生き残った軍人と潜水艦 (菜音)
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Again, to that sea 再びあの海へ
縮小版 (必読ではないです)



このお話は潜水艦の元となったお話です。
基本的に潜水艦の世界設定はここから来ています。
続編からはこの設定が濃くなるので色々あって消してしまった物を要約しました。
ただ、必読ではなく本文でも説明はあるので見たくない方は飛ばし貰って構いませんが、今後の新作にもこの設定が使われる予定なのでできれば存在だけは知ってて欲しいです。


 

 

 

 

世界は平和を維持していた。

 

中国と日本、アメリカなどが険悪な状況になり、再び戦争が、それも世界を巻き込む世界大戦が始まると予想されていたがどうにか話し合いで解決する事ができ事なきを得たのだった。

人同士の争いもほとんど終結し、今までにない平和な時を人類は過ごしていた。

 

 

彼らが出現するまでは・・・・・・

 

 

その年の3月にマリアナ諸島沖で行われたアメリカ、中国、オーストラリア、フィリピンの4ヵ国によるアメリカの新兵器のお披露目会も兼ねていた合同軍事演習が行われたが、これに参加していた艦隊が全て行方不明になる事件が発生した。各国は周辺諸国にも協力を得て徹底的に捜索をしたが手掛かりすら見つけることができなかった。

 

 

同年の6月に大西洋にて未確認生物が目撃された。

この事は話題になり、学者達は新種の生物の発見に喜んだりもしていた。各国はイギリスに拠点を置いて調査隊を送ったが誰一人戻って来なかった。

 

それからさらに1ヶ月後、彼らは人類に突如として攻撃を仕掛けてきた。その最初の犠牲となったのは調査隊の拠点が置かれていたイギリスだった。

 

まるで軍艦のような姿をしていることから深海悽艦と名付けられた彼らに対抗するべく各国は国連の名のもとに団結したがまるで歯が立たず人類は制海権を全て失い、各国は分断され自国の防衛だけで精一杯になってしまった。

 

欧州を襲った深海棲艦の艦隊はインド洋を制圧、アジアに侵入を始める。

 

これに対して中国を先頭にアジア諸国はアジア連合軍を結成、深海棲艦に戦いを挑み阻止を目論むがアジア連合軍は壊滅的被害を受けアジアへの侵入を許す。

 

当時日本の自衛隊はこの戦いに参戦しておらず戦力は温存されていたが、各国は壊滅的打撃を受け頼みの綱だったアメリカが本国に撤退してしまった為、日本は自力で国を守らざるを得なくなり自衛隊は国防軍へと変わり軍備を整え沖ノ島を最終防衛ラインとして深海悽艦を迎え撃ったが国防軍は惨敗、日本はシーレーンを完全に失ってしまった。

 

日本は新たに油田が発見された等で資源には困っていなかったが食糧はほぼ輸入に頼っていた為たちまち食糧不足が問題になり滅ぶのは時間の問題だった。

 

そんな絶望的な状況の中、ついに深海悽艦の艦隊が日本本土に迫り近海に残りの戦力をかき集めて最後の抵抗を試みた戦いにのぞむ、しかし戦いはすでに劣勢だった。

 

 

更に太平洋からも深海棲艦の侵略が始まる。

両方からじわりじわりと押し寄せる敵の大軍‥‥

 

 

そんな海戦の最中、

 

ある1隻の護衛艦が敵の攻撃を食らい轟沈寸前になった。この時艦橋にいた者は1人の士官を除いて全員既に息がなかった。

 

彼も覚悟を決めた。そんな時だった。

 

不思議なことが起きた。なんと目の前に小さなヒトがいたのだった。妖精とも呼ぶべき愛くるしい存在が心配そうにこちらを見てくるのだった。

 

 

当時その艦の士官だった黒瀬 凪人は自分は死に際に幻覚を見ているのだと思った。

 

すると妖精は一言喋った。「適性があります。近くにドロップを確認。」

 

黒瀬は何の事かと思ったがどうでも良かった。

 

どうせすぐに敵にトドメを刺されて終わるのだからと。

敵は口を開き魚雷を打つ構えをとった。その時だった。

突然光の玉が海から現れた。光は形を変え人の姿となりやがて1人の少女が現れた。

 

 

「いくよ!」

 

少女は一言そう言うと背中に纏う砲を敵に向かって放ち敵は断末魔を叫びながら海へ沈んでいった。

 

この一体の撃破、彼女の一声が日本、いや人類の反撃の瞬間でした。彼女の助けを借り、どうにか生還できた黒瀬は指令部に呼ばれた。

 

指令部は妖精と少女たちの事を知っていた。

彼女達は艦娘と呼ばれ過去に沈んだ船がこの世に人として生を受けた姿であり、深海悽艦に対抗できる存在だった。彼女達は妖精の力で生まれるが生を受けて力を発揮するには適性者が必要だった。

 

彼は指令部から彼女達の提督になりこの絶望的な状況を打開せよと命を受け、鎮守府が作られた。

 

手探りの状態から始まり最初は失敗が多かった鎮守府の運営も軌道に乗り、更に戦力が揃いついに日本周辺海域の制海権を奪還し、その後も次々と海域を取り返しMl、AL、FS海域を敵を制圧し、深海海域に攻め入る足場が出来上がり、苦しい戦いで犠牲を出しながらもついに敵を中枢にまで追い詰めた。

 

鎮守府は敵の抵抗が僅かながらある西方海域に哨戒艦隊と敵の反抗艦隊が来ても迎撃可能な戦力を配置した上で提督自らイザナギ艦隊と呼ばれる主力艦隊と前衛、支援艦隊を従えて決戦に望んだ。攻略艦隊から伝わる報告では敵の防衛ラインも全て攻略し、残るは敵の中枢泊地のみ、とあり勝利は目前だと確信した指令部は歓喜し、国民は彼らを英雄と讃えたのだった。

 

 

泊地への空爆が行われ敵の艦隊はほぼ壊滅状態であり、残すは中枢悽姫を叩けば終わる。

 

そう連絡が入りいよいよ長きに渡る深海悽艦との戦いに終止符が打たれる、誰しもがそう思った。再び通信が入り勝利の報告を信じていた指令部が連絡役の艦娘から聞いたのは誰も予想していない内容だった。

 

「報告します‥‥。我が艦隊は中枢悽姫の破壊に失敗、‥‥被害は甚大です。繰り返します。我が艦隊は中枢悽姫の破壊に失敗‥‥被害は甚だi‥‥」

 

ここで通信が途絶えてしまった。

 

攻略艦隊は壊滅の報と同時に西方海域に大規模な反抗部隊が進攻を開始、防衛艦隊も奮闘むなしく撃破され太平洋からも敵の巻き返しが始まり再び海は支配されていった。

 

作戦失敗により主力艦隊と提督を失った鎮守府は機能が完全に停止し、希望が絶望へと刷り変わってしまった。

 

こうして、中枢攻略作戦「終作戦」は何故失敗したのか、勝利目前で何があったのか、原因は謎に包まれ、その真相は誰にもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

中枢攻略作戦「終作戦」の失敗後、再侵略を開始した深海棲艦の魔の手は再び日本近海に迫っていた。

 

今度は艦娘を警戒してなかなか攻めてこないが鎮守府は提督不在と生き残った艦娘がほぼいない、いても重症で動けないと機能を完全に失っていた。

 

 

護衛艦ありあけの艦長の白神 衛史は提督だった黒瀬の親友であり、行方不明の友の身を案じていた。

 

 

彼は偵察任務に受け小笠原諸島南部海域を進んでいると、何やら黒いものを運ぶ敵駆逐艦を発見する。

 

 

これを敵の斥候だと捉え本部に報告するが白神は敵が運んでいるものが気になった。曳航でほとんど反撃できない駆逐艦を仕留めた白神達は敵の運んでいた黒い黛のようなものを入手、切り開いて見ると中には衰弱しきった艦娘 榛名がいたのだった。

 

彼女はかの作戦の主力、イザナギ艦隊に所属していた艦娘で彼女から詳細を聞こうとしたが、彼女はあまりに強いショックとストレスでその時の記憶を失っていた。

 

彼女を連れて本土に帰還中に敵の潜水艦の攻撃を受ける。

 

絶体絶命に陥ったが、白神に適正を認めた妖精によって艦娘 神通がドロップする。彼女の活躍により潜水艦は撃破される。

 

 

榛名を無事に連れて帰った白神達は国防軍のトップの桜田元帥に呼ばれる。そこで彼は行方不明の黒瀬の代わりに提督になって欲しいと頼まれる。国のため友の無念のために彼はありあけの部下達と共に鎮守府に着任する。

 

 

部下達の助けや榛名のサポートでどうにか鎮守府を一から立て直そうとする白神の元に緊急指令がやって来る。近海諸島に深海棲艦の艦隊が侵入してきたのだ。

 

白神達のおかげで前以て予知できていた海軍は防衛線を展開、これの支援の要請が来たのだ。

 

白神率いる新成鎮守府は参戦、敵旗艦の撃破を狙う。

しかし、その敵旗艦は深海化したイザナギ艦隊のメンバーである霧島だった。

 

 

彼女は鎮守府に榛名の引き渡しを求めた。

 

しかし、それを拒む彼女を撃破したと思ったら彼女の深海化が解けてボロボロな霧島が現れ彼女を保護した。

 

旗艦を失った深海棲艦は撤退した。

その日の晩、榛名は毎日見るあの戦いの悪夢を見るがいつもと内容が違っていた。

 

 

 

 

 

それからも各地で白神達と艦娘達は戦闘を続け海域を解放していった。その際に深海化したイザナギのメンバーが彼らを阻むが、Ml海域でイザナギ艦隊の旗艦だった蒼龍を撃破してついに再び敵中枢基地までの足場を得たのだった。

 

 

蒼龍の撃破でついに敵が執拗に榛名を狙う理由が判明した。榛名はあの戦いの最中でこの戦争の核心をつく重要な事を知ってしまった。そして、どういう訳か深海化したイザナギ艦隊がその記憶の封印を解くギミックになっていたのだった。

 

蒼龍の撃破でそれらを全て思い出したと期待したが、記憶はまだ完全ではなかった。

 

 

そんな時に日本近海で深海棲艦の通商破壊部隊が侵入しており民間の船が多数襲われていた。

 

急いで救援に向かう鎮守府、ところが敵は予想以上に多く急いで向かわせた神通の水雷戦隊だけでは持ちこたえられなかった。

 

ところが、敵は空爆によって沈められていくのだった。

はじめは味方が来たと思ったそれは正体不明の艦娘部隊による攻撃だった。

 

 

彼女達はイギリスで作られた技術を元に日本のモダニズム主義者達の組織、「同盟」が作り上げた擬似艦娘達だった。

 

 

ここでのモダニズム主義とは、深海棲艦のような過去の亡霊に現在を生きる自分達が振り回され脅かされるのはあってはならないと唱え、同じく過去の存在である艦娘も深海棲艦同様にこの世界から排除するべき存在だとしており、彼女達の手を借りずに深海棲艦と戦うべきとと主張を続けていた。

 

 

しかし、艦娘以外に対抗手段がないのにそんな事が可能ではないことは彼も分かっていた。

 

だから彼らは作り上げてしまった。

艦娘と同等のに戦える駒を。

 

 

同盟は擬似艦娘「特装兵」の装備を増産、短期間でそれを装備する少女を集め訓練したのだ。

 

その短期間訓練の内容もそうだが、集め方もとても人道的ではない。

 

彼らは政府や軍に加盟者がおり、その権力を活用した。

例えば、難民を受け入れる際に適齢の女子がいる家族は受け入れて欲しければ兵役に差し出すように強要したり、深海棲艦の攻撃によって親をなくした孤児など施設に入れると称したのだ。

 

難民や孤児ならいくらでもいる。

それが彼等の考えだった。

 

 

鎮守府の奮闘によってできた時間を使いこれだけの準備を整えた彼らは今回の戦闘でテストが完了したため、次の計画へと策を始めた。

 

 

襲撃から少しして、白神達は榛名が思い出した情報を共に行動を開始していた。

 

彼女によれば中枢で戦った中枢棲姫はギミックによって守られていたのだ。そして、こちらの情報は敵に筒抜けになっていて伏兵が用意されていたのだ。

 

敵は中枢棲姫が倒されない事を利用してあえてこちらを中まで誘い込んで伏せていた艦隊が退路を塞いだ。

 

それ同時に提督を乗せた指揮艦と護衛部隊を強襲したのだ。戻ろうにも退路は既になく、敵の援軍も現れて挟まれてしまった。これがあの戦いの真相だった。

 

なぜ情報が漏れていたのかなどまだ分からないことはあるがそれは一旦棚に置かれた。

 

 

榛名は中枢棲姫を守るギミックの存在、そして、その場所を知ってしまった。だから敵は榛名を奪い返そうとした。この情報を便りに鎮守府は三ヶ所の海域に向かった。それら海域はかつて黒瀬が轟沈させてしまった艦娘が怨霊となっていた。

 

 

そして、最後の海域、AL海域最深部にて現れた夕立の亡霊を倒した時、その存在の消滅の際に彼女の意識が戻った。

 

彼女は自分を倒してくれた事に礼を述べると彼女達に最後の願いを言い残し消えていった。

 

「お願い‥‥あの子を、助けて。そして伝えて。ゴメンなさい、でも提督さんを許してあげてね、そして自分自身もねって‥‥」

 

 

最後に、夕立は深海棲艦は沈んだ3人の提督や仲間を思う気持ちを利用することで姫を守るギミックを成していたと言い残すと静かに消えていった。

 

これを聞いた白神達はこの時点でその意味がわからなかった。

 

 

そののち、白神は榛名などの主だった者を連れて太平洋に浮かぶ孤島に向かった。

 

この時、彼らは周辺を固めた後、いよいよ深海棲艦が本格支配している海域に突撃するつもりだった。この孤島はそのための基地を建設中だった。

 

 

 

しかし、その道中で嵐にあい白神と榛名、神通など数名を乗せた船が他の船達とはぐれてしまった。

 

 

そのはぐれた先で白神達は深海棲艦の艦隊に出くわして戦闘態勢に入ろうとしたが、様子が変だった。

 

彼女らは戦闘の意志がないことを示し、白神と艦隊旗艦の深海海月姫と対話した。そして、その席まさかの行方不明の黒瀬が姿を現した。

 

あの戦いで敵に囚われていた所を海月姫に匿われていたらしい。

 

深海海月姫によると、深海棲艦は人間との最終決戦を行い残らず殲滅するべしとする強硬派とそこまでしたくない穏健派で別れていた。

 

彼女はどちらでもない中立派であり、ある事情で黒瀬に手を貸していた。その事情とは、黒瀬の仕掛けたあの作戦はかなり前から情報が漏洩しており、強硬派はそれを利用し、自分達の立場を高めたのだ。

 

 

実は中枢棲姫は平和主義であまり戦いを長引かせたくなかった。しかし、それを快く思わない強硬派はあえて前線を手薄にして黒瀬達に攻めさせて中枢棲姫の首元までその刃を差し向けたのだ。

 

いくら優しい人でも首に刃物を向けられて穏便に済ませられる人はいない。例え本人が許しても回りの忠臣達は黙っていなかった。

 

これを受けた中枢棲姫は強硬派に戦闘に関する全権を与え戦いを容認してしまった。穏健派は隅にやられ発言力はなくなってしまったのだ。

 

そして、強硬派はある存在から情報提供を受けて恐ろしい兵器を作り上げていたのだった。

 

 

超ドーラ砲

 

 

かの列車砲が島サイズになった島丸ごとを1つの巨砲にしたもので、原子力をエネルギーにして発射するこの攻撃は太平洋全域はもちろん、大陸内部までを捉える常識が通じない兵器だった。

 

その建造は今まさに佳境にあり、完成すれば中枢基地の攻略はまず不可能になり、人類に勝ち目はなくなってしまう。

 

 

しかし、深海海月姫は原子力を使う事と姫を蔑ろにされたことに我慢ができなかった。

 

 

こんなとんでも兵器を作れる存在など彼女らしかいない。そう、妖精さんだ。

 

一方で黒瀬も方も作戦の前からある案件を追っていた。

同盟がイギリスなどと手を組み何かを企んでいることやそれにある妖精が関わっているではないかと。

 

 

二人の持つ情報とその後の深海側での調べでついにこの戦いを元凶を突き止める事ができたのだった。

 

 

「黒い妖精」と呼ばれる妖精さん達がこの戦争を引き起こしたと言っても過言ではないと黒瀬は言った。

 

彼女らはイギリスをはじめとする国々に海底での資源開発を行える最新技術を与え、さらに最も掘れる場所を教えた。

 

しかし、それらの海は数多の怨念、深海棲艦が眠る場所でもあった。海底環境を滅茶苦茶にされ目を覚ました深海棲艦は元々持つ人間への憎悪で人間を襲いはじめる。

 

やがて人間側も抵抗しはじめそれが更に彼等の憎悪を増していった。

 

これを見た他の妖精さん達は慌てて対抗手段を用意しようとしたのが艦娘だった。

 

 

黒い妖精もイギリスに擬似艦娘の技術を与えていた。イギリスの研究機関が細々とその研究が続いていた。

 

そして、今度は同盟に手を貸している。

 

 

黒い妖精の目的は人間と深海棲艦がどちらかが、いや両方が潰れるまで戦わせそれを高みの見物をする事だった。

 

 

この事実を知った白神達は急ぎ仲間と合流して日本に戻ると事態は急変していた。

 

 

なんと桜田元帥が暗殺されかけ行方不明に、更に海軍の指揮権を同盟の党首の萩原に奪われてしまった。

 

萩原は鎮守府を封鎖する事を宣言し、勝手に動いたものを軍規違反で反逆者とするとした。

 

 

萩原は白神達がギミックや下準備を終えるのを待っていて、更に戦いの準備を整えていた。

 

黒い妖精から得た情報で超ドーラ砲がハワイの近くにある事や中枢棲姫が視察に来ることを知っていた。

 

 

これを完成する前に、更に中枢棲姫も一緒に始末しようと画策した。

 

しかし、流石に同盟も特装兵を数を揃えただけで中枢を落とせるとは考えていなかった。数は膨大だが、空母が数艦と後は巡洋艦と駆逐艦がほとんどだったのだ。

 

 

だが切り札として同盟側も黒い妖精からで技術提供で艦娘の艦搭機に配備できるサイズの小型原爆を作ってしまったのである。

 

 

この事態に白神達は陸軍大将濱崎がいざと言うときの為に桜田元帥から預かっていた言付けを白神に渡す。それを貰い鎮守府の地下の秘密施設の存在を知る。そこには終作戦で黒瀬が作った指揮艦、艦娘母艦の二番艦が泊められていた。

 

それに白神と部下達、そして榛名や艦娘達乗り込み封鎖された鎮守府を脱出する。またその際にかつて白神が艦長だった護衛艦ありあけも軍から抜け出して合流した。

 

 

脱出した彼等が向かったのは嵐のため行けなかった孤島の基地だった。まだ建設中であるため奴等に利用されず放置されているらしい。さらそこに黒瀬と海月姫やその配下や今の上層についていけない深海棲艦が集まった。

 

 

日本のいる知り合いからの情報で日本艦隊が出撃したと報が入った。全戦力が前線基地に集結を始めているようだ。一方で深海棲艦側もこの動きを察知して前衛を展開、艦隊が集まりつつあるらしい。

 

しかし、これも強硬派の策謀だった。

強硬派のリーダーの戦艦水鬼はここでわざと人間に中枢棲姫を倒させるつもりだ。

 

彼女を死なせて自分が主導権を握る。そして姫が殺されたとなれば例え穏健派でさえもはや黙っていない。深海棲艦が一丸となって人類に憎しみを抱き攻め滅ぼす。

 

 

じわじわと迫る決戦の時

 

白神達はこの戦いに介入し、黒い妖精達の企てを阻止することに決めた。

 

 

超ドーラ砲が破壊されなければ人類に未来はない。

 

中枢棲姫を倒されたら終わりなき戦いが始まる。

 

 

こんなシナリオを止めるためには中枢棲姫を国防軍からも深海棲艦からも守るしかない。

 

平和主義である彼女を守り強硬派の戦艦水鬼を倒し、超ドーラ砲を破壊し、なおかつ特装兵の機動部隊を叩き原爆を使わせない。

 

 

無勢の白神 黒瀬達に厳しい戦いになりそうである。

 

 

 

 

 

 

 

大戦に向け準備を進める最中に彼等の基地が攻撃を受けたのだった。攻めて来たのは強硬派の深海棲艦の艦隊である。

 

 

これを榛名・神通の艦隊が迎撃に出た。

 

その敵艦隊を指揮していたのはなんと黒瀬の初期艦にしてケッコン艦である真のイザナギ艦隊旗艦である深海化した時雨だった。

 

 

駆逐聖姫と名乗る彼女は恐ろしく強く榛名達でさえ太刀打ちができなかった。しかし黒瀬の存在を知ると彼女は退却していった。

 

 

2つの勢力は遂に衝突した。

 

特装兵部隊は深海側の前衛を突破して超ドーラ砲を目指すが超ドーラ砲の砲身がそちらを向いていた。味方がまだいるにも関わらず砲を発射、突撃していた艦隊が一瞬にして薙ぎ払われた。この一撃で突撃した部隊は全滅、後ろの備えも損害を受ける。

 

その惨劇を見た萩原は恐怖に駆られ遂に原爆部隊に攻撃命令を出した。

 

 

白神達はこの乱戦に既に紛れていて、遠くに待機する空母機動部隊を発見する。原爆を搭載した爆撃機を運用する空母特装兵達とそれを死守する機動部隊だ。

 

この機動部隊は本土近海で見たあの艦隊だ。

 

旗艦のイラストリアは艦娘に恨みを持つ少女である。

 

「あなた達なんていなければ!!」

 

翔鶴を旗艦とする機動部隊が攻撃を開始する。

それに応戦し、敵機動部隊も発艦を開始する。

 

激しい航空戦に勝ったのは翔鶴達だった。

神通と配下の水雷戦隊が肉薄する。

 

「行きますよ!」

 

「くっ!み、みんな!イラストリアさんを守って!」

 

 

敵旗艦のイラストリアを守ろうと護衛の駆逐艦が応戦するが撃破される。

 

その敵駆逐艦を見て艦娘達は胸を痛めた。

 

彼女らは本来は自分達が守るべき者、あるいは守っていた者達でした。イラストリアのような者はむしろ少数である。中には見覚えのある子もいて必死で旗艦を守るその子を倒した神通の隊の駆逐艦達は苦しさで胸を押さえ、中には倒した敵を抱えて泣き崩れる者もいた。

 

そのまま空母を攻撃、敵の爆撃機を一機足りとも飛ばせなかった。

 

 

その頃白神は榛名やわずかな手勢のみを連れて島への上陸を試みようとしていた。

 

ここで再び駆逐聖姫が立ち塞がった。

 

しかし、彼女の相手は黒瀬が引き受けたのだった。黒瀬は海月姫と配下の艦隊を使い駆逐聖姫と戦うことになってしまった。

 

 

確かに駆逐聖姫は強かったが黒瀬の指揮された艦隊はどうにか渡り合えていた。

 

そして、ようやく彼女を轟沈寸前までに追い詰めた。

そんな彼女を嘲笑うかの如く戦艦水鬼が現れた。

 

 

戦艦水鬼は得意気にこれまでの事をしゃべり始めた。あの作戦で情報を漏らしたのは時雨だったようだ。

 

彼女は前の戦いで僚艦の夕立を失ったのだ。

それを提督である黒瀬は悔いた。

 

自分の失敗で嫁の姉妹を沈めてしまったと、しかし、時雨は彼を責めなかった。むしろ夕立が沈んだのも提督がそれで苦しんでるのも全て自分のせいだと思い始めた。

 

あの時一番近くにいたのに

 

あの時一番助けられる位置にいたのに

 

今提督が苦しんで自分に負い目を感じているのは自分のせいだ

 

 

 

この自責は日々念が強くなり、姉妹を失った喪失感も合わさり彼女の苦しみはより強いものとなった。

 

またこの時に時雨はある事実を知ってしまった。

 

もし深海棲艦が滅び戦争が終われば艦娘はこの世に存在できなくなる。

 

これは戦争が終われば提督とも永遠に会えなくなる事を意味し、夕立を失ったばかりの時雨にはとても耐えられないものだった。そこにつけこんで時雨に取引を仕掛けてきたのが戦艦水鬼だった。

 

 

彼女は時雨に終作戦の情報を教え協力する代わりに提督の命を保証し、夕立を生き返らせると言ったのだった。

 

夕立と提督とまた一緒にいられる世界の為に、時雨はこの誘いに、悪魔の誘惑に乗ってしまった。彼女はイザナギの旗艦を駆逐艦である事を理由に蒼龍に引き継ぎ自分は提督の護衛部隊の指揮を取った。いとも簡単に護衛部隊が狙われたのは彼女が手引きしたからである。

 

 

しかし、戦艦水鬼は約束通りに黒瀬の命を取らなかったが生かして幽閉することで駆逐聖姫となった時雨を従わせる事にした。

 

更に夕立を生き返らせる件も自我のない怨霊として深海棲艦となり利用されていたこと、そして、彼女が消え行く際に言った言葉を駆逐聖姫、時雨に伝えると彼女は泣き崩れた。

 

そして、黒瀬や夕立達、そして彼女の裏切りによって死んだ仲間達へ

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい‥‥‥‥」

 

 

「ふははは!そんな約束を信じたの?全て貴方を使う為のデマカセに決まってるでしょう?」

 

「オノレ!!」

 

駆逐聖姫は戦艦水鬼に飛び掛かった。

 

 

「ふん、万全な貴方が相手なら負けたでしょうね。でも。」

 

「ぐはっ!」

 

「手負いの貴方が勝てると思って?」

 

「時雨!!」

 

駆逐聖姫が宙を舞うのを見て黒瀬は艦から飛び降りる。

そして、海へと落ちる駆逐聖姫の元まで泳いでいく。

 

「時雨!時雨!時雨!」

 

「テイ‥トク、ごめんなさ‥」

 

「なら丁度いいわ。貴方ももう用がないから消えて頂戴。」

 

 

戦艦水鬼は主砲を構える。

しかし、戦艦水鬼の艤装が突然爆発した。

 

彼女を襲ったのはこれまで意識がなかったイザナギのメンバー達だった。

 

自分達の提督と旗艦も守る為戦艦水鬼の前に立つ。

 

イザナギ艦隊の実力の前に流石の戦艦水鬼も勝ち目がなく深海へと消えた。

 

戦艦水鬼を仕留めたが既に駆逐聖姫のダメージは限界を超えていた。彼女は最愛の提督と最も深い絆に結ばれた仲間を裏切った事を謝罪し、許されると静かに笑い、みんなに見守なれながら消滅した。

 

 

 

戦場は最終局面を迎えていた。

 

日本国防軍は切り札の機動部隊と原爆部隊を潰され、深海棲艦も仕切っていた強硬派の姫が次々と打たれていた。

 

決め手にかけた両者は遂に奥の手を使いはじめる。

 

 

白神達は島の港湾施設へと侵入した。そこには深海棲艦の長たる中枢棲姫が鎮座している。

 

 

白神は榛名達と共に中へ入ろうとするが、島を破壊するために国防軍が繰り出したネオ・ネルソンと深海棲艦が侵入者を一掃するために封印をといたレ級flagship改が現れた。この二人は激突を始めたが互いに暴走をはじめる。

 

 

榛名達が食い止める隙に白神達は施設に侵入、中枢棲姫と会うことに成功する。

 

 

中枢棲姫にこの戦いを終わらせる意識がある事を知った白神は彼女との対論の末、この戦闘を静めた後に停戦を宣言する事を誓った。

 

 

その後、榛名達は深海棲艦と共闘の末にネオ・ネルソンとレ級flagship改を押さえ込み、超ドーラ砲を自爆させその威力で2艦を撃破することができた。

 

 

それとほど同時に逃げだそうとしていた黒い妖精達は他の妖精さん達にお縄になっており、萩原ら同盟の重鎮が乗る旗艦は海月姫達により沈められた。

 

 

それぞれの戦いを扇動していた者が打たれ、深海棲艦は中枢棲姫から、国防軍は生きていた桜田元帥が生還し、それぞれの軍に停戦を命令、これにより両軍は戦闘行為を停止、退却を開始した。

 

 

白神達も鎮守府に帰還。

 

白神達や軍を離脱したありあけ乗組員の処分はなく、むしろ反逆者である同盟を止めた事に元帥自ら感謝を述べにやってきたほどだった。

 

一部情報が伏せられて深海棲艦との戦争の終わりが国民に伝えられた。鎮守府はその立役者として報じられ、人々は彼等を英雄と呼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後

 

陸軍の雪村大佐の活躍もあり停戦・講和会議も無事に成功し、これで遂に日本と深海棲艦の長い戦いに終止符を打った。と思いきやも、

 

 

ところがそうも簡単ではなく、はぐれや強硬派の残党が停戦命令を無視していた。鎮守府の戦いはもうしばらく終わりそうにない。

 

黒瀬が戻ったことで提督をどうするか問題になったが黒瀬には新たに佐世保に作る鎮守府の提督となり、イザナギ艦隊やかつての所属艦娘達と共に着任した。次の主な戦場が西になる事を見越してのことだった。

 

しかし、榛名だけは黒瀬の許しも得て正式に白神の元に配属になった。榛名が珍しく我が儘を言って残ったらしい。それからも彼女は白神の秘書艦を続けた。停戦から一年後に、

 

 

「ケッコンして下さい!」

 

「はい!喜んで!」

 

 

 

 

 

 

 



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本編
あの再開から‥‥ 1日目




お待たせしました。(誰も待ってない)
待望の続編です。(だから誰も望んでないよ)

ブレイカー925様!ありがとう♪


 

 

 

長きに渡る人類(艦娘)と深海棲艦との戦争が遂に終息

 

 

それに伴って交わされた人類と深海棲艦の公約には以下のような事が明記されている。

 

 

深海棲艦は破壊活動を停止。占領している海域の解放、撤退する事。

 

人類は上の要求をするにあたり一部の島、海域の占領権を認める事。

 

人類は海底における採掘作業を全て停止。施設を放棄、撤退する事。それに伴って深海棲艦は海底資源を人類に対して取引する事。ただし取引の内容はその国家と深海棲艦の群体ごとによって取り決められる。

 

 

これ以外にも文章はあるが主要なものはこれらであろう。

 

 

元々深海棲艦が人類に宣戦布告した理由は様々あるがその中でも大部分を占めていたのは人類が海底に手を出した事にある。

 

 

日本が資源を自国で賄えるようになったように近年になってから新たな採掘技術が開発されてこれまで手を出せなかった深海まで採掘を行えるようになり先進国はどこも深海開発に乗り出したのである。

 

その中でも最大級の深海開発基地を有していたのが深海棲艦が初めて攻撃を加えたイギリスというわけである。

 

 

まぁ、詳しいことは"今の私"には関係無い。

 

 

 

この公約により各国は採掘基地を次々と放棄し始めている。勿論、日本も例外ではない。

 

 

この島は資源開発の拠点として機能していたがこれにより撤退、そうなるとこの島に帰る理由もなくなり再びこの島は無人島になってしまいました。

 

 

「となるとこの島はこのままなんだよね‥‥」

 

「何ぼやいてるのマスター?」

 

 

私は思わず思っていた事が口に出ていたようです。

それを聞いていたカナがどうしたのって顔をしています。

 

 

溜まっていた休暇を使って戻ってきた例の島。

 

そこで奇跡的にカナと再会できた私は海猫荘でこれまでの事を話していた。

 

折角ここを買ったものの人が帰ってこないのでは今までと何も変わらない。

 

 

 

「いっそのことこの島買おうか?」

 

「そんな財力あるの?」

 

流石にないです。

 

 

「えへへ♪マスター♪」

 

「おおっと!」

 

先程からこんな感じです。

カナは思い出したように飛び付いては腕に抱きついて顔をスリスリしてきます。

 

「この~」

 

「きゃあ~♪」

 

そして、私が御返しにと頭をなで回してやってカナが幸せそうな顔をする。

 

スリスリだけでも私のゲージにダメージが貯まるのにこのカナの撫でられた時のお顔ですよ!

 

可愛い過ぎて折角戦争に生き残ったのに死んじゃいますよ私が!!!

 

 

 

 

 

カナはさっき港で再会してからずっとこの調子です。

甘えエンジンが全回転です。

 

まるでこの数年の空白を埋めるかの勢いで、だから私も全力で相手します。

 

「マスター♪マスター♪マス‥‥」

 

あれ?

カナが突然止まった?

 

「マスタ~うわわわん!」

 

「えっ、突然どうした!?」

 

先程まで笑顔だったカナが突然ダムが決壊したかのように泣き始めた。

 

 

「どうしたの!?」

 

私は必死に彼女をあやそうとする。

何がいけなかったのだろう?

 

まさか撫ですぎた!?

 

撫ですぎて痛かったの?!

 

 

「ぐすっ、違うよ、ぐすっ、マスター」

 

私があまりに慌てるのでカナが気を使って泣き止んでしまった。ああ、やっぱりこの子はいい子だなぁ‥‥

 

 

「カナがね、泣いちゃったのはね、マスターとまたこうして過ごせるのが嬉しくてね」

 

 

それからカナの話が続きました。

 

 

彼女は艦隊に合流した後、

 

 

他の3人とはすぐに別々になってしまったらしい。周りは知らないモノばかり、彼女が最初に任された任務はどこかの国の輸送船を沈める事だった。

 

 

そこで彼女はマスターに訓練されただけあって他の個体よりずば抜けていて多くの戦果をあげたらしい。それがきっかけとなり今度は日本近海の通商破壊を命じられる。

 

日本近海だともしかしたらあの人が乗っているかもしれない。艦娘が出てくるかもしれない。

 

あの人を殺すかもしれない葛藤と得体の知れない敵への恐怖に耐える日々だった。

 

 

任務の中でも仲の良い人もできたらしい、けれど彼女も艦娘に倒されてしまった。自分も追い詰められて轟沈しかけた時もあったらしい。

 

しかし、それでも軍人に会いたい。

みんなでまた再会してあの頃みたいになりたい。

 

その一心で必死に堪えて

 

 

そして、軍人の言った「生き残れ」

 

その言葉を唯一の励み、希望にして死地を乗り越えてきた。

 

 

 

 

 

 

あれから永遠と思えるほどの長い間、彼女は戦い続けた。そんなこんなで必死に生き残った彼女は、心は磨り減っていて、気付けば『カ級flagship改』と呼ばれる常軌を逸脱した存在になっていた。

 

もはやただ"希望"にすがり付いて戦う戦闘マシンとなりかけていた彼女の元に届いたのは、

 

 

『全潜水艦隊は直ちに戦闘行為を停止せよ』

 

 

これまでになかったタイプの命令。

 

 

命令通りに待機している時に姫様から聞いたのは、

 

「人間との戦争も終りよ。それ解散~」

 

 

 

それからの事はあまり覚えていない

 

あまりに信じられない事で、永すぎてもはや忘れかけていた事でどう反応すれば良いのか分からなかった。

 

気付けば体は動いていてあの懐かしい港が見えていた。

 

 

彼女はそれでようやく実感が沸いたらしい。

 

 

これでようやく会える!

 

そう思うと嬉しさで全身が燃えるように熱く、目からハイドロカノンが飛び出るほどだった。

 

しかし、同時に考えてしまう。

 

 

どうやって会うの?

何も知らない自分が日本に行ってあの人を見つけられるのか?無理だ‥‥不可能に近い‥‥

 

 

そんなマイナス思考に陥ってとりあえず上がって休もうと決めて登った先に見覚えのある背中が見えた時の心境は世界で一番幸運に愛された深海棲艦は自分だと思えてしまえるほどだった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

そんなこんなで再会を果たしたカナはこれまで我慢していた事が私に甘えている間にも膨れ上がってきて爆発しちゃったらしいです。

 

 

「わ、私‥‥ぐすっ、頑張ったんだよ‥‥。いっぱいいっぱい頑張ったんだよ‥‥」

 

「そっか‥‥偉いな‥‥」

 

私はカナをそっと抱き寄せて抱き締める。

カナは私の腕の中で泣き続けた。

 

 

(この子は本当に偉いな‥‥、それに比べて私なんて)

 

私は生きた研究資料として生かされていたのだ。

あの戦争で死ぬような思いを1つもしていない。

 

だから、この子の苦労が計りきれない。

 

だからこそ、私はこの子にはこれ以上辛い思いはさせない。幸せにしてみせる。

 

私はここに新たな決意を固めるのだった。

 

 

 

 

それからして、カナは泣きつかれて寝てしまいました。

 

それでももう離れないと意思の現れか、手はずっと私の手を握ったままだった。これでは動いたら起こしてしまいますね‥‥

 

 

「ふふ♪」

 

私はそっと彼女の寝顔を撫でた。

どのみち今晩は付きっきりのつもりだからいいけれど。

 

 

 

 

 

カナは無事だった。

 

「ソラ‥‥マシロ‥‥。お前達は無事なのか?」

 

 

 

 

 

カナがこうして無事に帰ってきてくれた。ならば、彼女達も生き残ってくれてるはず、そう思い込む事にした。

 

しかし、それでも私はまだ帰らぬ二人の娘の安否が気掛かりでならなかった。

 

 

 

 

 

 





こんにちは菜音です♪
前作の続きとしてほのぼの要素の少ない物をお贈りします。ただし、今後の方針によってはほのぼの、甘々な展開に持ってくかもなので期待しないで下さい。

潜水艦なので58にしたつもりはないです


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嘆く軍人、変身するカナ 2日目



CB様、誤字報告ありがとうございます!
また、早速感想を下った方々本当に有難い御言葉感謝します。



 

 

 

翌日から私とカナは海猫荘の大掃除をした。

 

 

今まで1人でやっていたけど1人増えただけでも大違い、作業効率は上がり数年に渡って溜まった汚れや埃がみるみる消えていく。

 

 

掃除をしていると昔みんなで暮らしていた時の思い出が出てきたりなど思ったよりも楽しいものです。

 

 

カナが高い所の窓を拭こうとして届かなくて必死にジャンプしたり、

 

(あまりに必死で可愛いのでしばらく見ていたが台を出してあげた)

 

 

かつて作ったボールプール部屋を掃除しようと思ったら中からカナが飛び出てきたり、

 

(びっくりして尻餅をつきました)

 

 

などと楽しくやっていると、

 

 

 

「これは‥‥」

 

忘れもしないあの決断を下した日

 

 

その前日までソラがもふもふしていた亀のクッションだ。ここはソラの為に作ったもふもふ部屋。

 

彼女はほぼ毎日この部屋でもふってました。

 

 

 

そして、そんなソラを外に連れ出していくのがマシロだったと‥‥

 

 

 

私は無自覚で泣いていた。

 

 

ここに至るまでの掃除でもあの二人との思い出が甦る事がしばしばありました。それでも一番あの二人の印象が強いこの部屋に数年ぶりに足を踏み入れた事によって、この部屋にいるはずのヌシがいない事に何とも言い難い寂しさを覚えてしまった。

 

 

 

「ソラ‥‥、マシロ‥‥。」

 

 

私はあの二人は無事だと信じている。

しかし、それと心配なのは別である。

 

どうにかしてあの二人の安否を確かめたい、出来ることなら今すぐにでも探しに行きたい。しかし、現実問題それは無理な話である。

 

 

深海棲艦との戦争が終わったとは言えまだそんなに経っていないこんな時期に軍属の人間が国外に行くなど出来ない。地域によってはまだ散発的に小競り合いが起きている地域もあるのだ。危険度が高い。

 

危険なのは覚悟はできている。だがもし仮に海外に出ても費用がない、それに少しなら情報のあるマシロならまだしも全く情報も手掛かり無しに出ても同じ個体が存在する深海棲艦から自力で見つけるなど不可能に近い。

 

 

職務、安全性、費用、情報

 

 

これらの問題を解決しなければどうにもならない。

 

私は無力だ‥‥

 

こんな自分が嫌になる。そもそも私に力があればあの時別れずに済んだかもしれないのだ。

 

 

「マスターこっち終わったよ?マスター?」

 

隣の部屋を任せていたカナが様子を見に来たようだ。

いけないいけない。どうやら相当長い間停止していたようだ。

 

「ごめんカナ。こっちはまだ終わってない‥‥」

 

「しょうがないな~♪手伝ってあげる♪」

 

こうしてカナと二人で掃除を済ませた。

その間軍人の顔は終始笑顔だったが内心は何も出来ない事に対して嘆いていた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

それからしばらく島でカナと二人っきりで過ごしていたが二人が現れる事はなかった。

 

 

私はそろそろ休暇が終わるので日本本土に戻らないといけない。

 

最初はカナをここに残すことも考えたがカナが、

 

「い~や!マスターと離れたくない!」

 

と、珍しく駄々をこねるので一緒に帰る事にしました。

 

 

しかし、深海棲艦の彼女を堂々と連れて行くわけにもいかないので‥‥

 

「可愛い‥‥」

 

あまりに可愛いので口を押さえて堪えています。

これが親馬鹿というものかな?

 

 

 

 

服装は白と黒のロングスカートに青いパンプスを着せて上に白いミニコートを着せてみました。長い黒髪はストレートのままでも捨てがたいのですがばれにくくするため編んでみました。

 

まぁ、そもそもの話ですが

 

艦娘は常に潮風に当たったり、海水を浴びたりする為髪が傷んでいたり、匂いが取れなかったりする。

 

なので見る人が見れば一目で艦娘とわかったりするものだ。それが深海棲艦ともなればバレバレかもしれない。

 

なので常に帽子を被っててもらう。

 

 

元々見てくれは他のカ級とは比べ物にはならないし、服装もバッチリ、折角の黒髪を隠すのは忍びないが念のため帽子で隠して変身完了!

 

 

それこそ艦娘にでも睨まれない限りばれないはず!

 

 

 

 

そう思ってた私にいきなりの試練が待っているのだった。

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥」あせあせ

 

「‥‥‥‥」びくびく

 

 

「美琴さん!お久しぶりですわ」

 

 

日本本土の港。神戸港に降りた私達を待っていたのはいきなりの艦娘、しかも顔見知りのと再会だった。

 

 

彼女は重巡洋艦の熊野です。

そういえば、航空巡洋艦とかになったとか‥‥

 

 

私は国防陸軍と鎮守府の仲を円滑にする為にコミュニケーションを取るという仕事をしていてよく鎮守府には足を運んではお喋りをしたり、カウンセラーを頼まれたりと色々関わっていて何人かよく話す子が出来て彼女もその1人である。

 

 

「き、奇遇だね~、ここで会うなんて!」

 

私はカナを後ろに隠した。

 

「そうですわね。今日はたまたま用事で来てましたの」

 

「そ、そうなんだ~」

 

ここは鎮守府のある呉に近いからなぁ‥‥

何か用頑張ってあって来ている子がいてもおかしくないか‥‥

 

 

「最近お見かけしませんけど、美琴さんは今までどちらに?」

 

「ええっと、休暇で南の方の島に‥‥」

 

あっ、これ世間話を続けてから切り上げてからのさよならまで持ってけば私の後ろに隠れているカナの事に触れずにいけるのでは?

 

「南の島?!バカンスですか?うらやましいですわ!」

 

よし!いける!

 

 

 

「ところで後ろの子は美琴さんのお子さんか何かですの?」

 

5秒と持たずにアウトか‥‥

 

 

「貴女確かまだ独身と伺ってましたけど?」

 

「ええっと‥‥」

 

不味いのであります!

普段この子こんなに鋭く無いのにどうして今日に限って~!!

 

 

「はじめまして!私はカ‥‥加奈子って言います!」

 

私が窮地に立ってると今まで後ろに隠れていたカナが出て来て喋り始めました。

 

 

「えっ?」

 

「あら!加奈子ちゃんと言うの?私は熊野と言いますわ。よろしくね」

 

「うん♪よろしく」

カナスマイル♪

 

「それで加奈子ちゃんは‥‥」

 

「私はねぇ。マ‥‥、ママに拾われたの!」

今マスターって言いかけた‥‥

 

「ひ、拾われた?!」

 

「私、両親が亡くなっちゃって‥‥1人だったのをママに拾ってもらったんだ!」

 

「まあ!加奈子ちゃんは戦争孤児なの?大変でしたわね‥‥」

 

あ、熊野が泣き出した。

 

「うん、だけどね。今はママのおかげで寂しくないよ?」

 

「そうなの‥‥」

 

えーっと?なにこれ?

 

 

「美琴さん!」

 

「は、ハイ!」

 

「この子の事、大切にしてあげてね‥‥それでは‥‥」

 

熊野はそれだけ言うと涙をハンカチで拭きながら去っていきました。

 

 

 

「‥‥‥‥カナ?」

 

「マスター!やりました」どや!

 

 

なにやっちゃってくれましたの?この子は?

 

 

即席にしては中々良い作り話に名演技

(あながち嘘ではないし実際に私の子供のつもりだからフリでもないけど‥‥)

 

 

悪い子だな‥‥

 

 

「まぁ、おかげで助かった‥‥」

 

でも偽名を名乗る必要まであったかな?

まぁ念には念を入れてかね‥‥

 

 

娘の成長ぶりを見せつけられる形になり、いきなりの試練を無事に乗り越えた私達は他の知り合いに出会す前に先を急ぐことにした。

 

 

 

「ところでカナ?今更だけど、どうして私の事をマスターって呼ぶの?」

 

「うん?ママって呼んでもいいよ♪」

 

「えっ!ほんと‥‥」

 

ここで私の言葉は止まってしまう。

考えてもみろ、こんな可愛い娘にママと呼んでもらえるなんて最高だと思うが逆にキュンと来すぎて死ぬような気がしないでもない。

 

だから‥‥

 

 

「やっぱり今のままでもいいかな‥‥」

 

 

少しは自重しておこうかな。

 

 

「ふ~ん♪そっか‥‥」

 

(実はママって呼ぶのちょっと恥ずかしいだけと言えないよね‥‥)

 

軍人の判断にほっとするカナであった。

 

 

 

 

 





前作のあとがきの後から欲求不満の子がうるさいです。
どうします?



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問題オールクリア 3日目

カナ養分の少ない話




 

 

 

 

私達が神戸に来たのには理由がある。

陸軍の司令部に向かわなければならないのだ。

 

 

国防軍が創立した際、その共通の指令部が東京を置かれていた。しかし、同じ所に陸海両方の最高司令所を置くのは危険かもしれないと言う事で、東京の指令部はそのまま残して陸海でそれぞれの本拠地を作る事にしたのだ。

 

 

海軍は神奈川の横須賀に、陸軍は京都の桂にそれぞれの司令部を設置した。

 

ちなみにこの司令部がごっちゃにならないようにする為に東京にあるものを指令部、陸海それぞれのを司令部と書くようになったとか、余計にわかりづらい。

 

 

 

 

陸軍が桂を拠点に選んだのには色々と理由があるとされている。

 

例えば、ここからなら日本海に睨みを効かせられて、大阪や神戸などの西日本の大都市にも近くいざという時に守りやすいとか、

 

横須賀と離すのが目的で深い意味は無いとか色々言われています。

 

とどのつまり、詳しい理由は末端の私は知らないです。

 

 

 

 

まずは神戸から電車に乗って京都へ向かいます。

カナは初めての電車に大盛り上がりです。

 

 

出来ればこのまま京都に着いたら観光でもしてカナを楽しませてあげたいけど、休みが終わったらすぐに出頭するように厳命されてるから無理です。

 

 

 

 

 

私は桂基地の近場に部屋を借りて暮らしているのでとりあえずはそこにカナを置いてから向かう事にした。

 

 

「それじゃあ行ってくる。多分今日はそんなにかからないと思うから帰ってきたらどこか外に食べに行こうか」

 

「う、うん。早く帰ってきてね‥‥」

 

 

カナは少し心配そうだ。

まぁ、確かにいきなり知らない場所で1人にされたら恐いよね。ましてやついこの前まで戦争していた相手の真っ只中なのだから。

 

 

「早く、帰ってね‥‥」

 

そう言ってカナは私の服の裾を離さない。

その仕草と顔の様子から1人になりたくないと思うカナと私の邪魔をしたくない思うカナの2つが争っている。

 

 

やっぱりいい子だなぁ。

早く終わらせて寄り道せず帰ってこよう。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「雪村大佐、休暇の消費ご苦労様です!」

 

司令部に出頭して真っ先に言われたのがこの一言でした。

 

着いたらここに来るように言われていたので来てみるとこの後の任務について人事部から命令を受けるように言われていたがそこの担当の新兵にこんな事を言われました。

 

「それでは大佐の今後の職務についてですが‥‥」

 

やっとか‥‥

 

「1500に第5会議室に向かって下さい。そこで正式に辞令が出ます」

 

おい!いつまで続くのかこのたらい回しは!?

早く終わらせて帰りたいのだけれども?

 

それにしても何でまた1500なんて中途半端な時間に?

 

 

 

 

それまで時間があったので私の仕事場である課に戻りデスクワークでもしようとしたけど‥‥

 

「大佐!そのような雑務は我々が!」

 

私、大佐でそれなりに偉いから下っぱ達がほとんどやってしまってやることが無くなってしまった。そもそも私現場仕事がメインだしね‥‥

 

 

 

 

 

それから暇な時間を過ごして1500 15分前

 

私は既に会議室前にいました。

 

第5会議室があるこの棟は陸軍の高級武官達の部屋があるので数ある棟の中でもほとんど人が来ない所で、さらにその棟の中でも外れの位置あるのでここまで誰ともすれ違わなかった。

 

 

 

何でこんな辺境で辞令を出す?

誰だよこんな所に呼び出した奴は‥‥

もしあの元上官とかだったらぶん殴る!

そんな事を考えるながらも私は姿勢を正し、扉をノックする。まだ来てないと思うけど一応ね?

 

 

トン トン トン

 

「雪村 美琴入ります!」

 

「入りたまえ」

 

15分前だからまだ来ていないと思ってたけど既にいらっしゃるようだ。

 

「失礼します!」

 

入るなり私は固まってしまった。

待っていた人物を見るなり頭の中が真っ白になってしまったのです。

 

私は入室して早々にこの場所から逃げ出したくなった。

 

 

「そう固まるな‥‥掛けたまえ」

 

「は、はい!」

 

無理です。緊張するなと言われる方が無理です。

 

 

私を呼び出したのは陸軍のトップ、国防軍No.2の濱崎大将でした。

 

強面であまり口調が変わらない人で、怒った所を見たことがないがむしろそれがプレッシャーを放つ、分かりやすく言うととにかく恐い人です。

 

 

そんな偉くて恐い人がどうしてここに?!

 

 

「そろそろ3時か‥‥」

 

大将が時計を見る。確かに3時です。

 

すると、大将の側にいた側近がお茶を煎れ始めた。

 

「閣下、鎮守府からの土産ですが今日はそれでも?」

 

「おお、もみじ饅頭か。」

 

箱とお茶が大将の前に置かれ私にもお茶と饅頭が配られた。

 

「3時のおやつだ。食べながら話そう」

 

濱崎大将は美味しそうに饅頭を食べ始めた。

 

「おい」

 

側近が私に耳打ちする。

 

「閣下がお菓子好きなのは機密事項だぞ。いいな?後、お前も食べろ」

 

私は察した。3時に呼ばれた理由を‥‥

 

 

 

それで私もお茶と一緒にいただきながら強面に似つかわしいほどの笑顔で饅頭を食べる大将を眺めているとようやく本題に入りました。

 

 

「さて雪村君、私に呼ばれた事に驚いているね?」

 

「ええ、まぁ‥‥」

 

それを通り越しておやつタイムに驚いてます。

 

 

「では話の前に君に辞令を伝えよう」

 

大将は後ろに控えていた側近を促し、その側近は命令書を読み上げる。

 

「雪村 美琴大佐、貴官を今の部署から大将直属にする。配属後、貴官に特別な任務を与える。」

 

側近は読み上げるとその命令書を私に渡す

 

 

「えええ?!わ、私が閣下の直属?」

 

「つまりお前は私の同僚になる」

 

この人の同僚に?つまりお茶汲みとかするの?

 

 

「君には私の直属の部下になってもらってある案件に関する任務に就いてもらいたい」

 

「ここから先は話は機密事項。心して聞け」

 

側近が部屋のカーテンを閉め切りスクリーンを写し始めた。そこに写し出されるのは日本をはじめとする周辺の地図だ。

 

 

大将によると、深海棲艦との終戦が叶ったが同時にこれまで日本を潤していた海底開発が禁止になったためシーレーンの再構築と深海棲艦との取引が課題となってきたのだ。

 

シーレーンは深海棲艦によってズタズタにされてしまっていて再構築には時間がかかるらしく、更に深海棲艦と約定を交わしたとは言えまだ安心ができないらしいです。

 

 

と言うのも、深海棲艦の組織図について私達はよくは知らないけど深海棲艦は群体ごとに独立しておりそれらを姫クラスが統括しており、更にその上に中枢棲姫と呼ばれる存在が君臨しています。

 

 

そして、群体は2つの管轄に別れていて、一つは中枢棲姫の太平洋の勢力、もう一つはNo.2の欧州棲姫が総司令の大西洋の勢力です。

 

その内日本が和睦したのが太平洋の勢力です。

しかし、はぐれやこれらの勢力に所属していない、その深海棲艦上層の決定に不服の群体が今だに暴れているのです。

 

「そこでだ、それらの群体と交渉して航海の安全権を獲得する事と出来れば深海棲艦との通商を取り付けたいのだ。」

 

 

なるほど、独立系の群体との個別和平交渉ですか‥‥

確かにシーレーンを守る為にも彼らに安全を保証してもらうのは重要だ。しかも艦娘達とよく交流する身からすれば彼女達の負担が減るのは良いことだと思う。

 

それにシーレーンの再構築に時間がかかるならその間の資源の確保先も必要。

 

日本の安全保障と経済復興の為には必要不可欠だ。

 

そして、そんな話を私に聞かせたのは‥‥

 

 

「その交渉を君に任せたい」

 

「はい?!」

 

案の定私の任務とはその交渉をしろとの事です。

 

 

「お、御言葉ですか閣下!なぜ私なのですか?この手の案件なら外務省や財務省あたりが適任だと‥‥」

 

それに資源の取引等々経済に直結する事は私みたいな素人ではなくそれこそ専門家や企業なども交えた方が良いのでは?

 

「これが国家間であればそうした。だが相手は深海棲艦、そもそも外交ルート、つまりツテがない。それに財務や経済界の奴等だと話が拗れかねない。」

 

閣下いわく、

外務省では深海棲艦と交渉しようにもそもそも外交ルートが存在しないためお手上げで、経済界だと利益ばかり求めてしまい深海棲艦と話が揉めて交渉が決裂する危険があるらしい。

 

深海棲艦との価値観の違いを意識せずただの商談と考える経済人では通商どころか安全保障すら危ういのだ。既にそれが原因で群体の怒りを買って再び攻撃を受けている国もある。

 

「まぁ、そもそもアイツらは怖がって話にならんがね」

 

「それなら鎮守府に任せるのは?」

 

そもそも深海棲艦との約定を結べたのは彼らの功績であり、彼らは深海棲艦とは色々なは意味で対等な存在な為交渉しやすいはずです。

 

「ただでさえ彼らには負担をかけてるのだ。これ以上仕事を作る訳にはいかん。それに外務省の奴等が言ってたぞ、あの後の和平交渉はお前のおかげで話が進められってな。感謝してたぞ?」

 

あの時ですか‥‥

あの会談の時、外務省の官僚達みんなガッチガチで話すどころではなかったので少し賑やかしてみただけなのだけど‥‥

 

 

「それにお前は深海棲艦との共生経験もあって誰よりも奴等に精通してるし人脈もあるそうじゃあないか。お前程の適任はいないし、それほどの人材を遊ばせておく理由もない」

 

「じ、人脈と言われましても‥‥ただ、あの会談の時とかに少し話して仲良くなったぐらいですし‥‥」

 

「それが凄いと言っているのだ。」

 

「日本の為に是非、やりたまえ」

 

閣下と側近の目が本気です。これは逃げ道はなさそう。

 

 

「分かりました。その任、慎んでお受けします!」

 

「やってくれるか。それでは‥‥」

 

閣下は側近に合図すると私は彼から2つ渡されました。

通信機のような物とカードです。

 

「それでは任務についてだが‥‥、基本的には君に全て任せる」

 

「えっ?」

 

「君には自由に動いてもらって君の采配で各地の群体と交渉して来て欲しい。」

 

それはいくらなんでもアバウト過ぎるのでは?

 

「期間は?」

 

「期間は特に設けない。私が良いと言うまでだ。後、交渉する群体についても君に任せる」

 

丸投げじゃあないですか?!

 

「そ、それは‥‥ええっと‥‥」

 

「君の判断で交渉する群体を選び、結ぶ約定の内容も大体は君が決めても良い、ただし、安全保障だけは必ず獲得しろ。」

 

それって日本の命運を背負うようで恐いのですが‥‥

 

 

「その通信機は私のこの端末にだけ繋がる。逐一連絡さえくれるのであればどこでどのように行動しようと構わない。たまに指示は出すがね。」

 

「それだとしばらくずっと任務って事ですけど休暇は?」

 

「何の為に長期休暇を与えたと?」

 

あの休暇にはそんな意味があったとは‥‥

まさか知らず知らずの内に逃げ道が塞がれてたなんて。

 

「費用は‥‥」

 

「費用はそのカードがあれば問題ない。」

 

仕組みはよくわかりませんがこのカードがあれば軍で全て費用を支払ってくれるみたいです。

 

 

ん?待てよ‥‥

 

 

よくよく考えればこれはチャンスかもしれない!

 

 

 

任務で海外に出る事が出来て、自由行動が認められてるからどこにでも行ける。さらに費用は軍が出してくれる。

 

そして、これはちゃんとした任務。

これならば"あの人"の協力も得られるからこれで情報と安全の問題もクリア。

 

 

つまり‥‥

 

 

 

 

ソラとマシロを探しに行ける!!

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

大将からの任務を引き受けた私はその後必要な手続きと説明を受け、さらに必要かもしれないと極秘にされている終戦の切っ掛けとなった"最終決戦"について聞かされた。

 

 

なんやかんややっていると時間はかなり過ぎて夜の8時となっていた。私は急いで帰る事にする。

 

 

 

 

 

 

「ただいま今帰ったよ。カナ?」

 

マンションに帰り着くがカナからの応答がない。私は心配になり急いで上がり部屋のドアを開けると、

 

「スン スン」

 

 

カナが私の代えの軍服の匂いを嗅いでいました。

 

 

私が帰ってきたらのにようやく気が付いたカナは私を見るとびっくりして慌て始める。

 

「ち、違うの!」

 

「何が?」

 

これは‥‥、今日の私に対するご褒美か何かでしょうか?

 

 

「それはそうとカナ。やったよ!二人を探しに行けるよ!」

 

「へぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





感想、質問、アドバイス等々御待ちしております♪


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旅は道連れ 4日目



さてと、ようやくこの話も本来の目的、カナと軍人の世界旅行のスタートです!!(すいません嘘です)


 

 

 

「これがその船か‥‥」

 

「わーあ!おっきー!」

 

大将閣下からの命令を受けた私はカナを連れて再び神戸港に来ていました。

 

何でも閣下が足となる船を用意してくれているとの事でしたがその船とは、

 

 

「まさかクルーザーとは‥‥」

 

それもたまに金持ちが持っているような大きな物で船内はリビング、キッチン、寝室さらには浴室を備えていて高級マンションの一室のような空間になっています。

 

 

まぁ、1人でも動かせて長い航海になるから住居性が高いのは嬉しいのですが‥‥

 

 

それにしてもこの配慮、そして、しれっと置かれていたスーパーボール。もしかして閣下は私がカナを連れている事に気づいていた?

 

 

「マスター荷物のせたよ!」

 

おっと!考えるのはここまでにしょうか。

 

 

「そっか。なら出港するよ。最初に少し寄り道するよ。」

 

「はーい!」

 

 

 

さて、これから長い旅の始まりですね。しばらく日本ともお別れです。少し寂しい気もしますけれどもカナと一緒に行けるから楽しみの方が勝りますね!

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

私が向かったのは沖ノ島です。

 

 

沖ノ島はいわゆる条約に明記された特例域です。

ここは現在深海棲艦によって管理されており、ここの艦隊は比較的友好的で鎮守府がコンタクトを取っている群体でもあるため暫定的な大使館のような機能をなしています。また、ここの艦隊は日本への抑止力でもあります。

 

ここを押さえておけばまた日本に侵攻が可能であり、ここから日本を監視する事ができます。

 

深海棲艦は日本が深海開発のための施設を全て放棄し、その再興の兆しが無いことが確認できたら返還してくれるらしいです。

 

私はここである人物に会う予定です。

 

 

確か、すでに鎮守府経由で連絡が来ているはずだから時間に関して正確だからそろそろかな‥‥

 

 

「マスター前から何か来るよ!」

 

ほら、来ましたね。

 

前方から黒い影が見えはじめた。影もこちらに気付いたようでどんどん近寄ってくる。

 

 

「あっ!ル級さんだー!」

 

「久しぶりだな。人間、カナちゃん。」

 

「久しぶりルリさん。」

 

 

このル級は元沖ノ島占領艦隊の旗艦でカナ達を託したあのル級さんです。

 

会談が終わってからは時々話してます。

 

 

 

その時にル級に他のル級と見分ける為に、後はこれまでのお礼も兼ねて瑠璃色のリボンをプレゼントしました。

 

彼女は恥ずかしがって髪に結んでくれませんでしたが代わりに腕に結んでくれて少し嬉しそうでした。

 

 

なのでそれ以来ル級さんの事をルリと読んでます。

だって、ル級さん名前無いし、いつまでもル級では味気ないから。

 

 

「その‥‥ルリって言うのは決定なのか‥‥?」

 

「決定です。」

 

「はぁ、名前を勝手に付けるのは構わんがせめてもう少し強そうな名にしてもらいたいが‥‥」

 

「ル級さん、ルリ可愛いよ?」

 

カナがルリを誉める。しかし、可愛い子に可愛いと誉められたルリは複雑そうです。

 

「可愛いのが問題なんだが‥‥」

 

ル級‥‥ルリさんは今は沖ノ島駐屯群の中でも偉い立場だそうです。だからか威厳を保ちたいが為に可愛いでは困るだそうです。

 

 

 

「それではこの話はこの辺で、今回の依頼についてです。」

 

「お?うん、話は聞いてる。私が貴官の護衛に付く事になった。」

 

 

私が鎮守府経由で依頼したのは護衛と案内です。

 

 

この旅の難題は、はぐれの存在、深海棲艦の実態に疎い事にある。

 

 

交渉するにしても相手の事が分からなければ話が出来ない。その前にはぐれに襲われたら論外である。

 

 

そこで実力もあり信頼できる深海棲艦に随行してもらおうと言うわけです。まさかルリさんが来てくれるなんて。

 

 

「よろしくね♪ルリさん!」

 

カナが笑顔で言う。彼女も知ってる人で嬉しそうだ。

 

「よろしく頼む、大佐、カナちゃん。」

 

「あの‥‥私も名前でお願いします。」

 

「えっ、な、名前だと?」

 

じーーーー

 

 

「‥‥ふん、わかったよ。雪村大佐、これでいいか?」

 

「あ、出来れば下の方で‥‥」

 

 

「調子に乗るなーー!!」

 

ルリがツッコミ代わりに主砲を私に向けるのだった。

少し怒らせ過ぎました。

 

 

ちなみに彼女が引き受けくれるのはこれが公務だからである。個人的に頼んでやってくれるかわからない、いえ、真面目な彼女の事だから断られますね。

 

 

 

 

「もういい!早く出航するぞ!」

 

「は、はーい。」

 

 

こうして、私とカナ、ルリの3人による旅がスタートしました。果たして何が待ち受けるのやら‥‥

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ねぇルリ、ここから1番近いのはどこの勢力?」

 

「う~ん、ここからだとマリアナ諸島近海にいる奴らか?」

 

 

マリアナ諸島

 

かつては観光地としても栄えていてアメリカ軍の基地もあったがそれが災いして徹底的に攻撃を受けたそうです。

 

 

現在は再びここを領有しようとするアメリカとこれを機に自国に取り込もうとしている周辺国とここに居座る深海棲艦とでバッチバチな状況にあります。

 

 

これにとうとうしびれを切らした国家がそこの群体を怒らせて応復を受けているとか‥‥

 

 

つまり戦闘に発展していてここを通る船が片っ端に沈められてるのである。ここの安全な航海権を得なければ日本も被害を被る。

 

 

「最初はそこだね。」

 

「そうか‥‥この辺りははぐれが多い。気を付けろ。」

 

「了解!」

 

最初の目標はマリアナ諸島に居座る深海棲艦。

狙うは日本国籍の船の航海権とその安全保障かな。

 

 

「私マリアナ諸島にいたことあるよ!」

 

カナはマリアナに居たことがあるらしい。

 

「カナあそこの事知ってるの?」

 

「海が綺麗なの、だけど米軍が余計な事するから姫がぶち切れたの。」

 

 

そう言えば、開戦前に起きたマリアナの合同演習の参加艦艇が全て失踪した事件は深海棲艦が原因だったとか。確かアメリカが作った新作兵器のプレゼンも兼ねててその兵器が深海棲艦を怒らせた理由とか、

 

 

つまり四カ国の艦隊を一気に消した張本人か‥‥

 

 

 

いきなりヤバそうな相手ですね‥‥

 

 

 

「カナ、そこの旗艦について何か知らない?」

 

「うん、あそこの姫様は‥‥う~ん」

 

当然事ながら姫クラスか‥‥

一癖ありそう。だけど案外その方が活路があるものです。

 

「どんな些細な事でもいいから」

 

「確か‥‥‥‥そう言えば」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

マリアナ諸島・ロタ島

 

 

マリアナ諸島の深海棲艦はグアムの向かいにあるロタに拠点を置いています。

 

 

ここに来るまでに哨戒艦隊に何度か出会したが、そこはルリさんが事情を説明、どうにか事なきを得ました。

 

そして、なんとか取り次いで貰ってここの旗艦に合わせてもらえる事になった。

 

 

 

「ルリさんがいなかったら多分死んでた‥‥」

 

軽巡以下の奴らは問答無用に襲ってくるし、たまに話を聞かない者もいるから。そんな時、ルリさんが出ていてなぎ倒していくし、さっきもチ級を投げ飛ばして、「まだやるか?」なんて言ってたんだから格好いいです。

 

 

 

「そんな事よりこれから面会だぞ?しっかりしろ。」

 

「マスター!頑張れ!」

 

うん!頑張る!

 

 

 

 

 

 

私は彼らの拠点の奥に通されました。

そこにはテーブルと椅子が用意されていて案内してくれた深海棲艦はここで待つように言うとその部屋から出ていきました。

 

 

カナとルリは別室で待っています。

 

 

 

「流石に緊張しますね‥‥」

 

中枢と繋がりのある沖ノ島の幹部であるルリが一緒だから交渉で決裂したからといって殺される事は無いだろうけど、相手はアメリカ軍を短期間で粉々にした群体の長、何をされるか分からない。交渉が決裂したため使者が殺されるケースは成功するケースよりも多いです。

 

そもそも成功したケースを聞いた事が無いです。

 

 

 

5分後

 

 

扉が開き1人いや2人入ってきました。

 

 

「お待たせしてすいません。私がここの旗艦の港湾夏姫です。こっちが今回の会談の記録を取る書記のリ級です。」

 

「よろしく頼む。」

 

出てきたのは笑顔の素敵な姫と反対に無口そうなリ級です。

 

 

「はじめまして、日本から来た雪村と言います。」

 

「はい、細かいお話は既に沖ノ島から伝達が来てますので把握してます。遠路はるばるご足労ありがとうございます。」

 

「‥‥」

 

「あの?何か?」

 

「いえ、イメージしていたのと違っていて‥‥その、あまりにお綺麗で‥‥」

 

「あら!イヤだ。お上手なことで。ふふふ♪」

 

 

あれ?こんな綺麗で優しそうな人があんな過激な事を指示した張本人なの?

 

 

 

「ふふふ、この前の客人はあまりに失礼な方でしたので海の藻屑にしましたわ。貴方はそうではなくて安心しましたわ。」

 

あ、そうでもないです。なに上品に物騒な事を言っているの?!

 

 

 

とりあえず、それぞれ席について会談を始めようとすると、リ級が水の入ったコップを持ってきた。

 

「どうぞ」

 

「あっ。ありがとうございます。」

 

私は躊躇わずその水を飲む。うん、綺麗な水です。

 

 

「あら?お気には触りませんの?」

 

「いえいえとんでもないです、これは貴方達なりの誠意であることは知ってますから。」

 

 

客人に対してただの水でおもてなしする。

これを国を代表する人なんかにやればそれは歓迎していない、見下している等と思われても仕方がない。

 

これが交渉が決裂する要因の一つです。

 

 

しかしだ。考えてもみてほしい。よく勘違いしやすいが島は水が不足しているのだ。しかも深海棲艦が占領している島は無人島、かつては住んでいたが既にライフラインが壊滅して数年が過ぎている島である。そこに飲める水があるのが凄いのだ。

 

つまりそれを深海棲艦は苦労して用意してくれているのだ。たまに姫によっては人間の嗜好品が好きで置いてある事もあるらしいけど‥‥

 

 

あ、ちなみにこれらの話は仲良くなった深海棲艦達から聞いた話です。いーや、知ってるのと知らないのでは違いますから!

 

 

 

 

 

「そうですか。良かったわ。」

 

港湾夏姫も安心したようだ。

 

「貴方が怒ったら殺ろうと思っていたので‥‥」

 

そうですか。私も安心しましたよ。やっぱり知ってて良かったです。

 

 

「それでは早速話に入りましょう‥‥」

 

「と、その前に‥‥」

 

私は話を止めた。これに深海棲艦の二人は何事かと思う。

 

 

「まずはコミュニケーションの一環として貴方の名前を決めませんか?」

 

 

 

さぁ、私の命と日本の国益をかけた交渉の始まりです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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メモ帳空ページ 隊長さんのその後1



はい、おまちどおさまです。あの方のその後です。


 

 

 

日本国防陸軍 航空隊元隊長の大尉

 

 

彼は1人島に取り残されていたが無事に生還した軍人の1人である。彼は今は訓練校の教官をしています。

 

 

 

深海棲艦との戦争で多くのパイロットが戦死して今まさに人手不足である。終戦したとはいえ、いつ何があるとも限らないのでパイロットの育成が急務となっている。

 

 

彼は生き残った数少ないベテランであり、彼も深海棲艦との共生経験があり、わずかであるがその記録を録っていて指令部に提出していた。彼も大佐と同じく生きた資料として守る為に前線から下げられたのである。

 

 

 

だが優秀なので人材育成をさせようと教官を任されたのだ。

 

 

(まぁ、給料もいいし、文句はないがな。)

 

 

 

「教官!全員揃いました!」

 

おっと!考え事をしてたらいつの間にかルーキーどもが整列してたよ。さてと、今日もやりますかね。

 

 

「オッシ!じゃあ始めるぞ!まずはランニングからじゃあ!」

 

 

 

 

 

数時間後

 

 

「ゼーゼーゼー‥‥」

 

「なんだよ。誰も立ってなのかよ?だらしないな。」

 

「き、教官はなぜ‥‥平気のですか?」

 

「鍛え方が違うのだよ。お前らそんなんじゃ航空機に乗れんぞ?」

 

既にルーキー達は全員倒れていた。軟弱な‥‥

俺もコイツらと同じ事をしたがまだピンピンしてるぞ?

 

 

「しゃあないな。今日のトレーニングはここまで!各自起き上がった奴からストレッチしておけよ!」

 

俺はそう言うと教官室に帰る事にした。

 

 

俺はふと仕舞ってあった携帯を見た。どうやらメールが一件届いていた。発信元のアドレスは、俺の家のものだ。

 

ここから送ってくる者はあいつしかいない。

 

俺は携帯を操作してメールを開いた。メールは一文だけだった。

 

 

『今日は帰ってきますか?』

 

 

俺はふと笑ってしまった。短い文章だが機械を扱えないあいつがこれを苦労して打ったのを想像すると笑えてくる。

 

 

「今日は帰るか‥‥」

 

俺は携帯で返信を打った。方向を変えて敷地の外に出た。

 

 

「おっ!教官殿。今日はお帰りですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

途中ゲートで門衛と挨拶をし、少し時間を食ったので少し家路を急ぐとしようか。

 

 

給料の増えた俺は海の見えて、訓練校からほど近いと、立地条件の良いマンションの部屋を借りた。前に住んでいたボロマンションとは比べ物にはならないほど良い物件だ。

 

 

今までの俺は家に帰る頻度がかなり低く、基地の宿舎に寝泊まりしていた。教官になってからも訓練校の教官室にある仮眠室で過ごしていて帰宅はしていなかった。

 

 

だが、最近は違うな。2日帰らないことが記録になるぐらいに、俺はまめに帰宅する習慣がついた。ある事情で家に帰るようやなったのだ。

 

 

 

 

俺は歩いてマンションまで帰ってくるとエレベーターで俺の部屋がある階まで昇る。部屋の前まで来て、ポケットから部屋の鍵を取り出そうと考えたがその必要なないだろう。

 

今日はすぐ帰ると返信を送っておいたから鍵は空いてるだろう。

 

 

俺は部屋の扉を開ける。

 

すると、奥から女の子が出迎えてくれた。

 

 

「おかえりなさい、隊長」

 

俺を迎えてくれたのはかつて共に島で過ごした深海棲艦のユウだ。白い髪に赤い瞳、一見姫クラスに見えるが彼女は浮遊要塞と呼ばれる量産タイプだった子だ。

 

 

それが自我が目覚めたとかなんかと、とにかく突然変異して女の子の姿になったのだ。

 

「ぎゅう♪」

ユウが俺に抱きついてくる。

 

 

俺の携帯にメールを送ったのは彼女だ。今日は帰ると返信したからかな、それを読んでから俺が帰るまで待っていたのか?いじらしいことをしてくれるなオイ!

 

 

「ただいま、ユウ。昨日は帰れなくてスマンかったな。」

 

「ううん、隊長がお仕事大変なの知ってる。でも、今日も帰ってこないのかと思ったら少し寂しかった。」

 

くぁー!かわいいこと言ってくれるわ!

 

これこそ俺が家に帰るようになった原因だよ。

ユウをひとりで残しておくのが気掛かりでならんのだ。

 

 

 

彼女とは島での生活は色々あった。ある時、彼女を探しに泊地棲姫がやって来て、

 

「うちの子が世話になった。」

 

と感謝されたのだ。そこで彼女とは一旦別れ、俺も無事に軍に救助されて日本に帰ってきた。それから日本と深海棲艦が停戦を決めてしばらくしたある日のことだ

 

 

港を散歩してたらあれから成長したユウと再会したのだった。

 

 

まさか会えるとは思ってもいなくて、しかも深海棲艦が堂々とこんな所にいるのは不味いと慌てて家に連れていったのだ。

 

 

「お、お前!どうしてこんな所に?見つかったらえらい事になるぞ!」

 

「その‥‥あなたにまた会いたくて‥‥」

 

おお!ユウよ、しゃべれるようになったのか!

 

 

「だから、姫様に許可を貰って、き、きちゃった‥‥」

 

「そ、そうか‥‥」

 

わざわざ会いに来てくれたのか‥‥

 

 

 

それからなんだかんだでまた一緒に暮らす事になった。

もちろん深海棲艦だってことがばれないようにな。

 

 

 

だからかな、昔なら面倒だった家に帰るのが今では不思議と苦にならない。ただいまを言う相手がいるのは心安らぐことだと知ってしまったのだ。

 

たとえ相手が人間でなくてもだ!

 

 

とりあえず、俺は楽な格好に着替えてリビングに落ち着いた。

 

 

「隊長、ごめんなさい。ご飯の支度でもしておけばよかったけど、連絡から時間がなかったから間に合わなかった‥‥」

 

ユウはしゅんとしている。

 

「いや、大丈夫だ。飯なら俺が作ってやるよ。そこまで気にかけなくてもよいぞ。‥‥それにしてもだ、お前いつ料理とか覚えたんだ?」

 

「昨日テレビでやってるの見たの♪」

 

「‥‥試しに作ってみたか?」

 

「ううん、まだ。でもやり方は完璧に覚えたから後は作るだけだよ♪今度作るから楽しみにしてね。」

 

「‥‥ある程度は覚悟しようかな。」

 

俺は立ち上がると台所へ

早速何か作るかな‥‥

 

 

「ところで、俺のいない間、何か無かったか?」

 

「特にないかな。隊長は?お仕事の方は?」

 

「うむ、最近のルーキーがなってない。」

 

「‥‥大変だね。(その人達)」

 

 

ユウは心配した。(訓練生達を)

 

 

 

俺はチラリと部屋を見渡す。うむ、ゴミが一つもない。かなり綺麗に掃除されてる。これはユウが相当暇をしていたと思われるな。よし!

 

 

「ユウ、今度の週末は仕事休むから、少し出掛けるか?」

 

「えっ!ホントに?やったー」

 

本当に嬉しそうだな。

 

 

 

 

さてと、明日出勤したら休暇でも申請してみるかな。

 

 

 

 

 

 



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メモ帳空ページ 隊長さんのその後2


報告が遅れてますが軍人さんが本編に登場しました。
温かく見守ってください。また本編中には‥‥



 

 

 

休暇の申請は思ったほど簡単に取れた。むしろ休みが溜まってるから「どうぞどうぞ!是非とも!」って言われたよ。

 

まぁ、どのみち休みを先延ばしにしていたらそのうち担当者から勧告を受けて是が非でも休まされていただろうから丁度良いだろう。

 

 

それで俺は週末に久しぶりの休暇を取ることにした。

今では休暇を取ってもすることないし、一人身だし、友人もほとんど戦死したから遊ぶこともないからな、ぶっちゃけ暇だし、趣味もないからやることないのでずっと仕事してた。逆に仕事するなと言われてもな、暇を持て余してしまうだけだ。

 

 

なので俺は思わぬ窮地に陥っていた。

 

 

「ユウをどこに連れていってあげればいいんだ?」

 

遊びを知らないからどこに行けば正解か分からないのだ。休暇は明後日からだぞ!!ど、どうすれば‥‥

 

 

 

こんな時は1人で悩まず誰かに聞いてみようか!

とりあえず俺は同僚達に相談することにした。

 

 

同僚A「えっ?女の子と出掛けるからどこが良いかって?うーん、わかんねーな。だが、とりあえず俺が言えるのは、リア充は爆発しろ!」

 

 

同僚B「お、お前が女子とか?!あ、あり得ないんだけど!!」

 

 

同僚C「無難に買い物とかでいいんじゃ?えっ?なら何処に行けばいい?さぁ?」

 

 

結局、有効な情報が得られなかった。

 

 

「うぐぐ、どうしたものやら‥‥」

 

「あれ?どうかしましたか?」

 

俺が悩んでいるのを見て話しかけて来たのは他でもなく休暇を申請した担当の女性職員だった。

 

「実はだな、もらった休暇でツレを連れて行きたいのだが、どこに行けばいいのか‥‥」

 

「それって彼女さんとかですか?」

 

「まぁ、厳密には違うがな。」

 

「そうですね。あんまりにも思いつかないのであれば彼女さんにどこ行きたいか聞いてみればどうでしょうか?」

 

「!‥‥き、君は、天才か!?」

 

「いえ、そんなに思い詰める程でもないと思いますが?」

 

 

 

というわけで帰宅後にユウに直接聞くことにした。

 

 

「行きたい場所?」

 

「と言うよりも何かしたいこととか見たい物はないかと思ってな。」

 

多分場所を聞いても深海棲艦の彼女に分かるわけがないからな。

 

 

「それじゃあ‥‥あそこ!あそこがいい!」

 

「あそこ?」

 

「ええっと‥‥あっ!今ちょうどやってる。」

 

彼女に言われてテレビを見た。CMだな。

これは‥‥

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

さて、とうとう訪れた休暇の日だ。

休暇はなんと5日間だ。まるでゴールデンウィークだな。まぁ、担当からはもっと休めとも言われたがな。

 

 

ゴールデンウィークと違って人も普通だから混まないだろう。あんまり人が多いとユウが心配だ。

 

今から行くのは都市部から車で20分ほどの所だ。

 

 

「着いたぞ、ユウ。」

 

「隊長、この帽子は?」

 

ユウには角を隠す為につばの大きな帽子(キャペリン)を被せている。おしゃれにもなるだろうしバレないだろう。

 

「ここにいる間は絶対にはずすなよ。それよりも着いたぞ。」

 

「ワァ~!」

 

やって来たのは水族館だ。

 

 

テレビでここのCMをやっていたのだが、ユウは前々から気になっていたらしい。

 

 

「こらこら、あまりはしゃぐと‥‥」

 

「ワァ~あっ、っととと!」

 

「よいしょっと!」

 

案の定、ユウが段差に気付かずにコケかける。俺はすかさず彼女をかかえた。

 

「あ、ありがとう、隊長。」

 

「全く、気を付けろよ。」

 

 

俺はあまりこの手の分野について知らないが、近年水族館の利用者が多いらしい。

 

深海棲艦との戦争が始まり海を奪われた為、海の生物を見る機会が減ったためなどと言われている。また、一時期海に出られなかったので、漁業ができなかったため水族館の設備を使って食用の魚を養殖する計画もあったらしいが焼け石に水だったようだ。

 

 

そのためか思ったより客が多かった。

 

 

「はわわわっ!」

 

こんなにたくさんの人間がいる所がはじめてのユウはさっきからこんな感じで魚を見るどころではない。

 

「落ち着けって。」

 

「ううっ」

 

 

まぁ、ずっとこんな感じだったが、しばらくしたら次第に落ち着きを取り戻して、展示の魚に夢中になりはじめた。

 

「ふぁ~♪」

 

 

 

「‥‥。」

 

うむ、ユウは喜んでいるようだ。

だが、なぜ水族館なんだろうか。彼女ら深海棲艦も海にいるのだから海の生き物なんてそんなに珍しくないだろうに。

 

それをユウに聞いてみたら‥‥

 

 

「それって陸に生きてる人間は全ての陸の動物を見たことあると言うのと同じ気がする。」

 

「な、なるほど。確かにそうだ。」

 

「むしろ、海上で戦闘をすることが多い私達はその下でどんな生き物が住んでいるのか、知らずに終わる子の方が多いから‥‥」

 

「ユウ‥‥」

 

少し重い空気が漂う。

 

 

『ご来訪のお客様にお伝え致します。まもなくイルカショーを行います。‥‥‥‥。』

 

「隊長!イルカショーだって!行こう!」

 

「ああ。」

 

 

俺はユウに引っ張られてイルカショーが行われるイベント会場へと向かった。

 

 

 

イルカショーと言うが、そのイルカショーにはクジラの子供もいた。イルカショーだからイルカが水中からジャンプしたりして芸を披露、その度に水しぶきが上がりびしょ濡れになる。しかし、その子クジラがジャンプした時はその比ではなくずぶ濡れになってしまった。

 

 

「あはははは♪」

 

まぁ、ユウが御満悦のようなので別に良いか‥‥

 

 

 

「楽しいね、水族館♪」

 

「そうだな。思いの外楽しめてる。」

 

俺達は水族館の敷地内にあるカフェで一休みしていた。丁度昼頃なのでここでランチだ。

 

 

「隊長は何が良かった?私は暗いお部屋のクラゲが綺麗だった!」

 

「俺か?俺はそうだな‥‥ペンギンかな?」

 

「えっ?ペンギン?意外‥‥」

 

「何故だ?」

 

「てっきりゾウアザラシが腹筋してるの見て"良い訓練だ!"とか考えてるって思ってた。」

 

「俺を何だと思ってるんだお前は‥‥」

 

「違うの?じゃあなんでペンギンさんなの?」

 

「うむ、あのペンギン達、なかなか見事な隊列行進をしていたと思ってな。あの一糸乱れぬ統一された行進、うちの新兵どもよりもできると思ってな!」

 

「‥‥‥‥やっぱり隊長さんは隊長さんだった。」

 

「なんだ?」

 

 

ランチの後はまだ見ていない所を見て回った。

 

 

ユウがマンボウを見てその真似をしたり、ふれあいスペースでヒトデを触ったりととても充実していた。

 

 

「隊長、なに見てるの?」

 

「うむ、ラッコだ。」

 

「ラッコ?」

 

「アイツら、石で貝を叩いて割って食べてるだろ?」

 

「うん?」

 

「その音がな、一定のリズムが決まっていて、まるで信号のように聞こえてな。その解読をしていた。」

 

「また何を考えてるの?」

 

「えーと、なるほどな。」

 

「‥‥ちなみにあのラッコはなんて?」

 

ユウは好奇心には勝てなかった。

 

「それがな。『この餌飽きた』だ。」

 

「‥‥へっ?」

 

 

 

 

 

「楽しかったね♪」

 

「そうだな。」

 

水族館を全て回った俺達は水族館から帰っている所だ。その車内でユウと今日の話で盛り上がっていた。

 

 

「しかし、まだ休みが残っているな‥‥」

 

この休暇がゴールデンウィーク並みの事を忘れていた。さて、残りをどう消費するか‥‥

 

 

「楽しかったけどイルカショーで髪べとべとだね‥‥」

 

「そうだな。帰ったら風呂にでも‥‥」

 

そうだ!

 

 

 

「今から少し距離あるが温泉にでも行くか?そこでさっぱりして美味しいものでも食べるか。」

 

「うん、行きたい♪」

 

「よし!決まりだ!」

 

こうして次の目標が決まったので俺はカーナビをセットする。

 

 

彼とユウの休日は始まったばかりです。

 

 

 

 

 

 





近々、外交官さんのその後も書くのでお楽しみに♪


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命懸けの交渉 5日目

 

 

 

「まずはコミュニケーションの一環として貴女の名前を決めませんか?」

 

私の命と日本の国益をかけた交渉の始まりだと言うのに何をやっているのかとお思いだろうか?

 

 

「名前ですか?いきなり何を‥‥」

 

うんうん、向こうも戸惑ってらっしゃる。

 

 

「いえ。これからお話する、しかももしかしたら長い付き合いをする方なのに港湾夏姫なんてコードネームみたいな呼び名は失礼かと。」

 

それにこの名前決めと言うのは案外馬鹿になりません。

 

 

あれは深海棲艦との停戦がなった次の年のことです。

 

 

 

 

停戦後に和平交渉のための最初の会議が行われたが政府や軍の特使の皆さんはみんな怖がってガチガチ、かたや深海側も無機質な反応で、いや、深海側はどう接すれば良いのか分からないコミュ能力の問題だったのがだ、とにかくお互いに緊張と恐怖で話にならない状態だった。

 

 

そこで私が、

 

「あの‥‥、まずは自己紹介でもしませんか?」

 

外務省の高官達が私を見た。

 

しまった!素人の私が交渉のプロに口出ししてしまった。何か言われるぞ。

 

 

「そうだな。わかった、そうしよう。」

 

あれ?あっさり取り入れられた。

 

 

「深海の皆さん、私は日本特使団の‥‥」

 

特使団のリーダーの高官をはく切りに日本側は次々と自己紹介に入る。今にして思えば、日本側は私以外はほぼ男性、対して深海側はみんな女の子だからまるで合コンのようですね。続いて深海側だが、何やら困った顔をしていた。

 

「どうかなされましたか?」

 

「いえ、我々は名など無いのでどうすればよいのかと‥‥」

 

私はこのときに初めて深海棲艦に名前の文化が無いことを思い出した。

 

 

「それじゃあ、会議の前にみんなの名前とか決めましょう。」

 

あ、またやってしまった。流石にこれはいけない気がします。

 

 

「そうですね。面白そうですね。」

 

「ふふ、いいでしょう。」

 

なんと!高官だけでなく深海棲艦達も了承したよ。

これでじゃあまるで本当に合コンだよ!

 

そんなこんなで始まってしまった深海棲艦達にニックネームならぬ名前を決めてあげようの会は思いの外盛り上がってしまい、強面の軍属や高齢の官僚までもがそれぞれ思い思いの案を出す。

 

「そうでね。君は我々側からは駆逐古姫と呼ばれてるからね~。フルヒメとかは?」

 

「安直過ぎですよ永島さん!」

 

 

「ネ級さんは何かこんなのがいいとかありますかな?」

 

「うーん、強そうなのがいいかな?」

 

 

「うん、その名前気に入ったぞ!感謝するぞ、なかしま!」

 

「いえ、なかじま(中島)です。」

 

 

この会話を通してまず深海側が日本特使達の名前を覚えた。そして、深海側の名前は当の日本側が決めたので忘れる訳がない。

 

こうして互いに互いの名を覚え、更にこの名前決めのお陰で先程までの緊張感もなくなり今では普通に会話できるようになっている。

 

 

 

ちなみにこの時に決めた名前は今でも使ってくれてるそうです。女の子って以外と名前決め好きなものなんだね。

 

 

名前とは大切なものです。

 

あの交渉も深海側に名前が与えられたから、お互いに名前を知っていたからそこ踏み込んだ話が出来て最終的に双方が納得できる内容にまとめられたのだと私は信じています。

 

 

なので今回もその手法でいかせてもらいます。

これから長い付き合いをする相手です。信頼関係を作る上でも互いの腹のうちを見せ合わせたいのでまずはその一歩です。

 

 

「そういえば、前に和平交渉に出ていた姫が名前を付けてもらったって自慢してましたね。」

 

「知っているのですか?」

 

「ええ、そのせいで今人間に名前を付けて貰いたがっている子もいて小さなブームよ?」

 

「そ、そんなことに‥‥」

意外だな。そんなに気に入ってもらえてるとは。

 

「その火付け役が貴方なんて‥‥、世間は狭いわね。」

 

「あの‥‥、思ったのですが、それなら深海棲艦同士で決め合うとかしないのですか?」

 

「ふふ、残念な事に私達にはネーミングセンスがないのよ。」

 

そういえば、鎮守府で聞いたが姫がなんとか棲姫を名乗り始めたのは人間の名前の付け方を真似したからとか。

 

そもそも名前文化の無い彼女らにしてみれば自分たちで決めるのは難しいのでしょうか?

 

 

 

「その火付け役さんに決めてもらえるなんて光栄だわ。是非お願いするわ。」

 

港湾夏姫は名前決めに了解してくれた。後、ついでに書記のリ級にも名前を付けて欲しいそうです。

 

 

「分かりました。では、港湾夏姫さんが好きなものはなんですか?」

 

今回はそれをヒントに考えてみよう。

いつもの決め方ならコウさんとかになったと思うけどルリさんにはそれで色々と言われてますからね。

 

 

「そうね‥‥。夏かしら。」

 

「夏ですか。」

 

「そう、夏よ。夏の強い日差し、暑さ、そしてそれに似合う綺麗な海に自然に‥‥。うふふ、だからここを占拠しているのよ。」

 

なるほど‥‥、夏とは海が大好きと。だからここの海を汚すアメリカ軍、ひいては人間が許せなかったのですね。名前に夏が入っているのはそのためかな?

 

 

「だとすると‥‥」

夏は絶対に入れた方がいいですね。そうだ!

 

 

聖夏(せいか)とかどうですか?」

 

「セイカ‥‥。なんてお書きになるの?」

 

文字を気にするのか。どうやら日本語、いや文字に精通しているのは本当みたいですね。てことは‥‥

 

 

「聖なる夏とか書いて聖夏です。」

 

「聖なる‥‥夏‥‥。」

港湾夏姫が震えはじめた。

 

 

「あ、あの‥‥姫様?」

リ級が心配になる。

 

「す‥‥」

 

「す?」

 

「素敵!なんて素敵な響なの?!」

 

港湾夏姫さんならぬ聖夏さんの今日一番のリアクションでした。

 

 

「気に入ってくれて何よりです。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

さてさて、聖夏さんの名前を名前も決まりしましたのでここに来てようやく本題に入りました。私も仕事モードです。

 

 

「今日お伺いしたのは他でもありません。我が日本国の航海権とその安全保障をいただきたいのです。」

 

「‥‥続けて。」

 

聖夏さんも長らしい風格に変わりました。

 

 

「現在、貴女の群体は人類と敵対しており、この海域を通る船を片っ端から沈めています。しかし、我が日本国は貴女の群体と事を構えるつもりはありません。」

 

「だからせめて私達は見逃して通して欲しいと?」

 

「平たく言えば‥‥」

 

「ふふ、自分たちだけ抜け駆けしたと思われますわよ?」

 

確かにそうかもしれないですね。しかし‥‥

 

「それはお門違いです。」

 

「ふぅん?」

 

「私達が交わした約定では群体ごとの交渉は個別にするものとあります。」

 

「しかし、それは日本との取り決めよ?」

 

「それを言ったら戦って講和を獲得したのは我が国なのに、まるで人類が勝ち取った約定みたいに勝手に振る舞っているのは各国ですよね。」

 

「!」

 

今聖夏さんが動きましたね。これは私達が思っている事というよりは深海棲艦側の思いだろう。

 

日本が勝ったから自分たちもといきなり交渉へ動きだしたのは他国の思い上がりでよく思ってはいない。そう思っている群体がほとんどだ。

 

「そして、各国はその交渉に失敗した。それだけです。」

 

交渉失敗で群体を怒らせたのはその国の外交の問題である。別に日本だけどうとの問題ではない。

 

 

「それもそうね。」

 

「それで、どうでしょうか?」

 

「確かに貴方方日本とは別に敵対する必要もないし、こうして交渉の使者を送って来ています。それに中枢からも日本と停戦するよう促されていましたし。」

 

「では!」

 

「通ることは認めますよ。」

 

「いえ、襲撃からの安全保障もお願いします。実はこの海域だけでも多くの日本国籍の船が襲われています。」

 

私のこの言葉に聖夏さんは少し目が動く。

 

「立夏さん、これはどういうことかしら?」

 

「はい、それは‥‥」

 

立夏とはリ級さんに付けられた名前です。本人の要望と言うより聖夏さんの要望で、彼女にも夏の字を入れてと言われて、ならばリ級だから立夏(りっか)となりました。

 

 

「確かこの海域の周辺海域で群体が潰れたことで行き場のなくしたはぐれが増加しています。恐らくはソイツらでは‥‥」

 

「なるほど、わかりました。そのはぐれ達を‥‥」

 

「いえ、それだけではありませんよね?」

 

聖夏さんの言葉を再び阻み、私は賭けに出た。もし間違っていたり相手がぶちギレたりしたら私はそれまでですね。

 

「襲ったのは聖夏さんの命令、あるいはその配下が聖夏さんの為にやったことですね。」

 

「なっ!何を根拠に!」

聖夏さんが立ち上がった。凄い剣幕ですね。美人が怒ると怖いと言いますが本当ですね。

 

 

「聖夏さん、貴女は名前を決めた時に書き方を聞きましたね。」

 

「?そうですが‥‥」

 

「聖夏さんは文字、しかも漢字が分かるのですね。」

 

普通、深海棲艦で言葉を話せる個体がいるがかなり流暢にクリアに話せるのは姫クラスと一部の個体のみです。

 

しかし、大抵の姫は人間の言葉に興味がなく、話せるがそれまでだ。だから大抵は深海棲艦達は名前を決める時は発音などの音で決める。

 

 

それが彼女は文字を読めてしかも漢字が分かるかのだ。だから書き方を聞いてきた。だからその漢字の良さがわかったのだ。

 

 

「どうして聖夏さんはこんなに日本語に御関心が?」

 

「それは‥‥、今は関係ないでしょ?!」

 

「いえ大アリです!」

そろそろ向こうも怒ってきましたね。もう後には引けませんね。だからどんどん攻めますよ!

 

 

「どうしてそんなに文字が読めるのですか?」

 

「そ、それは‥‥貴方方と交渉の時に必要だと‥‥」

 

「それなら部下に、立夏さんとかにやらせればよいですよね。」

 

姫クラスがわざわざそんな面倒な事をするはずがない。であれば、彼女は自分で読める必要性があったのではなく、自分で読みたい理由があったのだ。

 

 

そして、姫の中には人の文化、嗜好品に興味のある個体もいる。この事から結びつけると‥‥

 

 

「ズバリ!聖夏さんは日本の文学作品がお好きですね。」

 

「!!!!」

 

「だからこうして漢字とか覚えたのでは?」

 

本は自分で読まないとおもしろくないですからね。

 

「ど、どうしてそれを‥‥」

 

「うちの子がですね‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カナ、そこの旗艦について何か知らない?」

 

「うん、あそこの姫様は‥‥う~ん」

 

 

 

ここに来る前、カナに聖夏さんについて聞いた時です。

 

 

「どんな些細な事でもいいから」

 

「確か‥‥‥‥そう言えば」

 

「そう言えば?」

 

「あそこの姫様、島でマスター読んでた本とおんなじ物を持ってた。」

 

私が島で読んでいた本‥‥

 

 

育児書、教育心理学、料理本、哲学書、筋トレ方、ライトノベル‥‥

 

 

さぁ、どれだ!!

 

 

 

「たしか、○○○○○○○○○だったと思う。」

 

ああ、ラノベか。深海棲艦がそんな物を持って何をしてるんだ。いや、どこから入手したんだ?

 

 

「‥‥なるほどね。」

 

「マスター、何がなるほどなの?」きょとん

 

カナが私が納得しているので首を傾げている。

 

「ありがとうカナ。」

 

私はご褒美に撫でてあげる。

 

 

「役にたったの?」

 

「そりゃあもう!だからたくさん感謝しちゃう。」

なでなでなで

 

「きゃあ~♪やったー♪」

 

 

 

 

 

 

「と言うわけです。」

 

「余計なノロケ話をありがとう。それで私が本が好きだからなんなのです?」

 

 

「多分、日本国籍の船をたまたま沈めた時にたまたま手に入れた本を興味半分で見たのでは?」

 

それでハマってしまってまた手に入らないかと思って船を襲わせている。ただし、部下にこの事がバレると不味いから信頼できる部下に、多分立夏さん辺りに回収させてたのではと思ったのだ。

 

「貴方には参りましたわ。」

 

聖夏さんは手を上げて降参のポーズをして座った。

 

「では取引しましょう。」

 

聖夏さんが認めたので私は仕掛けた。

 

「取引?」

 

「はい、貴女方が()()()()()()からの襲撃から守ってくれるのであれば私達は貴女方に望む物を送りましょう。」

 

「望む物‥‥」

 

「船から手に入る中古品、まぁ、沈めるから少し海水に濡れて質の落ちた物なんかよりも新品の方が欲しいでしょう?」

 

「ゴクリ‥‥」

 

「もし、安全保障が取り付けられるならば、定期的に、また秘密裏に貴女に○○○とか○○○○の新作とかを送らせてもらいますけど‥‥」

 

「わかりましたわ!!安全保障はそちらが望むものを承認します!それに周辺海域のはぐれどももこちらで処置させていただきますわ!」

 

「交渉成立でいいですか?ならばもし少し具体的な内容を決めましょう。あとは月何冊かを決めないと。」

 

「はい!」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「あっマスター~♪お疲れ様!」

 

「う、うん、ただいま。」

 

「おう、雪村、よろよろね。」

 

「ま、まぁね‥‥」

 

正直死ぬかと思った。その恐怖が今になってやって来ました。

 

交渉は成功で、聖夏さんからの確約をもらい、それを文章にしてもらった。後はこの内容を大将閣下に電話するだけです。

 

 

「私は先に行ってるぞ。少し体を動かしたい。」

 

ずっと待たせていたので待ち疲れていたのか、ルリさんは先に行ってしまった。

 

 

「マスター、お疲れなの?」

 

「まぁ、疲れたかな?」

 

緊張と死の恐怖でね。あれ?名前決めの効果はどこに行った?

 

 

「だったらカナが癒してあげる。少し頭下げて。

 

「こう?」

 

私が言われた通り少し頭の位置を落とすと、

 

「頑張ったね。エライ~エライ~♪」

 

なんと!カナが私の頭を撫でるだと?!

いつもと逆だな。

 

「えへへ♪癒された?」

 

はい、癒されました!

 

「逆に撫でたいですね。」

 

「マスター、多分思っている事と話してる事が逆転してる。」

 

「はっ!しまった。」

 

「もう、マスターてば♪」

 

 

そんな風にカナと楽しく話ながら基地港湾に着いた時でした。

 

 

「あー!!」

 

誰か知らない子が私達を見て大声を出した。

 

 

「えっ?何?」

 

彼女は私には目もくれずカナに迫る。

 

 

「やっと見つけましたよカナ先輩!!」

 

彼女はカナの事を先輩と呼んだ。

 

‥‥‥‥ええええっ!!?

 

 

「あははは‥‥」

 

 

 

 

 




お久しぶりです!さて、楽しんでいただけたでしょうか?次回は新キャラ?の登場です。

感想お待ちしております。


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カナの後輩 6日目

 

 

 

「やっと見つけましたよカナ先輩!!」

 

「あははは‥‥」

 

カナのことを先輩と呼んだ深海棲艦の子はカナに詰め寄っていた。

 

一方のカナはその子の事を知っているようではあるが、かなり困惑していた。

 

 

「いままでどこに行っていたのですか!いきなり居なくなったから私は心配で心配で‥‥」

 

「ご、ごめんね、ヨウちゃん‥‥。」

 

カナがヨウと呼んだこの子は、見たところ潜水艦のヨ級だろう。

 

「カナ、この子は?」

私はカナに聞いてみた。

 

「うん、この子は‥‥」

 

しかし、カナの説明は阻まれた。

 

「なっ!どうしてここに人間が!?それよりもどうしてカナ先輩が人間なんぞと一緒にいるんですか!?」

 

「それはね‥‥」

 

「誰が口を開いていいと言ったの?」

 

私が説明しようとするとヨウは私に魚雷を向けていた。あと少しで私にあたり爆発しそうだ。あれ?いくら好戦的な深海棲艦でもこんなに早く手を出されます?

 

これ、一歩間違うと外交問題ですよ?先ほど交わした約束を反故にすることになって結果この子が聖夏さんの怒りを買いますよ?

 

しかし、その心配はありませんでした。

 

「貴女、マスターに何してくれてるの?」

 

「へっ?」

 

気が付くとヨウはカナによって地に叩きつけられていた。

 

それもそうだ。見たところこの子はノーマルだけど、カナはフラッグシップだからね。

 

「ヨウ、覚悟はできてる?」

 

「せ、先輩‥‥ま、待って!どうして私がこんな目に?!」

 

「ふっふふふふ 」

 

「あっ!その笑いは本気の時の!い、いや‥‥ひいいい!」

 

「待ってカナ、ストップ。」

 

「うん わかった。」

 

流石に可哀想になってきたので止めることにした。あと、カナの意外な一面とガチの時の笑いを知れたのでそのお礼かな。

 

「マスターのお願いだから許してあげる。」

 

「こ、怖かった‥‥どうしてカナ先輩が人間の言うことなんて聞いてるの?」

 

「それはね‥‥。」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

そんなこんながあり、戻りが遅かったことをルリさんにどやされながらも私たちは次の目的地を目指してロタ島をあとにしました。

 

 

「それで、次はどこに行くんだ?」

ルリさんが尋ねてきました。言われると思っていましたが、果たして許しがでるかな。

 

「そうですね、少しコースが逸れますが大陸に近いある島に行きたいです。」

 

「何?‥‥もしや何か掴んだのか?」

 

「はい‥‥。」

 

 

ここに来て正解だったかもしれません。聖夏さんから貴重な情報を得ることができました。そうです。行方不明になっているマシロについてです。

 

 

 

会談が終わった後

 

「では、交渉は成立ですね。ありがとうございました。

 

「いえいえこちらこそ。新刊の件はなにとぞよろしくね。」

 

「はい勿論。」

 

聖夏さんはもう嬉しさのあまり浮かれていますね。

 

そんなに新刊が欲しかったのですね。確かに続きが気になって仕方がないあの苦しみは理解しますけどね。

 

今なら何か聞けるかも‥‥

 

「あの、聖夏さん。少しお聞きしたことが。」

 

「はい?何でしょう?」

 

「ある深海棲艦を探しているのですが、何か知りませんか?この子達なんですけど。」

 

私はソラとマシロの写真を見せた。

 

「うーん、ソ級はたくさんいますけどこんなに違うソ級なら見間違えるはずがないですわ。」

 

「そうですか‥‥。」

 

ここにはソラはいなかった。手がかりなしか。

 

「でも、もう一人の、潜水新棲姫なら会ったことがあるわ。」

 

「本当ですか!?」

 

「ええ、あれはまだ潜水新棲姫が増産される前でしたわ。」

 

増産される前!!

 

間違いない!マシロかもしれない!!!

 

「何か話しましたか?」

 

落ち着け、まずは聖夏さんの話を聞こう。何かわかるかも。

 

「うーん?たしか‥‥。そうだわ!眼鏡!」

 

「眼鏡?」

 

「あの子は私に聞いていたの、眼鏡をかけた深海棲艦を知りませんか、とね。」

 

「眼鏡をかけた深海棲艦‥‥」

 

「多分ですけど、集積地棲姫のことだと思うわ。」

 

わたしも色々な深海棲艦に会って来たがそんな深海棲艦は知らない。

 

一体何者なのでしょうか?いや、そもそもなんでマシロはその存在を知っていた?

 

「たしかに彼女は表にはあまり出ない人ですからね。」

 

「居場所を教えたのですか?」

 

「ええ、勿論です。貴女も知りたいのかしら?」

聖夏さんは机に交渉の時に使うために広げられていた地図を見るように促した。

 

「ここよ。」

 

私は彼女のさした場所を見た。

 

「ここは‥‥。」

 

「時効だから言いますけど。」

 

聖夏さんが徐に口を開いた。

何やら重大な事を話してくれるみたいです。

 

「ここはかつて、新型艦の開発実験を行っていた実験施設があったと聞き及んでいます。」

 

「実験施設?!」

 

「残念ですがこれ以上は私の口からは言えません。けれども‥‥」

 

聖夏さんが綺麗な文字で何かを書いてくれた。

 

「これを持って行ってて。」

 

「これは?」

 

「私からの手紙です。これがあれば集積地棲姫も会ってくれるはずです。」

 

あとは直接聞いて来るしかない、そう言う訳ですね。

 

「わかりました。ありがとうございます。」

 

「だから新刊の件は本当によろしくね♪」

 

結局そこに戻るのか‥‥

ちゃっかりしてるのは聖夏さんも同じでした。

 

 

 

 

 

 

ようやく掴んだ手がかりです。

 

マシロを追える可能性がわずかにでもあるならすがり付きたいところです。しかし、ルリさんはあくまで任務の為に付いてきてくれているだけである。

 

彼女は誠実であり、任務には忠実です。

そんな彼女が任務とは無縁の私事で寄り道を許してくれるものなのか?

 

ルリさんは物凄い剣幕で睨んでいます。

うっ、やっぱりダメかな~

 

 

「雪村大佐」

 

「ハ、ハイ!」

 

「お前が何を考えているが知らないけど、何を目標にしているかぐらいは理解しているかつもりだ。だが任務は大事だ。」

 

「はい‥‥」

 

「しかし、任務達成の為には時には休息も必要だ。丁度かなり大きな交渉が終わったのだ。休息を挟んでもいいだろう。」

 

「ルリさん?」

 

「なぁに。その休息中にお前が何をやろうと私は干渉しないし、それに私の仕事はお前の護衛で監視じゃあないし。」

 

「ルリさん!」

 

「行きたいのだろ?」

 

「ハイ!!」

 

 

よし!ルリさんが黙認してくれました。

 

 

「マシロちゃん‥‥」

 

カナが祈っている。

妹分の無事と再会を‥‥

 

そうです。私は必ずカナと共にマシロと、そしてまだ航跡すらないソラを見つけ出して本当の意味で賭けに勝つのだ!

 

 

「よし!出発しよう!目的地は‥‥」

 

「ちょっと待ったー!!」

 

誰です、私がカッコ良く決めようとするのを遮ったのは‥‥

 

 

「あっヨウちゃん‥‥」

 

「人間、私も連れていって。」

 

先ほどヨ級が来ました。

 

「何だ?このヨ級は?」

 

ルリさんがヨウを睨んだ。

 

「ひぃ!ル、ル級!」

 

こらこらルリさん、止めてあげて。怖がってるから。

 

 

「ルリさん怖いからねぇ。」

 

「ふん。」

 

「そ、それより!私も連れてくれるの?くれないの?」

 

「そもそもどうして付いてきたいの?」

 

私の質問にヨウは黙った。

 

「だ、だって‥‥」

 

「だって?」

 

「私、もうカナ先輩に遠くに行って欲しくないの!」

 

「そっか。」

 

「そ、そんなヨウちゃん!だ、だめだよ。私にはマスターという人が‥‥」

 

「カナちゃん、多分使い方間違ってるぞ。後、話がややこしくなるから止めなさい。それで雪村よ、どうする?お前が決めろ。」

 

私はヨウを見る。

 

彼女は私を睨んでいるが先ほどのような殺意は感じない。また、断られたらどうしようと内心ハラハラしているのが分かる。

 

通常の深海棲艦でここまで個性が表れてる子は珍しい。

 

少し可愛いかも‥‥

 

 

 

「イイよ。ついて来て。」

 

「ふぅ、ヨカッタ‥‥」

小声ではあるがホッとしているようだ。

 

 

「これからよろしくね。私は雪村。」

 

「ふん、勘違いしないでね。私は先輩を人間なんかに渡したくないだけで、そのために付いていくだけだからね。」

 

「わーい、ヨウちゃんとまた一緒だね。」

 

「ハイ!カナ先輩♪」

 

私と態度が違う‥‥

 

「でもね?マスターに失礼な事をしたり危害を加えたらたとえヨウちゃんでも許さないからね♪」

 

「そうだな。コイツを殺されると日本との関係が悪くなるし、私も姫達から叱られるからな。もし何かしでかしたら海の藻屑にするからな?」

 

「は、はい‥‥」

 

ヨウは二人に念押し(脅迫)されて縮んでいた。

 

カナちゃんがなんだか怖い顔してる。

てか、ルリさん!私が死んだらそこまで外交的に不味いの?姫達に叱られるって私の心配はしてくれないの?

 

 

「ん?お前、意外そうにしてるが日本近海はお前の事を気に入ってるぞ?中にはお前がいるから大人しい姫もいる。」

 

どうやら知らないうちに私は日本を守っていたようだ。

 

 

さて、新たに連れが増えたところで今度こそ行きますか。目指すは深海棲艦の実験施設のある島、マシロの足取りを掴むための航海へ。

 

 

 

 

 

 

 

 





どうも菜音です。
えー、特に応援はありませんでしたが欲求不満ちゃんの出演が決まりました。しかし、彼女の扱いを決めかねているので意見を貰えれば幸いです。


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産みの親 育ての親 7日目

 

 

 

私が部屋を訪ねると閣下は例の通信端末で電話をしていました。

 

「そうかそうか。わかった、引き続き頼んだぞ。」

 

閣下は通信を終えたようだ。

それを確認した私はいつも通りお茶とお菓子を乗せたお盆を閣下の前に差し出した。

 

「おう?今日の茶は違うな?」

 

「ええ、今日はいつもと違う茶葉を用意しました。」

 

「だろうな。香りが違う。」

 

かすかな匂いだけで気付かれたようだ。

これがこの方の凄い所で怖いところですよ。

 

 

閣下のわずかな情報や痕跡だけでみやぶれるこの能力こそが彼が陸軍の長である所以の1つである。

 

 

 

「それで閣下、先程の連絡は雪村大佐ですか?」

 

「そうだ。なんでもマリアナの過激派勢力との交渉に成功したらしいぞ。」

 

「あの強硬派の港湾夏姫とですか?!」

 

閣下があの時雪村大佐にこの件を依頼した時はどうなるやと思ったが、どうやら閣下の見立ては間違ってなかったようだ。

 

「航海権のみならず周辺海域のはぐれの掃討も取り付けたそうだ。」

 

「しかし、どうやってそんな取引を?」

 

つまりこちら側が支払う対価は‥‥

 

「月にラノベ数冊で手を打ったそうだ。」

 

「な、なんと!?」

 

それから閣下から交渉の詳細を話した。

 

「この本は私のポケットマネーで買わせてもらう。」

 

「お言葉ですが、取引の品であれば経費で落ちますが?流石に毎月買うのは閣下の財布に響くのでは?」

 

「バカモン。内密にやらねばならぬのに経費で買えば記録が残るだろうが。それに我が国の人命と国益を本数冊の金で買えるのであれば安いもんだ。」

 

これでひとまずこの件は安心できると判断できる。

閣下はあるチラシを見た。一仕事終わったら行くつもりだったようだ。

 

しかし、それは叶わなそうだ。

 

 

「閣下‥‥」

 

「それよりお前、あの件で何か進展は?」

 

ああ、どうやら勘づいてたようだ。

名残惜しそうにチラシを置く。

 

「はい、閣下の影達からの報告があがって来てます。」

 

「‥‥聞こうか。」

 

 

 

 

部下からの報告を聞いた濱崎は部下を下がらせるとある人物に電話を入れた。

 

 

その人物は数回で出た。

 

「もしもし、桜田か?」

 

『おお!濱崎君か。待ってたぞ。』

 

 

電話の相手は桜田。

 

国防海軍の元帥であり、日本国防軍のトップである。

そして、濱崎大将の親友でもある。

 

 

「郡体との交渉の件だが、なんとか上手くいったぞ。」

 

『ほほう、そうかそれはなりよりだ。内容を聞いても?』

 

濱崎は詳しい内容を伝えた。

 

『ふむ、そうか。この内容は政府には知らせない方が良いな。』

 

「俺もそう思った。」

 

だから経費を使う事を拒んだのだ。

 

もしこの内容を知れば政府の官僚どもはこれを材料にして何か取引を求めるかもしれない。

 

深海棲艦の侵略で世界中のほとんどの国が被害を受けており、そのせいで行政が崩壊していたり、内部分裂や紛争が起きている国などは珍しくもない。

 

逆に日本は珍しいケースで、深海棲艦の攻撃にさらされながらも国が割れたり混乱が起きたりはしなかったのだ。

 

それも政府の官僚達による見えない努力の賜物であり、日本が1つにまとまっていられたのも彼等の功績あってこそだ。なので別に彼等の能力を疑うわけではない。

 

しかし、彼等は深海棲艦を知らない。

何も分かってないのだ。

 

それな彼等が交渉でもして何かを切っ掛けに深海側を怒らせでもすればすべては水の泡、他国の二の舞になる。

 

『この案件は信頼できる者のみで行わなければならない。』

 

「分かっているさ。」

 

これが政府に伝えない第2の理由でもある。

この件は軍としては扱わない。自分と自分の直属のみでやるつもりだ。

 

一見独断専行に見えるが政府は勿論のこと、軍にも信用できない状況なのだから仕方がない。

 

 

「それでだが、丁度奴等についての報告が来たぞ。」

 

『そうか‥‥』

 

「どうやら残党がまだいるようだ。」

 

『彼女達もこの戦争の被害者なんだがなぁ。』

 

「アイツらにしてみればまだ戦争は終わってないんだろうな。詳しいことは後で送る。」

 

『ふむぅ‥‥また何か進展があれば教えて欲しいのう。』

 

「わかった。しかし、ここからは‥‥」

 

『分かっとる。何が欲しい?』

 

濱崎は先程のチラシを見た。

 

「今度東京の店で出る新作のケーキ。」

 

『分かった。いくつだ?』

 

「ホールで頼む。」

 

『‥‥食べ過ぎだぞ?』

 

「その分苦労して働いてる。」

 

『それは‥‥すまんね。後日届けさせる。』

 

「期待してるぞ。」

 

 

ここで二人の会話は終わった。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

軍人さんこと雪村大佐達は目的の島にたどり着いた。

 

 

深海棲艦の施設があると言うのに誰とも会わなかったのだ。逆に恐ろしいとさえ思えてしまう。

 

 

しかし、島の周囲には砲台やPTボートがかなりの数配備されており、飛行場には恐ろしいほど数の機体が並んでいた。

 

後で聞いたが、ここは元々秘匿された基地だからそんなに目立つ警備体制を取ってないそうです。

 

 

ここでもルリさんのおかげで荒事にはならなかった。

 

しかし、ここの責任者に会わせてと頼むと渋られたが聖夏さんの一筆のおかげで会わせて貰える事になりました。聖夏さん、ありがとうございます♪

 

 

 

「お前が雪村大佐か?」

 

「はい、私が雪村です。あなたが集積地棲姫さんですか?」

 

「そうだ。まずは掛けよう。」

 

集積地棲姫のすすめで私達は彼女に案内され、会議室のような場所にやってきた。

 

「さて、これによると私に何か聞きたい事があるとか?」

 

集積地棲姫が聖夏の一筆を示す。

 

 

「はい!実はマシロ、潜水新棲姫を探しています。」

 

「潜水新棲姫?あれは量産されていてかなりの数がいるぞ?」

 

「いえ、彼女達が製造される前にいた最初の子です。」

 

「最初の子‥‥ひょっとして、あの子のことか‥‥」

 

どうやら心当たりがあるようです。

 

私は彼女に、潜水新棲姫、マシロの事を聞いた。

彼女がここに来た事、そしてどこにいるのかを。

 

 

 

「あの子の事か‥‥。話しても良いがお前はあの子の事をどこまで知っている?」

 

「あの子の事を?」

 

もちろん知っていますとも!なんせ何年も一緒にいたのだから。

 

「いや、私が言いたいのは‥‥まぁいいか。話す前にお前には教えておこうか。そのマシロって子、潜水新棲姫がどのように生まれたのか、そして彼女がここに来た理由を。」

 

 

集積地棲姫は軍人達に話したのはマシロが話さなかった彼女の誕生に至る話、そしてどうしてあの島に流れ着いたかだった。

 

 

彼女はここで研究されていた潜水艦の姫、潜水棲姫の製造を行う過程でここが攻撃にあい施設に被害が出て、その時に彼女は巻き込まれてしまったのだ。

 

成長途中で生まれてしまい、気が付いたら海に流され生死をさまよったのだ。その苦しみは私には想像ができなかった。

 

彼女は艦隊に戻った後、自分でここにやってきた。

当然集積地棲姫は驚いた。死んだと思った実験体が独自に進化して戻ってきたのだ。

 

 

彼女はずっと自分のルーツを知りたがっていたようでわずかな手掛かりでここを見つけたそうです。

 

「あの子が自分のルーツを知りたがっていたなんて知らなかった‥‥」

 

「そうなのか?とりあえず続きを聞いてくれ。」

 

幼いながら彼女は力が強く、もし彼女のデータを基に生産ができればコストは潜水棲姫の何分の一で済み、量産の姫を作る彼女の夢も夢ではなかった。

 

それに気付いたマシロは集積地棲姫に取引を提案した。

 

 

自分のデータを取らせる代わりに欲しい情報を教えて欲しいだそうだ。

 

集積地棲姫はこの小さな姫が生意気にもこっちの足元を見て提案した事にムッとしたが、悪くない条件なので飲んだのだ。

 

「その情報とは?」

 

「主に2つだな。完全体の潜水棲姫の居場所と、潜水棲姫の建造を依頼した姫についてだ。」

 

「潜水棲姫とその依頼主?」

 

「多分だが、あの子は自分が本来生まれていた姿やその訳を知りたかったんじゃあないか?」

 

「そんなに思い詰めていたと言いたいのですか?」

 

「いや、お前の話では何かあったから帰って来ないと言っていたが、本当は自らの意思でやりたい事があるから帰らないんじゃないかと思ってね。」

 

マシロが何よりも優先したいやりたい事‥‥

 

「つまり、探しに行くのは止めないが、彼女の意思を尊重してやって欲しいのさ。」

 

「あなたは‥‥」

 

「まぁーそのーなんだ‥‥」

 

集積地棲姫が少しばつの悪そうにしている。

 

「一応その、産みの親だからな‥‥」

 

なんだかんだあっても自分の作った子には愛着はあるのだ。

 

「そうですね。」

 

この人も私と同じくあの子の事を大切に思ってくれてるのだろう。

 

「ふふふ。」

 

「ハハハ。」

 

「うーん、姫様はマシロちゃんのお母さんなの?」

 

今まで黙っていたカナが口を開いた。

 

「みたいなものだな。」

 

「う~ん、ならマシロちゃんのお母さんなら私達のお母さんでもあるの?」

 

「ぶっ!か、カナ先輩何を!?」

 

「だってマシロちゃんは私の妹だし。」

 

「えっ?!姫様が妹なんですか!流石はカナ先輩、じゃあなくてですね!あの方はマシロさんのお母さんであって」

 

「エッ?マスターはお母さんじゃあないの?私達のお母さんじゃあないの?」

 

「いやいや、一旦マシロさんと先輩が姉妹である事は忘れて下さい!」

 

「そんな!マシロちゃんと縁を切れと?!そ、そんな‥‥」

 

「だからですね‥‥あーもう!」

 

ヨウはカナ翻弄されていた。

 

 

「‥‥ほっといていいのか?」

 

「いいんだよルリさん。」

 

見ていて和むから。もうしばらく見てたい。

 

 

 

「ふん、人間が深海棲艦の、しかも潜水艦の親と聞いた時に疑ったけどそのようだと大丈夫そうね。」

 

「集積地さん。」

 

「潜水新棲艦の事、よろしくお願い。」

 

「もちろんです。」

 

「じゃあ話を聞いてくれたから約束通りに、あの子は今はここにいると思う。」

 

集積地棲姫が地図に示した場所

 

 

「ここは‥‥」

 

ここにマシロがいるかもしれない。

 

そんな期待に胸を踊らせ大佐だった。

 

 

 

 

 



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私と先輩 8日目

 

 

 

私がカナ先輩と同じ隊になった時、私は初めはとてもついてないと思ってました。

 

 

私が建造された時にはもう既にカナ先輩はflagshipで、数々の戦果をあげる歴戦の猛者って感じでした。

 

そんな風に言われる一方で、彼女にはある噂があった。

 

 

「彼女と同じ隊になると生きて帰れない」と言われていました。

 

彼女の最初の仲間はもう既に轟沈している。

 

その後配属された潜水艦も長く残った子もいたが、結局殺られてしまい、生き残っているのは彼女だけなのだ。

 

常に戦果を挙げる一方、僚艦を必ず死に追いやる不死身のカ級は敬服され、姫達からも一目置かれるエースだったが誰も近づきたがらない存在だった。

 

 

とある戦いで、またカナ先輩の隊の潜水艦が轟沈したらしく私はその穴埋めの為に配属させられました。

 

 

「えっ?ヨ級、あのカ級と同じ隊になったの?」

 

「うわぁー可哀想‥‥御愁傷様。」

 

私は死刑宣告に近いこの命令を素直に受け入れた。

深海棲艦は命令に絶対である。

 

「まずは旗艦に挨拶に行け。」

 

「あの‥‥旗艦はどなたですか‥‥」

 

「あの隊は基本カ級しかいないからアイツが旗艦だ。」

 

「そ、そうですか‥‥」

 

「わかったら早く行け。」

 

ヨ級は命令役のチ級に敬礼すると、早速そのカ級を探す事にした。

 

 

「うーん、この方はどこにいるんだろう?」

 

私は基地内を探し回る。

 

「そんなに凄い潜水艦なら見ただけで分かると思うけどな‥‥」

 

いや、そもそも建造されたばかりだからこの基地のことって何もわからない。あれ?ここどこ?

 

不味い‥‥迷子になった‥‥

 

彼女がキョロキョロしながら歩いていると、

 

「きゃあ!」

 

「イタッ!」

 

ヨ級は知らない艦にぶつかってしまった。

 

「す、すみません!ごめんなさい!」

 

「ううん、いいの。気にしないで。」

 

ぶつかったのは潜水艦のカ級だった。

丁度探している階級なのでもしやと思ったが、

 

「うん?」ふわぁ~ん

 

ヨ級にじっと見られてキョトンとしている。

 

 

(うん、絶対に違う。)

 

こんなふわんとした子が不死身と呼ばれる潜水艦の訳がない。

 

 

「どうしたの?」

 

「あっ!」

 

しまった。流石に見すぎたかな。

 

「ごめんなさい。人探ししていたので‥‥」

 

「へぇーそうなんだ。だったら私も一緒に探してあげる!」

 

「えっ?」

 

「多分アナタ新人さんでしょ?」

 

「はい。」

 

「やっぱり。普通こんな所に誰も来ないもん。」

 

「うぐっ。」

 

「だったら基地の事とか分からないよね?案内も兼ねて人探しを手伝ってあげるね。」

 

「ありがとうございます!では、お言葉に甘えて。」

 

「うん♪じゃあまずはこっちからね。」

 

ああ。なんていい人なんだろう!

 

 

私はそのカ級に連れられて基地を巡った。

その間、カ級は基地の施設についてヨ級に説明してくれた。ヨ級の質問にも嫌な顔一つせず笑顔で答えてくた。

 

「あっ!」

 

「ど、どうしました?!」

 

ある程度周り終えた辺りで突然カ級が叫んだ。

 

 

「ごめん、アナタの人探しの事忘れてた。そう言えばアナタの探してる艦って誰?」

 

「そう言えば言ってませんでした。私が探してるのはカ級の潜水艦です。」

 

「カ級‥‥私?」

 

「あ、いえ。私が探してるいるのは不死身のカ級と呼ばれてるカ級さんです。」

 

 

「不死身の‥‥カ級。」

 

「はい。実は‥‥その方の隊に新しく配属になったのでご挨拶をと。」

 

「‥‥‥‥。」

 

「カ級さん?」

 

カ級さんが黙ってしまった。

 

あれ?もしかして同情でもされたのかな?これまでこの話をすると誰かも同情されましたもんね。

 

「‥‥そうか。アナタが新しい子だったの。」

 

「えっ?‥‥もしかしてその隊の方だったのですか?」

 

おお、運良く同じ隊の人に会えた。

せっかくだからこの人に不死身のカ級さんに会わせて貰おう。

 

 

「うん、そうだよ。」

 

「良かった♪あの!旗艦のカ級さんは今どちらにいますか?」

 

「ヨ級さんはもう会ってるよ。」

 

「へっ?」

 

「多分その不死身のカ級って私のことだよ。」

 

「えっ?ええええええ?!」

 

嘘?だってこんな可愛らしい子が皆から畏怖される潜水艦だなんて!!

 

「えへへ♪これからよろしくね。」

 

「は、はい‥‥」

 

この子が嘘をついてる様には見えない。だったら本当にこの子が‥‥

 

 

私はこの時、人は見かけによらないと学びました。

 

 

「あ、私の事はカナって呼んでね♪」

 

混乱している私を他所に自己紹介をする先輩潜水艦。

この時私はこの衝撃の出会いによってある疑問に気がつかなかった。

 

先輩はここは誰も近づきはしない所だと言った。

なら、彼女はここで何をしていたのか?

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

それから私はカナ先輩の隊の一員として死地をくぐり抜ける毎日だった。

 

いつ死ぬかわからない戦闘や任務の毎日に気が滅入りそうだったがカナ先輩が優しく励ましてくれたり、時には生き残る為に戦闘技術を厳しく指導してくれたりしたおかげでなんとか今日まで生き残れた。

 

 

私はここに来てもう1つの事を学びました。

 

人は噂ではわからない事です。

 

 

そんなこの隊での任務をこなしている内に私は噂の真相が見えてきた。

 

カナ先輩と一緒だと誰も生きて帰れないと言われていました。それは先輩に課せられる任務の難易度が原因だった。

 

彼女自身が優秀で、しかもその僚艦もそれに影響されて強くなる。なれば大変な任務が課せられる事は当然であり、こんのルーキーがやれば高確率で轟沈です。

 

 

そして、彼女の隊は消耗が激しくすぐに穴埋めがなされ、そこにルーキーが入れられる。これが彼女だけが生き残って他の子がいなくなる仕組みである。

 

 

 

こんな噂のされ方のせいかたまに、「彼女が生き残っているのは他の子を犠牲にしているからだ」と言っている人もいました。

 

 

とんでもない。彼女は非常に仲間思いの優しい方です。でなければ毎日私が生き残れる様には励ましたり訓練をつけて下さったりなど自分の時間を削ってくれる訳がない。

 

 

 

 

これらの事で彼女が実力で生き残って来たのは分かるが、彼女がどんな戦闘からも帰って来る最大の要因は彼女の生に対する執着の強さだった。

 

 

ただそれが分からなかった。

 

どうせ生き残ってもまたすぐに次の任務が待っている。今轟沈しなくても次で散るかもしれない。

 

 

深海棲艦の通常艦、それも使い捨てにされやすい潜水艦は生に執着はそこまで強くない。

 

では彼女な何故強いのか、何の為に生き残りたいのか。その理由が知りたいかった。

 

 

そんなある日だった。

 

 

 

任務がなく待機が続いた。

 

 

「う~ん、やることないし訓練でもしよっと。」

 

私は暇を持て余していた。

 

「あれ?カナ先輩だ。」

 

先輩がどこかに向かっていた。

そう言えば、たまにどこにいるかわからない時があるけど、どこで何してるんだろ‥‥

 

「ふふ♪尾行してみよっと。」

 

バレない様には後を追う、これも潜水艦の必須スキルだって先輩に教わったもん♪

 

 

私はこっそり後を追う。

 

 

 

 

 

「あれ?ここは‥‥」

 

あの時先輩にはじめて会った誰も来ない基地のはずれだった。

 

「確かにこの先に行ったけど、こんな所に何の用なの?」

 

 

私はさらに先輩を追って奥に進む。

 

「うん?」

 

なんだか、すすり泣く音がする。

 

 

私は陰に隠れた。

 

なんとあの先輩がうずくまって泣いていたのでした。

 

私は驚きを飛び越えて何も考えられなかった。

あの強い人が誰にも知られず隠れて泣いていたなんて‥‥

 

 

「うぅ、マスターに‥‥会いたい‥‥」

 

 

声が小さくて泣いてかすれいてなんて言っているか聞こえないが、誰かに会いたいらしい。

 

誰に?

 

 

私はあの日やこれまで先輩がここで何をしていたのか、どうしてあそこまで強い生への執着があったのかを‥‥

 

 

 

あの日、先輩の秘密を知った私は更に好きになりました。

 

強くて可愛らしい、時に優しく時に厳しい尊敬できる先輩。しかし、本当は弱い一面も持ち合わせている。

 

 

だったら私は、私だけでも側にいよう。

彼女が会いたがっている人物に会えるまで、私が側にいて彼女の寂しさを軽減させよう。

 

私が強くなれば、役に立てば彼女が生き残る確率も上がる。

 

 

憧れの先輩の為になりたい。

それが私が生き残る理由となった。

 

 

一方で、そんな先輩にここまで思われる人物は誰なのか気になって仕方がなかった。

 

そして、同時にその人物がうらやましく、妬ましくて仕方がない私だった。

 

 

 

 

 

 

 






いかがだったでしょう?
今回はヨウがカナにはじめて会った時の話です。
時々こうやった戦争時の潜水艦達の過去の話とか入れたいと思います。


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sidestory2 ビジョン無き者


今回はsidestoryをお送りします。面白ければsidestoryではなくメモ帳みたいにシリーズ化したいと思ってます。


 

 

 

 

あの地獄の様な戦争が終戦した‥‥

 

生き残ってしまった俺はまだ兵士をやっていた。

 

 

 

 

俺はあの時は陸軍の上等兵だった。

 

戦場は南方で与えられた任務は艦娘が海戦を始めたのと同時に敵の港湾基地を陸から攻撃しろとの事だった。詳しい戦術目標なんて知らされていない。おおかた、艦娘達の援護の為に敵を撹乱させようとしたのだろう。

 

 

だが、敵にはこちらの武器が通じない。

 

 

軍艦の大砲はおろか爆撃機の爆撃も効果が薄い。

そんな化け物相手に敵にばれないように島に上陸していて大した火器を持ち込めてない俺達の攻撃なんて虫が刺す様なもの、つまり犬死しろってことだと思った。

 

 

どちらにせよ既に島にいて戦闘が始まった。

ならもう後に引けない。

 

どうせ死ぬならと俺達は文字通り死に物狂いで大暴れしてやった。

 

 

突然の事で敵の大将、港湾棲姫とか言う奴は驚きを隠していなかった。

 

港湾棲姫に反撃され俺の仲間は次々と蜂の巣になる。

俺はタダでは殺られまいと日本刀で特攻してやった。

 

まさかやれるとは思っていなかった。

ところが当たりが良かったのか、俺は奴の頭に生える角をへし折る事に成功した。

 

そのあとは覚えていない。

 

気付いたら脱出用の船に乗っていたし、あの戦闘も敵が島を放棄して勝利で終わったらしい。

 

 

 

「あの姫‥‥どうなったんだろうな‥‥」

 

 

俺は必死に暴れていただけだ。後の事は覚えてないし艦娘達が奴を仕留めたと言う話も聞いてはいない。

 

 

結局あの地獄みたいな戦闘の事は何も思い出せず、かと言って誰かに聞いたり調べたりする様なこともせず小さな疑問のままにしていたらいつの間にか戦争そのものが終わっていた。

 

 

 

 

「お前、これからどうする?」

 

「どうするって何がだよ?」

 

 

俺はクソッタレの戦争でいつも一緒に死地を潜った相棒と一服しながらたわいもない馬鹿話をしているとアイツは突然切り出してきた。

 

 

「いやよう。もう戦争も終わって平和になるならまた普通の世の中になって平凡に暮らせるじゃないかと思ってな。なら、こんな軍なんてさっさとおさらばして転職でもどうかなってよ。」

 

「ふーん、そう言えばお前って元々自衛隊員から国防軍人になったんだな。」

 

「そう言うテメーは徴収された三等兵じゃえねかよ。」

 

「自衛隊に入ったのは免許とかか?」

 

「そう、自衛隊に入れば色々な資格とか免許とかタダで取れて給料付き。取るだけ取って任期が来たら即辞めるつもりが戦争勃発だもんな。」

 

 

国防軍になる前の自衛隊員だった奴はみんな上等兵に昇格。それ以下の奴はその後に入った奴かもしくは戦争によって入らざるを得なくなった者。つまり俺とかだ。

 

 

元々無職だった者、戦争が原因で会社が潰れたとかで職を失った者など理由が様々だが、行き場がなく食い積めた奴等は人手不足で常にウェルカムの軍に入る他なかった。

 

そしてしぶとく生き残り上等兵にまでなって、コイツとさんざん馬鹿やって上官にどやされて深海棲艦に特攻させられて今にいたる。

 

 

「ようやく辞められるぜまったく。」

 

「そりゃよかったな。」

 

「おう、だからお前はどうなんだ?お前は食い繋ぐ為に入っただけで別に本意じゃないだろ?」

 

「そうだ。」

 

確かにそうだ。

 

俺は別にはじめから軍に入りたかった訳でもなく、仕方なくだった。戦争も終わって自由になれる。

 

 

だが、止めてどうするんだ?

 

 

「‥‥俺は。やりたいことが見つからない。」

 

軍を辞める。ではその後は?

やりたい事なんてないし、生き残ると思ってなかったからその後の生活なんてこれぽっちも考えてなかった。

 

 

「そうかい‥‥まぁ気長に考えようや。」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「除隊後の人生か‥‥」

 

俺はアイツとの話を一人引きずっていた。

 

家までの家路の間もずっとそればっかりを考えていた。

 

 

 

「何かやりたい事か‥‥」

 

あの後アイツに聞いたが、アイツは辞めた後の就職先のメドが立ってるらしい。更に驚いた事にアイツには婚約者がいて彼女の為にも軍の兵士よりも高収入の職に就きたいそうだ。

 

 

アイツには既に次のビジョンがあるようだ。

 

 

目的もなくただ必死だった俺とは違う。

 

 

 

「俺にも何かないのか‥‥」

 

考えてもやりたい事なんか何も思い付かない。アイツのように守りたい人や家庭がいるわけでもない。

 

 

気付くともう家に着いていた。

家賃の安いアパートだ。

 

 

「ん?」

 

俺は異変に気付いた。ドアノブが壊れている。

まるですごい腕力で握りつぶしたかのようだ。

 

 

俺は侵入者がいると悟る。

 

俺は中に突入した。泥棒の類いならすぐに捻り潰せる。

 

 

しかし、部屋の奥にいたのは泥棒なんてなま優しいものではなかった。

 

 

「なっ?!」

 

「‥‥‥‥。」

 

 

なんと!いたのは深海棲艦!?

 

しかもコイツは角のない港湾棲姫だ!

 

 

「お、お前!ま、まさかあの時の!?」

 

「エエ‥‥」

 

そうか。なるほど、コイツならドアノブのことも頷けるよ。

 

 

「はは、これは参ったぜ‥‥」

 

俺は座り込み。驚き過ぎて腰を抜かしのもあるがほぼ諦めたのだ。

 

コイツからは逃げられないと察したのだ。

 

 

 

「ははは、お前、まさか生きてたのか。」

 

「‥‥。」

 

「ここにどうやって来たのかは知らんが‥‥理由は俺を殺しにか?」

 

まさか角をやった俺を覚えていたのか。

 

 

「‥‥。」

 

しかし、港湾棲姫は無反応だ。

 

 

 

「はっ。これから死ぬ俺に掛ける言葉はないってか?そうかい、ならさっさと殺れよ。じらしプレイは好きじゃないんだ。」

 

「‥‥がう」

 

「なんだ?」

 

「違う‥‥」

 

港湾棲姫がボソッ話した。

 

「何がだよ?」

 

「声が出ないのはその‥‥恥ずかしいと言いいますか‥‥」

 

 

「‥‥はぁ?」

 

何もじもじしてやがる。

 

 

「それに私は殺しになんて来てない。」

 

「じゃあなんだよ?」

 

「単刀直入に言います。私を貰ってください。」

 

「‥‥‥‥‥‥はい?」

 

この言葉を理解するのにかなり苦労した。

 

 

「だから、私をあなたのお嫁にしてください。」

 

「はぁ?!何を一体!」

 

「あなたはとても勇敢だった。これまであんなに私を震えさせた人間はいなかったわ。」

 

「‥‥え」

 

「それに私はあなたに角を折られて傷物にされたし、人間なんかに傷を負わされたってことで肩身が狭くなっちゃったの。」

 

「誤解を招く言い方はやめい!」

 

「とにかく!私はあなたの勇敢さに惚れたし、居場所もなくなったから責任を取ってね♪」

 

 

「ひゃー!!?」

 

 

んなことがあり、その日から俺の所に港湾棲姫が居座る事になった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

突然押し掛けて来たと思ったら嫁にしろとか言って来て意味がわからなかった。

 

 

はじめは俺はあの女のことが恐かったし、正直鬱陶しかった。

 

ところが‥‥

 

 

 

「おはようございます旦那様。朝食できてますよ。」

 

 

「行ってらっしゃいませ旦那様、あら、忘れ物は確認しましたか?」

 

 

「お帰りなさい。お勤めご苦労様です。夕飯の準備はできてますよ?それともお風呂にしますか?もしお望みなら‥‥」

 

 

 

とまぁこんな風に献身的に俺に尽くしてくれた。

 

はじめは下手だった料理や家事も努力したのか徐々に上手くなっていくし、俺も慣れてきたのか行くときに行ってらっしゃい、帰ればお帰りと言ってもらえる事に安心を覚えてはじめていた。

 

 

「行ってらっしゃいませ旦那様。」

 

「ああ‥‥」

 

俺はいつも通り行こうとして振り返った。

 

 

「今日は早く帰るからな。」

 

「はい、なら早く待ってますね。」

 

いつもなかった返事に港湾棲姫は微笑む。

 

 

俺はそんな彼女を見れなくてさっさと基地へと向かう。

 

 

 

「早く帰るか‥‥」

 

まさか俺の口から出るとはな。

 

いままでは帰りたくないとさら思ってたのに早く帰りたいと思うまでになるとはなぁ。

 

 

「これが大切な人ができましたってやつかな‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?お前結局まだ軍に残るのか?」

 

「ああ、やっぱりなんの取り柄のない俺に他の職はちょっとな。」

 

「そうか、まぁ頑張れよ。けどまさか残留を希望するとはな。」

 

「はは、今無職になる訳にいかんからな。アイツの為にも。」

 

「ん?お前いま何て言った?!」

 

「な~んも?」

 

「惚けるな!俺は聞いたぞ!お前いつ彼女とかできた?!」

 

「お前が言うな!」

 

 

 

やりたい事もないのならもうしばらくは軍にいようかな。もう1人じゃあないわけだし‥‥

 

 

「ただいま。」

 

「お帰りなさい旦那様。本当に早かったですね。あ、ご飯とお風呂どちらにしますか?私と言う選択も‥‥」

 

「ならお前で。」

 

「わかりました、ご飯ですね‥‥って!え?本当に?」

 

「ごめん、冗談だ。」

 

「えー」

 

少し膨れる港湾棲姫

 

 

 

コイツとのこんな生活を続けたいから手に職は持ち続けたいしな。なら、出世でも狙おうかな。

 

 

「ならご飯の後に‥‥」

 

「風呂だな。」

 

「だったらその次に‥‥」

 

「もうそこまで来たら寝ようぜ?」

 

「むむむ‥‥」ぷくー

 

かつての面影のなくなった深海棲艦の姫、そしてそんな彼女に一方的に嫁入りされた兵士。

 

 

二人の生活はここからです。

 

 

 

 

 

 





この作品は戦争を生き残った人と深海棲艦の話だから、この小説のコンセプトに合ってます。


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偽りの平和 9日目

 

 

 

「見て見て!ライオンさんが水を出してる!」

 

「おお、マーライオンだね。よく無事だったね。」

 

 

 

私とカナは現在、シンガポールにいます。

 

集積地棲姫からマシロの手がかりを得た私達は南方海域を進み西へ向かっていた。

 

この先の海峡を抜ければ西方海域です。

 

 

しかし、その前に食料など物資を補給するためにシンガポールを訪れたのです。

 

 

「カナ、私からはぐれないようにね。」

 

「分かってるってマスター♪」

 

カナは私の腕に抱きつく。

なるほど、そもそも離れる気がないと言うわけだ。

 

 

ちなみに今回もカナの変装もとい、コーデェは完璧である。もしここで彼女が深海棲艦であるとバレると不味い。

 

この南方は戦争の激戦地域でありここでほとんどの都市と多くの人の命が犠牲になっている。その為深海棲艦に家族を奪われた人も多いだろう。

 

当然、深海棲艦に対する憎しみと恐怖の強い。

 

 

「それにしても‥‥復興が早いな‥‥」

 

シンガポールの街はその戦争の傷跡を残しながらもかつての姿を取り戻しつつある。わずか一年でこれだけの復興を遂げるとは人間の力は捨てたものではないと思わされます。

 

しかし、すれ違う人々の表情はどこか暗い‥‥

 

 

当然と言えば当然かな。

 

 

何せこの平和は仮初めのものに過ぎないからだ。

 

 

南方諸国は深海棲艦との停戦の為に日本が仲介して協議に入っている。しかし、先ほども言った通り、彼らには強い恨みがある。

 

それがトゲとなり、交渉は上手くっていない。

 

今は話し合いの途中だから姫達が艦隊の動きを止めているが交渉決裂、あるいは何かが切っ掛けで姫を怒らせれば再び攻撃が始まる可能性がある。

 

 

現に既に姫を怒らせて海上封鎖を受ける島国も存在しているし、滅んだ国も数ある。

 

基本的に中枢に従う群体の艦隊はほんの一部の領土の割譲と環境対策などのいくつかの条件で海域を解放、停戦を受け入れる。上手く行けば今後友好関係を築いて通商も可能である。

 

しかし、独立系の群体となると勝手が違ってくる。

 

群体は姫が絶対である。

独立系群体では姫の意識が群体の意識となり、彼女らの気分一つで艦隊が動くのだ。

 

そしてその独立系が特に多いのは南方と西方である。

 

 

本当に‥‥なんて面倒なところなんでしょうか‥‥

 

 

この街の復興は戦争を隠すため、ここの人々がこうしてまた普通に過ごしているのはその事実を忘れるためかもしれない。

 

 

「マスターどうしたの?」

 

「ううん、何でもない。早く買い出し終わらせようか。ルリさんもヨウちゃんも待ってるしね。」

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「マスター、これで最後?」

 

「うん、大体これで終わりかな。」

 

 

買い物を終えた私達。なんと、大将閣下から貰ったあのカードで本当に買い物ができました。

 

 

「おおっと!そうだ。寄りたい所があったんだ。」

 

「そうなの?それはどこなの?」

 

「ええっと‥‥どこだろう?」

 

「え?」

 

「い~や。欲しいものがあるけどどこに行けばいいのやら。そもそもシンガポールに来るのはじめてだし。」

 

「ちょっと!ならよくここに来れたわね!」

 

「何となくです。」

 

「マスター‥‥」

 

そんな感じで困っていると‥‥

 

「何かお困りですか?」

 

「え?」

 

「どちらさまですか?」

 

声を掛けてきたのは女性だ。見たところ大学生くらいだろうか。

 

「あ、すいません。なにやらお困りようだったので。その服装は日本の軍人さんですか?」

 

「ほら!だから着替えたほうが‥‥」

 

「いや、私服で軍発行のカードなんて使ったら疑われるって腹心の人に言われたから。」

 

 

とりあえずその娘に事情を説明する。

 

 

「わかりました。カメラが欲しいのですね。」

 

「はい、そうなんです。」

 

「え?マスター、かなりいいの持ってたよね?」

 

「実はもう1つ必要に。」

 

 

あれは買い出し来る前、カナを変装させた時だった。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

「可愛い‥‥」口を押させる

 

「もう~マスターったらさっきからそればっかり。」

 

そうは言うが可憐すぎるのだから仕方がない。

 

 

「カナ先輩可愛いです!」

 

おっ!ここに同志がいた。

 

 

「もう!ヨウちゃんまで!」

 

「はぁはぁ、カナ先輩素敵です~、うう、なんでしょうか!この衝動は!この素晴らしさを形に残したい!」

 

「ふふ、ヨウよ!人類はその願望を叶える神器を作り上げたのだよ!」

 

「そ、それは!?」

 

「これこそ!人類の叡智と願望の産物。カメラです!」

 

カシャカシャ

 

「そ、それは?!」

 

「この通り、写真を取りまくり!」

 

「‥‥」声にならない叫び

 

「ちょっと!いつも思うけど取りすぎだって!」

 

 

「イイね~恥ずかしがりながらも確りカメラ目線なのとてもいいよ!」

 

「大佐さん!私にも先輩の写真ちょうだい!」

 

「もちろんとも同志よ!」

 

ここに同志との熱い握手が交わされた。

 

 

ヨウと同志の絆を結んだ私は同志の為にカメラを買ってあげることに決めたのだった。

 

 

 

 

「カメラならよく観光客が持ってくるの忘れるからとかで特価で売っている所がありますよ。ご案内しましょうか?」

 

「是非とも。」

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

私達はその女性、フォンさんに案内してもらった。

 

 

「ところで雪村さんは日本の軍人さんですよね。」

 

「うん、そうだよ。」

 

「そんな人がなぜシンガポールに?」

 

「う、そ、それは‥‥極秘任務だよ。だから内容は言えない。」

 

「そうですか。」

 

「どうしてそんな質問を?私が軍人だと何か不味いことでも?」

 

「いえいえ!とんでもないです!むしろその逆です。」

 

「逆?」

 

「はい!日本の方は意外に知ならないそうですが、日本軍は東南アジアだと英雄ですよ。」

 

 

彼女による、

 

日本は東南アジアやオセアニアからの難民を引き受けたり、時に軍を派遣してくれた恩人で、しかも憎い深海棲艦に勝利を収めたとして英雄扱いらしい。

 

 

「だからみんな日本の事は押してますよ。」

 

「そ、そなんだ‥‥」

 

「ただ‥‥一部では不満もありますが。」

 

「それは一体‥‥」

 

「どうして日本は深海棲艦を許したのですか?勝ってたのに、そのまま攻めればよかったはずじゃあ?」

 

 

そうか‥‥これが日本、深海棲艦と諸国とのズレの正体か‥‥

 

 

外のみんなは日本が勝ったと思っているようだ。

 

 

とんでもないです。

 

そんな訳がない。いくら艦娘がこちらにいようとも、深海棲艦の戦力は圧倒的、もしあのままやり合ってたら勝算は五分五分、いえ、負けてたかもしれない。

 

 

この平和は鎮守府や多くの関係者の犠牲や努力、そして深海棲艦の中枢、中枢棲姫が和平を望んだからだ。

 

決してもぎ取ったものではない。

 

 

私達が海外の事を知らぬように諸国も何も知らないようだ。

 

 

 

「日本は確かに素晴らしいです。けど、戦って勝てる力があるのに、どうして手を止めたのですか?どうして打った敵と手を結ぶのですか?」

 

「アナタは‥‥もしかして‥‥」

 

「すいません、言い過ぎました。私も奴等の侵略で家族を失ったので。」

 

 

「っ‥‥!」

 

カナが辛そうにしている。

 

この話をこれ以上は‥‥

 

「フォンさん、その店はあれかな?」

 

「あ、そうですね。」

 

「そう、なら案内はここまでいいよ。」

 

「そうですか。では、私はこれで。」

 

「ありがとうございました。」

 

私はカナを連れて店に行こうとする。

 

「雪村さん!」

 

「なんでしょう?」

 

「先程はすいません。本心ではないんです。ただ‥‥」

 

「わかります。ただ憎いんでしょう?」

 

「はい‥‥」

 

いくら悔しくても、恨んでても自分たちでは深海棲艦を倒せない。なら、それができる者に過度な期待をするなと言うのもまた無理は話‥‥

 

「でも、今の平和、それだけはどうか否定しないで欲しいです。じゃないと亡くなった人達に申し訳が立ちません。」

 

「そう、ですね。ありがとうございます。雪村さんと話せて少しスッキリしました。」

 

「そう、ならよかった。」

 

「お引き止めしてすいません。では、今度こそ失礼します。」

 

フォンさんが去っていった。

 

 

「マスター‥‥」

 

「どうしたの?」

 

「私達って、こんなにも不幸を振り撒いてたんだね。」

 

「そうだね。けど‥‥」

 

けれど、彼女達が必ずしも絶対悪ではない。

 

 

切っ掛けを作ったのはそもそも人間の方で、そうなるように誘導した黒幕もいたのだ。

 

 

「さあ、この話はお仕舞い!カメラ買うぞ!カメラ!」

 

「う、うん。」

 

 

はぁ‥‥せっかく掴んだ平和なのに‥‥

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はぁ‥‥私って最低だ‥‥」

 

フォンは先程の事を悔やんでいた。

いくら何でも、この行き場のないものを日本人だからと彼女にぶつけるのは間違いだ。

 

それは自分でもわかる。けれど‥‥

 

 

「やっぱり‥‥この偽りの平和は‥‥許せない。」

 

 

敵がまだいるのに。どうして‥‥

自分たちに、仇を取る力がないから?

 

 

「力があれば‥‥」

 

「力があれば、そうすれば仇を取れて日本に怒りをぶつけることもないと?」

 

「だ、誰?!」

 

「おおっと!失敬。」

 

路地裏から現れた謎の男

 

 

「深海棲艦に一矢報いようとしない社会に不満がある。そう言うことですね。」

 

「そ、そうだとしたらなんなの!」

 

「できたら、ご自分で仇を取ればよし!そうでしょう?」

 

「それは、そうですが‥‥」

 

「ならば、私が良いものを持っております。使い手を選ぶクセモノで値段も少々しますが‥‥いかがですか?」

 

「‥‥見せてください。」

 

 

 

 

 

 



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戦争の遺産 10日目

 

 

 

目的を果たし、シンガポールを後にした私達。

 

この辺りの独立系群体は私が港湾夏姫と交渉をした事を聞いてあっさりと取引に応じた。ついでにここいらの南方諸国との交渉について聞いたが、どこの群体も日本との交渉には無条件で応じるが、彼らの事は別らしい。

 

流石にこの件は深追いは出来ない。

私の管轄外もいいところだ。

 

 

南方を後にしてついに海峡に入った。

ここを抜ければ西方海域である。

 

 

「まさか、ここに来ることになるとはな。」

 

「ルリさん、ここに何か思い出でも?」

 

「いや、はじめだ。だが、お前も話にくらいはここの事を聞いた事があるだろ?」

 

「そりゃあ‥‥まぁ‥‥」

 

 

この海峡‥‥

軍属の間ではロングランスと呼ばれた場所である。

現代版アイアンボトム・サウンドとも呼ばれ、深海棲艦の侵攻を阻もうとした人類側の艦隊が最も多く沈んだ所であり、その後に鎮守府が西方を攻略する際に侵入を阻もうとした深海棲艦が最後まで抵抗した場所である。

 

そのため敵味方の多くの艦が寝る場所である。

交通の要所が墓場だなんてゾッとしない。

 

 

 

「カナ先輩!大丈夫ですか!」

 

「へ、平気‥‥少し‥‥気分が悪いから、部屋で寝てるね。」

 

顔色の悪いカナ、ヨウが心配するがニコッと笑って見せると船内へと入っていく。

 

 

「カナ!」

 

「大佐待って!」

 

心配で様子を見に行こうとした私をヨウが止めた。

 

 

「ヨウ、どうして?」

 

「今はそっとした方が‥‥」

 

ヨウによれば、

 

ここはカナは船を沈めた事のある場所であり、同じ隊の仲間をたくさん亡くした場所でもあるらしい。

 

 

「ちなみに私の知り合いのタ級もここで沈んでる。」

 

ルリさん‥‥

 

「そんな顔をするな雪村。我々は仲間を失う事が当たり前だ。そんなに辛いことじゃない。だが、あの子は違うようだがな。」

 

カナは‥‥優しい子だ。

優しいからこそ、その優しさが苦しめているの?

 

 

「無理やり考えないようにしてたもの。それを今感じているだろう。」

 

「そんな‥‥」

 

「だがな、そうしなければあの子は生き延びられなかったはずだ。」

 

生き延びた代償ってわけですか‥‥

 

 

「今更確認する必要なんてないと思うが‥‥あの子を、大事にしてやれよ。」

 

「分かってます。」

 

「よし、なら私はそろそろ行こう。ここからは西方のはぐれどもも出てくる。私が先行する。」

 

「わかりました。くれぐれもお気をつけて。」

 

「はっ、戦艦の私がはぐれごときに遅れは取らんよ。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「フム‥‥」

 

戦艦ル級ことルリは索敵中にふと考えてしまった。

 

 

「あの人間1人で我々がこうも変わるとは‥‥やはり不思議なんて奴だ。」

 

 

はじめて合ったのはあの島、敵である私に武器を突き付けられたのにも関わらず私に救いを差し伸べようとしたお人よし。

 

しかし、そんなアイツになぜか私は助けられようと思った。

 

 

私だけではない。他の深海棲艦、姫様にいたるまでアイツに心を許した。本来無謀とも言えるこの任務すら、成功するんではと思えてしまう。

 

 

アイツ1人の為に流れは変わろうとしている。

敵対から協和へと‥‥

 

しかし、その変化の先頭にいるからこそ、これからもアイツは色々な事に物当たるし、その度に悩むのだろう。

 

 

やれやれ、アイツは本当に賭事が好きだな‥‥

 

折角生き残ったのに大変な奴だ‥‥

 

だからせめて、

 

 

「身の安全だけは保証してやろう。うん?」

 

バッシャー!!

 

 

「クッ!」

 

この威力からして駆逐艦か!?

 

しまった!余計な事を考えて索敵をおろそかにしたか?

いや、それでもおかしい‥‥私の索敵能力はそこまで馬鹿じゃあない。

 

おそらく、どこか岩場か入江に隠れてたか?

それならこちらの索敵からも分かりにくい‥‥

 

 

「だが、はぐれ駆逐にそんな知能はない!」

 

となると敵は‥‥

 

敵が放ったと思われる煙幕、そしてその中から突っ込んで来るのは‥‥

 

 

「艦娘か!?」

 

「はあああああ!」

 

 

人型が突っ込んできた!

 

数は三人程度!

 

「発射!」

 

敵は三人同時に魚雷を放つ!

 

 

「ちっ!面倒な!」

 

駆逐艦程度の砲撃ならかすり傷にもならん。

だが、魚雷は別だ!

 

「ふん!」

 

戦艦の自分では回避しても間に合わない!

ならばと副砲を使い魚雷を落とす!

 

「うっ!?」

 

魚雷を撃たれたのがそんなに衝撃的なのか敵は動揺した。その動揺で生まれたわずかな時間が彼女らの寿命を縮めた。

 

「御返しだ!」

 

ルリの正確な主砲の砲撃だ!

敵は直撃して宙を舞った!

 

 

「馬鹿な奴等だ。魚雷を囮に背後に回るなり時間差攻撃をするなり工夫すれば私にダメージを通せたのに。」

 

 

そればかりかまるで実戦がはじめてかのようなぎごたなさに教本通りの戦い方‥‥

 

コイツらは明らかにに戦い慣れてない‥‥

つまり鎮守府の艦娘ではないし、そもそもコイツらはからはそんな気配がしない。

 

 

「強いて言えばただの人間‥‥これはもしや‥‥」

 

「ルリさーん!?」

 

 

大佐達を乗せたクルーザーが追い付いてきた。

 

「大丈夫ですか?砲撃が聞こえましたけど。」

 

「私ならこの通り、しかし、襲撃者がいつもと違った。」

 

 

はぐれでも艦娘でもない敵‥‥

 

コイツに聞くのが一番早い。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

ルリはクルーザーに襲撃者の1人の遺体を乗せた。大佐に見てもらう為だ。

 

 

「コイツだ。」

 

「この軍服は‥‥間違いない!国防軍の物‥‥」

 

「コイツらはなんだ?艦娘か?艦娘にしてはあまりに戦い慣れしてないが?」

 

確かに鎮守府が訓練もろくにしてない建造したての艦娘をこんな戦線まで送り込んだりは絶対にしない。

 

何よりもこの軍服にこのマークは‥‥

 

 

ま、まさか‥‥大将閣下の言ってた‥‥

 

 

 

「この子達は‥‥特装兵だと思う。」

 

「特装兵?あの大戦でお前ら人間が使ったあれか?」

 

 

特装兵‥‥

 

それは技術の力で作り出した擬似艤装を少女に装備させた擬似艦娘の事である。

 

 

あの大戦で、日本軍を乗っ取った同盟と言う組織が対深海棲艦の兵器として生み出し、道具として使かわれたらしい。大勢が戦死、生き残りは軍に保護され武装解除。同盟も解散させられたが一部、同盟の残党がまだ残っていると聞いてはいたが‥‥

 

 

 

「この子達も許せないのかな‥‥」

 

私はこの子とあのシンガポールの子を重ねてしまう。

この子等も戦争の被害者なのに‥‥

 

 

「しかし、こんなのがまだ彷徨いてるとはな。」

 

「うん、まさかこんな所に逃れてまで戦おうとするなんて‥‥」

 

「‥‥正体はわかった。装備は証拠品として残しておけ。遺体はどうする?」

 

「海に沈めてあげよう‥‥今はそれぐらいしか。」

 

「‥‥わかった。」

 

 

ルリさんは少女の遺体を海に捨てる。

 

私はその間ただ黙祷を捧げるだけだった。

本当は日本に連れ還してあげたかったけど。

 

仮に今日本に引き返してもその頃には彼女の体はもう‥‥

 

 

 

「雪村。」

 

「何かなルリさん?」

 

「これだけは持ってやれ。」

 

「これは‥‥」

 

ルリさんから渡されたのは3つのダックタグ。

多分彼女達のだろう。

 

 

「ありがとうルリさん。」

 

「‥‥敵に情けをかけるのはいい、だがな、それが理由でお前が苦しむ事にだけはならないような。」

 

 

 

 

 

 

 



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変わり者 11日目

 

 

 

 

「暗い・・・」

 

 

 

一人の少女が海の中で浮かぶ、いや、泳いでいるとも表現できるかもしれない。自分が今どの方向を向いているのかも分からない。

 

 

 

それほど深く暗い所に自分が居る事を理解する。

何故自分がここに存在しているのか分からなかった。

 

 

いや、わかりたくなかった。けれど時が経ち今の自分に慣れてくると、そう、少女はふと考えてしまう。

 

「何故・・・・私はここに居るんだろう・・私は一体・・・誰だったんだろう・・」

 

少女の頭に浮かぶのはそのことばかりだった。

その度にいつも自分を呼ぶ声が頭に響いた。

 

「この声・・・・・・どこかで・・・」

懐かしい誰かの声、しかし思い出せない。

 

 

しかしそれは別の音にかき消される。

そして少女は自分が今居なくてはいけない現実の世界へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

少女が目を覚ました場所は先ほどのような海の底ではなく、海の上、それも島を丸々占領して築かれた基地の一角だった。まだ昼で明るい。どうやらここでうたた寝をしていたようだ。

 

自分の周りを確認すると私を起こした音の元凶と思わしき者が立っていた。

 

「ン~ッ、おはようございます。」

背伸びをして体を伸ばしながら挨拶をすると・・・・・・

 

「ようやく起きた!もう!まだ寝る時間ではありませんよ!」

 

彼女は駆逐棲姫・・・・・・

この基地というよりこの周辺海域に展開する深海棲艦艦隊の幹部で私の直属の上官。

 

 

「かなり長い間寝ていたみたいだけど、どうかしたの?」

 

そんなに寝ていたのか。なら誰か起こしてよ。

 

「いえ、またいつもの夢です。それよりも姫がわざわざ起こしてくださるなんて、また出撃ですか?」

 

深海棲艦における姫の存在は絶対である。本来であればこんな怠慢な艦などいたものなら破壊されることだったある。しかし、それをされないのは彼女が部下思いの優しい性格なのもあるが、ひとえにこの深海棲艦の姫達からの信頼と実力による。

 

 

「そうよ、懲りない人間どもがまた艦隊を差し向けて来ているの。だから私の艦隊に迎撃とお返しの指示がきたのよ。」

 

お返しって可愛く言ってはいるが実際は奴らの本土に空爆しろってことだろう。

 

「それ、別に私達の艦隊でなくとも・・・・・・」

 

その位ならば何も姫率いる艦隊でなくとも1部隊のみで十分だろうに

 

「残念!これは上からの命令よ!」

 

上からって・・・・・・

ここであなたより上はあの人くらいしかいないでしょう?

 

「あの方の命令なら仕方ないですね。」

 

少女は寝起きで少し重い体を起こすと脱いでいた前と後ろに2本ずつ触手のような物が生えている帽子のような物をかぶり、壁に立てかけていたステッキを持つ。

 

 

彼女、ヲ級フラッグシップは自分の顔軽く叩いて眠気を飛ばすと、

 

「よしっ!行きましょうか。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

二人が部下が待機している場所に向かっていると駆逐棲姫がヲ級に聞いてきた。

 

「さっきのね。夢の事だけどね、何か思いだせた?」

 

「はい・・あとちょっとで・・・昔の事とか何かを思い出だせそうでした・・・・」

少女は憂鬱そうに答える。

 

「昔の事?それってヲ級ちゃんが何者かだった頃の記憶?」

彼女は興味ありそうな風に聞く。

 

 

「はい・・そうだと思いますし、違うかもしれません。ただ懐かしい、それだけです。」

 

そもそも自分が何者かで一体なにが変わると言うのだろう。

 

自分はこの方の艦隊、それも旗艦艦隊の護衛部隊旗艦にしてこの基地の敵機撃墜数トップ。今更覚えていないほど昔の事を思いだして何になる。

 

「そっか・・・・」

姫はそれ以上は聞いてこなかった。しかしどこか安心しきった感じがしている。

 

「そうだ、大事な事を思いだした。」

姫は少し深刻そうに知らせた。

 

 

「最近、通商破壊部隊から聞いた話だけど。駆逐艦が数隻と軽巡やられたらしい。」

 

「駆逐艦ならわかりますが軽巡も?敵はかなりの大部隊だったのですか?」

 

「いえ、そんなのが動いたのならこちらに筒抜けのはず。てことは向こうも少数よ。」

 

「そんな戦力でどうやって・・・・」

 

「わからない。ただ太平洋の方だと人間が何やら新兵器を使ってたみたいだし、ここの奴らもなにか仕入れてきたからこそまたノコノコとやってきたのでしょう。」

 

「うげぇ、なんか面倒ですね。」

ヲ級も少し嫌そうな感じだった。

 

 

 

そうこう話していると目的の場所についた。

 

港湾部の第3出撃口・・・・

 

そこにはここ第3港を埋めるほどの数の深海棲艦が待機しておりまるで海が黒くなったと錯覚してしまうほどだった。

 

「姫、お待ちしてました。おうヲ級!また寝てたのか?」

 

待ち受けていたのはタ級だった。前衛部隊のまとめ役、駆逐棲姫の腹心の一人でヲ級とは同僚にあたる深海棲艦である。

 

「うん、おはようタッちゃん」

 

「タッちゃんはやめろよ」

 

「二人ともそこまで、それでタッちゃん、準備はいいかしら?」

 

「姫様まで・・・・はい!全艦隊出撃準備できております。」

 

「そう・・・・」

 

駆逐棲姫は整列する艦隊の前に立つと口を開く。

 

「皆聞いてのとおり、また性懲りもなく同盟軍が攻めてきている。」

 

各隊は静かに聞いている。沸きだつものをひたすらこらえて。

 

「しかし!!ここはもう人間の海ではない!そのことをまた存分に思い知らせてやろうじゃないの!私の強靱なら牙達よ!獲物を喰らえ!愚か者に後悔と絶望を!」

 

いいあげると駆逐棲姫は両手を広げる。するとこれまで我慢していたものが一斉に弾ける。

 

「うおおおお!姫様万歳!」

 

「ニンゲン、コロス!ミナゴロシ!!」

 

「暴れるぞ!大暴れだっ!!」

 

彼らの叫びで空気が揺れる。

 

「さあ!出撃です!」

 

駆逐棲姫の号令で一気に動く黒の塊、荒ぶりながらもかなり統制のとれた動きを見ながら駆逐棲姫も海の上に立つ。

 

「あとの指揮はお願いねタ級。」

 

「はっ!お任せを!」

 

「ヲ級の艦隊は私の側にいてね?」

 

「かしこまりました。」

 

「ヲ級!姫様のことを頼んだぞ!」

 

「任されました。あなたも気をつけて。今度の奴らは何かありそうだ。」

 

「ふん!何をしてこようとそんなもの我々の力でねじ伏せてくれる!」

 

頼もしいかぎりだ。自分もこれくらい熱い方がいいのかな?

 

タ級とはそこで別れ姫と共に出港する。

 

「さあ!殲滅の時間よ!」

 

いくら優しいとは言えやはり深海の姫だ。

これからはじまる虐殺に胸を躍らせている。

 

まぁ武闘派の独立群体ならこんなものかな?

 

 

しかし、私はあまりこの時間が好きではない。

何故だろう、他の艦ほど人間に興味もなければ憎悪もない。むしろ逆、殺したくないと思う時が希にある。こんなこと、姫やタ級には絶対に言えないが。

 

懐かしい声の夢に、冷めた戦意・・・・

 

自分はかなりの変わり者のようだ。

 

 

どうして自分はこんなにも人を殺すことに違和感があるのか、そんな自分がわからないヲ級は、今日もかすかな迷いを抱えながら戦場へと赴くのだった。

 

 

 

 

 





なにやら戦いが始まるようです。
このヲ級と大佐達が今後どうのようにかかわるのか‥‥

次回をお楽しみに(次回はsidestoryの予定なので少し先です)




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クリスマスの夜に深海棲艦と 1夜目

メリークリスマス♪
というわけで二日間連続でクリスマス回です。

皆さんの記憶に残っているか不安ですが、今回はsidestory1の外交官さんのその後のお話です。もし覚えてない方などいれば前作の方を確認してください!



 

 

 

 

スイス連邦

 

あの大戦の中、ヨーロッパにおいて深海棲艦の脅威に晒されなかった数少ない国家である。

 

多くの人々はスイスは山々に囲まれた内陸国だから被害を受けなかったと分析しているがそれだけではない。

 

 

それは要因の1つに過ぎず、その背景にはとある外交官の決死の交渉と度重なる苦労とハラスメントによって成されたものである。

 

 

スイスの外交官であるクラウスは、その一身に押し付けられた様々な職務を全うしたのだ。本人いわくブラック企業が天国に思えるとのこと。

 

 

彼の苦労は実を結び、大西洋の深海棲艦との中立を勝ち取りスイスを戦火から遠ざける事に成功したのだ。

 

 

彼の成したことはスイスの歴史に残してもおかしくない偉業ではあるもののやっていることはヨーロッパ、人類への裏切り行為ととられてもおかしくない。

 

 

そんな報われない彼は今‥‥

 

 

「お、終わった‥‥やっとだ‥‥」

 

2徹目を迎えた朝‥‥

 

我が家のデスクで伸びていた。

 

 

「たく、大臣もなんで私ばかりに‥‥」

 

彼が仕上げた書類の山々‥‥

これらは欧州を攻撃している各地の深海棲艦の群体の姫に送る物品のリストやその入手先、輸送方法をまとめたものだ。

 

 

彼が欧州深海棲艦から中立を認められスイスとその関連地域に手を出さない事を誓う代わりに求められたのは多岐に渡る嗜好品だった。

 

 

深海棲艦の中には人間の嗜好品を好む者も多く特に大西洋のボスである欧州棲姫はかなりの酒好きとのことから定期的に送る事になっている。

 

ところがこれが思っていた以上に簡単ではなく、まず他国にばれないように引き渡す必要があるのでどのようにして渡すか念入りに計画を立て、送り先や物品に間違いがないかのチェックだけでも山が1つ形成されるほどの資料になる。

 

実際これは私の仕事ではない。

 

ところが‥‥

 

「ああっ!違う!これを送るのは黒海じゃない!こっちだよ!」

 

「うん?ワインの産地が全部ボルドー?君!確かにボルドーは必須と言ったが各地のモノを数品ずつって言ったよね!これは欧州棲姫への贈り物なんだから間違えたら大変だぞ!」

 

 

てな感じでミスが続出したので最終チェックを私がするようになった。

 

 

「はぁ‥‥」

 

クラウスは時計を見た。まだ出勤‥‥大臣に呼ばれた約束の時間まで少し時間がある。

 

「一時間‥‥いや30分でもいいから寝かせて‥‥」

 

彼がそう言って寝ようとした時だった。

 

 

ドドドドド!バタン!

 

 

「クーさん!朝!朝!」

 

彼の書斎に飛び込んで来たのは深海棲艦の女の子。彼と同居している通信機であり、大使館でもあるシュネーだった。

 

 

「うんん‥‥」

 

「起きて、起きて。」

 

彼の細やかな願いは彼女によって粉砕された。

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「」ボケ~

 

「クーさん大丈夫?」

 

飲みかけのコーヒーカップ片手にぴくりともしないクラウスを心配して顔を覗き込むシュネー。

 

低い身長で必死に彼を覗こうとする彼女の姿はどこか愛らしかった。

 

 

「いや、大丈夫。少し疲れただけだよ。」

 

「ムリしてる‥‥」

 

こんな子にあまり心配をかけたくはないので頑張った笑顔を作るクラウスだったが逆効果だった。なので、

 

 

「ムギュ~♪」

 

彼女の頬っぺたを撫でる事にした。

どうもこれが気持ちいいらしい‥‥

 

「クーさん、ズルい‥‥ムフフ♪」

 

 

彼女が喜ぶツボはもう1つある。

 

この子と住み始めてしばらく経ったある日の事‥‥

 

 

「レックウ‥‥オイテケ‥‥」

 

彼女が彼が密かな趣味にしていた模型を見た時だった。彼女は日本のある機体を見るや否やいきなり声を発するようになった。なぜ彼女はあれに反応を示したのからわからないが、とりあえず気に入ったようなので彼女に上げることにした。

 

 

「満足か」

 

「うん、クーさんは?」

 

ああ、癒されたよ。まるで小動物をめでるようで。

 

 

「クーさん」

 

「ん?どうかした?」

 

「お時間‥‥」

 

「うん?はっ!」

 

シュネーに言われて時計を見てみると、不味い!

早く出ないと遅れる!確か大臣に呼ばれてるんだった!

 

 

「いけない!遅れたらまた何を押し付けられるかわからん!」

 

クラウスは飲みかけのコーヒーを一気に飲むと確認した書類を鞄に詰めて玄関へ

 

 

「あ、そうだった!シュネー!」

 

「な~に~?」

 

玄関で靴を履きながら尋ねた。

 

 

「君が今欲しいものってなにかな?」

 

「欲しいもの?」

 

「うん、例えばそう人形とかお菓子とか‥‥」

 

「うーん‥‥レックウ?」

 

「持ってなかったか?」

 

「レックウは何機でもオーケー♪」

 

「そ、そうか。じゃあ行ってきます。」

 

「いってらっしゃい~」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

外務大臣 執務室

 

 

「すーはぁ~、後5分か‥‥」

 

スイス連邦の外務大臣は今日ももくもくと煙を生やしながら時計を確認していた。

 

「遅刻して来たら何をさせるか、そろそろ決めておくか‥‥」

 

大臣がまるで楽しい事を考えてるかのようにウキウキしながら待っていると部屋をノックする音がする。

 

 

「大臣!クラウスです。」

 

「入りたまえ。」

 

「失礼します。」

 

 

タバコの煙が苦手なクラウスは部屋に入るなり鼻を抑えかけたが上司の手前それは堪えた。

 

 

「クラウス君、残念だよ。後少し遅れてれば何かさせようと思ったものを。」

 

「いや!何を時間を守った事に残念がってるのですか!」

 

「いやいや冗談だよ。シャレのわからん奴だ。」

 

いや、アナタなら絶対にやると思います。

 

 

「それで、本日は何のご用で?物品のリストならこちらに‥」

 

「今日呼んだのはだな、お前に休暇をやるためだ。」

 

「そうですか、追加の書類を作れと‥‥‥今なんと?」

 

「休みをやると。」

 

う、嘘だ‥‥こんな事があるなんて‥‥

 

この人の口から休みなんて言われるなんて‥‥

 

「お前今かなり失礼な事を考えただろ?」

 

「はい!」

 

「そこは少しは否定しろ。まぁお前が私にどんな印象を持っているかは想像できるがな。」

 

「はい!部下を使い潰し無理難題を押しつけられて死にそうな部下を見て微笑むヘビースモーカーなパワハラ界の帝王と思ってました。」

 

「‥‥予想以上だな。あと煙は関係ないだろ。」

 

「私が苦手なの知っててやっているので立派なハラスメントです。」

 

「ふん」

 

大臣はタバコを灰皿に捨てる

 

「と、とにかく!この所休めてないだろう?君はもう今日は上がれ。あとは他の奴にやらせる。1週間ぐらいは仕事をしないで休みたまえ。」

 

「大臣‥‥ありがとうございます」

 

まさか大臣から労って貰えるとは‥‥

 

久しぶりのまとまった休暇に思わず涙ぐむクラウス。

 

 

一方で大臣の内心は‥‥

 

(コイツの職務は公表してないし。理由も無しに仕事をずっとやらせてたとかばれたら不味いからな。ここいらで有給を使わせておこう。後クラウス君、チョロい‥‥)

 

 

 

「もうじきクリスマスだ。お前も彼女なり何なりを連れて羽を伸ばしてこい。」

 

「いえ‥‥‥仕事の多さで彼女なんて作れてませんよ。それを言うなら大臣こそ大丈夫なのですか?」

 

 

この人はこれでも女性でしかも20代という若さで大臣にまでなった超が付くエリート政治家である。

 

ところが出世コースには乗れたものの色恋沙汰には無縁でそろそろ三十路に迫り婚期を逃した事を少し気にしているとか‥‥

 

 

「私の恋人は仕事だよ。余計なお世話だ‥‥」

 

大臣はいじるのは好きだがいじられるとすこぶる拗ねる。手で出ていけと指示したのでクラウスは退室する。

 

 

「‥‥‥‥。」

 

クラウスの足音が遠くなるのを確認すると大臣はうずくまる。

 

「今年も言えなかったな‥‥。ああもう‥‥私ってどうしていつもこうなんだ‥‥」

 

 

そこにはいつもの大臣とは違う姿があった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「う~ん‥‥」

 

クラウスは悩みながらエレベーターに乗っていた。

 

その手にはシュネーに頼まれた模型(プラモ)の入った紙袋があった。そろそろクリスマスだと言うので模型の箱は綺麗にラッピングされている。

 

 

「急に休みとか貰ってもな‥‥」

 

貰った休みをどう活用するか決めかねていた。独身で彼女無しの自分がクリスマスに休みを貰ってもする事なんて。しかし、そうこう悩んでいたらいつの間にか家の前に着いていた。

 

 

「ただいま~」

 

「あっ!クーさん!早かったね~♪」

 

リビングからシュネーの声がする。

 

クラウスは彼女が来る前に近くの戸棚に紙袋を隠した。

 

 

「お帰りなさい♪なんでこんなに早いの?」

 

「今日から1週間休んでもいいって言われたんだ。」

 

「そうなんだ!やったー!クーさんと遊べる♪」

 

「おう、遊んであげるぞ!」

 

そうだよ。何を悩む。

今年はこの子がいるから一人ではないぞ。

 

「忘れてた!」

 

「どうした?」

 

「クーさんクーさん。あのねあのね。実はさっきね。姫様から伝言が‥‥」

 

「伝言?」

 

「うん、水母水姫から。」

 

 

 

 

 

 

 

 

私はイタリアのジェノヴァに飛んだ。

 

シュネーを伴い夜に海岸沿いを歩いていた。

先ほどから人には出くわしていない。

 

今日がクリスマスと言うのもあるかも知れないが、この辺りは深海棲艦の支配下に近いためか人がほとんどいなくなっている。こちらとしては密会を見られる危険性が減るので好都合だし、こうしてシュネーを堂々と歩かせられる。

 

 

 

「ううっ夜はやはり寒いな。シュネーは大丈夫か?」

 

「うん!大丈夫!」

 

子供は元気だな‥‥

 

 

 

密会に使われる砂浜にやって来た。

どうやら既に来ていたようだ。

 

 

「クラウスさん。お待ちしてましたわ。」

 

彼女は水母水姫さん。

 

コルス島を拠点にリグリア海を占領している艦隊の旗艦であり、スイスと大西洋深海棲艦の間を繋いでくれている存在だ。

 

この人無しで今のスイスはなかった恩人であり、今では仕事などでよく会うことから良き友人でもある。

 

そして、シュネー、大臣に続きもっとも多く会っている女性でもある。

 

 

「突然お呼びだししてごめんなさい。」

 

「いえいえ!アナタからのお招きならいつでも来ますとも。」

 

「ふふ、そう言って下さると嬉しいわ。」

 

「姫様~♪」

 

「あらシュネーちゃん。アナタもよく来てきれたね。」

 

よしよし~

 

「えへへ♪」

 

 

「あの‥‥今日は一体‥‥」

 

「そう固くならないで。今日は面倒事の為にお呼びした訳ではありませんよ。」

 

「では?」

 

「最近クラウスさんがあまり元気がなさそうなので‥‥」

 

水母水姫が後ろに合図を送る。

 

するとどこに伏せていたのか彼女の配下達が現れたちまち砂浜にテーブルと料理が並ぶ。

 

「今日は私と食事でもいかがですか?」

 

彼女からディナーの誘いを受けたクラウスは勿論お受けした。魚がメインの料理にそれに合うワイン‥‥

 

美味しい料理は気分を上げさせる。クラウスたちは料理と会話を楽しんだ。

 

 

「口に合いますか?」

 

「はい!どれも絶品ですね。」

 

「よかった♪アナタが今食べているの、私が作ったの。」

 

「へぇー!凄いですね。でも、意外ですね。」

 

「何がです?」

 

「深海棲艦も料理をするのだと。」

 

「基本はしませんよ。ただ、ご存知のように姫の中には人間の嗜好品を好む者もいます。中には食に目覚めた方もいて。」

 

「そういえば、最近加工品だけでなく、食材を欲しがる群体もいますね。」

 

「総司令がお酒好きでしょう?あの方がお酒に合う料理を持っていくと喜びますからね。」

 

「なるほど‥‥」

 

良いことを聞いた。今度は酒と一緒につまみでも贈るか。

 

 

気付けば深夜、シュネーは眠っていた。

水母水姫の部下達も少し離れたら所で飲んでいたようだが声がしなくなった。おそらく潰れたのだろう。

 

 

「あら、皆さん寝ちゃいました?」

 

「ふふふ、そっと寝かせておいてあげましょう。大丈夫ですよ。私達は風邪は引かないので。」

 

 

 

そのまま二人だけの夜会は続いた。

 

 

話が弾めばお酒も進む。

 

気が付けばボトルは二本目に突入していた。

 

 

「クリスマスの夜に殿方と杯を交わす‥‥とてもロマンチックではありませんか?」

 

「はは、水姫さんは相変わらずロマンチストですね。」

 

この人との付き合いは長いが常に雰囲気を楽しむ彼女とその発言にはたまにドキッとさせられるよ。

 

あの時と同じだな。

 

「相変わらず?」

 

「はい、欧州と深海棲艦の関係、世界情勢はあの時とはかなり変わってきました。けれどアナタは、アナタははじめてお会いした時から変わりませんね。その‥‥雰囲気といいますか。」

 

「ふふふ♪クラウスさん。」

 

水母水姫は微笑んだ。

 

「私も少しだけ変わりましたよ?」

 

「それは一体‥ん?」

 

言いかけた所で彼女に止められる。

 

 

「今日はクリスマスですね。人間の間だとこの日は大切な人、家族と過ごす日だと聞いた事があります。」

 

「はい。間違いありませんが。」

 

一体何を‥‥

 

 

「最近では恋人と過ごす日にもなってます。」

 

「恋人‥‥ふふ。」

 

「水姫さん?」

 

「いえ、私はそれをはじめて聞いた時にふと思ったのです。なぜ恋人と過ごすのか。」

 

「‥‥。」

 

「それは‥‥その人が将来自分の大切な人になっている、そんな祈りを込めているのかなって。もしそうならなんてロマンチックなのでしょう。」

 

「私は確かに変わってません。ロマンチックなものが好きです。だから人が行う"ロマンチックな行事"をやってみたい。」

 

「えっ?でも先ほど少し変わったと。」

 

「ええ、変わりましたよ。あの時とは異なり、私にも"大切な人"が出来ました。」

 

「?」

 

「もう、鈍いですね。」

 

水母水姫はクラウスの手を取る。

 

 

「今日お呼びしたの本当の理由、それはクリスマスの夜に大切に思える殿方と御一緒したい。それだけです。」

 

「え、え?ええ!?そ、それは!つ、つまり?どうして?!」

 

「うふふふ。外交官がそんなに取り乱すなんて‥‥うふふ。」

 

「水姫さん!」

 

「ごめんなさい、つい面白くって。普段のクラウスさんと違ってて。」

 

「全く、勘違いしちゃうでしょう!」

 

「あらあら。勘違いではないのに。それとも、深海棲艦では駄目かしら?」

 

「‥‥そんな訳では。ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「ただ、水姫さんは自分には勿体ないくらいお綺麗なので‥‥」

 

「もう、お上手なんですから♪」

 

「しかしそうですか‥‥これは参りました。」

 

「?えーっと。何がです?」

 

「私から申し上げた方が、アナタの望むロマンチックな展開でしたでしょうに。」

 

これに水母水姫はきょとんとする。

そして、少し顔を赤くして答えた。

 

 

「もう‥‥本当に、お上手なんですから。」

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

スイスに帰国後

 

クラウスはいつも通り仕事前のコーヒーを飲んでいた。

 

「わぁい!レックウ!」

 

彼女があの模型を持ってはしゃいでいた。

昨日の夜に遅めのクリスマスプレゼントとして枕元に置いておいたのだ。

 

「よかったな。」

 

「うん!てっきり私が悪い子だから来ないと思った。」

 

しまった!この間朝泣いてたのはそのせいか!

 

これは悪い事をした。

 

「すまん。」

 

「どうしてクーさんが謝るの?」

 

「いや‥‥そろそろ時間だから行ってくる。良い子にしててね。」

 

「はーい♪いってらっしゃい~」

 

 

休暇が終わりクラウスは今日から出勤です。

 

 

早速留守中の報告を聞くために大臣の元を訪れていた。

 

 

 

「と、言うわけで来年度にはドイツと深海棲艦の話し合いの場を作らなければならないからその会場を押さえるのと群体を交渉へ引き出すことだな。」

 

「はい、あの辺りの群体は意見がバラけてますからね。まずは友好的は群体から当たってみます。」

 

「ふむ頼んだぞ。それで?休暇は楽しかったか?」

 

「はい、暫く休みがないと言われて楽しかった気分が何処かに行きました。」

 

「それはなにより。この年はあの子がいたからクリボッチではなかったろう?」

 

「まぁそれもありますが、これからは彼女もいますので。」

 

「そうかそうか‥‥ん?今なんて‥‥」

 

「では仕事に戻るので失礼します。」

 

「待て!お前いつそんな‥」バタン!

 

 

 

「休み無しか‥‥まぁ仕事してた方が会えるしな。」

 

クラウスはもうブラック感が消えていた。今日は早速仕事に取り掛かろうと自分のデスクへと向かうのだった。その足取りは輕やかだった。

 

 

 

一方‥‥

 

 

「う、うう‥‥うそでしょう‥‥」

 

 

 

 

 

 

 






明日の2夜目は今作から登場したあの人と姫の話です。
感想等々お待ちしてます!


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クリスマスの夜に深海棲艦と 2夜目



どうもです!

皆様はどのようにお過ごしでしょうか?
今回はsidestory2の上等兵さんと港湾棲姫の話です。
彼らの話を書いたのに消したはこの話を先にやりたかったからです!お待ちかねの方もそうでない方も楽しんで貰えれば幸いです。




 

 

 

全身から湯気を出している。冷たい道場でただ一人、激しく動いていた彼の回りには練習用の標的が粉砕されていた。

 

彼は今日の鍛練に一区切り付けると汗をふく。

これ以上標的を駄目にすると出禁を喰らうかもしれない。

 

 

「ふうっ‥‥」

 

彼がいるのは軍の教練施設

 

 

上等兵の彼が訓練兵の施設にいるのは別に今さら訓練の為ではない。彼の戦後与えられた役目はここのゲートの門衛である。非番の時にたまにこうして体を動かしているのだ。

 

しかし、今日の彼はいつも以上に激しかった。

 

それは彼の内心が穏やかではないことに起因していた。

 

 

「はぁ~どうすれば出世できるんだ?」

 

食い詰めて三等兵として軍に入った彼はまさに死に物狂いに戦いあの戦争を生き延びて気が付けば上等兵、これまで生き抜く事に必死で出世に関心のなかった彼であったがある事をキッカケに出世を考えるようになった。

 

 

「別に士官クラスに成りたいとかは思わん。士官学校を出てない俺がなるのは難しい。」

 

彼は誰もいない道場で独り言を言いながら後片付けを進める。

 

大出世がしたい訳ではなかった。

 

ただ、彼女と生活できるだけの給料が欲しいと思っていた。

 

(ここの仕事は楽だがいかんせん給料が安い。一人で暮らすには十分だが‥‥)

 

「港湾棲姫に楽させたいしなぁ。昇格したいな~」

 

「んー、それは軍曹とか伍長くらいか?」

 

「そうそうそれぐらいがいいな。‥‥え?」

 

「ようっ門衛!精が出るな。」

 

いつの間にかいたのはここの教官をしている男だ。

 

「あはは‥‥いたんですか‥‥」

 

「おう、お前がよくここで暇潰ししていると聞いたんで見に来た。」

 

う、うかつ俺!

 

普段この時間は誰も来ないからか完全に油断していた!

 

 

「えーと教官殿?」

 

と、とにかく言い訳を‥‥

もしかしたら聞こえてないかも

 

 

「お前今港湾棲姫って言ったな?」

 

ダメだっ!聞かれてるよ!

 

 

俺は思わず身構えた。

こうなったら口を封じるしか‥‥

 

 

「待て待て!俺は味方だぞ?」

 

「どういう意味だ?」

 

「その前に確認させてくれ。お前、深海棲艦と関わりがあるな?」

 

 

彼は尋ねてくる。

 

しかし彼は違和感を感じていた。教官殿からは容疑を尋問しているような気配が感じない。

 

まるでただの興味本位で聞いている。あるいは同じ趣味の人を、同胞を見つけたかのような目をしている。

 

 

(い、一体‥‥何が目的なんだ?)

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「はくしゃっ!」

 

港湾棲姫はこの日何度目かのくしゃみをしていた。

 

 

12月24日

 

日本にクリスマスの季節がやって来ていた。今年は気温が低く夜には雪が降るとの予報である。

 

今年もこんなに寒いなかでもクリスマス商戦に勤しむ街中を人々は恋人と共にいるのだろう。

 

 

これまでは南方にいて今年はじめて日本の冬を経験する彼女にはこの寒さは堪えていた。部屋に籠り冬の寒さと戦っていた。

 

 

「ふぁ~♪暖かい~♪」

 

今は炬燵の魔力に囚われだらしなく寝そべっていた。

しかし、前にある脂肪の為か上手く寝そべる事ができず何度も姿勢を変えていた。

 

 

「日本がこんなに寒いなんて‥‥そういえば、ここに来る前に部下に日本には四季ってものがあるって言ってたかしら?」

 

 

ようやく丁度いい姿勢が見つかり彼女はいよいよ本格的に炬燵に身を委ねようにしていた。ところが‥‥

 

 

ピンポーン

 

 

 

「あら?誰かしら?」

 

港湾棲姫は少し名残惜しそうに立ち上がると玄関に向かう。インターホンを鳴らした人物はここの大家さんだった。

 

 

「あら、こんにちは大家さん。」

 

「入江ちゃん~寒いけどお元気?」

 

入江とはあの人がつけてくれた私の偽名である。偽名であるが最近は旦那様も港湾棲姫と呼ぶのか面倒なのかこっちで呼ばれる事の方が多いです。

 

「はい♪おかげさまで。」

 

「あははっ!私は何もしてないわよ。」

 

年は知らないがかなり高齢だろう彼女はたまに入居者を訪ねては現状確認をしているらしい。

 

 

私がここに住み着いた後にもやって来たが私のことはどうも‥‥

 

 

「それにしても、あの男がこんな綺麗なお嬢さんを嫁にできるなんてねぇ‥‥」

 

私はあの人のお嫁さんだと思っているようです。

もちろん私もやぶさかではないので一向に構いません。

 

 

 

「ふふ、旦那様はなかなか勇敢な人ですよ?」

 

「まぁ軍人とかやっていればね。はい、これ。」

 

「これは‥‥みかんですか?」

 

「お裾分けよ。実は孫が送ってくれたのだけど私一人じゃ食べきれなくてね‥‥」

 

 

 

数十分後、みかんが入った箱を持って炬燵に戻る港湾棲姫の体は冷えきっていた。

 

 

「うう、立ち話しすぎたわ。長く話すなら中でお話すればよかったわね。」

 

おもむろにみかんを一つ掴んでみた。

 

「うーん、これはオレンジですよね?前に西洋の群体からいただいたものとは大分違いますね。」

 

彼女はみかんの皮を剥こうとする。

 

 

「!!凄いです!簡単に皮が取れる!」

 

港湾棲姫は軽く感動してしまった。

 

 

欧米で食べられるオレンジは皮が硬いのでナイフで皮を剥くものだが、日本で馴染みのみかんは片手でも簡単に皮が剥けることから海外で流行りテーブルオレンジと呼ばれて売られている。

 

 

「丁度いい甘さ~♪」

 

はじめて食べる日本の果物に思わず手が進む彼女だったが、2つほど食べた辺りで彼女はうとうとし始めていた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ふぁ~」

 

彼女が目を覚ますと既に部屋は真っ暗になっていた。

 

「はっ!」

 

急いで明かりを付けて時間を確認すると、

 

 

「いけない!あの人が帰って来る時間だわ!」

 

 

彼女が驚いた丁度そのときに玄関でドアが開いた。

 

 

「今帰ったぞ。」

 

彼が帰ってきたのだ。

 

 

「お帰りなさい旦那様‥‥そ、その‥‥」

 

「どうかしたのか?」

 

いつもと様子のおかしい彼女に異変を感じる。

ふと彼女の後ろの部屋、炬燵にみかんの皮を見てだいたいの事を察してしまった。

 

 

「ごめんなさい。眠ってしまっててお食事の準備すらまだですの‥‥」

 

しゅんとする港湾棲姫。

 

 

しかし、彼は怒らなかった。

 

 

「いや、気にしてないぞ。お前も疲れてたんだろ。」

 

「旦那様‥‥」

 

「それに今日は作る必要がないしな。」

 

「?もう食べていらしたのですか?」

 

「いいやまだだが。」

 

「でしたら‥‥」

 

「入江、急ですまないが出掛けるぞ。」

 

「え?出掛けるって‥‥」

 

「悪いがそろそろ時間が押してるんだ。行くぞ。」

 

「え、ええ!?」

 

 

とりあえず厚着をして外出の支度をする港湾棲姫。

彼に伴われて夜の街にくりだす。

 

 

 

「はくちゅ!」

 

昼間より気温が下がった夜の風の寒さは厚着をしたにも関わらず彼女を襲う。

 

「寒いか?」

 

「え、ええ少しだけ‥‥」

 

彼に気を使わせまいと強がって見せるが鼻が赤く少し震えているので隠しきれていない。それを見た彼は自分のしていたマフラーを彼女の首に巻く。

 

「旦那様‥‥」

 

「俺ので悪いがこれで少しはましだろ?」

 

「はい‥‥ありがとうございます。」

 

暖かい‥‥

 

彼が使っていたのでその温もりで暖かいのもあるがそれ以上に‥‥

 

 

「うん?」

 

白いものが空からぽつぽつと‥‥

 

「これは‥‥」

 

「げっ雪まで降ってきたか。」

 

「雪‥‥これがですか。」

 

「‥‥はじめてなのか、雪は。」

 

「ええ、これが雪ですのね。綺麗‥‥」

 

 

他の海域の姫から聞いた事がある。

話だけで見たことのない現象‥‥

 

これまで想像だけ膨らませていた物が目の前に

そして、想像以上に綺麗だった。

 

「入江?」

 

「あ、はい!」

 

「これ以上冷えないうちに急ごうか。」

 

「はい!」

 

彼の言葉で彼女は我に返り彼の後を追うのだった。

 

 

 

 

しばらく彼に続き歩くこと‥‥

 

街中には寒いにも関わらず人で溢れておりその多くが男女のペアだった。

 

 

「やっぱりクリスマスだとこの通りは多いなぁ。」

 

「クリスマスだとどうして多いのですか?」

 

「ああ、クリスマスはカップルの祝日とか言われててな、こうしてクリスマスの夜に恋人が一緒にいるのがスタンダードらしい。」

 

「ふーん、つまりここにいるのは恋人同士‥‥」

 

え!?そ、それってつまり!

旦那様と二人で歩いている私達も周りから見たらこ、ここここ恋人って事に‥‥

 

そ、そして‥‥

彼がそれを知って私を夜の街に誘ったってことは‥‥

 

 

「うふふふ~♪もう、旦那様ってばそんな~♪」

 

「ん?どうした?それより付いたぞ。」

 

旦那様は止まった店前、ここが目的地のようです。

 

 

看板は仕舞われており、扉には貸し切りと張り出されている。

 

 

「入るぞ。」

 

彼と共に店に入る。そこにはなんと‥‥

 

既に大勢の人、10数人ぐらいが集まっており、複数のテーブルには豪華な料理が並んでいた。

 

二人の来店に気づくと幹事と思わしし人物が声をかけてきた。

 

「おお、来たな!」

 

「お招き感謝します。」敬礼

 

「ここではそう言うのは要らないぞ。」

 

 

彼が挨拶をしているのは例の訓練施設の教官。

 

店内にいるのは全て軍服の男女達だった。

いやそれらに紛れて‥‥

 

 

「あっ!港湾棲姫だ!」

 

「ひ、姫様!お疲れ様です!」

 

 

なんと深海棲艦が数名混じっていた。

 

 

「こ、これは一体‥‥」

 

港湾棲姫は混乱した。

 

 

「なんだ、説明してないのか?」

 

「すみません、時間ギリギリだったので。」

 

「ふむ?まだ開始時刻前だが?」

 

「軍属なら15分前行動は基本でしょう?」

 

「はははは!違いない。」

 

 

教官はひとしきり笑うとマイクを繋ぐ。

 

「あー、参加者が揃ったので始めるとしよう。我ら深頼会と深海の友に乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

 

 

「さて、どこから説明したものやら。」

 

乾杯の後、俺はいまだに困惑している港湾棲姫に事の経緯を説明した。

 

これは深海棲艦と新和を求める軍内の集まり「深頼会」のクリスマスパーティーである。

 

あの戦争の最中、本来敵である深海棲艦と絆を結んで終戦を迎えた士官達が集まって作った一種の将校クラブのようなものだ。

 

そして、教官殿はその会の重鎮の一人で俺と深海棲艦との関係を聞いたのはもしそうならスカウトする為であった。

 

この会は普段滅多に会えない彼らと深海棲艦達が一同に集う機会を作り、そして自分の子が一番可愛いと自慢する為に開かれた。

 

 

「まぁ、ざっくり言うとこんな感じらしい。」

 

「はぁ、一応理解はしました。」

 

そんな二人の元に教官とそのペアである深海棲艦がやって来た。

 

港湾棲姫には見覚えのある子だった。

 

 

「あら?貴女は確か泊地棲姫さんのところの‥‥」

 

「ユウです!お久しぶりです姫様。」

 

「ユウ、知り合いか?」

 

「うん。私の姫様と港湾棲姫様は友達なの。」

 

「泊地棲姫からは新しい居場所を見つけたって聞いてはいたけれど、そう、貴女も‥‥」

 

「うん♪私隊長さんが好きなの。」

 

「オイオイ、ストレートに可愛い事を言ってくれるな。」

 

「えへへ~♪」

 

「教官殿のノロケを聞くことになるなんてなぁ。そうか、最近妙に帰るようになったのはその為ですかな?」

 

「そう言うお前も最近仕事がまじめになったそうじゃないか?ええ?理由はその爆乳美人のためか?」

 

「クッ‥‥」

 

図星なのか少し悔しそうな旦那様。

 

 

 

その後は教官以外にも他の参加者とも関わった。

 

 

ペアの深海棲艦がいない者、自分の子が一番とノロケてくる者、深海棲艦と飲み比べて破れる者と様々な者が楽しくやっていた。

 

そんななか本当に偉い立場の人がいて、

 

 

「きみの話は聞いているぞ。叩き上げの上等兵で刀で姫に手傷を負わせたとか。」

 

「はい、あの時は本当に死に物狂いでした。そしてこっちが」

 

「その時傷物にされた姫です♪」

 

「だからその言い方やめろ。」

 

「アハハハッ!そんな二人が巡り巡ってゴールかね?これは面白い!君!是非とも士官になってこの会のメンバーになりたまえ!」

 

「えっ?てっきりもうそうかと。」

 

「一応深頼会は将校の集まりだ、少しくらい偉くないと箔がつかんだろうが!」

 

「はあ‥‥」

 

「君はそれだけ実力もあるんだ。そうさな‥‥儂の部下にならんか?」

 

「えっ?」

 

「儂の部下と言うことなら曹長くらいにならしてやれるが、どうだ?」

 

 

どうだって‥‥いきなり三階級も飛び越えての大出世じゃないか!?

 

「喜んでお受けします!ありがとうございます!」

 

「よかったですね旦那様。」

 

「アハハハ!こんな美人な深海棲艦の為にも君は少し偉くならんとな!イテッ!」

 

「ちょっと!何私以外の娘を見てにやけているの!」

 

「いや、違う!別にそんなのでは!」

 

「制裁!」

 

「ぐふぇ!!」

 

 

 

 

 

 

「よかったな。これで門衛は卒業かな?」

 

「はい、教官殿のおかげですよ。アナタがここに来ればと呼んでくださったので。」

 

「まぁアイツらと関わっている以上、俺らは同志みたいなもんよ。気にするなって。」

 

「それでもです。取り立ててもらっただけでなく」

 

彼は少し離れた席で楽しそうに話す彼女を見る。

 

 

「楽しそうな彼女を見ることができたので。」

 

「ほーう?」

 

「な、なんですか‥‥」

 

「お前もノロケるのかと思ったんでな。それで、お前、あの姫の事どうおもってるんだ?」

 

「ぶっ!と、突然何を!?」

 

「いやさぁ、出世も結局はアイツの為なんだろう?なら少なからず大切に思っている訳だが‥‥具体的にな?」

 

「それは私も聞きたいです。」

 

「げっ!入江!」

 

「私も旦那様にどう思われているか知りたいです。」

 

「だ、そうだ。さあ!吐け!」

 

同じ日に同じ人に尋問されるとは‥‥

逃がさないと目で語る教官殿にその隣で目を輝かせて答えを待つ入江‥‥

 

 

「ああもう!わかった!言うぞ!」

 

俺はついに決心した。

 

「おお!」

 

「はわわっ!」

 

 

面白そうにしている教官にやはりいざ言われると緊張してきた様子の入江、そして周りではこちらを他所に楽しくしている軍属と深海棲艦達。

 

 

全く‥‥

 

万年ボッチで去年までそうだった俺ではまるで想像もつかない光景だな‥‥

 

 

「俺はッ!」

 

 

雪が降る聖夜、ホワイトクリスマスとなったその夜の深海棲艦と彼らの絆を得た者達の賑わいは街の賑わいに隠れたものの、どこよりも幸せなものに溢れたものであった。

 

 

 

 

 

 





今回はかなり挑戦した気がしましたがいかがでしたでしょうか?クリスマス回はこれで終わりです。ついでに潜水艦の今年の投稿も今回が最後です。

来年からは物語は本格的に進んでいきます!そしていよいよ曹長と入江さんのシリーズも始めたいと思っています。

潜水艦は今年は終わりですが、他の作品はまだ投稿は続く(予定)なので是非ともよろしくです!それでは皆様!

良いお年を♪


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願いの理由 12日目


どうもです。お久しぶりです。
このシリーズでは今年初の投稿です。最近あまりにも忙しくて書く暇が‥‥

たくさん書く時間があったあの頃が懐かしいです。


 

 

 

大佐達一行は深海棲艦の補給基地に寄っていた。

 

 

 

この基地は規模は小さく、鎮守府の1巡洋艦隊でも落とせるだろうと思われる。

 

位置的にも西方海域の玄関にあたり、ルリさんいわく太平洋勢力が管轄している範囲の最果てがここまでとのこと。先の戦闘でわずかながら損傷している彼女を西方入りの前に修理してもらおうと思ったのだ。

 

ルリさんは最後まで必要ないと抵抗しましたけどね。ちなみにカナやヨウも念のため検査を受けているので現在1人です。

 

 

その間私はここの基地司令に挨拶している。ここは中枢に従順な群体の基地とはいえ西への通り道、一応日本船への安全を確認しておかなければ。

 

 

 

「もちろんです。中枢からも命令を受けていますので日本船には一切手を出しません。」

 

そう約束してくれるのはここの基地司令のネ級だ。小さな補給基地だから姫はおろか空母、戦艦はいないそうだ。

 

 

「そもそも手など出せばここなんて艦娘に簡単に潰されてしまう。ここはあくまで補給点、スルーしていただくためにも静かなのが良いのです。」

 

「確かにそうですね。」

 

「それにしても、あの沖ノ島のル級殿をお招きできるとは今日はツイてます!槍でも降らなければ良いですが。」

 

「沖ノ島のル級‥‥ああ、ルリさんか。」

 

ルリさん凄い尊敬されてますね。こんな鼻息の荒いネ級見たことない‥‥

 

「アナタのことも、聞きましたよ。何でも元強硬派や独立群を相手に交渉していると。」

 

「はい、いつも命懸けですよ。ルリさんがいなければ間違いなく終わっていた場面もありました。」

 

「まぁ、確かにあのル級なら‥‥」

 

「あの‥‥先程から思ってたのですが同じ量産型なのにかなりルリさんの事を認めていますね。戦艦だからですか?」

 

「んー、ご存知ないのでよね。‥‥これはここだけの話に止めて欲しいのですが、日本近海に新たに配備されている我らが艦隊は穏健派の姫が指揮していることは知ってますよね?」

 

「勿論、何度かお会いしたことも。」

 

「日本を牽制する目的で置かれる艦隊ですから穏健派や中立の中でもかなり腕が立つ姫が選ばれています。言うなれば日本近海の艦隊は太平洋の中でもエリート中のエリート部隊と言うことになります。その中でも特に重役を担う沖ノ島の幹部ともなれば‥‥」

 

「激強な訳ですね‥‥」

 

 

このネ級の話は実は軍でも予測はされていた。なんせ事実深海棲艦にまともに反抗できるのは日本いや鎮守府のみ、なれば戦力をここに集中させてもおかしくはないだろうと。

 

そして、日本へ目を光らせている沖ノ島の群体が弱い訳がないことも。

 

当の深海棲艦からは言質も取れてしまったことだし、これはホントに頑張らないと滅ぶな。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

ネ級に案内されたのは殺風景なので独房にも見える部屋です。しかし、深海棲艦のこの規模の基地ではこれでも貴賓室だそうだ。

 

「あの!よろしければどうやって港湾夏姫様を説得なされたのかとかお聞かせ願えないだろうか?」

 

「聖夏さんの話ですか‥‥」

 

いや‥‥あの人の話は‥‥

あの内容は話せないからな‥‥

 

どう回答を濁らせようと大佐は考えた。

 

『グ‥‥ギギギギ‥‥』

 

ネ級向けに通信だ。深海の言葉で何を言っているか分からない。

 

「申し訳ない、何やらトラブルのようです。」

 

「何事ですか?」

 

「さぁ?とにかく来て欲しいと。‥‥検査が終わるまでまだ時間がかかると思われるのでここでお待ち下さい。」

 

「わかりました。」

 

最後にネ級はこの部屋の飲み物などは好きにして欲しいと伝えると退室する。

 

 

「トラブルか‥‥まさか本当に槍でも降ったのかな。」

 

早速飲み物をもらうことにするがよく考えれば彼らが調達してきた飲み物はほとんどが船を沈めた時に拾った物とかだ‥‥

 

その‥‥鮮度とか大丈夫?

 

 

「ま、まぁ大丈夫だろう。さぁ~て、何にしようか‥‥これなんて読むの?」

 

適当に缶を見るがどこかのアジアの文字でなんて書いてあるかわからない。

 

「これは‥‥絵からしてコーヒーかな?そしてこっちは‥‥」

 

意外にも海外の飲み物を選ぶのが楽しくなってきた。そのせいかそちらに気をとられたあまり彼女の接近に気付けなかった。

 

 

「少しよろしいかしら?」

 

「はい?」

 

振り返るとそこには見たことのない深海棲艦がいた。姫クラスかな。あれ、ここに姫はいないって聞いてたけど。

 

(けどなんだろう‥‥これまで会ってきたどの姫とも違う‥‥得体の知れないというか、本能的にヤバいって思ってしまうような。)

 

 

どの深海棲艦よりも他を圧倒するような存在感、しかし、それとは裏腹に優しそうな目をしていた。

 

 

「クスクス、そう警戒しないでくださいな。少しお話がしたいのです。」

 

「は、はい‥‥」

 

何故かこの人の機嫌を損ねたくないと思った。

 

 

「お、おかしいな‥‥確かここには姫はいないと聞いていたのに。」

 

「ええ、私はお忍びで来ているのよ。少し占地の視察でね。ここに来たのは偶然よ。」

 

「はぁ、なるほど‥‥」

 

お忍び?視察?

この姫はかなり上位の存在のようだけれど‥‥一体‥‥

 

 

「そうしたら何と言うことでしょう!貴女方が来てらしたのでついついね。貴女とは一度お会いしたかったの。」

 

「私に?」

 

「ええ、だって人間と私達の架け橋になってくれている人だもの。上に立つ者としては興味はあるし、個人としてはお礼を申し上げたいって思っていまして。」

 

そういうと彼女は立ち上がり深く頭を下げた。

 

「ありがとう、私の望みを叶えてくれて‥‥」

 

「お、お礼だなんてそんな!」

 

「いえいえ、私としてはお礼を述べるだけではなく何か返せるものがあれば良いのにと思ってましてよ。」

 

「私、アナタにそれほど感謝されることしまたか?」

 

彼女は私の隣にそっと座る。

 

「ええ、勿論。アナタがやった事、それが私達深海棲艦に及ぼした影響は大きいわよ?港湾夏姫は知っていますね?」

 

「はい、存じ上げてます。」

 

「彼女は強硬派の生き残りで中枢からは距離を置いてたんだけれど、この間久しぶりに中枢に参じたわ。多分、貴女と関わった事が多かれ少なかれ彼女を変えたのでしょう。」

 

彼女が中枢に戻ったことはこれまで中枢に逆らっていた群体に衝撃を与えた。今では彼女に続いて多くの姫が中枢に従う意向を見せている。

 

 

「貴女のおかげで我が深海棲艦はまとまりつつある。改めてお礼を申し上げるわ。」

 

「そんなことが‥‥」

 

あの姫様‥‥本がそんなに嬉しかったのか。

 

 

「あの‥‥私も聞いてもよろしいですか?」

 

「何かしら。」

 

「深海棲艦‥‥いえ、中枢棲姫はどうして和平に応じたのですか?」

 

 

この和平交渉は本来ならあり得ないものだ。何故ならいくら鎮守府が頑張っているとはいえども圧倒的な物量を持つ深海棲艦が依然として優位なのだから。だからこれは深海棲艦が鎮守府の提案に応じたことよって初めて成り立ったのだ。

 

しかし、これは深海棲艦の意思と言うよりは深海中枢‥‥彼らが母と崇める中枢棲姫の独断に等しいとも聞いている。

 

深海棲艦にとって中枢棲姫の決定は絶対である。しかし、例えそうでも人との和平は彼らの根底を覆すものだ。簡単には従えない者も大勢いるとか。

 

 

だから気になっていた。

 

どうして中枢棲姫は和平を望んだのか‥‥

 

 

多分、この姫はかなり高い地位の、もしかすると普段中枢にいる姫かもしれない。何かしらのことを知っているかも。

 

彼女は少し困った表情を見せる。

 

「うーん、中枢棲姫の意思ですか‥‥やっぱり気になりますか?」

 

「はい。なぜ彼女は優位にも関わらず私達と手を取り合う気になったのでしょうか。」

 

「‥‥そうですね。多分ですが、彼女は終わらせたかっただけだと思います。」

 

「終わらせたい?戦争をですか?」

 

私の問に彼女は首を振る。

 

「いえ、戦争を終わらせたいならどちらかが勝つまでやればいいことです。彼女が終わらせたかったのは私達深海棲艦の宿命です。」

 

「深海棲艦の‥‥宿命?」

 

「我々深海棲艦はあらゆる負の思念、かつて貴女方の祖先が産み出した歴史の成れの果て‥‥そこから生まれる尽きる事のない人への憎悪、今あるものへの破壊衝動です。ほとんどの者は多かれ少なかれこの宿命で戦ってます。」

 

「な、なら、なおさら中枢棲姫はどうして‥‥」

 

「負の記憶から人を憎み、数々の歴史の上に立つ今を恨み、嫉妬し、同じ過ちを繰り返すことに憤りそして絶望する。だから我々は人に牙を剥き、人も当然抗い、そして希望として艦娘が生まれた。戦えば負は積もるばかりでいつまでも同じ循環を繰り返すばかり‥‥彼女はそれに気付いた。そしてそんな呪縛にいつまでも囚われたくないと願ったのよ。きっとね‥‥」

 

「アナタ達も‥‥苦しんでいるのですね。誰かを恨み続けるのはとても苦しいことだもの。」

 

「ふふふ、貴女って優しい人なのね。だから、貴女の回りにいるあの子等や貴女に関わった姫達はあんなにも丸いのね。」

 

彼女は微笑んだ。まるで母親のように。

 

「ねぇ、私も話したのだから聞かせて欲しいの。貴女とあの子は‥‥」

 

トントン♪

 

彼女は質問をしようとした時、呼び出されていたネ級が帰ってきた。

 

「失礼します。雪村さん、お三方の整備が終わりまし‥‥って!?ア、アアアあ、アナタ様は‥‥」

 

かなり狼狽するネ級、彼女の名を言おうとしたがしかし‥‥

 

「‥‥。」

 

彼女の出す絶対的オーラによって全く動けなくなってしまい彼女はヘナヘナと地についた。

 

「あらあら♪もう修理が終わったゃったの。残念だわ、もう少しお話したかったけれど。」

 

彼女は立ち上がった。

 

「それでは雪村さん、また今度お話しましょう。」

 

「はい!あの、貴重なお話をありがとうございました。」

 

「いえいえ、お役に立ててよかったわ。あ!そうそう‥‥」

 

彼女は雪村に白い塊を手渡した。

 

「これは?」

 

「これから西方に行くのでしょう?もしかしたらお役に立つかと。それじゃあ‥‥」

 

「あっ!待って!そういえば名前は?」

 

しかし、彼女は行ってしまった。それと入れ違いにカナ達がやって来た。

 

 

「ただいまマスター♪」

 

「お帰りなさいカナ、綺麗にしてもらった?」

 

「うん!ついでに魚雷も新しくなったの。なんでも飛距離が伸びるんだって。」

 

「待たせたな雪村。」

 

「ルリさん怪我は治った?」

 

「怪我と呼べるものでもなかったがな。とりあえず全装備の点検をさせたからな。そのせいで時間がかかってしまった。」

 

「マスター待った?」

 

「いや全然。さっきまで話してたし。」

 

「誰と?」

 

「さぁ~?誰だろ?」

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「雪村さん達は出港しました。」

 

「そう‥‥ご苦労様。」

 

「あ、あの‥‥なぜアナタ様がここに‥‥」

 

ネ級はガクガク震えながらあの姫に尋ねた。

 

 

「そうね‥‥西がきな臭い事になりそうだから手を打ちに来たのと、あの人間に会って見たかったからかしらね。」

 

 

「さ、左様でございましたか‥‥こ、こんな辺境に来てくださり誠に光栄にございます。」

 

 

ネ級及び基地の全深海棲艦が最上級の敬意を示す。

 

 

 

 

 

「我らが大いなる母‥‥中枢棲姫様。」

 

 

 

 

 

 

 

 



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大戦のはじまり 13日目

 

 

 

西方海域はかつて鎮守府と深海棲艦が熾烈を極める戦いを繰り広げた激戦海域の一つである。

 

鎮守府にとっては西からの敵を防ぐ為に、また膨大な戦力を持つ深海棲艦と戦う為には西方の豊富な資源を手にする必要があった。

 

一方で深海棲艦もその戦略的価値を知りつつ最終的に制海権を奪還されたのにはその地理的要因が大きい。

 

西方海域は大西洋の勢力と太平洋の勢力の間にありその管轄は非常に曖昧だった。なので部分的に異なる群体が支配する形になり独立系もかなり多かった。

 

その為にうまく連携が取れなかった深海棲艦は各個撃破されついには大西洋群体の最大拠点のダスカマスが落とされたことにより大西洋群体は海域から撤退、ここでの戦闘は終わったのだった。

 

 

 

そして現在は、太平洋、大西洋の群体がほぼ西方海域には存在しておらず残りはどちらでもない独立系のみとなった。

 

 

独立群体はそれをまとめる姫の命令が絶対である。彼らは中枢の命令を無視ないし聞いていない事にして好きに暴れ続けている‥‥

 

 

 

「とまぁ、これが西方で我が同族が小競り合いをしている理由だ。」

 

「なるほど‥‥」

 

西方海域に突入し、次の群体への接触を求める雪村達。しかし、その前に役に立つかもとルリと雪村はお互いに知っている事を共有しようとしていた。

 

 

「お前ら人間はどうなんだ?わざわざ勝てないとわかっているくせして挑んで来るのはなぜなんだ?」

 

「うーん、他所の国の詳しい事情までは知らないけど‥‥多分今あの地域で戦おうとしているのはインドとその同盟国じゃないかな?」

 

「じゃあなぜその人間どもは戦おうとしてるのだ。」

 

「それは‥‥」

 

「う~ん‥‥」

 

「ルリさんちょっと待ってね。」

 

「ハイハイ~」

 

丁度彼女の膝の上で寝ていたカナ寝返りをうった。それを起こさないように支えてあげ優しく頭を撫で上げる。

 

それをもう見慣れたよと言うような表情でルリはスルーしている。

 

 

「仲が良すぎやしないか?」

 

「なぁ~に?ルリさんもやって欲しいの?」

 

「‥‥‥‥」

 

「あっ!ストップストップ!無言で主砲を向けるのはやめて!」

 

「‥‥ふん、話を続けろ。」

 

「あ、はい‥‥」

 

 

私がと言うより軍が分析している理由は主に2つあると考えられている。

 

 

1つは資源

 

 

インドのような人口の多い国は必然的に資源はたくさん必要となる。ここ近年インドが自国でその資源を賄えるようになったのは例の海底開発のおかげのようだ。

 

そこへ深海棲艦が海を支配したことで開発基地は破壊され資源採掘ができなくなり外から輸入しようにも海は深海棲艦に支配されてるから思うようにならない。

 

 

そうなるとインドはたちまち資源難に陥り経済が破綻してしまった。そこに食糧難も追加されインドは完全に追い詰められたのだ。周辺の最貧国はその比ではなくすでに政府が機能を失っている。

 

 

「資源採掘に漁業‥‥とにかく海に出るしかもう生き残る術がないって考えているの。」

 

「内陸の人間どもに助けを求めないのか?」

 

「あの辺りの国の惨状は酷いらしいの。とてもどの国も他所に構ってる余裕なんてない。」

 

東欧やアジアの内陸ではすでに内戦や他国への侵略なんて起きている。

 

 

「無様だな。我らと対峙しておきながら同族同士で殺し合いか。」

 

「それについてはぐうの音もでないね。」

 

「資源確保が目的の1つ目なら後1つはなんだ?」

 

「それは‥‥」

 

バタン!

 

雪村が言おうとした時、ヨウが乱暴に扉を開けて入ってきた。その音でそれまで寝ていたカナも起きてしまった。

 

「カナ先輩、ルリさん!それと大佐!」

 

「ん~zz何?ヨウちゃん‥‥」

 

「カナ先輩!なんてところで寝てって今それどころじゃ‥‥とにかく甲板に出て!」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

時は同じくして‥‥

 

雪村達が丁度噂していたインドでは雪村達のその後の動きに大きく影響を与える出来事が起きていた。

 

 

 

インド軍府 最高司令室

 

 

「閣下正気ですか!?」

 

「私は至って真面目だが?」

 

インド軍の最高司令官を前に二人の将軍が詰めかけていた。

 

 

「確かに海の奪還は我々が生き残る為には必須、しかし今回の作戦はあまりにも」

 

「あまりにも、なんだ?」

 

最高司令に睨まれたじろぐ将軍、それを見かねて隣にいた別の将軍が続けた。

 

「‥‥いくら諸国と同盟を結んだとはいえ私達に深海棲艦を撃滅できるとは思えません。」

 

「お前達‥‥いや、確かにお前達の不安も最もだ。だが我らには新兵器がある。現に敵の憎い通商破壊部隊を撃滅せしめただろ?」

 

「確かに‥‥そうですが‥‥」

 

「ほらこの話は仕舞いだ。仮にもお前達は将軍だろ。お前達がそんなのでは勝てる戦も勝てないぞ。」

 

「はい‥‥」

 

最高司令は二人にもう下がるように指示を出す。二人が敬礼をして退出するとそれを見計らったかのように別の男が入ってきた。

 

 

「いや~流石は大臣‥‥いえ、今はインド最高司令官兼新インド洋連合軍主席と呼びましょうか?」

 

「君か‥‥」

 

「部隊の準備は整いました。と報告に来ました。」

 

「そうか。」

 

 

その男は彼にとっては諸刃の剣のような存在だった。

 

 

行き場のない彼や彼の部下を匿い面倒を見ているのは彼だが国防大臣だった彼がクーデターを成功させて今の地位にいるのは彼のおかげでもある。

 

そして、彼も弱みも握られていてその気になれば彼もこの男の餌食になりかねないのだ。

 

(一思いに始末できれば良いのだが‥‥この者には今亡くなられては困る‥‥)

 

 

「そんな警戒しないで下さい。私はこれでもアナタには感謝しています。恩を仇で返すような真似はしませんとも。」

 

「そ、そうか。なら正直に答えてくれ。」

 

「何をですか?」

 

「あの新兵器‥‥特装兵と言うのだな。アレで本当に勝てるんだな?」

 

「何を今さら‥‥」

 

「確かにあれは素晴らしい出来だ。しかし‥‥」

 

「部下を説得している内に自分が不安になられたのですね。そうですね、わかりました。今さらですがあの兵器について説明してあげましょう。そうすれば少しは気が晴れるかと。」

 

「頼む。」

 

 

 

特装兵とは技術の力で擬似的に作り出した艦娘の事である。完成させ建造にこぎ着けたのは日本のモダニズム組織「同盟」である。が、実際に研究開発を進めてたのはイギリスであり、そのためその艤装はイギリスの軍艦のデータが使われている。

 

 

「適性のある少女に装備させ最低限の訓練さえさせればあの化け物と同等に戦えます。ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「何せ今のこの国の戦局です。あまり悠長に準備をしている場合ではなく至急数を揃える必要があったので我が国で量産したモノよりさらに簡易量産化したモノになりました。」

 

「そんなもので大丈夫なのか」

 

「ええ、性能がダウンしたとは言え戦闘は可能です。その分対策も考えています。これです。」

 

最高司令は渡された資料を見る。

 

 

「敵一隻に対して必ず複数艦で戦う戦術か。」

 

「はい。敵群体の推定される規模に対して数倍の駆逐特装兵を準備しております。」

 

「それでどうにかなるのはどうにかなるのは駆逐艦や巡洋艦クラスだろ。戦艦や姫はどう対象するつもりだ。」

 

「その為に、あの三人を用意したのでは?」

 

そう言われて彼は前にここに連れて来させた三人の少女達を思い出した。

 

「‥‥本当に恐ろしいよ。まだ年端もいかない少女達を兵器にしただけで飽きたらずあんな恐ろしい事をさせるなんてな‥‥」

 

「これも元の現在を生きる我らの世界を取り戻す為です。」

 

「私達はモダニズム主義者ではない!!」

 

「わかっていますよ。全てはアナタの言う民意の為でしょう。」

 

「‥‥ふん。」

 

最高司令はもう説明は要らないと言いたげに手で合図をする。するとこれ以上は野暮だと感じた男は静かに部屋から出ていく。

 

いや、出ていこうとしたまさにその時、備え付けの通信機から緊急用の通信が入る。

 

 

『閣下!大変です!』

 

「何があった!」

 

『深海棲艦の艦隊が第1次防衛海域に侵入!守りについていた部隊は全滅しました!』

 

「くっ!もう来たか。各防衛部隊は全て第3次まで後退!直ちに全軍出撃、防衛部隊と合流する!」

 

『ハッ!』ばちん

 

 

「おそらく敵の前衛ですね。通商破壊部隊をやった報復でしょう。」

 

「これもお前の計算の内か?」

 

「ええ、こんなこともあろうかとすでに1部隊をあの付近に配置してます。」

 

「貴様!なら部下は捨て石か!?」

 

「まあまあ。でも好都合では?泊地を落とす前に予行演習ですよ。」

 

「ムググググ‥‥この件は後だ。事は一刻を争う。私も出る、貴様にも来てもらうぞ。」

 

「ええ、喜んで。」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間後‥‥

 

 

駆逐棲姫艦隊のタ級率いる前衛が防衛部隊の撤退を援護しようと出てきた特装兵部隊と衝突。

 

 

 

ここにインド洋の覇権をかけた大戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 



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顔が見えない 14日目

 

 

 

 

「これは酷いな‥‥」

 

ルリさんが言った通りだ。ヨウちゃんに呼ばれて外を見るとそこには複数の軍艦と深海棲艦の残骸が海を漂っていた。

 

「何これ‥‥戦争でも起こってるの?」

 

「マスター!私少し見てくる!」

 

「あ!先輩、私も行きます!」

 

カナ達が偵察しようと海へと飛び込む。

 

 

「まだ黒煙が上がってるな。まだそんなに経ってないかもな。雪村?どうした?」

 

「そんな‥‥」

 

また‥‥戦争がはじまるの?

 

せっかく終わったのにどうして‥‥

 

 

「おい!雪村!」

 

「はあっ!?ルリ‥‥さん?」

 

「大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

 

「うん、大丈夫‥‥それよりルリさんはどう思う?」

 

「どうって?」

 

「パッと見ても深海棲艦の一艦隊が全滅しているのに海軍(私達)側の損害が少な過ぎる。」

 

「言われて見れば‥‥艦娘でもいたのか?」

 

「いいえ、鎮守府は現在再編成の為に各地の派遣艦隊を戻してるの。それ以前に国防軍は深海棲艦との戦闘は命じないわ。」

 

「まぁ命じれば約定違反で即昔に逆戻りだしね。」

 

それだけは絶対にないと信じたい。あってはならない。またカナと離れる事になるなんて‥‥まだマシロ達にも会えてないのに‥‥

 

 

じゃあ一体何が‥‥

 

 

「マスター!」

 

偵察に行っていたカナが戻ってきた。

 

「カナ!何か分かった!?」

 

「ええっと‥‥倒されてたのは軽巡に駆逐艦2‥‥後は潜水艦2だったよ。」

 

「え?何その編成?」

 

「おそらく潜水艦隊とその支援部隊と言った感じだろう。それにしては潜水艦が少ない気がするが‥‥」

 

「うん、私もそう思ったからヨウちゃんに一応捜索を続けてもらってる。後‥‥うんしょっと!」

 

カナが水中から何かを持ち上げた。

 

 

「この子も水中を漂ってた。」

 

それは少女だった。私とルリさんとで持ち上げてクルーザーに揚げて見てみた。

 

 

「コイツ、前に見た特装兵とかに似てないか?雪村、何か知らないか?」

 

「うーん、閣下からもらった資料に合致しない‥‥それにこの子の来てる軍服の軍章‥インド軍のかも。」

 

「インド?さっきお前が言ってた人間どもの軍か。そのインド軍が我らに戦いを挑む理由はひょっとしなくても」

 

「勝算があるから、かもしれない。」

 

でもどうして?インド軍に同盟の技術が流失でもしてるのか?いや、問題はそこじゃないかもしれない。

 

 

深海棲艦と人類が和平へ歩みを始められたのは恨んでいても各国に深海棲艦と戦う力がないこと、唯一の例外である日本がそれを推進しているからだ。

 

もしも深海棲艦との徹底抗戦を望む勢力にあの兵器が広がるような事になればまた戦いが始まってしまう!

 

軍人や特装兵にされる少女達に深海棲艦‥‥

また多くの命が海へと消える事になる。

 

 

「閣下に報告しないと‥‥もしかすると私の思っている以上にとんでもない事が起きてるのかも。」

 

「私も中枢に報告しなければな。我らに害意のある奴等に我らと渡り合える兵器が渡ったとなれば由々しき事態だ。」

 

ルリさんも深刻そうな顔をしている。

 

「とは言え‥‥今の私に通信手段がない。どこかの群体に行かなければ‥‥」

 

「じゃあ早く近いところに‥‥」

 

「ダメだ!!」

 

「ルリさん?」

 

「‥‥怒鳴ってすまん。だがここいらの群体はダメだ。」

 

「どうしてです?」

 

「ここいらの奴等は独立系だ。ましてや今人間どもと戦闘になっている可能性が大だ。そんなところにお前を連れて行けばただでは済まんぞ!」

 

「じゃあどうするの?」

 

「ウグッ‥‥そ、それは‥‥今考える!」

 

ルリさんが腕組して座り込む。しばらくかかりそうなのでほうって置こう。

 

「先輩、雪村。」

 

「あ、ヨウちゃん。」

 

「お帰りなさい。どうだった?」

 

「ダメ。見つからない。」

少し残念そうに報告する。

 

「そう‥‥ヨウちゃんありがと。」

 

「元々5隻だった可能性は?」

 

「ううん、それはない。私も先輩と潜水艦隊を組んでたから言えるけど艦隊に所属している潜水艦は最低でも3隻で行動するの。」

 

つまり後1艦はまだどこかにいることになるよね‥‥

 

雪村は少し辺りを見渡してみる。

 

 

「ねえ、あの岩みたいな小島は探した?」

 

雪村がヨウに尋ねたのは残骸群から少し離れた位置にある名前すらつけられないような小さな島である。

 

「うんん。流石にないって思ったから。」

 

「そう思えるのなら隠れる場所にはうってつけかな。少し見てみよう。」

 

もし生き残りがいるのならここでの戦闘の事を聞けるかもしれない。閣下に報告する為にも詳細は知りたい。

 

 

雪村はヨウ達を乗せるとクルーザーを動かした。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「痛っ!」

 

彼女は爆雷で被弾した部分を庇った。少し岩に当たってしまったようだ。その痛みで歩みは止まりうずくまってしまう。

 

雪村の予想通り、小島には小さな洞穴があり彼女はそこへ逃げ込んでいた。

 

 

(ここなら電探には引っ掛からない‥‥)

 

 

部隊が壊滅し自分も殺られかけた彼女はこの島を見つけるとかつての恩人に教えられた事を咄嗟に思い出し、ありったけの魚雷を沈みかけの船に撃ち込み爆発させることで自分の轟沈を偽装し島に逃げ込んだ。

 

逃げたはいいけど、もう体はボロボロ。

ここへも動かなくなった片足を引き摺りながら来たのだ。

 

もし相手に備えがあり、しっかり確認とかされればこんな偽装なんてすぐにバレていたが‥‥敵が捜索していないのを見ると成功のようだ。

 

 

 

「ううっ‥‥」

 

彼女は側にあった岩の陰に横たわった。もう完全に足が動かなくなったのだ。

 

疲労と痛みで歪む視野で自分の状況を見る。

 

体は‥‥見なくても分かるほどボロボロで動けない。武装は魚雷を全部使って後はこの手に握ってる豆鉄砲のみ。

 

そして、電探や空からの探索を逃れる為とは言え洞穴に逃げ込んで逃げ道はない。いや動けないからどのみち同じか。

 

もし敵に見つかったらもうおしまい‥‥

 

 

彼女は体が震えてきた。

 

「大丈夫‥‥大丈夫‥‥大丈夫‥‥」

 

どれだけ時間が経ったかはわからないけど誰も探しに来ないのは偽装が成功したと言うこと。だから自分は助かったんだと言い聞かせた。

 

少し震えが治まってきた。

 

 

(まだ死にたくない。まだ死ねない!)

 

 

彼女には深海の潜水艦にしては珍しい生への願いがある。それはただ1つ‥‥どうしても守りたい約束の為に‥‥

 

ここを凌げれば、かすかに希望を持ち始めたがその希望もすぐで手放すことになった。

 

えっ‥‥音がする?

 

 

かすかだが外からエンジンの音がする。

 

(に、人間の船の音だ!?)

 

 

彼女は再び震えた。音が大きくなるに連れて彼女の震えも大きくなる。

 

(音からしてボート‥‥いえ中型以下の‥‥ならば普通の兵士が数人‥‥ならどうにか‥いやも、もしもさっきの敵がいたら‥‥‥)

 

空っぽのはずの胃の底が急速に重く感じる。

 

「いや‥‥嫌だ‥‥まだ死にたくない‥‥」

 

彼女は落としかけたけど機関銃を力いっぱい握りしめた。無駄な抵抗とわかってても悪足掻きでもすればあるいは。

 

 

上陸してきたのか砂を踏む音が聞こえる。

 

 

絶対に諦めないと誓ったばかりの心がすぐに折れた。彼女の手から機関銃がこぼれ落ちる。

 

本来、深海棲艦のクセして争い事の向かない性格の彼女だ。戦意を保ち続けろと言うのも酷な話だ。

 

 

かすかに声が聞こえる。

 

ここにはいない そっちはどうだ

 

 

お願い‥‥ここに気が付かないで‥‥

 

 

「先輩!来て来て足跡があります。きっとあの洞穴ですよ!」

 

最後の祈りは無駄に終わったようだ。

 

 

「ハハハ‥‥ここまでか‥‥」

 

思えばあの別れの後から辛いことばかりだったけど、いつかはとの思いでここまで粘ったけれどこんな結末が待っていたのなら‥‥

 

「がんばらなきゃよかった‥‥」

 

あぁ‥‥寝たい。いやもうすぐその願いは叶う。ただしそれは永遠でもふもふな布団もない。

 

 

敵が洞穴を入ってきた。四人くらいだ。

 

逆光で顔は見えない。

 

 

(ごめんなさい‥‥約束、守れない。でも最後に幻覚でもいいから会いたかった‥‥)

 

「マスター‥‥カナお姉‥‥」

 

 

 

敵がとうとう私の目の前にやって来た。なのにどうしてか、敵はとどめをなかなかささない。

 

もう抵抗できません。どうか一思いに‥‥

 

ぼやけた視野で敵の顔を見る。なぜか敵はかなり驚いた顔をしている。どうしたの?そんなに私が珍しい?

 

そりゃここまで追い詰められた深海棲艦は珍かもだけど‥‥

 

 

あれ?なぜだかこの人、私の今一番会いたい人の顔に似ている気がする。

(幻覚でもいいって言ったけど敵がマスターに見えるなんて‥‥)

 

 

「ソ、ソラ‥‥?」

 

幻覚のマスターが私の名前を呼ぶ。あはは、幻聴まで聞こえるとはとうとう私も最後だね。

 

敵が私に手を伸ばした。ようやくとどめですか。

 

と思いきやまたもや予想を裏切られた。敵は私を抱いたのだ。

 

‥‥‥‥え?

 

「間違いない!ソラだ!カナ!ソラだ!ソラがいたよ!」

 

「えっ!!?ソラちゃんが!ホントだソラちゃんだ!」

 

呼ばれて駆け寄ってきたのはまごうことなき潜水艦のカ級だ。そして、今さら間違えようのない顔だ。

 

でもまさかそんな‥‥じゃあこの人は本当に?

 

 

「‥‥マ、スター?」

 

「ああ!!私だ!ようやく会えた。」

 

「マスター‥‥本当にマスター‥‥‥‥う、う、うええええええん」

 

私もマスターに抱きついた。

 

 

「幻じゃないよね!?本物だよね!?」

 

「ソラにしては珍しく疑り深いね。そうだよ。本物の私だよ。」

 

「ソラちゃん!」

 

「カナお姉~!うわ~ん!」

 

 

会いたくてしかたのなかった母と姉に会えた。せっかく会えて嬉しいのに目が潤まったせいで全然二人の顔が見えない。

 

(粘って‥‥よかった‥‥本当によかった‥‥)

 

と本当に心の底から思えたソラだった。

 

 

 

 

 

 

 




どうもです。ようやく雪村さんはソラと再会です!

ここからは戦争が再開されようとしている中、彼女達がどのように振舞い、どのように再会していくのか‥‥

お楽しみ♪


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進路インド洋の最西へ! 15日目

 

 

 

「こーらー!マスターから離れなさい!上手く手当てが出来ないでしょう。」

 

「イーヤーだ!」

 

感動の再会からマスターから離れようとしないソラとソラに包帯を巻こうと引き剥がそうとする姉(カナ)の戦いはすでに20分を経過していた。

 

あ、ルリさんは付き合ってられんとか言って見回りに出てます。

 

「カナお姉はずっと一緒だったでしょ。私にもマスター養分を補給させてよ~」

 

マスター(私)養分ってなに?

 

「確かにそうだけど‥‥でも手当てが先よ!」

 

カナが納得した!

 

いや、それよりも‥‥

 

「二人とも、せっかく会えたのにケンカしないの。」

 

私は仲裁するべく、いや、単に撫でたかったので二人にダブルナデナデをおこなった。

 

「はぅ~♪」

 

「ふにゃ~♪」

 

 

しかし、効果は抜群だ。数年経ってもソラはソラだったようだ。二人はあっという間に顔を和ませた。

 

 

「ソラ、カナの言うとおり手当てされなさい。カナもあんまり無理矢理はダメだよ。」

 

「はーい‥‥」

 

「ごめんなさい‥‥」

 

ま、ソラに会えて嬉しいのは私も同じだから離れたくないのも分かるしカナもソラを心配しての行動だからあまり叱れないのだけどね。

 

 

 

「はい。終わったよ。」

 

「うん♪ありがと~お姉~」

 

「こら、あんまり動くと‥‥」

 

今度はカナに抱きつくソラ。カナはまんざらでもないのか少し抵抗して見せてはいるが口元は緩んでる。

 

「姉妹っていいよね。」

 

三人でひとしきりじゃれた所で雪村はソラに尋ねることにした。

 

「ソラ、今までどこにいたの?それから何があったの?」

 

「うん?私ね、大西洋にいたの~」

 

 

 

ソラは艦隊に合流しカナ達と別れた後、大西洋の群体に所属することになった。

 

地中海北部を制圧しているコルス島泊地の潜水艦隊に配属され、船を片っ端から沈めていたようだ。

 

少しノロマなところがあるが慎重で尚且つ大胆な攻撃をすることから重宝され場数を踏むことになったソラはflagshipとなった。これで更に戦力となった彼女はある時は1艦隊の旗艦、そして、現在は姫の直属の部下をやらされてる。深海棲艦にとっても名誉なことだが基本のんびりしてたい彼女にとっては仕事が増えるだけでしかなかった。

 

 

泊地の幹部にされたソラは終戦後も離れたくても離れなくなってしまいそれがこれまでマスターの所に帰れなかった理由だった。

 

 

そして、数日前のことだ。

 

ソラは直属の姫である水母水姫から極秘の任務を命じられることになった。

 

「極秘の任務?それ、私に話して良いヤツ?」

 

「マスターだから大丈夫~♪」

 

「いやいや、ダメでしょう。」

 

しかし、ソラは話を続けた。

 

 

ソラは潜水艦隊を与えられて太平洋の群体の元に届けモノをするように言われたのだった。途中までは順調だったがここに来たときに突然艦隊に襲撃されたらしい。

 

通常の艦隊ならソラ達の圧勝だっただろう。しかし、敵には特装兵がいた。仲間は特装兵に次々とやられソラも爆雷を受けてしまった。その後は私が前に見せたアニメを参考にして轟沈を偽装して難をのがれたとか。

 

 

「届けモノって?」

 

「これなの。」

 

「それは!?」

 

ソラが取り出したのは命令書が入っている筒と白い塊だった。一見何なのか分からなかったがそれを彼女は見たことが、いや、持っていた。

 

(あの姫が私にくれたやつだ。)

 

「白い塊だね。」

カナは素直に答えた。

 

「ねえソラ、それはなに?」

 

「う~んわかんないけど大切な物って言ってた。」

 

(大切ものか。そりゃわざわざ護衛を付けて運ばせるのだから凄いものなんだとは思うけど。あの姫、私に何をくれたんだろう?)

 

 

「戻ったぞ。やっぱり生き残りはいなかった。」

 

ルリさんが戻ってきた。

 

「ルリさん丁度いいところに。これって何かわかる?」

 

「うん?どれどれ‥‥、‥‥」

 

ルリさんに私の持っていた白いのを渡して見てもらったらルリさんが固まってしまった。

 

 

「ま、まさか‥‥」

 

「ルリさんどうしたの?」

 

「お、お前!?こ、ここここれをどどこで!?」

ルリは雪村を掴んだ。

 

「ルリさん痛い!落ち着いて!」

 

「落ち着けるか!これは中枢棲姫様の"証"だぞ!」

 

「証‥‥?」

 

 

深海棲艦の証とは

 

深海棲艦の姫は自然治癒力が高く破損した装甲も生えるようにして直るのだとか。

 

その際に作り出される装甲を構成する成分の塊は白い色をしており切り取ると白のままだそうです。

 

装甲の成分とは言え、姫の体の一部とも言えるそれはいつしか信頼される配下の深海棲艦を渡される習慣ができ、それが発展して姫が任命した勅使や代弁者が持つモノとなった。

 

 

「つまり、これって私が姫様の代弁者ってわけ?」

 

「しかも我らが大いなる母のだ。お前、そんなモノをいつ手に入れた?」

 

「これは前に太平洋の最後の補給基地に寄った時に見掛けない姫からもらったものなの。」

 

「間違いない。そのお方こそが中枢棲姫様だ。」

 

「ええええ!?」

 

「更にだ。そのソラちゃんが持ってるそれは恐らく大西洋群総司令の欧州棲姫様の証だ。」

 

「うげっ!?これそんなに大変なのだったの?」

 

護衛はその価値に気付かなかったようだ。

 

「その筒、命令書か何かか?見てもいいか?」

 

「う、うん。」

 

ソラはルリさんに筒を渡した。

 

筒にはやはり紙が入っており見たことのない象形文字が並んでいた。

 

「これは我々の暗号だ。幹部クラスにしか解らないな。」

 

「ルリさん解る?」

 

「勿論だ。少し待って。」

 

 

ルリさんは暗号を呼んでいく。読み進めて行くにつれてルリさんの顔が険しくなっていく。

 

 

「ルリさん‥‥」

 

「読み終わったぞ。」

 

「内容は?聞いてもいいかな?」

 

「ああ、むしろお前に用向きらしい。」

 

「えっ?」

 

「内容はこうだった。これを太平洋群体の管轄から抜けて西に行く特別な日本の使者がいたらこれを渡せとな。」

 

「え、と言うことはマスターが?」

 

「ああ、この欧州棲姫様の証の保有者だ。」

 

「ちょっと待って!特別な使者でしょう?私はただの交渉人だよ!」

 

「いや、お前の手に持ってる中枢棲姫様の証。それが特別の証明だろうが。別に持ってて困るものではない。受けとれ。」

 

雪村は証を押し付けられた。

 

「ふぅ‥‥。これで私の任務も終わり?」

 

ソラは疲れた顔をした。

 

「これで死んだ仲間も浮かばれるよきっと。」

 

「ありがとカナお姉。でもこれで私は戻らないと‥‥」

 

「いや、その必要はないぞ。」

 

「ルリさん?」

 

「命令書の続きだがな。護送していた艦隊はそのまま保有者の指揮下に入り護衛せよ、とな。つまりお前はコイツの護衛として側にいるのが次の任務だ。」

 

「えっ!?それじゃあ私ずっといていいの!?やったー!」

 

「やったーソラお帰り~♪」

 

「ただいまカナお姉~♪」

 

抱きしめ会う姉妹達。しかしソラは少しだけ浮かない顔をしたのを私は見逃さなかった。

 

 

「ソラどうしうたの?」

 

「ううん。嬉しいのだけど。私だけ先に帰ってしまって何だかマシロちゃんに悪いなって‥‥」

 

「ソラ!マシロがどこにいるか知ってるの!?」

 

「うん。マシロちゃんと一緒に大西洋にいたから。」

 

なんと!二人とも大西洋か。太平洋にしかコネクションがないからわからないわけだよ。

 

 

「そうだ!マスター達の任務に問題ないならマシロちゃんに会いに行かない?今インド洋にいるの。」

 

「待て。大西洋群がここまで来ているのか?」

 

ルリさんは初耳だったようだ。

 

「実はアンズ環礁に秘密の泊地を建設したの。マシロちゃんはそこの旗艦補佐になったの。」

 

 

アンズ環礁‥‥

 

そう言えば前に集積地棲姫が‥‥

 

 

「彼女はここだ。」

 

と言われて地図で示されたのは

 

「インド洋最西?運河の方ですか?」

 

「すまない。詳しい場所は教えてやれん。これでも譲歩したつもりだ。」

 

と要領を得なかったがなるほど秘匿の泊地ですか。それは教えられないわけだ。

 

 

「マスター私会いたい!」

 

「ルリさん私も行きたい!」

 

「ふーむ。丁度連絡を取るためにどこかの群体に行きたいと思っていたからいっか。」

 

「やったー♪」

 

「イエーイ♪」

 

雪村とカナはハイタッチ

 

 

「しかしアンズか‥‥」

 

「ルリさん?」

 

「いや、行くのには反対じゃない。ただ‥‥」

 

「ただ?」

 

「あそこはインド洋の西の外れだ。つまりここの反対側、嫌でも中央海域を根城にしている独立系どもに鉢合わせするぞ。しかもインド軍とやら動いているとなると既にこの海域は戦場になってるかもしれん。」

 

 

確かにソラ達護送艦隊は何者かに襲われた。そして、あの特装兵‥‥もし、あれがインド軍のものであれば‥‥

 

 

 

「私のやることは変わらないよ。私は任務の為に独立群体を訪れる。そして交渉するよ。そこが紛争地で日本が巻き込まれる可能性があるならなおさらだよ。」

 

 

マシロまで直ぐそこまで来た。これで家族が皆揃う。ここまで来て、後少しで悲願が叶うのに逃げてたまるか。

 

それに戦争が起ころうとしているのだ。これは私の任務の範囲を越えてはいる、しかし、もう二度と戦争を、私達が引き剥がされる世界には戻したくない!

 

 

「ルリさんは報告の為、私は任務を続行しマシロに会う為に進路を西に取る。問題ない?」

 

「‥‥ふん。わかった。全くお前は肝がすわってるのか、ただの怖いもの知らずなのか。」

 

やれやれとして見せるルリさん

 

「ヨウちゃんは?」

 

「私は!先輩と一緒ならどこにだって!そして先輩の命令ならアンタのことも守ってやるわ!」

 

「ヨウちゃん‥‥」うるうる

 

「ヨウちゃん良く言った!流石私の後輩!」

 

「先輩~♪」

 

 

皆の意思は確認した。雪村はクルーザーの操縦を始める。

 

 

「よしっ!いくぞー!目標はインド洋西のアンズ環礁!邪魔する奴らは皆はね除けるよ!」

 

 

「おう!」

「うん!」

「ええ!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 





雪村達が進む先に待ち受けるものとは?
いよいよその正体が明らかに!

次回もお楽しみ~♪


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メモ帳空ページ 構われない深海の甘え方

このシリーズ書くの久しぶりです。今回はアンケートで一位だった隊長とユウの話です。
先輩後輩ペアはまたの機会に投稿します。


 

 

 

 

「よう!元気そうだな!」

 

「はい。お陰さまで。」

 

 

隊長こと教官殿は今日は珍しく朝から出勤だ。

いつもは泊まりが多いので門を潜るのは久しぶりだ。

 

なので門衛とは久しぶりに挨拶をした。

が、門衛は少し不機嫌そうだ。

 

「なんだ?不貞腐れてるのか?」

 

「いや、だって。アナタに言われてわざわざあんな所に行ったのに結局門衛を卒業できなかったので。」

 

「まぁ気にするな!お前さんはちゃんと出世したろ?」

 

「はい。門衛から門衛隊長に。」

 

「曹長になって部下が3人付いただろ?」

 

「いや、まぁそれはそうですが‥‥結局門衛としてここに立っていることは変わりませんし‥‥ね?」

 

「お前腕は立つが部下をまとめるような柄じゃないだろう?ならそれくらいにしとけ。」

 

「そうですけど‥」

 

「給料一気に上がるぞ?」

 

「えっマジですか!」

 

チョロいな。

 

「マジマジ、で?今の仕事はどうよ?」

 

「はい!同じ仕事してるのに給料だけ上がって最高です!」

 

「ならこれ以上は言うなよ。」

 

「了解!お勤め頑張って下さい!」

 

「おう!」

 

 

まぁ、アイツをここに引き留めてるのは別の目的なわけだがな‥‥。

 

等と考えながら教官室へと向かっていた所に

 

 

ブーン♪ブーン♪

 

「うん?」

 

彼の携帯に電話が鳴った。

 

「おっ!もしかしてあの電話か?よーしっ!やるで。」

 

彼にとっては待ち焦がれた電話だったようだ。

 

「はい、もしもし。」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

その頃、教官の家では

 

 

「ああ〰️。隊長行っちゃったよ〰️。次は何日後に帰って来るんだろう〰️。」

 

ユウがうなだれていた。

 

 

まだ彼が出掛けたばかりなのにも関わらず玄関で既に死にそうになっていた。

 

「隊長と暮らせるのは幸せだけどこうも一人が続くと悲しいの!」

 

 

元々は集団運用が基本の浮遊要塞に孤独への耐性があるわけがない。しかし、隊長からは部屋から出るなと言われている。

 

つまりこれにより

 

「寂しく!暇死にする!」

 

の完成である。

 

 

「隊長~ぅ」涙

 

流石にずっと玄関で泣くのは疲れたのでリビングに行くことにした。

 

 

「お茶でも飲んでテレビ見よう‥‥」

 

と、その時だった。

 

ピンポーン~♪

 

「うん?隊長‥のわけないよね。」

 

どうせ宅配とかセールスとかと思うので出ない事を決める。いつもならこれで良かった。だが

 

「今回はしつこいなぁ。」

 

ユウは静かに外の人がいなくなるのを待った。

 

「あらあら?おかしいですね。話では家にいるから入れるとおっしゃってたのに?」

 

女性の声だ。

 

「あ!もしかして開いてるから勝手に入れと!」

 

何を言っている。というかロックしてるからどのみち入れないよ。

 

なんてユウが思った時、玄関から鈍い音がした。

 

「えっ?」

 

「ああ!またやってしまった!ドアノブ壊しちゃった。」

「ええっ!?」

 

「と、とりあえず‥‥お邪魔します~。」

 

な、何?!何なの!泥棒?

いやいや、ドア破壊する泥棒って何?

 

「ねぇ~誰かいる?」

 

「イヤァァ!!来ないで!」

 

ユウは思わず機関銃を撃ってしまった。

 

 

「ちょ、ちょっと!待って!」

 

「ひぃぃぃ!う、撃たれたのにまだ無事!」

 

「待って!待って!私よ!」

 

「えっ?えええええっ!?ひ、港湾棲姫様!」

 

「はい、お久しぶりですね。」

 

「ごめんなさい!誰かわからなかったとは言え突然発砲を」

 

「ううん、いいの。だって雇い主のお子さんだし。」

 

「雇い主?お子さん?」

 

「でもスッゴい偶然!たまたま子守りのバイトに応募したらアナタだったなんて!」

 

「いやいや、待って。バイトってなに?そもそも何で姫様がバイトを?」

 

「う~ん。私、旦那様が少しでも楽になればと少しお金を稼げないかと思ってバイトをやることにしたんだけど。ただ、身分証明ができるものがないから面接受けれないし‥‥」

 

「ああ‥確かに私達って戸籍ないですもんね。」

 

「そんな途方に暮れてる時にここのマンションの外に求人のチラシが貼ってあって。個人なら多分身分証とかなくても行けると思ったの。」

 

「そしてそれがうちだったと。あれ?するとその求人出したのって隊長だよね?なんで?」

 

「ええっと。仕事であまり帰れなくて子供を一人にしてるから遊んであげて欲しいって。」

 

「隊長ぅ!」

 

私を気遣ってくれたことには心から感謝するけど、ならば隊長がかまってよ!

 

「というわけでユウちゃん。入江お姉さんに甘えていいですよ。」

 

姫はばっちこいと手を広げて見せた。

 

「え、でも姫様にそんな‥‥」

 

「ここでは階級は気にしないの。それに私の旦那様もアナタの旦那様にはお世話になってるし♪」

 

「だ、旦那って!私と隊長はそんなじゃ‥‥」

カァァァァ

 

「あらあら~♪それじゃあお父さんかしら?私のことはお母さんでもいいわよ?」

「あ、いえ。私のお母さんは泊地棲姫様ですので。」

 

「エエっ‥‥じ、じゃあ日本にいる時のお母さんってことで、あ、甘えてどうぞ。」

「‥‥はぁ。わかりました。それでは失礼して」

 

ギュっと

ユウは入江に抱きついた。

 

「姫様柔らかい~♪」

 

「あらあら~。そんなにたまってたの?」

 

「だって隊長ハグする前にすぐどこかいくし‥」

 

「まぁ、私も旦那様が奥手過ぎてハグされたことないですし‥‥」

 

「「はぁ~~。」」

 

 

「姫様、これからもたまに来てくれます?」

 

「ええもちろん。私も一人は寂しいですしお給料入りますし。」

 

「うん。ありがと‥‥♪」

「ふふ♪」

 

「あっでもドア破壊のことについては隊長に報告するね。」

 

「いやあああああ!解雇されるぅぅ!」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ええっ!?応募したの入江さんだった!?」

 

「隊長知らなかったの?」

 

 

数日後、隊長が帰って来た時にこれまでの事を話した。

 

「いや、ただ応募してるって紙に書いて電話で話を聞いただけだから。」

 

「隊長テキトー過ぎ!」

 

いや、むしろよくそんな怪しい求人に応募する人がいたな。って姫様くらいか。

 

 

「それで、姫様クビなの?」

 

「いや‥‥前に泊地棲姫にも同じことされたから今さら気にならんな。何よりユウが楽しかったのならなおさらだな。」

「うん♪楽しかった♪」

 

「おう!なら引き続き頼もうか。」

 

それにしてもアイツの所のが来ちゃったか。

これはアイツに対してまた秘密が増えそうだ。

 

 

「隊長~」

 

ユウが両手を広げた。

 

「ん?どうしたユウ?」

 

「おんぶ!それか抱っこ!」

 

入江に甘えた分、俺にも甘えたくなったのだろうか?

 

「やれやれ‥‥」

 

「ダメ‥‥?」

 

ユウの上目遣い。

 

「よっしゃ!どっちもしてやるよ!」

 

「やったー!」

 

「ほおっら!」

 

「きゃあ~♪」

 

 

 

そのころ

 

 

「くしゅん!」

 

「風邪か?」

 

「いえいえ、大丈夫です。さあ旦那様、お食事です。」

 

「あれ?入江、何か今日の飯は豪華な気が‥‥」

 

「ウフフ♪‥‥ナイショです。」

 

「そっか。そうだ!もうすぐ給料日だから期待してろよ。増えてるからな!」

「ええ、これで私も旦那様にもっと美味しいものを作れますね♪」

 

「おおっ楽しみにしとくわ。」

 

「はい!ですから明日も頑張れるようこの後は」

 

「風呂だな!」

 

「ぐっ!ではその後こそ‥」

 

「寝るだけだな!」

 

「むぅぅ~!」

 

「膨れても駄目だ!!」

 

「ジー‥‥」

 

入江の期待の眼差し

 

「くっ、み、見つめても駄目だ、期待しても駄目なものは駄目だ!!」

 

 

 

 

 




本編のシナリオほぼ出来上がってるけど複数エンディングが思い付いて迷う‥‥。迷って書けずに早くも11月か。


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戦争勃発 16日目

 

 

 

 

雪村達が進路を定めた少し前の時間

 

 

 

彼女達が巻き込まれる事になる争いの最初の戦闘が幕を開けていた。

 

 

「司令!後衛の7番艦が炎上!速力を維持できません!」

「やむを得ない。我々はこのまま全速力で第3防衛海域まで後退する!」

 

 

艦隊司令の男は険しい表情だった。

 

インド海軍が防衛する海域に突如として侵攻してきた深海の艦隊。これはどう考えても先日彼らの艦隊を撃破したことに対する報復だった。

 

そう。彼らの仕返しがあることをわかった上で自分と艦隊は配備されていた。まるで捨て石のように。

 

 

「上層部はいや、総司令は何を考えてる!」

 

「司令!」

 

「今度は何だ!」

 

「前方より何かが複数接近しております!」

 

「何!?深海棲艦か?」

 

囲まれたか?

 

「い、いえ、あれは恐らく例の‥‥」

 

「例の新兵器か‥‥」

 

追われて第3防衛海域に入った守備部隊の前から人型の兵器、いや少女達が現れ後ろの深海棲艦達を襲う。

 

 

「ふん。餌に釣られてまんまと来たか。しかも勢い任せで隊列もくそもない。戦術通りに各個撃破だ!あの化け物どもに思い知らせてやれ!」

 

「「はっ!!」」

 

 

指揮官と思わしき少女が指示を出すと艦隊は15人一組の部隊に分かれ、さらにそこから四人一組の小隊に分かれていった。

 

 

そのうちの最も先行した小隊が敗走艦隊の最後尾に逃げる艦を襲う敵駆逐艦ロ級を狙う。

 

「グガガガッ!」

 

「かかれ!」

 

1隻の敵に対し四人がかりで攻め立てる。これにロ級も反撃をするが大した抵抗をすることなく轟沈させられた。

 

また別の小隊はヘ級を取り囲んでいた。

ヘ級の反撃が小隊の一人に命中する。

 

「アガッ!?」

 

艦娘の駆逐艦なら耐えられる攻撃だった。しかし、少女はそれが致命傷となり轟沈した。

 

「くおのぉ!!」

 

残りの3人はヘ級に魚雷を発射、撃破された。

 

 

このように味方を失いながらも確実に深海棲艦を沈めていった。

 

 

 

「何だ!アイツらは!」

 

その異様な光景を逃げ遅れた軍艦を仕留めていたこの部隊の指揮官、タ級は激怒していた。

 

艦娘のようでまったく異なるあれはなんだ!!

 

我らを倒せるのは艦娘だけ。しかしだとしたらそれはおかしい。現在西方海域に艦娘ないし日本軍は撤退している。ましてや奴らが我々のような味方が沈められる前提の戦術を使うなんて!

 

しかし、これが人間だとしたら何なのか。この訳のわからないことに対する不安と人間に部下をやられた屈辱にタ級は怒っていた。

 

そのタ級を敵が複数で取り囲む。

 

 

「このぉ!!」

 

タ級は力任せに砲身を動かし敵をなぎ倒す。その時だった。

 

「なっ!?」

 

タ級の右腕が切り落とされた。それも切られた本人が気付かないほどの速さで

 

 

「失敗‥‥」

 

「誰だ貴様は!?」

 

どこから現れたんだ。コイツの持っているのは日本刀か?なぜインドの奴等が?

 

コイツも艦娘ではない。しかし、このへなちょこどもともまた別格だ。そう思い警戒する。

 

「ああっ!1人だけズルい!絶対ソイツ強いヤツ!」

 

「何!?新手か!」

 

「そりゃあ~!」

 

今度は魚雷!?それも多い、さばけない!

 

 

「ぐあああっ!!」

 

タ級は大破してしまった。1人だけではなかった。もう1人いや二人。明らかに他の奴等とは違う何かがいた。

 

タ級は三人に囲まれた。

 

「さようなら‥‥」

 

「ぐっ‥申し訳ありません‥‥姫様‥」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ナニッ!?タ級が!タ級がやられたの!?」

 

駆逐棲姫の下に前衛艦隊壊滅の知らせが入ったのは彼女らが第1防衛海域に着いた頃だった。

 

 

「は、はい‥‥敵の新部隊からの待ち伏せを受け艦隊は壊滅、タ級様も‥‥」

 

「オノレェェ!!ニンゲンドモガァ!!」

 

彼女の傍らに控えていたヲ級はいけないと思いすぐに止めにかかった。

 

「姫様、ダメです。」

 

「ヲ級!?どうして止めるの?部下の弔合戦なのよ!」

 

「私達は敵を侮りました。その結果前衛艦隊が壊滅しました。しかし、これではっきりしました。通商破壊部隊の撃破はまぐれではありません。」

 

 

敵は我々と戦える手段を確実に手にしている。しかも油断があったとは言え泊地で指折りの実力者のタ級がやられたのだ。

 

そして、今の姫様は冷静ではない。

 

 

「ここはひとまず引き返しましょう。」

 

「うう‥‥でも‥でも!」

 

「姫様、何卒。」

 

「‥‥‥。うん、わかったわ。」

 

駆逐棲姫は渋々と言った表情で艦隊に引き上げを命じた。

 

ヲ級はやれやれとため息をつく。そこに別の側近が声をかけてきた。

 

 

「すまないなヲ級、ああなった姫様が素直に言うことを聞くのはオマエくらいなんだ。」

 

「気にしないでよ。」

 

「それにしても、オマエはタ級と仲がいいと思ってたのに、ヤツの轟沈を聞いても顔一つ変えないのだな。」

 

 

確かに、タ級が死んだと聞いて驚きはしたがそれ以上の感情は湧かなかった。はは、私って薄情なやつだな。

 

「まぁ、オマエが冷静なお陰で最悪の事態は免れたけど。」

 

「そう‥‥じゃあ、後よろしく。」

 

「ええ任せてって!よろしくってオマエどこ行く気?」

 

「少し報復に。じゃないと姫の気が晴れないから。」

 

そこまで言うとヲ級は自分の部隊のみを連れて少し東に進んでいった。

 

 

 

「タ級の轟沈に敵の新戦力に戦争か。何かいやだ。」

 

 

 

 

 

 

 



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そして動き出した 17日目

 

 

 

 

「そうか。わかった、指示は追って伝える。」

 

国防陸軍大将、濱崎は常に険しい表情のまま電話を切り、ため息をついた。

 

「今の、雪村からで?」

 

「そうだ。」

 

電話中に戻ってきたのだろう。いつの間にか側近が戻っていた。

 

「それで」

 

「はい、暗部からの報告通り、やはり国内に残党が残っていました。」

 

 

濱崎達が追っているのはかつて軍を乗っ取りその危険思想から国を、世界を危ぶみかねない組織。モダニズム同盟である。

 

 

「武装させられていた特装兵は保護出来たのが幸いだな。」

 

「しかし、まだ一部幹部と技術者が逃亡しております。」

 

 

奴等の何人かは海外に逃げた。報告によると雪村達もその残党と交戦したようだな。

 

しかし、我々の捜索を掻い潜り国内に潜伏している奴等がいたのだ。

 

 

「奴等はどこに?」

 

「同盟支持者が保有していた工場です。暗部と閣下の部隊が突入しましたが、残っていたのは雑魚ばかりです。」

 

「そこで何を?」

 

「奴等が簡単に口を割ると?ですが、あそこは同盟の研究所が作った兵器を保管する場所だったことが分かりました。そして、我々が行く前に何かを運び出しています。」

 

「‥‥そうか。」

 

「閣下?」

 

「雪村によると、西で異変が起きている。話からして恐らく特装兵が使われている。」

 

「ま、まさか!逃亡した技術者が西方諸国に兵器を提供していると?」

 

「ほぼ間違いないだろう。」

 

 

インド軍と思わしき軍が特装兵を使い西方海域の深海棲艦に攻撃を仕掛けた。それとほぼ同じ時期に運び出された何か‥‥関係ないわけがないな。

 

 

「君は逃亡している要人の名簿を雪村君に送りたまえ。後早急に運ばれたものは何かを突き止めろ。」

 

「はっ!」

 

側近は踵を返し早速取りかかる。

 

 

彼が出ていくと濱崎はこれまで部屋にはいたが黙っていた男に声をかける。

 

「君にも頼みがある。」

 

「私にということは我らが会にということでしょうか?」

 

「雪村君に助けを送りたい。君の所から数名出してもらう。」

 

「しかしながら、我々の会はあくまで同じ境遇の者が身を寄せあった将校クラブに過ぎませぬ。とても閣下の部下のような隠密は出来ませんぞ。」

 

「いや、今回は深海棲艦がらみだ。君らが適任だろう。それに、中には彼女らに殺されかけて死ななかった腕利きもいるだろ?」

 

「それでしたら丁度二名ほどキープしています。」

 

「よし。彼女の援護はその二人に任せよう。後は私の仕事だ。」

 

最悪の事態だけは阻止しなければならない、その為なら打てる手は全て打つ。

 

「お前は早速手筈を整えろ。俺は元帥と話してくる。」

 

「ハッ!」

 

 

だから、頼んだぞ雪村!

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「ルリさん、落ち着いて。その凶器を下ろして。」

 

雪村はいつも通りルリに砲身を向けられていた。

 

 

「いやーちょっと?かなり?調子に乗って変なお願いしたのは悪かったよ?でも、今の私事実深海No.3の偉い人でしょ?攻撃しちゃあ不味いよ」

 

「虎の威を借る狐が!」

 

ルリはようやく砲身を下げた。

 

「ふん!」

 

 

「も~マスターってばルリさんをまた怒らせて。」

 

「そうそう、変なお願いなら私にしてよね。」

 

「先輩!」

 

「あはは‥‥それじゃ話を戻すよ。」

 

「あ、話題変えた。」

 

「私達は西に行くことにしたけど。私が考えた進路を見てくれない?」

 

「どれどれ?おい、何故大陸を沿って行くのだ?インド軍とやらに鉢合わせるぞ?」

 

「ええっと。どのみち船の備蓄的にそろそろ港に入る必要があったのと、実はインドに行くように閣下からの指示があったの。」

 

「うん?どういうこと?何でインドに?」

 

カナが不思議そうに首を傾げている。可愛い♪

 

「それは私にもわからないけど、閣下の命令だからね。それに、大陸に沿って行けば独立群体を避けて西に行けるし、まさか日本国籍の船がインド軍に意味なく攻撃されるとかないだろうし。」

 

「なるほど。人間が人間を襲う理由がないもんね。」

 

「なのでとりあえずは、ここの港に入るよ。」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「何か、すんなり入れたね。」

 

港町で買い出しに出たのは私とカナ、ヨウの3人だ。ルリとソラには船に残って貰っている。

 

「そう言えばここってどこの国の港なの?」

 

「うーん、強いて言えばこの港周辺がもう既に一つの独立国みたいなものだよ。」

 

 

深海棲艦との戦争開始により政府が崩壊して国が崩壊した地域は多い。

 

その為、滅んだ国が小さく分裂したり、かろうじて機能している都市が自治を行うなどは珍しくはない。

 

「この辺りで開戦前のまま国として残ってるのはインドくらいだよ。」

 

「ヘェー。」

 

買い物は済んだし早く船に戻ろうかな。と思ってた時に近くの果物の屋台で店主と客が話しているのが聞こえた。

 

 

「おい、聞いたかよ。」

 

「ああ、聞いたぞ。何でもインド洋連合に参加しないと言った都市や国が攻撃されたってな。」

 

 

え、なにそれ?

 

 

「あの‥‥その話、詳しく聞いてもいいですか?」

 

「アンタ誰だい?‥‥別に話してもいいが‥」

 

「店の果物全部下さい。」

 

「毎度!」

 

 

少し量があったのでカナとヨウに往復して運んで貰っている間に店主から話をきいた。

 

 

「アンタ、インドが最近になって軍拡している噂を知ってるか?」

 

「はい。(本当は知らないけど)」

 

「じゃあ話が早い。丁度その頃になってからインドが大規模な軍事同盟を作ろうとしてたのさ。そんでその名がインド洋連合軍ってよ。」

 

「インド洋連合‥‥」

 

「それで、そのインド洋連合が周辺小国に呼び掛けて連合参加と軍兵の召集を呼び掛けたのさ。」

 

「それで、各国はどの様な反応ですか?」

 

「賛否両論さ。なんせ、あの同盟の目標はインド洋にいる深海棲艦を倒すことなんだからな。そんな事できるのなら凄いが、せっかく戦争が終わったのに藪をつつくみたいな事されたくはないさ。」

 

「なるほど‥‥では先程言ってた攻撃されたと言うのは?」

 

「ああ、最近になって奴らの要請が強くなったんだ。それで、奴らは参加しない国は人類の敵と見なして攻撃するって言って来たんだ。その直後だな、シットウェーが攻撃されたのは。」

 

「‥‥」

 

これは思ったよりも大変な事になっている。

 

「嬢ちゃん?」

 

「うん、話してくれてありがとう。」

 

 

雪村は店主にお礼を言って別れた。その道中、雪村の顔は真っ青だった。

 

 

「マスター‥大丈夫?」

 

カナが心配そうにしている。

 

「ごめんカナ、ちょっとビックリしちゃってて。」

 

雪村は事の重大性に震えていた。これはもはや人間と深海棲艦の争いではない。

 

深海棲艦と講和する者と敵対する者、そのどちらかに与するかによって敵味方が判別されている。

 

人間と深海棲艦の戦争が違う主義の戦争になってしまっているのだ。主義主張が違うだけで今度は人間同士が殺し合うのだ。

 

「それだけは‥‥いけない。」

 

この戦争。もしも私がどうにかすれば止められるの?いや、その場合、私は間違いなく人間とも戦うことになる。私にその覚悟はあるの?

 

大切な人を守りたいと思って国防軍人になったこの私にそれが果たしてできるの?

 

「マスター‥‥」

 

カナはそっと雪村の手を握る。彼女の手は震えていた。

 

 

「あっ!先輩!雪村!大変!!」

 

「ヨウちゃんどうしたの?」

 

「ここに向かって来る艦隊がいるってルリさんから通信が!」

「!?」

 

ま、まさかインド軍が?

 

「クッ!」

 

「マスター‥‥」

 

「今ルリさんとソラさんが様子を見てる。あ、また来た!」

 

ヨウが通信機の電文を読んでいる。

 

「インド軍と思われる軍艦3隻と雪村の言っていた特装兵の駆逐隊が1つ。この港に向かって‥‥え?」

 

「どうしたの?何かあった?」

 

「インド艦隊とは別の艦隊が出現。インド艦隊を後方から襲い撃破、多分‥‥同族の艦隊だって。」

 

 

「‥‥!」

 

まさか、2つ同時に来るなんて。片方が潰れたのは有難いけどできれば避けたかった敵が来た。

 

「ルリさんがどうするか指示を求めてる。」

 

「‥‥私がいく。」

 

「だ、駄目だよマスター!」

 

「そうよ何を言ってるの!」

 

二人が猛反対する。

 

 

「これでこのままだとこの町が危ない。」

 

「でも‥‥」

 

「大丈夫。私に考えがある。」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

その頃、ルリとソラはヲ級率いる艦隊を足止めしていた。

 

「はぁ‥‥何で同族の戦艦が邪魔をするのかな?」

 

「お前らこそなぜこんな田舎の港を攻撃する必要がある。誰の命令だ!」

 

 

「そっちこそ。誰の命令でこんな勝手な」

 

「残念、これは正式な命令だ。」

 

「はぁ?人間を助けろなんてどこの泊地の姫が‥」

 

「私だけど!」

 

「ん?船‥てか人間だ。」

 

「私が足止めしろって命令したの。」

 

「なに?人間がどうして?アンタら寝返ったの?」

 

「中枢に従わないお前らが言うなよ」

 

「これ。」

 

雪村は例のモノを出した。

 

「うん?なにそれ?」

 

「ヲ級様!あれは証です!?つまりあの人間が中枢棲姫様の許可を得ていることに!?」

 

「そうよ。つまり私がこの場で一番偉いって訳です。ですからあなた方にも命令します。直ちに撤退して下さい。」

 

「はぁ?!どうして私がアナタに指示を聞かなきゃ?」

 

「ここに欧州棲姫の証もあります。つまり私は深海の史実3番目の立場です。その私の指示を聞かないのは深海棲艦への反逆です。」

 

「ぐぬぬ、人間のクセに姫の威を借るなんて!」

 

「はは、同じような事を言われたよ。」

 

 

「‥‥人間、アナタの名前は?」

 

「雪村美琴。日本国防陸軍の大佐で今は日本の対深海交渉の全権を担ってます。」

 

「ユキムラ‥雪村‥‥ねえ?どこかであった?」

 

「いや、深海の空母に姫以外に会うのは初めて。」

 

「そう‥‥。私は西方群駆逐棲姫の配下、ヲ級。アナタの命に従います。」

 

ヲ級が深海特有の臣下の礼をとる。

 

これに雪村達は一先ずホッとする。

 

 

「しかしながら‥」

 

「何か?」

 

「何分証の使者に作戦を止められるのは前例がありません。なのでこのまま引き揚げたら私が上司を納得させられません。なので」

 

「私にどうしろと?」

 

「アナタ様には我等が泊地に赴いて姫様に事情を説明していただきます。」

 

 

このヲ級‥‥

 

つまり、引き下がるから私について来いと。ただでは従わないこの切り返し。私も好きかも。

 

 

「ご同行、お願いできますかな?」

 

「おい、貴様!!」

 

「ルリさん、ストップ。」

 

「しかし!」

 

雪村はルリにだけ聞こえるように伝えた。

 

「これはチャンスかも。彼女らが案内してくれるなら少なくともその間は安全だし、独立群の姫に会える。」

 

このピンチをチャンスに変えてやる。切り返しの上手さはヲ級には引けをとらないぞ!

 

 

 

「マスター‥」

 

「大丈夫だよカナ。また四人揃って海猫荘に帰るまでは死ぬ気はないからね」

 

「約束だよ」

 

「もちろん♪」

 

雪村とカナは指切りをした。

 

 

「さてと、待たせたね。じゃあ連れてってよ。アナタの上司の所に。」

 

 

 

 

 

 



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西方海域の覇者 18日目

 

 

 

 

クルーザーを取り囲むようにしながら艦隊は進む。雪村は艦隊の速度に合わせながら舵をとる。

 

ルリさん達は万が一に備えて臨戦態勢でここにはいない。側にいるのはカナとそして‥‥

 

 

「なんでここにいんのアナタは‥‥」

 

なぜかヲ級が乗り込んでいた。

 

「てか、艦隊の指揮は?」

 

「ん~母港に帰るだけだから指揮もなにもね。」

 

「じゃあなんで船に乗ってるの?」

 

「ん~。疲れたから」

 

「はぁ?」

 

「いや~実は戦闘した後すぐにまた侵攻したから疲れちゃってて」

 

少し悪びれて見せるヲ級。そしてさらに続ける。

 

 

「それにさ~。私が船に乗ってれば部下が間違いを犯す危険もなくなるしWinWinだなって」

 

「意外と考えてくれてたのね」

 

「私からすれば他の旗艦達が考え無しだと思うけどな。それに、本当に意外だと思ってんの?」

 

「いえ。むしろこれまで会った通常個体にしては変だとは思ってる」

 

「あはは~よく言われる。いや、言われてたかな?」

 

私によくそれを言っていた奴は今日沈んだから。

 

「いや~それにね。一応雪村大佐には感謝はしてるんだ。」

 

「はぁ?作戦の邪魔をしたのに?てか、何であんな軍事施設もない港を狙ったの?」

 

「ん~理由としてなら特にないかな。強いて言えばインドの艦隊がたまたまいたから。」

 

「それだけで!?」

 

「実は私の上司が部下を、つまり私の同僚をだけど。殺られたから苛立ってるわけで、少しでも気を静める為に少々殺戮をと」

 

「そんな理由で‥‥やっぱり理解できない」

 

「うん、実は私も。だから本当はやりたく無かったんだ。だから人が少なそうな港を狙ったんだ」

 

「ほら、やっぱり理由があった。アナタって本当に変な空母よね。まるで人間みたいな考え方をするね」

 

「私が変ならその‥‥」

 

「マスター!マスター!私も人間みたいは考え方だよ!」

 

「張り合わなくてもいいから。カナはまずヨウちゃんが私に暴言を言っても撲殺しないようにね」

 

「はぁ~い」

 

「その潜水艦も変な感じだな。私の知ってる潜水艦とはまるで違う」

 

「カナはね。マスターの娘なの!」

 

「なるほど、育ての親的なやつね」

 

「理解が早くて助かるわ。」

 

「なるほど。気難しい潜水艦を娘にできて、堅物の戦艦を従えてさらに姫達にも気に入られるなんて、私が変な深海棲艦なら、アナタはもっと変な人間だね」

 

「ふふ、褒め言葉と受け取っておくわ。」

 

それにしても‥‥さっきは知らないって言ったけれど、この空母。何か初めて会った気がしない。どういうこと?

 

 

「それで?私はどうなるのかな?」

 

「そう警戒するな。仮にも証の使者とかならば無下にはされないはず。」

 

「それで西方海域の独立群‥‥どこの艦隊なの?」

 

「あれ知らないの?もうこの西方海域に一匹狼してる群体は存在しないわよ?」

 

「え?それはどう言う‥」

 

「この海域の艦隊は全て私達の群体に吸収ないし合流した。今ここの海を支配しているのは我らが姫様ってこと」

 

これは、軍、いやもしかすると深海中枢すら知らなかったかもしれない。既に西方海域は、太平洋や大西洋とは違う新しい勢力が構築されているのだ。

 

 

「目的地は姫様がいらっしゃる西方群中央泊地、T諸島です。」

 

T諸島。そう聞いて雪村は嫌な気持ちになった。

 

そこはかつて西方海域最大の泊地があったダスカマス島を攻略する為の前線基地を建設するために激しい奪い合いに発展した島だ。

 

一時的に占領してもしつこく深海棲艦が抵抗をしたことにより鎮守府は疲弊し、さらに基地建設のために派兵された陸軍の兵士が最も多く戦死した場所でもある。

 

結局、西方海域の拠点はリランカ島に置かれ、ただ陸軍の墓標のみが置かれた忌まわしい島‥‥

 

 

「すまない!顔色が悪いが何か変なことを言ったか?」

 

「マスター!大丈夫?」

 

「‥‥大丈夫。カナ、ヲ級さん。ただ、その島で昔‥戦友だった人を亡くしてるので‥‥」

 

「そっか‥‥それは配慮に欠けてた。謝罪する」

 

「気にしないで下さい。‥‥なら謝罪って言っては何だけどアナタの泊地の姫の事を聞いてもいい?」

 

「別に構わないけど‥‥事情を説明してもらうだけなのにその必要があるか?」

 

「私の任務は日本と敵対する可能性のある群体を巡り交渉すること。だったら!」

 

雪村は少しポーズを決めてみる。

 

「西方群とやらとも交渉しない理由はないよね?」

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「ふーん。アナタが日本の特使で証の使者?」

 

「そうですけど‥‥アナタは?」

 

ヲ級に案内されてやって来たT諸島。その島の一つにある港の姫の間。そこにいたのは西方をまとめる強大な姫‥‥ではなく全体的に白くて可愛らしい姫。駆逐艦かな?

 

 

「あら?これは失礼。私は西方群第2艦隊の長をしている駆逐棲姫と言います。簡単に言えばこのヲ級の直属の上司です」

 

一応は証の使者ということなのか、深海式の礼の執り方で挨拶をしてくれた。

 

「これはご丁寧に。私は日本国防軍の所属、雪村大佐であります。」

 

なのでとりあえず私も国防軍の敬礼で返した。

 

 

「さて‥‥」

 

駆逐棲姫は軽く手を合わせると挨拶は済んだから早速本題に入ろうと切り出した。

 

 

「事情はヲ級から聞いています、それでアナタは私に撤退してきた経緯について話しに来てくれたみたいですが、あれはあくまでヲ級の独断行動なので私はとやかく言うつもりはありません。なのでご足労いただいて申し訳ないのですが‥」

 

「いえいえお気になさらず」

 

私は彼女の言葉を遮った。

 

「私が来たのはあくまで貴女方の面目を保つためです。そして、私にも都合がよかったので便乗したに過ぎませんので」

 

この発言に駆逐棲姫はきょとんとなり、ヲ級はやれやれとため息をつく。

 

「‥‥我々の面目?それはどう言うことですか?」

 

「いえ、そこのヲ級さんの引き際を作って上げたことですよ。人間1人に何もせずに帰って来たでは仮にも西方海域最大の群体としては面子とか困るのではと」

 

「ふーん、つまりアナタはヲ級や私の為にではなく、我々の為に来てくださったとでも?」

 

「いや~そんな恩着せがましいつもりではありませんよ~」

 

どうだか、とヲ級は思った。自分に理由されるだけではなくこう返してくるのは何となく気付いていた。

 

 

「あ、ただ。もし少しでも貸しと思えていただけるのであれば‥‥」

 

ほら、きた。さてさてこの人間は私の上司様に何を頼むのかな?

 

 

 

「ここの総指揮艦にお目通りしたいです。」

 

「‥‥えっ?それだけ?」

 

「これだけですが、なにか?」

 

「いやだって、その証!それがあれば流石にうちのボスだって会うと思うけれど」

 

「いやいや、私がお願いしたいのは安全に会わせて頂けることです」

 

「‥‥つまり、これからボスに会うから私にアナタの命の保証をしろと?」

 

「はい。私は証の使者である前に日本の使者です。深海棲艦との交渉に命を賭けてはいますが、なにせ今は死ぬ気はありませんので」

 

「交渉って、うちのボスと何か取引でもしたいのかしら?しかもそれは怒らせかねない内容みたい‥‥」

 

駆逐棲姫は悩んでいる。別に断ればいいのだが、ヲ級にあらかじめ聞いていた通り、貸しって単語に弱いようだ。熟考している。

 

 

「分かりました。ボスが怒りそうになったら合図しますのでそうしたら無理は止めて下さい。言っときますけど少し気難しい方なのですぐにキレますよ。」

 

注意は促すが直接助けには入らないと。これが限界だと言わないばかりに黙る。

 

 

「それで構いませんよ。では、早速会わせて下さい。西方海域の覇者に」

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「何も付き添う必要はないよ?」

 

「ダメ!マスターに何かあったらいけないの!」

 

「私はお前の護衛だ、何かあれば姫達に殺される。」

 

「私~もしマスターに何かしたらマシロちゃんに言いつけて西洋艦隊を差し向けてやるの~」

 

「わ、私は先輩が心配だから‥‥一応雪村のことも」

 

と、四人共に付いてきてしまった。本当は待っててもらいたかったけどね。てか、一番まったり喋ってるソラが一番物騒なことを言ってるよ。

 

 

「雪村大佐殿、そしてお供の方々」

 

姫の待つ謁見の間へ案内をしてくれていた巡洋艦が扉の前に立ち止まり声をかける。

 

 

「私めはここから先へ進むことを許させていません。」

 

ここからは私達だけで入れということだろう。それだけ言うとその子は戻ってしまった。

 

 

「何かここの空気重いな‥聖夏さんのところでもここまではなかったよ?」

 

流石の私も緊張してきた。

 

「マスター‥‥」

 

カナが不安そうに見上げてる。

 

「大丈夫‥何とかなるって」

 

私はカナにそう言うがカナを撫でる手が少し震えてる。

 

「ふん、所詮は中枢に従わない奴だ。安心しろ。何かお前に不遜な態度だった場合は私が始末してやる。」

 

「ルリさん‥‥」

 

「大丈夫よ雪村。こっちには深海最凶のカ級で天使な先輩がいるんだから。」

 

「ヨウちゃん‥‥。天使なのは認めるから最凶は否定して」

 

「いや!どっちも嫌だから!?」

 

「じゃあ天使は私が貰う~前にマスターに天使って言われたことがあるし~♪」

 

「えっ?!それはそれで何か嫌‥‥」

 

カナ達のこの会話により笑いが生まれる。そのおかげか私の震えもなくなった。

 

 

「あはは‥‥本当にもう可愛い子達だから。」

 

「私は護衛だ。可愛いくない。」

 

「私は雪村の子じゃない。」

 

「もうつれないな~~もうヨウちゃんは四女にならない?」

 

「‥‥考えておくわ」

 

「あれ?否定されると思ったのに?」

 

「ほら、雪村。冗談が言えるくらいになったのならとっとと中に入れ。ここのヌシが待ってるぞ」

 

「オーケー。それじゃあ行くよー!」

 

雪村は扉を開いた。扉の先、謁見の間には既にこの群体の幹部クラス達、駆逐棲姫やヲ級達が勢揃いしていた。

 

そして、いかにもな椅子に座り私達を待っていた彼女が声を発した。

 

「フフ、へ~来たんだ~。ウフフようこそ、西方群の中央泊地へ。私がここの長‥防空棲姫よ」

 

 

 

 

 

 

 



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