ただ青い春を想う (畑の蝸牛)
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拝啓、どなた様

桜舞う四月の教室で〜♪とか。

さーくら咲いたらいちねんせーい♪とか。

わからない。わからないんだよ。桜が散るさまに風情があるのはわかる。それはわかる。

・・・・・・だけどねぇ!!

散る桜に四月とか入学を組み合わせられた瞬間!!

残念ながら頭に来る。作詞者作曲者ならびにこの曲々を広めた人間という人間には申し訳ないが、頭に来るんだよ!!

だってさ!?ウチの地域は四月に桜無いの!!桜並木なんて無いの!!

いや、桜自体はあるんだけど、この歌に歌われるような桜ではないことはすぐわかる。

咲くのが四月じゃないってだけである。うん。だから桜に対してはそんなに反感ない。死体が埋まってるのナンデ?とは思うけど。それだけ。

 

こんなことを記憶の奥底から掘り出したのも、きっと珍しく部屋を片づけてたせいだ。

捨てたとばかり思ってたものが出てくる出てくる。

小学校の卒業文集、中学の卒業ポエム、高校の卒業アルバム。

・・・・・・そして、結局出せなかったラブレター。暖炉でチリになったはずでは・・・?

まぁいいかと放っておいて、掃除を続けた。

 

だが、しかし。どうにも放ったそれが障気を放っている気がして仕方ない。

「開けろ〜開けてくれ〜開け〜見ろ〜」

と重低音の恨み籠もったバリトンでささやく。波の形をとって鼓膜にぐわ〜っとくる。

負けじと作業を続ける・・・が、何度も振り向きたくなってしまう。後ろを向こうとする首を手で戻すことを何度も繰り返して、どうにか、本当にどうにかして片づけが終わった。

 

正座して机の上のそれに向き合う。さながらお見合いの気分。手は膝の上、手はピクリとも動かない。

・・・否。これは、剣士同士のタイミングのさぐり合いめいた、正しいやりかただ。決して臆してなどいない。

まずは敵を知るべきなのだ。観察。

シンプルな白の便せん。表に宛名は書いていない。・・・よく見ると震えたボールペンの跡。書こうとはしたのだろう。

意を決して裏を見る。わかりやすくハートのシールなどで留めてある、なんてことはなく、普通にのり付けされていた。

しかし、それとは関係なく。付箋が付いている。字がとても小さいので、目を凝らした。

「捨てちゃうなんて、もったいないよ」

あーーーーーー!!と叫びそうになった。自分で自分を殴ってこらえた。見たことのある字。そう、あの子の。

今の今になってまで筆跡を覚えているのは正直どうかと思うけど、確信できてしまう。

恋は心を変ずると書くんだよ、受け売りだけどね。と誰かが言っていた。これも高校の頃だな。

桜が花開くように、ひとつひとつあのころの記憶が戻ってくる。

どうして、俺が春の桜の歌が嫌いだったかがわかった。わからされた。

泣いてしまうからだ。

あのころの、輝いてたかは知らないが、少なくとも彩り鮮やかだったあのころを、思い出して泣いてしまうからだ。

情け容赦ない斬殺玉ねぎでもこんなに催涙効果は無いぞ畜生。

あぁ、どうにも感情が収まらなくて仕方ない。

 

電話でもしてみようか。



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久しぶり、どうしたんだよ。

電話が鳴った。会社か?・・・いいや。休みの日にかけてくるような無粋はすまい。つーか働きすぎだから休めと言われた休日だ。電話をかけてくるのはKYでしょ。じゃあ、まぁ、会社からでは無いとして。いったいぜんたい地球上の誰が俺の携帯に電話なんかしてくるんだ。えーーーと、俺の電話番号を知ってるのなんか限られてるよな。あ、そうか間違い電話。そうじゃないとこんな微妙な時間からかけてこないよなー。よし出よう。3コール鳴らして切らないのは、相当の頑固だぞ・・・で、表示は?

「黒崎」

・・・・・・間違いでは無さそうだな。

「はいもしもし?こちら佐藤の携帯になりますが」

「お、佐藤!ひさしぶり〜!俺だよ俺!分かる!?」

「顔も覚えてない親の友達か詐欺の方ですか」

「あー!それそれ!いかにも佐藤って感じ!対応甘くないんだよな!」

俺の知る限り、黒崎はこんなキャラでは無かったはず。

「え、なに。ストロングゼロでもキメたの?」

「キメちゃいねぇよ!・・・部屋の掃除してたら懐かしくなってよぅ」

えーーー、無駄にクール決め込んでた黒崎くんはどこへ・・・。でもまぁ、なんかのフシに発作的に懐かしくなったりするよな。ちょっとほっこりした。

「とすると、アルバムでも見つけたか?」

「あ、あぁ・・・まぁ、そんなところだな」

妙に歯切れが悪い。最初はテンション爆アゲだったのに。・・・探りいれるか?

「なら。アルバムのフリースペース、見たか?」

「あ、あー!見たよ見た!で、電話番号とかみんなの書いてあってな!それで懐かしくなって、そう1今よ」

「だから電話した、と」

「そうそうそう!・・・・・・そいえば、おまえ今なにしてんの?」

露骨に話題を逸らして来やがった。まぁ、いいけど。別に。

あとから散々無惨に掘り返してやろう。

「会社員」

「いや、そうじゃなくて」

「サラリーマン」

「そうでもなくて!ふつう何の会社やってるかだろ?」

「飲料」

「何の!?」

「くっくく・・・もしかしたら貴様も口にしているかもしれないな・・・」

「こわっ!?」

ついついネタに走ってしまう。黒崎は、あのころと変わらずにボケやすい、ボケをぶつけてもしっかり返してくれる安心感がある。

特に仲間内でツッコミ役に回りやすい俺としては、ありがたい存在だったことを思い出した。

「住所を寄越せば、お中元としてくれてやろう・・・」

「お、おう。期待しとくぜ」

びっくりするだろう黒崎を想像するだけで笑えてくる。さぞかし恐縮しうるだろう。上等な箱で送ってやろう。

「・・・・・・あのさ」

「なんだよ。ようやく本題か?」

「ああ」

なんでバレてんの!?とか、あのころだったら言っていただろうに。いつのまにかいくらか落ち着いてしまったらしい。ちょっと残念。

「あの子がいま、何をしているか知ってるか」

「どの子だよ」

「知ってるだろ?」

「まぁ、言わんとしている人物はわかる。けど、俺は力になれそうもない」

「そうか・・・・・・じゃあな」

「待て、切るな。いつもいつも気が早いんだよ。お前は・・・」

「あ?どういうことだよ」

「知らないことはボクにおまかせ♪と、言えば?」

「羽田か」

ぜったい今、苦い顔をしている。ニヤリと口角が上がるのがわかった。

「羽田がいま働いてる所なら知ってる。そこから先は」

「そっちに聞け、と」

「そういうこと。メアド変えてないよな?」

「あぁ。・・・よろしく」

気が進まなそうな返事。想定通りだけど。

「じゃあ切るぞ」

「またな」

「おう」

電話が切られる。果たして、黒崎はメインターゲットまでたどり着けるんだろうか。是非ともがんばってほしい。馬に蹴られそうな所行だけれど、そういう手順になってんだ。悪く思うなよ。

あ、そうだ。メールしておこう。

「黒崎のヤツ、近々そっちに現れるかもなw」

 



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BARに探偵は来る

今回、主演女優の内在テンション数値が高いため、文字含有量が多くなっております。ご注意ください。


まだ同窓会もしてないから、黒崎君とは本当に卒業ぶりになる。遊ぶ機会はそれなりにあったと思うけど、その度に彼は居なかった。どんな嘘と言い切れないタイプの、性悪な嘘をついて騙してやろうかとか考えてあったのに。それがパーになる度、ハンカチかんで悔しがる演技して来てるメンバーで笑ったっけ。ふざけ七割、ホントに悔しいの三割くらいだった。

そう、過去形だ。

佐藤君から連絡を受けたのが一週間まえ、その連絡から仕込みを速攻で準備し終わったのが五日まえ、で、幼馴染の占いによると、今日。夜七時から九時にかけて。この店に現れるとのこと。

・・・前々から薄々思ってはいたけれど、占いがあまりに具体的でこわい。しかも、めっちゃ当たるのでさらにこわい。「占い師になるの?」って聞いたら苦笑いでごまかされた。え、こわ・・・ってなった。妙に優しくされたら、今日あたり死ぬかもしれないと覚悟しないとかも。自分で考えながらも、それはやだなーって思う。かなり思う。

というか、グラス拭きながら考えごとができるようになってきたあたり、バイトに慣れてきたなと実感する。いくら親戚の店とはいえ、最初はテンぱりまくりのドッジドジだったからね。グラスさえ割らなかったものの、それ以外のドジというドジを働いたからね。四ヶ月前のことだけど、ずいぶん昔な気がしてくる。

カランコロン、お客さんの音。時計を見ると、七時半をちょっと過ぎたころ。これはもしやとお客さんに目をやる。目が合うと、その客は気まずそうに礼をした。そしてキョロキョロあたりを見回した。・・・こういう怪しいやつはたまーに来る。いつもならそれほど気にしない、が。占いが頭にちらつく。もしや、とは思いながらも、自分からは声をかけずにいよう。

その客は、花束を持たせたらプロポーズしにいく人と勘違いされそうな服装をしている。ドレスコードは突破できそうな。でもね、合ってない。なんかズレてる。着こなしとしては問題ないんだろうけど、着る人が合ってない。たぶん着慣れてないんだろう。よく言えば初々しい。靴もどうやら新しいもののようで、これから就活?って聞きたくなってしまう。

しかし、その衝動はこらえなければ・・・この客がほんとうに彼かどうか分かるまでは・・・

拭き終わったグラスをまた拭くことでどうにかポーカーフェイスを保っている。耐えろ・・・耐えろ・・・負けるな花音・・・!

「あの・・・ここに羽田さんって方が働いてるって聞いたんですけど・・・」

うわ〜〜〜ぜんぜん声変わってね〜〜!!超懐かしい。しかも知らん人にはこんなしゃべり方すんの!?マジ!?やばくない!?

と、言いたいのをどうにかこらえる。

「ハタさん?ですか?そんな名前の人は・・・」

「あ、えと、名前じゃなくて名字で!羽に田んぼの田って書いて羽田って読むんですけど!」

あの、あの黒崎が必死、必死ですよ皆さん!しかも探してんのは私!これ当時のメンバーが聞いたらぜっっったい信じないよね!だって「絶対零度より冷たい態度の黒崎」だもん!やばいよ。やばいって!

表情筋は固めたまま、胸を張った。

「・・・・・・・・・」

え、なにこの人、とでも言いたげな顔。ほれほれ、見えないのかいクールガイ。距離を詰める。

「・・・え?」

わけがわからないよ、とハテナマークを浮かべた。カウンター越しではあるが、黒崎の肩に手は届く。掴んだ。

「えあのなんなんですうわっ!?」

気付きそうもないので、背伸びして耳元にささやいた。

「な・ふ・だ」

そして手を離す。

「なっ・・・えっ・・・ええ!?お、おまえじゃん!!!」

「そうです羽田ちゃんことー、花音ちゃんでーす!」

燃え尽きたボクサーよろしく黒崎は目の前の席に座った。

「お、なんかお疲れだねー?」

「誰の、せいだよ・・・」

その額には汗が見えた。ふむ。純情なのは治ってないらしいね。安心。

「ご注文は?」

「・・・・・・おまかせで」

あ、迷ったけど何があるか分かんないし、メニュー見ても分からないから諦めたな?って、やっぱり単純だから思考読みが楽だ。私、相手の考えを読むのが得意なのは自負してるけど、これほどまでに通じるの、黒崎君ぐりなんだよねー。ホント、幼馴染とは真逆だよ・・・。足して割ったらちょうどいいくらいだから足されればいいのに。

とか思いながら、何を飲ませようか考える。・・・・・・・・・なんとかここまで来た、佐藤君に手伝ってもらった、来てるのはドレスコード、あ!舞踏会!じゃあ魔法使いは佐藤君ってことで。

「はい、どうぞ。シンデレラになります」

「お、おう・・・様になってんなぁ」

後半は聞こえないよう言ったつもりかもしれんが聞こえておるぞよ・・・まぁ、悪い気はしないけど。あ、そうそう。渡さなきゃいけないモノがあるんだった。

「こちら、王子からの預かりものになります」

「はぁ?靴なんて落としちゃいねぇぞ?・・・って予告状?」

そう、それは一枚のカードである。なんかすごい宝石持ってる大富豪の家に届きそうなグリーティング・カード。つまり怪盗の予告状だ。かなり洒落てると思う。

「・・・観てんのか?アイツ」

送り主は早々に察しがついたらしい。こんなことするの、あいつだけだもんね・・・よし。私の任務完了。で、こっからが本題。

「さて、卒業後の話を聞かせてよ」



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今度の日曜、学校の校門、午前10時

「あ、来た来た!やっほー」

「・・・あ、うん」

「来なかったらどうしようかと思ったよ〜」

「いや、さほど難しくもなかったし・・・?」

「なにが?」

「あ、うん、コッチの話。・・・俺だけか。やってくれるな・・・」

「う〜〜ん」

「どうかした?・・・しました?」

「なんか忘れてる気がする」

「そ、そうですかね!?えー、あー、・・・え、それ?でもそれは・・・」

「気付いたなら教えてほしんですけど!!」

「いや!何も気付いちゃいない!ハイ忘れた!何だったっけな〜〜」

「また顔逸らした!さてはとんでもないことに気付いたな〜?」

「・・・・・・・・・いやだって顔近いし」

「うん?ぼそぼそじゃ聞こえないぞ〜?」

「気付いたことを言えばいいんだな!?」

「そうだよ」

「笑うなよ」

「ごめん」

「せめて聞いてからにしろよ!?」

「あたしに耐えられる未来が見えない」

「ならいっそ腹筋痛めてしまえ!言うからな!」

「さぁ来い!」

 

「どんくらい待った?」

「三十分弱」

「・・・・・・・・・そうじゃなくて」

「ん?でも家出たのが九時で、歩いてここまで来たら三十分くらいだから計算あってるよね・・・?」

「時間の量は実際のところ問題ではないといいますか・・・うわー解説すんのハズい・・・」

「量じゃない・・・ならば質・・・時間の、質?密度?待ち時間の質。待った?と聞かれたら・・・あっ」

「お気づきになられたようですね・・・」

「なんかデートみたいじゃん!?」

「痛い痛いだから言いたくなかったんだよ!つーかデートじゃないならコレはなんなの!?」

「なんだろう」

「じゃあこの気取ったカードは何!?」

「それは後で天里くんに聞いてよ!!」

「あいつの連絡先しらねぇんだよ!!」

「直接聞けばいいじゃん!?」

「だからどこにいるか分かったもんじゃないんだって!!」

「・・・・・・・・・まさか黒崎くん、今日のこれからのイベントをご存じでない?」

「・・・・・・なにそれ」

「天里くんは「ハハハハハ!!クラス・リユニオンだ!」とか言ってたけど」

「マジ?」

「ちょっと嘘ついた。でもこんなことを言ってたよ」

「クラスの・・・再結成?あー、同窓会ね?」

「・・・もしかしてあたし、ミスったかな」

「何を?」

「天里くんの筋書きでは、デート気分浮かれポンチの黒崎くんが連れて来られたのがなんと同窓会!!だったんだろうね・・・」

「この俺にサプライズとは・・・舐められたものだな・・・」

「あ、なんかテンションが戻ってきたね」

「え?・・・俺こんなしゃべり方だったの」

「うん。違和感はこれかぁ!しゃべり方が普通すぎて頭の中の黒崎くんと一致しなかったんだ!」

「ひっどい言われようだな・・・あぁ、行く先でもこうなるのか。いいや、諦めよう」

「潔いのは、変わらないね」

「諦めが早いの勘違いでは?」

「そうかもね」

「・・・・・・・・・」

「あ、そうだ。黒崎くん」

 

「誰かに渡さなきゃいけないものがあるでしょ?」

 

「卒業式の日、捨てられてるの見ちゃってさ。お節介させてもらいました!なんてね。黒崎くん、すぐ諦めちゃうから」

 

「なんか見過ごしちゃいけないってピピーンッと来たのです。・・・・・・あとその時の黒崎くん、本当に遠くに行っちゃいそうで」

 

「・・・聞いてもいいかな」

 

「あの手紙、ちゃんと渡せた?」

 



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