしない。

 

「……ご主人様。今日も頑張ったリセスにご褒美をくださいませ」

 

 このことを知っている者は誰もいない。

 

 プリスは知らない。彼女に手を出すなとか言ったりはしてないが、言外に匂わせる程度のことはしている。

 

 ニエも知らない。というより、彼に知られたら生きていけない。だから絶対に彼にだけは知られないように懇願した。

 

 イドアル孤児院の者たちも知らない。彼等には、リセス・イドアルは綺麗なままでいてほしかったし、そんなことを知ったら黙っていないだろう。そうなったら自分の芸能界進出の夢もついえるだろう。

 

 ……実際のところ、そんなことになればイドアル孤児院を経由して暗部から暗殺者の一人ぐらい送られ、事故に見せかけてこの男が死んでいる可能性もあるのだが、それはリセスには知る由もないことだ。

 

「おとといからお預けされて、リセスは飢えておりますわ。どうか私のお口にご主人様の熱いものを咥えせさせてほしいですの」

 

 頬を赤らめ、目をトロンとさせ、そして息は熱い。

 

 ……憂鬱に思い、ため息をついたのは本心からだ。

 

 だが、それだけじゃなくなったことにリセスの心は気づいていない。

 

 目の前の外道は本当に優秀なのだ。女を貪れるだけ貪りたいという欲望から、悪魔と契約してまでのし上がってきた手腕は伊達ではない。

 

 それは色事においても優れている。リセスのような相手を手籠めにすることなど、容易の極みだった。

 

 ……リセス・イドアルは子供だった。

 

 わかっているつもりでしかない世の中の悪意に、翻弄されるだけの子供でしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の恰好、これでいいでしょうか?」

 

 自分の服装に変なところがないか、不安になりながらリセスはビルを歩く。

 

 メジャーデビューを数日後に控え。リセスはスポンサーに呼び出されていた。

 

 どうせ自分を食べたいとかそう言っただけのことなのだろう。いい加減彼の思考も少しは読めるようになってきた。

 

 ……そして、リセスは自分を理解することができなくなっていた。

 

 服装に力を入れていることの意味を理解していない。

 

 ニエに見せるために一生懸命貯金をして買った服を、ニエに見せる前に下衆に見せる。その矛盾に気づいていない。

 

 一年以上の調教で、リセスは身も心も雌に成り下がっていた。

 

 あとは自覚さえすれば、一発で奴隷に成り下がるだろう。

 

 無自覚に足は軽く、リズムすら取るほど舞い上がっている。

 

 それはあの男からもたらされる快楽を欲しているということで、すでに心が快楽という鎖でニエから引きはがされ始めている証拠だった。

 

「……んっと」

 

 そしてスポンサーのいる部屋の扉の前で、少しだけ身支度を整える。

 

「もしもし、リセスですわ」

 

『おぅ。こっちはもう小休止だ。入りな』

 

 どうやら、自分の女を集めて乱痴気騒ぎをしているらしい。

 

 自分の家ではなく、わざわざこんなところでやるのは悪趣味極まりないが、然しリセスはもうそれを判断できる理性すらなかった。

 

 思考を雌のそれに変えて、リセスは顔を赤らめながら扉を開け―

 

「あ、リセスちゃんだぁ」

 

 ―その瞬間、聞きなれた声があり得ない状況で聞こえたことに、目を見開いた。

 

 そこには一仕事終えたといわんばかりに服をはだけている下衆と、彼にしなだれかかって顔を赤くさせているプリスの姿があった。

 

 あり得ない。あってはいけない。

 

 プリスがあんな目にあっていいはずがない。彼女とニエだけは巻き込みたくなかった。

 

 なかったのに……

 

「あなた、どうしてここに?」

 

「えへへ。スポンサーさんから「仕事がほしかったら」って言われてね? でも、気持ちいいからいいかなぁって」

 

 平然と会話している自分がいた。

 

 それにどこか驚きながらも、然しあまり驚かない自分もいる。

 

 そしてそれは少し違った。

 

 ……もう彼女は、リセス・イドアルという少女は壊れ始めていた。

 

 だから何も感じなくなっている。ただ、与えられる餌を貪るだけの犬になり始めている。

 

 そして、餌が与えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふふっ」

 

 リセスは苦笑を浮かべて、目を覚ました。

 

 すでに乱痴気騒ぎは二週目に入っており、リセスは疲れて少し眠っていたようだ。

 

 リセスにプリスだけでなく、さらに何人もの芸能人が呼ばれて、むっとした臭気が鼻につく。

 

 そんな中、リセスは喉が渇いていることに気が付いた。

 

 まあ、体力を使うことをしていたわけだし、水分を消費することでもあるから当然だ。これまでにないほど長時間楽しんでいたし、こういうこともあるだろう。

 

「飲み物を買うついでに、トイレに行ってきますわ」

 

「おぅっ。んじゃ、他の連中の、分もな!」

 

 この期に及んで体力が落ちてなさそうな男の声に、リセスはまだ楽しめると無自覚に微笑を浮かべる。

 

 ……あの場にいたプリスを見た瞬間に、リセスの中で何かが完璧に外れてしまった。

 

 なんというか、もうこれでいいといいと心が認めてしまっていた。

 

 これで自分は芸能人として活躍できる。そしてお金を稼いでイドアル孤児院にも楽をさせることができる。

 

 まあ、孤児院のみなやニエはいい顔をしないだろうが、それはそれだ。ばれなければいい。

 

 その辺についてはこの男も慣れているだろうし、気にしなくてもいいだろう。

 

 そう、いいわけにもならないことを考えながら扉を開け―

 

「っとぉ!?」

 

 いきなり何かを踏んづけて、スッ転んでしまった。

 

「痛たた……。いったい何が……」

 

 よく見ると、それは財布だった。

 

 こんなところで落とすとはだれが落としたのか。あとで届けておかねばらないだろう。

 

 そう思って財布を拾い―

 

「……………え?」

 

 それが、ニエのものだと気づいた。

 

 なぜ、ここにニエの財布がある?

 

 しかもこの財布は、昨日帰るときにジュースを買っていた時使っていた奴だ。何度も見たことがあるから、間違いない。

 

 つまり、ニエは昨日までこの財布を落としてないわけで、それがここにあるということは、つまり今日落としたわけで―

 

「プリス!!」

 

 本能的な恐怖にかられ、リセスは部屋へと戻る。

 

 大きな音を立てて扉があいたことで視線がリセスに集まった。

 

 そして、それゆえにそれに気が付いたのはリセスだけだった。

 

 広大な成金趣味の執務室。マジックミラーになっているその巨大な窓に―

 

「………」

 

 伽藍洞。そう形容するほかない、さかさまになったニエが映った。

 

 そして、そのまま一瞬で下へと落ちていく。

 

 このビルは高層ビルだ。百メートルは軽く超える高さを誇っている。

 

 そして、この部屋はかなりの高層階だ。屋上がすぐ近くにあるレベルだ。

 

 そして、人間はそんな高さを落ちて助かったりしない。

 

 約束された結末を見て、リセスは一瞬で精神を叩き直される。

 

 なんでこうなった? なぜ、ニエは自殺なんてまねをした?

 

 決まっている。この光景を見てしまったからだ。

 

 リセス・イドアルとプリス・イドアルが、肉欲に堕ちた雌犬へとなり果てた姿を見て、絶望したのだ。

 

 だから生きることを捨てて、死ぬことを選んだ。

 

 そう、それはただそれだけの結末。

 

 リセスとプリスが、ニエを裏切ったからおきた惨劇だった。

 

「あ、あぁ……ぁあぁぁ」

 

 震えながら、汗を流しながら、リセスはどうすればいいか考える。

 

 どうすればいい? 何をすればいい?

 

 どうしようもない。もうすべては手遅れだ。

 

 もう彼は地面にたたきつけられているころだろう。この人通りが激しすぎる場所で墜落事故が起きれば、すぐにでも警察が来る。

 

 この国の警察は優秀だ。そこから芋づる式に自分が何をしたかもわかるだろう。

 

 芸能人としては致命傷だ。メジャーデビュー寸前のアイドルがこのようなことをしていたなど、マスコミが死肉に群がるハイエナのように集まってくる。

 

 だが、そんなことはどうでもいい。

 

 あれほど望んでいた芸能人としての成功を、リセスは些末事だと切って捨てた。

 

 そう。完全な手遅れになってから、ようやく気付いてしまった。

 

 ……人は、空気の大切さを自覚しにくい生き物だ。

 

 そして、リセスにとってニエとは空気に近い存在だった。

 

 いることが当たり前すぎて、ついないがしろにしてしまった。そしていなくなった今生きているのも難しい。

 

 もはや芸能人などどうでもいい。

 

 それよりも、何よりも―

 

 なんで、ニエは死んだ?

 

 決まっている。リセスとプリスが盛っている姿を見て、絶望したからだ。

 

 では、どうすればいい?

 

 どうしようもない。すべては手遅れだ。

 

 なら、何をすればいいのだろうか? この激情を晴らすには、どうすればいい?

 

 一つしかない。自分を雌犬に変えた下衆を殺すことだ。

 

 それこそ人生が終わるが、しかしそれが必要だ。

 

 奴を殺して自分も死ぬ。それぐらいしなければ、ニエに償いをすることはできないのだから。

 

 混乱する思考でそう結論付け、リセスは人生を終える覚悟を決める。

 

「お前が……私が……彼を……ニエを………っ」

 

 憎悪をまき散らし、何もわかっていない奴らを無視してリセスは武器になるものを探して―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……契約違反をしたな、猿が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、現実は何処までも残酷だ。

 

 リセスの涙すら浮かべての癇癪すら、まったく別の都合で無視されるのだ。

 




これがリセスの過去の前編です。……鬱だとは何度も言ったので怒らないでくださいね?


これを機にリセスとプリスの由来を説明しますが、ファーストネームはプリンセスから抜き出し、セカンドネームはアイドルのアナグラムです。

ある意味で本作品のヒロインであり、そして悪い奴に篭絡される定番の一つであるため、プリンセスという単語から抜き出してファーストネームにしました。プリスもある意味で対存在なので合わせました。

そして彼女たちがアイドル(セミプロ)なのもかなり初期から決定していました。……というより、イレギュラーズの根本設定より先に、いつかこういう来歴のキャラを書きたいと思っていました。

……寝取られ系のエロゲとかエロアニメとかエロマンガとか、エロいからおかずには最高なんですけど、どうしてもラストがもやもやするって人はいると思います。かくいう自分もその一人です。しかも自分、嫌な思い出とかそういう場面とかが記憶に残りやすいたちでして、結構きつかった。

 だから、「そういう鬱な展開を経由してから、何らかの形で救われる作品を自分で書きたい」っていう願望があったんです。それで上書きしてしまおうとか言う感じですね。

 インフィニット・ストラトスD×Dで短編形式で一話書きましたが、あれはいろいろと無理がありました。そのリベンジもしてみたいし、もやもやする作品は多かったのでそういう意味でももっと書きたかった。

 そこにイレギュラーズの根幹ともいえる「ぼくかがんがえたしんめつぐのばらんすぶれいかー」を出す方法と、ちょっと前から色んな作品の情報を読んで思った「英雄」をテーマにして各形式などが悪魔合体して生まれたのが、このイレギュラーズです。その「アカメが斬るのアカメ」てきなヒロインとして、リセスが作り出されました。

 ちなみにモデルの鬱いのはあい☆きゃんというアダルトゲーム及びアニメ。外見イメージはリセスが金髪を大人にした姿で、プリスが髪の色が変わる子の桃色バージョンです。もちろんニエは主人公の男のifとして書いています。

 リセスが芸能関係で一家言あったのは、イドアルというファミリーネームを含めての伏線です。当人としても正真正銘トラウマで自傷行為なのですが、リセスは英雄であろうと努力しているうえに家畜に堕ちた側とは言え本質的に善人なので善意でしゃべっていました。

 イッセーに対するマシンガントークは、トラウマほじくりながらの長台詞だったからこそいろいろとキャラが崩壊していました。もうあれです、イッセーが闇金に手を出しかけてるから、内臓を売ってその金を無理やり渡してる感じの行動です。







 ゲームでは寝取られた女の子とよりをもどす展開とかありますが、現実では愛想が尽きるのが基本だそうです。それに絶望して女嫌いになるかもしれませんね。イッセーみたいな恋愛恐怖症も十分あり得ます。それ位にはショックな出来事です。

 結果として、ニエは衝動的に自殺を選びました。一応弁護しますが、糞スポンサーの窓から見える落下コースなのは偶然です。そんな意趣返しをしても糞スポンサーは舌打ちこそすれ後悔はしないし、そもそもそこまで考えている余裕はニエにはありませんでした。

 ですが、その衝撃はリセスを正気に戻すのには、十分すぎました。

 そして、これで終わりではありません。これで終わったのならリセスもニエもプリスもここまで拗らせません。

 いっそここで本当にリセスが糞野郎の殺害を実行に移せていれば、話はもっと簡単に終わっていたのです。

 結果的に失敗しても、リセスは復讐を実行に移した事実が癒しになりますし、成功していれば罪滅ぼしはできたと思うでしょう。その後、人生がどうなるかはわかりませんし、まあ高確率で水準低い生活を送ることになると思いますが、心のどこかでこの出来事に対する決着はある程度つけれていたはずです。ニエも、そうだったらリセスをある程度は赦していたでしょう。

 ……こっから、リセスをもう一度どん底に突き落とす出来事が始まります。

 どこまでも、今のリセス・イドアルは強がっているだけの弱小で虚弱で貧弱だったのです。体も……そして心も


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第四章 11 リセス・イドアル(後編)

リセス・イドアルの過去編の後編です。

リセスが英雄になることを決意した展開が語られます。





リセス・イドアルという少女は、基本的に強がりで、弱いことにコンプレックスがある人物です。

孤児院出身というコンプレックスがありまして、過去編でですわ口調なのは元ネタのキャラもありますが、お嬢様というのは勝ち組の強い立場だから、口調だけでもそうしたいと思っての行動です。





そして、そのコンプレックスと、致命的なもう一つの失態がリセスをさらに拗らせました。





ニエは、糞スポンサーもプリスも憎んでいますが、リセスほどではありません。

糞スポンサーに関しては本編を読めばすぐにわかりますがざまぁな展開で溜飲を下げてますし、プリスに関してはあとがきで補足しますが、ある意味罰を受けているからです。

ですが、リセスはニエにとって逃亡者でしかありません。それも、神経を逆なでし続けながらそれを贖罪とほざいている類の裏切り者です。



 

 突如として宙に生み出される魔方陣。

 

 その光景に、たった一人を除いて全員が唖然とする。

 

 まるでジャパニーズアニメのような展開に、ほとんどの者たちが目を丸くしてぽかんとなった。

 

「ま、まずい。……ばれたのか!?」

 

 狼狽する屑の目の前で、魔方陣から数人の人間らしき者たちが出現する。

 

 その姿を見て、屑は明らかに及び腰になった。

 

「な、な、何の御用でしょうか!?」

 

「きゃっ!?」

 

 腰の上で踊らせていたプリスを放り出し、男は慌てて身なりを正す。

 

 この、その気になれば経済界で大きな顔すらすることができる男が明らかに狼狽する相手。

 

 そんなことをなしとげた男たちは、冷徹な視線をたたきつけた。

 

「とぼけるな。貴様、教会にフェニックスの涙を横流ししていたな? 貴様に譲った時の倍の金で売ったそうではないか」

 

「な、何のことですか!? あれはちゃんと事務所(ウチ)芸能人()に―」

 

 そう言いかけた男に、その乱入者は手を突き付けた。

 

「問答無用だ。下等種風情が我ら上級悪魔をたばかった罪、命で償え」

 

「ま、待―」

 

 反論は最後まで言い切ることができなかった。

 

 それより早く、男の腕が引きちぎらえる。

 

「ぎ、ぎゃあああああああ!?」

 

「ふん。三流の悲鳴だな」

 

 悲鳴を上げてもだえる男に、乱入者は炎を放つ。

 

 それは決して介錯の一撃ではない。そして処刑の一撃でもない。

 

 ただその炎は傷口を焼き、出血を抑え込むだけだった。

 

「この程度で済むと思うなよ? 貴様はゆっくりと殺してやろう」

 

「ひ、ひ、ひぃいいいい……」

 

 情けなく小水を漏らす男を蔑む視線で見据え、怒りを見せる乱入者は腕を掲げた。

 

 そして、惨劇が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、雨が降っている裏路地で転がっていた。

 

「は……は……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 息を整えながら、リセスは飛んでいる記憶をかき集める。

 

 あの惨劇が発生したその時、リセスは恐怖によって、条件反射とも言えるレベルで部屋から走り出していた。

 

 同じように逃げ出す女たちもいたが、しかしなぜか誰一人として部屋から出ることはできなかった。

 

 何が起きた? あれは何だ? いったいなんだ?

 

 訳が分からないまま、リセスは呆然とあたりを見渡す。

 

 みればここはスラム街だ。どうやら死に物狂いで走り続けていて、こんなところまで逃げ込んだらしい。

 

 それほどまでの恐怖が、いまだに体に染みついている。

 

 訳が分からない。意味が分からない。何もわからない。

 

 だが、それでもこれだけはわかる。

 

 あれは、ただ人が迂闊に関わってはいけないものだ。それだけは間違いない。

 

 そして、あの男はもう生きてないだろう。それも分かっている。

 

 ………その事実に、リセスは絶望を感じた。

 

 弱い。そんな言葉が思い浮かぶ。

 

 体が弱い。力があれば、自分が強引に奴を殺せたし、そもそも奴の求めを振り払うこともできたはずだ。

 

 心が弱い。心が強ければ、最後の利性を保つこともできたし、芸能人の夢に縋りついて誰にも助けを求めないだなんてことはなかった。そもそもあの場で逃げることもなかっただろう。

 

 魂が弱い。雌犬であることを受け入れるどころか、雌に堕ちていることすら気づいていないなど、魂が腐っているといっても過言ではない。

 

 リセスはもう、何もかもがどうでもよくなっていた。

 

 このままスラムをうろついてたら、間違いなくゴロツキ共に襲われるだろう。

 

 だがそれがどうしたというのだ。

 

 一時の名誉と肉欲につかれて、自分は裏切ってはいけない者たちを裏切り続けてきた。

 

 ニエを、孤児院のみんなを、ファンを。すべてを裏切った。

 

 なら、このままなぶられて殺されてもいいような気がして―

 

『現在、現場のビルは騒然となっており―』

 

 その声に、リセスはふと耳を傾けた。

 

 みれば、そこは小さな雑貨店。そこにあるテレビでは、まさに自分がいたビルが映し出されている。

 

 ―謎の怪死事件連発。現代の悪魔か

 

 などというタイトルで報道されている内容を、リセスはなんとなく見る。

 

 発端はニエの自殺。まずこれで大きな騒ぎになった。

 

 当然だ、人が大量に行きかっているところで、いきなり墜落死が発生したのだ。高さから言って体が試算して飛び散っていてもおかしくない。まず間違いなく、阿鼻叫喚の騒ぎになったのだろう。

 

 それで警察が即座にビルをテナントとしている会社などに話を聞こうとすれば、上層階で騒ぎが発生していた。

 

 それはそこの芸能事務所の所長が惨殺されていたという事実。そして、十数人のアイドルが心神喪失状態で倒れていたということ。

 

 アイドル達は数年分の記憶があいまいで、しかも服装が乱れていた。

 

 もとより、あの男の評判には黒いうわさがあり、警察もマークをしようか悩んでいたという。

 

 現在の発表では、男が薬物を利用して乱痴気騒ぎを開始。そのままトリップした者たちによって、サバトじみた殺人が行われたのではないかということだ。

 

 中には行方不明になっている者たちが何人ほどいるということが発覚しており、警察も捜査を進めているとのことだ。

 

 その行方不明のメンバーの中に、自分やプリスの姿もあった。

 

 ……あの人の皮をかぶった化物に殺されたのか。リセスはそんなことを思ってしまう。

 

 プリスが死んだかもしれない。その事実にリセスは悲しみ、しかし苦笑する。

 

 自分と同じ雌犬に成り下がり、ニエを裏切って絶望させた彼女のことを、そこまで気にしてやる必要があるのだろうか? 自分と同じ屑が一人死んだだけで、何を気にすることがあるのだろうか?

 

 でも悲しい。それほどまでに、プリスはリセスにとって大きな存在だった。

 

 その事実に力なく笑ったその時、リセスの目には鏡が移っていた。

 

 そこに映るリセスの表情は、丸でぼろ雑巾のようだった。

 

 ……その瞬間、リセスは恐怖を感じる。

 

 このまま、終わるのか?

 

 弱い立場がいやだった。

 

 だからアイドルという強さを欲しかった。

 

 だけど何もかも弱いままで、だから雌犬に成り下がった。

 

 そして、ここでこのままぼろ雑巾のように終わるのか。

 

 ……ニエを殺した、ぼろ雑巾のままで?

 

 そう思い至った瞬間、リセスは恐怖した。

 

 恐怖心が胸を締め付け、リセスは逃げるように駆けだす。

 

 だが恐怖心は非常に強く、リセスはついに我慢できず、路地裏の一角で盛大に吐いた。

 

「うぇ……うぷ……うぼぇっ!?」

 

 昼に食べたフィッシュアンドチップスを盛大に吐き出しながら、リセスは恐怖にかられる。

 

 このまま、自分は弱いままなのか?

 

 ニエを殺した自分のまま、死んでいくのか?

 

 いやだ。いやだ。それは嫌だ。

 

 リセスの脳裏に、ニエとプリスとの思い出が浮かび上がる。

 

 それは、リセスにとってかけがえのない物で。そして自分が自ら踏みにじった物だった。

 

 それだけのことをした結果が、このままぼろ雑巾のように終わること?

 

 ニエを殺してしまった自分が、そのまま死んでいいはずがない。

 

 そうだ、そんなことはニエにも悪い。

 

 ニエだって夢があった。まっすぐで、立派で、優しくて、自分の心の支えになるだけの人だった。

 

 大好きだった。愛していた。

 

 そんな人を踏みにじっておいて、このまま終わる?

 

 あり得ない。

 

 あっていいはずがない。

 

 そうだ。忘れるな、リセス・イドアル。

 

 今の自分はただの畜生だ。家畜にも劣る。

 

 ニエ・シャガイヒが、そんなゴミ屑のために命を落とした。そんなことを認めるな。

 

「……なりたい」

 

 その時、リセスの脳裏に、子供の頃に読んだお伽噺が浮かび上がる。

 

 それは、悪い龍にとらわれたお姫様を救う勇者の話。どこにでもあるお伽噺。ただの小さな英雄譚。

 

 だが、今のリセスにとって譲れないものだった。

 

強者(英雄)に、なりたい」

 

 この弱い自分を覆したい。

 

 魂を強くしたい。心を強くしたい。体を強くしたい。

 

 どれもが無理なら、せめて力がほしい。

 

 力があれば、それをよりどころにできる。

 

 そして力があれば、誰かを救うことができる。

 

 力を手にすれば、ニエが死んだことをきっかけにして力を手にすることができれば、そしてその力を使って誰かを救い続ければ、ニエの死にも「英雄を生み出すきっかけになった」という意味が生まれ―

 

「―ニエ、許して、くれる?」

 

 あり得ない前提だ。

 

 今から戦闘能力を手にしようとしても、できることなどたかが知れている。その前に野垂れ死ぬのが関の山だ。

 

 ああ、どこかに自分を生体兵器に改造して、しかも放し飼いにしてくれる都合のいい実験施設はないのだろうか?

 

 そんなことを何ともなしに思い、そして―

 

―チート能力、手にしませんか?

 

 ―それを、見つけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、冥界のグラシャラボラス家分家では、宴会が行われていた。

 

「はっはっは。そうですか、あの男は糞迄漏らしていましたか」

 

「ああ、実に無様な死にざまだった。猿にしては愉快だったよ」

 

 そう血族の者たちと酒を酌み交わすのは、リセスを取り逃がしていたなど気づいてもいない、先ほどの乱入者だった。

 

 幸か不幸か扉を出てすぐに曲がってしまったため、リセスがいたことに気が付かなかった。さらに人間界のテレビなどには興味もないため、リセスの存在をかけらも知っていないのも、彼女にとって幸運だっただろう。

 

 今回の行動は、契約を違反した者に対する粛清だったが、実はそれだけではない。

 

 かなり手広く悪行をやっていたあの男に対する報復を依頼する契約者が数多く、あまりに数が多いため、男の契約者である彼に相談があったのだ。

 

 そこで調べてみれば、彼が契約を不履行していることが発覚。これ幸いと粛清をくわえることにしたのだ。

 

 すでに国家の暗部にも話は通してある。裏社会にドロップアウトした女優たちを送り込んでいたなどで危険視されており、汚れ仕事をしなくて済むと向こうも快く受け入れてくれた。

 

 手違いでニュースになっているが、数日もしないうちに親族を守りたいが、そのために金が要る男が代理で捕まるはずだ。警察官僚にも話は通してあるので、後は適当に進むだろう。

 

 いかに平和主義の魔王だろうと、国家の了承までした汚れ仕事の代行も兼ねたこの制裁にとやかく言うことはできない。若者のくせに大きな顔ができる現四大魔王が苦い顔をすることを考えると、少しスカッとする。

 

「まあ、それなりにいい土産もできたし問題なかろう」

 

「はっはっは。あの国も気前がいいですな。二、三人持ち帰ってもいいとは」

 

「所詮、高貴たる我らと違う俗物ですからな。金を積んだし問題ないでしょう」

 

 はっはっはと語り合いながら視線を向ける先には、プリス・イドアルを含めた数人の少女の姿があった。

 

 思わぬ副産物が手に入り、彼らは満足している。

 

「そうだ、ゼファードルは素行が悪いが腕は立つ。我が家系に素質を与えてくれた礼に、あの娘の内一人をやるとするか」

 

「それは良いですな。……おお、一人神器(セイクリッド・ギア)を持っているものいる。奴は我が分家ではかなり強いからな。神器持ちを一人ぐらい入れておいた方がよさそうだ」

 

 そう会話が弾んでいる中、やり玉に挙げられたプリス・イドアルはそれを無表情に受け入れていた。

 

 なんでもいい。どうでもいい。

 

 ニエが死んだ。リセスも行方知れず。

 

 そして、今回の件ですべてが知れ渡るのも時間の問題。イドアル孤児院にはもう戻れないだろう。

 

 なら、どうなってもいい。

 

 少なくとも愛妾として相応の豪勢な生活は保障してくれた。なら、悪いことにはならないだろう。

 

 多少乱暴に扱われたところで、それをはるかに上回るメリットがあるのなら気にするほどのことではない。

 

 プリスは壊れた笑いを浮かべると、虚空を見つめてつぶやいた。

 

「ニエ君、リセスちゃん、……さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




補足が大量に必要だと判断したため、今回のあとがきもかなり長いです。





不倫された人は大きく分けて二つのパターンに分かれるといわれます。

自分の連れ合いをかどわかした、連れ合いが関係を持った相手に怒りを覚えるパターン。

自分がいるのに不倫した、連れ合いにこそ怒りを覚えるパターン。

ニエは後者の性質を持っています。ゆえに糞スポンサーと同じようにリセスとプリスを恨んでいます。そんなクソ野郎なんかになびいて、自分やイドアル孤児院の人たちを裏切った二人に対して、殺意すら抱きました。むしろスポンサーが糞過ぎたからこそ、同レベルに糞スポンサーを恨んでいるといってもいいです。









 糞スポンサーがむごたらしい死に方をしたのも要因の一つですね。このクソ野郎、ポテンシャルが高い上に頭が回るため、悪魔の力なども借りて欲望を満たしていました。悪魔側は実力者が配偶者を何人も持てるので、質の悪い連中なら特にそういうことを気にしないですしね。そして堕とした女をあてがったりして、蜜月の関係を気づいたり裏で権力を強大にしていました。

 が、調子に乗りすぎました。女を堕としまくったことでその関係者の恨みをかい、他の悪魔に復讐を依頼するものが出てきました。その悪魔が糞の契約相手と相談して調べると、自分たちをだましていたことも発覚。さらに糞の国の政府も、この糞がやりすぎていることに気が付いて、暗殺した方がいいんじゃないかと思いました。とどめにその政府関係者も悪魔と契約していて、その糞の契約者とつながりがあった。

 これが全部組み合わさった結果、政府は「あんた等にとってもむかつく、あの糞ぶっ殺してくれません? 目撃者は自由にしていいから」「おk。殺すとうざい上層部がうっさいから記憶消す程度だけど、何人か奴隷にもらってくわ」「どーぞどーぞ。雌豚の一人や二人、国の恥だから持って行ってください」と取引成立。糞はあわれ図に乗った因果応報としてぶち殺されたわけです。

 本来なら政府と悪魔の連携でもみ消されるはずでしたが、ニエの自殺というアクシデントでいろいろとスキャンダルになったわけですね。そのせいで沈静化が大変で、結果的にリセスは口封じされずに済みました。逃げ方にセンスがあったせいで、リセスがそこにいたことすら気づいてません。

 サーゼクスたちもこの流れは耳に入っていましたが、政府との取引で成立しているので苦い顔はしても手を出せなかったわけです。ここで手を出せるぐらいの力があるなら、そもそも原作でも老害たちをとっくの昔に排除できています。

 ニエはリムヴァンがリセスに傷心の追撃者を使ったことでそれらを説明し、跡で記録映像も入手して見せたので、糞に関してはだいぶすっきりしています。そのせいでリセスに対するヘイトに傾くところまでリムヴァンは計算してましたが。

 ニエがリセスに対して怒り狂っているのは、「自分たちを裏切って自分を絶望させた罪を償うとか言っているくせに、あったこともない他人を救って楽しい毎日を送っているとかふざけるな」とか言った感じですね。

 Aという人物を怨恨から惨殺したBおよびCという人物がいるとします。Aの遺族はAを目を覆うほどむごたらしい肉の塊に変えたBとCに死刑になってほしいと願います。
 ですが、Bはそのままつっ立って警察に捕まり、情状酌量の余地があるとして懲役刑にとどまりました。Cはそのまま逃亡して警察に捕まらず、罪滅ぼしといって名前も知らないうえに犯罪者引き渡し条約を結んでない国に行き、そこで人を助ける仕事をしてたくさんお金を稼ぎ、そのうちの何割かを寄付しながら、酒池肉林とはたから見える生活を送っています。

 この場合、遺族はBが死刑にならなかったことを不満に思いますが、一応裁きは下されたと思うでしょう。しかし、Cは自分たちを苦しめた癖に、悠々自適の生活をしながら人々から褒めたたえられる勝ち組になったとさらに憎しみを募らせるのではないでしょうか。どっちに対して強い怒りを抱くでしょうか? 少なくとも自分はCです。

 ニエの主観では、プリスはBでリセスはCです。プリスは待遇はともかく、眷属悪魔という名の奴隷として事実上の懲役刑を受けているとニエは受け取りました。プリスも罪の意識から、奴隷として生きていくつもりでした。実際ゼファードルの元で、プリスはパシリ同然の扱いを受けています。金はかけられてるし食事はおいしいけど、事実上人権は相手の掌の上です。知ってますか? どっかの国の刑務所では、個室で食べたいものをある程度選べるどころかゲームで遊べる国があるんですぜ? それに比べればよっぽど囚人っぽいでしょう?

 其のため、ニエは一応報いは受けていると思っているので、プリスに対しては比較的寛容です。まだ憎んでいますが、積極的に殺す気はないです。場合によってはゼファードルより扱いはいいかもしれません。

 ですが、リセスは神の子を見張るものの精鋭としてそれなりの待遇を持ち、仕事で莫大な金を稼ぎ、ペトという同性の愛人みたいなものを侍らせて、さらに糞の畜生の時のように、色事にふけり、なのにたくさんの人たちに好感を持たれています。

 ………そんな奴が「これが私があなたにしている贖罪です」とか言って来たら、被害者からしてみれば逆鱗でタップダンス踊っているようなものでしょう。リセスにはニエの視点で自分を見ることが足りなかったです。

 これでもし、リセスが糞を殺していたならニエも溜飲を下げていたしそもそもこんなことにはなりませんでした。リセスが腹切りなり飛び降りなどして罪の意識から自分の命を絶てば、許していたでしょう。シスターなり尼になりなって、一生を弔いにささげていれば、好印象すら持っていたかもしれません。

 が、結果は「ニエを死なせた自分が屑のまま死んだら、ニエの死んだことが無意味になってしまうから、自分が英雄になることで英雄をうむきっかけにする」という行動。一般人の反中であるニエからすれば、「お前が立派になろうが何だろうが、すりつぶされた側からすればどうでもいい。それどころかお前が立派になるために殺されたなんてむしろむかつく」になるわけです。

 こんな最悪の噛み合い方をした理由は、前書きで書いたリセスのコンプレックスが最悪の形で噛み合ったからで、さらにプリスもですがある大事なことをしていないからです。これ以上は長くなりすぎるので、次の話の前書きで補足します。


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第四章 12

前回のあとがきの続きをさせていただきます。









 リセス・イドアルは自分が孤児という社会的弱者ということにコンプレックスを抱いていることは、前回の前書きで説明しました。

 そして、其れを克服しようと頑張っていたつもりが、性玩具というさらに下の存在になっていたことを、ニエの自殺で思い知らされました。

 さらに殺そうとした糞スポンサーが惨殺される様を見て衝動的に逃げ出したことで、リセスは自分のことを心身ともに最底辺の弱者として認識しました。そのうえで、大好きなニエを裏切って迄そんなものになったことを許せませんでした。

 その精神的極限状況で、リセスが逃げ込んだ先は、アイドルを目指したときと同じく「強者」になること。違うのは、それがアイドルという社会的強者ではなく、英雄という肉体的強者です。

 ヒロイが輝きと書いて英雄とルビを振るように、リセスは強者と書いて英雄とルビを振るものです。それは、リセスが弱い自分をどこまでも嫌っていて、英雄という強者になりたいことの裏返しです。ですわ口調と同じで、いくらかは作っているキャラです。

 英雄は強者であり、弱者じゃない。強いから、畜生に何てならない。成果ゆえに社会的地位もあるし、戦闘能力もあるし心も強いはず。たとえ心が弱くても社会的地位も戦闘能力も強大ならば、その弱さもどうとでもできる。

 社会的弱者であるコンプレックスから口調だけでもお嬢様(社会的強者)を貫き、アイドル(社会的強者)になろうとし、その結果心身の弱さまで突き付けられ、大事な存在を失った。リセスはその事実を受け入れられなかったし、そんな奴によって無意味にニエが死んだことを認められませんでした。

 だから英雄(強者)になりたいのです。地位も肉体も精神も強くなりたい、せめて精神の弱さをどうにでもできるぐらい強くなりたい。

 弱者のままで死にたくないから。ニエを無意味に死んだことにしたくないから。

 ニエ・シャガイヒという存在の死に価値と意味を作ることで贖罪とし、自分を発狂やショック死すら起こしかねないほど肥大化したコンプレックスから解放する。

 彼女が英雄を目指すのは、贖罪と逃避のため。どこまでも後ろ向きな理由で英雄を目指していて、その根幹にあるのは自分の弱さを認められない自己否定です。






 むろん、今まで散々書いた通り、ニエからしてみれば「見当違いの贖罪」でしかありません。むしろ自分を散々苦しめたうえ、「英雄を生み出す生贄」にしようとしているリセスに対する怒りは強大です。

 そして、このままリセスが死ねば、ニエは超えてはいけない一線を越えてしまいます。

 こんな言葉があります「日常で培った倫理観のブレーキは馬鹿にならない」。

 兵士や戦士というのは、そういうのを訓練で意図的に緩めることができるようになる人物と、この理屈で言えば言えます。イッセーたちは、必要に応じて天然でそれを緩めることができる、戦士としての才能がある人物でしょう。

 ですがニエは違います。ニエはリセスに対する恨みとリムヴァンのあおりでブレーキを踏むことを忘れているだけです。本質的に普通なのです。

 やるやらないとできるできないは別なのです。いきなり悪い奴を倒せる力をあたえられたとして、それができるのは天然ものの英雄とか勇者です。大量の人間をみなごろしにできる力がぽんと与えられて、それで本当に虐殺を実行するのは普通は無理です。

 日本では、死刑執行のさい三人の人間が同時にボタンを押して死刑を実行するそうですが、実際は一つのボタンが死刑執行のスイッチになっているそうです。これは、人を殺すという精神的苦痛を和らげるための方法だそうです。

 兵隊というものは本来一般人が数年かけて殺し合いができるように訓練を積んでなるものですが、それでも実戦を経験すると人が変わったりPTSDになります。いきなり実践に投入された善良な人間が、人に簡単に暴力を振るい家族を虐待するようになったという話を新聞で読んだことがあります。

 もし彼がこのまま衝動的にリセスを殺せば、一般人がいきなりたくさんの人の前でどんな理由であれ人を殺せば、彼は越えられない一線を越えてしまいます。

 騎士道や武士道は人を殺す職業である騎士や武士が守るべき規範としたものですが、実際乱世でそれを守れたものはごくわずかです。時代が発展して教育が発達した現代の兵隊でも近しいことがあるのは先程書いた通り。

 そして、リムヴァン・フェニックスはそんな精神的な訓練などニエには積ませていません。

 リセスを殺せば、ニエの心は超えてはいけな一線を越えてしまいます。









 リセスもプリスもニエ自身も、そして戦える英雄たちであるイッセーたちも気づいてませんが、ニエがリセスを殺せば、ニエ・シャガイヒは二度目の死を迎えます。









 こんな言葉があります。「たとえ私が超人的な力を持っていても、家でワインを飲むだけだろう」

 リセスは、ここで死ぬことを選んではいけません。それは、ニエ・シャガイヒにとどめを刺すことと同義だから。

 リセスは、今のままでは英雄とは言えません。それは、心は弱くてもいいからと思っているから。

 なぜなら、彼女は今までずっと弱さから逃げてきただけだから。

 何より克服するべき弱さから全力で目を背けて逃げている逃亡者を、リセス自身が内心で英雄とは思えないから。









 英雄とは、どんな形であれ困難を乗り越えた者だと理解し、だからこそヒロイやイッセーに羨望しているリセスは、ニエにきちんと向き合う覚悟を決めなければ英雄にはなれないですし、贖罪すらできないのです。




 

 その幻影が終わり、そしてニエは薄ら笑いを浮かべていた。

 

「……こうして加害者の視点から見ると、腹立たしいにもほどがあるね」

 

 そう告げ、ニエは踏みつけていた足を下すと、そのまま姐さんを蹴り飛ばす。

 

 そのまま姐さんは何度も転がり、そして止まる。

 

 そして、ふらふらになりながらも立ち上がった。

 

 その目は、ニエだけを映していて、そして何も映していない。

 

「ニエ……。私は……」

 

「なんだい? 言い訳ぐらいは聞いてあげるよ。許すかどうかはまた別の話だけどね」

 

 姐さんは、その言葉にすがるように手を伸ばす。

 

「私は、強くなったのよ。……いっぱい、救ったのよ」

 

 今にも崩れそうな状態で、それでも姐さんは手を伸ばす。

 

 一生届かない筈だったものに、今なら手をのばせるという希望を胸に。

 

「……あなたを死なせてしまったから。せめて、それ以上の人を救いたいって。そうでもしないと、許されないから」

 

「馬鹿だね、リセス」

 

 その言葉にニエは苦笑を浮かべ、手をのばし―

 

「―だったら真っ先に死んでくれ」

 

 遠慮なく光力の矢を叩き込んだ。

 

 神器によって超人になっている姐さんはそれでは死なない。だけど、明確にダメージが入ったことだけは事実だ。

 

 それがきっかけとなって、姐さんは崩れ落ちる。

 

 そんな姐さんに冷たい視線を向けながら、ニエは一歩近づいた。

 

「生きて償うなんて発想が出ること自体が逃げてる証拠だ。……どんな幸せだって、生きていなければつかめない。死んでしまえばあらゆるマイナスだけじゃなくプラスの可能性も消え失せる。死刑以上の償い何て、今の時代に存在しない」

 

 侮蔑の表情を込めて、ニエは姐さんを見据える。

 

「……生きて償うなんて欺瞞だよ。幸せになる可能性をいっぺんでも残して、それで償おうなんて、よくもまあ当事者()の前で言える。正気を疑う」

 

 そして、容赦なく顔面にケリを叩き込んだ。

 

「ぐぅ!」

 

「死にたくないから償わないとでもいうのなら考えたけど、そんな欺瞞を欺瞞とも思わず実行するのなら、遠慮はいらない。……君は殺すよ。邪魔するやつも全員ね」

 

 なんども、なんども、なんどもなんどもなんども。

 

 わざと小さな威力でケリを入れて、一撃で殺さないようにいたぶっている。

 

 このクソ野郎が……ぁ!!

 

「てめえ、マジで放せ!!」

 

「だめ! 放さない!!」

 

 氷を砕いてでも助けに行こうとすんだけど、プリスがそれを妨害してくる。

 

 くそ、氷を強化してるせいで脱出できねえ!!

 

「どけよ! このままだとそのニエってのに姐さんが、リセス・イドアルが殺されんだぞ!!」

 

「だからだよ」

 

 静かに、狂気すら感じさせる声色でプリスは言い切った。

 

「私もリセスちゃんもニエ君を裏切った。それをニエ君自身が晴らそうとしてるんだよ? 止める権利が、貴方にあるの?」

 

「それは……っ!」

 

 確かにそうなのかもしれねえ。

 

 恨みを直接晴らしたいのは当然だよな。

 

 しかも、自分は死んでんのに殺した奴はのうのうと生きている。殺された奴からしたら、それこそ恨み骨髄ってやつなのかもしれねえ。

 

 ……だけど、俺は姐さんに死んでほしくねえ。

 

 わがまま言ってんのはわかってる。っていうか、こんな職業選んでおいて死ぬなってのもあれな話だ。

 

 だけど、それでも、俺は!!

 

 姐さんが、あんなぼろ雑巾みたいな姿で死んでほしくねえ。

 

 姐さんが、英雄で、輝きだ。せめて倒れるなら、前のめりに倒れてほしい。

 

 くそ! くそくそくそくそ!!

 

「あきらめんなよ姐さん! 頼むから、戦ってくれ!!」

 

 せめて、俺は声を張り上げる。

 

 それも届いてねえんだろうけど、それでも俺は声を張り上げる。

 

「罪滅ぼしでも! 逃げ出しただけでも! 弱いのがいやだったからでも!! それでも姐さんは輝いてただろうが!!」

 

 そうだ。それだけははっきり言える。

 

 姐さんがなんで英雄になろうとしたのかは、この際どうでもいい。

 

 少なくとも、姐さんはそれによっていっぱいたくさんの人たちを救ってきた。悪い奴らを何人も倒してきた。

 

 自慢していい。誇っていい。どんな理由だろうと、私はこれだけのことをしてきたんだと誇っていい。

 

 だって、だって、だってさぁ!

 

「俺を、英雄を助けたんだぜ、姐さんは!!」

 

 俺は、隠そうと思ってたことをついに言い放つ。

 

「五年前、地方都市のスラムで吸血鬼が暴れた事件!! 俺はあんたに助けられた!!」

 

 ああ、今でもはっきりと覚えている。

 

 恐怖の記憶じゃない。憧れの記憶だ。

 

「輝いてた! 眩しかった! あんたの姿に俺は照らされた!!」

 

「………それは、まやかしよ」

 

 姐さんは、力なくそうつぶやく。

 

「弱いのがいやだから頑張って、その強さを証明したかっただけ。自分を助けるために、だから人を助けただけなのよ」

 

「それがどうした!!」

 

 姐さんの、弱い本音を俺はぶった切る!!

 

「歴史上の英雄が、どいつもこいつも世界の未来とか考えてたわけじゃねえだろ!! ただ死にたくないから殺すしかないって割り切って奴もいただろうし、生活のために軍隊に入っただけの連中だっていただろうし、名誉を求めた連中だって、当人に聞いて回れば一人や二人はいるだろう!!」

 

 英雄だから。

 

 すごいことをしたから。

 

 だから、その動機もきっと常人では抱けない立派な志なんだ。

 

 そんなのは、勝手に伝記を見たやつの妄想だ。

 

 英雄ってものそのものが、そんな綺麗なもんじゃねえってことは、目指すためによく見ている俺たちがよくわかってるだろう!?

 

「いいじゃねえか、弱い自分を克服するために頑張ったって。少なくとも、俺はそんなことで手のひらを反したりしねえよ!!」

 

 ああ、そうだ。

 

 俺は姐さんの動機にひかれて英雄を目指したんじゃない。

 

 あの時姐さんは輝いていた。その事実にこそ俺は照らされたんだ。

 

 それに、第一……。

 

「それにいるだろ!? 全部知ってて、それでもアンタを慕ってくれる奴が!!」

 

 俺のその声とともに、ニエに光力の弾丸が当たる。

 

「……クソッ! なんなんっすかあの頑丈さは!!」

 

 歯ぎしりするペトが、人体急所を正確に狙撃する。

 

 だけどニエには効いてない。上級堕天使クラスの光力を、意にも介していない。

 

 赤龍帝の鎧並の頑丈差で、ニエは魔獣達を生み出している。

 

 それでも、ペトはあきらめない。

 

 姐さんをあきらめきれない。大好きな姐さんを死なせたくないと心から思って、全力を尽くしている。

 

 俺もそうだ。

 

 聖槍の力を最大限に利用し、オーラで強引に拘束を突破しようとする。

 

 俺も、ペトも、姐さんのことが大好きだ。

 

 だけど、ニエはもう一度姐さんの眼前に立つと、手を上にあげる。

 

 同時に巨大なドーインジャーが現れ、そして手を上げた。

 

「外野がうるさいけどこれで終わりだ。大丈夫だよリセス。プリスを殺してから、僕も殺されてやるから」

 

 そして勢いよく手を振り下ろす。

 

 それを合図に、巨大なドーインジャーの足が踏み落とされた。

 

「姐さ―」

 

「お姉さー」

 

 俺たちが叫ぶより早く、巨大な脚は姐さんを踏みつぶ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―ふざけんなこの野郎!!」

 

 ボロボロの鎧を身にまとったイッセーが、それを受け止める。

 

「ぬぅううううううりゃぁあああああ!!!」

 

 そして強引に弾き飛ばすと、ドラゴンショットの一撃で頭部を吹きとばした。

 

 それにニエは一瞬だが隙を見せる。

 

 その顔面に、イッセーの全力の拳が叩き込まれた。

 

「ブッ!?」

 

 一気に百メートルぐらいは吹っ飛んで、ニエはそのまま地面を二百メートルぐらいは転がっていく。

 

 それを睨み付けながら、イッセーはふらつきながらも構えを取った。

 

「すまん、サイラオーグ・バアルとヴァーリ・ルシファーは思った以上に強敵だった」

 

 ジェームズの猛攻を突破してきたのか。マジかあの野郎正気か。

 

 だが、良く周りを見てみると、もう動ける戦力はほぼいない。

 

 イッセーを除けば、ペト、お嬢、サイラオーグ、ヴァーリ、レグルス、フェンリル、アーシアぐらいだ。

 

 アーシアが無事なのは、聖母の微笑を乗っ取られているからだろう。生かしておいた方が当分は都合がいいと思っているんだな、こいつぁ。

 

 くそ、全滅間近じゃねえか。

 

 しかも、ペトの狙撃が何の役にも立ってねえ。イグドラシステムの装甲強度は化物……使ってるけどシャレにならねえだろ!!

 

 だけど、それでもイッセーは歯を食いしばりながら立ち上がっていた。

 

 そして、ニエから姐さんをかばうと、拳を構える。

 

「リセスさんには、手を出させねえぜ」

 

「……部外者は引っ込んでくれないかい? 僕はリセスを苦しませて殺せればそれでいいし、邪魔しないなら部外者にまで手を出す気はないよ」

 

 ニエの目は本気の目だ。

 

 少なくとも、自分から俺たちの邪魔をする気はないんだろう。俺を取り押さえたのは、あくまで俺が姐さんを殺させないように動くからだ。

 

 だから、姐さんさえ見捨てれば俺たちはイグドラシステム四人に集中できる。

 

「ふっざけんな、この馬鹿!」

 

 ま、イッセーがそんなことを受け入れるわけがねえんだけどな。

 

「リセスさんは俺たちの大切な仲間だ。ここでそう簡単にやらせるかよ」

 

 心からそう言い切ったイッセーに、ニエは哀れみを込めた目を向ける。

 

「僕に対する罪滅ぼしだとかいう妄言や、自分の弱さに対する恐怖で戦ってるような奴が、本当に仲間といえるのかい?」

 

 それは、イッセーに対する挑発じゃなく質問だった。

 

 その女は、絆とか情とかじゃなく、自分が強いと思いたいからそういうことをしていたんだ。そう言外に言っている。

 

 姐さんも思うところがあるのか、その言葉に視線を逸らす。

 

 イッセーはそれを感じ取って―

 

「はぁ。あんたもリセスさんも馬鹿じゃねえの?」

 

 ―あきれ果ててため息をついた。

 

 うん、だよなぁ。

 

「「え?」」

 

 ニエはもちろん、姐さんですら首を傾げた。

 

 なんかこれ以上イッセーに言わせるのも癪なので、今度は俺が引き継いだ。

 

「ばっかじゃねえの姐さん。ただそれだけの奴が、なんで自分の恥部を知らされかねないのに芸能関係の助言なんてするんだよ」

 

 ああ、おっぱいドラゴンがらみで姐さんは助言していた。

 

 あれは姐さんが芸能人だったからできる、失敗した先達の視点での助言だったんだろう。

 

 そんなもの、「強くかっこいい英雄」には無用だ。そこから来歴がばれたら台無しだからな。

 

 でも、姐さんはリアスやイッセーにそう言った方面での一言言ってきた。

 

 それにだ。

 

「姐さん、ペトの前にソウメンスクナを出されたとき、心からマジギレしてたしペトのこと心配してたじゃねえか」

 

 ああ、あの時のことはインパクトが強かったからよく覚えている。

 

 姐さんは、あの時本気で怒ってた。

 

 いや、もちろんキレたのは自分の時と重ね合わせたのもあるんだろうぜ?

 

 だけど、そのあとペトのことを心から心配していた。それは誰が見ても明らかなぐらいだった。

 

 ただ強くなることを、過去の罪を清算することを考えているだけの奴にはできねえよ。

 

「姐さん。姐さんは、姐さんが思ってるよりずっと優しい人だぜ?」

 

「そうっス! そうっスよ!!」

 

 出てくる魔獣を片っ端から狙撃するペトが、涙を流しながらもそう大声を張り上げる。

 

「お姉様にお姉様がどんなことしたか教えられてからも、ペトはお姉様のことが大好きッス!! だって、だって……」

 

 珍しく狙撃を外すというミスをしながらも、次弾で即座にリカバリーし、ペトは姐さんの心に声を届かせる。

 

「お姉様は、ペトのことを、本当に親身になって救ってくれたッス!!」

 

「………それは」

 

「自分を救いたかったのは知ってるッス」

 

 姐さんが言いかけるより早く、ペトはそう遮った。

 

「何より自分を救いたくてたまらない。……それなのに、ペトのことを心から心配して救おうとしてくれたお姉さまが、ペトは世界で一番大好きッス!! だから、だから……」

 

「だから、こんなところで全部投げ出しちゃいけませんよ、リセスさん!!」

 

 ドラゴンショットで魔獣たちを吹きとばし、接近しようとするニエを妨害しながら、イッセーは叫んだ。

 

「リセスさんは二人も慕ってくれる奴がいるじゃねえか! それは、リセスさんが本当にいいやつだから慕ってくれてるんだ!!」

 

 イッセーの言葉が、姐さんを揺らす。

 

「昔、リセスさんが取り返しのつかない失敗をしたとしても! そのあとリセスさんが築き上げてきたものは本物だ! 俺たちがリセスさんを仲間だと思ってきたのは、リセスさんが本当にいい人だからです! なあ、ヒロイ!!」

 

 ああ、お前やっぱりいいやつだな、イッセー。

 

 トリを俺に譲ってくれるんだからよ!!

 

「……姐さん、俺は―」

 

 俺は、今まで秘してきたことを言おうと決意する。

 

 ……もう、そうすることでしか事態を打開できない。

 

 俺の想いを、俺の憧れを、俺の―

 

「―あらあら、させないわよ、イッセー君♪」

 

 その言葉とともに、イッセーにしなだれかかる女がいた。

 

 黒髪を長く伸ばし、お嬢にも匹敵するスタイル。

 

 そして、かわいらしいし服を着た少女だった。

 

 そして、その声にイッセーは肩を震わせー

 

「う、うぁあああああああ!?」

 

 絶望すら感じさせる恐怖の声とともに、しりもちをつきながら彼女から離れる。

 

 その瞬間少女の姿は消え―

 

「悪いんだけど、これ以上は僕も許容範囲外でねっと!!」

 

 その背中を、リムヴァンが容赦なく切り裂いた。

 




ヒロイ・カッシウスは英雄という輝きを目指している。

そして、シシーリア・ディアラクを照らす英雄となっている。







兵藤一誠は、頑張っていたら英雄と呼ばれていた。

多くの人たちを、がむしゃらに頑張っていたら救っていたから。








2人は間違いなく、英雄といえる側面がある。

リセス・イドアルはそんな二人の英雄を間近で見てきた。

そして、二人は英雄ではあるがそれぞれ別の英雄であることも見ている。

彼らは強者であるから英雄なのではない。それは彼らの要素の一つに過ぎない。








英雄とは輝きと定義し、そうであろうと心に誓ったヒロイ・カッシウス

がむしゃらに生きた結果、英雄と呼ばれるようになった兵藤一誠。


この二人に共通するのは、立ちはだかる困難を乗り越えて前に進んでいること。








だから、リセス・イドアルは―


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第四章 13

この作品には前提が二つあります。

一つは、この作品が英雄の物語であること。

そのため、この作品には英雄が何人も登場します。




英雄という輝きを目指し、困難を乗り越えられる強さを身に着けてきたヒロイ・カッシウス。

襲い掛かる困難を乗り越え続け、いつの間にか英雄と呼ばれ始めている兵藤一誠

日ノ本統一という困難を、乗り越える一助となった英雄たる森長可

困難を乗り越えれる英雄であろうと、野心を滾らせる曹操。

そして困難を乗り越え続け、英雄と称されるようになったヴァスコ・ストラーダ。








彼らと違い、リセスはそもそも弱い自分を受け入れるという困難を乗り越えられないからこそ、英雄になろうとしました。

それでは英雄になれません。少なくともニエもストラーダも森も認めません。

ですが、彼女はヒロイやペトを救い、二人にとっての英雄です。その素質はちゃんと持っています。






そして、その最後の一押しをするのは二人ですけど、そのおぜん立てをする者は決まっています。








そう、この作品もう一つの前提にして、自分の二次創作における基本理念。

原作を、きちんと立てる。

ハイスクールD×Dの英雄である、兵藤一誠をないがしろに等、どうしてできましょうか。



 

 なにが……起こった!?

 

 訳が分からねえ。何が起こったのか欠片も分からねえ。

 

 いったいいつの間に現れたんだよあの女! それも、現れたと思ったらすぐに消えやがった。

 

 っていうかイッセーはなんであんなにビビったんだ!?

 

 くそ、いったいどういう―

 

「イッセーさん!?」

 

「イッセー!? イッセーしっかりして!!」

 

 アーシアとお嬢が慌てて駆け寄ろうとするが、イグドラシリーズが邪魔で近づけない。

 

 その猛攻を何とかしのぎながら、お嬢はリムヴァンをにらみつけると殺意をにじませる。

 

「リムヴァン! あなた、どうやってレイナーレを!!」

 

「ふむん。なめてもらっては困るねん?」

 

 ふふんと、得意げにリムヴァンは胸を張った。

 

傷心の追撃者(リプレイ・オブ・トラウマ)は相手のトラウマを見抜く能力。だけど、ただそれだけってわけじゃないんだよ。さっき上映して見せたし、トラウマに変身することもできる」

 

 なるほどな。傷心の追撃……傷に塩を塗り込む方法はいくらでもあるってか。

 

「ハーレム王を目指すと公言する、かの赤龍帝が女の子に裏切られたのがトラウマだなんてねぇ」

 

「この、男……っ!!」

 

 激戦の中、お嬢が額に青筋を浮かべながら、リムヴァンをにらむ。

 

 だがそれも長くは続かない。

 

「宰相、いい加減悪趣味です」

 

「ごめんごめん。ほら、運営陣はいろいろ大活躍してる「おっぱいドラゴン」を叩き潰してほしいって言ってたからね。確実に仕留める方向でいっただけだよ」

 

 ヒルトにたしなめられて、リムヴァンは苦笑を浮かべると軽く謝る。

 

 そして、そんなことをしている状況でもない

 

 この状況下で、イッセーまでリタイアだと……っ!!

 

「じゃあ、そろそろ終わりにしようかな?」

 

 そういいながら、リムヴァンは両手から炎を吹き出す。

 

 まずいな、こりゃ本気で俺たち全員殺す気だ。

 

 そして、抵抗を続けているサイラオーグとヴァーリにレグルスも、イグドラシリーズ四人がかりに圧倒されている。

 

 アーシアも回復を封じられているせいでろくに動けない。

 

 まずい。まずすぎる……っ

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、俺は真っ白い空間の中にいた。

 

 あ、これは歴代の赤龍帝たちがいる場所だ。

 

 そこに気づいた時、歴代赤龍帝の残留思念達が、俺を一斉に見ていた。

 

 なんだ? いつもはうつろな表情を浮かべてるだけなのに、今日のこの人たちは正気になってるような感じだ。

 

 俺が不思議に思ってると、歴代の人たちがすごい形相で叫んだ。

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使うのだ!!」

 

 うぉ!? な、なんだなんだ!?

 

 あ、思い出した。俺はリムヴァンに切られたんだ。

 

 レイナーレの幻覚を見せられて、俺は隙をさらして―

 

「急げ! 早く覇を使うのだ!!」

 

「そうだ。奴を倒すには覇龍を使うしかない」

 

「何なのだあの化け物は、魔王など歯牙にもかけないではないか」

 

「急げ。このままでは神々すら倒されるぞ」

 

 す、すげえビビり具合だ。

 

 奴ってのはリムヴァンのことだよな。すげえ警戒してる。

 

 でも、あいつは今アザゼル先生たちと戦ってる最中で、あそこにいるのはあくまで分身だ。

 

 そんなにビビるほどか?

 

 そう思った瞬間、真っ白な空間に映像が映る。

 

 そこには、大量の砲撃や騎士団で神様たちを圧倒してるリムヴァンの姿があった。

 

 ……マジかよ。サーゼクス様やアザゼル先生、オーディンの爺さんがいて、防戦一方?

 

 しかもリムヴァンはかなり余裕の表情だ。本気を出してないって表情が言ってる。

 

 そんな。そんな!?

 

 あのアザゼル先生が、サーゼクス様が、オーディンの爺さんが、圧倒されてる!?

 

 なんだよそれ。どんだけ強ければそんなことができるんだよ。化け物以外の何物でもないじゃねえか。

 

 た、確かにあんな奴を倒すにゃ覇龍ぐらい使わないといけないけど―

 

「さあ、覇龍を使え」

 

「覇こそが天龍の本質なのだ」

 

「奴らを滅ぼせ、赤龍帝!!」

 

 其の声とともに、俺の中に黒い感情が巻き起こる。

 

 憎い。リムヴァンが憎い。

 

 でもだめだ。このまま覇を使ったら、俺は今度こそ死ぬ。

 

 そんなことになったら、部長たちが泣くにきまってる。そもそも俺の残りの寿命じゃ、使ったって凌がれるにきまってる。

 

 くそ。でも意識が遠く―

 

「―泣いちゃダメー!!」

 

 そんな声が、聞こえた。

 

 ふと視線を向けると、おろおろとしている観客席の向こう側で、見覚えのある子供が大声を上げていた。

 

 あ、確かリレンクスって子だ。

 

 俺がおっぱいドラゴンのショーをした時の子供だ。確か整理券の概念がわからなくて、握手会に参加できなかった。そして泣きじゃくってたっけ。

 

 そんな子が、涙を浮かべながらも流さないで、しっかりとまっすぐに前を見てる。

 

「おっぱいドラゴンが言ってたよ! 男の子は泣いちゃだめだって! 女の子を守らなきゃいけないんだって!!」

 

 リレンクスは震えながらも、だけど倒れてる俺を見ながら一生懸命声を張り上げた。

 

「だから頑張れー! たって、悪い奴をやっつけてー! おっぱいどらごーん!!」

 

 ………そうだ。

 

 俺は、おっぱいドラゴンだ。

 

 子供たちのヒーローだ。

 

 そんな俺が、子供たちを悲しませるような真似をしていいわけがねえだろうが!!

 

 視線を向ける。

 

 ボロボロになった仲間たちの姿が見える。

 

 イグドラシステムの力で追い込まれてるヴァーリとサイラオーグさんが見える。

 

 絶望に包まれているリセスさんが見える。

 

 そんなリセスさんを助けようと、頑張ってるヒロイとペトが見える。

 

 そして―

 

『させないわ』

 

 ボロボロになりながらも、それでも立ち上がっている部長の姿が見えた。

 

「私の愛する男を、こんなところで死なせない。私は……兵藤一誠を愛しているから!!」

 

 ………っ

 

 俺は、覚悟を決めると立ち上がる。

 

「ようやくか」

 

「さあ、早く覇を使うのだ!!」

 

「急ぐのだ。あの者たちに対抗するには、覇を使うほかないだろう」

 

 急かす歴代たちに、俺ははっきりと言い切った。

 

「……んなわけねえだろ」

 

 その言葉に歴代の人たちが唖然とする中、俺は言い切った。

 

「子どもたちのヒーローが、あんな怖い姿を見せていいわけねえだろうが。冗談きついぜ、あんたら」

 

 ああそうだ。

 

 俺は、乳龍帝おっぱいドラゴンだ。子供たちの笑顔を守るヒーローだ。

 

 その俺が、子供たちを泣かせたままでいいわけがねえ!!

 

「我、目覚めるは! 王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり!!」

 

 俺は、覇じゃない詠唱を唱える。

 

 そう、これが俺の望んだ赤龍帝の形だ。

 

「何をやっている! 早く覇を唱えるのだ!!」

 

「ええい! 今代は何処までも愚かな!!」

 

 歴代の人たちが俺にオーラみたいなものを放つけど、それを防ぐ影があった。

 

「……いいじゃないか。そう言う二天龍がいても」

 

 だれだ? 赤龍帝だった人の中じゃ見たことないけど。

 

 俺が疑問に思ってる中、その人は微笑んだ。

 

「初めまして。僕は、君が取り込んだ宝玉に残っていた歴代白龍皇の残滓だよ」

 

 なんだって!?

 

 俺がヴァーリから外れた宝玉を取り込んでた時、ついでに残留思念も取り込んでたってのか!?

 

 器用だな。神滅具。

 

「ま、本来の僕は白龍皇の光翼に残ってるだろうけどね。それでも、エルシャやベルザードの気持ちがわかる」

 

 その白龍皇さんはにこりと笑うと、オーラを放って歴代の先輩方のオーラを弱体化させた。

 

「さあ、僕が押さえているうちに早く至るんだ。君だけの赤龍帝に!!」

 

「……ありがとうございます!!」

 

 俺はお礼を言うと、詠唱を続ける。

 

「無限の希望と不滅の夢を抱いて王道を往く」

 

「何をしている、今代!」

 

「赤龍帝の神髄とは、すなわち覇だぞ!!」

 

 歴代が呼びかけるけど、俺はそれに負けない。

 

 俺は覇なんて求めねえ。

 

 そうさ、俺はスケベが取り柄のおっぱいドラゴン。

 

 やるんなら、もっとスケベにやってる!!

 

「我、紅き龍の帝王となりて―」

 

 俺は、魂にかけて本気で叫んだ。

 

「―汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!!」

 

 そうさ。俺は覇道なんてもとめない。

 

 俺が求めるのは―

 

「―行こうぜ皆。俺たちが、未来を創るんだ!!」

 

 ―おっぱいあふれる優しい未来だ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




非常に性悪な複合禁手、傷心の追撃者。

トラウマ関係限定の心理掌握といえば、わかる方にはわかるでしょうか。トラウマを知り、トラウマを見せ、トラウマを再現する。これに関していえば、神滅具クラスといってもいい効果を発揮します。

イッセーが数々の問題を解決していなければ、グレモリー眷属は型にはめられていたでしょう。それ位極悪な複合禁手です。








そしてイッセー覚醒編でもあります。今回歴代型はマジビビリで恐慌状態です。

とにかくそれぐらいリムヴァンがヤバイ。ぶっちゃけ本体なら天龍の覇龍ぐらい余裕で相手できますし、分身でもイッセーの寿命が尽きるのが先ですね。

だけど、リレンクスの声をきっかけにイッセーついに紅に。ここら辺はきちんと出したので伏線回収しました。

後地味にリアスが自分から愛を告白しました。……イッセーに聞こえているかはともかくとして。

このへん、リセスが自分の失態を表面的にとは言え言っていたこともありますね。仲間の成長を促せる当たり、リセスはなんだかんだで英雄の素質はあります。あるったらあるのです。真主人公舐めんな。

それに、天龍にケンカ売れるレベルの化け物軍団相手にまだ戦闘不能になってないので、原作よりも戦闘能力は上がっています。ヴァーリ相手に何もできなかった悔しさをばねに、原作よりも実戦志向で鍛えている結果です。地味にリアスが原作より強化されている描写は少しは入れてました。









こっからが反撃タイムなのですがさすがに速攻投稿はできないですね。最低でも半日はかかりますです、ハイ



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第四章 14 新たな原点

兵藤一誠は、人々を導ける英雄である

ヒロイ・カッシウスは、人々を照らす英雄を目指す。










そして、リセス・イドアルは―


 

 俺達は、それを見た。

 

 倒れ伏すイッセーを庇おうと戦闘を続けるお嬢の胸が、光り輝くのを。

 

 ああ、これはいつもの展開だ。

 

 正規の禁手に至った格上の存在を圧倒した。

 

 禁手に至るという奇跡をなしとげた。

 

 覇龍という暴走すら鎮めて見せた。

 

 異世界の神が力を貸しに来た。

 

 そして、禁手を新たな領域へと目覚めさせるという前代未聞の偉業をなしとげた。

 

 そんな奇跡が、また起ころうとしている。

 

 いや、もう起きた。

 

 気が付けば、俺達の目の前でイッセーが立ち上がっていた。

 

 その姿は、今までの赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)じゃない。

 

 それはもう、赤じゃなく紅だった。

 

 よりかっこよくなったその鎧を身に纏い、イッセーはしっかりと立ち上がる。

 

『相棒、何があった?』

 

 ドライグが、どこかぽかんとした口調でそう呼びかける。

 

『歴代赤龍帝の怨念が消失している。先ほどまで俺ですらどうしようもなかったものがだ』

 

 マジか。まさか、また覇龍とかなるんじゃねえだろうなって気がしてちょっと怖くなったぜ。

 

「白龍皇の人が力を貸してくれたおかげだ。いや―」

 

 イッセーはそういうと、観客席の方を向いた。

 

「ありがとよ、リレンクス! 君の声、しっかり聞こえてたぜ!!」

 

 大声で張り上げ、そして観客席で一人の男の子が驚いた表情を浮かべる。

 

 あれ? あの子どっかで見たような気が―

 

「おやおや、これはまずいねぇ!!」

 

 そんなことを気にさせないといわんばかりに、リムヴァンは剣を片手に持って切りかかる。

 

 おい待て。あれ、聖魔剣じゃねえか!?

 

 お嬢も急激な展開について行けず、そのまま聖魔剣は振り下ろされ―

 

「―おい、リムヴァン」

 

 そしてイッセーの鎧の前に弾かれた。

 

 その事実に目を見開いたリムヴァンの顔面に、拳が叩き込まれる。

 

「お前、邪魔だ!!」

 

 そして吹っ飛ばされるリムヴァンを無視して、イッセーは姐さんに声を張り上げる。

 

「リセスさん!! 泣くのはもうやめるんだ!!」

 

 声を張り上げ、そしてそれは姐さんに届く。

 

 絶望の表情を浮かべたまま、それでも姐さんは顔を上げた。

 

「イッセー……。でも、私は―」

 

「リセスさんが頑張ってきた事を、俺達は知ってる!!」

 

 渾身の言葉が、姐さんの反論を黙らせる。

 

「リセスさんは強い! だからペトを救えた。よく分らないけどヒロイも救った! そうだろ、二人とも!!」

 

 ああ、そうだなイッセー。

 

 何よりも、誰よりも。

 

 姐さんに救われた俺達が言ってやらなきゃな!!

 

「姐さん! 俺は姐さんが……大好きだ!!」

 

 俺は、心からの想いを伝える。

 

 そうだ。何があろうと、どんなことがあろうと。

 

 あの時の姉さんは輝いていたんだ!!

 

「あの時の姐さんに憧れた。ああなりたいと心から願った。それは、あの時の姐さんが強かったからだ!!」

 

「そうっス!!」

 

 ペトもまた、狙撃でドーインジャーを減らしながら叫ぶ。

 

「お姉様は強いっす! ずっとずっと辛かったのに、それなのにペトやヒロイを助けて、そしてペトを見捨てず導いてくれたッス!!」

 

 そうだ。姐さんは弱いかもしれない。

 

 だけど、強い人でもあるんだ。

 

 姐さんがしでかしたことは許されない事だろう。一生償っていかなけりゃならないだろう。

 

 それでも、それでも。

 

「姐さんは!」

 

「お姉様は!!」

 

 これだけは、断言できる。

 

「俺達の」

 

「自分達の」

 

 そう。

 

「「英雄……だぁあああああ!!!」」

 

 その渾身の叫びとともに、聖槍が光り輝いた。

 

「なんだ!? 何が起こっているんだ!?」

 

 ニエが訳が分からないと手で光を庇う中、俺は心に湧き上がってくる声を放つ。

 

「槍よ! 神を射貫く真なる聖槍よ!!」

 

 ああ、お前も応援してくれるのか?

 

 聖書の神が、堕天使に堕ちた者と悪魔の声に耳を傾けるなんて、驚きだな。

 

「我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ!!」

 

 だけど、綺麗だもんな。頑張ってるもんな。

 

 だったら、力を貸してくれ!!

 

「汝よ、遺志を語りて、輝きと化せぇえええええ!!!」

 

「さっせるかぁああああ!!!」

 

 とっさにリムヴァンが封印の神器を発動させる中、それは、起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば、勢力は二つに分かれていた。

 

 リムヴァン率いるヴィクター経済連合。

 

 イッセー達、若手悪魔達。

 

 綺麗にドーインジャー迄含めてくっきり仕分けされたのは、まさに神の御業。

 

 覇輝(トゥルース・イデア)

 

 黄昏の聖槍だけが持つ、覇に似て異なる力。

 

 槍に宿る聖書の神の意志が、担い手や周囲の意思をくみ上げてなす、奇跡。

 

 それはリムヴァンの干渉で真なる意味で奇跡と言う程にはならなかったが、然し状況を仕切り直してくれた。

 

 乱戦状態から、完全な二分へ。これだけでも状況を仕切り直すのには十分である。

 

 そして、そのイッセーたちの中で、リセスはぽつりとつぶやいた。

 

「ペト。ヒロイ」

 

「なにっすか?」

 

「なんだよ?」

 

 優し気に微笑む二人を見ると、リセスは涙を流したくなる。

 

 こんな自分を、二人は今でも尊敬してくれている。

 

 それが堪らなく申し訳なく、そして堪らなく嬉しい。

 

「私、弱いわよ?」

 

「そんなことないっす」

 

 ペトは、リセスの言葉を否定した。

 

「弱い人は、自分の恥部を人に語ったりしないっす。ペトの為に最大の黒歴史をペトに話したお姉さまは、きっと強いっすよ」

 

 そういってほほ笑むペトが、堪らなく愛おしい。

 

「そうだぜ、姐さん」

 

 ヒロイもまた、そう言って肩に手を置く。

 

「姐さんはずっと頑張ってきたじゃねえか。頑張るのって、大変なんだぜ?」

 

 そう言うと、ヒロイは顔を赤くしながらもリセスにほほ笑んだ。

 

「姐さんは弱いところもあるけど、姐さんが思うよりずっと強いよ。だからここまでこれたんじゃないか」

 

 その言葉が、とても気恥ずかしい。

 

「ああ、その通りだ」

 

 サイラオーグ・バアルがそう言って前に出る。

 

「貴女は弱さに溺れず強くなる事を選び、力を得た。そこまで否定してはいけないだろう」

 

「まったくだな」

 

 ヴァーリがそれに続き、同じく一歩前に出る。

 

「ペト・レスィーヴとヒロイ・カッシウスをここまで成長させたのは君だろう。その切っ掛けになった事ぐらい、誇ったらどうだ?」

 

 この圧倒的な強者二人に言われると、何やら本当に自分が強くなった気分になる。

 

「そうですよ、リセスさん」

 

 イッセーもまた、紅の輝きを放ちながら、優しさにあふれる言葉を投げかける。

 

「レイナーレのこと引きずってた俺も、前に進む覚悟ができました。それは、アーシア達が支えてくれるからです」

 

 その言葉に、イッセーがトラウマを持っている事を思い出す。

 

 彼は、それを乗り越えようと向き合おうとしているのだ。

 

「リセスさんには俺達が、何よりヒロイとペトがいます。だから、きっと乗り越えられます」

 

 そう言って親指を立てるイッセーに寄り添いながら、リアスもリセスにほほ笑んだ。

 

「貴女は、優しい人よ。少なくとも、自分みたいな人が出ない事を心から願えるぐらいには、優しい人」

 

 リアスは信じている。

 

 リセス・イドアルは自分のフォローをしてくれた。それはきっと、この過去が原因だろう。

 

 大事な人を好きだと言えないままに失った経験をしてほしくないと思ったのだ。

 

 その優しさはきっと強さだ、誇っていい。

 

 そう、リアスは言ったのだ。

 

「さあ、姐さん」

 

「ねえ、お姉様」

 

 ヒロイとペトは、リセスの一歩前に出る。

 

 そして、ニエ・シャガイヒは苛立たしげな表情を浮かべた。

 

「うっとおしい連中だね。邪魔しないなら手は出さないけど、邪魔するなら本当に殺すよ?」

 

「OK。宣戦布告と受け取った」

 

「ならここからは戦争っすね」

 

 二人は同時に得物を構える。

 

 そこに、遠慮は微塵もなかった。

 

「アンタの恨みは正しいんだろう。怒っていい案件だと思うともさ」

 

「でも、自分達はそんな罪を乗り越えようとしたお姉さまに救われたッス」

 

 そう。二人はリセス・イドアルが救った者だ。

 

 弱い自分を否定しようと。ニエの死を無駄にはしたくないと、そのために一生懸命頑張った。

 

 現実問題自分が弱いと知っていたから、もはやこの体に染みついた快楽への欲求は抑えられないから。

 

 だから、手にした力を山籠もりしながら少しずつ調べて、それをどうすれば有効活用できるか考えた。

 

 だから、より男を誘う手練手管を独学で学び、楽しみながら生活の糧を得る方法へと昇華させた。

 

 がむしゃらに振り払おうとするのではなく、考えて有効活用してここまで来た。

 

 だから考えろ。今ここで、リセス・イドアルがするべき事を。

 

 ……そんなもの、決まっている。

 

「悪いけど、あなた達には他に仕事があるわ」

 

 決心を胸に、リセスは前に出る。

 

「ペト、貴女はリアスと一緒にドーインジャーの相手を頼むわ。どちらにしても、神滅具級の防御力に対抗するには今の貴女じゃ難しいわ」

 

「うぅぅ! お姉さまの言う通りっすけどショックっす!」

 

「ヒロイ達神滅具組は、イグドラシステム保有者をお願い。……私も援護するわ」

 

「OKだ姐さん。……で、姐さんは?」

 

「そうだったッス! お姉さまはどうするっすか!?」

 

 まさか、このままニエに殺される事を受け入れるのか?

 

 そんな不安交じりの声に、リセスは微笑を浮かべた。

 

()()死なないわよ。だって、私はなりたいものが出来たもの」

 

 その言葉に、ニエは歯を食いしばって睨み付ける。

 

「……何になりたいんだい」

 

「自慢よ」

 

 即答で、リセスははっきりと答えた。

 

「私はペトとヒロイの自慢の姉貴分になりたい。二人が私を誇ってくれている事が正しい事だと、胸を張って言える人になりたい」

 

 だから、ここでは死ねない。

 

 ここで死ぬのはただの逃避だ。罪を償えないという恐怖からの逃亡でしかない。

 

 それでは二人が自分を大切に思っている事に対する裏切りだ。

 

 ニエ・シャガイヒに償う為に、新たなニエ・シャガイヒを作るなど、愚行でしかない

 

 

 大事なものを裏切ったリセスが、二度目をする事を求める訳がない。

 

「……なりたいのよ、私は」

 

 リセスは、ぽつりと呟いた。

 

 それは、かつて絶望から逃れるように願ったものと言葉は同じ。

 

 だが、そこに込められている意味は全く違う。

 

「私は、自慢(英雄)になりたい」

 

 口にするのは、くどくなるほど心の中で繰り返したその言葉。しかし、その意味は以前とはまったく異なる。

 

「ただの強者なんかじゃなく」

 

 過去の逃避ではない。

 

「世界を救う救世主でもなく」

 

 がむしゃらに求めた称号でもない。

 

 そう、それは―

 

「私は掛け替えのない、私が助けて私を救った、二人の為の英雄になるわ!!」

 

 今までずっと迷走していた。

 

 ただの逃避と言っても良かった。

 

 だが、それでも自分は誰かを救った。

 

 そして、その事を切っ掛けに自分を愛おしく思っている二人がいる。

 

 この二人の信頼を裏切る事だけは、何が遭っても出来はしない。

 

「ここでニエ(あなた)に殺される事を選べば、それは恐怖と絶望に負けたただの逃避。それじゃあ二人に誇れない」

 

 決意が彼女を新生させる。

 

「ニエ・シャガイヒに討たれる時は、胸を張って前を向いて殺される覚悟を前向きに決めた時。今それができてない私は、二人が自慢できるような私じゃないから!!」

 

 憑き物を振り払い、しかし過去の傷をしっかりと抱え、リセス・イドアルは宣言する。

 

 弱さを嫌う弱い自分を認め、そのうえで、リセスはその自分だからこそ救えた命がいることを認めた。

 

 その象徴である二人に恥じない事。リセス・イドアルの最優先事項を、リセスは今ここで宣言する。

 

「悪いけど、今この場では踏み倒させてもらうわ」

 

 開き直りと言ってもいい言葉。

 

 ニエも相当神経を逆なでされたらしい。額に青筋が浮かんでいる。

 

 だが、もうそれも覚悟の上だ。

 

 世界は自分を英雄とは認めない。バッシングも受けるだろう。

 

 でも、それでも、そうであっても―

 

「こんな弱くて醜い一人の女を、掛け替えのないモノとしてくれる二人に誇る為に戦うわ。こんな私を光と呼んでくれた、大事な仲間達の為に!!」

 

 そう。だから―

 

「私は、この子達の為の輝き(英雄)になる!!」

 

 胸の中の扉が開かれる。

 

 今この場において、リセス・イドアルはついに扉を開け放った。

 

「……開き直りと言えば、開き直りなのだろうがな」

 

 サイラオーグ・バアルは苦笑し、しかし眩しいものを見た。

 

「そうだな。問題はあるが、それはニエ・シャガイヒもお互い様だ」

 

 ヴァーリは興味なさげに、然し少しだけリセスの評価を改めた。

 

「大丈夫です。リセスさんの頑張りは、主もきっと認めてくださいます」

 

 アーシアは目に涙を浮かべながら、仲間の再起を喜んだ。

 

「いいじゃない。どんな形であれ、リセスは罪を償ってきたと思うわ」

 

 リアスは慈愛に満ちた瞳で、優しくリセスを包み込む。

 

「ああ。第一リセスさんだって被害者じゃねえか。一方的に殺されていいわけがねえ!!」

 

 イッセーは、ニエに対して少しだけ怒りを覚えていた。

 

 今までずっと苦しんできたリセスに、こんな追い討ちをさせるリムヴァンとニエに少し怒りを感じてしまう。

 

 そして、ペトとヒロイは静かにほほ笑む。

 

 そして―

 

「「頑張れ、リセス・イドアル!!」」

 

 心からの応援の言葉を放った。

 

「ええ、任せなさい!! 私はあなた達の英雄よ!!」

 

 その言葉とともに、戦闘が再開された。

 




―リセス・イドアルはヒロイとペトに照らされるにたる英雄でい続ける。








開き直り、と取られてもおかしくありませんし、実際そういうところもあります。

ですが、ようやくリセスは自分の弱さに立ち向かうことを選びました。

弱い自分からの逃避で、強さを欲し続けていた少女は、もういません。

今ここにいるのは、弱い自分と寄り添ってくれる、大切で大好きな二人に誇るため、弱い自分を乗り越えようとする一人の女性です。









今までずっと、弱さから逃げるという後ろ向きで英雄を目指していたリセスはもういません。

ここにいるのは、ヒロイとペトにとっての英雄を目指し、弱さを乗り越えようとするリセス・イドアルです。

そして、其れに応えてくれる力は、七年前からリセスに宿っています。


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第四章 15

さて、さんざんヴィクターのターンでしたが、皆さんお待たせいたしました。









こっからが、ヒロイたちのターンだ!!


 

「ヒロイ! リセスさん!!」

 

 イッセーが突撃を開始すると同時に、両手を広げる。

 

 その意図は明白。ゆえに二人も手を伸ばす。

 

 そして、赤龍帝の可能性を受け取った。

 

「我が英雄とは、輝き照らす光なり!」

 

 ヒロイは即座に詠唱とともに、聖槍を掲げる。

 

「陽光に焦がれ、閃光で照らし、そして人々を栄光に導かん!」

 

 その英雄としての在り方にブレなど一切あり得ない。

 

 何故なら、如何にリセスに裏の事情があろうと、英雄であろうとした彼女の輝きを放っていた事だけは本物なのだから。

 

 ゆえにこそ、ヒロイに変化はない。

 

「我、赤き龍の輝きに照らされ、同胞を照らす強き輝きになることを誓う!!」

 

 そして、リセス・イドアルもまた祝詞を唱える。

 

「我が英雄とは、輝きが掲げる誇りなり!!」

 

 だが、その詠唱は前とは異なる。

 

 ただ弱さを克服する為に求めた力の亡者となるのは卒業した。

 

「罪に惑い、強さに縋り、されどゆえにこそ手にできたこの栄光」

 

 迷走して暴走した妄想だった。

 

 そんなことで罪は消えず、彼は許さないとはっきりと言われた。

 

 ……だが、そんな自分でも掛け替えのないものを手にすることはできた。

 

 自分が救った二人に救われて、今自分はここにいる。

 

 ゆえに、誰が何と言おうと、その二人の自慢である自分だけは守り通す。

 

「我、赤き龍の優しさのように」

 

 そしてそれを引き出した兵藤一誠は、新たな高みへと駆け上がっていく。

 

 なら自分もそれに倣おう。強くなっていく掛け替えのない二人に負けないぐらい、自分も高みを上って見せる。

 

「―愛おしき双翼を纏いて天へと飛び立たん!!」

 

 龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)を展開し、そして速やかにエンチャントを行う。

 

 その瞬間、四人の神滅具使いがイグドラシステムの戦士達とぶつかり合った。

 

「女に触れさせると思うな!!」

 

「ああくそ! やっぱそりゃ対抗されるよな!!」

 

 イッセーはジェームズと。

 

「お前が一番俺好みだぜ!!」

 

「同感だ。同じ土俵なのでやりやすい」

 

 キュラスルにはサイラオーグがぶつかり―

 

「何やら縁を感じるな」

 

「そうね。何故かあなたは積極的に殺したいわね」

 

 ヴァーリはヒルトと激突し―

 

「逃がさねえぜ、魔法使いさん!!」

 

「接近戦は苦手なのですが……!」

 

 デイアをヒロイが相手にする。

 

 むろん、単独で複数人を相手にしてきた者達を相手に、この程度で対抗できるわけがない。

 

 だがしかし。この仕切り直しによって使える隠し玉がある。

 

「レグルス!! 今こそ冥界の危機だ、使うぞ!!」

 

「承知!!」

 

 サイラオーグの命に従い、巨大な獅子たるレグルスが光と化してサイラオーグと一体化する。

 

禁手化(バランス・ブレイク)ぅうううううう!!」

 

 巨大な獅子は黄金の鎧となり、そしてサイラオーグの体を覆う。

 

 その瞬間、今までよりも素早く放たれた拳がキュラスルの顔面を殴り飛ばして、吹き飛ばした。

 

「ぬぅおおおおおお!? なんだなんだ!?」

 

 大してダメージにこそなってなかったが、キュラスルは明確に驚いた。

 

 そして、その光景を見たリムヴァンはハッとなって気づく。

 

「まさかその兵士。ネメアの獅子だとは思ってたけど獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)なのか!?」

 

 獅子王の戦斧。それは神滅具の一角に数えられる最強の斧。

 

 ネメアの獅子の一体を封じ込めた、二天龍にも匹敵する強大な存在。

 

 その神滅具の使い手ではなく、神滅具そのものが転生悪魔になっているなど前代未聞だ。

 

「……礼を言うぞ、キュラスル・スリレング」

 

 その亜種禁手、獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)を纏い、サイラオーグは拳を構える。

 

「お前ほどの相手なら不足はない。来るがいいイグドラスルト。貴様は冥界の大敵だと判断する!!」

 

「……はっはぁ! いいねぇそういうの!!」

 

 対してキュラスルは突撃を敢行。

 

 その瞬間、イグドラスルトの全身が肥大化する。

 

「俺の神器は筋力強化の剛力の王(マッスル・ブースト)! そしてその禁手が筋線維増大の剛力の帝王(マッスル・ブースト・カイザー)!! 是なら素でも殴り合えるぜぇ!!」

 

 そして、その拳がサイラオーグを百メートルに渡って弾き飛ばす。

 

 そしてその間に、こちらも戦闘が繰り広げられていた。

 

「チッ! 速い!!」

 

「推進魔法とイグドラハティの力を併用しても引き離せないとは……っ!」

 

 音速を軽く超過した追撃戦を展開するヒロイとデイアはしかしデイアの方が有利。

 

 接近戦を避けるデイアに対し、近~中距離戦主体のヒロイでは追い切れない。

 

 反面デイアは追尾能力まで持っている魔法を使っての遠距離戦闘が主体。距離を取っての射撃戦ならあっちが有利だった。

 

「……どうしたの、歴代最強の白龍皇とはこの程度?」

 

「言ってくれるな!」

 

 ヒルトもまた、ヴァーリを追い込んでいた。

 

 もとよりスコルは神殺しの牙を持つ獣の子供。

 

 本来のフェンリルに比べれば劣るが、然しそれでも優れた使い手であるヒルトが使用すればフェンリルとすら戦える。

 

 そのフェンリルを押さえるのに、覇龍を使う事となったヴァーリでは、覇龍を使わずには押し切れない。

 

 そして、覇龍を使わせる余裕を与えるほど、ヒルトは甘くない。

 

「うぉおおおおお!!」

 

「性能の高さは認めるが、技の練度が低いな」

 

 そしてイッセーもまた攻め切れない。

 

 真女王の力はイグドラヨルムを超えている。それは間違いない。

 

 だが、それを補って余りあるほどジェームズの技量はイッセーを超えていた。

 

「何年こっちが戦闘訓練を受けていると思っている。素人に毛が生えた程度の技で、俺に当てれると思うな」

 

「くそ! こいつ……強い!!」

 

 的確かつ正確に攻撃が入るが、しかしそちらに関してはガン無視できている。

 

 とはいえ、真女王はなり立てな上、こちらも限界状態だったところからの覚醒だ。持続時間には限度がある。

 

 このままでは、勝ち目がない。

 

 一瞬でもそう思ったその瞬間だった。

 

「……あなた達、この龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)の力を忘れてないかしら?」

 

 その言葉とともに、戦局は一気に打開される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、サイラオーグの拳が風を纏った。

 

「む?」

 

「うおぉ!?」

 

 自身の拳は風に後押しされて速度を増し、逆に相手の拳は風に受け止められて衝撃を吸収される。

 

 明確に攻防の流れが傾き、サイラオーグは何が起きたのかと不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ヴァーリの全身を炎が包み込んだ。

 

「何ですって!?」

 

「これは……」

 

 ヒルトによる凍結攻撃が、灼熱により吹き飛ばされる。

 

 そしてヴァーリは炎の魔法を放つ。

 

 その火力は、既に神クラスにまで引き上げられていた。

 

 流石に驚きだ。如何に自分が様々な魔法を身に着けているといっても、ここまでの火力は流石に出せない。

 

 これはもはや、火の神の領域だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、兵藤一誠の拳に氷が纏わり付いた。

 

 そのとげが、ジェームズの回避を超えて傷をつけ、そして攻撃を防ぎ切る。

 

「なんだ?」

 

「……っ!」

 

 ジェームズは怪訝な表情を浮かべ、イッセーは泣きたくなるほど嬉しくなった。

 

 ああ、彼女は本当に立ち直ったのだ。

 

 なら、俺達も負けてはいられない。

 

「気合入れるぜ、ドライグ!!」

 

『ああ! 意地でも持たせてやるさ、相棒!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、ヒロイの雷撃は出力を大幅に上げた。

 

 火力特化型の禁手でなければ出せないだろうか力が、放たれた魔法攻撃を粉砕する。

 

 そして、本来なら連射が効かない技であるマスドライバースティンガーが散弾の如く放たれる。

 

「……つぅ!」

 

「……ぁあ」

 

 痛痒の声を上げるデイアを意にも介さず、ヒロイは涙を流した。

 

 ああ、彼女にまたも照らされている。

 

 やはり、彼女こそは自分にとっての英雄だ。

 

 だから、自分もまたその領域にいたろう。

 

 彼女の弱さを知ったから。それを支えたいと思うから。

 

 ヒロイ・カッシウスもまた、英雄として彼女の隣に立ち、肩を貸せるぐらいの存在にならなければならないと心から思ったから。

 

 輝き(英雄)として、自分を照らしてくれるリセスを自分も照らしたいと思うから。

 

「……お前ら如きにかかずらっていられるかぁああああ!!!!」

 




リセス・イドアル、マジ覚醒

マイナス方向にもプラス方向にもものすごく動かされ、自身の英雄の形を再定義したことで、リセスは覚醒しました。龍天の賢者の詠唱が変化しているのがその証拠です。

もう、弱さから逃げるために強くなろうとするリセスはいません。

大事な人に誇れるよう、弱さを乗り越える英雄が誕生しました。








そしていきなり頼もしいところを見せつけてくれます。

龍天の賢者は、本来こういうサポートでこそ真価を発揮する能力です。

赤龍帝の贈り物を応用発展させた形になるこの形態は、サポートタイプとしての能力。属性を付加させることで、味方の戦闘をサポートするのが本来のやり方です。直接的を打倒するのではなくその助けとなる。お伽噺の魔法使いのようなやり方ですね。

リセスがしょっぱなでやったキョジンキラーの遠隔操作のほうが、どうかしている場合ですね。








そう言うわけで、神滅具組によるイグドラシステム保有者の抑え込みは成功。ですが敵はまだ隠し玉を持っていますし、リセスが倒されれば属性付加がなくなるので状況がひっくり返ります。









ですが彼女はヒロインにして真主人公です。お約束は守ります。


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第四章 16 煌天下の矛盾

第四章、最終決戦。







それは、正しい意味でのニエとリセスの第一ラウンド


 

 リセス・イドアルは真正面からニエ・シャガイヒを睨み付けた。

 

「ニエ。私を恨むのは当たり前だわ」

 

「そうだね。そこを否定したら、僕は本当に怒り狂ってるよ」

 

 静かに相対する二人の間には、プリスを含めた三人にしか分らないモノがある。

 

 だから、この戦いは譲れない。

 

 プリスとニエとの決着は、リセス・イドアルのやるべき事だ。

 

 特にニエは絶対だ。

 

 何故なら、ニエがこんなことになったのは自分の所為なのだ。

 

 自分が弱くなければ、抵抗する事を覚えていれば、ニエは死を選ぶ事はなかった。

 

 いっそのこと喪に服し、シスターにでもなって一生を弔いに捧げていれば、こうして牙を剥いてくる事はなかったのかもしれない。

 

 だけど、それではヒロイとペトは救えなかった。

 

 二人だけじゃない。自分が助けた者達は何人もいる。何十人もいる。何百人もいる。

 

 助けたという事実ばかりに気を取られて、いちいち顔を覚えていないものが殆どだ。

 

 それでも、それでも、それでも。

 

 一生懸命頑張った結果、誰かを助けたということは事実なのだ。

 

 それが、今でも胸を締め付けるこの思いから心を潰されないようにしてくれる。

 

 このままニエに殺される事を受け入れれば、それを裏切る事になる。

 

 ……ペトとヒロイの顔を思い出す。

 

 自分のことを心から慕ってくれた。真実を知っても、それでも自分のことを姉として思ってくれている。

 

 そんな二人に胸を張れない真似だけは、断固としてできない。

 

「……あなたに殺される時は、二人に胸を張ってそれを断言できる時よ。それは断じて後悔に震える今じゃない」

 

「そうかい。だけど僕は今すぐ殺したいよ、リセスぅ!!」

 

 その言葉とともに、魔獣達が大量に召喚される。

 

 それを竜巻を生み出して吹き飛ばしながら、リセスは見た。

 

 ニエの体が一回り膨れ上がり、そして一体の化け物と化していくところを。

 

「魔獣創造の亜種禁手、魔獣変成(アナイアレイション・メタモルフォーゼ)、全力開放。やっぱり僕の手で殺してあげたいしね!!」

 

 その言葉とともに、魔獣達の援護射撃を受けながらニエは突撃する。

 

 それを始原の人間を最大出力にして受け止めながら、リセスは周囲に視線を巡らせる。

 

 龍天の賢者の力で属性付与を行った事もあり、全員がまともに戦えている。

 

 ある意味、この戦いを支えているのは自分だ。ここで負けると全員が死んでしまうだろう。

 

 更にニエに殺されてやれない理由ができた。

 

 いつか、自分から心から動揺なく自然な気持ちで首を差し出す事が出来るまで。

 

 二人に胸を張れるぐらい、ニエに詫びを入れれるようになるまで。

 

 ここで、ニエに殺されてやるわけにはいかない。

 

 それがどれだけ自分本位で、わがままで、偽善の極みだとしても。

 

 それでもリセス・イドアルは、ペトとヒロイの自慢(英雄)である事を誓ったのだから。

 

「うぁああああ!!」

 

「今死ぬわけにはいかないのよ、私は!!」

 

 ニエの肩が開き、莫大なオーラが向けられる。

 

 それは神滅具の禁手なだけあって桁違い。まともに放たれることがあれば、会場が三割ぐらい吹き飛ぶだろう。

 

 それは、絶対に認められない。

 

 ゆえに、ここで力を開帳する。

 

「行くわよ、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)!」

 

 今なら出来る。今だから出来る。

 

 心の鎖を引きはがし、まっすぐに英雄を目指す事が出来る今だからこそ出来る。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 静かに唱えると同時に、リセスは掌をニエに向ける。

 

 そして、放たれた砲撃を完全に受け止めた。

 

 そしてその隙をついて、リムヴァンが飛び掛かった。

 

「援護するよん♪」

 

 ニエに全て任せる気は最初からないということか。

 

 リムヴァンは、ヴァーリすら軽々と殴り飛ばして見せた拳を叩き込む。

 

 そしてリセスは、その拳に視線を合わせてオーラを展開する。

 

 無意味な事だと、リムヴァンは思う。

 

 あのヴァーリの鎧ですらあっさり弾き飛ばされたのだ。いくら煌天雷獄の禁手とはいえ、そんな片手間に防げるようなものではない。

 

 だから、防ぎ切られたその時点でリムヴァンは警戒度をはね上げた。

 

「……なんだ、これは?」

 

 黒と白のマーブル模様のオーラに受け止められ、リムヴァンの拳は受け止められた。

 

 そして、僅かな思考でその正体に行きつき、そしてこれがどういった禁手かを理解する。

 

 ……リムヴァンの表情が、明白に引きつった。

 

「聖と魔のオーラの融合……っ! それが、君に禁手の能力だとでもいうのかい!?」

 

「これが、私の禁手。煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)

 

 リセス・イドアルという自身を受け入れたからこその、亜種禁手。

 

 醜悪な自分と輝ける自分。

 

 ニエ・シャガイヒをどん底に突き落とした自分と、ヒロイとペトを救い上げた自分。

 

 その相反する自分を受け止めようとする心の動きが、この禁手を可能とした。

 

 原理そのもので言えば聖魔剣とほぼ同じだ。

 

 だが、聖剣創造も魔剣創造も神滅具に比べれば明確に下位に位置する神器である。複合させた聖魔剣ですら、出力勝負で煌天雷獄を超えることはないだろう。

 

 そんな矛盾融合による出力向上を、神滅具が行えばどうなるか。

 

 それを、リセスは一撃で示して見せた。

 

「砕け散りなさい!!」

 

「がっ!?」

 

 拳が、一撃でニエの表皮と骨を砕き、肉をつぶす。

 

 如何にリセス・イドアルが煌天雷獄を接近戦闘で使っているとはいえ、あり得ないレベルの攻撃力だった。

 

 もはや、その火力は覇にすら匹敵する領域。紅に輝く赤龍帝や、黄金に輝く獅子王に匹敵する戦闘能力向上

 

 これが、神滅具準最強たる煌天雷獄。

 

 これが、英雄という強者の幻想にすがるしかなかった弱き存在であるリセス・イドアル。

 

 矛盾とともに歩む事を決め、それに応えた神器と担い手による、奇跡の力だった。

 

「な……めるなぁあああああ!!!」

 

 その事実に対してニエは吠え、そして両腕を変質化させる。

 

 巨大な鉄塊を思わせるその両腕。そして更に融合した、更に巨大になる。

 

 一瞬にして十メートルを超える武骨な塊となった両腕とともに、ニエの背中に翼が生えた。

 

 いな、それは翼というよりかはスラスターだ。

 

 一気に数十トンという重さになったニエを、そのスラスターは飛翔させる。

 

 それに対してリセスは即座に聖魔のオーラを使って防御しようとし―

 

「―無理ね」

 

 一瞬の拮抗の隙に横に飛び、そしてその瞬間に障壁は砕かれた。

 

 ニエの両腕も傷つくが、しかし一瞬で修復される。

 

 流石は神滅具の禁手。それも、数による蹂躙を基本とする魔獣創造を一人に収束させたものだ。

 

 しかもそれが空を飛び、そして結界すら突き破る。

 

 音速超過で迫る数十トン……否、すでに百トンに届かんといわんばかりの巨大な塊は、そのまま空高く飛びあがり、一気に地面に向けて加速を開始する。

 

 巨大隕石を思わせるそれは、白熱化すらしながらリセスに迫る。

 

 否、もしこれが直撃すれば、スタジアムが衝撃波で吹き飛ばされてもおかしくない。アグレアスそのものに大きな被害が生まれるだろう。

 

 そして、其れを前にしてリセスは余裕だった。

 

「……甘いわよ、ニエ」

 

 静かにそう告げ、リセスは飛び上がる。

 

 その両手には冷気と灼熱。

 

 それを見たその瞬間、リムヴァンは自分が誤解していた事を悟る。

 

 聖と魔の融合による、相乗効果による超高出力化。あれはそんなちゃちなものではない。

 

「ニエ君! それヤバイから逃げて―」

 

「もう遅いわ」

 

 そうはっきり言いきり、リセスは両手を組む。

 

 その瞬間、圧倒的な破壊の力が具現化した。

 

「……熱衝撃って、知ってるかしら?」

 

 熱衝撃。急激な熱変化によって、物体を脆くする現象のことを言う。

 

 氷を熱湯の中に落とすとパキリとひびが入る現象といえば、分かる者も多いだろう。

 

 そして、煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)の本質は聖と魔の融合ではない。

 

 その本質は、矛盾の許容。

 

 本来交じり合わない存在の両立を可能とする能力。それこそが、煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)の本質。

 

 ゆえに、単純な物理破壊力でなら高熱と冷気の矛盾許容の方が効果的。

 

 それを即座に使わなかったのは、相性の問題だ

 

 熱衝撃が効果的なのは物理的な強度のみ。

 

 一瞬で再生し、結界を張ることもできるリムヴァンには効果が薄い。

 

 だが、魔獣という物体で迫りくるニエに限定すれば―

 

「砕け散りなさい……っ」

 

 そして、ニエを倒す事に、リセスは躊躇を覚えなかった。

 

 優しいニエ。

 

 自分とプリスの心を掴んだそのニエは、ほかならぬ自分たちの手で殺された。

 

 あそこにいるのは憎悪の塊。目的の為に、罪のない民間人を、邪魔する人達なら遠慮なく殺そうとしている、暴走したもの。

 

 ならば、終わらせるしかないだろう。

 

「リセスぅうううううううう!!」

 

 憎悪に満ちた声を聞きながら、リセスは覚悟を決めた。

 

 自分は、ここで、ニエを、殺す。

 

「ディストピア、アンド……ユートピア!!」

 

 その矛盾許容の熱衝撃……否、熱相転移の領域へと到達した一撃が、数十メートルの鉄槌を原子レベルで吹き飛ばした。

 




 ニエの禁手、魔獣変成は魔獣創造の禁手としてのポテンシャルをすべて地震に注ぎ込んだ、個人強化型です。

 上位神滅具の禁手を個人に集中しているので、その戦闘能力は桁違いです。さらに魔獣創造と同じようにイメージした魔獣に編成するため、使いこなせば全身鎧型の禁手よりも優位に立ち回ることができます。

 欠点はニエの戦闘経験の低さゆえに、文字通り魔獣としての戦闘しかできないこと。今回もそれが敗因の一つです。




 リセスの禁手、煌天下の矛盾は、聖魔剣と同じ原理です。

 神滅具の出力で聖魔剣を生成しているようなものなので、その攻撃力はシャレになりません。

 しかも属性支配の神滅具なので、聖と魔のオーラ以外でも矛盾許容融合をおこなえるのが最大の強み。ディストピアアンドユートピアは、単純物理防御相手ならロンギヌス・スマッシャーすら超えるでしょう。

 ただし熱相転移クラスの熱衝撃による物理的破壊なので、魔力などで結界を張った場合は楽にはいきません


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第四章 17

因みに、今回に限っていえばイメージテーマがあります。

構想をまとめて書いている間は、ちょくちょくアニメ版カリギュラのパラダイムボックスを聴きまくっていました。レイナーレの復活を最後まで考慮入れていたので、リセスとイッセーのダブル主人公的なレベルで、OP映像のイメージまであったぐらいです。









そして、最近ぴったりだと思った曲が一つ。

IMAGINARY LIKE THE JUSTICEの、二番。

今回のリセスを象徴する一歩手前といっていいほど、かなりあっているので正直驚きました。ぜひ何らかの形で聞いていただきたいです。


 その光景を、リアスは目に焼き付けた。

 

 数十メートルはある巨大な魔獣。

 

 高速飛翔し、その質量で叩き潰す事に特化した運動エネルギー弾としての魔獣。

 

 神滅具の禁手の恐ろしさを思い知る。あれは紅の鎧に身を包んだイッセーでも苦戦を強いられるだろう。

 

 だが、それをリセスは一瞬で砕いて見せた。

 

 これが、この世で二番目に強いとされる神滅具の禁手。

 

 これが、あらゆる属性を支配するという神滅具の禁手。

 

 これが、リセス・イドアルという人間が持つ神滅具の禁手。

 

 その一撃が、龍王クラスにすら通用するだろう攻撃を容易く粉砕してのけたのだ。

 

 しかし、ニエ・シャガイヒは生きていた。

 

 かろうじて、本当にかろうじてだが回避に成功していたらしい。

 

 片手と片足が吹き飛び、全身を火傷と凍傷に包まれながらも、ニエはまだ生きていた。

 

 そのまま勢いよく地面に叩き付けられたニエは、然し動けない。

 

「さっすがにこれはまずいかな―」

 

「させると思うかしら?」

 

 助けに行こうとするリムヴァンに、遠慮なく消滅の魔力を叩き込んだ。

 

 即座に防がれるが、然しガードに全力を賭けているのか動きが止まる。

 

「うわ~ん! こんなことなら滅殺の敵対者(レジスタンス・オブ・バエル)を本体から借りればよかったー! ニエ君頑張ってー!!」

 

 どうやら、兄であるサーゼクスすら苦戦させた複合禁手を持ち込んでないらしい。

 

 分身では限度があるということか。これは都合がいい。

 

「リセス! リムヴァンは足止めしているから、それが出来ているうちに決着をつけなさい!!」

 

「ちっくしょう! リアスちゃん、君もう既に最上級悪魔クラスの火力持ってないかい!?」

 

 リムヴァンがぼやくが、それを気にする余裕はない。

 

 リセスも頷くと、聖魔のオーラを抜き手に纏って突撃する。

 

「くそう! こうなったらイグドラフォースは神滅具開放!! 急いでカバーを―」

 

 何やらとんでもない台詞が聞こえたが、しかしもう遅い。

 

 リセスは既に間合いに入り、そして致命の一撃を―

 

「だめぇえええええええええっ!!」

 

 その絶叫とともに、プリスが割って入った。

 

 涙を流しながら、死の恐怖に震えながら、しかしそれでも割って入った。

 

 その表情を見て、リセスは一瞬だが動きを止める。

 

 そもそも、リセスはニエに殺される事を「ヒロイとペトに胸が張れる時になったら」認めると肯定していた。

 

 自分が死なせたと言えるニエに対して、強い後悔を残しているのだ。

 

 ……そのリセスが、ニエを殺す事に抵抗がないわけがない。そして姉妹に近い関係であるプリスが割って入れば、想定していなければ躊躇するのは当然だった。

 

 そしてその瞬間、魔獣が横合いから体当たりを仕掛けてきた。

 

「自立駆動!? くそ、邪魔よ!!」

 

「いよっしゃでかしたぁ!!」

 

 その隙をついて、リムヴァンはリアスの攻撃を弾き飛ばす。

 

 そしてそのままニエとプリスをかっさらうと、更に援護射撃をイグドラフォースに行う。

 

 その攻撃に気がそれたイッセー達から、イグドラフォースは距離を取った。

 

「……藪をつついて蛇が出たね。いや、ミドガルズオルム……よりもアポプスかな?」

 

 苦笑するリムヴァンは、やれやれと肩をすくめると、イグドラフォースに視線を向ける。

 

「そろそろ撤収するよん」

 

「おいおい待てよ!」

 

 キュラスルがそれに真っ先に食いついた。

 

 明らかに、興が乗ってる時に無粋な邪魔が入ったもののそれだ。よほど楽しく殴り合いをしていたらしい。

 

「漸くいい感じになってきたってのによぉ! ドキドキが止まらねえんだぜ、こっちは!」

 

「確かにそうですね。神滅具を使えば勝ち目は十分にあるのでは?」

 

 追随するジェームズの言葉に、リアス達は寒気を感じる。

 

 ……やはり、この四人は神滅具迄保有しているというのか。

 

 つまり、それは今まで手を抜いていたということに他ならない。こちらは神滅具を、それも大半が禁手を使い、しかも一人に至っては昇華させたものを使用していたのにも関わらずに。

 

 ヴィクター経済連合の底は未だ見えない。そして、それを見れば大半が死ぬかもしれない。

 

 その恐怖を感じるが、然しリムヴァンは首を振った。

 

「いや、こっちがもう限界」

 

 その言葉に疑問符を浮かべるより早く、彼らは来た。

 

「……しまったぁああああ!! ベリアル家の無価値を忘れてたよぉおおおお!!!」

 

「無価値にするのにこれほど時間がかかるとは。これが、第四の超越者……っ」

 

 絶叫する本体のリムヴァンと、疲弊の色を隠せないディハウザー・ベリアル。

 

 そして、殆どが血塗れになっている神々を見て全員が息をのんだ。

 

 リムヴァン・フェニックスは疲弊こそしているが大したダメージを負ってない。しかしサーゼクス達はその全員がかなりダメージを負って疲弊している。

 

 これほどまでの化け物が、オーフィスとグレートレッド以外に存在していた事に驚きを隠せなかった。

 

「……どうするかね、リムヴァン・フェニックス」

 

 額から流れる血を拭きながら、サーゼクスはリムヴァンに問いを投げかけた。

 

蒼き無神論の箱庭(イノベート・クリア・エイシズム)をすぐに再発動することはできまい。これ以上続ければ、こちらが勝てるが―」

 

「―だけど、そっちも半分ぐらいは道連れにできるね」

 

 そう続け、リムヴァンは苦笑を浮かべた。

 

「まあ、この試合を台無しにできたしイグドラフォースも神滅具の禁手相手に戦えてるし、目的は大体達成できたからね。……今日のところはもう逃げさせてもらうよ」

 

 その言葉とともに霧が生み出され、リムヴァン達を包む。

 

 このまま逃がしていいのかと思う者もいるが、神々の疲弊も負傷も酷いのが現状だ。

 

 このままいけば、リムヴァンの言う通り半分以上が道連れにされる。そして、彼の戦闘能力なら余波の一部だけでも会場の悪魔達の大半に犠牲者が出るだろう。

 

 このまま逃がす他ない。それが神々の共通認識だった。

 

 そして、霧とともにリムヴァン達が消えると、ヴァーリは肩をすくめた。

 

 即座にアーシアが回復のオーラを放ち、その場にいる全員の負傷を治療する。

 

 そしてよろよろと立ち上がる仲間達を見て、ヴァーリも肩をすくめた。

 

「俺達も帰らせてもらう。アーサー、悪いが次元を切り裂いてくれ」

 

「人使いが荒いですね。まあ、これ以上ここにいると私達が危険ですからね」

 

 そして次元が切り裂かれ、よろよろとしながらもヴァーリチームはその中に入っていく。

 

 そしてヴァーリもその中に入ろうとし、ふと振り返った。

 

「……捕まえないのかい? まあ、その時は抵抗するが」

 

「理由がどうあれ、援護してもらった借りはあるもの。今回は見逃すわ」

 

 リアスはため息をつくと、そのままへたり込む。

 

 負傷こそもう回復しているが、体力の消耗はあまりにも大きい。

 

 これ以上、負担を増やす気はリアス達にもなかった。

 

「兵藤一誠。紅の鎧は見事だった。俺と戦う時はより洗練させてくれ」

 

「わーったよ。お前も、あんまり組織内で勝手な行動するんじゃねえぞ? おかげで俺たちがいい迷惑じゃねえか」

 

「さて、俺は組織行動が苦手でね。どうしたものか」

 

 イッセーの言葉に頭が痛くなるようなことを返しながら、ヴァーリもまた切り裂かれた空間に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう。何とかしのげたぜ。

 

 しっかしイグドラフォースだっけ? あいつらマジでヤベえな。

 

 結局まだ奥の手は抜いてないみてぇだし、英雄派の幹部連中にも匹敵する化け物だ。

 

 流石は、リムヴァンが選び抜いた精鋭ってことか。少なく見積もっても魔王クラスの化け物って感じで考えるべきだな。

 

 俺はそんなことを思いながら、ペトと視線を合わせる。

 

 ……以心伝心ってのは、このことかねぇ。

 

 俺達は頷き合うと、姐さんに近づいた。

 

「お姉様、大丈夫っすか?」

 

「……全然、大丈夫じゃないわよ」

 

 苦笑と一緒に、そんな答えが返ってきた。

 

「人生最大の恥部にして汚点をこの人数に見せつけられたのよ。しかも、それで決めた決意をニエに全否定だもの」

 

 だよなぁ。

 

 いろんな意味でキッツいだろ、コレ。トラウマもんだな。

 

 だけど、だけどさ、姐さん。

 

「姐さん。俺も、ペトも、姐さんが助けたんだ」

 

 俺の言葉に、姐さんは苦笑じゃなくて微笑を返した。

 

「お姉様は、優しい人ッス。誰よりにもなによりも自分を助けたいのに、人に手を差し伸べれる立派な人ッス」

 

「ペトのアフターフォローやったり、俺をイドアル孤児院迄連れて行ってくれたりする必要はねえもんな。他の連中に任せりゃそれでいいしよ」

 

 ああ、そうなんだ。

 

 他の勢力と共闘してたんだから、そういうアフターフォローはそいつらに任せればいい。

 

 そんなことに時間を駆けずに、他の困っている人を助けに行けばいい。

 

 だけど、姐さんはそうしなかった。

 

 それは、姐さんが心から優しい人だからだ。

 

 堕ちていた頃の姉さんならそんなことはしなかっただろう。見えもしなかっただろう。

 

 だから、これだけは断言できる。

 

「姐さんは強い。強くなった」

 

「そして、すっごく優しいッス」

 

 俺とペトは心から微笑むと、両手を広げた。

 

「「リセス・イドアルは、立派な英雄だって断言できる」」

 

「………っ!」

 

 その瞬間、姐さんは俺とペトに飛び掛かるように抱きしめにかかった。

 

 勢い余って地面に倒れるが、しかしそんなことを気にする必要はねえ。

 

「うぅ………ぐすっ! うわぁああああああん!!」

 

 なんか感極まったのか、大声で泣きだす姐さんを、俺とペトは抱きしめる。

 

 なんつーかこう、しゃれた言い回しをするのなら、こんな感じなのかねぇ。

 

―英雄リセス・イドアルは、今日この日に、真の意味で誕生したんだ。

 

「よしよし。よーく頑張ってるスね、お姉様。ペトは見てるッスよ」

 

 そういって姐さんの頭をなでるペトに倣い、俺は姐さんをぎゅっと抱きしめる。

 

「大丈夫。俺達はこの程度で姐さんを見捨てたりしないからさ。だから、胸張って英雄目指せばいいんだよ」

 

 ああ、姐さんなら大丈夫だ。

 

 なんたって、俺の輝き(英雄)なんだからな!!

 




 今回のリムヴァンの最大の失態は、ディハウザーまで巻き込んで蒼き無神論の箱庭を使ってしまったこと。

 それがなければ、下手したら首脳陣を全滅させることも不可能ではなかったです。今回の大苦戦で神クラスも、神じゃない護衛を大量に動員して動くでしょうし、ある意味最大のチャンスをなくしたといっても過言ではないです。








因みにイグドラシリーズ四人組こと、イグドラフォースの隠し玉は神滅具です。

……全員別種です。どいつもこいつも第四章ではボス格を担うとだけ言っておきます。……とりあえずギャスパーが危機ですね。








そして、リセスも結果的に大きな成長をしました。

逃げ続けるのをやめて、大事な人たちに胸を張るために立ち向かうという、なんだかんだで難しいことを続けることを決意。人間的に大きく成長を遂げました。

ニエを倒し損ねたことは失態ですが、それ以上に過去が数千人以上の悪魔たちに知られたことも大きなダメージです。かん口令を敷いてもばれるでしょうし、異形業界でリセスが英雄となることは、この話が知られれば困難になるでしょう。

でも、リセスはヒロイとペトの英雄でい続けることはできます。

たくさんの人の英雄になることはできなくても、それが逃げ続けてきた結果でも、何人かにとっての紛れもない英雄になることはできる。それが、リセスをまっすぐ歩かせてくれます。

リセス・イドアルは、たくさんの人に否定されたとしても、まごうことなく英雄です。


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第四章 18 歌姫の再起

第四章もついにラスト!



 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘終了後のごたごたしてる中、俺はある男を探していた。

 

「……よぉ、帝釈天」

 

「あんだよ、アザ坊じゃねえか」

 

 そこにいるのは、アロハシャツを着た坊主頭の神。

 

 中国神話勢力、須弥山の長、帝釈天だ。

 

 インド神話のインドラって言った方が通りがいいかもな。

 

「正義の堕天使さんがどうしたんだよ。俺も流石にへとへとなんだぜ?」

 

「……単刀直入に聞くぜ。曹操のことだ」

 

 闘戦勝仏の爺さんが、曹操について何かしら知っている感じだった。それも、幼少期の曹操についてだ。

 

 あの爺さんは帝釈天の部下だ。目の前の野郎が知っている可能性は十分にある。

 

 俺はそれが気になって鎌を駆けに来たんだが―

 

「……ああ、そいつについちゃぁ悪かったな。こっちも想定外の事態になりやがった」

 

 ……認めやがった。それも謝っただと!?

 

 てっきりごまかすか、最悪でも開き直るかのどっちかだと思ったんだが、どういうことだ?

 

「ああ、他の神話体系を出し抜く為に情報を隠してたんだが、それが完璧に裏目に出たぜ。流石にちょっと反省してるぜ、これでも」

 

「はっ! 制御が効かなくなったってか? 自業自得なのはかまわねえが、こっちを巻き込まないでほしかったな」

 

「HAHAHA! そっちも白龍皇が好き勝手やってんだろうが」

 

 嫌味の応酬を返すが、しかしこれはまずいことになったな。

 

 そして、曹操の暴走についても原因は分かり切っている。

 

 ……リムヴァン・フェニックス。

 

 奴はこの騒ぎの中心にいる。アイツが大量の神器を構成員に移植しているからこそ、禍の団は―ヴィクター経済連合はあそこまでの脅威度を誇っているわけだ。

 

 そして、あいつの危険性はまだ底が見えない。

 

 俺も帝釈天も割と重傷だった。特に帝釈天は三回ぐらい聖槍で切り裂かれてる。

 

 こいつが神々の中でも最強クラスだったから今は平然としてるが、流石に肝が冷えたんじゃねえか?

 

「まあ、それ位は別に構わねえだろ。他の神々だって裏じゃ何してるか分からねえぜ?」

 

 そう、帝釈天は嫌味な笑みを浮かべる。

 

「オーディンやゼウスの甘ちゃんどもはともかく、大半の神々は他の神話体系が滅びた方が都合がいいって考えてるはずだぜ? 須弥山(俺ら側)はともかく、南北アメリカやアフリカの神話体系は裏でヴィクターを支援してる連中も多いだろうよ」

 

「だろうな。だが、その俺達のわがままで人間達まで滅ぼしていいわけがねえ」

 

 そうだ。この戦いで最も被害を受けるのは人間だ。

 

 百歩譲って俺ら堕天使が大きな責任を負わされるのは良い。半ば自業自得だ。

 

 だが、そのとばっちりを人間たちに負わせていいわけがねえ。

 

 そのためにも和平は必要だ。恨みつらみに関しても、対策は少しずつだが進めてる。

 

 そして、それを目の前の野郎は何処まで読み切ってやがる?

 

「ま、俺は当分協力してやるよ。曹操の件を突っつかれたら俺達が生贄になりそうだからな」

 

 そうかい。それ位のことは考えてるようで何よりだ。

 

 だが、それはいつまで続く……?

 

「それと、赤龍帝に伝えといてくれや。今回は面白かったが、世界の脅威になるようなら俺が魂ごと消滅させてやるってよ。……天を称するのは俺たちだけで十分だ」

 

「そうかい。ま、そう簡単に行くとは思えねえがな」

 

 俺の脳裏に、ふとヒロイとリセスの姿が映る。

 

 ……リセスの奴、今回の件で殻を破ったみたいだな。

 

 リムヴァンはリセスを精神的に追い込んで有利に立ち回る為に色々動いたみたいだが、逆にそれがショック療法になりやがった。

 

 前からちょっと危なっかしいところがあったかが、どうやら今回の件で一皮むけたみたいだな。

 

 ペトとヒロイがいたからこそだが、あいつはもう大丈夫だ。

 

「覚えとけ。リセス・イドアルって英雄はマジで神殺しの領域に足を踏み入れ始めてるぜ? イッセーを殺す気なら、あの女が黙っちゃいねえだろ」

 

「分かってるよ。それに、あの坊主に迂闊に手をだしゃぁ、白龍皇も動くだろうし、もう一本の聖槍も黙っちゃいねえだろ」

 

 分かったうえでこの挑発。

 

 この野郎、実際にそれができるだけの実力があるから困る。

 

 ったく、イッセー達も厄介な奴に目をつけられたもんだ。

 

 だが……。

 

 案外、何とかしちまうかもしれねえな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで激戦が終わり、俺達は学園祭を楽しんだ。

 

 オカルト研究部はいろんなものに手を出したから忙しかったけど、こういうのも良かったな。

 

 今学園祭は大詰めを迎えており、カラオケ大会が始まってる。

 

 今頃イッセー達は何をしてんのかねぇ。ちょっと気になるな。

 

 だが、たぶんお嬢かイッセーのどちらかがどっちかに告白してんだろうな。

 

 あの二人は一皮むけた。だから何となくこのそれっぽい展開に動くだろう。

 

 お邪魔蟲にはならねえようにしねえとな。

 

 と、そんな感じでカラオケ大会は大詰めを迎えている。

 

 現在最高得点を取ったのは演劇部。

 

 どうやら学園祭ではミュージカルをやっていたらしく、その勢いで参加したらしい。

 

 生徒だけじゃなく保護者や教師の参加もOKになってるけど、さて、どうしたもんか。

 

 俺もノリで参加するべきかねぇ?

 

『さぁ! 95点という超高得点を取った優勝候補を超えてみようという猛者はいませんか? 出来れば後一人ぐらい来てほしいんですが……』

 

 うん、これはプレッシャーがキツイ。

 

 誰もが二の足を踏んで躊躇して―

 

「じゃあ、私がやろうかしら?」

 

 そこに、手を上げる者がいた。

 

 ……姐さん?

 

『おぉ! この駒王学園の用務員にして、生徒達を食い散らかすサキュバスなリセスさんではないですか? 今回は男あさりはしないんですか?』

 

 おい司会! 確かに事実だがここで言うか!!

 

 姐さんはそれに苦笑すると、静かに首を振った。

 

「実は、二度と人前で歌わないと決めていた時期があるのよ」

 

 ………っ

 

 姐さん。ニエのことそんなに気にしてたのか。

 

『そうなんですか? なのになんで?』

 

 司会の意見ももっともだろう。

 

 それが、こんな人前で堂々と歌おうとかどういう心境の変化なのか。

 

 そんな視線を一身に浴びながら、姐さんは苦笑を深める。

 

「……結局それは、見当違いの逃げに過ぎないって教えられたからね」

 

 ……姐さんにとって、ニエとの戦いは大きな転機だったんだろうな。

 

 今までの贖罪を全否定された。

 

 死を選ばず生きて償う事を選んだ時点で、幸せになる可能性を捨て切れなかった。

 

 確かに一理ある。

 

 だけど、だからこそ姐さんは前に進む事を選んだ。

 

 ……姐さんはこう言った。

 

 後悔からの逃避で死を選ばない。選ぶとするなら、俺やペトに胸を張れる時だと。

 

 もしそうなったら、姐さんは本当に死を選ぶんだろう。

 

 だけど……。

 

「だけど、そんな弱い私を受け入れてくれる人がいる。だから、私も前に進んでみようと思うの」

 

 姐さんは、そう言うと視線を旧校舎に向けた。

 

 そこではきっとイッセー達がいるだろう。今頃お嬢とイチャイチャしてるんだろうなぁ。

 

 それを姐さんも分かってるのか、姐さんはまた苦笑を深める。

 

 そして、マイクを手に取った。

 

「だから、私は一歩前に踏み出すの。人前で歌うのは、その第一歩ね」

 

 そうか。姐さん、前に進むんだな。

 

 その結果、崖から一歩踏み出して死ぬことになるのかもしれない。

 

 それすら出来ずに、歩き続けるだけなのかもしれない。

 

 だけど、それでも―

 

「だから、この一曲を支えてくれる人達に捧げます!」

 

 ―姐さんは、やっぱり俺の英雄だ。

 

「お姉様ぁああああ!」

 

 ハイテンションになったペトの大声が聞こえる。

 

 ああ、ペトも大声で応援する。

 

 あ、負けてたまるか!

 

「姐さぁああああん! 頑張れぇええええ!!」

 

 俺とペトの声が聞こえたのか、姐さんは笑みの形を変えた。

 

 それは、満面の笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして姐さんは、文句なしの百点満点を叩き出して優勝した。

 

 流石元プロ。あれ? これって大人げなくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、俺は部屋でゲームをしていた。

 

 たまにはこういうのも面白いな。特に日本のゲームは良いのがいっぱいだ。

 

 ただアクションゲーム系統は無理だ。俺の反射速度と身体能力に、ゲームのプログラムが追い付いてこない。全然上手く動かせねえ。

 

 え? ただ下手なだけ? んなこたぁねえよ。

 

 つってももう夜中だ。そろそろ眠くなってきたな。

 

 と、いうわけでそろそろ寝ようと思ってゲームを消したその時、ノックの音が響いた。

 

「ハイどうぞー」

 

 俺がそう答えると、ドアが開いてペトが顔を出す。

 

「ヒロイヒロイー。ちょっとお願いがあるッスけどいいっすかー?」

 

「内容次第なー。ツボとか買ったりはしないからなー」

 

 そんな軽口を叩くと、ペトはそのまま部屋に入って、ちょいちょいと手で誰かを招く。

 

 誰だ?

 

 イッセーはお嬢に告白したらしい。そして結果はもちろんOKだ。むしろ、OK以外の答えが返ってくる方がおかしい。

 

 そして俺たち以外のグレモリー眷属は全員こっそりのぞいていたらしい。木場すら出歯亀するとは何考えてんだ。

 

 その所為で色々と騒がしい事になってるんだが、いったい誰が……。

 

 そう思った俺の視界に、顔をほんのり赤く染めた姐さんが入ってきた。

 

 て、テレ顔の姉さん、プライスレス!!

 

 ペトと視線が合うと、自然と俺達は親指を立て合った。

 

 そして姐さんはそれに気づかず、ペトに引っ張られて俺の目の前に来た。

 

 な、なんか緊張して俺は立ち上がる。

 

 な、なんだなんだ?

 

 そう思った瞬間―

 

「―ん」

 

 姐さんの唇が、俺に触れた。

 

 な、ななななんだぁあああああ!?

 

 何が起こった! いやっほう! これは一体何の幻術だ! 我が世の春が来たぁああああ!!!

 

 大混乱する俺から姐さんが唇を放すと、今度はペトが俺の頬に両手を当てる。

 

「ん~」

 

 そして再びずきゅぅうううううん!!

 

 うっひょぉおおおおおおおお!!! 

 

 な、なんなんだこれは! 俺は死ぬのか!?

 

 そして俺は気が付くと、ベッドに押し倒されていた。

 

「ど、どういうこと!?」

 

「簡単っス。……そろそろ食べてあげようかと思ったッス」

 

 ペトがはっきりと何するか言ってくれた。

 

 え、え、えええええ!?

 

「ヒロイ。貴方には感謝するほかないわ」

 

 姐さんが、俺を抱きしめながらそうささやいた。

 

 その声は、今までにないぐらい繊細な声だった。

 

「貴方を救えたから、ペトを救えたから、私は生きて立ち向かえた。ニエに、逃避ではなく贖罪として向き合う事が出来るようになるかもしれない」

 

 姐さん。

 

「姐さん。死ぬ気か?」

 

「それしか、彼が償いを求めないのなら」

 

 はっきりと、姐さんはそう言った。

 

「ニエの言う事は極論だけど正論だわ。そして、私はニエが望む通りの償いをしたいと思っている」

 

 それは肯定だった。

 

 ニエ・シャガイヒは姐さんの死を望んでいる。姐さんの命という対価をもって、自身の絶望の清算をしようとしている。

 

 そして、姐さんはそれに応えようとしている。

 

「でも、それはちゃんと向き合えるようになってから。恐怖による逃避じゃなくて、贖罪による対峙でなければ駄目だと思えるの」

 

 姐さんは、そういうとほほ笑んだ。

 

「貴方が、一生懸命声を届けてくれたからよ。本当にありがとう。私の輝き(英雄)、ヒロイ・カッシウス」

 

 そして、姐さんは服を脱ぎ始める。

 

 だけど、俺はそれが目に入らない。

 

 それ以上に、さっきの言葉が心に残った。

 

 リセス・イドアル()輝き(英雄)

 

 ……ああ、俺はそうなろう。

 

 俺の英雄を照らす輝きをまず目指そう。

 

 姐さんが、俺を照らしてくれるように。

 

 そんなことを考えてふと我に返れば、姐さんは生まれたままの姿になっていた。

 

「だから、貴方を私の弟分にしてあげる」

 

「つまりペトはヒロイの姉弟っす! ペトが先だから姉御と呼んでほしいっすね!」

 

 ペトまで脱いできた。

 

 俺はこれを、止めるべきなんだろう。

 

 だけど無理だ。もう我慢ができない。

 

「姐さん。俺は聖人君子じゃねえから断れねえぜ?」

 

「それは良かったわ。断られたらどうしようかと思ったもの」

 

 そう言いながら、産まれたままの姿になった姐さんはクスリとほほ笑む。

 

 それは、こんな展開では考えられないぐらい純粋な天使のような笑みだった。

 

「ヒロイ。大好きよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日この夜、俺は死んでもいいと心から思った。

 

 ああ、マジですぜ諸君!!

 




リセスの過去と再起を描く、第四章も終わりました。

これで主要三人の過去は全部必要なことは書き切りましたね。そして、ここからが本格的にヒロイとリセスが「英雄」になる道でもあります。







帝釈天のコントロールをすでに超えている曹操。リムヴァンに殺されかけていることもあり、マジで警戒しています。







この作品のオリジナル要素の殆どを担うリムヴァン。この男がイレギュラーであることはすでに明白です。







そして第五章。ウロボロス偏とヒーローズ編を書きます。

テーマとしてはオーフィスを中心とした原作通りですが、この作品での曹操の化け物っぷりが発揮される章でもありますね。


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第五章 無限の真相
第五章 1 聖槍使いの憂鬱


第五章もついにスタート!









今回に関しては原作とそう変わりませんが、然しそれでもちょっとは変わります。

具体的には曹操が化けます。めちゃくちゃ化けます。超強くなります。


 

アザゼルSide

 

「お前……いろんな意味で正気か?」

 

 俺は、ヴァーリが持ちかけてきた話に目を見開いた。

 

 ヴァーリが個人的な回線で俺に話を持ち掛けてきたことがまず驚くべき事態だ。

 

 ぶっちゃけヴァーリはそういうのを気にしねえところはあるが、それでもロキに突っかかる時ですらこんなことはしなかった。

 

 だから、これは何かあるなとは思ったんだ。聞いてみる価値ぐらいはあるかもしれないとは思った。

 

 だが、これは流石に………っ

 

 俺は今、間違いなくぽかんとしたアホ面をさらしている。

 

『ああ。彼……否、彼女はそれを望んでいてね。俺が持っているこの直通ラインを使えば、話を持ち掛けるのは不可能じゃなかった』

 

「奴の立場なら極秘和平会談とかの名目でもできそうなんだけどな」

 

 実際、奴の立場ならそれ位のことは不可能じゃねえだろう。

 

 なんたって世界最強の存在だ。ちゃんと様子を確認して連絡するやつがいれば、堂々と敵地に送り込んでも殺されることはまずねえ。

 

 ……だが、たぶんそういうところに考えが至らねえんだろうな。あいつは昔からそういう世俗の事柄に無頓着だったからよ。

 

 とはいえ、これはあまりにも驚愕するべき事態だな、オイ。

 

 展開次第じゃ勢力図が塗り替わる。ヴィクター経済連合率いる禍の団と、三大勢力が中心となった反ヴィクター連合。この戦いに決定打が撃ち込まれるといっても過言じゃねえ。

 

 そう言う意味じゃあ、これほどのチャンスはまずないだろう。受ける価値は十分にある。

 

 だが……。

 

「お前のことだ。それだけじゃないんだろう?」

 

『相変わらず鋭い。ゆえに他の勢力からも疎まれているわけか』

 

「お前が言うな」

 

 心の底からそう突っ込みを入れれたぜ。

 

 禍の団でも自由すぎて、かなり疎まれてるそうじゃねえか。

 

 監視が送られるってだけならまあよくある話だ。だが、コイツに対する嫌がらせを主目的に、態々警告迄したレーティングゲームの妨害を決定する。そこ迄のレベルになってる。

 

「ぶっちゃけ足抜けするなら今の内だぜ? お前らほどの使い手なら、第三勢力が対異形用に確保したがるだろ」

 

『余計なお世話だよ。それを振りまきすぎて、色々と思われてるようだけどね』

 

 痛いとこ突いてきやがるな。

 

 堕天使の総督っつー胡散臭い肩書き持ってるやつが、「和平」だの「平和」だの言い出してるからな。ない腹を探られてるのが現状だ。

 

「……性分だよ、ま、背中を狙われる覚悟はできてるさ」

 

『相変わらずだな』

 

 いちいちうるせえな。

 

 ヴァーリは苦笑していたが、すぐに表情を切り替えた。

 

『……彼女を狙う者がいてね』

 

「だろうな。できないからやらないだけで、やりたい奴は星の数ほどいるだろうよ」

 

 俺の脳裏にあの黒髪が浮かび上がる。

 

 あいつ、そういうことに関しては無頓着極まりねえんだろうな。間違いなく。

 

『それはそうだが、よりにもよって身内から出そうでね。仕掛けてくるのも時間の問題だろう』

 

 その言葉に、俺の脳裏に聖槍を持った若造が浮かび上がる。

 

 なるほど。そう言うことか。

 

「燻り出す気か?」

 

『敵か味方がはっきりさせるだけさ』

 

 嘘コケ。敵であることを心から望んでるだろうに。

 

 このバトルマニア。本当にどうしようもねえ。イッセーを見習って女でも作ったらどうだ?

 

 いや、こういうのが余計なお世話ってやつなんだろうな。

 

 とは言え、これを俺の独断で動かすのは間違いなく大問題だ。

 

 下手すりゃ俺の首が飛ぶ。少なくても、今までのような発言力を持つのは大成果を出せなきゃ不可能だ。

 

 だが、下手に大きく動けば間違いなくヴィクターは勘付くだろう。

 

 そうなれば何もかも台無しになる可能性だってある。

 

 ……数分間、真剣に考えた。

 

「……OK。俺がこっそり招き入れてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、兵藤邸の屋上で聖槍を振るっていた。

 

 動きはだんだん良くなっている。それは間違いなく断言できる。俺は強くなった。

 

 だが、それでも曹操には届かない。

 

 打ち合って確信した。奴もまた、修練によって腕を上げている。更にヴィクターの研究によって神器の深奥に潜っているようだ。そこに強化改造も加われば、成長速度は俺を凌いだっておかしくねえ。

 

 もとより、本来の使い手である曹操の方が俺より聖槍を使えたとしても不思議はねえ。適合できたとは言え、後天的な移植者である俺には限度がある。

 

 そして、曹操の奴は禁手に至っている事を匂わせていた。

 

「……そろそろ、もう一つ至りたいところだな」

 

 俺はそう言うと、ため息をつく。

 

 自分でも無茶言ってる事は分かってんだよなぁ。

 

 禁手ってのは神器の究極だ。卍〇だ、〇サイヤ人だ。

 

 なれるだけで、そいつはものすごい奴だと褒め称えられるような存在だ。そんなレアなのが禁手(バランス・ブレイカー)。まさに神器の究極なんだ。

 

 生まれつき神器を持っている人間が、真面目に努力して、それでも一生至らないだなんてよくある話だ。

 

 そんなものに、一つだけでも至れた事は誇っていい事なんだよ。胸を張りたいんだよ。

 

 だけど……っ!

 

「それじゃあ、奴には届かねぇ……っ!!」

 

「荒れてるな、ヒロイ」

 

 その声に、俺は我に返ると振り返った。

 

 そこにはトレーニングウェアの姿のイッセーがいた。

 

「よぉ、イッセー。女抱き枕にするのも飽きたのか?」

 

「茶化すなって」

 

 イッセーは少し顔を赤くするが、しかし反応が今までと違う。

 

 何ていうか、受け入れる事ができたって感じだな。

 

 最近はお嬢とべったりなわけだ。ま、告白して受け入れられてるわけなんだから、なり立てはもううざいぐらいべたべただよなぁ。

 

「皆、遠慮がなくてちょっと困る時もあるけどさ、それ位愛されてるってのは嬉しいよな」

 

「遠慮されてたのか、今まで」

 

「ひでえな、オイ」

 

 え~? むしろぐいぐい押してたじゃねえかぁ。

 

 まあ、こっちはこっちでヒャッハーなんでイラつきはしねえけどよ。

 

 それはそれ、これはこれなんだよなぁ。

 

「……聖槍、至らせたいのか?」

 

「まあな」

 

 イッセーの言葉を否定する意味もねえ。俺は素直に認めた。

 

 なにせ、どうも曹操は聖槍を至らせている節があるからな。もしあの時出されていれば、こっちは犠牲者が大量発生していてもおかしくねえ。

 

 それに……。

 

「言っとくが、対抗意識燃やさせてるのはお前もだからな?」

 

「え? 俺が?」

 

 なんで? って感想が顔にもろ出てんぞ?

 

 この野郎。マジでむかついたから殴っていいか?

 

「発現して一年足らずで、禁手どころか更にその上行ってんじゃねえか、てめえ」

 

 色々前代未聞なんだよ、てめえは。

 

 禁手になるだけでも難易度高いってのに、それを更に昇華させるだぁ?

 

 あり得ねえって言葉をどっかに投げ捨ててやがるな。そんなことした奴、たぶんまだ歴史上に一人としていねえ。そんだけレアだ。

 

「てめぇは自分の異常さを自覚しろ。何が「歴代で一番才能のない赤龍帝」だ」

 

「いや、実際ドライグに目覚めたのもちょっと前だし、才能ないのはドライグも先生も認めてるぜ?」

 

 イッセー。自分を客観視してくれ。

 

「前代未聞の禁手のその上に目覚めてるって意味をよく考えろや。お前はもう化物の領域だよ。いい加減、お前を抹殺する為だけに手段を選ばねえ真似をする奴が出てくるかもな」

 

 ケッ! って顔をしながら、俺は槍を振るって練習を始める。

 

 型を体にしみこませるのは、鍛錬の基本中の基本だ。

 

 なにせ超高速での戦闘で、いちいち思考するってのは大変だからな。条件反射である程度動けるようにしなけりゃ、動けるもんもできやしねえ。

 

「ん~。でも俺、まだ下級悪魔なんだけどなぁ」

 

 イッセーは、自分の異常さを全く理解してねえな。

 

 少しは考えろや。泣くぞ周りの研究者。

 

 そういうところを全く考えないの、お前の駄目なとこだぞ?

 

 俺はジト目で呆れるが、イッセーは首を捻りながらもすぐになんか割り切ったらしい。

 

「ま、俺になんかあるなら、上級悪魔になる為の力ぐらいにはなるかな」

 

「分かった。お前は馬鹿だ」

 

「ひっでぇ!!」

 

 だって、自分が異常な事してる自覚が足りねえもん。

 

 真似しろって言われてもできねえんだよ! リムヴァンや神器多重移植者とは別の意味でチートじゃねえか。

 

 いい加減、不意打ちで暗殺する方向に行きそうで怖いんだけどよ。大丈夫なのか、オイ。

 

 俺が心配すら始める中、イッセーはチャージをしていたのか、鎧を展開した。

 

「……軽く付き合うよ。俺も、真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)を使いこなしたいしな」

 

 ……そういや、サイラオーグさんが名前つけてたな

 

 あの形態、通常の鎧とは比べ物にならないぐらい戦闘能力強化するんだよなぁ。

 

 そしてそんなことしたのは、たぶん知られてる中じゃイッセーだけなんだよなぁ。

 

 ……俺も負けてられん。いずれもう一つぐらい禁手に至らねえと追いつけそうにねえ。

 

「っしゃ! 加減はしねえから覚悟しやがれ!!」

 

「えぇ!?」

 

 イッセーが戸惑う隙をついて、俺は速攻で聖槍で切りかかった。




いろいろ伸び悩み気味なので、ヒロイも少し悩み中。

なにせ禁手も手数特化なので、実は出力で強引に押し切ることができませんからね。明確な格上を相手にする場合、いろいろと苦労するのがヒロイなのです。

そして敬愛するリセスが一皮むけて一気に化けたこともあり、自分もなんか覚醒したいと悩んでいるわけですね。


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第五章 2

はい、と、いうわけでウロボロス偏を書くわけですから―





―そりゃ、イッセーも昇進します。


 

 突然だが、イッセー達に昇級の話が持ち上がった。

 

 因みに同じく昇格の話が持ち上がったのは、木場と朱乃さんだ。

 

 ……グレモリー眷属のこれまでの活躍から考えたら、全員昇格ぐらいじゃねえとおかしくねえか?

 

「……転生後一年足らずの悪魔の昇格を認めるほど緩いと呆れるべきか、これだけの成果を上げて三人しか昇格させないのが硬いと呆れるべきか。……私はどっちの方向で呆れるべきかしら?」

 

「ま、悪魔のお堅い連中も、少しぐらいは話の分かる奴がいるって感心しとけ」

 

 茶化す姐さんにアザゼル先生がそう言って鼻で笑った。

 

 ……言われてみりゃぁ、イッセーってまだ悪魔になってから一年も経ってねえよな。

 

 そりゃ年功序列ってわけじゃねえけど、そんなノウハウすらろくにねえよな奴を昇格させるのはあれか。

 

 枢機卿だって基本は年季入った爺さんとかオッサンが中心だしな。なんつーか、年季入ってるからこそできることってあるわけだしな。

 

 ……躊躇する連中の気持ちも分かるような気がしてきたな。

 

「冥界には黄金十字勲章とかそういったのねえんですかい? そういうのを渡してごまかすって手段とか、上はとってきそうですがねぇ」

 

 俺はそう質問するが、サーゼクス様は苦笑する。

 

「ないわけでもないが、そういうのも主の上級悪魔などが貰うモノだからね。イッセー君達レベルの活躍となると、先ず昇格が必要になるのだよ」

 

 なるほど、やっぱ老害だ。

 

 頭硬いから状況に乗り遅れてる節あるな。だからこんな妙な展開になってんだよ。

 

 教会も上には老害が何人かいるけどよ、もうちょっと上手く動かせるぜ?

 

 俺、一応勲章とか授与されてたもん。適度に褒め称えて秘密兵器にされてたしな。

 

 しっかし、イッセーが昇格かぁ。

 

「まあ、ヴィクター経済連合との戦いを中心とした幾多の戦いを繰り広げ、その中心人物の一人ともいえるイッセー君は、もはや冥界の英雄だからね。流石に下級のままにはできないというわけさ」

 

「血統主義が前提とはいえ、悪魔はなんだかんだで実力主義だからな。それ相応の立場は与えねえ取って話になってんだよ」

 

 と、サーゼクス様とアザゼル先生が補足説明をする。

 

 なるほどねぇ。それで、イッセー及び設定がすごい組の木場と朱乃さんが昇格と。

 

 そう言う意味じゃあ、俺は悪魔側ではあまり目立って勲章とか授与されてねえんだがな。悪魔のメンツを気にする老害の存在が原因で。

 

 だが、今の俺は特に気にしない。

 

 だって。

 

「そんな大活躍してるのにまだ童貞(笑)」

 

「殴るぞ」

 

 マジ切れ寸前のイッセーの視線も気にならねえ。

 

 ああ、なんたって俺は童貞卒業したからな!!

 

 それも姐さんでだ。姐さんでだ。姐さんでだ!!

 

「松田と元浜みたいになってんじゃねえよ」

 

「ふ。確かに否定はしねえ」

 

 ああ、確かに俺もあいつらに近い立場だ。

 

 確かに俺は姐さんにとっての特別だが、それは恋愛感情的なものではないだろう。どちらかといえば弟的な親愛なのは間違いない。

 

 いや、エロいことしてるからあくまで弟分だがな。マジで弟と思ってやってたら別の意味でマズイからな。

 

 だが、それとこれとは違うのさ。

 

「イッセー。俺の感動は間違いなくあの二人とは違うぜ?」

 

 ああ、違うのさ。

 

 なぜなら、姐さんは俺にとっての英雄だ。俺の輝きなんだ。

 

 例えるなら、推しのアイドル……なんか違うがいいか。姐さんは芸能人だったこともあるからな。

 

 そんな存在と懇ろなど、ある意味で彼女ができた以上の感動を与えてくれる。

 

「俺は、貞操を姐さんに捧げても構わねえ!!」

 

「いえ、辞めて頂戴」

 

 姐さんにぶった切られて俺は撃沈した。

 

 一瞬意識が飛んだ。今でも目の前が暗い。

 

 き、きついこと言われた。マジショックだ。

 

 イッセーからの視線も、怒りから同情に代わってる。そしてそれに怒る余裕もねえ。

 

「リセス。お前それはちょっと酷いぞ」

 

 アザゼルすら姐さんにツッコミを入れてきた。

 

 俺、今そんな哀れな姿してますか?

 

「え? え……え?」

 

 姐さん、そんなに驚いた感じしないでくれよ。

 

 俺にとって姐さんはつまり神なんだ。そう、聖娼的なあれなんだよこの栄光は。

 

 いいじゃねえか。一人ぐらい貞操捧げてくれる人がいてくれたってよぉ!!

 

「ヒロイ、ヒロイ。違うッスよ」

 

 と、ペトが肩に手を置いた。

 

 なんだよ? 俺はマジでショックなんだが。

 

「お姉様は、自分の弟分なら一人や二人で満足するような性的嗜好じゃ駄目だって言ってるッス。これを機にもっと女を知るッス」

 

「え、ええ。あなた初物にしては上手だったし、もっといろんな人を知ってもらいたいぐらいなんだけど……だめ?」

 

 あ、そういう意味か!

 

 ちょっと安心! 姐さんに嫌われたかと一瞬マジで思ったからな。重いとか思われたらショックだったぜ。

 

 だけど、それはそれでどうよ?

 

「お前、堕天使よりも堕天使してるな」

 

「申し訳ない。古き体制を一掃できないばかりに、君をそんな退廃的な人物にしてしまったのはこちらの落ち度かもしれない……」

 

 首脳陣2人がマジ反応してきたよ。

 

 ま、まあガチビッチな言葉だしなぁ。

 

 姐さん、あの糞スポンサーに調教されただけじゃねえだろ。もとからそういう素質有ったろ。いや、スイッチ入れたあの糞スポンサーが諸悪の根源なのは事実だけどよ。

 

 そしてペトもペトでなにさらりと言ってんだよ。そう言うのはもっと小さな声で!!

 

 っていうか、え、いいの?

 

 俺結構ふしだらだよ? 本当にやっちゃうよ!? つーか、そんなこと言われたらヤリ〇ン目指しちゃうよ!?

 

 英雄色を好むっていうから、俺は色事でも名をはせたいとは思ってるからね!?

 

 そんなこんなで俺がパニくってる中、グレイフィアさんが咳払いした。

 

 あ、そうだったそうだった。イッセーの昇格の話だった。

 

「話を戻しますが、あくまでこれは昇格試験を受ける資格を得たというだけです。今回の試験を時期尚早とみて辞退する事は認められます」

 

 あ、そうなのか。

 

 まあ、試験を受けれる事と試験を受ける事は違うしな。

 

「まあ、上役の思惑が絡んでいる事は否定しないが、しかしまだ若い君がそこまで気にする事はない。個人的には、イッセー君にはまだ「おっぱいドラゴン」でいてほしいしね」

 

 と、サーゼクス様が仰る。

 

 確かに、昇格すると政治的なしがらみとかも増えそうだよな。

 

 単純に正義の味方とか子供のヒーローやっていけるわけでもねえだろう。上級悪魔になったら、担当の部署とかもらって活動する羽目になるかもしれねえしな。

 

 そういう意味じゃあ、喜ぶだけじゃいけねえって事か。

 

 それにイッセーはまだルーキーにもほどがあるし、断るってのも一つの選択肢だ。

 

 そんな中、イッセーは少しだけ考えて―

 

「……どうせ上級悪魔を目指してるんです。それが早まっただけですから、俺は受けます!!」

 

「ああ、そう言ってもらえるとありがたい。木場君と朱乃君はどうだろうか?」

 

 サーゼクス様が頷いて、そして木場と朱乃さんにも視線を向ける。

 

「リアス・グレモリー眷属の騎士として、謹んでお受けいたします」

 

「私も、グレモリー眷属の女王としてお受けいたしますわ」

 

 おお、この二人も受ける気満々だ。

 

 しっかし、レーティングゲームに本格参戦してるわけでもねえ若手悪魔で、昇格する眷属が複数認可。こりゃ異例だねぇ。

 

 ま、それだけヴィクターとの戦いが激しいってわけだから、素直に喜ぶわけにはいかねえんだろうがな。

 

「じゃ、試験は来週だからな」

 

「来週ぅ!?」

 

 アザゼルが軽く言い放った。イッセーは当然驚いた。

 

 早すぎだろ。つーか、中間テストと時期が被ってんだけどよ。

 

「悪いことは言わねえ、今回は辞退しろ。時期が悪ぃぜ」

 

「い、いや! もう受けるって言ったんだから、逃げるわけにはいかないって!!」

 

 俺が助言するが、イッセーはどうやら受けるつもりなようだ。

 

 いや、中間テストのテスト勉強だけでも面倒だろ、お前。

 

 多分中級昇格試験も筆記とかあるぞ? 勉強必須だぞ?

 

 お前、割と赤点ぎりぎりの成績じゃねえか。しかもトラブル続きで勉強あまりできてねえじゃねえか。マジで紅点とか採ったりしそうじゃねえか。

 

 ……どっちも赤点取ったら、恥ずかしいぞ?

 

「中級昇格試験は、確かレポート作成と筆記に実技だったわね」

 

 お嬢がそう言うけど、やること多くね?

 

 レポート作成と筆記の勉強。その上中間テストの勉強とか、忙しくて過労死しますぜ?

 

 やっぱやめとけよイッセー。断るなら今の内だぜ?

 

「ご安心くださいませ、イッセーさま」

 

 そこに立ち上がるのはレイヴェルだった。

 

 おお、なんか秘策があんのか?

 

「筆記試験に関してはお任せくださいませ。過去の出題傾向から、最適な参考書を用意いたしますわ!!」

 

 おお! それはすごく役に立ちそうだ。

 

 良かったな、イッセー!!

 

「いや、それもいいんだけど、実技の方は……?」

 

「そう言う冗談は良いから」

 

 イッセー。こういう時は素直に感謝の気持ちを伝えるんだよ。

 

 まったく。最上級悪魔クラス以上とすら渡り合ったお前が、今更中級レベルの悪魔とやり合って負けるわけねえだろうが。

 

 それも基本的には中級の下の下だぞ? ドーインジャーの方が遥かに手応えあるだろうよ。

 

 なれねえ冗談は言うもんじゃねえぞ。空気が冷めたじゃねえか。

 

「さて、話がまとまったところで、私はいったん北欧へ戻ろうと思います」

 

 と、ロスヴァイセさんが立ち上がった。

 

 なんで? っていうか戻れんのか?

 

「……今更戻ったら、色々言われそうっすよ?」

 

 ペト、直接口に言わない。

 

「た、確かにそうですが!!」

 

 ロスヴァイセさんも分かってのかよ。

 

 だったらなんで?

 

「い、一度北欧に戻って戦車(ルーク)の特性を高めようかと思いまして」

 

 ルークの特性?

 

 ぶっちゃけ、火力担当としては十分すぎるぐらい貢献してねえか?

 

 ふと気になってお嬢の方を見るけど、お嬢は特に気にしてねえようだ。

 

 知ってたのか。まあ、ロスヴァイセさんなら前もって言ってそうだな。

 

「成長する為なら拒む気はないわ」

 

「ありがとうございます。中間テストの方は既に作成済みですから、そこは安心してください」

 

 ふむ、さっぱり分らんがテストは安心だな!!

 

「それで、どこを強化するつもりなの?」

 

「主に防御魔法を。学生時代、攻撃魔法ばかり習得したのが裏目に出た気がしますので」

 

 と、姐さんの質問にロスヴァイセさんは答えた。

 

 ふむ、確かに戦車の特性は攻撃力と防御力。

 

 ガードを鍛えれば更に向上するのは自明の理か。確かに必要かもな。

 

 そういや、イグドラフォースの戦いでは俺ら神滅具組やお嬢、ペトとアーシア以外は全員やられてたからな。

 

 ロスヴァイセさん、グレモリー眷属に加入してからあまり役に立ててないとか思ってんだろうな。相手が悪いだけなんだけどよ。

 

 ま、強くなってそれを払しょくできるなら、それに越したことはねえか。

 

「それは良い。そうだ、レイヴェルの例の件を承諾してもらえるだろうか」

 

「もちろんですわ!」

 

 むむ? サーゼクス様とレイヴェルは何の話をしてるんだ?

 

 何やらものすっごい元気いっぱいにOK出してるけどよ?

 

「実は、レイヴェルには、イッセーくんのアシスタントをしてもらうと思っているのだよ」

 

 アシスタント……か。

 

「それは良いわね。おっぱいドラゴンにマネージャーの一人もいないのはまずいわ」

 

 と、姐さんが微笑みながらイッセーを見る。

 

 あ、マネージャーか。

 

 確かにイッセーには必要だよな。おっぱいドラゴンで忙しいし、上級目指してんなら補佐官も必須だし。

 

 姐さんの推測は当たりなのか、サーゼクス様もうんうんと頷いた。

 

「イッセー君はこれから忙しくなるだろう。学業と悪魔業の両立に、おっぱいドラゴンだからね」

 

「グレモリー眷属全体のスケジュール管轄は私が行わせていただいておりますが、おっぱいドラゴンなどで追加の業務があるイッセー様には、情けない話ですが個別のサポート役が必要となりますので」

 

 グレイフィアさん、そんなことまでやってんのか。

 

 死ぬぞ、過労で。

 

 ま、そういうことならマネージャーは必須だよな。レイヴェルなら能力は間違いなくあるだろうし。

 

 つーか、既にマネージャー的な事やってるところを見た事あんだけどよ。俺達がそれだけの能力があるって分かるだけやってるよな。今更じゃね?

 

 つーかレイヴェル、かなりノリノリだな。やっぱこれあれか。イッセーにぞっこんか。

 

 変態の覗き魔のくせして、意外と持てるなイッセー。いや、人間の女子からは底辺扱いだけどよ。

 

 いや、最近は松田と元浜に追い抜かれた事実から同情票がでかいな。松田と元浜は余裕見せすぎて覗きから離れてるからな。結果的に蔑視の視線は少なくなってるな。

 

 それも、俺が不良達をノしてヤ〇部屋を見つけたからだな。ああ、英雄として素晴らしい事をした。

 

 松田と元浜がきもくなったけどな!! 俺は童貞のままだったけどな!!

 

 ………あれ? なんか涙が止まらないぞ?

 

「ようやく、ようやくあいつらに追いついたんだなぁ」

 

「俺、いつになったら追いつけるのかなぁ」

 

 俺の言葉にイッセーが追随した。

 

 お前はいつでもできるだろうが。と、ツッコミたい。

 

「そう言うわけで、悪いがレイヴェル、昇格試験についてはイッセー君のサポートを任せるよ」

 

「お任せください! このレイヴェル・フェニックスが、イッセー様を見事合格に導いて見せますわ!!」

 

 そういうと、さっそく資料集めにレイヴェルが飛び出していった。

 

「くくく。青春だねぇ。オイ小猫、油断してると大好きな先輩が先に取られちまうぜ? オフィスラブで食われちまうぜ?」

 

 アザゼル先生、レイヴェルがらみで小猫ちゃん突っつくな。

 

 この子、なぜかレイヴェルに関しては辛口なんだか……ら?

 

「……」

 

 何も答えてねえな。

 

 つか、聞こえてねえ感じだな。

 

 ……大丈夫、なのか?

 




速いのか遅いのかよくわからなくなる、イッセーの昇進。

いや、イッセーの成果は明らかに下手な最上級悪魔を超えているだろうことはわかるし、戦闘能力も最上級クラスに到達していることも分かります。

ですが、イッセーには年季やノウハウが全くと言っていいほど足りていない。そう言う意味では上が渋るのも分かります。

なにより、肝心のイッセー自身が自分の実力をよく理解していない。これがあれですね。

真面目な話、ヴァーリやサイラオーグが中級悪魔クラスのレベルだとでも思ってんのかお前は……的なツッコミを入れたくなりますね。


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第五章 3

そんなこんなで夜になり―


 そんなこんなで夜。

 

 俺は、何回目か忘れたけど姐さんやペトと一夜の楽しみをしていた。

 

 ……なんか、俺は姐さんとペトに本気で気に入られたらしい。毎日求められてる。

 

 おいおい、勘違いしそうな気がするぜ、俺は。

 

 男なんて馬鹿な生き物なんだから、もうちょっとこう、落ち着いてくれよ、二人とも。

 

「勘違いしていいですか!!」

 

「「ダメ」」

 

 撃墜!!

 

 思わず横になってるけど崩れ落ちる俺に、姐さんとペトはぽんぽんと肩を叩く。

 

 撃墜した人に慰められても嬉しくねえんですがねぇ!! そんな事するなら受け入れてくれよ!!

 

「駄目よ、ヒロイ。弟分と恋人は違うの」

 

「ヒロイ、ペトは自分の長い人生を共に過ごせるものとしか添い遂げないと決めてるッス」

 

 くっそぅ! 俺も転生悪魔になるぐらいしねえといけねえってのか!!

 

 っていうか姐さん。それってつまり、俺のことは恋愛対象として眼中にないってことですかい? そう言いたいんですかい?

 

 だとするなら、マジでショック!!

 

「あのねえヒロイ。私達の関係は恋愛のそれとは違うでしょう?」

 

 姐さんは、諭すようにそう告げる。

 

「私達は、光照らすもの同士よ。私がペトとあなたを照らして、二人が私を照らしてくれる。それは恋愛とは異なる関係だわ」

 

 その関係を心から大事にするかのように、姐さんは微笑んだ。

 

 それは、姐さんがアイドルになりかけたことを証明するような、宝石のような微笑だった。

 

 ……やべえ、惚れ直しそう。

 

 でもまあ、言いたい事はなんとなく分かる。

 

 なんつーか、こう。俺達の関係は恋愛とか友情とかとはまた別の何かだ。

 

 尊敬しあってるというか、なんというか。とにかく信頼し合っている関係なんだけど、その方向性がおかしいっていうか。

 

 これは、きっと当事者の俺たちですらよくわからねえ流れなんだろうな。

 

 ……うん。なんかこれはこれでいい気がしてきた。

 

「わぁったよ。で、姐さん?」

 

「―これから何ラウンド目になるんすか?」

 

 俺たちはそう言って誘うが、姐さんは首を振ると立ち上がった。

 

「今日はここまで。明日も学校があるんだから、シャワーを浴びたらすぐ眠るわよ。私も仕事があるからね?」

 

「ハイっス!」

 

 ペトが元気よく返事をして、そして服を身に着ける。

 

 俺は結構疲れてるんだが、この二人は本当元気だ。

 

 俺だって、人間レベルを超えているほどの体力があるはずなんだけどな。こういうのは戦闘とか運動とは別の意味で体力を消費するってわけか。

 

 これが慣れかぁ……。

 

「だけど、竿が一つだけってのも少し飽きるわね。今度松田君と元浜君も久しぶりに誘いましょうか」

 

「いいっすねぇ。あ、どうせなら食べた子達を男女問わず集めて、大乱交会とかをここの地下で―」

 

「「間違いなく怒られるから」」

 

 ペトが暴走したのでツッコミを入れながら、俺たちは地下の大浴場に入ろうと廊下を歩いて階段を下りる。

 

 なんで階段かって? そんなもん、足腰が鍛えられるからに決まってんだろ。

 

 今回は特例として札を用意したから、今度こそ大浴場に入る事が出来るぜ。「ヒロイ達入ってます」ってきちんと書いたからな!

 

 ああ、あのでかい風呂は、風呂文化に慣れてねえ俺でもちょっと憧れる。すっげえ気分よく入れそうなんだよなぁ。銭湯を独り占めしたらあんな気分なんだろうか。

 

 そんな事を考えながら、俺達は階段を下りて―

 

「……抱いて、ください」

 

 俺達の鍛え上げられた聴覚が、そんな言葉を聞いた。

 

 一瞬で固まると、即座に声の方向を把握。

 

 あれはイッセーの部屋だ。そして、あの声は小猫ちゃんだ。

 

「……姐さん姐さん。まさか小猫ちゃんが一番乗りとは思わなかったぜ」

 

「そうね。私も最初はリアスが本命でアーシアが次点だと思ってたわ」

 

「つか、小猫ちゃんはお嬢に忠誠心あるから遠慮すると思ったんだがな」

 

「主に抜け駆けとか、朱乃がやりそうなことだと思ったんだけれど」

 

 俺と姐さんは小声でひそひそ話だす。

 

 ああ、この展開は想定外だった。

 

 いや、これがゼノヴィアならまだ分かるんだがな? あいつは子作りがメインになってる節があるからさ?

 

 だけど、これは流石に想定外っていうか、なんというか……。

 

 ん? そういえば乗っかりそうなやつが出てきてないぞ?

 

「あら、ペトがいないわね」

 

「……アイツ、この流れで混ざりに行くほど馬鹿じゃないと思うんだが―」

 

 俺達が首を傾げたその時―

 

「イッセーストップッス!!」

 

 ドバンと、ペトがイッセーの部屋のドアを蹴り開けた。

 

「「ペト!?」」

 

 想定外の展開に、俺達は急いで走り寄った。

 

 大きな音が出た事でドタバタと誰かが起き始める気配がするが、そんなことはどうでもいい。

 

 おいおい、お前結構気を使えるタイプだとばかり思ってたんだがよ。割と常識わきまえてるじゃねえか。

 

 恋人同士の逢瀬を邪魔するとか、流石に空気が読めてないぜ?

 

 そう思いながらイッセーの部屋を覗くと、何やら奇妙な光景が広がっていた。

 

「小猫! しっかりするッス!!」

 

 ぺちぺちと頬を叩きながら、小猫にマジで心配した表情を浮かべているペト。

 

 そして、イッセーは顔を真っ赤にしながらも状況が分かってない表情だった。

 

「あ、リセスさんにヒロイも……どうすりゃいいんだ?」

 

「いや、俺達も何が何だか……」

 

 俺とイッセーは顔を見合わせて戸惑う仲、姐さんはペトの肩に手を置いた。

 

「ペト、どうしたのよ?いきなり」

 

 そういう姐さんだが、異常性は分かってるようだ。

 

 小猫の様子は明らかにおかしい。

 

 イッセーにさっきまで迫ってたのは分かるが、しかしこの展開でボケっとつっ立ってるのがおかしいだろう。

 

 なんか、顔を真っ赤にしてぼんやりしている。

 

「ふにゃぁ…」

 

 何処までも視線をイッセーに向けて、とろんとした目を向けている。

 

 なんつーか、エロい。姐さんやペトのサラリとしたエロさとは違う、ねっとりべったりとしたエロさだ。

 

 開放的なビッチ(つまり姐さんとペト)のエロスとは違う、なんというかサキュバス的な……。

 

「イッセー。部長に連絡して知り合いの魔物使いを呼んでほしいっす」

 

 ペトが、かなりマジな顔でイッセーに振り向いた。

 

「後小猫を抱かない事。今抱いたら、小猫が死にかねないっすよ」

 

 その言葉に俺達の肝が冷えるのと、お嬢達が何事かと駆けつけてきたのは同じタイミングだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「単刀直入に言えば、発情期っす」

 

 そしてアザゼル先生達が駆けつけてきた中で、ペトは開口一番にそう言った。

 

 発情期って、犬とか猫とかが起きる、性欲が活発化するっていうあれか?

 

 確かに小猫ちゃんは猫又だけど、猫又にも発情期があるのか。

 

 実際、呼ばれて来てくれた三年生の阿倍先輩もそう結論付けたそうだ。押さえる為の薬も調合してくれた。

 

 後でお礼を言っとかねえとな。こんな夜遅くに態々来てくれたんだからよ。

 

「ようは、「子孫残したい」って本能が暴走してると考えればいいっす」

 

 そういうペトは、さらさらと俺達に分かり易く説明してくれた。

 

「なるほどな。確かにあいつは猫又だし、そういう時期もありえたか……」

 

 アザゼル先生も納得して、ため息をついた。

 

 なんでも、京都暮らしが長かったので妖怪とかの生態はある程度分かってるとのこと。意外なところで特技があったな、ペト。

 

「よく分かったわね、ペト。よしよし」

 

「わーい、褒められたっすー! ……じゃなくて!!」

 

 姐さんに褒めらえて一瞬舞い上がるが、すぐにペトは我に返った。

 

 姐さんに褒められることより優先することがあるとは。これはかなり真剣なレベルだな。

 

「ぶっちゃけ、今の小猫は体の成長が足りてないからまずいっす。ガチ命が危険っす!」

 

 ペトはそう言って、イッセーに指を突き付ける。

 

「……ああ、確かに小猫ちゃん、小柄だもんな」

 

「そう言う意味じゃないと思うんだけど……」

 

 しんみりするイッセーに、木場からツッコミが入った。

 

 額に手を当てながら、ペトはイッセーの肩に手を置く。

 

「猫又の女は、子供を宿せる体になってしばらくすると、発情期のサイクルが始まるッス。つまり子供を作りたくなるっす。そして、ターゲットは気に入ってる異種族の男がメイン。……この意味、今なら分かるッスよね?」

 

「あ、ああ。……俺、小猫ちゃんにそこまで好かれてるってことでいいんだよな?」

 

 ちょっと不安げにイッセーは聞くが、その可能性を言えるようになっただけマシか。

 

 ペトもそれは同感なのか、苦笑交じりに頷いた。

 

 そして、すぐに真剣な表情になる。

 

「だけど、小猫の体は性的に未成熟っす。男で言うならあれっす、精通が始まってないようなもんっす」

 

「凄く分かり易い!!」

 

 イッセー、大声出すな。

 

 しっかし、それってまずくねえか?

 

「つまり、孕んでもガキを産めないって事か?」

 

「ヒロイ、もう少し表現を柔らかくして頂戴」

 

 お嬢にため息をつかれたけど、間違った事は言ってねえよな?

 

 ペトもそれに頷くと、深刻な表情を浮かべる。

 

「性的に未成熟な肉体での出産は、母子ともどもに死ぬ可能性すらあるッス。実際ソウメンにやられた女の中には、耐え切れずに死んだ奴もいたッス」

 

 ………目の前で見た実体験に基づく意見だったのか。

 

 重くてどう反応していいか分からねえ。とりあえずソウメンは地獄で苦しめ。

 

「でも、発情期は心身ともに成熟してから発生するはずなんスけどねぇ……」

 

 ペトはそう言って首を傾げる。

 

 その辺は阿倍の先輩も首を傾げてたな。

 

 知識のある二人が同じように首を傾げてる。ってことは確かに小猫ちゃんは発情期になるには少し早いって訳なはずなんだが……。

 

「まあ、その辺は環境が原因だろうな」

 

 と、アザゼル先生が目を細めて言った。

 

 俺達全員の視線が集まる中、アザゼル先生は肩をすくめる。

 

「イッセーにトラウマ克服の兆しが見えてから、リアスを中心に関係が急速に発展してる節があるからな。それで焦ったんだろうよ、「自分も」ってさ」

 

 な、なるほど。

 

 肉体的にはともかく、精神的にはエロい事をしたくなってしまったのか。それで、体が引っ張られて発情期に入ったと。

 

 思い込みって結構やばいからな。プラシーボ効果とかノーシーボ効果とかあるし。神器も、遺志の力で駆動するから精神の影響を受けやすいしな。

 

 しっかし、そんなもんどうすりゃいいってんだ?

 

「薬を使い続けると、今度は発情期が中々来なくなる事もあるッス。あまり使用するのは避けるべきっすね」

 

「で、でも、俺が小猫ちゃんといたしちゃったらやばいわけで……」

 

 ペトのガチ発言に、イッセーが顔を真っ赤にしながらおろおろとする。

 

 確かに。これは危険だな。

 

 イッセーはおっぱい魔人とは言え、ロリがダメなわけじゃない汎用性の高いスケベ野郎だ。尻もうなじも行けるだろう。というより、トラウマを克服し始めてるから性欲により忠実になるかもしれねえ。

 

 そんな状態で発情した可愛い子から迫られるとか、普通きついだろ。

 

「あ、悪魔が子供出来にくい体質だからって、それにかまけるわけにもいかねえしなぁ」

 

「そうだな。そう言う時に限って一発目で当たるらしいしな」

 

 俺とゼノヴィアがどうしたもんかと首を捻ってると、姐さんが立ち上がった。

 

「……仕方がないわね。ここは私の出番のようね」

 

 おお、姐さん!

 

 流石姐さんだ。この状況下で何かできるのか!!

 

「すごいですリセスさん! どうするんですか?」

 

 アーシアの感激をにじませた質問に、姐さんはふっと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ようは性欲を発散させればいいのでしょう? 大丈夫、私は女の子相手も得意よ!!」

 

「却下ですわ」

 

 速攻で朱乃さんがハリセンを叩き付けた。

 

 姐さんは本気でナイスアイディアだと思っていたらしい。

 

「なんでよ! 発情してるのなら発散すればいいだけじゃない!! 悪魔なんだからエッチな事してもいいでしょう!?」

 

「た、確かにそうなのだけれど、イッセーの代わりにリセスをあてがうというのは、色んな意味で避けてほしい事ね」

 

 お嬢、正論ありがとうございます。

 

 つっても最終手段としてはそれもありかもしれねえ。

 

 なにせ性欲をコントロール出来てねえって事なんだからよ。京都での痴漢騒ぎじみた事件が駒王学園で起きたら大惨事だ。

 

「安心してくれ、お嬢」

 

「ヒロイ。貴方、最近染まったと思ったけど……」

 

「俺は混ざらねぇから」

 

「そう言う意味じゃないのよ」

 

 だろうね!!

 

「……まあいい。これに関しちゃイッセーが我慢すればいいだけだろう。小猫の為だ、頑張れ」

 

「は、はい! 頑張ります!!」

 

 イッセーが敬礼までして気合を入れる。

 

 頑張れよイッセー。最悪の場合、お前の性欲を姐さんとペトが吸い取り尽くして勃たなくすればいいだけだからな。

 

 ……あれ? そっちの方がイッセーには役得じゃね?

 

 などと思っている間に、話がなんか別の方向に進もうとしていた。

 

「それはともかく。……明日、俺の一存でお前らに会わせたい奴がいる」

 

 なんだ? なんかすごい緊張感が隠れた声なんだけどよ。

 

「貴方がそんな声色をするだなんて。何か大事みたいね」

 

 姐さんもそれに気づいて、声色を少し変える。

 

 どうにもこうにも、こっちの方が重要っぽいな。

 

 アザゼル先生は真剣な表情を向け、俺達を順に見据えた。

 

「最初に言っておく。奴がここに来ることをお前達は認められないだろう。だが、それでも揉め事だけは起こさないでくれ。駒王町を灰燼に帰すことに繋がるしな」

 

 も、揉め事!? 駒王町が灰燼に帰す!?

 

 いったいどんな奴を連れてくるんだよ。戦闘能力的にも人格的にもデンジャー名の出てきそうだな、オイ。

 

 そんなレベルで不満をいだく相手ぇ?

 

「……まさかと思いますが、ヴァーリチームですか?」

 

「半分正解だ」

 

 木場の質問に、アザゼル先生は素直に答えた。

 

 マジか。あいつら本当に自由だな。

 

 だが、なんだかんだで共闘もしてる相手だ。いきなり殺し合いと化するほどの事にはならねえと思うんだけどよ。

 

 つまり、もう半分が問題ってわけか。

 

「ヴィクターの重鎮が亡命でもするのか? 女性の重鎮ならここを亡命先にするのは賢明ではあるけどね」

 

「なるほど! イッセーくんの乳語翻訳(パイリンガル)はこういう時に便利ね」

 

 ゼノヴィアとイリナが相談してるけど、その辺が正解か?

 

 ヴィクターの重鎮なら、俺達が敵意を抱いて揉めたとしてもおかしくねえ。

 

 そして、女性の亡命先としてここはかなり有効だからな。

 

 なにせイッセーの乳語翻訳があるからな。嘘を言ってねえ事だけはすぐに分かるはずだ。

 

 ……だが、アザゼルは首を振った。

 

「微妙に正解だが、亡命ってわけじゃねえ。ただ、そいつはイッセーと話をしたいみたいなんだよ。それでヴァーリが俺にコンタクトを取ってきたんだ」

 

 話……ねぇ?

 

「は、ははは話だけしたら帰るんですかぁ?」

 

「少なくとも敵意はねえはずだ。そして、上手くいけば情勢をひっくり返す事だってできる」

 

 ギャスパーにそう答えるアザゼルには、何かの期待があった。

 

 こりゃ、大手派閥の司令官クラスが直接接触を図ってくるってことかねぇ。

 

 一国家クラスの規模の派閥が寝返ってくれれば、確かに情勢をひっくり返すのも簡単ではあるけどよ。

 

「だからこそ、頼む。どうか話を聞いてやってくれ」

 

 アザゼルが、神妙な態度で頭を下げた。

 

 それに俺達は納得して、その対談を受け入れる事にする。

 

 有力派閥の幹部なら、説得で味方に引き入れる事ができるなら、まあ効果はあるか。

 

 だけど、女の敵と言ってもいいイッセーに態々ヴィクターの女幹部が接触ねぇ。

 

 いったい、どんなやつなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日、俺はそんなのんきな事を考えた事を死ぬほど後悔した。

 




ペト、意外と頭が回るの巻。

まあ、ペトは京都とも縁が深いので、妖怪関係に関してはそこそこの知識があるのです。


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第五章 4

そして

ドアを開けたら、そこにはウロボロスがいました。


 

 で、次の日。

 

 俺達は念の為に戦闘準備を整える。そしてそのタイミングでインターホンが鳴った。

 

 てっきり転移か何かで来るかと思ったんだがな。

 

 そんなのんきな事を思いながら、イッセーが扉を開ける。

 

 そこにいたのは、見覚えのある少女。黒く露出度の高いゴスロリ服を着た、小さなロリッ娘。

 

 その少女は、イッセーを見て無表情に一言。

 

「ドライグ、久しい」

 

 ………あの、すいません。

 

 この人、映像で見た事あるんですが。

 

 こいつは、こいつは―

 

「オーフィス……っ!!」

 

 飛び退って赤龍帝の籠手を展開するイッセーを責めれるものなど誰もいない。

 

 俺も一瞬で聖槍を出してホンダブレードをその身にまとったし、姐さんも一瞬で禁手発動準備を終える。

 

 ギャスパーに至っては気絶しそうなぐらい震えてるし、他のメンバーも全員警戒態勢だ。

 

 そりゃそうだろう。

 

 禍の団の首魁。世界最強。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)

 

 ラスボスが来てるじゃねえか! 最終決戦の幕開けじゃねえか! ハルマゲドンだろうが!!

 

 オイオイオイオイちょっと待て!

 

 俺達は、あくまで若手だぞ。こんな最終決戦を任せていいわけがないだろうが!! 気合を入れて倒してくれよ大人達!!

 

 っていうかラスボスが魔方陣じゃなくインターホンで来訪ってシュールだな、オイ。

 

 あれ? 俺、結構余裕ある?

 

「待て待て!!」

 

 と、アザゼル先生が慌てて割って入った。

 

「今日は戦いに来たわけじゃねえって言っただろ!! こいつも攻撃は仕掛けてこねえよ。てか、勝ち目ねえよ!!」

 

 いや、確かにそうだけどね?

 

 これは流石に想定できないっつーか、許容できる事じゃねえだろ!!

 

 ほら見ろ、お嬢なんて、消滅のオーラが漏れ出てるぐらい激昂してるよ。

 

「アザゼル! そのドラゴンはヴィクターの盟主と言っても過言じゃないのよ!! 私達三大勢力とその同盟組織の仇敵を……怨敵を招き入れるなんてどういうつもり!?」

 

 いつもの暴走に対するツッコミ何てレベルじゃねえ。

 

 これはまさしく糾弾ってやつだ。

 

「っていうか待ちなさい。これだけの大物が来るというのに、他の者達が動いていないっておかしいわよ」

 

 姐さんが、冷や汗を流しながらアザゼルを見据える。

 

 た、確かにそうだ。

 

 この駒王町は、三大勢力にとってはある種の聖地と言っても過言じゃねえ場所だ。

 

 だから、悪魔にしろ堕天使にしろ天使・教会にしろ、相当のスタッフが働いている。

 

 その重要拠点に敵のボスが来訪だってのに、なんで魔王様も天使長も出てこねえんだよ。

 

 俺達若手が相手するレベルじゃねえ。どう考えてもおかしすぎる。

 

「……先生! まさか、魔王様やセラフにも黙っているのではないですか?」

 

 木場が聖魔剣を構えながら、アザエル先生を問いただす。

 

 そうだ。こんなところにこんな無警戒でオーフィスが入り込めたって事は、スタッフや結界をどうにかしないといけねえ。

 

 ……アザゼルの野郎、結界に細工とかしたんじゃねえだろうな!?

 

 アザゼルは、黙ったまま頷いた。

 

 マジかよ。この野郎、マジでやりやがった!!

 

「協定違反よアザゼル!! 堕天使全体が同盟組織全てを敵に回しかねないほどの裏切り行為だわ!!」

 

 お嬢が激昂するのも当然だ。

 

 いくらなんでも、これは裏切り行為と言われたっておかしくねえ。

 

 だけど、お嬢は深呼吸をすると、ものすごい我慢する表情を浮かべながらも、戦闘意識を薄めた。

 

「……それだけの事をするだけの価値が、あるというの?」

 

 そ、そうだよな。

 

 アザゼル先生は、なんだかんだで和平に対して積極的だ。

 

 色々問題児ではあるが、根本的には教師やってるし、俺達を何度も救ってくれたいい指導者だ。

 

 問題ポイントを差し引いてもそれだけの事があるから、堕天使総督アザゼルは、堕天使の総督をやっている。

 

 そのアザゼル先生が、今更和平を台無しにするような裏切り行為をするとも思えねえ。

 

「そ、そうっスよね! 総督は確かにダメ人間っすけど、世界を破滅に導いたりする人じゃないっす!!」

 

「おい配下。お前を破滅に導いてやろうか?」

 

 先生、先生。

 

 今この場で暴れないでくださいよ。俺らだって耐えてるんですから。

 

 英雄目指す身としてはあれだけど、平和が一番! 無益な犠牲は避けるべきですからね!!

 

 先生は、咳払いとともに俺達に視線を向ける。

 

「俺はこいつをここに招き入れる為に、現在進行形でいろんな門をだましてる。無駄な血を流さない為に、それだけの事をする必要があると判断したからだ。……話だけでも聞いてやってくれ」

 

 そう言って、先生は頭を下げた。

 

 ……まあ、悪ふざけでこんなことするほど馬鹿じゃねえよな、うん。

 

「……まあ、何かあったら全部アザゼルに責任をかぶせればいいでしょうしね」

 

 姐さんが冗談交じりにそんなことを言い、全員の空気が弛緩した。

 

 まあ、とりあえず話だけでも聞いてやるか。

 

 で? まさかこいつだけってことはねえだろ。

 

 いくら最強の存在だからって、立場ってもんがある。護衛とか補佐官とかついてねえとおかしいわな。

 

 そう思ったそのとき、玄関のドアから見慣れた三角帽子がぴょこんと出てきた。

 

「お久しぶりです。ルフェイ・ペンドラゴンです。あと、フェンリルちゃんを連れてきました」

 

 と、どっかで見たことあるけどサイズが明らかに縮んでる狼とともに、ルフェイが入ってきた。

 

 ……フェンリル()()()って。

 

 こ、この子度胸があんのかセンスがずれてんのか。

 

 あとフェンリルよ、お前はそれでいいのか。あ、ちょっと微妙そうな顔した。

 

 そしてペトとルフェイの視線が合い―

 

「「………っ」」

 

 に、にらみ合いが勃発した!!

 

「む~」

 

「ぬ~」

 

 ああ、この2人は冥界でのパーティで激戦をぶちかましていたからな。因縁があった。

 

 とはいえ、この子はヴァーリチームの中では問題児度が低いところがあるからな。人選としては間違ってねえか。

 

 フェンリルも護衛としては優秀なんてもんじゃねえだろうしな。十分すぎるような―

 

「やっほー! 赤龍帝ちん!」

 

 そういいながら、イッセーに抱きついてくる影があった。

 

 っていうか、黒猫だ。黒歌だ。

 

 ……ちなみにサラリとペトと自分を挟む形でイッセーに抱き着いている。

 

 すさまじくトラウマになってるな。どんな撃たれ方したらこんなにトラウマになるんだ。

 

 そして胸出けえな。ま、姐さんやペトも負けてねえけどな。

 

「……あら、そっちの聖槍使いは童貞捨てたみたいね。態度でわかるにゃん」

 

「ふっ。俺の成長したオーラが漏れ出てるか。仕方ねえな」

 

 はっはっは。わかっちまうか。そうかそうか。

 

 そうだよな。俺ってば、童貞卒業したんだもんな。

 

 成長してるってことだ。ふっはっはっは。

 

「……そして気持ち悪くなったわね」

 

「そうなんだよ」

 

 黒歌のボヤキにイッセーがマジ返しする。

 

 この野郎。黒歌の胸の感触でグヘヘ状態だったのが冷めてやがる。

 

 そんなに今の俺は気持ち悪ぃのかよ。松田と元浜よりはましだって自負があるんだけどよ。

 

 そして、そんな俺たちをよそに、オーフィスはイッセーにまじまじと視線を向けていた。

 

「我、話、したい」

 

 ……話って言われてもな。

 

 俺たちが戸惑う仲、アザゼル先生は頭をぼりぼりと書きながら、ため息をついた。

 

「とりあえず、話を聞いてやれ。いや、マジで頼む。こっちはこの話し合いに命かけてんだよ」

 

 ま、まあ確かに命がけだろうな。

 

 ……まぁ、頑張れ、イッセー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでリビングで、俺たちはオーフィスと向き合っていた。

 

 つっても、会話すんのはあくまでイッセーなんだがな。

 

 ……さっきから、オーフィスはぼりぼりと菓子を食いながらイッセーを見つめてるだけだ。

 

「えっと、それで……話って何ですか?」

 

 イッセーが、少し戸惑いながら話を促す。

 

 それに対してオーフィスは沈黙していたが、やがて小首をかしげた。

 

 あ、かわいい。

 

 ……ほほえましい気分になってる場合じゃねえ!!

 

「ドライグ、天龍をやめる?」

 

 …………はい?

 

 いや、天龍ってやめれるもんじゃねえだろ。

 

 ぶっちゃけ、意味が分からねえ。

 

「あの、どういう意味?」

 

「今代のドライグ、今までと違う」

 

 イッセーの質問を半分ぐらい無視して、オーフィスは尋ねた。

 

「今までのドライグと違う成長をしてる。我、とても不思議」

 

 イッセーの成長……か。

 

 そういや、前にイッセーがこんなこと言ってたな。

 

『この前さ、ドライグが、「お前は俺のことを一個の存在として扱ってくれてる」とか訳の分からないことを言ったんだよ。ドライグって一個の存在だよな?』

 

 それを聞いた時、俺はちょっと苦笑した。

 

 そういうのが分からねえところが、馬鹿なんだよな。

 

 だけど、気持ちのいいバカだ。良いやつだってことが良く分かる馬鹿っぷりだ。

 

 多分だけど、今までの赤龍帝は、ドライグを対等な関係とは思ってなかったんだろうな。それどころか、赤龍帝の籠手という武器として見ていたんだろうよ。

 

 だから、会話は自分が必要だと思った時だけ。世間話なんて欠片もしない。相棒じゃなくて、あくまで愛用。そんな感じだ。

 

 だけど、イッセーはそんな風には見なくて、友達のように接している。いや、本当に相棒だと思ってんだろう。

 

 だからこそ、イッセーは才能が一番低いのに、ある意味で一番成長しているんだろうな。

 

「ドライグ、リムヴァン達と戦った時に紅になった。赤じゃなくて紅になったの、初めて」

 

 あ、やっぱり真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)になったことは知られてるわな。

 

 ま、宰相自ら出てきた戦いで変身したんだから、当然か。

 

 しかも大絶賛生中継。そりゃ知名度抜群だろうよ。

 

「だから聞きたい。ドライグ、一体何になる?」

 

 オーフィスさん。たぶんそいつそんな深い考え持ってないですぜ?

 

 イッセーはハーレム作って平和な毎日送りたいってだけで頑張ってるからな。天龍以外の何かになるって意識はねえだろ。

 

 つか、自分が天龍だっつー意識すらねえんじゃねえか? そんなこと、深く考えたりするタイプじゃねえだろうしな。

 

 しっかしこの流れでそれを言うのは度胸がいる。ぶっちゃけ、俺も流石にビビってる。

 

 とは言え、恐怖に耐えて輝くからこその英雄。それ位出来なきゃだめに決まってるだろうな。

 

 と、いうわけで!

 

 気合入れて俺が出るとするか―

 

『わからんよ、こいつが何になりたいかなんてな』

 

 ってドライグ!? こいつ出てきやがったよ!!

 

 む~。ドライグは比較的付き合いがあるみたいだし、こりゃ任せた方がいいのかねぇ?

 

 さてそれじゃあ俺達はどうしたもんかと思いながら見守っていたが―

 

「ドライグ、乳龍帝になる? 乳をつつくと、天龍超えられる?」

 

 などと言い放ったどこぞの無限のせいで、ドライグが過呼吸を起して会話が中断された。

 

 っていうか、魂だけなのに呼吸が苦しいって現象が起きる事に驚きだっつの。聖書の神もどんな粋な計らいをしてるんだよ。

 

 因みに、オーフィス達はこのまま何日間かい続ける事になった。

 

 ……連続して試験があるってのに、よくやるぜ。

 




このころのオーフィスって、実は一般常識が絶無なだけだったんですよね。

この会話の独特なテンポも「質問に質問で返すのは、基本的に失礼」「相手のことを考えて発現する」という二つを知識として知っていたら、こんな風にはならなかったと思います。そして一瞬でオーフィスの説得も成功していたでしょう。

多分ですが、一般常識を叩き込まれていたら、禍の団のトップになることもなかったと思います。


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第五章 5

そんなこんなでイッセー邸にやってきた、オーフィス。そしてお付きのルフェイと黒歌。

そんな彼女たちは一体何をしでかすのやら……。


 

 そんなこんなで、イッセーはいつも以上に勉強をする羽目になっている。

 

 なにせ、ただでさえ中間試験があるってのに、そのうえで中級昇格試験を受けなきゃいけないからな。

 

 え? 俺? 俺は良いんだよ。

 

 だって俺、勉強は趣味でやってるからな。毎日予習復習は欠かしてねえし、今更赤点はとらねえよ。

 

 普段の学力を試す為の試験なんだから、普段通りのスタイルで挑んだ方が正しく分かるってのも正論だろ? 付け焼刃はすぐに外れるってもんだ。

 

 で、そんな中オーフィスはじーっと見つめてるわけだ。イッセーをな。

 

 ……ぶっちゃけ勉強に実が入らねえだろう、これは。

 

 と、いうわけで。

 

「……ま、ざっとこんなところだな」

 

「わかった。やっぱり不思議」

 

 龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)をオーフィスに見せていた。

 

 ちなみに姐さんは、別室で勉強中だ。

 

「ほら、これでいいだろ? イッセーは明日試験なんだから、これ以上気を散らせるなよ」

 

「わかった。ドライグ見たいけど、今日は我慢する」

 

 素直にそう言ってくれるのは良いんだが、さてどうしたもんかね。

 

 ぶっちゃけ、今この場で切りかかっても返り討ちに会うってことだけは分かる。

 

 全盛期の二天龍がタッグを組んでも勝てねえレベルの化け物だ。俺一人で挑んだところで勝てるわけがねえ。

 

 だけど、なんていうかすっげえ隙だらけなんだよなあ。

 

 ここで急所を突き刺したら、それで全て終わるんじゃねえかって気にもなる。

 

 ま、失敗したらその場で大惨事だからしねえけど。

 

 ……争いがなければ英雄は生まれねえのが悲しいところだが、だからって争いを未然に防げるのにあえて火を注ぐってのもあれだろうしな。

 

 平和的に解決するなら、そっちの方がいいだろうしなぁ。

 

「やっほー! ヒロイ大丈夫っすかー!」

 

 と、そこにペトがやってきた。

 

 ちなみにここはグレモリー眷属及びその関係者が使用する特別トレーニング空間だったりする。

 

「差し入れもって来たッスよ!」

 

「おぉ 悪いなペト」

 

 俺は差し入れのスポーツドリンクを受け取りながら、天井を見上げる。

 

 しっかし俺ら、色々特別待遇だよなぁ。

 

 こんな特別空間をもらってる若手悪魔なんて、ごく一部だ。しかも関係者の俺が使わせてもらってる。

 

 それだけ俺達がトラブルに巻き込まれてるって事でもあるんだが、しっかし感謝するべきだな。

 

 こんなところがあるからこそ、桁違いに速い所為で広いトレーニングスペースを必要とする龍槍の勇者が使えるんだ。サーゼクス様達には感謝しねえとな。

 

 ま、オーフィスがここにいるから心臓に悪いんだが。

 

 マジで隙だらけなのが逆に怖い。俺達が束になってもかなわないと、アザゼル先生がはっきり言ってるからな。ちょっと怖い。

 

「はいオーフィス。オーフィスは野菜ジュースを飲むっすよ~」

 

「ん」

 

 怖い……。

 

「でもオーフィスはもっと健康に気を遣うッス。お菓子ばっかり食べるのはダメっすよ」

 

「お菓子、おいしい。ダメ?」

 

 怖……い……。

 

「強くなりたいなら、健康には気を使わないとダメっすよ」

 

「強くなる? それ、必要ある?」

 

「何言ってるっすか。グレートレッドを倒したいんスよね? だったらグレートレッドより強くなることを目指すのは立派な選択肢ッス。同格で満足しちゃいけないっす。格上を目指すッス」

 

 怖……。

 

「強くなる? どうすれば、いい?」

 

「お菓子ばかり食べないことっす。食は生活の基本っスから、野菜や肉などバランスよく食べるのは強くなる以前により良い生活の基本っスよ? あ、暴飲暴食にならない程度ならお菓子も食べて大丈夫っすからね?」

 

「他には? 他にはどうすれば、いい?」

 

「そうっすねぇ。人間の姿になってるなら、武術を習得するのもいいかもしれないッス。パワーを無駄なく拳に乗せることができれば、それだけで少しは強くなるッスよ」

 

 …………。

 

「ほかには? どうすれば、グレートレッド、倒せる?」

 

「まあ、基本的には日々の精進っす。ちょっときついぐらいのトレーニングを毎日続けるだけでも、だいぶ変わるッスよ。ま、ペトは才能がなさすぎて接近戦とか中距離戦とか全然伸びなかったっすけど」

 

「才能、ない? ヴァーリ、ペト褒めてた」

 

「狙撃しか能がないっすからねぇ。それ以外だと上級堕天使失格ッス。最近は対策も取られてるせいで、ペトは足手まといになりそうで……」

 

「そんなことない。禍の団(カオス・ブリゲート)、ペトのことを神滅具持ち(ドライグたち)の次ぐらいに危険視してた」

 

「でも最近の敵は頑丈なのも多いっす。ニエとの時はお姉様の窮地だったのに、露払いしかできなかったっすから……」

 

「大丈夫? ペト、落ち込んでる?」

 

「実はそうなんっすよ。ペトは当てることしか能がないから、火力も最近は頭打ちだったもんで……」

 

 ……怖くないな。

 

 ペト、いつの間にやらオーフィスと打ち解けてないか? イッセーやドライグより話してないか? 

 

 っていうか、なんでペトは敵の親玉のパワーアップに貢献してるんだよ。指導すんな。

 

 というより、そんなもんは禍の団が教えてないとおかしくねえか? なんで割と簡単な事も教えてねえんだよ、禍の団の連中は。教えろよ馬鹿か。

 

 そして今やペトの悩みをオーフィスが聞いている状態になってんな。

 

 まあ、最近はペト対策をしている連中もいるからな。

 

 上級堕天使の攻撃程度じゃびくともしない奴を連れてきたり、狙撃の警戒担当を用意したり。

 

 ペトはある意味で俺らの中で一番の化け物なんだが、スペックが上級堕天使止まりだからな。しかもオーソドックスだから特殊な切り札とかないし。

 

 ペトも何かしらの底上げが必要なんだろうが、しかしそれも困難ってわけだ。色々と悩むところもあるんだろうな。

 

 ……最近は人工神器の開発も進んでるとかいうし、アザゼル辺りがアップグレードするしかないんだろうか?

 

「大丈夫、ペト、とても脅威。だから元気出す。よしよし」

 

「こ、この子いい子っす! 可愛いっすー!」

 

 完全に立場が入れ替わってるな、オイ。

 

 ……俺、ツッコミ入れた方がいいんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小猫の友達に怒られちゃったにゃん」

 

 そうふざけて部屋から出て行った黒歌は、少しだけ歩くと視線を廊下に向ける。

 

「……隠れても無駄よ。仙術使いってのはね、気で感知できるから感知能力は高いの」

 

 鋭く、敵意すら向けた視線。

 

 それに観念したのか、リセス・イドアルは肩をすくめながら廊下の角から姿を現した。

 

「……そう言えば、美候がそんなことを言っていたそうね」

 

 その言葉とともに、沈黙が訪れる。

 

 黒歌は明確に警戒心を向けていたが、リセスは別段警戒心を強めていない。

 

「……小猫のガードマンのつもりだったんでしょう? ちょっかいかけた私に何か言うことはないの?」

 

「まあ、最初はそのつもりだったんだけどね」

 

 黒歌の言葉を、リセスは全くごまかそうとしなかった。

 

 元々ヴィクター経済連合のメンバーである黒歌は、三大勢力に与しているリセスにとって敵である。

 

 そんな勢力から、よりにもよって一応の首魁であるオーフィスがやってきた。

 

 大検を取る為の勉強をしているとはいえ、現在進行形で試験準備に忙しいイッセーほどの忙しさはない。そんなリセスが監視をするのは当然だともいえる。

 

 そんな時に、よりにもよって小猫にちょっかいを駆ける馬鹿が出てきた。

 

 小猫は本来まだ発生しないはずの発情期だ。更に、その欲求に従えば死ぬ可能性が非常に高いという厄介な状況。そこに因縁のある黒歌が介入。

 

 はっきり言おう、イッセーが入ってきた時は闘う事すら本気で覚悟した。

 

 なにせ小猫はイッセーに発情しているのだ。黒歌も発情期を持つ猫又である以上、その手の手練手管を習得していてもおかしくない。小猫の誘拐を試みて、無理だと悟ると殺す気で仕掛けてきた事もある前科がある。

 

 なので、オーフィスを敵に回す覚悟すら決めかけていたのだが―

 

「―流石は体つきのいい雌猫ね。発情期のコントロールはお手の物って事かしら。アザゼルも制御できるらしいとは言っていたし」

 

「まぁね。術に関してはお手の物だし、それ位はできないとやってられないわ」

 

 皮肉交じりのリセスの言葉に、黒歌は苛立ちながらも返答を返す。

 

 既に、小猫の発情期は収まっている。収まるように黒歌が手を加えた。

 

 それを、直接確認せずにリセスは察してのけたらしい。

 

「まあ、私は淫売だから、そういうのには鼻が利くのよ」

 

「あらあら、自分の男を自殺に追い込んだ雌奴隷ちゃんは言う事が違うにゃん」

 

 殺し合いレベルの喧嘩をするつもりで黒歌は嫌味を言ったが、リセスは苦笑を浮かべるだけだ。

 

 まるで気にしてないわけではない。だが、激昂する様子は欠片も見せなかった。

 

 ……間違いなく人生最大の黒歴史を、塩だらけの手で触れた自信がある。黒歌としても思いつく限り最大限の罵倒をしたつもりだ。

 

 なのに、リセスはあまり気にしてなかった。

 

「……怒らないの?」

 

「事実だもの」

 

 さらりと、リセスはそう言った。

 

 本当に彼女は怒ってない。仙術などで体調を探ってみるが、怒りの感情を浮かべているようには見えなかった。

 

「一万人以上いるスタジアムで、まるっと全部見せられたのよ? あの後どれだけクレームが来たか分かってるの?」

 

 既に慣れたとでも言わんばかりに、リセスは再び肩をすくめて両手を広げる。

 

 確かに、言われてみればその通りだ。

 

 だから自分も知っている。そして、少なくともあの会場にいた者達は知っている。老若男女問わずにだ。

 

 子供の情操教育に悪すぎるから、あの後クレームの百や二百は来てもおかしくないだろう。

 

「私は、ペトとヒロイの自慢(英雄)でい続けるけど、大衆の英雄は無理っぽいって思ってるもの。どこの世の中に快楽に負けて大事な人を死に追いやった屑を褒め称える民衆がいるのかしら?」

 

 自虐でもなんでもなく、事実としてリセスはそう言った。

 

 そして―

 

「―あなたの方が、まだ英雄と思えるんじゃないかしら?」

 

「―どこまで知ってる」

 

 本気で殺意が漏れ出た。

 

 ……黒歌の主は、間違いなく質の悪い部類だった。

 

 父親は自分達を子供と認知するのを面倒くさがり、主は主で外道。そして我らがリーダーの子供を産みたくても、リーダーにその気はない。

 

 黒歌は間違いなく男運が悪い部類だ。

 

 その中でも、特にかつての主が問題だ。

 

 ……眷属の強化に熱心。そう言う意味ではリアス・グレモリーと似ているかもしれない。実際同類と思った事もある。

 

 だが、あの男とリアス・グレモリーを一緒にするのは流石に失礼だと今なら断言できる。

 

 眷属に無茶な改造を施す外道と、眷属の成長を手助けする才媛。これを同列に扱うほど、黒歌は馬鹿ではなかった。そんなものが術の使い手として大成するわけがない。

 

 だが、それを彼女が知っているとは思えない。

 

 なのに言い当てた。

 

 その警戒心むき出しの視線を真正面から堂々と受け止めて、リセスは眉間に指を当てる。

 

「……流石に何日もいれば分かるわよ。下衆に翻弄された経験者の匂い、隠しきれてないわよ」

 

「女の勘も、侮れないわね」

 

 どうやら、ほぼ勘で当てられたらしい。

 

 この女の人生経験も壮絶だが、何やら同列扱いされているようだ。

 

「言っとくけど、私は改造手術を受けさせられそうになった事はあっても、凌辱された事はないわよ?」

 

「……なるほど、姉妹丼を強引に迫られて殺したわけじゃないようね」

 

「エロから離れるにゃん」

 

 まあ、ゲスが自分の欲望の為に体を弄んだ……といえば似てるのかもしれないが。などと黒歌は呆れ果てた。

 

「まあ、リアスはそういうことはしないから安心しなさい。あの子ほど善良な子、中々人間でもお目にかかれないわよ?」

 

「確かにね。心配したのが馬鹿らしくなったにゃん」

 

 悪魔など皆同じ……と考えるのは流石にリアスに失礼だったと、少しは反省している。

 

 もうそれで充分だと思ったのか、リセスは苦笑を浮かべると踵を返した。

 

「……お互い、恨まれたままはつらいでしょ? 酒と一緒に愚痴言うぐらいなら、一回ぐらい付き合ってあげるわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その最後の言葉に、一瞬本気で飲んでしまいそうになったのは、なぜだろうか。

 

 そこまで考えて、黒歌はすぐに自嘲した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなもの、大好きな人に敵意を込めて睨まれた者同士だからに決まっているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ペト、オーフィスに愚痴るの巻。


いや、結構最近になって気づいたんですが、ペトの強化が割と大変なんですよ。

戦闘スタイルが間違いなく完成している部類だから、変にいじくると違和感だらけになる。だからといって努力で底上げしようにも、ペトは一生懸命努力して得た者が、ちょっと練習した狙撃の技量に追い抜かれるぐらいセンスがない。

そこで今回、とっかかりとなる苦肉の策を開発しました。お楽しみください。








そしてリセスは黒歌の事情をよくは知りません。なにせ現政府も良くわかってないところがありますからね。

ですが、かつての自分の経験により、嗅覚は人よりちょっと敏感なので、何日も過ごしているうちに「あ、コレ誰かの悪意で人生めちゃくちゃにされた心当たりあるんじゃないか?」と気づきました。

なので、黒歌に対する評価はだいぶ変わっていますね。むしろ、駄目な方向に動いてしまった者同士のシンパシーとか感じているでしょう。


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第五章 6

そんなこんなで第六話。


ペトの成長に関してですが、実は結構大変だということに気が付いて苦労しました。

なぜなら、ペトの場合ホントに狙撃に才能が割り振られてる典型的一芸特化型だからです。汎用性も狙撃に割り振られているキャラ設定なのです。

ゆえに、それが生かせる環境なら非常に強いのですが、然し問題点も数多い。ぶっちゃけ英雄派とかの弱点を突くタイプからすれば、対策を取りやすいタイプです。

上級堕天使クラスの光力による超遠距離精密狙撃が持ち味ですが、裏を返せばそれ以外の技術は上級堕天使でも下の下なので、狙撃を生かせない環境で戦えばペトは楽に倒せる部類です。英雄派の中堅どころでもそれに持ち込むことができれば勝てるでしょう。

例えばデイウォーカー編で吸血鬼の里がそうでしたが、霧で戦場を包み込んで見通しを悪くする。これだけで狙撃はつぶせます。入り組んだ屋内で仕掛けるという戦法も行けますね。

そして火力も上級堕天使のレベルですので、原作第四章の邪龍共クラスとなればガン無視も狙える。
 オカルト研究部のメンバーは総合力なら上級レベルが原作最終章でも大半ですが、それぞれレアキャラなのでぶち抜ける武器があるわけです。
 しかしペトの武器は驚異的な狙撃の才能。つまり遠くから確実に当てる能力です。……それはそれで化け物なんですが、原作第四章に突入すると、邪龍軍団は頑丈だし織勢力のイグドラシリーズも神滅具の全身鎧型禁手とまともにやり合える性能だし、雑魚敵の量産型邪龍は量産型邪龍で数が多いから狙撃だと数減らすのも一苦労だしで、ペトの強化が必要だということに気が付きました。

 それでとりあえず即興で何とかしてみました。



 

 なんたらかんたらうんぬんかんぬん。

 

 今、俺達は冥界のホテルでだべりながら、イッセー達の試験の報告を待っていた。

 

「いやぁ、やっぱり昼酒は最高だな。他の奴らが汗水たらして働いている中で飲むってのが実にいい」

 

「そう言うところで邪悪なこと言うの、やめて頂戴。私の酒がまずくなるわ」

 

 と、アザゼル先生と姐さんは昼酒を飲みながらだべっている。

 

 ちなみにオーフィス達も一緒に来ている。

 

 流石に簡単な変装はしている。しかも術を使って気配を消しているようだ。結構な人数がいるが、誰一人として意識してない。

 

 こういうことができるからこそ、ヴァーリチームは神出鬼没ってわけか。流石はヴィクターでも少数精鋭で通ってるわけだな。

 

 頼むからこんなところで迷惑な事をしないでくれよな。ここで俺達が止めようとしても、被害が甚大になるからよ。

 

「……前から思ってったッスけど、部長は痴女いところがあるから気を付けるッス。そう言うところがイッセーの鈍感とかみ合ったんっすよ?」

 

「だ、誰が痴女よ!!」

 

 ペトの半目での指摘に、お嬢が反論をする。

 

 だが、同意を求めて向けられた視線に応える者は誰一人としていない。

 

 だって、イッセーとのファーストコンタクトを皆知ってるからな。そりゃそうなる。

 

 貞操観念が硬いのか緩いのかわからねえよ。俺、そのファーストコンタクトだったら「童貞食べてください!!」って土下座しそうだしよ。OKしてくれそうな感じなファーストコンタクトじゃねえか。

 

「り、リアスお姉さまはやっぱりイッセーさんに対していやらしすぎます」

 

「いや、アーシアも最近はイッセー相手に大胆ではないか。既にイリナと同じく染まっているぞ」

 

「染まってないもん! 私、ミカエル様のAだもん!!」

 

 教会三人娘のだべりを聞き流しながら、俺はから揚げを食べる。

 

 っていうかイリナ。お前はもう染まっている。

 

「イッセー先輩、そろそろ実技でしょうか」

 

「じゃねえの? 手加減の仕方間違えて、相手殺してなきゃいいんだが」

 

 俺は小猫ちゃんと一緒にもぐもぐとから揚げを食べる。

 

 ちなみに別の席でもオーフィスがむぐむぐとから揚げを食べていた……かと思えば、サラダも食べていた。

 

 どうやら、ペトの意見を参考にしたらしい。黒歌やルフェイよりバランスのいい食事をとってんな。

 

 思わぬところで敵にパワーアップの気配が出てきちまった。これ、和平結ばないと俺達負けるんじゃねえか?

 

 ちなみにギャスパーはここにはいねえ。

 

 朝早くから、グリゴリの研究施設に行って特訓をするとのことだ。

 

 どうも、バアルとのレーティングゲームの襲撃でイグドラフォースにボコられた事を気にしているらしい。

 

 あれは敵が強力すぎたわけでもあるんだが、しかしそれでも気にしてるようだ。

 

 ロスヴァイセさんも、お嬢の眷属になってからあまり役に立ってないのを気にしていたし、こういうのって眷属全体の特色なのかねぇ。

 

 ペトに至っては敵の親玉に慰められてたし。いや、その人の部下なんだよ、お前の攻撃が通用しなかったの。

 

 ……俺らは若手の中では化物だって言われてるけど、それでも勝てない連中はゴロゴロいるんだよなぁ。

 

「敵のインフレも激しくなってきているし、俺らも何かしらのパワーアップが必要なのかもねぇ」

 

「そうですね。私も、これまで以上に頑張らないと」

 

 俺は小猫ちゃんと一緒に少し落ち込んだ。

 

 俺の場合は、やっぱり聖槍や魔剣を禁手に至らせる事だよな。

 

 英雄派は、禁手に至る方法を探り出して、それをばらまく事で潜在的な不満を持っていた連中をたきつけている。そう言う連中を捕えれば、聞き出す事もできる。

 

 ……曹操に対抗する為にも、俺もそれ位はした方がいいんだろうか。

 

「私は、どうしたものでしょうか」

 

 小猫ちゃんはその辺大変だ。

 

 仙術は扱いが難しいからな。その辺の指導役が必要だ。

 

 ……いっそのこと、黒歌に要求するっていう手もあったんだがな。

 

 だけどヤベえな。黒歌は小猫ちゃんを奪いに行って、それを拒絶されたら殺す気で仕掛けた前科がある。しかも主殺しのはぐれ悪魔だ。何してくるかわからねえ。

 

 流石に教わるってのは困難かねぇ。

 

「あら、それならいっそのこと黒歌に教わったら?」

 

 って姐さん!

 

 俺はちょっとそれは的な目を向けるけど、姐さんは意にも介さずつまみの枝豆をぱくついた。

 

 そして、お手拭きで手を拭いてから、小猫の頭をなでる。

 

「あれで中々話しは分かるわ。きちんと対価を払えば、まあアドバイスぐらいはくれるでしょう」

 

 そ、そうなのか? すごくいい加減なアドバイスしそうで怖いんだけどよ。

 

 っていうか対価ってなんだよ。イッセーの種とかいうんじゃねえだろうな。お嬢キレるぞ。

 

 姐さんはそのまま微笑を浮かべると、小猫の頭をもう一度撫でる。

 

「まぁ、テンション任せの生き方なところはあるけれど、腹を割って話せばいろんな事情も―」

 

「ちょっと」

 

 と、姐さんの言葉を遮って、黒歌の声が届いた。

 

 割とジト目だ。結構イラついてる感覚がもろに出てやがる。

 

「……余計なことは言わなくていいのよ」

 

「あら、悪かったわね」

 

 と、姐さんはそんな黒歌に苦笑すると、またビールを飲みながらつまみを堪能し始める。

 

 ん? なんかあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなやり取りの後、イッセー達が来たので、俺達はそのまま談笑をしながら食事を再開した。

 

 イッセーの奴、実技の試験で鎧まで展開して割とマジで相手を殴り飛ばしたらしい。

 

 死んだんじゃねえかとか思ったけど、幸い生きてたらしい。その悪魔、将来性あるんじゃねえか? 頑丈すぎだろ。

 

 つか、イッセーの奴相当自信なかったらしい。実技試験は模擬戦闘だったらしいけど、負ける可能性とかを本気で心配していたとか。とにかく全力でぶつからないとと気合入れていたらしい。

 

 ……お前が中級悪魔候補程度に苦戦するわけねえだろ。前に覗く覗かないで激闘を繰り広げたライザーってのは、上級悪魔だったはずだぞ。上級とは戦えてるじゃねえか。

 

 あいつ、自分が苦戦続きだったから今回も苦戦すると思ってたみてえだな。

 

 あの野郎、自分の戦ってきた連中がどんだけ化け物なのかよくわかってねえな。

 

 コカビエルは最上級堕天使の中でも、グリゴリの幹部を務める傑物。ヴァーリは、魔王の血を継ぐ白龍皇。ディオドラは姐さんや俺に匹敵する神器適合能力を、悪魔のみで保有している奇才。ロキは腐っても北欧のメジャーな神。そして英雄派は天才ぞろい。

 

 ……どいつもこいつも最上級クラス。そんなのとまともに戦えるってことが、どんだけ化け物なのかよくわかってねえみてぇだな。

 

 ったく、馬鹿じゃねえのか。

 

 んなことを思いながら、俺はトイレに向かって声を投げかけた。

 

「姐さん、そろそろ収まったかぁ?」

 

「だ、大丈夫……。全部出したら収まったわ……」

 

 今、姐さんはペース配分を間違えて吐いていた。

 

 どうも冥界独自の食い物を喰っていたら、食い合わせも悪かったらしい。姐さんが飲みすぎで吐くところなんて初めて見たぞ。

 

 出すもん出し切ったって感じだな。

 

 こんな姐さん、俺は見たくなかった……っ

 

「ヒロイ~。お姉様は大丈夫ッスか~?」

 

 と、ペトがドリンクバーで用意したオレンジジュースを持ってきてくれた。

 

 なんでも、悪酔いには糖分を補給するのがいいとか。

 

「ああ、だいぶ調子が良くなってるぜ」

 

「……ごめんなさい、ペト。心配かけたわね……」

 

 と、トイレのドアを開けて、姐さんがだいぶましになった顔を見せて出てきた。

 

 そのままジュースを貰うと、一気に飲み干した。

 

「ふぅ。水分取ったらかなり楽になったわ」

 

「無理は禁物っすよ、お姉様」

 

 そう苦笑するペトを見て、俺はふと気が付いた事がある。

 

 ペトの胸元には、ネックレスが輝いていた。

 

 8の字みたいな飾りのついたネックレス。なんか黒く輝く金属でできている。

 

 こんなおしゃれしているところ、見たことねえな。なんで今日に限って?

 

 あ、姐さんがプレゼントしたのか。それなら、ペトなら毎日でもつけていようとするだろうな。

 

 いや、俺にもくれよ姐さん。俺だって姐さんからプレゼント欲しい。童貞を食べてくれたのは感謝するけど、それとこれとは話が別なんだよ。

 

 そう思った俺は視線を姐さんに向けるが、姐さんも首を傾げていた。

 

「あら? ペト、そのネックレスは?」

 

 そう姐さんに言われて、ペトは首を傾げる。

 

 そして首元に手を当てて……。

 

「あれ? なにっすかこれ?」

 

 ペトも知らんのかい!!

 

 いや、ちょっと待て。

 

 当人も知らんうちに首掛けられていたネックレスって、ホラー以外の何物でもねえ。

 

「おいペト、それ、危ないから外した方がいいんじゃねえか?」

 

「待ちなさいヒロイ。外したら死ぬ呪いとかけられてそうだから、アザゼルに相談しましょう」

 

「ちょ、お姉様もヒロイも怖いこと言わないでほしいっす!!」

 

 俺達がちょっとパニックになりながら、とりあえず困った時のアザゼル先生に頼ろうとしたその時だった。

 

 ……黒に近い、霧がレストランを包み込んだ。

 




ついに英雄派襲撃。

因みに、曹操の七宝の女宝ですが、ペトとリセスにはあまり意味がありません。

リセスは駒王学園の中でも最上位クラスの実力があるので突破できます。神滅具を禁手に至らせたのは伊達ではなく、そして準最強の神滅具なので元から強力なのです。加えて龍天の賢者になれば、女宝どころか七宝全部に対してリスクもあるけどリターンが馬鹿でかい対抗策が取れます。……自分の作品、対女性能力持ってる曹操相手に有利にできる女多いな。

逆にペトは戦闘スタイル的に相性が最悪ですね。超遠距離からの精密狙撃が持ち味のペトですので、そもそも女宝を届かせるのが大変です。射程が長いというのは脅威なのです。曹操のスペックではペトの火力でも一発で大打撃を与えらえるのもポイント。


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第五章 7

本格的に曹操が行動開始。

まずは、数で圧倒的な差がある時の正攻法を取ってきました。


 

 霧が包み込み、そして水が流れるように消えていく。

 

 さっきの霧、間違いなく絶霧(ディメンション・ロスト)だ。パーティの襲撃や、京都で現れたのと同じ霧だったからほぼあたりだ。

 

 ってことは、ここは異空間なのか?

 

 慌てて周りを見渡すが、特に変な事は起きていない。

 

 レストランの客も従業員も、俺達の視界の範囲内では全員いた。突然の霧に戸惑って、きょろきょろとしている。

 

 どういうことだ? 民間人まで積極的に巻き込む必要はねえだろう?

 

 ヴィクターは、大義名分があるから世界に堂々と戦争を仕掛ける事が出来ている。それが崩れたら一気に崩壊してもおかしくない。そして、今や民間人を積極的に巻き込んだ戦争は、国家やそういった組織でやれば一気に世論が傾くレベルだ。

 

 そんなことするほど、ヴィクターは切羽詰まってねえだろう。

 

 ガールヴィランの時だって、ヴィクター首脳陣は抑え込んでいたから奴らは離反して行動したんだ。少なくとも、首脳陣は大義名分をなくすほどの戦闘を好んでない。

 

 なのに、一体なんで……?

 

「……ヒロイ、ペト。ここ、さっきと同じよ」

 

 姐さんが、周囲を警戒しながらそう告げた。

 

 へ? 同じって?

 

「転移してない。さっきのは、私達を狙ったものじゃないわ!」

 

「「はぃい!?」」

 

 俺とペトは驚いた。

 

 え? どういうことだよ?

 

 もしかしてドッキリ? 魔王様が、オーフィスを内密に駒王町に連れ込んだアザゼルに腹を立てて、ドッキリでも仕掛けたのか?

 

 いやいや。流石にそこまでするとは思えねえんだが。

 

 だけど、ただの悪戯で絶霧を使うやつらはいないだろうし……。

 

「あれ? お客さま? お客様ぁ!?」

 

 そして、ウェイトレスのその声に、俺達は振り返った。

 

 ……あ。この位置だと、イッセー達の場所は確認できねえ。

 

「まさか、部長!?」

 

 顔を青ざめさせたペトの声で、俺達は弾かれるようにイッセー達を確認する。

 

 ……いねえ。料理とかを置いて、イッセー達もオーフィス達もいねえ!!

 

「まさか、そういうことなの……っ!」

 

 そういうことってどういうことだよ姐さん。

 

 オーフィスが来たのは罠じゃねえってことは、流石に分かる。

 

 そんな必要がねえぐらい圧倒的な戦力差なわけだし、そもそもヴァーリはそういうのを好まないはずだ。

 

 それにヴィクターだってこんな真似はしねえだろう。

 

 ヴァーリチームが好き勝手やってるのはいつもの事だけどよ? だからって、このタイミングで襲撃しかける必要なくね? 下手したらオーフィスの機嫌が損ねるんじゃね?

 

 そんなことになったら、不都合なのはヴィクター経済連合の方だと思うんだがな。

 

 で、姐さん。答えはいかに。

 

「……敵の狙いは、オーフィスの可能性があるわ!」

 

「「えぇええええ!?」」

 

 俺とペトは同じく大声で叫んだ。

 

 え、え、どういうこと?

 

「あ、すいません。消えたのは連れですので、代金は払います。……あ、領収書を切ってください、グリゴリで」

 

 姐さん。領収書をもらっている場合じゃねえだろ。

 

 っていうか、この状況下で律儀に支払うんだな。しかも黒歌たちの分まで払うとか、姐さんも人がいいな。

 

「お、お姉様! それよりオーフィスが狙いってどういうことっすか!?」

 

「冷静に考えなさい、ペト。そもそもおかしかったのよ」

 

 慌てて狙撃銃すら取り出すペトに、姐さんは肩に手を置いて止めながらそういう。

 

 そもそもおかしい? いったい何が?

 

「ヴァーリチームの信用は、ヴィクターの内部では底値に近いはず。それなのにオーフィスの直衛がヴァーリチームだなんて、ちょっとおかしいわ」

 

 あ、それもそうだな。

 

 ヴァーリチームは勝手な行動がたたって、ヴィクター内部でも煙たがられてるのは俺たちも知ってる。

 

 なにせ、ヴァーリチームに対する嫌がらせを目的の一つとして、イッセーたちのレーティングゲームは妨害されたわけだしな。

 

 ……お嬢達、まともにレーティングゲームができてねえような気がする。いや、それはどうでもいいか。

 

「で、姐さん。それがどうしたんだよ」

 

「冷静に考えなさい、ヒロイ。……そもそも世界の覇権を狙うヴィクターにとって、グレートレッドの消滅はメリットが薄いわ」

 

 あ、確かに。

 

 前に聞いたが、次元の間にいるのがグレートレッドだから、俺たちの世界は大丈夫だとか言う説があったな。

 

 変質しているとかいう今のオーフィスを次元の間に据えたら、何が起こるか分らないとか言ってたな。

 

「オーフィスの蛇は確かに強力だけれど、それを差し引いてもオーフィスの願いが叶う事はデメリットが大きい。……ヴィクターの連中は考えてたはずよ、いずれオーフィスをどうにかしたい、と」

 

 ってことは、つまり―!

 

「オーフィスを、どうにかする手段を手に入れたってことか?」

 

「対龍特化型の複合禁手をリムヴァンが編み出した……当たりかしらね」

 

「それってつまり、イッセーとヴァーリもついでに殺そうとしてるってことっすか!?」

 

 おいおい、どうすんだよそんなもん。

 

 っていうか絶霧の恐ろしさが嫌というほど分かる。

 

 神出鬼没にもほどがある。しかも、罠を仕掛け放題の空間に無理やり取り込めるとか反則だ。上位神滅具は伊達じゃなさすぎだろ!!

 

「でも、だったらなんでペト達は連れ込まれてないんっすか!?」

 

龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)対策よ。……イッセーと分断されれば、私達は強化されない……!」

 

 そ、その欠点は俺達も十分理解してたけどここで来るか!!

 

 ん? ちょっと待てよ?

 

 分断作戦で倒しに来たってことは……。

 

「俺達、ヤバイ?」

 

「とにかく、人気のない方向に行くわよ。急いで走って!!」

 

 う、うぉおおおおお!!!

 

 イッセー! 無事でいろよぉおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は都市を高速で飛行しながら、サーゼクス様に連絡を取っていた。

 

 このスピードでの高速飛行は住民に迷惑がかかる。だけど、このままこんな人ごみの中にいたら、逆に被害がでかくなる。そう言う面倒な塩梅だ。

 

『……アザゼルが懸念していた通りの状況ということか……っ!』

 

 事情を聴いたサーゼクス様は、そういうとテーブルを叩き割った。

 

 どうやら、アザゼル先生はある程度状況を分かっていたらしい。流石にあの人は頭がいいな、流石研究が本領なだけある。

 

 でも、できれば俺らにも言ってほしかったですぜ先生。子供に余計なことを考えさせないのは立派っすけど、それも時と場合がありやしてね?

 

 とにもかくにも、どうやらヴァーリは身内がオーフィスに手を出すことを想定していたみてぇだ。それでオーフィスをいったん預けるってのも目的の一つだったらしい。

 

 ってことはつまり、姐さんの想定通りにオーフィスをどうにかする方法を見つけたって事だ。おそらくは、対龍に特化した複合禁手ってところだろうな。それも、たぶん神滅具の特化型禁手クラス。

 

 蒼き無神論の箱庭(イノベート・クリア・エイシズム)だっけか? あれみたいなもんを作ったって考えるのが妥当かねぇ。

 

「とにかくそういうわけだから、イッセー達をすぐにでも探して! あと、私達が向かってる先を立ち入り禁止区域にしてほしいのだけれど!!」

 

『了解した。ちょうどその方向に、危険な魔獣が出没することから一般人の立ち入り禁止区域がある。そこに増援を派遣する』

 

 手際がいいぜ! さっすが魔王様!!

 

 とりあえずそこなら、堅気の連中の被害は出さなくて済みそうだな。

 

『だが、事態が急すぎて時間がかかる。それまでは―』

 

「了解っス! 何とか自力で頑張るッス!!」

 

 ペトが元気よく答える。

 

 ああ、神滅具二つに狙撃の鬼才が揃ってんだ。そう簡単にはくたばらねえよ。

 

 むしろ危険なのは、狙い撃ちされたイッセー達の方だ。

 

 まず間違いなく、もろとも殺すつもりで仕掛けてくるはず。俺や姐さんが曹操ならそうするし、おそらく長可はそう勧めるはずだ。

 

 ……イッセー、お嬢、ゼノヴィア、イリナ、皆……っ!

 

 俺が歯を食いしばっている間に、俺たちは立ち入り禁止区画の奥深くにまで入り込んだ。

 

 そして、その瞬間真後ろから聖なるオーラを纏った攻撃が襲い掛かる。

 

 俺達が身をひねって回避し、そしてその一撃は森をごっそりと削り取った。

 

 くそが! このオーラは間違いなく黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)!!

 

 出てきたのは、森長可か!!

 

 俺達が着地すると同時に、聖槍を構えた長可が、森の中から姿を現す。

 

「よぉ。悪いが、お前らの相手は俺がするぜ」

 

「……一人とは、相当自信があるようね」

 

 姐さんが皮肉を飛ばすが、長可は肩をすくめるとため息をついた。

 

「どうも、あいつ等は遊びが過ぎていけねえ。若い頃を思い出して、ちょっと恥ずかしい気分になるぜ」

 

 なるほど、それならイッセー達が生き残る可能性はありそうだな。

 

 若気の至りに感謝しねえと。あいつらの弱点は若さってやつだな。

 

 いや、姐さんはともかく俺とペトも同じぐらいの年なんだけどよ? いや、俺は正確にはわからねえけどよ?

 

 とにかく、イッセー達に助かる可能性が出てきたなら、こっちに集中できるってもんだぜ。

 

「……ヴィクター経済連合は、オーフィスを切り捨てる気?」

 

「敵に教える馬鹿はいねえが、まあ、すぐにわかるからいいか。ただし―」

 

 その瞬間、いつの間にか長可は間合いを詰めていた。

 

 スピードが尋常じゃないぐらい速いわけじゃない。ただたんに、走るタイミングが掴めなかった。

 

 歩法ってやつか? くそ、武術大国ニッポンめ!

 

 突き出された聖槍を、俺は聖槍で防ぐが弾き飛ばされる。

 

 そして、その衝撃を上手く活かして長可は聖槍をで薙ぎ払った。

 

 その攻撃速度は速いが、しかしそれ以上に読みづらい。

 

 攻撃速度は曹操と同格。だが、気づいたら攻撃が既に始まっていて、反応がまじでムズイ。

 

 入るまでの予備動作が少なすぎんだよ。その所為で初動が解り難くて、反応が遅れる。

 

 ……奴の主である織田信長は、戦国時代の在り方を一変させた風雲児と言われている。

 

 そのうちの一つが、武士の完全な戦闘職業化だ。

 

 それまでは平時では農業をして、有事の際に戦う事が多かった当時の武士達や足軽を、平時の際でも戦闘訓練を行う戦闘職としてきっかり分けたらしい。

 

 そして、そのうちの一人が目の前の聖槍使い、森長可。

 

 文字通り戦場で生きて戦場で死んだ男。卓越した鍛錬と、潜り抜けた実戦が作り上げた人間という名の戦闘兵器。

 

 ……英雄派やイッセー達とは、その基礎骨格が比べ物にならねえ!!

 

「はぅあ!?」

 

「ペト!?」

 

 姐さんはギリギリでガードが間に合ったが、ペトは反応できなかった。

 

 いきなりの攻撃で、狙撃に以降できなかったのが致命的だ。ペトのセンスじゃ反応できるわけがねえ。

 

 そのまま森の中に吹っ飛んで消えていくペトをカバーしたいが、一瞬でもそうしようとした次の瞬間、目の前には聖槍の穂先があった。

 

 槍王の型の応用で無理やり反応して体を動かす。そしてそれでもかわし切れず、結構頬が深く切れた。

 

 ……ヤバイ、こいつ、マジで強い。

 

「ヒロイ、そっちは任せ―」

 

「おっと」

 

 姐さんが駆け出そうとしたその瞬間、突き出した聖槍を戻す勢いで、石突が姐さんを狙う。

 

 両手を交差してオーラを放って受け止めた姐さんだけど、威力を殺しきれず弾き飛ばされた。

 

「させるわきゃねえだろ。ま、芯に響くぐらいいい感じに当たったから、内臓がつぶれて致命傷じゃねえか、ありゃ」

 

 んの野郎!

 

 人を殺しなれてるだろうこいつが言うと、冗談に聞こえねえ!!

 

 そして長可はいつの間にか、俺達よりもペトに近いところに移動していた。

 

 くそ、動きが自然すぎて殺気がねえと反応しきれねえ!!

 

「んじゃぁまあ。そろそろあんた等面倒だから、上からは殺しとけって言われてんだよ。曹操は「もうちょっと強くさせたい」とか言ってたが、敵を強くするのもあれだしな」

 

 静かに、僅かに頬を吊り上げながら、それでいて目は全く笑っていない。

 

「一人殺せたら撤退とか言われてたけどよ、やれるなら全員殺した方がいいよなぁ?」

 

 ……間違いない。こいつは、ある意味で俺達が戦ってきた中で一番強い。

 

 一番、兵士をやっている。

 

「首、おいてってもらうぜ?」

 

 くそ、このままだと、マジで死ぬぞ!?

 




Q:敵の数が多すぎますし、敵のホームに集まっています。どうすればいいですか?

A:分断して一部をこっちのホームにおびき出しましょう。









流石に真女王イッセー及び、勇者ヒロイや賢者リセスの三人を相手にしながらゲオルクをカバーするのは困難と判断して、長可に任せることにしました。英雄とは、勝てる方法を見つけ出して勝つべくして勝つからこそ英雄なのです。








 そして、長可は聖槍使いとしてはヒロイや曹操ほどぶっ飛んではいません。信仰心が薄いくせして聖書の神から加護受けまくりのヒロイみたいな異常ではありませんし、ただいまぜっさい無双タイム柱の曹操みたいなトンデモ禁手にも目覚めていません。

 ただし、戦士としての長可の技量は、曹操とは別ベクトルで完成しています。だからこそリムヴァンもあえて他の保有者ではなく長可を復活させて、聖槍をあたえたのです。

 こと少数精鋭相手の戦闘能力なら、長可は曹操みたいな策に頼らなくても同等の成果を発揮します。……言い方はあれですが「単純な槍使い」としての戦闘能力なら、ヒロイも曹操も長可には絶対勝てません。

 なんというか、強いというよりも巧いという感じですね。きわめて完成された動きな挙句、しかも見切りづらいという最高水準。曹操とは別の意味でテクニックタイプの極みです。


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第五章 8

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムヴァン・フェニックスは、ジークと一緒にお茶をしていた。

 

 腕のいい配下の機嫌を取るのも、立派な宰相の仕事である。そのあたり、リムヴァンはマメであった。

 

 特にジークは最近機嫌が悪い。

 

 リセスにたいして、ニエ(メタ)を張って殺しに行かれたのでストレスが溜まっている。自分の獲物を、勝手に天敵を使って殺そうとすればそうなるだろう。

 

 彼は禍の団でも有数の使い手。それも、神器移植も蛇の投与もしていない人間にも関わらず強大な力を持っている。剣腕に関していえば、自分の直属になっているヒルトすら超えるだろう。しかも、ついに彼のお眼鏡にかなった強化方法があれば、全盛期の天龍にすら牙を突き立てるだろう。

 

 間違いなく、世界最強格の剣士の1人。離れられるのは心から避けたい。

 

 だから、こうしてご機嫌取りをしているのである。

 

「……長可は、本当に殺しそうで不安なんだけどね」

 

「まあまあ。三対一で殺されるようじゃあ、君が倒すには値しないでしょ。殺されたのなら、わざわざ君が出向くに値しなかったってことでいいじゃないか」

 

 やんわりとなだめながら、リムヴァンはジークにお茶を差し出す。

 

 それで気分を落ち着けたのか、ジークはため息をついた。

 

「とはいえ、ついに禁手にまで目覚めたみたいだね。さすがは僕のリセス。長可には悪いけど、返り討ちにできるだろうさ」

 

「まあ、僕としては「一人殺せたら帰っていいよ」とは言ってるよ。彼等は仲間思いだから、下手に怒らせると怖いしね」

 

 もっとも、その怒りで生まれた隙を容赦なくつけるのが長可なのだが。

 

 ジークには悪いが、リムヴァンは三人纏めて殺してもらうつもりで長可を動かしている。

 

 曹操は紛い物のヒロイだけ死んで、ジークの獲物であるリセスや得難い難敵になるだろうペトには生き残ってもらいたいようだが、そうもいかない。

 

 リムヴァンとしても、ぜひ三人とも死んでもらいたいところではある。

 

 この手のゲームは歯ごたえのある敵がいてこそ面白いものだが、たくさんの者たちに「勝つ」ことを前提として協力してもらっている以上、勝算を高く維持する必要があるのだ。

 

 いかにあの獣があるとはいえ、Lという伏札があるとはいえ、不確定要素は少なめにしておきたい。

 

 そういう意味では、オーフィスを切るのは時期尚早かもしれない。

 

 しかしこれも世の中のせちがらさだ。自分は事実上のトップとして行動しているが、下の者たちのご機嫌もある程度はとらねばならない。ある程度は合議制なのだ。

 

 ゆえに、オーフィスを切ることを選んだ。

 

 他とは次元違いの強さを持つ最強戦力を切るのはあれだし、彼女も契約者の一人なのとっと心苦しい。しかし、それが他の派閥の総意なら仕方がない。

 

 もとよりヴィクター経済連合は、禍の団とは別物なのだ。

 

 禍の団ができる前から、潜在的に異形の力を使ってより強い勝ち組になりたいという存在は多かった。

 

 それを、真っ先に味方にすることに成功したLのアジテーション能力によって引き入れたのが、ヴィクター経済連合の前身。

 

 その後、サタナエルの手引きで生まれた禍の団を取り込む形になったため、リムヴァンとしてもオーフィスをどうにかしたいという感情は持っていた。

 

 そして、ヴィクター経済連合は元より、禍の団の派閥もオーフィスをどうにかするという方向で意見が一致した。

 

 そうなれば、オーフィスには悪いがそうすることになる。

 

 ……渡りに船とばかりに、曹操がハーデスの協力を取り付けれたことは幸いだった。

 

 龍喰者(ドラゴン・イーター)、サマエル。

 

 神の悪意。神の毒。本来あり得ない、聖書の神の悪意・毒・呪いを一身に受けるもの。

 

 それゆえに、その存在は龍に対する究極の天敵となりえる、龍を滅ぼす龍。

 

 この存在をちらつかせてきたハーデスは、それを一時的にレンタルすることを請求した。

 

 曹操はそれを認め、リムヴァンたちにも話を通している。そして首脳陣もそれを受け入れた。

 

 しかし、よりにもよってそのタイミングでオーフィスが失踪。加えて懲りずにヴァーリチームが独断行動。

 

 方々に手をまわして調べ上げた結果、グレモリー眷属と行動を共にしていることが発覚。そしてヴァーリチームが事実上の背信行為をしていることも確信。

 

 結果として、曹操の発案でヴァーリチームの追放が決定。オーフィスの力を限界まで奪い、残滓をハーデスに譲るという契約が交わされた。

 

「まあ、あの骸骨爺さんは何かたくらんでるよ。たぶんだけど、第三勢力と繋がってたりするんじゃないかな?」

 

「いいのかい? そんな奴に残りかすとは言え、オーフィスを与えたりなんてしたらまずくないかい?」

 

 ジークの懸念ももっともだろう。

 

 そして、リムヴァンはそれをきちんと理解している。

 

「……ねえ、こういう時に一番うざいのが何かわかるかい?」

 

「なんだい?」

 

 ジークが訪ねてきて、リムヴァンはニヤリと嗤った。

 

「どっちにもつかずに利益だけ取ろうとしている、うざい骨のことさ」

 

 そう言うなり、リムヴァンはスマートフォンを取り出すと、電話とつなげる。

 

「デイアちゃーん。ハーデスとの会話のデータ、こっちに侵入してるスパイに渡しちゃってー」

 

 そう言い放ち、リムヴァンはクックックと嗤った。

 

 この二極化が進んでいる戦いで、一番うざいのは何か。

 

 足を引っ張る味方? 強大な敵? それとも面倒な第三勢力?

 

 いな、今迷惑なのは、陣営を一応三大勢力側にしておきながら、三大勢力に対する嫌がらせに集中しているといってもいいハーデスが。

 

 これはもう、どこにとっても敵でうざいだけだ。

 

 なので……。

 

「人を動かすコツを知ってるかい?」

 

「願っていることを叶える方法を用意することかな?」

 

「おしい。それともう一つを組み合わせる必要があるんだよ」

 

 そう告げると、リムヴァンはニヤリと嗤った。

 

「逃げ道を断つことさ。……ハーデスには嫌でもヴィクター経済連合に所属してもらう」

 

 リムヴァン・フェニックスは悪魔である。

 

 悪魔は契約は守る。だが、同時に相手を破滅させる者でもあった。

 

 ハーデスの最大の失態は、リムヴァンを舐めてかかっていたことだ。

 

 彼は、交渉の一部始終を録音する程度の行動は平然と行えるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と姐さんは、長可に翻弄されている。

 

 俺も姐さんも、禁手を使っている。そのうえで長可に翻弄されている。

 

 すでに姐さんは時間切れになっている位、長可に苦戦させられている。

 

 そして、俺たちは結構ボロボロなのに、長可には傷一つない。

 

 こいつ、マジで強い……っ!

 

「おいおい、まさかと思うがこの程度か?」

 

 長可は息が少し乱れてるが、しかし疲れを見せない表情で槍を構えている。

 

「これが……鬼武蔵……っ」

 

 姐さんもガス欠になりながらも、それでも立ち上がって雷を叩き落す。

 

 そして、それを長可は見もせずに聖槍で弾き飛ばした。

 

 こいつ、マジでシャレにならねえが……!

 

「もらったぜ!!」

 

「……行きなさい、ヒロイ!!」

 

 その雷を媒介に、俺は紫に輝く双腕の電磁王を展開。槍王の型を構える。

 

 狙うは薙ぎ払いの箒星か回転打撃の崩星の二択。

 

 どっちを反応しようと、その逆をぶちかませばいいだけの話。もう奴は逃げられねえ!!

 

 終わりだ、長可!!

 

 サッサとペトを助けに行かねえといけねえんだよ!!

 

 そして長可は崩星の対策を選択した。

 

 なら、箒星で薙ぎ払う。

 

 終わりだ、森長可。

 

 今の槍王の型は、一味違うぜ。

 

「槍王の型―」

 

「なあ―」

 

 そして槍王の型を薙ぎ払い―

 

「―足元がお留守だぜ?」

 

 ―その一撃は、盛大に空振った。

 

 気づけば、俺は踏み込みが前に出すぎていた。

 

 俺が踏み込もうとした場所には、長可の聖槍の石月が置かれている。

 

 それを、俺は無意識に避けた。それだけの動きができるほど、俺は高水準に鍛えられている。それが敗因だった。

 

 気づいた時にはもう遅い。その踏み込みのずれが動きをそらし、長可はその動きのずれから生まれる安全地帯にもぐりこんでいた。

 

「んじゃ、次は二人目だな」

 

 そして、一瞬で、聖槍が振るわれて―

 

「―そうはいかないっス!」

 

 その言葉とともに、俺の顔ど真ん中を貫くはずだった聖槍はそれた。

 

 頬をかすめた聖槍にひやりとするより、俺はその声の持ち主が平然としていたことに驚いた。

 

 あり得ないといってもいい。いくら単純な種族的頑丈差で俺や姐さんを上回っているとしても、それでもあれはまずい。

 

 なにせ、俺の聖槍からの加護や姐さんの神器ほどの強化をもたらされてないんだ。長可も致命傷を与えたと確信していたし、俺たちも戦闘ができるとは思っていなかった。

 

 だが、今俺たちの視界には、狙撃特化の人工神器を構えた、ペトの姿が映っていた。

 

「チッ! フェニックスの涙は準備済みってか!」

 

「いえ、持ってない筈なんだけど……」

 

 長可にそう素直に答えてしまうぐらいには動揺しながらも、姐さんは本能的な動きで火炎弾を放つ。

 

 同時に俺も魔剣を足元に大量に出すが、長可はさっきで危険を察知したのか、即座に攻撃をかわす。

 

 そして即座にペトに狙いを定めなおして、攻撃を叩き込もうと踏み込み―

 

「うわっとぉッス……うわぁ!?」

 

 その瞬間、それに反応したペトははるか上空に飛び上がっていた。

 

「なんだ? ……前に比べて速すぎる!?」

 

「ペト!? あなた、いつからそんなに速くなったの?」

 

 長可と姐さんが同時に困惑するが、何より困惑してんのはペトだ。

 

 なんでこんな高く飛びあがってんだって、顔に書いてある。

 

 おいおい、コレ、ペトの奴なんか覚醒してねえか!?

 

「おいペト! お前、そもそもなんで無事なんだ?」

 

「へ? いや、すっごく勢いよくくらって死んだと思ったっすけど、気が付いたら別に骨にひびも入ってない感じっす」

 

 マジか。結構もろに喰らってたと思うんだけどよ。

 

「嘘だろ……? いくら堕天使に特攻じゃねえつっても、上級クラスなら治療しなけりゃ死ぬぐらいの勢いでたたきつけたぞ?」

 

「よくわからないけど、さすがはヒロイに並ぶ私の輝き(英雄)ね!」

 

 戸惑う長可に攻撃をすべてかわされながらも、姐さんはペトの無事に表情が緩む。

 

 そして、こっちも懸念事項がなくなったんで気が楽になった。

 

 場の流れはこっちに傾いてるぜ。この調子で一気に叩き潰す!!

 

「行くぜ、姐さん、ペト!!」

 

「ええ、奴が混乱している隙に、叩き潰す!!」

 

「よくわからないけど、ペトもぶっ倒れてたぶん全力でぶっ放すッス!!」

 

 そして真っ先にペトが狙撃をぶちかまし―

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、どでかいクレーターが生み出された。

 

 

 

 

 




実はジークだけは後天的強化を英雄派で受けてなかったり。

リセスに「おもちゃ集めただけwww(主観)」で心が壊れてだけあり、あまり強化改造を行うことは好んでません。やるなら、あくまでグラムの性能を引き上げるドーピングですね。リセスも後天的強化だらけだと知っているので、後天的移植そのものを否定はしていません。





因みに、リムヴァンはなんだかんだで契約は守る主義です。

ヴィクター経済連合の重鎮たちに「勝てる」「儲かる」を約束しているので、自分が楽しめる範囲内で勝ち目を提供することには律儀です。ニエに関しても「復讐の力になる」ことを約束して引き入れているので、それに反する行動はとりたがりません。今回に関しては「この程度の窮地も脱せないなら復讐するだけの価値もないからね」という感じで丸め込みました。失敗してたらニエも送り込んでましたwww

そのためオーフィスの同盟も結んでいたので個人的には切るのは好みませんでしたが、他のスポンサーや幹部の意見を無視することもできなかったので、「ごめんね♪」的な感じですね。


因みにLに関してはもうわかっていると思います。ぶっちゃけ、奴を速攻で味方につけたことがリムヴァンがここまで暗躍できた要因でもあります。アジテーション能力の高い奴は味方にするにはうってつけですね。……そのあとの人脈作りが楽に済みます。

そして、リムヴァン自身の何気に策謀か。ハーデスの隙にはさせませんです。具体的には選択肢を二つに狭めて、獅子身中の虫をつぶしにかかります。


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第五章 9 赤龍帝の終焉

とりあえず、これでウロボロス偏は終了です。








とりあえず覚醒したペトというアップから、オカルト研究部にとっては最大級のダウンが発生します。


 

 

 

 

 

 

「うぉおおお!?」

 

「きゃあああ!?」

 

「ぎゃあああ!?」

 

 長可も姐さんも当然俺も、悲鳴をあげて余波で吹っ飛ばされる。

 

 っていうか全員とっさに直撃コースから離れたってのに、なんだこの被害は!?

 

 え? え? 今のペト!?

 

 何だよこの火力! おかしいだろ!!

 

「え……えぇ!?」

 

 撃ったペトがまず驚いてるし!! マジか、そんな火力か!!

 

 おいおいちょっと待て。ペトは昨日模擬戦した時はこんな火力ぶっ放してなかったぞ。精々上級堕天使程度の火力だったぞ!

 

 なんだこの火力は。どう考えても最上級クラスじゃねえか!

 

「ぺ、ペト? もしかして、これってテレビを斜め四十五度で叩くと調子が良くなる……あれ?」

 

「いや、死にかけると覚醒するスーパー〇イヤ人的なあれじゃね?」

 

「いや、ペト、本当に死ぬような怪我負ってないっすけど?」

 

 言われて俺達はペトが攻撃を喰らったと思われるところを確認する。

 

 胸部だったので赤いあれが見えるけど、今更そんなの気にして目をつむるような仲じゃねえしな。

 

 そして、確かに叩かれた事でちょっと打ち身になってるけど、戦闘員として気にするようなレベルの怪我は何処にもなかった。

 

 いや、ちょっと傷が小さすぎねえか?

 

 どう考えてもめちゃくちゃパワーアップしてるぞ。 速度も、威力も、頑丈さも。

 

 まるで、いきなり禁手クラスの神器でも移植したかのような、特撮とかでよくある変身アイテムを使用した怪人みたいな感じだ。

 

 俺達が三人揃って首を傾げてると、長可が走ってこっちに戻ってきながら、聖槍を突き付けた。

 

 チッ。無事だったか。

 

「……てめえ! どういうことだ!?」

 

 かなり警戒してるらしく、今までに比べると余裕がなくなってる。

 

 まあ、確実に致命傷を与えたと思っていた奴が超パワーアップして戻ってきたら誰だって警戒するわな。

 

「そのオーラの質、オーフィスの蛇じゃねえか! いつの間に貰いやがった!!」

 

 そうか、オーフィスの蛇か。そりゃ驚く。

 

 ………んん?

 

 オーフィスの蛇ぃ?

 

「………はい?」

 

 ペトが、きょとんとして首を傾げるのも当然だ。

 

 オーフィスの蛇はヴィクター経済連合の使うもんだ。俺達は持ってない。

 

 いや、作っているオーフィスは確かにちょっと前まで俺達と一緒にいたけど、それを貰ったりなんてしてねえはずだ。

 

 だけど、確かに納得できる。

 

 オーフィスの蛇はめちゃ強力なドーピングアイテムだ。確かにそれがあれば、ペトがいきなりめちゃくちゃ強くなってることも納得できる。

 

 だけど、そんなの自分から使うようなタイプだったか、ペトは?

 

 少なくとも、姐さんに言うぐらいのことはしてると思うんだけどよ?

 

「……知らないっすよ? 使っててもお姉さまにぐらいは伝えとくッス」

 

「そうよねぇ」

 

「だよなぁ」

 

「いや、俺が何回蛇使った連中と模擬戦したと思ってんだ。俺の感覚はごまかせねえぞ」

 

 俺らが三人同時に言ってるのに、長可は全く信じてくれやしねえ。

 

 いや、ホントにそんなの渡された覚えはねえんだが。

 

 そこまで考えて、俺はふと気づいた。

 

「……なあ、そういやペトって心当たりねえのにネックレス貰ってたよな?」

 

「……あ! すっかり忘れてたっす!」

 

 ペトがとっさにネックレスに手を触れる。

 

 俺達もまじまじと見つめると、すぐに全部種が分かった。

 

 そのネックレス、オーフィスのオーラを思いっきり放ってやがる。

 

 こ、これってつまり、ネックレス型のオーフィスの蛇なのか?

 

「……直接飲み込むんじゃなくて、装備として運用するタイプのオーフィスの蛇。そんなものが完成していたのね」

 

「んなわけねえだろ。作る必要性がねえ」

 

 姐さんが驚く中、長可が速攻で否定する。

 

 んじゃどういうことだよ。

 

 戦闘するような空気じゃなくなり、俺達四人が同時に首を傾げ、頭をひねる。

 

 とりあえず、これはオーフィスが作ったのだけは間違いねえ。オーフィスの蛇を作れるのはオーフィスだけだからな。アイツが一枚かんでるのだけは間違いねえ。

 

 だが理由がわからねえ。

 

 オーフィスは一応ヴィクターのトップだ。そして三大勢力はグレートレッドが倒される事も、その後釜にオーフィスが据わる事もよく思ってねえ。そんでもって俺達はヴィクターと敵対している三大勢力の戦力だ。

 

 そしてペトは狙撃に置いちゃぁ化物レベルだ。その技量は想定外だったとはいえ、あのアーサーと黒歌を一瞬で無力化し、ルフェイがいなけりゃヴァーリチームが全員捕縛もしくは死亡という結末になりかねなかったほどだ。

 

 そしてペトの欠点は、良くも悪くも狙撃に才能が割り振りきられてることだ。光力の出力とか肉体性能は一応上級クラスだが、それを動かすセンスがあまりに悪い。何年もかけた通常戦闘の特訓の成果が、ほんのわずかに訓練しただけの狙撃の成果に追い抜かれたというレベルの一点特化型。

 

 だから、ペトを倒すには狙撃に持ち込まれない事が必要不可欠。そして今の俺達の戦闘は、ペトの火力でも牽制レベルなエースを投入するレベルになっている。

 

 だけど、この新型の蛇はそれを覆す。

 

 センスは無くても戦い方は知っているから、最上級クラスにまで出力が跳ね上がれば上級クラスの敵とだって戦えるだろう。実際、長可の一撃を耐えたのもそのおかげだ。

 

 言っちゃなんだが、オーフィスは敵に塩を送りすぎじゃねえか?

 

「何考えてんだオーフィスの奴」

 

 長可が、一応槍を構えながらそうぼやいた時だ。

 

「―長可、撤退だ!!」

 

 霧とともに、ゲオルクが姿を現す。

 

 ……んの野郎。このタイミングで出てくるたぁいい度胸じゃねえか。

 

「おい、オーフィスはどうした? ちょっと聞きたい事ができたんだけどよぉ」

 

「それどころじゃない。……ハーデスにしてやられた」

 

 長可にそう言い放つゲオルクの言葉に、俺は頭が痛くなってきた。

 

 ハーデスっていやぁ、確かオリュンポスの和平反対派じゃねえか。

 

 んの野郎、よりにもよってヴィクターに手を貸してたのかよ!!

 

「……俺達だけじゃなく、シャルバに色々吹き込んだようだ。レオナルドを無理やり禁手にさせて、冥界に攻撃を仕掛け始めている! オーフィスも確保するつもりだろう。」

 

「……あの野郎、やっぱこっそり始末しといた方がよかったんじゃねえか?」

 

 ゲオルクの説明を聞いて、長可がため息をついた。

 

 シャルバの奴、また独断行動かよ、それも話を纏めると英雄派のレオナルドが被害に遭ってるみてえだな。

 

 つくづく勝手な事しかしねえ奴だ。ヴィクターも暗殺するなり追放するなりしとけよ。

 

「とりあえず、サマエルによってオーフィスの力の半分は奪い取れたが、レオナルドの治療には時間がかかる。……グレモリー眷属もそろそろ脱出するだろう、撤退だ」

 

「仕方がねえ。合流されたら俺らだけじゃあきついしな」

 

 残念そうにしながら、長可はゲオルクのところに素早く身を寄せる。

 

 そして、即座に霧が二人を包み込んだ。

 

「あ、コラ待て!!」

 

 俺はとっさにコイルガンをぶっ放すが、んなもん流石に効くわけがねえ。

 

 直ぐに霧が消え去り、そして完全に逃げられた。

 

 ……くそが! 散々好き勝手しといてそのまま逃げやがったのかよ!!

 

 俺は心底イラつくが、姐さんはふぅと息をついた。

 

「神滅具使い2人をこの人数で相手にするのも危険だから、引いてくれたのはこっちにとっても好都合ね」

 

「それはそうっスけど、色々やられてろくにお返ししてないってのは残念ッス」

 

 残念そうにするペトの頭をなでながら、姐さんは苦笑した。

 

「全員無事で生き残れただけでも、良しとしましょう。……それよりも―」

 

 姐さんは、さっきまでいたホテルの方を見て、表情を険しくする。

 

 ……ああ、そういやそうだったな。

 

 ゲオルクの言った言葉の中に、イッセー達の情報は全くなかった。

 

 今の段階だと、無事を確認する術がねえ。

 

「とにかく、一旦通信を繋ぎましょう。向こうが何か把握しているかもしれないわ」

 

 ああ、それに期待するしか、ねえみたいだな。

 

 そう思って俺達が通信を繋げようとしたその時―

 

『―無事かね?』

 

 それより先に、サーゼクス様が通信を繋いできた。

 

「どうしたんですかい、サーゼクス様」

 

『先程、紫藤イリナくんとゼノヴィアくんの無事を確保した。……リセスくんの言う通り、ヴィクターの今回の狙いはオーフィスだ』

 

 マジか。マジでオーフィスをターゲットにしたってのか。

 

 ヴィクターの連中も思い切った事をしやがる。蛇以外の強化のあてができたって事で良いのか?

 

「こちらも英雄派の長可と一戦交えてしのいだわ。……長可の迎えに来たゲオルクの話だと、どうもハーデスがシャルバ・ベルゼブブを利用して英雄派すら手玉に取ったようだけれど」

 

『イリナくんの話では、ハーデスは英雄派にサマエルというドラゴンを貸与して、オーフィスの力を四分の三ほど奪い取ったと言っている。サマエルが龍と蛇に対する特攻性を持っている可能性は論議されていたが、まさかオーフィスすら圧倒するほどの相性差を持っているとは思わなかった』

 

 サーゼクス様が歯を食いしばりながら告げる言葉に、姐さんはいぶかしげな表情を浮かべる。

 

 っていうかサマエルっていやぁ、確かアダムとイブに知恵の実を食わせた天使だったな。蛇でもあるとか。

 

「……ゲオルクは半分ほど奪ったと言っていたわね。何かトラブルでも起きたのかしら?」

 

 だな、七割強と五割って、だいぶ違うしな。

 

 何かしらトラブルが起きたのか、それともアザゼル先生かイッセーが何かしたのか、もしくはオーフィスが意地を見せたのか。

 

 まあとにかく、大体姐さんの予想通りってわけか。ヴィクター経済連合は、オーフィスを切る気になったってわけだな。

 

『どうやら彼らは、奪い取ったオーフィスの力を利用して、新たなウロボロスを生み出そうとしているらしい。ハーデス神も残ったオーフィスを使って何かを目論んでいるようだ。……緊急事態だ。君達にも動いてもらう事になるだろう』

 

「うっす! 契約金分の仕事は約束しますぜ?」

 

 ああ。こういう時の為に、俺は金貰ってるからな。

 

 敵はヴィクターか、それともハーデスか。まあ、どっちにしろ構わねえ。

 

 やってやろうじゃねえか、神殺し。ロキに決定打を与えた俺を舐めるなよ?

 

 とにかく、必要とあれば俺は本気で神だろうと叩き潰す。……ろくでもない連中であるヴィクターに力を貸して漁夫の利を得ようってなら、ただじゃ済まさねえ。

 

 何より……。

 

「俺のダチに喧嘩売ったんだ。俺にも売ったと判断していいだろうしな」

 

 ……だから無事でいろよ、イッセー!!

 

「あ、あの! それでオーフィスはどうなったッスか? メインターゲットなら最優先で逃がすべきだと思うッスけど!」

 

 ペトが、ちょっと気になったのか口早にそう尋ねる。

 

 あ、そういやそうだ。

 

 オーフィスがハーデスの手に渡ったらまずくねえか?

 

 そもそもサマエルはハーデスが横流ししたわけなんだから使えるだろうし。つまりハーデスはオーフィスをどうとでもできるって事だ。捕まえられたら終わる。

 

 オーフィスの力を悪用できるのなら、ハーデスは勢力図を単独で塗り替えることだってできるわけだ。

 

 俺達三大勢力とその協力者。リムヴァン率いるヴィクター経済連合。現在はこの二勢力の戦いになってる。

 

 以前のネガキャン合戦で、どっちにも組みたくない中立派はいるにはいるが、これは別に全勢力が結託してるわけじゃねえから、浮動票だ。

 

 そこに、オーフィスの力を半分も手にしたハーデスが参入すれば、この戦いは三つ巴になる。

 

 どんどんグダグダで泥沼じゃねえか! 勘弁してくれ!!

 

『……残念だが、英雄派のゲオルクが展開した結界は対オーフィス用だ。今のオーフィスでは転移は不可能で、離脱できたイリナ君達も取捨選択の末に何とか離脱できたようなものだそうだ』

 

 マジですかサーゼクス様!

 

 ええい、英雄派も面倒な事しやがる。

 

 こうなりゃ、俺達が助けに行くしかねえな。脱出できたのなら、その空間の場所を探す事も不可能じゃねえだろ。京都の時は闘戦勝仏の爺さん達が助けに来てくれたしな。

 

 ああ、とにもかくにも急がねえと―

 

「待って。ゲオルクは、ハーデスにそそのかされたシャルバがレオナルドを暴走させて冥界に魔獣を送り込んだと言ってたわ。……まずはそちらの迎撃準備を整えないとまずいわよ?」

 

 俺が行きこんでいるまさにそのタイミングで、姐さんが周囲を警戒しながらサーゼクス様にそう告げる。

 

 あ、そうだった。そっちも要警戒じゃねえか。

 

 くそ、どうする? どこから対処する!?

 

 俺が悩んでいると、俺達の携帯が一斉に鳴り出した。

 

 ……なんだ? なんだなんだ?

 

 とっさに携帯を取り出すと、そこには木場の文字が。

 

「……リアスと電話が繋がったわ!!」

 

「こっちはアーシアっす!!」

 

 姐さんとペトもか!

 

 ってことは、イッセー達は脱出できたのか!?

 

 俺達はとっさに携帯に出て、そして歓喜の声を上げる。

 

「無事だったか!!」

 

『―ヒロイくん、すぐに戻ってきてくれ!! ……イッセー君がまだ残っているんだ!!』

 

 ………はぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いでホテルにまで戻ると、そこにはイッセー及びオーフィス、先に離脱していたイリナとゼノヴィアを覗いたメンバーが戻ってきていた。

 

「アザゼル! どうやら無事……でもないわね」

 

 全員疲労の色が濃い。特にヴァーリは顔が蒼く、死ぬんじゃねえかと勘違いするぐらいだ。

 

 こいつをここまで追い込むたぁ。サマエルでも使われたか?

 

「ったく。曹操の奴の所為でこっちは本気でやばかったぜ。しかもハーデスのジジイ、最上級死神のプルートまで送り込んで、こっちを殺そうとしてきやがった」

 

 こっちも結構ボロボロのアザゼル先生が、舌打ちしながらそう告げる。

 

 どうやら本気で殺す気だったらしいな。死人に口なしを地で行く気だったのかねぇ。

 

 だけど、生きてんなら追及可能だ。これで何とか黙らせられればいいんだけどよ。

 

「っていうか、イッセーは何処っすか? あとオーフィスにもお礼を言いたいんすけど!!」

 

 ペトがあたりを見渡しながら、そう聞き始める。

 

 そうだった。イッセーの奴がまだ残ってるとか言ってなかったか、さっき。

 

 それにオーフィスの姿も見えねえ。ゲオルクがハーデスがうんたらかんたら言ってたけど、それが関わってるのか?

 

 俺達三人が視線を彷徨わせる中、木場が目を伏せて口を開いた。

 

「……今、イッセー君はシャルバと戦っているよ。オーフィスを助ける為にね」

 

 は、はい?

 

「シャルバがハーデスにオーフィスを献上しようとオーフィスを捕まえたんだ。イッセー君はシャルバをそのままにすることもできないから、残ると言って聞かなかったんだ」

 

 ……ああもう! アイツ何考えてんだか!!

 

 いや、オーフィスにはペトが結果的に助けられたわけだから、俺らとしても少しはナイス判断とか言いたいけどよぉ?

 

 だからって、敵の内輪もめに介入するか、オイ。

 

「……どうやら、それ、発動したみたいね」

 

 と、これまたボロボロ具合の酷い黒歌がペトの胸元を見てそう呟いた。

 

 ん? 黒歌はペトのネックレスについて知ってんのか?

 

 事情を全く知らない木場達が首を傾げる中、ルフェイが指を立てた。

 

「ああ、それ、オーフィスさんに頼まれて私と黒歌さんも作成に協力したんです。黒歌さんが「絶対素直に受け取らないにゃん」とかおっしゃったので、こっそりつけさせていただきました」

 

 ああ、なんでネックレスなのかと思ったらそういうことかよ。

 

 あと軽いホラー展開は黒歌の悪戯か何かかよ。割と本気でビビったんだぞこの駄猫が。

 

「め、めちゃくちゃ助かったッスけど、なんで?」

 

「色々教えてくれたからと言ってましたよ? あと、貴女が伸び悩んでいる事も気にしていたようなので、蛇をあげたいと言ってました」

 

 ………ああ、あれか。

 

 そういやペトはオーフィスの面倒見てた時、オーフィスの食生活とかについて色々言ってたな。

 

 いつの間にか、それがペト自身の最近の愚痴を聞く感じになってた。確かに狙撃技能しか取り柄がないから、威力不足とか他の技量のなさとか悩んでるって言ってたな。

 

 だからって、蛇を用意するか、普通?

 

「専用調整された蛇を作るプロジェクトは、スポンサー関係で持ち上がっていたそうです。彼らの護身用として、通常の蛇よりも特別なものを用意したいという意向でしたけど、今は全体の底上げの方が重要ということで白紙に戻ったものです」

 

「で、私とルフェイがそれを参考に作ったのがそれにゃん。こっそりあんたの髪の毛取って、そのデータから徹底的にアンタ用に作ったやつだから、普通の蛇より三割増しぐらい行けるはずだにゃん」

 

 な、なんつー特別仕様。

 

 いや、ペトそこまでしてもらうことしたか? そんな本腰入れてアドバイスしてたと思えねえけどよ? っていうか愚痴に付き合ってもらっただけでトントンだろ?

 

 お、オーフィスの奴、もしかして実はいい子?

 

 そ、それならイッセーが助けに行くのも納得だ。アイツそういうやつは見捨てられねえだろうしな。

 

「いや、んなことはどうでもいいだろうが! 今はペトの強化よりイッセー達を連れ戻す方が先決だ!!」

 

 俺達が思わずぽかんとしてると、アザゼルが大声で怒鳴った。

 

 あ、そうだった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺達はグレモリー城の地下に行くと、タンニーンさんと合流して、急いで龍門(ドラゴンゲート)ってのを展開する。

 

 タンニーンさんを連れてきたのは、より確実にイッセーを連れ戻す為。とにかくすぐに来てくれてめちゃ強い龍ということで選ばれたわけだ。

 

 対となるアルビオンもいるし、ついでに影響を強く受けている俺と姐さんもゲート構成の魔方陣の要に陣取ってる。

 

 これで召喚はできるとは思うんだけどよ……。

 

 俺たちが固唾をのむ中、輝きが魔方陣を照らしていき―

 

「―そん、な………っ」

 

 その結果を見て、茫然としてお嬢は崩れ落ちる。

 

 そこにあったのは、八個の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)。そして駒の種類は兵士(ポーン)

 

 ………俺は、悪魔の駒関係の詳しいことはわからねえ。

 

 だけど、それについて詳しいだろう木場やタンニーンさん達の様子から、最悪の事態を想定した。

 

 ………イッセー。

 

 お前………死んだのか?

 




実は純粋でいい子なオーフィス。受けた恩は返します。

ペトは天然でグレートレッドを倒すために必要なことを適格に教えてくれたので、オーフィスにとっては大恩人です。ヴィクターも禍の団もオーフィスにグレートレッドを退治されると困るのでそういうことは教えてませんし、ある意味一番真摯に対グレートレッドを考えてくれた大恩人ですね。……何かが間違ってる。

そう言うわけでオーフィスはきちんと借りを返すべく、ペトの悩みを解決することに全力を出しました。その結果、持っているだけで他を凌駕する強化率を発揮する蛇を与えるという大盤振る舞い。ペトはグリゴリ幹部クラスに匹敵するカタログスペックを手に入れました。








しかし、それを台無しにするほどの精神的衝撃。

いや、この状況でイッセーの死を想像しない方があれですからね。

ヒロイとしても自分とは異なる英雄で、ある意味対抗心が強いわけです。リセスにしても、ヒロイやペトほどではないけど、自分の心を立て直してくれた恩人です。ペトにとってもエロ話で盛り上がれる大事な友達でした。

……割と精神面において痛烈なダメージなのです。


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第五章 10 魔獣騒動

はい、そういうわけでこの話からヒーローズ編に突入します!









兵藤一誠のかけたオカルト研究部。それは、自然消滅の危機。


 

 シャルバ・ベルゼブブは、権威を完全に失墜していた。

 

 独断で勝手な行動をして派閥の勢力を半減させた挙句、他の種族を滅ぼすつもりだったという事が知らされ、挙句の果てに瀕死の重傷を負った。

 

 もとから自分が盟主のようにふるまう糞偉そうな性格が問題だったらしく、シシーリアによって改修された、ディオドラとの会議が知られたことでもう敵の俺が笑いにくいぐらい失墜したらしい。

 

 だが旧魔王派全体がやけになって暴れたりしたら面倒だということで、極刑とかは免れたそうだ。

 

 で、それでストレスが限界に達したようだ。

 

 プッツンしたシャルバが完全に独断で暴走。英雄派のメンバーを数人殺害。そしてレオナルドを誘拐し、神滅具を暴走させやがった。

 

 そして生まれた超巨大魔獣。こちら側の呼称はバンダースナッチとジャバウォック。

 

 百メートルを超えるでかいその魔獣は、冥界の各地に転送されて、大暴れしてる。

 

 最上級悪魔を中心とする迎撃部隊が仕掛けているけど、どいつもこいつもめちゃくちゃ頑丈な挙句、回復速度も高いと来てる。

 

 更に、全身から何体もの魔獣を生み出している所為で、そっちの対応も急がなけりゃならねえ。

 

 しかも最強格のジャバウォックに至っては、皇帝(エンペラー)ディハウザー・ベリアルをもってしても足止めすらろくにできてない状況。

 

 止めにリムヴァン達がこれを利用しようと動いているらしく、冥界の各地で主に反旗を翻す禁手に至った悪魔がいる。

 

 そして英雄派の曹操と森長可に、宰相であるリムヴァンが保有する、計十三本の聖槍が邪魔で、同盟を結んだ神クラスは迎撃に出にくい状況。

 

 ……旧魔王派を抑えきれなかったこと。転生悪魔の扱いが悪かったこと。そして、今だヴィクター経済連合を倒すことができなかったこと。

 

 冥界現政府の解決困難な問題が、全部まとめて噴き出したかのような激戦だった。

 

 そして、俺達は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハイ次ぃいいいい!!!」

 

 コイルガンで射出された魔剣の群れが、魔獣達に突き刺さる。

 

 そして動きが止まったところを、悪魔達が一斉に襲い掛かって撃破していく。

 

 だが、中にはもっと頑丈な奴がいたらしく魔剣の群れを吹っ飛ばしながら突っ込んでいく。

 

 最悪なことに、その方向には避難している民間の悪魔達がいる。

 

 だが、俺は慌てない。慌てる必要はない。

 

「ペト、一匹そっち行った」

 

『はいはいっす』

 

 その軽い返答と同じタイミングで、その魔獣の胴体に風穴が空く。

 

 そしていまだに動いている数多くの魔獣達に、光力の雨あられが叩き込まれた。

 

 ……オーフィスが、黒歌とルフェイの協力のもと作った、専用調整型の蛇。コードネーム『魔弾の蛇(ウロボロス・ザミエル)』。

 

 これを使用しているペトの戦闘能力は、神の子を見張る者の主要幹部に次ぐレベルだ。単純カタログスペックならほぼ同格。専門分野の狙撃なら、もはや最高神の領域に到達してる。

 

 今の弾幕がその証拠だ。威力を押さえた連発とは言え、本来五発分のチャージを代償とする堕天の祝福受けし魔弾(スナイパー・ザミエル)で弾幕を張るなんて不可能だからな。

 

 マジでシャレにならねえ。オーフィスマジありがとう。

 

 姐さんのペトは、マジで頼りになる存在に化けてくれたぜ!!

 

 そして、姐さんが汗をだらだら流しながら戻ってきた。

 

「……足は破壊したわ。奴の再生速度でも、流石に数時間はかかるはずよ」

 

『助かったぞ。これで進行方向の街の避難は間に合うはずだ』

 

 今回の足止め作戦を指揮していたタンニーンさんが、汗だくの姐さんの報告にうなづいた。

 

 姐さんの禁手である煌天下の矛盾《ゼニス・テンペスト・コントラディクション》は相反する属性を融合する。

 

 矛盾許容の特性ゆえに、その攻撃力は絶大。意図的に展開した時限定だが、防御においても桁違い。そして、単純物理防御相手なら神滅具の覇に匹敵するとか言われてる。

 

 その理由たる、超高熱と極低温を融合させたディストピアアンドユートピアは、条件付きだけど必殺技と名乗るにふさわしい威力を発揮してる。

 

 今回、俺達は進行方向の避難が遅れている所のサポートに来た形だ。

 

 特にこのバンダースナッチ、対悪魔の攻撃に対する防御を重視してるとかで、とにかく他種族の助けが必須だったとか。悪魔に対する防御力なら、ジャバウォックと同格かそれ以上。そう言う意味じゃあ俺たちが一番有利だわな。

 

 なにせ三大勢力は、同時タイミングで内部の裏切り者の粛正に忙しい。そのせいで堕天使側も天使側も増援をすぐには送れてねえ。っていうか教会とかは立て直しがようやくできそうになってるところだしな。

 

 そういうわけで俺達が出張って、こうして足止めできるようにしたってわけだ。

 

 処理が遅れていた魔獣の群れは俺とペトが減らし、バンダースナッチそのものは姐さんが両足を中心に吹っ飛ばして動きを止めた。

 

 いっそのこと、俺達もこいつの討伐作戦に参加するべきかとか思ったんだが―

 

『後はこちらで何とかする。お前達は……リアス嬢達を頼む』

 

 その言葉に、俺達は誰一人として反論できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったわ。……シャワーと、簡単に食べられるものを用意して頂戴」

 

「かしこまりました。いっそ湯あみをなされてはいかがでしょうか?」

 

「流石にそんな時間はねえっすから」

 

 姐さんとペトがメイドさんと会話している間、俺は辺りを見渡していた。

 

「……おじょ……リアス姫達は、まだ?」

 

 俺の質問に、メイドさんは表情を暗くさせ、首を横に振った。

 

 やっぱり、重傷だな。

 

 転生に使われた悪魔の駒が、転送で戻ってくるケースは一つしかないそうだ。

 

 ……その転生悪魔が、死んだ時だそうだ。

 

 それ自体非常にまれなケースで、忠誠心の強い下僕の想いが起こす奇跡とか言われてる。

 

 そして、イッセーのものだった悪魔の駒には、サマエルの反応があった。

 

 サマエルは、オーフィスの力をごっそりと奪い、さらにはヴァーリを一瞬で戦闘不能にさせる力を持った代物だ。

 

 それに対してイッセーは、ただの人間ベースの転生悪魔だ。素体の耐久力という意味では、魔王末裔のヴァーリとは段違いに低い。比べるのも致命傷だ。歴代最弱とまで言われた才能のなさは伊達じゃねえ。

 

 生存は、絶望的だ。

 

 グレモリー眷属のショックは絶大で、レイヴェル含めて人事不肖の状態だった。ここまで連れてくるのがまず大変だった。

 

 そして、お嬢と朱乃さんは引き籠っている。

 

 アーシアも自殺未遂を引き起こしかけたし、レイヴェルは数日たった今でも泣きっぱなし。比較的ましな木場も、明らかにいつも通りの状態じゃねえ。

 

 この調子だと、まだ事情を知らされてないゼノヴィア達はどうなることか。ロスヴァイセさんはともかく、イッセーに好意を寄せているゼノヴィアとイリナが不安だ。ギャスパーも、根性を持つ切っ掛けとなったイッセーを失ったらどうなることか。

 

 そういう意味じゃあ、俺達三人は比較的マシだった。

 

 俺は、そもそも悪魔祓いとしての活動の中で死別を経験している。中には、俺に対して比較的好意を向けている者や、信仰心が薄い俺のことを評価してくれる奴もいた。いわゆる恩師と言ってもいい、いい先輩だっていた。

 

 だから、そういう経験が豊富だからこそ耐えらえる。……それが良い事かは置いといてな。

 

 ペトは、そもそも両親を目の前で殺されている。

 

 そういう意味じゃあ俺よりも今のお嬢達に近い経験をしている。だから、ある程度は耐えられる。

 

 ショックは受けてるが、二度目となりゃ耐えれる可能性はでかいだろう。ショックはあるけどな。

 

 そして、姐さんは一度目を伏せるとすぐに迎撃作戦に積極的に参加していた。

 

 こう言っちゃあ何だが、姐さんが一番こういった経験に慣れている。

 

 ニエを自分の情けなさで死に追いやった。しかも、まさにその死に様を目の前で見せつけられたのが姐さんだ。

 

 言っちゃなんだが、イッセーよりニエの方が姐さんの中では好感度がでかい。それぐらい、ニエの存在は姐さんにとってデカかった。お嬢達にとってのイッセーに匹敵するレベルでだ。

 

 その姐さんが、イッセーの死にショックを受けこそすれ耐えられないわけがねえ。

 

「……一応言っておくけど、私だってショックではあるのよ?」

 

「ペトだって、結構きついっすよ?」

 

 俺の考えてた事を見透かしたのか、姐さんとペトがジト目を向けてくる。

 

 だけど、その視線の強さはそんなに強くなかった。

 

「あの子、良い子だったもの。……覗きの常習犯だったけど」

 

「話してて気持ちが良かったっす。……覗き魔だったッスけど」

 

 そこに関しては二人ともあれな評価なんだな。事実だけどよ。

 

 ま、俺も似たような感じではあるけどな。

 

「親友……っつーのは言い過ぎかもしれねえけど、俺にとってもいいダチだったぜ。それが、阿保共の因縁に巻き込まれてあれじゃあ……な」

 

 正直いたたまれねえ。

 

 だってそうだろ? 生まれてから二十年もたっちゃいねえイッセーからしてみりゃ、旧魔王やら新魔王の因縁や、かつての聖書の教えの行動なんて無関係に近いはずだ。

 

 それが、その因縁絡みのトラブルに巻き込まれて死んだなんて、酷い話もあったもんだぜ。

 

「ハーデスはサーゼクス様とアザエル総督が抑えるそうっス」

 

「ついでに腕の一本ぐらい切り落としてくれないかしら」

 

「っていうか俺らがやろうぜ? それ位の迷惑はかけられてんだろ」

 

 まったくだ。恨みがあるなら、その時の連中にやりゃいいだろうが。俺らをターゲットにする理由が分からねえ。

 

 あのジジイ。サイラオーグさんとのレーティングゲームの時から悪意向けてたみたいだけどよ、イッセー達を態々標的にするこたぁねえだろうが。

 

 決めた。チャンスがあったら堂々とボコる。槍王の型を股間に叩き込んでやる。

 

 俺はそう決意するけど、やっぱりちょっとやる気が出ねえ。

 

 ……やっぱ、俺らも結構ショック受けてんだな。

 

 そりゃそうだ。イッセーは確かに覗きの常習犯で、そこに関しちゃどうしようもねえろくでなしだ。

 

 だけど、どこまでも良い奴だった。

 

 夢に向かって一生懸命頑張っている、努力家だった。仲間の為なら、自分の身も顧みねえ献身的な奴だった。そして、お嬢達の心の突っかかりを解き放った、英雄と言ってもいい奴だった。

 

 おっぱいドラゴンが冥界で大人気なのも、少しは分かる。それぐらい、イッセーって奴は英雄的な奴だった。

 

 だからこそ、俺はあいつを意識していた。俺の目指す英雄とは違うけど、あいつは間違いなく英雄だったから。既に、あいつは冥界の英雄と言っていいだけの存在になってたから。

 

 今はその死は公表されてねえし、政治的な駆け引きをしてる余裕はねえと言う事で一部しか知らされてねえけど、これが公表されたら子供達、泣くよなぁ。

 

 ……この馬鹿野郎。オーフィスにはペトを助けてくれた恩があるけど、ヴィクターの内輪もめに介入して死ぬとかねえだろうが……っ!

 

「……ん? お前らが、リアスとつるんでるとかいう神滅具使いか?」

 

 と、俺たちに声をかける男がいた。

 

 金髪の、どっかのホストみてえな奴だった。

 

 ん? 誰だ?

 

「初めまして。私がリセス・イドアル。後ろの2人はペト・レスィーヴとヒロイ・カッシウスよ」

 

「……ああ。そういやリアスと次期大王のレーティングゲームで見たな。俺はライザー・フェニックスだ」

 

 ああ、こいつは―

 

「イッセーにボコられてドラゴン恐怖症になったツー奴か」

 

「しかも、イッセー並みのスケベ根性で恐怖症克服してイッセーと殴り合った奴っすか」

 

「おい、この状況下で貴族に喧嘩売るとはいい度胸だな、オイ」

 

 俺とペトのいいように、当然の反論が返ってくる。

 

 だが、そのセリフには力がなかった。

 

 ライザー・フェニックスも、イッセーの死には思うところがあるってことか。

 

「リアスの奴、部屋に閉じ籠って何も食ってねえんだとよ」

 

「マジっすか? いっそのこと、酒浸りになった方がまだスッキリしそうっすけど……」

 

 お嬢、思った以上に重傷だな。

 

 ペトも流石に暗い表情を浮かべている。姐さんや俺も、正直言って胸が痛ぇ。

 

 ライザーも元婚約者ってだけあって思うところがあんのか、お嬢の部屋の方向に顔を向けると、眉をしかめた。

 

「俺のドラゴン恐怖症より酷いんじゃねえか? リアスの奴、立ち直れんのかねぇ」

 

「……正直、この事態が解決するまでに立ち直れるとは思えないわ」

 

 ライザーの言葉に、姐さんは目を伏せた。

 

「だって、想いが通じ合った直後だもの。……ニエの時、私が迷走した時よりショックが大きくても、不思議じゃないわ」

 

 確かに、それは納得できるってもんだ。

 

 姐さんは、ニエに恋愛感情を持っていた。それは、リムヴァンによってばらまかれた。

 

 あの時、姐さんは心が砕けそうになるのを、ニエの死に意味を持たせる為に英雄になろうと決意する事で抑え込んだ。

 

 だけど、それが迷走だった事を知っているお嬢がそんな暴走をするとは思えねえ。できるとは思えねえ。

 

 ……お嬢、立ち直れるんだろうか。

 

 俺は、そう思うとやるせなくなった。

 




 ヒロイたちはダメージありとは言え行動可能ですが、しかしリアスたちは再起不能一歩手前。

 正直ヒロイたちも結構効いてます。タンニーンもそれに気が付いているから必要不可欠な状況以外では下げる判断です。









 現実問題。イッセー達が今まで一人も書けてないことは驚異的です。原作でもこの生存率はアザゼルが評価してきました。誰か一人ぐらい死んでも、おかしくない激戦です。

 ですが、その最初の1人(と誤認)がイッセーなのが大問題。寄りにもよって主柱が死んだことで、大打撃です。

 ヒロイは英雄を目指す過程でそういうこともあると思ってましたし、ペトもリセスも大切なものが死んだショックを受けて、そのうえでさらに発生した精神的試練すら乗り越えたこともあります。イッセーに対して信頼こそあれ依存してなかったこともあります。

 ですが、グレモリー眷属はそうはいかない。これまで積み重なってきた問題を打開してきたイッセーは、どんな問題もアイツがいれば何とかなると思わせてしまうぐらいに活躍しすぎていました。

 それが死んだという事実は、リアスたちにとってすさまじく強大なショックとなるのです。


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第五章 11

 

 グレモリー眷属が集まっている一室に戻ると、まず木場と顔を合わせた。

 

「……悪いね。君達に色々と任せてしまって」

 

「いいから休んでなさい。貴方にとっても、イッセーは救世主みたいなものでしょう?」

 

 苦笑を浮かべる木場に、姐さんが真っ先に声をかける。

 

 ああ、その辺については俺も分かる。っていうか、俺だって知ってる。

 

 木場からしてみりゃ、イッセーは、救世主みたいなもんだ。

 

 聖剣計画。その犠牲者の一人でたった一人の生き残りのこいつにとって、エクスカリバーとの因縁は酷いもんだった。

 

 それをどうにかできたのは、イッセーが頑張ったからでもある。

 

 それだけじゃねえ。

 

 朱乃さんも、小猫ちゃんも、ゼノヴィアも。よく知らねえけどアーシアも。そして詳しく知らねえけどお嬢も。ついでに今いないけどギャスパーも。イッセーが救ったようなもんだ。

 

 グレモリー眷属にとって、兵藤一誠は英雄だ。そこに関しちゃ異論はねえ。間違いなく俺より英雄だって断言できらぁ。

 

 思えば、こいつらがイッセーの鈍感の原因に気づかねえのも無理はねえ。

 

 そんな、人救いまくりの奴がまず救われるべきトラウマ持ってるなんて、普通は考えねえ。救世主は自分達を救う存在で、救わなけりゃならねえなんて普通は思わないからな。それが定番ってやつだ。

 

 そんな、一生もんのトラウマ背負いながら、人を救い続けてきたのがイッセーだ。それほどまでの献身性をアイツは持ってる。

 

 まるで、お伽噺の英雄だ。俺が目指す現実的な英雄とは違うが、英雄なのに異論はねえ。

 

 そんなイッセーが、死んだ。

 

 木場が何とか無理しながらでもいつも通りの態度をとっていることが奇跡なんだ。

 

「イッセーさん……。イッセーさんのところに行きたいですけど、そんなことをしたらイッセーさんは悲しんでしまいます……」

 

 アーシアは遠い目をしてる。

 

「……うぅ……っ。せっかく告白したのに、こんなのって……」

 

 小猫ちゃんも、普段のクールな表情を維持できてねえ。

 

「イッセー様……イッセー様……っ!!」

 

 当然、レイヴェルも同じようなもんだ。見るからにお嬢様な普段の態度が見る影もねえ。

 

 あの馬鹿。自分が死んだらこうなるって、分かってなかったんだな。

 

 でなけりゃ、ヴィクターの内輪もめなんかのために命かけたりなんてするわけがねえ。

 

 ……いや、あいつならやるかもな。なにせ、おっぱいドラゴンだもんな。

 

 ああ、今更になって気が付いた。

 

 兵藤一誠がやっている英雄と、俺が目指す英雄は、別だ。

 

 たぶん、イッセーがなっちまう英雄はストラーダ猊下が仰った英雄と近いんだろう。ストラーダ猊下がイッセーと会ったら、覗きの常習犯なところはともかく、それ以外の人間性は絶賛するはずだ。俺に見習えといってくるかもしれねえ。

 

 ……だけど、それは俺の目指す英雄じゃねえ。

 

 俺は、輝きという名の英雄になりたい。

 

 人の心を照らす輝きに、意図的になりたい。

 

 英雄になろうとする事は、英雄が必要な時に限っていえば間違いなんかじゃない。

 

 あの時の姐さんのような、人の心を照らせるにふさわしい輝く存在になることは間違ってない。人の心の闇を照らして、前に進めるようにすることが、間違っているわけがない。

 

 そうだ。歴史に名を残すかどうかは、俺にとって英雄の基準じゃない。

 

 重要なのは、あの時の姐さんのように輝いているかどうかだ。

 

 そして、今俺はまさに姐さんの心を照らすぐらいに輝いている。シシーリアが前を向けたのも、俺が少しは照らせたからだと信じている。俺は、一瞬とはいえ輝きになる事ができている。

 

 だから、俺はこのままでいい。

 

 まずリセス・イドアルの輝き(英雄)でいることが、俺が目指す英雄の姿だともう決めている。

 

 だから、俺じゃダメなんだよ。

 

 冥界のヒーロー(英雄)はお前なんだよ、おっぱいドラゴン兵藤一誠。……なのに、お前が死んでどうするんだ!!

 

「あの……バカ野郎……っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてシャワーを浴び終えると、俺はため息をついた。

 

 俺は、冥界の英雄にはなれねえ。

 

 俺は、何よりもリセス・イドアルという敬愛する姐さんの英雄だからだ。それが最優先だと、もう決めた。

 

 だから、冥界を最優先にはできねえ。何かあった時、俺はまず姐さんの心を照らせるかどうかを最優先にするって決めてんだ。

 

 だってのに、なんであの冥界の英雄はこんなところで死んでやがんだ。

 

 ……もしこれが、大王派に知られたら間違いなくやり玉にあげられる。テレビ番組で大王派の批評家が勢いよくバッシングする。

 

 今の世界に、三代勢力に混乱を生んでいる元凶。そして、もはやその領域を超えてアースガルズやオリュンポスにとっても仇敵といえる一大勢力。それが、ヴィクター経済連合。

 

 その一応の代表であるオーフィスを、よりにもよって英雄派や旧魔王派との内輪もめから助ける為に死んだなんて知られりゃ、確実に叩かれる。

 

 敵の首魁を敵の手から助ける為に死んだ馬鹿者。冥界の未来よりも、敵の首魁を優先した愚か者。そんな風に叩かれる事が分かり切ってやがる。

 

「……ほんと、あいつなんだかんだで馬鹿だったんだな、オイ」

 

 あいつの親父さんやお袋さんになんて言やいいんだよ。

 

 あいつ、まだ両親に自分が悪魔だって事すら言ってねえんだぞ。どうしたって説明なんてできねえだろ。

 

「何考えてんだ、あの馬鹿は」

 

「そう言う男だからこそ、あの男は冥界の英雄なのだろう」

 

 その言葉に、俺は振り返った。

 

 そこにいるのは、サイラオーグさんだ。

 

「えっと、挨拶するのは初めてでしたかね。ヒロイ・カッシウスでさぁ」

 

「ああ。レーティングゲームの襲撃では世話になったな。サイラオーグ・バアルだ」

 

 そう答えるサイラオーグさんには、決意はあれど気負いはねえ。

 

 イッセーのことを買っていると思ったんだが、思った以上にショックがねえみたいだな。

 

 ま、俺らよりは付き合いも浅いし、怒るほどの事でもねえか。

 

「で、何しに来たんですかい?」

 

「ソーナから相談を受けてな。リアスに活を入れに来たのだ」

 

 なるほど、会長も匙を投げたということか。

 

 ま、お嬢がイッセーにべたぼれなのは間違いねえしな。しかもつい最近想いが通じたばかりとくりゃ、ショックもでかいだろう。ショック死してねえだけマシって感じだな。

 

 しかも、放っておきたくてもそうもいかねえ緊急事態。そりゃ何とかするべきだと思うんだろうけどよ……。

 

「……今は、そっとしておいちゃくれませんかい?」

 

 俺は、ちょっとお嬢を強引に連れていく気にはなれなかった。

 

 こういう経験は初めてなんだ。こういう時こそ、慎重に治していかなきゃならねえだろう。

 

 初めて失った戦友が、よりにもよって最愛の恋人なんだぞ? そのショックがでかい事は分かり来てる。立ち直るのにはいろんなもんが必要だ。

 

 今無理やり建て直したら、お嬢は間違いなく歪むぞ。

 

「……俺だって気持ちはわかる。姐さんに死なれたら、俺だって立ち直れなくなりそうだ」

 

 言外に「今のお嬢をそっとしておいてやれ」と込めて、俺は聖槍すら出して牽制する。

 

 その俺の態度を見て、サイラオーグさんはため息をついた。

 

「言いたい事は分かった。だが、お前は二つほど勘違いをしている」

 

 あんだよ? 聞くだけ聞くが、内容次第じゃ槍王の型をここで出すぜ?

 

 殺気が微妙ににじみ出る中、サイラオーグさんはまっすぐに俺を見た。

 

「一つは、リアスも俺も72柱の次期当主だということだ。その責任はとても重い。それこそ、愛する者を失ったとて動かねばならない程にな」

 

「なら辞退すりゃいいだろうが。今のお嬢ならそれも選択肢に入るぜ?」

 

 俺は速攻で反論した。

 

 ライザーとの婚約ん時とはわけが違う。下手すりゃ、一生このまま塞ぎ込んでもおかしくねえほどショックを受けてんのが今のお嬢だ。

 

 あの時はいろんな事情が絡んでたが、今はシンプルに「愛する人を失ったショックで引き籠ってる」だけだ。なにより最優先してんのが、イッセーだって証明だ。

 

 それにお嬢には甥っ子がいる。そのミリキャスって坊ちゃんに分投げるっていう選択肢だって、褒められたもんじゃねえがあるはずだ。

 

 っていうか、今のお嬢が戦力になるとでも思ってんのか?

 

「今のお嬢を戦場の送ったって死ぬだけだぜ? それぐらい、イッセーの奴が死んだことがショックなんだよ、グレモリー眷属にとっちゃな」

 

 あんな状態のお嬢たちを、獣鬼たちとの戦いに送り込んだって意味がねえだろ。死にに行くだけだ。

 

 下手すりゃ、トチ狂ってほんとに死ぬ為に突っ込みかねねえ。そしてマジで死んで、グレモリー次期当主すら歯が立たずに戦死とかいうニュースで冥界が更に暗くなるだけだろ。

 

 それぐらい、イッセーの存在はでかいんだよ。それぐらい、あの告白を聞いたあんたなら想像できるだろうが。

 

 俺の睨みがより鋭くなるのを見て、サイラオーグさんは肩をすくめた。

 

「……弱者の気持ちがわからねえかい? だったらあんたもあんたを欠陥品扱いした連中と変わらねえな」

 

「……完全な否定はできん。実力ある者がどんな身分でも実力に見合った地位につけるという俺の理想は、翻せばどんな立場であろうと実力のない者には住みづらい社会だからな」

 

 そうかい。なら、ここで喧嘩の一つでもしようか?

 

 俺も、流石に結構精神的にきついんだぜ? たまったもん、吐き出してやろうか……?

 

 俺が腰を落として本気の戦闘上になった瞬間―

 

「―だが、そもそもなんで兵藤一誠が死んだというのが前提なのだ? それが二つ目の勘違いだ」

 

 ―その言葉に、俺は目の前の男がショックで狂ったのかとすら思った。

 

「―状況、聞いてねえのか?」

 

「ソーナから個人的に聞いている。アザゼル総督の独断でオーフィスと会い、そこを突いてオーフィスの力を奪いに来た英雄派と交戦して敗北。その後冥府の死神たちと交戦して、最後はオーフィスを確保したシャルバ・ベルゼブブと戦ったのだろう? 安心しろ。まだ大王派の上役たちには言ってない」

 

 そうかい。まあ、このタイミングでぐだぐだな政争とか勘弁だからよかったけどな。

 

 流石に魔獣を無視して本腰入れて追及とかはしねえだろうが、下手に突っついて魔王側の過激派が爆発したらややこしくなるしよ。俺は馬鹿だから、そういう事態になったら何もできねえ。

 

「そして、これまで例外なく転生悪魔の死亡を意味するイーヴィルピースのみの転送。更に龍門(ドラゴン・ゲート)から、アスカロンやグラムの遥か高みに存在する龍殺し、サマエルの毒が検出されたともな」

 

 ああ、だから全員参ってるんだよ。俺達三人だって結構ダメージ入ってるんだよ。

 

 それが分かっていて、なんでこの野郎は―

 

「―それがどうした?」

 

 その言葉に、俺は槍を取り落としかけた。

 

 何言ってんだ、この筋肉ダルマ。

 

 今、あんたが言った事が全てだろうが。あらゆる情報が、イッセーの死亡を伝えてんだよ。

 

 まさかと思うが、こいつ貴族として教育すらまともに受けてないんじゃねえか?

 

「……一つ聞くが、兵藤一誠はリアス達を抱いたのか?」

 

「童貞のままだよ。正直そっちも哀れだね」

 

 ああ、あいつマジ可哀想だ。

 

 ハーレム王を目指してあと一歩まで行った。そして俺の含めた悪友たちには、どいつもこいつも童貞卒業で追い抜かれてやがる。

 

 ……別の意味で泣けてきた。アイツ、ホントに可哀想じゃねえか?

 

 俺はホントに涙を浮かべながらそう吐き捨てたが、その言葉を聞いてサイラオーグは笑い始めた。

 

「フハハハハハハハ! そうか、だったらまだ大丈夫ということか!!」

 

 ………あの、あんたが大丈夫かどうか心配になってんですけど。

 

 俺が怒りも忘れて呆れた目を向けると、サイラオーグさんは目に浮かんだ涙をぬぐいながら、自信満々な表情を浮かべた。

 

「お前はそれでなんであいつが死んだと思っているのだ。あのおっぱいドラゴンが、愛する女も抱かずに死ぬわけがないだろう」

 

「いや、そういう理屈になってねえ理屈はどうよ?」

 

 もうちょっと理論的な会話してくれねえか?

 

 根性論だけでやっていけるほど、世の中甘くねえぞ?

 

 俺の視線の意味を悟ったのか。サイラオーグはふぅと息を吐いた。

 

「そんな事では、おっぱいドラゴンのような英雄にはなれんな」

 

 ……自覚があるけどこんなタイミングで言うか、オイ。

 

 あと俺は、そういう方向の英雄は目指してないから安心してくれ。

 

「あの男は、リアスの乳で前代未聞なことを何度も起こしてきたのだろう? そんな男に常識が通じると、なんでお前達は思っているのだ?」

 

 ………確かに、あいつに常識は通じねえけどよぉ。

 

 俺が困り顔になると、サイラオーグさんは俺の肩に手を置いた。

 

「大丈夫だ。あの男はこれまで前例のない事を何度もしでかしたのだ。最強の龍殺しや前例のない死亡確定の事態など、平然と乗り越えて復活するに決まっている」

 

 そんな、常識的にあり得ねえ事を、この男ははっきりと言い切った。

 

 正直、頭がどうかしてんじゃねえかと思う。

 

 だが、同時にアイツが確かに常識の通じねえ奴だって事を俺達は嫌というほどよく知っている。

 

 あの野郎、乳が絡むとホントに物理法則とか無視するからなぁ……。

 

 ………お嬢達の乳を祭壇に捧げれば、確かに復活しそうで怖い。

 

 俺は、そう思い直すと乾いた笑いが止まらなかった。

 

 ……あの野郎、張り倒してやろうか。

 




イッセーに常識は通用しない。それを納得させてしまうのが、イッセーがイッセーであるゆえんなのかもしれませんね。


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第五章 12

 いくつか感想で似たような指摘があったので、これを機に説明させていただきます。

 ヴァスコ・ストラーダ猊下とヒロイ・カッシウスの英雄間の違い大体それであっています。その辺をしっかり分けれてなかったのがヒロイの反感の原因です。


 ヒロイ・カッシウスはリアリストです。現実の醜さを知っているし、その醜さはまだまだ当分続いていくと思っています。言い方は悪いですが、その辺すれています。

 すれているので、英雄というものもきちんと資料などを使って調べて、子供が思い描くような「純粋な理想」なんてものはごく少数だということも分かっています。そして、そんな存在がもてはやされるぐらいに輝いている部分があることを把握しています。

 禁手の方向性もそれを示す伏線です。

 イッセーの場合は、時折奇策を用いることはあっても基本は真正面から戦うし、根本的には強大な力を正しくふるうタイプです。神器の成長もそれにこたえて、基本的には純粋に性能を底上げしていっています。

 反面ヒロイは、大技を手札として持つことはあっても、きちんと考えて「勝てる方法」を構築します。紫に輝く双腕の電磁王を最初に編み出したように、能力を利用して様々なアプローチを考えます。大技の類も、科学的にアプローチしています。
 この辺はリセスも近いですね。覚醒したリセスの必殺技も、科学的な現象を利用しています。






 ヒロイが目指しているのは「汚れてもなお人々を引き付けるぐらい輝いている英雄」「現実にでる大半の英雄」です。だから、リセスのある意味汚れそのものともいえる失態でも、彼女に対する敬愛は揺るぎません。英雄とはそういう者だから、リセスにもそう言った側面があると思っていたからです。ビッチなの隠してもないしね!

 逆にイッセーがなってしまうのは、それこそストラーダ猊下が言ったような「自然となる、純粋な英雄」でしょう。お伽噺の英雄を、現実に持ってきてしまうタイプです。









 すでにヒロイは、「リセス・イドアルにとっての輝き」を最優先としました。まずはリセスの英雄であることを決めました。

 リセスは「二人にとっての自慢」でい続けることを決めました。「みんなにとっての英雄」にはなれないと、悟りました。

 イッセーは「みんなにとっての英雄」にいつの間にかなってしまいました。逆に「特定個人に限定した英雄」にはなろうと思っても難しいでしょう。









 こんな発想に至ったのは、ネットサーフィンをしているときにこんなコメントを見たからです。

 実際は英雄が100人いたら100通り違う形の英雄があって良い。

 それが、この作品の「英雄」に対する一つの答えであり、ストラーダに対するアンチテーゼです。

 この作品の英雄たちは、数多くの「英雄の方向性」の一つを邁進している者たちなのです。



 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセスとペトは、ヴァーリに顔を見せていた。

 

 なんだかんだで、この城に今いる者達の中では付き合いが長いので、一応様子を見に行くつもりでだった。

 

「お姉様。部長達、大丈夫っすかね?」

 

「そうね。あれ、経験者としてはかなりきついわねぇ」

 

 ペトにそう答えるが、はっきり言ってかなりきついだろう。

 

 リセスは経験があるから分かる。

 

 恋愛感情を持っている者との死別は、かなり精神的に来る。それはもう、死んでしまっていいと思うぐらいに精神的に負担が来る。

 

 半ば加害者であり、目の前で死なれたリセスとは場合が違う。違うが、リアスからしてみれば初めての体験で、それに耐える土壌がないのだ。

 

 ……実際、元とは言え婚約者だったライザーや、親友であるソーナにすら顔を見せようとしなかったのだ。朱乃もバラキエルが見舞いに来るまで感情が死んでいるとしか思えない状況だった。

 

 アーシアも自殺を本気で考えるレベルで追い詰められている。小猫は比較的ましだが、こちらはレイヴェルと悲しみを共有できているからという塩梅だ。

 

 この調子では、天界でエクスデュランダルの修理をしているゼノヴィアとイリナが知ったらどうなることか。

 

 ロスヴァイセもショックを受けるだろう。ギャスパーも相当来るはずだ。イッセーのご両親や、松田や元浜にはなんといえばいいのか。

 

 そう考えると、どうしても暗い気持ちになる他ない。

 

 ヴァーリもショックを受けるだろう。宿命のライバルがこんなところで本当に死んだのだ。

 

 最初こそかなり馬鹿にしていたというか、肩透かしを食らった八つ当たりをしていた時がある。だがヴァーリは心からイッセーのことを宿命のライバルとして認め、彼が今代の赤龍帝であることを感謝している。

 

 そのヴァーリですら瀕死の重傷で事実上の集中治療室送りに追い込まれているサマエルの毒を喰らって、イッセーが無事でいるとは思えない。

 

 神の奇跡クラスの出来事が連発でもしなければ、如何にイッセーといえど生存は絶望的だった。

 

 一つぐらいならどうにかしそうだが、然し連続となると……。

 

「イッセーの童貞、こんなことなら無理やりにでも奪ってやるべきだったッス」

 

 ペトが、そう涙を浮かべるとぽつりと呟いた。

 

悪友達(ヒロイ達)に先超されてるの気にしてたのに、こんな形で絶望的になるなんて。……部長達をけしかけるなり、ペト達ならできる事はいくらでもあったはずなのに……」

 

「そうね。確かに、私も臆病になりすぎてたわね」

 

 ペトが沈む気持ちも分かる。

 

 ……リセス・イドアルは手痛いにもほどがある失恋をした。

 

 あらゆるものが弱かった事が原因で、ニエは絶望して死を選んだ。

 

 それがトラウマになっていたからこそ、リセスは恋愛関係に対して「余計な介入は避ける」をモットーとしていた。

 

 そしてその結果がこれだ。

 

 イッセーは恋愛ごとに対してトラウマを持ち、恋愛に対して臆病になっていた。その結果、あからさまな好意にすら無自覚に目を背けた。そしてようやく乗り越えたと思ったらこれだ。

 

 自分が、気づくべきだったのだ。

 

 愛する者を殺したリセス・イドアル。惚れた女に殺された兵藤一誠。

 

 自分達は方向性こそ真逆だが、男が死に追いやられたという意味では同じなのだ。それに気づくべきだった。

 

 もちろん気づいたからといって、七年間も迷走を続けていた自分が何ができるかと言われたら困る。

 

 しかし、それでも、何かできるのではないかという想いが浮かんでしまう。

 

「イッセー。散々ハーレム王になりたいって言ってたのに、後は童貞捨てるか結婚するかの違いだけだったのに……っ」

 

 思い返して涙を浮かべるペトの肩を、リセスは抱き寄せる。

 

 ……シャルバ・ベルゼブブが生き残っている可能性は低い。

 

 今のイッセーなら、蛇を使ったシャルバを打倒する事だってできる。話によれば蛇を失っているようなので、尚更勝てるだろう。

 

 だが、シャルバがサマエルの毒を持っているというのならば話は別だ。

 

 サマエルは龍に対する圧倒的天敵。魔王の末裔であるヴァーリですら、今現在進行形で死にかけているのだ。元がタダの人間であるイッセーでは耐えられない。

 

 そこに、これまで確実に死亡している駒だけの転送。

 

 ……リセスもペトも、イッセーの死亡を疑っていなかった。

 

 そしてヴァーリを匿っている部屋のドアの前に来た時、ドアが開いた。

 

「おっと。煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の姉ちゃんに、狙撃手の嬢ちゃんかい」

 

 扉の先にいたのは、闘戦勝仏だった。

 

 美候がヴァーリの治療のために呼んでいたのは知っていた。どうやら本当に来たらしい。

 

「あら、ヴァーリは連行しないのかしら?」

 

「なに、馬鹿孫の友達に無体なマネするほど、この老いぼれは鬼じゃねえわぃ」

 

 リセスにそうからからと笑いながら答えるが、しかしすぐに表情を変える。

 

「……聖魔剣の坊主達ほどじゃないが、だいぶ参っとるようじゃの」

 

 痛いところを突かれた。

 

 なにせ、イッセーはリセスにとっての恩人だ。

 

 絶望する自分を救ったのはヒロイとペトだが、そこに至るまでのお膳立てを整えたのはイッセーだ。

 

 その前から、覗きの常習犯である事は苦笑ものだが好感を感じていた。大事な仲間の一人だとも言ってくれたし、自分にとっても同じだ。

 

 ペトにとっても大事な友人の一人だった。恋愛感情はないが、友情としては間違いなく最高峰のはずだ。

 

 だから、正直言ってかなり辛い。相当辛い。

 

 そして、そんな表情を浮かべるリセスとペトの頭を、闘戦勝仏はぽんぽんと撫でた。

 

「まあ、普通に考えりゃぁ死んでもおかしくねえわな。そりゃ落ち込むのも当たり前じゃが……」

 

 そして、意味深な表情を浮かべる。

 

 その態度に、二人が少し変な表情を浮かべる中、闘戦勝仏はにやりと笑った。

 

「確かにサマエルの毒を、ただの人間ベースの赤龍帝の坊主が喰らえば肉体は持たん。だが、魂はそのあとじゃな」

 

 その言葉の意味を、二人が理解するより早く闘戦勝仏は言葉を続ける。

 

「ま、それでも普通は次にやられるだけなんじゃが……。それが無事なら何とかなるかもしれんぜ? 煌天雷獄の姉ちゃんの彼氏も、リムヴァンが復活させたじゃろ?」

 

「彼氏じゃないし、付き合う資格もないわよ」

 

 条件反射で答えてから、リセスはしかしその言葉の真の意味を理解した。

 

 肉体と魂はまた別のものだ。

 

 もしかしたら、魂だけでも無事な可能性はある。

 

 そして、魂さえ確保できるのなら、蘇らせる方法は存在する。ほかならぬリセスが、それを激痛を持って体験している。

 

「魂と直結してるはずの、悪魔の駒そのものは汚染され取らんかったようだしのぉ。可能性は低いがよ、もう少し信じて調べてみても罰は当たらんぜ、仏の儂が保証してやるわい」

 

 その言葉を最後に、闘戦勝仏は歩き出す。

 

「ま、この老いぼれが頑張って時間稼いでやるわい。どっちにしても、もう少しぐらい時間をおいてから戦いに行っても、罰は当たらんだろうよ」

 

 その言葉に、リセスとペトも、少しぽかんとしながら見送ることしかできない。

 

 はっきり言えば、望み薄だ。

 

 肉体の加護がない魂は非常にもろい。そして、異形の魂は死によって消滅するといっても過言ではない。様々な勢力が保有する冥界に送られる人間とは違うのだ。それは転生悪魔でもどうにもすることはできない。

 

 だが、もしかしたら復活する可能性はあるのかもしれない。

 

 むろん無理な話だ。三大勢力に幽世の聖杯(セフィロト・グラール)はないのだから、死者蘇生などという荒業は不可能に近い。いかに冥界の英雄といえど、そう簡単に蘇生させるわけにはいかないだろう。

 

 だがしかし、兵藤一誠は英雄だ。それも、お伽噺の英雄のような男だ。

 

 ……案外、魂の残骸でも確保できたら、リアスの胸に触れさせたら復活してきそうだ。

 

 その光景が目に浮かんで、リセスは吹き出しそうになる。

 

「……お姉様?」

 

「ああ、ごめんごめん。大事な事を忘れてたのよ」

 

 ペトに謝りながら、リセスは大事な事を思い出す。

 

 リセス・イドアルは英雄だ。ペト・レスィーヴとヒロイ・カッシウスの自慢(英雄)だ。それ以上になれる可能性は低いし、なれなくても別にいいと割り切っている。

 

 ヒロイ・カッシウスは英雄だ。リセス・イドアルの輝き(英雄)だ。そして、少数のモノ達にとっても輝き(英雄)。もしかしたら、三大勢力にとっての英雄になれるかもしれない。

 

 そして、兵藤一誠も英雄だ。それも、現実の英雄ではなくお伽噺のそれに近い。

 

 幾度となく奇跡を起こし、自分達を圧倒するほどの成長率を叩き出す。

 

 現実の英雄は、その多くが非業の死を遂げた。ジャンヌ・ダルクは火刑に処され、ヘラクレスは猛毒に苦しみ死を選び、シグルドは愛に翻弄され殺されて、曹操もまた、勝者とはなれなかった。

 

 だが、お伽噺の英雄はハッピーエンドが基本だ。生きて生きて生き抜いて、生きて幸せを手にするものだ。

 

 なら、彼はもしかすると生きているかもしれない。

 

 もちろん可能性は低いが、まあ、もう少しぐらい調べてみてからでもいいだろうという気に、リセスはなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、少し落ち着いてからリセスは部屋に入る。

 

 まず真っ先に目に入ったのは、表情が変わった木場祐斗だ。

 

 そこには、隠しても隠しきれなかった絶望はない。そしてどこか希望の色が見えていた。

 

「どうやら、闘戦勝仏様の説法をあなたも聞いたのね」

 

「はい。もう少し調べてみようという気になりました」

 

 どうやら、それなりに希望の星が見えているようだ。

 

 眼の色が違う。そこから見える心が違う。先ほどまであった弱さがなくなり、明確な強さが出てきている。

 

「でもでも、肉体が消滅するってもう死んでるのと同じっすよ?」

 

 むしろ、ペトの方が弱気な発言をしている。

 

 そしてペトの言う事ももっともだ。

 

 普通、肉体が崩壊したら生き物は死んでいる。

 

 ……ドライグなどは魂を封印されているが、あれはかなり特殊な事例である。死んでから復活した存在など、神話伝承を紐解いてもごく僅かしかないレアケースだ。

 

 ましてや今回は龍殺しの極点であるサマエルだ。既に魂まで汚染されている可能性は、十分にある。

 

 ペトの言う事が普通なのだ。

 

 だが、祐斗は首を振る。

 

「確かに普通は無理だね。だけどイッセー君は、普通じゃない」

 

 その言葉に、ペトは少し考えこんで……。

 

「……確かに、汚染された魂とカ、母乳で洗ったら浄化しそうっすね」

 

 と、遠い目をした。

 

 中々斬新な発想だが、言われてみるとものすごくありえそうであった。……物体でない魂を物理的にどう洗うのかは置いておくとして。

 

「それで、問題はどうすればいいのかよね」

 

 リセスは建設的に問題点を指摘する。

 

 こういう時頼りになるアザゼルは、悪魔の駒を調べてからグリゴリの施設に戻っていったままだ。

 

 おそらくその可能性にいち早く思い至ったのだろう。そして同時に、その可能性が著しく低い事にも気づている。

 

 だから、リアス達はもちろんリセスにすら黙っていたのだ。半端に希望を持っても、それが結局無駄足だと知ればショックは大きい場合がある。それなら、自分達だけで調べればいいという判断もあったのかもしれない。

 

 とは言え、自分達で抗ってみるというのは、納得を生み出すはずだ。

 

 このまま座して絶望するよりも、はるかにいい。

 

「……それで、この忙しい中まずどうするのかしら?」

 

「とりあえず、イッセーくんの悪魔の駒をより調べてみるべきだと思っています。そして、それができるのは一人しかいません」

 

 その言葉に、リセスはかつて出会った男を思い出す。

 

 確かに、悪魔の駒に関して彼ほど知識のあるものはこの世にいないだろう。

 

 なにせ、彼が悪魔の駒を作ったのだ。それも、意図的なブラックボックスについて「それはユーザーが自力で気づいてこそ意味がある」などと言っている男だ。絶対に何か隠している。

 

 そう―

 

「現魔王ベルゼブブ。……アジュカ・ベルゼブブ様に調べてもらうのね。……かなり忙しいと思うのだけれど―」

 

「―それでも、今はあの方に頼むしかありませんから」

 

 リセスに応える祐斗の目に、迷いはなかった。

 

「なるほど。なら、俺達はもうお暇するとしようか」

 

 と、そこでヴァーリが声をかける。

 

 顔色は未だ悪いが、しかしだいぶ良くなっている。精々風邪をひいている程度の調子のようだ。

 

 闘戦勝仏による治療は見事ということなのだろう。最高峰の仙術の使い手の1人なだけはある。

 

「あら、もういいの?」

 

「ああ。世話になった借りはいつか返そう」

 

 ヴァーリはそう言うと、リセスに視線を向ける。

 

「さて、俺はこの後どうすればいいのだろうか。兵藤一誠を奪った借りを返す……というのは柄じゃないしな」

 

「だったら助けてもらった借りを返しなさい。……とにかく、今こっちに危害を加えているか加えそうな連中に、うっぷん晴らしをすればいいわ」

 

 ヴァーリにはそれが一番向いているだろう。

 

 もとより強者と戦うことに興味の殆どを向けているような輩だ。加えて根が自由極まりない。このまま現政権とともに共同戦線を張っても、よほどの人物でなければ御せないだろう。

 

 なら、敵対しないだけにとどめて自由に動かすべきだ。こちらは最初からいないものと思って行動すればいい。

 

 こちらに危害を加えない程度に立ち回る事なら、さすがにできるだろう。

 

「おい姉ちゃん。あんた、俺っち達のことを馬鹿にしてねえか?」

 

「これまでの行動を省みなさい。ヴィクター経済連合に切り捨てられたヴァーリチームさん?」

 

 美候にサラリと皮肉を返しながら、リセスは視線を黒歌に向ける。

 

「妹さんに何か言う事はあるかしら?」

 

「別にな……無理はしない方がいいって言っときなさい」

 

「はいはい」

 

 素直でないシスコンに、リセスは苦笑する。

 

「それではそろそろお暇するとしましょう。これ以上ここにいると、現グレモリーに迷惑がかかるでしょうし」

 

「本当にありがとうございました。おかげでヴァーリ様が治療できました」

 

「恩に思うのなら、これから三大勢力には迷惑かけるなッスよ」

 

 と、ペンドラゴン兄妹にペトが言葉を交わしていた。

 

 まあ、このチームは問題児というか自由人の集まりだが、どうやら外道の類ではないようだ。

 

 放っておいても、この騒動が終わるまではこちらに手出しはするまい。リセスはそう判断する。

 

 借りはきちんと返すタイプなのだろう。それは、恩であっても仇であっても。

 

 そして、仇という借りを返しに行く相手は一体誰になるのか。

 

 旧魔王派か。英雄派か。それともハーデスか。もしくは、その三勢力全員か。

 

 どちらにせよ、ただでは済まないだろう。

 

 龍の逆鱗に不用意に触れて、ただで済む者はいない。それほどまでに逆鱗というものは危険極まりないのだ。

 

 とは言え、されたことがされたことなので、リセスも同情する気は欠片もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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第五章 13

希望の光を一瞬だけど見据えてリアスたち。

そして、それが本当にあるのかを探るため、向かう先は……


 

 俺達は、グレイフィアさんの協力の元、アジュカ様のもとに向かっていた。

 

 グレイフィアさんはルシファー眷属として超獣鬼の足止めに赴いているが、その前にサーゼクス様やアザゼル先生の指示に従って仕事をきちんとしていた。

 

 それが、アジュカ様が今いる場所の確認だ。

 

 なんと、駒王町から電車で一時間かそこら程度の場所にいた。なんでもそこが、アジュカ様が趣味で運営しているゲームの施設の一つらしい。

 

 ……なんで、そんなところに今いるんだろうか。

 

 いや、状況的に今積極的に動くのはファルビウム様だと思うぜ? 軍事関係はあの人の担当だし。各勢力との根回しもレヴィアたんの担当だ。あとサーゼクス様はなんか凄い事になっているらしく、アザゼル先生と一緒にどっか行ったそうだ。

 

 ……まあ、現四大魔王はフリーダムだからな。俺らには想定できない思考で動いてんだろ。

 

「さて、望み薄ではあるわね。普通に考えれば間違いなく死んでるし」

 

「何もしないよりはいいでしょう。どちらにしても後悔するなら、やった方がましとよく言いますし」

 

 姐さんの後ろ向きな発言に、木場も半ば同意しながら、然し前向きな言葉を返す。

 

 ま、なんにせよ全力を尽くすってのは悪い事ってわけじゃねえ。

 

 全力を出し切ったって思えるのなら、それが望んだ結果じゃなくても意外とスッキリする事はあるしな。

 

 変にくすぶっているぐらいなら、藁にもすがって最後の確認をする。それでイッセーがやっぱり駄目ならそれならそれだ。

 

「ま、最後まで頑張ったってだけでも、少しは救いになるかもしれねえしな」

 

「そうね。私みたいに迷走するぐらいなら、すっぱり希望を断ち切った方が吹っ切りやすいでしょうしね」

 

 俺の言葉に、姐さんは苦笑を返す。

 

 ああ、確かにそうだよなぁ。姐さん、ものすごく迷走してたもんなぁ。

 

 それで俺やペトは救われてきたけど、それでも迷走してた事に変わりはねえ。

 

 まっすぐ正しい道を進めるのなら、それに越した事はねえさ。そこまで否定なんて俺らはしねえ。

 

 ああ、そうだ。

 

 一回本気でとことんイッセーの生死を確かめりゃぁ、普通に死んでるとは思うけど気持ちはスッキリするかもしれねえ。

 

 無駄な行動だとは思うけどよ。それでも、それが必要な弱い奴ってのはたくさんいるもんだ。それが現実ってやつだ。

 

 人ってのは、そんな正しいからどんな時でもこうします……なんて、できねえもんだしな。

 

「……なんか俺、歳食った気分になっちまうんだけどよ」

 

「それは経験の差っスね」

 

 ペトにそう言われた。

 

「なんだかんだで部長はグレモリーの次期当主っスから、はぐれ悪魔討伐とかは安全性重視で「確実にできる」程度の相手しか命じられてないと思うッス。だから、こういう死別に慣れてないんすよ、きっと」

 

「だけどよ、朱乃さんは目の前で母親殺されてるだろ? むしろお嬢よりボロボロじゃねえか?」

 

 俺は小声でそう反論するが、それに答えたのは姐さんだった。

 

「それはそうでしょう。言ってはなんだけど、朱乃って依存するタイプだもの。柱に全体重を寄りかからせてるんだから、それがいきなりなくなれば顔面から地面に激突するだけよ」

 

 割とキッツい評価だけど、姐さんの表情はむしろ同情のそれだ。

 

 ……ああ。姐さんも似たようなもんか。

 

 ニエを自殺に追い込むほどに自分が弱かった事実から逃げ出す為に、姐さんは英雄という強者を目指した。

 

 それはつまり、強者になるという贖罪が柱なわけだ。それに寄りかかってたわけだ。だから、ニエにその事実を全否定されて、心が折れた。

 

 俺やペトの声が無けりゃぁ、その前のイッセーの説得が無けりゃぁ、姐さんは生き残ったとしても、心が死んでただろう。

 

 だから、朱乃さんの気持ちが分かるのか。

 

「もっとも、それはオカ研の大半に当てはまるけどね。イッセー、ことごとくそう言う事してたから当然といえば当然よね」

 

 姐さんは、そういうとため息をついた。

 

 木場もそれには同意見なのか、感銘を受けた風に頷いた。

 

「そうですね。僕も含めて、イッセー君はグレモリー眷属の問題を打破してくれましたから」

 

 そして、だからこそイッセーがやられると一気に倒れるってわけか。

 

 グレモリー眷属でそういうことされてないの、ロスヴァイセさんだけみたいだしな。そのロスヴァイセさんがいないんだから、事実上の全滅状態になるのも当然か。

 

「そう言う意味では、リセスさんも該当しますね。リセスさんは、大丈夫ですか?」

 

 そういや木場の言う通りだな。

 

 姐さんも、イッセーが頑張って引っ張り上げたところあるからな。そう言う意味じゃあ、姐さんもだいぶショック受けてるだろ。

 

 俺やペトや木場の視線が集まる中、姐さんは苦笑して首を横に振った。

 

「大丈夫よ。……私には、ヒロイやペトがいるもの」

 

 その言葉に、俺は照れた。

 

 ペトも顔を真っ赤にして、すっごく嬉しそうな表情を浮かべてる。

 

「イッセーには悪いけど、決定打は二人が私を英雄だと思ってくれている事だもの。そして、私の支えは二人の自慢(英雄)でいる事だもの。……だから、それが崩れない限り何があっても大丈夫よ」

 

 そう答え、そして姐さんはお嬢達の方を向く。

 

 お嬢達は、うつむいてそのまま黙ったままだ。

 

 サイラオーグさんの激や闘戦勝仏の冷静な考察があった事もあって、とりあえず一緒に外に出て来てはいた。

 

 だけど、それでもイッセーが死んだ可能性がでかい恐怖はきついはずだ。

 

 ……天界にいるゼノヴィアやイリナ、グリゴリにいるギャスパーは大丈夫だろうか。ロスヴァイセさんは冷静な対応をしてくれそうなんだけどよ。

 

 俺達は、不安に駆られながら電車に揺られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺達は目的地に辿り着いた。

 

 人の少ない町はずれにある、廃棄されたビル。

 

 ここが、アジュカ様の隠れ家的な場所の一つらしい。

 

 ……その割には人の気配が多くねえか?

 

 俺が先頭に立ってのぞき込むと、そこには何人もの男女が集まっていた。

 

 若い連中が多いな。いったいどういうこった?

 

 俺達が怪訝な表情を向けると、向こうの俺達に気が付いたのか、視線と一緒に携帯やらスマホやらを向けてくる。

 

 ……そして、どいつもこいつも警戒心やら畏怖の感情を顔に浮かべやがった。

 

 どういうこった? 携帯で、一体何が分かるってんだ?

 

「おい、あいつら大半が悪魔だぞ? しかもランクもレベルもシャレにならねえ……」

 

「あっちのピンク髪の子は堕天使ね。うわ、上級クラスじゃない」

 

「しかも人間の姉ちゃんもあの野郎もすげえぞ。あの中じゃ2トップじゃん」

 

 ……なんか、スマホなんかで俺らの能力が解析されてるみたいなんだけどよ。

 

 なに? ここ、どういう施設にビフォーアフターされてんの?

 

「そう言えば、アジュカ様は人間界でゲームをしているとイッセーくんに仰られてたそうだよ」

 

 木場が、イッセーからっぽい情報を言ってくる。

 

 ああ、そういえばそんなこと言われた気もするな。携帯電話がありゃ、誰でも参加できるゲームだとか言われたって言ってたな。

 

 ってことは、そのゲームの機能かなんかで俺らの能力が分かるってか?

 

 いったい何のゲームだよ。阿呆プレイヤーの所為で社会問題になった、ポケモ〇のARか何かか?

 

 携帯電話にシステム組み込んで、隠れてる異形を探し出すゲームとかか? 詳しく知られたら、他の異形政府が何か言ってきそうなんだけどよ。教会は知ってんのかねぇ。

 

 俺らが怪訝な表情を浮かべ、そして相手側の奴らもなんか警戒心を見せてくる。

 

 そんな中、ドタバタと慌てて走る音が聞こえてきた。

 

「ま、ままままってください! この雌犬の話を聞いてくださーい!!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえてきて、そして、見覚えのある姿が俺の視界に映る。

 

 ……ああ。そうか。

 

 お前、元気でやってんだな。

 

「……久しぶり、シシーリア」

 

「はい。この愚図のことを覚えていてくれて嬉しいです、ヒロイさん!」

 

 何やら感極まった表情を浮かべたシシーリアは、すぐにはっとなると慌てて振り返った。

 

「すいません! 彼らはGMの知人です。こちらの彼女がGMの御親友さんの妹さんで、他の方はその護衛というかなんというか……」

 

 微妙に説明に困っているようだったが、すぐに両手をわたわたと動かすと、とにかく大声を上げる。

 

「とにかく善良な人達なので、あまり騒がずそのままゲームを楽しんでくださいっ! 駄目女の言うことだと信じられないかもしれませんが、本当に大丈夫ですので!!」

 

 と、あわあわしながらシシーリアが声を荒げるなか、逆に周りの奴らはほっとしながらゲームに戻っていく。

 

「シシーリアたん。自虐萌え~」

 

「しっしーが言うなら、大丈夫なのかな?」

 

「ま、俺らじゃ勝ち目ないし、それならそれでいいか」

 

 と、皆安心の表情を浮かべながら、和やかに談笑に戻っていく。

 

 流石、元聖女。シシーリアってばいつの間にかここのアイドルと化してねえか?

 

 俺が何となく和んでると、シシーリアが慌てて振り返った。

 

「あ、愚鈍ですいません。ここは、アジュカさまのゲームのロビーというか、ギルドというか、ターミナルというか……とにかく、ちょっとしたゲーム用の寄り合い所帯みたいなものなんです。そのせいで他よりも悪魔とかに興味がありまして、すいません!」

 

 と、自分が悪いわけでもねえのに頭を下げる。

 

 流石に、自分を卑下する癖は治ってねえか。

 

 でも、シシーリアは結構待遇がいいみたいだな。ディオドラの時よりは間違いなくいい感じだろ。

 

 だって、そのゲームのプレイヤーはシシーリアのことを結構評価してたしな。シシーリアが言うなら俺らも安心な奴だと信じたみたいだし。

 

 やっぱ、シシーリアは聖女に祭り上げられるだけの素質があるぜ。俺が照らすに値するいい女だな。

 

「ま、元気にやってるみてぇで安心したぜ」

 

「はい! アジュカさまはこんな駄馬にも親切にしてくださって、ゲームを楽しむ人達も良い人が多くて、後色々鍛えてくれる人も紹介していただきました」

 

 そうにこやかに答えるシシーリアは、やっぱりいい表情だ。

 

「良かったです。シシーリアさん」

 

 アーシアも、境遇が似てるからか自分のことのように喜んでいる。

 

 まあ、ディオドラに目をつけられて酷い目に遭ったって意味じゃあ同じだもんな。そりゃ親近感もわくってもんだ。

 

「……それで、アジュカ様は貴女のことに親切なのね」

 

「はい。私が協力的な事もありますが、おかげでだいぶ良い生活が遅れています。……私の願いにも、色々とご配慮してくださいましたし」

 

 姐さんにそう答えるシシーリアは、どこか遠くに視線を向ける。

 

 そこには、昔のような影と、昔とは違う光があった。

 

「いつか、あの人達も立ち直って前に進めるように、私がその土台を作れりたい。……アジュカ様は無償でそこまでしてくれませんけど、私がそれができるような人物になれる道は示してくれました」

 

 シシーリア……っ

 

 シシーリアが言いたい事はよく分かる。

 

 ディオドラ・アスタロトの眷属は、その殆どが敬虔な信者だった。

 

 ディオドラはそう言った少女達を堕落させるのを性的嗜好としている。しかも、それを実際に実行する行動力がある外道だ。アーシアもその所為で追放されたもんだ。

 

 シシーリアもそうだ。俺が照らしきれなかった事もあって、ディオドラの誘惑に惑わされて悪魔になった。

 

 そして、その悪意に気づいてずっと絶望して生きていた。

 

 殆どの連中は、ディオドラに縋ってディオドラに従っていた。姐さん風に言うなら、畜生になっていた。

 

 きっとつらかっただろう。自分とは違い、ディオドラの雌でいる事を喜んでる彼女たちの中で、シシーリアは疎外感を抱いていただろう。

 

 俺と再会し、それをきっかけに、アーシアを助ける為に、ディオドラを裏切ったのは、シシーリアが凄いというべきだ。

 

 それだけの芯を、シシーリアは残していた。それだけの勇気をシシーリアは持っていた。それだけの優しさが、シシーリアにはあった。

 

 そして、彼女達にはそれがなかった。

 

 ディオドラの判断に従い、異を唱える事もない。ディオドラが人間を家畜とみなしている旧魔王派に寝返る時もそのままついてきた。そして、アーシアを助けようとする俺達を妨害してぶちのめされて、そのまま捕縛された。

 

 そんな奴らが罪を償って出所した時、その基盤をシシーリアは作ろうとしている。

 

「……もうディオドラはいません。ヒロイさんが倒しました。だから、彼女達には居場所がありません」

 

 そう寂しげに言うシシーリアは、だけど決意を秘めていた。

 

「だから、彼女達がいつか前に進む為にも、誰かが罰を受け終えた後の居場所を作るべきなんです。……彼女達が、自分の人生を立って歩けるように」

 

 シシーリア。お前、やっぱり聖女だよ。

 

 そんな子の心を照らせた自分が誇らしくて、シシーリアを最初に照らせた事が光栄だ。

 

 俺は、シシーリアの手を取ると、その手を握った。

 

「……契約金から少しぐらいは出資してやる。お前の想い、届くといいな」

 

「………はいっ!」

 

 シシーリアは、涙迄浮かべて満面の笑みを浮かべた。

 

 なぜか、顔が赤い。

 

 ん? なんでだ? 異性に手を握られてるからか? セクハラだったか?

 

「……ヒロイ、イッセーのこと悪く言えないっす」

 

「いや、ペトさんやリセスさんの所為でもあると思うよ? 嵌ってるからそれ以外に目が向いてないだけだよ」

 

「流石は私の弟分ね。この調子であと七人は関係を迫りなさい」

 

 外野がなんか言ってるんだけど、俺はシシーリアが心配で、俺自身が不安で聞こえてねえ。

 

 シシーリア、過労か? 聖女なんてものに選ばれるだけあって結構献身的だからな。そして暗い表情を内心で見せるぐらいには脆いからな。結構きついのかもしれねえな。

 

 アジュカ様に一言モノ申すべきだろうか。だけどシシーリアが自主的にやってる可能性もあるし、アジュカ様からしてみれば弟の不始末の面倒を見ているわけだしなぁ。

 

 そんなことを思っていると、アーシアが痛々しい笑顔を浮かべて、シシーリアの手を握った。

 

「シシーリアさん。私も、機会があったら手伝わせてください」

 

「アーシアさん。……いいんですか? 言っては何ですけど、あの人達はまだディオドラに依存してるので、あだで返されてもおかしくないですよ?」

 

 シシーリアがそう言うが、アーシアは首をふった。

 

「それは仕方がありません。ディオドラさんをいい人だと思ったのは、私もそうですから」

 

 そういうアーシアは、だけど目が少し虚ろだった。

 

 そして、その目は涙で潤んでいた。

 

「それに、何かしていないとイッセーさんのところに行きたくなってしまって……」

 

 その言葉に、俺は現状を思い出した。

 

 しまった。今はシシーリアと再会の喜びに浸ってる暇なかったわ。

 

 望み薄だけど、最後の希望を試しに行ってるんだったよ。

 

 シシーリアも我に返ったのか、わたわたと両手を動かしながら、すぐに頭を下げる。

 

「気が利かない愚鈍ですいません! そうですね、事情は私もアジュカさまから聞いています! そろそろ来る頃だとおっしゃっていました!!」

 

 ……サーゼクス様やアザゼル先生から何か言われてたのか?

 

 いや、意外と頭がキレるから自力で想定したのかもな。悪魔の駒関係で、あの人の右に出る奴はこの世界にいやしねえし……。

 

 俺がそう思ったその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルが、大きな音とともに大きく震えた。

 



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第五章 14

はい、状況は急激に動きますです!


 

 エレベーターは止まるわ停電するわで大混乱なビルを、俺達は階段を駆け上がって移動する。

 

 避難誘導の為に下に残ったシシーリアが言うには、アジュカ様は屋上にいるとのこと。

 

 あと下手人はヴィクター経済連合だった。ご丁寧に避難誘導の為にコノート組合(ギルド)から人員が派遣されていた。

 

 諜報部隊の調べによると、コノート組合は傭兵やPMCの寄り合い所帯とのこと。小規模勢力が多くて色々と振り回される事が多いので、いっそのこと労働組合みたいな組織を作って派閥としてまとまったらしい。世知辛いな。

 

 とにかく、今回旧魔王派は動いている連中も多い。

 

 旧魔王派の公式発表ではシャルバの暴走と断じて、派閥全体では介入はせず後方支援に回るとのことだ。カテレアがそう声明を発表してるそうだ。

 

 カテレア・レヴィアタンの奴、意外としっかりと活動してるな。レヴィアタンの末裔という権威を最大限に生かして、旧魔王派の立て直しを行っているらしい。

 

 他にもベルゼブブやレヴィアタンの若手がサポートに回っているとか聞いているし、旧魔王派も結構頑張ってるな。

 

 で、話を戻すが俺達はビルの屋上に到着した。

 

「無事っすか魔王様!!」

 

 俺が聖槍を構えながら入った視界に、ボロボロの屋上庭園が映る。

 

 そこには、服こそ汚れてるがかすり傷一つないアジュカ様がいた。

 

 問題は、対峙している連中だ。

 

 ドーインジャーは結構ゴロゴロしているが、問題はそれ以外。

 

 いるのは四人。

 

 一人は何とリムヴァン。こっちも服が少し傷ついてるけど、体には傷一つない。

 

 問題は、残りの三人だ。

 

「リセス…‥っ」

 

「り、リセスちゃん……」

 

「あぁ……リセスぅ!!」

 

 ニエ・シャガイヒ

 

 プリス・イドアル

 

 そして、ジークフリート。

 

 よりにもよって、姐さんの関係者勢揃いかよ! なんだその対姐さんパーティは! 嫌がらせか!!

 

「……あ、意識遠のいてきた……」

 

「お姉様ぁああああ!!!」

 

 姐さんも流石に精神的にきついらしい。ペトに支えられてる。

 

 そりゃ、因縁ありまくりの奴が全員登場したら気も遠くなるわな。いくら吹っ切ったところがあるからって、この三連コンボはキッツいわ。

 

 だが、三人とも少し驚いているようだ。

 

 ……俺らの行動を予期して、先回りしたってわけじゃなさそうだな。じゃあ、なんでだ?

 

「僕達は今回、アジュカ・ベルゼブブをこちら側に引き入れられないか試していたのさ」

 

 そういうジークの表情は残念そうで、失敗したのは明らかだった。

 

「……現四大魔王の一角、アジュカ様が裏切ると本気で思ってたのかい?」

 

 木場がそう聞くが、ジークはむしろ当然だという顔をする。

 

 なんだ? それだけの根拠があったってのか?

 

「彼は、サーゼクス・ルシファーとは異なる思想と独自の権利を持っている。それに一流の研究者としては、一流の研究環境を整えれば少しは迷うと思わないかい?」

 

 そうジークは言い放ち、しかし静かに首を振った。

 

「だけど、「自分が魔王をやっているのは、友であるサーゼクスが魔王をやっているからだけだ」と即答されてしまってね。友情というものはよく分からないね」

 

 そうか。とりあえず寝返りする可能性がないって分かっただけ安心だな。

 

 シシーリアの面倒を見てくれる人なんだ。いなくなってもらったらこっちが困る。シシーリアもショック受けるだろう。

 

 二度もアスタロト家の連中に利用されてたなんて、再起不能になるかもしれねえからな。安心安心。

 

「だから言ったんだよん! やめとけって!!」

 

 アジュカ様相手に、両手に炎を纏って攻撃を仕掛けながら、リムヴァンはそう言って呆れていた。

 

「この人、善悪には比較的無頓着な方だけど、友情には熱いからね! あと冥界の秩序と平穏も考慮するから僕らとは相容れないよ……っと!!」

 

「よく知っているな。それに、俺の覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)もきちんと対策している」

 

 その言葉とともに、激突していた二人は弾き飛ぶように距離を取る。

 

 見れば、アジュカ様の周りには何人もの滅茶苦茶強そうな悪魔がいた。

 

 ……彼らは軽傷を負っているが、だけどまだまだ余裕で戦える。そして俺や姐さんが挑んでも、一人倒すだけで限界だろう。

 

 あれが、アジュカ・ベルゼブブの眷属悪魔ってことか。

 

 つまり、今の今までリムヴァンはアジュカ様とその眷属を一人で相手していたって事になるな。ニエ達が傷一つ追ってないのがその証拠だ。

 

 どういうつもりだ? なんでついてきた?

 

「……彼らを動かさないのかい? 動かせば、俺を殺す事も容易にできるだろうに」

 

「言ったでしょ? 僕はできればあなたと戦いたくないんだ。死ぬところも目にしたくないし」

 

 リムヴァンはそう言うと、苦笑を浮かべて肩をすくめる。

 

「今回は、旧魔王派の実力者を失わない為に出張ってきたのがメインだよ。ニエくんを連れてきたのは、戦場を学んでもらう為さ」

 

「どういうつもり?」

 

 姐さんがリムヴァンを睨み付けるが、リムヴァンはそれに対して表情を一切変えず、アジュカ様から視線をそらさない。

 

 それほどまでに油断できない相手が、アジュカさまってわけか。サーゼクス様とアザゼル先生を含めた、各勢力の最高幹部クラス以上を相手に圧倒した奴とは思えねえな。

 

 裏切らないと断言していたし、どんだけアジュカ様のことかってんだよ。

 

 そして、ジークはそんなリセスに熱っぽい視線を向けながら、代わりといわんばかりに口を開いた。

 

「前回リセスにやられたのは、経験不足が大きな理由って判断をリムヴァンはしていてね。リセスより格上の者達の戦いを見せて、勉強させようってつもりなんだよ」

 

 ……なるほど。確かにそうだな。

 

 今の今まで文字通りくたばってたニエ。しかもブランクがあるどころか、元民間人だから戦闘経験なんてあるわけがねえ。よしんば喧嘩慣れしていても、異形達とのインフレバトルにはあまり意味がねぇわな。

 

 だから、リムヴァンはアジュカ様と戦う事を想定してここに連れてきたってわけか。

 

 ジークはどうやら、交渉をする担当って事なんだろうな。プリスはニエのお付きみたいな立場ってわけか。

 

「……しかし、俺の覇軍の方程式が全部失敗するとはね」

 

「ああ、僕も攻略法を見つける事が出来て嬉しいよ」

 

 感嘆の声を上げるアジュカに、リムヴァンも嬉しそうに答える。

 

「覇軍の方程式は、あらゆる現象を数式で解析し、それを魔力でいじくる事で操るあなたの固有技能。……技術なのか能力なのかも分からなければ、一体どこまでできるのか底が知れないのが厄介だ」

 

 なんだそのチート技。

 

 魔法も確かに数式や計算で行うけど、この世の現象の数式って、俺には訳が分からねえよ。

 

「ぶっちゃけ、超越者の中で一番危険なんだよ。サーゼクスくんは単一属性を極めた特化型だからメタ張りやすいし、残り一人は処理限界を突破できる僕からすれば比較的いなしやすいけど、あなたはメタ張れないもん」

 

 リムヴァン、そこ迄アジュカ様のことを警戒していたのか。

 

 確かに、サーゼクス様は消滅の魔力を使いこなす事に才能と努力をつぎ込んだ、典型的な一芸型だからな。その芸さえどうにかできる手段があるなら、難易度は大幅に下がる。実際リムヴァンは紅の鎧のイッセーにカウンターをもらう程度の性能で足止めができたしな。

 

 っていうかもう一人? そういや、超越者は三人いるって聞いた事あるな。……誰だ?

 

「だから、あなたに対抗するには威力でも範囲でもなく、制御権に全力を割り振った魔力攻撃が効果的だ。ここ以外を重視すると、コントロールされちゃうからね」

 

「そうだ。しかし、それでもある程度の制御はできる。……なるほど、君がリムヴァンと名乗る理由がよく分かった」

 

 アジュカ様は得心すると、今までの落ち着いた表情を捨てて、鋭い視線を向ける。

 

 ……なんか、ガチ本気モードになってねえか?

 

 おいおい。リムヴァンの奴、どんなメタ神器持ってきたんだよ。

 

「……究極の羯磨(テロス・カルマ)。それで俺が失敗する可能性を無理やり増大させたわけか」

 

「……そうだよ。究極の羯磨(これ)が、正真正銘リムヴァン・フェニックスの持つ本来の神器だ」

 

 その言葉の意味は、分からねえ。

 

 だけど、これだけは分かる。

 

 こいつ、生まれつき神滅具持ちだったのか。そのうえで、神器を大量に移植したり取り外したりつけたりできるのか。止めに、神器を悪魔合体させて神滅具級の複合禁手を作り出しやがる。

 

 これが、第四の超越者なのかよ!!

 

「さて、できればもうちょっと「何ができるか」を試したいもんだけどねぇ」

 

「俺としてもそうしてほしい。究極の羯磨(それ)はこの世界の法則を離れた力、使い手のデータを取るのは、様々な理由で有効だろう」

 

 そう静かに嗤い合い、そして―

 

「「―もう少し付き合ってもらおうか」」

 

 その瞬間、凄まじい激突が勃発した。

 

 

 

 




特に狙ったわけでもない集中攻撃がリセスを襲う!!

そしてまあ、ジークとの決戦が幕を開けます。

頑張れリセス! ストーカーを撃退するチャンスがやってきたぞ!! 仲間たち大半がガッタガタだけどね!!


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第五章 15

人間界で頂上バトルをぶっ放す人たち。

そして、


 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、文字通り神話の戦いが繰り広げられている。

 

 アジュカ様が眷属とともに波状攻撃を仕掛ける。

 

 全員が最上級悪魔クラスの戦闘能力を持っていると言ってもいい、魔王眷属。全員集まっているわけではないといえ、その戦力は主神すら殺しうるだろう。

 

 それを、リムヴァンは一人でいなしている。

 

 魔聖剣の蹂躙旅団(ブリゲート・オブ・ビトレイヤー)の力をフルに使って数の差を圧倒し返しているとはいえ、これは凄まじい光景だ。

 

 これは、近くにいるだけで死ぬかもしれない……っ!

 

 そんな中、ジークフリートはグラムを引き抜くと、僕達に向かって一歩前を踏み出した。

 

 いや、違う。僕達に向けて歩いているんじゃない。彼の本命は一人だけだ。

 

「さあリセス。決着をつけよう」

 

 ジークフリートは精神の均衡を崩している。

 

 かつてペトさんが蹂躙された出来事。そこで起きた教会勢力との小競り合い。

 

 その戦いで、リセスさんはジークを撃破した。

 

 そして、自分が多重移植者であることを自覚しているがゆえに呟いた自戒の言葉を、ジークは自分に対して言われていると受け取った。

 

 その結果、彼の精神は崩壊した。

 

 ただグラムを引き出す事に重点を置き、禁手の特性もあって使いこなしていた四本の魔剣は手土産としてヴィクターに献上した。

 

 それゆえに、彼はリセスさんに執着している。

 

 これまでにも、リセスさんと出くわした時は暴走レベルで戦闘を仕掛けてきた。リセスさんも苦労していた。

 

 だから、ここでジークフリートがリセスさんに切りかかるのは、当然の流れだ。

 

 そして、一歩を踏み出したジークフリートの周囲を、突如現れたドーインジャーが取り囲んだ。

 

「悪いけど、君の逆恨みなんかでリセスを取られたくないね。……僕がやる」

 

 そして、ニエ・シャガイヒはリセスさんを恨んでいる。

 

 プリス・イドアルと共にアイドルになろうと頑張ってきたリセスさんを支えてきたのが、ニエだ。だから、リセスさん達がそんな彼の心を裏切った時、彼は耐え切れず自ら命を絶った。

 

 そしてリムヴァンによって蘇った彼は、強者(英雄)になることで贖罪を行おうとしているリセスさんの来歴を知った。

 

 高潔な人格者なら、リセスさんを心配するか、一定の評価をするだろう。そこに自分の弱さに対する逃げがあったとはいえ、犠牲を無駄にしない決意そのものは立派なのだから。

 

 だけど、彼は普通の人間だった。

 

 彼は、見知らぬ誰かを救う為の生贄扱いされた事を怒った。リセスさんを殺したくなるほど恨んだ。

 

 そして神滅具に適合したうえで禁手にまで至り、リセスさんと戦って……撃退された。

 

 イッセー君の尽力と、ヒロイ君とペトさんの言葉が彼女を立ち直らせ、そして逃げるのではなく立ち向かう事を選んだ事が切っ掛けとなって、禁手に目覚めた事で勝利を収めた。

 

 だけど、そこから得たリセスさんの決意は、ニエからすれば開き直りと受け取ってもおかしくないものだ。

 

 だから、ニエはリセスさんを今でも殺したいはずだ。

 

 そういう意味だと、ニエとジークフリートの相性は最悪に近い。

 

 過去のトラウマからリセスさん打倒を目指すジークフリート。

 

 過去の絶望からリセスさんに報復をしようとするニエ・シャガイヒ。

 

 目的が見事にぶつかっている。二人とも自分で倒したいだろうし、これは激突必死か。

 

「しまった! 組ませる相手を間違えた!! プリスちゃん説得よろしく!! 僕は忙しい!!」

 

「無茶振りです!?」

 

 そして、プリス・イドアルは完全なとばっちりだ。

 

 冷静に考えると、この子が一番不幸じゃないだろうか。

 

 悪辣な大人によって人生を踏み外し、更に悪魔に売られた。あてがわれた主は凶児ゼファードルで、しかもそのままヴィクターに連れていかれる。そしてニエとの最悪の再開をして、リセスさんに対する戦力として運用されている。

 

 ……とても不幸だ。確かに彼女には加害者の側面があるが、それにしたってこれは流石に酷いだろう。

 

 明確に格上である二人の喧嘩を止めるとか無理だ。しかも、心情的にニエを止めるのは無理だろう。

 

「……投降は受付っぞー? 姐さんの妹分なら俺達の姉貴分だし、弁護士代と保釈金は払ってやるぞー」

 

 ヒロイ君がここぞとばかりに寝返り工作を行っている。意外と抜け目ないね。

 

「ううん。私は、ニエ君について行くって決めたから」

 

 そして断られた。

 

 彼女も彼女で、ニエを自殺に追い込むほど絶望させた事に思うところはあるようだ。足止めの為に投げつけられるほど扱いが悪くても、それでもついて行くと決めている辺り、決心も硬いだろう。

 

「……と、とりあえずリセスちゃんは後回しにして、他の人達をどれだけ倒せたかで順番を決めるとか、どうかな?」

 

「待ってくれ。それだと物量作戦ができるニエが圧倒的有利じゃないか」

 

「いや、そりゃニエ君の方が大事だもん」

 

 そして意外といい性格だ。反論したジークフリートは少し頬がひきつっている。

 

 しかし、この状況はまずい。

 

 数の暴力を体現する魔獣創造を保有するニエ・シャガイヒ。

 

 神滅具の禁手にすら匹敵する魔帝剣グラムを保有する、英雄派のジークフリート。

 

 お互いにリセスさん狙いだから奪い合いになってチームワークが乱れる可能性が高いけど、もし連携を取られたらかなり不利だ。

 

 なにより……。

 

「……こんな、時に……」

 

 リアス部長は愕然としている。そこに戦意はあるけど、それを形にする事が出来てない。

 

 朱乃さん達にしてもそうだ。いつもなら既に臨戦態勢になっているはずなのに、どう見てもついていけてない。

 

 ヒロイ君たちは即座に戦闘態勢に入っているけど、リアス部長達は出来てない。

 

 これが、イッセー君が欠けた事による影響か。実戦に巻き込まれて、改めてその甚大な被害がよく分かるよ。

 

 下手をすれば、このまま蹂躙される事だって十分に―

 

「……分かったよ。だったらこうしよう」

 

 と、ニエがぽつりと呟いた。

 

 その言葉に、プリス・イドアルもジークフリートもいぶかしげな表情を浮かべる。

 

「とりあえず三十分だけサポートに徹するよ。それで駄目だったら僕に代わってくれ。ドーインジャーは出してあげるから、それでいいだろう?」

 

「……ふふ、前回こっぴどくやられて、怖気づいたのかい?」

 

 ジークフリートはそう挑発するけど、ニエは肩を小さくすくめると、そのままドーインジャーを生み出しながら、欄干にもたれてこっちに視線すら向けない。

 

 プリス・イドアルはそれを気遣わしげな視線で見たけど、やがてこちらに視線を向けて、両手を構える。

 

 そこから、丸鋸のように魔力が形成される。

 

 サイラオーグ・バアルとのレーティングゲームで見せたあの攻撃だ。かなりの強度を持っていたであろうバアル眷属の武器を切り裂いたその攻撃力は、危険視する他ない。

 

「……言っとくけど、ニエ君には近づけさせないから」

 

 その目には決意がある。これは、一筋縄ではいかなそうだ。

 

 そして、ある意味で好都合だ。

 

 僕は、激情をこれ以上押さえられず、一歩前に出た。

 

「リセスさん。前衛は僕がします」

 

「祐斗……」

 

 リセスさんはそれを拒まない。ヒロイくんとペトさんもだ。

 

 ああ、分かってくれているんだろう。

 

 イッセー君が死ねば、グレモリー眷属がこうなる事は想像出来ていた。

 

 だから、リアス・グレモリー眷属の騎士である僕だけは冷静でいようと決めて、頑張っていた。

 

 ヒロイ君達に寄りかからないようにしようと、一生懸命だった。

 

 だけど、そろそろ限界だ。

 

「英雄派幹部、ジーク。君はここで退場してもらう」

 

「退場するのは君だよ。たかだか聖魔剣如きが、煌天雷獄と魔帝剣の戦いに割って入る気かい?」

 

 ジークは殺意すら込めて睨み付けてくるが、僕は同じぐらいの殺意を込めてそれを睨み返す。

 

 ああ、いい加減僕達もうんざりだ。

 

 何度も何度も僕達の前に現れて、リセスさんに集中していたとはいえ僕達を苦しめて……。

 

 そして、イッセー君は彼らの作戦に巻き込まれる形で命を落とした。

 

「僕の親友は、あなた達のくだらない目的の所為で死んだ。……死ぬ理由としては十分だ」

 

「……いい目をしているね。いいだろう、リセスのついでに君も斬るとしようか」

 

 興味深い表情を浮かべながら、ジークフリートはグラムを構える。

 

 そして、一瞬で禁手に至ると即座に切りかかってきた。

 

 それを飛び退って交わすと、僕は聖魔剣ではなく聖剣を生み出す。

 

 同時に聖覇の龍騎士団を生み出して、龍殺しの聖剣でオーラを放った。

 

 剣での勝負では苦戦は必須。異空間での戦いでは油断させて一撃を与えたけど、特に堪えた様子はなかった。

 

 だから、全力でオーラによる集中攻撃を与えて見せる!!

 

 その影響が出たのか、ジークの肌からうっすらと煙が上る。

 

 ……だけど、ジークフリートの表情は何処か悦びの色があった。

 

「いい。いいよ、木場祐斗。いい龍殺しの波動だ」

 

 そう言うと、ジークフリートは身を震わせる。

 

 それは、明らかに喜びの行動だった。

 

 彼は激痛に苦しんでいるのではない。快楽にあえいでいる!

 

「龍殺しのオーラを浴びるのは、龍にとって祝福だ! そう、だから僕はグラムを全力で振るうことを躊躇しない!!」

 

 その言葉と共に、ジークフリートはグラムを一閃する。

 

 その瞬間、竜騎士は一瞬で両断された。

 

 それどころか、空間すらその一薙ぎで大きく切り裂かれる。避けた空間から次元の間が見え、そしてその無のオーラが周囲に満ち溢れた。

 

 流石は最強の魔剣。そしてその適合者といったところか。

 

 だけど!!

 

「リセスさん、援護をお願いします!!」

 

「え、ええ!!」

 

 若干戸惑いを見せながらも、リセスさんは龍殺しのオーラを放つ。

 

 アスカロンを使うイッセー君との模擬戦。グラムの担い手であるジークフリートの戦い。そしてあらゆる属性を支配する煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の特性。

 

 その経験が、リセスさんに龍殺しのオーラを操るという絶技を可能とした。

 

 神殺しの聖槍、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の担い手であるヒロイ君と一緒にいる事もある以上、いずれは神殺しのオーラを操る事すら可能だろう。それほどまでに、属性支配という一点に関してリセスさんは飛びぬけている。

 

 ゆえに、龍殺しの聖剣のオーラを操り増幅する程度の事ならできる。

 

 どうせなら、彼もリセスさんに倒されたいだろうからね!!

 

「いいね! リセスも本気を出してくれるのか!!」

 

 それをジークフリートは、グラムを盾にして防ぎ切った。

 

 同時に背中の巨大な腕が動き、近くの破片を掴んで僕に投擲する。

 

 防御力が圧倒的に低い僕相手ならそれで倒せると踏んだんだろうけど、甘いよ。

 

「聖魔剣よ!!」

 

 瞬時に禁手を聖魔剣に切り替え、僕はそれを一刀両断した。

 

 やはりそう簡単にはいかないか。だけど。

 

 ……イッセー君を死に追いやった君達を、ただで帰す気は欠片もないんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out




プリス、完全なとばっちりwww

リムヴァンの人選ミスのせいで、余計な仕事を背負う羽目になりました。ですがニエがあっさり妥協したことで苦労はそこ迄せずに済みました。


そして初登場の時と比べると冷静なニエ。

この変化についてはまあ、後々まで引っ張ると思います。



そしてヤンデレ街道まっしぐらなジークフリート。

最早彼にとって龍殺しのオーラは祝福です。グラムに呪われることがうれしくてうれしくてたまりません。

まさかリセスも自戒の言葉が原因でこんなモンスターを生み出すとは思わなかったでしょう。


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第五章 16 相克天秤

戦闘は激しさを増し、そしてオカ研は絶不調。

その状況の中、数少ないまともに戦えるペトとヒロイが相手をするのは……


Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 姐さんと木場がジークフリートを相手している間、俺とペトはドーインジャーを叩き潰していた。

 

 コイルガンの嵐が物理的にぶち抜き、光力の弾幕がエネルギー的にぶち抜く。

 

 だが、ドーインジャーの数は一向に減らねえ。

 

 くそが。生産速度が面倒だな。一向に減らせる気がしねえ。

 

 そして、まともに数を減らせてるのが俺ら二人ってのもヤベえ。

 

「く……っ」

 

「雷光よ……っ」

 

 お嬢と朱乃さんが攻撃を放つが、一度に一体が限界だった。

 

 手を抜いているわけじゃねえ。単純に、出力が出せてねえだけだ。

 

 どれだけ強い魔力をもっていようとも、闘おうとしても、心がついていけてねえなら意味がねえ。

 

 小猫ちゃんもレイヴェルもドーインジャー一体にてこずってるし、アーシアの回復のオーラもろくに効果を発揮してねえ。

 

 ヤベえ。このままだと押し切られるぞ。

 

「ど、どうするっすか!? このままだと、抑えきれないっすよ!?」

 

「しゃあねえ! 戦略的に補給源をぶっ潰す!!」

 

 やるしかねえか。このままだとジリ貧だ。

 

 そしてこういう類の敵に対抗する最適解は、本体を叩き潰すという一点。

 

 まあ、問題はニエの野郎は禁手でそれをカバーしてるって事なんだけどな。姐さんにも悪いとは思う。

 

 とは言っても、流石に今回はお嬢達の事があるからな。悪いが半殺しで撤退に追い込む程度は勘弁してくれよ!!

 

 そして、数が多いから狙撃は無理だ。つまり、今のペトでも流石にキツイ。

 

 と、言う事で俺だ。

 

「ペト! 足止め頼む!」

 

「五分でお願いするッス!!」

 

 OK! 命かけるぜ!!

 

 ペトが弾幕の密度を強引に上げてドーインジャーを抑え込んでいるうちに、俺は突貫する。

 

 全身にホンダブレードを展開して攻撃をガン無視。そして強引にドーインジャーの群れを突貫する。

 

 狙いはニエ・シャガイヒ一点特化。とにかく撤退に追い込んで終わらせる!!

 

 俺は速攻でニエに切りかかるが、そこに割って入る奴がいた。

 

「させない!!」

 

 プリス・イドアル!!

 

 俺と同じくイドアル孤児院の出身で、姐さんの同期。そして、ニエの従僕。

 

 姐さんと同じようにニエを追い込んだ罪悪感から、ニエに付き従う事を選んだ女。

 

 それに関しちゃ俺が何か言う権利はねえだが、つってもこのタイミングで邪魔されても困る。

 

 ……姐さんには悪いが、遠慮している暇はねえ。

 

「ぶった切る!」

 

「負けない!」

 

 聖槍の一撃を、氷の壁が防ぐ。

 

 もちろん聖槍の攻撃力なら一瞬でぶっ壊せる程度だが、それでも一瞬のタイムラグができる。

 

 その時間差で、プリスは間合いを取ると即座に炎をまき散らした。

 

「舐めんな!!」

 

 俺は魔剣を大量に生成して、その炎をやり過ごす。

 

 しかし、それで視界が遮らえた隙をついて曲射の魔力攻撃が俺に襲い掛かる。

 

 それを聖槍で薙ぎ払いながら魔剣をばらまいて壁を作るが、大量の氷が同じように生成されて魔剣を操作する事が困難になった。

 

 そして、俺の頭上の影が揺らめいた。

 

 上を見ると、そこには大量の水の塊があった。

 

 なんでだ? 重量で叩き潰すなら、氷を叩き付けた方がもっと楽に倒せるだろ?

 

 そう思いながら魔剣でドームを作って防御するが、その瞬間に水が爆発した。

 

 同時に大量の湯気が出て、俺は聖槍の加護が無けりゃ全身火傷を負うところだった。そもそもこの衝撃で並の中級悪魔なら即死してる。

 

 大容量の水による水蒸気爆発。なんて技持ってるんだ、あの女!

 

 とにかくしのぐが、その瞬間に湯気は霧になって俺の視界を塞ぐ。

 

 とっさに電磁力によるレーダーを張って生体電流で探知を試みながら動き回ってかく乱する。

 

 そして、俺はプリスの居場所に検討をつける。そしてプリスも俺の居場所を正確に把握したらしい。

 

 まっすぐ接近するプリス相手に、俺は魔剣を生成するとコイルガンを生成。遠慮なく叩き込んだ。

 

 まあ、向こうも位置が分かってるからかわされるとは思ったけど、プリスは反応が遅れたのか、攻撃がいくつか掠める。

 

「……うぅっ!」

 

 悲鳴を押し殺しながら、プリスはそれでも俺に接近すると、魔力で丸鋸を生成した。

 

 とっさに魔剣を生成した壁にするが、だけど、バターナイフでバターを切る感じで両断される。

 

 くそ! 切れ味意外と高いな! 単純な魔力のブレードにしちゃ切れ味が高い。下手な聖魔剣を上回るんじゃねえか?

 

「クソッタレ! なんだよそのチート能力は!」

 

 俺はニエに近づけなくて舌打ちしながら文句を吐いた。

 

 とにかく切れ味が鋭い。

 

 いや、一瞬ですっぱり切るわけじゃねえから、盾さえあればかわしやすい。

 

 だけど、トルクがあるというかなんというか、頑丈なものもちょっと時間をかければぶった切るこの切れ味は面倒だな。

 

 チェーンソーというかなんというか。ちょっと時間差はあるけど、ぶった切れる能力なら下手な刃物を凌駕してやがる。

 

 魔力で科学を再現とか、反則じゃねえか!?

 

「それもあるが、それ以上に厄介なのは彼女の神器だ」

 

 と、リムヴァンと超絶バトルを繰り広げながらアジュカ様が俺に声をかける。

 

 なんすか? これ、なんか種が。

 

「どういうことですかアジュカ様! なんか他に仕掛けが?」

 

「リセス君の下位互換と考えてくれればいい」

 

「あ、そういうこと言っちゃう? うちの味方に不利なこと言っちゃう!?」

 

 リムヴァンがアドバイスを阻止しようとするが、アジュカ様の眷属の猛攻で妨害されている。

 

 その援護を受けながら、アジュカ様は更に説明してくれた。

 

相克天秤(デュアル・マクスウェル)。熱量そのものを操る神器だ。……彼女は、魔力でそれを歪める事で様々な現象を可能としている熱エネルギー操作特化型のウィザードタイプなんだ」

 

 ね、熱エネルギー操作?

 

 なんで熱エネルギーを操作するだけでそんな事ができんですか?

 

「魔力と併用する事で、氷や炎を生み出すように歪める。そしてそれを併用する事で、水分を操作して霧や水蒸気爆発を発生させる。つい先日の襲撃時には、蜃気楼も生み出してたな」

 

「……っ!」

 

 アジュカ様の冷静な言葉に、プリスは焦りの表情を浮かべる。

 

 マジっすか。本当に熱量操作を魔力で歪めるだけでそんな色んな事できんですかい!?

 

 あ、でも魔剣ぶった切った丸鋸は?

 

「最も恐るべきは先程の丸鋸だ。刃をいくつも用意する事で対象を切断するのは当然の事、交互に高熱と低温の刃を併用する事で、熱衝撃による切断対象の強度劣化も同時に行っている」

 

 なるほど。つまりディストピアアンドユートピアの劣化再現ってわけっすか。

 

 交互に熱したり冷やしたりすると金属がもろくなるのと同じか。考えたな。

 

 っていうか、そんな事を実行に移せるってのがまず優秀な証拠だ。流石姐さんやニエの幼馴染。やればできる奴だ。

 

 枕営業ありとは言え、メジャーデビュー寸前にまで漕ぎ付けたセミプロアイドルなだけあるじゃねえか。まじめに勉強したら国立大学とかも狙えるんじゃね?

 

「わ、わかったからって何だっていうの! ニエ君には手を出させない!!」

 

「アンタの覚悟も立派だけどよ、種さえ分かればやりようはある!!」

 

 ああ、その種が分かれば、俺なら対抗可能だ。

 

「サンキューですぜ、アジュカ様!! あとは俺が!!」

 

 俺は即座に魔剣を生み出す。

 

 それは、かなり特殊な魔剣だった。

 

 魔剣の柄からワイヤーが伸び、大量の板が接続された魔剣。

 

 実用性はかなり低い。使う時に即座に魔剣を作り出せる魔剣創造の持ち主である俺だからこそ意味がある。普通の奴なら持ち運びが不便すぎて誰も使わねえ。

 

 だが、プリスが相手ならこいつが一番効果的だ!!

 

「どんな魔剣だって!!」

 

 プリスは俺が振り下ろす魔剣相手に、真向から丸鋸で迎撃する。

 

 確かにその丸鋸は驚異的だ。

 

 高速回転する刃はかけても瞬時に再生するから、その気になれば格上の装甲だって時間をかければ切り裂ける。しかも、交互に発生する熱衝撃があるからその切断速度はマジで速い。

 

 文字通り削り取る刃だ。その気になれば聖魔剣だって切り裂ける。相当の時間接触させれば、伝説クラスの聖剣魔剣だってぶった切れるだろう。

 

 だが、この魔剣に限っていえば話は別だ。それ位の相性差がある。

 

 実際、丸鋸を見事に受け止めて見せた。

 

 そしてその瞬間、俺の魔剣につながっているプレートの周囲で、はたから見れば異変と言えそうな現象が起きる。

 

 一部のプレートに触れていた金属が自重に耐え切れなくて曲がる。別のプレートの触れていた水分が凍結する。

 

 その現象は、はたから見れば意味不明。だが、魔剣の特性で歪めているとはいえ、立派な科学現象だ。分かる奴は分かる。

 

 そして、アジュカ様とリムヴァンは分かる側だった。

 

「ほう、ペルティエ効果か」

 

「ペルチェエフェクト!?」

 

「正解!!」

 

 ペルティエ効果。もしくはペルチエ効果。またの名をペルチェ効果(エフェクト)

 

 異なる金属を接合して電圧をかけたうえで電流を流すと、熱の放出などが起きる現象。電圧によって温度差を作り出す科学的な現象。

 

 車に乗せるサイズの冷温庫。医療用の機器。コンピュータの冷却などに使われる技術だ。

 

 それを魔剣の特性で拡張発展させ、熱量をプレートに移動させる事で高熱攻撃や冷凍攻撃などを防御する為の魔剣が、このペルチェブレード。

 

 炎や凍結をメイン攻撃にする悪魔は多かったんで編み出した代物だけど、こんなところで大活躍するとはな。

 

「う、嘘でしょ!? そんなのあり!?」

 

「科学と神秘の融合だからな! ちょっとぐらいはありだろ!!」

 

 俺は何とか状況を拮抗に持ち込む事ができた。

 

 プリス・イドアルの相克天秤の天敵ともいえるこの魔剣なら、聖槍よりもやりやすい。五分五分にまで持ち込めたぜ!!

 

 ……五分五分じゃダメなんだよ!!

 




相克天秤はリセスのディストピアアンドユートピアと元ネタが同じです。

ネットサーフィンしてる間に見つけた中二バトルモノの解説からネタを拾って、さらに別のISっぽい無敗な作品のデータを盛り込んで発展させたのが相克天秤。逆に変に盛り込まず、そのネタの上位形態を参考にしたのがディストピアアンドユートピアです。

ヒロイの紫に輝く双腕の電磁王に匹敵する汎用性の高さを持っていますね。ついでに応用で近距離での熱源感知もできます。

そのためプリスはサポートタイプの多少はこなせるウィザードタイプ。加えて丸鋸がディストピアアンドユートピアほどではないけど科学的に威力を向上させているため、禁手に至っていないのにもかかわらずヒロイ相手に善戦しています。









対するヒロイも科学的アプローチでたいこう。だいぶ前に調べさせたペルチェエフェクトを同じく異能で捻じ曲げて運用して対抗しました。

とはいえ今のままでは五分で突破など不可能。このままだと大ピンチなわけですよ


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第五章 17

 

 襲い掛かる猛攻をしのぎながら、ペトは意地と死力を結集して迎撃を行っていた。

 

 発生するドーインジャーは圧倒的な数の暴力。マシンガンを思わせるほどの発生速度で生み出されるドーインジャーは、津波を思わせる規模で襲い掛かる。

 

 それを、ペトは一人でしのいでいると言ってもいい。

 

 もちろん、リアス達も迎撃は行っている。そこに加減はないし、当人達は全力を尽くしているつもりだ。

 

 だが、その本領は欠片も発揮できていない。

 

 おそらく上位型のドーインジャーなら単独で互角以上に渡り合えるほどの能力しか発揮できていない。並の中級悪魔でも、力押しで太刀打ちする事ができる程度の力しか出せていなかった。

 

 それほどまでに、兵藤一誠が死んだ衝撃は大きい。

 

 今ペトが庇っている全員が、兵藤一誠に救われたようなものだ。

 

 自覚の有無はともかく、彼女達は兵藤一誠を心の支えとして、それが強さを引き出す切っ掛けとなっていた。根幹だった。

 

 ゆえに、兵藤一誠が死んだ今では見る影もない。

 

 全力を出そうとしている。手なんて抜いてはいない。今苦戦しているペト達を助けようと、必死ですらあった。

 

 それでも、リアス達は力を出せない。

 

 リアス・グレモリー眷属は、リアス・グレモリーを頂点としている。

 

 リアス・グレモリーは非凡な才能の持ち味だ。こと、人との巡り合わせにおいては真似できるものがいないレベルに達している。

 

 リアス・グレモリーの眷属はリアスに拾われなければ、人生が終わっていたかもしれないほどの過程を辿っている者が多い。その要素が段違いに薄いゼノヴィアとロスヴァイセすら、勝ち組と言っても過言ではない境遇から、どん底に落とされたと言っても過言ではなかった。他のメンバーに至っては、リアスに拾われなければ死んでいたものが全員だと言ってもいい。

 

 その来歴と慈愛にあふれる性格ゆえに、リアス・グレモリーは眷属悪魔達に絶大な信頼を得ている。

 

 だが、それに勝るほどに重要なのが兵藤一誠だ。

 

 リアス・グレモリーの眷属で、兵藤一誠に救われたことがないのはロスヴァイセだけだ。

 

 それ以外の全員が、心の闇を、どこか抱えていた傷を、兵藤一誠によって救われている。

 

 もちろん、お世辞にも立ち回りが上手とは言えない彼は、上手く解決した事はないだろう。

 

 だが、常に仲間達に寄り添い、問題に真正面からぶつかるのが兵藤一誠だ。その在り方が問題解決の一助となり、それが打開の切っ掛けになったのは言うまでもない。彼がいなければ、一生この問題を抱えていた者だっているだろう。

 

 ゆえに、兵藤一誠はリアス・グレモリー眷属の柱なのだ。

 

 ペト・レスィーヴはそれが分かっている。

 

 自分だって似たようなところはある。近い経験をしている。

 

 リセス・イドアルがいなければ、自分は今でも塞ぎ込んでいただろう。疼く体に折り合いをつける事ができず、悶々としていただろう。下手をすれば、人生の道筋を踏み外していた可能性がある。

 

 そして、ヒロイ・カッシウスがいなければソウメンスクナとの戦いで動けなかったかもしれない。そうなれば、リセスを失い、ペトは再び闇の中で塞ぎ込んでいただろう。

 

 自分にとっての2人が、グレモリー眷属にとってのリアスとイッセーだ。そう考えれば、この状況も納得できる。

 

 再起不能すらあり得る精神的致命傷。そんなものを負っている状態で、いくら窮地といえどそう簡単に動けるものか。

 

 それができるほど、彼女達は悲劇に慣れていない。最愛の者との死別は、それほどまでに激痛なのだ。

 

「ああもう! なんでこのタイミングで来るっすか!!」

 

 ペトがそう吐き捨てるのも当然だ。

 

 せめて意識を切り替える為の切っ掛けになればいい。そう考えてアジュカ・ベルゼブブのもとに訪れれば、まさにそのタイミングでヴィクターが襲撃をかけてきていた。

 

 それも、最強の魔剣を持つジークと、神滅具を保有するニエのセット。プリス・イドアルもヒロイ相手に足止めに成功しており、決して弱くない。とどめにリムヴァンはアジュカを眷属ごと足止めしている。

 

 明らかに絶対的窮地。泣きっ面に蜂とはこのことだ。

 

 ゆえに、立ち向かう事ができるペトとヒロイとリセスで状況を打破するしかないのだ。祐斗が動けるのが幸運だと言ってもいい。

 

 そして、現状は明らかに不利だ。

 

 ジークのターゲットにされている為、広域殲滅ができるリセスはドーインジャーを潰せない。しかも、ニエと戦っている状況である為、精神的にこちらも割と不調だ。

 

 同格であるヒロイが一発逆転の為にニエを狙ったが、プリスによって足止めを喰らっている。このままではこちらが押し切られる。

 

 祐斗の援護は想定外の好機だが、しかしジークの技量はそれを凌ぐ。

 

 そして、ペトは狙撃手であることが本領なのだ。

 

 狙撃以外はどうしようもないと言ってもいい。それをカタログスペックで強引に押し切るのにも限度がある。オーフィスの助力によって性能が最上級になろうとも、ペトの技量は一段下の相手にも食い殺されかねない程に低い。

 

 性能向上に伴いある程度の弾幕も晴れるが、それにも限度がある。ペトの戦闘スタイルは、遠距離からの支援射撃が基本なのだ。

 

 味方と組んで初めて真価を発揮するタイプ。ゆえに単独で食い下がれている事がまず幸運だった。

 

 そして、その戦線のバランスは明らかに苦戦を強いられている。

 

 食いつかれている。削られている。追い込まれている。

 

 このままでは持ち堪える事はできず、そしてまさに今―

 

「―こんなものか」

 

「クソッタレッス―」

 

 ニエの生産速度とペトの殲滅速度の天秤が、遂に限界を超える。

 

 一部のドーインジャーが弾幕の壁を越え、剣を生み出しながら切りかかる。

 

 メインターゲットはグレモリー眷属の象徴である、リアス・グレモリー。

 

 ペトは弾幕を止める事ができない。そうなれば、他のメンバーも全滅させられる。

 

 そして、どちらにしても終わりだ。兵藤一誠という精神的主柱を失ったうえで、リアス・グレモリーという精神的象徴をなくせば、もうグレモリー眷属は終わる。

 

 そしてこの場にいる誰もが手いっぱいで、誰一人として助けに行くことができない。

 

 ゆえに、この状況下ではペト達は詰んでおり―

 

「―駄馬が失礼します!!」

 

 ―それを打開するのは、新たな登場人物に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―なんだ?」

 

 ニエ・シャガイヒは新たな参入者に目を細める。

 

 リセス以外を殺すのには抵抗があったが、状況はそれを許さない。

 

 自分からドーインジャーの展開を約束したし、どうせ彼女達はリセスを殺すことを妨害する。

 

 どちらにしても、リアス・グレモリー達は殺すしかないのだ。

 

 それに胸を痛めながらも、しかしニエは行動に移れた。

 

 自立駆動を行うドーインジャーであるから、妙なタイミングでの失敗は起きなかった。その幸運を最大限に発揮して。ニエは、サポートを適格に運用した。

 

 そして、その牙は届いたはずだった。

 

「―微力どころか無能な働き者一歩手前ですが、助太刀します!!」

 

 ものすごく後ろ向きな事を言う少女が、リアス・グレモリーを狙うドーインジャーを切り捨てた。

 

 薙ぎ払うのはハルバード。装飾が施されたそれは、儀礼用にも思えるが、その性能は桁違いだった。

 

 一瞬での薙ぎ払いで、ドーインジャー数体が両断される。

 

 中級悪魔クラスなら互角に渡り合う事ができる、2型のドーインジャー。

 

 それが、一瞬で両断された。

 

 ……その光景に、アジュカ達以外の全員が大なり小なり驚きの感情を浮かべた。

 

 シシーリア・ディアラクは強い転生悪魔ではない。

 

 神器は確かに対悪魔戦で効果がある為、レーティングゲームでの価値は割と高いだろう。単独で上級悪魔を倒しうる可能性もある。

 

 だがそれだけだ。ペトと同様に、技量が低い。

 

 悪魔でないドーインジャー相手ではその能力を最大限発揮する事もできない。真正面から戦えば、間違いなく単独でも押し切れるはずだ。

 

 それが、あっさりと2型のドーインジャーを仕留めた。

 

 それに対してニエは敵が増えた程度の認識しかしていない。自立戦闘兵器であるドーインジャーは意にも介さない。

 

 ゆえにむしろ突破してくるドーインジャーは多くなり―

 

「私は雑魚ですが―」

 

 それが本格的になる前にシシーリアは突貫し―

 

「―武器の性能が違います!!」

 

 ―そのまま一気に薙ぎ払った。

 

 ハルバードはポールウェポンに属する武装だ。

 

 薙ぎ払いによる広範囲攻撃は効果的である。更に聖なるオーラによる出力がより大きな範囲攻撃を可能とした。

 

 そして、一気に状況が元通りになる。

 

 それどころか、趨勢は若干だが逆に傾いた。

 

 真正面から、シシーリアという存在が状況を覆す一歩手前にまで追い込んだ。

 

 そして、その種に勘付いた者はただ一人だった。

 

 既に知っているシシーリアとアジュカ達ではない。その種を不意打ちで知りながら把握したのは、リムヴァン・フェニックス只一人だった。

 

「……なるほど。直接使ったらドーピングになるけど、装備として運用するなら取り外しが効くってわけか。しかも外付けにすることでデメリットも緩和できる、と」

 

 苦笑とともに、リムヴァンはアジュカに視線を向ける。

 

 そこにあるのは、複雑な感情だった。

 

「苦肉の策ってやつだね。僕達はそこまでするしかない相手ってわけだ」

 

「……リムヴァン・フェニックスに対して、酷い事をしている自覚はあるさ」

 

 それに、アジュカ・ベルゼブブもまた苦笑で答える。

 

 二人の間でしか分からないものに、その場にいた者達が怪訝な表情を僅かに浮かべた。

 

 そして、それはすぐに消えさる。

 

「まあ、自業自得だから僕は何も言わないよ。ちょっと恨めしいけどね」

 

「それもそうだな。俺としても、偽っている君に負い目を感じる必要はないか」

 

 その言葉と共に、超越者同士の戦いは再開された。



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第五章 18 業魔人

はい、それではバトルもジークフリートに戻ってきます。

中盤の山場、リセス&木場VSジークフリートです!


 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジークフリートは、間違いなく強敵だ。

 

 魔帝剣グラムの能力は、間違いなく神滅具の禁手にすら匹敵する。まともに打ち合えば聖魔剣ですら一太刀で切り捨てられるだろう。

 

 当人の技量も最高峰。特殊な戦士育成機関の一員だという事は知っている。三下であろうフリードですら、並の中級悪魔なら瞬時に切り捨てられる能力を持っている。

 

 そして神器も厄介だ。技量が桁外れな為、単純に力が倍になるだけでも脅威になる。禁手にまで至っているのなら尚更だ。

 

 そして、何よりその精神が脅威だ。

 

 リセスさんと真正面から激戦を繰り広げてきた。その根幹はその精神……執念だ。

 

 リセスさんに敗北を喫し、そしてその言葉が意図せず彼の精神を砕いた。

 

 そこから這い上がらんと、彼は血を吐くような努力を重ねた事だろう。

 

 アドバンテージであった多数の魔剣をグラムに一本化し、そして徹頭徹尾鍛え上げた。

 

 その執念が、禁手にすら到達したリセスさんに追いすがり、そして僕を追加してでも食らいつく。

 

 そしてリセスさんの禁手も問題だ。

 

 上手く運用する事が出来れば、リセスさんならジークフリートを倒す事は確実に出来る。それほどの火力を保有している。

 

 だけど、防戦に徹すればそれを凌ぐ事がジークフリートには出来る。出来るだけの技量が彼にはある。

 

 そして消耗が激しい今の状態では、しのぎ切られたら勝算が一気に減ってしまう。

 

 ゆえに、使いどころは見極めなければならない。

 

 しのぎ切られれば、その分の負担の大きさが反動となって致命傷になりかねない。

 

 部長達が十全に動ける状態なら大丈夫だろうけど、今の段階ではそれが出来ない以上、無理がある。

 

 レイヴェルさんの負傷の回復速度が低いのが、それを雄弁に物語っている。

 

 フェニックス家の純血上級悪魔であるレイヴェルさんは、多少の手傷なら一瞬で再生する。更にアーシアさんという回復担当までいるのだから、治ってなければおかしい。

 

 つまり、それが出来ないぐらいの絶不調なのだ。

 

 フェニックスの不死の力は、精神が擦り切れれば効果を大幅に下げる。イッセー君はそれをついて、ライザー氏を倒した。

 

 神器は想いの力で駆動する。それはアーシアさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)も同じだ。心が折れている今の段階では、どうしたって出せる出力が大幅に下がる。

 

 そして、リアス部長達の攻撃も見る影すらない。

 

 あの紅髪の滅殺姫と呼ばれたリアス部長が、雷光の巫女と称される朱乃さんが、下級悪魔ですら場合によっては完全に防ぎ切れるような威力の攻撃しか放てていない。小猫ちゃんの動きの切れの悪さも目を覆いたくなるほどだ。

 

 それほどまでに、イッセー君の死という事実はグレモリー眷属をガタガタにしていた。

 

「イッセー……っ」

 

 意識せず、部長はイッセー君の名前を呼ぶ。

 

 呼べば助けに来てくれるかのように、彼が居れば負ける事なんてないと言いたいかのように。

 

 だけど部長。イッセー君は、もういないんですよ……?

 

「……驚いたね。あのグレモリー眷属がここまで見る影もないだなんて」

 

 ジークフリートは、明らかに呆れている表情で、部長達に視線を向ける。

 

「リセスたちも本調子ではないみたいだし、リアス・グレモリーたちに至っては、明白に命の危機だというのに、まるで抜け殻だ。……兵藤一誠一人死んだだけで、こうも情けなくなるとはね」

 

 明らかに失望したと顔に書きながら、ジークフリートはやれやれとため息をつく。

 

 この様子では、イッセー君が死んだことは向こうも把握しているということか。

 

「赤龍帝とシャルバは相打ちだと、僕たちは判断しているよ」

 

「……それは、シャルバがサマエルの毒を持っていたからかい?」

 

 龍門(ドラゴン・ゲート)からサマエルのオーラが確認された。それが、イッセー君の死を確信させる理由の一つだ。

 

 あの場でそんなものを持ち込めるのはシャルバしかいない。おそらくハーデスが渡していたんだろう。

 

 ジークフリートはため息をつくと、それに頷いて肯定を示す。

 

「ああ。そこ迄は確認されている。……おそらく相打ちだろうね。シャルバが生きているならこの機に演説の一つでもしてるだろう。赤龍帝が生きているなら、それこそこの窮地にグレモリー眷属はこんなところまで来ないだろう?」

 

 まったく面倒だね。寄りにもよって彼らにそれを勘付かれるとは。

 

 彼等なら、僕達の様子でイッセー君の死を確信して大王派に流す程度の事はしかねない。そうなれば、ただでさえ混乱状態の冥界政府は更に泥沼になってしまうだろう。

 

 現状の打破より、敵対派閥の足を引っ張りたがる政治家は何処にでもいる。それこそ、魔王派の政治家の中にもその類はいるんだ。

 

 その類達からすれば、獣鬼の暴走よりもイッセー君の死とその過程による足の引っ張り合いの方が急ぐべき事柄だろう。

 

 結果として民間人に多少の犠牲が出ようと、そちらの政争を優先する輩は必ず出てくる。

 

 そういうところを躊躇なくついてきかねない、英雄派に先に勘付かれるとは……!

 

「……だけど、その所為でこれだとするならついてないね。リセスが本調子じゃないんじゃ、殺すのも味気ない」

 

 ジークフリートはそう言うとため息をつく。

 

 リセスさんに全力を出させたうえで、それを打ち倒す。それがジークフリートが望む決着なのだろう。

 

 そして、僕達は今その相手として相応しくないと思われている。

 

 ……正直、リセスさんは乗り越えていると思っていた。

 

 イッセー君には悪いけど、彼に恋愛感情を抱いていないリセスさんにとって、リセスさん自身が原因の一端を担っているニエ・シャガイヒの自殺を目撃した時のようなショックを与える事はないと思っていた。

 

 実際、多少はいつもより暗かったけど、精力的にこの騒動を解決する為に動いている。業獣鬼を大きく損傷させて、足止めを行って避難に貢献するなど、彼女がいなければ死んでいた人は数多い。

 

 そのリセスさんですら、イッセー君の死は衝撃が大きかったと言う事か。

 

「……リセス。僕達の決着はこんなつまらないものであってはならない。僕の全てを粉砕した君が、たかが女の敵程度の死が敗因になるなんて、認められないよ」

 

「言ってくれるわね。少し怒りで調子が戻って来たわ……!」

 

 イッセー君を馬鹿にされて、リセスさんは腹が立ったのか歯を食いしばる。

 

 僕もだよ。僕も増えた怒りで調子が少し戻ってきた。

 

 君達如きに、イッセー君について語ってほしくはないんだよ……っ。

 

 構えを取り直して睨み付けてくる僕達を見て、ジークフリートは少しだけ表情を変えた。

 

「……なるほど、友達の存在というのは中々馬鹿に出来ないものだね。よく分からないけど、実感できるよ」

 

 そう言いながら、ジークフリートは懐から何かを取り出す。

 

 小型の拳銃か? いや、先端部分は針になっている。銃型の注射器か。

 

「リセスは神器を移植している改造人間だからね。僕も並ぶ為に改造するつもりではあったんだよ」

 

 そう言うジークフリートは、しかしプリス・イドアルと撃ち合っているヒロイ君を見て、ため息を憂く。

 

「だけど、おもちゃを増やしても勝てないからね。僕はグラムか龍の手(トワイス・クリティカル)を強化する方向でいきたかった」

 

 ……つまり、目の前のそれがそうだということか!

 

 僕達が危険度を考慮して一歩踏み込もうとした、まさにそのタイミングでジークフリートは注射器を自身に刺す。

 

「これは、旧魔王血族の血を加工したものさ」

 

 ジークフリートは体を震わせながら、そう答える。

 

「聖書の神が作り出した神器。その対存在ともいえる魔王の血。この相反する要素を組み合わせたら、何が起きるか。……聖杯の力があるとはいえ、ごく一部の被験者だけでデータを取るのは大変だったけど、おかげで良い物が出来た……っ」

 

 その言葉と共に、ジークフリートの体が盛り上がる。

 

 明らかに質量保存の法則を無視した成長を遂げたジークフリートは、まさに人型の龍と言って過言ではない姿になっていた。

 

『僕は、グラムの全力を出すのを躊躇していた時期がある』

 

 そうつぶやくジークフリートの声は、明らかに人間のそれではなくなっていた。

 

 そして、彼が言っている事の意味も理解できる。

 

 魔帝剣グラムは、龍殺しの魔剣だ。

 

 龍の手は、文字通り龍を封印した神器だ。つまり、龍殺しの前にはカモなのだ。

 

 そう、彼はグラムのオーラで被害を受けていた事もある。

 

 グラムは、彼に気を使ってはくれない。

 

 イッセー君もドライグを宿している龍で、彼が持っているアスカロンもまた龍殺しだ。だけど、こちらはセラフの方々の全面協力や、ドライグ自体が特殊なドラゴンであった事もあって問題なく運用出来ている。

 

 しかし、龍の手に封印されているドラゴンは、龍ではあっても特別ではない。むしろ下位の部類だ。ましてや、禁手になれば龍の特性はより引き出される。

 

 彼にとって、全力を引き出すのは自殺行為なのだ。

 

 それを祝福と言ってのけるジークの精神性には寒気が走るが、しかし彼にとってもそれを受け続けることは困難なのだろう。

 

 それを、ドーピングによる力業で突破してくるとは。

 

 なにより、聖書の神が作り出した神器に、魔王の血液を投入するという発想が常識を逸していると言ってもいい。

 

「……敵ながらあっぱれだ。やはり人間こそ可能性の塊だと俺は思うね」

 

「うんうん。僕達にはない発想で新たな未来を創る。僕は人間が大好きさ」

 

 アジュカ様とリムヴァンがそう表するが、僕としては少し寒気を感じる。

 

 かつて人間だった僕が言うのもなんだけど、これは手放しで絶賛できるような事ではない。

 

 本来、ヴィクター経済連合が凶行に走らなければ、人間世界に異形の存在がここまで知らされる事はなかっただろう。それは半永久的に続いていたはずだ。

 

 それが、暗黙の了解だ。

 

 そしてその理由も、目の前の光景を見れば痛いほどよく分かる。

 

 人間は、その欲望でどこまでの発展し続けてしまう。それこそ、自分達を滅ぼしかねないほどに。

 

 ……そして、目の前のジークフリートはまず間違いなく最上級の脅威だ。

 

 ヴァーリとイッセー君の初戦で感じた感覚と似ている。それほどまでの実力が、今のジークフリートにはある。

 

 思えば、彼は聖書の神が作り出した神滅具と、ルシファーに連なる魔王の血を併せ持っていた。もしかしたら、彼が圧倒的な力を発揮出来ているのは、意図せずドーピング剤と同様の効果を発揮しているのかもしれない。少なくとも、それ相応の影響はあるだろう。

 

『冥途の土産に教えてあげるよ。この薬物の名は業魔人(カオス・ドライブ)。そして投与した形態を業魔化(カオス・ブレイク)と呼称している』

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)禁手化(バランス・ブレイク)からとったようね。シャレが効いてるじゃない……っ」

 

 リセスさんはそう言いながら、瞬時に煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)を発動させる。

 

 時間切れになった時の事を考えて極力使わなかったのにだ。

 

 それほどまでの強敵と言う事か。流石に、今までのようにはいかな―

 

「伏せなさい!!」

 

 その瞬間、僕はリセスさんに足を払われた。

 

 そして、気が付いた時には異次元が見えた。

 

 錯覚じゃない。現実問題として異次元が見えている。

 

 グラムによる斬撃が、今までを遥かに凌駕する威力で空間を切断したということなのか……!

 

『さて、この調子ならほぼ確実に勝てそうだね。だけど安心してくれ。こんなつまらない勝利を僕は求めない。……君だけは可能なら生かしておくからさ』

 

「悪いけど、死ぬのは貴方だけよ!!」

 

 文字通り全力で、リセスさんは攻撃を開始する。

 

 放つのはディストピアアンドユートピア。

 

 矛盾許容の能力を生かし、超高熱と極低温を同時に叩き込む、リセスさんの必殺技。

 

 それは熱衝撃を利用した物質破壊攻撃。熱衝撃を通り越して熱相転移の領域に踏み入った一撃は、ただの物理的障壁なら、分厚い核シェルターであろうと砂糖菓子のように砕く事が出来る。煌天雷獄のもつ属性支配を最大限に生かした一撃と言っていいだろう。

 

 リセスさんの手札の中では、最大攻撃力では間違いなくトップ。業獣鬼ですら止めを刺すことこそ出来なかったとはいえ、数時間の進行停止を可能といた奥の手だ。

 

 だが―

 

「さあ、全力の出しどころだよ、グラム!!」

 

 それを、ジークフリートはグラムで真向から迎え撃つ。

 

 グラムが今までにないほどのオーラを放出し、リセスさんが構えた両手とぶつかり合う。

 

 そして、莫大なオーラがまき散らされる。

 

 魔帝剣グラムの最大出力。煌天雷獄の極致。

 

 その二つは、拮抗してぶつかり合い―

 

「選択肢を間違えたね、リセス」

 

 ―グラムが、リセスさんの右腕を切り落とす。

 

「―っ!!」

 

 リセスさんは右腕を回収せず、そのままバックステップで距離を取る。

 

 そしてジークフリートも、グラムを構えるとそのままの体勢で僕達にも視線を向ける。

 

「……とっさに取りに行ったところを潰す気だったんだけどね。流石はリセス」

 

「最悪、アザゼルに義手を作らせればいいもの。余裕はあるわ」

 

 そう言い返すリセスさんに、僕はフェニックスの涙を投げて渡す。

 

 これでとりあえず出血は止まる。だけど、できるだけ早く腕を回収しないと。

 

 後遺症の心配や、彼女が女性であるだけじゃない。

 

 リセスさんは近接戦闘を基本とする戦闘スタイルだ。その彼女が片腕を切り落とされたというのは、戦術的に見て確実に不利だ。

 

 まずい。今の僕たちでは、ジークフリートには勝てない……っ

 

『まあ、リムヴァンがいたとはいえ交渉失敗の責任は負わないといけないからね。ここで君達の首を一つや二つ持ていけば言い訳にはなるか』

 

 ジークフリートはグラムを構えながら、僕達に視線を向ける。

 

 くそ。この状況下ならもう負けはないと確信しているということか。

 

 僕は歯噛みするが、リアス部長達はそれすら出来ない。

 

 圧倒的な脅威に震えるその姿は、まるでただの女の子が戦場に巻き込まれたかのようだ。

 

「……イッセーっ」

 

 リアス部長はそう言いながら、イッセー君の悪魔の駒を握り締める。

 

 気持ちは分かります。彼が居ればとは僕だって思ています。

 

 だけど、もうイッセー君はいないんですよ……っ!

 

 僕がそう思って歯を食いしばるのを見て、ジークフリートはため息をついた。

 

『……兵藤一誠も愚かな事をしたよ』

 

「……言って、くれるわね」

 

 リセスさんが苛立たし気に吐き捨てるが、ジークフリートはそれに首をかしげる。

 

「客観的に見てそうだろう? オーフィスはともかく、シャルバは後でも倒せたよ。そして、禍の団を強大化させた原因の大きな一つであるオーフィスを助ける為に死ぬなんて、三大勢力側(そちら)からしても問題だろう?」

 

 ……なるほど、確かに正論だ。

 

 オーフィスは、どんな形であろうとこの世界の混乱を助長させたものだ。

 

 正直言って、僕もイッセーくんのその行動には困ったものだとは思う。

 

 だけど、だけど……っ!

 

「ふざ、けるな」

 

 僕は、聖魔剣を握り締めて、一歩前に踏み出す。

 

 心の底から沸き上がる激情に任せ、僕は聖魔剣の切っ先をジークフリートに突き付けた。

 

 ああ、そうだ。

 

 目の前の男は、僕の親友を馬鹿にしたんだ。

 

 それを苛立ち程度で済ませられるほど、僕は大人じゃない!!

 

「あなた如きが、イッセー君を愚弄できると思うな!! 僕の親友を馬鹿にするな!!」

 

『……バカにされる事をした彼が悪いよ。それに、今の君が吠えたところで僕にはうっとしい以上の脅威じゃない』

 

 確かにそうだろう。今の僕では、ジークフリートの足元にも及ばない。

 

 だけど黙っていられるものか。このまま恐怖に震えていられるものか。

 

 何故なら、イッセー君はこういう時こそ立ち上がる男だからだ。僕はそんなイッセー君が大好きで、親友だと思っているからだ。

 

 ここで、イッセー君を馬鹿にされたままでいられるものか!!

 

 そうだ、彼は、赤龍帝は、兵藤一誠は!

 

 こういう時だからこそ、立ち上がってきたんだから!

 

 だから、ここで僕達が、

 

 負けるわけに、行くものか―

 

 僕がその決意と共に立ち上がったその時―

 

 ―後ろで、赤い輝きが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




 ジークフリートはドーピングを否定しません。標的のリセスが移植しまくりですからね。

 ですが、神器の移植など能力の追加はしません。そのあたりを指摘されたと思って精神の均衡を崩しましたからね。

 なので、業魔人による能力の発展を受け入れました。しかも原作とは違い、グラムは比較的ジークフリートを認めてるのでここでグラムが離反するという展開にはなりません。なるのは決着後です。

 しかもリアスたちが復活したとしても、ニエと彼が生み出すドーインジャーがいるので、総力戦は困難です。

 ……では、どうやって乗り越えるか。

 それは次回をお楽しみに!!


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第五章 19 龍刃の魔剣

VSジークフリートもクライマックス。

さあ皆さん、お好きな処刑用BGMのご準備を!!


 

 俺とプリスは、その輝きに惑わされて戦闘の手を止めていた。

 

「なに……あれ?」

 

 お嬢の手に持っている悪魔の駒が赤い輝きを放っている。

 

 プリスが戸惑うのも当然だ。そんな現象、聞いた事がねえ。

 

「……イッセー?」

 

 お嬢がそう呟いたその時、駒がいくつも宙に浮かぶと、木場に向かって飛んでいく。

 

 な、なんだなんだ?

 

 俺が戸惑う仲、その赤い輝きが、声を放った気がした。

 

―そのまま頼むぜ、ヒロイ

 

 ……この声、イッセー?

 

 あ、あの野郎……っ!

 

 今このタイミングで、なんつーやってのけるんだよ。

 

 相も変わらず、やってくれるな、おい!!

 

「このオーラは、赤龍帝!?」

 

 ジークフリートが、化け物になってから初めて驚愕する。

 

 そりゃそうだ。イッセーは死んだと思われてる。っていうか死んでねえとおかしい。

 

 それが、悪魔の駒だけでサポートするとかありえねえだろ。

 

「……聞こえたよ、イッセー君」

 

 木場が、そう答える。

 

 木場には木場にメッセージがあるって事だろうな。アイツそういうところマメだから。

 

 そして、お嬢達も涙を流してる辺り、あっちにもメッセージぶちかましてるんだろうな。

 

 ……こういうところがモテるんだよな。覗き魔な所為で基本台無しなんだけどよ。

 

 ま、こりゃ頑張って成果出さねえと駄目か。

 

 俺がそう決意して聖槍を構え―

 

「―ジークフリート。悪いが、君の願いは叶わない」

 

 その言葉と共に、木場がまっすぐにジークフリートを見据える。

 

 その目に曇りはない。その目は何処までも澄み切っている。

 

 そして、祝詞を紡いだ。

 

「―我が英雄とは、我らを救いし赤龍帝なり」

 

 悪魔の駒が、輝きとなって木場の全身を包み込む。

 

「明星にすら抗い、悪神すら恐れず、その果てに栄光すらその手に掴む」

 

 それは、木場が到達できなかったはずの力。

 

 俺と姐さんだけが使えたはずの、赤龍帝への昇格。

 

「我、赤き龍の想いと共に―」

 

 それに、ここで変身可能になるとか、もうなんツータイミングだよ、ホント!!

 

「―主と同胞を守りし守護騎士であらん!!」

 

 その言葉と共に、木場の姿は一変していた。

 

 赤い龍の意匠を宿した貴族服。それは、決闘に臨む貴族のような姿だった。

 

 防御を投げ捨てている木場らしく、鎧を展開しないその姿。

 

 だが、そこから放たれるオーラは間違いなく桁違いの領域だった。

 

「……僧侶(ビショップ)昇格(プロモーション)龍刃の魔剣(ドラゴンエッジ・ブレイド)。……あなたは僕が倒す」

 

『ふ。付け焼刃で倒せるほど、僕とグラムは伊達ではないよ』

 

 そう言い捨てると、ジークフリートは一瞬で間合いを詰めるとグラムを振り払う。

 

 あ、ヤバイ。

 

 聖魔剣はまともに打ち合ったらグラムにあっさり砕かれる。しかも、今のグラムは正真正銘の全力だからもっとヤバイ。

 

 つってもあんなもん、どうやって受け止めろって―

 

 そう思った次の瞬間、木場は右手を掲げる。

 

 その手には、最後の悪魔の駒が残っていた。

 

「……アスカロン!!」

 

 そして木場は声を張り上げ、そのまま右手を振るう。

 

 その瞬間、本当にアスカロンが展開された。

 

 って待て! あれが本当にアスカロンだとしても、グラムと撃ち合って勝てるとは思えねえぞ!?

 

 木場、お前ちょっとおちつ―

 

「―譲渡《トランスファー》!!」

 

 その言葉と共に、アスカロンに禍々しいオーラが混じった。

 

 そして、木場はグラムの一撃を受け止める。

 

 轟音を立てて木場は弾き飛ばされるが、然しその件にも体にも傷がない。

 

 そして、木場はその結果が当然だといわんばかりにアスカロンを振るって、ジークの体に傷をつける。

 

 そして、そのオーラがジークフリートを侵し侵食した。

 

 その事実に、ジークフリートは明らかに驚愕の表情を浮かべた。

 

「馬鹿な!? アスカロン如きがグラムとまともに打ち合えるわけがない!?」

 

 ジークフリートは、自分の負傷よりもグラムで折れなかった事にこそ狼狽する。

 

 それほどまでにグラムを信頼して、信用しているんだな。だからショックもでかい。

 

 だから気づかない。その原因に。

 

「これが、龍刃の魔剣(ドラゴンエッジ・ブレイド)の能力」

 

 その言葉と共に、木場は聖剣で騎士団を生み出すと、ペトとシシーリアが抑え込んでいるドーインジャーに攻撃を開始する。

 

 木場のもう一つの禁手である聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)は、聖剣創造の亜種禁手だ。

 

 そのため、聖魔剣を生み出す事が出来なくなるという欠点がある。

 

 ある、筈なのだが―

 

「踊れ、聖魔剣の騎士達よ!!」

 

 その言葉の通り、聖魔剣で切りかかっている。

 

 まじか。マジですか。

 

 思わず唖然となる俺に、ドーインジャーの一体が迫りくる。

 

 それに俺が反応した瞬間、ペトの狙撃がぶち抜いた。

 

「……頑張ってくれてマジ助かったとか、言われちゃったッスねぇ」

 

 そう苦笑するペトは、即座に弾幕をぶっぱなし、天秤の傾きを大きくする。

 

 そして、姐さんも同じように立ち上がる。

 

「……これからも、リアス達をお願いしますとか言われたわよ、私なんか」

 

 そう苦笑すると、姐さんはお嬢たちに声を張り上げる。

 

「あなた達も! 貰ったでしょう、言葉を!! それを無駄にする気?」

 

 その、挑発交じりの言葉に、お嬢達は全員立ち上がった。

 

 全員涙を浮かべてるけど、それは悲しみの涙じゃない。

 

 俺達全員がイッセーの言葉を受け取った。死んでもなお、俺達の事を思ってくれているその言葉をだ。

 

 その喜びが、お嬢達に涙を流させる。

 

「………イッセーは、ここにいるわ。だから、私達は立ち上がれる!!」

 

 お嬢の言葉に続いて、全員がその目に戦意を滾らせてドーインジャーを睨み付ける。

 

「さあ、私の可愛い下僕達!! 私達は、兵藤一誠の仲間達は、まだ終わっていない事をここで証明しなさい!!」

 

「「「「「はい、部長!!」」」」」

 

 その言葉と共に、反撃の火ぶたが切って落とされた。

 

「リセスさん!」

 

 まず木場が聖魔剣の騎士団で、ぶった切られた姐さんの腕を回収する。

 

 それをさせないとドーインジャーの一部が自立反応で攻撃を仕掛けるが、朱乃さんの雷光が全部吹っ飛ばした。

 

「リセスさん! 直ぐ治療します!」

 

「気も乱れてます。呼吸を整えてください」

 

「ええ、お願いするわ」

 

 アーシアと小猫ちゃんが治療を開始し、その間のカバーをするのはレイヴェルだ。

 

 そして、お嬢の消滅の魔力が充填される。

 

「ジークフリート! 私のイッセーを愚弄した罪、万死に値するわ!」

 

「言ってくれるね! 赤龍帝が支えてくれなければ前も歩けなかった雑魚が!!」

 

 放たれる莫大な消滅の魔力を、ジークフリートは真っ向からグラムで受け止める。

 

 さっきの姐さんとの激突にも匹敵するその攻撃の衝突が、徹底的に強化されているはずのビルの屋上の二割を吹きとばした。

 

 そんな攻撃を受け止めて、だがジークフリートは戦意を絶やさない。

 

「こんなもんじゃないだろう、グラム!! 僕達は、リセスを超えるんだ!!」

 

 その言葉と共にジークフリートは消滅の魔力を切り捨て―

 

「―いや、君はもうリセスさんを追いかけられない」

 

 その攻撃を隠れ蓑に、木場に間合いを詰められた。

 

「失せろよ、三下!!」

 

「消えるのは、君だ!!」

 

 その瞬間、聖魔剣化したアスカロンと、最大出力のグラムの切り合いが勃発した。

 

 あれが、木場の至った龍刃の魔剣の能力。

 

 あれは、騎士の駒に昇格したんじゃない。僧侶の駒で昇格したんだと、俺は気が付いた。

 

 姐さんが僧侶の駒で昇格した時は、姐さんは遠隔属性付与の能力を手に入れた。

 

 それは、イッセーの譲渡の応用発展形だった。

 

 そして、それは木場も同様。その方向性が違うだけだ。

 

 木場の場合は、聖魔剣の特性と足りないオーラを、触れた剣に譲渡する。

 

 つまり、なんでも聖魔剣。持つもの全てを、例え伝説の魔剣や聖剣であったとしても聖魔剣に変更させる、禁手の正当進化系。

 

 聖剣の騎士団も、木場の禁手だから聖魔剣として運用ができる。そんなシャレにならない能力を発揮する事が出来る。

 

 そして、その猛攻にジークフリートは押され始める。

 

『馬鹿な! 赤龍帝は、死んでも仲間達を支え続けるというのか!?』

 

「そうだ! それが、兵藤一誠だ!!」

 

 そう言い放ち、木場は更に聖魔剣を生み出すと攻撃を叩き込む。

 

 その猛攻に押されながらも、それでもジークフリートは倒れない。

 

 ドーインジャーの所為でお嬢達が中々援護できない事も大きい。

 

 グラムと神器を併用し、更に魔王の血でブーストされたジークフリート。

 

 聖剣と魔剣を操り、その上で赤龍帝の加護で昇華した木場祐斗。

 

 共に異能を持ち、そしてそれを増幅している。

 

 剣の腕なら、それでもジークフリートの執念が上回る。手数なら、禁手の特性で木場の全力が上回る。

 

 そして、その猛攻は超高速での移動も組み込まれて激しくなる。

 

 ビルの屋上中を踊るように移動しながら、二人の剣士は目にも止まらぬ動きで切り結ぶ。

 

「あ、ちょ、あぶなぁ!!」

 

「これは、やりづらいな」

 

 リムヴァンとアジュカ様の超越者二人も割って入りづらいほどにまで戦闘は激化。

 

 そして、その攻撃は俺の目の前で決着する。

 

「な……めるなぁあああああ!!!」

 

 ジークが、背中の龍の手を使って強引にアスカロンを受け止める。

 

 腕が異臭を放ちながら焼けただれるが、然しジークフリートはそれを意にも介さない。

 

 そう、リアス・グレモリー眷属が根性でここまでのし上がってきたように、ジークフリートは執念でここまで這い上がってきた。

 

 全ては、リセス姐さんを超える為。その一念で、奴はここまでのし上がってきた。

 

 その二年間の積み重ねが、木場祐斗の半年足らずに追い付かれる訳がない。

 

 木場祐斗とジークフリートの戦いは、その差が大きく分けた。

 

「たかだか一年足らずの覚醒で、僕を追い付けると思うな!! 僕の、リセス・イドアルを超える為の二年間より重いなんて、あり得ない!!」

 

「……確かに、その二年間は、超えづらい」

 

 それを、木場は肯定した。

 

 その執念は、正誤の天秤を超えている。

 

 その人生全てを掛けた執念による挑戦は、確かに半年そこらとご都合主義で乗り越えられるものじゃない。

 

 それを、木場は認めて―

 

「―だけど、僕()()の半年ほどじゃない」

 

 そう、反論した。

 

 ああ、ああ、ああ。

 

 そうだな、その通りだよ木場祐斗。

 

「―そうだろ、ヒロイ君」

 

「ああ、たりめえだろ」

 

 俺は、そのまま構えを取った。

 

「させない!!」

 

 それに真っ先に反応したプリスは我に返って切りかかるが、その側頭部にケリが叩き込まれる。

 

「……そうはいかないわよ」

 

 姐さんが少し痛ましげな表情を浮かべながら、しっかり活躍してくれたぜ。

 

「さあ、行きなさい!! 私の英雄(ヒロイ)

 

「槍王の型―」

 

「くそっ!!」

 

 ジークフリートは振り返ってカウンターを叩き込もうとするが、その足元から大量の聖魔剣が生み出される。

 

 そして姐さんがその群れに触れて龍殺しのオーラを増幅させて、ジークフリートの動きを停止させた。

 

 このチャンス、逃すわけにはいかねえ!!

 

「リセス……僕は―」

 

 終わりだ、ジークフリート!!

 

「―流星(ながれぼし)っ!!」

 

 そのジークフリートの心臓を、俺の聖槍がぶち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝った。

 

 僕は、龍刃の魔剣を維持する事が出来ずにしゃがみこんだ。

 

 既にアスカロンも消えて、悪魔の駒に戻っている。

 

 そして、ジークフリートは血反吐を吐き、そして苦笑した。

 

「殺してもなお脅威とは、今代の赤龍帝は反則過ぎるね……」

 

 そう言いながら、彼はグラムを屋上に突き刺した。

 

「悪いねグラム。ふがいない主で」

 

 そう詫びながらグラムをなでると、ジークフリートは視線をリセスさんに向ける。

 

「……結局、届かなかったか」

 

「なんか、悪かったわね」

 

 リセスさんは、ジークフリートにそう言うと、視線を逸らす。

 

「あなたを傷つけるつもりはなかったのよ。その所為であなたをヴィクターにつかせてしまったのなら、それは私の責任だわ」

 

「いや、どっちにしても僕はヴィクターについただろうし、気にする事はないよ」

 

 そうリセスさんに告げると、ジークフリートは天を仰いだ。

 

「一つ言っておこう。業魔人(カオス・ドライブ)は、使用中はフェニックスの涙を受け付けない。……勝者に対するご褒美だ。どうせ使っていないからわかるだろうしね」

 

 そう言いながら、ジークフリートはフェニックスの涙を落とす。

 

 なるほど。その状態は攻勢には向いているけど守勢には向いてないという事か。

 

 そう簡単に何でもかんでも強化できるほど、上手い話はないというわけだね。

 

 そして、ジークフリートの体はぼろぼろになって風化していく。

 

 それは、業魔人の反動なのか。それとも、聖槍に刺された事による影響なのか……。

 

「……ふふふ。所詮、シグルズ計画の生まれは、望んだ死に方ができないのだろうね。……フリード、君も多分、ろくな死に方は……できな―」

 

 その言葉と共に、ジークフリートは崩れ落ち、そして消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ジークフリート、ついに撃破。

だが、リムヴァンもニエもプリスもまだ健在。さてさてどうなる?









 龍刃の魔剣ですが、最初は出す予定はありませんでした。

 イッセーの譲渡系パワーアップはそれぞれ一つずつにする予定でした。

 ですが、感想で「他の人物は同じ役職の昇格をしたらどうなるかとかが楽しみ」的なことを書かれたので、それならもうワンセットぐらい作ってみよう! 原作キャラで出してみよう!! って思いましたのでこうなりました。

 木場の昇格を騎士でなく僧侶にしたのは、能力特性てきな形です。

 複数だすにあたってある程度の共通点を作ることにして、リセスの能力を参考に「僧侶は譲渡の応用発展」ということにしました。原作の僧侶が完全に砲撃形態なのでその辺を対照的にしてみました。

 その結果できたのが、今回の「なんでも聖魔剣」です。おかげでジークフリートとの対決が燃える展開にできたので、結果オーライですがラッキーですね。






 しかしイッセーの譲渡パワーアップ。これいい加減名前作らないとな。

 と、言うことでこれを投稿したら活動報告でちょっとネーミングを参考がてら募集してみようかと思っております。よければどうぞ。


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第五章 20

ジークフリート戦、決着。

そして残るニエたちはどうするのかといいますと……。


 

 よっしゃ! 敵将、討ち取ったり!!

 

 魔剣(カオス・エッジ)ジーク。禍の団英雄派の幹部の一人。

 

 魔帝剣グラムの担い手にして、英雄シグルドの末裔。

 

 その戦闘能力は禍の団でも有数の実力者。

 

 姐さんに敗北し、彼女の自嘲の言葉を罵倒を勘違いして暴走して二年間。あの野郎マジでシャレにならない実力者になってやがった。

 

 アドバンテージであった数々の魔剣をあえて捨て、グラム一振りで二年間鍛え続けたその技量、まさに英雄シグルドの末裔に相応しい。

 

 そして姐さんと何度も激戦を繰り広げ、果ては姐さんとは別の形で強化まで行い、姐さんの腕を切り落とすまでに成長した。

 

 だが悪かったな。姐さんは一人じゃねえんだ。もう、一人なんかじゃねえんだよ。

 

 その二年前からペトとずっと一緒で、そして俺達とも一緒なんだ。英雄派として活動しながらも、その実一人で戦ってきたお前とは違う。

 

 友情を理解できないといっているお前には分かるまい。

 

 姐さんには、俺達がいるんだよ。姐さんは一人じゃねえんだよ。

 

「……姐さん。やったな」

 

「私じゃないわよ、追い込んだのは祐斗だし、倒したのは貴方じゃない」

 

 姐さんはそう言うけど、少し肩の荷が下りた感じだった。

 

 ああ、その優し気な笑み、それでこそ俺の英雄(輝き)だ。

 

 元気が出てくる。これならもうちょっとは戦えそうだ。

 

「うそ~ん!! 被害者減らす為に来たのに、よりにもよってジーク君が戦死ぃ!?」

 

 リムヴァンが、アジュカ様の猛攻をしのぎながら驚愕の声を上げる。

 

 あ、そういやアジュカ様と揉めて被害者が出る事を恐れての参加だったな。ざまぁ!

 

 よっしゃ! とにかくこれで強敵の一人を撃破! これがニュースになれば、三大勢力の士気も少しは上がるだろうよ。俺も英雄らしい戦果で鼻が高いぜ!

 

 ……つってもな。こっからなんだがな。

 

「……ニエ、プリス」

 

 姐さんは表情を鋭くすると、今だドーインジャーを生み出し続けているニエに視線を向ける。

 

 ニエはそれを静かに、かつ無表情で受け止める。プリスはそんなニエを庇う様に、一歩前に出た。

 

 そうだ。ジークフリートを倒しただけじゃ終わらねえ。

 

 姐さんを執拗に狙うやつは、他にもいる。ニエがいる。

 

 レーティングゲームであれだけ執拗にいたぶり、そして殺そうとしたニエだ。こんなところであっさり帰ったりはしねえだろ。

 

 俺達は禁手に至った神滅具使いを警戒して構えを取り―

 

「―リムヴァン、そろそろ逃げた方がいいんじゃないかい?」

 

 ―その視線をスルーして、ニエはリムヴァンに声をかけた。

 

 なんだと?

 

 逃げる? 目の前に姐さんがいるのに? 禁手すら出さずにそのまま撤退だと?

 

「「え?」」

 

 リムヴァンもプリスも驚いて振り返るけど、ニエはこっちを見て肩をすくめた。

 

「流石に均衡が崩れたよ。そろそろ増援もくるし、これ以上死人が出る前に逃げた方がいいんじゃないかい? 僕と貴方はともかく、プリスがまずいね」

 

 た、確かに正論だけどよ。マジでいいの?

 

 いや、俺も戦果は挙げたし、これ以上の戦闘は望んじゃいねえが……。

 

 リムヴァンは怪訝な表情を浮かべてたが、すぐにため息をつくとアジュカ様から距離を取る。

 

「ま、確かに作戦は失敗だしね」

 

「良いんですか? ジーク君もやられて、こっちが被害を受けただけですよ?」

 

 プリスがこっちに顔を向けながらそう言うが、リムヴァンはそんなプリスの肩に手を置くと、首を振った。

 

「ムキになってこれ以上犠牲者を生む方がまずい。こういう時素直に逃げれるのも、立派な才能だよ」

 

 そう言いながら、リムヴァンは絶霧を展開すると自分達を包み込んだ。

 

「……それに、そろそろこっちも別件があるからね。そっちの方が重要だから帰るよん」

 

 って待てやオイ!!

 

 何最後に不吉な事言ってんだ!!

 

 別件ってなんだよ。何か別に作戦あるのかよ。まさか冥界で大絶賛大暴れ中の魔獣どもを使って、何かしようと企んでるんじゃねえだろうな?

 

 勘弁してくれ。こっちも流石に手一杯なんだぞこの野郎が!!

 

 俺は文句を言いたかったが、そんな時間は欠片もなかった。

 

 既に霧は消え去り、そしてリムヴァン達には綺麗に逃げられちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺達はアジュカ様の好意でビルの一室で休憩中だった。

 

 流石は魔王の隠れ家。菓子が美味い!!

 

「お姉様! ペトは慣れない中距離戦を頑張ったッス! ご褒美くださいッス!」

 

「はい。じゃあアーンして―」

 

 そして姐さんは人目もはばからずペトに口移しでジュースを飲ませた。

 

 な、なんてことだ! そんなこと、あって言い訳がねえだろうが! 許せねえ!!

 

「ジークフリート倒した俺は!? ペトずるい!!」

 

「はいはい。じゃ、ちょっと待ってなさい」

 

 え? 俺もいいの? やったー!!

 

 そう思った瞬間、俺の襟が引っ張られて首がゴキっと。

 

「ヒロイさん?」

 

「し、シシーリア待って。死ぬ……」

 

 お、おれは一体何をした? シシーリアの機嫌を損ねるようなことをしたのか?

 

 ま、まってくれシシーリア。今俺は、天国の階段を上るところだったんだ。そっちの天国には行けるわけがねえしまだいけねえ! 頼むご慈悲を!!

 

 姐さんの口移し! KUTIUTUSHI!!

 

「あらあら。シシーリアはヒロイと結婚でもしたいのかしら?」

 

 マジか。そう言う方向なのか。

 

 俺は結婚できるのか? 姐さんで童貞を卒業して、シシーリアと結婚するのか?

 

 俺に英雄の道を示した姐さんで大人になり、俺を英雄にしてくれたシシーリアの夫となる。あれ? 俺、ものすごく恵まれてね?

 

「いえ、そういうのは良いんで」

 

 上げて落とされたぁ!?

 

 俺は、思わず崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 リセス・イドアルは、思わぬ展開にちょっと驚いた。

 

 シシーリアにバッサリ切られて、ヒロイはショックのあまり部屋の隅で丸くなっている。

 

「ヒロイー。しっかりするッスよ~?」

 

「ごめん。俺、ちょっと顔洗ってくる……」

 

 相当ダメージが入ったらしい。ヒロイはペトの慰めにも耳を貸さず、そのままとぼとぼと洗面所に向かっていった。

 

 少し同情する。シシーリア・ディアラクは、ヒロイにとっても特別度が大きい少女だ。

 

 ヒロイの初任務の相手であり、彼が輝き(英雄)として照らすと誓った存在であり、そして実際に英雄と認めてくれた存在だ。

 

 恋愛感情かどうかはともかく、根源である自分に次ぐレベルで重要だろう。グレモリー眷属より特別度は大きいかもしれない。

 

 それがバッサリ「恋愛対象としてない」と切られたのだ。ちょっと落ち込むだろう。

 

「駄目でしょうか? ヒロイさん、良い人ですけど」

 

 以前直接会話した事のあるアーシアがそう尋ねると、シシーリアは少し苦笑した。

 

「いえ、好きです。大好きです。結婚するなら、ヒロイさんを思わせる方としたいです」

 

 さらりと、シシーリアは爆弾発言をした。

 

 ド直球である。

 

 でもまあ、無理もあるまい。

 

 なにせヒロイは、シシーリアにとって救世主である。

 

 聖女時代は彼女の心を少しとはいえ癒し、悪魔に堕ちてからも彼女に決心をさせる切っ掛けになった。果ては絶望の淵に叩き落されるその時に見事に助けに来てくれて、死の覚悟を決めた時はそれを覆す為に覚醒までしてくれている。リアス達がイッセーに恋した時以上に助けまくりである。

 

 大真中事情は知っているので、リセスはもちろんリアス達も納得している。

 

 なのに、結婚するか否かで言えばないとバッサリ。

 

「……ツンデレ?」

 

「違います。単純に、ヒロイさんそのものと結婚する気がないだけです」

 

 リセスの言葉にそう答えると、シシーリアは苦笑した。

 

「……私は、ディオドラに手を加えられています」

 

 いきなりブラックすぎる発言が飛び出たが、リセス達は全員とりあえず飲み込めた。

 

 なにせ、リセスとペトの過去話で慣れている。ディオドラがそう言う手合いだという事も知っている。他ならぬシシーリアがメールで説明した。

 

 なので、ペトやリセスと同じような後遺症を持っていてもおかしくない。いわゆる快楽中毒というか、S〇X依存症というか。とにかく性的にオープンになるというか淫乱にならざるを得ないだろう。

 

 だが、それが何の問題だろうか。

 

 確かに、一般的な男性なら気にするだろう。決意を決めるのは結構大変で、できるのは器の大きい方だろう。

 

 だが、そういう意味でも別ベクトルでも、ヒロイは安牌である。

 

「あの、私とペトでいろんな意味で鍛えられてるから、そういうのは大丈夫よ?」

 

「あ、そういう意味じゃないんです。ヒロイさんとそういうことをしたいという気持ちは有りますけど」

 

 とりあえずディオドラは罪深い。聖杯が手元にあったら殺す為に蘇らせる気になる程度には罪深い。

 

 全員のヘイトを死んでからも上げるディオドラである。

 

 それはそれとして、シシーリアはリセスをまっすぐ見つめた。

 

「リセスさん。貴女は転生悪魔や転生天使になる気はありますか?」

 

「いえ、気が進まないわね」

 

 リセスは即答した。

 

 もしそのどちらかになれば、ペトと永い年月を共にすごく事ができるだろう。

 

 それに対して後ろ髪を引かれる想いはある。確かにそういう欲求がないわけではない。誘惑にはなる程度には、興味がある。

 

 だが、実際にするか否かとなれば、強い抵抗を感じる。

 

「私は人間として生を全うする事にも興味があるわ。なにより、人間の英雄は基本人間でしょう?」

 

 そう、リセス・イドアルは英雄である。

 

 リセスはペトとヒロイの英雄である。だから、心からそういう風に振る舞うと決めている。

 

 それは長生きしたいという意味ではない。むしろ、長生きに対する抵抗もある。

 

 細く長く生きるのではなく、太く短く。なにより一瞬でもいいから閃光のように強い輝きとしていきたい。

 

 だから、転生システムに頼る気はない。

 

 それに、長く生きたら自分のような手合いは腐敗しそうだ。

 

 そんな感情を語る前に、シシーリアは頷いた。

 

「人間から転生した転生悪魔は、長い人生を持て余す人も多いそうです。……私は、ヒロイさんの輝きがくすむところを見たくありません」

 

 そう苦笑するシシーリアは、しかし暗くはなかった。

 

「それに、ヒロイさんは閃光ですから。一瞬でも強く確実に照らしてくれたからこそ、私はヒロイさんが大好きなんです」

 

 その言葉に、リセスは共感を覚える。

 

 ヒロイ・カッシウスは長生きに興味がないだろう。むしろ、その分のリソースを英雄として輝くことに費やすだろう。

 

 リセスもそうだ。長生きよりまず、英雄として自慢でい続ける事が重要だ。

 

「第一、神滅具を含めた多重神器移植者を転生できる駒ってないでしょう? 私が上級悪魔になって、運よく全ての兵士(ポーン)の駒が変異の駒(ミューテーション・ピース)になるぐらいじゃないと無理ですよ」

 

「確かに、私もヒロイも転生するのにかかる駒価値は多すぎるでしょうね」

 

 リセスはシシーリアの言葉に苦笑した。

 

 現実的な問題も、きちんと考慮していたようだ。意外とシビアな一面もあるらしい。

 

 とは言え、そういう理由がなければシシーリアはヒロイに告白していた可能性もあるようだ。それは中々好感が持てる。

 

 同じ男を好きになった女の対応など二つに一つだ。

 

 すなわち、仲が悪くなるか、それとも良くなるかの二つに一つ。意にも介していない限り、このどちらかが基本である。

 

 なので―

 

「だったらあなた、誘導するから今度ヒロイを食べてみたら?」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!? 私これでも元聖女です! 失格した屑ですけど!!」

 

「あら、いやな男とだけ経験するのは良くないわ。良い男で上書きするのは精神衛生上に良いわよ?」

 

 とりあえず、同病類憐れむのもあるので巻き込んでしまおう。

 

「いや、それはどうでしょうか?」

 

 祐斗にツッコミを入れられた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




一理どころか明らかに正論だけど、執着する相手に対してあまりにも軽いニエの対応。これに関してはまあ一応の伏線です。









 そして、ある意味こじらせているシシーリアのヒロイに対する感情。

 恋愛感情どころか信仰心の意気に踏み込んでいるからこそ、ヒロイが自分を救ってくれた時のような「英雄」のままでいてほしいという、複雑な感情もかかわっています。あと現実問題ヒロイと同じときを歩み続けることは不可能に近いという、ペトのリセスに対する感情のような現実的な問題も含んでいたり。

 実際問題、一応格下の神滅具である一応歴代最弱のイッセーですら、普通に兵士の駒を8駒使ってようやくでしたから。はっきり言って普通の方法で神滅具込みの多重神器保有者を転生させるのは不可能ですね。


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第五章 21

ラブコメのようでエロコメのような展開を経て、とりあえず話は本筋に戻ります。









まあ、わかりきってる話なんだけどイッセーは無事なのか(棒


 何か戻ってきたら、全員が慌てて席に戻っていた。

 

 なんだ? なんか空気が微妙なんだが。

 

「何かあったのか、姐さん」

 

「いいえ。ヒロイが気にする事でもないわ」

 

 ふむ、女だけのガールズトークとかかねぇ?

 

 巻き込まれた木場には悪いが、俺もそういうのは気恥ずかしい。聞かなくて良かった事にするか。

 

 そう思いながら再び菓子を貪ろうとすると、そこにアジュカ様が入ってきた。

 

「休憩はできたようだな。こちらも場所を提供したかいがあった」

 

「アジュカ様。……結果はどうでしょうか?」

 

 お嬢が表情を強張らせて、アジュカ様に尋ねる。

 

 もちろん結果ってのは、イッセーの悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のことだ。

 

 そもそも俺達がここに来たのは、アジュカ様にイッセーの悪魔の駒の解析をしてもらう為だ。

 

 イッセー生存の可能性は、その解析にかかっていると言ってもいい。

 

 リムヴァン達の所為でうやむやになったが、それが終わってからすぐに取り掛かってくれた。マジ助かるぜ。

 

 で、結果は?

 

「まあ、解析結果そのものはすぐに出た。今まで時間をかけたのは、君達を休ませる方便みたいなものだしな」

 

 あ、気を使ってくれて感謝しやす。

 

 ……で、結果は?

 

 お嬢はもちろん、アーシア達も息を呑んでいる。当然俺や姐さん、ペトも緊張気味だ。

 

 そんな俺達の視線を浴びながら、アジュカ様はお嬢にイッセーの駒を返す。

 

「結論から言おう。……少なくともこの駒が転移するまでは、イッセーくんの肉体は崩壊したが魂は無事だ」

 

 その言葉の意味は、少し理解するのに時間がかかった。

 

「駒のいくつかが変異の駒に変化したりなど興味深いが、それはともかく。……事情は分からないが、肉体を滅ぼしたその足で魂まで滅ぼすはずだったサマエルの毒に、イッセー君の魂は耐えきったようだ。……魂だけどこかで漂っている可能性は大きいだろう」

 

 ……マジか!

 

「いよっしゃぁああああああ!!!」

 

 俺は思わずガッツポーズをする。

 

 その俺に、ペトと姐さんが抱き着いた。

 

「やってくれたわね、あの子!!」

 

「根性見せすぎっすよイッセー!!」

 

 ああ、姐さんもペトも我を忘れそうになるぐらい喜ぶわな。

 

 だってイッセーは良い奴だしな! 覗きの常習犯だけど、別に殺されるほどの罪は犯してねえからよ!!

 

「うわぁああああああん!!」

 

「イッセー……っ!」

 

 アーシアとお嬢も、歓喜の涙を流す。

 

 見れば全員喜んでる。ああ、そりゃ当然だろう。

 

 ったく。あの野郎マジでしぶとい奴だ。しかも常識が通用しねえ。

 

 ………で、今のアイツはどうなってるんだろうな?

 

「まあ、肉体に関しても生涯の治療や後遺症の可能性はあるが、こちらの技術でどうにかなるだろう。それで魂の捜索に関してだが……シシーリア」

 

 アジュカ様に呼ばれて、シシーリアは背をピンと伸ばした!

 

「はい! 無能な働き者に何か御用でしょうか!!」

 

「むしろ君は有能なんだがな。……それはともかく、あれの準備だ」

 

「あ、グリゴリから興味本位でチャーターした、時空探査船ですか?」

 

 ……なにつくってんだ、グリゴリ。

 

「ああ。俺の覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)で調整が完了した。彼とは方向性が違うんだが、次元の間は可能性の宝庫だからな」

 

 ……しかも合作かよ。冥界驚異のテクノロジーだな、オイ。

 

「とは言え今の段階では技術的に短時間が限界だ。……操作系統のサポートができる者と、索敵範囲の広い者がサポートに付いてくれないと困難だな」

 

 その言葉に、一斉に視線が集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、確かにハッキング系統は練習中だったけどよ」

 

「確かに最大索敵半径なら自分が一番ッスけど……」

 

 俺とペトは、同時に愚痴りながら次元の間を探索するという難業に挑んでいた。

 

「す、すいません。長時間行動の為には色々と物入りでして。……こんな愚図操舵士では不安が残ると思いますが―」

 

「いや、そっちは心配してないっす」

 

 と、平常運転で自虐するシシーリアに、ペトがフォローを入れる。

 

 うんうん。シシーリアは結構できるから安心してくれ。

 

 第一、アジュカ様が指定したんだから一定以上の能力はあるだろ。

 

「でも、魂だけ探すって大変な気がしますが、この駄娘でどうにかできるんでしょうか?」

 

「っていうか、この広すぎる空間を調べるのだけで何千年かかるっすかね?」

 

 シシーリアとペトが不安な表情を浮かべる。

 

 ああ、確かに広いもんな、次元の狭間。

 

 こんな広大な空間を、短時間の調査だけで調べ切るなんて不可能だろ。普通に考えりゃ無理難題だ。

 

 だけどまあ……。

 

「いや、イッセーはこういう空気とノリはしっかり天然で乗っかるからな。案外見つかるんじゃねえか?」

 

 生きてるならあっさり見つかりそうだな。

 

 っていう、お嬢を連れてきておっぱい見せれば寄ってくるんじゃねえか?

 

「裸になって誘った方がいいような気がするッス。……ペト、文字通り一肌脱ぐっすよ?」

 

「いえ、それは人として行ってはいけない前人未到の領域です。愚鈍な私でもわかるので落ち着いてください」

 

「……次元の狭間ックス。ちょっと興奮する自分に絶望だな」

 

 倒錯的すぎる事思いついて、俺は少し落ち込んだ。

 

 いや、何を思いついてるんだ、俺。

 

 ちょっと緊張感が緩みすぎだろ。まだ現在進行形で冥界は非常事態なんだから、落ち着け俺。

 

 そんな緩い緊張感の中、俺達は次元の狭間を探索する。

 

 そして、それを見た。

 

「あ、グレートレッドっす」

 

「ああ、あれが」

 

「大きいですねぇ」

 

 次元の狭間を遊覧飛行するだけの最強、グレートレッド。

 

 こんなところで見れるなんてレアだな。

 

 おっと。こいつは世界最強の存在だ、機嫌を損ねたらぴちゅんされるから距離を取らねえとな―

 

『……おい! そこの船!! 聞こえてるか!?』

 

「「ドライグ!?」」

 

 そのタイミングで聞こえてきたドライグの声に、俺とペトは慌てて視線を向ける。

 

 いや、グレートレッドしか見えないな。

 

 だが、視力が桁違いすぎるペトは、はっきりと何かを見た。

 

「あ、あぁ……っ」

 

 その目が見開かれ、ぽろぽろと涙が零れ落ちる。

 

 こ、この流れはまさか―

 

「イッセーっす!! 赤龍帝の鎧が、あそこにあるッス!!」

 

 マジか!! 無事だったんだな、あいつ!!

 

「で、でもグレートレッドの近くって……このゴミ屑が近くに行っても大丈夫なんですか!? 殺されません?」

 

『その声は、確かディオドラ・アスタロトの眷属だった小娘か。……安心しろ。余計な事をしなければ手を出さんと言っている』

 

 おお、そうか。

 

 OKも出たので、俺達はおっかなびっくりにグレートレッドに近づいた。




イッセー発見……ただしまだ意識不明。

それはともかく、ついに疑似的なBMIにまで手を出したヒロイ。もうすでに例の神器神滅具にケンカ売れるんじゃないだろうかこの禁手。









そして、次からは視点が移り変わってリセスを中心にします。この作品の真主人公だから仕方がないね!!

なにせヒロイは過去をプロローグで語りきってる節があるから、ストーリー的な因縁も素あまりない。あれですね、主人公がしゃべらないゲームだと、そのわきを固めるキャラクターでドラマを展開するほかないのと似ています。







の前に、視点はアザゼルに移ります。

言いたいことはわかるがとにかく行動がヘイトを集めるハーデス神。

だが奴は、リムヴァンの戦闘能力以外を舐めてかかりすぎていた!!


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第五章 22  二種類の中立

そんなこんなでイレギュラーズも150話目。

……短い期間でここまで書けるとは、我ながらノッてるときはすごいなぁ。


 

 アザゼルSide

 

 今、俺たちは冥府に大所帯で押しかけている。

 

 ……先頭を歩いているのは、オリュンポスの太陽神アポロンと、サーゼクスだ。

 

 ぶっちゃけサーゼクスには殴られても文句が言えなかったんだがな。ついてきてくれとだけ言われちまったよ。

 

 まあ、今回の件はハーデスに対する牽制……だった。

 

 あのジジイが裏で糸を引いていた以上、この事態にも動く可能性はでかい。ここまでやばい事態を起こしたんだ、その機を逃すわけがねえだろう。

 

 幸いサーゼクスが真の姿になれば、ハーデスのジジイといえど本気を出す必要があるし、死神にもかなりの被害が出るはずだ。

 

 なら、足止めはできる。少なくとも釘付けはできる。

 

 そう考えてたんだが……。

 

「なあ、アザゼル総督」

 

 と、俺に声をかける奴がいた。

 

 無精ひげはやした若い男。だが、その年齢は数千歳を超えているはずだ。

 

 北欧主神オーディンの息子。神喰狼を喰らう者(フェンリル・イーター)の異名を持つ強力な神だ。

 

 今回はオーディンの名代で動いている。この大所帯の大半を構成するのも、ヴィーザルの護衛でついてきたヴァルキリーたちだ。

 

 さらに俺も伏兵として鳶尾を連れてきている。サーゼクスも一部の最上級悪魔に声をかけて、護衛団の一員として参加済みだ。

 

 はっきりいや、このタイミングでこれだけの軍勢を動かすのはまずい。マスコミに気づかれれば、叩いてくるやつはゴロゴロ出るはずだ。

 

 なにせ冥界は大絶賛大ピンチだからな。アジュカとファルビウムによって対抗策はできたが、それでも本腰を入れる必要があることに変わりはねえ。他の勢力からも増援を大量に投入しているレベルだ。

 

 そんな中、これだけの大軍を別件で引き連れるってのは、政治的にたたかれるかもしれねえ。

 

 ……だが、その心配もねえんだよなぁ。

 

 と、いうわけで俺たちは冥府にあるハーデスの神殿に到着すると、押しとどめようとする死神をヴァルキリーに任せて、強引に堂々と悠然と中に入る。

 

 そして、謁見の間にたどり着いた。

 

「よぉ、ハーデス。久しぶりだな」

 

 俺が敵意を隠すことなく片手を上げると、ハーデスは骨の眼孔の中を輝かせながら、敵意満々のオーラを放つ。

 

『おお、アザゼルだけではなく魔王ルシファー。果ては北欧の若き神か……』

 

 そして、その視線はアポロンに突き刺さった。

 

 完璧に敵意満々を通り越してる。殺意すら出ている。

 

 ぶっちゃけ、マジギレ状態だ。

 

『どういうつもりだ、若造。この冥府にカラスと蝙蝠だけでなく、北欧の田舎者たちまで連れてくるとはな』

 

「和平は成立しているので問題ないだろう。それに、彼らは貴重な援軍だ」

 

 それに真向から言い返したアポロンは、まっすぐにハーデスを見据えると、一枚の羊皮紙を取り出した。

 

「ハーデス。唐突だが、オリュンポスの神々は貴方の全権限の抹消と、即座の永久封印措置を決定した」

 

 その言葉を、ハーデスのジジイは一瞬だが理解していなかった。

 

 死神たちに至っちゃ、全員がぽかんとしている。

 

 ま、そうだろうな。

 

 ハーデスのジジイは冥府の長。オリュンポスの重鎮だ。

 

 その影響力は絶大で、うかつに事に及べば人間界にも被害が出る。潰したくてもつぶせねえってのを自覚しているからこそ、それなりに動くことができた。

 

 それが、いきなりの全権限抹消だ。

 

 一時凍結じゃない。未来永劫権限を与えないという、抹消。其れも永久封印措置までついている。

 

 事実上の処刑宣告。殺すと後がまずい神々に対して行える、最高刑を執行するといわれたのだ。

 

『……そこまでして迄和平などというものをしたいのか、貴様らは!!』

 

 ハーデスのジジイが激昂して、それにこたえるように死神たちが一斉に鎌を構える。

 

 そしてその視線を真っ向から受けながら、アポロンは堂々としていた。

 

「逆に言わせてもらおう。……ヴィクターに頭を垂れてまで、三大勢力を苦しめる気か、お前たちは」

 

 これ以上は俺から言った方がいいだろうな。っていうか言ってやりたいからな。

 

 ツーわけで、俺はアポロンの前に出ると、手っ取り早く録音機器を投げ捨てる。

 

 思った以上にうまく投げれて、見事にハーデスの足元に落ちやがった。なんか気持ちいいな。

 

『なんだ、これは』

 

「てめえとヴィクターの取引の音声記録だよ」

 

 俺ははっきりといってやった。

 

 各種政府はたいていの場合諜報組織を持っており、当然ヴィクターという難敵に対して、スパイを送り込む程度のことはしている。

 

 そして、そのスパイがこの会話の音声記録を確保することに成功した。

 

「アンタがサマエルを英雄派と旧魔王派に渡したのはもう確定ってわけだ。……オーフィスを確保している可能性もあるから、ついでに神殿中を探させてもらうぞ?」

 

 ヴィーザルがそう言うと、指を鳴らしてヴァルキリーを方々に散らそうとする。

 

 死神共はそれを止めようとするが、そこにアポロンの視線が突き刺さった。

 

「君たちの権限も凍結されている。妨害をするのなら即座にテロ行為とみなして抹殺させてもらう」

 

 その言葉に、死神たちは一斉に動きを止める。

 

 ああ、いい加減気づいたころだろう。

 

 ハーデス。てめえはもう詰んでるんだよ。

 

『……我らの神話体系を土足で踏み荒らし、和平などとのたまう鴉と蝙蝠が! そんな奴らのために儂を切り捨てるか、ゼウスぅ!!』

 

 マジギレしているハーデスジジイだが、そんなハーデスにサーゼクスが一歩前に出る。

 

 ……こっちもマジギレしてるな。

 

「その件についての謝罪及び賠償は、時間を駆けながらきちんと行う所存です。……それにハーデス神」

 

 そういいながら真の姿を現し、そしてサーゼクスははっきりと言い切った。

 

『……その罪はそれをなした私たちが償うべき物。……その時生まれてもいない我が妹リアスと、その伴侶である兵藤一誠に手を出したその愚行、万死に値する』

 

 あ、これ暴走寸前だ。

 

『抵抗するならすればいい。その時は誰一人として例外なく消滅させる。……本音を言おう。個人的にそちらを望んでいる』

 

 今まで見たことがねえぐらい切れてやがる。これ、ホントに滅ぼせるなら滅ぼしてやる気満々だな。

 

 ま、俺もその辺に関しちゃ同感なんだがな。

 

 光の槍を出して、俺はハーデスに突き付けた。

 

「……俺も教え子を狙われて切れてるってわかってるか? 俺たちが憎いなら俺たちだけを狙えばよかったんだよ、ハーデス……っ」

 

『貴様ら……っ』

 

 ハーデスがぶちぎれてるが、だがもう遅い。

 

 おそらく、ヴィクターの連中はあえてスパイに情報をつかませたんだろう。

 

 漁夫の利を取られると判断して、俺たちを使ってハーデスをつぶさせるのが目的ってことだな。相変わらず抜け目がねえ連中だ。リムヴァンの奴、ハーデスの動きを読み切ってやがる。

 

 だが、これでハーデスのジジイは終わりだ。

 

 今の情勢でヴィクターにサマエルを供給した。そのネタもしっかり上がっている。

 

 だから、ゼウスもハーデスを切り捨てた。これ以上ハーデスをかばったり遠慮したりすれば、人間世界で信仰を今度こそ失うだろう。もしくはヴィクターならあるかもしれないが、それを許すわけにはいかねえ。

 

 ……もう、このジジイは百害あって一利なし。明確な利敵行為を働いた以上、神々として認めるわけにはいかねえわけだ。

 

 死神共の暴走は怖いが、だがまあ今はハーデスだ。

 

「冥府はこれより、各勢力から人員を派遣して共同管理とさせてもらう。……あなたはもはやオリュンポスから除名されているので、反論の権利は何一つとして持っていないことを忘れるな」

 

 アポロンがそう死刑宣告をし、そして捕縛のための部隊が一斉に死神たちを牽制し―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そういうわけにもいかないんだよね~ん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、霧が発生する。

 

 チッ! ここでひっかきまわしに来るか、リムヴァン!!

 

 しかもこのオーラ、本体だな。

 

 念のためにグリゴリからも精鋭を派遣していて正解だったぜ。ベリアル家の連中もサーゼクスが送り込んでるしな。蒼き無神論の箱庭対策は万全だ。

 

 だが、あの主神クラスオンパレードを相手にして一人で圧倒したリムヴァンだ。

 

 その程度で、やられるとは思えねえ。

 

 俺達が警戒する中、リムヴァンが霧の中から姿を現す。

 

 さらにギリシャ風の服を着たやつらが何人も姿を現す。そこには、デイア・コルキスの姿もあった。

 

 こいつら、噂のアルケイデスのメンバーか!

 

「やっほー。助けに来たよん」

 

 そう軽い口調でのたまうリムヴァンに、ハーデスは鋭い視線を向ける。

 

 これ、完璧に救世主に対するもんじゃねえな。敵視しかしてねえ。

 

『……どういうつもりだ。なぜ奴らに情報が洩れている?』

 

「失礼な。スパイ合戦なんて現代戦の基本だよ。そりゃ、たまには情報が漏れることだってあるよ」

 

 そう堂々とのたまいながら、リムヴァンはドーインジャーを大量に展開すると、そのまま一斉に銃口を向ける。

 

 ―俺たちだけじゃなく、ハーデスと死神たちにもだ。

 

 その行為に俺たちが戸惑うなか、リムヴァンは視線をハーデスに向ける。

 

 それは、今までにない鋭い寒気を感じさせる代物だった。

 

「……ハーデス。助ける前に一つ聞きたい」

 

 その目には、今までにないぐらいのマジの色があった。

 

 ……野郎、これがマジモードか!

 

「君は、僕たちと三大勢力の敵かい? それとも、三大勢力の敵かい?」

 

 一見すると言葉遊びだが、その意味は全く違う。

 

 ……ハーデスは、英雄派だけでなく旧魔王派にもサマエルの毒を提供していた。

 

 それだけなら、見境なくヴィクターに味方したともとれる。

 

 だが、これがきっかけでヴィクター内部でも内輪もめが勃発している。主にシャルバが暴走したわけだがな。

 

 そして、ハーデスがシャルバの暴走を見抜けなかったわけがねえ。

 

 このジジイは、そこまで読みきってシャルバにサマエルの毒を渡したわけだ。

 

 それを、リムヴァンの奴の逆鱗に触れたみたいだな。

 

「中立には二つある。一つは、どっちにとっても敵にならないからあえて手を出さない中立。……もう一つは、どっちにとっても敵だから真っ先に潰すべき害悪」

 

 リムヴァンは、聖魔剣を生み出すとその切っ先をハーデスに向ける。

 

 同時に、ドーインジャーの半分がその照準を死神たちに向けた。

 

「ハーデス神。シャルバ・ベルゼブブの暴走を誘発し、貴重な魔獣創造の保有者の中でも将来有望だったレオナルドを再起不能にした罪は重い。ヴィクター経済連合の序列において、冥府勢力は最下位からスタートさせてもらう」

 

『儂を……冥府を、小汚い鴉や蝙蝠よりも下に扱うだと!?』

 

 ハーデスは激昂の感情をぶちかますが、それをリムヴァンは真正面から受け止める。

 

 そして、それを上回る戦意をたたきつけた。

 

「自業自得だよ、老骨。はっきりしてくれ。君は僕たち全員にとっての敵なのか、それとも僕たちと同じく三大勢力にとっての敵なのか!!」

 

 そのオーラは、明確にハーデスを上回る。

 

 そしてドーインジャーの数は、この場で最多数。

 

 さらに、連れてきた人員も精鋭ぞろいなのが動きでわかる。

 

 まず間違いなく断言できる。

 

 この戦い、間に挟まれたハーデスたちは間違いなく真っ先に全員殺される。

 

 そしてヴィクターとの内通の証拠をつかまれたハーデスは、どうあがいても俺たちの中に立場がない。権限の抹消と永久封印は神にとって死んだも同じだ。

 

 この状況は、ハーデスにとって詰んでいる。

 

『………………………………………………いいだろう。我々冥府は、ヴィクターに亡命する』

 

 だから、ハーデスはそういうほかねえ。

 

 明確に下っ端の下っ端の立場を受け入れるしか、この場を切り抜ける方法がなかった。

 

 その言葉にリムヴァンはうなづき。

 

「じゃあ、組織として落とし前をつけてもらうよ」

 

 そして、そんなことを言い放った。

 

『……なんだと?』

 

 唖然とするハーデスだが、リムヴァンは何を言っているのかという顔をみせる。

 

「あのねえ。これだけの失態をしでかしたんだから、組織の一員として責任はきちんととってもらうよ。当たり前のことでしょ」

 

 そんなことをリムヴァンが言っている間に、ドーインジャーの一体が俺に近づいてきた。

 

 そして器用に一枚の紙を、ハーデスには見えないように見せる。

 

 そこに書かれていたのは、わかりやすい一言。

 

―カメラ用意。

 

 俺は、この行動の真の意図を理解した。

 

 リムヴァンの奴、ハーデスを徹底的にこき下ろす気だ。それも屈辱的な形で。

 

「はい土下座! 今ならそれだけで勘弁してあげるから。賠償金とかせびらないから。お金より誠意!」

 

 一瞬でハーデスのボルテージは上昇する。噴火寸前だ。

 

 当然だ。

 

 ハーデスはオリュンポスの中でも最高ランクの神。それも、人間にとって一番大事ともいえる冥府の神だ。当然プライドも天を突くように高い。

 

 それが、死神たちの視線が集まっている中で土下座だ。

 

 憤死してもおかしくないレベルだ。リムヴァンはそれがわかっていっている。その証拠にニヤニヤしている。

 

「あれ~? あのレベルの大惨事引き起こしたんだから、それこそ破産レベルの賠償金とか、幹部の半分ぐらいの首をせびるのが筋なんだよ~? それが土下座だけで済むなんて、恩情だよん?」

 

 すっげえいい笑顔で、リムヴァンはそう言った。

 

 確かに、組織として致命傷を受けるぐらいなら、土下座で済ませる方がいいって輩は多いだろう。そう言うことを何度もしている奴は数多い。

 

 だが、ハーデスはむしろ逆のタイプだ。

 

 自分のプライドが大事。金で解決できるならそれで済ませるタイプだ。ああいうタイプは見下している相手に頭下げるとか、死んでもしたくないだろう。

 

 だが、ここでそれをしたら間違いなくホントに死ぬ。それも全滅する。

 

 そうなれば、それこそ屈辱を味わうことになるだろうな。

 

 そして俺たち三大勢力に冥府を使われる。もしくは、リムヴァンたちが派遣した、ハーデスが嫌いそうな連中が冥府を管理する。この二択になるのは明らかだ。

 

 ……あのジジイはそこまできちんと頭が回る。リムヴァンもそこまで読み切っている。

 

「それとも、やっぱり僕たちにとっても敵なのかなぁ? だったらここで倒すしかないよねぇ~? 三つ巴の激戦だねぇ~?」

 

 聖槍に持ち替えてプラプラ振りながら、リムヴァンは神経を逆なでする。

 

 あの野郎、最悪それでもいいと思ってやがるな?

 

 どっちにとっても敵なハーデスをどうにかできるなら、それだけで作戦は成功。

 

 俺たち三大勢力に潰させるも良し。自分たちも関わって、袋叩きにするのも良し。最良なのは、完璧にハーデスを取り入れ、冥府の権能を扱える奴自身にある程度の管理をさせること。

 

 どう転んでも自分たちが得する状況を作りやがった。

 

「時間制限するよー。じゅ~う、きゅ~う、は~ち、な~な……」

 

 しかも聖槍を一本ずつ出してきながら、どんどんカウントを狭めている。

 

 その上、後ろで軍楽隊がカウントダウン的な音楽まで鳴らしている。

 

 神経逆なでしすぎだろ。これ、ハーデスの奴マジで襲い掛かるんじゃねえか。

 

 いや、奴も状況はわかっているはずだ。もう奴の復権の可能性がある選択肢は一つしかねえ。

 

「……さ~ん、に~い、い~ち ぜ~―」

 

『……申し訳なかった。我々は、ヴィクターで一からやり直す………っ!!』

 

 俺は、ハーデスの土下座という最高の娯楽を、確実に写真に撮った。

 

 ブハハハハハハハハハ!!! ハーデスざまぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……って言ってる場合じゃねえ!?

 




ハーデス、屈辱の土下座。

いや、ハーデスって間違いなくプライド高いから、これはかなり効くと思ったんですよ。たぶん金で解決できるならここまで屈辱感じないタイプ。









実際中立って、下手すると双方から叩かれかねないピーキーなものですよね。要はどっちにも味方しないんですから。蝙蝠が嫌われる逸話とかが微妙に近いかな?

そういうわけで、下手な中立にするぐらいならさっさとこっちに取り込んだ方が得と判断したリムヴァン、逃げ場を封じて無理やり自陣営に引き込みました。……アザゼルからしても敵とはっきりした状態になるので、双方にとってベストではないけどベターです。

ただしハーデスも馬鹿どころか老獪なので、這い上がるための行動はきちんとします。このジジイは優秀なので、あまりに愚かな行動をとらせるわけにはいかないのが難点ですね。


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第五章 23

前回は失礼しました。設定資料集を含めて150だったので、話数という意味ではこっちが150でした……(汗








そして記念すべき150話にも関わらず、少々盛り上がりに欠ける展開になりますです、ハイ(汗









そしてすさまじい感想の数だった。一つの話に対する感想数なら、自分史上初ではなかろうか? やっぱりみんな、アンチじゃない人はハーデス嫌いなんだね! グレン安心した!!


 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロイとペトにイッセーの捜索を任せたのち、リセス達は城に戻ると首都リリスの避難誘導に向かう準備に取り掛かっていた。

 

 イッセーの生存の希望が見えた事もある。なにより、イッセーの言葉は死してなおリアス達を動かした。

 

 ゆえに、調子はまだ微妙に悪いがリアス達は動けている。

 

 リセスも少し閊えていたものが取れて、気分転換にシャワーを浴びてから即座に動く準備を整えていた。

 

 しかし、同時に気になる事も出来てしまっていた。

 

 シャワーを浴びて気分転換したのはその為だ。気分を切り替えないと、いざという時に失態を犯すのではないかと不安になったのだ。

 

 時間節約の為にドライヤーを使わず、リセスは服を着ると与えられた部屋から出る。

 

 そして、ちょうどそのタイミングで祐斗がリセスのところにやってきていた。

 

「リセスさん。ゼノヴィアとイリナさんが戻りました」

 

「……イッセーの件は、どれぐらい知ってるのかしら?」

 

 またややこしい事にならないかと思い、ついそんな事を聞いてしまう。

 

「2人とも大体のところは聞いています。……部長の乳を求めて戻ってくるとか、ゼノヴィアは言ってました」

 

 すごく納得してしまい、リセスは苦笑した。

 

 だが、祐斗は少し表情をきつめにすると、リセスをまっすぐ見つめる。

 

「……何か、気になる事でも?」

 

「……流石はモテる男。よく気が利くわね」

 

 それとも、思った以上に自分が顔に出やすいタイプなだけなのか。

 

 リセスは苦笑すると、素直に話す事にする。

 

 自分の中で抱えるだけでなく、きちんと人に伝えて口から出せば、それだけでもスッキリする事はあるものだ。

 

 だから、そうする。

 

 まだ超大型魔獣とは戦闘が続いているのだ。特に超獣鬼は桁違いに凶悪で、ルシファー眷属が総出を上げてすら進行を止めるので手いっぱいなのだから。最悪自分が出張る可能性も想定するべきだ。

 

「……ニエが、なんであっさり撤退したのかが分からなくてね」

 

 リセスは苦笑する。

 

 ニエ・シャガイヒの恨みはもっともだ。

 

 物心がついてからの付き合いの友人が、畜生に堕ちているところを目にして、彼は耐えられずに死を選んだ。

 

 そして、リセスはそれから七年間迷走し続けた。その迷走を、ニエは心から恨んでいる。

 

 殺意を向けられたし、殺されかけた。心の底から恨まれたし、徹底的に否定された。

 

 リセスはそれもあって進む道を変えたが、しかしそれはニエの心を癒す類ではない。ただ、自分が人生を前向きに、弱さに立ち向かうようになっただけだ。

 

 だから、ニエは未だに自分を恨んでなければおかしい。

 

 なのに、ニエは今回の戦いで消極的な行動に終始した。

 

 三十分だけとは言いながらも、ジークフリートにリセスを譲った。

 

 戦闘においても、自分は禁手を使わず、通常のドーインジャーを生産するだけにとどめた。

 

 挙句の果てに、ジークフリートが倒されたら自分から撤退を進言する。

 

 最初の戦いで全力でこちらをいたぶりに来た姿と、あの戦いでのニエの態度が繋がらない。

 

「……ごめんなさいね。今はそんな事を気にしている暇はないのに」

 

「それは、仕方がない事ですよ」

 

 廊下を歩きながら、リセスの言葉に祐斗はそう返す。

 

「大好きな人から恨まれて、そのうえでこんなコトにまでなっているんです。気にしない方が難しいです」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると気が楽になるわ」

 

 少しだけだが、フォローしてもらったという事実で気が楽になる。

 

 その分の余裕で、強引にニエのことを頭から追い出す。

 

 今はニエのことを考えている場合ではない。それよりも、避難誘導が間に合わずに超獣鬼(ジャバウォック)をどうにかするかもしれないことを考えるべきだ。

 

 明確に格下である豪獣鬼(バンダースナッチ)ですら、リセスでも止めを刺すことはできなかった。一時的に進行不可能にすることが限度だ。

 

 対抗術式と戦術が開発された事で、状況は冥界側が優勢になっている。他の勢力から援護の為の大部隊が派遣されてきたことも大きい。

 

 これによって、ようやく超巨大魔獣は撃破可能な存在になったのだ。経緯はどうあれシャルバ・ベルゼブブの憎悪は凄まじいという事だけは分かる。

 

 そして、その憎悪の最大の象徴である超獣鬼はいまだ健在。

 

 ならば、英雄としてリセスもまた出るのは道理である。

 

「避難誘導はよろしく頼むわよ。私は有事の際は打って出るから」

 

「その時は、露払いぐらいはさせてもらいますよ」

 

 心強い言葉にリセスは微笑を浮かべる。

 

 そして扉を開け―

 

「祐斗、リセス! 急ぐわよ!!」

 

 ロスヴァイセを伴ったリアスが、焦りの表情を浮かべていた。

 

 その表情にはかなりの緊迫感があり、それ相応の事態が発生していることがうかがえる。

 

「まさか、超獣鬼がルシファー眷属を突破したとか?」

 

 リセスの問いに、リアスは首を振る。

 

 だが、個人的な事情で言えば、それに匹敵する緊急事態だった。

 

「ソーナ達が、英雄派の幹部の襲撃を受けているわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 速やかに首都に転移したリセス達は、首都の惨状を見て眉をしかめた。

 

 転生悪魔の反乱や旧魔王派の暴動などの影響で、多少ではあるが被害が発生している。大規模な破壊こそ起こっていないが、火事が発生しているのか煙も出ている。

 

 とは言え、超獣鬼はルシファー眷属による総力戦で抑え込まれており、遠くに姿が見えるが、進行そのものは止まっている。

 

「……流石は、最強の魔王の直属といったところかしら」

 

「それはもう。自慢の義姉とその仲間たちだもの」

 

 感心するやら呆れるやらのリセスに、リアスは得意げな表情を浮かべる。

 

 まあ、今やるべきなのはシトリー眷属の救出である。

 

 詳細な情報は分からないが、シトリー眷属は英雄派の幹部と交戦している。

 

 あの、西遊記に刻まれし伝説の妖怪達と互角に渡り合った英雄派の幹部達とだ。

 

 しかもジークフリートと同様に業魔人(カオス・ドライブ)を保有している可能性もある。使用されれば、より凶悪な敵となって立ちはだかることは簡単に想定できた。

 

 すぐにでも合流しなくてはいけないと思い―

 

「み、みなさんんんん!!」

 

 と、聞きなれた声を耳にし、全員が振り返る。

 

「ギャスパー! あなたも来ていたのね?」

 

「は、はい。ここに行けば皆さんに会えるとグリゴリのかたに言われて……」

 

 リアスにそう答えながら、ギャスパーはきょろきょろと辺りを見渡す。

 

 それが、誰かを探しているものだろうことはすぐに分かった。

 

「あの、イッセー先輩は……?」

 

 その言葉に、リセス達はギャスパーに情報が届いてないことを悟る。

 

 さて、どう説明したものか。

 

 生存している可能性はあるし、そう確信させてくれる存在ではある。だが、現実的な証拠や確証はないのだ。

 

 このタイミングでどう説明すればいいのかと考え―

 

「よぉ、遅かったな」

 

 その言葉とともに放たれた殺気に、全員が振り返った。

 

「雑魚ばかり相手にしてて詰まらねえんだよ。そろそろ少しは歯応えがある奴がほしかったぜ」

 

「同感ね。シトリー眷属は私達からしたら雑魚ばかりだわ」

 

 そうため息をつく、ヘラクレスとジャンヌ・ダルク。

 

 その服には汚れはあるが傷はなく、むろん体にもかすり傷一つない。

 

 その事実が、リセス達に嫌な予感を感じさせる。

 

「……ソーナ会長達はどうした!!」

 

 ゼノヴィアがエクス・デュランダルを突き付けるが、しかしヘラクレスもジャンヌも平然としている。

 

 そして、それに応えたのはまた別の者だった。

 

「彼らは相手にならなかったので、結界に封じ込めたよ。生け捕りにした方が君達をおびき寄せる餌になると思ったからな」

 

 さらにゲオルクが空に浮かび、姿を現す。

 

 ……状況は、さらに混迷を極めようとしていた。

 




ニエの行動に疑念を覚えるリセスだが、状況はそれに浸ることを許さない。


この作品の英雄派は魔改造の筆頭格。マジで強敵ですので、お覚悟を。


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第五章 24

VS英雄派幹部軍団、第二ラウンド。

さあ、本格的に事が始まるぜい!!


 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 襲来する三人の英雄派幹部に、僕達は寒気を感じた。

 

 あの西遊記の三英傑を相手に一歩も引かなかった実力もさることながら、問題は会長達だ。

 

 そもそも、僕達は会長達が英雄派と戦闘していると聞いて飛んできたのだ。つまり、会長達は既に負けたということになる。

 

「……ソーナ達をどうしたの!?」

 

「だから結界に閉じ込めたと言っただろう? 安心していい、彼女達が護衛していた子供も殺していない」

 

 ゲオルクはリアス部長にそう言い放つと、躊躇することなく大量の魔方陣を展開する。

 

 ……戦う気が十分にあるということか。いや、その為に態々残ったと考えていいだろう。そう言う連中だ。

 

「我々英雄派は、異形達に人間がどこまで抗えるかを試すもの。急激な成長率を誇る若手の筆頭である君達は、いい好敵手だ」

 

「そういうこった。なあ、お前らどれだけ強くなった?」

 

「楽しみね。ええ、本当に楽しみだわ」

 

 好戦的な表情を浮かべ、ゲオルク達は一斉に攻撃を仕掛ける。

 

 先手はゲオルク。

 

 既に展開していた魔方陣から、一斉に攻撃魔法が放たれる。同時に周囲の魔方陣が空間そのものに圧を加えて、回避を困難なものとする。

 

 これは、即座にアーシアさんに回復してもらう必要があるか!

 

 そう思ったその瞬間、動く影が二人いた。

 

「悪いが、先手はこちらのモットーだ」

 

 ゼノヴィアは、強化されたエクス・デュランダルを構えると、速攻で攻撃を放つ。

 

 ゼノヴィア命名、デュランダル砲。デュランダルのオーラを増大化して放つ、ゼノヴィアの十八番だ。

 

 ……その割に決め技になることは基本ないのが玉に瑕だけどね。

 

 だけど、今回は見事に効果を発揮した。

 

 正面部分に展開された魔法を全て薙ぎ払う。それも、一瞬の拮抗すら許さなかった。

 

 短いながらも過酷な訓練と、全てのエクスカリバーを統合した影響だろう。相乗効果で大幅に能力が上昇している。

 

 それをゲオルクは霧で受け止めるが、僅かだか霧が削れるほどの威力だった。

 

「なるほど。真に統合されたエクスカリバーの補正があれば、デュランダルはまさに神滅具のそれに匹敵するということか」

 

 感心するゲオルクはまだ余裕。それはもちろん、破壊できたのが正面からの魔法だけに他ならない。

 

 斜めからくる魔法はまだ残っている。そして、それが直撃すれば僕達も重傷を負う事は確実だ。

 

 だけど、それは突如現れた魔法による壁で完全に遮断された。

 

「……アースガルズで片っ端から防御魔法を習得してきました。これまでの私と一緒にしてもらったら、困りますよ!」

 

 ロスヴァイセさん。あのゲオルクの魔法攻撃を苦も無く遮断するとは。

 

 流石はあのオーディン様のお付きをしていた才女だ。短い期間で大幅にその力を向上させている。

 

 これは、僕達も負けてはいられない。

 

「……どうやら、速攻で使うべきなんだろうね」

 

「あら、何を使うのかしら!」

 

 覚悟を決めた僕に、聖魔剣を構えたジャンヌが迫る。

 

 天閃の聖剣を参考にしたのか、スピードがさらに強化されている。

 

 この攻撃速度を凌ぐのは僕でも困難だ。当てれば勝てる僕に対抗するには、当然の選択肢だろう。

 

 だけど、甘い。

 

「……出番だよ、グラム!」

 

 躊躇することなくグラムを引き抜くと、僕はそれを一閃して聖魔剣を両断する。

 

 本体にこそ当たらなかったが、ジャンヌ達を驚愕させるのには十分すぎた。

 

「その剣!? ジー君の!?」

 

「あの馬鹿! 大口叩いておいてやられやがったのか!?」

 

 何やってんだあの馬鹿とでも言いたげな表情を浮かべるジャンヌとヘラクレス。

 

 なるほど、友情を理解できないとジークフリートが言った通り、この手の情は彼らにはないようだ。

 

 まあいい。敵としては躊躇する事なく倒せやすくていいだろう。

 

 問題は―

 

「―これは、キツイね……っ!」

 

 たった一回振るっただけで、何か大事なものがごっそり抜け落ちたかのような虚脱感に包まれる。

 

 こんなものを、躊躇する事なく全力で使っていたのか。ジークフリートの正気を疑うね。

 

 しかも彼は龍の力を宿している。龍殺しの力が効果的なのも知っている。

 

 そのうえで、これを祝福というとは、彼はそれほどまでに心を崩していたようだ。

 

 その事実に戦慄しながら、僕はこれ以上の戦闘が難しくなる。

 

 うかつにグラムを使ったのは失敗だったね。この魔剣は、どこまでも末恐ろしい。

 

「……強化施術をろくに受けてないとはいえ、ジークフリートを倒すとは。これは油断ができないな」

 

 ゲオルクはそう僕達を評価すると、視線をジャンヌとヘラクレスに向ける。

 

「ジャンヌ、ヘラクレス。……少しギアを上げるぞ」

 

「しゃあねえなぁ!!」

 

 その言葉と共に、ヘラクレスは全身からオーラをみなぎらせる。

 

「それじゃあ俺も……禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 その言葉とともにオーラが物質化し、ヘラクレスの全身から突起が生える。

 

 そして、噴煙と共にそれが飛んで放たれた。

 

「これが俺の禁手の一つ、超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)だ!!」

 

 ヘラクレスの神器は、打撃を与えた部位を爆発させる神器だった。

 

 それだけでも桁違いの攻撃力を持った神器だったが、それが大量に飛び道具として放たれる。

 

 純粋に、スケールアップしているのが厄介だね!

 

「させると思いますか!」

 

 その攻撃そのものはロスヴァイセさんの結界で防がれるが、しかしその隙をついてジャンヌが迫る。

 

「それじゃあ、こっちもギアを上げようかしら?」

 

 その言葉と共に、大量の聖剣が山のように展開される。

 

 そして聖剣の山は形状を変化させ、巨大な龍へと変化する。

 

 そして、咆哮と共に突進する聖剣の龍が、魔方陣による結界をいともたやすく突破し、ロスヴァイセさんに襲い掛かる。

 

 対魔法用の聖剣か! それを有効活用させる為の陽動がヘラクレスの目的だったのか。

 

 そしてそのまま聖剣の龍はロスヴァイセさんを弾き飛ばそうとするが、それより先に莫大な雷光がそれを受け止める。

 

「そう簡単にはいきませんわ!」

 

 そこには、いくつもの黒い翼をはやした朱乃さんの姿があった。

 

 これが朱乃さんの新たな領域、堕天使化。

 

 グリゴリの協力によって堕天使の特性を活発化させる、過去を乗り越えた朱乃さんだからこそできる自身の能力の有効活用。

 

 その雷光が龍の突進を受け止める中、そして駆け出す影が出る。

 

「アーメン! 聖女失格のお姉さんを裁いてあげる!!」

 

 その言葉と共に振るわれた剣が、聖剣のドラゴンを大きく切り裂いた。

 

 凄い剣だ。いくら聖剣創造の聖剣は強度にかけるとはいえ、聖剣で出来た龍を切り裂くとは。

 

 ゲオルクはその剣を見て、やれやれと首を振った。

 

「その剣、聖魔剣の量産に成功したということか」

 

 え、聖魔剣?

 

 その言葉に、イリナさんは油断なく構えながらも得意げな表情を浮かべる。

 

「その通り! これが天界と教会の技術者達が作り上げた、量産型の聖魔剣よ!!」

 

 ミカエル様達の研究は、もうそんなところまで進んでいたのか。

 

 これは頼もしい。これも三大勢力を中心とする和平の成果ということか。

 

 ああ、英雄派も業魔人を開発して強化されたみたいだけど、こちらも順調に技術的にも強くなっている。

 

 そう簡単に、僕達も負けるわけじゃない!

 

「行くわよゼノヴィア! 教皇陛下の仇を取るわよ!!」

 

「もちろんだ。この新たなエクス・デュランダルの錆としてくれる」

 

「あらあら、では私もそのサポートに回りましょうか」

 

 ゼノヴィアとイリナさん、そして朱乃さんが聖剣のドラゴンとジャンヌ・ダルクを包囲する。

 

 それを見て、ジャンヌは静かにほほ笑んだ。

 

 僕達はそれを見慣れている。

 

 得難い難敵を手にして、己の力を試せるという喜びに打ち震える。戦闘狂の笑みだ。

 

「面白いわ! なら、私に業魔人を使わせて頂戴!!」

 

 その言葉と共に、ジャンヌは龍に飛び乗ると戦闘を開始する。

 

 ……さて、あとはゲオルクとヘラクレスだけど―

 

「―なるほど、あの結界はお前達が生み出しているものか」

 

 そこに、新たな参戦者が現れる。

 

 一歩一歩力強く地面を踏みしめながら、黄金の獅子を従えて現れる無能の大王。

 

 魔力を持つことなく、次期大王の座を実力で奪い取った、若手四王(ルーキーズ・フォー)最強の男。

 

「俺の眷属達が総出になっても破れないのでな。……結界を生み出している者から先に潰させてもらうとしよう」

 

 ここで来るか。来てくれるのか。

 

 これほど頼りになる存在も、そうはいない。

 

「貴様らを冥界の敵と断定する。……死んでも恨むなとは言わんが、死ぬ覚悟はしてもらうぞ」

 

 バアル家次期当主。サイラオーグ・バアル。

 

 この増援は、頼もしい……っ!

 




サイラオーグも本格参戦。更に戦いは激化します。

ですが、今作品の英雄派は魔改造のオンパレード。









原作通りに行くと、まさか皆さん思ってませんよね?


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第五章 25

サイラオーグ・バアル登場で盛り上がっていく首都リリスの激戦。

さあて皆さん、まさか素直にサイラオーグのストレート勝ちだなんて思ってませんよねぇ?


 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセスは、その時嫌な予感を覚えた。

 

 英雄派の気配が明確に変わったのだ。

 

 今までの余裕とは違う。そして油断でも断じてない。

 

 そこにあるのは、明確な戦意。

 

 ……人間による異形の殲滅。人という主の限界の挑戦。

 

 それを求めるのが英雄派である以上、若手四王の中で個人戦力ならば問答無用で最強のサイラオーグを見て、楽しむのは当たり前だろう。

 

 だが、それでもこの気配は何かが違う。

 

 ……全員が、警戒心を数段上に引き上げた。

 

「バアル家次期当主のサイラオーグ・バアルか。これはまた大盤振る舞いだな」

 

「ああ、魔力をかけらも持ってねえ癖に、バアルの当主に収まったんだってな。バアルが無能しかいねえのか、それともマジで化物なのかねぇ?」

 

 ゲオルクとヘラクレスはそう言葉を交わし、ヘラクレスが一歩前に出る。

 

「ちょうどいい。だったら出せよ獅子の鎧を。俺のご先祖様が絞殺したライオンで、俺が倒せるとも思えねえがなぁ?」

 

 挑発的なヘラクレスの物言いに、サイラオーグは微動だにしない。

 

 72柱の中でも特にプライドの強いバアル家において、悪魔のアドバンテージともいえる魔力を持たなかったことからくる迫害。

 

 それに比べれば、この程度の挑発など挑発にすらなっていない。

 

 そして―

 

「なら、使わせてみるがいい」

 

 ―むしろ、サイラオーグこそが挑発をする。

 

「ぁあん?」

 

「貴様ごときが兵藤一誠より強いとも思えん。使わせたいのなら、実力を示してみるがいい」

 

 その言葉に、ヘラクレスはふんふんとうなづき―

 

「―そりゃいい。楽に殺せるな」

 

 そう笑った。

 

 そして次の瞬間、大量のミサイルがサイラオーグに叩き込まれる。

 

 一瞬でサイラオーグのいるビルの部分が跡形もなく吹き飛び、そしてヘラクレスはせせら笑った。

 

「生きてるかー? 大口たたいといてその程度って落ちは勘弁してくれよなー?」

 

 そう完膚なきまでの余裕を見せてヘラクレスは嘲笑を浮かべる。

 

 ―その瞬間、サイラオーグは拳が届く距離まで一気に詰めていた。

 

 負傷はしている。血は流れている。

 

 だが、その程度でしかない。

 

 並みの上級悪魔なら塵一つ残さず吹き飛ばすであろう力の塊である禁手が、しかしサイラオーグ相手では軽傷でしかない。

 

「―この程度か。なら、次はこちらの番だ」

 

 そしてその瞬間、文字通り目にもとまらぬ速度で拳が振り抜かれ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―こんなもんか?」

 

 その鳩尾に叩き込まれた一撃は、しかしヘラクレスには決定打とはならなかった。

 

 威力は間違いなく絶大だ。こちらも並の上級悪魔なら一発で致命傷だろう。

 

 その証拠に、打撃の方向上にあるビルの壁が粉砕されている。

 

 近接打撃技の余波でこれだ。直撃を受けたヘラクレスに入ったであろう衝撃は想像を絶するはず。

 

 しかし、ヘラクレスはそれを受けて平然としていた。

 

 その事実にリアスたちが唖然とする中、ゲオルクは冷静に魔法攻撃を放つ。

 

 そこに驚愕も狼狽もない。想定通りのことが想定通りに起きただけという、冷静さがそこにあった。

 

 そして明確な隙を見せたリアスたちは攻撃に反応しきれず、しかし無傷。

 

 ……その流れを予測できたリセスの属性支配によって、氷の壁が生まれて魔法攻撃を防いだからだ。

 

「まあ、あのジークフリートよりレベルが上ならそうなるわよね」

 

「わかってくれているようで何よりだ。……敵の能力を正確に把握するのは、現代戦の基本だからな」

 

 リセスにゲオルクがそう答えるのと同時、ヘラクレスの体から文様が生まれる。

 

 魔法によって生み出されたと思しき文様は、しかし強化によるものではない。

 

「……そういや、お前さんも負荷かけてたんだってなぁ? ……まさか自分だけだなんて思ってねえよなぁ!!」

 

 その言葉共に、ヘラクレスの拳がサイラオーグに叩き込まれる。

 

 その瞬間、のけぞったサイラオーグの向こう側にあるビルの壁が砕け散った。

 

 神器は使っていない。ただ単に殴っただけだ。

 

 それが、サイラオーグと同等の攻撃力を発揮した。

 

 もし、彼がこの時点で神器を使っていればどうなっていたか。考えるだけで恐ろしい。

 

「余裕は良いが油断はよくねえぜ、油断はなぁ!!」

 

 そのまま追撃で放たれた拳を、サイラオーグは手首をつかむことで受け止める。

 

 そして力比べの状況になる中、サイラオーグは空いている手で鼻から出た血をぬぐった。

 

「……なるほど。確かに英雄を名乗るだけのことはあるようだな。その自称は不遜でも何でもない」

 

 サイラオーグの目が鋭く変化する。

 

 この時点で、サイラオーグはヘラクレスを強敵と認識した。

 

「認めよう。貴様は、俺が獅子の鎧を使うに値すると!! ……レグルスッ!」

 

『ハッ!』

 

 すぐさまレグルスは鎧へと変化し、サイラオーグは拳を構えて反撃の一撃を叩き込む。

 

 そしてヘラクレスにその拳が触れたその瞬間。

 

「―甘いぜぇ、小獅子ちゃん?」

 

 爆発が発生し、サイラオーグの拳が弾き飛ばされる。

 

「チッ! 当然の如く神器を移植してるか!!」

 

 放った拳の部分にひびが入る中、サイラオーグはすぐにその理由に気が付く。

 

 そもそも、ヴィクター経済連合はリムヴァンによる神器の移植が持ち味の一つだ。

 

 そして、彼らはジークフリートが強化改造を最小限に抑えているとも言っていた。

 

 なら、当然の如く彼らが神器を移植しているのは当たり前なのだ。

 

「当然よ! 巨人の悪戯(マイティング・デトネイション)ばかり仕込ませてもらったぜ!!」

 

 その言葉と共に、ヘラクレスの拳がサイラオーグに叩き込まれる。

 

 その瞬間、爆風がサイラオーグの腕を貫通した。

 

「……ぐぅっ!」

 

「今のは越人による戦意の一撃(デトネイション・マイティ・ブレイク)! さっきのは鉄人による覚悟の防壁(デトネイション・マイティ・アーマー)さ! まだ二つほどあるがそいつは出すまでもねえわなぁ!!」

 

 更に連撃で攻撃が放たれ、しかもその全てが圧倒的攻撃力を発揮して襲い掛かる。

 

 サイラオーグはその全てを直撃を避ける事でいなすが、然し獅子の鎧はすぐさまボロボロに変質していった。

 

 その光景に、ゲオルクを除く全員が思わず唖然となる。

 

 最強の若手悪魔が神滅具の禁手を身に纏ってなお、圧倒されている現状が信じられない。

 

 攻撃を放っても弾き飛ばされ、そして攻撃は頑丈な鎧をいともたやすく貫通する。

 

 急所にもらえば一撃で死ぬ。それほどまでの脅威を前に、流石のサイラオーグも防戦に徹するほかない。

 

 その事実に戦慄して、然しリセスはすぐに我に返った。

 

「サイラオーグ・バアルはこっちでカバーするわ! あなた達は朱乃達をサポートしなさい!!」

 

 リセスはすぐに判断すると、即座に援護の為にヘラクレスに飛び掛かる。

 

 躊躇なく禁手を発動して放つ拳に、ヘラクレスの爆発による防御が対抗する。

 

 そして、それを強引に突破して、ヘラクレスの顔面にディストピアアンドユートピアが叩き込まれる。

 

 だが浅い。防御の爆発でオーラの大半が相殺され、熱相転移クラスの矛盾はただの熱衝撃に収まっている。

 

 その程度で倒せるのなら、サイラオーグが苦戦するはずもないのだ。

 

「はっはぁ! ぬるいぜ姉ちゃん!! ジークフリートは、この程度の女に拘ってたのかぁ?」

 

 その言葉共に叩き込まれた裏拳を、リセスは高密度の聖魔のオーラで受け止め、そして更に狙われた頭をオーラの壁から遠ざける。

 

 ごく僅かに爆発が突破されるが、顔を離していた為熱いと思う程度だ。

 

「あら、貴方もそこまで無敵じゃないのね。……禁手の種も分かりそうだわ」

 

「言ってくれるじゃねえか、このアマ」

 

 リセスの皮肉にヘラクレスが苛立つが、その側面にサイラオーグの拳が叩き込まれた。

 

 当然爆発も発生するが、しかし強引に突破して今度は拳が突き刺さる。

 

「……爆発による防御は驚いたが、しかし突破できんほどでもないな。……拳が砕けるより先に貴様を殴り倒せばいいだけか」

 

「……やればできるじゃねえか、無能大王!!」

 

 テンションを上げ、ヘラクレスはミサイルを大量に放つ。

 

 それを即座に迎撃しながら、リセスとサイラオーグはヘラクレスを睨み付ける。

 

「一対一が好みだと思うけれど、ここは共闘と行きましょうか」

 

「仕方ないな。これも俺の未熟の責任か」

 

 煌天雷獄と獅子王の戦斧。

 

 二つの神滅具に相対するは、英雄派の幹部の一人。

 

 かつて神々が与えた十二の難行を乗り越えし、ギリシャの英雄の頂点。ヘラクレスの魂を継ぐ者。

 

 その猛威を前に、2人は拳を握り締めて共闘を決意した。




 ヘラクレスの強化は巨人の悪戯の多重盛りです。しかも長可がしっかり鍛えてるので、本人の能力も桁違いに上昇してます。

 ぶっちゃけ、英雄派の幹部はイグドラフォースとまともに渡り合えると思っていくださってかまいません。最終決戦でも強敵として暴れまわることを約束いたします。


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第五章 26

戦闘は視点を変えてジャンヌに収束します。

ヘラクレス並みに強化されているジャンヌ。果たして彼女はどんなパワーアップを遂げたのか……。


 そして同じ頃、ジャンヌもまた本気を少し出す事を決定する。

 

 聖剣のドラゴンによる猛攻は確かに有効だが、しかしこの三人を相手にするには流石に限界があった。

 

 なるほど、これは手強い。

 

 ジークフリートが倒されたのも頷ける。あの男は自分達とは違い、神器の多重移植を行っていないから、押し切られたとしてもおかしくないだろう。

 

 量産型とは言え聖魔剣。エクスカリバーとデュランダルの融合。さらに堕天使の血を活性化させる腕輪。

 

 玩具頼りはお互い様。素直に称賛するしかない。

 

「うんうん。やっぱり強くなるなら武器も使わないとね。お姉さんその辺は理解できるわ」

 

「あなたと一緒にされたくないわね!」

 

 イリナの反論と共に振るわれた聖魔剣を聖剣で受け流しながら、ジャンヌはどこまで本気を出すか考える。

 

 まだヘラクレスも全てを出してない。その状況下でこちらが全部を出すのはなんとなく不本意だ。

 

 それに、リムヴァンから警告されていた首相もある。ここで余裕を残せないようでは、勝ち目がないだろう。

 

「じゃあ、これぐらいにしておきましょうか」

 

 そして、禁手の本質を一段階引き上げた。

 

 その瞬間、状況は大きく動いた。

 

 これまでは受け流しに集中する必要があった剣撃を、力押しで強引に押し切れるようになり、更に一方的に押されていたドラゴンも、反撃を叩き込めるようになる。

 

 一瞬で、三人がかりの新たなアプローチを乗り越えた。

 

 そして、その本質にあっさりと三人は勘付いた。

 

 もとより、その混ざり合った本来あり得ないオーラはよく見知っている。

 

「……聖魔剣か!!」

 

「どっちかというと、リムヴァンの魔聖剣が近いわね」

 

 ゼノヴィアのデュランダルの砲撃をかわしながら、ジャンヌはそう告げる。

 

 そう、聖魔剣の力は圧倒的だ。エクスカリバーといえど、合一の数が足りなければまともに対抗する事はできないほどに。

 

 その聖魔剣が更に大量に集まって龍と化せば、その戦闘能力はどうなるか。

 

 その答えは、圧倒的な蹂躙だった。

 

 放たれる雷光を、聖魔剣を対雷撃にする事なく強引に突破し、そして対悪魔に特化した聖魔剣の力でブレスを放つ。

 

 とっさに朱乃とゼノヴィアは防御に徹するが、その出力は強大で負傷を負う。

 

 その隙を逃さずジャンヌは迫るが、そこにイリナが追いすがった。

 

「させないんだから!!」

 

「天使ちゃんじゃ無理ね!」

 

 振るわれた聖魔剣を、魔聖剣はあっさりと両断した。

 

「デッドコピーでオリジナルを倒せると思った? それに、これは聖剣創造と魔剣創造の複合禁手なのよ?」

 

 単純に、使用されている神器の数は倍以上。そう言う意味では地力では木場祐斗の聖魔剣すら凌駕する。

 

 単純な数の暴力により、ジャンヌは三人がかりでなお圧倒していた。

 

「これなら、業魔人(カオス・ドライブ)はもちろん本気を出さなくても倒せそう―」

 

「朱乃!!」

 

 とっさに対魔力に特化した魔聖剣を複数創造。それを盾にしてジャンヌは飛びのいた。

 

 そして、超高出力の消滅の魔力が、魔聖剣を一瞬の拮抗ののちに吹き飛ばした。

 

「抜き打ちとは言えコレを消すだなんて。やるわね次期グレモリー!」

 

「やってくれたわね、ジャンヌ・ダルク!」

 

 リアスの放つ消滅の魔力に対して、ジャンヌも即座に本腰で対応する。

 

 両手に対消滅の魔力用の魔聖剣を生み出し、それを両断。即座に対悪魔用の聖魔剣に切り開けて投擲し、リアスを狙う。

 

 だが、それもロスヴァイセが展開する魔法結界によって防がれた。

 

「させると思いますか!」

 

「……させない」

 

 さらに回り込んだ小猫の攻撃をぎりぎりでかわし、ジャンヌは舌打ちする。

 

 ……流石はグレモリー眷属、と強気を魅せたいがこれは大変だ。

 

 なにせこのグレモリー眷属。それぞれが上級悪魔クラスかそれ以上のレベルであるうえに、それぞれ出来る事が見事に分かれている。

 

 いかに様々な魔聖剣を生み出す自分といえど、全部すべてに対応する魔聖剣を生み出すなど不可能だ。

 

「ちょっとゲオルク! 少しぐらい助けてくれない!?」

 

 流石にこの人数は偏りすぎと、特に何もしていないゲオルクに文句を言う。

 

 ヘラクレスは事実上三体がかりで済んでるのに、こちらはその倍だ。どう考えても不公平だろう。

 

 それに対して、ゲオルクは息を吐くと静かに視線を祐斗とギャスパーに向けた。

 

「無茶を言うな。グラムを手にした聖魔剣使いと、更にリムヴァンから念押しされたハーフヴァンパイア。こいつらに睨みを利かせるのもただではないんだぞ?」

 

 痛いところを突かれた。

 

 なにせグラムは自分にとっても相性が悪い。もしまた振るわれると、流石に本当に全力を出す他ない。

 

 それはそれでヘラクレス達に笑われそうだ。実に不愉快だ。

 

 そして、ギャスパー・ヴラディに関しては確かに要警戒だろう。

 

 それほどまでに脅威だといわれており、そしてその理由も聞かされている。

 

 特にゲオルクとは相性が悪い。彼が警戒するのも当然だろう。

 

 なにせ、対抗する結界装置を作ったとしても、それが発動するまでのタイムラグで無効化されてしまうのだ。やるとするならばこちらも伏札を切るほかなく、できればそれは避けたいということだろう。

 

 こんなことなら構成員を用意しておくべきだった。少し反省するほかない。

 

 そうため息をついたその時だった。

 

「………うっ」

 

 なぜか、ギャスパー・ヴラディがうめき声を上げた。

 

 そして、涙すらこぼして崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘラクレス達と猛攻を繰り広げていたリセスは、その泣き声に警戒心を消さずに視界にギャスパーが移る立ち回りにかえる。

 

「どうしたの、ギャスパー?」

 

 戦闘の余波でダメージでも負ったのか。否、根性を習得している今のギャスパーが、このタイミングでそんな理由で泣き言を言うとは思えない。

 

 なら、一体―

 

「……できなかったんです」

 

 その言葉に、リセスは状況を把握しようと思考を回転させる。

 

「……グリゴリの方にも、今の自分達だとこれ以上は強くできないって……言われてしまったんです!」

 

 そういいながら、ギャスパーは泣き崩れた。

 

「僕はダメダメです……役立たずです……っ」

 

 その泣き崩れる様に何かを言いたいが何を言えばいいのかわからないグレモリー眷属。それも激戦中ではそれに思考を割くわけにもいかない。

 

 反面、手が空いているゲオルクは憐憫の表情すら浮かべていた。

 

「……自身の本質を知らなければその程度か。グリゴリも流石に気づけないと見える」

 

 その発言に、リセスは違和感を覚える。

 

 まるで、この場にいる中で最も危険と認識していたとでも言いたげな発言だ。先ほどの発言といい、ギャスパーを明らかに警戒しすぎている。

 

 どういうことかわからないが、もしかすると希望の光はギャスパーが持っているのかもしれない。

 

 だが、それをどうやってつつけばいいのかが分からず、どうしたものかと考え―

 

「―それでは、滅んだ赤龍帝も報われないな」

 

 ―ゲオルクが、わざわざ自分から地雷を踏んでくれた。

 

「……………え?」

 

 ギャスパーが、目を見開いて涙すら止めてぽかんとなる。

 

 やはりヴィクター経済連合では兵藤一誠が死んだということになっているようだ。まあ、普通に考えれば確実に死んでいる状況だろう。

 

 イッセーが生きているのなら、この状況下で行動していないわけがないのだから。しかもシャルバがサマエルの毒を持っていることも考えれば、それは確かに死んだと考えるのが普通だろう。

 

「イッセー先輩が……死んだ?」

 

「ああ。シャルバが持ち込んだサマエルの毒を喰らい、滅んだはずだ。あの状況下ではそれ以外に考えられない」

 

 確かにそれが普通の判断である。

 

 ……まさか、魂は無事な可能性があり、絶賛捜索中などとはだれも考えつかないだろう。

 

 そしてゲオルクは視線を向けると、得心したかのようにうなづいた。

 

「そう言えば偽物の聖槍使いも堕天使の狙撃手もいないな。……ジークフリートは戦果を挙げたようだ」

 

 しかも勝手にヒロイとペトがジークフリートに殺されたと勘違いまでしてくれている。

 

 まあ、あの二人がグレモリー眷属と行動を共にしていないという事もあり、その発想は当たり前だろう。ことペトの狙撃がいまだに一発も飛んでこない時点で、そういう判断が起きる可能性は十分あり得た。

 

「対狙撃とギャスパー・ヴラディ用の結界装置を周囲に展開し終えていたのだがな、どうやら無用か……」

 

 そう安心すらしているゲオルクに、リセスは「イッセー生きてるみたい」と言ってやりたくなった。

 

 きっと度肝を抜かれる事だろう。ちょっと押され気味なところもあるので、少しスカッとするはずだ。

 

 そういうわけで口にしようとして……。

 

「………殺してやる」

 

 ―その、怨念にまみれた声が響き渡った。

 

 その声の主は、ギャスパーだ。

 

 今まで聞いたことがないほどの、どす黒い口調。

 

 相当切れている事がよく分かる。

 

 そして、視線を向け―

 

「コロシテヤル。コロシテヤルゾ、オマエタチ」

 

 それが、明らかに常軌を逸した事態である事に気づき、リセスは本気で警戒した。

 

「おーおーおーおー。これが例のあれか?」

 

「やっぱり禁手(バランス・ブレイカー)級ね。出力がデータとは大違い」

 

「……まずいな、俺とは相性が悪いのだが」

 

 英雄派は慌ててこそいないが、ゲオルクが警戒心を強めている。

 

 その視線の中、ギャスパーから闇が生まれて、獣の姿となるほどに変貌する。

 

 それどころか、闇は周囲を侵食し、周囲を包み込もうとする。

 

「これは流石に看過できんな……っ!」

 

 ゲオルクは瞬時に結界装置を生み出しながら、霧でギャスパーを包み込む。

 

 強制転移を試みつつ、結界装置により封印を狙ったところだろう。

 

 だが、それはあっさりと破られる。

 

 闇は一瞬で霧を侵食するとそのまま飲み込み、同時に結界装置は周囲を包み込む闇から瞳が生まれると、その機能を停止させる。

 

「あらゆるものを侵食する闇と、あらゆるものを停止させる目。……軽量たる我が霧と、タイムラグのある結界装置では相性が悪いにもほどがあるな」

 

 ゲオルクはそう冷や汗を流しながら戦慄するが、然し口調は冷静だった。

 

 しかし、実際に相性は最悪だ。

 

 霧を容易に侵食して溶かす闇の前には通常の能力は無力に近い。また、凶悪な結界装置も生まれながら結界をうむわけではない。作り出してから結界を発生させるまでのラグが、停止の力を仕掛ける隙となる。

 

 一対一でこの事態に持ち込まれた時点で敗北は確定。そう言っても過言ではないほどに、ゲオルクは追い詰められ―

 

「だが言っただろう。……吸血鬼用の結界は用意していると」

 

 その言葉と共に、ゲオルクは眼鏡を指で押し上げる。

 

 その瞬間、闇に浸食が一気に減衰した。

 

「トマル!? ヤミガトマル!? アリエナイ!?」

 

「あり得るとも。我が絶霧(ディメンション・ロスト)は上位神滅具。貴様の時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)とは相性が悪いが、事前に準備さえ済んでいればいくらでも対抗できる」

 

 聞き慣れない神器の名を告げながら、ゲオルクは視線をもだえ苦しむギャスパーに向ける。

 

 そこには、油断もなければ畏怖もなかった。

 

 ただ単に、既に攻略が完了した相手としか見ていない。

 

 そしてもだえ苦しむギャスパーの抵抗は続くが、ゲオルクは瞬時に結界装置を多重展開してさらに動きを封じる。

 

 結界装置は目によって停止されていくものもあるが、弱体化した状態ゆえに大量に生成される結界装置すべてを止められない。そして結界装置が一つでも起動すれば、その保護下に置かれた結界装置もまた駆動して鼠算式にギャスパーは弱体化していく。

 

 そして、そこにあるのは闇の魔獣ではなく、ただ単に闇色に染まったギャスパー・ヴラディだけだった。

 

「詰みだ。その邪眼王、我らの手に頂かせてもらう。……神器摘出用の結界装置は開発済みだ」

 

 その言葉に、全員が寒気を感じた。

 

 全く状況の展開についていけてない。そして何故か英雄派はこの状況に心当たりがある。

 

 だが、少なくとも分かる事がある。

 

 このままではギャスパーが危険だ。

 

「皆! ギャスパーを守って!!」

 

 リアスが命じるまでもなく全員が動こうとするが、しかしそれより相手が速い。

 

 気づけば、ヘラクレスはグレモリー眷属とギャスパーを分断する形で回り込んでいた。

 

「させるわけねえだろうが! 少しは手柄を立てさせな!!」

 

「同感ね。逃がすわけがないじゃない」

 

 更にジャンヌが指を鳴らすと、魔聖剣のドラゴンが音と立てて崩れ堕ち、ヘラクレスのとなりに再出現する。

 

 ならばまずはジャンヌの本体を狙おうとするが、そのとたんにジャンヌは二振りの魔聖剣を生み出すと、その姿をかき消した。

 

 一瞬でも相手の姿を見失った事で、全員がまず自分の周囲を警戒する。

 

 そしてその隙をついて、ジャンヌはヘラクレスの隣にまで追いつき、姿を現した。

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の能力を持つ魔聖剣……っ!」

 

「正解。短時間しかできないようにする代わりに、とにかく出力を大幅に向上させてみたわ。使い捨て出来るって最高だと思わない?」

 

 不敵な表情を浮かべるジャンヌの後ろで、ギャスパーの全身から火花が散る。

 

 すでに結界装置は神器の摘出に取り掛かっているということだ。

 

 そして、それを止めようにもヘラクレスとジャンヌの2人を同時にどうにかするほかない。

 

 まず間違いなく、時間が足りなかった。

 

「ギャスパー!! くそ、そこをどけ!!」

 

 ゼノヴィアが全力でデュランダルを叩き込むが、しかしそれをゲオルクの結界が防ぐ。

 

 その火力に霧の結界が押し込まれるが、然しその内側から魔聖剣のドラゴンが体当たりを行い、強引に弾き飛ばした。

 

「くっ! ゼノヴィア、同時攻撃で―」

 

「いや、もう遅い。あと五秒で―」

 

 祐斗が体の負担を無視してグラムを構えるが、ゲオルクがそれをあざ笑う。

 

 そして、そのままギャスパーから何かが飛び出そうになり―

 

「―クリムゾンブラスター!!」

 

「―槍王の型、流星(ながれぼし)

 

 その二つの閃光が、結界装置を破壊して食い止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、リセスもリアスも目に焼き付ける。

 

 蒼く輝く切っ先を突き出す、輝き(英雄)

 

 真紅の輝きを放った、ヒーロー(英雄)

 

 そう、そこに現れたのは二人のヒーロー。

 

 オカルト研究部の2人のエース格。

 

 そして、一人は死んだとすら思っていた、自分達の主柱。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事かギャスパー! 助けに来たぜ!!」

 

「おいおい。出待ちと思っちまうぐらいいいタイミングだな、こりゃ」

 

 鎧越しでも冷や汗を流すぐらい焦っているのが丸わかりの兵藤一誠。

 

 タイミングの良さに苦笑を浮かべる、ヒロイ・カッシウス。

 

 2人の英雄が、まさにこのタイミングで参戦した。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ジャンヌはリムヴァンやディオドラのように複合禁手にしているタイプです。因みにこっちも手加減しています。


そしてもう気づかれている方も多いでしょうが、ヴィクター経済連合は……というかリムヴァンは、ギャスパーの神器に対して現状で一番詳しいです。

ゲオルクにもグレモリー眷属と戦う可能性を考慮して、きちんとアドバイスをしています。其のため遠隔地に対邪眼用の結界装置を用意して、勘付かれる前に起動という方法をとってギャスパーの弱体化させて力押しに成功しました。



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第五章 27

そんなこんなで時間は戻って。

とりあえず、イッセー達と合流したヒロイの視点から。


 

 俺達が急行するちょっと前。俺達は起きたイッセーと一緒に事情を聴いていた。

 

 なんでも、歴代赤龍帝の残留思念がサマエルの呪いの楯となっているうちに、赤龍帝の籠手の中にイッセーの魂を隔離する事で難を逃れたらしい。

 

 ……礼を言いたかったな。ホント。

 

 いや、超問題のある最後の言葉については思うところがあるんだけどよ。

 

 なんだよ、ぽちっとぽちっとずむずむいやーんって。他になんか言うことねえのか。あるだろもっと遺言に向いた言葉が。

 

 これには意識を取り戻したイッセーも苦笑いだった。

 

 で、空間が崩壊した時たまたまその近くを飛んでいたグレートレッドにオーフィスがイッセーごと飛び乗り、俺達がそんなグレートレッドを発見して今に至ると。

 

「……お前、異常だろ。ホントに何者だよ」

 

「いや、俺もそう思う。……ま、おっぱいドラゴンでいいんじゃねえか?」

 

 いや、お前はもうちょっと考えた方がいいと思う。

 

 もう異常ってレベルじゃ片付けられねえだろ。なんだよその幸運は。

 

 まさに生まれた時から大物になる運命を持ってるな。くそ、ちょっと羨ましい。

 

 俺だって最近はこいつに付き合わされる形でトラブル続きなんだぞ。こいつが関わってない時ですらトラブルに巻き込まれてるんだぞ。もっと奇跡を俺にも寄越せ。

 

 ええい、天然物の英雄はこれだから。そんなに人工物を目指すのはダメか!! 持ってるものが違うから無理だってか!!

 

 いや、こんな事で諦めねえ。俺は既に姐さんの英雄であり、シシーリアの英雄でもあるんだからな。輝き万歳!!

 

「だけど、体が復活して良かったなぁ。体が無かったらリアス達とエッチなことできなかったからさぁ」

 

「駄娘にはよく分かりませんが、まず真っ先に心配するところはそこじゃないと思います」

 

「諦めるッス。イッセーはそういう常識に捕われないっス」

 

 ペトが、イッセーのことをよく分かっていないシシーリアの肩に手を置いて諦めを促した。人生諦めが肝心だしな。

 

 ま、何はともあれイッセーの体も新しくできた。

 

 オーフィスとグレートレッドの力や細胞を使って作られた特別製だ。人間ベースの頃より、素の身体能力は上がってるだろうしな。いわば人間型のドラゴンって事だ。

 

 こっちで体を新しく用意する準備してるはずなんだけど、無駄足になったな。ホント何から何まで幸運に恵まれている奴だ。

 

 ……いや、そもそも体が崩壊するとか不運すぎる。こういうのなんて言ったっけ? 悪運?

 

「とりあえず、皆に朗報伝えとくか。クローン体の開発とかもさせてたら無駄足になるだろうしな」

 

「うっかりしててすいません。でも、この駄犬でも通信機の動かし方ぐらいは講習を受けているので、すぐに繋げます」

 

 シシーリアがすぐに通信機を繋げると、そのまま会話を始める。

 

「とりあえずご飯を食べたいっす。ちょっと忙しくて、サンドイッチを数枚しか食べてないっすからね」

 

「あ、ずりぃ! 俺なにも食ってないんだぜ!?」

 

「サンドイッチ、サンドイッチ」

 

 ペトの言葉に、イッセーとオーフィスが反応した。

 

 そういやそろそろ三日ぐらい経ってるからな。その間イッセーとオーフィスは何も食ってないってわけか。腹減ってるだろうな。

 

「確か探索船の中にレーションがあったな。戻る前にちょっと食べてみるか」

 

「マジで!? そういう事は早く言ってくれよ!!」

 

「ご飯、ご飯」

 

 イッセーとオーフィスの目の色が変わっている。どんだけ飢えてんだ……三日分か。

 

 ま、とにもかくにも連絡さえすればあとは安心だろうし―

 

「―大変です!! グレモリー眷属はシトリー眷属を助けに英雄派と戦闘に向かったと連絡がありました!!」

 

 ―っと思ったら緊急事態ぃ!?

 

 え、まじで英雄派? シシーリア、それマジ?

 

「な!? 英雄派って、まさか曹操か!?」

 

「そこ迄は愚鈍の私では把握できないです!!」

 

 イッセーの質問にシシーリアは首を振るが、しっかしそれにしたってこりゃヤバイ。

 

 飯食ってる場合じゃねえな。すぐにでも行かねえと。

 

『……お前ら。グレートレッドと話をつけた。今からリリスまでのゲートを開けてくれるそうだ』

 

「マジで!? 至れり尽くせりにもほどがあるじゃねえか!!」

 

 意外と話し分かる奴が多いな、龍神。

 

 生態がよく分からねえから周りが勘違いしてるだけで、オーフィスの奴もなんていうか、ただの子供に見えてきたしな。

 

 さて、すぐにでも戻らねえとな。

 

「んじゃ、急いで戻ろうぜ? この探索船って空飛べたっけ?」

 

 そこが心配だ。このまま乗り捨てるってわけにもいかねえからな。

 

「ちょっときついですね。飛行そのものは可能ですが、ヒロイさん達なら自力で飛行した方がはるかに速いです。……足を引っ張るなんてものじゃないかと」

 

「だったら、ペトが護衛に残るッス」

 

 ペトが勢いよく手を上げると、そう立候補した。

 

 でもいいのか? 姐さんだっているだろ?

 

「お姉様にはあとで可愛がってもらうッス。ヒロイとイッセーはすぐにでも皆に顔を見せるっすよ」

 

「ペト……。ああ、ありがとうな!!」

 

 イッセーが頷き、そしてペトも頷いた。

 

「じゃ、自分達の事は気にせずそっちに向かって飛んでいくっす」

 

 そう言いながらペトが指さした先には、空間が歪んで悪魔の都市が映し出されていた。

 

 ああ、こりゃ大変だ。急がねえとな。

 

「んじゃ、俺も言ってくるぜ」

 

「はい。ヒロイさん、ご武運を」

 

 ああ。ありがとうな、シシーリア。

 

 そして俺とイッセーは並び立って、正面を見据える。

 

 さて、色々あったが、今から反撃タイムだ。

 

 英雄派の幹部共の驚く顔が目に浮かぶぜ。きっとおったまげるんだろうなぁ、こりゃ。

 

「オーフィス。俺達は俺達の場所に行ってくるよ」

 

「そう。それはとてもうらやましいこと」

 

 オーフィスは、少し寂しそうな顔をした。

 

 そんなオーフィスに、イッセーは手を差し伸べる。

 

「お前も来いよ」

 

 イッセーは、躊躇う事なくまっすぐな目をオーフィスに向ける。

 

 その目は、ヴィクター経済連合の盟主を見る目じゃない。敵を見る目ですらない。

 

 それは、ただの友達を見る目だった。

 

「お前は俺の友達だ。だから、俺達と一緒に行こうぜ?」

 

 ……まったく。俺はお前が妬ましいぜ。

 

 天然物の英雄(ヒーロー)はこれだから困る。こういうことを特別だとも、難しいとも思ってねえんだろうさ。んなこと断じてあり得ねえのにな。

 

 そして、オーフィスは……。

 

「分かった。我、ドライグと友達」

 

 その手を、そっと手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てなことがあったわけだよ」

 

 俺はニヤニヤ笑いながら、英雄派に向かってご丁寧に説明してやった。

 

 後ろではイッセーが「おっぱい!」と言ってようやく本人だと認められるという悲しくも当然な事をやっていたんで、時間稼ぎをしてるって感じだな。

 

 もちろん、英雄派の連中は目を見開いて愕然としている。

 

 そりゃ死んでるとしか思えねえからな。生きてる方がどうかしてるっていう、明らかな状態だからな。実際、一度肉体は消滅してるから死んだって言われてもおかしくねえし。

 

 それがこんな無茶苦茶な奇跡を連発して生き残ったとか、もう恐怖すら感じるだろう。

 

「……っざけんな、この化物が!!」

 

「異常極まりないわね これは、封印とかの方がいいんじゃないかしら?」

 

「殺しても死なないとは、恐るべし兵藤一誠……っ」

 

 英雄派の三人も、あまりの事実におぞましさすら感じてイッセーを睨む。

 

 まあ、敵の側からすれば悪夢以外の何物でもねえだろ。トラウマだろ。

 

「……そんなに気味悪げに見なくてもいいじゃねえか」

 

「気味悪げに見るだろ」

 

 思わずイッセーにツッコミを入れちまったよ。

 

 お前、自分が異常だって自覚をした方がいいぞ。その理由とか何か考えた方がいいだろ。自分のことだぞ。

 

 英雄派の連中は、どいつもこいつもガチ警戒だ。

 

 なにせ結界装置を俺とイッセーが破壊した事で、ギャスパーは救出できたからな。

 

 ペトがいないのは惜しいところだが、仕切り直しには十分だ。

 

「ジャンヌ、ヘラクレス。本気を出す事も視野に入れろ。少なくともそれ位はするべき相手だ」

 

 ゲオルクは霧を油断なく展開しながら、イッセーを睨み付けながら指示を出す。

 

 ヘラクレスもジャンヌもそれに反論しない。

 

 なんつーか、イッセーの奴マジ警戒されてるだろ。

 

 どう考えてもマジ警戒だろコレ。当然だけどな。

 

 さて、俺も槍王の型をとっさに使っちまったから結構負担がでかいしな。

 

 できる限り一瞬でケリを付けねえと、後に響くからな。

 

 そう思ったその瞬間だった。

 

 ビルに隠れている地点から、どす黒い炎が立ち上った。

 

 なんだ? 新手か? 敵か味方かどっちだ?

 

 俺の疑問は、ゲオルクの驚愕の視線が敵の可能性をぶっ飛ばした。

 

「……まさか、我が結界を破っただと!?」

 

 とっさにゲオルクは魔法をぶっ放すが、それは炎から飛び出してきた匙がかき消した。

 

 そういや魔法に対して強い効果を持つ神器を持ってたな。その効果か。

 

 そして、ボロボロになった匙が、俺達の近くに着地する。

 

「……俺のダチを殺しやがったくせして、好き勝手出来るとでも思ってんのか?」

 

 目の据わった表情で睨み付ける匙は、ボロボロだけどまだまだ戦えそうだ。

 

 こいつも根性あるよな。ほんと、色んな意味でイッセーの影響をもろに受けてやがる。

 

 うん、だけどね、匙。

 

「匙、勝手に殺さないでくれない?」

 

 イッセーが、呆れ半分でそう突っ込みを入れた。

 

 いや、死んでないのがおかしいんだからな? お前なんで生きてるのってのが正しいからな?

 

「………兵藤ぅ!?」

 

 目ん玉ひん剥いて驚愕の表情を浮かべる匙が正しい反応だな、うん。

 

 あ、これはグダグダになるかねぇ?

 




英雄派、とりあえずドンビキ。

まあ、体が消滅しても殺せないとか恐ろしいにもほどがありますからね。……これから殺しても復活する連中はゴロゴロ出てくるんだけどな!!


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第五章 28 白銀の極覇龍

はいはい皆さんお待たせいたしました!

ついにヴァーリも本気モードです!!


 

「兵藤ぅうううううう!!! 俺は、お前が死んだとばかりずっと思っててなぁあああああ!!!」

 

「いや、ホント勝手に殺さないでくれよ」

 

「死んでねえのがおかしいんだって何度も言ってんだろ」

 

 匙、イッセー、俺の順で色々と言ってるけど、んなことしてる余裕もねえわな。

 

 だけどまぁ、ここで邪龍ヴリトラが参戦ってのはいいタイミングだ。

 

 ああ、これなら勝ちの目もだいぶ見えてきたってもんだ。

 

「……まさか、我が結界を強引に突破するとは……っ」

 

 プライドを思いっきり傷つけられたのか、ゲオルクが苦苦しげな表情を浮かべる。

 

 そうそう。そう言う顔が見たかったんだよ。

 

「さて、これで状況は大きく変わったわね」

 

「そうね。これなら容赦なく消し飛ばす事もできるかしら」

 

 リセスの姐さんとリアスのお嬢が、嗜虐的な笑みを浮かべてゲオルク達を見据える。

 

 ああ、散々こっちもやられてきたからな。そろそろいい加減今までのツケを払わせても良い頃だろう。

 

 まあ、そう油断できるわけでもねえだろうがな。

 

 なにせあいつ等、まだ隠し玉があるらしいし。それを出されたら流石に五分五分か。

 

「どうしたものか。このまま撤退というのも癪に障るが、そろそろ敵も増援を送り込んできそうだ」

 

「確かにねぇ。こっちも業魔人(カオス・ドライブ)をポンポン使って旧魔王の末裔たちを調子づかせるのもあれだし?」

 

「おいおい逃げんのかよ。こっからがいいところなんじゃねえか」

 

 英雄派共の間で会議らしきものが始まるけどよ。お前ら、そんな事する余裕があるとでも思ってんのか?

 

「一応言っておくけど、このまま逃がしてあげるほど、こっちも優しくはないわよ」

 

「その通りだ。貴様らが巻き込んだ冥界の子供達の恐怖の分だけ、お前達には責を負ってもらう」

 

 姐さんとサイラオーグさんが一歩前に出て、いつでも飛びかかれる体勢に入る。

 

 ああ、俺達も結構フラストレーションが溜まってるんだよ。

 

 覚悟してもらうか!! イッセーの復活劇の生贄になるといいわ!!

 

 そう思って踏み込んだ瞬間―

 

『では、こちらの相手もしていただきましょうか』

 

 その言葉と共に、殺気を感じた。

 

 とっさに壁となる大型ホンダブレードを展開しながら飛び退れば、鋭い鎌がそれを両断した。

 

 なんだこいつ。間違いなくかなりできる野郎じゃねえか。

 

「プルートか! こんな時に!!」

 

 木場が舌打ちをしながらグラムを構える。

 

 いや、それ呪いがシャレにならなかったよな。まずは聖魔剣を構えろや。

 

「あらあら。何をしに来たのかしら?」

 

「……どうせ、私達の邪魔をしに来ただけでしょう」

 

 バチバチと雷光を飛ばす朱乃さんに、小猫ちゃんがため息交じりにそう答える。

 

 つーかプルートっつーと、確か最上級死神の一人だったよな。

 

 曹操にボコられた後のイッセー達を始末しようと、ハーデスに送り込まれたとか。最上級の死神とか、間違いなくシャレにならねえ実力者なんだろうな。

 

『先に通達しておきましょう。……我々冥府はハーデス様の意思の元、ヴィクター経済連合に正式に加入しました』

 

 ……マジかよ。

 

 あのジジイ、素直にヴィクターに頭下げる手合いだと思えねえんだがな。

 

 アザゼル先生たちが何かして、追い詰められたか? そんでヤケを起こしたってところなんだろうが…‥。

 

『とは言え、我々の序列は最下層。……早めに手柄を立ててこの屈辱的な立場からのし上がりませんと。悪魔や教会からの派閥に上から目線を向けられるなど我慢できませんので』

 

 プルートはそう言うと、鎌を構える。

 

 なるほど。シャルバと曹操をいいように使った事に、ヴィクターの連中も腹を立ててるってわけか。自業自得だな、オイ。

 

 つっても、そのシャルバにとどめを刺したイッセーを潰せば、それなりの功績にゃぁなるだろうな。

 

 しかもこっちにゃオーフィスがいるからな。上手くして捕まえる事が出来りゃぁ、一気に序列を上げる事も不可能じゃねえってわけか。考えてやがる。

 

 チッ。結果的に挟み撃ちになりやがった。面倒なこったなぁ、オイ。

 

 上等だ。イッセー達をボコった借りもあるし、とりあえず俺が相手してやる。

 

「捕らぬ狸の皮算用っつー日本の格言知ってっか? 今からそれを体験させてやるよ」

 

 俺は聖槍を構えて一歩前に踏み出して―

 

「……いや、悪いがそいつの相手は譲れないな」

 

 その言葉と共に、白が舞い降りた。

 

 ……この鎧、ヴァーリか?

 

『ほう。冥府に仕掛けたかと思えば、ドーインジャーの大群の前に逃げ帰ったヴァーリチームですか』

 

「ああ。まさかヴィクターが総力を挙げて防衛線を張るとは思わなかった。あれは流石にこちらが死んでしまうのでね」

 

 プルートの皮肉に苦笑交じりにそう返すヴァーリ。

 

 そんなヴァーリのもとに、ヴァーリチームの面々もやってくる。

 

 おいおい、オールスターでやってきてくれたじゃねえか。こりゃ英雄派の幹部連中も確実に倒せるだろ。

 

 俺が思わぬ援軍に喜ぶ中、ヴァーリは視線をプルートに向ける。

 

「いい加減鬱憤を晴らしたくてね。だけどハーデスたちにぶつけるのは些かリスクが大きい。ここはのこのこと出てきたお前で晴らすべきだろう」

 

『これは怖い。ですが、史上最強の白龍皇との戦いは心躍りますね』

 

 プルートの奴も乗り気だ。こりゃ、凄い事になるのが目に見えてるな、オイ。

 

 さて、実際のところどうなるのかねぇ。

 

 と、ヴァーリが全身から強大なオーラを放つ。

 

「せめてもの情けだ。俺の切り札を見て死ぬといい」

 

 ヴァーリの切り札。ってことはつまり、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)でも出す気か?

 

 いや、似ているが何かが違う。……なんだ?

 

「兵藤一誠は歴代を説得したようだが、俺はねじ伏せる方が性に合っていてね。こんなものを生み出してみた」

 

 その言葉と共に、放たれるオーラがより絶大に上昇した。

 

「我、目覚めるは、律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

 

 あ、詠唱が違う。

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く」

 

 ってことはあれか。イッセーの真女王と同様の形態ってことか!!

 

「我、無垢なる龍の皇帝と成りて―」

 

 っていうかおいおいちょっと待て。

 

 この出力、覇龍に匹敵どころかそれ以上―

 

「汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えよう―!」

 

 そこに映るのは、白銀に輝く龍の鎧。

 

 出力だけなら覇龍すら超え、然しどことなく紅の鎧を思わせる。

 

 そんな強大な力の権化が、俺達の目の前に現れていた。

 

「|白銀の極覇龍《エンピレオ・ジャガーノート・オーバードライブ》。……覇龍はリスクが大きすぎたんでね、もっと安全なものを開発させてもらった」

 

 さらりととんでもないこと言ってきやがったな、この野郎!!

 

 覇を克服したり凌駕したり、今代の二天龍は色々と規格外すぎやしねえか、オイ!!

 

『面白い! 今のあなたとの戦いなら、私も新たな高みへと到達しそうです!!』

 

 その言葉と共にプルートはもの凄い速さでヴァーリに切りかかり―

 

「遅いな」

 

 ―一瞬でヴァーリはそれを殴り飛ばした。

 

 マジか。あの高速の切りかかりを余裕で返り討ちにしやがった。

 

「―どこまでも潰れるといい」

 

 そして吹っ飛ばされるプルートに手を向けると、そのまま莫大な出力を展開する。

 

『Compression Divider!!』

 

 その音声が響き渡ると、プルートは横に半減、縦に半減を連続で繰り返して一気に小さくなっていく。

 

『これが、魔王の血を継ぐ白龍皇の本領―』

 

 その言葉を最後にプルートは視認する事すらできなくなり―

 

「終わりだ」

 

 ―最後の小さな衝撃一つ残して、プルートは完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一分ぐらい、俺達は唖然となっていた。

 

 うっわぁ。マジかよオイ。

 

 アザゼル先生が龍の鎧を展開して、なお互角に渡り合うような奴を瞬殺しやがった。文字通りにだよ、オイ。

 

 ヴァーリ。お前、一体どこまで強くなる気なんだよ。マジでどんな高みに行く予定なんだよ。

 

 え? 俺、格上の神滅具持ってるからこれ以上狙わねえと駄目なのか? うっわぁ、死ぬような特訓しても追いつけるかどうかわかんねえ。

 

 あ、そういえば業魔人(カオス・ドライブ)の材料も魔王の血だったな。そうか、魔王の血が原因か。

 

 それにしたって限度があるだろうが、オイ!!

 

「……この状態は長続きできないが、主神にすら届くと自負している。最上級クラスでは相手にならないさ」

 

 息も絶え絶えで鎧を解除しているヴァーリだが、凄まじくスッキリしたみたいだな。

 

「お疲れ様です、ヴァーリ様」

 

「おいおい。俺達の分がねえじゃねえかよぉ」

 

「まあいいだろう、幸い、英雄派の連中はまだ残っているしな」

 

 ルフェイと美候にヴァーリはそう答え、そして視線をゲオルク達に向ける。

 

「さて、思わぬ援軍を潰してしまってすまなかったな。まあ、俺は当分休みたいところだから安心してくれていいぞ」

 

「……サマエルでお前を無力化したのは正解だったようだ。流石にあれは、曹操でも俺を庇い切れんな」

 

 冷や汗をたらりと流しながら、ゲオルクは歯を食いしばる。

 

 だろうな。あんなもん相手できる奴、主神クラスじゃねえと無理だろ。

 

 神滅具の使い手が禁手になった程度じゃ流石に無理か。姐さんとイッセーと俺が三人がかりで挑まないと倒せねえんじゃねえか?

 

 ……消耗が激しすぎてよかったぜ。そうじゃねえと倒す算段が付けられねえからな。

 

「やむを得ん。本気で行くぞ。それも、業魔人を使うことも視野に入れて―」

 

 ゲオルクがそう言いながら注射器を取り出した、その時だった。

 

「―いや、その必要はない」

 

 その言葉と共に、ついに奴が現れた。

 

 ああ、やっぱり来るか。来ちゃいますか。

 

 来てくれてよかったぜ。一発ぶちかましたかったからな、俺達も……!

 

「ようやく出てきやがったか、曹操!!」

 

「ああ、主役は遅れてくるものだろう?」

 

 その鼻っ柱、へし折れるチャンスを待っていたぜ、この野郎!!

 




そしてついに、本丸曹操登場。

さて、原作通りに行くなんて、そんな幻想は思ってませんよね(邪悪な笑み


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第五章 29

ついに曹操登場!

ヒーローズ編も決戦が近いですぜ、旦那!!


 

 曹操は、苦笑を浮かべながらイッセーに視線を向ける。

 

「シャルバはサマエルを持っていたと聞いたけど、生き残っていたとはね。……正直、出待ちをする性質ではないと思ったんだけどね」

 

「悪かったな。体が消滅してたから、グレートレッドとオーフィスの力を借りて新しく作ってたんだよ」

 

 イッセーが嫌味を言うが、その言葉に曹操は目元を引くつかせる。

 

 ああ、流石にこれは気持ちが分かるぜ。

 

 だって無茶苦茶なこと言ってるからよ。もうドっから突っ込んでいいか分からねえよ。色々おかしいだろ、色々。

 

「……グレートレッドと出会うという時点で天文学的な確率だ。ましてや、グレートレッドとオーフィスの共同作業を引き出すだと? 君は、自分がどれだけ異常な事をしているか分かってないだろう」

 

「?」

 

 あ、分かってねえな、コレ。

 

「単刀直入に言おう。最早二天龍などというレベルで語れる次元に君はいない。神器以外は特別な来歴も特性も何一つ持ってない君が、だ。……一体、君は何なんだ?」

 

 心底化け物を見る目で曹操はそう問い質す。

 

 ……曹操。悪いんだけど、イッセーそういうこと深く考えてないと思うぜ?

 

「……じゃあ、おっぱいドラゴンでどうよ?」

 

 ほらぁ! こんなこと言ってるしぃ!!

 

「馬鹿だろ、お前」

 

「ひでえ!」

 

 思わず俺はそう言っちゃったよ。言わずにはいられねえよ。

 

 お前さ、ホント自分を客観的に見ろって。どんだけおかしな事してるか自覚ねえだろ。

 

「もうちょっと自分の異常性認識しろよ。なんか理由ねえか考えろよ」

 

「いや、確かにちょっと自分でも呆れるけどさぁ」

 

 その程度ですますんじゃねえ。

 

 あれ? これ、俺と曹操がおかしいのか? おかしいのは俺と曹操の考え方なのか?

 

 物事に理由をつけたいのはそんなに悪い事か? いや、こんな異常現象に理由がないとかそっちの方が怖いだろうが。

 

 俺はなんとなく同意を求めて視線を周りに向けると、生暖かい視線がいくらか返ってきた。

 

 ただ、もうイッセーはこれでいいだろ? 的な視線も帰ってきた。勘弁してくれ。

 

「……君とは相容れそうにないな。腹立たしいが怨敵と認めよう」

 

 曹操も、ため息を共にそう言った。

 

 そして、憧憬と嫌悪が混じった眼でイッセーをまっすぐに見据える。

 

「おそらく、君は冥界の英雄になろうとした事はないのだろう。ただ目的の為に生きて、その結果として英雄と呼ばれている。……天然ものだよ、恨めしい」

 

 あ、この辺も俺と同じ考えか。

 

 やっべえよ。意見が合っちまってるよ。同意見になってるよ。

 

 俺としては不倶戴天の怨敵なんだけどな。なんか同類的な意識が生まれちまってるよ。

 

 だってイッセーが天然ものなのは俺も分かってるしな。ぶっちゃけ、少し羨ましいし妬ましいって思ってる。

 

 そこで同意見になっちまったらいかんだろ。仲良くなっちまいそうじゃねえか。

 

「……だが、俺達は英雄になる事を諦めたりはしない。してたまるか」

 

 あ、そこも同意見かよ。

 

 なんか、俺泣きたい。

 

「長可から、戦国時代の英傑達の話を聞いた。色々な者がいたよ」

 

 森長可か。

 

 正真正銘戦国時代に名を遺した武人。人は彼を英雄と呼ぶだろう。

 

 その影響が、俺との共通認識なのか?

 

「……名誉を求めた者がいた。欲を叶えようとした者がいた。ただ戦が好きな者がいた。太平の世を作ろうとした者がいた。……そして、そのいくらかが今の世にも英雄として名を残している」

 

 ああ、そうだ。

 

 英雄が、全員高潔な人物だったなんてことはねえ。

 

 どす黒い、後ろ暗い、そんな逸話を輝かしい栄光の裏に持っている英雄何て、腐るほどいる。

 

 曹操も、それをきちんと理解しているのか。

 

 やっべえ。俺、曹操のこと気に入りそう。

 

「そして、同じように強い意志を持った、名も無き英雄は数多くいる」

 

 静かに、曹操は槍を突き付ける。

 

「英雄とは、人より前に進んだ者」

 

 それは、兵藤一誠に対する、宣戦布告だった。

 

 それは、リセス・イドアルに対する、宣戦布告だった。

 

 そしてそれは、この俺ヒロイ・カッシウスに対する、宣戦布告だった。

 

 俺は、輝きという名の英雄になりたい。人の心を照らしたい。

 

 姐さんは、自慢という名の英雄を目指している。俺とペトの英雄でい続けようとしている。

 

 イッセーは、英雄になろうなんてせずに英雄になった。ただがむしゃらに生きた結果、自然と英雄になっていた。

 

 そして、曹操もまた英雄を目指す。だけど、それは決して俺達と同じものではない。

 

「例え歴史に名を残せなくとも、人より前に進んだ事はその者の心に残る。俺達は、もっと向こうへと足を進める」

 

 そう、曹操が目指す英雄の形が分かった。

 

 奴が目指すのは、先を往く者だ。

 

 例え誰に知られなくても。例え歴史に残らなくても。

 

 もっと前に。もっと高く。もっと遠く。もっと向こうへ。

 

 限界に挑戦し、そしてそれを超えようとする曹操にとっての英雄とは、限界に挑戦する者達だ。

 

 ……共感を覚えても、俺たちは決して相いれない。

 

 そして、イッセーはそこに共感を覚えない。

 

「分からねえよ。なんでそこまでそんなことに拘るんだ?」

 

 その言葉が、少なくとも今のイッセーの在り方だった。

 

「ならば俺はこう返そう。……なんで君は、女子に嫌われると分かっていて、ハーレムを作りたいのに女子の着替えを覗こうとするんだい?」

 

 ……ここでそんなこと言う?

 

「……なるほど、ロマンってのはそういうことか」

 

 そして分かるんじゃねえ。殴っていいか?

 

 曹操は、その返答に満足げに頷いた。

 

 いや、頷かないでくれないか? マジで一緒にされたくねえんだよ。ものすごーく大きな視野で見ると一緒なんだろうけどな?

 

「そう言う事だ。部下達には怒られるかもしれないが、ロマンの追求とは、それに価値を感じない者達には理解されないものさ」

 

 そう答えると、曹操は禁手を発動させる。

 

 たしか、七つの球体がそれぞれ並の神器の禁手に匹敵する能力を発動するんだったな。しかも鈍器として使用する事もできるっていうシャレにならねえ仕様だったな。

 

 何て静かに禁手を発動させやがる。イッセーやサイラオーグさんとは比べ物にならないぐらいスマートに禁手に至ってるじゃねえか。

 

 これが、オリジナルの聖槍使いの本領ってやつか。壁はまだ高いな、オイ。

 

 だが……。

 

「負ける気はねえぜ、曹操」

 

 俺は気合を入れると、槍を前に突き出す。

 

「勝てるわけがないだろう、まがい物」

 

 そうかい。まだ紛い物が基本かよ。

 

 ……だが、いつか必ず超える。

 

 そうでなければ、輝き(英雄)を名乗るに名乗れねえからな。

 

 俺はその決意と共に一歩を踏み出し―

 

「悪い、ここは俺にやらせてくれ」

 

 イッセーが、俺の肩に手を置いていた。

 

「……俺が、曹操を意識してんのは知ってんだろ?」

 

「それでもだよ。……皆の借りは、俺が返したい」

 

 まっすぐに、嘘偽りも汚れもなくそう答えられた。

 

 ………はぁ。

 

「ここでごねてたら、曹操に後ろから刺されそうだな」

 

「いやいや、他の奴らが邪魔すると思うけどね」

 

 いや、お前上手く不意打ちしてきそうじゃねえか。

 

「……勝算、あるんだよな」

 

「ああ、負ける気はねえし、勝ち方も考えたよ」

 

 しゃあねえ。じゃ、任せてやるか。

 

「負けたら承知しねえぞ、冥界の英雄(ヒーロー)

 

「分かってるよ。リセスさんの英雄(輝き)

 

 俺達は片手をぶつけ合うと、そして俺はイッセーを見送る。

 

 ホントなら、俺だって曹操とガチ勝負したかったんだからな? マジで因縁あるっつーか、色んな意味で倒したかったんだからな?

 

 これで負けたら、ただじゃ済まさねえぞおっぱいドラゴン。

 

「さあ、決着をつけようか、曹操!!」

 

「良いね、それじゃあ紅の鎧を味合わせてくれ!!」

 

 その言葉と共に、激戦の火ぶたは切って落とされた。

 




 曹操達英雄派の最大の魔改造は、長可と会って語らったことによるこの精神の変化にこそあるでしょう。

 ただ万全とすごい奴程度の認識で「英雄」を名乗っていたころと違い、曹操達は明確に「自分たちにとっての英雄とは何なのか」の答えが出ています。それが、成長に大きな影響を与えています。

 だから強い。だから前に進める。だからこそ、より強大な存在へと変貌しました。









 前にも書いたと思いますが、もう一度書きます。

 この英雄派は、敵として再設計しています。ヒロイたちとは相いれない、ヴィクターにとっての英雄。

 どちらかが血を見るどころか、どちらかが死ぬまで戦いは終わらないです。


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第五章 30

そういうわけで、本章クライマックスである曹操戦、スタートです。

曹操の新たな奥の手、それがここで明かされます!


 

 さて、それじゃあ俺達はどうしたもんかねぇ。

 

 とりあえず、目の前の敵をどうにかするのが一番か?

 

「どうするよ? こっから先は俺やオーフィスが参加するが?」

 

「我、ドライグ助けに行く?」

 

 オーフィス。お前素直すぎるぞ。

 

 ああ、こいつ本当に子供だっただけなんだな。精神年齢が小学生ぐらいなんじゃねえか?

 

 イッセーが懐かれてる理由が良く分かるぜ。あいつ、子供のヒーローやってるからな。

 

 それに、敵将をぶちのめすっていう状況なんだから、そりゃまあ総力戦を挑むってのは理に適ってんだが……。

 

「まあ、十分ぐらい待ってくれねえか?」

 

 男の意地ってのも、あるんだよなぁ。

 

 ちょっと気持ちが分かっちまうっつーか。こういうのがロマンなのかねぇ。

 

 絶対手を出すなとは言わねえから、せめてもうちょっと待ってほしいって思っちまうのが本音だな。

 

「というより、貴女が戦うとリリスが更地になりかねないわ。お願いだから静かに待っていてくれないかしら?」

 

 お嬢がため息とともにそう言って止める。

 

 ……ああ、子供だから加減ができねえのか。なるほどなるほど。

 

 ふむ。だったら……。

 

「オーフィス。飴上げるから、ちょっと待ってなさい。俺が行く」

 

 うん、ここは俺が行った方がいいんだろうな。

 

 出来る事なら、奴との因縁は清算したいしよ。

 

「ならば俺も行こう。万が一にでも兵藤一誠が倒されるのは我慢ならない」

 

「待て。それなら俺が行こう。俺としても流れてしまったあいつとの戦いを望んでいるからな」

 

「そこ、ケンカしないで。……間を取って私が行こうかしら」

 

 すいません、そこの神滅具使い三人。イッセーと曹操の戦いをガン見する権利を奪い合わないでください。

 

 俺だって言われてみれば凄く見たいんだよ。歴代で最も異彩の赤龍帝と、聖槍を宿した英雄の末裔の激戦とか、マジで見たい!!

 

「……なら、ここは私達が受け持ちましょう」

 

 と、その言葉に俺達は視線を向ける。

 

 そこには、ソーナ会長達シトリー眷属とバアル眷属、そしてシーグヴァイラ・アガレスとその眷属達まで一緒になっていた……いや違う!!

 

 いつの間にか、かなりの数の悪魔が集まってる!!

 

「先程から派手に動いているおかげで、すぐに場所が分かりました。……というより、イッセー君が本当に生きているとは思いませんでした」

 

 眼鏡が微妙にずれてるソーナ会長が、激戦を繰り広げている方向に視線を向けて汗を一滴流した。

 

 ああ、やっぱりツッコミどころだらけだよな、この展開は。

 

「……そうね。いつまでもヒロイ達におんぶにだっこではいられないわ。冥界の未来は悪魔が守らなければならないもの」

 

 お嬢がそう言うと、一歩前に出る。

 

 そして両手を構えると、莫大な魔力を収束させる。

 

 ……寒気が感じるレベルの魔力だ。これ、下手したらヴァーリでももろに喰らうとやばいんじゃねえか?

 

「あらあら。グレモリーの次期当主は恐ろしいにゃん」

 

「ま、ある意味この嬢ちゃんも「ルシファー」の血族だしなぁ! おっぱいドラゴンのスイッチ姫ならそれぐらいできねえとよ!!」

 

「私としては木場祐斗が気になりますね。数人がかりとは言え、私が勝ち越せなかったジークフリートを屠ってグラムの担い手となったのですから、それなりの強さを見せてもらいませんと」

 

「お兄さま? 流石に今は慣れてない事もありますし、遠慮してください」

 

 ヴァーリチームもマジでノリノリだ。こりゃ、かなりのレベルで戦えるんじゃねえか?

 

「……行きなさい、ヒロイ」

 

 俺が唖然としている間に、お嬢が微笑を向ける。

 

「イッセーだけに曹操の相手をさせるのも癪でしょう? 私はイッセーが勝つって信じてるけど、勢い余って屠られたら残念なのではなくて?」

 

 お嬢……。俺のこと気遣ってくれてるのか。

 

 ありがとよ!!

 

「行ってきますぜ、お嬢!!」

 

「あ、させると思ってんのか!!」

 

 ヘラクレスがミサイルをぶっ放すが、俺は魔剣を大量に展開するとそれを防いで突破する。

 

「待ってもらおうか。俺としても兵藤一誠の曹操対策をこの目に焼き付けたい」

 

「ヒロイ! あなた姉貴分を置いて何を面白そうなものを見てくるのよ!!」

 

「……やはり俺も行くべきか。何やら別の意味で何かが起こりそうだ」

 

 ……これ、イッセーがやばくなってもあっさり曹操鎮圧できるんじゃねえだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事を考えていた俺は、曹操のことを心の底からなめてかかっていた。

 

 正式完成型の複合神器保有者。それも、最強の神滅具である聖槍の担い手。

 

 奴が、そんなぬるい敵であるわけがないって事に、俺達は欠片も思い至っちゃいなかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ……がぁあああああああ!?」

 

 もだえ苦しむ曹操を見て、俺は何とかなったって安心した。

 

 いや、マジで作戦はあったんだよ。決まれば勝てるって自信はあったんだよ。

 

 シャルバが俺に使った、サマエルの毒。あれをドライグ達が回収してくれたおかげで勝ち目が見えた。

 

 あれは、サマエルに向けられた聖書の神様の怒りが呪いとなってできた物。それは龍と蛇に対して向けられているらしい。

 

 そして、曹操は吹っ飛ばされた目の代わりにメデューサの目を移植していた。

 

 メデューサの目は俺でも知ってる。頭が蛇の化け物だ。

 

 そう、蛇ならサマエルの毒が効くはずなんだ。

 

「……まさか、メデューサの目が裏目に出るとはね」

 

「ああ。転生悪魔の俺でも体が滅びた。魔王の末裔のヴァーリもろくに動けなかった。……ただの人間のお前に、メデューサの目は過ぎたおもちゃだったんだよ」

 

 曹操のそう答えながら、俺はスイッチ姫のおもちゃを見る。

 

 隙を作る為に、このおもちゃの機能を使って毒を発射したんだけど、いい感じに成功したよ。

 

 まさか玩具が勝利の切っ掛けになるとはなぁ。何が勝利の切っ掛けになるかなんて、分からないもんだ。

 

 だけど、これなら勝てる。

 

「確かに、このままだと負けるね」

 

 曹操もそれが分かってるのか、苦笑を浮かべた。

 

 ああ、喰らった事があるから断言できる。

 

 これは、例えフェニックスの涙やアーシアの神器があっても治せない。喰らった時点で曹操の負けは確定だ。

 

「俺は業魔人を持ってない。槍と神器でやっていこうとしたのが裏目に出たか。それなら最初から、メデューサの目なんて使うべきじゃなかった」

 

 そうか、業魔人とか持ってきてないのか。

 

 ちょっと安心したぜ。なんでも神器のドーピング剤らしいし、使われたら無理やり動くんじゃないかって不安だった。

 

 だけど、ないなら俺の勝ちだ。

 

 それがない状態で戦えるほど、サマエルの呪いはちゃちなもんじゃない。

 

 なのに……。

 

「聖書の神の遺志には反抗され、聖書の神の呪いには侵される。まったく、聖槍の使い手として皮肉なものだよ」

 

 なんで、曹操は余裕の表情を浮かべてるんだ?

 

 曹操は人間だ。俺みたいに悪魔になってないし、神器で強化されてるとは言っても限界がある。

 

 なのに、曹操はこの状況で激痛に悶える事はあっても焦ってはいない。

 

 なんでだ? なんで、なんでそんな余裕がある?

 

「だが兵藤一誠。君は、一つだけ驕り高ぶっているところがあるぞ?」

 

「……ほぅ、一体何がなのか、俺にも教えてくれないか?」

 

 と、そこにヴァーリが現れた。

 

 っていうか、サイラオーグさんにリセスさんに、ヒロイまで現れたよ。

 

 え、何このオールスター!! イグドラフォースが襲撃してきた時と同じ、神滅具チームが勢揃いじゃねえか!!

 

「まあ、兵藤一誠は俺の得物だ。お前如きでは倒せないさ」

 

「勝手に取らないでくれるか? 兵藤一誠との戦いが流れていて、俺も不完全燃焼なのだが」

 

「あら、それなら私としても負けられないわね。英雄を目指す者として、冥界の英雄であるイッセーには対抗意識があるわ」

 

「あ、俺も俺も。姐さんたちの輝き(英雄)目指してっから、ちょっと負けたくねえな」

 

 なんで四人とも俺に夢中なんだ! リセスさん以外帰ってくれていいです!!

 

 俺はハーレム王になりたいんだ。断じて、男とむさくるしいことをしたいわけじゃないんだよ!! 美人の女性や女の子プリーズ! 野郎は帰れ!!

 

 その光景に曹操は苦笑し―

 

「いや、俺が倒すさ。……今この場で、君達もまとめて」

 

 ―そう言い切り、槍を構えた。

 

 なんだ? いったい何をする気だ?

 

「させるか! 出させる前に倒す!!」

 

 ヒロイが容赦も遠慮もなく、聖槍を構えて突きかかる。

 

 だけど、その一撃は曹操のほうの聖槍が放つ輝きに阻まれて曹操に届かなかった。

 

 なんだ!? 曹操の奴、この場で逆転する切り札でもあんのか!?

 

「……神を射貫く真なる聖槍。そこに眠りし死した神の残滓よ」

 

 曹操がそう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

 そんな中、俺とヴァーリはドラゴンだから気づいた事がある。

 

「サマエルの毒が……消え去っている!?」

 

 そう、ヴァーリが目を見開いて言った通りだ。

 

 叩き込んだはずのサマエルの毒が、消え去っていく。

 

 その奇跡に、俺は以前曹操が出そうとした覇輝(トゥルース・イデア)を思い出す。

 

 あれは結局不発に終わった。そして詠唱も違う。

 

 ……だったら、あれは何なんだ!?

 

「我が内より湧き上がる、覇道と理想を浴びて、

祝福と滅びの間を抉る唯の槍と化すがいい」

 

 更に詠唱を続けながら、曹操の全身は光り輝く。

 

 聖槍の切っ先のように青白い光が曹操を包み、そして神も蒼く染まっていった。

 

 ……ヤバイ。

 

 俺はそう感じた。

 

 この感覚。これは―

 

「汝よ、遺志すら語れぬ傀儡と成りて、その子らの道筋を照らす極星となり果てよ!」

 

 俺の、真女王に近い………っ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、曹操を中心とした数百メートルの空間が、聖なるオーラで吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ!? なにが、起きやがった!?

 

 俺は目を見開いて、槍とホンダブレードで防ぎ切った聖なるオーラの残滓を見る。

 

 これは、聖槍の出力から言っても考えられねえ。少なくとも、俺は瞬間的にでもこれと同次元の出力を出すことなんてできやしねえ。

 

 なんだ、この化物クラスの出力は!?

 

「……覇輝というのはね、聖書の神の遺志に頼ることなんだよ」

 

 そういいながら、曹操がオーラを振り払って姿を見せる。

 

 青白い輝きを見に纏い、そして髪を青く染めた曹操が、そこにはいた。

 

「だから、聖書の神の遺志が俺を拒絶したり相対している相手の方を選ぶと何も起きないんだ」

 

 俺は、その曹操の姿を見て震えが止まらない。

 

 これは、恐怖だ。

 

 俺は、心の底から今の曹操を恐れてやがる。

 

「そこで、俺は考えたんだ。……まず俺がなすべき事は、聖書の神の遺志をねじ伏せる事だとね。言わばあれだよ、ヴァーリがやった事と同じ事を、俺は複合禁手という形で成し遂げたんだ」

 

 そう言いながら苦笑する曹操は、静かに慈愛すら込めて俺達に視線を向ける。

 

 圧倒的な力が、俺達を見据えてきた。

 

「まあ、どちらかといえば兵藤一誠の紅の鎧が近いか。一発勝負が限界の極覇龍より、もっと安全に使えるからね」

 

 そして、曹操は聖槍の切っ先を俺達に向けた。

 

「これが、俺の現段階の到達点、覇光(ヒューマンズ・イデア)さ」

 

 そして、曹操は好戦的な笑みを浮かべた。

 

「鍛錬を積み、研究を行い、そしてそれを生かして高みに至るのは君達だけじゃない。そう思い込むのは驕りというものだよ、兵藤一誠……!」

 

 その言葉と共に、曹操は槍を構えて突撃をしかけて来た。

 




詳細については次回から。

ただひとついえるのは、今この場にいるメンバー全員が死力を尽くす、それほどの強敵だという事実だけです。









それとこの章、エクストラマッチをはさむことにしました。

次の章はウィザード編とダークサイド編ちょっとにして、本格的ににリゼヴィムがでてきて悪意を巻き散らかしまくる四冊分を丸ごとひとつの章にするつもりです。そしてベリアル編からが最終章で、リムヴァンを倒してイレギュラーズの「ヒロイとリセスが英雄になる物語」はいったん終了という感じで予定しています。アザゼル杯編は、また別の物語として書きそうですね。

で、そのまえに小休止というか、ここで片付けとかないと忘れてしまいそうな複線を回収します。

時系列としてはオカルト研究部がミリキャスを訪問している間。ヒロイたち三人は別件で以来を受けてヨーロッパに飛ぶこととなります。

そこで知る、ある戦闘狂のナイーブな内面・・・・・・とくれば、大体どんな展開かわかるかもしれませんね。ちょっと最終章はてんかいが原作とは変わるので。


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第五章 31 覇光の猛威

魔改造曹操の真の力、覇光が大暴れします。









さあ、スーパー曹操タイムのスタートだ!! 悪役ライダーのテーマソングとか流そう!!


 

 一歩、静かに前を踏み出す曹操に、俺は本能的にコイルガンを嵐を叩き込んだ。

 

 イッセーもとっさにドラゴンショットをぶっ放したし、姐さんもオーラの砲撃を叩き込む。

 

 っていけねえ! 確かアイツ、攻撃を任意の相手に受け流す能力を持ってたはずだ。自殺行為だ。

 

 だが、曹操はそれを発動させたりしなかった。

 

 ただ、静かに流れるように歩いているだけ。そこに焦りもなければ警戒心もない。

 

 だが、攻撃の一切が当たらない。

 

 放ったすべての攻撃が、ものの見事にかわされた。

 

 なんだ、何なんだこいつの今の状態は!?

 

「下がれヒロイ・カッシウス。今のお前達では勝てん」

 

「死力を尽くせレグルス! これは死戦と心得ろ!!」

 

 ヴァーリとサイラオーグさんが前に出て、そして左右から連続攻撃を叩き込む。

 

 もはや最上級悪魔クラスだろうと平均レベルじゃ一方的になるだろう左右からの挟撃。普通に考えりゃオーバーキルだ。

 

 だが、曹操は動じねえ。

 

 微笑を浮かべたまま、それを見もせずに躱した。

 

 二人そろって最上級クラスの化け物レベル。俺だって、今の段階じゃ龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)を使う必要があるレベルだ。それも悪魔で一対一でだ。

 

 それを、文字通り余裕の表情で曹操は躱し続ける。

 

 そして、一瞬だけ槍がぶれた。

 

 そしてその瞬間、サイラオーグさんとヴァーリの鎧が砕け、そしてそのまま弾き飛ばされた。

 

 ……今、攻撃したのか?

 

 目で追えない。それどころか、目で殆ど映らねえレベルの神速の攻撃。

 

 まずい。まずすぎる。

 

 これ、勝てる勝てないどころの話じゃ―

 

「……ヒロイ! リセスさん!! 譲渡するから早く!!」

 

 俺はイッセーの声に、我に返った。

 

 そうだ、落ち着け俺。

 

 曹操はそもそも死にかけだったわけだ。しかも聖書の神の遺志の影響をもろに受ける覇輝を、無理やり自分の思い通りに動かしているという無茶苦茶までやってやがる。

 

 そんな大技、そう簡単にできるわけがねえ。無理があるのは間違いねえ。

 

 だったら、時間制限はあるはずだ。その可能性に賭けるしかねえ!!

 

「―譲渡(プロモーション)!!」

 

「―龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)!!」

 

「―龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)!!」

 

 俺と姐さんは真女王を発動させたイッセーと一緒に、連携で攻撃を叩き込む。

 

 姐さんが俺達にそれぞれ炎と雷撃のオーラをエンチャントしながら、更に自身も聖魔のオーラを展開して砲撃を叩き込む。

 

 イッセーはイッセーらしく、あえて真正面から接近して、豪腕で殴り掛かる。

 

 そして俺も、できる限りの最高速度でヒット&アウェイの連撃を仕掛けた。

 

 だが、それでも全く足りない。

 

「この程度かい?」

 

 曹操は涼しい顔でそれを全ていなし続ける。

 

 嘘だろ? あり得ない。

 

 神滅具三つ掛かりだぞ?

 

 しかも俺と姐さんは赤龍帝の力を譲渡されてんだぞ?

 

 そのくせイッセーは、更にそれを昇華させてんだぞ?

 

 それでもなお、届かねえってのか!?

 

「……まだだ!! まだ俺は戦えるぞ!!」

 

 そこに、血まみれになりながらのサイラオーグさんがもう一度攻撃を仕掛ける。

 

 その瞬間、曹操は表情を少しだけ険しくした。

 

「流石に四人がかりはキツイか?」

 

 そしてその瞬間、曹操の槍が動く。

 

 そして一気に、俺達の全身が聖槍で切り刻まれる。

 

 ぐぁああああああああ!? マジかこいつ、化け物かよ!?

 

 一気に防戦一方に追い込まれた。これじゃあすぐに殺される……!

 

 だが、それでも―

 

「……いい時間稼ぎだ。ならこちらも、返礼をしないとな」

 

 その瞬間、白銀の鎧を身に纏ったヴァーリが曹操を間合いに捉えた。

 

 マジか。相当消耗していたのにここで使うか?

 

 いや、ここで使わなけりゃ勝ち目がねえ。

 

 今の曹操は、それだけの価値がある化け物で―

 

「流石にこの数と極覇龍は押し切られるか!!」

 

 その瞬間、曹操は薙ぎ払いで俺達を弾き飛ばした。

 

 そしてその瞬間、それを回避したヴァーリが拳を叩き込む。

 

 おお、初のクリーンヒット! これなら―

 

「だが、一対一なら大丈夫だ」

 

 ―効いてない!?

 

 いや、曹操は鼻血を流してる。ダメージは入っている。

 

 だが、それも軽微か!

 

「なら、押し切るのみ!!」

 

「いや、不可能さ!!」

 

 放たれる極覇龍の連続攻撃を全力で防御に徹する曹操。

 

 その攻防は、しかし一瞬で終わる。

 

「……ぐっ」

 

 ヴァーリが膝をつき、極覇龍が解除される。

 

 嘘だろ……!? なんだこの体力の消耗のでかさは。俺の槍王の型といい勝負じゃねえか。

 

 そして、曹操は全身にあざをいくつも浮かべながらも、持ち堪えている。

 

 くそ……っ! ここにきて、負けるのか……?

 

 俺は、思わず膝をつきそうになる。

 

 俺達が一生懸命頑張って、いろんな人達の力を借りてここまで来ても、曹操は更にその上を言った。

 

 糞が……っ! これが、英雄の末裔だってのか………っ

 

 それでも、それでも、それでも、俺は膝を屈しない。

 

 つきそうになる膝を無理やりあげて立ち上がる。

 

 まだだ。俺は、輝き(英雄)だ。輝き照らす存在になると誓ったはずだ。

 

 そして何より、リセス・イドアルの英雄であることを誓っただろうが!

 

 その俺が、姐さんの前で、屈してたまるものかよ!!

 

「ここで、俺が……お前に………っ」

 

 ぶっちゃけ怖い。ぶっちゃけキツイ。ぶっちゃけ諦めすら脳裏によぎる。

 

 それでも、それでも、それでも―

 

「お前にだけは、負けてたまるかよぉおおおおおお!!!」

 

 それでも、俺は!!

 

 輝きで、い続けるって決めてるんだ!!

 

 お前なんかに、お前如きに、それを邪魔されてたまるものかよ、この野郎がぁあああああああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、プツン、と、音が聞こえた。

 




曹操の覇光は、覇輝の能力を身体能力の強化に全振りしていると思ってください。抵抗を突破するために、オーダーをシンプルにしてます。

イメージとしてはあれです、スーパーサイヤ人の青い奴。

そしてその身体能力は文字通り主神クラス。ヴァーリの極覇龍ですら、常時発動できないからガス欠で負けるます。








ですがそれで終わるような作品は書きません。









こっからスーパーヒロイタイム入ります。処刑用BGMは入りませんが、逆襲用BGMとか反撃用BGMとかあったら流す準備をどうぞ


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第五章 32 無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し

スーパーヒロイタイムスタート!!

さあ、反撃を始めよう


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、曹操は目の前の男の気配を察して、警戒の度合いを大幅に上げた。

 

 今にも崩れ落ちそうだったヒロイ・カッシウスを見て、曹操は難敵であると認めるしかなかった。

 

 それほどまでに、目の前の少年に対する警戒心が本能的に上昇していっている。

 

「なんだ……? 俺が、恐怖を覚えているというのか……?」

 

 曹操は自分が震えている事に気づき、それを疑念に思う。

 

 覇光を放っている今の自分なら、神滅具四人を相手にしても勝つ事は決して不可能ではない。

 

 唯一極覇龍だけが警戒の元だったが、それもガス欠でどうしようもない。そして慣れていけばその戦闘能力は極覇龍すら超えるだろうと断言できる。

 

 その自分が、紛い物の聖槍使い如きに恐れをなしている。

 

 その事実が、酷く苛立った。

 

「……モード、ノートゥング!」

 

 曹操は魔剣を切っ先に据えると、それを勢いよく振り下ろす。

 

 不愉快だが、それに感情的になってしまっては勝てる戦いも勝てないだろう。何が起こるか分からないのが戦場なのだから、それ相応の警戒心は必要だ。

 

 ゆえに今までとは違い全力で攻撃を叩き込む。

 

 もとより覇光とは自分に宿る全ての神器を利用した複合禁手と言っていい。ゆえにこの状態でも大幅に威力は向上している。

 

 様子見としての全力攻撃。そんなとんでもない真似を叩き込み―

 

「―ぬるい!!」

 

 ―一息で、それが弾き飛ばされた。

 

「何?」

 

 警戒心を強め、今度はダインスレイヴを選択。

 

 圧倒的な氷による攻撃を叩きつけようとして、曹操は気づいた。

 

 生み出せる氷塊の量が、想定より圧倒的に少ない。

 

 そして何より、自分の動きの速さが大きく想定より遅い。

 

 先程までは、紅の鎧を纏った兵藤一誠ですら完全には見切れないほどの速度を余裕で出せていた。それが、今は精々反応を許せる程度にまで遅くなっている。明らかに大幅に減速している。

 

 そして、それを認識する時間でヒロイは間合いを詰めていた。

 

「槍王の型―」

 

「ッ!?」

 

 とっさに全身に力を籠める。

 

 始原の人間もまた覇光によって圧倒的に強化されている。今の自分なら至近距離でミョルニルを叩きつけられても、一撃程度なら耐えらえるだろう。槍王の型如きなら恐るるに値しない。

 

 だからこそ、これが効く事を曹操は理解し、全力で防御する。

 

「―箒星(ほうきぼし)!」

 

 そして、渾身の一撃は防御越しですら曹操に痛痒をあたえた。

 

 ここに曹操は確信する。

 

 ヒロイ・カッシウスは新たに禁手に目覚めた。それも、この覇光を狙い撃ちにするような禁手にだ。

 

 そして曹操は更に気づく。

 

 ヒロイ・カッシウスが持っている聖槍の輝きが鈍くなっている。それでいて、その光は強くなっている。

 

 間違いない。今回至ったのは黄昏の聖槍だ。それが、覇光すら抑え込むほどの出力を発揮している。

 

「なんだ……! いったい何に目覚めた、この紛い物が!!」

 

「知りたきゃ教えてやるぜ、この野郎!!」

 

 ヒロイは聖槍を叩き込んで、曹操と力比べ手拮抗する。

 

 否、これはヒロイ・カッシウスの筋力が向上したわけではない。

 

 曹操の覇光の出力が、目に見えて下がった事で始原の人間の能力すら大幅に低下しているのだ。

 

「これが、対聖槍限定特化型禁手。無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し(トゥルー・ロンギヌス・アポカリュプス)……だ、この野郎!!」

 

 その言葉とともに放たれた攻撃の衝撃と共に、曹操はそのカラクリを理解する。

 

 そう、つまりこの禁手は―

 

「聖槍を封じる事に聖槍の禁手の出力を全て込めただと!? 君は狂っているのか!!」

 

 流石の曹操も驚愕する他ない。

 

 目の前の男は、最強の聖槍である黄昏の聖槍の禁手を、黄昏の聖槍を封じる事だけに注ぎ込んだのだ。

 

 汎用性皆無……否、絶無の禁手。しかも、所有者が四人しか現状いない聖槍を封じる事のみに限定特化した禁手など正気の沙汰ではない。狂気の沙汰でなければできるわけがない。

 

 そんなとんでもない真似をしでかしたうえで、ヒロイ・カッシウスは曹操をあざ笑う。

 

「……何言ってんだ、曹操?」

 

 拮抗状態を作り出している中、ヒロイ・カッシウスは誰に恥じる事なくまっすぐに、曹操を見据える。

 

 そこに、この禁手を作り出してしまったという後悔は微塵もなかった。

 

「今ここでこうしなきゃ俺達は死ぬ。そして俺だけがそれができる。……それしか手がねえならするしかねえだろ」

 

 静かに、ヒロイ・カッシウスは曹操にそう言い切った。

 

 そして、そのまま聖槍を構えると、にやりと笑う。

 

 その表情はひきつっている。足は僅かだが震えている。まず間違いなく、それでも曹操は強大だと認識して恐怖を感じている。

 

 だが、それがどうしたと言わんばかりにヒロイは立ちはだかる。

 

 そして曹操は、ヒロイ・カッシウスの赤龍の加護を思い出した。

 

 龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)。彼は龍と槍の加護を持つ、勇気を持つ者なのだ。

 

 勇気とは、恐怖を感じないことではない。恐怖を感じないなら誰だって何でもできる。

 

 恐怖を感じながらも、それを乗り越えられるものなのだ。だからこそ、人々は勇者を称賛し褒め称えるのだ。

 

 今彼は、無謀に挑むのではなく、勇敢に強敵に立ち向かっている。

 

「かかってこいやオリジナル。紛い物にも意地があるんだよ」

 

 静かに戦意を滾らせるヒロイに、曹操は寒気を感じた。

 

 ……認めるしかない。そうしないのは愚かだ。

 

「じゃあ挑もうか、ヒロイ・カッシウス」

 

 曹操は、ヒロイ・カッシウスを紛い物ではなく強敵としてついに認める。

 

 あらゆる聖槍使いの天敵となったこの男は、まず間違いなく自身の脅威だ。

 

 乗り越える壁以外の何物でもない。否、乗り越える事ができなければ、聖槍使いとして英雄(高み)に到達できはしない。

 

「君は倒すよ。この、俺が!!」

 

「アンタは倒すぜ、この俺がな!!」

 

 その瞬間、聖槍使いの戦闘は本格的に激化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達の目の前で、ヒロイが曹操とまともにやり合ってる。

 

 すげえ! 今の状態の曹操と真正面から切り結んでやがる!!

 

 ヒロイの奴、このタイミングで聖槍を禁手にするとかやるじゃねえか。

 

 しかも、対聖槍に限定して禁手を覚醒させやがった。そう簡単にできることじゃねえ。尊敬するぜ。

 

 ああ、だからまともに曹操とやり合えてる。

 

 ……だけど、このままだと押し切られる。

 

 今すぐにでも援護に行かなきゃいけないんだけど……。

 

「……くそっ」

 

「ここで、この状況は……っ」

 

 俺もリセスさんも立ち上がれない。

 

 曹操の攻撃が強烈で、俺もリセスさんもダメージがでかすぎる。

 

 まずい。今言ってもヒロイの足を引っ張るだけだ。役に立たねえ。

 

 だけどこのままだとヒロイは負ける。それがはたから見てると分かっちまう。

 

「残念だったね。例え覇光を削減されても、それでも覇光は維持できている!」

 

「チィッ! なり立ての禁手じゃ出力が足りねえか!!」

 

 曹操もそれを分かってるし、ヒロイもそれを分かってる。

 

 クソッ! ギリギリで何とかなってるってのに、こんな時に俺達は何もできねえのかよ!!

 

「……エンチャントならできるけど、イッセー、動ける!?」

 

「腕は動かせるけど、足がもう限界です!!」

 

 ああもう! 女の人なリセスさんはともかく、男の俺がこんな時動けなくてどうするんだよ!!

 

 あと一押しなんだ。あと一押しで曹操を倒せるんだ。

 

 だから動けよ、俺の体。

 

 あとちょっと戦えればそれでいいんだから……。

 

「……まったく。二人揃って俺のことを忘れるな」

 

 その時、俺達の後ろで声が響いた。

 

 ……ぁあ。そうだった。

 

 まだ、俺達にはこの人が残ってる!!

 

 やっぱすげえや、この人。マジですげえ。

 

「ここは、俺が出る!!」

 

 その心強い言葉と共に、サイラオーグさんが曹操に突貫した。

 

「ここで来るか、次期バアル!!」

 

「無論だ! ここで動かずしてバアル家の当主を名乗れるものか!!」

 

 殴り掛かるサイラオーグさんを交わしながら、曹操は舌打ちする。

 

 そして、その隙をついてヒロイが動いた。

 

「もらったぁあああああ!!」

 

 一瞬だけとはいえ、曹操が視界から外したその隙をついて、ヒロイが槍王の型を構える。

 

 曹操がそれに気づくのと、ヒロイが攻撃を放ったのは全く動じ。

 

流星(ながれぼし)!!」

 

 そして放たれた一撃は曹操の顔面にまっすぐ飛んでいき―

 

「―なめるなぁああああっ!!!」

 

 それを、曹操は強引に回避する。

 

 しかも輝きが一瞬だけ強くなった。

 

 マジか。このタイミングで、覇光を無理やり発動させやがった。

 

 ヒロイが覚醒すれば、曹操も同じように限界を押し上げる。こいつらこのタイミングで覚醒すんなよ!!

 

 曹操の頬には深い切り傷が付いたけど、致命傷には程遠い。この程度じゃ曹操は逃げたりなんてしないだろう。

 

 そしてヒロイはこれで限界だったらしい。そのまま勢い余って地面に倒れ伏す。

 

 畜生! 今の満身創痍のサイラオーグさんだけで、曹操を倒す事ができるわけがねえ。

 

 覇光だって、これで復活するし……。

 

「……舐めんな」

 

 その時、ヒロイが血を吐きながら声を出した。

 

 そして、ヒロイの聖槍からより強い鈍い輝きが放たれる。

 

 その輝きに押され、曹操の鋭い輝きが薄らいだ。

 

 ……あの野郎。まだ禁手だけは維持してるのか。

 

 ………だったら、俺達だって!!

 

「リセスさん! 俺を風でサイラオーグさんに!!」

 

「ッ! そういうことね!!」

 

 リセスさんが俺の言いたい事を察してくれる。

 

 ああ、これは賭けだ。無謀な賭けだ。

 

 それでも、今はこれに賭けるしかねえ!!

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

「無駄だ獅子王! 君一人では俺は倒せない!!」

 

 サイラオーグさんの攻撃を余裕を見せてかわしながら、曹操は連撃を叩き込む。

 

 どんどん獅子の鎧がボロボロになる中、俺はリセスさんの生み出した突風で、サイラオーグさんに向かって飛ぶ。

 

 そして、最後の力で腕を突き出した。

 

 なあ、神器は想いの力で答えるんだよな。

 

 だったら、今ここで答えてくれ。

 

 俺達の、仲間を思う想いは絶対に強い。曹操が英雄(高み)を目指す想いにだって負けてねえ。

 

 だから、届ぇええええ!!!

 

「……礼を言うぞ、兵藤一誠!」

 

 そして、届いた。

 




スーパーヒロイタイムは終了。ですが、まだ禁手の効果は続いています。









この禁手、まだ能力を向上させる余地があります。ですが聖槍限定です。

なんていうか、汎用性絶無ですがそれゆえに使える状況下では絶大に協力という技にロマンを感じるんですよ。

下位互換が上位互換に勝つために、他を投げ捨ててでも手に入れた奥の手。曹操もこれにはヒロイを認めざるえません。









そして次はスーパーサイラオーグタイム! さあ、無能が天才に反撃の一撃を叩き込む時だぜ!!


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第五章 33 龍王の獅子

スーパーサイラオーグタイム、スタート。

ヒーローズ編の最終決戦も、ついにクライマックスです。


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、サイラオーグ・バアルは祝詞を唱える。

 

 まさか、この力を自分が使えるとは思っていなかった。

 

 半年とは言え絆を紡いできたヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルだったからこそ至れた力だと思っていたし、自分はそういう才能はないと思っていたからだ。

 

 なにせ非才という点においては胸を張れてしまう。大王バアルとして持っていなければならないと断言できる、魔力の素養が欠片もないのだ。

 

 幸い頑丈な体はもらっているが、はっきり言って不器用な性分だ。寄って殴るしか能がないし、はっきり言って貴族の優雅さからは程遠い男だと駄目な自負がある。

 

 ゆえに、この手の異能とは縁遠いものだとばかり思っていた。

 

 だが、どうやらそういったものは関係ないようだ。

 

 それほどまでに、兵藤一誠は自分に強い思いを向けているということだろう。

 

「我が英雄とは、同胞と共にある我自身なり」

 

 あれほどの(おとこ)にそれだけの敬意を持たれているなど、男冥利に尽きるという者。

 

 そして、目の前の者達もまた立派な者達だ。

 

 多くの罪を犯しながらも、然しそれでも愛する者達の誇りであろうとする、リセス・イドアル。

 

 歴代白龍皇最強の名を頂くとされ、覇を凌駕する事でそれを証明して見せたヴァーリ・ルシファー。

 

 そして、今この場で聖槍の禁手を聖槍を封じる為だけに使うという覚悟のいる決断を躊躇いなく下したヒロイ・カッシウス。

 

 冥界の英雄である兵藤一誠に並び立つ者達として、相応しいだけの猛者達であると断言できる。

 

「魔の力持たず、劣等なる我なれど、しかし栄光をつかみ取らん」

 

 ならば、自分も負けてられない。

 

 もとより努力するということにおいて自分は彼らに負けていないと断言できる。

 

 才能ならば最低だろう。寄って殴るしか能がない。

 

 それでも、この力を受け取るに足る存在として後れを取るわけには一切いかない。

 

 ゆえに、ここで自分が勝ちをもぎ取ろう。

 

「我、赤き龍に並び立つ獅子として、万難を打ち砕く拳を振るわん!!」

 

 その瞬間、サイラオーグの獅子の鎧は赤い追加装甲を身に纏った。

 

「……まさか、ここで至るか!」

 

「ああ、ここで至ったぞ」

 

 瞠目する曹操に、サイラオーグはそう首肯する。

 

 今ここに、兵藤一誠の力を借りて、獅子王サイラオーグ・バアルは獅子龍王と化した。

 

 戦車の力を譲渡した、赤龍帝の力を宿し黄金の獅子王。

 

龍王の獅子(ドラゴンキング・レオーネ)。推して参る!!」

 

「まったく、赤龍帝はご都合主義を連発するから困る!!」

 

 そう吐き捨てる曹操に、サイラオーグは拳を叩き込んだ。

 

 龍王の獅子の能力は単純明快。単純に攻撃力と防御力を大幅に強化するというシンプル極まりないもの。

 

 恐ろしいほどの単純なものだ。しかし、サイラオーグにこれほどなく合っている能力でもある。

 

 余計な能力など無用。ただ近づいて両の拳で殴り倒すのみ。

 

 そして、その拳は曹操ですら回避困難な一撃だった。

 

 ギリギリで避ける事はできたが、その衝撃波が曹操を容赦なく弾き飛ばす。

 

 余波で一気に数十は粉砕されたビルの破片を喰らいながら吹っ飛ぶ曹操に、サイラオーグは一回の跳躍で追いつく。

 

 当然だ。曹操は直撃を受けたのではなく、攻撃によって発生した衝撃波によって吹き飛ばされただけなのだから。その力をダイレクトに受けたサイラオーグの方が速いのは当たり前だ。

 

 そして、弾き飛ばされた曹操はカウンターで聖槍を突き出す。

 

 それを裏拳で逸らし、サイラオーグは曹操の頭を掴む。

 

「悪いが、ヒロイ・カッシウスの禁手の範囲外だと押し切られるのでな」

 

 そしてそのまま投げつけ、自身もビルの破片を足場にして舞い戻る。

 

 その攻撃に対して、しかし曹操もまた冷静さを取り戻していた。

 

 圧倒的な攻撃力を発揮するのはまさしく脅威。ましてや結果的に身体能力まで増しており、極覇龍に匹敵するレベルで危険だ。

 

 だが、既にヒロイ・カッシウスは死にかけだ。彼さえ殺せば決着はつく。

 

 そして、態々サイラオーグの方からヒロイに近づけてくれたのは僥倖だ。

 

 その戦術ミスにほくそ笑み、曹操はあえてサイラオーグに背を向け、切っ先をヒロイへと向け。

 

「こういう勝ち方はあれだが、状況が状況だからね、死んでくれ」

 

 そのまま、切っ先を突き出―

 

「―させないっすよ?」

 

 ―す前に、光力の弾丸がその切っ先を横にそらした。

 

 聖槍の一撃はギリギリのところでヒロイからそれ、地面に突き立つ。

 

 千載一遇の好機。それが無為に終わった。

 

 そして、それをなしたものはヒロイ・カッシウスではない。

 

 リセス・イドアルでもない。

 

 兵藤一誠でもない。

 

 ヴァーリ・ルシファーでもない。

 

 では、誰か。

 

 この圧倒的に離れている距離から、聖槍の切っ先に正確に当てて攻撃を逸らすなどという超精密狙撃を行ったものは誰か。

 

 言うまでもない。そんな事が出来るのは、ただ一人。

 

「ペト……レスィーヴぅううううううう!!!」

 

 憎悪すら込めて曹操は睨み付けるが、しかし時既に遅し。

 

 そして、その行動は致命的な隙だった。

 

「捉えたぞ、曹操」

 

 その声に、曹操は自分がサイラオーグの間合いに入った事に漸く気が付いた。

 

 そして、気づけば眼前にサイラオーグ・バアルの鋭い視線が突き刺さる。

 

 この状況下で、あえて真正面に回り込んでからのこの体勢。

 

 そこに呆れすら感じて曹操は苦笑し―

 

「これで、終わりだ!!」

 

 ―その拳を顔面に叩き込まれ、曹操は地面に叩き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉわぁああああ!?

 

 打撃が原因で発生したソニックブームで、俺達が吹っ飛んだぁああああ!

 

 っていうかガードが間に合ったからいいようなもんだ。余波でビルが数十棟は吹っ飛んでる。

 

 おい、この修理費用はグレモリーとバアルで払ってくれよ!? 俺に払えとか言って来たらもれなく槍王の型だからな!? 払えねえよ俺だって!!

 

 と、とにかく頑張って空中で態勢を整えたいが、俺ももう体が動かねえ。

 

 あ、これ死んだな。

 

 そう思った瞬間、吹っ飛んでる俺の体を柔らかい感触が包んだ。

 

「この駄娘が間に合うほどなのですから、大丈夫ですよね? ヒロイさん」

 

「シシーリア?」

 

 あ、そういえばペトが狙撃をぶちかましてたな。

 

 もしかして、急いでこっちに駆けつけてきてくれたのか?

 

「お姉様ぁああああ! ご無事……とは言い難いっすけど生きててなによりっすぅうううう!!!」

 

「あはは……。ちょっとカッコ悪いところを見せちゃったかしら?」

 

 ペトも半泣きで姐さんを抱えている。ちょっと安心したぜ。

 

 見れば、吹っ飛ばされているイッセーもお嬢が抱えていた。ヴァーリも美候達がフォローしてる。

 

 ってことは、向こうも決着がついたのか?

 

 俺はそんな事を期待するが、お嬢の表情には険しいものがあった。

 

「……ごめんなさい。ここまで押し切られてしまったわ」

 

 その言葉に視線をサイラオーグさんの方に向ければ、その足元に曹操の姿はない。そして、サイラオーグさんも膝をつきながら前を睨み付けている。

 

 そこには、曹操をカバーしている英雄派のメンバーがいた。

 

「まじかよ。覇光(ヒューマンズ・イデア)状態の曹操を倒したってのか……っ」

 

「まあ、神滅具五人がかりでそこ迄っていうならそれはそれでいいんじゃない? その程度が限界って事でしょ?」

 

「恐るべしはヒロイ・カッシウスの禁手か。思い切りの良さには呆れるべきか……」

 

 三者三様に感想を漏らしながら、しかし霧に包まれて消えていく。

 

 ここで逃がしちまうのか。できれば倒したいところだったんだが、流石にそう簡単にはいかないって事かねぇ。敵さんも強力なこって。

 

 そんな中、血反吐を吐いた曹操は、壮絶な笑みを浮かべると俺達に視線を向ける。

 

「恐れ入ったよ、兵藤一誠、ヴァーリ・ルシファー、サイラオーグ・バアル、リセス・イドアル、そしてヒロイ・カッシウス」

 

 ……ヒロイ・カッシウスと曹操は俺を呼んだ。

 

 名前で呼ばれた事なんて、そうはねえ。基本的には紛い物扱いだった。

 

 そして、今この場であえて俺の名前を言うって事は、そう言う事なんだろう。

 

 やべえ。ちょっと嬉しい。

 

 それに腹が立って俺が眉をしかめていると、曹操は無理やり立ち上がって槍を掲げると、声を張り上げる。

 

「認めよう! 君達は俺が全身全霊をかけて倒すに値する敵だ。次に会う時まで俺もより覇光を精進させると約束しよう」

 

 その言葉と共に、今度こそ力尽きたのか曹操は膝をつく。

 

 それでも、曹操は力強い視線を、俺達に向け続けていた。

 

「それまで誰にも殺されるなよ! 君達を倒すのは、この俺だ!」

 

 その言葉と共に、曹操は霧に包まれて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その情報が入ってきたのは、俺達がどうしようもないので帰ろうとしたその時だった。

 

「……リムヴァンにハーデス。残念なお知らせがあるが聞きたいか?」

 

「なんだい? なんか凄い面白い展開な予感がしてきたぜぃ!」

 

 すっごく聞きたそうな顔をしたリムヴァンに、俺はにやりと笑って告げてやる。

 

「イッセーの奴、生きてたってよ。グレートレッドから体作って、曹操の奴もヒロイ達と一緒にぶちのめしたらしいぜ?」

 

 その言葉に、死神達やヴィクター経済連合の連中が目を見張る。

 

「……嘘だろ!? サマエルの毒を喰らったんじゃねえのかよ!?」

 

「ありえん……。何をどうすれば生き残ることができるのだ……」

 

「…………これは、流石に脅威度を修正する必要がありますね」

 

 驚く連中の真ん中で、ハーデスに至っては持ってた杖を取り落としやがった。

 

『……………化け物めっ!』

 

 その目には、明らかに嫌悪と畏怖の感情が浮かんでやがる。

 

 ま、流石に気持ちは分かるな。

 

 普通死んでなきゃおかしい。そんぐらい確実にぶっ殺せるような代物を投入して、あっさり復活されてりゃそりゃ悍ましいとか思うだろ。

 

 しかもグレートレッドにどうやって会ったんだよ。どんな幸運だってんだ、主人公補正か。もうアイツ、巡り合わせの運がリアス並みに化物だな。

 

「ブッハッ! え、まじ? これ流石に想定外だよ。面白っ!」

 

 リムヴァンの奴は面白がってるだけか。あの野郎、まだ余裕があるってのか?

 

 チッ! こいつのおののく表情を見たくて教えてやったのに、効いてねえとか残念だな。

 

 だがまあ、結局オーフィスもこっちが回収できたしな。結果的に言えば、半分こされた敵の片方がこっちに来たって意味じゃあ、こっちにとっても都合がいい。その辺で我慢するか。

 

 そう思ったその時だった。

 

 リムヴァンが、にやりと笑った。

 

「ああ、ちょうど僕達からも君達にとって都合の悪い話を手にする事ができたよ」

 

 ………なんだと?

 

 このタイミングで、リムヴァンの野郎は何をしてやがる?

 

「聞かせてもらってもいいだろうか?」

 

「もっちろん」

 

 サーゼクスにそう答えると、リムヴァンは指を鳴らして映像を俺達に見えるように投入する。

 

 そこには―

 

『……仕事は終わったわ。ルシファー眷属は取り逃がしたけど、とりあえず一体は回収できたわよ』

 

『有給取らせてもらいますからね。俺としてもこれはきつかった』

 

『俺は楽しめたがな! ハッハァ、ワクワクが止まらなかったぜ!!』

 

 そこには、デイア以外のイグドラフォースが映っていた。

 

 だが、問題はそこじゃねえ。

 

 問題は、奴らの後ろで拘束されているデカブツだ。

 

 あれは、超獣鬼(ジャバウォック)……っ!

 

「おいおい。そんなもん回収してどうする気だ?」

 

「決まってるじゃないか? 解析して、ヴィクター経済連合(うち)の戦力として生産できないか研究するんだよ」

 

 ヴィーザルの問いに、あっさりとそう答えるリムヴァンの平然さがビビる。

 

 チッ! こいつら、ここでそこまで動くってか!!

 

「やってくれるな。最終的には連合に所属している魔獣創造使い全員の禁手として使用できるように調整するのが望みか」

 

「正解さ! 流石にあんな大軍は負担がでかすぎるけど、一人一体用意できるだけでも、戦術的にも戦略的にも動きやすいだろん?」

 

 アポロンにそう告げるリムヴァンの言葉に、俺達はこいつらを未だに舐めていたと痛感する。

 

 この野郎。シャルバの暴走をただ傍観するどころか、それを利用して戦力拡大の下準備すらしてやがったのか!

 

「……ま、今日のところは見逃すさ。ハーデス爺さんには色々とお説教しなけりゃいけないしね。ぼくも忙しいんだ」

 

 そう言い放つリムヴァンに迂闊に手が出せないんで、俺達は歯を食いしばる。

 

 ハーデスを叩き潰す為の戦力はきちんと用意したが、ヴィクターとまで連携を取られたら流石に無理だ。見逃すしかねえ。

 

 これから奴らは、サマエルを戦略的に運用してくるだろう。ドラゴンであるイッセー達は、今後動きづらくなるやばい事態だ。

 

 本当に、本当にやってくれるよ、リムヴァン……っ!

 

 俺達が恨めし気に睨み付けると、リムヴァンはをそれを気持ちよさそうに受け止める。

 

 そして、両手を広げて楽しそうにワクワクを隠さなかった。

 

「さあ、君達もオーフィスの力を借りて強くなりなさいな。……僕達だって、指をくわえて待ってるわけじゃないんだからね?」

 

 ああ、覚えとくよこの野郎。

 

 ここで俺たちを見逃したこと、一生後悔させてやるからな……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




 サイラオーグの場合はシンプルな筋力強化。どこまでもよって殴ることに特化した強化ですが、問題なのはその出力。

 当然シャレにならない攻撃力であり、はっきりいて覇獣に匹敵します。ついでに重ね掛けできる予定です。そうなった場合はもうどうなることやら。











 そして、ペト、遅れながらも到着。

 しっかり大活躍をしました。ホントに狙撃に関しちゃ有能やでこの子は








 そんな中、ちゃっかり戦果を獲得したヴィクター経済連合。

 超獣鬼という魔獣創造の究極ともいえるサンプルは、ヴィクターにとって値千金です。ジークフリートという一線級の戦力こそ失いましたが、なんだかんだで利益をもぎ取ってきます。

 まだまだこの戦い、激化していくのでお楽しみください。


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第五章 34

とりあえず、魔獣騒動は終了してひと段落。

そんなこんなで、すっかり忘れていたころに―


 

 首都リリスを巡る大激戦が終わって数日後。俺達はイッセー邸で、ちょっと息を呑んでいた。

 

 冥界を騒がし、魔獣騒動とすら名付けられた一連の事件。終わるまでは大変だったけど、終わってみれば物的被害はともかく人的被害はあまりない事件だった。

 

 所詮シャルバではこの程度が関の山ってところだろうな。ヴィクター経済連合が本腰を入れて尻馬に乗ったらこんなもんじゃないだろうが、そうもいかない。あいつらは大義を掲げてる国際組織だから、こんな無差別テロみたいなマネはできねえわけだ。

 

 ま、そういうわけで俺も契約金分の仕事をきちんとして、こうして皆でだべれるわけだ。

 

「ホント、全員でこうして笑い合えてるのが嘘みたいだわ」

 

 姐さんがそう言って苦笑するのも仕方がねえ。

 

 なにせ、魔獣騒動勃発時にはイッセーは死んだとばかり思われてたからな。

 

 っていうかなんで生きてんだろうな。普通死んでねえとおかしいはずなんだけどよ。

 

「……お前、本当に何もんなんだよ? ぶっちゃけ異次元生命体の血とか入ってねえか?」

 

「ひでえなおい!」

 

 俺は思わずそう聞いて、イッセーに突っ込まれた。

 

 いや、そんなこと言われても、そう思ったっておかしかねえだろ。

 

 俺は同意を求めて周りを見渡すと、確かに全員苦笑していた。

 

「確かにあり得ない事を連続で起こして生存してますからね。それ位の理由があった方が納得できそうです」

 

「だがイッセーだしな。そんな理由がなくとも「イッセーだから」で十分じゃないか?」

 

 などと、ロスヴァイセさんとゼノヴィアが言っている。

 

 ああゼノヴィア。それで納得したらいけない気がするんだ、俺は。

 

「ま、そのおかげでハーデスのジジイのビビり顔が見えたのは嬉しかったぜ。土下座のついでにそっちも写真にとってりゃよかったな」

 

 んなこと言うアザゼルは、そう言いながらスマホでハーデスの土下座画像を俺達に見せつけた。

 

 ああ。すっげえスカッとする!! ざまあハーデス!!

 

 因みにハーデス神のヴィクター経済連合所属は、ヴィクター経済連合側が大々的に声明を発表してるので、もう全く持って隠せてねえ。

 

『ついに神がヴィクターを認めた!?』とか言われて騒がしくなってるけど、まあ、遅かれ早かれあっちにつく神もいるだろうしな。おかしな事でもなんでもねえ。

 

 まあ、それが切っ掛けでヴィクターに対して一理ありと言い放つ神々もぽつぽつと出てくるのが頭痛いけど、これもいつかは出てくるとは思ってから、仕方ねえか。

 

 それに、別にそれは悪い事ってわけでもねえ。

 

 味方じゃないけど表立って排除も難しかったのがハーデスだ。それが、堂々とヴィクターに就いてくれたのなら倒すべき敵ではっきりとする。遠慮する必要はなくなったわけだ。

 

 そういう意味じゃあ、ヴィクターの連中に感謝してもいいかもな。実際相当屈辱的な方法で逃げ道塞いだらしいしよ。

 

 その際にやらせた土下座を取ったのがこれだ。リムヴァンの野郎は、アザゼルにわざとこれを取らせたみたいだしな。アイツも結構腹に据えかねてたんだろ。

 

 その辺のやり取りも割と表に出てきており、冥府の扱いはヴィクターでも最底辺。今回シャルバがやらかした旧魔王派よりも下って事になってるそうな。

 

 ま、旧魔王派は今回の件をシャルバの暴走と切って捨てたからな。一部の乗っかった連中は粛正したらしい。そう言う意味じゃあ却って意思統一ができたって事なんだろうな。

 

 チッ。こっちは流石に面倒だな。未だに割と大きな勢力だし、復権されるとややこしいんだがよ。

 

「まあ、その辺に関しちゃ当面はシェムハザに一任だな。なにせ俺、総督じゃねえしよ」

 

 などとのんきな事をほざくアザゼルに俺達は視線を向ける。

 

 そしてペトが、姐さんに膝枕されながら半目を向けた。

 

「毎回毎回個人的な事に組織の金使ってたっすからね。いい加減罰せられるとは思ってたったすよ」

 

「違うわ! オーフィス連れてきた件の引責辞任じゃい!!」

 

 あ、そっちか。

 

 確かに、お飾りとは言え敵組織のトップをこんなところにこっそり送り込んでんだからな。そりゃそれ相応の責任を取らねえといかねえわな。

 

「で、総督辞めたらどうするんですか? このまま駒王学園の教師に一本化とか?」

 

 イッセーがそんな事をのんきに聞くが、アザゼルは得意気な表情を浮かべると胸を張った。

 

「いや、この駒王町周辺の土地の監督役ってところだ。用はリアスと俺がツートップってとこだな」

 

 なるほど。職を辞した組織のトップに天下り先としちゃありそうだな。

 

 割と重要度が高い場所での監督役か。ま、いい感じじゃね?

 

「総督から、監督」

 

「そう言う事だよ小猫。ま、ついでに三大勢力の技術顧問とかもやる事になるだろうがな」

 

 そう言うアザゼル先生は、どっか嬉しそうだった。

 

 ……えらい立場から降りたってのに、なんか楽しそうだな。

 

「いや~。かたっ苦しい立場から逃れて清々したぜ! ああいうのはシェムハザとかバラキエルとかの堅物向けだからな!」

 

 すっげえノリノリだった!

 

 やっべえ。これ、下手するとリミッターが外れただけじゃねえの?

 

 この普段から暴走して人を巻き込むオッサンが、責任ある立場という制御装置をぶっ飛ばしたら……!?

 

「ああ、言っておくけどアザゼル」

 

 俺が曹操の覇光と対峙した時を上回るほどの恐怖を感じた時、姐さんがぽつりと呟いた。

 

「なんだよ」

 

「シェムハザとバラキエルから、アザゼルが何かやらかしたら容赦なくボコボコにしていいって言われてるから」

 

「うぉい!?」

 

 アザゼルが絶叫するけど、俺達は一斉にガッツポーズを決めた。

 

 よし! これで最低限の釘は刺さった! グリゴリ新総督からの直々のお墨付きだから、姐さんがアザゼルをボコる大義名分はしっかりとある!!

 

 助かりましたぜシェムハザ総督! あんたできる上司だなぁ、オイ!!

 

 この調子なら、すぐに俺にも追加でそういう監視任務が課せられるだろうな。そうなりゃ俺も向上の仕事ができて金を貰うに相応しくなるぜ。

 

 よしよし。これで何とかなりそうだ。

 

「オーフィス? アザゼル先生が変な事したら、すぐにペトかお姉さまに伝えるっすよ?」

 

「わかった」

 

 ペトが、もぐもぐとお菓子を食べるオーフィスにそう指示を出しておく。

 

 オーフィスは兵藤邸で預かる事になった。

 

 他ならぬオーフィス自身がそう望んだ事も大きいし、監視役として懐かれているイッセーが一番適任だと判断したこともある。

 

 つーか、全盛期からごっそり弱体化したといっても二天龍の全盛期を上回るってのがやばいからな。監視するにしてもそれなりの実力者じゃないとまずい。

 

 まあ、オーフィスに関しては大量に封印術式を叩き込んでかなり強いドラゴン程度にまで弱体化してるんだがな。龍王クラスならまあ何とかできるレベルだ。それでも充分すげえんだがな。

 

 まさか、あのオーフィスを家で預かるとか驚きだぜ。っていうか、マスコットと化してるからな。

 

 あのオーフィスが、まさかオカ研のマスコットと化すとは思わなかった。人生、何が起こるか分からねえにもほどがあるだろ、オイ。

 

 なんつーか、もう伏魔殿じゃねえか、兵藤邸。

 

 いや、そりゃ俺も一因だったか。立派な改造人間だったわ、俺。

 

 そんな風に俺が呆れていると、アザゼルは三枚の紙を取り出した。

 

「アザゼル先生? その紙は一体なんでしょうか?」

 

「ああ、こいつはイッセー達の中級試験の結果だ」

 

 アーシアの質問に、あまりにスムーズにアザゼル先生は答えた。

 

 その所為で、俺は一瞬反応が遅れた。

 

 うぉい! なんであんたが持ってんだ!?

 

「本来ならサーゼクス辺りがするんだが、魔獣騒動で忙しいから俺が代わりにする事になった」

 

 あ、それもそうか。

 

 人的被害はともかく物的被害がでかすぎるからな。そりゃ冥界の上層部は忙しくててんてこ舞いか。

 

 だから、総督辞めたこのオッサンにそういうめんどい仕事が回ってきたというわけだな。

 

 さて、それで結果のほどは……?

 

「まずは木場。余裕で合格だ」

 

 少しは心の準備をさせてやれよ。イッセー慌てふためいてるぞ。

 

 そして木場は合格か。まあ、こいつはそつなくこなすよな。

 

「で、朱乃も合格。バラキエルには先に言ったが、男泣きしてたぞ」

 

「あらあら。父様ったら」

 

 ちょっと赤面する朱乃さん、プライスレス。

 

 で、最後の一枚は当然……。

 

「そんでもってイッセー。お前が一番やらかしてたが……」

 

 ごくり。

 

 妙なところで切るなよ。気になるだろ。

 

 イッセーも生唾飲み込んでるな。まあ、こいつが一番自信なかったし仕方がねえか。

 

 実技試験でアホな事やらかしてたからな。あれで吹っ飛ばされた奴、ある意味最低点数叩き出しそうだけど、耐久力だけは評価されてるだろうなぁ。昇格できただろうか?

 

 で、先生。結果のほどは?

 

「お前も合格。おめでとさん、中級悪魔の赤龍帝の誕生だ」

 

 先生は笑みを浮かべて、そう言った。

 

「……いよっしゃぁあああああ!!!」

 

 両手を上げて歓声を上げるイッセーに一斉に拍手が飛んだ。

 

 おめでとさん、イッセー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなでイッセー達が中級悪魔に昇格して数日後。俺はヤ〇部屋に来ていた。

 

 姐さんが最近男あさりしてなかった事から鬱憤が溜まってたらしい。用務員の仕事とアザゼルの監視でストレスが溜まっていたともいう。マジお疲れさんです。

 

 そういうわけでペトも一緒に行動し、俺もついにデビューしたわけだが、男どもは疲れ果てて帰って行っている。

 

 現在姐さんは残った女をバイセクシャルの道に引きずり込み中。ペトはその補佐官。

 

 ちなみに、俺は結構ばてたのでここで晩飯を作る事にした。

 

 この部屋。姐さんが色々レトルト食品とか持ち込んでるので食い物がある。姐さん達を置いて帰るのもあれなので、家の方には伝えて俺が飯を作ってるわけだ。

 

 基本的に食う専門の俺だが、自炊ができねえわけじゃねえ。

 

 イドアル孤児院じゃ家事手伝いとかしてたし、メシマズ大国イギリスで美味い飯食うには、自炊するのが一番だからな。これでも家庭科の授業はしっかり真面目に受けてるから、裁縫とかの人並みにはできるぜ。

 

 そんなわけで近くのスーパーで材料を買って、ビーフシチューを作ってる。あとパンも大量に買った。

 

 もうついでだ。今参加してる女子達にも振る舞ってやるかって感じで、でかい鍋で作りまくり中だ。

 

 しかしまあ、色々ありすぎだろこの二学期は。

 

 まだ半分終わった程度だ。それなのに色々起こりすぎだ。

 

 たぶん、残りの半分もクソ忙しい事になるんだろうな。絶対にトラブルが頻発するぜ、コレ。

 

 特にイッセーに対する注目度が鰻上りだからな。何故か冥界政府の大王派閥とかがビビってる。

 

 まあ、死んだはずなのに体を作り直して復活とか異次元レベルだ。天然物の英雄とか、マジで勘弁してほしいぜ。シャレにならねえ。アイツホントに元人間?

 

 いや、今回の体はオーフィスとグレートレッドの細胞がもとだったな。もう人間でもなんでもねえ。ただの人型ドラゴンだ。

 

 ははは。ここにきて「素体がただの人間」っていう欠点を克服してきやがった。あの野郎、とんでもない根本改革しやがるな。

 

 まあ、それはそれとして問題も多いんだろうがな。

 

 今はデートの順番で揉めてるが、それはともかくシリアスなところでもやる事がきっかりある。

 

 一つは、魔法使いとの契約。

 

 悪魔も魔法使いも、実利的にもステータス的にも契約を行うのが一人前の存在だ。魔法使いの業界も、若手悪魔のランキングを発表したらしいしな。

 

 で、そろそろルーキー悪魔の契約時期ってわけだ。俺が悪魔祓いやってた頃は、ピリピリしてる同僚が増えてる時期でもある。もうそんな時期なんだよなぁ。

 

 イッセー達はすげえ戦闘能力を持ってるからな。たぶんだけど、人より応募が多いだろう。なんとなくで雑魚と契約したらここぞとばかりに大王派が馬鹿にしそうだな。

 

 よく考えて選んだ方がいいだろ。まあ、実力者とかも目をつけるだろうからいい線行くやつはいるだろうけどな。

 

 で、次の問題はギャスパーだ。

 

 どうにもこうにも、停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)とは思えない力を発現してるっぽいそうだ。

 

 しかも、ゲオルクが前もってピンポイントで干渉する結界装置を用意してた。そのくせ自分とは相性が悪いとも言っていたらしい。ヴィクターの連中把握しまくりだろ。

 

 そんなわけで、今度ギャスパーの生家であるヴラディ家に接触を図るとのこと。それはそれとして吸血鬼側からの接触もあるって事で、色々と考えなきゃいけねえっぽいな。

 

 しっかし、ギャスパーの能力にメタを張ったってこたぁ、当然ヴィクターもヴラディ家と繋がりがあるだろうし、こっちはこっちでひと悶着ありそうだな。

 

 さて、どうしたもんかねぇ。

 

 そんな事を思いながら、コンロの火を消す。

 

 よし、こんなもんだろ。そろそろ一旦中断してもらいてぇが、高ぶってねえだろうな。

 

 様子見てから、タイミング見計らって呼ぶか。……時間をかけたからイギリス育ちが作ったにしちゃぁ美味いぜぇ?

 

 そんなこんなで呼び出そうとして、

 

―ピンポーン

 

 ……なんだ?

 

 この部屋は、ヤリたい連中だけが集まってる部屋だ。基本的にはピンポン鳴らしたりしねえ。

 

 たまにピザを取ると事とかあるらしいが、今回は俺が作ってるからねえだろ。

 

 まさか、強盗とかじゃねえだろうな? ドア開けた瞬間に包丁突きつけられたりとか、あるかもな。

 

 まあ、俺なら素人上がりの強盗ぐらいなら大丈夫なんだが……。

 

「どちらさんっすかぁ?」

 

 と、ドアを開けると―

 

「―どうも、雌馬です」

 

 ―何故か、シシーリアがいた。

 

 しかも、なんか決意してる表情だった。

 

 何だろう。俺は凄い嫌な予感を覚えてきたぞ?

 

「なんでここに? 俺達に会いに来たなら、イッセーん()で待ってりゃいいだろうに」

 

「いえ、こちらの方が都合がよかったので。浅慮だとは思いますがこっちに来ました」

 

 と、顔を赤くしてシシーリアはずかずかと入ってくる。

 

「あ、日本の家は靴脱ぐからな? スリッパ出すからちょっと待て」

 

「あ、そうでした」

 

 そんなこんなでどたばたしながらリビング迄入ると、いまだ部屋ではあんあん言ってる。

 

「なんか悪い。ここ、そういう場所だから我慢してくれ」

 

「い、いいえ。好都合です」

 

 何故かシシーリアはそんな事を言ってきた。

 

 好都合? なにが―

 

 そう思った瞬間、俺は足払いを駆けられてソファーにダイビングしていた。

 

 そして、シシーリアが上に乗っかってきた。

 

 ふ、不覚! 最上級悪魔ともやり合えるだろう俺がこうもあっさり下級悪魔にしてやられるたぁ情けねえ!

 

 っていうか待て。シシーリア、いつの間に体術まで!?

 

「お前、急に強くなったな」

 

「まあ、あの戦いでは武器が特別製だっただけですが。……彼女達の居場所を作る為に、上級悪魔も目指しているので鍛える事にしました」

 

 そ、そうか。それにしても急成長しすぎじゃね?

 

 ディオドラのところで数年間下僕悪魔していた時に比べて、凄く強くなってね?

 

 ああ、そういや基本的に上級悪魔って眷属を特訓させたりしないらしいな。

 

 自分達が長い寿命ゆえに経験と才能で自然と成長するのに拘ってるからな。特訓とか訓練とかを下賤なものとして好んでないらしい。

 

 だから、眷属間のトレードで戦力の強化を図るとか。

 

 ディオドラも、アーシアをトレードで手に入れようとしていたしな。そう言う意味じゃあ成長する機会には恵まれちゃいねえか。

 

 なるほど、それがアジュカ様のところでは優秀なコーチに恵まれてるってわけか。そりゃ環境が段違いだわな。

 

 なるほどなるほど……。

 

「で、なんで俺押し倒されてんの?」

 

「ああ、ハイ。事情を説明しますね」

 

 そう言いながら、シシーリアは表情を変える。

 

 赤らめた顔のまま、舌なめずりをした。

 

「はっきり言いますと、ディオドラの雌であった私は当然そういうことをされてきたわけです」

 

「ふんふん」

 

 ディオドラ死ね。っていうか死んでたな。俺が殺してたなごめんごめん。

 

 ま、シスターを堕とすのが性癖なんだから、当然手を出すわな。むかつくのとは別に納得もできる。

 

「好きこそものの上手なれと言いますか、そういうわけでディオドラはそういった事が腹立たしい事に上手かったんですよ。よがり狂わせて堕落させるのに興奮する性質だったんでしょうね」

 

「なるほど」

 

 ディオドラ死ね。っていうか死んでたな以下略。

 

 まあ、聖女やシスターを堕落させるのが好きなら、そういうのが上手じゃなきゃ大変だろ。エロく堕落させるとか男的に興奮するわな。

 

「そう言うわけで、実をいうと少し疼くところもありまして―」

 

 あ、分かった。

 

 つまり、それを姐さんに相談したのか。

 

 ペトを回復させた姐さんの手練手管。そしてその基本スタイルは凄く分かり易い。

 

 すなわち、エロくなったのは仕方ないから、健全にエロくなろう。

 

 ゲスとかに股を許すのではなく、エロくて善良な男を見つける審美眼を磨いたり、善良な男にエロいスキルを教え込んで満足できる領域に育て上げたりする。それが姐さんのエロに対する付き合い方だ。

 

 そんな人の薫陶を受けた、そういう悩みの持ち主さんが今目の前にいるわけで……。

 

「待て、シシーリア。お前は俺と恋愛するのはあれだとか言ってなかったっけ?」

 

「確かにヒロイさんをこの駄馬のものにする気はないです。でも、それはそれとしてヒロイさんとそういうことをする関係になるのはちょっと興味があります」

 

 ええ~。

 

 俺は一瞬ドン引きしたが、すぐに思い直す。

 

 その時だけ、シシーリアは決意を込めた顔をしていたから。

 

「……ヒロイさんの英雄としての道を邪魔したくないんです。貴方に照らされたからこそ前を進めるものとして、貴方が前に進む事を邪魔したくないです」

 

 そうか。俺のこと思って言ってくれてたのか。

 

 確かに、人間は堕落しやすい。

 

 英雄はそう簡単になれるもんじゃない、そういう閃光だ。

 

 イッセーのような天然ものなら大丈夫かもしれねえが、俺みたいな人工もんだと、長い時を重ねたら腐敗しそうではある。

 

 そうなったら、俺はもう俺じゃねえ。もう違う、跡形もねえ何かだ。

 

 シシーリアは、そこまで考えてくれてたのか。

 

 そしてシシーリアは、笑みを浮かべると俺の胸元に倒れこむ。

 

「だけど、淫靡になってしまったこの雌犬は、好きな人とそういうことがしたいとも思ってしまって、仕事も手につかなくなりそうで……」

 

 そして、シシーリアは俺を上目遣いで見上げる。

 

 聖女のような純真な目で。

 

 淫魔のような淫らな目で。

 

 矛盾した二つの要素をもって、俺の精神を無自覚に揺さぶりにかかった。

 

「ヒロイさんが生きてる間でいいです。……時々、止まり木にさせてください」

 

 ………あ、これまずい。

 

 俺の純情がいろんな意味で起動してる。へとへとだったのに覚醒しちゃいそう。

 

 ちょ、これまずくね? このままだと、やばくね?

 

 くそ、援護射撃を要請せねば! 大声を上げて隣の部屋に緊急連絡を―

 

「よし! ついでに混ぜてくれないかしら?」

 

「そこっす! そこで押し倒すッス!!」

 

 ………オイコラ。そこの駄義理姉妹(スール)。何してんだ。

 

「おお、野郎が暴走しそうだから女子だけでの見物ってこれね!」

 

「期待のホープのヒロイ君がエロハプニングとは、濡れるわぁ」

 

「そこよ、ししなんとかちゃん! お姉ちゃん達、そういうの理解あるから!!」

 

 外野ぁあああああああああああ!!!

 

 え、え、えっと……。

 

「ふふふ。いいんですよ、ヒロイさん」

 

 そういいながら、シシーリアは俺の背中に手を回した。

 

 そして、まごうことなき恋する少女の笑顔を、まっすぐに俺にぶつけてきた。

 

「女の子だってエッチなんです。たまには性欲発散させてくださいっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の展開は、ノーコメントでお願いします。

 




ヒロイ、恋愛の発展はないのに女性と肉体関係が増えるとの巻。







それはともかく、次回からエキストラマッチとなります。

部隊はヨーロッパ。そう言えば決着がついていなかったある決着をつけることになります。


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第五章 35

そんなわけで、エクストラマッチ、ヨーロッパ偏。








そういえば、あいつまだ倒してなかったよなぁと、皆さん思い出してくれるでしょう。


 ヨーロッパ。それは、俺の生まれ故郷。

 

 ヨーロッパ。それは世界主要国の多くが集まる地方。

 

 そう、そんなヨーロッパに、俺達は来ていた。

 

「姐さん。俺、もう日本に永住するかと思ってたぜ」

 

「まあ、あそこ魔境と化してるものね。英雄としてはああいうところで住んで活動するべきでしょうね」

 

 うんうんと、姐さんは俺に同意してくれる。嬉しいぜ!!

 

 だってここ数か月、日本は世界レベルのトラブルが頻発しすぎだろ。

 

 北欧神話の悪神が暴れるわ、旧魔王の末裔が亡命するわ、世界中の英雄の末裔が京都のクーデターに一枚かむわ、挙句の果てに色んなあれな魔法関係者による戦闘が勃発しやがった。

 

 おい、平和国家日本どこ行った。国際的に見ても平和度高い国家なのは間違いなかったはずだぞ。

 

 なんでド級のトラブル頻発してんだよ。あれか? 普段下火だから燃え盛ると激しく燃えちまうのか?

 

 俺も流石に、この数か月で神話級の激戦を何度も潜り抜ける羽目になるとは思わなかったぜ。しかも半分以上日本で経験してんじゃねえか。

 

 最早トラブル大国ニッポンって言ってもいいな。どんだけだよ。

 

「いや、俺らホントに日本に骨埋めても英雄になれそうだよなぁ」

 

「同感。いろんな神話から技術も人も入ってきそうだし、そういうトラブルには事欠かないでしょうねぇ」

 

 しみじみと、俺と姐さんは頷いた。

 

 そんでもって、そんな俺達二人を見て、ペトがため息をついた。

 

「お姉様もヒロイも、なに老人みたいなこと言ってるっすか」

 

 そういうと、ペトは周りを見渡して警戒心を強くする。

 

「割と重要な仕事ッスよ。それこそ、最近の激戦にも匹敵する難易度なんスから気を張るッス」

 

「ごめんごめん。こっちに来るのは久しぶりだからなんかはしゃいでたわ」

 

 姐さんが素直に謝るのも当然だ。

 

 今回の仕事は、その日本のトラブルと比べても遜色ねえ、割と大変な仕事だからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、具体的にどんな仕事なのか。

 

 そもそも、この仕事を依頼されたのは数日前。それも、アザゼル先生から直接の以来だ。

 

 俺と姐さんがアザゼル先生に呼び出されて、あの人が駒王町に個人的に持っている研究施設に連れて来られる事となった。

 

 ……何の人体実験受ける事になるのかとマジビビリしたね。

 

 姐さんも冷や汗流してた。まあ、俺より付き合い長いから、色々な酷い目に遭ってたんだろ。

 

 なまじ実力もあるからな。状況によっては火消し役とかブレーキ役とかさせられていたに違いない。同情するぜ。

 

 などと思いながら、俺達は臨戦態勢でアザゼルと向き合った。

 

「お前ら。俺がお前らに何か酷い事すると思ってんのか?」

 

 心底心外というか傷ついた表情を先生は浮かべる。

 

 俺達はちょっと態度が露骨すぎたかと反省したけど―

 

「俺がそう言う事するのは、基本イッセーだけだ!」

 

「「なお悪い」」

 

 ―その必要はなかったとすぐに思い直したね。

 

 イッセー可哀想だろ。しかも基本って言いやがったから、場合によっちゃあ俺達で実験する時もあるって事じゃねえか!!

 

 俺らの視線にスルーして、アザゼル先生は研究室のモニターをつける。

 

「安心しろ。今回はうるさいお目付け役もいるからよ」

 

『―誰がお目付け役ですか。本当にそういうところは治ってませんね、アザゼル』

 

 モニターに映ったのは、ため息をついたミカエル様だ。

 

 更に隣のモニターも映ると、そこには苦笑を浮かべたサーゼクス様の姿もあった。

 

『やあ。急に呼び出してすまないね』

 

「どうしたのかしら? 貴方ならリアスかイッセーに会いに行くぐらいはすると思ったんだけれど」

 

 姐さんが首を傾げるが、サーゼクス様は更に苦笑を浮かべる。

 

 心なしか、ミカエル様も含めてその顔色は少し悪い……というか、疲れが見える。

 

『魔獣騒動の後始末が忙しくてね。冥府がヴィクターに正式に参入した事もあり、こちらは忙しくて身動きが取りづらいのだよ』

 

『堕天使側はアザゼルが代行となっているので、現総督のシェムハザは顔を見せていません。すいませんが、話は早めに終わらせて彼の援護に向かいたいので、本題に入りましょう』

 

 なるほど。上の政治的な人達はむしろそっちが忙しいと。

 

 まあ、冥界中を揺るがす大騒ぎだったからな。あの事件、今でもニュースで報道されてるらしいしよ。

 

 人的被害がほぼゼロだったのが奇跡だからな。そう言う意味じゃあ、俺達も頑張ったかいがあったぜ。

 

「ま、今回お前らを呼んだのは仕事の依頼だ。リアス達は本来、駒王町(ここ)の管轄だから動かすのもあれだしな」

 

 先生、つまり荒事ですかい?

 

 しかも俺と姐さんを両方呼ぶとなると、それなりにハードな展開になりそうだ。

 

 まさかヴィクターがまた動くのか? 今はハーデスの制御とかの仕組み作りで忙しいと思ったんだけどな。

 

「で、一体何が?」

 

 俺が話を促すと、ミカエル様が苦い顔をした。

 

『―ロキとの一件が、まだ尾を引いているようなのです』

 

 ロキ、か。

 

 北欧神話で知名度だけならトップを争うメジャー神格。いや、名前を知っているかどうかなら、いろんな神話体系全部を見渡してもトップ争いするだろ。

 

 あいつは、北欧神話と日本神話の和議を妨害する為に襲撃を仕掛けた。

 

 ノイエラグナロクやヴァーリチームと共闘する形で戦ったから戦死した奴はいなかったけど、あれはやばかったぜ。

 

 ロキの奴も神滅具三つを仮想敵にしてたから、かなり戦力を用意してたもんな。

 

 妖怪の和平反対派である捧腹と手を組んだり、数々の魔獣を作り出したり。

 

 ほんと、言いたくないけどヴィクターと共闘できて良かったぜ。あれが無けりゃ何人死んでたか想像できねえ。

 

「で? そのロキが今度は何をしたのよ」

 

『いや、厳密にいえばロキは厳重に封印されており、彼が今何かをしているわけではない』

 

 サーゼクス様がそう首を振るけど、その表情は暗い。

 

 そして、ミカエル様がそれを引き継いだ。

 

『動いているのは捧腹です。どうも、京都のクーデターの時に解放されたようでして、現在は北欧でアースガルズの恩恵を受け始めている企業などに対してテロ行為を働いているそうです』

 

 捧腹……か。

 

 俺も姐さんも少しだけ同情を顔に出す。

 

 捧腹。外法を研究する鬼。そして、アースガルズを恨む者。

 

 弱者に施しをできる善良さを持っていたからこそ、それを失った事で要因の一つであるアースガルズを恨み、日本とアースガルズの和平を認めない男。

 

 あいつ自身も下手な上級悪魔より性能が高い上に、十束剣(とつかのつるぎ)を保有。更にソウメンスクナは天龍にもケンカが売れるような化物だった。

 

 そんな奴が脱走してたのかよ。むしろ今までよく動かなかったな。

 

「日本は自衛隊の戦力大幅向上で動きづらいからな。教会がガタガタでそっち頼りでないと異形の力を取り込みたがらねえヨーロッパ諸国の方が、活動しやすいと踏んだんだろうよ」

 

 アザゼル先生がそう推測しながら、一枚の紙を取り出した。

 

「だが、野郎はロキからある情報を抜き出してやがった事が発覚した」

 

 俺と姐さんはその紙を覗き込む。

 

 そこに書かれていたのは、でかそうな培養カプセルに入った、フェンリルだ。

 

「フェンリルとその子供は、既にヴァーリチームとヴィクターが確保してるでしょ? これが今更何だっていうの?」

 

「そう思うだろ? ところがどっこい続きがありやがった」

 

 アザゼルは姐さんにそう答えると、心底いやそうな顔をする。

 

 そして、ミカエルさんが目を閉じながら眉間に手を当てた。

 

 なに? 何が起きてんだ?

 

『それがどうやら、ロキはフェンリルの子供だけでなく、クローンの製造を試みていたようなのです』

 

 …………マジ?

 

 ヴァーリが覇龍使うほどにまで追い詰められた、あのフェンリル。子供も龍王とまともにやり合えるレベルの、あのフェンリル。ロキの作り出した最強の魔獣の、あのフェンリル。

 

 それの、クローン!?

 

『コードネームはフェンリスヴォルフ。ロキの研究施設の捜索で存在が発覚したが、保管されている場所は未だ分かっていない。目下アースガルズとオリュンポスが共同で捜索中だ』

 

「話によれば完成直前に失敗して死亡。その後はサンプルとしてロキが隠し持っている施設に保管されてるらしいんだが、どうも捧腹の奴はロキからその情報を盗んだっぽくてなぁ」

 

『ソウメンスクナのこともあります。あの報復がフェンリスヴォルフを所持していた場合、非常に危険です。……アースガルズは各勢力から捜索及び迎撃の為の戦力貸与を要請しているのですが、こちらはこちらは未だ数々の被害から立ち直っておらず、あまり戦力を差し向けれないのです』

 

 三者三様に頭を抱える、三代勢力のトップ(元含む)。

 

 なるほど、つまり―

 

『貴方方二人に頼みたいのは、三代勢力(こちら)が派遣部隊を用意できるようになるまでの繋ぎです。相手がフェンリルのクローンともなれば、最上級クラスを複数名必要としますが、現状ではどこも魔獣騒動の後始末に手いっぱいでして……』

 

 ミカエルさんが申し訳なさそうにそう言った。

 

 まあ、天界とか教会とかはヴィクターに初手で大打撃くらってるからなぁ。

 

 動かしたくても動かせねえだろ。魔獣騒動のどさくさに紛れて、内通者の大規模捕縛とかもやったから余力がないだろうし。

 

「とりあえず、一週間だけ頑張ってくれや。それさえ凌げば、ユグドラシルの方のローラー作戦が終わるからよ。そっちに行ってる鳶雄達が引き継いでくれる」

 

「鳶雄も動いているの? まあ、堕天使側でフェンリルと同格の化け物に対抗できるのは限られてるけど……」

 

 姐さんがアザゼルの言葉に感心する。

 

 そのとびなんたら、相当の使い手なんだな。今度会ってみたいと思うぜ。

 

 まあ、とにかくそういうわけなら……。

 

「俺はOK。もとより契約金分の仕事はしますぜ?」

 

「私もいいわ。久しぶりに西洋人を食べたいと思ってたから」

 

 もとより、フェンリルには俺らも因縁あるからな。そう言う事なら断る理由はない。

 

 捧腹の野郎にも、ペトのメンタルボコボコにしやがった恨みがあるからな。狙ったわけじゃないと言っても、ボコれるならボコるに越したことはねえ。

 

 俺達二人の快諾に、三人とも苦笑交じりに頷いた。

 

『そう言ってくれて助かる。君達なら安心して任せられるからね』

 

『淫蕩はほどほどにしていただきたいのですけどね』

 

「いいじゃねえか。その分外敵は排除してんだからよぉ」

 

 などと話し合う三人を横目に、俺と姐さんはもう一度資料を確認する。

 

 ……コンセプトは、フェンリルの完全な複製か。

 

 捧腹の技術は天下一品だ。二年ほど前に倒した姐さんが、対大型生物用のキョジンキラーを投入してなお追い込まれるほどに、ソウメンスクナは強敵だった。

 

 そのソウメンスクナの技術を、フェンリスヴォルフに使用されたらどうなるかなんて分かり切ってる。

 

 マジモンのフェンリル並みに恐ろしい、正真正銘の化け物が暴れまわる事になる。

 

 それは阻止しねえとな。

 

「一週間で動くとは思えないけど、とにかく動くわよ、ヒロイ」

 

「OKだ姐さん。数日ぶりに暴れるとすっか」

 

 さて、それじゃあそろそろ決着をつけるとするか。

 




捧腹の逆襲。フェンリスヴォルフの猛威!








……とでも題名をつければいいんでしょうかねぇ。









捧腹に関する完全な決着をつけてないと思いまして、今この場で決着をつけようと思いいたりました。ちょうどミリキャスくんが来てる間の出来事とか書きたかったですしね!

当初の予定ではミリキャスくんが来訪したタイミングで自衛隊の新兵器発表会的なもんが開催することになり、希望により見に行ったらまたトラブル発生……的なものを考えていたりしました。

が、其のために新しい敵勢力を作るのもあれですし、あんまり自衛隊ツエーするのもあれですし、そういえば捧腹の決着完全にはついてないなぁと思ったので、こういうことにしました。

後ヨーロッパですので、ある人物を絡めることにしております。


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第五章 36 

ちょっと病院に行くため一日空いたので、出発する前に一話投稿します









ヨーロッパにやってきたヒロイたち。

そんな彼らは、全然久しぶりでも何でもない再会をすることに……っ


 そういうわけで俺達はヨーロッパの片田舎にやって来ていた。

 

 この辺りの山間部に、ロキの各誌研究施設の一つがあるらしい。今はアースガルズの捜索部隊がローラー作戦で事に当たっている。

 

 俺達は有事の際の戦力だ。この田舎に来たのも、研究施設があるところで一番近くの人里だから。いうなれば、いざという時の防衛任務も兼ねてるってわけだな。

 

 フェンリスヴォルフがどこに隠されているのかは、よく分かっていない。

 

 ロキはどうやら、人間界にもユグドラシルにも各研究施設を持ってやがったらしい。その正確な場所が分かってるのも、そんなに多くない。

 

 ただ、オーディンのお膝元であるユグドラシルには数少ないという事までは分かっていて、アースガルズはまずそっちを優先してる。件の鳶なんたらもそっちに行ってるそうだ。

 

 だからまず少ない方面を優先的に潰して、そっちの戦力も全部使って多い人間界の方を捜索するという手はずらしい。

 

 まあ、そりゃ自分達のお膝元でいきなりそんなのが暴れたら心臓に悪すぎるわな。当然の判断だ。

 

 つっても、だからと言ってここで人間達の不興を買うような真似はできない。人間界にむやみやたらに手を抜いた対応をしたら、それこそせっかく集められそうな信仰がごっそり減ってしまう。

 

 と、いうことでアースガルズは本格的な活動の為に各勢力に増援を要請。オリュンポスや日本の勢力などから手勢を貸してほしいと頼んできた。

 

 日本は自衛隊はまだ流石に国外活動をしにくいし、しかし戦力として普通に計上できるから相当に投入している。五大宗家から手練れが何人か出て来ているらしい。うちの学校に通ってるやつも出たとか言ってたな。ていうかなんでいる。

 

 オリュンポスも、最近は魔獣達との和平がなりそうだということで、それなりに戦力を送っている。とはいえ、ハーデスが正式にヴィクターに就いて冥府がヴィクターに奪われてるから、そこまで多くはねえが。

 

 他の神話体系からもそれなりに反応はあった。まだまだ和平に納得いかない勢力も多いらしいが、それはそれとしてアースガルズに恩を売れるチャンスだと判断した奴らもいるらしい。高い利子を取られそうだな、オーディン神も大変だな。

 

 当然三大勢力からも派遣する事が決定した。

 

 だけど、魔獣騒動とそれと同時期に行った内通者の粛正やら捕縛やらでガタが来てる節もある。こと教会や天界に至っては、聖書の神の死を知らされた事で受けたダメージはまだ回復してないからな。

 

 そう言うわけで、どうしても戦力を送れなかったからこそ、俺達に十八番が回ってきたわけだ。

 

 そう、この一週間は俺達が頑張らねえとな。

 

「この平和な田舎町に、フェンリスヴォルフの大暴れを許すわけにはいかないっす!」

 

 ペトが気合を入れるのを見て、俺も姐さんも微笑ましく思う。

 

 ああ、そうだ。俺達が頑張らねえといけねえな。

 

 まあ、この一週間何もない可能性だってあるけどな。

 

「さて、それじゃあどこかで食事でもしましょうか。この近くに、食事処とかないかしら?」

 

 姐さんの言う通りだ。俺達、こっちに到着してから何も食ってねえ。

 

 睡眠は交代制で取る必要があるし、結構厳重に警戒しねえといけねえよなぁ。

 

 ま、こういう時の基本は人に聞く事だ。現地の人に聞くのが一番手っ取り早い。

 

 パブぐらいはどこの町にもあるだろ。現地の美味い飯を食べるってのはいい気分だしよ。

 

「あ、すいませーん! 飯食えるところ探してるんですが、いいとこしりやせんかい?」

 

 俺は、とりあえず目についた集団に声をかける。

 

 こんなところを複数人で歩いてるんだ、連れ立って飯を食いに行くとかそんな感じだと思ったからだ。

 

 さてさて、当たりだといいんだが。

 

「……すまない、俺達もここには最近来たばかりで―」

 

 と残念な事を言いかけた男の表情が、固まった。

 

 見れば、他の連中も怪訝だったり驚きだったりだ。

 

 ……ん? どういうこと?

 

「……変装の術とか小技も卓越してるわね、ヴァーリ」

 

 と、姐さんが戦闘の男にそういった。

 

 ふむ、こいつヴァーリか。そりゃこんなところの飯屋の場所なんて知ってるわけがねえわな。

 

 ヴァーリか。そうかそうか。

 

 五秒後。

 

「「えぇええええええええ!? ヴァーリ!?」」

 

 俺とペトは同時にバックステップをかます。

 

 そりゃそうだろ。ヴァーリはヴィクターを追放されたとは言っても、俺ら三大勢力を離反した連中なんだ。敵対勢力とまでは言わねえが、警戒対象ではあるわな。

 

 よく見れば、連れの人数もヴァーリチームだ。こいつら全員変装してんのかよ。

 

「おお、流石煌天雷獄の姉ちゃんだ。属性の質で勘付いたのかぃ?」

 

 どうも美候らしい兄ちゃんが、そう言って感心する。

 

 じゃあ、最後の男はアーサーか。黒髪なんで気が付かなかった。

 

「しまったぁ……。気が抜けてたにゃん。仙術を切ってたわ」

 

「まあまあ。こんないいところなら注意力が抜けても問題ないですよ、黒歌さん」

 

 と、こっちは姉妹にしか見えないが黒歌とルフェイかよ。

 

 ……フェンリルは普通に大型犬に見えるな。首輪とリード迄つけてるのか。

 

「それで、あなた達は何が目的?」

 

「独自の情報網で、捧腹が面白い事をしていると聞いたんでね。面白半分で潰しに来たのさ」

 

 と、ヴァーリがさらりと答える。

 

 こいつら、どっからその情報を鍵づけてきやがった。スパイの才能とかもあるんじゃねえか?

 

「フェンリルちゃんも不機嫌なんです。やっぱり、自分のクローンの、それも死体を使われるのは嫌なんだと思います」

 

 そう言いながら、ルフェイ(らしき子)がフェンリルらしき犬をなでながら暗い顔をする。

 

 ………さて、どうしたもんか。

 

 なんだかんだでなあなあの関係になっちゃいるが、こいつらお尋ね者だしな。

 

 見つけちまった以上、このままってわけにも……。

 

「……あの、そこの方?」

 

 と、そこに声をかける人がいた。

 

 俺達が振り返ると、そこには美人な女の人がいた。

 

 すげえ。マジで美人だ。

 

 年齢こそ三十超えてるっぽいし、どっか苦労してきたのかそういうのがにじみ出てるけど、それを補って余りあるほど綺麗な人だ。

 

 でも、俺はこの人の顔は知らねえな。この町に来たのも初めてだから、当然っちゃ当然だが。

 

 ならヴァーリチームの知り合いか……と思ったけど、どうも違うっぽいんだが……。

 

「………ああ、その、何かな?」

 

「いえ、飲食店でしたら、あそこの道を五分ほど行けばパスタの店がありますよ?」

 

 え、態々教えてくれるの?

 

「そ……そうか、礼を、言う。この辺り……は慣れてなくて、ね」

 

「いえ、ご旅行中の方なのでしょう? 道中ここで車のガソリンを補給する人は多いので、そのついでに昼食をとる人も多いですから」

 

 ヴァーリが戸惑いながら礼を言うと、その人はそう言ってにこりと笑う。

 

 ……ヴァーリの様子がなんかおかしくねえか?

 

「あれ? ヴァーリってもしかして、年上好み?」

 

「俺っちも驚いたぜ。アイツ女に興味がねえもんだとばかり思ってたなぁ」

 

「意外ね。まあ、親に飢えてるタイプだから母性に弱いのかしら?」

 

 などと黒歌と美候と姐さんが小声でささやく。ちゃっかり日本語でしゃべって女の人に分からないようにしてる辺り、芸が細かい。

 

 そんなこんなでその女性は会釈をすると去っていく。

 

 見れば、離れたところで手を振っている子供達がいる。あの人のお子さんかねぇ?

 

 ……そして、ヴァーリは半ば呆然としながら、その女性の背中を見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、ピッツァを高い順に三種類頂戴。あと私はエールを」

 

 店で席につき次第、姐さんは店員さんを呼ぶとそう言った。

 

 そして、半目で変装を解いたヴァーリチームを見据えた。

 

「……ここは奢るから問題を起こさないで頂戴。私達も忙しいのよ」

 

「カッカッカ。俺っち達を食い物で懐柔できると思ってるのかぃ? 自慢じゃねえが、俺達は食い物には無頓着な奴らがいるぜぃ?」

 

「そうですね。この辺りは上質な紅茶がないので、あまり興味を惹かれません」

 

 おい美候にアーサー。お前ら何を情けない事を自信満々に言ってやがる。

 

 まあアーサーはいいか。メシマズ大国イギリスの出身だしな。飯に無頓着なぐらいでいちいち気にならねえ。

 

「まあ、この二人が食事担当になったらカップ麺とレーションだもんね。リセス、こいつらにパスタなんて高尚なモノで釣っても意味ないわよ」

 

「そのようね。というより、もう少し食生活に気を配りなさいよあなた達……」

 

 黒歌の茶化すような言葉に、姐さんは額に手を当てて応じた。

 

 うん、姐さんも頭痛を感じてるようだな。そりゃそうだ。

 

 ……食生活という一点に置いちゃあ、赤龍帝側の方が圧倒的に有利じゃねえか?

 

 立派な母親やってるイッセーのお袋さんを中心に、そこそこ栄養バランスを考えられた食事が食える。しかもお嬢が金出してるからいい食材が出てくるという相乗効果。

 

 あれ? なんかこういうところだと圧倒的な差がついてねえか?

 

 まあ、名門貴族とはぐれ者の集団じゃ、これぐらいの差は出て当然か。

 

 だがしかし……。

 

「こんな子にまでそんなすさんだ食生活を送らせんじゃねえよ。育ちざかりだろうが」

 

「まったくね。しかもたまにならともかく相当の頻度でカップ麺で済ませるなんて、それでよく強くなろうとかほざいたわね」

 

 ため息と一緒に、俺と姐さんはツッコミを入れた。

 

 まったくだ。健全な肉体は健全な食生活から。必要な栄養をきちんと取らないで、体が立派になるわけがねえ。

 

 ましてや場合によっちゃぁ三食カップ麺? それでよくお前らそこまで強くなれたな、オイ。

 

「黒歌。貴女、本当に投降してリアスの軍門に下ったら? あの件についてはサーゼクス様も追跡調査は行ってるらしいし、保釈金ぐらいは貸してあげるわよ」

 

「あのねえ。確かに赤龍帝ちんはうちのろくでなし共よりいい男だけど、だからってヴァーリを裏切る気はないわよ」

 

 ……姐さんと黒歌、なんか仲良くねえか?

 

「むぅ~」

 

「ぬぅ~」

 

 そしてペトとルフェイ。飯が不味くなるから睨み合うなや。

 




フットワークの軽いヴァーリチーム。ヴィクターを追放されても何のその。フェンリスヴォルフと捧腹探してやってきました。

思わぬ呉越同舟ですが、今のヴァーリチーム相手にヒロイたちも即戦闘って気にはなれない。元よりヴァーリチームはその辺適当。とりあえずヒロイたちは、監視もかねて同行することに。









そして、ヴァーリはヴァーリでそれどころじゃないわけです。







あと捧腹は、最初の方ではハニーエンジェル編で復活させて決着をつけるというのもあったんです。あれ、復讐がテーマな巻でしたし。

しかし展開を想定すると蛇足集がするし、あくまでアースガルズを恨んでいる捧腹が天界に態々来るのもあれな気がしたので、こうしてオリジナル編で消火しようという展開になりました。


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第五章 37

そんなわけで、現在食事中のヒロイたち。

そして、ヴァーリの過去がまた紐解かれます。


 

 そんなこんなでピッツァが届き、更に俺達はスパゲッティを注文する。

 

 とりあえずはこんなもんでいいだろ。

 

 さて、飯にするか。

 

 ヴァーリチームも飯時に問題を起こすつもりのないのか、普通に飯を食っている。

 

 睨み合っているペトとルフェイも、飯はきちんと食べている。お行儀悪いから睨み合うの止めなさい。

 

 で、この状況下で食ってないのは……。

 

「………」

 

 ヴァーリだけが、ぼんやりとスパゲッティをつつきながらボケっとしていた。

 

「おいおい。お前麺類好きだろ? なにぼさっとしてんだよ? あのおばさんに惚れでもしたかぁ?」

 

 美候がからかうが、ヴァーリは返事をしなかった。

 

 おい、コレ、重傷だろ。

 

 なんだこれ。今までのヴァーリとは全然違うっつーか、別もんだな、オイ。

 

「……まさか、本当に年上趣味か?」

 

 俺は恐る恐る聞くが、しかしヴァーリは首を振った。

 

 だ、だったら一体何なんだ!?

 

「……母だ」

 

 ぽつりと、ヴァーリはそう言った。

 

 母?

 

 おかあさん? マミー? マーマ?

 

 そうか。母親か。

 

 …………。

 

「「「「は?」」」」

 

 俺とペト、美候と黒歌の声がハモった。

 

 その視線を浴びて我に返ったのか、ヴァーリは少し表情を暗くしながら、はっきりと言った。

 

「あの顔は忘れない。彼女は、俺の母親だ」

 

「……そうだったんですか、ヴァーリ様!?」

 

 ルフェイが思わずフォークを取り落とすぐらい驚いた。

 

 当然だろ。こんなヨーロッパの片田舎で、ヴァーリのお袋が出てくるとか誰も考えねえよ。

 

 おいおいおいおい。なんで妾とか愛人程度の待遇だろうたぁいえ、旧魔王血族の奴の女がこんなところにいるんだよ!?

 

「待ってください。その割には、彼女はヴァーリを見ても無反応だった気がしますが」

 

 あ、そういやそうだ。いいとこ気づくなアーサー。

 

 そうだよな。生き別れの息子と再会したなら、もうちょっとこう……なんかリアクションがなくね?

 

「おそらく記憶を消されているのだろう。旧魔王が戯れにとは言え子供を産ませた女だ。あまりしゃべられては困る情報も知ってしまっただろうしな」

 

 な、なるほど。殺されてねえだけ恩情ってやつか。

 

 いや、たまげたなぁ。

 

 そういや、ヴァーリは親父からは虐待されてたんだよな。そんな事を聞いた事がある。

 

 確かお袋さんが作ってくれたパスタだけが唯一の楽しみとかいう生活だとか言ってたな。

 

 ……あれ? これ冷静に考えるとマザコンこじらせてもおかしくなくね?

 

 俺はそんな事を思ったが、口には出さない。

 

「なあヴァーリ。黒歌やルフェイなら、その記憶取り戻せるんじゃねえかぃ?」

 

 美候がそんなこと言うが、ナイス発言だ。

 

 そうだ。最上級悪魔クラスの術者な黒歌なら、そういった方面でも腕はいいかもしれねえな。ルフェイも凄腕だし何とかなる可能性はある。

 

 最悪、うちのお人好しなトップ人に頭下げてもらえば何とかなるだろ。流石に小物だらけの旧魔王派の記憶制御何てどうとでもできるはずだ。やりようはある。

 

グリゴリ()に連絡するッス。そう言う事情ならアザゼル監督もシェムハザ総督も動くと思うッスよ!」

 

「ペト、やるわね。……良かったじゃないヴァーリ」

 

 ペトもナイスタイミング。俺と同じ判断したな。

 

 姐さんもそれにほっとして笑みを浮かべる。

 

 だが、ヴァーリは首を振った。

 

「いや、それはしなくていい……止めてくれ」

 

 へ?

 

 俺達はぽかんとするが、ヴァーリは視線をさっきの交差点に向ける。

 

「お前達も見ただろう? あの子供達を」

 

 ああ、あの子供達か。

 

 確かにヴァーリのお袋さんが母親っぽかったな。

 

 って待て。それってつまり、ヴァーリのお袋さんは旦那がいるって事にならねえか?

 

 俺がそれに思い当たると、ヴァーリが苦笑を浮かべる。

 

「そう言う事だ。……今更現れて、俺は貴方の前の夫の息子だなどと言えるものか。彼女を、これ以上俺の事情に付き合わさせるのは不本意だ」

 

 ヴァーリははっきりそう言うと、スパゲッティを食べ始める。

 

 確かに、そんな事いきなり言われても、正直戸惑うよな。

 

 しかもヴァーリはテロリストやってたんだ。お袋さんにとっても良い事じゃねえし、今の夫との間の関係にいざこざが生まれかねねえ。

 

 ……身から出た錆だとは思うけどな。それでもまあ、ちょっとは同情するぜ。

 

 そんな事を思いながら見る先、ヴァーリは、スパゲッティを食べるとうんうんと頷いていた。

 

「やはりスパゲッティはいい。……あの頃の、唯一の楽しみを思い出す」

 

 その言葉に、俺達は何も言えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、なんとなくヴァーリチームは町中を探索していた。

 

 で、俺達は一応監視していた。

 

 まさかヴァーリも、あんなこと言わせるぐらい大事なお袋さんの住んでる町でいらん事はしないだろう。ここには強者は俺達しかいないんだから、万が一の時は俺達が「場所変えろ」とかいやすむだろうしな。

 

 つっても、現段階においてヴィクターからも追放されたヴァーリチームはテロリストみてえなもんだ。監視しないってわけにもいかねえだろ。

 

 だからって通報するのもあれだ。近年ヴィクターにいいようにやられて苛立ち気味の現政権側がこんなこと知ったら、場合によっちゃ血気盛んな奴が戦力送り込みかねねえ。そうなったら余計なトラブルを生みかねねえからな。

 

 ……最悪の場合、一部の連中がヴァーリのお袋さんを確保してヴァーリに対するカードにするかもしれねえ。

 

 だから、今はペトがアザゼル先生に緊急報告中だ。更にこっそり黒歌と美候が仙術でステルス駆けながらお袋さんの家を発見してこっそり様子を見ている。

 

 とりあえず、確実に穏健派のアザゼル先生達経由で護衛をつけてもらわねえとな。他の勢力が動く前に、突っぱねる言い訳を作らねえと。

 

「……ヴァーリ、結構気にしてるようね」

 

「そうですね。あんなヴァーリさま、初めて見ました」

 

 ぽつりと呟いた姐さんの言葉に、ルフェイが頷いた。

 

 だろうな。俺はちょっと似てる表情を見た事あるけど、あれは俺しか見てねえしな。

 

「ヒロイは知ってた?」

 

「概要ぐらいは前に奴から聞いた事がある。……嫌味言ったら地雷踏んだんでちっとばかし気が引けたな」

 

 姐さんにそう答えながら、俺はその時の事を思い出す。

 

 以前、俺はイッセーの両親を殺すと言った奴の事を、イッセーに嫉妬してるんじゃねえかと言った事がある。

 

 まあ、真っ当な親ってもんを知らねえ俺からすれば、覗きの常習犯なんつー真似やらかしながら、それでも良いところもきちんと見て愛情を注いでくれるあの両親がいる事は羨ましくも思う。

 

 まあ、そういう意味じゃあヴァーリも少しは羨ましいな。

 

 ……片親だけとはいえ、きちんと愛情注いでくれてるんだからよ。

 

 だけど、その片親もその事を完全に忘れて、別の子供に愛情を注いでいる。

 

 これ、ヴァーリからしたらどんな感じなんだろうな。

 

 ……変な事しないだろうな。いや、あいつの性格なら意味のない弱い者いじめとかはしねえだろうが、ことがことだから暴走するって事は考えられる事もあるよな。

 

 一応、念の為様子を見てみるか。

 

 そう思って念の為に一歩近づこうとして―

 

「―お姉様ぁあああああ!!!」

 

 ペトが、全力でこっちに走ってきた。

 

 みりゃ、黒歌と美候も走って来てる。

 

「どうしました? 今ヴァーリは繊細な心境でしょうし、少し静かにしてもらえると嬉しいのですが―」

 

「んなこと言ってる場合じゃないぜぃ!!」

 

 たしなめようとしたアーサーの言葉を遮って、美候が声を上げる。

 

 なんだなんだ? なんだよいったい。

 

 黒歌が姐さんの方に顔を向けて、離れたところを指さした。

 

 ん? あっちに何かあるのか……ってまさか!!

 

「どうやら、捧腹の奴見つかったみたいよ。それも現地のヴィクターと組んでない反和平派とつるんでたみたい」

 

「本当に? まだそんなのが残ってたのね」

 

「そうにゃん。で、更にヴィクターの連中もどこで嗅ぎつけたのかフェンリスヴォルフを奪おうと発見した連中とやり合ってるそうよ」

 

 姐さんとそう言葉を交わし合った黒歌は、即座に術式を展開すると、近くの池に手を触れる。

 

 そして、その水面がここじゃないどこかの景色を映し出した。

 

「そう言うわけで急ぐわよ。……どうやらヴィクターの連中、相当上位の死神を送りこんでるみたいだから」

 

 ……え、マジで?

 




ついに本格的戦闘がスタート。

さてさて、ヴィクターの戦力は誰が出てくるのやら。


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第五章 38

ついに始まったフェンリスヴォルフ争奪戦。

さて、ヴィクター側から出てきた戦力は、いったい誰なのか。


 

 

 即座に転移して戦場の近くにくれば、既にもう激戦だった。

 

 ヴァルキリーと死神の激闘が繰り広げられ、現地の悪魔祓いがドーインジャーと切り結ぶ。

 

 おいおい。小競り合いってレベルじゃねえだろ。これは本格的な戦争じゃねえか。

 

 くそ! いくら秘匿する必要がなくなったからって、ここまで派手に動くか!!

 

「あれ? 捧腹は何処っすか?」

 

 ちょっと据わった眼で、ペトが捧腹の居場所を探している。

 

 ああ、狙ったわけじゃないたぁ言え、ソウメンスクナを差し向けられたもんな。割と腹立ってるのは当然か。

 

 さて、それで捧腹の奴は何処だ?

 

 とりあえず襲い掛かってくる死神達をボコりながら、俺達は捧腹の姿を探す。

 

 ついでに、現地のテロ勢力っぽい連中も容赦なくボコっておく。万が一協力者だとあれなので、半殺し程度にしておいた。

 

 で、どこだ?

 

「いかに雑兵とは言え、物のついでで仕留めるとは。強くなっていますね」

 

「闘いがいがありそうだぜぃ。あとでちょっとやりあってくれねえかねい」

 

 後ろでアーサーと美候が妙なこと言ってきやがるが、それはスルーだ。

 

 終わったらどうしようとか 、今はあえて考えねえようにしとかねえとな。

 

 だが、肝心の捧腹の姿がどこにも見当たらねえ。

 

 くそ、あいつ逃げやがったか? フェンリスヴォルフまで持って行かれると、流石にまずいんだけどよ。

 

 仕方ねえ、美候と黒歌に探させるか。あいつ等なら前にやり合った事もあるし気で探知できるだろうよ。

 

 そう思ったその時、俺は真上から殺気を感じた。

 

 ……新手か!

 

「誰!?」

 

 代表して姐さんが問い質す先、そこにいたのは普通の死神よりも豪華な鎌を構えた、髑髏の面をした死神がいた。

 

 何もんだ、こいつ! 下手すりゃプルートより格上だぞ!!

 

『顔を合わせるのは初めてだな。私は最上級死神のタナトスという』

 

 タナトス!? って言うと、確か死神の中でもバリッバリの武闘派じゃねえか!!

 

 ハーデスの側についた九割強の死神の代表格だってのは知ってるが、まさかここで来るか。大物すぎるだろ。

 

「ほう? プルートの仇討ち……というわけでもなさそうだな」

 

『無論だ。そもそも、ここに白龍皇まで来るとは思わなかった』

 

 挑発的なヴァーリに、余裕をもってタナトスは応じる。

 

 おいおいマジかよ。いくらフェンリスヴォルフがあるからって、最上級死神を現地指揮官に投入するか、オイ。

 

 俺らが呆れていると、タナトスから苦笑の気配が伝わってくる。

 

『我々のヴィクター経済連合での序列は最下位からの始まりなのでな。悪魔や堕天使の派閥より上に行く為、積極的に仕事を引き受ける他ないのだよ』

 

 なるほどな。

 

 シャルバに曹操の動向を伝えた上で、オーフィスの毒まで提供したのはヴィクターでも相当お冠ってわけか。

 

 そりゃ最下位からスタートにもなるわ。ハーデスの奴、いい気味だ。

 

 それで序列を上げる為に涙ぐましい努力を積んでるってか? ご苦労さんなこって。

 

「自業自得よ。生まれて間もない子供に老人の恨みつらみを叩きつけたんだから、大義もへったくれもないわね」

 

『中々小うるさい娘だ。だが、敵ならそれぐらいがちょうどいい』

 

 姐さんの皮肉を軽く受け流しながら、タナトスは鎌を構えた。

 

 心なしか、その表情は楽しそうだ。

 

『プルートを屠った白龍皇の新たな覇。その頂点との戦いは、死んだとは言えプルートも堪能したことだろう。……私にも味合わせてもらえるかな?』

 

 しかもバトルジャンキーの気があるな。っていうか、プルート羨ましがるか、普通。

 

 瞬殺されたんだから、プライド崩れまくりでむしろ無念がありまくりだと思うんだけどよ。いや、全力を叩き込んだ上での敗北ならまあ納得も行くか?

 

 まあとにかく、今のところ俺らにとって迷惑な事に変わりはねえ。

 

 冥府は序列ではヴィクターで最下位だろうけど、その戦力はヴィクターでもかなり上位だろう。間違いなく警戒度の高い勢力だろうよ。

 

 そんなところの有力幹部がこんなところにのこのこ出てきた。しかも、こっちには強い奴と戦いたがっているヴァーリチームが揃ってる。

 

 このチャンス、逃せねえ。ここで敵将の首を討ち取って、ヴィクター相手に精神的に有利に立ってやる。

 

 俺達がそう決意したその時、まさにそのタイミングで通信が繋がった。

 

『……緊急連絡! 捧腹の移動を確認!!』

 

 捧腹!? 見つかったのか!

 

 それでどこだ? どこに居やがった?

 

『捧腹は進行方向を薙ぎ払いながら、最寄りのアースガルズの施設に向かって侵攻中! 予測ルート、出ます!!』

 

 その言葉と共に、俺達の脳内に情報が転送される。

 

 そして、俺達は寒気を感じた。

 

「……おい、あの町がルートの上にあるじゃねえか!?」

 

 美候が大声を上げるのも無理はねえ。

 

 捧腹の進行方向には、あの町がある。

 

 しかも思った以上にあたりをぶち壊しながら捧腹は進んでる。このままだと相当に被害が出るぞ!?

 

『ふむ、位置取りからしてこちらは追撃困難か。なら可能な限り敵の精鋭を討ち取って功績を上げるべきだな』

 

 しかもタナトスも切り替えが早い。

 

 追撃が困難だと分かるったら、すぐに他の方法で成果を上げようとしてやがる。

 

「……くそっ」

 

 歯を食いしばって、ヴァーリがそう漏らす。

 

 ……それと同時に、ヴァーリチームが動いた。

 

 全員が、ヴァーリとタナトスの間に立ち塞がる。

 

「ヴァーリ様、行ってください」

 

「ルフェイ、お前達……」

 

 ルフェイの言葉にヴァーリチームの全員が頷き、ヴァーリが呆気にとられる。

 

 その肩を、姐さんがぽんと叩く。

 

「行ってきなさい。どっちにしても、母親を気にして戦えないならタナトス達を倒すのは無理でしょう」

 

「リセス、お前まで……」

 

 ヴァーリが何かを言いかけるより早く、姐さんはタナトスに鋭い戦意の籠った視線を向ける。

 

 そしてタナトスの周りにも、上級らしき強そうな死神が何体も現れていた。

 

 こりゃ、敵に主力は俺達をターゲットに選んだって事か。

 

「相手が私じゃ不足かしら? これでも、神滅具(ロンギヌス)禁手(バランス・ブレイカー)に至らせてるのだけれど?」

 

『面白い。戦意の削がれた白龍皇よりは、戦いがいのある相手だろう』

 

 タナトスも乗り気になったところで、これで何の問題もねえな。

 

「ヒロイも行くっす。フェンリスヴォルフ込みの捧腹を被害なしで抑えるのは、ヴァーリだけでも難しいっすよ!!」

 

 OK、ペト。そう言う事ならお言葉に甘えるぜ!!

 

「行くぜヴァーリ! 今は自分のお袋さんのことだけを考えろ!! 町全体のガードは俺がやる!!」

 

「……お前達、恩に着る!!」

 

 その言葉と共に、ヴァーリは全力で飛ぶ。

 

 俺もそれに魔剣に乗って追随して、戦線から急いで離れた。

 

 待ってろよ捧腹。お前の恨みつらみの為に、堅気の連中を巻き込ませたりはしねえからよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 捧腹は、全力で森林を飛んでいた。

 

 目当ての物は手に入った。力にする方法も実行した。

 

 ならば、次はそれを使って目的を果たす時だ。

 

 もはや日本とアースガルズの和平は止められない。そして、ヴィクターは自分を取り込む気はないだろう。

 

 技術が優れている自信はある。だが、ロキと行動を共にしていたという事実が、ヴィクターでは足を引っ張るはずだ。

 

 ノイエラグナロクからの心象が悪い以上、自分の意見をヴィクターで反映させる事は困難だ。下手をすれば、暗殺される可能性すらある。

 

 なら、自らの力で北欧の神々にあの子達の怨念を叩きつけるだけだ。

 

 既にロキのパイプを利用して、協力者を手に入れる事には成功している。今回の戦闘で大半が失われたが、然し自分とフェンリスヴォルフの価値があれば、残りをとっかかりにして新たに集められるだろう。

 

 ゆえに、先ずは一番近くにある北欧神話の施設を挨拶代わりに叩き潰す。

 

 全力で低空を飛行している為、ソニックブームで多少の被害はある。しかしそれを気にする気にはない。

 

 既に、長い怨念で自分は壊れているのだろう。

 

 だが、それでいい。

 

 もはや和平が止まらないのならば、あとは自分の想いのままにこの怨念を叩きつけるのみ。

 

 その決意を込めて捧腹は空を舞い―

 

「―待てやこらぁ!!」

 

 その言葉に振り返り、捧腹は舌打ちを返した。

 

 よりにもよってここで、想定以上の強敵が出てきてしまった。

 

 ヒロイ・カッシウスとヴァーリ・ルシファー。

 

 三大勢力の手駒と、ヴィクターを追放された放浪者が、手を組んで追撃を仕掛けてくる。

 

 このままでは追い付かれる。どうやら迎撃に映るしかないようだ。

 

 捧腹はそれを覚悟すると、一旦地面へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




一からやり直すしかないので、地道に頑張っている冥府陣営。下っ端がやる仕事にすら幹部クラスを投入して、全力で頑張ってます。

そして、捧腹の相手はヒロイとヴァーリ。

ですが、捧腹も送還にはやられません!


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第五章 39 普通の怨念

ざっと200kbほど書き溜めちまったぜ。我ながら速筆だな。






それはともかく、題名に関してはニエのパターンを想定していただければいいかと。

それは、誰かを想う以上に誰かを恨む、ごく普通の人間の怨念。


 

 

 よっし間に合った!!

 

 俺達は舞い降りた捧腹を見下ろすと、お互いに視線をまっすぐに捧腹にぶつける。

 

「捧腹、上からの依頼だ。あんたを殺してでも止める」

 

「悪いが、そこから先には進ませられない。それだけは何が何でも阻止させてもらう」

 

「ふむ、まるでこの先に何か大切なものがあるかのような物言いだ」

 

 ……ヴァーリ。うかつだぞ。

 

 捧腹の奴、もう何かに気が付いてやがる。

 

 流石は外法研究の第一人者。頭の回転は速いに決まってるか。

 

「安心するがいい。余波で被害を出す事こそあれ、むやみやたらと怨恨を振りまく気はない」

 

「信用できんな。都心の真ん中でソウメンスクナを展開した貴様では説得力がない」

 

 ヴァーリは捧腹の言葉を切って捨てる。

 

 いや、確かにそうなんだが、自分が歯応えのある相手と戦いたいからってイッセーの両親殺そうとしたお前が言うかよ。

 

 俺は少し半目になるが、気を取り直して捧腹を警戒する。

 

 そして、報復もヴァーリの言葉を鼻で笑った。

 

「そんなところで会議していたそちらにも問題がある。私は無意味な犠牲は嫌いだが、それに拘り過ぎて目的を見失う事もしない」

 

 そうかい。まあ、ある種の正論だわな。

 

 だが、それでも―

 

「アンタの狙いの施設は市街地のど真ん中だ。そんなところでフェンリスヴォルフを暴れさせたりなんて、できるわけがねえだろうが」

 

 俺は聖槍を突き付けるとともに警告する。

 

 これを無視するなら、殺す気でいくしかない。

 

 そして、こんな言葉で止まるなら、ロキと手を組んでまで和平を妨害するわけがない。

 

「そうか。なら止めてみるがいい」

 

 その言葉と共に、捧腹は懐から一振りの短剣を取り出した。

 

 たしか、匕首ってやつか? なんでこんなところに―

 

 そう思った瞬間、その匕首が光り輝いた。

 

 閃光弾の代わりか? いや、それにしては光が強くない。

 

 一瞬だがいぶかしんだ俺達だが、その時間で十分だった。

 

 気づけば、そこには狼を模した鎧を身に纏った捧腹の姿があった。

 

「そちらの堕天使総督の龍の鎧を参考にさせてもらった。やはり復讐は自分の手で果たしてこそだと思わないかね?」

 

 その言葉と共に、神速で捧腹は迫り、十束剣を振り回す。

 

 俺とヴァーリはそれをかわすが、それにしてもかなり速いな。

 

 正真正銘神速と言ってもいいスピードだ。単純な戦闘能力なら、鎧を纏ったヴァーリよりも上なんじゃねえか?

 

 だが―

 

「その程度か? フェンリスヴォルフというのも大したことはないな」

 

 ヴァーリは、残念そうな、それでいてほっとした声色でそう言った。

 

 確かにな。全盛期のフェンリルはヴァーリですら覇龍必須の代物だった。

 

 だが、フェンリスヴォルフを使用したあの鎧は、精々が通常時の鎧のヴァーリクラス。明らかに性能が低い。

 

 ヴァーリ一人なら日本製の聖剣である十束剣もあって苦戦しただろう。だが、生憎ここには俺がいる。二対一なんだよ、これは。

 

 はっきりいやぁ、この状況は俺達が有利だ。これなら槍王の型も極覇龍も使わずに勝つ事ができるだろうしな。

 

 なのに、報復は余裕の表情を崩さない。

 

「ふむ、ならこれでどうだろうか?」

 

 その言葉と共に、報復は球体の小さな宝石みたいなものを取り出すと、それを地面に投げつける。

 

 ……ドーインジャーの結晶体か? いや、形状が少し違うな。

 

 なんだ、いったい?

 

 俺達が警戒していると、その結晶体は強くオーラを放って、人間サイズの人型に変化する。

 

 まるで龍を模したその姿は、イグドラヨルムにどことなく似ていた。

 

「失敗作の量産型ミドガルズオルムを利用したものだ。むしろ私としては、彼らによって復讐をなすべきだと考えていてね」

 

 その言葉と共に、報復は人型ドラゴンと共に攻撃を開始する。

 

 放たれる攻撃を裁いたり躱したりする俺とヴァーリだが、その体にはかすり傷が少しずつ増えていく。

 

「言い忘れていたが、複数体掛け合わせているので量産型ミドガルズオルムより強力だ。そう簡単に倒せるとは思わないことだな」

 

「なるほど、少しは楽しませてくれる!!」

 

 ヴァーリがオーラを放って強引に吹き飛ばそうとするが、人型ドラゴンはそれを耐えきって、体勢を立て直す。

 

 チッ。こいつら、思ったより強いな。

 

「彼らの復讐の邪魔をしないでくれ。彼らにはその権利があるとは思わないかね?」

 

 捧腹の言いたいことはわかる。

 

 アースガルズの過剰反応が原因で起きた小競り合いで、捧腹が育てていたも同然の子供たちは殺された。

 

 それに対する恨みがあるのはわかる。落とし前をつけるべき案件なのも分かる。

 

 だが、それにしたって限度はあるはずだろう。

 

 あれは不幸な行き違いだって話だ。全部が全部アースガルズが悪いってわけでもないだろう。

 

 それも、和平が行われたことで正式に謝罪や賠償を行うことだってできるはずだろ。

 

「……なんでだ。なんで血が流れる復讐にこだわる!! オーディン神の性格なら、謝罪と賠償を引き出すことだって不可能じゃねえはずだ!!」

 

 少なくても、同じような罪のない子供を増やすような真似はしていいわけがねえ。

 

 その言葉に対して、報復は―

 

「……何か、勘違いをしているな」

 

 ―ため息をついて、あきれ果てた。

 

 なんだと? 何が勘違いだっていうんだ。

 

 きれいごと言ってるのはわかってる。俺だって姐さんを理不尽に殺されたら、どうなるかなんてわからねえ。

 

 だがよ、それでもここまでする必要が―

 

『―痛い』

 

 声が、聞こえた。

 

 どこからともなく、声が聞こえた。

 

 俺は、その声を聴いた瞬間寒気を感じた。

 

 空気が冷えているとかそういうことじゃねえ。単純に感覚的に寒気を感じた。

 

 そしてこれを、俺はよく覚えている。

 

 これは、亡霊だ。

 

 亡霊が、声を放っている。

 

『―熱いよ、おじちゃん』

 

『―痛いよ、おじちゃん』

 

『―辛いよ、いやだよ』

 

『―なんで、こんな事されるの?』

 

『何も悪いことしてないのに。おじちゃんに言われたとおりにいい子でいたのに』

 

 次々と放たれるその言葉は、怨嗟の声だ。

 

 理不尽によって死に至った者たちの、その末期の苦しみだ。

 

『―許さない』

 

『―もう怒った』

 

『―ぶってやる』

 

『―叩いてやる』

 

 そして、その声はただ報復を望んでいる。

 

 純粋なまでの子供の怒り。

 

 無垢なる子供が叫ぶ、嘘偽りのない怨嗟の叫び。

 

 その声を背に、捧腹は俺たちを嘲笑う。

 

「反魂法を研究する私が、あの子たちの声を聴こうとしなかったとでも? ……聞いたから、ここに至るまで前をすすむことができたのだろうが!!」

 

 そう一喝すると、さらにその声は響き渡る。

 

『―邪魔しないで』

 

『―お前、あいつ等の友達なのか』

 

『―お前が叱らないから……っ!』

 

 殺意のオーラを全力で垂れ流しながら、人型ドラゴンは俺たちをにらみつける。

 

 俺は、一瞬だが確実に気圧された。

 

『『『『『『『『『『―許さないっ!!』』』』』』』』』』

 

 そして、放たれた攻撃が俺たちを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その攻撃をもろに喰らってしまったのは、ヴァーリとしても失態だった。

 

 喰らえば危険だということはこれまでの経験則から理解できた。そして回避そのものは、そこまで言うほど難しくない。オーラを出して防御する程度のことなら、ほぼ確実にできただろう。

 

 だが、明確に反応が遅れてしまったのは、簡単だ。

 

 ほんの一瞬、ほんの一瞬思ってしまったのだ。

 

 もし自分が、神の子を見張るもの(グリゴリ)に拾われなかったら。そのまま浮浪児のままだったら。そして、そのまま死んでしまったら。

 

 自分もまた、あの者達と同じようになっていたのではないだろうか、と。

 

 仮定の話でしかない。だが、可能性は十分にある。

 

 当時の現悪魔政府にとって、旧魔王の末裔とは目の上のタンコブだ。こと大王派にとってしてみれば排除したい存在である。しかも、それが神滅具を保有している。

 

 そんなものは危険以外の何物でもない。四大魔王はともかく、大王派は確実に処分に動くだろう。

 

 天界からしてもそうだ。神が作り上げた神器の、その究極が悪魔に使われている。それも、魔王の末裔というとんでもない存在にだ。

 

 これまた排除の対象だろう。セラフはともかく、教会の者達が和平前に知れば殺しに来るのは隔日だ。

 

 ……そんな自分がもし本当にそうなったら。父親と祖父から逃げ出した自分が、それでも何も掴む事なく死んでしまったら。

 

 ……あそこにいるのは、自分だったかもしれない。

 

 それが、隙を作り吹き飛ばされた。単純な理由だ。

 

 まったくもって情けない。史上最強の白龍皇が、この程度のIFに足を引っ張られるなどと。

 

『……動けるな、ヴァーリ』

 

「ああ、大丈夫だアルビオン」

 

 相棒に応え、ヴァーリは立ち上がる。

 

 既にヒロイ・カッシウスは復帰して戦闘を再開している。思った以上に頑丈な男だと感心する。

 

 しかし流石に一対多数では苦戦しているようだ。流石の聖槍使いといえど、あのレベルの敵が複数仕掛けてくれば苦戦するのだろう。大技を放つ隙も無い。

 

 だから、すぐにでも援護に行かなければならないだろう。

 

 そう思って前に出ようとして―

 

『―ヴァーリ』

 

 アルビオンが、声をかける。

 

 この状況で、無意味なことを言う手合いとは思えない。それ位には付き合いは深いし長い相手だ。

 

 だから、其の声に耳を傾ける。

 

『一度後ろを振り向くといい』

 

 その言葉に従って、後ろを振り向く。

 

 そこには、森と山が広がっている。

 

 そして、見えないがその先にはあの町がある。

 

 そして、その町にはあの女性がいる。その子供達がいる。その父親にして夫がいる。

 

『もし捧腹との戦闘が長引いて、町への接近を許せばどうなるか、考えろ』

 

 言われたとおりに考える。

 

 その光景を、想像する。

 

『どう思った?』

 

「決まっている。……絶対に認められない」

 

 ああ、そうだ。

 

 あの時自分を愛してくれた、大事な女性。

 

 いつも自分のことを守れなかったことを悔やみ、そして涙すら流していたこともある大切な女性。

 

 だが、今彼女は夫と子供を持ち、幸せな毎日を送っている。

 

 彼女が、自分の不手際で新たに悲しみを得る事など、断じて認められない。

 

『その感情を忘れるな。……そういう手合いは、強い』

 

「ああ、よく知っているよ」

 

 宿命のライバルである、赤龍帝の兵藤一誠を思い出す。

 

 彼もまた、大切なものを守る為に力を引き出す事ができる存在だった。そしてその拳は確かに強烈だった。

 

 元々のスペックでも、年季でも、技量でも自分が上だ。文字通り自分は兵藤一誠の上位互換だった。

 

 それでも、あの一撃はとてもよく効いた。

 

 隙を見せてしまった事は認める。作戦に見事にはまってしまった事も認める。そして龍殺しの力もあった。

 

 だが、あの拳の重さはそれだけでは断じてない。

 

『捧腹は失ったがゆえに前に進めた者だ。重荷がないからより早く進めるのは当然だ。歴代の白龍皇にも、そういう手合いは数多くいた』

 

 なるほど真理だ。

 

 足を引っ張るものがなければ、それだけ有利に立ち回れる。子供でも理解できるごく単純な理屈だ。

 

 ……だが、兵藤一誠はそうではない。

 

『兵藤一誠は失ってはならないものがあるゆえに強いものだ。そういう者達は皆例外なく敬意を払うべき者達だ』

 

 そう。そう言う強さも存在するのだ。

 

 守るべきものがあるからこそ、それを失いたくないと思うからこそ、強くなろうとして実際に強くなる。

 

 思えば、自分を倒した匙元士郎もそういう手合いなのだろう。なんだかんだで兵藤一誠と似通っている男だとふと思った。

 

『お前はどうする、ヴァーリ?』

 

 その問いかけに、ヴァーリは答える。

 

「俺は、兵藤一誠のようには成れない」

 

 それは当然だ。そもそも性質が違う。

 

 自分の仲間と兵藤一誠の仲間を見れば簡単に分かる。

 

 正道を往く者達とはぐれ者。類は友を呼ぶと兵藤一誠の国では言うらしいが、まさにその通りだ。

 

 無辜の民を、万人を守る正義の味方。そんなものにはあまり興味がないし、性分でもない。自分には不可能だろう。

 

 だが、そんな自分にも、守りたいものぐらいはある。

 

『……それを忘れるな、ヴァーリ。そもそもお前は、()()達を害そうとする者達を倒す為の力を求めて、覇に手を染めたのだろう?』

 

 過去の話を掘り返されて、ヴァーリは少しむっとなった。

 

「毒龍皇と呼ばれることを何より嫌うお前が言うか」

 

『……先に振ったのは私だが、それは言うなと言っただろうに』

 

「お互い様だ」

 

 何ともなしに、どちらともなく苦笑が浮かぶ。

 

 そして、すぐにそれは好戦的な笑みに変わった。

 

「まあいい。フェンリルを下した、魔王の末裔たるこの俺が、デッドコピー如きを手にした鬼風情に好きにされるわけにはいかないな」

 

『今はそれでいいさ。お前はそれでも充分強くなれる』

 

「……だべってないでそろそろ援護しろや、お前らぁ!!」

 

 いい加減一人で対応する羽目になっている事に、ヒロイ・カッシウスがキレて文句を言ってきた。

 

 このまま三つ巴になだれ込むと、後ろの町に危害が及ぶだろう。そろそろ行かねば。

 

「では、すぐにでも終わらせるとするか」

 

『ああ。神喰狼の模倣といえど、最強の白龍皇を敵に回してただで済むわけがないと思い知らせてやれ』

 

 その言葉を背に、ヴァーリは再び戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




よく、「死者が望むのは遺した者の幸せだけ」という言葉があります。

でも、それを言うのは、基本的に人から立派といわれるような人物だけです。











はたして、普通に人を憎めるし嫉妬できるただの人間が、それだけを想えるものなのだろうか。

ニエとあの子たちは、そういう思想を基に作られています。


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第五章 40

ヴァーリが一歩成長したころ、ヒロイは大絶賛苦戦中。

とはいえ、なんだかんだで持ちこたえてるわけですが……。


 

 ぶっ放される攻撃を、俺は紙一重で避けつつ攻撃を叩き込む。

 

 確かに敵のスペックは強大。反応速度もシャレにならねえ。間違いなく厄介な敵だ。

 

 だが、技量が追い付いちゃいねえ。

 

 捧腹以外はただの獣も同様。そして、人型ってのは獣の動きでその真価を最大限に発揮できるようにはできてねえ。

 

 人型ってのは色々と便利だが、戦闘には非効率的なんだよ。だから人間ってのは武器やら武術やら戦う為の手段を作るんだっての。

 

 それを抜きにして龍王クラスの量産型程度で俺を殺そうだなんて、百年早いってんだ!!

 

「英雄なめんじゃねえぞぉ!!」

 

「ふむ、だが英雄というのは惨い末路を辿るものだろう?」

 

 その瞬間、俺の懐に捧腹が潜り込んだ。

 

 チッ! 流石にイグドラフォースに匹敵する程度の性能は発揮するか!

 

 コイツを一対一(サシ)でノすのは流石にきついな。俺は覇輝(トゥルース・イデア)を思い通りに使えねえからよ。こういう時弱い。

 

 ええい。あれしか手がねえたぁいえ、聖槍の禁手を対聖槍に限定したのはあれだったな。時間がありゃもうちょっと汎用性とかできたんだろうけどよ!!

 

 くそ、こりゃ流石にちょっとヤベえか? どうやって切り抜ける?

 

 俺がそう考えた時、放たれた白銀が銀狼を弾き飛ばす。

 

「……すまん、遅れた」

 

 ヴァーリか!

 

 どうやらようやく復帰したみてぇだな。ったく、俺一人でこいつら相手させるとは鬼かよ。

 

 さて、それでどうする?

 

「さて、それで俺達はどうやって奴を倒したものか」

 

「お前にしちゃ気弱だな。極覇龍使おうって発想ねえのかよ」

 

「捧腹で終わるな」

 

 なるほどねぇ。確かに、その後の人型ドラゴンをどうにかする分が大変だな、そりゃ。

 

 さぁて、それじゃあこの後どうしたもんかねぇ。俺らだけだと詰みだぞ、コレ。

 

 こっからどうやって逆転すんだよ? 割と凶悪な化け物共だって事がよく分かったんだがな。

 

 そして、捧腹はそれを見ても冷静さを保っていた。

 

「ならば、更にダメ押しをさせてもらおう」

 

 そういうなり、捧腹は何やらカートリッジのようなものを取り出すと、それを自分に装着した。

 

 なんだ? 今度はどんな秘密兵器を投入してきやがった、オイ。

 

「これは、覇を発動させる為の代替となるエネルギーコアだ。……今から十分間、私は覇を発動できる」

 

 いや、ちょっと待て。

 

 神器の覇は、極めて面倒なしろもんだ。それも、自分にとっても敵にとってもっつー厄介なもんだ。

 

 敵にとっちゃもちろん当然。封印系神器の最大出力状態なわけで、敵は当然パワーアップするわけだ。当たり前なぐらい厄介だな。

 

 で、自分にとっても暴走の危険性がマジでかい。更に、生命力をものすごい勢いで消耗するからシャレにならねえ。暴走のそのまた暴走だったイッセーの場合何て、一万年生きられる悪魔なのに百年にまで寿命が削れやがった。

 

 莫大な魔力を代用品にできるヴァーリですら、うかつな仕様は避けていた最終手段。極覇龍という昇華させた形態を手にしたといやぁ聞こえはいいが、つまり覇龍そのものは完全な安全運用はどうやったって不可能ってこった。

 

 それを、発動可能にしやがるだと?

 

 マジかこいつ。ちょっとシャレにならねえこと言ってんだけどよ。

 

「……既にそこまでの領域に到達していたか。面白いじゃないか」

 

 そういうと、ヴァーリもまた一歩前に出る。

 

 その目には、決意の色が移っていた。

 

「ヒロイ・カッシウス。奴は俺が何としても倒す。だから、君は周りの敵をなんとしても倒してもらいたい」

 

「マジかよ。つまりここで限界を超えて覚醒しろってか?」

 

 この人型ドラゴンの群れをどうにかするには、今の俺だとキツイ。いや、倒すだけならできる。ただ被害を出さずにとなると現状キツイ。

 

 手数重視のコイルガンで弾幕張るぐらいじゃねえと、何割かに逃げられて被害が出るからなんだよなぁ。

 

 だがコイルガンの出力だと威力が落ちる。それだと量産型とは言え龍王をベースにしているこいつらには届かねえ。

 

 つまり、俺がこの場で何をするべきかっつーと。

 

 ―龍殺しの魔剣を作成して、弾丸そのものを強化する事だな、うん。

 

 まったく。俺はきちんと積み重ねて、戦う前から勝算を上げるタイプなんだよ。断じてイッセーみたいに戦ってる最中に奇跡の覚醒を起こすタイプじゃねえ。

 

 そのイッセーだって、毎日訓練して積み重ねてる下地があってこそだぞ? 更にアザゼル先生やらアジュカ様やらの超一流の研究者がバックアップしてくれるからこそ、禁手を拡張させるっつー前代未聞の偉業をぶちかましたんだぞ?

 

 はっきり言うぜ。無理だろ、普通。

 

 俺は文句言いたいけど、実際極覇龍でもなけりゃぁ勝てねえ相手だろうしなぁ、フェンリスヴォルフの覇を使った相手なんて。

 

 さて、つまり俺は今ここで窮地に覚醒とかいう難業やらなきゃいけねえわけか。

 

 ……どうしよ。

 

 まずいな。そんな「じゃ、ここで覚醒してね?」「おk」とか無理だしな。出来りゃぁ人間誰でも英雄になれる。

 

 どうしたもんかと思った俺に、一枚の濡れたティッシュが差し出された。

 

 ちなみに、血でぬれていた。

 

「飲むといい。アザゼルから、二天龍の血は神器に効果的だと聞いている」

 

 あ、一応お膳立てはしてくれんのか。

 

 OKOK。そう言う事なら、やるしかねえわな。

 

「大将首はくれてやる。死ぬんじゃねえぞ」

 

「お互い様だ」

 

 言ってくれるじゃねえか。まあいいさ。

 

 さあ、そろそろこの戦いも終わらせようか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦闘を確認する陰に、彼らは気づいていない。

 

 生態レーダーを展開できるヒロイといえど、出力が低い為感知できる範囲には限度がある。

 

 紫に輝く双腕の電磁王は、その手数において半端な神滅具を凌駕する。しかし、その出力は紫電の双手の禁手の中でも最弱。それゆえに出力が必須の環境では弱いのだ。

 

 そして、それを見切って状況を確認する者達は、ジェームズ・スミス。

 

「あの二人を相手に善戦するとは、思った以上にできるな」

 

 センサー付きの望遠鏡でデータを収集しながら、ジェームズは冷静に状況を把握する。

 

 捧腹を取り込む事は立ち位置的に困難だが、フェンリスヴォルフは要警戒対象だった。その為、叶うならばそれを奪取しようと人員を送り込む事は決定されていた。

 

 敵の勢力圏内でそれをなすという危険度の高い任務だったが、ハーデスがのし上がる為に積極的に人員を派遣しているので助かった。

 

 冥府の死神は数でこそ派閥内では中堅どころだが、オリュンポス最高レベルの神の眷属であるがゆえに質では最高峰だ。同人数で太刀打ちする事ができるのは、英雄派ぐらいだろう。

 

 そして今回リーダーとして派遣されたのはタナトス。死神の中でも屈指の武闘派であり、かつハーデスよりも過激派でもある。実力も折り紙付きだ。

 

 その彼が直々に直属を使って動く以上、他の派閥が動く必要はない。

 

「あいつ等、既に下の上ぐらいには到達してるからな」

 

 思わずそう呟くぐらい、ハーデス達冥府陣営はヴィクターでのし上がっていた。

 

 個人戦闘能力ならヴィクターでも五指に入るであろうハーデスを筆頭に、死神達は戦闘能力が高い者が多い。

 

 そして、敵陣営の英雄ともいえる兵藤一誠や、結局奴についてきてしまったオーフィスにとっての天敵ともいえるサマエルの存在。

 

 加えて、各神話体系を敵に回しているヴィクターにとって、味方となってくれる冥府の神という存在は、それだけで大きい。

 

 それらの要素によって、冥府陣営は速やかにヴィクター内部での地位を確立し始めている。

 

 加えて、ハーデス自身の手腕も卓越していた。

 

 あの急激すぎるほどの移行した事態の中で、当然離反する死神もいた。

 

 最上級死神オルクス。もとより死神の中では珍しい穏健派に属するオルクスは「流石にこれはまずい」として離反を決定。それに追随するように、ヴィクターと組む事に反感を抱く死神は最低限の立場をもってして現政権にも残っている。

 

 ……その中に、自分のシンパを滑り込ませるという早業を、ハーデスは行っていた。

 

 それだけの立ち回りができるものが、のし上がれないはずがない。

 

 まあそう言う手合いは身内で足を引っ張りたがる馬鹿によって暗殺される事もあるのだが、主神クラスのハーデスを暗殺するなど大騒ぎになって相手の自殺になるのは明白だ。そもそも主神クラスの戦闘能力の持ち主を殺す事が大変だ。まず間違いなく暗殺が成功する事はない。

 

 ハーデスがヴィクターの重鎮となるのは、そう遅くないだろう。

 

 そういうわけで自分の任務は、万が一捧腹がヴィクターの方をターゲットにした際における保険だった。

 

『基本的には様子見でよろしくね? 君は貴重な戦力なんだから、無理して戦死なんてマネはノーサンキュー! ジーク君の二の舞は勘弁だよ?』

 

 と、リムヴァンは念押ししていたので無理はしない。

 

 流石に極覇龍に対抗するには、こちらにも相応の準備が必要だからだ。

 

「さて、お手並み拝見と行こうか。……白銀の魔王殿」

 

 万が一に備えてデータをこまめに転送しながら、ジェームズはその戦闘を見逃さないようにしっかりと見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




捧腹は技術者としては超一流の部類です。材料が材料とは言え、神滅具と渡り合える化け物を作り上げた外法の第一人者ですから。

故に創れた技術ですが、何分ヴィクターも技術力なら負けてない。アイディアが知られたのは痛いです。


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第五章 41 白銀に輝く明けの明星

第五章、ラストバトル。開幕


 俺は、ヴァーリの血を飲み込む。

 

 野郎の血を飲むとかあれだが、今は必要だから仕方がねえ。

 

 和平を謳う三大勢力に雇われてる身として、和平をした北欧の人達に迷惑をかけるわけにはいかねえ。

 

 そして同時に、俺はちょっとやるせない。

 

 怨霊と化した子供達の霊を憑依させた人型ドラゴン。

 

 兵器として生み出され、死体になってもなお兵器として運用されている量産型ミドガルズオルム。

 

 それだけでもちょっと同情する。そして、それ以上に気になっちまう奴らがいる。

 

 それが、人型ドラゴンに憑依している子供達の霊だ。

 

 ……よく、フィクション作品では「殺された人が望むのは、残していった者達の幸せだけだ」ということがある。

 

 だけど、現実は違った。

 

 殺された子供達が残された捧腹に遺したのは、怨念と恨みだった。

 

 北欧神話に対する憤怒と憎悪があの子達の根幹。純真であるからこそ、酷い目に遭った事が許せない。

 

 俺は姐さんとニエを思い出す。

 

 姐さんは、ニエをしに追い込んだ罪滅ぼしとして英雄になってたくさんの人を救う事を選んだ。自分の弱さからの逃避もあったけど、それでも立派な事をして罪滅ぼししようとした。

 

 それを、ニエは認めなかった。顔も知らない誰かを救う為の生贄にして罪滅ぼしだなんてありえないと言った。

 

 ようは、立派な奴と普通な奴の違いだって事だ。

 

 普通の奴は、無辜の民の為に生贄になれって言われてもそう簡単にはできねえ。

 

 当たり前のことを当たり前にやるってのは、意外と大変なんだ。

 

 立派なことをする奴が褒めたたえられるのは、それが普通の奴にとっては大変なことだからだ。

 

 ニエもこの子達も普通の奴だ。

 

 だから奪った奴らを憎む。和平なんて認めない。

 

 何故なら、奪われた憎しみを飲み込んで平和を作るなんてのは、立派な奴のする事だから。それは普通の奴には出来ない事だから。

 

『―邪魔するな』

 

『―お前もあいつらなの?』

 

『―なら、ぶってやる』

 

 その普通の怨嗟に、俺はまっすぐに向き合う。

 

「―悪いな、それでもここは譲れねえ」

 

 確かに、悲劇があった。

 

 恨みもあるさ。怒りもあるさ。俺だって、何かやらかした奴には落とし前をつけさせるべきだって思う。

 

 だが、それでも―

 

「―あんた等はタガが外れてる。その恨みつらみは、それ以上の苦しみを生んじまう」

 

 ああ、そうなんだよ。

 

 恨みつらみの清算は、すっげえ難易度が高い事なんだ。

 

 無駄に犠牲を増やしたら、その恨みつらみで今度はまた同じ事が起こっちまう。

 

 そして、人を導くに値する立派な人達がそれを飲み干して前に出ようとしている。より良い未来を創ろうとしている。

 

 ……俺は、そいつらに雇われてる。

 

「世の中はいつもこんな事だらけだ。綺麗事を通すのにも力が必要で、そういう事が出来る奴らに限って、やりたい事ばかりやりやがる」

 

 ホントに世の中は理不尽だ。そんなもんは、俺だって痛いほど分かってる。

 

 何にも悪い事してねえ奴が、炉端に転がって野垂れ死ぬ事だって珍しくもなんともねえ。

 

 生まれついた時点で人生ハードモード。誰かが手を差し伸べてくれなきゃどうしようもない。そしてそういうところに住んでる連中に限って、大半が自分のことばかり考えるしかねえ環境だ。

 

 輝き(英雄)に出会えた俺は幸運だった。それが心から俺をここまで導いてくれた。

 

 そして、そんな彼女を迎え入れてくれた場所の連中は、立派に頑張って世の中をよくしようとしている。

 

 それを、邪魔されるわけにはいかねえ。

 

「……悪く思えよ。俺達は、もっと世界を良くする為に、あんた等を踏みにじる」

 

 俺は覚悟を決める。

 

 何かを救うということは、何かを救わないということ。

 

 誰かを守るということは、誰かと敵対するということ。

 

 誰かを選ぶということは、誰かを選ばないということ。

 

 そう、俺はこの子達を選ばない。

 

 俺はもう選んだんだ。なによりも、リセス・イドアルの英雄でいることを。

 

 三大勢力の和平という道を選んだんだ。

 

「一生恨め。俺がお前らにできるのは、それ位しかねえからよ」

 

 その言葉と共に、俺は龍殺しの魔剣を生み出した。

 

 神器は想いに応える。所有者の心を力にする。

 

 ゆえに覚悟を決め直した俺に神器が答えてくれるのは当たり前だ。

 

 ドラゴンの血を飲ませるのは手っ取り早い神器の制御方法。魔王血族の血は、神器のドーピング剤の原料。

 

 だったら、この結果は必然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……戦いは、一瞬で決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリ・ルシファーは祝詞を紡ぎ、極覇龍を展開する。

 

 戦いは一瞬で決まる。いや、決めなければならない。

 

 極覇龍を維持できるのはごく僅かだ。それも、目の前の敵を倒すには最大出力を叩き込む他ない。その消耗は絶大で、一発でガス欠を起こすだろう。

 

 一撃で倒すか、失敗して負けるか。この二つしか結果はない。

 

 そして、負けるという選択肢だけは存在しない。

 

 この男を通してしまえば、どの程度かは分からないが母親に害が及ぶ。その子供達にも害が及ぶ。その夫にも害が及ぶだろう。

 

 その可能性がある。それだけで、ヴァーリが捧腹を倒すには十分すぎた。

 

「覚悟を決めてもらう。……お前は、ここで死ぬ」

 

「言ってくれるな蜥蜴と蝙蝠のキメラ風情が。……邪魔をするなら貴様から殺してくれる」

 

 双方ともに覇の領域。そして、その力は天にすら届く。

 

 ゆえに、決着は一瞬でつく。

 

 ………その一瞬が集中力で桁違いに長く続く中、ヴァーリは決意する。

 

 自分は数多くの無辜の民を救うような人物じゃない。柄じゃない。器でもない。

 

 そういうのは相対する兵藤一誠の在り方だ。自分には性に合わない。

 

 だが、そんな自分でも守りたいものができた。守り合う仲間達ではなく、守りたい大切なものができた。

 

 あの大切な母親(ひと)とその子供達。自分の弟妹を守護する力となろう。

 

 魔王の末裔である自分と、ただの人間である彼女達との間には寿命の差はあまりにも大きい。振り返れば瞬きほどの時間だろう。

 

 だが、その瞬きはいつまでも連続する。

 

 自分の弟妹も結婚して子供を作るだろう。そしてその子供達も結婚して子供を作るだろう。生きとし生きる者達は、そうして繁栄していくのだから、当たり前のことだ。

 

 その瞬きほどの時間の連続を、自分は生涯守り続ける。

 

 ああ、今なら分かる。

 

 兵藤一誠がここまで強くなれたのは、守りたいものがあるからだ。

 

 それは足を引っ張る。枷にもなる。欠点にもなる。

 

 だが、時として叩き込む拳を重くする武器にもなる。強風から身を守る重しにもなる。

 

 ……悪くない。

 

 ゆえに―

 

「……俺の、勝ちだ」

 

「これが、天龍……」

 

 放たれた十束剣を避け、捧腹に致命の一撃を叩き込めたのは当然なのだろう。

 

 確実に致命傷を与えた。すぐにでも捧腹は死ぬだろう。

 

 別段気にするような相手ではない。事情に関しては少々は同情するが、何かを語るような相手ではない。

 

 だが、自然とヴァーリの口は動いていた。

 

「悪いな。俺にだって絶対に侵されたくない聖域がある。龍の逆鱗を知らずに触れた、自分の不幸を嘆くといい」

 

「なるほど、因果は……巡るものか」

 

 その言葉に捧腹は苦笑し、しかし強い視線をヴァーリに叩き付ける。

 

「ならば、その聖域が滅びれば、貴様は私になり果て、るの……だろう、な……」

 

 そのまま死んでいく捧腹を、ヴァーリは沈黙と共に見送った。

 

 その言葉を否定はできない。いや、おそらくなるだろう。

 

 なにせ虐待された恨みをしっかりと殺して報復するつもりなのだ。当然の如くそう言う事になるのだろう。

 

 だが、それでもヴァーリは言い切る。

 

 例え届いていなかろうと、それでも自身に対する宣誓もかねて、ヴァーリ・ルシファーは言い切った。

 

「ならないさ。なぜなら、俺は白龍神皇になる男だ。俺が守り切れないものなど、この世に存在しなくなるのだからな」

 

 もしそれができるとするならば、それはきっと二人だけだろう。

 

 相対するべき存在、赤龍神帝グレートレッド。

 

 そして、自身の宿命のライバルである現赤龍帝兵藤一誠。

 

 そして、その二人が彼女達に手を出す可能性は塵に等しい。

 

 ゆえに、ヴァーリ・ルシファーが捧腹と同じ存在になる事は決してないだろう。

 

 そう、ヴァーリは確信できている自分に苦笑した。

 




まあ、一瞬の勝負でしたが。

一歩間違えれば本当に魔王として世界を蹂躙しているかもしれないヴァーリ。

ですが、彼がそうなることはそうはないでしょう。

なにせ、彼は史上最強の白龍皇にして、白龍神皇になる男なのですから……


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第五章 42

罪は罰を

悪には裁きを、

理不尽な行いには、それに見合った報いを。

それが、普通の人が普通に思う当たり前の因果応報。








そして、普通の人は自分が善の側だと無条件に思いたがる生き物。

そして、正義という大義名分があれば、何だってできる残虐性が人の中にはある。









このエクストラマッチな番外戦は、そういうことを指摘するのも込めてました。

あれです。何事もやりすぎはよくないし、正義を名乗るのなら自分が本当に正義か問い続けなければいけないということです。


 

 リセス・イドアルは激戦をしている自覚があった。

 

 最上級死神の中でも屈指の武闘派であるタナトス。そして、それに率いられる精鋭の上級死神。

 

 激戦は激しく、お互いにボロボロになりながらも誰一人として死者が出ていない状況。単純にいえば膠着状態だった。

 

 そしてその膠着状態を崩すのは、自分達ではない。

 

『……ふむ、そうか。ご苦労だった』

 

 どこからか通信を聞きつけ、タナトスは軽く肩を落とす。

 

 そして、構えていた鎌をかき消した。

 

『捧腹が討たれた。撤収するぞ』

 

『『『『『『『『『『ハッ!』』』』』』』』』』

 

「逃げる気!?」

 

 リセスは追撃するかどうか躊躇する。

 

 最上級死神の中でも、更にその上位に位置するのがタナトスだ。勝算のあるこの状況下で、倒しに行かないのは将来的にまずい。

 

 だが、今のリセスでは文字通り死力を尽くしても届くかどうか分からない相手でもある。

 

 ニエとの決着をつける前に、命を投げ捨てるような真似をするのは躊躇を生む。

 

 そして、その躊躇が相手の逃亡準備を完了させてしまった。

 

『我々も確固たる地位を得る前に戦力を失うわけにはいかないのでな。煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)禁手(バランス・ブレイカー)で物理的破壊力最強の亜種を生み出した貴殿には興味があるが、これ以上の戦闘は我々も望まんよ』

 

 そう言いながら、タナトス達は転移の光に包まれる。

 

 ここからの追撃はリスクが大きすぎる。下手をすれば、敵陣営のど真ん中で孤立するなどという可能性すらあった。

 

 追撃は不可能。これが、転移を多用できる異形の戦いの現実だった。

 

『縁があればまた相まみえよう。私も、貴殿とは心置きなく戦いたいのでな』

 

 などと戦闘狂のような言葉を残して、タナトス達は転移していく。

 

 どうやら既に他の死神達も撤退をしているらしい。戦闘の音が止んでいた。

 

「とりあえず、捧腹の方はヴァーリか聖槍使いが片付けたのかねぃ」

 

「みたいっすね。やっぱヒロイ達は凄いっす」

 

 戦闘で疲れた体を伸ばしながら、美候とペトがそう感想を漏らす中、リセスは息を吐くとスポーツドリンクを取り出す。

 

 激戦でかなり汗をかいた。水分補給は必須だろう。

 

「あなた達も飲みなさい。共闘の報酬に奢ってあげるわ」

 

「ずいぶん安上がりね。もうちょっと金を注ぎ込みなさいよ」

 

 黒歌に文句を言われるが、しかしそれはそれとして飲んではいる。

 

 色々と言いたい事はあるが、とりあえず戦闘は終了した。

 

 捧腹そのものは無力化できたようだ。フェンリスヴォルフもあの様子ではヒロイ達が確保したのだろう。

 

 本来の目的は達成できた。むしろ、自分達が派遣されている間に解決できたのは期間的な意味で好都合だ。

 

 これで、冥界は魔獣騒動の傷跡を癒す事に集中できる。余計な人員を派遣しないで済んだのは、間違いなく僥倖だ。

 

「……では、我々はお暇するとしましょうか」

 

「そうですね、お兄さま」

 

 とアーサーが空間を切り裂き、ルフェイがそれを魔法で支援する。

 

「もう帰るの?」

 

「ええまあ。我々はお尋ね者ですから、長居するのもあれでしょう」

 

「それもそうだにゃん。あんた達みたいなやつらばかりじゃないでしょうし、一応奢ってくれた恩もあるから、迷惑かけるのもあれね」

 

 アーサーに同意した黒歌が更に術で補強し、そして空間を広げる。

 

 そしてがやがやとその裂け目に入っていって、離脱を開始した。

 

 本来な追撃するべきなのだろうが、リセスのペトも追撃はしない。

 

 ……なんというか、腐れ縁と化してしまった所為で積極的に潰しに行く気が失せてしまった。

 

 まあ、またテロ活動をするというのならその時は責任を取ろう。だが、そうでないなら当面自分達は放置しておこう。そんな気になった。

 

「あれ? ヴァーリはほっといていいっすか?」

 

「ヴァーリなら大丈夫だろうよ。放っておいても自力で戻ってくるぜ、あいつなら」

 

 ペトのそう答えながら、美候も裂け目に入る。

 

 そして慎重にペトを警戒しながら、黒歌も裂け目に入る……前にリセスに視線を向けた。

 

「じゃあねリセス。昼ご飯のお礼はこれでチャラよ」

 

「はいはい。貴女も悪さをするんじゃないわよ、黒歌」

 

 そう挨拶を交わし、それを最後に裂け目は閉じる。

 

 ……なんというか、今日は疲れた。

 

 多分、すぐには帰れないだろう。

 

 ヴァーリの母親などというある意味壮絶な爆弾、放っておくわけにはいかない。

 

 ヴィクター経済連合は大義名分を持って動く上にこちらの勢力圏内だからともかく、悪魔側の古だぬきが下手な手出しを出しかねない。

 

 そうならないように、グリゴリが手配するであろう護衛が来るまではガードしなければ。

 

 そう考え、リセスは苦笑した。

 

「……何時の間にやら、身内一歩手前に戻ってるわね」

 

 一度はアザゼル直属という立場だった事もあり味方だった。その後、ヴァーリが裏切ったので敵と認識し直した。しかしなんだかんだで共闘しているうちに、いつの間にやら身内側になっている。

 

 敵味方の認識が曖昧な男を、敵味方で識別しようとすると苦労するということだろう。

 

 まったくもって厄介な事だ。あとで一発ぶん殴ってやりたくなる。

 

 そう思い、リセスはふと空を見上げた。

 

 ……満面の星空が、同情したのか感動ものの光景を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってな事があったんだよ」

 

「ほんっとに大変だな、お前も!」

 

 俺は帰りにハンバーガーショップによって、イッセーに愚痴をこぼした。

 

 いや、マジで大変だったぜ。

 

 本来なら繋ぎのはずで来たのに、マジで捧腹とサードマッチする事になったからな。

 

 しかもヴァーリの母親とかいうド級の爆弾。その護衛で結局数日田舎町で過ごすという事をする羽目になった。

 

 いや、それ自体は別に構わねえんだよ。むしろヴァーリのお袋さんは被害者だしな。英雄として、庇護するのは当然だろうよ。

 

 ただ、なんというかな……。

 

「英雄ってのは、本当に血なまぐさいもんだよ。因果なもんに焦がれちまったもんだ」

 

 ああ、今回はちょっと考えたぜ。

 

 ……捧腹は、決して自分の為に復讐なんてしてなかった。

 

 殺された者がそんな事を望んでいるか分からないっていう、定番の説得だってできやしねえ。

 

 だってその子達は望んでいたから。誰かが報いを与える事を、心から望んでいたんだからな。

 

 やっぱ正論ってのは実行するのが大変だよ。

 

 かの聖人が「右のほほをぶたれたら左のほほも差し出しなさい」とかいうわけだ。そう言うことが言えるすっげえ奴だからこそ、世界中の歴史に名を残してるんだってことだろうな。マジすげえぜ。

 

 そんなの貫いた槍を武器にしてる俺ってのも、ちょっとシャレにならねえ存在だよなぁ。

 

「ま、悪魔祓いの多くも復讐の為にそれを選んだ奴らが多いから、当然っちゃぁ当然か」

 

「なんか、それって悲しい事だよな」

 

 イッセーがハンバーガーを食べる手を止めて、そうぽつりと漏らす。

 

 ああ、悲しい事だよな。

 

 誰かを恨んで、それをぶつけることしか考えられねえ。生き方として、間違いなくあれだ。

 

 だけどな、イッセー。

 

「罪には罰を。悪には報いを。それは多くの()()()()が思う基本なんだ。それを忘れちゃいけねえぜ?」

 

 ああ。そう言う意味じゃあ捧腹は間違っちゃいない。

 

 落とし前をつけるのは当然のことだ。それを前提として、世の中は成り立ってる。

 

 それができなかったらこそ、捧腹はあそこまで行っちまった。それほどまでに裏の世の中は歪んでいた。

 

「……お前は変態ってとこ以外は立派だけどよ、立派になりすぎて周りを振り回しちゃいけねえよ。人は導いたり並び立ったりするもんで、振り回すもんじゃねえ」

 

 ああ、それはお前が覚えとかなきゃいけねえことだと思うぜ?

 

「ああ、そうだな。……なんかいい方法、思いつけるといいな」

 

 そうだなイッセー。お前はやっぱり天然物の英雄だよ。

 

 俺は、ふと空を見上げる。

 

 異形の魂は死ぬと消滅するらしい。死後の世界が基本人間のものなのはその辺が理由だ。

 

 だけど、もしかしたら……。

 

 その残滓ぐらい、あの子達と一緒にいるのかもしれねえな。

 




そんなこんなで第五章も終了です。

オーフィスを迎え入れると同時に、この作品で曹操がどんな「英雄」を目指すのかを書いたうえで、一部の消化不良を解消しました。









普通の定義については人それぞれですので批判的な意見もありましたが、価値観は千差万別ということで納得していただきたい。何分自分、ちょっと訳ありで普通からずれてるところがありますもので、客観的に書いたつもりですが皆様とのずれがあるかもしれないです。









そして次からは第六章。そのあとが最終章になります。

最終章はベリアル偏とルシファー編を使って、リムヴァンとの決着まで書くつもりです。で、第六章はここからそれまでの話を全部使っていこうかと思います。

なので、おそらくイレギュラーズで一番長い話になるはずです。なにせ今まではそんなにたくさんの巻を使ってませんからね。下手しなくても六章は100話を超えるでしょう。ちなみに今はデイウォーカー編でトライヘキサについてリゼヴィムとリムヴァンが話してるところを書いています。

この六章でリムヴァンの秘密についてもある程度開示されますので、お楽しみください!!

あと以前募集したオリジナル派閥も登場します。ウィザード編はその顔見世が中心ですね。あくまで怪人ポジションに近いのでちょい役ですが、雑魚にはしませんのでお楽しみにしてくださいな。


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第六章 リリンの悪意
第六章 1


ついに第六章に突入。ここまで言ってるD×D作品は、めったにないはず!!









昨日は失礼しました。ニエの今後をどうするか考えながら書いてたら思わぬ大失敗をしてしまいました(滝汗


 微睡みから覚めて、俺は目を覚ます。

 

 そして欠伸を一つして、パジャマ代わりのジャージを脱ぐと、そのまま駒王学園の制服に着替えて下に降りる。

 

 近年の研究で、朝起きてそのままトレーニングをするのはかえって体に悪いとのことだ。まあ、水ぐらいは飲んでからにしたい。

 

 と、いうわけで下に降りている間に、イッセー達のいる二階まで下りる。

 

 ……人の気配多すぎだろ。

 

 イッセーの部屋に何人分集まってんだ。いつもイッセーはお嬢やアーシアと眠ってるけど、今回倍以上集まってねえか?

 

 ああ、これもイッセーが死にかけたことが原因か。……いや、あれはもう一度死んでるな。

 

 そのせいでたがでも外れたのかねぇ。それにしたって集まりすぎだろ。

 

 ちょっと呆れながら俺は外を見る。

 

 ……だいぶ涼しくなってきたな。俺が日本に来た時とは大違いだ。

 

 さて、今日は何をして過ごそうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっ。ついにお前も登り始めたと聞いたぞ、童貞を卒業した者だけが進める男坂をな」

 

「おめでとう。俺達は兄弟だ」

 

「ああ、キモイなお前ら」

 

 俺は松田と元浜を速攻で切って捨てる。

 

 こいつら、今だに時々この変態モードが発生するからマジで困る。

 

 いや、悪い奴じゃないんだぜ? むしろ良い奴だと思ってるぜ?

 

 姐さんが童貞を食べて心に余裕ができたから、覗きもやらなくなってるしさ。そう言う意味でも俺はダチと認めてる。

 

 だがキモイ。際限なくキモイ。

 

 童貞卒業という余裕が、一周回って気持ち悪さになってやがる。

 

 そしてそのキモイ視線が、イッセーに向けられた。

 

「イッセー。お前もどうだ、そろそろリセスさんにお願いしてみろよ」

 

「そうだぜ親友。お前も俺達と同じところに上ってこい」

 

「殴っていいか?」

 

 怒りが一周回って笑顔になりながら、イッセーは拳を握り締める。

 

 だろうな。冗談抜きでイラってきただろ今のは。

 

「……まあ、俺もいい加減両手が埋まるぐらい経験人数あるから憐れんでるが」

 

 ついでに言やぁ、松田や元浜より質は良い。

 

 なにせ我が英雄たるリセス・イドアルと、同士たるペト・レスィーヴ。そして俺を英雄にしてくれたシシーリア・ディアラクという三コンボだ。

 

 恋人という方向性はない残念な関係だけど、それでも俺にとってはかけがえのない女性達だ。……本当に残念な関係だ。

 

 それに彼女達から俺に対する感情も十分深いと思ってる。姐さんにとっての英雄が俺だし、シシーリアにとっての英雄も俺だし、ペトから見ても俺はある種の同士だろう。

 

 それに比べて、松田と元浜は姐さんやペトにとっては普通の友達。関係の密度や質で言うのならば俺の方が上だ。残念だったな。

 

 ……そして、イッセーは童貞を卒業してないだけで、恋人がいる。

 

 お嬢とは告白を終えている。ついでにいやぁ、こいつはハーレム王目指してるんだから、よほどのことが無けりゃぁ女の子に告白されて断るなんてことねえだろう。とくにオカ研のメンバーとは絆も強いしな。

 

 そう言う意味じゃあ一番勝ち組なのがイッセーなんだよ。だって俺ら彼女いねえじゃん。すっげえ哀れだぞ、俺達。

 

 ……あれ? なんでイッセー未だに童貞なんだ?

 

「ったく。呆れた事ばかりしてるわね、この馬鹿コンビは」

 

 桐生が呆れ半分でついにツッコミを入れてきた。

 

 ああ、お前から見てもこいつら馬鹿だよな。いや、気持ちのいいバカなんだけど気持ち悪いっつーかなんつーか。

 

「ふっ。どうせ彼氏もいない処女には分かるまい」

 

「お前もリセスさんに抱かれるといい。あの人が女もイケるのはペトで分かってるだろ?」

 

 なんかポージングをしながら、二人揃ってサラリと反論する。

 

「「人生が薔薇色に見えるぞ?」」

 

「うん、それ麻薬キメてるようなもんだからパスで」

 

 凄まじく辛辣な意見だな、オイ。

 

 っていうか流石にそれは反論するぞ。

 

「姐さんをドラッグ扱いすんな。てか、俺はどうなる!!」

 

「うん、あんたは元からなんかキマってる気がするから」

 

 喧嘩売ってんな、このアマ。

 

 いや、確かに俺は姐さんをキメてるっちゃぁキメてるぜ? 俺の脳裏には姐さんの輝きが焼き付いてるからよ。

 

 だが松田と元浜の同類扱いは嫌だぞ。

 

 俺は反論したかったが、しかしそれをスルーして桐生はイッセーに視線を向けた。

 

「ところで兵藤? ちょっと聞きたい事があるんだけど」

 

「なんだよ? 言っとくけど、俺も最近は覗きやってねえぞ?」

 

 うん、空しくなるもんな。

 

 そのまま完全に覗きをやめりゃぁ、きっと普通の女子にもモテるだろうから頑張りな。

 

 そう応援する俺の目の前で、桐生は口を開いて疑問を出した。

 

「リアス先輩のこと、呼び捨てにしてるってホント?」

 

 ………。

 

 おい、爆弾発言やめろ。

 

 クラス中の視線が集まったぞ。マジで集中してんぞこれ!!

 

「おい待てよどういう事だこの野郎!!」

 

「羨ましいぞコラさっさと話しやがれ!!」

 

 速攻で地が出た二人はまあもちろん当然だな。

 

 それどころか、クラス中の視線が集まってざわついている。

 

「え? それってつまり、どういうこった?」

 

「嘘でしょ? 可愛がってるってのは知ってたけど、マジで?」

 

「リアス先輩、ゲテモノ趣味?」

 

「最後! 人のことをゲテモノ扱いすんな!!」

 

 ゲテモノ扱いされたイッセーが、流石に我慢できないと文句を言ってきた。

 

 だがな、イッセーよ。覗きの常習犯であるお前は、ゲテモノってむしろオブラートに包んでる物言いだぞ。自覚しろ。

 

 最近してないからって今までやってきた事実が消えると思うな。お前は駒王学園の女子生徒の大半からしてみりゃ、ゲテモノ以外の何物でもねえ。

 

 最近ディスられてねえからって、気が緩んでねえか、こいつ?

 

「っていうか、ゼノヴィアさんにイリナさんにアーシアさんもイッセーのこと気に入ってるよな?」

 

「うんうん。一年生の子猫ちゃんやレイヴェルちゃんも慕ってるよね」

 

「っていうか先輩って言ったら、姫島先輩もちょくちょく顔見せに来るよな?」

 

 と、クラス中がイッセーのことを再認識してきた。

 

 ……特に最近、登校時はイッセーに抱きつき合戦が勃発してっからな。いい加減誰か気づくか。

 

「なんだ? 明らかに男としてのレベルじゃ俺達が勝ってるのに、負けてる気がするぞ!?」

 

「どういうことだ! どうしてだ!?」

 

 松田と元浜が愕然とするが、そりゃそうだろ。

 

 お前ら遊びで童貞捨てただけだろ。本命が腐るほどいるハーレム王の前にゃ形なしだろ。

 

 つってもこれが知れ渡るのはそれはそれでまずいよな。

 

 なにせ、お嬢はこの学園のマドンナだ。そしてイッセーは最近はましになったぁいえど、覗きの重犯だった問題児だ。

 

 この二人がマジで付き合ってるだなんて事が知れ渡りゃぁ、高確率で騒ぎになる。下手すりゃイッセーが闇討ちされかねねぇ。

 

 いや、されても大丈夫だとは思う。っつーかイッセーならただの人間相手に殺される事はねえだろ。それ位には強くなってるしな。

 

 だけど、それはそれとしてないならない方がいいに決まってるしな。

 

 さぁて、どうしたもんか……。

 

「あ、皆。今日の放課後のことで話があるんだけど、いいかな?」

 

 と、まさにそのタイミングで木場が教室から顔を覗かせて声を変える。

 

 なんツーいいタイミングできやがったんだ、木場の奴。

 

「あ、ああ分かった! ほら、皆も行こうぜ!」

 

 これ幸いと、イッセーはすぐにアーシア達を促して教室から出る。

 

 俺ももちろんついてきた。ま、今回の放課後は俺はあまり関わらねえんだろうけどな。

 

「あ、おいイッセー! 肝心なこと聞いてねえぞ!!」

 

 松田が止めるが俺達はスルーする。

 

 悪いな松田。あんなところで話す様な内容じゃねえんだよ。

 

「……木場、助かったぜ」

 

「どうかしたのかい?」

 

 イッセーに拝まれた木場が、何が何だか分からない表情を浮かべる。

 

「ああ、お嬢とイッセーが付き合ってる事がばれそうになってな」

 

 俺はそう言うが、木場は軽く苦笑した。

 

「ああ、部長も明らかに機嫌がいいからね。彼氏が出来た事はほのめかしてるみたいだよ」

 

 お嬢の所為かい!!

 

 お嬢。気持ちは分かりやすが、もうちょっと落ち着いてくだせぇ。イッセーが大変な事になっちまいやすぜ。

 

 ま、これについては後で言っとくとするか。

 

 などと思いながら歩いていると、ゼノヴィアがイッセーの右手に抱き着いてきた。

 

「ふふふ。イッセーの腕にしがみつけるチャンスが来るとは思わなかったぞ」

 

「お、おいゼノヴィア! このタイミングでそれは―」

 

 イッセーが慌てふためくが、更に左腕にアーシアまでしがみついた。

 

 涙目になってむくれてるよ。よっぽど悔しかったらしい。

 

「ゼノヴィアさん、ずるいです! 私が最初にイッセーさんを好きになったんですよ!」

 

 アーシアぁあああ!! こんなところでそういうこと言ったらあかん!!

 

 偶然人がいなかったからよかったけど、声でかいから! 誰が聞いてるか全く持ってわからねえから!!

 

「や、やっぱり背中と肩車しか手がないのかしら!」

 

 イリナ。お前もう黙った方がいいと思う。

 

 っていうかな?

 

「お前ら、もうちょっとイッセーに対する迷惑とか考えたらどうだよ」

 

 俺はなんとなくそう思ってツッコミを入れる。

 

 ああ、まあ一度死んだような状態になったこともあってタガが外れてんだと思うぜ? そりゃもう好き好きアピールしないという選択肢はねえんだろうよ。

 

 ただよ、お前ら節度は保て。

 

「愛は真心、恋は下心っていうだろ? 本気で好きなら、リターンを求めるより相手に何か与える方がいいんじゃねえか?」

 

「何を言うか! 愛とはギブアンドテイク! 打算的ではないものは恋というともいうぞ!」

 

 即座に反撃してきやがるところ悪いが、お前は致命的なことを忘れてっぞ、ゼノヴィア。

 

「いや、イッセーにとってこれ、負担以外の何物でもねえだろ。お前らはイッセーの気持ちを考えることが足りてねえ」

 

 ああ、マジで足りてねえ。

 

 なんで言い切れるかって? ペトから聞いてんだよこの馬鹿の暴走は。

 

「お前、野郎にとって女と一緒にエロゲやらされるのは恥辱以外の何物でもねえんだよ」

 

 ああ、マジ聞いた時はイッセーに同情したね。

 

 お前、エロゲーを女達の前でプレイするとか、もう恥辱を通り越して絶望だろうが。俺なら逃げるね、全力で。聖槍抜いて壁をぶち抜くぐらいのこたぁするわ。

 

「お前もお前だイッセー。してほしくないことやできないことはきちんとそう言え。甘やかすからつけあがるってよく言うだろ」

 

「ま、待ってくれ! 木場にも似たようなこと言われたけど、やっぱりそれは―」

 

「それはダメね」

 

 と、ここで姐さんがイッセーのセリフをさえぎって登場した。

 

「できないことを無理にしようとしたら、できることまでできなくなるわ。相手のことを思うなら、時に厳しいことを言うのも立派な優しさよ」

 

「リセスさんまで!?」

 

 思わぬ攻撃に、イッセーはががーんという表情を浮かべる。

 

 だがイッセー。ここは一応聞いといた方がいいだろう。

 

 姐さんは頼りがいのある女であるべく頑張ってるからな。いろんな相談を受けたこともあるだろう。

 

 そこからくる意見だ、きっと役に立つ。

 

「イッセー。甘やかすことと優しくすることは違うの。優しさっていうのは、嫌われてでもその人のためになることをすることよ。嫌われないことをするのは甘いっていうの」

 

「無理です! 俺はリアス……部長たちに嫌われることなんてできません!!」

 

 駄目だこりゃ。

 

「だったら強くなりなさい。人はできること以上のことはできないの。今のあなたはできないことを無理にしようとしてどんどん限界に向かってるわ。そのままだと今度こそ死ぬわよ?」

 

「「「えっ!?」」」

 

 姐さんの指摘に、イッセーより先にアーシア達が過剰反応した。

 

 ……ははぁん? 姐さん、そっちが本命だな。

 

 イッセーの性格なら好きな女の子に順位をつけたり厳しくできないって分かってて、アーシア達に自重させる事を目的としていたな?

 

「そりゃそうでしょ。無理をさせ続ければ壊れるのは当たり前。……そんなことも分かってないの?」

 

 そのまま説教の対象をアーシア達に向ける姐さん。

 

 流石は俺の英雄だ。こういう時こそ年長者の貫禄が出るってもんだぜ!!

 

「……ヒロイ。流石に私も年を気にする年齢なのよ?」

 

 すいませんっしたぁ!!

 




先ずは日常回。

しかし、ここから戦いも激戦度が上昇していきますぜぇ?


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第六章 2

日常回その二。ですが今回はちょっと不穏な展開も……?


 

 今頃、イッセー達は魔法使いの契約関係で動いている頃だろうな。

 

 今回は、放課後のオカ研には俺は参加してねえ。

 

 何故かって? ほら、流石に悪魔稼業の結構ピーキーというか守秘義務が関わりそうな仕事に深入りするのもあれだろ?

 

 お嬢達は気にしねえだろうが、それに甘えてるわけにもいかねえだろうからな。

 

 と、いうわけで俺は最近入り浸っているヤリ部屋に来て、そんでもってしっかり楽しんでから帰ってる真っ最中だ。

 

 ちなみに姐さんは今日は来てねえ。用務員の仕事の都合で行きたくても行けなかった。

 

 滅茶苦茶悔しそうだった。あの人、根っからのビッチなんだな。

 

「たまにはお姉さまのいないところでヒロイとするのもいいもんっすねぇ」

 

「まあ、マンネリって言葉があるしな」

 

 と、一緒に参加したペトと、イッセーのお袋さんに頼まれた買い物をしている。

 

 周りからは「……あら、恋人?」「今、すっげぇふしだらな言葉が聞こえたような……」「最近の高校生は進んでるなぁ」などと言われてるが無視だ無視。

 

 っていうか私服で来たのに、何で高校生だって分かった。大学生の可能性とか考えろよこの野郎。いや、高校生だけど。

 

「ペト、少し声のトーン落とした方が……」

 

「えい」

 

 オイコラ胸押し付けるなぁあああああ!!!

 

「どうしたっすかぁ? 今更この程度で恥ずかしがるような関係じゃないっすよねぇ?」

 

「確かにそうだけど! この辺これからも利用するってこと分かってるか、オイ!!」

 

 このアマ、ノリがビッチだから全然気にしてくれやしねえ!!

 

 い、いかん! こうなったら手っ取り早く買い物を終了させるしかねえ!

 

 えっと、確かこっちのスーパーの方が安い卵と牛肉を頼まれてたんだよなっと。

 

 手早く片付けようと思ったその時―

 

「―なるほど、彼が聖槍使いですか」

 

 ―そんな言葉が聞こえて、俺はとっさに振り返った。

 

 ……誰もいない?

 

「ペト、なんか妙な奴いなかったか?」

 

「ん? いや、特に見えないっすね」

 

 ペトの視力で確認できないって事は、声が聞こえる範囲にはいないって事だよな。

 

 なら大丈夫か? 気の所為だったか?

 

 冷静に考えりゃ、この駒王町に張られた結界は三大勢力関係なら最上級だ。

 

 敵が侵入すればほぼ確実に発見できる。少なくとも、並の上級悪魔や堕天使じゃ不可能だ。

 

 和平成立の場所だから権威的価値はでかい。化け物揃いのオカ研もがいるから、戦闘になった時の脅威度もでかい。ついでに言えば、グレモリー次期当主のお嬢と堕天使元総督のアザゼルもいるから、獲物としてもレベルがでかい。

 

 だがその分難易度もでかい。加えて言えば、戦術および戦略的な立地がいいわけでもねえ。そう言う意味じゃ旨味は中途半端だ。

 

 これまで手を出した連中がもれなく痛い目を見てきたわけだし、そう簡単に仕掛けてこねえとは思うが……。

 

「そう言えばヒロイ、この話聞いてたっすか?」

 

「なんだよ?」

 

 ペトが話を振ってきて、俺はそっちに意識を切り替える。

 

「この近くに、新しく自衛隊の駐屯地ができるそうっス。それも、対神話異形を専門にした部隊の駐屯地だそうっスよ?」

 

 マジで?

 

 そんなもん、ここに作る必要あるのか?

 

 俺は疑問に思うが、ペトはむしろ納得だった。

 

「ま、最近のヴィクター絡みのトラブルにいっぱい関わってるのがオカ研っすからね。その辺のサポートとか、あの人型兵器の訓練も兼ねて、近くの山間部に作ってるそうっすよ? いわゆる秘密基地っす」

 

「そんなもん作る金、どっから持ってきたんだよ」

 

 自衛隊は金が制限されてるって話を聞いた事があるんだけどな。

 

 そんな状況でんなもん作る余裕あんのか。マジか。

 

「総理官邸とか京都とか有明とかの騒ぎで、国防意識が高まってるんスよ」

 

「ああ、確かになぁ」

 

 冷静に考えりゃ、第二次大戦後の日本の歴史じゃトップクラスの大騒ぎだろうしな。

 

 国内であんな激戦が連発でおこりゃぁ、そりゃ危機意識も強まるか。

 

 なまじ平和ボケが多い国だからな。反動で一気に強兵にかじ取りされたって事だな。ヴィクターに対する警戒心が強くなったって事か。

 

「それに、日本を足掛かりにしようと各勢力が金回してるっすからね。アースガルズとか、前から囲ってた魔法使いとかの協力の元、色々金策も成功してるそうっすよ」

 

 へぇ~。日本って経済大国だけど、この調子だと資源大国にもなりそうだな、オイ。

 

 ただでさえ他の大国は異形関係じゃ出遅れてるからな。なまじ聖書の教えを信仰していたから、それ以外を受け入れにくいって感じだ。挙句に教会は色々な意味でガタガタだしな。

 

 その辺、日本はそういうのに緩いからな。そう言う土俵はしっかりあるってわけか。なるほどなるほど。

 

 結果的にヴィクターのおかげで躍進してるってことか。流石日本、転んでもただでは起きねえ国家だ。第二次大戦時の軍需産業が、ほぼまるっと大手として残ってるって話を聞いたけど、その強さが今ここになって出てきてるってわけだな。

 

「尚更変な連中は入ってこねえか」

 

「いや、自衛隊の駐屯地は秘密基地っすから、たぶんヴィクターも気づいてないんじゃないっすか?」

 

 ……不安になること言うなよ。

 

 まあ確かに、絶対侵入されないってわけじゃねえだろうしな。

 

 いくらここが三大勢力関係でも上位に位置する結界が張られてるっつっても、無敵じゃねえ。ハーデス辺りが全力でステルス関係にサポート割り振ったら、すぐには気づかれねえ可能性もある。

 

 最近大幅に減ったっつっても、ヴィクターに内通している連中やスパイがゼロってわけじゃねえだろうしな。

 

 ハーデスから離反した死神の中にも、実はスパイのハーデスのシンパが潜り込んでるって可能性はある。少なくとも、アザゼル先生は数十人ぐらいは予想してるらしい。

 

 最終的にリムヴァンに追い込まれて下っ端から始める羽目になったっつっても、英雄派と旧魔王派をいいように利用したって実績があるしな。その程度の腹芸はするだろうよ。

 

 ……警戒は、キチンとしとくべきか。

 

 今日から、深夜パトロールもきちんとしとくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、小猫の特訓とかはどうするのよ?」

 

 深夜の一室で、リセスは黒歌を誘ってだべっていた。

 

 というより、最近用務員の仕事が忙しくてヤ○部屋に行けてない愚痴をこぼすつもりだった。

 

 だが、顔を見せてみれば黒歌は何やら参考書のようなものを見てうんうん唸っている。

 

 で、聞いていたら小猫の仙術修行の為の準備だそうだ。

 

「まあ、腕がいいのと指導者として優れてるのは別問題だし、そういうのを調べるのは良い事よね」

 

「まあね。ほら、私は天才だから感覚でどうにかできるし?」

 

「実戦デビューに二年かかった私に対する嫌味?」

 

 微妙に遂げのある応酬だが、リセスも黒歌も本気ではない。

 

 たまにこういうのを混ぜるぐらいがちょうどいい。そういう気の置けない関係になっていた。

 

「まあ、人に教えられるようになるっていうのは凡ミスとかないもの。いい勉強になるんじゃない?」

 

「失礼にゃん。この天才にそんなミスがあると思ってるのかしら?」

 

 そんなことを言いながら、リセスと黒歌は菓子をつまむ。

 

 そして、その手が少し止まった。

 

「……黒歌。小猫との関係改善、本気で進めなさい」

 

 リセスとしては、本当にそう言う他ない。

 

「最近の転生悪魔の反乱で、冥界は転生悪魔の扱いを見直してるわ。その一環で、あなたの事件も再捜査が進んでるそうよ」

 

「誰から聞いたのよ」

 

 黒歌に少し呆れられるが、しかしリセスは引かない。

 

「……私は、親の顔も知らない。ニエとも仲直りできるはずがない」

 

 リセス・イドアルは孤児だ。親がどんな存在だったのかは、もう分からないだろう。

 

 リセス・イドアルはニエに恨まれている。自業自得な上に神経を逆なでしたのだ。最早、謝っても許されることはない。

 

 だが、黒歌は違う。

 

「貴女は一応、親の顔は覚えてるんでしょう? その辺をとっかかりにすれば―」

 

「―無理ね」

 

 黒歌はそうはっきりと答えた。

 

 それは、拒絶ではなく諦観。それも、確固たる事実として意味がないとでも言いたげだった。

 

「なんでよ? どうせホテルの襲撃はリアスを訝しんでたとかそういう方向で―」

 

「私の父親は、研究者だったわ」

 

 黒歌はそう遮った。

 

 それは、黒歌が父親についてはっきりとした記憶があるという事。

 

 そして、それがいい思い出ではないという事が表情で分かる。

 

「あまり言いたくないけど、ろくでもない親父だったわ。それに、たぶんアイツとも関わってる」

 

 そのアイツというのは、黒歌が殺したという前の主のことなのだろうか。

 

「白音のことを調べてる時に知ったのよ。アイツが死んだ後、魔王達が捜査する時にはいろんなものがなくなってたって」

 

 その事実に、リセスは寒気を感じた。

 

 何がなくなっていたのかは言うまでもない。

 

 黒歌の主は、眷属の強化に熱心だった。だが、それは真っ当な方法ではなかった。

 

 自分やヒロイの移植手術が可愛く思えるぐらい、危険な研究や実験をしていたともいう。

 

 冷静に考えればおかしかったのだ。

 

 主の方が違法な研究をしていると分かっているのなら、小猫の保護の際にはそちらを中心として黒歌も含めて弁護されるだろう。サーゼクス・ルシファーという魔王はそういう男だ。

 

 それが、妹には罪がないという理由で弁護した。この時点で黒歌の証言とは食い違いがある。

 

 ……答えは簡単だ。それが分からなかった。だから、そこをついて守る事ができなかった。

 

 もしかすれば、上役がそれに目をつける可能性があるから黙っていたという事もあるが、それでもリアスがいい年になったら告げるだろう。黒歌と戦闘した時ぐらいに匂わせてもいいはずだ。

 

「……大王派辺りが動いたのかしら?」

 

「旧魔王派って可能性もあるわね。ヴァーリがそっち経由で聞き出した情報だから」

 

「ってことは旧魔王派に繋がってる悪魔がまだ残ってるかもしれないわね」

 

 あとで魔王様に伝えておかねばならないと思いながら、リセスはため息をついた。

 

 本当に悪魔という種族は度し難い。リベラルか老害の二択しかいないのではないかと思っていしまうし、リベラル筆頭のサーゼクス達は若手すぎるゆえに発言力が意外に低い。

 

 しかも内容が内容だ。下手につつくとこちらが致命傷を負いかねない。

 

 おそらく最上級悪魔の中にも、老害の割合は多いはずだ。純血悪魔の五割ぐらいは最低でも老害側だと判断した方がいいだろう。

 

「……まあ、そんなにムリムリ言うことないと思うけどね」

 

 話を切り替える半分、本音半分でリセスはそう告げる。

 

 黒歌が怪訝な表情を浮かべるが、リセスはそれに対して自分を指さして自嘲気味に嗤った。

 

「私みたいな雌犬を受け入れてくれる子達よ? 貴女の事情なら斟酌してくれるわよ」

 

「……説得力が抜群にゃん」

 

 そうだろうそうだろうと、リセスは不敵に笑う。

 

 ……正真正銘の雌だった自分の過去を知って、そしてそれを正当に恨んでいる者の復讐者が襲い掛かり、そしてそれでも守ろうとしてくれた。

 

 そんな御人好し達が、相手に非がある殺しで手の平を返すわけがないだろう。

 

 まあ、ある程度はけじめをつけるべきではあるのだが、それはそれとして関係修復ぐらいはしてもいいはずだ。

 

「イッセーにも相談しなさい。小猫が大好きな赤龍帝君なら、きっと力になってくれるわよ」

 

 そう言いながら、リセスはもう一度酒をあおる。

 

 ……そう、黒歌は関係を改善させる余地がある。

 

 それが、少しだけ羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ヒント:シスコン


いつの間にやら黒歌と腐れ縁になりつつあるリセス。いろいろやらかした側だということで気が合いそうだと思ったので、これからも絡ませる予定です。


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第六章 3

下手な中二作品と違って、D×Dは修行パートがあるのがいいですよね。


 日夜俺達の戦いは激化している。

 

 インフレがどっかのジャンプ漫画並っつーか、なんというかインフレがシャレにならねえ状況なのが俺らだ。つい最近まで下級悪魔だらけの状況だとは思えねえ。

 

 そんなわけで、当然俺達は修行を続ける必要があるわけだ。

 

 ってわけで、俺達は修行を積んでる。

 

「はい、次は八の字移動!!」

 

「ほいやッス!」

 

 俺が磁力操作で動かした魔剣を、ペトが狙撃する。

 

 ついでに言うと俺は複数本操作しており、その起動を上手くコントロールする特訓。その軌道が交差する瞬間を見計らって、ピンポイントで狙撃するのがペトの特訓だ。

 

 ついで言うと、俺は今回対光力の魔剣を用意してるんだが、二振り程度ならあっさり吹っ飛ばされている。

 

 以前試した時も木場の聖魔剣すら、作りが甘い奴ならあっさりぶち抜いたからな。ペトの火力が大幅に向上してるな。

 

 それもこれも、オーフィスが黒歌とルフェイの協力の元開発した特別製の蛇のおかげだ。

 

 魔弾の蛇(ウロボロス・ザミエル)すげえ。神器抜きのディオドラより火力が上昇してる当たり、もう最上級クラスに到達してっだろ。性能向上しすぎだな。

 

「火力、上がってんな」

 

「まったくっす。おかげでこれからもお姉さまの力になれそうっすよ」

 

 俺が火力に呆れ半分で感心すると、ペトは得意気に胸を張る。

 

 ペトの最大の問題点である、狙撃の精度以外が上級堕天使クラスっていうのも克服されたわけだ。これで戦力は大幅に向上するわけだし、なるほどなるほどすげえなこりゃ。

 

「ま、ドーピングだよりで偉そうにするわけにはいかないっすけどね」

 

「実戦ならいいだろ。俺も姐さんも似たようなもんだしよ」

 

 そう言いながら、とりあえず休憩。

 

 塩飴舐めながら水飲んで休みつつ、俺とペトはトレーニング空間を見渡した。

 

 冥界の地下に創られた、グレモリー眷属とその仲間達の専用空間。まず間違いなく若手悪魔としては特別待遇だな。

 

 まあ、それぐらいしねえと俺らの訓練はできねえんだがよ。火力がでかすぎて被害が甚大だから街中じゃできねえ。どんだけだよグレモリー眷属及び俺達。

 

「いや、今の自分でも火力じゃ中の上ってのがすごいっすよねぇ。シャレにならねえッス」

 

「同感。つーか俺、どっちかっていうと火力低めじゃねぇか?」

 

 いや、槍王の型を使えば一撃の威力なら何とかなるんだけどな。

 

 あれは負担がでかいから連射ができねえからな。イッセーのクリムゾンブラスターも連射はきかねえ……様でいて、お嬢と協力すりゃ行けるからな。

 

 俺達がいない時に、イッセーはさらなるパワーアップをした。お嬢の乳に譲渡を行いパワーアップした。乳の嵩を一時的に引き換えにしてエネルギーを補給する力に目覚めた。

 

 ……うん、なんでそうなる。

 

 なんつーか、あいつのパワーアップは何もかんも分からねえ。

 

 乳首つついて禁手に至るってのはまだ分かるぜ? 禁手ってのは精神的な成長とか覚醒とかが必要と言われてっからな。そりゃ強い精神的衝撃を受けりゃぁパワーアップするだろ。

 

 頭がおかしい芸当だけど、だがまあそう考えりゃぁあいつのスケベっぷりなら納得できねえわけじゃねえ。

 

 そっからだ。問題は。

 

 おっぱいおっぱい言ってる歌聞きながら、乳首をつついて暴走状態から回復。

 

 異世界からやってきた、乳の神の使いから力を借り受ける。

 

 大量の痴漢を作り出す事を代償に、つつく為の乳を召喚する。しかもつついたらパワーアップしかけた。妨害されても発想の転換で味方のパワーアップに変化させた。

 

 そしてぼっこぼこにされたと思ったら、乳から放たれた光で禁手の上位形態を形成。

 

 とどめにおっぱいをパワーアップさせておっぱいタンクというおっぱいカートリッジを作りやがった。

 

 もうどっから突っ込んでいいか分からねえよ。しかも説得力だけはあるから困る。

 

 神器は精神に影響を受けっからな。おっぱいに取りつかれているイッセーなら、神器が影響受けてもおかしくねえ。

 

 俺は、なんか頭が痛くなってぼやいた。

 

「……イッセー。どこに行くんだろうな」

 

「前代未聞のおっぱい好きっすからね。おっぱいがあるなら前人未到の領域に行きそうっす」

 

「もう行ってんだろ。禁手の上位形態とか前代未聞だろ既に」

 

 ペトにそう答えながら、俺はどうしたもんかと考える。

 

 あいつ、ホントにどこまで成長するんだろうなぁ。

 

 ああいうのが天然ものなんだよ。人工品の俺は追いつくのに苦労するぜ。

 

「……そういや、あの戦いでパワーアップしたのは木場もだったな」

 

「リアス部長も新技研究中だそうっすよ?」

 

 うん。ちょっと気になるな。

 

「見に行くか?」

 

「そうっすね」

 

 よし、ちょっと見に行くか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、俺たちゃ汚れ役ってか?」

 

「仕方ねえだろ。いくら派閥になったっつっても、俺らは所詮傭兵だ。……後ろ暗い仕事を押し付けられるんだろうよ」

 

「そこまで落ち込む事ねえだろ。直接動くのは俺らだが、ちゃんと声明は上が出すんだろ?」

 

「ホントに出すかぁ? 言っちゃなんだが、運営人の連中は俗物だぜ?」

 

「安心しろ。命令の内容の音声記録もらっている。約束を違えたのなら即座に公開していいとのことだ」

 

「マジですかリーダー。誰がそんなもんを?」

 

「宰相のリムヴァンだ。あの男は、性根は腐っているが契約には律儀だよ」

 

「そういやそうだったな。報酬をケチったりもしねえし、俺らの中でも腕利きには神器移植してくれたりしてるし」

 

「契約はきちんとしてるよな。案外良い奴なのか?」

 

「んなわけねえだろ。バアルとグレモリーのレーティングゲームで何やらかしたか忘れてんのかよ」

 

「確かに。良い奴はガキンチョの前でポルノ動画なんて見せねえわな」

 

「そりゃそうだ」

 

「だけどよ、他の連中も乗り気ってのはマジなのか?」

 

「ああ。南米戦線のアステカや、ヨーロッパ中心のファミリアからもエース格が出るってよ。それと新入りの……りひてぃーかーちゃん?」

 

「リヒーティーカーツェーンだ」

 

「呼びにくいっつの! どういう意味なんだよ」

 

「K9からとったんじゃねえか? あいつ等、自分のことを捨て狼って言ってたしな」

 

「じゃあリヒーティーは?」

 

「ゴミって意味だよ。英語に直すとトラッシュケーテン」

 

「ああ、狼だから10なのか。犬は9だしな」

 

「警察犬ならぬ軍用狼のゴミってか。自虐的だねぇ」

 

「アステカの連中は分かり易いんだがな。あいつら教会からの離反組にも喧嘩売ってくるから折り合い悪いのに、よくこっち来たな」

 

「そりゃ教会側が落ち着いたんだよ。あいつ等、騙されたから信仰捨てたのに教えに従ってる節あったからな」

 

「だからってアステカも大人げねえだろ。神話の方からは中堅どころしか支援もらってねえって話だぜ?」

 

「何処もそんなもんだよ。トップの連中は鎖国決め込むかリベラルに連合組むかの二種類だっつの」

 

「俺らやあっちを離反した連中を囲ってるやつらもいるみたいだけどな」

 

「折り合いっつったら、リヒーティーカーツェーンとノイエラグナロクの連中、良く折り合いついてるよな」

 

「そういやそうだな。古参のノイエラグナロクが文句言ってきそうだけどな」

 

「そりゃお前。カーツェーンもアースガルズの連中をぶっ殺すつもりだからだろ? 敵の敵は味方ってよく言うじゃねえか」

 

「そのあと殺し合いそうで怖いんだよ。っていうか名前も分かりにくいっつの」

 

「頭ひねったんだろうな。こういうのはシンプルな方がいいってのに」

 

「名前っていや、ファミリアってどういうこった? あいつら基本的に人間だろ?」

 

「ばか、意味が違うよ。あれは使い魔じゃなくて家族って意味だ」

 

「そういやファミリアの連中も、よくもまぁ教会からの離反組と折り合いつけてるよな? あいつらの経緯から言っちゃ、ぶっ殺す気になるんじゃねえの?」

 

「俺、ファミリアの連中と飲みに行ったけどよ、同情的だったぜ? 枢機卿の連中にいいようにされた被害者だとかしみじみ言ってたな」

 

「そう言う解釈もありか。なるほどなぁ」

 

「ま、それはともかく俺らもマジで大仕事だ。報酬はでけえがとっ捕まりそうだしな」

 

「だな。気合入れるか」

 

「旧魔王派の幹部連中は軒並みボコられるし、英雄派の幹部共やイグドラフォースの奴らもてこずったしな。できる限り足止めしねえとな」

 

「それでリーダー。いつ頃仕掛けますか?」

 

「……カーミラ派のスパイによると、カルンスタインの者が接触を図るようだ。Lによれば、そのあと何人かが出立するはずだから、その隙を狙えと」

 

「了解でさぁ。じゃ、気合入れるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの魔境、駒王町の連中に喧嘩売るとか、マジで死にそうで勘弁してえけど、これも仕事だしなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




修行パート……と見せかけて、敵の暗躍を描いたお話でした。

以前活動報告で募集した、オリジナルの禍の団の組織をここで出しまくります。いろいろ考えた結果、先出ししたコノート組合や、自分で考えた組織を含めて四つほど出すことにしました。

彼らは基本的にカマセの怪人ポジションですが、中ボスとしての戦闘能力は十分あります。其れなりにドラマも書けたらいいと思っているので、お楽しみください。









そして魔境扱いされている駒王町。でも考えてみてください。

魔王の妹二人と、龍王やら天龍やらの伝説級のドラゴンを宿すもの。加えて堕天使の元総督が在住。さらにこの作品では神滅具使いが二人も参加しています。

それも、禍の団にとって最大の敵である三大勢力の和平が成立した土地でもあるわけです。

……地球上でもかなり攻略しづらい地方都市だと思いますね、自分は。


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第六章 4

修行回です。今度こそ修行風景を見ていきます。


 

 俺とペトがまず行ったのは、近くにいる木場とイッセーのところだった。

 

 リアス・グレモリー眷属ツートップの2人のガチ訓練は、近づける連中も少ねぇからな。他の連中はメニューが違うし、当然こうなる。

 

「ヤッホーっす! 調子はどうっすか?」

 

「やあペトさん。それにヒロイくんも」

 

 疲労困憊の様子で、木場が苦笑しながら手を上げる。

 

 イッセーも遅れて気づいて、俺達に手を振った。

 

「そっちは休憩か? 俺達もなんだよ」

 

「まあな。ついでに他の連中の訓練の成果を見てみようと思ってよ」

 

 ま、こっちはこっちで大変みたいだがな。

 

「まだなれねえのか、紅の鎧には」

 

「ああ。ドライグが最近眠りっぱなしだからさ」

 

 俺に応えるイッセーは、少し心配げな表情だった。

 

 最近、ドライグは眠ってばかりだという。

 

 イッセーの体を新造する時に、結構無理をしたらしい。それで疲れてるって話だ。

 

 まあ、体が消滅するって時点で大事だしな。その上、龍神まで使って新しく作るとかすっげえ大変そうではあるな。

 

 その所為で、真女王や譲渡強化の類が練習できねえってのが難点だ。

 

 まだ姐さんと木場の僧侶組が同時展開できるかも分からねえ。できるかどうかで戦術の組み立てが大分変わるからな。できりゃぁすぐにでも回復してほしいんだが……。

 

「まあ、気長に待つしかないね。他にする事も多いからさ」

 

「そうっすね。っていうか、顔色悪いっすけど大丈夫っすか?」

 

 ペトが木場を気遣うのも当たり前だ。

 

 割と顔色が悪いな、木場の奴。

 

 魔帝剣グラムの練習が今回のプログラムだったんだが、どうやら呪いがきついみたいだな。

 

 聖槍とか近くに置けば呪いは解けそうなんだが、木場は悪魔だから浄化されちまうだろうしな。どうしようもねえ。

 

「ただ振るうだけで体力や生命力が削れるよ。下手に全力を出せば、寿命すら削れるだろうね」

 

 なんつーリスキーな魔剣だよ。

 

 そんなもん平然と使ってんだから、ジークフリートの奴は頭がどうかしてるとしか言いようがねえ。

 

 正気の沙汰じゃぁ使えねえ魔剣ってか。かの高名なシグルドってのは、どんな気持ちで振るってたんだろうな。

 

「他の魔剣もこんな感じなのか? ジークフリートの奴は五本持ってた時期もあったが、何考えてたんだかねぇ」

 

「長生きする気はなかったんだと思うよ? それか、元居た施設で生命をいじくられていた可能性もあるね」

 

 俺のボヤキに対する木場の答えに、俺は頭を抱えたくなる。

 

 ほんと、どこも暗部ってのは頭いかれてる奴が多くて困る。和平がなされて大分ましになったし、必要悪ってのもあるけどな? 中にはとんでもない事ぶちかます奴がいるから困るぜ。

 

 バルパーとかが主導していた時の聖剣計画とかも酷かったしな。マジ勘弁してほしいぜ。

 

「それ、使わないって手もあるんじゃないっすか?」

 

「いや、それはもったいない。せっかくグラムが選んでくれたんだし、安全に使う方法を考えてみるさ」

 

 木場はそうペトに応えるが、俺はなんだか不安になってくるぜ。

 

 こいつ、イッセーのこと見習おうって節があるからな。それはそれで良い事なんだけどよ、悪いところまで見習いそうで怖い。

 

 最終手段にとっとけよ? 使いどころを見極めねえと、早死にするぞ。

 

 せっかく万年生きれる悪魔になったんだ。二十年も生きてねえのに死ぬなんて、もったいねえにもほどがある。

 

 ま、俺らが使わせねえ様に立ち回る事も考えねえといけねえって事か。

 

 有名どころのドラゴンは、大方こっちに協力的だしな。ま、そう簡単に使う事にはならねえだろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、次はイリナの指導を受けてるゼノヴィアの方に向かってみる。

 

「あ、ペトさんにヒロイくん!」

 

「やあ、二人とも休憩か?」

 

「そんなところっすー」

 

 ペトが元気よく挨拶し、俺はエクス・デュランダルに視線を向ける。

 

 これ、冷静に考えるとエクスカリバーとデュランダルの合体っていうシャレにならねえ豪華仕様なんだよなぁ。

 

 いくら和平がなされたからって、教会も大盤振る舞いだな。ストラーダ猊下は高齢だから前線を引くのも当然だろうけどよ、クリスタリディ猊下はまだ現役で行けるだろ。

 

 エクスカリバーの人工的な使い手は見繕えるはずなんだが……。

 

「そういや、聖剣計画ってどうなったんだ?」

 

「ああ、聖剣計画は完全凍結よ」

 

 マジか。この状況下でよくもまあやるもんだ。

 

「この戦力必須の時期にっすか? 思い切ったっすね」

 

「それもそうなんだけど、御使い(ブレイブ・セイント)で埋めれるもの。教義的に聖剣因子の移植や抜き取りはどうかって話になったのよ」

 

 ああ~。だからエクスカリバーも一か所に集められるってわけか。なるほどなぁ。

 

「で、使いこなせそうか?」

 

 俺が聞くと、ゼノヴィアは暗くなった。

 

 ……この女。エクスデュランダルを破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)とデュランダルの機能だけで使っていくつもりだったらしい。

 

 おい、エクスカリバーの残りは他に分けてやれよ。戦力の一極集中の無駄遣いにもほどがあんだろ。俺はそう思ったね。

 

 だけど、俺達がヨーロッパで捧腹とやり合ってることにミリキャス様に色々言われてへこんだとか。

 

 まあ、まったく使わねえのはもったいねえわな。

 

「単純に攻撃を叩きつける私からすれば、いくつもの能力を複合させるのはどうも性に合わなくてな」

 

「ああ~。確かにそれは慣れが必要っすね」

 

 ペトも納得する理由があったな。確かに、気性的にも経験的にも、ゼノヴィアはそういうのに向いてねえか。

 

 エクスカリバーは、七つの機能を持っている聖剣だ。

 

 単純に威力がでかい破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)

 

 スピードが上昇する天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)

 

 形状を自由自在に変化させる、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)

 

 幻覚を見せたりする夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)

 

 刀身や自分を透明化させる、透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシィ)

 

 聖別された物体などを強化する、祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)

 

 そして、生物を支配する支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)

 

 どれもこれも癖が強いというか、方向性が独特だな。

 

 これを全部使いこなし、更には聖王剣コールブランドまで使ってたとかいうアーサー王はどんな化物だよ。

 

「まあ、必要な時にどれか一本に集中するとかでもいいんじゃねえか? それだけでも大分違うだろ」

 

 俺はそうフォローするけど、やっぱりこれ、難易度高くね?

 

 仲間に貸してサポートにするって運用もありだと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして最後はウィザードタイプが中心の場所に。

 

 ちなみに、姐さんも今回はこっち側だ。

 

 なんでもお嬢が、新技の保険として参加を要望したらしい。

 

 で、イッセー達とも合流してきてみれば……。

 

「マジですかぃ」

 

 俺は目を見張った。

 

 今俺達の目の前にあるのは、消滅の魔力の球体。言葉にすりゃそれだけだ。

 

 だが、なんて言えばいいのか分からねえがシャレにならねえ。

 

 密度も質も桁違いだ。今までのお嬢が放ってきた消滅の魔力とは比べ物にならねえ。

 

「どうかしら。ちょっと実戦主体の必殺技を作ってみたわ」

 

 得意気な表情を浮かべるお嬢に、姐さんは苦笑を浮かべる。

 

「これはレーティングゲームでは使えないわね。システムでフォローが効かないぐらいやばい代物だわ」

 

 マジですかい。

 

「すごいですよリアス! これ、下手したら俺のクリムゾンブラスターより、強いんじゃありませんか!?」

 

 イッセーが目を見張るのもよく分かるぜ。コレ、マジでシャレにならねえ。

 

 だが、お嬢はまだまだだといわんばかりに苦笑を浮かべた。

 

「でも作るのに時間がかかるのよ。リセスと協力しても五分。私だけだとどれだけ掛かるか分からないわ」

 

「なるほど。それは使い勝手が悪そうっすね」

 

 ペトも呆れる時間の長さ。しかもこれ、生成に集中する必要がありそうだ。

 

 単独じゃ絶対できねえな。味方を指揮し従える王だからこそできる技ってわけか。

 

「それにアザゼルの話だと、どうもお兄様は本気を出すとこれぐらいの威力を連発するそうだわ」

 

「あと、リムヴァンは分身体でそれを何発も防いだとか言ってたわね」

 

 お嬢も姐さんも遠い目をした。

 

 どんだけインフレ激しいんだこの世界。龍王クラスすらどうにかしちまいそうな必殺奥義を連発とか、次元が違うだろ。

 

 それを何発も防ぐリムヴァンも化け物だな、ホント。いや知ってたけど。そのくせそれが分身体での話かよ。勘弁してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもって、ちょっと視線を向けるとそこにはロスヴァイセさんとアーシアが。

 

「アーシア。特訓頑張ってるか?」

 

 イッセーが声をかけると、アーシアは笑顔になって頷いた。

 

「はい。ちょっと苦労していますけど、どうにか形になりそうです」

 

「文字通り微力ですが、手を貸せるだけ貸してみました。何分召喚系統の魔法は苦手なもので……」

 

「まあ、人には得意不得意があるっすからねぇ」

 

 すまなそうにするロスヴァイセさんの肩を、ペトがぽんぽんと叩く。

 

 意外だったな。ロスヴァイセさん、何でも器用にこなせそうなイメージあるんだけど。

 

 いや、そういえばちょっと前にアースガルズに戻るまで防御系統も敵に押し切られてたな。意外と不器用なのかもしれねえ。

 

 アーシアはドラゴンとの契約を行って、緊急事態の自衛の手段を確保する方向で訓練してる。

 

 アーシア自身に戦闘技術をつけるより、そっちの方が有効だって感じで話はまとまってた。

 

 まあ、アーシアは荒事向きの性格してねえからな。人を殴る心構えとかはできねえだろ。向いてねえ向いてねえ。

 

 ならボディーガードを用意するってのは良い判断だろ。特に俺達実戦主体で考えなきゃいけねえからな。そう言う方法はありだ。

 

「そう言えば、レーティングゲームだと使い魔って制限かかるんすね」

 

 ああ、そうだな。

 

 ペトの言った通り。レーティングゲームだと使い魔の使用には制限がかかるそうだ。

 

 まあ、レーティングゲームは王の能力と眷属の力を示すわけだしな。使い魔とかに頼ってたらあれなんだろ。

 

 いわゆるテイマー系は活躍しづらい環境ってことか。いや、いっそのことテイマー系向けの競技とかするってのもありか?

 

 俺はふと、新しい金稼ぎの市場を見つけちまったかもしれねえ。

 

 ……これ、お嬢の親父さんに告げたら意外といけるんじゃね? 新商売でアイディア料がっぽりいけるんじゃね!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に顔を見せたのは、黒歌が指導しているギャスパーと小猫ちゃんのところ。

 

 いきなり黒歌が抱き着いて小猫ちゃんをパニクらせてるが、あんたそれは酷いだろ。

 

 っていうか今の、誰かがツッコミ入れなかったら色々何かやらかしてそうで怖いんだがな。

 

「そう言うことしてるから、小猫に嫌われるのよ?」

 

「うぐっ。言ってくれるじゃない、リセス」

 

 ……いつの間にやら、姐さんと黒歌は仲良くなったなぁ。

 

 何があったのか知らねえが、姐さんは黒歌に好意的だ。何があったんだろうな。

 

「しかし、私としては実戦で鍛えたいところだな。はぐれ悪魔の討伐任務がまた来たりしないだろうか」

 

 などと、絶賛苦労しているゼノヴィアがぼやいた。

 

 確かに、最近そういった任務が多いよな。

 

 リムヴァン達の神器研究によって、禁手に至る方法が開発されて広まってるのが原因だ。

 

 それで今まで鬱屈を溜めていた奴らが暴走して、暴れ回っているという事だ。

 

 当然実力者である俺達にも討伐任務が下りることがある。禁手に至っている連中が多いから、時々すごい嵌め手が来る事もあって大変だ。

 

 そんな奴ら相手にぶっつけ本番で新技開発とか、度胸あるな、ゼノヴィア。

 

「やめておきなさい。付け焼刃で戦場を生き残ろうなんて、自殺行為よ」

 

「それは違う。実戦で磨くからこそ輝く技量というものがあるだろう」

 

 などと、姐さんとゼノヴィアが言い合いを始める。

 

 まあ、この辺個人差ってもんが出てくるよなぁ。

 

 ……まあ、これも平和な証って事か。

 

 いいもんだな、平和ってもんも。

 

 いずれ英雄として荒事に飛び込んでいく俺にとって、これはきっと貴重なもんになるんだろうな。

 

 ああ。大事にするか。

 




ま、原作の展開を広い視点で見る程度なんですけどね。

それはともかくリアスはリセスと組むと強化されます。具体的には消滅の魔星の展開速度が大幅に短縮されます。

もっともこれはリアス単体で見たらの話。リセスの戦力を五分間も外すのはリスクが大きいし、なによりリセスのディストピアアンドユートピアの威力もシャレになりませんからね。悪魔でできるだけです。


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第六章 5

 

「……ってなわけで、俺はここ最近は平和な日常だな」

 

『そうですか。この駄馬の毎日もあまり変わり映えはしないですね』

 

 と、俺はシシーリアと電話をしながら日常についてだべってる。

 

 最近、シシーリアから近況報告を受けることが増えた。平均して数日に一度は電話を受ける。

 

 内容は他愛もない会話。まあ、イッセー達としてる馬鹿話とかと大して変わりはねえな。

 

 だけどまあ、女の子としてるってのが重要だ。ここ、マジで重要。

 

 だって考えてもみろよ。シシーリアみたいな可愛い女の子と数日単位で会話するなんて普通ねえ。どう考えても、勝ち組の行動だろ。

 

 何だこの遠距離恋愛。この世にそんなものが存在するって、俺は実感してるぜ。

 

 いや、シシーリアは俺と結婚する気はねえって言ってんだけどな? それでもな? 恋愛感情的なものが欠片ぐらいはあるんだよ。すげえだろ。

 

 …………なんでそこで恋愛に発展しねえんだ、俺の人生!!

 

 くそ! 姐さんにしろペトにしろシシーリアにしろそうだ! 俺の女がらみの関係は、肉体関係を結ぶことはあっても恋愛関係にゃぁ発展しねえ!

 

 イッセーが糞うらやましい! いや、あいつは恋愛関係にはいくらでも発展できるが、童貞卒業は未だになしえてねえからどっこいどっこい何だろうけどよ。

 

「シシーリア。俺、恋人募集中です」

 

「そうですか。いい人ができるといいですね」

 

 スルーされたよ! 悲しい!

 

 ま、まあそれはそれとして……。

 

『そちらは魔法使いとの契約の時期ですか。この駄娘はディオドラの件があるので、まだまだかかりそうです』

 

 ああ~。っていうか今のシシーリアって、主がいない下級悪魔だからな。

 

 そう言う意味じゃあ、出世の余地が今のところねえわけか。こりゃいろいろと大変だな。

 

「いっそのこと別の勢力に鞍替えするか? アザゼルに紹介するぜ?」

 

『気遣い無用です。これぐらいの窮地を乗り越えなければ、この愚図が彼女たちの居場所を作ることなどできませんから』

 

 ははっ。なかなか強気なこって。

 

 まあ、無理だとシシーリアが思った時は、その時に手を差し伸べればいいか。

 

 ……いや、俺とシシーリアじゃ寿命の差がかなりあるな。下手したら俺が死んでから折れるかもしれねえ。

 

 前もってアザゼルに頼み込んどくべきか? まあ、シシーリアはなんだかんだで強くなってるし、大丈夫だとは思うけどよ。

 

『それでそちらは大丈夫で? アジュカ様の話だと、そちらの国の軍隊が近くに基地を作ってるとか』

 

「自衛隊な? いろいろとややこしいんだよ、この国はな」

 

 ホントややこしい。俺もいまだによくわからん。下手すりゃ、この国の連中だってよくわかってねえんじゃねえか?

 

 ま、それはともかく。

 

「……順調か?」

 

『ぼちぼちです。何とかテスターとして一定の成果を上げていますが、それだけだと出世できませんから』

 

 苦笑が返ってくる。

 

 まあ、ジークフリートとやり合った時の活躍は、反則技を使ったみたいだしな。

 

 それでもアジュカ様のところで訓練を積んで、だいぶ強くなったらしいから大したもんだ。

 

 もしかしたら、俺が死ぬ前に上級悪魔に昇格するかもしれねえな。そうなりゃ、あの子たちの居場所もできるだろ。

 

 恩をあだで返されるかもしれねえ。もしかしたら、最初から入ろうともせずにはぐれになるかもしれねえ。

 

 だが、居場所があるってだけでもだいぶ違うだろ。俺はなんとなくしかわからねえけど、それでもなんとなくはわかる。

 

 やり直せるってわかるだけでも、だいぶ違うだろうからな。更生するにしてもメリットがねえとやるにやれねえってもんだ。人ってのは弱いからな。

 

 ああ。シシーリアは立派な奴だ。元聖女なだけある。

 

「頑張れよ、シシーリア。ちょっとぐらいなら出資してやるからよ」

 

『はいっ! その言葉だけでもこの愚図に価値があると思ってしまうぐらい充分ですっ!』

 

 ああ、それだけでも俺も気が楽になったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで俺の人間関係………? もいろいろあったけど、それはともかくとして俺は普通に学園生活も送ってるわけだ。

 

 基本的にゃあオカ研とかクラス限定だけどよ、それでも学生としての付き合いってのがあるにはあるんだよ。

 

 いや、日常ってのもいいもんだなって俺は思うぜ?

 

 俺の場合、超底辺生活から救い上げられて、結構短期間で悪魔祓いの育成施設だからな。その手の経験が結構少ない。駒王学園(ここ)に来るまで、ゼロじゃねえか?

 

 そういうわけで、結構楽しんでるぜ、学生生活。今まで体験できてねぇことも楽しめるな。いや、一般市民ってのも楽しいもんだな。

 

 これで文句付けるんだから、日本の連中ってのは自分がいかに恵まれてるかわかってねえな。一度底辺ってもんを真剣に味わってみたらいいんじゃねえか?

 

 先進国ってのはすげえもんだぜ。いや、イギリスも先進国だったけどよ。日本は治安の面でその上を行きやがる。

 

 すげえぜ日本。このトラブル頻発のご時世でも、それ以外の時は割と安全だからな。

 

 治安大国ニッポン万歳。俺、家族持ったら日本に住まわせよう。

 

「ってわけで待ったありで」

 

「却下だ」

 

 匙にすげなく却下されて、俺はボードゲームで敗北が確定した。

 

 糞が! これで一勝三敗!! むしろ一勝で来たことが奇跡じゃね? 勝ちを拾えたことがあり得ないレベルで苦戦してねえ?

 

 くそ! 匙の野郎がここまでの実力者だとは思ってなかったぜ! 恐るべし、シトリーの邪龍!

 

 だが、匙の表情は暗かった。

 

 それはもう暗かった。文字どおり落ち込んでた。

 

「……なあ、ヒロイ」

 

「なんだよ」

 

 すごい憎悪に満ちた声で、匙はつぶやいた。

 

 怖い。純粋に怖い。

 

 何がコイツをここまで追い込んでいる。何がどうすればああなった。

 

 シトリー眷属で唯一、あの英雄派の幹部とまともに渡り合った実力者。龍王の力を順調に使えるようになっている、シトリーの懐刀。っていうか切り札。

 

 そんな出世街道を進むことが約束されているであろうこいつが、いったいどうしてそこまで落ち込む。

 

「兵藤の奴、リアス先輩と付き合ってるんだってな」

 

「ああ。イグドラフォースとやり合った後に、告白したそうだぞ?」

 

 ああ、それは知ってる。

 

 っていうかお前知らんかったんかい。ここの悪魔がらみは全員知ってるもんだと思ってたんだけどよ。

 

「……前にも言ったけどよ、俺は会長とできちゃった結婚をすることが夢なんだ」

 

「聞いてる聞いてる」

 

「だけど、俺名前で呼ぶことすらできてねえんだよ。眷属全員で映画に行ったことがある程度なんだよ」

 

 暗い。それはもう暗い。

 

 憎悪というかなんというか、とにかく邪悪な感情が煮詰まってる気がしてならねえ。

 

 すいません。邪龍が邪悪な感情出さないでくれやせんか?

 

「なんでだ! 龍王と天龍にはそこまでの差があるってのか!!」

 

「俺に言うな!?」

 

 おい、邪炎出てるぞ。あと胸倉掴むな熱いんだよ。

 

 熱い! アチチチチ! マジで熱い、肌が焼ける!!

 

「だったら告白するなり何なりとしろよ!! 当たって砕けろ!! イッセーは当たったぞ!!」

 

「ざけんな! 兵藤はほら、むしろリアス先輩からラブコールされまくりじゃねえか!」

 

「アイツ自覚なかったんだよ!!」

 

 そのせいでこじれにこじれたんだよ。お前何も聞いてねえのか!!

 

 誰も相談の一つもしてねえのか。しろよ相談! 親身になって考えてくれるだろ、そりゃよ!!

 

「アイツは悪魔になった経緯で女性恐怖症だったんだよ! そのせいで今まで鈍感すぎたから気づいてなかったんだ!」

 

「…………嘘だろ?」

 

 気持ちはわかる。悪魔になってからも覗きしてたらしいしな。

 

 だがほんとなんだ。レイナーレとやらの幻覚を見せられた時のマジ恐怖の顔を見たことがあるから、そこについて嘘は感じねえ。

 

 マジであの時はいろいろと大変だったからな。もし嘘だったら、俺は奴をぶっ殺してる自信があるね。

 

「オカ研緊急会議とかあったんだがな。会長から何も聞いてねえのか?」

 

「初耳だよ。っていうか、女性恐怖症? ……あれで?」

 

 言うな匙。俺も時々首をひねる。

 

 どんだけアイツは女好きなんだよ。煩悩強すぎだろ。

 

 まあ、とにかくそういうわけで、今まで付き合ってなかったことの方が問題ある展開なんだから勘弁してやれ。

 

「そう言うこった。ほれ、さっさと次の勝負に行くぜ?」

 

「上等、さらに連勝してやる」

 

 この野郎。そろそろ俺もコツつかんできたんだからな。せめてもう一勝はもぎ取ってやる。

 

「……そういやよ、こっちは聞いてるか?」

 

「あんだよ?」

 

 何かシトリー側で用事でもあんのか?

 

「いや、吸血鬼の連中との会談の時期が決まったんだよ。そろそろだぞ?」

 

「マジか!!」

 




日常回もそろそろ終了。こっから大変なことんなってくるぜ!!


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第五章 6 吸血鬼

対に吸血鬼来訪。此処から、原作の第四章は動き出したんですよねぇ。


 

 で、その吸血鬼との会談がついに始まった。

 

 まあ、俺達は今回参加してねえんだけどな。

 

 理由は二つ。

 

 一つは一種の自粛だ。あんまり戦力過多な状況下で会談しても、一種の恫喝と受け取られて相手の上が何かしら要らん事を言ってきかねねえってこと。

 

 それでもグレモリー眷属は全員集合だし、アザゼル先生も生徒会長も同席するし、あとゼノヴィアの姉貴分で転生天使になったグリゼルダ・クァルタって人も来てる。

 

 十分威圧的な布陣すぎだ。流石に俺らまで出てきたらややこしくなる。

 

 もう一つは、俺と姐さんの同席に吸血鬼側がいい顔しなかったってこった。

 

 老害悪魔以上の純血主義で権威主義で貴族主義で種族主義。それが、吸血鬼って生き物だからな。人間のことなんて、それこそ家畜としかみなしてねえかもしれねえ。

 

 そんな連中が会議に同席するなんて、不快で堪らねえんだろうさ。

 

 ま、俺も吸血鬼にいい思い出はねえから別に構わねえんだがな。

 

 それに、交渉が決裂した時の備えは万全だ。

 

 そもそも会談に同席する連中が下手な上級悪魔を上回るレベルの猛者ぞろい。グリセルダさんもガブリエル様の女王をやってるからな。腕利きしかいねえ。

 

 しかも、話を聞きつけた自衛隊が周囲の警護を引き受けてくれた。

 

 おそらく表の武装勢力で、最も異形との戦いに向いている実力者だ。これまた腕利き揃いと言ってもいい。

 

 そんでもって、一応駒王学園の敷地内で待機している俺ら。因みにペトも一緒に参加してる。

 

 ……言うまでもなく精鋭揃いだ。どんだけだよ。

 

 まあ、この状況下なら吸血鬼達も滅茶苦茶な要求はしてこないだろうな。

 

「これ、担当の奴が死ぬ覚悟でもなけりゃ強気の姿勢は無理だろ」

 

「どうかしら?」

 

 姐さん。俺が気分を和らげようとしたのに、余計なこと言わんといてください。

 

 それにそうだろ。この状況下で相手の逆鱗に触れるようなこと言うほど、吸血鬼の連中も馬鹿じゃねえだろ。

 

 俺はそう思ったんだけど、姐さんはどうも違うっぽい。

 

「吸血鬼の貴族は、私達とは違う生き物って表現がぴったりするぐらい自分達を上に見てるわ。それこそ、人間を家畜か何かと思っている位にね」

 

 姐さん。俺より吸血鬼に嫌な事でもされたのかよ。

 

 言いすぎな気もしないでもねえけど、なんか実感籠ってるんでどうしたもんか。

 

「でもでも、この状況下で余計なこと言うほど馬鹿じゃないと思うッスよ?」

 

「それは違うわ。自分達の要求は通って当然と思ってる節があるもの。あの傲慢さは、老害の悪魔のその上を行くのは聞いてるでしょう?」

 

 ペトの反論を受けてすら、姐さんはそう答える。

 

 いやいやいやいや。流石にそう無茶な事はしねえだろうよ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無茶なこと言ってきたよ!!

 

 奴らが言ってきた事を要約すると、こうなった。

 

 和平に参加してやるから、内輪もめの解決にそっちのハーフを使わせろや( ゚Д゚)オラァ

 

 ……喧嘩売ってんの? あいつ等。

 

「ねえアザゼル。いっそのこと、自分達に喧嘩売ったらどうなるかの見せしめにカーミラを蹂躙したらどうかしら?」

 

「気持ちは分かるが押さえろ。逆切れしてヴィクターにつかれても困るからな」

 

 ビキビキ血管を浮かべている姐さんを、アザゼル先生がどうどうとなだめる。

 

 いや、ちょっとあいつら傲慢すぎだろ。

 

 っていうか和平に参加してやるからっていう上から目線のノリがむかつく。おい、参加したら思い通りに動けない可能性があるって分かってるか?

 

 吸血鬼の問題を吸血鬼で解決するって姿勢はある意味立派だとは思うがな。既にこっち側になってる連中を思い通りにできると思ってるところが気に食わねえ。

 

 しかも、ギャスパーのことを道具でも見るかのような視線で見てたそうだしな。純血連中の混血および多種族に対する蔑視感情は強いってことか。

 

 そんな連中と和平結んでも、余計なもめ事になるんじゃねえかとすら思うんだがよ。

 

「むかつくが、各勢力の和平による対ヴィクターを謳っている俺達が、和平を結ぼうとしてきた連中の要求をガン無視はできねえ。っていうか、大王派の上役共は喜んでギャスパーを生贄にしかねねえしな」

 

 アザゼル先生がそうため息をつくと、お嬢に視線を向ける。

 

「……とりあえず、カーミラの言う通りに動くのも癪ね。まずはギャスパーの事情を聴く為に、ツェペシェに接触を行いたいわ」

 

 ふむ、確かにただで聞いてやる義理はねえか。

 

 逆にツェペシェ側と和平を結んで、カーミラ側を追い込むという方法もあるにはあるな。

 

 どうせあの二派閥は不倶戴天で敵対し合ってるんだ。どっちかと組めばどっちかと敵対するのは目に見えてる。

 

 なら、追放されたとはいえギャスパーのコネがあるツェペシェ側に接触するのはありかねぇ。

 

「と言っても、あまり過剰に人員を連れて行くわけにもいかないわね。とりあえず、私と……護衛として祐斗でいこうかと思ってるのだけれど、どうかしら?」

 

 お嬢は確認するように、アザゼルに意見を求める。

 

 アザゼルもそれに反論はねえどころか感心してるのか、口元がちょっと笑みになってる。

 

 教え子が成長するのを見るのが嬉しいのか。このオッサン、本当に教師向きの性格してるじゃねえか。

 

「んじゃ、俺はその間の抑え役としてカーミラの方に行くぜ。神の子を見張るもの(グリゴリ)の研究成果も少しぐらいくれてやれば、話ぐらいは聞いてくれるだろうよ」

 

「それは良いんだけど、護衛を付けた方がよくないかしら? こういう時の為の私でしょう?」

 

 姐さんがそう意見を言うが、アザゼルは首を振った。

 

「あまり余計な警戒をさせてヴィクターにつかれてもあれだ。それに、和平を自分から申し出てきたカーミラの方は、その為の使者に下手な危害をくわえるわけにゃいかねえだろ。俺一人で十分だな」

 

 そう言いながら、アザゼル先生は窓の外を見る。

 

「あっちはもう寒いから行きたくねえんだが、そうも言ってられねえか。……ああ、肩も凝ってるしめんどくせぇ」

 

「へいへい。磁力セットの肩もみマッサージしてやるから、頑張ってくれよ最年長」

 

 俺は磁力を生み出して先生の肩をほぐしながら、そのまま肩もみをしてやる。

 

 いつも頼りにしてるからな。ま、肩もみぐらいはたまにはしてやらねえと。

 

 そう心ばかりのお礼を込めた行動だったんだけど、アザゼルは半目を向けてきた。

 

「……お前、禁手をそんなことに使っていいのかよ」

 

「人工神器を実演販売した奴に言われたくねえ」

 

 っていうか何を作ってんだこの馬鹿。他に開発する物がいくらでもあるだろ、馬鹿教師。

 

 しかしまあ、吸血鬼の方でもややこしいことになってるみてぇだな。

 

 今までの経験上、っていうかここ半年ちょっとの経験上、絶対でかいトラブルが起きる自信がある。

 

 ヴィクターの連中も毎度の如く絡んできそうだ。つか、一部の連中が勝手にヴィクターに接触してる可能性もあるよな。ヴィクターの連中もそういう手回しが異常に上手い所があるしな。

 

 ったく。ホントにめんどくさい事になってきたもんだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数日が立ちお嬢が出発するまで秒読み段階。

 

 俺は、姐さんと模擬戦をしながらそれまで時間をつぶしていた。

 

「最近、ヒロイもホント動くようになったわね」

 

「そうかい!」

 

 振るわれるトンファーを捌きながら、俺も足に魔剣を生み出して対抗する。

 

 時々磁力加速で軌道を捻じ曲げるとかしてんだけど、姐さんは見事にかわしてくる。

 

 まあ、当たったら痛いからな。刃はきちんと潰してるけど、それでも金属の塊が磁力加速でぶっ飛んで来たら激痛もんってレベルじゃねえ。

 

 だけどまあ、それぐらいしても全然楽に勝てねえから、世の中クソだな、ホント。

 

「なあ、姐さんっ。ヴィクターの連中は今頃どんな強化方法を取ってくるんだろうな!」

 

業魔人(カオス・ドライブ)の生産はしてるでしょうね! あいつ等ならそれ位はするでしょうしっ!」

 

 だろうな!

 

 業魔人を使用したジークフリートは化け物だった。姐さんを力押しで圧倒し、赤龍帝の力を譲渡された木場とすら渡り合った。

 

 実際俺と姐さんと木場という、あの場の戦力でなら三強が揃った上で何とか勝てたようなもんだ。アジュカさまやリムヴァンも割と感心してたからな。相当のレベルになってただろうよ。

 

 流石にあのレベルにまでなるには地力ってのがいるからそこまで出てこねえだろうが。イグドラフォースや英雄派の幹部はあの領域に到達する事は確実だろうな。

 

「俺達も強くならねえとな!」

 

「ええ! いい加減私も、禁手をもう一つ増やしたいわね!」

 

 だろうな。俺と違って姐さんは二つも禁手になる余地が残ってるしよ。

 

 いや、冷静に考えると俺の禁手は特化しすぎだからな。

 

 聖槍は対聖槍に全ポテンシャルぶちこんだし、紫電の双手(ライトニング・シェイク)は手数特化型として進化した。

 

 なんだか俺、ものすごいとがった方向に至ってねえか?

 

 魔剣創造はもうちょっとバランス良い禁手にしたいところだぜ。マジで力押しができるタイプの禁手が欲しい。

 

 ……あ。そもそも魔剣創造は手数特化型だったな。じゃあ無理か。

 

 ……畜生! 槍王の型以外にも、何かしらの格上打倒用の能力が欲しいぜ!!

 

 俺がちょっと落ち込んでると、姐さんは苦笑を浮かべる。

 

 あ、そこ迄顔に出てた? ごめんごめん。

 

「悪い姐さん。心配かけたか?」

 

「いいえ。そう悪いニュースばかりでもないのよ、それが」

 

 ん? どゆこと?

 

「その業魔人なんだけど、ジークフリートは緊急用に予備を持ってきてたみたいなの」

 

 なるほど。一回目でしのぎ切れなかったら逃げに徹する為にもう一個使うってわけか。

 

 まあ、いざという時の保険ってのは大丈夫だよな。

 

 で、それを回収で来たって事は、一回は使えるのか?

 

 俺はそう思ったけど、姐さんは更にその斜め上を往く言葉を告げる。

 

「前に亡命してきた魔王の末裔がいるじゃない? 彼の協力で、こっちも業魔人を開発しようって動きがあるみたい」

 

「マジか!」

 

 そりゃすげえ。あれば大助かり以外の何物でもねえな、オイ。

 

 いや、いざという時の切り札がドーピングってのもどうかと思うけどな?

 

 それでもあれば大助かりだろ。レーティングゲームならともかく、実戦なら十分考えるべきだからな。

 

 なるほど。こっちもやられてばかりじゃねえってわけだ。考えてるじゃねえか三大勢力。

 

「だから、私達は業魔人の使用に耐えれるように体を鍛えましょうか。……基礎や土台がしっかりしてなきゃ、付け焼刃なんて上手くいかないものね」

 

「ああ!」

 

 そう言い合いながら、俺達はお嬢が出立するまで、トレーニングを続けていった。

 




ドーピング決戦になりそうな最終決戦。果たして業魔人は使われるのか!?


……いや、ホントもったいない設定ですよね、業魔人。せっかく登場したのにヒーローズ以外で使われたことが一度もないし。他の創作物でもそこまで言ってる作品がそもそも少ないから出てこないし。


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第六章 7

リアスたちが主ったつしても、いきなり事態が急変するわけもなく。

しかし日常に影はいつさすかわからないもので―


 そしてお嬢が出立して、その夜。

 

 俺達は、ついに風呂を堪能する事が出来ていた。

 

「お姉様ぁ」

 

「姐さん、姐さん」

 

「はいはい。私の妹分と弟分は甘えんぼねぇ」

 

 もちろん三人一緒だ! ただしエロい事はしねえぜ!!

 

 え? 混浴って時点で十分エロイ? うるせえよそういうこすっからい正論なんざおよびじゃねえ。やらなきゃセーフだセーフ!

 

「それでヒロイぃ? シシーリアとは何回ヤったッスかぁ?」

 

「ノーコメント。っていうかあいつはあれ以来来てねえだろうが」

 

 ペトめ。せっかくのこのでかい風呂を堪能するタイミングで、いらんことを言ってくるんじゃねえよ。

 

 第一シシーリアは最近こっちに来てねえからな? だからそんなことにはならねえからな?

 

「ま、時間の問題だとは思うッスけどね」

 

「同感ね。私からせっついてこれでようやく片手が埋まったわけだし、やっぱり三けたの大台に乗っかってほしいわね」

 

 すいませんそこのビッチ義理姉妹(スール)。ちょっと勘弁しちゃくれませんかい。

 

 いや、俺も色んなエロい姉ちゃんとかとエロいことするのには反論ねえけどよ? 英雄色を好むというんだし、色好む気満々だけどよ?

 

 スキャンダルはあかんと思うんだよ、俺は。浮名を流すのとスキャンダルにまみれるのは違うと思うんだよ。

 

 いらんゴシップ記事まで騒がせる気はねえぞ、俺は。

 

 そんなこんなでいい感じに風呂を堪能しながらも、微妙にツッコミを入れて終わった気がするでかい風呂を出て、俺達は今日はもう普通に寝ようと部屋に向かう。

 

 にしても、ホントにお嬢達は大丈夫か心配だぜ。

 

 うかつに魔王の妹に手をだしゃ、その時点で戦争だってのはツェペシェの連中も分かってるとは思うんだけどな。やっぱり少しは不安になるぜ。

 

「今頃どうしてんだろうな、お嬢は」

 

「イッセー達も心配だろうっスね」

 

 俺もペトも、不安になってるイッセー達を気遣うが、姐さんはむしろ苦笑を浮かべてた。

 

「あら、それよりこっちの方が大変かもしれないわよ?」

 

 ん?

 

 俺とペトが同時に首をひねりながら二階に到着すると、そこにゼノヴィアとイリナがポージングしている姿が見えた。

 

 ………何やってんの。

 

「あらら。リアスの分のベッドのスペースを取りに来たのかしら」

 

「おお、リセスか。その通りなんだ!」

 

「わ、私も主の為ミカエルの様の為、天界の戦力的なあれを増やす為に参戦しに来たのよ!!」

 

 お前ら信徒としてどうよ? あとイリナはそれでいいのか、このエロ天使。

 

 中を覗いて見れば、おいおいわらわらいるじゃねえか。

 

 しかも俺がちょっと呆れてた隙に、さらに増えてきたぞ。

 

 っていうかギャスパー。お前なんでいるんだよ。後部屋の隅で段ボール箱を広げるな。

 

「これはあれね。私達も参戦しちゃおうかしら?」

 

「おお、いいっすね! あわよくばアーシア達をご賞味できるっつーわけっすか!!」

 

 そして姐さんとペトも参戦!? のりいいなオイ!!

 

 くそ、こうなったら俺も負けてられねえ!! ギャスパーもいるんだし問題ねえだろ!!

 

「ちょっと待ってろ! 寝袋取ってくる!!」

 

「お前迄乗っかるなぁあああああ!!!」

 

 イッセーの渾身のツッコミが飛ぶと同時、クローゼットの扉が開いた。

 

 中から飛び出てきたのは……

 

「我、クローゼットから登場。えへん」

 

 オーフィスちゃん。何時の間に潜り込んでおりましたですか!?

 

 ……結局、オカ研の殆どのメンバーがノリと勢いで全員雑魚寝することになった。

 

 ちなみに、ゼノヴィアに蹴り落とされたイッセーの頭が鳩尾にぶつかって、俺の寝心地は最悪だった。

 

 ゼノヴィアには、同衾禁止令を出してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなこんなでそろそろ着いてる頃かねぇ?」

 

「だろうな。一応転移魔法も使うだろうし、もうルーマニアには着いてるだろ」

 

 と、俺は匙と一緒に学食でだべっていた。

 

 流石はハイスペックな元女子高名だけあって、この学食、カフェメニューも存在してる。

 

 たまには匙とだべるのもいいだろうと思い、俺から誘ってみたわけだ。

 

「っていうかよ、リセスさんとペトの男あさ……女あさ……両性あさりって言おうか。あれ、どうにかなんねえか?」

 

「無理。最近俺は姐さんに学友をあてがわれそうになってるから、逃げるので手いっぱいだ」

 

 ふと後ろから呼ばれたら「リセスさんに頼まれたんだけど、ヒロイ君もいいかな~って」とか言ってくるクラスメイト見た俺の気持ちになれ。

 

 姐さん。あんたは俺をどんだけ経験豊富にしたいんだよ。

 

 いや、エロい経験が何度もできるってのは素晴らしいけどさ……。

 

「俺が一方的に気まずくなりそうだから、クラスメイトは避けたいんだよ」

 

「ペトと何度もやってるそうじゃねえか。その時点でそれは心配ねえよ」

 

 この野郎。ホントにするぞ、マジで。

 

「いや、ホントにそろそろ控えるように言ってくれよ。会長が「そろそろお目こぼしも限界ですね……」とか言ってるから」

 

「姐さん。逆に生徒会長を引きずり込みそうで怖いな」

 

 流石に止めとくか。

 

 いくら上役の許可というか護衛任務とはいっても、それをかさに着て遊びすぎッてことか。それもそろそろ限界だろう。

 

 姐さん。女学生あさりもほどほどにな。

 

 まあ、こういうことで文句が出てくるってのも、この辺りが平和な証拠か。

 

 ヴィクターの連中も日本で暴れるのは懲りたのか、最近日本にちょっかいをかけてこねえ。

 

 この調子なら、駒王町にいるうちは平和に暮らせるのかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで数日たち、俺らは体育の授業が始まるので、着替えて校庭に出てきていた。

 

「まじか。そり残しの腋毛に興奮するやつとかいんのか」

 

「な。マニアックだろ?」

 

 そんな馬鹿話をしながら、俺たちは校庭を歩いていく。

 

 いやぁ、体育の授業はちょっといいかっこ出来るから好きだ。授業自体が好きだけどな。

 

 勉強ができるってのは幸福だ。まったく、この国の連中は勉強したくないとかよく言うけど、だったらできる奴と交換してやれってんだ。

 

 だけどまあ、こういうことが思えるのもこの国が恵まれている証拠だ。そう言う意味じゃあ、欠点が何もない国なんてないって感じで納得するべきなんだろうな。

 

 ほんと、基本的に平和な国だと思うぜ。そのまま平和が続けばいいんだが……。

 

「おい、あれ見ろよ」

 

「なんだ? コスプレか?」

 

 と、何やらがやがやとしている。

 

 なんだ? 変質者でも現れたか? レヴィアたんの同類が出てきたのか?

 

 などと思いながら、俺達もそっち視線を向け―

 

―この時、俺はちょっとこの街の結界を過信してたんだと思う。

 

 この駒王町の結界は、和平成立の地にして、各勢力の重要人物が多いので、かなり頑強だ。まあ、堕天使元総督とか72柱次期当主が住んでんだから、当たり前の対策だな。

 

 敵意や悪意を持つものが入りづらいし、入ってくればすぐに気づけるようになっている。その質は、真ん中から数えるより上から数えた方が圧倒的に早いだろう。

 

 だから、敵が入ってきたなら流石に警報ぐらいはなるはずだと、過信していた。

 

 いや、過信ってのは言い過ぎか。普通あり得ねえ事をあり得ないと思うのは、そこまであれな考え方じゃねえだろ。

 

 だが、それでもこれはうかつだった。

 

 -ローブを着た男達が、俺達に悪意を向けていた。

 




日常回……と思わせて、原作通りの急転直下。

原作の第四章の殆どを占める本作の第六章ですが、どちらにしてもここからD×Dはダークサイドにいったんよるんですよね。








それと、活動報告でちょっとした募集をしてみました。

あまり大したことではないのですが、提案してくれると嬉しかったりします。


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第六章 8 残酷な現実

現実はあまりにも残酷である。

襲撃してきたヴィクターとその行動により―


 あれ、明らかに魔法使いだ。それも敵意すら向けてやがる―

 

「―全員下がれ!!」

 

 俺は即座に聖槍を出すと、生徒たちとそいつらの間に割って入る。

 

 すでに俺が悪魔祓いで三大勢力の関係者なのは知られてんだ。修学旅行でゼノヴィア達にばらされたからな!!

 

 大金もらってんだから、こういう時に負担こうむるのは当たり前の役目だしよ!!

 

 つっても、ここで奴らを殺すのはさすがに避けたい。堅気がすぐ近くにいやがるからな。

 

 それにまだヴィクターと決まりきってるわけじゃねえ。一応警告しとくか。

 

「てめえら何もんだ!! アポなしで異形関係者がこんなところにきて、文句の一つももらわねえとは思ってねえだろうな!?」

 

「知れたこと。俺たちゃぁヴィクター経済連合だ」

 

「悪いけど上の命令でね。ここをちょっと襲撃させてもらうぜぇ」

 

 チィッ! こいつら、俺をターゲットにしてきやがった。

 

 かわそうと思えば当然躱せる。だが、ここでかわすと後ろの生徒たちに当たる。

 

 割と数が多い。迎撃しきれるか―

 

「さぁて、それじゃあ試させてもらうぜ聖槍使い!!」

 

 そういうが早いか、奴らは氷の槍を生み出すとそれを放ってくる。

 

 ……これなら確実に捌ける。俺の技量ならいける。

 

 ……だが―

 

「っ!」

 

 俺は、その攻撃をあえて一発肩に受けた。

 

 割と勢い良く突き刺さり、貫通する。

 

 動脈も傷つけたのか、血しぶきが舞って、近くにいた生徒についた。

 

 ああ、悪いな。相当ビビらせるだろうが―

 

「う、うわぁああああああ!?」

 

「きゃぁあああ!?」

 

「ぎゃぁあああああ!?」

 

 悲鳴を上げてわれ先に逃げ出す生徒たち。

 

 すぐにその騒ぎを聞きつけたのか、悲鳴が連発する。

 

「ハッ! 思ったより大したことねえなぁ聖槍さんよぉ?」

 

「あの曹操を倒したって聞いたんだが、この程度かよ」

 

 魔法使いたちは、ジャブのつもりでぶっパした攻撃が通用したことで調子に乗る。

 

 俺のことを、この数なら確実に勝てると判断しやがった。

 

 そしてそのまま嘲笑は続き―

 

「そんなんでどうやっていままで生き残って―」

 

「こうやってだよ」

 

 その首を、遠慮なく俺は跳ね飛ばした。

 

 跳ね飛ばしたのは処刑用の剣を参考にした魔剣。雑魚相手に聖槍はもったいねえしな。それにこっちの方が首を切り落とす分には簡単だ。

 

「……え?」

 

「とりあえず、見せしめだ」

 

 俺は唖然とする連中にそういうと、魔剣の切っ先を突き付ける。

 

 生徒たちが逃げてくれたってことは、生徒たちに配慮する必要もねえってことだぞ?

 

 つまり、目の前で人が死ぬトラウマを負うやつはもういねえ。

 

「死にたくねえなら今すぐ失せろ。どうせほかの連中も動いてるだろうから、てめえらなんぞに時間かけたくねえんだよ」

 

 ああ、こんな露骨にこんな少人数で、こんな雑魚だけで仕掛けるわけがねえ。

 

 大方陽動もしくは鉄砲玉だろう。俺ならドーインジャーも動員するね。

 

 そういうわけで俺はさっさとケリをつけたかったんだが―

 

「舐めんな! やれ!!」

 

 その言葉と共に後ろから殺気を感じる。

 

 チッ! 伏兵か!!

 

 俺はそれに振り向こうとして―

 

「オイコラぁ!!」

 

 それより先に、誰かが体当たりする音が響いた。

 

 そして踏みつける音と悲鳴が聞こえて、やがて静かになる。

 

 ……なんだ?

 

「人のダチに何しやがる!! っていうかてめえら誰だよ!?」

 

「ま、松田。そいつら多分ヴィクターだから、ちょっと落ち着いて―」

 

「とにかく縛るぞ! イッセー、ベルト貸せ!!」

 

 あ、あの馬鹿ども逃げてなかったのか!!

 

 っていうか、魔法使いの只のベルトで縛っても意味がないんだが?

 

 と思ったら、俺の傷口にハンカチが押し当てられてそのままベルトで圧迫される。

 

「無事かヒロイ!! とりあえず止血しねえと……」

 

 って俺かい!!

 

 お前らすげえな。根性あるわ。

 

「……俺のダチはすげえだろ? お前らなんか目じゃねえんだよ」

 

 ってんなこと言ってる場合じゃねえ!!

 

 いくらなんでも結界スルーなんて大事しでかしておいて、こんなちんけな小物だけ投入とかするわけがねえし―

 

 そう思った次の瞬間、

 

 大きな爆発が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィクター経済連合の行動は、迅速だった。

 

 一部の馬鹿を囮にし、その隙に速やかに別方向から潜入。同時に結晶体にしたドーインジャーもばらまいて、かく乱を行う。

 

 一般生徒がたくさんいるこの学園を丸ごと吹き飛ばす戦法はとれない。それを想定したうえでの作戦だが、これが功を奏していた。

 

 自分達ヴィクター経済連合の目的は、レイヴェル・フェニックスの遺伝子データの確保。

 

 フェニックスの涙を大量生産するべく、純血のフェニックスの遺伝子が必要だったのだ。

 

 そして同時に、ある存在と赤龍帝をぶつけさせること。指揮官の目的からすると、こちらの方が本命だといえる。

 

 その戦力はさすがに町中で使うと余計な被害をうむため、挑発をしておびき出す必要があるのだ。

 

 さらにそのついでに、戦力のふるい分けを第二弾で行うらしい。

 

 実際、チンピラに毛が生えたような魔法使いなど後々無能な働き者にしかならない。今更自分たちがあのヒロイ・カッシウスや兵藤一誠に通用すると思っているあたり、度し難い。

 

 そして、ついでのついでともいえる第三の目的は―

 

「聞こえるか、駒王学園の諸君」

 

 放送室を占拠した兵士たちは、校内に一斉放送を行う。

 

 その声をパニック状態の生徒たちが聞けるかどうかはわからないが、一応やったというだけでも十分な言い訳にはなるのだ。

 

「我々の目的は君たちの虐殺ではない。この駒王学園高等部一年に在籍している、上級悪魔72柱、フェニックス家長女のレイヴェル・フェニックスの遺伝子データの収拾である」

 

 速やかに、この学園の内部に悪魔がいることを告げながら、彼らはさらに冷徹に告げる。

 

「その邪魔をしない限り、こちら側から積極的な攻撃は行わない。するにしてもできる限り低殺傷兵器を使用することを誓おう。……命が助かりたいのなら、レイヴェル・フェニックスを引き渡すこともお勧めする」

 

 ……これは、グレモリー眷属の足元を崩すことすら考慮した作戦だ。

 

 駒王学園に在籍している三大勢力の者たちは、その多くが正体を隠している。

 

 教会の悪魔祓いだったヒロイ・カッシウス達三人は京都での安全確保のためにあえて正体を明かしているが、しかしそれはごく一部に過ぎない。

 

 それ以外にも、この学園には異形関係者がその来歴を隠して何人も在籍している。

 

 それをぶちまければどうなるか。

 

 これまで通りの日常生活を送るのは困難だろう。少なくとも、数多くのトラブルが生まれることは想像に難しくない。

 

 ……発案者であるLの性格の悪さが透けて見えるが、了承をだす上層部の性格も十分悪い。

 

 だが、普通に戦っても勝てない強敵を倒すのに、精神的な揺さぶりをかけるのは常套手段。自分達も普通にやっている。

 

 なら、ここで自分たちがそれをなすことに何の問題があるのだろうか。

 

 そういう結論に達したコノート組合の傭兵は、速やかにライアットガンを構えると、放送室を捨てて飛び出していく。

 

 ドーインジャーの警護をうけながら、おびえる生徒たちをしり目に、一年の教室がある区画へと入り―

 

「―待っていましたわ」

 

 そこに、レイヴェル・フェニックスが堂々と立っていた。

 

「意外だな。逃げなかったか」

 

「……悪行を行っているあなた方が悪いとはいえ、わたくしに巻き込まれる形でクラスの友達を傷つけるわけにはいきませんわ」

 

 毅然として答えるレイヴェルに、一部の者たちは敬意すら覚える。

 

 流石は貴族の跡取りということか。旧魔王派の大半の連中に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

「まあいい。こっちも堅気の大量虐殺何て、将来に響くんでな。ついてこい」

 

「わかっていますわ。その代わり―」

 

「無論だ。……手出しをしないのなら安全は保障する。―各員、レイヴェル・フェニックスの確保に成功。サンプルを採取次第撤退するので、戦闘行動を停止しろ」

 

 現地指揮官が即座に指示を出し、騒がしさが一段階ほど静まっていく。

 

 そして、採血用の注射器をメンバーの一人が取り出したとき―

 

「ま、待てこの野郎!!」

 

 その額に、消しゴムがたたきつけられた。

 

「れ、レイヴェルさんに手を出すな!!」

 

 震えながら、しかし真向から睨みつけて、少女が一人抵抗した。

 

 それに狼狽するのは何よりもレイヴェルである。

 

 確かに彼女たちには手を出さないようにとは言ってないが、それはむしろ当たり前だ。

 

 武装した勢力相手に、恐怖を押し殺して友を守ろうとする精神は立派だ。だが、それは愚行でしかない。

 

 目の前にいるのは、生身で戦車の一両や二両はたやすく破壊できるだけの戦闘能力を持つ規格外の戦闘要員だ。

 

 それも、この狭い状況で本気を出されでもしたら、自分がかばったとしても―

 

「駄目ですわ!?」

 

 思わず声を上げるが、然し相手の反応の方が早い。

 

「何気にすごいことしてるが、抵抗するやつには容赦すんなって言われてっからな。当身ぐらいは我慢してもらうぜ」

 

 そして滑り込むように傭兵の一人が動き―

 

「―根性見せたじゃないか」

 

 そこに割って入った一人の影が、その拳を受け止めた。

 

 そして次の瞬間、常人は愚か、上級悪魔のレイヴェルですら見切れないほどの速さで反撃の拳が飛ぶ。

 

「っ!?」

 

 それをとっさに回避した傭兵は、即座にナイフを取り出しながら相手を睨む。

 

「何者だ!? この学園の悪魔に、お前みたいなやつはいないはずだが―」

 

「そりゃ人間だからな。でも、こういえばわかるだろ?」

 

 その拳を放った少年は、不敵な表情を浮かべると胸を張った。

 

「俺が今代の()()だ」

 

 その言葉に、全員が目を見張る。

 

「……百鬼のものか!」

 

「五大宗家の……っ!」

 

「百鬼勾陳黄龍か!」

 

 とっさに条件反射でナイフが飛んでくるが、百鬼はそれをあっさりと指でつかみ取ると、そのまま投げ捨てる。

 

「ま、うかつに暴れるわけにはいかなかったんだけどな。……五大宗家が、一般人が根性見せたのに動かないわけにはいかないだろ? 俺も当主なんでな」

 

「確かにな。そう言うところは気に入ったぜ」

 

 傭兵の一人がそうほめながら、然し新しくナイフを構える。

 

 ここまでなってしまった以上、もはや戦闘は激化するしかないのだから。

 

「だが黙ってた方がよかったんじゃねえか? ここで俺らがバトったら、それこそ被害が―」

 

「―そうはいきませんわ」

 

 その声と共に、廊下の壁を突き破ってゴリラが出てきた。

 

 あと、鎧も出てきた。

 

「ゴリラ!?」

 

「なんでここに!?」

 

 生徒たちが驚くが、しかし異形たちの戦いになれている傭兵たちはすぐに状況を把握した。

 

 あれは、断じてただのゴリラではない。

 

「……雪女だと!?」

 

「おいおい、まだここは雪降ってねえぜ雪女!!」

 

 そういいながら反撃に転ずる傭兵たちより早く、その言葉に生徒たちが一斉に叫んだ。

 

『『『『『雪女ぁああああ!?』』』』』

 

「ゴリラじゃねえか!?」

 

 渾身のツッコミを入れる生徒がいたが、レイヴェルは何を言っているのかわからず首を傾げた。

 

「いえ、あれが古来よりの雪女ですわよ?」

 

「嘘だといってレイヴェルちゃん!?」

 

「あり得ねえだろ!! 日本にゴリラ何て動物園ぐらいだろ!?」

 

「雪ゴリラじゃねえか!!」

 

 反論がいくつも飛ぶが、傭兵もまた首を横に振った。

 

「まさに冷たい現実だが、マジだよ」

 

「ああ。雪女は15歳を超えるとああなるんだ」

 

 百鬼までそういって、さらに絶望が加速する。

 

「嘘だろ!? 俺、神々とかいるなら素敵な雪女がいるかもって夢見てたのに!?」

 

「ゆ、夢が壊れる……っ」

 

「死にたく、なった」

 

 次々に状況を分投げて、絶望の表情を浮かべる生徒たち。因みに大半が性欲溢れる男だったりするのはご愛敬。

 

 そして雪女(残酷な事実)が盾になったことで、傭兵たちはレイヴェルの奪取も困難になる。

 

 それを察して、隊長格の傭兵は即座に通信機をつなげた。

 

「……作戦失敗。現状戦力でこれ以上の作戦続行は困難。残念だがプランBに移行する」

 

『まじかよ!? 久しぶりに暴れられると思ったのに!!』

 

『そうだよ。高ランクの連中とやらせてくれよ!!』

 

 反論が飛んでくるが、隊長は眉間にしわを寄せると大声を飛ばす。

 

「すでに自衛隊の駒王駐屯地も動いている!! これ以上は無理だ!! 死にたいなら勝手にしろ、こちらは撤退を開始する!!」

 

 その言葉と共に、同行していた魔法使いが即座に転移魔方陣を展開する。

 

「待ちなさい! ここまで好き勝手に動いておいて、このままで済むと―」

 

「安心しろ。一端中継点を介して出ないと、こちらも即座に撤退できない」

 

 レイヴェルの睨みをまっすぐに受け止めながら、隊長核は不敵に笑う。

 

「探して追撃するといい。迎撃の準備は整えておくさ」

 

 その言葉と共に、男たちは転移していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




―雪女の真実があらわになり、異形の実在を知った男たちの期待を容赦なく粉砕していった。







……はい、そっちかいと石投げるのはやめてね~。








駒王学園はイッセーたちが退学になってないこともあって、かなりそういうのに緩いのではないかと思い、こんな展開になりました。日本政府が異形受け入れ政策をとっていたり、京都の一件で異形関係者が尽力したことも大きいですね。







しかしD×D世界の雪女は男のロマンを粉砕してくる最悪の存在ですな。これでウンディーネや人魚も出てくるんだから始末に負えない。


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第六章 9

駒王学園生徒の人間性の高さに、ヴィクターの作戦は失敗。

だが、ヴィクターがタダでやられるはずもありません。

こっからが、本番です。



 

 

 とにかく、いきなり現れたヴィクターの連中はすぐに撤退していった。

 

 校内放送でレイヴェルの正体明かしやがって。こっから大変なことになったらどうする気だ、あいつら。

 

 いや、それが狙いか?

 

 民間レベルでの交流をゆっくりする方針で行っている三大勢力側の異形事情を引っ掻き回して、混乱させるのが狙いかねぇ。

 

 真正面からグレモリー眷属を倒すのは困難と見て、足場から崩そうって魂胆か。

 

 糞が! 作戦考えたのは何処の下衆野郎だ!!

 

 俺が舌打ちすると同時に、上空から影が差す。

 

 そして次の瞬間、轟音と共に自衛隊員がフル装備で着地した。

 

「……無事か、学生諸君!」

 

「敵、残存はドーインジャーだけです!!」

 

「第二小隊全分隊、散会して外周警戒! 第一小隊と第三小隊は分隊ごとに分かれて校内のドーインジャーを排除しろ!!」

 

 ドタバタと自衛隊員が動く中、何人かが俺らをカバーする。

 

「負傷者一名確認! 衛生班、急げ!!」

 

「あ、治癒能力者の知り合いいるんでいいです」

 

「止血が足りてない! 素人にしてはできてるが、少し止血点からずれてるから縛り直さないと……」

 

 あ、そういうこと。

 

「やっべ! 間違えた!?」

 

「いや、素人にしてはできてる方だ。こういうのはやっぱり何度も練習する必要があるからな。お前がやったのか? できるじゃねえか?」

 

 元浜をそうフォローしながら、自衛隊員は周囲を警戒する。

 

「校内にいる百鬼の次期当主と連絡取れました! 一年生は全員無事です! 三年の協力者と連携を取って安全を確保したと!」

 

「二年、三年、共に無事! 二年生はグレ……例の悪魔祓いが、三年生も用務員のリセス・イドアルがカバーに入ったそうです」

 

 よっしゃ! 安全確保!!

 

 二年はゼノヴィアとイリナが動いたのか。あいつらは正体ばらしてるから問題ねえな。

 

 三年生も姐さんが動いたみたいだな。どうやら何とかなったか。

 

「……なあ、ヒロイ」

 

 俺がほっとしてると、松田が俺の肩に手を置いた。

 

 態々利き手じゃない方の手を使って、俺の傷口に触れないようにしてくれるのがありがたいぜ。

 

 そして、その顔はかなり怒りに燃えていた。

 

「ヴィクターの連中、許せねえよな」

 

「ああ、まったくだ」

 

 うんうんと元浜も頷いている。

 

 こいつら……っ。

 

「レイヴェルちゃんを狙って暴れるなんて、なんて奴だ」

 

「同感だな。あんな可愛い子に危害を加えた上、一年生の子達まで巻き込むとかふてえ野郎達だ」

 

 松田も元浜も、心からヴィクター経済連合に怒っている。

 

 レイヴェルに対しては欠片も怒っていない。結果的に巻き込まれたとも思っていない。

 

 ったく。イッセーも俺も、いいダチを持ったぜ。

 

「……いい友達だな」

 

 そう、自衛官が微笑ましいものを見る視線を向けながら告げた。

 

 それに、イッセーは力強く頷いた。

 

「……はいっ! 最高の悪友です!!」

 

 そこは親友でいいだろ。

 

 ま、覗き魔なのは難点だが、すっげえ良い奴だよな。その辺に関しちゃ、俺は認めてるぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで自衛隊員が駒王学園を警護し、順次避難活動が行われてるなか、俺達は集合すると即座に追撃の準備に取り掛かっていた。

 

「現在、反ヴィクターの各国の町で同様の活動が起きている」

 

 中継役として派遣された自衛隊員が、タブレットを確認しながらそう告げる。

 

「……フェニックスの血筋だけじゃない。人間世界で住んでいる悪魔を、一般市民が直接視認できる形で襲撃している。民間人の犠牲者は負傷者どまりだが、悪魔側では殺されている者もいるようだ」

 

「なるほど。目的は理解が不十分な事を利用した人間と異形達との軋轢の発生ですか」

 

 会長が冷静に、だけどマジギレなのが分かるオーラを放ちながら納得してた。

 

 あ、ああ。なるほど。

 

 悪魔だけをターゲットにして、あくまで偶発的に巻き込まれた形にすることで、ヘイトの矛先を悪魔にすり替えてるのか。

 

 下衆の所業だな。ヴィクターの連中、やはり性格は悪い部類だって事か。

 

 今までもネガキャンはやってたし、俺ら三大勢力側もやってたが、今回は流石にむかついたぜ。

 

「それで、結界については?」

 

「そちらは現在調査中ですが、今のところ反応してないようです。……無理やり破られたところや、一部が書き換えられた痕跡も見つかりません」

 

 苦い表情を浮かべる会長だが、そこまでか?

 

 敵に優れた術者がいるのなら、突破できる可能性は考慮してしかるべきだが……。

 

「現段階で一番可能性が大きいのは、裏切り者の可能性です」

 

 ………マジですか。

 

 いや、そりゃスパイの一人や二人どこにだって潜り込んでるだろ。

 

 駒王町は三大勢力側でも相当の規模になってるからな。スタッフも相当数いるから、スパイの一人ぐらいいてもおかしくないとは思うんだけどよ。

 

「それも、おそらく私達重鎮レベルのスタッフに裏切り者がいる可能性があります。そうでもなければこうも簡単に侵入されて気づかれないなど考えられません」

 

 ………いや、ないだろ。

 

「お言葉っすけど会長。ここにいる連中、そんな腹芸できるような奴らだと思いますか?」

 

 馬鹿正直が基本の俺らにそんなことできるか? 言っちゃなんだが不可能だろ。

 

 つっても洗脳されてたら定期健診でばれるだろうし、じゃあどうやってだ?

 

「しいて言うなら、オーラの似通っている近親者に腕の良い者がいる可能性ですね。超一流の術者が私達の近親者なら、時間を駆ければ手引き程度はできると思いますが……」

 

 そんな心当たり、あるわけがねえ。

 

「私、一応両親の顔とか知らないけど、それ絡みかしら?」

 

「あ、それを言ったら俺もそうだな」

 

 と思ったらあったよ。近親者の存在を知られないのが姐さんと俺の2人も。

 

 だが、会長は流石にそれはないと首を振る。

 

「そんな天文学的なことは流石にないでしょう。それなら、(シトリー)リアス(グレモリー)絡みで裏切り者がいたと考える方がまだ納得できます」

 

 う~ん。だったら一体どこから?

 

「なあ。それは気になるけど、それ以上にやる事があるんじゃないですか?」

 

 と、イッセーが声を出す。

 

 その表情は、かなりのマジギレモードだった。

 

 自分達が大切にしている平和な日常を、後輩を狙った行動で台無しにされた。

 

 ……相当むかついて当然だ。俺だって少し切れてるぜ。

 

「あいつらはただじゃ返さない。逃げられる前に一発殴らないと気がすみません!」

 

「同感ですぜ。……今回は戦争としてもかなりのグレーゾーンだ。落とし前はつけときたい」

 

 イッセーと俺の言葉に、会長も頷いた

 

「同感です。そして、その招待状を彼らは用意してくれました」

 

 そういうと同時、駒王町周辺が書かれた地図に、赤い丸がいくつも書かれる。

 

 山間部の廃棄された別荘。廃工場。そして、冥界に行く時に使った駅。

 

「この三か所で敵の反応が確認された。現在は第二中隊がそれぞれ分散して周辺の安全確保を行っている」

 

 自衛官の説明を聞いて、俺達は納得した。

 

 ……つまり、俺達は三手に分かれて行動するって事か。

 

「なら、神滅具組は分散した方がいいな。俺と姐さんとイッセーはそれぞれ別の地点を狙うべきだ」

 

「そうですね。戦力の一極集中は状況によっては悪手です。この場合は均一にするべきでしょう」

 

 そういって、ソーナ会長はにやりと笑う。

 

 俺はその凄みのある笑みに、怒りすら忘れて一瞬寒気を感じた。

 

 ああ、この人やっぱり悪魔だよ。

 

「私達の駒王学園に魔の手を伸ばした罪、彼らの苦痛と血で贖ってもらいましょうか」

 

 こりゃ、あいつら終わったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この時俺は、ヴィクター経済連合を何度も追い返してきた実績から、奴らを舐めてかかっていた。

 

 ……ヴィクターは、数々の勢力が集まって出来た組織だという事を、すっかり忘れちまってた。

 



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第六章 10

ヴィクター経済連合の事前準備編。

原作では調子ぶっこいたチンピラ魔法使いだけでしたが、本作では一味違いますよ?


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 山間部のヴィクターは、正直言って油断していた。

 

「山ごと吹っ飛ばされたら、さすがに俺たちもヤベえよなぁ」

 

 口ではそう言うが、然しそんな事は起こるわけがないと高をくくっている魔法使いが、そうのんきな事を言う。

 

 それに同意するかのように、他の魔法使いも同意の視線を向けていた。

 

 周りの者達の大半も同意見のようだ。彼らには緊張感がなく余裕だけがあった。

 

「こんなところの山をぶっ壊したら、あそこの街の連中の心象が最悪だからな。下手したら追い出されるぜ?」

 

「悪魔を許すなーって排斥運動だもんな」

 

 余裕の根幹は、この距離にあった。

 

 山の中なので人は住んでいないが、しかしかなり都市部に近い位置取り。それが精神的な枷になる。

 

 ここを大規模出力で勢いよく吹きとばせば、その時点で日本国民の心象は最悪だ。

 

 彼らは異形の存在を受け入れ始めているが、それはまだ微々たるもの。その上位陣の破壊力をよく理解していない。

 

 ゆえに、天変地異を思わせる地形破壊攻撃をすれば、その恐怖心が排斥運動に繋がる。

 

 自分達が分散して撤退用の大規模術式を展開しているそこは、まさにそういう立地を意図的に選んでいた。

 

 だから、こんなところでいきなり大火力を叩き込まれるわけがない。

 

 そう確信する者達を、蔑んだ表情で見ている者達もいた。

 

「……あいつ等、戦場ってのが分かってねえな」

 

「同感だ。あんな馬鹿どもに、我ら英雄(エインヘリヤル)が協力しなくちゃいけないとはな」

 

 唾でも吐きたい衝動にかられながら、彼等リヒーティーカーツェーンは警戒を怠らなかった。

 

 あいつらは油断している。戦場とは、そういう事があってもおかしくないのだ。

 

 最悪の場合、この地の神々が直接動く可能性もある。

 

 日本の神々が積極的に動いたという事実があれば、国民の感情を抑える事もできるからだ。少なくとも悪魔の排斥運動には繋がらないし、異形に対する恐怖ではなく神々に対する畏怖の感情にすり替える事もできる。

 

 それほどまでに、彼らは神々を脅威として認識していた。

 

 そして、それでも止まらない。止められない。

 

 それほどまでに、彼らのアースガルズに対する怒りは根強かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、同じような油断をしているのは何処も一緒だった。

 

 廃工場の周りを取り囲む戦車や装甲車を見ながら、のんきに酒をあおっている魔法使いまでいる。

 

「うっひょー! 自衛隊の連中もよくやるぜ。あんな兵器がなんになるってんだ」

 

「流石に戦車砲程度にやられる結界なんて展開してねえっつーの! 無駄な装備ご苦労様ー」

 

 などという挑発行為すらする彼らを前に、リヒーティーカーツェーンと同様に蔑みの視線を向けている者もいる。

 

 彼らも魔法使いといえば魔法使いだが、然しローブはつけていなかった。

 

 一見すると町中でならどこかにいそうな目立たないファッションに身を包んだ、これまた比較的地味な容貌の者達が集まっていた。

 

「なあ、この作戦参加はやっぱりまずかったんじゃないか?」

 

「確かにな。あいつ等、自衛隊が九尾の狐や北欧の悪神との戦いでも成果を上げたって事を気にもしていない」

 

 そう口々に言う彼らは、先に逃げる事も算段に入れ始める。

 

 それをたしなめる声が飛んできたのは、まさにその直後だ。

 

「だめ……です。それでは、発言力を上げれない……です」

 

 そういうのは、可憐な少女。

 

 クラスで二番目に可愛いといったレベルの少女は、強い意志をもってして逃げる算段を整えていた同士をたしなめる。

 

「教会にとどめを刺すには、ヴィクターの協力が必要……です」

 

「そ、そうだな。だけど、それなら時間が経てばいつかは―」

 

 そう言いかける同僚を、少女は視線で黙らせる。

 

 それでは駄目だと、強い意志を込めて言外に告げる。

 

「この戦争は長い……です。私達の代で恨みを晴らさなくては、子供達が可哀想……です」

 

 ファミリアは、教会を滅ぼす事を目的としてヴィクター経済連合に所属する事を選んだ組織だ。

 

 それはある意味で最初に叶ったが、しかしまだまだ教会に対する恨みは根強い。

 

 そして、それで構成員の子供の人格が歪むような事は、避けたいと心から願っていた。

 

 ゆえに、できる限り早い段階でまず教会を潰してもらう必要がある。

 

 異形達との戦いは、寿命の長さもあって何十年どころか百年を超えても続くかもしれない。少なくとも、子ども達が大人になる頃まで消し切られる事はないだろう。

 

 だから、せめて教会に対する恨みと憎しみだけは、自分達の代で晴らしてやりたい。

 

「子ども達は、宝……です。だから、彼らには健やかに生活してもらいたい……です」

 

 そう言って儚げな笑みを浮かべる少女に、二人の及び腰だったファミリアの魔法使いは頭を下げる。

 

「ああ。俺達が悪かった」

 

「言われた通り、敵の戦闘能力をきちんと調べないとな。例のクソドラゴンのテストが終わるまでは持ち堪えねえと」

 

「そのとおり……です」

 

 満足げな表情を浮かべ、少女は周囲を包囲する自衛隊を見据える。

 

「来るなら来い……です」

 

 その表情に、負けるかもしれないという不安はあっても、勝ち目がないという絶望は、ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、本命が待機している駅の地下では、臨戦態勢が整っていた。

 

「……赤龍帝はこちらに来るのか?」

 

「来ない時は転移させるだけだ。もっとも、B地点はともかくA地点は避けたいがな」

 

 そう会議を行うコノート組合の意見に、一人の男が舌打ちした。

 

 青銅器の装身具に身を包んだ、肌色の濃い男。

 

 彼はこの国があまり好きではなかった。

 

「ふん! 教会の糞共と手を組んだ連中の施設か。できればウォーミングアップにぶち壊したいところだぜ」

 

 だが、それをすれば術式にほころびが生じて余計な被害が出るかもしれない。

 

 教会の連中が何人も死んでくれれば嬉しいし、できれば苦しんで死んでくれるとなおいい。それに協力している者も、酷い目に合えばいい。彼は心からそう思っていた。

 

 だが、理由になってない理不尽な暴力はできれば避けたい。暴力は必要以上に振るうべきではないのだから。その怒りこそが自分をここに連れてきたのだから。

 

 だから、彼は苛立ちを深呼吸で沈めながら、静かに敵が来るのを待つ。

 

「やはりこのX地点が一番有力だからな。戦力はここに特に集中するだろう。ソーナ・シトリーを指揮官に、兵藤一誠を切り札とする構図が最有力だ」

 

 その言葉には否はない。

 

 ここは悪魔の施設だ。能力のある老害という迷惑極まりない者達が蔓延っている悪魔の政府に今回の失態を弁明するには、悪魔の手で解決する必要があるだろう。

 

 この駒王町にいる悪魔で最も待遇が上のソーナ・シトリーと、悪魔達のヒーローである兵藤一誠が出てくるのは、当然の事ともいえる。

 

「とは言え、ソーナ・シトリーは本部に陣取って総合指揮に専念するかもしれません。そう言う大局的な作戦指揮もできる御仁でしょうしね」

 

 と、そこに意見を言う者がいた。

 

 その者の顔を確認して、コノート組合のメンバーが居住まいを正す。

 

 荒くれ者の多い彼らとは言え、明確に契約を交わした組織だ。

 

 重鎮に対する最低限の礼儀だけは、きちんとしている。

 

「とは言え、一番冥界にとって重要なこの施設は悪魔である兵藤一誠が向かうべきところでしょう。B地点は広域殲滅能力のあるリセス・イドアルでしょうし、A地点は比較的周辺被害を押さえられるヒロイ・カッシウスでしょうね。私ならそうします」

 

 因みに、A地点は住宅街が近くにある廃工場だ。逆にB地区が、比較的人里から離れている別荘である。

 

 この三か所に投入した戦力を分けたのは、ひとえに全滅を防ぐ為でもある。

 

 地方都市で大火力攻撃で広範囲殲滅を行うとは思えないが、しかし敵が馬鹿である可能性も考慮するのはそこ迄愚かな作戦立案方法ではない。

 

 相手の行動に必ず意味や手回しがあると考えない。ソーナ・シトリーもリアス・グレモリーもまだ子供なのだ。大人ですら時折しでかしかねない失敗を、彼女達が決してしないなどとは考えない。

 

 最悪の場合、あの辣腕の総理大臣がそれを決断して要請する事もありうる。そして余計な騒ぎを自分達が押させる事もありうる。

 

 あの総理大臣は、自衛隊が異形と戦える事は理解しているし、だからといって異形の大勢力と正面衝突できるとも思ってないはずだ。いざという時の冷徹な判断もできるだけの猛者だと想定している。

 

 そこ迄踏まえたうえでの作戦。失敗は許されない。

 

 許されないが……。

 

「まあ、ヒロイ・カッシウスでもリセス・イドアルでも彼のテストには十分です。この状況になった時点で、作戦はほぼ成功ですね」

 

 それは、彼らにとってもうできたようなものだ。

 

 あとは神滅具使いが誰か一人でもこのX地点に来ればそれで十分。彼の要望を応えるのも兼ねた実戦テストを適度にして、撤退すればいい。

 

 それがヴィクター経済連合重鎮部の結論であり、そして、最後に一つだけ野暮用があった。

 

「それでは、よろしいですか?」

 

 フードの男は、青銅を身に着けた男にそう問いかける。

 

 否。彼だけではなく、通信用の魔方陣も含めてA地点とB地点の者たちにも声をかけていた。

 

「これから我々は君達のテストを行います。今後のヴィクター経済連合の作戦の主要メンバー選抜テストです。実力をきちんと示して、捕まることなく生き延びてください。そうすれば、宰相もLも今後の作戦に徴用してくださいます」

 

 そう、これが最後の野暮用。

 

 今後の主要作戦を遂行する為の、精鋭戦闘員の選抜テスト。

 

 これから、ヴィクターは本格的な攻勢を仕掛ける為の準備期間に入る。

 

 その補佐も兼ねたかく乱作戦のため、重鎮達は各地方で成果を上げた組織や、実力者が集まっている組織に要請をかけたのだ。

 

 北欧ヨーロッパを中心に、新たに参加してから勇猛果敢に攻め立てる、リヒーティーカーツェーン。

 

 混乱する聖書の教えの勢力圏内を飛び回り、そのネットワークでゲリラ戦を展開して悪魔祓いを屠ってきた、ファミリア。

 

 そして、南米の教会をいくつも滅ぼし、大司教クラスの重鎮すら暗殺した、アステカ。

 

 それ以外にも各地方で一定以上の成果を上げてきた者達が、今この場に集まっていた。

 

 多くの者達がヴィクターでのし上がる為。

 

 そして一部の組織は復讐を果たす為。

 

 ここに、ヴィクター経済連合は新たな動きを見せようとしていた。

 




 応募した勢力の内、行けると思った勢力を出してみました。ただしリヒーティーカーツェーンは自分で考えました。

 魔法使い達はぶっちゃけどうとでもなりますが、こいつらは手ごわいですぜ?


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第六章 11

多方面作戦スタート


 

 A地点でそれに気づいたのは、リヒーティーカーツェーンの構成員だった。

 

「……敵襲だ、結界展開!!」

 

 即座に動き、そして魔法使いが結界を展開。更にその魔法使いに戦士達が覆いかぶさり、楯となる。

 

「は?」

 

「いやいや。魔力も魔法も反応してねえし」

 

 そして、魔法使い達はそれを信じられないといった感じで真剣な反応をしなかった。

 

 ……それが、命運を分けた。

 

―ヒュゥウウウウウウウ……

 

 風を切る音に気付き、魔法使い達がのんきに顔を上げた直後―

 

「馬鹿野郎が!」

 

 リヒーティーカーツェーンの戦士達の怒声と同時に、爆発が魔法使い達を吹き飛ばした。

 

 更に連続する音に魔法使い達が防壁を張るが、然し薄い。

 

 人工神器技術の流用によって急増された、火力を大幅に向上させた榴弾は、遠慮なく調子に乗っていた下位の魔法使い達を蹂躙する。

 

 そして、その爆撃を成し遂げたのは、当然の如く自衛隊。

 

 迅速に展開した自衛隊による、世界で「何で精鋭を一極集中させとるんじゃ(意訳)」「いや、たまたま当番の一般部隊だけど?(こちらも意訳)」という会話をさせたという、実戦経験が少ないくせして練度の高い技術と精度の高い兵器による精密間接照準砲撃。

 

 米軍が甚大な被害を発生させるほどの猛吹雪の中、情報が届いてないとはいえ雪合戦するほどの余裕を見せる猛者すらいる陸上自衛隊を舐めていいはずがない。

 

 その精密な砲撃が、狙い通りにピンポイントで敵陣営を直撃。即座に重厚な防御を行ったリヒーティーカーツェーン以外の人員を壊滅させる。

 

『全弾有効打っす! あとは掃討戦に映るので、下がってくださいッス!』

 

「了解した。観測データの提供、感謝する」

 

 観測データを相手の勘違いから送ってくれたペト・レスィーヴに感謝して、陸自特科部隊は、撤収を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その情報が速攻で行き届き、それに即座にB地点の者達は対応する。

 

 いや、それは対応ではない。ただ慌てて行動を開始しただけともいえる、判断が速いだけの愚行だった。

 

「し、質量でカバーだ! ゴーレムを作り出せ!!」

 

 魔法使い達が慌てて周囲の地面を隆起させて岩人形を作り出す。

 

 その質量はまさに圧倒的。更に魔法で強化もされているので、頑丈さも折り紙付きだ。

 

 それを盾にして作戦終了までの防衛線に移れば、自分達なら大丈夫だろう。

 

 ……その安心は、一瞬で崩れ去った。

 

『……ビンゴぉ!!』

 

 活躍の場が出てきた! やったぜ出番だ!!

 

 そんな感情を言外に乗せて、防人一型部隊が、民家の陰に伏せていた状態から飛び上がって廃工場へと飛び込んだ。

 

 それに対してゴーレムは腕を振り上げるが、然し遅い。

 

 人間の反応速度で人間を遥かに超える移動速度を叩き出す防人一型に、そのような鈍重な攻撃は通用しない。

 

 巨体ゆえに動きそのものが遅くなることを恐れた開発担当は、キョジンキラーよりも小型化させる方向で言った。

 

 人間の反応速度と稼働速度を再現できる上で量産性を考慮したサイズに収める事で、非常に高い性能を発揮するようにしたのが防人一型。加えて、その範囲内でこういった市街地などの入り組んだ地形での戦闘に特化していると言ってもいい調整すら行われている。

 

 そのサイズは更に人間サイズの敵との戦闘も考慮した結果ではある。だが、同時に大型の魔獣などとの戦闘も考慮している。その辺りのバランスを考慮している。

 

 だが、最も最大限に効果を発揮するのは、やはり同等サイズの敵との殴り合いだ。

 

 焦りに焦って作られたゴーレムは、まさにその同等サイズの敵だった。防人一型にとっては、慣れない相手だがもっともやりやすい相手ともいえる。

 

 そして防人一型同士による模擬戦など、訓練なら当然行っている。

 

 敵のゴーレムは、できたその場から破壊されていった。

 

「くそ! 作れ作れ!!」

 

「魔法力さえあればいくらでも作れるんだ! 数で押せ!!」

 

 頭に血を上らせ、恐怖に心を凍らせ、冷静な判断ができない魔法使い達。

 

 その間に、普通科の者達が廃工場に潜入している事に、彼らは全く気付かない。

 

 それに気づいていたのは、ただ一組織だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、X地点にも敵が襲撃する。

 

 それに対応するのは、戦闘訓練も実戦経験も豊富なコノート組合の構成員。

 

 速やかにガスマスクを装着し、催涙弾を展開して隙を作ろうとする。

 

―っそして、暴風がそれを一瞬で散らした。

 

「―こんな単純な策、対策なんていくらでも思いつきます」

 

 さらりと風を生み出して無力化したロスヴァイセの後ろから、十数人の悪魔達が現れる。

 

 そして、そのうちの2人が一歩前に出た。

 

 その姿を見て、傭兵達は警戒心を跳ね上げる。

 

 そこにいるのは天龍と龍王。グレモリーとシトリーの最強戦力。伝説に名を轟かす強大なドラゴン。

 

 赤龍帝、ドライグ。その宿主を、兵藤一誠。

 

 黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)、ヴリトラ。その宿主を、匙元士郎。

 

 そして、ドラゴンには逆鱗という概念がある。

 

 触れれば下位の龍ですら上位の存在を滅ぼしかねないほどの、一種の起爆スイッチ。触れることが自殺行為だと言われるほどの、龍が各勢力から恐れられ、最強の存在だと言われる一つの要因。

 

 それを、彼らは盛大に踏みつけた事を実感する。

 

 それほどまでに、彼らは怒りに燃えていた。

 

「やるぜ、兵藤」

 

「もちろんだ、匙」

 

 そして、その暴威が巻き起こるのを確認して、コノート組合は瞬時に判断を下した。

 

 即座に状況を楽しんでいる愚か者達を囮に撤退戦に移行。戦力を温存しながら離脱を開始する。

 

 そそる戦いは楽しみだが、意味もなく自殺する気はない。正直人格的にも尊敬できない馬鹿どもは囮にした方が価値がある。

 

 そう冷徹に判断すると。コノート組合はこっそり後退を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「別荘地、表にいた戦力の七割を殲滅に成功! これより普通科部隊及び、堕天使スタッフを投入します!!」

 

「廃工場、防人科部隊による陽動成功。こちらも普通化及び教会、天使スタッフを中心として投入してます!!」

 

「駅構内にグレモリー眷属とシトリー眷属の潜入成功! 現在、敵部隊と交戦中です!」

 

 作戦内容が逐次報告されているのは、駒王学園ではない。

 

 ここは駒王町の範囲内にある山間部に設立された、自衛隊の駐屯地。

 

 普通科一個大隊や、最新鋭の防人科一個大隊を保有する、対異形及び異能者に特化している防衛施設。

 

 これまで幾度となく亡命の目標地とされ、政治的にも重要な人物が何人もいるこの駒王学園を警護する為に設立された、特例的に仮設された自衛隊の駐屯地。

 

 たかが仮設と侮るなかれ。第二次大戦で仮設した橋を今でも使っている国があるほど、仮設という言葉を何か勘違いしている日本の建築技術をふんだんに使用した施設化に異形の技術が加わり、シスコンの魔王が「人間の技術との併用による建築技術の発展」という名目の下、あくまでポケットマネーを使う事で納得させて行われた施設は、今後の駐屯地の改設のテストケースとしても運用されているほど。

 

 その、自衛隊の新たなる砦、駒王駐屯地。

 

 その指令室で、オブサーバーとして推薦されたソーナ・シトリーは不敵な表情を浮かべていた。

 

「ふむ。思った以上に冷静だな。こちらは少々できすぎなのが気になっているのだが」

 

 駐屯地の指令の言葉に、ソーナは静かに首を振る。

 

「当然の結果です。おそらく、これは8月に冥界を襲撃した時と似た目的の元行っているのでしょう」

 

 そう、ソーナは既にこの作戦のある思惑を感じ取っていた。

 

「旧魔王派の大幅な失墜及び、英雄派の曹操が結果的に敗北したことによる一時的な発言力の低下。これで調子に乗ったり制御が効かなくなっている小物の勢力を間引くことも目的の一つでしょう。……もっとも、今回は実力者のテストも兼ねているのでしょうが」

 

 裏の思惑迄読み切ったソーナは、ゆえにこそ冷静に考える。

 

 ならば次は何があるか。

 

 決まっている。ここからが本番で、おそらく腕の立つ相手が出てくるはずだ。

 

 だが、ソーナは心配していなかった。

 

「私達の眷属も、リアス達の眷属も、下手な古参の上級悪魔よりも危険な死線を潜ってきました。……そう簡単には後れを取りません」

 

「自慢の部下のようだ。まあ、私もこれほどの精鋭を部下にできて鼻が高いが」

 

 お互いに、優秀な配下を持っている事を認識しながら、二人は作戦指揮所で作戦の推移を見極める。

 

「我々自衛隊を舐めてかかった報い、きちんと受けさせねばな」

 

「もちろんです。こちらも、私達にうかつに喧嘩を売った事を、しっかり後悔させるつもりですから」

 

 冷静に、然し残酷に。

 

 ソーナ・シトリーは、指揮官としてこの戦闘を冷静に把握していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




初戦は圧倒的優勢。しかし所詮出てきたのはただのチンピラ魔法使い。

次からが、本番です。


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第六章 12

はい、ウィザード編はこっからオリジナル展開にして本格的にバトルです。国家らが本番です。


 

 俺は廃工場の裏手から、堂々と入った。

 

 ……第二弾の陽動も兼ねてたんだが、然しなかなか気づかれない。

 

 パニクッてる連中を、聖槍の石突でど突き倒したりマヒ効果のある魔剣を刺したりで無力化するが、歯応えが無さすぎて拍子抜けだ。

 

 これは、俺の油断を誘って不意打ちで英雄派の幹部を叩きつける釣りなんたらか?

 

 マジでそんな気になりながら、俺は次の区画に入る。

 

「……ヒロイさん。こちらの拘束は完了しました。まずは奴らを連行しますので、あまり深入りしないように」

 

「うっす! いつもお疲れさんです!!」

 

 ご苦労は上から目線の言葉らしいから、こっちでいいよなっと。

 

 さて、これで支援は受けれなくなったわけだが……。

 

「出て来ていいぞ」

 

 まあ、深入りするまでもなく本番なんだけどな。

 

「……気づいていた……ですか」

 

 そこに現れるのは、赤毛の少女。

 

 クラス一番か二番っぽい女の子は、しかし戦意を向けて俺を見据える。

 

 コイツも、ヴィクターの連中か。

 

「少しは骨のある奴がいるようだな」

 

「ヴィクター経済連合のファミリア所属、アンナ・ヴェーゲリン……です」

 

 名乗った?

 

 意外だな。そう言うタイプには見えなかった気がするんだが。

 

「古風だな。そう言う奴は嫌いじゃないけどよ」

 

「一応、汚いやり口をした自覚はあるの……です」

 

 なるほどね。詫びのつもりか。

 

 ま、殴る相手が分かるってのは良いこった。これが無理だともう暴走する輩が多くて大変なことになるしよぉ。

 

 だがまあ。俺が聖槍使いで、更に禁手に至らせたほどの使い手なのは当然知られてるはずだ。

 

 禁手そのものは相手も聖槍使いじゃないと意味がねえとは言え、それでも至らせるだけのポテンシャルは脅威と見てくるはず。

 

 そこで態々タイマン張るとか。いい度胸だ。

 

 調子ぶっこいてるわけじゃねえのは、目で見て分かる。

 

 俺が強敵だと確信して、それでも自分なら戦えると、そう確信してる奴の目だ。

 

 そういう、妄想じゃなく事実として認識する連中は、警戒しておいて損はねえ。

 

「いいぜ。……初手から全力で行かせてもらう!!」

 

 俺は即座に聖槍を構えると、牽制抜きで即座に一撃を放つ。

 

 できる限り捕まえて絞る予定だったが、こいつは別だ。

 

 命を奪われる覚悟がある。そのうえで乗り越えようとする決意がある。

 

 校門前で調子物ぶっこいてた阿保共とは違う。油を搾る必要はねえ!!

 

 そしてもちろん、初撃程度は躱してきた―

 

「シッ!」

 

 ショートアッパー!?

 

 俺はバックステップで飛び退りながら、即座に磁力操作で遠くの壁に着地。

 

 魔法使いだからてっきり遠距離戦闘型なのかと思ってた。だが、聖槍使いにして魔剣使いの俺にクロスレンジで挑むとは驚いたぜ。

 

 しかもすげえいい腕だ。どっか機械的な印象はあるが、少なくとも由良や小猫ちゃんとまともに渡り合えるぐらいは―

 

「―フッ!!」

 

 今度は光力式の弾丸だと!?

 

 それも二丁拳銃。しかも正確だ。

 

 それぞれ頭と心臓を狙ってくる。どちらかに意識を向けすぎたら、どっちかを撃たれて致命傷。そう言うレベルだ。

 

 二丁拳銃とか非現実的とか言われるんだが、まさかここまで実践的に使えるとはな。

 

 そう思ったら、ヘッドショットを連続しながら、まったく別の方向に一発放って来た。

 

 俺の斜め上辺りを狙ったわけだが、一体何を―?

 

 そう思った瞬間、天井の構造物が一斉に崩れ落ちた。

 

 廃棄されて長く経っている工場だ。構造上な致命的な部分があるのは分かる。

 

 だが、この状況下でそれを見抜いて当ててきただと!?

 

 こいつ、どんだけ多芸だ!!

 

 しかも今ので動きを封じられた。

 

 ……魔剣で弾丸を切り伏せるしか―

 

「一瞬、あなたは遠距離攻撃のことだけを考えてしまった……です」

 

 その瞬間、そこには魔法で作られた氷のハンマーを持ったアンナの姿があった。

 

 ……まさか、残骸ごと吹っ飛ばす気か?

 

「止め……です」

 

 やっべ、今この状態だと槍が振るえなくて詰むかも!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 自衛隊の普通科と共に、リセスは別荘の敷地内に突入した。

 

 既に狙撃犯と迫撃砲部隊が支援射撃を開始しており、加えてペトが上空から超遠距離狙撃を敢行する三段構えの支援体制だ。

 

 だが、それに関しては半ば無効化された。

 

 別荘周辺に展開された、再生能力重視の魔法結界が原因だ。

 

 再生能力を重視している為、壊しても壊しても再生するので時間の無駄。これで榴弾を使う迫撃砲と、威力の低い狙撃銃による支援は封じられた。

 

 ペトの狙撃なら通用するかと思われたが、こちらに関しては魔法結界が特殊過ぎる。

 

 はっきり言えば三層構造。

 

 一枚目は、濁流のように結界そのものが高速回転している。これにより、攻撃した物体が無理やり回転して、貫通性が堕ちる。

 

 二枚目は、クッションに近い柔らかく通りづらい結界。こちらは貫通性の強い攻撃なら打倒可能だが、一枚目の障壁でそれを防がれている。

 

 そして三枚目が硬さで防ぐタイプだ。これが先の二枚で威力を削がれた攻撃を完全に防ぐ。

 

 生成するのは大変だが、一枚の結界で防ぐよりも効率は良い。優れた術者がいるなら、こちらの方が有効に運用できる。

 

 その為、この戦闘はリセスを中心として運用する必要があるのだが―

 

「では死ねぇい!!」

 

「っと!」

 

 振るわれた魔剣の一閃を、リセスは伏せて回避する。

 

 攻撃は鋭く、魔剣の威力は絶大。加えて視線や足さばきによるフェイントを織り交ぜてくる為、機を張っていても時々攻撃をもらいかける。

 

 これまで戦ってきた使い手の中でも、指折りのレベルの実力者。

 

 その優れた剣術が、リセスをたった一人で足止めするという快挙を成し遂げていた。

 

「やるな小娘!! 流石は英雄(後輩)といったところか!!」

 

「なるほど、あなた、英雄(エインヘリヤル)ね?」

 

 その言い回しで、リセスは彼の来歴に気が付いた。

 

 リセス・イドアルは英雄であろうとしている。これは多くのものが知る事実である。

 

 その英雄の在り方は世間一般のイメージとは異なるものだ。しかし、彼女がそれを英雄と定義して目指していることには変わりない。

 

 そして、ある意味で微妙に定義から外れた英雄は、一つの神話世界では大規模に存在する。

 

 それがエインヘリヤル。

 

 北欧神話において、ヴァルキリーによって選ばれた戦死した者。

 

 アースガルズの神々は、この神々の黄昏(ラグナロク)を乗り越える為に優秀なエインヘリヤルを集める為に奔走。北欧神話を信仰していた者達も、最大の名誉として望んでいた。それゆえに聖書の教えと現地のものが揉めた時には、死を恐れなかったので脅威だったという記録もある。

 

 最も、アースガルズは当時かなり強引な方法で集めており、人間達の世界で戦争を意図的に起こすなど日常茶飯事。戦争の行く末迄コントロールする事も普通にする。っていうか最初から死ぬ相手を選んで戦況を操るなんてマネまでやっていた。

 

「……普通に考えたら、侵略されても文句言えないわね。現代社会でやったら国連軍が止めに入るわ」

 

「ハッ! 戦場という最高の世界に生き果てた者が得られる栄誉をそんな風に言うとは、現代は本当につまらなくなったものよ!!」

 

 リセスの皮肉をそう吐き捨てる男は、そして苛立たし気に歯を食いしばる。

 

「その愚かな人の世に当てられ、我らが主神達はラグナロクを乗り越えるのではなく回避する方向に逃げ腰になった! 分かるか、我らは契約を裏切られ、ゴミのように捨てられたも同じなのだよ!!」

 

「自ら飼い犬扱いされたがる手合いは、流石に初めて見るわね」

 

 かなり一方的なものの見方に、リセスはそう吐き捨てる。

 

 しかし、その男は攻防の手を緩めずに、むしろ誇らしげに胸を張る。

 

「軍用犬とは言いえて妙だ。だが、我らは巨人を喰らう狼だよ」

 

 そしてオーラを纏った拳と、オーラを放つ魔剣がぶつかり合い、力比べとなる。

 

 神器で強化されているリセスと真っ向から張り合いながら、その男はくじけず真向から睨み付ける。

 

 自衛隊員も魔法使いの大半は倒したが、男の同僚と思しき北欧風の戦士やヴァルキリーによって苦戦を強いられていた。

 

 その戦況の中、声が響く!

 

「そう! 我らは打ち捨てられし軍用狼!」

 

「運命を乗り越えんとする気高き魂を、運命から逃げ出そうとする穢れた神々に打ち捨てられた者達!!」

 

「ゆえにこそ! 我らはそれを名として反逆しよう!!」

 

 その言葉を受け止めて、リセスと相対する男は、強引にリセスを弾き飛ばすと大上段から切りかかる。

 

「我らリヒーティーカーツェーン!! そしてこのグルズとグラム・レプリカの前に滅びるがいい!!」

 

 そして、その一撃が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 うおりゃぁあああああ!!!

 

 俺は匙のサポートに回りながら、譲渡を駆使して味方を支援していった。

 

 ドライグはまだ眠ったままだから、赤龍帝の鎧を展開するのも一苦労だ。

 

 新しい体の力でドラゴン化することはできるけど、これも慣れてないから暴走しやすく、うかつに使えない。

 

 だけど……。

 

「この程度の攻撃、物の数にもならないね!」

 

「私達の仲間に危害は加えさせないわ!!」

 

 シトリー眷属が魔法使い達の攻撃をあっさりと防いでいく。

 

 アザゼル先生が中心となって、ようやく本格的に生産が進んでいる人工神器。そのテスターとなったシトリー眷属はかなり強かった。

 

 元から俺達と同じように特訓で強くなっていくやつらだからな。少しずつだけど、それが身になってるって事だ。しかもアザゼル先生達グリゴリ特製の装備まで持ってるなら、大幅に強くなってるはずだ。

 

 そして、朱乃さんも魔法によって作られた障壁で、自衛隊の人達をカバーしてる。

 

 そして自衛隊の人達も制圧射撃で魔法使い達の動きを封じる。

 

 どうだ! この駒王町は、俺や木場だけで守られてるわけじゃないんだぜ!!

 

「兵藤! 俺がラインを繋ぐから、そこに譲渡の力を流してくれ!!」

 

「分かった! じゃ、先ずは誰に―」

 

 匙と連携しながらサポートに回ろうとした、その瞬間―

 

「―先輩! 後ろです!!」

 

 実は匙に惚れている一年の仁村が、慌てて俺達の後ろを指さした。

 

 とっさに俺は振り返って籠手を盾にし、匙も神器の力で邪炎の壁を作り出す。

 

 そして、それに受け止められたのはなんかよく分からない変な武器だ。

 

 木の板の左右に、黒くてピカピカした石がとがった状態で何個も並べられてる。

 

 な、なんだ、これ?

 

「……マクアフィテル。珍しい武器です」

 

 知っているのか、小猫ちゃん!?

 

「南米などで使われてる武器です。金属製の武器が発達しなかったアステカ文明とかで使われていたと聞きます」

 

 そうか。金属がないなら石で作るしかないよな?

 

「ハッ! 糞共とお友達になった蝙蝠にしちゃぁ、少しは物知りじゃねえか!」

 

 すっげえ乱暴な言葉を、目の前の男は言ってくる。

 

「お前! ここのリーダーか!?」

 

「んなわけねえだろ、馬鹿が! リーダーは作戦考える役、俺達はお前らをぶっ殺す役だ!!」

 

 俺の言葉にそう言い返しながら、その男はマクアフィテルを構えながら、視線を周りに向ける。

 

「転生天使のAはいねえのかぁ? 俺はそいつをぶっ殺して、心臓を神々に捧げたかったんだがよぉ!!」

 

 なんだって!?

 

 イリナを殺したい? しかも、心臓を抉り取って神様に捧げる!?

 

 ふざけんな! イリナは別に悪いことはしてねえだろうが!! そこまでされる筋合いは何処にもねえ筈だろ!!

 

「てめえ! いったい何なんだ!!」

 

 俺は指を突き出して睨み付ける。

 

 そして、その男は苛立ち表しながら歯をむき出した。

 

 そして、男の後ろからも更に増援が現れる。

 

 ああ、間違いない。

 

 こいつら、さっきの魔法使い達とは格が違う!

 

「俺達はアステカ! 聖書の教えに滅ぼされた、アステカ文明の生き残りよぉ!!」

 

 そして、そいつは俺達に飛び掛かった。

 

「くたばりやがれ!! あとで教会や天界の連中も同じところに送ってやるぜぇ!!」

 

 なめんな! あんたらが聖書の教えに何されたのかは知らねえが、だからって駒王学園の生徒達まで巻き込んだのは赦せねえ!!

 

 っていうかあんた人間じゃん! 生まれてもないことでなんで生まれてなかった俺らまで敵視できるんだよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




敵精鋭と神滅具持ちのバトル! 白熱した戦いにできたといいなぁ!!


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第六章 13

はい、三方向での激戦、さてどうなることやら!!


 

 な、めるな!!

 

「磁力操作!!」

 

 俺は磁力を操作して無理やり瓦礫をどかすと、そのまま転がってハンマーを回避。

 

 即座にコイルガンを展開して、反撃した。

 

「っと……です!?」

 

 それを思いっきり慌てながら回避するアンナに、俺は即座に聖槍を突き出す。

 

 即座にナイフでそれを受け止めるアンナとの力比べだが、これに関しちゃ俺の勝ちだ。

 

 魔法で強化しているみたいだがアンナは見た目通りの華奢な少女だ。

 

 対して俺はこれでも訓練を受けた悪魔祓い。それなりに筋力もついている。

 

 少しずつだが拮抗は崩れる。明確に俺の方が有利だ。

 

「覚悟してもらおうか……!」

 

 こういう倒し方はちょっときついが、これも英雄としてやらねばならない重みというもんだろ。覚悟を決めろ、俺。

 

 そして強引に槍を押し込もうとした時―

 

「アンナ!!」

 

 新手か!?

 

 俺は飛び退ると、横から放たれた魔法攻撃を回避する。

 

 それなりにできる連中がいるじゃねえか!

 

 更に魔法剣士と思しき連中が切りかかる。

 

 それも俺は躱すが、流石に数が多い。このままだと少し負傷するか……?

 

「アーメン!!」

 

 そこに現れるのはイリナだ。

 

 どうやらあっちは終わったようだな。チンピラ魔法使いの連中は片付いたみたいだな。

 

 量産型聖魔剣を構えて、イリナはいつも通りのハイテンションでファミリアの連中に切っ先を突き付ける。

 

「投降するなら今の内よ! ああ、寛大なる主とミカエル様のご慈悲に私は涙がちょちょぎれそう!」

 

「……今流すなよ? 絶対流すなよ!?」

 

 今視界に悪影響があったら攻撃が当たりそうで怖いんだよ。

 

 まあ、この調子ならもうこいつらぐらいってところか。思えば外の騒がしさは殆どなくなってるしな。

 

 なら投降もマジで考えた方がいいとも思うんだけどよ。

 

「……ざけんな! 誰が教会の連中なんかに!」

 

「あんたら天の使いが、もっときっちり監督してりゃぁおれらは……!」

 

 ん? なんかイリナに対してでかい敵意をぶつけてきやがったぞ?

 

 立ち上がったアンナも敵意の籠った視線をイリナにぶつけながら、しかし後ろに下がる。

 

 そこから黒い霧が現れてる。

 

 しまった! 絶霧か!!

 

「試験は終了のよう……です」

 

「そっか。できれば合格できるといいな」

 

「ああ。そうだな」

 

 その霧に包まれて、ファミリアの連中は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り下ろされた魔剣を、リセスはバク転で回避する。

 

 両足の間を魔剣が通り過ぎる。一瞬寒気が走るほどギリギリの回避だった。

 

「チッ! このグラム・レプリカを躱すとはな!」

 

「レプリカにやられるわけにはいかないわね」

 

 ある程度の距離を取りながら、リセスは負けられないと決意を新たにする。

 

 そう、レプリカに負けるわけにはいかない。

 

「私はオリジナルを一つの極みに至るまで鍛え上げた、あの男と何度も戦ったの。そんなデッドコピーを使いこなせてないあなたなんかに、負けてやれないわ」

 

「俺を、あのような輩より格下というか!」

 

 怒りを見せた男は飛び掛かろうとするが、それより先に攻撃が叩き込まれる。

 

 それは、斜め下の方向だった。

 

「むっ!? これはペト・レスィーヴ!?」

 

「お姉様無事っすか!!」

 

 その声に視線をちらりとむけると、そこには―

 

「一生懸命頑張ったッス! 褒めてほしいっす!!」

 

 結界の下、その地面を掘って穴をあけて射撃スペースを確保したペトがいた。

 

 一言言おう。コロンブスの卵か。

 

 みれば狙撃犯も同様の手段で狙撃を再開している。魔法使いの中には飛んでいる者もおり、それを狙っているのが大半ではあるが。

 

「チッ! 面倒なことになってきたな……!」

 

 そう男が舌打ちすると、まるでタイミングを計ったかのように霧が生まれる。

 

「絶霧……っ!」

 

「総員後退! 敵本陣に連れていかれるぞ!!」

 

 リセス達が警戒して距離を取る。

 

 それ幸いと、リヒーティーカーツェーンは霧に包まれながら撤退を開始する。

 

 そして、グラム・レプリカの持ち主はリセスに強い視線を送った。

 

「教会の狗にすらなれなかった奴を私より格上とした屈辱、必ず晴らさせてもらう」

 

 グラム・レプリカの切っ先を突き付け、男は最大限の殺気を放つ。

 

 そして、リセスもそれを真正面から受け止めた。

 

「我が名はグルズ! リヒーティーカーツェーン最強の戦士だ!! 覚えておくといい!!」

 

 その言葉を最後に、リヒーティーカーツェーンは撤退した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 くっそぉ! こいつ、マジで強い!!

 

「オラァ! そろそろ死になぁ!!」

 

 まくあなんとかを振るいながら、盾を的確に使ってそのアステカとか言った組織の野郎は俺達と戦闘する。

 

 周りでも同じような格好の奴らが、俺の仲間達を相手にして互角に渡り合ってる。

 

 クソ! 戦力的にでかい派閥だった旧魔王派は大打撃を受けて、英雄派相手でも生き残ったんだぞ、俺らは!!

 

 それが、こんな初めて聞いたような連中に苦戦するなんてきっつい!!

 

 でも、いい加減反撃するぜ!!

 

「……おらよっと!!」

 

 俺は腕をドラゴン化させると、まるあ何とかを受け止める。

 

 色々加工されてるのか突き刺さるけど、切り裂かれたりはしない!!

 

「んなっ!? アステカの秘術で作られた特別製だぞ!?」

 

「オーフィスとグレートレッドが作ってくれたこの体を舐めんな!!」

 

 俺は勢いよく拳を握り締めると、この野郎を殴り飛ばす!!

 

 野郎は盾でそれを受け止めるけど、そのまま強引に弾き飛ばせた!!

 

 吹っ飛ばされた奴はすぐに空中で一回転すると、そのまま着地する。

 

 そしてそのタイミングで、霧が辺りを包み込んだ。

 

 あ、これ絶霧!?

 

「総員後退!!」

 

 一緒に戦ってた自衛隊の人が声を張り上げて、俺達も後ろに下がる。

 

 そんな中、俺が殴り飛ばした野郎は、苛立ちを込めた目で俺達を睨むとまんな何とかを突き付けた。

 

「覚えとけ! 俺達はアステカ!! 聖書の教えに手を貸す連中は、俺達が殺し返してやる!!」

 

 ああもう! また聖書の教えのやってきた事的な事かよ!!

 

 んなもん、その時の連中に言ってくれよ!! 俺らには殆ど関係ないだろぉ!?

 

「俺はヤコブ!! キリストを滅ぼすヤコブさまよぉ!! てめえらをぶっ殺す奴だから、覚えて起きやがれぇ!!」

 

 そんな叫び声と一緒に、霧は消えていった。

 

 またか。また聖書の教えに恨みがある連中が、暴れようってのかよ。

 

 もう何百年も前の話だろ。和平を結べば、そこをとっかかりに賠償金ぐらい少しずつ取れるだろ?

 

 なんで、態々こんなテロまがいな事して迄暴れたがるんだよ………っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

「……敵陣営、撤退を確認。三地点全てで残存する敵勢力は転移した模様です」

 

 そのオペレーターの言葉に、その場にいた者達が少し息を吐く。

 

「思ったより、被害も少なければ簡単に事が済みましたね」

 

 誰かがそう言うのも無理はない。

 

 この若手の化け物グレモリー眷属のおひざ元である駒王町。そのグレモリー眷属の大半が残っている状態のここは、まず間違いなく悪魔が住んでいる地域でなら最強格の要塞も同然だ。

 

 そんなところに態々こんな挑発的な事を仕掛けてくる以上、それ相応の戦力を送ってくるものとばかり思っていたのだ。

 

 当然被害は大きなものとなるだろう。いかに厳選された部隊とは言え、いまだ科学による偉業への対抗は難しいのだ。敵も精鋭が出てくるとなれば、苦戦は必須だ。

 

 それがふたを開けてみれば基本的にはワンサイドゲーム。一部精鋭が敵精鋭とぶつかっててこずったが、その程度で済んでいるのは僥倖というほかない。

 

 ……だが、そうも言ってられないのが実情だ。

 

「どうやら、君の予想が当たったようだな」

 

「ですね。やはり今回は今後の主力の篩い分けなのでしょう」

 

 駐屯地の指令とソーナは、そんな中苦い表情を浮かべている。

 

 二人は分かっている。これの目的の一つは陽動だと。

 

 ヴィクターでも大きな勢力だった旧魔王派と英雄派。その二つが、活動を縮小している。

 

 旧魔王派は傲慢さからくる暴走で自滅。しかもシャルバが更に暴走して愚行を行っており、組織内での自粛は免れないレベルだった。

 

 英雄派も主力のうち二名が、戦死及び再起不能という大打撃を受けている。他の構成員もシャルバによって被害が出ているとのことであり、少しの間は活動を縮小しているようだ。

 

 その影響で末端の制御が効かなくなったのだろう。そのガス抜き……と見せかけた切り捨ても兼ねていたと考えるべきだ。

 

 そして、そんな中で将来有望な組織を拾い上げるというのも側面の一つだろう。

 

 神滅具保有者三名と、それぞれ渡り合った敵組織の猛者。

 

 ファミリアのアンナという少女。

 

 リヒーティーカーツェーンのグルズという戦士。

 

 アステカのヤコブを名乗る男。

 

 この三人は特に警戒が必要だろう。激戦を潜り抜けて駒王町でも三強と言っていい神滅具保有者三人と渡り合うなど、最上級悪魔でも困難なレベルなのだ。

 

 それをなすだけの存在が、まだ敵にもいるというのは驚異以外の何物でもない。

 

 ドーインジャーの存在によって、兵士の数においてはこちらが大幅に苦戦しているのが現状。質でもまだまだこれほどの猛者達が残っている。

 

 ……この戦い。まず間違いなく更に激しくなっていく事になるだろう。

 

「正直な話、この駐屯地の存在があるのは心強いです」

 

「無論だ。それも目的の一つだからな」

 

 和平成立の地である駒王学園。

 

 それがある駒王町は、異形社会にとって小さくない影響力がある。

 

 そこをついての作戦も、今後は立てられる事になるだろう。

 

 そしてグレモリー眷属は様々なところに行く事になるかもしれない。そこを考慮すると防衛戦力が増えるに越したことはない。

 

「将来的には駒王駐屯地は対異形戦の教導隊の駐屯地として機能する。若手の精鋭たる君達との模擬戦なども考慮したものだ」

 

「……あくまで契約としての活動としてでなら了承しますよ。いい契約になる事を祈っています」

 

 そう一瞬微笑を浮かべて言葉を交わしながら、二人はすぐに冷静さを取り戻す。

 

 ……すぐに連絡が来たからだ。

 

 敵の転送ゲートがまだ残っており、しかもその固定化に成功したという事実。

 

 どうやら、敵はまだまだ自分達と戦いを繰り広げたいようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 



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第六章 14 スーパーパンツタイムOTZ

来るぜぇ……奴が、来るぜぇ……!!


 

 俺達は、捕縛した連中をそのまま捕虜として連れていく。

 

 まあ、それはあくまで自衛隊の仕事。俺達は一仕事終えたので、とりあえず安全を確保したうえで戦闘糧食を晩飯にもらいながら休憩していた。

 

「ドーインジャーより楽な連中が殆どだったな」

 

「そうね。でも無人兵器の方が強いって、なんか怖いかも」

 

 イリナに同感。

 

 無人兵器が開発されてるのは知ってるけど、それが原因で戦争が逆に頻発化するんじゃねえかって話もあるしな。ほかにも虐殺の頻発化とか、色々危険視されてるのは大きいだろ。無人機だからこその暴走もあるだろうしな。

 

 まあ、人同士で命を奪い合うってのもあれなんだろう。

 

 ああ。英雄を目指す身としては困った話だが、平和が一番とはよく言ったもんだ。

 

「で? イッセー達の方はどうなってんだ?」

 

「あっちも殆ど片付いたみたいよ? リセスさんのところも同じ感じみたい」

 

 なんで俺より先にイリナが姐さん達のことを知ってんだよ。

 

 うぉお。ジェラシー!

 

 なんか阿保らしい事で嫉妬してる自覚はあるので、俺は我慢してバクバクと戦闘糧食を食べる。

 

 ああ。運動した分のカロリーをしっかり補給しねえとな。いざという時動けねえってもんだ。

 

 まあいい。なんか利用された感はあるが、とりあえずバカやった連中に最低限の落とし前は―

 

「……大変だ!」

 

 と、いきなり自衛官の人が突っ込んできた。

 

 な、何事だ!? のどが、のどに餅米が詰まった!?

 

「み、水……っ」

 

「ひ、ヒロイ君が大変なことに!? それで、大変なことって何ですか?」

 

「駅の地下で戦闘を行っていた部隊が、挑発を受けました! それも……相手はグレンデルとかいうドラゴンだと!!」

 

 ……ぐれんでる?

 

 ああ、グレンデルか。俺も文献は読んだ事がある。

 

 かの有名な英雄、ベオウルフが倒した奴だったな。表向きの伝承ではドラゴンじゃなかったらしいが、裏業界では邪龍の一体であったことが確認されてる。

 

 ……あれ? でもあいつは滅んだ存在じゃね?

 

「どういうこった! いや、今はそんなことどうでもいいか」

 

 俺は冷静になると、すぐに立ち上がる。

 

 だったら俺が行くしかねえだろう。神滅具の担い手として、やるべき事はきちんとやるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺たちが到着したその時、声が聞こえた。

 

『―お兄ちゃん、だれ?』

 

 ………誰?

 

 いや、声からしてドライグなんだが、え?

 

 とりあえず足とゆっくりとしながら今まさになら見合っている場所に視線を向けると、そこにはローブを着た男と大量のドーインジャー、さらにでかい人型のドラゴンがいた。

 

『……おい。ドライグはどうなってんだ? なんか変なことになってねえか?』

 

 グレンデルらしきドラゴンは、首をかしげている。

 

「天龍も疲れているのでしょう。ここは様子を見守りましょうか」

 

 ……なんだろう。敵に同情されてるぞ、ドライグ。

 

「お、おいイッセー! どういうこった!!」

 

「ヒロイか! お、俺も何が何だか! っていうか、ど、ドライグ?」

 

 イッセーは左腕を構えて、ゆすりながら声をかける。

 

 そして、また宝玉が輝いた。

 

『うん。僕はドライグ。ドラゴンの子供なの』

 

 ………おい。

 

「イッセー! ついにドライグがストレスで幼児退行を起こしちまったじゃねえか!! どうすんだこの馬鹿!!」

 

「ええええええ!? 俺のせいぃ!?」

 

 だってそうじゃん。他に原因が思いつかねえよ!!

 

 さんざんおっぱいおっぱいやってるからだろ! そりゃぁドライグだって過去に散々暴れてきた罪があるけどさ、物には限度ってもんがあるはずだぞ!!

 

「あれれ? なに? 緊張感とは無縁の空間になってきてるわよ?」

 

「……急いで駆けつけてきたと思ったら、なにこれ?」

 

「何すか? またおっぱいっすか?」

 

 遅れてきたイリナや姐さんやペトが、状況を飲み込めずにきょとんとする。

 

 いや、俺も飲み込めてねえけどな。

 

 そして、宝玉からは恐怖の感情が漏れてくる。

 

『おっぱい!? やだ、おっぱいこわい!!』

 

 おっぱい怖い!? なんだそのパワーワード!!

 

 っていうかやっぱりだけど原因確定だな。完全に今までのおっぱいネタが我慢の限界になったみたいだな。薬漬けも間に合わなかったってことか。

 

 どうすんだよ、コレ。

 

 ほら、イッセーもショックけてるし……。

 

「ドライグくん!! おっぱいは素晴らしいものなんだ! 怖がるなんていけないことだよ!?」

 

「そっちじゃねえ!!」

 

 俺は思わず蹴りを叩き込んだ。

 

 イッセーは縦に三回転ぐらいしながら、空間の壁に叩き付けられる。

 

 もう自衛隊員達もどう反応していいのか分からない感じだ。

 

 すいません。うち、結構こんな感じの出来事頻発するんでさぁ。慣れてくだせぇ!!

 

『頭の中で、ぽちっとぽちっとずむずむいや~んって声がするの、怖いよぉ……』

 

 涙声が聞こえてくる。

 

 じゅ、重症だ。

 

『おーい。俺はいつになったらぶっ殺しができるんだぁ?』

 

「ちょっと待ってろ!! っていうか帰ってくれ!!」

 

 こっちはそれどころじゃねえんだよ!!

 

「……なあヴリトラ。どうにかできねえか?」

 

 あ、匙ナイス提案!

 

 同じドラゴンなら、同じドラゴンならどうにかできるかもしれねえ!!

 

 俺達の期待の視線を浴びながら、ヴリトラは頭痛を堪える様な表情でしかし真面目に考えてくれた。

 

『もう一人、龍王クラスのドラゴンがいればどうにかなるかもしれん』

 

 なるほど。なら応えは一つだ。

 

「おいグレンデル!! バトりたいなら協力しろ!!」

 

『……俺が言うのもなんだが、本気で言ってんのか? 別にドライグの糞じゃなくてもてめえらをぶっ殺すってのもいいんだぜ?』

 

 チッ! 役に立たねえ!!

 

 強い奴と戦いたいなら、少しは手を貸せってんだ。

 

 之だからバトルジャンキーってやつは! 基本的に迷惑だな、オイ!!

 

 ええい。しっかしどうしろってんだ!

 

「……それなら、私に任せてください!!」

 

 なにぃ!? なぜここでアーシアが出てくるんだ!?

 

「アーシアさん!? まさか、彼を召喚するつもりですか!?」

 

「待ちなさい、アーシアちゃん! それは……あまりにも……っ」

 

 いや、待ってくださいロスヴァイセさんに朱乃さん。

 

 なんでそんなに慌ててるんですかい?

 

 っていうか、アーシアって龍とは関係ない種族だから無理じゃね?

 

『……いかに聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)といえど、これを治療するのは不可能ではないだろうか』

 

 ヴリトラがそう言うが、しかしアーシアは首を振った。

 

「……少し前に、ファーヴニルさんと契約しました」

 

 なんだって!? それは本当か!!

 

 ファーヴニル。それは龍王の一角。

 

 確か、アザゼル先生が人造神器のコアとして契約して取り込んでたはずだ。なんでそんな奴がアーシアと契約を?

 

「アザゼル先生は、総督辞任を機にファーヴニルとの契約を解除しました。その後、アーシアさんの護衛の為に契約を結ぶという話があったことを耳にしております」

 

 と、会長が補足してくれた。

 

 ……まじか。これは思わぬ展開。

 

 だ、だがここに龍王が二体も来てくれるってんなら、こりゃ行けるか?

 

 そんなことを俺が考えている間に、ファーヴニルが召喚された。

 

『……おパンツ、プリーズ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっ! 意識が飛んでた。

 

 俺はローブの男を睨み付けると、聖槍を突き付ける。

 

「幻覚攻撃で俺の精神を飛ばすとはいい度胸じゃねえか! その隙に攻撃しなかったことを覚悟しな!!」

 

「いえ、濡れ衣です」

 

 いやそんな馬鹿な。だって龍王がパンツとかそんな馬鹿な。

 

「ヒロイ」

 

 優しく、姐さんが俺の肩を抱いてくれる。

 

 そして、姐さんは優しく抱き寄せてくれた。

 

「……つらい現実も受け止めなきゃダメ」

 

 えぇええええ! マジでぇえええええ!!!

 

 おいおいマジかよ。マジで龍王様がおパンツとか言っちゃったのかよ。

 

 勘弁してくれ。なんでこんなところでパンツとか言ってくるんだ。もっとこう、常識というか良識を持って行動してくれよ。

 

「大丈夫。私も貴方やペトに支えられたもの、今度は私が支える番よ」

 

 うわぁああん! 姐さん、大好きだぁああああ!!

 

「ヒロイ! なんで俺だって頭痛堪えてるのに、お前だけそんな羨まけしからんマネしてんだ!!」

 

 お前の所為でもあるんだよ、おっぱいドラゴン!!

 

 で? これで治せるんだよな?

 

 俺は視線をファーブニルに向ける。

 

『もぐもぐ』

 

 ……なんでパンツ食べてんだ、あのドラゴンは。

 

「グレンデル! もう先にあの変態から倒してくんねえか!?」

 

『いや、つーかファーブニルはどうなってんだ? っていうか俺はいつになったらぶっ殺しができるんだよ』

 

 役に立たねえ!!

 

 だいたいそれは俺が知りてえよ。なんだよオイ、歴代赤龍帝の残留思念に匹敵する変態度合いじゃねえか!!

 

 あの、ローブのお方はどう思いますか?

 

 俺のツッコミを求める視線に、ローブの男ふむむと頷いて、グレンデルに振り向いた。

 

「今代の二天龍はお乳とお尻で異様な覚醒をします。ここからが本番です」

 

 こいつも役に立たねえ!

 

 っていうか、ヴィクターでもそういう認識なんだな。まあ、散々やられてるから当然だよな!!

 

 あとヴァーリは関係ねえだろ。アイツむしろ性的なものに興味がねえぞ? アルビオンが可哀想だからやめてやれ。

 

『……はっ! 俺は一体どうしたんだ?』

 

 ドライグが正気に戻った。

 

「ドライグ……っ。良かった、正気に戻ったんだな」

 

「酷い展開だった。マジで酷い展開だった」

 

 イッセーは涙を流し、俺も別の意味で涙が流れた。

 

 アーシアは何というか背中がすすけている。そりゃそうだ。

 

『何が何だか全く分からん。というより、なんで此処にグレンデルの奴がいるんだ? あいつは千年以上前に滅びたはずだが……』

 

「まあ、ニエの件があるから驚くほどではないわね。敵は死者蘇生の手段を確保してるということでしょう」

 

 姐さんがため息をつきながら、視線をローブの男に向ける。

 

「この調子だと、他にも有名どころで滅びた存在を復活させているのかもしれないわね」

 

「さて。それは肌で感じていただければと思います」

 

 それ、復活させてるって言ってるようなもんだぞ?

 

 まあそれはともかく、こうなったらもうやることは決まってるな。

 

『ようやくかよ! 待ちくたびれたぜドライグぅ! さっさとぶっ殺し合おうじゃねえか!!』

 

 ノリノリのグレンデルは、どうも一対一の勝負を望んでるみたいだな。

 

 まあ、俺らも少しは疲れてるからな。ちょっとは様子を見るか。

 

 イッセーも、どうやら乗り気みたいだしな。

 

「行くぜドライグ! 俺も色々あってな、まだ暴れたいんだ」

 

『よく分からんがいいだろう。だが、グレンデルは強いぞ、気をつけろよ!』

 

 そして、激戦が勃発した。

 




ついに登場おパンツドラゴン。こいつ本当にHENTAIだから困る。しかも成果もあげるからなお困る。


原作でもここだけ読むとグレンデルが常識人に見えてきそうだからなお困る。


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第六章 15

そしてVSグレンデル。

ですがまあ、今回はイッセーを名指しで指名していることもあるので、ヒロイもリセスも観戦する方向で……。


 

 俺達はその戦いを見てみるが、どっちに驚いたらいいか分からねえな。

 

 この業界に参入してから一年経ってねえイッセーが、伝説の邪龍相手にあそこまで戦えてる事を驚くべきか。

 

 それとも、覇を克服するという飛んでもねえ真似をぶちかました今のイッセーと、互角に戦えてるグレンデルに驚くべきか。

 

「ま、どっちにしても全力の龍王とまともにやり合える化け物だらけってことは間違いねえな」

 

「そうですね。双方ともに、既に並の最上級悪魔では勝ち目が薄い領域でしょう」

 

 俺の感想に、会長も同意見っぽいな。

 

 っていうか並の最上級悪魔ってなんだよ。パワーワードにもほどがあるだろうが。

 

 何よりビビるべきは、やっぱグレンデルの方か。

 

 どんだけ糞頑丈なのか分からねえ。なにより、アスカロンのオーラをもろに喰らってもダメージが大したことねえってのがすげえ。

 

 アスカロンは龍殺しの聖剣の中じゃ最高峰の一品のはずだ。にも関わらず、もろに喰らってんのにぴんぴんしてやがる。

 

 あのヴァーリですら、もろに喰らえば鎧が砕けるほどのダメージを負ったんだ。それも、イッセーが不完全な禁手を使っている状態でだ。

 

 既にイッセーは禁手に至っている。そして、今展開している真女王は通常状態の禁手の遥か上を行くはずだ。止めにアスカロンのオーラの制御もかなり上達している。

 

 ……ただ単にグレンデルが強いってだけじゃねえだろ。どう考えても何かしらの強化がされてるはずだ。

 

 そもそも強化改造はリムヴァンの十八番だからな。たぶん邪龍もそのまま復活ってことはねえだろうよ。

 

「で、どう思います?」

 

「完全に観戦ムードですね……」

 

 ロスヴァイセさんに呆れられるけど、俺だってチャンスと判断したら介入するつもりじゃありますぜ?

 

 ただ、なんだかんだでローブの奴が目を光らせてるからな。下手に動くとドーインジャーまで出されかねねえんで、動きづらいんすよ。

 

「やはり伝説の邪龍なだけはありますわ。今のイッセー君とまともに戦える存在なんて、最上級悪魔クラス以上でなければいけませんもの」

 

 朱乃さんも、グレンデルのやばさに戦慄してるって感じだ。

 

 ああ。最上級クラスじゃなけりゃぁ、今のイッセーは倒せねえ。たぶんだけど、コカビエルを一対一で倒すことができるぐらいには強くなってるしな。

 

 ヴァーリが極覇龍を開発するわけだ。防戦に徹すりゃそれでも時間切れになるまでしのげそうだしな。今のイッセーは歴代最強の赤龍帝だろ。

 

 だが、このままってのもあれだな。

 

 あんだけ好きに暴れさせておいて、そのまま好きに戦わせるってのもなんか嫌だ。マジむかつく。

 

 どうせここに至るまでの流れも想定の範囲内だったみたいだろうし、一発ぐらいぎゃふんといわせてぇところなんだけどよ……。

 

 そう思った瞬間、グレンデルの火球がこっちに飛んできた。

 

「おっと」

 

「あらら」

 

 俺と姐さんがあっさり弾き飛ばすが、問題はそこじゃねえ。

 

「おいおい。一対一の勝負を挑んだのはそっちだろうが」

 

「まったくね。外野に危害を加えないようにしてくれないかしら?」

 

 一歩前に出て臨戦態勢を取りながら、俺も姐さんも戦う準備を取る。

 

 あれは間違いなく流れ弾じゃなく、こっちを狙った攻撃だった。

 

『悪ぃ悪ぃ。時々マジでぶっ殺さねえとテンションが維持できなくてよ! でもまあ、そそる相手なようで安心したぜ!』

 

 ……ああ。こいつ根っからの外道だ。

 

 どうやら、最初っから一対一なんて綺麗な勝負をさせる必要はなかったみてぇだな。

 

「最初に前提条件破ったのはそっちなんだから、ここで俺らがぶっ倒しても文句はねえよなぁ?」

 

「そうね。私達も暴れたりなかったのよ」

 

「……隙あらば介入する気だったのでは?」

 

 俺と姐さんに会長からのツッコミが飛ぶ!!

 

 だけど気にしねえ! どうせこっからは総力戦だろうからな!!

 

「困りましたね。一対一の方がいいデータが取れそうだったのですが」

 

 そういいながら、ローブの男が一歩前に出ながら、指を慣らす。

 

 そして、ドーインジャーが動き出した。

 

 ハッ! 最初っからこの流れも予測内だった感じだろうが!

 

 おそらくドーインジャーは対悪魔仕様のD型。それも高性能仕様だ。

 

 今更下級と互角程度の連中を、俺ら相手に投入してくるわけがねえしな。それ位のことは予想ができる。

 

「まあいいでしょう。まだ撤退の指示は出てませんし、()()のテストもさせていただきま―」

 

 そういいながら左腕を持ち上げようとした時―

 

「―いや、撤退指示が今出たよん♪」

 

 その言葉と共に、リムヴァンが姿を現しやがった。

 

「―リムヴァン・フェニックスですか」

 

「やっほほーい! 三大勢力の皆はとっても大嫌いな、リムヴァン君だぜぃ!」

 

 ニコニコ笑顔でポーズを決めながら、リムヴァンは軽快な挨拶をぶちかます。

 

 すっげぇ神経逆なでされるんだがな、オイ。

 

『ざっけんなよ! ようやく体があったまってきたんだぜ!? もうちょっとぶっ殺し合いをさせてくれよ!!』

 

 グレンデルが文句を言うが、リムヴァンは一回転しながらサラリとスルー。そしてローブの男に視線を向ける。

 

「Lから指示きたよん♪ そろそろマリウスくんと打ち合わせするから、君にも来てほしいってさ」

 

「そうですか。もうそんな時間でしたか。態々ご足労をかけて申し訳ありません。リムヴァン様」

 

 そう言いながら、ローブの男はリムヴァンに跪いた。

 

 なんだ? あのローブの男にとって、リムヴァンはそれほどの相手なのか?

 

 今までの連中は、割とフランクというか雑な対応をしてたはずなんだがな。

 

 なんというか、あいつからは崇拝の感情が浮かんでいる。

 

「そんなにかしこまらなくてもいいよん。それとグレンデル、君にはアジ・ダハーカの援護に行ってほしいんだよ。ヴァーリきゅんとやり合ってるんだけど結構苦戦してるみたいでさ」

 

『そう言うことなら早く言えってんだ! 今度はアルビオンの奴か、楽しめそうだぜ!!』

 

 アジ・ダハーカってーと、確か奴も邪龍の一匹だったな。

 

 なるほど、こりゃ有名どころの邪龍は全部復活してると考えてよさそうだ。邪龍以外の連中も復活してる可能性もありそうだな。

 

 ニエはその為のテストも兼ねてたと考えるべきか? とにかく、強敵であることには変わりねえな。

 

 そしてそっちに興味が行ったのか、グレンデルは俺達に方を向いてニヤリと嘲笑う。

 

『糞のドライグと根暗のヴリトラ。んでもってなんかわけわかんなくなってるファーブニルはまた今度だ。ついでにそっちの神滅具使いってのも含めてぶっ殺してやるからよ。死ぬんじゃねえぞ?』

 

 ……俺と姐さんもターゲットに入ったか。

 

 どうやら、さっきの攻撃をあっさり吹っ飛ばしたことで興味惹かれたらしいな。

 

 英雄目指す身としちゃぁ、邪龍の宿敵認定されるのは嬉しい事なんだろうがな。当分は曹操に集中したいんだがよ。

 

「……ああ、帰る前に挨拶ぐらいはしといたら?」

 

 霧を展開しながら、リムヴァンはローブの男にそう告げる。

 

 それに頷いて、ローブの男はフードを取ると顔を見せた。

 

 ……誰かに似てるな。なんというか、ロスヴァイセさんに雰囲気が似てるというか、もっと似てる人を見たことがあるような……。

 

「改めまして初めまして。私はグレイフィア・ルキフグスの弟、ユーグリッド・ルキフグスです」

 

 はぁ!? グレイフィアさんの……弟!?

 

 俺らが目を見開く中、生徒会長は納得したのか一つ頷いた。

 

「なるほど。貴方が潜入の手引きをしたということですね」

 

「ええ。姉と近いオーラを持つので、比較的楽に潜入できました」

 

 マジか。そういや、俺らの近親者なら潜入できるかもしれねえって言ってたな。

 

 っていうかグレイフィアさんに弟居たのかよ。マジかびっくりだ。

 

「まあ、もはやどうでもいい姉ですけどね。今の私にとっては、本当にどうでもいい」

 

「そうですか。貴方は旧魔王派についているということでよろしいのですか?」

 

「というより、リムヴァン様に仕えていると考えてくだされたほうがよろしいかと」

 

 ……会長に応えるユーグリッドには、何か不気味な雰囲気がある。

 

 なんだ? なんか嫌な予感がするんだが……。

 

 そう思う俺の視線の先、リムヴァンは愉快な笑みを浮かべると一礼をした。

 

「それでは皆さん。そろそろ僕達も本腰を入れるので、その辺覚悟しておいてくれたまえ」

 

 え? ちょっと待って!?

 

「おいちょっと待て! 本腰っていったい何する気だ!?」

 

 っていうか今まで本腰入れてなかったのかよ!?

 

 イッセーが追いかけようとするが、リムヴァンはニコニコ笑顔を浮かべると、ふふんと鼻を鳴らした。

 

「それはまあ、たぶん数日後に分かると思うよん?」

 

 ……何する気だ、お前ぇえええええ!!!

 

 俺らがそんな不安を感じる中、リムヴァン達は霧に包まれて消えていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんかもやもやしたものを残しながら、俺達は一応帰還する。

 

 そんでもって今回のオチ。

 

 今回のヴィクターの同時多発作戦だが、結局俺達は今度も乗り切った。

 

 同時多発的な作戦行動において、俺達駒王町のメンツはとりあえず追い返す事はきちんとできてるケースが多い。京都の時とかクーデターも失敗したしな。

 

 で、今回なんだが―

 

「ねえ、レイヴェルさん! 悪魔のことについて教えて!?」

 

「契約って俺でもできるの? 魂とか取られたりしない?」

 

「え、えっとお待ちくださいな。順番に……」

 

 などという会話をよく見るようになった。

 

 結局、レイヴェルのクラスメイトでレイヴェルを怖がる奴らは全く出てない。

 

 流石に他のクラスや三年生の中にはちょっと気味悪がる奴はいるが、その辺はお嬢達がフォローに回っている。一年生にも人間の異能関係者トップクラスの百鬼家の奴がいたしな。

 

 二年生に至っちゃゼロだ。京都でトラウマになったかと思いきや、異能関係者である俺達が正体明かして解決に尽力したことで、逆に慣れてるって感じだ。

 

 おい、ヴィクター。これ見て悔しがれよ。

 

 異形と人間の融和はお前らの専売特許ってわけじゃねえ。俺達だって、ゆっくりとだけどきちんとできてんだぜ?

 

 本腰入れるならやってみろ。俺らだって、そう簡単にはやられやしねえからよ。

 




なんだかんだで、日本は異形と仲良くし始めているというオチ。ヴィクターからすればぐぎぎ状態ですね。

結果的に人間の異能関係者が出張る羽目見なったことも大きいです。

そして次はダークナイト編をちょっぴりだけやって、デイウォーカー編に突入します。

そのあたりでついにリムヴァンの秘密について判明します。というより、そろそろばらしておかないと引っ張りすぎて大変だということに気づきました。


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第六章 16 煌天雷獄VS煌天雷獄

一話だけダークナイト編を書いてから、デイウォーカー編に突入します。

ヒロイたちがかかわりにくい短編だらけなので、あまり関与させる余地がありませんでした。


 

 それから数日、俺達は俺達で、色々と過ごしていた。

 

 お嬢達の報告を待っている間に、プールで遊んだり特訓したり。

 

 そんなわけで、そんな俺達の特訓風景をのぞかせてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……この間合いは、私の距離よ!!」

 

「え、あ、ちょっとタンマ!?」

 

 はい。これでこの模擬戦も姐さんの勝利だな。

 

「うっわぁ。デュリオこれで三敗目じゃねえか?」

 

「正確には、二勝三敗で負け越しだね」

 

 と、イッセー及び、神の子を見張る者(グリゴリ)の懐刀である、幾瀬鳶雄の感想が漏れる。

 

 ひょんなことから兵藤邸にこの二人の神滅具使いがお邪魔した事から、模擬戦やトレーニングをする事になった。

 

 そんでもって、天界のジョーカーであるデュリオ及び、神の子を見張る者の精鋭である姐さん。この二人の煌天雷獄使いの模擬戦五本勝負が始まったわけだ。

 

 はっきり言おう。この調子なら三本先取で姐さんの勝ちだ。

 

 いや、デュリオが弱いわけじゃない。どっちかというまでもなくデュリオは強い。

 

 ジョーカーの(スート)で転生天使になったのは伊達じゃねえ。その戦闘能力は非常に高く、教会の悪魔祓いだった頃でも聖書の教え陣営じゃ最強格だ。

 

 だから二本先取してるわけだ。姐さんが神器を複数保有していることを考えれば、むしろかなり強いと言ってもいいだろう。

 

 だが、三本目で流れは変わった。

 

 ごり押しで姐さんが接近戦を挑むようになってから戦況は一変。

 

 クロスレンジの技量では姉さんが上なのか、終始圧倒されっぱなしなデュリオ。

 

 総合的な出力関係では普通に上回っているのでそれで対抗しようともした。が、各種属性の支配能力では上回っているのか、姐さんはすぐに逸らして対応してのけた。

 

 天候操作も干渉されて狙いが大雑把になり、もろともダメージを喰らう為うかつに使用できない。その為天候操作で姐さんに立ち向かう事もできない。

 

 転生天使の能力を最大限に発揮して闘う事で何とか立ち回ってるが、姐さんも始原の人間(アダム・サピエンス)で身体能力を上げて強引に押し切るという手段で対抗した。

 

 結果として、デュリオが三連敗による逆転敗北を喫するのも時間の問題と化していた。

 

「……あれでも現役最強の悪魔祓いから転生天使になった者なのですが。恐るべしは神の子を見張る者の神滅具使いと言ったところでしょうか」

 

 シスター・グリゼルダが感心半分呆れ半分の表情で、唖然となっているのも仕方がないだろう。

 

 まあ、俺からすれば仕方がねえともいえるけどな。

 

「……総合的な煌天雷獄の適性や操作能力では、彼の方が上なんだけどね」

 

「ですよね。でもリセスさんは神器の数と属性支配の適性、そして殴り合いの技量で強引に押し切ってるのがすげえ」

 

 幾瀬とイッセーが感心するほど、姐さんはクロスレンジに持ち込むことで優位に立ち回っていた。

 

 まあ、お互いに出力が高いしやり慣れてない。だから適度な加減がしにくいってのもあるんだろうけどな。

 

「だけどまあ。ここに来れて良かったよ。君のところの女王には俺も縁があるからね」

 

 と、幾瀬は幾瀬で、生徒会長と一緒に魔力運用などのトレーニングをしている朱乃さんに視線を向ける。

 

 ん? 知り合いか何かか?

 

 いや、それにしちゃ朱乃さんの方からのリアクションが特になかったような気がするんだが……。

 

「ま、まさか元カレ!?」

 

 イッセーはイッセーであほな方向に妄想してるし。

 

 たぶん違うだろ。幾瀬さんも苦笑してるし。

 

「いや、俺も祖母が姫島家の出身でね。おかげで死ななくて済んだんだけど、五代宗家のもめ事に巻き込まれたり、絡まれたりした事があってさ」

 

 あ、そうなのか。

 

 五代宗家って、数年前の代替わりまでは日本でも屈指の排他的な勢力だったらしいからなぁ。

 

 身内相手でもかなり厳しかったらしい。結構大変だったろうに。

 

 ちょっと前に聞いたばかりだけど、朱乃さんも殺されかけたらしいしな。お嬢達グレモリー家が丸ごと身柄をもらい受ける形にした事で、何とか和平締結までしのぐことができたとか。

 

「そうなんですか? ヴァーリみたいにお父さんがすごかったとか?」

 

「いや、生まれた頃から禁手に覚醒しててね。総督がいうには普通は物心つく前に死んでる類なんだけど、俺の場合は術で抑制してもらったから」

 

 またすげえな。ヴァーリとは別の意味でチートじゃねえか。

 

 姐さんも姐さんで特例中の特例だ。神の子を見張る者に属している神滅具使いは、どいつもこいつも規格外だな。

 

 生まれた時から禁手に目覚めた幾瀬さん。魔王の末裔とのコンボであるヴァーリ。そんでもって後天的に移植したレアケース中のレアケースであるはずだった姐さん。

 

 グリゴリのレアキャラっぷりすげえ。グレモリー眷属にも匹敵するチートだな。

 

「最近は朱雀達のおかげでだいぶ緩くなったけど、五代宗家はかなり排他的かつ閉鎖的だからね、おかげで色々と大変な事になったよ」

 

「ああ、虚蝉機関の事件とかあったな。あれ、確か五代宗家から追放された連中がしでかしたんだよな?」

 

 俺は思い当たるところがあったので、ついそれを漏らす。

 

 幾瀬さんも苦笑を浮かべると、そのまま上を見上げた。

 

「あれがなければ、俺は今でもただの一般人だったはずだよ。それぐらいしっかりと祖母は封印してくれたからね」

 

 ……この人も何かあったんだろうなぁ。

 

「そう言えば独立具現型って、神器が独自の意志で動くんですよね。そう言う意味じゃあだいぶ闘うのが楽そうですね」

 

「そうでもないよ。指示をきちんと出さないと真価を発揮できないし、本人ががら空きになるリスクがあるからね」

 

「民間人がもらっても、一対多になった瞬間に詰みそうだな。イッセーの場合は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)でよかったな。単純だから分かり易いし」

 

 と、神滅具使い同士で会話が弾む中。デュリオが一回転して吹っ飛んだ。

 

 どうやら煌天雷獄同士の対決は、相性差で姐さんが勝利を掴んだようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺達はどうしたもんかと思う。

 

「……で? リゼヴィムの奴がヴィクターについてるってのはマジか?」

 

 カーミラの領地で俺はヴァーリと出くわして、その事実を聞いた。

 

 独自に禍の団の内情を探っていたヴァーリが掴んだこの情報は、かなり面倒な事になっている証拠と言ってもいい。

 

 リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。正当なルシファーの末裔にして、最後の超越者。

 

 奴の超越者としての特性は特定条件下じゃなけりゃ真価を発揮しないが、ぶっちゃけイッセーやヴァーリにとっては天敵に近い。

 

 あいつが第三勢力になってくれればと思わずにはいられない。あいつはリムヴァンにとっても天敵だからな。三すくみになってややこしいかもしれねえが、上手くすればリムヴァンの足止めにはもってこいだ。

 

 だが、今の話が本当なら……。

 

「ああ、本当だ。あの糞野郎はリムヴァンと前からつるんでいたようだ」

 

 奥歯を砕きかねないぐらい食いしばりながら、ヴァーリは吐き捨てた。

 

 当たり前の反応だな。ヴァーリからしてみりゃ、怨敵と言っても過言じゃねえ。

 

 あの野郎の性格の悪さは俺もよく知ってる。ある意味であれほど悪魔ってやつを体現してるやつを、俺は知らねえよ。

 

 だがどういうこった? あの野郎が、なんで態々ヴィクターに協力する?

 

 アイツは割と退廃的というか、自堕落というか、性格は悪いが積極性に欠けていた。

 

 なんといえばいいのか。俺にとっての神器に値するものがない。熱がないとでもいえばいいんだろうか。

 

 確かにあいつは悪意の塊だが、それでも態々ヴィクターに参加して今まで表に出てこずに行動ってのが想像つかねえ。

 

 悪魔側の内乱の時だって、かなり早い段階で手を引いてたぐらいだ。もしあいつが積極的に動いてたのなら、内乱の結果は逆としても不思議じゃないからな。

 

 その野郎が、今更になって 本格的に行動開始だと?

 

 ……どういうことか全く分からねえ。だが、それが危険だって事だけはよく分かる。

 

 断言していい。こっから先のヴィクターとの戦いはますます荒れるぞ。

 

「……それで? そちらも対策は必要じゃないのかい?」

 

 ヴァーリの言う通りだ。できる限り急いで対策をとる必要がある。

 

「今、帝釈天と交渉して闘戦勝仏がお前から抜き取ったサマエルの毒のデータを取ってるところだ」

 

「……ほう」

 

 色々と興味深いのか、ヴァーリが目を細める。

 

 まあ、ドラゴンに対する天敵中の天敵であるサマエルは対策必須だからな。ヴァーリからしてみても興味はあるだろう。

 

 どうせヴィクター経済連合から追放されて居場所もねえだろうし、これを餌にこっちに戻らせるか?

 

 ……と言いたいが、それも結構難しいな。

 

 なにせ、こいつが会談の情報を流した所為で教会は大打撃だ。

 

 なにせ教えの根本ともいえる聖書の神が既に死んでるって知られたんだからな。その影響は未だに大きい。

 

 世界大国の多くが混乱状態で、犯罪発生率は大幅向上。数倍になっている国なんて珍しくもねえ。そこにヴィクターが付け込んで、更に大混乱になってやがる。

 

 聖書の神のシステムもバグが発生しやすくなって、あわや壊滅的打撃になるところだった。そっちは俺らやアジュカ・ベルゼブブの協力もあって落ち着いたが、あとちょっとで天界は崩壊してたかもしれねえ。

 

 その辺を考慮すると、ヴァーリを引き込むのは難しい。何かそれ以上のメリットを生み出さねえと、悪魔側や俺達堕天使側はともかく、教会側が納得しねえだろ。

 

 いや、どっちにしても教会もあらゆる勢力との和平でストレスが溜まっている節がある。

 

 ただでさえ心のよりどころである聖書の神が既に死んでることが分かっちまってるんだ。……いっそのこと、何らかの形で爆発させた方がいいんじゃねえだろうか……。

 

「まあそれはいいか。それよりヴァーリ。お前……」

 

 まずはヴァーリの意思確認が重要だな。

 

 俺はそう思い直して、ヴァーリと久しぶりに腹を割って話しをしようとして―

 

『―アザゼル!!』

 

 突然、リアスから通信が届いて俺はひっくり返りそうになった。

 

 いきなりすぎんだろ!! なんだ、なにがあった?

 

「どうしたリアス。ギャスパーの秘密はどんだけやばかったんだ?」

 

 緊急で連絡するなら、その辺が妥当だろう。

 

 カーミラかツェペシュがお互いに戦争吹っ掛けたって可能性もあるが、それならこんなに静かなんて事はないだろう。

 

 というより、今吸血鬼同士で揉めたら俺らかヴィクターが大きく動く。そうなったら共倒れの可能性だってあるだろう。

 

 だからそんな事はないと思うんだが……。

 

『……ツェペシュでクーデターが勃発したわ。それも、担ぎ上げられたのが―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……その説明を聞いて、俺はとんでもない事態が発生した事をいやというほど理解した。

 

 どうやら、イッセー達を連れてくる必要に迫られたみたいだな、これは。

 

 




デュリオがリセスに一方的にやられている感じになりましたが、これは本当に相性の問題です。

逆にリセスは対軍戦闘だと大幅にデュリオに劣ります。これはもう、個々人の煌天雷獄の適性ですね。











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第六章 17

ルーマニアに行く前の日常回。

さあ、本作主人公も原作主人公も真の主人公も日常を送ってるぜ!!


 もう冬も間近の頃だ。室内でぬくぬく過ごしたいというのは誰もが思う感情だろう。

 

 因みに日本より北にあるイギリスはもっと寒い。こういう時はシチューを食べながらまったりとしたい。

 

 で、俺は今何をしてるかというと―

 

「シシーリア。こんなんでいいのか?」

 

「はい。とってもいい気持ちです」

 

 ―ベッドの中で、シシーリアを抱きしめてました。

 

 ちなみに裸だ。一戦交えた後って言えば分かる奴には分かるか。

 

 まあ付き合ってるわけじゃないが、シシーリアは俺にとっても大事な女だ。

 

 輝きそのものである姐さんに次ぐ、俺を輝きにしてくれた女。それは同じ輝きである姐さんを仰ぐペトと同格と言ってもいい。

 

 そしてシシーリアにとって俺は輝き。それに関しては妄想じゃねえって断言できる。

 

 普通なら付き合ってもおかしくねえと思うだろ? 違うんだよなぁ。

 

 ……泣きたい。

 

 だがまあ。それでもなんというかお互いに大事な者同士なのは当たり前だ。

 

 そんなわけで、何かして欲しい事はないかと思い至った。

 

 なにせ俺は金だけはある。ちょっとしたメジャーリーガークラスの年俸を貰っている。

 

 そしてシシーリアは結構金が必要だ。自分と同様だったディオドラの眷属だった女たちの再起のために動いているから、あまり遊ぶ金もねえだろう。将来上級悪魔になって彼女たちの居場所になるなら、金は必要だから無駄遣いできないしな。

 

 だからまあ、何か欲しいものがあったら少しぐらい優遇するべきだと思ったんだが……。

 

「はい。これがいいんです」

 

 シシーリアが俺に望んだのは、俺にぎゅーっとしてほしいということ。

 

 なので、ベッドの中で俺がぎゅーっとしている。

 

 ぶっちゃけそれだけ? もうちょっと何かわがまま言ってもいいんだぞ? っていうか言ってください。

 

 そんな感じの俺の内心。しっかしシシーリアは満足そうだ。

 

「ヒロイさんにギューッと抱きしめられるのは、この駄娘にとっては美酒にも勝る幸せです」

 

 すごくうれしそうで幸せそうだ。

 

 まさに恋する女の子。その念願がかなった感じで、見ていて俺も少しほっこりしている。

 

 女の子のこういう表情はいいもんだ。見るだけで俺も幸せな気分になる。

 

「なあ、いっそのこと付き合っても―」

 

「それはいいです」

 

 現実は残酷だ。

 

 俺はシシーリアのおかげで輝き(英雄)になれたもんだし、シシーリアも俺のことを好いている。

 

 だったら付き合ってもいいだろうと思う。だけどシシーリアはそれを望まない。

 

 俺が長生きしすぎて陰ることを望んでないのがその理由だ。シシーリアは俺を男として以上に英雄として見てるからこそだろう。

 

 だが、それがちょっと残念。

 

 まあ、俺の一番は姐さんなんだが、姐さんも俺を彼氏にしようとか考えない。

 

 ペトも俺は信頼してるんだが、同じくそういう考えを持ってくれない。

 

 そしてイッセーを思い出す。

 

 あいつは童貞だ。まごうことなく童貞だ。未だに童貞でい続けている。

 

 だが、やろうと思えば童貞を卒業できるだろう。だって彼女できたし。

 

 リアス・グレモリーのお嬢という彼女ができた。アーシアたちにも好意を持たれている。歴代最優の赤龍帝にして冥界のヒーローおっぱいドラゴンだから、更にたくさん寄ってくるだろう。

 

 お嬢は独占欲も強いがハーレムを否定しない。冥界も実力者がハーレムを作る事を認めている。そしてイッセー自身ハーレム王になろうとしてる。

 

 なんだろう。俺、もうそろそろ両手の指じゃ足りないぐらい女を味わってるのに、男として根本的なところで負けてる自信があるぞ?

 

 ……あいつ、なんで未だに童貞なんだ? いつでも卒業できるだろう?

 

 その疑問の答えがまさに今示されてる事に気づかず、俺はしかしある意味幸せな時間を満喫していた。

 

 シシーリア、柔らかいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。今俺、ヒロイを無性にぶん殴りたい。

 

 そんなことを思いながら、俺は救世主に縋りついて涙こぼした。

 

「ペト。ありがとう……っ」

 

 本当にありがとう、ペト! おかげで色々な意味で助かったよぉおおおお!!!

 

 泣いている俺の頭をなでながら、ペトはジト目をアーシア達教会三人娘に向けていた。

 

「まったく、だからそういうのやめろって言ってるじゃないっすか」

 

 ため息をつくと、そのまま俺をしっかりと撫でる。

 

「よしよし。イッセーはすれてないからそういうのは恥ずかしいっすよね~。一人でこっそりやりたいっすよね~」

 

 もちろんです! エロゲは一人でこっそりやりたいです!!

 

 なんで女の子とやらねばならないんだ! それも、桐生やペトのような匠というかノリ的なものが合うやつらじゃなくて、アーシア達とだなんて!!

 

 恥ずかしい! 恥ずかしくて死にそう! っていうかリアス達と一緒にする羽目になった時とかマジで大ダメージだよ。

 

 あれに比べればサマエルなんて雑魚だね! 心のダメージならあれの方がもっとでかいもんね!

 

「そんな! イッセーさんを一人になんてしません!」

 

「いやしろッス」

 

 涙を浮かべたアーシアに、ペトは鋭いツッコミを叩き込んだ。

 

 そしてハリセンを取り出すと、容赦なく一撃!

 

「あいたっ!」

 

「護衛艦でやめろって言ったっすよね? なんでするッスか? あ?」

 

 ペトさん? なんか、キャラが変わってないですか?

 

 それに対して反感の表情を浮かべるゼノヴィアと、ペトの視線がぶつかり合った。

 

 クロスレンジの鬼神とアウトレンジの死神が睨み合う! でもこの戦い、部屋の中でやってるからペトが不利だよな?

 

「ペト! リアス部長がいないこの時こそ、攻勢を仕掛けるチャンスなんだぞ!?」

 

「いや、イッセーをドンビキさせるだけっス。意味ないっす」

 

 そうだよ! エロゲをやろうぜとか言ってくる女子とか、俺ちょっとあれだよ。

 

 ペトは確かに良い奴だし友達としては好きだしエロい事できるならしたいけど、別に恋人にしたい感じじゃないんだ。

 

 なんというかさばさばした関係がしたい。いわゆるヤ○友? 的な感じ。

 

 断じて彼女にしたいタイプじゃないんだ。俺は恋人とエロゲを一緒にやるなんて、特殊なプレイは求めてない! そういうのは普通な人と一緒にいたい!!

 

「そこ、余計な事考えてるっすね?」

 

 ごめんなさいペト様! 小猫様に匹敵するようになってきてませんか!?

 

 っていうか、ツッコミどころが一番あるのは―

 

「これもミカエル様の為なのよ! 止めないでペトさん!」

 

「なるかッス! っていうか転生天使としてそれでいいっすか?」

 

 うん。ホントにペト正論。

 

 なんでイリナまで参加してるんだよ。お前、一応天使だろうがぁああああ!!

 

「っていうかなんで全裸っすか。阿保っすか?」

 

 心底呆れた表情で、ペトはアーシア達の格好についてもツッコミを入れる。

 

 まあ、勘付いたペトが飛び込んだ時には既に脱いでいたもんな。その理由も聞いてねえもんな。

 

 でも、理由聞いたら頭抱えそうなんだけど……。

 

「いや、桐生から、エロゲをする時は全裸が正装だと教わったんだ」

 

 ゼノヴィアの答えを聞いて、ペトはスマホを取り出すと速攻で電話を掛けた。

 

「……桐生? 後であほな事吹き込んだお仕置きっす。処女膜を破るのは醤油瓶がいいか酒瓶がいいか、考えておくといいっす」

 

 ペトさまマジギレだぁああああ!!

 

 スマホの向こうで、桐生が珍しく大慌てしてるのが分かるけど、ペトは無視してさっさと切った。

 

「ったく。とにかくそこの三人娘。今から基本的な男のエロゲに対する価値観を教えてやるっすから、ちょっと正座する前に服を着るッス」

 

 ……それは良いんだけど、それ、俺も聞くの?

 

 あれ? これはこれで恥辱プレイじゃねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセスさん! 助けてくれぇええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今何か聞こえたような。ペトとヒロイ、何してるのかしら?」

 

 などと言いながら、リセスはリセスで相談事を受けていた。

 

 今リセスは、ハンバーガーショップでコーヒーを飲んでいる。

 

 そしてそれを奢る代わりに相談に乗ってほしいと言ってきたのは―

 

「……リセスさん。どう思いますか?」

 

 匙元士郎だった。

 

 ちなみに内容は単純明快。

 

 ソーナに自分の気持ちが全然伝わらないのだが、どうすればいいのか。

 

「相談相手を間違えてるわよ、それ」

 

 自分で言うのもあれだが、どう考えても向いていない。

 

 ぶっちゃけ、恋愛経験そのものが非常に少ない。初恋が悲恋という名の自業自得なので、その辺りがトラウマ以外の何物でもないのだ。

 

 エロい事の経験は豊富だが、先ずその段階ではない。ペトとはある意味相思相愛だが、どちらかというと姉妹関係が近い。ヒロイに慕われているし自分も慕っているが、恋愛関係に進める気はない。

 

 はっきり言おう。それならイッセーの方がいいと思う。もしくは木場だ。

 

「あの二人は役に立たない。もうこうなったら、リセスさんだけが頼りなんです!!」

 

「落ち着きなさい。S○Xから始まる恋もあるけど、それはレアケースよ」

 

 だから自分を参考にするのはやめるべきだ。そうリセスは諭そうとする。

 

 だが、聞いてくれそうにない。それ位に追いつめられている節がある。

 

 さて、どうするか。

 

 五秒ほど考えて、ツッコミを入れられること確実の方法を思いついた。

 

「じゃあまとめて私に食べられなさい。下僕という名の恋人関係にしてあげるわ」

 

 むろん冗談である。ツッコミを求めての発言である。

 

 だが、匙は無言だった。

 

「匙?」

 

 嫌な予感を覚えた。具体的にはマジモードで返答されそうな感じだった。

 

 さっさと冗談だと言おうとしたその時。匙はぼそりと呟いた。

 

「……最終手段はそれしかないのか……っ」

 

「しっかりしなさい!!」

 

 思わず手刀を後頭部に叩き込む。

 

 割と加減を忘れた為、匙は顔面をテーブルに叩き付ける羽目になる。勢い余ってトレイにひびも入った。

 

 それで正気に戻ったのか、匙は顔についたシェイクをふき取りながら、しかしため息をついた。

 

「でも、それぐらいしないと会長は振り向いてくれそうにないし……」

 

「いっそのこと、玉砕覚悟で告白するっていうのはどう?」

 

 これは真剣な提案だ。

 

 当たって砕けろというのは残酷かもしれないが、それ位する必要があるのは事実だ。

 

 どうも匙が向けるソーナへの行為は無自覚スルーされている節がある。イッセーの話では、そもそも恋愛対象として見ていない節があった。

 

 あくまで眷属。あくまで弟のようなもの。眷属が恋焦がれている男をそんな風に見るわけにもいかないだろう。そんな感じだ。

 

 確かに、花戎や仁村に好意を寄せられているのはイッセーから聞いている。割とストレートに好意を向けられているところもある。

 

 ……意図的に見ないようにしているソーナより、無自覚にスルーしている匙の方が罪が重い気がしてきた。

 

 まあ、ソーナに夢中な匙に、周りの好意に気づけというのも酷な話だ。むしろ、自分に夢中なのにシシーリアに好意を向けられている可能性を察したヒロイを褒めるべきだろう。

 

 アーシアやリアスのようなあからさまな好意を示されているわけでもないのだから、そこも考慮するべきか。イッセーとは色々違う。

 

 色々違うが、しかしそれにしても大雑把に見るとなんで匙は下位互換なのか。

 

「……まあ、気持ちはちょっとは分かるけどね」

 

 本来なら「もっと長いスパンで見ろ」とでもアドバイスするべきだろう。

 

 悪魔の寿命は一万年を超える。人間の平均寿命は未だ百年にも届いていない事を考えれば、百倍以上の長さだろう。

 

 そんな長い人生なのだから、アプローチはもちろん、関係構築も百倍以上のスパンで考慮しても問題ない。そう言うアドバイスはできる。

 

 だがしかし、焦る気持ちも分かる。

 

 なにせ、リセスも手痛すぎる失恋をした経験がある。それも、自分が裏切る形でだ。

 

 そういう邪悪な男の手練手管にソーナが捕われる可能性がないとは言い切れない。

 

 目の前にそういう相談を速攻で出来る自分がいるし、そもそも自分の過去を知っているんだからその辺りの反面教師も知っている。ついでにいえばソーナは当時の自分とは違って思慮深いのだから、迎撃態勢は抜群だろう。というより下手に手を出すとセラフォルーが動かせる全戦力を投入して叩き潰しに行くはずだ。たぶん相手も仕掛けないだろう。

 

 だが、それはそれとして不安にもなるだろう。

 

 悪い男に誑かされた自分という存在が身近なら、そういう悪い想像が脳裏をよぎってもおかしくない。

 

 そして、匙はそれ以外にも焦るところがあった。

 

「……俺、結局禁手(バランス・ブレイカー)に至らなかったんです」

 

 先日の合同演習の事だろう。

 

 天界の切り札であるデュリオ・ジュズアルド。堕天使側に与する幾瀬鳶雄。この二人もまた、神滅具の保有者だ。

 

 しかも、二人ともそれだけではない。デュリオは転生天使のジョーカーのスートを与えられている、転生天使最強と言っても過言ではない猛者だ。鳶雄は五代宗家の姫島の血を引き、更に生まれながらに禁手に目覚めるという、本来すぐに死んでいるイレギュラーを、様々な幸運に助けられたとはいえ乗り越えた特異な存在でもある。

 

 そして、後天的移植の上で禁手にまで到達させた、自分。ヒロイに至っては他の神器も禁手に至らせている。

 

 最後に、歴代とはまったく異なるアプローチで進化を続けている赤龍帝のイッセー。

 

 彼らにもまれれば、匙も禁手に至るかもしれない。ソーナはそこ迄期待してなかっただろうが、とっかかり程度にはなると思っていた。

 

 実際のところ、匙は大半において苦戦することはあれど至ることはなかった。

 

 別にそれは問題ない。というより、そう簡単に禁手に至るわけがない。

 

 禁手というのは、本来一定以上まで高めた神器が、所有者の精神が大きな変革を遂げた時に至るものだ。長年のトラウマに縛られていた状況から、どのような形であれ一つの克服を見せた自分や祐斗がいい例だろう。

 

 ヒロイもまた、今までとは一線を画すレベルでの輝き(英雄)であろうとする渇望で禁手に至った。聖槍の時も、曹操の猛威に屈しかけた心を奮い立たせたからこそのあの禁手だ。

 

 まあ、それに比べればイッセーは明らかにあれだが、しかしそれでも衝撃的な事だったのには違いない。過剰供給から絶無に叩き込まれるなど、おっぱいが色々とアップダウンが激しかったので、それも一押しになったと好意的に見よう。

 

 だから、ただ強敵に模擬戦でもまれる程度でそう簡単に至ることはないだろう。ソーナにしても、とっかかりの一つになってくれればいいという程度だろう。

 

 だが、匙は思った以上に気にしていた。

 

「……リセスさん。ソーナ会長の夢、知ってますか?」

 

「ええ。誰でも通えるレーティングゲームの学校設立……だったかしら」

 

 それ自体は良い夢だと思う。

 

 そもそも、レーティングゲームは誰もが自由に参加できるとうたわれておきながら、今のところは貴族か貴族の眷属になったものしか参加できないのが現状だ。

 

 冥界での数少ない娯楽であるにもかかわらず選手人口もそこまで多いとは言えないし、その辺りの改善は別にいいのではないかと思う。

 

 その好意的な視線をよく思いながら、匙は自慢げに胸を張る。

 

「その会長の夢が、実現しそうなんです」

 

「って事は、できるの?」

 

 旧家に嘲笑されたと聞いているが、それにしては早い設立だ。

 

 まだ発案者のソーナも学生である。悪魔というのは本当に実力主義なのだろうか。

 

「前にヴァーリを俺達がぶっ倒した事があるじゃないですか。対ヴィクターの戦力育成が主眼ですけど、会長のいう理論を実践するっていうのもありだとする旧家の連中も出てきて、それに乗っかる形でレーティングゲームの学部も併発になったんですけどね」

 

 そういうことかと、リセスは納得する。

 

 確かに、あれはオーディンから特別に認められるほどのものだった。

 

 現政権の旧家には、魔王血族を疎んでいるものも多い。そしてそれを別として、ルシファーと白龍皇を併せ持つヴァーリを脅威と見ているものはかなりの割合でいる。

 

 そんな中、誰一人として禁手に至る事なく、大半が下級悪魔の一上級悪魔とその眷属が、ヴァーリ・ルシファーを何もさせずに倒した。

 

 ヴィクターとの戦いに備えて戦力を確保したい(まつりごと)を司る悪魔からすれば、上手く利用して有効活用したいのだろう。

 

 だから、レーティングゲームの学部も含めたうえで誰もが通える学校を設立する。レーティングゲームの部分は本命ではないが、しかし優れた戦力を集められるのならある程度はお目こぼしをしてもいいだろうといった形なのだろう。

 

「いい感じに大王派に利用されてる気もするけど、それでも誰でもレーティングゲームが学べるのは良い事でさ。それ以外にも、今まで学校に入りたくても入れなかったりした悪魔の受け皿にもする予定なんだ」

 

 そう嬉々として語る匙だったが、しかしすぐに俯いた。

 

 そこには、明らかな不安の色がある。

 

「でも、俺は教師になれるんだろうか……」

 

「まだ気が早くないかしら? 貴方高校生よ?」

 

「でも、俺まだ下級悪魔です。冥界で教師になるには、最低でも中級悪魔にならないといけないみたいで」

 

 なるほど。その辺りもあるという事か。

 

 愛するソーナの夢の力になれるかどうかが分からない。しかもそれが自分の夢でもあるから尚更。それらもあって、迷走しているということか。

 

 だがまあ、それに関しては心配する事はないと思う。

 

 あのヴァーリ・ルシファーを撃退し、魔獣騒動では絶霧の使い手であるゲオルクの結界を強引に破って一矢報いた男だ。

 

 ソーナの眷属では一番強いと認識されているだろうし、何より復活した龍王ヴリトラの宿主をむげには扱えまい。

 

「あなたなら、十年もしないうちに上級悪魔も狙えるわよ。龍王が気にしすぎじゃない?」

 

「そうかもしれませんけど。……そもそも何を教えればいいのかも分からないんです」

 

 匙はそう呟くと、自分の掌を見る。

 

「サイラオーグの旦那は、格闘技を教えたいみたいです。でも、俺は何を教えられるのか分かりません」

 

 心底不安に揺れる匙に、リセスは―

 

「―馬鹿でしょ、貴方」

 

 ―はっきり切って捨てた。

 

「あ、酷い!?」

 

「酷いも何も、高校生が何を言ってるんだか。そんなことを気にする前に大学部に進学することを考えなさい」

 

 と、リセスはさらりと答える。

 

 その表情はあくまで笑顔だ。

 

「人にものを教えれるようにする授業を大学ではしているのでしょう? 教育学部っていうんだったかしら」

 

 そう、幸いにもこの日本は学業においてはそこそこ恵まれている。

 

 義務教育を受ける事が出来るし、それなりの高等専門学園もある。大学などは進路に合わせた学部までもある。

 

 その中には、教職を目指す者の為の学部もある。駒王学園の大学部も、確か併発していたはずだ。

 

「そこで「人にものを教える能力」を鍛えながら、そのうえで「何を教えるのが向いているか」考えればいいのよ。色々あるでしょ、教えられる事なんて」

 

「そ、そうっすか」

 

 ちょっと疑問の感情を顔に浮かべる匙に、リセスはもちろんと言いたげに胸を張った。

 

 厳密には自分が胸を張ることではないが、しかしここは張っておいた方が説得力があるだろう。

 

「人間世界出身なら、人間世界のことを教えればいい。悪魔は言葉は分かるけど文字は分からないんだから、英語なり日本語なりを教えて読めるようにするだけでもだいぶ変わるでしょ。日本文化についてある程度の理解を教えられるだけでも、日本に派遣された悪魔は契約がスムーズにいくでしょうね」

 

「……そ、それもそうですね」

 

 少しだが納得した匙に、リセスはぽんと肩に手を多く。

 

「勉強ができない人ってのは、私達が義務教育で真っ先に学ぶ事だって分からない事が多いらしいわ。ヒロイがそう言ってたから、それを教えるだけでもだいぶ変わる。……案外、真面目に人に教えることを勉強すれば、教育が未発達の冥界ならいろいろ教えられるでしょう。そこから上は、教えながら勉強していけばいいわよ」

 

 そうだ。教師になったら学ぶ事が終わるわけではない。

 

 想定外の質問が子供から飛び出る事もあるだろう。それを経験したら、今度はフォローできるように勉強する。そして同じ事にならないように他のパターンも考慮して学ぶ。

 

 そういう、教師になってからの勉強だってもちろんある。

 

「私達は一通りの戦闘訓練も経験もしてるけど、それでも修行してるでしょ? 教師も多分そんなものよ」

 

「リセスさん……」

 

 よく分からないなりに考えて励ましたが、どうやら匙には効果があったようだ。

 

 匙はなにかに頷くと、そのまま勢いよく拳を握り締める。

 

「分かりました! まずは日本のひらがなを教える事からでもいいんですね! それ位なら、頑張れば行けるかもしれないです!!」

 

「……一応言っとくけど、アイドル関係でやけを起こして高校まで辞めた女の意見だからね? 専門家の意見をきちんと聞いてね?」

 

 ちょっと励ましすぎたようだ。変な方向に暴走しなければいいのだが……。

 

 そんな不安を覚えたその時、スマートフォンに着信があった。

 

 取り出そうとしていると、匙もまた同じようにスマートフォンを取り出している。

 

 ……胸騒ぎがして、すぐにメールを開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―ツェペシェ領でクーデター勃発。緊急会議を開くので、グレモリー・シトリー両眷属は兵藤邸地下に集合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやら、既に大騒ぎの種はばらまかれているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 





日常回を一話でまとめようとしたら、かなり長くなってしまって申し訳ありません。










そして、そんな日常をぶち壊しかねない悪夢の宣言はあと少しで……


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第六章 18

 

 ツェペシェ領で、クーデターが勃発。そして新政権の長はヴァレリー・ツェペシュという情報が、俺達にもたらされた。

 

 明らかにやばい事態で、お嬢達も軟禁状態。

 

 吸血鬼という種族だけで解決する事に拘っていたツェペシュの追い出された王族達は未だカーミラに仕方なく頭を下げている程度だが、俺達がそこまで指をくわえて見ている必要はない。

 

 と、言うことでオカルト研究部がお嬢達のところに合流する事となった。

 

 付き合いの長い俺達も当然一緒に行動。追加で実戦経験の確保も考慮して、シトリーのところの新入り二名も参加する事となった。

 

 大学部のルー・ガルーことルガールさんと、ハーデスから離反した死神の筆頭であるオルクスの娘であるベンニーアだ。

 

 で、俺たちは荷づくりを終えて準備をしている。

 

「……さて、それじゃあ私達別動班が何をするかを確認するわよ」

 

 と、最年長にして実戦経験豊富ということでリーダーになった姐さんが、イリナを除いた非グレモリー眷属組は、別同伴として動く事になっている。

 

「すまんな。俺は吸血鬼には嫌われているので、城内に直接迎えられるのは避けるべきなんだ」

 

「気にする事はないわ。どちらにしても、敵地に潜入するんだから別動隊を用意するのはおかしな事じゃないわよ」

 

 ルガールさんをフォローした姐さんは、すぐに地図を広げた。

 

 そこには、詳細が分からないのでぼんやりとした表記になっているツェペシェ領を中心とした、周囲の地図が広げられる。

 

「基本的に私達の任務は簡単。……いざという時の為に展開している、悪魔祓いを中心とした大規模部隊が非常時に突入する為のルートの確保よ」

 

 そう。アザゼル先生は既にこの戦いがヴィクターとの大きな戦闘になる事を予期している。

 

 ニエ・シャガイヒの復活の事もあり、アザゼル先生は聖杯がヴィクターの手にある事は想定していた。

 

 そこに聖杯の持ち主であるヴァレリー・ツェペシェの登場と、彼女を旗頭としたクーデター。繋がっていると考えるのはおかしなこっちゃねえ。

 

 まあ、リムヴァンは同種の神滅具を複数所持している事も多いから、まったく別件って可能性もあるんだがな。

 

 それはそれとしてアザゼル先生から「非神器(セイクリッド・ギア)保有者の手練れを中心に集めて侵攻準備をしておいてくれ」と注文があったので、俺達が領地の裏側から穴を開ける担当だ。

 

 現在、通常装備の悪魔祓いを中心として編成中。ヴィクターと吸血鬼のヘイト稼いでる連中のダブルコンボでの強襲作戦でもある為、かなり士気も高いらしい。

 

『色々アザゼル元総督殿もお考えがあるんでしょうぜ。クソ親父からも嫌な情報を聞いてますんで不安ですぜ』

 

「具体的に何っすか? てかどんな情報源っすか?」

 

 ベンニーアの言葉に反応したペトが、嫌そうな表情を浮かべる。

 

 ……死神連中は結局繋がってんのか?

 

『安心してくだせぇ。どさくさに紛れてクソ親父が自分の賛同者をスパイとしてヴィクター側に潜り込ませてるだけでさぁ。ま、ハーデス様も似たような事をしてると思いやすがね』

 

 マジか。あのジジイやり手だな。

 

 で、具体的な問題点とは?

 

『なんでも、リムヴァンにはLという相棒がいて、そいつが今回のクーデターに全面的に協力してるとかいう話でさぁ』

 

 ……L、か。

 

 噂には聞いた事がある。リムヴァン直属の交渉担当で、ことクーデターを勃発させる事において右に出る者はいないって話だ。

 

 相手の不満を煽り立てて火事を起こす事が大得意らしい。そこにリムヴァンの提供する神器という餌があるからそりゃすげえだろ。ヴィクターに所属するってだけでも餌になるだろうしな。

 

 そしてこの業界、実力者が他の方面でも優れてるだなんてことは珍しくもなんともねえ。

 

 イッセーですら芸能界ではおっぱいドラゴンという大人気ヒーローやってるからな。戦闘能力と芸能方面の二方面で凄腕だ。

 

 おそらくLってのも強いと判断するべきだ。英雄派の幹部クラスは想定しておいた方がいいんだろうねぇ。ああ、やだやだ。

 

「まあそれはいいわ。まずやる事は。潜入後にツェペシュの正確な地理を知る事。できる限り正確な地図が欲しいわね」

 

「霧に包まれてるから、ペトの目はあまり役に立たなそうっす」

 

「……俺は鼻が利くが、それだけでは無理があるだろうしな」

 

 と、建設的な会話を進めながら、俺はこれから行く事になるツェペシェ領について思いをはせていた。

 

 男尊主義のツェペシュで、女性でありハーフであるヴァレリー・ツェペシュがトップとなっている。

 

 傀儡にするにしたって他に適任が良そうなもんだ。それほどまでに聖杯ってのは重要なのか? それとも、女尊主義のカーミラの取り込みすら狙っている?

 

 とにもかくにも、俺が持つ吸血鬼のイメージや教会で教わった吸血鬼の文化とはかけ離れた展開だ。

 

 これ、かなりやばい奴が関わっているとしか思えねえぞ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! 何て展開だ!

 

 ヒロイ達が別行動している間、俺達はリアスと合流した。

 

 とりあえずクーデターを起こした連中は、今のところリアスに何かしようってわけじゃないみたいで良かった。まあ、後で絶対何かするんだろうけどさ。

 

 そして、そっからが腹が立つ!!

 

 俺達が対面したヴァレリーは、明らかに目がイっていた。

 

 誰がどう見ても正気じゃない。俺達と会話している間も、悪魔の俺達ですらよく分からない言葉で、何もない方向で会話らしきものをしていた。

 

 ギャスパーが泣きだすのも当然だ。初めて会った俺でも、ショックだぜ。

 

 しかもマリウスって元凶もあれだ。

 

 堂々と研究の邪魔だからクーデターを起こしたとかのたまいやがった。周りの貴族主義っぽさ満々の人達が、強気になれないぐらいの権力を既に持ってやがる。

 

 聖杯の研究者を名乗るマリウス。アイツが吸血鬼側の真のトップなのは間違いない。ヴァレリーのことも、道具としか扱ってない目をしてた。

 

 ゼノヴィアがデュランダルを構えて切りかかろうとするのも当然だ。俺だって殴り掛かりたかったよ。

 

 だけど、強化された吸血鬼達が話にならないような奴が控えてやがった。

 

 三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)、クロウ・クルワッハ。

 

 邪龍最強と言われて、下手すら天龍に匹敵するとまで言われるとんでもない邪龍だ。マリウスの言っていたことだし外見は人間だったけど、オーラがドラゴンだったし間違いない。

 

 あれはヤバイ。極覇龍状態のヴァーリを超えるかもしれないプレッシャーだ。覇光状態の曹操に匹敵するやばさを感じた。間違いなく強敵だ。

 

 あんなのがいたんじゃ、俺達もうかつに動けやしない。

 

 どうする? ヴァレリーを助けるのは確定事項だけど、下手に動くとややこしい事になるのは馬鹿な俺でも分かる。

 

 俺はアザゼル先生に何かないか聞こうとして―

 

「―おんやー? そこにいるのはアザゼルくんじゃないっすかー?」

 

 なんかすっげぇ馴れ馴れしい声が消えて、俺は視線をそこに向ける。

 

 そして、その恰好を見て驚いた。

 

 あの格好、サーゼクス様の正装とほぼ同じだ! 色がちょっと銀色中心だけど、それ以外はクリソツ。

 

 しかもなんだ? どっかで見たような気がするぞ? いや、誰かと似ているのか?

 

「やっぱり来てやがったか、リゼヴィム……っ」

 

 アザゼル先生が敵意満々の顔になる。

 

 こんなに敵意だけ浮かべてるアザゼル先生何てめったに見られない。

 

 どんだけそいつのこと嫌いなんですか!? いったいどんなレベルの糞野郎何ですか!?

 

「アザゼル? 彼は一体……」

 

 リアスもその格好に何かを感じながら、だけど誰か分からないって言った顔だ。

 

 それを見て、アザゼル先生は心底嫌そうな表情を浮かべた。

 

 口にするのも嫌なんですか? どんだけの糞野郎なんですか、あいつ。

 

「お前が知らないのも無理はない。だが、この名前は知っているだろう」

 

 そうリアスに前置きしてから、アザゼル先生はその銀髪のオッサンを睨み付けた。

 

「久しぶりだな、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー」

 

 ……る、ルシファー!?

 

 俺達は皆一様に驚愕してる。

 

 だってそうだろ!? ルシファーってのは、サーゼクス様の称号じゃねえか。

 

 いや、待てよ。

 

 そうだ。こいつ、ヴァーリに似てるんだ!! 見覚えがあるはずだよ、あいつの顔を忘れるわけねえもん。

 

 そしてヴァーリは人間と初代ルシファーの孫との間にできたルシファーの末裔だ。

 

 ってことはこのオッサンは……。

 

「―あんたがヴァーリの親父さんか!?」

 

 そうとしか考えられなかったけど、そのリゼヴィムとかいうオッサンは、ちっちっちと指をふる。

 

「おしい! ヴァーリっちの親父はもっとビビリだ。俺は更にその上、ヴァーリの爺ちゃんだよ」

 

 爺ちゃん!? にしちゃ若い外見だけど、冷静に考えたら悪魔は外見を自由に変えられるから若くするのは当たり前か。

 

 俺達が驚いたままの顔でいると、アザゼル先生は更に表情が歪む。

 

「そしてこいつのコードネームはL。ヴィクター経済連合の最古参にして、リムヴァンの右腕だ」

 

 ……なんだって!?

 

 ヴィクター経済連合の最古参!? それって、つまり、ヴィクターを作った男ってことか!?

 

 俺達が目でそうなのかと問いかけると、リゼヴィムはふふんと胸を張った。

 

「その通り! 禍の団(カオス・ブリゲート)はともかく、奴らと合流するまでのヴィクター経済連合は、餌担当がリムヴァン君で交渉担当は俺がやって集めた組織なんだよ」

 

 な、なにぃ!?

 

 禍の団以外のヴィクター経済連合は、こいつが作っただとぉ!?

 

 ってことは、こいつは世界を混乱の渦に叩き込んだ元凶の一人じゃねえか!

 

 思わず殴り掛かりたくなるけど、そうもいかない。

 

 だって、そんな奴がこんなところにいるって事は―

 

「既にツェペシュのクーデター組との交渉は進んでるって事か。ここで手を出したら俺らが袋だな……っ」

 

「うんうん。アザゼル先生もそこの彼らも理解が速くて助かるぜ。ここで俺様ちゃんに手を出すと、マリウス君も速攻で増援を送ってくるから、今はやらない方がいいと思うぜ? それに……」

 

 そう言いながら一歩下がるリゼヴィムの陰に、一人の少女がいた。

 

 ……オーフィスそっくりの女の子。しかも、纏ってるオーラも結構近い。

 

 まさかこの子は―

 

「オーフィスから英雄派が分捕った力を使って作った俺達のウロボロスだ。名前は俺のお袋からとってリリスって名付けさせてもらったぜ」

 

 リリスを抱き寄せながら、リゼヴィムは悪意がもろに見える表情を浮かべる。

 

 俺達がオーフィスと仲良しなのを知っているから、あえてそうしてやがるな。

 

 ああ、こいつはクソ野郎の類だってよく分かる。アザゼル先生が睨み付けるわけだぜ。

 

「ま、このままだと君達は暴発しそうだから今日はもう帰るよ。……それと、良い事を教えてあげよう」

 

 振り返ってそのまま廊下を歩きながら、リゼヴィムの奴は流し目でこっちに視線を向けた。

 

「このままいきゃぁ現ツェペシェ派はヴィクターにつく。本格的に駐留部隊が来るまでに、侵攻準備を整えた方がいいぜ、三大勢力の諸君!!」

 

 そうかよ。俺達がここに侵攻する準備をしてる事も想定内ってか。

 

 なめやがって。覚えてやがれ。

 

 ……ヴァレリーは、必ず助け出してやるからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ついにリゼヴィム登場。しかも初期からがっつりかかわってました。

こっから少しの間、イッセー支店での話が続きます。


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第六章 19 

こっからイッセー視点が続きます。

まあ、これはリセスがいるとできない視点なもので。


 

 ってなことになっても、俺たちはどうすることもできないまま数日が過ぎた。

 

 ギャスパーはよくヴァレリーと話してるし、俺たちもお茶会に誘われることもある。

 

 どうもヴァレリーはかなり自由にしてるらしい。それも、ほぼ毎日だ。

 

 普通お飾りのトップだってもう少し公務があると思う。俺たちの国の天皇陛下も、そういう仕事はいっぱいあるって聞いたことがある。

 

 ってことは、ヴァレリーは本当に聖杯以外あいつらに利用価値を見出されてないってことなのか。

 

 ……しかも、マリウスが不穏なことを言っていた。

 

 ギャスパーがヴァレリーを開放してほしいといった時に、あっさりと「開放する」と言ってのけたのだ。

 

 ギャスパーは素直に喜んでたけどおかしすぎる。

 

 今のツェペシェにとって聖杯は貴重すぎるはずだ。ヴィクターとの同盟を結ぶにしても、それ位の何かが無ければ地位は確保できないと思う。それどころか、聖杯がなくなればカーミラもすぐに仕掛けてくるだろうし、追い出された王様たちも反撃するはずだ。俺たちだって、聖杯の力がないとわかればさっさと侵攻部隊が仕掛けてくるだろう。

 

 そんな命綱を手放すわけがない。マリウスは何かを考えてる。

 

 俺は、レイナーレとの戦いを思い出す。

 

 レイナーレに神器を奪われたアーシアは一度死んだ。神器の引き出しはそれだけでほぼ確実に死に至るからだ。今でも神滅具クラスは絶対無理のはずだ。リムヴァンならできるらしいけど、どうも来てる感じじゃない。

 

 まさか、マリウスの奴は……っ!

 

 それにギャスパーのこともある。

 

 ギャスパーの親父さんから聞いた話は、結構衝撃的だった。

 

 ギャスパーのお母さんは発狂して死んだ。生まれたギャスパーを見たショックで気をやられたらしい。

 

 そこにいたのは、人の形すらしてない闇の塊だったそうだ。

 

 しかも、産婆たちは短い時間で呪いで死んだらしい。ギャスパーのお父さんはギャスパーが原因だと思っているらしい。

 

 ……ギャスパーのお父さんは、ギャスパーのことを終始「あれ」といっていた。

 

 自分達と同じ吸血鬼どころか、生き物としても扱いたくないのが見えていた。

 

 ここに、ギャスパーの居場所はない。

 

 だけどまあ、そっちは何とかなる。

 

 生まれが何であれ、ギャスパーは俺と同じリアスの眷属悪魔だ。吸血鬼でも人間でもなくても、あいつは転生悪魔だ。その辺はみんな一緒の考えだ。

 

 ギャスパーのお父さんも、ギャスパーにとってそれは恵まれたことだと言ったぐらいだ。あんな態度の人にまで言われるぐらいなんだから、自信満々で今のギャスパーは恵まれてるって断言できる。

 

 よし! だったらちょっと気合入れるか!!

 

 今は時間つぶしにツェペシェの領内を散策してるけど、戻ったらアザゼル先生に相談だ!

 

 俺はそう気合を入れて前を向くと―

 

「あ、赤龍帝」

 

「……うわぁ」

 

「ニエ、プリス、どうした?」

 

 そこに、ニエとプリスとリリスがいた。

 

 ……敵の腕利きじゃねえかぁああああ!!!

 

 おいちょっと待とうよ! なんでこんなところにいるの!?

 

 ここ一応、まだヴィクターについたって声明は出してないよね!? っていうかお飾りにしても代表が町中うろつくなよ!! ニエもあんだけ堂々と冥界のテレビ中継の前で暴れておいて、なに変装もしないで出てきてんの!?

 

 いろいろ頭の中でツッコミを入れていると、一緒についてきたゼノヴィアとイリナが獲物を構えようとする。

 

 まあ当然だろう。リセスさんにも非があるとはいえ、徹底的にリセスさんをいたぶったやつだ。俺たちからしてみるといい感情はない。

 

 だけど、それより先にニエは両手を上げると降参のポーズをとる。

 

 な、なんだ?

 

「……どういうつもりですか?」

 

 ロスヴァイセさんがそう聞くと、ニエは苦笑いを浮かべた。

 

「仕方ないじゃないか。避難も住んでない街中で僕らが戦ったら、ここの人にたくさん被害が出るじゃないか」

 

 そ、それもそうだ。

 

 見れば剣呑な雰囲気に、街の人たちが集まっている。

 

 こんなところで俺たちクラスが暴れたら、すごいことになるよな。

 

「そ、そうだよ! 先に仕掛けた三大勢力の方がたたかれて、マリウスが喜んでヴィクターとの同盟を宣言するからね!? やめた方がいいよ?」

 

 と、ピンときたのかプリスがそう言って俺たちを説得する。

 

 そ、そうだよな。

 

 もうツェペシュは九割ぐらいヴィクターだし、仕掛けるための準備もきちんとしてる三大勢力だけど、それでもまだ仕掛けていない。

 

 明確にヴィクターについたって声明をツェペシェ現政権が出してないからだ。証拠があればまた別の話だけど、証言だけで物的証拠がない。

 

 そんな中で俺たちがいきなり暴れだしたら、それこそヴィクターにとって都合がいいはずだ。

 

 町中でいきなり暴れだすような危険人物が、三大勢力では英雄扱いされている!!

 

 なんてことになったら大変だ!!

 

 で、でもここでただ見逃せるほどこの三人はどうでもいい奴じゃないしなぁ。

 

 神滅具移植者のニエ。神滅具使いとまともに戦えるプリス。そしてヴィクター側のオーフィスであるリリス。

 

 これ、どうしたもんだよ。

 

 俺たちは、なんというか何もできずに戸惑っている。

 

 だけど視線はどんどん集まるわけで……。

 

 これ、どうしよ?

 

「……はぁ。わかった、こうしよう」

 

 そうため息をついたニエに、俺たちは再び視線を集める。

 

 ニエはそのままくたびれた感じの表情をすると、すぐ近くの料理店を指さした。

 

「……ちょうどお昼ご飯だしね。ここは奢るから、とりあえず戦闘態勢をやめてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、俺たちは料理店に入った。

 

 俺たちはどうしたもんかとニエたちをにらむ一歩手前の視線で見ていると、ニエはあっさりメニュー表を取り出すと、店員を呼び出した。

 

「すいません。僕はフィッシュ&チップスとジンジャーエール。……プリスは?」

 

「え? 私は水で―」

 

 びくつきながらそういうプリスに、ニエはため息をついて軽くにらむ。

 

「倒れられたらかえって困る。何か頼んでくれ」

 

「……じゃあ、同じのを」

 

「わかったよ。……君たちはどうするんだい、早く決めないと店員さんが困るだろ?」

 

 そう言われて、俺たちも適当にパスタとかを頼む。

 

 ちなみにリリスはこの手の店のことがそもそもよくわかってなかったみたいなので、ニエがケーキをいくつか頼んだ。

 

 で、注文が来るまで俺たちは無言。

 

 注文が来てからもなかなか食べられないし、やっぱり無言。

 

 だってそうだろ? 相手は敵だぜ?

 

 それも、俺たちグレモリー眷属的にはリセスさんがらみで結構な因縁がある敵だ。なんていうか、すっごい居心地が悪い。

 

 それを、みて、ニエは苦笑を浮かべた。

 

「美味しく食べれないから何か喋ってくれないかな? 例えば、お前はリセスを許す気はないのか……とかね」

 

 ぶ、ブラックジョークかよ。

 

 俺はちょっと引くけど、だけどまあ、冷めたらまずくなるしな。

 

 もぐもぐと食べながら、俺たちはとりあえず会話をする。

 

「じゃあ、それをそのまま聞くけどどうなんだよ」

 

「今のところその気はないね。彼女もプリスも僕たち三人の夢を裏切ったんだ。あの絶望、君たちはわかるかい?」

 

 まっすぐな目で見つめられて、俺たちは少しだけ返答に困る。

 

 ……だけど。

 

「俺は、少しはわかるかもしれない」

 

 俺は、本当にそう思ったからそう答えた。

 

 何がわかるとか言われるかもしれないと思ったけど、ニエは意外にも優しい表情を浮かべて、フライドポテトを一本食べる。

 

「……続けて」

 

「俺が悪魔になったのは、堕天使に殺されたからだ」

 

 そう前置きして、俺は自分が悪魔になった事情を語る。

 

 神の子を見張るものが俺を危険だと判断して、アザゼル先生が許可を出した上で暗殺計画が行われたこと。

 

 それが管理職を経由して、担当がレイナーレになったこと。

 

 で、レイナーレが天野夕麻ちゃんとして、俺に告白する形で近づいてきたことだ。

 

「ぶっちゃけうれしかったよ。女の子に嫌われまくりでハーレムなんて夢のまた夢だと思ってたから、彼女ができたって事実に舞い上がった」

 

「……いや、覗きをやめようよ」

 

 くそ! 正論やめろ!

 

 ってかなんで知ってんだ! ヴィクターの諜報能力はもっと別なところで活かすべきだと思う!!

 

 まあ、実際のところは詳しい調査のためにそうされたってだけだ。そして危険な神器だと判断されて、殺された。

 

 挙句の果てにアーシアを助けに来た時、あいつは俺のことを徹底的にこき下ろした。

 

 ありきたりのつまらないデートだった。腐った悪魔のクソガキって。

 

「……あの時は腹が立っただけだったけど、冷静に思うとショックもでかかったんだと思う。だから、リアスたちの好意を素直に受け取れなかった」

 

「実に許せん堕天使だ。デュランダルの錆にしてやりたい」

 

「うぅ……。幼馴染なのに気づかなかった自分が情けない……」

 

 ゼノヴィアとイリナが怒ったりへこんだりしてるけど、まあそういうことだ。

 

「俺は有頂天になって、可愛くて告白してくれたってだけで好きになった。そんな俺でもそんだけショックだったんだ」

 

 それが、何年も何年も一緒だった女の子に裏切られたら。

 

 きっと、俺なんかより何倍も何倍もショックなんだろう。

 

「だから、ちょっとぐらいは気持ちはわかると思う」

 

「……そうか。そうかもね」

 

 ニエは、静かにそう頷いた。

 

 そしてまっすぐ前を見た。

 

「だったらわかるだろう? 君は、そんなレイナーレを簡単に許せるのかい?」

 

 ………。

 

 そう、なんだよな。

 

 俺はレイナーレを許せない。

 

 あいつは死んで当然のことをしたし、あの場で殺さないなんて選択肢はまあないだろ。

 

 アーシアに神器を返さなきゃならなかったし、あの時の情勢なら末端の中級堕天使なんて殺すのが基本だ。リアスも俺にひどいことをしたレイナーレに怒っていたし、敵の堕天使は基本殺すのが普通の時だ。

 

 だから、それは別にいい。

 

 だけど―

 

「―リセスさんは、ずっと後悔してたんだぜ?」

 

 俺は、それは言わずにはいられなかった。

 

 リセスさんはずっと後悔してる。今でも、ある程度整理したけど、ずっと背負うべき罪だって思ってるはずだ。

 

 少なくても、あの時まではそうだった。だから、リムヴァンの傷心の追撃者(リプライ・オブ・トラウマ)が決まったんだ。

 

 そのリセスさんの贖罪は、ニエにとっては傷口に塩を刷り込まれたようなものなのかもしれない。

 

 むしろさらに踏みつけられたような気分だったのかもしれない。

 

 ニエみたいなやつからすれば、失ってしまった人の分まで幸せにするなんて、自分に対する贖罪じゃないって思ってるのかもしれない。

 

 だけど……。

 

「それでも、リセスさんはずっと悲しんでたんだぜ?」

 

 それだけは、誰にも否定させない。

 

 リセスさんはそれをずっと悔やんでた。その原因だと思っている、自分の弱さを嫌っていた。

 

 だから強さを追い求めてたし、弱さのあまりに暴走しそうな人が出たときには強く諌めた。

 

「そして、優しい人なんだぜ?」

 

 それにリセスさんは優しい人だ。

 

 英雄であらんとしているところもあるんだろうけど、それを除いたってリセスさんはいい人だ。

 

 だって、俺がリレンクスに対してした行動を真剣に叱ってくれた。

 

 今でも俺は悪いことはしたけど間違ったことはしてないと思ってる。でも、うまいやり方を考えないといけないと思って反省はしてる。

 

 それはリセスさんが「芸能人」の目線と「そのファンの」の視点から説教してくれたからだ。あれがわかりやすいから、俺も他の方法を考えようって思ってる。

 

 本当なら、あれはすっごいきついはずなんだ。

 

 だって自分のトラウマだった過去をいやでも思い出す。自分が嫌いで嫌いでたまらない時のことを、自分から言うだなんてそう簡単にはできない。

 

 ホントにすごい人だよ、リセスさんは。レイナーレの時のことを思い出すだけで嫌な気分になるからよくわかる。

 

 そして、リセスさんは何度も芸能人としての視点を語っていた。

 

 俺に対するアドバイスだったり、スイッチ姫ことリアスに対するアドバイスだったり。とにかく、芸能人の視点で語る必要があると思ったら、リセスさんは、それをきちんと言っていた。

 

 それが、内心で結構苦痛なのはすぐにわかる。

 

 それでも、リセスさんは―

 

「自分がつらくても、相手のためになることを言える、立派でいい人なんだぜ?」

 

 そんな人を、本当に殺す気なのかよ。

 

 俺は、まっすぐにニエに視線を向けた。

 

 プリスが戦闘でもするのかと思ったのか立ち上がりかけるけど、ニエはそれを片手で制する。

 

「……確かに立派だよ。リセスも、君たちも」

 

 そう静かに言って、だけどニエは目をフィッシュアンドチップスの皿に向ける。

 

 いや、それはうつむいているんだ。

 

「だけど……」

 

 歯を食いしばって、声を絞り出す。

 

「それに付き合わされる普通の人()にとって、それは拷問も同じなんだよ……っ」

 

 その言葉に、俺たちは何も言えなかった。

 




ニエに対する掘り下げは必須だと判断したので、こういう機会を作りました。

そんでもって、ニエは基本的に普通の範疇内の人物です。

歴史に残れるほど立派じゃないから、許せることにも限度がある。だからリセスが許せないし、リセスみたいな立派な決断なんてとてもできないのです。


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第六章 20

 

 ニエの態度に、俺たちは何も言えなかった。

 

 ニエは認めたんだ。リセスさんが立派だと。俺たちも立派だと。

 

 そして、自分は俺たちとは違うって認めた。俺たちよりも下だって、そう認めた。

 

 プルプルと握り締めたこぶしを震わせながら、ニエは絞り出すように恨み節を放つ。

 

「この気持ちを抱えたまま生きろ? 飲み込んで許すことがいい? ああ、立派なことだと今なら思うさ」

 

 そして、闇のこもった据わった眼で、俺たちを見る。

 

「だけど、そんな立派をするのが普通なことなら、ヴィクター経済連合なんて生まれてない」

 

 確かに、そうだよな。

 

 ぶっちゃけヴィクター経済連合のトップ陣営はカ、欲にかられた連中だってのが上の考えだ。

 

 特に実働部隊の禍の団側の最初期のトップ格が、あのシャルバ率いる旧魔王派だしな。立派どころかどうしようもない奴だった。

 

 中にはテロリストや犯罪者まがいの連中だってあるし、参加した国家の中には民衆を弾圧している奴や、治安の悪い国が多かった。

 

 そういう、悪い意味で俗物な奴らが多く集まってる組織がヴィクターだ。

 

「リゼヴィムさんはそういうのが得意なんだ。人の中の不満を、立派で正しい行動に抑えられてる人の背中を押すのが上手だ。僕もその口なのはわかってるよ」

 

 今、ニエははっきりとこういってる。

 

 ……立派なのは、三大勢力だと。

 

「だから相いれない。そんな立派についていけない僕たちは、ヴィクター経済連合は君たちの高潔さにはついていけないよ」

 

 そういうと、ニエはメニュー表を手に取ると、さらに注文をした。

 

「エール一つ」

 

 お酒たのんだよ。

 

「一応言っとくけど、僕の金で奢ってるんだから僕が好きなものを頼む分にはどうでもいいよね。第一イギリス出身だからお酒なんてエレメンタリースクールの時からたしなんでるし」

 

「年齢的にどうなんでしょうか……」

 

 ロスヴァイセさんが力なくそういうけど、あなたも十代ですよね?

 

 言っとくけど、日本じゃ二十歳(これ書いてる西暦の時点)じゃなきゃお酒飲んだらいけないんですよ?

 

「……プリス。食べ終わったんならリリスを連れて先に返ってくれないかい?」

 

「え? でも……」

 

 俺たちのところに置いていくのが心配なのか、プリスは言われたことに素直に従えなかった。

 

 ニエは、プリスじゃなくてリリスの方を見ていった。

 

「ここから先は、リリスには聞かせられないような話だから……さ?」

 

「う、うん。わかった。……いこっか、リリス」

 

「? ……うん」

 

 そう言いながら、プリスとリリスはレストランを出ていく。

 

 それを流し目で見ながら、ニエはエールを一口飲んだ。

 

「……リリス一人でも充分だろうに。まさか、神滅具一つで私たち全員を倒せるとでも?」

 

 ゼノヴィアが舐められていると思ったのか、苛立たしげな表情を浮かべる。

 

 確かに。いくらニエが神滅具を禁手にしてるっつっても、俺だってそうだ。

 

 それにゼノヴィアのエクス・デュランダルは下手な神滅具より強力だし、アーシアの回復は俺たちの生命線だ。ロスヴァイセさんやイリナだって、上級クラスの戦闘能力はある。

 

 まともに戦えば、さすがに一人ぐらいなら押し切れるぞ?

 

 その視線に、ニエは片手をひらひらと振る。

 

「だから一般人は巻き込まないって言ってるだろ? それに、リリスを一人にしたくないんだよ」

 

「なんで?」

 

 イリナが首をかしげると、ニエは少し不快げな表情を浮かべた。

 

 そんでもって、なんか言いにくそうに首をひねる。

 

 一分ぐらい考えてた。

 

「……オブラートに包んで言うけど、リゼヴィムさんって子供の情操教育には……アレだから」

 

「なるほど!」

 

 思わず納得して声が出たよ。

 

 だよね! 明らかにアレな奴だもんね!!

 

 ヴァーリを見てればよくわかる。特に最初のころのヴァーリとか、明らかに迷惑極まりないもん。俺の両親殺すとか言いやがったしな!

 

 あんなのに育てられてるってことを考えりゃ、むしろあれでもまともな気がしてくるから不思議だ。

 

「だから誰かに見ててほしいんだよ。吸血鬼の貴族たちも、一般人だったぼくの目から見るとこう……あれだし」

 

 同感です。

 

 で、ならなんで一緒に帰らなかったんだ?

 

 俺たちが疑問に思っていると、ニエは残ってたエールを一気に飲み干した。

 

 そしてもう一回エールを注文。そして、俺たちをまっすぐ見る。

 

「……はっきり言うよ。リセスが今まで何をしてきたのか。それを聞きたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リセスの奴、絶対に性根が変態だよ」

 

 俺たちが知ってることを一通り聞いたニエの反応はこれだった。

 

 もう酒はやけ酒と化してる。そして頭を抱えている。

 

 ついでにいると飲むペースを間違えて一回トイレに行った。そこからは普通にジンジャーエールに戻った。どんだけ飲んだんだ。

 

「そう言えば、こっそり拾ったエロ本を孤児院に持ち込んだことがあったなぁ」

 

 え、そんなことしたことあるの!?

 

 それは男子生徒のジョブだろ!! なんで女の子がやってるんだよ!!

 

 リセスさん!? あなたそれでも元アイドルですか!?

 

「はぁ。そう言うのに興味を持つのは珍しくもないのは知ってるけど、それはそれとして変態すぎるよ」

 

「まあ、我々の中で一番いやらしいものが誰かといえば、リセスさんとペトさんがツートップですね」

 

 ロスヴァイセさんがニエに同意してため息を吐いた。

 

 ちょっと待ってください。俺はどうなるんですか!?

 

 リアスの乳首をつついて禁手に至りましたよ!? 魔力の才能が欠片しかないのに、神器と併用すれば神滅具の禁手すら砕いて裸にする技に目覚めましたよ!? スケベ根性なら駒王学園一の自信がありますよ!?

 

 その俺を含めての3トップって考えるのは普通じゃないですか!!

 

 因みにヒロイも大概だけど、あれでリセスさんとペトについていけてないときがあるからさすがにあいつに勝ってるのは自信満々だ。

 

「イッセー君はあの二人に比べると、格が明らかに下ですから」

 

「そうだな。イッセーの性欲の強さもまっすぐで狂人だが、単純な出力でも経験でもあの二人の方が圧倒的だ」

 

 そこまで言いますかロスヴァイセさん!? そして納得するなゼノヴィア!!

 

 くそ、これが経験の差ってやつか。元から変態の素質があって、挙句の果てにセンスも抜群だから、追いつける気が微塵もない。

 

 これが、童貞の限界だっていうのか……っ。

 

 俺は思わずテーブルに突っ伏した。

 

 だってショックだもん! スケベ根性ならだれにも負けない自信があったのに、さらにその上を行く人たちが二人も出てくるなんて。マジでショックだ。

 

「……君、変わってるってよく言われるよね?」

 

 ニエは半目を向けると、ものすごくため息をついてきやがった。

 

 この野郎。俺はショックを受けてるのに、さらに傷口に塩を擦り込むのか。なんて奴だ。

 

「というより、その調子だとクオーガクエン? ……とかいうところでもいろいろやってそうだね」

 

 ニエが、汗を一滴たらしながらそんなことを言ってきた。

 

「男女問わず性的によく食べてるわね」

 

「……天使が言うのかい、そういうこと」

 

 うん。よりにもよってイリナが肯定するのはどうかと思う。

 

 天使がエロ関係の会話に積極的にかかわるのはどうかと思う。家ではすっかりエロ天使なのは事実だけどな。

 

 そして、イリナはさらに指を一本たてた。

 

「……でも、すっごくいい人よ」

 

 その言葉に、ニエは何も言わなかった。

 

 そんでもって、イリナもそれをわかった上で続けた。

 

「英雄を目指していただけあって立派であろうと頑張ってるわ。用務員の仕事もきちんとこなしてるし、エッチなことをしてくれることを除いても、人気あると思うわよ?」

 

 うん。そうだ。

 

 リセスさんは学園でも人気者だ。

 

 エッチすぎるところが玉に瑕だけど、それでもあの人はいい人だし、魅力的な人だ。

 

 だから、学園でも人気がある人なんだ。

 

「………そうかい。見る目がない人たちだ」

 

 ニエはそう絞り出すように言うと、領収書を取って立ち上がった。

 

「これ以上はいいよ。僕はもう帰る」

 

 そうか。もう帰るのか。

 

 っていうかマジで奢ってくれるのか。お金大丈夫か?

 

 アーシアも気になったんか、立ち去ろうとするニエを呼び止める。

 

「あの、こんなに払って大丈夫なのでしょうか?」

 

「ああ。それならこれを見るといいよ」

 

 そういって出してきたのは、一枚の紙切れだった。

 

 あ、給与明細って書いてある。

 

 そこに書かれてる数字を見て、俺は目を見開いた。

 

 ……高い! 日本円にすると……かなり高い!!

 

 っていうか、神滅具手当って書かれてる金額がすごい。普通の基本給の倍ぐらい言ってる。

 

「これでもヴィクターでも戦力とみなされてるんだ。ポテンシャル分のお金はもらってるんだよ」

 

 そう苦笑しながら言うと、ニエはそのまま代金を祓いにカウンターに向かっていった。

 

 それを見つめて、俺たちはやるせない気持ちになる。

 

―君にとっての平和が、苦痛に感じる者もいる。

 

 以前、ヴァーリにそんなことを言われた。その時は、正直言ってよくわからなかった。

 

 でも、ニエと話して少しだけ分かった気がする。

 

 俺たちにしてみれば当たり前のことが、とても大変な人がいる。俺たちを立派といって、すごいと思っている人がいる。

 

 そういう人たちにとって、俺たちの当たり前はつらくて大変なことだっていうことなんだろう。ついていけないんだろう。

 

 ……だから、三大勢力の和平に反対する人がいる。つまり、そういうことなんだな。

 

「……最近、教会でも不満を口にしている者が多いの」

 

 イリナが、そう寂しげに言った。

 

「吸血鬼とまで和平する必要があるのかとか言っているわ。特に、家族や友達を殺された経験のある悪魔祓いに多いわ」

 

 ……そっか。

 

 俺たちにとって当たり前に仲良くできる相手でも、その人たちにとっては難しくて嫌なことなんだ。

 

 ……平和って、難しいんだなぁ。

 

 そんな悲しいことを、俺は思ってしまった。

 



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第六章 21

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 酔って火照った体が覚めるのを待ってから、ニエはツェペシュ城に戻った。

 

 どうもこの城の雰囲気は好きになれない。

 

 高潔すぎるというか俗っぽさがないというか。とにかく一般人には馴染めない空気が続いている。

 

 プリスを連れて外に出たのもそれが理由だ。ここに長くいるのはどうも好きになれない。

 

 プリスは特に気にしていないようだ。気になって聞いてみたが、どうも慣れてるらしい。

 

 そういえば、ゼファードルは分家出身とは言え元72柱の貴族で、本家の代理とは言え跡取りになった男だ。あれでそういう貴族としての豪奢な環境に慣れているのだろう。

 

 その眷属を7年ほど勤めているのだから、当然といえば当然の対応だった。

 

 貴族との応対など礼儀作法が必要な時でも、プリスにフォローされたことを思い出して、ニエは苦笑する。

 

「戻ったよ」

 

 そう言って部屋に入ると、そこには椅子に座ったまま眠っているプリスがいた。

 

 そしてボケっとしていたリリスが、ニエに気づいて声をかける。

 

「ニエ。おかえり」

 

「ただいま。リゼヴィムさんは?」

 

 一応リリスはリゼヴィムの護衛だ。本来なら一緒にいる必要がある。

 

 だが、最近リゼヴィムは姿を見せない。常にマリウス達の吸血鬼と会話していたり、通信でヴィクターの元老院と通信している。

 

 今回もそうなのだろう。リリスは首を横に振った。

 

「まだ帰ってない。プリス、眠っちゃった」

 

「そうだね。疲れてただろうしそっとしておいてあげようか」

 

 そう言うと、とりあえず近くにある毛布をプリスにかける。

 

 ……だいぶ昔。ニエにとってはちょっと前の時は、これが逆だった。

 

 マネージャーとして支える為に勉強をしている間に眠ってしまった自分に、プリスやリセスは毛布を掛けてくれたものだ。

 

 それが、今やプリスを支配下に置いてリセスを殺そうとする日々。

 

 だが、そうでもしなければ耐えられない。

 

 待遇はともかく、事実上の奴隷として使役される事を選んだプリスはまあいい。

 

 だが、リセスは赦せない。

 

 立派な決意に立派な覚悟。根幹にあるのが逃げだったとはいえ、リセスの行動は高潔だったのだろう。

 

 だが、綺麗すぎるところに魚は住めない。

 

 ニエ・シャガイヒという神滅具を移植できるだけの普通の少年に、その気高い行動は耐えられない。

 

 それに比べれば、やけを起こして奴隷となったまま生きようとしたプリスには理解が及ぶし同情すらできる。

 

 彼女はこれからはニエの奴隷として生きようとしているのだ。そうして使っている限り、ニエの心は少しは晴れる。

 

 そう、晴れるはずだ。

 

「……ニエ、ニエ」

 

「ん? なんだいリリス」

 

 ニエはかがみこむと、服の裾を引いてきたリリスに視線を合わせる。

 

 できれば、この子を戦わせるのは嫌だと思う。

 

 長い年月を生きてきたオーフィスはともかく、この子は生まれたての子供だ。

 

 そんな子供を戦わせるのは、ちょっと嫌だった。

 

 だからだろう。リゼヴィムと一緒にいない時は、自分が面倒を見ている時が多い。

 

「絵本、読んで」

 

「ああ。じゃあ、何を読もうか」

 

 ……絵本を読み聞かせるのは慣れている。

 

 イドアル孤児院でプリスとリセスと遊ぶ時は、小さな子供達が関わる時も多かった。

 

 だから、そういう事をして年少者の面倒を見た事も一度や二度じゃない。

 

 膝の上にリリスを乗せて、ニエは絵本を聞かせて語る。

 

 そうすると、いつもは黙って聞いてくれるのがリリスだ。

 

 だが、その時は違った。

 

 なぜか、リリスはニエの方を向いて首を傾げていた。

 

「……どうしたんだい? もしかして僕、のどを痛めてたかな?」

 

 霧が立ち込める中だから、保湿ぐらいはされているとは思っていた。しかし湿度の低くなる冬に入っているルーマニアだから、何かしらの影響があったかもしれない。

 

 そう思って聞いてみて―

 

「―ニエ、泣いてる?」

 

 ―その言葉に、ニエは返答することができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

「こういう空を見てると、昔のことを思い出すわねぇ」

 

 そう、懐かしさと寂しさを込めて、姐さんはつぶやいた。

 

 既に侵攻部隊を突入させる為の準備は完了。

 

 兵士の詰め所とかも確認できた。結界の中でも突破し易いところも把握できた。ツェペシュの城までのルートも把握できた。

 

 だから、俺達は今待機中ともいえる。

 

 そんな中の言葉に、俺達はなんとなく興味を持った。

 

『エッチなお姉さん。それは、あっしらに聞かせてかまわない内容なんですかい?』

 

「あ、問題ないわ。英雄を目指して特訓してた頃の話だもの」

 

 そうベンニーアに答えると、姐さんは手に持っていたコーヒーを飲みながら、語り出す。

 

「あの頃はとにかく特訓と金稼ぎの売春ばかりしてたわね」

 

「既に問題だらけだぜ姐さん」

 

 売春って言葉が既にアウトですぜ姐さん。

 

 だが姐さんはスルーしやがった。

 

「とにかく手っ取り早くお金を稼いで、空いた時間は特訓三昧。あの時は煌天雷獄の能力を至近距離でしか展開できなかったから、格闘技の本を買って独学で調べてたのよ」

 

 なるほど。姐さんが近接戦闘主体なのはそういうことだったのか。

 

 煌天雷獄って中距離戦闘や広範囲殲滅に真価を発揮する神滅具なのに、なんでそんな方向性なのか疑問だったんだ。

 

 そして姐さん。売春うんぬんはどうよ?

 

 俺はそんな疑問の視線を向けるが、姐さんは気づこうとしない。

 

「……諦めた方がいい」

 

 ルガールさん。あんた年長者なんだから代わりに言ってくれや。

 

「それで、お姉様? 何を思い出すんですか?」

 

 ペトも話を進める方向に行きやがった。ツッコミ入れる気が欠片もねえ。

 

 ベンニーアが何歳なのかは知らねえけど、俺らより年下っぽいんだけど? 売春なんて知識、与えない方がいいんじゃねえか?

 

 俺は自分から言うべきか思ったが、しかし姐さんの話は進む。

 

「あの頃は自分の気持ちが反映されてたのか、思い出す天気はいつも曇り空ばかりなのよ。本当は、晴れてる時の方が多かったはずなんだけどね」

 

 そう言いながら、姐さんは空を見上げる。

 

「……今のニエも、そんな風に思ってるのかしらね」

 

 ……その表情は、ちょっと可哀想で見てられなかった。

 




ちょっとしたリセス達三人の幕間的な話でした。









因みに裏話ですが、この三人で一番戦闘「技量」が高いのは実はプリスだったり。

リセスは執念で戦闘技術を会得していますが、もともとの戦士としてのポテンシャルは低いです。サーヴァント化するにしても戦闘系のスキルは現状会得していません。ニエは戦闘経験も戦闘訓練も足りてないうえに、根が普通なので過酷すぎる特訓をすると心が折れる可能性があるのでリムヴァンもハードトレーニングは積ませてないです。

そういう意味では純血上級悪魔という努力を軽視する環境で、神滅具使いであるヒロイを一人で足止め出来たプリスが一番センスがあるというのは、こうしてみると納得できることではないでしょうか?


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第六章 22

ようやくデイウォーカー編もバトルに突入します!!

……嘘は言ってませんよ?


 そして、事態は動き始めた。

 

 合流作戦などをスムーズにする為に別行動していたベンニーアとルガールさんが、カーミラ派の吸血鬼であるエルメンヒルデとかいう奴と接触。

 

 そして、その情報が伝えられた。

 

「……ヴァレリー・ツェペシュから聖杯を引き抜くだと?」

 

 そんなことをすれば、ヴァレリーはほぼ確実に死ぬだろう。それが神器の摘出というものだ。

 

 リムヴァンはほぼノーリスクでそれができるらしいが、おそらく吸血鬼側は独断で動こうとしている。

 

 っていうか、ヴァレリーが死んでも別にいいとか思ってるんだろうよ。純血貴族の吸血鬼が、ハーフをまともな命として扱うとも思えねえ。

 

 チッ! こっちもすぐにでも突入できるが、間に合うか?

 

『こちらはグレモリー眷属と合流する。カーミラ派はすぐにでも侵攻を開始するそうだ』

 

「分かったわ。なら、こっちもそのタイミングで仕掛けた方がよさそうね」

 

 ルガールさんと姐さんはそう示し合わせる。

 

 まあ、イッセー達がこんな事を知ったら、すぐにでも動くに決まってる。

 

 俺らもさっさと動かねえとな。

 

「部隊指令! ツェペシュ派で動きがあったわ。カーミラが仕掛けるのとタイミングを合わせて、仕掛けるわよ」

 

「了解した。……吸血鬼どもめ、奴らに聖杯を好きにさせるものか!!」

 

 部隊指揮官はかなり気合が入っている。

 

 入ってんのはいいんだが……。

 

「ヒロイ。これ、自分達で監視しないとまずいんじゃないっすか?」

 

 ペトも不安なのか、殺気立っている侵攻部隊を見て、不安げな表情を浮かべる。

 

 確かに、目的はあくまでクーデターを起こした暫定政権の無力化のはずなんだが、吸血鬼に対する本格的な討伐にすり替わっている気がする。

 

 民間人に被害を出すつもりはない。そりゃ、こんな大規模な強襲を仕掛ければ被害は多少は出るが、それでもむやみやたらに大きくするつもりは欠片もない。少なくとも、俺達は。

 

 だが、悪魔祓いを中心としている侵攻部隊は、吸血鬼という種族そのものをターゲットにしている節がある。

 

「たとえ主はおらずとも、主の教えは残っている」

 

「異端の極みたる吸血鬼どもめ。裁きの時だ」

 

 明らかに作戦を間違えてる気がするんだが。

 

 民間人は狙わねえからな? 狙うのはあくまで、クーデターを起こした暫定政権とその走狗だからな?

 

 これ、一応釘を刺しておいた方がいいんじゃ―

 

「―悪いけど、そうはさせない」

 

 その言葉が、俺の思考を一瞬止める。

 

 振り返れば、そこには三度目になるあの野郎の姿があった。

 

 姐さんも目を見開き、歯を食いしばる。

 

「ニエ……っ」

 

「久しぶりだね、リセス。いや、大して経ってないか」

 

 ニエ・シャガイヒ!

 

 イッセーからツェペシュ領にいるのは聞いてたが、ここで来るか!!

 

 ええい、こっちの行動が読まれてる事も分かったうえで仕掛ける気だったが、やっぱり先手を打ってきやがったか!!

 

「何をしに来たの?」

 

「避難が終わるまでの時間稼ぎさ。だから、それまで何もしないなら手を出さなくていいとも言われてる」

 

 ……なるほどな。

 

 暫定政権はヴィクターと半ば同盟状態だ。そして、ヴィクターは一応民間人には積極的に被害をくわえないようにしている。

 

 だから、ツェペシュ領の一般人に被害が出ないように動いているってわけか。

 

「吸血鬼風情の為に命を懸けるか、この異端者め!!」

 

「いいだろう。人を殺すのは気が引けるが、貴様も亡き主に変わって裁いてくれる!!」

 

 血の気の多い悪魔祓いが、俺達が制止しようとするよりも早く飛び出した。

 

 そのまま光力の弾丸を打ちまくりながら、光の剣を展開する。

 

 ―そして、それはニエに当たる前に弾き飛ばされた。

 

「……コンキスタドールの末裔が。正義ぶってんじゃねえ」

 

 ぎろりと睨みを利かせる、南米の原住民が来てそうな格好をした男達が、ニエを庇う様に俺達に立ちふさがる。

 

 イッセーの言っていたアステカの連中か。そりゃ一人だけで送り込むわけがねえよなぁ!!

 

 更に、後ろで悲鳴が上がった。

 

 振り返れば、そこには魔法による砲撃が叩き込まれている。

 

「……教会の狂信者共。先祖の恨み、ここで清算する!!」

 

「妄信の徒は赦さない!!」

 

 今度はファミリアか!?

 

 待て。ってことは―

 

「ヒャッハー!! 戦闘だぁああ!!」

 

「貰った金の分は仕事はするぜぇえええええ!!!」

 

 更にコノート組合(ギルド)!! 大盤振る舞いだな、オイ!!

 

「瞬殺一撃、チーズストレート!!」

 

 その声と共に、チーズが悪魔祓い達を粉砕しながら俺に襲い掛かってきた。

 

 即座に魔剣の群れで防ぐが、八割ぐらい砕け散る。

 

 なんツー破壊力をチーズに持たせてるんだよ。悪魔祓い達の死で勢いが削がれてなけりゃ、俺も喰らってたぞ。

 

「我がチーズを防ぐか! だが、それでこそ三大勢力の精鋭だな!!」

 

 確か、メーヴ・コノートだったな。ここで来るとは面倒極まりねえ!!

 

 っていうか、駒王町に仕掛けてきた派閥の連中が勢揃いって事は……。

 

「ふん。アースガルズの裏切り者を裁く前に、怨敵聖書の陣営をまたも相手にする事になるとはな」

 

 出て来たよ。北欧神話からの離反者、リヒーティーカーツェーン!!

 

「我らが領域を土足で踏みにじった罪、その命で償うがいい!!」

 

「上等だ異端者共!! まとめて裁きを下してくれるわ!!」

 

 ああもう! ややこしい事になってきやがった!!

 

 イッセー。無事でいろよな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 リセスはこの混戦の中、ニエだけを狙って行動していた。

 

 ドーインジャーを大量に生産して、数を増やされたらたまったものではない。ここで抑え込んでそんな余裕を生ませない事が最重要だ。戦局に響く大事な役目である。

 

 それに、できる事ならニエの相手は自分がしたかった。

 

 ニエがヴィクターの尖兵となったのは、元を質せば自分に責任がある。全面的に自分が悪いと言いたくなるぐらいには、リセスは責任を感じている。

 

 だから、ニエを止めるのも自分の役目だ。絶対にとは状況が許さないだろうが、できる限りはそうしたい。

 

 第一神滅具の禁手を使いこなす手合いなど、それこそ神滅具持ちでなければ務まらないだろう。そういう意味では当たり前だ。

 

「ニエ!!」

 

「やあ、リセス!!」

 

 放つ拳を、ニエは受け流す。

 

 受け止めるのでも食らうのでもなく受け流す。リセスの拳は、我流ではあるが非常に鍛え上げられたものだ。それをなすのは、簡単ではない。

 

 すなわち、ニエも相当に鍛錬を積んできたということだ。

 

「鍛えたのね、ニエ」

 

「ああ、もちろんだよ」

 

 攻撃をかわし合いながら、リセスはニエを想う。

 

 蘇ってから神滅具を移植し、更にはそれを憎悪で即座に禁手へと至らせた。

 

 ニエの自分に対する憎悪は強い。だからこそ、彼は普通の少年でありながらここまで強くなった。

 

 かつてヴァーリは、イッセーの両親を殺そうとした。挑発目的ではあるのだろうが、本当にやっていた可能性もある。憎悪による覚醒を促そうという節があった。

 

 それは的外れではなかった。それをニエが証明している。

 

 リセス・イドアルの二年間の特訓と五年間の実戦は、彼女を高い領域に上げている。

 

 それを僅か数か月で食い下がるほどにまで鍛え上げる。それがどれだけ大変なことか、七年間の積み重ねの負担を知っているから分かってしまう。

 

 そして、それが少しだけ嬉しい。

 

「頑張ったのね、ニエ」

 

「そりゃ、君を殺せないからね」

 

 そんなそっけない返事も構わない。

 

 ニエ・シャガイヒは自分に憎悪を向けている。

 

 それは最初から分かっていた。それでも思い知らされて心が折れそうになった。そして、今でも向き合うのは正直辛い。

 

 だが、ニエはリセスを超える為に全力を尽くしている。

 

 それほどまでに、リセスを思っている。

 

 それが、少しだけ嬉しい。

 

 何も思われないよりは、憎まれた方がましだという意見がある。

 

 是非はさておき、どうやら自分もそうだったらしい。

 

 それほどまでにニエにとって自分の比重が重いことに、ほんの少しだが感謝の気持ちが浮かぶ。

 

 だから―

 

「本気で行くわよ、ニエ!!」

 

 その全力に、リセスも全力で応えたい。

 

 今更許されるわけもない。七年前の裏切りは、それだけのことだった、七年間の迷走は、それをどこまでも深くした。

 

 それでもだ。だからこそだ。

 

 ニエに対しては、誠実に向き合いたい。

 

「勝負よ、ニエ!!」

 

「死んでくれ、リセス!!」

 

 オーラを纏った拳と、魔獣となった拳がぶつかり合い、衝撃波を放つ。

 

 どうやら熱衝撃用に耐熱耐寒フィールドを生成する機能を盛り込んだようだ。低出力だったとはいえ、ディストピアアンドユートピアでも傷一つつかない。

 

 自身を思い描いた通りの魔獣に編成させる、魔獣変成(アナイアレイション・メタモルフォーゼ)

 

 それは、通常の自己強化型神器や禁手を圧倒する対応能力を生み出す。

 

 なにせ不利になったら、状況をひっくり返せる魔獣に変成し直せばいいのだ。これは非常に有利に立ち回れるだろう。

 

 だが、多様性ならこちらも捨てた物ではない。

 

 あらゆる属性を支配し、天候を操るのが煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)という神滅具。その中でも、リセスは属性支配による近接戦なら歴代でも指折り。そもそも煌天雷獄自体が魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)より格上だ。

 

 なら、易々と負けてやる道理はない。

 

「ニエ、ここで決着をつけるわ!!」

 

「ああ。君の死でね!!」

 

 拳と拳がぶつかり合い、周囲の地面を吹き飛ばすほどの衝撃がほとばしった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




大量に敵勢力投入。ルーマニアは地獄だぜえええええ!!




因みに急成長しているニエですが、これはヴィクターの指導が的確なこともあります。あと魔獣変成がチートなこともあります。









あとすいません。バトル突入といいましたが次の話ではその裏で起こっているイッセー側の事情編ですのでいったん中断です。

予告しますと、ようやくリムヴァンによる大量の神滅具提供などの種が明かされます。……一部に関しては時系列の都合上ちょっと隠しますが。


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第六章 23 極めて近く、極めて遠い

……世界へと続けば、わかる人は分かるんじゃないでしょうか?






ついに、リムヴァンの真相の一端が明らかに。


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何ていうかもう、どうしたもんか。

 

 俺達は、エルメンヒルデからツェペシュがヴァレリーの聖杯を抜き出そうとしている事を聞いて、助けに向かった。

 

 合流したルガールさんとベンニーアの協力もあって結構進めたけど、グレンデルとクロウ・クルワッハの妨害の所為で抜き出しに間に合わなかった。

 

 だけど、幸か不幸かヴァレリーはまだ生きてる。

 

 アザゼル先生が言うには、ヴァレリーの聖杯は亜種らしい。

 

 ジークフリートの龍の手と同じ、本来とは形が違う神器。

 

 なんでも、一つで複数個あるとか。

 

 だから、一個取られただけならギリギリで生命が維持できていた。

 

 で、それに気づいていなかったっぽいマリウス及び現政権の貴族達は、全員まとめてギャスパーにぶっ殺された。

 

 ……一応、マリウスはともかく貴族は生かしておけって言われてたんだけどな。ま、あんな光景見せられたギャスパーにそんな我慢をしろってのも無理か。

 

 そして、その変化したギャスパー自身が、自分の正体を語ってくれた。

 

 ……なんでもケルト神話とかいうところの滅びた神様が宿っているらしい。停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)の名前の元となったバロールだそうだ。そのものじゃなくて、神性とかがなくなった残滓なだけらしいけど。

 

 ギャスパー自身はヴァレリーの聖杯が元々の停止世界の邪眼と共鳴して、バロールの残滓を引き寄せたんじゃないかって推測してる。

 

 俺はよく分かんないけど、ヴァレリーの聖杯でグレンデルとかが蘇ってるのは事実だ。ヴァレリーの聖杯使いとしての適性は死者蘇生とかに向いている可能性が高いのは分かる。だから、無意識にそういう事をしてた可能性はあると思う。

 

 ま、なんか色々あったけどギャスパーはギャスパーだ。もう戻ってるしな!

 

 そういうわけで、後はこっから脱出すればそれでいいわけだ。

 

 クーデターの主要人物は全員ギャスパーがやっちまったからな。こっから再起するのは無理だろ。

 

 ヒロイ達が今戦ってるけど、ヴィクターもこうなったら逃げるしかないはずだ。今から残った連中で暫定政権作るのも無理だろうしな。

 

 カーミラと本来のツェペシュの連中だけでも攻め落とせそうだし、三大勢力側からの援軍もいる。戦力はこっちが有利なはずだ。

 

 だから、もう大丈夫なはず―

 

「―妙だな」

 

 その時、アザゼル先生が怪訝な表情を浮かべた。

 

 な、なんだ? そういえば静かだけど、まだカーミラもヒロイ達も城の中には突入できてないのか?

 

 俺はそう思ったけど、アザゼル先生の視線はヴァレリーに向けられてた。

 

「……聖杯を戻したのに意識が戻らない。本来なら、すぐに目覚めてもいいはずなんだが―」

 

 え、うそ!?

 

 それってまずくねえか? な、何かマリウス達が細工してたからバグったとか―

 

「あ、たぶんこれが抜けてるからじゃないかにゃん?」

 

 その気の抜けた声に、聞き覚えのありまくる声に、俺達は即座に振り返った。

 

 そこにいたのはリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。ヴァーリの爺さんにして、初代ルシファーの実の子供。

 

 そして、そのすぐ近くにリリスがいて、そして聖杯が浮かんでる!!

 

「アザゼル先生の推測は大体あってるけど、厳密には「三個一セット」の亜種なんだよねー。俺達がマリウス君に気づかれずに、こっそり抜き出してたのさ」

 

 な、なんだって!?

 

 い、一個抜かれてたって事は、もしかしてヴァレリーが異常だったのもそれが理由の一つなのか? そして、もう一つ抜かれたから耐えられなくなって意識が喪失した。

 

 だから、一個戻っただけじゃすぐには治らないって事になるのか!?

 

 くそ! だったらすぐにでも取り返さねえと!!

 

「それを返しやがれ!!」

 

 俺は抜き打ちでドラゴンショットを放つ。

 

 躱されるのは分かってる。相手はヴィクターの大幹部で、魔王の末裔だからな。戦闘能力だってそこそこあるだろう。

 

 だけど、その隙をつけば殴り掛かる事ぐらい―

 

「駄目だイッセー!!」

 

 アザゼル先生が、とっさに俺の腕を掴んで止める。

 

 なんでだよ先生!? ここは何としてもヴァレリーの聖杯を取り戻さねえと―

 

「うん。アザゼル君はよーく分かってるねぇ」

 

 とリゼヴィムはそこから一歩も動かず、何もしなかった。

 

 そしてドラゴンショットは勢いよく当たり―

 

「俺には効かねえんだなぁ、これが」

 

 ―そのまま何もなかったかのように消滅した。

 

「……リゼヴィムの超越者としての特性は、リムヴァンの逆だ」

 

 ヴァーリが、凄まじいレベルでリゼヴィムを睨み付けながら、歯を食いしばる。

 

神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)。奴は神器に由来する力を、問答無用で無効化する事ができるのさ」

 

 な、なんだって!?

 

 お、おいおいちょっと待て。

 

 だったら、俺もヴァーリもギャスパーも木場も、あいつを倒すことができないじゃねえか!!

 

 俺がヴァーリからリゼヴィムに視線を戻すと、リゼヴィムはしかし掌を上に向けて肩をすくめていた。

 

「ところがどっこい。これにも限度があるんだよねぇ。たぶんだけど、神滅具が出力特化の禁手に至ったら少しは効くんじゃね? 実際リムヴァンくんの複合禁手は俺様でも食らう時あるからよ」

 

 そういうリゼヴィムは、だけどものすごく余裕の表情を浮かべている。

 

 ……リムヴァンは神器を大量に複合させたうえで一つの禁手にする事も出来る。たぶんだけど、その気になれば神滅具の禁手以上の出力を発揮できるはずだ。

 

 んなもん、あいつにしか不可能じゃねえか!!

 

 しかも―

 

「そういうことSA! だから、更に上の領域に至っちゃってるイッセー君NARA狙えるかもねん?」

 

 ―リムヴァンまで、出てきやがった!!

 

 こ、ここにきて超越者二人掛かりかよ!! しかもリリスまでいる。

 

 っていうかニエとプリスがいないんだけど、どこに行った?

 

 ……ってリセスさんのところに決まってるよな。あいつ等、三大勢力が侵攻部隊を送り込んでいた事に気づいてたしよ。

 

 っていうか神器を自由に操るリムヴァンと、神器の力を無効化するリゼヴィム。

 

 ……神が作った神器にメタを張れる超越者二人って、嫌味すぎるだろ!!

 

「―リムヴァン。……一つアジュカ・ベルゼブブが推測をしていた。聞いてもいいか?」

 

「―究極の羯磨(テロス・カルマ)の禁手についてだね?」

 

 リムヴァンは、そういうとにこりと笑う。

 

「うん。僕は亜種禁手に目覚めている。名前は、究極の旅立ち(テロス・カルマ・トラベラー)だ」

 

「そういう事か。やはり……お前は!!」

 

 アザゼル先生は、目を見開いて拳を握り締める。

 

 なんだ? なんかすげえレベルで驚いてるぞ?

 

「アザゼル。いったい何が分かったというんだ?」

 

 ヴァーリがリゼヴィムを睨み付けながら、だけど気になったのかアザゼル先生を促す。

 

 な、なんなんだ? 究極の羯磨の亜種禁手の、究極の旅立ち?

 

 確か究極の羯磨って、可能性を操作する神滅具なんだよな? それでアジュカ様の超越者としての能力に干渉して、眷属込みで仕掛けてきたアジュカ様を足止めしたって言ってたけど―

 

「前にアジュカが、リムヴァン・フェニックスは死んでいると言った。……それは真実なんだな?」

 

「YES!」

 

 くるりと横に一回転しながら、リムヴァンはアザゼル先生の言葉に応える。

 

「そして、お前がリムヴァン・フェニックスなのも本当なんだな」

 

「ピンポン!!」

 

 今度はバク転しながら肯定した。

 

 つまり、リムヴァンはヴァレリーの聖杯で蘇った悪魔だって事か?

 

 そう思ったその時、アザゼル先生は一瞬だけ躊躇して―

 

「……お前は、平行世界のリムヴァン・フェニックスなんだな?」

 

「………その通りさ」

 

 その言葉に、リムヴァンはふざけた態度をかなぐり捨てて、悠然と答えた。

 

 ………え?

 

「あ、アザゼル? それってどういう―」

 

「リアス。お前もパラレルワールドの概念は知ってるだろう」

 

 それは知ってる。俺達も、漫画とかでよく見てる。

 

 自分達がいる可能性とは異なる可能性の世界。例えば、俺が赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)じゃなくて白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を持っている世界とかだ。

 

 いや、ちょっと待て。それってつまり―

 

「リムヴァン・フェニックスは、産まれた時から神滅具の影響で衰弱、すぐにでも死ぬと言われていたそうだ。そして、それを惜しんだ初代バアルがアジュカにある打診をしたらしい」

 

 アザゼル先生はそう言いながら、リムヴァンを見る。

 

 その目は、研究者がものすごいレアケースを見た時のような、マジですげえレベルの興味が浮かんでいた。

 

 あ、これ先生別の意味で興奮してる。

 

「だが、アジュカはそれの使用を躊躇した。結果、ギリギリのタイミングで間に合わず()()()()のリムヴァンは死亡したらしい」

 

 なるほど、だからアジュカ様は自分の所為で死なせたようなものだと言ったのか。

 

 でも、アジュカ様って魔王様の中じゃ問題児の部類だよな。サーゼクス様が魔王やってるから自分も魔王をやってるだけとか言ってたし。それに英雄派のやばい研究も評価してたし。

 

 そんな人が躊躇するって、どんなものを大王派は使わせたがったんだ?

 

 いや、そんな事より―

 

「それってつまり、どういうことなんですか?」

 

「目の前の野郎が、すげえ努力家だってことだよ」

 

 ちょっとよく分かってない俺に、アザゼル先生は心からの賞賛の言葉を継げた。

 

「……なるほど読めたぞ」

 

「世界に、一種類に一つしかないはずの神滅具を、リムヴァンは……」

 

 ゼノヴィアと木場は何かに気づいたのか、目を見開く。

 

「ギャスパーの神器の真の力を知っていたのも、そういうことなのね!!」

 

 リアスは渾身の消滅の魔力を込めながら、リムヴァンを睨み付ける。

 

「貴方は、平行世界を巡る間に、その世界の神滅具を奪い取り続けてきたという事なのね!!」

 

 ………マジか。

 

 あの野郎、そんな真似を今までずっと続けてきたってのか!?

 

 だ、だけどそれなら分かる。全て繋がる。

 

 本来、一種類一つしかない神滅具を、それも聖槍とかを複数本持ってくる真似が出来たのも、それがこことは別の世界の物だから。

 

 リムヴァンの奴、どんだけの平行世界を巡ってきたっていうんだ?

 

「その通り。遍く平行世界を巡り、あらゆる神器を奪い取っては試し、そして追いかけられぬところに持ち去る略奪者。それこそがこの僕だ」

 

 リムヴァンは堂々と肯定する。

 

 そして、優雅に一礼した。

 

「我こそは神器支配者(セイクリッド・ギア・ルーラー)、リムヴァン・フェニックス。改めてお見知りおきを願いたいよ、オカルト研究部の諸君!!」

 

 ―その悪意は、文字通り世界を超えてやってきた。

 

 この世界を蹂躙する来訪者(フォーリナー)。リムヴァン・フェニックスの真実が、今明かされた。

 




一つの世界線に神滅具は一つ。だが、世界線は一つじゃない。

最近購入してしったEXの内容も好都合でした。

もっとも、根幹の真相二つはまだかけてないのですが……


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第六章 24

まあ、この辺は原作とほぼ同じ……様でいて、何かが決定的に違うのです。


 ま、マジか。平行世界からの来訪者って……マジかよ!?

 

 俺、今更になってだけどものすごく驚いてるよ!? 正直びっくりしまくってるよ!?

 

 え、うっそぉ!! 平行世界から来たって、うっそぉ!?

 

「リムヴァン・フェニックス! いったい何故、平行世界からの来訪者がこの世界でヴィクター経済連合を作り出した!!」

 

 木場がグラムを抜いて、その切っ先を突き付ける。

 

 それを余裕の表情で見つめながら、リムヴァンは肩をすくめる。

 

「敵に全部教える気はないよ。今回は、僕たちの新たなる切り札と最後通告をしようと思ってね」

 

「最後通告ですって!?」

 

「オーフィスを分化させておいて、何を考えている!!」

 

 イリナとアザゼル先生が目を見開く中、今度はリゼヴィムがにやりと笑った。

 

「アザゼル先生。実をいうとねぇ。最初っからオーフィスちゃんは切り捨てる予定だったんだよ、僕らはね」

 

 マジか。……いや、それもそうだよな。

 

 オーフィスがグレートレッドを倒したら、世界に悪影響が出る。それが研究者達の通説だ。

 

 ヴィクター経済連合は世界の覇権を狙ってるんだ。その支配する世界を台無しにする真似をするわけがない。

 

 リムヴァンもそれには頷いた。

 

「元から契約したのは禍の団の幹部陣で、オーフィスちゃんとは契約してなかったからね。僕は契約は基本守るけど、交わした契約に「グレートレッドの抹殺」は入ってないからさ」

 

 この野郎。やっぱりヴィクターはロクな連中じゃねえな。

 

 純真な子供だったオーフィスをそそのかして、いいように利用しやがって。本当に腹が立つ。

 

 俺が苛立っていると、今度はリゼヴィムがにやりと笑う。

 

「だけど、これでオーフィスは半々の状態。総合的には俺達は不利なわけだ。第一、裏切るタイミングを間違えたらオーフィスも敵に回るしねぇ」

 

 た、確かに!

 

 で、それがどうしたんだ?

 

 俺が首を傾げると、リゼヴィムは指を一本立てた。

 

「じゃ、そうなったらどうする予定だったか? サマエルを使っちゃう? いや、あれは当初の予定じゃなったし、ハーデス爺さんに偉そうにされるのは嫌だ。そもそも扱い方を間違えると、ウチの邪龍軍団もやられそうだし、諸刃の剣だからね」

 

 あ、ハーデスの奴を味方に引き入れたのはアドリブだったんだ。

 

 確かに、邪龍軍団の対策にサマエルを使われたらやられるもんな。せっかく復活させたグレンデルやアジ・ダハーカがもったいない。

 

「じゃ、俺やリムヴァン君? いやいや、流石に死ぬ。それは死ぬ」

 

 あ、リゼヴィムやリムヴァンも、流石に二人掛かりでもオーフィスを倒せるわけじゃないんだ。今の段階でもキツイっぽいな、コレ。

 

 でも、だったらどうするつもりだったんだ?

 

 胸騒ぎが凄い。絶対にロクな事じゃねえ。

 

「答えは僕から言おうか。……僕は平行世界で、あるものの存在の確証を得た。そして、Lと一緒に封印されたそれを確保した」

 

 なんだ?

 

 全盛期のオーフィスすら倒せるかもしれない、封印された存在。

 

 そんなもの、いんのか? 知ってたら、どこの勢力だって警戒厳重にしてるだろうし、取られたら流石に言うだろ。後でばれたら集中砲火で叩かれるし。

 

「勘のいいアザゼル先生なら分かるんじゃないかな~? ろーくろーくろーく―」

 

「……666(スリーシックス)……だとぉ!?」

 

 アザゼル先生が明らかに狼狽する。

 

 な、何ですかスリーシックスって!? いや、なんか不吉な響きなのは俺でも知ってますけどね!?

 

「あれは、存在が本当にあるかすらまだ分かってないはず、どうやって見つけやがった!!」

 

「そりゃもう、以前聖杯を獲得してテストしたりとか、探索特化型の複合禁手使ったりとかでねぇ。割と暇を持て余したりしてるんだよ僕は」

 

 目を血走らせながら問い質すアザゼル先生に、リムヴァンはなんてこともないように答える。

 

 っていうか暇を持て余して、全盛期のオーフィスクラスの化け物を探すって馬鹿か! 他になんかやる事あるだろ!?

 

 で、先生。そのスリーシックスって?

 

「ま、見つけた時は封印されてたし、それまでにやりすぎてたからその時は手配されちゃって逃げるしかなかったんだけどね。だけど僕はまっさらな世界に逃げ込めるから、こういう手腕も取れるってわけさ」

 

「トライ&エラーをぽんぽんできるって、すっげぇ羨ましいぜ!!」

 

 ため息をついたリムヴァンの肩に手を置きながら、リゼヴィムがそう羨ましがる。

 

 と、とりあえずあいつが最初に見つけた世界だと、その666ってのは使われなかったんだな。それは良かった。

 

「で、二回目は二回目で大暴れできたんだけど、うっかり間違えてグレートレッドとオーフィスのタッグが成立しちゃってねぇ。今度は余波で世界がそれどころじゃないから逃げてきちゃったよ」

 

 二回目あったんかい!!

 

 っていうか大惨事じゃねえか!! 余波で大陸の一つぐらい吹っ飛んでもおかしくないぐらいの大激戦っぽいぞ、それ。

 

 そして、だから、ろくろくろくってなんだよ!?

 

「先生! 無知な俺にそのろくなんたらについて教えてください!!」

 

「黙示録でグレートレッドと並び称される化け物だ!!」

 

 馬鹿でも分かる分かり易い説明、ありがとうございます!!

 

 っていうかホントにやばいじゃねえか。実際オーフィスとグレートレッドがタッグ組む事を決意させるレベルだし、激やばじゃねえか。

 

 そんなもんの封印解除されたら……!

 

「てめえら、なんでそんな事をするんだよ!!」

 

「そりゃ、ヴィクターを勝たせる為に決まってるじゃないか」

 

 俺の糾弾に、リムヴァンは「何言ってんのコイツ」とでも言わんばかりの態度で答えた。

 

 動揺とかそういうのが一切ない。心の底から当たり前の事をしているかのように言い切りやがった。

 

「いいかいイッセー君。僕は、ヴィクターを結成する時に「世界の覇権」を約束した。だから、想定上最大の脅威であるグレートレッドを倒せる切り札を用意するのは当然だ」

 

 た、確かに世界で好き勝手すると、次元の狭間も引っ掻き回しそうだから、グレートレッドも切れそうだな。

 

 だからって、マジでそんな事するのかよ!!

 

 正気の沙汰じゃない。頭がイカレてるにもほどがある。

 

 前から知ってたけど、今更ながらに思い知った。

 

 こいつ、本気でヤバイ!!

 

黙示録の皇獣(アポカリティック・ビースト)トライヘキサ。この封印解除と同時に、僕達ヴィクター経済連合は本気の全面戦争を各世界に対して行わせてもらう。ちょうどいいから他の首脳陣にも伝えておくれよ、アザゼル元総督」

 

 しかも、その封印解除が全世界に対する全面戦争の本気モードの幕開けかよ!!

 

 クソッタレ!! グレートレッドど同格の化け物を投入して来たら、俺達どころか三大勢力とその同盟が総力を挙げてもただじゃ済まねえぞ!!

 

 それにリリスもいる。全盛期の二天龍を二回りも上回る超絶強いあいつがいることも考えると、マジでやばい。

 

 味方の神滅具使い全員で叩き潰すにしても、リゼヴィムがいるんじゃ返り討ちにあう可能性だってある。

 

 ……って待て?

 

「ちょっと待て! さっきからお前ら、封印って言ったか!?」

 

 俺は思わず聞いちゃった。

 

 だけどそうだよ。さっきからリムヴァンは封印とか言ってた。

 

 グレートレッドに匹敵する化け物を封印。そんな事できる奴、この世界にいるのかよ?

 

 そんな気持ちでつい聞いたけど、その言葉にリゼヴィムが指を一本たてる。

 

「いい質問だイッセー君! 僕は君に80点ぐらい上げたい! そう、このトライヘキサ君を封印しちゃった奴がいるのです!! 誰だと思うぅ?」

 

 すっげえむかつく言い方だけど、確かに気になる。

 

 グレートレッドとまともにやり合える化け物を封印なんて、主神クラスだって一人じゃできないはずだ。それができるならオーフィスをどうにかするのにハーデスからサマエルをもらう必要もない。

 

 いったい誰が?

 

 リゼヴィムは指を一本立てる。

 

「聖書の神様さ。あの神様はまじすっげえよ。龍神クラスの化け物を封印すんだからよ。もっとも、主神クラスでも使ったら死ぬような禁術をたくさん使ってたがね」

 

 感心しているリゼヴィムに、リムヴァンも同意したのかなんかしきりに頷いてる。

 

「多分だけど、その状態で初代四大魔王とやり合ったのが死んだ理由の一つじゃないかな? あれはキッツい。マジでキッツい」

 

 そ、そうだったのか。そんな無茶なマネをしたから、聖書の神は死んじゃったのか。

 

 っていうかつまり、そんな事をしなくちゃいけないぐらいヤバイって事じゃねえか。

 

 さっきも言ったけど、そんなのの封印を解かれたうえで全面戦争を仕掛けられたら、マジでやばいんじゃねえか!?

 

「この野郎!! なんでそんな事をしたいんだよ!!」

 

「そこまで教えるほど馬鹿じゃないよ。ま、僕を追い詰める事ができたら時間稼ぎに教えてあげよう」

 

 マジで腹立つ、リムヴァンの奴は本当にもう!!

 

 だけど、これはマジでやばい。

 

 ここでどっちかだけでも捕まえて、そのトライヘキサってやつの封印場所を聞き出さないと、マジでハルマゲドンが起きかねねえ!!

 

「……リゼヴィム」

 

 あ、ヴァーリが心底から憎しみを持った感情で、リゼヴィムを睨み付ける。

 

「命が惜しければ、今すぐにでもトライヘキサの在処を吐いた方が身の為だぞ……っ!」

 

「やーだよーん! どんだけ殺気出してすごんでも、極覇龍どまりのヴァーリきゅんじゃぁ、俺を倒すことはできないよん♪」

 

 今までにないぐらいマジ切れしてるヴァーリと、それを面白おかしく見ているリゼヴィム。

 

 孫と祖父の関係には思えねえ。いったい何があった?

 

 いや、サイラオーグさんも父親に「欠陥品」扱いされた事がある。古くからの血統やその能力を大事にするやつらからすれば、人間とのハーフであるヴァーリはそれだけで駄目なのか?

 

「アザゼル先生、ヴァーリの奴、家じゃそんなに大事にされなかったんですか?」

 

 俺は気になって聞いてみた。

 

 そもそもおかしいといえばおかしいんだ。

 

 なんで旧魔王の末裔であるヴァーリが、当時敵対していた堕天使のアザゼル先生のところで育てられたんだ?

 

 ヴァーリの父親が堕天使と内通してたって可能性は考えられるけど、それも薄い。

 

 その俺の質問を聞いて、アザゼル先生は心の底から苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「リゼヴィムはな、実の息子にヴァーリを迫害させたのさ」

 

 は、迫害!?

 

 俺達の視線が一斉にリゼヴィムに集まるけど、リゼヴィムはその言葉に不満そうだった。

 

「いやいや。俺はビビリのバカ息子に「怖いならいじめろよ」って的確なアドバイスを与えただけだぜ? ま、今じゃビビりっぷりにイラついてはずみで殺したけどさ」

 

 まじか……っ。

 

 自分の孫を虐待させる事を進めたどころか、実の息子をイラついたからって殺すほどの奴かよ。

 

 くそ、そんな奴が結成したヴィクター経済連合何て組織、どう考えてもろくなもんじゃねえ!!

 

 俺達が敵意を込めた視線をぶつけると、リゼヴィムは愉快そうに笑う。

 

 その表情すらイラついてくる。ヴァーリの気持ちが痛いほど分かるぜ。

 

「ったくよ~。悪魔のくせして正義の味方がデフォとか、馬鹿馬鹿しいにもほどがあるぜ」

 

 そういうと、リゼヴィムは指を鳴らした。

 

 そして、映像が移り―

 

「―何、この光景は!?」

 

 リアスが絶句するのも、無理はなかった。

 




なぜか異世界への興味を示していないリゼヴィム。これに関してはリムヴァンが多いにかかわっています。







そして、リムヴァンですがこっちに来てからだいぶたってます。其の間に関しては他の平行世界にいったりはしてません。……なので、来る前は赤龍帝の籠手に覚醒していなかったイッセーの詳しい情報は把握してません。

何やら誤解している方もいるようなので、ここでそれを訂正しておきます。


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第六章 25

なんか勘違いされがちなので訂正しますが、リムヴァンができるのはあくまで同一時間戦場における平行世界の移動です。

細かい説明をしますと、前回の世界線移動は十年弱ほど前。トライヘキサを開放して暴れたのは良いですが、グレートレッドとオーフィスの最強タッグ結成を招いたため逃亡したタイミングになります。

因みに、その時は吸血鬼に接触していろいろと行動していました。その過程においてヴラディ家と接触し、時空を支配する邪眼王を発見。……その後それを使っていた時にその世界のアザゼルとぶつかって、命名されたというわけです。

なので、そもそもイッセーはまだ十代にもなっていない時期。当然赤龍帝の籠手にも覚醒していません。


 そこに映った映像は、破壊の嵐だった。

 

 どこかの中世を思わせる町が、ドーインジャーとドラゴンによる侵略を受けている。

 

 狙われてるのは豪華な屋敷やお城が中心で、一般人が住んでそうな場所には流れ弾ぐらいしか当たってないのが救いだ。それも、防護障壁を展開しているドーインジャーによってある程度は防がれてる。

 

 っていうかなんだよあのドラゴン! あんなの見たことねえぞ!?

 

 その光景を見て、リゼヴィムは頬を少し赤く染めながら興奮してテンションを上げていた。

 

「うっひょー! 思った以上に面白いですなぁこれは!」

 

「うんうん。これはダイナミックで大迫力」

 

 リゼヴィムに同意するリムヴァンは、俺達を振り返るとにやりと笑った。

 

「……質問だけど、クーデターを起したツェペシュは、具体的に聖杯をどう使ったかな?」

 

 どう使ったか?

 

 そりゃ、自分達を強化することに使ったんじゃねえか。

 

 吸血鬼の肉体が持つ、日光やニンニク、十字架などの欠点。それを聖杯の強化能力を使って補ったんだ。

 

 これで家畜を好きにできるとか、マジでむかつく事ばかり言ってやがったな。

 

 ……待てよ? クーデターに参加した連中は、そういう吸血鬼の弱点を疎んでたんだよな?

 

 ってことは、同じように吸血鬼の特性を嫌ってる人達って、カーミラにもいるんじゃ……っ!?

 

「まさか、あそこはカーミラの街かよ!!」

 

「ぴんぽーん! 今代の赤龍帝は物が考えられるんだねー。僕はご褒美に飴を上げたい!!」

 

 リゼヴィムがマジで飴を出すけど、俺はそれをドラゴンショットで吹っ飛ばす。

 

 マジでいらねえ! 誰がてめえから物を貰うかよ!!

 

 っていうかつまり、カーミラの方にも内通者がいたって事か。それがあいつらを手引きしたと。

 

 そりゃそうだ。吸血鬼の悪魔を超える弱点の多さは、確かに嫌に思う人たちも多いだろう。克服できるなら克服したいと思ってる人はたくさんいるに決まってる。

 

 ツェペシュの奴らもそういう連中が中心だった。それは、カーミラにもいたって事か。

 

 なんてこった。俺達は、まんまとヴィクターに踊らされてたってのかよ!!

 

「実は僕らとしてはツェペシュは囮でカーミラが本命でね。ツェペシュの方はマリウス君が研究したがって時期を待ってられなかったから、カーミラ側のクーデターを応援する事にしたんだよ」

 

 リムヴァンは種明かしをする中、破壊は続けられて城に大量のドーインジャーが突入する。

 

 しかも、イグドラフォースの連中が何人かいた。あいつらもこのクーデターに参加してるのかよ。

 

 これはマジでまずい。カーミラの武闘派は、たぶんツェペシュのクーデターを鎮圧する為にかなりの数が動員されてるはずだ。カーミラ自体は手薄になってるだろう。

 

 これ、制圧されるのも時間の問題じゃねえか!!

 

「リゼヴィム! あのドラゴンは、まさか聖杯で作ったのか!?」

 

「もちのろん! うちの邪龍軍団のデータをもとに創った量産型邪龍さ!」

 

 アザゼル先生の言葉に、リゼヴィムが肯定する。

 

 おいおい。更にここで敵の新兵器まで登場かよ。しかも聖杯を悪用した特別性ってか。

 

 ここにきて、ヴィクターの連中も戦力を強化してきやがった。いや、もしかすると今まで手を抜いていただけなのかもしれない。

 

 俺達は、思っていた以上にやばい連中を敵に回してるぞ……っ!

 

「本当は吸血鬼達を改造するつもりだったんだけど、リムヴァン君がダメっていうから、その辺の野生動物とか家畜とかをベースに創らせていただきました。おじさん、ちょっと残念」

 

「悪いねL。ほら、それやると今度はうちの一般人がデモとか起こしそうだし、国家側の人達がヴィクターを離反しかねないからさ」

 

 なんてふざけた会話だよ。

 

 くそ、リムヴァンもやっぱり邪悪な奴だ。こいつ、ヴィクター経済連合を作ってなければ吸血鬼たちを邪龍に改造してる可能性があるじゃねえか!!

 

 俺達がこのふざけた悪夢に怒りを燃やしてると、リゼヴィムはそれを残念そうに見てくる。

 

「……ほんとに正義の味方だよ。根っこからの善人が揃ってやがる。うんざりだねぇ」

 

 吐き気すら催してるかのように、リゼヴィムはそう吐き捨てる。

 

 ふざけんな! こんなの見せられて気分が良くなるような奴、ろくでなし以外の何物でもねえ。

 

 俺たちが敵意をより強くすると、リゼヴィムはリゼヴィムで不快げな表情をより強く浮かべる。

 

「俺たちは悪魔だぜ? 「悪」徳な「魔」性であるべきだ。それこそ世界を大混乱に包み込むぐらいの悲劇を望むぐらいじゃなきゃダメだと思うけどねぇ」

 

 そうかい。そんなにそういうのが大好きなのかよ。

 

 悪いが、俺は悪魔だけど自分の楽しみの為に大惨事を引き起こす趣味はねえ!!

 

 ヤッパリここでこいつは倒しておかないとまずい。くそ、でもどうする?

 

 俺がその方法がないか考えていると―

 

「……なんだ?」

 

 ゼノヴィアが唐突に上に視線を向ける。

 

 一瞬送れて、大きな振動が響き渡った。

 

 地震か? でも、ヨーロッパじゃ珍しいって聞いたけど。

 

 そう思ったけどやっぱり違う。

 

 瞬間的に大きな振動が、しかも何度も連続して発生する。

 

 なんだよこのタイミングで。

 

「ああ、因みにそういう改造をした生物は、このツェペシュにもばらまいてるよ」

 

 ……オイ、リムヴァン。今なんて言った?

 

 カーミラの街を蹂躙している邪龍が、こっちにも大量に出て来てるだって!?

 

 そんなの……最悪じゃねえか!!

 

 俺達が顔を青ざめていると、リゼヴィムがパチンと指を鳴らした。

 

「んじゃぁ、見るなら生がいいよね♪」

 

 そう言い放ち、奴は転移用の魔方陣を展開する。

 

 そして、俺達は転移の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッ! 今度は何だよ!!

 

 ニエ達との戦闘ではぐれた俺は、とんでもない光景を目にする羽目になった。

 

 いきなり明らかに邪悪そうなドラゴンがそこかしこから現れると、俺達に襲い掛かってきやがった。

 

 躱すと流れ弾でツェペシュの街に被害が出る。何とか防御してしのぐしかねえ。

 

 つってもこいつら、下手な中級悪魔なら返り討ちにできるレベルだぞ!!

 

「何処から湧いて出てきやがった!!」

 

 とりあえず一匹を魔剣で串刺しにするけど、かなり大量に出てきてやがる。

 

 建物を駆けあがって確認しただけでも、軽く百は越えてる。

 

 しかもそいつらは、俺達強襲部隊やクーデター鎮圧の為に来た吸血鬼達に襲い掛かっていた。

 

 積極的に一般人に攻撃を仕掛けてこないのは助かるが、こりゃまずいな。

 

 やるしかねえか。……これも英雄の務めってやつだ!!

 

「堅気の奴らまで巻き込ませるわけにはいかねえな。かかってこいや蜥蜴ども!!」

 

 全力で叩き潰すしかねえ!!

 

 俺は速攻で、こいつらを叩き潰す為に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その非常事態をリセス・イドアルもまた確認していた。

 

「何よ、この龍は!!」

 

 後ろから襲い掛かってきた邪龍を、リセスは裏拳で叩き落す。

 

 戦闘能力は中級悪魔を苦戦させるレベルだろう。確かに強いが、最上級クラスとすら優勢に立ち回れる自分には敵わない。

 

 しかし、かなりしぶといようだ。骨を砕くつもりで殴ったのだが、裏拳程度では行動不能にはならないらしい。

 

「リゼヴィムさんにリムヴァンさん、動いたのか」

 

 ニエはニエで、苦苦しい表情を浮かべて遠くに視線を向ける。

 

 確か、あの方向にはカーミラの領地があったはずだ。何故そこを向くのか分からない。

 

 だが、ろくなことになってないのは明白だった。

 

「カーミラの方は手薄なはず。……まさか、二正面作戦!?」

 

 規模が吸血鬼より圧倒的に巨大なヴィクターだからこそ出来る作戦だ。

 

 普通にやっても強引に押し切れるだろうに。わざわざこういう行動をとるあたり、いろいろと性根がねじ曲がっていると考えるべきか。好意的に見れば効率を重んじているとも言えるが、たぶん違うだろう。

 

 そう思っていたら、何時の間にか邪龍が炎を吐き出した。

 

 とっさに回避をして、そして一瞬で後悔する。

 

「―え?」

 

 そこには、民間人と思われる吸血鬼がいた。

 

 何が起きたかよくわからず、野次馬根性で外に出たのだろうか。それとも、どこかに逃げるために飛び出したのか。

 

 どちらにしてもまずい。

 

 明らかに一般人だ。吸血鬼だということを考慮しても、大して頑丈ではないだろう。戦闘技術を習得している動きでもないので、防御魔法も使えまい。

 

 この一撃、喰らえば確実に彼は死ぬ。

 

「しまっ―」

 

 うかつだった。戦闘している間に民間人が出てくるようなところまで来ていた事に気づかなかった。

 

 かなり集中しなければニエとの相手はできないわけだが、しかしそれが仇となった。

 

 とっさに飛び出すが、当然間に合うわけがない。攻撃の方がスピードは速い。

 

 その一瞬で、悲劇が脳裏をよぎり―

 

「G型!!」

 

 ニエの焦った声が響き、その声と共にドーインジャーが吸血鬼と邪龍の間に割って入る。

 

 そしてドーインジャーは全ての腕を炎に向けると、防壁を生み出した。

 

 中級クラスでも防ぐのに苦労するレベルの攻撃を、そのドーインジャーは受け止める。

 

 そして、同時に生体ミサイルが放たれて邪龍を撃ち落とした。

 

「大丈夫かい!?」

 

「無事!?」

 

 ニエとリセスが同時に無事を確認し、その吸血鬼は腰を抜かしながらもがくがくと頷く。

 

 どうやら怪我一つないらしい。さすがは禁手に至った魔獣創造で生成されたドーインジャーといったところか。それも防御特化型のようだ。

 

 邪龍が動かなくなった事を確認してから、ニエがほっと息をついた。

 

「……要人警護用のG型の生産も習得しておいてよかった。リセス、周囲には?」

 

「今のところはないわ。でも、この調子だとまだまだ増えるわよ?」

 

 ニエがG型というドーインジャーを生み出しながら周囲を警戒し、リセスもまた、始原の人間の力で五感を強化して周囲を警戒する。

 

 この事態がどこまでヴィクターの考えた物かは分からない。

 

 だが、確実に民間人に被害が出るだろう。

 

 この一般人は氷山の一角だ。既に被害は出ているだろう。しかもここからも増え続ける。

 

「……リセス。僕はこれからこの区域をドーインジャーで警護するよ」

 

 ニエがそんなことを言って、リセスは目を見開いた。

 

 思わぬ展開だ。

 

 それは、民間人のことを配慮したことではない。ニエは普通に善良なので、自分で対処可能だとわかっているのならある程度はできるだろう。これが自分の命が危険極まりないなら恐怖にかられるかもしれないが、実力差がはっきりしている相手に躊躇するほどではない。

 

 それは、リセス・イドアル(自分)より人を優先したことだ。

 

 自分と戦っているこの状況下。それをあえて投げ捨てて、他の人のことに意識を向ける。

 

 それに、何か感じる自分がいた。

 

「……どうするんだい? これ以上放っておくと、被害が増えるよ?」

 

「―ッ!」

 

 その言葉にはっとなる。

 

 仮にも英雄を目指すと公言している自分が、無辜の民の犠牲を無制限に許容するなど断じてしてはいけないことだ。少なくともヒロイとペトに胸を張れない。

 

 決着はつけるべきだとは思う。だが、それは今ではなくてもいいはずだ。

 

「……礼を言うわ」

 

「いいから。急いで行ってくれ」

 

 その言葉を背に受け、リセスは即座に移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




因みにG型は防御特化型。

障壁発生能力を保有し、味方の楯となることが目的の使用です。


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第六章 26

 

 邪龍達をぶちのめしながら、俺は城に向かって走る。

 

 このタイミングでの大暴れ、絶対何か裏があるに決まってる。

 

 たぶんだが、イッセー達の方でも大きな動きがあるはずだ。下手すりゃそっちが本命って可能性もある。

 

 ったく! あいつ等大丈夫だろうな!!

 

 そう思いながら邪龍にコイルガンを叩きつけると、その邪龍にとどめの一撃を叩き込む紅の影。

 

 間違いない、イッセーだ。

 

「イッセー!」

 

「ヒロイ! 無事だったのか!」

 

 当たり前だろうが。英雄を舐めんな。

 

 俺達はその辺の高い建物に着地すると、周囲を警戒しながら周りを見る。

 

 ……一応、民間人に直接攻撃を叩き込むような真似はしてねえな。その辺はヴィクターも一線引いてるってわけか。

 

 だが、戦闘の余波まではカバーしきれねえ。割と街中は被害が出ていやがる。

 

 しかも、吸血鬼達の動きがおかしい。なんか動きに精彩がない。動揺しているのが丸分かりな連中が多すぎる。

 

「イッセー! 吸血鬼達はどうした!?」

 

「それが、カーミラの方がヴィクターの本命だったみたいなんだよ」

 

 カーミラが本命? どういうことだ?

 

 聖杯を取り入れたいなら、ツェペシュの方を味方に付けねえといけねえだろ。なんでカーミラの方を選ぶ?

 

 っていうかヴァレリーってやつはどうなった? カーミラに本腰を入れたって事は、まさか―

 

「おや、赤龍帝に聖槍使いですか」

 

 俺が質問するより先に、声が届いた。

 

 上を見上げれば、そこにいるのはユーグリッド・ルキフグスの奴だ。

 

 んの野郎! この事態は手前の仕業か!!

 

「何の用だ、ユーグリッド!!」

 

 イッセーが指を突き立てて殺気立つ。

 

 ああ、こんな光景を見せつけられちゃぁ、流石にイッセーは我慢できねえわな。

 

 それに、俺も流石に腹が立ってるんだぜ、ユーグリッドさんよぉ……っ。

 

「いえ、用を済んだのでリムヴァン様と合流しようと思いましたら、あなた達を見つけたもので」

 

 そうかい。たまたまか。

 

 だがまあいい。好都合だ。

 

 状況はよく分からねえが、それでもこいつがこの状況に何らかの関わりを見せてるって事はよく分かる。

 

 だったら、事態を食い止めれなかった汚名を返上する為にも、手柄の一つぐらい立てねえとなぁ!!

 

「行くぜイッセー! とりあえず話はこいつをボコってからだ!」

 

「ああ。リゼヴィムとリムヴァンについて洗いざらいはいてもらう!!」

 

「それは怖い。なら、こちらも奥の手を切るとしましょうか」

 

 まったく怖がってない余裕の表情を見せながら、ユーグリッドはあるものを装着した。

 

『イグドライバー、オン!!』

 

 ……あれは、イグドライバー!?

 

「ジェルカートリッジ、セット」

 

 ベルトにジェルカートリッジが接続される。

 

 あ、驚きのあまり反応が遅れた!!

 

『OK! レッツ、イグドライブ!』

 

 チッ! 今から間に合うか!!

 

「マスドライバースティンガー!!」

 

 速攻で大技を叩き込んで黙らせる!!

 

 そして放たれた一撃を前に、ユーグリッドは動じねえ!!

 

「イグドライブ!!」

 

 そしてジェルが鎧と化し、マスドライバースティンガーを受け止める。

 

 その衝撃波と共に、鎧が完全に固着化された。

 

 そして、その姿は―

 

「―イグドラゴッホ。さて、テストと行きましょうか」

 

 ―赤龍帝、だとぉ!?

 

 おいおいマジかよ。赤龍帝の鎧をイグドラシステムで再現しやがったのか!?

 

 リムヴァンの奴は、封印系は相性が悪いから集めてないとか言ってなかったか!? 実際、神器移植者の中でも封印系の連中はごく僅かだったはずだ。

 

 なのに、なんでよりにもよって二天龍なんだよ!?

 

「う、そだろ……?」

 

『馬鹿な!? そんなことは、ありえん!』

 

 イッセーとドライグも動揺してる。

 

 ああ。流石にこれは、ちょっとビビるぞ俺も。

 

「聖杯の技術を流用したものです。まあ、性能そのものはオリジナル(そちら)とは比べ物にならないほど低いのでご安心を」

 

 ユーグリッドはそう言うが、余裕の気配をさらに濃くしてきやがった。

 

 俺達を同時に相手にしても、今の装備なら対応できるって自信に満ち溢れてやがる。それだけ、今の自分なら実力差があると思ってる証拠だ。

 

 第一、ヴィクターの鳴り物なイグドラシステムが、弱いわけがねえ。

 

『ありえん!! いかにデッドコピーだろうと、神滅具の模倣など逸脱しすぎている!! アザゼルですら不可能なのだぞ!!』

 

「確かに、普通なら聖杯をもってしても不可能でしたね」

 

 狼狽するドライグの否定の言葉に、ユーグリッドはあえて肯定する。

 

 し、神滅具の力をもってしても神滅具を複製する事はできねえのか。流石神の御業だ、パねえ。

 

 いや、でも目の前でマジに出してんじゃねえかよ。

 

「……実は次元の狭間を調べていたところ、そちらの兵藤一誠くんの肉片を回収する事に成功しまして。それを足掛かりに聖杯で情報を調べ上げて、こうして模造品程度なら作れるようになりました」

 

 あの時か!

 

 シャルバがハーデスから貰ったサマエルの毒でイッセーの元の体を消滅させた、あの時かよ!!

 

 ええい、あの戦い遺恨を残しすぎだろう!! どさくさに紛れてなんてもん回収してるんだよこいつらも。

 

 まあいい。とにかく俺達がやることに変わりはねえ。

 

「さっさと叩き潰す!! 呆けるな、イッセー!!」

 

「お、おう!! 分かった!!」

 

 俺とイッセーは左右から同時に襲い掛かる。

 

 素体の性能ではユーグリッドが上。神器としての性能なら流石にイッセーが上だろう。

 

 そこに俺が加われば、流石に―

 

「おやおや。甘いですね」

 

 だが、ユーグリッドは俺の攻撃をかわすと、イッセーの拳に自分の拳を叩きつける。

 

 轟音と共にイッセーの拳が弾き飛ばされる。そして、そこを狙ってボディブローが叩き込まれようとして、俺はそれをコイルガンで牽制する。

 

 おいおい。イッセーは紅の鎧を展開してるんだぞ? 基礎性能なら段違いのはずだろうが。

 

 流石はグレイフィアさんの弟という感じで褒めるべきかねぇ。

 

 だが、これイッセー的には屈辱もんじゃねえか?

 

「……ざけんなぁ!!」

 

 マジで屈辱を感じたのか、イッセーはクリムゾンブラスターの発射形態に移る。

 

 必殺技を速攻でぶちかますか。流石にかわされ―

 

『BooostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

「ドラゴン……ショットと名付けられましたよね?」

 

 真正面から、増加を使って高めた魔力砲撃でユーグリッドは迎撃する。

 

 そして、爆発とともにお互いの攻撃が相殺された。

 

 ……っ

 

「流石に、デッドコピーでその性能は反則だろっ」

 

 俺も唸る他ねえな。

 

 冗談抜きで強敵だ。マジで紅の鎧と互角以上に渡り合ってやがる。

 

 いくらなんでもおかしいだろ。天龍を核にしている神滅具の禁手の昇華型を相手に、ここまで優勢に立ち回れるのか!?

 

「これでもあのグレイフィア・ルキフグスが姉なので。彼女と肩を並べられるだけの力はあると自負しております」

 

 慇懃無礼な物言いしやがって。そうかい、自分は魔王クラスとでもいうつもりか。

 

 だがまずいな。そもそも神滅具は、極めれば神や魔王すら殺しうるポテンシャルがある。裏を返せば魔王や神なら極められても対抗できる程度のポテンシャルしかないってことだ。

 

 もし、魔王クラスの使い手がデッドコピーとは言え神滅具を使えば、神滅具の使い手では手が付けられない相手になるって事だ。ヴァーリとか最上級死神を文字通り秒殺したしな。

 

 そのパターンが、今回も適応されたってのか!!

 

 やべぇ、イッセーの奴、茫然自失になって―

 

『しっかりしろ、相棒!!』

 

 ドライグの声が、俺達の動きを止める。

 

『この程度で諦めるな。我らは誇り高き二天龍だ。紛い物に負けるなどあってなるものか!! 気合を入れろ!!』

 

 おお、ドライグが叱咤してる。

 

 イッセーもそれで持ち直してるっぽいし、流石は相棒だな。

 

 こりゃ、俺は素直に復調までの時間稼ぎに徹した方が―

 

『そもそも乳や尻に悩まされてないなどその時点で失格だ!! 俺達がどれだけそれに悩まされたと思っている!!』

 

 ……今そこ言う必要あるかぁ?

 

「ドライグ……」

 

 ほれ、イッセーも引いてるぞ。

 

 いや、そもそもイッセーの覚醒が原因なんだからお前は引くなっていうべきか? でも、性癖は人それぞれだしなぁ……。

 

「ふむ、そういえば白龍皇であるヴァーリ・ルシファーにもこれを見せていい勝負をしたのですが、結局彼も極覇龍を使いませんでした。使えば流石に押し切られると思ったのですがねぇ」

 

 ヴァーリにも見せてたのか。

 

 っていうか、ヴァーリも倒し損ねてるのかよ。どんだけ強いんだよこいつは。

 

 っていうかヴァーリも極覇龍使えよ。このレベルなら使えば何とかなったんじゃねえか?

 

「なんでも、自分の宿敵である赤龍帝は兵藤一誠だけだとのことです。偽物相手に極覇龍を使うのは死んでも御免だとか」

 

 ………プライド高いなぁ、あいつも。

 

 ま、イッセーにはそういう態度が好感触になりそうだけどな。

 

「……だったら、それに相応しい赤龍帝をやらねえとな!!」

 

 ほら、気合入った。

 

『その通りだ。俺にとっての白龍皇は、尻に悩まされるアルビオンのみ!! 奴にとっての赤龍帝も乳に悩む俺だけだ!!』

 

 それでいいのか、ドライグ。

 

 なんかどんどんダメな方向に吹っ切れてるな。これ、本当におかしなことになるんじゃねえか?

 

 俺が、そう思った瞬間だった。

 

 なんか、イッセーの鎧の宝玉が光り輝いた。

 

 そして、そこから小さな白いドラゴンが何体も射出される。

 

 お、なんだなんだ!?

 

「これは……また面白い事になりそうですね」

 

「……ああ、面白いものを見せてやるよ!!」

 

 イッセーは声を張り上げると、その白いドラゴンを縦横無尽に操作する。

 

 アイツ意外と器用だな。いや、独立具現型の特性を持ってるのか?

 

 とりあえず、野暮な事は当分しないで様子を見るべきかねぇ。

 

 俺が見ている中、イッセーはユーグリッドを翻弄していた。

 

 放たれた攻撃を白い龍が弱体化させる。更にイッセーの放ったドラゴンショットはそのドラゴンが反射して、オールレンジ攻撃を叩き込んだ。

 

 ユーグリッドもその新たな力に、攻撃を何発か受ける。

 

 最も、軽傷程度のダメージしか入ってねえみたいだがな。デッドコピーの性能っていうか本人のスペックなんだろうよ。魔王クラスを自称するだけのことはあるじゃねえか。

 

「なるほど、これがオリジナルの底力という事ですか……っ」

 

「赤龍帝を、嘗めんなよ!!」

 

 イッセーの渾身の反論に、ユーグリッドはオーラを高める事で返答する。

 

 あの野郎、今まで手加減してやがったな?

 

 上等だ。こっからは俺も再戦するぜ!!

 

「じゃあ、俺もそろそろ参加させてもらおうか?」

 

「どうぞどうぞ。こちらも本気の出し甲斐がありますので」

 

 ああ。だったら本気出してやるぜ!!

 

 そう思った瞬間だった。

 

 闇が、全てを包み込んだ。

 

 まずは空を。次は街を。そして城を、ビルを、家を、道を。

 

 全てが闇に染まり、そしてそこから禍々しい瞳が映る。

 

 その瞬間、暴れていた邪龍達の動きが止まり、更に闇から獣が現れると邪龍達を貪り食い始めた。

 

 な、なんだこれ?

 

「……ギャスパーか!」

 

 え、これギャスパーなの、イッセー?

 

 そういや、そもそもツェペシュに来たのはギャスパーの秘密を知る為だったな。その秘密が明かされた事で覚醒でもしたのか?

 

 邪龍達に対する一方的な蹂躙劇が巻き起こる中、闇で出来た獣が俺達に並び立った。

 

『イッセー先輩にヒロイ先輩。加勢するよ』

 

 その声、マジでギャスパー?

 

 あの、キャラが変わってねえか?

 

「ぎゃ、ギャスパーか? なんか変わったな」

 

『ちょっとした人格のスイッチってやつだよ。それに、ヴァレリーの聖杯を好き勝手にされるのは気に食わなくてね』

 

 一方的な蹂躙タイムをぶちかましながら、ギャスパーらしいのがユーグリッドを睨み付ける。

 

 その目には、マジギレ以外のどんな感情も映ってなかった。

 

『しかもそれでイッセー先輩の鎧を複製とか。……マリウスよりも酷い死に方が望みなのかい?』

 

「これは恐ろしい。ですが、今のあなたでは私を停止する事はできませんよ?」

 

 その言葉に、ギャスパーは苛立たしげな雰囲気を強くする。

 

 そういや、あいつらはギャスパーの秘密を俺達より先に知っている節があったな。事前対策は万全ってわけか。

 

 それを証明するかのように、邪龍達が復活して、闇の獣と戦闘を始める。

 

 瞳の数も急激に少なくなっていく。心なしか、闇すら薄くなって空が見えてきそうだ。

 

「貴方が来てから、街中に時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)用の結界装置を用意させてもらいました。流石にゲオルク自身が運用するよりかは精度は落ちますが、時間稼ぎぐらいなら簡単にできます」

 

 んの野郎。万全の態勢だってことか。

 

 っていうか俺だけ事情を知らねえんだけど。ギャスパー、どういうことだよ?

 

『仕方ないね。なら、とりあえずお前を倒して悪用されたヴァレリーの聖杯の場所を教えてもらおうか……!』

 

「それならここにあるよ~ん」

 

 と、そこに気楽な声が響く。

 

 そこにいたのは、ヴァーリそっくりの銀髪のオッサン。

 

 誰だ? まさか、ルシファーの末裔か?

 

「リゼヴィム様。どうなされますか?」

 

 リゼヴィムっつーのか。ユーグリッドが畏まっているところを見ると、それなりの立場の野郎っぽいな。

 

「気をつけろヒロイ!! そいつ、神器の力を無効化してくる!!」

 

 え、マジでかイッセー!!

 

 神器主体の俺達じゃめっぽう不利じゃねえか。どうしろと?

 

「そろそろ撤退じゃい。三大勢力の連中も、先ずはこっちに戦力を集中させてるみたいだから、俺らはカーミラに集まるぜぃ」

 

「そうですか。クロウ・クルワッハも既に戻ったようですし、ちょうどいいでしょう」

 

 なんか和やかな雰囲気で会話してやがるな。マジでむかつく。

 

 っていうか、カーミラの方でも暴れてるのかよ。同時多発作戦とか質悪いな、オイ。

 

 そしてクロウ・クルワッハって天龍にもケンカ売れる伝説の邪龍じゃねえか。そんな奴迄復活させてんのか。

 

 ったくよぉ。どんだけ戦力強化してんだよ。いい加減にしてくれってんだ!!

 

 俺が毒づいてると、ヴァーリがマジギレのオーラを放ちながら突撃してくる。

 

 かなりボロボロだな。……そこまでの強敵だってわけかあのオッサンは。

 

「そろそろ孫の相手も疲れたぞい。ユーグリッドくん、強制転移でカーミラにレッツゴー♪」

 

 孫!? ってことはやっぱりルシファーの関係者か!!

 

 っていうか逃げる気かよ。あ、転移魔方陣が出てきちまった!!

 

「待て、リゼヴィム!!」

 

「まだ終わってねえぞ、ユーグリッド!!」

 

『ヴァレリーの聖杯を返せ!!』

 

「流石に無傷で逃がすわけにゃぁ!!」

 

 俺達は一斉に攻撃を放つ。

 

 俺もマスドライバースティンガーをぶっ放したし、流石に直撃すればユーグリッドといえどただじゃ済まねえはず。

 

 だが、そこにリゼヴィムとかいうオッサンが割って入る。

 

 俺達の攻撃は、リゼヴィムに触れた瞬間に霧散した。

 

「残念♪ 俺に神器でダメージを与えたいなら、神滅具を集めて複合禁手にさせるぐらいじゃないとだめなのです♪ ちなみにリムヴァン君は俺より頑丈だよん」

 

 知りたくなかった情報をありがとうよ!!

 

 くそが! もう転移を止める余裕はねえ。

 

 ここで、このむかつく連中を逃がすってわけかよ!!

 

「因みに、俺達の派閥名は『クリフォト』だ。聖杯に名付けられた『セフィロト』の逆位置を意味する、聖杯を利用して邪龍を復活させた俺達にぴったしなネーミングだろ?」

 

「具体的には邪龍監督部隊ですね。ヴィクター経済連合の新たな派閥をお見知りおきください」

 

 双宣言すると、リゼヴィム達は転移の光に消えていく。

 

 そして、ヴァーリは悔しそうに全身を震わせた。

 

「……アイツは逃がさん!!」

 

 そう吐き捨てるなり、ヴァーリは高速で飛んでいく。

 

 あっちは確か、カーミラの領地がある方向だ。

 

 あの馬鹿、今から突貫する気か!?

 

「あのバカ! イッセー止めるぞ!!」

 

「わかってる!!」

 

 ここで白龍皇まで一方的に潰されましたなんてニュース、敵の士気が上がるだけなんだよ!!

 

 色々事情は分からねえ。っていうか、あの爺さんの詳細情報とか知りたい事はいくつかある。

 

 だが、その前にヴァーリを止めないと―

 

「―悪いけど、あなたの相手は私よ」

 

 ―その瞬間、氷の槍がヴァーリの脇腹を貫いた。

 




普通に偽赤龍帝にするという案もありましたが、せっかくイグドラシリーズがあったので組み込んでみました。


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第六章 27

デイウォーカー編のボス登場です。

ついに、奴らの隠し玉が出てきますよ……


 

 完全に頭に血が上っていたヴァーリは、その攻撃を察知することができなかった。

 

 氷の槍に貫かれ、そのままヴァーリは近くにあった建物の壁に貼り付けにされる。

 

「ヴァーリ!?」

 

 イッセーが慌てて駆け寄ろうとするが、それより先に振るわれる攻撃があった。

 

 今度はシャレにならねえ威力の衝撃が叩き込まれて、イッセーが弾き飛ばされる。

 

 そして、俺はその攻撃が飛んできた方向を見て―

 

「次は貴方ね」

 

 ―邪眼と目が合った。

 

 そして次の瞬間、俺は一瞬停止しかけた。

 

 聖槍が光り輝いて、停止の力を一瞬で弾き飛ばす。

 

『邪魔だよ』

 

 ギャスパーが闇の獣を送り込むが、然しその闇の獣も新たなる攻撃で切り裂かれる。

 

 それは、闇の刃だった。

 

 それをなすのは、狼の姿を模すプロテクターで全身を包み込んだ、一人の女。

 

 イグドラスコルの装着者。ヒルト・ヘジンだった。

 

「悪いわね。覚醒した時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)のデータを回収させてもらうわ。ついでに裏切り者の始末もできたらいいわね」

 

 んのアマ。このややこしい時にさらに出てきやがるか!!

 

『……平行世界の僕から奪った(それ)を使うのか。なるほど、神滅具に匹敵する性能だとは自負してるよ』

 

 ギャスパーはそう言うが、然し苛立っているのがよくわかる。

 

『ヴァレリーだけでなく僕自身まで利用するとか、気に食わないね!!』

 

 その言葉と共に、闇の領域が収束する。

 

 結界装置ですら弱体化できないほどの密度で闇が周囲を覆い、そして邪眼が大量に展開された。

 

 同時に闇が一斉に獣を吐き出す。それもかなりやばそうなのだらけときたもんだ。

 

 これ、一瞬で勝負がついたんじゃねえか?

 

 そう思った瞬間、闇が魔獣を切り裂いた。

 

 ……な、一蹴だと!?

 

 おいおいちょっと待て。後天的な移植者は先天的な移植者より弱いはずだぞ。

 

 俺だって、聖槍の加護以外は曹操に全部追い抜かれてる。姐さんはデュリオに勝ち越してるけど、それにしたって相性と神器の数でごり押ししてるだけだ。

 

 奴だって後天的な移植者のはず。オリジナルのギャスパーを同じ神滅具で圧倒できるわけがねえ!

 

 俺だって限定特化の禁手に目覚めてようやくなんだぞ!? こ、これが完成系の移植者のポテンシャルだってのか!?

 

「悪いわね。私の|時空支配の邪眼すら屠りし戦士《フォービドゥン・バロール・ザ・ブリューナク・ウォーリア》は、あなたの禁手と相性がいいみたい」

 

 まさか完全に無効化できるとは思わなかったと、ヒルトの言葉は言っているようなものだ。

 

『……なるほど。禁手の出力を自分の周囲を停止させることに特化してるというわけだね』

 

 ギャスパーも冷静になったのか、すぐにそう解析する。

 

 えっと、つまり―

 

「ギャスパーみたいな広範囲展開はできねえが、その分密度が濃いからギャスパーだと貫けねえってわけか」

 

『そういうことだよ。本体が殴り掛かれば話は別だろうけど……』

 

 そういって直接殴り掛かるギャスパーに、ヒルトも動く。

 

 魔剣を盾にしながら、マントのように纏った槍を棘にして、ギャスパーの闇の拳を迎え撃つ。

 

 そしてぶつかり合った攻撃は、わずかにだがヒルトが競り勝った。

 

『―通常神器としては闇の制御の方が特化か。対軍よりも対人を意識した防具兼サブウェポンとして使ってるようだね』

 

「一応、剣士としての自覚はあるしね!」

 

 ギャスパーにそう答えて、ヒルトは魔剣を振るった。

 

 氷と衝撃、二つの効果がギャスパーを弾き飛ばし、そして追撃の斬撃が闇を切り裂く。

 

 そこから一瞬、頬を浅く裂かれたギャスパー本来の顔が見えた。

 

『今度から接近戦の練習もしないといけないかな……?』

 

「その前に生け捕りして奪ってあげるわ!!」

 

 そのままヒルトがごり押しで攻めようとしている。

 

 なるほど。確かにこの戦い、ヒルトの方が上だな。

 

 神滅具使いとしての相性でヒルトが凌ぐし、そのうえ魔剣とイグドラシステム。総合力でも上乗せされている。

 

 性能だよりかと思ったらその時点でアウト。その剣腕は木場やゼノヴィアにも匹敵するから、性能に振り回されるようなミスは犯さねえ。

 

 このままいけばマジでギャスパーは生け捕りなんだが―

 

「ところがどっこい。俺がいるんだよ!」

 

 さっきから俺を忘れて白熱してるんじゃねえ!!

 

 聖槍で魔剣を受け止め、さらに魔剣を大量に生み出してもう片方も止める。

 

 ったく。ちょっと観戦ムードに入っただけで俺のこと忘れるな。

 

 はりつけにされてるヴァーリは戦闘不能だが、イッセーだっているんだぜ?

 

 ほら、触れちまった。

 

「これで終わりだ! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 よし、これで―

 

「―なめるなぁ!!」

 

 気合一線で防がれただと!?

 

 あ、イッセーがユーグリッドに負けそうになった時よりショックを受けてる。

 

 お前本当に煩悩強すぎだぞ。この状況下でよく裸見たくなったな。

 

「馬鹿な!? ゲオルクの結界装置すら破壊した俺の洋服崩壊(ドレス・ブレイク)が!?」

 

「私の停止結界は、煩悩ごと停止させるのよ!!」

 

 思わぬ展開! 相手が女だからイッセーいれば有利だと思ったら、対策万全だよ!!

 

「だったら乳語翻訳(パイリンガル)……こっちも駄目だぁ!!」

 

 ショックのあまり、イッセーはそのまま崩れ落ちた。

 

 あのすいません。ここでそれはやめてくれねぇか?

 

『ごめん先輩! こっちもそろそろ……体力が……』

 

 えええええ!? ギャスパー、お前もかぁああああ!?

 

「よくわからないけど、だったらこのまま押し通る!!」

 

 そして一瞬のスキをついて、ヒルトは魔剣に闇を纏わせて切りかかった。

 

 あ、やべ―

 

 そして、そのまま俺たちは巻き込まれて吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うぉおおおお!?

 

 くそ、今日はいろんな意味でショックが多すぎる。

 

 ヴァレリーから聖杯が抜き取られるショッキングな光景から、ぶちぎれたギャスパーにマリウスたちが食い殺されるグロテスクな光景。

 

 そのあとリムヴァンとリゼヴィムの衝撃発言連発。リムヴァンの正体も驚きだけど、トライヘキサにもビビったぜ。あとあいつら手加減してたとか嘘だろオイ。

 

 そしてカーミラが襲撃されている光景を見せつけられ、しかもこっちも邪龍軍団の本格攻勢。

 

 その上ユーグリッドだよ。偽物の赤龍帝で圧倒されるとか、心折れるかと思った。

 

 とどめにこれだよ!! 相手は女なのに、俺が全く役に立ってねえ!!

 

 対女戦で俺を無敵に近いレベルに押し上げる二つの要素、すなわち乳語翻訳と洋服崩壊。この二つの切り札を、狙い撃ったわけでもないのに見事に防がれた。

 

 あれが平行世界のギャスパーから抜き取った神器の禁手かよ。町ごと包み込むギャスパーみたいな豪快さはないけど、逆に鎧として収束してるから、本来の使い手であるギャスパーでも攻撃が通用しない。

 

 くそ、ショックのあまり完全に意識が飛んでた。おかげでかなり吹っ飛ばされて―

 

「……うぅ」

 

 って、誰かの上に乗っかっちまってる!?

 

 これ、勢い余って俺がダメージ与えてたりしてねえよな!?

 

「ご、ゴメン! 大丈夫……って!?」

 

 そこにいたのはエルメンヒルデだ。

 

 あ、こいつならちょっと痛い目見させても気にならない……わけがない。美少女が痛がってるのはやっぱりちょっと思うところがある。

 

 それに一応和平を受ける気もあるみたいだったしな。嫌いだけど味方って感じだから、ヴィクターの連中みたいにセクハラ技をするのも気が引ける。

 

 っていうか大丈夫か? 上級の吸血鬼だから結構頑丈だと思うけど、それでも線が細い。たぶん上級の吸血鬼の中じゃ打たれ弱い方じゃないだろうか?

 

 見れば、震えてうつむいたままだ。これ、結構痛かったんじゃないだろうか。

 

 俺の鎧はめちゃくちゃ頑丈だし、しかも勢いよく吹っ飛ばされてたからな。結構体格も良くなってるし、質量弾として考えたらすごい威力かもしれない。

 

 くそ、アーシアを呼んでくるか?

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

 俺はとりあえずその肩をつかむ。

 

 後でなんか言われそうだけど、とりあえず無事を確認しないといけないし……。

 

 そして俺は顔を覗き込んで―

 

「そんな……裏切り者がいて……祖国が……? 私は、私は……」

 

 ―その茫然自失とした顔に、俺は目を疑った。

 

 純血の吸血鬼であることに自負を持っていた姿はどこにも見当たらない。そこにいたのは、ショックに崩れ落ちるただの女の子だ。

 

 そうだ。ヴィクターはマリウスたちを囮にして、カーミラのほうを攻め落とそうとしていたんだ。

 

 カーミラの戦闘要員もその多くがツェペシュの奪還に裂かれてたはずだ。戦力的にはかなり手薄だろう。

 

 そこを、聖杯で弱点をなくした裏切り者が手引きしたヴィクターの連中に襲われたら……!

 

 しかもこの調子じゃ、カーミラに裏切り者が出たことまで知ってるっぽい。

 

 俺は、ちょっと見てられなくなった。

 

「……エルメンヒルデ! エルメンヒルデ・カルンスタイン!!」

 

 俺は強引に揺り動かして、エルメンヒルデの意識をこっちに向けさせる。

 

 かなり強引に振ったのが功を奏したのか、エルメンヒルデの目に光が戻る。

 

「せ、赤龍帝……!」

 

「事情は知ってる! だけどヘタレるな!!」

 

 そうだ。大変なことになってるのはわかってる。

 

 相当ショックを受けてるんだろう。本当ならそっとしておかなきゃならない。

 

 嫌な奴だけど、本心から国と盟主を想っていた。そして仲間たちも信頼していた。

 

 それが裏切られたんだ。できればそっとしておかなきゃいけない。

 

 だけど、今はそんな場合じゃないんだ。

 

「しっかりしろ!! あんたは貴族で純血の吸血鬼なんだろ!?」

 

 だったらやることをきちんとやらなきゃならない。

 

「あんたがヘタレてたら、他の吸血鬼たちが動けないだろうが! しっかりしろ!!」

 

「せ、赤龍帝……」

 

 エルメンヒルデは、それでも戦意が出てこない。

 

 むぅ。昔のライザーみたいな感じのエリートっぽさがあるし、さすがにすぐには復活しないか?

 

 これでライザーみたいなスケベ根性があれば、その辺を突っついてどうにかできるかもしれないんだけど……

 

 そう思ったその時―

 

「―勢いよく吹きとばしすぎたわね。とりあえず、一人見つけたわ」

 

 ……げ、ヒルト!?

 

 くそ、このバテてる状態で一対一かよ!! 状況が、最悪だ……!

 




イグドラフォースの隠し玉とは、神滅具でした。

しかもデイウォーカー編ボス担当になったヒルトの神滅具は時空を支配する邪眼王! その上効果範囲を狭めたことで、オリジナルの使い手であるギャスパーですら停止不可能な化け物になりました。加えて停止能力の応用でイッセーの乳技すら無効化。まあ、イッセーにはあれがあるのですが。


そしていきなりエルメンヒルデとフラグ設立準備。イレギュラーズは基本短編を出さないし、エルメンヒルデとのフラグはヒロイたちがかかわりづらいのでここでフラグを立てることにしました。


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第六章 28

イグドラフォースの底力により大苦戦を強いられるイッセーたち。

果たしてどうやって切り抜けるのか!!


 

 俺はエルメンヒルデを庇ってヒルトを睨む。

 

 あのヴァーリですら、通常の禁手じゃリセスさんの援護があってようやく互角の実力者。それも、神滅具を使ってない状態でだ。

 

 間違いなく強敵だ。それも、今のばててる俺達じゃ危険すぎる。

 

 ヒロイやギャスパーはどうなった? まさか、やられてねえよなぁ。

 

「ヒロイとギャスパーをどうした!?」

 

「……見失ったわ」

 

 あ、ちょっと言いづらそう。

 

 っていうかコレ、プロテクターの下の顔は真っ赤になってそうだな。

 

 いかんいかん。洋服崩壊も乳語翻訳も通用しない実力者とか、ある意味ヤバイ

 

 でも、それでも……!

 

「ここで、逃げるわけにはいかねえよな」

 

「そう。なら死んでもらうわ」

 

 ヒルトは魔剣を構え、更に闇を刃にして切りかかる。

 

 これは両手じゃ厳しいな。ドライグ、あのドラゴン出せるか!?

 

『いいだろう、闇の方はそれでどうにかして見せる。奴もまだ慣れてないようだし、何とかできるはずだ』

 

 なら、後は魔剣だけだな!!

 

 俺は両手を握り締めて、魔剣と拳をぶつけ合う。

 

 その猛攻はかなり続くが、やっぱり強い!!

 

 っていうかこっちの攻撃がほとんど効いちゃいねえ! 薄くヒルトの全身を覆っている幕に触れたとたん、強制的に停止させられる。

 

 動かせないわけじゃねえ。だけど、どうしても勢いが一気に殺されるからダメージにならない。引っ張り戻すのも一苦労だ。

 

 これが、ギャスパーの持っている時空を支配する邪眼王の禁手の力かよ。

 

 あのゲオルクが事前準備をする必要に迫られるわけだ。いきなりこれが発動してたら、あいつ一方的に蹂躙されてたんじゃないか?

 

 そして、その攻撃は俺の鎧を削っていく。

 

 魔剣を振るうと同時に放たれる氷を、時間差で叩き付けるようにしてきたからだ。

 

 傷つけられた鎧はすぐに修復されるけど、消耗するものがないわけじゃない。このままだと、こっちがガス欠になる!!

 

「……正義の味方も大変ね」

 

 ヒルトはこっちに対して、同情するかのような言葉を放ってきた。

 

 余裕かよ! 才能も実力も装備も強力な奴は言う事が違うな!!

 

 っていうか、なんか半目で見られてるような視線を感じる。

 

 今、そんなレベルの一方的な戦いじゃないよなぁ?

 

「……この状況下で味方を庇うとか、足を引っ張る奴がいると大変ね。まだこっちはウォーミングアップよ?」

 

 その言葉に、俺は衝撃を受けた。

 

 ヒルトがまだ本気を出してない事じゃない。俺がエルメンヒルデを庇っている事を指摘されたからだ。

 

 あ、そういえば自然に庇ってたな。特に意識してなかったから忘れてた。

 

 エルメンヒルデもその言葉にようやく気付いたのか、何か驚いている感じがする。

 

「な、なにをしているのですか赤龍帝! わたしにかまわず動きでかく乱すればいいでしょう!?」

 

 いやいや、何言ってんだよ。

 

「んなこと、できるわけねえだろうが!!」

 

 そりゃ確かに、かなりむかつく事とか言われたりしたぜ?

 

 だけどあれはエルメンヒルデにも一理ある。上役同士の話し合いに、中級悪魔程度がとやかく言ってくる事の方がおかしいんだ。

 

 アザゼル先生やオーディンの爺さんが意見を求めたりするんで忘れてたけど、普通それはない。あの人達が友好的過ぎるだけだ。

 

 ま、それでもあの言い方は他にないのかよとか言いたかったけど、それはそれ。

 

 だって―

 

「故郷が襲われてショックうけてる女の子を、見捨てるわけにもいかねえだろ!!」

 

 そうだ。エルメンヒルデは確かに傲慢でムカつく奴だ。

 

 でも、今彼女はマジでショックを受けてるんだ。

 

 俺だって、俺がいない間に駒王町が滅ぼされてたとか言われたら、ショックで落ち込む。色々ときついはずだ。

 

 そんな思いをしてる女の子1人庇えなくて―

 

「おっぱいドラゴンの看板、背負ってんだよこっちはなぁ!!」

 

 ―子供のヒーローなんてやれないんだよ!!

 

「なら、ここは強引に押し切らせてもら―」

 

「―させると思うか?」

 

 そこに輝くのは聖なるオーラ。

 

 勢い余って俺をちょっと焼くほどの出力を上げた聖槍が、ヒルトの魔剣に防がれる。

 

 そのまま拮抗状態に持ち込みながら、ヒロイが血をだらだら流しながらヒルトと力比べに持ち込む。

 

「ただで帰すと思ったか! もうちょっとデータは取らせてもらうし、手柄なんてたてさせねえぜ!」

 

「チッ! アースガルズの友人共がうっとおしい!!」

 

 イグドラシステムの性能で無理やり片手で力比べを維持しながら、ヒルトは強引に俺を倒そうとする。

 

 だけどそれより早く、大量の魔剣が生成されて、コイルガンで襲い掛かった。

 

「くたばれ!」

 

「舐めるな!」

 

 それを闇のマントが剣山みたいな針の山となって防ぐけど、これで攻撃は弱まった。

 

 よし、このチャンスを―

 

『―いかん、相棒時間切れだ!!』

 

 ―つこうとしたその瞬間、ドライグの言葉と共に紅の鎧が解除される。

 

 こ、こんな時にぃいいいい!!

 

 しかも位置取りから言って、ヒロイに譲渡する余裕もない。

 

 あ、これやばい。押し切られる!?

 

「もらった!」

 

「うぉおおお!?」

 

 とっさに白刃取りで受け止めるけど、力押しで押し切られそうになってる。

 

 あれ? 俺、パワー馬鹿ですよ? 俺両手ですよ? 相手片手ですよ?

 

 どんだけの性能だよイグドラフォース! ホント、ヴィクター経済連合の技術力には嫌になるな!!

 

 くそ、このままだとヒロイが押し切る前にこっちが押し切られる!!

 

 折角なくなったと思った体も新しくできたのに、リアスとエッチな事をせずにこのまま死ぬのか!?

 

 そ、そんなの絶対にできるわけねえだろうが!!

 

 で、でもこのままだと強引に押し切られて―

 

「……赤龍帝」

 

 その時、余波でくだけた鎧から見える肌に、触れる唇があった。

 

 そこは氷で肌が切れてて、血が流れている。

 

 その血を―

 

「……借りは、返します」

 

 ―エルメンヒルデが、ぺろりと舐めた。

 

 そしてその瞬間、エルメンヒルデはものすごく体をぶるぶると震わせた。

 

「……なんて美味! ドラゴンの血が強力なのは知ってましたが、ここまでだとは!!」

 

 すいません! 今はソムリエみたいな事言わないでくれない!?

 

「ソムリエかお前は!」

 

「料理番組じゃないのよ!?」

 

 ヒロイとヒルトからもツッコミが飛んだ!

 

 だが、エルメンヒルデは全く聞いてない。

 

「このまろやかなのど越し! そして冴え渡るぐらい澄んだ味!! こんな美味な血を飲む事ができるだなんて、私は人生最大の不幸と幸福を一日で味わってるわ!!」

 

 そこ迄!? 俺の血って、そんな美味ですか!?

 

 ってことは吸血鬼のお姉さんを血で釣ってエロい事とかも狙えますか! チャンスですか!!

 

 び、美人な吸血鬼のお姉さんとエロい事ができるかもしれない。文字通りエサで釣れるという事か!! なんて甘美な響き!!

 

 う、上の口でも下の口でも食べられる!! なんと夢のようなフレーズなのか!!

 

 そう思ったその時、我に返ったエルメンヒルデは手を突き出していた。

 

 流石のヒルトも、これには対応しきれない。

 

「チッ! こうなったら頑丈差で無理やり―」

 

「ああ、言い忘れてましたが―」

 

 防御力でやり過ごそうとしたヒルトは、エルメンヒルデが放ったオーラの砲撃で吹っ飛ばされた。

 

 しかも、このオーラは俺のオーラとそっくりだ!

 

「血の力を使うということにおいて、私はカーミラの貴族でも上位に位置しますので」

 

 ……この子意外と凄かったぁあああああ!!!

 

 あ、ヒロイも巻き込まれて吹っ飛ばされてる。

 

「大丈夫かヒロイ!」

 

「心臓に聖槍突き込んでやろうか、このヴァンパイア!!」

 

 あ、とりあえず無事みたいだ。

 

 マジギレしてるけど無事ならなにより。まぁ、本当に心臓を貫いたりはしないだろう。

 

「あ、ごめんなさい。あまりの美味しさに周りが見えてませんでした」

 

「……マジで狙うか、吸血鬼を血で釣るエロエロ作戦!!」

 

「まとめて叩きのめされたくなかったら、すぐに戦闘準備を取りやがれ!! あとイッセーは譲渡!!」

 

 そうだった!!

 

 まだ一撃叩き込んだだけだ。ヒルトの奴はまだ動けるはず―

 

「―想定外の事態だからさようなら!!」

 

 ―と、思ったら逃げてた。

 

 流石はフェンリルの子供を使ったイグドラシステム、足も速いな。

 

 ……なんか最後が閉まらなかったけど、とりあえず、戦いは終わったみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 



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第六章 29

すこしずつだけど確実にお気に入りが増えているけど、少しずつだが確実に評価は落ちているという嘆き。

……お気に入りにしてくれたみんなー! おらに高評価を分けてくれー!!


 そして戦いは終わり、朝になった。

 

 結構ボロボロになったツェペシュの城下町だが、まあ人的被害はあまりないのが不幸中の幸いだ。

 

 ヴィクターも、民間人の被害を積極的に出したいわけじゃないようで安心した。ま、今の時代の人間たちがそれを見たらブーイング間違いなしだから当然か。

 

 つっても被害はでかく、普段なら張れる霧も出せないと来たもんだ。大半の吸血鬼はシェルターで夜まで眠りにつく感じだ。

 

 そして、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーか。

 

 詳しい話を聞いたけど、マジで飛んでもねえな。

 

 そういえばリムヴァンは「天敵もごり押しできる」とか言ってたような気がするが、そもそもごり押しする必要もなかったと。

 

 俺は、もう一度ツェペシュの街を見る。

 

 元からクーデター陣営と戦闘が行われていた場所はかなり被害がでかい。その辺をピンポイントで狙ったみたいで、甚大な被害が出ていた。

 

 ……一部ではコントロールの甘かった邪龍が民間人を襲ってたみたいだが、お嬢達がそっちを中心に動いたから、何とか民間人の被害は最小限だ。

 

 それにしても、今回はかなりやばい敵が出てきやがったな。

 

 今までだって楽に勝てた戦いの方が少ねえが、俺達もだいぶ成長したから同じようにはいかない。

 

 だが、相手もそれに合わせるかのように更に強大になってきやがった。

 

 神器無効化能力という、俺らにとってメタともいえる能力を持つ、超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 デッドコピーでありながら、イッセーを追い詰めるほどの戦闘能力を発揮した偽赤龍帝、ユーグリッド・ルキフグス。

 

 ギャスパーと同じ神滅具クラスの神器を運用し、そのうえで相性差によって化物レベルと化したギャスパーを上回ったヒルト・ヘジン。

 

 そして、平行世界からの来訪者、リムヴァン・フェニックス。

 

 平行世界から来訪して来たから、死んだはずなのに堂々と姿を現してリムヴァンの名前を名乗っていたのか。なるほど、納得だ。

 

 神滅具を複数個持っているのも、平行世界で奪ってきたからか。合点がいった。

 

 何てバケモンだ。っていうか、それを可能とする神滅具のポテンシャルも恐ろしい。

 

 まさに世界の異分子、イレギュラー。その影響を受けた俺達も含めて、まさに異分子の集まりだ。ロンギヌス・イレギュラーズとでも呼べばいいのかねぇ。

 

 とにもかくにも、今回は非常事態だ。マジでどうにかしねえとな。

 

 ……ヴァレリーだって重要だ。なにせ、意識不明だしな。

 

 当面死ぬ事はないだろうが、意識を回復させるには聖杯を回収しないといけないらしい。

 

 っていうか三つでワンセットの亜種ってすげえな。ジークフリートも亜種の神器だったが、神滅具で亜種ってのがまたすげえ。

 

 なんか、今世の神滅具保有者はイレギュラーが多すぎだろ。

 

 覇を克服したり禁手を昇華させたイッセー。

 

 覇の暴走を乗り越え、昇華させたヴァーリ。

 

 覇輝を無理やり制御し、覇光へと派生させた曹操。

 

 そして、三個で一セットの亜種神滅具を宿したヴァレリー。

 

 ギャスパーという新しい神滅具の使い手も含めれば、とにもかくにもイレギュラーだらけだ。

 

 ……コレ、この戦争はもっと荒れるんじゃねえか?

 

 リムヴァンの奴のフットワークの軽さだと他にもまだ見ぬ凄い神器を持ってそうだ。そうなったら後が怖い。

 

 ……さて、俺らも修行するしかねえわけだな。

 

 業魔人、完成しないかなぁ。

 

 俺がそんなことをぼんやりと思った時だ。

 

「ヒロイ! ちょうど良かったわ」

 

 と、姐さんの声がして、俺は振り返り―

 

「持ち運ぶの手伝ってくれない? キョジンキラーだとシェルターの中に入れないのすっかり忘れてたのよ」

 

 ―なんか、大量の鍋を茹でていた。

 

 え、なにこれ。

 

 覗き込むと、そこには大量のレトルトカレーが煮込まれていた。

 

 下を見ると、そこには燃え盛る家の残骸が放り込まれていた。

 

 ……壊れてたからって燃料にしやがったよこの人。

 

「姐さん、それ何?」

 

「見れば分かるでしょう。炊き出しよ」

 

 ああ、なるほど。

 

 いや、そうじゃない。

 

異界の倉(スぺイス・カーゴ)に大量に詰め込んでたのよ。アザゼルが「何かあった時の炊き出し用」って言って持ってきてたの」

 

 ああ、なるほど。

 

 今度は疑問が氷解した。

 

 どっからそんなに持ってきたんだと思ってたんだよ。そうか、あれがあったな。

 

「まあ、一般人に罪はないもの。何か食べるってそれだけでもストレスが解消するものでしょ?」

 

「で、作ったはいいが鍋を運ぶ人手を忘れてたと」

 

 そういうことなら別にいいぜ。

 

 俺だって英雄だ。そういうのに理解はある。

 

 あと木場を呼ぼう。アイツの聖剣創造の禁手なら、人材の手間が浮く。

 

 そんでもって鍋を運びながら、姐さんは微笑を浮かべていた。

 

「……こういうことにも、使えるのよね」

 

 そういう姐さんは、手に持った鍋の中身を見て笑う。

 

 そこにあるのは、大量の飯だ。

 

 それが振る舞われると、吸血鬼の人達はどう思うだろうか。

 

 少なくとも、美味い飯を食えば少しはスッキリする奴もいるだろう。着のみ着のまま飛び出して、飯を食ってない奴もいるだろう。

 

 そういう人に、これはきっと癒しになる。

 

「この神器、正直あまり役に立たないって思ってたけれど、こういう使い方もあったね」

 

 そういう姐さんは、少し寂しげな表情をする。

 

「そういう方向でも、私は人を救えるのよね」

 

 ………。

 

「環境の所為でいろんなものが足りてなくて、それを持ち込むのが大変でも、私が一人いればたくさん運べる。そういう方向で、人を救う事もできたのよね」

 

 姐さんは、今心のどこで何を思っているんだろうか。

 

 迷走していた事に対する後悔だろうか。安易に神器を移植した事に対する痛感だろうか。

 

 姐さんが選んだ道は、敵を滅ぼして減らす道だ。

 

 姐さんが今言っているのは、人々の腹を満たして減らさせない道だ。

 

 そのどっちが重要かは分からない。

 

「……まあ、その道を選んでたらヒロイもペトも救えなかったけれどね」

 

 その答えを出す前に、姐さんはそう断じた。

 

「ごめんなさい。ちょっと気の迷いだったわ。……あなたの自慢(英雄)でいるって決めたのに、あなたにこんなことを言ったらいけなかったわね」

 

「いや、気にしてねえよ」

 

 確かに姐さんの言う通りだ。

 

 姐さんがそう言う道に進んでいたら、俺はきっと吸血鬼に殺されてた。

 

 姐さんが戦う事を選ばなかったら、ペトは今でも塞ぎ込んでいた。

 

 その道を選ばなかったらこそ、姐さんが救えた命もある。

 

 まあ、それは後にしておいて―

 

「冷めたら不味いし、急ごうぜ、姐さん」

 

「ええ。まずは炊き出しを頑張らないとね」

 

―英雄は英雄らしく、人々を救う為に頑張りますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、修繕活動を手伝いながら周りを見てイラついてた。

 

 何にイラついてるかって、当然リゼヴィム達にだ。

 

 今頃リゼヴィム達はカーミラの方で祝勝会でも開いてるんだろうな。カーミラの方は完全に占領されて、転生天使達が急行した時には手が出せなかったらしい。

 

 それぞれの(エース)が動いたけど、返り討ちにあったって話だ。それぐらい強敵だった。

 

 ヒルトだけでも俺やヒロイが苦戦するほどの猛者だ。そんなのが三人も居れば、戦力の殆どを出していたカーミラが占領されるのは当たり前だ。裏切り者ばかり残ってたら尚更だ。

 

 ヴィクター経済連合。あいつら、本気でシャレにならない……!

 

 俺がそう思って手を握り締めたとき、視界にエルメンヒルデが映る。

 

「あ、赤龍帝……」

 

 まだかなり沈んでるけど、それでも行動ができる程度には動けるらしい。

 

 無事なエージェントにある程度の指示を出せる程度には回復していた。

 

「カーミラ領は、完全にヴィクターの手に堕ちました。……裏切り者の多くは男達だそうです」

 

 ……男達、か。

 

 ツェペシュは男性の真祖を尊び、カーミラは女性の真祖を尊んでいた。それが基本で、当たり前の価値観。

 

 だから、その領内で逆の立場に就く事はできなかったんだろう。例え能力があっても、性別が尊んでいる側じゃなければあくまでサポート。

 

 それに反感を抱いている人は多かったんだろう。そこをリゼヴィムやリムヴァンがつついたと。

 

 皮肉なもんだぜ。ツェペシュの領主は仮初とは言え女性であるヴァレリーが祭り上げられた。そしてそれを囮に、ヴィクターはカーミラで男性主体の政権を打ち立てたんだから。

 

「カーミラの女性は大丈夫なのか?」

 

「それは大丈夫でしょう。クーデターを起こした側にも、女の吸血鬼は割といたそうです」

 

 え?

 

 女性優遇のカーミラの領内で、女性がクーデターに参加?

 

 おかしくないか? 男性主体のクーデターなんだから、女性の抵抗は強そうなもんだけど……。

 

「彼女達は、男性に支配される事を望んでいたそうです。もっとも逃げ延びた者達の発言なので、詳しくは分かりませんが……」

 

 そういうエルメンヒルデの表情は暗い。明らかに、何かに追いつめられている感じだった。

 

「……下賤な出のものに余計なことを言いましたね。忘れてください」

 

「え、あ、別にいいさ」

 

 さらりと馬鹿にされた気がするけど、それはそれでいい。

 

 それよりも、心配なのはエルメンヒルデだ。

 

 持ち直してる風に見えるけど、めちゃくちゃ落ち込んでるのが分かる。

 

 最初に会った時の傲慢さがあまり見えない。結果的にツェペシュにお世話になるからか?

 

 ……ったく。こういうことするから、俺は時々馬鹿って言われるんだよなぁ。

 

 でも仕方がねえ。エルメンヒルデには助けられたしな。

 

「何か愚痴があるなら言えよ。助けてもらったんだし、それでお相子だ」

 

 本当ならギャスパーの様子を見たいけど、ちょっとぐらいなら聞いてもいいさ。それぐらいの時間ならあるだろ。

 

 俺がそんな感じで促すと、エルメンヒルデは―

 

「うぅ……」

 

 な、泣き出したぁあああああ!?

 

 え、どうして? 言い方間違えた!?

 

 くっそぅ! 俺はこういう時どうすればいいのか分からない。っていうかなんでなったのかも分からない。ついでに言うと女心もよく分からねえ!!

 

 しまった。うかつなこと言ったからなんかが決壊したのか。漏れ出たのか!!

 

 見れば、指示を受けて行動していたカーミラ派の吸血鬼がすごい視線を向けてる。

 

 ……すぐにでもなんとかしないと、俺、殺される!?

 

「え、エルメンヒルデ!? もしかして、友達が死んだりとか―」

 

「逆です……っ」

 

 逆?

 

 生きてるなら、泣き出す必要はないような気がするけど。

 

 いや、相当激戦だったらしいし、かなりほっとしたのか?

 

 いやいや。それなら落ち込む理由にはならねえだろうし―

 

「クーデターに、私の友や親族が何人も参加して……」

 

 っ!?

 

 そ、そうか。

 

 エルメンヒルデはカルンスタイン家とかいう吸血鬼の貴族だ。そこには男の吸血鬼もいただろう。

 

 彼らは、エルメンヒルデに察せない程度に不満を持っていたのか。

 

「な、中には……同性の友達もたくさん……っ」

 

 しかも同性の友達もかよ!!

 

 そういえば女性の吸血鬼でもクーデターに参加した奴がいるって言ってたけど、エルメンヒルデの友達にもいたのか。

 

 くそっ。こういうのは聞くだけでも堪えるな……。

 

「分かった。もういい」

 

 俺は、そっと胸を貸してやる。

 

 それはそれで文句を言われそうだけど、まあ俺が怒られて話がまとまるならそれでもいいか。

 

 そう思ったけど、エルメンヒルデはそのまま俺の胸元に顔を押し付けると、わんわん泣きだした。

 

 ……ヒロイが言っていた事を思い出すよ。

 

 この世界は、理不尽だらけ。

 

 ああ。俺がモテない事なんて全然理不尽じゃねえ。一般人にはおっぱいドラゴンとかわけ分かんねえだろうしな。

 

 でも、その理不尽のせいでどんどん歪んで、それを突っつく連中が出てくる。

 

「……上手く行っていたと思ったのに! みな、カーミラ様を支える事を誇りに思っていたと思ったのに……ぃ!」

 

 ……やっぱ、こういうのは見るのも聞くのも好きじゃねえ。

 

 なあ、リムヴァンにリゼヴィム。あんたらはこういう事を起こすのが楽しいのか? この涙を見て、ざまぁとかいえるのか?

 

 だったらいいぜ。俺も遠慮はしない。

 

 赤龍帝を怒らせて、ただで済むと思ってんじゃねえぞ……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




英雄として一歩成長したリセス。悲劇を間接的に知って怒りに燃えるイッセー。

吸血鬼の里での戦いは終わり、そしてついにあのチームが結成します。


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第六章 30

だいぶお待たせいたしました。


 

 ルーマニアでの大惨事から数日後。俺達は集まって会議をする事になった。

 

 オカ研のいつものメンバーや生徒会だけじゃねえ。

 

 冥界からはサイラオーグさんとシーグヴァイラ・アガレスが眷属を連れて参加。つい最近知り合ったデュリオや幾瀬さん、グリゼルダさんも参加。更に闘戦勝仏様は愚か、ヴァーリチームまで参加している。

 

 ま、これから起きる事を考えりゃ当然だな。

 

 あの後、ヴィクターは堂々とカーミラの占領を戦果として報道。同時に、トライヘキサの存在を公表して、本格的な侵攻を始める準備が進んでるって公表しやがった。

 

 当然各国は大混乱。今じゃパニクってヴィクターにつけと暴動を起こす連中もさらに出てきたって話だ。

 

 各神話もかなり警戒度が高まっている。これもまあそうだろう。

 

 内輪もめで大打撃を受けたりしたと思ったら、逃げ場をなくされたとは言ってもハーデスという大物の神がヴィクターに参加。さらに吸血鬼の大御所であるカーミラで男性主体の政権が設立されたうえで参加。とどめにトライヘキサの存在の公表が出たもんだ。

 

 冗談抜きで緊急事態だ。どの勢力も対応に追われているところがある。

 

「それで、上はなんて言ってるの?」

 

「どこも無視できないって状態だな。これまで第三勢力側だった連中からも、トライヘキサに限定して同盟を結んでもいいってお達しが出たぐらいだ」

 

 お嬢の質問にアザゼルはそう答える。

 

 確かにな。トライヘキサが本当にグレートレッドと同格なら、オーフィスを失った穴を十分に埋めれる。リリスと組み合わせればむしろ過剰戦力なぐらいだ。

 

 神クラスでも流石に警戒するだろう。それ位の緊急事態だ。

 

 しかも、その前哨戦とでもいうべき戦いで奴らはカーミラを制圧する事に成功した。

 

 ツェペシュも他の勢力の庇護を受けなければいけないほどに疲弊している。今はカーミラから脱出した派閥の奴らと連携を取って、何とか最小限にしようって形だな。

 

「一部の神話からは武力による介入も辞さないと、過激な発言も出てきている。オーディンやゼウスの爺さんが抑えてるが、これ以上被害が出るとどうなるかわからねえ」

 

「そうね。ここで前ルシファーの息子まで出てきているもの。旧魔王派とか活気づくんじゃないかしら?」

 

 アザゼル先生の説明に、姐さんも相当危険視してるようだ。

 

 ああ~。そういえばその可能性があったな。なんたってルシファーの末裔だもんな、あの爺さん。

 

 しかも神の作りし神器の天敵。好戦的な悪魔からしたら、カリスマ性がシャレにならねえな。

 

「もしトライヘキサの封印が解放されたら窮地以外の何物でもねえ。最悪の場合、グレートレッドとガチ勝負をして全世界の崩壊も十分に考えられるからな」

 

『『『『『『『『『『―――ッ!?』』』』』』』』』』

 

 俺達全員が絶句する事を、アザゼル先生は言い放った。

 

 マジかよ。そんなレベルの化け物だってのか、グレートレッドは。

 

 いや、ヴィクターはグレートレッドと敵対する可能性は考えても、積極的に敵対する事はしないだろう。

 

 あいつらの目的は世界の覇権だ。だから、世界そのものを崩壊させるとは思えないが……。

 

「最悪、そうなる可能性はありますね」

 

 生徒会長が眼鏡を直しながら、冷や汗を流す。

 

「彼らの世界制覇のやり方にもよりますが、意外とグレートレッドも愉快な性格でしたし、何が切っ掛けで機嫌を悪くするか分かりません」

 

「なるほど。その際、なだめるのではなくいっそのこと排除という結論には至りそうですね」

 

 会長の言葉にシーグヴァイラさんが頷いた。

 

 乾いた笑いを漏らす奴が何人か出てくる。それ位には最悪の展開だった。

 

 イッセー達も苦い顔してやがる。ま、確かにそうだがな。

 

 事実上のヴィクターのツートップが、両方とも悪魔なんだ。もうイメージが最悪だろこれ。

 

 そんなイッセーの肩にアザゼル先生が手を置いた。

 

「そんな顔すんなよ。俺達が他勢力の攻撃を受けるわけじゃねえ。共通の敵の脅威度が跳ね上がったのが問題なだけさ」

 

「ミカエル様も主の代行として、他勢力と交渉しています。暴発しかけた勢力の中にはそれで落ち着いたもの出ています」

 

 グリゼルダさんがそんな安心させることを言ってくれる。

 

 流石はミカエル様だ。長年天界をまとめてきた手腕は伊達じゃねえな。

 

 で、そのためだけに俺たちを呼び出したわけでもないだろ?

 

「先生。で、本題はここから……だよな?」

 

「ああ。各勢力の首脳から提案があってな。対ヴィクター用の特殊部隊を新たに設立する事になった」

 

 対テロ用の特殊部隊か。

 

 むしろ今まで合同で組織されてない方がおかしいわな。

 

 全員がその言葉に耳を傾けて注目する。

 

「ま、どこの勢力も当然警戒してるわけだが、どこの神話の強い連中も、自分からテロにぶつかりに行けるような立場じゃねえのが殆どだ。そこで、フットワークが軽くてかつ魔王クラスですら警戒するレベルの戦力を集め、共同戦線を張ることになった」

 

 ド正論だな。

 

 ヴィクターの計画を阻止する為にも、万が一発動を許して対抗するにしても、カウンターウェポンは要した方がいい。

 

 で、そのメンバーは誰かってのも分かる。

 

 だって、態々こんだけの連中を直接呼び出してそんな話をするんだから―

 

「ま、つまりはお前達が混成チームのメンバーになるって話だ。実力が高い上に動きやすいメンツがそろっている」

 

 ま、先生の言う通りだ。

 

 若手四王、アザゼル先生に刃狗、転生天使三名、初代孫悟空、そして三大勢力合同エージェントの俺達。

 

 とどめに、神器に封印されてるやつも含めれば龍王以上のドラゴンが五体もいる。

 

 まず間違いなく、各勢力の上から数えた方が圧倒的に早い精鋭部隊だろう。若手だらけなのがあれな話だがな。

 

「私は賛成よ。こういう時こそ協力するべきだわ」

 

 お嬢が賛成して、皆も頷いた。

 

 これまたすごいことになってきたな。あの孫悟空とまで共闘するなんてよ。

 

 ガキができたら自慢話だ。

 

 ……結婚、できるかなぁ。

 

 俺が別方向で悩みを抱いていると、デュリオが首を捻っていた。

 

「なんだ? なんか不満か?」

 

 アザゼル先生の言葉に、デュリオはそういう意味じゃないと手を振りながらも首を捻っていた。

 

「いや、名前が必要じゃないかなーって思って」

 

 あ、なるほど。

 

「リセス・イドアルと立派な仲間達で」

 

「ヒロイ。それ、冗談半分でしょうけど恥ずかしいからやめて。……美少女率高いし、キューティ・ハンターとか」

 

「お姉様、野郎どもに悪いっす。……聖杯奪還も仕事の内だから、セフィロトとか?」

 

 ペト、それは逆にこんがらがる。幽世の聖杯(セフィロト・グラール)と被ってる。

 

 いや、確かにヴィクターに対抗する為の部隊なんだから、表舞台にも出るかもしれねえ。

 

 何ていうか、名前ってのは重要だよな……。

 

「……D×D」

 

 と、小猫ちゃんが呟いた。

 

 視線が一斉に集まる中、小猫ちゃんが少しどもる。

 

「いえ、異業達の混成チームなので、デビルだったりドラゴンだったり……。あと、堕天使の堕天でダウンフォールとか、いろいろ……」

 

 しどろもどろになる小猫ちゃんだが、それを聞いてアザゼル先生はうんうんと頷いた。

 

「確かに名前は必要だな。グレートレッド級のトライヘキサも念頭に置いた部隊だから、D×Dってのは分かり易い」

 

「俺は良いと思いますよ? 無難でいいんじゃないすか?」

 

 と、デュリオ。

 

 俺も賛成だな。シンプルだけどかっこいい。

 

 最年長の初代孫悟空どのはどう反応するんだろうか。

 

「儂はその辺はどうでもいいさね、若いもんに任せるわい」

 

 なるほど、特に気にしないと。

 

 ってことで、特殊部隊の名前は「D×D」になった。

 

「でも大丈夫なんですか? こういうのって、色んな勢力から睨まれるんじゃないですかね?」

 

「その辺は今更だろ。状況的に仕方ねえんだから気にすんな」

 

 などと、イッセーとアザゼル先生との間で会話が始まる。

 

 まあ、こういう時に限って足を引っ張る輩は少なからず出てくるからな。いちいち気にするのもあれか。

 

「……それなら魔法の大義名分をあたえよう。リアスのおっぱいを見ろ」

 

 ……それが何の大義名分になるんだ?

 

 っていうかイッセー。ガン見すんな。

 

 お前、いつも毎日のごとく生で見てんだろうが。こういう時でも見るのやめようぜ?

 

 なんとなく生暖かい視線が大量に発生する中、アザゼルはイッセーに言い放つ。

 

「どうだ、正義になった気がしてこねえか?」

 

「……そうですね! 正義です!! おっぱいは正義です!!」

 

「よし! 話前に進めよう!!」

 

 これは聞いてたら頭が痛くなる奴だ!! スルー必須だ!!

 

 とりあえず、対ヴィクター対策チームD×Dが結成したって事でいいだろ!!

 

「次行こうぜ! 指揮官はやっぱり初代孫悟空殿かアザゼル先生だよな!?」

 

「いや、デュリオでいこう」

 

 即答だった。

 

 ちなみになんか無音になったので、なんとなく全員がリーダーに指名されたデュリオを向く。

 

 デュリオはゆっくりと皆の視線を見直して、そして指を自分に向け―

 

「なんでぇえええええええ!?」

 

 かなり驚いてるな。

 

「リーダーなら闘戦勝仏様がやればいいじゃないっすか! 俺、天使になりたての若手っすよ!? 元総督がやるのもありじゃないですか!!」

 

「いや、三大勢力が中心で編成されてるからそれ以外からリーダーを用意するのはまずい。ついでに言うと悪魔や堕天使は悪役イメージが固まってるから、人間から天使になったお前が一番イメージがいい。頑張れリーダー」

 

 なんか強引な理屈だが、言いたい事は分かる。

 

 確かに、人間から天使になったって来歴なら、表社会で活動する時人間に受けがいいからな。

 

「じゃ、じゃあグリゼルダの姐さんで―」

 

「デュリオ? これだけ名誉なことを断るとはどういうことですか。堕天使元総督からの直々の指名を断るなど……却下です、やりなさい」

 

 命令されたよ。

 

 この人怖い。極力関わらねえ様にしよう。

 

 そういえば、ゼノヴィアも結構ビビってたな。その手の鬼教官とかやってたんだろうか。

 

「うう、姉さんには敵わないなぁ。分かりましたぁ! やりますですはい!!」

 

 そんな感じで祭り上げられたデュリオは、改めてみんなの前で挨拶した。

 

「そんなわけでリーダーになっちゃったデュリオです。よろしくです」

 

「あの、もう少しやる気になってくれない?」

 

 姐さんからツッコミが飛んできたよ。

 

「じゃあ、リセスさんがやれば―」

 

「リセスは無理だからな。グレモリーとバアルのレーティングゲームで醜聞をさらしたのがキツイ」

 

 アザゼル先生からの残酷な事実に、デュリオと姐さんがど同時に崩れ落ちた。

 

「うぅ……。俺、そんな面倒なのパスでいきたいのに」

 

「分かったてたけど、分かってたけど……っ」

 

 ドンマイ。二人とも。

 

 まあ、立ち位置的にも実力的にも十分なんだ。その辺は俺達でフォローすればいいか。

 

 で、初代に関しては―

 

「初代はサブリーダーを務めてもらいたい。復職で申し訳ないが……」

 

「別にええわい。こういうのは若いもんが頭になる方がええ。おいぼれはケツ持ちに徹するわい」

 

 天界の切り札がリーダーで孫悟空がサブリーダーか。

 

 この時点で凄まじいな。俺もメンバーの一員として頑張らねえとな。

 

「ちなみにヴァーリ。俺はお前達をこのチームに参加させるべきだと主張している。それでお前らへの不信感を減らすつもりだ」

 

 ああ、確かに。

 

 こいつらヴィクターの一員だったからな。どこの勢力も危険視しているだろう。

 

 一種の懲罰部隊か。

 

 ま、戦力的には問題ないな。むしろ必須だろう。

 

「アルビオン。俺は別に構わないが、宿敵と組むことに不満はあるか?」

 

 確かに、アルビオンとドライグの意見はちゃんと聞いた方がいいな。

 

 長年敵対してきた宿敵同士だ。思うところはあるんだろうし―

 

『まったく構わん』

 

 すごいオールオッケー!?

 

『それより、赤いのと千年前の戦いについて語りたいな』

 

『ああ。そうだな白いの。昔話は楽しいなー』

 

『『なー!』』

 

 すいません。今、世界の命運がかかった大事な話し合いの真っ最中何ですが。

 

 普段からあまり喋らないからスルーしてたけど、お前ら何してんの!?

 

 ドラゴンってのはマイペースな連中ばっかりか!! オーフィスも今頃うえでお菓子食ってんだろうしな!!

 

「こんなところで永い間続いた二天龍の因縁に決着がつくとはな……」

 

 サイラオーグさんが首傾げてるが、気持ちは分かる。

 

 っていうか、その発端がイッセーがお嬢の乳首をつついて禁手に至ったことが原因とか。……昔の俺たちが聞いても絶対信じねえ。

 

 染まったなぁ、俺。

 

「ですが、ヴァーリ・ルシファーチームがヴィクターの構成員だった事は大きいのでは」

 

 生徒会長が懸念を言う。

 

 確かに。こいつら一応ヴィクターの一員だったからな。

 

「それに関しては、発信器を常時携帯するという事で最低限の形は整えてる。ついでに監視役も派遣されてるからな」

 

 監視役?

 

「煩わしいのは苦手なんだが」

 

「無茶言うな。お前が盗撮に一役買った所為で、教会は大打撃受けまくりなんだ。……これが飲まれなかった場合、デッドオアアライブでまずお前らを無力化するように各勢力からも言われてんだよ」

 

 あ、流石にヘイトはでかかったか。

 

 まあ、教会からすれば大惨事を巻き起こした元凶だからな。そりゃヘイトも高い。

 

 で、その監視役は一体……?

 

「じゃ、入ってこい」

 

「はい!」

 

 と、元気よく声が聞こえて、その方向に俺が視線を向け―

 

 その瞬間、槍の穂先が突撃と共にヴァーリに突き出された。

 

 それをヴァーリは瞬時に飛び退って躱し……かと思えば、首元に切っ先が突き付けられている。

 

「……久しぶりね。その節は迷惑をかけたわ、赤龍帝」

 

 ………誰?

 

「あ、ラシアとか言った悪魔祓いの人!!」

 

 イッセー。誰?

 

 いや、ホントに知らない。誰か教えてくれない?

 

「イッセー君が乳語翻訳を使って説得した、離反した悪魔祓いだよ」

 

 あ、木場ありがと。

 

「一応言っとくけど、私を経由して更に監視がされてるから。上が危険と判断したら、私ごと吹き飛ぶと思いなさい」

 

「それは怖い。というより、そんなことをされて君は良いのかい?」

 

 なんか物騒な会話が聞こえてるんだが。

 

「ま、自業自得よ。ちなみにこの槍はジェルジオ。サマエルの毒すら使って打ち直された、ゲオルギウスの龍殺しの槍よ」

 

「……ぜひ手合わせを願いたい。事態が解決したらでいいから」

 

 ヴァーリの闘争本能に火が付きやがった。

 

 すいません。此処でバトルが始まりそうなんですがいいんですか?

 

「ま、それはおいおいって事でだが。同時にオーディンの爺さんが全て承知でヴァーリを養子として迎えたいと申し出てきた」

 

 あ、更にもう一押しあるのか。

 

 でも、いいのか?

 

「貴方は立候補しないの? 仮にも育ての親でしょう?」

 

 姐さんの言う通りだ。

 

 ヴァーリを育ててきたって意味なら、アザゼル先生に一日の長ってのがあると思うんだが。

 

 だが、アザゼル先生は首を横に振った。

 

「いや、悪魔や堕天使だと体裁が悪いから、ヴァーリの減刑には役に立たねえ、それよりオーディンのジジイの方が、腐っても主神だから他の連中からも文句が出にくいだろうしな。……で、答えはどうだ、ヴァーリ」

 

 これ、ヴァーリが断ったら最初の仕事がヴァーリ退治になるんだよな?

 

 勘弁してくれ。極覇龍とやり合うには流石に覚悟ができてねえぞ。

 

 俺たちの視線を受けて、ヴァーリは少しだけ考え―

 

「……利害の一致している間は協力しよう。ただし、監視は受け入れるからリゼヴィム探しに集中させてくれ」

 

「オーライ。上には「一応了承してくれた」ってことで伝えとくよ」

 

 何ていうかめんどくさい答え方だな。

 

 素直にOKでいいだろうに。めんどくせえ。

 

 だがまあ、魔王の末裔で主神の養子か。すごい肩書だな、こいつ。

 

「黒歌とルフェイは基本的にそちらに預ける。こちらで必要になった時に呼ぶが、それまでそちらで好きに使うといい。……二人とも、それでいいか?」

 

「了解にゃん♪」

 

 黒歌が敬礼ポーズで、ヴァーリの指示を受け入れた。

 

 ポーズが可愛いのが妙にむかつく。

 

 俺がむかついていると、アーサーがルフェイに顔を向けた。

 

「ルフェイ」

 

「何ですか、お兄さま」

 

「いい機会です、あなたはこのチームに参加して恩赦を受けるべきです。それと……赤龍帝」

 

 と、イッセーにそのまま視線を送るアーサー。

 

「なんですか?」

 

「ちょうどこの時期に悪魔は魔法使いと契約すると聞いています。妹を家に戻すためにも、あなたに契約していただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 ……ふむ。妹想いのいいお兄ちゃんだが―

 

「裏があったら狙撃するっすよ?」

 

「絶対にないと誓いましょう。あったらコールブランドをあなたに捧げてもいい」

 

 最強の脅し役がいるから、本当に裏はないだろう。

 

「そ、狙撃!? 狙撃が来るの!?」

 

「黒歌、しっかりしなさい!!」

 

「姉様!!」

 

 黒歌まで恐怖症を発生して、姐さんと小猫ちゃんに介抱されてるし!!

 

 ちなみに、魔法使いの契約としてはイッセーは良いのがいなかったのでこれはOKになった。

 

 さて、これで一通りの順には整ったわけだな。

 

「んじゃまあ、結成記念で実力確認の模擬戦でもするか。終わったらピザでも取って結成記念パーティーでもしようぜ?」

 

 俺は聖槍を出しながら、そう提案した。

 

 お互いの実力を肌で感じるのも必要だしな。それに、親睦会は開くべきだろう。

 

「お、良いねそれ!! 俺、これでも料理が趣味なんだよ。美味しいの作るよー!」

 

 おお、マジかデュリオ。

 

 ピザだけってのも健康に悪いからな。野菜料理を頼むぜ!!

 

「そいつは良いねぃ。それにお前さん達を鍛えるのは儂の役目になりそうじゃからな」

 

「というと?」

 

 一歩前に出た初代に、お嬢が聞く。

 

「聖槍の坊主クラスの奴らを相手するなら、全員が上級クラス位には到達せんと話にならん。エース格は全員最上級クラスは必須じゃしのぉ」

 

 なるほど正論だ。

 

「ふむ、俺の極覇龍は既に主神クラスに届いている自信があるのだが―」

 

「それで聖槍の坊主と勝負して、ガス欠でリタイアしたんじゃろうに」

 

 自慢したヴァーリに、容赦のない初代のダメ出しが襲う。

 

 何とも言えない表情を浮かべたヴァーリの肩を、初代がポンポンと叩く。

 

「まあ、伸びしろがあるんならまずは持続力からじゃな。数時間は出せるようにならんと、主神クラスを倒すのは夢のまた夢じゃぜい?」

 

 なるほど、持続力か。

 

 短期決戦で決着がつくなら当然それがいいが、長丁場になることもあるからな。

 

 ……ランニングから、始めるかねぇ。

 

 ま、それはともかく。

 

 ……リムヴァン。そしてリゼヴィム。

 

 こっちだってやられっぱなしじゃねえってことだ。隙を見せたらその一瞬でのど元に食らいついてやるから、覚悟しときな。

 




とりあえずD×D結成ですね。

あと、ヴァーリはさすがに監視役が付きました。当人としては文句あるでしょうけど、この馬鹿が中継したせいででかすぎる被害が出てるのでむしろ甘すぎる処置ではあります。まあ、いつでも自爆させてもろとも殺せる監視役を派遣する当たり、かなり警戒してますが。









因みに今難産状態です。……アウロス学園の描写が大変で大変で。

なので次の投稿はだいぶ遅れるかもしれません。ご了承ください。









因みに書き忘れていたのでここでひとつ説明を。

……リムヴァンの名前の由来は、リゼヴィム・リヴァンの略称です。根っこがリゼヴィムと非常に近しいことを暗に示していました。気づいた方どれだけいたかな~


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第六章 31 案外想定できる奴は多いてきなはなし

ヴァルキリー編にようやく突入します。最近絶不調だったけど少しずつ書けるようになりました。

といっても、今回はヴァルキリー編のプロローグみたいなものなのですが。


 そんなこんなで俺達も特殊部隊の一員となった。それも、世界の命運すら左右しかねない超精鋭部隊の一員だ。

 

 だけど、そんな俺たちも一介の学生でもある。普段は特訓しながらとは言え、学生生活を送っている。

 

「で、どうだったよ」

 

「期末テストの点数は!」

 

 と、松田と元浜が声をかけてくる。

 

 そんなこいつらに、俺は速攻で点数が書かれている紙を見せた。

 

 ……平均点は90点台後半と言っておこう。

 

「くそ! この野郎結構忙しい身分のくせして、何で勉強ができるんだよ!? うらやましい!!」

 

 思わず全力で悔しがる松田に、俺は得意げにふふんと笑った。

 

「授業真面目に聞いて予習復習してりゃぁ、テストなんて難しくねえよ」

 

 ああ、俺は確かに忙しいが、別にテスト前に詰め込んだりしねえからな。それじゃあ授業でどれだけ身に着けたかわからねえしよ。

 

 俺は勉強は好きなんだよ。趣味と言ってもいいぜ、マジで。

 

 だってストリートチルドレン時代は勉学なんて欠片もできなかったしな。自分が恵まれてるって分かってるから、それを活かしたいとも思う。ま、これも環境の違いってやつだ。

 

「くそ。お前、一応この学園や街の用心棒じゃなかったのかよ。仕事は出来てるんだろうな、オイ!!」

 

「当たり前だ。つい最近ルーマニアで大暴れしてきたっての。敵の精鋭を撤退に追い込むのに尽力したっての」

 

 元浜の八つ当たりをサラリと受け流しながら、俺はノートを見て簡単な予習を終わらせる。

 

 授業前に前の授業で受けた内容の少し先を見とくだけでも、結構変わるもんだからな。こういう小さな積み重ねが、のちのテストの高得点に繋がるのさ。

 

 ついでに言うと、俺がこの街の用心棒や有事の際の別動隊として動いている事はもう皆知っている。

 

 そっちの方が動く時に楽だからな。いざという時、避難を進める際に効果的でもあるからよ。

 

 ま、そういうわけで俺達は日夜生活を楽しみながら、しかし今まで以上に訓練に励んでいるわけだ。

 

 なんたって、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーと伝説の邪龍たち何てやばいのが新たに関わってきやがったからな。

 

 その戦闘能力は龍王クラス。クロウ・クルワッハは天龍クラスにまで能力を高めたらしい。そのくせ量産型の邪龍も、割と強敵だ。

 

 リゼヴィムの相手は初代孫悟空やアザゼル先生に任せるほかねえが、それ以外の邪龍の相手ぐらいはきちんとやっとかねえとやってられねえ。それがD×Dとしての役目ってやつだ。

 

 ああ、それ位はきちんとやっとかねえとな。

 

「ああ、そうだ。イッセー達にも聞いたんだが、聞いていいか?」

 

 なんだよ元浜。何かあったのか?

 

 まだ正体を明かしていないイッセーにまで言うってことは、何か別件でややこしいことになったのか?

 

 ふむ、変な連中に絡まれているってんなら、俺が叩きのめせば済む話なんだが―

 

「ロスヴァイセちゃん、何かあったのか?」

 

 ……あぁ~。それか~

 

 最近、ロスヴァイセさんがややこしいことになっている。

 

「なんか図書室で聖書とかについて書かれた本を読んでるところを見てな。最近悩んでるっぽいし、気になってな」

 

 元浜、お前意外と人見てるな。

 

 っていうか聖書について書かれた本ってオイ。ロスヴァイセさん、あんた悪魔だろ。読んで浄化されたりしないだろうなぁ。

 

 まあ、それはともかくどうしたもんか。

 

 俺やゼノヴィア、イリナが教会関係者なのは既に知られてる。ゼノヴィアとイリナが俺まで巻き込んでばらしやがったからな。

 

 レイヴェルに関しても知れ渡ってる。なにせヴィクターがばらしてくれやがったからな。ま、こっちに関しちゃクラスメイトや二年生が総出でフォローに回ってるから、問題にはなっちゃいない。

 

「っていうか、イッセーの奴は何処まで関わってるんだ? たぶん、ロスヴァイセちゃんもそっち関係なんだろ?」

 

 俺は勢いよく頭を机にぶつけた。

 

 頬杖をついてたのがまずかったな。力配分を間違えてずり落ちちまった。

 

 っていうかなんで知ってる!?

 

「……いや、レイヴェルちゃんやお前やゼノヴィアやイリナちゃんがホームステイしてるってことは、イッセーの家ってつまり、そういうこったろ?」

 

 松田のド正論が俺の心をぶちのめした。

 

 言われてみればその通りだ。俺もゼノヴィアもイリナもレイヴェルもイッセーの家に下宿してるんだ。それもめちゃくちゃな改装までしてだ。

 

 その面子が異形関係者なのは既に知られている事実だ。当然分かるだろう。

 

 そりゃ繋がりを察するよな。誰だって気づく。

 

「……詳しい事は守秘義務があるが、イッセーがちょっとヴィクター結成前から深入りしちまってな。その縁で駒王学園の関係者の何割かが下宿する事になったんだ」

 

「「なるほどなぁ」」

 

 俺が何とかあたりさわりのない言葉で説明すると、二人は納得したのかうんうんと頷いた。

 

「つまり、ロスヴァイセちゃんの悩みもそっち関係か?」

 

「あ、ああ。ほら、ヴィクターが本格侵攻のための魔獣を確保したって演説あっただろ? その件でロスヴァイセさんもちょっと対策に関わることになってな」

 

 元浜の眼鏡キラーンにちょっと気遅れしながら、俺はちょっと気になった。

 

 あれ? イッセーのことは良いのか?

 

「ツーかお前ら、イッセーについて深入りしねえのかよ」

 

 昔からのダチが深入りした事について、もっと気になる事はねえのか?

 

 俺は本気でそう思ったが、2人は何を言ってんだお前という顔をしていた。

 

「いや、俺達が知る必要あるなら、イッセーの奴はきちんと話すだろ」

 

「気にはなるが、まああいつが俺たちのダチであることに変わりないしな」

 

 ……イッセーの奴、いい友達持ったなぁ。

 

 これで変態でなければ、モテモテ街道をまっしぐらだろうに。なんて惜しい奴だ。

 

 いや、イッセーは何でモテモテ街道まっしぐらなんだ。何かがおかしいんじゃねえか?

 

 ま、まあそれはともかく。

 

「ま、そういうわけでこっちもいろいろ大変でな。イッセーも付き合わされて冬休みは遊べねえだろうが、そこんところの理解は頼むぜ」

 

「仕方ねえな。年明けはヤ○部屋で乱○パーティの予定なんだが」

 

「イッセーやおまえの分も楽しんでやるぜ!!」

 

 待てコラァ!! 俺は参加するからな!? いや、年末年始はD×Dで親睦会するべきか?

 

 あ、そうなったら姉さんもペトも参加しねえか。つまりこいつらはヤ○部屋で姐さんとペトを味わえないと。ざまぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ま、その前にいろいろとやることは多いんだけどな。

 




本当に短めですごめんなさい。


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第六章 32

……ちょくちょく努力パートを挟んでいるのがD×Dのいいところだと思うんですよ、自分。

なんだかんだで積み重ねがきちんとあるのがわかるのがいいです。自分はそういうのが苦手だからこそ逆に感情移入できます。


 

 俺達は、対ヴィクターの対抗チームとしてついに結成した。

 

 ヴィクターの連中が、時期こそ明白にしてないが本格的な侵攻準備が整い始めていることを表明したからな。そのあたりを考えると、こっちも本格的に準備が必要なわけだ。

 

 形だけでも作っておかないと民衆が不安がる。それに、実際に用意していると責任問題を追及しやすい。実際戦力としては精鋭揃いな上にフットワークの軽い部類が多いから、実働体としては十分だ。

 

 こんな組織に選ばれたのも、俺達が頑張って成果を上げてきたからだな。

 

 これで俺達がヴィクターに勝てば、俺達は名実ともに英雄ってわけだ。戦争突入に不安がる民衆の心を照らす輝きとしても、民衆が褒め称える世間一般のイメージのヒーローとしてもな。

 

 だが、そのためには修行が不可欠。

 

 なにせ現在の仮想敵は、邪龍監督部隊クリフォト。

 

 幽世の聖杯(セフィロト・グラール)を悪用し、滅びた伝説の邪龍を復活させた量産型の邪龍を量産したり。とにかくやりたい放題やってる面倒な組織だ。雑魚からネームド迄強敵となるだろうドラゴンが揃ってやがる。

 

 そしてそのボスは、超越者リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。あのサーゼクス様やアジュカ様、そしてリムヴァンと並び立つ超越者。しかも能力は神器を無効化する神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)

 

 うちの主力はどいつもこいつも神器持ちだから、相手をするとなると最終的に初代孫悟空に任せるしかない。もっとも、リムヴァンはリゼヴィムに通用するらしく、リゼヴィム自身も「力押しできる」と言っていたが。

 

 まあ、前座の邪龍共をどうにかするのも大変だ。前座で出てきたグレンデルですら紅の鎧状態のイッセーと同格、すなわち龍王級。最強クラスのクロウ・クルワッハは全盛期の天龍に迫るか超えるかしているという化物だ。

 

 どちらにしても、主力である神滅具持ちの俺達は鍛えるほかねえ。最低でも一対一で天龍クラスを足止めできるレベルだな。理想像としては、神器無効化能力の突破だろうよ。

 

 ツーわけで、俺達は大絶賛特訓してる。

 

「……だぁああああ!! 全然上手くいかねえ!!」

 

 と、イッセーが絶叫を上げる。

 

 今イッセーがやっているのは、紅の鎧状態でほぼ同じ威力の攻撃を、何度も放つ訓練だ。

 

 どうもイッセー。その辺りをどんぶり勘定でやっていたらしい。当人としてはそこそこ考えて出力調整をやっていたみたいだが、初代からはダメだしされた。

 

 十回やって十回ともほぼ同じ威力というのが条件なんだが、連発するにつれてついつい乗ってしまうのか、威力が高くなってアウト。かといって制御しようと集中しすぎると加減しすぎてアウトだ。目も当てられん。

 

 ま、こういうのは経験が大事だからな。まだ実戦に関わってから一年足らずで簡単にやれることじゃねえ。

 

「当たらないものだな……っ」

 

「まあ、当たったら儂も一発で終わりそうじゃしのぉ」

 

 ちなみにヴァーリは初代とのワンツーマンの実践訓練。こちらに関してもオーラを必要な時に必要な場所に使うことを重点的に鍛えている。

 

 ……明らかに別格のバトルが繰り広げられてやがる。しかも初代が終始優勢というか余裕を見せて動いているのがビビる。

 

 流石伝説の仏。須弥山から直々に送り込まれたのは伊達じゃねえ。

 

「……これを常態っていうのは、中々大変ね」

 

 で、姉さんは逆に全身に一定量のオーラを纏って、瞑想している。

 

 これに関しては姐さんの自主トレだ。半分ぐらい自分で要望を出して、初代がそのアドバイスをした感じだな。

 

 イッセーにしろヴァーリにしろ、継戦能力を重視して、今まで垂れ流しにしてきたオーラを極限まで絞る形で鍛えている。これまでの場合は無駄にオーラを消耗して、体力も消耗しているからだ。

 

 一方、姐さんはそのあたりはほぼ完ぺきにできていると褒められた。

 

『文献便りの我流でそこまで出来りゃぁ上の上じゃ。今更儂が指摘しても、こじれて逆効果になりかねんわい』

 

 とまぁ、大絶賛。

 

 もとから近距離の属性支配に関しては歴代でも高い部類だったそうだしな。クロスレンジじゃ神器の量もあって、デュリオを完封できるレベルだし。

 

 なので天候操作を中心に移行するべきかって話になったんだが、姐さんからオーダーが来た。

 

『……想定外の事態が起こるのは当たり前でしょう? そういう時の保険をかけておきたいのよ』

 

 すなわち、イッセー達とは逆に全身にオーラを纏って防御を高めたいと。

 

 イッセー達に関する指導は、全身にオーラというフィールドを張るのではなく、必要なところにのみオーラを展開して、燃費をよくすることだ。

 

 だが、姐さんは逆の方向を選びたいといった。燃費が悪くても、戦闘中の防備を固めたいと。

 

『何が起きるか分からないもの。何が起こってもいい状態で戦闘に臨みたいじゃない。……ニエが絡むと、どうしても冷静さを保っていられる自信がないのよ』

 

 まあ、戦場で想定外のことが起きるのは当たり前だよな。流れ弾とかまで常に意識を向けれるわけでもないし。

 

 そういう意味じゃあ、元から鎧を纏って頑丈なイッセーやヴァーリとは違う観点だった。

 

『おすすめはせんが、それが望みっつーなら仕方ないのぅ』

 

 初代は姐さんの意を組んでくれて、メニューも真剣に組んでくれた。

 

 姐さんは煌天雷獄の力を全身に膜として纏うことで、防御力を高める方向で鍛えているってことだ。

 

 これに関しては反対意見もあった。煌天雷獄は広範囲殲滅などに真価を発揮する神滅具だから、それを活かすべきだと。

 

 でもまあ、最終的に「リセス・イドアルはクロスレンジの一対一が基本だから、そこは崩さない」で決まった。

 

 下手に方針を急変換しても、ついていけないことがあるからな。ここでバランス崩して弱体化するリスクを負うよりはいいだろうということだ。

 

 もっとも、一応天候操作の能力そのものは今までより練習することになったそうだけどな。

 

 で、俺がどうしてるかというとだ。

 

「……実戦で使うにゃ、まだこれはキツイな」

 

 その場で反復横跳びなどをして、体の調子を確認している。

 

 今の俺も、ある意味姐さんと同様だ。

 

 初代からは、瞬間的な出力の引き出し関係はそこそこ高評価をもらった。少なくともイッセーやヴァーリより格上だと。

 

『槍王の型が功を奏したんだろうよ。あれはまさに「瞬間的に出力を上げる」の典型じゃからな』

 

 確かにそうだ。槍王の型は、常態で十の出力なのを、一気に百にまで押し上げる技だからな。

 

 それを練習してれば、要所要所でのオーラの展開は慣れるだろ。俺の防御も必要な場所にホンダブレードを展開する方向だし。

 

 だが、逆にそれが行き過ぎてるとツッコミを喰らっちまった。

 

『結局は白龍皇の坊主と同じ一発勝負に特化しとるのが問題じゃ。お前さんは煌天雷獄の姉ちゃんと同じで、通常時でもそれを出せるようにならんといかん』

 

 つっても不可能だと即座に反論したともさ。

 

 あんなもんに慣れるのは無理だ。ぶっちゃけ、一日の戦闘で二・三回が限度だ。それも、そのあとの戦闘を考慮してない状態での話。

 

 んな無茶振りすんなと当然怒ったが、そこは初代孫悟空。ちゃんと考えてた。

 

『じゃから、坊主の場合は出力を下げて常時使えるレベルに抑えた仕様を作れぃ。反射速度を十倍にするんじゃなく、数割上げる程度に抑えるんじゃ』

 

 なるほどなるほど。その手があったかと目から鱗が落ちたね。

 

 確かにその状態なら、少なくとも数時間は動かしてもいいだろう。

 

 無茶をしているのは事実だから戦闘中常にってわけにはいかねえだろうが、強敵の戦いで使う本気モードにする分には十分だ。

 

 槍王の型は瞬間的すぎるが、大幅に性能を下げることで必要時に連続使用できるレベルに迄立構えればいい。これはいい考えだな。

 

 龍槍の勇者と組み合わせれば、極覇龍状態のヴァーリ相手に防戦ぐらいはできるかもしれねえな。そうなれば曹操が相手でも善戦できるだろ。

 

 流石は歴戦の猛者。アザゼル先生とは違った方向で俺達を強くしてくれる。

 

 そんなこんなで練習してたら、ヴァーリと初代の模擬戦が終了した。

 

「……一発も当たらんとは、さすがに少し屈辱だな」

 

「まあ、わしの場合は一発でももらったら終わるからのぉ」

 

 その割には余裕の表情っすな、初代。

 

 とにかくそういうわけで、俺達は水分補給をしながらお互いに状況報告。

 

「……とりあえず常に意識をしていれば発動は楽になったわ。まあ、その分戦闘の動きにキレがなくなるんだけど」

 

「俺、全然上手くいかねえっす」

 

「まだまだ練習では極覇龍は使えそうにない。あの出力を維持できなければ話にならん敵が多いのだがな」

 

「俺も、実戦で使えるレベルには程遠いですぜ」

 

 俺ら全員、中々苦戦中だということが分かった。

 

 いつトライヘキサの封印が解けるかわからねえ中、これはちょっとまずいか?

 

 何て不安に駆られる俺だったが、初代は特に気にせずからからと笑った。

 

「気にすんな。どいつもこいつも、わしが教えた中じゃ成長が早い方じゃい。特に煌天雷獄の嬢ちゃんは、実戦で使えるレベルになっとるなら十分じゃ」

 

「つっても、いつ敵が仕掛けてくるか分かりませんぜ?」

 

 俺はそう言うが、初代はそんな俺の額を煙管で小突く。

 

「安心せい。修行で常時維持できるようになるぐらい慣れとるなら、それ抜きで実戦になった時でも体の動きはだいぶ変わる。むしろ、次の実戦でその辺りを実感すればコツが掴めるんじゃねえかい?」

 

 ……褒められてるのか。まあ、それは悪い気はしねえがな。

 

 その実戦ってのが、どんな難易度なのかが大変なんだよなぁ。

 

「つーか形になってるだけ羨ましいって。俺なんて今回全然成長できなかったし」

 

 と愚痴るのはイッセーだ。

 

 まあ、お前そういうの苦手そうだもんな。しかも戦闘訓練とか実戦経験とかも一年足らずだもんな。

 

 しかし、これまた初代は笑って済ませる。

 

「お前さんらは大まかにに出来りゃぁそれでいい。ドライグとアルビオンは今いないんじゃろう?」

 

「あ、はい。苦戦してるそうです」

 

 そうだ。ドライグとアルビオンは今不在だ。

 

 なんでも、歴代白龍皇の残留思念が結成した「赤龍帝被害者の会」の説得をしてるとか。

 

 訳が分からんとか言うなよな。俺だって頭抱えたくなったよ。

 

 イッセーがおっぱいおっぱいで進化遂げたり、おっぱいドラゴン何てヒーローになっちまったことが気に食わないらしい。歴代赤龍帝がおっぱい紳士になって変態な辞世の句を残したことを知ったら、どうなるんだろうか。

 

 その所為で、新しく使えるようになったあの白いドラゴンも不調気味なようだ。

 

 確か、白龍皇の妖精達(ディバイディング・ワイバーン・フェアリー)だったな。フェアリーというかサラマンダーだが、フェアリーチェスとかいうチェス用語に由来しているらしい。

 

 で、その説得の為にアルビオンが神器の深くに潜り、ドライグもサポートしてると。確かヴリトラも手伝ってるらしいな。

 

 ……伝説のドラゴンは苦労してるなぁ。

 

「そもそもお前さん達は、相棒と二人三脚でやってきたんじゃろうに。そうじゃない状態で全部やれなんて言うつもりはねえよ」

 

 初代の言う通りだな。

 

 赤龍帝の籠手や白龍皇の光翼の利点は、封印されたドラゴンの意志のサポートが受けられる点にある。

 

 そういえば、歴代の二天龍はドライグやアルビオンと深く対話したり対等の関係を築いたりしなかったらしい。

 

 案外、こいつらが急成長している理由はそこにあるのかもな。

 

 ……さて、と言ったものの……

 

 当分は、敵と戦いたくねえよなぁ。

 




 瞬間瞬間での出力集中による継続戦闘能力を強化する二天龍に対し、イレギュラーズW主人公であるヒロイとリセスは常時一定の出力を維持することによる常態での戦闘能力向上に主眼を置いてみました。

 どこの漫画で読んだのかあいまいですが「想定外のことが戦闘中に起きるのは当然だから、とにかく常時防御を固める」という方針を取っためちゃくちゃ強いオッサンが出てきた作品に感銘を受けたこともあって、リセスの場合はそれを意識してますね。

 ヒロイの場合はヒーローアカデミアのフルカウルが近いでしょうか。まあ、あれと違って意識して肉体の限界を超えた速度を発揮するので、厳密にはちょっと違うのですが。


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第六章 33

 

 

 そして敵と戦う前にもトラブルは頻発するもの。

 

 なんでもロスヴァイセさんのおばあさんが来る事になったらしい。

 

 もうそろそろ顔を出す予定のシトリーが作った学校。そこの特別講師として、そのゲンドゥルさんとやらが参加するそうで、そのついで的な感じだそうだ。

 

 また、ゲンドゥルさん以外にも何人もの魔法使いがその近くでフォーラムを行うらしい。トライヘキサ対策だとのこった。

 

 何でも前から666の研究をしてる連中だとか。ヴィクターの連中も封印解除の模索や封印解除の妨害の為、最近荒事が増えたらしい。

 

 で、万が一捉えられてもそれを悪用されないように、異形達の技術で封印をかける事を目的としているらしい。

 

 そんなこんなの理由で、そのゲンドゥルさんが来日。今はロスヴァイセさん達と話してる真っ最中だ。

 

 そんな中、俺達はめんどくさそうな展開っぽいので席を外している。

 

「……で? ロスヴァイセさんはイッセー君を彼氏ということにしたのかい?」

 

「みたいッス。なんでも、電話でつい「彼氏もできたから心配いらない」とか言っちゃったそうっすよ?」

 

 と、木場がお茶を出しながら俺達に聞いたので、お茶を飲みながらペトがそう答えた。

 

 まあ、同じオカルト研究部のメンバーなので、俺もペトも木場とギャスパーの住んでいるマンションにお邪魔してる形だ。

 

 言っとくが、最低限の礼儀としてお菓子ぐらいは持ってきたぞ。駅前で適当に見繕った。

 

「ヒロイ先輩とか祐斗先輩という選択肢もあったんじゃないでしょうか?」

 

 と、ギャスパーが首を傾げる。

 

 まあ確かに。言っちゃなんだが、イッセーはスケベすぎるから評判はいい方じゃないからなぁ。

 

 最近は空しくなるからということで覗きも控えめだが、それでも今までやってきたことがなくなったわけじゃねえ。

 

 最近はレイヴェルやギャスパーの面倒をよく見てるから、評判もだいぶ上がっている。特にイッセーの悪評をあまり聞いてない一年生からはそこそこ評価されてるようだ。そこはまあすごいだろう。

 

 だが、それでも覗きの常習犯なことは知れ渡ってるんだがな。

 

 そういう意味じゃあ学園のプリンスたる木場の方がいいだろう。まあ俺は下半身が緩い男として認識されているから微妙だがな。

 

 しかしロスヴァイセさんはイッセーを選んだ。

 

 これはつまり……。

 

「そういうことかねぇ」

 

「そういうことっすねぇ」

 

「そういうことだろうね」

 

「どういうことですか?」

 

 俺もペトも木場も納得して、ギャスパーが首を傾げる。

 

 いや、もう一つしかねえだろ。

 

「つまり、ロスヴァイセさんもイッセー君に好意を持っているってことだよ」

 

「まあ、目の前で大活躍してればそれはそうなるッスねぇ。基本良いやつっすから」

 

 うんうんと、ペトが木場の言葉に頷いた。

 

 同感だ。あいつはどうしようもない変態だが、同時にまず間違いなく立派な奴だ。

 

 そういう側面をよく見れる立場なオカルト研究部からしてみれば、アイツに好感を抱くのは納得だな。

 

 くそ、ちょっと羨ましいぞ。

 

「それで話は変わるけど、学園の方もすごい事になっているようだね」

 

 と、木場がそんな事を言ってきた。

 

 ああ、ソーナ会長が発案した学園だったな。

 

 確か、ヴァーリを返り討ちにした事もあって戦力増強を目的として動いているとか。

 

 まあ大活躍だったからな。あの手腕を上手く取り入れる事が出来れば、まず間違いなく強くなれる。上はそう踏んだんだろう。

 

 規模は小さめだがレーティングゲームの学部もきちんとある。その辺り、上層部の老害も少しは妥協したってこったろうな。少しは頭を柔らかくできて嬉しいぜ。

 

 だが、問題はその質だ。

 

 当初はアウロスという町に新たに建設するという話だったが、ヴィクターとの戦いが激化する事で方針を転換。より大規模に作る事にした。

 

 基本としては全寮制で、アウロスの近くにより大規模に学園として設立。悪魔なら能力や立場に関係なく、誰でも入学することができるという触れ込みで、大々的に募集している。

 

 一部の保守的な神話体系からも支援されているらしい。まあ、これは悪魔を矢面に立たせて自分達は楽をしようという発想なんだろうがな。理由はどうあれ支援があるのはいいことだ。

 

 兎にも角にもここからだろう。俺は人間だから深入りできねえが、足掛かりができただけでもだいぶ変わるだろうな。

 

 うん、頑張ってください、生徒会長。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか知らんが、イッセーがロスヴァイセさんとデートすることになった。

 

 更にややこしいことになって、色んな意味で面倒なことになったって考えるべきだろうな。これ、嘘は泥棒の始まりのきっかけになってねえか?

 

 まあ、それは俺には関係ないな。精々傍から楽しませてもらうとするか。

 

 などと考えながら、俺達はトレーニングを積んでいる。

 

 毎日の積み重ねは重要だ。建物だって、基礎をしっかり工事しておかねえと地震とかが起きると崩れちまうからな。

 

 そういうわけで、俺達は今実戦形式でトレーニングしていた。

 

「……ふっ!」

 

「……っと!」

 

 俺と姐さんは模擬戦を行っている。

 

 今回の目的は、初代孫悟空の指導のもと身につけた能力での戦闘の維持。

 

 ああ、これはかなり便利だな。動きがいつもよりもはるかに動きやすくなってる。これだけでもだいぶ変わるってもんだ。

 

 姐さんも頑丈になっている所為で、かすり傷程度ならつきそうなところも、全然通用しない。

 

 やってくれるな姐さん。どんどん強くなってるじゃねえか。

 

 ああ、俺も負けてられねえな。姐さんの輝き(英雄)として、負けてられねえ。

 

「そう簡単には負けねえぜ、姐さん!!」

 

「こっちのセリフよ、あなたの自慢(英雄)は弱くないわ!!」

 

 そして俺たちはテンションを上げ―

 

「はい、時間終了っすー! そこ迄っスよー!」

 

 と、時間を計っていたペトの掛け声で、動きを止めた。

 

「あらもうそんな時間?」

 

「2人とも楽しそうで羨ましいっす。ペトはセンスがないからすぐに型にはまるから、こういう模擬戦は参加できないので悔しいっす」

 

 ぶーっと頬を膨らませるペトをなでながら、姉さんはタオルで汗を拭く。

 

 しかしまあ、もう一時間経ったのか。

 

 そろそろイッセー達のデートも佳境かねぇ。

 

「そういや、今回お嬢達はつけてねえのか? 朱乃さんの時は思いっきりつけてたけどよ」

 

「部長が止めたっぽいっすよ? なんか余裕が出てきてるっすね、部長」

 

 これが、告白を受け止めた女の余裕ってやつか。

 

 流石一夫多妻OKの冥界のお嬢様だ。自分を受け止めてくれるなら一人や二人や十人ぐらい問題ないってか。いうねえ。

 

 これが、朱乃さんのデートの時は醜態をさらしたお嬢だと思うと、なんか感慨深いって感じがするな。

 

「それはそれとして、クリフォトをどうするかについては真剣に考えないといけないわね」

 

 と、水を飲みながら姐さんが話をシリアスに持っていく。

 

 確かに。マジで厄介だからな、あの連中。

 

 伝説の邪龍をこれでもかと復活させ、更に量産型の邪龍を大量生産する、邪龍管轄部隊クリフォト。

 

 中には龍王以上天竜未満の化け物もいるらしい。クロウ・クルワッハに至っては、既に全盛期の天龍と同レベルになっているとか。しかもトレーニングしてる邪龍までいるらしい。

 

 この調子だとマジで厄介な連中になるな。しかも、それが聖杯で強化されてるんだから始末に負えねえ。

 

 そしてそいつらを管轄するリゼヴィムがある意味一番厄介。

 

 魔王クラスを超える、悪魔四強である超越者。そのくせ、俺達にとっての天敵ともいえる神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)。とどめにヴィクターの前身を結成させた政治的手腕。

 

 幸いなのは、聖杯による強化を施す事は神器無効化能力がある所為で不可能だということだ。これでドーピングまでされたら、手が付けられねえ。

 

 ……対クリフォトの側面を持つD×Dのメンバーとして、何とか対策を用意したいんだがな。

 

「ペトはそういう意味だといいよな。神器は自分のサポートで、攻撃は堕天使の力でやってるから大丈夫だし」

 

「いや、たぶんまともにやり合っても勝てない気がするッス。直撃させても致命傷を与えられる自信がねえっす」

 

 いやいや頑張れよ、装備込みなら最上級クラスだろうが。俺ら三人の中じゃ、多分一番リゼヴィム相手に有利に立ち回れるだろうが。俺らむしろ完封されそうだし。

 

「……アザゼルに頼んで、対悪魔用の聖別装備でも貰っておくべきかしら」

 

「俺も、悪魔祓いの基本装備関係を再練習しようかねぇ」

 

 対クリフォト部隊としちゃ、クリフォトの頭目たるリゼヴィム対策は用意しないといけねえしなぁ。

 

 俺らがそう考え、そしてそれなりに動き出そうとした時だった。

 

「……リセスさん、それにヒロイ君とペトさんも此処にいたのか」

 

 木場が急ぎ足でこっちに来ていた。

 

 なんだ? 何があった?

 

「……緊急事態だ。デート中のイッセー君とロスヴァイセさんが、クリフォトのユーグリッドの接触を受けた」

 

 ……マジで面倒ごとだな、オイ。

 




デートそのものは描写の余地がありませんので、其の間の裏話的な感じになりました。

……そしてそのころイッセーとロスヴァイセはシスコンに詰め寄られているという悲しい現実。


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第六章 34

 

 なんでも、イッセーとロスヴァイセさんが東京でデートしていると、そこにユーグリッドが接触してきたらしい。

 

 内容は単純。ロスヴァイセさんのスカウトだ。

 

 どうやらトライヘキサの研究、ロスヴァイセさんもやっていたらしい。知り合いにたまたま話していたのを、クリフォトの連中は嗅ぎつけたとか。

 

 おいおい。ロスヴァイセさんの学友なら、アースガルズのヴァルキリーだろうに。そんなところから情報引っ張ってこれるとか、どんだけ優秀な諜報部隊を持ってるんだ、あいつ等。

 

 そんなわけでデートは中止。イッセー達はすぐに兵藤邸に戻ることになった。俺達も合流するって感じだ。

 

 にしても、東京に堂々と姿を現すとはな。あいつらもよくやるぜ。

 

 流石に東京二十三区全域をカバーするのは困難だ。奴らの末端の一部隊ぐらい潜入しててもおかしくない。

 

 だが、ユーグリッドはリゼヴィムの秘書みたいなもんだ。クリフォトの重要幹部といっても過言じゃねえ。

 

 そんな奴が態々出向いてきた。こりゃ結構大物案件じゃねえか?

 

 とにかく日本政府と術者は大慌てで結界を強化してるけど、それでもカバーしきれるわけでもねえ。

 

 全世界の勢力圏内をカバーするには、どうしても数が足りない。ヴィクターの連中の諜報組織も相当の規模と練度だろうし、どうしてもおこぼれは生まれるはずだ。

 

「少し、相手を甘く見ていたかもしれないわね。まさか白昼堂々敵勢力圏内の国家首都に現れるとは思わなかったわ」

 

 お嬢がそう言うが、そんなもん予想できる方がどうかしてますぜ。

 

 一言言って頭がいかれてるとしか思えない行動だ。普通、末端の組織をエージェントにして行動する程度ですますだろうに。正気の沙汰じゃねえ。

 

「ヴィクターは堂々と世界に宣戦布告を行ったのだもの。この程度は物の数にも入らないかもしれないわね」

 

 お嬢はそう言って、静かに外を見る。

 

 この規模は流石にまずい。神出鬼没のあの連中に対する警戒は本気でやらねえと。

 

 でも人手が足りないしどうしたもんか。

 

「今回の侵入で東京の警戒レベルは上がりました。もっとも、元々高かったものが更に過激になっただけですけれど」

 

「とは言え、次からは東京への侵入が難しくなったのは間違いないですね」

 

 朱乃さんの説明に、木場がそう納得する。

 

 つっても、あいつ等侵入してきそうで怖いな。

 

 しかし、堂々と姿を現せば警戒されて厳重警備が敷かれるのを分かってての行動。それだけの価値があるからこその作戦なんだろうな。

 

 ……つまり。

 

「ロスヴァイセ。あなたの書いた研究は、クリフォトにとって重要な何かだということは間違いないわ」

 

 お嬢の結論が全てだ。

 

 リゼヴィムの野郎はヴィクターの重鎮だ。そして、ユーグリッドはその側近だ。それなりに我儘は聞くだろう。

 

 だけど、それにしたって限度はあるはずだ。

 

 つまり、それだけの価値があるってことになる。

 

「とにかく、アザゼルと連絡がついたら相談しましょう。これは流石に警戒しないといけないわ」

 

 確かに、姐さんの言う通りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、アザゼル先生からの定期連絡がきた。

 

 アザゼル先生は冥界に戻って、グリゴリの研究者との会議の真っ最中だ。こと聖杯対策は必要不可欠だからな。仕方ねえ所がある。

 

 で、今回も駒王町に戻らずに映像越しだ。

 

 そして、アザゼル先生もこの内容にはさすがに警戒心をあらわにしてた。

 

 そして顎に手をやりながら、ロスヴァイセさんに視線を向ける。

 

『予想はしてたが思ったより早いな』

 

 へ? 予想してた?

 

「驚きが薄いわね。何かそちらで判明したことでもあるの?」

 

 お嬢が目ざとく尋ねると、アザゼルは頷いた。

 

『現在、ヴィクターによるトライヘキサの研究を行っていた連中の誘拐もしくは暗殺、買収に亡命支援が頻発してる。』

 

 ……マジかよ。

 

 いや、作戦の成否を握る人物をそのままにするわけがねえ。暗殺なんて珍しくもなんともねえことだな。

 

 トライヘキサはヴィクターの切り札だ。それの封印が解除されるのと同時に総攻撃を開始すると言い切ってたからな。そりゃ、そういう動きは見せるだろうよ。

 

「つまり、クリフォトはトライヘキサの研究を握る術者をターゲットにしてるということ?」

 

『そうだろうな。その手の知識が集まれば、封印術式だって特定できるからよ』

 

 マジかぁ。こっからは亡命合戦ならぬ、術者争奪戦なのかよ。

 

 これは、クリフォト対策部隊である俺らD×Dの出番か? 俺ら、冬休み返上で亡命合戦並みの白熱バトルを連発する必要あるか?

 

『因みに二十数個ほど、ヴィクターが手間取ってる術式のあてはついた。……それでも最悪のケースを念頭に置いて準備はしてるがな』

 

 最悪のケースか。

 

 そりゃ、最悪のケースといやぁトライヘキサとやり合うことだろうよ。

 

 ヴィクターの連中の切り札なんだ。これまでとは被害は比べ物にならねえはずだろう。

 

 ああ、こりゃマジで警戒しなきゃならねえな。

 

 俺たちが気合を入れて緊張感を漂わせると、アザゼル先生は苦笑を浮かべる。

 

『ま、こっちも「保険」は作る予定だ。気張りすぎんなよ』

 

 保険……ねぇ。

 

 まさか、グレートレッドと交渉するってわけでもねえだろうに。何を考えてるんだか。

 

『ま、こっちが算出した答えもどこまで信用できるかわからん。使ったり寝返った術者がどこまで影響を及ぼすかもわからねえしな』

 

 確かになぁ。魔法使いって、自分の研究を秘匿する連中もいるし、そういう連中に限って意外とできるってケースも多いからな。

 

 もしかしたら、一気に研究が進んで明日にはトライヘキサ復活ってのもありそう。

 

 ……やめよう。いくらなんでもそんなこと考えてたら、生活ができねえ。

 

 俺が身震いしてると、アザゼル先生はロスヴァイセさんに視線を向ける。

 

『一つ聞くぞ、ロスヴァイセ。お前は「666」の数字をどう読み解こうとした?』

 

「……異説である、「616」です。既に記憶にある辺りは書いていますので、すぐに転送できます」

 

 616? トライヘキサの数字は666じゃなかったっけ?

 

 俺達が首を捻ってると、アザゼル先生はうんうん頷いた。

 

『トライヘキサの異説ってやつだ。しかも、今回ターゲットになってる連中は全員そっち方面で調べてるやつらだ。……こりゃ、聖書の神は616でトライヘキサの封印術式を組んだ可能性もあるな』

 

 よくわからん!!

 

 まあいい。そういう研究はアザゼル先生達の仕事だ。俺達現場は敵が動いた時の制圧に集中集中。特訓して待ってるとするか。

 

 そして、アザゼル先生の視線は再びロスヴァイセさんに向けられる。

 

『しかし血は争えねえな。……自然と祖母と同じ研究をしてたんだからよ』

 

 ……祖母と同じ研究……か。

 

 つまり、ロスヴァイセさんのおばあさんも、616で研究してたってことか。

 

 なんか、嫌な事が起きなけりゃいいんだが……。

 




原作の禍の団とは規模の桁が違うため、対応が困難なのが現状です。

なにせ国家の正規の諜報部隊とかに異能を教え込んで運用するという方法も取れますからね。その辺も踏まえると諜報能力は原作を凌駕していると考えていいです。









 さて、原作通りにアグレアスを奪われるようにするか、それともアグレアスを死守することに成功させるべきか、どっちがいいか……。

 原作通りに奪われると曹操だけじゃなく大量の聖槍があるから即座に封印が溶けそうだし、かといってどうやってリアリティを持たせながらあのからめ手を克服するか。結構悩みますな。

 あ、あとドーインジャーのF型はどうするか決定しました。数多くのアイディア提供、ありがとうございます。


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第六章 35

はい、そして部隊は冥界に……。


 

 

 まあ、それはともかくとして日常はやってくるもの。

 

 俺達は、冥界にやってきていた。

 

 本来冥界って、悪魔と堕天使以外はそう簡単には来れない場所なはずなんだけどな。これも和平による賜物ってやつか……。

 

 そして着いた村はアウロス。

 

 そして、アウロス学園という冥界でも珍しい大規模学園が建設されている村でもある。

 

「……現役を引退したら、こういうところで暮らすというのもありかしら」

 

 ぽつりと姐さんは呟いた。

 

 確かに。俺ら人間だから現役でいられる時期にも限度があるからな。そのあとはのんびり過ごすってのもいいかもしれねえ。

 

 のんびり農村生活かぁ。それはそれでいいかも。

 

「いやいやお姉様。お姉様まだ若いっすからね?」

 

「いいえ、ペト。そろそろお肌の曲がり角なのよ私も」

 

 姐さん。気にしてたのか。確かに二十代中盤だからな。

 

「長寿にそこまで興味はないけど、不老には興味があるわね」

 

「確かに。若い肉体じゃねえと無理できねえしなぁ」

 

「ふふん。ペトは堕天使なんでいつまでも若い肉体のまま何スよねぇ。羨ましいっすかぁ?」

 

 凄まじくイラっと来たので、今晩俺と姐さんはペトをいじめ倒すことをアイコンタクトで示し合わせた。

 

 まあそれはともかく。

 

 ……姐さんが締め出されて、俺達はアウロス学園の外で待機する事となった。

 

 理由は極めて単純。親御さんからのクレームだ。

 

 曰く、「いや、ちょっとポルノ映画を実践した人はちょっと……」

 

 反論できねえ。

 

 言われてみりゃそうだよ。グレモリーVSバアルにヴィクターが乱入した一件、完璧に強制的なポルノ映画の上映だっつの。子供の情操教育に悪いにもほどがあるっつの。

 

 そりゃ親御さんも渋い顔するって。姐さんビッチだし、子供の教育には悪いわな。

 

「まあ、とりあえず八割がた自業自得だから反論できないわね。……あと二割はリムヴァンにぶつけるわ」

 

「九割ぐらいリムヴァンにぶつけていいと思うッスよ?」

 

 ぷるぷるとジョッキを震わせる姐さんの肩に、ペトが手を置いた。

 

 うん。でもお前もビッチだから子供情操教育に悪いからな?

 

 まあ、俺もノリノリでエロいことしてるから悪いんだろうが、それにしたってこの二人よかマシだ。

 

 ……マシだから彼女欲しい。

 

 まあ、そんなこんなでアウロス学園をしり目に俺達はだべっているわけだ。

 

 今頃イッセー達は特別講師の名目で、体験入学しに来た子供達と絡んでるんだろうな。特にイッセーとかお嬢とか大人気だろ。

 

 ま、実際駒王学園と同等規模なのはかなりでかい部類だろうな。悪魔と人間の人口比的にな。

 

 まあ、勉強したい奴に勉強教えてくれるところがちゃんとあるのは良いこった。そこに関しちゃ俺は一家言あるぜ、マジで。

 

 冥界はその辺遅れてるからな。貴族主義と実力主義がまさに悪魔合体してっから、下級に教育を受けさせたがらない連中が多いってのが問題だ。しかも上級も魔力関係がダメだと実力主義の観点でいづらいってのが始末に負えねえ。

 

 そういう人達を中心に、生徒だけでも三百人ほど集まってるらしいな、親御さんを含めると五百人を超えるとか。

 

 まあ、これだけの規模になったのはヴィクターが原因だから、素直に喜べねえのがあれだな。

 

「……事実上はレーティングゲームの学園というより軍学校に近い形になってるのが、欠点といえば欠点よね」

 

「だな。上役の殆どは戦力育成を考慮してるからな」

 

 俺は姐さんと一緒に少しぼやく。

 

 いや、実際レーティングゲームの教育もきちんと行われてんだぜ? 他の学部もしっかりと用意されてる。

 

 学園設立に関してだけは政治的配慮を邪推されて揉めに揉めたらしいが、中間管理職アガレス家が間に入ってそれも解決。そっからは資金関係も旧家筆頭のバアル家まで積極的に出してる。

 

 教師陣も政治的な争いでつまはじきにされてる連中中心とはいえ、バアルの連中は貴族の学園に在籍していた奴を送り込むほどだ。中には教育関係の育成を行う為、人間の学校の教育学部に留学する奴を用意するほど、教える側の育成も進んでいる。

 

 その結果、このアウロス学園は文字通り学費無料。現バアル家当主や初代バアルが積極的に金を出して、卒業した場合、兵士志望のものは積極的に登用すると公言されてるほどだ。

 

 ……ただし、一定以上の戦闘訓練や作戦行動などの軍事教育を学ばせる事と引き換えにこの規模で設立で来たもんだが。

 

 それほどまでに、旧家はヴィクターを恐れている。厳密には、リゼヴィムを恐れている。

 

 初代ルシファーの実の子供にして、後天的含めて四人しかいない悪魔最強の超越者の一角。それが、リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 そのリゼヴィムが本格的にヴィクターを支持した事もあって、現政権はかなり焦ってるらしい。

 

 裏切り者が出てくる可能性がでかいとのことだ。それぐらい、初代ルシファーの子供ってのはでかい。ひ孫のヴァーリは人間とのハーフだが、リゼヴィムの奴は純血だからな。その辺の血統的なあれがでかいんだろ。

 

 だからこそ、ひ孫のヴァーリを何もさせずに倒したシトリーの設立する学校に期待が集まっている。

 

 ぶっちゃけ現バアル当主はこう考えているわけだ。

 

 古き良き血統を守る為の有能な捨て駒を育成したい。……その為なら、鬱陶しいシトリーの娘のたわごともある程度は我慢しなくてはいけないだろう。

 

 ったく。胸糞悪い話だぜ。

 

 老害が権力持つと始末に負えねえ。下手にたてつくとややこしいことになるからなぁ。めんどくせぇ。

 

「まあまあ。それでも一応レーティングゲームの学部も設立できたのは良い事じゃないっすか」

 

 俺らのイラつきに気づいたのか、ペトは注文を追加しながらそうなだめてくる。

 

 つってもよぉ。これ、体のいい捨て駒育成計画だろ?

 

「戦闘能力が高いものが眷属悪魔に選ばれやすいのは事実なんっすし。結果的に今まで以上に下級悪魔が上に行きやすくなってるのは事実なんっすから」

 

 まあ、確かにそうなんだが……。

 

「と言っても、上が登用しなければ意味がないし……」

 

「それは心配ないだろう」

 

 姐さんが不安を口に仕掛けた時、それを遮る声があった。

 

 そこには、灰色の髪をしたイケメン男性。

 

 ………どっかで見たような気が……あ、思い出した。

 

「確か、ディハウザーさんでしたっけ?」

 

「ああ。アグレアスのレーティングゲームでは直接顔を合わせる機会はなかったね」

 

 超大物が出てきやがった。

 

 レーティングゲームトップ中のトップ。戦闘能力は魔王クラスといわれ、更にはその中でも勝率が頭一つ飛び抜けている規格外。ついたあだ名が皇帝(エンペラー)

 

 ベリアル家のディハウザー・ベリアル。超大物だ。

 

「おお! レ―ティンゲームのトップも注目っすか!! それほどまでにこの学園にはご関心がおありっすか?」

 

「ペト。なんでインタビュアー風なんだよ」

 

 スプーンをマイク代わりに突き付けるな。失礼だろ。

 

 しっかしそれにしても意外だな。

 

 何足の草鞋を履くのが基本の悪魔業界。レーティングゲームのトップともなりゃ忙しいだろう。

 

 それが何でこんなところに? 人格的には魔王派よりっぽかったけど、それにしたって時間裂けるのか?

 

「いや、アグレアスで映画撮影があってね。そのついでに様子を見させてもらったんだよ」

 

 ……ほんとに忙しいこって。っていうか悪魔多芸求められすぎだろ。

 

 俺、転生悪魔にゃならねえようにしよう。英雄になることに忙しい身からすりゃ、余計な仕事を増やしたくねえし。

 

 ふと視線を姐さんに向けると、姐さんも同意見だったのか、ちょっと遠い目をしていた。

 

「耳が痛いわ。アイドル目指してた時は、学生生活をおろそかにしていたから」

 

「なに。年季の差というものだよ。これでも人間でいう老境をはるかに超えた年齢だからね」

 

 良い人だ。

 

 しかし姐さん。高校中退は伊達じゃねえが、大検とれる可能性はでかいんだから自信持てよ。

 

 アザゼルやロスヴァイセさんにしっかり教わって頑張ってるじゃねえか。この調子なら俺たちが現役の間に駒王学園大学部に進学するのも夢じゃねえよ。

 

「まあ、君達とは特に因縁深いヴィクターのおかげという側面もあるから素直に喜べないだろう。それだけのことがなければこの規模の「誰でも通える」学園の設立を旧家は認めないからね」

 

 なんだよなぁ。これだけのでかい規模になったのは、間違いなくヴィクターが色々と動いているからなんだよなぁ。

 

 そう思うと素直に喜べねえ。それに、ソーナ会長のガス抜きや使える捨て駒の育成が狙いでもあるだろうしなぁ。

 

 だけど、ディハウザーさんは苦笑を浮かべて学園を見る。

 

「それでも前例ができるのは良い事だ。一つでも前例があれば、それを盾に新しく作る事ができるのだからね」

 

 そう言いながらアウロス学園を見るディハウザーさんは、本心からなのが分かるぐらい嬉しそうな感情を浮かべていた。

 

「ああ。個人的には同じような学園ができることを願っているよ。そうすれば、私としても嬉しい事この上ない」

 

 ……へぇ。

 

 なんかこの人、本当に良い人みたいだな。

 

 流石は、悪魔としちゃ無能の極みのサイラオーグ・バアルの指導とかを手伝っただけのことはあるじゃねえか。あの人を指導したがる人って案外少なそうだからな。

 

 本当の意味で、レーティングゲームのプレイヤーを育成する万人を受け入れる学園が生まれることを望んでるのかもしれねえな。

 

「良いのかしら? もし凄腕が出れば、貴方の一位の座を脅かすかもしれないわよ?」

 

 姐さんがいたずらっけを出して皮肉るが、ディハウザーさんは毛ほどにも不満を浮かべねえ。

 

「それこそ望むところだ。私としても負ける可能性が高い試合の方が望ましい」

 

 そう言いながら、ディハウザーさんはアウロス学園にもう一度視線を向ける。

 

「……それに、クレーリアのいた街の後継者達が作り出した成果だ。良い結果を生んで欲しいと心から願うよ」

 

 ……ん? クレーリア?

 

 俺達が首を傾げてると、ディハウザーさんの視線は寂しげなもの浮かべながら俺達に向けられた。

 

「教会の戦力や天使に、堕天使や堕天使側の戦力。そのような者達と悪魔が友や恋人として手を取り合う。……十年足らず前には考えられない事だ。ああ、波乱万丈だが実に良い時代になった」

 

 その言葉には、複雑な感情が込められてんのは俺にでも分かった。




リセス、締め出されるの巻。

まあ、冷静に考えるとそりゃそうだって展開ではあると思います。

自分でやったわけじゃないけど、子供たちの目の前にポルノ映画の主演を連れてくるわけにもいかないでしょう……。




あと本格的にディハウザーがヒロイたちと絡む展開になりました。

ディハウザーはこの段階では表向きの理由しか知りません。ですが、だからこそD×Dの結成には感慨深いものがあると思いまして……。


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第六章 36

スーパーユーグリットタイムは書き終えましたー。昨日は筆が進んで進んで。

いやぁ、我ながらドンビキする変態っぷりでした(;・∀・)


 

 夜、俺達は漸くアウロス学園に入る事ができた。

 

 まあ、ホテル代わりに寮として使われる予定の建物を使わせてもらってるだけなんだがな。

 

 念の為に生徒達には気づかれないようにするという念の入れよう。どんだけ姐さん嫌われてんだ。

 

 いや、結果的に子供達にポルノ映画見せた姐さんにいい感情持てない親御さんの気持ちも分かるけどよ。姐さん別に自分から見せたわけじゃねえから。悪意ねえから。

 

 もうちょっとこう、手心ってものを出してもらえませんかねぇ?

 

 なんて思いながらベッドで横になるが、冷静に考えるとこれあれだよな。

 

 ……男女別の寮でにゃんにゃんするわけにはいかねえよな!! え、古い? そんなー!

 

 ま、それはともかくどうしたもんか。

 

 さぁて、それじゃあどうしたもんかと思うんだが……。

 

「お、ヒロイ」

 

「おう、イッセー」

 

 と思ったらイッセーが帰ってきたな。

 

「いやーびっくりしたぜ。お風呂入ってたら「女子寮の風呂が壊れて、今はいないはずだから」ってロスヴァイセさんが入ってきてさぁ」

 

「とりあえず死ねや」

 

「ひでえ!!」

 

 糞羨ましい。なんだそのエロハプニングは。

 

 このスケベ、スケベハプニングに恵まれすぎだろう。ついにロスヴァイセさんにまで手を出しやがったよ。

 

 あの申し込みからどんどんフラグを積み重ねていやがる。どんだけ彼女を作るつもりなんだ、この野郎。

 

 ……ふ、ふふん。まあいい。どうせ奴はまだ童貞だ。俺は最高クラスの美女美少女とエッチな事した仲だからな。そういう意味では上を行ってんぜ!!

 

 いや、でも俺彼女を未だに一人としてできた事ないし。何か根本的な部分で致命的に負けてる。

 

「くそ! この圧倒的強者め! 覚えてろよ!!」

 

「うるせえよ非童貞!! 俺より高みにいるくせになんだその言い草は!!」

 

 もっと抜本的なところでお前が上回ってんだよ!!

 

 くそ! 英雄色を好むとは言え、浮名を流したいのであってヤリ友を増やしたいわけじゃねえのに!! なんでああいう展開!?

 

「しっかし、俺ってあんまりロスヴァイセさんに信用されてなかったみたいでショックだぜ」

 

 はぁと、イッセーはため息をついた。

 

 なんだ? ロスヴィアセさんに悲鳴を上げさせられたうえでボコられたとか?

 

 いや、今回の件は完璧にハプニングだし、ロスヴァイセさんは流石にその状況下で暴力でイッセーを叩き潰したりはしないと思うんだが。

 

 俺が首を傾げてると、イッセーはため息をついた。

 

「……ユーグリッド絡みで万が一の時は自分を殺してくれってさ」

 

「まあ、二対一で苦戦させられたしな。しかもデッドコピーにやられたわけだし」

 

 そりゃ不安にもなるか。

 

 ユーグリッドの戦闘能力がどれだけあるのか分からねえが、感覚的に旧魔王派の幹部ともやり合えるだろう。

 

 そのポテンシャルの高さを最大限に発揮した偽赤龍帝。イッセーが紅の鎧を展開しても圧倒されたからな。そのあとの白龍皇の妖精達が無ければ押し切られてたかもしれねえ。っていうか手を抜いていたところもあったからな。

 

 そりゃ責任感の強い真面目なタイプのロスヴァイセさんなら、最悪の場合を想定するのは当然か。

 

「ま、最悪の事態に備えるのは当たり前のことだしな」

 

「お前、意外とドライだよなぁ」

 

「俺はお前と違って現実見ながら英雄目指してんの。お前ほど異才じゃねえんだから仕方ねえだろ」

 

 天然物はこれだから困るぜ。大抵の連中は理不尽受け容れながら四苦八苦してんのに、こいつはなんだかんだで奇跡連発してっから困る。

 

 まあ、努力もきちんとしてるからこそなのはわかんだけどよ? それにしたっておっぱいで異常現象起こすから困るんだよ。

 

「第一お前、なんか対策あんのか? トレーニングの成果は芳しくねえんだろ? 具体策なきゃロスヴァイセさんも納得しねえだろ」

 

「ああ。歴代白龍皇の人たちの説得ができれば、何とかなりそうなアイディアはあるんだよ」

 

 ……ほほう。

 

 まあ、こいつなんだかんだで頭は回るからな。意外と発想力があるっつーか、機転が利くっつーか。

 

 なんでも疑似的な禁手化で腕をドラゴン化させた時、それを逆手にとって聖具の類をもってレイヴェルの兄貴相手に勝ったとか。

 

 腕をドラゴン化させてからすぐに思いついた当たり、発想力はあるんだよなぁ。だからこそ変化球の進化を遂げてここまでの化け物になれたわけだが。

 

 問題は―

 

「それまでユーグリッドが仕掛け無けりゃいいけどな」

 

「嫌なこと言うなよ!?」

 

 いや、敵がこっちのパワーアップまで待ってくれる保証なんてどこにもねえわけだしなぁ。

 

 まあ、冥界のど真ん中にあるこの村を襲撃するメリットは薄いから、流石に今日明日は大丈夫だと思いたいけどよ。

 

 ……万が一の時は、俺が覚悟を決めることも考えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころリセス・イドアルは、晩酌を飲み終えて静かにストレッチをしていた。

 

 クロスレンジでの近接格闘が主体である彼女にとって、体の柔らかさは重要だ。しなやかな筋肉を最大限に生かさねば女が廃るというもの。

 

 それに、いつニエが仕掛けてくるかということも考えると、どんな時でも健康状態を気にしながら最善の状態をできるだけ維持する必要がある。

 

 バッドコンディションでも戦える根性は強迫観念で身に着けている。だが、だからといってバッドコンディションを意識して維持するなど愚策なのは当たり前だ。

 

 ……いやでも精神的にはバッドコンディションになるのがニエとの戦い。ならば肉体的には無理のない状態を維持する必要がある。

 

 英雄(自慢)だと断言できない状態で死ぬのだけはごめんだ。ニエに殺されるときは、胸を張って前向きに死ねる時だと決めている。そうでなければペト・レスィーヴとヒロイ・カッシウスの自慢(英雄)などとは言えないのだから。

 

 ゆえにできる限り一度の深酒はさけ、こうして体調管理を今まで以上に念密に行う。肉体のメンテナンスは必要不可欠だ。

 

 そしてそれを行っていると、ふとロスヴァイセの姿を見つけた。

 

 どうも見るからに沈んでいる。明らかに精神的に不調だろう。

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

「あ、リセスさん」

 

 なんとなく気になって呼び掛けてみるが、とりあえず残っていた酒だけは隠しておく。

 

 ……ロスヴァイセが飲んだ時の惨劇は嫌というほど分かっている。

 

「……ユーグリッドの件で、少し悩んでまして」

 

「なるほどね。確かに、幹部クラスが注目するほどにはあなたの研究には価値があるみたい出しね」

 

 出なければ、敵勢力の一つの首都で堂々と姿を現したりはしない。

 

 しかもあのグレイフィア・ルキフグスの実弟であり、デッドコピーとは言え赤龍帝の力を使う精鋭。イッセーとヒロイが二人掛かりで相手をしてもなお苦戦するほどだ。

 

 彼が強引にロスヴァイセを奪い取ろうとすれば、それをどうにかできる可能性は低いかもしれない。

 

 少なくともロスヴァイセ単独では無理だろう。それほどの戦闘能力をあの男は持っている。

 

「イッセー君にはいざという時に私を殺すように頼んだんですけど、絶対にしないと怒られてしまいまして」

 

「相手が悪いわよ」

 

 仲間を絶対見捨てない。それどころか、仲間を助けてくれたのなら敵の首魁(オーフィス)すら助けてしまうほどのお人好しだ。仲間を切り捨てる事など絶対にすまい。

 

 アザゼルもその点は指摘していたはずだ。せめてレーティングゲームぐらいは生贄戦術を許容できるようにならなければならないという評価を下していた。

 

 まあ、おそらくそれもできる限り避けるところに落ち着くのだろうとは思っているが。

 

「そういうのは私に頼みなさい。いざという時の汚れ仕事は年長者の務めだもの」

 

 そう苦笑を浮かべながら言うと、リセスは天井を見上げてそこに過去のトラウマを投影する。

 

 ……そう。汚れ仕事をするのは自分の仕事だ。

 

「既にニエを死に追いやった私は汚れているもの。こういうのは血濡れの英雄である二流品の仕事よ」

 

 兵藤一誠は、おそらく一級品の英雄だろう。

 

 英雄であろうとするのではなく、英雄になりたいのでもなく、英雄でいなければ耐えられないわけでもない。ただあるがままに英雄でいてしまう者。

 

 それに比べれば、確かに自分は半端ものだ。

 

 だからこそ、そんな自分だからこそできることもあるはずだ。今ならそう思うことができる。

 

「あの、それに関してはリセスさんも被害者なんですから……」

 

「だったらこれ以上汚れさせないように頑張ってユーグリッドから生き残りなさい。その手伝いなら、イッセー達は全力でしてくれるはずだもの」

 

 そう茶化すと、リセスはアウロス学園の校舎に視線を向ける。

 

 駒王学園を基にして作られたアウロス学園を見ていると、なんというか用務員室に行きたくなってしまった。

 




年長者としての意識はあるリセス。いろいろ汚れている身の上もあり、必要とあれば汚れ仕事は自分の仕事という意識はあります。

ですが、それはちゃんと手を尽くしてから行うべきこと。仮にも英雄を目指す彼女が、何の遠慮もなくそんなことはしません。輝き足る英雄を目指す少年の自慢こそが、リセス・イドアルの英雄ですからね。


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第六章 37 事態急変

 

 そして次の日、俺達はアウロス学園を遠めに見ながら、再び喫茶店でだべっていた。

 

「どうでもいいけど、なんでヒロイとペトは特別講師に参加しなかったの?」

 

 姐さんがビールをちびちびと飲みながら、そんなことを聞いてくる。

 

「いや、俺が教えられることなんてそうはねえし。……悪魔祓い関係ならイリナがいりゃ充分だろ?」

 

「堕天使関係を教えるって線もあったッスけど、お姉様最優先っす」

 

 俺ら姐さんシンパだぜ? 優先順位は高いっつの。

 

 それにまあ、悪魔の学校だしな。教えるのも悪魔がやった方が角が立たねえだろ。

 

 今頃イッセー達は何を教えるか考えてるところかね。あいつら教わる事はあっても教える事はあまりねえから、そういうの大変かもしれねえなぁ。

 

「……ふむ。なぜ君達がここにいるんだ?」

 

 と、その言葉に俺達は振り向いた。

 

 そこには、ラシアを伴ってヴァーリがいた。

 

「貴方こそなんでここにいるのよ。アウロスは現政権側の勢力圏内にある田舎町よ?」

 

 姐さんがそう言うのも当然だ。

 

 監視付きという条件下とは言えある程度自由に動けるヴァーリは、リゼヴィムを独自に探していた。

 

 そのヴァーリが、なんでこんなところに……。

 

「ラシアがここでの魔法使いの集まりの理由を教会経由で聞いていてね。もしかしたらリゼヴィムが何か仕掛けてくるかもしれないと思ってね」

 

 ……そういや、トライヘキサの研究をしていた人達が集まってたんだったな。

 

 場合によっては技術を無理やり取られないようにする為に、封印するというのも視野に入れてるとか。

 

 なるほどな。もしヴィクターがそれを把握したなら、そりゃ仕掛けてくるな。

 

「……気をつけなさいよ、あなた達」

 

 と、ラシアが鋭い視線を向けながら、そう忠告してくる。

 

「教会でも私の耳に入るぐらい情報漏洩が起きてるのよ? ルシファー直系の参入で悪魔側に新たな内通者ができている可能性は大きいわ」

 

 っ。

 

 確かに、その可能性はあるな。

 

 敵の本命に対して、消極的な形と言っても対抗策を取ってたはずだ。それが、今回のシンポジウムの本当の目的。

 

 なのに、それが漏れてたら意味がない。

 

 こりゃちょっと本気で警戒した方がいいかもな。

 

「……ヴァーリ。シンポジウムの会場の方に行くわよ。なんだか嫌な予感がしてきたわ」

 

 姐さんが立ち上がり、ヴァーリは楽しそうな表情を浮かべる。

 

「いいね。君が一緒ならリゼヴィムがいても何とかしてしまいそうだ」

 

 おまえさん楽しそうだな。リゼヴィム本人が来たら俺たちだと太刀打ちできないって分かってるか?

 

 相性的に対抗できそうなのはペトかラシアぐらいなんだが、こっちは性能的に対抗できそうにねえ。ある意味詰んでる。

 

「とりあえずアザゼル先生達に連絡しとくかねぇ。ってかしたのか?」

 

 俺がそう言った、まさにその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が、白く塗り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は急いで魔法使いのシンポジウムに向かう。

 

 外と連絡を取ろうとしてみたが、しかしまったくもって通じなかった。

 

 ったく。今回もまたドンピシャで敵が来やがった。いい加減楽観視が過ぎるってことかねぇ!!

 

「ペト! 周囲に敵は?」

 

「いないっす! ……のんびりしてる余裕はないはずなんすけどねぇ」

 

 ああ。こんな莫大な結界展開。どう考えても冥界政府だって分かるはずだ。

 

 アグレアスとの通信なんてすぐに繋げられなきゃおかしい。それができなくなっちまった以上、大挙して悪魔の軍勢が押し寄せてくるはず。

 

 電撃作戦や奇襲ってのは時間との勝負なんだぞ? なんで未だに攻撃が始まらねえ。

 

 なんか嫌な予感がしやがる。俺達はとにかくシンポジウムの会場に突入しようとして―

 

『ぴーんぽーんぱーんぽーん』

 

 そんな間延びした音に、俺達は弾かれるように空を見上げる。

 

 そこには、花畑の映像が映し出されていた。

 

 ついでに悪魔文字が浮かんでいる。

 

 ……しばらくお待ちください、だぁ?

 

「これ、現場指揮官絶対リムヴァンかリゼヴィムだろ」

 

「だろうね。実に腹立たしい限りだよ……っ!」

 

 俺のぼやきにヴァーリは歯ぎしりしながら同意する。

 

 センスがもう完全にあの二人だ。いろんな意味で頭いかれてるとしか思えねえってのが、あれだな。

 

『……え? もう始まってる? ちょっと待ってちょっと待って。おじさん今から弁当食べるところなんだけど?』

 

『じゃあ僕が食べるからLは進めといて……え、僕も出なきゃダメ? そんなー!』

 

 しかもコントからスタートしやがった。

 

 殺意が、殺意が滾々とあふれてくる。人の神経を逆なですることにおいてあいつ等のコンビアタックは本当にシャレにならねえなオイ。

 

 そして画面が切り替わり、そこにはポーズをとったリムヴァンとリゼヴィムの姿が。

 

『リゼヴィムおじさんとリムヴァンお兄さんの―』

 

『リッリッチャンネルー!』

 

 思わず画面にマスドライバースティンガーを叩き込んだ俺は悪くない。

 

 誰がどう見たって神経逆なでする目的な挑発なのは分かるが、それにしたって限度ってもんがある。

 

 切れていい。これは切れていいはずだ。いいよな?

 

 そしてそんな俺の行動をスルーして、リムヴァンは眼鏡をかけると意味もなくくいっと動かした。

 

『はいはーい! そんなわけで僕達は今、アウロスという街を巻き込んでアグレアスを結界で包み込んでまーす!』

 

『素敵アイテムせい☆はいで邪龍さん達を強化して、超広範囲の時間加速結界を張らせてもらったよん! はい、結界と時間干渉を行ってくれた、ラードゥン先生とアジ・ダハーカ先生に拍手!!』

 

 そう言いながらリゼヴィムが手を広げる先には、樹木でできたドラゴンみたいな奴と、蜜首のドラゴンが現れていた。

 

 ……面倒極まりねえ。敵も精鋭を遠慮なく投入したってか。

 

 そして俺らが警戒心を跳ね上げたタイミングを呼んだのか、リムヴァンは画面越しにアグレアスを映し出すと、そこに指を突き付ける。

 

『今回の目的は大きく分けて2つ。アウロスで会合とかやってる魔法使いさん達。そしてそのついでにアグレアスさ』

 

 ……チッ! 情報は本当に漏れてやがったか。

 

 しかもアグレアス? 確かにあそこは貴重な遺跡もあるらしいが、なんで同時に!!

 

『今から三時間後、攻撃を仕掛けさせてもらうよー。ま、抵抗しなければ積極的な殺害行為は控えてあげるよん?』

 

『俺ら国際組織だからねー。……まぁ、対クリフォト(俺ら)用のD×Dってのがいるらしいから、絶対妨害してくるだろうけどねぇ』

 

 そこも当然知っているってわけかい。

 

 その上であえてこのタイミングで仕掛けてきたってわけか。

 

 ……いいぜ。その挑発、乗ってやるよ!!

 

 俺が睨みを聞かせるのと同じタイミングで、リムヴァンとリゼヴィムは不敵な笑みを浮かべる。

 

『『防げるものなら防いでご覧?』』

 

「……上等だ、クソ野郎」

 

 なめ腐りやがってあの野郎ども。

 

 こうなったら、意地でもぎゃふんといわせてやるから覚えとけよ!!

 



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第六章 38

 とりあえずヴァルキリーへんは書き切りました。今はファニーエンジェル編を書くべく、原作を読み返しているところですね。


 前に感想返信などで書いたと思いますが、ファニーエンジェル編はニエとリセスの決着の時でもあります。

 なにせ原作からして「復讐」がテーマの話ですからね。このあたりでリセスとニエを決着させておかないと、後々書きづらくなるとことでもありますし。

 あ、この調子だと六章は100話超えないかもしれないですね。それでも50話は確実に超えますけど。


 

 その後、会合を行っている魔法使い達を連れて、俺達はアウロス学園に移動した。

 

 アウロスの避難場所としてはアウロス学園が選ばれたわけで、そこに避難誘導をしている形だ。

 

 それにしたってメインターゲットである魔法使い達まで連れてくるのは不安になるかもしれねえが、これには訳がある。

 

 ……クリフォトの連中は聖杯とアジ・ダハーカの組み合わせで、結界の外に出ることは現状不可能。

 

 いつの間に細工までしてたのか、アウロスで会合を行っていた魔法使いに至っては魔法の殆どを使えないようにされていた。

 

 たぶんイグドラゴッホの力だろうな。それで禁術を倍加させたといった感じだろう。

 

 イッセーで解呪を倍加させるという案もあったが、まず間違いなくカウンターが用意されているだろうからと却下。

 

 そこで提案されたのが、とんでもない提案だった。

 

 ギリギリで封印されなかった魔法を組み合わせて、まったく新しい転送魔法を作り出すって話だ。その力で脱出を図るのが今回の作戦だ。

 

 今回参加している魔法使いの大半が名うてだからこそできる離れ業だ。流石に全く新しい魔法なら、アジ・ダハーカでもすぐには妨害できないだろうという判断だとよ。

 

 ま、そういうことなら時間稼ぎをするほかねえわな。

 

 アグレアスの方はアガレスの次期当主であるシーグヴァイラ・アガレスが指揮権を握り、サイラオーグさんとディハウザー・ベリアルがメインで迎撃を行う体制をとっているとのこと。

 

 もっとも、ヴィクターはヴィクターで聖十字架の使い手が参加しているらしく、周囲を紫炎で包まれている。

の使い手が参加しているらしく、周囲を紫炎で包まれている。

 

 悪魔なら、上級であろうと触れた時点でアウト。俺達でも突破は困難だろうな。

 

 ……マジで厄介なことになってきやがったぜ。

 

「こんなことならあえて目立ってでも大規模な護衛団を用意してもらうべきだったわね」

 

「そうっスね。ま、結果論っすから気にしない方がいいかもっすけど」

 

 既に戦闘準備を終えながら、姐さんとペトはそう言って話し合う。

 

 既に時間はギリギリ。いつ戦闘が始まるか分からない状態だ。

 

 だからウォーニングアップも終え、俺達は校外に出るべく廊下を歩いている。

 

 その視界に、壁一面に張られた子供達の絵が映った。

 

 ……この体験入学の絵がほとんどだ。

 

 ……この学園は、文字通り誰でも入れる学園だ。

 

 冥界ではそんな学校は数少ない。ましてや、魔力が乏しい子供の入れる学校なんてないって言ってもいいそうだとよ。

 

 俺も勉学という概念すら知らねえ時期があったから、ここがどれだけ大事なところなのかがよくわかる。

 

 ……ここは、絶対に守らねえといけないところだ。

 

「守るぜ、2人とも」

 

「ええ」

 

「もちろんっす」

 

 二人とも同じ気持ちなのか、すぐに頷いてくれた。

 

 きっとこの学園は、ここに通うことになる子供悪魔達にとっての輝きになるんだろうな。

 

 英雄として輝き足らんとする俺が、輝きとなるこの学園を破壊されるのを見過ごすわけにはいかねえな。

 

 ……クリフォトの連中は、一人残らず刺し殺す。それ位の本気でやらせてもらうぜ。

 

 覚悟しやがれ、クリフォト。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして校庭で本格的に俺達はヴィクターの軍勢を視認する。

 

 ……ツェペシュの城下町とは桁が違うレベルの邪龍の群れが出てきてやがる。

 

 おいおいマジかよ。どんだけ大量生産しやがった。

 

 そこまでしてまでどうにかしたいほど、トライヘキサの存在はヴィクターにとっての生命線ってわけか。ま、グレートレッドを仮想敵としてんのならグレートレッドと同格の化け物が必要なわけだから、当然っちゃぁ当然か。

 

 お嬢達に無理を言って、避難し損ねた者がいないかなどの手伝いを申し出た親御さん達もビビってるな。まあ、ろくな戦闘経験もねえ連中じゃあ当然っちゃぁ当然か。

 

「ヒロイくん、リセスさん。あなた達は二人で行動してもらいます。……今回の作戦では、あなた達をカウンター用のオフェンスとして運用させてもらいます」

 

 と、指揮官としてアウロス学園で指示を行う予定の会長が俺達にそう言ってくる。

 

 今回、俺達はツーマンセルで行動するが、戦力バランスを割と考慮していた。

 

 しかし俺と姐さんだけはあえてコンビ。神滅具持ち二人掛かりという組み合わせ的に考えてみれば、チート以外の何物でもねえ。

 

 そしてそれは、敵の幹部クラスに対する迎撃を主眼に置いているからだ。

 

 俺達は比較的アウロス学園に近いところで打ち漏らしをメインで担当し、そして幹部クラスと他の味方が接敵したら、俺達が迎撃担当として向かう。

 

 ペトは単独で会長の護衛兼撃ち漏らしを狙撃で駆除。まあ、狙撃ってのは支援担当だからな。狙撃手を前線に投入するってのも、冷静に考えりゃあれだ、アレ。ペトの射程距離から見ても当然だろうな。

 

「ふっふっふ。後詰は任せるっすよ。しっかりきっかり狙い撃ってやるっす」

 

「ふふふ。狙撃に関してならあなたほど信頼できる子はいないわ。安心できるわね」

 

 不敵な笑みを浮かべるペトに、お嬢が安堵の表情を浮かべる。

 

 そしてすぐに気を張り詰め直すと、まっすぐに邪龍の群れを見つめた。

 

「それじゃあ、そろそろ戦闘を―」

 

 その時、魔方陣が俺達の目の前に展開する。

 

 なんだ? 見たことがない魔方陣だな。

 

 そして魔方陣は立体映像を展開。

 

 そこに映し出されたのは一人の女だ。ゴスロリを着た、なんか三白眼の女。

 

「……久しぶりだな、ヴァルプルガ」

 

『あらぁ、白龍皇に覚えてもらえるなんて、嬉しいわねん』

 

 ヴァーリが敵意を込めながら、その女の名前を呼び、女もにっこり微笑みながらそれに答える。

 

 ヴァルプルガってのか、この女。

 

 で、誰だ?

 

「ヴァーリ。こいつは?」

 

「オズのメンバーだった奴だ。聖十字架の今の持ち主だよ」

 

 へえ。こいつが。

 

 ……前から思ってたんだが、神器システムはバグりすぎだろ。

 

 聖槍の曹操は百歩譲ってともかくだ。だけど吸血鬼のヴァレリーに聖杯が宿るとかあれだろ、アレ。

 

 しかも目の前の女。俺の経験則が告げてやがる。

 

 ……サイコパス一歩手前の下衆だ。間違いなく笑顔で人を殺せる類だな、こりゃ。

 

『リゼヴィムのおじさまの命令で、邪龍の皆さんと一緒に燃え萌えしに来ましたの。燃やし買いがあるので、わたくしに萌えてくださると嬉しいですわね』

 

 耳障りな声でしゃべってくれるぜ。しかも悪意を隠しゃしねえ。

 

 ったく。この姉ちゃん確実にあれだな。

 

 人殺しの類を楽しんでやれる奴だ。ぶっ殺した方が人類にとって得だろ。

 

『もうじき戦闘開始なのですが、皆さん準備はよろしいのかしらん?』

 

 軽く殺意を沸かせるきゃぴきゃぴ声だな。

 

 俺も含めて、全員睨み付けちまったよ。

 

 そしてヴァルプルガは平然としてやがる。すごくわざとらしく身をすくめる辺り挑発巧いなこの姉ちゃん。

 

 ああ、楽しんでるのがよく分かる。下衆特有の反応だな、オイ。

 

『怖いですわ~。悪魔の皆さん檄おこですし、楽しくなりそうですわねぇ』

 

 そりゃどうも。

 

 ……安心しな。英雄に討たれるっていう下衆の栄光を与えてやるよ。

 

 俺がそう思ってると、ヴァルプルガは俺達をきょろきょろと見渡す。

 

『……ロスヴァイセさんってどなたかしらぁ?』

 

 あん?

 

 何でロスヴァイセさんを探してんだ?

 

「私ですが、なにか?」

 

 ロスヴァイセさんもわざわざ名乗り出なくてもいいと思うんすけど。

 

 まあ、それはともかくなんでだろうかねぇ?

 

『ユーグリッドさんから、あなただけは無事に連れてくるように言われてるのん。あんなイケメンくんに気に入られるなんて羨ましわねん』

 

 そこ迄か。そこ迄ロスヴァイセさんに惚れこんでるのか。

 

 確かにロスヴァイセさん器量はあるし美人だけど、残念美人の類なんだけどな。

 

 ……うかつに連れ込んだら後悔するぞ、ユーグリット。

 

 俺がそんな失礼なことを考えてるとは露知らず、ロスヴァイセさんはしっかりと首を横に振った。

 

「行きません。……戦ってでもお断りさせていただきます」

 

 その言葉に、ヴァルプルガは醜悪な笑みを浮かべる。

 

『当然よねん♪ では、良いバトルをしましょうねん』

 

 スカートのすそを上げて一礼をし、そしてヴァルプルガの映像は消えていった。

 

「あの女、あれよね。殺す相手の顔を見て喜ぶタイプ」

 

「同感だ。あの手の手合いの思考はよく知っているよ」

 

 嫌そうな顔をした姐さんとゼノヴィアの言葉を切っ掛けに、ラシアが肩をすくめてジェルジオを掲げる。

 

「まあいいわ。邪龍の群れを龍殺しで屠れないようじゃ片手落ち。……ヴァーリ、手伝いなさい」

 

「普通、監視役が手伝うんじゃないかい? ……まあいい。リゼヴィムが出てくるまでは付き合うとしよう」

 

 うっわぁ、やる気満々。

 

 元ヴィクター組が一番やる気満々なのってどうよ。お前ら一応古巣相手なんだから躊躇しろよ。

 

「……とにかくみんな気を付けて。特にあのヴァルプルガという女。間違いなく弱者を蹂躙して悦に浸るタイプよ。父兄の方達は見つからないように注意して頂戴」

 

 お嬢の言葉に、親御さん達は勢い良く頷いた。

 

 結構なプレッシャーだからな。ビビって逃げ出さなねえだけ根性あるわな。

 

 んじゃまあ、ここは最強の神滅具の保有者である俺も何か言うか。

 

 輝きとして、英雄として、ここで何か言わねえようじゃ格好がつかねえ。

 

「……んじゃまあ、命がけで気合を入れようじゃねえか。此処は絶対に守らなきゃならねえ場所だからな」

 

 ここは、アウロス学園は、冥界の子供達の輝きだ。

 

 それが曇ることなんて、絶対にあっちゃならねえな。

 

「意地でも守り切るぜ、行くぜ野郎ども!!」

 

「女もいるわよ。自分の自慢(英雄)を何だと思っているのかしら?」

 

 姐さん茶化さない!!

 

 せっかく俺が開戦の狼煙を上げようってのに、何で邪魔すんの姐さん!!

 

「此処は学園の設立者様が檄を飛ばすところでしょう? さあソーナ、一言どうぞ」

 

 しかも無茶振りしたよ、姐さん。

 

「……では、一つだけ命令を」

 

 おお、乗ったよ会長。

 

 あれか。72柱の次期当主ともなれば、即興演説の一つはできないといけねえのか。

 

 俺が感心してる中、会長は俺達全員はもちろん、父兄達を見渡して告げる。

 

「この学園に一点の汚点もつけてはなりません。……誰一人として犠牲にならず、守り切りましょう」

 

 ―いいこと言いますなぁ、会長。

 

 んじゃ、俺らも気合入れて生き残るとしましょうか!!

 



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第六章 39 偽りの白き龍

 

 そして攻撃が開始される中、俺と姐さんは……暇だった。

 

 こっちに敵が来ない。グレモリーとシトリーの実戦経験豊富な若手のエリートたちによって、邪龍たちはほとんど全部撃破されていた。

 

 ペトの狙撃の射程範囲内で戦っていることもでかい。なにせ、ペトは人間サイズの相手ならあてるだけなら10km先でもできっからな。邪龍はもっとでかいから、動きを押さえられてるのなら20km先からでもあてれるって寸法だ。しかも、オーフィスの協力によって最上級クラスにまでスペックが上昇している。

 

 それをわかってるから、攻撃力の低い連中は足止めに徹してペトの狙撃に頼っている。他のメンツだと上級クラスにぎりぎり行く程度の奴らもいるが、ペトは最上級クラスの火力を叩き込める。それによって、敵を返り討ちにすることができるというわけだ。

 

 さらにヴァーリとラシアのコンビが前衛を務めていることもでかい。

 

 史上最強の白龍皇と名高いヴァーリに、その監視役としてサマエルの毒を流用した龍殺しを保有するラシア。

 

 ……邪龍たちにとっちゃ悪夢というほかねえ。龍殺しの使い手の武器がサマエルで強化とか、ちょっと同情するぜ。

 

 とにかく稀代の狙撃手とシャレにならない龍殺しが同じ戦場に出てきてるからか、俺たち二人というある意味最終防衛ラインは、今のところ動く必要がねえ。

 

 敵主力に対するカウンターが目的だから、積極的に雑魚の迎撃に行くわけにもいかねえ。どこに出てきても対応できるように、あえて後方で待機してるわけだからな。

 

 ……つっても、あんだけ気合入れておいてやることねえってのもあれだな。

 

「敵主力に来いって思うのもあれだしな。英雄目指す身としちゃ立つ瀬がねえ」

 

「我慢しなさい。自分の出所を見極めるのも英雄を目指すのには必要よ」

 

 ぴしゃりと姐さんに叱られてしまった。

 

 それにしても、あいつ等なんでわざわざこんな派手な真似しやがったんだ?

 

 歴代の中でも有数の使い手であるゲオルグがいる。いくつも保有しているだろうリムヴァンもいる。必要なら、それ以外に移植するって手もある。

 

 にもかかわらず、わざわざ聖杯とイグドラゴッホを使ってまでこんな大規模な時間干渉結界を張るとかどういうこった。コストが割に合わなくねえか?

 

 何度も何度も俺たちを異空間に連れ去った絶霧を集中投入すれば、やろうと思えばもっと楽に誘拐もできただろう。

 

 なんか嫌な予感がするな。俺たち、例のごとく何か見落としてるんじゃねえか?

 

 つっても何を見落としてる? 使える魔法は念入りに再確認したらしいし、それが封じられたり突発的に使えなくなる可能性も低い。そして組み合わせれば新しい転移魔法を生み出せる可能性も十分にある。

 

「だけど、これはまだまだ内通者がいるということね」

 

 姐さんも懸念を感じてたのか、ぽつりとつぶやいた。

 

 内通者……まあ確かに。

 

 一回ヴィクターに寝返ったこともあるから、ラシアの信用は薄いはずだ。少なくとも、上からは緊急時にヴァーリもろとも吹きとばす術式を仕込まれてる。

 

 そのラシアが耳にできるほど、今回の情報は筒抜けだった。それほどまでに情報統制が取れてねえってことだ。

 

 敵の切り札を使用可能にしないための処置を行うっつー話し合いだってのに、それがあっさりばれてるってのがかなりあれだ。

 

 まず間違いなく、悪魔側にも内通者はいるはずだろうな。

 

 なんたって、ヴィクターは暗殺や誘拐はもちろん、トライヘキサの研究をしていた奴らの買収までやって―

 

「……なあ、姐さん」

 

「何かしら?」

 

 俺は、嫌な予感を覚えた。

 

 ……買収された奴が、即座に全員ヴィクターに亡命するってわけでもねえんじゃねえか?

 

 トライヘキサ対策が急務なんだから、こっちもトライヘキサの研究をしている連中は保護を考慮するはずだ。

 

 それを逆手にとってスパイにするとか、あるんじゃね?

 

「……今回の魔法使いの連中、全員が全員信用できるのか?」

 

「……ソーナ聞こえる? 今すぐ職員に魔法使いのチェックを行せてておいて。できれば監視もお願い」

 

 姐さんは一瞬で俺の言いたいことに気づいたのか、すぐに会長に通信をつなげる。

 

 そして次の瞬間―

 

『―全員気を付けてください。敵邪龍幹部クラス及び聖十字架使い。そしてリヒーティーカーツェーンが参戦してきました』

 

 ―チッ! こっちが気づいたことに気づかれたか!? いきなり戦力がごっそり投入されやがった!!

 

「姐さん、俺たちは何処に向かう!?」

 

「そうね。ここはイッセーやヴァーリにも動いてもらって―」

 

 俺たちがどこ行くか一瞬躊躇したその瞬間―

 

「―とったぞ、神滅具使い!!」

 

 莫大な魔のオーラが、俺たちにたたきつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、ヴァーリは目の前に現れた姿に、警戒心を強くしていた。

 

 単純な戦闘能力なら恐るるに足らずといいたいところだが、然しだからこそ気になる。

 

 今更彼女が、オーフィスの蛇もなしに自分と相対するとは思えなかったからだ。

 

「……何の用だ、カテレア」

 

 カテレア・レヴィアタン。旧魔王派幹部の最期の生き残り。正当たるレヴィアタンの孫に値する人物。

 

 紆余曲折あるも今や旧魔王派の指導者で唯一の生き残りであり、数少ない正当たるレヴィアタンの末裔である。

 

 とは言え、今の自分に対する戦力としてあてがうにはどう考えてもおかしい人材だ。

 

 蛇をもってしても、アザゼルに撃破された彼女が、瞬間的にならば主神クラスにすら相対できるようになった自分と二対一で戦うなど愚の骨頂だ。

 

「知れたことです。リムヴァン様のため、今のあなたに我々の技術がどこまで通用するか試しに来ました」

 

 その言葉に、ヴァーリは違和感を覚える。

 

 カテレアは比較的リムヴァンに対して穏健派だったが、然し旧魔王末裔としての間違ったプライドゆえに内心で下に見ていた節がある。

 

 加えて言えば、確かクルゼレイとできていたはずだ。今のカテレアの言葉には、思慕の情が浮かんでいる。

 

 何かがおかしい。ヴァーリは違和感が強くなっていくのを感じている。

 

「……どうでもいいけど、ここで敵将の首を取ればそっちも自由に行動しやすくなるんじゃないの?」

 

 周囲の邪龍をジェルジオで屠りながら、ラシアがそう促した。

 

 彼女はカテレアと面識がないので違和感に気づかないのだろう。それはそれとして、ヴァーリの好戦的な性分に反して動きを見せないのに違和感は覚えているようだ。

 

 そして実際のところ、今のカテレアは今迄よりも楽しめそうだった。

 

「相当体を苛め抜いたようだね。……すでに蛇を使っていた状態にだいぶ近づいているんじゃないかい?」

 

「ええ、蜥蜴抜きのあなたとなら互角に渡り合えると自負しております」

 

 痛烈な嫌味を返してくるが、しかしそれだけのことはある。

 

 動きに隙が全く見えない。オーラの質と量も今までとは段違いだ。

 

 数か月ほど見ない間に劇的に変化している。これは間違いなく楽しめる。

 

 そう思ったその時、しかしカテレアは肩をすくめる。

 

「とは言え、その翼まで使われれば私ではあなたに勝てないでしょう」

 

 その肩透かしな発言に、しかしヴァーリはだからこそ楽しめると確信していた。

 

 確かにそうだ。歴代最強の白龍皇である自分相手に、今の状態のカテレアでは勝ち目がない。移植した神器によってしぶとさなら上だろうが、しかしそれだけだ。

 

 その状況下でわざわざ自ら出てくるということは、それ相応の戦力を用意しているということだ。

 

 間違いなく、楽しめる。勝てると判断するだけの切り札を持っている。

 

 リゼヴィムの仕掛けてきたことでイラついている気分を払拭するにはちょうどいいと思い―

 

「なので、私も白龍皇で対抗させてもらいます」

 

 -その言葉と共に出された装備に、ヴァーリは一気に不快な感情を覚えた。

 

 腰に装着されるイグドライバーと、手に持ったジェルカートリッジ。

 

 そして、そのジェルカートリッジには白い西洋の龍のイラストが刻印されていた。

 

「……イグドライブ」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、カテレアがジェルに包まれる。

 

 そしてその瞬間全てを察したヴァーリは、不快感を隠さずに攻撃を放つ。

 

 その一撃は文字通り全力。白龍皇の鎧の出力も含めれば、無防備な状態で喰らえばカテレアとて一撃で戦闘不能にできるだろう。

 

 だが、そうはならない。

 

『Divide!』

 

 その音声と共に、放たれた攻撃が()()される。

 

 そして、そこに映るのは一部が赤く染まった白い龍の鎧。

 

 微細な違いはあれど、間違いなく白龍皇の鎧だった。

 

「……俺は、兵藤一誠と違って肉体が崩壊したりしてないはずだが?」

 

「貴方は半分人間でしょう? 知ってますか、人間は一日に何十本も毛髪が落ちるんですよ?」

 

 兜越しに嘲笑を浮かべながら、カテレアは光り輝く光翼を展開する。

 

「イグドラシリーズが一柱、イグドラグウィバー。……さあ、相手をしてもらいますよ、ヴァーリ」

 

 その瞬間、ヴァーリの殺意を込めた一撃を、カテレアは半減して防ぎ切って見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




カテレア、ついに復活。



そして偽白龍皇まで登場。いや、一度やってみたかった。


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第六章 40

激戦継続。

さて、今回の勝敗は―


 振るわれるグラム・レプリカの攻撃をかわしながら、俺は後方から放たれる魔法攻撃を魔剣の壁を作って防ぐ。

 

 そして反撃として耐え切った魔剣を磁力加速で吹っ飛ばしながら、鋭くグルズとかいうやつを睨み付ける。

 

「……てめえ! いつの間にここまで潜入してきやがった!!」

 

 リヒーティーカーツェーンの連中の目的はいたってシンプル。

 

 神々の黄昏を放棄した、アースガルズに対する復讐だ。

 

 それが何でこんなところに出張ってきやがる。ここはアースガルズの影響度低いぞ!!

 

「知れたこと!! アースガルズに協力する勢力は皆敵よ!! ましてや―」

 

 一瞬たりとも目を離しちゃいなかった。敵の中で一番強敵なんだから、当然っちゃぁ当然だ。

 

 だが、気づけば間合いの内側に入り込まれる寸前だった。

 

「―敵の強化を見過ごすなど、するほど愚かではないわぁ!!」

 

 ギリギリで聖槍で防ぐが、こりゃ強敵だ。

 

 姐さんが仕留め損ねたのも分かるってもんだ。こいつ、かなりできる。

 

「所詮は死した神をいまだ崇める者共の狗か。狼には届かん!!」

 

 連続攻撃を素早く放ちながら、グルズはそう吐き捨てる。

 

 チッ! 価値観の違う連中との対話ってのは本当にキツイ。

 

 それも、戦場で死ぬのが一番の名誉っていう質の悪い連中だ。そんな連中と平和的な解決ってのがまず無理だっつの。

 

 平和になっても戦力を投げ捨てたらいけねえな。そう痛感するぜ、こいつら見てると!!

 

 だが舐めんなよ先輩(エインヘリヤル)

 

 後輩()は、あんたらとは違う英雄(輝き)だ!!

 

「悪いんだがよ―」

 

 振るわれるグラム・レプリカを聖槍で受け止めて、俺は、一気に懐へと入り込む。

 

 そして、日本の短い魔剣を生成して一気に切りかかる。

 

 戦場で果てることそこ本懐。その果てにある神々の黄昏で戦うことこそが本望。そういう連中が、リヒーティーカーツェーンとなって意地でも神々の黄昏を引き起こそうとしている。

 

 だが、それは英雄が照らすべき人達にとってしてみれや輝きじゃねえ。

 

 なら、輝き足る俺がすることは何だ?

 

 決まってる。

 

「―あんた等とは目指す英雄の形が違うんだよ!!」

 

 懐に飛び込むと同時に、全力で魔剣を電磁加速。

 

 腕の骨が外れそうになるが構わねえ。変則的マスドライバースティンガーを俺は叩き込む。

 

 その瞬間、俺は一瞬だけだがグルズの姿を見失った。

 

 ……気づけば、グルズに向けられていたはずの視線はガラス球に向いていた。

 

 ミスディレクションか! 黒〇のバス〇!?

 

 こ、小技もできるのかコイツ!!

 

「ならば死ぬがよい!!」

 

 そして気づいた時には、完璧なタイミングでグラム・レプリカが振るわれる。

 

 槍王の型は間に合わない。勢い余って体の勢いも止められない。

 

 ……やべ、コレ、俺死んだ―

 

「―いいえ、まだよ」

 

 その瞬間、そのグルズの腕を姐さんが掴み取った。

 

 って待って? あの速度の斬撃を、握っている手を掴み取って対処する!?

 

 姐さん、いつの間にそんな荒業を!?

 

「……意外と使えるわね、コレ。ヒロイも慣れたら簡単にできるようになるわよ?」

 

 そういう姐さんの体からは、バチバチと静電気が放たれている。

 

 ま、まさか姐さん。俺が練習していた生体電流強化による安全版槍王の型を発動させたのか!!

 

 い、いつの間に。

 

「ちぃ! しかしまだ我らは全滅したわけでは―」

 

「ええそうね。だから集団戦闘の攻略法の一つを実践させてもらうわ」

 

 集団戦の攻略法。

 

 大きく分けて三つあるな。

 

 一つは弱い奴から確実につぶしていく。これが一番確実に数を潰せる。加えて敵が倒されるというのはある意味で一番効果的な精神ダメージだ。

 

 二つ目は場所を変えて囲まれないようにする。狭い路地裏とかに駆け込めば、周囲を囲まれることもない。走りまくって足の速い奴が突出するのを待つという方法もあるな。

 

 そして三つめは―

 

「最強格を瞬時に倒して、敵の士気を徹底的にくじくというやつよ」

 

 ニヤリと、姐さんが笑った。

 

 それに対して、グルズの額に青筋が浮かぶ。

 

 まあ確かに。レプリカとは言えグラムの保有者を相手にそんなこと言ってのけるとか、怖いもの知らずか腕に自信がある奴か、それともただの馬鹿か。

 

 ものすごく馬鹿にされたと感じたんだろうな。相当イラついてるぞ、アレ。

 

「たかが遺伝子調整体如きにてこずる貴様が、真の英雄(エインヘリヤル)であるこの―」

 

 そう言い放つその瞬間。

 

 一瞬で、姐さんは攻撃を叩き込んだ。

 

 厳密にいえば、しゃべっている最中に用意していた、鉄製の杭を遠慮なく顔面に叩き込んだ。

 

 そして叩き込まれた杭は、グルズの顔面を文字通り吹き飛ばして、勢いよく紫炎にぶつかって蒸発する。

 

 うっわぁ、血しぶき俺の顔にかかった。っていうか口に入ったし。これ脳みそか?

 

「……たかがエインヘリヤル如きが、最強のグラム使いたる彼を馬鹿にしないで。……彼は初代シグルズに勝るとも劣らない剣士よ」

 

 そう吐き捨てると、姐さんは鋭い視線を周りに向けた。

 

「……彼より強い者じゃないと自負してるのなら、失せなさい」

 

 その言葉に、然しリヒーティーカーツェーンはビビリはしても逃げなかった。

 

「あれほどの英雄との戦いの果ての死。これほどの名誉はそうはない!」

 

「行くぞ! グルズ隊長に続け!!」

 

 チッ。そういう発想になるのかよ。

 

 戦闘狂を育む土壌だねぇ、オイ。オーディン神も滅茶苦茶な方針は勘弁してくれよな、オイ。

 

「どうする姐さん。これ、増援にはいけそうにないぜ?」

 

「なら仕方ないわね。……ここで敵の精鋭を叩き潰すわ」

 

 ま、そうなるよなぁ。

 

 いや、マジで死ぬなよ、皆!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ヴァーリとラシアは二人掛かりで苦戦するという状況に追い込まれていた。

 

 はっきり言おう。旧魔王派は小物が多い組織である。

 

 実力に見合わないプライドが肥大化している 組織であり、安易なドーピングで率直の行動。その結果としてヴィクター内部での地位すら低下している。

 

 その幹部の中では、カテレアは比較的ましな部類ではあった。

 

 だが、それでも根幹的には小物な部類であることには変わりない。そういう意味では、やはり旧魔王派の一員である。

 

 故にヴァーリは、本心から確実に勝てると思っていた。

 

 と、いうより負けるのは心底いやであった。

 

 どこから情報を入手したのか、カテレアはよりにもよって偽物の白龍皇の力で自分に挑もうとしている。

 

 心底誇りを汚された気分だ。ある意味触れるのも攻撃するのも嫌だった。

 

 だが、それ以上に今は絶望すら覚える。

 

「……こんなものですか。ユーグリットの気持ちが少しはわかりますね」

 

 あきれ果てるカテレアの足元に倒れ伏しながら、ヴァーリは屈辱で憤死しかけていた。

 

 手も足も出ないというわけではない。だが、相手の攻撃が通用する状況で、こちらの攻撃が速攻で回復するのは、こちらにとって大きな痛手だった。

 

 不死鳥の灯火による回復能力が、こちらの攻撃を事実上無効化させてくるのがかなりきつい。この差が致命的になり、こうして敗北同然の状態となっている。

 

 何よりも腹立たしいのは、それが決定的な差になっていることだ。それさえ除けば、両者に決定的な差がない。

 

 そう、()()()()のだ。

 

 偽物の白龍皇を使う、魔王として片手落ちの相手に、真なるルシファーの末裔である真なる白龍皇である自分が大差をつけることができない。

 

 この事実にこそ、ヴァーリは憤死しかけていた。

 

「……どういう、ことだ」

 

「もう一度言うだけです。……この程度だと」

 

 カテレアは、ため息をつきながらヴァーリを冷たく見下ろす。

 

 その目には、明らかな侮蔑の視線が込められていた。

 

「所詮あなたは白龍皇という蜥蜴に頼っていただけという話。その条件で慢心すれば、真なるレヴィアタンの末裔にしてリムヴァン様の配下たる私に勝機があるのは当然のこと」

 

 その違和感だらけの言葉をさも当然に言い放ちながら、カテレアは素早くラシアの攻撃をかわす。

 

 イグドラグヴィバーの圧倒的なスペックを利用した加速力による間合いの離脱。

 

 それに対して素早くカテレアからヴァーリをかばえる位置に立ちながら、ラシアは舌打ちする。

 

「……何してるの? さっさと極覇龍を使いなさい」

 

「俺に、偽物ごときに白龍皇の極みを使えと?」

 

 軽く殺意を覚える言葉をぶつけられるが、それ以上にラシアの方が殺意をぶつけてきた。

 

「偽物ごときに追い詰められているくせにほざかないで。下らないプライドで屈辱にまみれた死を望むっていうなら、私はあなたを見捨てるわよ?」

 

 その言葉に、ヴァーリは歯噛みする。

 

 現実問題、自分はカテレアに圧倒されている。

 

 ラシアはあくまで監視役であり、そもそも自分の人生を狂わせる要因の一つであるヴァーリにそこまで情けを駆ける気はないだろう。本当に見捨てることを算段に入れているはずだ。

 

 そして、極覇龍抜きで今のカテレアを倒すことは不可能に近い。

 

 それほどまでに決定的な差が今のカテレアと自分にはある。不死鳥の灯火による不死の力は決定的だった。そして、それが決定的な差になるほど今の自分とカテレアに差はないのだ。

 

 今まさに、自分は二つの選択肢を突き付けられている。

 

 偽物ごときに本気を出さずに殺されるという、屈辱の死。偽物ごときに真なる白龍皇の本領を発揮するところにまで追い詰められたというプライドの完全崩壊。

 

 どっちに転んでもヴァーリにとってしてみれば最悪の選択だ。

 

 その事実にヴァーリが屈辱を覚えていたその時、カテレアは何かに気づいたのか後退する。

 

「……どういうつもり?」

 

「いえ、どうもグルズとグレンデルが倒されたようなので。……いったん仕切り治した方がいいでしょう」

 

 問いかけるラシアにそう平然と答えながら、カテレアは後退する。

 

 単純に考えて情けを駆けられたといってもいい。その事実に、ヴァーリははらわたが煮えくり返る。

 

「……このままでは済まさんぞ、カテレア……っ」

 

 この屈辱、なんとしても勝利することで見削がなければならない。

 

 ヴァーリは再戦の際には必ず勝利することを誓い、決意をみなぎらせた。

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




大体一勝一敗。



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第六章 41

 

 俺たちの戦いは、割と膠着状態に入っていた。

 

 敵の邪龍の波状攻撃が未だに止まない。そろそろ焦れたのか、今迄後方で待機していた邪龍達まで突っ込んできやがった。

 

『……皆さん、緊急事態です』

 

 更に間の悪い事に、会長から苦渋に満ちた通信が届く。

 

 おいおい。これ、もしかすると―

 

『魔法使いの中に内通者がいました。現在、そちらの取り押さえに時間が掛かって、転移魔法の開発に時間が掛かっています。……防衛戦闘に関してはもう少し時間が掛かる事を覚悟してください』

 

 マジか! マジで裏切り者いやがったのか!!

 

 くそ! これで脱出までの時間が更に掛かるじゃねえか! どうすんだオイ!!

 

「とにかくいったん戦線を下げるわよ!! こうなったら籠城戦でしのぐしかないわ!!」

 

『了解です。幸い、有志による避難の漏れの確認も終了しました。……できる限り戦線を下げましょう』

 

 畜生が! 姐さん達の言うことも分かるけど、これって流石にまずくねえか!?

 

『とりあえず邪龍グレンデルの完全封印にも成功したとのことです。おそらく、これでうかつな邪龍の投入は不可能になるでしょう。……これで攻勢が少しでも低下してくれればいいのですが……』

 

 グレンデルの野郎はこれで戦線離脱ってわけか。そりゃ朗報。

 

 つっても、この調子だとそれ以外の連中だって投入してきそうだな。

 

 さぁて、どうやってしのいだもんかねぇ。

 

 んなこと考えながら、少しずつ戦線を下げていく。

 

 そしてアウロス学園まで後退した時には、サイラオーグさんまで合流してくれていた。

 

 心強い援軍だが、なんツーかボロボロだな。大丈夫か?

 

「あんた大丈夫かよ?」

 

「なに、これでも治療は受けている。問題はない」

 

 ならいいんだが、半端に戦闘能力が低下していた所為で大ピンチとか勘弁してくれよな!!

 

 とにかく攻撃を凌いでいると、邪龍達を巻き込んで紫炎の十字架が放たれる。

 

 とっさに聖槍の出力を最大にして防ぐが、にしても威力がでかいな。

 

 少し火傷したぞ、熱いじゃねえか。

 

「ヴァルプルガ!!」

 

「おほほほほ! リゼヴィムおじさまから頼まれて様子を見に来ましたのよぉん」

 

 イッセーの怒声を受け流しながら、ヴァルプルガはつまらなさそうな視線を向ける。

 

 その視線は、アウロス学園に向けられていた。

 

「この様子だと、内通者の方は失敗したみたいですねん」

 

「そうですね。多少揉めましたが取り押さえには成功しました」

 

 くいっと眼鏡を上げながら、ソーナ会長が冷笑をヴァルプルガにぶつける。

 

 ああ、その辺に関しちゃ既に対応してる。俺の思わぬ思い付きがドンピシャだったぜ。危なかったな、オイ。

 

 一応暴れてる連中も何人かいたが、術式が完成する前だったので、取り押さえには成功してる。

 

「新規開発の転移魔法を逆手に取り、アグレアスを転移させるのが真の目的だそうですね」

 

 あ、事情聴取も成功してるのか。手が早いぜ会長。

 

 で、アグレアスも目的の一つとか言ってたが、本命は実はそっちだってことか。なるほど、あの放送は挑発も兼ねたブラフだったってわけか。

 

 にしても、いくらなんでも手回しが良すぎるだろ。

 

 アグレアスに関しちゃ、商業関係のトラブルが懸念されたので防護結界の新調ってのが遅れてたらしい。つっても、それを的確につくってのはあれだろ、オイ。タイミングが良すぎる。

 

 誰か冥界の重鎮クラスが関わってなけりゃぁ、ここまで全部のタイミングが揃ってる機会をつけるわけがねえ。っていうか、そいつが手回ししてそういうタイミングを作ったって方がまだ納得できる。

 

「アグレアスに何があるのですか? おそらく、トライヘキサの封印解除に使える何かだと思いますが……」

 

「答えは簡単です。そして、それ以上にあなた方に大打撃を与えられるものですよ」

 

 その言葉と共に、赤の混じった白い鎧が舞い降りた。

 

 ……白龍皇の鎧の偽物も開発されてるってわけか。そしてこの声、確かカテレアとか言ったっけか?

 

 腰に巻かれてるんのはイグドライバーか。ってことはイグドラゴッホと同じシステムで作られた偽物ってわけかよ。色々考えてくれてんじゃねえか。

 

「カテレア……ぁっ!」

 

「これはこれは、手を抜いて負けた男の遠吠えは醜いですね」

 

 歯ぎしりするヴァーリに冷笑を向けながら、カテレアは肩をすくめる。

 

「あらあら、しゃべってよろしいのですのぉ?」

 

「問題ないでしょう。リムヴァン様からも「しゃべっていいYO!」と仰られてましたし」

 

 り、リムヴァン様?

 

 ……負けたショックで色々とタガが外れたか? ショックで身の程知ったって感じかねぇ?

 

 で、アグレアスに何が?

 

「現状、アグレアスの中枢部にある遺跡から算出される結晶体を材料に使わなければ、悪魔の駒を生成することはできません」

 

 ……マジか。それ、取られてたら大変だったんじゃねえか?

 

 転生悪魔も転生天使も使えなくなるってのは、流石に大打撃確定だろ、そりゃ。

 

「リムヴァン様はかつての世界線で悪魔の駒の中でも最上級の一品を大量投入してトライヘキサの封印を解除したので、転生悪魔及び天使の追加生産を妨害することもかねて奪うのが目的だったのですが……」

 

 そう言葉を切ってから、カテレアはため息をついた。

 

「これは貴方方を殺してから、アグレアスごと破壊する方が有効なようですね」

 

 そして、冷たい視線を鋭く突きさすようにこちらに向ける。

 

 上等だ、だったらこっちも全力で立ち向かってやるよ。

 

「……させんぞ。そんなことは断じてさせん」

 

 静かに戦意を滾らせながら、サイラオーグさんもカテレアに鋭い視線をぶつける。

 

「冥界の未来を陰らせなどしない。それが目的だというのなら、ここで滅びるがいい……っ」

 

「良いでしょう。我らが理想郷設立の為、ここで滅びなさい、バアルの無能」

 

 そのまま戦意までぶつけ、そして一触即発。

 

 一瞬でサイラオーグさんは間合いを詰め殴り掛かり、それをカテレアは片手で受け止める。

 

 そして常人なら両手が消えたと錯覚するほどの速度で、攻防が繰り広げられる。

 

 オイオイオイオイ。カテレアの奴、いくらイグドラシステムを使ってるからってパワーアップしすぎだろ。

 

 サイラオーグさんは獅子の鎧纏ってんだぞ? その状態で互角って化物か。

 

 蛇使ってた頃より強くなってねえか? あのアマ、一体何を習得しやがったんだ?

 

 血のにじむ修練なんて柄じゃねえと思ったんだが、何があったらあんなに変わりやがる?

 

「なるほど。どうやら魔王の末裔というのは伊達ではないらしい」

 

「当然です。才無きあなたをそこまで高める方法を、私達才あるものが使えば、こうなるのは必然のこと」

 

 感心するサイラオーグさんに自負を浮かべながら、攻撃の隙をついてカテレアが獅子の鎧を蹴り飛ばした。

 

 そしてその一瞬の時間で、カテレアは百を超える魔力砲撃をぶっ放す。

 

 あ、これマズ―

 

「……俺を舐めるなよ、カテレアぁああああ!!!」

 

 その瞬間、怒号と共にヴァーリが時空間ごと砲撃を半減化。

 

 一気に弱体化した砲撃を拳で吹き飛ばしながら、サイラオーグさんはふむと頷いた。

 

「どうやら、今のままでは押し切られるな。……ならば!!」

 

 チッ! この御仁にそこまで言わせるほどのスペックがあるってか。

 

 おいおいこの兄ちゃんは魔王クラスだってやり合える化け物だぞ。それが押し切られるってやばくねえか? ヴァーリ込みで言った可能性だってあるじゃねえか。

 

 そんなもん、打開するにゃぁ―

 

「……兵藤一誠! 力を借りるぞ!!」

 

 ―やっぱ、奥の手を使うほかねえわなぁ!!

 

「もちろんです!! ヒロイ、リセスさんも!!」

 

「それしかないわね!!」

 

 ああ、姐さんの言う通りだし、イッセーが促す通りだ。

 

 このままだと押し切られるなら、こっちも切り札をきるしかねえ!!

 

 ついに名前の決定した、イッセーの譲渡の新たな形。

 

 その名も―

 

「行くぜ! 赤龍帝の信頼の譲渡《ウェルシュ・リライアント・トランスファー!!》」

 

 この力で、一気に俺達はお前らをぶちのめしてやる!!

 

「「「我が英雄とは―」」」

 

 詠唱を始めると同時、カテレアが目を細めるのがよく分かった。

 

「それを出されると、流石にこちらも―」

 

 それだけこっちの力を理解して息を吐き―

 

「―奥の手を切るほかありませんね」

 

 ―銃の引き金のような、赤いアイテムを取り出してイグドライバーに接続させる。

 

 なんだ? どう考えても何かしらの切り札なのは間違いねえな。

 

 チッ! んなもん黙ってさせると思うな!!

 

「開幕速攻!! 龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)!!」

 

 俺は超速攻で推進力を発揮し、一気にカテレアに迫る。

 

 そして躊躇なく聖槍を叩き込み―

 

「甘いですよ?」

 

 目の前で発生された魔力障壁で、聖槍が受け止められる。

 

 しまった。槍王の型にするべきか―

 

「イグドライブ、フルドライブ」

 

 その瞬間、爆発的な力が俺を弾き飛ばした。

 




兵器の重要なステータスは拡張性。イグドラシステムは兵器として開発されたので、当然そのあたりも考慮されています。

さあ、ヒロイたちはこの魔改造カテレアを倒すことができるか!!



後譲渡の名称はオンタイセウさんの案を採用しました。

どうもこれが一番しっくり来たもので


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第六章 42

 

 放たれるオーラの密度は、明らかに二天龍の覇龍に匹敵する。

 

 それだけの密度のオーラを身に纏い、鎧の形状を変更させたカテレアはサイラオーグさんに詰め寄った。

 

 その速度、まさに目にもとまらぬ速さ。

 

 速度特化の俺ですら、かろうじて目で追うのが限界のレベル。姐さんですら対応しきれていない。

 

 嘘だろオイ。いくらなんでもデッドコピーが、覇龍まで再現できるわけが―

 

「隙ありですよ」

 

 その狼狽は全員に伝染しており、そしてそれを逃すカテレアでもなく―

 

「何処にある?」

 

 ―ただ一人だけ、サイラオーグさんだけはそうしていなかった。

 

 龍王の獅子の鎧なら、反応さえ間に合えば防御はできる。そしてその攻撃力なら覇龍に至った二天龍が相手でも太刀打ちできるはずだ。

 

 つってもそれは反応できればの話。

 

 このイレギュラー極まりない状況下で、それができたと。

 

「なんだ……それは……っ」

 

 ヴァーリなんていまだに棒立ちだよ。覇龍まで再現されて挙句に制御までされてるから、自尊心というか自負が砕け散りまくってるよ。

 

「驚いている場合ではないぞ、ヴァーリ・ルシファー」

 

 サイラオーグさんは超高速での攻防を繰り広げながら、然し声を飛ばす。

 

「極覇龍という前代未聞の領域に到達しているお前に偽物で挑むのだ。覇龍ぐらいは再現できなくては片手落ちという者だろう」

 

「なるほど、非才ゆえに慢心はしていないようですね。見習うべきでしょうか?」

 

 そしていったん距離を取って魔力砲撃での削りに徹し始めたカテレアは、ヴァーリを嘲笑った。

 

「何を驚いているのです? あなたもこれが白龍皇の光翼のデッドコピーなのはわかっているでしょう?」

 

 そしてその言葉と共に、ヴァーリに痛烈な皮肉を叩きつける。

 

 確かにデッドコピーってのは紛い物。本物に比べれば性能が落ちてて当然だ。

 

 だが―

 

「すなわち後発品なのですよ? それも、技術力が格段に発達した最先端の後発品です」

 

 ―そう、それは技術が発展してから作られた代物だ。

 

 コストパフォーマンスはユーグリットがイグドラゴッホを語ったときのように負けてるだろう。

 

 だが、それ以外なら?

 

 後発で作られたがゆえにこそ、技術の発展の恩恵をもろに受けることができる。ゆえにこそ、暴走のリスク何ていう兵器としての致命的な欠陥、クリアして当然。そしてより安全に高性能に出来なけりゃ話にならない。

 

 コアの性能が直結する性能以外は、超えてこその後発品。そうカテレアは皮肉った。

 

「カビの生えた骨董品の好きにはさせません。アルビオンも、鞍替えするなら今のうちですよ……っと、確か今はいなかったのですね」

 

 こ、このアマ……っ!!

 

「カ、テ、レア……ぁっ」

 

 あ、ヴァーリの奴、マジでぶちぎれてる。

 

 そしてついにそのオーラが、限界を超えたらしい。

 

 そもそも神滅具一つで作った結界だ。神滅具が片手が埋まる数あるこの戦場の結界には役者不足だろう。

 

 外の結界にひびが入り、そして粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は研究所で、いろいろな研究を行っていた。

 

 主に調べてるのはイグドラシステムについてだ。

 

 あれはいうなれば封印系神器と極めて近い性質を持っている。それも、中身を付け替えやすいという意味じゃあアップグレード版だ。

 

 封印されてるものがものだけに、その性能は準神滅具クラス。それも禁手に至っているようなもんだ。それを速攻で運用できるって時点で、既に禁手すら超えているといってもいい。

 

 リムヴァンの野郎はシャレにならねえな。俺ですらいまだに暴走状態にしなけりゃできねえ疑似禁手をこんな形で再現するとはよ。

 

 そして、その厄介さは別の意味でもやばいってことがよくわかっちまった。

 

「……つーわけで、今から何がやばいのかをとりあえずトップで共有するぜ」

 

『具体的に、何が危険なのですか?』

 

 通信越しにミカエルが本題を促してくるが、ぶっちゃけいいたくねえ。

 

 だってよぉ、コレ、かなり屈辱的だしよぉ。

 

 っていうか、ある意味俺は愚か聖書の神すら超えてねえか? びっくりするにもほどがあるんだけどよ。

 

「ま、単純なこった。イグドラシステムは、封印されているものの性能をほぼダイレクトに運用できてる」

 

 その言葉に、まず真っ先に反応したのはアジュカ・ベルゼブブだった。

 

 流石に技術屋なだけあって、すぐにわかってくれるわけだな。

 

『なるほど。やはり彼の神器研究はそこまで到達しているということか。……文字通り身をもって調べられることが大きいな』

 

『ほぅ? この老いぼれにもわかるように説明してくれんか?』

 

 オーディンの爺さんが促してくるので、俺がさっさと結論を言う羽目になる。

 

 ああ~言いたくねえ。これすっごくプライド傷つくぜ。

 

「簡単にいや、奴らは龍王クラスまでなら覇龍を常時発動させてる状態で動かすことも理論上は可能だ。それも、寿命はもちろんスタミナの消耗もほぼ無しでな」

 

 その言葉に、全員が息をのんだ。

 

 当然だ。龍王クラスの戦闘能力を持つものは、実は結構多い。

 

 しかしそれを封印した神器でも、その最大開放は危険だ。

 

 なにせ覇を出す必要があるからな。出力を維持しようとしたらほぼ確実に高速で寿命を縮めるだろう。

 

 ヴァーリは魔力のバカでかさを利用して消耗をカバーしてるが、そりゃヴァーリが化け物なだけだ。普通は無理だっての。

 

 それを、イグドラシステムはやろうと思えば普通に使うことができる。

 

 安定性や継戦能力においては、既に聖書の神が作り出した神器を超えてやがる。これがどれだけすごいことか、この場にいる連中はよくわかってる。

 

 ……しかもだ。

 

「外部観測によるデータだが、どうもあれはアップグレードや強化装備の余地がある。……つまり、拡張性が非常に高い」

 

 それを利用すれば、イグドラフォースの連中は完璧に近い形で封印された存在のポテンシャルを発揮することができるだろう。

 

 それだけじゃねえ。こっちのスパイの調べ上げた情報を基にすれば―

 

「止めに最悪な情報をくれてやる。……外部デバイスの流出したデータには、封印存在にエネルギーを過剰摂取させることで、限界突破させることもできる」

 

『……それは、まずいな』

 

 アジュカが速攻で危険性に気づいてくれた。こういう研究者気質の天才は、すぐにわかってくれるから助かるぜ。

 

 っていうか次はお前が言ってくれ。俺としてもそれぐらいしてくれねえと困る。

 

『つまり、コアを使い捨てにするのならイグドラゴッホなどは二天龍の覇に匹敵する出力を出すことも可能というわけか』

 

 その言葉に、もうトップ陣営の半分以上が絶句する。

 

 ああ、これに気づいた時は俺も頭抱えたぜ。

 

 たいていのジェルカートリッジはコアに使う魔獣が希少なので、使うことはほぼないだろう。使い捨てにするには性能が高すぎる。

 

 だが、ちょっと強い邪龍をもとから使い捨てにするイグドラゴッホは違う。コストパフォーマンスはこっちも最悪に近いだろうが、それでも代用が効く。それを最大限に生かせるだろう。

 

 このブースト形態。もとからこっちが本命だな。

 

『ならば、こちらもアレを解禁することを視野に入れるべきなのかもしれない。……アジュカ、考えておいてくれ』

 

『できればしたくないが……。ここで出し惜しみをして敗けてしまえば悩むこともできなくなるか……』

 

 サーゼクスの言葉に、アジュカが額に手を当てながらため息をついた。

 

 サーゼクスも涼しげな顔なんてしちゃいねえ。見るからにひどい頭痛に陥っていますって顔だ。イケメンが台無しなぐらいしかめっ面になってやがる。……いや、これでもイケメンだな。これが真のイケメンか。

 

 つーかなんだ? なんか対抗策があるのかよ。

 

『サーゼクス? 何かあるのでしたらすぐにでも伝えてくれませんか? こちらとしても情報は共有したいのですが』

 

『ああ。上層部の腐敗を証明することになるので嘆かわしいのだが、こうなれば()()()を使うことも視野に入れねばならないだろうからね』

 

 ミカエルに苦渋の表情で答えるサーゼクスの言葉に、俺たちの中にはピンとくる連中もいた。

 

 もとより悪魔の駒のシステム的に、あるだろうといわれていたものが思い浮かぶ。

 

 そして、それが上層部の腐敗っていうことは……。

 

 そしてサーゼクスが口を開こうとしたその時、ドアが勢いよく開いた。

 

「アザゼル様!!」

 

『魔王様! 火急の事態ゆえに会議中失礼します!!』

 

 

 勢いよく通信に割り込む悪魔たちが、明らかに焦り顔で声を上げた。

 

『数分前より通信不良だったアグレアス周辺で、戦闘が勃発しております!!』

 

「敵の主力は邪龍……クリフォトの介入と思われます!!」

 

 その言葉に、真っ先に顔色を変えたのはアジュカだった。

 

『まずいな。全員、動かせる戦力は速攻で動かしてくれ。俺もすぐに向かう』

 

「何だよアジュカ。確かにヤベえが、それでもあそこにはイッセー達がいるぜ?」

 

 確かにちょっとびっくりだが、それでも最悪じゃねえ。

 

 なにせあそこにはイッセー・ヴァーリ・リセス・ヒロイ・サイラオーグという神滅具持ちがゴロゴロいるからな。この時点で並の戦力じゃあ返り討ちだ。

 

 まあ、リゼヴィムがいるなら話は変わるだろう。しかしそこも大丈夫だ。なにせ今アグレアスには皇帝(エンペラー)がいる。冥界が用意できる最強格の戦力だ。リゼヴィムでもそう簡単には突破できねえだろう。

 

 緊急事態だがパニックを起こさなくても大丈夫だと思うんだが。

 

『いや、万が一あそこを押さえられれば、今言おうとした対策は不可能になる』

 

 なんだ?

 

 俺たちの視線を受けて、アジュカは言いにくそうにしていたがそれでも口を開いた。

 

『現状、悪魔の駒の開発にはアグレアスにある遺跡が必要不可欠だ。あれがなければ対策を生産することすら不可能になる』

 

 ああ、そりゃまずいな。

 

 転生天使はまだいいが、転生悪魔制度が使えなくなるのはさすがにまずい。悪魔の社会が混乱状態になるのは目に見えてやがる。

 

 そして、悪魔の駒の生産施設が重要になるってことは。つまりその切り札ってのも想定できた。

 

 やっぱり、あるんだな、あの駒は……っ!!

 

 そして腐敗ってことは使われてるってことでもある。それも、下手すりゃトップランカーの中にもゴロゴロといるわけだ。

 

 おいリアスにソーナにサイラオーグ。お前らの進む道は、ホントにいろいろと別の意味で険しいことになってやがるな。

 

 気合入れて精進しな。そして、いつか乗り越えて見せろ。

 

 そのためにも、俺たちが来るまでしのぎ切れよ。

 

 D×Dの戦力なら、すぐにでも動かせるからよ!!

 




兵器としてのイグドラグウィバーが、異能としてのディバイン・デイヴァイディングを圧倒する。人類の歴史が技術の発展と共にある以上、人類の異能が技術の発展に苦戦するのは道理なのかもしれません。


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第六章 43 Qスーパーユーグリットタイムって? A ドンビキタイム(滝汗

はい、原作と大して変えられそうにないところは纏めまくりました!!








そしてついに明かされる、ユーグリットのこの作品における闇。

それは、みなをさらなるドンビキの渦へと送り込むのだ!!


 

 そして状況がひっくり返るところまで言った。

 

 具体的には―

 

1 匙、禁手に至る

 

2 ファーブニル三分クッキング

 

3 歴代白龍皇、パンツに目覚める。

 

 うん、後半二つはわけわからねえな!!

 

 とりあえず順番に説明しよう。

 

 まずは匙がついに禁手に至った。それも、全部ブッ込んだ状態で禁手に至った。

 

 それによって、今神滅具使いのヴァルプルガと真正面から超絶バトルだ。これはすごい。

 

 そしてファーブニルが参加した。

 

 そしてパンツを料理した。

 

 ……パンツを料理した。大事なことなので二回言ったぜ!!

 

 その結果、邪龍たちは動きを止めている。

 

 ……うん、頭が痛い。

 

 だけど三番目はその上を行くぜ! 因みにこれもファーブニルが原因だぜ!!

 

 歴代白龍皇を説得するべく、二天龍はもちろん龍王も助力をした。

 

 ヴリトラも参加したが、それと同じくしてファーブニルが参加してたのだ。

 

 そう、ファーブニルが。

 

 奴が差し出したアーシアのパンツによって、歴代白龍皇の残留思念が、パンツに目覚めた。

 

 ……そう、歴代赤龍帝と同レベルの変態と化すことで、奴らは怨念から解き放たれたのだ。

 

「……アルビオン。いったいどういう意味なんだ?」

 

「我、何もわからん」

 

 アルビオンがファーブニルの口調を物まねするほどの追い詰められている。

 

 まあ、ついにドライグと和解するぐらいにまで回復したってのに、これさらにひどいことになってねえか?

 

 ま、まぁ散々暴れてきたしっぺ返しがついに来たと思えばいいか。立派な奴は今の段階でも許すかもしれねえけど、立派じゃねえ奴はそれ相応の報復を求めるだろうからな。うん。仕方ねえな。

 

 イッセーも覗き魔だから悩むべきだな。ヴァーリは全く意味わかってねえが、お前ヴィクターについてたんだからもうちょっと悩め。

 

 まあ、それはともかく。

 

 これで状況はひっくり返るか? なにせ結界もぶち壊れたし、この調子なら増援が来るまでは持ちこたえられそうだが―

 

「さて、それじゃあ―」

 

 そして姐さんも一呼吸入れて―

 

「そろそろ出てきなさい、ユーグリット!!」

 

 その声と共に、即座にロスヴァイセさんのところにバックステップをかましてケリを叩き込んだ。

 

 そしてその瞬間、ユーグリットが姿を現して攻撃を捌く。

 

 危ねぇ!? いつの間にユーグリットの奴忍び込んでた!?

 

「いつ気づきました?」

 

「つい最近狙われた味方だもの。できる限り気を配ってるわよ」

 

 ユーグリットにそう言い放つと、姐さんは全身に光を纏って構えを取る。

 

 この戦闘でコツをつかんだみたいだな。これで、とりあえず姐さんの特訓方法はだいぶ何とかなったってわけか。

 

 俺も何とかしたいところなんだけどな。どうしたもんか。

 

 ……で、どうなる?

 

「ユーグリット。一つ聞きたいことがあるの」

 

「何ですか?」

 

 姐さんの質問に、ユーグリットはそれを承諾する。

 

 そして―

 

「あなた、なんでそこ迄ロスヴァイセに入れ込んでるの?」

 

 確かに、姐さんの言う通りだ。

 

 いくらロスヴァイセさんに価値があるといっても、そのためにわざわざ東京のど真ん中に姿を現すのは理にかなってねえ。

 

 まず間違いなく、高くなりまくりな日本のヴィクター警戒度数がでかくなる。それはヴィクターにとって損にしかならねえはずだ。

 

 日本は人間世界における対ヴィクターの最前線といってもいい。数少ないヴィクターがらみで勝ち星の方が多い国家だ。そして対策も最も進んでいるといってもいい。

 

 そんな国の警戒度をさらに上げるのはダメじゃねえか? 上だっていい顔しねえだろう。

 

 そこまでして迄、何でロスヴァイセさんを求める?

 

 その俺たちの疑念の表情を前に、ユーグリットは微笑んだ。

 

「まあ、一つは能力的な理由です。……彼女の術式はトライヘキサの封印術式そのものを新たに作り出しかねませんからね」

 

 マジか。

 

 封印術式を新たに作られかねえとか、確かに黙っちゃいられねえだろ。また封印されるとかさすがにきついからな。そりゃ阻止できればそれに越したことはねえだろう。

 

 ……だけど、それならぶち殺した方がいいんじゃねえか? 乱暴な話だけどよ、敵からすりゃ暗殺の方が手っ取り早い気がするんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こっからスーパーユーグリットタイムだった。スーパーファーブニルタイム的な意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにグレイフィアポイントが高いですからね。ぜひ味方にしておきたかったのですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が完璧に止まった。邪龍たちとは違って完璧マジモードで戦闘していた匙とヴァルプルガすら止まった。

 

「はい、ぶっちゃけますと私はシスコンです。姉であるグレイフィアが大好き大好きでたまらなくて、ぶっちゃけ姉が離反した時は精神の均衡を崩しました。ええ、ショックで引きこもりましたとも」

 

 すさまじいことをぶっちゃける男。ユーグリット・ルキフグス。

 

 いや、どんだけ大好きなんだ姉のこと。ああ、死ぬほど大事か。ショックで引きこもってたもんな。

 

 で、それがどうしてこんなことに。

 

「ですがリムヴァン様に救いをいただき、そして数年間考えて思ったのです。……ぶっちゃけ、もっと私好みのヴァリウェエーション豊かなグレイフィアを作った方がいいのではないかと」

 

 すさまじいコペルニクス的転回だ。

 

「ちょっと太ったグレイフィア・ルキフグス。ロリ体形のグレイフィア・ルキフグス。銀髪じゃなくて金髪のグレイフィア・ルキフグス。荒っぽい不良系のグレイフィア・ルキフグス。黒髪貧乳という日本の雅なグレイフィア・ルキフグス。そんなグレイフィア・ルキフグスがいてもいいじゃありませんか。そっくりさん万歳。変化とヴァリウェエーション豊かなことこそが、飽きとマンネリを生まないグレイフィア道を作り出すのです」

 

 なんか陶酔した表情で語り始めた。

 

 あとヴァリエーションに対する巻き舌は何だ。こだわりか、オイ。

 

「そうです。顏付きと骨格さえ似ていれば問題ありません。日本に来たのは優秀な美容整形技術を自ら習得したいと思ったのです。通なら自分で作り出す方がいいですしね」

 

 ああ、そうだね。日本ってそういう技術も優秀だよね。

 

「とりあえず三人ぐらいは候補を集められました。ぶっちゃけ私イケメンでヴィクターの重鎮ですので、女の方から寄ってくるから選別そのものは比較的楽ですね」

 

「確かに、財力も権力も武力も持ってるもの。それだけあれば異常性癖の一つや二つ了承できるでしょう」

 

 意外にも成果出てるユーグリットの計画に、理解を示したのは姐さんだった。

 

「私もかつては肉欲に堕ち掛けた身だもの。一点特化のステータスに、ろくでもない女は魅力を感じるわ。ほら、顔だけのダメ男に貢いで破滅する女って話はよく聞くじゃない」

 

 ああ! 確かに!!

 

 そういえば姐さんそうだった。権力と下半身力が高いクソ野郎の奴隷になりかけてたな。経験則で言ってるから説得力が違うぜ。

 

 確かにこいつはイケメンでヴィクターの重鎮だ。顔よし能力よし立場よし金よしとメリットも多い。顔面整形と変態性癖さえ我慢すりゃ、そりゃOK出す輩は出るだろうな。

 

「ポイントは顔面にコンプレックスを持っているものをスカウトすることですね。なにせ姉は美人中の美人ですので、そういう美形になれることはポイント高いでしょう」

 

 悪魔だ! まさに悪魔だ!!

 

 し、しかしそれがどうしてロスヴァイセさんに……?

 

「いいですか。彼女は優秀です。そして銀髪美人です。酒癖も方向性こそ異なりますが悪い。私の中のグレイフィアポイントは非常に高いのです」

 

 い、言われてみるとグレイフィアさんにちょっと似ている気がしてきた。箇条書きマジックってすごいな。

 

 だがお前、それってもう完璧に精神的に病んでないか?

 

「人はみな愛を求めるストーカー。ジークフリートの発言は確かに正しい」

 

 ……こんなことでジークのことを思い出したくはなかった。

 

 俺が黄昏ていると、ユーグリットはうんうんとうなづいていた。

 

 ほぼ全員をドンビキさせながら、ユーグリットはまっすぐに俺たちに視線を向ける。

 

 そこに曇りは一切ない。かけらも曇りは一切ねえ。

 

 そして―

 

「私はあえてこう言いたい。人は皆、愛を求めるヤンデレなのですと」

 

―絶対違う。

 

 俺たちの心の声がかなり一つになった気がする。

 

『異議あり』

 

 そこに、まっすぐな瞳でファーブニルが反対の声を飛ばす。

 

 ああ、俺わかってるぞ。高確率でこれは変態的な口論になるって。駄目になるって。

 

『俺様、金髪シスターのパンツを求めるパンツマニア』

 

 ほら~。

 

 そしてユーグリットは、そんなファーブニルにうんうんとうなづいた。

 

「そうですか。まあ性癖はみな人それぞれですからね」

 

『納得』

 

 納得すんな!!

 

 俺がツッコミ入れたくてたまらない感じになると、ユーグリットは結論として両手を広げた。

 

「用は質より量作戦です。一人しかいない本物のグレイフィアより、数多いグレイフィアポイントの高いハーレムの方が素晴らしい。おっぱい重視のハーレム王である兵藤一誠なら理解できるのでは?」

 

「た、確かに!!」

 

 納得するなイッセー!!

 

 後ろから刺し殺そうかと思ったぞ。いや、割と本気で殺意がわいた。

 

 この変態に共感するな!! 殴るぞ馬鹿野郎!!

 

「確かに、一人の巨乳よりもたくさんの素晴らしいおっぱいに囲まれるのはそれはそれでいい!! いや、やっぱり俺は最高のおっぱいたちに囲まれる貪欲さを求めるぜ!!」

 

 あ、俺ちょっと理解しかけたかも。

 

 やっべえ! 俺は変態なのか? 変態なのか!?

 

「そう言うわけです。今なら生活費に関しては可能な限り保証しましょう。グレイフィアポイントの非常に高いあなたにこそ、私の本妻になっていただきたい!!」

 

「誰がんだ理由で嫁になるっぺさ!!」

 

 方言出るぐらいの拒絶だった。

 

 うん、気持ちはよくわかる。マジで気持ち悪い。鳥肌立った。

 

 しかしユーグリットはきょとんと首を傾げた。

 

「駄目ですか? ……三人連続でこのパターンで行けたのですが、やはり元から美女だと効果が薄いのでしょうか」

 

 そういう問題じゃねえ!!

 

 いいか? 顔だけの男とか下半身のテクニックだけで男選ぶやつとか、たいてい問題あるからな!? 駄目女というか屑女というか……とにかくあれだからな!!

 

 ああ、結果的にだがそこから乗り越えた姐さんはさすがは英雄だぜ!! 惚れ直した!!

 

 と、とにかく―

 

「……誰でもいいです。この変態を今すぐ吹っ飛ばしてください!!」

 

 そのロスヴァイセさんの言葉に、俺たちは答えるしかねえ。

 

「いくぜ皆! この糞変態野郎マジでぶっ飛ばすぞぉおおおおお!!!」

 

 イッセーに続き、俺たちは全力でユーグリットに全力砲撃を叩き込んだ。




ユーグリット「時代は質より量!!」

はい、気持ち悪い奴が質の悪い結論に至りました。

本人が無理なら似ているので我慢。しかし一人だけだなんて劣化互換だし、そこは数でカバーという結論に至りました。

ハーレム王兵藤一誠の敵は、グレイフィアハーレムユーグリットというわけです。愛と絆のハーレムを作る兵藤一誠の敵は、打算と代用品のハーレムを作るユーグリット・ルキフグスというわけですね。









我ながらキモイの作ったなぁ……


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第六章 44

スーパーユーグリットタイムも終わり、ヴァルキリーへんの本格バトルスタート!!

因みに、そろそろイグドラフォースも出てきますぜ?


 叩き込まれる砲撃を軽やかにかわしながら、ユーグリットは素早く戦闘態勢をとる。

 

 そして筆頭格で殴り掛かるイッセーの拳を受け止めながら、優雅に告げる。

 

「赤龍帝ドライグ。せっかくだから、あなたも勧誘していいでしょうか?」

 

『……なんだと?』

 

 心底いやそうな声を出すが、ユーグリットはしかし動じない。

 

「確かに私は変態です。ですが、それは兵藤一誠も同様でしょう」

 

 ……反論できねえ。

 

 確かにイッセーは変態だ。こいつのおっぱい好きは度を越してやがる。

 

 だが、たぶんお前の方が変態だと思う。気持ち悪さが圧倒的に違うぞ。

 

「低く見積もっても最上級クラスである私なら、あなたをより上手く使えると思います。少なくとも、覇龍の制御も十分狙えるはずですよ?」

 

 ……確かに。

 

 素体の性能って意味なら、確かにイッセーよりユーグリットのほうが高いだろう。圧倒的にユーグリットが上のはずだ。

 

 そして、莫大な魔力を持っているユーグリットなら、ヴァーリと同じように覇龍を制御するってのもあり得る話だ。

 

 そう言う意味じゃあ、確かに交渉の余地はある。

 

「どうです? あなたの力を有効利用できるのは、この作戦で証明されたと思うので―」

 

『却下だ』

 

 ユーグリットの言葉を途中で遮る勢いで、ドライグは否の言葉を叩きつけた。

 

 フッ。確かにそうだよな。

 

『確かに相棒には悩まされることは多々ある。なんでもかんでも女の胸で解決する所為で、俺の心労は絶えないと言ってもいい』

 

「ひでぇ!!」

 

 酷くないぞイッセー。

 

 ドライグのため息交じりの愚痴に対する、イッセーの悲鳴に俺は突っ込んだ。

 

 全面的にお前が悪いわ。そうでもしなけりゃ事態を打破できなかったとはいえ、他になんかなかったのかとは本気で思うぞ。

 

 うん。これだけ聞くとユーグリットの方が好待遇に見えてくるな。

 

 確かにユーグリットも変態だが、単純なスペックなら確かにイッセーより上だ。覇を自由に扱えるなどという領域に至れるかもしれないというのなら、そりゃ確かに心惹かれるところもあるかもしれねえ。

 

 だけど、ドライグは躊躇せずにバッサリと切り捨てた。

 

『だが俺は相棒がいい。歴代で最も才能がないくせに、歴代で最も俺の新しい側面を引き出したこの相棒こそが、歴代最優の赤龍帝だと、俺は断言できるからな』

 

 その凄まじいドライグの信頼の籠った言葉に、ユーグリッドは息を吐いた。

 

「仕方がありません。では現赤龍帝を殺してから、次の赤龍帝に誘いをかけることにいたしましょう」

 

 そう言うなり、ユーグリッドはぱちんと指を鳴らす。

 

 その瞬間、呆けていた邪龍の群れが動きを再開し、同時に更に上空から地面に激突寸前の勢いで着地する影があった。

 

 あれはイグドラスルト!? キュラスルか!!

 

「ようやく出番か! 退屈したぜ!!」

 

「その通りです。撤退準備が整うまでの間に、一人か二人ほど退場していただきましょう」

 

「そうですね。作戦は失敗してリヒーティーカーツェーンも壊滅しました。手柄の一つぐらいは立てないと申し訳ないです」

 

 三者三様のイグドラシリーズが、戦意を燃やして俺らを見据える。

 

 いいねぇ。いいプレッシャーだよ、マジで。

 

 なら、こっちも全力で相手するしかねえよなぁ!!

 

「上等だ!! だったら、文字通り全力で叩き潰してやるぜ!!」

 

 覚悟決めてもらおうか、偽物軍団!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして真っ先にキュラスルが狙いを定めたのは、ギャスパーだった。

 

 闇の獣と化したギャスパーに、キュラスルは遠慮なくスルト・サードの灼熱を宿した拳で殴り掛かる。

 

 そして拳が叩き込まれるその一瞬で、ギャスパーもまた闇の獣を新しく呼び出してカウンターで食らいつかせた。

 

 闇が吹き飛ばされ、ギャスパーの肩が砕ける。

 

 そして同時に、キュラスルの肉も食いちぎられた。

 

 だが、それだけならこちらが有利だとギャスパーは判断していた。

 

 こっちの負傷はアーシアが即座に直してくれる。しかし向こうの攻撃は闇の影響で治らない。

 

 聖杯の運用に長けていたマリウスですら、外部制御では不可能だったのだ。明らかに脳筋であるキュラスルが使用しても意味はないだろう。

 

 おそらく神滅具も直接攻撃系だろう。そう思っていたのだがー

 

「おいおい。俺をマリウスの頭でっかちと一緒にしてんじゃねえよ」

 

 にやりと笑ったキュラスルの傷が、再生する。

 

 フェニックスの涙や聖母の微笑に比べればゆっくりと。しかし普通の自然治癒と比べれば、常軌を逸した速度で傷を癒し始めていた。

 

 すぐに傷は完全に癒えるだろう。しかしそれは重要ではない。

 

 能力の種は簡単だ。どうやらキュラスルはそういった方面での知恵が足りないらしい。

 

 そして、だからこそ問題だともいえる。

 

『……並行世界の聖杯か!!』

 

「みてぇだな!! ちなみに俺は、精神汚染に対する耐性が段違いらしいぜ? だから何重にも安全策使って出力下がっててもこの再生力よぉ!!」

 

 言うが早いか、キュラスルは素早いフットワークでこちらを翻弄しながら、連続攻撃を叩き込む。

 

 神器の力で増幅され、禁手の力で増強され、とどめにイグドラシステムで大幅に向上したキュラスルの怪力は、たやすく闇の獣と化したギャスパーを打ち据える。

 

 近接戦闘技術にまだ長けていないギャスパーでは対処しきれない。それほどまでに、キュラスルは人を殴り殺すことに長けていた。

 

『腹が立つね!! ヴィクターはなんでお前みたいなやつを入れたんだ!』

 

「どうでもいいなぁ、そんなこと!!」

 

 苛立ちを吐き捨てるかのように吐き出されたギャスパーの言葉を、キュラスルはそう一蹴する。

 

 そう、彼にとってそんなことはどうでもいい。心底まとめてどうでもいい。

 

「俺はこの生まれつき恵まれた怪力使って、羽を伸ばして暴れてぇだけさ!! ヴィクターは暴れ場所をくれるっつーから参加してるだけだっての!!」

 

 そんな身勝手極まりない理由を堂々と告げながら、キュラスルはギャスパーの顔面にアイアンクローを叩き込む。

 

 激痛に動きが乱れた隙をついて、キュラスルは遠慮なくギャスパーを地面にたたきつける。

 

 多重玉突き事故が起きたかのような轟音。隕石が直撃したかのようなクレーター。飛び散る破片で敵も味方も多少のダメージが入り、一部では即座に回復する必要があるほどにまで深手を負うほどの周辺被害。

 

 それらを一顧だにせず、キュラスルは一回伸びをすると、ギャスパーを見下ろした。

 

「まぁなんだ。そんな俺を好き勝手を止められねえお前らが弱いのが悪いよなぁ?」

 

『ぐ……ぅ』

 

 立ち上がろうとするギャスパーを踏みつけて、キュラスルは拳を握りしめる。

 

「言っとくが、最重要危険対象の手前の対策ぐらい立ててるに決まってんだろぉ? 当然俺の禁手もそういう方法が運用可能なんだよ」

 

 そのまま全重量と筋力で踏み潰しにかかりながら、キュラスルは高笑いする。

 

「俺の禁手は肉体を相手に最適な状態にする、幽世に身を沈めし狂戦士(セフィロト・グラール・ベルセルク)!! てめえのデータはきっちりとってんだよ!!」

 

 そしてそのまま強引に頭を踏み潰そうとしたその瞬間―

 

「ならば、相手を変えればいいだけか」

 

 顔面にサイラオーグの拳が叩き込まれ、キュラスルはそのまま吹っ飛ばされる。

 

 即座に空中で態勢を立て直すキュラスルだが、舌打ちをすると嫌そうな顔をする。

 

 それを見て、サイラオーグはやはりといわんばかりに納得する。

 

「ギャスパー・ヴラディ対策が必須ということは、この戦場で他の相手に適した形態にはなれないのだろう? なら、俺にはあまり意味がない禁手だな」

 

『力を貸してください。……平行世界とは言え、ヴァレリーの聖杯を悪用されて黙ってるわけにはいかない……っ!!』

 

 並び立ちながら、戦意をなくすことなくキュラスルを睨み付けるギャスパーを、サイラオーグは良いものを見たように目を細めて見つめる。

 

「流石はリアスの眷属だ。……行くぞ!!」

 

『はい!!』

 

「上等だぁ! こっからは遊び抜きの本気でいくぜ。お前ら強いしなぁ!!」

ぜ。お前ら強いしなぁ!!」

 

 身を歓喜に震わせながら突貫するキュラスルを、二人は同時に迎え撃った。

 

 

 




今回のイグドラシリーズは、キュラスル・スリレングのイグドラスルト。

キュラスルには実は明確なモデルキャラがいたり。

ヒロアカで出てきた筋肉野郎といえばわかるでしょうか。悪役としてかなりの完成度に惚れこんで、モデルにしました。アイツ敵役じゃなくて悪役として人気がでかそうな感じがするぐらい完成度高いですね。フロアボス的な役回りとしてはかなり完成している気がします。


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第六章 45 オリジナルの意地

真二天龍VS偽二天龍の第二ラウンド!!


 

 

 

 そして同じタイミングで、ヴァーリは再びカテレアと対峙していた。

 

「まさか、ついさっきやられたばかりなのに策もなく挑むとは思いませんでしたよ」

 

 いうが早いか即座にフルドライブを発動させ、カテレアは躊躇なく攻撃を叩き込む。

 

 その攻撃を喰らいながら、しかしヴァーリも黙ってはいなかった。

 

 確かに、自らの到達した新たな領域である極覇龍は使う気はない。

 

 あれは歴代の誰もが到達できなかった、前代未聞の領域だ。あれを偽物相手に使うなどヴァーリのプライドに関わる。使った瞬間に憤死するだろう。

 

 だが、その一歩手前ならギリギリで対応できる。

 

「我、目覚めるは―。覇の理にすべてを奪われし、二天龍なり」

 

 苛立たしいが認める他ない。今のカテレア・レヴィアタンは見違えるほどに強くなった。

 

「無限を妬み、夢幻を想う」

 

 装備が強力になっただけではない。本体の能力そのものが大幅に向上されている。そのうえでイグドラグヴィバーを使っているからこそ、あれだけの強敵と化しているのだ。

 

「我、白き龍の覇道を極め―」

 

 ならば、こちらもギアを一段上げねばならないだろう。

 

「―汝を無垢の極限へと誘おう!!」

 

 遠慮なく、こちらは使う事にしよう。

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!』

 

 その瞬間、ヴァーリは久々に覇龍を発動させた。

 

「覇龍ですか。覇と覇の対決とは面白いですね!!」

 

 そう答えながら、カテレアはより出力を増大化させて攻撃を開始する。

 

 そして超音速での激突が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 くそ! この戦闘マジですげえなオイ!!

 

「流石にやりますね。オリジナルの意地と思うべきでしょうか?」

 

「言ってろ! こっからが逆転タイムだ!」

 

 こっちの攻撃を冷静に対処するユーグリットに吠えながら、俺は勝つ為の道筋をしっかりと考える。

 

 なめてられるのも今の内だ! こっちはこっちできちんと反撃の為の作戦は立ててるんだよ!!

 

 いけるか、ドライグ?

 

『安心しろ。過程こそ不満があるが、結果に不満は何もない。遠慮なくできるぞ』

 

 分かった! それなら何とかなるな。

 

 行くぜドライグ!! 白龍皇の妖精達だ!!

 

 俺はユーグリットから距離を取りながら、白龍皇の妖精達を展開する。

 

 そして砲撃をぶちかまして反射させて攻撃を叩き込む。

 

 もちろんユーグリットは二回目なんで冷静に躱して、こっちも砲撃を叩き込んだ。

 

 それに飛竜が群がる。そして半減の力が機能して、一気に弱体化させていった。

 

 それはもちろんユーグリットも織り込み済みだ。遠距離戦なら変則的砲撃ができる上に半減を連発できる俺の方が有利。奴が勝つなら接近戦だろう。

 

 そしてもちろん、ユーグリットはフルドライブを展開して一気に接近した。

 

「一応言っておきますが―」

 

 俺はその言葉を無視してガードの構えを取る。

 

 そして、ユーグリットは拳を振り下ろした。

 

「貴方の出力では防げません!!」

 

 その言葉と共に、爆発が起きたのかと勘違いするぐらいの大きな音が響く。

 

 そして俺は―

 

「……なにが防げないって?」

 

 ―それを受け止め切った!!

 

 衝撃で腕は痛いけど、そんなものはもう慣れている。

 

 こんなもんで俺は倒れねえよ。ど変態シスコン野郎なんかに負けてたまるか!!

 

 そしてその結果に、ユーグリットの奴も驚いていた。

 

「なんと!? いくらなんでも成長が早すぎる……っ」

 

 どうやら種に気づいたみたいだ。

 

 そう、俺の体には赤くなった飛竜がくっついている。

 

 それが種だ。

 

「まさか、飛竜を赤龍帝化させて自らに倍加を!?」

 

 そうだ。これが俺の新たなアイディア。

 

 白龍皇の力の具現化っつっても、元々赤龍帝の鎧の力だ。なら、赤龍帝の力を具現化させる事もできるかもしれない。

 

 ぶっつけ本番だったけど大成功だ。俺ってホント本番に強いぜ。

 

「偽物にはない本物の強みってやつだ。どうだ、デッドコピー!!」

 

 その言葉と共に、俺は全力の拳をユーグリットに叩き付ける。

 

 フルドライブ状態でも相当もらったのか、奴は結構勢いよく吹っ飛んだ。

 

 そして同時に、カテレア相手にヴァーリもいい勝負に持ち込んでた。

 

「流石に覇龍が相手だと苦戦しますね……っ」

 

「これが、オリジナルとデッドコピーにある根源的な差だ!!」

 

 そして俺達はお互いにタッグを組みながら、二人を睨み付ける。

 

 俺はふと思いついて、ドライグに思考を送ってみた。

 

 ドライグ。アルビオンを経由してヴァーリにこれを伝えられないか?

 

『……なるほど。これなら勝ち目はありそうだな。……行けるか白いの?』

 

 そして数秒して、ヴァーリがこくんと頷いた。

 

 よっしゃぁ! じゃあ、二天龍タッグの恐ろしさを思い知らせてやるぜ!!

 

「何を考えているか知りませんが、タッグマッチなら素体の性能差でこちらが―」

 

『Compression Divider!!』

 

 ユーグリットが言い切る前に、ヴァーリが渾身の全力で次元半減を試みる。

 

 ユーグリットもカテレアもそれを防ぐけど、動きは止まった。

 

 ……ああ、これで終わりだ!!

 

 俺の胸部装甲が展開して、そして砲門を構成する。

 

 これが、覇を克服したからこそできる俺の今の最大の一撃だ。

 

 飛竜が一斉に俺の体に接続して、そして大火力を集めていく。

 

「こ、この火力は……っ」

 

 カテレアが頬を引きつらせるが、もう遅い。

 

 これで、終わりだ!!

 

「ぶっ飛べ、ロンギヌス・スマッシャぁあああああああ!!!!」

 

 そして莫大な火力が、一気に放たれた。

 

 そのオーラは文字通り天を染め上げ、紫の冥界の空を紅一色に塗り潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 



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第六章 46

ついにF型が登場します。


 ……嘘だろ、オイ。

 

 空が、紅一色に染め上げられちまってやがる。

 

 冗談きついって。赤龍帝の籠手より上位の神滅具がいくつもある?

 

 いやいや、絶霧だって全力で防御してもあれは防げねえだろ。確実に吹っ飛ぶっつの。

 

 圧倒的な火力というシャレにならない必殺の攻撃が、カテレアとユーグリットを飲み込みやがった。

 

 あれ、塵も残ってねえんじゃねえか、オイ。

 

「ほら。俺が何とかするって言ったでしょ、ロスヴァイセさん」

 

 そう言ってサムズアップするイッセーに、ロスヴァイセさんは苦笑した。

 

 ああ、こりゃ流石にすげえなオイ。

 

 確か火力が莫大なら神器無効化能力を突破することもできるらしいし、この火力ならいけるんじゃねえか?

 

『といっても、おそらく数か月は放つことはできんだろう。流石に火力に見合うだけの代償はあるということだ』

 

 あ、そうなのか、ドライグ。

 

 つーかシャレにならねえ威力にもほどがあるとは思ったが、制約もでかいってことか。

 

 ま、そんだけの制約が無けりゃぁ上位神滅具に名をつられてねえなんてことはねえだろうしな。おかしい話じゃねえ。

 

「……まったく、紅というのは忌々しいですね……っ」

 

 と、其の声に俺達は飛び跳ねるように振り返った。

 

 そこには、装甲を解除したユーグリットとカテレアが、ふらふらだがしかし立っていた。

 

 マジかよ、あれくらって生きてるどころか立ち上がっただと……!?

 

「ジェルカートリッジの過剰使用で何とか生き残れましたが、二天龍を少し怒らせすぎましたか……」

 

 口から流れる血を拭きながら、カテレアは舌打ちする。

 

 だろうな。どうやら今の状態だとこれ以上の戦闘は無理なようだ。

 

「おいおいマジかよ!! 二天龍対決はやっぱオリジナルが上ってか?」

 

「あらあらぁん? これは萌えない展開ですわねぇ」

 

 キュラスルとヴァルプルガも、状況が不利になったことを悟った様だ。

 

 ああ、逃げるなら今の内だぜ。逃がす気はねえけどな。

 

 できることなら、ここで一気に確実に倒して―

 

「お~やおやおや。やっぱ糞悪魔ちゃん達じゃぁ勝てなかったって感じっすかねぇ?」

 

 その時、あまりにも乗りの軽い声が響いた。

 

 其の声に弾かれるように振り向けば、そこにいたのは白髪の男。

 

 年齢は俺らと同じぐらいか? っていうか、どっかで見たような気がするな。

 

「フリード!!」

 

 イッセーが怒りに燃える声を出して、そして俺は気が付いた。

 

 ああ、コカビエルが暴走した一件で聖剣使ってたらしい聖剣使いか。そういやそんなやついたな。

 

 確か、夏休みの時の襲撃事件で暴れてたんだっけな。そういやあの時もしっかりタイミングを見計らって撤退してたそうだな。

 

「よっす! キュラスルの旦那は今日も極楽暴れまくりタイムで何よりでさぁ」

 

「おうよ! おまえが来たってことは、もうちょっと暴れられそうでよかったぜ!!」

 

 ……なんだ? 何がどういうことだ?

 

 キュラスルの奴と仲が良さそうなのはどうでもいい。つーか、そもそも性質が近いだろうしな。馬が合うのはよく分かる。

 

 しかし、今更フリード如きが出てきて俺らをどうにかできるか?

 

 言っちゃなんだが、完璧インフレに置いて行かれている側なんだが……。

 

「おいおいそこのお兄さん? も~しかしてこのフリードくんが何の対策もしないでインフレバトルに参加すると思ってるのかなぁん?」

 

 そう言いながら、フリードは腰に何かを装着する。

 

 あ、イグドライバー!?

 

「イグドライブ!!」

 

 その言葉と共にジェルカートリッジを装着し、そして即座に変身する。

 

 ……全身に歯車を装着した、赤と白のツートンカラーのメカニカルなパワードスーツ。

 

 ……しかも、この波動とインナーの模様は……ドラゴン!!

 

「イグドラゴッホとイグドラグウィバーの応用発展形! イグドラツヴァイ!! フリードきゅんの専用兵装でございますでぇす」

 

 そうほざいたフリードは、さらに両手に魔剣を構える。

 

 確か奴は、魔剣ノートゥングを持っていたな。

 

 そしてさらに、あれも魔剣か?

 

「そして人呼んで魔剣バムルンク!! 俺読んでぶっ貫きの剣!! いや~、俺様ちゃんも魔剣の使い手を目指して用意されたスペシャルちゃんなんでぇ、これぐらいはできないとねぇん?」

 

 そうぶりっこっぽい首の傾げ方をするのがマジでむかつく。

 

 一遍マジでぶっ殺してやろうか。っていうか刺し殺していいよな、ヴィクターだしよ。

 

「ふん。カテレアやユーグリットとは違って魔力を持たないお前に、フルドライブは使え無いだろう。それでどうやって状況をひっくり返す気だ?」

 

 ヴァーリはそう言って鼻で笑う。

 

 確かに、ユーグリットやカテレアがオリジナルと互角以上に戦えてたのは、その素体性能が莫大だからだ。

 

 あのグレイフィアさんの弟であるユーグリット。仮にも魔王末裔のカテレア。どっちも悪魔としてはかなりレベルが高い部類だろうしな。

 

 それに比べて、フリードの奴はあくまでただの人間だ。その性能には限度がある。

 

 ……マジ勝負して、勝てるのかコイツ。ユーグリットやカテレアの方がはるかに強敵な気がするんだがよ。

 

 いや、逆に考えろ。……それでも勝てる何かを持っているから態々こんなところに出てきたんだってな。

 

 まあ、ただ単に調子乗っただけの馬鹿だったらそれはそれでいいんだがな。こっちが苦労することはねえだろう。警戒しすぎて肩透かしだったってだけで、後で笑い話でもすりゃぁいい。

 

 そう思って俺が構えると、フリードの奴は楽し気な笑みをした。

 

「いいねいいねぇ。素敵快適最適なバトルライフが楽しめそうじゃん? で・も! 今回君はようじゃないので~っす!!」

 

 そしてそういった瞬間、フリードの足元が闇に包まれる。

 

 そしてそこから、今迄とは毛色の違うドーインジャーが現れた。

 

 ドーインジャー!? つーことはまさか……。

 

「それではあった方はおひさりぶりーのお初のかたははじめましてーの! 僕ちん素敵なヴィクターのハンター。元糞教会で悪魔ハンティングしていたフリード・セルゼンでございま~っす!」

 

 そして大量のドーインジャーを飛び立たせながら、フリードは狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

「ヴィクター魔獣創造保有者、『獣王』が一角、フリード・セルゼンをどうかよろしくお願いしま~す」

 

 その瞬間、大量のドーインジャーが距離を取りつつ一斉攻撃を叩き込んできやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の瞬間、歯車の塊になったフリードが、俺たちに飛び込んできた。

 

「へいぶった切り―! そっしてぶっ貫きー!!」

 

 器用に二本の魔剣で俺とヴァーリを同時に狙ってくる。

 

 俺たちはもちろん迎撃したけど、それがあっさりとはじかれて、鎧が砕ける。

 

 嘘だろ!? 今更フリードなんかに!?

 

 そう思った瞬間、ドーインジャーからの砲撃が叩き込まれて鎧が一気に削れてくる。

 

 んなあほな!? 今更ドーインジャーの弾幕の一発や二発で俺たちの鎧が削れるわけがねえ!?

 

「不思議かい? 不思議だねー? 不思議に決まってんだろぉ? もちろん種があるんだよねぇ?」

 

 そして気づいた時には、フリードが目の前にいて、バムルンクを構えていた。

 

 俺はとっさに両手を交差してガードするけど、それでも防ぎきれずに全身に裂傷が走る。

 

「兵藤一誠!? チッ! 君ごとき雑魚が―」

 

「―今雑魚は君だよん?」

 

 後ろから殴り掛かるヴァーリを、フリードは遠慮なくノートゥングで横薙ぎに叩き伏せた。

 

 鎧の頑丈差で切り裂かれはしなかったけど、鎧そのものに深い裂傷を刻まれ、ヴァーリは吹っ飛ばされる。

 

 おかしい。明らかにヴァーリが遅い。

 

 いつものあいつならガードが間に合っていたはずだ。初めてアイツとぶつかった時より遅くなってないか!?

 

「それでは種を教えてしんぜよう。お聞きになって?」

 

 そういいながら、フリードは大量のドーインジャーを生産し続ける。

 

 そしてそれを自慢げに胸をふんぞり返らせて、フリードははっきり言いきった。

 

「このドーインジャーはF型。天を堕とすために開発された、特別仕様なのSA!」

 

 そう言い放ち、そして大量にドーインジャーを展開し続けながらフリードは切りかかる。

 

 そして今気づいた。遅くなってるのは、ヴァーリだけじゃねえ。俺もだ。

 

 あのドーインジャーが増えるたびに、俺とヴァーリの動きが重くなってる……っ!

 

「対二天龍専用の特注仕様!! さあ、今迄の屈辱を倍返しにするスーパーフリードタイムがやってきたぜぇ!!」

 

 これ以上増やされたらヤバイと思って攻撃を放つけど、F型のドーンジャーはむちゃくちゃ速くて、倒すより増える量が多すぎる。

 

 くそ、かすめただけでも倒せるのに、そのかすめさせるのが大変なぐらい速い!!

 

 そして、気づいた時にはフリードが両手の魔剣を構えていた。

 

「お別れは寂しいけれど、それでもいつか分かれるのが人の定めなのよねん。ばいちゃ!!」

 

 そして、魔剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




復活のフリード。我ながら、フリードをこの局面でボスとして出すのは自分ぐらいだと思っております。

なんていう、序盤の敵がパワーアップして再登場って面白そうじゃないですか。とくにチンピラがチンピラのまま努力してるやつを追い込むのって、その後の逆転ありですがカタルシスっていうのがあると思いません?

そしてF型ついに登場。親・壇黎斗さんの対二天龍仕様をメインにし、その能力の方向性に只野 案山子さんの意見を参考にし、さらに共鳴による封印能力を追加しました。

偽二天龍のデータを基にして、さらにもう一押し用意させていただきました!!


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第六章 47 基本は大事

ヴァルキリー編ラストバトル。

さあ、この編では情けないところが出てきていたが、主人公はきっちり活躍するものだ!!


 

 こりゃ大ピンチだ。マジで大ピンチだ。

 

 大量の出てくるドーインジャーに、まだ残っている邪龍。

 

 しかもドーインジャーはすばしっこくて中々落とす事ができないってわけだ。面倒だ。

 

 だからあれだ。本体叩くしかねえ。

 

「要は二天龍以外はどうにかできるってことだろうがぁ!!」

 

 俺がやるしかねえよなぁ!!

 

 ギリギリでイッセーを庇って聖槍を構えながら、俺は聖槍を抑え込む。

 

 つっても龍槍の勇者は解けてやがる。どうやら二天龍の力そのものに妨害行為を加えさせれるようだな。厄介だなオイ。

 

 だが、俺は赤龍帝の力を借りるだけの存在じゃねえ!!

 

 腐っても教会の秘密兵器を舐めんじゃねえぞ、クソ野郎!!

 

「教会の面汚しが! 粛正タイムだ!」

 

「はっはー! あんたに言われるのはちょっとむかつくねぇ!!」

 

 高速で魔剣と聖槍をぶつけ合いながら、俺達は睨み合う。

 

 つっても向こうは頑丈なプロテクターに身を包んでやがる。攻撃を多少は無視できる分、あっちの方が有利か。

 

 しかもフリードの奴は格闘打撃で俺をぶちのめせる。大してこっちは魔剣を生成しても突破困難。

 

 俺の作り上げる龍殺し程度じゃ、あの装甲はぶち抜けねえ。

 

 つまり聖槍でどうにかするしかねえってわけだ。クリーンヒットが必要不可欠。

 

 そして、一本しかねえ聖槍と二本ある伝説の魔剣のどっちが手数で有利かなんてわかりきってやがる。

 

 ……上等っ!!

 

「イッセーさがってな! 今度はこっちが仕事する番だ!!」

 

「だけどヒロイ!!」

 

 イッセーが割って入ろうとするが、想像以上に封印が酷くて、流石にこれ以上は無理があるな。

 

 ランダム軌道で弾幕と攻撃回避に集中しているF型のドーインジャーは、どうやら紙装甲でとにかく躱すタイプってわけだ。

 

 イッセー達の性能向上から言って、装甲に割り振って鈍重にすりゃぁ、大火力で一気に吹っ飛ばされると判断したんだろうよ。

 

 仕組みはわからねえが、一体でも捕縛出来りゃぁアザゼルがどうにかしてくれるはず。……できねえとまずいがな。

 

 とにかく! ここは俺達がどうにかするしかねえ!!

 

 俺は真正面からフリードを見据えて、動きに対応する。

 

 落ち着け。やりようはある。戦い方はある。

 

 俺は軽くステップを踏んで、その辺りから体内電流を加速させる。

 

 ごく僅かに、しかししっかりと動きが見えるようになる。

 

 ……命がけで成功か死かって時なら気合の入り方が違うな。百の訓練より一の実戦ってのはよく言ったもんだぜ。

 

 そして、その一の実戦を生き残るために積んできた、数百の訓練がここで生きる。

 

 基礎工事はしっかり出来ていると断言できる。此処がしっかりしてない奴は、何か起きた時にもろさが露呈するもんだ。

 

 俺はそうはっきり確信できるほど、フリードの攻撃を捌く事が出来ていた。

 

 今回は完璧に聖槍の意識を向けて反撃を叩き込む。

 

「うぉっ!?」

 

「お前、ほんともったいねぇよ」

 

 俺は心底残念に思うね。

 

 こいつあれだ。基本トレーニングを地味だとか言ってやらないタイプ。そんでもって天才的な感覚で難易度の高いことだけはきちんとやれちゃう厄介な類。

 

 だが、だからこそ同格同士がぶつかれば、基礎がしっかりできている方が最後に立つ。お前は見掛け倒しで柔いんだよ。

 

 だから、俺がお前に負けることはない!!

 

「覚悟しな。散々暴れてくれた礼は、きちんと返すぜ!!」

 

 俺は全力で叩き潰すべく、聖槍の連撃を叩き込んで、相手を空中に飛ばす。

 

 その一瞬があれば十分。この技は隙がでかいからな。溜めが欲しかった。

 

「槍王の型―」

 

「舐めんじゃねえよクソガキぃいいいい!!」

 

 カウンターでフリードはバルムンクを突き出すが、悪手だな。

 

 刺突の威力で、こいつを超えようだなんて考えたのが敗因だ。

 

「―流星!!」

 

 遠慮なく渾身の一撃が、バルムンクのオーラをあっさりと突き破ってフリードの肩口に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒロイの奴、滅茶苦茶強くなってやがる!!

 

 初代孫悟空の爺さんに指示されたこと、しっかりきちんと習得しやがった。少しだけど、動きがしっかりと一瞬で変わりやがった。

 

 そんでもってこれ以上ないレベルで槍王の型を叩き込みやがった。お前は特撮の主人公か何かかよ。

 

 流星を喰らったフリードは、悲鳴を上げる間もなく上空に吹っ飛ばされる。

 

 そして、それをカテレアとユーグリットが回収した。

 

「潮時ですか。そろそろ離脱した方がよさそうですね」

 

 ユーグリットはぎこちなく肩を動かすと、そのまま上に飛ぶ。

 

 気づけば、上空には絶霧で作られたっぽい霧が作られている。

 

 あの野郎!! そのまま逃げる気か!!

 

「いい感じに暴れられたし、俺も帰るか」

 

「萌え燃えできて満足ですわぁ。皆さまごきげんよう♪」

 

 キュラスルとヴァルプルガもそう言って、邪龍に飛び乗って逃げようとする。

 

 くそ! 結局逃げられるのかよ!! 下手に追いかけると敵のど真ん中に現れそうだし、追いかけたくても追いかけられない!!

 

 そして霧は薄くなり、あいつらは完全に転移しやがった。

 

「……今連絡が入った。アグレアスを覆っていた邪龍達も撤退したそうだ」

 

 サイラオーグさんの言葉に、俺達はちょっとほっとする。

 

 結局一人も再起不能にできなかったのは残念だった。

 

 だけど、俺達の成果はきちんとある。

 

 俺達は、誰からともなく振り返る。

 

 そこには、かろうじて無事だったアウロス学園の校舎がある。

 

 そこから、子供達がゆっくりと顔を覗かせていた。

 

「ほらイッセー。こういう時こそおっぱいドラゴンらしい事しないとダメよ?」

 

 そうリセスさんに背中を押されて、俺はどうしたもんかと思って……。

 

「……悪い奴らは追い払ったぜ!! みんな、もう大丈夫だ!!」

 

 と、とりあえずこんな感じでいいかな?

 

 ちょっと沈黙があって心配なんだけど……。

 

『『『『『『『『『『やったぁあああああああ!!!』』』』』』』』』』

 

 勢いよく、子供達が歓声を上げる。

 

 ……うん、とりあえず俺達、この学園はきちんと守る事ができたんだよな。

 

 色々と上の思惑もあるけど、それでもきちんとできた「どんな悪魔でも通うことができる学校」。その第一弾が始まる前からぶち壊されるなんて、見てられないもんな。

 

 ああ、ざまあみやがれユーグリット。

 

 お前達が思うほど、俺達だって弱いわけじゃない。

 

 俺だけじゃない。リアスにリセスさん、そしてヒロイ達もいる。

 

 何があろうと、お前達の好きにはさせてやらないからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




 強化装備で圧倒する相手に、基礎をしっかり固めていたから勝てるというパターンって結構正論な気がする今日この頃。

 しっかりきっかりトレーニングしているからこそ、いざという時の底力が出せるのです。


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第六章 48

とりあえず、ヴァルキリー編のエピローグです。


 でもって、俺達は適当に休憩したり残敵関係の確認をしたりしていた。

 

 こういう時こそ英雄は油断しない。しっかり調べて敵がいるかどうかを確認しねえとな。

 

 もし一人残って最後に台無しにしようとしてたらことだ。リゼヴィムってのはそういう仕込みが大好きそうだからな。

 

 そんなわけでアウロス学園を見回っていると、匙と出くわした。

 

 俺は、ちょっと気まずい気分になる。

 

「よ、よぉ」

 

「何だよ一体。俺とお前の仲だろ?」

 

 まあ親しい関係なのは認める。

 

 認めるんだが―

 

「イッセーを目指すのは、辞めるのか?」

 

 俺は、それを聞きたかった。

 

 禁手に目覚めるその時、匙は確かにこう言った。

 

 兵藤じゃないんだから兵藤を目指しても意味はない。

 

 ……ちょっとモヤッとしちまったよ。

 

「じゃあ聞くけどさ、お前はリセスさんになろうとしてるのか?」

 

 反対に聞かれたが、これに関しては即答できる。

 

「あんまり外れてねえな」

 

 ああ、姐さんは俺の輝き(英雄)だ。

 

 だからだろうな、匙の禁手に至る心の動きに納得ができねえのは。

 

 憧れた人のようになるというのは、立派な原動力だって断言できる。

 

 俺はあの輝きに魅了された。ああなりたいと心から願った。だからこそ、俺はシシーリアを照らせたんだと断言できる。

 

 だからだろうな。なんというか、匙には裏切られた気分だ。

 

「目指せばいいだろ、進めばいいだろ。進んでる目標を追い抜くのは大変だけどよ、だからこそ進みがいってのがあるんじゃねえのか?」

 

「ま、そういう意見もあるんだろうな」

 

 匙はそういうが、表情からくる返答は間違いなくNOだ。

 

「だけどよ、俺が目指した兵藤は、自分の目標にがむしゃらだからこその兵藤だぜ?」

 

「俺はそういう観点で英雄語られるのが嫌いなんだよ」

 

 がむしゃらに頑張った結果、たまたま人に認められたものが英雄。かつてストラーダ猊下はそうおっしゃられた。

 

 俺はそれが認められなかった。目標を目指して進み方をちゃんと考えながら進んでいるのに、そんな当たり前のことを否定されるのが嫌だった。

 

 今なら胸を張って断言できる。俺の進んできた道は、決して間違いじゃねえ。

 

「目標見据えてきちんとそこに行く方法考えて、そして一歩ずつ足を踏みしめてりゃそれに近づけるのは当然だろ? 俺は、それすら否定されるのがマジで嫌いなんだよ」

 

 ああ、だからあの人のことは好きになれない。

 

 医者に救われた人が医者を目指す事は間違ってない。警察官に救われたものが警察官を目指すのも珍しくない。スポーツ選手に魅せられたものが、スポーツ選手になろうとするなんてむしろありふれてる。

 

 なのに、憧れたのが英雄だったら「それは違う」なんて納得できるわけがねえ。

 

 そういう意味じゃあ、兵藤目指して頑張ってた匙のことは応援してたんだけどよ。

 

「ま、気にすんな。……俺が勝手に失望してるだけだからよ」

 

 つっても絶対何か言ってきそうだな。

 

 そう思った俺の視界に、的確な人物が映った。

 

 よし。

 

「……そういや匙。これで生徒会長からポイント上がったんじゃねえか?」

 

「え、そうか?」

 

「あったりまえだろ。守りたくて守りたくてたまらないアウロス学園を守るために禁手にまで至ったんだぜ? 好感度一気に急上昇だろ」

 

 俺は持ち上げて持ち上げる。

 

 いや、これ完全にヒロインと主人公の覚醒シーンだからな。

 

「このタイミングを逃すべきじゃねえ。告白しろ、告白」

 

「……待て。確かにこのタイミングはフィクションだと定番だけどよ? だからってそれは―」

 

「馬鹿野郎!!」

 

 俺は大声を上げて一喝する。

 

「そんな事で惚れた相手をものにできるか!! どうせなら当たって砕ける覚悟でぶつかってこい!!」

 

「砕けること前提に言うんじゃねえ! 俺はソーナ会長とできちゃった婚するんだ!!」

 

 よしのっかった―

 

 ―あれ?

 

「……あの、カッシウスくん」

 

 眉間に指をあてた副会長が、ため息をついていた。

 

「会長がついさっきまでいた此処でそんなことを言うのはどうかと。あとサジは貴族の次期当主相手に何を考えているのですか」

 

 しまった! 匙をのせている間にいつの間にか移動されてた!!

 

「……おい、ヒロイ」

 

 あ、いつの間にか匙が鎧を身に纏っている。

 

 これ、まずくね?

 

 話を逸らすことには成功したけど、それ以上に命の危険がめちゃくちゃじゃねえか?

 

「覚悟はいいか、ヒロイ?」

 

「戦略的撤退!!」

 

 そ、そらせたから成功ってことでお願いします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃リセスは、地下で内通していた魔法使い達を拘束していた。

 

「大丈夫かしら? 割と揉めてたみたいだけど……」

 

「問題ありません。そちらに比べれば戦いも激しくはありませんでしたから」

 

 魔法で拘束をかけているゲンドゥルはそう言うが、しかし相手はご老体だ。気を使うしかない。

 

 敵は敵で有数の魔法使いだ。おそらく量産型の邪龍よりは強敵だっただろう。想定外の事態だったこともあり、対処は苦労したはずだ。

 

 しかしまあ、確かにこちらの方が激戦だと言われればそうだろう。

 

 なにせ、偽物とは言え二天龍が並び立つという非常事態だ。その上後期生産という特性を利用して発展させ、一部の性能ではオリジナルを凌ぐという真似までやってのけた。

 

 こちらもこちらで指をくわえているわけではない。少なくとも、相当の努力をしてきたという自負はある。

 

 だが、それを超えるほどに敵の発展が凄まじい。

 

 数々の平行世界を渡り歩いてきたリムヴァン・フェニックス。その経験が生む神器の発展速度は、こちらの成長速度に比肩する。

 

 若手でも規格外の成長速度を発揮する自分達と同等。それは、大半の者達にとって追い抜かれていると言ってもいい。

 

 そこまで考えれば、かなりの危険だということだろう。

 

 一定の速度を見込む事ができない努力よりも、到達すれば金と資材次第でいくらでも用意することができる技術力の方が優れている面が多いのは、人類の発展が証明している。

 

 それを神の奇跡にまで転用したのが、今のヴィクター経済連合だ。ドーインジャーがそのいい例だろう。

 

 その上で量産型邪龍まであるのでは、量においてはこちらが圧倒的に不利である。なによりいくらでも生産できるというのが脅威だ。おそらく生産設備も数多く用意されている頃だろう。

 

 質では流石に話は変わる。神々や魔王クラスを速攻で用意できるほど、向こうも規格外ではない。イグドラゴッホとイグドラグウィバーも、使い手が魔王末裔や最上級クラスだからこそのあの戦闘能力だ。

 

 だが、それもトライヘキサの封印が解除されれば大きく変わるだろう。

 

 できれば阻止したいところだ。それ以外の対策も、ユーグリットが口を滑らせた事でロスヴァイセの協力があればどうにかなるかもしれない。

 

 だが、それでも限度がある。

 

「……あなたのお孫さん、これから忙しくなりそうね」

 

 ついそんなことを言ってしまう。

 

 実際そうだ。若手眷属悪魔としての悪魔稼業。D×Dとしての前線戦闘。駒王学園教師としての業務もある。とどめにトライヘキサの封印技術の研究まですることになるのだ。

 

 悪魔は多芸を求めすぎているような気がしてならない。アイドルを目指していた時も、ここまで忙しい展開になったことはない自分としては、呆れるべきか関心するべきか。

 

 だが、ゲンドゥルは涼しい顔だった。

 

「まあ、ヴァルキリーをやめてまで72柱の眷属悪魔になったのです。ロセにはそれぐらいしてもらいませんと、格好がつきません」

 

「手厳しいことで」

 

 中々スパルタなようだ。ちょっとロスヴァイセに同情する。

 

 だがしかし、その表情は涼しげなようでいて慈愛に満ちている。それだけ孫を信頼しているという証だろう。

 

「……お孫さんのことは任せて頂戴。私もヒロイもイッセーもいる。だから、まあ、下手なところよりは安全だわ」

 

「前線の真っただ中が下手な後方より安全というのも、おかしな話ですけどね」

 

 思わず苦笑してしまった。

 

 だが、実際問題安全だろう。

 

 なにせ神滅具持ちが近くに三人もいる家に住んでいるのだ。それも、上位神滅具と二天龍という上位陣営。間違いなく下手な神の身元よりも安全である。

 

 それに今後は警戒網も強化されるだろう。なにせロスヴァイセは、ヴィクター経済連合のカウンターになりうるのだ。これを利用しない手はない。

 

 むろん、それがブラフ等の可能性は決してないとは言えない。

 

 なにせユーグリットがロスヴァイセを狙ったのは、まったく別の理由によるものだ。能力の高さはあったのだろうが、それがトライヘキサの封印そのものと関与しているかは分からない。

 

 だが、それでもブラフでない可能性もきちんとある。なら試してみる価値もある。

 

 それに―

 

「イッセーは特に信用していいわよ。気合と根性と煩悩で、たいていの限界は突破して見せるもの。しかも一生懸命努力するから敵にしてみれば始末の悪いタイプね」

 

 色々な意味で敵に回したくは無いタイプである。

 

 なにせ歴代二天龍という時点で脅威度が高いのは明白。更に歴代の中では非才だが、それゆえに努力を惜しまない為基礎がしっかりとできている。とどめに強すぎる煩悩からくる色欲ブーストで、異常現象をちょくちょく巻き起こす。

 

 ポテンシャルが高く、土台がしっかりとしており、とどめに何をしてくるか分からない。

 

 本当に敵に回したくない。競い合う相手としてはともかく、敵対する相手としては非常にやりにくいタイプだ。自分はヴァーリのような戦闘狂とは違う。

 

「まあ、今回の件でロスヴァイセとイッセーの間にフラグは立ったでしょう。あの子はそういうの凄いから、恋愛問題も突破できるはずよ」

 

「……やっぱり、彼氏ができたというのは口から出まかせでしたか」

 

「あ、言ったら駄目な奴だったわねコレ」

 

 そういえばそういうことになっていたのを忘れていた。

 

「そんな事だろうとは思ってました。孫は勢いで行動する事が多いもので」

 

「その辺グレモリー眷属よねぇ」

 

 大体あの面子は勢い重視な者が多い。

 

 テンションに任せて高い出力を発揮するタイプだ。念密なかつ緻密な行動はどちらかといえば苦手なタイプだ。

 

 リアスの巡り逢いの気質は本当に優れている。自分と相性の近いタイプと、見事に巡り合っているのだから。

 

「まあ、あの様子なら孫は大丈夫でしょう。少しは肩の荷が下りました」

 

「その辺りは安心していいわ。あの子達は、私と違ってちょっとやそっとで歪むような子達じゃないから」

 

 そこまで言ってから、リセスはふと天井を見上げる。

 

 その向こう側を見透かすようにしながら、リセスはふっと苦笑する。

 

 ……今まで、本当に色々な事があった。

 

 だが、それらすべてが自分の体と、それ以上に心を強くしてくれた。

 

 今ならはっきりといえる。過程はともかく、現状は確かにペトとヒロイの英雄(自慢)でいると。

 

 今ならば、前向きに倒れることができるだろう。

 

「……ニエ。今度会う時は、決着をつけましょう」

 

 決意は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決着の時は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁっでっむー! あれさえあれば三日で封印解除で来たのになぁ~」

 

「申し訳ありません、手回しが悪かったようです」

 

「ん? あ~気にしないで気にしないで。なくても数か月の辛抱だしね。今回は僕らがなめてかかってただけだよ」

 

「真の魔王様も残念がっていました。72柱の末裔としては恥ずべきことです」

 

「……うん、そういうの良いから」

 

「と、言いますと?」

 

「そう言う演技はしなくていいって話だよん。君が僕らを使って何かをなしたいと思っているから、あえて毒の入った杯を煽ってるのは分かってるよ。一応僕も、魑魅魍魎跋扈する政治の世界を生きているわけじゃないからね」

 

「……なるほど。どうやら舐めてかかれないようだ」

 

「そうそう。それでいいんだよ。……で、何が望みだい、ディハウザー・ベリアルくん?」

 

「……リアス・グレモリーが管理をしていた駒王町。あそこの前任である私の親族の死の真相を知りたいのです」

 

「……OK。失敗したとはいえ、お膳立てを整えてくれた礼はしないとね。まあ、出来ればあたりを付けて欲しいんだけどさ」

 

「それについては二つに分かれています」

 

「なんだい?」

 

「一人は、当時の駒王町で同時期に処断された悪魔祓いの八重垣正臣。もう一つは、ある有名なゴシップ記事です」

 

「というと……王の駒」

 

「はい。もっとも、あるかどうかも分からない眉唾物の―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、それは現実に存在する。うん、クレーリア・ベリアルは間違いなく現政権の老害達に暗殺されたんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 

 




次の話から、ファニーエンジェル編に突入します。









……リセスの因縁、ついに終焉の時迫るとだけ覚えておいてください。


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第六章 49 

ファニーエンジェル編に突入します。





前にも書きましたが、この章でリセスとニエをめぐる因縁が決着します。

どのような結果になるのかはきちんと見ていただきたいのですが、それはともかく、この調子ならエタらずにリムヴァンとの最終決戦まで書けそうです。

皆さんのご声援のおかげでもあります。本当にありがとうございます!!


 明け方、俺は目を覚ました。

 

 ふと視線を向けると、そこには布団にくるまりながらも、しかし裸で眠っている姐さんとペトの姿。

 

 ああ、この光景も結構慣れてきたな。

 

 最近はこうして一緒になって眠っていることも多い。週に一回はこうしてるな。

 

 それだけ、姐さんやペトにとって俺が近くに居ていい存在になったってことなんだろうな。嬉しい話だぜ。

 

 なんか安心感に包まれて、そのまま布団にくるまっていると、姐さんの寝顔が目に入る。

 

 ……なんだろうな。今迄よりも、なんていうか柔らかくなった気がする。

 

 どう受け取ればいいんだろうな。……突っかかっていたものが、取れたって感じだ。

 正直にいやぁ、此処の生活楽しいからな。イッセー達のラブコメも、傍から見てると面白いしよ。

 

 ぶっちゃけちまうと悪いが、教会にいた時よりも人生恵まれてるって思うぜ。なんていうか、こう……充実?

 

 こういうのを聖書の神様が取り締まってたっていうんなら、俺は天国に行く資格は欠片もねえなぁ。

 

 まあ、地獄に落ちるってのもあれなんだが。ほれ、現実の地獄みたいなところで住んでて、なんで今更地獄に行かなきゃならねえんだよ。

 

 ってこたぁあれか、煉獄か辺獄辺りがいい感じかねぇ。ホントならそっから天国に行くんだろうが、全く想像がつかねえ。

 ま、徳がねえってことなんだろうな。今の俺にゃぁ向いてねえ。

 

 ……だけど、姐さんにはいいとこ行ってほしいなって思う。

 

 リセス・イドアル。俺に光を教えてくれた人。

 

 リセス・イドアル。俺を人にしてくれた人。

 

 リセス・イドアル。俺を英雄(輝き)にしてくれた自慢(英雄)

 

 俺は、彼女が報われてほしいって心の底から願ってる。

 

 なあ、神様。あんたがまだ力を持ってるっていうんならさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……姐さんに、ちょっとぐらい加護を与えてやっちゃぁくれねえか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んなこと思いながら、俺は学校で復習してた。

 

 なんたって勉強は予習と復習が大事だ。予習をしてりゃぁ授業はだいぶ理解できる。復習してりゃぁ、更にそれを忘れねえ。

 

 そういう積み重ねが頭をよくするってもんだ。知識が入ってくるってのは、なかなか面白いもんだと俺は思う。

 

 あれだな。勉強がいやだとか言うやつは、恵まれてるって自覚持てやって話だな。俺は恵まれてるって自覚してっから、そういうのには頑張らなきゃって思うぜ。

 

「ヒロイ。お前ほんっと頭の出来が違うよな」

 

 と、反目でイッセーが愚痴ってきた。

 

 見れば松田と元浜もジト目を向けてくる。期末の結果があれだったからか、成績優秀な俺を妬んでるみたいだな。

 

 ったく。だったら俺を参考に、毎日の予習復習を欠かさず行えってんだ。それだけでもだいぶ変わるぞ、いやマジで。

 

「……つーかイッセー。お前年末は休みが取れないのか?」

 

「やっぱお前、ヒロイと同じ関係者だろ?」

 

「……え゛!?」

 

 イッセー。もう薄々勘付かれてるから。

 

 冷静に考えればお前の家に関係者がホームステイしまくりだから。どう考えてもおかしいからな。

 

「まあ、そんなことは良いんだよ。たまには一緒にエロDVD見ようじゃねえか」

 

 と、松田は特に気にせず久しぶりに男同士のバカ騒ぎをしようとする。

 

 だがスマン。それは当分無理だ。

 

「悪い。俺、男同士のエロDVDは当分勘弁」

 

 イッセーは頭痛を感じたのか、額に手を当てると俯いた。

 

 ああ、そりゃそうだ。

 

 ちょっと前、ヴァーリが力を手にするためにエロDVDを観賞しに来た。

 

 例によってアザゼル先生がそそのかしたらしい。ラシアの疲れ切った顔がやけに印象に残った。

 

 ……姐さんがいっそのことヴァーリの童貞を食べようと画策してたが、しかしそれは失敗したわけだが。

 

 なんてったって、エロDVD見てても全く興奮してなかったからな。いかに姐さんの手練手管が優秀だろうと、勃たなきゃ意味ねえ。不可能だ。

 

 わかるか? アンアンあえいでいる女優の映像見ながら、隣でイッセーに「何処をどう楽しめばいいんだ?」なんて真顔で聞いてくるアホの言葉聞いた俺のこの無情観。対応してるイッセーが特にかわいそうだと思ったね。

 

「なあ、松田に元浜。いい歳こいた野郎がエロDVD見ながらエロDVDの楽しみ方をマジで聞いてくるとか、想像できるか?」

 

「「阿保か」」

 

「んなあほなことに巻き込まれたんだよイッセーは。それも、いろいろと因縁ある野郎からな」

 

 俺はそう2人に伝える。

 

 届け、この無情。そしてイッセーに対する同情に代われ。あと俺にも同情しろ。

 

 ほんと、当分あのDVDおかずに使えねえよ。見たとたんにあの時の光景思い出すからよ。色々とキツイっつの。

 

「屈辱だわ。私が、あんな状況下で誰の精も吸えなかったなんて!!」

 

「同感っス。ヴァーリめ、青少年なら人並みに性欲を持つッス!!」

 

 少し離れたところで、姐さんとペトが歯噛みしているのが見える。

 

 本当にあの姉妹(スール)はビッチだな、オイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを思い出しながら、俺は天界を歩いていた。

 

 天界だ、天界。天国。

 

「……まさか、私達が天国に行けるとは思わなかったわね」

 

「まあ、見学っスからねぇ」

 

 関心するやら呆れるやらの姐さんに、ペトが苦笑する。

 

 ああ、俺達は今、天界に来ている。

 

 天使の輪っかの形をした特別パスを使ってではあるけど、悪魔や堕天使でも天界に行けるようになってた。

 

 つってもまあ、俺たちが対ヴィクターの特殊部隊だということを考えると、素直に喜べねえな。

 

 ……だってこれ、万が一のヴィクターの天界襲撃を考慮してるはずだぜ? その辺も考え無けりゃぁ、信徒より先に悪魔や堕天使にパスが発行されるわけがねえ。

 

「信徒よりも悪魔優先ってのは、信徒がキレたりしねえのかねぇ」

 

 そっちが怖いんだが、俺ぁよぉ。

 

 俺みたいな追放された不良信徒や、姐さんのようなビッチ。挙句の果てにイッセーなんて変態+悪魔だ。イラついたりしねえだろうか。

 

 いくらクリスマスでのプレゼント配布の件もあるたぁいえ、ちょっと厚遇しすぎじゃねえか?

 

 そんなことを思ってたが、そこにシスター・グリゼルダが苦笑を浮かべていた。

 

「その件ですが、特例で信徒の一部も天界の見学がなされています」

 

 お、そりゃそうか。

 

 ヴィクターが聖書の神の死をばらしたことでイラついてるだろうからな。ガス抜きの機会は必要だよな。

 

 ちょっとぐらい見学させてもらったって、罰は当たらねえだろ。

 

「実を言うと、今回の見学は大尽総理の提案もあって行われています」

 

「あの総理が? 何を一体」

 

 姐さんがそう言うのも当然だ。

 

 宗教関係にゃ疎い日本の総理大臣が何を言ったんだ?

 

「そろそろストレスが限界に達するかもしれないので、特に不満が溜まっている者達にガス抜きの機会を与えるべきだ……と」

 

 と、少々頭を抱えながらシスター・グリゼルダが告げる。

 

 ああ、総理よく分かってるな。

 

 確かに、人間ってのは小さいところも色々あるからな。ガス抜き必要だ、うん。

 

 ただでさえヴィクターの所為で聖書の神の死という大前提の崩壊を知っちまってるんだ。そこに悪魔や吸血鬼との和平までされちまったら、いい加減納得できない連中も増えるだろ。

 

 そう言うガス抜きは必要だよな。俺は理想だけで生きてねえからよく分かるぜ。

 

「まあ、人間鬱憤は溜まるものね。聖人君子ばかりじゃないんだから、ガス抜きする機会は必要よね」

 

「貴女はガス抜きをしすぎです。色欲は七つの大罪の一つですよ」

 

 うんうんと頷く姐さんに、シスター・グリゼルダがぴしゃりとたしなめた。

 

 ……俺は視線を逸らしてノーコメントを貫く。ああ、破戒信徒にゃ耳が痛い話だからな。

 

 ツーわけで視線を逸らすと―

 

「……いいところね」

 

「うんうん。こういうところに行けるといいね」

 

 そんなことを言っている、悪魔祓いの恰好をした女性達がいた。

 

 ああ、あれがガス抜きの人達ってわけか。

 

 他にも悪魔祓いが何人も見学している。どうやら俺達は出くわした感じみたいだな。

 

「あれが例の?」

 

「はい。第一弾である今回は、特に和平に不満がある、悪魔祓いから選ばれています」

 

 姐さんにそう答えながら、シスター・グリゼルダは複雑な表情を浮かべる。

 

「……プルガトリオ機関の者たちが中心なのは、一部の信徒たちからすると別の意味で業腹ものでしょうが」

 

 確か、暗部組織の一つだったな。

 

 まあ、暗部なら正統派英雄の集まりのイッセー達とは関わらねえか。気にするだけあれだな。

 

 俺はそう思い直すと、そのまますれ違った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか、マジで関わる羽目になるだなんて、この時は思っちゃいなかったわけだ。

 




自作品の設定や神器などは積極的に共有するスタイル。設定の省力化とでもいえばいいのでしょうか。


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第六章 50

ふむ、この調子だと六章は100話はいかない感じだと再認識。

それでも今迄よりもかかわっている巻数が多いですし、今迄の章では一番話が多くなりますけどね。


 

 で、戻ってきたら戻ってきたで、今度はあれな展開が待っていた。

 

 具体的にてっとり早く言おうか。今俺らは、ラブホの部屋としか思えねえ部屋にいる。

 

 しかも、これ、天界製である。

 

「どうかなイリナちゃんにイッセーくん!! これが天界が技術の粋をもって開発した、二人の為の部屋だよ!!」

 

 そう自慢げに語るのは、イリナの親父の紫藤トウジさん。

 

 因みに教会のとある施設の局長をしているとかなんとか。腕利きの悪魔祓いとして活動していた時期もあったらしい。

 

 確かに、現役復帰も少しトレーニングをすればできそうだな。流石はイリナの親父さんだぜ。

 

 で、俺が何であれな展開だとか言ったなんだとかいうと……。

 

 この部屋、特殊なドアノブをセットすれば異形の技術ですぐに繋がる様になっている。

 

 で、この部屋の目的なんだが……。

 

 悪魔と天使が子作りする為の部屋らしい。ここで致せば天使は堕天しないで済むんだとか。

 

 画期的かつ今後の天使の為になる技術だけど!! どっかツッコミどころが大きすぎて突っ込み切れねえ!!

 

 天界っつーか三大勢力、イッセーのことどんだけ重要人物として見てんだよ。

 

 いや、確かに二天龍の片割れだぜ? 三大勢力の戦争に割って入って色々迷惑かけて大損害を出したあの二天龍を味方につけられてるわけだ。そりゃぁ厚遇もするだろうよ。

 

 だけどよ、何かが根本的におかしくねえか、オイ。

 

「……あのすいません。この何処でもラブホテル。量産の予定があるなら私にもいただけません?」

 

 姐さんも敬語すんなやこんなことで!!

 

「うぅうううううう!!!! パパの馬鹿!! ミカエル様もなんでパパに持ってこさせるのよぉおおおおお!!!」

 

 イリナなんて顔真っ赤にして部屋の隅でうずくまってるし。

 

 ツーか根本的な問題なんだが、どう考えてもこれ他の連中が何かしらちょっかいかけてこねえか?

 

「ヒロイ。ペトも欲しいんすけどアザゼル先生に模倣してもらうのが一番手っ取り早いっすかね?」

 

「知らねえよ」

 

 あれ? 俺とイッセーが引いてるのがおかしな気分になってきたぞ? おかしいのは俺達なのか?

 

「まあそれは良いでしょう。それでトウジさん。これからのご予定は?」

 

「そうだね。子供達の水入らずな関係を邪魔するわけにもいかないし、ちょっと久しぶりにこの街を巡ってみたいかな?」

 

「なら私が護衛しましょう。アザゼルも呼びますので、歓楽街で一杯やりませんか?」

 

 姐さん、ドアノブをアザゼルに解析させようとしてるな?

 

「いやぁ、こんなおっぱいの大きいお姉さんにお酌してもらえるなんて夢のようだ」

 

「いえいえ。できればドアノブを話のタネにしながら一杯やりましょう」

 

 やっぱりだぁああああ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、今夜俺はペトと二人きりという展開だった。

 

 え、色事? もちろんしてるけど?

 

「いや、ヒロイを独占するってのも珍しい展開っすね」

 

「俺は姐さんがトウジさんとことしてないかが心配だぜ」

 

 姐さん、ドアノブに興味があるからって手段は選べよな。

 

 いざとなったらアザゼルが流石にストップ掛けてくれるとは思うけどよ。いや、かけてくれるよな?

 

 しっかしまぁ、親御さんか。

 

「そういや、イリナってなんでバチカンに連れてこられたんだろうな」

 

「そういやそうっすね」

 

 ふと気になるが、その辺が気になる。

 

 後天的な聖剣保有者はいくらでも見繕えるだろう。ある程度は人を選ぶ必要があるみたいだが、態々こんな極東から引っ張り込む必要があったのか?

 

 ペトも首を傾げてたが、やがて考えても無駄と思ったんか、ベッドサイドに置いてたスナック菓子に手を伸ばす。

 

「……食いすぎだぞ。太っても知らねえぞ?」

 

「ペトを舐めないでほしいっす。さっきまで運動してた分のカロリーを補充するだけっスよ」

 

 んなこと言いながらバリボリスナック菓子を食べて、ペトはぽつりと呟いた。

 

「話変わるけど、ニエのこととかどうするっすか?」

 

 ホントに話変わったな。

 

 だけどまあ、確かに考えとかねえといけねえわな。

 

 ニエ・シャガイヒ。姐さんの幼馴染にして、姐さんが文字通り死ぬほど追い込んでしまった男。

 

 魔獣創造を宿して復活して、姐さんに復讐する為にヴィクターについている野郎だ。

 

 問題は、これ実際姐さん側にも多大な問題がある事なんだよなぁ。

 

「姐さんがどうするかってのもあれだよな」

 

「そうなんすよねぇ。ぶっちゃけ、お姉様ってニエに殺されるのはそれはそれで構わないって思ってる節があるっすから」

 

 はぁ、と、俺達はため息をついた。

 

 ああ、そこが問題なんだよなぁ。

 

 姐さんは、俺達に胸を張れるのならニエに殺されても構わないと来てやがる。

 

 いや、俺達としては姐さんには死んでほしくねえんだけどな。マジで勘弁してほしい。

 

 そりゃニエは完璧な被害者だけどよ。姐さんだって被害者だろ。

 

 加害者の側面はあるにゃぁある。だけど、同時に被害者でもあるんだよなぁ。

 

 となると、俺達姐さんの側からしてみりゃ、姐さんが殺されるのは流石にきついっていうかなんて言うか。

 

「でも、お姉様はニエとの決着は自分でつけたがるだろうッスし……」

 

「それを邪魔するのも野暮っつーかなんつーか……」

 

 俺とペトは同時に頭を抱えてため息をつく。

 

 ああもう! マジでめんどくせえ展開だな、オイ!!

 

「あーもうめんどくさいっす!! ヒロイ、憂さ晴らしに第二ラウンドするッス!!」

 

「いやもうとっくの昔に第二ラウンド超えてんだろ。何ラウンド目だよ俺体力の限界なんだけど」

 

 姐さん、早く帰ってきてくれ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、姐さん帰ってきたらさらにバトルからやっぱ朝帰りでよろしく。

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くしゅん! ……噂でもされてるのかしら?」

 

 バーでくしゃみをしながら、リセスは首を傾げた。

 

 花粉症とは無縁のはずだし、体調管理は気を付けているから風邪の可能性もないのだが。ここは掃除も行き届いているから埃が原因でもない。

 

「おやおやどうしたのか? 噂かい?」

 

「確かに、こいつそういうのには事欠かねえだろうからなぁ」

 

 と、出来上がっている馬鹿二人はとりあえずスルーし、リセスはふと窓から空を見る。

 

 そういえば、こんな綺麗な星空を見たのは何時ぶりだろうか。

 

 かつてのリセスが思い出す空は、かつて破滅するまでの空か、そのあとの気分を反映した曇り空ぐらいしか覚えにない。

 

 本当に最近なのだ。こんなに空が綺麗だと感じるようになったのは。

 

 それはきっと、ペトやヒロイ達が掛け替えのないモノだからだ。イッセー達との生活が、自分にとって大切な何かを取り戻させてくれたからだ。

 

 だからだろうか。心のどこかで「もういいか」という気持ちになるのは。

 

 そろそろ、決着をつける時なのかもしれない。

 

「……おい、リセス」

 

「なによ、酔っ払い」

 

 そんな気分に水を差されて、リセスはジト目をアザゼルに向ける。

 

 それを平然と受け流しながら、アザゼルは勢いよく酒を消費していた。

 

 つまみのナッツやチーズも勢いよく消費されている。こういうバーとかいう場所は、もっと味わってのみところな気がするのだが。

 

 居酒屋に場所を移すべきかとリセスは考え―

 

「死に急ぐのだけはやめとけよ」

 

 ―その言葉に、リセスは頷く事が出来なかった。

 



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第六章 51

そう言えばありそうでなかった展開になります。


 

 そして数日後。俺は一人で隣町にまで出かけていた。

 

 ……ちなみにもう帰りだ。っていうか帰ったら姐さんと訓練という名のど突き合いをぶちかます。

 

 ことの発端は数日前。姐さんが女子生徒の悩みを聞いたことが始まりだ。

 

 なんでも、東京に遊びに行った姉妹の様子がおかしい。

 

 詳しく調べてみると、逆ナンの勢いで変な男に引っかかったらしい。

 

 ……で、〆ることになったとか。

 

 姐さんの野郎、その連中に引っかかった女の治療に俺を使おうとしやがった。

 

 簡潔にまとめると「変な男に引っかかる奴はそいつぐらいしか寝技の得意な奴を知らないから、まともな奴と経験詰ませるのが手っ取り早い」だとよ。

 

 経験に基づくご意見なのはわかっちゃいるんですがね、姐さんそれを高校生にさせるか?

 

 いや、俺としても闇を照らす輝き(英雄)として、闇に沈んでいる女性を照らすのはやぶさかじゃねえんだが……。何かがおかしい。

 

「ったく。姐さんも人使いが悪ぃな。っていうか俺の女性経験を隙あらば積み上げようとしてねえか?」

 

 女性経験はもういいから、恋愛経験が欲しい。

 

 いや、マジで欲しい。もう軽い恋愛でいいから、とにかく恋愛がしたい。

 

 もうさ、深い付き合いとかじゃなくていい。そんな我儘は言わねえ。

 

 なんていうか「お試し感覚で付き合ってください!!」とか、「なんとなくかっこいいからとりあえず付き合おう?」とかでいい。軽い恋愛でいいから恋愛がしたい。

 

 なんで俺は彼女ができねえ。肉体経験ばかり集まって、恋愛経験が欠片も集まらねえ。松田や元浜と同じだ。

 

 英雄なんて浮名を流してあれだろう!? あれか、どういうことだ!!

 

「何で姐さんは付き合ってくれないんだ……」

 

 はぁ。なんていうかこぅ……。

 

「出会いが欲しい」

 

「ああ、何か分かるかも……」

 

 聞こえていたのか、隣で同意の声が響く。

 

 ああ、この感じだと女の子か。お互い恋愛経験がないとあれだな、おい。

 

「普通の恋愛って何なんだろうなぁって思うなぁ」

 

「だよなぁ。俺も、エロい経験ばかりで恋愛経験が全くねえってのが残念で残念で」

 

 顔も合わせずに、俺達は意気投合し始める。

 

「うんうん。私も処女じゃないけどまともな恋愛なんてしてないから、ちょっとそういうのに憧れることはあるかも」

 

「あ、お宅も? 俺も知り合いにそんなのがいて―」

 

 そんな感じで視線を合わせ―

 

「「あ」」

 

 プリス・イドアルだった。

 

「………」

 

「………」

 

 沈黙が、痛い。

 

「……待って、ちょっと待って」

 

「いや、降参してくれるなら待つが」

 

 ぶっちゃけ、こんなところで俺らが本気で戦ったら周辺被害がとんでもないことになるんだが。

 

 方や最強の神滅具を保有し、電磁投射砲を通常攻撃でぶっ放す英雄。

 

 方や熱量を操作し、核シェルターすらぶった切る丸鋸使いの若手悪魔。

 

 マジで戦ったら尋常じゃない被害が出る。

 

「お願い待って。私もリムヴァンさんから指示が来たからこの辺りをうろつくように言われてるだけで、任務の内容とか詳しく知らないの」

 

「誰が信じるそんなこと」

 

「だよね……」

 

 敵の言うことを素直に信じる馬鹿がいるか。

 

 しかもプリスの奴は割と因縁がある部類だ。リムヴァンが何のつもりで送り込んだかは分からねえ。プリスの奴自身は腹芸が苦手だろう。

 

 だが、ここにコイツがいるってことは―

 

「ニエの奴の近くにいるってことだろう? 神滅具使いを警戒するのは当然じゃねえか?」

 

 あの対軍特化の軍勢型神滅具使いに暴れられたら、こっちは流石にカバーしきれねえんだよ……っ。

 

「僕はここだよ」

 

 その声に、俺は飛び跳ねながら聖槍を展開した。

 

 マジでニエがいやがった。しかも後ろに回り込まれてた?

 

 クソ! 挟み撃ちだと流石にきついんじゃ―

 

「待ってくれ」

 

 と、ニエが先に手を伸ばした。

 

 そして、ため息をつくと空いている方の手で近くのコンビニを指し示す。

 

 ちなみに、イートインがあった。

 

「奢るから話を聞いてくれ。民間人に不用意な犠牲を生むのは、ヴィクターの方針にも反するからね」

 

 ……それは、こっちもそうなんだが―

 

 タイミングが悪いことに、俺は腹が減っていた。

 

 そしてタイミングがいいことに、腹の虫がなっちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず一番高い飲み物と一番高いサンドイッチを買って席についた。

 

 せこいって? うるせえ、自分でも分かってるよ。

 

「もっと買ってもよかったんだけど? 何ならお土産でも買って行ったらどうだい?」

 

「それくらい自腹で買う。俺にも安いがプライドはあるんだ」

 

 ニエの皮肉だか本音だか分からねえ言葉に、俺はそう言い返すのが精いっぱいだった。

 

 実際本音だ。だけど敵の金に遠慮して安いもの買うのも癪だったんで、高いもの買っちまった。ホントに安いプライドだ。

 

 この辺俺は英雄として三流だか二流だか。我ながら一流の英雄には程遠いな。万人が認める物語の英雄にはなれそうにねえ。

 

 ……だけどまあ、それでも照らせる奴はいる。

 

 二流だろうが三流だろうが、俺が英雄として輝いていることに違いはねえ。なら、それでいいだろ。

 

「それでニエ君。これ、いいのかな?」

 

 逆に一番安い飲み物とパンを買ったプリスが、そう言ってくる。

 

 ああ、それはそうなんだが……。

 

「……一切れやるよ」

 

「え、いいの?」

 

 いや、ここで女に一番安いもの買わせてるのがあれだ。流石に英雄目指す身としてこれはねえ。

 

「……まあいいや。それより、聞きたいことがあるんだけど」

 

 と、ニエはニエでパックのコーヒーを飲みながらそう切り出す。

 

 そういや、以前吸血鬼の根城じゃイッセー達とも接触してたな。

 

 ツーことは……。

 

「君が特にリセスと親しいのは知っている。できれば、君の視点からのリセスを知りたい」

 

 ……そう来たか。

 

 まあいい。それくらいなら別にいいんだが―

 

「逆上して暴れだすなよ?」

 

「失礼だね。逆切れだけはないよ。正当にキレる」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

 ああ、殺気が漏れたな。

 

 プリスがあわあわしてるんで気づいたけど、ここは堅気が営業してる店だった。あぶねえあぶねえ。

 

「お、お客様!? 急に倒れてどうしましたか!?」

 

 ……後でこっそり住所調べて、詫びに何か差し入れしよう。被害者出てるわ。

 

「……後で何かお詫びの品を送っておかないと……」

 

 ああ、そうだな。あんた良い奴だよ、ニエ。

 

 で、とりあえず俺の視点からの姐さんについて語ると、ニエは崩れ落ちた。

 

 プリスも背中がすすけている。

 

 いやまあ。驚くには値しない。ツーか理由はよく分かる。

 

「まあ、信じていた親友がビッチ街道まっしぐらとか、あれだよなぁ」

 

「ああ、そうだね……。赤龍帝から聞いてたけど、もっと間近の視点だともっと酷い……」

 

「リセスちゃん、はっちゃけすぎ……」

 

 だよなぁ。エロすぎだよな。

 

「っていうかまあ、正義のエロいお姉さんやってるからな姐さんは」

 

「正義が余計だよ」

 

 余計なのはエロじゃねえの?

 

「開き直って悪性に傾いていれば良かったんだ。見る影もなく醜くなっているなら、僕だってここまで拗らせたりしなかった」

 

 静かに、ニエはそう言い捨てる。

 

 そこに、苛立ちと怒りと悲しさがにじんでいるのは、俺でも分かった。

 

 飲み干しているから良かったものの、我慢できずに紙パックを握り潰しているしな。

 

「跡形もないなら、こっちも気にならないんだ。立派なことをしてるのが気に入らない……っ」

 

 まあ、確かになぁ。

 

 自分を裏切ったような奴が、その後一生懸命善行してましたって、思うところがあるんじゃねえだろうか。

 

 ご立派な聖人君子だったらどうにでもなるのかもしれねえが、残念なことにニエは普通の範疇だ。神経が逆なでされるんだろう。

 

 ……それに―

 

「まあ、姐さんもそろそろ決着(ケリ)をつける覚悟ができ始めてるから、仕掛けるならそろそろだな」

 

 ―姐さんもその気なんだろうな。

 

「……どういうつもりだい?」

 

 お前が何でそれを言うのかって視線だな。

 

 だろうな。俺は姐さんを英雄として心底認めている。

 

 ヒロイ・カッシウスにとっての英雄(輝き)とはリセス・イドアルだ。これは大前提中の大前提。

 

 その大英雄の裏の罪を清算するのが、ニエの目的。基本的にはぶち殺すってノリだろうな。

 

 そりゃ普通なら止めに入るんだろうが―

 

「あいにく、俺は普通じゃなくてな。……いや、目の前でやるってなら加勢はするぜ?」

 

「だったら、なんで……?」

 

 プリスが信じられないものを見るかのような目で、俺を見る。

 

 ま、傍から見たらキチガイの所業なんだろうな。

 

 ただ、俺ってのは馬鹿だから―

 

「姐さんが死ぬのと同じぐらい、姐さんの人生が翳るのも嫌なのさ」

 

 そう言うと、俺は立ち上がる。

 

 もう言うことは終わった。奢ってもらった分の借りは返す。それだけだ。

 

 だから何も言わずに立ち去ろうとし―

 

「……リゼヴィムさんが紫藤イリナの父親に恨みを持つ人を蘇らせた」

 

 そう、ニエが呟いた。

 

 いや、呟いたにしちゃ声がでかいな。

 

 ……おつりはきっちりとっておけってか? 律儀なこって。

 

「……来るなら来な。どうせなら、タイミングよく同時決着と行こうじゃねえか」

 

 俺はそう言うと、素早く走り出した。

 




ニエとプリスの任務は、いわば撒き餌です。

適当に影響力がありそうな人物をばらまいてスタッフをおびき寄せ、本命である八重垣のトウジへの接触を図るというのが目的です。


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第六章 52 清算の時いま来たれり

そして事態は急展開。


 そして天界で、俺達は厳戒態勢だった。

 

 ……あのリゼヴィムとリムヴァンの2人組が、よりにもよってこれだけの所業をしでかしたんだ。

 

 どうやら、ニエとプリスの役目は俺の足止めだったらしい。その間に八重垣正臣とかいう復活した悪魔祓いに、邪龍ヤマタノオロチを宿した日本の聖剣天叢雲剣を持たせるという、なんつーか盛りすぎな設定。そんな奴をイリナの親父さんにぶつけやがった。

 

 逆に言うと、それ位盛らねえと今の護衛であるイッセー達をかいくぐれねえってこったな。俺らも評価されてるもんだ。

 

 で、毒を喰らって動けねえイリナの親父さんの代わりに事情を説明したのは、なんと初代バアル。

 

 ゼクラム・バアル。バアルの血を引いているお嬢の曽爺ちゃん。正真正銘ゴエティアだったかゲーティアだったかに書かれている、72柱のバアルそのもの。

 

 で、そのバアルの爺さんが説明したことによると、この駒王町の前任者であるクレーリア・ベリアルがその八重垣ってのとできたのが事の発端。

 

 ……まあ、当時の世情で純血悪魔と悪魔祓いのガチ恋愛とかロミオをジュリエットも真っ青だな。ああ、ガチで殺しに行ってもおかしくねえさ。

 

 で、それが原因で当然八重垣は憎悪。マジギレして当時の教会やバアルの関係者に襲撃ぶちかましていたと。

 

 そんでもって最後の1人らしいイリナの親父さんを襲撃したは良いが、増援が出てきたことで一端離脱。毒の治療と安全確保のため、イリナの親父さんはここ天界に移送されたわけだが―

 

「多分だが、その辺も想定したセカンドプランはあるんだろうな」

 

「なるほど、それで俺達を呼んだというわけか」

 

「あの、本気で忙しいんだけど」

 

 ヴァーリとラシアが、頭に輪っかを付けた状態でそう呟いた。

 

 ああ、たぶんだが、リゼヴィムもリムヴァンも仕留め損ねて天界に匿うってのは想定内のはずだ。

 

 たぶんだが、一度ぐらいは天界に侵入してくると思ってんだよ俺は。

 

 あんだけ聖書の教えに喧嘩売ったんだ。聖書の教えの本拠地な天界(ここ)を襲撃するぐらい普通にやるだろ。しかも今回はテーマ的にタイミングがいい。俺はろくに会ったことねえが、リゼヴィムのジジイはそういうのをきちんと考えるタイプのはずだ。

 

 たぶんだが、天界に攻め込む準備ができたからこそ、このタイミングで仕掛けたんじゃねえかと思ってな。

 

「ま、外れたにしてもあの糞ジジイが態々用意した野郎だ。とっ捕まえるのはいい意趣返しだろ」

 

「確かにそうね。私としても天界を見ることができるのは栄誉だけれども……」

 

 俺にそう返事しながら、ラシアは天界を見渡してからヴァーリに視線を向けて―

 

「三下の魔王末裔(笑)にやられてるようで、相性最悪のリリンに勝てるの?」

 

「……安心しろ、対策はきちんと考えている」

 

 ラシアの奴、当たり前だがヴァーリに当たりがきついな。

 

「ぶっちゃけ、早く倒してもらって監視役から外れたいんだけど。……いつか後ろから刺してしまいそうだわ」

 

 ホントに遠慮がねえ。

 

 いやいや。確かにこいつが会談の内容中継したのが事の発端だけどよ? 若気の至りでヴィクターにまで走ったあんたの浅慮ってやつもあれじゃね?

 

「言われてるわねーヴァーリ。これからは美候とアーサーも常時付けとかないと、殺されるんじゃにゃい?」

 

「黒歌さん。あまり茶化すのも駄目ですよ?」

 

 黒歌のからかいにルフェイがたしなめの声を出す。

 

 まあ、ヴァーリもヴァーリで若気の至りだし、俺は気にしないとこう。

 

 殺し合いするなら、俺がいないとこでやってくれ。俺は本気でそう思うぜ。

 

 ……それに、たぶんだけどちょっとの間はそんな余裕もねえだろうしな。

 

 発破も掛けたし、そろそろニエも決着つけるだろ。いい加減、姐さんとの因縁も清算する時だ。

 

 ちょうどいいタイミングで今は恨みつらみ関係。清算するにはいい機会だろ。

 

 ……姐さんも、本格的にトライヘキサと戦う前にニエとの決着をつけておきたいところだろうしな。

 

 姐さん。頼むから、後悔するような決着だけはつけるんじゃねえぞ。

 

 俺は、別の場所で息抜きをしている姐さんに思いをはせ―

 

 まさにその時、轟音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おそらく、そろそろ来るだろうとは踏んでいた。

 

 あのリゼヴィム・リヴァン・ルシファーとリムヴァン・フェニックスがタッグを組んでいるのだ。何かしらのことはできるだろう。

 

 神出鬼没の絶霧の使い手すらいるのだ。どこにだって潜入できてもおかしくない。

 

 だから、態々第六天まで待機していたのだ。あいつらは必ず誰かを送り込んでくると。

 

 そして、霧と共に彼が現れた。

 

「……八重垣さん。ここは僕が引き受けるから、先に進むといい」

 

「そうだね。君の獲物を奪うつもりはないよ」

 

「そうね。先に行くといいわ」

 

 八重垣をあえて見送り、リセスはニエと対峙する。

 

 ここに来て、覚悟はだいぶ決まった。

 

 まだしこりはある。心残りもある。だから死んでやるわけにはいかない。

 

 だが、死ぬ気でやる覚悟は決まった。

 

 どうせこうなるだろうと思っていた。だから、ここを死戦の決戦場と断言する。

 

「決着をつけましょう、ニエ・シャガイヒ」

 

「決着をつけよう。リセス・イドアル」

 

 言葉はいらない。もう必要ない。

 

 眼を一瞬だけ伏せ、そして見開く。

 

「……ニエ君、リセスちゃん」

 

 そして間に立ったプリス・イドアルが、片手を上げる。

 

 彼女が一番躊躇いがある。彼女が一番悔いがある。彼女が一番つらいのかもしれない。

 

 だからこそ、開戦の号砲をあげるのは彼女以外にあり得ない。

 

 それこそがプリス・イドアルの贖罪だと、ニエ・シャガイヒの目が告げ、リセスもまた止められない。

 

 ゆえに、一筋の涙をプリスはこぼし―

 

「……始め!!」

 

 その振り下ろされた手とともに放たれた言葉と共に、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその戦いの音を聞きながら、八重垣正臣は足を進める。

 

 方向性こそ違えど、憎悪に身を焦がす者として、八重垣はニエに多少の共感を抱いていた。

 

 だから、彼の憎悪を晴らす相手の邪魔はしない。だから、彼が護衛として自分についた。

 

 そして、リセス・イドアルがあそこにいたということは―

 

「やっぱり来ていたんだね」

 

 目の前に立つ栗毛の髪は、やはりトウジの面影を宿している。

 

 熾天使ミカエルのAにして、紫藤トウジの実の娘。紫藤イリナがそこに立っていた。

 

 そして、その手に持たれているのは聖剣だ。

 

 皮肉なものだ。聖剣使いの不祥事ともいえる自分達の因縁の清算を邪魔する者が、後天的とはいえ曰く付きの聖剣使いとなった彼の娘だとは。

 

 だが―

 

「まさかと思うけど、聖剣(それ)だけで勝てると思っているのかい?」

 

 転生天使というアドバンテージは、自分の経験の差で覆い隠せる。

 

 聖剣という新たな装備は、自分にも聖剣を持っている。

 

 そして、自分は邪龍の加護すら持っている。この差がある限り、一対一で負けることはあり得ない。

 

「ううん。そんなことはさせないわ。……私はミカエル様のAで、パパの娘だから」

 

「彼も贖罪の感情はありそうだけどね」

 

「それでもよ」

 

 静かに、イリナは聖剣を構える。

 

 それに呼応するようにこちらも聖剣を構えながら、八重垣はそのたわごとを最後まで聞こうと決めた。

 

 やろうと思えば、リセス・イドアルはもっと多くの手勢を用意できただろう。少なくとも、最愛の妹分であるペト・レスィーヴぐらいは待機させれたはずだ。

 

 だがその気配はない。ここは狙撃にはあまりに向いていないのだ。

 

 つまり、これはリセスの心意気だ。復讐心に取りつかれた自分に対する、ささやかな心配り。

 

 紫藤トウジを最も愛するもののみを障害として配置する試練こそが、リセス・イドアルのささやかな心遣いだ。

 

 それに対する礼儀として、八重垣はイリナの言葉を静かに受け止める。

 

「なによりもパパはずっと後悔してきたはず。だから、これ以上傷を抉る必要はない。私はそう思っているもの」

 

「なるほど、確かに立派だね。だけど―」

 

 その言葉を受け止めて、八重垣は戦意を高める。

 

 否、これはイリナに対する憎悪だろう。

 

 立派な意見だ、正しい意見だ。聖書の教えに生きるものとして、罪の清算は神か天使が行う者だろう。

 

 しかし―

 

「悪いけど、僕たちはそんなに立派じゃないんだよ? だからこそ、ニエ・シャガイヒはここまで戦えてこれたんだ」

 

 そう。そんなことができるほど、自分達は立派じゃない。

 

 だから、ニエはここまで戦えた。立派じゃないから、リセス・イドアルがどれだけ立派なことをして贖罪しようと許さない。それどころか、自分を勝手にそんな生贄にすることが苛立たしくてしょうがないから、戦意が燃える。

 

 リムヴァンの繊細な調整もあったことだろう。普通の彼が折れないような、絶妙な特訓を施した彼の調整があるからこそ、彼は短期間でろくな才能もないのに強大な化け物となることができた。

 

 だが、その根幹はニエの本質だ。

 

 普通であるがゆえに立派に耐えられない。そんな、どこにでもいる人間の弱さが、彼をあそこまで強くした。

 

 それを目にする君達が、立派な言葉で復讐者が止まると思っているのか。断罪ではなく復讐を望む者が、本当に止まると思っているのか。

 

 その思いを込めた言葉に、イリナは苦笑した。

 

「だよね。だから……」

 

 そして、イリナはまっすぐに聖剣オートクレールを構える。

 

「あとは、全力でぶつかるだけだよ」

 

 そして、戦闘が始まろうとし―

 

「―我が英雄とは、我と共にある比翼なり!!」

 

 その祝詞が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




ついに勃発する、リセスとニエの決着。

そして今回は同時進行でいくつもの戦いが繰り広げられます。ちょっと流れ的にとっ散らかっているのはご了承ください。







ニエ・シャガイヒが求めているのは、報いかもしくは一つの真摯な言葉。

しかし、リセスはそれをすることこそを失礼と考え、決してこの一件に関してのみそれだけは封印している。

ゆえに、この戦いはリセスが正気でいる限り、どちらかの死を持ってしか決着することはあらず―


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第六章 53 激戦頻発

天界の襲撃は、ある意味でヴィクターにとってめちゃくちゃ好都合です。

なにせ、敵と指定している連中の総本山ですから。ここに攻め込むことができたというだけで、士気を上げることができる。

なので原作よりもはるかに大戦力で大暴れしているのですよ。


 

 一方その頃、俺達は全力で暴れ回っていた。

 

 どうも八重垣に関しては姐さんが動いていたらしい。イリナと一緒に姿が見えなかった。

 

 ならそっちは問題ねえだろ。姐さん、なんだかんだで優秀だから。

 

 つーわけで、俺達はとりあえず邪龍共をぶち殺すべく暴れ回っているわけだ。

 

 さあ何処だ邪龍達は。一匹残らずぶち貫く!!

 

「英雄街道直行直進!! さあ、聖槍使いの英雄様のお通りだ!! 道を開けやがれ雑魚共が!!」

 

 遠慮なく邪龍をぶちのめしながら、俺は全力で走り出す。

 

 迫りくる邪龍達は、どうも天界の第三天……普通の天国から現れているらしい。

 

 ドっから現れてんだよとツッコミを入れたい。なんでそんなとこから出てくるんだオイ。普通の入り口の第一天で睨み効かせていたから恥ずかしいじゃねえか。

 

 っていうかハーデスが今回の侵入関係で一枚噛んでるらしい。あの骨ジジイ、一応味方の時でも迷惑かけるが、敵になったら露骨に迷惑かけるな。

 

 まあいい。今度会ったら刺し殺すとしてどうしたもんか。

 

 俺がそう思ったその時、破壊された建物の上から一人の男が舞い降りる。

 

 そしてそのまま、マクアフィテルとかいう石製の剣を振り下ろした。

 

 阿呆が! 素直に喰らうか!!

 

「ざけんな!!」

 

 聖槍で素早く受け止め、そのままカウンターでつま先から魔剣を生やして蹴り上げる。

 

 それを聖槍を受け止めた勢いで飛び上がって交わしながら、確かヤコブとか名乗ったアステカの戦士が離れたところに着地する。

 

「此処で聖書の教えに与する連中は皆殺しだ!! 死ぬ覚悟はできたか、あぁん?」

 

「死ぬのは手前だ、この野郎」

 

 こっちはそろそろ姐さんが決着(ケリ)つけそうでイライラしてんだよ。殺すぞ?

 

 つーかてめえ、ヤコブっつったら俺でも知ってる聖書の登場人物じゃねえか。

 

「その名前なんだ! てめえがっつり聖書に関わってるじゃねえか!!」

 

「ハッ! 誰が真実の名前をてめえらに話すか!! 聖人の名を持つ者に殺されて苦しめ、糞が!!」

 

 ったく、産まれてもねえ頃の恨みを生まれてねえ連中にぶつけるとか、馬鹿らしいって話だな。

 

 復讐心に取りつかれた連中は、そこまで見境なくなるのかねぇ。ああヤダヤダ。

 

 一応姐さん一点集中で、邪魔しない限り積極的に殺しに行かねえニエの方がまともじゃねえか。少しは参考にしやがれってんだ。

 

「まあいい。ここでぶち殺せばそれでアステカも終わるだろ」

 

「終わるかよ!! 例え俺が死のうと、アステカは終わらねえ!!」

 

 そうかい。なら、終わるまで殺せばいいだけだな。

 

 つーわけでぶち殺す!!

 

 江戸の仇を長崎で打つ感じで日本で暴れるような輩が、ぎゃあぎゃあほざいてんじゃねえ!!

 

 八つ当たりをする気はねえが、ストレス発散もかねて外的排除させてもらう。

 

「降参するなら今の内だ、コラぁ!!」

 

「文字通り死んでもするか、ぼけぇ!!」

 

 そして、俺達は真正面から激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ヴァーリは邪龍達を屠りながらリゼヴィムを探していた。

 

 これだけの大ごとなのだ。あの遊びが過ぎる男ならば確実に動く。そういう気質の持ち主のはずだ。

 

「何処にいる? いったいどこにいる、リゼヴィム!!」

 

「落ち着けぇいヴァーリ!!」

 

 追いかける美候を半ば無視しながら、ヴァーリは邪龍達を消しゴムで消すような勢いで滅ぼしながら突貫する。

 

 あの男に対する恨みは非常に強い。はっきり言って勝ち目は薄いが、それでも殴り飛ばせる機会を見逃す気はなかった。

 

 ……その瞬間、強大な殺気を感じてとっさに飛び跳ねる。

 

 その瞬間、おぞましさを感じさせる色の水が、目の前を掠めた。

 

「……今代の白龍皇だったか。リゼヴィム皇子にしろ貴殿にしろ、ルシファーの末裔は化け物揃いだ」

 

 そこにいたのは、三つ目の邪龍。

 

「アポプスか」

 

「その通り。初めましてだな、白龍皇ヴァーリ」

 

 どうやら、向こうもこちらを警戒しているらしい。邪龍最強格の一角を態々こちらに差し向けてくるとは思わなかった。

 

 と言っても、対神器ならリゼヴィムの方が相性的に有利だ。おそらく半分ぐらい舐めているのだろう。

 

「さて、こちらとしてもかの歴代最強の白龍皇と戦ってみたかったのでね。リゼヴィム皇子の好きにされるのは不満だが、こういう機会をくれたことには感謝しなければ」

 

「そうか。俺としてもぜひ堪能したいが、しかしリゼヴィムを倒すのが先なんでな」

 

 躊躇する必要はない。

 

 何より、偽物の白龍皇であるカテレアとは違う。彼は生粋の強者で本物の邪龍だ。

 

 なら、こちらも見せるべきだろう。

 

「我、目覚めるは、律の絶対を闇に堕とす、白龍皇なり―!」

 

 躊躇することなく全力を発揮し、ヴァーリは邪龍と激突を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちくしょぉおおおお!!!

 

 なんでリセスさんは俺達を置いてイリナだけ連れて行くかなぁ!!

 

 完全に置いてけぼりだよ!! 完膚なきまでに置いて行かれたよ!!

 

 今はリアス達がラードゥンの相手をしてくれているけど、多分まだ邪魔が入るだろうし、どうしたもんかな、オイ!!

 

 第三天ではデュリオがクロウ・クルワッハを足止めしてくれている。マジありがとう!!

 

「どうするイッセー!! このままだと、イリナとリセスだけで八重垣とかいうやつの相手をすることになるぞ!?」

 

「……いや、リセスさんは切り札持ってきてるから、大丈夫な可能性はあるけどさぁ」

 

 まさかイリナと俺との間で赤龍帝の信頼の譲渡を使わせるとは思わなかった。

 

 リセスさんは「テスト」とか言ってたけど、たぶん最初からさせるつもりだったんだな。

 

 最初から、八重垣さんとイリナを一対一でぶつけさせる気だったんだろう。八岐大蛇の分だけを俺で補強した感じだ。

 

 リセスさん、何考えてんだ?

 

 いや、俺でも何となく分かる。たぶん重ね合わせてんだ。

 

 八重垣さんを、ニエと重ね合わせてる。

 

 だから、決着にあまり邪魔を入れさせたくなかったんだろう。部外者を立ち入らせたくなかったんだ。

 

 だけど、黙って見てろってふざけんな!!

 

 言っとくけど、俺達はリセスさんがニエと戦う時一緒にいるなら、全力でサポートするつもりなんだからな!!

 

 だからちょっとリセスさんに苛立って、そして―

 

「イッセー上だ!!」

 

 畜生! やっぱり邪魔が入った!!

 

 飛び退ると、そこに荷電粒子の一撃が叩き込まれて地面に巨大なクレーターができる。

 

 その余波で俺を吹っ飛ばしながら、龍のプロテクターを纏ったジェームズが銃剣を構えて突進してきた。

 

「もらった!」

 

 なめんな!! 来ると分かってるなら、お前の攻撃なら躱し様はいくらでも―

 

 そう思った瞬間、体のど真ん中に荷電粒子砲が叩き込まれた。

 

 !? 確実に躱せた攻撃のはずだぞ!? なんで当たるんだよ!?

 

「言っとくぞ、赤龍帝」

 

 そして、ジェームズの攻撃はまたこっちに向けられて―

 

「躱せると思うな。ガードに徹しろ」

 

 その言葉に素直に従った瞬間、ガード越しに荷電粒子砲が叩き込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




まずは前座で場を温める。物語の基本です。


こっから大激戦の連続ですので、お楽しみください!!


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第六章 54

各地で激戦が繰り広げられているころ、リセスとニエの最期の戦いも、また激しくなっていた。


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 リセスは真正面からニエに迫らない。

 

 天候操作の応用で大量の竜巻を形成しながら、リセスは即座に龍天の賢者(ドラゴンスカイ・ハキーム)を展開すると、素早くキョジンキラーを何体も呼び出して数の圧殺を試みる。

 

 もとより性能なら向こうが上。技量ならこちらが上という戦いだ。なら、それ以外のすべてをもってして戦うぐらいでなければ意味がない。

 

 このために、大量のキョジンキラーを用意した。そして決着をつけるために、様々な装備を用意した。

 

 ニエ・シャガイヒの戦闘スタイルは、二つの特性に偏っている。

 

 禁手によるスペックを重視した近接戦闘。こちらは技量も鍛えているが、本質的には怪物としての力が本領だ。

 

 通常状態による数による圧殺。こちらについてはポテンシャルが高いのか、意外とドーインジャーの素質が高い。更に独自魔獣を生成するなど、厄介な部類だ。

 

 どちらにしても強大だが、しかしどちらにしても本来ならこちらは有利に戦える。

 

 なぜなら、リセス・イドアルは広域殲滅に優れた神滅具を保有する、クロスレンジの鬼だからだ。

 

 カタログスペックならこちらが下回るが、しかし技量なら経験の差があり此方が有利。二年間の努力と五年間の実戦で鍛え上げられた戦闘技量は圧倒的。そして何より、飢えて餓えて求め続けて進んできた狂気的な英雄(強者)デアルことを求める渇望が、圧倒的な差を作り出している。

 

 本来なら、真正面から戦闘すればこちらが負けることはないのだ。魔獣創造と煌天雷獄は煌天雷獄の方が格上だし、戦士としての力量も経験もこちらが圧倒的に上なのだから。

 

 ゆえに、それを最大限に利用すれば敗ける道理などない。

 

 半端な敗北は赦されない。それは、ペトとヒロイの英雄(自慢)として落第点だ。

 

 だが、この戦いに余計な邪魔を入れさせたくもない。それは、ニエやプリスに対して不誠実だからだ。

 

 ゆえに、余計な茶々を入れさせずに、一対一でこの戦いに決着をつける。

 

 今なら死ねる。まっすぐに、ニエに殺されることもできる。

 

 だが、それをただ漫然と受け入れれば、きっとペトとヒロイは悲しむだろう。それはできない。

 

 死ぬのなら、全力で、真正面からだ。

 

 故に全力で挑む。ゆえに渾身で挑む。故に決死の覚悟で生をつかもうと足搔く。

 

 そうでなければ、リセス・イドアルは英雄(自慢)でいられないのだから。

 

「敗けてやらないわよ、ニエ!!」

 

「それでいいよ、リセス!!」

 

 そしてニエ・シャガイヒもそれにこたえる。

 

 全力でリセスに挑み、そして殺す。

 

 そうでなければ不完全燃焼だろう。肩透かしに終わってしまう気がする。

 

 だからこれは望むところだ。全力で英雄(愚行)に走ろうとする彼女を殺してこそ、自分の怨念は一掃される。

 

 立派なことばかり言って弱者(自分)が追いかけることのできない道を進んで、それを贖罪などと考える。そんな奴になど敗けてられない。

 

 そしてそれが無意味だと痛感すれば、今度は思い出(自分達)以外の誰かを心の支えにして、結局は英雄であろうとする彼女を倒したい。

 

 何処までもニエ・シャガイヒは英雄をはたから見ることしかできない普通の人間だ。

 

 どこまでもリセス・イドアルは幻想を自分に組み込むために努力を続ける、英雄を目指すものだ。

 

 ゆえにこの激突はごく当然。当たり前の戦いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを悲しげに見つめるプリスのとなりに、ペト・レスィーヴは並び立った。

 

 警戒心を一瞬だけだが見せるプリスだが、ペトはそんな彼女に一瞥もくれない。

 

 ただまっすぐに、敬愛するリセスの決着を見ようとし、そこから視線をそらしたプリスに冷たい感情だけを向ける。

 

「目をそらしちゃダメっすよ」

 

 その視線の先、リセスはドーインジャーを蹴散らしていた。

 

 圧倒的な数の暴力で手数の限界を超えようとするニエの戦術は間違っていないだろう。

 

 だが、煌天雷獄の本領は広域殲滅。気象兵器である煌天雷獄を相手に、物量殲滅は愚策に近い。

 

 それらもきちんとこっそり鍛えていたリセスは、竜巻を大量生産してドーインジャーを吹きとばす。

 

 同時に遠隔操作されたキョジンキラーが、大質量兵器で文字通りドーインジャーを薙ぎ払う。

 

 この闘い、経験と執念と神器の差で、リセスが有利だった。

 

 かつての動揺を消せなかった戦いとは違う。かつての周囲の被害を考慮していた戦いとも違う。

 

 正真正銘何の遠慮もない激突が、リセスの全力を引き出していた。

 

 やるべきことはただ一つ。

 

 全身全霊。全力全開。死力を尽くしてニエ・シャガイヒとぶつかるのみ。

 

 そうでなければ誰も納得してくれない。なにより自分が納得できない。

 

 そう、そしてできることなら―

 

「私を殺してみなさい、ニエ!!」

 

「―死にたがり、っていうんすかねぇ」

 

 その言葉を受け止めながら、ペトはそういうとしゃがみこむ。

 

 堕天の魔弾も構えない。完全に彼女は戦闘態勢を解除していた。

 

 それに動揺しながら、プリスはそんなペトの肩をゆする。

 

「い、いいの!? このままだと、リセスちゃんが死ぬかも―」

 

「お姉様は、今度こそ覚悟を決めたッス」

 

 そんなプリスの言葉を、ペトは切って捨てる。

 

 その目はまっすぐリセスとニエの戦いに向けられていた。

 

 一挙手一投足すら見逃さない。それだけの意思を込めて、真剣にこの戦いを見据えている。

 

「お姉様は逃げてない。少なくとも、真正面から向き合おうとして今この戦いに臨んでいるッス。……ペトはそれを汚す気にはなれないっすね」

 

 そう。リセス・イドアルは勝つぐらいの気持ちで此処にいる。

 

 どこかで負けて死ぬことを望んでいることまでは否定しない。しかし、そこに逃げることだけはしたくない。

 

 正真正銘全力で、リセスはニエの前に立ちはだかっていた。

 

「……っ」

 

 その言葉と態度に、プリスもまた前を向いて二人の戦いを見つめる。

 

 ある意味で、一番罪深いのはプリスだ。

 

 リセスのように、逃避からとは言え全力で贖罪をしようという腹積もりはなかった。そして、ニエよりもあの現場で被害者だったものはいない。

 

 半端に被害者で、加害者のくせに贖罪行為をろくに取ってない。

 

 ニエは、黙って奴隷であることを受け入れたからとリセスよりは態度が柔らかかった。だが、それはどうなのだろう。

 

 グラシャラボラス家の中ではかなり実力のある部類なのがゼファードルだ。あれだけ素行が悪いのにもかかわらず、次期当主の代理に選ばれるだけのことはある。相当の生活水準であり、そしてそれに引っ張られる形で自分も相応の待遇だった。

 

 ……そんな生活が、本当に罪を償っているといえるのか?

 

 自分は一番卑怯だ。結局場に流されて、こうして殺し合いを現場の兵士として参加しているだけ。

 

 そんな自分に、真正面から決着をつけようとする二人を止める資格は、ない。

 

 それを突き付けられ、プリスは力なくへたり込んだ。

 

 そして、それでも視線を逸らしたりだけはしない。

 

 自分は未届け人としてここまで連れてこられたのだ。

 

 だから、それが贖罪になると考えるほかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニエ・シャガイヒは追い込まれていたといってもいい。

 

 リセス・イドアルは執念で強くなり続けてきた。それは見当違いの贖罪でしかないが、しかし結果として高い戦闘能力を得てきている。

 

 そこしか道はないと思ったがゆえに邁進だ。体を壊さない程度に、然し地獄すら乗り越えられるように。その圧倒的な努力と実戦と経験を乗り越えるのは生半可なことではない。

 

 すでにドーインジャーを数百単位で展開しているが、それらすべてはキョジンキラーを使うまでもなく、天候操作で生まれる竜巻で吹き飛ばされる。

 

 すでに戦場は雷鳴が響き続け、打ち上げられたドーインジャーはその雷撃で消し炭になっていく。

 

 能力的に相性が悪い。雑魚をいくら生み出そうと、大火力による広域殲滅の前には不利だ。

 

 加えてキョジンキラーによる集中攻撃も厄介だ。巨大ゆえに大火力で攻撃でき、その一撃は確かに厄介。

 

 そして、その攻撃を叩き込ませるためにリセスは支援攻撃を叩き込んでくる。

 

 そこに遠慮はない。むしろ期待がある。

 

 超えてこい。そして自分を殺して見せろ。そんな期待が見え隠れする。

 

「……ああ、超えてやるさ」

 

 ゆえに、全力で自身の魔獣化を推し進める。

 

 おのれの肉体そのものを魔獣へと変成させる、魔獣変成。これこそが、一般人からいきなり戦場にかかわることになった自分を戦わせる根幹だ。

 

 肉体そのものを変質化させ、そして最も有効な獣へと変化させることによって敵を殺す。おのれの手によって復讐をなしとげたいという、内心の本音が生み出した亜種禁手。

 

 今だ技量では追い付ける気がしない。否、圧倒的な開きを埋めれるとするならば、それはリセスが死んでから何年もたってのことだろう。

 

 それほどまでに、リセスの執念はすさまじい。見当違いの贖罪に道と救いを求め、そこに全霊を傾けてきたがゆえに圧倒的な習熟速度がそこにあった。そして、今や自らの光のためにそう足らんとする自立の心がそれを補っている。

 

 だからこそ、やるなら性能差による押切が基本だ。技術の習得は、あくまでその性能を引き出すための補助と割り切らなければ追いつくことはでいないだろう。技量でリセスを超えようと考えるのは愚策だ。

 

 そして、それではキョジンキラーの群れを打破することなどできない。個と質と深度の戦いではリセスを押し切るのには時間がかかり、そこにキョジンキラーが加われば、押し切られるのはこちらなのだから。

 

 そう、魔獣創造は煌天雷獄の下の神滅具だ。

 

 正攻法で打倒することは困難だ。そして、からめ手で勝とうにも自分のような凡人ではそれは不可能。文字通り年季が違う。

 

 そう、普通にやれば勝ち目はないのだ。精神的な動揺をつかない限り、リセスを殺すことは不可能に近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―そう、普通ならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 しかし、何事にも例外は存在する。

 

 いや、そもそも真っ先に考えるべきことだったのだ。

 

 リセス・イドアルは神滅具を含めて、複数の神器を保有している存在だ。

 

 そんな彼女のカウンターとして用意された自分が、たった一つの神滅具だけで戦うことになるなどありえない。

 

 そして、その瞬間大量の巨大なドーインジャーが瞬時に召喚される。

 

 大型ドーインジャー。ダイドーインジャー。

 

 文字通り大型化することによって、火力の増強などを図ったモデル。ドーインジャー版のガンシップといってもいい巨体の兵器だ。

 

 かつてもこれを創造してリセスを攻撃したことはあった。大型化することを受け入れたことで、それなりの性能を発揮することはできるのだ。

 

 最も、大型化したとはいえドーインジャー。性能には限界があり、その時は赤龍帝に撃破されてしまったが。

 

 しかし巨体であるが故に頑丈であり、数体がかりならリセスがコントロールしているキョジンキラーに対抗することもできる。

 

 むろん、大型化してしまったがゆえに量産性能は大幅に低下している。いかに魔獣創造そのものを使っているとはいえ、今のリセスと大量に展開されたキョジンキラーをどうにかすることなど不可能だろう。

 

 ……だが、そのバランスを破壊する禁じ手は存在する。

 

 そう、最初から考えれば誰でもわかることなのだ。

 

 なぜ、複数の神器を保有するリセス・イドアルを殺すためによみがえらせたニエ・シャガイヒが魔獣創造だけを持っているのか。

 

 煌天雷獄の格下の神滅具であり、相性が悪い部類である魔獣創造だけを与えられた理由は何なのか。

 

 その答えはただ一つ。彼は魔獣創造に特化した多重移植者だからに他ならない。

 

「喰らいつくす!! |大魔獣師団創造《アナイアレイション・クリーチャー・メーカー》ッ!!」

 

 一瞬にして、百を超えるダイドーインジャーが生成され、そして攻撃を開始する。

 

 この禁手は、瞬間的にしか使用できないし、再使用には相当のインターバルが必要不可欠。一発勝負に限りなく近い奥の手だ。

 

 だが、ダイドーインジャーなら竜巻に吹き飛ばされることもない。この数ならばキョジンキラーの集団を圧殺できる。

 

 流石に面食らったのか、リセスも目を丸くしてその光景を見据えていた。

 

 そして、その口元に苦笑が浮かぶ。

 

「……強く、なったわよね」

 

「ああ、全ては君に報いを与えるために!! そのために僕は二つ目の禁手を手に入れた!!」

 

 その渾身の想いと共に、ニエはリセスに襲い掛かった。

 

Side Out

 




 まさかの魔獣創造二つ盛り。まあ、冷静に考えれば「煌天雷獄より格下の魔獣創造を断った一つだけ盛った程度で、ほかにも二つも神器を持っているリセスを倒せるのか」とは思われていたことでしょう。

 最終決戦前にニエを強化することは当初から考えておりまして、いっそのこと変化球を投入してみようと思い、同種の神滅具二つ盛りという豪華仕様にしました。これならスペックでもリセスを超えれると思いませんか?


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第六章 55

一方そのころヒロイはというと―


 

 俺は高速で駆け抜けながら、相手の攻撃を捌きつつ反撃を試みる。

 

 んの野郎。中々できるじゃねえか。

 

「どうしたどうしたぁ! しょせんその程度かぁ、聖書の教えなんてのはぁ!!」

 

 ヤコブの野郎、言ってくれるじゃねえか。ってかうぜぇ。

 

 できる限りとっとと片づけたいとこなんだがな。やけになって焦ると隙になって致命傷だな、うん。

 

 仕方ねえ。ちょっと本気出すか、こりゃ。

 

「遠慮なく潰すぜ。まずは5パーセントからだ!!」

 

 俺は遠慮なく生体電流を強化して、動きを向上させて仕掛けることにする。

 

 確かにこいつは厄介だが、それでもイグドラフォースに比べりゃはるかにましだ。

 

 ここで一気に叩き潰して、さっさとご退場願うのみだっての!!

 

 一気に素早くなった俺の動きに、ヤコブは戸惑う。

 

 この隙は逃さねえ!!

 

「終わりだ、クソ野郎!!」

 

 俺は素早く構えを取ると、それをフェイントに魔剣を足から生やして蹴り上げる。

 

 これでいけ―

 

「―舐めんな、クソ信徒!!」

 

 チッ! 腕の健を切る程度が限界だったか!

 

 だが、これで片手は封じた。

 

 あとはこのまま押し切れば―

 

「だったらこっちもやってやるぜ!」

 

 言うが早いか、ヤコブの奴はバックステップで後方に下がりながら小瓶を取り出す。

 

 そして俺が接近するより早くそれを飲み干した。

 

 ……なんだ? 何を飲んだ?

 

 そう思った瞬間、ヤコブの動きが格段に良くなる。

 

 思わず回避が合に合わず、腕が割かれた。

 

 チッ! ドーピングか!?

 

「はっはぁ!! アステカの秘薬の力はどうだ、ガキぃ!!」

 

 チッ! なんか明らかにやばそうなもの摂取しやがって!

 

 だが、一気に動きが変わったな。神器の禁手に匹敵するブースト具合じゃねえか。

 

「オラオラオラァ! このまま死にやがれ!!」

 

 遠慮なくマクアフィテルを振り回すヤコブ相手に、俺はとりあえず魔剣を大量に射出する。

 

 そしてそれをあっさりと躱し、ヤコブは自分の間合いに俺を捉えた。

 

 薙ぎ払うように振るわれるマクアフィテル。それを俺はホンダブレードで受け止める。

 

 半分ぐらい砕けたが、かろうじて受け止めた。

 

 そして俺は磁力操作で砕けた破片を操作。噛み合わせて相手の動きを封じる。

 

 よし、詰め将棋は完了したな。

 

「取ったぜヒャッハー野郎」

 

「あぁん? クソの信徒共は武器を一本しか持ってねえのか? あほか」

 

 そう吐き捨てるなり、ヤコブは石の短剣を構えると振りかぶる。

 

「勝つのは俺だぁあああああ!!」

 

 ……阿保が。詰んだのはお前だ。

 

 予備があるならさっさと武器を捨てればよかったんだ。馬鹿野郎が。

 

 そう内心で吐き捨てると同時に磁力操作。

 

 奴の真後ろにあるさっきぶっ放した魔剣を引き寄せ、そして突き刺した。

 

「なぁああああにぃいいいい!?」

 

「そして隙だらけだ、馬鹿が」

 

 躊躇なく、俺はその隙に構えを取る。

 

「槍王の型―」

 

 どいつもこいつも何千年も前の恨みを、産まれてもないくせにやりやがって。

 

 いい迷惑なんだよ、そんなもの。

 

「―箒星!!」

 

 渾身の一撃を叩き込み、俺はとりあえずの邪魔者を叩き潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず邪魔者を叩き潰して、俺は速攻で姐さんのもとに向かう。

 

 ああ、なんとなくだが姐さんはニエと戦っているんじゃねえかって思う。

 

 邪魔をするのかどうかはその時の姐さんの対応次第だ。姐さんが未だに迷っているっていうなら、流石にそのタイミングで死なれちゃ困る。だからニエの邪魔をする。

 

 だけど、姐さんが英雄(輝いている)なら。

 

 その時は、俺は見届けるだけだ。輝く英雄の物語の一つの結末を、俺はまっすぐに見据えよう。心に刻んですべてを覚えよう。

 

 俺は姐さんが輝いている様に見惚れて、英雄を目指した。その原風景が維持されてるなら、野暮なマネはしたくない。

 

 狂ってるかな。共感されねえかな。イッセー辺りにゃ色々言われそうだ。いや、ペト以外には何か言われそうだな。

 

 だけどまあ、そういう性分だから仕方がねえ。

 

 だから姐さん。輝いててくれ。俺の輝き(英雄)でい続けてくれ。

 

 弱音を吐きたいときは俺が聞いてやる。一人じゃ立てないぐらい辛いなら、俺が支えてやる。

 

 だから、せめて立たなきゃいけない時ぐらいは立ったまま、そして輝いていてほしい。

 

 そう思っていたら、何時の間にか周囲が暗くなっていた。

 

 そして、なんか黒い水が下に満ちていた。

 

 なんだこれ? 明らかに触れたらいけないような感じだが―

 

「あ、おい聖槍使い!! それに触れんなよぉい!!」

 

 と、そこには筋斗雲に乗っている美候がいた。

 

 そしてその肩に乗っかる形でラシアが乗っかっていた。

 

 ……何してんだ?

 

「仕方ないでしょ。私は飛べないんだから」

 

 俺が聞くよりも早く、ラシアはそっぽを向いてそう答えた。

 

 ああ、そういやお前ただの人間だし魔法の心得もなかったな。俺みたいな反則一歩手前の飛行手段も持ってないし、そりゃ無理だ。

 

「っていうか、これは一体何なんだよ」

 

 明らかにやばそうなものが天界を覆ってるのは、三大勢力のエージェントとして見過ごせねえんだがよ。

 

 俺のその質問に答えたのは、美候でもラシアでもなかった。

 

「そいつは、アポプスが操ってる原初の水ってやつだ」

 

「ヤバイ! ヤバイ!」

 

「超猛毒!!」

 

 上から聞こえてくる声に上を向けば、そこにいるのはなんか邪悪なキングギドラ。

 

 ……確かアジ・ダハーカだったか。

 

 チッ! 邪龍共が雁首揃えて暴れやがって。仮にも元悪魔祓いとして見過ごせねえな。

 

「てめえら!! こんなところにまで魔の手を伸ばして、ただで済むとは思ってねえだろうな!?」

 

 聖槍を突き付けて睨みを利かせるが、アジ・ダハーカは楽しそうに笑うだけだ。

 

 んの野郎。龍王クラスは間違いなくあるたぁ踏んでたが、こりゃ天龍でもサシでやり合えるレベルか?

 

 ヴァーリでも極覇龍必須のレベルっぽいな。こりゃ面倒だ。

 

 相手の余裕っぷりに俺が辟易してると、アジ・ダハーカは面白そうな表情を浮かべる。

 

「お前が噂の聖槍使いだな? いっちょ俺と喧嘩してくれよ」

 

「ケンカ! ケンカ!」

 

「大勝負!!」

 

 ……その言葉に、俺はカチンときた。

 

 言うに事欠いて喧嘩ときやがった。この野郎、ただバトルがしたいだけか?

 

 その為に、天国で安らかに過ごしている者達や、天使達を襲っているってか?

 

 何の大義も正義もなく、ただ暴れたいだけだってか?

 

 ………ふざけんな。

 

 俺の頭の中が沸騰しかけた瞬間、俺達に迫りくる影があった。

 

 量産型の邪龍達だ。中にはグレンデルに似た姿の邪龍もある。デッドコピーの量産型か?

 

 流石にこの数は面倒だと思ったその時―

 

「……オイコラ」

 

 鋭い視線と共に、アジ・ダハーカの殺意がそいつらに叩き付けられた。

 

「人がせっかく喧嘩しようって時に、邪魔してんじゃねえぞぉおおおお!!」

 

 そして、味方のはずの邪龍たちを、アジ・ダハーカのブレスが吹き飛ばす。

 

 ……こいつ、味方を遠慮なく―

 

「……ったくどいつもこいつも、喧嘩ってのが何なのか分かってねえ。そう思わねえか、坊主」

 

 なるほど。よく分かった。

 

「……さっきから黙って聞いてりゃ、喧嘩喧嘩喧嘩喧嘩うるせえぞ、三首蜥蜴」

 

 俺は、今までにないぐらいむかついている。怒っている。ブちぎれている

 

「……あ? 今なんて言った?」

 

「害獣って言ったんだよ。分かり易く言い直してくれてありがとうございますって言えよ、あ?」

 

 殺意が満々になるが、こっちはこっちで同じぐらい怒り狂ってるから安心しやがれ。

 

 お互いに真正面から睨み合う形になるが、俺は遠慮なく槍を突き付けなおす。

 

「これだけの堅気の連中巻き込んで喧嘩したいだぁ? ザケんな屑が! てめえらドラゴンはそんなのばっかりだな!!」

 

 ったくだ。

 

 ヴァーリにしろグレンデルにしろ、そしてこいつにしろかつてに二天龍にしろだ。ドラゴンってのはどいつもこいつもこんなのばっかりか。

 

「真っ当に生きてる連中を巻き込んで、思うがままに喧嘩することがお前らの誇りだ? そんなもんは誇りじゃなくて埃っていうんだよ。この我儘だけの害獣共が」

 

 ああ、よく分かった。

 

 こいつらはあれだ。マジで害獣だ。

 

 駆除するか管理下に置くかしねえと、世の中を真っ当に生きている連中に害しか巻き散らかさねえ。

 

 そういやイッセーも覗きの常習犯な変態野郎だったな。ファーブニルもパンツを何かにつけて要求してくる、ど変態だ。まともなドラゴンの方が数少ねぇじゃねえか。タンニーンさんとかヴリトラぐらいか?

 

 ホントに碌なのがいねえ。そしてこいつはその中でもトップクラスに害悪だ。

 

 よし、殺そう。

 

「此処で滅びろ、蜥蜴と蛇が。俺は輝き(英雄)を目指す身としてだな? てめえらみたいな我が儘放題の害獣は叩き潰さねえと気がすまねえ!!」

 

「……言うじゃねえか。人間」

 

 ああ、それでいい。

 

 殺意を通り越して邪魔なものに向ける怒りが向けられるが、それでいい。

 

 いいか、覚えとけ蜥蜴野郎。

 

 てめえらみたいな連中に、人間さまがすることはたった一つだ。

 

「今からするのは喧嘩じゃねえ。ただの害獣駆除だ。よぉく覚えて地獄に落ちやがれ、クソ野郎!!」

 

 お前は、ここで、俺が潰す!!

 




これ、あくまで個人的な意見なんですけど……。


ぶっちゃけ、邪龍共よりリゼヴィムの方が感情移入できるの、自分だけですかね?

いや、数千年間何も楽しくない状況下で、初めてすごい歓心を引いたっていうリゼヴィムの来歴は、その所業などを無視して考えれば理解できなくないんですが、邪龍たちに関してはアジ・ダハーカやアポプスも含めて、基本がチンピラとしか思えない。

いや、個人的なプライドや流儀があるのは良いんですが、その行動原理が根本的に好めない。あれならまだシャルバの方が共感持てるんですよ。

まあ、それを言ったらヴァーリやクロウ・クルワッハも割とあれですが。ぶっちゃけヴァーリは初期においてはリゼヴィムのことそんなに悪く言えないと思う。

なので、この作品は結構そいつらが割を食うと思います。アンチするつもりはないので見せ場はきちんと作りますが、原作よりは不遇な感じなるのでそのあたりご了承ください。


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第六章 56

あまり話は進展せず、バトル中心の展開な天界です。


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イッセー! そっちは大丈夫?』

 

 リアスからの通信を聴きながら、俺は結構一方的にボコボコにされてる。

 

 当たるはずの攻撃は当たらないし、躱せるはずの攻撃が体のどこかに必ず当たる。もう何が何だか分からねえ。

 

 強引に突破して接近戦を仕掛けようにも、ジェームズの奴は距離を保って攻撃してくるから、全然間合いに近づかねえ。

 

 それどころか、白龍皇の妖精達で反射攻撃をしたいのに、タイミングが全然合わない。

 

 なんだこれ。どういうことだよ!?

 

「リアス! こっちも今イグドラフォースと戦ってる!! ……そっちは?」

 

『ラードゥンは何とか封印で来たわ! 直ぐに向かうから持ち堪えて!』

 

 分かった頑張る!!

 

 よしドライグ! 気合入れて持ち堪えるぞ!!

 

『分かっているが、敵の種が分からなければ意味がないぞ、相棒』

 

 確かにドライグの言う通りだ。

 

 さっきからジェームズの奴に有利な展開にばかりなってやがる。なんていうか、中途半端な確率の出来事が全部ジェームズの有利な形で起きてる気がする。

 

 いったい何なんだ? ジェームズの奴も神器を移植してるのは分かるけど、何を移植した?

 

「……イッセー! 大体読めたぞ!!」

 

「ゼノヴィア? 具体的には!?」

 

 ゼノヴィアが気づいた!? こいつ、脳筋に見えて意外と頭の回転が速いからなぁ。

 

 で、一体何がどうなってこんだけ追い込まれてるんだ、俺達!!

 

 ゼノヴィアはエクス・デュランダルを突き付けると、ジェームズを睨む。

 

「お前が移植しているのは、究極の羯磨(テロス・カルマ)だな?」

 

 究極の羯磨って、確かリムヴァンが元々持ってたっていう神滅具だっけ?

 

 確か、あり得ない可能性を無理やり発生させる神滅具だったよな。リムヴァンはその亜種禁手で平行世界移動能力を手に入れたとか。

 

「……敵にそれをばらす奴がいるか?」

 

 ジェームズはそう言い捨てるけど、ゼノヴィアは鼻で笑った。

 

「沈黙が長いぞ?」

 

 そして、ゼノヴィアはいきなりエクス・デュランダルにオーラを注ぎ込む。

 

 え? 種は分かったけど、どうするつもりなんだよゼノヴィア。

 

「ならば対処方法は簡単だ。……絶対に躱せない広範囲攻撃をお前に当てればいい。どうあがいても100%を変えることはできないだろう?」

 

「解決方法が強引だな」

 

 あ、ジェームズがドンビキしてる。

 

 だ、だけど確かにその通りだ! 絶対に当たるなら確実にあの神滅具を無効化できる。

 

 そういう意味だと俺の赤龍帝の籠手と同じだよな。ちゃんと本人が努力して鍛えないと、実戦でまともに使ってもあまり意味がない神滅具だ。

 

 意外と神滅具って使いづらいよなぁ。そういう意味だと、ヒロイの黄昏の聖槍も似たようなもんか?

 

「イッセー! フルチャージでこの辺り丸ごと吹き飛ばすから、それまでジェームズを押さえてくれ!」

 

「お、おう!!」

 

 なんかそれ、俺が巻き込まれて死にそうなんだけど!?

 

『安心しろ相棒。最高速度なら真女王の方が上だ。前もって攻撃タイミングを教えてもらえれば安全圏に退避してからでも奴に攻撃を放てる』

 

 ドライグさん? それって結構難しいと思うんだけど!?

 

 いや、そんなこと言ってる場合じゃねえ。

 

 此処を突破しなけりゃ、イリナ達が大変なんだ。突破しなくちゃいけない。

 

 だったらやってやるしかねえよなぁ!!

 

「いくぜ、ジェームズぅうううう!!!」

 

「威勢が良くても技量が無ければな!」

 

 んのやろう! ポンポンこっちの攻撃を躱してんじゃねえ!!

 

 なめんなよ! だったらこっちにだって考えってもんがある!!

 

「いくぜ、ドラゴンショット乱れ撃ち!!」

 

 俺はドラゴンショットを広範囲に乱れ撃つ。

 

 そして、それをジェームズはひらりと躱した。

 

「一発一発の命中率が低いなら、余計に躱し易いんだがな」

 

 あきれ果てるジェームズだけど、俺だってそこまで馬鹿じゃねえよ。

 

 ああ、もう行けるぜ、ジェームズ。

 

 その瞬間、ドラゴンショットの攻撃が当たった場所が誘爆して大爆発が起きた。

 

 真後ろで爆発した場所が見事に当たって、ジェームズは動きを崩す。

 

 やっぱりな。ジェームズの野郎は意図的に命中率に干渉してるんだ。自動で操作してるわけじゃない。

 

 あいつが認識してないところからの攻撃なら、アイツの可能性操作は通用しない!

 

「チッ! 味なまねを―」

 

「捕まえたぜ、ジェームズ!!」

 

 一瞬見せた隙を見逃さずに、俺はジェームズに組み付いた。

 

 そしてそのまま強引にトルクで引きずり回して、そこらじゅうの壁に叩き付ける!!

 

 単純な性能なら、龍王クラスのイグドラヨルムじゃ、天龍を封印している真女王の方が有利のはずだ。頑丈差ならこっちが上のはず。

 

 相打ち上等の攻撃なら、こっちの方が有利!!

 

「馬鹿かお前は!!」

 

「馬鹿で結構!! どうせバカなら貫き通すだけさ!!」

 

 引きはがそうとするジェームズを、俺は組み付いて無理やり引きはがさせない。

 

「っていうかてめえ! なんでヴィクターと組んでる!!」

 

「言う必要があるか!!」

 

 至近距離からミサイルを発射されて、誘導攻撃を可能性操作で全部当てられるけど、とりあえず我慢!!

 

 根性が取り柄の俺が、我慢比べでそう簡単に負けてたまるかよ!!

 

「何か理由があるなら、それさえどうにかすりゃ降参してくれるかと思ったんだよ!!」

 

「敵相手に情け深いな!!」

 

 悪かったな!

 

 ディオドラやシャルバみたいなクソ野郎じゃなくて、本当にどうしようもない理由があるなら、平和的解決が図れると思いついただけだよ。

 

 甘いと思うかもしれないし、俺の大事なもんに手を出すならぶっとばすのに遠慮はしないけど、これが本当に戦争なら―

 

「……安心しろ、何もない」

 

 ―何?

 

「何もないさ。俺には人体実験を諌める様な親もいなければ、絶対に叶えたい夢なんかも持っちゃいない」

 

 静かにそういうジェームズは、心底羨ましそうに俺に嫉妬の視線を向ける。

 

 その目を見て、俺はなんとなく分かっちまった。

 

 ああ、こいつ本当に何もないんだ。

 

「……俺がヴィクターにいるのは、ヴィクターの前身組織に拾われて、そこで神器適正を発揮されたからだ。利用だろうと何だろうと、求められるってのはいいもんだな」

 

 マジかよ。自分が利用されてるって分かってて、それでも参加するのか?

 

 何もないのか。本当に何もないのか。

 

 利用されてもいいから何かしたいとかいった夢や野望どころか、復讐心もないってのか?

 

 そんな何もない奴が、今夢を叶える為に全力で鍛え続けている俺やヒロイと互角に渡り合えるってのか?

 

「いいもんだな。そんな俺が歴代でも異例の二天龍と互角に戦えるとか」

 

 そう得意げに嗤うと、ジェームズは全力で俺を引きはがそうとする。

 

「誰に理解されなくてもいい。下らねえ意地だって言いたきゃ言ってろ!! でもなぁ……っ!!」

 

 やべえ、今ので隙ができて、引きはがされる!?

 

「それでも、てめえらみたいな化物とやり合えるってだけで、俺は十分なんだよ!!」

 

 そして、ジェームズは俺を引きはがすと、顔面に銃口を突き付ける。

 

「くたばれ、赤龍帝!!」

 

 そして、銃口から荷電粒子が漏れ出し―

 

「いや、くたばるのはお前の方だ」

 

 そしてその真横に、ゼノヴィアが回り込んでいた。

 

 更に同時に、大量の金属板が飛んでくると、ジェームズの逃げ道を塞ぐ。

 

『出血大サービス。なんとおパンツ一つでこの大放出』

 

「ゼノヴィアさぁああああん!! お願いしまぁあああす!!」

 

 アーシア。またパンツを差し出してファーブニルを動かしたのか。

 

 そうさせないといけない不甲斐ない男で御免。でもありがとう!!

 

「人の夫に手を出さないでもらおうか。そういう手合いは私のデュランダル砲が吹き飛ばす!!」

 

「しまった! これでは可能性操作でも―」

 

 ああ、確かにこれは無理だ。

 

 絶対躱せない状況じゃあ、どんな可能性を操作しても攻撃は躱せない。

 

 そして、ジェームズは聖なるオーラに包まれた。

 

 ……ちょっとオーラが俺にも当たって、痛かったのは内緒だぜ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は全力で後悔しながら、でも全力で大暴れしていた。

 

「次々次々次ぃ!!」

 

 今までにない高出力で、俺は禁呪で作り出された龍やらが遺骨やら獅子やらを吹っ飛ばす。

 

 ついでに大量のガウスキャノンをぶっ放す。もちろん弾丸代わりの魔剣は、気合と根性で龍殺しオンリー!!

 

 そして、俺はアジ・ダハーカを追い込んでいた。

 

「んのやろう!! やるじゃねえか!!」

 

「手ごわい、手ごわい!」

 

「思わぬ強敵! でもむかつく!!」

 

 そうかい。褒められた気がして悪くねえな!!

 

 どうやら聖槍の中の聖書の神の遺志も、ただでさえ大嫌いなドラゴンの更に質の悪い奴が天界で大暴れしてる事実にマジギレらしい。今までにないぐらい絶好調だ。

 

 その強引な出力で、俺は強引に押し切りを狙ってみた。

 

 図体がでかいのは近接戦闘には有利だが、それにも限度がある。

 

 俺は全身に魔剣を展開しながら聖槍を短く持ち、とにかく接近戦を試みる。

 

 もちろん敵もさるもの。全力で接近戦だけは避けて遠距離攻撃で削る方向にシフトしてる。

 

 だが、この調子なら動きは見切れる。

 

 単純な戦闘能力なら、おそらく極覇龍状態のヴァーリを超える。D×Dでも一対一で太刀打ちできる手合いはごく僅かだろう。初代孫悟空ぐらいか?

 

 俺でも勝算は低いはずだ。十回やれば九回負ける。いや、百回やったら95回は負けるか?

 

 そんだけのバケモンだ。流石邪龍最強格ってわけか。強化したのか元からそれ位なのかは分からねえが、確かに強敵だな。下手したら全盛期の二天龍ともまともにやり合えるんじゃねえか?

 

 だが、この一回は俺が勝つ。

 

 一生懸命立派に生きて、死後安らかに過ごしている奴らを、こいつらは喧嘩がしたいだなんて理由で引っ掻き回してやがる。

 

 ああ、聖書の神の遺志がこれまでにないぐらい力を貸してくれるのも分かる気がするぜ。

 

 俺は輝き(英雄)を目指している。英雄っていうのは、人の心を照らす輝きだと思っている。

 

 つまり、あれだ。如何に血濡れであるとはいえ、人々にプラスの存在であってこそだ。誰か照らせるからこそ英雄ってもんだ。

 

 俺はそれを目指している。たくさんのとは言わない。最優先は姐さんだ。それでも、人の心を照らすという前提の元、そういう存在であろうと頑張っている。

 

 そりゃまあ? 俺は姐さんの英雄であること最優先で、今も姐さんが俺の英雄であるなら死ぬことになってもそれを優先したいぜ? イッセーと揉めるかもしれねえぜ?

 

 だけどなぁ、これでも人様の迷惑になることを避ける配慮はしてんだよ。そうじゃねえなら信仰心もろくにねえのに、教会の悪魔祓いに所属したりしてねえよ。勝手気ままに独裁政権相手のレジスタンスとかに身を投じてるっての。

 

 あれだ。現代に生きる英雄として、罪なき人々に害をなす邪悪を滅ぼすのが理想だ。世の為人の為、せめてどっかの勢力の人々の為、普通の人々が心を曇らせたりしないよう、正義とは言わなくても善側に立っていたい。いや、どちらかといえばでいいから。

 

 そして目の前にいるのは、己の欲望のままに自由気ままに行動し、その過程として誰が傷つこうとかまわない、我儘の極み。

 

 自覚はしてるかもしれねえが、自重も自制もしちゃいねえ。典型的なチンピラのノリだ。ヒャッハー系だ。

 

 ……こういう野郎はしっかり首輪をつけるか、排除するかしねえといけねえだろう。完全に人々にとってマイナスだ。

 

 典型的な英雄に倒される悪役のパターンだ。しかも大願とかそういうのねえから、大ボス張れる器じゃねえ。

 

 自分の欲求だけ考えて、最低限の自制も自重もしない。最低限の線引きというか、誰かに合わせる配慮が全くない。

 

 なんつーか、自分を高みにあげたいという気概が全くない。それでいて、身の程を知るというか身の丈を知るというか、なんていやいいのか、分をわきまえるということをしない。

 

 勝手気ままで、邪悪なままだ。

 

 こいつらに比べれば、まだシャルバの方が理解できる。あいつらは一応の大義名分を持ってたからな。常人には理解できねえが。

 

 よし、殺そう。

 

 力を持っているなら、相手より上なら、どんな相手にでも何をしてもいい。そういう獣の理論で動いている。

 

 ただ弱者を踏みにじる暴力。災害のようなものだ。そして質の悪いことに、そこには悪意がある。邪悪のままに、大義もなく、堅気を巻き込む意図的な災害だ。

 

 ヴィクター経済連合にもいろんな奴がいる。旧魔王派のように、ノイエラグナロクのように、アルケイデスのようにアステカのように、離反したガールヴィランのように、何かしらの大義名分があり、中には一種の正義もある。

 

 だけどこいつには何もない。自分達の中の正義も善もなく、本当に己の欲求のまま生きて、制御しようという気がない。意図的に迫りくる理不尽ってやつだ。

 

 仮にも俺が英雄を名乗るなら、人々の輝きであろうとする気持ちが少しでもあるなら。

 

 コイツを、野放しに、していいわけがねえ。

 

 そしてこいつに殺されて文句を言う権利はない。

 

 自由気ままに暴れて他者を苦しめることを制御しないなら、こっちの都合で叩き潰されようがそれは自己責任だ。他者への配慮をしない奴が、他者に配慮される資格はない。

 

 こいつは文句を言う権利を自分から放棄したんだ。相手を尊重しない輩に、尊重される権利はない。

 

 俺は、はっきりとアジ・ダハーカに態度で示してやる。

 

 しっかりと中指を立てて、勢いよく舌を出す。

 

 ああ、よく見ろこの野郎。

 

「自分の都合だけで行動するっていうなら、こっちはこっちの都合でてめえを駆除しても何の文句もないよな、オイ」

 

「いいぜ? できるもんならやってみやがれ」

 

「してみろ、してみろ!!」

 

「できるもんなら!!」

 

 言質はとった。なら殺す。

 

 他人に配慮をしなかったお前に、自身を尊重される資格はねえ。

 

 さっきも言ったが害獣駆除だ。勝率一パーセントだろうと、その一パーセントをここでつかみ取る!!

 




 ジェームズは根本的に「何もない」キャラです。例えていうなら、リセスに出会わなかったヒロイとでもいいましょうか。いや、ヒロイよりははるかに待遇いいけど。

 ある意味で何もないからこそ何かあることを欲し、そして何もないからこそ強化改造をうけれるという強みがある。そういう「なにかある」大抵の主人公に対するアンチテーゼキャラですね。







 そしてヒロイは怒りの力と割と切れてる聖書の神の遺志のサポートを受けて善戦。

 なんていうか、勇気と無謀が違うように、慎重と臆病が違うように、自由と横暴も違う物なんですよね。

 自由ってのは柵の範囲内でしか存在せず、策を無視したり壊すようならそれはただの横暴。何事も物には限度がある。それがいやなら法も何もない野生の世界で世捨て人のように暮らすしかない。ルールを守らないものに、ルールに守られる権利はないのだから。


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第六章 57 言わなかった言葉。言ってほしかった言葉

ついに決着、リセスVSニエ。


かなり短めですが、ここは単独で置くべきだと判断したのであえて短めに切らせていただきました。


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神滅具とは、オンリーワンの異能である。

 

 そしてそれ一つ一つが、極めれば神にすら届く力を持った絶大な力を持った異能だ。

 

 それを複数持つなどということはあり得ない。それは、文字通り神ですら不可能な領域だろう。

 

 だが、それはなされた。

 

 平行世界より神器を簒奪し続けた超越者リムヴァン・フェニックスにより、その奇跡は成し遂げられる。

 

 凡人でありながら、多重神滅具移植者となった男、ニエ・シャガイヒ。

 

 その執念が、ついにリセス・イドアルを叩き伏せる。

 

 ダイドーインジャーの数は半分にまで減った。追加生産を行ったうえでこの数まで減らされたという時点で、リセス・イドアルという女傑の圧倒的な強さが知らしめられる。

 

 だが、圧倒的な数の暴力ほど恐ろしいものはない。この質で対応できる数には限度があり、広域殲滅能力を突破できるものが数で押せば、圧倒的な物量が勝利を掴むのも当然の事。

 

 ましてや、魔獣ゆえに指示を出せば自律動作する事ができるダイドーインジャーと、逐一自分で操作するキョジンキラーでは、制御する使用者の負担も大きく差が出る。

 

 リセスの能力では一桁しかダイドーインジャーを動かせない。ニエの技量でもダイドーインジャーは百体以上制御できる。

 

 単純に言ってこの差は致命的だった。言葉にすれば、たったそれだけ。

 

 ゆえに、そのリセスは地面に倒れ伏し、そして動けなくなっていた。

 

 あばらは何本も砕け、四肢もズタボロ。体中傷だらけで、無事なところを探す方が困難なほどに負傷している。

 

 そしてニエもまた、立つのがやっとなほどにボロボロになっていた。

 

 息も絶え絶えで、自己修復能力を魔獣化によって得ているとはいえ、死んでもおかしくないほどの重傷を負っている。

 

 だが、それでも決定的な勝機を得た。そして傷は時間をかければ治癒できる。

 

 近くで見ているはずのペトは、その光景に顔を青ざめながらも手を出さない。まっすぐに目をそらさずに見つめているだけだ。

 

 それがよく分からないが、然しそれなら好都合だ。

 

 ニエの中に歓喜が浮かぶ。

 

 自分の絶望を生み出し、更にはそれすら踏みにじったリセスを倒せたということに、間違いなく歓喜の表情を浮かべていた。

 

 もはやそれは甘美な美酒とでも形容するべきものだ。それほどまでに、ニエはこの状況を喜んでいた。

 

「……それじゃあ、さよならだよ、リセス」

 

 ニエは油断なく、右腕からブレードを生やして攻撃態勢をとる。

 

 静かに構え、そしてリセスの一挙手一投足すら見逃さない。

 

 リセスの浅い呼吸まで聞こえてくる。

 

 しかも幸いなことに、リセスは意識が朦朧となっているらしい。既に目は虚ろで、焦点が合っていない。

 

 尚更チャンスだ。この好機を逃すわけにはいかないだろう。

 

 ゆえにその思考は一瞬で決まり、ニエは一気に全身を振り絞り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめ、ん……なさ…い」

 

 

 

 

 

 

 

 その時、動揺で攻撃を外した。

 

 その言葉が、銃弾のようにニエの胸に突き刺さる。

 

「……っ」

 

 瞬間、何もかもが溶けた。

 

 大量の水に砂糖の一粒を落としたかのように、一瞬で何もかもが溶け去り消えていく。

 

 思えば、その言葉を直接投げかけられたことは一度もなかった気がする。

 

 少なくとも、リセスに直接、あの時の事で言われた事はない。プリスにも、あの時の事で言われた事はなかったはずだ。

 

 二人とも、自分の罪の重さを自覚していた。それが本来許されない事だと、自分でも分かっていた節がある。

 

 だからだろう。その言葉を彼女達がニエに言う事はなかった。言っても自己満足だと、内心で分かっていたのかもしれない。

 

「……ぁ……」

 

 ニエが声にもならない声を漏らすのと同時、リセスはぼんやりとした視線をニエに向ける。

 

 意識があるわけではない、朦朧とした意識で、まるで夢を見ている感覚だろう。

 

 だが、その目がニエを捉えた時、リセスは寂しげな表情を浮かべて、唇を動かす。

 

「……ごめんなさい、にえ」

 

 そう、今度こそしっかり聞こえる声でそう言った。

 

 夢を見ているような形なのだろう。ニエの姿を朦朧とする意識で捉えて、思わず口を突いて出てしまったのだろう。

 

 だからこそ、それはリセス・イドアルの本心からの言葉だった。

 

 本心から、リセスは自分の所業を後悔している。

 

 本心から、リセスはニエに贖罪意識を持っている。

 

 そして本心から、リセスはニエに罪の意識を抱いたまま生き続けてきた。

 

 だからこそ、朦朧としたその意識は正直に行動した。

 

 正気の時では決して言わなかっただろう。

 

 リセスは、自分がニエにしてきた事が謝って済む問題じゃないと痛感している。それはプリスも同様だ。

 

 そんな事をして謝って済まそうだなんて虫がいい話だと思っている。だからこそ、英雄になるという行動で清算しようとしたのだ。

 

 だが、それは結局はニエにとっては苦痛だった。

 

 ニエ・シャガイヒは立派な人間ではない。高潔な人間ではない。だから、そんな立派で高潔な行動をされても、受け入れられない。

 

 だが、謝罪は高潔でも立派でもなく当然の行動だ。

 

 悪い事をしたら、先ずは謝る。それは当然の行動で、ある意味普通の行動である。

 

 そして、だからこそ―

 

「―あぁ、そうか」

 

 ―すとんと、それはニエの心に届いた。

 

 そして素直に納得した。

 

 なんで、素直に罪を受け入れて底辺で生きる事をしたプリスを許しきれなかったのか。

 

 なぜ、方向性こそ迷走しながらも積極的に罪を償おうとしたリセスに怒りを覚えたのか。

 

 それがあっさりと分かった。分かってしまった。

 

「僕は……」

 

 分かったから、もう動かない。

 

 激痛を無視して動かすほどの気力を、ニエは振り絞る事が出来なかった。

 

 そう。なんてことはない。

 

 ニエはまず、当たり前の事をして欲しかっただけなのだ。それがないからこそ、それをすっ飛ばして行動しているからこそ、ニエはリセス達を許す事が出来なかった。

 

 そして今、それはなされた。

 

「……謝って欲しかった、だけだったのか」

 

 

 

 




リセスにしろ、プリスにしろ、自分がしてはならないことをしてしまったことを痛感しています。

それは文有って済むようなことではないとも思っています。だからこそ、行動で贖罪したのがリセスで、すべて諦めたのがプリスです。

ですがまあ、悪いことしたと痛感したのなら、まず謝るのが筋というものでもあります。

それをせずに、無関係な他人を助けることで贖罪しようとしたからこそ、ニエはニエでこじらせてしまったわけです。真摯な謝罪は割と人の胸に届くものです。懲りたのではなく心から悔やんでいるからこそ通用するわけで、それでも怒りが収まらないのもよくあることですが。

……幸か不幸か、散々ボコって貶してスッキリしたからこそ、ニエも憑き物が落ちちゃうぐらいの余裕ができたわけですが。






ちなみにリムヴァンは、リセスが正気なら絶対謝らないとわかっていたからこそニエを投入したわけでもあります。

まさかボコり方がちょうどよく意識をもうろうにしてしまったせいで、本音の謝罪が出てくるとはリムヴァンも想定外。心からガックリ。


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第六章 58 龍光の天使

ついに本格登場、イリナバージョンの赤龍帝の信頼の譲渡!

今回丸ごとイリナ回です!!


 

 

 

 

 

 そして時間は大きくさかのぼる。

 

「我が英雄とは、我と共にある比翼なり」

 

 紫藤イリナは祝詞を唱える。

 

「相反し、相克し、然し共存を選びし和議の栄光を作りし者」

 

 赤龍帝の信頼の譲渡。その特性の一つを、イリナは発動させることに成功していた。

 

 本来敵対する立場だった、悪魔祓いと転生悪魔。その境すら超えて愛すら交わした紫藤イリナだからこそ、それができなかった八重垣正臣と相対するに値する。

 

「我、赤き龍と共にあり、天界と天龍の加護与えし天使とならん!」

 

 そして、それは翼として具現化した。

 

 赤く染まり、ところどころ龍の鱗が見える天使の翼。

 

 イリナの背中から生えるその翼こそが、紫藤イリナの騎士の力。

 

龍光の天使(ドラゴンライト・エンゼル)! さあ、これであなたを止めてあげるんだから!」

 

「いいね! どこまでも皮肉が効いてて、思いついた奴を殺してやりたいよ!!」

 

 そして、天龍の加護を受けた天使と、邪龍の呪いを使う復讐者は激突する。

 

 八重垣は躊躇することなく八岐大蛇を具現化させ、その牙をイリナに突き立てようとし―

 

「アーメン!!」

 

 その全てよりも早く、イリナは間合いに踏み込んだ。

 

 赤い翼からは莫大なオーラが光力と混ざり合って放出され、その莫大な加速を具現化させた。

 

 それこそが、龍光の天使の能力。

 

 騎士の属性を持つこの具現化は、ヒロイと同様に推進力を強化する。

 

 とは言え違いもある。

 

 ヒロイのそれは全身にスラスター付きの軽装鎧を展開することだ。これにより、全身の能力を強化しながら自由に全方位に推進力を展開できる。

 

 反面イリナは翼に収束して展開されている。いわばフレキシブルバーニアを一対装備したようなものだ。

 

 そのため、一点に収束した場合の推進力では当然上回り―

 

「ってあれぇ!?」

 

 そして、それを使いこなすのはある意味でもっと難しい。

 

 勢い余って剣を振るうよりも早く激突してしまい、イリナは素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 そしてその交通事故で吹き飛ばされながら、八重垣は舌打ちした。

 

「……映像で見た龍槍の勇者(ドラゴンランス・ブレイブ)より早い! だけど―」

 

 虚を突かれた。イリナが慣れていなければ、ただそれだけで全てが終わっていただろう。

 

 龍槍の勇者や真女王より早い。スラスターが良くも悪くも一点に収束している為、一撃離脱に限定すれば両者を凌ぐということだ。元々騎士向きの素質を持っているということでもあるのだろう。

 

 だが、今の一合で速度は見切った。

 

 そして、女王の力を使う兵藤一誠本人と、全身にスラスターを配置したヒロイ・カッシウスよりも最高速度で速いということは―

 

「面で制圧すればどうなるかな!」

 

 八重垣は遠慮なく、八岐大蛇にブレスを放たせる。

 

 それに対し、イリナは速攻で距離を取った。

 

 良くも悪くも翼の駆動で推進方向を決める龍光の天使は、その特性上翼しか強化されていないようなものだ。

 

 全身にまんべんなくスラスターを配置したヒロイや、鎧の頑丈差で強引にGを耐えることのできるイッセーほど、運動性能は高くない。それをしようとしてもGに翻弄され、またそれをカバーできるほどスラスターの数も少ない。

 

 ゆえに回避の軌道は大雑把になり、八重垣はそれを詰将棋のように操って攻撃を誘導する。

 

 しょせんイリナは十代の少女だ。反面八重垣は享年ですらもう少し上を行く。

 

 その経験の差が、勝負を分ける。

 

 気づいた時には、イリナの背後に八重垣が回り込んでいた。

 

「いつの間に!?」

 

「それはまあ、僕も実戦経験は豊富だからね。子供をあしらうぐらいはできるさ」

 

 イリナは振り返ろうとするが、然しどうしてもそれには時間が掛かる。

 

 一方八重垣は既に天叢雲剣を構えている。後は振るうだけだ。

 

 既に勝負は決したと思われる状況。それに対して、八重垣はしかしすぐに手を出さない。

 

「……紫藤局長を殺すことを受け入れるなら、僕は君を見逃しても構わないよ?」

 

「……冗談。パパは殺させないわ」

 

 本心からの言葉だったのだが、然しあっさりと切り捨てられた。

 

 まあ、そう答えるとは思っていた。

 

「君のお父さんは、和平を結んで悪魔と結ばれた君の父親でありながら、同じように結ばれようとしていた僕達を殺した者達の一人だ。ある意味、君は僕の気持ちを痛いほど理解できるんじゃないかい?」

 

 そう。ある意味でイリナは真逆の立場であり、だからこそある意味で八重垣の気持ちが理解できる立場のはずだ。

 

 自分達状況が数年ずれていたら、それだけで自分達は逆の立場になっていたかもしれない。それぐらいの皮肉な時間のずれがあっただけかもしれないのだ。

 

「……そうね」

 

 そして、イリナもそれを認めた。

 

「きっと和平が結ばれずにイッセー君と再会してそのまま立っていたら、私もイッセー君と殺し合っていたかもしれないわ。……それも、パパとは違って後悔せずに生きていたかもしれない」

 

 その言葉に、八重垣は虚を突かれた。

 

 そして、イリナもまたそれをつかない。

 

 だが、翼越しに真摯な目を八重垣に向ける。

 

「……パパは後悔したわよ。教えの為なら他を省みないところのある私と違って、パパはずっと後悔し続けてきた」

 

 その強い視線に、八重垣は呑まれかける。

 

「だからパパは殺させない。ずっとずっと悔やんできたパパが、貴方に殺されることが最後だなんて認めないから」

 

 そして、イリナはしっかりと聖剣オートクレールを構える。

 

 この圧倒的不利な状況で、しかしイリナは戦意を絶やさなかった。

 

「そうかい。なら、僕は嫉妬で君を殺すよ!!」

 

 そして、その言葉と共にお互いが剣を振り払い―

 

「いいえ。そんなことはさせないわ!!」

 

 その瞬間、龍の翼がオーラを放出した。

 

 そのオーラの奔流が、八重垣の筋力を上回る。

 

 そして、そのまま強引に天叢雲剣を弾き飛ばした。

 

 ……これこそ、龍光の天使の固有特性。

 

 翼に一点集中した推進力展開は、龍槍の勇者ほどの運動性能や身体能力強化を与えない代わりに、攻防一体の可能性をイリナに与えた。

 

 推進力として運用するオーラによる、奔流と圧力による防壁。その応用性は、龍槍の勇者にはないイリナだけの強み。

 

 そしてその推進力が丸ごと防壁として展開された不意打ちに、八重垣は一瞬だが明確な隙をさらし―

 

「……貴方の憎悪を禊してあげるわ、アーメン!」

 

 その一瞬のスキをついて、イリナはオートクレールを振り抜いた。

 

 切った相手の心すら浄化すると言われる、聖剣オートクレール。

 

 その浄化の力は、確かに八重垣に届く。

 

 もちろん、それでも八重垣はトウジに怒りを燃やしている。理不尽に奪われた自分達の愛に、正当な報復を求めている気持ちは本物だ。それは邪念ではなく正統な怒りなのだから。

 

 だが、切られるその瞬間、八重垣は一つだけ忘れていたことを思い出した。

 

 ―こんな風に暴走する自分を見て、クレーリアは果たして喜ぶのか。

 

 ニエ・シャガイヒは気にしないだろう。彼は普通だからこそ憎悪が強く、だからこそ、身内が止めてもそれを止めずに進むだろう。

 

 それほどまでに彼の憎悪は強い。それを止めれるとするのならば、きっと何かとてつもない見落としがあるのだろう。

 

 だが、八重垣正臣という男は確かに信徒であり―

 

「……なるほど、これは勝てない」

 

 ―だからこそ、そこで一瞬でもとどまってしまった自分に苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イリナは八重垣を切った事に苦い思いを抱きながら、然し急いで走り出していた。

 

 わざわざこっそり譲渡を行ってまで、八重垣の行動を読んで自分を最終防衛ラインに置いたリセス。

 

 そのリセスはあっさりと姿を消していたが、今ならなんとなく分かる。

 

 きっと、リセスは分かっていたのだ。

 

 八重垣と二エは意気投合する。そして、リムヴァンはそれを良しとしてタッグを組ませる。

 

 つまり、八重垣はニエの護衛を受けているはずだ。それなのに八重垣の近くにニエはいなかった。

 

 答えは一つだ。既にニエとリセスの戦いは始まっている。

 

「ああもう! リセスさんは責任感が強すぎるわ!!」

 

 そこまで読み切ったうえで、リセスはリセスでニエとの最終決戦を行おうとしているのだろう。

 

 どうもリセスは、戦ったうえでの敗北ならニエに殺されてもいいと思っている節がある。

 

 だがそれをこっちが飲み込めるかどうかは話が別だ。

 

 恩を仇で返す形になるが、最悪恨まれてでも自分は介入する。

 

 それがオカルト研究部だ。兵藤一誠を主柱として生み出された、仲間達の在り方だ。

 

 なので残った力を総動員して、イリナはオカルト研究部の一員として文字通り飛んでいき―

 

「……っ!?」

 

 そして、血だらけで倒れているリセスを見つけて、顔を青ざめさせた。

 

 一瞬だが、悪い想像をしてしまう。

 

 リセスが既に死んでいたとしよう。

 

 その時、自分達はニエを許すことができるのか?

 

 ……難しい話だ。そして実際難しいだろう。

 

 リセスと自分達には強い絆がある。助け合ってここまで辿り着いた事実は、しっかりと築き上げられた何かとなっている。

 

 それが怒りに反転して、自分達はニエを許すことができるのか。

 

 それを脳裏で考えながら、イリナは急いでリセスの隣に舞い降りて―

 

「あ、大丈夫っすよ」

 

 そのペトの声に、慌てて振り向いた。

 

 そこには傷一つないペトが、同じく傷一つなく崩れ落ちたプリスと共にしゃがみこんでいた。

 

 のんきなその様子に、イリナはどういうことか混乱する。

 

「あの、ニエ・シャガイヒは!?」

 

 この様子から見て、リセスが辛勝したということだろうか。

 

 リセスは完全に意識を失っていて、もしニエが生きていたのなら確実に殺している状態だ。

 

 しかし、ニエの姿はどこにもない。気絶とかをしているわけではなさそうだ。

 

 なら、リセスはニエをチリ一つ残さず吹き飛ばしたということになるのだが―

 

「ああ、勝敗はニエの勝ちっすね。いい線行ったっすけど、神滅具の数で押し切られたッス」

 

 ―それも違うようだ。

 

「え? で、でもでも、ニエ・シャガイヒはリセスさんのことを本心から恨んで殺す気満々で……」

 

「……許されたわけじゃ、ないけどね」

 

 混乱するイリナに、泣き笑いの表情を浮かべながらプリスが力なく呟いた。

 

 その目からは涙が時折こぼれ、しかしどこか歓喜の感情すら浮かんでいる。

 

「……何されたの?」

 

 よく分からずにペトに聞くと、ペトも苦笑を浮かべた。

 

「ニエに頼まれただけっスよ。「本心から思っていることを言ってほしい」だとか」

 

 ペトはそう言いながら、リセスの隣にしゃがみ込み直すと、リセスの髪を優しくなでる。

 

 そして、満面の笑みを浮かべた。

 

「お姉様。お姉様の男を見る目は、なんだかんだで昔っからしっかりしてたっすよ」

 

 よく分からない事を言いながらニコニコしているペトに首を傾げ、イリナはプリスの隣に立つ。

 

 とりあえず敵なのだが、プリスは完全に戦意喪失している。剣を向けるのもためらわれる。

 

 とりあえず、気になった事を聞いてみよう。

 

「えっと……。それで、なんて答えたのかしら?」

 

「決まってるよ。……言っちゃいけない、だから言わなかった、それでも言いたかった言葉」

 

 そう漏らすプリスは、後悔の感情を浮かべながら、しかし笑みを浮かべてそれを再現した。

 

「……本当に、ごめんなさい……って」

 

 その言葉を聞いて、イリナはペトの言いたかった事を理解した。

 

 分かってみれば実に馬鹿らしい。そういえば、子供の頃から言われていたはずだ。

 

 悪い事をしたと思ったら謝る。そんな、子供が教わる基本的な事を、リセスもプリスもしていなかったのだ。

 

 そして、聖書の教えもまた、そう言う赦しの感情を良しとするものだ。少なくとも、真摯に罪を悔いる者に酌量を行う事を悪とは言うまい。

 

 当たり前の、大変な事。それをなしとげたニエはきっと、普通だけどいい人なのだろう。今なら自然とそう思える。

 

 その当たり前の感情を、天界で取り戻したことは喜ばしい。

 

 イリナは思わず手を組んで、今は亡き主にその喜びの感情を伝えた。

 

「アーメン! ああ主よ、もし魂が残っているのなら、この奇跡をお喜びください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛い!?」

 

「イリナ。プリスは転生悪魔っスから、祈るとあれっすよ?」

 

「あ、ごめんなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実に微妙でグダグダな展開になったが、これはイリナがイリナたる所以である。

 

 

 

 

 




ヒロイがスラスターをまんべんなく装備したタイプなら、イリナは一点特化でフレキシブルバーニアを搭載したものとお考えください。一点に集中している分最高速度と加速性能では上ですが、操縦性と運動性では劣る感じです。








そして、ニエの恨みは殺すほどのものではなくなった。

リセス・イドアルとニエ・シャガイヒの決着はついた。もうこの殺し合いが生まれることはない。

では、ニエ・シャガイヒはどうするのか……


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第六章 59

さて、感想で「リゼヴィムやリムヴァンが放っておくわけがない」と心配されているニエ。

そんなニエは―


 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹っ飛ばされたジェームズは、そのまま地面に倒れた。

 

「糞……ここまで、か……っ」

 

 激痛に悶えてるジェームズは、この調子だと戦えそうにない。

 

 よし! これなら何とかなるか!?

 

「無事だなイッセー。急ぐぞ!」

 

「ああ! 早くしないと―」

 

 ゼノヴィアの言う通りだ。

 

 直ぐにでも助けに行かないと。イリナやトウジさんもそうだけど、リセスさんが危なっかしい。

 

 そう思って振り向いたその時―

 

「じゃ、台無しタイム♪」

 

 ―邪悪な笑みを浮かべた、リゼヴィムがゼノヴィアの真後ろに立っていた。

 

「ゼノヴィアさ―」

 

 アーシアが気づいて声を上げるけど、間に合わない。

 

 やべえ。激戦後の不意を突かれて―

 

「……いえ、そこ迄です」

 

 その言葉と一緒に建物の残骸がゼノヴィアごとリゼヴィムに直撃した。

 

 …………

 

 え?

 

「ぜ、ゼノヴィアぁあああああ!?」

 

「ゼノヴィアさぁあああん!?」

 

 俺とアーシアが絶叫する中、一緒にいたファーブニルが口から何かを取り出した。

 

『今週のビックリドッキリメカ。重力操作ー』

 

 おお、瓦礫が浮かんだ!! ありがとうファーブニル!!

 

 あ、ゼノヴィアの奴完全に気絶してる!!

 

「他に助け方なかったのかよ!?」

 

 俺が瓦礫の投げつけられた方向に向きながら文句を言うと、そこにいた奴が肩をすくめた。

 

 ん? っていうかあり得ない奴がここにいるんだけど!?

 

「仕方ないじゃないか。こうでもしないと僕の攻撃はリゼヴィムさんには通用しないし」

 

 そう言いながら歩いてくるのは、ニエだった。

 

「おや~ん? その様子だと、リセスちゃんは殺せなかったのかにゃん?」

 

 と、リゼヴィムが上空で首を傾げていた。

 

 あの野郎、あっさり躱してるんじゃねえよ!

 

 っていうかゼノヴィアだけ喰らってんじゃねえか! 怒っていいよなこれ!!

 

 いや、怒ってる場合でもない。

 

 何でニエがここに? リセスさんはここにはいないぞ?

 

 っていうか、リゼヴィムは一応味方だろ? 何で攻撃してるんだよ。

 

「ど、どういうつもりだよ!?」

 

「……なんか、馬鹿らしくなってね」

 

 俺の質問に、ニエはそう言って肩をすくめた。

 

 なんでだろう。なんかスッキリした表情してるな。

 

「何ていうか馬鹿らしい。自分がこんなに馬鹿だったとは、思わなかったよ」

 

 そういうニエは、苦笑いの表情を浮かべているけど、本当にスッキリしているみたいだった。

 

 何だろうな。憑き物が落ちたってこんな感じか?

 

 リセスさんを殺してしまったのだろうか。もしそうだったら、俺はニエを許す気になれない。

 

 だけど、なんとなくそれは違うって事がよく分かった。

 

「……リゼヴィムさん。リムヴァンさんは、この可能性に気付いていたんですか?」

 

 ニエの視線はリゼヴィムに向けられる。

 

 なんだ? ニエは一応、ヴィクターの一員のはずだよな?

 

 なんだかんだで味方同士で争ってるのか? ニエは邪龍達と違って仲間意識はありそうだったけど……。

 

 俺が首を傾げていると、リゼヴィムは魔方陣を展開する。

 

「リムヴァン? どうも最悪のパターンになったっぽいぜ?」

 

『おやぁん? リセスちゃんやプリスちゃんは、自分から謝ったりしないタイプだと思ったんだけどね。謝って済む事をしなかった場合は特に』

 

 と、そこでワインを飲んでいるリムヴァンの姿が映る。

 

 それをまっすぐに見つめながら、ニエは一歩前に出た。

 

「リムヴァンさん。……あなたは、僕にリセスを殺させるつもりだった。そうですよね」

 

『もちろんSA! 僕は悪魔だ。契約はきちんと守るよ? 特に自分から持ち掛けた契約は、できる限り順守する。……それが、悪魔って生き物だからね』

 

 リムヴァンはさらりと言うが、しかしそこで表情を変える。

 

 俺は、それを見た時ゾッとした。アーシアが顔を真っ青にして、ファーブニルが慌てて庇う程だ。

 

 それ位には、リムヴァンのその笑みは邪悪だった。

 

 ああ。こんな邪悪な笑みを俺は今まで見たことがない。

 

 間違いなくきれいなのに、だけど明らかに邪悪だって分かる。そんな、醜悪な芸術品だった。

 

『だけど、その復讐を達成した時の快楽に君が壊れても、それは僕の契約の範疇外さ』

 

 ……なんだ、それ。

 

「どういう意味だ、リムヴァン!!」

 

「どうもこうもねえよ。文字通りの意味だぜ、赤龍帝きゅん?」

 

 問い質す俺に応えるのは、リムヴァンじゃなくてリゼヴィムだった。

 

「知的生命体ってのは、むかつく奴が吹っ飛ばされるとスカッとするからねぇ。死ぬほどの絶望を与えた存在を自分の手でぶち殺すってんは、そりゃもう脳内麻薬出まくりだよ。……普通の奴ならそのままぶっ壊れるぐらいにゃぁな」

 

 リゼヴィムは、長年生きてきた経験からか、すごく説得力のある言葉を言ってくる。

 

 そして、それは本気で邪悪の言葉だった。

 

 マジかよ。つまり、ニエが壊れて狂人になることまで想定内で、そんなことを……?

 

「それで殺人狂にでもなってくれれば、今後も楽しくお付き合いで来たんだけどねぇ。いや、残念無念~」

 

 そう軽い口調で。リゼヴィムははっきりと言い切った。

 

 なんだよ、それって……っ!!

 

 ふざけんな! こいつ、そんな事の為にニエを蘇らせたってのか!?

 

「酷い……っ」

 

 アーシアは口元を押さえて、目を潤ませる。

 

 当然だ。こんなこと聞いて、むかつかないほど俺達は邪悪じゃねえ。

 

 こいつら、よくもまあそんな事をニエの目の前で……っ。

 

『まあ、その様子だと謝られちゃった感じかな? こりゃ、大失敗だね。ガックリ』

 

 そう言って肩を落とすリムヴァンに、ニエは苦笑した。

 

「まあ、リセスを殺したかったのは事実ですから、そこには感謝してますよ」

 

 ニエは、特にそれに対して怒ってない。それどころか、本当に感謝の言葉を返した。

 

 それだけ憎かったのに、ニエはリセスさんを許したのか? プリスって人も、許したのか?

 

 俺達がよく分からないでいると、ニエはタンニーンのオッサンぐらいある魔獣を生み出しながら、静かに目を伏せる。

 

「でも、冷めてしまいました。そして、ヴィクターの所業は冷めた今の僕では許容できないんです」

 

 そして、まっすぐに敵意をリゼヴィムとリムヴァンに向けた。

 

「何の罪もないと認められた魂まで巻き込んでの戦いは、もう僕にはできません。……本当に勝手ですけど、今から僕は敵対させてもらいます」

 

『本当に勝手だねぇ』

 

 ニエの敵対宣言に、リムヴァンは怒りじゃなくて苦笑を浮かべる。

 

『散々暴れてきたってのに、冷めたからって掌返すだなんて。ちょっと僕らにとっても彼らにとっても、自分勝手に見えるんじゃないかい?』

 

「そうですね。散々リセスを倒す為に他の人を巻き込んでおいて、何を今更とは思いますよ」

 

 リムヴァンの皮肉に苦笑を浮かべながら、だけどニエは俺達を庇いながらまっすぐに立っていた。

 

 そして、大量の魔獣の戦意がリゼヴィムに向けられる。

 

「だけど、素面になった僕は、貴方がたの所業を受け入れられない。……どこまでも半端ものらしいと、嘲笑ってくれってかまいません」

 

『……いや、そこまでは言わないさ』

 

 自嘲するニエに、リムヴァンは静かに首を振った。

 

 その目には、どこか輝かしいものを見る感情が映っていた気がする。

 

『それは、君が正しい側に立ち直ったことを意味している。……幸運に助けられたとはいえ、踏みとどまったことは素直に称賛しよう』

 

「……重ね重ね、ありがとうございました」

 

 リムヴァンに、ニエは頭を下げる。

 

 そんなニエに悪意のない笑顔を浮かべて、リムヴァンは―

 

『ま、それとこれとは別問題。L、やっちゃってー』

 

 -一瞬で悪意を丸出しにしやがったよこの野郎!!

 

 んでもってリゼヴィムの準備体操してやがるし!! この野郎マジでむかつくな、オイ!!

 

「OK! 俺は素直にイラっと来るから、ちょっとノリノリでいっちゃうぜー!!」

 

 そして勢いよく、俺達に向かって突撃する。

 

 ……そして、天界最大級の戦いが勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




―むしろ自分から突っかかっていきました!

いや、現実問題ニエはヴィクターの下衆な所業をずっと見てきたわけです。常人は「イラつくけど対抗できないし怖いから立ち向かえない」的な感じになるわけです。

それを、「復讐したいから」という一念がセーフティになってきたニエです。その復讐心が沈下した今、ヴィクターの所業に対する嫌悪感が強くなっています。ついでに言うと数々の戦闘で割と心根が鍛えられてますし、なにより彼には対抗できる力がある。

……結果として、ここで反旗を翻しました。自分で言ってますが恩知らずで身勝手な行動ではあります。


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第六章 60 

一方そのころ、ヒロイはというと―


 

 俺は、何とかギリギリで踏みとどまっていた。

 

 糞野郎が。これが伝説の邪龍でも最強クラスの野郎ってことかよ。

 

 龍王クラスを凌駕してやがる。下手しなくても、極覇龍状態のヴァーリを超えてやがるぞ。

 

「むかつく野郎だが、どうやらここまでのようだな、ガキ」

 

「終わり! 終わり!」

 

「風前の灯!!」

 

 アジ・ダハーカも割と傷つけられていたが、図体がでかい事もあって、致命傷には遠いって感じだな。

 

 畜生が。最強の神滅具を使ってこれとか、嫌になるぜ。

 

 いい加減足もがくがくで、いつ原初の水とかいうのに落ちても不思議じゃねえ。それぐらい、俺は自分でも立ってるのが不思議なぐらいだった。

 

 だけどよ。それでも、まだ戦ってやる。

 

 ……この糞我儘野郎なんかに、心まで屈してたまるかよ!

 

「どうした、蜥蜴ぇ。俺はまだ生きてるぜ?」

 

「……ほんとにむかつかせてくれる野郎だな、オイ」

 

 相当むかついているのか、アジ・ダハーカは舌打ちまでしてきやがる。

 

 んの野郎が。舌打ちしたいのは俺の方だっての。

 

「まあいい。むかつくがここまで激しく戦えたのは久しぶりだ。最後に俺の得意技を見せてやるよ」

 

 そう言い放つと、蜥蜴野郎は魔方陣を展開した。

 

 素直に喰らってたまるか。俺は全力で防御態勢を取り―

 

 瞬間、天国を見た。

 

 凱旋パレードの目玉として、ボロボロになりながらも勝利を掴んで、そして俺を見て目を輝かせる子供達の姿を目に焼き付ける。

 

 それはまさに天国だ。輝きという英雄であろうとする俺にとって、子供達が俺を見て目を輝かせるなんて展開は夢以外の何物でもねえ。

 

 そう、そして姐さんもシシーリアもペトもいて―

 

「……ふざけんなよ、この蜥蜴が!!」

 

―その全てに腹を立てて、俺は全力でその幻覚を切り捨てる。

 

 瞬間、俺の意識は激痛と一緒に現実に戻る。

 

 本当に殺意が湧きまくる。

 

 この野郎。俺の誓いを何だと思ってやがる。

 

 んな安い願いじゃないんだよ。俺の輝き(英雄)を目指す想いってのは!!

 

 命の一つぐらいかけてるんだよ。それぐらいしても届かないって自覚してるんだよ。それでも、それでも願ってるんだよ、狂おしいほどに!!

 

 それをこんなちゃちな幻覚で叶えようだ?

 

 しかも姐さんやシシーリアまで出しやがって。

 

 ふざけてやがる。許せねえ。

 

 ああ、本当に痛いほど理解できた。俺はこいつとは理解し合えない。相容れない。不倶戴天の怨敵だ。

 

「ぶち殺す! 絶対殺す!! どうせ何度も蘇るんだから一度ぐらい殺してもいいだろ、あぁ!?」

 

「……まさか一瞬で破るとは思わなかったぜ。いや、流石に悪か―」

 

「詫びても遅い今すぐ死ねやぁ!!」

 

 文字通り限界突破の死力を尽くして、俺はアジ・ダハーカに飛び掛かる。

 

 生体電流強化を意地で一割にまで引き上げ、連続攻撃を叩き込んだ。

 

 ああ、謝っても絶対許さん。

 

 安い幻覚で姐さんを汚しやがって。シシーリア迄汚しやがって。

 

 殺す。ぶち殺す。全殺しだ。

 

 今俺は、コイツを絶対殺すと決心した。

 

「槍王の型ぁああああああ!!!」

 

 クリスマスは病院のベッドで構わねえ。いや、大晦日と正月も差し出してやる。

 

 だから聖書の神の遺志よ、あんたのお膝下で暴れまくるこの糞蜥蜴をぶち殺す力を俺にもってこい!!

 

「っていうかさっさと力貸しやがれ聖四文字ぃいいいいい!!!」

 

 今までにないぐらい、かつてないほど俺は聖書の神の遺志に力を求める。

 

 ああ、今迄は加減してた。信仰心が緩いというか無いに等しい俺が、聖槍を使う事に遠慮があった事もある。それ位には俺は良識というか常識をわきまえてるし、宗教ってものを理解しているつもりだ。

 

 だがもう知ったことか。こうなりゃ曹操と同じ領域に至ることすらいとわねえ。

 

 ホント今すぐ力を寄越せ。多少の代償は覚悟する。

 

 っていうか、あんたのお膝下でふざけた理由の乱暴狼藉を働くこの外道を、さっさと俺にぶち殺させろ!!

 

流星(ながれぼし)! 箒星(ほうきぼし)! 崩星(くずれぼし)!!」

 

 文字通り今までの領域超えた、三連続槍王の型を、三つの首に勢い良く叩き込む。

 

 そして、これで止めだ三つ首蜥蜴!!

 

覇輝(トゥルース・イデア)覇輝(トゥルースイデア)覇輝(トゥルース・イデア)覇輝(トゥルース・イデア)覇輝(トゥルース・イデア)ぁあああああああああっっっ!!!」

 

 俺の心からの全力要求に、聖書の神の遺志も重い腰を上げたらしい。

 

 槍から今までにないほどのオーラが発生。この出力、ロンギヌス・スマッシャー級。

 

 ハイ止めの一撃ぃいいいいいいいいい!!!

 

 辞世の句なんて読ませねえ! 文句は復活してから言いやがれぇえええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その圧倒的な力の奔流に、アポプスとヴァーリは目を見張った。

 

『これは、アジ・ダハーカを圧倒しただと!?』

 

「まさか、ヒロイ・カッシウスがここまでやるとは……っ」

 

 圧倒的すぎる力の奔流は、覇輝によるものだろう。

 

 しかもかなりの怒りの念が込められている。どうやらアジ・ダハーカはヒロイ・カッシウスの逆鱗に触れたらしい。

 

「触れてはならぬところに触れては、龍でなくとも逆鱗に触れられたが如き力を発揮するということか……っ」

 

 相当怒り狂っているのが、この距離からでも分かる。

 

 ヒロイ・カッシウスは今までにないほどの怒り狂っている。下手をすれば、極覇龍状態のヴァーリを圧倒しかねない程にだ。

 

 強い感情は神器の性能を引き出す。そういう意味では、ヒロイはこれまでになく神器の性能を引き出せる状態になっていたのだろう。出来れば闘いたかったとアポプスもヴァーリもそう思う。

 

 そして、この戦いにも引導が渡される。

 

「……どうやら、ニエはこっちに来ていないみたいね」

 

 その言葉と共に、新たな戦士が戦場に参入する。

 

 そして、その戦士は躊躇なく原初の水に舞い降りると、着水してそのまま立つ。

 

 その光景に、アポプスは目を見張った。

 

 直撃させれば天龍すら害せると自負する原初ノ水に、その戦士は遠慮なく触れて何の影響も受けていないのだから。

 

『なんと!? ……貴殿は一体―』

 

 そう言いかけたアポプスの顔面に、冷水が叩き付けられる。

 

「どういうつもりか知らないけれど、流石にこれは見逃せないわね」

 

 不敵な笑みを浮かべ、激痛をやせ我慢で押し殺し、そして結果的に彼女は進化して帰ってきた。

 

「さあ、ヒロイ・カッシウス(私の英雄)が男を見せたんだもの。ここは彼の自慢(英雄)として、気合と入れないとね」

 

 その姿は、まさしく勇士。

 

 傷だらけで満身創痍でありながらも、しかし決して吹けば飛ぶような雑魚ではない。

 

 そして、その心は致命的なまでに恥辱に震えている。

 

 満身創痍で意識朦朧とはいえ、言ってはならない言葉を言ってしまったと思っている。

 

 それが己を救ったとは言え、しかしそれを彼の目の前で言うことは恥じるべきだと心が言っている。

 

 だが、例えそれだけの生き恥をさらしたとしても―

 

「さあ、ヒロイ・カッシウスが活躍したのなら、私もそれだけの活躍をしないといけないから―」

 

 ―彼の英雄(自慢)は、彼の輝き(英雄)でなければならない。

 

「覚悟しなさい。三目の蛇如きが、好き勝手にできるほど神滅具使いの名は安くないのよ」

 

 リセス・イドアル。ここに汚名返上戦突入。

 

 ヒロイ・カッシウスに並び立ち前を往くものとして、生き恥を注ぐべく戦いを開始した。

 




ヒロイ、怒りの連続攻撃でアジ・ダハーカを撃破。許す気がないので謝罪の言葉なんて言わせません。

幻覚で最高の展開を見せられたことが、逆に自分の夢と輝きを汚された気になりキレて火事場の馬鹿力を発揮しました。

そしてリセスも意地で戦線復帰。

精神的には言ってはならない言葉を行ってしまったので絶不調。肉体的にも瀕死の重傷なのでこれまた絶不調。

ですが、バッドコンディション程度で成果を出せない程度では、英雄の英雄になどなれないので。気合と根性、意地と気合で、無理やり成果をだしに戻ってまいりました。


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第六章 六十一 龍鬼の魔獣

……どうもヒロイの決断に関して不満が大きいのが残念ですね。

自分に信仰心がろくにないことを自覚しているヒロイとしては、自発的な覇輝の使用を極力避けるのが最低限の礼儀と踏んでいて、今回ブチギレにブチギレて我慢の限界を取パした形です。

……なんていうか、アザゼル杯編はヒロイとリセスではなく新しい主人公を作った方がいいような気がしてきましたね。どっちにしても二人の英雄になる物語はアザゼル杯編に突入する前に決着するので、そのほうがきれいにまとまりそうな気がしてきました。


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニエは俺達の目の前で、大量のでかいドーインジャーを作り出す。

 

 そしてそのドーインジャーは散開して、瓦礫を掴んでは勢いよく投げつけた。

 

「いくらあなたでも、神器の影響を受けてない物理攻撃は無効化できないでしょう!!」

 

 なるほど! あれなら確かに効果がありそうだ!

 

 神器そのものや神器の加護を受けた力を無効化するリゼヴィムでも、神器が投げつけただけの瓦礫なら、普通にダメージが入るはずだ!!

 

 その手があったか!

 

「はっはっは! 坊や、そんなゆっくりとした玉じゃ当たらないよ?」

 

 それをリゼヴィムは好々爺の表情を浮かべて回避する。

 

 あ、あの野郎回避してんじゃねえよ!! いや、敵の攻撃は躱すもんだけどさ!!

 

 そう思った瞬間、瓦礫が爆発した。

 

 大量の瓦礫が破片になって、リゼヴィムに襲い掛かる。

 

 そして、その光景をみたニエは平然と言い切った。

 

「さすがにもう一手組み込まないと、貴方に傷一つつけれません。それ位はわかります」

 

 ああ、そういや爆発する魔獣を用意してたっけ。

 

 そして、爆発で加速した物体もただのものだから、リゼヴィムの神器無効化能力を無視できる。

 

 こ、この人なんだかんだでセンスある気がするんだけど!?

 

「……ふむ」

 

 そして、その瓦礫の嵐を前にリゼヴィムは一つ頷くと―

 

「……さすがに貴殿を舐めていたようだ。謝罪しよう」

 

 そう今までとは違う口調でしゃべりだしながら、背中から翼をはやして瓦礫を弾き飛ばす。

 

 なんだ? 様子が違う。

 

 まさか、リゼヴィムの奴、本気を出したのか!?

 

「謝罪しよう。私は貴殿らを見誤っていた」

 

 なんか大物っぽい声だしながら、リゼヴィムは不敵な笑みを浮かべる。

 

 そして、俺たちに視線を向け―

 

「貴殿を我が恩人の大敵とみなし、全力を見せよう」

 

 そして、一瞬で姿が消えた。

 

 どこだ!? いったいどこに―

 

 俺がリゼヴィムを探そうとした瞬間、側頭部に衝撃が走る。

 

 そして、俺は勢い良く殴り飛ばされた。

 

「イッセーさん!?」

 

「させんよ」

 

 アーシアの回復オーラが俺に飛ぶけど、それをリゼヴィムは魔力砲撃で吹き飛ばした。

 

 くそ! 放つ攻撃にも神器無効化能力は働くのかよ!!

 

「チッ! ここにきてマジモードとか、さすがに―」

 

「最低限の敬意というものだよ」

 

 ニエが飛び退るよりも早くリゼヴィムは接近して、その顔面をつかむ。

 

 そして魔獣変成が解除されたニエを、そのまま俺に投げつけた。

 

「え、えええちょっとぉおおおお!?」

 

「さ、再禁手化(バランス・ブレイク)―」

 

 激突したぁああああ!?

 

 しかも禁手化を再開されてたからマジでいたい!?

 

 そして気づいたらもうリゼヴィムは真正面に!!

 

「喰らうがいい、ルシファーウイングダンス!!」

 

 いやこれ、やっぱり根っこはいつものふざけてる方なんじゃ―

 

 そう思っている間に三十回は攻撃を喰らった。

 

 いってぇええええ!!! 鎧が一瞬で溶けるからマジでいてぇ!!

 

 ニエもニエで全身を切り刻まれる。

 

「くぅ……ぁあああああああ!?」

 

 激痛に絶叫するニエは、それでも魔獣を動かして瓦礫で反撃しようとする。

 

 だけど、それより早くリゼヴィムの魔力砲撃が魔獣を打ち抜いた。

 

「……神器だよりでは私には勝てんよ。神滅具といえど二つ程度では処理限界を突破できんしな」

 

 クソッタレ!! ニエが裏切ったとしてもどうにかなるから二個も持たせ……二個!?

 

 俺は新しい情報に驚くけど、そんな暇もなくケリが飛んでくる。

 

 とっさに腕を龍化させて防御するけど、それでも追いつき切れずに骨にひびが入った。

 

「さて、遊びすぎを反省したところだ。……とどめと行こうか―」

 

「イッセーさん!!」

 

 その瞬間、回復のオーラが俺に届く。

 

 アーシアも、まだあきらめてないのか。

 

 そしてファーブニルも召喚されてアーシアをかばっている。これなら攻撃は何とかなるか?

 

 そうだよな。だったら俺も―

 

「……ああ、言い忘れていたのだが―」

 

 そしてリゼヴィムは指を動かし―

 

「―君の警戒は怠れないな」

 

 ―その嘲笑と一緒に、アーシアは後ろから貫かれた。

 

「……アーシアぁあああああ!!」

 

 俺が絶叫するその隙をついて、リゼヴィムは一瞬で俺に接近する。

 

「嘆く意味はない。嘆くのなら、そも前線に連れ出すべきではないのだから」

 

 その瞬間、リゼヴィムの拳が俺の鳩尾にめり込んだ。

 

 ……こいつ、強い……っ。

 

 崩れ落ちる俺を見下ろして、リゼヴィムはやれやれと首をすくめる。

 

「言っただろう? 神器だよりでは私は倒せん。貴殿らのように神器が無ければ只人に毛が生えた者では勝てんよ。……だが」

 

 そして俺たちに一瞥もくれず、リゼヴィムは微笑みながらファーブニルに視線を向け―

 

『……許さない』

 

 その瞬間、ファーブニルの突進を受け止め、威力を殺すために全力で後退した。

 

 そしてその瞬間、ファーブニルはリゼヴィムの真後ろに転移する。

 

 あいつがため込んだっていう宝物の力か! 短距離っつっても一瞬で空間転移とかすごい!

 

 だけど、リゼヴィムは翼の一つでファーブニルの突進を横から叩いて機動をそらすと、カウンターで魔力砲撃を叩き込む。

 

 一瞬で百を超える数の魔力が叩き込まれ、ファーブニルの全身が血まみれになった。

 

「言っておくが、今の私は貴殿らを舐めていない。龍王の逆鱗に触れたのだ、相応の礼節を持って対応しよう」

 

『……殺す』

 

 そして、一瞬で禁手が解除された俺では目で追えないほどの速度の攻防が始まった。

 

 や、やばい。マジで目にも止まらない!!

 

 これが、魔王の末裔と龍王の一角のガチバトルかよ……っ

 

 俺は思いっきり呆然になる。っていうか、今のファーブニルなら俺が紅の鎧になっても圧倒できるんじゃねえか!?

 

 これが、龍の逆鱗。これが、ファーブニルの本気なのか。

 

『相棒。何を呆けている!!』

 

 その俺の耳に、ドライグの叱咤が飛んでくる。

 

『あの娘はお前の愛する者の一人だろう? それを傷つけられて、ファーブニルに任せるなどなんて様だ!!』

 

 ……っ。

 

 そうだ。アーシアは俺のことをずっと愛してくれてたんだ。

 

 俺もそれに応えるってもう決めてる。だったら、やることはたった一つだ。

 

「手を貸すよ、赤龍帝」

 

 そして、ニエも傷を魔獣化で修復して立ち上がった。

 

 その目は、かろうじてだけどリゼヴィムを捉えて、そして離さない。

 

「……正直に言えば、今でもリセスにもプリスにも怒ってる」

 

 そっか。今でもまだ許せないか。

 

 だけど、それでも殺さないって決めてくれたんだな。

 

「ありがとな」

 

「礼は良いよ。それよりも―」

 

 そしてニエは、ダメージを回復させているアーシアを見て、もう一度俺に視線を向けた。

 

「大事な何かを汚された怒りは分かるだろう? なら、今ならできるはずだ」

 

 ……マジか。いや、確かに今ならできると思うけど、マジか。

 

 いや。確かにそれならそっちがいいか。うん。それ位の奇跡も許されるだろ。ここは神の奇跡の本場だしな。

 

「……力貸すから力貸せよ、ニエ・シャガイヒ!!」

 

「力を借りるから力を借すよ、赤龍帝!!」

 

 俺達は、その言葉と共に手を合わせる。

 

 そして、俺は今一瞬だけの共感に全力を込めて、譲渡の力を流し込む。

 

 そして、ニエはそれをちゃんと受け取った。

 

「我が英雄とは、我にとっての敵対者なり!!」

 

 渾身の力と共に、ニエは祝詞を紡ぐ。

 

「されどそれでも立ち上がり、進み続けてきたことを我も認めよう」

 

 今での二人に怒っていて、だけどどこかでぶつけるのを我慢している。

 

 それはそれですごいって思うからこそ、俺も力を貸そうって思った。

 

 だからニエ。今だけでいいから力を貸してくれ!

 

「我、赤き龍の怒りと響き、赤き龍に怒りの具現を教えよう!!」

 

 その瞬間、魔獣と化したニエに赤い鱗が大量に浮かぶ。

 

「赤龍帝の戦車の譲渡、龍鬼の魔獣(ドラゴンオーガ・ビースト)。……リゼヴィムさん、恩は(あだ)で返させてもらいます!!」

 

 その瞬間、俺達は一気に突進する。

 

 それを見て、リゼヴィムは何かに気づいた。

 

「神滅具を三つ合わせるか! 流石にそれなら、我もまた本腰を入れた防御を入れるほかない!!」

 

 一瞬で魔力障壁を何百もはり、そしてそれが一つの結界になる。

 

 あの密度、神器無効化能力と合わせりゃ、ロンギヌス・スマッシャーも防ぎ切りそうだな。

 

 だけど、殴るだけなら問題ねえ!!

 

「透過、起動!!」

 

 ニエの拳が魔力障壁を突き抜け、そしてリゼヴィムを掴む。

 

「む? これは……こちらの処理容量の突破ではない!?」

 

 一瞬だけ驚くリゼヴィムに、俺は一歩を踏み込んだ。

 

 その油断が命取りだ!!

 

「喰らえ、この糞ジジイ!!」

 

 俺は渾身の力を込めて、リゼヴィムに拳を叩き込む。

 

 リゼヴィムは嫌な予感を覚えたのか、それを手で受け止め―

 

『Penetrate!!』

 

 その音声と共に、俺の拳はリゼヴィムの手を弾き飛ばした。

 

「……これは! 我が神器無効化能力を無効化している?」

 

 いや、違うぜリゼヴィム。

 

 かき消したんじゃない。すり抜けたんだ!!

 

「これが、龍鬼の魔獣の能力。赤龍帝の力を魔獣変成で再現する力」

 

「―そして、これが反射の対になる赤龍帝の能力、透過だ!!」

 

 俺とニエの拳が同時に放たれ、リゼヴィムは両手を交差してそれを受け止める。

 

 だけど、二天龍の拳を同時に受け切れるわけもなく、勢いよくリゼヴィムは弾き飛ばされた。

 

「我が恩人ですら知らぬ領域か! 聖書の神はよくもまあ、これほどの力を残しておいたもの―」

 

『―うるさい』

 

 そして、感心するその隙が致命的だ。

 

 ……とどめはくれてやる。

 

 やっちまえ、ファーブニル!!

 

『アーシアたんを傷つけたやつ、許さない!!』

 

 勢いよく振るわれたファーブニルの尾が、リゼヴィムを地面に叩き付けた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い原初の水が龍のように飛び、リセス・イドアルに襲い掛かる。

 

 アポプスはこのイレギュラーに対して、割と嫌な気分になっていた。故に遠慮は微塵もない。

 

『龍の決闘に水を差した者よ。滅びるがいい』

 

 その言葉は断罪の言葉。

 

 神や魔王すら意にも介さぬ、孤高にして強大な龍としての自負ゆえに放たれる言葉。

 

 それに対して、リセスは睨みを利かせて言葉を紡ぐ。

 

「ほざきなさい、狼藉者。……死者が安らぐこの地に、喧嘩屋の居場所はないと知りなさい」

 

 その瞬間、原初の水が動きを止める。

 

 その要因は極めて単純。よく見れば、アポプスもすぐに気づいただろう。

 

 リセスは煌天雷獄の使い手。煌天雷獄は属性支配の力を持つ。そして、リセスは属性支配に優れた特性を発揮する。

 

 極めて単純かつ簡潔に言おう。

 

 リセスは足下の原初の水を介して、原初の水を支配し始めていた。

 

『……なんと! 人間が我が原初の水を操るとは―』

 

「たかが蛇如きがよく言うわ」

 

 アポプスの言葉を遮る、リセスは両手を構える。

 

 放たれるのは、対物理における歴代煌天雷獄最高効率の奥義。

 

 矛盾許容による熱相転移。極低温と超高熱の合わせ技。

 

「人間を舐めてもらっては困るわ。そして、死した人間の安息の地に、邪悪なるものの居場所はない!!」

 

 そして、リセスは全力をもって跳びかかる。

 

 この一撃は、直撃すれば主神クラスですら一撃で戦闘不能にできるものだ。

 

 それこそが、神や魔王すら倒しうる神滅具。これこそが、その神滅具における第二位の位階。これこそが、その神滅具における一つの究極。

 

『なるほど、これは喰らえんな』

 

 ―そして、それを素直に認める程度には、アポプスは聡明かつ賢明だった。

 

 故にカウンターで莫大な火球を口から放つ。同時に、原初の水の支配を奪還し、周囲を包み込むように放った。

 

 全方位からの圧殺と、一点特化の最大火力。その双方の合わせ技を、リセスは回避できるのだろうか。

 

 不可能だ。物理的に回避する隙が無いこの攻撃を、今迄のリセスでは防げない。

 

 なによりリセスのこの一撃は、単純出力ではなくその特異性によって敵を破砕する技だ。単純火力では火球すら防げず、包囲する原初の水を突破するにも時間がかかる。

 

 ゆえに、今迄のリセスでは防げない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、()()の、リセスでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はね、本当に馬鹿なのよ」

 

 静かに、そうリセスは自虐し自嘲し自戒する。

 

 そうだ。忘れるなリセス・イドアル。

 

 冷静に考えればすぐに分かり、そしてそれだけはしてはならないと考えた。

 

 その結果が、此処まで状況をややこしくした一因だ。

 

 そしてその解決の一手こそ、自分にとっては地でしかない行動なのだ。目覚めて事情を把握した時点で、そうとしか思えない。

 

 そう。リセス・イドアルは何処まで行っても愚か者であり―

 

「―そして、そんな私を英雄(輝き)だと言ってくれた子がいる」

 

 だからこそ、リセスはここで負けることなどありえない。

 

 自分を輝き(英雄)だといってくれた自慢(英雄)が、勝って見せたのだ。

 

 並び立て、そして、前に出ろ。

 

 リセス・イドアルという英雄は、ヒロイ・カッシウスという英雄の前を歩け。

 

 兵藤一誠のような1等星のような英雄でなくていい。それでも、救い上げたヒロイとペトの2人だけは照らせる6等星のような英雄ではい続けろ。

 

 その決意が、リセス・イドアルを新生させる。

 

「―禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 その瞬間、リセスは一瞬だがこの世界から姿を消した。

 

 放たれた攻撃は空を切り、そして空中でお互いを攻撃して大爆発を起こす。

 

 その爆発の光を背に、リセスはアポプスの眼前に姿を現した。

 

『これはいった―』

 

「ディストピアアンドユートピア!!」

 

 その瞬間、アポプスは驚愕を言い切ることなく全身を粉砕された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




 ニエをここでイッセーと共闘させて、信頼の譲渡を使わせるのは信頼の譲渡のアイディアが出てからすぐに決定していたことです。能力に関しても大体すぐにまとまりました。決して唐突な思い付きではないので、その辺についてははっきり言っておきます。

 一方リセスの新禁手は、なんとか最近になって組み立てられたものです。なかなかリセスの禁手のアイディアが浮かばなくって。


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第六章 62

とりあえずバトルは終了。そして、いろいろあるけどファニーエンジェル編エピローグです。


 

 勢いよくアジ・ダハーカを吹っ飛ばした俺は、勢い余って吹っ飛んでいった。

 

 全身が悲鳴を上げる中、俺は気合と根性と脳の生体電流を操作する事による痛覚の意図的なマヒで、無理やり体を動かす。

 

 まだだ。うっかり忘れてたけど、まだ敵は全滅したわけじゃねえ。

 

 そう、まだ他にも強敵は残ってるはず―

 

 と、思ったらイッセーの姿が見えた。

 

 っていうかニエまでいる。

 

 マジか。てっきり姐さんとぶつかっているかと思ったけど、イッセーとかち合ってたのか。

 

「イッセー無事か!」

 

「ヒロイ! 無事……じゃねえな!?」

 

 悪かったな。俺も無茶はした自覚はあるんだよ。

 

 そうでもしねえと勝てなかったし、負けるわけにはいかねえ意地があったからな。

 

 とりあえず俺は着地して、ニエに視線を向ける。

 

 そこに、イッセーが割って入った。

 

「待ってくれ! 今のニエは敵じゃない! ……リセスさんも無事だから!」

 

「……え? どういうことだよ?」

 

「色々あってね。話は長くなるから後で」

 

 俺の混乱をよそに、イッセーとニエは振り返ると構えを取る。

 

 そして、悪魔の翼が強引に周囲の土煙を振り払った。

 

「ふはははははははは!!! 認めよう! 貴殿らは我が恩人の障害だと!!」

 

 な、なんかテンションがいつもと違うリゼヴィムが姿を現しやがった。

 

 これが奴の本気モードか? それとも舐めプの一環で演技してんのか?

 

 ま、どっちにしても敵なんだが。

 

「で、意外とボコってるんだが攻略法でも見つけたのか?」

 

 俺はとっさに悪魔祓いの装備である光の剣と銃を取り出して、戦闘準備を取る。

 

 今の状態だとこれの方がまだ戦えるからな。つっても、ボロボロだからこのままだとまずいんだけどよ。

 

 ……ちょっとキレすぎたな。後の事考えてなさすぎたかもしれねえ。

 

 いや、あの野郎はふざけすぎてたからな。あれぐらいしねえと割に合わねえ。人の矜持を徹底的に踏みにじったあげく、我儘と誇りの区別もついてねえ糞野郎だった。

 

 まだ、目の前のリゼヴィムの方が理解できそうだしよ。

 

「……まさか、二天龍の第三の力を再び見る事ができるとは思いませんでした。これも亡き主の導きでしょうか」

 

 その言葉とともに、ミカエル様まで現れやがった。

 

「お久しぶりですね、リリン。……この地での狼藉。命で償ってもらいましょうか」

 

 今までにないマジモードだ。本気のマジギレだこれは。

 

 その殺意満々の視線を嬉しそうに受け止めながら、リゼヴィムはだけど首を振った。

 

「いや、今日はもう退こう。目的は既に終えたのでね」

 

 そういいながら、リゼヴィムはリンゴみたいな果実を一つ取り出す。

 

 それを見て、ミカエル様は目を見開いた。

 

「それは……っ!」

 

「そうだ。今や枯れた所為で創られることのない、エデンの園の知恵の実だ。我が母より、煉獄に隠されている事を聞き及んでいてな」

 

 なるほどな、それがあいつらの本当の目的か。

 

「ふざけんな! 煉獄にあるなら天界まで来る必要はなかったじゃねえか!!」

 

「いや、天界を敵に回しているヴィクターとしては、天界に攻め込めたという事実は重要だよ。……将来的に仕掛けることができる実績があるってのは、士気が上がるからね」

 

 食って掛かるイッセーを押し止めながら、ニエはリゼヴィムに頭を下げる。

 

「裏切っておいて言う事ではありませんが。今まで本当にお世話になりましたと、リムヴァンさんに伝えておいてください」

 

「良かろう。こちらも堕落させようとした身だ。これ以上の愚弄はしないと約束しよう」

 

 ……そう言うと、リゼヴィムは翼を広げると飛び上がる。

 

「貴殿らとの決着は、トライヘキサの復活の日に執り行いたいものだ! では、その日にまた会おうではないか!!」

 

「逃がすと思うか!!」

 

 そのリゼヴィムを狙って、どこからか飛んできたヴァーリの砲撃が襲い掛かる。

 

 だけど、リゼヴィムはそれを片手でかき消した。

 

 くそ! あれが神器無効化能力か。っていうかイッセーとニエはどうやって対抗したんだよ、マジで。

 

 俺が呆れるやら関心するやらしている間に、既にリゼヴィムは後方に飛び退っていた。

 

「今の状態じゃ追撃は不可能ですかねぇ」

 

「忌々しいですがそうですね。こちらも少なくない被害を被っております。この状況で追撃戦をする余裕はありません」

 

 俺とミカエル様は、心底ストレスを溜めたけど逃がすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで戦後処理をしようとした時、姐さんがふらつきながら現れる。

 

 そして、ニエを見ると足を止めた。

 

 沈黙が、響く。

 

 す、すげえキツイ。マジでキツイ。誰か何とかしてほしいってぐらいキツイ。

 

 そんな痛い沈黙が続き―

 

「イッセー!!」

 

「お姉さま!!」

 

 お嬢とペトが勢いよく、イッセーと姐さんに抱き着いた。

 

「ぐあぁああああ!? 全身が痛い!!」

 

「そこはやせ我慢しなさ……あ、やっぱ無理」

 

 そして限界を超えた二人はそのまま痙攣しながら倒れた。

 

 って言ってる場合じゃねえ!!

 

 姐さん、イッセー、大丈夫か!!

 

「あ、あぅ……。イッセーさん、リセスさん、ちょっと待っていてください……」

 

 アーシアがすぐに治そうとするけど、肝心のアーシアがボロボロなんだけど!?

 

 何があった。いったい何があった!!

 

「もうペト! いきなり走り出さないでよ!!」

 

 と、そこにイリナもまた駆けつける。

 

 その隣では、一応の拘束がされたプリスがついてきていた。

 

「ニエ君、リセスちゃん……ってリセスちゃん!?」

 

 と、目の前で痙攣している姐さんを見つけて、プリスが慌てて駆け寄った。

 

「ぷ、プリス……。ごめん、鎮痛剤持ってたら頂戴? ちょっと、限界超えちゃったみたい」

 

「持ってないよそんなの!? っていうかあれだけボロボロにされたのに、なんで態々一人でかっ飛んでいくの!?」

 

 苦笑する姐さんにプリスはあわあわするばかり。

 

 っていうか鎮痛剤なら姐さんは持ってそうなんだけど。……ああ、もう次元の倉を使う余裕もないのか。

 

 アーシア? できれば早く回復してくれないか? いや、広範囲フィールド広範囲フィールド。それで回復すりゃ全員まとめてできるだろ?

 

 っていうか俺も頼みたい。もう全身が、限界。

 

「……本当に、馬鹿らしくなってくる」

 

 それを見て、ニエは心底からため息をついた。

 

 だけどそこに怒りはなく、なんていうか呆れがあった。

 

「ニエ・シャガイヒ? あなた、これからどうするの?」

 

「投降するよ。もう、何ていうか本気で冷めたっていうかなんて言うか」

 

 お嬢に両手をだして魔力の拘束を受けながら、ニエは苦笑を浮かべる。

 

 そこには、今まであったような敵意がない。本心から、ニエは戦闘意欲を見せていなかった。

 

 そして、姐さんにあきれ半分の視線を向ける。

 

「……心底ビッチなのに気づかなかった僕にも問題があったよ。僕が見ていたリセスやプリスは、幻想だったと反省してる」

 

「待ってニエ君、リセスちゃんと一緒にされるのはちょっと……」

 

 さらりと姐さんと同類扱いを否定するプリスに、姐さんは衝撃を受けたみたいだ。

 

 完璧にショックを受けたやつ特有の表情だ。いや、マジでショックっぽい。

 

「プリス!? あなたも大概あんあん喘いでたでしょう!?」

 

 そこですか。姐さん、プリスを同類(ビッチ)と認識してたのか。

 

 その言葉に、プリスは顔を真っ赤にするとぶんぶんと首を振る。

 

 心底心外だったらしい。怒りの表情まで浮かんでる。

 

「違うもん! この七年間、エ〇チは指で数えるほどしかしてないもん!!」

 

「どうだか。ゼファードルはそういうの好きそうだけど?」

 

 確かに。

 

 シーグヴァイラさんに対して、処女を奪ってやるとかなんとか言ってやがったらしいな、あいつ。

 

 そんな奴が、こんなエロいスタイルの美少女(二十代)を見逃すとは思えねえんだが。俺がゼファードルなら真っ先に目をつける。

 

 あの性格なら、絶対眷属の女には手を付けるだろうに。

 

 その視線はかなり多かったのか、プリスは全力でブンブン頭を振りながら涙目になった。

 

「ホントだもん! ゼファードル様は「いや、オッサンのお手付きは微妙」的な理由であまり迫ってこなかったもん!!」

 

 それは自分のフォローになると思ってんのか

 

 むしろ悲しくなってくるからやめろ。ゼファードルの野郎、本当に屑だな。

 

 姐さんも同意だったのか、心底怒りの表情を浮かべると、ここにいないゼファードルに侮蔑の表情を浮かべる。

 

「何て愚かなの。こなれた技術で磨かれたその肉壺は、間違いなく至高の一品でしょうに……っ」

 

 あれ? 突っ込み方はそこでいいのか?

 

 俺たちが今度は姐さんに半目を向けていると、ニエは乾いた笑いを浮かべて、空を見上げた。

 

「なんか、本当に馬鹿らしくなってきた」

 

「……うん、ちょっと私も冷めた」

 

 プリスまで同意の表情だよ。微妙に冷めた視線で姐さんを見てきたよ。

 

 その視線に心底ショックを受けたのか、姐さんは激痛とは別の意味で崩れ落ちた。

 

「……ほんとにショックだわ。ひどい」

 

「お姉さましっかり! ペトは、そんなビッチなお姉さまを敬愛してるっす!!」

 

「いや、お前はビッチなんだからそりゃ気にならねえだろ」

 

 フォローになってねえフォローを入れるペトに、俺は思わずぼやいた。

 

 俺も大概経験豊富なんだけどな。2人に教えられてるようなもんだから大幅に負ける。いや、悔しくないどころか負けてていいけど。

 

 そんな俺に視線に気づいて、二人同時にジト目を向けてきやがる。それは俺の視線だ、お二人さん。

 

「……ははっ。なんか笑いたくなってきた」

 

「む」

 

 なんか笑いだすニエに、姐さんがムッとする。

 

 そして、少ししてからクスリと笑った。

 

「ニエのそんな顔、久しぶりに見ましたわよ」

 

「……ここでその口調に戻るのかい?」

 

 微妙に引いているニエに笑いながら、姐さんは首を振った。

 

「いいえ。もうあの頃の強さを求めて弱くなってた私とはさよならよ」

 

 そして、姐さんは、一方別の場所で会話しているイッセーたちを見る。

 

 なんかイリナが感涙してるんだが、何があった?

 

 そんな光景を大切なものにして、姐さんは微笑んだ。

 

 そう、まるで歌姫の笑顔だ。魅了されるぜ。

 

「此処にいるのは、私を大切を想ってくれてる人の自慢でい続ける、英雄よ」

 

「そうかい」

 

 そう言うと、ニエは歩いていく。

 

「どこに行くんだ?」

 

「蝙蝠を厚遇するのもあれだろう? この戦いが終わるまで、素直に捕虜になっておくよ」

 

 俺の質問にサラリと答えながら、ニエは振り向いた。

 

 そこには、憑き物が落ちた者特有の、晴れやかな表情が浮かんでいた。

 

「またね、リセス」

 

「……ええ、またね、ニエ」

 

 それに微笑を浮かべながら、姐さんは手を振った。

 

 そしてニエが天使達に連行されるのを見届けてから、姐さんはため息をついた。

 

「半分ぐらい、愛想つかされたわね」

 

「うん。完全にビッチだもん」

 

 そう言いながら、プリスもまた立ち上がる。

 

 こっちも憑き物が落ちた表情を浮かべてから、そして天使達に両手を出す。

 

 まあ、二人は完全にヴィクターの一員として大暴れしてたからな。拘束するしかねえか。

 

「じゃあね、リセスちゃん。……またね」

 

「ええ、またね」

 

 こっちも同じく挨拶を交わして、プリスもまた連行されていった。

 

 まあ、ヴィクターの一員だから確実に捕虜になるんだろうが、それはそれでいいだろう。

 

 だって、姐さん達はこう言ったんだ。

 

 またねって。

 

 ああ、また会えるだろ、きっと。

 

「お姉様、お姉様」

 

 と、俺がほっこりしてると、ペトが頬を膨らませながら姐さんにすり寄った。

 

「あら、どうしたのかしら? 妬いてるの?」

 

「もちろんっす! お姉様、まさか幼馴染三人で……」

 

「それは無理よ」

 

 俺もちょっと想像したその関係を、姐さんはあり得ないと否定した。

 

 そして、苦笑を浮かべるとペトを抱き寄せる。

 

「だって、私にはペトとヒロイがいるもの。三人で強者(アイドル)を目指していた頃より、2人の自慢(英雄)でいることが大事になったんだもの」

 

 そう言うと、姐さんは俺迄引き寄せた。

 

 そして俺達を胸元に抱き寄せると、ぎゅっと抱きしめる。

 

 ……そっか。

 

 姐さんは、もう過去を乗り越えたのか。

 

 ちょっとは苦痛に感じるだろう。時々思い出しては、悔やむだろう。

 

 だけど、それ以上に前を進んでくれる。時々振り返りながら、隣に並ぼうとする俺や付いてくるペトの前を行く。それだけはやめないでくれるだろう。

 

 それが、俺達の輝きにして自慢。ヒロイ・カッシウスとペト・レスィーヴの英雄。リセス・イドアルなんだからな。

 

「大好きよ、二人とも」

 

 そこに映る姐さんの笑みは、心の底から曇りなかった。

 

 ああ、俺達も大好きだぜ、姐さん。

 




この後、ヒロイはぶっ倒れて緊急搬送です。アジ・ダハーカを相手に無茶をしすぎました(笑)


で、次からはデュランダル編です。

本格的に続編の構想ができてきた関係で、原作の時より荒れた展開になります。ご了承ください。


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第六章 63 悪魔祓いの不満

基本的にD×Dアンチ・ヘイト作品は毛嫌いしているので、よほど気にならない限り関与しないし、関与するにしても感想欄を見て雰囲気を確認して即座に切るのが大半なのが自分です。


中にはイッセーたち側の視点で見れば明らかに「即刻首をはねて教会に「寝言は寝て言え」」とかつけてもおかしくない三巻のゼノヴィア達の要求に関して「当たり前である」などと妄言をほざくどうしようのない輩もいて、ホントにD×Dのアンチ・ヘイトに関しては「好みじゃないから馬鹿にしていいとほざく馬鹿」という印象を抱いています。

中にはこんな意見もありました。D×D24間の内容で悪い意味の衝撃を受けた。悪魔祓いの言い分は正しいのに完全スルーするとはどういうことだ……的な意見です。

ぶっちゃけ短編集である13巻でどこの勢力も和平である程度抑制されているのに、なぜ悪魔祓いだけさも正論をほざいている風に見えるのかと疑問に思ったこともありました。……が、描写の足りなさからそういう風にとれる側面があるのもまた事実。

……そういうところを自分なりに参考にした結果、少々デュランダル編は変化球になります。この問題、第二部にも尾を引く展開にもなる予定です。



 

 幸い、俺は何とか大晦日が過ぎた頃に回復。後遺症もなく復活した。

 

 復活したけど、クリスマスを大暴れできなかったのは冷静になると残念だな。

 

 ま、これもあの糞我儘蜥蜴を撃退する為に必要な経費と割り切るか。それより鈍った体を治さねえといけねえな。

 

 つーわけで、俺は今、初詣に行ってる皆と別れてランニング中。

 

 それもただのランニングじゃねえ。体内電流の操作で感覚を強化しながらのランニングだ。

 

 既にマラソンランナーを超える速さでランニングさせてもらっている。これぐらいはできねえとリハビリにならねえからな。

 

 なにせ三下のヤコブですら中々の敵だった。あれが何人もいる可能性を考慮すると、それなりに強くならないといけないのにリハビリ必須とかあれだな。

 

 ちなみにアステカの活動について、アステカ神話は「誠に遺憾である」「一部の下位の者の暴走」と断言している。その件について査察団を送り込んでもいいと言い切った。

 

 本当かどうかはともかく、少なくとも主流派はヴィクターと手を組んで迄こっちに仕掛けてくる気はないようだ。まあ、アースガルズとオリュンポスは完全に和平派だしな。各神話宗教でも強者側の神話二つがこっちについている以上、仕掛けたくても仕掛けられないといったところか。

 

 兎にも角にも、敵が動く前に感覚を取り戻さねえと。あの蜥蜴野郎、カウンターで呪詛とか掛けた所為で回復が遅れちまった。

 

 今度やり合う時は確実に封印してやる。そんでもってどっかのブラックホールにでもロケットとか利用して放り込んでやる。覚悟しやがれ。

 

 ま、その為には今はリハビリリハビリ。前線に早く戻れるように鈍った感覚を取り戻さねえとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんでもってランニングを終えて、俺は軽食タイム。

 

 胃の悪影響を押さえる為に、朝食はトースト半分と野菜ジュースだったからな。その分回数でカバーしねえと。

 

 さて、それじゃあ今度はうどんでも食うか。

 

 チェーン店でうどんを注文して、俺はそのまま水をゆっくり飲む。

 

 時間が時間だから、だいぶ空いてるな。席も殆ど埋まってねえ。

 

 何ていうか、店舗を支配してるようでちょっと愉悦。

 

 と、思ってたら新たなお客が入ってきた。そんでもって、俺の隣に座ってきた。

 

 おいおい。こういう時は距離を取ってくれや……。

 

「頭の痛くなる奇跡、ヒロイ・カッシウスね」

 

 ……チッ。

 

 ヴィクターの工作員か誰かか? 現政権側なら一言連絡があってもいいはずだが。

 

「此処で暴れる気か? 言っとくが、呼びかけられて隙をさらすほど雑魚じゃねえぞ?」

 

「安心して。私はプルガトリオ機関の者よ」

 

 その言葉に、俺は警戒心を少しだけ解いた。

 

 プルガトリオ機関。それは、教会に存在する暗部の一つだ。

 

 表向きに教会に所属させるには不都合な連中を集めて、信仰の敵と戦わせる暗部組織。その来歴上、教会でも微妙に煙たがられている組織だが、魔剣創造などのシステムのバグを懸念された神器保有者もいるから成果を上げていて取り潰せない奴だ。聖剣計画よりかは遥かにホワイトなんでな。

 

 因みに、俺もそっちに配属される可能性があった。信仰心が緩いのはプルガトリオ機関の方向性として逆にあれってことで立ち消えたが。確かアーシアもスカウト予定だったけど、上が煙たがって情報が行き届かずに間に合わなかったとか聞いたな。

 

 基本的に信仰心が強い連中が多くて、ヴィクターのネタ晴らしの後も離反者はゼロだったはずだ

 

 因みにプルガトリオってのは煉獄って意味だ。その立ち位置上、天国に行けない連中や覚悟完了してる連中が殆どだからな。そういう名前がついている辺り、結構あれな組織ではある。

 

 で、そんなのがどうしてここに?

 

「一つ聞きたいことがあるの。ちょっといいかしら」

 

「……なんすか?」

 

 俺が促すと、その姉ちゃんは少しだけ考えこんで―

 

「今の天界に、あんたはついていける?」

 

 ……あー。なるほどな。

 

「ま、ここ最近急激に和平結びまくってますからねぇ。ちょっとイラついちゃったと?」

 

「まあ、そういうことね」

 

 なるほどなぁ。

 

 確かに、千年以上続いていた冷戦が、一年足らずで一気に解決するわけだからな。

 

 ちょっとついていけない連中が大量発生しても、おかしくねえだろ。

 

 それが、本来排他的な聖書の教えの、そのまた他を敵視しやすい悪魔祓いからしたらイラつきも溜まるか。

 

「別に悪魔と和解するのは良いのよ。良い悪魔がいるのは同僚で知ってるし」

 

 と、プルガトリオ機関の姉ちゃんは言う。

 

 いや、ちょっと待て。なんで悪魔に良い奴がいる事を同僚で知ってる?

 

 いるのか? 同僚に悪魔がいるのか? そんな馬鹿な。

 

 俺が目を見張っていると、その姉ちゃんは静かに苛立ちを浮かべる。

 

「……だけど、それは悪魔が私達に頭を垂れてはじめて成立されるもの。はっきり言って、今の天界の冥界に対する対応は甘いわ」

 

 そう言いながら、その姉ちゃんは自分が頼んだ注文の品をがつがつと食べる。

 

 俺も届いたうどんを食べながら、色んな意味でかみ砕く。

 

 まあ、ホントにすげえ勢いで和平結んでるからな。それまで冷戦状態だったところがだぜ?

 

 そりゃ不満も溜まるとは思う。俺の知ってる悪魔祓いの大半は、特に異端者や悪魔や吸血鬼とかが大嫌いな連中が殆どだったからな。

 

 流石に急すぎるって言われたら、そりゃそうだ。

 

「……私はきついわ。はっきり言って、ついていけなくなってるのよ」

 

「ああ~……」

 

 確かにこれは、ちょっと普通の連中にはキツイかねぇ。

 

 言っちゃなんだが、聖書の教えを信仰している連中にとっちゃ、変化が急激すぎるか。

 

 ……で

 

「それで? 言っとくがリアス・グレモリーは俺のダチみたいなもんだ。危害を加えるってなら、黙っちゃいられねえが?」

 

 つっても、それで実際にクーデターでも起こすってなら話は別だ。

 

 流石にそれを見逃すわけにはいかねえよ。断じてそれは見逃せねえ。

 

 俺が鋭く睨んで見せると、その姉ちゃんは苦笑を浮かべる。

 

 なんだ? いったい何を考えている?

 

「おい、答えろや」

 

「安心しなさい。ちょうどいい機会は総理大臣が用意してくださったから」

 

 総理が?

 

 俺の脳裏に、あの豪快な総理の顔が浮かぶ。

 

 そういや、教会の不満のガス抜きとしての天界見学とかがあったのは見たな。あれも総理の提案だったはずだ。

 

 今度は何を考えてやがる?

 

「まあ、その時にまた会いましょう」

 

 そういうと、その姉ちゃんは立ち上がって店を出て行った。

 

 ちなみに食券制なので、そこは問題ない。信徒が食い逃げとか大恥ものだろうしな。大丈夫だろ。

 

 しっかし、あの総理が信徒絡みで何を考えてるんだ?

 

 俺は、あのロキ絡みでの一件を思い出す。

 

 総理、日本の平和ボケを何とかしないとまずいとか考えたのは立派だ。そしてその立派な志の元、総理大臣官邸に敵を引き込むという、ものすげえ荒業やってのけたな。そして大成功。

 

 ……嫌な予感がする。

 

 俺は、マジで何か大事になりそうな予感がしたので、ちょっとリハビリをしっかり素早く終わらせる事を改めて決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして後日、それは見事に的中する事となるわけだ。

 




E×Eのプルガトリオ機関をこっちでも本格採用。共有しても問題ない設定は積極的に利用するスタイル。


実際教会の暗部って色々手段選ばないですからね。その辺かんがえると悪魔のことそんなに悪く言えないと思うんだ、自分


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第六章 64

そんなこんなで本格的にデュランダル編突入です。

撒いていけるところは撒いていきますぜ?


 

 さて、驚きの情報を公開しよう。それも三つ。

 

 一つ。オカルト研究部の部長及び副部長の引継ぎ。

 

 まあ、これに関しちゃ三学期だし当然っちゃぁ当然だ。

 

 で、その部長と副部長。意外な人選と納得な人選がお嬢によってなされた。

 

 部長はアーシア。副部長は木場だ。

 

 まさかアーシアとは思わなかった。お嬢曰く、「今までにないオカ研にしてくれると思った」からなんだがな。

 

 ま、部活の部長ぐらいならこれぐらいの茶目っ気は赦されるだろ。別に本格的に発表会して賞を取ったりとかするわけじゃねえ、半分お遊びの部活なんだからよ。

 

 そして木場はそういうのに向いてそうだからな、これはいい感じだろ。

 

 ちなみに副部長である朱乃さんが兼任していたお茶係は、レイヴェルになった。

 

 ……一応フェニックス家本家のお嬢様なんだが、いいんだろうか?

 

「かまいませんわ。部活動ぐらいでとやかく言うような両親は持っておりませんし、何より楽しいですもの」

 

 レイヴェルや。なんで俺の心を読む。

 

 まあそれは良い。で、二つ目だ。

 

 こっちはもっと驚くだろう。

 

 次期生徒会長にゼノヴィアが立候補した。これは驚き以外の何物でもねえ。

 

 ……心配だ。アイツ基本天然だから、現生徒会長のソーナ会長のような執政は期待できねえ。何かやらかす、絶対やらかす。

 

 心配だぁ。

 

 そんな俺の心配の感情がこもった視線も気にせず、ゼノヴィアは部室で選挙を狙っての準備をしている。

 

「うん。やっぱりこれは「アンドレ!」とか言った方がいいんじゃないか?」

 

「そうねー。ゼノヴィアっちなら確かにそういうの言ってもネタで流されるだろうし、「ふざけんな!」ってツッコミが出てくることはないわね」

 

 と、大ボケをかますゼノヴィアに燃料を透過する桐生をみて、俺はため息をついた。

 

 そう、桐生だ。

 

 三番目。桐生がいつの間にかゼノヴィアのお得意様になっていた。

 

 何でも12月にたまたま悪魔召喚をしたらしい。俺が寝込んでいるころには、とっくの昔にお得意様になってたって話だ。

 

 聞いてねえよ。桐生も一言言えよ。

 

 まあ、これも日常そのものは平和な証かねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そんな平和にひびが入ったのは、その日の夜だ。

 

「集まってくれて助かった。で、今日はちょっと微妙な知らせがある」

 

 と、アザゼル先生が俺たちを呼び出して緊急連絡だ。

 

 ……やっぱあれか。俺に接触してきた姉ちゃんか。

 

「で、総理は一体何したんすか?」

 

 俺が頭抱えながら聞いてみると、その肩に手が置かれた。

 

 ああ、同情してくれてありがとよ。

 

 そんな感謝の視線を向けてみれば―

 

「悪かったな兄ちゃん。まだあの時は未定でよ」

 

 などといってからからと笑う、総理大臣がいた。

 

 い、いつの間に入ってきやがった!?

 

 みれば全員結構本気で驚いてる。イッセーなんぞ驚きのあまり椅子から落ちた。

 

 このオッサン、神出鬼没過ぎる。フットワークが軽いとかいうレベルじゃねえぞ!!

 

「相変わらず凄腕だな。神器込みなら人間でも最強クラスなんじゃねえか?」

 

「まあな。たまたま仕事が開いたんで、詫びもかねて直接説明しようと思ってよ」

 

 と、アザゼル先生と和やかに会話してんじゃねえよ。

 

「そ、そそそ総理? で、なんなんですか、その説明って」

 

 イッセーが気を取り直して尋ねると、総理はすぐに気が付いて振り返った。

 

 で、軽く一枚の資料を配ってくれた。

 

 なになに……?

 

 自衛隊と悪魔祓いによる合同軍事演習。

 

「あの、総理大臣? これはどういうことですか?」

 

 お嬢が半ばぽかんとして聞いてくる。

 

 悪魔祓いと、自衛隊が、軍事演習か。

 

 ま、これそのものは驚くほどじゃねえかもしれねえな。

 

「なるほど。確かに表の軍隊と裏の戦闘組織の連携は必要ですね」

 

 ソーナ会長がそう納得する。

 

 だよな。

 

 今後は表と裏が協調するのはほぼ確実なんだ。なにせ、もう重要な部分は公開されてるんだから、連携を取って活動するってのもありだろ。

 

 こと自衛隊は異能関係を積極的に取り込んでいる組織だ。そのレベルは、ある意味でヴィクターの構成国家の軍隊を超えているといってもいい。

 

 つっても、それになんで俺らが集まって会話するほどのことが?

 

「それについて何だが、日本政府から直々にグレモリー眷属とシトリー眷属に依頼したいことがあってよ」

 

 ん? 何ですかい総理。

 

 いや、それになんで俺やイリナが? っていうか、デュリオまでいるのはマジでなんで?

 

「はいはーい。総理さん、それって俺たちも聞いてていいんすか?」

 

 ほら、デュリオも疑問に思ったのか聞いてきたし。

 

 で、それを受けて総理はうなづいた。

 

「ああ、それについても説明するが、その前に言うことがある」

 

 なんですかい?

 

「……悪魔祓いを中心とした一部の信徒は、ストレスが限界に達してるってわかってるか?」

 

 ……っ。

 

 確かに。

 

 俺に態々接触する連中まで出てるしな。いろいろと迷走というか、暴走寸前になってるのはなんとなくわかる。

 

 俺たちがちょっと背筋を伸ばしたのがわかったのか、アザゼル先生も頷いた。

 

「これまで千年以上にらみ合ってきた三大勢力。その和平ってだけで青天の霹靂だってのに、さらに他の神話や吸血鬼に妖怪と、敵対して当然の連中ともすぐさま和平。……そもそも前提である聖書の神まで死んでるってこともあり、信徒の連中はいい加減ついていけなくなってるってわけだ」

 

 たしかになぁ。

 

「ま、やらなきゃまずいってわけでもあったんだが、その辺のフォローが足りてねえのはいただけねえ。俺も嫌な予感がしたんでセラフのお偉いさんにアドバイスしてたんだが、ちょっと遅すぎたみてぇでな」

 

 総理もそう言って肩をすくめる。

 

 んでもって、アザゼル先生にも半目を向ける。

 

「俗物や凡人にゃ、その辺の急展開はついていけねえってわけだよ。賢者の歯車だけで動かそうとするから、こういうところで軋みが出るってわかってるかい?」

 

「耳が痛いな。まぁ、俺らの場合は上と下で極端に分かれてるってのが一番ひどい理由なんだがよ」

 

 確かに、結構綺麗に問題児と優等生が分かれてるよな。

 

 そういう意味じゃ、悪魔祓いのような普通レベルが少ない気はする。ちょっと対処が遅れるのも無理はねえか?

 

「確かにな。……悪魔祓いの大半は、かつて家族や友を悪魔や吸血鬼に殺されたものだ」

 

 ゼノヴィアは、それに理解があるのか少し頷いた。

 

 イリナもまた、ちょっと納得したのかしょぼんとしてる。

 

「自分の仕事や望み。……生きがいを奪われたにも等しいのかもしれないわね」

 

 ああ。そう言われるとマジで納得する。

 

 英雄目指している身としては、それを完全に妨害されたらかなり腹が立つだろうしな。

 

 今の悪魔祓いの連中は、まさにそういうわけだ。

 

 こんなもん「それが正しいからそうしなさい」で終わられても納得できねえよな。そりゃそうだ。

 

 俺らが少し納得の表情になったところを見計らって、総理は再び合同軍事演習の資料を持つ。

 

「そこでだ。ガス抜きもかねてこの軍事演習をすることになった。かなり纏めてるからよく見てみな」

 

 そう言われて、俺たちは軍事演習の資料を見る。

 

 システムはどっちかというと模擬戦だな。それも、レーティングゲームのシステムまで使ったものだ。

 

 確かにレーティングゲームのシステムを使えば、マジバトルに限りなく近い模擬戦ができる。死者が出てくる確率も大幅に抑えられるしな。

 

 で、これを俺らに見せるってことは―

 

「単刀直入に言う。この模擬戦にあんたらも参加してほしい。御使いの連中にゃぁセラフから連絡が来るだろうが、俺から先に伝えとこうと思ってな」

 

 総理の言葉に、少し戦慄が走る。

 

「そう言うことですか」

 

 会長が、全てを理解したのか息を吐いた。

 

「……軍事演習はあくまで数の差を補うための名目。本来の目的は、全ての始まりであるコカビエル襲撃に関与している私達を悪魔祓い《彼等》にぶつけることで、一気にガスを抜くことですか」

 

「ああ。さすがにこれ以上は爆発しそうなんでな、ならいっそのことこっちで爆発のタイミングを誘導させるってのが狙いだ」

 

 総理、ホント凄いこと考えるな。

 

 つまりあれか。悪魔祓いの数は圧倒的に多いから、自衛隊員でその数の差を埋めるのがこの軍事演習か。

 

 で、その真の目的は軍事演習にかこつけて俺らを悪魔祓いにぶつけさせること。

 

 確かに、俺らがコカビエルと戦ったのが和平成立のきっかけだ。不満がたまってる悪魔祓いからしてみりゃ、思うところはあるんだろう。

 

 なんか、体のいい当て馬されてるようでちょっと気に食わねえが……。ま、確かにガス抜きの相手としちゃぴったりか。

 

「……理解はしてくれたみてえだな。なら、話をつづけるぜ?」

 

 と、総理がさらに話を進めてくる。

 

 こりゃ、ちょっとばかし楽しいイベントですますわけにはいかねえようだな、オイ。




大尽総理がうごき、悪魔祓いのクーデターは未然に回避。

まあ、これに関しては三大勢力の不手際もありますからね。三大勢力の運動会に悪魔祓いを参加させなかったのは不手際でしょう。……して必ずどうにかなるかとまでは言いませんが。








実をいうと個人的にはヴァルキリー編移行の四章そのものがD×Dでは少し苦手だったり。

なんていうか、D×Dのノリじゃないっていう気がするんですよ。無理に冥界の問題とカを盛り込んでる気がして、なんていうかD×Dのテンションじゃないっていうか。


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第六章 65

そう言うわけで、今回は大尽総理が一枚かんで動きます。


 

 ことの発端は総理大臣が仕事で枢機卿と会談した時のことだ。

 

 司祭枢機卿、すなわち現法王閣下のすぐ下に位置する教会の超お偉いさんと話したとき、沢入はすぐに気づいたという。

 

 ああ、この子我慢の限界だと。

 

「テオドロ・ログレンティってガキが出てきたときにゃぁちょっとたまげたが、なんでも奇跡の子らしいからな。そういうこともあるってとりあえずは納得した」

 

 奇跡の子。それは、俺たち教会の悪魔祓いなら当然知ってるようなこった。

 

 つまりは、天使と人間のハーフ。

 

 これが意外と難しい。

 

 ガキ作るのは簡単だ。天使と人間でエロいことして、妊娠すりゃそれで決まる。が、それをするのが大変だ。

 

 天使は劣情を感じたらすぐに堕天する。最近になってイリナ用に悪魔とエロいことするための技術が完成したが、それだってつい最近の話。今までは人間相手でも愛情オンリーノットエロスでいかねえと、すぐに堕天使になっちまうというハードモードだ。

 

 イッセーなら絶対無理だな。俺でも絶対無理だ。姐さんやペトとか、もはや奇跡のバーゲンセールでも起きなきゃ不可能だろ。

 

 で、そんな奇跡をなしとげた人間と天使なら歴史に名を残しかねえ。そんな奇跡だ。

 

 そして、そんな奇跡を起こしたテオドロ猊下のご両親は、悪魔に殺された。

 

 ……猊下は司教枢機卿なだけあり、総理から見ても聡明な子供だと思われたそうだ。

 

 だが、同時にまだ子供だとも思われた。

 

「いやだけど我慢してますってのが見え見えだったぜ。ありゃ、煽るのが得意な奴に突っつかれれば確実に爆発するって思ったね」

 

 総理の言葉に、俺たちはリゼヴィムを思い浮かべる。

 

 確かに、奴なら確実に煽って火事を起せる案件だろうな。

 

「今は、我慢しないといけないと思うんですけどねぇ」

 

「そりゃそれが一番だが、みんながみんなそんな立派なことはできねえよ」

 

 デュリオの漏らした言葉に、総理はピシャリと告げる。

 

「ご立派な連中にゃぁ逆に難しいんだろうが。我慢ってのは結構大変なんだぜ? みんながみんなできるなら、立派でもなんでもねえから褒められやしねえことだしよ」

 

 確かになぁ。総理の言う通りだ。

 

 褒められることってのは、それが当たり前じゃないからこそだよな。すごいことしてるから賞賛されるもんだよな。

 

 そりゃ、それができるのが当然って風潮はダメだな。誰かがフォロー入れてやらねえと。

 

「それもそうね。確かに必要なことだったわ」

 

 と、姐さんは納得したのかうんうんとうなづく。

 

「人間、誰かがサポートしてあげなきゃいけないときは結構あるもの。それがあるだけでもだいぶ変わるわ」

 

「そう言うこった。我慢するだけじゃなくてすこしは発散しねえと、普通の奴はつぶれたり暴走するもんだしよ」

 

 総理も満足げにそういう。

 

 お嬢たちは微妙に困り顔だったが、然し確かに必要だと納得したらしい。全員不満は見せていない。

 

 ま、これもヴィクターに立ち向かうための必要な労働ってこった。やりたいことがあるなら、それをするために必要なことはしねえとな。

 

「まあいいわ。クリフォトがつついてきそうな案件を前もって解消するのもD×Dの仕事でしょう」

 

 お嬢がそうまとめて、俺たちは参加が決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、俺たちはフィールドの下見を行っていた。

 

 今回は市街戦を考慮して、都市部の構造を模倣して作られたフィールドだ。

 

 しかし重要拠点というわけでもないから、かなり大暴れしても問題ないとか。

 

 そして今回の件、費用は裏の目的もあり三大勢力がふんだんに使用している。

 

「この戦線。大火力で薙ぎ払うことができる私たちの方が有利……ではないわね」

 

 と、お嬢はそう判断した。

 

 一見すると火力で優れているこっちが、辺り一帯を丸ごと吹っ飛ばして圧殺できるんだがそうもいかねえ。

 

「そうですね。今回の演習は悪魔祓いのガス抜きですし、悪魔祓いの方々が鬱憤を晴らせなければ意味がありませんわ」

 

「……正面戦闘必須ですね」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんもそれは理解してるようだ。

 

 実際そうなんだよな。今回の演習は、たまりにたまった悪魔祓いたちのガスを抜いて爆発を阻止するのが目的なんだ。鬱憤がたまる形で終わらせたら意味がない。

 

 できる限り相手を暴れさせた上で、決着をつける必要がある。そういう観点からすると、イッセーやお嬢の大火力でフィールドごと吹っ飛ばすだなんて手は使えねえはずだ。

 

 となると、今回はむしろシトリー眷属の方がタクティクスがうまい分動けるかね。

 

 ま、悪魔祓いなら悪魔にこそ鬱憤がたまってるだろ。今回俺と姐さんはサポートが中心か?

 

 いや、俺と姐さんがコカビエルをボコったことも会談設立のポイントだからな。やっぱ俺たちも頑張らねえと、鬱憤がたまったままになるかねぇ。

 

「そう言えば、演習でやり合う相手で有名どころはどれぐらいいるのかねぇ」

 

 俺はふと思い至って、ぽつりとつぶやいた。

 

 教会の悪魔祓いの中でも優秀なのは、結構な数が転生天使の方に行ってるからな。そこら辺考えると、悪魔祓いそのものは質が低下してるか?

 

 いやいや。それでも結構な連中が残ってる可能性もあるし、さすがに楽観視はできねえだろうが……。

 

「そうだね。筆頭格が二人ほどいるよ」

 

 と、木場が資料をめくりながらため息をついた。

 

 なんだ? そんなに大物が?

 

「……司祭枢機卿であるヴァスコ・ストラーダと、司教枢機卿であるエヴァルド・クリスタリディ猊下だね」

 

 ……マジか。

 

 俺は心底驚いた。

 

 ストラーダ猊下はこういうの参加しねえと思ったんだがな。気に食わないところはあるが、人格そのものが枢機卿にふさわしいのはわかってたんだが。

 

 あの爺さんが、このガス抜き目的の演習に参加かよ。マジで驚いた。

 

「そんなにすごいのか、そのストラーダって人とクリスタリディって人は?」

 

 事情に詳しくないイッセーが首をかしげるが、お前はもうちょっとこっちの業界の知識を入れた方がいいと思う。

 

「すごいも何も、ストラーダ猊下は私の前のデュランダル使いだ。クリスタリディ猊下も合一前のエクスカリバーを三本も使っていた古強者だぞ」

 

 と、ゼノヴィアに言われてイッセーは目を見開いた。

 

 ああ。あの二人はマジでシャレにならねえからな。

 

 どっちも戦士育成機関じゃ生きる伝説だ。っていうか、冷静に考えてこの二人が転生天使になってねえことの方が驚きってもんだ。

 

「それだけの人物が、転生天使に選ばれてないってのも不思議ね」

 

「ああ、スカウトされたんだけどお断りになられたのよ。「人間のまま死にたい」っておっしゃられてたそうだわ」

 

 姐さんの疑問にイリナがそう答える。

 

 まじか。信徒的には最高クラスの名誉をあえて断るとか、ある意味生粋の信者だな、オイ。

 

 俺みたいな破戒信徒にはとても真似できねえ。断るのは同じだが、俺の場合は速攻で堕天使になるから不名誉極まりねえって理由だしな。

 

 しっかし、あのお二人さんが……ねぇ。

 

「歴代エクスカリバー使い及びデュランダル使いの中でも、最強クラスのあのお二人さんが参加かよ。……剣がないだけマシって感じかねぇ」

 

 俺は心底うっへぇって気分になった。

 

 相手の全力を出し切らせなけりゃならねえって縛りがあるとはいえ、負ける気はなかったぜ、マジで。

 

 だけど、あのお二人さんが参加するってなら話は別だ。

 

 一人一人が最上級悪魔すら滅したほどの化け物。冗談抜きで悪魔祓いがらみで言うなら最強戦力じゃねえか。

 

 やべえ、マジやべぇ。これ敗けるかもしれねえな、オイ。

 

 っていうかあれだ。……これ、死人出るんじゃねえか?

 




 俗物の親玉を自称するだけあり、大尽総理は平均的な人間の限界はリアスたちよりわかっています。

 現場で一生懸命頑張っていたのにいきなり掌返されたら、すぐになじむのも大変でしょう。本来ならもっとゆっくり動くべきなんでしょうが、上がリベラルすぎてすぐに意見が一致したうえ、原作でも禍の団に対抗することもあって早く動かざるを得ないところがありましたからね。ガス抜きを悪魔祓いに対しても行っていたらまだましだったんでしょうが……。


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第六章 66 我ながらガキくせぇ……byヒロイ

そんなこんなで演習準備中。

つっても下見をするのはD×Dだけではないわけで……。



 

 何て心配に思いながらも、とりあえず下見は終了した。

 

「とりあえず、演習開始後に真っ先に悪魔祓いが向かいそうなポイントは二つほど絞り込めたわね」

 

 と、お嬢がまとめて立ち上がったその時だ。

 

「……ほほう。貴殿らはD×Dの者たちか」

 

 その声に、俺は過剰に反応してしまった。

 

 とっさに聖槍すら出して振り向いて、さすがに失敗した。

 

 そのせいで、声を放った人の周りにいる悪魔祓いたちに警戒心を植え付けちまったな、こりゃ。

 

「……貴様、猊下に無礼な」

 

「聖槍使いの面汚しらしい反応だな」

 

「あれが、頭の痛くなる奇跡か」

 

 やべえ。取り巻きの悪魔祓いたちがマジギレだよ。

 

 これ、演習前に一戦することになるんじゃねえか?

 

 俺が不安になっている間に、その件の爺さんが両手を上げて、その悪魔祓いたちを押さえてくれた。

 

「よい。この者にはいい感情を抱かれてないのでな」

 

 そうして悪魔祓いたちを諫めると、その爺さんはお嬢に微笑を向けた。

 

「お初にお目にかかる、リアス・グレモリー嬢。私は司祭枢機卿のヴァスコ・ストラーダだ」

 

 その言葉に、かなりのメンツが目を見開いた。

 

 そりゃそうだ。下見の段階で出くわす可能性はあったが、まさかいきなり話題に出てきた超大物が出てくるだなんて思わねえよな。

 

 それにこの爺さん、ガタイが良すぎるからな。

 

 首から下だけ見て80越えのジジイだなんて言われても、誰も分からねえだろ。それ位には体が鍛えこまれてやがる。

 

 お嬢たちもそんな感じで、驚いていた。

 

「……あなたがヴァスコ・ストラーダ?」

 

「いかにも。私が、そこの戦士ゼノヴィアの前任のデュランダル使い、ヴァスコ・ストラーダだ」

 

 お嬢が思わずもう一度聞くのも無理はねえ。

 

 87のジジイが、プロレスラーも真っ青な体してるんだからな。腕なんてイッセーの胴に近い太さだしよ。

 

 でまあ、その爺さんが一体なんでこんなところに?

 

「……猊下、総理の入れ知恵ですかい?」

 

「その通りだとも、戦士ヒロイ。総理から「今行けばグレモリー眷属を直に見れる」と言われたのでね、こうして見に来たのだ」

 

 あのオッサン。マジ勘弁してくれよな、オイ。

 

 俺がため息をついていると、ストラーダ猊下の視線が俺に向けられる。

 

「戦士ヒロイ。……まだ英雄になりたいかね?」

 

 ストレートに聞いてきやがったな。

 

 まあ、真正面からダメ出しした身としちゃ、俺がまだ目指しているかどうかについては思うところがあるんだろうよ。

 

 そして、そんなもんは決まっている。

 

「笑わせないでくれ、猊下。……すでに俺はシシーリア・ディアラクやペト・レスィーヴ、そしてリセス・イドアルの輝き(英雄)だ。そして、その上を目指し続けているともさ」

 

 はっきり言ってやった。

 

 ああそうだ。俺は姐さんたちの輝き(英雄)だ。その事実になんのずれも存在しねえ。

 

 誰が何と言おうと、俺は彼女たちの英雄だ。

 

 まっすぐに見返してやると、ストラーダ猊下は少し苦笑した。

 

「……ふむ。道を曲げずに確かに形にした以上、周りがとやかく言ったところで意味はないか」

 

 そりゃどうも。

 

 ま、言いたいことはわかるがな。そうじゃないんだよ俺たちにとって英雄ってのは。

 

 ……あんたにとって俺が英雄じゃなかろうと、そんなもんは関係ない。

 

 リセス・イドアルは俺の心を照らした。俺はそんなリセス・イドアル達を照らすことができた。この時点で、俺は英雄にはなれている。

 

 それで話は終わってる。あんたと俺とでは英雄の定義が違う。

 

「がむしゃらにぶつかるんじゃなく、どうすればなれるか考え続けてきたからこそなれた英雄だ。あろうとするんじゃなくてなろうとしたからこその結果だ。……なろうとしたことのないあんたに文句は言わせねえ。これが、俺の英雄だ」

 

 心底心からはっきり言うと、俺はそのまま踵を返す。

 

 周りの悪魔祓いの睨みがそろそろ限界近いんでな。やばくなる前に逃げさせてもらう。

 

 これ以上俺からあの人に言うことはねえ。それでも俺を英雄と思わねえなら、もう勝手にしてろってんだ。俺も勝手にする。

 

 ガキ臭いのはわかっちゃいるが、それでもこれは、譲れねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ひ、ヒロイの奴なんか怒ってなかったか?

 

 俺が戸惑っていると、ストラーダ猊下の近くにいた悪魔祓いが歯ぎしりをした。

 

 奥歯をかみしめて、ヒロイが去っていったほうを睨み付けている。

 

「あんな男に、並行世界のとはいえ聖槍が宿るなどと……っ」

 

「同感だ。リムヴァン・フェニックスめ! ふざけたことをしてくれる」

 

「猊下に対して無礼千万、演習の時は遠慮はせんぞ」

 

 うっわぁ、すっげえいら立ってる。

 

 しかもその勢いで、俺たちにまで敵意が向けられてる気がするんだけど。

 

 いや、元から敵意満々な視線を向けてたけどさ。さっきよりもなんていうか、鋭くなってないか?

 

「落ち着くのだ、戦士たちよ」

 

 と、そこでストラーダ猊下が右手を上げてなだめる。

 

 こ、このおじいさんは、特に俺たちに敵意は向けてないから安心できそうだ。話が分かる人なのかな?

 

「……彼はまだ、その道を進むということか」

 

 ん? この人もこの人で、ヒロイに対して思うところがあるんだろうか。

 

 と、爺さんは息を吐いて気持ちを切り替えると、俺に視線を向けた。

 

「貴殿が赤龍帝ボーイか」

 

「あ、はい。兵藤一誠っす」

 

 なんだなんだ? 俺に興味津々?

 

 いや、マジで勘弁してほしい。ヴァーリとか野郎に熱視線をもらうのはやめてくれってんだ。ここに爺さん迄集まったら雄度がいろんな意味ですげえ。

 

 集まるのは女の子だけで結構です! きゃっきゃうふふな展開さえあれば、俺は文句とか言ったりしないから!!

 

「……冥界の英雄、おっぱいドラゴン。一つ聞きたいが、君は英雄を目指したことがあるかね?」

 

 と、猊下はそんなことを聞いてくる。

 

 ん? この人も英雄に対して一家言ある口か?

 

 ヒロイもリセスさんも曹操も、「英雄」にこだわりがある感じだよな。っていうか、そういうの本当に多いな。

 

 でも、ぶっちゃけ俺にはよくわからねえからなぁ。

 

「いや、俺はハーレム王目指してます!! あとは仲間たちとの平和な日常ぐらいです!!」

 

 とりあえず正直に答えてみるぜ! こういうのはうそつかないのが一番だよな!!

 

 後ろの悪魔祓いの人たちは半目であきれたり侮蔑の視線を向けてきたのが残念だ。

 

 やっぱりエロエロなのは、教義的にアウトですか? 煩悩だらけなのは清貧を尊ぶ教義的に駄目ですか! すいません!!

 

 でも、ストラーダ猊下は微笑むと俺の肩に手を置いた。

 

 ……一応警戒はしてたんだけど、

 

「それでいい。そうであったからこそ、君は英雄と呼ばれるようになったのだろう」

 

「そ、そうです……か?」

 

 なんかよくわからんけど、褒められたんだよな?

 

 ただ、いい加減修羅場を潜り抜けて自信がついてただけあって、こうも簡単に触れられるとちょっとショックだなぁ。

 

 そんでもって、猊下は悲しそうな視線をヒロイが去っていった方向に向ける。

 

「……いい経験になると思うのだが、それでもなお道を曲げないというのか」

 

 な、なんかヒロイに対して思うところがあるのか? ヒロイも結構猊下のことを意識してたっぽいけど……。

 

 英雄を目指すことうんぬん言ってたけど、なんかあるんだろうか。

 

「猊下、ヒロイと個別に認識があるのですか?」

 

 と、ゼノヴィアも同じ疑問を持ってたのか、おずおずと尋ねた。

 

 おお、ゼノヴィアのこんなところなかなか見ないぞ。珍しいな。

 

「うむ。以前に「英雄になるにはどうすればいいか」と聞かれたことがあってな。その時の目が印象に残っていたのだよ」

 

 そ、そうなのか。

 

 確かにヒロイ。本気で英雄を目指しているからな。

 

 この人、悪魔祓いの中じゃ英雄扱いされてるみたいだしな。参考意見でももらおうとか、思ってたのか?

 

 で、それが原因でなんで険悪な視線を向けられるように。

 

「私は、自分が英雄と褒めたたえられているのは自覚している。だが、自分が英雄などとは思っていない」

 

 あ、それはなんとなくわかるかも。

 

 俺も冥界の英雄とかいわれてるけど、別に英雄だなんて思ってないしな。なろうとしたわけじゃないし。

 

 夢をかなえるためにがむしゃらに突っ走ってたら、いつの間にか英雄扱いされてるんだよなぁ。

 

「……ゆえに私は彼らのために英雄であろうとしている。ただそれだけだ」

 

 なるほど。この人確かにかっこいいや。

 

 英雄って呼ばれてるのが何となく理解できる。それぐらい、信徒達にはかっこよく映ってるんだろうな。

 

「英雄とは、目指す者やなるものではなく誰かに認められるものだ。自ら英雄を名乗るなど愚かなことだと言ったのだが……」

 

「別にいいじゃない」

 

 気づかわし気なことを言う猊下に、リセスさんが口を開いた。

 

 気づけば、リセスさんもなんだが不機嫌な表情を浮かべている。

 

「ストラーダ猊下だったかしら? 誰かに認められて英雄になるのなら、それこそヒロイはすでに英雄だわ」

 

「ほう?」

 

 猊下からの視線をまっすぐに受け止めて、リセスさんは胸を張った。

 

 そこには、自分の宝物を誇る気持ちがあった。そして、宝物を馬鹿にされた人のイラつきがあった。

 

「彼は私やペトの英雄。そして、シシーリアの英雄よ。だから何の問題もなく英雄を名乗っていいはずだわ」

 

 そう言うと、リセスさんは得意げな笑みを浮かべる。

 

「それは、彼が英雄を目指し続けてきたからこその結果だと思うけれど?」

 

 リセスさん……。

 

「リセスって、ヒロイのこと大好きよね」

 

「それはもう。私の英雄ですから」

 

 リアスの微妙に茶化すような物言いに、リセスさんは動じることなくはっきりと言い切った。

 

 すげえ、胸すら張ってるよ。

 

「お、俺もリアスのこと大好きだから!! めちゃ大好きだから!!」

 

 なんか対抗心が芽生えたので、とりあえずそう言っとく。

 

 うん。俺もリアスのことが大好きだから!! めちゃ大好きだから! 心の底から愛してるから!!

 

 あ、リアスが顔真っ赤にした!!

 

「イッセー。そういうのはもうちょっと空気を読んで―」

 

 ごめんなさい! なんか対抗したくなって、つい我慢できなくなっちゃって!!

 

 でも、俺もリアスのことが大好きなんだ。リセスさんがヒロイのこと大好きなぐらいには大好きで、愛してるんだ。いや、それ以上だって言いたくなるぐらいなんだ。

 

 だから届けこの想い!!

 

 と、そこでゼノヴィアが少し怒った表情で立ち上がった。

 

 あ、ちょっと空気読まなさ過ぎたか?

 

 そういえば周りの悪魔祓いの表情も、俺見て険しくなってる気がする。信徒的に、枢機卿をないがしろにするのはあれか?

 

 マジごめんなさい!!

 

「リアス前部長!! 前部長ばかりずるいぞ!! 私もイッセーに愛していると言われたい!!」

 

「え? そっち?」

 

 木場が俺のツッコミを代弁してくれたよ。

 

 いや、ゼノヴィアちょっと待て。お前枢機卿を前に信仰心厚いのにそれはどうなんだ!?

 

 しかしゼノヴィアだけにとどまらないのがこの展開だった。

 

「はぅうう!! リアスお姉様ばっかりずるいです!」

 

「まったくだわリアスさん!! 信徒の前なんだから、ここは転生天使のなかでもミカエル様のAである私こそが言われるべきなのよ!!」

 

 アーシアとイリナまで参戦してきた!?

 

 いやいや、そこの教会トリオ!! 枢機卿の前だよ!? もうちょっと自重しよう!?

 

「あらあら。これは私たちも負けてられませんわ」

 

「こ、この状況下でも取り合いが発生するなんて……!」

 

「……いや、さすがに空気を読むべきかと」

 

 と、思い思いに朱乃さんやレイヴェルや小猫ちゃんも言ってくる。

 

 っていうか小猫ちゃん。目で俺に文句言ってるのがよくわかるんだけど?

 

 なんかグダグダな展開になってきたなこれ。悪魔祓いの人たち、怒ってないだろうか。

 

「はっはっは! なるほど、これもまた和平の成果ということか」

 

 あ、よかった。

 

 猊下は特に不満に思ってないみたいだ。本当によかった。

 

 でも、周りの悪魔祓いの人たちは、イリナにまで敵視の視線を向ける。

 

「悪魔に愛をささやくか」

 

「転生とは言え、天使ともあろうお方が……」

 

 ……やっぱり、根深い不信の感情がこもってるな。

 

 いきなりの和平についていけない人たち……か。

 

 俺は聖書の教えを信仰しているわけじゃない。っていうか、日本人らしい無宗教な感じだ。だから、そういうのはよくわかんねえ。

 

 だけど、やっぱり平和が一番だと思うんだけどなぁ。

 

 ……まあ、俺もリゼヴィム達と仲良くしなさいとか言われたらさすがにいやだけどさ。でも、リアスたちは別にリゼヴィムみたいな糞野郎じゃないんだしいいと思うんだけど。

 

 いや、上役たちは結構あれな人も多いからな。その辺もあるのか?

 

 なんて考えていると、猊下の視線がゼノヴィアにもう一度移った。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルはうまく扱えているかね?」

 

 やっぱり、ゼノヴィアはヒロイとは別の意味で気にかけてるな。

 

 やっぱり前任のデュランダル使いとしては、思うところがあるって感じか?

 

「……それは、演習でお見せしたいと思います」

 

「それでこそだ。デュランダルは言葉よりまず行動で示すべきだろう」

 

 ゼノヴィアの答えにうんうんとうなづきながら、猊下は手を放すと悪魔祓いたちを連れて去っていく。

 

「では、演習で相まみえるとしよう」

 

 ………。

 

 あれが、司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ猊下か。

 

 なんつーか、すげえ人だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




 ヒロイとしても大人げないのはわかっていますが、しかしどうしてもモヤッとするのもまた事実な感じですね。

 そしてそんなヒロイをみて、そんな奴に聖槍が宿っていることにイラつく悪魔祓い。微妙に悪循環です。


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第六章 67

今回はちょっと短め


 

 夜、俺は眠れなくて戦闘訓練をしていた。

 

 日夜トレーニングを繰り返して積み重ねることこそが戦いの基本。基礎トレこそ重要だ。

 

 一の実戦は百の訓練に勝るが、百の訓練あってこそ一の実戦を生き残ることができる。それだけの積み重ねがあるからこそ、壁を超えることができるからな。基礎重要。超重要。

 

 特に、こうしてイラついている時こそ基本に立ち返るのが重要って話だ。

 

 静かに型通りに槍を振るう。

 

 そして、イメージした相手の動きに合わせ、型を微妙にずらして振るう。

 

 教科書通りに体を動かせるようにするのが基本。そこから、状況に合わせた対応ができるようにするのが応用。それらを組み合わせて適切に動きを取ることができて一流だ。

 

 だが、その程度で乗り越えられるほどこの戦いは楽じゃない。

 

 立ちはだかるは、ヴァチカンのイーヴィルキラーこと、ヴァスコ・ストラーダ。

 

 俺の英雄をある意味で否定し、まったく別の英雄であるあの男。

 

 ……ガキっぽいのは分かっちゃいるが、どうしてもこればかりはイラついてしょうがない。

 

 百人英雄がいれば、百通りの英雄がいて当たり前。それは分かってるんだ。

 

 だが、あの俺の英雄を心から目指すあの時に、あの言葉はどうしても棘になった。

 

 どうしてもイラつくんだ。あの超一流の、トップクラスの英雄が。夜空に強く輝き瞬き煌く、一等星の英雄が。

 

 譲れない。負けられない。どうしても一撃入れて一瞬でもいいから越えてみたい。

 

 ああ、俺は二流どころか三流の英雄だ。認めてくれるものは少なめで、英雄になることに固執している。

 

 英雄というものを結果論で語るあの男に、俺みたいな英雄という称号と栄光を求めるものは滑稽に映るんだろう。英雄ごっこにしか見えず、子供っぽいとも思うんだろう。

 

 だがそれでも、英雄(栄光)をつかむべく英雄を目指したものだって、光り輝く輝き(英雄)になれるはずだ。

 

 だってそうだろ。英雄を目指したからこそ、姐さんは俺達の英雄になれたんだ。

 

 なら、俺だってなれる。

 

 ああなりたい。輝きたい。逃避であろうと、迷走であろうと、英雄であろうと目指して輝こうとする道は誰かを救って輝けるんだから。

 

 だから―

 

「―フッ!!」

 

 俺は槍王の型の構えを取ってから、息を整える。

 

 流石に反動がでかい槍王の型は、練習で出せるような代物じゃねえ。構えだけだ。

 

 ま、少しはスッキリしたな。

 

 明日の夜から演習は始まる。師団規模の人間がぶつかり合う、大規模な演習だ。

 

 陸上自衛隊の普通科を中心とした、ウツセミ部隊。ヴァチカンが誇り、今なお聖書の教えを信仰する、悪魔祓い達。その二つの人間の戦闘要員のぶつかり合い。

 

 そして、自衛隊員達はあくまで数をフォローするのが目的だ。本命はあくまで俺達なんだからな。

 

 この連続かつ急激な和平で一気に溜まった、悪魔祓い達を中心とする信徒達の鬱憤。それを全力で発散させるのが、このイベントの真の目的だ。

 

 そして、それに対して出てくる最強二大巨頭。

 

 助祭枢機卿、エヴァルド・クリスタリディ猊下。エクスカリバーの使い手としては歴代でも有数で、全てのエクスカリバーを使えるとまで言われた逸材。

 

 そして司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ。デュランダルの使い手としては、伝説に残るローランすら超えると言われる逸材。ヴァチカンのイーヴィルキラーやら真の悪魔やら言われる今だ衰えぬ老兵。

 

 ……ある意味で教会が誇る二人の英雄だ。英雄としては、どこまで届くか試してみたいところだな、うん。

 

 そうだ。俺は英雄を目指し、英雄になった。

 

 だからだろう。負けられないと思ってしまう。

 

 自分で言うのもなんだが、心の底からガキだって思う、心底くだらない理屈だ。

 

 否定した奴に肯定させてやりたい。

 

 ヴァスコ・ストラーダという英雄に、ヒロイ・カッシウスという英雄を見せつけたい。

 

 どうだこの野郎。俺は確かに輝き(英雄)になったんだぞこの野郎。ってな感じでな。

 

 ああ。我ながらガキだ。ガキ以外の何物でもねえ。

 

 なんか冷静になるとこっぱずかしいな。誰もいねえのに顔が赤くなっちまう。

 

 ……でも、それでも譲れねえ一線があるしな。

 

 どうしても納得いかねえところを受け容れる為の一線だ。こっちだって、溜まりに溜まった鬱憤を晴らしたって罰は当たらねえだろ。

 

 精々、お互いにストレス発散するとしようや。

 

 ああ、それ位はさせてもらう。

 

「あらあら。ヒロイは結構頑張ってるわね」

 

 と、その声に振り返れば姐さんがいた。

 

「姐さん!!」

 

「興奮して寝付けないってところかしら? ……ちょうどいいし、一緒に手合わせでもしない?」

 

 既にトレーニングウェアに着替えて準備万端の姐さんが、拳を構える。

 

 いいな。これすごくいい。マジでいい。

 

 俺の英雄とウォーミングアップしたうえで、教会の英雄に俺が至った英雄の姿を見せつける。……ちょっとテンション上がってくるな、オイ。

 

 ヤベ、これ朝まで寝付けねえかもしれねえ。

 

 俺がそう思った時、姐さんはそのままクスリと笑うと更に続けた。

 

「因みに、これが終わったら―」

 

 俺は姐さんの言葉に、更にテンションが上がった。

 

 いよっしゃぁ! 何かテンション上がりきったぜ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで朝学校で、俺は普段通りに休み時間で復習と予習を行う。

 

 何もそんなに難しいことはねえ。ノートに書いた事をさらりと見返して、教科書に書いてある事をさらりと見返す。これだけでも、ちょっとは変わるもんだ。

 

 まあそんなこんなで予習復習をしっかり行いながら、俺は夜のことを考える。

 

 ……今日は部活動は休んで、仮眠でもした方がいいな。明日は休みとは言え、確実に長丁場になるだろうしよ。っていうか朝までに終わんのか?

 

「あんた大丈夫、ヒロイ」

 

 と、そこに桐生が声をかけてくる。

 

 ん? なんだなんだ?

 

「俺今予習中なんだが」

 

「そんなことしてる暇があるのかって言ってるのよ」

 

 と、桐生は言ってくる。

 

 ……ゼノヴィアの奴、まさか言ったのか?

 

 俺は嫌な予感がして、小声で桐生に話しかける事にする。

 

「……どこまで知ってる?」

 

「なんかあるって気がしただけよ」

 

 そうだった。こいつは勘が鋭いというか洞察力があるというか……。

 

 まあいい。詳しい事を知らないってんなら、俺から詳しく話す道理はねえ。

 

「ちょっと色々あってな。深夜から朝まで忙しくなるってだけだ」

 

 流石に「夜から教会の悪魔祓いと喧嘩します」とは言いづらい。

 

「ふ~ん。ま、いいけど」

 

 意外と軽いな、オイ。

 

 俺がそんな感想を抱いていると、桐生は眼鏡の向こうで半目になる。

 

「今更私が何か言ってもどうにもなんないでしょ。ま、同じ学生としちゃ忙しくて大変ねぇって感じだけど」

 

 ……同じ学生としちゃ……か。

 

 そうだな。俺、学生だよな。

 

 元悪魔祓いで、今は三大勢力トップ直属のエージェントやってるようなもんだが、それでも駒王学園の学生だ。

 

 そっか。学生か。

 

「……ガキの頃は想像つかなかったぜ」

 

「学生やるって事が?」

 

 いや、もっと根本的なところ。

 

「学生って概念すら分かんなかったんだよ」

 

 俺がそう言うと、桐生が珍しく汗を流した。

 

 まあ、俺みたいな来歴だなんて日本じゃレアなんてもんじゃねえしな。多くてもアレだけどな。

 

 ああ、そういう意味じゃあ、俺の人生一気に恵まれたもんだ。心底レベルアップしてるって断言できる程度にゃ、恵まれている。

 

 金に困らず勉強に励むことができる。心底恵まれているな。

 

「日本の平均水準は世界的に見ても高いんもんだ」

 

「なんか、勉強頑張らない取って気になるわね」

 

 ああ、頑張っとけ頑張っとけ。

 

 色々恵まれてるんだから、それを台無しにしない程度に頑張れるならそれに越したことはねえよ。そっちの方が恵んでる側も喜ぶってもんだろうしな。

 

 それでもどうしようもねえことってもんがあったりするわけだが―

 

「荒事関係は俺に相談しな。相手に非があるなら、俺が殴り込みしてやるよ」

 

「頼もしいんだか恐ろしいんだか」

 

 桐生が微妙に頬を引きつらせて、そしてすぐにほほ笑んだ。

 

「ま、頼りにするから無事に帰ってきてよね」

 

 おうよ。任せとけ。

 




ストリートチルドレンだった身としては、自分が恵まれエル側だという自覚があるヒロイ。ちょっとこの辺でいろいろと考えることもあるのです。


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第六章 68

そしてついに模擬戦勃発。


 

 そして深夜。俺たちは演習場として用意された特別空間に転移。自衛隊と合流した。

 

 そして作戦会議を行うことになる。

 

「……悪魔祓いたちは一個大隊規模に分かれ、それぞれ進軍する用意をしているようだ」

 

 と、自衛官たちが説明してくれた。

 

 そして、今回後方で待機する予定のアザゼル先生が指を口元にあてて考え込む。

 

「……ストラーダとクリスタリディは何処だ?」

 

「ハッ! それぞれ両翼の大隊にいるようです」

 

 なんか、情報筒抜けすぎやしねえか?

 

 悪魔祓いの情報管理能力はどうなってんのか。というより、勝つ気あんのか?

 

 俺たちが疑問に思っていると、アザゼル先生は何かに納得したのかうんうんとうなづいた。

 

「大体は読めた。そういうことか」

 

「どういうこと?」

 

 お嬢が尋ねると、先生はフィールドに視線を向ける。

 

 その向こうに、悪魔祓いたちが戦闘準備を整えているということだな、うん。

 

「今回の演習は、悪魔祓いたちの不満をぶつけることが目的だ。だが、今回参加している連中が全員不満だらけってことでもねえんだろう」

 

 ふむふむ。

 

 俺たちが無言で先を促して、アザゼル先生は続ける。

 

「二人は目印だ。不満を持っている連中はここにいますよーって伝えてんのさ」

 

 ああ、そういうことか。

 

 不満を持っている連中の場所をあえて伝えることで、グレモリー眷属とかをあえて呼ぼうって魂胆か。納得したぜ。

 

 となると、ここは―

 

「グレモリー眷属とヒロイ君たち、シトリー眷属と御使いで分けるのがいいでしょうね」

 

 会長はそう判断した。

 

 まあ、眷属が眷属できっかり分かれてるんだ。だったら二手に分かれるときは眷属で別れるのが手っ取り早いし、連携もとりやすいってもんだ。

 

 なんだが―

 

「リアス前部長。もしよろしければ、僕をクリスタリディ猊下のいる方面に分けてもらえませんか?」

 

 と、木場がそう言いだした。

 

 ん? なんだなんだ?

 

 俺たちが怪訝な表情を浮かべていると、木場は真剣な表情を浮かべてまっすぐ顔を上げる。

 

 その目には、何かしら緊張感のある空気が漂っていた。

 

「クリスタリディ猊下と、ストラーダ猊下はそれぞれエクスカリバーとデュランダルのレプリカを天界より下賜されていると聞きます」

 

 ああ、そういやそういう情報が前もって伝えられてたな。

 

 エクス・デュランダル生成の副産物。エクスカリバーとデュランダルのレプリカ。それを、今代における最強の使い手である両猊下が預かるのは、不思議でも何でもない。

 

 性能そのものはオリジナルの五分の一程度だが、オリジナルの性能をまだまだ引き出している最中のゼノヴィアと比較すれば、性能だけでいい勝負できるってレベル何じゃねえかとは思う。

 

 そういや、木場はエクスカリバーに固執していた時期があったな。バルパーのクソッタレが原因で。

 

 ……まさか、ぶり返したか?

 

「祐斗? あなたまさか―」

 

「大丈夫です。復讐心で戦うわけじゃありません」

 

 木場はお嬢にそう言うと、まっすぐな熱意のこもった視線を向ける。

 

「闘わせてください。僕は、エクスカリバーの真の使い手を相手にエクスカリバーを超えてみたいと思いました。……これは、挑戦です」

 

 なんか危なっかしいが、まあレーティングゲームのシステムでやってるわけだしな。

 

 ま、いいんじゃねえか?

 

「俺は賛同しますぜ。どうせする必要性の薄い喧嘩を向こうの都合ですることになったんだし」

 

 だったら、こっちの都合で喧嘩売る程度のわがままは許してほしいところだな。

 

 だから俺は賛成。いい機会だし、鬱憤の一つぐらい晴らさせてやりたいところだな。

 

 ま、木場も流石にグラムを抜くほど阿保じゃねえだろ。……阿保じゃねえよな?

 

「やらせてあげてもよろしいのでは?」

 

 さらに、いつの間にか入り込んでいたヴァーリチームの一人であるアーサーまで言ってきた。

 

 ふむ。こいつ意外と自己主張が薄いから、美候と違って性根が見えないんだが。何考えてる?

 

 アーサーは笑みを浮かべて、木場に顔を向ける。

 

「剣士のこだわりは、剣士にしか癒せませんよ。ねえ、木場祐斗くん?」

 

 アーサーの言葉に木場は答えねえが、しかしなんか通じ合ってるな。

 

 っていうかアーサーもなんで入り込んだ? いったい何を考えてやがる?

 

 そう思っていたら、アーサーは胸に手を添えてさらに続けた。

 

「代わりといっては何ですが、私がヴァスコ・ストラーダとの戦いに参加いたししましょう。実をいうと、最強のデュランダル使いと称されるご老体の力に興味がありましたから」

 

 ああ、なるほど。

 

 流石戦闘狂のヴァーリ率いるチームメンバー。こいつも結構強敵との仕合に滾るタイプってことだな。

 

 っていうか、そっちに繋げるために木場に賛成票を投じやがったな? まあ、無理やり割り込んでないだけ今までの自由人っぷりから大分マシになってる感じではあるんだが。

 

 とにもかくにも、まあこういう死ににくい戦いで鬱憤晴らしとかはした方がいいだろ。なんかぶり返してるなら、発散したいのは当然だしな。

 

 というわけでどうっすかお嬢?

 

 俺は、そんな意見を込めてお嬢を見つめる。

 

 そしてお嬢は少しの間考えると、息を吐いて会長の視線を向けた。

 

「……ソーナ。よろしくお願いするわ」

 

「いいの、リアス?」

 

 会長が確認するが、お嬢は再び頷いた。

 

「ええ。眷属の願いをかなえるのも主の務め。特に今回は殺し合いでも試合でもないのだから、かまわないでしょう」

 

 そういうと、お嬢は木場に近づいて、その肩に手を置いた。

 

「いい、祐斗。―今度こそ、決着をつけてきなさい」

 

「はい、部長」

 

 さて、後はこっちか。

 

「……一応言っておくが、今回の件でヴィクターが介入してくる可能性はある」

 

 と、アザゼル先生がそう言った。

 

 ヴィクターの連中。今回の件でも介入してくるのか?

 

「というより、前から何かしらの煽りを入れてたみたいでな。おそらく向こうにも内通者がいるはずだ。……本来なら悪魔祓いたちをそそのかしてクーデターを起こそうって腹だろうな」

 

 なるほど。それが総理の機転によってこういう形になったと。

 

 そういう意味じゃあ、ヴィクターにとってもいいことじゃねえな。

 

 クーデターで混乱状態になったところをついて暗躍するつもりが、模擬戦という比較的平和な展開になっちまったんだから。

 

 だからこそ、情報を入手したら仕掛けてくるってか。

 

「あくまで可能性だし、こっちもその対策はとっている。だが、万が一の可能性は考慮しておいてくれ」

 

 了解、先生。つまりガチバトルの可能性もあるってことか。

 

 まあいいさ。……その時は、数に物を言わせて返り討ちにしてやるだけだ。

 

 来るなら来やがれヴィクター。その時は徹底的に歓迎してやるぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、俺たちはフィールドに降り立つと即座に行動を開始。

 

 どうせこっちがボコり合いをするのが本当の目的なんだから、遠慮なく殴りに突っ込んでいく。

 

 この辺、脳筋重視のグレモリー眷属だよな。ま、今回は殴り合いすることが目的なんだから、そういう意味じゃああってるわけだ。

 

「アーサー。まずは俺にストラーダ猊下とやり合わせてくれねえか?」

 

「これは困りましたね。……そんなに彼と闘いたいのですか?」

 

 そりゃもう。できることなら一対一でどっちかが倒れるまでやり合いたいところだ。

 

 一度でいいからガチバトルがしたかった。そして、できれば勝ちたい。

 

 ぶっちゃけ、今の段階でも勝てるとは思えねえ。

あの爺さん、恐ろしいことに今でも下位の神クラスなら圧倒しかねない化け物だからな。

 

 だけど、この好機は逃せねえ。

 

 ……一撃でもいいから、今迄ため込んできたものを叩きつけたい。

 

 英雄になりたいからなろうとすることは、断じて間違いなんかじゃなかった。そうなりたいと進んできたからこそ、救えたものがあった。だからこそ、俺は輝いていると叩きつけたい。

 

 ああ、ぶっちゃけホントにうずうずしてる。

 

 ほんと、できることならマジモンのデュランダルを渡してから戦いたいぐらいだ。

 

 それ位じゃなけりゃ、本領発揮にゃ程遠いだろうしな、マジで。

 

 ああ、だからマジで―

 

「皆! そろそろ相手の勢力圏内に入るわよ!」

 

 その言葉を聞いた時―

 

「先手必勝!!」

 

 俺は、飛び蹴りを喰らって思いっきり吹っ飛ばされた。

 

 この野郎! いきなりなにしやがんだ、コラ!!

 

 俺は即座に反撃を叩き込もうとするが、しかしそれよりも早く組み付かれる。

 

 みれば、そこにいるのは年始に出くわした姉ちゃんだった。

 

「邪魔すんな! 俺はマジバトルしたい奴と戦うチャンスが―」

 

「あの方はまだ出てこないわよ! 敬老精神を持ちなさいっての!!」

 

 くそ! こんなところでそんなこと言うか!?

 

 確かに全盛期は過ぎてっだろうから、多少は消耗した方がハンデは少ないような気もするけどよ……。

 

 と、思っていたら今度は一気に空に引っ張り上げられる。

 

 な、なんだ!? 飛行能力追加系統の神器か何かか!?

 

 と思って上を見ると、そこには炎を翼を広げた女の子がいた。

 

 いや待て、こいつ……悪魔だ!?

 

 そういや、プルガトリオ機関のこの姉ちゃんが、いい悪魔がいることは同僚で知ってるとか言ってやがったが―

 

「マジでいたのか!?」

 

「そう。私が悪魔の信徒、フィーニクス・プルガトリオ!!」

 

 そう言って掌を焼けさせながら取り出した十字架は、炎に包み込まれる意匠だった。

 

 マジでプルガトリオだ。マジモンのプルガトリオだ。

 

 プルガトリオ機関、構成員のバリエーションが豊かすぎだろ!!

 

「なんで悪魔が当時から教会に!?」

 

「逆逆。悪魔だからプルガトリオ機関にしか入れなかったんだよねー!」

 

 あ、そうか。さすがに普通の信徒として悪魔が教会に入れるわけがねえか。

 

 なるほどー。そういう連中をプルガトリオ機関に入れて、悪魔の能力を有効活用しようってことか。

 

 ……懐が広いと取るべきか、手段を択ばないと受け取るべきか。

 

「って待て! おろせー!!」

 

「させるわけがないでしょうが!!」

 

 無理やり引きはがそうにも、さっきの姉ちゃんに組み付かれて動けない。

 

 そんな! 待ってくれ! ヴァスコ・ストラーダがそこにいるんだ!!

 

 一撃でいいから叩き込ませてくれ! イヤホンとそれだけあれば俺だいぶすっきりするから!!

 

「待ってくれぇえええええええ!!!!」

 

 何て絶叫しても戻れるわけがなし。

 

 俺は、勢い良く引き離されてそのまま遠くに飛ばされていった。

 




哀れヒロイ。ストラーダ猊下との戦闘叶わず。

ですがヒロイもあきらめません。意地があります。チャンスを逃す気もありません。


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第六章 69 

そんなこんなで演習開始。

さて、ヒロイは猊下と戦うことができるのか!?


 

 そのまま勢いよく引っ張られながらも、俺は何とか振り解く事に成功した。

 

 そしてかろうじて着地に成功すると、そのまま聖槍を構えて突き付ける。

 

「やってくれたな、あんた等」

 

 こっちが本気であのストラーダ猊下に挑める機会を邪魔しやがって。何してくれやがんだ、コラ。

 

 言っとくが、このフィールドはレーティングゲームを参考にしてる。システムもレーティングゲームを模倣している。戦闘不能になったら、安全な場所に転移されて治療を受ける事ができる。

 

 つまり、殺す気で行っても何とかなるって事だぜ?

 

 八つ当たりをする気はねえが、敵の精鋭戦力相手にたった二人ってのがあれだな。

 

 よっぽどの実力者なのか、それともただの馬鹿なのか。

 

 まあ、油断しないで本気モードでいくか。肩透かしだったら後で笑い話だ。

 

「……改めまして、フィーニクス・プルガトリオだよ」

 

「久しぶりって言おうかしら? 鈴蘭・プルガトリオよ」

 

 そう言いながら、炎に包まれた十字架のロザリオを見せる二人の女。

 

 一人は茶髪。もう一人はレイヴェルと同じ金髪。

 

 ……なるほど、どうやらこっちの実力を把握したうえで二人って感じだな。

 

 そこそこできる実力者みたいだ。上級悪魔程度なら、一対一で倒せるレベルはあるな。

 

「何が目的だ? あんたらとしちゃ、悪魔に恨みがあるんじゃねえのかよ」

 

 そうだ。この演習はいわば、グレモリー眷属に八つ当たりする機会を作るってのが本命だ。

 

 だったら、嫌いな悪魔でしかも和平成立の原因であるお嬢達を狙うのが優先だと思ってたんだがよ。

 

 俺のその疑問に、鈴蘭は鼻で笑うとロザリオをしまう。

 

「……言ったでしょ。同僚で良い悪魔がいるってことは分かってるの。和平は納得いかないけど、グレモリー眷属には恨みはないわ」

 

「うんうん。私は鈴蘭ちゃんに付き合ってるだけだからね。私は特に恨みはないよ?」

 

 だったら、なんで?

 

 とりあえず、フィーニクスは鈴蘭の鬱憤晴らしに付き合ってるって事は分かった。つまり、鈴蘭が不満を爆発寸前迄ため込んでいるって事だ。

 

 その鈴蘭は、何が不満なんだ?

 

「私が不満なのは、和平なんて道に走った教会及び天界。……そして、それでも教会に縋らないと我慢できない私自身」

 

 そう言いながら、鈴蘭とか言った姉ちゃんは、右手から莫大な光力の槍を形成する。

 

 ……なんだ、あれ。

 

 イリナでも出せないような出力の光だ。アイツ、上級天使クラスの戦闘能力を持ってるんだぞ?

 

 それを上回るとか、どういう理屈だ。

 

「光力発生系の神器の禁手か何かか?」

 

「教える馬鹿はいないわよ!!」

 

 言うなり、鈴蘭は俺に仕掛ける。

 

 俺は即座に聖槍で槍と打ち合うが、そこをついてフィーニクスが圧縮した炎の塊を投げつける。

 

 それを冷気の魔剣で迎撃するが、しかしそれにばかり意識を向けるわけにもいかねえ。

 

 一瞬でも隙を見せれば、その瞬間に槍が叩き込まれるだろう。このアマ、急所狙ってきてるから怖いんだよ。

 

 一人一人の戦闘能力がかなり高い。そこに来て二対一という数的不利。とどめに、連携がしっかりとできてやがる。

 

 間違いねえ。こいつらかなり前からバディとして活動してたな?

 

「いい連携してるじゃねえか!」

 

「それはもう! 私とフィーニクスは親友だしね!!」

 

「鈴蘭ちゃんがプルガトリオ機関に配属された時からの付き合いだよッと!!」

 

 なるほどな。

 

 だったらこっちも、負けるわけにはいかねえな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその攻防が長く続いた時、俺達の体にシャボン玉が触れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ、このシャボン玉。

 

 なんか、悪魔祓い達を中心として、涙を流して崩れ落ちている人がたくさんいるんだけど。

 

 なんだなんだ? いったい何があった?

 

『ほぅ。これは中々凄い能力だな』

 

 ドライグ、どういうことだ?

 

『これは、触れた者の大切な思い出を想起させる能力だ。迷走している人間を正気に戻すには効果的だな』

 

 なるほど。誰が出したのかは分からないけど、立派な能力だと思う。

 

 でも俺、全然思い出したりしないぜ?

 

『これは推測だが、相棒は常に大事なものを心に持っているから大丈夫なのではないだろうか』

 

 なるほど。常におっぱいに目が行ってるからな!!

 

 俺が納得していると、ストラーダ猊下がうんうんと頷きながら一歩前に出る。

 

 ここに来るまで、この爺さんは一人だけ闘っていなかった。

 

 たぶん、信徒達を思う存分戦わせたかったんだろう。それが目的で、この演習に乗ったんだと思う。

 

 そして、この人は悪魔に対する怒りで行動しているわけでもなさそうだ。

 

 少なくても、迷走はしてない。だからこのシャボン玉が効いてないんだ。

 

「素晴らしい力に目覚めたな、デュリオよ。……そして若き悪魔達よ。諸君らはデュリオと肩を並べるに相応しい勇士達かな?」

 

 この感覚。……俺達を試す気か?

 

 対クリフォト部隊、D×D。そのリーダーはデュリオだ。

 

 そして俺達もD×Dの一員。デュリオと肩を並べる仲間達だ。

 

 そして、D×Dはトライヘキサの封印が解けた時、間違いなく前線に出る。

 

 世界の命運がかかった戦いになるだろう。なにせ、相手はグレートレッドに匹敵すると言われている化物だ。たった一体あるだけで、今の戦局をひっくり返しかねない。

 

 この爺さん、もしかして俺達がそれをなすに相応しいか計りに来たんじゃないか?

 

 たぶん、それも目的の一つなんだろう。

 

 信徒達の鬱憤を晴らす。俺達を試す。どっちも今後の教会や世界の為に必要な事だしな。

 

 なるほど。だったら俺達も本気でいかなきゃならねえな!!

 

「いくぜ、皆!!」

 

 俺はそう言うと、真正面からドラゴンショットを放つ。

 

 それを猊下は避けずに立ったまま見据えた。

 

 いや、ちょっと待って?

 

 なんかこの人、デュランダルのレプリカすら構えてないんだけど!?

 

「中々いい魔力が籠っている。戦場を知ったのも神器に目覚めたのも一年も経ってない時期だとは思えないが……」

 

 そして直撃するかと思った瞬間。

 

「―だがまだまだだぞ、赤龍帝ボーイ」

 

 一瞬で裏拳を放つと、そのままドラゴンショットは吹っ飛ばされた。

 

 マジかよ。結構力込めたはずなんだけど、あっさりはじかれちまった。

 

 しかも、相手もまだ本気出してないってのが見てるだけで分かる。やせ我慢でもなんでもなく、ほぼ片手間のレベルで弾き飛ばしやがった。

 

「その程度で猊下は倒せんぞ、イッセー!」

 

 そう言うなり、今度はゼノヴィアがエクス・デュランダルを構えて切りかかる。

 

「戦士ゼノヴィア。デュランダルをどこまで扱えるか、見せてもらおう」

 

 そう言いながら、爺さんはゼノヴィアの攻撃を素早く避ける。

 

 ゼノヴィアの攻撃は威力重視だけど、これが鋭い。振るう速さも込められた力も、並の上級悪魔ならそれだけで終わりそうな勢いだ。

 

 だけど、あの爺さんはそれを易々と躱してくる。

 

「言葉ではなく行動で示す。デュランダル使いとしてまさにと言ったものだが―」

 

 そして、ゼノヴィアが大上段から振りかぶった斬撃を―

 

「―残念ながら、まだまだのようだ」

 

 ―指二本で白刃どりしやがった!?

 

 冗談だろ!? デュランダルの一撃はかなり重いのに、指二本で止めるってのか!?

 

 何をどうすりゃ、そんなことできるんだよ!!

 

「流石は猊下ということか!」

 

 ゼノヴィアのショックを受けたのか、目を見開く。

 

「だったら魔法で!!」

 

 そこにロスヴァイセさんが大量の魔法砲撃を叩き込む。

 

 た、確かに。物理が効かないなら魔法や魔力で対応するのは当然だ。特にロスヴァイセさんは魔法攻撃のスペシャリストだから、そういうのも向いているはず―

 

 そう思った次の瞬間。俺はとんでもない光景を目の当たりにする。

 

「ふむ、中々よく練られている。……だが、まだ若い」

 

 そういうなり、爺さんは指を一本だけ立てると、ロスヴァイセさんの魔法に次々と触れていく。

 

 そして触れられた魔法はそのまま霧散していく。

 

 はい!? え、ちょ、どういうこと!?

 

 ロスヴァイセさんの魔法は、上級クラスでもそのまた上ぐらいはあるハイレベルな魔法だ。威力だってシャレにならないし、術の練り上げも綺麗だって言われている。

 

 それを指先で触れただけで、どうやって消滅させるってんだよ!?

 

 唖然とする俺達の視線の先、爺さんは俺達の疑問に気づいたのか、手を止めると口を開いた。

 

「魔法とは計算だ。方程式を崩す理をぶつければ、相殺は可能なのだよ。特に若い使い手は形だけで術が洗練されていない事が多い。僅かな綻びを見つければ、パワーでこのように崩す事ができる」

 

「……っ」

 

 もうロスヴァイセさんは言葉も出ない。

 

 いやいや。ロスヴァイセさんの魔法は同じ魔法使いから見ても、洗練されていて無駄がないって話だった。

 

 それを若いという一言で片づけますか!? 何なんだよ、この爺さん。

 

「若さとは、強さであると同時に弱みでもある。その弱みに力を注ぎ込めば保たなくて砕けることは当然。……若き悪魔たちよ、若さを武器にするのは良いが、それに頼ってはいかん」

 

 す、すげえ。

 

 この爺さん。間違いなく人類最強格の化け物だ……っ!!

 

 勝てんのか、俺達!?

 




次回、ハイスペック爺ちゃん本気バトル編。

イッセー達は生き残ることができるか!?(まだ演習です


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第六章 70 スーパーお爺ちゃんタイム

はーい!

司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダの大暴れタイム、はっじまっるよー!


 

 ぶっちゃけ言って、少し気押されている。

 

 それぐらい、目の前の爺さんはシャレにならない。

 

 司祭枢機卿、ヴァスコ・ストラーダ。

 

 この爺さん、本当に90手前なのかよ!?

 

『なら僕が行きます!!』

 

 そこで闇の獣となったギャスパーが一気に跳びかかる。

 

 闇の獣となったギャスパーはかなり身体能力がある。単純な力比べなら、俺だって苦戦する。

 

 ギャスパーなら行けるか?

 

 そう思った俺達の心は、完全に吹っ飛ばされた。

 

「いい気迫だ。だが、それだけでは―」

 

 そう言いながら爺さんは拳を握り、そして勢い良く突き出す。

 

 それをとっさに躱したギャスパーだけど、その拳の延長線上にあったビルが砕け散った。

 

 嘘だろ!? サイラオーグさんかよ!!

 

「気をつけろギャスパー! 猊下の拳は聖拳と呼ばれ、聖なる力が籠っている!!」

 

 マジかゼノヴィア! パンチに聖なる力ってありか!?

 

 ギャスパーは素早く攻撃を再開するけど、それを爺さんは最小限の動きで綺麗に躱す。

 

 今のギャスパーの速さは凄いはずだ。なのに、あの爺さんは全く当たる事なく攻撃を躱し続ける。それどころか反撃で拳を放つ余裕だってある。

 

 ギャスパーはもちろん躱すけど、掠めただけで闇が吹き飛んで本体が見えるほどだ。

 

『まさか、ここまでだなんて……っ』

 

 ギャスパーでもあの様かよ!!

 

 畜生! なんだあの爺さん。90手前じゃなかったのか!?

 

 なんか総理大臣並みの大暴れなんだけど!? 何あのハイスペック爺ちゃん!?

 

 俺達が唖然となってると、爺さんは静かに首を振った。

 

「……貴公らは、神より賜った神器に頼りすぎているのだ」

 

 そう言いながら、爺さんは拳を握り締める。

 

 そこには、傲慢とか慢心とかが欠片もない、誇り高い戦士特有の力があった。

 

「私の力に理屈などというものはない。一心不乱な信仰と、鋼の如き鍛錬がその肉となり力になっているだけのこと。パワーは魂にも宿るが、諸君らはどうかね?」

 

 い、言ってくれるじゃねえか!

 

 典型的なパワー馬鹿。脳筋とまで言われるグレモリー眷属にそこまで言うとか、挑戦としか受け取れねえ!!

 

 いいぜ。だったらこっちも本気を出してやる!

 

「……イッセー。あれを出すわ」

 

「ああ、分かってるさリアス!!」

 

 俺は飛竜を出しながら真女王を展開。

 

 そして、飛竜がリアスの体に纏わり付く。

 

 そして真女王の詠唱が完了すると同時に、リアスの全身に赤い龍の鎧が形成される。

 

 これが、リアスと俺の合体技、深紅の滅殺龍姫(クリムゾン・エクスティンクト・ドラグナー)だ。

 

 飛竜が使えないという欠点はあるけど、これでリアスも俺に並び立てる戦闘能力が発揮できる。なにせ、リアスの能力は神器抜きの俺よりも遥かに強いからな!!

 

 というわけで、行くぜ、枢機卿!!

 

「レーティングゲームのシステムがあるとはいえ、死んだとしても恨まないでね!!」

 

「よかろう。さあ、若き悪魔の姫君よ、放つがいい」

 

 リアスの全力の魔力を、爺さんはデュランダル・レプリカで迎え撃つ。

 

 最上級悪魔にも匹敵する消滅の魔力を切り裂くのは驚きだけど、流石に一瞬時間が掛かる。

 

 その一瞬で俺は間合いを詰め、勢いよく拳を叩き込んだ。

 

「もらった!」

 

「ほう?」

 

 その一撃を爺さんはデュランダル・レプリカで受け止める。

 

 真正面からの打ち合いじゃなく受け流しだけど、確実に俺の拳を受け止めていた。

 

 マジかよ。紅の鎧ですら捌かれるのか!?

 

 あのグレンデルと真正面から殴り合える俺の拳を、爺さんがレプリカで受け止めるのかよ!?

 

 俺は連続で拳を繰り出すけど、枢機卿はそれをレプリカのデュランダルで全部いなす。

 

 まじか。パワー馬鹿と称されるグレモリー眷属の、そのまた筆頭と言われる俺の攻撃を高の簡単にいなすなんて!!

 

 90手前の爺さんが!? しかも人間だぞ!!

 

 ……だけど、これならどうだ!?

 

「……避けなさい、死ぬわよ」

 

 リアスが敬意を込めて忠告する。

 

 そこにあるのは消滅の魔星。リアスの編み出した必殺技だ。

 

 吸血鬼の里ではグレンデルの体の殆どを消滅させて、天界でもラードゥンを吹き飛ばした、リアスの必殺技。

 

 レーティングゲームでの運用を全く考えない事で、凄まじい力を発揮する。もしレーティングゲームで使えば、喰らった奴はシステムの加護が間に合わずに消滅するだろうシャレにならない威力だ。喰らいたくない……。

 

 だからあの爺さんも流石に逃げてくれないとまずい。そんな威力のものを使わないといけないってのもあれだけどね。

 

 そして、そのリアスの必殺技を前に―

 

「なるほど。ならば……」

 

 爺さんは、避けなかった。

 

 静かにデュランダル・レプリカを構えると、そのまま力を籠める。

 

 お、おいおい。いったい何を―

 

「ぬぅううんっ!!」

 

 ―そして数秒後。俺達の目の前には一刀両断された、リアスの必殺技の姿があった。

 

 ……え?

 

「ええええええええええっ!?」

 

 俺はありえない光景に絶叫を上げた。

 

 見れば、仲間達はみんな目を見開いて絶句している。

 

 当然だ。あの魔星はリアスの必殺技で、俺達の中でもシャレにならない威力がある。っていうか、伝説の邪龍すら削りまくった大技だ。

 

 しかも、今のリアスは俺の力を受けて能力が大幅に向上している。魔星に限定すれば、俺でもたった一つを除いてどうにかすることはできない。

 

 それを、爺さんが、レプリカで、真っ二つ!?

 

「……あんた、本当に人間か?」

 

 あり得ねえ。なんだこの爺さん!

 

 何度も言うけど、この爺さんは90手前なんだぞ!? いくらなんでも実力だって落ちてるはずだってのに……。

 

「ならば、今度こそ同じデュランダルで!!」

 

 そこを駆け出して行くのはゼノヴィアだ。

 

 そうだ。相手はゼノヴィアの先輩にあたる人なんだ。

 

 その跡を継いだデュランダル使いとしてみりゃ、越えたい相手なのは間違いない。

 

 ましてやゼノヴィアのエクス・デュランダルはエクスカリバーと合体した強化型。武器の性能ならオリジナルってこと以上に上回っているはずなんだから!!

 

「そう。それでいい。デュランダルとは考えて使ってはいけないのだ」

 

 爺さんは満足げに頷くと、ゼノヴィアと切り結ぶ。

 

 それは、まるで祖父が孫に剣術を教えているかのような光景だった。

 

 遠慮があるわけじゃない。手を抜いているわけじゃない。

 

 だけど、それ以上に高みに導こうとする気遣いがあった。

 

「よいか、戦士ゼノヴィア。例えエクスカリバーと同化しようと、デュランダルの本質とは純粋な力だ。何も考えてはいけないし、力を否定してもいけない!」

 

 その言葉を素直に聞き入れたのか、ゼノヴィアの動きは少しずつ良くなっている。

 

 そして今までにないぐらい双方ともに勢いよく打ち込んで、そのまま鍔迫り合いになった。

 

「……しかし、パワーの表現とは一つではない。戦士ゼノヴィアよ、その剣の姿は貴殿が求めるものなのか?」

 

「ッ!?」

 

 その言葉に、ゼノヴィアの動きが止まった。

 

 いったん後ろに飛び退ると、そのままエクス・デュランダルに視線を向ける。

 

 ん? え、どういうこと!?

 

 俺がよく分からなくて首を傾げると、更に新たに一歩踏み込む人物がいた。

 

「では、そろそろ私の出番ということでよろしいでしょうか」

 

 涼し気な笑みを浮かべながら、アーサーがコールブランドを引き抜きながら一歩前に出た。

 

 ついに来たよ、最強の聖剣コールブランド。

 

 もしかして、俺達完全に前座になってんじゃねえか?

 




人間で87という高齢なのに、なんでグレモリー眷属をことごとくいなしてるんでしょうかと思いますね、ホント。

老人の段階でもオリジナルのデュランダルならアーサー倒せたんじゃないでしょうか、この人。


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第六章 71 聖人と聖剣と聖槍の戦い

まだまだ続くぜ、お爺ちゃんタイム!!


 

 コールブランドを片手で持ちながら、アーサーは一歩一歩前に出る。

 

「ようやく相まみえることができました。かのローランを超えたとすら称される、ヴァチカンのイーヴィルキラー」

 

 そう言いながら、アーサーは歩みを全く止めない。

 

 そして肉薄するまで近づいたその時―

 

「では始めましょうか」

 

 一瞬で姿が消えて、アーサーは猊下に斬りかかった。

 

「おお。これほどの戦士と相まみえることができるとは、戦士として素直に僥倖というほかない」

 

 そしてその攻撃を猊下は片手でいなし……いなしたぁ!?

 

 何て爺さんだよ!! 俺たち眼で追うのも苦労してるレベルなんだけど!?

 

 っていうか、アーサーの奴腕を上げてないか!? 以前ヒルトと戦った時よりすげえ腕が上がってる気がするんだけど!?

 

 俺たちが目を見開いていると、アーサーと猊下は飛び上がって斬撃を繰り返す。

 

 そして目にもとまらぬ速度の斬撃を繰り広げながら、そのまま着地したかと思うと走り出しながら斬り結んだ。

 

 アーサーは時おりあらぬ方向に剣を突き出す。そしてそのまま切っ先が消えて、猊下の真後ろから切っ先が付きだしてくる。

 

 たしかコールブランドは次元を切り裂く力があったっけ。俺たちが何度か関わったときも、それを使って移動したりしてたな。それの応用か。

 

 そういやヒルトと戦ってた時に使ってたとか言ってたような気もする。得意技か何かなのか?

 

 そしてそんな攻撃すら、猊下はまるで見えているかのようにかわしてのける。

 

 あの爺さん本当に何者だよ!! 人間なのか、マジで!!

 

 俺たちが唖然とするような戦いだったけど、しかしアーサーはいったん距離を置くと残念そうにしながら剣を鞘にしまった。

 

「……ここまでにしておきましょう。失礼ですが、これ以上は悲しくて耐えられない」

 

 ……え? なにが?

 

 俺はさっぱりわからなかったけど、猊下は何かわかったのか、すまなそうにしていた。

 

「すまないな。若き戦士よ」

 

「いえ。……できることなら、私は30年早く生まれたかったものです」

 

 な、なんかわからないけど何かあるんだろう。剣士同士でしかわからない何かのこだわりってのがあるのかもしれないな。

 

 で、俺たちどうしよう?

 

「さて。まだまだ戦いを譲ってやるわけにはゆかないのでね。次はだれが挑むかね?」

 

 ……どうしたもんか。

 

 リアスの消滅の魔星でも倒せなかった相手だ。こっちも相応の手段が必要なんだけど―

 

 そう思ったその時、俺たちは寒気を感じた。

 

 いや、厳密には寒気じゃない。これは、聖なるオーラを肌で感じて悪魔の本能が恐怖を感じているだけだ。

 

 このオーラ、まさか……っ

 

「ちょっと待ったぁああああああ!!!」

 

 その声と共に、ヒロイが全力で飛んでくると、俺たちと猊下の間に飛び降りる。

 

 そして、にやりと笑うと聖槍の切っ先を突き付けた。

 

「今度は俺が相手だ、猊下!! ……俺は、あんたと全力で戦いたかった!!」

 

 ヒロイぃいいいい!?

 

 演習が始まってからいきなり連れ去られたと思ったけど、いきなり何してんのお前!!

 

 っていうか、連れさった人たちは倒したんだろうな、オイ!!

 

「あ、イッセー! 悪いんだけどちょっと後ろの相手してくれねえか? いい加減しつこいんで逃げてきちまった」

 

 しかも逃げてきたのかよ!?

 

 っていうか、あれ? 悪魔祓いたちの大半は、あのシャボン玉で戦意喪失したんじゃないのか? なんでまだ戦えてんだよ。

 

 俺が疑問に思っていると、ヒロイが来た方向から勢いよく炎の翼を広げた女の子が、女性を抱えて飛んできた。

 

「逃げるな!! っていうか猊下以外全滅!?」

 

「鈴蘭ちゃん、死んでないからねー?」

 

 なんか微妙に漫才っぽいことをしながら追いかけてきたお姉さん二人組は、すぐさま飛び降りると戦闘態勢をとる。

 

「猊下、加勢します!!」

 

「っていうか取り逃がしは責任取りますから―」

 

「あら、そうはいかないわね」

 

 と、そこでリセスさんが立ちふさがった。

 

 そういえばリセスさん。今までずっと悪魔祓いの人たちを相手してきたっけ。

 

 てっきり猊下に挑むかと思ったけど、ここはヒロイのケツ持ちか何かかな? 仲いいし。

 

「ヒロイ。……思う存分暴れなさい」

 

「姐さん、ありがとうな」

 

 そしてヒロイは、聖槍の切っ先を猊下に突き付ける。

 

「さあ、勝負の時です猊下。……もう一回言おう。俺はあんたと勝負がしたかった!!」

 

 そう言い放つなり、ヒロイは突貫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく。ようやくだ。ようやくだ。

 

 ようやく、俺は戦いたくてたまらない相手と戦うことができる。

 

 ガキっぽいって自分でもわかってる。

 

 それでも、それでも、それでもな。

 

「俺は、あんたを一度でいいからぶっとばしたかった!!」

 

 ああ、人々が英雄というから英雄であろうとするあんたにはわかるまい。

 

 あの光に焦がれた者の気持ちが。そうなるためにどうすればいいか常に考える者の気持ちが。そうでないならいっそ死にたくなるものの気持ちが。

 

 なによりも―

 

より良きもの(英雄)を目指すことが間違っているはずがない。それだけは断じて認められるものか」

 

 ああ、それに関してだけははっきり言える。

 

 がむしゃらにただひた走っていたら、俺はここまでたどり着けなかった。

 

 紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)があるからこそ、俺はここまで戦えている。そして、紫に輝く双腕の電磁王は

がむしゃらにぶつかっていくような奴にはぜったに使いこなせない。それがあるからこそ、俺はシシーリアを照らせて輝き(英雄)になれた。

 

 この事実だけは認めさせる。俺は、紫に輝く双腕の電磁王を使ってこの爺さんに一撃叩き込む。

 

 反動覚悟で俺は感覚速度を一割上昇。槍を短く持ってできる限り近距離での戦闘を叩き込む。

 

 デュランダルは大型の聖剣だ。ぱっと見バスターソードであり、刃渡りは剣の中では長い。

 

 故に威力ももちろんでかいが、取り回しは悪い方なはず。

 

 なら、俺は短いリーチで懐に強引に潜り込むだけだ。

 

 聖槍は短く持ち、全身に魔剣の刃を纏う。

 

 一気にクロスレンジに強引に突入して、俺は超接近戦を仕掛けた。

 

「勝たせてもらうぜ、猊下!!」

 

「なるほど。しかし甘い」

 

 それを猊下は体裁きで見事にかわし続ける。

 

 さらにデュランダルを片手持ちにして防御に回し、空いた手で殴り掛かった。

 

 そういや聖拳があったな。確かにそっちも喰らうとまずい。

 

 だが―

 

「……悪いな、こっちも一割上昇にはもう慣れた!!」

 

 俺はペースを上げる。

 

 上昇した感覚に慣れている以上、動きをよりスムーズにできるのは当然。

 

 さらにホンダブレードを大量に展開して余波によるダメージを吸収する。

 

 この程度で倒れるわけがねえし、この程度で倒れてやるわけにもいかねえな。

 

 ああ、そうだ。俺はこの時を待っていた。

 

 英雄であろうとして居続ける英雄に、英雄になろうとしてなった英雄が挑む。その構図がほしかった。

 

 誰が何と言おうと、俺はこの戦いで一矢報いる。できれば勝つ。

 

 そうでなければ、俺はあの時の不快感を張らせないだろう。

 

 なんていうかな? 俺はあの時、マジでイラってきたんだよ。

 

 なにががむしゃらに生きろだ。理想を叶えるためには叶え方を考えるべきだろうが。

 

 ああ、天然物はこれだから困る。物事には叶え方ってものがあって、その手順を知らなきゃならない。乗り越え方がわからなけりゃ、壁を乗り越えるのに時間がかかるのが当たり前で、普通に乗り越えられないことだっていくつもある。

 

 それを知りたいのになんだその答えは。まるで「なれる奴にはなれるがなれない奴には一生なれない」とか言われたようなもんじゃねえか。

 

 いや、確かにそうなんだろう。英雄ってのはなろうと思ってなれるほど簡単なものじゃない。いや、英雄に限らずそういうものだ。

 

 だからってがむしゃら? ふざけんな。

 

 そんな生き方でしかなれないとか、夢を目指すものに諦めを促すにしてもいい加減にもほどがある。

 

「アンタはあの時誠実に対応したつもりなのかもしれねえが……っ」

 

 ああ、ガキ臭いのはわかってる。

 

 それでも。

 

 それでもだ。

 

 俺は、あの時の怒りを覚えている。

 

 だから、この半ば悪魔祓いたちの都合だけでやらされた演習で、俺も個人的な都合をかなえさせてもらう。

 

「俺にとってはいい加減な対応にもほどがあるんだよ!!」

 

 ここで、俺は、あんたに一撃叩き込む!!

 

 

 




次の話で演習は終了。そして、少しずつ第二部への伏線というか導入準備も始まります。









 それと第六章はデュランダル編までで、ベリアル偏とルシファー編を最終章にするつもりでしたが、ちょっと変えます。

 リゼヴィムの悪意がフルスロットルで動くので、ベリアル偏も六章にして、最終章はルシファー編だけにします。

 ですが話数の心配はいりません。

 第一部最終章は派手に行きます。英雄派とイグドラフォースの最期の見せ場でもありますし、リムヴァンも第一部で終わらせるつもりなので大激戦です。バトルにバトルにバトルが連続で起きますので、手に汗握る展開にしてみたいですね。

 最終章の名前はまだ考えてませんが、それなりに派手な戦いになりますので、相応の題名を考えたいと思います。


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第六章 72 

はい、こっから事態は急転します


 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 そのころ俺たちは、二人の悪魔祓い相手に苦戦しまくっていた。

 

 っていうか、色っぽいお姉さんの方が俺たち悪魔にはヤバイ!!

 

 右手から大量に光の槍を形成すると、一斉に投げつけて攻撃してきやがる。

 

「避けるな! 当たらないでしょ!!」

 

「当たったら死ぬってこれは!!」

 

 さっきまで猊下とまじバトルして死にかけてる俺たちにこれはキツイ!! っていうか勘弁してくれよ!!

 

 このお姉さん、遠慮なく攻撃叩き込んでくるからキツイ!! 

 

 なんだよこの人。よくわからないけど、このシャボン玉で戦意喪失したりしねえのかよ?

 

「あんたたちも! 少しはしゃっきりしなさい!!」

 

 そう、そのお姉さんは檄を飛ばす。

 

 その目には必死の懇願と、失望の怒りがにじんでいる。

 

「どれだけこいつらがかっこつけようと、悪い悪魔はいるのよ!? それを討つ私たちの役目を勝手な都合で奪われて、悔しくないの!? むかつかないの!?」

 

「……それは……っ」

 

 力なく、悪魔祓いの一人がそう答える。

 

 なんかよくわからないけど、さっきのシャボン玉は大切な思い出を思い出させる能力だ。

 

 そして悪魔祓いの大半は、悪魔に大事な人を殺された経験がある。その復讐ができなくなることを受け入れられなかったからこそ、我慢の限界に達しかけていた。

 

 そういう人たちに、本当に大事なことを思い出させることで無力化させたのが、あのシャボン玉だ。

 

 だけど、このお姉さんはその影響を受けても、俺たちに対する敵意を隠さない。

 

 それはつまり、大事なものを覚えているからこそ、俺たちが許せないということで―

 

「確かにいい悪魔もいる。でも悪い奴らもゴロゴロいる。それを討つのが私たちの役目。それをやめろと言われて、本当にあんたたちは納得できるの!?」

 

 そう言いながら、お姉さんは光の剣を右手から生み出して俺に切りかかる。

 

 俺は乳語翻訳で動きを読むことはできたけど、それをすることができなかった。

 

 何ていうか、それだと彼女の思いは受け止められない。そんな気がしたから。

 

「立ちなさいよ! 大事なことがあるのなら、それを汚した奴らを許していいわけがないでしょう!?」

 

 その言葉は、心からの叫びだった。

 

 このお姉さんの本音がそれだ。

 

「私は嫌よ! 私を受け入れてくれた人たちが、屑の悪魔に殺されたのを知ってるもの!!」

 

 ……っ!

 

 俺たちが一瞬躊躇した好きに、そのお姉さんは声を張り上げる。

 

「討つべき悪魔はいるでしょう!! それまでさせない奴らに、おとなしく従う気なの!?」

 

 その声に、悪魔祓いたちが立ち上がる。

 

 そして、俺たちを蘇った敵意でにらみつけた。

 

「そうだ。……あいつは、あいつはいいやつだったのに……っ」

 

「ああ。あの思い出を思い出にしてしまったのは、お前ら悪魔だ!!」

 

 立ち上がる悪魔祓いたちの数は全体の半分ぐらいだけど、だけど確かにいる。

 

 彼らは一様に、俺たちを、悪魔をにらみつけていた。

 

 その目に映っているのは、怒りと憎しみだ。

 

 俺たちが許せない。俺たちが憎い。俺たちが嫌いでたまらない。

 

 そんな感情を向けて、悪魔祓いたちは立ち上がると攻撃を再開する。

 

「邪悪な悪魔はいる、いるんだ!!」

 

「それを討つ邪魔をするな、悪魔(ディアボロス)ごときが!!」

 

 それは、一瞬だった。

 

 彼らは心の底から敵意を燃やし、一気に燃え広がる。

 

 シャボン玉は今でも浮かんで、俺たちはもちろん悪魔祓いたちにもあたって消えていく。

 

 それでも……それでも、それがどうしたと言いたげに、彼らは戦意を再び燃やして立ちふさがった。

 

「討ち取られろ、邪悪!!」

 

 もう、彼らを止める者はいない。

 

 ああ、そうだ。

 

 悪魔の中にとんでもないのがいることなんてわかってるじゃないか。俺たちだって見てきただろう。

 

 旧家の悪魔たちがソーナ会長の夢を笑ったところを見ただろう。何人もの悪魔が旧魔王派に寝返った。そして、人間たちを獲物にしようとしたところだって見てきたはずだ。

 

 だけど、それでも……っ!!

 

 俺が何かを言おうとしたとき、ここにはいなかった仲間たちが踏み込んできた。

 

「それでも、僕たちは平和がほしい!!」

 

 木場が、今まで以上に輝く聖魔剣を構えて、悪魔祓いの攻撃を弾き飛ばす。

 

 悪魔祓いの光の剣を、魔剣時代から使ってる光を喰らう剣でかき消しながら、木場は声を張り上げた。

 

「僕たちは平和に生きたいだけだ。そこにいる友たちと、仲間たちと!!」

 

 真正面からそう声を張り上げる木場に応えるように、さらに新しい剣が振るわれる。

 

 聖剣オートクレール。その斬撃が邪念を浄化しながら、イリナもまた声を張り上げた。

 

「悪い悪魔は確かにいるわ。でも、いい悪魔がいることを私は知ってる! ミカエル様のAが保証するわ!!」

 

 俺たちに襲い掛かる攻撃を切り払いながら、イリナは心からの声を張り上げる。

 

「悪い悪魔もいれば、いい悪魔もいる。異なる神々には善神も悪神もいる! そういうことなのよ!!」

 

 その言葉に、ヒロイと切り結んでいるストラーダ猊下が笑った。

 

「ははははは! 天使が異教の神々を語るとは、これもまた和平ということか!」

 

 まるでストラーダ猊下は、その言葉を待っていたかのようだった。

 

 心からその言葉を受け止め、そして真正面からそれが聞きたかったと言いたげに、攻防を繰り広げながらも笑っている。

 

 そして、隙を見せない程度に上を見上げた。

 

 その表情は、どこか満足げだった。

 

「同胞たちよ。聞いたであろう? これが彼等と我らの違いだ」

 

 そういう猊下の目は、俺たちに慈愛を向けていた。

 

 まさかこの爺さん、その言葉を俺たちに言わせるために態々こんなことをしたってのか?

 

 俺がそんな疑問を抱いているなか、猊下はヒロイの猛攻をしのぎながらさらに言ってくる。

 

「確かに我らは不満をぶつけるためにここに来た。だが、彼らはそれを何とか受け止めようと努力してきた、その時点で、我々は負けていたのだよ」

 

 この爺さん。……すごく大きな人なんじゃないのか?

 

 俺がそう思ったその時―

 

「―ふざけるな!!」

 

 その声と共に、光の銃が俺たちじゃなくて猊下を狙って放たれた。

 

 なんだ!? 光の銃は悪魔祓いだけが持っている武器のはずだぞ!?

 

 俺たちが狼狽する中、猊下は驚きながらもそれを迎撃する。

 

 だけど、その表情は今までにないぐらい驚いていた。

 

 そして、攻撃を放った悪魔祓いは歯を食いしばりながら猊下をにらみつける。

 

「……悪魔は愚か吸血鬼たちと和平を結ぶ。そんなふざけた連中が俺たちより上だと!? そんなこと認められるか!!」

 

 涙すら流しながら、歯を食いしばってにらみつけるその悪魔祓いに同意するように、さらに立ち上がる人たちは増えていった。

 

 その全員が、俺たちだけじゃなくて猊下すらにらみつけていた。

 

「そうだ! そんなこと納得できるか!!」

 

「たとえ煉獄に堕ちようと、悪魔たちを認められるか!!」

 

「仮にも天使に選ばれたものや猊下すらそのような世迷言を!! ……もう、こちらも我慢の限界だ!!」

 

 少しでも変わると思った空気が、一気に悪い方向に傾いてるよな、コレ?

 

 まずいんじゃないか?

 

 これは、あくまで演習のはずだった。だから死人が出ないようにするつもりだったし、そういう予定で動いていた。

 

 だけど、このままだと……っ!

 

 俺たちがそう思ったその時だった。

 

 振動が、響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は管制室で試合を見ていた。

 

 大半の悪魔祓いはこの機に鬱憤を晴らしに来たんだろうが、たぶんヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタリディは違うだろうと思っていた。

 

 あいつらは大局的にものが見える。出なけりゃ、枢機卿なんて立場に選ばれているわけがねえ。

 

 だから何かあると思って、このタイミングで起こっていた裏をしらべていたら見事に当たった。

 

 教会の不満分子をあおっていた連中が、リゼヴィムのあおりを受けていたことが分かった。それも、このタイミングでこの空間に移動するための転移術式も漏らしていたって寸法だ。

 

 ま、リゼヴィムのような煽りの鬼才からしてみりゃカモネギ以外の何物でもねえわな。

 

 だが、わかっちまえばあとは取り押さえられる。そもそもリゼヴィムからしても、たぶん本命じゃねえ。うまく行きゃそれで十分ってところだろうな。

 

 それにこっちも対策は万全だ。対量産型邪龍用の術式はロスヴァイセが完成させた。さらに鳶尾も呼んで置いたし、ほかにも人員を派遣している。

 

 だから、タイミングを計って仕掛けるつもりだろうがそれがどうしたってわけだ。たぶんだが対クリフォトに関していや、あっさり解決するんじゃねえかって気がするぜ。今までで一番楽に解決するんじゃねえか?

 

 ま、相手はあのリムヴァンまでいるんだ。念には念を入れた方がいいんだろうが、演習の方はこの調子ならイッセーたちが勝ちそうだな。

 

 そう、たかをくくっていたんだが……。

 

「総督!! 戦意を喪失していた悪魔祓いたちが、立ち上がって再び戦い始めています!!」

 

 オペレーターの焦り声も分かるってもんだ。

 

 デュリオの奴の隠し玉で戦意を喪失していた連中が、プルガトリオ機関の連中の激を受けて戦意を再び燃え上がらせやがった。それも、止めようとした同胞たちにまで牙をむいてきた。

 

 まずいな。こっちに関していや、正直大丈夫だと高をくくっていたから、対策に関していや、後手に回っている。

 

 おいおい。この展開は想定外だぞ。

 

「とりあえず落ち着け。レーティングゲームのシステムは機能してるんだから、死人が出ることはねえはずだ」

 

 俺は管制室の連中に声を飛ばしながら、すぐに事態の収拾を図る。

 

 すでに仲間割れすら起きている状況なら、演習の前提が崩れている。

 

 後が揉めるのはわかってるが、とりあえず演習を中止にするっていうことも考えるべきだな。

 

 つっても最悪なのは―

 

「……ヴィクターが突っかかってくるなら最適なタイミングだ! 全員警戒厳重にしろ!!」

 

 俺がそう言った、まさにその時だった。

 

 緊急警報が管制室に響く。

 

 そして同時に、黒い霧が管制室の中にまで広がりやがった。

 

 絶霧か! だが舐めるな!!

 

 この部屋は神器研究の成果を最大限に発揮して、対絶霧用の装備を厳重に仕込んでいる。そう簡単には絶霧の影響は出てこねえ。

 

 それに転移関係の術者も複数人用意している。すぐに対処すれば迎撃はできる。

 

 そしてもちろん、訓練された連中が対処を開始する。

 

 絶霧はすぐに活動を停止して、霧散していく。

 

 ……よし。これなら俺たちに転移されている連中はいねえ。逆にこっちに転移するにしても、数人程度が限界のはずだ。

 

 俺がいりゃぁ何とかなる。そう願いたいが―

 

 そう思いながら晴れていく霧を見て、俺は目を見開いた。

 

 晴れた霧の中にあったのは、筒状の物体だ。それも、三画のマークが書かれている。

 

 明らかに、核爆弾だ。

 

「……全員結界を張れぇえええええ!!!」

 

 

 

 

 




 大切な思い出を持っているがゆえに、三大勢力の和平がどうしても認められない鈴蘭。彼女の言葉が悪魔祓いたちをたくさん動かしました。……悪い意味で。

 以前アンチ作品の感想で、「イッセーたちがテオドロの訴えをガンスルーしたのが悪い意味で衝撃的」だったという意見を呼んだのはたぶんどっかで書いたはずです。

 実際のところは何処の勢力も我慢している部分はあるので、若干的外れというか原作勝ってんのかっていう感じの意見ではあります。ですがまあ、まったく一理がないわけでもない。そこに第二部のアイディアがまとまってきたこともあって、急遽こういった形になりました。







 そして、ついにヴィクターも動き出します。

 小型乍らも核攻撃すらぶちかましてきたヴィクター。さらに今回は少々特殊な事態が発生しておりまして……次回どうなるかお楽しみに!!


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第六章 73

ちょっと今回は、話の都合で短めです。


因みに書き溜めはあとちょっとでベリアル偏終了まで行きます。それが終われば第一部最終章を書きだすことになるでしょう。


 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振動が空間を震わせたと同じタイミングで、通信が響いた。

 

『こちら、第三小隊!! 負傷者が転移されない!! 転移関係のシステムにエラーが出てきてやがる!!』

 

 ……なんだって?

 

 おい、嘘だろ?

 

 このヤバイ空気のタイミングで、よりにもよって転移ができないって、まずくねえか?

 

 そして、その連絡は悪魔祓いの方にも伝わったらしい。

 

 少し動揺がしたと思ったけど、すぐに敵意の視線を俺たちに向ける。

 

「どうやら、これで悪魔の連中を殺せるみたいだな……っ」

 

 なんかマズイ。明らかに敵意が向けられている。

 

 いや、違う。これは敵意なんて生易しいものなんかじゃねえ。……殺意だ。

 

「このタイミングを逃すな。行くぞ!!」

 

「ああ、そうだ! 忌々しい和平を結ばせたグレモリー眷属め……っ!!」

 

「もう地獄に堕ちようが構うものか!! ここで貴様らだけは!!」

 

 そう言うなり、本気の殺意で俺たちに攻撃をたた込んでくる。

 

 まずい!! このままだと、俺たちも殺さないで鎮圧なんていってられないぞ!?

 

 本気で殺しにくる連中が、明らかにブちぎれて襲い掛かってくる。

 

 俺は何とか取り押さえてそれをなだめようとするけど、その瞬間に掴んだ奴が逆に俺に組み付いた。

 

「今だ!! 俺ごと討てぇええええ!!!」

 

 ……なんだって?

 

 そんな。そんなことしてまで、俺たちをどうにかしたいのかよ!?

 

 それが悲しくて、痛ましくて、俺は本気で泣きそうになり―

 

「―ああ、先に待っていてくれ」

 

 その言葉とともに、そいつごと俺を光の剣が貫いた。

 

 いっ痛ぇぇええええっ!?

 

 クソッタレ! 久しぶりの光の攻撃はさすがにキツイ!!

 

 ってそんなこと言ってる場合じゃねえ。早くこの光の剣を引き抜いてアーシアの治療をさせないと、俺はともかくこの悪魔祓いが!!

 

 俺がそんなことを思いながら体に力を入れたその時だ。

 

 ……悪魔祓いは、懐から爆弾を取り出していた。

 

「死ね! 人間を捨てた背信者が!!」

 

 そう言い捨てながら、そいつは爆弾のスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side OUt

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだ!?

 

 くそ! 状況が二転三転してねえか、オイ!!

 

 猊下に一発ぶちかませると思って気合入れてたが、いくらなんでもこれはさすがにまずいだろ!!

 

「どうすんだ猊下! 思った以上に悪魔祓いたちの不満がでかいぞ!」

 

「よもや、ここまでとは……」

 

 流石の猊下も困り顔だよ。どんだけだよ悪魔祓いたちの不満は!!

 

 っていうかな、和平結んで束縛されてんのは何処の勢力だって大なり小なり一緒なんだっつの。悪魔祓いたちだけが行動を束縛されてるわけじゃねえんだよ。

 

 それを、さも自分だけ不幸みたいに暴れやがって。悪魔側や堕天使側だって行動を制限されている部分はいくらでもあるってのが想像できねえのか!?

 

「ヒロイ・カッシウス!!」

 

 と思ったらこっちにまで攻撃が飛んできやがったしなぁ、おい!!

 

 俺はバックステップでかわしながら、その攻撃に対して迎撃を叩き込む。

 

 つっても敵も勝てると思って仕掛けてきたみたいだ。身体能力強化系の神器を持っているのか、こっちの攻撃を意外と素早くかわしてきやがる。

 

 そんでもって、俺の耐久力が低いと踏んだのか光の銃で攻撃を放ってきやがった。

 

「悪魔の側につきながら、聖槍を宿すなど我慢ならん!! ここで粛正してくれる!!」

 

「てめえらのそれは粛正じゃなくて粛清じゃねえのか、オイ!!」

 

 ガウスキャノンと光力の銃弾の撃ち合いを繰り広げながら、俺たちは走り出す。

 

 こいつら、状況分かってんのか!?

 

「てめえら! これがガス抜きが目的だってわかってんか!!」

 

「ふざけるな! 我々は悪魔たちに飼いならされたりなどしない!! 死んでも悪魔祓い(エクソシスト)として殉じる!!」

 

 そう言いながらさらに悪魔祓いの数は増えていく。

 

 そして奴らは包囲して攻撃を叩き込んだ。

 

 ……そうかい。

 

「だったらそのまま殉じてろ!!」

 

 俺は、覚悟を決めた。

 

 そして全方位に加減無用で急所狙いの魔剣を放ち、()を撃ち貫く。

 

 ああ、俺はようやくわかった。

 

 三大勢力の和平は、これ以上闘って人類を巻き込んで自分たちが滅びないようにするためのものだ。

 

 だからどこも、我慢するべきところは我慢しながらやっていってる。そして仲良くできる方法を探している。

 

 これはあくまで鬱憤晴らしだ。溜まっているガスを抜いて、我慢できるようにするイベントだ。ついでに俺も鬱憤晴らしをしたが、これはお互い様だと個人的に思う。

 

 だけど、こいつらは違う。

 

 我慢してでも仲良くしようという気がない。戦いがむなしいとか思っていない。ガスを抜く以前に、我慢する気がない。それ以前に、結果として自分たちが死んでもいいと思っている。

 

 そんな奴らに気を使ってやる必要がどこにある?

 

 旧魔王派に鞍替えした悪魔の連中と同じだ。遠慮してやる必要なんてどこにもない。

 

「もういいよ。お前ら全員、ここで死ね」

 

 俺は遠慮する気はない。

 

 リセス・イドアルの輝きとして。シシーリア・ディアラクの輝きとして。そして何より、平和を望む者たちの輝きとして。

 

 ……お互いに我慢するところは我慢するっている大前提。それを守れない連中をここで駆除しよう。

 

 さらに仕掛けてくる悪魔祓いの脳天に聖槍を叩き込みながら、俺は害獣を見る目で周りを見渡す。

 

 そこにいるのは悪魔祓い。目の前で何人も仲間が死んでも、おびえじゃなくて怒りと憎悪を向けている。そういう連中。

 

 ようは、我慢する気がない連中だ。

 

 いいだろ、別に、こいつら旧魔王派に亡命しようとした奴らと同様だ。

 

「こっから先は害獣駆除だ。……先に仕掛けたのはそっちの方だって忘れるなよ」

 

 俺は、聖槍を消すと魔剣に持ち替えて戦闘を開始する。

 

 聖槍で処罰されるのはこいつらにとっては栄光だろうが、それは聖書の神の遺志に悪い。

 

 せめて聖書の神に、これ以上こいつらの血をつけないことが礼儀だ。信仰心がないなりに、それ位の遠慮ってもんはするんだぜ、俺は。

 




ヒロイ「あまり人のことをとやかく悪く言えねえけど、お前ら最悪だ」


完全にノリがイスラム過激派になってきている悪魔祓いの過激派。故にヒロイは一切の容赦をしません。ストラーダとの戦闘も当然諦めます。


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第六章 74

 そして、俺が一歩を踏み出した時だ。

 

 空間が二か所で同時に裂ける。そして、二つの猛威が現れた。

 

 一つは大量の邪龍たち。それこそ千や二千じゃ効かない数の邪龍が現れている。しかもほかにも何百体のドーインジャーもいる。

 

 そしてもう一つは、空を飛ぶ戦艦だった。

 

 空を飛ぶ、戦艦だった。

 

 ……なにこれ。

 

 思わず唖然となる俺たちの視線の先、その戦艦から声が飛ぶ。

 

『真に信仰に生きる者たちよ! 此処は引くのだ!!』

 

 その声と共に、何体もの白い鎧騎士が現れて俺たちに襲い掛かる。

 

 俺たちはそれを迎撃するが、しかしその騎士たちは数が多くてなかなか仕留めきれない。

 

 さらにその騎士たちは、戦意を見せている悪魔祓いをかばうように行動している。

 

 ……なんか、嫌な予感がするぞ。

 

「……あなた達、いったい何者なの!?」

 

 お嬢が指を突き付けてそういうと、空中戦艦から返答が届いた。

 

『我々は真なる信仰に生きるため、腐敗した聖書の神の遺志と天使たちに牙をむくことを決意した者たちだ』

 

 ……おいおい、よりにもよって聖書の神の遺志すら腐敗したとか言ってきたぞ。

 

 流石に頭がおかしいんじゃねえかオイ。聖書の教えを信仰する連中が、聖書の神の遺志に疑問を持つってのもおかしくねえか?

 

 ……さすがにこれは、覇輝を使ってでも説得した方がいいんじゃねえかと思ったが、やっぱ無理だな。

 

 聖書の神の遺志が腐敗したとか言ってるんだ。覇輝を使っても鎮圧できる気がしねえ。

 

 ったく。まあ、ある意味好都合な気がしてきたな。

 

 現悪魔政権の膿が一斉に旧魔王派に亡命しようとして駆除できたのと同様だ。こいつらを排除することができたのなら、教会の反対勢力は一掃できる。

 

 ここで奴らを滅ぼせさえできれば―

 

『ああ、言っておくがわれわれを即座に殺せると思わないことだ』

 

 その言葉と同時に、俺たちの周囲の景色が一瞬で切り替わった。

 

 ……なんだ!? なんかギリシャっていうか地中海っぽい感じの風景になったぞ!?

 

 俺がそう戸惑っていると、そこに声が響く。

 

「貴方方には悪いですが、彼らの撤退支援が技術供与の見返りですので」

 

 その声に振り返れば、そこにいたのはデイア・コルキスだった。

 

 チッ! イグドラフォースまで来るとは、結構本腰入れて仕掛けてきたってことか!!

 

 っていうか、技術供与だと?

 

「……まさか、内通者は最初からそれが目的で!?」

 

 お嬢が何かに気づいたのか、目を見開いた。

 

 俺もなんか嫌な予感がしてきたぞ。

 

 いったいなんだ?

 

 そんな空気の中、さらに新たな乱入者が大挙して現れる。

 

「あらあら~ん? 燃え萌えしに来ましたけど、その前に説明タイムが必要なのかしらぁん?」

 

「不本意……です。けど、ある意味わかりやすくなる……です」

 

 邪龍を率いて現れたヴァルプルガ。そして複数人の人間を引き連れて現れた、アンナ・ヴェーゲリン。

 

 アンナが率いているってことは、あいつら全員ファミリアか? 一見すると普通の人間に見えるってのが気になるな。

 

 いや、戦意を燃やしているあいつらは完璧に強者のそれだ。

 

 ファミリア。思った以上にいろいろある組織なようだな、こりゃ。

 

 そんな連中を前に、戦意を喪失したままだった悪魔祓いが苛立ち混じれに銃を向ける。

 

 このいろいろ一気に怒りまくったイベントのせいで、いい加減に向こうもブチギレ気味ってわけか。ま、そうだろうな。

 

「何のつもりだヴィクター経済連合! あの船と、暴走した者たちは貴様らの差し金か!?」

 

 そうとういっぱいいっぱいなのが見てる俺でもわかる。

 

 不満満々でイライラしていたところにストレス発散の機会を得て暴れていた。そこに謎のシャボン玉で忘れていたこととやらを思い出して、いろいろ来た。しかしそれで逆にプッツンした連中が出てきて大暴れする始末。はっきり言って切れてもいいだろうコレ。

 

 だが、逆にファミリアの方がその態度に怒りを燃やし始めた。

 

「あなたたちが言うな……です」

 

 魔方陣を展開しながら、アンナが一歩前に出る。

 

 そして、それに続くようにファミリアのメンバーもまた、前に出た。

 

「黙って様子を見てりゃぁ、よくもまあ、あんだけ棚上げできるもんだ」

 

「此処でお前らを全員潰して、俺たちの怨恨を清算してやる……」

 

「教会の独善主義者が。覚悟しやがれ」

 

 ……おいおい。今度は何だよマジで。

 

「うふふ。ファミリアの皆さんはかつて教会に魔女認定された者たちの末裔で構成されてますものねん♪ 教会の人たちが理不尽を訴えるなんて、どの口が言うようなものだって感じですのよねん?」

 

 あ~。そういう連中。

 

 ま、一時期の聖書の教えはかなり排他的な連中だったからなぁ。そりゃ相応に恨まれてたりもしてるんだろうが……。

 

「何百年も前の話だろうに。……自分が直接されたわけでもないのに恨むって、なんかおかしくねえか?」

 

 少なくとも、ヴィクターの連中と組んでそれ以上に世界で血を流してまですることか?

 

 俺はそう思って挑発半分で言うが、アンナたちは苦笑すると頷いた。

 

 ……わかっててやるのか?

 

「そう……です。それぐらい、私達は教会に敵意がある……です」

 

 そしてあえて銃と剣を構えながら、アンナは一歩前に出た。

 

 そして武器を構えながら腰を落とす。

 

「そして次の代にまでのこさない……です。ここで徹底的にうらみを叩きつけて清算して、終わらせる……です」

 

 なるほどね。

 

 後代に遺さないために自分たちの代で終わらせるってか。それだけ聞けばある意味立派だよな。

 

「……なるほど。我らの先代たちが成し遂げてきた理不尽は確かにある。そのうえで、我らが理不尽を感じようと、確かにそれを嘆くには多くの血を流しすぎたのは事実」

 

 それに向き合いながら、猊下は自嘲の表情を浮かべる。

 

 それをアンナは無言で見つめていた。そこには戦意と敵意はあっても、憎悪はない。

 

「ある意味八つ当たりなのは、わかっている……です」

 

「いな。それはこのような手段に訴えなければクーデターを起こしていたであろう我らがとやかく言える筋合いではないのだろう」

 

 アンナの言葉にそう答え、猊下は静かに空を見上げる。

 

 その目に映ってるのは、一体何なんだろうか。

 

「全力でぶつかり、全力で応えてくれるものがいればわかってくれると思ったのだが、どうやら私の見積もりは甘かったようだ」

 

「そう……です。今回の作戦も、技術協力と引き換えに彼らが立てたもの……です」

 

 まじかよ。っていうかヴィクターが奴らに技術提供ってことは、あの飛行船はヴィクターとは別口なのか。

 

 ヴィクターに下るのでも積極的に世界に関わらないわけでも、当然俺たちとともに戦うわけでもない。第四の道を歩くといっても過言じゃないことをしてきやがった。

 

 これ、もしかしてかなりまずくねえか?

 

 俺が警戒心を強くしている中、アンヌは一歩前に出る。

 

 そして、その鋭い視線を猊下たちに向けた。

 

「自分達に正義があると妄信するその行動。今まであなた達信徒が積み重ねてきたツケを、今こそ払う……です!」

 

 そして、戦闘はさらに激しくややこしくなってきやがったよ、此畜生が!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は怪我をアーシアに治してもらいながら、この事態に驚いていた。

 

 なんだよ、この事態は!!

 

 今回の演習は、悪魔祓いの鬱憤を晴らさせるのが目的だったんじゃないのかよ!? なんで爆発したどころかさらにやばいことになってんだ!!

 

 ……これが、ヴァーリの言ってたことなのか? 俺が平和と感じることが、苦痛に思う人たちがいるってことなのか?

 

 くそ! 俺たちは平和に生きていきたいだけだってのに! なんでどいつもこいつも世界の命運とか高みに至るとかただ暴れたいとか言ってくるんだ! はっきり言って迷惑だ!!

 

「アーシア。イッセーは大丈夫?」

 

「はい、リアスお姉様。ですが……」

 

 リアスにそう答えるアーシアが、悲痛な視線を俺のとなりに向ける。

 

 そこには、黒焦げになった悪魔祓いの死体があった。

 

 さすがにもう死んでるやつまでは、アーシアの神器じゃ治療できない。この人はもう無理だ。

 

 というより、皆割とショックがあるみたいだ。

 

 だよな。なんだかんだで俺たちの周りの人は、和平に好意的な人が多かったからな。反対意見を言ってくる人は、たいていの場合覗き魔の俺より問題が多かったのもあったし。

 

 だけど、これはさすがにキツイ。

 

 本気で正義を信じて、だからこそ俺たちを認めない。いま戦ってたのはそういう人たちだ。

 

 明らかに悪党以外の何物でもない旧魔王派とは違う。

 

 正義とかそういうのとはまったく別の理由で戦っている、英雄派とも違う。

 

 悪意以外の何も感じられないような作戦で動く、クリフォトとも違う。

 

 数百年前の先祖の恨みを晴らすために戦っている、おれからしたらよくわからないアルケイデスやノイエラグナロク、アステカやファミリアとも違う。

 

 戦争で死ぬことが素晴らしいとかいう、意味の分からないリヒーティーカーツェーンとも違う。

 

 あくまで傭兵の集まりな、コノート組合とも違う。

 

 正真正銘、ほんの少し前の恨みで俺たちに牙を向いてる。そして、さらにやばい方向になった。

 

 あいつらの増援は、聖書の神の遺志すら腐敗したとか言ってきやがった。

 

 実は、聖書の神の教えを信仰してるなら、ヒロイに頼み込んで覇輝とか使ってもらえば何とかなるんじゃないかって思ってた。

 

 いや、もしかしたらあの人たちに協力する可能性があるのはわかってる。

 

 だけど、聖書の神の遺志は何度か俺たちに協力してくれた。もしかしたら、聖書の神の遺志は俺たちのことを認めてくれるのかもしれない、なら、聖書の神の遺志が悪魔祓いたちを説得してくれる可能性はあった。

 

 だけど、それももう無理だ。

 

 あいつらは聖書の神の遺志を見放したんだ。もう、聖書の神の遺志が説得する方向で言っても聞いたりしないだろう。

 

 そんなにかよ、そんなに俺たちが憎いのかよ。

 

 そりゃ、悪魔の中にも悪い奴はいる。だけどそれはお互い様だろ。

 

 教会だって聖剣計画とかいろいろやらかしてるだろうに、なんで俺たちが全部悪人みたいな見方されなきゃならないんだよ。

 

 ……俺たちにとっての平和は、そんなに苦痛なのかよ!!

 

「……どうやら、今回の展開がそれほどまでに気に食わないようですね」

 

 その声に、俺たちは振り向いた。

 

 そこにいたのは狼を模したプロテクターを付けた女の子。

 

 イグドラフォースの、イグドラハティ!! アルケイデスのデイア・コルキスかよ!!

 

「……ですが、私達アルケイデスよりもはるかに正当性がある復讐でしょう。そこまで否定はできないのではありませんか?」

 

 そういうデイアは、静かに魔方陣を展開する。

 

 その数も質もロスヴァイセさんに匹敵する。それだけの実力者が目の前の相手だ。

 

 そして、デイアはプロテクターの下で目を伏せた気がする。

 

「私達アルケイデスは、オリュンポスの神々の奔放に振り回された者たちの末裔です」

 

 ……。

 

 俺たちが沈黙する中、デイアも苦笑する。

 

「数千年も昔の先祖の恨みですから、貴方方には理解しがたいでしょう。それでも私たちにとっては恨みがあるのもまた事実」

 

 そしてその言葉と共に、デイアは大量の魔方陣を作り出した。

 

「先祖の恨みを晴らすため、貴方方(邪魔者)には消えてもらいます!!」

 

 その言葉と一緒に、俺たちに向かって大量の魔法攻撃が放たれた!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




 もう完全に飛行戦艦引き連れた連中は、アルカイ〇とかIS何とかのノリで作りました。いろいろ混乱状態の情勢では極端な思想に縋る連中が多いですが、これもその口です。

 この戦艦の持ちぬしは、二部にむけての伏線です。ヴィクター側とこの勢力が使用する新たな混乱を生み出す技術の安定化確立のための技術をお互いに提供するという交渉。それを飲むことと引き換えに、この演習で逆に不満が爆発した者たちを回収。その支援のついでに目障りな連中をぶちのめすのがヴィクターの作戦です。


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第六章 75

VSファミリアですね。









ファミリアはヴィクターの勢力の中では結構常識人度が高いです。


 

 放たれる銃撃に魔法に斬撃に打撃。それらすべてが一流クラス。

 

 しかも動きのタイミングが全部違う。そのせいでこっちは回避が厄介だ。

 

 なんていうか、一人の人間っていうのは大抵の場合無限の手数を持てるわけじゃない。どうしても限界がある。

 

 そんでもって、もし無限の手数を持っていたとしても、だからってここまでタイミングが違うなんてことはおかしいだろ。

 

 なんつーか……筆跡? その使い手特有のくせってのがある。固有振動数とか声紋とか指紋とか、個人のくせってのがどうしても完全に消せてたりしない。隠そうとすればどうしても無理が出る。よしんばできたとしても、そうするとどうしても本領を発揮できない。

 

 そのはずなのに、目の前のアンナとかいう女は、それをしてくる。

 

 同じ銃撃や斬撃のはずなのに、どうしても何か別ものになっている。

 

 そのせいで、俺も猊下もなかなか攻め切れない。っていうか、一人相手に苦戦してる。

 

 そしてその間に、ファミリアの連中は浮足立った残った悪魔祓いを攻撃してくる。

 

 悪魔祓いの連中も反撃してるが、それでもこっちのタイミングが悪かったな。

 

 いろいろあってパニック状態になってる連中じゃぁ、どうしても勢いで負ける。

 

 しかもあれだ。ファミリアの連中、ここで決着をつける気満々だ。決死の覚悟で死戦に挑んでやがる。

 

 そのせいで、どうしても追い込まれてやがる。

 

「くそ、異端者の末裔が……っ!」

 

「ほざけ、狂信者!!」

 

「此処で終わらせる!!」

 

「舐めるな、異端の徒が!!」

 

 お互いにマジギレして攻撃をかわし合いながら、遠慮なく殺し合いが勃発する。

 

 そして、いろいろあって出し切った感がある悪魔祓いたちの方が追い込まれてるってのがあれだ。マジヤバイ。

 

「これが、あなた達の先達が行ってきた罪の清算……です!!」

 

 飛び回蹴りで猊下を弾き飛ばしながら、アンナは素早く魔法の剣で俺に切りかかる。

 

 ヤバイ。ちょっといろいろ全力だしすぎたせいで追い込まれてるぞ、俺!!

 

「なるほど。確かに信徒もまた数々の血を流してきた。それを恨むのは必定だ」

 

 デュランダル・レプリカでその攻撃をいなしながら、猊下は唸る。

 

 確かになぁ。聖書の教えはいろいろやらかしてるからなぁ。コンキスタドールとかいろいろ。

 

 その被害者の恨みは当然受け止めてしかるべきってか。

 

 つってもやらかしたのは数百年以上前の連中だろ。俺らの代で大もめ事ってのは勘弁してほしいんだけどよ。

 

 

「これ以上、憎しみを持ち込ませない。……信徒には罪の清算をしてもらう……です!!」

 

 そう言いながら、アンナは猛攻を繰り広げる。

 

 チッ。全力でぶつかりすぎたか。俺も猊下もいい加減スタミナが限界に近いな。これ以上の長期戦は、こっちがばてるぞ。

 

 つっても、ここで猊下にやられてもらうのもあれだな。

 

 ぶっちゃけ猊下に死なれると、それこそ信徒が暴走しかねねえ。そうなったら今度こそやばいことになるってんだ。下手すりゃ悪魔祓いに触発されて他の信徒迄暴れだすぞ。

 

 そうなっちまったら泥沼の殺し合いだ。下手すりゃ核兵器迄出張ってくる大騒ぎになっちまう。

 

 そうなったら、冗談抜きでどっかの拳みてえな世紀末世界が誕生しちまうぞ、ホント。

 

 ……それは、まずいな。

 

「やらせはしねえよ!!」

 

 俺は生体電流を活発化させながら、反撃を叩き込む。

 

 それを回避しながらアンナは素早く銃撃と魔法で反撃するが、その動きに違和感を覚えた。

 

 なんだ? 動きが急にぎこちなくなってねえか?

 

「アンナもうやめろ!! これ以上はまずい!!」

 

「そうもいかない……ですっ」

 

 仲間の声すら遮って、アンナは立ち上がると攻撃を再開する。

 

 だがなんだ? この動き……明らかにおかしい。

 

 俺が無理をしすぎたときのような違和感だ。いや、それ以上に何かある。

 

 なんだ? いったい何が……?

 

「……それ以上はやめよ。続ければ死ぬぞ?」

 

 その時、猊下が声をかけた。

 

 その声は本気にいたわりが込められている。心から、痛ましげだった。

 

 おいおい猊下、一体何に気づいたってんだ?

 

「猊下、どういうこった?」

 

「答えは簡単だ、この者は意図的に亡霊を宿しているのだ」

 

 その言葉に、俺は寒気を覚えた。

 

 亡霊を宿す? そんなこと、体に悪影響が及ぶに決まってるぞ。

 

「しかも亡霊の記憶と同調して、その技量や技術を再現している。明らかに邪法の類だろう」

 

 幽霊や悪魔に取りつかれてうんぬんなんて、珍しくもない酷い話だ。それ位ならファミリアの連中だってわかるだろ。

 

 そこまでして迄、数百年も前の恨みを晴らしたいってのか、こいつらは!!

 

「……どうかしてるぜ、あんたら」

 

「ええ。そう……です」

 

 真正面から俺のボヤキに応えて、アンナは即座に切りかかる。

 

 そして俺の反応速度をわずかに超えた攻撃を放ちながら、アンナは攻撃を再開する。

 

 その目には、間違いなく決死の覚悟があった。

 

「それだけのことを、教会は私たちの先祖にしてきた……です!!」

 

 その言葉に、悪魔祓いたちが動揺する。

 

 そしてその隙を逃さず、ファミリアの連中は攻撃の手を強めた。

 

 こいつら、本気で死ぬ覚悟で―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに呆けてやがる、てめえら!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その声と共に、雷撃がファミリアの攻撃をかき消した。

 

 そして同時に銃撃がファミリアの連中を迎撃する。

 

 この攻撃は、自衛隊か!

 

 しかも嵐砕丸ってことは大尽総理か。いたのかよ大尽総理!!

 

 畜生が! いいところで出てくれるじゃねえか、総理大臣!

 

 そして龍のプロテクターに身を包んだ総理が、拳でファミリアの攻撃や邪龍を殴り飛ばしながら、吠えた!

 

「手前ら!! さっきから追い込まれ続けやがって、情けねえぞ!!」

 

 自衛隊の先陣を切って暴れまわりながら、沢入は悪魔祓いたちに大声を飛ばす。

 

「散々不満をぶつける機会で暴れておきながら、自分たちがぶつけられて追い込まれたらへこみやがって。……そんな様で、信徒達を守れると本気で思ってんのか!?」

 

「信心のない極東の俗物に何が―」

 

 イラっと来たのか悪魔祓いの一人が反論しようとして―

 

「―違うってなら立ちやがれ!!」

 

 ―それをさえぎって、沢入が一喝した。

 

 その声に、ファミリアの連中も含めて人間は一瞬立ち止まる。

 

 で、邪龍たちは一切気にしねえ。

 

 量産型のグレンデルがそんな総理に向かって拳を振り下ろし―

 

「ちょっと黙ってろ!!」

 

 見ずに裏拳で弾き飛ばす総理。

 

 ……この国、たしかシビリアンコントロールだよな。いや、たしか総理大臣が自衛隊のトップになることもあるらしいけど。いいのか平和主義国家、日本。

 

 俺があきれるやら感心するやらしてる中、沢入は吹っ飛ばされる邪龍をガン無視して、そのまま悪魔祓いをにらみつける。

 

「手前ら一応、主義方針変わってんだろ。やらかした連中の子孫に詫び入れるにしても、こんなタイミングで殴られ続けて、信徒達に胸張れるのか、ああ!?」

 

 その言葉に、何よりファミリアたちが動きを止めた。

 

 それに気づいてるのかいねえのか、総理大臣はそのまま悪魔祓いたちを見渡した。

 

「お前らなんだ? 昔通りの信徒以外を迫害する野蛮人か? 信徒の敵を殺すだけの狩人か? それとも……」

 

 そして、息を吸って声を張り上げる。

 

「信徒を守る守護者たちか、好きなものを自分で選びやがれ!!」

 

 その言葉はこの空間中に響き渡り―

 

「……そんなもの、決まっている」

 

 一人の悪魔祓いが、立ち上がった。

 

 その目には、憎悪もなければ敵意もない。ただあるのは、強い決意だ。

 

 そして、その目はまっすぐにファミリアにむけられた。

 

「我らは悪魔祓い(エクソシスト)。そして何より、信徒を悪意から守る守護者たちだ」

 

「そうだ。こんなところで殺されていいわけがない」

 

「こんなところで死んだら、信徒達に申し訳が立たない……!」

 

 自衛隊の援護を受けながら、悪魔祓いの連中は士気を上げなおしてファミリアを迎撃する。

 

 そして、ファミリアはそれを見てどこか喜んでいた。

 

「そうだ! それでいい!!」

 

「自らが正義と思ったまま死ぬがいい!! その無念こそが我らの恨みを晴らすのだから!!」

 

 楽し気に、爽快だと言いたげに。全力を出してファミリアの連中は攻撃を再開する。

 

 そして、悪魔祓いたちも全力で迎撃する。

 

 かつて、聖書の教えは確かに罪を犯した。

 

 魔女狩りによって数多くの罪のない人々を殺した。異端者を迫害し続けてきた。

 

 だけど、時代と共にそれは変わっていった。

 

 信仰の自由を受け入れ、そして天界に引っ張られる形だけど和平を少しは受け入れようとした。不満も少しは耐えていた。

 

 そして、その残っていた不満もこの演習で晴らした連中が残ってる。

 

 幸か不幸か、不満を晴らさなかった連中は離反していった。ここに残っているのは、あのシャボン玉で毒気を抜かれた連中だけだ。

 

 なら、俺たちがやるべきことは―

 

「闘え! 死ぬな! そして殺すな!!」

 

「そうだ! ここで先代たちの被害者を殺せば、我らは先代の過ちを繰り返すだけだ!!」

 

「いずれ謝罪するためにも、ここで殺すわけにはいかない!!」

 

 グレモリー眷属やシトリー眷属がなそうとしたことを、悪魔祓いたちもまた倣って行う。

 

 自分達の先達が失態を犯したことは事実だ。それを恨みに思う人たちがいるのも事実だ。

 

 だが、その先達の失態を参考に、二の轍を踏まないことはできる。

 

 ……いいじゃねえか、こういうの。

 

 そういうことなら、俺も少しは矜持を曲げてみようかねぇ。信徒たちのためになるなら、少しぐらいは良いだろうよ。

 

 さあ、成長した信徒たちに力かせよ、聖書の神さんよ。

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ!」

 

 聖書の神さん。あんたにも責任の一つぐらいあるだろうよ。

 

 魔女狩りの時代に存命だったか否かは知らねえが、そうだとするなら管理不行き届きだぜ。

 

 つーかぽんぽこぽんぽこ他の神話体系を荒らしてるのは事実なんだ。その責任ぐらいはとってくれや。

 

「我がうちに眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの間を抉れ」

 

 そして何より、あんたの尖兵の悪魔祓いたちが男見せたんだ。少しぐらいはいいとこ見せてくれや。

 

 それ位の加護は出しな、神様だろ?

 

「汝よ、遺志を語りて、輝きとなせ―!!」

 

 俺は祝詞を唱え切り、そしてそれにこたえて聖槍は強く輝く。

 

 そして、その輝きは人型を取った。

 

 悪魔祓いたちをかばうように、そしてファミリアの者たちと向き合って。

 

 ……どう出る? もしかして、必殺「神の裁き」とかでるのか?

 

 思わず固唾をのんで見守っていると、その人型の光は一つの行動をとった。

 

 簡単に言うと、頭を下げた。

 

 そして消えていった。

 

 終わり? これで終わり?

 

 えっと、その、判断はいかに。

 

「……映像はとったか?」

 

「取ったぞ。これ、最初から最後まで取れてる」

 

 ファミリアの連中がそう相談し始めている。

 

 どうも、あちら側もどう対応したらいいか困っているようだ。

 

 ふむふむ。さてどうしたもんか。

 

 一応これ、聖書の神が直々に詫びを入れた形になるのか?

 

 ファミリアの連中も困り顔だが、やがて意を決してアンナが一歩前に出る。

 

 そして、ドヤ顔を向けた。これ以上ないどや顔だった。

 

「お詫びした……ですね。神が」

 

『『『『『『『『『『ぐぅ!?』』』』』』』』』』

 

 悲鳴が大量に上がった。

 

 こりゃキツイ。

 

「はっはっは。悪いことをしたのなら謝る。主は当然のことを率先してなされたのだ、思うところはあれど誇りに思うべきだろう」

 

 猊下? いいのアンタそれで?

 

 さて、これ以下に。

 

「撤退……です。優先順位は下がったの……です。それより映像編集とネット投稿が先なの……です」

 

「鬼かアンタ」

 

 俺は思わずあんなにツッコミを入れちまったよ。

 

 いやいや、そこはもうちょっと手心くわえろよ。マジで神の裁きが起きても知らねえぞ、俺は。

 

 つってもいいのか? この戦い、一応ヴィクターの作戦の一環なんだろ?

 

 俺がそんな疑問を浮かべる中、アンナは苦笑を浮かべる。

 

「元々無理を言って参加した……です。それに、本命をおざなりにするわけにもいかない……です」

 

 本命……ねぇ?

 

 聖書の神の遺志が腐敗したとか言ってたやつらのことか。

 

 どうもヴィクターとつるんでる節があったが、本当に技術提供だけだってことか? ってことは新しい第三勢力の誕生ってことかよ。うっわぁ、勘弁してくれ。

 

 乱戦とか最悪だなオイ。ただでさえ他の神話体系もいまだ鎖国同然の連中が多いってのに。いつまでもジジババの恨みつらみに巻き込まれたくはねえんだがよ。

 

 だがまあ、これで俺としちゃ当分は大丈夫ってことかねぇ。

 

 とにかく、他の連中のカバーに入るべき……か……!?

 

 俺はそう思った瞬間、全身の力が抜けて膝をつく。

 

 なんだ!? さっきの戦闘で大ダメージは入ってねえはずだぞ!?

 

 くそ、今度は一体何なんだよ!?

 




 ファミリア、聖書の神から直に謝罪されてちょっとすっきり。そして悪魔祓いは目の前で聖書の神が頭下げる光景を目にしていろいろとショック。


 ファミリアに関しては、現在撤退作業中の第二部登場予定の敵と因縁をつけやすいので、そのまま続投ということになりました。あと、もう一つ続投する勢力があったりします。









そしてヒロイがダメージを受けましたが、これは次の話でどういうことは説明されます。

場面は変わってイッセーに戻ります。さあ、原作主人公を襲う驚異は何だ!!


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第六章 76

ところ変わって今度はイッセー。

こっちはこっちで大ピンチです!!


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、俺はすっげえことが起きてショックを受けてる。

 

 真女王の持続力はまだまだある。っていうか、出してからそんなに時間は経ってないはずだ。

 

 なのにもう切れた。

 

 今の俺は通常の禁手状態。しかも出力もちょっと下がってる感じだ。

 

 くそ! あのプロテクターも洋服崩壊(ドレス・ブレイク)なら確実に砕ける自信があるのに!! これじゃあ触れる事もできない!! 飛竜も出せない!!

 

「アイツ、スタイル良いから裸も見たいのに、見たいのに……っ!」

 

「イッセー! そんなことを言っている場合じゃないでしょう!!」

 

 ごめんねリアス! でもちょっとショックなんだ!!

 

 っていうかリアス達は何ともないの? ちょっと羨ましい!!

 

 なんていうか、俺とギャスパーとアーシアが影響を受けてる。他のメンバーはあまり影響を受けてないっぽい。

 

 いや、そういえば悪魔祓いの何人かも調子が悪そうだ。

 

 そして、そんな中デイアの攻撃は苛烈だ。しかも邪龍達やドーインジャーも来ているから、正直キツイ。

 

 だけど、何故かデイアは戸惑っていた。

 

「……禁手が解除されない? 既にその上に至っているからですか。厄介ですね」

 

 禁手が解除されてない事に驚いてる?

 

 待てよ。まさか……。

 

「まさかこの空間、神器に対して影響を与えてるのか!?」

 

「まあそうです。箱庭の中に、神の威光は届くこと能わず(イノベート・シェルター・システム)。リムヴァン様より賜った蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)の亜種禁手です」

 

 マジか!! やっぱりこいつも神滅具かよ!!

 

 そう思った瞬間、俺達の真後ろに大量のドーインジャーが召喚された。

 

 っていうか俺の足元にも出てきやがった。神出鬼没にもほどがある。

 

 そして気が付いたら、俺達の真上に魔方陣が展開されて、魔法砲撃が放たれる。

 

 畜生! デイアの奴、神滅具を使いこなしてやがる!!

 

「おほほほほ!!! ファミリアの人達はもう撤退した様ですけど、どうやらこちらは燃え萌えできそうですわねん?」

 

 しかもヴァルプルガまで出てきやがった!?

 

 っていうかまさか、この禁手って……。

 

「て、敵味方識別とか―」

 

「勿論できます。でなければ連れてきません」

 

 最悪だぁあああああ!!!

 

 たぶんだけど、この流れだとヴァルプルガの奴も禁手使えるよ。しかも神滅具の禁手だから強力なの出てきそうだよ。

 

 そんなの相手に、真女王も信頼の譲渡も飛竜も無しでやり合えってか?

 

 無理だって! 俺、一応歴代最弱の赤龍帝ですよ!?

 

『いや相棒。最早龍神の肉体すら持っているお前は歴代最強候補だと思うのだが』

 

 ドライグ。今はその特性を殆ど発揮できないんだけど。

 

 しかもチートのギャスパーと生命線のアーシアも弱体化してるんだけど。俺達の強みがごっそり奪われてるじゃねえか。

 

 どうすんだよ、この状況!?

 

 っていうか、なんで俺は普通に禁手使えてるんだ?

 

『思うに、相棒は特殊な形で禁手を昇華させているからだろう。奴の禁手が神器の位階を強制的に一段下げているのなら、お前は三段あるから大丈夫ということなのだろうな』

 

 なるほど。アジュカ様のリミッター解除様様ってわけか。

 

 ……ん?

 

 ちょっと待てよ。それってつまり、二段進化してる奴なら一段目までなら使えるってことだよな。

 

 ってことは―

 

『兵藤、無事か!?』

 

 その言葉と共に、放たれた魔法攻撃の威力がごっそり削れた。

 

 もう鎧越しならビクともしない。それぐらいに魔法の威力が減っている。

 

 これは、匙の神器の一つだ!

 

「……ヴリトラ!? なんで、これだけの出力を維持して―ッ!?」

 

 匙の声がした方向に視線を向けて、デイアは絶句した。

 

 そこには、久しぶりの邪龍変成(ヴリトラ・プロモーション)状態の匙の姿があった。

 

 うん。インパクトがあるよな、アレ。

 

「匙くん? そっちは大丈夫なの!?」

 

『俺達の側は自衛隊が手伝ってくれて何とかなってます! それに、こっちにも増援が来てくれました!!』

 

「……いやぁ、邪龍君達がいっぱいいるとか悪夢だよねぇ」

 

「ぼやくなデュリオ。今こそ信徒と天使の動くべきところだろう」

 

 その言葉と共に、大量のシャボン玉が現れると邪龍達を包み込む。

 

 そして次の瞬間、シャボン玉の内側で大量の雷やら吹雪やら嵐やらが発生して、邪龍達を吹き飛ばしていく!!

 

 更に気が付いた瞬間には、大量の聖なるオーラが巨大な剣となって、邪龍達を切り刻んだ。

 

 おお、あそこにいるのはデュリオとクリスタリディ猊下!!

 

 ゼノヴィアがその姿を見て、目を輝かせる。

 

「猊下! ご無事でしたか!」

 

「無論だ、戦士ゼノヴィア。……こちらも決着がついたのでな、今更ではあるが共闘しよう」

 

「我々は最初からそのつもりです。ではいきましょう!」

 

 そしてゼノヴィアもエクス・デュランダルを構えながら、クリスタリディ猊下を共に敵を叩き潰していく。

 

 そして、気づいた時には更に増援が出てきてくれた。

 

「ふむ、どうやら無事なようだな、若き悪魔達よ」

 

 ストラーダ猊下も出てきたよ! うわぁ、すごい勢いで邪龍やドーインジャーがぶった切られて行ってるし!!

 

「猊下! この空間をどうにかできませんか?」

 

 と、ロスヴァイセさんが魔法攻撃で邪龍達を吹き飛ばしながら猊下に告げる。

 

「本来の空間には対邪龍用の制御術式を用意しています。それが使えれば邪龍達の無力化は出来るはずです!」

 

 そんなもの用意してたんですか!? え、マジで!?

 

「……先手必勝で発動して正解でした」

 

 デイアがそう漏らすのも当然だ。出てたら返り討ち確定じゃん、そんなの。

 

 今回のヴィクターの主力は邪龍だもんな。ドーインジャーもいるけど、クリフォトが主力な所為か邪龍の方が多いって感じだ。

 

 で、でもこれは神滅具で作られた空間だろ? そんなのどうやって……。

 

「……なら、私がやろう」

 

 と、そこでゼノヴィアが立ち上がっていた。

 

 そして剣を構えるけど、それはエクス・デュランダルじゃない。

 

 デュランダルとエクスカリバーを分けて、両手に構えていた。

 

 元々エクス・デュランダルは、エクスカリバーでデュランダルの制御をする為の物だ。そうでもしないとゼノヴィアはデュランダルを制御できなかった。

 

 だけど、今デュランダルもエクスカリバーも出力が大幅に向上している。エクス・デュランダル以上だ

 

 ど、どういうこと?

 

 俺達が戸惑う中、猊下はうんうんと満足そうに頷いていた。

 

「それでいい。エクスカリバーもデュランダルもここで完結している武器だ。それを組み合わせるという行いはすなわち、戦士ゼノヴィア、貴殿の未熟の証明に他ならない」

 

「仰る通りです。お恥ずかしいところをお見せしました」

 

 猊下にそう答えながら、ゼノヴィアはちょっと顔を赤らめて向き合った。

 

「全て猊下の指摘のおかげです。本当に感謝いたします」

 

「ならば振るうがいい、戦士ゼノヴィア。いいか、パワーを恐れてはならん。デュランダル使いはパワーと共にあるのだ」

 

 な、なんか俺達には分からない世界が作り上げられてる!?

 

 いや、でもどうすんのこれ?

 

 相手は神滅具の禁手だろ? しかも、俺達神器使いの力を軒並み抑え込んでいる禁手だろ?

 

 そんなの、いくらデュランダルでも―

 

「赤龍帝ボーイ。貴殿は一つ勘違いをしている」

 

 と、俺の不安を察した猊下がそう言った。

 

 そして、その声と共にゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーを構える。

 

 そしてその圧倒的な聖なるオーラが、巨大な刃を形作った。

 

 ……すげえ。ホントに今まで以上の威力になってる。っていうかこれ、俺のクリムゾンブラスターより威力上じゃないか?

 

 そう思ったその瞬間、猊下はそれを見てはっきり言い切った。

 

「デュランダルは、()()切れるのだよ」

 

「……行くぞ、蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)

 

 その猊下の言葉を受けて、ゼノヴィアは一気に踏む込んで―

 

「―クロス・クライシス!!」

 

 その言葉と共に振るわれた斬撃が、箱庭を両断した……ぁあ!?

 

 切れた空間から元々の試合空間が見え、そして一瞬で元々の空間に戻ってきた。

 

 嘘だろぉおおおお!? こんなあっさりぃ!?

 

「……まさか、魔法で強化した箱庭を破壊するとは!?」

 

「当然だ。若さゆえに術が甘い。これでは突破は容易だろう」

 

 焦ってるデイアに猊下がそう言い切るけど、マジですか?

 

 いや、この人デイア並みにすごいロスヴァイセさんの魔法を指先一つで吹っ飛ばしてたもんな。それぐらい言えちゃうんだろ。すげえ。

 

 でもゼノヴィアがやったのはパワーによる強引な解決だと思う。なんていうか、ゼノヴィアにそういう細かい芸当は出来ないような気がする。

 

 そして、そんなこんなで邪龍達が一斉に無効化された。

 

 おお、これは一気に戦況が変わったか!?

 

「ああもう! カルディナーレの連中は何を―」

 

 ヴァルプルガが辺りを見渡すけど、そこにあの空飛ぶ船の姿はない。

 

 どうやらあっちはあっちでもう帰っていったらしい。最初っから全部ヴァルプルガ達に任せて逃げる気だったって事か。

 

 そして、残っていたドーインジャーたちは自衛隊員と悪魔祓いの連合軍が一気に削っていく。

 

 よし! だったら後はヴァルプルガとデイアを倒すだけだ!!

 

「……失敗ですね。逃げますよ」

 

「そのようねん。じゃ、撤退術式を―」

 

 デイアとヴァルプルガは術式を発動させて―

 

「「え?」」

 

 何故か、二人とも転移しない。

 

 な、なんだなんだ?

 

「悪いが、そう簡単に何度も逃がすつもりはないな」

 

 と、そこに現れたのは、黒い狗を連れた鳶雄さんだ!!

 

 見れば、辺り一面に黒い刃が展開されてる。これ、鳶雄さんの神滅具の力だったよな。

 

「この辺りに展開されていた転移術式は全て()()()。これでお前達は転移できない」

 

「……数万単位でランダムに組んだ術式なのですが?」

 

 デイアがそう聞き返すけど、鳶雄さんはゆっくりと頷いた。

 

「ああ、全部切ったとも」

 

「この、化け物……っ」

 

 顔色を変えたヴァルプルガが、鳶雄さんを睨む。

 

 そして鳶雄さんも、鋭い視線をヴァルプルガに向けた。

 

「虚蝉機関から連なる事件では世話になったな、紫炎の。……先代よりは使いこなせてるようだが、まさかその程度で俺というイレギュラーを倒せるとは思ってないだろう?」

 

「……生まれつき禁手に目覚めながら、死ぬことなく成長した規格外。姫島の系譜であったが故とは言え、ここ迄強敵になるとは困りものですね」

 

 鳶雄さんに苦笑を浮かべながら、デイアはため息をついた。

 

 うん? 観念したのか―

 

「なら走って逃げます」

 

 あ、一気に走り出した!!

 

「ハッ!!」

 

 そして空間を破った。

 

 で、そのまま虚空を踏みしめながら、次元の狭間を全力疾走で逃げていきやがった!!

 

 ありかそんなの!! イグドラシステム何でもありだな、オイ!!

 

「ちょっと!? わたしを置いて行かないで―」

 

「……どうやら見捨てられたみたいだな、ま、性格悪そうだし嫌われてんだろ、あんたも」

 

 と、ヒロイが槍を構えながらヴァルプルガに迫ってる!!

 

「さっきは活躍できなかったが、ちょっとは手柄を立てねえとな!!」

 

「同感ね。色々あったのだから敵将の首ぐらい持って帰らないとね」

 

 更にリセスさんまで参戦だよ!!

 

 あ、これヴァルプルガ……死んだな。

 

 俺が味方に見捨てられたヴァルプルガに流石に同情した瞬間だった。

 

「な、嘗めないでもらおうかしらん!!」

 

 そう吠えると一緒に、ヴァルプルガの後ろにあった紫炎の十字架が勢いを増す!!

 

 黒いオーラを支援が混ざり合って、二百メートルはある、八首のドラゴンが形成される。

 

 あ、あれは―

 

「八岐大蛇ですって!?」

 

 リアスが驚くのも当然だ。

 

 あれは、八重垣さんの天叢雲剣に宿っていたのと同じ、八岐大蛇!?

 

「これが私の亜種禁手、『最終審判による(インシネート・アンティフォナ)覇焔の裁き(カルヴァリオ)』よん♪」

 

 なんか炎の十字架に貼り付けにされた、八岐大蛇来たぁああああ!?

 

Side Out

 




デイアの神滅具は蒼き革新の箱庭。そいて、その禁手は対神器仕様。

神器相手なら問答無用で同格未満にすることができる、質の悪い禁手です。さらに自身の魔法技量との併用で、オールレンジ魔法攻撃をぶちかます強敵に!! だけどイッセーとか佐治とかのイレギュラーには効果が薄かったぜ。残念!!


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第六章 77 ……袋叩きも敵がゲスなら燃える展開である

そう言うわけで、デュランダル編ラストバトル。VSヴァルプルガです。








まあ、原作より戦力が圧倒的に多い現状ですので、どうなるのかも明白なのですが(笑


 

 あれ? 八岐大蛇? あれ?

 

 確か八岐大蛇って、八重垣なんとかが天叢雲剣に宿らせたうんぬん言ってなかったか?

 

 なんでここにいるんだ? 浄化されたって話を聞いたんだがよ。

 

「確か現聖十字架の使い手は、貼り付けにしたモデルによって禁手の姿と特性が変わると聞く。此度のモデルは八岐大蛇ということだろう」

 

「厄介だな、先代よりも使いこなしている。……素質だけはあるから面倒だ」

 

 猊下と幾瀬さんがそう表すけど、問題はそこじゃねえ。

 

 敵が強力なのはある意味問題じゃねえ。問題は八岐大蛇があるってことなんだよ。そっちが問題。

 

 八岐大蛇って何匹もいるようなタイプの龍じゃねえだろうが!!

 

「おほほほほほほほほ!!! 八重垣君の天叢雲剣と、私の聖十字架! 八岐大蛇の魂は、二つに分けておきましたのよん」

 

 あ、そういうことかよ。

 

 なるほど、つまりは―

 

「半分こされたドラゴン程度で、俺らを倒せると思ってんのか、あぁ!?」

 

 なめられたもんだな、オイ!!

 

 確かに放たれた紫炎は厄介なほどに威力が高まってるが、それでも俺達を舐めてもらっちゃ困る!!

 

「まったくね。私達英雄達をその程度で倒せると思っているのかしら?」

 

 姐さんが苦笑を浮かべ、そして前に出る。

 

 放たれる紫炎の塊に対して、姐さんは静かに目を閉じると―

 

「悪いけど、相性が悪いわ!!」

 

 その言葉と共に、姐さんは紫炎の火球を操作して、勢いよくぶつけ返した!!

 

 すげえ! 属性支配に関していやぁ、歴代の煌天雷獄使いの中でもトップクラスじゃねえのか、おい!?

 

「うっひゃぁ~。ほんとこれに関しちゃ負けてるなぁ、俺」

 

「私の紫炎をかき消すどころか操作!? こいつも化物!?」

 

 デュリオもヴァルプルガも驚くのは当然って感じだ。

 

 ふっふっふ。流石は俺とペトの姐さんだ。俺たちの英雄はすげえだろ!!

 

「どうだ猊下! 英雄を目指して考え抜いた結果も馬鹿にならねえだろ!!」

 

 見たか! 見てるか? 見てるよな!?

 

 そして目を見張るがいい。あんたが問題視した在り方だって、決して間違っちゃいねえんだよ!!

 

 姐さん最高! 俺達の輝き(英雄)はマジでかっこいいぜ!!

 

 そしてヴァルプルガざまあ!! 今の攻撃で首が一本吹っ飛んだぜ?

 

「舐めるな、このビッチ!!」

 

 だがヴァルプルガもさるものだった。

 

 どうやらさっきまでは手を抜いてたらしい。本腰を入れた火球が、姐さんのコントロールを無理やり振り切って襲い掛かる。

 

 だが舐めんな。お前はどれだけの数を敵に回したと思ってんだ?

 

「制御を続けたまえ。こちらで援護する」

 

 飛び出して姐さんと並び立つのは、エヴァルド・クリスタリディ猊下。

 

 エクスカリバーのレプリカを構えると、姐さんの属性支配と同時に支配の聖剣を起動させる。

 

 そして、また火球の制御が奪われ、動きを止める。

 

 支配の聖剣による支配と、煌天雷獄の属性支配の合わせ技か!!

 

 堕天使側の懐刀の姐さんと、枢機卿のクリスタリディ猊下の連携技! これも和平の象徴ってやつだな!!

 

「敵の数も把握できないとは残念だ。……手を抜いて勝てる戦力差と思っているのかね?」

 

「ぐぬぬぬぬ……っ」

 

 クリスタリディ猊下に痛烈な皮肉を叩き込まれて、ヴァルプルガは歯ぎしりをする。

 

 ったく。孤立無援で敵精鋭の群れを相手に、手抜きで勝てると思ってるのか、こいつら。

 

 なんていうか身の程知らずにもほどがあるな。なめられてるぞ、コレ。

 

 ……その慢心が命取りだって、教えてやるよ!!

 

「だったら直接かみ砕くだけよ!!」

 

 火球による攻撃が無意味と判断したのか、ヴァルプルガは魔法攻撃を組み合わせながら紫炎の邪龍で直接攻撃してくる。

 

 それを飛び退って回避しながら、姐さん達は邪龍を迎撃する。

 

 そして、大量の銃撃が邪龍に殺到した!!

 

「猊下を援護しろ!!」

 

「子ども達に近づけさせるな!!」

 

 悪魔祓いと自衛隊員の一斉射撃を七つの邪龍を抑え込み、そしてその隙に迫る悪魔。

 

「邪龍の半分を移植した程度で!!」

 

 お嬢の消滅の魔星が更に首を一つ消し飛ばす!

 

 そのお嬢を食いちぎろうと襲い掛かる新たな首に、大量の闇の魔獣が襲い掛かった。

 

『リアス部長には手を出させない!!』

 

 闇の魔獣とかみつき合って、その首も動きを止める。

 

 そして、そこに新たな参戦者が現れる。

 

「援護するよ、ギャスパーくん!!」

 

 おお、木場も無事だったか!

 

 っていうか、聖魔剣が明らかに今まで以上に輝いてやがる。なんだなんだ?

 

 まさか、イッセーのように新たな領域にパワーアップか!? くそ、俺も進化したい!!

 

「今の聖魔剣ならグラムじゃなくても切れる!!」

 

 その言葉の通りに、木場の聖魔剣が邪龍の首を切断する。

 

 これで残りの首は五本!!

 

 そう思った瞬間、黒い炎が首の一つを焼き尽くす!

 

『舐めるな! 邪龍ならこっちだって宿してんだ!!』

 

「ヴリトラぁあああ!!」

 

 匙に吠えるヴァルプルガだが、そんな余裕は欠片もない。

 

 一瞬で大量のシャボン玉と黒い刃が現れ、更に首を一本吹き飛ばした!

 

「流石に聖遺物を好きに使われるわけにもいかないからね」

 

「いい加減、あんたとの腐れ縁もここ迄にしたいしな」

 

 おお、煌天雷獄と黒刃の狗神のコラボレーション!!

 

 こりゃすげえ! やるじゃねえか!!

 

 これで残りは三つ!!

 

 そう思った瞬間だった。

 

 ヴァルプルガの服が砕け散った。

 

 ヴァルプルガの服が砕け散った。

 

 ……眼福だ。

 

「ペト! カメラよ!!」

 

「撮影中っす!!」

 

 そこのビッチスール落ち着け!! 信徒の前だ!

 

 あと俺にも一枚!!

 

「そんな! 対抗術式は組んだのに!?」

 

 待てヴァルプルガ。今はそこじゃないだろ!?

 

「これが透過の力だ!!」

 

 そしてイッセーは何故か鼻血を流さず少し戸惑いながら吠えた。

 

 驚くところが違うがそんなにあれか? コイツ、ちょっとスケベが収まってねえか?

 

 俺が首を傾げていると、イッセーがこっちを見てきた。

 

「ヴァルプルガのおっぱいは、野太いオッサン声の侍口調だった。どうしよ」

 

 知るか!!

 

 っていうかバリエーション豊富すぎだろ、おっぱいの声!! オッサンの声が女の子のおっぱいからするって、どこに需要がある!?

 

 それはともかく!! 残り三つ!!

 

「喰らえヴァルプルガ! 恨むならお前のおっぱいに興奮させない、お前のおっぱいの声を恨みやがれぇええええ!!!」

 

 その絶叫とともに放たれたクリムゾンブラスターが、更に邪龍の首を一本吹き飛ばす!!

 

 そして、そこから突っ込んでくる青い輝き。

 

 ゼノヴィアが、エクスカリバーとデュランダルを構えて跳びかかった。

 

 更にそれに付いてくるかのように、ストラーダ猊下も突撃する。

 

「行きます、猊下!」

 

「うむ。貴殿に合わせよう」

 

 そして振るわれるダブルデュランダルが、あっさりと残りの邪龍の首を叩き切った!!

 

「そんな、八岐大蛇がこうもあっさり!? ……でもねぇん?」

 

 一瞬狼狽するヴァルプルガだったが、しかし邪悪な笑みを浮かべる。

 

 そして気づいた時には、ヴァルプルガの真後ろに魔方陣が展開されていた。

 

 しまった! 紫炎が目くらましになって気づかなかった!! しかも紫炎が盾になってるから妨害できねえ。

 

「即興で一つ転移術式を組ませていただきましたわぁん。それではまた会いましょうねぇ―」

 

 そう言いかけたヴァルプルガの顎に、光の弾丸が叩き付けられた。

 

 結界で威力は大幅に殺されていたが、しかしそれでも高威力。脳を揺らされてヴァルプルガがバランスを崩す。

 

「今っス! 誰か取り押さえるっす!!」

 

 おお! 流石だペト!!

 

 そして、ここで、俺が出る!!

 

「逃がすか悪趣味ゴスロリ女!! 何度も何度もこっちを引っ掻き回しやがって!!」

 

 これ以上好きにさせると思ってるんじゃねえぞ? こっちは猊下とのマジバトルを妨害されて気が立ってるんだ。憂さ晴らしもかねて手柄を寄越せ!!

 

 俺は素早く魔剣を作り出す。

 

 今回の弾丸は特別製。動きを阻害する呪いの魔剣でぶちかます!!

 

「喰らいやがれ、マスドライバースティンガー!!」

 

 脳を揺らされて動けないヴァルプルガは、この攻撃を、ヴァルプルガは躱せない。

 

 そしてもろに喰らって、ヴァルプルガはお縄になった。

 




スーパーフルボッコタイムでした。ヴァルプルガ哀れ。

そして次回でデュランダル編は終了、ベリアル偏に突入します。ベリアル偏までは書き切れているので、スムーズにいけば今年中に第六章は終了するはずです。

ちょっとベリアル編ラストは衝撃的な展開になりそうなので、ちょっとだけお覚悟を……


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第六章 78 混迷する世界への序曲

デュランダル編も今回でラスト。ちょっと流れ的に微妙に変更したので、この話はちょっと長いと思いますが勘弁してくださいな。


 アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 し、死ぬかと思った。

 

 とっさに防御障壁が間に合ってなけりゃ、俺たち全員死んでたぞ。

 

 マジで核爆弾とか投入するんじゃねえよ。ホントに死ぬところだったじゃねえか。

 

「元総督閣下! お願いですから俺たちが退避するまで結界張り続けてください!!」

 

「あと五分! あと五分!!」

 

「良いから早く行け!!」

 

 くそ! あいつら核まで投入してくるか? 核戦争が勃発したら俺ら異形が総力を挙げても、割と傷跡が残るぞ。

 

 いや、もしかしたらあいつらは俺たちが核を使う必要に迫られるほどの事態になると思ってるのかもしれねえな。

 

 こりゃ、トライヘキサの封印解除も近いってことかね。

 

「ったく。交渉に成功してよかったってことか」

 

 俺はそうぼやきながら、少し前のことを思い出す。

 

 ちょっと前に、インド神話の破壊神シヴァに協力を取り付けた。トライヘキサの封印が解除されたときに対処するだけって話だが、それだけでもだいぶ変わるもんだ。

 

 だが、その時に死相が出てるとか不吉なこと言われちまった。

 

 ……だからって核はねえだろうが、核は。

 

 それに、今回の演習はある意味で大失敗だ。

 

 参加した悪魔祓いの三割が、乱入してきた連中に引き連れられる形で離反した。

 

 ヴィクターの連中とはあくまで取引しただけで、まったく別の勢力ってことなんだろうな。おそらくだが、ヴィクターの側に行った教会の連中も多くが参加してるはずだ。

 

 ったく。ただでさえヴィクターだけで手いっぱいだってのに、さらに新しく勢力が出てくんのかよ。頭が痛いぜ。

 

 ……だけどな、リムヴァン。

 

 こっちも、最終手段はもう一つぐらい用意してるんだよ。

 

 そう簡単に好きにさせっぱなしになると思うなよ? こっちも覚悟は決まってるんでな。

 

 トライヘキサの悪用はそう簡単にはさせねえ。……最終手段を使ってでも、トライヘキサは必ず滅ぼさせてもらうからな……っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで戦後処理。

 

 幸いにもレーティングゲームの技術を流用した特殊フィールドだからそのまま廃棄できるが、そこは金に困っている時期が長くてケチ根性が強い自衛隊。

 

 とりあえず空薬莢くらいは回収せんと、一生懸命動いている。悪魔祓いまで動員された。

 

 ああ、資源は大事にしないとな。今回は悪魔祓いのストレス発散に動いているようなもんなんだから、悪魔祓いにも協力してもらうのもまあいいだろ。

 

 そして、俺も動員されている。磁力操作の応用で金属を大量に回収する感じだ。

 

 バイト代、でねえかなぁ……。

 

 などと思っている中、イッセーたちの方は和やかというか賑やかというか。

 

 なんでも、アーシアの癒した人たちの手紙をストラーダ猊下が持ってきていたらしい。

 

 あと、聖剣計画の生き残りを連れてきていたらしい。

 

 とどめに、マジモンの聖杯の欠片を持ってきていたらしい。

 

 たしか、内通者のあぶり出しも兼ねてたんだよな、今回の演習。

 

 いろいろと同時進行でやりすぎだろ。認めたくはねえが猊下はマジすげえな。

 

 ……ああ、すげえのは事実なんだよなぁ。

 

 天然ものな英雄で、しかも枢機卿やってて、とどめに年季が違う。それにしてもすげえとは思うけどな。

 

「ま、そんなお人からすりゃ、俺なんか馬鹿らしく見えるのかねぇ」

 

 俺はなんとなくそうぼやく。

 

 そして、そんな俺の目の前に水の入ったコップが差し出される。

 

「どもっす」

 

 俺はそれを礼を言いながら手に取って、一口飲んだ。

 

 ふぃ~。一仕事どころか二仕事したあとの体にしみるぜぇ。

 

 しかもこれ天然水だな。美味い。

 

「ごちそうさんでさぁ……」

 

 そう思って見上げた時、そこにいたのは猊下だった。

 

「……なにやってんすか?」

 

「いやなに。結局戦いが流れてしまったので、気になっているのかと思ってな」

 

 そりゃどうも。気遣いありがたいんですが、俺はひねくれものなんすけどね。

 

 どうにもこうにも返答に困る展開だったんだが、猊下はそのままこっちも水の入ったコップを持つと、座り込む。

 

 おい。どうしろってんだ?

 

 俺がそう思っていると、猊下はイッセー達に視線を向けた。

 

 そこでは、いろいろあってうれし涙を流している木場とアーシアを囲んでいる。

 

 あとで俺も混ざるべきかねぇ。

 

「私としては、彼らのような英雄にこそ増えてほしいと思っているのだよ」

 

「さいですか。ま、あれが一番偶像的な英雄なんだってのはわかってますよ」

 

 ああ。それはわかってる。

 

 一般的な英雄のイメージってのはあれだ。悪に立ち向かい、正義をなし、そして人々を笑顔にする正義のヒーロー。勇者さまって言い換えてもいいかもな。

 

 だけど……。

 

「俺は、そんなのにはなれませんぜ。なる気もない」

 

 ああ、俺が目指す英雄は違う。

 

 血濡れで、血なまぐさくて、時として相手の正義を叩き潰す。そんな現実の英雄だ。

 

 そうだ。俺は夢物語で英雄目指してるんじゃない。

 

 ……現実に、なるって決めてるんだ。血濡れでも人の心の闇を照らす、閃光のような英雄に。

 

 血なまぐさい、人殺しな、しかしそれでも輝いている。そんな英雄に俺は焦がれたんだ。

 

 目指すと決めた。そして届いた。それは一生懸命どうすればいいか考えたからで、だからこその禁手に目覚めたからで。

 

「手ごわかっただろ、俺の生体電流強化」

 

「確かに。あれだけの努力。よほどがむしゃらに―」

 

「んなわけねえよ。研究したんだ。使うと決めてからいろいろ調べた」

 

 がむしゃらになんてやってねえ。そんなのは俺の柄じゃねえ。

 

 強引な力押しとはまったく違う、繊細なからめ手が基本の力だ。圧倒的な力に対して限界を突破するのではなく、勝つ手段を用意することで乗り越える、現実の英雄らしい力。

 

 ああ、はっきり俺は言ってやる。

 

「あんた達みたいな英雄にはならねえよ。俺が憧れたのは、道筋を見極めてきちんと進んで、進める道をちゃんと把握したからこそなれる英雄だ」

 

 そうだ。これはがむしゃらに頑張ってたら決してなれなかった英雄だ。

 

 俺は兵藤一誠を目指していない。がむしゃらにぶつかる英雄はあいつの役目だ。

 

 俺はリセス・イドアルを目指している。なると決めたからこそ、どうすればいいか考えて至った英雄に。血濡れでも輝く閃光に。

 

「俺は英雄(閃光)だ。あんたらみたいな英雄(天然もの)じゃない」

 

「そうか。……それが貴殿の結論か」

 

 少し寂しげな表情を猊下は向けるが、今更だ。

 

 それに、俺はこの水入りになった戦いで満足したわけじゃねえぞ。

 

「いつか見せてやるよ。俺が目指して進んだ英雄を目指した道。その成果をな」

 

「ふむ。ここまで貫き通したのなら、確かに私がとやかく言うことではない……か」

 

 おい爺さん。なんだその余裕は。

 

 微妙にイラっと来るが、猊下は俺の頭に手を置くとそのまま撫でた。

 

 なんだこの展開は。反抗期の孫と祖父か!! いや、もうひ孫と曽祖父だな。

 

「よかろう。この老いぼれに見せてくれ。私とは異なる結論に達した、英雄の姿をな」

 

 上等だ。この俺の人生掛けた英雄(輝き)を絶対にあんたに見せつけてやるからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 因みに、また無理がたたったのかぶり返して病院に入院する羽目になった。

 

 ……俺、出席日数が足りなくて留年って落ちを心配しそうになってきたぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、最終的にそれどころでもなくなっちまったわけだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで俺が復帰するころには、生徒会選挙も終了していた。

 

 ちなみに生徒会長になったのはゼノヴィアだ。

 

 ……どうしよう。今更だけど不安になってきたぞ。アイツ頭は良いが天然で脳筋だからな。

 

 ま、まあ匙もいるし大丈夫だろ。現実問題、生徒会ってのはあくまで教師たちの下部組織のはずだからな。教師たちが抑えるだろ。

 

 ……アザゼル先生がいらんことをしなけりゃいいんだが。時々見張っておいた方がいい気がするなこりゃ。

 

 まあ、それはともかく俺たちは、感動的な光景を見てるわけだけどな。

 

『うふふ、ギャスパーったら泣き虫さんなんだから』

 

『ヴァレリー……ヴァレリー……っ!!』

 

 昏睡状態だったヴァレリー・ツェペシュが、ようやく意識を取り戻した。

 

 ストラーダ猊下は今回の演習に俺たちが参加する代価として、本物の聖杯の欠片を持ち込んでいた。

 

 それを使うことで、幽世の聖杯を抜き取られて昏睡状態になっていたヴァレリーが目覚めたわけだ。よかったよかった。

 

 ああ、マジであれはよかったな。なにせ、聖杯はヴィクターの手の中にあるんだから。それもヴァレリーから抜き取ったもの以外にもいくつも。

 

 最悪それを人質に、動きを封じるということだって考えられる。そうなったら大変だ。

 

 ああ、俺が汚れ仕事をする必要も薄れたわけだ。一応これで最低限の態勢は整ったからな。

 

「でも先生。これで完治するってわけじゃないんですよね」

 

「まあな。だが、それにかまけてヴィクターに聖杯を好きにさせるわけにもいかねえ。最低限の保険ってわけだ」

 

 イッセーにアザゼル先生はそう答える。

 

 まあ、イッセーたちの性格だと意地でも聖杯を取り戻す!! とか言い出しかねないわけだからな。

 

 そこをついて悪辣な作戦をとる。それがヴィクターってわけじゃないが……リゼヴィムはするだろうよ。

 

 だから、猊下は保険をかけた。なくても最低限の生活は送れるという保険をな。

 

 それだっていろいろ大変なわけだ。なにせ聖遺物を吸血鬼の真祖の一族に与えるわけだからよ。教会からしてみてもさらに不満業号になりかねねえ。

 

 だが、悪魔祓いのガス抜きの代価としてなら、最低限の言い訳ができる。そう考えたんだろうよ。

 

 ま、実際はそれ以上に質の悪いことになったんで、ある意味もっと渡しやすくなったわけだがな。

 

 おれはそう思いながら、ワンセグでテレビを見る。

 

『天界は、バチカンは、聖書の神の遺志すら腐敗した!! そのうえで我ら信徒まで腐敗するなど、あってはならないことだ!!』

 

 そう演説するのは、教会で司教枢機卿を務め、ヴィクター側に離反したとされていた男だ。

 

 こいつは今、ヴィクターから離反して新たな組織を立ち上げた。

 

 そして、ヴィクターの目を盗んで独自の技術を開発し、そしてそれを運用して世界に宣戦布告したのだ。因みにヴィクターとは一部の技術を提供することで離反そのものは話をつけたらしい。……そろそろ停戦期間は終わるそうだが。

 

 その名はカルディナーレ聖教国。大義名分は腐敗したセラフに管理されている天界と聖書の神のシステムの奪還。及び神を僭称する偽りの存在の滅亡。

 

 いろいろあって精神の均衡を崩しかけていた自称敬虔な信者が、大挙してその根城となっている中東に集まってるとか。しかも、金持ちのオッサンや企業の社長がこっそりスポンサーになっているという話もある。一般人でも最近凶行に走っていた連中が大量に賛同しているとか。

 

 少なく見積もっても賛同する者の数は億に届くといわれている。いわばISなんとかのキリストバージョンだ。

 

 幸か不幸か協会の不満分子は大挙してそっちに行った形だが、これはこれで面倒なこった。

 

 ここにきて大規模な第三勢力。本当にややこしいことになりやがった。

 

「ま、カルディナーレ聖教国は大規模だが、それ以外にも大規模なテロ組織が活発に活動しているのもまた事実だ。こっから大混戦になるぞ」

 

 マジかよ先生。そんなにややこしいことになってるのかよ。

 

「先生先生。今のテロ組織に、ヴィクターや自分達に喧嘩売るほどの余力ってあるんすか?」

 

 ペトの言うことももっともだ。

 

 ヴィクター経済連合と三大勢力を中心とする和平側。すでにこの戦争はこの二大勢力によって成り立っている。

 

 それぐらい戦力差があるから、足並みが揃っていない残りの勢力では大したことになるとは思えないんだけどよ。

 

 そう思っていたんだが、先生はため息をついた。

 

「どうもヴィクターにしろこっちにしろ、この戦争が原因で不満分子が活発化しててな。技術を持ち出した上でそれを人間にばら撒いて戦力にしてる輩がゴロゴロ出てきやがった」

 

 ……まじかぁ。

 

 それはまずい。マジでまずい。

 

 なにせ魔法は兵器よりは金いらねえからな。言っちゃなんだが個人の勉強で習得できる。格闘技と一緒だ。

 

 そして、その戦闘能力は戦闘技術を習得したレベルで、戦闘装甲車両ぐらいならやり合えるレベルになる。歩兵の戦力は大幅に向上するわけだ。

 

 こりゃ、世界各国の軍事バランスが大きく変わるぞ。

 

 ただでさえ対テロ戦争が多かったこの時代。さらに泥沼になるってわけか。

 

「そう言うわけだ。お前たちの時代は本気で大変になる。……俺たちもできる限りケツ持ちするが、それでもお前らの頑張りが必要になってくるのを覚えとけよ」

 

「そうね。時代をけん引するためには、私たち若者が頑張らないとけないわね」

 

 姐さんも苦笑を浮かべるが、だけど力を込めている。

 

「安心しなさい。先輩として、できる限りは死ぬ気で頑張らせてもらうわよ」

 

「頼りにしてるわね、リセス」

 

「お姉様! お姉さまの頑張りに、ペトは涙が止まらないっす!!」

 

 姐さんにお嬢が頼もし気に微笑し、ペトに至っちゃ涙すら流してやがる。

 

 ま、俺としても涙浮かびそうなぐらい嬉しいこと言われたけどよ。姐さんがそう言ってくれるなら頼もしいぜ。

 

「ま、今は何よりもレイヴェルを応援するべきだろうよ。そろそろ見に行くぞ」

 

 と、先生が声をかける。

 

 ああ、そういやレイヴェルはライザーと一緒にレーティングゲームに参加してたんだな。

 

 相手は皇帝(エンペラー)ことディハウザー・ベリアル。俺たちもアウロスで一度会ったことがある。

 

 ぶっちゃけカマセ犬だが、それでも形だけはつけないとってことでライザーが協力を要請した形だ。

 

 ま、本当なら土壇場でのトレードは赦されないみたいだがな。レイヴェルがもともとライザーの眷属だったこととか、今回は形位整えておきたいところとか、いろいろあったらしいぜ?

 

 まあ、負け試合になるとは思うけど、それでも善戦ぐらいは望んでも罰は当たらねえだろ。

 

 さて、それじゃあそろそろ観戦に―

 

 そう思ったその時だった。

 

 通信が、響いたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファミリアは鬱憤がだいぶ晴れたっぽいし、当面はカルディナーレ方面の監視に回すしかないねぇ。どうするよ、リムヴァン」

 

「仕方ないよ。今回は詫びを入れさせに行くのが目的だし、転移の限界もあって少人数だったからね。それにデイアちゃん以外で情報を持ち帰ってくれたのはあの子たちだけだし、序列を少し下げるぐらいが限界かな」

 

「OK! じゃ、そういうことで……そろそろディハウザーくんも動くころだよね?」

 

「だろうね。タイミングとしてはこれが一番だし、そろそろ封印も解けるころだしね」

 

「いよっしゃオジさん楽しみだよ!! あ、それと仕込みはどんな感じ?」

 

「万全! Lが奴につけ狙われたときはどうなるかと思ったけど、僕って意外と覚醒できるんだねぇ。よかったよかった」

 

「あんときはマジ助かったぜ!! もう眠るのが怖くて怖くて最悪だったからよ。……で、俺がもらっていいのかい?」

 

「もっちー! こっちも意趣返しするべきだろうし―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと悪意満々の嫌がらせしていいよ。なにせそろそろ最終決戦だから、ねえ?」

 




いかに核兵器といえど、単独で地方都市を灰燼にできる異形上位クラスを前にしては致命傷は不可能でした。アザゼル頑張った。


ヒロイはヒロイでガチ勝負ができたので少しスッキリ。最終的に反抗期が抜けきらない孫とそれを見守る祖父みたいな関係になりました。









そしてカルディナーレ聖教国建国。こいつらは二部における敵勢力の一つとなります。

二部ではヴィクターや三大勢力の激戦で技術が流出したうえでいろいろあり、二強がその二つなのは変わりませんが、ほかにもテロリストや新興国などがいろいろ野望を燃やす厄介な展開になる予定です。

因みに設定関係はいろいろとでかくなりすぎたので、D×D関係者・ヴィクター関係者・それ以外の敵勢力……の三つに分けました、すべて20kbを超えていますが、これは原作の敵がごっそり抜けたことも要因の一つで、七夜みたいなすぐに終わる敵が多いこともあります。









そして、次回からはベリアル偏。当初の予定ではベリアル偏は最終章に加える予定でしたが、予定を変更して六章に移しました。


既にベリアル偏も書き終え、現在最終章前哨戦である怪獣大決戦が書き終えました、ここからイグドライバーシステム使用者や英雄はと、D×Dメンバーたちが連続でバトルを繰り広げる予定です。すでに200kbに届くぐらい書き溜めているので、当分はトラブルがなければ連日投稿できます。土日は一日にいくつも投稿しそうですね。明日はちょっといろいろあるので二話ぐらいが限界でしょうけど、感想次第で日曜からは何羽も投稿できそうです。

とりあえず、大みそかまでにベリアル偏は終わらせたいところですな。


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第六章 79

ついにベリアル編突入!!





それはそれとして、本日休養があって少々投稿が遅れました。申し訳ない。


 

 ちょっとここ数日、俺たちは気が気じゃねえ日々を送り続けていた。

 

 なんでかって? 行方不明なんだよ、大事な仲間が。

 

 ことの発端は皇帝ベリアルとライザー・フェニックスのレーティングゲーム。これが予想外の展開を見せたことだ。

 

 途中までは予定調和だ。ライザー・フェニックスのチームがぼろ負けていうか……ストレートに削られていった。

 

 ま、これは当然。なにせ相手はレーティングゲームの現トップであるディハウザー・ベリアル。そしてライザーなにがしは所詮若手の期待のホープでしかねえ。差がありすぎる。

 

 三十分立たずにライザーとレイヴェルだけになり、王自ら進軍することになる。

 

 そして洞窟に入って皇帝とぶつかったあたりで……急に映像が途切れた。

 

『レーティングゲーム中に突然の事故』

 

『王者ベリアルが試合中に消息不明!』

 

『フェニックス家三男も王者とともに行方知れずに!!』

 

 とまぁ、マスコミもこぞって取り上げてやがる。

 

 まあ、ヴィクターにいろいろやられてる中、その沈んだ情勢を活気づけるために行われたイベントだからな。

 

 それが、ふたを開けてみれば更なる大事件勃発。それも、超有名どころを巻き込んだ大騒ぎだ。

 

 なにせ行方不明になったのは、レーティングゲームの王者であるディハウザー・ベリアル。

 

 魔王に匹敵するとすら言われる超優秀な実力者だ。それが行方不明になるだなんて、大事件以外の何者でもねえ。

 

「それで部長? 追加情報とか入ってないんすか?」

 

「駄目ね。グレモリーは愚か、ベリアル家が属する大王派も分かってないみたい。サイラオーグも何もわからないって言っていたわ」

 

 ペトに対するお嬢の答えは芳しくない。

 

 ったく。教会の悪魔祓いが本格的に反乱起こして別組織を立ち上げたかと思ったら、今度は悪魔側でも大混乱かよ。

 

 堕天使陣営がちっとばかり羨ましいぜ。内通者はごっそり抜けて綺麗になったし、そのせいで上層部は一枚岩だからよ。

 

 兎にも角にも行方不明だ。それも、超一流って言葉が生ぬるいほどの実力者が。

 

 冥界政府はヴィクターが絡んでいると判断。捜索チームを結成している。

 

 ゲームの運営側はもちろん、軍や警察も動員された非常事態だ。

 

 こっちとしても身内が巻き込まれて行方不明。姐さんは最近捜索隊に参加して数日間返ってこない。

 

 ったく。どうしてこんなことになったのかねぇ……!!

 

「レイヴェル……」

 

 小猫ちゃんもへこんでるのが丸わかりだ。

 

 ったく。普段からその気にしっぷりをレイヴェルにも向けてりゃいいのにさ。ツンデレ気質だな、この子も。

 

「皇帝もライザー氏も実力者だ。それにレーティングゲームのフィールドは最近緊急用の対策が強化されたばかりだというのに……」

 

「やはり、レーティングゲームの運営陣に内通者がいるとしか考えられませんわ」

 

 木場と朱乃さんがそう話し合うなか、イッセーは食い入るようにテレビを見つめていた。

 

「レイヴェル、ライザー……っ」

 

 イッセー……。

 

 レイヴェルはイッセーのマネージャーで、将来嫁入りすることも前提だったしな。ライザーってのも最近よく話してたらしいし、それにエロ仲間っぽいところがある。

 

 こっちもこっちでいっぱいいっぱいだな。こりゃ、俺らでフォローする必要があるっぽいか。

 

「イッセー先輩に小猫ちゃん……」

 

「お二人とも、気をしっかり持ってくださいね?」

 

 ギャスパーとアーシアがフォローする中、俺はイリナに顔を向ける。

 

「天界はどう動くかわかるか?」

 

「それが、ちょっと難しいのよ……」

 

 正直期待してたんだが、イリナの表情はちょっと期待に添わなかった。

 

「カルディナーレ聖教国がらみで現存していた教会関係者の三割が離反。ヴィクター側の教会陣営も八割が彼等についたらしいわ。その対応でこちらも手いっぱいで……」

 

「まったく。カルディナーレ聖教国も面倒なタイミングで動いてくれたものだ」

 

 イリナの言葉に、ゼノヴィアが苛立たし気に壁を叩く。

 

 まったくだ。あいつ等情勢分かってんのかねぇ。

 

 しかしどうする? このまま指をくわえてみてるってのも……。

 

「皆、いる?」

 

「待たせたな。追加情報を持ってきたぜ」

 

 と、そのタイミングで姐さんと先生が返ってきた。

 

 みんなが詰め寄るようにして二人に集まる。

 

 特に追加情報ってのが耳寄りだな。このタイミングで持ってきたってことは、少しぐらいいい情報だと期待したいもんだ。

 

「先生! レイヴェルとライザーの行方は!?」

 

 イッセーが食い掛るように言う。

 

 それを手でなだめて、アザゼル先生がため息をついた。

 

「そっちについてはまだだが、一つだけ分かった」

 

 なんだ?

 

 なんか微妙に嫌な予感がするんだがよ。やっぱりまたヴィクターか。ヴィクターなのか?

 

「皇帝とライなのとかの試合で、不正が行われたみたいなのよ」

 

 と、姐さんが続けて言った言葉に、一瞬だけ沈黙が響いた。

 

 なんだ? え、不正?

 

「そんな、皇帝が不正したっていうんですか!?」

 

「即答で皇帝確定かよ!?」

 

 イッセーの大声に俺はツッコミを入れた。

 

 おいおいちょっと待て。お前皇帝が不正する理由ねえだろ。勝ち確定の状況でなんで不正する必要があるんだよ。

 

 俺もちょっとしか話したことはねえが、割と高潔な人格してるっぽいぞ? そもそも圧倒的な実力差で、不正をする理由がわからねえぞ?

 

「とは言え気持ちはわかるわね。ライザーはゲームに対しては真摯に望んでいたもの」

 

 お嬢の言葉でとりあえず言いたいことはわかった。

 

 まあ、ライザーてのはお嬢関係でそれなりに付き合いがあるみたいだからな。人となりはそれなりに知ってるんだろ。だからライザーの肩を持つ方向になる……と。

 

 つっても、だからって……。

 

「とは言え、皇帝が反則をするというのも考えづらいですね。そもそも、ライザー氏には悪いけど彼相手にそこまでする必要があるとも思えません」

 

 冷静な木場の客観的意見が、ライザーをよく知らない俺らの意見でもある。

 

 ぶっちゃけ言うけどよ、ライザーってやつの実力はあくまで上級悪魔の期待のエリートって位程度なんだろ?

 

 それに比べて、さっきも言ったが皇帝ベリアルは最上級悪魔のそのまた最上。魔王にも匹敵する化物クラス。名実ともにNo1だ。

 

 どんな大番狂わせが起きればそんなことできるんだよ。

 

「そこについてはよくわからねえ。まったくわからねえが……」

 

 と、アザゼル先生がそこで切った。

 

 そういや、ほぼ身内のレイヴェルがとんでもないことになったってのに、結構冷静だな。

 

 それ位出来なけりゃ堕天使の総督なんてできないってわけか? ま、必要なスキルだと思うんだが―

 

「ま、レイヴェルとライザーってのは大丈夫だと思うぜ?」

 

 ―へ?

 

 なんかやけにあっさり言ったな。

 

「先生。なんか心当たりでもあるんですか?」

 

 イッセーが代表して質問するが、アザゼル先生はそれに対して言いよどむ。

 

「これは俺から言うのはまずいな。俺も推測しかできてねえからよ」

 

 な、なんだ? いったい何を推測してるんだ?

 

 いったいヴィクターは何を用意したってんだよ。それとも、皇帝が何かする理由に心当たりでも?

 

 だがアザゼル先生はそれには答えない。

 

 それぐらい、やばい内容ってことか、オイ。

 

 なんかまた例のごとくトラブルに巻き込まれるぞ、コレ。絶対俺たちがケツ吹きに駆り出される展開だろ、コレ。

 

「ま、俺の推測通りなら二人の安全は確保されてるはずだ。そこに関しちゃ安心していいだろうよ」

 

 とりあえず、今回はそれで話が終わることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こういう時はとりあえず体を動かし、汗をかいて流して気分転換しよう。

 

 と、いうわけで俺は大絶賛トレーニングタイムだ。

 

 こういうのは定期的にやっとかないとな。敵だってどんどん強くなっていってるんだし、俺らも強くなっとかねえとマジヤベえ。差をつけられた瞬間に殺されるっての。

 

 継続は力なり。百の訓練に勝る一の実戦を生き残るために、百の訓練を積むってわけだ。

 

 さて、そろそろ強化改造するべきは魔剣創造化。

 

 一応、紫電の双手も黄昏の聖槍も禁手に至った。禁手は神器の究極だから、ここから爆発的に進化することはまずない。イッセーみたいなイレギュラーな進化に期待するのはダメだろ、うん。

 

 つーわけで、俺が今後の特訓で発展させるべきは魔剣創造。それの禁手に至るのが最も爆発力があるだろう。

 

 つってもなぁ。俺、毎回実戦で禁手に至ってるからな。

 

 紫電の双手(ライトニング・シェイク)の時は、シシーリアを救うべく奮起し、俺の英雄としての在り方を決めたからこそ至った。それがどんな条件下でも対応でき、俺自身が一生懸命頑張ることで使えるようになる亜種禁手、紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)だ。

 

 黄昏の聖槍は、曹操の猛威に対抗するために至った。リセス・イドアルの輝き(英雄)として、姐さんの前で曹操に屈するわけにはいかないという意地で至った。それが、曹操の根幹たる黄昏の聖槍を狙い打った亜種禁手、無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し(トゥルー・ロンギヌス・アポカリュプス)だ。

 

 つまり俺は、実戦という形で英雄として輝くことを強く願ったからこそ禁手に至れた。それぐらい、俺にとって輝き(英雄)でいることは必要不可欠なわけだ。文字通り死んでもかなえたい在り方で、そのためなら死んでもいいレベルってわけだな。

 

 つまり、俺が至るには努力して積み上げたものを実践という命がけの環境に叩き込まれて初めて至れるというわけだな。

 

 ……一歩間違えたら死ぬな。主人公体質すぎるだろ、俺の覚醒。

 

 いや、イッセーも禁手の覚醒はたいてい積み上げた努力を実戦で爆発させてたな。ああ、俺だけじゃねえ。天然ものの英雄に同じとかあれだろ、うんいい感じ。

 

 あ、でもイッセーは新技とか結構事前開発してから運用してたな。深紅の滅殺龍姫(クリムゾン・エクスティンクト・ドラグナー)とか事前に開発してたな。やっぱ天然物は違うか。

 

 いやいや。俺だってマスドライバースティンガーとか槍王の型とか事前に開発してた。負けてない。少なくとも追いすがってる。

 

 うんうん。だから頑張れ俺。きっとできる!!

 

「いよっしゃ気合入れろ!!」

 

「相変わらず頑張ってるわねぇ」

 

 そう言って苦笑する姐さんの声に、俺は振り返った。

 

「あ、姐さん!!」

 

魔剣創造(ソード・バース)の禁手を目指してるのかしら? 私も始原の人間(アダム・サピエンス)の禁手に目覚めようと思っているのよ」

 

 なるほど。姐さんもつい最近亜種禁手に至ったばかりだからな。なら最後の一つと考えるのは姐さんも同じか。

 

「そういや、姐さんの亜種禁手って名前つけたのか? アポプス相手に勝ち筋作ったみたいだけどよ?」

 

「ええ。異界跳躍(スペイス・シフト)ってつけたの。シンプルでしょ?」

 

 なるほど、確かにシンプルだ。

 

 姐さんの異界の倉の亜種禁手。ヴァーリとやり合って疲弊していたとはいえ、アポプスを一蹴する切り札になったのがそれだ。

 

 自分の肉体を一瞬だけ異界の倉の異空間に移動させることで、攻撃を完全に回避する大技。

 

 流石に瞬間的な転異しかできねえが。それでも禁手の名にふさわしい奥の手だ。

 

 そして、相反する属性を融合させる大技、煌天下の矛盾(ゼニス・テンペスト・コントラディクション)

 

 どっちも切り札というにふさわしいチート技。俺の禁手に匹敵するハイスペック禁手。

 

 こうなると、残りの神器もチートにしたいもんだ。

 

「頑張らねえとな、俺たち」

 

「ええ。そうでもしないと置いてかれちゃうものね、イッセーにね」

 

 ああ、アイツに置いてけぼりにされるわけにはいかねえな。

 

 赤龍帝兵藤一誠。史上最優とすら称される前代未聞の二天龍。天然物のヒーロー(英雄)、それも一等星だ。

 

 それに比べりゃ、俺らは六等星ぐらいなんだろう。ちっぽけな姿だ。

 

 だけど、それでも。

 

「屑星には屑星の意地がある。そう簡単には置いてけぼりにはなれねえからな」

 

「ええ。目指して進んだ英雄だって、ひとかどの存在になれるって証明して見せないとね」

 

 俺と姐さんは、そういって拳をぶつけ合った。

 




そう言うわけで絶賛行方不明な人たち多数。

此処から原作第四章は急展開を迎えるわけですよね。いやはや、D×Dで最も長くてもっともうつな展開でした。ちょっとだけ読むのやめようかと思った時もあったりなかったり。


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第六章 80話 ヒロイ「チェンジ! 姐さんにチェンジ!!」

はい、そういうわけでベリアル編で堂々と設定されたイベントです。









そう、進路相談。








さて、ヒロイの保護者枠は一体誰になるのか!!


 

 そんなこんなで数日後。俺たちにイベントがやってきた。

 

 学生のイベント、進路指導だ。

 

 イッセーたちも流石に今回は真剣にならなくちゃいけねえな。

 

 何てったって、イッセー達は親父さんたちに事情を説明してねえからな。その辺もごまかさねえといけねえわけだ。

 

 さて、俺はどうしたもんか……。

 

 と、思ったら。

 

「それじゃあ、カッシウス君は駒王学園の大学部進学が希望ですか」

 

「はい。学問というのは大事です。教会でも大学相当の学業を学ぶことはできますが、エスカレーター式の学園に通うのならそのままというのがいいとは思いましてな」

 

 ……なんでストラーダ猊下だ!!

 

 そこはせめて姐さん! 姐さんにしてくれ!!

 

「すんません先生。ちょっと身内で意思統一を」

 

 俺は我慢できず、一旦猊下を引っ張って教室の後ろに連れていく。

 

 で、そのままひそひそ声だ。

 

「なんでいるんだよ猊下?」

 

「うむ。前回の失態もあって枢機卿を辞すことにしてな。すこし今後の対応をアザゼル元総督殿と話し合おうとしたら、元総督殿から依頼されたのだ」

 

 あのマダオ! 余計なことを!!

 

 いや、確かに猊下は戦士育成機関の長で、俺も一応教えは受けてる。そういう意味では保護者……ってのも近いだろう。

 

 なにせ俺には親がいない。なら、親代わりになる人物を用意するのは理にかなってる。しかも猊下は枢機卿だから、その手の対応も即興でできてもおかしくねえといいことづくめだ。

 

 先生はそこまで考えて、即興で……いや絶対思い付きだろ。

 

 この枢機卿、意外とおちゃめなところがあるから困る。乗っかるなよ枢機卿。正体知られたらいろいろと大騒ぎだろうが。

 

「三者面談で誰もいないというのは、さすがにかわいそうと元総督殿は仰ってな。元総督殿は教師の仕事がある故ペト・レスィーヴだけで手いっぱいとのことだ」

 

 ペトは先生がやってのか!

 

 いや、なんで、姐さんじゃねえ!

 

 俺とペトと姐さんはセットだろうが。こういう時こそ姐さんの出番だと思うんだけどよ。姐さんは用務員だから楽に動けるはずだし。担任も顔知ってるから気軽に済みそうだし!

 

「ちなみに姐さんは?」

 

 絶対アザゼル先生が要らんことしたと思いながらも、俺は一応聞いてみる。

 

 それにストラーダ猊下は珍しく困り顔で顎を撫でる。

 

 なんだ? あの駄目天使何をした!?

 

「流石に高校中退が高校生の三者面談で保護者役はいかに……と元総督殿が苦言を呈されてな。それに―」

 

「―さすがに淫行がひどすぎて、今リセスさんは校長先生が直々に面談をしているんですよ」

 

 ……フォローできねえ!!

 

 あ、これ絶対無理だ。仕方ねえにもほどがある。

 

 姐さん高校生を食べすぎなんだよ。っていうかコレ、あとでペトも絶対呼び出されるぞ。

 

 姐さん、大学に進学する前にそもそも用務員をクビになるんじゃねえだろうか。

 

 俺はそんな不安を覚えながら、とりあえず席に座る。

 

「で、カッシウス君は大学卒業後の展望はあるんですか?」

 

 まあ、そうなるよな。

 

 大学部の進学もある意味適当に決めてるようなもんだからな。そっから先があるのか気になったんだろう。

 

 ま、それに関しちゃ俺にもビジョンはある。

 

「先生は修学旅行で聞いてると思いますけど、俺、もともと教会の悪魔祓いやってたんすよ。因みにこの爺さんはその戦士育成機関の重鎮でさぁ」

 

「なるほど。かなりしっかりした体つきなのはトレーニングを積んでいるからですか」

 

 うん。さすがにおかしいと思うよな。

 

 だってこの爺さん、爺さんの体つきっつーか、ボディビルダーの体つきだしよ。どう考えても老人って印象がねえ。っていうかなんで顔だけしわくちゃなんだ。

 

 東方不敗マスターアジ〇か。これて現役より衰えてるって本当にあり得ねえだろ。

 

 ま、そういうわけで……。

 

「で、ヴィクターがばらした聖書の神の死を知ったこともあっていったんクビになって、巡り巡って今や三大勢力合同で雇われてるエージェントやってるんでさぁ」

 

「となると、大学卒業後はそちらに一本化を?」

 

 まあ、そうなるが……。

 

「いや、実は一端国際NGOに参加するってことも考えてるんですわ」

 

「国際NGOですか?」

 

「ほぉ。そんなことを」

 

 先生と猊下が同時にそう聞いてくる。

 

 ま、これに関しちゃまだ考えてるってだけなんだがな。だから誰にも言ってねえ。

 

「俺は幸い武闘派で結構強いですから、最近荒れている地帯のNGO活動を手伝うついでに用心棒とかできるって思いまして」

 

 実際、ああいうところって色々大変だからな。

 

 ストリートチルドレンや災害孤児の教育とかを「余計なこと」と判断して、変なことしてくるろくでなしってのがいるんだよ。

 

 中には「ゴミ掃除」の名目でストリートチルドレンを殺してる連中までいるって話だ。この国だとホームレス狩りって感じか?

 

 そういうのはどうにかしねえといけねえ。ストリートチルドレンだった俺は、そういうところの実情を知った方がいいと思う。

 

 人の心を照らす英雄は、決して戦いだけが道じゃねえしな。見聞は広めたい。

 

「大学卒業するまででいろいろ考えてからって感じっすけど、それでいけると思ったらちょっくら休職して見分広めるってのも選択肢っちゃぁありと思いやして」

 

 ま、ホントに思いつきレベルんだけどな。

 

 ……その割に感心されたけどよ。

 

「カッシウス君。君は本当に、自分の将来のことを考えてますね。勤勉なだけでなく将来の展望も少なからず考えていて私もうれしいです」

 

「全くですな先生。英雄を目指すというありかたには不安を覚えましたが、決して目先の栄光につられているわけではないと安心しました」

 

 思った以上に高評価だな、オイ。

 

「まあ、ヴィクターとの戦いにケリがついたらにならねえといけねえッスけどね。俺、これでも主力側なんで」

 

 俺は実際にそう考えていることを、照れ隠しに言うしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、レスィーヴさんとイドアルさんの淫行は抑えられませんか?」

 

「俺が言った程度でどうにかなる手合いじゃないでさぁ」

 

 うん、そこは俺に言われてもマジで困りますぜ先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ。英雄とは戦場で名を上げるものとはいえ、ただの殺戮者で終わらないのはいいことだ。成長したな、戦士ヒロイよ」

 

「ま、英雄(ヒーロー)ってのは奉仕職業とかこの国の漫画でありやしたからね。それにほら、英雄(輝き)としちゃぁすさんだ連中の心を照らしてなんぼでしょう」

 

 そんなこと言いながら、俺らは他の連中が終わるまでだべっていた。

 

 ちっとばかしアザゼル先生に相談しておきたいこともあったからな。その辺も考えると都合がいいって感じだろ。

 

 しかしまあ、一度ガチバトルしたせいで俺はスッキリしたな、だいぶ。

 

 おかげで猊下とも普通にだべれる程度には成長できたぜ。

 

 っていうか猊下。あんたスマホゲーを暇つぶしてプレイしてるんですか。俺より俗世を満喫してませんかい。

 

「ああ、これを飲むといい。私が賜った土地で育てたブドウで造ったぶどうジュースだ」

 

「あ、ども」

 

 しかもジュース奢ってもらえたよ。

 

 ……ん? これヨーロッパのぶどうジュースだけど、検疫通ってんのか? 転移で来てたらまずくね?

 

 よし。全部飲んで証拠隠滅だ。こんなあほなことで猊下が怒られたら信徒もいろいろ複雑な気分になるしな。

 

 あ、うまい。作り立ての天然ジュース美味い。

 

「お、ヒロイじゃねえか。もう終わったのか?」

 

 お、アザゼル先生来たな。

 

 あれ? 確かペトの保護者ってことで参加してなかったか?

 

「ペトは?」

 

「リセスと一緒に説教受けてる」

 

 ああ。そういやそんなこと言ってたな。

 

「アイツ、SE〇カウンセラーを目指したり、一度A〇女優やってみたいとか言っててな。説教すごくなるぞ」

 

 ……俺が一緒に参加させられそうなんで、念入りに説教お願いします。姐さんにもしっかりやっといてください。

 

 っていうか、それを教師の前で言うなよ。女子大生で〇V女優やる奴とかもいるらしいけどよ? それいったらまずくね?

 

 いや、確かにペトも姐さんにカウンセリングうけて回復したもんだからそれはそれでいいんだけどよ? だからってそれ堂々と名乗るか?

 

「自分が回復した経験を活かしたいとか言ってたから、女優の方言ってくるまで担任も困ってたからな」

 

「……アイツ開き直ってねえか?」

 

 ペト。ソウメン相手に一発かまして吹っ切れすぎだ。聞かされる担任の身にもなれっての。

 

「猊下。あとでちょっと説法してくれませんか? いや、切実に少し改善したほうがいいってコレ」

 

「ふむ。確かに堕天使とは言え協会と連携を取るのだ、名の知れた精鋭がはしゃぎすぎるのはさすがに看過できんか」

 

 猊下も乗り気になってくれてるし。その調子でお願いします。

 

 いやマジで。姐さんとペトはさすがに覇者すぎだ。もうちょっと性的に落ち着いてください。

 

 っていうか姐さんはやらかして大打撃だろうが。

 

 ……気を取り直そう。ちょうどいい機会だしな。

 

「ああ、ちょっと先生と猊下に相談したいことがあったんだ。場所、変えてくれね?」

 

 流石にここでペラペラしゃべる内容じゃねえ。結構まじな話だしな。

 

 二人ともそれを察してくれたのか、ちょっと真剣な顔になってくれた。

 

 さてさて、これはOK出てくれるかねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖槍を引っこ抜けるかどうかだぁ?」

 

 アザゼル先生が素っ頓狂な顔するのも無理はねえな。

 

 俺の言ったことは本当にあれだ。いろいろもったいないことしてるようなもんだし、今後の英雄街道にも影響するからな。

 

 だけどまあ、それでもこれでも結構考えての話なんだよ。

 

「いや、何も今すぐじゃねえよ。あくまでヴィクターとのケリがついたらって話でな」

 

「ふむ。まずはわけを聞こうか」

 

 俺が反論すると、猊下はそういった話を先に進めてくる。

 

 うん。この人は枢機卿なだけあって話が分かる。

 

 まあ、大したことはねえよ。

 

「いやな? そもそも俺みたいな破戒信徒が聖遺物の使い手ってのもあれだろ? 前からその辺は気にしてたんだよ」

 

「そこは信仰に目覚めてほしいのだが……」

 

 すんません猊下。七年かかっても無理でしたんで、ちょっとあきらめてくだせぇ。

 

 ま、そういうわけで俺としても、信徒に対して自粛したいって感情はあってな。

 

 ヴィクターがらみでかなり不満分子が動いているから、それを鎮圧出来りゃぁだいぶ余裕が出るとは思ってんだ。

 

 そうなるころには俺もそこそこ老いているわけで、一線を退いて何かするってのも考えねえといけねえだろ。

 

 NGOうんぬんはそこまで考えてだ。大規模な戦争が終われば、あとの戦いは小規模だし、そうなるころには全盛期を超えてるだろうからそういう活動をするのもいい。若いころに終わるとしても、見分広めて輝き(英雄)として活動を広げるのもいいはずだ。

 

 ま、そういう時になったら、聖槍はもっとふさわしい信心深い連中に与えるべきだって思いいたってな。

 

 もともと俺が聖槍持ってるのは問題視してる連中も多いからな。それを自主的に信徒に返還すりゃ、教会の和平反対派もいいイベントが起きて溜飲下がるだろ。……大半カルディナーレ聖教国とかに行っちまったから今更だけど。

 

「ま、そういうわけだよ。老後の相談みてぇなもんだ。今すぐってわけじゃねえしさ」

 

「ったくだ。今更お前を主力から外すなんて、今の俺らにそんな余裕はねえよ」

 

 っすよねぇ。

 

「ふむ。熟考しての結論で、かつ戦後の話だというのなら私から強くは言えんな。信徒達からすれば一種の朗報にもなるだろう」

 

 猊下は猊下で、まあいろいろと理解してくれた。

 

 まあ、猊下は俺の問題児っぷりをよく見てるしな。その辺考えると強く言えないだろ。

 

 ま、これはあくまで予定だ。その前に戦死するかもしれねえし、移植技術がうまくいかねえってこともあるだろうしな。

 

 俺はそう内心で結論付けながら、聖槍に視線を向ける。

 

 さんざん力借りたなっていうか、当分借りるだろうな。お前も信心ない俺なんかに使われて、思うところがあるだろうによく力貸してくれたよ。

 

 ま、俺の次の代は俺が戦死しなけりゃ信心深いし、お前ももっと気が楽だろう。

 

 ……いや、ホント信心深い人に継いでもらってほしい。正直ちょっと申し訳ねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フラグじゃねえからな! 絶対だからな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕食は、かなり豪勢というかテンション上がっている人がいた。

 

 イッセーの両親が、イッセーが将来をかなり真剣に見据えていてしかも実現可能ってことで、喜んでいたらしい。

 

 何でもイッセー。上級悪魔になってからの展望をうまく人間世界風にして語ったらしい。

 

 大学を卒業したらグレモリー系列の会社で就職。その後系列会社でもいいから独立したいか。

 

 確かに、いい感じに虚実織り交ぜてるって感じだな。問題は、このままだと遅くとも大学在学中に起業することになるんだろうってことか。

 

 ふむ、イッセーもいろいろ考えてるんだな。

 

 俺もまあ、いろいろ将来考えてるけど、イッセーだっていろいろ考えるようになるってことか。

 

 ホント、こりゃ敗けてらんねえわな。

 




ヒロイ、完全に反抗期の孫であるの巻

因みに、ストラーダが責任を取ることになりました。演習における悪魔祓い側のトップだったことと、日本では総理が成果上げすぎて支持率高いので、辞任させるわけにはいかなかったというのが設定的な理由。メタ的には、アザゼル杯でリアスのチームにするにしても、現役の枢機卿から出るのはさすがにどうかと思ったのが理由です。








そして、ヒロイはヒロイでいろいろ考えています。

暗闇の中にいた自分を照らした輝きになることを目的としているヒロイ。その方法は一つではないと、吸血鬼の里でのリセスとの会話で思い至りました。

そして聖槍の返還も割と考え中。

こちらについてはヒロイは前々から「信心があまりない自分が聖遺物持つのはどうよ」と思っていたので、自分が持つ必要性が薄れたのならそれもありかと思っている感じですね。っていうか原作の聖遺物系神滅具、なんで全部信心なさそうな連中につかわれてんだよ。一人ぐらい信徒から出ろよ。いや、聖十字架は信徒に代替わりしたけど。




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第六章 81話

そろそろレーティングゲームの闇が明かされる今日この頃。

嵐の前の静けさ的な話になります。


 

 でだ。俺たちは駒王町の地下にある空間に訪れてた。

 

 教会との演習に前後する形で、最上級悪魔のタンニーンさんから頼みごとをされたんだ。

 

 絶滅危惧種レベルの希少種ドラゴン、虹龍(スペクター・ドラゴン)の卵が産まれたってよ。希望の星だとのことだ。

 

 だが、冥界の空気は卵に悪くて孵化する前に腐るかもしれねえそうだ。そういうわけで、孵化寸前の卵を人間界に置くことにしたらしい。

 

 タンニーンさんはドラゴンアップルっていう人間界では絶滅しちまった果実を確保するために転生悪魔になった、非常に人格者なドラゴンだ。

 

 だけど、今度は冥界の空気だと卵が産まれないドラゴンが出てくる。難儀なもんだぜ。

 

 で、その保管場所して選ばれたのはこの駒王町。

 

 いろいろトラブルが頻発してるこの街だが、それゆえに厳重な警備がされてる。今更警備が薄いところにおいて、この希少種な卵を狙った不埒な奴に狙われるのもあれだ。警備を厳重にするにも限度があるしな。

 

 と、いうわけでピーキーな判断だがここが選ばれたわけだ。つーわけで俺たちもいろいろと様子を見てる。

 

 まあ、ある意味最強の守護神が守ってるわけなんだがな。

 

「我、卵守る」

 

 などといって卵を抱きかかえるのはオーフィスだ。

 

 今でも準最強格のドラゴンが守護者やってる卵。どう考えても襲ってきた連中がご愁傷様だろ。仕掛けてきたやつの冥福祈るぜ、俺。

 

「オーフィス、その卵気になるのか?」

 

「我、子育てしたことないから興味津々」

 

 と、イッセーに応えるオーフィス。毎日ここに通い詰めている。

 

 なんか卵やら孵化やらドラゴンやらのキーワードが気になったのか興味津々らしい。

 

 ……力加減に失敗して割るとかいうオチだけは勘弁してくれ。龍王VS龍神のガチバトルとか巻き込まれたくねえ。

 

 なんか、卵からドラゴンから生まれる瞬間を見たことないらしい。長い間生きていてるわりに、オーフィスはそういう経験が全くねえな。

 

「オーフィス、そういう時はしっかり温めるッス。ちょうど冬だし厚着するのもありっすよ」

 

「分かった。ダッフルコートもらってくる」

 

 なんでコートの種類の知識なんて知ってるんだ?

 

 まあ、そんな事より俺が気になるのは……。

 

「……」

 

 少し離れた視線で座り込んで、オーフィスをじっと見ている人間体のクロウ・クルワッハ。

 

 なんか知らんが、いつの間にやらタンニーンさんの食客やっていたらしい。

 

 こいつもこいつでよくわからん奴だ。ヴィクターの用心棒やってたくせに、ヴァルプルガが共闘の意志を見せたら機嫌を悪くしたらしい。

 

 ヴァーリにしろこいつにしろ、ヴィクターに参加しておきながらなんで平然とこっち側に来てんだろう。もうちょっとこう、帰属意識とか味方意識とか持てよ。食客にするあたりタンニーンさんも俺らとは違う価値観だな。

 

 まあ、イッセーやオーフィスに勝負を挑んで断られたらあっさり引き下がるあたり、アポプスやアジ・ダハーカよりはましなんだろう。タンニーンの頼みもきちんと聞いてるし。

 

 普通に見ると通報される絵面だが、まあそこはスルーしてやろう。年齢差はむしろ逆だろうし。武士の情け武士の情け。幼女を見ている黒コートの男なんて言うあれな絵面は気にするな。

 

「……そういえば聖槍使いと煌天雷獄使い。俺と戦え」

 

「いや、今ちょっと勘弁してくれ」

 

「身内が行方不明で気が気じゃないのよ。それが終わったら手合わせぐらいは受け付けてあげるから」

 

「……そうか」

 

 あっさり引き下がるなこいつも。アジ・ダハーカとは別の意味で理解できん。

 

 俺が首をかしげてると、アーシアがなぜかバナナをもってクロウ・クルワッハに持っていった。

 

「あ、あの。何もしないのもあれですし、良かったらこれをどうぞ」

 

 ……邪龍にバナナか。

 

 そういえば、オーフィスも食ってるな。あむあむと無表情なのか笑顔なのかよくわからんかんじで。

 

「バナナといいます。おいしいですよ?」

 

「………」

 

 すさまじい絵面だ。クロウ・クルワッハも受け取ってるが困り顔だ。

 

 まあ、大丈夫だろう。

 

 オーフィスから加護をもらって契約関係で効果が出ているらしいしな。邪龍との相性も量産型四体と契約しちゃった分あるだろうし、ファーブニルもいる。

 

 アーシアに暴力を積極的に振るうような下衆じゃねえだろ。タンニーンさんも認めているドラゴンだしな。いくらバトルマニアでもそんな挑発行為はないだろ、うん。

 

 ……ファーブニルか。

 

「そういや、ファーブニルって目覚めたのか?」

 

 最近全然見てないしな。ちょっと気になる。

 

 リゼヴィムにボコられながらもボコり返したらしい。タンニーンさんが火力『だけ』なら魔王クラスってことを考えると、超越者相手に大金星だ。

 

 だが、そっからずっと眠っているらしい。

 

「それが、最近全然呼びかけにも答えてくれないんです」

 

 ああ、やっぱり。

 

 まさか猫のごとく死ぬときに姿を消すとかいうわけでもねえだろうが、ちょっと気になるな……。

 

 俺たちが神妙な感じになるが、その空気に声が飛んだ。

 

「心配いらない。ファーブニルは戦ってる」

 

「奴も龍王だ。あのまま引くようなタマではあるまい」

 

 ……バナナ片手に龍神と邪龍がなんか言ってるよ。

 

 別の意味で空気がほぐれちまったな、コレ。

 

 っていうかどこで戦ってるんだ? 今負傷中だから戦いようがねえだろ。

 

 っていうかリゼヴィムをどうやって倒す気だ? あいつ、今現在ヴィクターの勢力圏内だから龍王が暴れたらさすがに騒ぎになりそうなんだが……。

 

 さてさて、どうしたもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「L~! 準備完了だよ~」

 

「サンキュー! これでおじさんも意趣返しができるってもんよ!! そっちも準備は?」

 

「後は生贄がちょっとあれば行けるね。じゃ、天龍になってもらおうかな?」

 

「いいねいいね! クリフォト(俺たち)に対抗するための組織の主力で、トライヘキサが封印解除だなんて皮肉が効きすぎてるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなある日、俺たちはある人物から呼び出しを受け、行動することになった。

 

 呼び出されたのはグレモリー眷属&シトリー眷属に俺らとイリナっていういつものメンバー。

 

 そして呼び出したのは、四大魔王が一角、超越者アジュカ・ベルゼブブ様。

 

 ……なんかすっげえ嫌な予感がするぜ。大事確定だろ、コレ。

 

 そんなこんなでちょっと緊張していた俺だが、ふと出くわした人がいた。

 

「あ、親父さん」

 

「ああ、ヒロイ君か」

 

 と、親父さんが苦笑を浮かべていた。

 

「何かあるのかい?」

 

「ええ、ちょっとオカ研と生徒会に関係者が会いたいと」

 

 さて、どこまで話したらいいものかと思ったが、親父さんは朗らかに笑った。

 

「ああ、気にしなくていいよ。学生さんには学生さんでいろいろとあるんだろ? リセスさんもついているし大丈夫だと思ってるよ」

 

「……姐さんは別の意味で監視役が必須っすけどね」

 

 あの淫乱お姉さんは、ちょっと監視が必要なんじゃないかって気がして困るぜ。

 

 頭痛を押さえていると、親父さんは俺に向かって頭を下げる。

 

「……イッセーと仲良くしてくれて、本当にありがとう」

 

 へ? いや、別にそこまでするようなことじゃ……。

 

 俺はちょっときょどるが、親父さんはしかしなんか頭を抱え始めた。

 

「うちのイッセーはいい子なんだがスケベすぎてな。松田君と元浜君も同じ感じだから、それ以外の友達があまりいなくてなぁ」

 

 ああ、確かに。

 

 あいつド級の変態だもん。覗きの常習犯のままハーレム作ろうとか甘いっての。せめてバレるな。

 

 そりゃ親御さんとしても不安だろう。なまじいいやつだから嫌いになれないところもあるだろうしな。

 

「それが最近はたくさんの女の子に好かれて、君達みたいな男友達にも恵まれてる。……それも三大勢力のエージェントとかいう、すごい人にだ」

 

「まあ、アイツはアイツで味ありますから。付き合ってると嫌いになれねえんすよ」

 

 ホントそれだ。

 

 変態の女の敵だからとっつきにくいが、一度付き合っちまうと嫌いになりにくいタイプだ。味がある。

 

 それに、アイツは冥界におけるヒーロー(英雄)だしな。

 

 俺にとってもライバルだ。英雄を目指す身としては負けられねえ。

 

「俺の姐さんもペトも、イッセーのことは仲間だと思ってます。だからまあ、アイツがその信頼を裏切らない限りダチでいますよ」

 

 ま、この言葉は信頼を裏切ったら敵になるって意味だけどな。

 

 そんなこと……ないよな? いや、変態だしいつか性犯罪をさらに悪化させるか? いやいや、あんだけ美少女に囲まれてそんな馬鹿な真似は…‥まだ時々覗きしてるなぁ。

 

 俺が困ってると、親父さんは自信満々な表情を浮かべた。

 

「それは大丈夫! あいつはホントに誠実な奴だから、安心できるよ」

 

 ……ああ、そう言われたら安心だ。

 

「ま、これからもいろいろあると思いますけど、俺は基本的にあいつの味方っすから」

 

 俺は言うと、アジュカ様に会うべく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 できれば、もう少し話をするべきだと、今になると思ってしまうんだけどな。

 



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第六章 82 不正だらけの『王』

はい、原作における不正説明回にようやく突入します。


此処と次の話は長めになりました。


 

 転移の光に包まれた俺たちは、そのままとある空間に来ていた。

 

 どうやら魔王城らしい。その一室というか、警戒厳重な場所に出てきちまったな。

 

 っていうか、なんか物々しいな。

 

「何かしら、これ?」

 

「やけに厳重大勢だね。戦争でもするのかという感じだ」

 

「うぅ……緊張が酷くなってきました」

 

 イリナや木場が怪訝な表情を浮かべ、ギャスパーもまた久しぶりにビビってくる。

 

 ああ、なんだ、この状況。

 

「なんだ? 今更アジュカ様がヴィクターにつくとは思えないが」

 

「ということは、ヴィクターが動くような何かがあるということでしょうか?」

 

 ゼノヴィアと朱乃さんも警戒の色を見せる中、俺たちに一歩前に出る人がいた。

 

 汚れながらも清楚さを宿すその少女を見て、俺は緊張感が結構解けた。

 

「シシーリア!」

 

「お久しぶりです。駄馬ではありますが、案内させていただきます」

 

 そして、そのシシーリアの緊張具合に一瞬で再緊張する。

 

 シシーリアも結構緊張状態だ。ちょっと前は俺の顔を見るとすぐに緊張が解けたんだが、今は警戒態勢を残していたままだ。

 

 それをよく知っている姐さんとペトも、さらに警戒の色を濃くする。

 

「どうしたんすか?」

 

「……ヴィクターに喧嘩でも売られたの?」

 

 その言葉に、シシーリアは首を振った。

 

「……詳しいことは、アジュカ様が直接話します。正直ここでも話せません」

 

 おいおい。こんな中枢部でも話せないとかマジかよ。

 

 いったい何があった? まさかヴィクターに襲撃された後とか言うんじゃねえだろうな。

 

 何か不安になりながらシシーリアについていくと、そのまま警戒厳重な一室に連れていかれる。

 

 そして、そこには複数人の転生悪魔を引き連れたアジュカ様がいた。っていうかその転生悪魔、以前リムヴァンとやり合ってたアジュカ様の眷属だよ。

 

「面倒な手順で済まなかった。上役たちを警戒するとどうしてもせざるを得なくてね」

 

 そういうアジュカ様の表情も、かなり鋭い。

 

 そして、そのアジュカ様の後ろには、ベッドが一つあり―

 

「「―レイヴェル!!」」

 

 イッセーと小猫が目を見開く。

 

 ああ、そこに眠っていたのは行方不明になっていたレイヴェルだった。

 

 お、おお!! ホントにいた!!

 

「彼女については問題ない。ディハウザーの無価値で不死を一時無力化されていたが、既に元に戻っている。命に別状はないことは俺が保証しよう」

 

 そのアジュカ様の言葉に、俺たちはほっとする。

 

 ふぃ~。とりあえずこれで一安心―

 

「アジュカ様。その、ライザーの方は?」

 

 あ、お嬢の言う通りだ。

 

 俺はよく知らねえが、そもそもレイヴェルがこんなことになったのは兄貴の眷属枠を埋めるためだったはずだ。で、兄貴も行方不明だったんだった。

 

 ここにいるのはレイヴェルだけだ。兄貴の方はどこ行ったんだ?

 

 俺たちの視線が集まる中、アジュカ様はしかし静かに答える。

 

「彼はすでにフェニックス家に送っている。そちらにも信頼できる護衛をつけておいたから安心していい」

 

「……なぜ別々にしたのか、理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 

 ソーナ会長があえて踏み込む気持ちもわかる。

 

 わざわざそんなことをする理由がわからねえ。っていうか、この物々しい厳重警戒態勢にする理由だって、レイヴェルがD×Dのメンバーだということを考えても不自然だ。

 

 っていうか、皇帝に不死を無効化された、だと?

 

 そこ迄分かってるなら、皇帝の場所にも心当たりがあるんじゃねえか? その皇帝もどこに行ったんだよ。

 

 色んな意味で疑問だらけだ。その辺についての説明、してくれるのか?

 

「その件について説明するにあたって、ライザー・フェニックスには詳しく説明するわけにはいかなかった。今回の一件は、つつきどころを間違えれば冥界で二度目の大規模の内乱が発生しかねない危険なものだからな」

 

 ……穏やかじゃねえな、オイ。

 

 何だよいったい。皇帝の行方だけはまだ何も言ってねえのと関係があるのか? しかも当事者のライザーに説明が行かないようなレベルってことだろ?

 

 内乱が勃発するって……ほんとにどういうことだよ、オイ。

 

「……それで、具体的にどういうこと?」

 

 姐さんが先を促し、アジュカ様はポケットから一つのものを取り出した。

 

 赤い、チェスの駒のような物体。

 

 ……悪魔の駒、か?

 

「あれ? こんな悪魔の駒、あったッスか?」

 

「ああ。これは上層部のごく一部だけが知っている駒だ。下級悪魔で知っていたのは、シシーリアぐらいでね」

 

 ペトの質問に答えるアジュカ様の言葉に、シシーリアが頷いてハルバードを手に持った。

 

「ヒロイさん、皆さん。それはここにも取り付けられています。……ここの宝玉の中をよく見てください」

 

 ん? ハルバードの装飾の宝玉の中?

 

 俺がまじまじとのぞき込むと、宝玉と色が同じなんでわかりづらいけど、確かにアジュカ様が持っているのと同じ駒が埋め込まれてるな。

 

 ん? でもシシーリアはすでに騎士の駒で転生してるはず。新たに駒を用意していいのか?

 

 っていうか埋め込んでねえな。いや、ハルバードの埋め込んでるけどシシーリアに埋め込んでねえな。それなんか意味あんのか?

 

 俺たちが首をかしげてるなか、アザゼル先生はふんふんとうなづいた。

 

「なるほどな。そういうことか」

 

「そう言うことです、アザゼル監督」

 

 あの、技術者同士で理解し合ってないでこれについて説明してくれねえ?

 

「これは、『王』の駒だよ」

 

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 

 アジュカ様の言葉に、俺たちは驚いた。

 

 王の駒? それが、この悪魔の駒の名前なのか?

 

 いや、悪魔の駒に『王』なんてあったのか? 転生悪魔制度は知ってるけど、そんな話聞いたことねえぞ?

 

 第一、そっちについては詳しいだろうお嬢やソーナ先輩だって驚いてるじゃねえか。普通に考えて、お嬢や先輩たち『王』が使用するのが当然だろ?

 

「いや、まさかマジモンを見れるとは思ってなかったぜ」

 

「知ってたんですか、先生!?」

 

 訳知り顔で頷いた先生に、イッセーが驚いて声を上げる。

 

 それに対して、アザゼル先生は静かに首を振った。

 

「噂だけだがな。ま、協定を結んでからあるだろうとは思ってたけどよ」

 

 う、噂はあったのか。

 

 っていうか先生がうすうす気づいていたってことは、たぶん他のお偉いさんでも勘のいいやつは気づいているってことか。それとも、上役がにおわせている?

 

 俺がそんなこと考えているが、お嬢は二度見しながら驚きを隠していなかった。

 

「ま、まってください。『王』の駒は作成技術が確立できず、登録を石碑に済ませることでシステムを動かすことになっていたはずです」

 

 あ、やっぱりお嬢たちはこの駒を使用してねえのか。

 

 ま、知ってたならここ迄驚くわけねえわな。そういう腹芸が得意な御仁じゃねえし、する意味もねえ。

 

 そしてそんなお嬢の言葉に、アジュカ様な頷いた。

 

「ああ、『王』とは本来登録制だ。いや、あえてそうしたんだ。この『王』の駒を表に出さないためにね」

 

 へ?

 

 別にこの駒の存在が知られたからって、問題ねえだろ。

 

 チェスの駒に合わせて作られてるのが悪魔の駒なんだろ? だったら王の駒があろうがなかろうが問題なくね?

 

 それよりシシーリアが王の駒を持っている方が問題ある気がするんだけどよ……。

 

「……転生悪魔が昇格した際、既に内にある駒とこの駒の重複および融合を懸念していてね。シシーリアの持っている魔王の祝福(キングズ・オーダー)は、転生悪魔での安全運用技術の確立及び、緊急時の封印措置などをより確実に行うために開発されたものだ」

 

「私は本来、そのテスターとしてアジュカ様につかえている形なんです。駄馬のくせして黙っていてすみません」

 

 アジュカ様の言葉を引き継ぎながら、シシーリアは勢いよく頭を下げた。

 

 いや、お嬢ですら知らねえ情報を悪魔でもねえ俺たちに言うわけにはいかねえのは当然だから、そこは気にしなくていいぜ?

 

 それに、問題はそこじゃねえ。

 

 なんで、そんなことまでしなくちゃいけねえんだよ。

 

 俺がそんなこと思ってる間に、アジュカ様は王の駒を手の中で遊ばせる。

 

 そして、それに反して口調はかなり真剣だった。

 

「この駒の特性は単純な強化だ。ただし、その強化率は『女王』の駒の比ではない。使用者の素質次第ではあるが、十倍から百倍以上の強化が可能になる」

 

 ま、マジか!

 

 十倍から百倍って、オーフィスの蛇並みじゃねえか! いや、それより上かもしれねえレベルだぞ、オイ!!

 

 い、いやいやいやいや。そんなの作れてるなら、なんで他種族から紛い物の悪魔なんて用意するんだよ。必要ねえだろ、マジで。

 

 王の駒だけ作って、本来の悪魔全員を超人にした方が簡単だろ。そっちの方が上役的にもうはうはじゃねえの? 純血主義なんだし。

 

「あの、そんなのがあるなら他種族を悪魔にする必要ないと思うのだけれど」

 

「確かにそうかもしれないが、王の駒は強くなりすぎる。力を得ることで暴走する者は必ず出る。強大な力とは、それだけで目を曇らせるからね。だから王の駒は、原則使用を禁止にしている」

 

 姐さんにそう答えるアジュカ様の言葉は、実感がこもっていた。

 

 ああ、そういやオーフィスの蛇であれな連中がゴロゴロ出てたもんな。ディオドラとか神器移植もあって調子ぶっこきすぎてたしよ。

 

 しかも本当に強くなってるからやばかったぜ。俺が土壇場で禁手に目覚めてなかったら、ここにいる面子が三割ぐらいいなくなってたかもしれねえしな。

 

 いきなりポンと心構えもなく力だけ手に入れたら暴走する連中は多いからな。禁手に至る方法が漏らされたことで、どれだけの連中が暴走したことやら。ヴィクター絶対許さねえ!

 

 それに、はぐれ悪魔祓いになるような連中とかでわかるけど、心構えとかの精神鍛錬とかをきちんとしても、強い力に飲まれる連中はいる。あまりに安易に力が手に入ったら、暴走するやつらはゴロゴロ出てくるだろうな。

 

 しっかし、そんなことを危惧されている中でシシーリアに王の駒が与えられるたぁな。

 

 外部からの制御とかができるようになってんだろうが、それでもシシーリアは信用に値すると思われたってわけか。

 

「シシーリア。お前は俺が照らすに値する聖女だって今再確認できたぜ」

 

「え? いえ、駄馬ゆえに調子に乗っても対処可能ってこともありますから! そんな褒めないでください照れますからヒロイさん!!」

 

 シシーリアが照れまくってる中、アジュカ様は手元に小型の魔方陣を展開させる。

 

 すると、俺たちでもわかるように数十名の人物データが表示された。

 

 なんか、どっかで見たことがあるような……。

 

 何だろうか。お嬢やソーナ先輩など、悪魔側のメンツで顔色が変わってる人が何人も出てるぞ?

 

 なにこれ。たぶん王の駒を使っている可能性がある連中なんだろうが……。

 

「此処に映し出されてるものは、元72柱―純血の上級悪魔から選ばれた『王』の駒の使用者たちだ。そしてレーティングゲームのトップランカーでもある」

 

 ………はい?

 

 いやいやいやいや。ちょっと待って、タンマ。

 

 王の駒って使用禁止なんだろ? なんで何十人も使ってんだよ。

 

 っていうか、それでレーティングゲームのトップランカーって!?

 

「彼らは冥界の上役たちの思惑で駒を使用している。もちろん、公表なんてされていない。結果として彼らの多くは最上級悪魔クラス、一部に至っては魔王クラスに届くものまで出てきている」

 

 ま、まじか。

 

 いや、カテレアもオーフィスの蛇を使った時は堕天使元総督のアザゼル先生を追い込んだ。王の駒もそれに匹敵する強化率だ。

 

 使用者の適性次第じゃ、それ位の力を得てしまったっておかしくねえ。

 

 っていうか、使用禁止になってるのに使用したって、それ……不正じゃん!?

 

「……では、ここに映し出されている現トップランカーの実力は……」

 

「当然、不正といっていい」

 

 生唾を飲み込んだうえでのソーナ先輩に、アジュカ様が頷いた。

 

「というより、ゲーム運営の執行委員会は大半が真っ黒でね。『王』の駒の使用はもちろん、賄賂、八百長は当たり前に行われている。老獪な上役たちも、自分たち好みの冥界の秩序を作るために、人間界のプロレスのようにランキング変動から一つ一つの試合に至るまでプロットを作っているほどだ」

 

「ああ、確かにやるわね。権力持った老害なら」

 

 アジュカ様の語る衝撃的な発言に、姐さんはさらりと受け止めた。

 

「芸能界でもあるもの。一部の糞みたいな権力者が自分に有利な大局的な流れを前もって作ってるっていうの。私もそれでプロになりかけたから、笑えないわね」

 

 あ~。そういえば姐さんそうだったな。そういう経験あったもんな。

 

 というより、姐さんはそれにしても平然じゃね? これ、かなり衝撃の事実じゃね。

 

「り、リセス! これは冥界の大きな不正よ!? もうちょっと衝撃を受けて―」

 

「あら、私に言わせれば今更よ」

 

 と、姐さんはさらりとお嬢に反論する。

 

「そもそも堂々と接待試合が行われてるんでしょ? イッセーから聞いたけど、そのライザーっていうのも十回足らずの戦績で二回も接待試合をしたそうじゃない。それと何か違うのかしら?」

 

「う、うぐ……」

 

 姐さんに言い返されて、お嬢は反論できなかった。

 

 え、まじで? 接待試合とかやってんの? それもお嬢知ってんの?

 

「私達も、上役たちの腐敗に心を毒されていたということですか……」

 

 ソーナ先輩が、歯を食いしばって苛立ちをもらす。

 

 まあ、お嬢もソーナ会長もクリーンな試合を好んでるだろうしな。そもそもそういうの絶対嫌いだろうし。

 

 それが接待試合を堂々と行ってるのを受け入れてるってのも、なんていうか冥界上層部の世俗に毒されてる感じはするな、うん。

 

「無論、純粋な実力でトップランカーに上り詰めた者はいる。元龍王タンニーンやリュディガー・ローゼンクロイツなどといった転生悪魔が主流だが、純血悪魔にも少なからずいるのは知ってほしい」

 

 ま、タンニーンさんは当然だよな。

 

 ドラゴンは勝手気ままな我儘な連中が多いが、その分我が強いだろうしな。あの人はさらに例外的に誇り高い人格者だ。ドーピングなんてまねはしねえだろ。

 

「ま、俺は最悪の場合使うがな」

 

『『『『『『『『『『え!?』』』』』』』』』』

 

 ……なんかすごい驚かれた。

 

 いやいや。なんで驚くんだよ。

 

 冷静に考えろよ、この情勢をよ。

 

「ヴィクターに負けるぐらいなら使うっての。力は所詮力だろ? どう手に入れたかじゃなくてどう使うかが重要じゃねえか?」

 

「ああ、それはそうね」

 

 俺の言い分に姐さんも頷いた。

 

「そうしなければ勝てないなら考えるまでもないわね。それに、私もヒロイも神器移植者だし、今更よね」

 

 お、姐さん話が分かるぜ!!

 

「まあ、自分たちはレーティングゲームに参加してないっすから。ペトもオーフィスから特別製の蛇もらってるっすしね!」

 

 と、ペトが〆る。

 

 ……冷静に考えると、俺たち三人ってD×Dじゃ色物っつーか異端だよな、コレ。

 

 ん?

 

「っていうかイッセー。お前悪魔の駒のリミッター解除してもらったから信頼の譲渡とか真女王とか使ってんじゃねえか。お前は王の駒のこと悪く言えないんじゃねえか?」

 

 いや、素朴な疑問なんだが、それはそれでチートじゃね? ずるくね?

 

「いや、あれはサイラオーグが許容したからこその特別措置だ。そうでなければ通常のレーティングゲームでは使えないだろう。それ位には反則ではある」

 

「ですよね!!」

 

 アジュカ様からの冷静な指摘に、イッセーはちょっと視線をそらした。

 




レーティングゲームに参加してない側からすれば、公式で接待試合するのもプロットで不正するのもそこまで大差ないてきな感じでした。

それにヒロイとリセスは現実的な殺し合いで英雄を目指す者。そうする必要性が大きければそうします。神器を移植しまくりだから似たようなもんだしね!!


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第六章 83 リムヴァンの真実

まあ、大体推測されているでしょうが、リムヴァンの秘密が明かされます。


 

 まあ、ちょっと流れが脱線したがそれはともかく。

 

 とにかく冥界の上層部は本当に真っ黒だってことがよくわかった。

 

 いや、少しぐらい黒いのがあるのは良いんだぜ? 教会だってやれ聖剣計画やらやってたんだし、人のことは偉そうに言えねえだろ。

 

 というより、サーゼクス様達リベラル側と上役たち老害側でキレイに分かれてねえか? もうちょっと中間層の人に出会いたいんだけどよ。

 

「……話を戻そう。まあ、そういうわけで現状のレーティングゲームは非常に真っ黒なわけだ」

 

 と、アジュカ様が話を戻す。

 

「実力さえあればだれでもレーティングゲームで大成できる可能性は、狭き門だが確実にある。しかし、同時に今のトップランカーを砕くには君たちのような規格外の特例でなければ困難であるのも事実だ」

 

 なるほど。

 

 王の駒による強化と、上役たちによる援護射撃はそれだけ強力ってか。

 

 ま、運営陣がどっぷり腐敗してるんだったらそりゃ無理だ。あの手この手で妨害行為をしてくるにきまってるからな。案外駒のリミッター解除もやってる連中居るんじゃねえか?

 

 いやまあ、接待試合とか堂々とやってる連中が、さらにこっそり質の悪いことしてんのはそりゃ納得だけどなぁ。

 

「では、レーティングゲームのランキングが変動しないのも……」

 

「むろん、運営と上役がバランス調整を行っているからだ。なにせトッププレイヤー同士の試合が生み出す利権は莫大だ。それを独占している古い悪魔たちからしてみれば、しない方がおかしいレベルで動いている」

 

 震えるソーナ会長の言葉に、アジュカ様ははっきりといった。

 

「転生悪魔の存在そのものを疎んでいる節のある純血主義が裏でかかわっている以上、『王』の駒を使用したトッププレイヤーをどうにかするのは壁としてあまりに高すぎる」

 

「まあ、昔から金の生る木に真っ先に群がるのは、欲の皮が突っ張った俗物だものね」

 

 そういう経験は豊富そうな姐さんは納得するが、これはお嬢やソーナ先輩には酷な話だろ。

 

 ああもう、ソーナ先輩に至っちゃ膝をついちまってるしな。

 

 なんつーか、お嬢もソーナ先輩もきれいすぎるところがあるからな。こういう腹芸というか権謀術数は刺激が強いってか。

 

 ちっとばかし気の毒に思っているときに、アザゼル先生はため息をついた。

 

「サーゼクスでもこれをどうにかするのは困難ってことか」

 

「下手に動かせばかつての内乱を超える規模で争いが起きますからね。きっかけがあれば一気に崩せますが、老獪極まりない古い悪魔たちはなかなか隙を見せてくれない。超越者と呼ばれる俺やサーゼクスでも、政治面ではさすがに苦戦必須です」

 

 だろうな。

 

 サーゼクス様もアジュカ様も、たぶん千年も生きてねえ。人間なら長寿なんてもんじゃねえが、万年生きれる悪魔からしてみりゃ若手だ。下手すりゃガキとしかみなされねえ。

 

 そんなルーキーに好きにされるほど、経験豊富な老人共も耄碌はしてねえってことか。

 

「だがさっきも言ったように、それに染まっていない純血悪魔もいる。……問題は、その筆頭こそがレーティングゲームのトップランカーだということだ」

 

 なるほど、な。

 

 それが今回のひと騒ぎの原因ってことかよ。

 

「ディハウザー・ベリアルか。奴は生粋の?」

 

「ええ」

 

 アザゼル先生の問いに、アジュカ様はうなづいた。

 

「彼は純粋なまでに突出した才能でトップに上り詰めた者。『王』の駒も上役の援護もなく上り詰めた本物です。そして、それゆえに先日の行動を起こしてしまったのです。―リゼヴィム・リヴァン・ルシファーとリムヴァン・フェニックス。どっちが接触したのかは知りませんが、アグレアスの強奪未遂は彼らの取引によるものです」

 

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 

 マジか! レーティングゲームの騒ぎどころか、そっちまでかかわってたのかよ。

 

 いや、内通者がいなけりゃおかしいタイミングでいろんなピースがそろいすぎていた作戦だったのはわかってるぜ?

 

 俺がふと気づいていなけりゃ、アグレアスだって奪われてたはずだ。ホントにあれはたまたまだった。

 

 そして皇帝は確かにアグレアスにまで足を運んでいた。俺たちも会った。

 

 その時からすでに接触してたのかよ。

 

「待ってくださいよ! 真実を知りたいなら他に方法があるはずです! なんでわざわざリゼヴィム達なんかに!?」

 

「そのあたりは彼にも事情がある。突き詰めれば古い悪魔たちのせいだ。年寄りたちの強欲は冥界の屋台骨を少しずつ確実にゆがめていった。そしてそれに楔を打ち込んだのが、王者だったということだ」

 

 イッセーの問いに、アジュカ様はそういった。

 

 そして瞑目する。

 

「……俺が駒王町の近くに施設を持っていることは知っているだろう?」

 

 なんかいきなり話が変わってきたんだけどよ。

 

 そりゃ知ってるぜ? イッセーが体消滅させた時に俺たちが行ったからな。

 

 あの時はリムヴァンが姐さんの急所をぶち抜く三人衆を連れてきてたから大変だったぜ。奇跡が連続して起きなかったら死人が出てたな。

 

「そして、君たちも知っている八重垣正臣。彼と恋仲になったクレーリア・ベリアルは、まさに格好の口実を老人たちに与えてしまった」

 

 ん? 八重垣?

 

 たしかあいつの恋人がそんな名前……待て。

 

「そういや皇帝が動く可能性があるレベルの人物って聞いてましたけど……」

 

「……彼女が死んだのは八重垣さんとの恋仲が理由じゃなかったんですか?」

 

 イッセーとイリナが首をかしげる中、アジュカ様は瞑目する。

 

「……駒王町の前任だった彼女は、俺が近くにいることを知って王の駒の真実をしらべようとしていた。そして、上役たちはそれまでにも何人も王の駒の秘密に近づいた者たちを暗殺している。……そんな悪魔が格好の粛正理由を持ってしまったとしたら?」

 

 ………っ

 

 なるほど、そういうことか。

 

 恋仲騒ぎはあくまで言い訳。本命は、王の駒かよ!!

 

「……その話はあとでいい。ライザー・フェニックスとのレーティングゲームで動いた理由は?」

 

 アザゼル先生が話を先に進める。

 

 まあ、今はそっちの方が重要だしな。

 

「俺を呼ぶためでしょう。彼は『無価値』という特性自体を無効化してしまう力を有するのですが、それによってライザーとレイヴェルの不死のみならず、レーティングゲームのリタイアシステムを無効化してしまった。故に緊急用プログラムが起動し、俺も気になってその場に転移したんです」

 

 なるほどな。それがトラブルの理由か。

 

 でも、それってつまりレイヴェル達の身柄はアジュカ様が確保したってことだろ? なんで今まで?

 

 そんなことを俺が気にしてる間に、アジュカ様はさらに続ける。

 

「彼は『王』の駒と、ヴィクターに協力していることを打ち明けてくれました。だが最悪なことに、レーティングゲームには運営側だけが確認できる監視カメラがあり、上役なら簡単に見れる。その会話の内容は筒抜けだ。そうなると……」

 

 それに対して、アザゼル先生は得心したのかため息をついた。

 

「その場にいたライザー・フェニックスとレイヴェルに聞かれたと思ってもおかしくねえな。しかも、秘匿事項のオンパレードだ」

 

「当然、そういうどす黒い連中がすることは決まってるわね。ここまで時間をかけたのは、2人が殺される可能性があったからね?」

 

 アザゼル先生の言葉を引き継いだ姐さんの確認に、アジュカ様はうなづいた。

 

 うっへぇ。そこまでするかよ老害共は。

 

 アジュカ様は冷や汗すら流す俺たちを見まわしながら続ける。

 

「奴らは体裁を保つためなら何でもやる。クレーリア・ベリアルの二の舞を防ぐために、ディハウザー・ベリアルは真相確認のついでに俺をうまく利用したのさ」

 

「それでは、レイヴェルたちが行方不明とされていたのは、リセスの言う通りなのですか?」

 

 お嬢の言葉に、アジュカ様はうなづいた。

 

「彼らの無事を確保できるまでは解放できなかったからな。未来ある若者が年寄りの思惑で殺されるのは、さすがに納得できない」

 

 なるほど。その点についてだけは皇帝にも感謝しねえとな。

 

 いや、やるにしても王の駒の使用者とのレーティングゲームとかいろいろあっただろうに。やっぱ一遍、勢いよくどついても罰は当たらねえ気がしてきた。

 

「でも、どうしてライザーとの試合なのかしら? ライザーが王の駒に関与してないのは予想できそうですが……」

 

 お嬢が気になるのも当然だな。

 

 わざわざ手の込んだ真似をして迄安全を確保する必要がある相手を、なんでそんな真似をして迄危険にさらす?

 

 誰を巻き込んでもいいぐらいの覚悟なら、わざわざこんなことする必要はねえし、一試合目でいいだろうに。

 

 俺たちが首をかしげてると、アジュカ様は小さく笑った。

 

「それについてはいずれ分かる。彼は意外と目ざとい」

 

 ライザー・フェニックスじゃないといけない理由? いったいなんだろうな。

 

 ま、それはともかく。

 

「問題は、皇帝がこの後どうするかですわな」

 

 俺はそこが気になる。

 

 ヴィクターに情報を流し、レーティングゲームを利用していろいろやらかしたチャンピオン。

 

 そして真実を確認して、あの人何をする気なんだ?

 

「簡単だ。―ここまでの事実を冥界は愚か、あらゆる勢力に至るまで打ち明けることだろう」

 

『『『『『『『『『『っ』』』』』』』』』』

 

 全員がまたしても息をのんだ。

 

 おいおい。そんなことすりゃ大騒ぎになるのは確実だろ。

 

 冥界政府が非難される程度で済むならまだいい。下手すりゃホントに内乱が起きて冥界滅ぶぞ?

 

「……今まで以上の犠牲が出るかもしれませんね」

 

「だろうな。ディハウザーはかなり強引に事を進めている。アグレアスの強奪未遂の件といい、その影響はあまりにひどい」

 

 ソーナ先輩の懸念を、アジュカ様も認める。

 

 だろうな。まず間違いなく大騒ぎになるぞ、コレ。

 

 最悪、王の駒の使用者とその後援者たちが、カルディナーレ聖教国のように独自の組織としてテロル可能性だってある。

 

 そうなったら、トライヘキサ対策を取ってる余裕がなくなるんじゃねえか、オイ。

 

「しっかし、監視カメラの映像を見られたってことは、老害悪魔はお前らの会話を全部聞いたんじゃねえか? 絶対うごくだろ」

 

「一応改ざんはしましたけどね。まあ、そろそろ勘付いているころでしょう」

 

 アザゼル先生に言葉に、アジュカ様はそう頷いた。

 

 ですよねー。それで気づかなかったら数百年も不正なんてできねえよな、うん。

 

 ああ、これもう最後の手段として本当に悪魔版カルディナーレ聖教国が誕生するかもしれねえ。

 

 っていうか、王の駒を大量生産されたら神クラスでも太刀打ちできねえんじゃねえのか? まずくね?

 

「まあ、王者がことを起こしたときのための対抗策も用意はしている。悪魔の王として、サーゼクスにできないことをするのが俺の役目だからね。表があいつなら俺は裏だ」

 

 などとアジュカ様は安心させるように言ってくれるが、絶対俺たちの仕事が増えるな、コレ。

 

「つっても、ことが起きたとしても犠牲は少なくするべきじゃねえか?」

 

「それは当然ですよ。罪のない民や若手に犠牲を出すわけにはいきません」

 

 と、アザゼル先生とアジュカさんが意味深に見つめ合う。

 

 流石は組織のトップ同士。思うところはあるな。

 

 いろいろ不可思議なことしてたり、ヴィクターからも繋がれると考えられるような人だが、この人もこの人で魔王としての在り方ってもんがある。そして仕えてくれる人々のことを考えている。

 

 あの三つ首蜥蜴みたいな自分勝手な野郎とは違う。ま、一応安心できそうだな、こりゃ。

 

「レイヴェルの件はありがとよ。これでうちの教え子たちも安心できる」

 

 先生はそう言いながら、いまだ眠っているレイヴェルの頭をなでる。

 

 うん。レイヴェルも先生の教え子だからな。面倒見がいいタイプだし、この人も気にしてたんだろうよ。

 

 ま、ライザーとやらも引き渡しが終わったってことはその辺は何とかなったんだろ。レイヴェルに関しても問題ねえだろ。

 

 アジュカ様は笑みを浮かべていた。

 

「ま、それ位はしますよ。有望な若手がせっかく出てきたのに、古い悪魔たちの都合で死なせるわけにはいかない。そもそも今のレーティングゲームの現状は、俺の見通しが悪すぎたのが原因ですしね」

 

「人間界の国際競技も似たようなもんだろうがな。ゲームの発案者ってもんは、そこから一歩離れただけで厄介者だ。千年も生きてねえ若者にそこまで対処しろっていうほど、俺も無責任じゃねえよ」

 

 半分茶化す感じのアザゼル先生の言葉に、アジュカ様は肩をすくめる。

 

「そうもいきませんよ。こうなった以上、できるだけのことはしなければ悪魔の危機以外の何物でもないですから。それに、対策そのものは貴方の協力があってこそだ」

 

「ま、必要だしな」

 

 ん? なんだなんだ?

 

 なんかあるのか? それもまたアザゼル先生の発案で。

 

 まあ、真面目な天界だから大丈夫だろうが。それでも時々突拍子もないことで俺たちに被害を生んでくるから不安になるな。

 

「まあ、こういう面倒なことは俺たちに任せてくれ。これから何が起きようと、若い君たちは暴れるべきところで暴れて、守るべきものを守ってくれればそれでいい。ややこしいことは大人の仕事だ」

 

「あら、私は大人なんだけど?」

 

 アジュカ様の言葉に姐さんが茶化すけど、それを見てアザゼル先生は鼻で笑った。

 

「二十代半ばなんて俺らからしてみりゃ赤ん坊だっつの」

 

「それもそうね」

 

 姐さんもクスリと笑いながら返す。

 

 その流れで、ちょっとだけ空気が弛緩した。

 

 そうだな。俺らは前衛の戦闘担当。そういう政治的なことにはかかわれる立場でもねえし、俺らがこれで動いたら、その時は冥界の大内乱が起きるだけだ。最悪の展開だし頑張って阻止してもらわねえと。

 

「さて、最後に聞きたいことがある。現存する王の駒は後いくつだ?」

 

 と、アザゼル先生がアジュカ様に尋ねる。

 

「生産自体は初期ロットでストップさせてます。そもそも製造自体俺にしかできませんし、製造方法も教えてないので増えることはないでしょう。把握しているのはここにあるのも含めて九つ。王者から受け取った分も合わせて俺の手持ちが三つ。魔王の祝福(キングス・オーダー)はシシーリア用に再調整しているので、これは安全視していいです」

 

 なるほど。ってことは上役連中が持っているのは残り五個と。意外と少ねえな。

 

 だけど、アザゼル先生は苦い顔をする。

 

「多いな。いざという時状況をひっくり返すことも不可能じゃねえ。残り五つの駒が全部魔王クラスの連中を生み出したら……」

 

 そんなギャンブル成功してほしくねえ。

 

 アジュカ様も同じ気持ちなのか、静かに決意を込めていた。

 

「数千年かかろうと、製造者としての責任として回収しますよ」

 

 なるほど。こりゃ渡されなかったら奪い取ってた感じだな。

 

 まあ、下手すると世界の流れがひっくり返りかねえから当然か。

 

「そう言えば、リゼヴィムの奴も知ってるんじゃありませんか?」

 

 あ、イッセーの言う通りだ。

 

 リゼヴィムが王の駒でパワーアップなんてしたら目も当てられねえぞ。

 

「間違いなく知っているだろう。だが、『王』の駒は特異な能力を持っていたり元から強すぎるものが使用するとオーバーフローを起こす。命の危険も生じるし、後遺症も残るだろう。それならリリスをつかって無理やりオーフィスの蛇を作り出す方がまだ安全だろう」

 

 あ、なるほど。

 

 強力すぎるからリスクもでかいと。それもかなりでかいな。

 

 ならリゼヴィムもリムヴァンも使うことはねえな。……あいつら超強力だしな。

 

「とはいえ、リムヴァンは使っているのだけどね」

 

 ん? いまなんかすごいこと言わなかった? アジュカ様?

 

「どういうことかうかがってもよろしいでしょうか、アジュカ様?」

 

 木場が何言ってんだオイって感じの視線を向ける。

 

 それは、信じたくないって感じだ。

 

 当然だ。もし安全に使用されてたりなんてしたら詰むぞ。

 

 今でも主神が複数人いて圧倒するような化物だ。それがさらに大幅にパワーアップなんてしたら、半分になったオーフィスぐらいなら一蹴できるんじゃね?

 

 寒気すら感じることだけど、アジュカ様は首を振った。

 

「それは違う。……この世界のリムヴァン・フェニックスがすでに死んでいることは知っているな」

 

「はい。夏休みのパーティでアジュカ様が仰っていたことを聞きました」

 

 と、朱乃さんが答える。

 

 ああ、そういやそんなこと言ってたな。密度濃い数か月だったんで忘れてたぜ。

 

 ……ん? まてよ?

 

 そういや、アイツはアジュカ様に恩があるようなこと言ってたな。そして、アジュカ様は自分のせいでこの世界のリムヴァンが死んだと言ってもいいとか言っていた。

 

 それってまさか!

 

「リムヴァン・フェニックスは神滅具をもって生まれたが、虚弱体質で神器に体が耐えられなかった。……神滅具を惜しんだこちら側の判断で、王の駒を使うという博打を審議していたんだ。……この世界では結局は結論が出る前に死んでしまったけどね」

 

 そういうことか。

 

 つまり、使用を結論して助かっちまったのが、あのリムヴァン・フェニックス。

 

「『王』の駒の使用は本当に禁止するべきだ。後天的に超越者すら生み出すあれは、少なくとも今の悪魔には過ぎた力だろう。シシーリアにテストさせたのは、やはり気の迷いだった」

 

 ……そういう、ことだったのか。だから恩人であるアジュカ様に対してだけは、リムヴァンも積極的に仕掛けたりしなかったのか。

 

 とんでもないところでリムヴァンの秘密が明かされちまった。おいおい、すげえな王の駒。

 

 俺たちが戦慄しているその時だった。

 

「……アジュカ様!! いえ、イッセーさん!!」

 

 少し離れたところでお茶の準備をしていたシシーリアが、耳元に魔方陣を展開しながら大声を上げる。

 

「どうした、シシーリア?」

 

 アジュカ様が尋ねる中、シシーリアは顔を真っ青にしてイッセーに視線を向ける。

 

 そして、震える唇を動かして、イッセーにこう言った。

 

「……イッセーさん、落ち着いて聞いてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセーさんのご両親が、クリフォトに誘拐されました。その足でオーフィスが襲撃されたとの報告が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おいおい、マジかよ

 




リムヴァン関係に関しては、あと一つの動機を除いてこれで本格的に知れ渡りました。

王の駒に適合しまくったことで誕生した、後天的超越者。アジュカに対してある程度の礼儀と理解があるのも、リムヴァンにとって命の恩人である空に他なりません。

そして、一気に事態は急展開。こっから第六章ラストバトルが勃発します。


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第六章 84

ベリアル偏の急展開です。

え? なんで自衛隊もゴロゴロいるのにあっさり緊急事態になってるんだって?

逆に考えるんだ。自衛隊がゴロゴロいるからこそ、敵だって本気を出すんだって考えるんだ。


 

 ……襲撃されたオーフィスは、駒王駐屯地で緊急治療が行われて、とりあえず一命はとりとめた。そのあとアーシアが治療したから、もう大丈夫だ。

 

 しかし、その駒王駐屯地もかなり大打撃を受けている。

 

 原因は単純。ヴィクターが大挙して襲撃を仕掛けてきたからだ。

 

 英雄派はもちろんイグドラフォースも全員投入。さらに邪龍ニーズヘッグまで参戦という豪華ラインナップ。とどめに陣頭指揮はリゼヴィムがとっていたらしい。

 

 駒王駐屯地でも死傷者は多数。幸い電撃作戦だったらしく、俺らが来た時はすでに撤退。即座にアーシアが回復フィールドを形成したから、即死しなかった連中は全員治療できた。

 

 だが、体力の消耗が激しく自衛隊員は愚かオーフィスすら意識を取り戻していない。

 

 そして何より、最悪なのが……。

 

「父さん、母さん……っ!!」

 

 イッセーが歯を食いしばっているのも当たり前だ。

 

 ヴィクター経済連合は、釣りに出かけていたイッセーのご両親を誘拐した。オーフィスを襲撃したニーズヘッグはご両親で人質作戦までしていたらしい。

 

 幸か不幸かそっちはたまたま来ていたクロウ・クルワッハに気づいたのかすぐ逃げたが、かなりまずい事態だ。

 

『……すまなかった。一応こっそり護衛をつけてたんだが、超越者と邪龍筆頭格が相手じゃさすがに対処できなかった』

 

 通信越しで総理が謝るが、俺たちもそれには文句をつけない。

 

 そもそも俺たちは護衛すらつけてなかったんだ。文句を言える立場じゃねぇ。

 

 ヴィクター経済連合は、表立って活動している公的組織である以上下衆すぎることはしねえ。そう高をくくっていた。

 

 そんな中、こっそり気を利かせて護衛をまわしていた総理には感謝しかねえ。

 

「気にすんな。その護衛は壊滅状態なんだろ? むしろ俺たちが謝るところだ」

 

 アザゼル先生がフォローするのも当然だ。

 

『ああ。だがここまでめちゃくちゃな真似してくるとは思ってなかった。駒王駐屯地は対異形関係でいやぁ腕利きぞろいなんだが、まだまだ本気の異形にゃ勝てねえってことか……』

 

 電撃作戦の強襲戦法とは言え、ヴィクターがここに送り込める戦力には限りがある。

 

 そして不意打ちを喰らったとは言え、駒王駐屯地は自衛隊の駐屯地の中でも最高レベルの戦力がそろっている。こと、異能に関していえば駐屯地レベルで並び立つ場所はないはずだ。

 

 それでも、ヴィクターの精鋭を集中投入すればあっさりボコボコにされるってわけか。

 

 ったく。ヴィクターの連中はどんだけシャレにならねえんだよ。

 

 しかも、あいつ等本気で舐めた真似してきやがった。

 

 俺たちの視線が、アザゼル先生の持っている一枚の紙に注がれる。

 

 それは兵藤邸の郵便受けに放り込まれていた。切手も張られていないそれは、直接放り込まれたことを証明している。

 

 そして、送り主はヴィクター経済連合だ。

 

―トライヘキサ最後の封印解除の生贄になってほしい。特別ゲストと共にこの基地にて待つ。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 

 ……んの野郎。本気で俺たちはぶちぎれたぜ。

 

「先生。罠なのはわかってますけど、行かないなんて命令は聞けませんぜ?」

 

 俺の言葉はオカ研の総意だ。

 

 俺たちはほとんどがイッセーの両親に世話になってる。

 

 いくら家を改築しまくったとはいえ、色んなとこから来てる連中を居候させてくれる。そんなの、並の人たちじゃ無理だろう。

 

 それだけあの二人は心が広い。イッセーが変態であることを除けば好人物なのも頷けるってもんだ。間違いなくあの二人の遺伝だって。

 

 そんないい人たちを、あいつらは誘拐しやがった。

 

 ……さすがにこれを見捨てるわにゃはいかねえだろ。

 

「わかってる。どっちにしても、トライヘキサの封印が解除されかけてるならこれ以上黙ってみてるわけにはいかねえ」

 

 そう言いながらアザゼル先生は映像を映し出す。

 

 人工衛星が一瞬だけだが捉えたその基地には、明らかにでかい生物の映像が映っていた。

 

 いや、これは生物は生物でも人工生物だろ。完璧キメラじゃねえか。

 

 荒い映像だが、首が七つぐらいあるぞ。尻尾も同じぐらいあるぞ。

 

 これが、黙示録の皇獣(アポカリティック・ビースト)、トライヘキサか。

 

 封印されてたってのにここまで姿の詳細がわかるってことは、本当に封印はあとちょっとで解けるってことだろうな。

 

 ああ、これはもう黙ってみてるわけにはいかねえだろ……っ

 

「今D×Dのメンバーを緊急招集中だ。それに付近の反ヴィクター国家の軍隊や異能者にも協力を呼び掛けている」

 

 なるほどな。即座に動いていたってわけか。

 

 流石は堕天使の元総督様だ。こういう時は動きが速いぜ。

 

 そしてアザゼル先生は、ちょっとそわそわしながら辺りを見渡す。

 

「ヴァーリの奴にも連絡をつけた。そろそろ来るはずだが―」

 

「―ああ、待たせたな」

 

 その言葉と一緒に、ヴァーリが部屋に入ってきた。

 

 見るからに戦意満々。これ以上ないほどマジモードだ。今まで見たことがないぐらいの雰囲気を纏ってやがる。

 

 そして、ヴァーリがイッセーに目を向けて、少し目を見開いた。

 

 ……ああ。マジギレってのはこういうことを言うんだろうな。

 

 こっちもこっちで今までにないぐらい切れてやがる。正直触れたくねえ。

 

「……ヴァーリ。俺はお前の気持ちが痛いほどよくわかるぜ」

 

「そうか。……できれば俺が殺したいが、その様子だと譲ってもいい気になってくるよ」

 

 なんか、二人の間でめちゃくちゃ通じ合ってやがる。

 

「既に黒歌たちは基地の周辺で待機させている。だが、あの糞のような男ののど元に迫るには、相応の相方が必要だと判断した」

 

「良いぜ。今なら今まで以上に連携で仕掛けることができそうだ」

 

 ……おーい。気持ちはわかるがちょっと置いていくなー。

 

「まあいい。とにかく向こうが招待状迄送り付けてきやがったんだ。……手土産は万全にして招かれてやるぞ」

 

 ああ、こりゃ本気で大暴れ確定だな、ホント。

 

「作戦開始は半日後だ。全員、それまでに準備を整えろ」

 

 アザゼル先生がそう告げ、そして俺たちを一度見渡す。

 

「リゼヴィムとリムヴァンは可能なら滅ぼして構わねえ、俺が責任を持つ」

 

 ……マジか。

 

 アザゼル先生の権限とは言え、こりゃまた大きく出てきたな。

 

「奴らは、手出ししちゃいけねえ領域にまで手を出した。……天龍の逆鱗に不用意に触れた愚かさを、その身に刻み込んでやれ!!」

 

『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』』

 

 ……どうやら、そろそろ決戦の時ってわけか。

 

 いいぜ。リゼヴィムの野郎にゃ俺もだいぶむかついてたんだ。

 

 いい加減、クリフォトとD×Dの決着をつけようじゃねえか、なぁ……っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれまでの間の時間で、俺は静かに軽くウォーミングアップをしていた。

 

 姐さんは「流石に死ぬかもしれないから最後の晩餐をしてくる」とか言ってた。下半身に忠実すぎるぞ姐さん。

 

 ま、それはともかく。

 

 とりあえずのウォーミングアップは終了。体はしっかり温まり、ちょっと前に飯も食ったから栄養補給も万端。更にちょっと前に仮眠もしてるので疲労は問題なし。

 

 できる限りで最高のベストコンディションだ。これなら、本格的に仕掛けてもそこそこやり合えるだろう。

 

 あともうちょっとで作戦開始時刻だ。俺もそろそろシャワーでも浴びてスッキリするべきだな。

 

 そう思い、俺は風呂場に入るとシャワーを浴びる。

 

 ……火照った体に冷水が心地いい。とはいっても、あまり冷めさせすぎるのもあれだな。体が冷えすぎると調子が出なくなるだろ。

 

 そう思ったその時―

 

「―ヒロイ」

 

 ―そんなペトの言葉と一緒に、俺の背中に柔らかい感触が当たった。

 

 ……あっさりと裸で入ってきやがったな、オイ。

 

 いや、それは良い。今この兵藤邸に男は俺とイッセーだけだからな。

 

 親父さんがいない以上、この小規模版の風呂場に入ってくるのは俺ぐらいだ。

 

 っていうか、ペトはイッセーに裸見られた程度じゃ気にしねえだろうし。

 

 問題は。

 

「……どうした、ペト」

 

 ペトの体が、少し震えていたことだ。

 

 なんだ? この期に及んで怖気づいたってことはねえだろうな?

 

 さすがにそんなタマじゃねえと思うんだが。

 

「ヒロイ。死なないっすよね?」

 

 おいおい。不吉なこと言うなよ。

 

「どうしたんだよペト。いきなりそういうこと言うとホントに死にそうだからやめてくれねえか?」

 

 いや、マジでフラグが立ちそうなんだが。ホント勘弁してください。俺だって死にに行くつもりはねえよ、死戦になるだろうけどよ。

 

「……胸騒ぎが止まらないっス。自分は、こんなに嫌な予感を感じたことがないっす」

 

 ペトは、俺に顔を見せない。

 

 そして、プルプル震える体で俺を抱きしめる。

 

「お姉様も心配っす。でも、ヒロイのことも心配っす。……みんなのことも心配っすけど、それ以上にヒロイとお姉様のことが心配っす」

 

 ペト……。

 

 いつの間にか、ペトの中で俺は姐さんに匹敵するぐらいでかくなってたのか。

 

「ヒロイもお姉様も、イッセーたちと違って生き残ることより生き切ることを大事にしてるッス。そんな二人が決戦に参加したら、きっと……」

 

「まぁ、確かに死んでも決着をつけることを優先するわな」

 

 俺は、はっきりとペトの懸念を肯定した。

 

 ペトの肩がビクリと震える。

 

 ああ。そこについちゃぁ悪いがそうだ。

 

 俺は輝き、姐さんは自慢。そんな英雄でいようと心に決めて、そしてここまでやってきた。

 

 だからだろうな。俺たちは、命よりも誇りを取る。いざという時、自分の命と誇りを天秤にかければ、きっと英雄でいることを優先する。

 

 間違いなく姐さんもそうだろう。そこにだけは誠実なんだ、俺たちは。

 

 だから……。

 

「ペト。笑ってくれなんて言わねえが、せめてその時は送り出してくれ」

 

「……ヒロイがうらやましいっス」

 

 ペトの爪が、俺の肩に食い込む。

 

 それは怒ってんのか、羨ましいのか、ねたんでんのか、どれなんだろうな。

 

「お姉さまは英雄でいようと頑張って、だから英雄になりたいヒロイと分かり合える。ペトはお姉様のことが大好きッスけど、英雄になりたいわけじゃないッス」

 

 ああ、そうだな。

 

 きっとそうだ。だから、ペトが言おうとしてることも分かってる。

 

 そして、きっとそれをペト自身の口から言わせるのはひどいことだ。

 

 だから―

 

「だから―」

 

「―だから、姐さんは俺と一緒に死ぬことを、ペトと一緒に生きることより優先するだろうな」

 

 ―その言葉を、ペトより先に俺が言い切った。

 

 より爪が食い込んで、血がにじむ。

 

「……そうなんすよね。どこまで行ってもどうなっても、お姉様もヒロイも英雄でいたいから、きっとどれかしか選べないならそれを選んでしまうッス。そんなこと、もっと早く知っておけばよかったッス」

 

 そういいながら、ペトは俺から離れる。

 

「十分で切り替えるッス。………本当に、ゴメンなさいッス」

 

 いや、それは違う。

 

「謝るのは俺達の方だ。俺たちは、()()だけは絶対譲れねえからよ」

 

 そうなんだ。俺たちは、そこだけは絶対に譲れない。

 

 それほどまでに俺たちは英雄に焦がれている。そうなりたいと切に願い、そのためならば死んでもいい。命より大事だって心から言える。

 

 それでもできる限りは配慮できるし抑えられるけど、もしそれが二択になったとするなら―

 

「ペト。こんなロクデナシを大事に思ってくれてありがとよ」

 

 俺は、そう言うことしかできなかった。

 




これまで三人組だったヒロイたちですが、ペトと他二人には明確な違いがあります。

それは、英雄を目指しているかどうか。

英雄であろうとし、其のために文字どおり命を懸けているヒロイとリセスは、其のために絶対に必要なら命を捨てることもいとわないでしょう。いきなり死の危険が出てくればビビるかもしれませんが、最終的にそれが必要なら死ねます。

ですが、ペトは違います。そもそも彼女は英雄に救われ知っているだけです。英雄を目指したりしていません。

ゆえに、ふと考えるとヒロイとリセスが英雄でい続ける以上、何かしらの形でペトとは相いれないところが出てくることに気づきました。

そして、ヒロイもリセスもそれが決裂になるかもしれなくても、英雄を目指さないという選択肢だけはありません。人に合わせることはできますし、ある程度は修正もできるでしょう。ですが、辞めるという選択肢だけはない。それほどまでに、2人にとって英雄とは譲れない一線なのです。

これに気づいたおかげで、第二部の予定変更がスムーズにいきました。ペトには悪いですが、作者としては想定外の都合のよさです。


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第六章 85

ペトとの亀裂を自覚したヒロイ。

そして、それは当然リセスも自覚するときがくるわけで……


 

 作戦は非常にシンプル。

 

 転移を二段階に分けて、D×Dチームの大半が陽動として連合部隊と共に襲撃を行う。

 

 そして俺たちオカ研とヴァーリチームが攻撃担当。一気にトライヘキサに向かい、そして確保だ。

 

 高確率でトライヘキサの近くにイッセーの親御さんはいる。そして、リゼヴィムかリムヴァンもそっちにいるんだろう。

 

 つまり決戦だ。最低でもリゼヴィムをつぶして、クリフォトは壊滅させる。リムヴァンに関しては足止めに徹して、連合部隊による袋叩きで叩き潰す作戦だ。

 

 万が一にでもトライヘキサの封印が解除されれば、確実にヴィクターはトライヘキサで本格的な攻勢を仕掛けてくる。そうなれば、世界中が大打撃を受けることになるだろう。下手すりゃ敗北だ。

 

 だから、なんとしても俺たちは封印がまだ残っているこのチャンスにかけるしかない。

 

「……ヒロイ」

 

 と、俺が集中しているところに姐さんが近づいてきた。

 

 その表情は、寂しげな苦笑だった。

 

 ああ、そういうことか。

 

「ペトに、なんか言われたのか?」

 

 さっき俺と話してたことを、姐さんにもいったのか?

 

 姐さんは、肩をすくめると頷いた。

 

「「自分は、英雄を目指して生きてるわけじゃないっす」って言われちゃったわ。これ、三行半かしら?」

 

 あえて軽く言うけど、姐さんも割とショックを受けてるみたいだな。

 

 俺のとなりに並ぶと、そのままため息をついた。

 

「ペトは、理解者だと思ってたんだけどね。理解できるのと納得できるのとは違うってことかしら」

 

「ま、俺たちある意味病気だしなぁ」

 

 ペトはそういう意味じゃあまともだしな。

 

 ああ、きっといつかこうなってたんだろう。

 

 俺と姐さんとペトは三人で行動しているけど、ペトは俺たちのように英雄に焦がれてない。

 

 英雄を目指し、そのためなら死ぬことすらいとわない俺たちと、ペトは違うんだ。

 

 きっといつかこうなってた。それが、誰が死んでもおかしくない激戦を覚悟して表面化した。

 

 言葉にすれば、たったそれだけ。

 

「……ヒロイ」

 

「なんだよ」

 

 姐さんは、俺に顔を向けずに聞いてくる。

 

「貴方は、英雄を目指し続ける?」

 

「逆に聞くけどさ、姐さんは違うのか?」

 

 その言葉に姐さんは一瞬沈黙して、振り返った。

 

 そこには、微笑と力強さが戻っていた。

 

「愚問だったわ。忘れて頂戴」

 

 ああ、そうだよ姐さん。

 

 俺もあんたも、英雄という光に焦がれてしまった狂人だ。

 

 きっと最後まで英雄を目指すことをやめられない。そういう生き方しかできないって、嫌って程わかってる。

 

 だから安心してくれ、姐さん。

 

 俺は、姐さんの後ろを追いかけ、時に前をすすみ、そして並び立って進んでくから。

 

 あんたが俺の輝き(英雄)でいる限り、それは絶対だ。

 

 さて、ちょっと悲しい出来事はあったが、これもいつか乗り越えなきゃならねえことだしな。

 

「さて、いくか」

 

「ええ、行きましょう」

 

 じゃ、まあ英雄としちゃぁ糞野郎叩きのめして救うべき人たちを助けてこそだろ。

 

 いっちょ人助けと行きますか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして転移した先は、既に大激戦だった。

 

 ロケット弾や魔法や魔力や光力が飛び交う戦場。今までにないぐらいの大激戦だ。魔獣騒動でもここまでにはなってなかったんじゃねえか?

 

 とにかく俺たちは速攻で攻撃開始だ。

 

 幸い、既にトライヘキサの姿は見えている。

 

 この距離でも確認できる当たり、ホントにシャレにならねえでかさだ。グレートレッドに匹敵するぞ。

 

 これで戦闘能力まで互角だったら目も当てられねえ。アザゼル先生は対策を一つか二つは用意しているみたいだが、それもどこまで成功するか少し不安だ。

 

 なら、俺たちがやるしかねえ。

 

 さっさと突っ込んで決着をつけ―

 

「ヒロイ!!」

 

 姐さんのその言葉の意味を、俺はすぐに理解した。

 

 とっさに魔剣を大量に展開して、それを盾にして防御する。

 

 そこに、魔剣の数の十倍はある魔法攻撃が叩き込まれた。

 

 さらに一瞬で周囲が暗くなると、大量の黒い水が襲い掛かる。

 

 とっさに俺も姐さんも飛んで躱し、そして敵の姿を確認した。

 

「出やがったか、アジ・ダハーカ!」

 

「来たようね、アポプス!!」

 

 やっぱり復活しやがったのか!! この勝手気ままな邪龍共が!!

 

 ……いや、今にして思えば、俺もこいつらのことをそこまで悪く言えねえかもな。

 

 俺も姐さんも、英雄でいることに憑かれている。英雄にならずにはいられず、それを命より優先する。その結果として大事な者たちを悲しませることも選んでしまう。

 

 いやというほど痛感した。俺は、根幹的に英雄になり、そしてい続けるという前提条件が無ければこいつらになる。

 

「……悪かったな、アジ・ダハーカ」

 

 だからだろう、俺は一応そう言うほかなかった。

 

 ああ、俺はこいつのことをそこまで悪く言えない気がしてきた。ペトを悲しませてでも、イッセーたちを悲しませてでも、譲れない一線がある。

 

 こいつらはそもそも斟酌すらしちゃいないが、俺たちは斟酌してもそこだけは譲らない。そういう意味じゃあ、結果的に同じことをする時もあるんだろう。

 

 俺は、いや、姐さんも。俺たち二人は英雄でい続けることをやめられない。英雄でいられるなら斟酌できるが、英雄でいられないぐらいなら斟酌しない。

 

「……俺はお前よりかはましだって断言できるが、それでもペトよりお前の側に近いな」

 

「でしょうね。私たちは英雄、あなた達は邪悪。方向性こそ違えど、斟酌するかしないかの差はあれど、はたから見たら同類に見える時はあるんでしょうね」

 

 姐さんも同じだったのか、少し暗い表情を浮かべる。

 

 ほんと、ペトを悲しませてでも英雄でい続けたい俺たちは、こいつらと変わらない側面があるな。

 

「……それはどうだろうか」

 

 と、アポプスが意外な言葉を言い放った。

 

 俺たちは、ちょっと目を見開いた。

 

 アジ・ダハーカもあきれ顔を向けてやがる。

 

『一緒にすんじゃねえよ。好き勝手に生きる気しかねえ俺らと、ある程度は合わせられるてめえらは別もんだろ』

 

『邪龍と英雄!』

 

『全然別物さ!!』

 

 こ、こいつらにフォローされた。

 

 なんか意外だ。そういうのまったく気にしない生き物だとばかり思ってたんだが。

 

「我らは邪龍。思うが儘に邪悪に生き、そして英雄に討たれてこその存在だ」

 

 アポプスはそういいながら両手を広げると、俺たちに視線を向ける。

 

 その目は、俺たちを嫌ってはいても憎悪してはいない。

 

「確かに好みの手合いではないが、確かに貴殿らは誰かの英雄だ。それがそのような半端な態度では戦いがいがないというもの」

 

『そうだぜぇ! 言っとくが、俺はあの術を破った奴は例外なく全力だす相手と認めてんだ!!』

 

『気に食わないけど、いい相手!!』

 

『かかって来いよこの野郎!!』

 

 ………は、ははは。

 

「どうするよ姐さん。俺ら、一番嫌いな手合いに気に入られちまったぜ?」

 

「……これも、私達のゆがみの証明なのかしらねぇ」

 

 俺と姐さんは顔を見合わせながら苦笑するしかねえ。

 

 ったく。こいつらはあんだけぼろくそにこき下ろされても、俺たちをある程度は認めてやがる。

 

 やべえ、こいつら基本どうしようもねえ筈なんだがな。

 

 勝手気ままな我儘ドラゴン。だが、周りを斟酌しないがゆえにこそこういうところではある意味器がでかい。

 

 ……なら、俺たちも礼儀ってもんがあるわな。

 

「いいぜ、アジ・ダハーカ。さっきのだけはありがとよ」

 

「なら英雄として、全力をもって相手をしてあげるわ」

 

 俺も姐さんも気合が入った。そこに関しちゃ感謝するぜ。

 

 ああ、一応お礼はしないといけねえ。そして、こいつらに関していえばそれはやりやすいってもんだな、オイ。

 

「タッグマッチだ。それとも、今度は相手変えるか?」

 

『いらねえよ。リベンジマッチのほうが面白いだろ?』

 

『マジバトル、マジバトル』

 

『雪辱戦の時間だおらぁ!!』

 

「なら、遠慮なく天丼ネタにしてあげるわ」

 

「できるものならやってみたまえ。こちらも万全の態勢で挑ませてもらう」

 

 ……ふっ。

 

 じゃあ、遠慮なく―

 

「「『「勝負しようかぁ!!」』」」

 

 ―決着つけるぜ、邪龍!!

 




思わぬ相手から励まされたヒロイとリセス。

ある意味自分たちの方が酷いって自覚があるからこそ、ましな相手が同類認定するのはどうかって思いそうだったので、励ましやくにしました。








これでヒロイとリセスもだいぶ覚悟完了しました。いざという時になって、すぐに決断できるでしょう。

さて、それが起きないのが一番なのですが……。


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第六章 86 龍神対龍王

事実上の第六章ラストバトル開幕。









リムヴァンがついているこの世界のリゼヴィムは、一味違うぜ!!


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤバイ。なんだこれ。

 

 俺はいま、すごい力に覚醒しようとしてる。

 

 父さんも母さんも、悪魔になって、龍の姿になった俺を受け入れてくれた。

 

 そして、オーフィスと築いてきた友情が、ここにきて奇跡を起こす。

 

「我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ」

 

『我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け』

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

『赫赫たる夢幻の神よ』

 

「『際涯を超越する我らが禁を見届けよ』」

 

 ああ、今ならいける。今ならなれる。

 

 行くぜ、ドライグ。……そしてオーフィス!!

 

 俺たちは、静かに見てくるリゼヴィムをにらみつけて宣言する。

 

「『汝、燦爛のごとく我らが燚にて紊れ舞え』」

 

 そして、俺たちは至る。

 

 これが、俺たちの新たな力―

 

「―龍神化、『D×D』・G(ディアボロス・ドラゴン・ゴッド)。……これが、俺たちの新たな力だ」

 

「……うっひょー! 見事だねーホント」

 

 いつもの調子に戻ったリゼヴィムは、そういって両手を頭の上でぱちぱちと鳴らす。

 

 その瞬間、俺はリゼヴィムの顔面に拳を叩き込んだ。

 

 透過はもう必要ない。この拳だけで十分。

 

 そして、俺たちの拳はリゼヴィムの顔面につきささり、そして殴り飛ばす。

 

 そしてリゼヴィムは空中で回転すると素早く着地。

 

 驚くことなく、鼻から流れる血をぬぐった。

 

「……ビビらねえのか?」

 

「いやいや、ビビってるぜ? まさかたった一つの神滅具で俺の神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)を突破してんだもん」

 

 ああそうだ。俺の力はもうリゼヴィムにかき消されない。

 

 理由は簡単だ。龍神化の出力が強すぎて神器無効化能力を凌駕した。

 

 これで思う存分リゼヴィムの野郎をぶん殴れる。今までの仮を十分に返すことができるってわけだ。

 

 なのに、俺は嫌な予感が止まらない。

 

 ……なんなんだ、奴のこの余裕は?

 

「んじゃ、隠しだまを使うとするかねぇ。おじさん大盤振る舞い!」

 

 そういって、リゼヴィムは服をはだける。

 

 まじかよ。内側に大量にフェニックスの涙があるじゃねえか。

 

 生産手段は向こうも確立していた。だからってこの数は想定外だ。多すぎだろ。

 

 リゼヴィムは素早く一本取り出すと中身を自分の顔にかけて―

 

「………ありゃ?」

 

 あれ? 傷が治ってないぞ?

 

 どういうことだよ。まさかリゼヴィムが持ってきてるやつが劣化再現なんてことはねえだろ?

 

「……申し訳ありません、リゼヴィム様。それはすべて「無価値」にさせていただきました。」

 

 そう告げるのは、戦意を喪失したディハウザーさん。

 

 レーティングゲームの不正を全部暴露した皇帝は、静かにリゼヴィムに視線を向ける。

 

「ライザー・フェニックスと戦ったときにフェニックスの特性は解析しました。貴方の神器無効化能力は無理でしたが、フェニックスの涙はすべて意味を成しません」

 

 お、おお。おおおおおお!!!

 

 やっぱこの人冥界の英雄だよ! 最後の一線迄魂を売っちゃいなかった!!

 

 アジュカ様が言ったのはそういうことか! だから、ライザーとの試合までは行動を起こさなかったんだ!!

 

 いける! これなら龍神化で押し切れる!!

 

「さあ、覚悟しやがれ、リゼヴィム―」

 

「くっくっく……」

 

 俺が息巻いたその時、リゼヴィムは嗤った。

 

 追い詰められてやけになったんじゃない。これは、まだ余裕が残っているやつ特有の笑みだ。

 

 なんだ? この状況下で、まだなんか逆転の策があるのか?

 

「いいぜ、いいぜ? なら、今からが俺の本領発揮タイムだな、おい!!」

 

 そういいながら、リゼヴィムは素早く腰に何かをつける。

 

 ……あれは、イグドライバー!!

 

 あの野郎、アイツもイグドラシステムを使うのかよ!

 

 確かにあのシステムなら、リゼヴィムぐらい強くてもパワーアップはできるはずだ。王の駒よりかは安全に強くなれるはず。

 

 だけど、イグドラフォースぐらいの装備じゃなけりゃ、龍神化した今の俺を倒すぐらい底上げできるわけが―

 

 俺がそう思ったその瞬間、俺たちは懐かしいオーラを感じた。

 

 そしてそれは、リゼヴィムが持っているジェルカートリッジから放たれている。

 

 嘘だろ、あれは、あのオーラは―

 

「―ファーブニル、さん?」

 

 アーシアが、唖然となっていった。

 

 そうだ。あのオーラはファーブニルのオーラだ。

 

 どういうことだよ。ファーブニルは今でも連絡が取れなかったけど、さすがにあの状態でリゼヴィムに喧嘩を売るほど無謀じゃないはずだぞ!!

 

「いや~ちょっと前は参ったぜ。ファーブニルくんが魂だけで俺にとり憑いてさ、夢で俺を喰い殺しまくってるもんだから文字通り夢見が悪くって悪くって不眠症で」

 

 リゼヴィムの言葉に、俺は目を見開く。

 

 そういえば、オーフィスもクロウ・クルワッハもファーブニルが誰かと戦っていることをにおわせていた。

 

 そりゃ戦うならリゼヴィムだと思ってたけど、アイツもボロボロだし、さすがに迂闊だと思っていた。

 

 まさか、魂だけで仕掛けてたなんて。

 

「流石にもう参ったもんだけどよ? そこは俺の大事な恩人のリムヴァン君なだけあって、即席で複合禁手を作って何とか捕縛できたんだよ」

 

 ……捕縛、だって?

 

 おい、それってまさか―

 

「なもんで、反撃もかねてファーブニルの魂はジェルカートリッジに仕込ませてもらったぜ?」

 

「この……野郎っ!!」

 

 ふざけんな! それを今すぐ返せ!!

 

 俺は一気にスラスターを展開して殴り掛かるが、それよりリゼヴィムがジェルカートリッジを取り付ける方が早い。

 

「イグドライブ!!」

 

 そして俺が拳を突き出し―

 

「イグドラブニル、ただいま推参ってなぁ!!」

 

 カウンターで叩き込まれた、黄金の鎧の拳が俺を殴り飛ばした。

 

 まずい! ただでさえリゼヴィムは超越者。今の俺なら上回ってる自身はあるけど、そこにファーブニルの戦闘能力が追加されたら、ひっくり返せる!

 

 しかもこの形態、なり立てだからいつまで持つかもわからねえ! へたしたらもう解除される可能性だってあるぞ!?

 

 そう俺が思った瞬間、俺の後ろにリゼヴィムが立っていた。

 

 いつの間に!? あ、まさかファーブニルの宝物迄使えるってのか!?

 

「……おっ、龍殺しまで持ってるとか、さっすがファーブニルくんだ、やるねぇ」

 

 にやりと笑ったリゼヴィムの手には、明らかにドラゴンにとってやばそうな剣が握られてた。

 

 アザゼル先生ぃいいいいい!? ドラゴンに龍殺しなんて与えないでください!!

 

 あ、俺もミカエルさんにもらってた! 人のこと言えねえ!!

 

 とりあえずとっさにアスカロンで防ぐけど、さらに顔面に筒状の物体が突き付けられる。

 

 ってこれ、吸血鬼の里で使ったタスラムのレプリカ―

 

「はいどっか~ん!」

 

 至近距離からぶっ放されたらさすがに防げず、俺は思いっきり吹っ飛ばされる。

 

 クソ! 一気に戦闘能力が互角になりやがった!

 

「本当ならいたぶっちまいところだが、ディハウザー君やうちのヴァーリきゅんが何かしてくるかもしれねえしな。……速攻でカタにはめてやるぜ!!」

 

 この野郎、珍しくまじになってるじゃねえか。

 

 上等だ、意地でも手前はぶっとばす!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想定外の事態に、ヴァーリもまた歯噛みしていた。

 

 奇跡の覚醒にリゼヴィムを打開する切り札になるかと思われたが、蓋を開けてみればリゼヴィムはさらに隠し玉を使って再び形成を逆転する始末。

 

 恐るべきはリムヴァン・フェニックスの拡張性。即席で複合禁手を作り上げ、龍王クラスすら取り込んだ。それを超越者であるリゼヴィムが使えば、どれだけの戦闘能力を発揮できるかわかったものではない。

 

「おのれ、あの屑がここまでできるか……っ」

 

 奥歯を砕きかねないぐらいの力でかみしめる。

 

 もはや今の兵藤一誠の戦闘能力は、極覇龍をもってしても届かない。その一誠と真正面からリゼヴィムが相対している。

 

 龍神の力を借りた兵藤一誠。龍王の力を奪ったリゼヴィム・リヴァン・ルシファー。その戦いはまさに頂上決戦だ。

 

 断言しよう。今から介入したところで、ヴァーリは足手まといにしかならない。

 

「ここまで来てこれか! あの男に、一矢報いることすらできないというのか!!」

 

 思わず拳を地面にたたきつける。

 

 あまりにも悔しくてたまらない。

 

 勝機はあったのだ。リゼヴィムの力はあくまで神器を経由しなければ無効化されることはないのだから、あえて神器の力を一切経由しない攻撃方法を用意すれば、ダメージを与えることは可能だった。

 

 だが、あの超常的な戦闘ではあてることがまず困難だ。あてれたとしても、あの性能では痛痒を与えることすら困難だろう。

 

 届かない。怨敵にも、好敵手にも。

 

 かつて、兵藤一誠はあまりにも弱かった。

 

 血筋も、環境も、素質もすべてが自分より下だった。あまりの差に、割と本気で復讐者に仕立て上げてモチベーションだけでも並ばせようと思ったぐらいだ。

 

 それが、今では彼の戦いを指をくわえてみていることしかできない。

 

 これでよくもまあ、史上最強の白龍皇になれるなどといわれたものだ。真女王に並ぶ極覇龍すら圧倒する、龍神化の力がある限り兵藤一誠はヴァーリ・ルシファーに負けることはない。そして、それと相対して有利に立ち回るリゼヴィムにヴァーリが勝つことは到底あり得ない。

 

「イッセーさん、ファーブニルさん……っ」

 

「アーシアちゃん!? しっかり!」

 

 そして隣では、ファーブニルを好きにされている事実とイッセーが苦戦している事実に、アーシアが泣き崩れていた。

 

 もはやあの超高速戦闘では援護することすらできないだろう。回復のオーラを放っている余裕もない。

 

「……なあ、あんた! あんたはさっきまでイッセーをいなしてたんじゃないか! あんたなら、イッセーの援護ができるんじゃ―」

 

「……だめだ。ここで私があなた達から離れれば、確実にリゼヴィム皇子は狙ってくる。そうなれば彼は致命的な隙をさらしてしまうだろう」

 

 イッセーの父がディハウザーに懇願するが、ディハウザーも首を振る。

 

 この戦い、リゼヴィムの方が優勢に戦っている。更に悪辣極まりないリゼヴィムの性格なら両親を狙って攻撃することで注意を引く程度のことはするだろう。それをしないのは、ディハウザーがすぐ近くにいて迎撃することが読めているからだ。

 

「安全圏まで連れて行きます。それが、これだけの事態を引き起こした私のできる数少ない責任の取り方だ」

 

「……っ」

 

 ディハウザーの言葉に、イッセーの父はそれを認めるしかない。

 

 それほどまでのあの戦いは超常の戦いなのだ。人間では核をもってしてもどうにかすることができないだろう、圧倒的なまでの力のぶつかり合いが目の前で行われている。

 

 そして、それに介入することができないという事実を、ヴァーリは認めるほかない。

 

「……くそぉおおおおおお!!!」

 

 思わず頭を地面にたたきつける。

 

 衝動のあまりなしたことだが、その衝撃で鎧すら砕け散った。

 

 なにが魔王の末裔だ。そんなもの、あのリゼヴィムの方がはるかに能力を発揮している。

 

 なにが最強の白龍皇だ。目の前で赤龍帝はさらにその上を言っている。

 

 魔王の血を継いだ白龍皇といっても、自分は半端ものであの高みには到達できない。その事実が何よりも悔しく、ヴァーリは震えるほかない。

 

「……き、君? なんだか知らないが、自分を傷つけるのはダメだと思―」

 

 イッセーの父がそんなヴァーリに気遣いを見せる。

 

 この状況下で、そこまで他者に余裕を見せれる父親。

 

 ……もし、そんな男が自分の父親だったら。

 

 そんなことをふと考え、ヴァーリは一瞬だが視線を彼に向ける。

 

 その彼の顔を見て、彼は何かに気が付いたかのように目を見開いた。

 

「君は……たしか一度来ていたね」

 

「あ、イッセーと一緒に家に来てた子?」

 

 その言葉に、ヴァーリはかつてのことを思い出す。

 

 確かにそうだ。ロキがオーディンを狙った一件で、自分確かに少しの間だが兵藤一誠の家に来訪していた。

 

 だが、ほんのわずかな時間だったはずだ。

 

「覚えて……いたのか?」

 

「そりゃそうだ。息子はスケベすぎて友達が少なかったからね」

 

 ……確かに、兵藤一誠はスケベの極みだ。

 

 普通、両親を殺すといわれたときの方が怒るだろう。なんで自分の技を誤解した結果さらに怒るのだ。誤解させたアザゼルもアザゼルだが、怒る彼も彼である。

 

 確かに調べたときもスケベすぎていろいろと敬遠されていたそうだし、そういう意味では友達が少ないのも頷ける。

 

 だが、自分は友達ではない。

 

「あの、ヴァーリさんはイッセーさんを何度も助けてくれた人で……」

 

「いや、そんなものではない」

 

 アーシアが説明しようとするのをさえぎって、ヴァーリは静かに首を振る。

 

「俺と彼は、何度も何度もお互いに殺し合ってきた力を受け継いできた者同士で、どちらかといえば宿敵だ」

 

 そう。そしてそれも決定的な差がついたばかりだ。

 

 なにより、友というものは、家族を殺そうとしたりする者ではないだろう。

 

「俺は彼の弱さにあきれ果てたあまり、彼の向上心を高めるために貴方方を殺そうと思ったこともある。そんな関係になるような資格はない」

 

 静かに、ヴァーリは事実を言う。

 

 ……思えば、兵藤一誠が強い力を引き出すほどに怒るのも当然だ。

 

 これだけの状況、それも突然の事態にも関わらず彼らは兵藤一誠を子供と認めた。

 

 それだけのことができる親なんて、そうはいないだろう。それほどまでに、彼らは素晴らしい人たちだ。

 

「愚かなことをした。父に恵まれなかったとはいえ、家族の大切さをあまりにないがしろにした行動だった。ああ、今この場で無様をさらしているのも当然だ……」

 

 以前、ヒロイ・カッシウスに言われたことを思い出す。

 

 ヒロイは、ヴァーリにお前は一誠に嫉妬しているのではないかと指摘した。

 

 その時はそんなつもりはなかったが、しかし今では納得してしまう。

 

 母親なら負けてない自信はある。だが、すでにもう記憶はない。

 

 父親では勝ち目が全くない。あの男は魔王の末裔だが、間違いなく目の前のこの父親より弱いだろう。

 

 そんな家族に恵まれない男が、これだけの素晴らしい両親に支えられている漢を超えることなどできるわけがないだろう。

 

「ん……ん~? なんかよくわからないが……」

 

「そう……よねぇ?」

 

 首をかしげながら顔を見合わせた二人は、しかしヴァーリに微笑みかけた。

 

「それを悪いことをしたって思ってるなら、それでいいじゃないか。第一、イッセーと一緒に俺達を助けに来てくれたんだろう?」

 

「そうねぇ。ちゃんと話したってことは、反省してるってことでしょうし。私達も特にあなたに何かされたわけじゃないから……ねぇ」

 

 その言葉に、ヴァーリは頭の中が一瞬真っ白になる。

 

 そして、ふと昔のことを思い出した。

 

 自分の父親―ラゼヴァンから自分を守る力を持たない母は、それでもこっそりスパゲッティを作ってくれた。

 

 なぜ、今それを思い出したのかわからない。

 

 そして、彼らがそんなことを言ってきたのかもわからない。

 

「いや、その、今は目的のための共同戦線というか……なんというか……」

 

 ちょっと戸惑ったが、しかしそれを気にせず二人は手を差し伸べる。

 

「とにかく、俺たちがここにいたらイッセーが戦えないのはわかった。父親として情けないが、ここは足を引っ張らないようにしないとな」

 

「そうね。貴方も、あそこの人と一緒に私たちを助けてくれるんでしょう? 助けてくれたのなら、ちょっとぐらい前に悪いこと言われたぐらいのことは……ねぇ」

 

 その言葉に、ふと思い出す。

 

 自分がアルビオンの力をなかなか引き出せなかったりした時に相談し、引き出せたときはつい自慢げに語ったあの男のことを。

 

 ああ、そうか。

 

 自分は、あの男のことを父のように……。

 

『ヴァーリ。聞こえるか?』

 

 その時、白龍皇の光翼から、相棒の声が届く。

 

「な、なんだ!? どこからともなく声が聞こえるぞ!?」

 

「そう言えばイッセーが変身するときにも聞こえた気がするわ!? どういうこと!?」

 

 あたふたとするイッセーの両親を半ばスルーして、アルビオンは告げる。

 

『……奴はオーフィスの力を借りて、グレートレッドの肉体を利用して至った。だが、お前もまたオーフィスの友で、魔王の血を持っているだろう?』

 

 その声に、ヴァーリはふと気づく。

 

 そうだ。確かに自分は彼に負けるかもしれないが、それでも完敗したわけじゃない。

 

『私も、お前が望むならあえて忌み名を名乗ろう。ドライグがその真名をあえて掲げたように』

 

 そうだ。そうだ。そうだ。

 

 記憶をすべて失った。しかし、母は自分を愛してくれた。

 

 実父はとても弱かった。だが信頼できる養父はいた。

 

 そして、相棒だけは断言できるぐらい敗けていない。

 

「……ディハウザー・ベリアルにアーシア・アルジェント。彼らは任せる」

 

 ヴァーリは立ち上がると、そしてふと笑みを浮かべる。

 

 なるほど、これは非常に単純なことだった。

 

「……俺は、兵藤一誠を助けてくるとしよう。というより、リゼヴィムは俺の得物だ、彼には譲れないさ」

 

「えっと……イッセーをよろしくお願いしますっていえばいいのかな?」

 

 イッセーの父親がそう首をかしげる中、ヴァーリは今までにないぐらい自然な笑みを向けることができた。

 

「任せてくれ。俺は彼の最強の好敵手(ライバル)だからな」

 

 その言葉を最後に、ヴァーリは飛ぶ。

 

「行くぞ、アルビオン・グヴィバー」

 

『行こうか、ヴァーリ・ルシファー』

 

 真名を呼び合い、ヴァーリは空をかける。

 

 その背中に、ここにいないはずの声が届いた。

 

―我も謳おう。我の友達、ヴァーリ

 

「ああ、行こうか……オーフィス!」

 

 そしてまた、白龍皇もまた至る。

 

 そう、赤龍帝が悪魔にして龍ならば、自分とてそうだ。

 

 ならば、至れぬわけがない。

 




リゼヴィム超強化。そしてリゼヴィムらしくイッセーたちの神経を逆なでするイライラさせる切り札です。

以下にドラゴンが最強の生物だろうと、そもそも人間は哺乳類最弱といっても過言ではない存在。そしてその最弱の生物に与えられた奇跡こそが神器。

それを複合させてさらに昇華させるリムヴァンが絡めば、龍の王といえどそう簡単にはいかないのです。









しかし、ドラゴンだって甘く攻略される手合いではない。

ちょっと早めにヴァーリも覚醒。こっからが大バトルの始まりだ!!


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第六章 87 龍の逆鱗

第六章のラストバトル開幕!!

2人のD×Dが対に覚醒。さあ、明けの明星の座を奪い取る時だ!!



 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 野郎! 流石に超越者を名乗るだけはあるってか!

 

 しかもここにファーブニルの力まで加わってるから、むしろ追い込まれてるのは俺の方だ!

 

「どんな気持ち? ねえどんな気持ち? 覚醒したと思ったら結局逆転されて今どんな気持ちぃ?」

 

「本当に糞野郎だな、お前は!!」

 

 挑発にうっかり乗って殴り掛かるけど、リゼヴィムは聖なるオーラを放つアイテムでそれを受け止める。

 

 腕がひりひりする!! そして心はむかむかする!!

 

 畜生! このままだとさすがにガス欠になる!!

 

「ふっふ~ん♪ この調子なら持続力でおじちゃんの方が勝てる感じだねぇ? 勝っちゃうねぇ倒しちゃうねぇ撃破しちゃうねぇ!?」

 

 わかりきってることを言いやがって。勝者の余裕だってか、この野郎!!

 

 だけどどうする? このままだと押し切られて―

 

「兵藤一誠!!」

 

 その時、俺の耳に声が届く。

 

「待たせたな。俺も手を貸そう」

 

 ヴァーリか!? お前、もう大丈夫なのか!?

 

 とっさに振り返った俺は、ヴァーリのなんか晴れ晴れとした顔を見て唖然となる。

 

 マジかよ。アイツ、あんな顔で来たのか。

 

「いいご両親だ。これが終わったら親孝行に励むといい」

 

 そんなこと言いながら、ヴァーリは俺の肩に手を置く。

 

 そして、そこから力が流れこむ。

 

『待たせたな、赤いの。悪いが、ヴァーリの方が素質は上なのだ。おいて行かれたりはしないぞ?』

 

『ふっ。どうやら相棒、こいつらは本当に厄介な好敵手のようだぞ?』

 

 アルビオンの言葉に何かを察して、ドライグは苦笑しながらそう言った。

 

 ああ、俺も分かるぜ。

 

 今ならいける。ヴァーリも行ける!!

 

「すこしだけ時間を稼げ、兵藤一誠」

 

「任せとけよ、ヴァーリ!」

 

 ああ、勝ちの目が見えたぜ!!

 

「流石にそれはいただけないぜぇ糞孫ぉ!!」

 

「させねえよ、糞ジジイ!!」

 

 俺がヴァーリをかばってリゼヴィムを抑え込む、十数秒。

 

 それだけで、ヴァーリには十分だった。

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理をも降せ」

 

『我に宿りし白銀の明星よ、黎明の王位に至れ』

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

『玄玄たる悪魔の父よ』

 

 なんでかねぇ。殴り合いしてる真っ最中だってのに、全然痛くねえ。

 

 感じるからだよな。この詠をどこかで謳っている、オーフィスの魂を!!

 

『「究極を超克する我らが誡を受け入れよ」』

 

 さあ、行こうぜヴァーリ!!

 

「『汝、玲瓏の如く我らが燿にて跪拝せよ!』」

 

 その瞬間、ヴァーリの鎧が俺の鎧みたいに変化した。

 

 より有機的に、ところどころに黒を宿し。

 

 今ここに、もう一人のD×Dが生まれたってわけか。

 

「……これが、魔王化、『D×D』・L(ディアボロス・ドラゴン・ルシファー)

 

『真なる明けの明星はヴァーリにこそふさわしい。このアルビオン・グヴィバーが断言しよう』

 

 まじか。ここにきてお前も至るかよ。

 

 いや、それでいいさ。

 

 格下の俺が置いてけぼりにするなんて、あり得るわけねえもんな、ヴァーリ!!

 

「いくぜ、ヴァーリ!!」

 

「行こうか、兵藤一誠!!」

 

 俺とヴァーリは左右からリゼヴィムに仕掛ける。

 

 それを見て、リゼヴィムもまた動き出した。

 

「させねえよ、させるわけねえだろうがぁ!!」

 

 超高速での打撃戦と砲撃戦を繰り広げながら、俺たちは攻撃を叩きつけ合う。

 

 遠慮なく全力で攻撃を叩きつけながら、リゼヴィムは吠えた。

 

「やりたいことだらけのお前らなんぞにやられてたまるか!! 俺は……ようやく生きがいってもんが手に入ったんだ!!」

 

 その翼が広がり、俺とヴァーリに突き刺さる。

 

 そして痛みで一瞬動きが鈍った瞬間に、大漁の魔力砲撃が叩き込まれた。

 

「この数千年間、俺がどれだけ生きる糧が無くて抜け殻だったと思う!! あれは生きてるんじゃねえ、死んでねえだけだ!!」

 

「ほざけ、リゼヴィム!!」

 

 ヴァーリが空間ごと半減を仕掛けるが、リゼヴィムはそれを意に介さず殴り掛かった。

 

「リムヴァンだ。アイツのおかげで俺は「このために生きている」感覚が得られた。生きがいが手に入ったんだ!!」

 

 後ろから殴り掛かる俺を翼で迎撃し、そしてさらにリゼヴィムは全身からオーラを放つ。

 

 その瞬間、俺たちの力ががくんと下がった。

 

 これは、神器無効化能力!? あの野郎、ここにきて出力が上がってやがる!!

 

「生まれてから生きがいに困ってねえようなガキどもが!! 俺の恩人の邪魔するんじゃねえぞぉおおおおおおお!!!」

 

 そして全力で俺たちを投げ飛ばし、俺たちは元いた場所まで吹っ飛ばされる!

 

 くそったれ! あの野郎……爺さんのくせして伸びしろがあるとか冗談だろ。

 

 ストラーダ猊下もそうだったけど、最近の俺の周りには、ハッスルしている爺さんが多すぎる!!

 

 あの野郎……! ファーブニルの力使って好き勝手しやがって―

 

「おらよ!!」

 

 気づいた時には、リゼヴィムが俺を踏みつけていた。

 

 くそ! ファーブニルの力を借りてるからって、二人掛かりでD×Dを発動させても届かないってのか!!

 

「くたばりやがりなクソガキ。招待状通りにてめえをトライヘキサへの生贄にしてやるぜ?」

 

 こ、の、野郎……っ!!

 

 俺が無理やり振り払おうとして、力を込めてもリゼヴィムは動かない。

 

 くそ! 神器無効化能力で出力が下がってる!! これじゃあ……!

 

「まだだ、リゼヴィム!!」

 

 ヴァーリが反撃のために突撃するが、それより早くリゼヴィムは動いた。

 

 一瞬で魔力を剣の形に固定化すると、それをヴァーリの振るった剣をぎりぎりでかわして突き刺した。

 

 ヴァーリの剣もリゼヴィムのプロテクターを傷つけるけど、それでも届かない。

 

「魔法オンリーの剣か。確かにそれなら効くだろうが、今の俺ならどうにでもできるんだよなぁ、お爺ちゃんに二対一で負けるとか、孫として恥ずかしくないん?」

 

 ぐりぐりと剣をひねりながら、リゼヴィムは勝ち誇った声を上げる。

 

 この野郎!! 無理やりファーブニルの力を使ってるくせして、ふざけたこと言いやがって!!

 

 それが悔しいのか、ヴァーリも震える手でリゼヴィムに触れ―

 

「―これで詰みだ、リゼヴィム」

 

『Divid!』

 

 半減が、何かを確実に減らした。

 

 なんだ? 何を減らした?

 

 神クラスすら超えている今のリゼヴィムをどうにかできるとは、さすがに思えないんだけど……。

 

 俺もリゼヴィムも一瞬きょとんとする。

 

 そしてそのとたんリゼヴィムから力が抜けた。

 

「……な?」

 

「……はっ! おら!!」

 

「ぐぼぁ!?」

 

 力が抜けて俺もリゼヴィムもぽかんとしたけど、俺の方が我に返るのが速かったんで殴り飛ばせた。

 

 あれ? なんかすげえ殴り心地がいいっていうか、全然避けてなかったぞ、リゼヴィム?

 

 いったい、どういう……。

 

 困惑する俺たちに、アルビオンの声が届いた。

 

『ほら、それで何とかできるだろう? おまえもこいつが嫌いなら、少しは力を貸せ!!』

 

 その言葉に反応して、イグドライバーから声が響いた。

 

『……アーシアたん傷つけた。許さない……!』

 

 この声! そうか、お前も頑張ってるんだな。

 

 龍王の意地ってもんがあるよな、ファーブニル!!

 

「ファーブニルだと!? まさか、半減させたのはイグドライバーのシステムそのものか!?」

 

「そう言うことだ!」

 

 狼狽するリゼヴィムの顔面に、ヴァーリのケリが叩き込まれる!!

 

「ファーブニルを舐めんじゃねえ、糞ジジイ!!」

 

 そして動きが鈍くなったリゼヴィムの腹に、俺の拳がめり込む!!

 

 そして俺たちの連続攻撃が、全部簡単にリゼヴィムに吸い込まれる!!

 

 そうか。ヴァーリが半減させたのはイグドライバーの機能。

 

 無理やり力を吸い出されていたファーブニルは、それで強引に支配権に干渉している。

 

 今なら、イグドラブニルはリゼヴィムを強化する鎧じゃなくてリゼヴィムを拘束する枷になる!!

 

「この……だったら、変身を解けば―」

 

「「させるか!!」」

 

 イグドライバーに延びかけた手を、俺たちは速攻で掴む。

 

 ファーブニルが作ってくれた最大のチャンスだ。ここで逃がす気はねえ!!

 

 そして、これ以上コイツをのさばらせる気はかけらもない。

 

 俺たちは、同時に頷いた。

 

 ヴァーリの腹部と俺の翼が展開して、砲口を形成する。

 

 ああ、今の状態だからこそ放てる最大火力。至近距離から同時にぶちかませば、神器無効化能力が効きかけている状態でもこいつを文字通り吹きとばせる!!

 

「これで終わりだ!!」

 

「消しとべ、リゼヴィム!!」

 

 散々好き勝手に暴れまわったんだ。いい加減つけを払う時だぜ、リゼヴィム!!

 

『Satan Lucifer Smasher!!』

 

『∞ Blastert!!』

 

 一斉に放たれる、真紅と白銀と漆黒のオーラによる大砲撃。

 

 動きが阻害されている状態でリゼヴィムが躱す余地はなく―

 

「まさか、保険の方を使う羽目に……リムヴァン、俺は―」

 

 そう半笑いの声を最後に―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リゼヴィムの上半身は、文字通り跡形もなく吹っ飛んだ

 




リゼヴィム、撃破。

しかし、まだ戦いは終わりません。っていうか二部書くつもりですし、一部にしても最終章が残っています。






さあ、ここからが地獄の始まりだ。


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第六章 88 死の刻印

ラストバトルも終了して、第六章もラストスパート。

さて、こっからが衝撃の展開だ!!


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空の景色が、三色に塗り替わった。

 

 真紅と白銀と漆黒。その三色の空は、圧倒的な力によって塗り替わったことを如実に物語る。

 

 そして、その力の波動をアーシアはよく知っている。

 

「イッセーさん!」

 

「なるほど。これはもはや超越者の領域だ」

 

 ディハウザーもまた戦慄するほどの圧倒的な力。

 

 これが、転生悪魔とハーフ悪魔の編み出した領域。二天龍と悪魔の力の複合で生み出された龍神の具現化。

 

 D×D(ディアボロス・ドラゴン)(ルシファー)(ゴッド)

 

 その圧倒的な力の共演。いかにリゼヴィムといえど耐えられるものではないだろう。

 

「な、なんかすごいことになってるんだけど。これ、イッセーがやったのか?」

 

「え、え? イッセーが? これを?」

 

 息子がいつの間にやらとんでもないことをしでかせるようになっており、イッセーの両親は唖然となるほかない。

 

 というより信じられてない。まあ、ただの人間で異形にかかわりない夫妻なら当然でもある。

 

 それに苦笑して、ディハウザーは言い切った。

 

「その通りです。あの二人は伝説の二天龍にして、魔王ルシファーの系譜にかかわるものですから」

 

「お父様にお母様! イッセーさんが勝ったんです!!」

 

 アーシアに屈託のない表情もあって、2人とも何とか信じる気持ちになった。

 

 とはいえ、スケールが違いすぎて現実味を感じていないらしい。

 

 まあ、戦略核でもできないだろう出力を、一般人だとばかり思っていた息子が放っているのだ。そんなものを即座に信じろというのが困難。というより信じられたらそっちが異常だろう。

 

 そう思うとディハウザーは苦笑したくなり、しかしすぐに気を引き締める。

 

 完膚なきまでに自分の不手際でひどい目に合わせてしまった。

 

 ならば、せめて安全なところに運ばなければいけないだろう。それが最低限の罪滅ぼしだ。

 

「とにかく安全なところまで連れて行きます。彼女がいれば多少のけがは治りますが、しかし私から離れないで―」

 

 そう言いかけたその時、おぞましい気配を感じてディハウザーはすぐに動く。

 

「飛ぶんだ!!」

 

 素早くアーシアに指示を出すと、自分は手早くイッセーの両親を抱えて飛び上がる。

 

 慌ててアーシアが飛び上がったその瞬間、大漁の黒い水が地面を覆う。

 

 明らかに強大な力がこもっている。不用意に触れれば、レーティングゲームトップの自分といえどただでは済まないだろう。それほどまでの力がこもっているのがよくわかる。

 

「な、なんだ!? 津波!?」

 

「私から離れないでください! 君も、絶対に触れるな!!」

 

 おそらくアポプスの原初の水だろう。

 

 すなわち、邪龍筆頭格の一人であるアポプスが近くにいるということだ。これはまずい。

 

 邪龍なりの誇りを持っている男だが、同時に邪悪の存在でもある。民間人に手を出さないなどということは考えづらい。

 

 もしかすると、こちらが寝返ったことに気が付いてこれ幸いと勝負を挑みに来たのか。

 

 そんなディハウザーの嫌な予感は、すぐに消えた。

 

「……あ、親父さんにお袋さん!!」

 

「無事でしたか! イッセーたちは何とかできたようね」

 

 ボロボロになりながらもしかし戦意をなくさない、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアル。

 

 ディハウザーが抱えているイッセーの両親の姿を見て安堵し、しかしすぐに表情をしゃっきりとさせる。

 

 そして、それを追いかけるようにアポプスとアジ・ダハーカが追いかけてきた。

 

『……おい、リゼヴィムの奴しくじったみたいだぜ?』

 

『情けない、情けない!!』

 

『所詮チンピラ!!』

 

「……ふむ、リゼヴィム皇子はやはりルシファーとして片手落ちだな。超越者ですらあれでは話にならない」

 

 こちらの姿を認めたアジ・ダハーカとアポプスは、リゼヴィムを嘲笑う。

 

 そして、即座にディハウザーに鋭い視線を向ける。

 

「すまないが皇帝殿。我らは雪辱戦で忙しい。決闘に無粋な横槍を入れる趣味はないので、できればすぐに退去していただきたい」

 

「そうね。一応礼はしておきたいし、ここは私達に任せてもらえないかしら?」

 

 アポプスが勢力圏外の方向を示し、リセスもアーシア達をかばいながら、それを促す。

 

 ……邪悪ではあるが、誇り高いドラゴンなのだろう。少なくとも自分なりの流儀は持っているからこそ、これと見定めた戦いに邪魔を入れさせる気はないらしい。

 

 そして、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルもそれを了承したようだ。

 

 天界での戦いでは、ヒロイ・カッシウスはアジ・ダハーカをこき下ろしていたそうだが、どういう心境の変化だろうか。

 

 だが、はっきり言えることがある。

 

 この場は、一旦退いた方が利口だ。

 

「ひ、ヒロイくんにリセスさん!? 二人とも、大丈夫なのかい!?」

 

「え? あ、大丈夫です大丈夫です。一回吹っ飛ばしてますから大丈夫、今回も勝ちます」

 

「ええ。それに私は肉体的に絶不調な状態で勝ったもの。今ならもっと余裕をもって倒せるわ」

 

 慌てるイッセーの父に、ヒロイもリセスも強気の言葉を返す。

 

 そして、それを見てアポプスもアジ・ダハーカも戦意を燃やし、笑みを浮かべる。

 

 そしてお互いがお互いを見据え、戦闘の構えを再びとる。

 

 英雄と邪龍。世界各地の英雄譚で繰り広げられる戦いの構図が、今まさに新たに始まらんとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、ここ迄だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、上空から数千を超える砲撃が叩き込まれる。

 

 とっさに防御結界を取る者たちが全員だが、その砲撃は当たった瞬間にその結界に最も有効的な属性と化し、その多くが突破。

 

 しかし、その瞬間に同数の魔法砲撃が別々の属性で叩き込まれ、その弾幕を相殺する。

 

 そしてさらに倍以上の数の砲撃が同時に放たれ、砲撃を放ったものに殺到した。

 

『……何のつもりだ、リムヴァンッ!!』

 

 砲撃をはなったアジ・ダハーカが、無粋な横槍を入れた者に殺意を叩きつける。

 

 アジ・ダハーカは自分が多数と戦うならともかく、自分の戦いに他者が助力することを嫌う。それこそ、量産型の邪龍が相手であろうと味方を屠るぐらいのことはするほどだ。

 

 それがリベンジマッチという盛り上がる戦いで行われた。完全に怒り狂っている。

 

 そして、それはアポプスもまた同様。

 

 アポプスとアジ・ダハーカは同種の邪龍。ゆえに同様に殺意を向ける。そして、一切の遠慮なく原初の水が砲撃で発生した煙を割いて襲い掛かる。

 

 ―そして、その攻撃はリムヴァンに一切の痛痒を見せなかった。

 

「……いや、ちょっとホントにこっちも本腰入れるころになったからね。いい加減茶番はそこまでにしてほしいんだよ」

 

 それらの攻撃を、まるでそよ風を浴びたかのような態度で流しながら、リムヴァンはあきれたかのような視線を向ける。

 

 そして、オーラによって染まった空を一瞬だけ見据え、哀悼の意を込めて目をつむった。

 

「L。君がいたからこそ、ヴィクターはここまで大きくなれた。僕の喜びは君が作ってくれたんだ

 

 そこには確かに悼む気持ちがある。哀悼の感情を込めた言葉があり―

 

「―そして、ついに封印は解除されたよ。ありがとう、L」

 

 ―何よりその身を犠牲にして自身の大願をかなえてくれたものに対する感謝があった。

 

 そして、それと同時に基地全体が振動する。

 

「……何をしたのですか、リムヴァン宰相」

 

 ディハウザーのその言葉に、リムヴァンは微笑を浮かべる。

 

 それがあまりにも邪悪すぎて、その場の全員が三大勢力にとってろくでもないことをしでかしたのだと察していた。

 

 そして、事情を知っている者たちはそれが何なのかをうすうす気づいてしまっていた。

 

 圧倒的なオーラ。それこそ、この場にいる者たちが一致団結して完璧といってもいい連携を取ったとしても倒すことはできないだろう桁違いの密度と量。そして何より、この基地にある封印された存在。

 

 答えなど、一つしかなかった。

 

 だが、過程がわからない。

 

 そしてそれを満足げに見ながら、リムヴァンは種を明かす。

 

「実をいうと、イッセーくんかヴァーリくんを生贄にしてトライヘキサを復活させるのはあくまで本命なだけでね。万が一に備えて、もう一つの保険をかけておいたのさ」

 

 その言葉から続けようとして、しかしリムヴァンは一瞬だけ悲しみを浮かべる。

 

 そして、それを受け入れて彼は言い切った。

 

「万が一Lが死んだ場合、彼の魂を生贄にして、一気に封印解除が行われる仕組みになっているんだよ」

 

「「「「……っ!」」」」

 

 その言葉に、認めたくない事実を受け容れるほかなくなる。

 

 それほどまでの圧倒的なオーラ。超越者や主神ですら比較対象にするのが哀れになるほどの圧倒的な力量の具現。答えなど本来一つしかない。

 

 そう、トライヘキサ。

 

 クリフォトの行動指針であり、そして何より絶対に封印を解除されてはならなかった、D×Dの最優先対象。

 

 それが、ついに解き放たれたのだ。

 

 そしてそれに不快な感情を浮かべているのは、他にもいた。

 

「ふむ、このような無粋の後でなければ、素直に喜びたいところだが……」

 

『やっぱあれだな。リゼヴィムもてめえも、なんツーかやってることが小賢しいんだよ』

 

『うざい! うざい!』

 

『猪口才な奴らめ!』

 

 アポプスとアジ・ダハーカもまた、不愉快な感情を隠そうとしない。

 

 そして、その敵意はすでにリムヴァンにむけられている。

 

「裏切る気かい?」

 

 リムヴァンはそう尋ねるが、それを聞いてアポプスは鼻で笑った。

 

 おまえは何を言っている? まさかと思うがそこまで愚か者だったのか?

 

 そう、言外ににおわせていた。

 

「リゼヴィム皇子にしろ貴殿にしろ、真の邪龍というものを理解していないな」

 

『俺たちは誰にも縛られねぇ!! 自由気ままに好きに生きるのさ!!』

 

『いやなら倒してみろ!』

 

『できないならそっちが悪い!!』

 

 完全に敵対意識を向けてきている二体の龍に、リムヴァンは肩をすくめる。

 

 もとより、邪龍というものはドラゴンの中でも特に自分勝手に生きるものだ。

 

 比較的話が分かるクロウ・クルワッハですら、戦いにおいて自分の好みから外れると途端にやる気をなくし、勝手に戦闘を放棄してしまう。グレンデルやラードゥンは比較的制御できていたが、強大すぎるアポプスやアジ・ダハーカにそれは通用しなかった。

 

 枷を付けられること嫌うその在り方が、組織行動とは致命的にあっていない。

 

「ヴァーリきゅん並みに問題児だね。ま、彼と違ってこっちが復活させた勢いで引き込んだんだから、ある意味ましなのかな?」

 

 は~っと、彼は長い溜息を吐いた。

 

 とにもかくにも都合がいい。ディハウザーはそう判断する。

 

 リムヴァンの戦闘能力は圧倒的だが、それでもアポプスとアジ・ダハーカは強大な存在だ。彼らが激突するのなら、多少は時間が稼げるだろう。

 

 その性質上援護すれば一気に牙がこちらに向きかねないのが難点だが、安全圏に民間人を連れていくことを考えれば、そんなことをしている余裕もないだろう。

 

 ならば、この邪龍たちを囮にして、急いで赤龍帝のご両親を逃がす。それ以外に手はない。

 

 そうディハウザーが思ったのと、リムヴァンが指を鳴らすのは同時。

 

 そして、そんな思惑があっさりと崩れたのはまさにそのタイミングだった。

 

「……ぬ?」

 

『な、んだ?』

 

『ね、眠い!』

 

『意識が、遠く!?』

 

 アポプスとアジ・ダハーカの動きが悪くなる。

 

 否。これはそんなものではない。

 

 まるで体の自由が完全に他者に奪われたかのように、コントロールを失っている。

 

「リムヴァン、貴様……なにをした……!?」

 

 アポプスは一瞬で元凶を推測する。

 

 先程迄そそる戦いで好調だった自分たちが、いきなり動きを取ることができなくなるなどありえない。

 

 ましてや魔法という観点で、アジ・ダハーカを超えるものなどいない。呪詛をかけられた可能性も低いだろう。

 

 となれば、答えは一つしかない。

 

 目の前の男が、このタイミングで何かした。そう考えるのが自然だった。

 

 そして、リムヴァンは静かにふっと笑い……。

 

「ニエ君の件で裏切り対策が必須だと分かったんでね。君たちには聖杯で復活させるついでに、緊急停止システムを仕込んでおいたよ」

 

 あっさりと、そんなことを告げる。

 

「『貴……様……ぁ!!』」

 

 憎悪の念を漏らすアポプスとアジ・ダハーカだが、リムヴァンはそれを全く意に介さない。

 

「悪魔ごときが、超越者ごときが……」

 

『俺たち邪龍を、何だと思っていやがる……!!』

 

 本気の殺意と共に、最後の一撃が叩き込まれる。

 

 双方ともに先ほどの攻撃をはるかに凌駕する威力。直撃すれば魔王クラスでも消し炭なるだろう。

 

 しかし、それでもリムヴァンは動じない。

 

 真正面からその攻撃をすべて受け、そして無傷でたたずみ静かに二体の邪龍を嘲笑う。

 

「かつて、二天龍は三大勢力と戦った際にこう言ってのけたそうだね。「神ごとき、魔王ごときが俺たちの楽しみの邪魔をするな」と。ならば、僕はあえてこう言おう」

 

 そして静かに指を突き付けると、渾身の悪意を言葉に乗せる。

 

「蛇ごとき、蜥蜴ごときを好き勝手にさせるほどこの世界はたやすくできていない。柵から飛び出て暴れる家畜は、害獣も同然だから駆除するか何かしないとね♪」

 

 その言葉に、もはやアポプスもアジ・ダハーカも何も言い返すことができない。それほどまでに支配は完全に発動していた。

 

 そして、新たな参入者が現れる。

 

「……リゼヴィム殿は死にましたか。これで純血のルシファーは滅びたということですね。」

 

「残念です。リゼヴィム様とも、共に混沌(カオス)を味わいたかったのですが……」

 

 イグドライバーを身に着けた、カテレアとユーグリッドがため息をつきながら現れる。

 

 新たな強敵に警戒心を強めるディハウザーだが、2人は意にも介さず視線をそれぞれアジ・ダハーカとアポプスに向ける。

 

 そして、ジェルカートリッジと思しき物体を取り出すと、魔方陣を展開した。

 

「おい、なにする気だ!!」

 

「流石にこれ以上は見過ごせないわね!!」

 

 ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルが動くが、然しそちらに意識を向けるのは悪手だった。

 

 そして、この場においてそれをディハウザーだけがわかっていた。

 

 それは、彼のレーティングゲーム及び実戦で鍛え上げた経験則故の強みであり、そしてそれゆえに若い人間であるヒロイとリセスでは察知できない。

 

「まて! 注意をそらすな!!」

 

 ディハウザーは声を飛ばすが、両手に民間人を抱えている状態では動けない。

 

 それが、致命的だった。

 

「悪いけど、そろそろ君たちにもご退場願おうか」

 

 その一瞬で、リムヴァンは二人に接近し、そして接触していた。

 

 そしてその手に、明らかに禍々しい刻印が浮かぶ。

 

 それに二人は反応できない。それほどまでに完全な不意打ちだった。

 

「―複合禁手、極刑の宣告者(デス・オブ・ルーラー)

 

 そして、2人に刻印が刻まれる。

 

 何とかそのタイミングには反応が追い付いたが、しかし全ては手遅れだった。

 

 反撃をおこなおうとした二人は、然しすぐに動きを止める。

 

「が……ぁっ!?」

 

「何、が……!?」

 

 力が抜け、そして激痛が襲い掛かる二人に、リムヴァンは冷たく宣告を告げる。

 

「……この複合禁手は、事前準備に糞長い時間がかかる質の悪いものだ。消耗も激しいからこんな状況でなければ使えないしね」

 

 そうデメリットを語るリムヴァンだが、然し続けて放つ言葉はそれに見合ったメリットを告げた。

 

「その代わり、主神クラスですら解呪に百年はかかる死の呪いを強制的に相手にたたきつける。人間なら安静にしてても十数年、君たちクラスの全力開放なら、半日と持たずに寿命が削りきられるだろう」

 

「「「「「「!?」」」」」」

 

 そのあまりの言葉に、誰もが衝撃を受ける。

 

 だがしかし、リムヴァンならありうる。

 

 様々な神器を自由自在に取り外しでき、自らに数百では聞かない数取り込み、そして複合させて禁手に至るという、超越者と語るのもはばかられるほどの成果を上げる存在。

 

 それだけの存在が、できると告げた。

 

 ならばできる。必ずできる。それをなしてこその第四の超越者。

 

 そう、すなわち―

 

「君たちはここでリタイアだ。短い余生は、敗戦国で細々と暮らすといいよ」

 

 それほどまでに、決定的な枷をつけられたことに等しかった。

 




ヒロイとリセス、かつてないほどの大打撃。

グレモリー眷属では彼らを動かすなどという発想がまずないでしょう。死ぬかもしれないと確実に死ぬとでは、隔絶した差があるのです。

これにより、リムヴァンは強敵に絶大な枷をはめ込むことに成功しました。


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第六章 89 黙示録の序曲

いきなり前回で致命の呪いをかけられてしまったヒロイ。

そして、ここからが最終章の序曲です……!



 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーシアぁああああ!!

 

 母さん、父さん!!

 

 いったいどこに行ったぁああああ!?

 

「落ち着け兵藤一誠。あの皇帝ベリアルがいる以上、よほどのことがない限り君の両親は大丈夫だ」

 

 ヴァーリにそう諫められるけど、ここ敵の拠点だからね? 敵陣営の真っただ中だからね?

 

 わかってても心配なんだって! だってリゼヴィムが誘拐したんだし。

 

 なんか聖杯使って細工してるかもしれないじゃん! 吸血鬼の里では煽られた吸血鬼を邪龍にしようとかたくらんでたみたいだし!!

 

 トライヘキサの封印が解除されれば、それで勝てると思ってるから遠慮がなくなってるみたいだしな。本性が透けて出てきた作戦だっただろ、今回。

 

 だから、すぐにでも動いてアーシアと父さんと母さんの安全だけでも確保しないと―ッ!?

 

 その時、俺の視界にリムヴァンの姿が映った。

 

 それも、カテレアとユーグリッドまで一緒にいやがる。しかもなんか明らかにやばいドラゴンまでいるぞ?

 

 あ、あれ、アジ・ダハーカってやつだ!!

 

 くそ! こうなったら俺たちがどうにかしないと……っ!?

 

「まじかよ!?」

 

 俺の目に、父さんと母さんを抱えているディハウザーさんの姿が映る。もちろんアーシアもすぐ近くにいるけど、様子がおかしい。

 

 そして俺はすぐに気が付いた。

 

 ……顔色を悪くして狼狽しているヒロイとリセスさんがいる。

 

 すぐにアーシアが駆けつけて回復のオーラを展開するけど、2人の様子が変わる気配がしない。

 

 なんだ? なにがあった?

 

 いや、よくわからないけど、わかることも一つはある。

 

 目の前にリムヴァンがいる。この時点で、誰が犯人かなんて明白だ。

 

「リムヴァァアアアアアアアアンっ!!」

 

 俺は龍神化を維持した状態なのをいいことに、遠慮なくリムヴァンに突進すると拳を叩き込もうとし―

 

「―ゴフッ?」

 

 途端に、血反吐を吐いて力が抜ける。

 

 ……なん、だ? なにが……いったい……。

 

「イッセーさん!? イッセーさんしっかりしてください!!」

 

 アーシアが慌てて俺に回復のオーラをかけるけど、おかしいな、痛みが、消えねえ……

 

「イッセー!? イッセーしっかりして!!」

 

「どうしたんだイッセー! オイ、イッセー!!」

 

 母さんと父さんの声まで聞こえてくるけど、俺は返事もできやしない。

 

 くそ……。今目の前に、リムヴァンすらいるってのに……!!

 

 駄目だ、あとちょっと、あとちょっと……だけ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーがぶっ倒れた。

 

 なんか鎧の色もぜんぜん違うし、完全に俺たちがいない間に何かあったみたいだ。

 

 てっきりヴァーリの秘策とイッセーの透過で何とかしたのかと思ったんだが、そういうわけでもないみたいだ。っていうか、このタイミングで新形態とか空気読みすぎでなんか腹立つ。

 

 ……もっとも、こっちもそんな場合じゃないみたいなんだけどな。

 

「これは、まずいわね」

 

 姐さんも、さすがに衝撃を受けている。そして、かけられた呪詛のせいで一気に不調になっている。

 

 そりゃそうだ。同じ呪詛をかけられた俺もそんな感じだからな。

 

 長生きは難しいことはわかっていた。そもそもそういったものに興味は薄い。人間の寿命なんてそもそも短いしな。

 

 つっても、流石にいきなり「お前の寿命は下手すりゃ半日」って言われるのはキツイって。ちょっとショックだ。

 

 そして、それ以上に呪詛の影響が酷い。

 

 見えない巨大な枷をかけられたかのように重い。明らかに絶不調になっている。

 

 まずい。このままだと、戦えない……!

 

「ふむ~ん。これはさすがに片手落ちだねぇ。Lを倒すのはさすがに代償が必要だったってことかな?」

 

 小首をかしげるリムヴァンの視線は、イッセーにむけられている。

 

 同時に、俺たちにも注意が割かれているが否でもわかる。

 

 この野郎。この圧倒的な状況下で、俺たちにもある程度の警戒を向けていやがる。

 

 やべえ。こいつ、まず間違いなくこの場で最強だ。

 

 そんな状況下で、不意打ち喰らって碌に戦えないとか、馬鹿にもほどがあるだろうが!!

 

「あ、心配しなくても呪詛はすぐに慣れるからね? 数日もすれば全力戦闘もできるようになるよ?」

 

 そう軽い口調で俺たちにとんでもないことをぶちかましやがった。

 

 え、この呪詛の影響、そんなすぐに慣れんの?

 

 だったらすぐにどうにかできそうだな。さっさと回復して、即座にてめえをぶちのめして―

 

「もっとも、死んでもいいならって前提が付くけどね?」

 

「やってくれるわね、この外道が……っ」

 

 そのにんまりとした笑いに、姐さんがマジギレしたのか額に青筋を浮かべる。

 

 つってもどうする? こいつ相手に今の俺たちで勝ち目があるのか……?

 

「……やってくれるな、リムヴァン」

 

 そこに、イッセーみたいな感じの鎧になったヴァーリが割って入ってきた。

 

 こいつもパワーアップしてるのかよ! どんだけだ、どんだけだよ。

 

「これではヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルに勝負を挑めないじゃないか。せっかく見つけた好敵手を、よくも台無しにしてくれたな……!!」

 

「こっちのセリフだよヴァーリきゅん。せっかく見つけたLという友達を、よくも殺してくれたね」

 

 鋭い殺気交じりの視線をぶつけあう、ヴァーリとリムヴァン。

 

 だが、リムヴァンの発言が本当なら、アイツはかなり消耗している。

 

「ヴァーリ! リムヴァンは弱体化してる。倒すなら今が好機よ!!」

 

「なるほど。こちらも疲弊しているのでね、すぐにでも倒すとしよう……っ」

 

 殺気を込めた動きは、俺たちでも追い切れない。

 

 そんな文字通り目にもとまらぬ速さで繰り出された攻撃を、然しリムヴァンは回避しない。

 

 理由は簡単だ。防ぐ必要がないからだ。

 

「させませんよ、ヴァーリ」

 

「全くです。恩人に手は出させません」

 

 その腕をつかみ取るのは、プロテクターに身を包んだカテレアとユーグリッド。

 

 だが、そのプロテクターは今までとは全く違う形だった。

 

「イグドラポプス、展開完了しました」

 

「イグドラハーカ、こちらもです」

 

 気づけば、動きを完全に止めていたアポプスとアジ・ダハーカの姿がない。

 

 まじかよ。こいつら、やりやがった。

 

 ……アポプスとアジ・ダハーカで、イグドライバーシステムを作りやがった!?

 

「何処までも、龍を虚仮にしてくれる輩だな、貴様らは……!」

 

「蜥蜴と蛇に斟酌するほど、僕に動物愛護精神はないよ」

 

 タチの悪い精鋭を盾に、リムヴァンはヴァーリの殺意のこもった言葉を受け流す。

 

 さらに、その場にイグドラフォースが全員集合。さらに大量のイグドラゴッホとイグドラグウィバーが現れる。

 

 やべえ、コレ、詰んだんじゃねえか?

 

 俺がそう思ったその時だった。

 

「じゃ、元老院に戻るよー! 作戦開始は一時間後ね?」

 

 ……そんな、明るい声がリムヴァンから放たれる。

 

 なん……だと?

 

「見逃す気かよ、リムヴァン!!」

 

「負け犬の遠吠えありがとう。ま、こっちにもやることがあってね」

 

 俺にそう答えながら、リムヴァンは視線をトライヘキサに向ける。

 

 覚醒するトライヘキサは、すでにヴィクター経済連合の制御下にあるのかヴィクターの護衛部隊と行動を共にしている。そして、そのまま転移の光に包まれていく。

 

 見ればD×Dのメンバーや連合部隊から攻撃が飛んでいるが、それをまったく意にも介していない。

 

 マジかよ。それだけの化け物だってのか。冗談抜きで、グレートレッドクラスはあるじゃねえか……!

 

「まあ、最終決戦の舞台はそれ相応のものでなければいけないからね。ここはあまりにも無粋な場所だと思うんだ」

 

 そう言いながら、イグドラシステムの装着者たちに護衛されつつ、リムヴァンは空に浮かびながら告げる。

 

「吸血鬼の里で言った通りに、僕達ヴィクター経済連合は、トライヘキサの力を使って全面戦争を引き起こさせてもらう。……決着をつけよう、三大勢力及び敵対神話」

 

 その言葉と共に、リムヴァンはトライヘキサと一緒に転移してきやがった。

 

 ……クソ。ここにきてヴィクターはついにまじの戦争をぶちかますってか。しかも、グレートレッドクラスの化け物を引き連れて。

 

 そのくせ俺は、戦えば確実に死ぬ。イッセーはイッセーで下手したらこのまま死ぬかもしれねえ。

 

 ……そっか、俺、死ぬのか………。

 

 あ、やべ。呪詛の影響か意識が遠のいて………。

 

 気づいた時には、俺は意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんにちわ、世界の諸君。

 

 これより我々ヴィクター経済連合は、初期の警告通りに本格的な侵攻を開始させてもらう。

 

 今僕の後ろに見えるのが、ヴィクター経済連合の切り札である「黙示録の皇獣(アポカリティック・ビースト)」トライヘキサだ。

 

 その戦闘能力は世界最強クラス。至近距離でツァーリ・ボンバが爆発したってへでもないぜ!!

 

 あ、因みに真っ先に仕掛ける地点はこの七か所だ。……どこもかしこも世界的にみるとマイナーな神話の勢力図だね。因みに、その神話は実在します。

 

 いや、この神話体系って、いまだに鎖国を決め込んで、ほかの神話体系がヴィクター経済連合(僕ら)とやり合って潰し合うのを待っているみたいなんだよ。うん、鬱陶しい。

 

 そういうわけで、先ずは彼らをぶちのめしてデモンストレーションだ。

 

 はい、サン、ハイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この宣言の後、いまだ和平を結んでいなかった神話体系は、即座に七体のトライヘキサの攻撃を受け、大打撃を受ける。

 

 その被害は文字通り甚大。わずか数時間で蹂躙され尽くされた神話体系は、復興を行うのに各勢力に頭を下げる必要に迫られる。

 

 そして、こののちに七つのトライヘキサは天界・冥界堕天使領・アメリカ合衆国・アースガルズ・オリュンポス・ロシア・中国などの大勢力に現れ、重要拠点を攻撃する。

 

 ヴィクター経済連合と、のちにピースキング和平連盟と呼ばれる勢力の戦いにおける、最大規模の戦いの一つ、「邪龍戦役」の戦いの最後の狼煙となった。

 

 この戦いにおいて、ピースキング和平連盟と呼ばれる三大勢力を中心とした勢力は、数多くの戦力を失うこととなる。

 

 そう、それは、ヴィクターとの戦いの最前線で戦い続けてきた、英雄たちも例外ではなかった……。

 




既に一度封印を解除しているため、能力を最大限に発揮して大暴れするリムヴァンコントロール下のトライヘキサ。開幕から飛ばしています。

そして次回から第一部の最終章に突入です。……題名どうしよ? まだいいのが思いついてないので、速攻で考えます!!


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最終章 長期休学のダブルヒーロー
最終章 1話 赤龍帝、復活への希望


第一部最終章、開幕。

とりあえず、ドシリアスとドシリアルが連続で来るのでお覚悟を。


アザゼルSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 トライヘキサが復活を果たしてから、五日が経過した。

 

 俺はバラキエルとともに冥界、悪魔世界の首都リリスにある魔王城で、作戦会議を行っていた。

 

 とりあえず、冥界での作戦会議ってところだ。悪魔側の重鎮達と、堕天使側の首脳陣でトライヘキサの対策を話し合っている。

 

 サーゼクスは別件で一時的に席を話しているし、グリゴリの現総督でるシェムハザはグリゴリの本拠地で直接指揮を執っているからいねえが、それでもかなりの数が参加してる。

 

 ったく。本当にタチの悪い展開になったもんだ。

 

 邪龍部隊であるクリフォトは、首魁であるリゼヴィムがイッセーとヴァーリによって倒され、邪龍たちも軒並み撃破、もしくは封印されたことで壊滅した。対ヴィクター……というより対クリフォトの部隊であるD×Dは、見事その役割を果たしただろう。

 

 が、その結末は最悪だといっていい。

 

 リゼヴィムは、自分の魂を最後のカギとして、トライヘキサにかけられていた封印術式を一気に解除。その結果、トライヘキサは完全復活を遂げてしまった。

 

 そしてリムヴァンは宣言通りに本格的な侵攻作戦を展開。現在地球中でヴィクターと国連軍の戦争が起こっている。

 

 その戦闘は、多くがヴィクター側優勢で進んでいるのが現状だ。

 

 一気に超広範囲で戦争が起きているがゆえに、侵攻速度そのものはゆっくりだ。しかしそれは補給線の問題があるだけだ。戦いそのものはヴィクターが圧倒的有利に進んでいる。それこそジオ〇と地球連〇の戦争初期の如しってやつだ。

 

 いまだ和平に参加してなかった神話体系をことごと攻撃したトライヘキサ()は、その足で和平を結んでいる側の神話体系や和平側の国々に攻撃を開始。グリゴリや天界ももろに攻撃を受けた。

 

 どこの勢力も大きな打撃を受けている。アメリカと中国とロシアは一時的な政治空白期に突入している。アースガルズとオリュンポスも、かなりのダメージを受けてやがる。天界やグリゴリも、古参の幹部が大勢戦死しちまった。

 

 あの野郎! 研究途中だった俺のラボのデータが全部ぱーだ! 研究が遅れるどころか、当分研究そのものが停止するかもしれねえ。

 

 それに、若いころからついてきてくれた仲間たちも大勢死んだ。一緒にばかやっていた気の置けない奴らだった。

 

 ……この感覚、やっぱいつまでたってもなれやしねえ。戦争なんてろくでもねえ以外の何でもねえよ。もっとも、コカビエルの奴は楽しんで死にそうだがな。

 

 天使も堕天使もホントに被害が甚大だ。ラファエルは片足を吹きとばされ、ウリエルも片腕を持っていかれたとか。こっちもサハリエルとべネムエが意識不明だ。ミカエルも手も足も出ずボロボロにされた。その治療と天界の復旧が原因でこの会議に天界側は参加してねえ。

 

 不幸中の幸いで『システム』は守り切ることができたが、その犠牲は大きいなんてもんじゃねえ。

 

 このわずかな時間で、神クラスだって無名どころは滅ぼされた連中がどれだけいることやら。大半の連中は信仰を集めれば復活するが、それにどれだけの時間がかかるわからねえ。完全に消滅した奴らだって結構な数がいやがるしな。

 

 何より奴らの攻撃を厄介なものにしているのは、その分裂能力だ。

 

 トライヘキサは首が七つあったが、どうやらその数だけ分裂できるらしい。そのせいで同時多方面攻撃を行ってきやがる。

 

 しかもその戦闘能力は一体一体が超獣鬼を圧倒する。超獣鬼だけでも対処が困難な化け物だったのに、これは最悪といっていいレベルだ。

 

「何処の勢力も被害が甚大だな……」

 

 バラキエルも戦慄するほどの破壊が世界中で行われている。

 

 あらゆる神話勢力は、とりあえず一か所は襲われている。被害にあってないのはインド神話と中国神話、あとは悪魔領だけだ。

 

 人間世界の国家も、反ヴィクターの国家の半分は襲撃されてる。どこも重要地点を壊滅状態にさせられて、政治中枢をやられて国家機能がマヒしてる国も多数だ。

 

 しかも転移を繰り返してヒット&アウェイでやってやがるから、対応が非常に困難だ。

 

 D×Dのメンバーも派遣されたが、あいつらが着くころにはすでに撤退しているからまだ戦闘ができてねえのが実情だな。

 

「適当に見えてフットワークが軽いね。たぶん、リムヴァンが平行世界で何度もちょっかいをかけた経験……だけじゃないね。ハーデスの入れ知恵かな?」

 

 その仕掛けてくる攻撃の連絡を聞きながら、ファルビウムが目元を鋭くして考え込む。

 

 なるほどな。平行世界で何度もトライ&エラーをしてきたリムヴァンの実績に、ハーデスのジジイの老獪さが加わればこれだけこっちのスキを突いた連続攻撃を行うことも簡単ってことか。

 

「とにかく、こんなにあらゆるところを攻撃されたら、どこだって自国を守ることを優先するしかない。……勢力間での助け合いなんて無理だね」

 

 いやなこと言ってくるな、ファルビウム。

 

 だが、実際そうだ。どこの勢力もまずは自分の実が第一だろう。アースガルズやオリュンポスはともかく、半分以上の神話は帝釈天の言う通り「ほかの神話体系が滅んでくれた方が都合がいい」からな。こんな事態に態々自分たちを危機に陥らせてまで守る気はねえだろう。

 

「悪魔世界はどのような様子なのだ? かなりの混乱状態にあると聞くが」

 

「結構大変なのよ。魔獣騒動があったから同じケースを想定した対策をしてたけど、それでもね」

 

 バラキエルの厳しい表情での言葉に、セラフォルーはため息をつきながら言う。

 

 冥界の悪魔側では、俺たちがいる首都リリスをはじめ、各主要都市に軍隊、警察官、上級悪魔、そして最上級悪魔が眷属ごと待機している。

 

 文字通りの総力戦だが、その程度じゃ足りないといっていい。

 

 いや、魔獣騒動が起きてもこれなら乗り切れるぐらいの対応だが、今回はさらにその上を行くからな。

 

 今回の事態は一般市民の悪魔にも大体伝わっている。そして魔獣騒動を凌駕する事態に、どこも混乱状態だ。

 

 このどさくさに紛れて破壊活動をして鎮圧される馬鹿もいるって感じで、本当に大混乱だ。

 

 トライヘキサと邪龍軍団。さらにイグドラゴッホとイグドラグウィバー。とどめに恒例ドーインジャー部隊。敵の戦力は圧倒的な数を中心とし、そして精鋭部隊とトライヘキサで質を受け持っている形だ。

 

 教え子や部下が命がけでこんな強敵と戦っているのに、後方で指揮するしかねえってのはやっぱきついもんがあるな。必要なことなのはわかってるんだが、やっぱ柄じゃねえ。

 

 現役を引退するのは早すぎたな。新型の専用人工神器でも開発しとくべきだったぜ。

 

 ま、そんな愚痴を言っていても意味はねえか。俺は俺でできることをしねえとな。

 

 とにかく、今は作戦会議を進めるだけだ。

 

 ……最終手段、使うしかねえだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……くそ。こんな時に俺は何してんだ。

 

 今、世界は未曾有の大戦乱を迎えている。

 

 ヴィクター経済連合がついにトライヘキサの封印を解除。そしてその勢いのまま世界各地で侵攻作戦が開始し、国家は迎撃を行っている。

 

 しかしそこをつくように転移でピンポイントにトライヘキサが襲撃を仕掛けて、要所要所を叩き潰している。

 

 D×Dのメンバーも、時々派遣されているが、到着するより先に強襲攻撃を終えて離脱しているため対応できないのが現状だ。

 

「すまねえな。こんな時に……」

 

「私達がいればどうにかなるとは言わないけれど、それでも……」

 

「気にしなくていいわよ。悪いのはリムヴァンだわ」

 

 俺と姐さんが謝るけど、お嬢はそれを気にせず微笑すら返してくれる。

 

 本当に、リムヴァンに対する怒りがあるだけだ。

 

 俺たちのことをふがいないと思っちゃいない。むしろ、俺たちがそんなことになったのを悲しんでいる。

 

 ああ。お嬢は本当に優しい人だ。この慈愛があるからこそ、眷属たちはみんな忠誠心が強いんだろうな。

 

 だが、それでもいろいろと思うところはある。

 

 そして、そうだとしても今は戦うわけにはいかないわけだ。結構胃に来るぜ。

 

「……イッセーは?」

 

 姐さんが話題を変えるように質問するが、お嬢たちはすぐに暗い顔になる。

 

 龍神化とかいう領域に到達したイッセーは、同じく魔王化という領域に到達したヴァーリと一緒にリゼヴィムを滅ぼすことに成功した。因みにファーブニルも頑張ったらしい。

 

 が、その影響はあまりに甚大だった。

 

 なんでも臓器の機能が軒並み停止。運び込まれるころには心臓がかろうじて動く程度だそうだ。アーシアの回復も効いてないとかいう、質の悪い症状だ。

 

 あのアーシアの回復の力ですら手が付けられないとか、考えたくもない。

 

「イッセーさんを助けることができないなんて、……私は役立たずです……」

 

「しっかりしろアーシア! 逆に考えるんだ、役に立ちまくっているアーシアですらできないという、非常事態だと考えるんだ!」

 

「ゼノヴィア。それ、フォローになっているのか微妙なんだけど……」

 

 落ち込むアーシアを励まそうとして、木場にツッコミを入れられるゼノヴィアだが、そんなことを気にしている場合でもない。

 

 今は冥界最新鋭の医療技術でかろうじて命をつないでいるが、それもいつまで持つか……。

 

 俺たちが暗くなっていると、なんだか周りが騒がしくなってきていた。

 

 なんだ? 医者や看護師がなんか妙齢の女性に呼び掛けている。そして何やらたくさん乳白色のパックが運び込まれている。

 

 っていうな、なんでこの事態において産婦人科から大量に人を呼ぶような事態になってるんだ?

 

「何か、手助けが必要なのかもしれないわね」

 

 お嬢がそう言って、全員が顔を見合わせた。

 

「じゃ、ここは手伝うとするっすか!」

 

「そうね! 天使なら人助けをしてなんぼのものだもの!!」

 

 ペトとイリナがそう言って、真っ先に早足で人だかりに向かっていった。病院で走らないのはマナーだしな。

 

 堕天使と天使が悪魔の病院を手助けする。これも和平があったからこそできる光景かねぇ。

 

「すいません、何かありましたか?」

 

 と、木場が声をかけて看護師の一人が俺たちに気づく。

 

「ああ、リアス・グレモリー様の眷属の皆さまですか」

 

 看護師さんたちは、よく見るとすごく戸惑っていた。

 

 なんだ? なんか嫌な予感がするぞ? それもおっぱい的な意味で。

 

 その嫌な予感を理解したのか、全員が一瞬躊躇する。

 

 だがそんなことを言っていては話が進まねえ。誰かが話をしなけりゃ行けねえな。

 

 よし。ここは英雄足る俺が―

 

「何かあったの? 良ければ手伝うけれど」

 

 あ、姐さんにとられた!!

 

 そしてその言葉に、その看護師さんはすっごく微妙な顔で―

 

「実は、母乳を集めるようにアザゼル元総督殿から要請があったのです」

 

 ―見事に嫌な予感を的中させてくれたよ、オイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、百リットルをこえる母乳が集められた。

 

 勿論そんなものを一つの病院で賄うことなんて不可能だ。都市中の病院の産婦人科から総動員された。混乱したことだろう。

 

 そして、フェニックスの涙を何本も混ぜ込むというぜいたく極まりない混沌のるつぼだ。

 

 そして、ついに運び込まれた。

 

「……それでは、投入します……よ?」

 

 ―イッセーだ。

 

 アザゼル先生は、イッセーがやばいことになったことを聞いて、少ししてからこんな指示を出したらしい。

 

『イッセーをつけ込めれるだけの母乳を用意して、フェニックスの涙を混ぜ込んでつけろ』

 

 一言言っていいと思う。これ、常人が聞いたらアザゼル先生が病院に運び込まれているレベルだ。

 

 大絶賛生死の境をさまよっている奴を母乳につけるとか、正気の沙汰じゃない。

 

 それも、我らが回復女王であるアーシア・アルジェントも、冥界最強の回復アイテムであるフェニックスの涙も通用しない重篤患者だ。普通に考えて死人に鞭打っている。親御さんは訴えていいと思う。

 

 だけど、大半のメンバーが最後の希望を感じてるんだよなぁ。

 

「な、なんかよくわからんが、これで助かる可能性があるんだね?」

 

「ありうるっす! イッセーなら、イッセーなら母乳で奇跡の回復を起こす可能性は、ありうるッス!!」

 

 戸惑いまくりの親父さんに、ペトが力強く拳を握る。

 

 すさまじい勢いで医療スタッフが戸惑っているが、俺たちは結構ありだと思っている。

 

 なにせ、あのイッセーだ。乳龍帝だ。おっぱいドラゴンだ。

 

 兵藤一誠と女性のお乳。これほど奇跡を生む組み合わせはそうはない。実績がありすぎる。

 

「あの、つけてよろしいのです……か?」

 

「急いで頂戴。これで効果が無かったら、もはや悪魔に打つ手はないわ……っ」

 

 心底訳が分からな感じな表情で確認を取る医師に、お嬢がマジ顔で要請する。

 

 その目は覚悟すら決まっている。これが無理ならあきらめるしかないと、心から言っている。

 

「ああ、なんてこと。私に母乳があれば、真っ先に与えているのに!!」

 

「わかります、お姉様」

 

 お嬢とアーシアが涙すら浮かべて、自分たちの無力を嘆いている。因みにほかの女性陣も、大半が程度はともかく似たような感じだ。

 

 ……俺は、ふと木場に視線を向けた。

 

 木場は俺の視線に気が付いて、期待に満ち溢れながらもあきらめるかのように首を振った。

 

 だよな。これ、絶対成功するけど成功するからこそ頭痛くなりそうだよ。

 

「まあ、確実に何らかの成果は出るでしょう。状況は好転するわ、絶対に。……羨ましい」

 

 姐さんや。さすがの俺もついていけねえからその辺で頼むわ。

 

 

 

 

 

 そして当然成功したともさ。

 




とりあえず、原作読んでふと思ったけど「四章でのおっぱい成分一気に取り返しに来た」感じですよね、母乳治療法。


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最終章 2話 二人の決断

とりあえずイッセーの命だけはどうにかなったD×D

しかし、ヒロイとリセスの呪いは現在も進行中。

そして、2人は―


 

 そして数日後、俺は病院のデイルームで情報をまとめていた。

 

 トライヘキサの分裂同時強襲攻撃は、一時的に収まっていた。

 

 どうやら、さすがのリムヴァンもトライヘキサを完璧にコントロールできるわけでもないようだ。それとも、今迄のは本当に前座で、本格的な襲撃はまた別で行われるっていうことか。

 

 ま、どっちにしてもこれはチャンスだ。こっちが準備を整える最大の好機でもある。

 

 と、いうわけで俺たちも準備中だ。姐さんも、おれと同じようにいろいろ調べていたはずだ。

 

 そして、俺が缶コーヒーでも飲みに行こうかとした時だった。

 

「……ヒロイさん」

 

 シシーリアが、俺の目の前にいた。

 

 やべ。全然気づかなかった。

 

 俺も、いろいろあって動揺してるってことかね。さすがにシシーリアが近くに来ていたなら、気づいてもかしくねえんだが。

 

「シシーリア。……情けないところを見せちまったな」

 

 俺は苦笑する。

 

 なにせ、次戦闘をしたら高確率で死ぬようなシャレにならない呪いをうけちまった。

 

 リムヴァン・フェニックスの複合禁手、極刑の宣告者(デス・オブ・ルーラー)。神ですら解呪に百年かかると豪語する、死の呪い。たぶんリムヴァンの手札でも、質の悪さじゃ最高峰だろう。

 

 戦闘を開始すれば半日で死ぬ。しなくても、十数年で死ぬ。そして解呪には神クラスでも百年かかる。

 

 強力すぎるせいで条件もきついみたいだが、下手な神滅具の禁手を凌ぐレベルだ。

 

 このせいで、俺は病院で半ば軟禁状態だ。出るに出れねえ。

 

 だから、まず間違いなく俺は戦力外通告なんだが―

 

「ヒロイさん。私は今からすごくひどいことをします」

 

 そういって、シシーリアは二つの護符を取り出した。

 

 そして、俺にそれを押し付ける。

 

「これがあれば、この病院の結界を素通りすることが可能です。一人一個ですので、お忘れなく」

 

 ………シシーリア。

 

「……ああ、ありがとな」

 

「本当なら、こんなものを渡すべきじゃないんです」

 

 シシーリアはそういって、半泣きで俺に笑顔を見せる。

 

 そこにあるのは、恋愛感情じゃない。

 

 ああ。シシーリアは、俺のことが大好きだろう。

 

 だけど、それ以上に―

 

「私は、あなたを愛しています」

 

 そういって、そしてシシーリアは首を振る。

 

「でも、それは英雄(輝き)として愛しているんです。だから、私は貴方と結ばれる気はないんです」

 

 そして、シシーリアは、おれに微笑む。

 

 そして、そのまま涙をぽろぽろとこぼして、しっかりと俺の手を握った。

 

 複雑な心境っていうのは、今のシシーリアのことを指すんだろうな。それぐらい、シシーリアは俺にいろんな思いを向けている。

 

 そして、その中でも一番強かった感情を俺に向けたんだ。

 

「ヒロイさん。何があっても、輝いていてください。私は、それを望むことを選びました」

 

 その言葉で踏ん切りをつけたのか。シシーリアは頭を下げるとそのまま背を向けた。

 

 そしてデイルームの出入り口で立ち止まると、背を向けたまま口を開く。

 

「本当に、ありがとうございました」

 

「ああ、俺こそ、本当にありがとうな」

 

 ああ。本当に、ありがとうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、リセスはパソコンを貸してもらうと、そのままテレビ電話で二人の少年少女と会話していた。

 

 戦闘をしたら高確率で死ぬとわかっているから、事実上リセスは軟禁状態だ。

 

 そして、だからこそリセスはこんな方法を取っていたわけ……ではない。

 

 リセスからしてみれば、これは全く別の理由だ。

 

 なにせ、2人と同時に会話するには、これしか方法がないのだ。

 

 別々の場所に収監されて、そしてそう簡単には外に出れないのだ。同時に会話するには、通信を利用するしかない。単純な答えである。

 

『リセスちゃん、本当に大丈夫なの?』

 

「ええ。少なくとも、戦わなければ数日やそこらで死ぬような呪いじゃないみたい」

 

 そうリセスが告げたのは、女性悪魔用の監獄にいるプリスだった。

 

 天界での戦いの後、プリスはそのまま収監された。

 

 それが彼女自身の意思だったうえ、グラシャラボラス家も保釈金を出すつもりはなかったからだ。

 

 当然といえば当然だろう。グラシャラボラス家からしてみれば、彼女は主ともども実家に恥を塗ったもので、その前から主であるゼファードルは厄介者だ。ゼファードルを優遇していた者たちは、ほぼ全員が旧魔王派に亡命を試みている。そう言う意味では、プリスは厄介者でもあった。

 

 そんなわけで、プリスは刑が確定するまで留置所に収監されていた。その後、冥界の司法で裁きが下されることをプリス自身が望んでいる。

 

 その意を組んで、リセスも、そしてリアスも保釈金を都合することはしなかった。

 

 そして、同じように収監されているものがもう一人。

 

『それで? 僕たちと話したいことっていうのは何なんだい?』

 

 少々むすっとしながら、しかし敵意だけはもうないニエがそう尋ねる。

 

 こちらはプリスと違い、明確な捕虜として捕縛されている。

 

 プリスの場合は現政権からゼファードルが脱走したこともあって犯罪者待遇だが、ニエはヴィクターの正式な構成員になるまで冥界政府に関わっていたわけではないので捕虜待遇だ。

 

 元々一般人であったニエに話しても意味はないとヴィクターも思ったのか、ニエ自身が知っている情報はあまりない。

 

 しかし、ニエ・シャガイヒは神滅具の持ち主だ。それも、上位神滅具である魔獣創造を二つも移植されたイレギュラー中のイレギュラー。冥界政府はもちろんのこと、どの勢力もほっとくことはできないほど警戒をしている。

 

 しかし、割と捕虜収容所では好待遇らしい。

 

 彼によってドーインジャーの詳細な情報が手に入った。これだけでも値千金。

 

 さらにドーインジャーを利用して一気に人が増えた収容所の作業を手伝っているらしい。そのせいで所員からは人気があるそうだ。

 

「まあ、ちょっと言いたいことがあったのよ。それを、きちんと言わないとと思ってね」

 

 そういって、リセスは立ち上がると、頭を下げた。

 

「こんなことを言うのなんだけど、謝ってしまって、ごめんなさい」

 

 謝罪したことを謝罪する。そんな、矛盾に満ちた行為をリセスはした。

 

 天界での最後の戦い。リセスはニエに敗北した。

 

 二重で魔獣創造を使用するというニエに、リセスは全力で挑んで、然し敗北した。

 

 そして、本来ならそこで殺されるはずだったのだ。それこそが、ニエ・シャガイヒの復讐だ。

 

 しかし、半死半生で意識が朦朧としていたリセスは、謝ってしまった。

 

 心の底から後悔していたから。嘘偽りなく悔やんでいたから。本心から罪を悔いていたから。

 

 だから、あの時謝ってしまった。

 

 それは、ニエが望んでいたことだっただろう。

 

 それは、ニエに最後の一線を守らせていたのだろう。

 

 それは、ニエの心を救った一言だったのだろう。

 

 だが、それでもリセスは自分が許せない。

 

 謝って済まないことをしたのに、謝って済ませてしまったことがどうしても許せなかった。

 

 だからこそ、それを謝ったのだ。

 

『リセスちゃん、それ、きっとニエ君も望んでないよ?』

 

「それでもよ」

 

 プリスの言うことは正論だが、然しどうしてもしないわけにはいかない。

 

 これは、リセスなりのけじめだった。

 

「怒っていい。恨んでいい。それでも、私があのことを恥と思っていることを示すべきよ。それが、リセス・イドアルのけじめなの」

 

 此処で罵倒されてもおかしくない。それはリセスも分かっている。

 

 だが、ニエはため息を一つついただけだった。

 

『ぼくの知っているリセスもプリスも、幻想だった』

 

 そう、ニエは言った。

 

 それは天界でも似たようなことを言った。それが、ニエの結論だった。

 

 そして、それを改めて行ってから、ニエはまっすぐにリセスを見る。

 

『言ったら言ったでややこしくなるのに、あえて言う。……リセス、今の君にとって一番大事なことは何だい?』

 

英雄(自慢)でい続けることよ」

 

 リセスは即答した。

 

 そして、悲しげな微笑を浮かべた。

 

「半分ぐらいできなくなってるけど、だからこそ、残り半分は死守するの。これは、その一環よ」

 

 その言葉に、ニエはもう一度ため息をつくと、目を伏せる。

 

『……そう言うことなんだね』

 

『………リセス、ちゃん……』

 

 ニエもプリスも、何かを察し、しかしそれ以上何も言わない。

 

 それがどういうことかを理解して、理解してもらえたことを察して、リセスは苦笑した。

 

「ごめんなさいね。私、馬鹿なのよ」

 

『わかってるよ。天界で痛いほど理解したからさ』

 

 そういうと、ニエは一瞬だけ目を伏せ―

 

『それでも、僕たちが友達だったのは変わらないしね』

 

 そういって、苦笑を浮かべる。

 

 その言葉にリセスが目を見開いている間に、ニエはもう通信を切ってしまっていた。

 

 暗くなっている画面に視線を向けてから、プリスは苦笑を浮かべる。

 

『ニエ君も、私も、リセスちゃんも変わっちゃったね』

 

 確かにその通りだ。

 

 自分は変わった。それだけの七年間だった。

 

 プリスも変わった。それだけの七年間だった。

 

 ニエも変わった。リセスもプリスも、それだけのことをニエにしてしまった。

 

 それは、きっと不可逆だ。火の通った肉のように、ワインになったぶどうのように。もう二度と戻らない変化だ。

 

 それをリセスは痛感し―

 

『でも、私達は友達には戻れたから』

 

 そのプリスの言葉に、涙が浮かんできた。

 

 にじむ視界の中、プリスは寂しげにほほ笑んで、しかしあえて何かを言わない。

 

『―がんばってね、リセスちゃん』

 

 それだけを絞り出して、プリスもまた、通信を切った。

 

 それを沈黙と共に受け容れながら、リセスは自分の愚かさを痛感する。

 

 どうしようもない愚か者だ。ここで何か別のことを言っていたら、引き返すことができたかもしれないのに。

 

 しかし、それだけは選べない。

 

 かつて、曹操は言った。

 

 英雄とは人より前に進んだものだと、人間たちに英雄と呼ばれているものは、その中でたまたま歴史に遺されたものなのだと。歴史に残らなくても、英雄なのだといったのだ。

 

 なら、これだけは譲れない。

 

 ペトの自慢(英雄)ではいられなくなったのかもしれないが、しかしヒロイの自慢(英雄)はまだやめていない。そして、辞めるつもりは毛頭なければ、辞めること自体がいやでたまらない。

 

 それは、自分の何年も前から続いている友達から嫌われてでも、絶対に成し遂げたいことなのだ。

 

「……本当に、ごめんなさい」

 

 謝罪の言葉が自然に出る。

 

 しかし涙はにじむだけ。こぼれ落ちることはなかった。

 

 なぜなら、リセス・イドアルにとって最優先で大事なことは未だ守られているから。この悔恨はその次だから。

 

 救いようのない愚者であることを自覚しながらも、この道を貫くことこそが本望だと心から確信して、リセスは決意を固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 




 D×D全体の意向として、ヒロイとリセスは戦線離脱させることが決定。とはいえこっそり参戦しかねないのは読んでいるため、病院を結界で包み込みました。その結界も二人が英雄であろうとしていても良識があることを利用しての感知特化型。下手に動いて仲間割れしては元も子もないので、これで抑えることは可能でした。超越者であるアジュカ特性なので、2人でもそう簡単には突破できません。

 が、肝心の結界の監視担当で痛恨のミス。ヒロイを慕っているシシーリアなら馬鹿な真似はしないとの判断だったのですが、ヒロイを「英雄として」慕っているシシーリアからすればここでヒロイたちをとどめておくことは断じて認められませんでした。

 結果、ヒロイたちは出るタイミングさえ計ればいつでも抜け出せる状況に。完璧にシシーリアが原因で二人の参戦は確定しました。






そして、リセスはリセスで身勝手なけじめをつけました。

どれだけそれが最善の結末でも、リセスはそれを赦せない。そうしてしまったことこそを謝らないと気が済まない。

常人には理解できないほどに、リセス・イドアルは英雄に焦がれてしまったから。自分の英雄の自慢でい続けたいと願っているから。其の在り方に反していると思ってしまうから。

それを察して、そして彼女の決意も察して、プリスとニエは送り出しこそしませんでしたが、かつての友情だけは認めました。









2人の覚悟は決まり、手段も手に入り、けじめもつけました。








これで、2人の準備は万端です。


 


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最終章 3話

それは、死よりもつらい後遺症……


 

 それから少しして、俺たちは再び見舞いに来たお嬢たちと合流した。

 

 そんでもって俺たちは、デイルームのテレビで今の状態を確認している。

 

 そしてテレビでは、現ルシファーであるサーゼクス様と、現レヴィアタンであるセラフォルー様が会見を開こうとしている。

 

 おそらくだが、アザゼル先生辺りはわきで見守っているんだろうな。

 

「お兄さま……」

 

 お嬢がそれを固唾をのんで見守る。

 

 まあ、当然だよな。

 

 この状況下で会見だ。下手な会見だったら、逆に混乱が助長する。

 

 ただでさえ後手に回ったクリフォト対策。しかも、組織そのものは壊滅させても本懐は遂げられたわけだ。割と責任問題を追及されるかもしれねえからな。会見内容次第じゃ、そっちを優先したがる阿呆が活気づいてもおかしくねえ。

 

 俺たちもちょっとばかり不安になって見守る中、サーゼクス様が一礼する。

 

『冥界の皆さん。現在、冥界全土はもちろんのこと、人間世界も含めた全世界で、ヴィクター経済連合の本格的な攻撃が始まりました』

 

 サーゼクス様はそう語りかけるように話していく。

 

 クリフォト首魁であるリゼヴィムが精力的に動き、邪龍を操りトライヘキサという伝説の魔物を復活させようとしたこと。リゼヴィムそのものはおっぱいドラゴンであるイッセーが、ルシファーの末裔であるヴァーリとともに倒したが、惜しくもトライヘキサの封印が解除されてしまったこと。

 

 そして、トライヘキサが分裂までしてあらゆる場所を連続で攻撃し続けてきたこと。

 

 その説明と同時に、モニターに映像が流れていく。

 

 天界、冥界、堕天使領。さらには各神話はもちろん人間界迄。あらゆる場所でトライヘキサが攻撃を行っている映像だ。

 

『ご覧になられている生物こそが、伝説の魔獣であるトライヘキサであり―』

 

 その映像にデイルーム内の人たちが震えたり悲鳴を上げていく。

 

 まあな。一般人にこの映像はショッキングすぎる。神クラスですら圧倒されている映像だからな。

 

 しかし、同時にヴィクターの部隊と戦っている人たちも映し出される。

 

 人間、悪魔、天使、堕天使、妖怪、吸血鬼、獣人、そして神。それらヴィクターに抵抗する人たちが、死力を尽くしてヴィクターを撃退する映像だ。

 

 実際のところは押されているのが基本だが、勝っているところもあるのは事実だ。こういう時は嘘を入れちゃいけねえからな。

 

 その中でも、悪魔が中心となってヴィクターを撃退した映像をバックにして、サーゼクス様は語り聞かせる。

 

『闘っているのは悪魔だけではありません、同盟関係にある堕天使、天使は当然のこと、ほかの神話勢力からもヴィクターに立ち向かう勇敢な者たちは現れております』

 

 そしていったん切って、サーゼクス様は一回瞑目する。

 

 そして、目を開くと、カメラを真正面にとらえた。

 

『敵は強大です。今は落ち着いていますが、すぐに姿を現して攻撃を再開するでしょう。その規模はかつてないほどに大きい』

 

 すごく絶望したくなるような展開だ。

 

 だけど、サーゼクス様の表情は厳しくも明るかった。

 

 希望はまだ潰えていない。それを確信している者の表情だ。

 

『ですが、決して絶望しないでください。先ほども言いましたが、戦っている希望はいるのです』

 

 その言葉共に、モニターの映像が切り替わる。

 

 新たに映し出されるのは、俺たちD×Dのメンバーだ。

 

 なんか、誇らしいな。

 

 こういう時に、俺たちが戦意向上や恐怖削減のためとはいえ映し出される。それだけの価値が、俺たちにはあるってことだ。

 

『対クリフォト部隊『D×D』をはじめ、悪魔世界が誇る勇敢な戦士たちが冥界を、皆さんを、三大勢力を、そしてこの世界を救うために命がけで戦ってくれています』

 

 そして、サーゼクスさまの前に顔を出したセラフォルー様が、ピースを浮かべて笑顔を向ける。

 

『私も前線に立っちゃうんだから、心配しないでね!』

 

「セラフォルー様ったら。こういう時でもいつも通りなんですから」

 

「……むしろ、こういう時だからこそかもしれません」

 

 朱乃さんと小猫ちゃんが苦笑する中、再びサーゼクス様が前に出る。

 

 そこには、確かな微笑があった。

 

『必ずこの冥界と皆さんを守ります。私たちの命にかけて』

 

 そして、緊急会見は別の悪魔たちが引き継いだ。

 

 俺たちはそれをしり目に、顔を突き合わせる。

 

「……で、おれと姐さんが待機する羽目になっているわけだが、その辺はどうなんだ?」

 

「まあ、僕たちも今は待機だね。トライヘキサが確認され次第、そこに急行することになっているよ」

 

 俺の質問に真っ先に木場が答える。

 

 なるほどな。ま、どこに出てくるかわからねえなら、そうするしかねえか。無駄足になるぐらいなら英気を養ってもらった方がましだ。

 

 とにかくランダムに転移して攻撃してくるからな。こっちからヴィクターの領内に攻め込んでも、たぶんその隙に拠点を攻撃してくるはずだ。防戦に徹するしかねえ。

 

「しかし歯がゆいものだ。奴らのちまちました攻撃のせいで、私達は無駄足ばかり踏まされているからな」

 

「……同感です」

 

「このままだと、何もしてないのにばてちゃいます」

 

 ゼノヴィアの苛立たし気な意見に、小猫ちゃんとギャスパーも同意を示す。

 

 ああ、そして缶詰め状態の俺と姐さんはさらにストレスが溜まっているぜ。

 

「しかも冥界では、王の駒を私用した者たちがやけを起こして暴動を起こしているらしいわ」

 

「最悪なことに、第三位であるビィディゼ・アバドンの行方が知れません。どうも一部の魔王派の政治家が裏で動いているようでして―」

 

 お嬢とロスヴァイセさんがため息をついた。

 

 よりにもよって、王の駒を使用している中でもトップクラスの第三位が行方不明かよ。しかも、魔王派が協力している可能性があるって?

 

 まあ、どこの派閥にも過激な奴はいるし、馬鹿もいるしな。

 

 ……なにか余計なことをしなけりゃいいんだけどな。

 

 イリナたち転生天使は、天界の方で忙しい。初代孫悟空どのや幾瀬鳶雄も、それぞれ自陣営の方で動いているようだ。サイラオーグさんにいたっちゃ、バアル家は王の駒使用を積極的にしていたからややこしいことになっている。

 

 D×Dを希望の星としてくれたサーゼクス様には悪いんだけどよ? これ、俺たち動きづらいんじゃねえか?

 

 なんかいろいろと困った感じな俺たちだが、その時看護師さんの一人が俺たちを見かけて声をかけてきた。

 

「あ、リアス様! ようやく見つけました!!」

 

「……どうしたの?」

 

 アザゼル先生から連絡でもあったのかと思った俺たちだが、今回はそうじゃなかった。

 

 そして、俺たちはその知らせを聞いて歓喜の表情をみんなで浮かべる。

 

「……イッセー様が……意識を取り戻されましたのですね!」

 

 ようやく復帰したレイヴェルの言葉通りだ。

 

 いよっしゃ! ようやく主役のご登場かよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして足早にイッセーの病室まで来た俺たちは、起き上がったイッセーの姿を見てほっとした。

 

 大泣きしている奴もいるレベルだ。ま、当然だがな。

 

 母乳で回復するという空前絶後の真似をしでかしたとはいえ、一時期は本気で命が危なかったからな。それも、回復してからも数日間眠りっぱなしだし。ある意味寿命がマッハの俺や姐さんよりひどい。

 

 それが、起きたとたんにベッドから起き上がって真剣な表情でテレビを見てるんだ。すごい回復速度だと思う。

 

 ったく。天然物の英雄様はこれだから呆れるぜ。子供たちのヒーローは子供たちのピンチに黙ってられないってことかねぇ。

 

「流石に、これには負けるわね」

 

 姐さんも苦笑してるが、その口調は明るい。

 

 ああ、これでD×Dは本気モードだ。こっからが逆転タイムだろうな。

 

「リアス! それにみんなも!」

 

 イッセーも俺たちに気が付いて、声をかけてくれる。

 

 声にも元気が乗ってるな。これ、俺たちよりも調子がいいんじゃねえか?

 

「イッセー。もう大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だよリアス」

 

 お嬢の気づかわし気な言葉に、イッセーはちょっと怪訝な表情をしながらそう答える。

 

 なんだ? 眼でもかすんでるのか?

 

 俺はちょっと首をかしげたが、イッセーはすぐに顔を曇らせた。

 

「なんかすいません、俺が寝てる間に大変なことになっちゃったみたいで」

 

「何言ってんだ、リゼヴィムぶちのめしたのはお前だろうが」

 

 ったく。思わず張り倒したくなって苛立たしげな声になっちまったぜ。

 

 俺たちが超絶バトルをしてる間に、お前は大将首を上げてるんだぞ? もう少し胸を張れってんだ。マジイラついたぞ。

 

「まったくもう。一番頑張った貴方がそんなことを言わないの」

 

 そう言って、お嬢は苦笑を浮かべる。

 

 そしてイッセーも苦笑を浮かべるが……。

 

 うん。今度は目をこすってるな。しかも目頭をもんだりしてる。

 

 なんだ? まさか激戦の後遺症で視覚にダメージでも入ったか?

 

「……どうしたの、イッセー」

 

 姐さんがちょっと気になったのか近づきながら聞くと、イッセーは姐さんにも視線を向ける。

 

 そして、首をかしげながら目を細めた。

 

 なんだ? なんていうか、遠くを見るときみたいな感じだな。

 

「いや、そのですね。リアスやみんなの、リセスさんのお……あれ?」

 

 イッセーが、なんか言いかけて首をひねる。

 

「あれ、む……あれ? ち……あれ? なんで、たった二文字の言葉も出てこないんだ?」

 

 何か真剣に動揺してるな。

 

 起き抜けで言葉が出てこないのか? 

 

 いやいや、それでも三連続ってのはおかしいだろ。それに、意識はかなりしっかりしてるしな。

 

 それにイッセーが向けてくる視線からすると、それはもうこの三つの言葉を言おうとしたとしか思えねえ。

 

 おっぱい、胸、乳。つまりバスト。

 

 イッセーが忘れたら天変地異が起きるレベルの言葉トップスリーじゃねえか。何があっても忘れるとは思えねえ。

 

 それを察したみんなが、一様に寒気を感じるレベルで戦慄する。

 

 そして、レイヴェルが静かに一歩前に出ると、イッセーの肩をつかむ。

 

「イッセー様。もしかして、女性の乳房に関する言葉が口に出せないのですか?」

 

 その言葉に、イッセーはうなづきながらもさらに困り顔になった。

 

「それどころじゃないんだ。……その部分が、全然認識できない。視界にもやがかかっているみたいなんだ」

 

 ……………………………………。

 

 はい?

 

 よし、ちょっと冷静に考え直そう。

 

 イッセーが、乳を認識できない。その単語をしゃべることもできない。

 

 うん。

 

「よし、お前偽物だな」

 

「ふざけんな! こちとら死活問題なんだぞ!? そう言う冗談はよせ!!」

 

 いや、本気だったんだが。

 

 いやいやいやいや。ちょっと、ちょっとちょっと。

 

 イッセーが? お乳を? 認識できない? 口にもできない?

 

 なんだその非常事態。ある意味トライヘキサの復活よりやばいぞ。

 

「だ、だがイッセー。おまえ、母さんは普通に見れてるみたいだったぞ?」

 

 親父さんがそう言うが、イッセーはお袋さんを見て首を傾げた。

 

 次いでに、小猫ちゃんにも視線が行った。

 

「……母さんと小猫ちゃんのは見れるんだよ。なんでだろ」

 

「おっぱいだと認識してないからじゃないっすか?」

 

 ペト。残酷な言葉を口にするな。

 

 実の母親に性的興奮しないのはいいことだが、逆プロポーズまでしている小猫ちゃんの場合はいろいろとキツイ。

 

 ほら! 小猫ちゃんから殺意の波動が!! 俺の短い寿命が一気に削れそうなぐらい怖いから!! 姐さんの寿命まで削れそうだからやめろ!! 俺も姐さんも人間だぞ!!

 

「イッセー。しっかりしなさい。胸を見なさい」

 

 と、姐さんが服をはだけて胸を魅せてくれる。

 

 ……羨ましい!!

 

 俺が殺意すら目覚めたその時、それをかき消す非常事態が起こった。

 

 イッセーが、急に頭を抱えてもだえ苦しんだのだ。

 

「ぐああああああ!!! あれを見た瞬間に、頭が張り裂けそうなぐらいいたい!!」

 

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 

 俺たちは、声を上げることもできないぐらい驚愕した。

 

 あ、あり得ねえ。

 

 イッセーが、女の乳を見て、拒絶反応!?

 

 こ、これは非常事態だ。非常事態以外の何物でもねえ!!

 

 なにがあったんだ、これはぁああああああああ!!!

 




……当人的には大問題なんでしょうが、理屈が全く分からないおっぱいネタなのがD×Dですよねぇ(汗


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最終章 4話

ギャグ展開その二です


 

 そして、数分後、イッセーが落ち着いてから少しだけ試してみた。

 

 姐さんが服を着なおしてから、親父さんが実は見ていたためお袋さんに怒られてたのはとりあえずスルーする。

 

 ギャスパーが見舞いに買ってきていたエロ本を見せてみたが、同じく頭痛を発症して、見ることに耐えられなかった。

 

 それどころか、冷静に思い浮かべるだけで頭痛を発症する始末。

 

「……お嬢、これ、マジでやばくねっすか?」

 

 俺は恐怖のあまりちびりそうだ。

 

 なにこれ。世界滅亡の前振り?

 

「そうね。異常すぎるわ。お医者様を呼ばないと」

 

 ですよね。異常っすよね。

 

 そして、とりあえず誰かナースコールを押そうとした時だった。

 

「安心しろ、もう呼んでる」

 

 その聞き覚えのある声に、俺たちはいっせいに振り向いた。

 

 そこには、医師と看護師を引き連れたアザゼル先生の姿が。

 

「先生!!」

 

「よぅイッセー。よく頑張ったな」

 

 イッセーにそう片手を上げながら、しかし先生は真剣な表情を浮かべる。

 

「だが、よりにもよって結果がこれとはな」

 

「先生。この原因に心当たりが?」

 

 木場がそう聞いてくるが、アザゼル先生は静かにうなづいた。

 

「ああ。龍神化の影響だろう」

 

 ……龍神化、か。

 

 イッセーは、リゼヴィムとの戦いにおいて新たな領域に到達した。

 

 神器そのものの潜在能力。そしてオーフィスとの友情から生まれた絆。両親との変わりようのないつながり。そして、夢幻と無限の血肉から作り出された肉体。

 

 それらすべてを媒介として、イッセーは鎧を新たな姿に変化させることに至ったのだ。

 

 それこそが、龍神化。またの名を、D×D・G(ディアボロス・ドラゴン・ゴッド)

 

 その力は全盛期に二天龍に迫るほどで、神器無効化能力の処理限界を超えて素でダメージを与えるほど。リゼヴィムでは生身では勝てなかったほどだ。

 

 リゼヴィムはしかしそれでもイグドラシステムで対抗するが、そこにヴァーリも同じように、D×D・L(ディアボロス・ドラゴン・ルシファー)こと魔王化に到達。二人掛かりで激闘し、さらにイグドラシステムに封印されたファーブニルを目覚めさせることで、勝利に成功した。

 

 まさに、天に昇る龍が如く。ここ一年足らずでどんだけパワーアップすればいいんだこら。五年間かけた俺や、七年間死に物狂いで鍛えた姐さんに謝れ。

 

 そんな圧倒的なパワーアップだが、アザゼル先生は良いことばかりでもないといわんばかりだ。

 

「女の乳が認識できない。言葉にもできない。そして見るどころか考えるだけで頭痛がする。これはつまり、今迄の進化の拒絶だ」

 

 ……冷静に考えると頭痛いなホント。

 

 乳首つついて禁手に至ることから始まり、どんだけお乳で覚醒してるんだオイ。

 

 しかもその過程の被害にあった俺からすると、一発ぶん殴るぐらいしてもいい気がしてきた。いや、あれはアジュカ様も軽率だったけど。

 

「おそらく、今迄の進化でイッセーは乳の体現者となっていたんだろう」

 

 頭おかしいですよ先生。いや、納得だけど。

 

「龍神化のパワーアップは無茶にもほどがある。夢幻と無限の力をその身に宿す。そんなことは普通耐えられない。ヴァーリは魔王の血肉でなんとかしのいだが、イッセーはもともとただの人間だ、悪影響が出てくる可能性は大きい」

 

 た、確かに。

 

 ヴァーリが「一周回って笑えてきた」とかいうぐらいのレベルで平凡だからな。実際堕天使側も制御できずに大惨事を引き起こすから始末する方向でいったし。

 

 そんな奴が、気づけば超越者すら生身じゃ勝てない化け物に、それも、神器に目覚めてから一年足らず。

 

 どう考えてもおかしい。異常だ異常。

 

「グレートレッドの肉体を持っているイッセーだからこそ、リゼヴィムを倒すまでは耐えられた。だが、それが限界だったんだろう」

 

 そうか。っていうか、そこまで持ちこたえただけでも奇跡だろうな、

 

 アザゼル先生は、イッセーの肩に手を置くと、悲し気に目を伏せた。

 

「イッセー。今のお前は乳による進化の反動で、乳が毒になっちまったんだ。下手に乳にかかわると、本当に死ぬかもしれねえぞ」

 

 ………。

 

 俺が沈黙する中、イッセーは絶望の表情を浮かべた。

 

「かかわると、死ぬ……死ぬ!? 嘘でしょ!? おれがお……あれにかかわれないなんて、それこそ死んだほうがましじゃないですか!!」

 

 心底絶望の表情を浮かべているところ悪いんだが、お前もう死ねよ。

 

 シュールすぎて悲しめねえ。っていうか、死んだほうがましか。そうか。

 

 俺はふと、視線を木場に向ける。

 

 木場もまた、視線を俺に向けた。

 

 大体同じ感情だった。シリアスとシュールを同時に受けて、本気で対応に困っている表情だった。

 

 見ればイッセーを調べていた医師や看護師も対応に困っている、親御さんも心配はしているが微妙な感情が浮かんでいる。

 

 だが……。

 

「そ、そんな!? それではイッセーとどうやって子作りすればいいんだ!?」

 

「胸が大きくなったら、イッセー先輩に認識されない……」

 

「そ、そんな!? イッセー様おいたわしや……」

 

 ゼノヴィアに小猫ちゃんにレイヴェルが絶望の表情を浮かべる。

 

 っていうか、俺たち以外の全員が衝撃しか受けてねえ。

 

「そんな! イッセーさんがかわいそうです!」

 

「イッセー君が胸を認識できない。それじゃあ、これからどうやってイッセー君は強くなればいいんですか!?」

 

「イッセー。そんな……っ」

 

 アーシアもロスヴァイセさんも朱乃さんも愕然としている。

 

 あれ? これ、俺たちの方がおかしいのか?

 

「……そんな! 私の胸で挟みたかったのに!!」

 

「ペトも、下の口で食べるのを楽しみにしてたのにッス!?」

 

 そこのビッチスールはちょっと黙ってようか。

 

 俺と木場はなんか場違いな感覚を覚えておろおろするが、そこに先生が近づいた。

 

 そして、俺たちの肩に手を置くと静かにうなづく。

 

「安心しろ、正常だ」

 

「「ですよね!!」」

 

 ああ、ほっとした! 俺も木場もほっとした!!

 

「で、でも、それじゃあイッセー先輩、ハーレム王になれないんじゃ?」

 

 ギャスパーの言うことももっともだ。

 

 プラトニックラブだけでハーレムとか、なんか違う気がするぞ。

 

 お嬢はよっぽどショックだったのか、涙をこぼしながらイッセーを抱き寄せた。

 

「なんてかわいそうなの、イッセー。胸を見せてあげることもできないなんて……」

 

 お嬢はそのまま、イッセーを抱きしめてすすり泣く。

 

 シュールだ。これをシュールといわないで、何をシュールといえばいいのかわからないぐらいシュールだ。

 

 だがその時、イッセーが急にもだえ苦しんだ

 

「ぐあぁああああああ!? り、リアスのあれが当たっている部分が、痛い!?」

 

 …………………………

 

 はい?

 

 イッセーが? おっぱいを当てられて? 痛がった? それも、お嬢のを?

 

 あ、これはつまり―

 

「俺たちはもう死んでいるんだな、そうに違いない」

 

「しっかりするんだ! 確かにここは冥界だけど!!」

 

 安心しろ木場。俺は正気だ。ジョークでも言ってないと、やってられないぐらいあれな気分なだけなんだ。

 

 お嬢たちに至っちゃ、ショックのあまり固まっている。っていうか意識が飛んでいる。

 

 そして、看護師さんが慌ててお嬢をイッセーから引きはがすと、急いで体調を調べ始める。

 

 そんなとき、テレビから子供向けの音楽が流れ始めた。

 

 きっとあれだ。子供たちが不安がっていると思って、テレビ局が気を利かせたんだろう、もしくはサーゼクス様達が要請したか。

 

 こんなタイミングで、おっぱいドラゴンのテーマソングが流れちまったよ。

 

 そして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ!!!?!?!?!!!?!?!??!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーが、痙攣を起こして泡を吹いて倒れた。

 

 どうやら、これでもだめらしい。どんだけだ。

 




イッセー、大惨事。

いや、本当にひどい。これはひどい


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最終章 5話

 

 そんなこんなでイレギュラー極まりない事態が発生して、イッセーは半日ほど面会禁止になった。

 

 まあ、泡吹いて痙攣してんだもんな。当然っちゃぁ当然だろう。

 

 そしてさらに、行方不明だったビィディゼ・アバドンがバアル家を襲撃したり、それに同調して王の駒使用者がさらに暴れだしたりといろいろあって、お嬢たちは急遽出撃することになった。

 

 まあ、おれと姐さんは暴れたら死ぬということで待機するわけだが。

 

 さて、どうしたもんか……。

 

 結界を抜ける手段はある、シシーリアが持ってきてくれた。

 

 だが、使いどころはしっかり見極めねえといけねえ。俺と姐さんがいなくなったと知られれば、すぐにそのきっかけとなった戦場に行って、お嬢たちが取り押さえようとしてくるだろうしな。

 

 それに抵抗するのは阿保のやることだ。この非常時、仲間同士で争って漁夫の利を取られるとか、阿保極まりねえ。それでトライヘキサに世界を蹂躙されたらそれこそ死んでも死にきれねえ。

 

 だから、やるとするならタイミングを見極めねえといけねえわけだ。

 

 それを考えながら、俺は姐さんの部屋に行く。

 

「よ、姐さん」

 

「あら、ヒロイ」

 

 俺と姐さんは軽い挨拶を交わすが、しかしすぐに視線を合わせると、心が通じ合った。

 

 ああ、姐さんもそうだよな。

 

 俺たちは英雄でい続けたい。そして何より、今は世界の危機だ。

 

 二重の意味で死を恐れている場合じゃない。機をうかがって、ここなら抜け出て動かないとな。

 

「シシーリアが結界から抜ける手段を持ってきてくれた、ご丁寧に二人分だ」

 

「……お礼を言っておきたかったけど、それも難しいわね」

 

 ああ、そうだな。

 

 出た直後にシシーリアに連絡を入れれば、それでアジュカ様に察さられてしまうかもしれねえ。そうなったら間違いなく捕まる。

 

 かといって、これだけの激戦だ。戦死する可能性はシャレにならないぐらい高い。そして、勝ち残ったとしても……。

 

 ああ、だから、本当に感謝してもしきれない。

 

 シシーリアは、俺と姐さんがどういう行動をしたいか察してくれた。

 

 だったら、何ができる?

 

 決まってる。シシーリアは、俺が輝き(英雄)でい続けることを願っていた。それを望んでいたからこそ、この抜け道を擁してくれた。

 

 だったら、英雄でいることしか報いる方法はねえだろうな。

 

「思えば、俺が駒王町に来てからいろいろあったよなぁ」

 

 俺は、なんか走馬灯のごとく思い出がよみがえってくる。

 

 姐さんも同意見なのか、クスリと笑った。

 

 ああ、本当に、いろいろあった。

 

「まさか、最初に助けた子だったなんて、コカビエルと戦っているときは思ってもみなかったわ」

 

 姐さんが、思い出を振り返りながらくすくす笑う。

 

「だって、守るべき存在だったもの、それがいつの間にか守り合う存在になるなんて、なんて数奇な運命なのかしら」

 

「当然だよ。俺は、そういう存在になりたかったところがあるからな」

 

 そうだ。俺は姐さんに憧れた。

 

 あの暗闇を照らした輝きのようになりたいと思い、そして一生懸命なる方法を考えて道を進んできた人生だった。

 

 そして、その果てにコカビエルを追撃して駒王町に行って、姐さんと図らずも共闘した。

 

 それが姐さんだと気づいたのは、そのあと少ししてからだ。

 

 そっからも激闘と特訓と、そして楽しい思い出の毎日だった。

 

 ペト、イッセー、お嬢。そしてみんな。

 

 誰もかれも大事な仲間たちだ。一緒に戦えたことが誇らしくてたまらない。それだけの心強く、自慢の仲間たちだ。

 

 時間は一年にも満たねえが、それでも大事な思い出だ。この一年足らずは、人生で二番目に大切な思い出だ。

 

 そう、二番目だ。

 

 一番は決まっている。変わることなどないと思うし、そうなったときは俺という存在は死んだようなもんだ。

 

「ああ、それも姐さんに救ってもらえたからだ」

 

 そうだ、それが原風景。

 

 あの時、あの暗闇を照らした輝き、俺の大事な大事な始まりの光。

 

 ああなりたくて駆け抜けた人生だ。もし、それをあきらめるときが来るのなら、それはきっと俺が俺でなくなる時だ。ヒロイ・カッシウスとしての自分を、投げ捨てる時だ。

 

 それは嫌だ、絶対に嫌だ。

 

 そして―

 

「ええ。私も、あの時ペトとあなたが励ましてくれたことが何より大切だわ」

 

 姐さんも、おれを見て、頷いた。

 

「迷走し続けてきた人生でも、得られるものはある、それをあなた達は教えてくれた。だからこそ、私にとってその思い出はなによりもかけがえのない大事な切っ掛けなの」

 

 そういうと、姐さんは立ち上がって俺を抱きしめる。

 

「……ペトには愛想をつかされちゃったけど、それでもあなたは残ってる。貴方の期待を裏切りたくないの。命よりも大事なのよ」

 

「俺もだ。あの輝きのように生きれないのなら、俺は死んでしまいたい」

 

 ああ、俺たちは大バカ者だ。

 

 仲間たちを悲しませることになっても、それでも英雄であることを捨てられない。最後の一線はそこにある。

 

 だけど、そんな大バカ者たちだからこそ、最後の最後で理解者でい続けられる。

 

 俺は姐さんを抱きしめ返しながら、まっすぐに見つめて言う。

 

「姐さん。大好きだ。あの時救われてからずっと、その輝きに目を焼かれてる」

 

「私もよ。最後の最後まで誇ってくれる貴方が、愛しくて愛しくてたまらない」

 

 その言葉と共に、俺たちは唇を合わせる。

 

 今までに何度もやってきた、しかし今までとは全く異なる口づけ。

 

 ああ、俺たちの最期の戦いは、並び立って迎えるんだ。

 

 そのまま、前向きに倒れよう。

 

 俺は、俺たちは、英雄だからな。

 

 そう、俺が決意をしたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あー、テステスただいまマイクのテスト中ー』

 

 テレビから、リムヴァンの声が聞こえてきた。

 

 静かに視線を向けると、空をバックにリムヴァンがにこやかに手を振っていた。

 

『はーい! 電波ジャックで放・送・中! リムヴァンお兄さんが、ただいま太!平!洋から生!中!継!』

 

 なんか似非ラップでほざくリムヴァンは、そして指を鳴らす。

 

 そして、カメラが一気にズームアウトした。

 

 ……そこには、首が一本になったトライヘキサが三体も映っていた。

 

 病室の外が騒がしくなる。まあ、禍々しい外見のトライヘキサにビビったんだろう。テレビ越しでもやばい感じはしまくりだからな。

 

 そしてある程度パニックが収まるのを待っていたのか、お茶を飲んで待っていたリムヴァンはにやりと笑う。

 

「ただいま、僕たちヴィクター経済連合は太平洋から日本に向かって進軍中。ヴィクターの艦隊や部隊を率いて向かってるよ」

 

 日本だと!?

 

 んの野郎、一体何考えてやがる。

 

 っていうか、確かトライヘキサは七体に分裂して襲撃してたんだよな。それなのになんで三つだけなんだ?

 

 映ってないだけで七体全部か? なんかそれはキッツいんだけどよ。

 

『因みに、もちろん今回も同時多発攻撃だ。日本に向かっているトライヘキサ三体以外にも、敵として確定的な戦力で最強のシヴァ神がいるインド神話勢力、協力者の旧魔王派の勢力図を広げるために冥界悪魔側、つかまって封印された人たちを助ける目的もあってコキュートス、そしてグレートレッドの参戦を警戒して次元の狭間に、露払い用の部隊を含めて展開中さ』

 

 ああ、なるほど。そういうことか。

 

 って、日本多いな!!

 

 なんでそんなに日本に戦力集めてるんだよ。おかしいだろオイ。日本一応平和主義だから、自衛隊とかは仕掛けてきてねえだろ。

 

 俺たちのそんな疑問は想定済みなのか、リムヴァンは一つの映像を浮かべる。

 

 ……そこには、見覚えのある街が映っていた。

 

 いや、違う。見覚えがあるなんてもんなわけがねえ。ここ最近はずっとそこで住んでるから覚えてるにきまってる。

 

 あそこは、駒王町だ!!

 

 そして、その映像は急激に変化する。

 

 一応青空だったはずなのに、一気に雲と風が出てくる。

 

 そして、気づけばスーパーセルって感じの荒れた天候になり、そして駒王町は特に被害がない。

 

 台風の目ど真ん中といわんばかり。そんな、明らかにおかしい天候が発生していた。

 

『うちの精鋭である英雄派の協力の元、天候操作を行いました! 同時に駒王町に三大勢力が張っている結界に干渉をかけて、駒王町からの市民の脱出にはどれだけかかっても数日は必須の状態にしたぜ! 陸の孤島さ!!』

 

 な、なんだとぉ!?

 

 あの野郎。なんで駒王町をターゲットにしてそんな手の込んだことをしてやがる。

 

 確かに結界にまで干渉されたら、転移もそう簡単にはできねえ。しかも陸路や空路がスーパーセルで寸断されたら、車や電車もろくに仕えねえはずだ。

 

 だけど、それをどうしてこんなところで使いやがる?

 

 大半の連中がそんな疑問を浮かべているのに気づているのか、リムヴァンはうんうんとうなづいた。

 

『わかってるよ? 日本の地方都市相手に、こんな大盤振る舞いする理由はわからないだろう。でも、首脳陣はたぶん勘付くんじゃないかな?』

 

 なんだよ。一体どういうことだ。

 

 訳が分からなくてむかついてきたが、それをまるで見越しているかのようにリムヴァンはにやりと笑う。

 

『……堕天使コカビエルが、事実上の休戦状態だった三大勢力の戦争を再開させるため、教会が保管している聖剣エクスカリバーを強奪。魔王サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンの妹が悪魔業務上の管理をしている、駒王町をエクスカリバーを使った儀式で吹き飛ばそうとした。ちょうど日本の学生たちが夏服に変わるころにね』

 

 ………!

 

 それは知ってる、っていうか当事者だ。

 

 その時は、何とか俺たちが尽力してコカビエルをぶちのめして防いだが―

 

『結果として、それをきっかけにする形で三大勢力は会談を開始。どこもトップは戦争継続は人間たちを含めて誰の得にもならないと思ってて、即座に首脳陣は和平を結ぶことを決定。恐ろしいぐらいのスピードで三大勢力は和平を結んだわけだよ。僕たちヴィクターは、当時トップクラスの勢力だった旧魔王派の要求もあって妨害行為を行ったけど、凌がれたわけだ』

 

 ああ。その時だって俺たちもいた。

 

 そういや、その時から俺は曹操とやり合ってるが、これまで一度も一対一でぎゃふんと言わせたことはあっても勝ったことはない。

 

『そして、その数日後に僕たちは本格的な宣戦布告を行った。ついでに、日本にいろいろとちょっかいをかけたこともある。……日本は全部凌いだけどね』

 

 なんだ? なんか嫌な予感がしてきたぞ?

 

『ロキの襲撃を凌ぎ、同時多発クーデターでは唯一クーデターを失敗させる。そしてそれ以外でもヴィクターの部隊が関わる形でいろいろともめ事が起きたけど、日本はそのすべてを自陣営の勝利でしのいできた』

 

 そう言って、リムヴァンは静かにため息をついた。

 

『まあ、日本は対ヴィクターにおいて人間世界唯一の勝ち越し国家なわけだよ』

 

 おい、まさか―

 

 俺が最悪の想像に至ったとき、リムヴァンはそれを言い切った。

 

『いい機会だしこう考えた。……最初の失敗を帳消しにして、それをゲン担ぎにしようとね』

 

「それはつまり……っ」

 

 姐さんも分かっている。俺だってわかっている。

 

 つまり、奴はこう言っているんだ。

 

 奴のターゲットは厳密には日本じゃない。その最優先ターゲットは―

 

『駒王町を制圧して、僕たちの対アジア前線基地にする。そのために最大戦力を投入させてもらったよ』

 

 そう言い放ったリムヴァンは、テレビ越しに見ている連中全てに挑発的な表情を向けてくる。

 

『止めてみたまえ。これが、ヴィクター経済連合の宣戦布告以来の、最大級の決戦だと知るがいい』

 

 ……んの野郎!!

 

 最大級の挑戦状を、堂々と叩きつけてきやがった!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決戦の時、迫る。

リムヴァン本気モード。ついでに今までの借りを返さんと、日本をメインターゲットにしました。

これが結構この世界での日本の在り方に影響が出ることになります。


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最終章 6話

とりあえず、最終章は書き切りました。最終決戦とエピローグを書き切って、第一部は終了です。

明日からは第二部のプロローグを書き始める作業に移ります。


 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕たちグレモリー眷属は、全員で病院のすぐ外に集合していた。

 

 ヴィクター経済連合は、ついに本格的な攻勢に出てきた。

 

 インド神話勢力にはトライヘキサが差し向けられている。各神話勢力でも最強と称されるインド神話も、トライヘキサが本格的に攻撃を仕掛けてきたせいで他に戦力を差し向けている余裕がないようだ。

 

 コキュートスに現れたトライヘキサも猛威を振るっている。コキュートスに封印されている者たちを監視している人たちは、その三割がすでに滅ぼされた。現在は徹底的に防戦に回ることで被害の上昇を食い止めている。

 

 次元の狭間に現れた固体は、自分達からは積極的に攻撃を仕掛けてきていない。悪魔で万が一のグレートレッドの参戦を警戒しているだけで、自分達からグレートレッドを怒らせるような真似をする気はないようだ。

 

 旧魔王派の勢力圏内に現れた固体は、なんと開拓活動を行っている。大量の木々を手加減した攻撃で一度に数平方キロm吹き飛ばし、その威力を見せつけていた。それも手加減しまくってこれだ。

 

 そして、日本を目指して侵攻している。

 

 現在、自衛隊はできる限り海岸線に集まって最終防衛ラインを築いている。

 

 転移を多用する異形の存在に対抗するには、陸戦力を高めるのが最優先。ゆえに陸自が中心に強化されていて、海自と空自は強化の度合いが少なめだった。その盲点を突かれているからだ。

 

 空中戦闘が可能なものが少なく、自衛隊の航空機や艦船の火力ではトライヘキサはおろか、量産型の邪龍すら撃破に苦戦する。なら陸自を中心に防衛ラインを敷いて、トライヘキサが上陸した段階で迎撃するしかない。

 

 そして、駒王町の避難は遅々として進んでいない。

 

 ゲオルクが作ったものと思われる結界装置により、駒王町の結界が干渉されているうえにスーパーセルクラスの風速と雨量の嵐に包まれているためだ。

 

 この調子ではトライヘキサが順調に駒王町に到着した場合、駒王町の避難は5パーセントが限界だと言われている。

 

 集中核攻撃を運用すればある程度のダメージは与えられるだろうけど、その結果は神々でもすぐには治せない放射線による海洋汚染だ。しかも、それで倒せる可能性も低いとみられている。

 

 まあ、世界各国は政治や軍事の重要拠点の多くが破壊されて、動きたくても動けないんだけどね。

 

 しかも同時期にカルデナーレ聖教国が中東での侵略活動を活発化させている。こちらに関してもある程度の部隊を動かす必要があるけど、トライヘキサの影響で現在ではろくに動かせない状態だ。

 

 冥界は冥界で混乱状態。なにせ堕天使側はトライヘキサにダメージを受けている上に、悪魔側にもトライヘキサが出現したからだ。

 

 不幸中の幸いは、冥界に出現したトライヘキサは現悪魔側を攻撃せずに、旧魔王派勢力図近辺での開拓作業を進めている。

 

 ……すでに北海道ぐらいの地形が更地になった。そこに多くのヴィクター経済連合の開拓民が来て、農地の開発を行っているらしい。

 

 だけど、いいニュースもある。

 

 王の駒の使用者はほぼ捕縛に成功したそうだ。筆頭格のビィディゼ・アバドンもサイラオーグさんと匙くんが打倒したそうだ。

 

 その裏には王の駒使用者で最強のロイガン・ベルフェゴール様の協力があったらしい。王の駒使用者の中でもっとも強い方が最も協力的だったのは、不幸中の幸いというほかない。

 

 いまサイラオーグさんたちはビィディゼ・アバドンに聞きたいことがあるそうだ。だけど、それが終わったらすぐに駆けつけてくれるといていた。

 

 現政権は旧魔王派勢力圏をわずかに広げ続けているだけのトライヘキサに対しては遅滞戦術をとることに決定。地上にいる悪魔たちと僕たちD×Dには、日本に向かっている三体のトライヘキサの迎撃を命令した。

 

 ありがたい話だ。日本は僕たちオカ研にとってもう一つの故郷といってもいい。イッセーくんや朱乃さんのように、日本で生まれ育った者たちも何人もいる。守りたいのは当然だ。

 

 とはいえ、増援はなかなか期待できない戦いでもある。

 

 何処の勢力もトライヘキサの強襲攻撃の連発で疲弊している。アザゼル先生はトライヘキサ戦での切り札としてシヴァ神の協力を取り付けたみたいだけど、そちらに対してもヴィクターは先手を打った。さすがに自陣営にトライヘキサが攻め込んでいるときに動くのは無理だろう。

 

 殆どの敵は、日本周辺の異能関係者で対抗するしかない。……正直戦力不足は否めないだろう。

 

 でも、それでもなんとかして見せる。

 

「……それで、ロスヴァイセ。トライヘキサの対抗策は完成したのかしら?」

 

 リアス部長が真っ先に聞いたのはそれだ。

 

 そう、僕たちのもう一つの切り札はそれになるだろう。

 

 ユーグリットが告げた、トライヘキサの封印術式そのものに行きつきかけていたロスヴァイセさんの研究。その完成こそが、この窮地を潜り抜ける最後の切り札だ。

 

 そんな僕たちの期待の視線に、ロスヴァイセさんは少し力なさげに、しかしちゃんと頷いてくれた。

 

「おそらく一度しか使えませんが、それでも一度は確実に通用します。……懸念である聖杯を無効化した後に、七体全部に一斉に使用する予定です」

 

 なるほど。一回しか使用できないのか。

 

 聖書の神が、死んでもおかしくない禁術をいくつも使ってようやく封印で来た化け物。いかにロスヴァイセさんが封印術式そのものにたどり着いていようと、この短期間ではそれが限界なのか。

 

 さらにアザゼル先生も口開く。その表情は今まで以上に真剣だ。

 

「くわえて言うと、その術式はトライヘキサだけで限界だ。当然ヴィクターの連中はトライヘキサが復活するまでしのごうとするだろうから、俺たちはトライヘキサが止まっている間にヴィクターの連中を追い返さねえといけねえわけだ」

 

 それは、大変だ。

 

 各地に出ているヴィクターの戦力は、実はそこまで多くない。

 

 冥界に出ているトライヘキサはほぼ単体で、旧魔王派が開拓した後の土地の確保などを中心に動いている。

 

 コキュートスに出てきたトライヘキサも、開放した罪人たちを安全圏まで運ぶことを重要視している。前線で動いているのは、小回りの利く相手からトライヘキサをカバーするための少数戦力だ。

 

 次元の狭間に関しては、護衛というほどの量でもない。同時多発作戦ゆえに、グレートレッドの攻撃を凌げるものは回せないと判断されたのだろう。トライヘキサの観察および制御担当だけと思われた。

 

 逆にインド神話側には戦力が多めだ。おそらく、日本侵攻部隊の三分の二ぐらいの数が出ている。

 

 戦闘映像にはフリードの姿もあった。どうやら、魔獣創造や煌天雷獄の使い手が派遣されているらしい。旧魔王派を現状率いている、若き魔王末裔も参加しているらしい。

 

 そして、日本侵攻部隊は絶大な数だ。

 

 宰相であるリムヴァン・フェニックスが直々に出陣。これは彼が最高戦力の一角であり、フットワークが軽く今までも動いていたことから驚くほどじゃない。

 

 だけど、今回はそのうえでかなりの数が投入されている。

 

 イグドラフォースは全員参加。英雄派も、裏京都で戦った幹部クラスは全員参戦。各派閥からも精鋭が派遣されている。ハーデスも上級死神は愚か、最上級死神を送り込んでいるという話だ。

 

 まさに本腰。最初の演説で、彼らは一定の猶予期間を与えるといっていた。それは本当だと確信できるほどの戦力投入だ。今までとは気合と戦力の入れ具合が全く違う。

 

 人間界と異形社会。その二つの戦力を合わせ、強大極まりない戦力で、一つの国に攻撃を仕掛けている。

 

 まさに、第一次真世界大戦。リムヴァンがかつて言っていたことが、本当になろうとしていた。

 

「とにかくだ。今は先に鳶雄たちを送り込んで第一防衛ラインを形成しているが、俺たちもそこに急いで向かうぞ。……ここで奴らを止めなけりゃ、未曾有の大被害が生まれちまうからな」

 

 アザゼル先生の言う通りだ。

 

 トライヘキサによる人類侵攻。これが続けば、犠牲者の数は億を超えることは間違いない。

 

 これは、なんとしても止めなければいけないはずだ!

 

「……そうね、じゃあ、本命の登場を待ってから行きましょう?」

 

「あらあらリアス? もう来てしまったみたいですわよ?」

 

 リアス部長の宣言からすぐに、朱乃さんが病院の方を見て苦笑を浮かべる。

 

 振り返るまでもない。誰が来てしまったのかなんて、考えるまでもない。

 

「待っていたよ、イッセー君」

 

 僕はそういって、イッセー君を出迎えた。

 

 イッセー君ははっきり言って非常に大変な状態だ。

 

 これまで数多くの戦いを女性の乳房で潜り抜けてきたイッセー君。だけど、龍神化の影響でおっぱいを認識することができなくなってしまった。それどころかおっぱいに触れる……以前におっぱいというフレーズを聞いたり考えるだけで激痛が走るという、前代未聞の症状を発症している。

 

 確かに真女王までなら発動できるし、戦闘もできる。だけど、次龍神化をすれば死んでもおかしくないとすら言われている。

 

 そういう意味では戦わせるわけにはいかない。お医者様からはそういわれているし、僕たちも同意見だ。リアス部長もアーシアさんも、涙ながらに待っているように頼み込んだ。

 

 だけど、それでも彼が出てこないなんてありえない。

 

 そんなことはわかっていた。誰だって、イッセー君はそういう人だって知っている。

 

 そんな彼だからこそ、いろいろと問題なところはあっても、それ以上にみんな大好きなんだからね。

 

「……あの、驚かないの? 怒らないの?」

 

 ヴァーリと一緒に外に出たイッセー君は、僕達のそんな反応にちょっと戸惑っていた。

 

 どうせ、出てくるのを見つかったら止められると思ってたんだろうね。それでも正面玄関から出てくるあたり、イッセー君はイッセー君だ。

 

「貴方がこんな時に黙っていられるわけがないものね」

 

「そうです。そんなイッセーさんのことが、私達は大好きなんですから」

 

 リアス部長もアーシアさんも、非常に心配しているけどそれでも受け入れた。

 

 ああ、それでこそイッセー君だ。

 

 そしてレイヴェルさんがフェニックスの涙を渡すのをきっかけに、そんな事だろうと思っていた人たちがいろいろ何かを渡してくる。

 

「あらら。彼はみんなに好かれてるのね」

 

「そうだよ。イッセー先輩は僕たちみんなのヒーローだしね」

 

 と、ヴァレリーさんにギャスパー君が胸を張った。

 

 そして、そのころになってイッセー君はようやくヴァレリーさんに気が付いたらしい。

 

「ってヴァレリー!? なんでここに!?」

 

「ああ、今回の作戦には必須なんで連れてきた」

 

 アザゼル先生がそう言って、ヴァレリーさんの胸元にある十字架を指さす。

 

「以前確保した聖十字架を利用して作った、この特別製の十字架である程度は動けるようになったんだよ。……そっちのお嬢さんが持ってきてくれた資料のおかげで、土壇場で完成した」

 

 その言葉に、離れたところで見守っていたエルメンヒルデが前に出る。

 

 そして、イッセー君を見て頬を赤らめた。

 

「お、お久しぶりです赤龍帝。その節は失礼をしました」

 

 ……なんていうか、あれだ。

 

 どうも、ルーマニアの一件や年越しの際にいろいろあって、エルメンヒルデはイッセー君に惚れたらしい。

 

 徹頭徹尾見下してきていた吸血鬼すら虜にするとは。イッセー君のハーレム王っぷりには、ちょっと戦慄を覚えるよ。

 

「え、エルメンヒルデ? エルメンヒルデが、聖杯を何とかしてくれたのか?」

 

 状況が全く分かってないイッセーくんは、そんな頓珍漢な反応する。

 

 それに苦笑しながら、エルメンヒルデは首を横に振った。

 

「いえ。私はマリウス・ツェペシュがリゼヴィムから隠し通した資料を探し出しただけです」

 

 そう。彼女はアザゼル先生たちの指摘を受け、マリウスたち聖杯研究を行っていた吸血鬼たちを調べていた。

 

 マリウスは明らかに小物だったけど、それでも吸血鬼の王族。

 

 リゼヴィム・リヴァン・ルシファーに聖杯の情報を全部丸ごと提供するのは考えにくいと先生は判断した。

 

 そしてエルメンヒルデが徹底的に調べ上げた結果、リゼヴィムが来る前に記憶を消した上で追放した、食料係として確保していた人間に、情報が刻まれていることが発覚したんだ。

 

「……吸血鬼どもが隠し持っていた聖釘で、一度聖杯が暴走したヴァレリーを鎮静化させたことがあるらしい。つまり、聖遺物なら聖杯をある程度制御することができるってわけだ」

 

「私達吸血鬼は、最大の敵であったキリスト教の研究を行ってきました。おそらくその際に見つけたのでしょう」

 

 アザゼル先生とエルメンヒルデの説明に、イッセー君はほへーっとしている。まあ、彼はそういう知識がまだまだ足りないから、半分も分かってないんだろうね。

 

 ちなみに聖十字架も聖釘も、聖書の神の子の処刑につかわれた道具だ。聖槍が神の子を貫いたということは知っている人も多いだろうけど、こっちは聖書の神の教えに詳しくないと詳細までは知らないだろうね。

 

 こと聖釘は聖槍よりも長い間神の子に突き刺さっていた。下手をすると聖槍よりも聖遺物として格上な側面もあるかもしれない。

 

「で、奴らはトライヘキサの制御にヴァレリーの残りの聖杯を使ってるだろうからな。聖遺物で聖杯が制御できるなら、大本であるヴァレリーの聖杯ならもっと確実に制御できると踏んだわけだ」

 

「そして、それを確認してから術式でトライヘキサの動きを封じます」

 

「なるほど!! ……ってそれまでトライヘキサは放置ですか!?」

 

 先生コンビの説明を聞いて、イッセー君はそれに思い当たった。

 

 そう。トライヘキサは三体いる。さらにヴィクター経済連合が徹底的に警護耐性を固めているだろう。

 

 それを突破するのは困難だ。それまでの間にトライヘキサが、僕たち迎撃戦力を撃破する可能性は大きい。

 

 これで一体だけならまだましだったんだけどね。まず間違いなく僕たちの中にも犠牲者が出てくるだろう。それでも、僕たちはいかなければならないけどね。

 

 そんな決意を固める僕たちに、アザゼル先生はにやりと笑った。

 

「ま、その間のトライヘキサの相手は用意してるから、安心しな」

 

「……初耳です」

 

 僕もだよ、小猫ちゃん。

 

 どうも、リアス部長も朱乃さんも聞かされてなかったらしい。全員ぽかんとしている。

 

 そんな僕たちにいたずら小僧としか言いようがない表情を浮かべながら、アザゼル先生は告げる。

 

「トライヘキサの分裂が想定外だったが、そっちもちょっと前に亡命した魔王末裔が協力してくれたおかげで対応できそうだ。……トライヘキサの足止め担当は、別で用意できた」

 

「初耳よ先生! でも、誰なの?」

 

 イリナの疑問も当然だ。

 

 トライヘキサの戦闘能力は強大だ。亡命したという魔王末裔の話は聞いているけど、かれが旧魔王と同等の戦闘能力を持っていたとしても、単独でどうにかできるとは思えない。

 

 かといってシヴァ神も動けない。さすがに、自勢力にトライヘキサが突入してきている以上、先ずはそっちが優先のはずだ。

 

 僕たちは怪訝な表情を浮かべるが、アザゼル先生はにやりと笑う。

 

「ま、サプライズ演出ってやつさ。詳しくは見てからのお楽しみだ」

 

 ここで隠しますか、先生。

 

 まあ、この人は悪戯好きだし非情に徹するときもあるけど、外道ではない。そして非常に優秀な人物でもある。

 

 なら大丈夫だろう。少なくとも、僕たちにとって心強い味方であることに変わりはない。

 

「しかし、トライヘキサを完全に滅ぼすことは難しいです。私の術式でも、半永久的に封印だなんてことは不可能ですよ?」

 

「そこは安心しろ。……首脳陣で準備した、最終手段で対処する」

 

 ロスヴァイセさんの懸念を払拭するかのように、アザゼル先生がそんなことをおっしゃられた。

 

 首脳陣で準備し最終手段か。神々の御業を結手した最終兵器でも用意されたのだろうか。

 

 もしかしたらオーフィスも協力してくれたのかもしれない。それなら、トライヘキサをどうにかすることも不可能じゃないはず。

 

 僕たちの間に、希望の灯がともり始める。

 

「ま、それもトライヘキサの動きを止めて、妨害してくるだろう奴らをある程度叩きのめしてからだ。……期待してるぜ、お前ら!」

 

『『『『『『『『『『はい、先生!!』』』』』』』』』』

 

 僕たちはいっせいに頷く。

 

 ああ、そうだ。

 

 これまでも何度も僕たちは窮地を脱してきた。才能と努力、そして先生たちの協力と仲間たちとの絆。それがあったからこそ、こうして僕たちは冥界の英雄とすら称された。

 

 なら、今回もそうするだけだ。

 

 そして僕たちは気合を入れ―

 

「……そうっスね。お姉様やヒロイの分まで頑張るッス」

 

 ペトさんの言葉に、一瞬だけ病院を振り返る。

 

 ……今回の戦い、ヒロイ君とリセスさんは参加できない。

 

 リムヴァンによってかけられた呪詛は、それほどまでに重い。

 

 解呪には神話体系が協力しても、百年近くかかると断言された。そしてこのままなら、安静にしてても二十年も生きられないそうだ。もちろん延命措置などは別途並行する予定だけど、現段階では手が付けられないとも。

 

 そして、全力を出せば一気に寿命は削れる。それこそ覇に匹敵する消耗速度で、半日も持たない。調べてリムヴァンの言葉に嘘がないことも判明した。

 

 龍神化を使わなければ戦える、イッセー君とは違う。ただ闘うだけで、命が急激に削れていくのだ。戦わせるという選択肢はない。

 

 当然、念には念を入れてアジュカ様特性の結界が病院には張られている。これは入ってくること以上に出ることが困難な結界だ。下手に出ようとすればすぐに発覚することになって、取り押さえるための騒ぎになる。

 

 あの二人もそのあたりの配慮はできる人物だ。……少なくとも、世界の危機に内輪もめを起こすほど愚かじゃない。それ位には分別がついている。こっそり抜け出す方法は探しても、強引に破ってもめ事を起こすことはしないだろう。

 

 強引にでも二人を戦わせたいとする人物が、結界に細工をしたりしなければ大丈夫だろう。結界の確認のためにシシーリアさんも来ていたし、何とかなると思う。

 

 ヒロイ君と輝き(英雄)として崇拝に近い感情を持ち、愛情すら持っているといってもいい彼女なら、本気を出すはずだ。なんだかんだでアジュカ様の補佐を行っている彼女は優秀だし、何とかなるだろう。

 

 できれば、彼らが来てくれれば心強い。だけど、彼らを戦わせるのだけはダメだ。

 

 みんなの決意は一つだ。ここで生き残り、2人に勝利のお知らせをお見舞いとして持っていくことだけだ。

 

「じゃ、あいつらがはらはらしすぎて飛び出さないうちに終わらせるか!」

 

『『『『『『『『『『はい、先生!!』』』』』』』』』』

 

 待っていてくれ、2人とも。

 

 僕たちは、必ず勝利を手土産にして帰ってくるから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out




まさか、参戦する準備ができているなどとは思っていないグレモリー眷属。知らぬが仏とはこのことか。


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最終章 7話

そして止めれるものがいなくなり、ついにヒロイたちも動きます。


 

 そして、俺たちはそれを窓の外からこっそり見ていた。

 

 ……行ったか。さて、行くか。

 

「で、姐さん? 俺たちは冥界で暴れた方がいいのかねぇ?」

 

 今から日本に行ったら、イッセーたちと鉢合わせしそうだ。そうなったら揉めるのは間違いねえ。

 

 そんなことで負けたら目も当てられねえしな。なら別の戦場で暴れた方がいいんじゃねえだろうか。

 

「そうね。私達、そもそも自力で世界間転移できないもの。そうするしかないわね」

 

 服を着なおしながら、姐さんもそう言ってくる。

 

 あ、因みに服を着なおしているのは俺もだ。つまりそういうことだ。死にに行くからちょっとすっきりしました。え? 体力消耗して大丈夫か? そんなことはスルーだスルー。その分メンタルが良好だからフォロー利くだろ。

 

 まあとにかく、俺たちは俺たちでこっそり外に出ねえとな。

 

 周囲の視線や監視カメラを警戒しながら、俺たちは病室を出ると裏口に回る。

 

 監視カメラは俺が電磁王でハッキングしてスルーする。こんなこともあろうかと、システムそのものにハッキングしておいた。

 

 思えば、俺もだいぶ電磁王を使えるようになったもんだ。大病院の監視システムを科学的にハッキングできるんだからな。ま、出力はちょっと足りねえから姐さんの力も借りてるけどよ。

 

「だけどまあ、ちょっとワクワクするな」

 

「まったくね」

 

 何ていうか、スパイみたいでちょっと興奮する。

 

 それに、この後の展開もテンションが上がってくることは間違いねえ。

 

 姐さんも、抑えきれない興奮を笑みで出して、うずうずしているのが丸見えだ。

 

「不謹慎なのはわかってるんだけど、これ以上ない英雄の出番だわ。世界の命運をかけた一戦に関われるだなんて、私、この時代に生まれてきてよかったわ」

 

 まったくだ。俺たち、英雄を目指す身としちゃついてるにもほどがある。

 

 なんたって世界の命運がかかった戦いだ。そこである程度の武勲を上げれば、間違いなく名が残るだろう。

 

 それができるかどうかは俺たちの実力次第だが、まあできなくてもそれはそれ。

 

 ……間違いなく、俺たちは輝ける。そんな予感が確信に変わる。

 

「ホント、俺たち頭がイカれてるな」

 

「ええ。私たちは立派な狂人だわ」

 

 ああ、それは本当にわかってる。

 

 俺たちは何処か狂ってる。イッセーもイッセーで狂ってるが、それは全く方向性が違う。どっちかといえば、曹操のほうがタイプとしては合ってるんだろうな。

 

 苦笑しながら、俺たちは病院を出る。

 

 念のために駆け足で結界にぶつかれば、護符が輝いてあっさりと出ることができた。

 

 ……シシーリア。本当にありがとう。

 

 俺は、輝き(英雄)として全うできる。

 

 心の中でシシーリアに感謝の念を送ると、俺たちは急いで冥界のトライヘキサ出現地点に向かおうとする。

 

 トライヘキサ迎撃作戦で、結局のところはトライヘキサ全てに攻撃が行われる予定になっていたはずだ。

 

 なら、俺たちは一番近くのトライヘキサを迎撃しに向かおう。イッセー達と出くわすとややこしいことになりそうだしな。

 

「さて、とりあえず足を確保しないと―」

 

 そう言いながら視線を動かしていた姐さんが、ぴたりと止まる。

 

 つられて俺がそっちに視線を向けたら、そこにはシシーリアがいた。

 

「……待っていました。駄馬の用意した不安の残るものですが、転移装置を用意しております」

 

「まじか。至れり尽くせりだな」

 

「いや、本当に大丈夫なの?」

 

 思わぬ待遇に、俺たちは思わず聞いてしまう。

 

 これがばれたら、シシーリアにも大きく被害が出そうなんだが。

 

 ちょっと心配になるが、シシーリアはふるふると首を振る。

 

「どうせ彼女たちは当分出てこれません、ここでヒロイさんたちが成果を上げれば、ある程度は情状酌量もされるでしょうから」

 

 そう言いながら、シシーリアは魔王の祝福を構えて、俺たちを先導する。

 

「転移には時間がかかります。おそらく、私達が転移するころには日本近海で戦闘は開始されているでしょう」

 

 なるほどな、どさくさに紛れる方向で行くってわけか。了解した。

 

「……ヒロイさん。私に、最後の輝きを見せてください」

 

 シシーリアの言葉に、俺は力強くうなづいた。

 

「ああ、目に焼き付けさせてやる」

 

「ついでに私も焼きつけなさい。ヒロイ・カッシウスの自慢(英雄)をね」

 

 姐さんも続き、シシーリアはクスリと笑う。

 

「ええ。彼女たちにいい土産話ができそうです。愚図の手土産にしては豪勢でしょうね」

 

 ああ、最高級の手土産を用意してやるぜ。

 

 さあ、行こうか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リムヴァン・フェニックスは不敵な笑みを浮かべ、自分たちの進行方向上に展開する、敵陣営を見据えていた。

 

 このままただで進ませてくれるわけがない。当然妨害は出てくる。

 

 とはいえ、散発的な攻撃が一切ないのは感心した。普通に考えればパニックを起こしたどこかの国軍隊などが無謀な襲撃を仕掛けるかと思っていたのだ。

 

 もはやそんな余力もないほどに削ってしまったのか。それとも、三大勢力などの異形の首脳陣が説得したのか。もしくはヴィクターにくら替えすることを考慮して静観しているのか。

 

 まあ、どれでもいい。

 

 自分は楽しみながら契約を遂行するだけだ。ヴィクター経済連合を勝利に導くのみ。

 

 そして、まず真っ先に放たれたのはミサイルだった。

 

 大陸間弾道ミサイルが、四方八方から発射される。

 

 日本から放たれるわけがない。そもそも今の日本で弾道ミサイルの開発は間に合わない。

 

 つまり、これは諸外国からの大陸間弾道ミサイルだ。後ろからも来ているということは、アメリカ・ロシア・中国が連携して仕掛けてきたのだろう。

 

 とは言え舐められたものだ。トライヘキサによる防壁をはっているこの軍勢相手に、弾道ミサイルの十数発で痛痒をあたえようなどと。

 

 戦略核であろうと防ぎきれるだろう、こちらも持ち込んだ絶霧を使って防衛態勢は整えている。

 

 無駄な努力ご苦労様と思い、そしてその瞬間、ミサイルが爆発した。

 

 迎撃したわけでもない、結界に触れたわけでもない、もちろん直撃したわけでもない。

 

 その謎の結果に怪訝な表情を浮かべたとき、爆発したミサイルの爆発規模そのものが小さいことに気が付いた。

 

 これは違う、何かが違う。

 

 そう思った次の瞬間、爆発したミサイルから落ちた何かが海面におち、そして結界を作り上げた。

 

「……なるほど。人工神器技術を応用した結界展開装置ですか」

 

 隣で神酒を傾けていたユーグリットが、それに気が付いて納得する。

 

 なるほど、どうやら向こうは先制攻撃をされる前に足止めをもくろんでいたらしい。

 

 見ればすべてのミサイルは、全方位を覆うような機動で飛んできていた。最初からこの結界装置を広範囲に展開することが目的だったようだ。

 

 そして、それを皮切りに連合部隊がこちらに迫りくる。

 

 飛行の術式を使用した人間。多種多様な妖怪。日本を縄張りにする悪魔に天使に堕天使。そして中には八百万の神々すら出てきている。

 

 なるほど。どうやら向こうも本気の本気、総力戦らしい。

 

「どうします、リムヴァン様? こちらも戦力を出すべきでしょうか?」

 

 カテレアが指揮系統の魔方陣を確認しながら告げるが、リムヴァンは首を振った。

 

「いやいや。ここは戦略ゲームじゃなくて無双ゲームでいこう」

 

 そう言うなり、リムヴァンは聖杯に手を伸ばすとそれを経由して、トライヘキサに指示を出す。

 

 三体のトライヘキサが同時に口を開け、そしてブレスを放つ体勢になる。

 

 その出力は、兵藤一誠が放ったことのあるロンギヌス・スマッシャーに匹敵するだろう。しかも、それが三体同時に放たれるのだ。とどめにいえば、これは手加減している。

 

 一発で富士山を跡形もなく吹きとばせるだろう、天変地異レベルの攻撃。それらが何の遠慮もなく、一斉に放たれた。

 

 もちろん結界など一瞬で吹き飛ばす。そして、それに耐えられるものなど全体の一割未満なのは当たり前だ。

 

 おそらく兵藤一誠とヴァーリ・ルシファーもいるだろうが、彼らが動けたとしてもチャージ時間が足りない。そして、2人では三発を同時に防ぐことなどできない。

 

 さて。これをどう切り抜けるのだろうか?

 

 トライヘキサの戦闘能力が主神を凌駕するのはとっくの昔に知れ渡っている。そういう戦いをしてきたわけだし、さらにその上なのも分かるだろう。天龍クラスが三体出てきている程度の認識はしてもらわねば呆れるレベルだ。

 

 ゆえに対処策は用意しているはずだろう。それとも、できないが悪あがきはする程度の決意で仕掛けてきたのだろうか?

 

 もしそうだとするならば肩透かしだ。日本神話の神々を総結集するぐらいの戦力は覚悟していたのだが。

 

 そう思ったその時だった。

 

「……リムヴァンさん。させませんよ」

 

 その言葉共に、海が盛り上がった。

 

 一瞬で百メートルを超える盛り上がりを見せた海面は、そして海水を弾き飛ばして、その原因の姿を現そうとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「あ」」」

 

 リムヴァンたち三人が見ている前で、トライヘキサ×3の砲撃をもろに受けた。

 




いきなり死んだぁああああ!?

いえ、そんなことはないのでご安心ください!!


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最終章 8話 超巨大モンスター大決戦

いきなり死んだか、謎の味方!!

いや、そんなことはないんだぜ!!


 ……沈黙が響き、そしてオーラの余波で視界が埋まる。

 

「……やば。ちょっと見てみたかったんだけど」

 

「別にいいでしょう。まじめに仕事をするべきです」

 

 カテレアにたしなめられるが、然しリムヴァンとしては残念だ。

 

 せめて、しっかり姿を確認してから吹き飛ばしたかった。

 

 そう残念がったその瞬間だった。

 

「あまいですよ、リムヴァンさん!」

 

 その声と共に、オーラの残滓を振り払って、三つの巨体がトライヘキサに迫る。

 

 それは巨大な魔獣だった。

 

 トライヘキサの合体状態のように、様々な生物を組み合わせたキメラのような姿をした、百数十メートルの巨大な魔獣。

 

 ところどころの肉が大きく吹きとばされているが、しかし急速に修復が進んでいるのか、既に重傷ではあっても重体ではないレベルに収まっている。

 

 そして、その巨体は顔や腹部や腕からクリムゾン・ブラスターに匹敵する火力の砲撃を同時に何発も放ち、トライヘキサに攻撃を加える。

 

 トライヘキサは直撃を受けてもかすり傷ですぐに治る程度だが、しかしダメージはダメージだ。

 

 一瞬、その不意打ちに気おされ、そして組み付かれる。

 

 百メートルを超える巨体同士に激突が、大音量の騒音を生み、海を震わせる。

 

 そして、その巨大な魔獣とトライヘキサは組み付き合い、そして力比べは勝負になる。

 

 七つに分裂しているとはいえ、龍神クラスにすら匹敵する力を持った化物であるトライヘキサ。それに明確に劣りながらも、しかし勝負を成立させるほどの力を発揮させる、怪物。

 

 その正体を、リムヴァン達は知っている。

 

 何故なら、彼らも一体所有しているからだ。それは量産化を行うために解析中であり、短時間の運用でいいならば、業魔人(カオス・ドライブ)を使うことで魔獣創造使いである獣王達なら一体ぐらい生み出せるだろう。

 

 その化け物の名を、カテレアは呟いた。

 

「……超獣鬼(ジャバウォック)っ」

 

「なるほどぉ。対策の一つぐらいは用意してたってわけかにゃぁん?」

 

 面白そうにリムヴァンは呟き、そしてその種も分かる。

 

 本来、獣鬼は魔獣創造の使い手でも楽に生産できるものではない。

 

 シャルバが、所有者であるレオナルドを使い捨てにする事を前提とした無茶な禁手で発動させたものだ。それも、その時は一体しか作り出せなかった。

 

 今のヴィクター経済連合でも、業魔人が必要不可欠。それも、負担が大きいから大量に作り出すのはデメリットのほうがが大きい。発動時間も数時間が限界だろう。

 

 しかし、その条件はある程度クリアされる。

 

 自分に次ぐレベルの神器研究者であるアザゼル。業魔人を生み出す材料を生産できる、亡命した旧魔王末裔。そしてついてないことに、この二人はタッグを組ませると実に厄介だ。アジュカも加われば聖書の神じみた創造をおこなえるだろう。

 

 彼らなら業魔人を生み出すことはできる、それも、更に外部装置を投入する事で超獣鬼を複数体生産する事も不可能ではないだろう。対抗術式を作り出したのなら、応用で強化術式も作り出す可能性は想像できる。

 

 そして、最悪なことに、敵の中に獣鬼を生み出せる者は一人いる。

 

 他ならぬリムヴァン自身が死者の国からスカウトし、しかし最後の最後で正気に戻り、光の側へと戻っていた男。

 

 二つの魔獣創造を持つがゆえに、比較的生産難易度も負担も少なく生み出せるだろう、大失態の切り札。

 

 なるほど、弾道ミサイルは足止めだけではなく、彼を最前線に送り込む為の隠れ蓑。

 

 かつてのヴィクター経済連合の精鋭を、あえてこの場に布陣する大胆さに、リムヴァンは感心した。

 

「褒めるしかない!! ここにきて、愚者なりに愚行をしないようにに努力したその在り方!! この最高のショーの役者として、僕は君に合格点を上げたい!!」

 

 皇獣(トライヘキサ)VS超獣(ジャバウォック)。大決戦の前座にするには、あまりにも豪華すぎる戦いだ。其れも、三対三というのはものすごく見ごたえがある。

 

 それをなしたものに一種の感謝を覚え、リムヴァンは超弩級の殴り合いで揺れるトライヘキサからいったん飛び退る。

 

 その目は、顔は、表情は。まごうことなく歓喜に染まっていた。

 

「さあ、しっかり楽しませてくれたまえ、ニエ君!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニエ、ニエなのか!?

 

 トライヘキサと超獣鬼の怪獣大決戦の場に突っ込みながら、俺は目を見開いた。

 

「これは良い。世界の命運がかかった激戦を彩るには、もってこいじゃないか。俺も戦いたかった」

 

 ヴァーリ、感想はそれでいいのかよ!?

 

 いや、ちょっと待ってちょっと待って。

 

 なんであいつがここに!?

 

『……驚いたか? あいつが、対トライヘキサ足止めの切り札だ』

 

 アザゼル先生! マジですか?

 

 たしかに、ニエは別に悪人じゃない。天界では俺たちに味方してくれたし、アイツがいなけりゃリゼヴィムを追い返せなかったかもしれない。そのあとも素直に投降してたし。

 

 だけど、アイツはヴィクターの精鋭だったん・・・…だ……。

 

 ふと、ヴァーリチームに視線が行った。

 

 ヴァーリ、美候、黒歌、アーサー、ルフェイ、フェンリル、ゴグマゴグ、そして監視役として参加してるラシア。

 

 ……全員ヴィクター経済連合だった。俺達、ヴィクター経済連合に所属してた連中と肩を並べて戦ってるよ。

 

 うん。それなら何の問題もないな!

 

「……何か言いたげね」

 

 ラシアさん。俺が説得したから別枠にしたいけど、多分あの説得が無かったら死ぬまでヴィクターで戦ってたよね?

 

 いや、もしかしたらカルディナーレ聖教国の方に行ってたかも? ドラゴンスレイヤーな彼女が敵に回るのは、ドラゴンの俺としては厄介かな?

 

「まさか、彼と肩を並べて戦うことになるなんてね。主のお導きかしら?」

 

「まあいいじゃないか、イリナ。今私達の隣にいるのはヴァーリチームだしね」

 

「みんな仲良くが一番です」

 

 教会トリオがそんなことを言っているけど、ほんと、色々凄いメンツだよな、ここ。

 

 二天龍がタッグを組んでるってのも本来あり得ないらしいし、他のメンバーも凄い人達揃いだ。

 

 皆凄い人達だらけだからなぁ。なんていうか、なんでこんな凄い人達ばかり集まってるんだろうって思ってきた。

 

『歴代二天龍で最も異才なお前が言うのもな』

 

 うっさいよドライグ。俺のことを歴代最弱と言ってたのは誰だったんだよ。

 

『だからこそだろう? それが龍神化にまで至ったのだ。こんなおかしなことはない』

 

 確かに。龍神化の出力なら歴代の二天龍相手でも負ける気がしねえ。ヴァーリの魔王化ぐらいじゃねえか、負けるとしたら。

 

 ま、使ったら何が起こるか分からないから使うなって言われてるけどさ。っていうか、一回目であれが分からないやら触れると痛いやらで大変なのに、二回目になったらどうなるか分かったもんじゃない。

 

 本当に目にした瞬間に死ぬとかありそうだ。以前、森沢さんがお願いの候補でハーレムと言ったら、結果的にそうなるって出たけどマジであり得るとかすげえな。これで俺じゃなければよかったんだけどね!!

 

 ホントに龍神化だけは使えねえ。使ったら俺が認識できないあれを見ただけで死ぬとかありえるって。っていうか、ホントに死ぬんじゃないか?

 

「イッセー。……奇跡を起こして復活したら、ペトがお股のそれを挟んであげるッス」

 

 ペト。本気で同情の視線むけるのやめてくれない? あと、それ想像したら体中が痛いから。

 

 まあそれはともかく、俺達は今トライヘキサに向かって突撃を仕掛けている。

 

 既に戦闘は激しすぎる。今までの戦いが遊びに思えてくるぐらいの規模だ。

 

 トライヘキサと超獣鬼が怪獣大決戦をしている中で、俺達と肩を並べてくれる人達がドーインジャーと邪龍たちを相手に激戦を繰り広げている。

 

 朱乃さんの親戚の人たちを中心として、五代宗家の人達。九重を連れて助けに来てくれた八坂さんたちを中心とする、妖怪たち。

 

 日本を担当している悪魔もたくさん来て、自衛隊の人達も空自が援護射撃でミサイルを放っている。

 

 なあ、リムヴァン見てるか?

 

 ヴィクター経済連合を結成したお前は、現状に不満がある奴をかき集めたんだろうよ。リゼヴィムがさら煽ってたくさん入れたんだろうな。

 

 だけど、それを良しとしない人達だってたくさんいるんだ。

 

 俺達は、お前達に負けたりしない!!

 

 俺たちはついに大怪獣バトルの少し手前まで来た。

 

「ニエ!!」

 

 俺は、すれ違いそうになる時につい声をかけた。

 

 ニエは業魔化の影響でバテてるけど、それでも俺に気づいた。

 

 そして、俺達はすれ違う時に―

 

「……あとは任せる!」

 

「……前座は頼むぜ!」

 

 そう言い合いながら、拳をぶつけ合う。

 

 その瞬間にこっちを狙ったドーインジャーが襲い掛かるけど、しかしニエは龍鬼の魔獣でそれを叩きのめす。

 

 更に連合軍の人達が援護に回ってきて、安全は確保された。

 

 ああ、これで当分は大丈夫だ。

 

 あとは、俺達がトライヘキサを停止させればそれでいい!!

 

 待ってろよ、リムヴァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見ながら、リムヴァンは苦笑した。

 

「これはこれは。ま、今の平和が一番ってのも多いからねぇ。Lでも流石にかき回しまくれるわけじゃないか」

 

 つたないながらもしっかりと連携が取れているのに感心しながら、しかしリムヴァンもそのままではいない。

 

 というより、今回この程度の強敵は想定内なのだ。超獣鬼三体によるトリオマッチは流石に驚愕だが、それ以外で想定外の事態は起こっていない。

 

 地球全土を征服し、あらゆる神話体系すら支配下に置く。そしてそこから生まれる利権をヴィクターの上層部が中心となって吸い上げる。

 

 それこそが、リムヴァンがリゼヴィムに煽らせて契約した内容。神々の傲慢に裁きを下し、異形の技術をあまねく人々に振りまくというのは、その副次作用を利用する大義名分だ。それらを条件として参加させた派閥もあるが、主要なスポンサーの狙いはそれである。

 

 そして、その切り札こそがトライヘキサ。リムヴァンはそれができると確信している。

 

 龍神クラスとまともに渡り合える規格外の化け物。それこそがトライヘキサだ。

 

 和平が進んでいない時には、あらゆる神話勢力を蹂躙し、余裕綽々で大暴れする事が出来た。流石に調子に乗りすぎてオーフィスとグレートレッドの共闘を招いたが、それ以外は何とかなったのだ。

 

 その事実をもって説き伏せた戦い。前哨戦で躓くなどあるわけがない。

 

 ……しかし、リムヴァンはそれを慢心と判断する。

 

 懸念材料はある。龍神化と魔王化はリムヴァンでも察することすらできなかった現象だ。単独の神器で放つ出力で言うのなら、リムヴァンですら叶わない。

 

 それにあのアザゼルとアジュカを舐めて考えるわけにはいかない。各神話間の交流でブレイクスルーが起きているのは、向こうも同様なのだ。

 

 敵が対トライヘキサの切り札を持っている可能性はある。ロスヴァイセが手を伸ばしたトライヘキサの封印術式があれば、何らかの対抗策はあるだろう。

 

 または、龍を封印した神器を「指定した対象を龍化させる」亜種禁手にして大量に投入。二天龍に使用され、そして摘出されたサマエルの毒を叩き込めば、少しぐらいは形勢が傾くかもしれない。

 

 ゆえに、こちらも主力を投入し、そして自分も動く必要がある。

 

 何よりこんな面白い展開を、遠くから眺めるのもあれだった。

 

「曹操、動けるかい?」

 

「勿論だとも」

 

 いると確信して聞けば、曹操達は既に臨戦態勢だった。

 

 もっと速く、もっと遠く、もっと高く、もっと強く。より向こう側に行くことを目的とし、それを戦闘で目指す。そんな先駆者としての英雄を目指す英雄派。そんな彼らが、この大決戦に出てこないことなどありえない。

 

 最強戦力を投入したこの戦場に、敵が最強戦力を投入するのは目に見えていた。少なくとも、グレモリー眷属とヴァーリチームは出てくるだろう。

 

 ゆえに、英雄派のメンバーは誰もが戦意を滾らせ、先走りそうなぐらい興奮していた。

 

「イグドラフォース」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 指を鳴らして直属部隊を呼べば、既に全員がイグドライバーシステムを起動していた。

 

 神クラスとの戦闘も考慮して集めた、虎の子の戦力。その戦闘能力は各武闘派派閥の精鋭に匹敵する。

 

 そして、それだけではない。

 

 後詰としてコノート組合も派遣している。別の戦場ではカルディナーレ聖教国を牽制する為にファミリアを送り込んでいる。そして他の戦線にも、煌天雷獄使いの天君や、魔獣創造使いの獣王を送り込んだ。

 

 これは文字通りの総力戦だ。この戦いを制したものが、世界を制すると言ってもいい。

 

 リムヴァンは、これを遊び半分でする気はない。

 

 楽しむなら全力だし、勝つことを前提として契約した。そして何より、戦いにおける最大の喜びとは過程ではなく、勝ったという結果にこそあるだろう。あまりに酷い過程ならともかく、一定以上の過程を経由したのなら負けるより勝つ方が嬉しいに決まっている。

 

 ゆえに、この戦いで遠慮はしない。手抜きもしない。加減もしない。

 

 連れてきた勢力は精鋭。ドーインジャーもその大半を中級クラス並の戦闘能力をもつb2型クラスを最低基準にしている。

 

 ゆえに、ここから先は総力戦だ。

 

 まずは、最上級悪魔クラスや腕利きの妖怪達が集まっているところを狙おう。幾瀬鳶雄やデュリオ・ジュズアルドもいる以上、最も戦力が集中していると言ってもいい。自分がオフェンスだ。

 

 そして、ディフェンスも最精鋭で行くべきだ。

 

 チームD×Dでも何度も激戦を繰り広げてきた猛者。オカルト研究部とヴァーリチーム。

 

 この連合軍の中でも最高水準。日本の神々も派遣されているが、単純戦闘能力で魔王化に至ったヴァーリを凌ぐとは思えない。

 

 遠慮はしない。豪勢に行こう。

 

 ゆえに、リムヴァンは告げる。

 

「カテレアとユーグリットは二天龍をお願いね。……終わったら祝杯を上げよう」

 

「っ!」

 

 その言葉に、カテレアもユーグリットも歓喜の表情を浮かべる。

 

 よだれすらたらしそうなほどに口角を吊り上げ、そして気合を入れた。

 

「「了解しました!」」

 

 その言葉に満足そうに頷いてから、リムヴァンは後ろを振り返ると、英雄派とイグドラフォースにを見渡す。

 

「さあ、ここが正念場だ。この戦いを制した者こそが世界を制するだろう。負けるわけにはいかないね」

 

 超獣鬼の生体ミサイルがトライヘキサを攻撃する音をBGMに、リムヴァンは声を張り上げた。

 

「全員出撃!! 二天龍とその仲間達を殲滅し、その勢いで彼らの根城たる駒王町を制圧する!」

 

 そのいつになく真剣な言葉に、全員が気を引き締める。

 

 それを満足げに見つめ、リムヴァンは敵陣を見据えた。

 

「勝利の美酒を飲みに行こう!! さあ、戦闘開始!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今ここに、真第一次世界大戦前半戦における、最大の戦いが始まろうとしていた。

 




再登場、ニエ・シャガイヒ!! とある魔王末裔の協力の元、超獣鬼三体を召喚しての、超巨大バトル!!

そしてトライヘキサを完全に足止めしている間に、D×DVSヴィクターの激戦が連発します!! こっからはほぼバトルだけですぜ、旦那!!


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最終章 9話 二天龍の開戦

ついに本格的に戦闘が勃発し始めます!!


 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……混戦のあまりはぐれた!

 

 ヤバイ! 敵が多すぎて見失った!! リアスは何処? アーシアは何処? 皆何処だ!?

 

 い、一応前線に突入する前に信頼の譲渡はしたけど……。あれ、どこまで長続きしたっけ。

 

 既に乱戦状態の前線で他の人達も混ざって乱戦になってるから、俺が集中砲火されてるわけじゃない。

 

 だけど、仲間達が無事なのかどうかがちょっと不安だ。

 

 いや、いかんいかん!! 仲間達を信じるんだ!!

 

 そもそも休んでいるように言われたのに、無理やり連れてきてもらったんだ。それなのに仲間達を信頼しないなんて失礼だ。

 

 俺も頑張って生き残る! だから、皆も頑張って生き残れるはず!! そう考えろ!!

 

 だから、俺がやるべき事は―

 

「いたぞ、赤龍帝だ!!」

 

「目には目を、歯には歯をだ!!」

 

 接近してくるイグドラゴッホの部隊。

 

 ヴィクターの連中、量産化しやがったのか!! コストパフォーマンス最悪とか言ってなかったっけか?

 

「いや、赤龍帝の敵といえば白龍皇だろ!!」

 

「そうそう! 俺らに任せろ!!」

 

 と、思ったらイグドラグウィバーまで何人も来やがった!!

 

 偽二天龍、量産されすぎだろ!! 生産性悪いんじゃなかったのか!? 

 

 いや、ここがそれだけ重要だって事なんだろうな。最強戦力のトライヘキサを三体も投入してるんだ。

 

 それだけ、駒王町は奴らにとって重要なんだろうな。

 

 まあ、きっかけとなった三大勢力の和平が結ばれた地だもんな。和平を結んで共闘している三大勢力に精神的打撃を与えるのに、和平の地を制圧するのはあるのかもしれない。聖地イスラエルをユダヤ教徒から奪還したがる人がいるのも同じ事かもしれない。

 

『確かにな。資源の算出や交通の便なども重要だが、そういう士気的なものも確かに戦略的にはありなんだろう。軍事的価値の低い政治的重要人物や、国家の首都を制圧するのが効果的な面があるのと同じ事か』

 

 サンキュー、ドライグ。おかげで少し分かった気がする。

 

 なるほどな。異形社会は政治的に重要な地位にいる人は、戦闘能力も高い事があるからちょっとよく分からなかった。

 

 あ、でもリアスの曽お爺ちゃんとかそんなに強いのか? 一応初代バアルだし強いかもしれないけど、あれもどっちかっていえば政治的権力の方が主体なのかもな。

 

 っていうか、ヴィクターってそもそもローマ教皇を殺してたな。あれが原因で教会関係者をごっそり離反出来たし、そういう意味でも戦闘能力が士気に直結するわけじゃないんだろう。

 

 やっぱり世の中は複雑だなぁ。俺、よく分からな事も多いしやっぱ結構馬鹿だよな。

 

 

 でもまあ、そんな馬鹿が今一番分からない事は―

 

「……バカな、このイグドラゴッホがああああああ!?」

 

「は、白龍皇は、赤龍帝と並び称される……はず……?」

 

 ―なんかあっさり撃退できた事だよな。

 

 あっれぇ? 俺、まだ真女王だって出してないんだけど。

 

 吸血鬼の里じゃヒロイと共闘しても苦戦したのに、なんか数か月であっさりどうにか出来てるな。数でも圧倒されてたのに。

 

 あれ? 俺、滅茶苦茶強くなってねえか?

 

『それもあるが、そもそもイグドラゴッホの使い手が格下なんだ。ユーグリットは確かにお前と同様のどうしようもない変態だが、それでもあのグレイフィア・ルキフグスの弟でリゼヴィムの側近だぞ? 低く見積もっても最上級悪魔クラスが素体だということを忘れるな』

 

 あ、そうか! こいつらは流石にそこまで行くわけないか!

 

 確かに、ユーグリットは強かった。変態極まりないしな。いろんな意味で引いたよ。

 

 なるほど。苦戦したのはあくまで変身するアイツの能力が俺を圧倒してるからか。イグドラゴッホ事態の戦闘能力は、赤龍帝の鎧より遥かに下と。

 

 いや待て。今俺とユーグリットを変態で一括りにしなかった? いや、俺、変態だけどあれと一緒は嫌だよ?

 

『第一、今のお前は歴代でも唯一無二の領域だ。龍王の力まで追加したあのリゼヴィム相手に、神器主体にも拘わらずまともに戦うのはエルシャやベルザードでも不可能だろうよ』

 

 おお! 俺ってば、何時の間にかエルシャさんやベルザードさんを超えちゃったのか。歴代最強の赤龍帝ってことかよ。

 

 いや、まあ龍神の肉体とか歴代でもありえないしな。そういう意味じゃあ性能だよりだろうし、あの二人は俺より長く戦ってるだろうから、もし戦ったとしても簡単には勝てないよな。

 

 油断は禁物だよな。謙虚にいこう。

 

『そう言うところが、お前が最強の二天龍になった理由かもな』

 

 そうかもな。前にアルビオンやヴァーリにも褒められてたし、アイツのライバルならこれぐらい出来ないといけないしな。

 

 ま、今はもう龍神化は使えないんだけどさ。使ったら何が起こるか分かったもんじゃない。リアスもアーシアも皆悲しむだろうし。

 

 まあ、だからって敗ける気はない。絶対に勝つ!!

 

 俺は気合を入れて、皆を探そうとし―

 

『―相棒』

 

 なんだよドライグ。もしかして、誰か見つけた?

 

『気合を入れろ。正念場だ』

 

 ―ッ。

 

 なるほど。お前がそう言うだけの敵が、来たってわけか。

 

 俺はすぐに気づいた。視界の先に奴がいる。

 

 三目の、蛇を模したプロテクターを身に纏ったイグドラシリーズ。

 

 だけど、この気配は分かってる。

 

 なるほど。俺達の進化に合わせて、新型のイグドライバーシステムで対抗ってか。

 

「偽赤龍帝じゃ勝てないってか、ユーグリット!」

 

「そうですね。なのでアポプスを使わせてもらいます、赤龍帝」

 

 その言葉と共に、気づけば太陽が黒く染まり、ユーグリットの周囲を黒い水が覆っていた。

 

 そういや、アポプスとアジ・ダハーカはリムヴァン達が封印したんだっけな。

 

 ニエの裏切りで警戒してたところに復活し直したから、それ位の余裕はあったってわけか。転んでもただじゃ起きない奴だよ、ホント。

 

 だけど、なんかむかついてきた。

 

『そうだな相棒。流石にアポプスが不憫だし、さっさと片づけてやろう』

 

 ああ、そうだな。アイツはグレンデルのような乱暴者なだけのドラゴンじゃない。誇りを踏みにじられるのは流石にちょっと可哀想だ。

 

 ……行くぜ、ドライグ!!

 

「決着をつけるぜ、ユーグリット!!」

 

「いいでしょう。私のグレイフィアハーレムの結婚式には、貴方の剥製を飾るとしましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ヴァーリ・ルシファーもまた、激戦のあまりはぐれながらも単騎で敵を屠っていた。

 

 元よりこちらは魔王化も消耗が激しいだけで十分に実戦で運用できるレベルだ。兵藤一誠よりも遥かに戦力としては高いレベルにある。

 

 故に敵戦力も集中投入されている。

 

 量産型のグレンデルにラードゥン。ドーインジャーもF型を大量投入。そしてイグドラゴッホにイグドラグウィバー。とにかく高水準の戦力や天敵をこれでもかといわんばかりに盛り込んできていた。

 

 普通なら、F型の相性差もあって押し切られていただろう。ヴァーリも、リゼヴィムを倒す前ならいったん後退することを視野に入れていたかもしれない。

 

 しかし、もはや今のヴァーリの前では手間はかかるが作業で倒せる程度の敵に過ぎない。

 

 ただ単に魔力を開放しただけで、有象無象は塵と化す。

 

 さらに悪魔の翼を分離させて飛竜とし、一気に空間ごと半減を連発して吹き飛ばした。

 

 飛竜に関しては兵藤一誠の影響だろう。自分もつくづく彼を意識していると笑えてくる。

 

 しかし、実際のところは笑えない。

 

 いい加減、偽赤龍帝と偽白龍皇を相手にするのも面倒だ。苛立たしいを通り越して、嫌悪感を抱くといってもいい。

 

 自分や兵藤一誠は愚か、歴代の二天龍と比べてもお粗末だ。いくら状況が許さないうえに他の敵を相手にする必要に迫られているからといっても、魔王化で倒すことには屈辱すら感じる。

 

 ましてや、小国なら一日かからず攻め落とせる力を手にした今の自分に、数で押す戦術が通用すると思われているのもあれだ。なめられているとしか言いようがない。

 

 今ならイグドラフォースですら、単独で仕掛けられたのなら余裕をもって相手ができると自負している。数で攻め落とすのなら、イグドラフォースを全員投入する程度のことはしてほしい。

 

 だが、なんとなくだが高揚感も感じている。

 

 ……おそらくもう、すぐ近くに来ているのだろう。

 

 強敵との死闘という興奮と、龍の誇りを汚された怒りが同時に湧き上がる。どちらにしても、全力で戦い勝てれば、非常にすっきりすること請け合いだ。

 

 ゆえに、もう我慢の限界だ。

 

 ゆえに、雑魚にもう用はない。

 

「この明星の白龍皇の奥義を受けること、光栄に思うといい」

 

『Satan Compression Divider!!』

 

 全身から耀として放たれたヴァーリの力が、一斉に敵を圧縮して消滅させる。

 

 そして、その力で一瞬で敵の群れは消滅し―

 

「なるほど、流石にこれは強敵ですね」

 

 たった一人、それを完全に封じ込めた猛者が残っていた。

 

 三つ首の龍を模したプロテクターを見に纏い、全身の負傷を炎によって回復しながら、魔王の末裔が飛んでいる。

 

「……来たか、カテレア」

 

「ええ、イグドラハーカ、参上しました」

 

 強敵と戦える高揚感と、龍の誇りを汚された不快感が同居する。

 

 今のカテレアはただでさえ魔王の末裔として及第点の力を持っている。おそらく生身でも現レヴィアタンであるセラフォルーと戦えるだろう。

 

 そして、目の前で装備しているのはアジ・ダハーカを素体としたイグドライバーシステム。その戦闘能力は、間違いなく自分と真正面から渡り合える。

 

 しかし、だからこそこの苛立ちが残念だ。

 

 邪龍なりの誇りを持っているアジ・ダハーカを、このような形で使うのは、流石にいただけない。

 

 ヴィクター経済連合とは、やはりそりが合わない。こんなことならヴィクターに関わらない方がいい方がいいかとも思ったが、しかしそれではヴァーリチームは結成できなかったと思いなおし、少しだけ評価を改める。

 

 まあ、それはそれとしてどちらにしても叩き潰すが。

 

「さて、魔王の末裔同士の戦いを始めようか。……最も、お前程度がどこまでできるかは不安なんだが」

 

「ご安心ください、こちらにも切り札の一つや二つはありますので」

 

 その瞬間、2人の魔王の末裔が、ハルマゲドンの前哨戦を開始した。

 




二天龍の相手は二大邪龍を取り込んだ、ユーグリットとカテレアですね。あ、そのあとトライヘキサのコアや、超越者リムヴァンが控えております。


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最終章 10話

イッセーたちが激戦を開始したころ、ほかの場所でも戦闘は発生中。

今回は、その一部をご紹介しましょう。


 

 そして、戦闘は何処でも激化している。

 

 精鋭同士がしのぎを削り、大量の戦力が押しつぶしを図る状況。

 

 すでに作戦目的は伝えられている。

 

 トライヘキサの制御に使われている聖杯に、その本来の持ち主であるヴァレリーが接触することで、聖杯同士を共鳴させて聖杯を無力化。

 

 そこに、対トライヘキサ用の術式を発動させ、トライヘキサを一時的に無効化する。

 

 そしてその間に超獣鬼を利用して周囲の敵を可能な限り減らし、一定戦力まで減らせれば、各勢力から選ばれたメンバーによる、対トライヘキサ用の最終手段を起動させるとのことだ。

 

 そして、トライヘキサは超獣鬼が直接迎撃を行っている。

 

 ニエ・シャガイヒが投降したことでできた、この切り札。各方面の技術者が協力したことで、一時的にだが超獣鬼に収束特化した形で業魔化を発動。それで対抗することが可能になった。

 

 むろん、超獣鬼の戦闘能力は龍神に比べれば間違いなく劣る。まともに戦えば短時間で倒されるだろう。

 

 しかし、そこはきちんと考慮済み。

 

 トライヘキサの足止めに必要ない性能は業獣鬼並みに低下させることによって、トライヘキサの足止めに特化した対トライヘキサ用アンチモンスターになった。そのしぶとさは、間違いなく龍神ですらうんざりするほどだ。

 

 そして、その足止めが成功すればこちらの勝利の可能性は大きく増える。

 

 しかし、そう簡単にそれをさせるほどヴィクターも馬鹿ではない。

 

 すでに連合軍は、ヴィクターの猛威にさらされ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 迫る来る拳によって叩き込まれた爆発が、一撃で上級悪魔を粉々に吹き飛ばす。

 

 それに激昂した眷属悪魔が一斉に攻撃を放つが、それは敵の体に触れた瞬間に、爆発によって弾き飛ばされた。

 

 そして、その瞬間大量に放たれたロケット弾が、眷属たちすら跡形もなく粉砕する。

 

 この間わずか数分足らず。文字通り圧倒的な戦闘能力を示したものは、それに気おされる連合軍を見て鼻で笑う。

 

「なんだなんだぁ? 和平連中の英雄たちは、こんなもんで足を止めるのかよ?」

 

 心底呆れたといわんばかりに、英雄派幹部であるヘラクレスはため息をつく。

 

 人間がどこまで異形たちに戦えるか。そして、人という生命体は一体どこまで遠くへ、高くへ、先へと進むことができるのかを求める組織。それこそが、英雄派だ。

 

 その英雄派の在り方に忠実な自分たちとしては、この世界の危機に立ち向かうであろう強者たちとの戦いは楽しみだった。

 

 なにせこちら側は最強クラスの魔獣を投入しているのだ。いやでも日本にいる勢力は最強クラスが出てこなければいけない。

 

 それが、蓋を開けてみれば雑魚しか出てきて来ない。たかが上級悪魔と眷属を、文字通り秒殺した程度で気圧されるような生ぬるい相手だ。

 

 混戦にもほどがあるせいでD×Dのメンバーとも接敵していない。実に残念だ。

 

 この戦いは、まず間違いなく世界の歴史でも類を見ない激戦だろう。だからこそ、戦場の先駆者(英雄)として命を懸けて強敵に挑みたい。

 

 ああ、あの時自分と立ち会った、あの男のような敵が来てくれないものか。

 

 そう思いながら有象無象を超人による悪意の波動で殲滅しようとし―

 

「そうはいきません!」

 

 その瞬間、周囲に穴が開いて攻撃が発生した。

 

 放たれた攻撃がすべて撃ち落とされる中、その爆炎を切り裂いて、黄金の輝きが迫りくる。

 

 そして、その拳をあえてヘラクレスはノーガードで受け止める。

 

 代わりに放つのはカウンターの拳。むろん禁手も発動させ、遠慮も躊躇もない最大威力。

 

 それを相手も、真正面から受け止める。

 

 ヘラクレスがこの戦場で発生させたすべての攻撃を上回る威力と轟音に、その場の戦場にいた字があるものが全員戦慄する。

 

 ヘラクレスがそれだけの威力を出したことにもだが、相手がそれと同等の威力を出したことにも驚愕ものだった。

 

 そして、そのお互いの攻撃はお互いを倒すには遠く及ばない。

 

 その事実に再び多くの者たちが戦慄する中、ヘラクレスは歓喜にその身を震わせる。

 

 思えば奇妙な男だった。

 

 種族としての才能は絶無に近い。にもかかわらず、若手の純血では最強というわけのわからない男。

 

 しかし、その実力は正真正銘本物。なにより、自分とは因縁がある。

 

 ならば、この最高の舞台で決着をつけるのも面白い。

 

「来たな、サイラオーグ・バアルぅ!!」

 

「ああ、冥界の、いな、この世界の敵たる貴様を倒しに来たぞ、ヘラクレス!!」

 

 拳の応酬を再開しながら、2人は同時に戦意を全力で燃やす。

 

 ネメアの獅子を従える、次期大王サイラオーグバアル。

 

 ネメアの獅子を屠ったものの魂を継ぐ、英雄派幹部ヘラクレス。

 

 今ここに、冥界でつかなかった決着をつけに、この戦場で最大の打撃戦が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、グレモリー眷属で苦戦に追い込まれるものたちが続出していた。

 

 彼らはこの戦線においても、間違いなく最高峰の戦士たちである。切り札といってもいい。

 

 しかしそれでも分散されたうえで精鋭をぶつけられれば、苦戦は必須だ。

 

 そして、そのうちの一つをなすのは、英雄派幹部が一人にして、最大の成果を上げた者、ジャンヌ・ダルク。

 

「あらあら、聖剣使いが二人掛かりでこの程度かしら?」

 

「ちぃ!」

 

 振り下ろされるデュランダルを素早くかわしながら、ジャンヌは遠慮なく生み出した魔聖剣を振るう。

 

 デュランダルやエクスカリバーに比べれば格下の魔聖剣だが、しかしその多様性はそれを凌ぐ。

 

 さらに、ジャンヌは生み出す魔聖剣の形状をすべて全く同じにして、しかも一撃一撃ごとに完全に別のものに切り替えるという戦法を取っていた。

 

 外見こそ同じながら、能力、質量、重心のすべてが全く異なる魔聖剣。それは、一見すると同じように見えて全然違う攻撃に他ならない。

 

 受ける側として完膚なきまでに調子が崩され、そしてそれが悪条件となり追い込まれる。

 

 むろん、言うほど簡単な攻撃ではない。

 

 一撃一撃ごとに外見以外は全く違う攻撃は、確かに敵にとってやりにくい。しかし、それは振るう側にとってもやりづらいのだ。

 

 それをなしとげるだけの技量。それを十代で習得するだけの修練。そしてそれを欲し望む執念。

 

 彼女は英雄の末裔として、英雄(先駆者)として強い信念を持っている。

 

 もっと前方へ。もっと高所へ。もっと遠地へ。

 

 それを戦場で求める者として、その才能と努力をすべて費やし、さらに神器を大量に移植する狂気すら費やした。

 

 それを、たかが悪魔と天使に変化するだけの強化で済ませているものに崩せるわけがない。

 

 いかに伝説の聖剣デュランダルとオートクレール、そしてエクスカリバーを組み合わせようと、数多くの神器を複合して生み出された魔聖剣がある限り崩されることは決してない。

 

 現実問題、ゼノヴィアとイリナは見事に追い込まれていた。

 

 それをアーシアが回復でしのいで見せるが、然し限界はある。

 

 すでにアーシアの禁手は使用時間を超えて使えない。そして、それを見計らっていたかの如く、ジャンヌは攻撃の手を激しくしていた。

 

 さらに魔聖剣の龍がバックアップで攻撃を行い、周囲の味方を接近させない。

 

 このままでは、間違いなく押し切られる。

 

「くっ! これが、英雄派の幹部、ジャンヌ・ダルクの本気だというのか……?」

 

「まるでクリスタリディ猊下やストラーダ猊下を相手にしているかのようだわ……っ」

 

 動きそのものには若さがあるが、しかしそれを勢いという明確な武器として運用している。そして、その天賦の才を圧倒的な執念で鍛え上げ、さらに狂気的な神器移植手術によって強化したのが、目の前にいる難敵。

 

「足りないわよ天使ちゃんに悪魔ちゃん! そんなことで、私達先駆者(英雄)が倒れるとでも思ってるのかしら!?」

 

 ジャンヌは失望すら感じて、攻撃を激しくする。

 

 これでも攻防のバランスをあえて崩し、付け入るスキを与えている。すぐに直せる程度の余裕は置いているが、せめてそれぐらいしてくれなければ全力を出す価値もないのだから。

 

 しかし、ゼノヴィアもイリナも追い込まれ続けているのが現状だ。

 

 心から言おう、つまらない

 

 もっと遠く、もっと高く、もっと早く、もっと強く。弱い人間として生まれてきて、然しだからこそもっと向こうを目指す存在である先駆者(英雄)として、自分たちはもっと困難に立ち向かい、それを乗り越えるための努力を行いたい。

 

 しかし、敵は未だに自分の足元にも及ばない。この禁手の真の力を出させることもできない。

 

 これではだめだ。この自分たちが行ってきた中でも最大限の戦いが、この程度で終わるなどあってはならない。

 

 こうなれば、さっさと目の前の敵を蹂躙して、次の敵に挑むべきか。

 

 八百万の神々と相対すれば、より難敵と戦うことで、より遠くへと行くことができるはず。

 

 そう、思ったその時だった。

 

「……させません!!」

 

 上空から振り下ろされる攻撃を、ジャンヌは攻防のバランスを戻すことで防ぎ切った。

 

 しかし、その衝撃波デュランダルのごとく豪快勝つ壮絶。ジャンヌの筋力では受け流す必要があるレベルだ。それを、馬鹿正直に受け止めてしまった。

 

 結果、ジャンヌは一気に地面に叩きつけられ、膝をつく。

 

 ……その事実に歓喜し、ジャンヌは目を輝かせて攻撃を行ったものを視界に映す。

 

 そこにいたのは、堕ちた聖女。

 

 かつて苦しみから逃げるように悪魔の甘言にはまり、そしてその結果さらに苦しむことになった馬鹿な女。

 

 しかし、自分達とは違う英雄によって立ち直り、最後の意地を張りとおした元聖女。

 

「雑魚が追加した程度では意味がないでしょう。……ですが、そう簡単にはさせません!!」

 

 シシーリア・ディアラク。ここに登場。

 

 そして、この戦場もまた急変することとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、この戦いの切り札であるヴァレリーは、あえてもう一人の切り札と共に、ごくわずかな護衛で突貫していた。

 

 下手に目立てばその時点で集中攻撃を喰らうこととなる。いかにヴァレリーが吸血鬼の真祖である

ツェペシュ家の出で、ハーフであるがゆえに神滅具まで持っているとはいえ、それでも戦闘など経験したことのないか弱い女性なのだ。しかも、つい最近まで昏睡状態だったものだ。

 

 自衛能力は間違いなく低い。然しだからこそ、目立つような護衛の数を用意するわけにはいかなかった。

 

 やるならば少数精鋭。それも、神にすら届くような精鋭でなければならない。

 

 ゆえに、それに選ばれるのは神殺しに他ならない

 

『ヴァレリー! 危ないからしっかりつかまっててね!』

 

「わかってるわよ。ギャスパーったら心配性なんだから」

 

「……ヴァレリーさんはさすがに緊張感が足りない気がするのですが……」

 

 ギャスパーの言葉にのほほんと対応するヴァレリーに、ロスヴァイセは額に手を当ててため息をつく。

 

 わずか三人でのチーム構成だが、この三人が担う役割は非常に重い。

 

 なにせ、ヴィクター経済連合の最大最強にして根幹たる戦力、トライヘキサをどうにかする、本命ともいえる2人なのだ。その価値は非常に重いといっても過言ではない。

 

 トライヘキサの封印術式を何とか用意することに成功した、ロスヴァイセ。

 

 トライヘキサを制御する聖杯をどうにかできる可能性がある、切り札中の切り札であるヴァレリー・ツェペシュ。

 

 この二人に何かあれば、作戦は瓦解するといってもいい。

 

 しかし、大量の護衛を投入するのも帰って目立って困難だ。最悪、トライヘキサを無理やり動かして砲撃すればそれで片が付いてしまう。

 

 だからこそ、その護衛はギャスパーに任されたのだ。

 

 精鋭中の精鋭であり、且つその気になれば数を増やすこともできるギャスパーこそ、この護衛に最適。そして、ギャスパー自身この役目を譲る気など欠片もない。

 

 そしてその作戦を成功に導くために、仲間たちや多くの戦力が敵を引き付けてくれている。

 

 ゆえに、この戦いを逃すわけにはいかず―

 

「させると思っているのかしら?」

 

 ―そして、敵も馬鹿では決してなかった。

 

 舞い降りる影は、二つの魔剣をもってして、攻撃を叩き込もうとする。

 

 それをギャスパーは闇で迎撃するが、しかしその瞬間、魔剣もまた闇を纏った。

 

 ぶつかり合う闇と闇。そして、その拮抗は魔剣の担い手に傾き、ギャスパーの頬を浅く切り裂く。

 

『ヒルト・ヘジン!』

 

「ええ。貴方の相手は私みたいね」

 

 静かに魔剣を構えたヒルトは、そして視線をロスヴァイセに移す。

 

 そこには、明確な敵意があった。

 

「オーディンのお付きだった女ねぇ? 八つ当たりじみてる気もするけど、確実に切り殺したいところね」

 

 そして遠慮なく刃を向けようとするが、それより先にギャスパーが攻撃を仕掛け、ヒルトはそれを防ぐ。

 

 適合率ならオリジナルのギャスパーの方が上。しかし、能力の相性差でヒルトはそれに対抗できる。

 

 超広範囲を対応し、大漁の闇の獣を生み出すギャスパーの力は対軍に向いている。

 

 反面、個人の鎧として機能し、超高密度で運用するヒルトは、対人に向いている。

 

 ゆえに、真正面からのぶつかり合いに限定すれば、ヒルトはギャスパーを凌ぐのだ。

 

『……彼女はこちらで引き受けます! ヴァレリーは任せました!!』

 

「わかりました。無茶はしないでください」

 

 ロスヴァイセの言葉に、ギャスパーは頷きながらも無理だと確信していた。

 

 相手はイグドラフォースの一員であり、かつ自分と同じ神器の持ち主。それも、さらに魔剣まで用意している。

 

 だが、やるしかない。

 

 ここでロスヴァイセを消耗させるという選択肢はない。ヴァレリーを戦わせるなどもってのほかだ。

 

 志願して護衛を引き受けた。なにより、この戦いを否定することなどできるわけがない。

 

 ならば、やる。

 

 ただそれだけだ。

 




トライヘキサ停止前に、三か所で戦闘が勃発。

特にヒルトは、速攻で撃破しなければ作戦に支障をきたすヴァレリーの妨害を行うことになっております。

ゆけギャスパー! 男を見せろ!!


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最終章 11話 獅子大王と獅子殺し

最終章の第一ラウンド。

一話丸ごと使って、サイラオーグとヘラクレスの決着を見せますです、ハイ。


 

 その打撃戦を見切れるものは、その戦場にはお互いしかいなかった。

 

 そして、見切って回避するだけではこちらが攻撃できないのも理解していた。

 

 また、どちらも自分の攻撃力と同じぐらい、自分の防御力にも自信があった。

 

 ゆえに、獅子王の大王と獅子殺しの英雄の戦いは、ノーガードでの殴り合いに終始する。

 

 殴る

 

 殴る殴る

 

 殴る殴る殴る

 

 殴る殴る殴る殴る

 

 殴りつけ殴り返し殴り倒し殴り殴り殴り殴り殴って殴って殴りまくる。

 

 小手先の技量など知ったことかといわんばかり。そんな極めて最高峰の戦闘能力の保有者により、極めて原始的な戦いが、その近辺で最高峰の激戦だった。

 

 獅子の鎧を身に纏うサイラオーグ・バアルは、最上級悪魔クラスに到達している。

 

 近接打撃戦ならば、ヴァーリ・ルシファーすら超えると称される、D×Dのなかでもトップクラスの実力者。つい先日、ビィディゼ・アバドンを匙元士郎との二対一とはいえ倒したばかりの男である。

 

 しかし、それに相対する者もまた規格外。

 

 英雄派幹部、ヘラクレス。

 

 大量に神器を移植し、その多くを禁手へと至らせた剛の者。すでに最上級悪魔すらこの戦いで撃破している猛者だ。

 

 その近接打撃戦は、神クラスですら接近できないほどの高密度だ。

 

 お互いに下手な防御は逆効果になると判断し、徹底的に頑丈さだよりのノーガード。そして、回避すら投げ捨てた攻撃に振り切った打撃は、それゆえに半端に回避や防御を考慮してしまう物には判別できない。

 

 その超高密度の打撃戦を行いながら、ヘラクレスは歓喜で嗤う。

 

「ははははははははははははははははは!!! そうだよ、こういうのがしたかったんだ!!」

 

 アッパーカットでサイラオーグの首をのけぞらせ、そこに遠慮なく拳を叩き込みながら、ヘラクレスは歓喜する。

 

 曹操が示し、そして長可が正してくれた英雄への道。

 

 それはすなわち、種別に問わず強き願いを持ち、前進すること。

 

 最後まで前進し続け、人より前に出ることこそが勝利への道だった。

 

「そうだそうだそうだそうだ!! もっと俺を殴り倒せ!! 殺す気で来いやぁ!!」

 

 フックにアッパーにリバーブローにストレート。そのすべてが、上級悪魔クラスなら一撃で粉砕できる桁違いの威力。

 

 それを全力で放ちながら、ヘラクレスは猛攻を続ける。

 

 そして、その勢いに任せてさらに一手を追加する。

 

偉人による決意の飛行(デトネイション・マイティ・フライト)ぉおおおおおお!!!」

 

 後方から連続で爆発が発生し、ヘラクレスは桁違いの推進力を発揮する。

 

 音速突破の急加速によって放たれたJOLTブローが、遠慮なくサイラオーグを後方へと弾き飛ばす。

 

 それは例えるなら、人間サイズのゼロ距離砲撃。

 

 ゆえに、空中という状況もあってサイラオーグは一気に数百メートルも弾き飛ばされる。

 

 それを周囲の連合軍が慌てて回避する中、ヘラクレスは一気に再加速して追撃を開始する。

 

超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)ぉおおおおお!!!」

 

 さらに連続攻撃で追撃を叩き込みながら、ヘラクレスは一期にサイラオーグに迫る。

 

 遠慮はない。微塵もない。そんなものは失礼極まりない。

 

 目の前にいるのは、神すら打倒しかねない、規格外の打撃戦の鬼。

 

 天賦の才に恵まれた自分とは違い、悪魔でありながら魔力をかけらも持たない底辺からスタートした男。

 

 それが、いつの間にやら若手悪魔最強。そこまで上り詰めることは奇跡といっても過言ではない。普通は不可能だと断言していい。

 

 それだけの強さを得るのに、一体どれだけの努力を重ねてきたというのか。死に物狂いなどという言葉でどうにかできる者ではない。

 

 脅威と認めよう。難敵と認識しよう。敬意すら払おう。

 

 ゆえにこそ殺す。

 

 先駆者(英雄)の好敵手として最高峰の存在だと認識し、ゆえにこそ華々しい散り方を与えてやらねばならない。

 

「行くぜ! 全力全開、最大出力!!」

 

 手加減無用。情け無用。躊躇いなど持てば、その時点でこちらが死ぬ。

 

 故に全力、最大威力。出せる限りの限界の一撃を叩き込み、最強の手札をもって倒す。

 

 出なければ、こちらが負けることすら十分にありうる。

 

 最高の敬意をもって、最大の一撃で勝利をもぎ取る。

 

 それこそが先駆者(英雄)という物だろう。

 

「あばよ! おまえを超えて、俺はさらに先に進ませてもらうぜ!!」

 

 そして、わずか数秒で音速突破で弾き飛ばされたサイラオーグに追いつき―

 

越人による、戦意の一撃(デトネイション・マイティ・ブレイク)ぅううううう!!!」

 

 最大の一撃を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘラクレスは、何一つ間違えてはいなかった。

 

 強敵を倒すために、自分にできる最良の手段を取ったことに否はない。

 

 サイラオーグ・バアルは間違いなく、ヘラクレスが現在闘っている中でも最高レベルの傑物。この戦場に出ている敵勢力の中でも、獅子の鎧をまとった状態なら上から両手で数えることができる部類だろう。

 

 故に手加減も遠慮も必要ない。ヴィクター経済連合がこの戦場に連れてきた中でも最上位の戦力であるヘラクレスが、全力を出す必要がある相手だ。

 

 どちらも小細工に長ける部類でもない。シンプルな戦い方の方が性にもあっているし、力を発揮することもできる。

 

 ゆえに、この勝敗は極めて単純。

 

「いや。そうはいかん。貴様は冥界だけでなく同盟国である日本にとっても大敵だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この戦いの決着は、明白に付けられる。

 

「貴様はここで倒す。俺のすべてをかけても、これ以上貴様に我が同胞たちは傷つけさせん」

 

 その拳が、完璧なカウンターでヘラクレスの顔面に吸い込まれる。

 

 単刀直入に言おう。ヘラクレスは油断も慢心もしていなかった。

 

 この状況下でも相手が反撃してくる可能性は踏んでいたし、むしろ必ず牙をむいてくると確信すらしていた。

 

 つまり、これは非常に単純。

 

 その状態のヘラクレスですら反応できないレベルの力で、サイラオーグが拳を叩き込んだからに他ならない。

 

「が……っ!? いきなり、強く……!?」

 

「いきなりではない、貴様が俺を殴り飛ばしている間に、準備を整えさせてもらった」

 

 サイラオーグが纏う獅子の鎧は、明らかにそのオーラを変化させていた。

 

 その出力は、神滅具の禁手と仮定しても明らかにおかしい。

 

 そして、明らかに外見が変化していた。

 

「なんだ!? 信頼の譲渡でもねえ……!?」

 

「何を言っている。獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)は封印系の神器だ。ならば、当然あるだろう、究極系が」

 

 その言葉に、ヘラクレスはその種に気が付いた。

 

 神器の究極は禁手である。兵藤一誠やヴァーリ・ルシファーがさらにその上の領域に到達しているが、基本的にこれは変わりない。

 

 だが、一つだけ例外がある。

 

 それこそが、覇。封印系神器だけが持つ、封印されたものの力を最大開放する最後の切り札。

 

 それは基本的にドラゴン系神器である覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が有名だ。兵藤一誠も不完全ながら発動した。ヴァーリの進化方向はその昇華だ。

 

 だが、それは決してドラゴン系神器の専売特許ではない。

 

 覇龍に比べれば若干劣るが、然しほかの魔獣封印系神器にもその領域はある。当然、その極点である獅子王の戦斧もまたしかり。

 

 そう、その名は覇獣(ブレイクダウン・ビースト)

 

 そして、その領域にまたサイラオーグも至ったのだ。

 

 見れば、鎧は黄金だけでなく紫にも輝く、全身からは小金を纏った紫のオーラが放たれる。

 

 これこそが、サイラオーグ・バアルがビィディゼ・アバドンすら圧倒した、彼が至った究極の領域。

 

 その名を―

 

獅子王の(レグルス・レイ・レザー・レックス)紫金剛皮(インペリアル・パーピュア)・覇獣式!! この力をもってして、俺は貴様を倒す!!」

 

 その瞬間、まさに決着はついた。

 

 今迄をはるかに凌駕する速度で、今迄をはるかに圧倒する威力で、今迄をはるかに超越した拳がヘラクレスに連続で叩き込まれる。

 

 その威力は、一発一発が兵藤一誠の真女王における必殺技、クリムゾン・ブラスターに匹敵。

 

 それが連打で叩き込まれ、ヘラクレスの全身は徹底的にたたき伏せられる。

 

 そう。勝敗を決めたのは単純な真理。

 

 できる限りおのれを鍛え続けたヘラクレスとサイラオーグだが、その方向性には違いがある。

 

 大量の神器をそれぞれ禁手に至らせたヘラクレスだが、一つ一つの神器を別々の禁手に至らせた都合上、一つ一つの出力は一つの神器でしかない。数が多い分分散してしまった。

 

 そしてサイラオーグは一つの神器を禁手に至らせただけだが、ゆえにこそ徹底的に鍛え上げ、さらにそれは神滅具だった。

 

 仮定の話でしかないが、もしヘラクレスがすべての神器を合わせて複合禁手にしていたのなら、この勝敗はまだわからなかっただろう。

 

 否。サイラオーグが覇獣をはなつ間もなく勝敗は決していた可能性がある。

 

 それは慢心ではない。しいて言うならば相性。

 

 愚直ゆえにこそ一つの道を究め続けてきたサイラオーグは、その土俵での勝負において圧倒的な力を発揮する。これはただ、それだけの話。

 

 一つの道を究めていた男に、点での勝負に挑んだこと。それこそがヘラクレスの敗因だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイラオーグは、かなり疲弊していた。

 

 なにせ、ビィディゼ・アバドンとの戦いを終えた後でのこれだ。そこ迄日が経っているわけではなく、その戦いにも覇獣を使用している。

 

 サイラオーグは確かに戦士としては死に物狂いの努力と恵まれた体によって神にすら届く傑物だ。しかし悪魔としては大王家の特性である消滅が出せないどころか、通常の魔力すらひとかけらも持ってない最下層だ。

 

 覇をどうにかするにはヴァーリ・ルシファーのように莫大な魔力などといった代用品が必要だが、残念なことにそんな器用なまねはできない。

 

 ゆえに強靭な肉体で無理やり生命力の消耗に耐えている。非常に愚直で馬鹿正直な対処方法だ。

 

 だがしかし、ゆえに頑健。故に強固。

 

 その拳は、短時間しか使用できないとはいえど、しかしその短時間でヘラクレスを戦闘不能に魔で叩き込んだ。

 

「……悪いが、俺は(これ)だけで戦ってきたのでな。そう簡単に負けてやるわけにはいかん」

 

「……はは、は。まさか、魔力が売りの悪魔が、(それ)で此処まで、やるとはな……」

 

 ヘラクレスは力なく笑うが、しかし満足げだ。

 

 全力を出し切った上での敗北。そこには一種の達成感があるのだろう。

 

 サイラオーグもそれには理解がある。しかし、それとこれと話が別だ。

 

 速やかにとらえ、封印処置を施した上で後方へと搬送する。

 

 情報を聞き出すもよし。捕虜交換で政治的な取引をするのも良し。そのあたりは政争になれた者たちに任せるほかないだろう。

 

 だがしかし、すぐにでも処置を終える必要がある。

 

 今この戦場では、この時でも戦い続けている者がいるのだ。それも、死んでいく者たちは分に一人や二人では聞かないだろう。

 

 ゆえにすぐにでもことを終わらせようとし―

 

「だが、曹操達(あいつら)の後は追わせねえ」

 

 その言葉に気づいた時、すべては遅かった。

 

 ヘラクレスの体から、光が放たれる。

 

 それは禁手に至ったものとはまったくとなる歪な輝き。

 

 そう、まるで自爆のような―

 

「英雄なら、輝かしく人生を終えてなんぼってなぁ!! 俺は最後まで先駆者(英雄)だ、醜い死体は遺さねえ!!」

 

「貴様、まさかッ!?」

 

 サイラオーグが一瞬の判断で行動するも、しかしヘラクレスの頑健な体を一撃で絶命させるのは不可能。

 

 ゆえに、その一撃を止めることなどできるわけがない。

 

「―死人による決死の自殺(デトネイション・マイティ・ジエンド)ぉッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一瞬の爆発は、戦略核にも匹敵する威力を模ていた。

 

 それこそが、ヘラクレスが五つ取り込んだ巨人の悪戯(マイティング・デトネイション)の禁手が一つ。

 

 遠距離面制圧を可能とする、超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)

 

 近接戦闘において桁違いの威力を発揮する、越人による戦意の一撃(デトネイション・マイティ・ブレイク)

 

 人間ゆえに持つ欠点を克服する、偉人による決意の飛行(デトネイション・マイティ・フライト)

 

 神滅具の禁手による一撃にすら耐える、鉄人による覚悟の防壁(デトネイション・マイティ・アーマー)

 

 そして、最後の一つがこの禁手。

 

 英雄として、最後まで前のめりに死ぬ為に。そして仲間達に最後まで貢献する為に。その覚悟を決めた最後の一撃。それに特化したがゆえに神滅具の禁手すら凌駕する威力を込めた文字通りの最終兵器。

 

 それこそが、死人による決死の自殺(デトネイション・マイティ・ジエンド)

 

 その攻撃は付近にいた者達を跡形もなく消し去る。

 

 大半が下級、腕利きでも中級、良くて上級。その程度では、近距離から放たれた戦略核クラスの攻撃を防ぐことなどできない。

 

 そして、至近距離の爆心地では。

 

「………ぬかった、か」

 

 全身がぼろ雑巾のようになった、サイラオーグが息も絶え絶えにそう漏らす。

 

 魔王クラスすら打倒する覇獣をもってしても、至近距離からの戦略核クラスの火力は絶大だった。むしろ、生きているのが不思議なくらいのダメージを追っている。

 

 致命傷ではない。だが、全身をくまなく傷つけたその火力は、戦闘続行を可能にするような怪我でも断じてなかった。

 

「……無念だ。兵藤一誠、あとは、任せる……」

 

 その言葉を最後に、サイラオーグも意識を失って倒れ伏す。

 

 トライヘキサの日本侵攻をかけた大激戦。初戦より魔王クラスが戦闘不可能になるほどの桁違いの激戦が巻き起こされた。

 

 この戦い。これですら前座の一つでしかない、激戦の連続が繰り広げられることとなる。

 

 




ヘラクレス、意地でサイラオーグを無力化。ある意味でトップクラスの戦果をあげました。

ここで残念ながらサイラオーグ退場。ビィディゼとの戦闘から回復が完全でなかったことが仇となりました。


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最終章 12話 バロールVSバロール

あけましておめでとうございます!!

最終決戦第二ラウンド!! バロール対決です!!

あ、遅れてすいません。このあとちょっと苦戦ムードになることもある上に、数日年賀状でつぶれまして……


 

 一方そのころ、ギャスパーもまた苦戦を強いられていた。

 

 もとより相性は絶大に悪い。

 

 面での制圧力でしのぐギャスパーの力も、点での密度でしのぐヒルトにはかなわない。

 

 さらに魔剣とイグドラスコルの能力が掛け合わされ、ギャスパーは劣勢を強いられていた。

 

「この程度? この程度で、私達ノイエラグナロクの復讐を邪魔できるとでも思ってるのかしら!」

 

 連続で振るわれる魔剣の攻撃に、ギャスパーの闇は削られ続けている。

 

 時折反撃を出すことはできているが、闇の密度の差がもろに出て、ダメージを与えることはできなかった。

 

 その闇の獣の巨体を生かして突破されることだけは防いでいるが、このままでは削り倒されて負けるのが確定的に明らか。

 

 これこそが、イグドラフォースの1人。

 

 これこそが、ノイエラグナロクの精鋭。

 

 これこそが、リムヴァンが直属としたヴィクターのエース。

 

 ヒルト・ヘジンは圧倒的な実力差と相性差で、ギャスパーを追い込んでいた。

 

『……それだけの強さがあって、なんでヴィクターに?』

 

「愚問ね。アースガルズと戦争をするには、これぐらいは必要だったからよ」

 

 フェイントで放たれる闇の刃を、それ以上の密度の刃であっさりとはじき返しながら、ヒルトは告げる。

 

 そこには明確な敵意があり、そして、そのアースガルズと和平を結んだ悪魔にすら敵意を向けていた。

 

「アースガルズが神々の黄昏(ラグナロク)に対抗するために、どれだけの戦争を引き起こしたか。戦場での戦死こそ至高と吹き込み、家族の平穏を望んでいた者たちから何人もの戦士を死に誘ったか」

 

 そう。かつてアースガルズは幾度となく非道を行った。

 

 神とは傲慢な側面を持っている。ゼウスの不倫癖が有名ではあるが、アースガルズもまた、それなりにいろいろとやっているのだ。

 

 ラグナロクを突破するためのエインヘリヤルを集めるため、アースガルズは幾度となく戦争を引き起こした。その過程や結末までプロットを用意し、神々自ら手を加えて戦死者を選定したことも数多い。

 

 そして、そのアースガルズの暴虐の中でも、特に理不尽なのがヒルトとヘジンの逸話だ。

 

 フレイヤが首飾り欲しさに不貞を働いたことを怒ったオーディンは、フレイヤに「二十の将を持つ王二人を永遠に戦わせよ」という要求を行った。

 

 その結果、ターゲットとされたのはその不貞と何ら関係ない二人の王、ヘジンとホグニ。

 

 優秀な戦士たちをさらに強くする側面もあったこの関係により、彼らは死んでも蘇り殺し合いを続けることとなった。

 

 彼らは聖書の教えの神の子の加護を受けた戦士、イーヴァルに討たれるまで、長い間殺し合いを続ける羽目になった。

 

「私は、ヘジン王の末裔。先祖を弄んだアースガルズに、それに見合った血の報いを与えるために剣を取ったのよ?」

 

 そしてその瞬間、斬撃の密度はさらに濃くなった。

 

 膨れ上がった怒りと殺意に応えるように、刃の雨は刃の猛雨となって、ギャスパーの闇の衣を切り刻む。

 

「アースガルズの味方をするなら、あなたも死になさい!!」

 

『く……っ!!』

 

 その斬撃は一気にギャスパーの闇の衣を削り取る。

 

 そして、その速度のままにギャスパーの体すら薄く切り裂き、そしてそれを防御しようと集中しすぎた隙を突き、ケリが叩き込まれる。

 

「あんたはあとよ!!」

 

 そのまま蹴り飛ばすと、遠慮なくヒルトは全速力でかける。

 

 ヒルトの目的はあくまでアースガルズに対して、先祖の無念を晴らすことだ。ギャスパーを相手にするのはついででしかない。

 

 トライヘキサの防止阻止についてもだ。それを止めるのに倒すべきなのは、聖杯を持つヴァレリーと術式を持つだろうロスヴァイセのみ。ギャスパーはその護衛であって優先対象ではない。

 

 なにより、憎むべきオーディンのお付きだった女が近くにいるのだ。オーディンを殺す前に切り裂いてもいいだろう。

 

「さあ、覚悟しなさい!!」

 

「くっ!!」

 

 ロスヴァイセが遠慮なく魔法のフルバーストを叩き込むが、然しヒルトは闇の衣で防ぎ切る。

 

 同時に展開される防壁も、二振りの魔剣で両断した。

 

 ロスヴァイセは間違いなく優秀だ。その能力は上級悪魔を超え、最上級クラスにも対抗できるだろう。

 

 だが、同じく最上級に届く実力を持ち、神すら殺しうる神滅具を持ち、さらにイグドラフォースとしての力まで持つヒルトは、神にすら匹敵する。

 

 その差が、ここにきて致命傷にすらなり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうはいかないっすよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがしかし、彼女は一人ではない。

 

 放たれる光の弾丸が、ヒルトの斬撃をわずかにそらす。

 

 そして、それがロスヴァイセを紙一重で救い上げた。

 

「……ペト・レスィーヴ!!」

 

 厄介な敵が来たと、ヒルトは舌打ちする。

 

 ペト・レスィーヴの狙撃能力は規格外。ヴィクター経済連合では、一定以上の防御力がないものの間では神滅具使い以上の脅威として認定されていた。

 

 イグドラスコルの力を持つ自分ならどうにかできると思っていたが、よりにもよって振るっている剣をそらされるとは思わなかった。

 

 だが、いるとわかっているのなら何の問題もない。来る方向がわかっているのなら、そこに注意を払っていればいいだけのこと。それで反応できるだけの能力を自分は持っている。

 

 ゆえにまずは重要な相手を倒すべきだと判断し―

 

「隙を、見せましたね?」

 

 その瞬間、強固な魔法の鎖がヒルトを縛る。

 

 何とか振りほどこうと力を籠めるが、その鎖は強固で中々振り払えない。

 

「これは……!」

 

「封印術式の応用で作った捕縛術式です。そう簡単にはほどけませんよ!」

 

 ロスヴァイセは才女である。

 

 兵藤一誠達とさほど変わらない年齢で、オーディンのお付きをすることがどれだけ偉大か。いかにオーディンが問題のある行動を頻発するとはいえ。そのせいでどんどん配属者が我慢の限界に達していくとは言え。それでも、主神の隣につくということは偉業なのだ。

 

 それをなすロスヴァイセは、間違いなく同年代ではトップクラス。いかにヒルトが神滅具を移植したイグドラフォースであったとしても、油断をしていいわけがない。

 

 一瞬でもペトに意識を向けすぎたことが、ここにきて大きな隙をさらす。

 

「だけど、あんたたちが束になっても私は倒せないでしょう?」

 

 しかし、その隙をつかれてもなおヒルトには余裕があった。

 

 イグドラスコルはもちろんのこと、移植している神滅具もまた規格外の切り札だ。

 

 闇を操り万物を停止させる、時空を支配する邪眼王(アイオーン・バロール)。その禁手の力を個人防御に収束させて至った、時空支配の邪眼(フォービドゥン・バロール・ザ・)すら屠りし戦士(ブリューナク・ウォーリア)。いかに機動力を殺されようと、その防御力は主神クラス。

 

 加えて、両手両足をふさがれようと、自由に操れる闇がある限り攻撃は可能だ。

 

 即座に近距離にいるロスヴァイセを殺し、体の自由を取り戻すのは十分可能。ロスヴァイセが距離を取る時間も必要なく―

 

『いや、お前はここで終わらせる』

 

 ―しかし、それをなすには最大の障害があることに、その声で気が付いた。

 

「……邪魔よ、デイライトウォーカー!!」

 

 即座に迎撃として闇を飛ばし、さらに防御力を高める。

 

 そして、同時にギャスパーもまた攻撃をヒルトに叩き込んだ。

 

 お互いに闇が侵食しあい、しかしその攻勢は確実にヒルトに傾く。

 

 当然といえば当然だ。同じ神器の禁手同士なら、個と質と深度を重視した禁手の方が、一対一なら有利になる。

 

 都市一つ包み込み、圧倒的な数の暴力を発揮できるギャスパーは、ゆえにこそ個人装備としての能力を重視したヒルトに追いつけない。

 

 ゆえに、この戦いはヒルトが優勢になるのが当たり前なのだ。

 

『敗けるか、負けるか。此処で倒れたら、ヴァレリーは、世界は……っ!』

 

「いくら神器が想いに応えようと、土壇場に気合だけで勝てるほど世界は甘くない!!」

 

 全力で食い下がるギャスパーを、ヒルトは全力で叩き潰そうとする。

 

 ヒルトの言うことは当然の真理である。

 

 精神的な勢いが勝敗を分けることもある。だが、それは積み重ねてきたものがあるからこそ意味があるのだ。

 

 いかに神器が精神力に左右されようと、長い年月鍛錬を続け、そして同レベルの精神力を持つものを相手にしては、それは決め手にならない。

 

 何年間もの間己の力を恐れ、引きこもり続けてきたことが、ここにきて仇になる。

 

 そして、闇の浸食が捕縛結界を破り始める。

 

 敗れたときが決着の時だ。ぎりぎりの拮抗は時空を支配する邪眼王同士の戦いだからこそ成り立っているのであり、そこに魔剣とイグドラシリーズの力が加われば、勝敗は確実にヒルトに届く。

 

 それがわかっているからこそ、ギャスパーは悔しさに歯噛みし―

 

「あらあら、ギャスパーはまだまだ泣き虫なんだから」

 

 ―この戦いの大前提を間違えていたことに、その言葉で気が付いた。

 

 気づけば、後ろからヴァレリーがギャスパーをなでている。

 

 闇の化け物と化したギャスパーを、しかしヴァレリーは意にも介さない。

 

「大丈夫。私がついてるから……ね」

 

『ヴァレリー……っ』

 

 その言葉を受けて、ギャスパーは気合を入れなおす。

 

 そうだ。この戦いは自分だけで戦っているのではない。

 

 この勝負に持ち込むために、ロスヴァイセとペトがつないでくれた。そして、ヴァレリーもここにいる。

 

 ならば、やるべきことは一つだ。

 

『ヴァレリー! 力を貸して!!』

 

「もちろんよ」

 

 そして、一瞬で勝負を決める。

 

 もとより、一瞬しか借りれない力だ。ならばもはや、一点突破で食らいつくのみ。

 

「ぁあああああああああ!!!」

 

 その瞬間、ギャスパーは防御を完全に投げ捨てた。

 

 闇の衣を攻撃にのみ回し、全ての出力を攻撃に回す。

 

 その、防御を投げ捨てた攻撃全振りに、ヒルトの闇の衣が抉れ、イグドラスコルの装甲に食い込む。

 

 しかし、当然のごとくそうなればギャスパーは攻撃をもろに受けることになり―

 

「大丈夫よ、ギャスパー。私がついているから」

 

 その不詳が全て、ヴァレリーが持つ聖杯によって治療される。

 

 これは非常に賭けとしか言えないものだ。

 

 ヴァレリーの聖杯は使用者の負担が大きい。聖遺物によって負担を抑制しているとはいえ、多用はできない。

 

 文字通り、一瞬で決着をつけることを考えたからこその一撃。この一撃で勝負を決めるという覚悟があるからこそできる、全力中の全力。

 

 その全力が、イグドラスコルの装甲を食い破ろうとし―

 

「な、めるなぁああああああ!!!」

 

 ―その一瞬前に、ヒルトの両腕が自由になった。

 

 拘束術式の鎖を強引に引きちぎり、ヒルトの魔剣が振り下ろされる。

 

 その一撃で首を刈り取れば、いかに聖杯の加護があるとはいえ即死は免れない。

 

 その二撃は確かに致命。あたれば死は免れず、そしてギャスパーにかわす余裕はない。

 

 ゆえに、その攻撃が当たれば逆転は確実であり―

 

「させるかッス!」

 

「させません!!」

 

 ―そんなものを見逃すほど、彼らは決して甘くはない。

 

 狙撃ではこの渾身の一撃はそらせない。魔法を展開する余裕もない。

 

 ゆえに、ペトとロスヴァイセは文字通り組み付いて動きを阻害する。

 

「なっ!?」

 

 その対処が想定外であったがゆえに、ヒルトは一瞬だが確実に攻撃が遅らせてしまい―

 

「……終わりです!!」

 

 ―その一瞬で、ヒルトの脇腹は食い破られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬だった。一瞬で、勝負はついた。

 

 脇腹をごっそりと闇の獣に抉られた。最早これでは助からない。

 

 そして、闇の獣はさらに止めの連撃をはなつ。

 

 これで終わりだ。ヒルトにこの攻撃をかわす余裕はない。

 

 ゆえに、ヒルトは敗北を認め―

 

「……転移起動」

 

 最後の最後で、術式を発動させる。

 

 それはイグドラフォースに用意された奥の手中の奥の手。イグドライバーとジェルカートリッジの転移装置。

 

 そして最後の最後の渾身で、ディルヴィングとダインスレイブ、そしてイグドライバーを転移に巻き込ませ―

 

「あとは、任せたわよ」

 

 ―ヒルトの全身は、闇に貪り食われていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いろいろあったのはわかります。僕たちも、いろいろありましたから」

 

 ヒルトに止めを刺したギャスパーは、そう漏らす。

 

 吸血鬼もいろいろあった。三大勢力もいろいろあった。人間世界の国家も、過去を振り返れば埃が出ない方がおかしいだろう。

 

 だが、それでも―

 

「僕たちの平和を乱す形で動くのなら、僕たちは立ち向かいます」

 

 ―それで、罪のない人々まで巻き込まれていい理屈にはならない。

 

 和平が進めば、それらの罪に対する賠償も進むだろう。それが待てないものもいるだろう。

 

 ならば戦うしかない。彼らの望む未来と、自分たちが望む平和は相いれないのだから。

 

「行きましょう、皆さん」

 

 闇の獣を再展開しながら、ギャスパーは動く。

 

 そして、戦闘はまだ続いていく。

 




ギャスパー、執念で勝利。とはいえ一人では勝てるかわかりませんでしたが。

個に特化しているがゆえに、数で仕掛けられて苦戦したのがヒルトの敗因です。護衛をつけていれば話は変わっていましたが、この乱戦では無理がありましたね。









それでは皆さん、今年もよろしくお願いします!!


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最終章 13話 聖槍乱舞

はい。というわけで13話。こっからどんどん難易度が上がっていくぜ!!


 一方そのころ、シシーリアたちはジャンヌを相手に激戦を繰り広げていた。

 

 聖剣オートクレール。聖剣デュランダル。聖剣エクスカリバー。

 

 三本の聖剣と共に振るわれるのは、魔王アジュカ・ベルゼブブが作り上げし禁断の強化武装。魔王の祝福(キングズ・オーダー)

 

 その出力による強引な戦闘で、シシーリアはゼノヴィアとイリナを支援していた。

 

 流石に三対一での猛攻は、ジャンヌですら簡単にしのげるレベルではなくなっていた。

 

「なかなかしぶといじゃない、お姉さんちょっと燃えてきちゃった!」

 

 テンションが上がるジャンヌを追い込むように、さらに周囲からの攻撃も苛烈になる。

 

 シシーリアによってジャンヌとの戦いが拮抗し始めてきたことが、戦意を高めていくのだ。

 

 その猛攻が魔聖剣の龍を削っていく。

 

 この調子ならば、魔聖剣の龍は直に撃破。そしてその戦力をもってして、ジャンヌを圧殺できる。

 

「覚悟を決めろ! この調子ならこちらが圧殺できる!!」

 

 ゼノヴィアがデュランダルを振り下ろしながら、ジャンヌに覚悟を迫る。

 

 なにせ、ジャンヌは全世界放送の中でローマ教皇を殺害した張本人だ。

 

 投降したとしても、果たしてただで済むかどうか。聖書の教えを信仰する国家は暗殺者を送るだろうし、政治的圧力で警備が緩くなる可能性もある。

 

 ゆえに、ゼノヴィアも覚悟を迫ったのだが、ジャンヌは不敵な笑みを浮かべる。

 

「あらら? もしかしてもう勝ったと思ってるのかしら? お姉さん困っちゃう」

 

「この状況でよく言えますね。駄娘である私でも読める詰みですが?」

 

 シシーリアですらそう確信できるほどの劣勢。そして、それは確かに決定打となった。

 

 上級悪魔数人がかりの魔力砲撃が、ついに魔聖剣の龍を粉砕する。

 

 これでこの場はジャンヌ一人だ。あとは全員で押し切れる。

 

 しかし、ジャンヌはその光景を見て―

 

「なら、そろそろホントの禁手を見せちゃおうかしら♪」

 

 ―ついに本気を出せると、歓喜の笑みを浮かべた。

 

 そいて、その瞬間だ。

 

 くだけた龍を構成していた魔聖剣が、光り輝くと、巨大化する。

 

 それらは大量の巨大な魔聖剣となると、それぞれ七つに集まり、そして何かを形作る。

 

 そして、そこに現れたのは―

 

聖魔龍の巣窟(ビトレイヤー・ドラグ・スクワッド)♪」

 

 ジャンヌ・ダルクを守るように飛び回る、七体の魔聖剣の龍だった。

 

「な、なんだと!?」

 

「さっきのが、七つ!?」

 

 狼狽する連合軍たちをみて、ジャンヌは不敵な表情を浮かべ、魔聖剣を構える。

 

「これが私の複合禁手よ。魔聖剣の龍は、最大で八体まで出せるの」

 

 そして、さらにジャンヌは追加を仕掛ける。

 

 というよりは、本命が来たことを察して、言葉を投げかける。

 

「どうやら、曹操も有象無象を倒してこっちに来てくれたみたいね」

 

 その視線をみれば、曹操が確かに聖槍をもって空を飛んできていた。

 

 さらにその下には森長可が、海面をかけて同じくこちらに向かってくる。

 

 その事実に、連合軍が明らかに絶望の表情を浮かべる。

 

「嘘だろ? この状況下で―」

 

 当然だ。曹操の戦闘能力が桁違いなのは、誰もがよく知っている。

 

 あの、ヴァーリ・ルシファーの極覇龍すら凌ぎ切った猛者。その戦闘能力は天龍の全盛期とすら渡り合え、更に問題なのは技量が桁違いであるということ。

 

 その圧倒的な技量は、主神すら絡みとれるともっぱらの噂だ。

 

 間違いなくヴィクター最高戦力の1人。それがさらに、英雄派の最精鋭である森長可を連れて接近してくる。

 

 その事実に、多くのものが逃げ腰になり―

 

「……まさか、彼が今戦えると本気で思っているんですか?」

 

 きょとんとした表情で、シシーリアがジャンヌに尋ねた。

 

「何を言っているのかしら? よく見なさいよ」

 

 まさか恐怖で頭がおかしくなったのかと思い、ジャンヌはため息すらつく。

 

 この状況下がどれだけ詰んでいるか、あえて懇切丁寧に説明するしかないようだ。

 

「いい? 二天龍はカテレアとユーグリットが抑えてる。そして、曹操に対抗できるのは彼らだけでしょう?」

 

 そう。この戦場における最強戦力は間違いなく二天龍だ。

 

 その二人でなければ曹操を止めることはできない。神滅具の禁手程度では、曹操の覇光を凌ぐことはできないのだから。

 

 しかし、その二人は現在全力でユーグリットとカテレアが相手をしている。現状、曹操が来たら逃げるしか手がないのだ。

 

「……あなたがお熱のヒロイ・カッシウスの禁手なら太刀打ちできるでしょうけど、リセス・イドアルと一緒に戦線離脱だもの。どうしようもないじゃない?」

 

 あの二人はもう戦えない。戦わせるものがいないだろう。

 

 なにせ、全力で戦えば桁違いの速度で死んでいくのだ。寿命の消耗速度は覇に匹敵し、その解呪には神クラスでも百年かかると目されている。そして、人間では十数年で死ぬのろいだ。

 

 どう考えても、戦線に出せる状態ではない。

 

「あなたがヒロイ・カッシウスが大好きなのは知ってるわ。こんなところに出てくるなんて、納得できる―」

 

 訳がない。

 

 そう、言おうとした。

 

 その瞬間、()本の聖槍の輝きが交錯した。

 

 あり得ない。聖槍使いはこの場には、曹操と長可の2人しかいない。二本が限界だ。

 

 そこまで見て、ようやく気が付いた。

 

 曹操達はこっちに駆けつけてきたのではない。戦っている間にこっちに移動してきただけなのだ。

 

 なぜわかるか。それは簡単だ。

 

 いま、天候が操作されて雷が曹操達に襲い掛かった。

 

「……バカなっ」

 

「どういうこと? 結界はどうしたの!?」

 

「お二人が、なんで?」

 

 ゼノヴィアも、イリナも、アーシアも目を見開いた。

 

 目の前の光景が信じられない。あっていいはずがない。

 

 何より、その光景が意味するところをシシーリアが知ったらどうなるか。

 

 ショックを受けていると思い、三人はシシーリアに目を向ける。

 

 そして、目を疑った。

 

「……ふふっ。やっぱりあの人はそうでないと」

 

 満足げに笑みを浮かべ、シシーリアはその光景を眩しそうに見つめる。

 

 そこにあるのは明らかな喜色。悲しみも衝撃も絶望もなく、あるのはただ満足げな喜びだけ。

 

「こ、壊れた?」

 

 ジャンヌですらそう聞くほどの展開だ。

 

 そして、それを聞いてシシーリアは不満げな表情を浮かべる。

 

「失礼ですね。好きな人が好きなところ見せていて、それを喜ばない女の子はいません」

 

 少し膨れながらそう変えすと、シシーリアは魔王の祝福を突き付ける。

 

 そして、戦意を込めた微笑と共に、胸を張ってその言葉を紡いだ。

 

「私の愛し仰ぎ見るヒロイ・カッシウスは、私の心を照らした輝く英雄。そして、それをなしたのはリセスさんです」

 

 そして、その戦いを応援歌として、シシーリアは強い意志をもって、はっきりと告げる。

 

「その私が、彼らが輝く手伝いをすることはあっても、邪魔をするなんてありえません!!」

 

 そう。シシーリア・ディアラクは聖女ではなく死神と呼ばれる覚悟を決めた。

 

 あの二人がほぼ確実に死ぬだろう戦場に、あえて二人を送り込む。

 

 陰ったまま、本人たちが臨まない生を与えるのではない。

 

 輝いたまま、本人たちが望む死をあたえよう。

 

「さあ。私の愛するヒロイさんの英雄街道。その端役として散りなさい!!」

 

 そして、シシーリアは遠慮なく装備の宿した王の駒を最大出力で駆動させる。

 

 此処に端役を介入させる気はない。自分の役目は露払いだ。

 

 そして、その果てに狂人と蔑まれることも覚悟した。

 

 自分をそうしたヒロイを恨んだりはしない。こうなってしまうしかなかった自分を恨むことはあっても、ヒロイを恨むことだけはしない。

 

 そうなる前に自ら引導を渡そう。その方がはるかに自分らしい。

 

 くすぶって、うつむいて、陰るしかなかった自分。そんな自分に、彼は光を照らしてくれた。

 

 それでもくすぶり続けて、道を誤ってしまった自分を、それでも照らしてくれた英雄に、そうすることでしか恩を返せない。

 

 ゆえに微塵も遠慮はしない。覚悟をもってそうしよう。

 

「ここから先は通しません。彼の光に、貴方のような前座は必要ない!!」

 

 不退転の覚悟を決めて、シシーリア・ディアラクはジャンヌ・ダルクを討つべく全力で戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ、ありがとう、シシーリア。

 

 俺は、俺たちは今、輝いている。

 

 二方向から振るわれる、最高峰の聖槍使いの攻撃を、俺たちは全力で回避し続ける。

 

 そしてもちろん反撃もする。回避に徹して防戦一方になどなっていない。

 

 そうだ。俺たちは戦えている。

 

 今のこの間にも、俺たちの寿命は音速で減っていることがよくわかる。

 

 大事なものが削れていく。必要なものが消えていく。文字通り、命が急速に燃え尽きていく。

 

 だけど、それでいい。

 

 つまらない長い人生なんていらない。必要なのは、短くてもいいから、強く輝き誰かを照らせる人生だけだ。

 

 そして、今俺たちはそれをなしている。

 

 俺たちは今、陰る人々を照らしている。

 

 これ以上の戦いは、そうないだろう。いや、あったとしても優先順位は今がうえだ。

 

 俺たちが照らしたいと思った人々が、今この戦いの最中も曇っている。

 

 俺たちの大切な仲間が、今この間も命を危険にさらしている。

 

 それを黙って見過ごすことが、輝き(英雄)のやることじゃない。

 

 今ここは、世界の命運をかけた大一番だ。それを見過ごして出し惜しみして、もし負けたとして、俺たちは英雄だと名乗れるか?

 

「名乗れるわけがねえよな、姐さん!」

 

「名乗れないわよね! ヒロイ!!」

 

 意見は一致、なら全力。

 

 俺たちが戦う意義も理由も大義もある。なら、死に場所として最高だ。

 

「「覚悟はいいか、ヴィクター!!」」

 

 その渾身の一撃に、聖槍使い二名は弾き飛ばされる。

 

 そして俺たちが追撃すれば、2人は即座に迎撃してしのいでくる。

 

「はっはぁ!! やるじゃねえか!!」

 

「ああ! 最高の宿敵だ!!」

 

 森長可も、曹操も、俺たちを見て最高の笑顔を向けてくる。

 

 ああそうだろう。お前が先駆者(英雄)を目指すなら、俺たちを避けて通るわけがねえ。

 

 だからこそ、俺たちが出てくる意義はある。

 

 倒せるならば、それに越したことはねえ。もし負けるにしても、その間一分一秒でも足止めできるってことは、それだけの意義がある。相打ちでも値千金。決着がつかないのはついてねえが、それでも時間稼ぎって意味なら価値がある。

 

 俺たちは、勝てなくてもいい。

 

 ただ、一分一秒でも輝けるのなら……。

 

「それだけでも、価値がある!」

 

「そうでしょ、英雄派!!」

 

 俺と姐さんはともに聖槍をつかみ、そしてともに雷撃をはなつ。

 

 そして俺と姐さんの2人は雷撃を重ね合わせ、制御して突撃を行う。

 

 それを七宝をすべて展開して防ぎながら、曹操は歓喜の表情を浮かべた。

 

「ああ、そうだ!! それでいい!!」

 

 うれしいか曹操? ま、そうだろうよ。

 

 宿敵と認めた俺との戦いが、リムヴァンの猪口才な呪いで台無しとか、さすがにちょっと肩透かしだろうよ。

 

 俺たちが決着をつける価値はある。それ位に、俺たちはお互いを宿敵と認めてきたはずだ。

 

 そして、俺もお前もそれぞれの勢力で精鋭だろう? 強敵だる? 難敵だろう?

 

 なら、俺たちが出くわせば見逃す道理はないだろう!!

 

「曹操! 長可!! あなた達は私たちが相手をするわ!!」

 

「上等だぁ! 戦国乱世でもなかなかでないぜ、お前らみたいなのはな!!」

 

 姐さんの言葉に、長可が答える。

 

 そして、曹操も滾っていることが丸わかるの表情で吠える。

 

「決着をつけよう、我が宿敵!! 紛い物!!」

 

 そうだろうよ。所詮俺は紛い物だ。後天的移植者だ。

 

 おまえからしてみれば、間違いなく俺は偽物で、イラつくだろう。

 

 そんな奴に一矢報いられてるんだからよ。勝って終わりたいだろうし、せめて決着はつけたいよなぁ! 俺もだよ!!

 

「決着をつけるぜ、曹操!!」

 

 ああ、俺の命はここまででいい。

 

 だが、決着だけはつけていくぜ!!

 




ヒロイ&リセス、ついに参戦。曹操及び長可と決着をつけることになります。

そしてシシーリア、かなり全力。そっちの方がいいと思ったとは言え、やってしまったことは事実なので頑張ります。


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最終章 14話 

敵の主力に被害も出ながら、こちらも決して無傷ではなく。

ついにヒロイとリセスが命を捨てて戦線へと復帰する中、戦闘は未だに激化しているのです。


 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界の趨勢がかかった激戦。その流れは、ついに変化した。

 

 一つ目は、超獣鬼が遂に倒れたことだ。

 

 数時間かかった激戦において、超獣鬼は限界を超えて崩れ落ちる。

 

 だが、彼らは己の役目をしっかりと果たした。

 

 その直後、トライヘキサの周りに魔方陣が展開し、そして動きが止まっていく。

 

 ヴァレリー・ツェペシュによる聖杯の停止。ロスヴァイセたちが編み出したトライヘキサの封印術式。その双方が効果を発揮して、トライヘキサを止めることができた。

 

 もとより、超獣鬼はトライヘキサに勝てないのは想定内。超獣鬼の目的は、この二つがなされるまでの時間稼ぎだ。

 

 それをなした以上、役目はしっかりとなすことができたのだ。

 

 そして、ここからが反撃の時。

 

 動揺したヴィクター経済連合を前に、対抗する三大勢力を中心とした連合軍は、反撃ののろしを上げる。

 

 それを見て、ニエ・シャガイヒはほっと息をついた。

 

「これで、少しは罪滅ぼしができたかな……?」

 

 まったくもって馬鹿なことをした。

 

 リセスに対する憎悪が抜けないとはいえ、正義がないと思える、俗物だらけのヴィクター経済連合についた。正気ではできない、馬鹿なことをしたものだ。

 

 それでも許せないと思ったリセスとも、彼女が後悔するような展開とは言え、謝罪の言葉をもらったことで溜飲は下がった。その足でヴィクターを裏切ったのは、我ながらどうかと思うが。

 

 だが、それでも罪が消えたわけではない。

 

 千を超える子供たちに、記憶をもとにしたポルノ映像を見せたりした。吸血鬼たちの暴虐をどうにかするための部隊相手に、大立ち回りもした。天界でも、リセスが動ければなくせた被害は数多い。

 

 個人的な恨みでこれだけのことした。その罪は償わなければならない。

 

 これだけではまだ足りないだろう、下手をすれば、一生監獄で暮らすことになるかもしれない。それだけのことをしてしまったと思う。

 

 だからこそ、ここで死ぬわけにはいかない。

 

 一人でも多く敵を倒す。そうしなければ、彼らに対して詫びても詫びきれない。

 

「……ドーインジャー!!」

 

 大量のドーインジャーをできる限り呼び出し、数での戦闘を行う。

 

 同時に自身の魔獣変成で変化させ、さらにダイドーインジャーを大魔獣師団創造で構成。一気に攻撃を再開する。

 

 この数の暴力なら、いやでも敵は戦力をまわさなければならない。肝心かなめのトライヘキサも封じられているのだ。いやでも動かざるを得ない。

 

 そして、当然のごとく敵は猛攻撃を仕掛けてきた。

 

 量産型の邪龍の中でも、最高峰のグレンデルとラードゥンの量産型が何体も出てきて攻撃と防御を担当。更に、イグドラゴッホとイグドラグウィバーが大量に出てきて、ドーインジャー削っていく。

 

 しかもダイドーインジャーも大量に出てきて、猛攻を仕掛けてきた。

 

 これ以上強敵を長く行動されてはならない。そういう考えが透けて見える。ニエですらわかることを、あえて隠そうという気もないということか。

 

 これは死んだか。その状況に、ニエはしかし冷静だった。

 

 壊れたのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。

 

 どうやら、自分は荒事に巻き込まれてかなり成長してしまったらしい。

 

 これでは普通なんて語れない。かなり立派な人物だ。

 

 これではもう、リセスのことを立派すぎると文句を言うこともできない。もしかするとリセスよりも立派なのかもしれない。

 

 そう苦笑すると、しかしここで死ぬわけにはいかないと全力で反撃の体勢を整え―

 

「おぉっと! そうはいかないね!」

 

「ああ、ここで彼に死なれると困るしね」

 

 大量のシャボン玉によって生まれる神罰と、広範囲を包み込む闇の領域から放たれる刃が、敵を蹂躙する。

 

 一瞬で敵の過半数が蹂躙され、一気に趨勢はニエが生み出した勢力に傾いた。

 

 唖然とするニエ、それをなした者たちが並び立つ。

 

「やぁ。ニエ君だっけ? 君はいろいろ大変だったみたいだねぇ」

 

「それが、こんなところで死んではダメだと思うね」

 

「貴方たちは……?」

 

 現れた黒と白に目を見開いていると、2人はニエをかばうように前に立つ。

 

 場馴れしている自分達がカバーするべきだ。そう言わんばかりの戦闘態勢だった。

 

「俺はデュリオだよ。君のことはニエきゅんとよぼう。あとでうまいもんでも作ってあげるよ」

 

「俺は幾瀬鳶尾だ。俺も料理には自信があるから、ついでに一緒に作るとしよう」

 

 そう言いながら、2人は難敵の軍勢を前に、不敵な表情で構えを取る。

 

 なんでだろう。自分は、そんなことをされるような人物じゃない。

 

 極めて個人的な理由で、趨勢を傾けるような戦いに関わってきた。その形次第で、彼らのどちらかが死んでおかしくない。

 

 そんなことはわかっているはずだ。それ位に、グレモリーとバアルのレーティングゲームで自分は大暴れしたはずだ。

 

 なのに、それを知っているはずの2人は普通の表情だ。

 

「リセスさんがポカしていろいろ大変だったんだって? だったら、うまいものを食ってスッキリしないと損ってもんだ」

 

「同感だ。理不尽に巻き込まれた経験には俺も一家言あってね。此処で君が死ぬことを見過ごすのはさすがにできないね」

 

 その温かい言葉に、ニエは涙をこぼしそうになる。

 

 しかし、それを渾身の力で抑え込んだ。

 

 今この場で、泣き崩れている暇はない。

 

 だから、ニエは笑顔を浮かべると二人と並び立った。

 

「力を借りるよ。……ちゃんと食べさせてもらうからね!!」

 

 そして、三人の神滅具使いによる共闘が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのころ、グレモリー眷属たちも趨勢を理解した。

 

「ギャスパーも、ロスヴァイセも、よく頑張ったわ」

 

 眷属たちの雄姿に、リアスは笑みをこぼしてしまう。

 

 直ぐに気合を入れなおすが、然し歓喜の感情は下がりはしない。

 

 三大勢力の命運がかかったこの一戦。その趨勢を左右する根幹を、2人は見事成し遂げてくれたのだ。

 

 なら自分たちも負けるわけにはいかない。有象無象を少しでも減らして、トライヘキサに対する止めまでに戦力を温存しておかなければならないだろう。

 

「行くわよ皆! ここで、私達が勝たなければいけないわ!!」

 

「「「はい、部長!」」」

 

 幸か不幸か、ここにいるのはかつてイッセーと出会う前まで活動していた古参の眷属。

 

 女王、姫島朱乃。

 

 戦車、塔城小猫。

 

 騎士、木場祐斗。

 

 そのころは封印処置がされていたギャスパーがいないのは、ある意味でギャグのような展開だ。運命すら感じてしまう。

 

 この戦いはもはや運命、そうとすら感じられ―

 

「―なるほど。どうやら私はついてないようです」

 

 その言葉に、全員が戦闘意識を切り替えた。

 

 そこにいるのは、狼を模したプロテクターを身に着けた一人の女性。

 

 リムヴァン直轄部隊、イグドラフォースの一員。反オリュンポス組織、アルケイデスの1人。イグドラハティ、デイア・コルキス。

 

 今この戦場において、ヴィクター経済連合の最高戦力の一角。

 

「ごきげんよう。どうやら、私達の相手は貴方のようね」

 

「ええ。できれば神滅具使いを相手したかったのですが、そうさせてくれる相手でもないですしね」

 

 お互いに苦笑を浮かべながら、お互いに相対する。

 

 神器に対する封印能力を持ったデイアとしては、もっと多くの神器使いを相手にするべきだろう。

 

 だが、仙術にたける小猫ならばすぐに気づかれてしまう。そうなれば、どちらにしても足止めを喰らうのは当然だ。

 

 ゆえにここで戦闘を行い、倒すほかない。

 

 デイアとしては苦肉の策であろうが、しかしそうするしかない。

 

「さて、それじゃあサイラオーグとのレーティングゲームを台無しにしてくれた借りを返しましょうか」

 

「いいでしょう。魔王の末裔程度倒せなければ、オリュンポスの神々に復讐できませんから」

 

 そして、この空域でも大激戦が開始される。

 

 いずれ生半可な魔王クラスを凌駕する鬼才と化すリアス・グレモリー。

 

 彼女がその才能を開花できるかどうか、それはこの戦いを潜り抜けれるかどうかにかかわっている。

 




神滅具保有者三名による防衛線。ある意味一番強大な戦力ですね。

そしてリアスたちも強敵と接敵。まだまだ激しい戦いは続きます。


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最終章 15話

一方そのころ、ほかの戦場でも激突は続いており―


 

 そしてそのころ、シトリー眷属は大苦戦を強いられていた。

 

「こんなもんか、ま、これだけ強化してんなら当然だよな」

 

 軽くため息をつきながら、ジェームズは苦戦する敵を見据える。

 

 イグドラフォース最強戦力、ジェームズ・スミス。神滅具だけでなく元から神器も強力で、さらに龍王の後継種を封印したイグドラヨルム。その戦闘能力は、神クラスにも匹敵する。

 

 その圧倒的な攻撃力を前に、シトリー眷属はそのほとんどが戦闘不能になっていた。

 

「これが、リアスたちを苦しめたイグドラフォースですか……!」

 

「会長、俺の後ろに下がっていてください!!」

 

 すでに動けるのは、中でも別格のソーナと匙のみ。

 

 ほかのメンバーは戦える状況ではなく、誰一人として死人が出ていないことが奇跡だった。

 

「上等だ! だったらやってやらぁ!!」

 

 渾身の力を込めて、匙は突撃を開始する。

 

 同時にラインも大量に展開、あらゆる方向から力を吸い取るべく遠慮なく攻撃を行う。

 

 その大量のライン攻撃はまさしく脅威。一本でも触れられれば同格の力を宿しているとはいえ苦戦は必須だろう。

 

 しかし、ジェームズは動かない。

 

 ただ静かに小銃の神器を構えると、その引き金を連続で引くのみ。

 

 狙いもつけてない雑な砲撃、普通に考えれば、一発も当たるわけがない。

 

 しかし、その砲撃はすべてが直撃した。

 

 一つ一つのラインに当たり見事に吹き飛ばす。

 

 さらにラインが吹き飛ばされれば、本体である些事にまで攻撃が届く。

 

 匙はとっさに回避行動をとるが、そもそもジェームズは狙いすらつけていない。

 

 そんな雑な攻撃が、然しすべて命中する。

 

「匙!!」

 

「来ないでください、会長!!」

 

 思わず駆け付けようとするソーナを制しながら、匙は渾身の力でジェームズに迫る。

 

 理由はわからないが、相手の攻撃はすべてあたると考えた方がいい。よけようとしても躱せないのはよくわかった。

 

 ならば、避けることは考えない。

 

 すべての攻撃を無理やり耐え、強引にラインを相手につなげるのみ。

 

 その強引な戦法に、ジェームズは半分呆れかえった。

 

 だがしかし、この能力に対する対処法としては及第点だ。

 

 喰らうことを避けられないのなら、無理やり強引に進めばいい。そういう対処方法しか思いつかないのは残念だが、実際それ位しか対処方法がない能力でもある。

 

 どうあがいても一定以上の防御力が無ければ勝ち目がない。そういう能力である以上、どうしようもないのだ。

 

 そして、だからといってそんな方法で楽に勝てるわけでもない。

 

「砕け散れ、禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 即座に流星破壊(メテオ・バスター)を禁手化させ、攻撃をさらに激しくする。

 

 同時に、封印されていたヨルムンガルドの力を活性化。オーラとしてヨルムンガルドを具現化させ、その頭頂部に一体化する。

 

 そして、圧倒的に強化された攻撃の雨あられを一斉に掃射。究極の羯磨の亜種禁手の力で強引に全弾命中させる。

 

 その猛攻に、匙は確かに耐えた。

 

 しかし、同時にあまりの猛攻に押し返される。

 

 当然といえば当然だ。イグドライバーシステム食型の中でも、イグドラヨルムは最強。龍王であるミドガルズオルムを戦闘特化型に再設計したヨルムンガルドは伊達ではない。

 

 知能こそ劣化しているが、単純な火力と攻撃力ならヨルムンガルドはオリジナルであるミドガルズオルムを超える。その圧倒的火力は、魔王は愚か神クラスにも届くだろう。

 

 対して、匙元士郎が宿すヴリトラはからめ手や特殊能力によって戦うタイプだ。真っ向勝負に持ち込まれれば、押し切られるのは仕方がない。

 

 最初に、真っ向勝負の形に持ち込まれた時点でこの戦いの勝敗は決まっている。

 

「ざまあないな。俺みたいな空っぽな奴に追い込まれてるんだからよ」

 

 正直、少し無情を感じてしまう。

 

 ジェームズは、自分が空っぽであることを理解している。

 

 匙元士郎のように、愛してくれる家族も、守りたいなにかも、かなえたい野望も、あってほしい理想もない。本当に何もないのだ。

 

 そんな自分が神にすら届く戦闘能力を手にしたことは喜ばしい。しかし同時に、これだけ何かを持っている男が、何も持ってない自分に倒されようとしていることに憐れみすら感じる。

 

「投降するならうけつけるぜ? あんたらならそれなりに役に立つだろうしな」

 

 そう告げるが、しかしその返答も分かりきっている。

 

 むろん、怒りという名の拒絶が返ってきた。

 

「ザケんなよ、あぁ!?」

 

 渾身の怒りとともに放たれる黒炎を、ジェームズは砲撃を当てて相殺する。

 

 そして連続で反撃を当てながら、然しジェームズは向かってくる匙に驚いた。

 

 明らかに先ほどより対抗できている。怒りで神器の性能が引き出されるのは知ってはいるが、性能差を覆しそうになるほどとは思わなかった。

 

「俺たちが、夢をかなえるためにどれだけ頑張ってきたと思ってんだ!! てめえ、それを馬鹿にしてんのかよ!?」

 

 なるほど。そういう感情で来るとは思っていた。

 

 夢のため、仲間のため、家族のため、愛のため。そういうなにかは苦しいことに耐える力になる。そして、それが努力を積み重ねることにつながり力に代わる。

 

 だが、それも圧倒的な力の前には無力だ。

 

「なら倒してみな! おまえ、さっきから負けてばかりだろう!!」

 

 さらに攻撃を当て続け、ジェームズは再び匙を押し返す。

 

 攻防特化型の龍王と特殊能力特化型の龍王。真っ向勝負に持ち込まれては、どうあがいても苦戦は必須だった。

 

 しかし、それでも匙元士郎は屈しない。

 

「ああ、勝ってやるよ!!」

 

 眼には諦めの色をかけらもださず、実際欠片も諦めないで、匙元士郎は突撃を開始する。

 

「たとえ俺が死んでも、俺の仲間たちが、俺たちと一緒に戦ってくれる奴が、お前を倒す!! 俺はそいつらが進めるよう、一歩でも前に進んでやる!!」

 

 血反吐を吐きながらそれでも突撃し、そして匙は前に進み―

 

「そうか。ならお前の前進はここまでだ」

 

 最大出力のヨルムンガルドの砲撃が、匙元士郎を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 死んだ。匙はそう直感した。

 

 龍王の力を最大限に発揮した今の自分ですら、イグドラシリーズには勝てなかった。

 

 家族が悲しむ。仲間が悲しむ。主が悲しむ。

 

 教師になれない。家族の面倒が見れない。ソーナと添い遂げられない。

 

 だが、それでも。

 

 せめて一歩でも前進し、そして一瞬でもいいからラインをつなげよう。

 

 そしてちょっとでも力を吸い取ることができれば、それだけでも勝利に一歩近づける。

 

「届けぇええええええ!!!」

 

 そして圧倒的な力の奔流をその身に受けようとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、私が力を貸しましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、匙は何かに取り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジェームズは、その新たな姿を見て、ぽかんとなった。

 

「……なんだありゃ?」

 

 そう言いたくなるのも無理はない。

 

 今ジェームズの目の前には、機械でできた何かがある。

 

 一瞬恐竜を模したのかと思ったが、どちらかというと龍だ。龍の頭部に人型の何かがのっかっている。

 

 サイズも今の自分と同様だ。むしろ頭部に接続されているサイズなら、あちらの方が上だろう。

 

 っていうか、なんだ、あれ?

 

 そう思ったその瞬間、声が響いた。

 

『なんじゃこりゃぁああああああ!?』

 

 どうやら、匙元士郎は消し飛んでなかったらしい。しかしなぜか姿が見えない。

 

 っていうか、オーラが機械の龍から聞こえてくる。

 

『なんだこれは!? 二天龍やファーブニルの二の舞だというのか!?』

 

 何やら絶望の感情を込めた、ヴリトラの叫びすら聞こえてくる。

 

 というより、二天龍やファーブニルに近しい色物はさすがに嫌らしい。まあ、あれを喜べるような輩はいないと思うが。

 

 そして、イグドラヨルムのセンサーが、更に頭の痛くなる反応を出した。

 

 その機械龍から、よりにもよってアガレス家の反応が出てきたのだ。

 

『大丈夫ですか、匙元士郎。今あなたは、このアガレス軍のフラッグシップ機として開発されたデュークミーに取り込まれています』

 

 しかもアガレスの次期当主の声が聞こえてきた。

 

 どういうことなのだろうか。

 

 人工的に大型兵器を用意しても、この戦場で太刀打ちできるとは思えない。

 

 下級中級を超える戦闘能力をもった兵器なら、作れないこともないだろう。防人一型などはあるし、一般兵士が使用する分なら、それなりに採算もとれる。

 

 だが、最上級クラスの兵器を開発するとなれば話は別だ。開発そのものが困難極まりないし、コストパフォーマンスが追い付かない。

 

 それなら王の駒を開発する方がよほど安上がりだ。人工神器でももう少し小型のものが作れるだろう。

 

 なにせでかすぎる。あれを開発するのに、何億ドル使われたのか考えると頭が痛くなる。

 

 何で敵の心配をしなければいけないのだろう?

 

 そんなジェームズの思いをよそに、機械龍から声が響く。もちろんアガレスだ。

 

『さあ、このアガレス家・神の子を見張るもの(グリゴリ)・日本政府が共同開発した、私専用の機動兵器が相手です。このデュークミー、伊達に私とグリゴリの資金を投入して、技術大国日本の全面協力を得たわけではありません!! コアとして龍王ヴリトラを得た今、その戦闘能力は魔王クラスです!! ミニッツ級空母を三隻作れる製造費用は伊達ではありません!!』

 

「その金をほかに回せよ」

 

『反論できねえ!!』

 

 ぺらぺらとすごい金の無駄遣いを宣言するシーグヴァイラに、ジェームズと匙は敵味方の垣根を超えてツッコミを入れる。

 

 しかし、シーグヴァイラには聞こえていない。

 

『さあ! お父様の目を盗んで開発したこのデュークミーの力を思い知りなさい!! 悪堕日三勢力同盟の技術力、とくと味わいなさい!!』

 

 テンションが高まりすぎて目が血走っているシーグヴァイラが、そう言いながらスイッチを押す。

 

 その瞬間、デュークミーの全身から光が漏れる。

 

 そして、一斉に放たれた光弾は曲線を描きながらジェームズに殺到した。

 

『光弾瀑布! アガレスサーカスミサイル!!』

 

「『ビームじゃねえか!?』」

 

 ついにツッコミが重なったが、そんなことを聞くシーグヴァイラではなかった。

 

 シーグヴァイラ・アガレス。若手四王(ルーキーズ・フォー)が一角。その力は若手四王の中では最弱とも称されるが、政治手腕も込みで言うならば、若手四王でも最高に近いものである。

 

 アグレアス攻防戦においてアグレアスの有力者を短時間で取りまとめ、作戦指揮を執り行った手腕は本物。その政治力も含めれば、若手四王の一人として選ばれるだけのことはある、有数の実力者である。

 

 だがしかし、この人致命的な欠点がある。

 

 ……オタクの上にドをつけるほど、ロボットマニアなのだ。

 

 そして数多くの者たちにダンガムを広めることとなる、シーちゃんの暴走が生んだのがこのデュークミー。

 

 完成してから現大公が事情を知り、止めなかった神の子を見張るもの及び日本政府と国際問題を起こすことも考慮したほどの金を動かして開発された、デュークミー。

 

 その最初にして最後の見せ場が、今始まった。

 




なんか最終決戦でシーちゃんを魔改造してくれと言われたので、彼女の趣味合わせてスーパーロボットを用意しました。イメージとしてはドッゴー〇


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最終章 16話

そして激戦は何処でも頻発していたり


 

 一方そのころ、ほかの戦場でも激戦は続いていた。

 

 その戦況は五分と五分。ほぼ互角と言ってもいいだろう。

 

 トライヘキサという切り札を封じられたヴィクター経済連合は、初戦に比べれば間違いなく士気が落ちている。トライヘキサを切り札としていたのだから、それが封じられれば当然心理的に負担がかかるのは当然だ。

 

 しかし、連合軍もまた恐れおののいている。

 

 この封印がいつまで続くかわからない。そして、その圧倒的な力を敵に回したことの恐怖は確かに刻まれている。

 

 兵藤一誠たちのように、恐怖を押し殺せる強い心を持っているものは数少ない。彼らは希少な人材であり、普通はあれだけの力を前に心を折られるものも多いのだ。

 

 トライヘキサの封印が成功したとはいえ、その恐怖は隙を生み、ヴィクターの反撃を許してしまう。

 

 イグドラフォースと英雄派に戦死者が出ているが、しかし連合軍もそれは同じ。

 

 この戦いで五代宗家や妖怪たちの腕利きにも死者が出ている。冥界側からの戦力でも、かつての戦乱を生き延びた古参のものにすら死者や戦線離脱者が出て来ているのだ。

 

 ハルマゲドンとも形容できる、世界の命運をかけたこの戦いは、まだ続く。

 

 そして、ヴィクター経済連合の精鋭は未だに数多いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キュラスル・スリレングはその怪力で敵をつぶし続けている。

 

 筋力強化の神器に、筋線維増大の禁手。さらに肉体を改造できる神滅具に、圧倒的な力を発揮する強化装備。それらすべてがキュラスルの戦闘スタイルと見事に合致している。

 

 その戦闘スタイルは近接戦闘だ。ゆえに撃破されている敵の数こそ少ないが、しかし確実に敵を撃破していることに変わりはない。

 

 あのサイラオーグ・バアルと真正面から渡り合える近接格闘の猛者。その拳は、最上級悪魔の防御結界すらたやすく打ち砕く。

 

 全装備を含めたその力は魔王クラスにすら匹敵する。それを止めることなど、並大抵のものでは不可能だった。

 

「はっはぁ!! いいなぁこういうの!!」

 

 そして、キュラスルは圧倒的な力で暴れまわることを楽しんでいた。

 

 もとより彼は、大義などない野蛮な暴れ者だ。

 

 より強大な力を使って暴れたいがゆえにヴィクターについているが、大義も野望も特にない。

 

 それゆえに、最も強大な力を与えてくれたリムヴァンの言うことをきちんと聞くが、しかしそれだけだ。

 

 だからこそ、彼は目的に関係なく敵を殺し続ける。

 

 それが彼がしたいことだからだ。他者の命を奪うという、もっと野蛮で残虐な楽しみを、彼は良心の呵責を一切感じず行っていた。

 

 そしてその拳は、遠慮なく上級悪魔を三連続で文字通り粉々にする。

 

 鎧袖一触とはこのことだろう。圧倒的な筋力から生まれるその暴虐は、上級程度では太刀打ちできない。

 

 そして、その目がおびえ切った上級悪魔の眷属たちにむけられる。

 

「んじゃぁ、ちょっと弱い者いじめでもするとすっか! 無双ゲームってのも面白いしなぁ!!」

 

「ひ……っ!」

 

 その加虐的な視線に、眷属悪魔たちは恐れおののく。

 

 レーティングゲームとは違う、死と隣り合わせの戦場。トライヘキサという圧倒的すぎる悪夢の近くでの戦争。そして、最強戦力である主がたやすく殺されるような戦闘。

 

 それらすべてにおびえ切り、彼らは逃げることすらできなかった。

 

 もはや碌な抵抗もできないだろう。彼らには、戦うという選択肢は愚か逃走という選択肢すら存在しなかった。

 

 そして、キュラスルはそういった者たちを殺すことすら楽しめる。

 

 強敵との凌ぎ合いはもちろん滾る。だが、吹けば飛ぶような雑魚をまとめて殺す殺戮もまた、彼を興奮させるのだ。

 

「んじゃ、ちょっとわんこそば感覚で食い散らかすか!!」

 

 そして、その拳は勢いよく振るわれ―

 

「―おいおい。人様の海を血で汚してんじゃねえよ」

 

 ―その拳を、片手で受け止める者がいた。

 

 およそ拳によるものとは思えない轟音を響かせながら、しかしその拳は何も壊せず殺せない。

 

 なぜなら、それを受け止められるものが、ついに戦場に出てきたからだ。

 

「ったく。引継ぎが完了したからちょっと士気高揚のために出てくりゃぁ、なに下衆なことしてやがんだ、ああん?」

 

「ああ? てめえこそ、なんでこんなとこに出てきてんだ?」

 

 その拳を止められたことに、キュラスルは斟酌しない。

 

 彼は強敵との凌ぎあいでも楽しめる手合いだ。だからそこは問題ない。

 

 止める敵が出てきたことに、キュラスルは疑問を覚えたりしない。

 

 この戦場には最上級悪魔クラスもゴロゴロいる。肉弾戦特化型なら、一発や二発ぐらい止めれるものもいるだろう。それ位にはキュラスルも想像力はある。

 

 問題は、それがここに出てくるような手合いではないということだ。

 

「総理ぃ!? いきなりイグドラフォースを相手にしないでください!! ご自愛、ご自愛!!」

 

 涙目の鈴女が声を張り上げるように、それは総理大臣だったから、キュラスルも首をかしげたのだ。

 

 総理大臣は日本国のトップだ。非常時においては自衛隊の指揮権を握ることもあるが、人間世界の国家の軍のトップは、普通後方で指揮を執る。

 

 間違っても、前線で敵の精鋭の拳を受け止めたりしない。

 

「そうりだいじんってのは、こんなとこに出てくるもんじゃねえだろ?」

 

「馬鹿野郎。文明国のトップってのは、非常時に備えて死んだときの代理が用意されてんだよ」

 

 なんてことの内容に、大尽はキュラスルにそう答える。

 

 そして首をコキコキ鳴らすと、龍の装甲服越しにキュラスルに特大の殺気を放った。

 

「戦力出し惜しみする余裕もねえだろ? 戦える奴は出せるだけ出すんだよ。戦力の小出しは愚策だっつの」

 

 そう。確かに総理大臣は普通は前線に出ない。

 

 だが、自衛隊の最強戦力を出さないでいるほど、状況は静観できるものではないのだ。

 

 何より、トライヘキサ停止という好機を前に、自衛隊もまた増援として動いていた。

 

 この機を逃す愚行は犯せない。故に全力で戦うのみ。

 

 そして、古来より指揮官が前線に出てくるのは戦意高揚の手段として使われる手の一つだ。

 

 ましてや大尽は最強戦力。あの悪神ロキを殴り飛ばした猛者中の猛者、人間世界の国家首脳でなら、まず間違いなく最強である。

 

 史上最強の総理大臣。大尽統は自分の戦闘能力をよく理解していた。

 

 ゆえに、この好機に出てこないなどという温存策はとらない。

 

 もとより文明国の国家元首は、何かあったときに備えて代理などの準備がとられているものだ。大尽内閣でもそれはきちんとされているし、引継ぎもちゃんとしておいた。

 

 ゆえに、ここが動きどころ。大臣はそう判断したのだ。

 

「……この国の領海で好き勝手やりやがって。宣戦布告してるんだから、いかに専守防衛日本国自衛隊でも、攻撃できるんだぜ、筋肉野郎!」

 

 その怒気と殺気を真正面から浴びながら、キュラスルは嗤う。

 

 彼にとって殺し合いは趣味といってもいい。一方的に弱者をなぶるのも楽しいが、強敵と絶妙なバランスで殴り合うのも最高だ。

 

「いいぜ? 本気だ、本気で殺すぜ」

 

 最高の歓喜とスリルを味わいながら、キュラスルは拳を握り締める。

 

「お前は強いってわかりきってるからなぁぁあああああああ!!!」

 

 そして全力で殴り掛かり―

 

「上等だおらぁあああああ!!!」

 

 大尽との、殴り合いが勃発した。

 

 ここに、日本国歴代総理大臣史上最大の、総理大臣による直接戦闘が勃発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、英雄派幹部の一人であるゲオルクもまた、戦闘を開始していた。

 

 そして、その相手は苦戦を強いられていた。

 

「これは面倒ですね。どこにいるのか全く分かりません」

 

「黒歌、転移だけは何としても防いでくれよぉ! 出ねえとどこに連れていかれるかわからねえからよ!」

 

「わかってるわよ!! だからとにかく攻撃を防いでなさい!!」

 

 ヴァーリチームを相手に、ゲオルクは圧倒的優勢に立ち回っていた。

 

 勿論、さすがの上位神滅具使いであっても限度はある。ヴァーリチームの中でも規格外の三人を相手にして、単独で圧倒するのは困難だ。

 

 最強の聖剣、聖王剣コールブランドの使い手、アーサー・ペンドラゴン。

 

 伝説のはぐれ悪魔。妖猫の雌である仙術使い、黒歌。

 

 西遊記の後継者、孫悟空の末裔、美候。

 

 その三人を相手に、ゲオルクは速攻で切り札を切った。

 

 すなわち、業魔人(カオス・ドライブ)である。

 

 ゲオルクの禁手は願った結界装置を作り出す霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)

 

 そして、それが業魔人で強化されたことによってその力はより強大化した。

 

 もはや、霧そのものが結界装置として機能し、あらゆる感知を阻害したのである。

 

 あらゆる探知魔法や魔術を無効化する結界装置と化した霧は、仙術使いである美候はもちろん、ほかの魔術や呪術にすら優れている黒歌ですら居場所を特定することができない。

 

 さらに、ゲオルク自身は転移能力を利用して、遠隔地から多角的な砲撃を叩き込んでいる。

 

 すでに同じ戦域にいた者たちは全員倒されている。伝説クラスの妖怪や、歴戦の悪魔祓い、そして最上級悪魔すら倒された。

 

 そんな中、最後まで生き残っていることが、ヴァーリチームが桁違いの化け物であることの証明だが、このままではじり貧である。

 

 なにせ位置がわからない。結界を破るほどの火力を出すことは不可能ではないが、然し無駄打ちしてはすぐにガス欠になる。

 

 転移を防ぐためにかなりの力を使っていることもあり、無駄打ちする余裕はさすがのヴァーリチームにもなかった。

 

「我が結界空間の前には、誰一人として逃げることはできん。……新たに入ってきた者たちも、すぐに消し去ってやろう」

 

「んの野郎。ヴァーリと互角にやり合ったことがあるだけあるじゃねぇかい」

 

「これだけの猛者がいた勢力にいたことは自慢になりそうですが、然しいいようにされるのはいただけませんね……」

 

 放たれる攻撃を殺気で察知してはじく美候とアーサーだが、しかしいい加減体力を消耗しているため、負担も大きい。

 

 このままでは押し切られる。そんな嫌な予感を察してしまった、その時だった。

 

「……あ! やっと味方がいた!!」

 

 そんな半泣きの言葉に、美候たちは振り返った。

 

 この処刑空間に取り込まれて、まだ生き残っている者がいた。

 

 その事実に軽く驚くが、然しその姿を見れば納得する。

 

「あら、リセスの幼馴染じゃない。たしかプリスだったかにゃん?」

 

 リセスと腐れ縁となりつつある黒歌が、すぐに気が付いて声をかける。

 

 そこにいたのはプリス・イドアル。リセス・イドアルと同じ施設の出身であり、紆余曲折あり三大勢力に投降した転生悪魔だった。

 

「……なんでヴィクターだったあんたがここにいるんだぜぃ?」

 

「鏡、みよう?」

 

 美候の完全なブーメラン発言に、プリスは真顔でツッコミを入れた。

 

 アーサーも黒歌も反論しない。今のは完全に美候が悪い。

 

 一応言っておくが、プリスは投降して収監されている。来歴的にも不幸で、主にも微妙に恵まれず、本人の意思とはあまり関係ないところで振り回された不幸な被害者である。

 

 ちなみにヴァーリチームは、監視役ありだが特に刑を受けていない。自発的に参加しまくった、暇人の集団とも揶揄されている。

 

 ……何かが間違っていると思ったあなたは、その感性を大事にした方がいい。

 

「いっそアンタ、生き残ったらうちのチームに入るか? ヴァーリが主神の養子になったから恩赦出るぜ?」

 

「ですね。聞けば周りに振り回されただけとのこと。私たちと同じ待遇でも問題ないのでは?」

 

「ついでに一緒に赤龍帝ちんのとこに住む? 今ならリセスもついてくるニャン」

 

 などと軽口をたたくが、然し三人の表情は硬い。

 

 位置さえ分かれば反撃はできる。しかし、その位置を把握することができない。

 

 様々な魔法に長け、結界の極みといえる神滅部を持つ男。英雄派きっての魔法使い、ゲオルク。

 

 黒魔術・白魔術・ルーン魔術・セイズ魔術・仙術妖術錬金術etc……。

 

 あらゆる異能対策を万全にした霧型結界の前に、そもそも位置をつかむことが不可能という窮地であり―

 

「―じゃあ、先ずあの人倒してからで」

 

 ―それを、どうということはないとでも言わんばかりのあっさりさでプリスは切って捨てた。

 




闘う総理大臣、大尽統参戦!!

日本の危機にいてもたってもいられず、あとのことを任せれる状況を作って、遅れながらも参戦しました。壮絶な殴り合い、勃発です。


そして業魔人もしっかりしよう。英雄派も激戦です。

完全に追い込まれているヴァーリチームを救う窮地の光、プリス・イドアルのあっさり言い放った逆転の勝機とは!?


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最終章 17話

VSデイア編、決着。

彼女の禁手をあまり生かせなかったのは、正直心残りです。リベンジの機会がちょっとほしいところ


 

 放たれる全包囲攻撃を回避若しくは防御しながら、リアス達はデイアに反撃するチャンスを見定める。

 

 既に異空間に飲み込まれ、こちらが圧倒的に不利である。

 

 蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)。所有者の理想郷といえる世界を具現化し、神の如き所業を可能とする神滅具。

 

 その力により大量のドーインジャーとあらゆる方向からの魔法攻撃が放たれ、リアスたちは苦戦を強いられていた。

 

 この四人の中で最強ともいえる祐斗が、デイアとの相性が致命的に悪い事も大きい。

 

 魔剣創造から派生する神器の力を基本とする祐斗にとって、神器の段階を一段階下げるデイアの禁手は最悪の相手だ。

 

 聖魔剣の力も、聖覇の龍騎士団も使えない。

 

 かろうじて聖剣は使うことができるものの、相手が悪魔でない以上、魔剣と大して変わりはしない。まったくもって意味がない。

 

 ゆえにグラムを使うしかないのだが、これまた負担が致命的に大きいという最悪の状況。

 

 ある程度の安全運用は確立したが、それは聖魔剣や騎士団を使っての事。そもそも禁手を封じられては意味がない。

 

「これは、流石にまずいですわね」

 

「……接近できない……っ」

 

 朱乃も小猫も苦戦を強いらている。

 

 ただでさえ、デイアの力は遠距離戦闘に特化している。その砲撃戦闘能力は、生身でもロスヴァイセに匹敵する。

 

 そこにイグドラシステムによる身体能力向上。更に保有する聖母の微笑による回復まで追加されているのだ。

 

 不幸中の幸いは、一人で相手をしている為、味方を回復するという手段が使えない事だ。

 

 もしこれで、他のイグドラフォースがいたらどうなっていたことか。いや、量産型のグレンデルやラードゥンがいただけでも決着はついていただろう。

 

 ひとえに周囲の敵を殲滅できるだけの力があることが理由だ。それをなせるリアスたちが、若手の領域を遥かに越えた規格外であることの証明だろう。

 

 しかし、相対する敵も規格外。

 

 イグドラフォースが一角、アルケイデスの精鋭、デイア・コルキス。

 

 その戦闘能力は、後天的移植も含めれば極覇龍とすら渡り合えるだろう猛者だ。いかにリアスたちが若手の規格外といえ、それには限度がある。

 

 そして、デイアはここに来て更に手札を切った。

 

「出し惜しみはしません! 禁手化!!」

 

 その言葉共に、デイアの周囲から赤く輝くフィールドが発生する。

 

 それに対して防御を行おうとし、リアスはふと気が付いた。

 

 デイア・コルキスの神器は聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)だ。その回復力は、アーシアでよく分かっている。

 

 そしてそれを展開する理由はない。箱庭の力によって生み出されてるドーインジャーでは回復の効果は届かないのだ。

 

 なら、何をするつもりなのか。

 

 リアスはそれに一瞬で思い至った。

 

 理由は簡単。その輝きだ。

 

 聖母の微笑の輝きは緑系統だ。しかし、今の光は赤系統である。

 

 まるで()()したかのような色合いに、リアスは一瞬で敵の禁手の能力を理解した。

 

「皆! あの光に触れてはダメ!!」

 

 言うが早いか、機動力で劣る小猫を抱えてリアスは一気に飛び退る。

 

 それに合わせて離脱する朱乃と祐斗を見ながら、デイアは感心する。

 

「……既に読みましたか、お見事です」

 

「やっぱり! その力は、回復の反転現象……!」

 

 聖母の微笑の回復力は強大だ。

 

 その回復力があるからこそ、リアス・グレモリー眷属はこの一年足らずの激戦を全員で生き残る事ができたと言ってもいい。

 

 ゆえにこそ、それが攻撃力と変換された時の恐ろしさは察する事ができる。

 

 それほどまでに、圧倒的な力の具現が襲い掛かっていた。

 

「我が禁手、魔女の嘲笑(ミッドナイト・ペイン)であなた方を終わらせましょう。この切り札をもってして、貴方方を滅します!!」

 

 その宣言と共に、デイアは一気に接近する。

 

 神速を誇る神喰狼フェンリル。その子供であるハティを取り込んだイグドラハティ。その速度は、神速と言っても過言ではない木場祐斗にすら匹敵する。

 

 そこに範囲に特化したデイアの力が加わわれば、一瞬で勝負はつくだろう。

 

 そして、僅か一分でオーラは届き―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いいえ。滅すのは私の専売特許よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―その一分で、反撃の策はなされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リアスは、これでも勤勉である。そして、努力家である。

 

 というより、悪魔業界では珍しい努力を旨とする人物だ。眷属を鬼コーチとして鍛えているし、自身もしっかり特訓している。

 

 そう言う性分故にアザゼルの指導も受けている結果、既に彼女も最上級悪魔クラスの力を身に着けている。ゆえにこそ消滅の魔星という極みを得ているのだし、それによって二度も伝説級の邪龍を倒す事ができたのだ。

 

 そして、その勤勉さは仲間達の戦い方も学んでいる。

 

 ……かつて、彼女の幼馴染であるソーナ・シトリーはヴァーリ・ルシファーの襲撃を受けた。

 

 史上最強の白龍皇と呼ばれる事が確実で、既にその片鱗を見せつけてきたヴァーリは、その時点のソーナ達が戦うには危険過ぎる相手だった。

 

 だが、ソーナ達は勝った。

 

 ゆえにこそアウロス学園設立が可能になったのだ。それほどまでのジャイアントキリングをなしとげる彼女ならば、多くの悪魔をヴィクターから貴族達を守る戦士とできるのではないかと考えた者達が多かったのだ。

 

 そして、その策の根幹が反転(リバース)である。

 

 元々は、堕天使側が神器研究の過程で編み出した技術だ。本来の用途は相反する属性を入れ替える事で、防御に転用する事である。

 

 だが、ソーナはこれを攻撃的に運用した。

 

 ヴァーリ・ルシファーの白龍皇の光翼の力を反転させて、一気に短期決戦に持ち込んだのだ。

 

 そして、その本来の本命は、その襲撃の一件で中止になったリアス達とのレーティングゲームだった。

 

 その力をデュランダルの力を無効化させることや、アーシアの回復を反転させてアーシアを無力化し、あわよくば多くの者たちを倒すことが狙いだった。

 

 その技術と発想は見事であり、旧魔王派がアーシアを利用したこともあったほど。それほどまでに、技術力も発想も成果も絶大だったのだ。

 

 そう、()()()()()の力を()()させるのだ。

 

反転(リバース)!!」

 

 リアスは渾身の魔力で、圧倒的な効果範囲を発揮する攻撃を反転させる。

 

 一瞬で、攻撃の力は本来の回復の力に反転された。

 

 そして、その一瞬をもってして、祐斗が迫る。

 

 ドーインジャーを朱乃と小猫に任せ、祐斗はグラムを全力で解放させて一気に接近した。

 

 想定外の事態に、デイアの反応は一瞬遅れる。そして、その瞬間に祐斗は間合いにまで入っていた。

 

「……くっ!!」

 

 我に返ったデイアは、魔法の展開が間に合わないと見るや爪での近接戦闘に切り替える。

 

 その攻撃速度はまさに神速。並大抵の最上級悪魔なら、この一瞬で迎撃されて即殺だろう。

 

 しかし、その一瞬の攻防を木場祐斗は決して逃さない。

 

 彼は、最強の騎士である沖田総司の弟子。そして、この一年足らずの極限の戦場を生き抜いてきた、リアス・グレモリーの剣。なにより、史上最優にして最強の赤龍帝たる兵藤一誠と並び立つ存在。

 

 熾烈な激戦と過酷な訓練で高められた技量は、まさしく神業。

 

 イグドラフォースがなんだという。神滅具がどうしたのという。その程度乗り越えられないようで、歴代で最も規格外の赤龍帝たる兵藤一誠は越えれない。

 

 如何に神殺しの具現を持ち、神殺しの狼を宿そうと、デイア・コルキスは魔法使いであって戦士ではない。その近接戦闘技量は、性能頼りで修練が足りない。

 

 ゆえに―

 

「僕達の、勝ちだ!!」

 

 ―この近接戦闘に持ち込めた時点で、グレモリー眷属の勝利は確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、危ないところだった。

 

 聖母の微笑を反転させて、攻撃に特化させた禁手。まともに触れれば、即死は免れない。それほどまでの脅威だった。

 

 だけど、僕達は決して一人じゃない。そして、たった一つの眷属で戦っているわけでもない。

 

 D×Dは様々な眷属やチームが一つになった組織だ。そして、その戦いの経験なども語り合っている。特にシトリー眷属とは、同じ駒王学園に通っている事もあってよく戦いについて会話しているなかだ。

 

 だから、何とかなった。

 

 シトリーがヴァーリを倒した方法を知っていたからこそ、この難敵相手に逆転の布石を打てた。

 

 ……とはいえ、僕も限界に近い。

 

 イグドラハティの装甲を突破する為に、グラムの力を文字通り最大出力で発揮した。それも、聖覇の龍騎士団に持たせる事もしていなければ、聖魔剣による防備もない状態でだ。

 

 おそらく、どちらにしても僕は戦線離脱だろう、呪いが酷過ぎてこれ以上の戦闘は無理だ。

 

 まったく。これを躊躇することなく全力で振るい続けてきたジークフリートには頭が下がるよ。イッセー君の力を借りたとはいえ、一瞬でも五分の戦闘ができたことが信じられない。

 

 とはいえ、流石に今は倒れるわけにはいかない。

 

 リアス部長の剣である僕が、目の前の敵を倒す前に倒れるのはいただけない。小猫ちゃんや朱乃さんだけに任せるわけにもいかないしね。

 

 だから、僕はイッセー君から受け継いだ根性で無理やり剣を構える。

 

 そして、目の前のデイア・コルキスは血を吐くと、静かに苦笑した。

 

「……調子に乗りすぎました。やはり、前衛は必要でしたね」

 

 そう言いながら、彼女は魔方陣を展開する。

 

 そして僕が動くよりも早く、イグドライバーに触れた。

 

 その瞬間、イグドラハティの装甲が解除され、イグドライバーとジェルカートリッジがどこかに転移する。

 

「さす、がに……。あれを奪われるわけには、行きませんから」

 

 そう言いながら、デイアは壮絶な笑みを僕たちに向ける。

 

「アルケイデスはまだ残存、しています。オリュンポスには……それ、相応の、罰を与えて見せると……断言、し、ま―」

 

 そして、それを最後まで言い切る事なく、デイアは海に落ちていく。

 

 ……倒したか。

 

 イグドラフォース。かつて僕達を圧倒した存在。そして、今この場においてもリアス部長が機転を利かさなければなすすべもなく殺されていたであろう実力者。

 

 達成感はある。敵将を討ち取った事に対する高揚感もある。

 

 だけど、それ以上に仲間達が心配だ。

 

 後衛特化という明確な欠点を持つ相手ですらこの脅威だ。他のメンバーはより強大だろう。少なくとも、油断できる相手ではない。

 

 にも関わらず、ここで戦線離脱しなければならない自分が恨めしい。

 

 そう思いながら、一瞬目の前が真っ暗になる。

 

 どうやら呪いの影響で失神したらしい。

 

 まずいね。すぐに立て直さないと、僕も海面に激突してしまう。

 

 そう思ったその時、僕の体が柔らかく温かい何かに包まれた。

 

「……お疲れさま、祐斗」

 

 リアス部長……。受け止めてくれたんですか。

 

 あ、これイッセー君に嫉妬されるかもしれないね。後で知られたら色々大変そうだ。

 

 リアス部長もそう思ったのか、少し苦笑している。

 

「ありがとう、私の最強の騎士(ナイト)。貴方が私の眷属なのを、心から誇りに思うわ」

 

 ええ、光栄です、部長。

 

 僕はそう思いながら、今度こそ意識を失っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出来る事なら、例え死んでも起きて戦い続けていればよかったと、後悔するのは起きてからの事だ。

 




聖母の微笑の禁手として、回復能力の反転は一度やってみたかったのです。実際にダメージを与えることはできませんでしたが、グレモリー眷属を追い込む活躍を掛けたので満足です。


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最終章 18話

激戦もそろそろ収束させていきます。ラストバトルも近づいてきていますしね。


 

 Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 超高速で行われる殴り合い、その影響で発生する衝撃波も、それだけで上級悪魔をなぶり殺しにできるであろう威力だった。

 

 ゆえに、割って入ろうとしたドーインジャーは無残にも砕け散る。そして、自衛隊員も接近することができない。

 

 それほどまでの打撃戦で、大尽はキュラスルを少しずつ押し返してきていた。

 

「おいおいマジかよ!? いい年こいたジジイが、俺を凌ぐだと!?」

 

 これに驚くのはキュラスルだ。

 

 人を殴り殺す事には明確な自信がある。神器の性能も高めており、同じ神器使いに限定すれば随一と呼ばれる可能性だってあると自負している。なによりイグドラフォースに選ばれるだけの実力を卑下したりはしない。

 

 だが、今明確に大尽はそれを上回ろうとしている。

 

 放たれる拳は苦労こそしているが逸らされている。そして、相手の拳はこちらのガードをすり抜けて明確に当たっている。

 

 その差が、徐々に趨勢を傾け、明確に大尽を有利な状況に持ち込んでいた。

 

 聖杯による再生が無ければ、三回は倒されている。

 

「ありえねえ! あり得ねえだろ、オイ!!」

 

 内心で焦りながら拳を解き放つが、大尽はそれをスウェーバックで回避。

 

 そして、その瞬間抜き手がプロテクターの隙間に叩き込まれる。

 

 更に蹴りが腹部に叩き込まれ、空いた手はこちらの拳を掴んで更に引っ張る。

 

 そして一瞬で、放った拳の関節が外された。

 

「いくら再生するっつったっても、外れちまった間接ははめねえと治せねえよなぁ?」

 

 そう言い放ちながら、大尽は即座に連続打撃による反撃を叩き込む。

 

 手の数が一つになった事で、明確に攻防のバランスが崩れる。

 

 一気に状況がひっくり返され、文字通り一方的にキュラスルは殴りのめされる。

 

「冗談じゃねえぞこの野郎! 俺は本気でぶち殺しに来てるんだってのに……!」

 

 その状況に、キュラスルは怒りに燃える。

 

 折角楽しみながら暴れ回れるというのに、明確な邪魔が入ってしまった。しかも、下手をすればこのまま倒されてもおかしくない。

 

 それでは嫌だ。思う存分暴れる為に面倒ごとすら引き受けたというのに、ここで倒されるのは流石に嫌だ。

 

 ゆえに、遠慮を微塵もなくして本気を出す。

 

「イグドラスルト、フルドライブ!!」

 

 その瞬間、キュラスルは炎に包まれる。

 

 その炎は質量すら持ち、そして巨大な人型を形成、一体の巨人へとキュラスルを新生させる。

 

 これこそが、イグドラスルトの奥の手。スルトサードの本領を発揮する巨人形態である。

 

 その力を持って強引に勝負を仕掛けに出る。

 

 体格差などという言葉が生ぬるい状況に、流石の大尽も慌てていることだろう―

 

「おいおい。大事なこと忘れてねえかぁ?」

 

 ―と思い、しかし平然としているその姿に、キュラスルは目を見開いた。

 

 その両手には、一本の巨大な戦鎚が握られている。

 

 そして、そこから莫大な稲光が放たれる。

 

「てめえがいくら終末の巨人持ってようが、こっちも戦神の雷鎚持ってんだよ」

 

 そして、そのまま一気に振り抜かれた。

 

「ぶっ潰すせぇ! 嵐砕丸!!」

 

 嵐砕丸、アースガルズが大臣に直々に送った、専用に調整されたミョルニルのレプリカ。

 

 その威力は折り紙付き、雷撃に限定すれば、煌天雷獄にも匹敵する絶大な力がそこにはあった。

 

 そして、それは強引に炎の巨人を粉砕する。

 

 そして、その瞬間に大尽は動く。

 

 躊躇することなく嵐砕丸を手放すと、そのまま勢いよくキュラスルへと跳びかかる。

 

「てめえの敗因は単純だ」

 

 そして、キュラスルがそれに反応するより早く―

 

「年季が足りねえ、技術がこなれてねえってことだけだ、ガキぃ!!」

 

 そのまま、上段回し蹴りがキュラスルの意識を断ち切った。

 

 如何に聖杯による再生能力を保有しようと、意識がなければ拘束されるのは必然。そうなれば、再生能力も意味がない。

 

 キュラスルは思わぬ強敵にかち合ってしまった不運を嘆くこともできず、拘束された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍と龍の激突は、熾烈を極めた。

 

 魔王クラスの攻撃が交錯し、そして周囲を破壊の一色に染め上げる。

 

 既に周囲に味方はいない。圧倒的な攻撃力を前に、足を引っ張ることもできずに余波で吹き飛ばされるだけだと分かっているのだ。

 

 そして、その圧倒的な火力による戦いは、ついに終盤を迎えようとしていた。

 

「アガレスブレェエエエエエス!!」

 

「いちいちうるさい!!」

 

 機械龍の口から放たれる火炎をブレスで弾き飛ばしながら、ジェームズは思わず大声で怒鳴った。

 

 この展開はない、マジでない。

 

 さっきからテーマソングが流れている。なんかよく分からないが、機体の名前であるデュークミーが連呼されている。

 

 ちなみにこれ、ワルノリした神の子を見張るものが昭和の頃のスーパーロボットアニメのOPテーマを参考に創ったものである。本当にどうでもいい。

 

 とにかくこれはない。色んな意味でない。

 

 流石に切れていいと思う。世界の命運がかかっている激戦で、敵の主力を相手に、テーマソング掛けながら金の無駄遣い極まりないものをふんだんに投入している。

 

 うん。これは言っていい。

 

「真面目にやれぇ!!」

 

 遠慮なく全弾発射し、全弾完璧に命中する。

 

 究極の羯磨の禁手、究極の必滅与えし一撃(テロス・カルマ・ウィリアム・テル)。それは命中率操作という因果律干渉だ。

 

 エネルギー系の飛び道具に限定されるが、問答無用で命中したという因果を確定させる。それゆえに避けるタイプが相手なら完勝することもできる。

 

 欠点としては防御主体の相手にはそれだけでは有効打にならないことだ。しかし小銃型神器、流星破装(メテオ・バスター)をシンプルに威力向上で魔王クラスにした流星滅装(メテオ・バスター・マックス)があれば、魔王クラスが相手でも充分な勝算がある。

 

 だが、目の前の敵は更にその上を行った。

 

 どんな動力源を搭載しているのか、敵はこちらの攻撃を全て受け止めて反撃している。どこのプロレスラーだと言いたくなるような回避分投げの戦闘スタイルだ。

 

 ちなみにこのスタイル。巨体ゆえに回避能力が低いこともあるがもう一つ理由がある。

 

 簡単である。スーパーロボット風味で行った。以上。

 

 それを知らない事だけが、ジェームズにとっての幸運だと言ってもいい。

 

 しかし、状況は僅かずつだがジェームズに有利になっていた。

 

 神滅具と龍王クラスの相乗効果で仕掛けるジェームズの力は、あらゆる異形の科学技術の粋を集めたとはいえ、龍王をコアにしたとは言え、限度がある。

 

 個人傾向武装として破格すぎるその力が、僅かずつだが押し切っていた。

 

 とは言えこのままでは時間がかかる。その間にも敵はこちらの戦力を削っていっている。

 

 なら、多少強引だが速攻でカタをつける他ない。

 

 勝機を見出したジェームズは、そこで勝負に出る。

 

 敵の攻撃を強引に突破すると、そのままデュークミーに絡みつき、そして拘束する。

 

 そこから大量のホーミングビームを放射しながら、一気に締め付けて破壊を試みる。

 

 単純な性能なら、機械より龍王クラスの方が上、物理的な殴り合いなら当然上である。

 

 こうなった以上デュークミーに勝ち目はない。時間は多少かかるかもしれないが、それでもはるかに早い時間でジェームズが勝つだろう。

 

 しかし、ジェームズは誤算があった。

 

 否、これを誤算と考えるのはジェームズに悪い。

 

 環境が悪く学もないジェームズは、当然ロボットアニメの知識にも疎い。

 

 そんな彼が、ロボットの定番を知っているわけがないのである。

 

『見事です。デュークミーに王手をかけるとは、流石はイグドラシリーズ』

 

『え!? あれ!? 俺達此処で終わり!?』

 

 堂々と王者の貫禄で、というかどこか楽し気に敗北を語る。そんなシーグヴァイラに、匙は狼狽した。

 

 あまりに威風堂々とした敗北宣言に、ジェームズも一瞬きょとんとする。

 

 それが良くなかった。

 

『仕方がありません。脱出装置、起動!!』

 

 その言葉と共に、人型部分から何かが射出される。

 それは、封印系神器を参考にしたと思しき宝玉を備え付けられた、箱形の物体。

 

 緊急脱出(ベイルアウト)した、デュークミーのコックピットブロックである。

 

 大公跡取りのスペックに合わせたロケット推進の脱出装置は、音速突破で天高く飛び上がっていく。

 

 そして、それにぽかんとしたのが良くなかった。

 

『コックピットブロックの排除を確認。機密漏洩防止用の緊急自爆装置を起動します』

 

「へ?」

 

 その言葉にきょとんとした瞬間―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦術核を超えるだろう圧倒的な爆発が、ジェームズに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イグドラフォース筆頭。イグドラヨルム、ジェームズ・スミス。

 

 彼の敗北は、ロボットアニメの定番である『自爆』を知らなかったことが原因という、なんとも閉まらないものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




大尽総理、貫録勝ち。いかに龍殺しの力があろうと、捌かれればどうということはないのです。

いっぽうジェームズは屈辱の敗北。最後までどこかシリアルなシーちゃんでしたとさ


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最終章 19話

ぬぉおおおおおおお!!! 第一部ももうすぐ終了だというのに、評価がまた下がったぁああああ!!!

この作品をお気に入りにしている皆ぁあああああ!! おらに6以上の評価を分けてくれぇええええええ!!!









まあ、それは置いといて戦闘もどんどんクライマックス。

いくつも決着して残りはわずかですが、その残りが大変です。



 

 俺は全力で槍を突き出し、魔剣をはなつ。

 

 時折ひざや脛や足先にも展開し、ケリと連動して攻撃。さらに肘にも生み出して間合いを変動しながら攻撃を仕掛ける。

 

 姐さんもまた、全身にあらゆる属性を展開して打撃を繰り返す。

 

 さらに武器に属性を追加して攻撃を連発。大容量の格納庫を最大限に生かし、使い捨てにすることで大出力を維持している。

 

 そして、それをもってしても目の前の牙城は崩せない。

 

 英雄派二大筆頭。二人の聖槍使い、曹操と長可。

 

 その戦闘能力は生半可な神を超えるだろう、相性差もあって、神で勝つことは至難の業だ。

 

 方や、群雄割拠の戦国時代で武功で名をはせた猛者。方や、聖書の神の遺志すら強引にねじ伏せる化け物。

 

 さらに厄介なことに、双方ともに禁手に至って攻め立ててきやがる。

 

 曹操は七つの七宝を操って攻撃を行い、長可は真紅の十文字槍を振るってこちらに連撃を仕掛けてくる。

 

 さっきから追い込まれてるのは俺たちの方だ。かすり傷とは言え、負傷しているのがこっちだけだっていうのがキツイ。

 

「どうしたんだい、ヒロイ・カッシウス!! この程度か!!」

 

「どうよ、俺の禁手、血煙纏いし人間武骨はよぉ!!」

 

 振るわれる猛攻に、俺たちは間違いなく不利になっている。

 

 呪いの影響は克服した。命は超スピードで削られてるのがわかるが、肉体的な負担はほとんどない。

 

 何より、覚悟が決まっているからメンタル的なコンディションは今までにないぐらい最高潮だ。まさに人生最後の輝きにふさわしい、花火も消える時が一番輝くって本当だな。

 

 なわけでめちゃくちゃ調子がいいんだが、それで苦戦するとかさすがにないだろ、オイ。

 

「世の中本当に理不尽だらけよね!!」

 

「マジ同感!! 人生最後の時ぐらい輝かせろってんだ!!」

 

 姐さんの愚痴に俺も同意する。

 

 勘弁してくれよ。ここで燃え尽きる気満々なんだから、少しぐらい戦果を上げさせてくれ。切実な願いだ。

 

 まあ、それでポンと首を差し出されてもうれしくねえんだけどな。このあたり複雑な英雄心理ってもんが絡んでくるんだよ。

 

 と、思ったら姐さんに七宝の一つが直撃する。

 

 一瞬だけだが出力が低下した。どうやら女宝を使われたらしい。

 

 それでも一瞬だけでどうにかするとか、姐さんはさすが俺の英雄(輝き)だぜ!!

 

「女宝が効かないか! もはやその戦闘能力は最上級悪魔クラスを超えているね!」

 

「いい感じに滾るじゃねえか! 殺し合いにはもってこいの女傑だぜ!!」

 

 テンションを上げ、そしてやる気を滾らせながら、曹操と長可が迫る。

 

 俺はそれを迎撃しながら、とにかく反撃の糸口を探っていた。

 

 こいつらだって全知全能じゃない。どれだけ優秀でも能力にばらつきはあるはずだ。

 

 そこをつけば勝てる。つけなければ敗ける。

 

 要はそれができるまでの根競べだ。

 

 だが、七宝の連携がそろそろまずい……!!

 

「だが、死にかけの2人組より二天龍の方が戦いたい相手だ。決着は早々につけるとしよう!!」

 

 そう言うなり、曹操は即座に七宝を展開する。

 

 ああもう! どれが来るのか全く分からねえ!! こんなもんどうしろって―

 

「ヒロイ! 雑魚の量産だから薙ぎ払って!!」

 

 その時飛んだ姐さんの言葉に、俺は速攻で反応した。

 

 姐さんがこの状況下で嘘をつくわけがない。だから俺は信用するだけだ。

 

 遠慮なく広範囲に雷撃をはなてば、まさしく雑魚が生み出されてカウンターで攻撃が当たる。

 

 おおビンゴ! でもなんでわかったんだ?

 

「さっきから何度も攻撃を叩き込んでくれたわね。……全部に属性を付加したわ。これで、先読みができる!!」

 

「なるほど! 俺もまだ若いということか!!」

 

 すっげえ! 姐さん、攻撃を喰らいながらそんなことをしてやがったのか。

 

 だが、これで曹操の七宝がある程度対抗できる。

 

 なら俺がすることは―

 

「てめえを重点的に攻撃することにするぜ、長可ぃ!!」

 

「いいねぇ!! そうだ、もっと前に進んで来いやぁ!!」

 

 やる気満々だな、ホント!!

 

 いいぜ! ここで、俺たちが、お前らを倒す!!

 

 そもそも聖槍ロンギヌスの使い手が同じ時代に何人もいるってのがあれだ。ちょっとだけ自分を特別扱いしてたことが馬鹿らしい。

 

 いい機会だ、お前らとついでにリムヴァンを始末して、名実ともに一瞬でいいから俺が唯一無二の聖槍使いになってやるぜこらぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのころ、ジャンヌは優勢に戦闘を行っていた。

 

 とは言え戦闘は激化している。実際、ジャンヌもあの後業魔人を使う必要に迫られた。

 

 下半身を龍と一体化させ、そのまま変幻自在の空中戦闘を行う。空中戦可能な種族が中心となっていることを考えれば、もっと早くするべきだったといってもいい。

 

 そして、既に戦況は完全にこちらに傾いている。

 

 というより、ゼノヴィア・クァルタと紫藤イリナの動きが曇り始めていた。

 

 初期の段階から戦闘を行っていたため、体力がつきかけている。

 

 そして、ヒロイとリセスの参戦という事実に衝撃を受けて精神的なバランスに乱れが生じたからだ。

 

「あらら。お姉さん思うんだけど、これ失敗じゃない?」

 

 そう言うのも当然だ、シシーリアは明確に失敗したといってもいい。

 

 ヒロイとリセスを連れ出したことで、それを知ったD×Dのメンバーに悪影響が出ている。それは、この戦いの趨勢に響きかねない。

 

 戦場が広範囲であることから、まだごくわずかな人たちしか気づいていない、だが、戦闘が長引けばそれに気づく者たちも増えるだろう。

 

 そうなれば、この戦場で三大勢力側の主力であるD×Dは瓦解しかねない。

 

 そうなれば致命的だ。戦況はヴィクター側に傾き、そしてトライヘキサ抜きでも駒王町は制圧されるだろう。

 

 そして勢いづいたヴィクターが、世界を制圧するのも十分にあり得る話だ。

 

 それはシシーリアも分かっている。少なくともそれがきっかけでD×Dの士気に悪影響が出ることは察していた。

 

 しかし、それでも譲れない。

 

「……彼は輝いていなければいけないんです。それが彼の望みで、私の望みだから」

 

 そう。それは譲れない。

 

 シシーリア・ディアラクは、ヒロイ・カッシウスに照らされたからこそここにいる。

 

 彼が一度心を照らしてくれた。そして、一度はそれを裏切ったのに、二度も照らしてくれた。更には、それに報いたくて逆に利用されたのに、三回も照らしてくれた。とどめに、自分の闇を完全い祓うほどの強大な光で照らし切ってくれた。

 

 その輝きを慕っている。彼に照らされて救われたものとして、彼という英雄が輝くことを望んでいる。

 

「……最低なことをしているのは、わかっています」

 

 その結果、彼を大事に思っている人たちの多くを苦しめることになるだろう。

 

 怒られるだろう。憎まれるだろう。嫌われるだろう。敵視されるだろう。

 

 それでも、これだけは譲れない。

 

「それでも、こんな駄娘でも譲れないものはあるから」

 

 それでも自分はこれを選んだ。

 

 自分を照らしてくれた英雄が望むことを。彼という輝きが、輝き続けて果てたいという彼自身の願いをかなえたうえで散れるように。

 

 これはそれ以外に対する裏切りだ。この行為は問題にされ、上級悪魔の道は遠のくだろう。

 

 たとえ感謝されなくても、その手を握らなくても、自分と同じ被害者の居場所を作りたいという、彼女自身の願いも裏切った。

 

 それでも。それでも。それでも。

 

 何度でもこれだけは言おう。

 

「これだけは譲れない。私は、私の輝き(ヒロイ・カッシウス)が陰るさまだけは見たくない!!」

 

 絶対に譲れない一線を守るため、シシーリアは立ち上がる。

 

 勝てないことはわかっている。この戦いで死ぬこともありうる。それが無駄死にになる可能性も大きいだろう。

 

 それでも、ここで戦うことだけはあきらめない。

 

 シシーリア・ディアラクは聖女の資格がない、愚図だとわかっている。

 

 それでも、ヒロイ・カッシウスが照らしてくれたという事実だけは変わらない。

 

 だから、これだけは望もう。

 

 ヒロイ・カッシウスという太陽の輝きを受けて、シシーリア・ディアラクは月のように輝こう。

 

「私がした愚行は、私が(そそ)ぐ!! その影響で不利になるというのなら、私がその分戦って見せます!!」

 

 そして魔王の祝福を構え、シシーリアは吠えた。

 

「私は、英雄に照らされたもの!! そう簡単にこの首を取れると、思わないでください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれる聖槍が、俺たちの体を傷つける。

 

 状況は一刻一刻と変化していっている。

 

 どこかで三大勢力の悪魔が倒されれば、どこかでヴィクターの指揮官が滅ぼされる。

 

 一進一退の攻防が繰り広げられる中、俺たちは追い込まれ始めていた。

 

 この差を生み出す原因は簡単だ。

 

 ぶっちゃけ言おう。才能の差がもろに出た。

 

 執念の差は互角。神器の性能も同等。努力だって、お互いにいろいろな形で行ってきた。

 

 しかし、才能の差だけはそう簡単には縮められない。

 

 様々な状況が同等なら、どれか一つでも上回っている方が有利になるのは当然。それが曹操の類まれなる才能だったというだけの話だ。

 

 神器の数においては長可は聖槍だけだが、そこは戦国武将。戦闘経験の圧倒的な豊富さで補っている。

 

「流石に、いやというほど思い知らされるわね!!」

 

 姐さんも毒づくのはまあ仕方がねえ。

 

 俺たちは、英雄に恋い焦がれている。

 

 自慢に、閃光に、そして先駆者に。形は様々だが、しかし英雄を定義し、それになろうとしていることに変わりはない。

 

 だが、しかし。その方向性が違うせいで真正面からぶつかり合いになっている。そして、その結果俺たちは負けそうになっている。

 

 はっきり言って、おれと姐さん、才能は低い部類だ。

 

 曹操も長可も天然物の聖槍使いだ。しかし俺たちは移植したタイプ。

 

 いや、移植できるってのも立派な才能だとは思うんだけどよ? それはそれ、これはこれで。因みに曹操は移植可能な奴だ。

 

 戦闘に対するセンスによって、俺たちの戦いの趨勢はアイツ側に傾いている。

 

 執念はある。渇望もしている。努力など、常人よりもしてきたと自負している。

 

 だが、そのどれもが同等なら、才能の差が状況をひっくり返すのは当然だ。

 

「なかなかやるが、そろそろ終わりみたいだなぁ!!」

 

「楽しめたよ、だが、真の聖槍使いは俺たちだ……!」

 

 曹操と長可の連携攻撃が、おれと姐さんを傷つける。

 

 ……クソ、ここにきてこうなるのかよ!?

 




死に物狂いで努力している者同士の激突ならば、才能は小さいようで大きな差になる。ここにきて、原作でも天才である曹操の底力が見えてきました。

そしてヒロイ、それ悪役の思想や。


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最終章 20話

昨夜は投降しなくて失礼しました。なんか疲れてまして。


 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、ユーグリットと激戦を繰り広げていた。

 

 原初の水を自由自在に操りながら、大量の魔力攻撃を併用してくるユーグリットは、余裕の態度で俺を攻め立てる。

 

 クソッタレ!! 性能差がもろに出てやがる。真女王よりも性能が上とか、アポプスはどんだけの化け物だったんだよ!!

 

 しかもユーグリットのポテンシャルは俺をはるかに上回っている。装備でも使用者でも凌がれたら、俺達じゃ勝ち目がねえ!!

 

 くそ! 一瞬でもかすったら即アウト! この状況だと、俺達ってめちゃくちゃ追い込まれるんじゃねえか!?

 

『ユーグリットもそうだが、コアとなっているアポプスがまずいな。奴の能力は全盛期の俺やアルビオンに匹敵するぞ』

 

 マジかよ。全盛期の二天龍クラスとか、化け物じゃねえか。

 

 ってことはアジ・ダハーカもそれぐらい? それってかなりまずくねえか!?

 

 いや、ヴァーリは普通に魔王化ができるし、勝つことは十分できるか。うん、大丈夫だよな。

 

 問題は俺だ。龍神化が使えない俺の場合、押し切られて倒される可能性がかなりある。

 

 くそ! 原初の水だけは意地で回避してるけど、魔力攻撃までは避けきれねえ!!

 

 っていうか魔力そのものも色を黒くしてる所為で、見分けがつきにくい。おかげで当たりそうになった事も何度もある。

 

 まずいな。このままだと、一気に押し切られる!!

 

「まったく、グレイフィアハーレム建設前にこの大一番とは。流石に苦労します」

 

「うるせえよ変態!! おまえちょっと黙っててくれない!?」

 

 ホント黙っててくれ!

 

 っていうか、グレイフィアハーレムとか勘弁してくれよ。そっくりさんを整形で更にそっくりにして、それをたくさん集めてハーレムとか、シスコンにしても限度がある。

 

 質は諦めて数で勝負って発想があれだ。ドンビキだ。

 

 きもいっていうかなんて言うか。正直、引く。

 

「なぜですか? 同じ変態として共感を抱かれてもおかしくないと自負していますが」

 

「本気で言ってる!?」

 

 一緒にすんな。マジですんな。

 

 お願い辞めてくれ。っていうか、本気で滅ぼした方がいいんじゃないか?

 

 くそ。俺も確かに変態だって自負してるけど、それでも方向性が明白に違う。

 

 なにが腹立つかって。アイツ金持っている上にイケメンでしかも地位もあるから、ホントに女が寄ってきてる感じがすることだよ。

 

 なんでだ。なんで俺は未だに学校では女の敵として見られてる事も多いのに、なんであいつは気持ち悪さなら俺を遥かにしのぐのに女が寄ってくる。

 

 え? 俺もハーレムできてるって? それとこれとは別だよ!!

 

 なんて思ったのが悪かったんだろう、不意打ちで原初の水が襲い掛かる。

 

 俺はそれを躱そうとしたけど、そこにユーグリットの魔力攻撃が放たれた。

 

 そしてそれは、原初の水とぶつかって破裂した。

 

 ヤバイ、原初の水の散弾なんて、流石に躱せない―

 

 そう思ったその時、左足に激痛が走る。

 

 一発かすめた!? それだけでこの激痛―

 

 そして、その隙に更に何発も原初の水が被弾する。

 

 ぐぁあああああああ!? これはマジでキツイ!!

 

 俺は力が抜けて地面に落ちる。

 

 ってまずい! このままだと、海面を覆っている原初の水の中にもろに落ちて―

 

「兵藤一誠!!」

 

 その時、黒と白の光が俺をかっさらった。

 

 有機的な、白銀と漆黒の鎧。魔王化したヴァーリだ。

 

 見ればその鎧もボロボロで、隙間から血が少し流れている。

 

 ヴァーリがこれだけ苦戦してるのかよ。カテレアの奴、どんだけ強くなってやがる!?

 

 そう思ったその時、炎を纏った蛇のような龍が大量に襲い掛かった。

 

 さらにその龍は口からいろいろな属性の攻撃を放ち、ヴァーリを攻め立てる。

 

 ヴァーリも流石に全部回避する事は出来ず、流石に追い込まれたのか近くの島に着地した。

 

 そして、炎を操ったカテレアと、俺を追いかけてきたユーグリットが同時に着地する。

 

「やれやれ。流石にあの状態の白龍皇は楽には倒させてくれませんか」

 

「そちらも、流石に兵藤一誠を相手にするのはやりにくいようですね」

 

 この野郎。余裕が見え隠れしてやがるぞ、オイ。

 

 こっちは結構追い込まれてる。っていうか俺が大ピンチだ。

 

 ……今のままじゃ、ヴァーリの足を引っ張っちまう。でも、龍神化を使うわけにはいかないし……。

 

「まあ、いいでしょう。では勝利の食前酒と行きましょうか」

 

「そうですね。少し疲れましたし、リフレッシュは必要でしょう」

 

 なんだ? なんか瓶を取り出したぞ。

 

 中には液体が入っている。……業魔人とかいうドーピング剤か何かか?

 

 そう思った俺達の前で、2人は瓶の中身を飲み干した。

 

 ……そしてその瞬間、全身を震わせながら恍惚の表情を浮かべた。

 

 男の恍惚の表情って、男からすると割ときもいな。

 

 いや、そうじゃない。

 

 なんか明らかに異常だよ、あれ。薬でも決めてるのか!?

 

 俺が正直引いていると、ヴァーリがそれを見て怪訝な表情を浮かべる。

 

「なんだ、それは?」

 

 ヴァーリも流石に思うところがあるみたいだ。ま、あんな光景見せられたら、思うところの一つぐらいはあるに決まってるよな。

 

 飲んでからの反応が、明らかに普通じゃない。まるでファーブニルがアーシアの使用済みパンツを食べた時のような感じだ。

 

 比較対象がファーブニルって辺りで察してくれ。それ位変態的だ。すっげえ変態的だ。いや、ユーグリットは変態だけど。

 

 でも、それとも方向性が違う。なんていうか、すっげえおかしい。

 

 そして、それを聞いたカテレアは恍惚の表情で瓶に頬ずりしながら応えてくれる。

 

「これはリムヴァン様が生成する神酒です」

 

 ……なんかすっげえ変態的な言葉が出てきたんだけど。

 

 リムヴァンが、生成!?

 

「安心してください、複合禁手です」

 

 ユーグリットが俺の勘違いを察したのか、そう訂正する。

 

 あ、そうなんだ。なんていうか嫌な予感がしたから安心したぜ。

 

 いや、別の意味で嫌な予感が満載なんだけどさ。

 

「これはリムヴァン様の複合禁手、神酒の魅了者(ソーマ・オブ・ドラッグ)で作られた神酒です」

 

 そう言いながら、ユーグリットは一滴も無駄にすまいと舌を出して水滴を飲もうとしている。

 

 ……この様子と名前だけでよく分かる。絶対碌なもんじゃねえ。

 

「ええ。依存性はありませんが、凄く幸せな気分にしてくれます。私はもうこれの為に生きていると言っても過言ではありません……!」

 

 そう生き生きとした表情で語るカテレアも、明らかに常軌を逸した表情だった。

 

 ……ああ、なんとなく分かったよ。

 

 やっぱり、リムヴァンは碌な奴じゃない。

 

 ユーグリッドもカテレアもあれだけど、こんな奴じゃなかった気がする。いや、ユーグリッドは会った時からこんなだけど。

 

 それにこれはなんとなくだけど、リゼヴィムの生きがいってのもあれなんだろう。

 

 何千年も退屈だったらしいし、そんな時にそんなものに出会ったら、魅了されてもおかしくない。

 

 麻薬みたいな依存性はない。だけど、それに縋るしかない人達は、あっさりとそれに転ぶはずだ。

 

 ……やっぱり、リムヴァンは倒さないといけない奴だ!!

 

 そして、俺は覚悟を決める。

 

 目の前の2人は、壊れてるんだろう。

 

 どこか追い詰められたあいつらは、神酒に縋ることで生き甲斐を得た。きっとリゼヴィムもそうなんだろう。

 

 でも、そんな奴に世界を好きにさせるわけにはいかない。

 

 松田を、元浜を、桐生を、父さんと母さんを、リアスやアーシア、そしてみんなを……。

 

 あんな糞野郎にどうにかされるわけには、行かねえんだよ!!

 

「……ドライグ。俺は、覚悟を決めたぜ」

 

『いいのか、相棒? 二度目の龍神化は、本当に何が起きるか分からないぞ?』

 

 ああ、そうだろうな、ドライグ。

 

 一度目で多臓器不全の上に致命的な後遺症だよ。ホント俺は絶望したね。

 

 今度使えば死ぬかもしれない。もし生き残っても、女の体を見ただけでやばいことになる可能性がある。

 

 それでも、今この場を生き残れなけりゃ意味がない。こいつらをどうにかできなきゃ、それどころじゃない!!

 

 行くぜ、ドライグ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

 追い込まれている。追い込まれている。マジで追い込まれている。

 

 ああ、そうだ。俺たちは今追い込まれている。

 

 曹操と長可のコンビは規格外だ。たぶんだが、D×Dに至ったイッセーとヴァーリがコンビを組んでも、まともにやり合えるんじゃないだろうか。

 

 そんな奴らに追い込まれながら、俺と姐さんは、ふと笑ってしまった。

 

「何だろうな」

 

「なんでしょうね」

 

「楽しいよな、姐さん」

 

「ええ、そうね」

 

 追い込まれている。死にかけている。このままだと負ける。

 

 そんな状況下なのに、それでも俺達は楽しかった。

 

 ああ、世界の命運が懸かった戦いだ、それも大絶賛苦戦している。

 

 それでも。それでもだ。

 

 今俺達は、全力で輝いている。

 

 命を燃やし、愛する人と一緒に、全力で最強の強敵と鎬を削っている。

 

 ああ、なんだろうな。俺達、今輝いている。

 

 そして、勝ちたい。

 

 目の前の敵に、勝ちたい。

 

 俺達の最期の輝きを、最高の輝きで終わらせたい。

 

「敗けられないな、姐さん」

 

「勝ちたいわね、ヒロイ」

 

 そうだな。だから、俺達が出来る事をしよう。

 

 俺達は、無理をして死にに来た。

 

 だから―

 

「勝つぜ姐さん!!」

 

「そうねヒロイ!!」

 

 俺達は、今までにないぐらいに全力で戦う。

 

 心から、魂から、全ての力を振り絞って戦いを挑む。

 

「いいぜ! お前ら、滾らせてくれるじゃねえか!!」

 

「最高だ。これでこそ、先駆者(英雄)として戦い甲斐があるってもんだ!!」

 

 あちらさんもその気なようで何よりだ。

 

 ああ、そうだ。

 

 俺達は常人とは違う。自慢にしろ先駆者にしろ輝きにしろ、まともな奴では理解できないぐらい何かに執着している。狂人だ。

 

 それでも、俺は……!!

 

「輝くさ。この命が燃え尽きるまで、俺は何があろうと輝いて見せる!!」

 

 そうだ。それだけは譲れない。

 

 焦がれた、憧れた、こうなりたいと切に願った。

 

 そうだ。だからなる。少なくとも、なるために努力し続ける。

 

 誰が何と言おうと、俺は―

 

輝き(英雄)に、なって見せる!!」

 

 だから、ここで勝つぜ!!

 

 そして、俺の中でプツンという音が聞こえた。

 




神酒についてはリムヴァンに直接ネタ晴らしさせたかったのですが、タイミングが合わずにこうなってしまいました。

まああれです。リセスたちが雌になりかけたのとあれです。きわめて強烈な多好感というのは、依存性が無くても人格汚染するほどの影響力を発揮するということです。

リゼヴィムがヒャッハー入ったのもそれですね。人生に生きがいを覚えるほどの桁違いの美酒に酔いしれ、欲さずにはいられなくなったわけです。

……現代社会の人間にはめちゃくちゃ聞きそうな能力です。生産能力が爆裂だったらすごいことでしょうね。





そしてイッセーとヴァーリが勝つと決め、イッセーが覚悟を決めたその時にヒロイとリセスもまた一段パワーアップ。


まあ、その前に前座を終わらせます。シシーリアの決意をどうか見届けていただきたい。



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最終章 21話 聖女の意地

はい、そんなわけで高評価がほしくてたまらない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。自分は寒さに凍えております。








そんなこんなで、シシーリアが頑張る今回。ジャンヌとの戦いもラストです!!



 

 転生悪魔シシーリア・ディアラクは、傍から見ると色々大変な人生を送ってきたものである。

 

 そして、シシーリア自身そう思っている。

 

 両親を事故で失った。

 

 神器を見出されて聖女となった。

 

 その重圧に耐え切れず、逃げ出すように悪魔になった。

 

 事実上の愛玩人形として扱われた。

 

 その事実に腐り切らず、逆手に取られたとはいえ裏切った。

 

 そして悪魔の親族に面倒を見てもらい、補佐官としての立場を得た。

 

 アップダウンの激しい人生だ。傍から見れば興味を惹かれるかもしれないが、自分でする分には色々と思うところがある。二度目があるとしても、それを望む事はないだろう。

 

 そんな人生でも、絶対に譲れないものがある。

 

 それは、そんな自分を照らしてくれた輝き(英雄)がいたことだ。

 

 ヒロイ・カッシウス。かつてリセス・イドアルに救われ、彼女のような生き方をしたいと切に願った少年。

 

 その彼の輝きに照らされたからこそ、自分は腐り切らなかった。最後の一線を踏み越える事なく、自分は今ここにいる。

 

 だから、彼が輝く為にその立場を投げ捨てかねない事をした事に、後悔はない。

 

 彼女は自分の夢を裏切った。自分と同じ境遇だった、そしてかろうじて生き残った者たちが入れる居場所を作る。その望みから自らの意志で遠ざかった。

 

 だけど、それでもこれだけは譲れなかった。

 

 シシーリアは、英雄であるヒロイを愛している。彼がいたからこそ、今の自分がいると信じている。

 

 その彼が致命的な呪詛を喰らったと知って、確かにシシーリアはショックを受けた。

 

 そして、できる事なら生きていて欲しいとも願った。

 

 だが、ヒロイが事実上の軟禁状態になっていると知って、シシーリアは彼を連れ出す事を一瞬で決意した。

 

 それほどまでに、シシーリアはヒロイが輝いている事を願っている。

 

 だから、そう、だから―

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔聖剣の龍の集中砲火を前に、シシーリアはしかし怯えたりはしなかった。

 

 もとより、自分のような弱者がこの戦いで死ぬのは当たり前だ。命を捨てる覚悟もなく、この戦場に出てきたりはしない。

 

 なにより、自分を照らしてくれているヒロイは、今この戦場に死にに来ているのだ。それも、自分が連れ出した。

 

 なのに自分が怯えるなどあってはならない。それが、最低限の責務だ。

 

「これで終わりよ、元聖女ちゃん!!」

 

 ジャンヌは全力をもって自分達を殺しに来ている。

 

 それは良い。

 

 そして自分が負けるのは確定だ。

 

 それは良い。

 

 自分が死ぬのも想定内だ。

 

 それは良い。

 

 だが、ここで自分が死ねば次はどうなる?

 

 動揺が隠せていない後ろの者達が次に死ぬ事になるだろう。

 

 それは、良くない。

 

 ヒロイ・カッシウスを連れ出した責任が自分にはある。そこから生まれるデメリットは、自分で補わなければならない。

 

 自分が、やるしかない。

 

 だから、だから、だから、だから、だから―

 

「例え死んでも、ここは私がどうにかします!!」

 

 シシーリアは、心からの本心で足を進める。

 

 魔王の祝福は既にズタボロだ。このままではすぐに壊れるだろう。

 

 それでも、一つでも多くの傷を作って勝利へと繋げる。

 

 いや、ここで彼女を倒す。そして生きる。

 

 自分は駄馬だ。自分は愚図だ。自分はどうしようもない女だ。

 

 だが、そんな自分を照らしてくれた輝きがある。

 

 その輝きに、今度こそ恥じない自分でい続ける。

 

 輝く事はできなくても、彼の輝きを反射する事はできる。

 

 太陽に照らされる月の様に、シシーリアは間接的に光を与える事ができるのだと信じたい。

 

 そうだ。自発的に遠ざかったとはいえ、自分にはしたいことがある。

 

 輝きに照らされなかった自分達が、居れる場所を作りたいのは本音なのだ。

 

 だから、自分は―

 

「私は、生きる!! 生き残って、遠回りしても、彼女達の居場所を作る!!」

 

 それが、ヒロイ・カッシウスに救い上げられて自分がしたい事だ。

 

 太陽から遠ざかってしまった彼女達に、せめて月の祝福を。

 

 その決意と共に魔王の祝福が魔聖剣の龍とぶつかり合い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚悟は良いけど、この程度じゃぁねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シシーリアの目の前で、魔王の祝福が砕け散った。

 

 魔王の祝福で強化されていた身体能力が消滅し、そしてシシーリアにブレスが迫りくる。

 

 もはやシシーリアの死は確定的。

 

 だが、それでもシシーリアは引かない。

 

 ここで気圧されればそれこそ死ぬ。それが分かっている。

 

 だから、一歩前へと踏み出る。

 

 死なない。生きる。願いを叶える。

 

 輝きに照らされ輝こうとしたヒロイみたいには生きれない。それでも、太陽にはなれなくても月にはなれると信じるから。

 

 だから負けない。死んでも勝つ。否、死なずに勝つ。

 

 渾身の力で聖女の洗礼を発動させ、そして己自信を祝福し、その攻撃を掻い潜ろうと試みる。

 

 遠回りをしてしまった。それでも、それでもこの願いは何時か叶える。

 

 ……だから、最後まで諦めない。

 

 その想いには何一つ偽りなく、世界の流れにすら逆らうほど。

 

 その思いは、ついに至った。

 

 それに自覚した瞬間、シシーリアは瞬時に叫んだ。

 

 それは、均衡を崩す力。

 

 それは、神器の究極。

 

 それは、神が与えし人の禁じ手。

 

 そう、それは―

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 そして、その瞬間シシーリアはジャンヌの目の前にまで移動した。

 

 ジャンヌはそれに即座に反応。魔聖剣を壁にして、体勢を立て直そうと時間稼ぎにかかる。

 

 そしてその防御を、シシーリアは一切の呵責なく一刀両断。

 

「な―」

 

「教皇猊下の仇、信徒のなりそこないとして討たせてもらいます!!」

 

 そして、その一瞬の交錯で、決着はついた。

 

「……あなた如き紛い物の英雄、真の英雄であるヒロイさんに照らされた私で、十分です」

 

 文字通り、ジャンヌを一刀両断したシシーリアは、意識が遠のくのを感じる。

 

 それは、当然の裁きだともなんとなく思った。

 

 何故なら、彼の最期の輝きを見ることができないのは、心残りになる以外ないのだから。

 




シシーリアの禁手の細かい内容は、二部のために取っておきます。というより、二部になってからの方が活躍できます。





ちなみにゲオルクはタイミングが合わずにかなりついで的に撃破されることになりました。マジすまんゲオルク。

ですが、とりあえずあとは最終決戦の連発です。

二天龍VS二大邪龍 英雄タッグマッチと続き、そしてトライヘキサやらリムヴァンが待っております。

こっからも熱いバトルが連発するので、皆さんどうかご期待ください!!


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最終章 22話 二つの決着

最終決戦の大激戦。イッセーとヴァーリ、ヒロイとリセス。

その戦いが、ついに決着します。


 

 イッセーSIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍神化と魔王化。二つのD×D

 

 その力で、俺達は勝利を掴む。

 

 目の前にいる、空っぽの悪魔達を倒す!!

 

「いいでしょう。ならば最大出力であなた方を倒します」

 

「この力、全てを使い貴方方を屠りましょう!」

 

 ユーグリットとカテレアは、莫大な魔力を放つとその中に包まれる。

 

 そして、海がうごめく。

 

 そして、原初の水が溢れ出す。

 

 海水と原初の水が混ざり合い、一体の超巨大な蛇型のドラゴンが形成された。

 

 その全長は数百メートルどころか、キロを超えてる気がするんだけど。ミドガルズオルムよりもでかいんだけど!?

 

「……レヴィアタンの特性とアポプスの力を融合させたか。制御しているのはアジ・ダハーカか?」

 

 ヴァーリが冷静にそんなこと言ってるけど、カテレアってそんなすごい能力持ってたの!?

 

 っていうかでかい!! 更にでかくなってきやがる!!

 

「このままだとまずいな。流石に周囲の味方にも被害が出るだろう」

 

 ヴァーリがそんなことを言って、周囲を確認する。

 

 確かに、結構乱戦だもんな。

 

 こういう時、ヴィクターは有利だ。ドーインジャーは無人兵器だから、巻き込んでもあまり気にならないんだろう。

 

 だけど、ちょっとおかしいな。

 

「……どうした? 何か変なことを言ったか?」

 

「いや、お前がそんなに周りの事を気にするなんてな」

 

 昔のお前からだと考えられないって。

 

 ヴァーリもそれには自覚があるのか、苦笑すると頷いた。

 

「確かにな。だが、悪くない」

 

 ああ、そうだろ?

 

「では、死んでいただきましょう」

 

「貴方方の首を、リムヴァン様への手土産とさせていただきます」

 

 そして、巨大な龍の口から莫大なオーラが迸る。

 

 ああ、こりゃまずい。超獣鬼だって一発で吹き飛ばしそうなエネルギーだ。

 

 なら、こっちも全力で迎撃する。

 

 俺とヴァーリは並び立つと、同時に砲撃の構えに入る。

 

「勝負だ、カテレア……!」

 

「吹っ飛べ、ユーグリットォ!!」

 

 俺達は∞ブラスターとサタンルシファースマッシャ―を同時に放つ。

 

 そして、同時に龍からのブレスが放たれる。

 

 攻撃はお互いにぶつかり、そして一進一退だ。

 

 ったく、アポプスとアジ・ダハーカの二体の力を宿しているだけあって、やるじゃねえか!!

 

 だけど、負けられない。

 

 死ぬかもしれない。龍神化はそれぐらい危険だ。

 

 だけど、それでも、俺達は死ねない。だからこそ、この力を使う。

 

 負けられない。守りたい場所があるから。守りたい人達がいるから。

 

 俺達は、俺達の平和を守る!!

 

「敗けるか、この野郎!!」

 

 このままだと押し切られる。だけど、それでも俺は負けない。

 

 俺は覚悟を決めると、最後の切り札を切る。

 

 ヴァーリの鎧のように胸部装甲が展開し、そして砲門が形成される。

 

 ああ、これが最後の切り札だ。

 

 喰らいやがれ、カテレア、そして、ユーグリット!!

 

「ロンギヌス・スマッシャァアアアアアアア!!!」

 

 俺はロンギヌス・スマッシャーをぶっ放して、さっきまでの砲撃と融合させる。

 

 これが俺の出せる最大の攻撃だ、これで、勝つ!!

 

「これは!? まさか、ここにきて応用技術を―」

 

「馬鹿な!? 私のグレイフィアハーレムが―」

 

 2人が驚くが、それでも対処する余裕がない。

 

 そして、俺達の三つの砲撃は融合し、巨大なドラゴンを吹き飛ばす。

 

「リムヴァン様!? クルゼレイ……私はぁああああああ!?」

 

「わ、私のグレイフィアハーレムがぁああああああ!?」

 

 そして、その莫大な本流にカテレアとユーグリットが巻き込まれ、そして消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Side Out

 

禁手化(バランス・ブレイク)! 魔人変成(デーモン・チェンジ)!!」

 

禁手化(バランス・ブレイク)! 始原の超人(アダム・サピエンス・レボリューション)!!」

 

 その瞬間、俺達は即座に禁手に至る。

 

 ああ、本当に実戦で覚醒する男だよ、俺は。

 

 そして、流石は俺の輝き(英雄)だぜ、姐さん。

 

 俺達は即座に禁手化の能力を把握、そして全力で反撃を開始する。

 

「なり立てならやりようはあるってなぁ!」

 

 即座に振るわれる長可の攻撃を、俺達は躱すとお返しの一撃を振るう。

 

 それを長可は凌ぐが、しかし完全には躱しきれず頬に傷がついた。

 

 よし、届く。この禁手があれば、今迄ろくに傷をつけられなかった長可にも届く!!

 

「ほぅ。動きが変わったな」

 

「能力は身体能力強化ってところか?」

 

 曹操と長可が冷静に判断する。

 

 ああそうだ。俺の魔人変成は、魔剣創造の応用で肉体を魔人に変化させる。

 

 そして姐さんの始原の超人は、始原の人間の能力向上率をシンプルに強化する。

 

 ここに至って能力はシンプルイズベスト。下手な奇策はせず、能力を素直にスケールアップして勝ちを狙う。

 

 ああ、ここで俺達は勝つ。そして、世界を照らす。

 

「行こうぜ姐さん!!」

 

「行くわよヒロイ!!」

 

 俺達はその言葉だけで、すぐに連携を取って反撃を開始する。

 

「上等だ、来なぁ!!」

 

「俺達の前進の礎と成れ!!」

 

 そして、超高速での攻撃が交わされ合う。

 

 ああ、この戦いは人生最大の難易度だ。

 

 最強の敵が、俺と同じ聖槍使いで、そして俺とは異なる形だが英雄を目指している。

 

 ああ、ある意味で最高の激戦だ。

 

 だから負けない。負けたくない。

 

 俺の最高の英雄と共に、この最高の難敵を乗り越えたい。

 

 ペトや仲間達に迷惑をかけた分だけ、せめて何かを返したい。

 

 ここに連れて来てくれたシシーリアに、最高の輝きを返したい。

 

 そして何より、姐さんと一緒に、強烈に輝きたい。

 

 だから、だから、だから!!

 

「負けてたまるかぁあああああ!!!」

 

 その想いに、聖槍もまた応えてくれる。

 

 聖槍の輝きが強くなり、そして相手の聖槍の輝きが弱くなる。

 

 ここにきて、無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺しの力が強くなる。

 

 そして、同時に曹操の動きに陰りが見える。

 

 ……なんだ、これは。

 

「……ここが決め所よ、ヒロイ!!」

 

 俺が疑問に思う中、姐さんは即座に攻撃の密度を上げる。

 

 ……そうか、バテてるのか!!

 

 曹操は確かに努力を積んでいる。才能なら俺を凌ぐ。

 

 だが同時に英雄派の指揮官だ。特訓ばかりしていられない。

 

 それが、ここにきて仇となった。

 

 ……基礎体力という一点においてのみ、アイツはこの中で一番低い!!

 

 このチャンスは逃せない。ここで、俺達が一気に決める!!

 

「ハッ! ちょっと焦りすぎじゃねえか?」

 

 その瞬間、長可が完璧な狙いで一撃を放つ。

 

 それの一撃は姐さんの動きに完全に合わさっており、それゆえに回避不可能。

 

 その完全なカウンターの一撃は姐さんに迫り―

 

「甘いわ!!」

 

 その瞬間、姐さんの姿が一瞬だけ完全に掻き消える。

 

 そう、姐さんには完全回避能力と言っていい禁手がある。

 

 そう簡単に連発できるほど習熟していないので今まで使わなかったが、ここで使うか!!

 

 そして後ろに回り込んだ姐さんに、長可は動きを合わせてカウンターを叩き込もうとするが、それを姐さんは白羽取りで受け止める。

 

「今よ、ヒロイ!!」

 

 ああ、分かってる。

 

 このチャンスは逃せない。俺も切り札を切る時が来たようだ。

 

「行くぜ、槍王の型―」

 

「させるか!!」

 

 そこに、曹操が七宝を操作して反撃に転じる。

 

 七宝はもはや全ての種類を総動員して、一斉に仕掛けてきた。

 

 形状は槍のように鋭くなり、俺を殺す為に急所を狙う。

 

 だが、俺は躱さない。

 

 こっちも流石に余裕がねえ。このタイミングを外せば、姐さんが押し切られる。

 

 ここが勝負だ。決着をつける!!

 

 届け。届け。届け届け届け届け届けぇええええええええ!!!

 

 勝つ! そして、俺達は英雄として、輝いて見せる!!

 

 だから、俺は―

 

「―箒星!!」

 

 そして俺は全力で攻撃を放つ。

 

 間に合うか。

 

 間に合わない。

 

 一瞬だけ、七宝が届くのが早い。

 

 だが諦めるか。せめて相打ち―

 

 ―いや、勝つ!!

 

 勝って、俺は、英雄として、輝いて見せる!!!

 

 行けぇええええええええええ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、俺は何が起こったのか分からなかった。

 

 気づけば、七宝は止まり、俺は槍王の型を振るい切っていた。

 

 本当に、その瞬間は何が起こったのか分からなかった。

 

 だが、なんとなく分かってきた。

 

 そうか。これが……。

 

「は、ははは……」

 

 槍王の型を受けて、腹を裂かれた曹操が力なく笑う。

 

 そして、長可はにやりと笑った。

 

「やるじゃねえか、兄ちゃん」

 

 そうかい。ま、褒められると悪い気はしねえな。

 

 血反吐を吐きながらも、長可は楽しそうに笑うと、そのまま倒れる。

 

「戦国生まれで死ぬのが当然、いきなり銃で狙撃されるよりかは、こっちの方がまだいい死に方だな、ああ」

 

「そうか。英雄とは、意外とあっけなく死ぬものだな」

 

 曹操もそう苦笑すると、そのまま倒れ伏す。

 

 ……そして、二人はそのまま笑みを浮かべたまま息を引き取る。

 

 何だろうな、壮絶な戦いだったけど、終わりは意外とあっけない。

 

「……意外と、こんなものなのかしらね」

 

 姐さんが、そう言って寂しげな目をする。

 

 ああ、そうだな。気持ちは分かる。

 

 英雄と言っても所詮は戦場で戦う戦士。その死は意外とあっけないのかもしれない。

 

 ……それでも、俺は英雄を目指し続ける。

 

 この先駆者(英雄)の末路を見て、それでも俺の輝き(英雄)の生き様は陰らない。

 

 だから、俺は先に行く。

 

 そして、必ず輝き切って見せるともさ。

 




二つの激戦、決着。

カテレアについてはパワーアップしまくりだったこともあり、最新刊で出てきた特性を生かした火力勝負で決着をつけました。イッセーとヴァーリの渾身の砲撃戦と拮抗する、こういう二次創作だからこそできる最大級の砲撃戦だったと思います。

そして聖槍決戦はギリギリでヒロイたちが勝ちました。もしこれから曹操が復活してリベンジを仕掛けてきたとしても、彼が聖槍使いである以上ヒロイには勝てません。ヒロイの聖槍の禁手は本来そう言うものです。

ただし、この戦いに限定すればまだぎりぎりでした。もし曹操にもう少し体力があれば、最後の一瞬で曹操が押し切ってました。

天才指揮官であるが故の敗北。いかに天賦の才能があるとはいえ、それだけでとはいかなかったわけです。


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最終章 23話 隔離結界領域

ついに難敵を撃破したヒロイたち。

だが、まだトライヘキサは残っており、それを何とかしなければ意味はない。

そして、その方法は……


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わったのか?

 

 そんな風に思うぐらい、戦闘は静かになっていった。

 

 よく分からないけど、ヴィクターの士気が一気に低下していってる。

 

 何だか分からないけど、決着がついたって事なのか?

 

「……兵藤一誠。この戦場に出ていた英雄派の幹部達とイグドラフォースだが、その殆どが戦死するか捕縛されたらしい」

 

 通信を繋げていたヴァーリが、そう言ってくる。

 

 マジか! リアス達、頑張ったんだな!

 

 敵の精鋭は全滅。カテレアとユーグリットも俺達が倒した。

 

 なら、後はドーインジャーとトライヘキサだけかな? トライヘキサはともかく、ドーインジャーだけならどうとでもなる!!

 

 よっしゃ! こうなったら、俺もぶっ倒れるまで残りの敵を倒して―

 

『相棒。どうやら、俺達にはもう一つ仕事があるようだぞ?』

 

 ―そこに、ドライグの言葉が飛ぶ。

 

『ヴァーリ。どうやら正念場はここのようだ』

 

 アルビオン迄そんなことを言ってきた。

 

 なんだ? リムヴァンの奴でも出てきたのか?

 

 俺達がとりあえず身構えると、トライヘキサの方から何かが飛び出して、接近してきた。

 

 ……光る子供のような姿をした、人型の存在だった。

 

 なんだ、こいつ。なんか明らかにやばいオーラを纏ってるんだけど。

 

『なるほど。どうやらトライヘキサのコアのようだね』

 

 と、そこに声が響く。

 

 振り返ると、そこにはリアスの消滅の魔星を遥かに凌駕するような魔力の塊がいた。しかも何故か人型だった。

 

 だ、誰だ!? バアル家の親戚か何かですか!?

 

 ちょっとビビるけど、その魔力の塊は片手を上げる。

 

『私だよ、イッセー君。サーゼクスだ』

 

 さ、サーゼクス様ぁ!?

 

 え、えっと……なんでそんな姿に!?

 

「ほう。凄い事になっているが、どうしたんだ?」

 

『やあ、ヴァーリ君。これが私の全力モードといったところだよ』

 

 と、ヴァーリとサーゼクス様が気安い様子で会話する。

 

 ヴァーリはかなり自由人だし、サーゼクス様も基本的にフランクだ。……ルシファー同士の会話というある意味すっげえ状況なのに、当人同士はすっげぇ気安い。

 

 ……いや、そんなことはどうでもいいんだよ!?

 

「サーゼクスさま? それで、あれがトライヘキサのコアって、どういうことですか!?」

 

 っていうかなんで人型?

 

『ああ。どうやら他の戦場でもトライヘキサがああいうコアを出して戦闘を行っているんだ。私は冥界をセラフォルーとファルビウムに任せて、敵の本命の此方の援護に来たところだよ』

 

 あ、他のところでも出てきてるんですか。マジですか。

 

 っていうか、これちょっとまずくないか?

 

 ロスヴァイセさんの封印術式を喰らった上でこんなことしてるとか、トライヘキサの化け物っぷりがよくわかる。こいつもあの化け物の方のトライヘキサと同じぐらい強かったりするのかもしれない。

 

 クソ! ここまで来てこんな展開とか勘弁してくれよ!!

 

 俺が戦慄していると、サーゼクス様は俺とヴァーリに並び立った。

 

 そして、俺の方を向いてこういった。

 

『イッセーくん。できれば、私と一緒に戦ってほしい』

 

「そ、それはかまいませんけど、何でいきなり?」

 

 いや、トライヘキサのコアが目の前にいるんだから、戦うしかないのは分かってるけどね?

 

 それはそれとして、何でいきなりそんなことを?

 

 何か気になるんだけど、そもそも、いくらここが敵の最大戦力だからってなんで魔王のサーゼクス様がここにいるんだ?

 

『君と一度共闘したかったのだよ。まあ、ちょっとした我儘というやつだ。それ位はしてもいいとアザゼルやオーディン殿たちも認めてくださったのでね』

 

 アザゼル先生やオーディンの爺さんが? いや、なんでわざわざ……。

 

 俺が深く聞こうとしたとき、まさにそのタイミングだった。

 

 トライヘキサのコアが、しびれを切らしたのか俺に向かって殴り掛かってくる。

 

 それをヴァーリが受け止める中、サーゼクス様も前に出た。

 

「さあ、行こうかイッセー君!!」

 

「は、はい!!」

 

 俺たちは三人がかりでトライヘキサのコアに攻撃を加える。

 

 トライヘキサのコアは破壊されてもすぐに再生するけど、それを意に介さず攻撃を叩き込んでくる。

 

 一撃一撃がイグドライバーシステムを使ったリゼヴィム達より重い。さすがは、グレートレッドに匹敵すると言われているトライヘキサのコアってことか!!

 

 だけど、こっちだって負けてない。

 

 とくにサーゼクス様がすごい。

 

 大量の滅びの魔力を操って、トライヘキサを再生してくるところからかったぱしに消しまくってる。

 

 なんだよあの威力。リアスの消滅の魔星に匹敵する威力の攻撃が、軽く百は越えてるぞ!?

 

『まったく、あの男は化け物としか言いようがないな。先代ルシファーなど軽く超えているぞ』

 

『まったくだな赤いの。こいつが当時の冥界にいたら、私達は滅ぼされていたかもしれん』

 

「だがそれでこそだ。いずれ相まみえる時が楽しみだといえる」

 

 思い思いにドライグとアルビオンとヴァーリが言うけど、俺はもう戦慄したいです。

 

 なにこの人。テクニックタイプとか言ってるくせに、リアスよりも火力が圧倒的に上じゃないか。いや、桁違いだよ。

 

「イッセー君! ここは連携攻撃だ!! 掛け声は「義弟よ」「義兄さん」でいこう!!」

 

「そんなこと言っている場合ですか!?」

 

 なんでこの人めっちゃ楽しそうなんだよ!! どんだけいきいきと戦ってるんだ!?

 

 なんだろう。なんていうか、すっごい張り切ってるよこの人。

 

 ヴァーリみたいな戦闘狂じゃなかったと思うんだけど……。

 

『未来の義弟と一緒に戦えるとは夢のようだ! アザゼルも粋な計らいをしてくれたと本当に思う!!』

 

 心底楽しそうに、サーゼクス様は戦っている。

 

「まったく! 流石はルシファーを継承したものだ!! 俺も本来のルシファーの末裔として、鼻が高い!!」

 

『なに、君ならいずれ越えられるとも! 私はその時を待っているさ』

 

 ヴァーリとも掛け合いをしながら、サーゼクス様は思いっきり戦っている。

 

 まるで心残りを清算するかのように、全力で、全力で……!?

 

 俺はその時、急に力が抜けて倒れ伏す。

 

 しまった!? これは、龍神化の反動か!?

 

「兵藤一誠!?」

 

『イッセーくん! しっかりしたまえ』

 

 ヴァーリとサーゼクス様が駆け寄るけど、俺は動きたくても動けない。

 

 くそ! 激痛がするわしゃべるのも難儀だわ、どうしよもないじゃねえか!!

 

 まだ、トライヘキサは平然としているのに……。

 

「まずいな。兵藤一誠抜きで奴と戦うのは……」

 

 ヴァーリがこんなこと言ってくるぐらいの緊急事態ってことかよ。どうすんだ、オイ!!

 

 俺が自分の無力に震えている中、サーゼクス様は何かを決意したようだった。

 

『安心したまえ。……トライヘキサは、我々が何とかする』

 

 ………サーゼクス、さま?

 

 なんだ? なんか、さっきから感じてたけど嫌な予感が―

 

 そう思ったその時、ヴァーリの周囲に魔方陣が展開すると、ヴァーリの動きが封じられる。

 

「っ!? 何のつもりだ、サーゼクス・ルシファー!!」

 

 ヴァーリが強引に引きはがそうとするけど、然しなかなか破れない。

 

 そして、その魔方陣を操作したサーゼクス様は、静かにトライヘキサを見据えた。

 

『悪いね。こうでもしないと、君は邪魔をするとアザゼルが言っていたからね』

 

 アザゼル先生が?

 

 そういえば、あの人はトライヘキサ対策で何か考えてたみたいだった。

 

 ロスヴァイセさんの術式を応用した何かだと思ってたけど―

 

 俺が不思議に思っていると、サーゼクス様の周囲に何人もの悪魔が転移する。

 

 あ、サーゼクス様の眷属だ! それに、アザゼル先生もいる。

 

「やっぱこうなっちまうか。人工神器の禁手化は、ハヤルトのやつに任せることになりそうだな」

 

『アザゼル。……ほかの戦場はどうなんだ?』

 

 ため息をついていたアザゼル先生に、サーゼクス様は質問する。

 

 そして、アザゼル先生は肩をすくめた。

 

「大体こっちと同じだよ。この調子じゃ、封印術式も解けちまうな」

 

『なるほど。やはりこういうことになるか』

 

 な、なんなんだ?

 

 いやな予感がどんどん膨れ上がる。サーゼクス様達は何をしようっていうんだ!?

 

 そして俺の目の前で、トライヘキサの上の空間が裂ける。

 

 その裂け目からは、次元の狭間とも違う、よくわからない空間が見えている。

 

 そしてそこに、トライヘキサの本体が吸い込まれていった。

 

「……アザゼルにサーゼクス。お待たせしました」

 

 さらに、そこにミカエル様まで来た。

 

 さ、三大勢力のトップがそろい踏みかよ。すごいことになってる。

 

 それにミカエル様の周囲には11人の転生天使がいる。なぜかイリナだけはいないけど……。

 

 それ以上に不安になるのは、その場にいる人たちが全員決意を決めた表情だったことだ。

 

 なにを、考えてるんだ!?

 

「アザゼル!! これはどういうことだ!? 何をする気だ!!」

 

 ヴァーリも不安を覚えたのか、アザゼル先生に問いただす。

 

 それを笑顔で受け止めながら、アザゼル先生ははっきり言った。

 

「単純だよ。トライヘキサをぶち殺すまで、俺たちはあの空間で戦闘するのさ」

 

 せ、戦闘? トライヘキサを、倒すまで……?

 

 それならなおさら俺やヴァーリがいた方がいいじゃないか。なんで足止めするような真似をするんだ!?

 

 いや、それどころじゃない。

 

 あの空間の向こうから、セラフォルー様やオーディンの爺さんのオーラ迄感じる。

 

 ほかにも、神クラスのオーラがこれでもかってぐらい集まってる。

 

 なんだよ、これ。どういうことなんだ!?

 

「天界は、各(エース)を除いた、私とウリエルとラファエルが御使いを率いて参戦します。そちらは?」

 

「堕天使側は俺だけだ、悪いな」

 

 そう語り合うミカエルさんとアザゼル先生。そして、サーゼクス様も頷いた。

 

 そして、その目……らしき部分? をグレイフィアさんたちに向けた

 

『……グレイフィア』

 

「わかっています。我ら全員、サーゼクス様に付き従う覚悟はとうの昔に―」

 

 そうグレイフィアさんが頷いた瞬間、隣にいたアザゼル先生が魔方陣を展開するとそれをグレイフィアさんにたたきつける。

 

「アザゼル元総督!? なに、を……!?」

 

 いきなりの暴挙にグレイフィアさんが怒るけど、その様子がすぐに変わった。

 

 力が抜けて、ぺたんとしりもちをつく。

 

 なんだ? いったい何が―

 

「特別製の麻酔術式だ。さすがのお前も、いきなりなら効果覿面だろ」

 

『すまないね、グレイフィア。事前の話し合いで、アジュカ達とそれぞれの女王(クイーン)は今後の為に残す事にしているんだ』

 

「私達もサーゼクスを送り込むのは心苦しいですが、魔王の中で他の代役までこなせるのはアジュカ・ベルゼブブだけだと意見が一致したのです」

 

 三人がそれぞれ、グレイフィアさんにそう言う。

 

 サーゼクス様は駆け寄ろうとしたけど、自分の今の体が消滅のオーラなことに気づいて、動きを止めていた。

 

「サーゼクス……な、んで……?」

 

 グレイフィアさんが、意識を失いそうになりながらも、涙すら浮かべてサーゼクス様に追いすがろうとする。

 

 それを悲しげに見ながら、サーゼクス様は首を横に振った。

 

『すまない、グレイフィア。だが、ミリキャスには親が必要だ。君まで連れていくことはできない』

 

 ちょ、ちょっと待ってくれよサーゼクス様。

 

 その言葉、まるで、どっか遠いところに行って、そのまま帰ってこないみたいな言い方じゃないか!!

 

 トライヘキサを倒すまでって言ったって、勝つための算段があるから行くんでしょ!? なんで、そんなもう帰ってこないみたいな言い方をするんだよ!?

 

「あの子は、本当は貴方を……サーゼ、クス……」

 

 グレイフィアさんはそれ以上何も言う事ができず、そのまま倒れ伏した。

 

『すまない。いやなものを見せた』

 

「いえ、こうでもしないと、貴方についていきそうですからね」

 

「だな。ま、お前を止めれなかった俺らにも責任はあるさ」

 

 サーゼクス様の謝罪に、ミカエルさんもアザゼル先生もそう返す。サーゼクス様の眷属達も、静かに頷いていた。

 

 何なんだよ、一体? どういうことなんだよ!?

 

「アザゼル!! どういうことだ!? トライヘキサを倒すなら、俺達の力もいるだろう!?」

 

 ヴァーリもそう言い募るけど、アザゼル先生は静かに首を横に振った。

 

「残念だが、奴をぶち殺す最終兵器とかは用意できなかったんでな。全勢力を結集しても数千年はかかると試算できたんだよ」

 

「しかし、ヴィクター経済連合も考慮すればそれは不可能です、ならば、時間はかかっても倒す事ができるだけの戦力だけでことをなすしかありません」

 

 ミカエルさんもそう言い、そしてサーゼクス様も頷いた。

 

『ゆえに我々や他神話体系の神々で有志を募り、トライヘキサを一万年ほどかけて滅ぼす事にしたのだ』

 

 い、一万年……!?

 

 嘘だろ、おい。そんな永い時間がかかるってのかよ!?

 

「ま、そういうこった。あの隔離結界領域は強力だけど、中で引き留める役も必要だ。……実際一万年かけりゃぁ流石に滅ぼせるだろうし、それまでに完全な封印術式や、倒す為の超兵器とかができるかもしれねえからよ」

 

 アザゼル先生はそう軽く告げるけど、ちょっとまじで待ってくれよ!?

 

 そんな、そんな……。

 

「なにも、あんたじゃなくてもいいだろうが!!」

 

 ヴァーリも本気で叫ぶ。

 

「それなら、俺が行った方がいいだろう!? 俺はヴィクターの一員だったんだぞ!?」

 

「だよなぁ。いや、あの時は正直ショックだったぜ」

 

 ヴァーリにそう言って、アザゼル先生は苦笑する。

 

「いや、マジで俺の育て方が悪かったんだな。俺も正直お前のことを実の子供みたいに思ってたんだが、俺は親父には向いてないみたいだ」

 

『何を言う。イッセー君やリアスを育ててくれたその手腕は、見事ではないか。……心労も大きかったが』

 

「そうですね。まさか教師としての才能があるとは驚きです。反面……が付くなら完璧だと思ってましたが」

 

「うるせえよ!!」

 

 サーゼクス様とミカエルさんにからかわれて、アザゼル先生はつい怒鳴った。

 

 その様子からは、これから一万年間も戦いを続けるような様子は見えない。皆で一緒に飲みにでも行くかのような光景だった。

 

 でも、それは違う。

 

 まだ俺は、一年間も一緒にいた事がない人と一万年間も別れる事になる。

 

「……まあ、私達は今迄あなた方にヴィクターとの戦いで矢面に立たせ続けてきましたからね。せめて最大の難敵ぐらいはどうにかしませんと」

 

「まったくだ。大人として、最低限の責任ってもんがある。神の連中も結構すんなり同意してくれたし、もしかすると意外と早く決着つくかもな」

 

『その通りだ。それにヴァーリ君とイッセー君には、やってもらいたいこともある』

 

 ミカエルさんとアザゼル先生の言葉を引き継いで、サーゼクス様は俺たちを見る。

 

『ヴァーリ・ルシファー。君は新たなルシファーになってもらいたい。君は、リゼヴィムとは違う、明けの明星に相応しいものだ。そして、イッセー君……』

 

 サーゼクス様達は飛び上がりながら、俺に声を投げかける。

 

『君は魔王を目指すといい。……私は信じているんだよ。君達は、きっとより良い世界を作ってくれるとね』

 

 その言葉に俺は、何か言いたかった。

 

 だけど、もう意識が限界で、目の前が暗くなっていく。

 

 待ってくれ、先生、サーゼクス様。

 

 俺は貴方達と、まだ一緒に……一緒に………

 




第二部に移行するにあたり、リムヴァンとの決着を第一部でつけることもあって、痛み分けにするにはそれ相応の代償が三大勢力側にも必要と判断しました。

なので、あえて隔離結界領域とそのメンバーは変更せず。下手に原作の展開を変えると、そのせいでやばいことになるとケイオスワールドで学んだこともあります。









そして、これだけで終わらないのがこの作品。

ついに動くぜぇ。奴が動くぜぇ…………っ!!


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最終章 24話 超越者、リムヴァン・フェニックスという男

ついに最終章の大一番、リムヴァンの本機中の本気が見れます。

序盤からハイテンションで行動してきた、リムヴァンという男。

其の本質が遂に垣間見れます。


 

 Other Side

 

 避けた空間にトライヘキサが吸い込まれ、それを押し込むように各勢力から何人もの者達が追いかけていく。

 

 その光景をただ見る事しか出来ずに、ヴァーリは思わず崩れ落ちた。

 

「アザゼル! 俺は……俺は……!」

 

 今更内心に気が付いた。それをまだ言っていない。

 

 ヴァーリは、アザゼルのことを心のどこかで父親だと思っていた。

 

 それを認めて、然し言う暇もなくアザゼルは隔離結界領域に向かっていく。

 

 それが、たまらなく悲しい。

 

 一万年かければ、トライヘキサを倒せると言った。

 

 だが、裏を返せば一万年戻って来ないということだ。

 

 まだ二十年も生きていないヴァーリにとって、それは永遠の別れにも等しい。

 

「………アザ、ゼル……」

 

 そのまま拘束術式が解けるが、しかしそのころには隔離結界領域は完全に閉じてしまっていた。

 

 故に何もする事が出来ず、ヴァーリはそのまま泣き崩れそうになり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が……っ!!」

 

 そのくぐもった声と共に、三人の人影がすぐ近くに墜落する。

 

 その音に思わず顔を向ければ、そこには見知った人物が三人も倒れていた。

 

「幾瀬鳶雄!? それに……!」

 

 自分が本気を出すに値する人物。その一人である鳶雄が、ボロボロになって倒れ伏している。

 

 そして、同じように倒れ伏すデュリオ・ジュズアルドとニエ・シャガイヒ。

 

 誰もかれも神滅具を禁手にまで至らせた逸材。この戦場における最高峰の戦力である。

 

 その彼らが、殆ど趨勢の決したこの戦場でこれだけの重傷を負っている。

 

 その事実に戦慄し、しかしヴァーリもすぐに事態を理解した。

 

「あらら~。トライヘキサをこうするとは予想外だね~。てっきりグレートレッドに泣き入れて頼み込むかと思ったよん」

 

 そう、気軽な口調でリムヴァン・フェニックスが降り立つ。

 

 そして、ヴァーリを見つけると若干苛立たしげな表情を浮かべる。

 

「やってくれたね、ヴァーリ君。……カテレアとユーグリットが倒されるのは流石にキッツいねー」

 

「ほざくな……!」

 

 ヴァーリは心底から怒りを込めて睨み付ける。

 

 この精神状態で、ここまで神経を逆なでされるのは怒りに燃える。

 

「リゼヴィム達三人を薬漬けにしておいて、よくもまあ、大義などとほざけたものだ」

 

 その言葉に、リムヴァンは心底心外そうにムッとした表情を浮かべる。

 

「失敬な。神酒の支配者に中毒性はないよ?」

 

 確かに、カテレアもユーグリットもそう言った。

 

 だが、それでも餓えていた彼らにその幸福感は麻薬以外の何物でもない。

 

 下衆の所業であることに変わりはない。断言していい、彼は邪悪だと。

 

 リゼヴィムに肉親の情があるわけではない。カテレアのことも正直どうでもいい。ユーグリットは二天龍の誇りを土足で荒らしたのだから、死んでも構わない。

 

 だがしかし。目の前の邪悪に対する怒りは強かった。

 

 そして何よりも、今の激情をぶつけるのに、あまりに都合がいいものが出てきてしまったのは事実だ。

 

 もはや、押さえる事などできるわけがない。

 

「お前には退場してもらう。そうすれば、ヴィクターも壊滅するだろう」

 

「無理だね。現代の人間性組織ってのは、代役がいる物さ」

 

 まるで、自分が死んでもヴィクターは終わらないと断言するその在り方が、癪に障る。

 

「だが、貴様ほどの才を持つ者はそうはいないだろう……!」

 

「ところがどっこい、割といるんだよねー!」

 

 その言葉と共に、一瞬で二人は空高くに飛び上がり、戦闘を開始する。

 

 魔王化のヴァーリの戦闘能力は、全盛期の天龍とほぼ同格。それは、主神すら凌ぐほどの力を持っている事の証明だった。

 

 そして、激情にかられたヴァーリは禁じ手すら使う。

 

 減少の毒。本来アルビオンが持っていた力。有機物の肉体・骨・血液から魂に至るまで減らし尽くす、最強クラスの猛毒。

 

 しかしそれを、リムヴァンは意にも介さなかった。

 

「超越者、嘗めたらあかんぜよー?」

 

 そう軽い口調で言い放ちながら、リムヴァンは遠慮なく攻撃を叩き込む。

 

 両手に聖槍を構えての近接攻撃。魔聖剣の騎士団による人海戦術。そしてあらゆる属性に変化する砲撃による圧殺。

 

 それら全てがヴァーリを超え、いともたやすく蹂躙する。

 

 これこそが、第四の超越者、リムヴァン・フェニックス。

 

 拡張性という、本来以上の力を発揮する事に特化した、圧倒的な力の具現。

 

 しかし、ヴァーリにはよく分からない。

 

 ……目の前の男は、心から楽しそうに自分を蹂躙している。

 

 しかし、その男の目的が分からない。

 

 聖書の神の死を公表し、ヴィクター経済連合を扇動し、そして世界中に破壊と混沌をまき散らした。

 

 なにが、彼をそこまで突き動かす。

 

 リムヴァンに対する恩義で動いていたリゼヴィムとも違う。実力に見合わない地位を求め、血統に縋っていた旧魔王派とも違う。復讐の為に動いているノイエラグナロクやアルケイデスとも違う。そして、先駆者という英雄を目指していた英雄派とも違う。

 

 一体何が、リムヴァンを突き動かすのだ。

 

「お前は……! これだけの事をして、一体何がしたい!」

 

 その心からの言葉に、リムヴァンはまっすぐにヴァーリを見つめる。

 

 そして―

 

「―究極的には、愉快犯だね」

 

 ―はっきりと、そう言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なん、だと?」

 

 その、あまりにもあんまりな答えに、ヴァーリは一瞬沈黙した。

 

 そしてその隙をあえてつかず、リムヴァンはにっこりと笑うと告げる。

 

「僕は楽しく毎日を過ごしたいんだよ。そして、世界に混乱が生まれるのが特に楽しい」

 

 そう、まるで個人的な趣味を語るように告げる。

 

「いや~。とにかく死んだら楽しめないと思って神器とか集めてたんだけどね。気が付けば逆に一神話体系規模じゃ楽しめなくなっちゃって。かといって大量に敵に回してもあれじゃん? やるなら難易度が失敗するかもしれないぐらい高くて、かつ規模がでかくないとねー」

 

 からからと笑いながら、リムヴァン・フェニックスはそう告げた。

 

「だから、先ずは交渉の為に最も必要なスキルをもってるLと仲良くなる事にしたんだ。まあ、彼の神器無効化能力を突破するレベルで神酒を作れるようになったのはつい最近だけどね」

 

 さらりと、リムヴァンはそう言い放つ。

 

「後はグレートレッドに対抗できる手段とか、勝つ為に必要な技術とかを集めるのが大変だったね。これはこれで刺激的だから楽しかったけどさ」

 

 そう、リムヴァンは言葉を放つ。

 

 そう。そこに嘘はない。まったくもって偽りなく、ブラフもなく、ごまかしもない。

 

 真実、リムヴァンはただ楽しむ為だけにこれだけの事態を引き起こしたのだと言い切った。

 

「……そのためだけに、俺たちをスカウトしたのか?」

 

「ん? いやいや、もしかしてちょっと勘違いしてないかい?」

 

 ヴァーリの言葉に、リムヴァンは少しむっとした表情を浮かべる。

 

「言っとくけど、ここ迄の事をしたんだから利用してポイ何てしない。僕は勝つ為に一生懸命頑張ってるよ。だって、悪魔は交わした契約は守らないとね」

 

 そこにも一片の偽りもない。

 

「僕は彼らに「世界の覇権」という報酬を提示して、「僕の遊び」に協力してもらった。だから、先に誘った僕は彼らを勝たせる責任がある。その為に一生懸命努力したともさ」

 

 そう。この男は本気でヴィクター経済連合を勝たせる為に苦労をしょい込んだ。

 

 失敗も色々とした。結果としてストレスも溜まった事もある。しかし、それでもむやみやたらに切り捨てたりはしないし、面倒を見るべき時はきちんと見ている。

 

 そこには一つの筋が通っている。彼なりに通すべき筋を考慮している。

 

 一言言おう。

 

「……お前、正気か?」

 

 完全な快楽目的で世界大戦を引き起こすその性根もいかれているとしか言えないが、そのために引き入れた者たちとの約束を守るために、楽しくないことをするという精神性もまた何かが壊れている。

 

 そんなヴァーリの言葉に、リムヴァンは苦笑すると指を突き付ける。

 

「ヴィクターに入る事を了承しながら、勝手気ままに動いていた白トカゲ君には分からないだろうね。悪魔とは契約には真摯に対応するものだ。楽しい事をしたいのなら、それなりにするべき事があるんだよ」

 

 そうはっきりと言い切るリムヴァンに、ヴァーリは本心から戦慄した。

 

 自分も大概どうかしていると思っていたが、この男はそれを上回る。

 

 一見すると矛盾しているその性質も、リムヴァンにとっては何の問題もないのだ。

 

 悪魔として契約は守る。そしてそのうえで楽しむ。この男はその順番で行動している。

 

 断言しよう。この男は危険だ。

 

 この男は、自分が楽しむ事を全力で行っているが、しかし契約をきちんと守るという前提を必ず守っている。

 

 目の前の男は、常人の理解の範疇外だ。

 

 ただ単純に楽しみたいという、ある意味で底の浅い性質だが、そのうえで契約を果たすという事だけは裏切らない。

 

 悪意をもって人々に不幸をまき散らしながらも、交わした契約を自分から反故にしたりしない。ある意味で悪魔という生き物を体現している。

 

 目の前の男は本気だ。本気で楽しみたいだけで前代未聞の規模の戦争を巻き起こした。そして、その契約を守る為なら、自ら苦労をいとわない。

 

「……もう一度言うぞ、正気か?」

 

「正気だよ。第一、苦労したうえで成功するからこそ達成感があるとか、よくご立派な人達は言うじゃないか。その辺に関しては一理あると思ってるもん」

 

 ヴァーリにそう答えながら、リムヴァンはにこりと笑う。

 

「無双ゲームで爽快感を得るのもいいけど、苦労して上った山頂で飲むコーヒーも格別だろう? 僕はこれでもロマンを介するんだよ」

 

 そして、リムヴァンは気づけば巨大の火炎を生み出していた。

 

 その翼の長さは数キロにも到達する。

 

 魔王クラスでもできないであろう、圧倒的な出力と範囲を併せ持った灼熱の攻撃。それは、魔王クラスでも桁違いの耐久力を持つといわれるファルビウムすらただでは済まないだろう。

 

「それにヴァーリきゅん。この状況は僕達にとっても悪いものじゃない」

 

 それをためらいなく放ちながら、リムヴァンはそれに飲み込まれるヴァーリにさらりと告げる。

 

 超越者としての力量を見せつけながら、しかしそれでヴァーリが死ぬわけないと確信しているからこそできる芸当だ。

 

「トライヘキサは残念だけど、代わりに檄低に見積もっても数十年は各勢力の最強格を抑え込めた。ハーデスの骨に利権を与える事になるけど、グレートレッド対策にはサマエルがある」

 

 そう。トライヘキサは本命ではあるが、然しグレートレッド対策というだけで言うならサマエルがある。

 

 あの文字通りの老骨には注意が必要だが、しかし幸運な事にそれがグレートレッド用の切り札になるのだ。万が一の事態である事を考慮すれば、充分ともいえる。

 

 そして他の強敵対策としても、各勢力の指導者クラスにして最強戦力を大量に無力化できたのは僥倖だ。

 

 リムヴァンは一万年計算で動いている事を知らないが、それでも最低でも数十年で普通に考えて数百年から数千年かかると計算している。

 

 ヴィクター経済連合は人間の勢力が大半だ。人間の時間で考えれば、数十年もあれば戦争を終わらせるのには十分すぎる。

 

「楽しくいきたいからある程度は長続きしてほしいけどさ? それでも人間の基準で終わらせるつもりだからね。これであいつらは戦力計算から完全に外せる。十分すぎる成果だよ」

 

 リムヴァンは、できることなら泥沼の戦争の果てに勝ちたいと思ている。

 

 その方が眺める分には楽しめるからだ。それに、それ位の苦労をした方が勝った時に喜びも大きいだろう。

 

 だからこそ、遊びはきちんと入れた。そのうえで、勝つべく一生懸命動いている。

 

 ゆえにこそ、リムヴァンはトライヘキサがどうにかされることも想定。そのうえでその被害はこちらにとって有利だと判断したからこそ決行したのだ。

 

 そう。この隔離結界領域作戦で、主神クラスが軒並み無力化されたのは好都合。サマエルでグレートレッドを倒せる可能性がある以上、これだけの戦果を上げれるのなら、十分なのだ。

 

 そして、この戦いでのこちら側の戦果は自分が上げればいい。残っている敵の主力を、微塵も遠慮せずに叩き潰せば最低限の士気の維持はできるだろう。

 

 そして、万が一自分が死んでも―

 

「―元老院は僕抜きでも充分動けるように鍛え切った。死ぬと楽しめないからいやだけど、万一死んでも契約は守れるようにしとかないとね?」

 

 そう言いながら、リムヴァンはさらに大量の魔聖剣の騎士を再展開。同時に砲撃体勢を取る。

 

 超越者の本気の一撃を与えながらも、リムヴァンはヴァーリをさっきの一撃で倒せたなどと微塵も思っていない。

 

 相性だけならリムヴァンをはるかに超えるリゼヴィムが、一対一の状態でイグドラブニルを使用するほどまでに追い詰められたD×D(ディアボロス・ドラゴン)。たかが超越者の一撃程度でどうにかなるとは思えない。

 

 ゆえに、油断は一切せず、ついにリムヴァンは本気の本気を出し―

 

『Satan Lucifer Smasher!!』

 

 超出力の超越者すら超える砲撃が、リムヴァンを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴァーリは、その砲撃に飲み込まれるリムヴァンを見て、少しだけ息を吐いた。

 

 この直撃は奴にとっても大打撃だろう。少なくとも、状況を揺るがすことはできたはずだ。

 

 しかし遠慮はせず、砲撃をさらに続ける。

 

 リムヴァン・フェニックスは危険だ。能力的にも性格的にも、ここで殺しておかなければどれだけの被害を生み出すか想像もつかない。

 

 そうなれば、ヨーロッパの田舎町で暮らすあの女性にも何かが起きるだろう。それだけは絶対に避けなければならない。

 

 ゆえに、ヴァーリは砲撃に遠慮を全くしなかった。

 

 そして、それゆえに―

 

「つかむぜ未来!!」

 

 そんなキャッチフレーズと共に、砲撃のオーラの中から伸びてきたリムヴァンの腕を回避できず、顔面をつかまれる。

 

「な……っ!?」

 

 それでも砲撃を中断しなかったのは褒められるべきだが、しかしそれが意味をなさない。

 

 リムヴァンの体からは炎が吹き上がっていない。それは怪我が再生していないわけではない。そもそも再生するような怪我を負っていないのだ。

 

 至近距離から、魔王化のヴァーリが出せる最大級の一撃を喰らい続けて無傷。それが現実だ。

 

 信じたくない現実だ。この一撃は、トライヘキサにすら損傷を与えると断言できる。二天龍全盛期の最強の一撃といえるだろう。

 

 それを喰らい続けて無傷。それは、目の前の男が防御力だけならトライヘキサ以上であることの証明だった。

 

「ふっふっふ。これを発動しておいて正解だったよ。そして、これを発動した以上あとは作業ゲームだからちょっと残念だよ、涙!!」

 

 わかりやすく演技で涙を流しながら、リムヴァンはにやりと嗤う。

 

「これが僕の最高の手札。絶霧(ディメンション・ロスト)を13個複合させた複合禁手、十三世界を絶望に包む濃霧(ディメンション・ロスト・ゴルゴダ)さ」

 

 その言葉を理解する事を、ヴァーリは一瞬本能で拒絶した。

 

 ……しかしヴァーリは聡明である。それゆえに、すぐに理解してしまった。

 

 そして、彼の脳裏に絶望という感情がよぎる。

 

「……上位神滅具を、13個、だと?」

 

 それだけならいい。リムヴァンは大量に神滅具も持ち込んでいる。持っているだけならまだいい。

 

 だが、その十三個の神滅具を複合禁手として運用する。これがどれだけのことなのか、知識があるならすぐに分かる。

 

 同種の十三個の神滅具。それも、結界系神器として最強の絶霧を複合させた禁手。その出力は、防御だけなら龍神クラスにも匹敵する。

 

「効果は単純。13の二乗の防御障壁の形成さ。ま、種類はいろいろあるし、一つ一つの出力も絶霧一つぐらいの防御力はあるけどね!!」

 

 そしてその隙をついて、大量の龍殺しの魔聖剣が殺到する。

 

 その圧倒的な龍殺しの濁流に切り刻まれ、ヴァーリは激痛に苛まれる。

 

 かつて、これほどまでに絶望的な戦いがあっただろうか。

 

 強敵と命を懸けて戦うことに愉悦を感じるのが、ヴァーリ・ルシファーという男だった。この強敵を前に、戦う事に興奮を覚えない筈がない。

 

 だが今は状況が悪い。アザゼルとの永い別れに精神が参っているうえに、そのアザゼル達の決意を見事に利用されている現状は、ヴァーリにとって非常に大きい精神的負担を与えていた。

 

 その元凶であるリムヴァンを倒せない。その事実に、ヴァーリは絶望すら覚えている。

 

 そして、その隙にリムヴァンは一瞬でヴァーリを拘束する。

 

「ヴァーリきゅん。一応裏切り者には制裁をくわえとかないと、こっちも立つ瀬がないわけでね」

 

 そう言いながら、リムヴァンは聖槍を構える。

 

 合計十一本の聖槍を共鳴させ、リムヴァンは手に持っている聖槍の出力を向上させた。

 

 その攻撃力は、疑似的に覇輝に匹敵するレベルに到達している。

 

 直撃を喰らえば、ヴァーリでも一撃で死ぬだろう。

 

 そして、その一撃をリムヴァンは躊躇しない。

 

「さようなら、ヴァーリきゅん。アザゼルの願いを叶える事なく、散ってくれ」

 

 その絶望を生む言葉と共に、聖槍は突き出された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、お前は少なくともここで終わりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と共に、聖槍が消えうせる。

 

 そして、真上から雷鳴と共に()()()()が襲い掛かる。

 

 リムヴァンはそれをたやすく結界で受け止めるが、しかし明確に驚いていた。

 

「……うわお。何してんの、君」

 

 色々な意味で驚いている。

 

 この絶妙なタイミングでの攻撃に。自分達の専売特許といえる事を、即興でやったとしか思えない行動に。そして何より、彼らがここにいる事に。

 

 その隙をついて、閃光のように輝く女性が、ヴァーリをかっさらって距離を取る。

 

 それを庇う少年に助けられながら、彼女はヴァーリをイッセーのところにまで連れて行った。

 

「まったくもう。貴方のそんな顔を見るとは思わなかったわよ」

 

「リセス・イドアル? なんで、お前がここにいる?」

 

 ヴァーリは、戦場に出たら死ぬと確定しているリセスがここで全力を出している事に驚き、そして同時にすぐに納得した。

 

 ならば、彼がここにいる事も当然だろう。

 

 だがしかし、同時に疑問も残る。

 

 何故彼が、聖槍を三本も操っているのかが分からない。即興で神器を移植して操るなどという真似、普通不可能だろう。

 

 そのヴァーリの珍しい表情を楽しげに見つめながら、ヒロイ・カッシウスは不敵に笑う。

 

「決まってんだろ。俺も姐さんも英雄だからだよ」

 

 そう答え、そしてヒロイは視線をリムヴァンに向ける。

 

「……言っとくけど、死ぬよ、君達」

 

「「それが?」」

 

 リセスと共に即答する。

 

「出なかったらそれこそ死ぬわよ。私達の魂が」

 

「俺ら、最終的に命より魂を取るんでな」

 

 心からの笑みと共にそう告げ、そしてヒロイは聖槍を展開する。

 

 ()()()の黄昏の聖槍を展開し、ヒロイ・カッシウスはリムヴァン・フェニックスと対峙する。

 

「俺は、世界を照らす英雄(輝き)、ヒロイ・カッシウス!! お前という闇をかき消しに来たぜ、リムヴァン・フェニックス!!」

 

 此処に、最終決戦の火ぶたが切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 




 リムヴァンの性根そのものは浅いです。この辺はD×Dの敵キャラの基本原則に終始しています。モットーは「下らん奴がシャレにならない力を持ってしまった結果、事態がシャレにならない方向に至った」ですね。

 しかし同時に契約に関しては誠実。一度交わした契約は自分からは裏切るのを好まず、相手が破滅するかどうかは別にして、相応の配慮もきちんと行う。そのためならちょっとぐらい楽しくない過程や結果であろうと、途中で反故にしたりはしない。

 そういう快楽主義の契約主義者という頭のいかれた二面性がリムヴァンの在り方です。この辺に関してはかなり初期から固まっていたため、土壇場で決定したとかではないですが、かけていたかはちょっと不安。









 そして圧倒的なまでの防御力。これこそがリムヴァンの切り札です。

 絶霧13個の複合禁手による防御力は、天龍クラス程度ではビクともしない圧倒的防御力。防戦限定なら、龍神クラスでも苦労する圧倒的防御力こそがリムヴァンの真骨頂。さらにその上でフェニックス家由来の再生能力まであるので、龍神クラス以下が正攻法で倒すことはほぼ不可能です。しいて言うならリスクをある程度求めるリムヴァンの性格上、常時発動はしないところですが、既に発動しているのでもはやどうしようもありません。








 しかし、ここに例外は存在する。

 真の禁手に目覚めたヒロイ登場。主人公として恥ずかしくない乱入です。

 彼こそがこの窮地を打破することができる最後の切り札。










 次回、第一部ラストバトル


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最終章 最終話 閃光の聖槍

ついに第一部のラストバトル! リムヴァン・フェニックスを打ち倒す時です。

神滅具13個の融合という規格外、さらにそれ以外の神滅具及び神滅具クラスの力を多数保有する超規格外。それが、リムヴァン・フェニックス。

残存した仲間たちを全員まとめて始末しかねない最強クラスの敵。加えて神では絶対に勝てない圧倒的相性すら保有する。

それに対抗する、最期の閃光。

それこそが、彼の禁手の真の力―


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ついに決着の時が来たな。俺の命も、リムヴァンの命運も。

 

 しっかしあのヴァーリが戦意喪失するとか、流石にビビったぜこれは。

 

 しかも絶霧13個の複合禁手とか規格外だろ。どういう発想だ、マジで。

 

「……戦場に出てくるどころか、曹操と長可を倒しちゃうとはね。しかも―」

 

 リムヴァンは、心底ドンビキといった表情で俺を見る。

 

 そして俺が制御する14本の聖槍を見て、苦笑した。

 

「即興で聖槍を全部移植するとか、マジないわー。っていうかまさか、君の禁手って……」

 

「ああ。これが、俺の真の禁手だ」

 

 無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺し(トゥルー・ロンギヌス・アポカリュプス)

 

 聖槍の力を弱体化させる禁手。しかし、それは前段階だ。

 

 俺が未熟ゆえに真の力を引き出せなかったに過ぎなかった。そしてそれを能力だと誤解した。ゆえに本能で使うまで、俺は抑制しか使えなかった。

 

 この禁手の真の力は、黄昏の聖槍の完全制御。範囲内の黄昏の聖槍の使用権限を、俺に強制的に移す禁手だ。

 

 対聖槍禁手にして、聖槍が多数ある状況においてのみ最強の力を発揮する、極めてピーキーな亜種禁手。普通なら、この禁手を使う意味がある戦いなんて起きないだろう。

 

 だが、ここに例外が存在する。

 

 目の前にいるのは、聖槍を11本も持ち込んだ化物。そして、俺はその前に聖槍使いとタッグマッチをしている。

 

 今俺は、自分の持っているものと含めて、14本の聖槍を持ち、同時運用している。

 

 ……最強の神滅具14個同時使用。前代未聞の奇跡の形態。英雄の最期の戦いにふさわしいな。

 

「さあ、決着をつけるぜ、リムヴァン!!」

 

「これは、ちょっと大変すぎだよねぇ!!」

 

 俺の笑みを隠しきれない宣言に、リムヴァンも苦笑いしながら答える。

 

 そして、それが歓喜の笑みに変わった瞬間。

 

「「勝負しようかぁ!!」」

 

 その瞬間、最上級悪魔ですら俺達が消えたとしか認識できない速度で、高速戦闘を開始した。

 

 一瞬で数百の攻撃を躱し、そしてその大半を防がれる。

 

 俺は聖槍の力で強引に出力を上げた紫に輝く双腕の電磁王(ライトニング・シェイク・マグニートー)で聖槍を制御し迎撃。リムヴァンは、展開している多重結界で防いだ。

 

 だが、そのリムヴァンの頬から火花が飛び散る。

 

 結界が、俺の攻撃を防ぎ切れてない。かすり傷の中のかすり傷だが、確かに攻撃は通った。

 

 通常の駆動ですらここまで通用するなら、こちらもやりようはある。なぜなら―

 

禁手化(バランス・ブレイク)! 血煙纏いし人間武骨!!」

 

 ―そのうち一つは、長可の聖槍だからだ!!

 

 放たれる槍の一撃が、リムヴァンの脇腹に大きな炎を生み出す。

 

 そう。この禁手は聖槍の制御権限をそのまま奪う事。必然的に俺は長可の禁手も使えるってわけだ。

 

 更に!!

 

「禁手化!! 極夜なる(ポーラーナイト・)天輪聖王の輝廻槍(ロンギヌス・チャクラヴァルティン)!!」

 

 曹操の禁手を発動。即座に破壊力重視の将軍宝を使い、叩き付ける。

 

 即座に再生されるが、然し胸部からでかい炎が上がる。流石は14本分の出力で発動した将軍宝だな、オイ!!

 

「やってくれるねぇ!! だけど、甘いよ!!」

 

 その瞬間、全方位から無数の砲撃が俺に襲い掛かる。

 

 七宝の一つで受け流すが、然し限度がある。転移の方は奴の神器で防がれた。

 

 そして、大量の分身と魔聖剣の騎士団がぶつかり合う。

 

 その大規模な戦闘を繰り広げながら、リムヴァンは嗤う。

 

「楽しいねぇ!! 死ぬかもしれないってスリルがある!! こういう戦いは久しぶりだよ!!」

 

「俺もだ!! 今俺は、英雄として輝いているからな!!」

 

 ああ。俺達は本気で楽しい。

 

 だけど違いはある。

 

 きっとリムヴァンは、負けてもそれなりに楽しむだろう。

 

 だが、俺はきっと負けたら楽しめない。

 

 なら、俺が勝つという結果が誰もが一番楽しめるだろうから、絶対勝ちたいな!!

 

 だけど、リムヴァンは俺を見て笑う。

 

「だけと、そろそろ限界じゃないのかい?」

 

 ………痛いとこ突いてきやがるな、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いを見て、リセスはヴァーリの顔を見ずに彼に告げる。

 

「お願い。手伝って」

 

「……あの戦いに、俺達が介入できるのか?」

 

 ヴァーリにしては弱気な発言だが、それも仕方がない。

 

 今の絶不調な精神状態では無理もない。そしてそれ以上に、2人の戦いは規格外の領域だった。

 

 トライヘキサの核と、サーゼクスや一誠と共に戦った戦いよりも激しい戦いだ。魔王化している今の動体視力ですら、目で追い切れない。

 

 はっきり言って、今のリセスやヴァーリが介入しても足手まといなのだが―

 

「いくらなんでも、ヒロイにも限界があるわ」

 

 リセスは冷静にそう告げる。

 

 そう。兵藤一誠と同じなのだ。

 

 龍神化という規格外の力を手にした兵藤一誠は、しかしその肉体が力に耐え切れず、生死の境を彷徨った。

 

 ヒロイも同じだ。聖槍14本の高出力連立駆動は、ヒロイの肉体にも大きすぎる負担をかける。

 

 魔人変成(デーモン・チェンジ)で無理矢理誤魔化しているが、それにも限界がある。

 

 だから、自分達も手伝わなければならないのだ。

 

「……チャンスは一回よ。それに賭ける」

 

「………」

 

 その言葉に、ヴァーリは先ほどの光景を思い出す。

 

 隔離結界領域に旅立つアザゼル達は、笑っていた。

 

 それは、きっと自分達がヴィクターとの戦争を終わらせると信じていたからだろう。

 

 なら、自分は―

 

「いいだろう。まあ、今のリムヴァンもグレートレッドほどではないだろうしな」

 

 ―立ち上がろう。

 

 真なる白龍神皇を目指す自分が、こんなところで躓いていいわけがない。

 

 何より、義父(アザゼル)の期待に応えない息子でいるつもりはない。

 

 何故なら、自分は真なる明けの明星の末裔なのだから。

 

「それで、俺達だけでいくのか? 流石に幾瀬鳶雄達は限界だと思うんだが」

 

「安心しなさい。この戦いに、英雄(ヒーロー)が出てこないわけがないでしょう?」

 

 その言葉に、ヴァーリは根拠のない納得を覚えた。

 

 そう。この戦いに彼が動かないわけがない。

 

 幾瀬鳶雄は動けない。デュリオ・ジュズアルドも動けない。ニエ・シャガイヒも動けない。

 

 だが、彼は動く。

 

 限界を超えた程度で止まるなら、最弱の身で最強の白龍皇に並び立つことなどできないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、その声を聴いた。

 

「おい。イッセー」

 

 ……ヒロイ、か?

 

 お前、なんでこんなところにいるんだよ。

 

「決まってんだろ。お前、童貞を卒業せずに死ぬ気か?」

 

 んなわけねえよ。意地でもこの体質を克服して、俺はハーレム王になるって決めてるんだからな!

 

「そう言うこった。俺も、英雄でい続けないで生きる気はない」

 

 そうか。なんとなく分かったよ。

 

 俺がハーレム王を目指すように、お前は英雄を目指してるんだな。

 

 だったら、何があっても諦めるわけがないよな?

 

「そう言うことだ。お前の煩悩と、俺や姐さんや曹操の英雄願望は、同レベルなんだよ」

 

 そっか。なら、止まれないよな。

 

 止まるなんて選択肢はないよな。なんとなく分かるぜ。

 

「ああ。だから頼む、力を貸してくれ」

 

 ……マジかよ。俺、死にかけてるんだぜ?

 

「そこは一時的に何とかしてやる。代わりにこの窮地を何とかしてくれ」

 

 ………。

 

 ヒロイ。お前、死ぬのか?

 

「かもな。神の奇跡の一つや二つじゃどうにもならねえみたいだしよ」

 

 ……………

 

 ったく。そんなすっきりした表情で言われたら、俺も何も言えねえよ。

 

 分かった。だったら、最期は笑って終わろう。

 

 そして、皆の未来を掴もう!

 

「ああ、行くぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「槍達よ。神すら射貫き魔王すら滅す聖なる槍達よ!!」」」」

 

 俺達は、同時に言葉を継げる。

 

「「「「我らは無限の願いと夢幻の輝きをもって、超越すらも射貫かん!!」」」」

 

 それは、勝利の光を掴む為のキーワード。

 

「「「「故に願う。その輝きを、未来へ進む道を切り開く為に!!」」」」

 

 それは、俺達の命を燃やすキーコード。

 

「「「「遍く闇をかき消す(ひかり)を、遍く邪悪を滅ぼす(ひかり)を、我らのこの手に宿したまえ!!」」」」

 

 それは―

 

「「「「我が宿敵よ、光輝たる閃光にて消滅せよ!!」」」」

 

 ―俺達が勝つ、勝利宣言!!

 

「「「「L×L(ライトニング・ロンギヌス)!!」」」」

 

 覇輝すら超えた、究極の輝きだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、俺達は14の聖槍による共鳴駆動で発動した覇輝の昇華形態、L×Lを発動させる。

 

 一人では絶対に持てない力。だが、四人ならリムヴァンを倒すまで持ち堪える力。

 

 俺が駆動し、ヴァーリが吸収し、イッセーが譲渡し、姐さんが付加する。

 

 力を具現化するイッセーの飛竜で、力を奪取するヴァーリの光翼で、力を付属させる姐さんの付加で、力そのものの俺の覇輝を制御する。

 

 姐さんが煌天雷獄、ヴァーリが魔王化、イッセーが龍神化、そして三人にそれぞれ聖槍が三本輝きと化し、その身に纏いつく。

 

 そして俺は、最高の難敵だった長可と曹操の槍を手に持ち、同じように三つの聖槍を鎧として身に纏う。

 

 そしてその瞬間、リムヴァンは涙すら流して感動した。

 

「……素晴らしいよ! これ、最高だ!!」

 

 心の底から歓喜して、リムヴァンは俺達を褒め称える。

 

「まさに英雄だ! 君達は、僕という邪悪を討ち滅ぼす為に、英雄になったんだ!!」

 

 ああ、そうだ。

 

 俺達は、本当に英雄になった。

 

「さて、負けっぱなしは趣味じゃないんでな」

 

「ハーレム王になる為に、お前なんかに邪魔されてたまるか!!」

 

「あの子の自慢でいる為には、ここで勝たないといけないわよね」

 

「さあ、最後の輝きだ。……お前はここで光になりな!!」

 

 俺達の宣戦布告を聞き、リムヴァンは本当に楽しそうに笑うと、全ての力を開放する。

 

「さあ、来るがいい英雄達よ!!」

 

 その瞬間、文字通り神すら滅ぼす大火力が放たれた。

 

 一発一発が最上級悪魔を一蹴する威力。それが雨あられと襲い掛かる。

 

 俺達はそれを弾き飛ばしながら、一気に仕掛ける。

 

 あらゆる妨害系の能力は、聖書の神の遺志が防いでくれている。

 

 そして、あらゆる攻撃を俺達は弾き飛ばす。

 

 敗けない。

 

 勝ちたい。

 

 奴を倒したい。

 

 真なる白龍神皇になる為に。

 

 ハーレム王になる為に。

 

 俺にとっての自慢でい続ける為に。

 

 そして、この一瞬でもいいから輝き切る為に。

 

 俺達は心からの願いと共に、一気に詰め寄り―

 

「「砕け散れ、リムヴァン!!」」

 

 イッセーとヴァーリの渾身の砲撃が、リムヴァンを包み込む。

 

 大量の再生の炎をまき散らしながら、リムヴァンは吠える。

 

「まだまだぁ!! この程度で、負けてやるわけがないんだよねぇ!!」

 

 そしてその瞬間、桁違いの炎が放たれる。

 

 二つの砲撃と競り合ってなお余りあるほどの炎が、リムヴァンから放たれる。

 

 そして、魔聖剣を構えてリムヴァンが攻撃を放とうとしたその瞬間に―

 

「エンチャント、ディストピアアンドユートピア」

 

 ―俺達の、最後の一撃の準備は完了した。

 

 姐さんが、俺の手に持つ聖槍に触れ、必殺の力を付属させる。

 

 そして俺は、この一撃に文字通り全てを賭ける。

 

 俺の命を、俺の魂を、俺の願いを。

 

 姐さんの命を、姐さんの魂を、姐さんの願いを。

 

 これが、俺の放てる文字通り最大の一撃だ。

 

「終わりだ、リムヴァン!!」

 

 これが、俺の、姐さんの、俺達の―

 

「「双王の型、双子星!!」」

 

 ―お前に送る、手向けの華だ!!

 

 放たれる一撃は、最強最大の一撃。

 

 それをリムヴァンは結界を収束して受け止めるが、しかしそれでも足りない。

 

 14の最強の神滅具の力を込めた一撃に、13の絶霧では抑えきれない。

 

 勝てる。行ける。届―

 

「……念の為、出しといて正解だったよ」

 

 その瞬間、俺達は真上に敵がいる事に気が付いた。

 

「ヒロイ……!?」

 

「リセス……!!」

 

 三体の魔聖剣の騎士の内、二体がイッセーとヴァーリに組み付いて取り押さえる。

 

 そしてその一瞬のスキをついて、最期の一体が俺と姐さんに刃を向ける。

 

 全出力は攻撃に回している。防げない。

 

 攻撃の手を緩めるわけにはいかない。躱せない。

 

 そして結界を突破するには、時間が僅かに足りない。届かない。

 

「……全力を、超える!!」

 

 それでも、姐さんは力を注ぎ続ける。

 

 なら、俺も迷わない。

 

 届かせる。意地でも!!

 

「「届―」」

 

 それでも、一瞬だけ、騎士の一撃が、早く―

 

「させないっス!!」

 

 ―届く前に、撃ち抜かれた。

 

 …………ああ。

 

「さっさといけっス! この、馬鹿英雄コンビぃいいいいいいいいい!!!」

 

「「……ありがとう、ペト」」

 

 最後の最期で、本当にありがとうな。

 

 馬鹿な英雄でごめんな。でも、それでも―

 

「これが、私とヒロイとペトの三人の―」

 

「―最後の共同作業だぁああああああああああああ!!!」

 

 ―俺達は―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お見事。最高に、いいものを見たよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―輝き切ったぜ、皆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その輝きは、一瞬で数百km先にまで届く一撃だった。

 

 そしてその発射点から、リムヴァン・フェニックスの残骸と思しき一部が発見。近くにいた者達の証言から、リムヴァン・フェニックスのKIAが発表された。

 

 そして、英雄派とイグドラフォースの精鋭が、戦死もしくは捕縛された事で、ヴィクターは大打撃を受ける。

 

 しかし、三大勢力及び和平を結んだ陣営は軒並み指導者の大半を隔離結界領域に送り込むという、大打撃を背負う事となった。

 

 邪龍戦役最後の戦いともいえるこの戦い。その結果は事実上の痛み分けに終わる。

 

 第一次真世界大戦と称される戦いの前半戦は、ここで終わる。

 

 そして、その戦いでMIA認定された二人の英雄がいる。

 

 その二人は、兵藤一誠とヴァーリ・ルシファーの二名と共にリムヴァン・フェニックスの撃破に貢献。最後の支援を行った、ペト・レスィーヴと共に五英雄と称されることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その二人の名前は、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二極の神滅具を宿した、第一次真世界大戦前半期における最高の英雄と称されることとなる、2人の英雄だった。




はい、これこそがヒロイの聖槍の真の力です。

黄昏の聖槍の完全支配。これこそがヒロイの持つ無明に沈みし聖槍振るいし聖人殺しの真の力です。

黄昏の聖槍の力を、発動中に限り所有権すらまとめて完全に自分のものにできる。黄昏の聖槍がある時に限り無類の強さを発揮できる反則能力。とはいえ他13本全部の支配は負担も大きく、制御しきれていないのが実情。

それを、リセスとイッセーとヴァーリの力を借りて克服したのがL×L。神滅具の数でも質でもD×Dを超えているので、こういうネーミングにしました。








そして神話すら超える頂上決戦。リムヴァンがさらりと伏兵戦術で隙をつきましたが、それをどうにかするのはイッセーでもヴァーリでもなく、ペト。

ある意味最大の決別宣言。そしてなんだかんだで活躍するサブヒロイン。その意地を見せつけました。

そして、次回が第一部のエピローグです。


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第一部 エピローグ
第一部 エピローグ 残された者


閃光の聖槍は第一章ラストバトル限定の特別形態。いわばあれですね。ムービー大戦でのスーパータトバとかの最終決戦限定フォームです。








そして決着はつき、短い準備期間へと移行します。

これは、その最後の一幕と、残された者の別れの言葉…………。


 

 

 

 

 

 

 

 それは、致命的な隙だった。

 

「曹操は愚か、リムヴァン宰相までも!?」

 

 相次いで報告される戦士の報告にゲオルクは明らかに狼狽する。

 

 この戦場でも最強格である曹操とリムヴァン。この二人が討たれる事など天地がひっくり返ってもあり得ない。

 

 だが、現実はそうなった。

 

「なら、これ以上の殲滅戦は時間の無駄か」

 

 ゲオルクはそう吐き捨てると、即座に結界を転移重視にし、戦場全体へと行き渡らせようとする。

 

 宰相の戦死は間違いなく大きく混乱を生む。このままでは、ヴィクターの精鋭の多くが討ち取られる危険がある。

 

 それを防げるのは、長広範囲の転移フィールドを作り出す事の出来る自分だけだ。

 

「―やっと、隙を見せましたね?」

 

 ―ゆえに、それを見逃すほど愚かな事は起こらなかった。

 

 ゲオルクの腹部から、美しい刃が突き出る。

 

 それは、最強の聖剣。

 

 それは、騎士の王の剣。

 

 それは、王者を選ぶ選定の剣。

 

 聖王剣コールブランド。またの名を、カリバーン。

 

 その一撃は、ゲオルクに明確な致命傷を与えていた。

 

「馬鹿な……っ! なぜ、我が居場所が―」

 

「ああ、うん。魔法の感知対策とかいっぱいしてたのはすごいんだけどね?」

 

 意識が急速に消え落ちる中、プリス・イドアルの声が届く。

 

 そこには、半分呆れの色が込められていた。

 

「科学的なアプローチが足りてないかな。知ってる、サーモセンサーって?」

 

 その言葉の意味を理解する余力すらなくなったのは、彼にとって幸運だろう。

 

「熱源を誤魔化さなければ、私なら感知できるから。……なんか、ごめんね?」

 

 この戦いで最もうっかりミスによって死んだなど、彼にとって死んでも死にきれない言葉を、理解させるのはあまりに酷だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは、終わった。

 

 全てのトライヘキサは、神々が隔離結界領域に引きずり込み、封印される。

 

 そして各勢力の強き者達が一万年近い年月をかけ、トライヘキサを完全に滅するまで戦い続けるのだ。

 

 むろん、不安の声も大きい。

 

 トライヘキサが逆に彼らを倒し、再び地球に攻め込む可能性。彼らがトライヘキサを倒している間に、ヴィクター経済連合の攻撃でこちら側が負ける可能性。

 

 挙げ出せばキリがない。それほどまでにトライヘキサの猛威は恐怖を刻み込んだ。その上ヴィクターは大打撃を受けたとはいえ、組織として壊滅したわけではないのだ。

 

 宰相リムヴァンこそ討ち取る事に成功した。力の象徴であるリリスは、いつの間にかアザゼル総督が手なづけ、オーフィスとともに仲良く兵藤一誠の家に住んでいる。そして、トライヘキサは隔離結界領域に。

 

 この時点で、力と実務のトップが無力化されたのだ。更に攻防戦による、精鋭の多くの戦死。負った怪我だけなら、ヴィクターの方が大きいと言ってもいい。

 

 だが、同時にこちら側が受けた打撃も大きい。

 

 各勢力は主神クラスを含めた指導者や強者を、トライヘキサ封印の為に大量に動員する事となった。

 

 もとより立場ゆえに前線に出る事は少なかったが、彼らが後ろにいるという事は士気に繋がっていたのだ。

 

 結果、どの勢力も程度はともかく混乱が起き、技術流出などが頻繁に発生する事となる。

 

 これに対抗する為、それぞれの勢力も動きを見せる。

 

 こと悪魔側は、これに対して三つの対策を提案。各勢力の重鎮達にも認められる事となる。

 

 一つは、国際レーティングゲーム競技大会の開催。

 

 もとより、和平をより強固にする為の方策は必要だった。例えば、各勢力の根強い他勢力への敵意を発散させるガス抜き。例えば、皆が共同で行う事による仲間意識を強くできるイベント。

 

 そこに四大魔王のレーティングゲームをよりクリーンなものにしたいという思惑が重なり、堕天使元総督アザゼルの協力もあり、かなり進んでいた。

 

 更にレーティングゲームによる競い合いが強者を育成するのはどの勢力も想定しているところ。戦力を失ったからこそ、死ぬことなくしのぎを削り合えるレーティングゲームの価値は上昇していくのだ。

 

 一つは、この和平勢力に明確な名前を付ける事。

 

 名前を付けるというのは、単純だが帰属意識を強めるのには効果的だ。明確に一つの組織や陣営としての名前があれば、同じメンバーという意識が仲間意識を呼びやすくなる。

 

 ヴィクター経済連合に対抗する勢力の集まりという言い方も面倒である。明確な、誰もが使う共通の呼称は必須ともいえた。

 

 これについては、ヴィクターとの戦いの始まりであった駒王会談及びその場所となった駒王町の駒王学園からあやかり、ピースキング和平連盟というのが最有力候補で、これに関してもほぼ確実に決定される。

 

 そして、最後はある意味で単純な策だ。

 

 英雄を祭り上げる事によって、そちらに意識をそらす。

 

 ちょうど良い事に、ヴィクターとの主要な激戦の数多くに参加している者がいる。

 

 その戦いが立志伝と言っても過言ではない、急成長を成し遂げた若者がいる。

 

 リムヴァン・フェニックスを討ち取った、英雄が一人いる。

 

 そして何より、彼は冥界の人気者だった。

 

 歴代最優にして歴代最強の赤龍帝、兵藤一誠。彼の上級悪魔昇格が、試験を飛ばしたうえでほぼ確定になる。

 

 これまでの転生悪魔史上でも類を見ない、転生後一年足らずでの上級悪魔承認が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、数時間後。

 

 ペト・レスィーヴは、その海岸に一人訪れていた。

 

 日本防衛戦からまだ半日。本来なら戦後処理を行わなければいけない時だ。

 

 だが、それをこっそり抜け出して、ペトはここに来ていた。

 

 それを手伝ってくれた小犬に、こんなことを言われた。

 

『ぺっちゃん。こうなること、気づいてなかったの?』

 

 思えば、小犬は勘付いていたのかもしれない。

 

 もし、二択しか選べない時、リセスは英雄である事を選ぶしかないのだ。ペトを選ぶ事はしないのだ。

 

 だから、小犬はリセスになつかなかったのだろう。

 

 小犬は、リセス・イドアルを英雄として愛したりはできないからだ。

 

 そして、シシーリアはそれに気づいてもなおヒロイを愛した。

 

 それは、ヒロイ・カッシウスを英雄として愛していたからだ。

 

 そして、ペトはリセスもヒロイも大好きだ。だけど、2人を英雄として愛する事は出来なかった。

 

 だからこそ、あの時ペトは一撃を放ったのだ。

 

 勝手にやってろ馬鹿野郎。そんな感じの、ある意味で決別の一撃だった。

 

 だが、それでも、ペトは二人が大好きだ。

 

 三人でつるんで行動していた、この一年足らずの生活が大好きだった。

 

 だからこそ、だからこそ、だからこそ。

 

「この、馬鹿コンビ英雄ぅううううううううう!!」

 

 ペトは、渾身の思いを込めて決別宣言を放つ。

 

 二人が心配しないように。二人に引っ張られたりしないように。

 

 全ての思いをこの声に込めて、ペトは魂の底から叫んだ。

 

「絶対に、今まで以上に幸せになってやるっすからねぇえええええええええ!!!」

 

 涙は流さない。

 

 後悔はしない。

 

 そして、前に進んで見せる。

 

 ペト・レスィーヴは、必ず三人でいた時よりも充実した人生を送って見せる。

 

 それが、2人に対する決別宣言にして手向けだった。

 




なんというか、消化試合的に終わってしまったゲオルク。すまん、入れるタイミングがつかめなかったんや……。

それと、プリスの禁手について以前言及していましたが変更します。

もともと熱振動を拡張発展させる形で振動操作能力を与える予定だったのですが、できることが増えてもほとんど効果がダブっていることに気が付いたので、変更することにしました。







それはそれとして、エピローグ終了。

遺されたペトが、ある意味で決別宣言をして終わりました。

ですがご安心ください。きちんと二部はやる予定です。すでに100kb以上書き溜めはあります。

とは言え、原作の方がまだまだ進んでないこともあり、新作とか復刻とかオリ展開とかいろいろ考え中ですね。


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第二部
第二部 プロローグ 戦の準備は滞りなく


そう言うわけで第二部プロローグです。

いや、どうせ自分の速度だと追いつくからいろいろやっているんですが、それはそれとして100kb以上書き溜めているのでちょくちょく出していこうかと


 

 

 二月初頭に発生した、トライヘキサによる日本襲撃。

 

 ヴィクター経済連合は、宰相リムヴァン・フェニックスや精鋭部隊をごっそり失う痛手となったが、かと言って対抗した三大勢力達の勝利と呼ぶには、難しいという他ない。

 

 トライヘキサを倒すには勢力圏の壊滅と数千年以上の時間がかかると判断され、妥協案として隔離結界領域への封印が決定された。

 

 だが、その為には中で抑える者が必要。それも、最高クラスの戦闘能力を持った者が、数十人は必要だった。

 

 堕天使全総督アザゼルを中心とし、魔王三名とその眷属大半、四大セラフ三名とその御使い大半が、三大勢力から向かう事となる。

 

 更に北欧神話からはオーディンを中心とする神々、ギリシャ神話からはゼウスを中心とした神々、インド神話からはヴィシュヌやブラフマーを中心とした神々が向かう事となる。

 

 他の神話体系からも、主神などの実力者が向かうなど、かなりの戦力がトライヘキサを抑え込む為に長い戦いに行く事になった。

 

 結果としてみれば、ヴィクターは事実上のトップと最強戦力を喪失。三大勢力を中心とする対抗戦力は、最高位の実力者の多くを喪失する事となる。

 

 そして、これは多くの悪影響を生み出した。

 

 そもそも、これだけの戦いが勃発すれば技術流出も多数発生する。

 

 元々各勢力のはぐれ者なども多く参加していたヴィクター経済連合は、犯罪者崩れも多い。そして、それゆえに技術を持ち出して脱走するという馬鹿も少なからずいるのだ。

 

 三大勢力側もまたしかり。これに対抗する為に技術を流出する他なかったが、しかし勢い余って伝えてはならない類まで漏れている。

 

 そして双方の勢力が大打撃を受けた事で、ついに動き出す。

 

 聖書の教えを信仰するタカ派勢力の集まりであるカルディナーレ聖教国を始め、数多くのテロ組織が活動を開始する事となる。

 

 それに対抗する事もあり、双方ともに組織の再編及び戦力回復を開始。

 

 三大勢力は和平を結んだ者達と共に「ピースキング和平連盟」を結成。より本格的な連合軍として戦うべく、行動を開始。

 

 対するヴィクター経済連合も、勢力圏内でのテロに対する鎮圧を開始する事になる。

 

 そして、第一次真世界大戦は新たなステージへと移行する前の、一時的な鎮静化状態に移る事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地獄の最下層、コキュートス。

 

 その僻地にて、ヴィクターの派閥である二人の勢力が対峙していた。

 

『ふぁふぁふぁ。まさか、蝙蝠と鉢合わせるとは思わなかったわい』

 

 そう言うのは、冥府の長であるハーデス。

 

 ヴィクター経済連合と三大勢力を相手に漁夫の利を狙い、そしてリムヴァンに敗北して傘下に入った者。

 

 そして、それに対峙するは旧魔王派。

 

 その過激な思想故に暴走し、ヴィクターでの地位を失墜した者。

 

 双方ともに、過程はちがえどヴィクターでの序列はかなり低い。

 

 ヴィクターにおける二つの派閥を利用して漁夫の利を得ようとしたハーデスは信用されていない。ヴィクターにいる他の種族すら滅ぼそうとしたシャルバとクルゼレイがいた旧魔王派も信頼できない派閥だ。

 

 しかし、それゆえに二つの派閥は比較的この状況下でも自由に動く事ができた。

 

 そして、この場所にたどり着いた二つの勢力は、同じものを確保しようとして動いていたのだ。

 

 そして、旧魔王派の中から一人の女性が前に出る。

 

 少女と女性の中間とでもいうべき外見年齢だが、悪魔は外見を自由にできるので外見年齢に意味はない。実際、既に数百歳にはなっている人物だ。

 

「やあ、ハーデス神。邪龍辺りがリゼヴィムを出し抜いて得た情報でも聞き出したのかな? 抜け目がないね、目もないガイコツだけど」

 

 その軽口に、ハーデスに連れられた死神達が怒りのオーラを放つ。

 

 この場にいる者達の多くは上級の死神。最上級悪魔クラスであろうと苦戦必須の実力者達である。

 

 そんな者達を前に、ハーデスを貶すような発言。即座に戦闘が開始されてもおかしくない。

 

「シェンカ様! 相手は神です、うかつな発言は―」

 

「気にするな。この程度で兵をけしかけるような愚者なら、どちらにしても殺し合いだろうしな?」

 

 部下に応える彼女の言葉に、ハーデスは片手を挙げて部下を制する事で応じる。

 

 ハーデスは愚者ではない。くだらない沽券に囚われすぎて、無意味な損害を受けるような真似はしない。出なければ既にヴィクターに反旗を翻しているだろう。

 

 そこ迄踏まえたからこその軽口。その態度に、ハーデスは目の前の悪魔の評価を改める。

 

『なるほど、ただの馬鹿どもではないらしい』

 

「カテレアと一緒にされるのは心外だな。妾は正当たるレヴィアタンの末裔として、それに見合った人物であろうと努力はしているのだ」

 

 その言葉に、ハーデスは確かに納得する。

 

 目の前のシェンカと呼ばれた女は、蛇を使用していない。

 

 彼女の名はシェンカ・レヴィアタン。庶子との間に生まれた身ではあるが、正当たるレヴィアタンの末裔である。

 

 旧魔王及びその末裔は、いざという時の保険として庶子との間に子をなして、隠して育てられていたものが何名かいた。

 

 シェンカはその一人。そして、旧魔王派残党を統率している悪魔である。

 

 旧魔王派は最も即座にオーフィスの蛇を運用していたものだ。旧レヴィアタンの血統である彼女は真っ先に蛇を使われる立場であろうに、それがない。

 

 それだけで、かつての旧魔王派幹部とは一線を画す存在である事の証明だった。

 

『まあ良い。だが、儂らものし上がる為にはそれが必要なのじゃがな。……譲る気はなさそうだの』

 

 普通に考えれば不可能だと言っても過言ではない。

 

 ハーデスは、アポプスが流した情報に基づきあるものを手にする為にここまで来た。

 

 あのリムヴァンが、リゼヴィムが、使えば戦局を左右する可能性すらありながら使わなかった代物。

 

 おそらくリゼヴィムが隠していたか、使わないように要請したのだろう。リムヴァンという男は、協力者に対して配慮できるものだ。彼のアジテーションに助けられた身として、それを断る気にはなれなかったということだろう。

 

 そして、それは悪魔達にとっては至宝と言っても過言ではない。死神に使い()()()()のは我慢できないはずだ。

 

 とは言え、今後を考えるのならばこれを利用しない手はない。

 

 ゆえに、ハーデスはこの場で殺し合いになる事を覚悟し―

 

「ハーデス神。妾は妥協しよう」

 

『―なんじゃと?』

 

 ―ようとして、その言葉に耳を疑った。

 

 目の前の女は、悪魔にとって神に等しい存在を死神に使われる事を限定的に認めたのだ。

 

「……三か月だ。三か月の間、我々が監視するのを条件に好きに使っていい。代わりに、そこから後は監視をつけていいから我々に使わせてくれ。注文があるなら、ある程度は対応しよう」

 

 その言葉に、ハーデスは考える。

 

 目の前の女が、何を考えているか分からない。

 

 ここに保管されている存在は、彼女にとっても重要だろう。精神的にも物理的にもだ。

 

 それを、ハーデスにあえて使わせる。それだけの理由があるというのか。

 

『……わけを聞こう』

 

「知れたこと。ここで妾と貴殿が殺し合い、どちらかが死ぬのはヴィクターの為にならぬ」

 

 なるほど。どうやら彼女は、本当にカテレア達とは一線を画す存在らしい。

 

 大局的なヴィクターの勝利の為。そして、それによって得られる自分達の利益の為。そしてあるか分からないが何らかの大義の為。

 

 それらの為に、あえて死神に()()を使わせる事を許容した。

 

『……良かろう。だが、時折注文を付けてよいか? それと、質問が一つ』

 

「何かね? 貴殿とはヴィクターの双頭となるだろうし、答えられる質問には答えるが」

 

 どうやら、目の前の女は自分と同様の事を目論んでいるようだ。

 

 復権と成り上がり。あり方は違えど、ヴィクターの方針に口出しができるほどの権力を手にする事。

 

 何故それをするかは違うだろうが、しかしその為に何でもする覚悟があるのなら、ここで殺し合いになる事はあるまい。

 

『貴様は何を産ませるつもりだ? 儂は、あの目障りな蠅すら潰せる存在を生めるか試すつもりだが』

 

 その言葉に、シェンカは即答した。

 

「知れた事。妾達が統率するに値する、中級から上級の悪魔をこそ量産する。まあ、最上級以上が生まれるのは歓迎だが」

 

 ……その言葉に嘘はない。だが、隠している事はある。

 

 ハーデスは、今この場においてシェンカに隠している事がある。

 

 それは、アポプスが盗み出したリリンが記した書物。現代の発展した魔法や科学をもってして、強大な悪魔をそれに産ませる理論。

 

 その理論段階で止まったものを使用して、ハーデスは人工的に超越者を生み出そうと画策している。

 

 しかし、シェンカはそれをしない。この状況下で中級や上級を生み出した程度で、圧倒的な力を得れる可能性は低いというのに。

 

 間違いなく、何か別の形で切り札があるという事なのだが―

 

『承知した。三か月の間は監視を受け入れてアレを使わせてもらう。それでいいか?』

 

 ハーデスは、あえて受け入れてスルーする。

 

 悪魔は心底嫌いではあるが、しかしだからといってこの女を倒すのは早計だ。

 

 断言しよう。目の前の女、シェンカ・レヴィアタンは間違いなく化ける。

 

 上手く利用して、目障りな蠅であるアジュカ・ベルゼブブと共倒れにできるのならよし。そうでなくても、既に手をまわしている自分達で倒すという事も考えられる。

 

 最悪なのは、ここで争って事に失敗し、この臥薪嘗胆からの復帰のチャンスを台無しにする事だけだ。

 

 ゆえに、ハーデスは視線をそれに向ける。

 

『じゃが、きゃつら現魔王派共からしてみれば業腹だろうて。自らの始祖によって、きゃつらは敗北の道を進むのだからな』

 

「勝てるかどうかは分からぬがね。だが、妾達も負けるつもりはないさ」

 

 そして彼らが視線を向ける先、そこには巨大な肉塊があった。

 

 その正体は、悪魔の初代といえる存在を多数生み出した悪魔の母。そして、初代ルシファーの妻。

 

 リリス。そのオリジナルが、そこに眠っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピースキング和平連盟。それの結成が決定し、参加勢力のトップによる調印式。その僅か一日後に、重要トップが三人ほど集まっていた。

 

「よ、お二方! ま、今日は俺のおごりだから飲んでくれや!」

 

 一人は、人間世界の国家で唯一ヴィクターに勝ち星を挙げている国家の首脳。今後の世界大国が確実視される国、日本の総理大臣。名を、大尽統。

 

「それは良いね。日本の酒は美味しいと聞くよ。これがいわゆるカケツケイッパイかな?」

 

 一人は、ピースキング和平連盟における最強戦力。インド神話の三柱の神で唯一残存した破壊神。名を、シヴァ。

 

「サーゼクスから何度か言われた事もある。確か、こういう店では刺身と共に食べるらしいな」

 

 一人は、悪魔を統べる四大魔王の最後の1人。そして超越者の最後の1人。名を、アジュカ・ベルゼブブ。

 

 ある意味でピースキング和平連盟でも優秀な部類である三名が、ここに来たのは単純な理由である。

 

「んじゃ、邪龍戦役の戦後処理もだいぶ終わった事だし、ピースキング和平連盟設立を祝って乾杯!!」

 

「「乾杯!」」

 

 ……ぶっちゃけて言うと、飲み会である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とは言え、勢力を統べる三人の盟主が一堂に会して飲み会をするのだ。その会話の内容は、どうしても今後についての話し合いにもなる。

 

「んでよー。アメリカの連中が防人一型のデータを寄越せってうるせえんだよ。あれは日本のお国柄を配慮した防衛兵器だから、向いてねえって何度も言ってんのによぉ」

 

「それは大変だな。後でガブリエルにそれとなく伝えておこう。ヴァチカンから言われれば、今の合衆国は流石に押し切れないだろう」

 

 などという、国家運営レベルの愚痴が飛び交う。

 

「しかし、人間達に対するごまかしをしなくていいのは良い事だね。ひとえに良い事だらけじゃないけど、ある意味手間は省けるよ」

 

「そりゃ確かに!! こっちも余計な仕事がなくなって万々歳だぜ!!」

 

 などと、超神話級の会話も飛び交う。

 

「そう言えば、魔王の後釜とかを色々考えてるんだって?」

 

「ええ。七大魔王制度にする予定もありましたが、より面白い案が出てきましてね」

 

 などという、酒の会話にするには大きすぎる内容まで出てくる。

 

 そして、そんな飲み会も進んだ頃だ。

 

「それで、大尽総理。例の件は本気でするのかい?」

 

 そんな言葉が、シヴァから飛び出した。

 

 そして、それを大尽はあっさり頷く事で回答とする。

 

 そんな反応を見て、シヴァは面白そうに肩を震わせた。

 

「……国外派遣を前提とした、新たな自衛隊の発足か。帝釈天のいる中国や、朝鮮半島辺りは大慌てになるだろうね」

 

「最近こっちのスタンスをいいように使ってるやつも多かったですからねぇ。いい機会だし、当分足かせになってる9条には休んでもらいますよ」

 

 ……そう。大尽総理は圧倒的支持率を利用し、この情勢下だからこそできる大きな改革を実行に移したのだ。

 

 それが、憲法第九条の期間付き凍結。そして、それに伴う国外活動を専門とする自衛隊の発足である。

 

 ヴィクター経済連合の度重なる攻撃活動に対して、ついに日本国民も現状を認識。9条の存在は日本を守る盾にはならず、むしろ日本の活動を阻害する枷にしかならないと判断されたのだ。

 

 その結果、9条は一世紀の間一時凍結が決定。それに伴い大幅な改革が行われている。

 

 既に領海侵犯や領空侵犯を行った者に対して、一回の警告で反応すらしなかった者には威嚇ではなく攻撃そのものが許可。加えて先ほどの国外活動を前提とした自衛隊による、明確に日本に敵対意識を向けているテロ組織などに対する攻撃も決定。

 

 加えて「防衛」の意味も拡大解釈。攻撃を仕掛けてきた国家に対する制裁の為の弾道ミサイル開発が決定されている。

 

 割と他国からは色々言われてるようだが、既に日本はその手の国をガン無視する事を決定している。

 

「あ、例の件は素直に受けとくぜ、アジュカさんよ」

 

「そうしてくれ。俺としても今後の人間の国々との交流に使えるからね」

 

 ……悪魔と堕天使は、人間界のより積極的な協力を得る為、空いている土地の割譲を行う事にしたのだ。

 

 ちなみに、日本は本州と同レベルの土地を確保している。地下資源よりも農業用の土地を確保することが目的で、経済上の理由で離農した農家などをスカウトし、積極的に準備を行っている真っ最中だった。

 

 これで農業自給率が向上すれば、他国からの介入を跳ね除け易くなる。地下資源などに関しても、領海内での資源採掘のあてが出来た事で大幅に向上していた。

 

 こういう状況を利用しての行動でもあり、そして異能大国でもある現代の日本なら、世界の盟主になる事も決して不可能ではない。

 

「中々やるね。うちも一枚かんだ方が面白そうだけど。……それはともかく」

 

 そして天ぷらを一口食べながら、シヴァは微笑を浮かべつつアジュカに視線を向ける。

 

「例の彼、本当に日本に預けるのかい?」

 

「おや、よくご存じで」

 

「おう! こっちが数年ほど預かる予定だぜ!」

 

 さらりと答えるアジュカと大尽だが、しかしそれはかなりイレギュラーな対応だとも言える。

 

 件の彼らは、冥界にとっても重要な人物だ。アジュカがその気になれば、悪魔側の大改革は一瞬にして成るだろう。

 

 しかし、アジュカは苦笑を浮かべる。

 

「彼が望んでいるんですよ。実績も持たずに、例の件を認めさせるのは道理に合わないとね」

 

「なるほど。中々面白い子だね」

 

シヴァはそう言うと、静かに目を細くする。

 

 実に面白い。少なくとも、旧魔王末裔では少ない存在だ。

 

 そして、そんな彼がそこまで言うという事は―

 

「実績作りが目的か。……なら、例の件を知ったら参加するだろうね」

 

「でしょうね」

 

「だな」

 

 アジュカも大尽も即座に頷く。

 

 三人が思い至った事は一緒だった。

 

 既に他の勢力のトップにも相談している、あるイベント。

 

 各勢力の不満を晴らすはけ口。強者を育成する為の競い合い。そして、ヴィクターにこちらの戦力を見せつける示威活動。

 

 冥界の不備を一掃する事にも繋がる、国際レーティングゲーム大会。

 

 その開催を正式に発表するまで、あと少しで十日を切るところまで来ていた。

 

 

 




ピースキング和平連盟もヴィクター経済連合も準備は万端。

権威失墜の旧魔王派と、最下位争いからスタートの冥府。苦難続きの両陣営が手を組みました。

新たに登場したレヴィアタンの末裔は、今の予定では第二部ラストバトルで新主人公の相手をする予定。と、いうよりイッセーやヴァーリではスペック互角で相性最悪という状況なので一対一では勝ち目がありません。もちろん代わりの相手はきちんと用意しています。


一方アジュカとシヴァは大尽と飲み会対での会議中。


日本政府の九条締結とそれに伴い国外活動前提の自衛隊の発足は、いろいろあっての新主人公チームの活動の為です。

世界中で活動するテロリストに対抗するためというのもありますが、それ以上にヴィクター経済連合がいる間は九条は逆にデメリットが大きいと判断されたこともありますね。

くわえて三大勢力と蜜月関係になったことで、地下資源などを冥界から採取することももくろんでいます。現状で日本を優先するような国家とは一時的な関係断絶すら視野に入れている状況下です。

そして飲み会の話のタネに出てきた彼。

厳密にいえば彼は主人公ではありません。主人公は次の話でちょっと出てきますね。


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第二部 ピースキング和平連盟関係設定

はい、そういうわけで設定がある程度出せるようになったので、出していきます。









2019年5月8日、投稿

2019年5月11日、追記

2019年5月18日、追記



◎勢力設定

 

◇ピースキング和平連盟

 

 三大勢力を中心とする和平を行った勢力の総称。和平陣営の会議にて、明確な名称があるヴィクター経済連合の敵対勢力として明確な呼称があった方がいいという大尽総理の提案により、切っ掛けとなった駒王会談からあやかって名付けられた。

 

 和平を行った三大勢力とそれを人間世界で真っ先に認めた日本を中心として、アースガルズやオリュンポスなどが中心人物として活動している。

 

 結果的に勢力の質では互角で量では多少上といったところだが、十年かけてある程度の足並みを揃えてから行動しているヴィクターと違い、和平を急速に進めているところである為足並みが揃っているとは言い難いところがある。加えて和平を積極的に進めていた勢力の首脳陣が軒並み隔離決壊領域に向かってしまった事から、一部勢力でテロ活動が発生しており、ヴィクターに戦力回復の機会を与えているのが現状。

 

 

◇国外自衛隊

  第一次真世界大戦及び、そこからくる技術流出によるテロリストの増大に対抗するべく、大尽総理が発案して野党からも多数の賛同を得たことで改変した、自衛隊の新たな組織。

 

 現状に対応しきれない憲法九条をあえて無期限凍結。明確な敵対国に対する攻撃、国内侵略に対する反撃、日本をターゲットとして認定したテロリストの排除、他国の攻撃に対するケジメとしての反撃を行う事を目的とした自衛隊。

 

 一部に特務隊として悪魔などの異形を参加させており、其の技術の吸収や、対異形の教導隊としての側面もある。

 

 この大改革の結果、領域を侵犯している者などに対する武力排除が過激になり、周辺の準敵対国から睨まれているのだが、三大勢力や神話体系と蜜月関係になった事もあって、日本は孤立上等を地で行っている。

 

☆国外自衛隊異人第一特務隊

 ハヤルトが所属している特殊部隊。

 日本政府の協力をもって、扱いが難しいハヤルトの居場所の一つとして、何よりハヤルトが冥界に戻る時の足掛かりとなる実績作りの場所として用意されたもの。その特性上、部隊の構成員はハヤルトの防衛に付き合った旧魔王派の者が半分以上を占めている。

 主な行動は国内外のテロリストの強襲殲滅。さらに日本から他国への支援物資輸送の際の護衛部隊などを行っている。便宜上はD×Dの日本からの構成組織でもある。

 

◎ハヤルト・アスモデウス眷属

 ハヤルト・アスモデウスが現政権側に付いた事で得た悪魔の駒で運用する眷属悪魔。

 

 事実上の国外自衛隊異人第一特務隊のオフェンスであり、一人一人の戦闘能力は並の上級悪魔を超えるレベルに到達している精鋭集団。

 

 王:ハヤルト・アスモデウス

 女王:ミラリル・ベルフェゴール

 戦車:時草福津(ときぐさ ふくつ)

 戦車:

 僧侶:プリス・イドアル

 僧侶:

 騎士:シシーリア・ディアラク

 騎士:

 兵士(八駒):サラト・アスモダイ

 

◇サラト・アスモダイ

 第二部の主人公。ハヤルト・アスモデウスの眷属悪魔の1人。駒価値は兵士(八駒)。

 ハヤルトがヴィクター経済連合から眷属にして引っ張ってきた少年純血下級悪魔。神器移植者の一人で、かつ神器継承者の試作型。それぞれ煌天雷獄と黄昏の聖槍を確保しているが、その悪影響で過去の記憶を喪失している。

 

 ペト・レスィーヴに一目惚れし、そこからくるヒロイやリセスに対する嫌悪感の反動で、陽光としての英雄を目指す少年。とりあえず目標は死なずに強くなる事。

 

 悪魔としてのポテンシャルは中級レベルだが、二つの神滅具による強大な戦闘能力を保有。まともな運用に体が耐えられないという致命的な欠陥を人工神器で補う事によって、ハヤルト眷属において最強戦力の座に立っている。

 

 ☆人工神器 神殺の双腕(ノウブル・ボート)

 ハヤルトがサラト専用に開発した人工神器。サラト自身の実力不足で制御できない、神滅具を安定して運用する為の補正具として開発された。

 展開すると両手を覆う籠手の形になり、右手で黄昏の聖槍、左手で煌天雷獄の効果を宿す。

 もちろんそれでは大幅に出力が低下するのだが、それでも上級悪魔を撃破する分には何の問題もないレベルで運用可能。サラト自身の戦闘能力も含めれば、最上級悪魔相手に短時間なら防戦が出来るレベルで運用できる。

 ★鬼手 神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)

 神殺しの双腕の鬼手。機械的な全身鎧を展開する。全体的に神滅具二つの出力を全身に回す機構になっており、戦闘能力は真女王に匹敵する向上率を誇る。

 神滅具の制御能力も向上しており、黄昏の聖槍を担当する右腕には専用のエネルギー放出機構を装備。左腕には煌天雷獄用のシールドクローを装備。これらを利用する事によって、初めてサラトは神滅具の性能をフルに発揮する事が出来る。

 

 

◇ハヤルト・アスモデウス

 イレギュラーズ第一部の時点でピースキング和平連盟に亡命した、アスモデウスの正当たる末裔。

 

 クルゼレイの親族で同年代なのだが、眠りの病を発症した事で百年以上の眠りについており、精神年齢は18歳。加えて虚弱体質で魔力で強引に補わなければ、並の人間より弱くよく血を吐く。

 

 其の本質は研究者および技術者。防人一型や鬼手の開発などに大きな成果を上げている、アジュカとアザゼルを足して1,5で割った一から生み出す事もより改良する事もできる万能タイプの技術者。悪魔の駒のリミッター解除を自力でやってのける程のポテンシャルを持つ。

 

☆人工神器 鉄蠍の騎兵(スコルピオ・チャリオット)

 ハヤルト使用する人工神器。

 いわゆるホバーバイクのような形状をしており、これによって高速で飛行。更に魔力重点型エナジーミサイルを形成し、敵を遠距離から攻撃する事も可能。

 ★鬼手 蠍の魔王が与えし加護(スコルピオ・チャリオット・プロモーション)

 鉄蠍の騎兵の鬼手。自身ではなく同乗者を強化する、特殊な変化をする。

 魔王血族の力を同乗する神器使いに流し込む事で、疑似的に業魔化を行う。その結果として圧倒的な力を発揮した同乗者は、神滅具使いにも匹敵する力を発揮する。

 

 

◇ミラリル・ベルフェゴール

 ハヤルトの女王。ハヤルトが現政権に亡命してからスカウトした、ベルフェゴール家の悪魔の1人。

 

 上級悪魔の血族にふさわしい能力を持つが、虚弱体質。またある理由から自分に自信がない。その理由の一つである虚弱体質はハヤルトより悪く、何もないところで吐血することすらある。

 

 

時草福津(ときぐさ ふくつ)

 ハヤルトの戦車。ハヤルトがヴィクター経済連合に所属していた時から眷属悪魔になっており、元から生まれ持った物と移植した物の二つの神器を持つ。

 

 二字熟語で真っ先に答える癖があり、ツッコミ気質。

 

 攻撃力は眷属の中では一番低いが、神器二つの相乗効果からくる耐久力は下手な最上級悪魔では突破は不可能なレベル。其の在り方はルークというよりMMORPGにおけるいわゆるタンクに近い。

 

 ☆神器 鋼鉄被膜(フルスキン・フルメタル)

 福津が生まれ持っている神器。

 肌の強度を高める神器。格闘打撃の威力向上や、防御力の向上に使う。

 

 ☆神器 不死鳥の灯火(ランプライト・フェニックス)

 カテレアが保有していた物と同じく、傷が炎と共に回復する神器。ハヤルトと共にヴィクターにいた時に移植した神器。

 鋼鉄被膜との相性が非常に高く桁違いの福津は耐久力だけならば魔王クラスにも匹敵する。

 

 

◇シシーリア・ディアラク

 ハヤルトの騎士。邪龍戦役での功罪でのごたごたをハヤルトが解決したうえでスカウトして、ヒロイを優先して頓挫しかけた目標を今度こそ達成する為にもスカウトを受けて眷属悪魔になる。その際功績を重視して昇格資格を得て、見事一発合格して中級悪魔に昇格している。

 ★禁手 聖女の共振する祝福(ホーリーライト・シンクロニティ)

 聖女の洗礼の亜種禁手。味方の構成が重要となる特殊な禁手。

 範囲内にある聖別物質と共振する事により、疑似的にその聖別物質を使う事ができるようになる禁手。使い手が習熟すればするほど禁手の範囲は拡大化する

 

 

◇プリス・イドアル

 ハヤルトの僧侶。邪龍戦役でゲオルク討伐に多大な恩恵を得た事とハヤルトのスカウトの二つが重なり、自分と同じような目にあった人達に手を差し伸べることができる者になろうとして承諾し、眷属悪魔になる。その際シシーリアと同様の手順で中級悪魔に昇格。

 ★禁手 相克雷電(デュアル・マクスウェル・ゼーベック)

 相克天秤の亜種禁手。能力は電気エネルギーの生成と操作。

 優れた魔力操作能力を最大限に発揮し、ヒロイの紫に輝く双腕の電磁王に匹敵する精密動作性を発揮。彼ができる事ならほぼ全部できるといわんばかりの多様性を発揮する。

 

 

 

 

 



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第二部 ヴィクター経済連合設定

ヴィクター経済連合も、ある程度出てきたので書くことにします。








2019年 5月12日 投稿


◎ヴィクター経済連合

 本編における主要的戦力。リムヴァン・フェニックスがリゼヴィム・リヴァン・ルシファーのアジテーション能力を利用して作り出した、世界大戦を行う為の国際組織。

 首魁であったリムヴァンこそ死亡しているものの、契約に律儀なリムヴァンは自分が死んでも組織が充分動けるように組織運営と編成を行っていた為未だ健在。当初の切り札であったトライヘキサこそ封印されたものの、道連れに各神話の主力を封印できた為、士気もあまり低下していない。

 とはいえ流石に失ったものも大きいので、足並みこそ揃っているが活動そのものは縮小気味。一部で小規模派閥が暴走していることもあり、ある意味でピンチ。テロリストに技術流出が行われているところも一部ある。

 

 

 

〇旧魔王派

 本編においては未だ健在の勢力。

 新世代の魔王末裔が指導者になる事で運営を行っており、現段階では大きな活動はせず、戦力強化などを行っている。

 悪魔の母リリスの確保に成功。その際ハーデス達と揉めかけたが、お互いが共倒れを良しとしない為、共有するという事で話が成立。旧魔王派は下級悪魔や中級悪魔を中心に大量生産を行う方向で行っている。

 

 ◇シェンカ・レヴィアタン

 旧魔王派を支配下に置いている、新世代の魔王末裔の1人。庶子との間に生まれた、レヴィアタンの末裔の1人。

 ハーデス神を前に軽口をたたく胆力を持つ女。加えてハーデスからカテレアとは格が違うと認識されるほどであり、間違いなくピースキング和平連盟にとって厄介になる人物。

 

 

 

 

〇天君

 ヴィクター経済連合に所属する、煌天雷獄使いの名称。

 煌天雷獄はリムヴァンが保有する上位神滅具の中では最少ゆえに数は少ないが、しかし全員が神クラスすら打倒できるポテンシャルを持った生粋の実力者達。

 

 

 ◇ヤクサ・ライトアボイド

 天君のメンバーの一人。元々は孤児で、神器適合値の高さからリムヴァンに見いだされ、イグドラフォースのメンバーに最終選考まで残ったほどのポテンシャルを持つ。

 スラムの出身で勝ち組になることを夢見ており、其のためなら手段を択ばない。ユーグリットからグレイフィアポイントが高いことからグレイフィアハーレムの一員としてスカウトされたときも、金も権力も戦闘力もあるイケメンなことから速攻でそれを了承しており、天然で黒髪のグレイフィアといってもいい見た目に感謝している。

 なお、スラム出身な為ちょっと頭が悪い。なんとなく上流階級は毎日幸せだというイメージを持っているぐらいにはアホの子。

 

 ☆神滅具 煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)

 ヤクサが保有する神滅具。属性攻撃と天候操作を併せ持った神滅具。

 ヤクサは異様なまでに雷撃属性に特化しており、戦場そのものを雷雲で包み込んで、雷の嵐で周囲を覆うことが可能。属性操作の場合は全身を雷撃で覆い、強力な電磁結界を生成する。

 反面それ以外の属性や天候はへたっぴであり、同じ煌天雷獄どころか、下位の神器ですら当たり負けしかねないほど弱い。加えて使用者の頭がお世辞にもいい方ではない為、ヒロイやプリスのような複雑な運用は不可能。

 ★禁手 超絶雷霆鎚(ケラウノス・ミョルニール)

 ヤクサが保有する煌天雷獄の亜種禁手。出力を一極集中し、左右にハンマーが付いた槍の形に具現化する。

 その属性を雷撃に一点特化させる事により、主神クラスの雷神ですら出せないほどの出力を発揮。全力開放は非常にスタミナを消費するが、ロンギヌス・スマッシャークラスの砲撃を逸らす事もできるレベル。

 

 

 

 

〇滅継者

 禍の団の神器継承者部隊。

 リムヴァンが戦死した事で結果的にそれなりの数の神器継承者が生まれており、事実上部隊として編成できるほどに数が多い。

 

 

 

◇ユーヒティール

 アルケイデスの指揮官でもある、滅継者のリーダー格。

 主神クラスのオーラを身にまとって男であるが、神嫌いで神扱いされる事を嫌う人物。

 ★複合禁手 万象の殲滅砲兵(バスター・オブ・マテリアル)

 リムヴァンが保有していた複合禁手の一つ。

 あらゆる属性を込めた砲撃を発射。直撃した相手に最も相性のいい属性へと変化してダメージを与える複合禁手。火力そのものも最上級悪魔クラスの全力に匹敵しており、これだけで並の主神なら一対一で押し切れるほどの性能を発揮する。

 

 

◇コカビエル

 邪龍戦役終盤において、トライヘキサによるコキュートス襲撃事件で救出され、その際勢いよくアホによって神器継承者としての実験を受ける。因みに成功したとはいえそれはそれなのでその馬鹿は半殺しにした。

 立ち位置的に悪魔の下なのには不満たらたらだが、これまでにない大戦争ができる事からそれなりに機嫌も良く、とりあえず文句は言うが素直に言う事を聞くレベル。堕天使陣営を指揮して、寝首をしっかり掻くつもりではあるが、其の為の戦力確保を怠るつもりもない。

 そもそもコキュートスに封印される原因となったグレモリー眷属に対しては心底根に持っており、復讐の機会をしっかり窺っている。

 ★複合禁手 魔聖剣の蹂躙旅団(ブリゲート・オブ・ビトレイヤー)

  魔剣創造と聖剣創造を複合させて生み出した複合禁手。その数は合計で数十個にも及ぶ。

 能力は聖魔剣とアプローチが異なるだけの魔聖剣を生み出し、更にそれで構成された鎧騎士の兵団を生み出す事。その数は千を超え、一体一体が並の上級悪魔を倒せるほど。その圧倒的な数の猛威は一国すらたやすく蹂躙できる。

 応用する事で背中から腕をはやして近接戦闘を行うという戦闘が可能。

 

 

 

◇ジェームズ・スミス

イグドラフォース唯一の残存メンバー。同時に状況打破の為に神器継承者実験を受けており、更なる力を得る事となる。

 D×Dとの戦闘経験も大きい事から評価されているが、その所為で問題児のしりぬぐいを頼まれる事もあり苦労人気質。

 ☆神滅具 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)

 ジェームズが継承した神滅具。亜種として展開されており、流星破装と一体化する形で運用されている。

 神クラスにまで攻撃力が上昇し、更に対神対悪魔の特攻が追加されている事から、D×Dにとってはより強敵となっている。

 

 

◇セニカ

 滅継者の1人。メンバーの中では新入りの立場である。

 

 



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第二部一章 新世代の狼煙
第二部一章 1 まだいたのぉ!?byイッセー


第二部の本格的な一話が始まります、はい。


 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 トライヘキサとの戦いから、9日ぐらい経っていた。

 

 龍神化の影響も、オーフィスが力を貸してくれた事で何とかなった。龍神化そのものが使えなくなったけど、それで俺は回復した。

 

 おっぱいを認識できる。これが、どれだけ俺達にとって祝福だったのか思い知ったぜ。あれを認識する事ができないというのがどれだけ地獄の苦しみだったか……!

 

 そして、ヴィクターとの戦いも新しいステージに入ったみたいだ。

 

 俺達三大勢力は、インド神話と日本政府の協力の元、ピースキング和平連盟を設立。より強固な連盟として、ヴィクターに対抗していく事を宣言した。

 

 それに伴い、日本政府はなんと憲法九条を一時凍結して、国外派遣を前提とした国外自衛隊の設立を決定。こっちは前から準備してたらしく、少数だけど部隊が発足してるとかなんとか。

 

 で、ヴィクターの方も最近は色々と騒がしいらしい。

 

 なんでも、リムヴァンが抜けた事で抑えが効かなくなって、一部の組織や国が暴走して独立を宣言したとか。

 

 そして、テロリスト達も良く動いている。

 

 教会からの離反者の大半が集まって出来たカルディナーレ聖教国。中国で「秦」の復活を謳う新秦。シーシェパードとは別口でクジラ保護の為にテロ活動を行っている、オーシャンズK9。

 

 他にも色々なテロ組織が活発的に活動してるそうだ。それも、もう警察では手に負えないレベルの戦闘能力を発揮しているとか。

 

 それもこれも、この第一次真世界大戦が原因だ。

 

 異形技術や異能を積極的に公表するしかない状況に追い込まれて、どこの勢力も程度はともかくある程度の開示がされている。だけど、そんな前代未聞な事をして、流出しないわけがない。

 

 そのせいでテロ組織に技術が流出したり、はぐれ悪魔やヴィクターの脱走者が技術を売り込んだりして、一気にどこの勢力も活発化してきやがったんだ。

 

 幸い日本はまだ影響を受けてないけど、オーシャンズK9とかはクジラ保護とかを名目にしてるから、クジラを食べる日本には突っかかってきそうなんだよなぁ。

 

 それに、あの戦いの被害も大きい。

 

 サーゼクス様。セラフォルー様。ミカエルさん。オーディンの爺さん。そして、アザゼル先生。

 

 それ以外にも各勢力の偉くて強い人達がたくさんいなくなった。

 

 それはトライヘキサをどうにかする為だ。トライヘキサはすっごく強くて、普通に倒そうとしたら地球が壊滅する上に何千年もかかるらしい。

 

 そこで、専用の隔離結界領域に封印する事になった。

 

 でも、その結界領域から脱出される可能性だってある。

 

 だから、それを引き留めて確実に倒す為の生贄が必要だった。

 

 アザゼル先生達はその役目を引き受けたんだ。

 

 ……二度と会えないわけじゃない。俺は悪魔だから、トライヘキサが倒されるまで待つ事は出来る。

 

 だけど、それは少なく見積もっても何千年も後。父さんや母さん、松田や元浜に桐生は、たぶんもう二度と会えない。

 

 それに、ヒロイとリセスさんにはもう会えないだろう。

 

 全力で戦えば、半日で死ぬ呪い。

 

 それを、2人は解呪しないで戦った。そして、リムヴァン・フェニックスを倒してそのまま行方不明だ。

 

 たぶん、もう死んでる。俺達もそう思うしかない状況だ。

 

 それぐらい2人は生き切った。たぶん、リムヴァンを倒した瞬間に二人は満足し切ってたはずだ。だから、生き残ってる可能性は、低い。

 

 二人はそれで良かったのかもしれない、いや、良かったんだろう。それ位晴れ晴れとした表情で、最後の一撃を出し切った。

 

 だけどさ。俺達は悲しいよ。

 

 二人は人間で、転生する気もないから、いつか来るのは分かってた。

 

 でも、やっぱり失うのは悲しいんだ。

 

 ……俺は、覚悟を決めた。

 

 俺達の平和を邪魔する奴は、神が相手だろうと滅ぼすつもりで挑む。

 

 そうしないと、誰が今度の犠牲になるか分かったもんじゃない。俺達の敵は、いつもそういう滅茶苦茶強い奴らばかりだからだ。

 

 ああ、だから今も本気で挑みたいんだ。

 

 今、俺は戦闘に巻き込まれている。

 

 そしてそこで戦っているのは、俺のお得意様と俺の仲間だ。

 

 だから本気で戦わなきゃいけない。

 

 いけないんだけど………。

 

「ミルキー! スパイラル! ナッコォ!!」

 

「「「ぐはぁああああ!?」」」

 

 魔法(筋肉)で吹っ飛ばされる魔女っぽい魔法使いを見てると、なんだかすっごくやる気が失せるんだよなぁ。

 

 っていうか、ミルたんから緊急で依頼が来たんで、緊急だからとチラシで転移したらこれだよ。

 

 え? どういう状況?

 

「イッセー! いいから自分とミルたんを助けるッス!!」

 

 と、弾幕を張って敵を接近させないでいるペトが文句を言ってくる。

 

 あ、ごめん。ちょっと微妙な空気になってた。

 

 とりあえず鎧を展開して、敵の使い魔らしき魔獣を殴り倒しながら、俺は冷静に考える。

 

 ……なんでミルたんとペトがいるんだろう?

 

「で、これどういう状況なんだよ」

 

「一言で言うと、ガールヴィラン生きてたっす」

 

 が、ガールヴィラン?

 

 それって確か、あれだよな?

 

 以前ヒロイとリセスさんが、有明でやり合ったヴィクターから離反した勢力だったな。

 

 ………。いや、今は感傷に浸ってる場合じゃない。

 

 とりあえず。ガールヴィランはヴィクターに関わっている魔法使いでも、特に一部の思想に凝り固まった連中が集まって出来た勢力だ。

 

 簡単に言うと、「魔女の概念を汚す魔法少女死すべし」。

 

 うん。頭悪いよね、コレ。しかもこいつら、有明の魔法少女フェスタに参加していた人々をゾンビにして、魔法少女アニメを作っている会社を襲わせようとしたんだから、ホントに酷い。

 

 ギャグ的にもシリアス的にも頭が痛いよ。しかも快楽堕ちした魔法少女こそ至高とか頭の痛い事を言ってくる連中まで現れた。ヴィクターは事態収拾の為にこっちに協力してくれるしで、散々な戦いだったはずだ。

 

 まったく。俺がライザーとリアス達の裸をかけてシリアスな激戦を繰り広げてた時に、なんでそんな頭のおかしい戦いが同時に起きてるんだよ。真面目にやれってんだ。

 

「イッセー達よりは真面目な戦いだったッスよ?」

 

 ペトさん。小猫さまみたいに俺の心を読むのやめてくれない!?

 

 と、とにかく!! こいつらはその時の有明の戦いで壊滅してたはずだ。自衛隊の防人一型のお披露目相手として、カマセ犬になったはずだ。

 

 まだ残党が居やがったのかよ!?

 

「おのれ、魔法しょ……少女め!!」

 

 強引に魔法少女扱いにして、ガールヴィランの残党が魔法攻撃を仕掛けてくる。

 

 こいつら、魔法少女大好きなセラフォルー様対策なのか、炎系の魔法を得意としてるんだよなぁ。

 

 そして、それを豪快に近くにあった土管で迎撃しながら、ミルたんは吠える。

 

「魔法少女を馬鹿にする悪い子さんは、ミルたんがお仕置きするにょぉおおおおお!!!」

 

「色々な意味で魔女の文化を貶めすぎなんだ、お前らはぁあああああ!!!」

 

 お前ら!? 一緒にして欲しくないんだけど!?

 

 と、思ったけど、よく見ると周りではミルたんの同好の士が同じく筋肉に物を言わせて激戦を繰り広げていた。

 

 っていうか、なんでペトがここに!?

 

「そういやペト、なんでここに!」

 

「……(おとこ)()との倒錯プレイという新たな地平を目指して、地道な活動を行うつもりだったッス……」

 

 何を考えてるのかな、この子は!!

 

 馬鹿か、馬鹿なのか! おバカの子なの!?

 

 心に純粋な魔法少女を忘れない、ミルたん達にそんなことしちゃいけません!! 後で説教だ!!

 

 っていうかペトは、あんなUMAな姿を見て性的に興奮できるのかよ!? 阿保だろマジで!!

 

 俺が一瞬頭痛を感じたその時だった。

 

「おのれ、せめて一人だけでも!!」

 

 そうボロボロで吠えた魔法使いが、一瞬で消える。

 

 転移か! いったいどこに―

 

「―とったぞ!!」

 

 ―まずい、アイツ、ペトの後ろに回り込みやがった。

 

 ペトは狙撃特化型の才能で、それ以外の戦闘だと性能頼りの戦いしかできない。

 

 最近は制圧射撃とか戦い方にも変化が出てきたけど、あんな近距離戦闘じゃそれも生かせない!?

 

「後ろだ!!」

 

「ッスぅ!?」

 

 振り返ってペトが攻撃しようとするけど、間に合わない。

 

 俺も、位置が悪くて助けに入れない。

 

 ……嘘だろ、こんなところで、こんな奴らに、俺の仲間を―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吠えろ、神殺の双腕(ノウブル・ボート)!」

 

 その瞬間、聖なるオーラで出来た槍が、その魔法使いの腕を貫いた。

 

「ぐぁあああああ!? 新手か!?」

 

 その魔法使いは炎の壁を作って防御態勢に入るけど、しかしそれも意味がない。

 

「なら冷気の拳で殴る!」

 

「がは!?」

 

 真正面から躍りかかる少年が、冷気を纏った拳でその壁ごと、魔法使いを殴り飛ばした。

 

 ……あいつ、できる!

 

 反応が早いし、動きも素早い。そして何より攻撃力も高い。

 

 たぶんだけど、D×Dのオフェンス陣と戦ってもいい勝負できるんじゃないか? 上級悪魔クラスが相手なら、余裕をもって相手ができるだけの実力はあるぞ。

 

 その黒髪の少年は、即座に氷の壁を周囲に創りながら、ペトに視線を向ける。

 

「無事?」

 

「は、ハイっス!!」

 

 戸惑いながらもすぐ返事をし、ペトはそれでも射撃を止めなかった。

 

 うんうん。流石に激戦続きのD×Dのメンバーだもんな。戸惑う状況でも戦闘態勢は崩さないか。

 

 そしてその姿を見た少年はというと―

 

「………」

 

 なんか、目を見開いてちょっとだけぽかんといている。

 

 ん? 知り合い?

 

 俺が首を傾げながら、ドラゴンショットで魔法使いを吹っ飛ばしていると、更に乱入者が現れた。

 

「油断。実践慣れしてないからって、そんなところでつっ立ったままでいるのはまずいぞ、サラト」

 

「ハッ!! ごめん、福津兄」

 

 新たに乱有してきた黒髪の兄ちゃんに指摘されて、サラトと呼ばれた少年がすぐに謝る。

 

 そして、両手の籠手を構えながら彼は魔法使いに接近戦を仕掛けに行った。

 

 おお、中々動きが速いな。近接戦闘の技術なら小猫ちゃんに匹敵する戦闘技術だ。

 

 それにあの両手の籠手の能力もすごい。人工神器っぽいけど、出力だけなら下手な神器の禁手を超えるって。

 

 右手の籠手からは聖なる力を出して、左手の籠手は炎や冷気や雷とか、色んな属性を放っている。

 

 どっちも接近戦が主体だけど、多少は飛び道具として使う事もできるみたいだ。

 

 っと。そんなことをしてる場合じゃなかった。ガールヴィラン退治に集中しないとな。

 

「愚行。駒王町の近辺で暴れるのに、その戦力はダメすぎだろ」

 

 呆れ半分のそのお兄さんに攻撃が集中するけど、その人はまったく意にも介さない。

 

 すっげえ! 頑丈にもほどがあるだろ、あの人。

 

『だな。あの男、頑丈さだけなら紅の鎧に匹敵するぞ』

 

 マジかドライグ。紅の鎧って、最上級悪魔クラスの頑丈さのはずだろ?

 

 それ位の頑丈さって、どんだけ丈夫なんだよ。

 

「速攻。サラト、片付けるぞ」

 

「わかってるよ、福津兄」

 

 そして、さっきの少年と一緒に連携でガールヴィランを叩き伏せる。

 

 っていうかできるな。二人とも上級悪魔以上あるんじゃないか?

 

『だろうな。二人とも、歴代の赤龍帝でも殆どの連中は倒すのに苦労するレベルだろう』

 

 マジか。歴代の赤龍帝でも、一対一ですら殆どが苦戦するレベルかよ。

 

 それってマジで凄くないか? 歴代の赤龍帝って、普通の赤龍帝の鎧なら俺より強い奴が殆どだろ?

 

 それが倒すのに苦労するって、どっちも最上級悪魔クラスってことかよ?

 

『と、いうより若い方は末恐ろしいな。オーラの質だけなら、今の相棒でも紅の鎧抜きでは到達不可能なレベルだ。もっとも、どこかちぐはぐだが……』

 

「2人とも! ちょっと真剣に戦闘するッス!」

 

 と、ドライグの言葉をさえぎって、ペトから頼まれてしまった。

 

 おっといけない。決意を固めたところでこれはまずいよな。

 

 真剣にいくか。どっちにしても、俺達の平和な日常を邪魔するなら、遠慮なく叩き潰して後悔させねえとよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして十分ぐらいして、俺達はガールヴィランの連中を片付けた。

 

 結構てこずったな。上級悪魔クラスの連中も何人もいたし、町中で全力出す訳にもいかないから苦労したぜ。

 

 ただ倒すだけなら余裕でどうにかできる自信はあるけど、街に被害を出さないようにしないといけないしさ。俺が本気を出すと、殴っただけで結構な範囲が吹っ飛ぶし。衝撃波だけでブロック塀とか粉砕するとかないだろ、普通。

 

 ほんと、悪魔になってからたった一年で強くなったよなぁ。

 

 今回の連中だって、半分以上はレイナーレと同レベルかそれ以上の連中だし。悪魔に成り立ての俺だったら、一人相手にするのも大変だったはずだ。これだけの数を相手にするとか、普通に考えて自殺行為だ。

 

 それが、転移でペトが一瞬ピンチになったぐらいでほぼ完勝。一年足らずで俺が至ったレベルがこれだよ。

 

 以前曹操がドンビキしてたけど、確かにそうだ。普通はこんなにすぐに強くならないよ。

 

 ……これだけ強くなって、それでも死ぬかもしれない大変な目にあったのがあの戦いだったんだよな。第一次世界大戦、頭おかしいだろ。

 

「終了。とりあえず、無事なようで何よりだな」

 

「ありがとうにょ。おかげで助かったにょ」

 

 と、さっき助けてくれたお兄さんとミルたんが握手してる。

 

 ちなみにお兄さんは額に汗が流れてる。もちろん戦いで生まれた汗じゃなくて、ミルたんに気おされてるんだろう。

 

 ちなみに年下の方はミルたんの同輩に囲まれて涙目になってる。アイツ、ギャスパーほどじゃないけど女装似合いそうだし、ミルたんとは別の意味で魔法少女にされそうで怖い。

 

「ふ、福津兄ぃ! そろそろ帰ろうと思うんだけど!?」

 

「……了承。ハヤルト様も待っているだろうし、寄り道はこの辺にするか」

 

 と、2人は足早に帰ろうとする。

 

 ま、まあ。この漢の娘の群れの中に居たがる人はいないだろう。俺だって慣れてなけりゃ帰りたくなる。

 

「あ、ちょっと! まだお礼も言ってないっす!!」

 

 ペトがそう呼びかけるけど、2人ともとにかく距離を取りたかったのか、すぐに転移の魔方陣を浮かべる。

 

 なんだか見覚えのない魔方陣を展開しながら、その人達は振り返った。

 

「ま、それはまた後日、……ほんとにまた会おうね!!」

 

「再会。近日中には会えるから、その時にな」

 

 そんな気になる言葉と共に、2人はすぐに消えていった。

 




そして記念すべき敵がこれかよというツッコミはノーサンキューです


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第二部一章 2 兵藤一誠を信仰する者たち

さて、第二部が始まってからすぐだけど………。









いきなりとんでも展開です


 

「……さて、そろそろテストだなぁ」

 

 俺は、なんとなく休み時間にそう呟いた。

 

 三学期のテストは学生の総決算。割と重要なテストかもしれない。

 

 まあ、赤点の心配はない。だけど、高得点を取れるかどうかはまた別の話だ。

 

 なにせリアス達が勉強を教えてくれるから、今迄より勉強はできる。だけど、それに比例してもめ事も多かったから、勉強が万全かと言われるとあれだ。

 

 ヴィクター経済連合は、そんなこといちいち考えてくれなかったもんなぁ。

 

 それに、クラスメイトもちょっと雰囲気がテスト前のそれとは違う。

 

 まあ、そうなんだよな。

 

 ……日本攻防戦で、アザゼル先生は、トライヘキサを一万年かけて倒す為、隔離結界領域に旅立っていった。

 

 それについては公表されてる。人間達も巻き込んだ第一次真世界大戦で、最も大きな戦いだ。知らせなければならないということらしい。

 

 だから、駒王学園の人達もアザゼル先生が堕天使で、隔離結界領域に旅立った事も知っている。

 

 アザゼル先生が神の子を見張るもの(グリゴリ)のの元総督だってのも驚いてたけど、一万年間も戦い続ける事になったのも驚いている。

 

 そして、ショックも受けている。

 

 死んだわけじゃない。だけど、一万年は会えない。そして、それは人間にとって二度と会えないようなもんだ。人間の寿命なんて、百年持てば永い方だもんな。

 

 そして、ヒロイとリセスさんのMIAも報告された。

 

 ……2人とも関係者だって事は知られてたからな。特別な事情で別の任地に行ったって事にもできたけど、ペトが素直に言うべきだって言い出した。

 

『じゃないと、こっちが逆に引きずられるっすよ?』

 

 そう言う意見には一理ある。なにより、ペトが引っ張られるんだろう。

 

 ペトは、割といつも通りに行動している。

 

 ショックを受けたってそれは素直に言ってる。だからこそ、いつもよりも暴れてスッキリすると思っている。その所為か、最近はヤリ部屋だけじゃなくて新しい男あさりを模索してるらしい。

 

 売春している人が多いところに行って、無料を売り文句に中年男性を誘ったり。女を襲いたがる連中にわざと襲われてそのまま警察に報告して逮捕させたり。新しいジャンルを開発しようと、ミルたん達相手に地道な活動をしでかしたり。

 

 ……正直、無理してるのは誰が見ても明らかだ。

 

 だけど、だからこそ俺達と距離を置かずに接してる。

 

 毎日朝起きて朝食も食べてるし、朝帰りなんてしない。むしろ積極的に俺達を食べ放題やカラオケに誘って、やけ食いとかで発散しようと行動してる。

 

 正直に言えば、俺達もへこんでる。当たり前だろ。仲間が、ほぼ確実に死んだんだから。

 

 むしろペトがいなけりゃ、誰か一人ぐらい寝込んでたかもしれない。俺が龍神化の影響で寝込んでる中、ペトはむしろメンタルケアに尽力してくれていた。

 

 それでも、まだ十日ちょっとだから俺達も結構きつい。

 

 一番周りのフォローができているのは、一番二人を大事に思っていたはずのペトだ。そのペトが自分の鬱憤晴らしをしてるのまで、止めれる余裕がない。

 

 だからまあ、本当に致命的な事にならないように気を付ける程度だ。こっそり交代でつけていて、マジヤバイ事になりそうだったら強引に乗り込んでどうにかするって感じだ。

 

 ……それにあてられて俺が貞操を奪われそうになる事もあるけど、それはそれ、これはこれ。

 

 ペトには世話になってるし、今大絶賛俺たちのメンタルケアしてくれてるしな。ちょっとぐらい好きにさせて苦労するのは当然だ。

 

「……イッセーどうだ? テスト勉強は何とかなるか?」

 

 と、松田と一緒に元浜が俺のところに来た。

 

「ああ。俺はまあ、最近は勉強できてるよ」

 

 実際、最近はヴィクター経済連合も動きが見えないしな。

 

 前提条件だったトライヘキサが封印されて、向こうもだいぶ大打撃だって事だ。

 

 こっちもこっちで各異形勢力のトップクラスがいなくなったから、勝ったって言いきれないのがあれだけどさ。それでも、それなりに何とかなってる。

 

「おいイッセー! 久しぶりにお前の家で勉強会しようぜ?」

 

 と、松田が目を血走らせて俺に詰めよる。

 

「ゼノヴィアにアーシアちゃんにイリナ! 小猫ちゃんやレイヴェルちゃんと一緒に勉強するんだ!!」

 

「そして教えてくれるのはリアス先輩に姫島先輩、そしてロスヴァイセ先生!! お前の家は美少女が下宿しまくってるからウハウハだぜ!!」

 

 と、すごいテンションで二人が盛り上がってる。

 

 って下心満載じゃねえか!! くそ、俺の女達だぞ!! 俺のハーレムだぞ!!

 

 もうそんな感じなんだからな!! リアスとは各勢力公認の中だし、アーシアとは千年単位で一緒にいるし、朱乃さんは不倫相手に指名してくれてるし、小猫ちゃんには逆プロポーズされてるし!! ゼノヴィアも俺を選んだとか言ってるし、イリナともキスしたし!! レイヴェルはパートナーだからな!! ロスヴァイセさんもそう簡単には渡しません!!

 

 そんな俺の花園に、普通男を連れ込むとでも思ってるのか!! しかも下心100%のこいつらを!!

 

 普通しねえよ!!

 

「…………………まあ、いいか」

 

 そう、普通ならな!!

 

「「………え!?」」

 

 松田と元浜が目を見開いて固まる。

 

 あ、これ断られるもんだとばかり思ってたな?

 

「桐生も来いよ。あ、匙や元生徒会の人達もまとめて招待した方がいいかな?」

 

 俺は更に人を増やす事も考える。

 

 そうだな。いっそのこと、鳶雄さんを招待するのもいいかもしれない。あの人大学生だし、教えてくれるかも。

 

「まままま待てイッセー! い、いいのか!?」

 

「我々は変態だぞ!? 下心だらけだぞ!?」

 

 っていうか、むしろ二人が動揺してる。

 

 おい、行きたいっていたのはお前らなんだから、驚くなよ。

 

 っていうか桐生までちょっと怪訝な表情してるじゃねえか。どういうつもりだよ、オイ。

 

「どしたの兵藤? いつもなら全力で拒否ってるでしょうに」

 

 まあ、普段ならそうなんだけどさ。

 

 だけど……。

 

「ヒロイのこともあるしな。ちょっと、お前らには俺達の事情を知ってもらいたいんだよ」

 

「「……」」

 

 その言葉に、三人とも暗い顔になる。

 

 さっきも言ったけど、ヒロイとリセスさんの事は日本人ならある程度は知ってる。それぐらい、毎日ニュースでトライヘキサ封印とリムヴァンの戦死は日本で報道されてるんだ。

 

 その詳細については色々気遣いで伏せてくれているところもあるけど、それにも限度がある。

 

 言っちゃあれだけど、99%死んでいるヒロイ達を囮に、俺やペトに現役の高校生生活を送り易くさせたいって配慮らしい。

 

 その配慮は嬉しい。だけど、それは二人を死んだ事にするって事だ。

 

 そして、それはほぼ確実で……。

 

「お前らにはさ、やっぱ知って欲しいんだよ」

 

「ふむ。お前やっぱりあっち側か」

 

 元浜の眼鏡が輝く。

 

 ああ、お前ら薄々気づいてたのか。

 

 それなら、少しはスムーズに進むかも―

 

『―駒王学園の皆さん! 避難警報です!!』

 

 ―その時、緊急放送が鳴り響いた。

 

 なんだ!? 一体何が―

 

『駒王町の結界が何者かによって破られました!! 百人以上の何者かが、こちらに向かってやってきます!!』

 

 ―なんだと!?

 

 駒王町の結界を、侵入するんじゃなくて強引に破ってこっちに来た!?

 

 こんな状況で、誰がそこまで強引な手段を使ってくるんだよ。それも、日本でもトップクラスに頑丈なはずの駒王町の結界を破るだけの実力者に率いられた百人以上の敵!?

 

「チッ! 全員逃げろ!! そいつらは私達が足止めする!!」

 

「アーメン! ここは私達に任せて頂戴!!」

 

 ゼノヴィアとイリナが、素早く聖剣を引き抜きながら前に出る。

 

 他のクラスでも、俺達の仲間や異形関係者達がゴロゴロと外に出ながら構えるのが見える。

 

 ああ、ヴィクター経済連合が駒王学園を襲撃してきた時、関係者達が動いて迎撃したからな。半分以上のメンツは既に知られている。

 

 つっても、俺達オカルト研究部や生徒会で知られてるのはゼノヴィア達教会関係者が殆どなんだけどな。

 

 だけど、こうなったら俺達も黙っていられない。

 

 こんな強引な手段を取ってくるような連中だ。腕に自信がある連中が、本腰入れて攻撃に来たんだろう。

 

 なら、俺もやるしかない!!

 

 そして、俺達の視界に百人以上の人影が見えてくる。

 

 先制攻撃も十分できる数だな。こりゃ、すぐにでも鎧を展開しないと―

 

「―待たれよ!! 我らは殺し合いが目的でこの場に来たのではない!!」

 

 ―思ったその時、その集団から大声が届いた。

 

 そして集団から一人の男が前に出る。

 

 ……やけに露出度が高い、股間が強調される服装だった。

 

「私はニースペ・フロンタル!! 我々は戦闘が望みではない、乳龍帝、兵藤一誠様にお会いしたいのだ!!」

 

 ………

 

 俺、名ざし?

 

「え? あれ、兵藤のお客様?」

 

「いや、こんな豪快な真似するお客さまってなんだよ。兵藤、お前何をした?」

 

「いや待て! 兵藤の名前が出てきて気を取られてけど、なんか変なこと言ってなかったか!?」

 

「ち、ちちりゅうてい?」

 

 クラスメイトからものすごい勢いで視線が向けられてるぅううううう!!!

 

 っていうか、学校中でどよめき声が上がってるぅううううう!!!

 

 そりゃそうだよね。乳龍帝とか頭おかしいよね!! いきなり聞いてもそんな翻訳できないよね!!

 

 っていうか、そんなことを堂々とこんなところで言ってるんじゃねえええええ!!!

 

 俺はふつふつと怒りが燃え上がる。

 

 日本政府の人達も協力して、俺の人間としての生活を送れる余地を作ってくれている。

 

 それを、その一番基本の学生生活を台無しにしやがって!!

 

「てめえこらぁああああああ!!!」

 

 俺は窓から飛び出すと、そのまま着地して指を突き付ける!!

 

 そしてそいつらは俺の姿を認めて―

 

「おお。ご尊顔に拝することが、できた」

 

 ―なんか泣き始めたぁああああああああ!?

 

「おお、一誠様だ! 一誠様だぞ!!」

 

「ああ、生で見れることができるなんて、感激!!」

 

「こ、こっちに視線むけてくれた! くれたわよね!!」

 

「サインください、乳龍帝!!」

 

 もう飛んできて連中は、全員感極まってる。ハイテンション以外の何物でもない。

 

 なんかもうお祭り騒ぎだ。すっげえ感極まって、気絶している人までいる。

 

 何だろう。一周回って、引く。

 

「起きろ馬鹿者!」

 

 そして、気絶した人に叩き込まれる拳。

 

 その一撃意識を取り戻しながらも、その人は悶絶してもだえ苦しむ。

 

 だけど、その殴られた人は怒るでもなく、なんだか泣き出した。

 

「申し訳ありません! 我らが生き神様を前にして、意識を失うなどなんという失態!!」

 

 生き神様ぁあああああ!?

 

 いや、ちょっと待とうか。

 

 俺なんかした? いや、何もしてない気がするんだけど!! 何もしてないよね!?

 

 っていうか間違いなく初対面なんだけど!? 俺、一度たりともあの人たちと会ったことないよね!?

 

 なんでそんなレベルで神様扱いされるんだよ!? そんなことした覚えないんだけど!?

 

「あ、あの……どちら様で?」

 

「ハッ!? これは失礼いたしました。感極まったあまり、失礼を」

 

 一斉に跪かれた。

 

 誰もかれも、おれに対する敬意があった。っていうか崇拝?

 

 なんか知らないけど、とりあえずこの人たちが俺のことをすっごい扱いしたいのだけはわかる。

 

 でも、俺は別にこの人たちに何かした覚えはない。かしずかれるようなことをした覚えがない。

 

 マジでなんでこの扱い? 俺、マジでなんかしたことあったっけ?

 

「お初にお目にかかります。我々は三情という組織です。私はこの部隊の指揮官の二―スぺ・フロンタルと申します」

 

 そういう二―スぺさんは、目を潤ませると俺に跪いた。

 

「どうか、あなたには我々三情の生き神様として我らの象徴となっていただきたく存じます」

 

『『『『『『『『『『お願いいたします、一誠様!!』』』』』』』』』』』

 

 すっごい勢いでそんなことを言われた。

 

 え、え、ええ?

 

 俺、今凄いこと言われてるよな。

 

 生き神!? 神扱い!? いや、俺一応龍神の力すら手にしてるけど。

 

 でも、そこまで言われることか? あの戦いだって、どっちかっていうとヒロイの方が重要だったんだけどなぁ。

 

「それは、俺がリムヴァンをぶっ倒したから?」

 

 思わず聞いて、後ろの方が騒がしくなった。

 

 あ、しまった。そのことは特に知らされたりはしてなかったんだ。しまった。

 

 あの戦いは確かに五人がかりでリムヴァンを倒したことは知られてるけど、人間にヒロイとリセスさん以外の人が倒したことは伝えられてない。

 

 ヴァーリはともかく、俺とペトが倒したことが大々的に報道されれば、高校生活を送ることが不可能だと思われたからだ。

 

 総理大臣やアジュカ様の配慮には感謝してたのに、俺がうっかりでばらしたら意味がないじゃないか。

 

「おい、どういうことだよ?」

 

「たしか、五英雄ってのはヒロイとリセスさんも含まれてたんだよな?」

 

「でも兵藤先輩が? 面倒見は良いけど変態だよね?」

 

 あっちゃ~。後ろが騒がしくなってるよ。

 

 俺がちょっと額に手を当てると、ニースペは俺を見て恍惚の表情を浮かべる。

 

 そして、はっきりと言い切った。

 

「どうか、我々と共に世界を色欲で包みあげましょう!!」

 

 …………。

 

 俺は、四秒ぐらい真剣に頭の中で吟味した。

 

 そして、まっすぐはっきりと見据えて言い切った。

 

「帰ってください」

 

 なんだ、そりゃぁあああああああああ!!!

 




乳龍帝を信仰する者たちにしたかったけど、それだとこの話がギャグなのがすぐわかるから我慢しました。


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第二部一章 3 新たな強者たち(注:変態です)

あ、活動報告に昨日新たな募集したので、ぜひご一読ください。


「いや、マジで帰れぇええええええ!!!」

 

 俺は、心の底から言い放った。

 

 いや、本気で何だよ。世界を色欲で包むっていったいなんだよ。変態か。

 

 いや、確かに俺は変態だぜ? 自他ともに認めるスケベだって断言できる。

 

 裸を見たいという執念だけで、ごくわずかな魔力で相手の衣服を破壊する洋服崩壊(ドレス・ブレイク)に目覚めた。

 

 タンニーンとのオッサンとの、山奥での過酷すぎるトレーニングで追い込まれ、おっぱいと話したいと願った。その結果、女の子の胸と対話する乳語翻訳(パイリンガル)を手にした。

 

 それだけじゃない。幾度となく俺の進化のきっかけとなったリアスの乳は進化した。禁手や信頼の譲渡のきっかけとなった。そしてフェーズ2に進化し、真女王へと至らせる光を放った。更に譲渡してフェーズ3に至り、その嵩を犠牲に俺の力を回復させる事まで出来る様になった。

 

 その後も進化発展を遂げ、状況次第なら透視能力すら発揮できる。母乳で回復するという特異体質にまで目覚めたぐらいだ。

 

 

 だけど! だけど!! だけどね!?

 

「マジ帰ってください!!」

 

「何故ですか、乳龍帝陛下!」

 

 マジショックだといわんばかりの表情で、ニースペとかいった奴は声を張り上げた。

 

 ていうか陛下って何!? 俺、この三情とかいう組織でどんな扱い受けてんの!?

 

 いや、そういう問題じゃない。問題はそこじゃない。

 

「世界を色欲で包みあげるって何!?」

 

 そこだよ。そこが一番重要だよ。

 

 なにで世界を包みあげるんだよ。ドスケベの国でも作るのか!?

 

 それってつまりあれか? かつて俺が京都で引き起こしちゃった、胸を揉む事しか考えられないおっぱいゾンビが跳梁跋扈する世界か?

 

 ……あっていいわけないだろぉ!?

 

「それはもちろん、色欲を第一前提とする世界の設立です」

 

 曇りない目ではっきりと言い切ったよ。

 

「そう! 握手の代わりにSE〇は当たり前!!」

 

「淫行の技術を競うエロリンピックを四年越しに開催し!!」

 

「世界で一番素晴らしい職業が風俗店店員となる世界!!」

 

「井戸端会議は井戸端乱〇でなければなりません!!」

 

 連続で後ろの人たちも、気が狂っている発言をぶちかましやがる。

 

 変態だぁああああ!!! こいつら、俺やファーブニルよりも質の悪い変態だぁああああ!!!

 

 これ駄目だよ。絶対に世界の覇権握らせたらダメな類の変態だよ!!

 

 まずいって! なにがまずいかって、こんな連中が駒王町に張り巡らされてる結界を強引に突破できたことが問題だよ。大問題だよ!!

 

 駒王町の結界は、地球で張られている三大勢力の結界でもかなりレベルが高いんだ。其れこそ、宗教的拠点とかそういう場所でもないのに張られてる結界じゃトップクラスだ。

 

 かつては堕天使総督だったアザゼル先生まで住んでいたからこそのこの結界だけど、それを強引に突破とかやりすぎだろ!! 戦闘能力がすでに桁違いだ。

 

 そんなことする連中の目的が、世界を変態で包み込むこと!?

 

 こいつら、ヴィクターよりたちが悪い!!

 

「ふざけんな!! 誰がそんなことするか!!」

 

『『『『『『『『『『そんな!?』』』』』』』』』』

 

 マジショックな顔すんなよ!!

 

「わ、私は! 妻と一緒にあなたとスワッピン〇プレイをしたいというのが最近の夢だったのに!?」

 

「お願いします! 一緒にSE〇してください!!」

 

 どんな懇願だよ!?

 

 いや、エッチなことできるのはものすごいうれしいけど、この流れで興奮できる方向には変態じゃないからね!?

 

 っていうか―

 

「貴方たちねえ!! 私のイッセーの貞操を勝手に奪おうとは、滅されたいのかしら!?」

 

 ―ほら、リアスが怒ったぁああああああああ!!!

 

 リアスってば結構独占欲が強いから、そういう展開は黙ってみていられるわけがないって思ったよ!!

 

 ほら謝って。消滅しないうちに謝って!!

 

 だけど、その人たちはきょとんとしてる。

 

「……何か勘違いしてないか?」

 

「そうです。一誠様の妻であるあなたにも楽しんでもらいたいと思っているのですが」

 

 はっきりと断言したぁあああああ!?

 

 いや、ちょっと待て! お前何言ってんの!?

 

「あの兵藤一誠様の妻とあろうもの、既に数多くの色事を経験しているものと思っております。スワッピン〇プレイの幅を広げるべく、数多くの一芸特化型を集めておりますがゆえに、ぜひリアス嬢たちもお楽しみください」

 

 満面の笑顔。悪意なんてかけらもない。善意100%。

 

 そんな表情で、ニースペがそう言い切った。

 

 うん。

 

 俺は、心から決意した。

 

 今ならできる。今なら言える。

 

 出てこい、俺の、心からの思い!!

 

「……ぶち殺すぞてめえらぁあああああああ!!!!!」

 

 俺は速攻で紅の鎧になると、ニースペに殴り掛かった。

 

「まじで死ねぇ!!」

 

「な、なにをするのですか一誠様!?」

 

 !?

 

 あの野郎、俺の本気中の本気のパンチを、避けた!?

 

 それもバックステップでかわすだなんて、マジかよ。

 

 いや、そんなことを言っている場合じゃない。

 

 あの野郎は、冗談抜きでふざけたことを言いやがった。どんなつもりなのかはわからないが、赤龍帝を怒らせるのに十分すぎる。

 

「てめえ!! 俺のリアスを、俺の女たちを、ほかの男に抱かせるとか、いまそういう趣旨のこと言いやがったか!?」

 

「失礼な! 男だけではなく当然女性も志願しております!!」

 

 さらに悪いわ!!

 

 俺はとっさにドラゴンショットを叩き込みながら、俺は吠える!!

 

「いいか!? リアスは、俺の女だ!! 俺以外の誰にも渡す気はねえ!! スワッピングプレイなんてもってのほかだ。NTRにもエロゲ以上の興味はねえ!!」

 

 俺の発言に、前後から衝撃が走った。

 

 ……ん? 前後?

 

「なんと!? あの一誠様が独占欲に支配されていいるとは!!」

 

「性交とは皆で分け合いとろけ合うものだというのに!?」

 

「くっ! しょせんは俗世にまみれた者だということなのか!?」

 

 なんかこっちの評価がごっそり下がった感じな三情の人たち。

 

 これは良い。っていうか、こいつらに評価上げられても困る。

 

 で、問題は後ろなんだけど―

 

「おい、すごいこと言わなかったか?」

 

「リアス部長が兵藤の女!? アイツ、ちょっと調子乗りすぎじゃない?」

 

「よし。なんか変なコスプレしてるけど、学生全員でたたき伏せれば行けるだろ」

 

 なんか殺意を向けられてるぅうううううう!!!

 

 しまった! そういえば俺、リアスたちに催眠術賭けて気にいられているとかいう根も葉もない鵜沢があったんだ。

 

 おのれ! 噂を八つ当たりで流した松田と元浜は後で殴る!!

 

 なんでそこまで言われなきゃならないんだ。これが女にもてるのはそんなにおかしいのか?

 

 畜生がぁああああ!!!

 

「なんというやつらだ。世界でも有数の色欲を持つ、すなわちモテて当然の男である一誠様に嫉妬するなど!!」

 

「色欲を持つものたるもの、彼女を差し出してNTRプレイをしてもらうのが一番だろうに」

 

 三情の人たちもそれ違うからぁあああああ!!!

 

「失礼極まりないわね……っ」

 

 ほら、リアスもお冠だから!!

 

 消滅したくないなら早く謝って―

 

「あなた達!! 私がイッセーを世界で何よりも愛していることに何か問題でもあるというの!?」

 

 そっちぃいいいいいいい!!!?

 

「まったくだ。第一イッセーに洗脳なんて言う高等技術は使えん。どこまでも馬鹿正直な男だからな」

 

 ゼノヴィア。フォローのつもりなのかもしれないけど、それある意味で馬鹿にしてるからな?

 

 いや、実際魔力を使った記憶操作とかは俺、全然できないけど。

 

「そんな!? じゃあ、兵藤を気に入ってるのはリアス先輩の……趣味!?」

 

『『『『『『『『『『趣味悪っ!?』』』』』』』』』』』

 

 ………………。

 

 何だろう。涙出てきた。

 

「そこ迄、いうこと、ないじゃん」

 

「イッセーくん! 大丈夫、イッセーくんは欠点を補って余りあるほどの美徳があるから!! 普段見えにくいだけで!!」

 

 木場が、俺の絶望の声に対してフォローを入れてくれるけど、だけどそれ、見つけにくいいいところって大半の連中には見られないようなもんじゃねえか?

 

「まあ、イッセー先輩は変態極まりないですし。……それ以上に優しい人ですけど」

 

「下品なところは確かにありますものね。それ以上い御強いお方ですけど」

 

「どうしようもないところはありますからね。それでも、決めるところはきちんと決めてくれるんですよ?」

 

 小猫ちゃんもレイヴェルもロスヴァイセさんもフォローありがとう。

 

 でも、なんで最初の方で俺を落とすの? そういうの無しでやれないんですか!!

 

「だって、エロエロですし」

 

 そうですね、小猫様!!

 

 どうせ俺は変態ですよ。どうしようもないど変態ですよ!!

 

「……残念です。世界中の人々を色狂いにするのには、貴方様の力が必要だったのですが」

 

 心底残念そうに二―スぺはため息をついた。

 

 周りの三情の連中も、とても残念そうで落ち込んでた。マジ泣きしてへこんでる人までいるよ。

 

 あの、すいません。俺は確かに変態だけど、別に世界中の人間を変態にしたいわけじゃないんだけど?

 

 っていうか俺の女は俺のものです。他人なんかに渡したくありません!!

 

 寝取られなんてフィクションだけで十分なんだ! おれの女を性的に食べていいのは、俺一人です!!

 

「世界中の人たちが穴兄弟と竿姉妹になることこそ我らが希望。それを否定するとは……!」

 

「あの兵藤一誠様も、現世に毒されているということね!」

 

 すっげえ残念そうな目で三情の連中が見てくる。

 

 今凄い壮大な野望を言ってきたよ、この人たち。ちょっとドンビキ。

 

 っていうかコレ、逃がしたらもっとひどいことになるんじゃないかな? 何ていうか、変態的な意味で。

 

 ……まずい。それで俺の責任問題になったら、せっかくの上級悪魔昇格の話がパーになるかも!!

 

 なにより、俺と穴兄弟だと?

 

 ……リアスを性的に食べようだなんて、そんなことは俺の目の黒いうちは赦されないんだよ!!

 

 すでに逃げようとしている三情の連中だけど、そうはいかないぜこの野郎!!

 

「こんだけやっておいて、ただで帰れると思ってるんじゃねえ!!」

 

 すでに紅の鎧は準備万端。あとは、最大出力であいつらを吹っ飛ばすだけだ!

 

「吹っ飛べ、クリムゾンブラスター!!」

 

 俺たちの平和をピンポイントに変な形で台無しにしやがって、ここで吹っ飛びやがれ!!

 

「来るか! ならば、第一分隊!!」

 

 ニースペの声に反応して、十人ぐらいが前に出る。

 

 上等! 最上級悪魔でも並大抵の連中倣いぶっ倒せるクリムゾンブラスター、防げるもんなら防いでみやがれー

 

「絶頂編成!!」

 

「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」

 

 その瞬間、そいつらは男女混合で一列に並ぶ。

 

 そして、勢いよく腰を引くと、その反動で腰を相手のお尻にたたきつけた。

 

「「「「「「「「「「あふん」」」」」」」」」」

 

 ……すいません。女の人以外は黙ってください。

 

 そんなことを思っている暇はなかった。

 

 その瞬間、莫大なオーラがそいつらから放たれる。

 

 な、なんだこれは。この出力、今の俺の全力にも匹敵するオーラがこもってるぞ!?

 

「「「「「「「「「「エクスタシーフォーメーション、ガードモード!!」」」」」」」」」」

 

 その瞬間、そのオーラは防壁になってクリムゾンブラスターを受け止める。

 

 激突したオーラとオーラは爆発して、空を一気に埋め尽くす。

 

 そして、オーラが晴れた先には、まったくもって無傷の三情の連中の姿が!!

 

「嘘だろ!? 兵藤のクリムゾンブラスターを防ぎ切った!?」

 

 匙が目をも開くのも当然だ。

 

 俺のクリムゾンブラスターは、今ここにいる味方の中でも最高レベル。最上級悪魔でもこの威力を出せる連中はそうそういない、間違いなく必殺技といってもいい火力だ。

 

 それを、十人がかりとは言え防ぎ切った。正直信じられない。

 

 並に中級悪魔なら、数十人どころか数百人以上吹っ飛ばせるだけの大技だ。これだけで大抵の敵部隊なら一撃必殺だぞ?

 

 それを、たった十人で防ぎ切った!?

 

「驚くことはありますまい」

 

 ニースペは、そう静かに言い切った。

 

「色欲こそ世界の全て。それを扱う我々は、一兵卒ですらそこらの凡俗を圧倒します。ましてや、ここにはせ参じたのは皆精鋭です」

 

 え?

 

 あの、すいません。まさかと思うんですけど、これ一割にも満たない人数だったりするの? もっといるの?

 

 勘弁してくれよ。いったい何人いるんだよこの変態集団!!

 

「その精鋭の絶頂の力を変換したエクスタシーフォーメーションならば、天龍にも届くのは当然の事。我ら三情、嘗めてもらっては困ります」

 

 おごり高ぶるわけでもない。かといってへりくだるわけでもない。こっちを馬鹿にするつもりも欠片もない。

 

 単純な事実として、あいつらは俺のクリムゾンブラスターをどうにかできると断言した。

 

 何だよこいつら、ヴィクター経済連合でもこれだけの連中はそうないないぞ!?

 

「ですが、やられっぱなしというわけにもいかないでしょうな」

 

 ニースペの視線が、その言葉と一緒にずれる。

 

 !? しまった!!

 

「エクスタシーフォーメーション、バスターモード!!」

 

「「「「「「「「「「あふんっ」」」」」」」」」」

 

 その瞬間、俺の斜め下から砲撃が放たれる。

 

 あ、これまずい。マジでクリムゾンブラスターぐらいの威力だ。

 

 当たったら俺でもただじゃすまない。しかも、こんなあれな技で俺は大ダメージを喰らう事になる。

 

 ………だ、誰か、マジで助けて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着。ぎりぎりで間に合ったな」

 

「あぶな!? 三情が直接来るとか聞いてないよ!?」

 

「恥を忍んできた意味がありました!」

 

「あ、ホントに大丈夫?」

 

「ふむ。どうやら急いできた意味があったようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 五色の光が、その時割って入った。

 

 さっきも言ったけど、クリムゾンブラスターはシャレにならない威力がある。

 

 その威力は最上級悪魔クラスでもそのまた上レベル。直撃すれば、最上級悪魔の下のレベルなら一撃で倒す事だってできるはずだ。

 

 この駒王学園にいる人達が出せる攻撃でも、これを上回る攻撃を放てるのはそうはいない。しいて言うなら、リアスの消滅の魔星クラスだろう。

 

 そして、こいつらの変態技は、それに匹敵する火力を出力を発揮している。マジで相殺する事ができた。

 

 そう。それが攻撃として使われたって事は、俺のクリムゾンブラスターに匹敵する威力が叩き込まれたという事なんだ。

 

 それを、それを、それを!!

 

「間におうたようでなによりだ。無事であるか、兵藤一誠殿よ」

 

 一番後ろで堂々と構える少年が、そう言って無事を確認してくる。

 

 そして、その前には、四人の悪魔がさっきの攻撃を防いでいた。

 

 っていうか、どいつもこいつも見覚えがある。

 

 2人はペトとミルたんを助けてくれた男達だ。そしてもう二人の女の子の方は―

 

「……合わせる顔がありませんが、今一度だけ助けさせてもらいます」

 

「あはは……。その節はどうも……」

 

「シシーリアに、プリス!?」

 

 ああ、忘れるわけがねえ。

 

 リセスさんの幼馴染だったプリス・イドアルに、ヒロイが助けたシシーリア・ディアラク!!

 

 この人達、色々ごたごたがあって収監されてたんじゃなかったのかよ!?

 

「……あ、あの方は!」

 

 そしてリアスも目を見開いて驚愕している。

 

 そして、慌てて跪いた。

 

「な、なんだなんだ!?」

 

「リアス先輩がなんか畏まってるぞ!?」

 

「どういうこと? あの人、そんなすごいの!?」

 

 事情を知らない生徒達が、目を見開いて驚いている。

 

 そりゃそうだ。リアスはめちゃくちゃえらいから、基本的に先生を相手にしても無意味にへり下ったりしない。礼節は弁えるけど、威風堂々としてるもんだ。

 

 それが、あんだけかしこまってるところを見たら、混乱してもおかしくない。

 

 っていうかソーナ先輩も畏まってるし! しっかり膝をついてるし!!

 

「匙、皆も急いで礼儀を示しなさい!!」

 

「え、え? どういうこと何ですか、会長?」

 

 慌てて眷属に指示を出すソーナ先輩に、匙が訳が分からずどもる。

 

 う、うんうん。

 

 どういうことなんだよ。現魔王の妹であるリアスとソーナ会長が、同年代の人にかす困る必要なんてあるのか?

 

 ぽかんとする俺達に、リアスが大声上げる。

 

「イッセー! その方は、こちら側に亡命なされた旧アスモデウスの末裔よ!!」

 

 へえ。アスモデウスの末裔なんだ。

 

 ………へ?

 

 アスモデウスの末裔? それって、ファルビウム様じゃなくて、本来のアスモデウスの、血縁関係?

 

 俺は、ちょっと錆び付いた感じの動きで、そのアスモデウスの人らしい男の子に視線を向ける。

 

 そして視線を浴びた少年は、にっこり微笑むと大きく頷いた。

 

「うむ! 余は正当たるアスモデウスの末裔、ハヤルト・アスモデウスである!! よろしく頼むぞ」

 

 な、なんだとぉおおおおおおおおおお!!!

 




いまだ第二部の主人公、顔見世こそすれど名前出てこず。まあ、イッセーは原作の主人公だから、狂言語りにはぴったりだしね!!

そして部隊単位とは言えクリムゾン・ブラスターを防ぎ、そして同規模の砲撃を叩き込めるものたち。異形技術の流出により、世界には強者があふれ出てくることを象徴しております。









……まあ、変態ですけど


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第二部一章 4 駒王学園緊急集会

そんなわけで、下級の事態になってまいりました。


 Otehr Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その驚愕の声を聴きながら、ハヤルト・アスモデウスは駒王学園に体を向ける。

 

 事実上敵に背を向ける行為だが、それは決して油断ではない。

 

 何故なら、自分の背後は眷属である四人がカバーしている。なら、背後を気にするだけならともかく過剰に気を付けるのは眷属の力を信頼していない事に他ならない。

 

「五分もかけぬ、頼むぞ?」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 其の声が確約そのものだ。

 

 ハヤルトは満足げに頷くと、静かに優雅に一礼する。

 

「お初にお目にかかる、駒王学園の諸君!! 余は原初の悪魔の長である、四大魔王が一人、初代アスモデウスと庶子の間に生まれた者、ハヤルト・アスモデウスである」

 

 その言葉にぽかんとする者達に苦笑しながら、ハヤルトはその視線を木場達に向ける。

 

「グレモリー眷属の一部の者達よ、余が亡命を行った時は支援をしてくれたそうだな。礼を言わせてもらう」

 

「あらあら。面と向かって言われると、少々恐れ多いですわ」

 

 いつも仲間達に見せる笑顔で対応する朱乃だが、少々ぎこちない。

 

 当然といえば当然だろう。相手は真なる魔王の直系だ。

 

 かつて四大魔王の末裔達と袂を別った現魔王政権ではあるが、その影響度は根強く残っている。ましてや、ハヤルトは自ら現政権の側に舞い戻った魔王の末裔なのだ。

 

 其の影響力は日々急上昇しており、生半可な元72柱の当主を凌ぐほどに達している。保有する権力に限れば、ほぼ確定とは言え次期当主の最有力候補でしかないリアスやソーナより上だろう。

 

 今更アジュカが自分達をぞんざいに扱うとは思わないが、彼の機嫌を損ねれば色々と揉め事になるかもしれない。

 

 そんな警戒心がわずかばかり浮き上がり―

 

「……ハハハハハ! そう緊張せずともよい!」

 

 ハヤルトは、それを笑って一蹴する。

 

 そして苦笑に変えると、静かに肩をすくめた。

 

「余は所詮血筋だけの男だ。それに見合った能力を示してもおらぬのに、強権を振るうつもりはない。クルゼレイのような輩と一緒にされるのは心外であるぞ?」

 

 そうおどけて言うと、視線を三情の者達に向ける。

 

 そして、今迄の朗らかな雰囲気を一蹴して、強い敵意を込めて殺意すら浮かび上がらせた。

 

「……卿ら、今すぐ引くというのならば、こちらも用意が足りぬ故見逃そう。だがこれ以上絡むというのならば、余らは全力をもって卿らを討ち果たすが?」

 

 その言葉に嘘偽りは一切ない。

 

 その証拠に、駒王駐屯地がある方向からは多数の悪魔が近づいており、その気になれば戦闘を行うことは十分可能だ。

 

 しかし、そうなれば駒王学園は愚か周辺に被害が発生する事は明白。

 

 かの赤龍帝兵藤一誠の大技を相殺するような猛者を相手にすれば、被害をできる限り押さえたとしてもそれ相応の被害は生まれるだろう。物的被害なら悪魔の妙技で直せば済むが、人的被害は完全には治せない。

 

 そして、それ位のことは三情も把握していた。

 

「いいだろう。こちらも、どうやら準備が足りてなかったようだ」

 

 ニースペがそう頷き、そして指を鳴らす。

 

 そして、三情の者達は即座に離脱を開始した。

 

「あ、コラ待て!!」

 

 思わずイッセーは追撃を仕掛けようとする。

 

 しかし、それをハヤルトは手で制した。

 

「よすが良い。今この場で戦えば、少なからずこの街にも被害が出る」

 

「で、でも! あいつらかなりやばい連中ですよ!?」

 

 まさにその通りである。

 

 なにせ強引に駒王町の結界をぶち破ったうえ、クリムゾン・ブラスターすら十人がかりとは言え相殺したのだ。

 

 しかもド級の変態。イッセー達と性的に関係を結びたいと、この大多数の人間が見ている中で言い放つその精神性は、明らかに異常だと言ってもいい。

 

 しかし、ハヤルトは首を振った。

 

「あれほどの者達、おそらく後詰もいるだろう。これ以上の戦闘は、民草に無用の被害を生み出しかねぬ」

 

 そう言いながら、ハヤルトは更に視線を周りに向ける。

 

 この駒王町の周辺は住宅街だ。そして昼時である為、人そのものは少ないが、しかしゼロではない。

 

 急激すぎる変化についていけていない者も多いこの状況下で、即座に動くのは返って危険でもある。

 

「確かに、ハヤルト様の言う通りです。……イッセー君達の正体がばれましたし、その辺りの混乱も含めると騒がしい事はできません」

 

 ソーナはそういうと、視線を校舎に向ける。

 

 そこには、生徒達の色んな意味で戸惑っている顔があった。

 

「え? あの、蒼菜先輩もアザゼル先生の関係者なのか?」

 

「いや、確かにゼノヴィア会長とかイリナ先輩とかも教会の戦士だったらしいけど……」

 

「っていうか兵藤だよ兵藤。なんか兵藤が中心になってねえか?」

 

「あの変態が? 確かに後輩の面倒見は良かったらしいけど……」

 

 ………間違いなく、状況は色々大変である。

 

 三情の考えなしの行動で、イッセーは色々と面倒な事になったのかもしれない。

 

 思わずイッセーが冷や汗を流す中、ハヤルトは苦笑を浮かべると片手を上げる。

 

「……この学園の校長先生とやらと話がしたい。ここは余の責任で、事情をある程度開示する必要があるだろうて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三十分後、体育館で緊急集会が開かれる事となった。

 

 本当なら、集会の時はクラスで一列に並ぶもんだけど、今回俺達オカルト研究部と新旧生徒会は別口で集まってる。

 

 その所為で視線が集まって集まって大変だよ。いや、冥界でおっぱいドラゴンやってる時とは比べるまでもないんだけどさ?

 

「なんで、こんな事なってんだろう?」

 

 俺、冗談抜きで注目されてんだけど。

 

 あっれ~。一応表向きは一般生徒のはずなのに、俺に一番視線が集中してんのはなんで?

 

「そりゃお前、散々覗きとかやってんだから悪い意味で有名人だろうが」

 

 匙。そこはっきり言わないでくれよ。

 

 これでも、最近はリアス達と一緒にいる事が多いし、松田と元浜が童貞卒業した所為であまり関わらないから、むなしくなって回数は激減してんだぜ?

 

 え、完全にやめろ? ご、ごもっともです……。

 

 とは言え、ちょっと皆ぎこちない感じだ。

 

 ま、そうだよな。俺達、駒王学園では普通の学生として暮らしたかったし。

 

 正体ばらしたゼノヴィアやイリナは平然としてるけど、こっちの様子をうかがってる。

 

 どうしたもんかなぁ。これ、下手したら駒王学園にいられなくなるとかあるんじゃないかって気になっていたぞ?

 

 それは、ちょっと、やだな。

 

 俺がそう思ったその時、体育館の扉が開かれた。

 

 そして、三十人ぐらいの悪魔が、ハヤルト……さんが引き連れる形で歩いてくる。

 

 ハヤルトさんのすぐ後ろを歩くのは、四人の転生悪魔。

 

 プリスにシシーリア、そしてミルたん達を助けてくれた、2人の悪魔だ。

 

 そして彼は壇上に上がると、ハヤルトさんを先頭に、その眷属悪魔がすぐ後ろ、そして残りが辺りを警戒する感じで並んだ。

 

 ………しんと、体育館内が静まりかえる。

 

 皆が皆、ハヤルトさんの持つオーラに沈黙した。

 

 まるで湖畔の朝のように、涼しく目が冴える様なオーラ。一見するだけでただものじゃないって分かる。

 

 間違いないよ。あの人、シャルバやリゼヴィムとは格が違う。

 

 そして、ヴァーリとも方向が違う。

 

 なんていうか、ヴァーリはドラゴンらしい自由気ままな奴だ。何物にも縛られないって感じのカリスマ性がある。

 

 だけど、目の前の魔王の末裔は違う。いろんなものをしょい込んで、そして皆を引っ張っていうような人のオーラがある。

 

「……改めて挨拶しよう。余はハヤルト・アスモデウス。人間とは異なる種族である悪魔の長、四大魔王が一角であるアスモデウスの直系である」

 

 そう前置きして、ハヤルトさんは笑みを浮かべた。

 

「とは言え、庶子との間に生まれた者だ。もう少し肩の力を抜いてよいぞ?」

 

 そう笑いながら言うと、皆の緊張が少し解けたみたいだ。

 

 俺は視線をシシーリアに向ける。

 

 シシーリアは、周囲を軽く警戒する形で視線を左右に向けていた。それは、プリス達他の眷属も同じだ。

 

 だけど、俺達に視線を向けられている事に気づくと、気まずそうに逸らす。

 

 ………ああ、気にしてんだな、やっぱ。

 

「……隠しようがなくなり、これ以上の隠匿は困難であるがゆえにあえて言おう。この駒王学園には多くの異形の存在や異能の使い手がおる。其の中でも二大巨頭は、前生徒会およびオカルト研究部だ」

 

 やっぱり、そこは言うのか。

 

「そも、オカルト研究部前部長であるリアス・グレモリーと、前生徒会長である支取蒼菜ことソーナ・シトリーは、それぞれ元72柱の家系、グレモリー家とシトリー家の次期当主だ。その上、リアス嬢は兄君、ソーナ嬢は姉君が現四大魔王のそれぞれルシファーとレヴィアタンを襲名しておる」

 

 結構ペラペラしゃべってるな、オイ。

 

「悪魔は現在転生悪魔制度をとり、他種族からスカウトした者を悪魔に転生させて上級悪魔の側近とおるが、前生徒会は全員がソーナ嬢の眷属悪魔、オカルト研究部も、残存メンバーはレイヴェル嬢とイリナ嬢を除いた全員がリアス嬢の眷属悪魔である」

 

 その言葉に、生徒達が結構ざわめく。

 

 まあな。ゼノヴィアやイリナが教会のエージェントなのは自分でばらしてた。レイヴェルについてもヴィクターの襲撃でばれてた。

 

 だけど、それが氷山の一角だったなんて流石に衝撃だろう。

 

「この学園は異形の者や異能使いが数多く学生生活を送って居っての。現生徒会の者も全員が何らかの形で異能を持って居る。初期の百鬼黄龍など、この国異能集団最大手、五代宗家の次期当主で―」

 

「―自粛。流石に他勢力の者達の事までペラペラしゃべるのはどうかと」

 

 と、眷属悪魔で最年長の人が、ハヤルトさんに物申した。

 

 ハヤルトさんはそれに怒る事なく、口で手を塞ぐと苦笑する。

 

「確かにそうだな。すまぬすまぬ、つい口が滑った」

 

 そう言って謝罪するハヤルトさんの視線の先、一年生の少年が首を横に振る。

 

「いえ、気にしないでください。俺もフェニックスを狙ってきたヴィクターとの戦いで暴れてますから」

 

 ああ、そういやレイヴェルを助けようとした一年生を助ける為に、割って入ったんだったな。

 

 ヴィクターの良識派の人達がいたから手加減するつもりだったみたいだけど、それでもかすり傷ぐらいは負いそうだったからな。あの時は助かったぜ。

 

「……まあ、如何に民草にその存在を示す事を決定したとはいえ、それでも順序というものがあるのでな。いざという時そういう者達が守ってくれる者と考えてくれればよい」

 

 そういうと、ハヤルトさんは体育館の中を見渡した。

 

 そしてその生徒達の顔を見ると、ハヤルトさんは立ち上がると頭を下げた。

 

「とはいえ、我が親族であるクルゼレイを筆頭にヴィクター経済連合が迷惑をかけた。とある事情ゆえに一時帰属していた者として、謝罪をしたい。すまなかった」

 

 その行動に、後ろについていた悪魔達が一斉に頭を下げる。

 

 そして少しざわつくけど、そのざわつきが収まるまでハヤルトさんは何も言わなかった。

 

 そしてざわつきが収まってから、ハヤルトさんは頭を上げる。

 

「それで、何か質問でもあるか? 応えれる範囲内で答えよう」

 

 その言葉に、たくさんの人が顔を見合わせる。

 

 う~ん。これ、色々ありすぎてそもそも何を質問したらいいのかも分からない感じだな。

 

 悪魔について知っている人達も、そう簡単には質問できそうにない感じだ。

 

 でも俺が質問するわけにもいかないし―

 

「あ、じゃあ質問しまーす!」

 

 と、そこで桐生が手を上げた。

 

 おお! 桐生ナイス!

 

「うむ! そこの美少女よ、なんであるか?」

 

「あらら、お上手」

 

 っていうか対応軽いな、2人とも!!

 

 ハヤルトさんも大物の風格だし、桐生は桐生で根性座ってるな。

 

 で、何聞く気なんだ?

 

「いや、私兵藤達が悪魔やってるのはゼノヴィアっちから聞いてたけど、もしかしこの学園って、スカウトの為に創られたとか?」

 

「否。結果的にソーナ嬢の眷属は大半が生徒会から集められたが、リアス嬢の眷属は半分がもっと昔からスカウトされたものだ。八割方偶然だな」

 

 あ、そういうのでいいのか。

 

「あ、じゃあ俺も質問!」

 

 と、そこで更に手が上がった。

 

「ふむ、なんであるか?」

 

「悪魔や堕天使って、やばいことになる人間を殺したりするってヴィクターが言ってたけど、……もしかして、口封じされる?」

 

「ないのである」

 

 即答だった。

 

 そしてハヤルトさんは肩をすくめると、苦笑を浮かべる。

 

「確かにかつてはそのようなこともあったが、駒王会談による和平をきっかけに、それをしなくてもいい土台作りは急速に進んで居る。勝手な都合で人間を振り回す悪魔は大半が失脚しおったし、神器の制御技術も発展した事で、神器の暴走を防ぐ為の暗殺も必要なくなってきておるしの」

 

 ああ、確かにそうだ。

 

 皇帝ベリアルの大告発が原因で、そういうことをしそうな旧家の悪魔達は大半が隠居する羽目になった。

 

 中にはやけを起こして暴れまわった悪魔もいるけど、そっちはトライヘキサとの決戦が起きる前に鎮圧出来た。

 

 だから、昔みたいに一部の悪魔が強引な手段でレアな能力を持った他種族を奴隷のように強引に転生悪魔にする連中は動けなくなる。

 

 それに技術も発展したから、俺みたいに危険な神器を制御できそうにないって理由で殺される可能性も激減してる。

 

 この調子なら、そういった人達が二度と出てこなくなり日も近いだろう。

 

 それもこれも和平のおかげだ。やっぱり平和が一番だよな。

 

「かつての取らざるを得なかった悪行も、和平による影響で大きく改善できた。その手の汚れ仕事をする必要は、限りなくゼロに近くなっているとだけ言っておこう。……次はあるかの?」

 

「「はい!!」」

 

 そして、今度は松田と元浜。

 

 勢いよく手を上げると、なんか視線が俺にむけられた。

 

「「兵藤が超注目されてんのはどういうことですか!?」」

 

 ついに来たかー! ここで来るかー。お前らがいうかー。

 

「それはそうであろう。兵藤一誠殿はこの世界の英雄、五英雄の1人であるからな」

 

『『『『『『『『『『なにぃ!?』』』』』』』』』』

 

 オイコラぁ!! なんだその在りえないものを見るかのような絶叫は!!

 

 そりゃ、同じ学校の生徒が英雄扱いされてりゃ驚くだろうけどさ、それとこれとは別の感じだったぞ、オイ!!

 

 っていうか匙たちもなんで目を伏せてるんだよ。なんであっちに同情してるんだよ、オイ!!

 

 ハヤルトさん、なんか言ってやって!!

 

「確かに、兵藤一誠殿は一見すると人間の屑と称されてもおかしくない」

 

「ちょっとぉおおおおおお!?」

 

 なんでそっちのフォロー!?

 

「覗きの常習犯であり、堂々と春画の類を校内で広げるのは、人間世界での非常識極まりない類だな。此処だけ見れば、毛嫌いするものが多いのも納得だろう」

 

 うんうんと頷きながら、ハヤルトさんは生徒達を見る。

 

「だが生憎、異形というものは意外とその辺がおおらかなのでな。いいところの方に目が向くのだよ」

 

 その言葉に、視線が俺に集中した。

 

「同胞に対して面倒見がよく、名前の通り誠実。人は命の危機に陥ると本質があらわになるというが、色狂いという皮をはがしてみると、これほどの好漢もそうはおらぬ。ゆえにこそ、リアス嬢のように多くの者達が想いを寄せるのだ」

 

「ええ、その通りですわ、ハヤルト様」

 

 リアスはそういうと、堂々と胸を張る。

 

「兵藤一誠は、リアス・グレモリーの生涯の愛を捧げるに値する男。覗きをするのも、女を女として見てくれているということだもの。ある意味で誇らしいことよ」

 

 後半は駒王学園のみんなに言い聞かせるように言ってくれた。

 

 リアス。俺のことをそこまで思ってくれているだなんて!!

 

 大好きだリアス!! 百年先でも千年先でも一緒だぜぇええええ!!!

 

「まったくだな。確かに悪魔らしくいやらしいが、そのいやらしさはまっすぐだ。私の女の部分も刺激してくれる」

 

「っていうか、エロくないイッセー君ってご飯だけのどんぶりよね。なんていうか物足りないわ」

 

「まったくですわ。イッセー君が私たちの胸をまじまじと見つけてくる時こそ、私達は女であることを実感できますもの」

 

 と、ゼノヴィアもイリナも朱乃さんも俺のことをべた褒めしてくれている。

 

 ああ、俺は良い嫁さんたちを持ったぜ! みんなまとめて大好きだぁあああああ!!!

 

「まあ、今後は節度を持つ必要はありますけどね」

 

「性犯罪はいい加減やめてくれないと、冥界が人間に叩かれますし」

 

 ロスヴァイセさんと小猫さまの容赦ない言葉がキツイ!!

 

 でも反論できない!! 確かにそうだよね、ごめんなさい!!

 

「大丈夫です、イッセー様。わたくし達はイッセー様についてきますわ」

 

「はい。いつものイッセーさんが一番大好きです」

 

 レイヴェルとアーシアの慰めが身に染みるぜ。

 

「っていうかちょっと待て!! ってことは兵藤ってマジであの美少女達に好かれてるのか!?」

 

「俺、マジで洗脳されてるものだとばかり思ってたんだけど……」

 

「リアス部長、男の趣味が悪しゅ………独特」

 

 微妙にドン引きの視線が向けられるのは流石に悲しいな!!

 

 っていうか洗脳説ってまだ根深かったのかよ!!

 

 あと最後の女子。言葉を選んでくれたのは嬉しいけど、何言いかけた!? 悪趣味か!!

 

「質問! でも一人に絞らず周りの女の子にいい顔しすぎているのはあれじゃないですかー?」

 

「いや、冥界では実力者が配偶者を何人も囲うことに問題はないぞ? リアス嬢の元婚約者も眷属悪魔を全員ハーレムにしていたからのぉ」

 

『『『『『『『『『『!?』』』』』』』』』』

 

 さらりと返答したハヤルトさんの言葉に、かなりの数の生徒が色めき立った。

 

 っていうか、女子迄反応してんのはなんでだ!?

 

「て、っていうことは、俺も眷属悪魔になればハーレム作れるんですか!?」

 

「逆ハーレムはどうなんですか!?」

 

「っていうか眷属悪魔でもそんなことできるんですか!?」

 

 すごい勢いで食いついてやがる。しかも、女子迄いるよ。

 

「ふむ、全部まとめて答えるが、まあ不可能ではないな」

 

 ハヤルトさん!? 火に油を注がないで!! いや、事実だけど!!

 

「とは言え楽な道のりではないぞ? 一誠殿は一年足らずで上級昇格の話まで来たが、三回ほど死にかけておるからな」

 

 その言葉に、熱気に包まれていた体育館が一気に冷え込んだ。

 

 ハヤルトさんの目は静かに、そしてたしなめるように生徒達を見ている。

 

 そこに怒りはない。だけど、気遣いがあった。

 

「眷属悪魔とは、いわば上級悪魔の近衛兵のようなものだ。主を襲う者があれば命を懸けて守り、時にヴィクターとの戦いに駆り出されるのだ」

 

 そう言いながら、ハヤルトさんは指を鳴らす。

 

 そして後ろに映像が映し出され、全員が息をのむ。

 

 それは、トライヘキサが後ろで映し出された、あの時の戦いだった。

 

 ドーインジャーが何体も吹っ飛ばされてるけど、中には悪魔の体に弾丸が当たって鮮血が飛び散る。

 

「……あの戦いにおいて、転生悪魔になった者も数多く死んだ。異形の戦いは大火力が飛び交うが故、死体が残らぬ事など日常茶飯事だ」

 

 ハヤルトさんはそう言いながら、俺に視線を向ける。

 

「そこの兵藤一誠殿は、悪魔になってから一年足らずで何度も死にかけておる。つい最近では多臓器不全を起こし、治ってからも数日程認識障害があったそうだ」

 

 ああ、あれは酷かった。

 

「……おっぱいに触れたら激痛が走って、泡吹いて気絶したりしました」

 

『『『『『『『『『『なにそれ?』』』』』』』』』』

 

 おい、なんだその異口同音の呆れ顔は!!

 




イッセーからすれば非常に大変なことだけど、普通の人たちからすれば「なんだそりゃ!?」である。


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第二部一章 5

第二部は真D×Dの進行を慎重に見ながら書いていかねばならない感じですね。

ケイオスワールド2

とはいえ、この辺に関しては投稿しきりたいところです。






あ、ちょっとD×Dのアンチ・ヘイトにたいしてなかなか興味がわく考察がじぶんのところに届いたので、活動報告に乗せてみました。興味がある方はぜひご一読を。


 

 一瞬空気が軽くなったけど、ハヤルトさんは咳払いをして空気を戻す。

 

「それだけではない。一誠殿はハーデス神に目をつけられた結果、人としての肉体は文字通りチリとなった。今の彼の肉体は、龍の細胞を素にして作られたもので、なんとかジャンボ宝くじとやらを十回連続で一等を取るような幸運に恵まれての事だ」

 

「過小。そんな程度の大きな確率ではないと思います」

 

 転生悪魔の人がそう言うけど、まあ確かに超幸運だったよなぁ。

 

 体消滅して生き残るって、どんな奇跡だよ。普通ないだろ、普通。

 

「それにこれは悪魔史上でも異例の事態だ。転生後一年足らずで上級悪魔への昇格を試験を飛ばして確定など、前代未聞の記録であろう。数百年前から転生して、中級にすら昇格できていない者が一体どれだけいるか」

 

 うん、確かにそうだよね。

 

 俺が行った中級試験会場も、だいぶ空いてたからなぁ。

 

「単刀直入に言おう。軽はずみな気持ちで転生すれば、後悔するのは卿らの方だ。転生悪魔はなった時点で現役であるゆえに、軍学校のような訓練期間抜きで実戦に参加する事も多いのだからな」

 

 き、厳しいけど確かに事実だ。

 

 俺なんて、転生悪魔になって数週間でマジの殺し合いを経験してるもん。赤龍帝の籠手に目覚めなけりゃ、死んでたよ。

 

「そう言うわけだ。軽はずみな転生はやめた方がよい。……次はあるか?」

 

 微妙に沈黙が響いた。

 

 いや、確かにこれは結構きつかったしな。誰も次の質問をする空気になってない……けど。

 

「あ、じゃあ俺が聞いていいですか?」

 

 色々聞きたい事もあったし、ここで聞いた方がいいかな?

 

「なんだ、一誠殿」

 

「あ、そんな堅苦しくなくていいです。イッセーって呼んでください」

 

 何ていうか、付き合い長くなりそうだからそれ位でいいかな。

 

 サーゼクス様ともそういう関係だし、この人、口調は硬いけどフランクだから結構いけるかも。

 

「よし、ではイッセー。何か聞きたい事があるなら、遠慮なく言うがよい」

 

 おっしOK出た! やっぱこの人話しやすい!!

 

 ま、結構色々あるんだよな~っと。

 

「あ、じゃあまず気になってたんですけど……」

 

 うん。まずはこれだよな。

 

 俺の視線は、シシーリアとプリスに向けられる。

 

「なんで、そこの2人が結構近いところにいるんですか?」

 

「うむ。余がスカウトして眷属悪魔にしたのだ」

 

 即答だったよ。

 

「言わんとする事は分かる。シシーリアもプリスも理不尽な運命に巻き込まれたからとは言え、ヴィクター経済連合に与していた事もあった」

 

 その言葉に、生徒達がちょっとどよめいた。

 

「だが、それを言えばヴァーリ・ルシファーの件もあるしな」

 

 そして映し出されるのは、駒王会談で激突する俺とヴァーリの戦いだった。

 

 うわぁ。なんか懐かしい。っていうか、傍から見るとこんな戦いだったのかよ。

 

「あ、ヒロイだ!!」

 

「リセスさんも戦ってる!!」

 

「っていうかあの白いの、兵藤が着てた鎧と似てないか?」

 

「うむ、その辺についてはまた話すが、それは後でな?」

 

 そう前置きしてから、ハヤルトさんはため息をつく。

 

「この男、ヴァーリ・ルシファーは平和を望むアザゼル元総督に育てられておきながら、「神様と戦える」などという理由でヴィクターを手引きして和平会談を潰そうとした阿呆だ。しかも奴が盗聴器を持ち込んでいた所為で聖書の神の死が示された事に説得力が生まれ、ヴィクターの快進撃の大きな助力になった事は言うまでもない」

 

 うん。確かに。

 

「しかもだ、ヴィクターに行ったら行ったで組織の命令は殆ど聞かない。そこなリアス・グレモリー嬢を討つ好機を妨害する。神殺しの獣を手にしながら、組織の作戦に運用させない。挙句の果てにリアス嬢とそのはとこの試合を妨害すると言った時は、「邪魔したら敵とみなす」と言い放ったほどだ。組織に属する者として、あまりにどうしようもない」

 

 うん。確かに。

 

「え~。ないわー」

 

「残念なイケメンなのね」

 

「顔は良いけど、なんか付き合ったら苦労しそう」

 

「兵藤とは別の意味でどうしようもないなぁ」

 

 ぼろっかすだよ。

 

 まあ、ここだけ聞くと問題児でしかないもんな、俺も結構苦労したし。

 

「……で、ヴィクターと手を切った後、彼奴は北欧の主神であるオーディンの養子となり、この度最上級悪魔として迎え入れられた。今頃書類手続きを行っている頃だろうな」

 

 …………

 

『『『『『『『『『『はぁあああああ!?』』』』』』』』』』

 

 体育館中が絶叫で響いたよ。

 

 俺も流石に驚いた。

 

 あいつ、最上級悪魔に昇格したの!?

 

「如何にかのものが兵藤一誠達と同じ五英雄の1人とは言え、問題行動を連発しておいて最上級悪魔という事だ。人間世界の観点からすれば、信じられぬだろう?」

 

「ねえ、これって本当に仲良くして大丈夫なの?」

 

「悪魔と神ってフリーダムすぎねぇか?」

 

 すっげえ不安視する言葉が出て来まくってるよ!!

 

 ヴァーリぃいいいいいい!! お前、そこは断っとけよぉおおおおおおお!

 

「因みに、当人は面倒と一回は断ったそうだが、現冥界政府がどうしてもと頼み込み、アザゼル元総督も隔離結界領域に向かう前にそれを望む旨を伝えていた為、向こうが折れた形だ」

 

「あの! 本当に悪魔って大丈夫なんですか!?」

 

 そんな意見まで出てきちゃったよ!!

 

「まあ安心せよ。少々……かなりフリーダムな者が主権を握っておるが、老害の類からはほぼ実権を奪う事ができた。時々頭痛に悩まされる事はあるかもしれぬが、悪行三昧になる事は当面なかろうよ」

 

 そう前置きしてから、ハヤルト様は視線を俺に戻す。

 

「まあよいイッセー殿。卿は二人がどうしてヴィクターにつく羽目になったのかは知っておろう?」

 

「は、はい……。ディオドラとゼファードルの所為ですよね」

 

 あいつ等、ホントろくでもなかったからなぁ。

 

「うむ。ディオドラは所謂鬼畜を地でいく男。ゼファードルもその素行の悪さを実力で押し切り、手痛い敗北を受けた時のトラウマを克服する為、リアス嬢のはとこであるサイラオーグ殿を倒す為の力を得るべくヴィクターについた阿呆共だ」

 

 バッサリ切ったよ。確かにそうだけど。

 

「眷属悪魔の扱いは主の裁量に委ねられる。ディオドラの眷属悪魔であったシシーリアはもちろん、ヴィクターが条件としてゼファードルに差し出す事を指名したプリスも、自力で断る事は出来ぬ事だった。……これを責めるのは酷であろう」

 

 確かになぁ。

 

「ハヤルト様。ここからはこの駄馬自ら説明させていただきます」

 

 あ、シシーリアが前に出た。

 

「お初にお目にかかります。私は、ハヤルト・アスモデウス様の騎士(ナイト)、シシーリア・ディアラクと申します」

 

 そして、深く一礼した。

 

 いや、あれはお辞儀じゃない。

 

「そして、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルを死地に誘った死神です」

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はっきりと、シシーリア・ディアラクはそう言い切った。

 

 その瞬間、一斉にどよめきが起こる。

 

 それをあえて受け止めながら、シシーリアは口を開いた。

 

「あの二人は、日本攻防戦の数日前、ヴィクター経済連合の基地攻防戦の際に呪いを受けていました。主神クラスでも解呪に百年かかり、全力戦闘を行なえば、半日で死に至る程に寿命を削る呪いです」

 

 そう。つまりは戦場に出すという選択肢が存在しなかった。

 

 緊急事態であったがそれでも出すわけにはいかない。其れで満場一致していたし、その為に監視まで用意した。

 

「話はそれますが、ディオドラが鬼畜だというのは、駄娘である私が話す前からハヤルト様が言及しておりました。……端的に言うとシスターを堕落させる事を趣味とする鬼畜エロゲ主人公です」

 

「エロゲー!?」

 

「うそ、リアルにそんなのいるの!?」

 

「し、シスターとエロい事を!? な、なんてうらやまけしからん!!」

 

「おい、今欲望に忠実な奴がいたぞ!!」

 

「赦すな!」

 

「吊るせ!!」

 

 ……五分ほど話が脱線したが、すぐに戻る。

 

 そして、シシーリアは咳払いをしてから話を進める。

 

「……三、四年程前、私はディオドラに心の隙をつかれて彼の眷属になりました。聖女として祭り上げられていた私は、しかしその重責に耐え切れず、その甘言に乗っかってしまったのです」

 

 そう。シシーリアはあの時苦しんでいた。

 

 聖女という重責は彼女には重く、そこから逃れられるという甘言は、抵抗するには甘美すぎた。

 

 だが、その前にも救いはあったのだ。

 

「その更に前に、私はヒロイさんに元気づけられていたのにも関わらず、です」

 

 再会した時は軽蔑されるのではないかとも思った。

 

 それも仕方がないと思い、心のどこかを痛めながらも諦めて―

 

「それでも、彼は私を輝き(英雄)として照らしてくれた」

 

 それがシシーリアを救った。

 

 彼女の心は自分が照らされている事を自覚させる。そして、勇気を覚悟を与えてくれた。

 

「……結果としては失敗でしたが、私は彼に感謝しています。女として愛情すら抱いておりました」

 

 だから―

 

「―そして、それ以上に彼が輝く事を望んでいました」

 

 あるだろう反論より先に、はっきりとその真相を告げる。

 

 そう。シシーリア・ディアラクはヒロイ・カッシウスという()()を愛している。

 

 彼が輝けない状況を、許す事はできない。

 

 

「輝く事を望んでいる彼に、戦場へと誘う手引きをしたのは私です。強引に戦場に行かないようにする為の結界を抜ける装置を用意し、冥界から戦場まで移動する為の足も用意しました。そこに嘘偽りは一切ありません」

 

 そこからぶつけられるのは、敵意と戸惑いだ。

 

 ヒロイ・カッシウスは割と人気がある。

 

 英雄であろうとするヒロイは、それゆえに人から嫌われにくい人物であろうとしてきた。かつてヴィクターが駒王学園を襲撃した時なども動いていたし、そこから好感を抱いている者も多い。

 

 リセス・イドアルは人気者だ。エロすぎる問題点があるが、それゆえに多感な男子生徒からの人気は絶大。女子生徒からも人気はそれなりにあった。

 

 ゆえに、敵意を向けられるのは当然で、だからこそ戸惑いもある。

 

「……私には、願いがありました」

 

 その視線を受け止めながら、シシーリアは告げる。

 

「私と同じようにディオドラに惑わされ、そしていまだに心を閉ざしている彼女達。……彼女達が罪を償った後、彼女達が人並みに生きれる程度の居場所を作りたかった」

 

 そう。その為に一生懸命努力をした。

 

 ディオドラの件で多少の責任を感じていたアジュカの下で、使いっパシリをしながら成果を上げた。

 

 いずれ上級悪魔になり、彼女達を眷属にする事で居場所を作る。

 

 だが、その夢を彼女は自ら遠ざけた。

 

「天秤に乗せて、私はヒロイさんが輝く事を望みました。そして、その咎は私が夢を諦める事で受けるべきだとも思っていました」

 

 そう。それ位はしなければならないだろう。

 

 だが―

 

「―ここから先は引き継ごう」

 

 ハヤルトは、そんなシシーリアの肩に手を置くと、一歩前に出る。

 

「卿ら駒王学園の者達からしてみれば、シシーリアに怒りを抱く者は多かろう。ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルを確実に死ぬであろう状況に誘ったのだから」

 

 それは事実だ。怒りを向けられるに値する事だろう。

 

 だが、ハヤルトはまっすぐにそれを受け止め、そして首を横に振る。

 

「しかし、シシーリアは二人の命ではなく、二人の矜持を守った。矜持というのはな、人によっては自分の命如きでは代えられないぐらい重いのだ」

 

 ……それを理解するのは、日常に生きる日本人では困難だろう。

 

 知識としては知ってはいる。創作物でそう言う類は多い。

 

 だが、それがフィクションではなく現実にいるという事は受け入れづらい。

 

 ゆえに戸惑いの声が上がり、しかしハヤルトは言葉を続ける。

 

「彼女を恨むのはよい。許せなどとも言わん。だが、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルの矜持を守り、我らピースキング和平連盟の勝利に貢献した彼女に私刑を行う事だけは認めん」

 

 はっきりと、ハヤルトはそう告げた。

 

「彼女はその咎と、教皇猊下を殺害した英雄派のジャンヌ・ダルクを討ち取った功績を差し引いて、莫大な罰金を背負った。余はそれを立て替えて後見人となる代わりに、眷属悪魔として取り入れたのだ」

 

 そう。それがシシーリアがハヤルトの眷属悪魔になった経緯だ。

 

「余はピースキングに亡命し眷属悪魔を持つにあたって、眷属は最低限に抑え、そして冥界に未来を担うにあたう者達を見定めて後援者とするべく駒を使うと決めた。そして、それと同時に初期の眷属には人生を歪められた者の中から、しかし輝く者を持つ者を救い上げる事も決めていた」

 

 そう、それがシシーリア・ディアラクとプリス・イドアルを眷属悪魔にした理由。

 

「矜持の為に生きる者に、矜持の貫き場所を用意した事。余も命より大事なものを持つ身として、それをどうしても責める事はできなかった」

 

 だから、シシーリアにチャンスを与えたかったのだ。

 

「故にシシーリアに私刑を加える事は余が認めん。……恨むなら余を恨むがよい。魔王の末裔として庇護する民の恨みをあえて受けるのも務めであると覚悟している」

 

 その言葉に沈黙が響き……。

 

「……なあ、シシーリアさんだっけ?」

 

 一人の少年が、一歩前に出た。

 

「あ、確かヒロイさんの友人の……」

 

「あ、松田っていうんだ」

 

 その少年は前に出ると、静かに聞いた。

 

「……ヒロイ、その時、どんなこと言った」

 

「………感謝と謝罪を向けられました。ですが、どこか生き生きとしてました」

 

 嘘偽りなく正直に答える。

 

 そして、松田は―

 

「そっか、なら仕方ないか」

 

 ―そういうと、振り返って元居た場所に戻っていく。

 

「……それだけ、ですか?」

 

 生徒達からもどよめきが出る中、シシーリアはそう言い縋る。

 

 恨んでいい。怒ればいい。ハヤルトは私刑を認めぬと言ったが、一回殴られる程度の事はされるべきだとも思っていた。

 

 だが、松田は苦笑すると肩をすくめる。

 

「いや、アイツ馬鹿だし。多分どんな事してでも戦場に出てきたかもしれなかったしさ」

 

『『『『『『『『『『確かに』』』』』』』』』』

 

 相当数が一斉に頷いた。

 

 どうやら、この学園でもヒロイは分かりやすい人物だったらしい。

 

「確かにな。アイツならそんな状況下で黙って見ているなんてできんか」

 

「怒るならこの子じゃなくてヒロイとリセスさんに怒るべきよね」

 

 と、松田の近くで眼鏡をかけた少年と少女がそんなことまで言ってくる。

 

「そうなのよね。ヒロイとリセスなら、絶対に戦って死にたがるのよ」

 

「そう言う意味では一番心意気を組んだのはシシーリアさんなんですよね」

 

 と、リアスとソーナも苦笑する。

 

「あ~。確かに」

 

「あの二人、馬鹿だもんなぁ」

 

 なんとなく、生徒達は苦笑すら浮かべ始める。

 

 そんな雰囲気を笑みを浮かべながら、松田ははっきりとシシーリアに言い切った。

 

「だからまあ、色々あるけど、俺はあんたを殴ったりしねえよ。ヒロイが迷惑かけて悪かったな」

 

「………ご厚意、感謝します」

 

 シシーリアは、それだけしか言うことができなかった。

 

 そして、同時に嬉しかった。

 

 ヒロイ・カッシウスには、素晴らしい友人がいてくれたのだ。

 

 自分を照らしてくれた輝きは、そんな素晴らしい友を持つこともできていた。

 

 故に決意を決め、シシーリアは前をむく。

 

「約束しましょう。このシシーリアは、必ず上級悪魔に成り上がり、権力をこの手に掴みます。その時あなた達に理不尽が迫っていたのなら、私を頼ってください。貴方方のご学友を奪った咎を対価に、必ず助力する事を誓います!!」

 

 それが、シシーリアのけじめだった。

 

「いえ、72柱の末裔より権力を手にするのはさすがに難しいのでは?」

 

「確かにねぇ。ヒロイの友達の危機なら、まず私達がどうにかするのが筋だもの」

 

「愚者の言葉にマジレスするのはやめていただけないでしょうかー!」

 

 苦笑交じりのソーナとリアスのツッコミに、シシーリアが半泣きになったのはまた別の話だ。

 




冷静に考えると、D×Dって自由なところはかなり自由ですよねぇ。


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第二部一章 6

シシーリアの事情説明はとりあえず終了。

次はプリスです。


「あ、質問追加していいですかー?」

 

 と、そこで女子生徒が手を上げる。

 

 タイミング的にも話を変えるのにはちょうどいい。ある意味で良い事をしたと言っても良かった。

 

「うむ。なんであるか?」

 

「そっちのプリスさんって人も元ヴィクターだそうですけど、イドアルってことはリセスさんの親戚だったりするんですか?」

 

 当然の質問ではある。

 

 なにせ、リセス・イドアルを知らない駒王学園高等部生徒はいないだろうレベルで、彼女は有名人だ。

 

 超絶美女。しかも身体能力抜群。ヴィクターの襲撃時では生徒達を守って八面六臂の大活躍をなしとげた猛者でもある。そしてエロい。

 

 そう、エロいのだ。

 

 男達のスケベ会話に嬉々として混ざる。そして隙あらば童貞を食おうと誘惑し、実際駒王学園の童貞率を数十パーセント単位で減らした猛者だ。ついでに言うと同性愛や両性愛に目覚めさせられた女子生徒も多く、処女率も結構な割合で減らしている。

 

 正真正銘スールの関係のペト共に、駒王学園でのエロ二大巨頭の名を欲しいままにしている。其れ迄筆頭だったイッセー達変態三人組を大いに引き離すエロっぷりだ。

 

 つい一月足らず前に流石に限度があるという事で校長から説教を受けた事もある。とにかく注目の的だったりするのだ。

 

 そのリセスと同じファミリーネーム。気にならない方がおかしいだろう。

 

「ふむ、どこから説明したらよいものか……」

 

「あ、ハヤルト様。自分で説明します」

 

 と、ハヤルトにそういうと、プリスは一歩前に出る。

 

 そして、一礼すると、まっすぐ前を見た。

 

「初めまして、プリス・イドアルって言います。リセスちゃんが色々迷惑をかけたみたいで……ごめんね?」

 

 そう言って小首を傾げながらの言葉に、生徒達が胸きゅん状態になったのは言うまでもない。

 

 腐っても元アイドルは伊達ではない。異様なほどの選球眼を持つ外道に見い出され、その後も選球眼のいい邪悪に見いだされ、とどめに質の悪い愉快犯にも見出される。見出す輩がことごとく質の悪い手合いだが、間違いなく磨く前から輝いている原石なのだ。

 

 男女問わず「か、かわいい!!」てきな感想が脳裏に浮かぶ。

 

 そしてそんな空気に慣れまくっている元セミプロアイドルは、静かに微笑みながら、頭を下げる。

 

「……リセスちゃんのことを大好きでいてくれて、ありがとう」

 

 その言葉には、たくさんの複雑な感情が込められていた。

 

 それを感じ取った何人かの生徒や、事情を知る者達は少しだけ目を伏せる。

 

 それに内心で感謝を抱きながら、プリスはまっすぐ前を見た。

 

「……私とリセスちゃんは、しちゃいけない間違いをして、失ってはいけない人を失ったの」

 

 そう。それはプリス・イドアルとリセス・イドアルの罪。

 

 アイドルになりたいという欲求から、悪質な嫌がらせを避け有用な支援を受ける為に、それを受け入れた。

 

「最初は夢の為だった。でも、何時の間にかそれが麻薬みたいに私達を犯して、いつの間にか私達は愛玩動物になってた」

 

 どこまで言えるのかは分からない。だが、ある程度は知っていてほしい。

 

「そして、その結果私達は大事な人を死なせちゃったの。……そして、そのしっぺ返しは一気に来たわ」

 

 そう。あの悲劇をプリスは知る前に咎を受けた。

 

 一瞬躊躇するプリスの肩に手を置きながら、ハヤルトが前を向く。

 

「悪魔の中には、政府の依頼で汚れ仕事をする者も何名かおるのだ。例えば、非合法な―」

 

 どこまで言えばいいか一瞬躊躇するハヤルトに、プリスは感謝の視線を向ける。

 

 そして、それは自分が言うべきだと判断した。

 

「―非合法な売春組織が政府にまで手を伸ばした時、悪魔がそれを暗殺するという事も、まれにあるんだ」

 

 その言葉に、少なからずどよめきが起こった。

 

 思ったよりは少なかったが、どうやらシシーリアの件が効いているらしい。それが慣らしになったようだ。

 

「リセスちゃんは奇跡的に逃げれたけど、私はそのまま取引の成果として悪魔側に譲られてね。だけど、私はそれでいいと思った」

 

 そう。それは傍から見れば悲劇だろうが、プリスからすれば当然だった。

 

 その後知ったからだ。

 

 ニエ・シャガイヒは自殺した。それも、自分達の嬌態を見て、絶望したのだ。

 

 だから、プリスはそれを受け入れた。

 

「私は奴隷でよかった。あてがわれた主の道具として使い潰されるような人生でよかった。それが、当然の報いだって思ったから」

 

 そう、あの頃は本当にそれでよかったのだ。

 

「でも、リセスちゃんは違った。あの子はその前に正気に戻れてたから」

 

 しかし、リセスは別の形で贖罪しようとしたのだ。

 

「弱い自分を捨てて、強い英雄になって、たくさんの人を救う。そうする事で、あの人の死に意味を持たせる事で罪を償おうとしたの」

 

 そして、その結果が巡り巡って多くの人達を救ってきた。

 

 邪悪を打ちのめす神殺しの拳は、世界でも有数のものになった。

 

 なにより、彼女の輝きに当てられて生まれた一人の英雄がいなければ、この戦いは早々にヴィクターの勝利に終わっていたはずなのだから。

 

「それは否定されちゃったけど、それでもリセスちゃんは積み重ねてきたものがあったから立ち直れた。それは、きっとこの学園での生活もあるんだと思う」

 

 そして、それに比べて自分はどうだ。

 

「……私は、違った」

 

 断言しよう。間違いなく、プリス・イドアルはリセス・イドアルに劣っている。

 

「ゼファードル様は、素行不良を踏まえてもグラシャラボラス家の次期当主代理に選ばれるぐらいの才児だった。だからかなり豪勢な生活をしてて、眷属にも相応のおこぼれがあったよ」

 

 そう。グラシャラボラス家次期当主とは、代理ですら相応の価値があるのだ。

 

 現四大魔王を輩出した、グラシャラボラス家。その次の跡取りとは、すなわちそれ相応のものでなければならない。

 

 素行不良で有名、凶児とすら称されるゼファードルが、代理とは言えそれに選ばれるのは、ひとえにその実力が評価されてからだ。ゆえにそれ相応の待遇を与えられる。

 

 そして、その眷属であるプリスも、それに見合った生活を送れていた。

 

「美味しいご飯は食べれて、ゼファードル様がどんな報復してくるか分からないし、次期当主代理に喧嘩売る人はそれこそいないから安全だった。ゼファードル様がトラウマを発症しなかったら、きっと今でも豪華な生活を送れてた」

 

 それが、本当に罪を償っている事になるのだろうか。

 

「リセスちゃんの贖罪は否定されたけど、私の怠慢は贖罪だと言われたけど、やっぱり思うんだ。……私は、罪を償いたい」

 

 そして、まっすぐにプリスは前を見る。

 

「今この世界にはびこっている、ヴィクターによって生まれた問題解決に貢献する。それが、私が選んだ私の贖罪」

 

 そう。それが今のプリスのしたい事だ。

 

「そして私はやりたい事があるの」

 

 そう。それがプリスのもう一つの決意。

 

「私は、上級悪魔になって、昔の私みたいな人が立ち直る為の場所を作りたい。ハヤルト様はその為のチャンスをくださったの」

 

 プリスはそのチャンスを掴む事を決めた。

 

 今度こそ、胸を張って罪を償う為に。今度は、自分が誰かを救う為に。

 

 そして、同じぐらい守りたいと思うものもある。

 

「………だから、リセスちゃんを見てきたあなた達にお願いがあります」

 

 プリスはそういうと桃色の髪をたなびかせながら、深く一礼した。

 

「どうか、リセスちゃんのことを覚えていてください。七年間も出遅れた私と違って、迷走したけど七年前から頑張ってきたリセスちゃんを、どうか少しでいいから認めてあげてください」

 

 難しい話だ。

 

 リセス・イドアルはあまりにもやってはならない事をした。

 

 そういう事をした者に、世間は厳しい。

 

 実際冥界でも賛否両論だ。彼女は被害者であるとして、なしてきた功績を認める者も多いが、やってしまった事がやってしまった事ゆえに、どうにも受け入れられない者も多い。

 

 ましてや、人間世界はもっと厳しい。

 

 だから、こんな事を言ってしまったのはやっぱり間違いだったかとも思い―

 

「―あったりまえでしょ!!」

 

 即答のレベルで返答が来て、思わず顔を上げた。

 

 そこにいたのは一人の女生徒だった。

 

「リセスさん、ぼかしてたけど結構話してたもの!! 私が女とやる事しか考えてない男に引っかかってた時、それだとどうまずいか実体験を踏まえて説明してくれてたわ」

 

「ああ、確かに! ともに快楽を貪り合う関係になる事はあっても、一方的に貪る餌を作るような真似だけはするなって言ってたな」

 

 と、男子生徒もなにかに気づいたのかそう過去を振り返る。

 

「そうそう。そう言う男の撃退方法とか考えてくれたし、殴り込みに来てくれた事もあったわよねぇ」

 

「あたし、おかげであの馬鹿と別れられたわ。いや、マジ正解」

 

「ホントだぜ。俺もしっかり更生できた。今は女の子と一緒に高め合う関係だからよ」

 

「ビッチのマナーを教えてもらったわ。真のビッチが最低限守るべき節度はあの人に教えてもらったもの」

 

 ……一部問題のある発言もあった。

 

 だが、彼女達はリセスを嫌っていない。それどころか、慕っている。

 

「……ふっ。人に歴史ありというが、リセスさんにそんな過去があったとはな」

 

「だけどまあ、そんなリセスさんがいたからこそ、俺達は覗きを卒業できたもんよ」

 

 と、シシーリアに言葉をかけた生徒二人もうんうんと頷く。

 

 流石にここまで綺麗な展開になるとは思ってなかったプリスは、得意げな表情を浮かべてくる女子生徒に顔を覗き込まれる。

 

「驚いた? こんな話聞いてもリセスさんの人気が陰らなくってさ」

 

 その返答より先に、にっこりとした笑顔が返ってくる。

 

「うちは覗きの常習犯を追放しない心の広い学園だもの。昔性的には酷い目にあって二次災害を生んだとしても、それをきちんと後悔してる人の傷口に塩を塗り込むような奴はいないわ」

 

「桐生、お前、良い事言うな……」

 

 兵藤一誠が感極まった表情を浮かべる中、しかし半目で皮肉げな視線を桐生と呼ばれた少女は向ける。

 

「だからあんたも覗きは卒業しなさい。もう童貞なんて卒業できてるんでしょ?」

 

「……うるせえよ!! できてねえよ!!」

 

 その反論に、生徒達の視線が一瞬で集まる。

 

『『『『『『『『『えぇ!?』』』』』』』』』』

 

「あんなにモテてるのに!?」

 

「お前スケベなのに!?」

 

「据え膳ありまくりだろうに!?」

 

「リセスお姉様と一緒の家に住んでたのに!?」

 

 驚愕というか愕然というか、とにかく信じられないという意見が出まくった。

 

 そして、その声を聴きながらゼノヴィアは涙すら浮かべてうんうんと頷く。

 

「そうなんだ。私たちはイッセーと子作りするために一生懸命なのに、なぜかイッセーは手を出してこない!!」

 

「せっかく天界から専用の部屋を用意してもらったのに、いろいろやってるのに全然その気になってくれないのよ!!」

 

「はい。イッセーさんがおトイレのときとかに先回りして準備してるんですけど、なぜかその気になってくださらなくて……」

 

「「「なんででしょうか、主よ」」」

 

 などとお祈りすら捧げる教会三人娘だが、コレに関しては呆れた視線が飛んできた。

 

『『『『『『『『『『そりゃそうだよ!』』』』』』』』』』

 

「「「えぇ!?」」」

 

 そんな漫才を見て、プリスはクスリと笑う。

 

「そっか。リセスちゃん、好かれてるんだね」

 

「ええ、それはそうよ」

 

 と、そんなプリスにリアスが声をかける。

 

 その目は、バカ騒ぎが起こりかけている生徒達に、慈愛に表情で向けられている。

 

「此処はそういうところよ。リセスにとって、救いになってくれたら嬉しいんだけど……」

 

「大丈夫ですよ、リアス様」

 

 そこについては問題ない。

 

 何といっても、付き合いが長いのだ。リセスの事も少しは分かっているつもりだ。

 

 そう、きっとこの学園は―

 

「きっと、居心地が良かったと思います」

 

 そうであったに、違いない。

 




あ、活動報告追加しました。アンケートにもなっておりますので、ぜひご一読ください


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第二部一章 7

活動報告を更新しましたので、もしよろしければ見ていただけると。


そして、ついに新主人公たちの所属部隊が判明いたします!!


 

 そして数分経って、ハヤルトがゴホンと咳払いをした。

 

「さて、それで話を戻すが……」

 

 しかし、どうしたものかとふと考える。

 

「あとはリアス嬢とソーナ嬢で説明するべきことでもあるしのぅ。さて、余はどうしたものか……」

 

「あ、じゃあ俺質問があるんですけど」

 

 と、そこで手を上げたのは百鬼黄龍。

 

 日本異能者の最大手である五代宗家の次期当主。それも、リーダー格である百鬼家のトップになる男だ。

 

 それをある程度知ったがゆえに、全員が注目する。

 

「そもそも、魔王直系のあなたが何で駒王町に来てたんですか? たまたまって事はないと思うんですけど」

 

 言われてみれば、その通りだ。

 

 兵藤一誠の窮地を救った救世主的な感覚で話していたが、しかしおかしな展開でもある。

 

 それだけの人物がいきなり出てくるとは、どういうことなのだろうか?

 

「あ、そういえばそっちのお二人さんには昨晩も助けてもらったっすね?」

 

 と、ペトがはたと手を打って、沈黙を続けていた少年と男性に視線を向ける。

 

「肯定。土地勘がないのである程度回っていたら、戦闘の音が聞こえたんでな。流石にグレモリーの縁者がいるのなら当然だ」

 

「まあね。っていうか、そういえばあの大きな人達……なに?」

 

 何があったのかよく分からない者が多数だが、一部だけ何があったのか最後の言葉で把握できた。

 

「ミルたんか」

 

「ミルたんだな」

 

「ああ、ミルたんだ」

 

 うんうんと変態三人組が何かに納得する中、ハヤルトが立ち上がる。

 

「うむ。そういえば言ってなかったな。……余は今、日本政府の預かりとなっておるのだ」

 

「え? なんで?」

 

 思わぬ展開にツッコミが飛ぶが、ハヤルトは静かに首を振る。

 

「色々とややこしい立場なのでな。余が冥界に戻れば確実に相応の高い椅子が与えられるが、旧魔王末裔を追放した者達からすれば面白くもなかろう。それに、余としても成果も挙げずして地位だけもらう気は毛頭ない」

 

 そう言うと、ハヤルトは指を鳴らす。

 

 そして即座に、シシーリア達は上着に手を掛ける。

 

 ハヤルトも服に手を掛けながら、にやりと笑う。

 

「自己紹介が足りなかったな。余は正当たるアスモデウスの末裔であるハヤルト・アスモデウス。そして―」

 

 そして服を振り払い、新たな服を見せつける。

 

 それは、日本人ならテレビで一度は見た事のある服装の、しかしバリエーション違いとでもいうべきものだ。

 

 そして、何より、胸に輝くのは日本の国旗を模した紋章。

 

 それは―

 

「余はハヤルト・アスモデウス。本日17時に発足発表がなされる、国外自衛隊の異人部隊、その第一特務部隊の指揮官であるハヤルト・アスモデウス一等外佐である!!」

 

『『『『『『『『『『な、なんだってぇええええええええ!?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国外自衛隊。文字通り、国外を活動範囲として行動する自衛隊。

 

 憲法第九条に完璧に違反しているが、しかしその九条の凍結は、数日前に完璧に確定した。

 

 現在の世界情勢において、九条の存在は足かせにしかなりえない。下手をすれば致命的な事態が勃発しかねないほどの隙を生むだろう。それを、日本国国民も痛いほど痛感した。

 

 和平に反対する神による霞が関の攻撃。ヴィクター経済連合に先導された、京都でのクーデター。ヴィクターを離反したテロリストによる、有明での乱戦。そして、二度に亘る白昼堂々のヴィクターの駒王町侵攻作戦。

 

 之だけの事態は国民の警戒心を強くするのに十分だった。

 

 加えて異形の技術が大量に流出した事によるテロの活発化。

 

 白人至上主義団体、KKKの後継を名乗るKKKK。シーシェパードが平和主義に見える、過激派エコテロリストのオーシャンズK9。機械神の降臨による世界の新生を謳うダンシールズ。知識を一部に独占させる、秦のような在り方を復興させんとする新秦。

 

 それら数多くのテロリストは、異形の魔法技術を取り込んだ事で一気に勢力を増加している。

 

 鍛錬が必要であるがゆえに個人の素質に左右されるところもあるが、しかしコストパフォーマンスにおいては兵器よりも遥かに安上がりで、更に知識であるがゆえに情報の流出を阻止しずらい現状。それが、テロ組織の戦力を大幅に強化している。

 

 これらに対抗する為には、現行の国防政策では全く足りない。日本政府はそう感じているのだ。

 

 ゆえに大尽内閣が提案したこれらの改革は、与野党問わず賛成多数で可決された。

 

 それこそが第九条の凍結。そして、それに伴う国外派遣を前提とした国外自衛隊の設立。

 

 あくまで自衛隊という名称は変えておらず、それなりの建前は用意している。

 

 曰く、宣戦布告は既に攻撃を仕掛けてきたのも同じ。曰く、侵犯行為をしているものが警告を無視するのは宣戦布告も同様。曰く、日本で活動した事のあるテロリストは、その時点で戦争状態と同じ。攻撃を仕掛けてきた国家に対する報復行為は国家の発言力確保の為に必要不可欠。同盟国に危害を加えられる事は、すなわち間接的な日本に対する侵略行為。

 

 明らかな暴論ではあるが、しかしそれらの言い訳を盾に日本政府は即座に一個師団規模の部隊の編制を行った。

 

 それに伴い本格的な空母や揚陸艦の開発も決定。更に防衛力拡大までの時間稼ぎの為、これまでPMCとの連携を拡大化させている。報復攻撃用の弾道ミサイルの開発も行われている。

 

 むろん国外からは反発の声もあるが、それらの国家に対して日本政府はこう言い切った。

 

「……我が国を仮想敵国として認定している時点で、こちらからしても仮想敵と同様である。仮想敵の軍事的デメリットになる戦略をするのは当たり前の戦略である」

 

 極めて強気の発言であり、ヴィクターがいなければ攻撃を仕掛けてくる国家がいたかもしれない。

 

 が、これに各神話勢力は非常に好意的な反応を示し、技術交流や提供などを積極的に行っているからさあ大変。

 

 各神話勢力はこれらを技術交流の一環として行ない、更に人間の戦力を対ヴィクターに回す事もできると喜び勇んでいる。

 

 各神話体系は日本政府だけでなく他の国家にも技術交流を行う事を打診しており、日本をモデルケースの一つとしてみなした対応をしている。資金援助などの話も出している。

 

 しかし、世界有数の国家の多くは聖書の教えを信仰しており、他の宗教体系に対する排他的感情を完全には抑えきれていない。その為あくまで天界及び教会を経由しての軍備強化が中心だった。

 

 そんな中、自前の神話体系を持つインドと中国は日本に匹敵する軍事的強化を推し進め、更に三大勢力との和平と引き換えに技術提供を敢行。驚異的な軍備拡張を遂げている。

 

 かつての世界大国の座を奪わん勢いで、日中印の三国は成長を遂げていた。

 

 しかし、高水準の兵士の育成には莫大な時間が必要不可欠。

 

 知識で運用できる魔法といえど、雑兵までならともかく精鋭となれば育成には時間がかかる。兵藤一誠のような短期間で神すら超える力を発揮するような異才は極めて極小なのだ。

 

 ゆえに、日本政府はそれらに対する対策として、異人部隊の投入を決定。

 

 密接な関係である三大勢力を中心に、実力者を国外自衛隊に取り入れ、最低限の体裁を整えようと試みたのだ。

 

 その結果、国外自衛隊には二つの異人特務部隊が設立。その双方ともに、現政権がある意味で持て余す人材が宛がわれる事となった。

 

 ヴィクターの亡命者を中心に編成された、異人第一特務部隊。やむを得ない事情で現政権に敵対した者たちによって編成された懲罰部隊である、異人第二特務部隊。

 

 そのうち、第一特務部隊は、日本国内でも駐屯として、最も異形になれた駐屯地を待機場所とする事になった。

 

 それこそが、世界で最も異能を取り入れた軍事拠点。

 

 陸上自衛隊、駒王駐屯地である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ、そういうわけだ。昨夜はそれぞれ土地勘を得る為の分散活動を行っている時に出くわしての。本日は本日で、いきなり駒王町の結界が破られたとの事で緊急出撃を命じられたのだよ」

 

 そう苦笑を浮かべると、ハヤルトは立ち上がる。

 

「では、そろそろ余らはお暇するとしよう。他の者達が報告は行っておるが、隊長である余がきちんと報告を行う必要もあるのでな」

 

「……そうですわね。お手間を取らせて申し訳ありません、ハヤルト様」

 

 リアスは、心から感謝して頭を下げる。

 

 このハヤルトの行動の真意に、リアスは気づいている。

 

 簡単な話だ。衝撃の矛先をリアス達ではなくハヤルト達に向けさせる事で、リアス達の学園生活に支障が出ないようにしているのだ。

 

 むろんこの程度で完全に問題をどうにかできるわけがないが、それでも最低限の効果はあるだろう。

 

 その配慮を心から感謝して、リアスは頭を下げた。

 

 そして、それを満足げに頷く事で返答とし、ハヤルトは踵を返す。

 

「安心するがよい、民草よ。余は日本国の自衛隊に籍を置く者として、卿らの安全をきちんと配慮する事を誓おう!!」

 

 その言葉と共に、ハヤルト達は体育館を去っていく。

 

「あ、じゃあ、僕らはこれで」

 

 と、ハヤルトと共に来ていた眷属悪魔の内、少年が軽く頭を下げる。

 

 そして―

 

「………」

 

「っす?」

 

 その視線が、ちらりとペトに向けられた。

 




ハヤルト「とりあえず権力に見合う成果を上げに自衛隊に出向しました」


とまあ、そんな感じでハヤルトは自衛隊所属です。国外自衛隊の外人部隊とでも形容すればよろしいでしょうか。

そんなこんなで、第二部の前半は新主人公たちが世界各地に出向いては様々な問題を解決するスタイルになると思います。


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第二部一章 8

さて、ついに主人公の視点で物語が進みます!


 

???Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふう。なんか疲れた。

 

 数百人の敵に襲い掛かられるってのはだいぶ慣れたけど、数百人の一般人に注目されるってのは、なんか慣れてないから疲れたよ。

 

「サラト君、大丈夫?」

 

 と、まったくもって平然としてるのはプリス(ねえ)

 

 みんな僕よりかは疲れてないけど、プリス姉は全然意にも介してなかった。

 

 すごい。いや、ホントに感心するよ。

 

「……賞賛。俺達も多少は緊張したんだがな」

 

 福津兄も目を少し開いてそう言うけど、プリス姉は少し寂し気に苦笑する。

 

「まあ、アイドル目指してたから。数百人ぐらいなら、セミプロの時に何度も経験してたしね」

 

「謝罪。余計なところをつついちまったな」

 

 地雷踏んだと思ったのか、福津兄は罰が悪そうな顔をする。

 

 それに対して、プリス姉は何でもないように笑うと、片手を振った。

 

「あ、気にしなくていいよ。っていうか……」

 

 そして、どこか遠い目つきになる。

 

「……全国生中継で、再現映像とか出てるしね」

 

「「「「確かに」」」」

 

 ハヤルト義兄さんやシシーリア(ねえ)も一緒にそう言う他ない。

 

 バアルとグレモリーのレーティングゲームは僕らも見てたしね。いや、日本で特別にテレビ繋いでもらってだけど。

 

 ……こっそり夜中に見たVシネマ風だった。直接見せなかったのは、リムヴァンの奴も配慮したんだろうな。主に自陣営の民衆支持率を下げない為に。

 

「うむ。まあ過ぎた事は仕方がない」

 

 と、咳ばらいをしながらハヤルト義兄さんが話を変える。

 

「とは言え、いずれ冥界に戻る事も考えればなれねばならぬ。例の件にも参加する予定である以上、数百人程度の注目で疲れていてはならぬだろうしな」

 

 ああ、確かに。

 

 例の件、本当に実行されたら僕らもハヤルト義兄さんと一緒に参加するからねぇ。そうなったら今のなんて目じゃないぐらい人の目があつまるか。

 

 なんたって、義兄さんは魔王の末裔だし。

 

「でも、よかったの義兄さん。あそこ迄注目集めると、まだしつこくこびりついてる老害がうるさいかも?」

 

 そこがちょっと気になる。

 

 悪魔政府の老害の大半は、皇帝の告発でその権威が地に落ちた。

 

 まあ、不正に八百長をやってたのが純血の旧家に偏ってたからね。純血貴族主義はもう終わりってぐらいのダメージだし。復活するにしても何百年かかる事やら。

 

 でも、あの手この手で最低限の権利を確保してるやつらだっている。そして、かつて旧魔王末裔を排斥した彼らは、旧魔王末裔の義兄さんをよく思ってない。

 

 独断でここまでの事をすると、流石に後々面倒な事になるんじゃないかな?

 

「気にするな。今だあの学園で勉学に励むリアス嬢とソーナ嬢から注目を逸らせたのだ。クルゼレイ達が迷惑をかけた詫びができたと考えるのなら、その程度の手間は喜んで背負うて見せる」

 

 と、義兄さんは胸を張る。

 

 あ、確かに。義兄さんの親族が多大なご迷惑をかけてたね。

 

「それに今回の件でグレモリーとシトリーに恩を売れたともいえる。衰退の道を止めれそうにない旧家の老害共より、未来を担う次期当主達の味方をした方が、打算的に言えば儲かるであろう?」

 

 と、何か悪魔っぽい顔を浮かべるけど、信じる馬鹿は何処にもいない。

 

「苦笑。打算は半分にも満たないでしょうに」

 

「「確かに」」

 

 福津兄にバッサリ切られて、そのままシシーリア姉とプリス姉にも軽く笑われる。

 

 義兄さん自身受け狙いだったのか、怒ることもない。

 

「とはいえ、良い学び舎と生徒達だ。……リアス嬢やソーナ嬢が冥界の学び舎を選ばなかったのも頷ける」

 

 確かになぁ。

 

 良い人が多いっていうか、立派な人が多いっていうか。

 

 そっか。あの人もあの学園の生徒だもんね。だったら納得かな。

 

「さて、それでは駐屯地に戻るぞ。卿らは好きに過ごしてよいが、あまり羽目を外しすぎるなよ? 魔王末裔の眷属として、恥ずかしくない程度にな?」

 

「「「「了解!」」」」

 

 僕達は一斉に敬礼をしながら、駒王駐屯地に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、自己紹介がまだだったね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はサラト・アスモダイ。ハヤルト・アスモデウス様の義理の弟で、彼の兵士だ。

 

 駒価値は八。其れも結構反則技を使っていて、レーティングゲームの参加は許されてない。

 

 階級は中級悪魔。一応下級の生まれなんだけど、ヴィクターとの戦いでこれでも旧魔王派の上級悪魔クラスを何人も撃破に貢献してるからね。魔王アスモデウス末裔の眷属悪魔ってこともあって、試験を受ける資格をもらって、しっかり合格したともさ。

 

 まあ、義兄さんの眷属悪魔は、ここにいない一人を除いて全員中級なんだけど。ヴィクターとの戦いでそれなりに戦果を挙げてるから、試験受講資格は取ったし、しっかり皆合格したとも。

 

 まあ、その魔王末裔が日本に出向してある意味都合の良い戦力扱い。冷や飯ぐらいと思っちゃうかもしれない。

 

 だけどこれ、さっき義兄さんが言ったけど実績作りが目的の、自発的な参加でもある。

 

 いや、僕と福津兄が護衛しながら亡命した時点で、要職で迎えたいとかいう悪魔達はかなりいたんだよ。

 

 でも、義兄さんはそれを全部丁重に断った。

 

『かつて悪逆すら成し遂げた魔王末裔にして、なにも成し遂げなかった余が、血筋だけで要職に就くなどあってはならぬ!』

 

 とはっきり言って、先ずは亡命先になってくれた日本で成果を上げる事にした。

 

 実際、色々と厄介者扱いしてくる老害もあの時は権力持ってたしね。その辺いい判断だと思う。

 

 まあ、その結果義兄さんは日本で結構こっそり大活躍してたりする。防人一型の開発にも、割と貢献してるからね。

 

 そして、悪魔の王の末裔ならば武勇もなくてはならないと、今度はテロまで出てきて泥仕合化してきているヴィクターとの戦争に積極的に関わる気だ。

 

 まあ、そんなことしないで偏狭でひっそり生きるって選択肢もあったりする。実際、義兄さんは偉そうなムーブしてるけど、あまり豪遊とか権力とかに興味ないし。

 

 だけど、義兄さんは成し遂げたい事がある。それを成す為の実績を欲しがってる。

 

 義兄さんの考えをアジュカ様は既に認めてくださってるけど、だからと言ってそれに甘えたりしない。

 

 血筋だけの男がいきなり意見を言って、それがあっさり通るだなんておかしい。其れなりの実績を持ったうえで、意見を通したいってね。

 

 何ていうか、かっこいいよこの人。

 

 クルゼレイ達とは違う。魔王末裔である事を誇りにするんじゃない。魔王末裔として誇り高くいきたがってる。

 

 僕らは皆、そんな義兄さんが凄いと思っている。主として立派だと思っている。

 

 新参者も、古参で臣下として仕えている者も含めて、其の在り方の力になろうと思った。

 

 因みにまあ、僕にとっては恩人だからね。

 

 僕はヴィクターのある実験の非検体だ。

 

 あ、言っとくけど無理やり実験されてたわけじゃないよ? 実験体として金はもらってたし、そもそもそれを理解したうえで自発的に参加した……らしい。

 

 いや、義兄さんも言ってたからそうだと思うけど、その辺りの事覚えてないから。

 

 まあ、そんなわけで結構なレベルではあるんだけど、色々面倒な事もあってね。下手したら死んでたかもしれない。

 

 それを、義兄さんは僕を義理の弟にして助けてくれた。

 

 そして義兄さんの研究で、僕はその実験の成果を最大限に発揮できる。

 

 まあ、こんだけしてもらったら恩返しはしないとね。

 

 そういうわけで、僕は義兄さんの眷属悪魔として活動してるわけだ。

 

 ……さて、それじゃあ、土地勘を鍛える為に、適当に街を散策するかなっと。

 




第二部主人公は、ハヤルト・アスモデウスの義弟、サラト・アスモダイです。

因みにサラトの名前の由来はできる限り早めに明かす予定です。





なお、以前第二部の展開でアンケートを取ったときに「大人のお姉さんと女装が似合うショタ」という意見があったこともあってショタにしました。年上系のお相手は誰だ!!


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第二部一章 9

そんなこんなで戦闘は終了して事後処理も終わり―


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、放課後俺は久しぶりに松田や元浜と一緒にハンバーガーを食べに行った。

 

 最近はこいつらとだけつるむって事もなかったしな。いい機会だと思ったんだよ。

 

 結局、俺達オカルト研究部や生徒会はそれぞれ質問攻めが確定。堂々と名乗った百鬼とかも質問付けにされてるとか。

 

 そんなわけで、俺達はそれぞれ別行動しながら質問に答えて言ってる形だ。俺は松田や元浜たち担当だな。

 

「それでだなイッセー。お前、何がどうして悪魔になったんだ?」

 

「ああ、デートの最後で殺された時に、リアスに救ってもらったんだ」

 

 俺はそう言うと、速攻で一発パンチが飛んできた。

 

 とっさにかわすと、松田が凄く殺意の籠った視線で睨みつけてくる。

 

「おい。二つぐらいマジギレしそうな事があった案だけどよ?」

 

「なんだよ!? 二つってなんだ!?」

 

「「デートと呼び捨て」」

 

 な、其のセットかよ!?

 

「いや、デートつっても「危険な神器を持っているかどうかの確認」だったし、結局馬鹿にされて殺されるし……」

 

「それはともかくだ。リアス先輩を呼び捨てという事は、そういう事か?」

 

 こ、怖い! 元浜の眼鏡が光って怖い!!

 

 まずい。返答を間違えれば、俺は死ぬ。

 

 その気になれば魔王クラスとすら戦える俺だが、しかし勝てる気がしない。

 

 これが、嫉妬の炎。これが、妬みという暗黒の力!! 俺が、モテる事でこんな力を受ける側になるだなんて!!

 

「まあ、もうキスまでした仲なんだけどね」

 

 でも正直に答える!!

 

 結果的に真実が知れ渡ったんだ。もう嘘をつく気は欠片もない。

 

 男には、命を掛けなければならないと気があるんだ!!

 

「「ぶっ殺すぞてめえ!!」」

 

 ああ、そうなるだろうな。

 

 だが、俺も受けて立つ。そして生き残って見せる!!

 

 俺は、童貞を、卒業するんだぁああああああ!!

 

「あの、愚か者が言うのもあれですが、お店で騒いだらいけませんよ?」

 

 と、そこに割って入る声があった。

 

 俺達が一斉に顔を向ければ、そこには私服姿のシシーリアがいた。

 

「あ、さっきの人だ」

 

「その節はどうも。シシーリア・ディアラクです」

 

 松田にそう答えて、シシーリアは俺達の隣に座ると、ハンバーガーの包みを開く。

 

「駄目ですよ? 公共の場では騒ぐのには限度があります。何事も節度です」

 

 そう言ってにっこりたしなめる姿に、俺達はほっこりする。

 

 ああ、どれだけ彼女ができても美少女を愛でるのは良いものだ。こればっかりはやめられねえ。

 

 しかも元聖女。ディオドラの奴はとてもむかつくけど、アイツの選球眼は確かだというしかねえな。

 

「あれ? でも自衛隊員が駐屯地から離れて大丈夫なのか?」

 

「結構特別な立ち位置ですので。もっとも、駐屯地の方々から買い物なども頼まれましたけど」

 

 元浜にそう答えるシシーリアは、確かに結構たくさん荷物を持っていた。

 

 凄いな。まるでバーゲンから帰ってきた主婦だ。

 

「駐屯地内部の売店だけだと買えないものもあるんですよね。福津さんが大半は受け持ってくれたんですが、全部任せるのも心苦しかったので」

 

「へ~。でも、これどんだけあるんです……か……」

 

 俺は袋の中身をのぞき込んで、ちょっと固まった。

 

 ……なんか、エロDVDとかあるんだけど。

 

 普通、女の子にそんなの買わせたりしないよな?

 

「ああ、福津さんはそういうのと縁がないので。私が自発的に引き受けました」

 

「いや、そこは男に任せとけよ」

 

 松田も思わずツッコミを入れる展開だ。

 

 ま、まあ、他にも色々あるし、いいのかな?

 

 だけど結構いろいろあるな。これ、重くないか?

 

「これ、一人で運ぶのかよ」

 

「ええ。これでも前衛が基本の転生悪魔なので、割と筋肉はあるんです」

 

 確かにそうなんだろうけど、しかしこれを見て女の子に持たせ続けるのもあれだよな……。

 

 俺が松田と元浜に視線を向けると、2人とも頷いてくれた。

 

「よし、駐屯地の入り口まで俺達も持ってやるよ」

 

「そうだな。女の子には優しくしないとな」

 

「え!? いえ、そんな、私みたいな駄馬がそんなこと、悪いですよ!?」

 

 素早くハンバーガーを食って荷物を持ち始める松田と元浜に、シシーリアが慌て始める。

 

 そして、すぐに表情を暗くする。

 

「理由はどうあれ、ヒロイさん達を死地に送り込んだのは事実ですし―」

 

「ああ、それはもういいから」

 

 バッサリ切ると松田はさっさと荷物を持つ。

 

「悪いって思ってるなら、今度一緒にカラオケでも行ってくれよ。毎回毎回ゼノヴィア達と行っても、もうイッセーの女だからなんか虚しくなりそうだしよ」

 

「同感だな。アーシアちゃんも昔からイッセーにぞっこんだし、イッセーの女だけだと本当に虚しくなる」

 

 と、元浜もそう言いながら荷物を持つ。

 

 ……ったく。これだから俺は、こいつら友達やってんだよなぁ。

 

「どうだよ。いいやつらだろ?」

 

 俺はにやりと笑うと、シシーリアに2人を自慢する。

 

 シシーリアはちょっとぽかんとしてたけど、やがて苦笑した。

 

「はい。ヒロイさんのご友人だったのがよく分かります」

 

 ああ、そうなんだよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ。なんとか解放された。

 

 結局あの後、ものすごい勢いで質問付けにされた。

 

 何とか言える範囲内で説明して、とりあえず一息つく事ができた。

 

 ……皆が心配だから、少し休憩したらフォローに行こう。

 

 この調子だと、トスカが中等部に入った時が心配だ。

 

 あの子は僕の関係者だからね。何らかの対策をしておかないと質問攻めになるかもしれない。

 

「……あれ? こんなところで何してるの?」

 

 と、そんな声が届く。

 

 振り向いてみれば、そこにはたくさんの買い物袋を手に持ったプリスさんだ。

 

「そちらこそ、どうしてここに? 駒王駐屯地に戻ったと聞きましたが」

 

「ああ、ハヤルト様から「土地勘を身に着けておけ」と言われたからね。ついでに駐屯地の人達の買い物を引き受けたりしてたの」

 

 ……なるほど。どうやらハヤルト様はここに長い間腰を落ち着けるつもりみたいだ。

 

 てっきり短期間だとばかり思ってたけど、どうやらそうでもないらしい。

 

「もしかして、割と長く逗留する予定ですか?」

 

「そんな感じかな。一応、これはアジュカ様と日本政府が交わした契約で、年単位の予定だから」

 

 そうなのか。まあ、言われてみれば納得だね。

 

 仮にも亡命した魔王血族だ。ヴァーリみたいな自由人ならともかく、彼は結構そういうのを自発的に手続しそうだし、大尽総理もアジュカ様もしっかり契約書は用意するだろう。

 

 だけど、それにしても思い切った選択だと思う。

 

「言っては何ですが、あなたを眷属にすると決めた事といい、中々リスキーな決断をしますね」

 

 正直そう言う他ない。

 

 シシーリアさんはまあいい。彼女はディオドラが離反しようとした時、かなりいいタイミングで彼から離反して情報を送ってくれた。

 

 ディオドラとシャルバに踊らされた形にはなった。だけど結果的にはそれそのもので被害は出なかったし、彼女の情報のおかげでヴィクターとの戦いでこちら側に亡命する者達を増やせた事もある。アジュカ様が直々に擁護してたしね。

 

 だけど、プリスさんの場合は少々異なる。

 

 なにせ非常に注目されていたリアス部長とサイラオーグ氏のレーティングゲームを妨害する形で目立って登場。しかも、アジュカ様をダイレクトに狙った勧誘に参加し、その後の戦闘でも僕達を割と追い込んでいる。そして天界での襲撃だ。

 

 割と色々やらかしているので、結構処遇は揉めたらしい。

 

 しかもグラシャラボラス家は割と被害を受けているうえに、ゼファードルを擁護する側はゼファードルがヴィクターに就いた事もあって、残存している側がかなり激怒した為、保釈金などのフォローができていなかった。

 

 それらの問題点を含めて、プリスさん自身が刑に服する事を望んでいた事もあって、リアス部長達も無理に手を貸したりはしなかったんだけど……。

 

「二回ぐらい断ってたんだけど、三回もスカウトに来られちゃって。なんでも「卿のような被害者を刑に服させ、自発的に参加したヴァーリがほぼ無罪などというのでは人類に示しがつかぬ」って言われると……その……ね?」

 

 まあ、確かに。

 

 まあ、ヴァーリはヴァーリで積極的なテロ活動はあまりしてないし、僕達グレモリー眷属との共闘も多い。

 

 単純な比較はちょっと難しい気もするけど、確かに積極性では確実にヴァーリの方が上だね。

 

 それに、英雄派のゲオルク撃破に貢献した彼女は、十分恩赦を受ける権利もあるだろう。そこに前魔王末裔であるハヤルト様が眷属に迎え入れたいとなれば、流石に文句を言うのも難しい。

 

 実際、彼女はかなり振り回された人生を送ってきたからね。これは良い事だと僕も思うよ。

 

「それで、ハヤルト様の眷属になる事を選んだんですね?」

 

「うん。ちょっと迷ったんだけど……ね」

 

 そう言いながら、彼女はコーヒーに口をつける。

 

 そして苦笑を浮かべた。

 

「ニエ君からも罪を問われなくなって、正直、ちょっと困ってた」

 

 確かにね。

 

 こういう生き方をすると決めていたものが、それが意味がないと言われれば少し迷うだろう。そう言う人は確かにいる。

 

 僕も、復讐しなくていいと言われても結構エクスカリバーに拘っていたからね。ちょっと違うけど引っ張られているって意味じゃ同じだ。

 

 それに対して、プリスさんはどんな答えを出したかを、僕達はついさっき聞いたばかりだ。

 

「そんな時に、シシーリアちゃんと顔合わせをして、シシーリアちゃんの夢を聞いてね」

 

 ……なるほど。それで影響を受けたのか。

 

 シシーリアさんは、ディオドラの眷属だった人だ。

 

 ディオドラ・アスタロトは、シスターや聖女を言葉巧みに惑わして、自分のコレクションにすることを好んで行う外道だった。

 

 教会と敵対していた時ならば個人の趣味の問題で済んだ事だろう。和平が結んだ状況でならば、辞めればそれ以上はつつかれなかったかもしれない。

 

 しかし、彼はやめようなどと考えなかった。そしてその才能をリムヴァンに見い出された事もあり、手早くヴィクター経済連合に内通した。そして、大規模な亡命計画を主導したほどだ。

 

 ヒロイくんと再会してシシーリアさんが勇気を取り戻さなければ、アーシアさんも連れ去られたままだっただろう。

 

 彼女は確かにヒロイ君が英雄(輝き)である事を優先した。その為に、夢に大きな打撃を与える事になるだろう行動をした。

 

 だけど、それは優先順位の問題だ。

 

 その道をもう一度進む事ができる機会を手にして、彼女もまたその道をもう一度進む事を決意した。

 

 同じようにディオドラによって道を踏み外した者達。シシーリアさんにとってのヒロイ君(輝き)

がなかったばかりに、そのままディオドラについて離反し、収監されている者達。

 

 彼女達が罪を償って出所した時の為の居場所を作る。それが、シシーリアさんが目指している道だ。

 

 ヒロイ君が輝く事を優先したとはいえ、それが大事な夢だった事に変わりはない。だから、堂々と彼女はそれを宣言した。

 

「「せっかくのチャンス、活かしたいと思ったんです」って言われて、だったら私はこのチャンスでどうしようかと思って……ね」

 

「それで、ああいう結論に至ったわけですか」

 

 かつての自分と同じような事になった者達を、助け上げたい。

 

 かつて堕落して罪を犯したからこそ言える、プリスさんの決意。

 

 それは、きっと尊重されるべきものだ。

 

 ただし、ちょっと問題もある。

 

「……リセスさんのような方向性は、無しでお願いします」

 

「……流石に、あそこ迄開き直ったりは、できないかな?」

 

 僕らの脳裏に、一周回って好色家として覚醒したリセスさんの姿が浮かぶ。

 

 あの人、近いトラウマを持っている相手に「男の選び方」を教えて性欲を押さえる事なく安全に発散させる方向で行っていたからね。

 

 結果として、駒王学園で変な男に引っかかる手合いはごっそり減った。反面、性に開放的な人達がものすごく増えた。っていうか、ビッチが増えた。

 

 男子生徒に関しても、ものすごく一周回った人達が多くなっているのが実情だ。結果的に学内で発散がすんだ者達がいろんな意味で仲良くなっている。そしてそれらが人生に余裕を生んで、松田君や元浜君のように落ち着いた者達も多いのがあれだ。

 

 その所為で駒王学園の生徒会や教師陣も、中々説教できなかった。なにせ風紀が乱れているようで、逆に人間的に丸くなった者が多いからだ。

 

 ……いや、やっぱり問題が多すぎるよ! リセスさんの妹分であるペトさんは監視しないといけない!!

 

 最近は羽目を外し気味だし、ちょっとリスキーな事もしている。

 

 敬愛するリセスさんや、同胞ともいえたヒロイ君を失った事もあるから多少は大目に見てきたけど、そろそろ注意するべきだね。

 

 というより、ヒロイ君とリセスさんがいなくなった事で、今のイッセー君の家でイッセー君を愛しているわけではないのは彼女だけだ。ご両親はこの際除外する。

 

 ……勢い余って襲いかねない。なんで僕は、今までこの危険性について気が付いてなかったんだ。

 

 そんな事になれば、サーゼクス様の事もあって壮絶に負担があるリアス部長も変な暴走をするかもしれない。そして連鎖反応で、朱乃さん達まで暴走する恐れがある。イッセー君もちょっとつらいところもあるだろうし、ペトさんの誘い方次第では乗っかる可能性も……いや、これは朱乃さんの事を上手く断った事もあるしないか。

 

 ちょうどいい。此処にはリセスさんの幼馴染でもあるプリスさんがいる。

 

「プリスさん。まだ時間があるなら、ちょっと相談に乗ってもらいたいのですが……」

 

 ちょっと、真剣に対策を考えないといけないね。

 

 ペトさん、頼むからイッセー君を狙ったりしないでくれよ!!

 




なんだかんだでなじんでいきそうな、日常を過ごすシシーリアとプリス。

そして、祐斗が懸念するペトについては、次の話で!!


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第二部一章 10

そんなこんなで、いろいろと絡んでいくハヤルト眷属。

さて、新主人公と明言されたサラト君はどうなるかというと―


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ペト・レスィーヴは繁華街に繰り出していた。

 

 冬という事もあって露出度は控えめ。しかし僅かに化粧もして、男の目を引く姿だった。

 

 こうしていると、少し寂しい感覚にも襲われる。

 

「……お姉様………」

 

 いつもなら、リセスと共に行動している時だ。

 

 それも万全の安全を確保する為、他の男子や女子を近くに待機させる厳戒態勢。そして最終的には分散戦術で大量に男女をひっかけて、大規模乱〇をしたり、ヤリ部屋の常連を増やすのが定番パターンだ。

 

 だが、今回は完全に一人で行動している。

 

 なんというか、新しい男を個人でキープしたい形だった。

 

 ……リセス・イドアルは英雄でいる事を選んだ。ペト・レスィーヴを選ばなかった。

 

 それは仕方がない。リセスは何より英雄でいる事を望んでおり、そしてペトと共にいる事を選ぶ事はできない。もしできたとしても、それはペトがリセスやヒロイと共に死ぬようなものだ。

 

 それを望んでないからこそ、リセスもヒロイもペトをどこかで拒絶した。

 

 例え死んでも、自身が定義する英雄らしく死ぬ。生きる事以上に死に様を重視した人生設計をしている、2人らしい決断だ。

 

 それは仕方がない。そこに関しては、自分にも責任の一端はある。

 

 神代小犬はリセスのそれに気づいて、だからこそリセスから距離を取った。シシーリア・ディアラクはそれに気づいて、その上でヒロイがそうである事を望んだ。ペト・レスィーヴはそれに気づかず、そして距離を取りきる事もそれを望む事もできなかった。

 

 一番半端なのは自分だ。ヒロイもリセスも自分の矜持を優先する事を決め、そして貫いて行った。

 

 最後の最後で決別宣言はしたはずだ。だからこその援護射撃だったと思っている。

 

 にも関わらず、自分は未だに二人のMIAを引きずっている。

 

 頑張って乗り切ろうとはしている。なにより、乗り切るつもりであの射撃を叩き込んだ。そして同じぐらい引きずっている仲間達も多い。

 

 だから率先してガス抜きを手伝ったりしている。具体的にやけ食いとかやけ歌とかだ。エロに走らない辺り、自分でも制御はできていると思っている。

 

 だが、ふとすると暗い何かを感じてしまう事も多いのだ。

 

 だから、淫乱である自分らしく、性的に発散する事も必要だ。もとより自分は淫乱になってきた身なので、そっちの方が性に合っている。

 

 そう言うわけで、最近はいろんな形で新たな形の性発散を画策中だ。

 

 とはいえ流石に止めた方がいいかとも思う。

 

 売春が多い地域で無料で男をひっかけたりなどすれば、敵視する者が出てきてもおかしくない。

 

 いわゆるレイパーをわざと誘って撃破など、常人なら考えたりしないだろう。そういう手合いが凶悪な行動をとる可能性は、少なからずある。

 

 民間人が相手ならたやすく無力化できる自信はある。腐っても上級堕天使は伊達ではない。更にオーフィスから貰った蛇もあるのだから、ただの一般人相手にどうにかされるのは超特化型とは言え流石に不名誉極まりない。

 

 異形が仕掛けてくる可能性も低い。なにせ駒王町は結界が張られている。何気にちょくちょく破られているが、並大抵の悪意ある輩は侵入困難なのだ。ましてや赤龍帝有するリアス・グレモリーの積極的に喧嘩を売る輩はそうはいない。イヤほんと少数しかいないのである。

 

 とは言え少々趣味も悪い。獲物が多いところを狙ったわけだが、そろそろ自粛するべきか。

 

 そう思い、ペトは少し苦笑し―

 

「お、天然ピンク髪!」

 

 其の声に、ペトはそちらに顔を向ける。

 

 そこには明らかに遊び慣れている類の男が複数人いた。

 

 ……経験則で分かる。あれは小物だ。

 

 単純に性欲を発散したいだけ。しかし犯罪行為に走るほどの度胸はない。そういう手合いだ。

 

「ほら言ったじゃねえか! 最近出てるってよ!」

 

「いよっしゃ! 俺達ついてる!!」

 

 などとスマートフォンを見ながら言い合ってるのを見て、ペトも流石に今度から場所を変えた方がいいと思った。

 

 どうやら噂になっているらしい。まあ、自分の髪の色はどう考えても珍しいから当然といえば当然か。

 

 これ以上悪目立ちして、ここで商売をしている人達に絡まれるのは避けたい。

 

 気楽に楽しくエロい事をする。それが性分なのだから。

 

「……ハハッ」

 

 そこ迄思って、自嘲する。

 

 なにが気楽だ。沈んだ気持ちで行為に及び、快楽に耽溺する事で辛い事実から目を背けているくせに。

 

 今の自分は快楽を貪っているのではなく、快楽に貪られようとしている。それは、リセスが自戒しペトにも戒めさせた事柄だ。

 

 それでも、このままだとスッキリできないからそうするしかなく―

 

「……お姉ちゃん?」

 

 ―その時、明らかに不機嫌そうな少年の声が届いた。

 

 その場にいた者が全員ぎょっとして振り返るほど声が届くが、それは断じて大声というわけでもない。

 

 其の声はしっかりはっきり澄んだ発声は、人の耳によく届く。つまりはそういうことだ。

 

 そして、それをなした少年はペトの手を掴むとそのまま引っ張った。

 

「またこんなところで遊んで。いい加減パパとママも怒ってるからね。家族会議」

 

「え、あ、ちょっとッス……!?」

 

 ペトはわけもわからず引っ張られる。

 

 いや、とりあえず振りほどこうとはしているのだが、絶妙な力加減で外しにくい。強引に外しすぎるのもあれだという気持ちもある。

 

 そして何より、少年の登場で完全に場の空気が白けてしまっていた。

 

 これでは、しのいでも意味がない。男たちも完全にそんな空気じゃなくなってしまっている。

 

 そんなこんなでペトは完全に勢いに飲まれる形で、その少年に引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、とりあえずカラオケボックスに連れ込まれて、その少年はジト目をペトに向けた。

 

「……何やってるのかな、お姉さんは」

 

「うぅ……」

 

 年齢差は自分の方が一見上に見えるが、なにせ相手は悪魔である。

 

 外見年齢は全くあてにならない。下手をすると自分の親より年上という可能性もある。

 

 何より、動きに隙を見つける事が困難なその様子から、この状況下では逃げるのも困難だ。

 

 まさか男漁りした事の説教から逃げる為に、高位の異形が本領を発揮しながらカラオケボックスから逃走など、堕天使側の醜聞にしかならない。自分が英雄扱いされている事を考えれば、ヴィクター経済連合が何を言ってくるか。

 

 ゆえに、ペトは素直にその少年の前で正座するしかなかった。

 

「あ、あの~。サラト……さん?」

 

「何?」

 

 目線だけで見下ろしてくるサラトは、呆れ半分の表情を浮かべる。

 

「あのねえ。レスィーヴさん? ああいうところで遊ぶのは、流石にまずいと僕思うんだけど」

 

「男漁りは昔からの趣味っす!!」

 

「でも流石に不用心すぎるから」

 

 正論である。

 

「福津兄が調べた情報だと、不用心にそういう事はしないって聞いたけど? あれ、手当り次第にしか見えないんだけど」

 

 正論である。

 

 普段は鍛えられた嗅覚で安全牌を見据え、念の為の保険もしっかり用意したうえで事に及んでいる。具体的には緊急用の連絡コードと転送用の魔方陣などだ。

 

 今回はそういう事を一切していない。戦闘能力が高いというある意味で最大の防衛ラインこそあるが、確かに不用心だった。

 

「……会ったばかりの僕がこういうこと言うのはあれだけど、発散するにしても他に何かなかったの?」

 

「うぅ……。ペトはビッチだからこれが一番効率良かったんす」

 

 ……実際のところ。やっぱりこれに落ち着くのが実情だった。

 

 色々他にも発散しようとしているのだ。やけ食いからふて寝。カラオケで思いっきり歌い倒したりもしている。

 

 とにかく引っ張られない事が必要で、リセスもヒロイもそれを望んでいるだろう。周りのメンバーはなんだかんだで身内の死に慣れてないから、比較的慣れている自分がそう言う事を率先して巻き込む必要もあった。

 

 だが、どうしてもそれだけでは発散できない。

 

 性根が淫乱な事もある。周りのフォローをする都合上、発散しきれない事もある。

 

 だが、それ以上に、自分が一番ダメージが大きいのだろう。

 

「……僕が言えた事じゃないけど、引きずられると、死ぬよ?」

 

「……分かってるっすけどね。これがもろに引きずられてて」

 

 同時にため息が出てしまった。

 

 本心からこのままではいけないと思っているのだ。だからこそ決別宣言迄した。

 

 だがしかし、蓋を開けてみればこの様である。

 

 まごうことなく引きずられている。自覚はあり、どうにかしようとして、周りの方は少しは改善出来て、しかし自分に関してはどうしようもない。

 

 あまりに情けない話だった。

 

「……ほんと、情けない話っすよ」

 

「……ちょっと、愚痴でも聞こうか?」

 

 そんなペトの隣に座って、サラトは続きを促す。

 

 どういうつもりか分からないが、なぜか親身になってくれているようだ。

 

 意外とイッセー達みたいなお人よしなのかもしれない。

 

 だったら、少しぐらい話してもいいかもしれない。よく知らない相手に迷惑をかけるのもあれだが、カラオケボックスの料金を払えば愚痴代ぐらいにはなるだろう。それで無理なら体で払う。

 

 そして、ペトは話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ペトと絡みました!

そして次の次から事態は急変します。









なにせ、この作品の真の敵はヴィクター経済連合の保有する禍の団。

彼らもまた、第二部に伴ってリムヴァン無しでもやっていけるようにパワーアップしていきますぜ?


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第二部一章 11

 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんだか、ペトの様子が変だ。

 

 どこかスッキリしたような、それでいてどこかイライラしたような表情だ。

 

「……どうしたペト。なんというか、スッキリしたようなムカついているようなわけの分からない感じだが」

 

 流石に気になったのか、ゼノヴィアがそう聞きに行った。

 

 うん、ホント行動力あるよな、ゼノヴィアって。

 

 まあ、俺達も気になってはいたんだよ。

 

「ペトさん、昨夜から様子が変ですよ?」

 

 アーシアの言う通り、ペトは昨日の夜に帰って来てから様子がおかしかった。

 

 さっきも言ったけどスッキリしているかのような、イライラしているかのような、どっちだよって感じだ。

 

 昨日男あさりした時に何かあったのか?

 

「いや、ちょっと男あさりをハヤルト・アスモデウスの眷属に邪魔されて……」

 

 ……何やってんの!?

 

 いや、ペトの男あさりはいつもの事だけど!! それはともかくハヤルトさんの眷属にご迷惑かけたらいけないって!!

 

「まあ良かったじゃないか。今までは気を使っていたが、最近お前は男あさりが荒いからな。見かねたんじゃないか?」

 

「そうよ! 正直私達もそろそろ止めようかと思ってたわ! ペトはちょっと暴走しすぎよ」

 

 と、ゼノヴィアがバッサリ切ってイリナも乗っかってくる。

 

 まあ、最近のペトの男あさりは結構荒いっていうかリスキーだったからな。見かねて説教されてもおかしくないだろ。

 

 いくらペトがビッチで有名だからって、危ない橋を渡る必要はないだろうしな。

 

 見れば、クラスメイトがほぼ全員うんうんと頷いている。

 

 みんなペトのことを心配してくれているとほっこりするべきなのか、ペトのビッチっぷりを全員知ってるって事実にあきれるべきか。

 

 いや、ペトがビッチなのは俺がスケベなのと同じぐらい有名だしな。今更だろ。

 

 だけど、ペトはイライラを隠す事なく首を振った。

 

「いや、そこは良いんすよ。問題はその後っス」

 

「その後……ですか?」

 

 アーシアに促されて、ペトは頬杖を突きながら頬を膨らませる。

 

「その後ちょっと鬱憤晴らしに愚痴ったんすよ。お姉様とヒロイの事で」

 

 うんうん。

 

 確かにあの二人、最終決戦で二人していい空気吸ってそのまま好き勝手に死んでいった感じあるからな。ちょっとはムカつくだろ。

 

 ペトからすれば置いて行かれたようなもんだ。もう助からないのがほぼ確定だったとはいっても、もうちょっと他になんかなかったのかと思いたくもなるだろ。

 

 ……俺のおっぱい好きと二人の英雄への焦がれは同じ……か。

 

 俺はヒロイの言葉を思い出して、ちょっとフォローを入れたくなった。

 

「そういや、最後に俺、ヒロイに「俺たちの英雄好きはおまえのおっぱい好きと同じ」って言われてたから、俺はちょっと怒りづらいかもな」

 

 ああ、俺もおっぱい好きをやめろなんて言われたって無理だ。絶対に無理だ。

 

『『『『『『『『『『ヒロイ……そこ迄卑下しなくても……』』』』』』』』』』』

 

 オイクラスメイト。泣くぞ。

 

「まあ、そこら辺も含めて愚痴ったんすよ。愚痴ったからお門違いなんすけど……」

 

 そういうと、ペトは歯ぎしりまでした。

 

「帰り際に、こっそり呟いた形だったすっけど確かに聞こえたッス」

 

「なんて言ってたんだ?」

 

 何かそいつが言ってたのは分かるんだけど、一体何を言われたらそんなイライラするんだよ?

 

 そしてペトは、ぷくーっと頬を膨らませるとー

 

「……クソッタレだな、その二人とか言ってたっす」

 

『『『『『『『『『『……あ~』』』』』』』』』』

 

 なるほどぉ。そりゃ、ねえ。

 

「まあ、見方によっちゃクソッタレではあるよな」

 

「でもペトさんの前で言う? デリカシーなくない?」

 

「いや、小声で言ってたから聞こえてたとは思ってないんじゃないか?」

 

 と、教室中で議論が巻き起こる。

 

 ま、最終的にペトと最期まで一緒にいるんじゃなくて、自分達の目指した英雄の在り方を貫き通したわけだしな。嫌いな人は絶対出てくるだろ。

 

 つっても、小声でもペトの前で言う事じゃないと思うんだけどな。

 

「ただ、相当向こうもイラついていたみたいだからプッツン行くのが遅れて、結局帰っちゃったす……」

 

 そう、複雑そうな表情でペトがため息をついた。

 

 まあ確かに。ちょっと素直に反応しづらいからなぁ、この問題。

 

「おのれあのショタっこめ!! 今度会ったら文句の一つぐらい言ってやるッス!!」

 

 って、ショタの方かい!!

 

 てっきり年上の男の人の方だと思ったんだけど、ショタの方だったのか……。

 

「あ、そういえばあの子なんて名前だったっけ?」

 

 そう言えばサラト……なんだったっけ?

 

 俺が首を傾げていると、アーシアが指を口元に当てながら思い出してくれた。

 

「……渡された資料によれば、サラト・アスモダイさんだそうです。年上の方は時草福津さんだそうですよ?」

 

 あ、そんな名前だったっけ。

 

 でもあの二人、魔王の末裔の眷属だっていうなら結構な人達なんだろうなぁ。

 

 プリスもヒロイと一対一で渡り合うぐらいの凄腕だし、それぐらいあるだろ。っていうか実力が伴ってないとうるさい上役達がなんか言ってきそうだ。

 

 不正に関わってない残った上役達も、魔王末裔のヴァーリとかに拘っているところがあるっぽいからな。ハヤルトさんに関しても、眷属にはそれなりの実力者を求めるだろうし。

 

 シシーリアがちょっと不安だけど、最終的に英雄派のジャンヌ・ダルクを倒したのは彼女らしいから、ギリギリセーフだったんだろうな。

 

 まあ、ガールヴィランの連中相手に大立ち回りしてたんだから、弱いわけがないだろ。

 

「しっかし、駒王町も悪魔がたくさんいるところなんだな、そのサラトってショタも悪魔なんだろ?」

 

 と、話を微妙に変えながら松田がそう言う。

 

 まあ、上級悪魔が三人もいるんだしなぁ。

 

 人間界でここまでいるってのも、そうはないんじゃないか、これ?

 

「まあ、実際駒王町(ここ)って日本どころか世界的に見ても三大勢力の影響が大きいもの。当然ね」

 

 と、イリナは言い切った。

 

「確かにそうだね。旧家の不正の影響もあって、リアス元部長の担当地区として選ばれたうえ、ソーナ前会長も人間界の教育を知る為、リアス元部長に誘われて駒王学園に入学。そして眷属を連れてきたり眷属を作ったりしているわけだ」

 

 うんうんと、ゼノヴィアが頷く。

 

 そして、懐かしむように遠い目をした。

 

「そして戦争再開を目論むコカビエルが奪ったエクスカリバーを追いかけて、私とイリナ、そしてヒロイが派遣されてきた」

 

「懐かしいですねぇ」

 

 と、アーシアも懐かしそうに目を細める。

 

 そして、その時を思い出して俺は苦笑した。

 

「そういやあの時は大変だったぜ。和平前だったとはいえ、悪魔になってたアーシアを、ゼノヴィアが介錯しようとして揉めたっけなぁ」

 

「む、昔の事だろう!? 今更蒸し返さないでほしいぞ、イッセー!」

 

 顔を真っ赤にするゼノヴィアに、俺はちょっと笑う。

 

 そして松田達は、そんな事があったのかといわんばかりの顔で驚いていた。

 

 ま、確かにそうだよな。気持ちは分かる。

 

 今じゃゼノヴィアはアーシアの大親友だからな。それが一度は殺そうとしたとか、聞いても信じられないだろ、そりゃ。

 

「うんうん。これも三大勢力の和平のたまものだわ。主よ、三大勢力の方々にお慈悲を!!」

 

 そしてイリナは天使の翼を広げながらお祈りをしている。

 

 正体隠さなくて良くなった事を良い事に、好き勝手しすぎじゃないかな?

 

 ほら、周りのクラスメイトも、流石に天使の翼には面食らってるよ。驚いているよ。

 

 あ、興味本位でツンツンしてる奴がいる。度胸あるなぁ。

 

「で、結局コカビエルのオバカはお姉様やヴァーリが介入した事もあってボコボコにされ、しかもそれがきっかけで起きた駒王会談で和平成立ッス。ぶっちゃけ裏目ってるっすねぇ」

 

 うんうんと頷きながら、ペトはだけどなんか急に頭を抱えた。

 

「……問題は、邪龍戦役のどさくさに紛れてコカビエルがコキュートスから連れ出された事なんすけどね」

 

「「「「ああ~」」」」

 

 そうなんだよなぁ。

 

「そのコカビエルって人、そんなに強いの?」

 

 桐生が聞いてくるけど、実際強いんだよなぁ。

 

「その気になれば、一人でこの駒王町を吹き飛ばせるぐらいには強いぜ?」

 

「あの時はお姉様とヒロイが二人掛かりでもなお手こずったッス」

 

 うんうん。腐っても神の子を見張る者の幹部だから、結構手ごわいよね。

 

 普通に最上級悪魔クラスの戦闘能力があるし、あれを一蹴したヴァーリはあの時点で桁違いに強かったからね。

 

 いまでも一対一で勝てるグレモリー眷属のメンバーってそんなにいないんじゃないか?

 

 いや、紅の鎧を使えば俺はちょっと手こずるぐらいでどうにかできそうだけど。いやいや、油断しないで最初から全力で来られたら、流石に負ける可能性もあるかな?

 

 龍神化が使えれば確実に勝てるだろうけど、あれは本当に反動がでかいからなぁ。

 

「そういえば、コカビエルはヴィクターの堕天使側に救出されて、今は彼らの代表になっているらしいな」

 

「ええ。なんだかんだ言っても統括組織の幹部だったもの。それなりに組織運営能力もあるみたいね」

 

 と、ゼノヴィアとイリナがちょっと真剣な表情で話し合い、教室中も少し緊迫感が漂う。

 

 ゼノヴィアとイリナが真剣な表情で危険視する相手だもんな。実際、堕天使全体で言ったら今でも十位以内には入るだろう実力者だろうし。

 

 へたすりゃ、あの戦いで俺たちの誰かが死んでもおかしくなかった。今の俺でも紅の鎧以上にならないと苦戦しそうな相手だもんな。復讐しに来たら気を付けないと―

 

 そう思った、その瞬間だった。

 

『聞こえるか!?』

 

 そんな大声が、いきなり響いた。

 

 な、なんだなんだ!?

 

 この声って確か、ハヤルト様の声だよな!?

 

 い、い、いきなり、何事だ!?

 

 俺達が慌てるけどクラス中どころか学校中が騒がしくなっている。

 

 ど、どういうこったよー

 

『今術式で駒王学園全体に聞こえるような方法を取っておる! 聞こえているならすぐに臨戦態勢を取るのだ!!』

 

 なんか慌ててるっぽいハヤルトさんは、そのまま続ける。

 

『今現在、ヴィクターの者と思しく神器使いが単独でまっすぐ駒王学園(そちら)に向かって居る! 更に離れたところから増援らしき者も向かっているぞ!!』

 

 ……昨日の今日でまた襲撃かよ!!

 

 白昼堂々駒王学園を狙いやがって! リゼヴィムもリムヴァンも倒されたってのに、えげつない手を使いすぎじゃねえか!?

 

 俺は素早く鎧を纏いながら外に出る。

 

 そして、空高く舞い上がると誰がどこから来るのか警戒した。

 

『そして気を付けよ。更に武装勢力が複数動いておる。それに―』

 

 ハヤルトさんはかなり警戒している。

 

 っていうか武装勢力が複数この近くで動いているんですか。そんなにここは気になりますか!

 

 ……それもそうだね! だって赤龍帝()魔王の妹(リアス)がいるんだもんね! 重要地域だよね!!

 

 真剣に転向した方がいいんじゃないかと思ったその時、ハヤルトさんの言葉が続く。

 

『―増援らしき者の一人は、コカビエルだ!!』

 

 その言葉に俺が驚いた瞬間―

 

「ダーリンの仇ぃいいいいいいいいい!!!」

 

 もの凄い雷撃が、俺を包み込んだ。

 

 




注:攻撃したのは断じてコカビエルではありません。

始めてみる相手にいきなり御指名を受けて攻撃されたイッセー。

イッセーの明日はどっちだ!?


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第二部一章 12話

新たなる強敵とかつての強敵が現れるとき、物語は加速する!!

……なんていってみたりみなかったり。


 その攻撃は、文字通り天を包み込んだ。

 

 駒王学園から遠く離れたところから放たれた雷撃は、空高く舞い上がっていた一誠を包み込み、そしてなお有り余る。

 

 文字通り天を埋め尽くすほどの雷撃によって、青い空は一瞬だけだが稲光の紫に包み込まれた。

 

「うわぁああああ!?」

 

「きゃぁあああああ!?」

 

 あまりの光景に悲鳴を上げる者達が続出する中、イッセーは其のまま墜落する。

 

「おい、兵藤が落ちるぞ!?」

 

「やば、あれ死ぬんじゃない!?」

 

「いや、死なないから!!」

 

 その悲鳴を耳ざとく聞きつけて反論しながら、一誠は素早く体勢を立て直しながら空中でとどまる。

 

 一瞬全身がマヒするほどの威力の雷撃だった。通常の鎧だったとはいえ、今の一誠を一瞬とは言え麻痺させるほどの攻撃は、あり得ないレベルの火力としかいようがないだろう。

 

 最上級悪魔クラス……否、少なく見積もっても土地神や魔王クラスの攻撃力。神滅具や複合禁手でなければ出せないような、文字通り最高峰の雷撃だった。

 

「イッセー! 大丈夫?」

 

 リアスも飛び立ちながら、イッセーと連携を取れる位置で滞空する。

 

 それに心強さを覚えながらも、一誠は敵に対する警戒をするほかない。

 

 今の一撃だけで断言できる。兵藤一誠の数こそそこそこだが密度の濃すぎる戦闘経験が、正確に告げている。

 

 先程の攻撃を放った者は、D×Dのメンバーでも上位陣でなければ対抗できないだろう。

 

「……どうやら、堂々とこちらに来るようだね」

 

「イッセーを一瞬とは言え麻痺させるとは、相手にとって不足はない!」

 

 祐斗が即座に対雷撃の聖魔剣を構え、ゼノヴィアもデュランダルではなくエクスカリバーを前にして構える。

 

 単純な威力で相手を責めるグラムやデュランダルでも、まともな打ち合いでは危険な相手。なら雷撃特化の聖魔剣や、支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)による雷撃干渉の方が対抗しやすい。そういう判断だろう。

 

 そうさせるほどの敵を前に、一誠達は皆警戒心を強める。

 

 ヴィクター経済連合。彼らはいまだ健在だ。

 

 宰相であるリムヴァンは死んだ。精鋭である英雄派は壊滅した。特殊部隊であるイグドラフォースも半数が死亡し、一人が捕縛された。

 

 だが、ヴィクターにはまだまだ精鋭がいる。実力を持つ者は残っている。一誠相手に太刀打ちできるだけの猛者まで存在している。

 

 その事実に、グレモリー眷属は皆が警戒心を強くする。

 

「ソーナは学園の異能保有者を指揮して、結界を張って頂戴! 敵は私達が相手をするわ!!」

 

「分かっています。ハヤルト様も来るでしょうし、無理はしないでくださいね、リアス」

 

 役割分担をはっきり決めて、そして一誠達は接近してくる敵を迎え撃つ。

 

 どうやら人間らしい。それも、女性だ。

 

 乳語翻訳と洋服崩壊を保有する一誠を相手に、女性だけで挑むとは相当の自信家かそれともただの馬鹿か。

 

 後者の可能性は低い。

 

 何故なら、今の雷撃は正真正銘神や魔王に匹敵する。最上級悪魔クラスですら出せないだろうか力であり、それほどの攻撃を前座で放つという事が、相手の実力を示している。

 

 ゆえに全員が警戒心を強め―

 

「よくも―」

 

 そして、現れた女性の顔を見て、全員が面食らった。

 

「な、ななななな!?」

 

「馬鹿な!?」

 

「そ、そんな……」

 

 狼狽するイリナ。驚愕するゼノヴィア。そして絶句するアーシア。

 

 D×Dに在籍する者達は皆絶句し、しかし一般学生はそれがどういう事か理解できない。

 

 それはそうだろう。彼女は人間世界の報道には映されていない。

 

 立場的にはある意味で重要だ。だが、同時に裏方に近い立場でもある。

 

 サーゼクス・ルシファー達政治に関わる者達とは違い、彼女はあくまで側近なのだ。政治家の顔を知る者も、その政治家秘書となると印象に残らないという場合は多いだろう。それと同じだ。

 

 そして、彼女がヴィクターに就く事だけはあり得ない。

 

 そして冷静に見れば別人だとも分かる。

 

 髪は黒髪だ。目の色も茶色だ。なにより目つきが微妙に釣り目である。体格も若干小柄である。

 

 だがしかし、それを踏まえても有り余るほどに―

 

「お、お姉様のパチモノ!?」

 

 ―リアスですら驚くほどグレイフィアと似ている要素が多すぎた。

 

 そして、その言葉に目の前の女は得意げな表情を浮かべる。

 

「ふふんっ。そうでしょうそうでしょう! なにせ、この天然「グレイフィアポイント」の高さゆえに、私はダーリンのハーレムに真っ先にスカウトされたんだから!」

 

 そして、その自慢で全てが分かった。

 

「あなた、ユーグリットの女ね!?」

 

「うっげぇ!?」

 

 リアスが驚愕し、ロスヴァイセが年頃の女性が断じてあげてはいけない悲鳴を上げる。

 

「ろ、ロスヴァイセちゃんが凄い悲鳴上げた!」

 

「え、なに? ぐれいふぃあぽいんとって、なに?」

 

 外野が混乱するのも無理はない。

 

 だが、この説明はできればしたくない。

 

 しかし、素直に説明する馬鹿がいた。

 

「グレイフィアポイントは、グレイフィア・ルキフグスに似てるかどうかを示すダーリンの女性選出規準だし! 私のポイントはかなり高いんだし!」

 

 えっへんと胸を張るその姿に、訳の分からない者が大半だった。

 

 訳が分かる者の大半は、とりあえず呆れている事を説明しておく。

 

 そしてそれとは別に変態三人衆は張られてプルンと揺れる巨乳に釘付けだった。

 

 そして、ロスヴァイセは心底嫌そうな顔をして、指を突き付ける!

 

「あ、あ、あんなシスコンこじらせた変態のハーレム入りして、何がいいんですか!? ああ、思い出しただけで鳥肌が……っ」

 

 ロスヴァイセが寒気すら感じて震えるが、女性はそれに対して首を傾げた。

 

 何言ってんだお前。目と態度が言いたい事をはっきりと言い切っていた。

 

「え? イケメンで金持っててヴィクターの重鎮じゃん? 他になんか、いる?」

 

 はっきり言い切った。嘘偽りなどまったくない、心からの言葉だった。

 

 凄まじい断言に駒王学園の生徒達も、「え? そんなすごい上玉?」などと考える者が出てきた。

 

「それがお姉さんのそっくりさんになるだけで玉の輿だなんて最高じゃん。整形手術の覚悟もできてんだからね!」

 

 ……この言葉で霧散したが。

 

「と、とりあえず凄い変態なのは分かった」

 

「兵藤達よりこじらせてるわね。あの三人スケベだけど方向性はまともだったわ」

 

「やばい。下には下があって見直すとかマジヤバイ」

 

 ドンビキだった。

 

 そして、その様子に全く気付かず、その女はマジギレの視線を一誠に向ける。

 

 そして、全身からバチバチと稲光を放ちつつイッセーに指を突き付けた。

 

「覚悟しなさい兵藤一誠! ダーリンを殺した報い、玉の輿を台無しにした報い、あんたの命で償ってもらうんだから!!」

 

 そしてその言葉と同時に、稲光の出力が増大化していく。

 

 そしてその瞬間、全員が目を見開いた。

 

 先程の雷撃も莫大だったが、しかし今回の雷撃も桁違いだ。

 

 最上級悪魔クラスですら、一瞬で消し炭になりかねない圧倒的な出力。

 

 既に高位の雷神に匹敵する出力。まず間違いなく一神話勢力のトップクラスの使い手の領域。神すら殺せる絶大な力だった。

 

「さあ、冥途の土産? ……に名前を教えてやるわ!」

 

 そしてとっさに紅の鎧を展開するイッセーに突撃しながら、その女は声を張り上げる。

 

「ヴィクター経済連合、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)運用者である天君が一人! ヤクサ・ライトアボイト!!」

 

「う、うぉぉおおおおおおお!?」

 

 全力で鎧を展開して迎撃しながらしかしイッセーは押し返される。

 

「ダーリンの仇と玉の輿失敗の恨み! 全部まとめてお返ししてあげるんだから!!」

 

 その雷撃が、イッセーを弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして上空に弾き飛ばされる一誠の姿に、全員が目を見張る。

 

 紅の鎧を展開した一誠の戦闘能力は、現状駒王学園にいる者の中でも最強格だ。

 

 技量や戦術、相性などを踏まえれば太刀打ちできる者もいるだろう。だが、単純な性能において対抗できる者は、一人としていない。

 

 身体強化系神器と神滅具を併用するリセス・イドアル無き今、駒王学園に紅の鎧の一誠を超える身体能力の持ち主は、一人としていないのだ。

 

 その一誠を、一撃で勝ちあげた猛者。ヤクサ・ライトアボイト。

 

 神滅具である煌天雷獄を移植している時点で、強敵という他ない。開幕速攻の一撃で、一誠を一瞬とは言え麻痺させただけでも、その圧倒的な力は分かっているつもりだった。

 

 だが、あの一誠を不意打ち気味とはいえ女性が凌いでいる。

 

 その事実に、全員が目を見開いた。

 

「……って呆けてる場合じゃなかったっす!!」

 

 と、そこでペト・レスィーブが我に返る。

 

 そして速攻で堕天の祝福受けし魔弾(スナイパー・ザミエル)を構えて、ヤクサに狙いをつける。

 

 ヤクサの戦闘能力が絶大なのは、この攻防ですでに分かっている。

 

 そして、その力が下手に振るわれれば、確実に駒王町が灰燼と化す。

 

 広域殲滅に優れている神滅具である、煌天雷獄。其の本質は広範囲攻撃にこそ真価を発揮する。ペトが敬愛していたリセス・イドアルのように、接近戦で暴れる事が主体の使い手の方が少ないのだ。

 

 神滅具の広範囲攻撃など、放射能汚染がしない核攻撃と形容してかまわない。しかも周囲の被害をあまり考慮しているタイプとも思えない。

 

 ゆえに、遠慮なく叩き付けるべく引き金に乗せた指に力を乗せ―

 

「させると思うか?」

 

「確かにな」

 

「そうですね」

 

 其の三人の声が響き、一斉にペトに攻撃が集中した。

 

 光力を中心とし、荷電粒子が追加された絶大な攻撃の群れ。

 

 一つ一つがペトを一撃で戦闘不能にして余りある絶大な威力。最低レベルで最上級クラスに届く領域に攻撃が、十数発にわたって一斉に放たれる。

 

 狙撃に意識を集中しすぎ、そして良くも悪くも狙撃特化型であるペトでは躱し切れず―

 

「させないわよ、皆!!」

 

 リアスの声と共に、一斉攻撃がそれを相殺する。

 

 消滅の魔力。雷光の龍。聖魔の融合したオーラ。絶大な聖なるオーラ。純粋な光力。仙術によって形成される火車。多種多様な魔法。大量の闇の浸食。

 

 それらの絶大な力が絶大な力を相殺し、そして空中で爆発する。

 

『『『『『『『『『『うわぁああああ!?』』』』』』』』』』

 

『『『『『『『『『『きゃぁああああ!?』』』』』』』』』』

 

 校舎から悲鳴が上がりながら、しかしリアス達は警戒心を消す事ができない。

 

 何故ならば、リアス達の眼前には大量のドーインジャーが姿を現していたからだ。

 

 ドーインジャーの運用技術は、事実上一極化している。

 

 すなわち、ヴィクター経済連合。彼らこそがドーインジャーを生み出し、そしてドーインジャーを研究する最前線。

 

 そう、ハヤルトは先行するヤクサを追いかける者達がいる事を伝えていた。

 

 そして、現時点で紅の鎧を展開するイッセーと渡り合っているヤクサと共に行動するという事は、彼らもまた精鋭であるという証明。

 

 そして何よりそれを証明するのが、目の前に立っている二人の敵。

 

 一人は悪魔の翼を広げた少女だが、彼女はまあいい。

 

 だが、残りの二人は忘れたくても忘れられない。

 

「まあ、二週間経ってないがリベンジしに来たぜ」

 

 イグドラフォース最後の1人、ジェームズ・スミス。

 

 そして、漆黒の十枚の翼を広げるは、ある意味で最も駒王学園と因縁深い男。

 

「ふん。まさかこの校舎で和平が結ばれるとはな。……意趣返しのつもりか、アザゼルめ」

 

 そう言い捨て、舌打ちするのは、この学園を起点に駒王町を滅ぼそうとした男。

 

 神の子を見張る者唯一の戦争再開派。堕天使のタカ派筆頭。そして、聖書にすら記された最強格の堕天使の1人。

 

「久しいな、リアス・グレモリー。いつぞやの借りを返しに来たぞ……っ!」

 

「ごきげんよう。悪いけど、今度こそあなたを滅ぼしてあげるわ、コカビエル……っ!」

 

 リアスの敵意の籠った視線を真っ向から受け止めて、コカビエルは戦意に体を滾らせて、壮絶な笑みを浮かべた。

 




リムヴァンすら倒したイッセーたちにどう対抗するかと思った人たちはいませんか?

残念! リムヴァンが強すぎただけなので、まだまだ対抗できる人は多いのです!!








新たなるヴィクターの精鋭、ヤクサ・ライトアボイト。ポンコツ臭を察した貴方、正解です、阿保の子です。

ちなみに名前の由来はグレイフィアのカップ焼きそば現象の人のアナグラムですwww


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第二部一章 13話

ヴィクター経済連合の新たなる力、その一端をここに


 

 コカビエル。彼は、ヴィクター経済連合の一員である。

 

 ヴィクター経済連合に所属してから日が浅いが、しかし彼はヴィクター経済連合に所属している堕天使達の長である。

 

 なぜなら、彼は最強格の堕天使だからだ。

 

 聖書にすら名を記された堕天使にして、神の子を見張る者(グリゴリ)唯一のタカ派。その求心力は、タカ派が中心となっているヴィクターに就いた堕天使の中では間違いなく高い。

 

 冷戦状態となっている三大勢力の関係性に不満をいだき、戦争を再開させる為に行動を開始。教会からエクスカリバーを奪い取り、それを利用して魔王の妹であるリアスとソーナごと駒王町を吹き飛ばそうとする暴挙を起しかけた。

 

 結果的に三大勢力が共闘して戦闘不能にまで追い込み、そこから開かれた駒王会談にて、三大勢力の和平は結ばれた。

 

 あまりにも皮肉な結果となってしまったコカビエルの行動。そして地方都市一つを手始めに吹き飛ばそうとした暴挙もあり、コカビエルはコキュートスで永久冷凍系に処される事となる。

 

 しかし、そのコカビエルは解放された。

 

 トライヘキサによる邪龍戦役最終決戦。その戦場の一つである、コキュートスでの戦い。

 

 この戦いにおいて、ヴィクター経済連合は、冷凍刑に処された者達の解放を行った。

 

 そのうちの一人がコカビエルである。

 

 彼が解放された意義はとても大きい。

 

 純粋な堕天使の中では十指に入るその圧倒的な力。聖書に名を記されたほどのネームバリュー。そして、ヴィクター経済連合に所属する堕天使達にとっては最高レベルのカリスマ性。

 

 それら全てがヴィクター経済連合にとって、垂涎物であった。

 

「くっくっく。まさか俺が起こした事を逆手に取って和平を結ぶとはな。そこまで戦争がしたくなかったとは、流石に見抜けなかったぞ」

 

「おあいにく様。おかげで私はイリナやピスのような友達ができたわ。礼を言っておくべきかしら?」

 

 自虐的な笑い声を出すコカビエルに、リアスは皮肉を持って返す。

 

 同情する義理も理由もない。結果的に大規模な恩恵を得たとはいえ、コカビエルは自分の担当区域を丸ごと滅ぼそうとした危険人物だ。

 

 むしろ、ここで再会した以上滅ぼす気で行くべきでもある。

 

 そしてリアスと睨み合うコカビエルをみて、ジェームズはため息をついた。

 

「……リーダーの指示を忘れないでくれ。セニカ、お前は戦場の空気に慣れるだけでいい」

 

「は、はい! 分かっています!」

 

 後ろの少女にそう言いながら、ジェームズはドーインジャーの結晶体を投げて展開。更に、己の神器である流星破装(メテオ・バスター)を具現化する。

 

 そして、ジェームズは匙に視線を向ける。

 

「リベンジしたいところだが、それは後だ。ここで敵を増やす気はない」

 

「言ってくれるじゃねえか。シトリー眷属(俺たち)だけならともかく、ここにはグレモリー眷属だっているんだぜ?」

 

 匙はそう吠えるが、ジェームズは静かに笑う。

 

「まあ、今回は勝つ気はないんだよ。本当ならヤクサを連れ戻せればそれだけで良かったんだがな」

 

「だが、挨拶ぐらいはしておかないと格好もつくまい?」

 

 にやりと笑いながら、コカビエルがジェームズの言葉を引き継いで構える。

 

 それに対して、グレモリー眷属は警戒を怠らないながらも、しかし同時にどこかで喜びすら感じていた。

 

 ……結局、あの戦いでリアス達はあまり役に立てなかった。

 

 コカビエルとの戦いで主力だったのは、井草とリセス。倒したのはヴァーリだ。

 

 駒王町を担当しているリアス・グレモリー眷属は、隙を作るなどの貢献はしたが、主力だったとはいいがたい。

 

 ある意味で、これは意趣返しだ。

 

 歴代最優にして最強の赤龍帝。兵藤一誠。

 

 その仲間である自分達が、足を引っ張るだけの存在ではないと証明する。

 

 その決意を決める為にも、リアス達はここで負けるわけにはいかず―

 

「ああ、だからこそいい機会だ。感謝するぞ、ユーヒティール」

 

 ―ゆえに、リアス達は読み間違えた。

 

「……この新たな力で、俺は俺の失態を(そそ)ぐとしよう!!」

 

 コカビエルが、ただそのままでリアス達に再戦を挑んだわけではない。

 

 彼もまた、ヴィクター経済連合の恩恵を受けている存在になったのだという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 し、痺れる!? 感電する!? ビリビリ来る!?

 

 俺は雷撃を躱す為に、急いで離れるしかなかった。

 

 乳語翻訳を使うことを忘れてたけど、それよりもなによりも距離を取らないとまずい!!

 

 だって―

 

「逃げんなダーリンの仇ぃいいいいいいいい!!!」

 

 ―このヤクサってやつ、超強いよ!!

 

 あ、また雷撃がすごい勢いでぶっ放された。

 

「く、クリムゾンブラスター!!」

 

 念のためチャージしてたんで、クリムゾンブラスターでそれを相殺する。

 

 その瞬間、また同じぐらいの威力の雷撃がぶっ放された。

 

 うぉおおおお!? あぶねえ当たる!?

 

 慌てて回避するけど、すぐにヤクサはこっちに突っ込んできた。

 

 本当なら洋服崩壊(ドレス・ブレイク)で裸にしたいところだけど、それもできない。

 

 だって―

 

「当たれこの野郎!!」

 

 ―全身が雷撃で包まれてるからさ!!

 

 いや、ホントにやばいんだって。これやばいんだって。

 

 だってちょっと触れただけで失神しかけたもん! バラキエルさんや朱乃さんの雷光より威力でかいよ! ムジョルニア並みだよ!!

 

 それを全身に纏って接近してくるだけで脅威だって! 触れる前に俺が死ぬ!!

 

 しかも垂れ流してる感じだから、(アストラル)バージョンでも無力化できる自信がない。試す前に失神するから無理だけど。

 

 飛竜を使って試してみたけど、近づいただけで消し炭になった。あれ、結構強力なんだけどなぁ。

 

 ど、どうするドライグ!?

 

『落ち着け相棒。とりあえず乳語翻訳(パイリンガル)で相手の胸の内を知って戦術を把握しろ』

 

 そ、それもそうだね!

 

「広がれ、俺の夢空間!」

 

 全力で俺は乳語翻訳の空間を展開。

 

 よっしゃ! これでヤクサの胸の内は俺に正直に答えてくれる!

 

 さあ、覚悟しな!

 

「ねえ、ヤクサのおっぱいさん! 今何を考えているのかな?」

 

『「アンタを感電死させることだけよ!!」』

 

 ……ん、んん~?

 

 ダブって聞こえたおっぱいの声に、俺は嫌な予感を覚えた。

 

 なので、俺は別の質問をする。

 

「じゃ、じゃあどうやって?」

 

『「感電させてに決まってるじゃない!! 馬鹿なの!?」』

 

 …………うん。

 

「ドライグ。アイツ馬鹿すぎて乳語翻訳の意味がない」

 

『そうだな。提案した俺が悪かった』

 

 ドライグもお手上げだった。

 

 だってそうだよ!! 胸の内全部自分で言ってるよ!!

 

 乳語翻訳の意味がねえ! 隠す気ないじゃん!!

 

 っていうか、戦術のせの字もない。っていうかすごい単純なことしかかんがえてない。

 

 だめだ。アイツグレイフィアさんと外見は似通っていても、中身は全く似通ってない。残念なロスヴァイセさんのほうが、はるかにグレイフィアさんに近いよ。

 

 馬鹿すぎる!

 

「お前学校で何習ってきたんだよ!?」

 

『「行ったことないけどそれが!?」』

 

 なんかごめんなさい!!

 

 あ、この子あれだ。ヒロイと同じタイプだ。

 

 孤児とかそんな感じっぽい!! まともな教育を受けてないタイプだ!!

 

 なんかすごい悪い事を聞いた気分!!

 

 いや、そんなことを気にしている場合じゃない!!

 

 こいつ、マジで強い。

 

 テクニックとかはお世辞にもあるとは思えないけど、出力がでかすぎる。

 

 煌天雷獄使いの天君とか名乗ってたけど、雷撃しか使ってこないのを除けばシャレにならない。

 

 出力が桁違いだ。単純なパワーならデュリオはリセスさんを超えてるぞ、コレ。

 

「他の属性攻撃はしないのかよ!!」

 

「アンタ馬鹿? 一点特化で鍛えた方が出力高くできるでしょうが!!」

 

 うん、馬鹿だ!

 

 俺より凄いパワー馬鹿だ!! これ、神器の相性次第ではかなり有利に立ち回れるんじゃね? 対雷撃の聖魔剣とか用意できる木場なら、俺より太刀打ちできるんじゃないか?

 

 いや、でもこのパワーは厄介だ。まともに撃ち合ったら、それこそ神クラスでもヤバイ。

 

 神滅具の名に恥じない威力だな。これは、厄介だぞ……!

 

「ああもう! しぶとい! だったら禁手(バランス・ブレイカー)で叩き潰すし!!」

 

 しかもまだ通常状態だったのかよ!! ホントに雷撃だけならデュリオやリセスさんを超えてるな、オイ!!

 

 そんな事を思ったのがいけなかった。具体的には、禁手化が発動し始めちゃった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 その言葉と共に、雷撃がヤクサの手の中で圧縮される。

 

 ……あ、こりゃ分かり易いタイプだ。

 

 雷撃一点特化で鍛え上げた、煌天雷獄の禁手。それに恥じることない、雷撃一点特化の亜種禁手っぽいぞ、コレ。

 

 それも、性格的にヒロイみたいなテクニカルな運用をするタイプじゃない。もっとシンプルなタイプだ。

 

 これは、能力を発展させるとかそういう形じゃなくて―

 

超絶雷霆鎚(ケラウノス・ミョルニール)!!」

 

 その言葉と共に具現化したのは、ハンマーと槍が一体化したようなポールウェポン。

 

 うん。名前からしてあれだよね。

 

 めちゃくちゃ攻撃力有りそう。

 

『ゼウスの雷霆とトールの雷鎚だからな。恐ろしいほどに多様性を投げ捨ててるな、オイ』

 

 ほら、ドライグも呆れ顔だし。

 

 そしてその瞬間、ヤクサはこっちに雷霆鎚を振る被り―

 

「ダーリンの仇! 死ねぇえええええええ!!!」

 

 さっきの比じゃない雷撃がぶっ放されたよぉおおおおおおおおお!?

 




アホの子、ヤクサ・ライトアボイト。しかし阿保ゆえに乳語翻訳があまり効かないという利点があります。

そして彼女は雷撃特化型仕様。やろうと思えばほかのこともできマシが、雷撃に関しては桁違いに強力という、シンプルイズベストのパワータイプ。

そして禁手もさらに特化したもの。それだけの強化ですが、それゆえに強大という極めて分かりやすい亜種禁手です。


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第二部一章 14 神器継承者

はい、激戦はまだまだ続いていくのです!!


 

 振るわれる雷撃が空を埋め尽くす中、リアスたちも苦戦を強いられていた。

 

 その理由は単純明快。

 

 圧倒的な数と、高性能の装備。

 

 現代の軍隊の戦術で、此処の兵士の練度を凌ぐレベルで重視されることもあるそれが、リアスたちに猛威を振るう。

 

 数百の騎士たちが一斉に襲い掛かり、様々な方向から攻撃を行う。

 

 そして、彼らが持つ剣は聖と魔のオーラを融合させている。その威力は伝説クラスとすら撃ち合いを可能とするほどで、多種多様な属性を追加したうえで振るわれるそれは対処するのも一苦労だ。

 

 そして何より、それが本来あり得ないことであるがゆえに、リアスたちは動揺している。

 

 そう、あり得ないのだ。

 

 これを保有する使い手は、大事な自分たちの仲間がその命を犠牲にして討ち取った。もういない筈なのだ。

 

 其の在りえない力。それを振るうのはコカビエル。

 

 そして、其の在りえない力の名は―

 

「なぜ、あなたが魔聖剣の蹂躙旅団(ブリゲート・オブ・ビトレイヤー)を持っているの、コカビエル!!」

 

 襲い掛かる三十以上の魔聖剣の騎士たちに、全力の消滅の魔力を放ちながら、リアスは吠える。

 

 この複合禁手は、聖魔剣とほぼ同等の効果を持つ魔聖剣を生み出し、更には旅団レベルの騎士団を生成するもの。

 

 当然、魔剣創造(ソード・バース)でも聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)でも単独では到達困難な力であり、リムヴァンはそれぞれいくつも取り込んだうえで複合禁手にすることで実現したものだ。

 

 神滅具の禁手に匹敵する力を持つそれは、リムヴァンの死によってこの世から消えたはずだった。

 

 ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアル。二人の大切な仲間が、命をなげうってリムヴァンを倒したのだ。

 

 にもかかわらず、リムヴァンが持っていた複合禁手は、コカビエルに使われている。

 

 まるで、2人の死が無駄だったかのようなこの存在。

 

 リアスは怒りに燃え、そしてそれに呼応するように消滅の魔力の出力が増大する。

 

 そして対魔力を考慮した魔聖剣をもった騎士団が消し飛ばされていくのを見ながら、コカビエルは楽しそうに笑いだす。

 

「ふはははは!! すでに赤龍帝無しでも最上級悪魔クラスではないか! 流石はサーゼクスの妹といっておこうか!!」

 

「ふざけないで! なぜ、あなたごときがリムヴァンの複合禁手を!!」

 

 吠えるリアスの攻撃を、コカビエルは光力を纏った魔聖剣で切り刻む。

 

 そして、それを左右から挟撃するはリアスの騎士(ナイト)

 

「「コカビエル!」」

 

 木場祐斗のグラムと、ゼノヴィア・クァルタのデュランダルとエクスカリバー。

 

 その絶大な一撃を、コカビエルは魔聖剣で受け流す。

 

「光力を吸収して強度を高める魔聖剣だ。いなす程度なら簡単にできるぞ?」

 

 そう嘲笑いながら、コカビエルは大量の光の槍を連射する。

 

 それらはギャスパーの停止の力で大半が受け止められるが、しかしそれでも一部がリアスたちに迫る。

 

 それをロスヴァイセと朱乃が展開する防御魔法に任せながら、リアスはコカビエルをにらみつけた。

 

「質問に答えなさい、コカビエ―」

 

「簡単だ。継承したのさ」

 

 その返答は、コカビエルのものではない。

 

 そして、頭上から聞こえてきた。

 

 振り仰ぐリアスの視界に、流星破装(メテオ・バスター)の禁手である、流星滅装(メテオ・バスター・マックス)を構えたジェームズが迫る。

 

 すでにイグドラヨルムを展開した彼は、静かに告げる。

 

「そういう実験をしていたのさ。倒された神器使いの神器を、禁手ごと再び運用するための実験、神器継承者実験をな……っ!」

 

 その言葉と共に、流星滅装が力をはなつ。

 

 そして、其の力はただの荷電粒子ではなかった。

 

 聖なるオーラが、神殺しの力が、魔王クラスの攻撃力を発揮する荷電粒子に加わり、超越者の領域へと至る。

 

 それに全員が寒気を覚える中、ジェームズは言い放った。

 

「因みに俺は黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だ。亜種で展開されているがな……!」

 

 そして、絶大極まりない神殺しの聖なる荷電粒子が、リアスたちに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方そのころ、一誠も大苦戦を強いられていた。

 

 ただでさえ雷撃の威力は神クラスだったのに、すでにその威力は主神クラスすら超えている。

 

 かすめただけで紅の鎧が砕ける威力。それを、あろうことか連続で振るうのはヤクサ・ライトアボイト。

 

 その雷霆鎚の能力は単純明快。

 

 絶大な雷撃をはなつ武装。ただそれだけでありながら、其の力は神すら超える。

 

 文字通り規格外の力を振るい、ヤクサは目を血走らせて一誠に迫る。

 

「ダーリンの仇! 死ねぇえええええええ!!!」

 

「く、クソッタレぇ!」

 

 一誠は直撃を意地で避けながら、一誠は唸る。

 

 間違いなく強敵だ。今まで戦ってきた女性の中で、もっとも強大な敵だ。

 

 なにせ洋服崩壊を当てることが不可能に近い。しかも、思考が単純すぎるせいで乳語翻訳もあまり意味がない。

 

 兵藤一誠を代表する二つの力が、ヤクサの前だと本領を発揮しない。

 

 この事実に、一誠は見事に追い込まれる。

 

 パワー馬鹿とすら評される兵藤一誠が、パワー馬鹿によって追い込まれている。

 

 まさに単純明快な力の差だ。それが如実に表れている。

 

 赤龍帝の籠手は、神滅具としては中堅だった。そして、煌天雷獄という神滅具は神滅具の中でも二番目に強いといわれている。

 

 それが絶大な力の差を生み出している。それが、一誠を力で追い込んでいる。

 

 龍神の血肉すら取り込み、前代未聞の進化を遂げてきた兵藤一誠を、よりにもよって力で蹂躙せんとする。

 

 其の在りえない在り方を示すヤクサを前に、一誠は覚悟を決めた。

 

 もとより、アザゼルたちを隔離結界領域へとみすみす行かせ、挙句の果てにヒロイやリセスを失なったことで覚悟は決まっている。

 

 自分たちの日常を破壊しようとするのなら、それをなす者たちは滅ぼしてでも倒す。

 

 目の前の女もそうだ。ゆえに、滅ぼすことに躊躇する意味はない。

 

「ドライグ! ジャガーノート・スマッシャーで吹っ飛ばすぞ!!」

 

『応! 任せろ相棒!!』

 

 一誠は飛竜を展開するとそれを自身の鎧に装着。

 

 そしてチャージを開始しつつ、胸部装甲を展開して砲身を具現化する。

 

 それを見たヤクサは、舌打ちをした。

 

 ジャガーノート・スマッシャー。その絶大な威力は当然ヴィクターでも警戒視されている。

 

 ダーリンたるユーグリット・ルキフグスですら、改良されたイグドラゴッホの力を使ってようやく凌ぎ切れたものなのだ。

 

 喰らえば、神クラスですら下位のものなら一撃で戦闘不能になるだろう。下手をすれば一発で死亡することも十分あり得る。

 

 なにせこちらは人間だ。神滅具はもちろん、その禁手も身体能力を強化する類ではない。それが、魔王クラスを輩出するだけの素質を持つ、ルキフグスの血ですら強化装備が必要だった攻撃を凌がなければならないのだ。

 

 だがしかし―

 

「―舐めてもらったら困るんだけど!?」

 

 ―それをどうにかしてこその―

 

「天君、舐めるなぁあああああ!!!」

 

 ―新たなるヴィクター経済連合の主力の一角でもある。

 

 放たれる神滅の一撃を前に、ヤクサは超絶雷霆鎚を振るい、それにぶつける。

 

 それは深く考えられたものではなかったが、しかし頭の悪い彼女が最高戦力の一角に数えられる理由を示していた。

 

 単純にぶつかるのではなく、最低限の傾斜を付けたうえで側面からぶつけられた超絶雷霆鎚。

 

 その雷霆鎚の出力は、超絶の二文字がついているだけはあるのだ。

 

 ゼウスの雷霆を超える。トールの雷鎚を超える。雷撃というジャンルにおいてなら、まず間違いなく最強格。

 

 それこそが、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の雷撃限定特化型禁手(バランス・ブレイカー)超絶雷霆鎚(ケラウノス・ミョルニール)

 

 その一撃は神すら消し炭にする規格外。ゆえに―

 

「蜥蜴なんかに、負けたりしないんだから!!」

 

 ―なれてない今の段階ですら、天竜の全力をいなす程度のことはしてのけるのだ。

 

 そして、それをされてたまらないのは一誠の方だ。

 

 現段階で放つことができる、イッセー最大火力の技。

 

 チャージに数十日は必要になる、その絶大な反動と引き換えに、威力に関して言えば間違いなく最強レベル。

 

 その、圧倒的な火力が砕かれた。

 

 パワー馬鹿と称され、力の化身とまで思われ、事実力によって敵を打破してきた、グレモリー眷属の筆頭格。

 

 その自分の一撃が、いきなり現れた残念な女に砕かれる。

 

 思わず、プライド迄砕かれかけた。

 

 そして、それを一瞬でつなぎとめることができるからこその兵藤一誠。

 

 もともと歴代最弱と呼ばれていた。今でも、赤龍帝の籠手とドライグのサポートが無ければD×Dでも最弱レベルである。そして何より、ここに至るまで自分一人で強くなったことなどない。

 

 何人もの指導者がいた。何人もの支援者がいた。そして、自分の戦いをサポートしてくれる仲間たちがいたからこそ、自分はここにいる。

 

 故にへこたれてなどいられない。すぐに自尊心は立ち直り、目の前の敵に集中する。

 

 だが、それでも一瞬のスキが生まれていた。

 

「もらったわよ、ダーリンの仇!!」

 

 その一瞬で、ヤクサは一誠を間合いに取り込んでいた。

 

「くたばれ赤龍帝!!」

 

 そして雷霆鎚の攻撃を受け、イッセーは上空へと弾き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その壮絶な戦いを、駒王学園の生徒たちは目の当たりにしていた。

 

 コカビエルとジェームズの2人がリアスたちを翻弄し、ヤクサが一誠を追い込んでいく。

 

 その双方の戦いは、一般人の目に留まることなど一瞬一瞬でしかない。

 

 だが、それで十分だ。むしろ目にもとまらぬ戦闘が繰り広げられているということが、彼らの認識を改める十分すぎる理由となっていた。

 

 心の底から理解させられる。

 

 ……この戦いは、格闘技の世界大会などとは次元が違う。

 

 文字通り神魔の領域。その超絶の戦いを、一誠達は潜り抜けてきたのだということがよくわかる。

 

「か、会長! これ、俺たちも援護した方がいいんじゃないですか?」

 

「ダメです。まだ一人残っている以上、こちらも迂闊に動くわけにはいきません」

 

 匙が鎧を展開しながら動こうとするのを、ソーナが押しとどめる。

 

 そして、その元凶たる襲撃者の最後の一人は、両手に光の刃を展開して牽制しながら、しかしその戦闘を半ばあっけにとられるように見ていた。

 

「わたし、あんなふうになれるのかな……?」

 

 そんな言葉が出てくるほどの激戦に、誰もが息をのまれる。

 

 誰一人として迂闊な介入ができない、大激戦。

 

「兵藤達、こんな戦いを何度もしてきたっていうのかよ……?」

 

「うそでしょ? あいつ等、あんなに強かったの?」

 

 生徒たちを唖然とする中、戦闘の趨勢がわずかに傾き始める。

 

「そうだ、言っておくがエクスカリバーの欠片程度の真似事は、できるようになっているぞ?」

 

 その言葉と共に、騎士団を相手にしていたペトの背中から鮮血がほとばしる。

 

「っ!? いつの間に……!」

 

 とっさに距離を取るペトを追撃するのは、半ば透明化した騎士が一人。

 

 リアスたちが援護に出ようとするが、しかしそれをジェームズとコカビエルは妨害する。

 

 まず一人確実につぶす。そしてそれを繰り返せば、敵の戦力は減っていき、士気もまた下がっていく。

 

 戦術の基本を忠実に遂行し、コカビエルとジェームズはグレモリー眷属をつぶそうとする。

 

 流石にまずいとソーナたちも動こうとするが、しかし騎士団が牽制の動きを見せて接近を妨害する。

 

 そして、ペトは騎士団に包囲された。

 

「こ、これやばいっす……っ!」

 

 全方位に光力の槍をはなちながらペトはうめく。

 

 実際問題、ペトの戦闘技量はこれに単独で対応できるほど高くはない。

 

 彼女の能力は狙撃特化型だ。それ以外の土俵で勝負に持ち込まれれば、格下にすら押し負けるほど、狙撃ぐらいしかできない。

 

 オーフィスの力によって最上級クラスの出力を発揮できるようになっているペトだが、それでも狙撃戦以外で挑まれれば、上級クラスの戦闘能力しか発揮できない。

 

 端的に言って、詰みであった。

 

 それを詳しく理解することができない生徒たちも、しかしペトがまずいことだけは理解できる。

 

「おい、ペト先輩まずいぞ!?」

 

「ちょ、ペトちゃん逃げて!!」

 

 生徒たちが悲鳴を上げるが、しかしペトにもそんな余裕はない。

 

 それがわかっているのか、コカビエルは面白そうに唇をゆがめると、リアスを見下ろしながら嘲笑う。

 

「どうした? 情愛の深いグレモリーが、仲間を助けられないとは情けないぞ?」

 

「そこをどきなさい、コカビエル!!!」

 

 その挑発にキレたリアスが消滅の魔星をはなつが、コカビエルは魔聖剣を生成すると、それを両断する。

 

 同じことを、ヴァスコ・ストラーダもまた成し遂げた。レプリカのデュランダルで、老体のみで成し遂げた。

 

 そしてコカビエルは、第二次大戦期にストラーダと闘い、生き延びた猛者だ。

 

 その彼が、あのリムヴァン・フェニックスが持っていた複合禁手を手にしてこの戦いに参加している。

 

 断言しよう。今この場において、コカビエルは兵藤一誠とも単独で渡り合える規格外の化け物へと強化されて舞い戻ったのだ。

 

 そしてコカビエルは腕を振り上げながら、騎士団に意志を飛ばす。

 

「では、先ずは一人確実につぶすとしよう。―やれ」

 

 その手の動きに合わせ、魔聖剣の騎士団はいっせいに剣をペトに突き出し―

 




ヴィクターの新たな力、神器継承者。

自分が死んだ後にもヴィクターに勝算が残るようにと、リムヴァンが研究させていたものです。つくづくよけいなことをする男です。

ヤクサもヤクサで、上位神滅具を一点特化型パワータイプにしただけあって規格外。イッセーをパワーで押すという暴挙をなしとげました。

そして窮地に追い込まれたペト。果たして彼女の運命は!?


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第二部一章 15

 

 コカビエルが振り下ろす腕と共に、魔聖剣の騎士団は剣を突き出した。

 

 全てが光力対策を施した刺突型の長剣。もちろん全てが魔聖剣である。

 

 一振り一振りがペトを一撃で殺す事も可能な高性能の魔聖剣。それが、全方位から十数本もまとめて襲い掛かる。

 

 端的に言って、ペトではどうしようもない。

 

 リアス達も割って入る余裕などない。

 

 イッセーですら、ヤクサの相手で手一杯。

 

 端的に言って詰んだこの状況下。凌ぐ事は今のリアス達には不可能であり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―必然、それをなすのは新たなる参戦者に他ならない。

 

 一筋の、神すら殺す聖なるオーラが突破口を開き、そして全方位に放たれる雷撃が魔聖剣の騎士団を弾き飛ばす。

 

「何だと?」

 

「チッ! 時間を掛け過ぎたか」

 

「あ、新手!?」

 

 ヤクサ以外の三人がそれぞれ反応する中、割って入った少年は、ペトを庇う様に悪魔の翼を広げてその場に浮き―

 

「……ゲフゥ!? 無茶しすぎた……っ」

 

 ―勢いよく血を吐いた。

 

「ッスぅうううううう!?」

 

 その突然の出来事に、ペトが悲鳴を上げたのも仕方がない。

 

 そして、その隙をジェームズは逃さなかった。

 

「コカビエル、グレモリー眷属は任せるぞ。俺は新手を潰す」

 

 ジェームズは即座にイグドラヨルムの力で術式ミサイルを生成。それを一斉に放つ。

 

 よくは分からないが、どうやら新手は反動の大きな技を使ったらしい。その反動で隙が生まれている。

 

 そんなチャンスを見逃すほど、こちらも酔狂でもなければ余裕もない。遠慮せずに一気に叩き潰すのが吉だった。

 

 だがしかし、世の中そんな上手くはいかないもの。

 

 単独で来たわけでは断じてなかったりする。

 

「苦笑。気持ちは分かるが程々にしろ」

 

 その言葉と共に割って入るのは、時草福津。

 

 彼はその身を盾にすると、生体ミサイルを全弾受け止めた。

 

 そして発生する爆炎を切り裂き、ジェームズに突撃。

 

 遠慮なく、魔力で強化した拳を叩き込む。

 

 鍛錬を何度も積んでいる事が分かる、無駄のない拳。それはサイラオーグほどではないが、しかし上級悪魔にも通用する威力だろう。

 

 だがしかし、イグドラヨルムたるジェームズ・スミスには届かない。直撃ですらダメージは軽く、防御されては意味がない。

 

 そして、ジェームズはゼロ距離から流星滅装(メテオ・バスター・マックス)の銃口を突き付ける。

 

「ぬかせ、中級如きが!」

 

 そして、ゼロ距離から叩き込まれた砲撃が、頑健な福津の胴体に風穴を開け―

 

「失笑。対処できる自信もなしに突貫するか!」

 

 ―その風穴が、炎と共にあっという間に塞がる。

 

 そして、その銃身を福津は掴んで動かせないようにする。

 

 そう。福津の目的はジェームズを倒す事ではない。

 

 ジェームズの動きを一瞬でもいいから防ぐ事。それをなせる可能性が一番大きいからこそ、彼はこの場で突貫したのだ。

 

不死鳥の灯火(ランプライト・フェニックス)か」

 

「正解。俺はハヤルト様がヴィクターにいた時からの付き合いでな。神器移植はさせてもらったさ!」

 

 ジェームズに対する福津の返答に合わせるかのように、左右から挟み撃ちを敢行するのは二人の少女の姿をした悪魔。

 

「福津さんありがと!」

 

「こちらも動きます!」

 

 左右に魔力による丸鋸を展開したプリスと、ハルバードを聖別化させたシシーリアが挟み撃ちで攻撃を行う。

 

 ジェームズは流星滅装の具現化を解除して、それを回避。そして即座に術式ミサイルで反撃を行う。

 

 近距離からのこの数、三人がかりとは言え全弾防ぐ事は不可能に近い。単純に反応速度が足りないはず。

 

 だがしかし、その攻撃を前に前に出たのはプリス・イドアルただ一人。

 

 そして、プリスはミサイルが着弾する一瞬前に一呼吸して―

 

禁手化(バランス・ブレイク)! 相克雷電(デュアル・マクスウェル・ゼーベック)!!」

 

 その言葉共に、全ての生体ミサイルを氷の刃で迎撃する。

 

 数十発のミサイルを、一秒足らずで全弾弾き飛ばす。

 

 あり得ない。少なくとも、上級クラスの悪魔の反応速度では不可能だ。

 

 だがしかし、彼女はそれをなした。

 

 その種も、彼女自身がはっきりと言い切った。

 

「チッ! 禁手か!」

 

 仕組みは分からない。教えてくれるとも思えない。

 

 だが、プリス・イドアルがついに禁手に至ったというだけでも警戒レベルは跳ね上がる。

 

 もとより彼女は実力者だ。ゼファードル・グラシャラボラスの眷属で唯一、努力する才人ぞろいのサイラオーグ・バアル眷属と相打ちになった猛者。神器を魔力で歪める事で、あのヒロイ・カッシウス相手に禁手にもならずに渡り合った実力者。

 

 その彼女が禁手になった以上、彼女が強敵でないなどという事はあり得ない。

 

 そして、その迎撃の直後に、今度はシシーリア・ディアラクが突貫する。

 

 それに対して、ジェームズは流星滅装を再具現化させて対応。同時に継承した黄昏の聖槍を展開する。

 

 ジェームズは、継承時に黄昏の聖槍を亜種として具現化した。

 

 その能力は、単純明快。手に持つ武器を黄昏の聖槍と化すというただ一点。

 

 だがしかし、流星破装に慣れ親しんでいるジェームズからすれば、これほど便利な亜種の形もない。

 

 それに対してシシーリアはハルバードを手放し、無手で突貫する。

 

 それを無策とは判断せず、ジェームズは流星滅装の出力を全開にして対応。即座に叩き潰すべく、挑む。

 

 現段階では火力はこちらが圧倒している。それを最大限に生かすのが得策だと判断した。

 

 しかし、シシーリアもまた、目を見開いて声を放つ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)! 聖女の共振する祝福(ホーリーライト・シンクロニティ)!!」

 

 その言葉と共に、黄昏の聖槍が具現化してジェームズの攻撃をいなす。

 

「……なんだと!?」

 

 眼を見開いたジェームズを挟み撃ちする為に、福津とプリスがすれ違いざまに攻撃を叩き込む。

 

 それを滑り込むように回避するジェームズだが、しかしその隙にシシーリアもまたジェームズをすり抜けて突撃。

 

 気づけば、三人はグレモリー眷属と合流してしまっていた。

 

「なるほど。まずは合流して対抗するということか」

 

「その学び舎の安全を最重要視したというわけか。日本の公務員は大変だな」

 

 流星滅装を軽く回して感心するジェームズに、魔聖剣を構えながら軽く笑うコカビエル。

 

 二人の視線を真っ向から受け止めながら、福津は肩をすくめるとリアスに視線を向ける。

 

「提言。有象無象はこちらとシトリー眷属で引き受けますので、リアス様達はコカビエルの相手に集中なさってください」

 

「それは良いけど、ジェームズの方はどうするの?」

 

 リアスとしてはありがたいが、しかしそれでも厄介だ。

 

 何故か悪魔の少女は見学に終始しているからいいが、ジェームズは普通に戦闘を行うつもりである。

 

 シトリー眷属を単独で壊滅寸前にまで追い込んだその実力は、まさしく脅威。更に神滅具を継承して更に厄介な事になっている。はっきり言ってコカビエルに並ぶ脅威だ。

 

 だがしかし、福津達は自慢げに笑みを浮かべると、まっすぐそのジェームズの後ろを見据える。

 

「大丈夫です。彼ならいけますよ」

 

「そうだね。あの子はこういう時強いから」

 

「確信。撃破ではなく撃退だったら、アイツだけで増援が来るまでしのげるさ」

 

 三者三葉に確信を覚えながら、三人は一人の同僚を見据える。

 

 そして、それに答えるように、サラト・アスモダイは血をぬぐうと拳を構えた。

 

「……アンタの相手は、僕がするよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追撃の雷撃を叩き込まれそうになったイッセーは、しかし横から掻っ攫われる様に引っ張られると、その攻撃から外れていく。

 

「あ、危なかったぁ……」

 

『まったくだな。あの直撃は紅の鎧でも危険だったぞ』

 

 ドライグと共に、一誠は冷や汗をかく。

 

 そして、誰か分からない恩人に礼を言うついでに顔を確認しようとして―

 

「げほぉぅ」

 

 ―その恩人たるハヤルト・アスモデウスの吐いた血を、顔面から被る羽目になった。

 

「うわぁああああ!?」

 

「す、すまぬ。ちょっとGを体にかけすぎたようだ」

 

 思わず絶叫を上げるイッセーに、ハヤルトは謝罪する。

 

 顔色は悪くないが、しかしコップ一杯分ぐらいは血を吐いている。普通に緊急事態だ。

 

 まさか攻撃を受けたのではないかと、イッセーは心配する。

 

 その視線の意味を悟ったハヤルトは、しかし首を横に振った。

 

「安心せよ。余は虚弱体質でな、上位異形クラスの動きに匹敵するGがかかると、いつもこれぐらいは吐くのだ」

 

「アンタなんで前線出てきたの!?」

 

 イッセーのツッコミは当然であった。

 

 そんな虚弱体質が、前線に出て来て何をするというのか。一言無謀である。

 

 というより、戦えるのかどうかが甚だ疑問だった。

 

 だがしかし、ハヤルトは胸を張る。

 

「安心せよ、我が乗騎であるこの人工神器、鉄蠍の騎兵(スコルピオ・チャリオット)があれば、並の上級悪魔よりは戦える」

 

 そう言いながら、ハヤルトは得意げな表情となる。

 

「なにより、余は本質的に技術開発系のウィザードタイプ。直接戦闘よりサポートの方が得意なのだ。……追い返すぞ、イッセー」

 

 そういうと同時、ハヤルトはスピーカーらしきものをONにすると、声を出す。

 

「サラト! 増援が来る前に見せつけるぞ! この駒王町を守護する駒王駐屯地に、我らアスモデウス眷属ありとな!!」

 

『了解義兄さん! 鬼手(カウンター・バランス)を使おうか!!』

 

 その返答に頷きながら、ハヤルトは一誠に振り返る。

 

「ではイッセー。反撃を行うが、主力はお主だ。余ではあれには勝てん」

 

「当然でしょうが! ダーリンの仇!!」

 

 既にヤクサも追いつきかけているが、しかしそれをハヤルトは気にしない。

 

 そして、イッセーに顔を向けるとにやりと笑った。

 

「イッセー。鬼手(カウンター・バランス)とは人工神器の禁手の正式名称だ。余がアザゼル技術顧問の研究を発展させて、つい先日完成させた」

 

 とんでもない事実をさらりと告げてくる魔王末裔だが、しかしイッセーはとりあえずそこはスルーする。

 

 そんな時間的余裕がない。なので、ここは重要なところを聞くべきだと判断した。

 

「そして、余の鉄蠍の騎兵の鬼手の能力は―」

 

 ―その説明を聞いて、一誠は勝ちの目が見えた事を理解した。

 




 この作品ではE×Eの連中の襲撃がまだないので、ハヤルトが鬼手の理論を完成させた設定にしております。

 直接登場前から「ある意味チート」と説明していたハヤルトですが、其の本質は研究者。「最強のものを用意できるのなら、自分が最強である必要はない」を地でいくというか、虚弱体質ゆえにそうするしかないというか……。タイマンで戦えば若手四王の王四人にすら負けるレベルですが、技術力による後方支援では、化け物レベル。アザゼルとアジュカをたして1,5ぐらいで割った感じです。

 そしてハヤルトの眷属たちは全員強いです。いまだ底を見せない福津。禁手に目覚めたプリス。そしてある反則手段で聖槍を使ったシシーリア。

 そんな中、吐血したサラトですが、これはちゃんとした手順を踏まずに全力を出したため。彼は彼でいろいろと面倒な難儀な体質なのです。

 次回、サラトとハヤルトの鬼手による、コカビエル達への反撃タイムが始まります。


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第二部一章 16 神滅の守護者

第二部一章もクライマックスに差し掛かってまいりました。

さあ、新主人公のその力が明らかになります!!


 

「「鬼手化(バランス・アジャスト)!!」」

 

 その言葉と共に、彼らは本格的に第一次世界大戦にはせ参じる。

 

 魔王末裔、ハヤルト・アスモデウス。

 

 そして、その眷属筆頭戦力、サラト・アスモダイ。

 

 この二人を中心とし、のちのアザゼル杯において魔極の蠍チームの中核となる、ハヤルト・アスモデウス眷属。

 

 その華々しい真なるデビュー戦が、今ここで行われる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目覚めよ、蠍の魔王が与えし加護(スコルピオ・チャリオット・プロモーション)!!」

 

 その言葉と共に変化するのは、ハヤルト・アスモデウスにあらず。

 

 変化したのは、同乗する兵藤一誠。

 

 その全身を禍々しいオーラが包み、そして鎧が変色する。

 

 有機的な外見の、黒と赤が混ざる鎧。

 

 その姿を見て、ヤクサが目を見開いた。

 

「あれは!? 噂のD×D(ディアボロス・ドラゴン)(ゴッド)!? 代償でかいんじゃなかったの!?」

 

 驚愕するのは当然だろう。

 

 通称龍神化は、あまりに大きな反動故に、使用しない事を前提にせざるを得ない。

 

 一回目の使用では多臓器不全を引き起こし、そこから持ち直した後も後遺症が残った。

 

 二回目の仕様では血を吐いて倒れ、十本以上の聖槍の加護や、オーフィスの力添えがあって何とか回復したのだ。

 

 それをここで使用するなど、自殺行為。

 

 だがしかし、発動させたイッセーはぽかんとしていた。

 

「あれ? 負担が……ない?」

 

 どういう事かと混乱する一斉に、ドライグとハヤルトが告げる。

 

『いや、これは似て異なる形態だ。龍神化したのではなく、今の俺達が疑似的に同等の状態に移行したというべきか?』

 

「うむ! この鬼手(カウンター・バランス)は、同乗する神器保有者を疑似的に業魔化(カオス・ブレイク)させるのだ! イッセーの場合は活性化による疑似龍神化といったところか!」

 

 その言葉に、一誠もヤクサも目を見開く。

 

 確かに、言われてみればできるのだ。

 

 英雄派が開発に成功した、神器のドーピング剤である業魔人(カオス・ドライブ)

 

 その原材料は旧魔王血族の血液。

 

 そして、ハヤルト・アスモデウスは正真正銘初代アスモデウスの血を継いだ血族。

 

 その血族が使用する人工神器の究極系として、これは確かに納得できる能力だった。

 

 そして、それをお互いが理解して―

 

「だからってぇ!!」

 

「いよっしゃぁ!!」

 

 二人は同時に激突する。

 

 莫大なオーラと雷撃がぶつかり合い、空を包み込む。

 

 しかし、その激突は一誠が押され気味ではあったが、ほぼ拮抗していた。

 

「この! 流石はダーリンを倒しただけの事はあるわね!!」

 

「まあな! 偽物野郎に負ける気はないって!!」

 

 真っ向勝負ができている事に、イッセーは笑みを浮かべる。

 

 そして、至近距離からの雷撃をオーラで受け止めることができたことで、イッセーは勝機を見出した。

 

 そして幸いな事に、取っ組み合いになった事で一誠はヤクサに触れる事に成功している。

 

 この好機、逃がすわけには、行かないな。

 

 思わず川柳を作りながら、一誠は吠えた。

 

「行くぜ必殺! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 そして、そのオーラの奔流がヤクサの衣服を細切れに引き裂いた。

 

 あらわになる美しき裸体。

 

 ユーグリッドが高評価しただけの事はあり、グレイフィアに近く、しかし僅かに違うプロモーション。

 

 断言しよう。芸術品だった。

 

「ありがとうございま―」

 

「みぎゃぁあああああああああ!?」

 

 その直後、全力の悲鳴と共に振るわれた超絶雷霆鎚(ケラウノス・ミョルニール)の直撃をもらい、イッセーは失神した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神殺の双腕(ノウブル・ボート)鬼手(カウンター・バランス)神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)、起動!」

 

 サラトの身に纏われるのは、機械的な印象を持ちながらも、騎士を思わせる青い鎧。

 

 右腕には巨大なフィンが展開され、左腕には指を伸ばした手を思わせる楯が装着されている。

 

 ペト・レスィーヴを守るかのように空に浮かぶサラトを見て、ジェームズは警戒の度合いを高める。

 

 断言しよう。目の前の敵は強大だ。

 

 ハヤルト・アスモデウスはヴィクターでもそれなりの知名度を持っていた。

 

 年齢的にはクルゼレイと同年代でありながら、眠りの病に発症して、目覚めたのはリムヴァンが複合禁手で治療を行ってからの為、事実上十代後半程度。

 

 虚弱体質ゆえに魔王クラスの戦闘能力を発揮する事はあり得ないとされ、実際家系の魔力体質を発現する事も出来なかった事から、クルゼレイからは見放されている。

 

 だがしかし、彼は腐らず己を目覚めさせた。

 

 ハヤルト・アスモデウスは技術屋として優れた才能を持っていたのだ。

 

 独自のアプローチで神器継承者の実験にも協力を行い、複合禁手や神器移植に関しても非常に有効となる論文を作った事もある。そういう意味ではヴィクターにとっても貢献している。

 

 しかし元の性格がヴィクターと相容れなかったのか、結局は亡命すらして現政権に逃げ込んだ。

 

 おそらくは戦術歩行機である防人一式も彼が関わっているだろう。かろうじて回収に成功した残骸を見た技術者がそう言っていたと聞く。なんでも「技術者としてのクセが、彼と似通っている」とか言っていた。

 

 そのハヤルトが、亡命時に誘いをかけて連れ込んだ、サラト・アスモダイ。

 

 彼の厄介な特性を知っているからこそ、ジェームズは警戒度を高めるしかない。

 

「速攻で仕掛ける。発動して見せろ」

 

 言うが早いか、ジェームズは聖槍化させた流星滅装で攻撃を仕掛ける。

 

 普通にあてればほぼ確実に勝てる。それぐらいに桁違いの威力である。

 

 ゆえに、対抗するのならサラトはジェームズの想像通りの方法を取るしかない。

 

 そいて、サラトはそうした。

 

 即座に右腕を突き出すと、それと同時に右腕のフィンからオーラが放出される。

 

 それらは右手の平に収束する。そして、オーラで構成されたシンプルな槍を形成した。

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、展開!」

 

 いきなり想定外だった。

 

 まさかこれが来るとは思っていなかった。いや、理論上はあるとは言われていたが、しかし本当になる可能性など砂漠の中にある砂金一粒程度だろう。

 

 それが、よりにもよって敵であるサラト・アスモダイだとは―

 

「ついてなさすぎだろ、ヴィクターは!」

 

「だろうね!」

 

 聖槍同士がぶつかり合い、衝撃波を放つ。

 

 むろん、有利なのはジェームズの方だ。

 

 聖槍同士の出力なら互角。加えて、単純火力なら神滅具にも匹敵する、流星滅装に上乗せしている。更にイグドラヨルムの性能があるのだ。

 

 だが、それはあくまで今までの話。

 

 ジェームズは知っている。目の前の男は、自分達の試作型にして先輩だと。

 

 そう、それゆえに、持っているのだ。

 

煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)、展開!!」

 

 その言葉と同時に、左腕のシールドが展開する。

 

 先端部が五つに分かれ、巨大な手となった。

 

 そして、その手が莫大な雷撃を放つ。

 

「まさか、煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の移植と黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の継承が、たった一人に収束するとはな!!」

 

 勢いよく弾き飛ばされながら、ジェームズは舌打ちをする。

 

 サラト・アスモダイ。神器移植で煌天雷獄を移植した物であり、本来ならば天君の一人となるはずだったもの。

 

 それと同時に神器継承者実験も行うなど、強気の姿勢が災いして、記憶喪失になった存在。

 

 神器継承者は継承可能になったとしても、必ず神器が継承できるわけではない。ゆえに神器を保有する者が死亡するのを待つ必要もある。本来の目的はリムヴァンが不慮の事態で死亡した場合における、戦力低下を下げる為の賭けじみた実験だった。

 

 それが、よりにもよって下地作りの為の試作型に、所有者が全員死亡したはずの聖槍が与えられる事になるとは―

 

「まったくもって、ついてない!!」

 

「だろうね!!」

 

 放たれる雷撃を、ジェームズは因果律を操る事で強制的に的外れな方向に飛ばす。

 

 だが、いかに神滅具とは言え相手も神滅具。

 

 究極の羯磨といえど、上位神滅具を相手に干渉できるレベルはそこまで高いわけではなく、黄昏の聖槍はほぼ完全に攻撃が通る。

 

 それを威力及び強化されている身体能力でしのぎ切るが、しかし状況は悪くなる。

 

 理由は極めて単純明快。

 

 青い機械鎧を纏ったサラトの身体能力は、明らかにイグドラヨルムを凌いでいた。

 

「……どういう仕組みだ!」

 

「言う気はないよ!!」

 

 その言葉と共にお互いの薙ぎ払いが交錯し―

 

「「……チィ!」」

 

 双方ともに、外装に大きな裂傷を刻み込んだ。

 

 とは言え、武器の威力差から傷が深いのはサラトの方ではある。

 

 加えて悪魔であるサラトは、聖槍のダメージがさらに倍増する。

 

 その辺りを考えれば、まともに戦えばこちらが有利なのだが―

 

(……なにか、嫌な予感がする)

 

 そう、嫌な予感をジェームズは覚えていた。

 

 単純明快に言おう。これは、あれだ。アガレスと戦った時に感じたあれに近い。

 

 戦闘中に馬鹿をやらかしたアガレスの娘。あれに近いことが起ころうとしている。

 

 そして、実際に起こった。

 




黄昏の聖槍と煌天雷獄の合わせ技。それをなした神器移植者にして神器継承者。

サラト・アスモダイの戦闘能力は、ヒロイとリセスのあとの主人公ということでこうなりました。とはいえ、これだけのチートをノンリスクでどうにかできるほど、世の中は甘くないのですが、それはまた後程。ただ、そのための人工神器である神殺の双腕だといっておきます。


そして、神器を業魔化させるハヤルト・アスモデウス。業魔化は12巻でしか見れなかったのが残念なので、これでどんどん出していこうと思います。それぐらいいる敵ですし。


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第二部一章 17 ヒーローでも、先駆者でも、閃光でもなく

サラト・アスモダイの本格戦闘も勃発。

そして、本章のクライマックスが本格的にスタートします!!








英雄たちの物語である、ロンギヌス・イレギュラーズ。

その新たなる根幹である、サラト・アスモダイがなる英雄とは―


 

「ペトさん! ペト・レスィーヴさん!!」

 

 サラトは、聖槍で相手を迎撃しながら声を張り上げる。

 

 届け。届いて。届いてください。

 

 などと心の中で思いながら、後ろのペトへと声を張り上げる。

 

「な、なんすか!?」

 

 ペトが返事をしてくれたので、サラトははっきりと言う。

 

「はっきり言います。僕はヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルが大嫌いになりました!!」

 

「それ今言う事っすか!?」

 

 本当に今言う事ではない。

 

 だが、前提として知っていてもらわなければ困るのである。

 

 そして、サラトは続ける。

 

「だってそうでしょう!? あなたという大事な人を放り投げてまで、自分の矜持を守るような人、嫌いな人は何処までも嫌いになりますよ!!」

 

 それがサラトの本心だ。

 

 英雄であろうとするあまり、あの二人はペトを切り捨てた。

 

「よく知らない僕が言う事じゃないけど、よく知らないからこそそうとしか思えない!!」

 

 振るわれる流星滅装を受け止めながら、サラトはそう吠える。

 

 それほどまでに、サラトはヒロイとリセスに対して怒っていた。

 

「ま、まあ、万人受けはしねえよなぁ」

 

「確かにペトちゃん可哀想だけど……」

 

「でも、ちょっと言いすぎじゃね?」

 

「外野うるさいな!」

 

 緊張感が欠けた相談事を始める駒王学園生徒(外野)にツッコミを入れながら、ジェームズは反撃を試みる。

 

 その攻撃で少しずつ鎧を損傷させながら、サラトとはしかし言葉を続ける。

 

 何故なら、今から言う事は、目の前のジェームズより重要な事なのだから。

 

「それぐらいに嫌いになったよ! だって、好きな人捨てた奴らとか、普通嫌いになるし!!」

 

「………へ?」

 

 その言葉に、ペトが固まった。

 

 戦闘をしている者達も、一瞬固まる。

 

 駒王学園で事態を見守っている生徒達も、しっかりと固まる。

 

 そしてその隙をついて、サラトははっきりと思いを告げた。

 

「一目ぼれしました、ペト・レスィーヴさん! 友達になってください!!」

 

『『『『『『『『『『……ぇえええええええええええっ!?』』』』』』』』』』』

 

 絶叫の合唱が発生したのも、無理はない。

 

 そしてそれに気づかず、ペトは顔を真っ赤にしておろおろとなった。

 

 想定外である。想定外極まりない。

 

 リセス・イドアルを敬愛しているペトは、ある意味でそういう事に疎かった。

 

 リセスが存命なら「リセスに夢中」という事実で完全に対応できたのだろうが、しかしこのタイミングは不意打ちだった。

 

「……いや、お友達から!? 結婚を前提にじゃなくてっすか!?」

 

「……外見見ただけで結婚してくれとか、相手を真剣に見てない証拠だよ。まずはしっかりお互いを知っていかないと」

 

「戦闘中だぞ!?」

 

 ジェームズがツッコミを入れながら、会話を断ち切って攻撃を叩き込む。

 

 嫌な予感が当たった事で、ジェームズは軽く頭痛を感じていた。

 

 アガレスのロボット攻勢ほどではないが、戦闘中の告白など空気が読めていない。

 

 しかし、サラトはそれを捌きながら、意識をしっかりとペトの方に向けていた。

 

「リセス・イドアルとヒロイ・カッシウスに怒ってるのが嫌なら、2人の良いところも教えて! それに、ペトさんの良いところをもっと知りたい!!」

 

「ぺ、ぺ、ペトは淫乱っすよ!? 今更ビッチをやめる気はないっすよ!?」

 

「が、頑張ります!!」

 

「ぺ、ペトと付き合うなら、毎日職場帰りに若い子ひっかけてしっぽりやって、帰ってから晩御飯の会話のネタにお互いのSEX経験を話し合うぐらいじゃないとダメっすよ!?」

 

「……………頑張ります」

 

「あ、流石に言いすぎたッス。たまにスワッピング〇レイや乱交に付き合う程度でいいっす」

 

「……そ、それぐらい……なら?」

 

「感覚がマヒしてるぞ!?」

 

 ジェームズはつい親切心でそう忠告した。

 

「そ、そうかな?」

 

 サラトも納得しかけて、しかしすぐに首を横に振る。

 

「いや! 相手の趣味にある程度合わせるぐらいできなくてなにが愛だ!!」

 

「カッコいい事言ってる!」

 

「でも流れ的にあれじゃね?」

 

「「外野うるさい!!」」

 

 思わずサラトとジェームズは共に怒鳴り、そして攻撃が共に当たる。

 

 それで距離を取られながらも、サラトは首を振って意識を立て直しながら、戦闘を継続する。

 

「ペトさん! 僕は、ヒロイとリセス(あの二人)のようにはならない!!」

 

 ジェームズの攻撃を凌ぎながら、サラトはそう言う。

 

 ジェームズは強敵だ。こと攻撃力では向こうが上である以上、その強大さはものの見事に難敵である。

 

 現段階ではお互いに攻撃が掠める程度だが、威力の差故に押されているのはサラトの方だ。

 

 そんな中、サラトは攻撃を凌ぎながら言葉を続ける。

 

「一瞬でも輝ければ、あとは死んでも構わないなんて言う英雄(閃光)になんてなりたくない!」

 

 そう吠えながら、しかし続ける。

 

「なるのなら、僕が英雄になるのなら―」

 

 そう、サラト・アスモダイが英雄と称されるようになるのなら。

 

「不特定多数の為の英雄(ヒーロー)じゃなく」

 

 兵藤一誠のような在り方には、なろうと思ってなれるものではない。

 

「矜持の為の英雄(閃光)でもなく」

 

 ヒロイ・カッシウスのようには生きたくない。リセス・イドアルのようにもなりたくない。

 

 そう、サラト・アスモダイが英雄になるとするのなら。

 

「君をずっと慈しめる、太陽のような英雄(陽光)になりたいんだ!!」

 

 それは、まさしく陽光(サンライト)

 

 愛する誰かかを慈しみ、そして照らし続ける事を目標とする、日の光のような英雄でありたい。

 

 それが、サラトの決意表明だった。

 

 その言葉に、ペトはあわあわしながらも考える。

 

 ……可愛い少年である。魔王血族の眷属悪魔と、待遇もいい。既に中級悪魔なうえ、神滅具二つ持ちである以上、上級悪魔に出世する可能性は莫大だ。

 

 そして何より、その告白の言葉は強かった。

 

 ……閃光ではなく、陽光。

 

 一瞬でも強く輝いて残すのではなく、照らし続けたいという決意。

 

 できるかどうかは分からない。

 

 だが、そうでありたいと願ってくれている。

 

 一瞬でもいいから強く輝きたいという願い故に、リセスとヒロイは死んだ。

 

 彼はそうではない。好きになった人の為に、ずっと寄り添えるような存在になりたいという願いがある。

 

 この少年は、少なくともペト・レスィーヴを置いて死ぬという選択肢を取りたがらないだろう。

 

 それは、とても甘美だった。

 

 とは言え、付き合いもろくにない。

 

 だがしかし、確かにこれは強烈だ。

 

 ペトは一瞬だが真剣に考えこんで―

 

「せ、セック〇フレンドからならOKっす!」

 

『『『『『『『『『『そういう返答!?』』』』』』』』』』

 

 流石の淫乱脳に、ほぼ全員がツッコミを入れた。

 

「………頑張ります!!」

 

『『『『『『『『『『それでいいんだ!?』』』』』』』』』』

 

 ただし、相手側も結構あれな人物だった。

 

「疑念。本当に大丈夫なのか?」

 

「ご安心ください。この駄娘よりは立派な人物です」

 

「まあ、リセスちゃんの妹分だし……ね?」

 

 同僚がそんな会話をしている。

 

「ふむ。癖はあるが立派な御仁だと聞いておる。……余の義弟を頼んだぞ、ペト嬢!!」

 

 そして、一誠を抱えながらハヤルトはそう言って声を張り上げた。

 

「……ハッ! なんか今、凄い事を聞き逃したような気がする!!」

 

 そして意識を取り戻したイッセーが顔を上げ―

 

「覚悟しやがれこの野郎がぁああああああ!!!」

 

 速攻で超絶雷霆鎚を振り回しながらヤクサが襲い掛かってきて離脱する羽目になる。

 

「……チッ! 思った以上に強敵のようだな」

 

 そしてコカビエルと、展開が動き始めた事に舌打ちし、そして即座に防壁を展開する。

 

 そこに、リアスの必殺技である消滅の魔星が叩き込まれる。

 

 そこから離脱するコカビエルだが、そこに一斉に攻撃が叩き込まれ、軽くではあるが、明確なダメージを負う。

 

「ガキどもが……! たかが半年そこらで此処迄腕を上げるとはな!!」

 

 そう吠えるその瞬間、シシーリアとプリスがコカビエルを左右から挟撃する。

 

「もらいました!」

 

「いただくよ!!」

 

 どのような理論が具現化された聖槍。

 

 その聖槍とすら撃ち合った、熱衝撃による丸鋸。

 

 直撃させれば最上級クラスにすら届く攻撃が、コカビエルに襲い掛かり―

 

「さ、させないから!!」

 

 ―そこに、最後の一人がついに戦闘に参加する。

 




強くても一瞬で消えてしまうかもしれない閃光ではない。前に進めたのなら、死んでも構わない先駆者でもない。

サラト・アスモダイが鳴るべきなのは、恋という感情を教えてくれた彼女の未来を照らし続ける、陽光である。








と、いうわけでサラト・アスモダイ、告白しました。

一目ぼれというある意味安直な理由ですが、だからこそストーリーの展開で速攻で示すことができるという物。此処からいろいろと知っていけばいいのです。







因みにサラトとはサンライトの略です。まんま彼の目指す英雄の形を示しています。


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第二部一章 18

そんなこんなで、主人公の告白も終了。

此処からはほとんど事後処理だったりします。


 振るわれるのは、光の剣。

 

 それがコカビエルを狙う聖槍を受け止めると同時に、プリスに向かって大量の魔力砲撃が放たれる。

 

 一発一発の威力が、並の上級悪魔の全力に届く。そして、その数は二桁にも及ぶ。

 

 最上級悪魔クラスでなければ出せぬ領域の攻撃を、その少女は成し遂げて見せた。

 

 それを回避しきったプリスもまた、非常に優れた戦闘能力を持っているだろう。

 

 性能(ステータス)で言うならば上級悪魔の領域に到達しているだけだろう。プリス・イドアルという少女は、そこまで卓越した悪魔としての身体能力を保有していない。

 

 だが、技量(テクニック)で言うならば、彼女は最上級とも戦える。それだけの戦闘勘を保有しているのが、プリス・イドアル。上級の血統を多く保有する、サイラオーグ・バアル眷属とまともに渡り合ったのは伊達ではない。

 

 瞬間的に蜃気楼を生み出して狙いをそらさせながら、素早く安全圏へと退避。一呼吸で乱れた心を落ち着けながら、再びの戦闘態勢を取り直す。

 

 そして攻撃を防がれたシシーリアも素早く下がり、聖槍を構え直す。

 

「そういえばもう一人いたね!」

 

「……上級悪魔の血統ですか」

 

 警戒しながら仕掛けるタイミングを計るプリスとシシーリアに、その少女は息を呑んだ。

 

「ま、負けませんからね!!」

 

 そう言いながら魔力を展開しつつ光の剣を構える少女だが、その動きは何処かぎこちない。

 

 どうやら、戦闘経験はあまり高くないようだ。

 

 しいて言うならプリスの逆。技量は低いが性能で補っているタイプだろう。加えて経験も少ない新米だと思われる。精神面でも未熟である事が分かってしまう。

 

 しかし、裏を返せば経験を積めば化ける可能性がある。それほどの脅威でもあった。

 

 ましてやコカビエル達と共に現れた時点で、その素質はただものではない。

 

 神滅具か複合禁手、そのどちらかを保有している可能性は非常に大きかった。

 

「先制。さっさとここは潰しておくか!!」

 

「「了解!」」

 

 状況を把握した福津が突貫、彼を盾にするようにシシーリアとプリスが並んで突貫する。

 

 戦術的には若干不都合だが、しかし彼らの戦闘スタイルを考慮すればこれが最も好都合だ。

 

 桁違いに頑健で更に桁を一つ上乗せできるだけ死ににくい福津を盾にして、攻撃力でしのぐメンバーが接近する。

 

 ずば抜けた耐久力を持っている福津というチームメンバーを利用するからこそできる戦法だ。

 

「な、なな舐めないでください!!」

 

 そして、少女は戦い方を誤る。

 

 回り込むのでも、包囲するのでもなく、正面から不屈に攻撃を集中させるという、最悪の選択しをとっさに取ってしまった。

 

 あらゆる勝負ごとにおいて、人道を完全に無視したうえでの最適な選択とは「相手がしてほしくない事をする」事である。

 

 真逆である「相手が最もしてほしい展開」を取った時点で、少女の敗北は決定的で―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着け、こういう時は自分が移動するのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―それをどうにかするのは、新たなる参入者に他ならない。

 

 あらゆる属性を持った曲射砲撃が、三人を包み込むように発射される。

 

 それに全員が勘付き迎撃を行うが、砲撃は止まらない。

 

 あらゆる迎撃手段を、それに最も相性のいい属性となる事で打ち砕きつつ、その砲撃は八割が襲い掛かる。

 

「させません!」

 

 その瞬間、アーシアが禁手を発動させなければ無効化する事はできなかっただろう。

 

 絶大なる回復の力による、あらゆる攻撃も事実上の無効化。それこそが、アーシア・アルジェントが至らせた聖母の微笑(トワイライトヒーリング)の亜種禁手、聖龍姫が抱く慈愛の園(トワイライト・セイント・アフェクション)

 

 神器無効化能力(セイクリッド・ギア・キャンセラー)を持つリゼヴィムの攻撃すら防ぎ切った、絶大な防御の力がその砲撃を完全に無効化する。

 

 そして、その光景を見た新たなる乱入者は、ため息をついた。

 

「たかが転生悪魔一人の防御も突破できないか。是ではオリュンポスを滅ぼせるのは何時になる事やら」

 

 そうぼやくのは、人間の青年を思わせる、一人の男性。

 

 だがしかし、全身から神々のオーラを立ち上らせる其の在り方は、間違いなく強者の一人だろう。

 

「……ここに来て、神格ですって!?」

 

 リアスが警戒するのも無理はない。

 

 その男が纏うオーラは、主神クラスにも匹敵する。

 

 その上、彼が放った砲撃の正体は複合禁手だ。

 

 万象の殲滅砲兵(バスター・オブ・マテリアル)。遍く属性を網羅し、砲撃そのものが触れた物体を最も効率よく破壊する属性へと変化する、万物殺しの砲撃型複合禁手。

 

 大多数の神々を相手に渡り合った、リムヴァン・フェニックスの戦闘特化型複合禁手。

 

 それすらも継承されているという事実。そして、それを継承した者が神だという緊急事態に、リアスは歯噛みする。

 

 しかし、それに対して最も不快感を見せたのは、その青年そのものだった。

 

「神の側面がある、確かにそれは否定しない」

 

 そう前置きをする青年は、しかし明らかにそれに対して不満をあらわにする。

 

 半ば殺意にすら届いたその嫌悪。それだけで、彼が神々というものを嫌っている事が分かる。

 

「だが、私を神と呼ぶな。私はアルケイデスの盟主にして、神器継承者部隊「滅継者」のリーダー、ユーヒティールだ」

 

 そう言い放った青年は、少女を庇うようにしながら、コカビエルとジェームズに視線を向ける。

 

「そろそろ潮時だ。……帰るぞ」

 

「ふむ、まあいい戦いができたからな、いいだろう」

 

「了解した。次は禁手になってからだな」

 

 そう言う二人の返答を聞いてから、ユーヒティールは鋭い視線をヤクサに向ける。

 

 そして、ヤクサはその視線にビクリと肩を震わせる。

 

 明らかに、それは苦手にしている人物に怯える者のそれだった。

 

 あの兵藤一誠すら圧倒したヤクサ・ライトアボイト。煌天雷獄を移植した、天君が一角は伊達ではない。

 

 その彼女が、明かに苦手意識を抱いている。

 

 それだけでも、ユーヒティールがただものではないという証明だった。

 

「我儘は終わりだ。これ以上暴走するなら極刑もあると思え。……帰るぞ」

 

「わ、分かった! 分かりました!! だから許してほしいんだけど!?」

 

 明かに狼狽するヤクサにため息を突きながら、ユーヒティールは視線をかばう少女に向ける。

 

「まあ、空気は感じたようで何より。とっさに動けたのも評価しよう。……あとは手札の取捨選択を鍛えるといい」

 

「は、はい! 不肖セニカ・ベ―」

 

「不用意に情報を敵にしゃべるな」

 

 名前を言いかけたセニカという少女に、ユーヒティールのため息交じりの叱責が飛ぶ。

 

 そして、その言葉と共に霧がヴィクターの者達を包み込む。

 

 その正体を、リアス達は嫌というほど知っている。

 

 上位神滅具が一角、絶霧(ディメンション・ロスト)。神の攻撃すら防ぐ事ができる結界系神器の最高峰にして、神々すら強制的に転移させる事も理論上可能な、最強の転移能力の一角。

 

 その絶無すら継承した者がいるという事実の証明に、リアスは歯噛みする。

 

「……覚えておくわ。ヴィクター経済連合は、リムヴァン・フェニックス亡き今も、私達ピースキング和平連盟の大敵だとね……!」

 

「ああ、よく覚えておくといい」

 

 それに対して強気の姿勢を見せながら、ユーヒティールは告げる。

 

「我らヴィクター経済連合。いまだその戦力は貴様らの仇敵に相応しいとな。油断をすれば寝首を掻かれると知るがいい」

 

 その言葉と共に、五人は全員が霧に包まれる。

 

 そして、その霧が消え去ると五人の姿は見えなくなっていた。

 

 状況的に考えれば、逃げたと考えるべきだろう。

 

 実際問題、この駒王町は駐屯地がすぐ近くにある日本の軍事的な要所の一つだ。

 

 そして、駒王駐屯地は日本の対異形の最重要拠点。おそらく日本の軍事的施設でも最精鋭だ。

 

 そんな施設の目と鼻の先で暴れるなど、基本的には正気の沙汰ではない。それは事実だ。

 

 だが、それをなしえるだけの力が彼らにはあった。

 

 煌天雷獄を移植した、天君。そして、リムヴァン・フェニックスの力を継承した滅継者。

 

 問答無用で強力無比。更に、滅継者のメンバーには、歴戦の実力者すら存在する。初見であった者達も、十分な素質を持った者揃いだ。

 

 断言できる。この戦いは、あくまでガス抜き代わりの様子見だ。

 

 我慢の限界に達したヤクサのストレスをある程度発散させ、そのついでに現段階のグレモリー眷属の実力を測りに来た。そんな程度なのだろう。

 

 その程度でにすら精鋭中の精鋭を投入する事に呆れるべきか、それともそれだけの実力があると判断されている事を誇ればいいか。

 

 リアスはそう考えながら、静かに目を伏せる。

 

「アザゼル、お兄様……」

 

 つい先日、自分達に後を託し、千年を超えるだろう永い戦いへと向かった者達。

 

 彼らの期待に応えるのは、並大抵の難易度ではないようだ。

 

 これからの戦いもまた、熾烈な激戦となる。その予感は確信も同様だと、リアスは覚悟を決めざるを得なかった。

 




リムヴァンの力を受け継いだ、ヴィクターの精鋭集団、滅継者。

彼らも含め、オリジナルや魔改造などの強敵がヴィクターにはごろごろいます。イッセーたちの苦難は続く。









次の話でエピローグです。そして、サラトに試練が襲い掛かります!


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第二部一章 19 ペトの洗礼

第二部一章も何とかこれで終了

まあ、後日譚というか本日のオチというか……。


 

 と、とりあえず何とかなったのかな?

 

 僕、サラト・アスモダイは何とかなったっぽく思い、軽く息をついた。

 

 もちろんまだ警戒はしてる。割と負担はあるけど、神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)は解除してないし、展開している黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)も解除してない。

 

 でもまあ、一応相手は逃げたってことでいいんだよね?

 

「えっと、サラトでいいんだっけ?」

 

 と、そこに同じく警戒してるのか、紅の鎧をまとった兵藤さんが並び立ってくれた。

 

 歴代最優の赤龍帝と呼ばれる、兵藤一誠さん。

 

 彼と並び立つことができるなんて光栄だ。今の冥界を代表する、英雄中の英雄だしね。ちょっとテンションが上がるかも。

 

 だけど、兵藤さんはちょっと戸惑いながら、頬を掻いた。

 

 何だろう? ちょっと何か言いづらそうだぞ?

 

「あのさぁ。確かに、そうなんだけど……」

 

 なにが?

 

「……ヒロイもリセスさんも、ちゃんと話すといい人たちなんだよ」

 

 ……。

 

「ほら、俺もおっぱいが大好きで覗きの常習犯だし? なんつーか、それと同じっていうか……」

 

 ああ、なるほど。

 

 友だちが悪く言われるのは、思うところがあるんだろうね。

 

 そりゃそうだ。戦友なんだもんね。

 

 うん。なんとなくだけど、彼が歴代最優の赤龍帝だって言うのがよくわかった。

 

 彼は赤龍帝だから強いんじゃない。兵藤一誠という英雄は、まず兵藤一誠だからこそ、ここ迄強くあれたんだ。

 

 だけどまあ、それはちょっとね。

 

「あ、そこから先はなしで」

 

「え、いや―」

 

「いや、ヒロイ・カッシウスとリセス・イドアルがどうあっても嫌いとかいう話じゃなくてね?」

 

 うん、そういう意味じゃない。

 

 ただなんて言うか、これ言おうとすると鎧で隠れてるけど顔が真っ赤になるなぁ。

 

「……そう言うのは、ペトさんから聞きたいから」

 

 ……我ながらこっぱずかしいことを言ってる自覚はあるね。

 

 うん、すっごい恥ずかしい!! これは恥ずかしいよ!!

 

 乙女か! 僕は乙女か何かか!!

 

 なんか恥ずかしくて死にそうだけど、兵藤さんはちょっとぽかんとすると、なんか笑ってきた。

 

 うん、気持ちはわかるけどひどい!!

 

「あの、笑うならせめて僕がいないところで嗤ってくれません?」

 

「え? あ、馬鹿にしてるわけじゃねえよ」

 

 そういうと、兵藤さんは僕の肩をバンバン叩く。

 

 よ、鎧越しで加減されてるけど結構衝撃来るな。

 

 やっぱり鍛えてるんだろうなぁ。なんていうか、芯が入ってるって感じがするよ。

 

「なんていうか、アンタならペトさんも大丈夫な気がしてきたぜ!」

 

「あ、ありがとうございます、兵藤さん!」

 

 なんか太鼓判押された! ちょっとうれしい。

 

 ちょっとテンションが上がってると、兵藤さんは今度は苦笑する。

 

「イッセーって呼んでくれよ。多分長い付き合いになるだろうしさ」

 

 ほんと、この人いい人だ。

 

 こんな人と共闘できたのは名誉だね、うん。

 

「よろしくお願いします、イッセーさん!」

 

「おう! よろしくな、サラト!!」

 

 なんか仲良くなっていると、今度は義兄さんとリアス様が近づいてくる。

 

「……駒王駐屯地からの報告が来た。どうやら奴らは本当に撤退したようだ」

 

「ご苦労様、イッセー。それにサラト君も」

 

 何だろう、すごく華がある。

 

 これが、生まれながらの上流階級の気品か!

 

 僕が戦慄していると、義兄さんはなんかニヤニヤしてきた。

 

「うむ。我が義弟(おとうと)にも春がきたようで何よりだ。万人の前で愛を謳えるその根性も何よりだぞ!!」

 

「はわぁ!?」

 

 い、言わないでよ義兄さん!!

 

 あ。そういえばペトさんは?

 

 なんとなく振り向いてみると、ペトさんはすぐ近くにいた。

 

 なんというか、すごく顔が真っ赤だった。

 

 うっわぁ。耳まで真っ赤だよ。しかも可愛い。

 

 なにこの可愛い人。女神か。いや、堕天使だけど。

 

 なんとなく安全も確保できたので、僕も鎧を解除する。

 

 ……外の風がとても涼しくて心地がいい。どうやら、僕も頭に血が上りまくってるみたいだ。

 

「うむ、2人して顔が耳まで真っ赤であるな!」

 

「ペトがここまで初々しいなんて、ちょっと意外だわ」

 

「……なんて純愛のにおい。なんか妬ましいぜ」

 

 すいません、外野の方々。ちょっと静かにしてほしいです。

 

 は、恥ずかしい!!

 

 っていうか、義兄さんにさっき言われたけど、確かに不特定多数の前で思いっきり告白しちゃったよ!?

 

 し、しかも「セックスフレンドならOK」って限定的にOKもらっちゃったよ!!

 

 れ、冷静に考えるとすごく勇気のいることを要求しちゃったんじゃないのかな?

 

「な、なんかごめんなさい! テンション任せですごいことしちゃって―」

 

「あ、あの」

 

 僕の謝罪を止めて、ペトさんは伏せていた視線をこっちに向ける。

 

 何ていうか、すごくかわいい。

 

 女神だ。僕の中で真の女神はペトさんが筆頭だということにするべきか。

 

「な、なんていうか、その、この後時間あるっすか?」

 

「余が作ろう。安心するがよい」

 

「義兄さん!?」

 

 即答したのが義兄さんなのはどういうことなのさ!?

 

 僕が顔を振り向くと、義兄さんはいい笑顔で親指を立てていた。

 

「ゆっくり楽しむがよい! 余計な面倒ごとは義兄(あに)達に任せよ!!」

 

 い、いらん気をまわしちゃったよ、義兄さん!

 

 だ、だれかツッコミを―

 

「同意。ここは俺たちに任せろ」

 

「うんうん。がんばってね、サラト君」

 

 福津兄とプリス姉も!?

 

 だ、誰か増援はいないのかな!? ちょっとこれ、恥ずかしいんだけど―

 

「―サラトくん」

 

 と、そこにシシーリア姉がぽんと手を置いてくれた。

 

 し、シシーリア姉は助けてくれ―

 

「―ここからが試練です。がんばって乗り越えてください」

 

 はい?

 

 僕は思わず首をかしげるけど、その時ペトさんは指を鳴らした。

 

 そして、その音に合わせる顔のように駒王学園の校舎から何人か女子が何人か出てくる。

 

 走ってきたのか顔が赤い……いや違う。これ、なんか別の意味で顔が赤い。

 

 恥ずかしがってるとか、そう言うのでもなさそうだ。むしろ期待に目が輝いているっていうか、テンションが上がってるっていうか。

 

 さっぱりわからない僕だけど、なんかイッセーさんたちはわかっているみたいだ。

 

 何人か目を伏せてる。何人か顔を真っ赤にしている。何人か視線をそらしている。何人か額に手を当てている。っていうか何人か頭を抱えている。

 

 ん? ん? んん?

 

 首をかしげていると、ペトさんは僕の肩に手を置いた。

 

「サラト。質問があるッス」

 

 え? なんですか?

 

「童貞っすか?」

 

「………」

 

「その沈黙は肯定っすね」

 

 いや、確かにそうですけど?

 

 え? どういうこと?

 

 ……ま、まさか!?

 

 僕が一瞬凄い期待をすると、ペトさんはうなづいた。

 

「安心するッス。さすがに最初はペトがするッス」

 

 ……マジで!

 

 ど、童貞卒業! 男のロマン!!

 

 ちょ、ちょ、ちょっとテンション上がるよこれは!!

 

 そうおもった、その時だった。

 

「後はとりあえず経験を積んでもらうっすよ。彼女達もしっかり味わうッス」

 

 ………………ん?

 

 なんとなく、顔の向きを元に戻す。

 

 ぽかんとしている義兄さんたち。

 

 いやな予感が当たったてきな顔になってる、リアス様たち。あと校舎にいる生徒たちには、同じ感じになってる人たちがいっぱい。女子の何割かは羨ましそうな顔になってる。

 

 で、期待に満ち溢れた外に出てきた女子たち。

 

 ………へ?

 

「ふふふ。任せて、ペト」

 

「あなたやリセスさんに教わった男を鍛えるテクニック。一緒に頑張りましょう!」

 

「サラト君だったっけ? 大丈夫大丈夫、お姉さんたちに任せなさい」

 

 ………え゛?

 

 とりあえず、沈黙から回復した義兄さんが、リアス様に顔を向ける。

 

「……リアス嬢、状況が読めんのだが」

 

「見てのとおりよ。()()()()が童貞の彼氏を作って、スケベに調教しないわけがないわ。サラト君、あきらめなさい」

 

 最後の部分は、僕にむけられていた。

 

『『『『『『『『『『まあ、頑張れ』』』』』』』』』』

 

 駒王学園中から、そんな言葉まで届いた。

 

 ………ちょ、ちょっと!?

 

 思わず慌てる僕だけど、気づけばペトさんは僕を引っ張って、近くのドアに向かう。

 

 そして、ドアノブを取り換えると、其のまま勢いよく開け放つ。

 

 そこには、なんか丸いベッドがある広めの部屋があった。

 

神の子を見張るもの(グリゴリ)の技術で再現した、天使でもエロいことができる素敵なへやっす。……ペト専用に作ってもらったっすけど、使うのは初めてっす!」

 

 なんかペトさん、すっごい嬉しそうだった。

 

「初めての彼氏の初めての経験を、初めて使うエロ部屋でできるなんて夢みたいッス! サラト、今夜は寝かさないっすよ?」

 

 すっごい可憐な少女の華やいだ顔で、ペトさんはすごいエロいことをぶちまけてくれちゃいましたよ!?

 

 ちょ、ちょ、ちょちょちょちょっと!?

 

 え、なにこれ、なにこれ!?

 

「じゃ、ペトさんの次の順番決めちゃいましょうか」

 

「そうだねー。最高の卒業式にしないと」

 

「よっしゃ! 今夜は気合入れるか!!」

 

 あのすいませーん! 僕の意思はー!?

 

「サラト!」

 

 あ、イッセーさん!

 

 ちょ、ちょっと真面目な話助けてくれない―

 

「……ちょっとうらやましいぜ、此畜生!?」

 

「はっ倒しますよ!?」

 

 そのツッコミを入れたそのタイミングで、ドアが閉まっちゃった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、あの、なんていうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……すごかったです。

 




ペトはやっぱりビッチであった。そんなオチです。

因みに小ネタを挟むと、神滅の守護者の外見イメージは、スパロボのラフトクラン〇。ルビも英訳などしてもじっただけだったり。

あの外見やシールドのギミックがめちゃくちゃかっこよかったので、一度モチーフにした者を出してみたかったんです。

そして次回からは第二章。まあ、世界各地を巡ってサラト達がテロリストたちと激戦を狂広げる感じですね。イッセー達D×Dのメンバーたちとも、いろんな場所で共闘したりします。


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第二部二章 混迷する世界
第二部二章 1 「衝撃的でした……」byサラト


そんなこんなで第二章です。

第二章では、サラト達がいろんなところに行ってD×Dのメンバーと共闘しながら世界各地のテロリストと激闘を繰り広げます。


駒王駐屯地で、体力をつける為の走り込みを行っている、国外自衛隊偉人第一特務隊。つまりは僕達だ。

 

 一応自衛隊員である僕達は、毎日の労働とはすなわち基本的に訓練。体を鍛えることが仕事。

 

 毎日一生懸命トレーニングを行い、身体能力を上げる。そして戦闘訓練なども行い、闘う為の技量を向上させる。

 

 一の実戦は百の訓練に勝る。だからこそ、一の実戦を乗り越える為には百以上の訓練が必要なんだ。

 

 自衛隊員の一員として、冥界から日本国の防衛の為に派遣されている者として、僕達は強くなることが仕事だった。

 

 と、いうわけで僕達は今日もまた走りこんでいるわけなんだけど―

 

「うぁああああああああ……」

 

 はい、はっきり言って集中できておりません。

 

「同情。これは酷い」

 

「うわぁ。うっわぁ」

 

 福津兄とプリス姉が、同じく走りながら痛々しい視線を向けてくる。

 

 深く何も聞いてこないけど、色々と可哀想なモノを見る目に近いのはちょっときつい。

 

「仕方ありません。初めての性体験がいきなりあれでは、衝撃も大きいでしょう」

 

 うんうんと、シシーリア姉はそんなこと言ってくるけど、貴女分かってるなら止めてよ!

 

 福津兄とプリス姉もそう思っているのか、ジト目が突き刺さる。

 

 だけど、シシーリア姉は静かに首を振った。

 

「下手に止めれば巻き込まれます。ペトさんも、一応気を使って人数は少なめにしてくれましたし」

 

「疑念。体力的な問題以外に気を使うところがあるんじゃないか?」

 

 福津兄のツッコミが正論だと思う。

 

 いや、あの、そのですね?

 

 良かったです。凄い良かったです。気持ち良かったです。

 

 だけど衝撃的すぎるよ!?

 

 あれ、人生変わるって。下手したらそのまま凄い事になったって。

 

 ペトさんと付き合うのって、大変な気がしてきた。

 

「まあ、あそこにリセスさんがいなくて良かったですね。いたらもっと凄い事になっていたはずです」

 

「リセスちゃん、遠くに行きすぎ……」

 

 シシーリア姉の言葉に、プリス姉が遠い目をする。

 

 僕も遠い目をしたくなったよ。リセスって人、どんだけビッチなんだろう。

 

 まあとにかく、そんなこんなで訓練を積みながら、僕達は色々と頑張ってるわけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、そんな時に任務が新たに下される事になったわけだ。

 

 その説明の為に駐屯地の一室に入ると、そこには見知った顔がいた。

 

「お、サラト久しぶりっす!」

 

「よ、サラト!」

 

「ペトさん! イッセーさんも? っていうか―」

 

 見れば、グレモリー眷属たち中心のオカルト研究部員が、全員集まってる。

 

 な、なんだろう? ここ一応、自衛隊の駐屯地だよ?

 

「……そこについては、すぐに説明がある」

 

 そう言ってきたのは、別の入り口から入ってきた女性。

 

 ピンク色の髪をした、クールな印象を受ける女性が入って来て―

 

「……こふっ」

 

 ―血を吐いた。

 

「……最近、吐血を見る事が多いな」

 

「吐血って、ブームなのかしら?」

 

「吐血ブームって、どんなブームなんでしょうか?」

 

 通称教会トリオとか呼称されている人達がそんなこと言うけど、そんなブーム聞いた事ないよ!?

 

 いや、吐血したけど。義兄さんも吐血したし僕も吐血したけど。その人も良く吐血するけど。

 

 まあ、とりあえず紹介した方がいいかな、これは。

 

「紹介。こちら、我々ハヤルト・アスモデウス眷属の1人、女王(クイーン)のミラリル・ベルフェゴールだ」

 

「よ、よろしく頼む。あと、できればティッシュか何かないかね……?」

 

 福津兄が代表して紹介するけど、割と残念な人を見る目が向けられている。

 

 うん、まあ、確かにこれだけ見るとね?

 

「虚弱体質なんです。基本的には補佐官として裏方を担当してるんですよ」

 

「なるほど。女王は王の側近でもありますからね。戦闘能力ではなく立ち位置としての眷属筆頭という事ですか」

 

 苦笑しながらシシーリア姉がそうフォローして、木場さんがそれに理解を示す。

 

 まあ、確かにこれだけ見るとねぇ。

 

「言っときますけど、この人かなり凄いですよ? 義兄さんが真っ先にスカウトした人ですから」

 

 一応そこ入っておく。

 

 いや、ホント強いから、この人。

 

 多分だけど、順当に最上級悪魔になるんじゃないかってぐらい強い。伊達や酔狂で女王の駒が与えられたわけじゃないからね。

 

 純粋なウィザードタイプは、僕達の中だといないだろうし、そういう意味でもかなり強い。

 

「まあ、私のような者の事は良い。それより、リアス様達グレモリー眷属達に来てもらったのには、理由があります」

 

 と、ミラリルさんは血をぬぐいながら、話を先に進めてくる。

 

 この人、なんていうか実力のわりに謙虚っていうか、自信がないっていうか……。

 

 まあ、理由は知ってるからそれはいいかな。それよりも。

 

「新しい任務ですか? リアス様達と一緒に任務って、なんだか意外ですね」

 

「それについては仕方ない。上からの指示でな。……まあ、今から説明する」

 

 僕の質問にそう答えると、ミラリル姉は紙を取り出した。

 

 更に魔力を操作して、半立体映像を展開する。

 

 そこに映るのは世界地図。そして、中国にクローズアップされる。

 

「……今週の土曜に、中国で国際的フードイベントが開催されるのは知っている者も多いと思う」

 

 中国かぁ。

 

 僕が思っている事をペトさんも思ってたのか、ポンと手を打った。

 

「確か、帝釈天が色々と動いてるんっすよね?」

 

「ええ。帝釈天は中国の国民を雇い入れる形で、大規模私兵集団を作っているそうだわ」

 

 と、リアス様が苦い顔でそう答える。

 

 そう、中国はこの時代で大きな成長を遂げている国の一つだ。

 

 魔法に代表される人間が使える異能。それらは兵器の質が大きく左右していた軍事業界を変え、再び戦う兵士の技量や才能が趨勢を左右する戦争体形を生み出し始めている。

 

 その結果犯罪なども増えているけど、その影響が最も大きいのは、世界最大の人口を持つ中国だ。

 

 人口は十億以上。その圧倒的な数は、其のまま高い戦闘能力を持つ人間の数に直結する。

 

 そして、帝釈天はこの世界における不穏分子の候補だ。

 

 英雄派の曹操をこっそり隠していたとされているそうだ。つまり、ヴィクター精鋭による被害の遠因というわけだね。

 

 しかも個人戦闘能力でも世界最強レベル。有力な神話体系の多くが主神クラスの多くを隔離結界領域に送り込んでいる今、インド神話のシヴァ神に匹敵する最強の神だと思う。

 

 まあ、曹操は暴走して手綱を握れなかったらしいし、どこまで恐ろしいかはちょっとよく分からない。

 

「言っておくが、帝釈天を舐めてかかる事はできない」

 

 と、ミラリルさんは言った。

 

「彼は争いが強者の育成を助長するという思想を持っている節がある。おそらく最終目的は、この戦乱で鍛え上げられた強者を確保して、シヴァ神を負かす事だと上層部は思慮している」

 

「憂慮。人の数で最高峰の中国を牛耳る以上、あの神が確保できる強者の数も莫大だろうな」

 

 福津兄もため息をついた。

 

 まあ、確かにそうなんだよねぇ。

 

 人口が多い分、貧乏な人も多かったりするのが中国。帝釈天はそこに目を付けている。

 

 今現在、須弥山の莫大な資金力を利用して、下部組織になる人間の軍事部隊を結成しているらしい。既に候補生の数は陸上自衛隊に匹敵するとか。

 

 表向きにはヴィクターに対抗する為だったり、貧困問題の解決を謳っているから周りが止めるのも難しい。割と金払いは言いそうだから、食うに困った人たちは積極的に参加しているそうだしね。

 

 今も昔も、食うに困った人間が行きつく先の候補は戦闘職。悲しい現実だよねぇ。

 

 かくいう僕もその類だったらしいし、なんというか止めるに止められない。

 

「で、だ。その帝釈天はこのイベントにも出資しており、それなりに異形関係者なども招待しているのだが―」

 

 そこでいったん切ると、ミラリル姉は半目で告げる。

 

「……総理がそこに参加する事になった」

 

 ああ、僕らが動く理由はそういう事。




初登場、ミラリル・ベルフェゴール。こやつもまた吐血枠です。








そして世界情勢の変化で一番得する可能性がある、帝釈天率いる須弥山陣営。

人の素質や才能が大きく戦争の趨勢を握る時代に一周回って戻ってきちゃったものなので、人口最多国である中国はいっきに軍事超大国になる可能性がやってまいりました。帝釈天はシヴァ戦を見越していろいろと動いております。

第二章最初の事件も、半分ぐらいは帝釈天のせいになるのですよ。


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第二部二章 2

そして今回の問題はどういうことかといいますと!!


 

 ミラリル姉は、軽く額に手を当てると、はっきり言いきった。

 

「単刀直入に言います。リアス様達には、そこに観光に行ってほしいのです」

 

「観光? 護衛ではなくて?」

 

 リアス様が首を傾げるけど、ミラリル姉は首を振る。

 

「総理の護衛は本来自衛隊(我々)の仕事です。それに、今回の護衛は姫島一等外尉達直衛と、第二異人部隊が担当する事になっています」

 

 あ、そういえばそういう事になってた。

 

 だけど、そのうえでミラリル姉は告げる。

 

「ただし、懸念材料が多いので、我々第一異人部隊は特別に与えられた休暇の名目でフードイベントの前売り券を貰っているのです」

 

 そして、ミラリル姉は一つの箱を取り出すと、それを開ける。

 

 ……あの、前売り券の数が二十枚ぐらいあるんだけど。

 

「見てのように、手違いで大量に手に入れてしまいましたので、ハヤルト様の提案で、グレモリー眷属の皆さんにも手伝ってもらおうという形です」

 

「謝罪。俺達の主は、フリーダムな時はかなりフリーダム何だ」

 

 速攻で福津兄が謝った。

 

「あの、それよりも懸念材料というのは?」

 

 と、深く聞かない事にした木場さんが、話を先に進めてくる。

 

 それに感謝したのか、目頭に光るものを浮かべながら、福津兄はうなづく。

 

「警戒。今中国は、帝釈天の仕込みか危険因子が多いんだよ」

 

「その通りだ。なんというか、帝釈天は自分の部下達を実戦で鍛え上げようとしている可能性がある」

 

 そう繋げながら、ミラリル姉は更に映像を変える。

 

 そこには、中国全土に赤い点がぽんぽんと浮かび上がってきた。

 

 中には一つの県ぐらいの範囲が赤く染まっているところもある。

 

「現在、中国は多種多様なテロリストや犯罪組織が潜入して、中国軍及び須弥山と戦闘が頻発している激戦区となっている」

 

「確か、新秦っていう数万人規模のテロ組織が出てきてるんだっけ?」

 

「三情と敵対している貞淑委員会。大規模麻薬売買組織薬網などのテロリストや犯罪組織も中国に拠点を置いていると、この駄馬の耳にも入っています」

 

 プリス姉やシシーリア姉がそう話すのも当然だ。

 

 公安や国際警察関係からの情報提供で、かなりの犯罪者やテロ組織が中国に侵入していると聞いてる。

 

 特に新秦は厄介だ。既に小国の軍事組織と同等レベルの戦力を確保しているとか言うし、真面目な話紛争レベルの脅威になってきている。

 

「……まさかと思うけど、帝釈天が手引きしたとかいうんじゃないでしょうね?」

 

「そこ迄はしていないでしょう。ただし、意図的に警戒網に穴を開けて侵入しやすくしていると、政府は考えています」

 

 リアス様にミラリル姉が答える。

 

 うん、これに関しては間違いない。

 

 米国などのタレコミもあって、ほぼ確定。

 

 中国は、もの凄く武闘派の犯罪者達が侵入しやすい環境になってる。入るだけなら難易度のレベルが一桁下がっているぐらいだよ。

 

 そして、その原因は須弥山にあると、諜報機関関係は判断している。

 

「これは首脳陣の推測だが、帝釈天は中国政府に働きかけ、実戦で人員を鍛え上げるべく、比較的邪魔をされにくい国内で敵を数多く用意していると思われる」

 

 ミラリル姉の言葉に、全員がげんなりした。

 

 だけど、問題は更にある。

 

「それと、今回中国内に過激派クジラ保護団体「オーシャンズK9」が潜伏しているとの事です」

 

 シシーリア姉がそう補足する。

 

「あの、それってシーシェパー〇のお仲間かなんかですか?」

 

 イッセーさんがそう言うと、静かにシシーリア姉が首を振った。

 

「同類どころの話ではありません」

 

「そうだな。オーシャンズK9が文字通り海の軍用犬だとするならば、あれは愛玩犬だ」

 

 ミラリル姉がそうはっきり言う。

 

「なにせ、奴らとは既に異能自衛官が何度もやり合っている。農林水産省の幹部の暗殺を十回は実行し、クジラ料理関係の人物にも爆破テロを敢行した武闘派中の武闘派だ。……総理がクジラを食べたと告げたその日のうちに戦闘部隊が暗殺を仕掛けてきた事もある」

 

 ……冷静に聞くとドンビキだよね。

 

 どんだけクジラ好きなの? クジラの何が彼らの心に響くの?

 

 宗教的に神聖視されている動物を食べられたからって、熱心な宗教家もテロは起こさないよ。君ら動物と人の区別はつけようよ。

 

 割とドンビキのオカルト研究部の人達を見渡して、ミラリル姉は更にため息をつく。

 

「……とどめに、帝釈天殿は日本の鯨料理店と提携して、三店舗ほど参加させている」

 

「断言。……間違いなくオーシャンズK9はこのイベントで暴れに来るだろう」

 

 福津兄も心底からため息をつく。

 

 うん、あの武闘派クジラ保護団体は絶対に暴れるよね。

 

 実際問題、分かりきっている爆弾なんだけど……。

 

「因みに、総理からは対処でこう言われてるんだよね。「ちょっといい加減うるさいから、出てきたら投降してくる前にぶち殺すノリで行け」」

 

 プリス姉がそう言って、割とドンビキされてる。

 

 でもまあ、気持ちは分かるかもね。

 

 ……いい加減、ガツンと叩きのめした方が、後が楽でいいような気がしてきた。

 

 日本は一気に過激路線というか、武闘派路線に行ってるからね。それがどれぐらいかっていう見本は欲しい。ついでに言うと、いい加減その手の小物を相手するのも面倒くさいだろうし。

 

 派手に見せしめを用意できるのなら、やってしまおうって感じかな、コレ。

 

「まあ、そういう事なので、お願いしたい。……何もなければ観光で終了。誰かいてもD×Dの代表格がいるとなれば脅しには十分。それでも出てくるのなら叩き潰し、迷惑料は日本政府がきちんと払う」

 

 そこまで言い切ってから、ミラリル姉は頭を下げた。

 

「この危険度の高い観光旅行、ぜひ参加してほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうなると読んでるんですかねぇ、帝釈天様?」

 

「HAHAHA。絶対暴れる連中が出るだろうさ。賭けてもいいぜ?」

 

「外れても当たっても何かほしぃんですがね」

 

「そんなに怒んなよ総理さんよぉ。提携した店舗にはきちんと一つ一つに一個分隊の護衛を付けるぜ? それも、須弥山(ウチ)から仙人を一人用意する念の入れようさ」

 

「まあいいんだがよ。ぶっちゃけこの面倒くさい時期に食文化で殺しするような連中、潰せる機会はあるに越した事はねぇしな。……ただ、正気か?」

 

「おうよ。なにせうちはそっちと違って実戦経験にあまり恵まれてないからな。ここらで咬ませ犬ぐらい狩っとかねえと腑抜けちまうぜ」

 

「神様ってのは人間を振り回しすぎだぜ。中国の政府の連中には同情するねぇ」

 

「いいじゃねえかよ。それぐらいしねえと今後の情勢乗り切れねえだろうしな。愛の鞭ってやつだ」

 

「………」

 

「そう睨むなよ。そっちも虎の子を護衛につけるんだろ? こっちも秘蔵っ子連中を出してやるからな?」

 

「へいへい、ま、お互いに顔見世させてるんだから当然か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無論です。我らがいる限り、テロリスト達は一網打尽にして見せますとも」

 

「……罪人にも意地があります。総理の身の安全は死守しますとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方そのころ―

 

「なあファンネルの旦那? 中国に行くってマジかよ?」

 

「ああ。ちょっといい男を探しに」

 

「いや、そういう冗談は良いKARA! そんな事より、俺っちも参加していいかい? 答えはYESかOKで」

 

「別にいいぞ? ただ、条件がある」

 

「……え? まさか俺のお尻狙ってるの? やだ、やめてよ! 挿すのは俺がいいの!! ……剣だけどね!!」

 

「本気の殺意を見せないでくれ。俺はいつでも君のアナ〇を狙ってるんだから」

 

「いや、マジぶっ殺していい? っていうか、なんで俺と双璧をなす獣王がホモなの? 最悪なんですけど」

 

「決めているのさ。俺は、先祖の失敗を繰り返さないって」

 

「それ絶対方向性間違いだぜ、旦那」

 

 

 

 

 

 

 

 

 帝釈天も大尽総理も知る由もなかった。

 

 よりにもよって、ヴィクター経済連合までもが食の祭典に乗り込もうなどと考えているなど、流石に想定外であったのだ。

 

 だが、それは決して悪い事ばかりではない。

 

 この騒乱によって、須弥山は大きな宣伝をする事ができる。

 

 のちにアザゼル杯で猛威を振るう、人間主体の最高レベルのチーム。須弥山が誇る最高クラスの尖兵集団。高みを、極みを、先を目指す者たちを取り込んだ、純粋な人類における最強クラスの精鋭部隊。D×Dの準構成員となる規格外の若手達。

 

 アザゼル杯登録チーム名、天帝先陣。その華々しいデビュー戦に、この上ない咬ませ犬が舞い降りてくれるのだから。

 




数が多いことをいいことに、実戦主体で鍛え上げようという帝釈天。餌を用意してテロリストを釣りに来ました。








しかしヴィクターもちょっかいを掛けに来たのでさあ大変。みんな大好きフリード君も再登場です。


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第二部二章 3

ちょっと長めになります。


 

 そして、駒王町駐屯地の地下にあるトレーニング空間に僕達はオカルト研究部を招待していた。

 

「結構広いな。しかも頑丈そうだ」

 

「そうですね。ゼノヴィアさんやイッセー君が暴れても、そう簡単には壊れないような気がします」

 

 見学しているゼノヴィアさんやロスヴァイセさんが感嘆するぐらい、ここは結構頑丈な造りになっている。

 

 なにせ、神滅具を二つ持っている僕や、神滅具を再現できるシシーリア姉が暴れる事も考慮している特別空間。頑丈じゃないと大惨事になる。

 

 そして、そんな空間を作っているのは悪魔と日本の重要人物。

 

「おお! 見学に来てくれたのか!」

 

 嬉しそうに振り返るのは、我らが主にして僕の義兄。ハヤルト・アスモデウス。

 

 この駒王駐屯地の施設の多くは、義兄さんの手によって大幅に改良されている。

 

 この駐屯地は、日本の国防のある種の要だ。

 

 最も異形との戦いに慣れている精鋭が待機する最重要拠点。もっとも悪魔と密接な付き合いをしていると言ってもいい政治的拠点。そして最高峰の技術者による技術開発も行われている技術的拠点。

 

 単刀直入に言って、この駒王駐屯地はめちゃくちゃ重要な拠点だったりする。

 

 魔王の末裔が所属し、勢力圏内に魔王の妹二人が住んでいる。

 

 うん、普通に桁違いだ。

 

「見るがよい! 余が直接手掛けて開発したトレーニング空間だ! 中でツァーリ・ボンバが爆発しても堪えきれるぞ!!」

 

 エッヘンと胸を張る義兄さんに、リアス様は微笑を浮かべる。

 

「やるわねハヤルト。アザゼルやアジュカ様にも匹敵する技術だと思うわ」

 

 既にだいぶ打ち解けているのか、口調も大分フランクだ。

 

 まあ、義兄さんは結構愛嬌があるからね。根本的にフランクだし。

 

 そんなこんなで和やかにムードになっていると、義兄さんはぽんと手を打った。

 

「そうだ。これからもグレモリー眷属には世話になるしな。連携を取る為にも余達の力を知るべきか」

 

「納得。確かに、最低限の手札は知らせるべきですね」

 

 福津兄も頷くと、少し離れてから静かに構える。

 

「要望。誰でもいいから、こっちに攻撃を叩き込んでくれ」

 

「え?」

 

 凄い事を言ってのけた福津兄に、アーシアさんが首を傾げる。

 

 というより、少し心配している。

 

 まあ、グレモリー眷属は既に最上級悪魔クラスの戦闘能力を持っている人もいるからね。

 

 たぶん、火力だけなら魔王眷属にだって引けを取らない。悪魔が誇る最精鋭集団だ。

 

 そんな人達の攻撃を受けたら、並に上級悪魔なら消し飛ぶのは確実。最上級悪魔だってただじゃすまない。

 

 だけど、福津兄は大丈夫なんだよねぇ。

 

「無用。心配しなくても俺は一発程度なら問題ない」

 

「ふむ、そう言われると少し意地になるね」

 

 そういって、ゼノヴィアさんがデュランダルを展開する。

 

 ……うん、大丈夫だけどホントに加減がないね。

 

 火力馬鹿といわれるグレモリー眷属でも、トップクラスの火力保有者がいきなり出てきたよ。

 

「ぜ、ゼノヴィア? ちょっとデュランダル(それ)はやりすぎ―」

 

「安心しろ、本気は出さない」

 

 イリナさんが止めるのを聞かずに、ゼノヴィアさんは切りかかる。

 

「それに急所は避ける!」

 

「了承。ならここを狙うといい」

 

 そして福津兄が右手を突き出す。

 

 そこに勢いよくゼノヴィアさんがデュランダルを叩きつけ-

 

「……ほぉ」

 

「……感嘆。まさか切込みが入るとは」

 

 そうお互いに感心する中、福津兄の手から火が飛んだ。

 

 ただしその火は一瞬で消えて、元通りの皮膚が映る。

 

「やるな。加減したうえで福津に傷をつけるとは」

 

「いえ、この駄娘よりは強いんですよ?」

 

「リセスちゃんと肩を並べられるからね?」

 

 ミラリル姉にシシーリア姉とプリス姉がそうツッコミを入れる。

 

 正直ちょっと僕も舐めてた。福津兄に手加減して負傷を与えられるとか、正直驚いたよ。

 

 流石グレモリー眷属の攻撃力筆頭格。攻撃力だけなら最上級悪魔クラスでも上位レベルじゃないだろうか。

 

「福津は生まれ持った神器と移植した神器の二つによる圧倒的耐久力が持ち味だ。余の眷属での基本担当は、盾役だな」

 

「そのようね。まさか加減したとはいえゼノヴィアの一撃でかすり傷程度だなんて……」

 

 ふふんと解説するハヤルト義兄さんに、リアス様が感心する。

 

 ふふん。僕達もちょっと得意げだよ。

 

「説明。俺の神器は鋼鉄被膜(フルスキン・フルメタル)不死鳥の灯火(ランプライト・フェニックス)。まあ、非常に硬く、そして傷がすぐに治ると思ってくれればいい」

 

 そう、福津兄はとにかく硬くてしぶとい。

 

 防御力もかなり高いけど、更に傷がすぐに治るのが凶悪だよ。どんな攻撃を喰らってもぴんぴんしているからね。

 

 神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)を展開しても、再生能力込みの耐久力なら間違いなく負ける。更にそこに禁手にまだ至ってないってのがあるんだから、至ったらどんな事になるのやら。

 

「ではまあ、次は駄犬が能力を説明するべきですか」

 

 と、今度前に出るのはシシーリア姉。

 

 そして苦笑すると、近くの威力試験用の金属塊に歩み寄る。

 

「まあ、大した事ではないんです。既に知っている方も多いとは思いますが―」

 

 そういうなり、シシーリア姉は無造作に腕を振るい―

 

「―こんな事ができます」

 

 ―具現化したデュランダルで、金属塊を両断した。

 

 そして次の瞬間、今度はエクスカリバーを具現化し、擬態の聖剣(ミミック)でそれを受け止める。

 

聖母の共振する祝福(ホーリーライト・シンクロニティ)。能力は、範囲内の聖別物質のコピー及びその運用です」

 

 そう言いながら、シシーリア姉は金属塊を細切れにすると、プリス姉に放り投げる。

 

 そして次の瞬間、プリス姉が苦笑しながら両手を前にかざす。

 

 そして、一瞬で加速した金属塊が、遠くにある射撃訓練用に的を粉砕した。

 

「今のは、ヒロイさんのマスドライバー・スティンガー……?」

 

「ううん、ちょっと違うかな?」

 

 アーシアさんにそう答えながら、プリス姉は微笑する。

 

「私の禁手は相克雷電(デュアル・マクスウェル・ゼーベック)。能力は電気エネルギーの発生だよ」

 

 そう、プリス姉の能力は、ちょっとひねっている。

 

 確かゼーベック効果……だったかな? 金属と熱量差を利用して発電する現象。

 

 そういう現象を使っているわけじゃないけど、とにかく大出力の電気エネルギーを生み出せるのがプリス姉の亜種禁手。

 

 そしてプリス姉の十八番は、神器の特性を魔力で歪めてコントロールする事。

 

 さっきのはレールガンとして運用したってわけだね。

 

「……ということは」

 

 ぽんと、木場さんが手を打った。

 

「あの時の反射速度は生体電流を操作して?」

 

「うん。あれぐらいが限界なんだけどね」

 

 うん。マジでそういうことができるんだよねぇ。

 

「で、サラトは神滅具二つ持ちかよ。……反則じゃねぇか」

 

 イッセーさんにそう言われるけど、確かに反則だね。

 

 なんたって、神滅具の中でも二強といわれる黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)。その二つを同時に運用できるのが僕だもん。

 

 一点特化と広範囲殲滅。この二つで桁違いに強いってだけで、もう何でもありだしね。

 

「と言っても、これでも大変なんですよ?」

 

 まあ、ホント大変だよ。

 

 煌天雷獄は取れる手段が多すぎるから、何をどんな時に使えばいいか分からないところがあるし。

 

 それに、黄昏の聖槍だって結構変則的っていうかなんて言うか……。

 

「聖槍は亜種で具現化してるんです。ようは、堕天使の光の槍みたいな感じでしか展開できなくて」

 

「それはそれで便利じゃない?」

 

 イリナさんがそう言うけど、だけど必ずしも良い事ばかりじゃない。

 

「単純出力だとどうしても劣るんですよねぇ。汎用性なら煌天雷獄で大体足りるし、できればもっと一点特化型の形になってほしかっです」

 

 うん、ホントちょっとね。

 

 僕、そんな天才的に頭いいわけじゃないから、手札がいっぱいあってもどれを使えばいいか迷うっていうか、ね?

 

 神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)を展開しているなら多少の選択ミスも性能でごり押しできるけど、敵が強力だとそうも言ってられないし。

 

「まあ、我々がフォローすればカバーできる範囲内だ。あまり気にするな」

 

 ミラリル姉はそう言ってくれるけど、だからって言ってもねぇ。

 

「そう言えば、ミラリル様はどのような形の戦闘能力をお持ちなのですか?」

 

「ああ、私は大した事はない。純血悪魔の基本通りの魔力運用スタイルだな」

 

 レイヴェルさんにそう答えて、ミラリル姉は魔力を放出する。

 

 うん、普通に上級悪魔のそのまた上レベルの魔力量。普通に凄い上級悪魔だよ。

 

 実際、邪龍戦役後半のトライヘキサ戦でも冥界の前線で戦ってたからね。イグドラゴッホやイグドラグウィバーとも一対一で戦えてたぐらいだから。

 

「邪龍戦役では冥界で戦っていたのだが、その時ハヤルトにスカウトされてな」

 

「うむ! 将来の伴侶としても誘ったのだが、そちらは保留されておる!!」

 

 サラリと義兄さんが凄い事言っているけど、慣れているのでそこはスルー。

 

 リアス様達にも、全員が身振り手振りで「気にしないで」と示しておく。

 

 ここでこじれると長くなるからね。

 

 まあ、そんなこんなで僕らは僕らでそれなりに強いわけだよ。

 

 邪龍戦役では冥界でトライヘキサ達の足止めを担当。量産型イグドラシリーズや邪龍達を相手に一生懸命闘ったわけさ。

 

 その戦果もあって、僕達ハヤルト・アスモデウス眷属は全員が中級悪魔以上。まあ、魔王血族の眷属悪魔にはそれなりの格がいるって判断もあるけどね。

 

 でも試験はしっかり受けた。そのうえできちんと合格した。そこに反則は一切ない。

 

 だから自信満々で胸を張って言える。僕達はそれなりに優れていると。

 

 まあ、それより強い人が何人もいるから厄介なんだけどね、この世界。

 

「なら、ついでに連携のトレーニングもするべきね。ちょっと模擬戦でもしてみない?」

 

 と、そこでリアス様がそんな事を提案してきたので、僕達はそのままトレーニングとして連携戦闘や模擬戦をしてみる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、模擬戦の大一番に、僕が選ばれてしまった。

 

 そして相手はグレモリー眷属の大一番。歴代最優の赤龍帝、兵藤一誠。

 

 イッセーさんと模擬戦かぁ。これ、模擬戦じゃなければ命がけだったよ。

 

 そんな事を思いながら、僕とイッセーさんは鎧を展開。

 

「よっしゃ! 行くぜ、サラト!」

 

「いいですよ。来てください!!」

 

 言うが早いか、イッセーさんは即座に拳を構えて殴り掛かる。

 

 それを左腕の盾で防ぎながら、僕は聖槍を具現化。

 

 聖槍は悪魔にとって天敵。まとも当てる事ができれば、それだけで一気に優勢になる。

 

 だけど、そんな簡単に事が運ぶわけがない。

 

 イッセーさんはアスカロンを展開すると、それを受け止めてくる。

 

 反応が早い! 流石はヴィクターの精鋭部隊を数多く倒してきた歴代最強にすらなっている赤龍帝! グレモリー眷属のトップエースは伊達じゃない!!

 

 だけど、ただの赤龍帝の鎧ぐらいなら!!

 

「でぃやぁ!!」

 

「うぉっと!?」

 

 強引に膂力で弾き飛ばすと、そのままオーラの槍を投げつける。

 

 それをイッセーさんは素早くかわすけど、そこをついて僕はシールドクローを展開。一気に掴みかかる。

 

 そして掴んだその場で一気に超高熱を発動させるけど、その瞬間僕の全身にオーラの弾丸が叩きつけられる。

 

 痛たたたた!? な、なに!?

 

「悪いな。そっちは神滅具(ロンギヌス)二つがかりかもしれないけど、こっちは最初から二対一で戦ってんだ!!」

 

『赤龍帝を相手にするのに、兵藤一誠(相棒)だけに注意を払ってはいかんぞ、サラト・アスモダイ』

 

 この声、確か赤龍帝ドライグ!?

 

 そうか、飛竜! 白龍皇の妖精達(ディバイディング・ワイバーン・フェアリー)をドライグが操作してオールレンジ攻撃を仕掛けたのか!

 

 感心しても隙は見せないようにしたけど、攻撃を喰らって緩んだところをついてイッセーさんは拘束から脱出する。

 

 そして次の瞬間、赤くなった飛竜がイッセーさんにくっついた。

 

「反撃行くぜ!」

 

「なんの!」

 

 シールドを元に戻してガードするけど、その防御を無理やり押し切って、イッセーさんは僕を殴り飛ばす。

 

 こ、これはキッツい!!

 

 義兄さんが調べた限りでは、基本性能なら赤龍帝の鎧より神滅の守護者の方が上なのに。それでも飛竜を使えばポイントポイントで越えられるのか!

 

 あ、しかも真女王に移行したよ。これで性能でも上回れた。

 

「流石に、そう簡単にやられるわけにはいかないからな!!」

 

「こっちのセリフです!」

 

 突撃してくるイッセーさんに、僕はカウンターでシールドによる抜き手を繰り出す。

 

 それを鎧を太くして防御するイッセーさんだけど、僕の一撃は鎧にヒビを入れた。

 

 よし! まだ届く!!

 

「真女王を突破した!? っていうか冷たい!」

 

 ああ、そうだろうね。それぐらいはやってのけるさ。

 

「なるほど、教えたのはプリスさんだね?」

 

「うん。煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)相克天秤(デュアル・マクスウェル)の上位互換だから」

 

 木場さんにプリス姉がそう答えた通り、これはプリス姉から教えてもらった技だ。

 

 熱衝撃。急激な温度差にさらされた物体はもろくなるという法則。

 

 流石にプリス姉ほど細かい操作はできないけど、相克天秤を超える出力を発揮する煌天雷獄は、単純な熱衝撃だけでも十分な効果を発揮する。

 

 さっき掴んだ時の灼熱はこの為の布石。本当はある程度時間をかけてから過冷却で一気に砕く予定だったんだけど、あっさり抜けられたからね。

 

 まあ、熱が自然に冷める前に打撃を叩き込めて良かったよ。おかげで効果は充分あった。

 

「まだまだ行きますよ! 兄さん達の前で無様は晒せないってね!」

 

「こっちもさ! リアス達の前でかっこ悪いところを見せられるかよ!!」

 

 お互いに戦意を見せながら、僕達は全力でぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局その時は押し切られたけど、だけど善戦はできたと思う。

 

 煌天雷獄と黄昏の聖槍を禁手に至らせる事ができたのなら、きっと今度は勝てると思うね、うん。

 




サラト達の能力説明会といったところです。

サラトはもちろん、他のメンバーもグレモリー眷属とまともにやり合えるレベルです。最強戦力のサラトは、イッセーでも通常禁手では性能で負けるレベル。










そして、ハヤルト達はトライヘキサ戦では冥界で戦っておりました。

そっちはそっちで量産型のグレンデルやラードゥン、イグドラグウィバーやイグドラゴッホがあるので十分難易度は高いわけです。


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第二部二章 4

そして、フェスタ当日……。


 

 そして、ハヤルト・アスモデウス眷属とリアス・グレモリー眷属は、中国の地方都市に来ていた。

 

 国際フードフェスタ。食文化の発達している中国で行われる、世界各国の郷土料理を食することができる食の祭典。

 

 帝釈天が自ら出資して規模を大きくさせたイベントであり、神話業界の人間世界への進出に注目が集まっているこの時代だからこそ、その参加人数は莫大だった。

 

 帝釈天が自ら呼びかけたことで、神話や国家の重鎮達も何人も参加。VIP席で美食を楽しんでいる者たちも数多い。

 

 そのうちの一人である大尽統は、しかし美食を楽しんでいるというよりかはやけ食いの形だった。

 

「ったく。今回のイベントは大事になりそうで困ったもんだぜ」

 

 がつがつとワニ肉を食べながら、大尽は素早く周囲の視線を巡らせる。

 

 異能に対しても相応の知識がある大尽にはわかる。このVIPルームは、神々の力で桁違いに頑丈に作られている。それこそ、戦術核程度の直撃ならば耐えられるだろう。

 

 戦争クラスになれば地形すら変える異形の存在であろうとも、上級悪魔クラスの一人や二人では突破不可能。さらにその周囲には、最上級悪魔クラスの精鋭もいるという念の入りようだ。

 

 しかしそれは、裏を返せばそれだけの警戒が必須ということでもあるのだろう。

 

 国際情勢から考えても当然。VIPの顔ぶれを考えても当然。何もおかしなことではない。

 

 だがしかし、既に下調べを終えていた大尽は警戒心が先に立つ。

 

 このフェスタ周辺の警備網や警戒網。それらすべてに一見すると気づかないが、確かに存在する穴が存在する。

 

 それ相応の諜報能力や潜入能力があるのなら、簡単に潜入できるだろう。諜報関係では他国に遅れる日本ですらつかめる穴だ。ヴィクターに属している有力勢力なら、いくらでも見つけられるだろう。

 

 無論、警備は厳重だ。中国政府も軍を派遣しているし、須弥山からも仙人や妖怪が動いている。さらに帝釈天子飼いの尖兵たちが、広範囲にわたって待機している。

 

 数か月前から雑居ビルなどの空いているスペースを戦力の待機場所としており、その数は歩兵一個師団を超えるだろう。中国・須弥山側だけでも、軍事拠点を超えるような圧倒的戦力である。

 

 加えてそこに、各国政府や各神話体系からの腕利きの護衛があつまっている。彼ら全員が一致団結すれば、マイナー神話体系程度なら滅ぼせるだろう。

 

 それほどまでの圧倒的な警備体制だが、これには致命的な問題がある。

 

 これらは全て、問題が発生した後に鎮圧するためのものだ。その際に要人を護衛するための防衛網だ。

 

 そもそも敵対勢力を近づけさせず、要人がいるこの場所で問題を起させない努力が明らかに欠けている。

 

「こりゃ、予想通りというほかないだろうな」

 

「おいおい、日本のトップともあろう人がなに不機嫌になってんだよ」

 

 そこに声がかかり、大尽は振り返る。

 

 そこにいたのは、若い外見の優男。

 

 この状況下で無精ひげが残っているのは問題だが、しかしそれを踏まえてもVIP中のVIPだ。

 

 北欧アースガルズ、新主神、ヴィーザル。

 

 オーディンの後継としてアースガルズを担当する、若き主神である。

 

「こりゃどうも。そちらさんは中国料理はどうですかい? 寒い地方の出身でしょうし、四川料理とか食べてみるってのはどうですかねぇ」

 

「ビールに合うのはなんかないかねぇ。こう言うところだといいのがそろってそうだな」

 

 そう世間話をしながら、大尽はヴィーザルと共に酒のあるスペースへと向かう。

 

 そして、大尽は軽く肩をすくめた。

 

「……豪胆ですなぁ。何か起こるのはわかってるでしょうに」

 

「ビール一杯程度で不覚はとらねえよ。っていうか、むしろ一杯ぐらい飲ませてくれ」

 

 当然のことだが、ヴィーザルクラスともなればわかっているようだ。

 

 帝釈天は、この地にテロリストをおびき寄せている。そして集めに集めた戦力たちとぶつけ合わせる気だ。

 

 自分達は其のための撒き餌なのだろう。これだけの要人がそろっているのなら、仕掛けたがるテロリストの数は十や二十では聞かないはずだ。

 

 無論、危害が本当に加えられることだけは阻止するために本気は出している。周囲を警護する須弥山の戦力は、神格すら確認できるからだ。

 

 だが、同時に帝釈天は外周部を警戒する護衛達は新米を中心に配置している。

 

 それは確実だ。そして、彼らがテロリストとぶつかり合うことこそを帝釈天は目論んでいる。

 

 そう、帝釈天の目的は新米たちに対する過激なまでの試練を与えること。

 

 ただの雑兵はいらない。必要なのは、神々の戦争でも戦力として認識できる凄腕の猛者。少なくとも、戦車程度を生身で破壊できる戦闘能力は必須だろう。

 

 そのためにテロリストをあえて引き寄せ、かき集めた兵士たちとぶつけ合わせることで戦力を育て上げようとしているのだ。

 

 圧倒的な人口を誇る中国を牛耳っているからこそできる、人海戦術による強化方法。

 

 一歩間違えれば国際社会からの非難もあり得るが、しかしそこは国際情勢が味方する。

 

「……戦争するなら日本(こっち)の迷惑にならない形でやってもらいたいもんだがねぇ」

 

「同感だ。ヴィクターの相手で苦労してるんだから、アースガルズ(こちら)も余裕はあまりないんだがな」

 

 2人そろってため息をつくのも、当然といえば当然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だろう、ため息が聞こえた気がする。

 

 そんなことを思いながら、しかし僕はそっちを気にする余裕なんて欠片もなかった。

 

 なぜなら、僕のとなりではペトさんがおいしそうに鯨肉を食べていたからだ。

 

「……割とうまいっすね。これ、日本の郷土料理ッスから、帰ったら本場を食べに行くのもいいかもしれないっす」

 

 そう言いながらニッコリ笑顔で食べるペトさんは、とてもきれいだ。

 

 いや、ホントキレイだよ、ペトさん。

 

 どれぐらい綺麗かっていうと、僕は食べている物の味を理解できないぐらい夢中になってる。

 

 こんなきれいな人が、ベッドの上だと妖艶としていて別の形の美しさを見せるからすごい。

 

 うん。間違いなくハイレベルだよコレ。きれいすぎるっていうか、美しすぎるっていうか。

 

「……サラト?」

 

 見惚れてたら、ペトさんはなぜか不満そうな目でこっちを見てくる。

 

 あれ、な、何かしたかな?

 

 そう思って首をかしげていると、ペトさんは橋の先端を突き付けた。

 

「サラトはもうちょっと食事を楽しむッス! デートはそう言うのも楽しみ方だと思うっすよ?」

 

「いや、おいしそうに食べるペトさんがきれいすぎて」

 

 ぶっちゃけ、ご飯の味がわからないです。

 

「むぅ。そう言われると照れるっすけど……」

 

 顔を赤くしながら、もぐもぐとクジラ肉を食べていくペトさん可愛い。

 

 だけど確かに、デートはお互いの顔を見て楽しむだけだといけないよね。一緒に食べるご飯を楽しめないと。

 

 うん、ちょっと反省。

 

 深呼吸して落ち着いて、そしてゆっくりと味わってみる。

 

 ……うん、おいしい

 

「いや、ほんと美味しいね、コレ」

 

「っすよねぇ。滅びない程度に食べる文化遺す程度で、テロリストまで出てくるとか迷惑っス」

 

 うんうんとうなづきながら、僕たちは会話を続ける。

 

「でもまあ、僕記憶喪失だけどこういうのは良いですね。なんでも新鮮で、おいしい食べ物とかも新鮮に食べれるし」

 

「なるほどッスね。たいていのことにはいいことが一つぐらいあるもんっすね」

 

「ですよねぇ。あ、そういえばペトさんは何か大好物とかあるんですか?」

 

 今度、でででででデートするとき、その手のお店に誘いたいので聞いてみた。

 

 ペトさんは少し考えると、ぽんと手を打った。

 

「ペペロンチーノとか好きっすね」

 

 ほほぉ。

 

「いや、スパゲッティは消化吸収いいし、にんにくは精が付くからヤる前に食べることとかがちょくちょくあって、そこから結構好きに」

 

 ペトさんらしい理由だったよ。

 

「あはは。じゃあ、今度デートするときはホテルの前にパスタ専門店とかですかね」

 

 僕は何を食べようかな。

 

 ピザにするかマカロニグラタンにするか。いや、ペトさんと一緒にスパゲッティにするというのももちろんありだし。

 

 まあ、ペトさんと一緒ならよほどのことがない限りどれでもおいしいかもね。

 

 ……おっと。

 

 いけないいけない。これは休暇にかこつけた助っ人としての待機任務だった。

 

 おいしい食べ物がいっぱい食べられるけど、食べ過ぎちゃいけない。

 

 激しい運動をすることになるかもしれないから、適度に胃を開けておかないと。穴が開いたら大惨事だよ。

 

「ペトさん、今度任務とか抜きで遊びに行きません? ……二人っきりでなくていいですから」

 

「……嵌ったっすか? それならかわいい子を何人か見繕わないとっすね」

 

 いや、そういう意味じゃなくて。

 

「イッセーさんとかでもいいですよ。なんとなく、色んな人と一緒でもいいからペトさんとの時間がほしいんです」

 

「いや、イッセーを連れて行くとリアス先輩たちにぶち殺されそうなんすけど……」

 

 だから、そういう意味じゃなくて―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―こちらミラリル。外周南西部で警備部隊と新秦が小競り合いを開始した』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉に、僕たちは即座に食事を掻っ込む方向にシフトした。

 

 やっぱり始まったよ。それも新秦かぁ。

 

 小国クラスの軍事力を誇る組織だからね。小競り合いでもそれ相応の規模になりそうだよ。

 

『同時多発的に潜伏している連中が暴れだしかねない。全員コンディションイエロー。遊びの時間はここまでだ』

 

 だろうね。

 

 うん、やっぱりペトさんとのデートはまたの機会にしよう。

 

 さて、こっからは自衛隊として頑張りますか。

 




各勢力のトップが集まる中、やっぱり起きましたよトラブルが。

事実上の初デートが困難で、サラトは残念。今度もっとまともなデートを書いてみるから我慢してくれ。


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第二部二章 5

そして中国での戦いが勃発。

そしてハヤルト達は何をしているかというと……


 

 新秦との小競り合いが勃発。この事実はすぐにVIPルームにまで届いた。

 

 ざわつく半分ほどのVIPをしり目に、もう半分は即座に秘書や護衛を呼んで、状況の把握に努めている。

 

 なんだかんだで半年以上の第三次世界大戦にもまれている以上、相応の胆力を持つ者も多いのだ。小競り合いの一つや二つで慌てふためく者ばかりなわけがない。

 

 何より、帝釈天が余計な事を考えている可能性を考えている者は多い。その懸念材料を把握している者も数多い。分かったうえで参加している者も結構な割合で存在しているのだ。

 

 大尽統もその一人である。

 

「いよっし野郎ども! 護衛任務は継続してもらうぜ! ……やけ酒持ってきてくれや」

 

 と、大尽は近くで動揺しているウェイターにそう告げる。

 

「総理! お願いですから避難を考慮してください!! 敵襲ですよ!?」

 

 護衛の一人がそう言うが、大尽はその口にタンドリーチキンを突っ込んで黙らせる。

 

 そして反射的に食べる護衛に、大尽は首を振って見せた。

 

「いや、下手に避難するよりここの方が安全だろうよ。つーか、その為のスペースだろうしな」

 

 意味のない事はしない。これはそういう事なのだ。

 

 帝釈天も、流石にVIPに犠牲者が出ればややこしい事になることぐらいは分かっている。あれは問題児ではあるが愚者ではない。

 

 なら、このVIPルームは非常に堅牢な防衛陣地になっているだろう。実際核攻撃にも耐えられる防御態勢だ。

 

 帝釈天の目的は、VIP達撒き餌におびき寄せられたテロリストたちと自陣営の新米をぶつけ合わせ、有数の実力者になりえる者達を選別したり鍛え上げさせる事だ。

 

 なら、餌となるVIPの場所はすぐに分かるようにしたいはず。そして、安全を絶対に確保するだろう。

 

 下手に勝手に動いてこの堅牢なシェルターから離れるより、ここにいた方が遥かに安全だった。

 

「……第一異人部隊とグレモリー眷属は?」

 

「それについてはご安心を」

 

 その言葉に、桃色の髪をした女性が答える。

 

 ただし、そんな髪をした女性は先ほどまでVIPルームにはいなかった。

 

 彼女に気づいた各VIPの護衛達が色めき立って戦闘態勢を取ったり護衛対象を庇ったりするが、大尽は手を上げてそれを制する。

 

「ああ、こいつは自衛隊(うち)の奴だ。心配するな」

 

 その言葉に、周囲の人々から感嘆の声が漏れた。

 

「ニンジャは現存していたのか!」

 

「おお、ジャパニーズシノビ!!」

 

 違うのだが、あえてそれは言わない。

 

 そういう方向にしておいた方が揉めなさそうだ。勝手に勘違いしてもらっておこう。

 

「ミラリルだったな。それで、どんな感じだ?」

 

「現段階では散らばっていますが、幸い全員の場所は把握できています。警戒態勢で待機しています」

 

 そう言いながら、ミラリルはタブレットを取り出して大尽に見せる。

 

 それを見た大尽は、一つの懸念材料に対応をする事にした。

 

「……サラトとペトの嬢ちゃんがいるこの地区に、もう何人か向かわせろ」

 

「了解しました。……一応理由を伺っても?」

 

 素早く連絡をしながら、ミラリルは理由を聞いてくる。

 

 とはいえ、理由はそこまで深いものではない。

 

 しいて言うなら、余計な面倒ごとをさっさと終わらせたいというだけの事だ。

 

「過激派クジラ保護団体が絶対に出てくるだろうからな。戦力を集中して叩き潰す。うちの国民に余計な被害者を生むわけにもいかねえだろ」

 

「了解です。ちょうど赤龍帝がアーシア・アルジェントと共に近くにいるので、彼らに向かってもらうように要請します」

 

 そう言うなり、ミラリルの姿は掻き消える。

 

 魔力を利用した転移現象だが、あまりにも一瞬で瞬間移動したようにしか見えなかった。

 

 どうやら彼女は、魔力量だけではなく運用能力も並の上級悪魔を凌いでいるらしい。

 

「ニンジャだ! ニンジャすごいな!」

 

「ゲイーシャ! フジヤーマ!!」

 

 勘違いは其のままにしておいた方が、誰もが幸せな気がしてきた。

 

 だがしかし、大尽達はここでミスを犯していた。

 

 兵藤一誠、そしてアーシア・アルジェントの使い魔であるファーブニル。

 

 この二大巨頭を目の敵にするであろうテロ組織が潜入している可能性を、うっかり忘れていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、リアスは動き始めた状況の中、少し残念がっていた。

 

 今回は依頼の都合上、ある程度メンバーが分散している必要がある。

 

 なにせ地方都市のカバーを行う必要があるのだ。数十人程度の人数では、密集していてはカバーしきれない。

 

 当然、オカルト研究部は2、3人程度の人数で行動する必要に迫られていた。

 

 そしてキャットファイトでは埒が明かなかった為、厳正たる抽選でイッセーの相方が決定する事となった。

 

 結果はアーシアの勝利。今頃彼女はイッセーとデートをしているわけである。

 

 基本的には日本か冥界で活動するグレモリー眷属。必然的に、それ以外の地方に出てくる事は少ない。海外でデートなど初の試みだろう。

 

 それが自分でないのが実に残念だ。いや、妹同然のアーシアならある程度は許容できるし、ヴィクターとの決着がつけばいくらでも行く余裕はあるのだが。

 

 まあ、イッセーに最初の恋心を抱いたアーシアは、面子の中でも別格である。ある程度は許容してしかるべきだ。

 

 何より、この程度の事でいちいち目くじらを立てていては、兵藤一誠の妻は務まらない。

 

 なので、こちらはこちらで上流階級同士の付き合いぐらいするとしよう。グレモリー次期当主には次期当主なりのやり方がある。向こうから呼んできたのなら尚更だ。

 

 尚更なのだが―

 

「ハヤルト。私達、ゆっくり食べていて大丈夫なの?」

 

 ―若干気になるのは仕方がない。

 

 今、リアス達はVIP席に近い場所にある一室で、優雅に食事をしていた。

 

 予約制の特別席で、転移術式などの応用で短時間で出店している店舗から食事を持ってきてもらう事ができる、特別コーナーだ。

 

 そこでハヤルトが食事をしないかと誘ってきたので、こうして優雅な食事会をしているわけだ。

 

 だがしかし、現在付近では新秦と帝釈天の尖兵が争っている最中。既に戦端は開かれているともいえる。それが火種になって他の勢力が動き出すか分かったものではない。

 

 そんな中、ハヤルトは悠然と鯨ステーキを切り分けて、口に運んでいた。

 

「何を言う、世界各国の珍味を食する機会など、年に何度もあるものではなかろう」

 

「いえ、日本にいるのなら鯨は食べられると思うわよ?」

 

 リアスは一応ツッコミを入れた。

 

 出会った当初は敬語で接していたが、何時の間にやら友達のように会話を楽しめる仲だ。

 

 ハヤルト自身、成果を上げていない状況下で魔王血族を鼻にかける気はかけらもない。それを抜きにしてもフランクである。ましてやリアスも、魔王血族という意味では同じである。こちらも権威を鼻にかけるタイプではない。

 

 結果としてすぐに打ち解けた。敬語抜きで会話する分には何の問題もない。

 

 とは言え、それでも流石に気になってしまう。

 

 犬料理(韓国料理)蛙料理(フランス料理)、更にはアマゾンからピラルクまで、世界各国の様々な珍味が、本場の料理人の手で作られて食している。

 

 まあ、大半の料理は日本に居ながら食す事もできるのが恐ろしいのだが。ピラルクですらその気になれば日本で食事することができるのが凄まじい。食の大国日本の脅威である。

 

 なお、変化球でイナゴの佃煮などの虫料理まであった。アフリカでは幼虫を使った料理があるらしい。食文化は恐ろしい。

 

 だがしかし、敵襲が推測されている中でこの余裕はどうなのだろうかとは思う。

 

 ことリアスとしては、すぐにでも食事を切り上げて、戦闘態勢を取り始めている眷属たちの支援に行きたいものではあった。

 

「落ち着くのだ、リアス嬢」

 

 だが、ハヤルトは苦笑するとそれを押しとどめる。

 

「余らは王だ。時には眷属を送り込むだけで、後方に待機する必要にも迫られるだろう。前線に出るばかりが仕事ではないぞ」

 

「それはそうだけど、そろそろ戦闘が始まる可能性もあるんじゃないかしら?」

 

 リアスは反論するが、ハヤルトは苦笑すると首を横に振る。

 

「時として、悠然と構える事も必要だという事だ。前線で指揮を執る事だけが眷属の長のする事ではなかろう?」

 

 アザゼルにも言われた事はある。

 

 王とは最後まで生き残る事が仕事とも言われた。若手悪魔のレーティングゲームでも、王が前線で動きすぎなのを指摘された事もある。

 

 だが、イッセーとアーシア、そしてペトが、テロリストの一部がターゲットにしているであろう鯨料理店に向かっているとなれば気にもなる。

 

 やはり動き出したくなるリアスだが、それをハヤルトは手で制する。

 

「あまり大量に動かせば、警備網に穴も生まれよう。それに、なにも眷属に任せて食事にふけろうなどというわけではない」

 

「……なら、食べ終わったら行動を開始すると?」

 

 そのリアスの言葉に、ハヤルトは首を横に振った。

 

 そして、苦笑を浮かべながら後ろに振り返る。

 

「既に敵はそこにいる。なあ、そうだろう?」

 

 その言葉に、後ろで料理の配膳を行っていたウェイターの一人が、一気に動いた。

 

 手首を一瞬だけ振ると、そこからナイフが飛び出る。

 

 そして隣にいた同僚達が驚いている一瞬の隙をもってハヤルトに迫り―

 

「……なるほど、囮のつもりだったのね」

 

 ―感心したリアスが放った魔力で、あっさりとナイフは消滅した。

 

 その事態に隙を見せた男の腹に、ハヤルトの拳が叩き込まれる。

 

 そして悶絶するウェイターは、追撃の蹴りで失神。ハヤルトは素早く魔力で拘束すると、肩をすくめた。

 

「うむ。既にスパイの洗い出しも行われている最中でな、席を融通してもらう代わりに、注意を引き付けれるように鯨を食してくれと頼まれていたのだ」

 

 そう答えるハヤルトは、再び席に戻ると、残っていたクジラ肉を食べきる。

 

 リアスは食い意地が張っているのか料理人に敬意を払っているのか判断し損ねながら、しかしすぐに意図を把握した。

 

 ようは、ハヤルトは自身を撒き餌にしているのだ。

 

 堂々と鯨肉を食べている者がいるとなれば、そちらにクジラ保護団体が集まってくる可能性はある。そうすれば、大尽総理に迫る凶手の数は相対的に減るだろう。

 

 中々豪胆な作戦である。

 

「でも、そんな賭けみたいな事をよくしたわね」

 

 とは言え当たる可能性はそこまで大きくなかっただろう。

 

 賭けみたいなことを最初にするタイプとも思っていなかったので、リアスは少し首を傾げた。

 

 それに対して、ハヤルトは苦笑しながら肩をすくめる。

 

「なに、須弥山から派遣された術者の卜占(ぼくせん)がどうとやらでな。意外に馬鹿にできぬと思ったし、表向きは休暇出来ておるのだから、これぐらいは楽しまねば損であろう?」

 

「卜占? 確か、古い時代に人間の呪いの一つだったかしら」

 

 リアスがハヤルトの言葉に、記憶を掘り返していたその時、足音が響いた。

 

「はい。我々のメンバーの中には、そういったものを得意とする者もいましたので」

 

 その言葉とともに現れるのは、中国の民族衣装を着こんだ一人の女性。

 

 ほんの僅かな動きを見るだけで分かる。

 

 間違いなく、武術を収めている。それも、サイラオーグと武で渡り合える可能性すらありうるほどに、高い水準で習得している者のそれだ。

 

 おそらく彼女が須弥山から派遣された者なのだろう。佇まいからもそれがうかがえる。

 

 そして彼女は一礼をすると、拳と手の平を組み合わせる中国の礼儀作法を示して見せた。

 

「お初にお目にかかります。帝釈天様の下でエージェントをしている、(りょ)良鈴(リャンリン)と申します」

 

「ごきげんよう。でも、呂というと―」

 

 その名字で中国人となると、真っ先に思い出す名前がある。

 

 だがしかし、それは名誉であると同時に不名誉でもあるので、突っつくのはややこしいことにならないだろうか。

 

 一瞬不安になるリアスだったが、良鈴は苦笑を浮かべると頷いた。

 

「はい、三国志の英傑、呂布は私の先祖です」

 

 呂布。中国における伝説の武将の1人。

 

 三国志において最強の武将であり、中国史における最強の戦士は誰かとなれば、間違いなく候補に躍り出る豪傑。

 

 しかし同時に裏切りの代名詞とも言え、凄腕ではあるが問題児というほかない。

 

 良鈴もそれを気にしているのか、苦笑いを浮かべていた。

 

「ご安心ください。反面教師にしていますので、義の無い裏切りをするつもりはありません」

 

「そう、貴女も大変ね」

 

 そう言う他ないリアスだが、しかし若干の警戒はする。

 

 なにせ帝釈天は不穏分子候補といえる立場だ。その子飼いの戦士ともなれば、敵対する可能性もあるだろう。

 

 あまり気を許しすぎてはならないとも思う。少なくとも、初対面で無警戒になるのは問題だった。

 

 だが、良鈴は笑みを浮かべながら静かに首を横に振る。

 

「ご安心ください。帝釈天様の将来の目標はあくまでシヴァ神の打倒。曹操で懲りておりますので、不用意にヴィクターと連携をとる事はありません」

 

「そこは不用意にではなく、絶対にと言ってほしかったがの」

 

 そう上げ足を取るハヤルトだが、しかしすぐに指を鳴らす。

 

 リアスもそれに倣い、とりあえず近くにあったベルを鳴らしてみる。

 

「なんだ、戻った事に気づいていたのか」

 

「あらあら、食事はもうよろしいのですか、リアス?」

 

 そこに現れるのはミラリルと朱乃。

 

 仮にも女王(クイーン)の立場の為、こうして待機するのは当然だった。

 

 そして、側近を傍に置いたうえで、リアスとハヤルトは悠然と座る。

 

「では、良鈴さんには帝釈天の今後の行動について聞くついでに、食事会に付き合ってもらいましょうか」

 

「うむ。テロリストが来るまでに時間はある以上、もう少し腹ごしらえをしながらゆるりと会話を楽しもうではないか」

 

「壱与の占いどうり、豪胆な方のようで安心しました」

 

 そう答えながら、良鈴もまた席に座る。

 

 それを見てから、ハヤルトは椅子の一つを引っ張ると、ミラリルを手で招く。

 

「ミラリルも腹ごしらえぐらいはするとよい。これからここには何度もテロリストが来るのだから、少しぐらいは食べておかぬと身が持たぬぞ?」

 

「なら朱乃も席に座りなさい。幸い、それを咎める様な者はここにはいないみたいだわ」

 

「なるほど、ではご相伴にあずからせてもらうとしよう」

 

「うふふ。中々緊迫感のある食事会になりそうね、リアス」

 

 そして皆が席に座り、ハヤルトは鈴を鳴らしてウェイターを呼ぶ。

 

「では鯨料理をもう一セット用意してくれ。……なに、ここに余達がいる限り、汝たちはむしろ安全な場所にいると考えよ!」

 

 そして、食事会を続ける事になる五人は、その後数多くの敵を半殺しにする事になる。

 

 それほどまでの事が出来てこそ、冥界の未来を担う新たな世代とその側近。そして、帝釈天の尖兵。

 

 圧倒的な才能を努力で磨き上げた猛者達が、圧倒的な力を見せつける試金石。テロリストは体のいい咬ませ犬となることを義務付けられていた。

 



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第二部二章 6

そしてこの騒動はどんどんヒートアップしていきます!!


 

 そしてそのころ、ハヤルト達は一応の指示を出してはいた。

 

 新秦との小競り合いが勃発している戦場を確認するべく、何人か戦力を送り込む程度のことはしていたのだ。

 

 ハヤルト側から派遣されたのは、時草福津と一個分隊。

 

 リアスもまた戦力を派遣。こちらは木場祐斗と塔城小猫だった。

 

「……意外と数が多いです。結構なぶつかり合いですね」

 

 猫又としての本性をだし、仙術で敵を確認しながら、小猫はそう告げる。

 

 それを双眼鏡で確認しながら、福津と祐斗は眉をひそめていた。

 

 戦況そのものは帝釈天側が有利である。新秦はこの調子なら敗走することになるだろう。

 

 しかし、それはそれ、これはこれ。気にするべきところは数多い。

 

 まず一つは、新秦の戦力だ。

 

 彼らは中国を収めた大国である、秦の在り方を再びおこなおうとしている。

 

 簡単にまとめれば、知識の一極集中。知識を持つものを限定し、船頭多くして船山に上るといった真似を避けることが目的だ。

 

 独裁政治は古来より愚策の一つとなるが、条件次第では数多くの政治の問題点を解決することもできる。そう言う意味では新秦の在り方は全否定はできないだろう。

 

 だが、この時代で一般人に知識を広めないことは愚策になる。ポルポトの失敗がそれを認めているようなものだ。

 

 知識とはある程度広めて共有されることで文明が発達する。そして発達した文明で人民が生活を維持するには、一定の知識が広まっていることは必要不可欠。それが人類社会の限界ともいえる。

 

 この時代で知識を徹底的に一極集中させるのは、多くの人間を死に至らしめかねない。

 

 ゆえにそんな思想の持主たちに多くの人が集まることは危険視されるべきなのだが、しかし賢帝による独裁政治はある意味で理想的な政治体制であることも事実。

 

 結果として、それを求める人材は数多く集まっている。

 

 その結果として、戦力もかなり強大であり、戦闘は割と戦いにはなっていた。

 

「頭痛。これだけの戦力を保有しているとは、独立国家を名乗るだけのことはあるな、新秦め」

 

「そうですね。これは、相当の技術流出が行われていると判断するほかないでしょう」

 

 福津に頷きながら、祐斗もまた頭が痛くなる気持ちがわかっていた。

 

 冥界は新たな発展を遂げようとしている。

 

 利益の独占を図っていた旧家が、ディハウザー・ベリアルの告発によってその地位を大きく削がれたことに由来する。

 

 それによって、軍学校としての側面が中心だったアウロス学園はさらに大型発展。旧家の抑え込みがなくなったことで、教育をまともに受けられなかった悪魔たちが教育を受けられるようになり始めている。

 

 学を修めることで人生の選択肢を増やした悪魔たちは、これからの冥界の未来を大きく変えていくことだろう。それが、学問の持つ力である。

 

 それら勉学の力を示してきたのは人間である。

 

 個々の能力では大きく劣りながらも、知恵をもってして乗り越えてきた人間。魔法などの悪魔の能力の再現は、今でも異形たちに対抗する大きな力である。科学文明の発展も、人類の力の筆頭だろう。

 

 だが、新秦のあり方はその真逆である。

 

 それに対して、人間から悪魔になった祐斗としてはなんとなくだが不満を覚える。

 

 偏った知識しかなかった頃より、いろいろな視点でものを見れるようになった今の方がいいと思う身としては、やはり複雑だった。

 

「それで、どうします? 僕たちも参加しますか?」

 

「躊躇。俺たちはあくまで休暇の名目で来ている。うかつに介入すれば、中国側のメンツを傷つけるだろうしな」

 

 その意見には一理があるが、しかし余計な被害者が生まれるかもしれないと思うと、気になるところもある。

 

「……面倒ですね」

 

「自粛。プライドを完全に投げ捨てるのもあれだしな。俺たちだって、主のメンツを傷つけるのは躊躇するだろう?」

 

 小猫にそういいながら、福津はしかし目を伏せる。

 

 そこにはどこか、何かに耐えるもの特有の苦悩があった。

 

「そう、眷属は主に忠誠を誓う者だ。それは忘れちゃいけないしな」

 

「福津さん?」

 

 その何かがこもった声に、祐斗が反応したその時だった。

 

「……祐斗先輩、福津さん!!」

 

 小猫が、急に上を向いて声を荒げる。

 

 何事かと二人は視線を上に向け―

 

「「―は?」」

 

 思わず一瞬ぽかんとしてしまったのは、決して彼らが責められるものではないだろう。

 

 信じられないような光景を見て、隙を見せてしまうのは人の性だ。決して努力すれば必ず直せるなどというものではない。

 

 いうなれば初見殺し。そんな隙を大量に生み出しかねない、厄介なものがそこにはあった。

 

 それは、まるで流星群だった。

 

 大量に降り注ぐそれは、一見するととても美しい光景にも見える。

 

 だが、それに見惚れていては確実に死ぬ。

 

 それは、真っ赤に染まりながら大量に高速でこちらに向かって降下してきていた。

 

 しかも、気づけば大量の光弾を乱射していた。

 

 断言してもいい。

 

「き、軌道降下戦術?」

 

「唖然。SFの世界だったか、ここは」

 

「……誰ですか、あんな突拍子もない戦術を思いついたのは」

 

 三者三葉にあきれ半分感心半分の驚愕を示す中、戦場に軌道上から襲撃を仕掛けた来た者たちが、着弾した。

 

 ……ちなみにドーインジャーであったことを追記しておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オッス! 俺イッセー。

 

 ハーレム王を目指して日進月歩。一生懸命努力していて、上級悪魔に昇格が確定するかもしれない、中級悪魔さ!

 

 悪魔になってからまだ一年もたってないのに上級悪魔になるかもしれない。そこまで出世速度が速いのは冥界でも前代未聞らしい。

 

 まあそうだよね。俺、この一年で何度も死にかけてるし。っていうか、二回ぐらい死んだし。

 

 毎回毎回大変な目にあって、何とか頑張って生き残ってきてるもんな。そりゃ出世もしないと嘘だよな。

 

 中級堕天使のレイナーレにもボコボコにされたのが懐かしい気持ちになる。なんたって、中盤ぐらいで神様と戦ったからね!

 

 そのたびに、日々の努力と仲間たちとの絆とおっぱいの力で生き残ってきた。

 

 ……そこ、意味が分からないとかいわないでくれ。じぶんでも時々おかしいと思うから。

 

 フェニックスの涙でもアーシアの力でも回復できなかったのに、母乳につけたら治るとか、俺の身体ってどうなってるんだろう。いや、乳製品飲むと体調良くなるけど、それそんなレベルじゃないよな。

 

 まあ、なんだかんだで俺ってば、おっぱいの力で状況を打破することも多いんだよ。

 

 神器ってのは想いの力で駆動するからね。俺、スケベだからね。二つが合わさってこんな感じだよな!!

 

 でもまあ、俺はハーレム王の道をどんどん進んでるけど、普通の人間の女子からは蛇蝎のごとく嫌われることが多い。

 

 俺は、ただちょっと人よりスケベなだけなのに。覗きなんて高校生のジョブだと思うのに、なんでだ?

 

 しかも変態集団から神様扱いされかけるし。京都で覚醒するために、何百人も痴漢にしちまうし。っていうか最近開き直ったけど、おっぱいドラゴンってどうよ? 流行る冥界の方がおかしいよな。っていうか異形社会おかしいよな。

 

 そういう意味じゃあ、異形社会に適応する俺の方がおかしいのかなぁ。

 

 いやいや、今はそんなことをしている場合じゃない。

 

「急ぐぜ、アーシア!」

 

「はい!」

 

 おれとアーシアは、今急いでペトと合流しに向かってる。

 

 俺は熾烈な争いの果てに勝利したアーシアとデート。ペトはつい先日告白してセック〇フレンドから始めることになったサラトとデート。お互いに邪魔しないのが一番だ。

 

 だけど、状況はそんな場合じゃない。

 

 もともと何かが起きたときのために呼ばれていて、しかも本当に何かが起きてしまった。

 

 新秦との戦闘が勃発して、今まさに離れたところでは戦闘が勃発している最中。みんな避難を開始しているところだ。

 

 だから、そのために呼ばれた俺たちは動くことになっている。

 

 今は、ペトとサラトがいる鯨料理店に向かってる。

 

 なにせ、今回のフェスタにもぐりこんだ可能性のあるテロリストの中には、過激派クジラ保護団体がいるって話だ。

 

 あいつらがこれに触発されて動き始めたら、何が起きるかわかったもんじゃない。

 

 ペトとサラトはその防衛が担当。で、念のために俺とアーシアも合流することになった。

 

 ほかのみんなもそれぞれやばそうなポイントに移動して待機だ。みんなそれぞれ半分休暇だったこのフェスタを楽しんでたけど、まあそれは仕方ない。

 

 だから急いで合流しようとして―

 

「―見つけたぞ、我らが怨敵」

 

 ―すごい殺意が、俺にたたきつけられた。

 

 とっさに振り返りながら鎧を展開すれば、そこには武装した集団が数十名いた。

 

 剣を持っている男がいる。槍を持った女がいる。斧を構えた少年がいる。鎌を持った老人がいる。

 

 そんな連中が、俺をにらみつけていた。

 

「覚悟するがいい、変態の頂点よ。……我らは性犯罪者の生存を認めない!!」

 

 あ、なんかヤバイ。

 

 これ、めちゃくちゃやばくね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やばいやばいやばいやばいやばい。

 

 僕は、目の前の光景を見てやばいと確信した。

 

 この地方都市、実はめちゃくちゃ研究して開発されている。

 

 半年前から須弥山が裏でスポンサーになっている企業が参加して、一首の企業城下町になっている。

 

 そして、そこから始まった大改革によって、めちゃくちゃ発展している。

 

 具体的に言えば、新しく建設されたビルにはすべて地下室があり、しかもシェルターとして運用できるようになっている。

 

 加えて意図的に開発時に空きテナントを作るように用意されており、そこに軍やPMCが入れるようにできている。

 

 そもそも道路などの都市構造が京都並みに術式都市であり、防護結界を張ることによって外部からの攻撃に非常に強い結界を張れる。ブロックごとに障壁も晴れるので、大量破壊兵器の類があまり効果をなさない。

 

 そこから世界各国の諜報部は、必然的に結論を導き出していた。

 

 ……この地方都市は、帝釈天が意図的に何かトラブルを起こすためにつくった地方都市だ。

 

 住んでいる住民に関しても六割ぐらいが過去に何かしらある。

 

 借金だったり、理不尽なパワハラだったり。いろいろあるけど、とにかく帝釈天が間接的にかかわる形で転落人生をつなぎとめた人物たちだ。

 

 おそらく、この何かあることが確定している街に住むことを条件に助けてもらったんだろう。下手すると定期的に訓練を受けている可能性もある。

 

 とにかくそんなわけでスムーズに避難が進んでるなら、僕たちは増援が来るのを見た。

 

 装甲車が一台こっちに向かっている。

 

 どうやら、帝釈天も鯨料理が出てくる此処にテロリストが来ることは想定内らしい。其のための対策はきちんと用意しているようだ。

 

 とりあえず、事情を説明して僕たちもサポートに回ろう。

 

 この店は日本が出店している。つまり日本も守る義務がある。此処に自衛隊員()がいる以上、僕は積極的に協力する責任がある。

 

 そんなわけで、僕は手を振って合図をしようとしたその瞬間―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「助け助助けて助けっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 剛速球で飛んでくる人間が、装甲車のタイヤに激突した。

 

 ミンチになった人間がタイヤにつまり、装甲車をスピンさせる。

 

 そしてスピンした車がこっちに向かってくる。

 

 あ、まずい。まだ避難が完了してないのに―

 

「サラト! 大量の雪!!」

 

 ―ペトさんの声が、的確な指示を出してくれたおかげで助かった。

 

 とっさにいわれたとおりに大量の雪を前面に展開。

 

 それがクッションになって、ギリギリのタイミングで装甲車が止まる。

 

 適度に減速されたみたいで、装甲車の中の人も無事だった。

 

 たぶん異能の訓練も積んでたんだろうね。普通なら骨折とかで動けなかったりしただろう。だけど打撲程度で済んでる。

 

 ふう。よかったよかった。

 

 ……じゃない!!

 

「ペトさん下がって!」

 

 即座に神殺の双腕を展開しながら、僕は人が飛んできた方向をにらみつける。

 

 そこには、何人もの殺意満々の人たちが、おびえている人たちを構えながらこっちをにらみつけていた。

 

 いや、なにこれ。

 

 なんで人間を構えてるのさ。武器を構えなよ。

 

「我々はオーシャンズK9! これよりその店と従業員とその客を全員この世から消し去る!!」

 

「無関係なものは今すぐ立ち去れ! 我々は鯨を守護するための断罪をするだけで、罪なき者たちまで殺す気はない!!」

 

 よし、頭がおかしい

 

「いや、そこで大絶賛捕まえている人たちは何だ!!」

 

「こいつらはクジラ保護団体を語る屑共だ。見かけたので制裁をくわえに来た」

 

 うん、頭がおかしい。

 

「鯨の保護のために海洋汚染物質をばらまく意味不明な連中が」

 

「漁船に嫌がらせ? せめて殺してから声を上げるがいい、屑が」

 

「そもそも偉大なる鯨が住まう海を荒らすな。陸で殺せ」

 

「その気になれば爆薬ぐらいいくらでも作れるだろうに。火炎びんで漁協を燃やすぐらい出来んのか、塵め」

 

 すさまじいディスりぐあいだ。殺意と侮蔑が悪魔合体している。いや、悪魔なのは僕だけど。

 

「そう言うわけだ、貴様らはせめて砲弾として役に立つがいい。身体強化術式の力で役立たせてやろう」

 

「人体とは投擲向きなのだ。これが人間の力と知れ」

 

「飛ばせ闘魂! 守れ鯨!!」

 

 あ、この人たち話を聞いてくれそうにない。言葉は通じるけど話は全く通じない。

 

 よし、テロリストには容赦しない。遠慮なく本気でいこう。

 

「我らは海の守護者! 汚染するのはあくまで地上!!」

 

 思想が極端すぎる!!

 

 その瞬間、剛速球で人間が飛んできて―

 

「死ねぇ、変態がぁ!!!」

 

 そのまま飛んできた魔法攻撃で、彼らは吹っ飛んだ。

 

 ……ヤバイ、哀れすぎる。

 

 そして、一体何!?

 

「新手か!?」

 

 オーシャンズK9が目を見開いて振り向く中、そこから大量の魔法砲撃が飛んでくる。

 

 そしてその弾幕をかいくぐりながら、イッセーさんがアーシアを抱えながら鎧姿で飛んできていた。

 

 っていうかイッセー!? こういうエグイ真似はしないと持ってたんだけど、どんな増援を連れてきてるのさ!?

 

 そんな話は聞いてない。たぶんだけど、想定外の合流をしてきたんじゃ―

 

「サラトにペト、マジでゴメン!!」

 

 あれ? イッセーさんが謝ってきたよ?

 

 ど、どういうこと?

 

「なんか変なのに襲われてる、助けてくれ!!」

 

 ……はぃ!?

 




大惨事に見舞われる中国。

そして、イッセー達は半分ぐらい自業自得な過激派を凌ぎ切ることができるのか!!


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第二部二章 7

そしてこっから中国編のバトルは白熱します!!


 

 戦闘が勃発しているであろう所から何やら隕石群が堕ちてくるという、地球最後の日かと勘違いするかのような大惨事。

 

 それをビルの屋上の飲食コーナーで見ながら、シシーリアたちは唖然となる。

 

「な、なにが起きたんですか!?」

 

「よくわからんが、さすがに自然現象ではないだろう。範囲が狭すぎる」

 

「ってことは、もしかして今度こそ宇宙人からの侵略!?」

 

 慌てふためくシシーリアに、なぜか微妙に冷静なゼノヴィアとイリナの漫才が聞こえてくる。

 

 とりあえず、今度こそとはどういうことだ。

 

「ま、まさか異星人に知り合いがいるんですか!?」

 

「いや、アザゼル先生がU・F・O! を作ってイッセーを襲撃してな」

 

 ゼノヴィアの丁寧な説明には感謝する。だがそれはそれとして意味が全く分からない。

 

 なぜUFOを作るのか。そして、なぜアザゼル総督は教え子を襲撃するのか。

 

 ちんぷんかんぷんとはこのことだ。あとで他のオカルト研究部員に追加説明を求めるべきだろうか。

 

「アザゼル先生にも困ったものだ、イッセーがつまらなくなってしまった」

 

「ホントほんと。エロくないダーリンなんてご飯も具もないどんぶりだわ。物足りないわ」

 

 とりあえずどこから突っ込めばいいのか本気でわからない。

 

 シシーリアとしては、仮にも天使がその発言は微妙な話ではないのだろうかとふと思った。

 

 と、そこまで来てシシーリアはふと我に返る。

 

 そんなことを言っている場合ではない。

 

 あの隕石群が何なのかはわからないが、しかし状況は大きく動いたはずだ。

 

 とにかくこちらも何かしらの動きを見せるべきで―

 

 そう思った瞬間、ゼノヴィアがいきなりデュランダルを引き抜いた。

 

 一応言っておくと、まだここには民間人がいる。

 

 そんなところでとても大きくて目立つデュランダルを引き抜く。当然のことながら目に付くのは当たり前だ。

 

 結果として、注目を浴びた。

 

「ゼノヴィアさん!? 何を―」

 

「全員避難しろ!! こちらに何か向かってくるぞ!!」

 

 其の声に、シシーリアは遅れながら殺気に気づく。

 

 そして振り返ったその瞬間、イリナの振るったオートクレールが、シシーリアに迫った凶刃をはじき返した。

 

 そのまま空中を回転して着地する少年をにらみつけながら、イリナとゼノヴィアは素早く構える。

 

「アーメン! 無事で何よりだわ!」

 

「油断するな! こいつは……できるぞ!」

 

「は、はい! お手数おかけしました!!」

 

 すぐにハルバードを展開しながら、シシーリアは歯噛みする。

 

 自分もだいぶ武闘派にはなったが、やはり幼少期から戦闘訓練を積んでいる生粋の悪魔祓いたちである二人には届かないようだ。

 

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 

 わざわざ自分達をピンポイントで狙ってくるのだ。シシーリアはともかく、ミカエルのAであるイリナや、デュランダルとエクスカリバーの二つの担い手であるゼノヴィアは知名度も高いはず。

 

 つまり、それだけ腕に自信があると考えるのが普通だろう。

 

 そして、その顔を見てそれもすぐに納得した。

 

「まったく、貴様との因縁もいい加減清算したいものだな」

 

「同感だねぇ。終わりにしたいねぇ。俺が君たちを殺して終わりにできたら最高だねぇ!!」

 

 舌打ちをしたそうなゼノヴィアに、その少年は舌を垂れ流しながら答える。

 

 神父服を着こみ、そして特徴的な白髪を持つ少年。

 

 この二つの組み合わせだけで、シグルド機関の出身であることがうかがえる。

 

 そして、そのシグルド機関が生み出した戦士たちの中でも、精神面においてならば最も危険な者が、目の前の少年だった。

 

「ニーハオ! フリード・セルゼンだよーん! 四千年の歴史を君たちの墓標にしに来たアルよ!」

 

 などとふざけたことをのたまうのは、フリード・セルゼン。

 

 かつては少年天才悪魔祓いの名をほしいままにし、条件次第で神滅具の使い手からすらも逃げきって見せた猛者。

 

 だが、そのあまりにも危険な性質ゆえに教会を離反し、神の子を見張るもの(グリゴリ)からも追放され、ヴィクター経済連合に流れ着いた生粋の危険人物だ。

 

 しかも恐るべきことに、バルムンクとノートゥングの担い手となり、果ては魔獣創造すら移植している。

 

 神器を持たないただの人間という、数少ない攻略法が完全に克服されてしまっている。正直な話、他に人材はいなかったのかという意見を出すものは多いだろう。

 

 だがしかし、一つだけ断言できることがある。

 

 ……目の前の少年は、間違いなくヴィクターの主戦力の一人だ。

 

「教会がらみの雌犬が三匹もいるんで、ちょっと殺しにきちゃったよーん。さ、この世からバイバイしましょうねー」

 

 そんなふざけたことを言いながら、フリードは二刀流で切りかかる。

 

 バルムンクとノートゥング。

 

 ともにエクスカリバーとも打ち合える、伝説クラスの魔剣。

 

 普通に切り結べばその時点で敗北確定。まともな人間なら数で押す戦いだ。

 

 だがしかし、ここにいるのは若手の次元を超えた、規格外の戦力だらけである。

 

「ほざくな、外道!!」

 

 その魔剣の双撃を、聖剣の双撃が弾き飛ばす。

 

 それをなしとげるのは、ゼノヴィア・クァルタ。

 

 聖剣デュランダルと聖剣エクスカリバー。

 

 その二つを同時に扱う彼女からすれば、少なくとも今のままではフリードは戦いの土俵に乗っかってしまっただけである。

 

 いかに伝説の魔剣といえど、伝説の聖剣が相手になれば対抗できるのは道理。

 

 ゆえに、ゼノヴィアは一切動揺せず、素早く追撃を開始する。

 

 だがしかし、フリードもさるもの。

 

 先程の一撃は囮。その瞬間にドーインジャーを生成し、後方に射出させていた。

 

 そしてゼノヴィアの攻撃を引き付けながら、ドーインジャーの砲身に狙いを付けさせ―

 

「させると思いますか!!」

 

 そのドーインジャーを、シシーリアがエクスカリバーをハルバードにして切断する。

 

 聖剣エクスカリバーは七つの機能をもった聖剣。そのうちの一つに、形状を自由自在に変更できる擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)が存在する。

 

 ゆえに、あえてエクスカリバーを再現することで最も得意とするポールウェポンを再現して、シシーリアは対応した。

 

 もはや、シシーリアは多少使える程度の半ば数合わせの眷属ではない。

 

 状況次第では神殺しすらなしえかねないほどの、冥界でも有数の戦力になりえる逸材である。

 

 それが、ハヤルト・アスモデウス眷属。ハヤルト・アスモデウスという魔王の末裔に使える、一人の騎士。聖槍すらその手に宿すことができる、聖という属性を操る担い手。

 

 そのシシーリア・ディアラクが、何度も何度も無様をさらすわけには、行かなかった。

 

「チィ! 思った以上にやるじゃねえか! ディオドラのところの雌犬が!!」

 

「残念ですが、今の私は雌犬ではなく軍用犬です!!」

 

 ドーインジャーを再生産して弾幕を張ろうとするフリードに、シシーリアは遠慮なく持っていた払魔弾入りの拳銃を発砲。

 

 それを牽制として、今度はイリナがフリードに切りかかる。

 

「アーメン! 今度こそ裁いてあげるわ!!」

 

「ザケんな、このビッチ!!」

 

 イリナの攻撃を凌ぎながら、フリードはまた一歩後退する。

 

 その様子を確認しながら、シシーリアはあえて後退した。

 

 あまりの事態というか、ハリウッドバリの戦闘に、避難がまだ追い付いていない。

 

 この状況下で全員がフリードに集中するのは危険だ。ドーインジャーの伏兵なども考慮しなければいけない。カバー役は必須である。

 

 なら、自分がカバーに入るのが一番だろう。

 

 戦闘能力では一番低いと思われる。加えて、パートナーとして連携を取り慣れているゼノヴィアとイリナに割って入って、うかつに連携を崩すのも危険だった。

 

「避難誘導はこちらで引き受けます!! お二人とも、フリードは任せました!!」

 

「いいだろう! できる限り早めに頼むぞ!!」

 

「ミカエル様のAに任せなさい!! アーメン!!」

 

 その二人の快諾を受け止めて、シシーリアは声を張り上げる。

 

「私は日本国の自衛隊のものです!! ここは危険ですので、誘導に従って避難してください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそのころ、プリス・イドアルは面倒ごとに巻き込まれていた。

 

 駒王駐屯地で活動する都合上、まず間違いなくグレモリー眷属とは深い付き合いになる。それを抜きにしてもリセスの友人たちだ。

 

 と、いうわけで親睦を深めることにしたのは良い。

 

 その相手として、年長者であるロスヴァイセを選んだのもいい。

 

 百円ショップがないことを愚痴っていたロスヴァイセに少し疲れたが、まあリセスがあれなので癖が強いのは想定内だ。そこまで言うほどの問題ではない。

 

 そう、問題は―

 

「ふははははは! 快楽堕ちの経験を持つ稀有な人物と出会えるとは、我々はついている!!」

 

「プリス・イドアル。よければ我が三情にくら替えしないかね?」

 

「待遇は応相談よ?」

 

「「帰ってください」」

 

 心底から頭痛を感じ、プリスとロスヴァイセは同時に吐き捨てた。

 

 よりにもよって三情と出くわしてしまった。出くわしてしまったのである。

 

 しかも、三情の人たちは全員が私服でがつがつとすっぽん料理を食べていた。

 

 これは、あれである。作戦とかそういうのではなく、単純に精のつく食事を食べに来たとかそういった類である。

 

 不幸な偶然というものは、ある時は本当にあるのだと痛感するほかない。

 

「……うん、たぶん興味惹かれるとは思ってたんだよね、ホント」

 

 プリスは笑うほかない。

 

 なにせ自分は、アイドル調教系エロゲから出てきたかのような来歴持ちだ。まじめな話快楽堕ちしかけている経歴だ。

 

 三情としては興味がわくだろう。現実(リアル)にそんなのがいるのなら、当然のごとく興味を持ってしまってもおかしくないだろう。

 

 一言言おう。身から出た錆だ。

 

 だが、それ以上にロスヴァイセはげんなりとしていた。

 

 眼はうつろで、明らかに一瞬ですさまじい疲労を得ている。というより、医者に相談した方がいいぐらい憔悴している。

 

 そしてその視線は、一人の女性に注がれていた。

 

「……なんでいるんですか、ラーグリフ先輩」

 

「いや、私は今三情の幹部なんだけど」

 

 さらりと答える謎の女性に、ロスヴァイセは肩を落とす。

 

「ええ、うすうすわかっていました。かかわっているなら参加しているとは思ってました……!」

 

「ろ、ロスヴァイセちゃん? 知り合い?」

 

 プリスは思わずかわいそうになった。

 

 ちなみに言っておくが、プリスはリセスと同年代、二十代半ばである。

 

 ロスヴァイセは教師だが、学生でも通る年齢である。二十歳前後である。

 

 なので、プリスがロスヴァイセを年下あつかいするのは正しい。外見年齢では逆転しているが、これは悪魔なので珍しいことでもない。

 

 それはともかく。

 

「私は英雄と交わりたくてヴァルキリーを目指し、それがなせなかったからアースガルズを抜けた。なら、SEXし放題の三情に加わるのは当然じゃない」

 

「そうですよね先輩!! このヴァルキリーの面汚し!! わたしだってまだ処女なのにぃいいいいい!」

 

「ロスヴァイセちゃん!? ストレスたまっててもこんなところで言っていいこととダメなことがあるよ!?」

 

 とりあえず、プリスは完全に状況に振り回されることが確定しそうな流れであった。

 

 と、いうより彼女はいったい誰なのだろうか。真剣に気になる。

 

 あの三情の幹部だというなら、間違いなく凄腕だろう。少なくとも半神(ヴァルキリー)なのだから、上級悪魔クラスの戦闘能力があったとしても驚かない。

 

 そしてそんなテロ組織を見逃すわけにもいかない。此処で叩き潰せるのならした方がいい。

 

 そう思って構えたプリスに、ロスヴァイセも魔方陣を展開しながら並び立つ。

 

「気を付けてください。ラーグリフ先輩は本来なら今代のブリュンヒルデの襲名最有力候補だった猛者です!!」

 

「……あ、そうなんだ」

 

 なんとなく納得できてしまった。

 

 兵藤一誠。

 

 ファーブニル。

 

 ユーグリッド・ルキフグス。

 

 名だたる変態たちがこの第三次世界大戦で名をはせた。誰もが超一流の変態であり、そして最高峰の戦士であった。

 

 なら、彼女が最強のヴァルキリーであるブリュンヒルデの名を襲名できたかもしれない程度のこと、驚くには値しないだろう。

 

 そこまで考えて、ふと気づいた。

 

「あ、毒されてる」

 

「ですよねぇ」

 

 ため息を同時についたその時、三情が一切に攻撃を開始した。

 

「「「「「「「「「「うけろ、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」」」」」」」」」」

 

「「きゃぁあああああ!?」」

 

 二人は、条件反射レベルで男たちから闘争を開始した。

 




変態が登場した! ロスヴァイセとプリスは頭痛を感じた!!

三情は幹部を複数設定しているテロ組織でもあります。まだまだいろんなところに出てくるので、楽しみに待っていてください!!


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第二部二章 8

さあ、三情までかかわって大混戦です!!


 

「死ね、兵藤一誠!!」

 

「覗き魔に死を!! 変態に地獄を!!」

 

「邪魔するものは親でも許さん!! この世から性欲を消滅させる!!」

 

「人工子宮と体外受精が百パーセントの世を作る為、我らは戦う!!」

 

 なんというか過激というか極端な事を言いながら、大量の呪術攻撃が飛んでくる。

 

 ちなみに全部不能になる呪いが掛けられている。当たりたくない。

 

 いや、ほんとに当たりたくない。男なら誰だって当たりたくないよね、コレ。

 

 第一僕、ペトさんの彼氏を目指しているんだよ? しかも現段階は〇ックスフレンド。

 

 不能になったら絶望的じゃないか!! いろんな意味で前途が多難どころか断絶するよ!

 

 嫌だよ僕、不能になるなんてまっぴらごめんだよ! ペトさんともっといやらしい事したいんだから。男の子なんだよ、僕も!!

 

「うぉおおおおお! 死ねぇええええええ!!!」

 

 なので遠慮なく攻撃を開始する。

 

 神滅の守護者(ノウブル・ボート・フルメイル)を展開し、砲撃戦闘の為の機能を展開。

 

 背部に二門、胸部に一門搭載されたキャノンユニットを展開してオーラを散弾にして乱れ撃つ!!

 

「やられる前にやる!! 不能になってたまるか! トリニティブラスター!!」

 

「俺もやるぜ!! 俺からスケベを奪うだなんて、そんなことは許されないんだよ! クリムゾンブラスター!!」

 

 イッセーさんと一緒に攻撃を乱れ撃ち、そして貞淑委員会に大打撃を与える。

 

 まったく、どんな酷い目にあって性的な事がトラウマになったのか知らないけど、やる事が過激すぎる。

 

 なんでそんなに極端なんだよ! もうちょっと冷静になって人生生きた方がいいんじゃないかな!?

 

「させん! いくぞ、呪詛の魔槍(スピアー・オブ・カース)

 

 その時、一人の女性が、槍を片手に突貫する。

 

 とっさに聖槍を具現化しながら迎撃するけど、なんか痛い!

 

 これは、呪詛っぽいね。それも高位の。

 

 つまり、あのやりは呪詛を放つ槍なのか。これは厄介だよ。

 

 いや、っていうかね?

 

「いや、イッセーさん確かに変態だけど! 覗きは犯罪だけど!! 覗きって死刑になるほどの罪!?」

 

「性犯罪全てを死刑にしない、この間違った世界を我らは正す!!」

 

 あ、駄目だ。この人達も言葉は通じても話が通じないタイプだ。

 

 きっと性犯罪か何かの被害にあって、トラウマになってるんだろうな。それがこじれにこじれてこんなことに……。

 

 ちょっと可哀想な気もする。だけど流石にこれはやりすぎだ。

 

 というか、こんな理由でイッセーさんが殺されたら、異形側が反発で何するか分からないよ。

 

 なんとしてもここで倒さないと!!

 

 それに、神器の性能ならこっちがはるかに上だしね。

 

「強引に押し切る!!」

 

「させん、禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

 その瞬間、股間がヒヤッとした。

 

「我が禁手、貞淑の魔槍(スピアー・オブ・ラストキラー)は相手を不能にする魔槍。貴様も性欲を失うがよい!!」

 

 瞬間的に五十メートルぐらいバックステップした僕とイッセーさんは悪くない。

 

 まずい。あの人まずい。

 

 何が原因でこじらせたのか知らないけど、この人凄まじいレベルで性犯罪者嫌いだよ。

 

 イッセーさん大ピンチだよ。だって覗きは犯罪だし。

 

 いや、殺されるほどの事はしてないと思うけどね。うん、そんな人を英雄扱いするわけにはいかないしね、うん。

 

「……これを機に覗きを辞めたらどうですか? ぶっちゃけ、人間世界の受けが悪くなりますし……」

 

「そんな! まだ童貞を卒業してもいないのに!?」

 

 いや、そんな事していて童貞卒業できる可能性が高いのが奇跡……。

 

「こちらを忘れるなよ、鯨を食した悪鬼め!!」

 

「地獄に落ちるがよい!!」

 

 あ、オーシャンズK9忘れてた!!

 

 後ろで中国の人達とやり合ってたオーシャンズK

9がこっちに向かって攻撃を開始する。

 

 身体強化系統の術式を使っているのが、剛速球でダイナマイトを投げつけてきた。

 

 いや、流石に真女王や神滅の守護者がダイナマイト如きでやられるとは思えないけど、正直うっとおしい。

 

 あ、そんなことしてる間に貞淑委員会がこっちに向かってきたぁ!?

 

「不能になぁれぇええええええ!!!」

 

「「ひぃいいいいいい!?」」

 

 思わず僕もイッセーさんも震え上がる。

 

 そして、そのタイミングで一斉攻撃が周囲に叩きつけられた。

 

 な、なんだ!? 増援!?

 

 振り仰いだ僕達の目には―

 

「精力あふれる料理の研究の為に来てみれば、これ以上の性欲に対する乱暴狼藉は見過ごせん!!」

 

「我ら三情、色欲によって助太刀する!!」

 

 ―三情が来ちゃったよぉ。

 

 そしてもちろん、貞淑委員会は明らかにぶちぎれていた。

 

 うん、これほっといても勝手に潰し合ってくれるんじゃないかな? 置いといていいんじゃないかな?

 

「三情め! 一人足りとて生かして返さん!!」

 

「貞淑委員会よ、今日こそ色欲に目覚めさせてやろう!!」

 

 予想通り、貞淑委員会と三情は勝手に潰し合いを始めてくれた。

 

 うん、とりあえず―

 

「イッセーさん! 今のうちに!!」

 

「ああ、オーシャンズK9を先に片づけるぞ!!」

 

「っていうか急いで助けるッス!!」

 

 ごめんねペトさん! 直ぐそっち行くから!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、三情のもう片方を相手をしているプリスとロスヴァイセは、苦戦を強いられていた。

 

 なぜならこちらは、構成人員の多くが男性だったのである。

 

 そして、洋服崩壊を習得していたのである。

 

 洋服崩壊を持つ異性愛者の男性に、女性が戦いを挑む。これは自殺行為ならぬ自脱行為である。全裸にしてくれと言っているようなものだ。

 

 質の悪い事に、相手は全員飛行手段を確保していたりしている。本当に質が悪い。

 

「うわわわ!?」

 

「ちょ、マジくんなっぺ!」

 

 双方ともに苦戦必須だった。

 

 何より、ロスヴァイセに至っては方言が出てきてしまっているレベルで追い込まれている。精神的に。

 

 洋服崩壊。それは、衣服を破壊する兵藤一誠の編み出した妙技である。

 

 体に接触しているのならかなり広義的な解釈が可能らしく、赤龍帝の鎧と併用すれば、あの絶霧の禁手で作られた結界装置すら破壊してのけた。

 

 そんな技を試しにくらってみようなどと考えるほど、2人は愚かではない。そこ迄二人は馬鹿でも無謀でもなかった。

 

 必然的に距離を取って逃げながら遠距離攻撃で敵を減らしていく方向に行ったのだが、これがまた難しい。

 

「うけよ、ポールダンスで鍛えたこの動き!!」

 

「最悪です! そんな動きで回避されるとか心外です!!」

 

 ロスヴァイセの胃に多大なダメージを与えながら、三情の者たちは攻撃を回避していく。

 

 すさまじい回避能力である。マトリック〇も驚きの回避能力である。間違いなくすさまじい回避速度だった。神業である。

 

 それをエロい行為の延長で行われているという事実に、プリスとロスヴァイセは泣きたくなった。

 

「エロって、極めるとすごいんだね」

 

「イッセー君やファーブニルを敵に回していた人たちは、みなこんな感じだったんでしょうか……!」

 

 遠い目になる二人だが、しかしそんなことをする余裕を敵は与えてくれなかった。

 

「逃がさないわ! とりあえず、敵と出くわしたから倒すとするわ!!」

 

 ラーグリフは即座に魔方陣を多重展開しながら、魔法攻撃を開始する。

 

 ロスヴァイセは防御魔法を展開してそれを防ぐが、非常に大量に放たれる攻撃魔法の雨あられに、防御魔方陣が削りきられるのは時間の問題だった。

 

「くっ! 流石はブリュンヒルデ筆頭候補! 私一人では荷が重いですね!!」

 

「ふふ。ゆっくり裸を鑑賞するから安心しなさい!!」

 

「いやです!!」

 

 全力で叫ぶロスヴァイセに内心で頷きながら、プリスは突貫する。

 

 このまま逃げていてもらちが明かない。そもそも職業倫理的に、本来なら叩きのめして無力化するのが仕事なのだ。逃げたいのと逃げるのとは大きく違う。

 

 ゆえに、生体電流を操作して反射速度を上げ、一気に迫る。

 

 さらに瞬間的に周囲の気温を操作して、風を発生。相手の注意を一瞬だけ引き付ける。

 

 そして得意の熱衝撃による丸鋸。

 

 ……これで一人は確実に始末できる。そしてそこから確実に削っていけば、勝機はある。

 

 その皮算用は、盾に展開された魔方陣に丸鋸が受け止められたことで霧散した。

 

「え!?」

 

「あらあら。その程度の曲芸なら、曲芸で十分対応できるわ」

 

 さらりと告げるラーグリフは、不敵な笑みを浮かべて防御魔方陣を新たに作り上げていた。

 

 ただ防御魔方陣を添加したのではない。丸鋸が襲い掛かる方向を完全に理解して、薄い部分を完璧に当てて防御したのだ。

 

 絶技というほかない。ロスヴァイセと魔法戦をしている最中に、これだけの精密操作を行うなど、最上級クラスの魔法使いといえど至難の業だろう。

 

 そして次の瞬間、丸鋸全体を魔法の幕が包んで、動きを完全に封じ切る。

 

「色欲は人の心を研ぎ澄ませる。発情は、人を進化させるのよ」

 

 その勝利宣言に合わせるかのように、男性陣が一斉に襲い掛かる。

 

 再形成している余裕はない。肉弾戦での対処は自殺行為。魔力で強引に弾き飛ばすにしても数が多すぎる。

 

 プリスの脳裏に、「詰み」の二文字が浮かび上がった。

 




サラトとイッセー。不能になりかねないといういろいろ大変な目にあっています。

そしてプリスとロスヴァイセも、変態に襲われて大変です。

まあ、変態ってD×Dだとすごいし……ねぇ?


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第二部二章 9

そして戦闘はさらに激化。


 避難を終え、シシーリアはすぐさま援護のために屋上へと戻る。

 

「避難誘導終わりました!! そちらは?」

 

「大絶賛苦戦中よ!」

 

 イリナがそう答えながら、オートクレールを振るう。

 

 それを上体を逸らして躱しながら、フリードは嬉しそうに頬を歪めた。

 

 殺せる相手が増えたということに、テンションが上昇しているのだ。

 

「いいねえ。信徒共がより取り見取り。殺し甲斐があるってもんだぜ」

 

「言ってくれるな。私達三人を同時に相手にして、勝てると思っているのか?」

 

 ゼノヴィアがそう言いながら、デュランダルとエクスカリバーを構える。

 

 挑発でも文句でもなく、現状を真剣に認識しているからこその言葉だった。

 

 ゼノヴィア達の戦闘能力は、若手悪魔という次元ならば最高峰。そうでないとしても、非常に高いレベルに到達している。上級悪魔の上から、最上級悪魔クラスだ。

 

 伝説の聖剣と適合しているというのは、それだけの効果を発揮している。ゼノヴィアもイリナも、更にその中で上位の使い手に至っているだろう。シシーリアも、あの英雄派のジャンヌを倒したのは伊達ではない。

 

 それだけの実力者を前に、あまりにも傲岸不遜という他ない態度を、フリードはとっていた。

 

 そして、ゼノヴィアも馬鹿ではない。

 

 フリード・セルゼンという男は、基本的に下衆の類だ。

 

 自分が勝てる状況下での殺し合いにこそ快楽を見出すタイプなのは明白である。少なくとも、勝ち目のない戦いに嬉々として参加するタイプではない。

 

 そのフリードが、ここ迄殺せるといわんばかりの態度をとっている。

 

 断言してもいい。フリードは、何らかの切り札を既に手にしている。それも、最上級悪魔クラスは愚か、魔王クラスにすら届きかねない切り札をだ。

 

 三人全員それを悟り、静かに警戒心を一段階上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、足元がいきなり爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、祐斗達は戦闘を開始していた。

 

 軌道上から降下したドーインジャー達によって、戦線は混乱状態に陥っていた。

 

 流石にこのままでは余計な犠牲者を生む事になる……以前に、こちらの位置も把握していたのか、ドーインジャーは攻撃を開始してきていた。

 

 自衛は必須。そして、自衛という名目ならば広範囲攻撃などで新秦を()()()()にしても言い訳はできる。なにせ命がかかっているのだ。

 

 なので、慣れない広範囲攻撃や遠距離攻撃を中心に戦闘を行い、ドーインジャーごと新秦の兵器を攻撃する。

 

「苦笑。我ながら三流の言い訳だな」

 

「……ですが、犠牲者は減らせます」

 

「その通り。なら、やるしかないね」

 

 三者三葉に苦笑しながら、遠慮なく新秦を巻き添えにしてドーインジャーを吹き飛ばす。

 

 それがに十分ぐらい続いただろう、その時だった。

 

「なるほど。かのグレモリー眷属と噂のアスモデウス眷属か」

 

 其の声に三人は視線を声のする方向へと向ける。

 

 そこにいたのは、一人の槍を持った優男。

 

 しかし、その動きに隙は全く見えない。

 

 明かに強敵。それも、最上級悪魔クラスすら単独で打倒しかねない、高水準の強敵だった。

 

「ヴィクター経済連合かい?」

 

「ああ。俺はファンネル・マックール。ヴィクター経済連合の獣王が一人にして、フィン・マックールの末裔さ」

 

 フィン・マックール。それはケルト神話の英雄の1人。

 

 痴情の縺れで名誉を失墜させた英雄だが、その功績は世界的に見ても大英雄というほかない。

 

 そして、彼は頬を赤らめて祐斗と福津を見る。

 

 祐斗と、福津を見る。

 

 一応言おう。小猫には目もくれてない。

 

「いい男達だ、ぜひケツの穴を掘りたい……」

 

 瞬間的に祐斗と福津がバックステップで下がったのは悪くない。

 

 頬を赤らめて、息を荒げて、陶酔した表情でそんなことを言われれば、その気のない男は恐怖すら感じるだろう。

 

 小猫は素直に二人に同情して、白音モードを発動させると割って入る。

 

 途端に、ファンネルは不快気な表情を浮かべた。

 

「すまない。俺は男にしか欲情しないから女は帰ってくれないか?」

 

「……馬鹿ですね、貴方」

 

 小猫の半目での毒舌が飛ぶが、しかしファンネルは意にも介さない。

 

 むしろ、得意げにふふんと笑っている。

 

 一言言おう。濃い。

 

「先祖の失態は繰り返さない。反面教師にしてこそだ」

 

「……サハラ砂漠から南極に行くような真似」

 

 小猫のツッコミが的確過ぎた。

 

 しかし、ファンネルは聞いてすらいなかった。

 

 そして、槍を構えると深く腰を落とし、突撃体制をとる。

 

「まあ、ヴィクターの仇敵を倒すのに変わりはないか」

 

 その佇まいに、三人は正気に戻るとすぐに構え直す。

 

 その構えには一分の隙もない。そして、強者だけが放つすごみというものが放たれていた。

 

 修羅場を何度も潜り抜け、そして勝利をつかみ取ってきた者だけが放つ、強者の気配。それを見抜ける程度には、三人もまた、強者だった。

 

 断言してもいい。彼もまたヴィクターの精鋭。神滅具を移植されるに足る存在。自分達ピースキング和平連盟の実力者を相手取るに、相応しい強敵だった。

 

「では、挑ませてもらうとしよう。……勝ったら掘らせてもらう」

 

「断行、絶対に勝つぞ」

 

「勿論です!!」

 

 ……絶対に負けられない激戦が、今ここに繰り広げられる事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、終わりだぁあああああ!!!」

 

「輝け、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)!!」

 

「「「「「「「「「「ぐぁあああああああ!?」」」」」」」」」」」

 

 僕とイッセーさんの渾身の一撃が、オーシャンズK9を吹き飛ばす。

 

 時間はかかったけど、これで終わりだ!!

 

「イッセーさん! 頑張りましたね!」

 

「でも油断しないっす! まだ変態共が残ってるッス!!」

 

 ペトさんとアーシアさんの声を受けながら、僕達は振り返って変態の戦いに視線を向ける。

 

 そこでは、数多くの変態達が股間からオーラの剣をはやしていた。

 

 ちなみに、男女共にだ。

 

「な、なんだ、この力は!?」

 

 イニスカとか言った女の人が、狼狽する。

 

 その槍とぶつかり合ったオーラは一時的に縮小するけど、相手が変わっている間にすぐに回復する。

 

 ……縮小するって事は、不能になると弱くなるの? どういう理屈。

 

「無駄だ! 我らが欲情の力は、不能の呪いなどはじき返す!!」

 

「発情式戦闘技法、ビンビンセイバーはこんなことで無効化されたりなどしない!!」

 

 キメ顔で凄いこと言った人がいるんだけど。

 

 うん、明らかにおかしい。何がおかしいって頭がおかしい。あとなんというかあんなのが力を手にするこの世の中がおかしい。

 

 何だろう、凄く関わり合いになりたくない。

 

「……俺、あんな連中に生き神扱いされてるんだよなぁ」

 

 イッセーさんが遠い目になった。気持ちはよくわかるけど、たぶんイッセーさんよりひどい気持ちにはなれないような気がする。

 

 だって、イッセーさん三情(あんなの)にスカウトされてるわけだしね。あんな組織の生き神扱いされたんだしね。っていうか、入ってくれると思われてたわけだしね。

 

 心の底から同情するよ。頭がおかしいうえに、それを形にする能力があるんだから。

 

 あれ? でも、僕達あれが敵の一つだよね? あれと、戦うんだよね?

 

 ……ちょっとへこむ。

 

「おのれぇ! この戦力では打倒しきれんか!!」

 

 舌打ちすると同時に、イニスカは指を鳴らして飛び退る。

 

 それに合わせて、周囲の貞淑委員会のメンバーが煙幕を展開した。

 

 これは、逃げる気か!!

 

 まあ、戦況不利なら逃げるのは当然だよね。僕も、勝ち目がなさそうな闘いは逃げるよ。いろんな意味で死にたくないし。

 

「覚えているがいい、変態共!!」

 

「必ず不能にしてくれるわ!!」

 

「後兵藤一誠、お前は必ず殺すからな!!」

 

 最後にイニスカがイッセーさんを名指しして逃げていった。

 

 うん、どんだけイッセーさんを敵視してるんだろう。

 

 いや、彼も覗きという性犯罪の常習犯らしいけどね? 覗きって殺されなきゃいけないほどの罪?

 

 そんな疑問が僕を支配する。どんだけ性犯罪者に厳しい世界を作る気なんだろうと、なんか嫌な予感を覚えてくる。

 

 そんな人が強くなってしまったんだから、世も末だよなぁ。世紀末は十年以上前に過ぎ去ったんだけどなぁ。

 

 そんなことを思ったその時、周囲の三情がこちらに向き直った。

 

「さて、ついでにここにいる者達に我らが色欲をお見せするか」

 

「ああ、それいいな」

 

 ………はい?

 

 え、いや、その………。

 

「「「「「「「「「「いくぞぉおおおおおおお!!!」」」」」」」」」」

 

「「「「「「「「「「嘘だろぉおおおおおおおお!?」」」」」」」」」」

 

 中国の人達やイッセーさんと一緒に、僕は絶叫した。

 




三情はテロリスト勢力としては二番手レベルの精鋭集団です。D×Dは変態が強いのです。


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第二部二章 10 天帝先陣

窮地に追い込まれるグレモリー眷属達。

だがしかし、この地にはこの地で凄腕の連中がゴロゴロいたりするのだ!!


 

 振るわれる魔槍は魔剣をあっさりといなす。

 

 何度目か分からないその攻防を前に、祐斗は歯噛みする。

 

 目の前のファンネルの戦闘技術は、非常に優れている。

 

 おそらく英雄派の幹部にも匹敵するだろう。それが、魔獣創造で生み出されたドーインジャーを上手く障害物として運用しながら、的確に攻撃を仕掛けてくる。

 

 端的に言って、苦戦していた。

 

「苦境。ほぼドーインジャーだけで、ここまで動かせるとは!!」

 

「当然。ドーインジャーを上手く利用した戦い方は研究されている!」

 

「……させない」

 

 福津に攻撃を叩き込もうとしたファンネルが、横合いから仕掛けてきた小猫の打撃を避けてドーインジャーの中に隠れる。

 

 そしてドーインジャーの攻撃は小猫に集中した。

 

 先程からこの調子で戦闘は膠着している。

 

 仙術による探知を避ける為に、ドーインジャーの攻撃は殆ど全てが小猫に集中している。

 

 そして割って入ろうと攻撃を叩き込もうにも、ダイドーインジャーによる攻撃が騎士団を破壊する為、うかつな運用は困難。

 

 ならばグラムでやろうにも、ファンネルが絶妙なタイミングで攻撃を行って妨害してくる。

 

 そして包囲戦で仕掛けてきている為、福津は戦闘としての相性が悪い。

 

 ドーインジャーが的確にこちらの視界からファンネルを隠す動きを取ってくる為、本体狙いも困難という有り様だ。

 

 このままでは十中八九負ける。

 

 そんな嫌な予感を祐斗達が覚えた時、しかし増援は来た。

 

『お待たせしました! 後は任せてください!!』

 

 其の声と共に、闇が周囲を包み込む。

 

 そして闇の中から赤い目が浮かび上がり、ドーインジャーが動きを一斉に停止させる。

 

 その増援に、誰もが誰かを把握して、そして勝機を見出した。

 

「む、ギャスパー・ヴラディか」

 

 ファンネルも、流石にまずいと判断したのか唸る。

 

 ギャスパー・ヴラディ。グレモリー眷属の一人にして、最高峰の戦力の1人。

 

 神滅具クラスへの変質を遂げた停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)。滅びた邪神、バロールを宿してしまった、反則存在。リムヴァン経由で平行世界のアザゼルが名付けた名前が、時空支配する邪眼王(アイオーン・バロール)

 

 その反則極まりないイレギュラーの力は、まさに絶大。

 

 一瞬で戦場そのものを闇が多い、それを経由して停止の力がドーインジャーをほぼ全て停止させる。

 

 そして次の瞬間、闇で構成された獣達が、一斉に停止したドーインジャーに襲い掛かった。

 

 それに対して迎撃を行えたのはダイドーインジャーのみ。

 

 そして、ダイドーインジャーは瞬時の大量生産ができないゆえに、数にはどうしても限りがある。

 

 ゆえに、これまでのようにドーインジャーを適格に動かして相手の視界から逃げる戦法はもう取れない。

 

「これで決める!」

 

「同意。此処で仕留めなければ安心して眠れん!!」

 

「……あの、そういう方向性でいいのでしょうか?」

 

 ドーインジャー軍団の相手をギャスパーに任せ、三人は一斉に駆け出す。

 

 だがしかし、それより一手ファンネルが速かった。

 

「うん、これは撤退だな」

 

 瞬時にこれまでとは違う、まったく異なる魔獣が生成される。

 

 大量に生成され、それそのものが邪眼から残りの魔獣を守る盾となるように展開する魔獣達。

 

 それに囲まれたファンネルの姿が、一瞬で揺らめく。

 

「転移用の魔獣か!」

 

 祐斗が気づいた時にはもう遅い。

 

「では、君達の尻を味わうのはまた今度にしよう」

 

 そんな末恐ろしい捨て台詞を残して、ファンネルは瞬時に転移して離脱していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一斉に襲い掛かる変態軍団。

 

 その後頭部に、もれなく鏡が叩きつけられた。

 

「「「「「「「「「「へぶぁ!?」」」」」」」」」」

 

「「「え?」」」

 

 それにあっけにとられるプリスにロスヴァイセ。そしてラーグリフ。

 

 そして、その瞬間には莫大な出力の魔法攻撃がラーグリフに向かって放たれた。

 

「新手か!」

 

 素早く回避するラーグリフだが、その瞬間魔法攻撃は鋭角的に曲がって再び襲い掛かる。

 

 更に回避するも、しかしすぐに鋭角反転。それらが何回か続いて、ついに回避し損ねてラーグリフに魔法攻撃が当たる。

 

 かろうじて防御に成功したラーグリフだが、しかしその現象の種に気づいて、舌打ちする。

 

「……魔法反射能力持ちの鏡?」

 

 ラーグリフが魔法で強化した視力で認識したのは、まさにそれだ。

 

 魔法を反射する力がかけられた鏡。つい先ほど、三情の構成員達の後頭部にぶつけられた物と、まったく同じ物だった。

 

 気づけば、半径百メートルを超える範囲内に百個ほど展開されている。

 

 そして、それをなすものが割って入った。

 

 ……一人の、小柄の年若い少女だった。

 

 和風の衣装を着たその少女は、静かに両手を向けると、一言告げる。

 

「去ってください」

 

 そして、その瞬間数百もの魔方陣が展開される。

 

「……これは、凄いですね」

 

「うっわぁ。ゲオルク並みにできるよ、この子」

 

 ロスヴァイセもプリスも感心するほどに、その少女の魔方陣は完成されていた。

 

 形式としては西洋魔術が基礎だが、そこに東洋の呪術などをはめ込んだ独自アレンジが施されている。

 

 使いこなすには相当の技量とセンスが必要だが、使いこなす事ができれば間違いなく最高峰。そんな強大な能力を、見事に示していた。

 

「此処は偉大なる天帝の御威光注ぐ土地。こちらも天帝の戯れがありますので、ここで退くのなら追いはしません」

 

「……冗談には聞こえないわね」

 

 ラーグリフは苦笑すると、素早く転移魔方陣を形成する。

 

「撤退するわよ。食事巡りで死ぬなんて、流石にリーダーに悪いわ」

 

「は、はい!!」

 

「くそ! 処女に色欲を教えるチャンスを見逃す羽目になるとは……ぶふぁ!?」

 

 余計な事を言った一名の股間に、魔法攻撃が直撃した。

 

「え、エッチすぎるのはいけないと思います!!」

 

 どうやら、その少女はそういった事に免疫なさそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間的に発生した爆発。それに吹き飛ばされながらも、シシーリア達はすぐに態勢を整えていた。

 

 しかし、フリードはそれを見てなお余裕の笑みを浮かべる。

 

「んじゃあ、そろそろギアを上げていこうかなぁ……」

 

「いや、今日はこの辺にしときな」

 

 その言葉と共に振るわれる斬撃を、フリードは二刀を盾にして防ぐ。

 

 しかしそれを完全には殺し切れず、フリードは勢いよく弾き飛ばされた。

 

「新手か!?」

 

「でも味方っぽいわよ?」

 

 ゼノヴィアとイリナがそう言い合う中、フリードは素早く体勢を整えると、即座にノートゥングを振るう。

 

 その圧倒的な切断力が飛ぶ斬撃として襲い掛かる中、その新手である少年は、素早く持っていた魔剣を振るう。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 その静かな祝詞と共に、一瞬で爆発的な出力が発生する。

 

 その禍々しい極大なオーラが、ノートゥングの一撃をたやすく両断した。

 

 そしてその切り裂かれた斬撃をかいくぐるようにして、少年は素早く斬撃をフリードに叩き込む。

 

 それを軽やかにかわすフリードだが、その結果少年の姿がすぐに分かる。

 

「……アイツも白髪か!」

 

 ゼノヴィアがつい言ってしまったのも仕方がないだろう。

 

 特徴的な白髪の髪を振り乱しながら、少年はフリードを睨みつけて吠える。

 

「ホントに失せろ。出なけりゃ殺すぜ、フリード」

 

「おっほぉ! 誰かとおもりゃぁシグルくんじゃねえかい! 久ーしぶーりー」

 

 おちゃらけたノリで返答するフリードだが、しかしすぐに辺りを見渡すと肩をすくめる。

 

 既にゼノヴィアとイリナも態勢を整え直し、シシーリアもまた戦闘態勢を取っていた。

 

 そこに来ての新手。これ以上の戦闘は不確定要素が多すぎる。

 

 フリードはそう判断したらしい。わざとらしくふいーと息を吐きながら、素早く魔獣を展開する。

 

 その魔獣が生み出す光につつまれながら、フリードはにやりと笑う。

 

「ま、シグルド機関同士の同窓会はまた別の機会にしようや。そん時は盛大に殺し合おうぜぇ?」

 

「そうだな。ま、俺もお前の事は悪く言えねえ立場だがよ」

 

 その短い言葉と共に、白髪の男同士の別れは終わる。

 

 転移と共にフリードは消え、シグルと呼ばれた少年は、シシーリア達に向き直る。

 

「天帝先陣の1人、シグルだ。……とりあえず、そろそろ終わりそうだから味方と合流したらどうだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まだ戦う気満々の三情達変態軍団。

 

 その彼らのうちの一人が、独立具現型なのか魔獣を生み出して攻撃を仕掛けてくる。

 

 そう思った瞬間、光が僕達を通り過ぎた。

 

 その光は魔獣に当たると、一瞬で魔獣が石になる。

 

 そして、その魔獣を通り過ぎて、突っ込む一人の男性が一人。

 

「その辺にしてもらおうか!」

 

 そして素早く振るう斬撃に、変態達は慌てて回避する。

 

「新手か!!」

 

 反撃の魔法攻撃やオーラの弾丸はしかし男性には当たらない。

 

 一瞬で影が伸びると、それが攻撃を飲み込んだからだ。

 

 そして、影の別の場所から一斉に放たれて、変態達をかき乱す。

 

 そんな中、さっき魔獣を生み出した男性が反撃の為に再び魔獣を生み出そうとする。

 

「甘い。我がいる限りそんな事はさせねえよ」

 

 其の声と共に、生み出されかけた魔獣は一瞬で消え失せた。

 

「な―」

 

「遅いわぼけぇ!!」

 

 そしてその次の瞬間、突っ込んできた男に殴り飛ばされて、その神器使いは失神した。

 

 うわぁ。あれは痛い。もう芸術的なレベルで凄いパンチだよ。

 

 ……あれ? なんかイッセーさんが、乱入してきた男の一人を見てぽかんとしてる。

 

「な、な、な! なんでヴィクターがここにいるんだよ!?」

 

 え、ヴィクターまで来てるの!?

 

 慌てる僕だけど、イッセーさんが指刺した男はなんか感慨深げだった。

 

「覚えられる程度にはなったってわけか。少し感慨深いな」

 

「羨ましいな、こちらは確認する前に死んじまったからな」

 

 そんなことを言うパンチが凄かった人は、こっちを見ると片手を上げて動きを制する。

 

「安心しろ。我らはヴィクターを抜けている」

 

 へ? あの人もヴィクターのメンバーだったの?

 

 僕は確認の為にイッセーさんの方を向くけど、イッセーさんはぽかんとしていた。

 

 そして三秒ぐらい首を傾げて―

 

「ゴメン、誰だっけ?」

 

「貴様ぁああああああ!!!」

 

 凄い殴り掛かりたがってるよ。

 

「あ、亡命騒動の時にヒロイのボコられた神器使いッスよ、そいつ」

 

「いよっしゃ覚えてもらってたぞぉおおおお!!!」

 

 ガッツポーズを取ってるところ悪いけど、その覚え方で嬉しいの?

 

 ペトさんも、もうちょっとオブラートにくるんであげましょうよ……。

 

「ええい! これは流石に不利だ、撤退するぞ!!」

 

「了解!!」

 

 そして撤退する変態達を見送りながら、真っ先に援護してくれた人が片手を上げる。

 

「初めましてだな、赤龍帝。俺はペルセウスってんだ」

 

 ぺ、ペルセウスっていうと、ギリシャの有名な英雄だよね?

 

 襲名したとかそんな感じかな? っていうか、どゆこと?

 

 その疑問は、すぐにペルセウスの言葉で解決する。

 

「曹操達が迷惑かけて悪かったな。……メデューサの目を調達した身として、謝っとくぜ」

 

 …………。

 

 え、英雄派だぁあああああ!!!

 

 僕はバックステップで下がると、即座にペトさんを庇う。

 

「ふえ? サラト?」

 

「さ、さささ下がってペトさん!!」

 

 や、やばいやばいやばい!!

 

 英雄派っていえば、ヴィクターの精鋭部隊の中でもトップクラスの実力者揃いじゃないか。

 

 あの西遊記の三英傑を相手に、たった四人で互角に渡り合ったという実力者中の実力者。かつ構成員でも大半が禁手に目覚めていて、そのうえで神器を移植した人も数多いって話だ

 

 そして、ペトさんやイッセーさん達D×Dと戦って、幹部陣の大半が戦死したらしい。シシーリア姉も一人倒したとか。

 

 ま、まさかリベンジマッチとは思わなかったよ。お前を倒すのはこの俺だ的なムーブなんだね。

 

 いいよ、いいでしょう。いいじゃないか。

 

 やってやるよぉおおおお!!

 

「おい、何か勘違いしてるぞ、そこのガキ」

 

 影使いがそう言って、ペルセウスがぽんと手を打った。

 

「あ、違う違う。俺達は帝釈天の世話になってるから、ここでD×Dと戦う気はねえよ」

 

 ………はい?

 

「え、どういうことだよ?」

 

 イッセーさんも驚いて、ペルセウスに問い質す。

 

 それについて答えたのは、腕っぷしの強い方の人だった。

 

「簡単だ。我達は、ヴィクター側の英雄派と縁を切って帝釈天の側に就かせてもらっているんだよ」

 

 ………はい?

 




英雄派まで取り込んだ精鋭集団が割って入り、敵陣営は引き際をわきまえて撤退。

次の話で天帝先陣の詳細情報や、なぜ英雄派のメンバーが参加しているのかが語られます。


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第二部二章 11

戦いは終わり、そして祝賀会が始まる―


 

 戦闘は、終了した。

 

 フードフェスタを狙った新秦は、戦闘中にヴィクターの強襲を喰らう事になり大打撃を受ける事となる。

 

 それと同時にオーシャンズK9も攻撃部隊が大打撃を受ける事となり、組織としては大きなダメージを負う事となる。

 

 貞淑委員会も実働班にある程度のダメージを受け、こちらも組織的に規模がいったん縮小。中華人民共和国からはいったん手を引く流れになった。

 

 それ以外にもいくつものテロ組織が動いていたが、その殆どは圧倒的な迎撃態勢によって壊滅。上記三組織を遥かにしのぐ打撃を受けた。規模が小さい事もあって、再興には何十年もかかる可能性すらある。

 

 ほぼ無傷なのは三情ぐらいだろう。薬網などといった犯罪組織は其の在り方ゆえに今回は手を出していないので、そもそも損傷を受けていない。ヴィクターに至っては使い捨ての兵器であるドーインジャーが殆どなので、ダメージという程の事もない。

 

 とは言え、かといって何の問題もないかといえばそういうわけでもない。

 

 ヴィクター経済連合による軌道降下戦術は、その危険性ゆえにどうしても対策が必要になるだろう。しかし、同時に完全な対策は不可能に近い。

 

 転移妨害などの術式は急激に発達している。それゆえに、転移での強襲はそう簡単にはいかなくなったのが現状だ。

 

 非常に優れた転移能力を持つ者が、しかしある程度の中小規模の部隊編成でしか転移は困難なのが、要所要所の状況だ。スパイなどを入れて情報を手に入れるという抜け道はあるが、そう簡単にいかないのが現状でもある。

 

 しかし、軌道上からの強襲戦術は全く違った対策が必須だ。

 

 新たに開発されたドーインジャーは脅威だ。軌道降下戦術専用に開発された、O型ドーインジャー。人間サイズのドーインジャーによる、大気圏外からの強襲戦術に完全に対抗するのは不可能であろう。

 

 流石に衛星軌道上への転移を完全妨害する事など不可能。かといって対空網を強化するにしても、人型サイズが相手ではそれも難しい。

 

 この対策を取り難い敵の新たな戦術に、首脳陣は頭を悩ませる事になるのは確定的な事実だった。

 

 しかし、同時に新たな戦力の存在が心強くさせてもくれる。

 

 須弥山が抱え込んだ特殊部隊。その名を、天帝先陣。

 

 彼らの戦闘能力により、地方都市各部で起きたテロは即座に鎮圧された。

 

 ピースキング和平連盟が誇るD×Dと肩を並べる戦いすらしてのけたその実力は、まさに強大。一人一人がヴィクターの精鋭とも戦える実力者だった。

 

 そして、帝釈天はこのテロの数日後に、天帝先陣の一部をD×Dとの連携の為に、構成組織として出向させる事を正式に発表。

 

 一部ヴィクター経済連合に所属していた英雄派のメンバーがいた事が発覚して揉める時もあったが、当人の了承のもと徹底的な安全対策を取ったうえ、彼らが攻撃を仕掛けた各都市に賠償金をローンで払う事を確約した為、それも薄まっていく。

 

 そんな新たな若き戦士達の活躍もあって潜り抜けた、地方都市では、一部VIPや根性のある人達が、フェスタを再開させてもいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オッス、俺、イッセー!!

 

 おっぱい大好きで高校生のジョブである覗きをたしなむ、男子高校生だ。

 

 今日はそんな覗きの所為で殺されかけたけど、いくらなんでも殺されるほどの事してないよな? いや、毎回バレたらボコられるけど、それでも殺されるほどの事はしてないと思うんだけどなぁ。

 

 ま、それはともかく俺達は、特別に用意された部屋でフェスタで出されてる食事を取り寄せて簡単な祝勝会をしてる。

 

 異人第一特務隊と、オカルト研究部でのパーティで、美味しい食べ物がいっぱいあって結構楽しみたい。

 

 そう、楽しみたいんだけど―

 

「どうした赤龍帝。箸が進んでないぞ?」

 

「いや、誰の所為だよ!!」

 

 俺がツッコミ入れたのは、英雄派の影使い。

 

 さっき名乗ってもらったけど、コンラっていうらしい。

 

 まあそれは良いんだけど、こいつらも普通に参加してるんだよなぁ。

 

 もぐもぐとシチューを食べながら、コンラは肩をすくめる。

 

「何を怒鳴ってんだ。制約として術式を掛けられて、しかも共闘した仲だろうに」

 

「そんなところまでケルト風にせんでもよいだろうに」

 

 呆れ顔でハヤルトさんがそう突っ込んでくれた。

 

 え? ケルトってそんなノリなの? マジかよ。

 

 俺がぶっちゃけドン引きする中、堂々と飯食ってるゼノヴィアが、ムッとした表情を向けた。

 

「何を言うか。ヴィクターの中でも頭のねじが外れていたお前達英雄派が、何故堂々と帝釈天の傘下に収まっているんだ」

 

「堂々と喰いながら言うか、普通」

 

 ヒロイとやり合った奴。ローゼンクロイツと名乗った男のツッコミが正論すぎて泣ける。

 

 ゼノヴィア。お前、もうちょっと警戒してようよ。

 

「ま、そりゃ確かに曹操達は色々やらかしてたからなぁ」

 

 そんなことを言いながら、ペルセウスはペルセウスで、饅頭を食ってるし!

 

 緊張感持ってくれない!?

 

「まあ、確かに警戒心が出るのは仕方ないでしょうが、そこはご安心ください」

 

 と、天帝先陣のリーダーをやっている良鈴(リャンリン)さんが、苦笑しながら両手を前に出してまあまあとしてきた。

 

 割と額に汗が浮かんでいる辺り、この人も苦労してるんだろうなぁ。

 

「とりあえず、須弥山の高位の術者による裏切り防止の術式はかけられております。何かすればすぐさま術が発動するので、裏切りたくても裏切れないですから」

 

「まったくだ。それに裏切るまでもなく好待遇だからな」

 

 と、コンラがはっきりそう言う。

 

 そこには、もの凄いヴァーリっぽい戦闘狂の雰囲気があった。

 

 何だろう、凄い嫌な予感がする。

 

「いずれ天帝が起こすシヴァ神との戦い、その一番槍などという名誉があるんだ。投げ捨てるなんてもったいないだろ?」

 

 ……今凄い事言ったよ。

 

「あ、安心してください!! 比較的文句を言われない方法で起こす算段は付いていますので!! コンラも、誤解を招く事を言わないでください!!」

 

「いや、算段が付いてなければ本当に戦争起こしかねないだろ、あの天帝」

 

 良鈴さんが慌てるけど、それを台無しにする発言をペルセウスが言っちゃったよ!!

 

 おい帝釈天! あんた何考えてるの!?

 

 もう勘弁してくれよ! ヴィクターだけでも手いっぱいだってのに、そのあと更に戦争あるの!? マジ勘弁してぇえええええ!!!

 

「……まあ、当面は大丈夫であろう。その算段には心当たりがあるし、その算段で辺りを付けられないのでは、帝釈天殿はシヴァ陣営には勝てぬだろうしな」

 

 と、ハヤルトさんがそう言い切った。

 

 え? 心当たりあるの?

 

「……ハヤルト。いったい何があるのかしら?」

 

「安心せよ、そろそろ発表される頃だろう。……後十分もせんだろうな」

 

 と、リアスの質問にハヤルトさんは言葉を濁す。

 

 何だろう。ハヤルトさんとは短い付き合いだけど、こういった事に悪意を向ける人じゃないから酷い事にはならなそうだけど……。

 

 と、話が安定化したのか、ローゼンクロイツがウーロン茶を飲んでから話を戻した。

 

「まあ、話を戻すぞ。単純に言えば、英雄派は腐敗しやがったんだ」

 

 そう、苛立たし気にローゼンクロイツは吐き捨てた。

 

 ……腐敗した?

 

「どうしたのよ? 曹操達が死んだ事で何かあったの?」

 

 イリナが代表して質問すると、コンラが肩をすくめる。

 

「腑抜けたともいえるな。曹操達が死んだ事で、英雄派の六割は先駆者(英雄)になる事を諦めたのさ」

 

 思い出すのも嫌なのか、コンラの額には青筋が浮かんでる。

 

 な、なにがあったんだ?

 

「ま、そこの天使さんの言う通り。頭が抜けた事で、意識が低くなったのさ」

 

 ペルセウスが肩をすくめてそう言ってくる。

 

 英雄派。英雄の末裔や神器保有者で構成された組織。

 

 中にはコンラのように、神器の所為でまともに生きられなかった奴もいる。っていうか、どうも恵まれた出身の方が少ないっぽい。

 

 そんな奴らは、指南役としてリムヴァンが復活させた森長可の指導と話で、一つの道を見つける。

 

 英雄。戦国乱世をいろんな理由で駆け抜けた、歴史に名を遺したり残せなかったりした、人より前に進んだ者達。

 

 英雄派は、そういう先駆者になりたいというロマンに生きる集団だった。少なくとも曹操はそういう組織として運営していた。

 

 俺には先駆者になりたいなんて気持ちはないけど、そこに女体があるなら覗きたいって気持ちはある。そういう意味じゃあ同類だ。

 

 それが、変わったのか。

 

「……曹操達がいなくなった後の英雄派は、心が折れたりした者が多くてな。末端の比較的安全な下部組織に逃げ込んだりした連中が大多数だ。……生き抜いた曹操達に憧れず、怯えた連中がゴロゴロと出てきやがった」

 

「有力な受け皿となったクヌート組合(ギルド)に与した連中も、金稼ぎで動くようになっちまった。それを否定する気はないが、先駆者たらんとするロマンを追求を前提とした、我達英雄派の在り方とはもう反している」

 

 と、コンラとローゼンクロイツは苛立たし気に吐き捨てる。

 

 な、なるほど。今の英雄派の残党達は、属っぽくなっちまったってわけか。

 

 いや、そっちの方がある意味世間様にとっては良い事かもしれないけど。覗きにロマンを感じる俺からすれば、思うところもあるな。

 

 ロマンは大事だろ、ロマンは。

 

「ま、そういうわけで、曹操が残していた天帝へのホットラインを使って、残った連中は天帝に自分達を売り込んだんだよ」

 

 そして肩をすくめながら、ペルセウスはそう言う。

 

 そして、良鈴さんもそれに頷いた。

 

「はい。天帝に「シヴァに対抗する為の尖兵」として自分達を売り込んだコンラ達は、自ら進んで逆らえないようにする術式を刻み込んだうえで、こうして私が統括する事になったわけです」

 

 そう苦笑する良鈴さんだけど、その時何かにふと気づく。

 

「……っと。そろそろ時間ですね」

 

「む、もうか? もう少し時間があると思ったのだが」

 

 と、ハヤルトさんがそう言ってきた。

 

 それに対して、今迄モムモムと日本食を食べていた女の子が首を傾げる。

 

「たぶん、時差を計算に入れてないと思うです」

 

「まあいい。ちょうどテレビがあるからな。それを見りゃいいだろ」

 

 そう言って、フリードやジークフリートになんか似ている白髪の男がテレビをつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……凄い事が始まっちゃってるよぉ

 




時期的には二月中旬。

そう、あのイベントの発表が遂に行われます!


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第二部二章 12 国際レーティングゲーム大会

はい、D×Dで二月中旬となれば、これです!!

第五部の、メインイベントですとも!!


 

 僕、サラト・アスモダイは、その映像を見て、やっとかと思った。

 

 一応義兄さんからある程度聞いていたけど、まだ公表されてない情報だからしゃべってしまいそうでちょっと怖かったからね。

 

 うん、でもその心配もないわけだ。

 

『……ピースキング和平連盟の中核組織の一つである、悪魔。その悪魔で行われているレーティングゲームがあるのは、この放送を見られる方々なら多くがご存じでしょう』

 

 そう告げるアナウンサーは、興奮を隠し切れない様子で、テロップに指をさす。

 

 そのテロップは、こう書かれていた。

 

『その国際大会が、今年四月からの開催を前提として、行われるという突然の発表が行われました!!』

 

 その光景に、リアス様達は目を見張っていた。

 

「……と、いうわけだ。因みに優勝賞品は「世界に混乱を生まない限りで、運営陣が用意する事ができる願い事を叶える」だそうだぞ?」

 

「そこまでしゃべっていいんですか?」

 

 良鈴(リャンリン)さんがそう言うけど、義兄さんは得に胃にも介していない。

 

「どうせすぐに分かる事だ。間違いなく参戦チームの中には神クラスも出てくるであろうしな」

 

「まあ、天帝はその優勝賞品でシヴァ神相手に誰にも文句を言わせずに勝負を挑むつもりですが」

 

 兄さんの言葉に、良鈴さんも苦笑する。

 

 その事情を知っている者の訳知り顔の言葉に、誰もがそれが真実なのだと理解する。

 

 とはいえ、事が事ゆえにどうしても驚いてしまう。

 

「あ、アジュカ様は本気でそんな事を考えているの!?」

 

 狼狽するリアス様の気持ちも分からなくはない。

 

 現在は大絶賛第三次世界大戦の真っ最中だ。いったん小休止状態になっているとはいえ、ヴィクターはいまだ健在である。

 

 冷戦状態ではない。あくまで戦争状態で、膠着しているだけなのである。

 

 その状況下での、新たな国際競技大会。それも、レーティングゲーム。

 

 まず間違いなく文句を言う者も出てくるだろう。余裕がないとも、空気が読めていないとも言う者は出てくるはずだ。

 

 しかし、ハヤルトはそれに対して平然としている。

 

「だからこそなのだよ、リアス嬢」

 

 そう前置きすると、ハヤルトは指を一本立てる。

 

「理由は三つ。一つは、必要不可欠である強者育成」

 

 それが、第一の理由。

 

「一の実戦は百の訓練に勝るとはいえ、実戦は常に死の危険が高いものだ。レーティングゲームのように実戦に近しい競い合いで鍛え上げられるのなら、それに越した事はあるまい。まだ見ぬ強者を発掘できる機会でもあるしの」

 

「二つ目は、まあ、天帝とかですね」

 

 と、苦笑しながら良鈴が二つ目の理由を語る。

 

「莫大な商品を餌に、天帝のように色々と考えている人を抑え込みたいんですよ。平和的に野望が叶えられるのなら、敵が少ない分リスクは少ないから乗っかる人は多いでしょう?」

 

 身もふたもないというか、その筆頭に仕えているお前が言うなという感情も出てきそうだが、確かに事実である。

 

 酔狂な人物でもない限り、リスクを避けて願いを叶える手段があるなら、そちらを選びたがるのは人情だ。

 

 そういう意味でも、馬鹿な事をさせない為の牽制にして誘導に使えるだろう。世界に混乱を生まないという釘も挿しているのが効果的だ。

 

 その言葉に頷いてから、ハヤルトは更に最後の理由を告げる。

 

「そして第三。いわばヴィクターの対する示威行動だ」

 

 そう、それこそが三つ目の理由。

 

 ヴィクターとの戦争がいまだ継続しているこの状況。だからこそ、できる事も存在するのだ。

 

「要はこちらの強大さを改めて示してやるのだ。そうすれば、戦意が削られる輩も少なからず出てくるだろう?」

 

「……要約。なめた事を言ってくる相手に喧嘩で鍛えた豪腕を見せてビビらせるというあれだ」

 

 と、福津がそう雑にまとめてくれる。

 

 雑故に分かる者も多いらしく、納得したのか頷いた者も多い。

 

「……とはいえ、面白い趣向といえば趣向ね」

 

 と、リアスは乗り気のようだ。

 

「同感だ。私とエクスカリバーとデュランダルがどこまで通用するか、興味はあるな」

 

「多分これ、私は転生天使でチームを組むことになるのかしら?」

 

「ファーブニルさんはどういったあつかいになるのでしょうか……?」

 

 と、教会三人娘も会話に花を咲かす。

 

 それを微笑まし気に見ながら、イッセーはふと気づいた。

 

 そういえば、この国際レーティングゲーム大会は、文字通り国際であるがゆえに悪魔以外も参加できるのだろう。

 

 帝釈天は参加するつもりなようだ。それで優勝賞品でシヴァと戦おうなどと考えているらしい。

 

 と、いうことは―

 

「良鈴さんでしたっけ? そちらは帝釈天……のチームで参加ですか?」

 

「いえ、天帝先陣は独自に参加する予定です」

 

 と、良鈴はそうにこやかに答える。

 

 それに対して、コンラとローゼンクロイツは戦意を明らかに燃やしていた。

 

 まだ見ぬ強敵、そして神。強者達との戦いに興奮する、戦闘狂の表情だ。

 

 元より英雄派は、戦闘における先駆者を目指す組織。中でも彼らは、幹部の戦死によって腑抜けた者達を見限って、より強者と戦えるだろう側に就いた者達だ。必然的に戦いに歓喜を覚える性質だろう。

 

 2人揃って、既に今か今かとワクワクし始めていた。

 

「天帝からも許可は得ている。そもそも、俺達に負けるようではシヴァ神には勝てないだろうしな」

 

「我も天帝と戦いたくて楽しみだぜ。接待試合など欠片もする気はないな」

 

 天帝に与した側なのに、天帝を叩き潰す気満々なのはいかがだろうか。

 

 誰もが大体そんな感じの感想を抱くが、2人揃ってまったく意にも介してない。

 

「……なんか、悪いな」

 

「いえいえ。そちらも苦労なさっているようで大変ですわね」

 

 いたたまれなくなって謝ってきたペルセウスに、朱乃が苦笑をしながらコップにお茶を注いだ。

 

「……そういえば、殆どの奴らには自己紹介をしてなかったな」

 

「あ、そういえばそうです」

 

 と、そこで白髪の男性と小柄の少女がはたと手を打つ。

 

 そして注目を浴びる中、男性がまず片手を上げる。

 

「……シグルだ。元々教会出身だが、主が既に亡くなられているからな。辞めたうえで天帝先陣にスカウトされた」

 

 それに合わせて、小柄な少女もちょこんと頭を下げる。

 

「壱与といいます。魏志倭人伝で卑弥呼の次代を担当した、壱与の魂を受け継いでいて、柴又で天帝にスカウトされました」

 

「天帝先陣は世界各地で天帝お呼びその使いがスカウトした人員が基本です。素質込みで拾われているのでまだまだの者もいますが、脚は引っ張らない事をお約束します」

 

 良鈴はそう告げて、そしてまだ残っているテーブルの料理を指しめした。

 

「それでは食事を続けましょう。この国は18歳以上なら飲酒ができますので、試し飲みをする気があるなら用意させますよ?」

 

「うむ! ちなみに余は実年齢は壱〇〇歳以上なので当然頼むのである!!」

 

 と、ハヤルトが真っ先に酒を頼んだりした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれなりに楽しんでから、異人第一特務隊とオカルト研究部は日本へと帰還する事になる。

 

 そんな中、サラトは一応休暇出来ていた事もあり、夜空の下散歩をしていた。

 

 ……年齢的な都合で酒こそ飲んでいなかったが、少し食べすぎた。腹ごなしに散歩をしてから眠った方がいいだろうという考えだ。

 

 そんな中考えるのは、国際レーティングゲームだ。

 

 立ち位置故に国際レーティングゲームの開催そのものは、ハヤルト経由で既に知っていた。優勝賞品もきちんと知っている。

 

 ハヤルトは参加するつもりだ。そして、最低でも上位入賞を目標としている。

 

 優勝賞品が目的なのではない。相応の成果を上げるという事そのものが目的だ。その為に、ハヤルトは色々と考えている。

 

 サラトもその考えと目的に賛同しており、義兄(あに)の為に力になる事を決めている。

 

 とは言え、現段階ではその戦いは熾烈を極めるだろう。

 

 ハヤルトの推測では、神々の参戦も数多いと判断されている。加えて、良鈴の発言により帝釈天の参戦は確実だ。

 

 そして、若き英雄達D×Dの猛者達。特に、魔王化に至ったヴァーリ・ルシファーは全盛期の天龍に届く力を手にしている。

 

 勝ち残るのは至難の業だろう。少なくとも、今の眷属全員では上位に入賞は困難だ。

 

 そんな事を思うと少しため息をつきたくなったので、とりあえず少しついてみる。

 

「……いや、このままだといけないよね」

 

 直ぐに考え直した。

 

 この国際レーティングゲーム大会。ペトが参加するかは分からない。

 

 だが、間違いなく見るだろう。イッセー達も出るのだから当然である。

 

 ……無様なところは見せたくない。

 

 凄まじくくだらないプライドだ。自分でもそれぐらいは簡単に分かる。

 

 だがしかし。

 

 好きな少女の前でかっこ悪いところは見せたくない。恋する少年なら、大半が持っているだろう願望である。

 

「うん、これは、負けられないね」

 

 直ぐにそう考え直すと、サラトは息を吸って、気合を入れる。

 

 勝てるかどうかは分からない。だが、情けない戦いはを見せるわけにはいかない。

 

 いずれ本格的にペトの彼氏となる為にも、こんなところで躓くわけにはいかなかった。

 

「よし! 過剰にならない程度に少し走ろう!!」

 

 そう決めると、サラトは腹ごなしの散歩を通り越してトレーニングの為のランニングを敢行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ハヤルトは自室で静かに目を伏せていた。

 

 この大会。なんとしても好成績を残したい。

 

 欲しいのは優勝賞品ではない。優勝できるならそれに越した事はないが、それで叶えるような願いではない。

 

 必要なのは実績だ。それも、魔王の末裔に相応しいと誰もが認めさせれるほどの実績である。

 

 まあ、実際のところ必要性は薄いとアジュカには言われている。

 

 それだけ革新的だと言われているし、反対派閥が大幅に減衰している現状で、魔王直系のハヤルトのこの提案を飲まないという選択肢もないだろう。旧家にとっても悪い提案ではないとすら思っている。

 

 だが、それに甘えるわけにはいかなかった。

 

 そう、これはただの意地と言われればそれまでだ。

 

 ハヤルト自身が提案するこの政策。それをなすにあたって「ただ魔王の血を継いだだけの若造の思い付き」が通るのが納得できない。

 

 この提案を、「魔王の血を継ぎ、それに見合った実績と能力を示して見せた者」として通したいという、くだらない意地。

 

 しかし、それでも通したい。

 

 魔王アスモデウスの血を引いた者として。それだけに胡坐をかいていたクルゼレイを見限った者として。なにより、冥界の未来をよりよくしたいと願い一人の悪魔として。

 

 真に魔王の末裔を名乗るに相応しい存在として、正しい意味で冥界の未来をよりよくしたいと願うから。

 

「……この国際レーティングゲーム。必ず成果をなして見せる」

 

 静かに夜空を見上げながら、ハヤルトは決意を固める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……あと二月足らずに開催される、国際レーティングゲーム。

 

 その国際大会で要注目となるチーム。

 

 魔極の蠍チームの戦いは、既に今から始まっているのだった。

 



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第二部二章 13

最近になって「英雄になろうとする者はその時点で英雄失格である」とかいう言葉の元ネタ当たりの情報を詳しく知ることができました。




……アニオタwikiの「実は言ってない台詞(架空人物)」の「いったことは言ったが意味が違う系」で紹介されていました。

……逃げる隙を稼ぐために適当ぶっこいた悪徳弁護士のセリフで、そもそも言われた対象の英雄願望が歪んでるので真っ当に英雄に憧れる人と同列に語ることが失礼てきな事欠かれてましたよ。

こんなセリフをさも絶対の真理のように使われるとかすごい酷いなオイ。



 

 おっす、俺イッセー。

 

 二月も後半になって、寒さも少しずつだけど減ってきた。

 

 だけど、俺の心は少し寒い。

 

「………うへぇ」

 

 俺はため息をつくと、教室の机に突っ伏した。

 

「どうしたんだ、兵藤の奴」

 

 男子生徒の一人が首を傾げるけど、俺は返答する気力もない。

 

 いや、本当にだらけさせてくれない? マジで。

 

 俺がだらける理由は、割と単純。

 

 ………俺は、一枚の紙を取り出した。

 

「なんだよ、イッセー。……まさか、ラブレターか!?」

 

「何だと!?」

 

 松田と元浜が反応するけど、そんなんじゃない。

 

 いや、ラブレターならむしろ最高なんだけどね。ハーレム王として、今のままじゃなくて更に増やす気満々だからさ。

 

 だけど、そうじゃない。

 

 そして、手紙の中身を見た松田と元浜もぎょっとした。

 

 そして、他のクラスメイトも手紙を覗き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「怖いっ!?」」」」」」」」」」

 

 クラスメイト全員がそう言ったよ。

 

「なんだよコレ、殺意みなぎってるじゃねえか!」

 

「っていうかコレ、血文字じゃねえか!!」

 

「うわぁ、恨まれてるわね、コレ」

 

 クラスメイトが次々にそういうのも当然だ。

 

 血文字で書かれた百文字以上の殺の文字。これで殺意を感じなかったら、それはたぶん、すごいおめでたい頭してるんじゃないか?

 

 とにかくそういうわけで、俺は本気でドン引きしてる。

 

 ついでに言うと、この一枚なわけがない。

 

「恐ろしいことに、同じものが数百枚届いていてな」

 

「しかも全部ダーリンとファーブニル宛てなのよ」

 

 ゼノヴィアとイリナが、額に汗を浮かべながらそう言う。

 

 ああ、俺とファーブニルに宛てたこの殺意満々の手紙。マジで数百通届いた。

 

 思わず悲鳴上げたね、俺。

 

「DNA鑑定という検査方法によると、全部別々の人が書いたものだそうです」

 

「そりゃまた、凄い恨まれてるっていうか……組織的な嫌がらせね」

 

 アーシアの説明に、桐生もドンビキしている。

 

 ああ、ほんとにそうなんだよ。

 

「因みに、犯人は分かってるのか?」

 

「堂々と書かれてたぞ。……貞淑委員会だ」

 

 元浜の質問に、ゼノヴィアが答える。

 

 貞淑委員会。変態を滅亡させる為に日夜活動している犯罪組織。三情の永遠の敵。

 

 数多くの性犯罪者を私刑で死刑にする連中で、最近の異形技術の取り込みでテロリストの領域になっている。

 

 しかも強い。最近だと、堂々と名乗って性犯罪者が集まっている監獄を襲撃して、軍隊と戦闘迄したとか。

 

「……中国のフードフェスタじゃ名指しで襲われたし」

 

「大変だな、イッセー」

 

 松田が、俺の肩に手を置いてくれた。

 

 ああ、なんか厄介なのに目を付けられちまったよ。

 

「俺、そこまでするようなこと、したか?」

 

 覗きはこんな連中に睨まれなきゃいけない程の罪か? こんなのおふざけの範囲内じゃねえか?

 

「まあ、いい歳こいて覗きやってるのもあれっすからねぇ」

 

「ペトに言われた!?」

 

 マジでショックなんだけど!?

 

 エロ仲間のペトに言われたよ! マジでショック桁よ、俺!!

 

 エロにおいて俺の遥か高みを行く経験者。そして、桐生みたいなからかいをしないでエロに燃える会話をする事ができる、貴重な女友達。それが、ペト・レスィーヴだ。

 

 そのペトにこんなこと言われるだなんて、マジでショックだ!!

 

 そんな、そんなぁあああああ!!!

 

「いや、高校生になって覗きはマジで警察動くっすよ? やるならアザゼル先生が残した性別変換光線銃で女になって堂々と女湯に入るッス」

 

『『『『『『『『『『なに開発してるの、アザゼル先生!?』』』』』』』』』』

 

 ああ、そういやそんなもん開発してたっけなぁ。

 

「そういえば、オカルト研究部(私達)では、イッセーとレイヴェルはまだあれを体験してなかったな」

 

 ゼノヴィア、余計な事を言わなくていいから!!

 

「ほ、他は全員性別変換してるのかよ!?」

 

 ほら、ドンビキしてるし!!

 

「ゼノヴィアちゃんが男になってる姿なんて、見たくねぇえええええ!!!」

 

「え、私逆に見たい!!」

 

 なんか話が変な方向に行ったし!!

 

 まあいいか。俺も少し気が晴れた。

 

 こう、異形関係について隠し事しないで話せるのは、ヴィクターに感謝しなくちゃいけないのかもな。

 

 そういう意味だとリムヴァンのおかげなのか。うぅ

、やっぱりお礼は言いたくなくなってきたぞ。

 

 ま、それはともかく。

 

「そういやペト。今日はサラトとデートしないのか?」

 

 なんだかんだで、ペトはサラトとよく会っている。

 

 週に一回は駒王町の中でだけど外食もしているらしい。ハヤルトさんがその辺気を使ってるとかなんとか。

 

 まあ、自衛隊員だから必ず土日が休めるってわけじゃないからな、サラトも。そういう意味だと学生やってるペトは得だよな、午後とかあくし。

 

 そろそろ一週間経つし、タイミング的には今日だと思うんだけど―

 

「あ、今週はないんで大丈夫っす。部活にきちんと出るっすよ」

 

 あれ、そうなの?

 

 俺が首を傾げてると、イリナがはたと手を打った。

 

「ああ、そうだったそうだった。今、異人第一特務隊は国外で仕事してるのよ」

 

 そうなのか。

 

 まあ、()()自衛隊だもんな。国外で活動するよな。

 

 ……もう、自衛隊じゃなくて日本軍に改名した方がいいと思うんだけど。

 

「で、なんでイリナが知ってんだよ」

 

「あ、教会との合同作戦らしいのよ」

 

 と、イリナが指を立てる。

 

 そして、その表情は何処か暗かった。

 

 ……なんか汚れ仕事なのか?

 

 そう俺がふと思ったけど、ある意味もっと面倒だった。

 

「……カルディナーレ聖教国と戦闘するみたいなのよねぇ」

 

 ……あ、あぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃、とある場所のブリーフィングルームで、ハヤルトが作戦に参加する戦闘要員とブリーフィングを行っていた。

 

「諸君! これより我々はカルディナーレ聖教国との戦闘を開始する事になる」

 

 真剣な表情を浮かべ、ハヤルトは告げる。

 

 場所は中東。カルディナーレ聖教国とイスラム過激派、更に「イスラム教徒を淫乱にしてあげることこそ善意」とでも言わんばかりに三情まで乱入し、ヴィクター経済連合までいる混沌とした地域である。

 

 そこに戦力が集まるのはごく当然。ピースキング和平連盟もまた、腕利きの戦力が集まっている激戦区である。

 

 そこに今回異人第一特務隊が派遣されたのには、理由がある。

 

「今回の作戦目的は、亡命を行い移動している、英国陸軍高官のカルディナーレ聖教国入国を阻止する事なのは、諸君らも知っての通りだ」

 

 そう、カルディナーレ聖教国は、日に日に戦力を増していっている。

 

 聖書の神の死及び、悪魔や堕天使との和平。その不満が根幹の一つとなって、カルディナーレ聖教国は生まれた。

 

 結果として、自称敬虔な信者の類は断続的にカルディナーレに亡命を行っており、それによってカルディナーレは人材において順当に豊富になっている。

 

 軍部の高官が亡命するケースも今回が初めてではない。聖書の教えを信仰するものが大半の国家では、軍部関係者から亡命するケースも珍しくはない。

 

 そして今回もそうなのだが―

 

「だがしかし、今回は間違いなく陽動作戦の一環だと考えられる」

 

 そう、それほどまでに今回は足取りを掴み易いのだ。

 

 この調子でいけば確実に追撃部隊が追い付く事ができる。そして捕縛されるだろう。

 

 これはおかしい。転移などが使える異形技術がばらまかれた現状で、ここ迄足取りが掴み易い逃避行をする意味はない。

 

 断言してもいい。これは陽動である。

 

 これまでにない重要人物を囮にして、カルディナーレは追撃の為の戦力を叩き潰す気なのだ。

 

「ゆえにこそ、余ら異人第一特務隊が動く事になった。……とはいえ、捨て駒ではないぞ?」

 

 そう前置きし、ハヤルトは得意げな表情を浮かべる。

 

 そして、勢いよく親指を下に向ける。

 

「舐めた真似をしてくれたカルディナーレを後悔させてやるのだ! 各勢力の合同戦力をもってして、我々を始末しにきた奴らを叩き潰せ!!」

 

『『『『『『『『『『了解!!』』』』』』』』』』

 

 全員が敬礼をしたうえで、すぐさま持ち場へと移動する。

 

 そして、自身の持ち場であるブリッジへと移動しながら、ハヤルトはミラリルに師事を告げる。

 

「ミラリル。おぬしは後方に移動して、追撃している英国陸軍と合流せよ」

 

「……了解した。しかしいいのか? わたしも並みの上級悪魔よりはやれるが―」

 

 多少怪訝な様子を見せるミラリルに、ハヤルトは苦笑を見せる。

 

「しかし、本意ではなかろう?」

 

 その言葉に、ミラリルは応えない。

 

 それを見て苦笑を深め、ハヤルトは前に進み出す。

 

「案ずるな。必要とあれば呼び出すとも」

 

「あら、かまわないさ。王の指示には従おう」

 

 そう答えると、ミラリルは即座に転移を行った。

 

 それを理解しながら、ハヤルトは苦笑する。

 

「……さて、あれの開発も進めねばな」

 

 そう独り言ちながら、ハヤルトはブリッジへと到着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして数分後、戦闘は既に勃発していた。

 

 カルディナーレに向かって逃避行を続けていた英国陸軍高官が、途中で廃村に立ち寄ったところを、追撃部隊が斥候を送ってみたところ、一気に動きがあった。

 

 既にその廃村でカルディナーレが合流していたらしく、戦闘が勃発したのだ。

 

 すぐさま潜伏していたカルディナーレと追撃部隊との間で戦闘が勃発。

 

 現在、戦線は膠着状態になってしまっていた。

 

「……異人第一特務隊が来るまでは?」

 

「現在急行中。あと五分で着くとの事です」

 

 火砲による援護射撃を担当する支援部隊では、既に牽制の為の砲撃が続けられていた。

 

 とは言え相手は、高位の異形を相手取る事を前提としてきた悪魔祓いを中心とした組織だ。そう簡単に当たるとは思えない。

 

 なら、化け物じみた相手には化け物を当てるといった判断ではあるが、しかし必要な事でもあった。

 

「日本からの虎の子が来てから、本格的な攻勢に移った方がいいな。……それまでは牽制に」

 

 そこまで言いかけたその時だった。

 

 動きは、ここから一気に変化していく事になる。

 




そんなこんなで、次はカルディナーレ聖教国との戦いです。三情の幹部もだそうかと考えています。あと御使いが今回のゲストの予定です。


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第二部二章 14

そしてカルディナーレとの大激戦です!!


 

 亜音速で接近する巨大な物体があった。

 

 全長は500メートル前後。それだけでも、異形技術を含めても巨大な戦闘艦艇だった。

 

 そして、それを直接見た事がある者が、極わずかにだが存在する。

 

「……おいおい。ここでこれがきちゃうのかよ」

 

 今回の追撃作戦の為に、天界から派遣された御使い(ブレイブ・セイント)の1人。ジョーカー、デュリオ・ジュズアルドだ。

 

 彼は、あれと似た姿の飛行戦艦を見た事がある。

 

 それはカルディナーレ聖教国が生まれる少し前。教会で起きそうになったクーデターを鎮める為、自分達が教会の戦士達と戦った時だ。

 

 大切な思い出を思い出しても、しかしそれゆえに悪魔に対する敵意を強くして徹底抗戦を決意した、相容れない者達。

 

 そんな彼らを助け出す為に乱入してきたのが、あの船と同型と思われるものだ。

 

 すなわち、カルディナーレ聖教国の戦力ということだろう。

 

「ジョーカー! 追撃の為の人間達軍事部隊との合流にはまだ時間がかかります!! 急がないと!!」

 

 新入りの御使いがそう言いながら、少しでも急ごうと飛行速度を上げる。

 

 気持ちは分かる。自分達は天使であり、信徒達を導き慈しむ役目がある。

 

 ならば、その自分達の不手際で生まれたカルディナーレ聖教国の者達によって死人が出る事は避けたいのだろう。

 

 だが、うかつに前に出れば―

 

『……御使い(ブレイブ・セイント)の諸君、聞こえておるか?』

 

 ―そのタイミングで、通信が届く。

 

 凛とした、若くしかし強さのある声が、焦る御使い達の心に響き、落ち着きを取り戻させた。

 

『余は日本所属、国外自衛隊第一異人部隊のハヤルト・アスモデウスである。既にそちらには余らが向かっているので、卿らは卿らの役目を果たすがよい』

 

 そう言いながら、ハヤルトは更に声を続けて放つ。

 

『現在、敵母艦からは飛翔物体及び降下物体を確認している。どちらも十数メートルはある上、どうも生物的な形状を取っている事からゴーレムの類と思われるが詳細は不明だ』

 

「だけど、敵さんの戦力って事は間違いないよねぇ」

 

 言葉を繋ぎ、デュリオは戦闘態勢を取りながら前を向く。

 

 どうやら、今回の戦力はあれを中心にして挑んでくるようだ。

 

 なら自分がやる事はただ一つ。

 

「じゃ、俺達は向かってくる連中から身を守る事を考えるのが一番かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、先ずは我々の相手をしてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、雷撃、灼熱、氷雪、暴風といった様々な属性の暴力が、デュリオ達に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なにあれ!? いや、なにあれ?

 

 僕はぽかんとしながらも、訓練のおかげで適切な速度で飛びながら、その飛行戦艦をまじまじと見つめていた。

 

 いや、飛行戦艦とかどこのSFだよ。ツッコミどころが多すぎるよ。

 

「……想起。確かカルディナーレが似たようなもので教会から離反を決意した者達を助けに来ていたな」

 

 福津兄が、横目でそれを確認しながらそう呟く。

 

 ってこれ、もしかして僕達が思ってたのよりカルディナーレは全力で潰す気だったりするのかな?

 

 シシーリア姉もプリス姉もそれに関しては同感なのか、少し冷や汗をかいている。後ろで追撃している小隊の人達も少し動揺していた。

 

 これは、ちょっとまずいかな?

 

『総員、聞こえるか?』

 

 あ、義兄さん。

 

 僕達が思わず気合を引き締め直すのと、義兄さんの言葉が続くのは同時だった。

 

『第一小隊は人類側の軍隊との合流を優先せよ。特務分隊はいったんそこで止まるのだ』

 

 ……なんか、嫌な予感がするんだけど。

 

 そして、その嫌な予感は実感できた。

 

 あ、聖なるオーラ。

 

『……敵だ』

 

「「「「了解!!」」」」

 

 素早く立ち止まると、僕は速攻で神滅の守護者(ノウブルボート・フルメイル)を展開。更にプリス姉が分隊と小隊を分断するように氷の壁を形成する。

 

 そのとたん、放たれたのは聖なるオーラを纏った光力の槍。

 

 規模が大きい。出力が大きい。質も非常に高い。

 

 しかも、あれは神殺し!?

 

「福津兄、シシーリア姉とプリス姉は任せた!!」

 

「無論! 迎撃は頼むぞ!!」

 

 流石にあれの直撃は福津兄でもまずい。なにせ聖なるオーラだから悪魔にとって天敵だ。

 

 余波でもシシーリア姉やプリス姉でもヤバイ。二人の防御力は上級悪魔クラスだから、ホントにキツイ。

 

 なので、ここは僕が出る他ない。

 

 神滅の守護者で活性化した黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の合わせ技なら……!

 

 全力を込めてオーラの槍を構え、更に煌天雷獄で聖なるオーラを活性化。

 

 それが間に合った瞬間、攻撃が来た。

 

 うわわわ……っ! 流石に凄いけど―

 

「―でも耐えた!!」

 

 凌いだよ!!

 

 そして、それと同時に放った相手も見えてきた。

 

 飛行魔法で接近してくるのは、一個小隊規模の敵部隊。

 

 ……まずいね、あいつ等、一人一人が中級天使クラスはある。しかも何人かは上級クラスだ。

 

 なにより戦闘にいるちょっとギャルっぽい人は、あれ最上級どころか神クラスだよ。本気でまずい……っ!

 

「皆! とりあえず一番強いのは引き受けた!!」

 

「了解です! あまり離れすぎないでください、私の戦力がダダ下がりなので!!」

 

 シシーリア姉が僕と共振して黄昏の聖槍を具現化させながら答えてくれる。

 

 そして、その返答を胸に、僕は速攻で砲撃体勢。

 

 とりあえず半分ぐらいは吹き飛ばす!!

 

「トリニティ……ブラスター!!」

 

 放たれる三門の砲門からの一斉砲撃。

 

 それを真正面から見据えながら、先頭の人が両手を交差する。

 

 そしてそこから神殺しのオーラを纏った光が放たれて、トリニティブラスターを真正面から受け止めた!?

 

 嘘!? 完全に防いじゃった!?

 

「甘く見ないでよね!!」

 

 そして突貫するその人は、両手から光の剣を生み出すと切りかかる。

 

 あ、全部聖なるオーラと神殺しのオーラ籠ってるよ。まずい!

 

「うわっとぉ!?」

 

 慌てて避けて、こっちもオーラの槍とシールドクローを展開。接近戦を開始する。

 

 そして同時に、神滅の守護者のセンサーが敵の神器を解析してくれた。

 

 ―天使の鎧(エンジェル・アームズ)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の複合禁手(バランス・ブレイカー)の可能性、98%。

 

………はい?

 

「嘘でしょ!?」

 

 な、なんでカルディナーレ聖教国が黄昏の聖槍を持ってるんだよ!?

 

 そう思った瞬間、ガードが甘くて勢いよく弾き飛ばされた。

 




はい、カルディナーレはテロ組織としては三情すら超える超精鋭なので、かなり強敵になっております。

神滅具を保有している理由に関しては、あともう少しお待ちください。


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