うわっ…私の運命、過酷すぎ…? (股巾着)
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一話『俺が産まれた日』

新作ばっか増やす作者ですどうも。

更新はこれまでの実績から危ういですが、
暇さえあれば書けるはずなんですよ。暇さえあれば。

まぁ今作は長編の予定はなくところどころ派手に飛ばしていくつもりなので、ポカンとなったら質問してくだしゃい。きっと返答出来ます。きっと。


 

 

 

 

 

 (俺、なんでこんなことになってるんだっけ?)

 

 眠る前にゲームをしていたのは覚えてる。もともとガキのころからやってたFFシリーズのアクション対戦ゲームだ。ゲーセンでしか展開してなかったそれがとうとう家庭用に展開されたと聞いて(ど田舎のゲーセンは遠く、安定していくことはできない)、狂喜乱舞しながらやり続けてた。おもむろにCPUと組まされたり、おもむろに同じチームの人が回線の問題等でCPUに切り替わったり、アプリケーションエラーで今度は自分がCPUにされたりと…なかなか酷い目にあわせてくれやがったりしたが、それでも楽しくてずっとやってた。まぁ…才能はなかったらしくて、最近はめっきり勝てなくなってたけど。

 

 昨日も負けが込んで嫌になって酒飲んで明日に備えようと思い、得意じゃないのにきついのをガバガバのんで意識を飛ばす様に寝て――気が付けば、

 

 (なんか、声も出せないんだけど…?)

 

 声帯が震えない。元から震わせる機能がなかったのではないかというレベルの硬直ぶり。それどころか、手も足もよく動かせない。視界だって、ぼんやりとしていて全く見えないときた。

 これは、つまりそういうことか――!!

 

 (急性アルコール中毒…!!)

 

 きっとそれだ。普段ビール一缶で酔っぱらってしまう俺が、ウィスキーストレートでなんてやっぱ不味かったんだ。つまりここは病院で、目も良く見えないのはその後遺症。運良く誰かがが俺の部屋まで来てくれたところで異常に気付いた。そしてそこから色々あって病院へ搬送されたと…。

 

 (うわぁ…きっと布団とか凄いことになってたんだろうなぁ。悪い事をしてしまった。あと、確か次の日は大事なレビューがあった気がしたり…はぁ)

 

 ここから先のことを思うと気が重い。急性アル中だなんて、死ななかっただけ儲けものとはいえ会社での評価はダダ下がり間違いなし。ただでさえ出来が悪いのに、これじゃクビまったなしだ。再就職も最近は厳しいのに――と、思っていれば、ドアが開く音が。ただしそれは引き戸では無く、明らかにドアノブの音。

 

 (……引き戸じゃない病院ってなんだ? 実はここは病院じゃないのか? いや、仮にそうだったとしても、俺の部屋も引き戸しかなかったはず。じゃあ、ここは一体?)

 

 そんな疑問も、自分より遥かに大きい手が身体の下に差し込まれた瞬間に霧散した。

 

 (お、おお!? でっか!! なんぞこの手?! 俺、身長あんまり高くないっていったって、これでも大人の男やぞ!! バレー選手かな…?)

 

 意味のない疑問が脳内を駆け巡る中、こちらを抱き上げた巨人(?)は、そのまま俺を抱きしめたのだ。

 

 (このまま絞殺されるのか…? いやだったらなんで助けたっていうか、あれ、あったけぇ。なんていうか安心するっていうか、おや、目が開けられそうになってきた――)

 

 「――ふふっ、眠ってるのね。私の可愛い坊や」

 

 (うん? 坊や? あれ、これ俺の手だよな? だとしても、ちっちゃすぎっていうか…)

 

 「はやく大きくなってね、私の可愛い『クラウド』」

 

 (今『クラウド』って言ったー!? く、クラウドだとぉぉ!!??)

 

 あまりの衝撃に、全力で震わせた声帯は声を成した。もちろん、おぎゃあという、アレである。

 

 「あらあら、どうしたのかしら。お腹が空いちゃったのね。それじゃ、ご飯をあげましょうねぇ」

 

 とりだされたのはそう――ビッグなアレで。

 

 (やめろやめろやめてくれそれはこの前上野のお姉ちゃん(tooふくよか)にやって貰ったプレイを思い出すっていうかうわぁぁぁ!!俺の身体よとまってくれぇぇぇぇい!!!!)

 

 成人している意識もなんのその。本能は忠実に必要なことを始める。表層意識など、現時点ではないも同じ。

 

 (クソがぁぁぁ!! テンプレ転生物だったとしても、なんでよりにもよって『クラウド・ストライフ』なんだよぉぉぉ!!!!)

 

 クラウド・ストライフ。

 FF7の主人公で、俺がよく好んで使っていたキャラ。クラウド使いは地雷が多いと言われようがなんだろうが、キャラとして好きになれなかろうが――大剣アクション超格好良いと、たったそれだけの思いで使い続けた、不運につぐ不運を背負った男の子。

 ソルジャーになりたくて上京して、夢破れて一般兵。揚句長期間の人体改造に晒され、廃人につぐ廃人を経たりする冗談抜きのハードライフ。

 

 一つだけ言いたいのは――なんでやねん、それに尽きた。

 

 

 

 

 

 追伸:周りがいうより悪い物じゃなかったし、個人的には好きな味でした。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 はっきりいって、ここニブルヘイム村はもう存在自体がヤバい。

 

 初めて魔晄炉を作ったが故に神羅から受ける恩恵も割と大きめで生活は豊かだが、険しい山々が近くに存在するためか出現するモンスターは割と物騒なのが多いし、数年に1回は子供が帰らぬ人となったりする。

 神羅屋敷なんて近付いただけで寿命が縮む気がするし、魔晄炉なんてお前、クラウドの死地やぞ?

 

 とにかく俺は、原作クラウド君の道のりを歩きたくない。

 

 生まれ変わりとはいえ、両親には死んでほしくないし、未来では巨乳美女のティファちゃんにも生きていて欲しい。というかそもそもぼーっとしてたら星ごと滅ぼされてエンド。

 そうかといって、セフィロス君そもそも一強過ぎて誰も勝てないし、唯一勝てる可能性があるとすれば、改造人間クラウド君ただ一人。まぁパンピー時代にあの英雄セフィロスに不意打ちとはいえ、近接武器で致命傷をおわせていたところを見れば、実は肉体スペックはそもそもクッソ高かったと思われはするけれども。

 

 そんなわけで、ありとあらゆるところにところせましと張り巡らされる死亡フラグに対し、考えに考え抜いた俺が出したルート。ある程度大きくなった俺が、そのための一手として最初に起こしたアクションは――両親の説得。

 

 「いいか、親父にお袋。耳かっぽじって良く聞け。こんなやべーところからは、早くおさらばするんだ。出来ればご近所のロックハートさん達…とかと一緒に。ハリーアップ」

 

 足のつかない椅子で足をぶらつかせながら、ゲンドウスタイルで説得を試みる僕ちん。それに対して、両親の表情はあまり良いものとは言えない。両親としてはヤバい理由を山岳地帯に囲まれているだけ、なんて軽い理由で捉えているせいか、

 

 「はりーあっぷ? そりゃどういう意味だか知らねーけどよぉ…お前は他の子達と違って頭の出来がちげぇから、わかってるもんだと思ってたが、そりゃできねぇ」

 

 「そうよクラウド。引っ越しだって、タダじゃできないの。それに、引っ越したって、どうやって生きていくの。そういうことを考えると、他所に行くっていうのは簡単じゃないのよ。わかるわね?」

 

 完全に子供に言い聞かせるようなその言葉にぷっつんしかけたが、ここは冷静に説得を続けた。だが健闘むなしくげんこつEND。子供に対する威力じゃなかった気がするのは、本人達も願っていることだったからだろうか。

 

 それはそうと、原作では一切露出しなかった、故人であるとしか言われなかったクラウド君の父親。まさか、金髪ってだけであとはクラウドとは似ても似つかない強面の髭親父だったとは、誰が思おう。そして母親は、明確に顔出ししていなかったと記憶しているが、これがクラウド君にクリソツ。もっと女性的で丸み(色んな意味で)を帯びた感じだが、良かったなクラウド君。母親似で本当に良かった(良かった)。あと母親の口調が女性的なのはきっと、まだ親父が生きているからだと思う。

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 とにもかくにも、夕飯時におもむろに始めてみた説得フェーズは大失敗。ただそれはまぁ、所詮は去年の出来事。現状肉体年齢6しゃい(流石クラウド、子供時代も可愛い)の俺は今――、

 

 「うおぉぉぉぉ?! ここでお前が出てくるのは卑怯だろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ニブル山の西側。そこの山道で今――ドラゴンに追われていた。

 

 そう、セフィロスツエー!のために用意された当て馬と名高い、あのドラゴン君だ。実際はあんなにポンポン出て来るような生き物ではなく、出会うのはかなりレアい山の主的存在なのだが、現在6しゃいであるところの俺は、猛烈な勢いで追いかけ回されている。

 

 

 

 そもそもことの発端は、『(ゲームとまでいかないまでも)モンスターを倒して成長すると仮定すれば、今の内から戦っておけば素のままでセフィ君いてこませるんとちゃう?』という、安易な発想から始まった。子供らしい遊びとして誤解してもらえるよう、木刀振り回して遊んでいるとみせて練習し、外ではモノホン使ってモンスターを殺してまわろうという、現代日本であったならサイコパス待ったなしの生存戦略第二弾を実施していたことに起因する。

 

 結果からいえば、別にモンスターを殺したからといって強くなることはなかった。所詮は子供に過ぎない我が身では、罠を張ってそれに嵌ったモンスターをやるくらいしか出来なかった(グロ耐性ってスキルはついたと思う。どんな生物でもモツはグロ)が、別に目に見えて成長したかと言われればそんなことはなかった。恐らく明確に成果だといえるのは、日々遊びの延長に過ぎないと思ってた剣の練習が、とうとう木刀じゃ軽すぎると思うようになっていたことだろうか。まだたった6しゃいだよ、6しゃい。身長だって周りと比べて小さいくらいなのに、もう鉄パイプくらい軽々振り回せそうになっている。実際、スモールソード(ショートソードより更に短い剣のこと)程度なら訳ない。つまり何が言いたいかといえば、クラウド君はもともとクッソ才能があって、単純に魔晄に適応出来なかったところ以外は問題なかったということだ。

 

 そんな結果を知ったらそりゃお前、多少は調子に乗っちゃうよね。完全に罠頼りから、それっぽいだけチャンバラが有効そうと気付いちゃったら、そりゃ使いたくもなるやん。

 村の本当に周辺に限定して、はぐれて弱っていて、なおかつ元々弱い種族がいたら挑んでみようとか考えて、実際かなーり弱ってた子供のニブルウルフがいたから戦って、本当にギリギリかつ運よく勝ったところで――上空に見えるはドラゴンさんよ。

 

 どうやら俺と同じ獲物を狙ってた様だったので、倒したウルフをそっと近付けてみれば、一飲み。咀嚼もしないんだなぁ、ってぼけーっとみてれば――次は俺だと言わんばかりの眼光。わー、一石二鳥だーと、一瞬考えて末に反転して大爆走。そうして、今のくっそ情けない逃亡シーンに至る。

 

 

 

 『たかだか6才の子供が、ドラゴンから逃げ切れるわけねーだろww』と皆思うことだろう。俺もそう思う。確かに村周辺で、完全に童心にかえった俺が大人の知識で作りだした様々な道具があるとはいえ、あちらさんが本気を出せば一瞬で終わるはずだ。ふっ、と一息で一瞬よ。それをしないのは単に、

 

 (――嘘、もしかして私、トカゲに遊ばれてる?)

 

 火炎なんて吹こうものなら炭も残らないだろうし、全力で追いかけても力加減を間違えてもプチっと逝く。食料とするには追いかけまわして疲れさせる、というのがあちらさんの作戦なんだろう。村周辺から徐々に離されるように追い回されているのが良い証拠だ。頭の良い蜥蜴め。

 

 ただ――それに対する策がないなどと、誰がいったのか。

 

 木々の間を駆けまわりながら、ズボンの後ろポケットに差していたグローブを取り出し、手に装着する。堅い感触のそれには、"緑色に光る球体"が輝いている。そう、みんな大好きなマテリアさんだ。

 きっとどこかで元気に生きているだろう未来のマテリアハンターなどという小娘とは、マテリアに対する想いが違うね。ただただ生存のためと必死こいて探して2年がかり(一人で外出を許されてからすぐやったんやて。サボってたわけちゃう)集めた総数――たったの"2個"。

 それも正直本命には絶対通じなさそうなのが一つと、もう一つはどっちかっていうとあとナンバリングが3つは先の主人公がメインで使ってそうなヤツで正直ガッカリだったが、今を生き抜くにはこの上ない天の采配――!!

 

 レベルアップがない以上、MPの総数を上げる方法は身体的成長と鍛錬のみ。毎日吐く程食ってれば、昨日のアタシよりも一個多くのおにぎりが食える理論で気絶するまでMPを消費して容量を増やした結果、なんとか最大で3回くらいは、意識を失わずに魔法が使える程度までに鍛えることができた。

 モンスターが隠し持ってた千切れかけで(恐らく)血のシミが付いたレザーグローブにマテリア穴が一つ、武器屋の親父に無理言って内緒で譲ってもらった、マテリア穴が一つあいたさっきの戦闘で若干欠けたスモールソード。こいつらに、俺の命をかける。

 木々の間を駆けながら、一瞬だけ身体が隠れる程度の場所に辿りつき、全加速を両の手で木を掴むことでゼロにする。そこから一瞬で抜けだすだろうと軽く考えていた(であろう)空飛ぶ蜥蜴ちゃんは一瞬こっちを見失い――その一瞬でもって、この魔法を完成させる。

 

 ゲームとは違い、やはり魔法は発動までに時間がかかる。他の作品の様に詠唱したり魔力をどうこうだなんてのはマテリアさんが代行するが、それでも近接職的に考えれば致命的な隙だろう。そりゃ魔法主体の戦闘職なんて流行らないはずだ。

 

 木々の隙間から見えたであろう魔法の発動光に気付き、謀られたことに腹を立てたドラゴンさんは俺をエサではなく、敵と認識したようだ。口内に強烈な熱量が発生するのが遠目にすらわかるほどだが、俺の方が早い――!

 決まってくれと心底祈りながら、グローブにつけたマテリアにて、一発目の魔法を起動する。

 

 「――『コンフュ』っ!」

 

 今世で一番最初に手に入れたのがこのマテリア"まどわす"。あまりにも俺の現状やクラウド君の運命を言い当てている様でつい深読みし過ぎてしまう出会いだったが、今だけはそのことを忘れる。

 

 コンフュは耐性を持つ持たないの他、そもそも確率で混乱するかしないかという仕様だったと記憶している。原作通りならば完全に運ゲーだったが、現実には違うのではないかと推測した。催眠なんてのは、意識が安定している時には本来効果がない。つまり、安定していない意識の隙間をついて、魔法という異物を差し込むことでこんらん状態を作りだすのだと。

 

 魔法を発動した直後に全速力でその場を離れれば、直後大地を襲う高火力のブレス。まるでボールのように吹き飛ばされるマイボディだが、今こそスモールソードにはめた"まどわす"なんぞよりも遥かに優秀なマテリアを使う時だ。

 

 「『ヘイスト』っ!」

 

 空中で発動したそれは効果を遺憾なく発揮し、周囲の光景をスローモーションに変える。ゆっくりと、それでいて明確に近付く樹木への突撃も、高速化したこの状態なら上手くサバける。グローブをはめた左手で、木に打ち付けない様に触れ、そのまま横合いへと身体を投げる。隣の樹木にスモールソードを突き刺して着木(?)し、火炎放射の主を見てみれば――作戦成功の光景が広がっていた。空中でわけもわからず自分の尾を攻撃したり、それを敵からの攻撃と勘違いして火炎を振り回しているのだ。間違いなくコンフュが上手く決まったのだろう。

 

 これ幸いと、さっきまで子供っぽく手加減してた状態とは違って、ヘイスト状態の本気走りでドラゴン君より上手く逃走せしめた。

 

 まぁ結局、村に着くころにはもう外は真っ暗で、今すぐにでも俺を捜索しようとしていた親父に子(故)ウルフ君の血で染まったスモールソードと、服の焼け焦げた痕を見られたという大失態を犯した訳だが。しばらく家に完全な軟禁状態だったのは言うまでもない。マテリアだけは死守するも、僕の大事なスモールソード君とはお別れと相成った。あもりにもかなしすぐるでしょう?(悲しみのあまり言語野に致命的なダメージ)

 まぁ比較的村の近くでドラゴンがブンブン飛び回って、エライ勢いでブレス吐く音がしたと思って構えていれば、ひょっこり帰ってきた息子が若干焦げてただなんて、事情を一瞬で察せられてちゃうのも仕方ないよね…?

 

 

 

 

 

 ――が、この事態はあまりにも多くのことに影響を与えることになった。

 誰が思うだろうか。これより先、あのドラゴン君とは長い付き合いになるなどと。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 今日、ニブルヘイム村は大騒ぎだった。

 

 数年に1回くらいニブル山で人がいなくなることがあるらしいのだけど、今日いなくなったって思われてたのは私と歳の変わらない、小さな男の子だという。

 

 その子のことを私はよく知らない。村に住む子供はそんなに多くなくて、大体みんなと遊んでるんだけど、あの子だけは一緒に遊んだことがなかったからだ。いっつも見かける度に木で出来た剣をヘトヘトになるまで振り回したり、周囲をきょろきょろした後、影に隠れてみてる私に気付かないで格好良いポーズの練習をしてニヤニヤしてたりと、誰とも遊ばないで一人でいる男の子、ってイメージ。変な子だなって見かける度に思ってた。

 いっつも変なことばっかりしてるから気になっちゃって、最近ではどこにいるんだろって自然と探しちゃったりもしてた。

 

 村の子達は早くから外に出てもいい、って言われたけど、彼は変な子だからか、村の外に出ても良いって言われるのが遅かったみたい。いつだったか覚えてないけど広場で友達と遊んでたら、ドアから凄い勢いで『YaHoooooooooooooo!!!!』って村の外に飛び出していった日がきっと初めてだったんだと思う。

 

うっすらと、もう村の中で遊んでる姿を見ることは出来ないんだなって、ちょっとだけ残念に思ったのを覚えてる。

 

 そんなこともしばらく経てば忘れちゃっていたのだけど、ちょっと目を離した隙にこれだ。村の近くをおっきなモンスターが飛んでて、神羅の人に助けてもらおうってお話してたと思えば、あの子が帰ってこない。これはもう食べられちゃったかなって思っていれば、凄い大きな爆発音が村まで響いて。もう駄目だって、あの子のお父さんもお母さんも泣いていると――門の外からひょっこりと、あの子が帰ってきて。私はずっと門の外を見てたからすぐに気付いたけど…確かまてりあ?っていうのを、手に持った剣とグローブから外してポケットに突っ込んだのを見た。

 

 もうそこからは大騒ぎ。よく見れば剣には血が付いてて、子供なのにモンスターと戦ってたのは間違いなくて、服の背中が焦げてるのは間違いなくあのおっきなモンスターにやられたからだって、みんながみんな気付いてて。

 あの子の両親は近寄るなり抱きしめるかと思えば、思いっきり拳骨してたのを見た。もう目を瞑っちゃうくらいすごい拳骨で、見てるだけの私が泣いちゃいそうだ。

 

 「――ッ、いっってぇぇぇぇ!!!! 親父てめぇ、今のは子供にやっていい威力の拳骨じゃねぇだろっ!?」

 

 泣きもしないで、頭をさすりながら自分のお父さんに食ってかかってる。

 

 「やっかましぃこの大馬鹿息子がっ!!」

 

 お父さんはお父さんで、さっきまで泣きはらしてたのに今では顔を真っ赤にして怒ってる。

 

 「ちょっと村の近くふらついてたらドラゴンに絡まれただけだろ!? 俺氏、無罪を主張します!!」

 

 嘘、怖い。村の外でブラブラしてるだけであんなに絡まれるの…?

 

 「嘘つけクソガキ。じゃあ、お前の剣についた血は一体何の血だ? ドラゴンとでも言うつもりか? えぇ?」

 

 「そりゃお前…アレだよ、アレ」

 

 「俺にはウルフの血に見えるんだがな」

 

 えっ。

 あの子、モンスター倒しちゃったってこと…?

 

 「……やだ、ウチの父親ったらモンスターに詳しすぎ?」

 

 「ウルフが出るほど奥に行ってんじゃねぇか!! こっち来い、お前の尻を風船みたいにしてやる!!」

 

 「えっ、まさかここで!? 止めろぉぉ! 見てる、みんな見てるから!! ぼくちんの可愛らしいお尻をそんな風に乱暴にってあっ――いってぇぇぇぇ!!!!」

 

 それを最後に、お尻を叩かれるたびに酷い声で叫ぶあの子に、淡々と叩きながらも安心したのかちょっとだけ涙目のあの子のお父さん。ちょっとだけウチのお父さんとお母さんはウルっとしながらも、私の手を引いてウチへと帰り始めた。ちょうど、みんなも帰り始めてたところで、あの子のお母さんだけは集まってくれた人達全員にあやまったりお礼を言っていたりした。

 その背後で、ひたすらにあの子がお尻を叩かれ続けてる光景はなんともいえなかった。だけど、

 

 「この異常性欲者めぇぇぇ! 加虐趣味だのなんだのなんて、俺のいないとこで母さんにでもぶつけてろよっ!!」

 

 「誰が変態だ誰がっ! それに――言われるまでもねぇぇぇぇぇっ!!」

 

 「――あ、アナタッ!?」

 

 あの子と一緒に遊んでみたいなって、そんな風に思った日でした。

 

 

 

 

 

 




超どうでもいい話ですが、主人公は巨乳好きです。


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二話『はじめての』

更新が遅れたってことはつまり、忙しかったってことなんだよ。

ああ、勿論嘘です。

単純にやりたいことさっさとやろうとして、
展開詰め込んだ結果難産になったってだけです。

まぁ遅筆作者だと詰っていただければと。


 

 

 

 

 

 最近、ご近所さんの攻勢がすんごい。

 

 「ねぇクラウド、遊びましょうよ」

 

 「クラウドー? いないの?」

 

 「クラウドが村の外に出られないなら、私も一緒に村の中にいてあげるね」

 

 もうクラウドって単語でゲシュタルト崩壊しそうなくらい、毎日のように絡まれている。これアレですわ。原作ブレイクですわ。根暗なクラウド君は憧れのティファちゃんと仲良くなんて出来なかったのに、俺ブレイクしてしまいましたわ。悪いね(ハードボイルド風)。

 

 俺のどこを気にいったのかは定かではないけれど、それでもちょくちょく絡みにくるのは完全にこれ、思春期男子が勘違いしちゃうやつやで。中身元アラサーのおっさんからすれば微笑ましいだけだが。

 天然なんだろうけど、ティファちゃんあまりにも魔性の女過ぎると思われ。村の男子全員がこじらせ確定なの目に見え過ぎて切ない。この子発言と行動に見合わず、身持ちクッソ堅いからね。その内武術も習ったりなんかしちゃって、ある意味鋼鉄の乙女ってことか。上手くはねーな。

 

 やっぱアレか。クラウド少年のお尻はぷりちーすぎたってことなんだろうか。ティファちゃんと喋るのなんて、何某かの事務的な理由がなければあり得なかったがために、こんなふざけた理由しか思いつかない我が身の童心帰りっぷりが憎い。オタサーの姫みたいな見た目してるくせに、乙女すぎる感性してるせいで全く喋ったことのない根暗少年の守ってやる発言を、5年以上もちゃんと覚えて待ってるような、少女少女してるティファちゃんのツボなんて俺に理解出来るはずもない。純粋な気持ちで俺と遊びたいって思ってくれてるティファちゃんを、元良い歳したおっさんには裏切れるはずもない……未来形美少女の幼い頃の思い出に残れるとか、うほっ、拙者興奮してきたで御座る!だなんて、全くこれっぽっちも思ってない。思ってないんだからっ!!

 

 そんな感じで、ティファちゃんと遊んだり、武器屋の親父に土下座してわけてもらった古くてただただ重い剣を振り回したり……互いの両親に生暖かい目で見られたりと、普通の子供っぽい日常を過ごして――気が付けば2年経っていて、

 

 

 

 あの、クラウド君のこれからを決定づけた出来事が起きた。

 

 

 

 天候は生憎の雨。鬱屈とした天気は、落ち切った場の空気を更に暗いものとしていた。嗚咽に、すすられる鼻の音が、今日という日が現実ものであることを教えてくれる。

 

 ティファちゃんの母親が、死んだ。

 

 事故ではない。病気だった。

 かなりタチの悪い病気で、発症してすぐに死に至るような病気だったらしい。ただ、痛みはなかったのだろうということだけが、救いではあったか。エラい美人の奥さんで、気立てが良い人だったと思う。ティファちゃん越しにしか話すことは無かったから、どういう人なのかっていうのは結局わからないままだった。だけど、自覚はあるけど阿呆なことばかりしている俺にも優しくて、誰にでも好かれる素晴らしい人だったように思う。

 村中の人が集って、死を悲しんで――ティファちゃんは、ただ呆然としてた。ティファちゃんの親父さんはそれを見て、泣きながら抱きしめていた。

 

 俺は結局声もかけてやれずに、葬儀は粛々と進行し、終わった。

 人の死は初めてではない。転生前には祖父母の葬式も俺が取り仕切ったし、その時も本当に悲しかったけど、感情のコントロールは出来てしまえる大人だ。そんな俺ではティファちゃんが本当に求めている言葉を、言ってはあげられないだろうからと言い訳した。そのまま両親に肩を抱かれて、結局一言もかわさずに自分の家へと帰っていった。

 

 

 

 だが、その選択はあまりにも迂闊だった。

 原作では明確に"それ"が起きるタイミングを示唆していなかったから、反応が遅れてしまった。しばらく一人にしてあげようなどという、見当違い甚だしい思いやりが全て裏目に出た。即ち、

 

 「――クラウドッ、お前、うちのティファがどこに行ったか知らないか!?」

 

 ――ティファちゃんが、山に登って母親にあいにいってしまったのだ。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は走りだす、のをちょっと待って、ティファちゃんの父親に、

 

 「悪いおじさん、俺は今日ずっとウチにいたからわからない。だけど心当たりを探してくるから、おじさんは見かけた人がいないか探して!」

 

 そう言伝を残し、一目散にニブル山へと走りだした。どうか間に合ってくれと、必死に祈りながら。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 思うに、本来のティファちゃんクラウド君があのドラゴンなんぞが出て来ちゃうニブル山で、子供二人で歩いていられたのは運の要素が強かったように思う。今はまだ神羅によって作りだされるモンスターはそこまで多くはないけれど、それでもただ地形としてだけ見たとしても危険極まりないのは確実だし、ひとりぼっちで歩いている少女なんてモンスターからすれば食べてくださいと言われているようなもの。

 

 家を出てすぐ、村の真ん中を全力で突っ走る。すれ違った人達がみな驚いた顔をしているが、そりゃ驚きもするだろうな。ヘイストを自分にかけて全力で走っているから、エラい早いスピードが出ているのだろう。蛇足だがヘイストは自らの時間を早める魔法のため、周囲が遅くなったようにしか感じ取ることができないので、自分の速度が自分ではわからないところがある。つまり寿命がマッハ。改造人間~~~(寿命が)マッハ!!

 

 一目散に村から出て崖傍まで走り、地面の土を払った。そこには木製の開き戸があり、そこへ身体をねじ込む。ティファちゃんと一緒に作った秘密の倉庫だ。こういう完全に男の子の遊びでも楽しんでくれそうという、安易なおっさん発想ではあったが、それだけではなく実利もあると判断して作っていたのだ。初めは喜んでくれたけど、次の日くらいからティファちゃん興味なくしてたけどね…。故に、現在では完全に俺専用の秘密倉庫と化していた。

 壁に立てかけたロングソード(これも武器屋の親父に(ry)を手に取り、床に転がった袋からマテリアを数個取り出してポケットに突っ込む。マテリア穴つきのグローブを両の手にはめれば準備完了だ。(原作通りであれば)山越えしようとしているティファちゃんの元へと全速力でかけぬけるのみ。

 

 外に出てみれば空模様が随分と怪しい。今にも降り出しそうな、曇り空の中を必死で駆ける。雨が降りだしてしまったら最悪だ。子供の足だからそんなに遠くまでいけないだろうとは思うけれど、それでもこのニブル山には"ヤツ"がいる。最初の最悪の出会いから俺をつけ狙う大型蜥蜴、『タツオ』だ。別にドラゴンがヤツ一匹というわけではないので、差別化するための命名している。

 タツオはちょっとやんちゃが過ぎるせいか、あとあと確認したら他のドラゴンよりやけにデカい金冠クラスだった。割と高い頻度でタツオに絡まれているうちに知った知りたくなかった系トリビアなのだが、そんなヤツから逃げだせるマイボディのスペックの高さと、自らの知能の高さが怖い。怖くない?

 

 タツオを警戒して、空に注意を配っていれば吊り橋が見えてきた。そこで、俺と一緒にいなかったときにティファちゃんとよく一緒にいた子供二人が走ってくるのが見えた。その前に立ち塞がり両手を広げれば、山への恐怖で気が立っている子供達は怒鳴り声をあげる。

 

 「てっ、テメェ! なにしてんだ、そこどけよ!!」

 

 「そんなもんぶらさげてたって、怖くなんかねぇんだぞ!」

 

 どうみても腰が引けているが、それもしょうがない。こちらにも余裕がないせいで、大人げないことだが割と全力で睨んでしまっているせいだろう。原作でも思っていたことなのだが…いくら怖くても黙って、しかも女の子一人を置いていくものだろうか。命の危機が身近だからこそ、本能に忠実なのかもしれないが…少々、腹立たしくはある――それでも男かと。

 

 「……ティファちゃんは、この先に行ったんだな?」

 

 必死に、見た目は子供、頭脳はアラサー。という呪文を唱えながら、零れそうになる激情を抑えて必要なことだけを口にするが、

 

 「そ…そうだよ! 母ちゃんにあいに行くだとかなんだとかいってたけど、山の向こうに行ったくらいであえるわけねぇじゃん!!」

 

 ――もう、死んじまってるんだから!!

 

 気が動転しているせいで、気遣いが出来ていないのはわかる。言ってしまったと、少し後悔してる風にも見受けられるから――ただそれは、ティファちゃん行動の完全否定で、今の俺に許容できるものなんかじゃない。

 

 「――うるせぇ」

 

 つい、本気で岩壁を剣で斬りつけてしまった。爆発音染みた強烈な音が辺りに響き、火花と共に岩を削る。子供達は腰を抜かして泣いているほど。だが、ほんの少しの罪悪感すら沸いてはこなかった。

 

 「さっさといけ、クソガキ共」

 

 早くしないと、今の音でこっちに気が付いたモンスターに食われるぞ。それだけを残し、彼らを置き去りにティファちゃんの元へと駆けだす。何秒か遅れて、悲鳴と共に村へと駆けだす子供達のことなど至極どうでもいいと、思考のリソース全てから排除した。

 それにしても、いつもなら子供の言うことだと流してしまえるのに、ちょっと切羽詰まっただけでテンパってしまうのは、肉体に年齢が引きづられてしまっているのだろうなと、一瞬だけ反省した。

 

 

 

 これは余談だが、後にこれのせいでクラウドは広場で尻も丸出しにするし、人相手に本気で剣も振り回しちゃうガチのヤベー子供だといういわれのない誹謗中傷が、明日にでも村じゅうの子供達に広まることになる。幼い頃のぼっちっぷりだけは、ブレイクできなかった原作ルートだったということか。これも、運命石の扉の選択だよミ☆

 

 

 

 母親にあいたい。

 その願いは叶うことがないとしても、愛情深いその行動は誰にも否定させない。その感情は、押さえつけていいものなんかじゃ決してないから。

 

 成功も失敗も、等しく成長に必要なものだ。特に子供の内なんて、なんでもやってみたほうがいいに決まってる。ただし、俺や他の大人の目の届く範囲での話だ。どうか、間に合ってくれよ…!

 

 

 

 吊り橋を越え、しばらく走り続けていれば洞窟が見えた。一滴、また一滴と雨粒の感触を頬が覚える。もうこの辺りで見付けていてもおかしくはないと思うのだが、まるでティファちゃんが見つかる気配はない。そろそろ見付けて、その上で目の前の洞窟で雨宿りでもしなければ不味いのだ。我が身は呼吸がだんだん制御し辛くなってきているために、いざという時の状況に対応し切れないかもしれない。

 砂埃を立てながらその場で立ち止まる。これ以上先には恐らく行っていないと予想をつけ、一か八かと全力で声を上げた。

 

 「ティファちゃーんっ! どこだー! 返事をしてくれー!!」

 

 声はニブル山の谷間へと響き渡るが、やまびこばかりが帰ってくる。もう一度と、声をあげようとすれば、

 

 ――っ!!

 

 「っ!! そっちかっ!!!!」

 

 奇跡か。あまりの幸運っぷりに、ティファちゃんの日頃の行いの良さに感謝した。既に走り抜けてしまった先で、声が聞こえたのだ。間違いなくティファちゃんだと思う。

 

 それにしても、唯一この山道で子供が歩けるだろう場所を常に視界に入れて走っていたはず。つまり――状況としては相当に不味い事態になっていると予想し、

 

 「ようやく見付けたッ!」

 

 「クラウドッッ!!」

 

 そこには案の上、崖に生えた今にも折れてしまいそうな、頼りない枝を掴んで必死に耐えているティファちゃんが。手の充血具合からして、かなり長い時間掴んでいたに違いない……見つかって、本当に良かった。

 

 安堵の溜息をこらえ、慎重に駆けより近場の岩を掴み、限界までティファちゃんへと腕を伸ばす。

 

 「ほら、捕まって」

 

 涙を流しながら、助かったと安心した表情のティファちゃんは、最後の一頑張りと右手をこちらにのばしてくる。

 

 「う、うん…………ありがと、クラウド――って、え?」

 

 先程まで安心からか泣いてしまいそうだったティファちゃんの表情が凍る。伸ばした手はそのままに、一直線に真上の空をみつめているのだ。

 

 そこでようやく"背後で聞こえる、いくつもの翼の音"に気が付いた。何が来たかなんて、山を遊び場とする俺にとっては振り返らずともわかる。よりにもよって、こいつ"ら"か。

 

 "ズー"。

 大型の鳥モンスターだ。ニブル山のイメージといえばやっぱりタツオ率いるドラゴンだと思うが、それ以外にもこいつに嫌な思いをさせられた人は多いだろう。メタ的な話を言えば、空中にいるせいか遠距離攻撃できないキャラは物理攻撃を当てることが出来ないという、なんとも面倒な敵だと記憶していると思う。その巨体からか、群れをなすという習性がないおかげで今まで遭遇しても、別に問題なく逃げたり狩ったりしていたのだ。所詮鳥だし――それが、五羽。こちらに対して狙いを定めている。

 

 モンスターとて知恵がないわけではない。メッタメタな話だが、そもそもいくつかのモンスターに至っては素体が人であったりもするのだから。野生の動物ですら学習するのに、ジェノバ細胞におかされて別の生物に成り果てたとはいえ、上位互換に近いモンスターにその機能がないわけがない。

 あの数は本来、俺を今度こそ討ち取るためにと集まったのだろう。二羽くらいの顔の傷に見覚えがある。お手製パチンコでキャンいわせたった奴だ。インガオホー!

 

 あまりの恐怖に固まってしまったティファちゃんを見て、チャンスだとでも思ったのだろう。一羽が耐え切れず、嘴を立てて弾丸の如く突っ込んでくる。子供の身体くらい、簡単に貫通してしまいそうな速度と質量に、耐えきれず目を瞑ってしまったティファちゃんを、

 

 ――崖から飛び降りながら、片手で強く抱きしめる。

 

 「目を瞑ったままでいい! しっかり捕まってろ!」

 

 即座にヘイストを起動する。遅れて強く抱きついてくれたおかげで、飛び降りた俺へと方向転換しながら突っ込んできた鳥の頭を、抱きしめたティファちゃんごと身体を回転させて、右手の剣で斬り飛ばすことに成功した。

 

 一羽。

 

 一羽目につられて着いてきた二羽は、一瞬で斬られた一羽目に驚きを隠せず、準備しておいたコンフュが上手いこと二羽に決まり、崖へと落ちていく。

 

 二羽、三羽。

 

 四羽目は二羽の身体に隠れて突っ込んできていた。直前まで気付けなかったために間に合わず、左足で思い切り蹴り上げて、その隙にと斬り捨てる。質量が違いすぎたせいで、左足はしばらくまともに使えないだろう。

 

 四羽。

 

 最後の一羽の狙いはわかっていた。だれもが飛びだしていく中、奴だけは空中から大技の構えを取っていたからだ。勿論、何が来るかなどわかっている。ガキの頃、物理特化PTだったせいで申し訳程度の魔法攻撃で、やたらと攻撃をくらいながらなんとか減らしたのに、最後の大技でやり直しを何度もさせられた、恐ろしい技なのだから。その名は、"大旋風"。

 その巨体を大きく動かして作り出される風は、容易くこの身体を斬り裂くだろうが――最初に言った通り、対策済みだ。意識が高速で走る今の状態なら、容易くその出鼻を叩き潰せるのだから。

 ロングソードへとはめ込んだマテリアが輝きをましていき、剣を突き出し魔法の名を叫ぶ。

 

 「――『サンダラ』っ!」

 

 雷の魔法は直ちに最後の一羽へと辿りつき、勝利を確信していた(であろう)顔面諸共焼きつくし、五羽の駆除を終えた。身体から多くのMP――FF7的に考えると精神エネルギー――が身体から強制的に排出されていく。まだ連続での魔法の使用はかなり消費が激しいので、出来れば避けたいのが心情だった。

 

 緊急の討伐任務はクリアしたわけだが、早くしないと大地に真っ逆さまで、二人して真っ赤なトマトになりかねない。原作的にはどっちも助かりそうだが、出来れば痛いのは遠慮したいところ。

 

 体勢を立て直し、剣を崖へと突き刺す。それなりに加速のかかったこの状況で、腕一本で二人分の加重は厳しいものがあったが、まぁそこは根性よ。

 ゆっくりと崖と剣が火花を散らしながらゆっくりと速度を落としていき、完全に止まったところで、ワイヤーを剣の柄に巻きつけて、そこからゆっくりと地面へと着地する。少し離れたところに鳥共の死体がゴロゴロしていたが、ティファちゃんに見せない様にと、降りてすぐの所に見えた洞窟へと歩いていった……それにしても、やっぱ足いてぇな。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 一緒に来てくれていた子達は、気が付けばどこにもいなかった。

 

 ニブル山は行ったが最後、帰っては来られない。そんな風にパパも言っていたけれど、この先にママがいるのならって、お部屋にいたときは思ってた。

 パパや、それに…クラウドにも、黙って出てきちゃった。

 

 クラウドは、遠目に見る分には変な人だったけど、いざ話してみると全然印象が違う子だった。一つ年上、っていうのもあるかもしれないけど、まるでパパやママと一緒にいるときみたいな、暖かさをくれる男の子。

 悪い事をしたら怒るけど、楽しいことなら一緒に笑ってくれる。たまに良くわからないことも言うけど、頭が良いのか色んなことを知ってて、私にもいっぱい楽しいことを教えてくれる。私の自慢の友達だ。

 

 きっと、ママにあいたい、っていっても、パパみたいにもう会えないって、それだけを言われちゃうんだろうなって思ったから。クラウドはいっつも間違えたりしない。本当は心細くて堪らなかったから、クラウドと一緒にこられたらなって、思っていたけれど。

 

 少しだけ、肌寒くなってきた気がする。もしかしたら雨が降るのかもしれない。それでも、ママにあいたい気持ちは止まらないから、歩き続ける。

 ずっと、ママのことを思い出している。優しくしてくれたこと。怒られたこと。泣かれたこと。笑わせてくれたこと。たくさん、たくさんのこと。思い出すたび胸が苦しくなって、また一歩足が進む。

 

 あいたい、ママにあいたい。

 

 悪い事してごめんなさいだとか、いつも美味しいお料理ありがとうとか。ママにあったらお話したいことでいっぱいで――そんなことばっかり頭に浮かんでくるせいで、自分がどこを歩いてるかなんて全然気付かなかった。

 

 足が滑った。当然だった。雨でぬれた岩肌の上で、しかも斜めになっている場所なのだから。それに気付いたのは、咄嗟に伸ばした手が、たまたまそこに生えていた枝を掴んだときだった。

 

 

 

 手が痛くてたまらない。私が掴んだ枝は、とても両手で掴めるような長さじゃなかった。片手じゃどうしても崖の上に上がれなくて、結局来るかどうかも全然わかんない助けに期待するしかなくて。手が痛いから、左手と右手を交換したいけど、間違って落ちちゃったらって考えると、怖くてとても手を離す気になんかなれなかった。

 さっきまではずっとママのことを考えてたのに、こんなことがあっただけでもうママのことが頭から離れちゃってる自分が嫌で嫌で堪らない。

 怖くて怖くて、でもその内怖いのにちょっと慣れちゃって。このまま手を離せば、ママと同じところにいけるんじゃないかって、疲れちゃったせいでそんなことも思っちゃった。だけど、

 

 ――諦めちゃ駄目よっ!

 

 そんな、ママの声が聞こえた気がして。

 

 私がここで死んじゃったら、私よりもずっと悲しい気持ちでいるはずのパパが立ち直れなくなっちゃうって考えたら、力が沸いてきた。もう絶対、絶対諦めてなんてやるもんか。そう考えてると、手に、雨が当たった。

 

 これがどんなにマズいことなのか想像できたせいで、また怖さが戻ってきちゃったの。怖くて怖くて。でも自分じゃどうにもならなくて、それで、誰かに助けてほしいって思った時に――クラウドの顔が浮かんだ。そこから、疲れちゃってたけど、声が出たの。

 

 「クラウド、救けて」って。そしたらすぐに、

 

 ――ティファちゃーんっ! どこだー! 返事をしてくれー!!

 

 クラウドの声が聞こえた。

 

 私を、助けにきてくれた!!

 

 何度いっても"ちゃん"付けを止めてくれないこの声はクラウドだ。もう嬉しくて堪らなくて、大きな声を出し続けて、そこからすぐにクラウドは来てくれた。本当に安心した顔で、顔は雨なんかより汗でびっちょり。きっと村からずっと走ってきてくれたんだって思ったら、安心して涙が出ちゃったけど――すぐにそれも引っ込んじゃった。

 

 クラウドの後ろ。お空の高い所に、ここからでもはっきりと見えるくらいに大きな鳥。多分モンスターが5匹もいた。もう駄目だって、私なんかを助けに来たせいでクラウドも食べられちゃうんだって思って目を閉じた。

 そしたら、私の身体が宙に浮かんでびっくりして、わけがわからなかったけど、クラウドがしっかり捕まってろって言ってたことだけはわかったから、必死になってクラウドにしがみついた。

 

 大きな音とか、クラウドが凄い大きく動いたのはわかったけど、もう何もわからないってただ言われたことだけ守ってたら、身体が落ちるはやさが、凄いゆっくりになったのがわかった。目を開ければクラウドが、見たこともないおっきな剣を崖に刺してたのだ。モンスターも気が付けばみんないなくなってた。

 

 下に降りるころには簡単に降りられた。転びそうになってもクラウドが手を差し出してくれたし、雨が凄いからすぐに洞窟に入ろうって私の手を引いてくれる。ちょっとだけ後ろを振り返ったら、視界の端に、さっきのモンスターがいた気がした。クラウドがやっつけちゃったのだろうなって、その時は簡単に思ってた。

 

 

 

 ――そんなとき、お空に大きな影ができた。

 

 

 

 さっきの大きな鳥なんて目じゃないくらい、ずっと大きなモンスター。あれはそう、パパとママが言ってた、ドラゴンに違いない。いつの日か、クラウドがニブル山であっちゃったやつだ。

 今度こそもう駄目だって、私は腰が抜けて座り込んじゃったけど――クラウドは、私の前で大きな剣を持ってドラゴンを睨みつけたの。私を置いて逃げてとか、やっぱり助けてくれるんだとか。色々おもったけど、でも声も出なくて。ただ私は見てるだけ。何もできないことが悔しくて悲しかったけど――しばらくクラウドと睨み合ってたら、フンって一声上げてそのままどこかへ行っちゃったの。

 完全にいなくなってから、クラウドは剣を下ろして「……タツオのくせに、カッコつけやがって」って言って、私を起こして、手を引いて洞窟へと入った。

 

 もうお日様も沈んだのに、不思議と洞窟は明るかった。見たこともない緑色の光に照らされた洞窟は綺麗で、足をとめてしまいそう。でも、本当に足をとめてしまいそうなのはクラウドの方だった。洞窟に入ってしばらくしたら、クラウドが足を痛そうに引き摺っているがわかっちゃったから。

 だから、大丈夫と歩こうとするクラウドを押し止めて、ちょっとだけ休もうってお願いしたの。そうしたらクラウドはちょっとビックリしたような顔をして、わかったって。そこに二人で座った。

 

 休み始めてしばらくは、何をクラウドに言えばわからなくて黙ってた。そしたらクラウドが、何でニブル山を越えようなんてしたのって、優しく聞いてきた。だから、ママにあいたかったからって。正直に話したの。そしたら、「そっか」って。きっと怒られると思ってたから不思議で、聞かなくてもいいのに、何で怒らないのって聞いたの。そしたらちょっと寂しそうに笑って、

 

 「お母さんにあいたいだなんて、当たり前のことだから。ティファちゃんがお母さんのことが好きって気持ちは、絶対お母さんも嬉しく思ってる。それを怒ったりだなんて、俺には出来ない」

 

 そういって、いつもみたいに私の頭を優しく撫でてくれる。いつもみたいなのに、いつもと違ってて。私が大事だって、凄い伝わってきて。ママのことが悲しくて堪らなくて。クラウドが優しくて嬉しくて。色々堪えきれなくなって、泣いちゃった。しがみ付いて、わんわん泣いた。その間もずっとクラウドは、私の頭を撫でてくれていたけど。

 

 本当は、ママにはもうあえないってわかってた。それを、信じたくなかっただけ。だからあいに行こうとした私を、クラウドが間違ってないって言ってくれたから。お母さんが私のことを好きだって、教えてくれたから。ようやく納得できた気がしてたのに、とんでもないことを、言いだすのだ。

 

 どれくらいだかわからないくらい泣いて、落ちついたころ。クラウドは立ち上がって、私に手を差し出しながら凄い軽い感じで、

 

 ――じゃ、ティファちゃんのお母さんにあいにいこう。

 

 って、そう言うの。

 

 いつもわけわかんないことばっかり言うけど、今度はとびっきりだ。驚いてる私を無視して、どんどん洞窟を進むクラウドは、まるで知ってる道みたいに進んでいく。いや、実際知ってる道なのだろう。こんな危ない場所でも来たことがあることに、ちょっとだけ呆れてしまったけど――次の瞬間にはそんな感想は吹き飛んでしまった。

 

 そこは、この世のものとはとても思えない、綺麗なところだった。洞窟全体で輝いてた淡い緑色の光が、ここには集ってるのじゃないかって思ってしまうくらいに輝いてた。クラウドがいうには、ここは魔晄の泉だという。魔晄っていうのはエネルギーのことだってクラウドが言ってて、これは人には毒なんだってことも教えてくれた。クラウドはそんな毒の中を歩いていって、止める間もなく言うのだ。「お母さんを、呼んであげて」って。

 クラウドは、お母さんは山の向こうに行ったんじゃなくて、星に還ったんだって教えてくれた。内緒だよとも加えて。この魔晄は、人だけじゃなくてこの星に生きるみんなが、いつか還る場所そのものだってことも。今ならまだ、きっと私のママに声が届くはずだからって。

 

 だから、私そこでたくさんお話したんだ。

 ママが好きだってこととか、いつも作ってくれてたご飯が美味しかったこととか、悪いことしてごめんなさいとか。それと、私に諦めないでって、言ってくれてありがとうって。

 言う度、ママのことを思いだす。さっきだって凄い泣いちゃってたのに、また。涙がとまらないのだ。これでお別れだって思っちゃうと、本当に。

 

 

 

 そんなにいっぱい泣いてたからだろうか。しゃがみこんだ私を――ママが、抱きしめてくれたのは。

 

 

 

 いつものママの匂いで、いつものママの暖かさ。

 目を開ければやっぱりそこにはママがいて、抱き付いて、また泣いちゃった。

 

 いっぱいいっぱい、言いたいことがあった。

 さっきまでいっぱい喋ってたのに、全部全部飛んじゃって。

 

 だからせめて、一番伝えなきゃいけないことだけは、ちゃんと伝えようって、言葉にしたの。

 

 

 

 「ママ、大好きだよっ…ッ!」

 

 ――私も、ティファちゃんのことが大好きよ。

 

 

 

 それを最後にママは綺麗な光になって、泉へと飛んで行ってしまった。

 私は見えなくなってもずっと、ママに手を振り続けたの。

 

 

 

 

 

 ありがとう、ママって。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 そこまでは覚えてた。

 

 次に目が覚めた時、いつもの自分の部屋のベッドだった。崖から落ちそうになったのも、クラウドに助けられたのも、ママにあったのも、全部が全部嘘なんじゃないかって思ったけど、パパに聞いてみたら違うみたい。

 何でも、あの後私は眠ってしまったみたいで、クラウドが"折れた"足で私を背負って運んでくれていたらしいのだ。そんな足で大分無理をしたみたいだけど、運が良かったのか、ちゃんと治るだろうって。

 

 山道の途中で、私を探しに出てた大人の人に見付けてもらってなんとかなったみたいなんだけど、折れた足以外にも身体中傷だらけだったみたい。大きな怪我はなかったみたいだけど……多分、私が寝てる間も、モンスターから守ってくれてたのだろうって、パパが。あとあと聞けば大分無理をさせたのか、また剣は折れちゃったってクラウドが泣いてたもの。

 私は手を少し擦りむいただけで、どこにも怪我がなかった。本当に色々頑張ってくれたんだなって、なんだかとっても暖かくなって、パパが止める声も無視してクラウドの家まで走った。

 

 でも、会って最初は、何て言えばいいのだろう。

 

 無理させちゃって、ごめんなさいかな?

 それとも助けてくれてありがとうかな?

 

 いつもそんなこと考えたこともないのに、今日はそんな簡単なこともわからなくなってしまっていた。何でかわからないけど、顔も熱い気がしてる。

 

 きっと顔を見れば思い浮かぶだろうって思って、クラウドの家の前について呼ぼうとしたら、クラウドの声が聞こえてきた。

 

 

 

 「……おい。これはいったい全体どういうつもりだ、クソ親父」

 

 「見てわかんねーのか、馬鹿息子」

 

 「わかんねーよ。昨日散々ぶん殴ってきたくせに、まだ満足できねぇと息子を鎖で縛る奴の気持ちなんざ」

 

 「ちげぇ。危ないことをしたから説教――なんて、お前は言ってもきかねぇだろ。馬鹿だから。今回はまぁ、ちゃんと理由もあったしな。俺からはせめて大人を頼れって、昨日説教してやった通りだ」

 

 「は? じゃあこれはいったいどういう…?」

 

 「それはな――――母さんの私物だ」

 

 「し、使用済み…ッ!!??」

 

 「それは普段、絶対にお前には見られないようにって、母さんが全力で隠してる代物だ。だが、流石に昨日のことは肝が冷えたらしい。だからしばらくはウチから出られないようにっていうか、母さんから離れられないようにってことなんだと」

 

 「えっ、えっ? それにしたってわざわざ器具使わなくても良くない? よりにもよって様々な液体がついてそうなのじゃなくても良くない…!?」

 

 「……お前はいったい、そんな知識どっから仕入れてくるんだ全く――ちなみに三日前に使った」

 

 「き、キタねぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 「バッカいえ! そりゃお前の"素"だぞ、"素"! 汚いわけあるか!」

 

 「馬鹿はテメェだ糞親父がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 なんか難しい言葉ばっかりで、何を話してるのか全然わからない。だけど、あんなに大変なことがあったのに、クラウドはいつも通り楽しそうで、さっきまで悩んでたことも、思った通りすぐに解決しちゃった。

 まだ大騒ぎをしてるのを気にせずに、ドアをノックしてこう言うの。

 

 

 

 「クラウドー! おはよー!!」

 

 

 

 ってね。

 

 

 

 

 

 




クッソ書いたつもりでしたが、
それでも一万字ちょっとと思うと若干気分が沈みますな。
かつては(筆が乗れば)二万くらいわけなかったんですが、
余暇時間が欲しい(切実)

まぁ今回色々突っ込みどころ満載かと思いますが、
大枠は流してクレメンス!

何でもはしない。

一応まぁ、エアなんちゃらが結構作中無茶苦茶やってるので、
これくらいは許されるだろうっていう甘えで構成してます。

最後の方クッソ雑ですが、時間に余裕がなかったと思ってクリサイ。

次回はいつ更新できるかわかりませんが、まぁ書きますよって。

追伸:ルートは今回のじゃ確定しないっす


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三話『陽だまりの記憶』

ハイパー更新遅れたマン俺です。
まぁそろそろ忘れられた頃かなとか、そういう理由で復帰したわけじゃないですけどね。
クッソ忙しかっただけというかなんというか。

とかいって別作品書いてたりしましたが。
二次創作って難しいんだなって、改めて思った。

あ、今回日常回なんで時間かかりました。
やっぱりアクションがないと筆が難しい。

追伸:他の話ちょっとだけ修正してます。句読点とか、ちょっと描写追加したりとかしてる。でも誤差なのでお気になさらず…。


 

 

 

 

 

 山の天気は変わりやすい。

 出てきたときは晴れていたのに、今ではすっかり曇り空。っていうかニブル山って曇り空率高い気がする(原作プレイヤー並感)。朝もはよから訪れたのに完全に無駄足だったが、まだ暖かい季節とはいえ肌寒いのは身体に良くない。だから、

 

 「帰ろう?」

 

 「やだ」

 

 「そうおっしゃらずに」

 

 「だって…私が帰ったら、クラウド一人でお山に来ちゃうでしょ?」

 

 …その通りだけどね。

 なんか最近妙に行動や言動を簡単に読まれ過ぎな気がしてならない。山に来てるのは別に遊びだけが理由ってわけじゃないんだと声を大にして言いたい。言えない。ポイズン。

 

 可愛らしい頬を膨らませているこの人読みがやたらと上手な女の子はそう、ティファちゃんだ。最近ますます俺にべったりな美少女中の美少女。以前とは違い、べったりされてる理由は割とわかってはいるけれどね。

 

 

 

 ティファちゃん危機一髪から、そろそろ一か月が経つ。

 

 

 

 お母さんを亡くしてしまった悲しみからか山越えを図ろうとしたあの事件は、それはもう大事だった。お金持ち(何してるかはしらん)の娘さんが友達といなくなってしまったかと思えば、もう一人のクレイジーなクソガキも突如山へと姿を消したのだ。

 なんやかんやあってティファちゃんは無事だったけど、マジキチな方のクソガキ(宿屋の親父談)はボロボロの剣引き摺って傷だらけで帰ってくるしでもうてんやわんや。

 

 誰もがティファちゃん(だけ)を心配していたから、無事で帰ってきてくれて良かったと喜びはした。だけど、あれだけ危ないと口酸っぱく言われていたニブル山に、どうして向かったのかとも思っていた。もう二度とこんなことがないように、しっかりと叱ってやらなくては、とも。

 

 ――事情を聞けば、誰も怒る気になんてなれやしなかったけれど。

 

 悪ふざけや遊ぶためじゃなくて、母親に逢いたかったから。そんな純粋な想いを知ったが最後、誰もが口を閉ざしたのだ。だから彼らは、ただ無事に帰ってきたティファちゃんのことを喜びながら――逃げた二人と、何故か助けた俺もエラい怒られるという納得いかないオチをつけたのだった。

 

 俺は怪我したからかお袋がサイコモード入って呪いの鎖で雁字搦め(誤字にあらず)。あやうく娘も失うところだったティファちゃんのお父さんも生きた心地がしなかったからか、二人はしばらく村の中で軟禁生活を強いられていた。だが今日はようやく、そこから解放されたというわけよ。

 

 …まぁ互いが互いのお目付け役とかいうクッソ恥ずかしい十字架付きだけど。村の外に出る条件として出されたのは、俺とティファちゃんは二人一緒じゃないと村の外には出てはいけない、というものだ。なんでも俺はティファちゃんを危ない目に遭わせないためにあまり危ない場所に行こうとしないだろうというのと、ティファちゃんはティファちゃんで、モンスターに襲われながらも人一人背負って生きて帰ってきた奴と一緒なら安心だから、だと。完全にこっちの思惑読み切られてて、非常に腹立たしいですよぼかぁ!

 

 俺と一緒にいる理由が増えて嬉しそうな美少女の顔を見るのは、おっさん的には非常に心癒される一幕ではあった。だが所詮はイケメンの皮を被ったおっさん。結構、困りものである。

 こういうのは一過性のものやし(震え声)、あと何年かすればイヤでも村を出ていかなければいけなくなる。もうちょっと他の子達と仲良くしてくれると――いずれ必ず訪れる別れの日にも、おじさん安心できるのだけど。

 

 

 

 まぁ別に山に来られるのは今日だけではない。そんなことよりも、肩出しスタイルの純白ワンピース美少女に風邪をひかれてしまうのは大層後味が悪いし、場合によっては命の危機だ。夕飯までは村の中でティファちゃんに付き合ってあげよう。

 

 そうと決まればあとは帰るだけ。ティファちゃんに、ちゃんと帰らないといけない時間まで一緒にいるからと説得すれば一瞬だ。別にこの子は山が好きなわけではない。怖いことも味わったけど、良い事がなかった訳でもない。普通の子供達よりも悪いイメージがないというだけ。ただ俺のことを未来形山男だと思っているから、好きなことをさせてあげようと思ってくれているのだろう。とんだ誤解です(迫真)。でもじめんとかいわタイプが好きな人は本能的に長寿タイプ。間違い探しに出てくるのはバカにしすぎじゃない?(陽月感)

 

 はぐれるといけないからと手を繋いでくるティファちゃん。大きく手を揺らして楽しそうに歩いている少女の隣で、ガシャガシャと喧しい音を立てて歩く俺。身長よりもデカい得物を背負ってるせいで、時折地面に着くのだ。ボディーガードが何も持ってないのは不用心だとティファパパにお礼代わりに貰った、ねんがん の あたらしい けん。売れ残りの若干錆びたロングソードじゃなくて、ニブルヘイム唯一の鍛冶屋の親父がかなり本気で打った一振り。今までの刀身ブレブレで軸も曲がってるような不良品とは大違いやで。マテリア穴も4つも開いてて僕ちん大満足の一品。お一つどうか?

 

 楽しそうに笑うティファちゃんは、村に帰ったら何して遊ぼうかって満面の笑みで考えている。おままごとにつきあうには人間力足りてないんだけどなぁ。ただ黙ってるのもアレなので、何をしたいのか聞いてみる。

 

 「それじゃ、ティファちゃんのやりたいことしよっか。何か思いついた?」

 

 「ほんと!? じゃあね、じゃあね! 私、アレやってみたい!」

 

 こう、こういうやつ!といって、何か紐のようなものを持ちながら上半身を後ろに倒している。おままごとのムーブでないことだけは確かだが、何の遊びかさっぱりわからぬ。

 

 「難しいなぁ…。もうちょっとヒントをくれない?」

 

 「えっと、クラウドと遊びに家まで行ったき、クラウドのパパとママがやってるところを見たんだけど…何ごっこだっていってたかなぁ」

 

 ……うん?

 

 「確か、えーっと………あっ! そう――お馬さんごっこ!!」

 

 「あいつら真昼間っからなにやってんの!?」

 

 他所の家の子になんてモノを見せてしまったのだろう。世が世なら獄中待ったなしである。ただ、あまりにもムゴすぎる映像も穢れのない少女から見れば、ただの楽しい遊びに早変わりだったのは不幸中の幸いか。首輪とそれを繋ぐロープを装着して大いにはしゃいでいたらしいが、準備段階だったためかマスクドフォーム(ry)であったというのは遠回しに聞きだせた。危なかった…!

 こんなところで原作要素(カウがーる風露出過多衣装)回収しなくても良かったのにと毒づいたが、よくよく考えればあの夫婦の攻守考えるとこれ、ティファちゃん馬になりたがってねぇかとそれはもう不安だったが、

 

 「うん? 違うよ。お馬さんだったのはクラウドのパパ。なんか首輪が苦しかったのか顔真っ赤にしてたけど、笑ってたの。きっと楽しかったんだよ!」

 

 「攻守に隙がなくなってる…ッ!?」

 

 マンネリ回避だとかいう言い訳はこの世から消えてほしいなぁとか、でもこれもしかしたら俺のせいじゃね?とか考え込んでる俺の隣ではしゃぐティファちゃんは、待ち切れないのかどんどん歩く速度が早くなっている。

 

 「そんなに急ぐと転んじゃうよ」

 

 と言っても、

 

 「大丈夫よ。だって、その時はクラウドが助けてくれるでしょ?」

 

 なんて言って、足を緩めたりしない。これ信頼重過ぎ案件やで。

 

 手を振られながら楽しそうに笑うこの子を見てるだけで、おじさんは胸がいっぱいだ。母親を亡くしてしまった悲しみを忘れたわけじゃないだろうに。今でも遊び疲れて眠くなったりすると、"ママ"って口から漏れたりするのを聞いてしまうこともある。

 今こうして笑っているティファちゃんが、一体どう思ってるかなんておっさんにはわからない。だけどきっと、もう俺なんてすぐに置き去りにしてしまうくらい、大きな成長を遂げたんだって、思うのだ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 村に辿りつく頃には雨は降りだしてしまっていた。想像していたよりも勢いが激しく、どちらにせよ山にはいられなかったなと窓からの景色をながめて思う。ティファちゃんの家は当然のことながら父親は留守だった。仕事はだいたい夕方ごろになるまで帰ってこないので、その辺りまで二人でいるのが最近のパターン。

 

 いつも朝から晩まで帰ってこないことが多く、母親のいないこの家ではティファちゃんにご飯を作ってあげられる大人がいなくなってしまうことになる。そのため、最初はウチの母親にお願いしてティファちゃんも一緒にご飯を、ということだったのだが、これでもかつては独身一人暮らし10年弱。台所の使い方さえわかれば男の料理程度チョロいもの。炊く!焼く!炒める!で大体なんとかなるもんよ。古事○にもそう書いてある。

 

 ――そう、思っていたのです。

 

 人間の成長に、食は不可欠。身体を作っていく栄養素を外から取り入れるのだから、重要に決まっている。そんな大事なところで母親というのは手を抜かないものなのだというのは、我が家の大人失格に後になって聞いた話だ。

 昼飯にと作った俺渾身の焼肉丼は、

 

 "クラウドにも苦手なことってあるんだね…(苦笑)"

 

 圧倒的、苦笑い…! 少女の口から漏れたのは子供ゆえの純粋な不味い認定。ガチで舌に合わなかったらしいのか、辛そうに食べてた。残してくれた方がおじさん辛くなかったよ…。

 世間の料理ガチ下手ヒロインとは違い、俺は味見を決して忘れない男。味は確かに濃かったが、別にそんなに悪いものでもないと出した一品だ。むしろ子供なんて味が濃い方がいいだろうと、甘い考えだったのは認める。だけどティファちゃんの舌は並のガキ共とは違う、お金持ちお嬢様のグルメ舌。元貧乏サラリーマンと味覚が合うわけもなかった。合掌。

 

 つまり長々とした前置きで何が言いたかったかといえば、お料理担当はいつのまにかティファちゃんになっていたということだ。何でもママの味を再現したいからという理由で、ウチの母親とか村中のおばちゃん連中に教わっているからと言っていたが、間違いなく俺の焼肉丼が引き金を引きましたねコレ。もやし、嫌だったのかな…?

 

 

 

 「クラウドー、そろそろ出来るから手伝ってー!」

 

 ティファちゃんの声に、雨を見ながらアンニュイな気分に浸るごっこは中断させられた。クラウドくんが拝命しているお手伝いとは、皿並べるだけ係。配膳は流石に別枠だが、それ以外では台所に立ち入るべからずと言い渡されているせいである。子供に顎で使われ、子供にご飯を作ってもらう。いつも働いてるお父さんのためにとかではない。いつものように子供が(元)大人にご飯を作ってあげているのだ。あってないようなプライドは粉々よ。

 キッチンに辿りついてみれば、まだたどたどしい手つきではあっても楽しそうに料理をするティファちゃんの背中が。少し高い台所を使うためにと、日曜大工で俺が作り上げたお立ち台(横にロング)に乗りながらこちらへ振り向く。

 

 「クラウド、大皿出して」

 

 「へいっ」

 

 やたらと美味そうな匂いをさせている野菜炒め用であろう、大皿の準備をする。勝手知ったるひとんちの棚。その後の指示も手際よく(当社比)準備していき、昼食の準備を終えた。

 

 その後は特に語るまでもない。美味い美味いと飯を頬張るおっさんと、微笑みながらそれを見つめてる美少女が一人。おっさん的には退廃的な幸福が、そこにはあった。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 「ね、クラウド。そろそろお馬さんごっこしようよ」

 

 "お馬さんごっこ"。それは、幼心に誰もが卒業していく、全く懐かしい遊び。そして、この子の名はティファ。大人によるお馬さんごっこという、この世の闇の一端に触れてしまった少女だ。

 

 「クラウド?」

 

 今、闇の遊びに挑む…!

 

 「もう、クラウドー!」

 

 「ああ、聞こえてる。聞こえてるよ」

 

 もはや滝の如く降り注ぐ雨の中外に出る気力はない。家の中で遊ぼうという流れになるのは自然な流れだ。昼食の片づけも終え、おっさんと美少女は少しだけゆったりとした時間を過ごしていた。

 机にうつぶせに寝そべるティファちゃんはそう言って、両手をばたつかせ、

 

 「いいから早くしようよー、つまんなーい!」

 

 そう駄々をこねながら机をバシバシと叩く。時折器用にこっちに目線を投げる仕草が妙にキマっていて、その無意識の動きに一人戦慄する。ちょっとだけ、ほんの少しだけドキっとした。ロリやないっ! 俺はロリコンやないんやっ!!

 そんな感想を絶対に顔に出すものかと必死に堪えて、

 

 「っていっても、本当にやるの? お馬さんごっこだよ…?」

 

 「クラウドのパパ、楽しそうだった。私もやりたい」

 

 「いや乗ってる側が楽しいかはまた別の問題でね?」

 

 「クラウドのママも、パパほどじゃないけど楽しそうだったよ? クスクスって笑いながら、クラウドのパパを撫でてあげてたの」

 

 かなり早いお馬さんだったし、という言葉に更に戦慄を深める。普段は割とおっとりとした外面というか、家の中では父親に甘えているのか結構キツめな対応で、俺にはダダ甘。典型的な良い母親のイメージだったが、どうやら息子用にカスタマイズされた家用イメージだったらしい。完全にサイコで怖い。おうち帰りたくない。

 

 「いいからしようよー! ヨツンヴァインになってよ、あくして!!」

 

 「ファッ!? なんて?!」

 

 「え? そこに四つん這いになってって」

 

 聞き間違いか…?

 空耳案件で済ませていいレベルの話ではなかったような気もするが、もう条件反射レベルでティファちゃんの言うことを聞いてしまうマイボディは無意識に四つん這いになっていた。【悲報】おっさん飼いならされる。

 

 「うん…しょっと。ちょっと安定しないけど、でも良い感じ!」

 

 「そりゃ良かった。お馬さんは歩きますよっと」

 

 パカラ、パカラ、と。声を上げながら歩く俺。ティファちゃんは満足げだ。あははと笑う声は何一つ憂いのないもので、たかが馬やってるだけの俺の方が嬉しくなってしまう。

 

 ――自分とほとんど変わらないはずの大きさの人一人乗せてなお、全く重さを感じないこのボディの非常識さと、こんなにも軽く触れれば折れてしまいそうなティファちゃん。男と女という部分を除いたとしても、あまりにも不平等な能力差だ。にも関わらず、いつか訪れてしまうかもしれない運命は平等だという――。

 

 「クラウド号、スピードを上げてください!」

 

 「ヒヒンッ! ――スピードを上げるにはモードの切り替えが必要ですが、切り替えますか?」

 

 「うむ。よきに、は…はからいたまえ?」

 

 どこの誰がそんな言葉を教えたのか問い詰めたい衝動半端ない。

 

 「たどたどしい感じがグッドだったので、馬のやる気が上がりました。ヒヒヒーン!」

 

 「よくわかんないけどやったー!!」

 

 チェンジ二足歩行。膝が接地面だとどうしても限界があるの。だって人間だもの。上に乗せていたティファちゃんを上手いこと肩へと移動させ、そのまま立ち上がる。肩車だ。完全にお馬さん要素は失った形だが、これはこれで楽しげだから良しとしよう。

 危なくない位の速度で家の中を走り回り、

 

 「う~ん…。やっぱりお外行こう?」

 

 肩に乗せたお姫様は狭い世界(クソデカ一軒家)では生きられないらしい。最近、俺の影響か少しずつお淑やかさが削れていってる気がする。ご両親に申し訳がたたない。

 ちょっとだけ路線修正するべく、ウチの中で満足させて、飽きたなら別の家の中で遊べることをすればいいと考えた。ティファちゃんのピアノ発表会とか、凄い美少女感ない?

 

 「でも外雨降ってるから、やっぱりお家の中で、ね?」

 

 

 

 「――あくして!!」

 

 「――ぶ…、ブルルッヒヒィィィン!!!!」

 

 

 

 胃袋から飼いならされた我が身の恐ろしさよ。

 若干ドスが効いた(気がする)声一つでギアを最大限に上げ、ティファちゃんがあまり濡れないように雨合羽を着せ、家の外へと走りだす。

 雨の中を走っていくうちに、徐々に振り切れていくテンション。ティファちゃんがあんまりにも楽しそうにしてるのも相まって、ほんの少しだけ残っていた理性も溶け、

 

 ――雨の中、傘を差さずに踊る(お馬さんごっこ)人間がいてもいい。そう、思った。

 

 「ペロっ、これが自由の味…!!」

 

 「わーいー!!」

 

 走りだした先、人は無しってか、俺達が選ぶそこが道じゃね?

 ノリ悪ロートルも、本日生憎雨模Yo。

 イカしたSister、任せてくれや。

 本日ただ今無礼講、アンタの馬ただNon Stop!(Yeah!!)

 

 「セイ、Hooooo!!!!」

 

 「ほー!!」

 

 

 

 余談だが、

 

 結局このパーティータイムも、庭も天井も関係なしに駆けずりまわった結果、止めに入るロートル共が続出した。それを華麗に躱しまくっていたが、おもむろに飛んできた鎖に捕縛されてあえなく御用に。ジョッキーの安全だけは意地でも守り抜いた辺りで、村の集会場で俺一人だけを対象とした大説教会が開始されたとさ。

 その脇で、こちらを見向きもせずに、いかに楽しかったかを目を輝かせながら父親に語る少女が一人いたが、誰もその子を下手人の一人だと思うことはなかった。

 

 今回の路線修正は、あえなく失敗に終わったとさ。

 

 

 

 

 

 




次回でようやく幼少期終われそうです。
本当は今回で終わらせようと思ってましたが、よくよく考えたら難しかったのと、色々描写が足りないことに気が付いたので。

本当に書きたかった所にそろそろいけそう、やったぜ。
そう言っておいて早い更新になるかは別ですが。

ではまた。


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四話『いつかの君へ』

個人的にはかなりハイペースで更新出来たと思いますよふふーん!

というか前回言い損ねてましたが、
拙作に随分と過分な評価をどうもありがとうございます。
お気に入り数なんかもとんでもないですし、やっぱFF7って凄い。

一切見直してないので、その内隠れて修正してるでしょう…。

今回ヤバいくらいやりたい放題やりましたが、後悔はない。

追記:ずっとバスタードって読んでたよママン…。
   片手半剣だってのも言われて思い出しました。ガッデム。
   まぁ、本作のバスターソードはニブルヘイム産ってことで一つ。


 

 

 

 

 

 日常は続いていく。

 毎日毎日変わらずに、平和に。

 

 俺が山に行く頻度が減ってきたせいで、遊び相手がいなくて暇になったのか、とうとう村まで来ちゃったタツオが一瞬でティファちゃんに飼いならされ、唐突にお空の散歩に誘拐されたり、

 

 ――クラウドよりもずっと早い!!

 

 美少女にちょっと好かれてるからって調子にのった羽根つき爬虫類と、ついに山中のガチ喧嘩に発展したり、

 

 ――無茶だよクラウド! クラウドじゃタッ君に勝てっこないよ!

 

 なんだかんだで村に馴染んで、村民の安全を自主的に守りだしたタツオに飯を作ってあげる係が持ち回りで発生したり、

 

 ――え、えっと…。クラウドはその、あんまりお料理得意じゃないから、お山で材料とか、ね?(苦笑)

 

 ドラゴンともあろうモンスターでも、人間様相手じゃ飼いならされるんすね(大草原)って煽ってまた喧嘩して、度々喧嘩するせいで慣れ切った村人に呆れられたり、

 

 ――喧嘩するならお外(山)でやりなさーい!!

 

 

 

 

 

 「いや違う、これ日常ちゃう。非日常や」

 

 「クラウド、その変な口調何…?」

 

 山のボス的立ち位置の、更にヌシ的存在が村まで降りてきただけでも大事件なのに、馴染んで居着くとか意味わからなくない…?

 

 ――季節はもうじき、春。

   それも、この身体に生を受けてから14度目の春が、訪れようとしていた。

 

 今はちょうどお昼時。タツオが山から何かしら持ってくる頃合いのため、本日の係であるティファちゃんと二人並んで歩くのも、いつものこと。

 ティファちゃんと歩調を合わせ、中身を溢さないように運ぶのは正直難しい。だが、頼られたら断れないのはいつものこと。どれだけ難しかろうが、それを達成できる自分になればいいだろ?(キメ顔)という、汗だくの自己肯定で必死にやるだけである。

 

 

 

 生まれ変わって、それなりの時間が経過した。ちょこちょこと原作ブレイクをしながら生きてはきたが、おおむね平和に、変わらない日常を生きてきた。

 デカい鍋、と言っていいのかよくわからないサイズのソレに、擦り切れるまで入れられたシチューはにっくき蜥蜴の好物だ。ほんの二年前から居着いたあいつは淘汰されないまま、成長を続けてしまったヤツはとうとう村のどこにも侵入できなくなったせいで、その場で料理することができなくなってしまっていた。冗談抜きで軍隊案件のサイズだが、今や村中の人気者だ。

 

 成長したのはタツオだけではない。ちょっと前まで同じくらいの身長だったはずのティファちゃんも身長が伸び、俺よりも頭半分程度大きい始末。それに比例してか、体格もあのグラマラスな片鱗を見せつつあり、そろそろおじさんも不味いかもしれないと危惧する毎日だ。それでも培ってしまった信頼は消えず、安易なボディタッチは減らない。爆発物注意の看板を今こそ首にかけるべきか。

 

 私ことクラウド少年は、身長はまだあまり伸びていない。ええねん、伸びるのは知ってんねんから。それでも、身長差からか度々ティファちゃんに頭を撫でまわされるのは赤面物である。く、くっ殺!!

 が、筋力の成長は衰えることを知らない。割と筋肉ついてなかった原作クラウド君と違い、しょっちゅう喧嘩だの探索だのしてるマイボディは、結構筋肉が目立つようになってきた。そのせいか、村外への料理運びは大体俺の仕事だ。ガッデム。

 

 

 

 「ねぇクラウド、いつも聞いてるけど…重くない?」

 

 歩きながらも心配そうに気遣いながら腰をかがめて上目遣いをこっちを見てくるティファちゃん。いまや立派に魔性の美少女と成長した彼女のムーブは、毎日一緒に触れ合ってて耐性値がかなりあるはずの俺に貫通する。せめてもの抵抗として目を合わせずに、

 

 「アイツのだって思うと心も身体も滅茶苦茶重くなるけど、全然へーきへーき。それに、もうそろそろ俺も兄貴だからね。兄貴ってのは、ダサいままでいられないんだ」

 

 そう、強がりを吐いた。

 クラウドの父親といえば、幼い頃に死んでしまったという設定だ。設定だけで、どの様に死んでしまったのかは原作では定かではなかったが、なんと我が家の親父はいまだ健在で、ピンピンしてる。色々な意味で元気すぎたのか、とうとうこの私に、妹が出来たのだそうだ。

 どこでどんな原作ブレイクをしていたのかはわからない。それでも、この変化は素直に好ましいものであると思えている。

 

 「ふーん……そっか」

 

 それだけ口にして、ティファちゃんは口を尖らせて、無言で一歩先を歩きだす。今の言葉のどこかに、機嫌をそこねる要素が存在したのだろうが、俺にはよく理解ができない。若い子の気持ちの移り変わりは、おじさんにはさっぱりだ。

 

 「ティ、ティファちゃん? ちょっと、早くなってない…?」

 

 「……知らない。クラウドの馬鹿」

 

 早足になっていることを気付いていないのだろうと声をかければ、更に歩くスピードは上がる。スピードは上げても、決して鍋の中身は溢してはいけない。それはつまり、豆腐屋の倅がごときテクニックと、我が肉体への負荷を更に求めるもので、

 

 「うっ…オオオオォォォォ! 燃えろ俺の筋肉ゥゥゥゥゥ!!」

 

 走ってさえいるティファちゃんに追いつくため、燃えろ俺のコ○モ。腕からなっちゃいけない音がしてる気がしても、でぇじょうぶだ、ケアルがある!

 必死に追い縋る中、一瞬だけこちらをむいたティファちゃんが、笑ったような、気がした。

 

 

 

 「ふふっ…。本当に、馬鹿なんだから」

 

 

 

 奮闘の甲斐もあり、鍋からただの一滴たりとも溢すことなく目的地へ辿りつくことができはしたが、肉体の限界をむかえていたせいもあり、本日の喧嘩は惨敗に終わる。くやちぃ…!!!!

 

 

 

 

 

 こんな平和な時間も――本日これまで。

 原作クラウド君の旅立ちも、ちょうどこの歳この季節。

 ここから大きく激動するこの世界に関わっていくのであれば、今が最後のタイミング。

 もっと早くに出ていくべきだったと、ずっと思っていたのに、随分と里心がついてしまっていたものだ。

 

 いいや、本当はそんなご大層な理由なんかじゃない。

 ただ臆病だっただけ。

 

 俺との別れにきっと涙してしまうティファちゃんを、見たくなかっただけ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 以下、十秒でわかる、ティファちゃんによるタツオ調教回想。

 

 『あ、あのね…、私と、お友達になってくださいっっ…!!』

 

 『……………………ギャウ(首肯)』

 

 『ほんとに!? やったー!!!!』

 

 

 

 

 

 目の前で沢山の戦利品を持ってきて、俺が顔真っ赤にして持ってきた鍋を美味そうにパクつくドラゴンは、(恐らく)暇になったからなどという理由で村に来た。誰もが怯え、俺ですら諸々覚悟を完了させていたにも関わらず、ティファちゃんだけは、奴に欠片も怯えていなかった。結局、そのまま餌付けから入り、軽いお願いから空の旅までノンストップだ。流石に一人でそれは不味いと、付いていきはしたけれども。

 

 だから、聞いてみた。何で怯えなかったのか。

 そしたら、きょとんとして、笑顔で言うのだ。

 

 『だって、この子は悪い子じゃないでしょう? 寂しそうだったし、お友達になれたら、素敵だなって思ったの』

 

 覚えてたのだ。

 以前、一度だけその姿を見たことを、ちゃんと。

 たったそれだけで、こうも信じられるものだろうか。

 

 『ティファちゃんには、かなわないなぁ…』

 

 『ふふっ、私だって、クラウドに負けてばっかりじゃないんだから――タッ君! もっと上に、もっと高い所に行きましょう!!』

 

 『――グオォォォォ!!!!』

 

 風を切る音に負けないように、タツオはその声を響かせる。

 きっと聞こえていて、理解したのだ。どれだけ知能が上がってしまっているのか予想もつかないことだが、このドラゴンは確かに、ティファちゃんの想いに心動かされたのだ。

 

 上空はとても冷えるとわかっていたから、毛布を山ほど持ってきて、ほのおのマテリアで出力を絞りながらティファちゃんに暖を取らせ――その光景は、眼前に広がった。

 

 

 

 『――わぁ、綺麗…』

 

 

 

 雲海のその上に、辿りついた先に待っていた光景は、太陽と、一面の曇りもない青空。それに雄大に広がるニブル山。そうして、本当に小さくみえる我が村だ。

 身を乗り出すようにその光景をみるティファちゃんは本当に嬉しそうで、興奮しっぱなしだ。正直、色々スレきったおじさんですら、この絶景には心動かされるものがある。

 

 『タッ君…。こんな凄いものを見せてくれて、ありがとね』

 

 それにタツオは一鳴きして、問題ないとばかりに空を翔ける。ティファちゃんに最大限配慮して、飛ばされないようにと気をつかっていることが、俺にもよくわかった。こいつも、こんなに喜んでくれてることを、嬉しそうに感じていると、俺にもわかった。

 

 

 

 

 

 余談だが、この後にティファちゃんからクラウド号越えの太鼓判が押されたことで酷く愉快げな声を上げたことが許せずに、予想通りの展開になったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 「なぁ、タツオ。前から言ってたと思うんだけどさ、俺、今晩出てくよ」

 

 "私"の食事が終わり、その片付けと、代金ばかりにと持ってきた獣と鉱石を、あの集落へと持って帰ったはずのクラウドは、そこからとんぼ返りで私の元まで戻ってきた。

 貴様ではなく、ティファなら歓迎したというのにと、大きな欠伸をしてみせても、気にすることはないと、剣と、それよりも大きな剣の二つを手入れし始めた。

 

 こいつが、この場所からいなくなる。

 それは、前々から私にだけは伝えていたことだ。何故私にだけだったのか、それはわからない。だが、その話をする時のこいつは、決まって真面目な顔をしていたことだけが、印象的だった。

 

 「本当は俺もさ、ずっとここにいたかったよ。お前と喧嘩すんのも、結構気に入ってるし、ティファちゃんはますます綺麗になった。もうじき妹だって産まれる」

 

 だけど、と一拍置き、

 

 「親父とお袋にはもう言ってある。止められたけど、こればっかりはダメなんだ。俺がいかなきゃ、この星は死んじまうのさ――おいおい、馬鹿にすんなよ。俺も突拍子ないって、そう思うよ。だけどなぁ…」

 

 本当に、何を言っているのかわからんが、どうやら本気で言っているらしい。ようやく私が聞く姿勢を見せれば、それをどう思ったか、こいつは笑った。

 

 

 

 初めて見たときから、こいつはよくわからない奴だった。あの狼を差し出してきたこいつは、憎たらしいことにまんまと私から逃げおおせて見せた。

 最初は、ただ怒りだけがあった。だが、何度か出くわすうちに、毎度毎度妙な手段で私から逃げおおせるこいつに、少しだけ興味が沸いていた。逆に、こちらがいつもと違うことをすれば盛大に驚き、愉快に転げまわって――最後にはこちらが一本取られる。やられているというのに、何故か痛快な気分だった。

 

 しばらく、こいつがこない日々が続いた。

 次にあったらどうしてくれようと、毎日考えているのに、本人が出てこないのだ。だから、こっちから出向いてやることにしたのだ。そうすれば、案の上こいつは出てきたが――期待していた様な顔では、全くなかった。まるでそう、山中の獣達と変わらない様な、そんなつまらない顔だ。

 

 だが、いつの日かみたことのある少女――ティファだけは違った。

 私に怯えずに、それどころか友達になろうと言う。"友達"というのがどういうものか、私には全く理解が出来なかったが、出来なかったはずなのに、この首は了解を伝えていた。

 

 この子が笑うのが嬉しかった。

 この子が、私を危なくないと他の者に伝えてくれるのが、嬉しかった。

 私に怯えていたもの達が、私を受け入れてくれたことが嬉しかった。

 代わりに何かしてあげようと、そう思えたことが嬉しかった。

 そしてそんな私の行為を受け入れ、感謝してくれたことが本当に――嬉しかった。

 

 腹を満たすことくらいしか興味のなかった世界が、どんどん広がっていくのだ。

 

 クラウドとティファ。そして、この村の優しい人達。

 私にとって、彼らはとても大切な存在になっていた。

 

 だから、切っ掛けの片割れであるクラウドが、この村を去るというのは、少し認め辛かったのだ。

 

 

 

 私が少し気分を害したことに、何故か嬉しそうに笑い、

 

 「色々あって、この先世界がどうなっちまうのか俺は知ってる。このままだと、平和に生きてる皆がみんな死んじまう。お前も、ティファちゃんも、ウチの親父とお袋も、村の皆も。全員だ」

 

 大きい方の剣を強く握りしめ、瞳を閉じる。

 

 「世界を救うだなんて、大層なことは思っちゃいないよ。だけど、俺しか出来そうにないんだ」

 

 そこで急に立ち上がり、大きい方の剣、確かバスターソードと言ったか、それを木々の方向へと凄まじい速度で一振りする。たったそれだけで、当たってもいない木が切り倒された。

 

 「そのために、毎日毎日鍛えてきた。ちょっとはやれる様になったと思うし、上手くいけば最悪の事態も避けられるかもしれない」

 

 だからさ、

 

 「村の皆を頼む、タツオ。ちょっとばっかし長く空けることになると思うけど、お前だけが頼りなんだ」

 

 そしてこいつは、私に深々と頭を下げてきた。

 

 ――こいつが、村の人達を、ティファのことをどれだけ大切に想っているかなんて、知っている。あの雨の日、崖から転落する中で、こいつだけならもっと簡単に対処できたにも関わらず、傷だらけであの子を守った光景が、目に浮かんできた。そして、あの日この村にきた私に向けてきた視線の意味も、ようやく理解することができて、

 

 そんな大切なモノを託されたことが――誇らしくてたまらない。

 

 だがそんな真面目にされるのも癪で、彼らを大切に思うのは私も同じ。

 腹が立ったので、翼を一振りし、風で吹き飛ばしてやる。

 

 あまりにも予想外だったのか、その場で尻もちをついて驚いて、私の顔を見て、また笑った。

 

 「そうだよな、悪い。言うまでもなかったよな」

 

 尻を叩いて立ち上がり、クラウドは私の足を叩く。

 

 「それじゃ、いっちょ行ってくるわ……あと格好悪ぃんだけど、俺だけじゃどうしようもなくなったら呼ぶから、そん時は、助けてくれると助かる」

 

 最後までしまらないなと、笑い、私もそれがおかしくて、笑った。

 

 

 

 託されたものはあまりにも重い。この、それなりに大きくなってしまった身体でも、なお。

 むしろ大きすぎるせいで上手くいかないこともあるだろう。

 

 誰一人として、この村の人々を失わせまいと、この日から私は、クラウドと同じく自らを鍛え始める。

 まずは、無駄に大きなこの身体を小さくするところから始めようと、決意した。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 産まれてこの方、この家がこんなに静かだと思ったことはない。

 夕飯を食べ終わった後、今日今から出ていくと言った瞬間は騒がしくもあったが、圧倒的強硬派である母親も今は身重で、暴れられなければ体力もお腹の妹に割いている状態だ。大声で騒いでいる最中に、電源が落ちたかのようにぷつりと寝入ってしまった。涙を流しながら眠る姿にはかなりクるものがあったが、それでも、決意は鈍らない。親父だけは何も言わずに、ただ背中だけを押され、そうして、扉を開けたときになってようやく、背中越しに声が響いた。

 

 「……お前が産まれて、随分と経った。産まれたばかりの頃は、それはもう何をしていいのかさっぱりわからないし、他の子供達と違って妙に静かだから心配したもんだ。大きくなったらなったで、何しでかすのかわからないやんちゃなガキだったけどな」

 

 「……馬鹿こけ。今も昔も、理知的で優しい息子だっただろうが」

 

 「へっ! 鏡見て言えよ」

 

 俺の冗談を笑い飛ばす声からは、いつもの元気さはかげりがみえて、

 

 「正直言えばよ、お前はいつか出てくって、俺はわかってた。わかってたからこそ好きにさせてた。お前は馬鹿だが頭が良い。俺なんかよりもずっと出来が良いから――選んじまったんだな」

 

 それはまるで、わかっているかのような言葉で。

 ただの一度も口にしたことのない俺の本心を、言い当てているかのようで。

 振り返りそうになった瞬間、背中に手が、当てられた。

 

 「お前が知ってることだのやらかそうとしてることだのなんて、俺にゃわかりゃしねぇ。だから"親父"としては、たった一つだけ言っておく…………絶対に、死ぬんじゃねぇぞ。この馬鹿息子が」

 

 そのままドンと、叩かれた背中と、

 

 ――この村とのしばらくの別れの時間を、親父になんて使ってるんじゃねぇ。

 

 その言葉は扉が閉まる音と共に響いて、

 

 

 

 

 

 「――ね、クラウド。ちょっとだけ、付き合って」

 

 

 

 

 

 それは、このタイミングで最もあいたくなかった、少女の声だ。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 仲良くなってから今までの時間、私はそのほとんどを覚えてる。

 

 初めて遊んだ日のこと。

 次の日に私を見て逃げだしたクラウドのこと。

 諦めて私と遊ぶようになってくれた日のこと。

 木に登って落ちちゃって、カッコ悪くても助けてくれたこと。

 

 ――お母さんに、あわせてくれたこと。

 

 あんまり美味しくないご飯を作ってくれたこと。

 私と遊んでいないときは、黙々と剣を振り回してるのを眺めてた日のこと。

 大食い大会で去年の優勝者に勝ったのに、自分のお父さんに優勝を持っていかれたこと。

 山から集めてきたマテリアをニヤニヤ眺めてるのを後ろから見てたこと。

 タッ君と大喧嘩をしたこと。

 私の誕生日を毎年お父さんと盛大に祝ってくれること。

 

 思い出は尽きず、この両手から溢れるほど。

 

 そんなクラウドがいなくなっちゃうって聞いた昨日は、悲しくて、寂しくて、一晩中泣いてた。

 

 だってこんなにも、   なのに。

 

 顔に出ちゃわないようにって、村で良くしてくれる宿屋のおばさんに化粧を教わって、頑張ってバレないようにしていたのだ。

 

 でもずっと、一晩中ずっと考えてた。クラウドはなんでこの村から出てっちゃうのかって。

 妹が出来たって言ってたときは、ご両親の文句をこれでもかってくらい口にしてたけど、それでも隠しきれないくらい嬉しそうに笑ってた。本当の本当に、自分に妹が出来たことが嬉しかったんだと思う。

 

 それで、思い出したの。

 クラウドが剣を振ってるとき、いつも見たことがないくらい真剣に、必死に振ってたって。

 いくら止めてもお山に入り浸ってたって。

 

 それはきっと、

 今よりずっとちっちゃい時から、何かと戦い続けてるからなんだって、気付いちゃったの。

 

 それはきっと、これから産まれてくる妹のためで、

 なんだかんだいってもクラウドを大事にしている両親のためで、

 村の皆のためで、

 タッ君のためで、

 

 そして私も、その大切の人の一人だったらいいなって、思う。

 

 でも、いっつも私は守られてばっかり。

 何かしてあげようとしても、クラウドは大体自分でなんでも出来てしまうのだ。

 モンスターにだって簡単に勝てちゃうし、意外と手先も器用。

 私がクラウドにしてあげられることなんてほとんどない。

 きっとここで付いていきたいだなんていっても、足しか引っ張れないのはわかってる。

 

 だけど、いいえ――だから、

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 夜空から、満点の星々の光が降り注ぐ。

 灯りなんて一切ないのに、辺り一面を見渡すことが出来るほどに。ティファちゃんに連れられて辿りついたのは――奇しくも、あの給水塔。所々錆が見えるが、今もなお村の大事な水源として、今もなお現役で動いてくれている。普段なら頼もしいことこの上ないのだが、今だけは、毒を吐きたい気分だ。

 タツオに挨拶してから、村の面々には今日いなくなることを告げていた。そして、ティファちゃんには話さないようにとも念を押して。○鳥クラブ的なノリではなく、至って真面目にお願いしたつもりだったが、どこの拡声器が喋ったのやら。

 

 一歩、また一歩と給水塔を昇るティファちゃんの後を追う。外に出て以来、顔を見せることがなければ声も発さないティファちゃんの気持ちは、一切伝わってこない。歩き方だって、いつもとそんなに変わりないし、一体どういうつもりなのやら。小さい頃はあんなに素直に気持ちを伝えてきてくれていたのが嘘のようだ。女の子の成長は早い。

 この給水塔に、あまり思い入れはない。原作ではクラウド少年の思い出のよすがだった場所だが、こと俺とティファちゃんにはほとんど無縁の場所だった。何故ここなのか、さっぱりわからないでいれば、一番上まで辿りつくと、ティファちゃんは欄干に背中を預けながら振り向き――何か、覚悟を決めた顔をしていた。

 

 「……ね、クラウド。私ね、クラウドがいなくなっちゃうのなんて、嫌だよ。いつか帰ってくるって言われても、嫌なものは嫌」

 

 視線を逸らさず、自分の意思を明確に伝えるその言葉は、真っ直ぐに耳朶を叩く。

 

 「……それは、随分と嬉しいこといってくれるなぁ。俺と離れたくないだなんて、男冥利に尽きるね」

 

 それを受け止めきれず、ついいつものふざけたノリで返してしまうけれど、ティファちゃんは一切表情を変えないまま、こっちを見続けている。ついには押し負けてしまい、視線を逸らす。

 

 「ごめん。俺も、この村を出てくのは、本当は嫌なんだ。妹だって産まれるし、あのヤバい両親の影響を受けさせないようにしないといけない。タツオともまだ決着付けてないし、ティファちゃんのご飯ももっと食べたいよ。だけど――」

 

 「――だけどね」

 

 俺の言葉を遮ったティファちゃんは、俯いていた。肩は震え、しゃくりをあげる声すら聞こえる。ああ、結局泣かせてしまったと、酷い後悔を胸に抱き、

 

 ティファちゃんは、涙を拭わずまっすぐに、もう一度と視線で射抜く。

 

 「私――ずっと、待ってるからっ!!」

 

 叫んで、そうして止める間もなく欄干の上に立ち上がって――その身を投げた。

 

 何でそうしたのかまるで理由はわからないし、そんなことを考える間もなく、身体は動く。

 

 身体を高速で前傾姿勢へ、そこから前方へと身を投げ出した。左腰に佩いたロングソードを逆手に引き抜き欄干を斬り、最速の道を作りだす。そこから身を投げ出しながら、俺を信じきった顔で瞳を閉じているティファちゃんめがけ、欄干を蹴り飛ばして加速し――右手で、その身体を捕まえる。ただの少しも衝撃を与えるわけにはいかないから、落下の瞬間に力ずくで、かつ粗目に大地に剣を叩き付け、ベクトルを下から前へと捻じ曲げて、身体を抱きしめ転がり回った。

 

 完全に衝撃を殺せたのはいいが、結局近くの木に背中を強打していれば世話はない。ティファちゃんと木に挟まれてちょっと呼気が漏れてしまった。格好悪い。でもそんなことはどうでも良くて、いきなり危ないことを、したこの子を叱ってあげなければと立ち上がり、

 

 「――クラウドは、いつだって私を守ってくれるよね」

 

 仰向けで、満点の星空を見るティファちゃんは、涙を流しながら――笑っていた。

 

 「どうして、なんて聞かないし聞いてあげない。どんな理由だって納得なんてできないし、私はきっと、ついてはいけないんでしょう…?」

 

 返答は、出来なかった。微動だに出来なかった、というのが正しい。

 あまりの想いの熱量に、やられてしまったからかもしれない。

 

 「ねぇクラウド。いっつも守られてばっかりの私じゃ、きっと付いていけない。私は、待ってる」

 

 ゆっくりと、ティファちゃんは立ち上がって、一歩二歩と、俺から離れていく。

 

 「クラウドが帰ってくるまで、私ずっと待ってる。どれだけ時間が経っても、私だけは、ずっと待ってるから。ずっと、ずーっと!」

 

 途中から、涙交じりの声になりながらも、ティファちゃんは叫んだ。肩を震わせて、しゃくりを上げて。それでも必死に堪えながら。

 

 それに応えないわけにはいかなくて、

 

 「……そっか。そりゃあ、絶対に帰ってこないとだね」

 

 「……うん」

 

 地面に落ちた剣を拾い上げ、泥を拭って鞘に納める。近付いて、俯くティファちゃんの方を向かないで、頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。

 

 「約束する。絶対に帰ってくるって」

 

 「…………うん」

 

 撫でる手を止めても、頭に手は乗せたまま、

 

 「でもね、本当に大変だったり辛かったら、いつでも俺を呼ぶんだよ。どこにいたって、絶対にティファちゃんのところに駆けつけるから」

 

 「………………んっ!」

 

 そうして手を下ろし、俺は村の外へ向かって歩きだし、

 

 「またね、ティファちゃん」

 

 それだけを残して、この場を後にした。

 

 

 

 

 

 村から出る直前に聞こえた、大きな大きな泣き声は、聞こえない振りをした。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 頭に残った感触は、いつかの時と変わらずに、優しい暖かさだった。

 この暖かさに嘘をつかないように、私は私の戦いを始めよう。

 

 待っている。たったそれだけを、守るための戦いを。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 それからほんの少しばかり時は経ち――二ヶ月が経過していた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 "今回"の作戦目標は、暴走するモンスターをかきわけ、この騒ぎを引き起こした首謀者の撃破だ。夜の平原に隙間なく現れるモンスターを、味方の援護を頼りに突き進み――そして、頭を叩く。極めてわかりやすい、俺好みのミッション。

 

 夜闇に浮かび上がる、真っ赤に輝く瞳の不気味なモンスター達を、頼もしい味方の援護射撃が撃ち抜いていく。俺を避けて放たれるそれから逃げおおせた大型の狼型のモンスターを正面から右手のロングソードで叩き潰して、空いた左手でその身体の上を転がり前へ進む。その隙にと、モンスターから放たれた炎を、身体ごと回した剣の一振りで掻き消しながら、また前へ進む。

 

 斬る。蹴る。飛ぶ。避ける。また斬って、蹴って、また斬った。

 

 小型のモンスターを投げ飛ばし、大型の人型モンスターの目をくらまして、足を真っ二つ。両足の隙間をスライディングすれば――裏切者のソルジャーは、すぐ目の前だ。

 

 馬鹿正直に勝てる相手じゃないことは重々承知。相手は仮にもご同輩。ならば、小細工に小細工を重ねて隙でも作らなければ話にならない。

 ほのおのマテリアの詠唱を開始。その隙間に全力で大地を巻き上げ、更には辿りつくまでに拾い上げたモンスターの牙を全力で投擲して、更に前へ出――、

 

 「――うっぐ!!!!」

 

 突き刺さったのは、膝。

 投擲武器を投げ、距離を取りたいと見せかけたにも関わらず完全にバレていた。

 だが、武器ではなく肉体による打撃なのはいくらなんでもこちらを舐めすぎだ。勢いよく宙に飛ばされた体勢を整え、右手を勢いよく前に突き出した。

 

 「"ファイガ"!」

 

 ほのおのマテリアから繰り出すのは、最上級の火属性魔法。眼前に広がる巨大な炎弾は優に相手の超えるサイズで、例え斬り払ったとしても爆発は防げない。流石にこれで俺の"勝ち"だろうと思えば――火球は突如、巨大な剣、バスターソードに抉り抜かれ、

 

 

 

 ――顎を、強打された。

 

 

 

 「ふんごぉぉぉぉぉ!!?? いってぇ舌噛んだぁぁぁぁ!!!!」

 

 「MISSION FAILED」という、無機質な機械音声と共に、俺の"負け"は、静かに宣言された。VR空間は解除され、空間の端から、機械的な室内へと変化していく。

 

 「うほほーい! ざぁぁんねんだったな"ザックス"くぅぅぅん!! 最後のファイガは、俺以外には良い選択だったよ、俺以外にはな!!!!」

 

 連勝記録だワッショイワッショイと大騒ぎしている"金髪の年下"は、まだソルジャーになり立ての新米も良い所だ。にも関わらず、全然勝てる気がしない。

 

 「クソォ…! 絶対決まったと思ったのにィィィィ!!」

 

 3rdの証である紫を身に纏いながら、腰を左右に振り続け実に鬱陶しく踊り続ける奴の名は"クラウド"。

 

 「もやしっ子には負けてやれねーんだこっちはよぉ。たかがファイガごとき、ドラゴンのブレスにくらべりゃ屁みたいなもんよ――それはそうと、賭けは賭け。今週もお昼、頂いていきまーす。ゴチになります先輩www」

 

 「チクショォォォォォ!!!!」

 

 左脇に差した支給品のロングソードに、身長ほどもある"自らを神羅に売り込んできたときに所持していた"バスターソードを背負い、それを軽々と振り回す。ともすれば冷たい印象を与える見た目に合わないハイテンションさで、奇抜なことしかいわないド新人。舐められては堪らないと、一発お見舞いしようとした先輩ソルジャーのほとんどに土を舐めさせた。

 

 「全く…。ザックス、教練のやり直しが必要か?」

 

 ソルジャー1stであるアンジールは俺の醜態に呆れ顔だ。なお、アンジールはクラウドと刃を交えたことがない。ずるい。

 

 「フホホw フホフホホホホホホホww」

 

 "クラウド・ストライフ"。

 ソルジャー史上でもかなり上位の問題児は、今、最高にハジけていた。

 

 

 

 「な、涙拭けよ、先輩ww」

 

 「うるせーよ!!??」

 

 

 

 

 

 




ス  ト  ラ  イ  フ  飛  龍

思えばこの一発ネタを思いついたから始めた拙作ですが、
ようやくやりたかったことが達成できて嬉しい限りです。

一応言い訳しときますと、
村にいた頃は同年代の男子でハッちゃけられる相手がおらず、
ティファに変な影響与えない様に普段は気を付けてただけで、
本性はこんなもん。

ようやく主人公のお披露目が出来たような気がして感無量です。
これからは"もっと"やりたい放題やってくので、お気を付けください。


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五話『どうか届きますように』


前回あとがきに注意書き的な感じで、

『もっと滅茶苦茶にしてやっからな!』(意訳)

って書いたので、てっきりお気に入りとかなくなるくらいの想定だったんですけど。逆にお気に入り数とか色々増えてて拙僧驚きです。

感想も結構いただいてマジで嬉しくなってます。
結構ガチで、感想を貰ったおかげで筆がクロックアップしてます。
千倍です。ありがとうございます。

正直かなりハイペースすぎてバランスの悪さとか描写が足りない個所とかボロボロ出てきたので、その内幼少期編に追加の話がぶちこまれるかもしれませんが、あんまり読む必要ないかなーとか思ってたりしやす。

今回も色々な意味で滅茶苦茶やってますが、
作品ごとの違いから抽出した結果になりますので許してクレメンス。


 

 

 

 

 

 ソルジャー、クラス2nd。

 それが、今の俺の肩書だ。

 

 俺の想定では、そもそもクラウド君がソルジャーになれなかったのは精神的な面が大きいと踏んでいた。肉体的な素養はともかく、人よりも精神的に弱かったからソルジャーになれなかったのだろうと。

 俺の計画ではソルジャーになることは絶対条件。どれだけ鍛えようが、パンピーのままでは闇堕ち銀髪には届かないだろうと予想していたからだ。だからそのための準備として、肉体を鍛え抜き、その上で魔晄に親しむため、ニブル山の山中で魔晄に自らを慣れさせた。

 

 仮にもかつては(出来ない方の)サラリーマン。精神的負荷には割と慣れっこで、グロ耐性もモンスター君達が文字通り犠牲になってくれて身に付けた。だから神羅で言われるまで気付かなかったが、最初から魔晄を浴びた特徴である、瞳の変色が現れていた。毎日見てるせいで誰も気付かなかったのだろう。

 

 格好付けて夜中に飛びだした山中は割とモンスターパニックではあったが、そんなの関係ねぇ!と神羅までダッシュ。割と時間がかかったし、そもそも徒歩で行く距離じゃないということにソルジャーになってから気付いたが、そんなの関係ねぇ!

 着いて早々、神羅に自分を売り込むため、門番のソルジャー先輩(3rd)二人組に喧嘩を売り、これに快勝。凄い勢いでその後囲まれたが、諸手を上げてソルジャーになりに来た宣言。当時、まだ"副社長"じゃなかった男の目にとまり、本来通るべき道筋を全力でかっ飛ばして、ソルジャー、しかもクラス2ndまで上り詰めたということであった…あった…あった…。

 

 まぁ、いつだって上手い方向にばかり話が進むことはない。

 近道の代償は、それなりに高くついていたのだから。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 「クラウド、今日の報告をしたまえ」

 

 神羅本社の一角、幹部階にありながら、室内は比較的質素にまとめられたその部屋は、主の趣向を忠実に示している。几帳面に整頓され、無駄な装飾は一切なく、仕事に関わる物のみが支配している。室内に響き渡る打鍵音もまたしかり。

 忌々しくも魔晄によって明るく照らされた室内に、影は二つ。今もなお仕事をし続けている部屋の主である"ルーファウス・神羅"。かのプレジデント・神羅が一子だ。この男に、俺は拾い上げられた。

 

 

 

 ぶっちゃけた話、俺はやり過ぎたのだ。

 ゲーム的に考えると、一般人枠であるPTメンバーでもソルジャーとは戦えていた。つまり、ソルジャーって言ったって人間鍛えれば超えられるものだと。そのため、今回盛大な狼煙役として役立って貰った二人組を半ば遊び感覚でゴロゴロ転がしたうえで気絶させたのを、どうやら神羅は重く見ていた様子。もう随分と昔な記憶を攫ってみれば、自社の負債はもみ消すのが神羅流。やっちゃったものはしょうがないので逃げだす算段を立てていれば――この男、たったの一言でその場を制してみせた。

 

 『面白い。お前の希望通り、ソルジャーにしてやる』

 

 あとは恐ろしい程にトントン拍子だ。

 そもそも戦闘能力試験には合格していたようなものだったし、相手の二人もカスリ傷程度。むしろ良い拾い物だったとルーファウスが丸め込み、晴れてソルジャーとして、しかも2ndでかつ持ち込み装備を許される最高ランクの好待遇を得ることに成功したという訳だ。それ以外にもあらゆる面で権利を得ることに成功したわけだが、そんなことを、他のソルジャーが良く思うはずもなく、そしてそれが、ルーファウスの目論見の一つでもあった。

 

 

 

 ――自分の子飼いを最強のソルジャーに仕立て上げる。その道程の大幅なカット、それこそがこの好待遇の真の目的だったと、そういう訳だ。

 

 

 

 「へいへい。今日は3rdからは何もなかった。いつものザックス先輩と、知らねぇ2nd三人組をぶちのめしてやったくらい。あの面白1stはやっぱ、こっちの目論見見透かしてるみたいだぜ?」

 

 頭をかきながら、本日の成績を口にする。ここにきて最初の頃は暇していると見ればあらゆるソルジャーに挑まれたものだが、最近はめっきり減ってきている。それも当然かもしれない。奴らの財布を毟り取り過ぎたのだ。

 ルーファウスの計画、それは神羅カンパニーの社長に就任すること。自らの父親を叩き落とすことこそが、こいつの目的だ。現在のこの世界でほぼ最強に位置する会社のトップにこいつが就任するというのは、俺に取って悪い結果ではなく、むしろ良い方向に転がってさえいる。計画の過程で、こいつを多少なりとも矯正できれば、もしかすると最悪の状況は避けられるかもしれないからだ。

 

 だからこそ、俺は煽った。熱帯プレイヤーにはほぼ必須の技術である、煽りとその耐性。どちらも兼ね備えた俺に、自尊心高めの子供達をあったまらせることなど容易。別に楽しかったからではない。本当に。本当だって。信じてない目、してるね?(真顔)

 俺の待遇に不満のある連中をことごとく煽り、そして挑ませたうえで賭け試合。人は金を失えば、冷静さも失う。しばらくの間は大決闘フィーバーだった。その間に、欠けていた対人戦闘技術を盗み取り、ついでに懐もあったかくさせてもらうという一石二鳥。決して、決してお金の魔力に飲まれているわけではない。前世で味わえなかった、毎晩お姉ちゃんのお店飲み歩きなんて、決してやってない。絶対だからな!

 

 俺の言葉に、ルーファウスはその手を止めた。溜息を漏らして、こっちを睨みつける。肉体的な意味ではソルジャーには遠く及ばない癖に、やはり血筋からか凄まじい眼光だ。

 

 「ザックスというソルジャーの報告書は読んでいる。戦闘能力という意味では、今最も1stに近い男だろう。お前と戦う内に急激に伸びているとも聞いている。だが――奴は1stではない。お前の仕事はなんだ、クラウド」

 

 「あのオサレ銀髪越えだろ? 耳タコだよこっちは」

 

 セフィロス。世界の破壊者(予定)かつ、現最強のソルジャー。それは伊達でも何でもなく、ただの事実。あの長刀を振り回してるだけで破壊活動を行える災害を、俺は越えなければならない。それは、俺個人としては実力で。そしてルーファウスからすれば、名声で越える必要があるということだ。

 

 「1stを実力で越えたのならば、もはやお前に何かを言うものはいなくなる。実質的にソルジャーをまとめているアンジールを下せば、お前に文句を言う連中もいなくなるのは間違いない。むしろお前を囲い込もうと必死になることだろう。まぁ、遅いにも程があるのだが」

 

 机の上で手を組み、微かに笑みを浮かべる。この男、普段は社長の息子ということで遊び呆けている外面を作ってはいるが、その実あらゆる英才教育を受け、その本性は支配者の中の支配者。こういった冷たい笑顔も、本性の一つだ。

 優秀なのは間違いないのだが、恐怖で人を支配しよう等という行き過ぎた思想さえなければ満点の男。それが、俺から見たルーファウスという男だった。

 

 「ま、いいだろ。もうあの老け顔パイセンと戦う必要、なくなったんだから」

 

 それは、ソルジャー1stジェネシスがやらかした、ソルジャーの大量失踪事件が原因だ。ソルジャーの多くを攫っていったことにより、俺に任務を受けさせまいとする勢力にも限界が訪れているというわけで。そして、ウータイとの戦争の早期終結を望むトップの思惑もある。…対応なんてできるわけもなかったとはいえ、攫われていったソルジャー達へ罪悪感を感じてはいるのだが。

 

 「ふむ…。まぁ、運が味方したというのはあまり好みではないが、好機ではある。せっかくそれなりに無理をして、お前をウータイでの作戦において"B隊"に押し込んだのだ。……どんなやり方でも構わんが、成果を上げろ。いいな?」

 

 一週間後。現在魔晄の採掘権をめぐって戦争中であるウータイとの戦争において、王手をかけにいく作戦が始まる。それはザックス先輩もA隊として参加し――そして、英雄セフィロスも参加する大規模作戦。その中核となるB隊への参入だ。初任務としてはなかなかの大舞台。花形デビューまったなし。ただし、

 

 「わかってるっつーの。最悪、パツギンに下剤仕込んででも活躍したるって」

 

 「全く…まぁいい。自分のやることを理解しているのならそれで構わん――さて、仕事は終わりだ。行くぞ」

 

 「ヒャッホォォイ! さっすが未来の神羅カンパニー社長、そういうとこほんとすこ!!」

 

 「ふはは! 未来の社長、やはり良い響きだ。低俗な褒め言葉だが気に入った。よし、今日はあっちの店だ」

 

 「マ、マジかよ…。あの美人ちゃん揃いでおさわりアリアリの店にだなんて、やっぱ太っ腹だぜ!!」

 

 「昨日みたいに脱ぎだすんじゃないぞ。さっさとそのダサい制服を着替えてこい、四十秒でだ」

 

 「了解だオラァ!!」

 

 

 

 未来への希望が見えたことで、テンション振り切って、

 毎日毎日が楽しかったからこそ、

 至極簡単なことにも気付いていなかったのだ。

 それが明らかになるまで、あとほんの僅か。

 

 

 

 

 

 「俺がハンサムッ?!」

 

 「誰がそんなこと言った!? 脱ぐなと言っただろうが!!!!」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 聖地巡礼。

 ここは言ってしまえばどこもかしこもFFプレイヤーにとっては聖地なわけだが、物語上重要な場所ともなればその価値も違ってくる。ここは、そう。クラウドとかもう一人にとって運命の場所である、教会だ。

 目の前にそびえたつ古びた教会は、立てられてからの年月に不釣り合いな頼もしさを感じさせる。昨日は飲み過ぎて身体がボドボドなので、本日は自主休業。サボりとも言う。

 

 ソルジャーになってから今まで、休みの日も誰かしらに突っかかったり、突っかかられたりしていたので、こんな静かな休日は随分と久しぶりだ。所詮はスラムの端で、人っ子一人いなければ景観もあまり宜しくはないが…。まぁ、聖地巡礼よ聖地巡礼。

 下心が無いとはいえない。ティファちゃんもやべー美少女だったけど、悲劇のヒロインも相当な美人さんであることが予想される。接触し過ぎるとどんな影響を与えるのかさっぱりわからない爆発物のため、仲良くなるという選択肢が最初からない。それなら最初から近付かなければ良かったんじゃね?なんてナンセンス。全部暇のせいだ(J○並感)。

 

 古びたドアを木が軋む音を鳴らしながらゆっくりと開ける。そこから鼻につく埃の臭いと、そして、

 

 

 

 ――この世の物とは到底思えない、絶景がそこにあった。

 

 

 

 天井に空いた隙間から差す光が、目の前の開けた空間の中央を照らし、そこに在るものをつまびらかにしている。花々は力強く咲き誇り、村を出てからついぞ嗅いだ記憶のない香りが郷愁を誘う。そうして、そんな花々の前に跪き、祈りを捧げる少女が一人、そこにはいた。

 ティファちゃんも相当な美少女だったが、目の前の彼女も決して負けてはいない。ティファちゃんとはある意味真逆のイメージではあるが、薄幸の美少女とはこういうことを言うのだろうと、少ない語彙でそんなことを考えていた。

 

 どれほど、彼女のことを見ていたのか。気が付けば彼女は立ち上がり、後ろに手を組みこちらを不思議そうに見つめていた。ヤバい不味い叫ばれたら終わるルーファウスに怒られる不味い不味い不味い――と、前世で食らった無実のストーカー容疑により拘束されかかったトラウマが蘇り、滝の様な汗を流し、

 

 「ね。何で私を見てたの?」

 

 そうやって、笑顔で俺に近づいてそんなことを言う。 その顔に嫌悪感は感じられず、大丈夫だこれ、訴えられない奴やでと心の中で大きく溜息を吐く。安堵しきった俺は、頭が回らないまま、正直に思ったことを話す。

 

 「いや、随分と絵になるなって思ってね。古ぼけた教会に花畑。その前で祈る美少女。正直盛りすぎだけど、いざ目の前でやられるとガン見しちゃうさそりゃ」

 

 「うーん、何が盛り過ぎなのかわかんない。けど、悪い気はしないから、きっと褒められてる、んだよね?」

 

 「せやで」

 

 「何それ、変な口調」

 

 くすくすと、控えめに笑う彼女は、気取っていないのに妙に上品だ。その姿は、都会でヨゴれちまった俺をドンドコ浄化していく。しゅごい、古代人ハーフしゅごい。浄化されすぎて色々なことを思いだして罪悪感がマッハだが、冷静になった頭にこれ以上ここにいるのは危険と判断された。

 

 「ま、良いもの見せてもらったお礼といっちゃアレだけど、こいつを進呈しよう」

 

 とりあえずさっさとこの場から離れるために、俺はたまたま(誰かが社内に隠してて)見付けた、瓶に入った液体を進呈することにした。自分で持ってても絶対に使わないとわかっているからだ。その名は――エリクサー。もったいなさすぎて、結局原作ではただの一度も使ったことがなかったし、今後使わないといけないタイミングに仮に陥ってしまったとすれば、それは俺が死ぬ時だろう。

 無理矢理押し付け、別れの挨拶を一つ残してそのまま身体を翻し出口へと向かう。ちょっと変なテンションになってしまったので、今日は自腹でどっか行くかと扉を開ける直前、

 

 「私、エアリス。貴方は?」

 

 お、これ運命感じさせちゃったか。いや、ないか。ないな。たかだか名前を聞かれただけで舞い上がった気持ちを抑え、ここで名前を知られることのリスクを考えた結果、

 

 「ジョー・ギリアン、へぼ会社員さ」

 

 しょうもない思い付きから脳裡を過った偽名を残し、街をつつむMidnight fogへ向かう。扉が閉まるまで、手を振られ、見送られた。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 ああ、糞。

 先程受けた任務の詳細が、いつまでも頭を離れない。よりにもよってな内容で、個人的には泣きっ面に蜂の気分で、スクワットすらする気になれなかった。窓際に寝ころんで天井を眺めながら、少しの間瞳を閉じた。

 

 

 

 あいつ、クラウドが新人として入ってきてしばらく、模擬戦とは名ばかりのいじめがソルジャー内で随分と流行っていた。そのことに気付くのが遅れてしまって、すぐにでも止めなければと行動を起こしたのだが、実際は違っていた。どっちかといえば攻めているのはクラウドで、サンドバックにされているのは挑戦者側。その光景を見た時は思い切り勘違いしていた羞恥心と安心からか大爆笑していたものだが、しばらく対戦風景を見ていれば、これは燃えずにはいられないと、そう思わされる光景があった。

 

 ファイアはロングソードで真っ二つ。

 ブリザドは相手に打ち返す。

 サンダーはその射線に合わせて、地形からはぎ取った何かで相殺。

 銃弾の雨は全て斬り裂かれ、時にはバスターソードを盾に受けられる。

 近接攻撃など巨大質量で一蹴だ。

 

 これが同じソルジャーといえるのか。まるでそう、ソルジャー1stの戦闘風景を見ているような、現実味の薄い光景が目の前に広がっているのだ。それを見てしまえば、挑まずにはいられなかった。ま、当たり前のように負けたけど。

 新人に負けるようでは英雄には程遠いと、それから何度も何度も挑み、財布の中身がすっからかんになって、昼飯をかけて対戦だなんてレベルにまで落として貰いながらも挑み続けた。その全てで、ただの一度も有効打を与えたことがない。だからほんの少しだけ、柄じゃないとわかっていても、テンション下がり気味だった。

 

 そのせいか、念願の実戦任務が来たことにも、あまり喜べないでいる。そもそもその任務にクラウドも参加しているし、揚句こっちとは違ってB隊だ。確かに実力の上ではあちらが上であることは認めるが、まるで一生勝てないと突きつけられたように感じていて、腹の奥にたまった黒いものはそのかさを増した。

 

 

 

 「――ああやめだやめだ!」

 

 いつまでもうだうだ悩んでいるのも自分らしくない。いきなり叫んだ俺を、何が起きたとばかりに同じ部屋にいた同僚が驚いた顔をして見てくるが、それを全部無視し、訓練場へと走る。

 事実として、俺はあいつより弱い。あいつは年下だけど、話を聞く限りソルジャーになる前からモンスターとやり合ってる。それはつまり、俺よりずっと経験があるってこと。だったら、あいつよりもっと努力しなきゃ追いつけっこない。最近は夜になるとあいつを拾い上げたお偉いさんと遊び歩いてるって話だし、いつかきっと乗り越えられるはず。

 

 考えるより先に、まず動く。それは戦闘者としてどうなんだと、よくアンジールに怒られるところだけど、まぁ日常生活には関係ない話だろってエレベーターに駆け込み、訓練場がある階に辿りついてみれば先客がいて――そしてそれは、クラウドで、

 

 

 

 

 

 「――なんだよ、これ」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 前方狼型五、後方鳥型四。全体違わず攻撃行動、鳥型は二体のみ魔法の準備が見受けられる。それ以外は全て突進行動。距離及び突進速度に違い有り。先行する狼型の鼻先への踏み込みを準備及び攻撃へ、右足からの加重への反発ベクトルを腰部にて回転、背後の鳥型二体を大剣で斬り裂き、その勢いのまま前方の狼を斬り裂きながらすくいあげ、後方から詠唱完了した雷撃へと投げて避雷針とする。左腰の剣を後方へ突き出して狼型を頭部から貫き、西方より来た車両からの砲弾を、横軸に回転しながら引き戻した大剣を盾に逸らし、最終二体へと跳弾させ、モンスター殲滅完了。

 

 ファイラを起動し車輌方向へ身体を射出。追う様に撃ちこまれるマシンガンを大剣で受け止め、空中で回り続ける身体を停止させ、大剣を右手で振り上げ、射撃を剣で斬り、弾き、逸らし、大剣を振り下ろす直前で――車輌より飛びだしたソルジャー1stによる大斧を大剣で受け止め、吹き飛ばされる。

 

 体感数十メートル程吹き飛ばされながら、大地に接触する直前で大剣を地面へ突き刺しベクトルを停止させつつ、持ち手を起点に飛び上がって追撃の砲弾を躱し、その次弾および次々弾を剣にて斬る。空中に飛び上がったまま周囲を確認すれば、周囲約十メートルを囲むソルジャー1stの群れが突如地面より迷彩を解いて起き上がり、一斉に魔法の詠唱―恐らくサンダー系―を開始し、間に合わないと判断しこちらも詠唱開始。魔法の発動は同時に行われ、サンダガが周囲一面より降り注ぎ、それを周囲へ展開したブリザラで軽減。着弾と同時にヘイスト詠唱開始。ブリザラと共に大地へ着地し、ヘイスト起動状態で最高速でブリザラを肩当てにてぶち破り、

 

 「――ふっ…!」

 

 呼気を一つ、跳びだし追撃に袈裟掛けに振り下ろされた剣の根元を斬り裂き、剣を突き刺し突進。そのままの勢いで反応されるより早く大剣を振り抜きソルジャー三人を二つに分け、包囲を脱出しながらトルネドを詠唱開始し、遅れてヘイストを起動し背後からの槍二本を振り向きながら突き刺したソルジャーの身体で受けながら反転し、トルネド起動。必殺技は叫んで打つのが様式美、であるため、

 

 「"偽・画竜点睛"」

 

 突き刺したソルジャーを蹴り飛ばしながら剣を収め、周囲へと起動した竜巻へ大剣を巻き込ませて高速回転。回転速度を上げ、本来のトルネド以上の速度を与えながら続けざまに飛んでくる攻撃への盾とし、空中まで飛び上がりながら回転して最高速に到達したところで、これを放つ。後背部を斬り裂きながらそれを抜ければ、竜巻は少し進んだところでその威力を全て周囲へと拡散させ、周囲数十メートルを全て斬り裂き、車両は爆発し、ソルジャー集団は見るも無残な姿になりはてた。

 

 消費し過ぎたMPを回復するため、一旦落ち着こうと意識を緩めたところで――ボスキャラであるセフィロスが、自分の更に上空から突きの姿勢で突撃。大剣は間に合わないため、左腕を突き出して貫かせ、長刀を握りしめて追撃を止め、大剣を振り上げたところで、左腕から剣を引き抜かれながら腹部へ右足が刺さり、大地へと背中から直撃。

 左腕を突き出した瞬間に開始していたケアルガで傷を塞ぎ、跳ね上がって追撃を躱し、振り向きながら大剣を両手で構える。左腕の握力が弱っていることに構わず、八双にて構え直し飛び上がるように突進。同様の構えで突進したセフィロスの長刀とまるで鏡合わせのように袈裟掛け振り合い、交錯した鋼が火花を散らす。

 

 斬り払って距離をとり、踏み込み切上。再びの袈裟掛けと滑るように交差し、手首を返して唐竹。それを半身ずらして避けたセフィロスの左手は拳を象り、腹部への追撃。振り切る直前に離していた左腕の肘鉄と膝にて拳を潰そうとするも、魔晄にて強化されていた拳は壊せず、同時に強化していたこちらの打撃と弾かれあって金属音を打ち鳴らす。先に復帰したセフィロスによる胴抜きを大剣を臍下にて握り、立てて構えた状態で受け止めつつ小手抜きを振り切り、

 

 

 

 ――訓練終了の音が、耳になり響いた。

 

 

 

 仮想で受けたダメージは直ちに回復し、周囲のVR空間はいつものように元の訓練場に戻っていく。暴れ過ぎたのか、訓練場の至るところに切断痕が残っているが些事だろう。そして訓練結果モニタを見れば案の上、失敗の文字がありありと浮かんでいた。訓練失敗理由は、仮想出血量が基準値を超え死亡したため、とあった。腹部への蹴りとそれによる大地への直撃。及び左手の傷が治り切っていないために継続的に出血し続けたのが原因。序盤のモンスターの大集団撃破の際のダメージが大きかったことも理由に挙げられていた。

 

 結局また届かなかったとその場に寝ころび、

 

 「ぐへぇ…。まーた負けちまった」

 

 と、独り言を漏らし、その場で目を閉じれば――その瞬間に意識は消え去った。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 あまりにも凄まじすぎる訓練内容は、目を疑う代物だった。

 訓練内容は最高難易度――とされていたものを軽く超えた、異常設定値が記されている。ミッション内容は"神羅カンパニーの機密を盗んで逃げたソルジャーとして偽り、偶然出くわしてしまったモンスターの大発生を一人で食い止め更に追手を撃破し逃げ切る"という、全くミッションの趣旨がわからないものだった。ただ難しい訓練を作るためにこじつけた様な理由だと思ってみていれば背後の扉が開き、

 

 「"内部に潜む神羅にとって致命的な裏切者を炙り出すために、一時的にほぼ全ての戦力を神羅カンパニーから正当な理由で遠ざけ、その僅かな時間をもって本命を討つ"というのが、隠された真意だ。読み取れたか? ソルジャー2ndザックス」

 

 そう言って入ってきたのは、ルーファウス・神羅その人だ。そしてその後ろから衛生兵が訓練場へと入り、クラウドを担架へと乗せて訓練場を出ていく。出ていった先に現れたのは、我らがソルジャー統括に、そしてアンジールだ。

 

 「いや、申し訳ありませんねルーファウス様。こちら側の要望を通して貰ってしまって」

 

 そう統括は張りつけた笑みを浮かべながら、ルーファウスへと頭を下げる。それに冷めた目で見るルーファウスは溜息を吐く。

 

 「よく言う。だが、これである程度の支払いは終わったと私は見るが、良いな?」

 

 「なんのことか皆目見当もつきませんが…それで良いかと、存じますよ」

 

 鼻息一つ。再び頭を下げた統括に目もくれず、ルーファウスは足早に訓練室を後にした。今、室内に残っているのは三人だけだ。頭を下げたままの統括は完全に閉まり切った扉を一度強く睨みつけてから、溜息と共に俺を見た。アンジールは腕を組んだまま目を閉じ、そのままの状態で口を開く。

 

 「これで少しは納得できたか、ザックス」

 

 眉間にしわを寄せたままそう言葉にするアンジールが何を言いたいのかわからない。は?と言葉にするまでもなく、統括は俺が理解していないことを理解したらしく、

 

 「ザックス。君がクラウドに対して劣等感を感じているのはわかっている。今度のウータイの任務でも、初の実戦でありながら陽動ではなく本隊であるB隊だ。私が君の立場なら、同じ気持ちを抱いていただろう。それを斟酌してくれたのさ、アンジールはね」

 

 「――あ」

 

 言われてみれば、アレを見るまで感じていたモヤモヤは既になくなっている。それもそうだろう。あのレベルの訓練内容を見せつけられてしまえば誰もが口を閉ざす。

 ソルジャーは実力至上主義だ。強い奴が偉い。だから英雄セフィロスは何をしても大抵のことは許される。弱い奴がいくら吠えたところで何一つ斟酌されないのがこの業界だ。さっきの訓練はいっそ憧れるほどの光景で、才能だけに胡坐をかいてきたわけじゃないというのが、同じ剣を振る者としてありありとわかってしまった。だから今後、クラウドに一切悪い感情を持つなんて出来そうになくて、むしろ――憧れすら、覚えていた。

 

 きっとアンジールはわかっていた。俺がモヤモヤしてる最中、ずっと考えたままでなんていられないことも知ってた。だからきっと、あの訓練場でクラウドが訓練してる風景を俺に見せるために、統括やあのルーファウスにも頭を下げた。

 

 下げて、くれたのだ。

 

 それがわかって、慌ててアンジールの方を見て礼を言おうとすれば、アンジールは片目だけ開けてニヤリと笑う。

 

 「ソルジャーは決して強さだけが全てではない。クラウドを外から見れば、ただ強いだけの横暴な愚か者に見えるだろう。だが、そんな見た目はあいつらが…いや、お前達から見えているだけの側面だ。その裏側に一体どの様な過程があり、そして思惑があるのかは結局、当人以外には与り知らぬことだ」

 

 だから、

 

 「クラウドのことなどお前には関係のないということだ。今回はたまたま少しだけ裏側の事情が見えたが、本来はこんなもの見えないのが世の常。故に、お前自身の心持を他人に委ねるな。お前の行く先は、お前が決めろ。良いな?」

 

 俺の肩に手を置き、優しい両の目が俺を見る。

 

 「俺の道は…俺が、決める?」

 

 「そうだ。なるんだろう? 英雄に。ならその悔しさも踏み越えた先こそが、お前の道だ。他人と自らを比べて、腐っている暇はないだろう?」

 

 「ああ…。ああッ! アンジール、サンキュー!!」

 

 そういって、アンジールを大きく笑って見返した。それを良しとしたのか、俺の頭を乱暴に撫でつけ、アンジールは振り返ってその場を後にした。統括も満足げな顔で頷いてアンジールの後を追う。

 

 この訓練場に、今は俺一人。誰も見届けてくれる人なんていない。

 だけど、胸に着いた火は消えそうにないから、訓練場の扉を勢いよくくぐり、今までに受けたことのある訓練よりも難易度の高い訓練を選び、スタートを叩く。

 

 VR空間は展開され、見たこともない光景が目の前に広がっていく。それを眺めながら、ふとクラウドに言われたことを思いだしていた。

 

 ――ソルジャーのスクワットなんて欠片も意味ないっしょ。そんな暇があったら得物を振り回さなきゃ。

 

 ついこの間まではまるで受け入れる気が起きなかったこの言葉も、今では素直に受け入れられるなと、笑みを浮かべて訓練相手へと吶喊した。

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 いつまで、こんな光景を見続けなければならないのだろう。

 いつまで、こんなことを続けなければならないのだろう。

 

 もう誰も彼もが結末を理解しているというのに、誰一人として受け入れようとしない。そのせいでいつまでも続くこの怨嗟の中を、"私"はいつまで彷徨うのだろう。

 

 ああどうか、今だけは祈らせてください神様。

 私を生贄に叶うのならば今すぐにでも。

 

 だから、

 

 この凄惨な地獄を、

 吹き飛ばしてくれる"神風"を、どうかこの地にもたらしてください。

 

 

 

 

 

 





今回も割りと早足でしたが、
ソルジャー編はそれなりに長い予定なのであんまり関係ないかと思う次第。

早足にも(一応)理由はありますが、
それは完全に明らかになった辺りで一つ。

で、次回からですが、
資料をそれなりに探してみても納得出来る量の資料が拾えなかった結果、
かなり自己解釈を突っ込んだウータイ戦争編やります。

なんか前回も書きましたが、
次回もハイパーやりたい放題なのでお気を付けください。


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