太陽神の配下、東へ旅立つ (あーけろん)
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出立、東洋人との出会い 1

※作者にとってラムセス二世は神様です(迫真)


 

 

陛下に感謝をする日

 

 

今日、偉大なる陛下から御下命を賜った。2日ぶりに陛下の御尊顔を拝見した次第だが、相変わらず素晴らしい美貌である。特に黄金に輝くあの瞳は、まさに全能の神を圧倒する輝きを湛えている。

 

横に侍っておられた王妃もそれに負けず劣らず、見たものすべてを魅了して止まない素晴らしい美貌であった。健康的に焼けた小麦色の肌に花の髪飾り、天上の女神とはまさにあのお方の事に違いない。

 

即ちあの二人が出会うのは運命であり、最高神の定められた約定である事を再び確認した次第である。

 

 

さて、偉大なる陛下への賛美は全然書き足りないがそろそろ本題に入ろうと思う。将来の自分がこれを見て賛美が少ないと感じたら、是非書き足してほしい。それに文章だけで両陛下の魅力を表現できるなど不敬も良いところである。しかしもし陛下からそう御下命を賜れば、全力を尽くす次第だ。

 

 

話を戻す。私が陛下から賜った御下命とは即ち、東へ旅立ちその見聞を深めるという事だ。

 

『貴様はその類稀なる才能と能力を活かし、その足で見聞を広めよ!』

 

 

あの堂々たる宣言と微笑み、全ての生命を魅了して止まないその笑みを見た時、生きてきてこられた事に感謝を覚えるほどの感涙を覚えた。もしお許しが得られたのであれば、その場で泣いて感謝の意を示した事であろう。

 

何故見聞を広げる必要があるのか、その間都の仕事は誰が担当するのか。などの質問は不要。あのような笑みで命令を下されれば、満面の笑みを持って受け入れる以外の道はない。

 

 

さて。今回命じられた出立だが、今回の旅に生じ私は陛下から3つの贈答品を授かった。無論、貰うときは謙遜しようとしたが、先に謙遜は罪と言われれば受け取るほかない。むしろ受け取らない方が不敬である。

 

陛下からの贈答品を賜った事は望外の喜びであり、この身に余る栄誉である。賜ったものは『三色の粘土板』『文字を書き続けられる謎の手記』『方角を指し示す魔の羅針盤』であり、その全てが素晴らしい効力を持っている一級の魔術道具であるらしい。

 

私のような下々の者への配慮を欠かさず、貴重な魔術道具さえも気安く与える所に懐の広さを感じる。その懐の広さは、もはや広大な砂漠すら凌駕するに違いない。

 

 

 

このまま延々と陛下の素晴らしさを綴っていたい衝動に駆られるが、そろそろ睡眠し、出立の準備を整えるべきだ。華々しい旅立ちが寝不足で始まるなど持ってのほかである。それは陛下への最大の不敬である。

 

 

よって、そろそろ就寝する事にする。お休みなさい、我が偉大なる陛下。

 

 

 

 

陛下を賛美する日

 

 

 

 

昨日、陛下のお膝元を離れ東への旅路に着いた。陛下のお膝元である都を離れる時は悲しみで胸が張り裂けそうだったが、それを振り切ってお勤めを果たすことこそ忠義と考え堪え忍んだ。

 

昨日は書きそびれてしまったが、今回の旅にはいくつかの制約が課せられている。

 

一つ、『弱いものを助け、太陽神の意向を知らしめる事』。まさに慈悲深き陛下を体現するような命令である。素晴らしさのあまり涙が出そうだ。

 

二つ、『見たものすべてを手記に記すこと』。私のようなものには見聞の広め方がわからないと思い、下してくれた命令だと思う。目的さえあれば、私はどんなことでもやり遂げられるからだ。流石は陛下、私のような者の扱いにも長けていらっしゃる。

 

三つ、『右手は使うな』。恐らく、右手に巻かれている包帯を取ってはならないと言う意味だろう。しかし、私は生まれてからこの包帯を取った事がないので力を使えと言われても多分使えない。一応念を押しての事だろうが、一体私の右手はなんなのだろうか?

 

余計な詮索など不要。陛下に仕えられる喜びに勝る者はないので、触らぬミイラに祟り無し、好奇心はメジェド神を殺すである。

 

四つ、『生きて都をまで戻ってくる事』。感激した、それ以上の言葉は不要である。

 

 

 

私は以上の四つを厳守し、旅をする事を誓った。当然である、陛下の命令に異議を唱える方が不敬である。

 

さて、そろそろ就寝のため今日見た出来事を書いていこうと思う。

 

 

都を出た所にすぐある砂漠は相変わらず荒涼としており、吹き荒ぶ砂嵐は陛下の都の素晴らしさを妬む神々の嫉妬のように思える。

 

そんな砂漠だが、都から離れると様々な魔獣どもや盗賊が跋扈している無法地帯である。出会った魔獣や盗賊は残らず殲滅したが、やはり陛下の統治は素晴らしいと実感するほかない。

 

…後は星が綺麗だった。遠くにオアシスが見えた。位だろうか?

 

初めての事だからあまり勝手がわからないが、これから慣れていくだろう。

 

 

おやすみなさい。我が偉大なる陛下。

 

 

 

 

 

陛下の瞳は美しい日

 

 

今日は途中で外れにある村に立ち寄ったが、何だか様子が変だった。全員が全員空を仰ぎ、両手を繋いで祈りを捧げているのだ。

 

私は随分陛下への信仰心が厚い村だなと感心し、私も混じってお祈りをした。ひさびさに満足のいくお祈りが出来た。

 

 

満足の行くまで信仰を捧げ、出立しようと思ったら砂を泳ぐ蜥蜴と遭遇した。久々に素晴らしい1日を迎えられたと思った矢先の出来事だったので、大人げも無く惨殺してしまった。

 

 

きっと陛下が見られたら殺し方が汚いと罵られるに違いない。それはそれでご褒美なのだが。

 

 

村人たちから唖然として見られたが、一体何なのだろうか?ただ蜥蜴を一匹二匹殺した所でなんだというのだ?

 

もしかして飼っていたのだろうか?それは悪いことをした。しかしあいにく今は陛下からの命を遂行中の身、今度謝罪を込めて贈り物を届けに来よう。

 

 

 

陛下の生命を全天に賛美する日

 

 

やはり都の外は人外魔窟の巣である。逸れ魔獣はもちろんの事、心を失った盗賊や蜥蜴、夜にはキュウケツキなる人型の化け物が大量に沸いていた。

 

一々数えるのも億劫になる程いたので宝具で土地ごと焼いておいた。あそこまで有象無象が蔓延るのだから、辺境は侮れない。すこし旅を中断し、辺りの焦土作戦を展開すべきだろう。

 

…相手の中には『私はシンソだぞ‼︎』と喚いている者がいたが、あれは一体何だったのだろう?むざむざと歩いてきたので太陽神の威光を借りて焼却したのだが…、なにか不味かっただろうか?

 

どこかの国の使者かも知れなかったが、だとしても陛下の所有物である村人を勝手に使役する時点で大罪人である、慈悲も無いし、容赦もない。

 

少しばかり再生力が強かったので、延々と太陽に焼かれる術式を貼っておいたら物の数十分で融けて消えた。しかしシンソとは、随分硬い生物であるんだなぁ。

 

 

そろそろ夜が訪れるので眠る事にする。お休みなさい、我が陛下。

 

 

 

少し疲れた日

 

 

今日は特にお客が多かった。広大な砂漠を悠々と行進している異形の数々には目を見張るものがあった。多頭首の化け物や合成魔獣、荒れ狂う暴れ馬など、その種類は多岐に渡っていた。

 

勿論、普段なら絶対にありえない光景である。何かしらが手を引いていると考えたのだが、一団の中に昨日のシンソなる化け物がいたからその疑問も解けた。

 

まぁ、一匹残らず殲滅したのだが。流石に一人では厳しかったので、眷属であるスフィンクスとメジェド神を数十匹程使役して殲滅した。中にはかなり手強い者もいたが、スフィンクスとメジェド神の数の前には無力である。

 

シンソと名乗っていた頑丈な生物は念入りにすり潰しておいた。いくら頑丈で自己再生するとしても、生物は頭を徹底的に潰すと死ぬのだ。

 

随分な数を減らしたので、しばらくは砂漠にも平穏が訪れるであろう。かの太陽神に少しでも助力できた事が誇らしい、これからも頑張っていこう。

 

 

……そういえば変な格好をした東洋人を見かけた。二振の鉄の棒を振り回して敵を蹴散らしていたが、あれでは効率が悪いのではないだろうか?

 

 

舞踏をするような見事な体捌きではあったので、戦闘力はともかく陛下にお見せしたいものだ。

 

 

 

 

陛下に会いたい日

 

 

……あのへんてこりんな東洋人が付いてきた。『水分が無くて死にそう』と言っていたので、昨日の舞踏の礼で水を浴びるほど飲ませたのがいけなかった。

 

『貴方いい人ね!丁度旅の連れを探していたし、貴方と一緒に行ってあげる‼︎』

 

こう自信満々に宣っていたが、べつに頼んではいないのだが…。

 

 

まぁ何日かしたら飽きてどこかに行くだろうし、それまでは面倒を見てやろう。陛下からも弱き者を助けろと厳命されているし、まぁ構わないだろう。

 

辺りの魔獣の殲滅も終えたので、そろそろ徒歩をやめスフィンクスに乗ることにした。見聞を広めるためには徒歩が一番なのだが、流石に何日も砂漠にいたら東洋人が干からびてしまう。

 

 

……連れの東洋人が煩いので、そろそろ寝ることにする。おやすみなさい、我が陛下。

 

 

 

 

 

 

_______________________________________________

 

 

 

「きゃーーー!これすっごい早いのね‼︎」

 

-––––––––––あんまり喋るな、舌を噛むぞ。

 

 

 

広大な砂漠を高速で疾走する。捲き上る土埃さえ置き去りにするその速さは、まさに天上の乗り物といえよう。

 

 

私の召喚したスフィンクスは『ナイルを駆る獅身獣(スフィンクス・ラピドール)』、速さに特化したスフィンクスである。辺りには保護も掛けているので、砂嵐も問題なく踏破できる。

 

 

…強いて問題をあげるとするならば、隣で喚いている不思議な東洋人であろう。

 

 

「ねぇねぇ、これはどこに向かってるの?」

 

–––––––––目的地はない。ただ旅を続けるのみ。それが陛下から仰せつかった我が使命だからだ。

 

「へぇ、修行僧みたいな事を言うのね」

 

–––––––––シュギョウソウとはなんだ?

 

「目的のために努力をかかさない人って事よ」

 

–––––––––なる程。確かに、それなら私は最も優秀なシュギョウソウであろうな。

 

「…まぁ、そうかも知れないけど」

 

 

先程からよく喋る彼女は、それはそれはわがままなのだ。お腹が空いたとか、喉が渇いたとか、ケンの修行がしたいとか可愛いもので、ひどい時は「何か面白い話をしてよ!」などの無茶振りを要求してくる。

 

東洋人というのは皆こうなのだろうか?だとしたら、このまま東に向かって私は大丈夫なのだろうか?一抹の不安が生じてしまう。

 

 

「……ちょっと、東の方見える?」

 

–––––––––東?普通に見えるが、何かあったか?

 

「大きな物体が1つ、こっちに向かってきてる」

 

–––––––––大きな物体…逸れスフィンクスか?

 

 

今までのお気楽な口調から一転、真面目なものになったので東を向いて目を凝らすと、確かに大きな物体が1つこっちに向かってきている。

 

目測で全長30mは優に超えそうな見事な巨体だが、巻き起こる砂埃のせいで全体像が見えない。

 

 

 

–––––––––うーむ、見えんな。

 

「貴方、もしかして目が悪いの?」

 

–––––––––…人並みよりは良いと思うのだが。それより見えたのか?

 

「えぇ。多分だけど、あれは龍ね」

 

–––––––––リュウ?なんだそれは?

 

「ドラゴンよ。私も見るのは初めてね」

 

 

東洋人曰く『リュウ』がこちらに向かってきているらしい。…が、相手が近づくにつれこちらにも全貌が把握できた時、私は大きく息を吐いた。それは、東洋人の言う『リュウ』の正体がわかったからだ。

 

 

–––––––––なんだ、ただの蜥蜴か。

 

「はぁ⁉︎と、蜥蜴?あれが⁉︎」

 

–––––––––そうとも。最近十数匹纏めて狩ったからそろそろ大人しくなったと思ったのだが、まだまだ元気とはな。

 

 

旅の途中に幾度なく巣を見つけては燃やして行ったので、そろそろ絶滅するかも思われたのだが、どうやらそんな事はないらしい。全く傍迷惑な連中である。

 

…にしても、東洋では蜥蜴をリュウと言うのか。ふむ、少し勉強になった。

 

 

「…まぁいいわ。それで、どうするの?」

 

–––––––––愚問だな、あれは今日の晩御飯にしよう。蜥蜴の肉は大味だから美味いぞ。

 

「ドラゴンを食べるとか、貴方も随分罰当たりなことをするのね…」

 

–––––––––…?蜥蜴は食料だろう?

 

「…もういいわ」

 

 

東洋人はなぜかため息をついた。…もしやあの蜥蜴は東洋では神の扱いをうけているのか?ならば罰当たりといっても過言ではあるまい。

 

しかし、私が信仰するのは偉大なる太陽神の陛下ただ一人。蜥蜴の一匹や二匹仕留めたところでバチなど当たるまい。

 

 

『Gyaaaaaaaaaaa!!』

 

蜥蜴もこちらを捕捉したのか、醜い絶叫を上げながら速度を速める。しかし、その速度は『ナイルを駆る獅身獣(スフィンクス・ラピドール)』には遠く及ばない。このまま逃げ切ることも充分に可能なはずだ。

 

…しかし、さっきも言った通りあれは今夜の晩御飯だ。逃げることなど以ての外である。

 

 

–––––––––よし、そろそろ狩るか。

 

「私も協力するわ。速度を緩めてくれる?」

 

–––––––––あの程度の蜥蜴、不要だ。まぁ見ていろ。

 

 

スフィンクスの首元を触り、旋回の指示を出す。するとスフィンクスはくるりと向きを変え、蜥蜴に向かって走り始める。

 

 

 

「ちょっと!スフィンクスで肉弾戦でもするつもり⁉︎」

 

–––––––––そんな訳あるまい。

 

 

一言で東洋人を嗜めると、手元に我が武器を出現させる。

 

それは弓だ。常人では引くことすらできない、巨大な弓。黄金色に輝く塗装に、紅く彩られた弦。見るものが見れば、この弓の素晴らしさがわかる筈だ。

 

現にこの弓を見た瞬間、東洋人の顔が驚愕に染まった。…やはり、この瞬間は何度経験しても気持ちが良い。

 

 

–––––––––さて、東洋人よ。見ていろ、これが太陽神の威光の一端である。

 

 

蜥蜴との距離は約2000m。この程度の距離、外す方が難しい。

 

手元に金の鏃のついた矢を出現させ、弓に番える。この動作の間にも距離は縮まり、距離はあと1800m程だろう。

 

しかし、こちらの準備は整った。あとは宣誓の誓いを述べるだけで、全ての工程が終わる。

 

 

 

–––––––––『我が信仰は天を裂き、星を砕くものなり』

 

–––––––––『我が忠誠は海を割り、不忠を射抜くものなり』

 

–––––––––『我が天命は彼にこそあり、ただ彼のためにあり』

 

–––––––––『故に、この一撃はあらゆる万象を打ち砕く』

 

–––––––––『全能の神よ、我が最高神の威光に平伏し、畏怖するが良い』

 

 

 

–––––––––『全天揺るがす光輝の炎(ラムセウス・ウラエドゥム)

 

 

 

 

全てを焼き払う炎が真っ直ぐに伸びる。途中立ちはだかる砂の山々を熔かしながらそれは進み、寸分の狂いなく蜥蜴に直撃する。後で聞いたのだが、馬の上から矢を打つ事を東洋では『流鏑馬』と言うらしい。

 

 

 

–––––––––…こんなものか。

 

 

結果など、言う必要もあるまい。

 

 

一直線に伸びた砂の大地、上顎が吹き飛び無様に佇んでいる蜥蜴に似た置物。砂漠に吹く風に血の匂いが香る。それが、不変の結果である。

 

今まで見た中でも一番大きい個体だった為、わざわざ宝具を発動したのだがどうやら必要なかったらしい。やはり、蜥蜴は大きくなっても蜥蜴ということだろう。

 

 

「す、凄い威力ね…、天王山も貫けるんじゃない?」

 

–––––––––テンノウザンが何かは知らないが、我が『全天揺るがす光輝の炎(ラムセウス・ウラエドゥム)』に貫けぬものはない。当然だろう?

 

「……まぁ、あんたはそういう奴だったわね」

 

–––––––––それより、早く向かって下処理を済ませるぞ。あまり放置してると獣が寄ってくる。

 

 

なぜか肩を竦めた東洋人を余所目に、首元を触ってスフィンクスを誘導して死体に向かう。

 

 

–––––––––…あまり綺麗な死に様とは言えんな。

 

「何をするの?」

 

–––––––––黙ってろ。

 

 

死体まで移動し、両手を合わせて簡単な黙祷を捧げる。存在そのものが罪な蜥蜴でも、命を頂くからには敬意を払う。

 

誰かにそうやれと言われた訳でも無く、そうやるべきと感じたからやる、それだけだ。東洋人も私に習い、静かに目を伏せていた。

 

それが終わったら直ぐに解体作業に移る。放っておくと血の匂いに誘われた魔獣が襲ってくるからだ。

 

 

「ねぇ、まさかと思うけどこの巨体の全部を食べる訳じゃないわよね?」

 

–––––––––当たり前だ。……いや、お前が食べたいというのなら構わないが。

 

「こんなに食べないわよ!…それでどうするの?食べきれなかった分は捨てるの?」

 

 

 

怪しむように此方を見てくる。…まあ、普段の私なら食べきれなかった分は獅身獣に与えそれでも残ったら燃やしてしまうのだが。しかし、今回は事情が違う。

 

 

–––––––––いや、今回の蜥蜴は保存して交易都市に持っていく。

 

「…交易都市?」

 

–––––––––…なんで疑問符なんだ?交易通路にいたのだから、交易都市で食料と水を買い込んだのだろう?

 

「え、えぇと。実は色々と事情がありまして…」

 

–––––––––まぁ良い、それは作業中に聞くとする。言っておくが、言い逃れできると思うなよ?

 

 

鞄から解体用のナイフを一本取り出し、東洋人に投げ渡す。さぁ、さっさと済ませよう。

 

 

 

 

 

_____________________

 

 

 

 

東洋人の名前がわからない日

 

 

巨大蜥蜴の解体に半日使い切ってしまった。本来なら東洋人に手順を教える必要もなかったのだが、解体をしないで肉を食わせるのも癪なので手伝って貰った。

 

しかし東洋人の覚えは思ってた…いや、それ以上に良くあっという間に蜥蜴の解体を覚えた。前から思っていたことだが、彼女は要領が良いみたいだ。

 

食べられる部分をバラすと、今日食べる分だけを取り、残ったものは保護の魔術をかけてソリに乗せ、三頭の『ナイフを駆る獅身獣』に引かせる事にする。

 

蜥蜴の肉は我が国は別として高く売れる。これほどの大きさなら多少買い叩かれても暫くは困らない程の水と食料が手に入る筈だ。

 

必要以上に買い込むのはもしもの時に備える為である。別に一緒に旅をする東洋人のためではない、それはここに明記しておく。

 

 

…さて。そろそろ彼女の出自について書いていこうと思う。

 

彼女は、文字通りの『旅人』だった。世界各地を転々と回っている彼女は、それはそれはさまざまな経験を積んでいた。その話はとても興味深く、参考になるのと同時に面白かった。

 

俺と出会ったのもただの偶然であり、本当に暇だったから俺について来たに過ぎないそうだ。…それはそれで如何なものかも思うのだが、それは置いておこう。

 

さて、ここで私は妙案を思いついた。それは、しばらくの間東洋人を旅のお供として雇うという事だ。私は旅に関してはてんで素人なので、旅の作法などを教授してくれる人を探していたからだ。

 

まさか向こうから先生役が現れてくれるとは、これも偉大なる太陽神のご加護の賜物だろう。今日はいつもより祈りの時間を増やす事にする。

 

因みにこの話はすでに東洋人から了承を経ている。うむ、順風満帆とはまさに今の旅の事を言うのだろう。きっと陛下もお喜びになるに違いない。

…うん?

 

 

–––––––––…………そういえば、まだ東洋人の名を聞いていない。

 

 

 

 

________________________

 

 

 

 

「うーん、おかしな事になっちゃったなぁ」

 

 

そうひとりごちるけど、言葉を返してくれる人は誰もいない。それもそうだ、なにせここは草木の一つも生えない砂漠のど真ん中なのだから。当然といえば当然だ。

 

ではなぜそんな事を言ったのかと言えば、これも特に理由は無い。誰かの反応を求めて言った言葉ではないからだ。

 

 

少し離れた場所で一心不乱になにかを書いているお供–––––今では雇い主––––––に目をやる。脇目もふらずに一心に何かに打ち込む姿は、どこか子供っぽい。

 

 

「あんな子が一人で旅をするのか……」

 

 

彼の年齢は良いところ15程だろう。顔立ちもまだ幼さが残り、とても大人とは見えない。言動から落ち着きは感じられるが、どこか背伸びしている感が否めない。

 

 

「けど、強いんだよなぁ…」

 

 

しかし、彼は強い。それこそ、私が見た中で一、二番を争う程の強者だ。

 

無論、間合に入ればこちらが勝つ自信はある。が、彼の間合にのこのこ入れるのかと言われれば、まず難しいと言わざるを得ない。

 

100なら余裕。300は運が絡み、500から先はほぼ不可能だろう。それほど彼の遠距離攻撃方法は苛烈だ。

 

 

縦横無尽に走る熱線や砂塵、それらをギリギリ搔い潜ったとしても今度は大量の獅身獣と二つ目玉の化け物を相手にしなければならない。

 

神獣と歌われる獅身獣を使役出来るだけでも反則なのに、一人で徳川10万の軍勢を踏破できるだけの火力を持ち合わせているのだから、反則もいいところだ。

 

そこに今日見せたあの宝具…隠れたとしても山ごと吹き飛ばしそうなあの威力。遠距離では彼に勝ち目は絶対に無いだろう。

 

 

「…まぁ、間合に入ったら私の方が強いけどね」

 

–––––––––何の話だ?

 

「うひゃあ⁉︎き、聞いてたの⁉︎」

 

–––––––––いや、別に聞いてないが…。すまん、邪魔をしたか?

 

「べ、別に邪魔はしてないけど…。それで、どうしたの?」

 

–––––––––うむ。凄い今更な事を聞くのだが、良いだろうか?

 

「良いけど、何?」

 

–––––––––いや、実はな……。

 

 

頭を掻き、申し訳なさそうに振る舞う彼に凄い違和感を感じる。けど、その様子が何処か可笑しかった。

 

 

「ぷっ、あははは!」

 

–––––––––む⁉︎な、何故笑った?なにか面白い事をしただろうか…?

 

「いいから!早く要件を言いなさい!」

 

 

私の言葉に観念したのか、彼は口を開く。

 

 

–––––––––…わかった。実は、私はお前の名前を聞いていないのだ。なので、良かったら教えてほしい。

 

「……えっ?それだけ?」

 

–––––––––そ、それだけだが?

 

「…なんか拍子抜けした気分。ま、いいわ」

 

 

 

「私は宮本武蔵‼︎よろしくね、幼い雇い主さん!」

 

 

 

 

 

 

 





旅人

偉大にして至高なる太陽神に旅を命じられた人物。右手に包帯を巻いている太古にして生粋の中二病。

信仰魔術を使用し、熱線や砂塵を使って戦場を蹂躙する。使役出来る獅身獣とメジェド神の数に制限はなく、魔力の続く限り出現させられるが召喚できるものは太陽神のそれに一歩劣る。

太陽神が砂漠で拾い上げた赤子で自らの養子にした人物。その正体は▪️▪️から飛来したサブ端末であり、右手にはその証が彫られている。


全天揺るがす光輝の炎(ラムセウス・ウラエドゥム)

分類:対軍宝具
レンジ:1〜500
ランク:A +

かつて太陽神が使用した大弓を旅人用に再調整されたもの。太陽の加護をもってして対象を焼き潰すもので、彼の信仰を受けた光はありとあらゆる干渉を踏破して目標へと突き進む。






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