らき☆すた~if~ たとえばこんな物語 (岡崎ひでき)
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第0話 プロローグ

俺の名前は赤井まさき、現在中学3年生。

父はトラック運ちゃん、母はパート従業員、姉が2人とごく普通の家庭。

姉は2人のうち1人は大学進学と共に上京、片方は地元の専門学校に進学が決まっている。

ある日の夜、俺は両親と進路について・・・ぶっちゃけ進学したい高校について話し合っていた。

両親は地元にと言っていたが、俺はどうしても通いたい高校があったのだ。

他の友達は目を丸くして驚いてたし、先生も本人と親次第・・・と言って反対はしなかった。

 

「よりにもよって県外にすることも無いでしょう? 大学ならまだしも・・・」

「まさきの学力なら問題ないかもしれんがさすがに・・・な」

 

あまり乗り気じゃない両親は中々頷いてはくれなかった。

 

県外の高校(地元から相当離れた場所)=父親は仕事の関係上引っ越すわけには行かない=1人暮らし

 

という公式が成り立つ以上、親としては当たり前かもしれない。

でも・・・。

 

「俺はどうしても陵桜学園に通いたいんだよ。父さんと母さんが出会ったって言う学校に・・・」

 

小さい頃から何度も聞いた二人が出会い、青春時代を謳歌したと言う高校。

いつしか俺はそこに通いたいと夢見るようになっていた。

両親は、元々祖父母の仕事の都合で埼玉県に住んでいたことがあったとはいえ地元は東北。

それぞれの親を早くに亡くしており、2人の結婚を期に東北の田舎に帰ってきたと言う。

 

「1人暮らしは確かにつらいかも知れないし、生活も不規則になるかもしれない。生活費を稼ぐためにバイトしなきゃならないだろうからやりたいことも限られる。

 

けどそれ以上に!

 

俺は陵桜学園(りょうおうがくえん)に進学したい!」

 

両親は俺の憧れだ。

だからこそ、子供心から嫌われたく無い一心で両親の言う事を素直に聞いてきたし、それを両親が気にしていることも知っていた。

でも時にはぶつからなきゃいけない事もある、ということも俺は知っている。

自分の身勝手なワガママかも知れない。

けどここは譲れなかった。

 

「母さん・・・」

「ふぅ・・・ここまで熱心に言われるちゃ、ね」

「じゃあ!?」

「条件付でな」

 

いよっしゃぁ! っと気合を入れるも・・・。

 

「少なくとも家事はできないとね♪」

「成績は一定範囲内をキープしてもらわないといかんなぁ♪」

「ぐあ・・・」

 

・・・受験勉強もしなくちゃいけないのに家事スキルも身に付けなきゃダメですか?

 

「食事はコンビニとか出前とかじゃダメ・・・?」

「店屋物ばかりじゃ高くつくし、栄養が偏るからなるべく自分で作りなさい。絶対とは言わないら。後、月に一回はお姉ちゃん同様、様子を見に行くわよ?」

「事前告知無しの方がいいだろうな」

「マジで!?」

 

姉さんのところに行くときは電話一本かけてから行くのに・・・。

 

 

 

「アンタもずいぶん思い切った事したわね〜」

「ま、いつかは通る道だからね。速いに越したことは無いじゃん?」

「・・・だめよ〜? 女の子連れ込んじゃ」

「しないしない!」

 

両親との進学についての話が終わった後、姉さんと自室でこれからの事について色々と話をしていた。

ちなみに俺の進学については半分うらやましいと思っていた、と姉さん自身が語っている。

 

「まぁ将来的にはプラスになるかもしれないけど・・・くれぐれもさっき言った様な犯罪を犯さないよ〜に」

「姉さんが俺をどう見てるかよ〜く分かった・・・」

「いや〜、だってあんなにロボットとかソッチ系のゲームとかやってるからつい・・・」

現実(リアル)幻想(ファンタジー)の区別くらいつくっての!」

 

ちなみにそのあたりはほとんど友人の影響だ(断言)。

 

 

 

こうして俺は晴れて陵桜学園を受験、合格して無事に入学することになった。

卒業式が終わった後はとんとん拍子で引越し先も決まり、荷物をまとめて住む所の地理に慣れるためにも3月下旬には引っ越すことになる。

3月中は母と暮らし、4月からは本格的な1人暮らしを開始する。

 

 

 

そして季節が一巡りして2年生の春。

 

 

 

思いがけない、そして新たな出会いが、俺を待っていた・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第一話 春、出会いの季節

「ふわ〜あ・・・あふ・・・」

 

午前5時半。

 

かなり早い時間と思うかもしれないが、朝食の準備のほかにランニングなど軽い運動を習慣としてるのでコレくらいの余裕を持たせないと全力ダッシュするはめになる。

とりあえず台所に行って冷蔵庫を覗いた。

 

「・・・今日は買い物にいかないとね」

 

中には納豆と買い置きの漬物、それと飲み物が少々。

米も朝食分を残してほとんど無いような物だから今日は買い物が必要だ。

出前だと高くつくからなるべく避けている。

 

俺、赤井まさきは現在一人暮らし。

両親が通っていたと言う陵桜学園に、諸々の条件はついたものの入学と同時に新しい環境で生活を始めてすでに一年。

家賃その他は親の仕送りに頼ってるが食費、娯楽費(こづかい)はバイトで稼いでるごく普通の高校生だ。

そして今日は始業式。2年生に進級して心機一転!

いつものランニング、軽い筋トレをすませてどんな1年になるか、どんな出会いがあるのか・・・少しワクワクしながら朝食をとって身支度を整える。

 

「・・・行って来ます!」

 

返事は無いけど必ず言う言葉。

言わないと寂しい・・・ではなく単なる癖なのでそこはスルーしていただきたい。

 

 

 

<陵桜学園>

 

 

 

自分の通ってる学校に到着した俺はクラス表が張り出されてる所に向かった。

 

「B組か・・・」

 

クラス替えしたとはいえここまでバラバラになるとは・・・。

陵桜は1学年13クラス。

1クラス約40人と考えると少子化の現実味がまるで感じられないくらいのマンモス校。

そのせいか、1年の時に親しかった友達が見事にバラバラになってると来た(しかも図られたかのように遠いクラス)。

知ってる奴が誰もいないワケでもないが、顔見知り程度でしかなかったりする。

 

 

 

<B組教室前>

 

 

 

新たな学校生活を送るこのクラス、この扉の先に待ってるのは何だろう?

ちょっと大げさかな、と思いつつ教室に入るため扉に手をかけた。

 

ガラ!

とん。

 

「おっと悪い」

 

突然扉が開いて出てきた人に当たってしまった。

衝撃(かなり軽い)を腹に感じたので見下ろしてみると、そこには青髪にぴょこんと一房立ってるのが印象的なちっさい女の子がいた。

 

「とと、大丈夫大丈夫!・・・コレ、フラグ立ったてるよね?」

「・・・は?」

 

今なんて言ったこのちみっ子。

 

「・・・フラグ?」

「そう! ってそんなこと言ってる場合じゃなかった! また後でね〜!」

 

と言い残して嵐のように去っていってしまった。

 

「何だったんだ今の・・・?」

 

まぁトイレに消えていったんだからもよおしてたんだろう、多分。

 

とりあえず自分の席に着く。

苗字があ行とは言え今年も最前列とはまたきつい。

席替えに期待かな?

 

 

 

始業チャイムが鳴る・・・が、担任の先生が来る気配が無い。

クラスがざわついてくると何だか足音って言うか走ってくる音が聞こえてきた。

 

・・・ダダダダダダダダッ! ガラッ!

 

「皆席に着け〜! ハァッハァ、間に合った〜」

 

いや、完全にアウトでしょ。

 

「ウチが担任の黒井や。学年上がったことやし休み気分でおらんで頑張るように!」

 

『(うっわ、説得力ねぇ!)』

 

おそらくクラス一同そう思ったことだろう。

先生の髪はボサボサだし明らかに先生が遅刻寸前だったようだ。

 

その後は体育館に移動し、始業式恒例の長〜い校長の話を終えてようやくクラスに戻る。

担任の黒井ななこ先生は、ああ見えて遅刻と居眠りには容赦ない教師だが結構人望のある先生(27才独身)だ。

 

「上半期の委員長は高良、お前に任せてもええか?」

「はい、分かりました」

 

SHRでクラス委員もサクサクと決まっていき、残った時間で『新しいクラスメートと親睦を深めときぃ!』と言って後は放置プレイのようだ。

・・・いい加減というか放任主義というか。

それでもクラスの生徒の殆どは既に好きなように色々な事で盛り上がってる。

かく言う俺もその中の一人で・・・。

 

「いや〜、急いでたとはいえ今朝はごめんね?」

「俺は気にしてないから別にいいけど・・・」

 

今喋ってるこの子は泉こなたという。

クラスメートってか席が近かった上に今朝のこともあり、声をかけられたのだが見た目はどう見ても小学生だ。

 

「まさか新学期早々男子にフラグ立てちゃうとはね〜。席が隣じゃないのが残念だよ」

「・・・色々と待った」

「なに〜? 3サイズは秘密だよ?」

「誰もそんなことは聞いてないって!」

 

薄々感じてはいたが念のために聞いておく。

 

「今朝から言ってるフラグって・・・?」

「知らないの? ギャルゲーの基礎知識だよ!」

「力説されても困るっての」

「最近はギャルゲーのみならずス○オや一部のテ○ルズでは当たり前でしょ?」

「そうかもしれないけど知らないよ!」

 

実名出したら色々やばいでしょ!?

て言うかやっぱり、

 

「泉さんってさ、結構ゲーム好き?」

 

と、遠まわしに聞いてみた。

 

「アニメに同人、フィギュアにネトゲー、エロゲもやりますが何か?」

「どう考えても最後のはやばいだろ高校2年生・・・」

 

俺の予想を大きく上回るゲーマー、いや、オタクだった!

 

「ちなみに私はこなたでいいよ〜。その方が親しみやすいし」

 

セリフとは裏腹に妙にニヤニヤしてるその顔が何だか(よこしま)に感じてしまうのはナゼだろう?

 

「俺の方は好きに呼んでくれていいよ・・・」

「じゃあまさきくんで!」

「即答かい!?」

 

つ、疲れる・・・。

 

「ふむふむ、まさきくんはツッコミ属性か。かがみんと絡ませたら展開次第によっては面白い事に・・・!」

「ツッコミは条件反射みたいなもんでね・・・かがみんってのはこなたさんの友達?」

「後で紹介するよ〜。条件反射でツッコミ入れられるとはキミ、いろんなイミで素質あるかもネ♪」

「なんかひっじょ〜に引っかかる言い方なんだけど・・・?」

「気にしない気にしない。ちなみに委員長のみゆきさんとあっちにいるつかさも友達だから後で紹介したげるね♪」

 

女の子の友達が増えるのは大歓迎だが不安のほうが大きかったりする・・・。

が、それもこの後すぐに杞憂に終わることになる。

 

 

 

<放課後>

 

 

 

俺はこなたさんからさっそく友達を紹介された。

 

「柊つかさだよ。よろしくね♪」

「高良みゆきです。よろしくお願いします」

「赤井まさきです。1年間よろしく!」

 

柊さんはライトパープルの髪にリボンを付けたショートカットの女の子。

高良さんはピンクの髪のロングヘアーでメガネをかけていて結構なきょnゲフンゲフン! いやなんでもない。

しかし2人とも結構・・・てかかなりカワイイ部類に入るよね?

緊張を抑えながら軽く挨拶をする。

 

「なに〜? まさきくん、どっちかに惚れた?」

「ブッ!?」

 

いきなり何言い出すのこのチビ!

 

「ふえぇぇっ!?」

「え〜っとその、私達はまだ知り合ったばかりであのその!」

 

お約束と言うか何と言うか、二人は思いっきり真っ赤になって混乱してる(汗)。

 

「とりあえずそういうんじゃないから。落ち着いてくれ2人とも」

「むう、やっぱりフラグを立てなきゃすぐには無理か」

「ゲームと現実をごっちゃにしちゃだめでしょ・・・」

 

軽く頭痛がしてきた。そのうち鉄拳制裁が必要だろうか?

てか俺にそんな相手が現れるとは思えんが・・・。

 

「あ、あはは。そうだよね」

「と、取り乱してすいません」

 

この二人は結構純粋な様である。

まだ顔が赤いがそれもそのうち落ち着くだろう。

 

「お〜い。帰ろ〜・・・て、男子と居るのは珍しいわね。新しい友達?」

 

教室にツインテールの女の子が入ってきた。

はて、髪の色が柊さんと同じだけど・・・?

 

「今朝方私がフラグげっとした男子で赤井まさきくんだよ〜。で、まさきくん。凶暴そうに見える彼女がかがみん」

 

バキャ!

  

「はう!?」

「殴るわよ? それと、かがみんいうな!」

「殴ってから言わないでよ!?」

「女の子に凶暴そうなんていったらそりゃ怒るだろ。てかフラグゲット言うな・・・」

 

どうやら彼女がこなたさんの言うかがみんらしい。

てか素で鉄拳制裁する辺りは結構親しい仲のようだ。

 

「ハァ、あんたも災難ね〜。新学期早々こんなのと知り合って・・・。私は柊かがみ。そこにいるつかさの双子の姉よ」

「あれれ〜? 何だかとっても失礼なこといってないかがみ?」

「とりあえず初めまして。さっきからこなたさんと話してるけど・・・お疲れさん」

「そうねぎらってもらえるとありがたいわ・・・」

「しかし双子っていう割にはあまり似てないね?」

 

とりあえず疑問に思ったことを聞いてみる。

こなたさんは・・・放置プレイで良いだろう。

 

「もしも〜し? まさきくんわたしをスルー?」

「双子でも一卵性と二卵性じゃ結構違うって言うからね」

「私達は二卵性なんだよ♪」

「ぐは!? かがみはおろかつかさまで!?」

「大丈夫ですよ泉さん。お三方とも冗談でやってることですから♪」

 

妹さんにまで放置されて高良さんに慰められてるこなたさんだった・・・。

 

 

 

<通学路>

 

 

 

駅まで同じだと言うこともあり5人で一緒に帰ることになったが・・・何か恥ずかしい。

女子4人に男子1人。

健全な男子なら意識するなというのも無理な話である。

 

「どうしたの? 赤井くん」

 

柊さん妹(なんか呼び方がな・・・)に声をかけられても「な、なんでもない。」としか答えられない自分がちょっと情けない。

こなたさんがやけにニヤニヤしていたがとりあえず気づかない振りをしておこう。

 

 

 

高良さんは東京方面らしく途中で別れ、その後こなたさんとも別れて現在、柊姉妹と一緒の電車に乗っている。

話を聞く限りじゃどうやら家は結構近いようだが・・・。

 

「え、あんたの家ってあそこのアパート?」

「うわ〜、すごく近いね〜」

「・・・去年1年間会った事が無いのが不思議なくらいだね」

 

柊姉妹の家よりわずかに徒歩1〜2分くらいの場所。

部屋代は親に頼ってるが整理整頓の仕方によっては結構快適なアパートの一室が今の俺の住居である。

対して柊家は神社の近くの一軒家で、父親がそこの神社の神主をやってるらしい。

家の近くの神社ということで、何回か気分転換の散歩やお参りに入ったことがあるから会った事・・・とまでは行かなくても、顔くらいは会わせた事があったかもしれない。

 

「ねぇねぇ。せっかくだから、明日から一緒に学校行こうよ♪」

 

・・・小学生ならともかく、年頃の女子が同年代の男子にマジで言ってるあたりどうなんだろう?

 

「まあ、否定する要素は無いけどつかさらしいって言うか」

 

そんな妹に柊姉は苦笑気味である。

 

「ちなみに俺は毎朝7時半には家を出てるけど大丈夫・・・?」

「はぅ!?」

 

朝会った事が無い=時間が一度も合うどころか結構ズレてると直感して聞いてみたら案の定のようだ。

 

「つかさって朝起きれないタイプだからね。あんたが家を出たときに私達がいなかったら、気にしないで先行ってていいわよ?」

 

ヘタすると走るハメになるし、と柊姉が後から付け加える。

どうやらこの2人、性格は似てるどころか正反対らしい。

 

「う〜・・・明日からはがんばって起きるよ〜」

 

まさかとは思うが・・・。

 

「妹さんって休みの日は寝て過ごすタイプ?」

「・・・そこまで酷くないけど昼まで起きないわね」

「だってお布団が気持ち良くて・・・中々起きれなくない?」

「まぁ気持ちは分かるけど・・・」

「ちなみにつかさは9時には寝るわよ」

「いくらなんでも寝すぎでしょ!?」

「はうぅ・・・」

 

どこぞのイチゴでだぉ〜な娘を思い出したのはご愛嬌だ。

てか9時に寝て起きるのが翌日の正午って・・・(汗)。

 

「明日はがんばって起きるよ!」

「まぁ無理はしないようにね・・・。じゃ、また明日」

「ええ、また明日ね」

「バイバ〜イ」

 

妹さん、手を振らないでくれ恥ずかしい・・・。

 

 

 

「ただいまっと」

 

あれから買い物を済ませ、アパートに帰宅した俺は夕飯の支度をして早々に食べた。

その間に風呂の準備もしておく。

夕飯後少し休んでから風呂に入り、しばらくしたらバイトの時間。

バイトが休みのときはゲームをしたりネットで動画を見たり宿題やったりとその時によって様々だ。

バイトが終わったら帰宅し、気分次第でもう一度風呂に入る。

 

「春は出会いの季節とは言うけど・・・」

 

今日のことを振り返りながら布団に入った。

始業式の日にクラスに上手く馴染めたし、なんと言っても女の子の友達(かなり個性的ではあるが)が一気に4人も出来た。

悩みどころは柊姉妹をどう呼ぶか・・・いつまでも姉、妹と呼ぶのもなぁ。

まぁそのうち慣れるか。

これからの学校生活、少なくとも退屈はしないだろう。

期待に少し胸を躍らせながら俺は眠りについた・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第二話 こんな日常

<こなた視点>

 

 

パンッ!

 

タッタッタッタッタッタッタッタ・・・

 

カチッ!

 

タイム7秒98。

 

「お〜、さすがこなちゃん。凄いね〜♪」

「いやいや、そんなこと無いよ」

 

今は体育の時間。

男女合同・・・なんてことはなく男子と女子で分かれて50M走を測定中。

人より運動はそこそこ出来るけど好きという訳ではじゃない。

でも褒められると結構うれしいもんだネ。

 

「こんなに運動できるのに何で部活に入らないの?こなちゃんなら運動部で活躍できそうなのに」

 

部活・・・高校生になると結構本格的になるんだよね。

 

「だって部活に入るとゴールデンタイムのアニメが見れないじゃん?」

「こ、こなちゃんらしい理由だね・・・(汗)」

 

私は自分がオタクだということを隠そうとは思わない。

取り繕ってもボロが出るだけだしネ。

変な目で見られることもあるけど、こんな自分でも友達は出来るのだ・・・あんまり多くは無いけど。

 

「お? 向こうはまさきの番みたいだよ?」

「あ、ホントだ〜。まーくんがんばれ〜♪」

 

つかさ〜、応援するのは良いけどあんまり大きな声で言うもんじゃないと思うよ〜?

 

 

<まさき視点>

 

 

「まぁこんなもんかな」

 

タイムは7秒02。

特に部活をやってるわけではないが自主トレ的なことをやってるからこれくらいのタイムなら上々だろう。

 

「・・・しかしつかささんって絶対天然だよなアレは」

 

スタート前につかささんの声援が聞こえたのはいいが、俺に聞こえるって事は他の男子にも聞こえるワケで・・・。

 

「ちくしょう、何で赤井ばかり」

「赤井の回りっていつも女子がいるよな~」

「俺もあんな声援がほしいぜ・・・」

 

とまあこんな感じで一部男子のため息はともかく嫉妬まで受けてたりする。

 

「(別に付き合ったりしてるワケじゃないのに)・・・ハァ」

 

最近妙に男子の視線が痛い。

まぁ気がついたらこなたさん、つかささん、みゆきさんに何故か隣のクラスのかがみさんと休み時間に喋ったり昼休みに昼食を一緒に食べるのがほとんど。

その上柊姉妹とほぼ毎日登下校が一緒だったりして(つかささんが早起きするようになったと驚かれてるという)思い当たる節はてんこもり。

俺としては普通に友達付き合いって言う感じで、今の所誰かを意識してるわけではない。

周りを気にして急によそよそしくするのもどうかと思うし・・・まぁなるようになるだろう。

そんなことを考えてるとクラスメートの白石君が話しかけてきた。

 

「柊さんの声援で記録更新か? ま・あ・くん?」

「・・・あのね」

「冗談だって。でももったいないよな〜。赤井って中々いいタイム出してるし、体格もいいから練習次第じゃ運動部、どこでもいけるんじゃないのか?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけどね、高校の部活って結構本格的でしょ。生活費をバイトで稼いでる関係上そこまで器用に立ち回れないからなぁ」

 

特に嫌いなスポ()ーツ()があるわけじゃない。

強いてあげるならサッカーが少し苦手なくらいだ。

などと話してる内にチャイムが鳴って体育終了し、クラスに戻っていった。

 

 

 

<昼休み>

 

 

 

昼飯は大抵弁当を持参する。

今日も今日とてこなたさんに誘われてつかささんとみゆきさんの4人で食べることになった。

かがみさんは今日は来ないようだ。

 

「それにしても結構意外だよね。まさきって1人暮らしだから毎日パンか学食だと思ってたヨ」

 

チョココロネを頬張りながらこなたさんが言ってきた。

 

「そういうのを偏見って言うんだと思うけど?」

 

1人暮らしに向けてある程度の家事を母さんに教えられたし自分で作ったほうがお得だ。

安いに越したことは無い。

 

「でもお料理が出来るというのは良いことだと思いますよ?」

「そうだよね。お弁当作るのって結構大変だもん」

「・・・俺の場合はレトルトや冷凍が入るんだけどね」

 

どこぞのクッキングなおやじや食に精通した新聞記者でもないから、ある程度の量があってまずくなければ今の所それでいい。

 

「でもご飯の間に醤油ひたした海苔挟めるのって結構手間かかるじゃん?」

「これはお気に入りだからね。冷めたご飯と結構会うし」

 

その代わり夏場は傷みやすくなるから海苔を使わず梅干(余り好きじゃない)を入れている。

と、唐突にこなたさんが口を出す。

 

「ねぇねぇ、皆はチョココロネってどこから食べる?」

 

またどうでもいいことを・・・。

 

「え? 私は頭からだけど?」

 

頭・・・?

 

「頭ってどっち?」

 

こなたさんも同じ疑問を抱いたようだ。

 

「細いほう。巻貝みたいだし」

「私は太いほうが頭だと思ったけどな〜。芋虫みたいで」

 

おいおい、つかささんとみゆきさんが引いてるぞ。

 

「食事中にンな事を言うか・・・?」

「じゃあまさきは?」

「どっちが頭かはともかくとして、太いほうから食べるな」

「でもそれだと最後のほうでチョコがなくなってしまうのでは?」

 

それを聞く限りみゆきさんも細いほうから食べるみたいだが・・・。

 

「チョコが残り少なくなったら口の中に詰め込むし」

「豪快な食べ方するね〜。さすが男の子」

「まーくん、喉につまらないの?」

 

そんな心配は無用だ。

 

「やばくなったら飲み物で流し込むから♪」

「まさきさん・・・体に悪いですよ?」

「そういうみゆきさんはやっぱり細いほうから?」

「ええ。チョココロネは細いほうをちぎって余ったチョコを付けて食べるのが本来の食べ方と聞いたことがありまして」

 

いったいどこから仕入れてくるのか、みゆきさんは結構な情報通だ。

大抵のことは彼女に聞けば分かる。

きっと頭も良いんだろう。

 

「さすがみゆきさん♪ あったまいい〜ネ!」

「ゆきちゃん凄〜い♪」

「なるほど、そういう食べ方があるのか」

 

などと口々に言われてさすがに恥ずかしかったようだ。

 

「いえ、たまたま聞いたことがあるだけですから・・・」

 

 

 

新しいクラスになって、つまり彼女らと知り合ってまだ半月だが・・・。

こなたさんはともかくかがみさんたちも下の名前で呼び(かがみさんに突っ込まれた)、こなたさんには呼び捨て、かがみさんやみゆきさんには普通に名前で、つかささんにいたってはあだ名(つかささん曰く、可愛いかららしい)で呼ばれている。

・・・さすがにつかささんには勘弁してほしいと言ったんだが・・・あんな風になみだ目+上目使いで言われたら、ねぇ?

で、放課後に用事が無ければこなたさんにかがみさん共々あちこち連れまわされる(主にアニメ、ゲーム専門店)事もしばしば。

そういったこともあり気恥ずかしさは無くなりつつある。

微妙に視線がまだ気になるけど・・・。

繰り返すが知り合ってまだ半月・・・いくらなんでも馴染むの早くないか俺?

 

4月の下旬。

 

微妙に恥ずかしいものの、まったりした空気が心地いい、という俺の日常が出来上がっていた。

 

 

 

<午後の授業>

 

 

 

食後のこの五時間目、一番眠くなるのは誰でも一緒だと思う。

それに打ち勝ってこそテストという名の結果に繋がると思うんだけど・・・。

 

「修正してやる!」

 

ゴチン!

 

「ポチョムキン!?」

 

黒井先生の授業で堂々と寝るのはこなたさんくらいだろう。

訳の分からないネタで通じてるあたり先生も結構ソッチ系の人みたいだが本人曰く、ロ○テの方が熱いらしい。

 

「い〜ずみ〜? 授業はちゃんと聞けや〜。それとも聞かんても余裕か?」

「いや頑張ってはいるんですけど・・・知らない間に飛ぶんです! 奴らは突然来るんです! 防御不可なんです!」

 

教師相手にそんな事力説してどうするの。

そんな事言ってるとまた・・・。

 

バキャ!

 

「おおぉぅ・・・」

「これで目が覚めるやろ」

 

2度目の鉄拳制裁を受けるこなたさんでした。

 

 

 

<休み時間>

 

 

 

「にしても豪快に食らったもんだね〜」

「ううぅ。暴力反対〜・・・」

「こなちゃん気持ちよさそうに寝てたもんね♪」

 

漫画みたいなタンコブなんて初めて見たぞ。

 

「でも、泉さんの仰ることも分かる気がしますね」

「そんなこといったらこなたさんがまた調子に乗るぞ?」

「・・・つかさ〜、最近のまさき、私の扱いが酷いよ〜」

 

こなたさんがつかささんに泣きついてしまった。

無論誰が見ても演技だが・・・。

 

「大丈夫だよこなちゃん。まーくん優しいからきっと許してくれるよ〜」

「いや意味わからんし」

 

つかささんにとってはそうでもないらしい。

純粋というか天然というか・・・両方あるような気もするがたぶん後者なんだろうな。

見てるとこっちが癒される気もするが。

そして六時間目のチャイムが鳴り、それぞれの席についた。

 

 

 

<放課後>

 

 

 

今日はみゆきさんと別れた後にゲームセンターに遊びに行っていた。

ゲームセンターに着いたら皆それぞれお目当てのゲーム台に向かう。

ちなみにいいだしっぺはこなたさん。

みゆきさんもさそったがあいにく彼女は歯医者。

何度も治療を受けてるのにもかかわらずまだ時間がかかるようだ。

虫歯になりやすい体質なんだろうか?

 

「かがみさんって(シュー)(ティング)(ゲーム)結構やり込んでるんだ?」

 

後ろから見ているとかなり上手いのが分かる。

ちなみにこなたさんは格ゲープレイ中、つかささんはクレーンゲームとにらめっこしてる。

俺は基本的にゲーセンでは一部を除いてノータッチだ。

見てるほうが面白い時もある。

 

「こなたほどじゃないけどね・・・っと!」

 

巧みに攻撃をかわして次々と敵機を倒していくのは見事だ。

 

「その割には相当上手いみたいだけど」

「・・・なんか引っかかる言い方ね」

「別に悪い意味じゃないって」

 

邪魔するのも悪いし他を覗いてみよう。

 

「ま、また負けた・・・」

「ふふふ・・・私を相手するにはまだまだ修行が足りんのぅ」

 

どうやらこなたさんは知らない子(服装から陵桜の子)と対戦中。

様子を見てみるとこなたさんはかなりの強者(つわもの)のようだ。

 

 

 

「こんどこそ〜!!」

「・・・さすがにそろそろ飽きてきたヨ」

 

俺がこなたさんの後から見始めて既に3戦目。

こなたさんが微妙にテンション下がってるけどいったい何戦やってるんだろ?

 

一方別の場所では・・・。

 

「う〜ん、なかなか取れないよ〜」

 

つかささんは何か目当ての物でもあるのか・・・いや、あのカエル軍曹の人形を狙ってるようだが苦戦中のようだ。

 

「そんなに難しいの?」

「うん。もう3回失敗しちゃって」

「どれどれ。フム・・・あの位置なら」

 

クレーンゲームは前いた所で結構やってたのでこの機種の感触を確かめつつ1つ取ってみる。

 

「わ、すご〜い! 1回でとっちゃった!」

「ほれ、やるよ。欲しかったんでしょ?」

「え、で、でも・・・」

「はい次〜♪」

 

昔の勘は衰えてないようだ。

 

 

 

それから15分後・・・。

 

 

 

「ポ○モン、ゲットだぜ〜♪」

「どんだけ〜・・・」

 

現在の収穫はその数7個。

まだまだいけるぜ♪

 

「アンタそんなに取るのは良いけどお金大丈夫なの?」

「あ・・・」

 

いつの間にか近くに来ていたかがみさんに指摘されようやく俺は手を止めた。

そういや前に調子に乗って1ヶ月の小遣いパーにしたことがあったっけ(汗)。

 

「あたしもやってみるか・・・」

 

俺がポンポン取ってるのを見て簡単だと思ったのか、かがみさんがクレーンゲームをやり始めた。

しかし・・・。

 

「あ・・・」

「お姉ちゃんおしかったね〜」

「もう少しだったのに・・・ええぃ、もう1回!」

 

かがみさん、少し熱が入ったようだが・・・。

 

「アレ?」

 

「ウソ!」

 

「何で!?」

 

現実はこんなもんである。

 

「エライ人はいいました。UFOキャッチャーは貯金箱であると・・・」

「上手いこと言うね・・・てこなたさんいつの間に!?」

「さすがに10回以上連コされてさ。飽きたから放置しますた」

「・・・おいおい」

 

すると少し遠くのほうで・・・、

 

「やった〜! ふっふっふ。あたしの粘り勝ちネ・・・っていないし!?」

「あれだけこうがしつこく挑戦するから飽きて帰ったんじゃないの? まったく、こうは負けず嫌いなんだから・・・」

「すっげー空しいから放置プレイはやめてくれよ〜・・・」

 

あわれ見知らぬ女子生徒、相手が悪かったようだ。

一緒の子は他校生のようだが多分あの子の友達だろう。

 

 

 

<帰り道>

 

 

 

「せっかくSTGでいい気分になってたのに・・・」

 

結局何も取れないまま帰路についてかがみさんは少々落ち込み気味。

 

「大丈夫だよお姉ちゃん、私も1個も取れなかったし」

「つかさ、それ慰めになってない・・・けどありがと」

 

基本的に仲が良いこの姉妹。

喧嘩なんて無縁なんだろう・・・ていうかまるで想像ができない。

会うなり口論(ケンカ)が絶えないウチの姉達にも見習ってもらいたいモンである。

 

「俺が取った奴、なんか欲しいのあればやろうか?」

「いいの?・・・じゃあ1つだけ」

 

そう言って、かがみさんは少し迷った後にポ○太君の人形(ミニサイズ)を取った。

 

「よかったねお姉ちゃん♪」

「べ、別にありがたいけど変な意味はないわよ! そのへん勘違いしないでよね!?」

「わ、分かってるって!」

 

かがみさんはたまに訳の分からない事で真っ赤になって怒る時があるがこなたさん曰く、

 

「かがみんはツンデレだからね〜」

 

とのこと・・・まぁ難しいお年頃なんだろう。

 

「まさきくんはクレーンゲームっていうかゲームって結構得意な方なの?」

「ん〜? クレーンゲームに関してはこっちに来る前、地元のスーパーやゲーセンで店員に警戒されたことがあるくらい?」

「疑問を疑問で返されても困るんだけど・・・」

「どんだけ〜?」

「まぁゲーセンではクレーンくらいしかやらないけど家ではRPGメイン。たまに格闘モノもやるけどあまり上手くはないかなぁ。後は全年齢版のギャルゲーをいくつか」

「アンタもそういう人間かい・・・」

「ほ、ほら。まーくんも男の子だし」

「全年齢って言ったろ。一応言っておくけど元が18禁ゲーとは思えないようなやつだぞ? 内容もしっかりしてるし、むしろ女子がやっても別に違和感ないようなヤツ」

 

恋愛小説を映像、声付きのサウンドノベルにしたようなもんだ。

 

「こなたがやってるのを見たことあるんだけどね・・・」

 

どうやらちょうどやばいシーンを見たことがあるようで・・・。

友達にってか女の子にそういうのを見せるのはどうかと思うぞこなたさん?

てかやってるとは聞いたが・・・。

 

彼女(あいつ)はそういうのまでどうやって手を出してるんだろ・・・?」

「前に聞いたらこなたのお父さんが買ってくるそうよ・・・」

 

娘に買ってくるのか泉父!?

母親は何も言わないんだろうかとツッコミたいぞ!

 

こんな感じの会話をしながら歩いているとあっという間に家に到着する。

時間の経過が早いと思うのはそれだけ毎日が充実してるということだろうか?

 

「それじゃ、また明日」

「うん。お人形、ありがとうね♪」

「またね・・・その、今日はありがと・・・」

 

つかささんは明るい笑顔で、かがみさんは少し顔をそらして別れを告げる。

別に礼を言われるようなことした訳じゃないんだけどな・・・。

 

 

 

もうすぐGW、それが過ぎれば中間テストがある。

とりあえず今日はバイトまで時間があるから宿題かたづけてからバイトに行こう。

親との約束で成績はある程度上位をキープ(少なくても2桁だから結構きつい)しなければならない。

成績落ちたからっていきなり連れ戻す・・・なんて事は無いと思うけど、電話越しとは言え怒られるのも嫌だし。

なんとなくそう考えながら、俺はアパートの階段を上がっていった。

 

 

 

つづく・・・



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第三話 初訪問、柊家にて

GW最終日。

今日はバイトも休みだし、宿題も消化したしのんびりくつろごうと思っていたのだが・・・。

 

「普通に考えたら絶対無い話だよな・・・いくらなんでも」

 

こんなこともぼやきたくなるのは人それぞれだろう。

話はGW終了2日前の昨夜、かがみさんからの電話を受けるところまで遡る・・・。

 

 

 

「勉強会?」

「うん。宿題の答え合わせも兼ねてどうかなって。アンタも結構勉強できるほうなんでしょ?」

 

俺の場合、成績はトップとまでは行かなくても最低でも100位以内を維持しないと親の制裁(ちと大げさだが)があるので勉強は結構頑張ってる。

 

「俺は別にかまわないけど、何か難しい所あったっけ?」

 

彼女が詰まるような所って特に無いような気がするけど・・・。

かがみさんは結構な努力家のようで、つかささんの面倒を見るために勉強面ではほぼ独力で頑張っていると言う。

ちなみに以前、かがみさんが分からない所をお姉さんに聞いたらまるで役に立たなかったとか(笑)。

 

「っていうより別なところに問題があってね〜。こなたのヤツ、宿題写させろって毎回うるさいのよ。丸写し禁止にするとあたしはつかさに教えてやるので手一杯だしさ。そうなると戦力は多いほうがいいしまさき君なら家がすぐそこだし」

「なるほど(汗)・・・ま、上手く教えられるかは分からないけど俺でよければ手伝うよ」

 

さすがに無下にするわけにも行かないか・・・。

聞いた話じゃこなたさんは基本的に遊んでばっかりらしいし。

明日の集合時間を確認して必要な筆記用具、教科書、ノートを準備しておく。

そして寝る前にあることに気づく。

 

「俺、女子の家に行くのって初めてじゃね?」

 

小さい頃に母親の友達の家に付いていってそこに娘さんがいた、という事はあったがその時は子供だった上に当然親も一緒だっだ。

が、今回は1人で行く上に男1人、女3人・・・。

 

「落ち着け俺・・・家には柊家の面々が当然いるんだからそんなやましいことは・・・いやこなたさんがいるんだ。彼女が何かたくらんで・・・って何悶々としてるんだ俺は? 女の子の家に行くっていったって勉強しに行くんだろうがいやしかし・・・」

 

余計なことを考え出してしまいしばらくの間眠れなかった・・・。

 

 

 

・・・と、こんな感じで微妙に寝不足だったりする。

濃い目のブラックコーヒーを飲んで強制的に頭を起こしたから多分大丈夫だろう。

集合は柊家に10時。

ちなみにかがみさん曰く

 

「こなたは()()に時間通りには来ないわ」

 

とのこと。

約束の時間になった所で柊家に入ることにする。

 

「ごめんくださ〜い」

「は〜い・・・あら? あなたがかがみとつかさのお友達?」

「あ、はい。はじめまして。つかささんのクラスメートの赤井まさきです」

「あらあら男の子がウチに来るなんて今日はお赤飯かしら?」

「いやいやいや、勉強しに来ただけですから!」

 

やっぱり男子が女子の家に来ると家族はそういう認識をするのだろうか?

にしても落ち着いた雰囲気のお姉さんだな。

 

「かがみ〜、つかさ〜。お友達が来たわよ〜」

『は〜い』

 

お姉さんに呼ばれてかがみさんが玄関までやってきた。

 

「いらっしゃいまさき君。今日はワザワザごめんね?」

「まあバイトも休みだから別にかまわないけど」

「今つかさがクッキー焼いてるの。もうすぐ出来るから先上がって」

「2人ともずいぶん張り切ってたものね?」

「ちょっとお母さん!? 変なこと言わないでよ!」

「へ・・・?」

 

今・・・かがみさん、お姉さん(このひと)の事お母さんって言った・・・?

見た目若すぎ・・・(汗)。

 

「まさき君どうかした?」

「いや、世の中不思議がいっぱいだな〜と」

「あらあら♪」

 

俺の呆けた顔を見て柊母がなにやら嬉しそうだ・・・てか考えてることがばれてそう(汗)

かがみさんは何がなんやらという顔をしていたが気を取り直して俺を部屋まで案内してくれたが・・・。

どこからか視線を感じるのはなんでだろう?

 

 

 

<かがみさんの部屋>

 

 

 

「こなたさんまだ来てないけどつかささんが来たら先に始めようか?」

「そうね、あいつはいっつも時間にルーズなんだから・・・」

 

こなたさんの遅刻は何時もの事らしい。

 

「にしても・・・女の子の部屋ってなんか男には分からん独特の雰囲気があるね」

 

所々にぬいぐるみがあったり小説らしきものが結構並んでる・・・かがみさんは読書家かな?

考えてみると姉さんの部屋にもあまり入った覚えは無い。

 

「そういう物なの? じゃあ今度まさき君の家に行ってみようかしら」

 

・・・女の子がそんなことを言うのは彼氏に対してだけではと思うのは俺だけだろうか?

くどいようだが今の所誰ともそういう関係じゃない。

 

「来ても何にも面白いものなんて無いよ? 母さんには男臭いって言われたし」

「男臭いってどんな部屋だ・・・」

 

たまに母さんが掃除やら飯作りを名目に遊びに来る(事前告知無し)。

そのまま東京に住んでる姉さんの所に行くのが定番だ。

ちなみにどんな臭いなのかは俺にも分からん・・・ファ○リーズでも使えと?

 

「まーくんいらっしゃ〜い。クッキー焼けたよ〜♪」

「あ、お邪魔してるよ。サンキュ〜つかささん♪」

 

そこにつかささんが焼きたてのクッキーを持ってきてくれた。

美味しそうな香りが部屋いっぱいに広がる。

 

「どれ、1つ・・・うん、美味しい!」

「今日はお姉ちゃんと一緒に作ったんだよ」

「ちょ! つかさ!? あたしは別にっ!」

 

何故か赤くなってつかささんに文句を言おうとするが

 

「良いじゃん美味いのは確かだし、姉妹仲が良いのも別に悪いことじゃないでしょ?」

「・・・アリガト」

 

赤面してしまった。

何か恥ずかしがること言ったかな?

普通に褒めただけなんだけど・・・。

取り合えずクッキーと一緒に飲み物も来たしやることをやっちゃおうか。

 

「結局こなたさんまだだけど宿題やる?」

「ま、あいつもそのうち来るでしょ」

「そういえばまーくんはどれ位やったの?」

「もう終わってるよ。俺はかがみさんと答え合わせしてから2人の指南役」

「え、そうなの? まーくんって頭良いんだ〜」

「感心してる暇があるならちゃっちゃと始めなさい。分からない所は教えてあげるから」

 

そう言って勉強開始して30分後・・・。

 

「やっほ〜! 遅れてごみんごみん!」

「遅れてきた人の態度じゃないでしょそれ」

「まったく遅いわよ! こっちはもう始めてるんだからあんたも始めないと今日中に終わらないわよ?」

 

遅れてこなたさんがやってきた。

 

「いや〜、いろいろとやることが多くってさ。そんなワケで恒例のやつをおn「ダメ」うわっ即答!?」

 

なんか既視感・・・。

 

「ちゃんと自分でやんないと力にならないでしょ? 休み明けたら中間テストもすぐだし、分からない所はわたしかまさき君が教えるから!」

「あれ、まさきって頭いいの?」

「一応順位は二桁保ってるよ」

「な、なんだって〜!?」

「ほら早く始めないと本当に終わらないよ? つかささんも頑張ってるんだからこなたさんも頑張らないと」

 

なんか失礼なことをネタ混じりに言われた気がするが、気にせず宿題の解答をかがみさんのノートと照らし合わせていった。

 

「私は一夜漬けが得意だから大丈夫! だから見せて♪」

「アンタは少しくらい悩みなさいよ!」

 

こなたさん、一夜漬けはどうかと思うよ?

かがみさんも怒りのリミッターが外れそうだ。

 

「ねぇねぇまーくん。ここはどうするの?」

「ん? ああここは・・・」

 

2人があんなだから俺がつかささんに数学を教えてるんだが・・・隣に来るのは良いけど近い、顔が近いってつかささん!

内心のどきまぎを何とか押さえつつ解き方を教える。

 

「ひょっとしてつかさフラグ、立った?」

「変な事言ってないでさっさと宿題始めてくれ!」

 

こんな感じで午前中が過ぎていく。

なんか途中からかがみさんからじろじろ見られていたような・・・。

それにさっきからまた誰かに見られてるような気がする・・・はて?

 

 

 

<昼食後>

 

 

 

「さ〜て、昼飯食って元気が出たところでちゃっちゃと始めるか」

 

柊家のリビングで昼食をご馳走になった後、少し休憩を挟んで再びかがみさんの部屋に戻ってきた。

 

「まーくん一杯食べてたね♪」

「あんなに食べておなか大丈夫?」

「いや〜、みきさんの料理美味しかったもんだからつい・・・」

 

みきさんの作った昼食は本当に美味しくて、いくらでも箸が進んだためご飯も結構な量食べてしまった・・・ちょっと図々しかったかな?

ちなみに見た目の若さから「おばさん」と呼ぶのはなんとなく気が引けてしまうので名前で呼ばせてもらった。

 

「・・・やっぱりもうちっと休憩しない?」

「アンタはサボりたいだけだろ・・・てかぶっちゃけつかさより進んでないんだからもうちょっとがんばんなさい」

「やれやれ・・・」

 

ちなみにこなたさんの荷物の中に携帯ゲーム機が入っていたのはご愛嬌である。

そしてつかささんとこなたさんに指導すること2時間・・・。

 

「この辺で休憩しようか」

「そうね、さすがにだいぶ進んだし。まったくまさき君がいなかったらどうなってた事か」

「とりあえず何でも無いように言ってるけど内心まさきにありがとうと素直に言えないかがみん萌え♪」

 

突然何言い出すのこなたさん!?

 

「アホかっ!」

 

バキッ!

 

「ひでふ!?」

「まさき君には感謝してるわよ! でも別に変な意味なんて無いんだからね! 勘違いしないでよ!?」

「あ〜もう分かったから・・・」

 

こなたさんの言葉にやたら過剰にかがみさんが反応する。

実際怒られてるようにしか思えないんだが・・・まあ間違ってもゲームみたいな展開にはならないだろうけど。

 

「ん?」

 

ふと見ると部屋の入り口が微妙に開いてる。

よく聞くと誰かがヒソヒソと話をしてるようだが・・・?

 

「とりあえず見た感じ普通の友達っぽいわね・・・かがみが面白い反応してるけど」

「まつり・・・いい加減覗きなんてやめたら?」

「そういう姉さんこそかなり乗り気だったじゃない?」

「別にそんなんじゃないわよ。ただかがみ達が同年代の男の子を呼ぶなんて今まで無かったから少し気になっただけで・・・」

 

キィッ。

 

『あ・・・』

「え〜っと・・・どちら様で、何をやってるんです?」

 

なんとなく怪しい雰囲気をかもし出していたから、気づかれないように無言で入り口を開けてみた。

そこには2人の女性がやっぱり怪しい体勢で、何だか覗き見をしてるような・・・。

ひょっとしてここに来たときから感じてた視線って・・・?

 

「お、お姉ちゃん達!? 何やってのよそんなとこで!」

 

突然の出来事にかがみさんが慌てふためくが、別にやましい事をしてるわけじゃないでしょ。

ちなみにつかささんは事態を飲み込めずキョトンとしてる。

 

「あ、あはは。気にしないで続けてて。どうぞごゆっくり〜!」

「あ、こらまつり! もう・・・お邪魔してごめんね?」

 

そういって2人は下に(まつりと呼ばれた方は逃げるように)降りていった・・・。

事態は把握したものの、さすがに反応に困るぞ。

 

「今の2人はお姉さん・・・? 昼間はいなかった様な気がするけど」

「そうよ。まったくも〜、まつり姉さんはともかくいのり姉さんまで何やってんだか」

 

昼間いなかったのは家の手伝いをしてて昼食時間がずれたとか。

しかし6人家族とは聞いていたけどかがみさんにつかささん、そこに姉が2人・・・親父さんは肩身が狭そうだ・・・。

 

「ウチのお父さんなら涙を流して喜ぶシチュだよね〜♪」

「度々思うんだけどこなたさんの父親って・・・?」

「ん〜? あえて例えるなら・・・犯罪者予備軍?」

「どんな父親だっ!?」

 

娘にここまで言われる父親って(汗)。

 

「相変わらずこなたは自分の父親にも容赦ないな・・・」

「母親は何も言わないのそれ?」

 

普通の母親なら娘がギャルゲーに興味を持っても買わせないってか必ず防ぐと思うが。

 

「ああ、ウチお母さんいないから」

 

・・・・・・。

 

「・・・へ?」 

「私がすごく小さいときに死んじゃったんだ」

 

・・・無言で柊姉妹のほうを見るが2人ともバツの悪い顔をしている。

っていうかさすがのこなたさんでもこんなタチの悪い冗談は言わないだろう。

 

「あ・・・えっとわr「だから家事はバッチリできるよ♪ かがみんと違って」うっわ空気ぶち壊したよこいつ・・・」

「シリアスなのは嫌いだしね☆」

 

GJしながら言うがずいぶんと前向きなヤツである。

 

「こいつはそういうヤツよ・・・それより! 大きなお世話だ!!」

 

ガツンッ!!

 

「あいたぁ!?」

 

このツッコミもお約束だ。

 

「前にこなちゃんちにお泊りに行った時にこなちゃんのお料理食べたけど、とっても美味しかったよ〜♪」

「そのわりには毎日昼飯にチョココロネを頬張ってるようだけど?」

「いや〜、ゲームやらアニメやらで忙しくてさ。毎日夜遅くって♪」

「その情熱をもうちょっと学業に注いでたら今頃こんなことにはならなかったでしょうね・・・」

「それは言わないお約束だよかがみさん・・・さて、そろそろ続きを」

 

とその時、扉がノックされる。

 

「は〜い?」

 

部屋の主のかがみさんが答える。

 

「お姉さん達からの差し入れよん☆」

「頭がスッキリするようにハーブティーを入れてきたわ」

 

再開しようとした時に来たのはさっきの事があったからだろうか?

まぁ宿題をしながらお茶を飲むのも良いだろう。

 

「わぁ、ありがとういのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃん♪」

「ありがとう・・・でもなんか企んでない?」

 

つかささんは微塵も疑ってないがかがみさんはさっきの事もありかなり不信の眼を2人に向けている。

 

「あらあら人の好意を疑っちゃダメよ?」

「そうそう、間違っても2人が男を呼んだことに関心を持ったわけじゃないから♪」

「ってちょっと! なんか誤解を招くような発言しないでよ!」

 

・・・こんな時、当の本人はどんな顔をすればいいんだろう?

 

「笑えばいいと思うよ?」

「っていきなり人の心読まないでよ!?」

「顔に出てたよ〜。こう、どんな顔すればいいんだろう、みたいな?」

 

・・・俺ってそんなに顔に出やすいのか?

 

 

 

<夕方5時:柊家>

 

 

 

結局あの後2人のお姉さんをかがみさんが追い返すことで決着し、何とかこなたさんもつかささんも宿題を終わらせることができた。

で、こなたさんは「アニメが始まる〜!!」と絶叫しながら自転車に乗り、猛スピードで帰っていった。

この時間帯に絶叫したら近所迷惑だっての。

 

「え〜っと・・・それじゃあお邪魔しました」

 

玄関先でなぜか4姉妹そろってお見送りしてくれた・・・俺、そんなに何か気になるようなことをしただろうか?

逆に恐縮してしまう。

 

「近所ならいつでも遊びに来なよ」

「まつり! あんまりまさき君を困らせないの」

「そうよまったく・・・また明日ね?」

「宿題教えてくれてありがとう。またね〜♪」

「はは、ありがとうございます。それじゃ2人ともまた明日!」

 

軽く手を上げて俺はきびすを返した。

なんか長かったけど・・・それでも楽しい勉強会だったな。

こういう日もたまには悪くない。

ただ・・・。

 

「そのうち男子から闇撃ちされそうな気がする・・・」

 

女の子の家に勉強目的とは言え招待されたのだ。

しかも俺以外は全員女子・・・こなたさんじゃなくともこれなんてギャルゲ? と言いたくなる。

クラスメートあたりにばれたらと思うと・・・いや、あまり考えないようにしよう。

とりあえずいろんな意味でこれからの学園生活は退屈しないんだろうなぁと思いつつ帰路についた。

 

 

ちなみにその後の中間テストの結果・・・

 

 

「みゆきさんって本当に頭いいね?」(平均80点半ばくらい)

「いえ、たまたまですよ」(学年トップ5入り)

「はぅぅ・・・」(平均約50点、一部赤点ギリギリ)

 

みゆきさんはやっぱりトップクラス。

つかささんは・・・ドンマイ!

君はきっとやればできる子だ!

 

だが・・・。

 

「おかげさまでバッチリ♪」(平均70点前後、最高点89点)

「あんたの結果だけは納得いかねぇ!!」(平均90点ちょい)

 

俺もかがみさんに同意見だという事はここだけの話である。

 

 

 

つづく・・・



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第四話 『でっていう』がなく頃に・・・

5月も残り約1週間。

その日は日直だったため、俺は珍しく1人で帰ろうとしていた。

 

(考えてみるといつも誰かと一緒だったな・・・)

 

具体的に言うとこなたさんとかかがみさんとかつかささんとかみゆきさんとか・・・全員女子じゃん(汗)。

そんなことを考えながら昇降口を出ると、後ろから声をかけられた。

 

「まさきさん、今お帰りですか?」

 

みゆきさんだ。

そういや委員会があるとか言ってたっけ。

 

「うん。委員会はもう終わったの?」

「はい。まさきさんを見つけたので帰るのであれば途中までご一緒にと」

「俺は別にかまわないけど・・・」

「じゃあ行きましょうか」

 

そんなわけでみゆきさんと2人並んで帰路につく。

今日も女の子と一緒なのがある意味悩みの種なのは秘密だ・・・贅沢な悩みではあるが。

他愛の無い話をしながら停留所まで歩いてバスに乗り込んだ。

 

「そういえばみゆきさんって何でワザワザ都内から陵桜に通ってるの?」

「ええ。陵桜は私の母の母校で、私も通いたかったからなんですよ」

「・・・自分以外にも似たような理由で高校を決める生徒がこんな身近にいるとは思わなかったな〜」

「ではまさきさんも?」

「俺の場合は両親共に陵桜でね、小さい頃から何回も話を聞いてたから通ってみたくて」

「そうだったんですか・・・ひょっとしたら親同士、同級生かもしれませんね♪」

 

本当にそうだったら凄い偶然だ。

そういや俺が1人暮らしをしてることは話してるけど、理由までは話したこと無かったっけ。

 

「話は変わりますが、まもなく泉さんのお誕生日なんですけど知ってましたか?」

「え、マジ?」

 

そういやみんなの誕生日知らないや。

女子相手とはいえ友達なんだし、なんかプレゼントでも買おうかね?

 

「28日ですから明々後日ですね」

「みゆきさんは何か用意したの?」

「ええ、大した物ではありませんが」

 

むう、ならば俺も友達として何か用意するか。

かがみさんやつかささんは知ってるのだろうか?

 

「そういやみゆきさんって誕生日いつなの?」

「私ですか? 10月25日です」

「因みにみゆきさんは何貰ったら嬉しい?」

「貰ったら嬉しいものですか・・・気持ちのこもったものなら何でも嬉しいですよ♪」

 

さすがみゆきさんは聖人君子!

でもそう言われるとこっちも悩むことになるが、まあこなたさんと違い時間はある。

たいしたものは送れないがプレゼントはじっくり考えるか。

ていうか今のはさりげなく探りを入れたつもりなんだが、素でかわしたのかそれとも気づかないのか・・・。

まあ誕生日を知っただけでも良しとしておこう。

 

 

 

5月28日。

 

土曜日の午後。

泉宅にてちょっとした誕生会が開かれることになった。

参加者はいつものメンバー・・・俺が誘われたのはこの際気にしない事にして。

柊姉妹と合流、2人の案内で初めてこなたさんの家に訪れることとなった。

 

「それにしてもこなたさんって他に友達いないの?」

「ま、ああいうヤツだしね」

「あはは・・・」

 

俺の言葉に2人は苦笑い。

あまり人のことは言えないが・・・。

 

2人の案内で泉家に到着する。

 

「こなちゃん、お誕生日おめでとう♪」

「私はつかさに言われるまで忘れてたんだけど・・・」

「ほいおめでとう。ささやかながらプレゼントだ」 

「おお〜。ありがとうみんな〜♪」

 

玄関先で出迎えてくれたこなたさんにそれぞれプレゼントを渡した。

これだけ喜んでもらえると選んだ甲斐がある。

考える時間が無くてたいしたものを買えなかったが。

 

「ささ、上がってよ。あ、ウチにはあいかわらず獣より危険な人がいるから気をつけてね」

 

おいおいどんなヤツだよ。

普通に考えたら・・・てオイ。

 

「自分の父親相手にそこまで言える娘もこいつくらいだろうな」

 

予想通りっていうかその人くらいしか思い浮かばない・・・いったいどんな人だ?

 

「やあ、いらっしゃい」

 

玄関でのやり取りが聞こえたのか男の人が出て来た。

無精ひげを生やし、作務衣姿で目元にナキボクロがある比較的背の高い男性だ。

彼がこなたさんの父親だろう。

 

「娘の誕生日に来てくれてあr・・・」

 

と、俺と眼が合う。何だか表情が段々歪んでるような・・・。

 

「え〜っとはじめm(ガシッ!)「君はこなたのなんだね?」ハイ?」

 

挨拶しようとしたらいきなり両肩を掴んで凄まじい形相で問いかけてきた。

ちなみに他の3人はこなたさんの親父さんの行動にあっけに取られている。

っていうか肩が痛いんですけど(汗)。

 

「いや私は(こなた)を大事にしていてね。目に入れても痛くないくらい可愛がってるんだ。娘と付き合ってるなんもっての外! どこぞの馬の骨に嫁にやるなんt「おとーさん、鬱陶しいよ」・・・何を言うんだこなた!? せめて『お父さんなんか大嫌い!』ていわんか!」

 

ツッコムところそこかいって言うかなんだろう、このやり取り・・・。

 

「まあこんな人ほっといてみんな上がってよ」

「娘にこう言われるとかえって快感だよな〜・・・」

「ね? 本格的にアブナイ人でしょ?」

 

柊姉妹は既に慣れてるのか「おじゃまします」とあっさり横を通り過ぎた。

あまりの常識を逸脱した光景なので俺も見なかったことにして、挨拶して2人に続くことにする。

 

「ああ!? 放置プレイなんて悲しいぞっていうかコラァッそこの男! お前はこなたといったいどういうk「もういいかげん仕事に戻ってよ! 締め切り近いんでしょ!?」うう・・・こなたが・・・こなたがぁ!」

 

後ろからなんか聞こえるけどキニシナイキコエナイ・・・。

 

 

 

<こなたさんの部屋>

 

 

 

「おおぅ・・・」

 

ある意味予想通りな部屋でこんな言葉しか出ない。

所々にフィギュアやポスターが飾られており本棚に入りきらない本や雑誌があちこちに積まれている。

それでもある程度整理はされているようだ。

泉家の2階にあるこなたさんの部屋はそんな女の子らしくない部屋・・・ぶっちゃけ典型的なオタクの部屋だった。

テレビやパソコンまであるのだから1人部屋としての環境は良いほうなんだろうが・・・。

 

「あ、このお人形かわいい〜。」

「相変わらずすごい部屋だな・・・」

 

普通ならドン引きしかねない部屋で、主の友人である双子はすでに(くつろ)いでいる。

 

「いや〜、ごめんねおとーさんがうるさくて。それよりまさき、どうよ私の部屋は♪」

「環境がいいんだか悪いんだか・・・」

 

ある程度その手の趣味に理解があるからなんとも思わんが、一般人なら回れ右しそうだ。

 

 

 

「お邪魔します。こんにちは皆さん」

 

数分後。

何事も無くみゆきさん到着。

プレゼントはやはり玄関先で渡してあるらしくいつも通りの笑顔で部屋に入ってきた。

下でまた何か騒ぎがあったようだが・・・。

 

「あ、ゆきちゃん♪」

「おーっす」

「や、こんにちは」

 

それぞれ挨拶を交わす。そして・・・。

 

「みゆきさんも来て全員揃ったことだし、ケーキ食べよ♪」

 

友人同士のささやかな誕生会が始まった。

 

「あたしももう17歳か〜」

 

こなたさんが感慨深げにつぶやくが、

 

「全然そんな歳には見えないけどね」

「失礼な!? この中では一番上のおねーさんにむかって!!」

 

かがみさんの言葉にこなたさんも負けじと反論する。

・・・すまんこなたさん、全然そういう風に見えないってか思えないんだが。

 

「わたしとお姉ちゃんは七夕生まれだもんね♪」

「そういえばまさき君は何月生まれ?」

「9月13日。ちなみに小学生の頃だったか13日の金曜の日、母さんに誕生日をものの見事に忘れ去られてて泣いたことがあったっけな・・・」

「それは・・・お気の毒でしたね(汗)」

「13日の金曜日・・・それだけでフラグだよね」

 

姉貴たちが母さんに一斉にツッコミを入れたのは今となっちゃいい思い出だ。

 

「年齢にするとわたし、かがみとつかさ、まさき、みゆきさんの順だね」

「精神年齢にするとほとんど逆に思えるから不思議よね」

「同意するに一票」

「ちょ!? 2人とも酷いよ!!」

「ゆきちゃんはしっかりしてるし性格も大人びてるもんね♪」

「いえ、そんなことは・・・ただ、家には反面教師といいますか、お手本となる方がいますので・・・」

 

そんなことで会話が盛り上がってきたところでこなたさんが・・・。

 

「ねぇねぇ、コレみんなで遊ぼうよ♪」

 

取り出したのはファ○コンだった!

ちなみにセットされてるソフトは落ちゲー『でっていうのタマゴ』・・・なんで『でっていう』と呼ぶのかはニコニコしている動画サイトでも見てくれ。

 

「・・・ずいぶん懐かしい物を。何年前のゲームだっけそれ?」

「あ、この動物知ってる〜」

「私も知ってます。でもかなり昔の、いわゆるレトロゲームですよね?」

「私達が生まれるかどうかくらいの年代に出たんじゃないのこれ?」

「いや〜、こないだおとーさんとの共同倉庫を漁ってたらたまたま見つけてさ。まだ動くし皆とやってみようと思って」

 

とまあ経緯はどうあれとにかく2P対戦でやってみることになった。

 

 

 

『勝者2P!』

 

「・・・そ、そんな馬鹿な!」

「結構覚えてるもんだな〜」

 

俺は小さい頃結構やりこんだ事がある(ぶっちゃけハマってた)と言うことで、こなたさんと手本がてら対戦する事になったのだが・・・。

結果は0−3で俺の勝ち。

 

「・・・まさかこなたがストレート負けなんてね」

「まーくんのスピードすごかったね」

「そうですね・・・最後のあたりは特に・・・何だか目が回りそうでした」

 

ひげオヤジをあやつり皿を動かして皿の上に乗ってる同じキャラ同士を2つ重ねて消すといういたってシンプルな落ちゲー。

4種類のキャラのほかに上下の卵の殻を使って『でっていう』を生み、相手に落とすキャラの量を増やして妨害する。

すべてのキャラを先に消したほうが1本。先に3本先取した方が勝ちだ。

『でっていう』は殻の間にどれだけキャラを挟みこむかで大きさや相手に落ちてくるキャラの量を増やすことができるのだが・・・。

 

「あの大きいキャラはすごかったですね」

「あはは♪ 生まれる時に『でっていう』って叫ぶんだね」

「インパクト強いわよね、アレは」

「2つもいっぺんに生むとは思わなかったヨ・・・ええい、陵桜のまさきはバケモノか!?」

「や、あまりにもいいタイミングで来るもんだからつい・・・」

 

やはり華を持たせたほうが良かったかな?

 

「誰かやってみる?」

「あ〜!? 勝ち逃げズルイ!」

「別にそんなつもりじゃないっての」

 

見てるばかりじゃつまらないでしょ。

 

「私はもう少し見ています」

「私も〜」

 

つかささんとみゆきさんはもう少し様子を見るようだ。

 

「じゃあ私がやってみるか。まさきくんみたいには出来ないと思うけど」

「あんなのあっさり出来ることじゃないよ〜・・・」

「たまたま運が良かっただけなんだからあんまり気にしないで」

 

さすがのこなたさんも精神的にダメージを受けてるようだ。

運の要素もあるからさっきみたいな事はそうそうない・・・と思う。

 

「これなら私でも何とかなりそうね」

「そうは行かないよ・・・この恨み、かがみには悪いけど晴らさせてもらう!」

 

そうして2人のバトルが始まった。

 

結果・・・。

 

『勝者1P!』

 

「やった勝った〜!」

「あ〜もぅ! どうやったらまさきくんみたいに出来るのよ!!」

 

今回はこなたさんの方が運がよかったようだ。

かがみさんも頑張ったがこなたさんが3−1で勝利。

 

「次つかさ! やってみる?」

「え? お、お姉ちゃんと?」

「こういうのはやって見たほうが上手くなるし、楽しいわよ?」

「・・・じゃあやってみる!」

 

こなたさんがつかささんにバトンタッチして姉妹対決が始まった。

こういったゲームに不慣れなつかささんをこなたさんがサポートするようだ。

 

15分後・・・。

 

こなたさんのアドバイスもあって現在2−2。

最後の1本で決着というところまで来たがつかささんが疲れが出てしまったようだ。

という訳でみゆきさんが代わってコントローラーを取る。

 

「お手柔らかにお願いしますね?」

「お互い後が無いし、悪いけど本気で行くわよ?」

 

コツを掴んだのか、かがみさんは気合が入ってる。

 

「お〜お〜、熱くなってますな〜」

「それにしても段々速くなってくるしくるくる回って目が回りそうだったよ〜」

「ま、時間経過でのスピードアップは落ちゲーの基本だからね」

 

隣同士の皿と皿を文字道理回転させて横に移動させるから目が回りそうになるのも分かる。

2人の対戦をよそにそんな雑談をしていた。

が・・・。

 

『勝者1P!』

 

『・・・へ?』

「・・・・・・」

「えっと・・・」

 

かがみさんは硬直したまま画面を見ていてみゆきさんはオロオロしている。

開始からまだ1分くらいだが既に勝者が決まっていた。

雑談に気を取られていて何が起こったのかわからなかったが、かがみさんをあっさり・・・。

 

「えっと・・・泉さんやまさきさんのを参考にやってみたんですが・・・」

「いくらなんでも速すぎよ・・・」

 

俺たちのを参考にしただけで初心者相手とは言っても・・・。

 

「・・・ここはまさきがかがみの仇を!」

「仇って・・・まぁ良いけど」

「・・・まーくん?」

「まさきさん、目が笑ってないです(汗)」

「な、なんかまさきくんからオーラが見える・・・」

 

正直言ってすっごくやる気になっていたりする。

俺、こんなに負けず嫌いだったっけ・・・?

そんな俺に皆が若干引き気味だったのはここだけの話。

そして結果は・・・。

 

『勝者2P!』

 

「か、勝った・・・」

「やはりまさきさんは強いですね」

「結構ギリギリだったんだけどね・・・」

 

お互い一歩も譲らず皿の上が増えたり減ったりと、一進一退の攻防が続いた。

3−2で俺の勝ちだったけど全戦かなり微妙な差でどっちが勝ってもおかしくなかった。

 

「みゆきさんってやっぱり何でも上手だよね」

 

まったくだ。

しかも俺はかなり死に掛けてるのにみゆきさんは涼しい顔をしている。

試合に勝って勝負に負けたような気がする、というのはこんな時だろうか?

 

「まさき君、生きてる?」

「何とか・・・」

「ゆきちゃんすご〜い♪」

「い、いえ、そんなことは・・・」

 

世の中にはいるんだな・・・何をやっても万能な人って・・・。

 

 

 

「お、もうこんな時間か」

 

時間は既に6時になろうとしている。

あの後、格ゲーやらアクションゲームやらで存分に遊んでいた俺たちは時間を忘れていたようだ。

ちなみに何回かこなたさんが部屋を出て行って何かしていたようだが・・・。

 

「気にしないでいいよ。単なる害虫退治だから」

 

その一言でこなたさんが部屋を出て行った理由は大体想像がつく(汗)。

 

「そろそろお開きですね」

「今日は楽しかったけどおとーさんを抑えるのに疲れたよ・・・」

 

娘が見知らぬ男を誕生日に招待したからか、父親としてはやはり心配なんだろうか?

さすがにそろそろ失礼しないとややこしいことになるかもしれない。

 

 

 

<帰り道>

 

 

 

「あの落ちゲーまさき君ずいぶん上手かったわよね」

 

そんなにやりこんでたのかと、帰る途中の雑談の中でかがみさんが聞いてきた。

 

「小さい頃にね。シングルプレイで『でっていう』を100匹以上生んだことがあるよ」

 

その時のキャラの落下スピードは既に尋常じゃなかったのを覚えている(汗)。

 

「100匹って・・・どんだけ〜」

「みゆきさんなら慣れれば200匹くらいはいけるんじゃない?」

「えっとさすがにそれは・・・自宅には家庭用のゲーム機はありませんし」

 

照れたようにみゆきさんは答える。

それであの実力なんだから不思議なもんだ。

 

 

 

その後みゆきさんと別れ、柊姉妹を送り届けて(通り道なんだが)帰宅した。

もうすぐ6月。

梅雨の時期だ。

洗濯物が乾きにくくなるのが主婦の悩みだろうがそういう時はコインランドリーにでも持ち込めばいい。

 

「(メシの準備でもするか・・・)」

 

さっきまでのにぎやかな時間を思い出すと何だか1人でいるのが物足りなく感じてるのに気づく。

あのメンバーの中にいるのが当たり前のように思えてきたからかもしれない。

 

「こんなに寂しがりやだったかね俺・・・1人暮らし始めてもう1年以上も経つのに」

 

そんなことをボヤキながら俺は夕飯の準備に取り掛かった。

 

 

 

つづく・・・



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第五話 やる気のある人、ない人

「今日は朝から身体測定や。A組が終わったら呼びに来るから女子から出席番号順に保健室に行くように〜!」

 

6月のある日、朝のHR。

今日は身体測定の日だ。

人数が人数なので一斉に始めるワケにはいかず、学年ごとに数日に分けて行われる。

今日は2年のA組からD組までなので、遅くとも3時間目くらいには回ってくるだろう。

 

「・・・ハァ、今年も来てしまったかこの日が」

「はぅ〜・・・(わたわたおろおろ)」

 

こなたさんがやたら暗い表情でぶつぶつ呟き、つかささんは顔を赤くして落ち着かない様子で席についてる。

 

「泉さんもつかささんもどうしたのでしょうか?」

「こなたさんはなんとなく想像つくけどつかささんは、なぁ?」

 

休み時間中えらい挙動不審な様子の2人になんだか声もかけづらい。

そうこうするうちにウチのクラスに身体測定の順番が回ってきた。

 

 

 

<こなたの場合>

 

 

 

(の、伸びてない・・・)

 

保健室から出たわたしはあまりの結果に愕然としていた。

 

(そんな馬鹿な! いくらわたしでもまだ年齢的にまだ成長するはず。まさかおかーさんの遺伝子がここまで強いとは・・・)

 

いくらなんでも横はともかく縦がコンマ1くらいしか変わらないなんて・・・は!?

まさかおとーさんが私に呪いを!?

 

 

 

<つかさの場合>

 

 

 

(うう・・・失敗したぁ・・・)

 

今日が身体測定だったのをすっかり忘れてた・・・。

 

(横のほうが伸びちゃってる上にキャラモノの下着はいてきちゃった・・・。はぅぅ、先生の視線が・・・)

 

今日は厄日だよ・・・。

 

 

 

<かがみの場合>

 

 

 

(やっぱり間食がすぎたかな〜・・・)

 

身長はまだしも3サイズや体重が少し・・・。

 

(危なかったな〜、もう少しで○○kgオーバーするところだったわ・・・平均よりはまだ下なんだろうけど、コレは少しダイエットが必要かな。)

 

何度目かは忘れたけどがんばらないと!

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「こんな事言うのも何だけどさ、なんか見ただけで結果がどうだったか分かるような気がするんだけど・・・?」

 

休み時間、かがみさんも交えて暗い表情で会話している女子が3人・・・。

 

「そうですね・・・何か悪い結果があったんでしょうか?」

 

みゆきさん、あんたがそれを言っちゃ・・・!

 

「ちっくしょう、一人だけ余裕そうな顔をしやがって!!」

「不公平だ! 世の中はもっと公平であるべきだ! 君もそう思わんかねみゆきさん!?」

「ふえぇ!?」

「ゆきちゃんい〜な〜。なんでこんなに差があるんだろ・・・」

 

2人が詰め寄る中つかささんは物欲しそうにみゆきさんを眺めていた。

みゆきさんは俺から見た感じでも、かなりスタイルがいい上にバランスも取れてるように見える。

そしてまだ成長してるかどうかは分からないが彼女達のような反応をしないところを見ると、まだ成長していたのか現状に満足してるのか・・・。

いや、どこが成長してるとかそうじゃなくて・・・って誰に説明してるんだ俺は!

ともかく、女性としては彼女のスタイルがやはりうらやましいのだろう。

かがみさんやつかささんはまだ大丈夫だとしてもこなたさんは・・・いや、あえて言うまい。

 

「どうやったらゆきちゃんみたいになれるのかな?」

「きっと食べてる物の差だよ・・・」

「そっか・・・みゆきって上流階級だもんね」

「えっとけっしてそういうワケでは・・・(汗)」

「あのさ・・・身体測定って1年でどれだけ成長をしたかを見るためであって、他人と比べるためじゃないでしょ?」

 

ネガティブオーラ全開の3人にとりあえず言ってみるが・・・。

 

「まさきは順調に育ってるからそんなこと言えるんだよ! どんだけ成長したの!?」

「あ〜・・・俺は身長173cm、体重は65kgだったから少し伸びたくらいかな?」

 

成長期の男子はこんなもんだろう。あえて言うならもう少し身長が欲しいかな?

因みに去年から見ると身長1cm、体重2kg増だった。

体重が増えてるのが気になるけど別に2重あごでも段腹でもない。

 

「まさき〜・・・その身長、オラにほんの少しでいいからわけてくれ〜」

 

泣きながら背中にへばりつかないでくれこなたさん。

 

「どうしろっての。てか降りてよ」

 

少しくらい恥じらいというものを持ってないのだろうか?

たまにこなたさんはこうやって背中にへばりついてくる。

そのたびにこっちの心臓が飛び跳ねそうなんだけど、強く言えない自分が情けない・・・。

 

 

 

<昼休み>

 

 

 

「お〜す、お昼食べよ〜」

「あ、お姉ちゃんいらっしゃ〜い♪」

「んじゃ机を合わせますか」

 

今日もかがみさんがわざわざ隣のクラスからきていつものメンツで昼食を食べる。

毎度のことで既に周りも気にしなくなってたりする。

 

「そういえば今度従姉妹のおねーさんが結婚するんだけどさ・・・」

「ほう、そりゃめでたい。」

「ジューンブライドだね♪ いいなぁ」

「でも、こんなジメジメした季節なのになんで幸せの代表なんだろ?」

 

言われてみるとその疑問ももっともだ。

 

「一般的に6月はローマ神話の女神ユノに由来するといわれています。ユノはギリシャ神話ではヘラと言う女神で、結婚と出産を司っているんですよ」

 

で、毎度の事ながらみゆきさんが丁寧に説明してくれる。

 

「ですから6月に結婚するとヘラの守護と祝福を得られると言われているんです」

「みゆきさんってホント、何でも知ってるよね〜・・・そういえばさ、結婚するなら幼馴染と初対面でお金持ちの令嬢とどっちを選ぶ?」

 

またどっかで聞いたようなネタだな・・・。

 

「断然ビ○ンカね!」

 

とかがみさんが即答!

てか名前知って・・・まぁアレは結構有名だからな。

しかも最新のリメイク版では選択肢が増えてるし。

 

「同感、やっぱり親しいほうを選ぶと思うな」

 

とりあえず名前出したところはスルーしてかがみさんに同意。

ちなみにつかささんとみゆきさんは何のことだか分からないのか頭にハテナが浮かんでるようだ。

 

「ほほう、かがみもまさきもお宝よりも愛を・・・・・・!」

 

こなたさんが感心したように言うと何か閃いたような顔をしてニヤニヤとこちらを見る。

はっきり言って嫌な予感しかしないのだが・・・。

 

「・・・なに? こなたs「まさきはわたし達の中から選ぶとしたら誰を選ぶのカナ?」・・・ハイ?」

 

こなたさんのことだからいつかネタにされるかもなんて思ってたが・・・。

何で皆そろって微妙に赤い顔するんだ!?

ここは笑うトコだろ普通!

 

「選ぶも何も俺達は友達だろ〜に」

「なに言ってんの!? 今現在キミのまわり皆女の子なんだよ? ツンデレ巫女に天然巨乳メガネっ娘に天然ドジっ子に貧乳ロリとそれぞれ萌え要素満載でまさきも十分主人公の素質あるし選択肢次第でこうry「いい加減黙んなさい!」アベシ!?」

 

こなたさんがすごい勢いで捲し上げたが(ぶっちゃけ暴走とも言う)、見かねたかがみさんが物理的に止めてくれた。

それでもなんだか微妙な空気が・・・。

 

「わ、私はあんたの事なんかなんとも思ってないし、大体ツンデレじゃない!」

「え、えっと私がまーくんと・・・あうあう」

「・・・・・・ぽ〜・・・・・・」

 

頼むからいちいち妙な反応しないで落ち着いてくれお前ら!

 

 

 

<翌日:2−B教室>

 

 

 

昨日は少しギクシャクしてたが・・・。

案外2人ともけろっとした顔で挨拶していつも通り一緒に登校した。

先に教室に来ていたみゆきさんも特に変わった様子は見られない。

・・・俺だけ気にしすぎなんだろうか?

 

「こなちゃん来ないね〜」

「こなたさんの遅刻は珍しくないでしょ」

 

そんなことを言ってるうちに始業ベルが鳴り、黒井先生が来てSHRが始まる。

結局こなたさんはまだ来てない・・・風邪でもひいたのかな?

 

「泉。泉〜? なんや遅刻か?」

 

ドドドドドドドドドドドドドドドド!

 

ガラ!

 

「ストップ! 遅刻じゃないです!」

「お、なんやいm「坂の下で立ち止まってる女の子を見かけたんで元気付けてあげたてたら遅くなりました! 話を聞いたら病弱で休みがちな上に留年してクラスに溶け込めずにいたから1歩踏み出すのが怖かったらしくて、そんな彼女を後押ししてたらこんな時間に!」・・・・・・」

 

突然来たと思ったらすごい勢いで遅刻の理由を話す・・・ってどう聞いてもどっかでアニメ化したギャルゲーじゃん!

あ、先生の拳が震えてる・・・。

 

 

 

「アタタ・・・」

「ま、自業自得だわな」

「こなちゃん寝坊しちゃったの?」

「いや〜、まさきから借りたゲームが中々止まらなくてつい・・・」

「何時までやってたのさ?」

「時計は見てなかったんだけど朝日が見えたからちょっと仮眠しようと思って気がついたら」

 

ホントに何時間やってるんだ(汗)

 

「少しは自制しないとダメでしょ。」

「1回ハマちゃったら一気にやっちゃったんだよ〜♪」

「どんなゲームなんですか?」

「ん? 第3次○パロボαだよ。内容によっては人を選ぶけどス○ロボやったことない人で興味があるならαシリーズが難易度低めだからオススメ」

 

なにせ某会社が作ってた時は使えないキャラっていうか不遇なキャラがあまりにも多すぎたからな。

アニメでは主人公や主人公機なのにそのゲームでは戦力外とか・・・。

ちなみにいろんなロボットが番組という枠を超えて力をあわせて戦う、という感じで話が進むからか、原作が再評価されることもあるくらいだ。

 

「因みにどこまでやったの?」

「え〜とスーパー系の男主人公で自由に続いて正義が仲間になったとこ」

 

たった数日でどんだけ早解きしてんだお前は!

 

 

 

「〜♪」

「遅刻したのに何でそういう雑誌をしっかり買ってきてるの・・・?」

 

休み時間にどういうわけかこなたさんは雑誌を新品袋から開封して読んでいた。

 

「・・・・・・・・・!」

 

何事かつぶやいた後何か決心したように雑誌を閉じた。

なにやら強い決意をしたようだが・・・。

 

 

 

<数日後>

 

 

 

「よ、帰ろー」

 

いつものごとくかがみさんが声をかけてきたが・・・。

 

「あ、ゴメン今日用事あるから一緒に帰れないや」

「用事なんて珍しいね?」

「こなちゃん、何かあったの?」

「うん、ちょっとアルバイト始めたから」

 

・・・・・・。

 

『は?』

「おっと初日から遅れるわけには行かないから先行くね〜」

 

そういってあっけに取られる俺たちを残してこなたさんは帰って・・・いや、バイトに行ってしまった。

 

 

 

<下校中>

 

 

 

「しっかし一体こなたのヤツどういう風の吹き回しかしら?」

「まあこなたさんも何かに目覚めたんじゃない?」

「目覚めるって・・・不思議な力とか?」

 

そんなことを話しながら帰路に着く俺たち3人。

しかしつかささん不思議な力って(汗)。

 

「つかさの言う事は置いといて(苦笑)。大方遊びのためとか欲しい物とかのためでしょ」

「それ以外考えられないのがな〜・・・」

 

ため息しか出ない上にどんなバイトか想像がつかない。

 

「コンビニや本屋の店員とか家庭教師とかかな?」

「後者は絶対にありえないわね・・・」

「明日辺り本人に聞いてみようか」

 

 

 

<翌日:2−B教室前の廊下>

 

 

 

「私のアルバイト? ただのコスプレ喫茶だよ」

「それは『ただの』っていうのか・・・?」

 

すまん、似合いすぎて言葉がない。

それには柊姉妹も同様らしい・・・。

 

「でもそういうのってスタイル良くないとダメなんじゃないの?」

「ちっちっち、ところがそうでもないのだよつかさ。私も長い間胸が無いのを嘆いた来たけど・・・

 

貧乳はステータスだ! 希 少 価 値 だ !!

 

ってあるゲームのヒロインが言っててさ。確かにいわれてみると需要あるじゃん?」

 

何でゲームのセリフでそこまで自信をもてるのか聞いてみたいが男の俺がツッコムのもどうかと思い黙っておく。

しかしあえて言わせてもらおう。

 

「そういう話はできるだけ俺のいないところでしてくれ・・・」

 

学校の、しかも男子の眼の前でそんな話するなよ・・・。

 

「なになに、まさきもやっぱりおっきい方が好み?」

「やかましい、好いた惚れたにそんなもん関係あるかい!」

 

例え見た目が良くても中身がだらしなければ意味がないと言うのが俺の持論だ。

 

「私たちの中じゃゆきちゃんが一番有利・・・かな?」

「たしかに見た目も中身もほぼ完璧・・・いや、まだ私たちにも希望はあるはず!」

「そこ、隅のほうでぼそぼそとなにを言ってんの!?」

 

・・・こうやって男子に対する偏見って広がってくのか?

 

「な、なんでもないよ〜! ただあたし達もがんばらなきゃって・・・」

「はいつかさストップストップ!」

 

つかささんが何か言いかけてかがみさんが無理やり止めた。

 

「何・・・?」

「なななななななんでもないわよ!」

「おやおやかがみん、なに動揺してるのかな〜?」

「うっさい! だまれ!!」

 

結局何のことだか分からずじまいだった・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第六話 一喜一憂

7月7日。

 

今日は七夕であり、柊姉妹の誕生日だ。

例によって俺も招待されて(ちと大げさだが)こなたさん、みゆきさんと一緒に柊家におとずれた。

 

『いらっしゃ〜い♪』

『かがみ(さん)、つかさ(さん)お誕生日おめでと〜!』

 

三者三様にお祝いの言葉を送ってそれぞれプレゼントを渡した。

嬉々として受け取るかがみさんとつかささん。

ちなみに俺はおそろいのリボン、みゆきさんはペアのイヤリングとここまでは良かったのだが・・・。

 

「コレ・・・なに?」

 

こなたさんのプレゼントを覗いたかがみさんがなにやら顔を引きつらせてるようだが・・・?

 

「なにって団長腕章だよ? かがみなら似合うと思って♪」

「何であたしなら似合うのよ!?」

 

まぁ言いたいことは分かる・・・が、友人にそんなモン送るか普通?

いや、こなたさんだからこそか。

 

「こなちゃんコレ何に使うの?」

 

ウチの制服に似てるけど、とつかささんが取り出したそれは・・・。

 

「とぅはッ!?」

「ちょっ! おま!?」

 

コレはさすがにツッコミもんだろ!?

 

「おお〜、それ高かったんだよ。大事に使ってね♪」

「姉妹揃ってコスプレさせるな!!」

 

とりあえずかがみさんが何で元ネタを知ってるのかはあえて追求しないでおく。

 

 

 

<つかささんの部屋>

 

 

 

「んじゃ、改めて・・・」

「かがみさんつかささん」

「はっぴーばっすで〜ぃ!!」

 

3人でささやかながら2人の誕生日を改めて祝った。

17本のろうそくを2人で消すのも見てて微笑ましい。

 

パチパチパチパチ!

 

俺たちに拍手を送られながら2人はやっぱり嬉しかったのか照れくさそうに笑った。

そんな2人を見て内心かなりドキドキしたのは秘密だ。

 

「それじゃケーキ切るよ〜」

「主賓に切らせる訳にはいきませんからね♪」

 

みゆきさんによってケーキが切り分けられて皆に配られる。

そしておしゃべりしながらこなたさんがこんなことを言い出した。

 

「まさきって9月生まれだよね?」

「ん? そうだけど」

「そうなると私やかがみとつかさはお姉ちゃんだね」

「そうすると私は妹・・・と言うか末っ子でしょうか?」

「かがみさんはともかくこなたさんとつかささんがお姉ちゃん・・・ねぇ」

 

実際姉が2人いるから呼びなれてはいるが。

 

「あたしは呼ばれなれてるけどね」

「・・・・・・」

「つかささん?」

 

なにやらぼ〜っとしてたと思うと突然

 

「まーくん、私のことお姉ちゃんって呼んでみてくれる?」

「はい?」

 

こんなことを言い出した。呼ぶのはかまわないけどなんか必死って言うか(汗)。

 

「じゃあ・・・つかさお姉ちゃん」

「・・・・・・」

 

なんだか顔を赤くしてポワ〜ンとしちゃってるんですけど(汗)。

 

「・・・ものの見事に放心してるね」

「まぁ末っ子だしね。1度は呼ばれたかったのかもね」

「私・・・ではやはりダメですよね(ボソ)」

 

末っ子なんてそんなモンだろう。

みゆきさんが何かつぶやいたようだが・・・?

 

「まさきはみゆきさんにお兄ちゃんって呼ばれたい?」

「いくらなんでもソッチの趣味は無いぞ? 念のため」

 

まぁ俺も長男だけど末っ子なもんで、従姉妹にしか兄と呼ばれたことは無いが。

 

「年の離れた従姉妹がいたからそっちで呼ばれ慣れてるけど」

「・・・そうなんですか」

 

なんでそんな残念そうな顔するかなみゆきさん。

って言うか俺をお兄ちゃんと呼びたいのか?

 

「別に呼んでみたいならかまわないよ?」

「え?・・・で、では・・・コホン、まさきお兄ちゃん♪」

「・・・・・・」

「あ、固まった」

 

前言撤回。

こんなにかわいらしく「お兄ちゃん♪」なんて言われたらいろんな意味でやばい(汗)。

 

「ていうかなんでこんな話になってんのよ!」

 

 

 

何とか俺もつかささんも帰還して話題は次第に夏休みの話に・・・。

 

「あと半月でやっと夏休みか〜」

「そうだね♪ 海にプールに花火大会にそれから・・・夏祭り!」

「他に何か定番ってあったかしら?」

「夏と言えば戦場の有明! なんといっても! KO☆MI☆KEでしょ!!」

『そりゃお前だけだろ!?』

 

思わずかがみさんと一緒にツッコンでしまう。

 

「コミケ・・・どこの毛?」

「つかささんそれ違う!」

「みゆきは何か定番ってある?」

「そうですね・・・今年も家族で海外に行くくらいでしょうか?」

「・・・今年・・・『も』? マジ?」

「さすがみゆきさん。上流階級は規模が違うね〜♪」

「ていうかその前に期末試験あるの忘れるなよ〜、そこの2人?」

 

かがみさんのその言葉にピクッと反応するこなたさんとつかささん。

 

「あうぅ〜! 今日くらい思い出さないようにしてたのに〜・・・」

「ごめんごめん、分からないところは教えてあげるから一緒にがんばろ?」

「かがみん、私は〜?」

「あんたはたまには努力しなさい」

「はぅ!?」

 

がんばれつかささん、君はきっとやれば出来る子だ!

こなたさんは・・・(汗)。

 

「こんなこと言うのもなんだけど、陵桜って結構レベル高いのにそんな調子でこなたさん、よく入れたね」

「あんた一夜漬け得意だから受験も一夜漬けとか」

「さすがの泉さんでもそれは・・・」

「・・・(ニヤリ)」

 

・・・・・・

 

『それはいくらなんでもちょっとマテ!』

「い、泉さん・・・(汗)」

「こなちゃん、冗談だよね?」

 

俺やかがみさんどころかさすがにつかささん達もツッコミたくなるぞソレは!

 

「いや〜さすがにそれは無いよ〜」

 

『(冗談に聞こえない!!)』

 

なんか今こなたさんを除く俺たち全員の思考が1つになったような気がするぞ。

 

「よく勉強続けられたわね・・・?」

「お父さんが条件付けてきたんだよ」

「条件ってどんな?」

「この学校受かれば新型のゲーム機とパソコン買ってくれるって♪」

 

・・・娘の扱いが慣れてるって言うかあの(おや)にしてこの()あり・・・?

 

「でも思ったんだけどさ・・・」

「どうしました?」

 

こなたさんがじ〜っと俺たちを見てある一点で止まる。

 

「?」

「つかさが同じ学校にいるほうがよっぽど不思議」

 

ちょっ!?

 

「・・・確かに」

「そんないいにくい事をハッキリと!?」

 

かがみさん、ここは姉として否定してやろうよ・・・。

 

 

 

<翌日:2−B教室>

 

 

 

「見て見てこなちゃん、携帯電話買ってもらったの♪」

 

俺は朝会った時点で番号とメアドは交換済みだ。

かがみさんも買ってもらっていて2人ともかなり上機嫌だった。

 

「おお〜、あとで番号とアドレス教えてよ、私のも教えるから」

 

ここまで聞いてふと疑問が1つ・・・。

 

「あれ? こなたさんって携帯持ってたっけ?」

 

使ってるのを見たことが無いんだけど・・・?

 

「うん? たいてい家に忘れてくるけどね〜」

「それじゃ携帯の意味ないでしょ・・・」

「そもそもどこに置いたっけ?」

「・・・こなたさんの携帯って当てにならなそうだ」

 

ウチの親父でもやらんぞそんなこと。

 

 

 

ちなみにつかささんの携帯電話は翌日洗濯機の中に消えてしまったという・・・。

 

 

 

それからさらに時間が経って期末テストも終了、無事に夏休みを迎えられそうだ。

 

「私は今回がんばったよ♪」

「う〜ん、今回はヤマはずれちゃったから点数ヤバイかも・・・」

「こなたさんいい加減まじめにやらないとまずいんじゃない?」

「え〜、だって高校の知識って大人になったら使わないじゃん?」

「そういう考え方が問題なのよ・・・」

 

実際、期末テスト前に図書室などで勉強会を開いたのだが、こなたさんはほとんど『右から左』といった感じだったりする。

反面、つかささんは結構がんばってて今回は手ごたえがあったようだ。

 

「テストも終わったことだし、みゆきも誘って久しぶりに遊ぶか?」

「それい〜ね〜。映画とかカラオケとかご無沙汰だし♪」

「そういえば最近カラオケ行ってないね〜」

「じゃ、日曜日いこっか?」

「けって〜い!」

 

女性陣は盛り上がってるが、あいにく俺は蚊帳の外。

さすがに女の子同士で遊びに行くのを邪魔するのもなんだし・・・っと思いきや。

 

「んじゃお昼はケーキバイキングでその後カラオケって事で・・・まさきは日曜空いてる? ってか空けろ♪」

「何でいきなり俺に振ってくんの!?」

 

しかも命令形かい!

 

「まーくん日曜日は忙しいのかな?」

「同級生の男子の歌って音楽の時間くらいしか聞けないからね〜♪」

「・・・期待しないで。たのむから」

 

歌うこと自体は好きだがヘタの横好きというヤツで・・・。

実家にいたときは友達に誘われてよく行ってたが、その友達の影響もあってジャンルはある意味こなたさん寄り。

最近の流行の歌にも疎いし、少し前のJ−POPもほとんど知らない。

そのうえ女の子とカラオケ行くこと事態初めて。

まぁ彼女達は基本的にいい人達だからそれだけで敬遠されることは無いと思うけど。

 

 

 

<日曜日>

 

 

 

みゆきさんも誘って5人で昼食代わりのケーキバイキングの店に入った。

みんな皿一杯にこれでもか、と持ってくるけど・・・。

 

「そんなに一杯食べきれるの?」

「このくらい普通よ普通♪」

「甘いものは別腹だもんね〜♪」

 

そんな不安をよそに4人揃って幸せそうな顔で次々とケーキを平らげていく。

平らげては次のケーキを・・・てな感じで最初からずいぶんハイペースだ。

店員の説明では残したら追加料金が請求されるはずである。

そして案の定・・・。

 

「最初のペースで飛ばしすぎたわ・・・」

「さ、さすがにキツイかも・・・」

「はうぅ〜・・・」

「でも全部食べないと・・・」

 

後先考えずに食べまくったらこうなるよな・・・あ、店員がこっちの様子を見ていった。

甘いものは別腹と言っても限度があるだろう。

残り時間は・・・ま、何とかなるか。

 

「食いきれない分こっちに移して」

「まさきさんは、大丈夫なんですか?」

「こういう事態を予測してたから食う量はセーブしてた」

「・・・なんか悔しいわ」

「ごめんねまーくん」

「食べる量が少ないと思ってたけどそういう事だったんだね・・・」

 

そんなわけで店員の目を盗んで(なんとなく気が引けた)残り物を片っ端から平らげるが・・・。

 

「・・・甘ッ!」

 

こんな甘いのよくもまぁみんなして大量に食えるな。

コーヒーで口直ししながら残ったケーキをなんとか平らげた。

 

「まさきってひょっとして甘いの苦手なタイプ?」

「嫌いじゃないけど特別好きってワケでもない」

「本当にゴメンねまーくん?」

「良いってこんくらい・・・ぐぅぇっぷ。でも、しばらくはケーキは見たくないかも・・・」

 

ちと食いすぎた・・・でも大声出せば少しは消費するかな?

まあカラオケBOXまで距離もそこそこあるし、多少の腹ごなしにはちょうど良いだろう。

会計を済ませて表に出た俺たちは雑談しながらカラオケBOXへと歩いていった。

 

「これからバイキング行く時はまさきについて来てもらおう♪」

「明らかに残飯処理係じゃん俺・・・」

 

 

 

<カラオケBOX>

 

 

 

「さ〜、時間も限られてるしちゃっちゃと入れるよ〜♪」

「いきなりテンション高いね・・・フリータイムなんだからってもう入れてるし!?」

「さっさと入れないとこなたのアニソンメドレーになるわよ?」

「わたしはちょっとこの本見て決めるね?」

「どんな歌が入ってるのでしょうか・・・?」

 

つかささんとみゆきさんは選曲に悩んでる。

曲数もハンパ無い。

かがみさんが入力したのを見て俺も入れることにする。

 

「なんとぉ!? さすがの私もこれは予想外だ!」

「え・・・こなたのこの反応ってまさき君もまさか・・・」

 

俺が入れたのは某女性声優兼歌手の歌。

確かゲームの・・・OPだったかな?

こなたさんは分かりそうだが皆はどう思うだろ・・・。

 

こなたさんはまじめに歌えば結構上手いのだろう。

が、いかんせんメチャクチャ古いアニメの曲なのでノーコメント。

かがみさんも中々上手い・・・微妙に時代がかかってるような気はするが。

声が高い分、女の子は皆基本的に上手なのかな?

で、俺の番。

 

「まーくんの歌楽しみ〜♪」

「歌手も曲名も知らないものですけどどんな歌なんでしょう?」

「頼むからあんまり期待しないで・・・」

 

そんなこと言ってるうちに前奏が流れてくる。

 

『♪~~~♪』

 

「をを!」

「へぇ・・・」

「わぁ、まーくん上手〜」

「本当ですね」

 

あ、引かれてない。

正直こなたさん以外どういう反応をするか少し不安だったが・・・。

本来女性歌手の歌だがそっちの方が俺にとっては歌いやすいので女性歌手の歌を歌うことが多い。

このメンバーならよっぽど変な曲を入れない限り大丈夫かもしれない。

でもやっぱり俺も男なんで・・・。

 

『♪~~~!!♪』

 

J○Mの熱い曲を思いっきり歌うこともあれば

 

『♪~~~♪」

 

ちょっと前の某ジャニーズの歌も歌ってみる。

みんなの反応も上々のようで結構盛り上がってくれた。

ノリにノッてこなたさんとかがみさんがデュエットで歌ってみたり、つかささんがかわいらしく歌ったり、みゆきさんが名前繋がりの某歌手の歌でさらに盛り上がった。

最後に全員で歌って楽しい時間を終えた時には既に夕方。

 

「いや〜、男の子がいるとなんだか新鮮だね〜♪」

「そうだけどほとんどこなたと同系統だったわよね?」

「否定できない自分が悲しい所だけどね・・・」

「でも上手だったよ〜」

「泉さんと同じようなペースで歌ってましたけど喉、大丈夫ですか?」

「前いた所で友達と3人で6時間歌ったことあるからな〜・・・3回に一回のペースで」

 

今思うと結構無茶なことしてたような気がする。

 

「よく喉潰れなかったね・・・」

「さすがに次の日の朝は喉がガラガラだったけどね」

 

 

 

ちなみに翌日、かがみさんが「体重が増えた!」と嘆いていたのは別の話である。

 

 

 

「見た目全然変わらないのに何でそこまで気にするかな、かがみんは?」

「気にしないあんたの方がおかしいのよ!」

 

 

 

つづく・・・



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第七話 楽しい夏休みの過ごし方

夏休みに入って数日。

 

俺は・・・いや、俺達は近所で開かれてるお祭りに来ていた。

両脇には浴衣姿の柊姉妹に途中で合流したこなたさん、みゆきさん。

 

「夏と言えばかき氷だよね。ねぇまさき、ここは気前良くぽ〜んと「おごらないからね」・・・え〜、いいじゃんかき氷くらい」

「あんたは少しは自重しろ。てかバイトやってるんだから自分の分くらいは自分で面倒見れるでしょ~が」

 

既につかささんとみゆきさんはお目当てのかき氷を注文している。

 

「そういえばちょっと疑問だったんだけど、レモン、メロン、イチゴは解かるけど・・・ブルーハワイって何味?」

「・・・そういや謎だよね」

「ブルーハワイ味・・・かな?」

 

まぁそうなるよな。

 

「てなワケでみゆきさん、何か知ってる?」

「申し訳ありません、わたしもちょっと・・・」

「え、みゆきさんに解からない事が!?」

「いやまさきくん、みゆきにだって解からない事の1つや2つくらいあるでしょ・・・?」

 

そうだけどみゆきさんなら絶対知ってそうなイメージがあるからな〜。

と思ってると・・・。

 

「私知ってるよ? 名前は同名のカクテルっていうお酒から来てて、カクテルのほうも映画『ブルーハワイ』から来てるんだって♪」

 

以外にもつかささんから答えが返ってきた!

 

「へぇ。良く知ってるね」

「勉強になりますね♪」

「・・・・・・」

 

ん?

なんかこなたさんの反応が・・・?

 

「どうしたのこなたさん?」

「いや〜、つかさに教えてもらうとなんか負けたような気がするのは何でだろう?」

 

そういう発言は思ってても言わないように。

聞こえてないようだから良いものの・・・。

 

「やっほ〜。こなたじゃ〜ん♪」

 

そんな話をしているとこっちに婦警さんがやってきた。

こなたさんの事を知ってるみたいだけど、はて?

 

「婦警さん・・・? こなたの知り合い?」

「従姉妹のゆいねーさんだよ」

「よろしく〜!」

 

えらくノリの軽い婦警さんだった。

 

「こなた、先輩達の言うことを聞いてちゃんと早めに帰るんだよ?」

『イヤイヤイヤ! ウチら同級生ですから!!』

 

こなたさんを基準に考えないでください!

思わずかがみさんと揃ってツッコンでしまった。

・・・でもなんか微妙に恥ずかしくなるな、この同時ツッコミ。

 

何だかんだで一緒に回る事になった成実ゆいさん(以前聞いた新婚さん)。

服装からして仕事中なのではと思っていたが・・・。

 

「成実! こんなトコでなにやってんだ!」

「ギックゥ!?」

 

警官が婦警を引きずっていくと言う非常にシュールな光景を見ることとなった・・・。

それはそれとして、改めて出店をまわる事にする。

かがみさんはみゆきさんと金魚すくい、こなたさんは射的で射的屋のおにーさんを狙うとお約束のボケをかましたり・・・当てたらお持ち帰りする気だったんだろうか?

 

「綿アメってふわふわして甘いから大好き〜♪」

 

そういってご機嫌なつかささんはお祭りをしっかり楽しんでるようだ。

 

「子供じゃないんだから落ち着いて食べなさいよ。顔についてるぞ?」

 

と金魚を1匹ゲットしたかがみさんがつかささんの顔についた綿あめを取って自分の口に運ぶ。

・・・見てて思わぬ妄想するのは健全な証拠だよね?

 

「我慢することナイヨ〜? やってあげれば良いじゃん」

「(ビックゥ!!)」

 

心を見透かしたかのように後ろからささくなそこ!

 

「目がちょっとやばかったよ?」

「げ、マジ?」

「まさきさん・・・」

「ごめんなさい」

 

なぜ俺が謝ってるのか分からず首をかしげる柊姉妹だった。

 

 

 

「はう!?」

「どしたのつかさ?」

「いつの間にかお小遣いの残りが少なくなっちゃった・・・」

 

いろいろ遊ぶ上に出店のメニューって結構高めだからいろいろと目移りするんだよね。

 

「ちゃんと考えて使わないといかんっていう天の啓示だね」

「あうぅ・・・」

「でも、出店ってその場の雰囲気が楽しくて、つい使ってしまうんですよね♪」

「わかるわかる。同人誌は高くてもそう感じないのと同じだよね♪」

「その例えはどうかと思う(汗)」

「そもそもそんな店に行ったことも無いわよ」

 

何回か覗いた事があるが何であんな薄っぺらいのが単行本並みに値が張るのかが分からん。

物によっちゃプレミア付いた物で1000円以上するし・・・。

 

「なんかさ・・・最近まさきとかがみのツッコミがきつくなってるような気がするヨ」

『お前がツッコミどころ満載だからだろ!』

「うお!? しかもシンクロ率が上がってるし! コレも2人の愛のn」

『何でやねん!?』

 

そんな仲になった覚えは無い!

まぁ全力で否定されると微妙にへこむが・・・。

 

「お? 皆そろってんな〜」

 

そんなときに聞き覚えのある関西弁が聞こえてきた。

俺達を知ってて関西弁を操る人といえば・・・。

 

「こんばんは、黒井先生」

「先生もいらしてたんですね♪」

「おう、ウチは祭り好きやし、せっかくやから来て見たんや」

「せんせ〜! やっぱり彼氏とかと一緒なんですか?」

 

おいおい、ソレを聞くか?

 

「あっはっは、いるわけないやん。そっちは・・・ハーレムやな♪」

 

仮にも教師が生徒になに言い出すんですか!?

 

「先生、さすがにそういう冗談は・・・」

 

かるくジト目で先生を見るが・・・。

 

「ホンマにそう思っとるんか?」

 

ほれ、と指を指されて振り向いてみると

 

『・・・・・・』

 

真っ赤になって固まってる4人がいた!

先生が冗談言っただけなのにこなたさんまで真っ赤になるようなことか今の!?

 

「年頃の男女がいっしょに「それ以上は禁止ぃ!」・・・何やつまらんな〜」

 

生徒で遊ばないでください、お願いですから・・・。

 

 

 

その後、皆を正気に戻して(約20分かかった)先生を加えた俺達は、祭りを楽しんだ。

その途中、再び成美さんに再び遭遇した。

 

「人数増えて楽しそうだね〜」

「ども〜」

「・・・・・・」

 

なにやら下からなめる様に黒井先生を見てたが・・・。

 

「今度こそ発育のいい子だよね?」

『先生だよ(です)!』

 

これはさすがに本人以外全員でツッコミを入れざるを得ない・・・。

当の本人は唖然としていたりする。

 

「いや〜、すいませんはやとちりしちゃって・・・従姉妹がお世話になってます」

 

とりあえず一旦落ち着き、先生と成実さんが自己紹介をした。

 

「いえ〜、そんなことは。今日は、お仕事・・・で?」

「警備のお仕事なんですよ〜。この暑いのにねぇ〜」

 

・・・現在の成実さんの格好。

 

着てる物、婦警の制服。

 

まぁコレはいいとして・・・。

 

頭、お面。

右手、水ヨーヨーに金魚。

左手、フランクフルト。

 

・・・思いっきり祭りを楽しんでるじゃん。

 

 

 

お祭りから数日後。

 

「せっかくだから海に行こう」という案が出て、とんとん拍子で話が纏まり8月に入ってすぐに2泊3日の小旅行が決定した!

・・・ていうかよく親が許可したなおい(汗)

保護者兼運転手が2人つくとはいえ男が俺1人だけ。

信頼されてる・・・のかね?

まあとにかく決まったモンはしょうがないのでおとなしく従っておこう。

・・・ヘタに反論したらつかささんあたりが泣きそうだし。

で、こなたさんが「ついでに宿題を速めに片付けようよ!」と言いつつ案の定助けを求めてきたワケで・・・俺はバイトの都合と会わせて、ある日の午後、柊家での勉強会に参加することになったが・・・。

 

「お邪魔します、かがみさん」

「お〜っす・・・? あれ、発案者はともかくとしてつかささんはどうしたの?」

「え〜っとね・・・」

 

みゆきさんと共にかがみさんの部屋を訪れたのだがつかささんがまだいない。

かがみさんがなんだか歯切れの悪い返事をしたところで・・・。

 

ガチャ。

 

「お姉ちゃんおは、よ・・・」

 

・・・・・・。

 

バタン。

 

「あんな感じで昼過ぎまで寝てる上に一緒に遊んでるから宿題終わらないのよね・・・」

「いやそこは姉として起こしてやるところなんじゃ?」

 

『わ、忘れてたよ〜! 今何時・・・ってもうこんな時間!? 何で目覚まし止まってるの〜!? わ、ひゃあ!?』

 

なにやら壁の向こうで大慌てで時間を確認してなおかつ盛大にすっころんだ様な音が・・・。

 

「・・・先に始めてようか?」

「せめてつかささんだけでも待ってても良いのでは?」

「さすがのみゆきもこなたの遅刻は確定と思ってるわけね・・・」

 

 

 

それから40分後・・・。

 

「やふ〜! 送れてごみんごみん!」

「こんにちは泉さん」

「相変わらず時間にルーズなヤツね〜・・・今度はどんな理由?」

「いやー、ネトゲでイベントにぶち当たっちゃってさ〜、抜けるに抜けられなくて♪」

 

なんか既視感を感じるこの光景にもすっかり慣れてしまった自分がいる・・・。

 

「取り合えず分かんない所は教えてやるから、最初は自分でやりなさい。」

「ふお!? 先手を取られた!」

 

そういわれてぶつぶつ言いながらもノートを開いた・・・が。

 

「かがみ〜、ここどうやるの?」

 

「まさき、コレってどう読むんだっけ?」

 

「みゆきさん、ここ教えて〜?」

 

「かがm『こなた(さん)まったく考える気ないでしょ!』・・・アハッ☆」

 

さすがのみゆきさんも苦笑気味だ。

とりあえず宿題を既に片付けてた俺とみゆきさんでこなたさんにみっちり教えることになった・・・。

 

 

 

「あ、頭がパンクしそうだよ〜・・・」

 

そりゃもう2時間みっちりやってるからな〜。

俺はともかくみゆきさんも結構妥協しない性格らしく、ヒントは出すが正解するまで何度でもやらせる方針を採ったので、俺もそれに合わせて指導していた。

ま、さすがに疲れてくる頃だろう。

 

「それじゃあ、昨日焼いたクッキー持って来るね♪」

「ついでにジュースも持ってくるわ。」

「手伝おうか?」

「大丈夫。お客さんなんだからのんびり休んでなさい♪」

「あ、ああ、うん・・・」

 

一瞬、ドキッとした。

かがみさんって普段は怒りっぽいせいか、時たま見せる優しい表情を見るとずいぶん魅力的に見え・・・ってなに考えてんだ俺は!?

 

「まさきさん、どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

 

とりあえず落ち着こう。

じゃないとまたこなたさんあたりが突っかかってくる。

 

 

 

柊姉妹が持ってきたクッキーとジュースをつまみながらおしゃべりタイム。

女の子の会話に野郎が入れるワケもなく、とりあえず周りを見回してたら本棚が目に入った。

そういや前来た時も思ったけどかがみさんは読書家なのか、小説らしき物がびっしり並んでる。

 

「何か読みたいのでもあるの?」

 

それに気づいたのか、かがみさんが俺に話しかけてきた。

 

「いやそういうわけじゃないんだけど、かがみさんって結構読書家なんだなって」

「そんな大層なモンじゃないわよ。普通の小説もあるけどそこに並んでるのはラノベだし」

「それを読んでかがみんはたっぷりとオタ知識を・・・」

「ンなワケあるか!」

 

やれやれ・・・。

いつもの調子で2人のじゃれあいが始まったのでとりあえず昔読んだ覚えのある一冊を手に取った。

 

「とりあえずコレ読ませてもらっていい?」

「いいわよ。あ、他にもオススメなのがコレとかコレとか・・・あ、あとコレも外せないのよね〜♪」

「・・・え〜っと(汗)」

 

ここでかがみさんの意外な一面が!

 

「か、かがみさん、さすがにそんなには一気には読めないかと・・・」

「あ・・・(汗)」

 

相当好きなんだなかがみさん・・・。

その手には既に彼女のオススメと思しき小説が5冊持っている・・・ソレをイッペンに読めと?

 

「・・・ガンバ!」

「何その戦場に友を送るようなカンジのセリフ・・・?」

 

とりあえずかがみさんオススメの小説(ヤツ)を1冊受け取って読み始めた・・・んだが。

 

「・・・・・・(じ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)♪」

 

なんか妙に嬉しそうな目でこちらを見られております(汗)。

 

「・・・(まあ、気にしないでおこうか。とりあえず本に集中しよう)」

 

 

 

<みゆき視点>

 

 

 

まさきさんが本を読まれてからかがみさんが彼をずっと見つめてます・・・というより反応を楽しみにしてる、という感じでしょうか?

 

「かがみのあの視線を受け流せるとは・・・あやつ、できる!」

「すごいね〜。わたしもだけど、こなちゃんも1分も持たなかったもんね」

「まさきさんは顔色1つ変えずに本に集中してますね・・・」

 

一度何かに集中すると周りが見えなくなることってあるんですよね。

それで私は何度恥ずかしい思いをしたか・・・。

 

「どしたのみゆきさん?」

「いえ、以前まさきさんの様に読書に集中してたときに失敗したことを思い出しまして・・・」

「ゆきちゃんも失敗することってあるんだ〜。どんなの?」

「え・・・えっと、病院の待合室で待ってる時に順番がまわってきたのに気づかなかったりバスでも終点まで気づかなかったりと・・・」

 

はうう・・・今思い出しても顔から火が出そうです・・・。

 

「みゆきさん、それは萌え要素って言うんだよ♪」

「(こなちゃんの中でどんなイメージが!?)」

「も、萌え・・・?」

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「あ、もうこんな時間・・・」

 

読み終えた本から顔を上げたら既に西日がさしてるのに気づく。

 

「結局こなたさんの宿題半分しか出来なかったね」

「この時期で半分出来てれば上出来だよ〜。みゆきさんもありがとね♪」

「いえ、どういたしまして。私も良い復習になりましたから」

 

残り一月丸々あるから半分も出来てれば確かに余裕だろう。

・・・毎日やればの話だが。

 

「来月末またよろs『自分でやれ!』・・・やっぱりまさきとかがみのシンクロ率が上がってるような気がするよ・・・」

 

締めがコレでいいのか大いに疑問だが、こんな感じでその日は解散となった。

 

 

 

つづく・・・



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第八話 小旅行も命懸け?

8月・・・小旅行出発の日。

俺は柊姉妹と共に集合場所である陵桜の校門前に来ると、みゆきさんが既に到着していた。

 

「おはようございます」

「おはよう、早いね?」

「おはずかしながら、6時にはもう目を覚ましてしまいまして・・・」

「あるある。旅行の前とか楽しみで早く目が覚めちゃうんだよね♪」

「そのくせ前の日は中々眠れないのよね〜」

 

俺もそれで早起きしてしまったクチである。

あとは保護者2人とこなたさんを待つだけなのだが・・・。

 

「おはようさん! 遅れてすまんな〜」

 

集合時間の10分後、保護者の1人である黒井先生が到着した。

 

「久々の運転やさかい、車が言うこと聞かんでな〜♪」

 

出発前から不吉なこと言わないでください・・・(汗)。

それからさらに10分後。

 

「ごめ~ん、電車がモロ混みで〜!」

「車で来たのに電車のせいかい!?」

 

それはネタなのかボケなのか、非常に判断に困るが・・・。

ともあれ、こなたさんがもう1人の保護者である成実さんと共にようやくやってきた。

話し始めるとキリがないのでさっそく分乗して出発する。

俺と柊姉妹が成実車、こなたさんとみゆきさんが黒井車に乗るが・・・。

 

ここで気になったことが1つ。

 

それはこなたさんが率先して

 

「私は黒井先生の車に乗るよ〜」

 

と言った上に、成実さんの車に乗り込む俺達に対して敬礼のようなポーズをとっていたのだ。

・・・なんか嫌な予感がする。

 

「今回はわざわざ私たちのためにありがとうございます」

「婦警さんが保護者って頼りになるよね♪」

「・・・だね。3日間よろしくお願いします」

「あいよ〜♪ かわいい(こなた)の頼みだし、お姉さん張り切っちゃうぞ〜!」

 

悪い考えを頭から追い出して、改めて挨拶をして出発する。

 

「それにしても、最近の高校生ってみんな発育がいいんだね〜。お姉さんびっくりだ☆」

「だからこなたさんを基準にしないでくださいって・・・」

「そういえば成実さんって普段どんな仕事をしてるんですか?」

「婦警さんって言ってもいろいろ仕事があるんですよね?」

 

そういえば俺も警察の仕事なんて詳しくは知らない。

 

「大まかに言っちゃうと、交通安全課に勤務してるんだよ。」

 

へぇ、そういう部署があるのか。

 

「ってことは交通ルールは何でも来い! ですね♪」

 

かがみさんが安堵したように言う。

かがみさんもこなたさんのことが気になったのかもしれない。

 

「おお! お姉さんに何でも聞きなさ~い♪」

 

といった矢先の出来事だった。

 

ブォン!!

 

凄いスピードでこちらの車をスポーツカーと思しき車が追い越して行ったのだ。

 

「うわぁ!?・・・あの車凄いスピード出してたよ〜」

「ああいうヤツがムチャクチャな運転して事故を起こすのよね。本人はともかく、無関係な人達も迷惑するってのに」

「広い通りとは言え片側1車線なのにずいぶんと思い切ったことを・・・」

 

実際のF1などのレースならともかく、漫画やアニメに影響を受けてああいう行為に走る連中が多いと言う話は聞いたことがある。

が・・・。

 

「・・・あのヤロウ!」

 

ここにもいたよソレらしき人!

なんか運転席に座ってる人が目の色変えてるんですけど(汗)。

 

「え・・・っと、成実さん?」

「全員、シートベルトちゃんと付けてるね!?」

 

ってお〜い、交通安全課の婦警さん!?

追いかける気満々ですかい!!

 

「別にあんなの気にする必要ないんじゃってうおぉぉ!?」

『きゃあ〜〜!?』

 

突然アクセルを踏み込み、猛スピードで先程の車を追いかけ始めた。

嫌な予感が見事に的中!

メーターを横から見るとすでに時速100km近く・・・って!

 

「成実さん! 前、まえ~!!」

「私の走りの前に敵はな〜い!」

 

前を走ってるほかの車や対向車を絶妙ってか紙一重で次々とかわし、信号もギリギリで走り抜けて・・・てコレでいいのか現役警察官!?

 

「ココから先の連続カーブ・・・一気に詰めるよ!」

「って成実さん減速して下さい! これ以上は危険dうひゃぁ〜!?」

 

後ろからかがみさんが言う前に、スピードをほとんど殺さず真横に滑るようにカーブを曲がる!

コレがドリフトってヤツか・・・て感心してる場合じゃない!

助手席に乗ってる分めちゃめちゃ怖えぇ!!

 

「こなたのヤツ〜! このこと知っtきゃあ〜!?」

「Ω#γ$⊿%δ&Γ+=〜〜!?]

 

かがみさんとつかささんは既に錯乱状態だ・・・あ、やばい。

俺ももう・・・限界・・・ああ・・・(とき)が、見える・・・。

 

 

 

「・・・。・かいくん! 赤井く〜ん! ほら着いたよ!」

「・・・へ?」

 

成美さんの声で気がついたら潮の香りがした・・・。

生き・・・てる・・・?

 

「長時間車に揺られてて後ろの2人も疲れちゃったのかな・・・起こすの手伝ってくれる?」

 

確かに疲れはしたけど、間違いなくその原因はあなたです(汗)。

とりあえず車から降りて立ってみた・・・まだ地面が揺れてるような気がする・・・。

後部座席にはすっかり気を失ってる柊姉妹・・・パッと見寝てるように見えなくもない。

 

「・・・・・・」

 

寝顔見るとやっぱり可愛いよな、2人とも。

 

「何か(よこしま)な事考えてないかな少年よ?」

「な、なんでもないです!」

 

いかんいかん、2人を起こさねば。

 

「お〜い、着いたよ~。2人とも生きてるか〜?」

「ん・・・あれ? まさき、くん?」

「ふぇ・・・あとごふんだけ〜、ホントニ~・・・」

 

2人ともまだ気分が悪そうだ。

てかつかささん、あの状況で寝てたのか!?

チェックインにはまだ早い時間、黒井車がまだ来てない事もあって、休憩できそうな場所に移動する。

 

「わ〜、海がきれ~い♪」

「でもさすがに海水浴客が多いわね。」

 

宿泊予定の旅館の中の喫茶店。

ココの窓からビーチが一望出来る。

それぞれ軽い食べ物と飲み物を注文してようやくひと段落した。

 

「こなた達遅いね〜」

「いや、俺たちが早すぎたんじゃ?」

 

予定では少し早めに着いて周囲を散策後、チェックインのはずだったのだが・・・。

 

「歩く気にすらなれないわ・・・」

「はぅぅ・・・」

 

姉妹揃ってかなりお疲れのようである。

かく言う俺も相当キツイ・・・精神的にだが。

 

「いい若いモンが情けないぞ〜!」

 

誰のせいですか誰の・・・。

 

 

 

結局黒井先生達が到着したのは夕日が綺麗な時間だった。

俺達は先にチェックインを済ませて荷物を部屋に置き、ロビーに降りて雑談しながら先生達を待っていたのだ。

 

「や〜皆の衆、ただいま到着したで〜!」

『・・・・・・』

 

後から聞いた話だが黒井先生は方向音痴な上にペーパードライバーらしい。

先生は元気だが、みゆきさんはおろかこなたさんまでゲンナリしている。

さすがにこなたさんを問い詰めるのも悪いような気がしてきた。

 

「ま、こなたを問い詰めるのは後にして、部屋に行きましょうか。」

「後で問い詰めるんだねかがみんや・・・」

 

いつもの元気がないこなたさん・・・なんか調子が狂うな。

 

 

 

<客室>

 

 

 

こなたさん達は4人で一部屋。

俺は保護者である先生、成実さんの部屋だ。

 

「・・・あの~、先生?」

「ん? どないしたんや赤井」

「部屋に着くなりいきなり缶ビールを空けるのはどうかと・・・」

「ええやん、慣れない長旅で疲れを吹っ飛ばすのには最高なんやで♪」

 

『ツマミがあればもっとええんやがな!』と言って一気に缶ビールを飲み干す。

生徒の前でマイペースに飲んじゃってそれで良いんですか?

まあ学校じゃないんだし・・・と思ってると扉がノックされた。

 

「やふ〜、暇だから遊びに来たよ♪」

「おお、こなたにお友達もいらっしゃ〜い♪」

「夕飯まで微妙な時間ですから、お風呂は後に入ろうと思いまして」

 

時間は18時・・・夕食は18時半からだからお風呂に行くには時間的にかなり微妙だ。

夕飯までの間、保護者を除く皆でトランプをやって暇を潰すことになったのだが・・・。

 

「ワンペアだったよ」

「当たりナシ・・・ついてないわね」

「俺はスリーカード♪」

「甘い! 私はストレート!」

「・・・フルハウスです♪」

『どんだけ〜!?』

 

こんな感じで何度やってもほとんどみゆきさんの1人勝ち状態。

何か秘訣でもあるんだろうか?

こないだの例もあることだし、ひょっとしてやらないだけでゲームとかは物凄く強いというか、ギャンブルの神様に愛されてるのかも・・・。

 

 

 

<大広間>

 

 

 

『かんぱ〜い♪』

 

大広間に移動した俺たちは黒井先生の音頭で乾杯(未成年はジュース)し、旅館の食事を堪能していた。

 

「ぷっは〜! 独身女同士で飲むの久しぶりやし、今日のビールは旨いな〜♪」

「え〜と(汗)、私はダンナが単身赴任でいないk「うちらは結婚なんていつでも出来る! せぇへんだけや! なぁ成実さん♪」あの、えっと・・・ハイ、ソウデスネ」

「大人同士で盛り上がってるな〜」

「ああいうのはほっとくのが一番だよ」

「絡まれたら最悪・・・て何この変な味!」

 

何かのジュースじゃないのか?

そう思いかがみさんのジュースをひとくち失敬する。

 

「・・・酎ハイ? アルコール度数は低いと思うけど」

「かがみんは子供だね〜♪ コレくらい飲めなきゃ」

「俺らは未青年でしょ。お酒は20歳になってからだよ」

 

それ以前に誰だ、酎ハイ混ぜたの(汗)。

まあ1口くらいじゃ酔ったりはしないだろうが・・・。

 

「・・・ヒック」

「何だか・・・あたまがふらふらします〜」

 

まわってる人がいたよ、ココに2人!

あ、コップが空になってる。

でも酎ハイ一杯であそこまで酔うもんなのか!?

 

「ちょっとつかさ、大丈夫!?」

「おねーちゃん、のまないならわたしがのんであげるよ〜。」

 

つかささんはそう言ってさらにかがみさんの分まで一気に飲みほしてしまう。

 

「まいかいまいかいいいんちょうをやるのってけっこうたいへんなんですよ〜、いずみさん、きいてますか~?」

「み、みゆきさんとにかく落ち着いて・・・」

 

こっちはこっちでこなたさんに絡んでたりする。

つかささんはともかくみゆきさんまで(汗)。

 

「まあ人の趣味は人それぞれだから何も言わんが・・・」

「ちょ!? 私はノーマルだよ! てか何一人で落ち着いてご飯食べてるのさ!」

「そうよ、まさきくんものん気に食べてないでこの2人を何とかするのを手伝ってよ!」

「2人が寝るか酔いを醒ますまでガンバ!」

 

俺にはエールを送ることしか出来ない。

アルコールが回ってるとは言え女の子を引っぺがす訳にはいかんって言うか色々とアウトだ。

そんなことを考えてると・・・ふと、そんな2人と目が合った。

 

「ま〜くぅ〜ん♪」

「まさきさん、コップがあいてますよ♪」

「ってちょっと2人とも!?」

 

突然酔った2人が俺によってきたのだ!

その手には・・・日本酒!?

さっきの酎ハイといいホントに誰だ飲ませたの!

右側につかささんが寄り添ってきて左側からみゆきさんがお酒を注いでくる。

つ〜か2人ともくっ付きすぎだって!

あ・・・なんか女の子特有の香りとアルコールの臭いがいい感じに混ざって鼻をくすぐる・・・。

 

「ふふふ、一度生徒を酔わせてみたかったんや♪」

「それが教師のすることですか!?」

 

犯人は黒井先生だった!

こんな性格だから彼氏もできないんだろうなこの人・・・。

 

「ふふふ・・・まさきも懐かれてるね〜。面白そうだから私も!」

 

そう言ってこなたさんが後ろからへばりついて来る。

 

「コラこなた! 便乗すんなってか2人もさっさと離れなさい!」

「そういって2人を羨むかがみんでした」

「だだだだ誰がそんなこと!? 勝手なこと妄想すんな!」

 

なんかドサクサ紛れにかがみさんまでくっ付いて来るし!?

 

「青春やな♪」

「怪しい行動とったら即逮捕ね♪」

「人事のように言ってないで助けてくださいよ、ちょっと!!」

 

って言うか警察官の前で未成年に酒を飲ませるな!

そんなこと言ってるうちに・・・両脇の2人がさらにくっ付いてくる。

 

「ま〜くんあったかい〜♪」

「なんだかゆめのなかみたいです〜♪」

 

なんかやわらかいのが当たって・・・って違う違う違~う!?

俺だって健全な青年男子なんだし女の子にくっかれるのは嬉しいが、さすがにこれはヤバイ!

くぅ、がんばれ・・・歯ァ食い縛って耐え抜いて見せろ、俺の理性!

 

俺が解放されるのはそれから約30分後の事だった・・・。

 

 

 

<男湯>

 

 

 

体を洗ったあと、温泉に肩まで浸かる。

 

「ふぅ・・・風呂はいいね〜。風呂はリリンが生んだ文化の極みだよ・・・」

 

思わず某キャラのセリフが出て来るくらい。

結局あの後・・・つかささんとみゆきさんが眠ってしまい、料理も大体食べ終わってたためその場はお開き。

かがみさんがつかささん、みゆきさんは俺が部屋までおぶっていく羽目になった。

背中にやわらkゲフンゲフン!

まぁとにかく、先に部屋に行って寝床の準備をこなたさんがしてくれてたので2人を寝かせてやった。

先生と成実さんが2人の面倒を見てくれるそうなのでこうして温泉にやってきたのだ。

あの2人も酒が入っているから少し不安ではあるが。

 

「しっかし・・・この世の生き地獄だぞアレは・・・」

 

結果的に女の子4人に引っ付かれてたことになる。

かがみさんはともかくこなたさんは悪ノリだよな、絶対。

ともあれ異性のやわらかい感触を思い出してしまった俺は体温が上昇し始めたのに気づく。

 

「少し頭を冷やそう、そうしたほうがいい。うん」

 

そうして冷水をひたすら浴び続けるのであった。

この時期は冷たいシャワーってのも気持ちいいもんだな・・・。

 

 

 

「ふう・・・」

 

風呂上りにのむ牛乳はやはり格別!

パックじゃなくビン、そして腰に手をあてて一気に飲むのはお約束だ。

そんなことをしてると見覚えのある顔が・・・あ、つかささんもみゆきさんも起きたんだ。

黒井先生達に連れられて温泉に入りに来たみたいだ。

 

「なんや赤井、もう上がったん?」

「ええ、先生達はこれからですか・・・あ、部屋の鍵、貸してもらえます?」

「ほいほい、留守番よろしくネ~」

 

先に戻ることになるので成海さんから部屋の鍵を預かった。

 

「・・・あの、まーくん?」

「何?」

「え〜っと、その・・・す、すいませんなんでもないです〜!」

 

二人揃って顔を真っ赤にして走っていってしまった。

あ、つかささんがこけてる。

 

「それじゃ、あの二人を追いかけますか♪」

「そやな、留守番頼むで赤井♪」

 

保護者2人は特に気にした様子も無く、2人並んで温泉の入り口をくぐっていった。

ひょっとしてあの2人、さっきの事・・・覚えてる?

・・・まぁ深く考えないでおこう。

こなたさんとかがみさんはまだ出てくる様子はないので俺は先に部屋に戻ることにした。

 

 

 

つづく・・・



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第九話 開戦後混戦! そしてこの世の生き地獄へ・・・

<客室>

 

 

 

「女性の入浴ってやっぱり長いな〜」

 

先に客室に戻った俺は、人数分の布団を敷いて先生達が戻るのを待つことにした。

先程とは違い、静かな部屋で(俺しかいないからだが)椅子に腰掛けてのんびりくつろいでいる。

年寄りじみてるなんて言わないように。

夜景を眺めるのも結構悪くないぞ?

真っ暗な海しか見えないがタマにキズだが・・・。

 

「・・・飲みに付き合わされるなんてことは無いよな、いくらなんでも」

 

いや、あの2人ならやりかねんか(汗)。

そんなことを考えてると・・・。

 

ガチャ

 

ノックも無しにいきなり誰かが入ってきた。

先生達が戻ってきたのかと思い入り口を見るとそこにいたのはこなたさんとかがみさん。

 

「あんたねぇ、いきなり開けるな。ノックくらいしろ!」

「中にいるのまさきだけだって分かってるから問題ナイナイ。そんな訳でまさき〜、拉致しに来たよ〜♪」

「まぁなんとなく来るんじゃないかな〜とは思ってたけどね・・・って拉致?」

「そうそう、私達の部屋に拉致させてもらうよ♪」

 

何を始めるつもりだいったい・・・?

 

「こなたの言い方は置いといて、ここにいると先生と成実さんがまだ飲むって言ってたから、しばらくは寝れないわよ?」

「ヘタすりゃ明日の朝はまさき含めて3人、二日酔いの可能性があるからね〜」

 

さすがに絡まれるのは勘弁願いたい。

 

「まあそれは予想はつくけど・・・何を始める気?」

「もちろん秘密♪ つかさとみゆきさんももうすぐ戻ってくるからその時に教えるよ」

 

まぁ後で分かるならいいか、と単純に俺は考えてた。

 

この事を後で激しく後悔するハメになるのだが・・・。

 

やがて先生達と一緒につかささんたちが戻ってきたということで、こなたさんに引っ張られてこなたさん達の部屋へ。

 

「で、何をする『ボフッ』・・・」

「みんなでお泊りの時の定番っていったら♪」

「やっぱりこれですよね♪」

 

ちなみに今のはつかささんの不意打ち・・・あ、みゆきさんが次弾装填(まくらじゅんび)してる。

2人揃ってまだ顔を赤らめてるが・・・まぁ温泉に入ったからということにしておこう、うん。

ま、そういうことなら受けて立つのが男というもの!

 

「やったなk『ボフッ』・・・・・・」

「ふ、敵は2人だけではないのだよ♪」

「ま、男の子なんだし、ちょうどいいハンデよねぇ♪」

 

1対4か・・・いいだろう・・・。

 

「上等だ、纏めてかかってこ〜い!」

 

俺は足元に落ちてる枕を片っ端から投げつけてやった!

 

「うぉ!? まさきがキレた!」

「はっはっは、何言ってるのかなこなたさん、俺は通常の50%しか力を出してないんだぜ♪」

「どう考えても嘘でしょそ『ボフッ』・・・こなた・・・?」

「いや〜、スキだらけだったんでつい」

「つい、で味方を撃ってどうすんのよアンタってヤツは〜!」

 

早くも仲間割れしてる凹凸コンビだった。

かがみさんも1対1じゃかなり強いなアレ。

 

「え〜っと・・・押入れの中の枕、コレで全部かな?」

「そのようですね」

 

つかささんとみゆきさんはなにやら結構な量の枕を・・・ってこの部屋って何人部屋だっけ(汗)。

だが利用しない手はないよな♪

2つほど拾って、

 

「てい!」

『ひゃあ!?』

 

ボフッボフッ・・・と2人に命中させてみる。

 

「やったな〜! えぇい!」

「踏み込みが足りん!」

 

非力なつかささんが投げても残念ながら威力は無い。

それをキャッチして投げ返そうと狙いを絞るも・・・。

 

「まだです! やぁっ!」

「見える、そこ!」

 

みゆきさんが投げてきたのでみゆきさんにカウンターとして投じた。

ところが・・・。

 

ボフッ!

 

「あ・・・」

 

あたったのはかがみさんの後頭部。

みゆきさんが素早い反応で俺の枕をかわしたのは良かったのだが、外れた枕がかがみさんに当たってしまった。

 

「・・・・・・」

「ふう、ようやく開放されたよ〜」

 

そんな能天気なこなたさんとは裏腹にかがみさんが静かにこちらを振り返る。

はっきり言ってめちゃめちゃ怖い(汗)。

 

「お〜ま〜え〜か〜!? あたしにぶつけたのは!」

「いや枕投げってそんなモンでしょってうおぉぉぉぉぉ!?」

 

俺がぶつけたと知った瞬間凄まじい勢いで枕を放ってくる!

 

「おとなしく当たっときなさ〜い!」

「だが断る!」

 

いつの間にか俺とかがみさんの一騎打ちになっていた。

飛んでくる枕をかわすか枕で叩き落す。

頭に血が昇ってるせいか、投げるのは速いけど狙いが甘いのでかわすのは簡単だ。

が・・・。

 

(なんで枕が止まらないんだよ!?)

 

投げるスピードは落ち始めているものの、まるっきり投げてくる量が減ってない。

 

「はい、こなちゃん♪」

「サンキュ〜、つかさ♪」

「まさきさんの分もちゃんと用意してますよ♪」

「原因はお前らかコンチクショウ!」

 

理由は何てことはない、外した枕をこなたさん達が回収して分配してたのだ。

このままじゃ埒が明かない。

勢いも少し落ちてきている・・・ならばここは多少強引にでも反撃あるのみ!

 

「こうなりゃ奥義・エター○ルスローだ! それそれそれそれっ!」

「何よエター○ルスローって! うわあぶな! 負けるモンですか!」

「お姉ちゃんがんばって♪」

「私はまさきさんを応援しますね♪」

「むう、ならば私がレフェリーを『ボフッ』・・・ぶったね!? 親父にもぶたれたことないのに・・・そんな大人、修正してやる〜!」

 

流れ弾に当たったこなたさんの参戦を確認!

って言うかさっきかがみさんから大量に食らってた上に正しくはぶつけただろうさらに修正ってあんたはどっかのニュータイプかそもそもこの場に大人は居ないぞと色々ツッコミを入れたいがそんな余裕はない!

 

「遅い! 遅いぞエピ○ン! ヤツの反応速度を超えろ!」

「ウ○ングゼロ! 私に勝利を見せてくれ!」

「なんか2人のキャラが違うような・・・っと! 簡単には当たってやらないわよ!」

 

途中からつかささんとみゆきさんも巻き込んで敵も味方もない大乱闘!

部屋中に枕が飛び交う中、皆の表情は終始笑顔だった。

 

結局レフェリーがいない(そもそもルールすらない)枕投げは夜遅くまで続いた。

 

「いい加減日付変わる時間だから部屋に戻らんと・・・」

「まぁ・・・これ以上はこなた以外は明日に差し支えるわよね」

「かがみ~、それってどういう意味かな? かな?」

 

とりあえずこの場は引き分けと相成った。

なんか不毛な会話をしてるようだがとりあえず「おやすみ!」と一声かけて隣の部屋に戻る。

しかし・・・。

 

「何で鍵閉めておくかな・・・」

 

まだ俺が戻ってないのにもかかわらずしっかり鍵がかかってたりする。

ためしにインターホンを押してノックもしてみたが何の反応もない・・・。

もう酔いつぶれたのか酔いのせいで気づいてないのか?

さて、どうしたものか。

 

「むっふっふ・・・お困りのようですネまさきクン?」

「・・・どっから湧いてきたの? こなたさん」

「酷いな〜、せっかく解決策を持ってきたのに・・・」

 

含み笑いをしてる時のこなたさんは大抵何か企んでる事が多いため、油断は出来ない。

 

「・・・で、解決策ってのは?」

 

単純にフロントに行って合鍵で開けてもらうしかないような気がするが。

 

「簡単だよ。私に着いて来たまへ〜♪」

 

そういってこなたさんは歩き出す・・・自分達の客室へ。

 

「あ、お帰り」

「すべては私達のシナリオ通りだよ♪」

「・・・こなたさんはいつ特務機関指令になったの?」

 

ていうかわずかな時間しかたってないのに布団が1人分増えてる。

なんとなく解決策とやらが解かって来たが何だか話を聞いてるとこうなることを既に・・・。

 

「皆揃って予想してたってこと?」

「そのと〜り! ていうかやっぱりシナリオ通り?」

 

疑問を疑問で返されるのもアレだが、俺は思わず頭を抱えた。

 

「俺がここで寝るのはかなり問題あるんじゃ・・・?」

「心配ありませんよ。先にお風呂に入ってた時に、先生から承諾を頂きましたから♪」

 

全員揃って確信犯かい!?

それ以前にあっさり許可出すなよ保護者!

っていうかこうなることを知らなかったのは俺だけ・・・?

 

「そんなわけでまーくんの寝床はここだよ♪」

 

と、つかささんがポンポンと布団をたたく。

 

「俺、押入れで寝るわ」

 

冗談じゃない、こんな状況じゃ絶対に落ち着いて寝れん。

てか皆して無防備すぎるだろいくらなんでも。

 

「ちょ!? 何どこぞの猫型っぽいロボットのような寝床選んでるの!?」

「私たち、まさきさんなら大丈夫と判断して承諾したんですよ?」

「わ、私はあんたがどこで寝ようと気にしないわよ!」

「まーくん、私たちと一緒じゃイヤ?」

「ぐぁ・・・」

 

さすがに断りにくくなってきた(汗)。

・・・明日は朝一番で冷水でも浴びるかな。

 

 

 

<翌朝6:00>

 

 

 

「やっぱり眠れなかった・・・」

 

あの後何故か俺を中心にそれぞれの布団に入ったのだが・・・。

 

(右にはみゆきさん、左にはこなたさん・・・位置的に頭の上に柊姉妹。どうしろと?)

 

しかも何だか微妙に近い位置で寝てるような(汗)。

・・・メモ残して朝風呂にでも入ってこよう。

タオルは風呂場に予備があったはずだからそれを使えばいい。

そう考えつつ外に出ようとすると・・・。

 

「ふわぁ・・・あれ? まさき、どっかいくの?」

 

ありゃ、こなたさんが起きてしまったか。

 

「おはよう、こなたさん。ちょっと朝風呂に入ってこようと思ってね。鍵は念のためかけておくから鍵は持っていくつもりだけど」

 

他の三人がまだ寝てるから一応小声で話す。

 

「そっか・・・なら私も一緒に行こうかな?」

 

そういってこなたさんが起き上がる・・・て!

グキッと音がなるくらいの勢いで首を回転させる。

 

「どしたのまさき?」

「・・・表で待ってるからさっさと準備して来てくれ」

 

寝起きは普通恥ずかしがるもんじゃないのか?

思いっきり浴衣が乱れてて・・・イカンイカン。

速攻で表に出て待つことにした。

 

「おまたへ〜!」

 

待つこと5分。

普段着に着替えたこなたさんと並んで大浴場に向かう・・・微妙に頬を染めてるのは気のせいだと思いたい。

 

「ふぁ・・・」

「おや、あんまり眠れなかったのかね?」

「おかげさまで一睡も出来てないよ・・・」

「あはは♪ まぁそうだろうね。私達は特に気にしてないからあっさり眠れたけど」

 

いや、気にしろよ(汗)。

てかそこまで言われるほど信頼されるようなことしたっけ俺?

 

「やっぱまさきはギャルゲーの主人公だよね♪」

「撤回してくれ頼むから・・・」

 

 

 

<大浴場入口>

 

 

 

「やっぱこなたさんも女の子なんだな・・・」

 

軽く体を洗って少し暖まってシャワーを浴びて。

10分程度で俺は出てきたがこなたさんはまだしばらくかかるようだ。

とりあえず気長に待つこと数分後。

 

「ふ〜、いいお湯じゃったわい♪」

「お前いくつだ・・・」

 

温泉から出てきて開口一番言うことがソレかい。

 

「いやいや、風呂はいいよね〜。風呂はリリンが生んだ文化の極みだよ。君もそう思わんかねまさき君♪」

「そのセリフ、昨夜俺自身も言ったような気がするわ・・・」

 

とりあえず先生達は起きてるかな?

 

「先生達が起きてるようなら戻るからね?」

「あいよ〜・・・2人揃って二日酔いに苦しんでるかもだけど」

 

笑えない冗談だなそれ。

インターホン押して確認してみるか。

 

♪ピンポ〜ン♪

 

どこに行ってもこの音は変わらないんだろうなぁとどうでもいいことを考えながらインターホンを押す。

 

・・・ガチャ。

 

「お、赤井君おはよ〜♪ 昨夜は楽しかったかい?」

「ええ、枕投げが最高に楽しかったっすよ?」

「むう、思ってたより冷静だね・・・慌てふためくかと思ったけど」

「・・・単純に頭が回らないだけですよ」

 

あんな状況で普通に寝れるやつなんてそう居ないだろう。

それより・・・。

 

「昨夜は何時まで飲んでたんです?」

「ん〜・・・日付変わった後かな?」

「日付変わる前に俺こっちに戻ろうとしたんですけど」

「まぁまぁ、気にしちゃダメだよ♪」

 

部屋の中にはまだ豪快にイビキをかいて眠ってる黒井先生と、結構な量の空き缶や空き瓶が・・・。

成実さんは二日酔いにはなってなさそうだが・・・あんたら保護者でしょ一応(汗)。

 

 

 

<大広間>

 

 

 

朝食はバイキング形式。

皆でわいわいしながら朝食食べるのも結構楽しい。

 

「こういう時ってバイキング形式だとありがたいよね♪」

「そうですね。食べる量を自分で決められますし、私は少食なので助かります」

 

つかささんにみゆきさんは朝はあまり食べないようだ。

 

「なによ?」

「いやなんでもない」

 

俺とかがみさんは結構な量を食べてたりする。

それでもかがみさんは俺より少ないが。

 

「まさき〜・・・さすがに食べすぎなんじゃないの?」

「男はこれくらいが普通だぞ?」

 

茶碗が小さめだからというのもあるけど育ち盛りだしね。

そう言って俺はご飯のお代わりをすでに3回している。

自分の家では面倒だからと、かなり手抜きな上に1人暮らしと言うこともあり、味気無い朝食でさっさと済ませているが、こういう時はしっかり食べる。

やっぱり友人や家族と食べる食事は1人で食べるより美味しいし、楽しいものだ。

でもちょっと食い過ぎたかも。

 

朝食を終えた俺たちは各部屋に戻り海水浴のために準備を始めた。

 

 

 

つづく・・・



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第十話 皆で楽しむ海水浴!

<海水浴場>

 

 

 

「まだこの時間は人が少ないみたいですね」

「お昼ごろには昨日みたいに凄い人数になってるんじゃない?」

 

午前9時30分。

 

時間が少し早かったからか単に今日は人が少ないのか・・・海水浴客はまだまばらだが、いい場所を取るチャンスでもある。

海の家の近くという絶好の場所にパラソルを立てた俺達は水着に着替える。

もっとも俺は旅館で既に海パンをはいていたからシャツとズボンを脱ぐだけだが。

水泳用の帽子をかぶり、水中眼鏡を身に付けて準備万端!

一方女子グループもやっぱり着替えてたみたいだが・・・。

 

「こなたさんってさ、一般人の予想を完全に上回ってるよね・・・悪い意味で」

「ていうかこの年こういう場であんなモン着てるのはあいつくらいよ・・・」

 

かがみさんはワンピースタイプ、つかささんはそれにフリルを付けた感じの水着、みゆきさんは大胆にもビキニ(非常に目のやり場に困ります)、とここまでは良かったのだが・・・いや何がいいって女子の水着姿がって自重しろ、俺の煩悩!

話を戻すとこなたさんが着てるのは何故かスクール水着に浮き輪を装備。

しかも胸元には「6−3」という文字が・・・何年前の水着だよ!

 

「おお! まさきは泳ぐ気満々だね♪」

「俺は何でこなたさんがスク水着てる上にご丁寧に浮き輪まで用意してるのかが激しく疑問なんだけど・・・実はカナヅチとか?」

「普通に泳げるよ。この装備がその手の人にとってはデフォなのだよ!」

 

ドヤ顔しながらこなたさんはそう言いきった。

 

「・・・・・・」

「あんたの言いたいことはよ〜くわかるわ・・・」

 

かがみさん、この中で多分一番まともなのは君だけだ、と内心エールを送った・・・。

 

 

 

「(ほほ〜、結構綺麗だなここの海水)」

 

ゴーグル付けて海の中を泳いでいた俺は素直に感心していた。

 

「(ゴミやらなんやらのせいで少し汚い海も結構あるけどここは・・・ん?)」

 

何だか見覚えのある浮き輪と水着姿の下半身が三つ・・・決して下心があるわけじゃないから誤解しないように。

相手が男子だったらいきなり足を引っ張ってやるとかいたずらが出来る。

が、あいにく女子にそんなことをやるつもりは無いってかやったら間違いなく警察行きだ。

っというわけで・・・。

 

ザバッ!

 

「おっす、楽しんでるか!?」

『きゃあ!?』

「あ、やっぱりまさきだ」

 

柊姉妹はいきなり登場した俺にびっくりしてたがこなたさんは気づいていたようだ。

 

「び、びっくりした〜。急に出てこないでよも〜」

「ほんとだよ〜。サメか何かかと思ったよ・・・」

「いやこんな所でサメはまず出ないから」

 

俺は足が届く場所だが目の前の3人はこなたさんの浮き輪でのんびり浮いてた。

そしてちょっとした雑談をしていた中であることに気付く。

 

「そういえばみゆきさんは? 黒井先生も成実さんもあっちである意味はっちゃけてるのに」

 

黒井先生はこんな所に来てもビールを飲んでたりする。

さすがに量と勢いは控えめだが・・・先生、わざわざ(ココ)まで飲みに来たんですか?

せっかくだからひと泳ぎすればいいのに。

つき合わされてる成実さんがちょっとかわいそうな気がしてきた(汗)。

 

「あ〜・・・みゆきさんは泳げないらしいんだよ」

「え? そうなの?」

 

一見完璧そうに見えるみゆきさんにも意外な弱点があることが判明した!

 

「水の中で目を開けるのが怖いって言ってたわよね」

「コンタクトレンズも怖くて付けられないんだって」

「や、それ以前に海水が目に入ったら誰でも痛いししみるでしょ」

 

何しろ海水は塩分が豊富だからなぁ。

でもせっかく海に来たのに何もしないのはもったいない。

昨夜のノリでビーチボールで遊んでみるか、と提案してみたところ、3人ともOKしてくれた。

 

「こう言う時はやっぱり皆で楽しむのが1番だよネ♪」

「ゆきちゃ〜ん! 一緒に遊ぼうよ!」

「え、でも私は泳げませんし・・・」

「何も泳ぐだけが海水浴じゃないぞ〜?」

「ビーチボールも持ってきてるんだからみゆきも混ざんなさいよ♪」

 

こうして比較的浅いところで5人でビーチボールで遊ぶことになった。

たまに足を滑らせて盛大に顔から海に突っ込む(つかささん)がいたけどそれもご愛嬌。

かなり目が痛そうだが。

そうしてるうちに・・・。

 

「お前ら〜、そろそろ昼飯の時間やで〜!」

 

楽しい時間ってホントに短く感じるもんだ。

俺たちは空いてそうな海の家で昼食を食べることにした。

 

 

 

<海の家件食堂>

 

 

 

こうやって1つのテーブルで皆でわいわい喋りながら食事をしてると、果たして周りからはどう見えるだろうか?

・・・知り合いやクラスメートに見られたら俺だけ殺意のオーラを受けそうな状況だが。

 

「何だかこうしてると家族みたいだよね♪」

 

男女比が凄いことになってるがな。

 

「こういうトコでメシ食うと何でも美味しく感じるのが不思議・・・あれ?」

「どうしました? まさきさん」

「ん~、このラーメン、何か懐かしい味がするから・・・」

「まあそれぞれ店ごとに個性はあるんでしょうけど、既視感ってヤツ?」

 

ん〜・・・どっかで絶対食ったことがある味なんだがな〜。

麺は生でしょうゆ味、とどこにでもありそうなラーメンだけど。

 

「多分アレじゃないかな」

 

そういって成実さんの指す先を見ると・・・。

 

『喜○方ラーメン醤油味』

 

と書かれた箱が何故か置いてある。

ああ、なるほど・・・。

 

「地元から大分離れているけどある意味地元の味か。いや、でも何でここで喜○方ラーメン?」

「まさきって東北出身なんだよね?」

「ああ。これもみやげ物としてあちこちに売られてるもんだが・・・」

「思わぬところで故郷の味ってワケやな」

 

こんな時でものんびりビールを飲んでる先生に言われるが・・・ああ言うのって結構店によって味に差があるんだよなぁ。

しかし先生、ペースを落としてるとは言え結構な量飲んでるけど大丈夫だろうか?

 

「ふ〜ん・・・この味がねぇ・・・」

「でも脂っこいチキンも美味しく感じるから不思議だよね」

「そだね〜。このカレーもあまり具が入ってないけど美味しいし」

「この焼きそばもほとんど具無しです♪」

「・・・あたしはイマイチかな? このラーメン」

 

まあ、味覚も人それぞれ。

俺はあまり気にしないでラーメンを平らげた。

 

 

 

午後からは「何とか泳げるようになりたいです!」というみゆきさんの強い要望により、何故か俺がコーチをすることになってしまった。

しかしプールならともかく海で泳ぐ練習をするとなるとゴーグルが必須なんだが・・・。

 

「あ、大丈夫です。ちゃんと持ってきましたから」

 

ということなのでさっそく教えることになった。

先程浅い場所で遊んでたから海に浸かること事態は大丈夫だろう。

みゆきさんがギリギリ立ってられる所まで誘導する。

 

「まずはきちんとゴーグルを付けて・・・あ、隙間が出来ないようにきっちりとね」

「はい!」

 

隙間から海水が入ってきたらシャレにならん。

 

「まずは海面に目を開けたまま潜る練習から始めようか」

「も、もう潜るんですか!?」

「それが出来なきゃいつまでたっても泳げないよ? 俺も一緒に潜るから、まずは思いっきり息を吸って俺がオッケーするまで潜り続けてみて?」

「・・・はい!」

 

こうして潜る練習から始めた。

この時間からだから・・・バタ足くらい出来ればちょうどいいかな?

まずは水の中に潜ることに慣れてもらって泳ぎ方はそれからだ。

でもバタ足をするんだったら何かにつかまらないといけない訳で、オマケに・・・。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

「みゆきさんもう少し! 頑張れ!(ついでに俺の理性も頑張ってくれ!)」

「は、はい!」

 

息継ぎしながらバタ足の練習に入ったのだが・・・。

海水が綺麗なのが災いして、みゆきさんの胸の谷間がちらちらと、さらに息使いまで・・・ええい落ち着かんか俺の煩悩!

しかし周囲の視線をもうあまり気にならない所、慣れって恐ろしいな(汗)。

でも泳ぎを教えるためとは言えナイスバディな女の子の手を握って・・・ってだから余計なこと考えるなっての!

しかしみゆきさんって苦手なだけで飲み込みはもの凄く速い。

この分だと夏休み中プールに毎日通えばあっさり25Mどころか50Mは泳げるんじゃないだろうか?

そんなことを考えつつ目標地点・・・相変わらず水面にぷかぷか浮いてるこなたさんの浮き輪まで到達した。

 

「おお〜、みゆきさんいらっしゃ〜い♪」

「ちょっと指導されただけでここまでこれるなんてさすがみゆきね」

「ゆきちゃん凄〜い。苦手な水泳を克服できたんだ〜♪」

「はぁ、はぁ・・・まだまだですが、まさきさんのおかげですよ♪」

 

ちなみにみゆきさんはまだ浅いところでしか1人では泳げない状態である。

ついでに言うと俺の精神力も少し鍛えられてるかな・・・。

 

「俺はちょっと後押ししてやっただけ。みゆきさんの努力とやる気があったからだって」

 

俺は少し恥ずかしくなってそっぽ向いた。

 

「あれ〜? まさき、ひょっとして照れてる?」

「そういえばみゆきがここまで来れたのってまさきくんが手を引っ張ってやったからよね」

「・・・やかまし」

「ゆきちゃんいいな〜」

 

つかささんがボソッと何か呟いてよく聞こえなかったけど多分みゆきさんに感心してるんだろう。

 

「ねぇこなた、まさきくんって・・・」

「う〜ん。私もそう思ったところだよ」

 

何かワケの分からない会話が聞こえるが・・・。

 

 

 

そうこうしてるうちに陽もだいぶ傾いてきた。

そろそろ戻ったほうがいいだろう。

久しぶりの海水浴も十分楽しめた。

シャワー室でシャワーを浴びて体中についた海水を落とす。

簡易更衣室で着替えを済ませた俺たちは旅館に戻った。

 

ちなみに夕食の席で先生がまたアルコールを仕込もうと企んでいたのを皆で阻止したのは別の話である。

 

 

 

<客室>

 

 

 

「・・・・・・」

「まーくんどうしたの?」

 

仏頂面していたのに気づいたのかつかささんに尋ねられた。

夕食も入浴も済ませて後は寝るだけのはずなんだが・・・。

 

「どうして俺、今日もここに居るの?」

 

昨日に引き続き男女比1:4という普通に考えればやっぱりありえない状態の中にいた。

既に布団も5人分用意済み。

さすがに二日連続ってか二徹は勘弁したいんだが(汗)

 

「・・・何か問題ある?」

「特に無いわよね」

 

いや、ちっとは気にしろよ・・・。

そして定位置も(強制的に)決まってたりする。

 

「(ふぅ・・・)まぁいいや。さっさと寝る」

 

心の中でため息をついた俺は抵抗は無意味と判断、さっさと寝ようとしたが・・・。

 

「何言ってんの、今日もまだまだ寝かさないよ〜?」

「思いっきり誤解を招きそうな発言しないでくれ!」

 

その後、こなたさんの「夏と言ったらこれは外せないよ!」との一言で怪談大会が始まってしまった。

・・・この場合、外せないのは花火じゃなかろーかと思ったのは別の話である。

 

1番手はこなたさん。

結構本格的な内容で話し方も静かに、語りかけるように話すから雰囲気も出てる。

つかささんもみゆきさんもお互い身を寄せ合うほど怖がってたにも拘らず・・・しっかりとオチを付けてくれました(笑)。

で、2番手はこなたさんの指名を受けて俺が語ることに・・・。

怪談なんてまともに聞いたことあってもほとんど覚えてないんだが。

・・・そう言えば。

某ゲームで結構本格的な七不思議をやってたことを思い出す。

うん、これで何とか凌ごう。

 

「それじゃあ・・・これはある学校に伝わる七不思議の1つです・・・」

 

少し声を低くして話し始めた。

 

 

 

「そして、その事件にかかわった生徒達は全員卒業することはなく、皆同じ場所で死んでしまったそうだ・・・」

「あうあうあうあうあう・・・」

「つかさ、ウチの学校のことじゃないんだから大丈夫よ」

「それにしても、まさきさんって七不思議(こういうの)に詳しいんですか?」

 

みゆきさんも少々怯え気味だったりする。

 

「いや、某ゲームのモロパクリ」

「どっかで聞いたことあると思ったら枯れない桜があるアレのことか」

 

さすがにこなたさんは元ネタに気づいたらしい。

本気でつかささんがおびえ始めたので今日は(昨日よりだいぶ早い時間だが)寝ることにした。

 

ちなみに夜中につかささんがトイレに行った所、こなたさんのいたずらが祟って俺の布団にもぐりこんで来るというある意味嬉しいアクシデントがあった。

精神的にはかなり削られたが。

そして翌朝、つかささんを除く3人からの質問攻めにあったのは言うまでも無い。

 

 

 

短い小旅行を終えて後は帰るだけだが・・・。

 

「どっちに乗ればいいんだろ・・・?」

 

皆で―あのみゆきさんまで―かなり悩んでる。

なにせ

 

黒井車=迷走

成実車=暴走

 

というスキルがあるため、果たして無事に帰れるのか・・・?

 

「お前らもう少し大人を信用せんかい」←少し呆れ顔

「そうそう、私の車を追い抜く不届き者がいなけりゃ大丈夫だって♪」←能天気

 

先生はともかく成実さんの一言は(汗)。

 

「どっちも死亡フラグのような気がするよ・・・」

「・・・今回ばかりは否定しない」

 

で、結局。

来るときとはそれぞれ別な車に乗って帰ることにした。

 

 

 

「あの〜、黒井先生?」

「何や赤井?」

「どうして市街地走ってたのにいつの間にか山の中に来てるんですか!?」

「まぁ細かいこと気にすんなや♪」

 

ちなみに現在位置はどこかの山のてっぺん(汗)。

やはりお約束というか、順調には帰れない俺達だった・・・。

 

 

 

 

つづく・・・



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第十一話 はじめての高良家

お盆には一時帰省しようと考えてる、ある意味恐怖の小旅行の数日後。

俺達はみゆきさんの誘いを受けた。

みゆきさんちの近くで花火大会があるらしく、いつものメンバーに声をかけてくれたのだ。

まずはみゆきさんの家に集合して皆で一緒に会場まで行くということになった。

 

 

 

<花火大会当日>

 

 

 

俺は柊姉妹、こなたさんと合流してみゆきさん宅に電車で向かっている。

 

「そういやみゆきさんの家って行ったことないな・・・。どんなトコ?」

「私たちも初めて行くのよ」

「だから改札口までゆきちゃんが迎えに来てくれるんだよね♪」

「結構なお金持ちだから、庭にペットを放し飼いしてたりおっきなピアノとかありそうだよね♪」

 

こなたさん・・・お金持ちに対して何か妙な偏見持ってないか?

 

「屋外プールとかありそう♪」

「大きな庭にパラソルがあって、天気のいい日にそこでお茶会してるのも絵になりそうよね」

 

柊姉妹よ、お前らもか!

さすがに屋外プールはないだろ、つかささん(汗)。

しかしずっと気になってたんだが・・・。

 

「皆のその荷物は何?」

 

何故か全員揃って大荷物を抱えている。

 

「ああ、これは浴衣と着替えその他よ」

「私達はみゆきさん家にお泊りの予定!」

「女の子には色々あるんだよ〜♪」

 

泊まる上に向こうで着替えるのか。

まぁ俺はその間適当に暇つぶしでもすることになるのかな?

だから少し速めに行くことになった・・・あれ?

 

「そういや花火大会最後まで見ると何時で終わるんだっけ?」

「9時には終わるって言ってたと思うよ」

 

・・・速めに抜けたほうがいいだろうか?

ていうかその辺り無計画なのひょっとして俺だけ?

そんなことを考えてると、電車が目的の駅に到着すると言うアナウンスが流れた。

電車内は結構混んでた為、人の波が凄い。

 

「さすがに人が多いわね・・・みゆきと上手く合流できるかしら?」

 

花火大会があるせいなのかさすが都心ということなのか、人ごみも結構なモンである。

といってもみゆきさんの髪の色やらメガネやらの特徴で結構目立つから分かるだろう。

電車が駅に到着し、みゆきさんに指定されていた出口から外に出る。

その際につかささんが自動改札口に引っかかって「なんじゃこりゃ〜!」とおろおろしてたのはご愛嬌・・・どうにか改札口を通してもらってみゆきさんを探す。

 

「みなさ~ん! こちらで〜す!」

「お! 第一目標発見、合流します!」

「どこの軍人よあんたは・・・」

 

かがみさんのツッコミを混ぜながらみゆきさんの案内で高良邸まで案内された。

ていうか周りがなんか高級住宅街って感じなんですけど(汗)。

 

 

 

高良家にお邪魔したらみゆきさんのお母さん・・・高良ゆかりさんが迎えてくれた。

異様に若く見えるのは気のせいじゃないハズ・・・。

柊家のみきさんといい目の前のゆかりさんといい大学生・・・ヘタすりゃ高校生でも通るんじゃないだろうか?

ちなみに旦那さんは出張中だそうだ。

 

「みなさんいらっしゃい。あなたがみゆきの話してた赤井まさき君かしら?」

「あ、はい。はじめまして、赤井まさきです」

 

いきなり話を振られて少し緊張してしまう。

 

「あらあら、赤井先輩・・・あなたのお父さんとやっぱりそっくりね♪」

「周りからよく言われますけど・・・ってやっぱり両親のことを知ってるんですか?」

「2人とも仲のいい先輩だったのよ〜。もうその時から2人は付き合っててね〜」

 

両親の後輩・・・1〜2年両親より年下・・・でも外見上あきらかに両親より若く見えるって(汗)。

ホントに世の中不思議で一杯だ。

その後細かい話は後回しにしてもらって、女性陣は皆浴衣に着替えるために別室に移動する。

 

「覗きたかったら覗いても良いんだよ〜♪」

「アホか!」

 

お約束のやり取りと思えてしまう辺り、だいぶ俺も染まってきてしまったような気がする・・・。

 

全員の着替えが終わりゆかりさんが出してくれた冷たいフルーツと麦茶を堪能して少しマッタリしてから、高良家の真正面に位置するやっぱり高級そうなお宅を訪ねた。

来年陵桜を受験する予定だという娘も一緒に行くと言うことだ。

陵桜を受ける=後輩なんだし今から気楽に話せるようにしといたほうがいいだろうと言うのが女性陣の言だ。

・・・また女子だけど(汗)。

 

「始めまして。岩崎みなみです」

 

女の子にしては少し長身だがおとなしめの可愛い子だ。

俺たちも挨拶をしていると、大型の犬が突然寄ってきた。

 

「こら、チェリー!」

 

岩崎さんは止めようとするも何故か俺のほうによってきてクンクンと足元まわりで臭いをかいでまわってる。

 

「岩崎さんが飼ってる犬?」

「ハイ・・・チェリーっていう名前で、普段はおとなしくて私の言うこともちゃんと聞くんですけど・・・」

 

シベリアンハスキーってヤツかな?

かなり大きい犬だ。

ふむ、試しに・・・。

 

「チェリーって言ったっけ?」

「はい」

「チェリー、お手!」

 

俺は手を出して反応を見てみると・・・。

 

パシッ!

 

普通に叩かれた。

 

「・・・お手!」

 

今度は反対の手でやってみる。

 

パシッ!

 

「・・・・・・」

「あ、あの・・・」

 

岩崎さんは俺とチェリーののやり取りをオロオロしながら見ていたが「大丈夫だよ」と一言。

 

「お手ッ!」

 

ヒュン!

スカ!

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

何だろう。

俺とチェリーの間に火花が散ってる様な気がしてきた。

チェリーは俺を見たまま沈黙を守ってると思ったら・・・。

 

「わう! わうわう! わうわうわうッ!」

 

俺を前足でたたき始めた!

 

「はっはっは! 遅い! 遅いぞチェリー!」

 

パシパシパシ・・・。

たたいてくる前足を片っ端から払いのける。

 

「犬相手に何やってんのよあんたは・・・」

「イヤ、面白そうだからつい・・・」

 

かがみさんが呆れた声で言って来るがこうなったら楽しんだモン勝ちだろう。

そうしている内に、今度は俺に飛びついてきて顔を舐め始めた!

 

「ちょ!? うぉいこら!!」

「コ、コラ、やめなさいチェリー!」

 

数分後、チェリーは満足したのか悠々と家の中に入っていった。

・・・放し飼いって言うか躾がちゃんとしてると言うか屋内でも屋外でも自由に行動してる大型犬って(汗)。

にしてもなつかれた・・・のかな?

 

「すいません、本当にすいません。」

 

岩崎さんは顔を真っ赤にしながらひたすら頭を下げてきた。

・・・ここまでされるとコッチも悪いような気がするぞ。

 

「気にしなくていいよ。てか何気に楽しかったし」

 

まさかこの年で犬とじゃれ合うハメになるとは思っていなかったけどね。

 

「まさきも結構ノリノリだったもんね」

「まーくんお洋服大丈夫?」

「服は大丈夫だけど・・・岩崎さん、洗面所貸してくれる?」

「ハイ。こちらへ・・・」

 

洗面所で顔を洗ったらそろそろいい時間だということで会場まで移動することになった。

っとその前に・・・。

 

「そういえば皆は虫除け対策とかはしてるの?」

『・・・あっ』

 

ちっとは気にしろよ・・・。

てか全員かい!

 

「みゆきさんか岩崎さんに虫除けのスプレーか何か借りたほうがいいんじゃ・・・?」

「・・・帰ったら虫刺されだらけとかはさすがに勘弁だもんね」

「全然考えてなかったよ。ありがとうまーくん」

「お礼はいいよ。ちょっと思った事を言っただけだし」

 

皆それぞれスプレーをかけて、ひとまず安心。

そのあいだ俺は回れ右して目を閉じ、両手で耳を塞いでいたが。

けどまぁ全身蚊に刺されるよりはマシだろう。

 

 

 

<花火大会会場>

 

 

 

「うわ、すっげえ人ごみ!」

 

見ろ、まるで人がごみのようだ! と叫びたくなるくらい凄い数だ。

 

「あう〜、まってよ〜お姉ちゃ〜ん、おいてかないで~!」

「つかさ!? 手をつないで、ホラ!」

 

さすがに首都圏だけあってどこを見ても人、人、人・・・。

こなたさん辺りはあっさりはぐれそうだ。

 

「こういうときはこうすれば問題ないよね♪」

 

そういって俺の服にギュッとつかまるこなたさん。

さすがに手はつながない。

当然だがっていうかつないできたらどうしようとか思ってたり・・・また頭が変な方向に(汗)。

みゆきさんは岩崎さんと一緒のようで、何とかはぐれずにいるのが見える。

 

そして・・・。

 

ヒュ〜〜ン・・・ドン! ドドン!

 

「お〜、見事な花火だな」

「近くで見る花火って音も凄いし迫力あるよね。お〜! た〜まや〜♪」

「こうやって見ると花火って平べったいのかなって思っちゃうよね」

「つかさ・・・いくらなんでもそれは無いから」

「今年も見事ですね♪」

「・・・はい」

 

そういやさっきから気になってたが・・・。

 

「ねぇみゆきさん。岩崎さんって結構寡黙なタイプ?」

 

ここに来るまで口数もかなり少なかったので何か気に触るような事をしたのかもと思っていたのだが。

 

「ふふふ♪ よく誤解されますが、みなみさんはとっても優しくて気が利く子なんですよ?」

 

むう、会ったばかりで性格が中々読めないから少し冷たい印象があるけど・・・。

みゆきさんがそう言うなら間違いはないのだろう。

 

で、結局。

こなたさんに捕まってて抜けるに抜けられず、最後まで花火を見ることになってしまった。

 

「あう〜、蚊に刺された所がかい〜の」

 

虫除けスプレーを吹いても刺される人は刺されるわけで・・・。

 

「俺は刺されなかったけど・・・てか刺されたところをかくと余計に痒くなるよ?」

「あの・・・良かったらこれ、どうぞ」

 

そう言ってみなみさんが虫刺されの軟膏を差し出した。

こういったことに慣れてるのか、準備がいいのか。

みゆきさんが言ってた彼女の優しさというものが少し判った気がする。

 

その後、俺達は一旦高良家に向かった。

時間は既に夜の9時を回っている。

 

「もうこんな時間ねぇ。皆が泊まって行くのは聞いてるけどまさきくんも泊まって明日帰ったほうがいいんじゃないかしら?」

「俺は夜道は別に平気ですけど・・・」

 

ゆかりさんが提案してくれるが、今なら終電にまだ間に合う。

 

「ヘタすると補導されるわよ?」

 

むぅ。

みゆきさんはここが自宅、岩崎さんは自宅が目の前。

こなたさん、柊姉妹は既にお泊り決定済み。

結局俺1人考え無しだったんだよな〜・・・。

さすがに警察の厄介にはなりたくないし。

大体泊まるにしても・・・(汗)

 

「いい加減腹をくくりなよ〜♪」←(=ω=.)

「はぁ・・・そうするしかないのかね・・・やれやれ」←(どこか悟ったような顔)

 

さすがに宿泊費を払えるほどの手持ちはない。

この辺りに24時間営業のネットカフェは無いみたいだし。

それでも散々悩んだ末、ゆかりさんの勧めに甘えることにした。

 

「すいません。一晩だけお世話になります」

「ふふふ♪ 遠慮なんかいらないわよ。みなみちゃんも今日は泊まってく?」

「・・・はい」

「ほのかちゃんには、私から伝えておくわね♪」

 

岩崎さんはさすがに少し迷ったようだ。

そりゃそうだろう、初対面の男が一緒なんだから。

しかし・・・。

 

「あの・・・『ほのかちゃん』って・・・?」

「みなみちゃんのお母さんよ~」

 

・・・ご近所さんで付き合いが長いとは言え、ちゃん付けで呼ぶのはどうかと思います(汗)。

ちなみに寝床は居間のソファで良いと俺が言ったら案の定全員(岩崎さんはノーコメント)に却下された。

 

「まさき君はみゆきのお部屋で2人っきりのほうが良いかしら?」

「さすがにそれは勘弁してください!」

 

この人は天然なのか?

それともこれが素なのか!?

 

 

 

結局俺は客室に泊めてもらうことになった。

皆は今頃みゆきさんの部屋でわいわい騒いでることだろう。

・・・既に入浴も済ませたし着替えも借りた。

何か仕掛けられる前にってか巻き込まれないうちにさっさと寝よう。

 

 

 

<翌朝>

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

いつもの時間に目を覚ましたところで腕に妙な違和感を感じる。

気のせいだ・・・絶対に気のせいだ。

そう思いたくても現実は甘くなく・・・。

 

「ん・・・」

 

何でみゆきさんが隣で寝てるんだよ!

しかも腕に抱きついて・・・あ、やわらkって違うだろ俺!?

あれか、寝ぼけた頭でトイレに行って間違えてって言うお約束のアレなのか?

てか自分の家で間違えるか普通!

とにかく起こして部屋に戻ってもらわないと絶対地獄を見る!

 

「みゆきさん、みゆきさん! 起きて、早く!」

「ふぇ・・・?」

 

うっすら目を開けたところ寝起きはいいみたいってそれ所じゃない!

 

「はふ・・・おはようございます・・・て・・・え? ええ!? ま、まさきさん!? なんで・・・あ」

 

裸眼とは言え部屋を見回したみゆきさんは、自分の状況に気づいたようだ。

 

「すすすすすすいません! すぐ戻りますので、その、ホントにすいません!」

「分かったからあまり大声出さないで! 部屋すぐそこなんでしょ?」

「ハ、ハイ! すぐに戻ります〜!」

 

顔を真っ赤にしながら慌てて部屋に戻っていった・・・。

 

「ハァ、何も無きゃいいけど・・・」

 

が、時既に遅し。

数分後、既に起きてたらしいかがみさんの凄まじく迫力のある笑顔と岩崎さんの尋常じゃないオーラを宿した目で尋問を受けるハメになった・・・。

 

 

 

「あらあら、今日はお赤飯かしら♪」

「お、お母さん!? 違うんですコレはその・・・!」

 

 

 

つづく・・・



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第十二話 9月のある日

<始業式当日>

 

 

 

「おはよう2人とも」

「おっす、おはよ~!」

「おふぁよ〜・・・」

 

2学期初日の朝。

久しぶりに制服に袖を通し、柊姉妹と当たり前のように合流する。

何だか懐かしい光景だ。

 

「・・・つかささん、ずいぶん眠そうだね」

「夏休み中、昼間まで寝てる癖を付けたままだったからよ」

「えへへ・・・ごめんねおね〜ちゃん」

 

何だかまだ夢見心地の御様子。

話の内容からするとかがみさんに起こしてもらったようだ。

フラフラしてるから見ててひじょ〜に危なっかしい。

そんなわけで万が一の時にフォロー出来るように、つかささんの反対側に回る。

 

「新学期早々悪いわね」

「まぁこのくらいは、ね」

 

しばらくはこんなやり取りが続きそうだ。

 

 

 

<学園校門前>

 

 

 

「お・・・おはよう(汗)」

「おはよ~、こなちゃん・・・大丈夫?」

「あ、3人とも・・・オハヨ〜・・・」

 

学校に入る前に合流できたと思ったら、こなたさんはえらい憔悴しきった姿だった。

 

「どうしたのよ・・・なんとなく予想はつくけど」

「いや〜・・・3日間徹夜でゲームやってたもんだから・・・ふわぁぁ、眠くて」

「この2人、なんだかだらしない所ばっかり似てるわね・・・」

「つかささんはまだマシだとしてもこなたさんは・・・(汗)」

 

こなたさん、あんたは勝つまでやめないギャンブラーか?

かがみさんがまだ寝ぼけてる二人を引きずるようにして2人を連れて行く。

 

「フォロー役、お疲れさん」

「それを言うなら半分手伝いなさいよ・・・」

「さすがにコレはなぁ・・・」

 

いくら仲のいい女子とは言え教室までおぶってくか、かがみさんみたいに手を引っぱるかどっちかしか手が無い以上やっぱ問題あるでしょ。

 

 

 

<2−B教室>

 

 

 

「おはようございます、まさきさん・・・あの、泉さんとつかささん、大丈夫なんでしょうか・・・?」

「おはよう、みゆきさん。まぁ意識はあるから大丈夫なんじゃないかな?」

 

こなたさんもつかささんも席に着くなり机に突っ伏してしまったので、さすがに心配になったんだろうけど・・・。

あの2人の、ある意味自業自得である。

 

「ま、2〜3日経てばいつもの2人に戻るでしょ」

「・・・だといいんですけど」

 

ちなみにつかささんは何とかこらえたようだが、こなたさんは始業式の真っ最中にいびきをかくという偉業をやってのけ(もちろん褒めてない)、黒井先生に引きずられていくことになる・・・。

 

 

 

<放課後:2-B>

 

 

 

「やっと学校終わったよ〜。さて今日はバイトだ〜!」

「こなちゃん元気になったね♪」

「呆れて言葉も無いわ・・・」

 

こなたさんは2〜3日どころか学校が終わった瞬間に復活しており、あきれ返るかがみさんだった。

ちゃっかりつかささんも復活してたりする。

 

「あ、そうそうかがみん、つかさチョットいい?」

「どしたのこなちゃん」

「何よ? あ、アレのこと?」

 

こなたさんが2人になにか話しがあるようでワザワザ呼び出して教室の端でごにょごにょ話始めた。

さすがに聞き耳立てるのは野暮かと思ったのだが・・・。

 

 

 

<下校途中>

 

 

 

「ねぇねぇまーくん、男の子の部屋ってどんな感じなのかな?」

「いきなり何?」

 

色々話してる内につかささんが俺の部屋に興味を持ったのか、唐突にそんな事を言って来た。

まぁ友達として柊家にお邪魔したことはあってもお邪魔されたことは無い、てか普通女子を呼ぶような事はない。

 

「近所に住んでるクラスメイトなのに一回も行った事も無いから、つかさが興味を持ち始めちゃったのよね」

「いつか言ったと思うけど本当に何も無いよ? こなたさんあたりが期待してそうなものも含めて」

 

ちなみに寝床はベットじゃなく布団を敷いている。

その代わり棚にいくつかのプラモデルが並んでて、ゲーム機を1台もっている程度。

後は・・・パソコンくらいかな?

 

「そういう訳であたし達の知的好奇心を満たすために、一旦家に帰って着替えたらまさきくんの家に行って見たいから玄関で待っててね♪」

 

あれ?

いつのまにかがみさんも・・・って(汗)。

 

「いや知的好奇心ってなんか言動がこなたさんに似てきてない? オマケに拒否権無しかい。」

 

来ること事態は構わないけど、と言った時にかがみさんが少々顔を引きつらせていたのは気のせいではないだろう。

 

 

 

<自宅>

 

 

 

『お邪魔しま〜す♪』

「なんも無い所だけどゆっくりして行ってくれい」

 

2人とも部屋に入るなりきょろきょろと部屋を眺め回す。

 

「へぇ、私達の部屋より少し広いくらいかしら・・・結構綺麗だしチョット意外かも」

 

学生とはいえ男の1人暮らしだ。

多少の偏見はしょうがないだろう。

 

「家事は最低限母さんに色々叩き込まれててね。整理整頓も掃除もやってる。たまに模様替えってか配置換えもしてるし」

 

フローリング約八畳分、風呂、トイレにキッチン、洗濯機を置けるスペースもある。

部屋代がいくら掛かってるかは聞かされてないが、母さん曰く『結構格安だったわよ?』とのこと・・・。

ここは親の施しをありがたく受け取っとくとして、その内何か親孝行でもしてやろうかと思ってる。

 

「あ、何だかロボットがいっぱい飾ってある♪」

「その辺はやっぱり男の子ね。結構手間かけてるの?」

「いんや、普通に組み立ててシール張って、後はたまに墨入れしてるくらい」

 

プラモデルを作る事はあっても、流石に手間暇かけて塗装したりはしない。

本格的にやろうとすると何日もかかる上に器具だけでも万単位で金が飛んで行く。

 

「そこまでやれば十分でしょう・・・っていうか何よ墨入れって」

「この辺の黒い線になってる所は本来はパーツの地の色なんだけど、墨入れして色をつけてやるだけでグッとリアルになるんだ」

 

墨入れ自体はそんなに難しいものじゃない。

が、たまにメンドイから・・・と言う理由でやらない事もある。

 

「ん〜・・・この2つで見れば分かりやすいかな?」

「・・・ホントだ〜。チョット色付てるだけで全然印象が違うね」

「へ〜・・・うわ! コレ片足で立ってるわよ? しかも2体正反対のポーズで!」

 

それはMSならぬMFである。

重心考えないとあっさり倒れるけど。

 

「ちなみにこないだ地震あったでしょ?」

「結構大きかったよね。あたし机の下で速く収まれ~って叫んじゃったよ・・・」

「っていってもアレは震度3くらいだったでしょ」

「その地震の中で倒れたプラモは多かったけど・・・その2体、しっかり立ってたんだよね」

「うっそぉ!?」

「うわ〜、すごーい!」

 

その辺の事情を説明しながら買っておいたジュースを用意する。

つかささんが自宅に立ち寄った時に持ってきたクッキーを摘みながら雑談してると、かがみさんが俺のゲーム機を発見。

残念なことに対戦できるのは某龍球Zのスパーキングでメテオなヤツくらいしかない。

ためしに対戦してみよう、なんてかがみさんが言ったので対戦することにする。

かがみさん自身、プレイ経験が少しあるみたいだが結果は・・・。

 

「だ〜! あんた背後取るの上手すぎ! どうやったらあんなトンデモアニメみたいな動きが出来るのよ!?」

「タイミングがシビアすぎるからね〜。どれだけやりこんだことか・・・」

 

攻撃される瞬間に相手の背後へ回りこみ、連続攻撃でぶっ飛ばして更に高速移動で追撃すると言う、あの世界的にも有名なアクションアニメを再現したかのようなこのゲーム。

ちなみにその一連の操作方法は前作(メテオは3作目)より非常にタイミングがシビアである。

某動画サイトのプレイ動画を見て徹底的にやりこんだと言ったら二人揃って興味を持ったみたいなので、パソコンを起動してそのプレイ動画を見せたみた。

 

「うわ・・・次元が違うわ」

「ほぇ〜・・・」

「原作再現したような、いわゆる『魅せるプレイ動画』ってヤツ? 俺も最初はコレを見てひょっとしたら俺でも簡単にって思ったもんだ・・・」

 

何せ背後の取り合い(CPUは最大レベルと思われる)になってるからな〜、この動画。

見てると自分も・・・と思うのが不思議だが現実は非情に厳しい。

ついでに俺のお気に入り動画を見せてやると、2人ともウケが良かったようで自宅に帰ったらさっそく自分も利用する! とはしゃいでいたのはなんとも微笑ましい光景である。

そんなこんなでそろそろ日が沈みかける時間になった。

 

「それじゃまたね!」

「また明日〜♪」

「気をつけてな〜・・・ほぼ目の前だけど」

 

俺の最後の一言に笑いながら2人は帰っていった。

・・・そういや何で2人が家に来たんだっけ?

この時はまぁ楽しかったからいいか、としか考えていなかった。

 

 

 

数日後にその理由が明かされることになる。

 

 

 

「まさきくん、明日は空いてる?」

 

ある日の昼食時、かがみさんに尋ねられた。

 

「? 特にバイトも入って無いけど」

「明日はまーくんの誕生日だよね♪」

 

・・・あ。

 

「おお、そういえば!」

「自分の誕生日にそういう反応するのは・・・それはともかくとして、ちょうど土曜日で学校休みでしょ?」

「だからまさきの誕生パーティを私達で立案、企画したのだよ」

 

んな大げさな・・・祝ってくれるのは嬉しいけど。

 

「・・・ひょっとしてこないだ柊姉妹が家に来たのって?」

「そゆこと。まさき含めて5人全員が入れるスペースや台所事情を調べてもらってたのだよ♪」

「それってひょっとして・・・」

 

わざわざ家で手料理を振舞ってくれるってことか?

そこまでしてもらうと流石に悪い気がするが・・・。

こなたさんや柊姉妹のときは精々ケーキやお菓子が出たくらいだし。

それ以外にも何となく嫌な予感がしてならない。

 

「料理は泉さんとわたしの2人で、つかささんはご自宅でケーキの準備をするんです。」

 

家が近いのが幸いしましたね♪ なんていってるが・・・。

 

「私は・・・料理(そういうの)は苦手だからプレゼント係を勤めるんだけど、何か欲しいものある?」

 

思いっきりストレートだなオイ。

 

「いやいやいや、手作りケーキや料理だけでも十分ありがたいのに、そこまでしてもらうのは流石に悪いって。」

「私たちのこともお祝いしてくれたし、コレくらいのことはしてあげようって皆で話して決めたのだよ」

「私もお勉強教えてもらったりしてお世話になってるから、張り切ってお祝いしてあげたいんだ♪」

「それにお家ではお食事を1人で食べることが多いのでは?」

 

・・・そこまでいわれると拒否出来ない・・・な。

それ以前に拒否権は皆無か(苦笑)。

1つ。

1つだけ懸念事項があるが・・・それは電話で済ませてくれることを祈ろう。

 

「・・・それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

 

そうして明日は特に欲しいものが思い付かなかったため、10時ごろからかがみさんに連れ出されてプレゼントを選びに、他の3人は俺の家もしくは柊家で準備をするとのこと。

いつ以来かな?

友達に・・・しかも女の子に誕生日を祝われるのは。

 

 

 

<誕生日当日>

 

 

 

かねてからの企画、計画の通り俺は時間になったら早々にかがみさんに連れ出されて自分のプレゼント選びに・・・何か違うような気がするが・・・。

あまり高いものをってのも悪いし、俺の考えに考えた答えは・・・。

 

「腕時計?」

「ああ。せっかくの皆からの、初めて貰うプレゼントだし、いつでも身につけていられるのがいいかなって思って」

「ふふふ・・・まさきくんらしいわね」

「へ?」

 

なんのこっちゃ?

 

「あんたのことだから『あまり高い物は・・・』とか悶々と考えてたんでしょ」

「・・・俺ってそんなにわかりやすいの?」

 

そうこういいながらデパートに2人で入った。

そのまま時計を扱ってるスペースに移動する。

普通の腕時計、耐久力が高い腕時計、電波時計など種類も様々。

 

「色んな種類があるのはいいけど、電波時計にするだけでここまでの値段になるとはな〜」

「パッと見どう違うかも分からないわよね」

 

あれこれ見て選んだのは電波時計の中でも一番安かった物・・・それでも1万近くするものだが。

 

「(・・・大事に使わないとな)」

 

多少時間がかかったが、プレゼントも無事選び終わって時間は既に正午。

かがみさんが電話で確認した所、まもなく準備が終わるという。

今から行けばちょうど良い頃だろうとのことで、かがみさんと帰路についた時・・・。

1台の大型トラックが通り過ぎるを見かけた。

いつもだったら気にも留めないのだが、物凄く見覚えのあるトラックだったのだ。

運転席までは見えなかったがアレは・・・。

 

「・・・・・・」

「どうしたの、まさきくん?」

 

まさか・・・こんな時に限って・・・?

今日は土曜日なのにって言うかもう皆と遭遇済み?

何もこんな狙ったかのようなタイミングで来なくても・・・(汗)。

 

「いや、何でもない、何でも・・・」

 

この嫌な予感・・・外れてくれればいいんだけどほぼ9割9分9厘当たりと見ていいかもしれない。

ヘタすりゃ質問攻めか。

やれやれ・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第十三話 嬉し恥ずかし誕生会

<自宅前>

 

 

 

・・・なんだろう、今日は嬉しい日になるはずなのにさっきから嫌な予感が拭えない。

 

「何浮かない顔してんのよ。今日はあんたが主役でしょ?」

「・・・そうだね。主役が辛気臭い顔してるとせっかくのパーティがつまらなくなっちゃうもんね」

 

こうなったらもう前に進むしかない!

例え()()()が居てもなんとでもなるさ!

そして俺は自宅の扉を開く・・・ちと大げさか?

 

ガチャ。

 

パン! パパン!

 

「うぉわ!?」

 

クラッカー!?

後ろからも聞こえたってことは・・・。

 

『お誕生日おめでとう!!』

 

玄関先にこなたさん、つかささん、みゆきさん、後ろからかがみさん・・・。

皆の言葉に思わず涙ぐみそうになる。

 

「・・・ありがとう、皆」

「はいは〜い、辛気臭いのはそこまでにして!」

「ほらほら、上がって上がって♪」

「色々と用意してるんですよ♪」

 

そう言われて引っぱられるように家に入った。

そして靴を脱いで上がった瞬間!

 

パン!

 

「のわぁっ!?」

「まさき、お誕生日おめでとう♪」

「か、母さん・・・」

 

そこにはクラッカーを構えた母さんが物凄い笑顔で迎えてくれた。

嗚呼、やっぱり(汗)。

しかも時間差で来るとは・・・。

 

「いや〜、いきなり玄関の鍵が開いたと思ったら知らないおばさんが普通に入って来てびっくりしたよ。」

 

・・・びっくりしたのはむしろ母さんのほうじゃないのか?

 

「え? ええ!? まさきくんのお母さん!?」

 

突然現れた俺の母に対してかがみさんは相当驚いていた。

まあ1人暮らしのはずなのにいきなり母親が出てきたらそら驚くわな・・・。

かがみさんが知らなかったという事は・・・まぁ実家に連絡でも入れない限り、こんな状況になるなんてことはない。

先程かがみさんが電話したはずなのに知らなかったという事は、かがみさんにも伝えなかったのか・・・。

 

「今日はまさきさんをお祝いするためにわざわざ速めに来てくれたそうなんですよ?」

「うん! 突然だったからびっくりしたけど、自己紹介したら張り切って手伝ってくれたんだよ♪」

 

やっぱりさっきのトラックって(汗)。

 

「土曜日なのに珍しいなぁ。やっぱり親父に乗せてもらってきたの・・・?」

 

母さんは(たまに姉さんも)電車代をケチって親父の()()()のトラックで近くまで来る。

大抵日曜日の夜中に来るのだが・・・。

 

「お父さんがたまたま・・・本っ当に珍しく昨日帰ってきて、今日の早朝に出るって言うから。ほら、去年は電話でしか言えなかったでしょ?」

 

本当だったら父さんも直接言いたかったらしい。

つーか他にも色々ツッコミどころがあるんだが(汗)。

 

「え〜っと、親子間での細かいお話は後に回してもらってもいいですか〜?」

「それもそうねぇ。後で色々聞きたいこともあるし♪」

 

・・・とりあえず今はこの時間を思いっきり楽しもう、うん。

 

「それではさっそくお誕生会(おたのしみ)を始めるよ♪ ふぃーばーた〜いむ!」

 

『そ〜れっ!』と、どっかで聞いたような台詞で部屋の扉が開かれる。

そこのテーブルの上には数々の料理。

そして学生が作ったとは思えない程の、17本のロウソクが立てられている見事な手作りケーキがあった。

そのロウソクに1本1本火が灯されていく。

本当に・・・俺っていい友達持ったなぁ。

 

「それでは、改めまして・・・」

『まさき(君、さん)、お誕生日おめでとう!!』

「ありがとう〜!」

 

そして俺は17本のロウソクの火を吹き消した。

周りから拍手を送られ、改めて皆に感謝した。

 

「みんな~、ジュースはまわったかい?」

「どうぞ、おばさま♪」

「あらありがと♪」

「全員まわったよ」

「それでは、まさきさんのお誕生日を祝して・・・!」

 

『かんぱ〜い!!』

 

こうして、楽しい時間が始まった。

 

 

 

「それにしてもこんなに沢山の女の子が祝ってくれるなんて、まさきも結構隅に置けないわね〜♪」

「茶化さないでよ。大体友達はここに居るのが全員じゃないっての。」

 

男友達も普通にいるぞ。

登場しないのは作者の都合だ。

一応反論してから、から揚げを摘む。

 

「お、このから揚げ美味いな。」

「それは私の自信作だよ、堪能してくれたまえ〜♪」

「言われなくても堪能してるって♪」

「ちなみに1つだけ唐辛子2〜3本入ってるヤツが混じってるから気をつけてね」

「ぶっ!?」

 

なんっつ〜サプライズをかましてくれたんだコイツは!

 

「フフッ、中々面白いことをする子ね。」

 

母さんは終始ご機嫌である。

・・・その大ハズレを自分が引くかもしれないのに(汗)。

 

「そういえば、おばさまの後輩で私の母・・・ゆかりと言うのですが、母の事を何か覚えてますか?」

「ゆかりって・・・誰かに似てると思ってたけどひょっとしてあのゆかりんの娘さん?」

「母さんその呼び方はどうかと思う・・・」

 

後輩とは言え今の母さんが俺のクラスメイトの母親をそう呼ぶのは・・・。

 

「まーくんのお母さんとゆきちゃんのお母さんってやっぱり知り合いなんですか?」

「ゆかりんは部活の後輩だったのよ。まさか子供が同級生になってるとはね〜・・・」

 

本当にこんな奇跡みたいな偶然ってあるんだなぁ。

 

「ところでまさき? さっきから気になってたんだけど、この子達のことも含めて友人関係のこと、全然聞いたことなかったわよね?」

「・・・別に、わざわざ言うようなこっちゃないでしょ」

 

実際聞かれてなかったし。

 

新学年から友達になり、あっという間に馴染んで。

一緒に勉強会をして。

学校での他愛無いお喋りをして。

夏休み、海へ2泊3日の日程で遊びに行って。

みゆきさん家で本人から両親のことを聞いた上に一泊したことも掻い摘んで話す。

実は内容が内容なだけにどう反応するか冷や汗ダラダラな状態だったりする。

母さんはふむふむとうなずいて聞いていたが・・・。

 

「ふむ・・・あ、1つ言っとくけどあんたが進級してから今までどう過ごして来たか、大雑把にだけどこの子達から聞いてるから♪」

 

後で()()()()()()説明しなさいよ? としっかり釘を打たれてしまった。

しっかり裏を取ってるんじゃん(涙)。

それはさて置いて、さっきから気になってたんだが・・・。

 

「このテーブル、ウチのじゃない、よね?」

 

料理が載ってるこのテーブル、よくよく見るとウチで使ってるものじゃない。

それ以前に持ってるテーブルは少し大きめの折りたたみ式だ。

まさかわざわざ母さんが買ってきたとは思えないし、いくら近いとは言え柊家から持ってきたなんてことは・・・。

 

「お父さんが『息子の誕生日にしてやれるのはコレくらいか・・・悲しいけどこれ、現実なんだよな』ってぼやきながら柊さんの家から運んできてくれたのよ♪」

 

近所だったから助かったわ、何て言ってるが俺は内心頭を抱えてたりする。

・・・親から姉妹、はては友人知人に一気に広がるんだろうな、俺のこの友人関係。

背ひれ尾ひれが付いて凄いことになってそう・・・(汗)。

ていうかこのテーブル、返す時はやっぱり俺が運ぶんだろうか・・・?

 

 

 

『人造人間・・・これ以上お前達の好きにはさせないぞ!』

『なんだよ、またお前か・・・しつこいヤツだな』

 

突然こんなやり取りをしてると何のことだか分からないだろうが、先日かがみさんと対戦したゲーム、龍球Z(スパーキングなメテオ)でこなたさんと対戦を始めたのだ。

ちなみに原作にあったもう1つの未来編の2対2の勝負である。

俺は人造人間タッグ側。

こなたさんは材料以外の荷物を抱えてやってきたと思ったらいくつかゲーム機やらソフトを持ってきていた。

その前にかがみさんから話を聞いたこなたさんが件のゲームで勝負しようと挑んできたのだが・・・。

 

『おやおや、もうおネンネの時間かい?』

 

結果、勝者:俺。

 

「あ、あのこなたでさえやられるなんて!」

「まーくんすご〜い、こなちゃんに勝っちゃった♪」

「今はこういうゲームがあるのね・・・懐かしいキャラクターだわ〜。夕飯のときにこのアニメ、家族(みんな)でよく見てたわよね。」

「く、こうなったらタイムマシンで過去に遡って修行しなければ・・・」

 

いやいや、今から20年も前に行ったらさすがにゲーム化どころかハードすらないだろ(汗)。

てかそれを言いたいがためにわざと負けたなんてことは無いだろうね・・・?

 

「ええい、やられっぱなしで終わるもんかぁ! 今度はコレで勝負!」

 

ゲーム機ごと自分のバックから取り出したソレは!

・・・こなたさん、いくらなんでもこないだのこなたさんちでやったヤツといいそこまでマイナーなソフトまで持ってくるか?

あ、でも母さんも楽しめそう。

その名も・・・

 

「何で医者になった髭オヤジ?」

「なんとなく♪」

 

まあいいや。

とにかく・・・。

 

「母さん、やる?」

「あら、いいの?」

 

ソフトを見た辺りから母さんがうずうずしていたのでバトンタッチ。

いきなり対戦相手が母さんになったもんだからさすがのこなたさんも少しばかり緊張してたようだが・・・。

 

「お手柔らかにね?」

「相手がまさきのお母さんだからって遠慮はしません・・・ここは戦闘用のパワーで行きますよ!」

「友達のお母さん相手にそこまで意気込むこなたのパワーとやらを勉学に少しでも・・・」

「かがみさん、それマジで今更。」

 

ちなみに結果は・・・。

 

「orz・・・」←ボロボロ

「ふふ、わざわざ手加減してくれたのかしら♪」←スッキリ

「母さん今でも毎日やってるでしょ・・・GBAで」←半分呆れ顔

 

俺以外の皆が驚いていた、といえば分かるだろうか。

思いっきりへこむこなたさんがそこに居ました・・・。

 

皆でゲームを楽しみ、おしゃべりしながら料理やつかささんお手製のケーキを食べていたらあっという間に夕方になってしまった。

ちなみに唐辛子入りのから揚げは作った本人が食べて大騒ぎした、と言っておこう。

ウチに母さんが居る手前、速めに片付けて撤収となった。

ちなみに柊家から借りてきたテーブルは皆の見送りがてら俺が運んでいったことを追記しておく。

 

 

 

「あんたが小学生のとき以来かしらね、友達呼んで誕生会なんてやったのは」

「それはまぁそうだけどさ、その後家でやらなかった理由は母さんが一番よく知ってるでしょ〜に」

 

人の家の片付けはやるのに自分の家の片づけをやろうとしないのは母さんの悪癖の1つだったりする。

その後は夕飯を軽く食べた後、みっちりと友人関係のことについて尋問されました(泣)。

 

 

 

<月曜日:朝>

 

 

 

『おはようございます』

「・・・おはよう」

「おはようかがみちゃん、つかさちゃん」

 

俺達は登校のために、母さんは東京の姉貴のところに向かうために途中まで一緒に行くことになった。

 

「ホントに女の子と登校してるのね〜」

「お願いだから誤解を生みそうな話し方だけはしないでちょ〜だい・・・」

 

俺は月曜の朝から多少へこみがち、柊姉妹は苦笑気味である。

ホント、これからどうなることやら・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第十四話 諦めない人たち

誕生日の2日後の月曜日。

母さんと別れた俺と柊姉妹は校門をくぐった所でこなたさんと合流したのだが・・・。

 

「あら皆さん、ごきげんよう<きゃら〜ん>」

『・・・・・・』

 

何か悪い物でも食ったのか? とツッコミたくなるような変貌を遂げていた。

 

「つかささん、リボンが曲がっていましてよ?」

「あ、ありがとうこなちゃん・・・」

「こなたさん、一体何があったの?」

「まぁ・・・大体予想は付くけどね」

 

あまりの変貌振りに俺とかがみさんは若干引き気味である。

 

「いやぁ、今見てるアニメにちょっとハマッてて」

 

あまりにも分かりやすい回答をありがとう。

でもいくらなんでも影響受けすぎでしょ・・・。

 

 

 

<2−B教室>

 

 

 

「う〜っす」

「おはよう、ゆきちゃん」

「みゆきさん、ごきげんよう」

「あら皆さん、ごきげんよう」

 

朝の挨拶同様、こなたさんの違和感バリバリな変貌は続いているのだが・・・。

 

「こなたさんの会話に違和感を感じないのかな、みゆきさんって・・・?」

「でもああ言うお話してるのを聞いてると、ゆきちゃんってやっぱり大人な感じするよね♪」

 

つかささん、まずは何の疑問も無く、普通に会話してるみゆきさんにツッコもうよ。

天然なのか受け流(スルー)してるのか・・・前者だな、うん。

 

 

 

時間はあっという間に経過して6時間目のLHR。

そろそろ先を見据えて真剣に進路を考えなくてはいけない時期だ。

そういうことで黒井先生から進路に関して考えるように、と用紙に第1〜第3希望を書いて提出するようにとのこと。

俺は特に受けたい学科が無い場合、就職をすることも考えてる。

将来何をやりたいか、なんて具体的なプランは今のところ無きに等しい。

だからって引きこもるわけにはいかないだろう。

参考までに皆に聞いてみた。

 

「私? 一応法学部で進学希望よ」

「私はお料理得意だから、お料理の専門学校かな?」

「私は医者を目指そうと思っています」

 

むう、皆はどこの大学かはとにかくとしてやりたいことは結構固まって・・・。

 

「私は・・・どうするんだろ? そもそも進学するのかな?」

 

いましたここに1人、何も考えてない人!

まぁ俺も似たようなもんだけど・・・。

 

「あんた本気で将来心配したほうがいいぞ・・・それにそういうまさきくんは?」

「ある意味こなたさんと似たような状態かな。進学か就職かで相当悩んでる上にやりたいことが見つからなくてね」

 

見栄はって進学しても金がかかるだけだろうし、就職してもこの不景気の真っ只中だ。

食べてくためにとはいえ、やりたくも無いことをやらされるのはできれば勘弁願いたい。

 

「正直言ってあまり親の負担にもなりたくないし、出来れば早めに就職したいけど先走って後悔してからじゃ遅いし・・・とまぁ堂々巡りだなぁ」

「けどまだ時間はありますから、そう急く事は無いと思いますよ?」

「そうね。もっとも、それにアグラをかいちゃいけないけど」

 

このことについてはまだまだ考察する必要あり、か・・・。

両親にも進路についてよく相談したほうがいいだろうし。

 

「でもかがみんがそこまで考えてたのは以外だよネ〜」

「はぁ!? 何でよ失礼ね!」

 

また始まった・・・。

 

「だって皆と同じクラスになりたいから文系選んだくらいだもんね~♪」

「・・・つかさぁ〜! しゃべったなぁ〜! よりによってコイツに・・・コイツに〜!!」

「にゃはは・・・めんご〜」

 

至近距離にいた俺やみゆきさんにもバッチリ聞こえております。

なるほど、かがみさんはそれくらい寂しがり屋だという訳か。

 

「まったくもう、かがみんったら可愛いねぇ〜。よしよし♪」

「う、ううううるさ〜い!!」

 

少し離れてその様子を観察中の俺とみゆきさん。

 

「仲良きことは美しきかな、てか?」

「そうですね♪ 例え離れ離れになったとしても、私達はずっと仲の良いお友達だと思います。その中にはもちろん、まさきさんも入ってますよ?」

 

俺も含まれるのか・・・まぁ親に顔も憶えられたし、実際皆と一緒にいることも悪くない気分なのは確かだ。

 

「こらそこの2人! ほのぼのとしてないでこいつを黙らせるの手伝え〜!」

「はっはっは! 私はそう簡単には・・・てあれ、まさき? いつのまに頭つかんだの?」

「さすがに調子乗りすぎてるみたいだからね、たまにはかがみさんの手伝いしないと(ニヤリ)」

 

頭を掴んだらやることは1つ!

約十秒間、俺の放ったシャイ○ングフィ○ガーにより、この階の廊下中にこなたさんの悲鳴が響き渡った・・・。

 

 

 

<寄り道兼帰宅中>

 

 

 

「うう〜、頭がまだじんじんするよ〜」

「あ〜、取り合えずやりすぎたのは認める。すまんかった」

 

さすがに女子相手に力入れすぎたかね?

一応加減はしたんだが、シャイ○ングフィ○ガーを食らったこなたさんはまだダメージを引きずってるようである。

 

「まさきくんって握力どれ位あるの?」

「ん?いつだったかの体力測定の時は・・・40kgチョイだったかな?」

 

平均値はどれくらいだか忘れたが。

 

「そんなに握力強いのに思いっきりアイアンクローかますこと無いじゃん!」

「悪かったって、こうしてお詫び変わりに買い物に付き合ってるんだからそろそろ勘弁してくれ」

 

少しやりすぎたみたいで取り合えず機嫌を損ねかけた彼女の機嫌取りにこなたさんの買い物に付き合うことになったのだ。

ちなみにかがみさんが付いて来たのはラノベの新刊が出たからだとのこと。

・・・地元の本屋じゃ売ってないのか、ラノベって?

このメンツでアニメグッズを数多く取り揃えている店、アニ○イトに向かっている。

そういや皆と知り合ったばかりの時、こなたさんに案内されて行ったことがあるがアレは・・・(汗)。

 

 

 

<遡ること4月のある日>

 

 

 

「古今東西、ポイントカードには不思議な力が宿っている・・・気が付くと予定に無い買い物までしちゃうんだよね〜」

「あんたはホント、無計画だな〜。少しは分かるけど」

「それはいいとして、この店は何?」

 

今日はバイトもないし帰って宿題さっさと片付けてのんびりと、と思っていた所にこなたさんに絡まれてココまでついて来たが・・・。

 

「ふっふっふ・・・君に新天地を教えてあげるよ♪」

「新天地って・・・名前からしてアニメ専門ショップっぽいけど?」

「ぽい、じゃ無くて実際そうなのよ」

 

ふむ、まあ俺もそういうのは嫌いじゃないし知ってて損は無いのだろうが。

こなたさんを先頭に店に入ってみると・・・。

 

「へぇ・・・」

 

普通のCDも取り扱ってる本屋を全部漫画やアニメ、ラノベ、キャラグッズに置き換えてるような店かな?

 

「赤井くん結構平然としてるのね・・・私、初めて来た時は少し引いたんだけど」

「そういうのを別に気にしてないってだけ。というかある意味新鮮な空気?」

 

実家周辺でこういう店はちょっと記憶に無い。

ちなみにこなたさんは既に物色中。

柊さんは目当てのものがあるらしく、そちらに向かっていった。

右も左も分からないので取り合えずこなたさんについていってみるが・・・。

 

「いくぞ! 伝説の少女Aシフトだ〜!!」

『おう!』

 

ん?

今、何か聞こえたかな?

と思っていると・・・。

 

ドンッ!

 

「いぃぃぃらっしゃいませぇぇぇ!」

「うおゎっ!?」

 

何だこの店員、今本棚飛び越えてこなかったか!?

 

「この店特有の宣伝だよ〜♪」

「宣・・・伝・・・?」

 

ずいぶん体張ってるなおい。

 

「DVDハ○ヒの5巻、入荷しましたぁぁぁぁぁぁ!」

 

体張った宣伝もいいけど某流派みたいに頭から突っ込んで飛んでくるのは人間業じゃないだろ!?

あ、頭から上半身が壁にめり込んだ。

 

「限定版、通常版、完備です!」

 

コッチはある程度まともかな・・・てか普段からこんな宣伝をしてるのかこの店は?

 

「その他グッズも、続々入荷ですよ!!」

 

・・・認識改めさせてもらおう。

何なんだこの(あつ)苦しい上に店員が一方的に騒がしい店?

夏場は絶対に来たくないぞ・・・。

タダでさえ暑い季節なのに余計暑くなりそうだ。

 

「赤井君、こなたはまだ見てまわってるの?」

 

柊さんは会計を済ませたようだがこなたさんはまだ店員の(俺にとっては異常な)宣伝を流しつつ物色中だ。

すると突然閃いた様に顔をあげる。

 

「あ、今日は○○○の特典が目当てだったんだっけ」

「・・・その特典とやらはここにはないの?」

「同じ商品でも店によって特典が違うからね〜、てなワケでゲ○ズに行かなきゃ」

 

ココの店員を見てると少し不安になる。

 

「そこもココみたいな・・・?」

「それは行ってからのお楽しみだよ♪」

 

そうして3人そろって店を出る。

後からなんか爆発音のような音が聞こえて大騒ぎしてるような声が聞こえたが・・・いつもああなのかあの店?

 

 

 

<現在:アニ○イト前>

 

 

 

その後何回かこなたさんの買い物に付き合ってココに来ることもあったが、あの手この手使って、とにかく何故かこなたさんに商品を買ってもらおうと必死のようである。

さりげなく聞き耳を立てると、こなたさんのことを『伝説の少女A』と呼んでいるらしい。

何か意味があるとは思えんが・・・。

取り合えず3人で中に入ることにする。

 

「さてさて今日の掘り出し物は何かな〜?」

「私は向こう行ってるからね」

 

会計したら合流するから、と言い残してかがみさんは店内に入っていく。

 

「まさきは何か欲しいもの無いの? エロゲとか♪」

「俺はまだ17歳だよ!」

 

たまにギャルゲーには手を出してるがソッチまでは手を出してない。

まあ私服ならまだ誤魔化して買えるだろうが流石に制服でそんなモン買う勇気は無い。

・・・別に欲しいと思ってるわけじゃないぞ?

 

「俺は特に欲しいものも今のところは無い・・・かな?」

 

バイトの給料日はあと2週間以上先な上に欲しかった物も確保済み。

そろそろ節約して残った分は貯金に回さなければ。

何事も備えっていうのはあったほうがいいだろう。

 

「そかそか・・・お、コレって新刊出てたんだ」

「知らないうちに新刊が出てるってことも結構あるよね」

「特典が店によって違うから他の店でも同じ本をついつい・・・」

「破産しない程度にね」

 

ちなみに今回も見張られてるようである。

なにやらこそこそ動き回って、時には通信機・・・トランシーバーだろうか? とにかくそれを使って連絡を取り合い、こちらを誘導してるようだが。

・・・あれ?

自分の言葉に気が付いたことが1つ。

 

「そういやこなたさん、こないだ衝動買いしたって言ってたよね。懐具合は大丈夫?」

「へ・・・? あ」

 

先日、衝動買いで財政事情が厳しくなったと騒いでいた事を自分でもすっかり忘れていたらしい。

・・・来る前にサイフの中身くらい確認くらいしようよ(汗)。

と、いうわけでかがみさんと合流し、店を出る事になる。

後の店内からは案の定、本来なら有りえないほどの爆音が聞こえて宙を舞う店員達の姿があった・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第十五話 秋の定番

「おはよ〜・・・おや?」

「ゆきちゃんおはよう・・・あれ? ゆきちゃんコンタクトにしたの?」

「おはようございます。いえ、そういうわけではないのですが」

 

9月もまもなく終わるというこの時期、だいぶ過ごしやすくなってきた。

スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋などなど人によってそれぞれあるだろう。

そんなある日・・・教室に入ったところでいつも通りみゆきさんに挨拶をした所、常にかけてるハズのメガネが無かったのだ。

 

「実は今朝、少し寝ぼけていた拍子にメガネを落としてしまって、しかも慌てた拍子に踏んで割れてしまいまして・・・」

「うわ、災難だったね」

「ゆきちゃん怪我しなかった?」

 

心配そうにつかささんが尋ねるが怪我まではしなかったとの事。

代えのメガネが来るまで約1週間はかかるそうだ。

 

「みゆきさん、そんな状態で大丈夫なの?」

 

以前聞いたとき裸眼では視力0.1も無いと言っていたはずだ。

席は前から2番目だが黒板の文字が見えるかどうか・・・?

 

「なるべく自力で頑張ってみますけど、見えなくてノート取れなかったときは見せてもらってもよろしいでしょうか?」

「・・・取り合えず俺が見せよう。こなたさんは字が汚いしつかささんは丁寧すぎて全部書ききれてないでしょ?」

「あう!?」

 

事実、つかささんに何回か勉強を教えているが要領が悪いのか書くのが少し遅いのか、授業のノートが最期まで書ききれてない事も多いことは証明済みである。

 

「おっはよ〜!」

 

こなたさん、参上!ってな感じで今日はずいぶんと元気がいいようだ・・・相変わらず遅刻との戦いの日々のようだけど。

 

「あれ? みゆきさん、とうとうコンタクトにしたの?」

 

同じ内容の話になるため会話を割愛させていただきます。

 

「・・・なんか私の扱い酷くない?」

「気のせいだよ・・・多分」

 

 

 

<昼休み>

 

 

 

「ん〜・・・」

「どしたのこなたさん」

 

コロネを頬張りながらこなたさんがみゆきさんを直視する。

 

「あの・・・私の顔に何か?」

「いや〜、アニメやゲームだとさ、メガネかけてる人がメガネを外したらいきなりモテる事が多いけど、実際はそんなことって無いよね」

「当たり前でしょ。でも見えない分、目を細めちゃうから目つきが悪くなるって事はあるかもしれないけど・・・」

 

ちなみにみゆきさんの場合、一生懸命見ようとしてるのが解かるのでなんか可愛く見えるのは秘密だ。

 

「でも目を細めるとなんか大人っぽくなるって言うか・・・美人になれるようなイメージもあるよね♪」

「ちょっと試してみようか♪」

 

試すって・・・。

 

『うっふ〜ん』

「こっち見んな」

 

4人が実験的に目を細めるのはいいが何故俺を見る?

・・・普通にかわいいなんて口が裂けても言えないが。

 

「って、それ以前に皆してやるな!」

 

一瞬早く我に帰ったかがみさんが3人にツッコムが・・・。

 

「いや〜、私達の中で白一点であるまさきの意見を聞いてみようと。かがみんだってノリノリだったじゃん♪」

「さ〜て、次の授業は何だっけと・・・」

 

そういって弁当箱を片付けながら脱出を試みるが・・・。

 

ガシッ!

 

「逃げ出そうとしてもそうは行かないヨ〜・・・皆も知りたいよね?」

 

頬を染めつつ頷かないでってか頼むから俺を巻き込まないでくれ!

返答に非常に困るから・・・。

 

 

 

<放課後:通学路>

 

 

 

「携帯買い直して貰ったのはいいけど、変なメールがいっぱい来るんだよ〜」

「あ〜・・・買ったときからアドレスをそのままにしてると、これから先もさらに来るよ?」

 

親に携帯を買いなおしてもらったらしいつかささん。

通常初めて買った携帯電話の場合、電話番号がそのままメールアドレスに使われている。

そのため迷惑メールの類が大量に来る。

 

「そういう時は分かりづらいアドレスに変更するといいんだよ」

「へ〜・・・まーくんのはアドレスどうやって決めてるの?」

「俺? 俺は某ガン○ムの機体形式番号」

 

少なくても年に1回はアドレスを変えてるお陰で迷惑メールはほとんど来ない。

 

「段々あんたもこなたよりの性格になってるように思えてきたんだけど・・・?」

「原作はほとんど見たことは無いけどね。ちなみにこなたさんは?」

「その前にまさき、もったいないよ・・・原作やアニメを見てもっと知識を深めるべきだよ!」

「こなた〜? 話がずれてるわよ。」

「てゆーかソッチの世界に俺を引き込もうとしない様に」

 

いつも通りの会話だから別に気にしてはいないようであるが。

ちなみに此方さんにはああ言ったが、既に片足突っ込んでるようなものだとは自覚はしている。

 

「まぁ気を取り直して、私のメアドはローマ字で『眼鏡っ子激ラブ』だよ」

 

うぉい!?

 

「ホントはメイドとかがよk「もういい! もう喋るな! 迷惑メール以前に、あんたの発言そのものが迷惑だ!」・・・モゴモゴ」

 

上手いこと言ったなかがみさん(汗)。

ちなみに現在の場所は電車の中である。

とっさにかがみさんがこなたさんの口を塞いだが時既に遅し・・・。

周囲の乗客がいぶかしげな目でこちらを見てるが俺は必死に他人のフリをしている。

聞くんじゃなかった・・・。

 

 

 

「メールの練習?」

「うん。まだ使い方がよくわからないから、まーくんが良ければ返信して欲しいんだ」

 

こなたさんと分かれた後・・・。

まだ携帯のメールの扱いに不慣れだというつかささんからこんなことを頼まれた。

ちなみに最初の頃はかがみさんにメールの練習相手を頼んでた様である。

 

「私は大丈夫なんだけどつかさの場合は、まぁおっとりしてるから・・・」

 

まぁ・・・こういうのは慣れだからな。

 

「んじゃ家に帰ってからになるかな? 取り合えず俺のアドレスは・・・と」

 

つかささんのは電話帳から登録しなおす必要があったため、俺のは携帯番号しか教えてなかったからアドレスを改めて教えるが・・・。

 

「え〜っと・・・これはここで・・・あれ? これはう〜んと・・・」

 

・・・慣れるまでもずいぶん時間がかかりそうだなこりゃ。

赤外線通信あたり出来れば楽なんだが・・・と思っていたりもする。

そういや前のときもアドレスの入力にえらい時間かけてたっけ。

俺から聞いたほうが早かったかも・・・学習能力ないな俺も(汗)。

 

 

 

<翌朝>

 

 

 

「おはよう・・・」

「あ、おはよう」

「おはよ〜まーくん♪」

 

メールの練習の相手をした翌日。

いつも通りに合流するも昨日練習相手なったことに若干後悔してる自分がいる。

 

「まーくん昨日はアリガトね?」

「どういたしまして・・・つかささん、取り合えず練習するのはいいけどあの大量の絵文字は何?」

「あ〜、やっぱりそっちもか」

 

10分置きくらいにメールが来るので約束した手前、返事を返さないワケにも行かずにつかささんが寝るまで練習は続いていた。

が、文字は数文字、後は画面いっぱいに絵文字を大量に打ち込んでくるのはさすがにどうかと思うぞ?

 

「まるで象形文字よね〜、あれは」

「否定はしない」

 

って言うか出来ない。

 

「可愛い絵文字が一杯あるからつい・・・てへへ♪」

 

恥ずかしそうに微笑むつかささんのことを一々可愛いと思ってしまうが流石にもう慣れたので顔に出ることは無い。

関係ないが。

 

「で、少しは慣れた?」

「ちょっと不安だけどもう大丈夫。ありがとう、ま〜くん♪」

「で、お父さんがメールのやり方を聞きに来たもんだから・・・」

「成る程、さっそく嬉々として教えてあげたわけか」

「えへへ・・・」

 

自分にとって難しいものを克服したら、使い方をよく知らない人に教えてあげたくなるのはいかにもらしいと言うかなんと言うか(苦笑)。

 

 

 

<2−B教室:昼休み>

 

 

 

「そういやもうすぐ体育祭だよね」

 

その日の昼休み。

いつもの事ながらどうでもいい話題(といっても学校行事だが)で俺達は盛り上がっていた。

 

「去年は球技大会、今年は体育祭、そして来年は文化祭ですね・・・」

 

秋の定番イベントは準備の都合やらを考慮に入れてそれぞれの行事が順番に1年に1回開かれる陵桜学園のこの3大行事。

文化祭が一番大変なような気がするんだが・・・。

 

「皆いいな〜。私運動が全然ダメだから足引っぱらないようにしなくちゃ」

「かがみさんは何に出るのですか?」

「かがみのことだからパン食い競争とか♪」

「前々から思ってたんだけど、あんた毎回私に対して喧嘩売ってないか?」

 

こなたさんイメージで判断してない?

そういや変わった競技があったよな。

 

「俺的には5M走ってのが気になってしょうがないんだけど・・・」

「白石君、泣いてたよね」

「いいんじゃない? ある意味楽だし」

「まぁ白石君だからね〜・・・で、結局かがみは何に出るの?」

 

「・・・・・・」

 

『・・・・・・』

 

「図星? ねぇ、図星?」

「こいつムカつく・・・!」

 

ほおって置くとまた拳骨が飛びかねないだけに話題を変えておこう。

 

「まぁ何に出るかは人ぞれぞれだけど、それを言ったら・・・」

「・・・・・・(真っ赤)」

 

みゆきさんが赤くなって少し顔を伏せた。

まぁ経緯が経緯だからな(汗)。

 

「へっ? みゆきは何に出るの?」

 

みゆきさんはやったことが無いからと言って、障害物競走を希望してたのだが・・・。

 

「みゆきさんは体の凹凸激しいから向かないよ」

 

という、こなたさんが放ったセクハラ親父発言のためにリレーに出ることになってしまったのだ。

ちなみに俺は200M走、こなたさんは100M走、つかささんは100Mハードル走である。

・・・若干心配なのが1人いるが概ねこんな感じだ。

 

「体育祭といえば、借り物競争ってあるよね?」

「あ〜、俺、やったことないんだよなぁ・・・」

「あたし達も参加はしなかったけど見たことならあるわね」

 

どんな借り物かすっごく気になるんだよな。

 

「借り物競争で私を呼ばれたことがあるんだよ」

「ということは泉さんの特徴が当てはまったのですか?」

「みたいなんだけど・・・結局最後まで教えてくれなかったんだよね」

 

・・・すまん、言えない事に心当たりがたくさんあるんだが。

 

「目元にほくろがある人、ではないでしょうか?」

 

成る程、さすがみゆきさん。

普通なら俺みたいに、言葉に詰まって絶句しそうなもんだが。

人によっては確かに気になる・・・でもそれって借り『物』競争でいいのかな?

ちなみに柊姉妹はみゆきさんに複雑な表情を見せていた。

 

 

 

<帰宅後:夕飯時>

 

 

 

夕方6時のニュースを見ながら夕飯を食べる。

時期的なこともあって小学校の運動会の模様を放送していた。

が・・・。

 

『いや〜、娘の応援しながら頑張ってるところを撮影してるんですよ』

 

ぶーーーーーーーーー!!

 

思わず口の中のものを吹きだしてしまった・・・。

画面に映ってるのは間違いなくこなたさんの親父さんだ。

こなたさんって確か一人っ子だよな?

いつだったか「妹のような従姉妹がいる」とは聞いたことがあるんだが。

とりあえず俺はチャンネルを変えた後、吹き出したものの後始末を行ってバイトに行く準備を始める。

しかしあの強烈なインパクトはしばらくの間、頭から離れそうになかった・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第十六話 体育祭!

<体育祭当日>

 

 

 

3年に一度の体育祭、加えて今日は雲ひとつ無い晴天!

この日は生徒の父兄も応援に駆けつける。

が、残念ながら俺の両親は仕事の都合が付かず・・・まあ別に構わないんだけどね。

実家がメチャメチャ遠いし。

そんなことはひとまず置いといて、さすがマンモス校。

生徒全員+父兄を入れると凄い人数になって、ある意味壮観である。

恒例の校長挨拶、選手宣誓を終えてそれぞれのクラスの待機場所に戻った。

形式としては学年対抗戦という形になる・・・クラス対抗にしたらどうなることやら(汗)。

 

「最初の競技ってなんだったかな?」

「パン食い競争だよ。いきなりかがみの見せ場だね〜」

「いきなりソレからかい!?」

 

他にも最初に持ってくる項目があるのでは?

まあグラウンドが広いから他の競技も併せてやってはいるが・・・。

 

 

 

<かがみ視点>

 

 

 

なんだかな〜、この高揚感。

さっきからずっとやる気というか何と言うか・・・とにかく闘志が体の中k「お姉ちゃん頑張って♪」「かがみさんがんばってください!」「スタートからブッちぎれ〜!」「むしろそのまま全部食べつくしちゃえ〜♪」・・・人がシリアスに燃えてるってのに、つかさやみゆきはいいとしてあの2人は・・・!

 

「こなた、まさきくん! 2人は黙ってろ!!」

「怖〜い、かがみんが怒った〜♪」

「っていうか俺も!?」

 

女の子に対してブッちぎれは無いでしょ!

大体あいつは最近こなたに感化されすぎなのよまったく!

でもまさきくんもアレで応援してくれてるのよね。

最近妙に胸が高鳴るこの感じが強くなってくる。

コレってもしかして・・・ってそう思ってるうちに出番がまわって来た。

ええぃ、余計なことを考えるのはヤメヤメ!

こうなったら思いっきりやるだけだ!

 

パァン!

 

絶対に1位になってやる!

 

「どぉりゃぁぁぁぁぁ! たあ!」

 

全力ダッシュと共に思いっきりジャンプして一番にパンをくわえる・・・ってあれ?

パンが・・・クリップから外れない!?

ヤバ、このままじゃ!

 

「ムグ〜〜〜!?」

 

何とか取ろうとするも口だけじゃどうにもならない!

 

バタ〜ン!!

 

結局、パンを吊り下げてる台ごとわたしは顔面から土にダイブするハメになった・・・。

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「凄いなかがみさん・・・台ごと倒れてもまだパンをくわえているとは」

「さすがかがみん。食べ物が絡むと凄まじいパワーを発揮するネ」

 

・・・本人が聞いたら鬼神と化すぞ、こなたさん(汗)。

結局その後やり直したのだがやっぱりかがみさんがダントツ1位だった。

しかしよく食うな〜、2個目だぞあのパン。

 

「お姉ちゃんが1位・・・私も頑張らなきゃ!」

「次はつかささんの番ですね」

「無理だけはしないようにね」

「ドジッ子キタコレ! つかさ、期待してるよ〜♪」

「うん、がんばる!」

 

そういいながら出場選手の集合場所に行ったが・・・。

こなたさんは一体何に期待してるんだ?

まぁ期待というよりお約束というか、なんとなくイメージは浮かんでくるんだが・・・。

 

「・・・人の妹に対して言ってくれるじゃない、こ・な・た?」

 

取り合えずいきなり背後に現れないでくれ、かがみさん心臓に悪いから(汗)。

 

「お、かがみ! さっきは凄かったって何故に拳を振り上げてらっしゃるのですかかがみさん?」

「さっきの余計な一言に対する制裁」

「ちょ!? 無表情で言わないでよ返ってこwふんぎゃ!?」

 

こなたさん、南無。

 

「まさきくんもよ? まったく、こなたよりはマシだけど、女の子に対してブッちぎれは無いんじゃない?」

「ハイ。以後、気をつけます」

 

笑顔で言って来るが・・・凄まじいほどのオーラが漂ってきて正直怖いです(汗)。

 

「まぁまぁかがみさん、2人とも悪気は無いのですから・・・」

「みゆきは甘すぎ! 特にこなたには徹底的に制s「それは愛情の裏返しとも取れるよね」・・・まさきく~ん、覚悟はい〜い?」

「ステキな笑顔で握り拳はかんべんね、いや、ホントに。」

「・・・・・・」

 

あれ?

今の一言で大人しくなっちゃった。

いつものかがみさんなら間違いなく追撃が来そうなもんだが・・・はて?

何かこなたさんとかがみさんの2人がぼそぼそ言ってるようだが・・・っと、次はつかささんの出番だ。

 

 

 

<つかさ視点>

 

 

 

(落ち着いてタイミングを図って、左足から1・2・3で跳ぶ・・・ゆきちゃんとまーくんがせっかくアドバイスしてくれたんだし頑張らなきゃ!)

 

元々自分は料理以外取り柄が無いから、2人のアドバイスは凄く助かるな。

1位は無理だとしてもまーくんにはいい所を見せたいし・・・ってあれ?

 

(何でまーくんにって思ったんだろ?)

 

その疑問を抱えたまま自分の出番がまわって来る。

 

(いけない、集中しなきゃ。タイミング、タイミング・・・左足から1・2・3,1・2・3・・・)

 

「つかさ、頑張れ〜!」

「つかささん力みすぎ! もっと楽に行って楽に!」

「後はタイミングを取れれば大丈夫ですよ!」

「さあ行くのだつかさ! 他の選手に一泡吹かせるのだ〜!」

『ってますます緊張させてどうする!?』

「ほんぎゃらへ!?」

 

あはは、こなちゃんらしいな〜。

そっか、楽にらk「パァン!」へ?

もうスタート!?

出遅れちゃったよ〜!

 

(え〜っとどうすんだっけ、えっとえっと!)

 

出遅れた上に頭がこんがらがっちゃったよ〜!

あ、一個目のハードルを・・・。

 

「はにゅ!?・・・あじゃぱ~・・・」

 

思いっきり転んじゃった・・・。

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「・・・ある意味才能かなアレは?」

「言わないで、お願いだから・・・」

 

見事としか思えない。

順位はビリでなお且つ・・・。

 

「さすがにハードルを全部なぎ倒すとは私も思わなかったよ・・・」

「・・・つかささん、ファイトです(苦笑)」

「ゴメンねゆきちゃん、まーくん。せっかくアドバイスしてくれたのに・・・」

 

さすがのつかささんも凹み気味である。

まああれじゃあ、ねぇ(苦笑)。

 

「ドンマイドンマイ、つかささんはよくがんばった・・・ってなんじゃありゃ?」

「ほえ?」

 

俺の目線の先には、プロの写真家が使ってそうな数台の高価そうなカメラの数々。

新聞社が取材にでも来たのか?

そんな話はあったら聞いてそうな物だけど・・・だがその考えはすぐに消え去った。

何せ見覚えのある人が写真を取りまくっていたのだから・・・。

 

「まぁ体育祭は生徒だけが楽しむ場所じゃないもんね」

「取り合えずどこからツッコめば良いんだろうっていうかこなたさんはなんとも思わないの、あれ・・・?」

「ツッコんだら負けよ、きっと・・・」

 

 

 

<こなた視点>

 

 

 

お昼前の最終競技。

私はついにスタートラインに立つ!

 

『がんばれ〜。こなた(泉)さん』

「こなちゃんファイト〜!」

「恥かくんじゃないわよ〜!」

 

むう、さすがツンデレ。

さりげなく辛口な言葉とは裏腹に本音じゃ無いっぽい声援に萌え!

私の嫁や婿と友人の想い、確かに受け取った!

・・・てあれ?

婿といったら該当しそうなのは・・・ゑ!?

最近たまにある、胸のチクチクした感じの正体・・・かがみん曰くギャルゲ脳で考えると・・・!

取り合えず私は目の前の、メンドイけど競技に集中しよう。

皆の応援、無駄に出来ないしそれに・・・この想い、今は本当かどうかはわからないけど。

期待には応えたい!

 

パァン!

 

その時、私は一陣の疾風(かぜ)になった・・・!

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「速ッ!?」

「不思議なことに運動は得意なのよね・・・本人はインドア派だけど」

「うわ、ダントツ1位だよ〜!」

「女子の中では運動部の人を除くと、運動神経はトップクラスなんですよ」

 

そういえばそんなことを言ってたような気がするがここまでとは・・・。

2位との差が1秒以上あったんじゃないかな、あのスピードは?

 

「ふ、私の脚力は甘くない!」

「こなちゃん、スゴイスゴイ!」

「っていうかそのちっこい体でアレだけのスピードって・・・人は見かけによらないわよね〜」

「コレがいわゆるギャップ萌えってヤツ?」

「萌えとかは言われても分からんぞ」

 

こなたさんの100M走の記録は遅く見ても13秒台と見た!

しかし・・・。

 

「いや〜、娘が出てたんですよ♪」

 

怪しさ全開でメチャメチャ見覚えがあるオッサンが係員に事情聴取されてるところが視界に入ってしまった・・・。

 

「ちなみにアレに関しては?」

「ん〜・・・本人が楽しければ良いんじゃない?」

 

そういう問題かなぁ・・・?

 

 

 

<昼休み>

 

 

 

・・・結局午前中は応援だけだったからなぁ。

午後イチからはいっちょ、頑張りますか!

 

「まさきさんはお昼の後すぐですよね」

「200M走だったよね? がんばってね♪」

「おう! こなたさん達のやる気も見たし、情けない結果にはならない様にしないとね」

「あたしは取り合えず突っ走ってただけなんだけどね〜」

「いきなり人のやる気を削ぐようなこと言うなよアンタは・・・」

 

昼食はそれぞれ持ち寄って、たまにおかずを交換して、そんないつもの昼食中・・・。

 

「はなせ! 私の娘がピンチなんだ!」

「どう見ても昼食を一緒に食べてるだけでしょう。そんなことより、異常な枚数の写真を取ってましたね? ちょっとコッチまで来てもらいましょうか。」

「ゑ? ちょっと待て! まだ全然とりたりn・・・!」

 

ずるずると教師2人掛かりで連行っていうか引きずられて行くおっさんがいたのは・・・本人の娘が無視を決め込んでる事もあり、取り合えず黙っておこう。

 

 

 

昼食も終わり、さっそく自分の競技に参加するために移動する。

で、移動したのは良いけど・・・。

何か視線が・・・ってこなたさんの父!?

強制送還するわけには行かなかったのか、元の位置で再びカメラを構えてる・・・こりない人だなぁ。

なんかメチャメチャ殺気立ってるって言うか睨んでる・・・俺を。

俺、何か恨まれるようなことしたっけ・・・?

取り合えず気にしないでおこうと思う中でも競技は順調に進んで行き、自分の番がまわって来る。

ひとまず考え込んでないで、目の前のことに集中集中!

 

パァン!

 

スタミナ配分は考えず、初速からスピード全開!

ただ全力でゴールを目指すのみ!

今のところ俺がトップだが、油断はできない。

すぐ後・・・2名ほどか、いつでも俺を抜けそうな距離を保ってる選手がいるのが気配と足音で分かる。

そして半分が過ぎた頃、後の2人が仕掛けてきた!

だが、あっさりとトップを譲るつもりは無い。

そんな時・・・。

 

『まさき(くん、さん)がんばれ〜!』

「まーくんファイト!」

「まさきのリミッターの解除を要請! 発動、承認! プログラム、ドラ〜イブ!」

 

声援が聞こえてくる・・・こなたさんは相変わらずだが(笑)。

だけど不思議と力が湧いてくるのを感じる・・・残り目算で約50M!

皆の応援、絶対無駄にするもんか!

 

 

 

「スゴ〜イ! スゴイよまーくん! 最後の方で一気に引き離しちゃうんだもん!」

「まさきくんって陸上でもやってたの? 流石にあそこから更に加速するなんて、普通はありえないわよ」

「はぁ・・・はぁ・・・。ま、火事場の、馬鹿力、って、ことで・・・」

 

息を整えながら戻ると賞賛の嵐だった。

皆の声援が聞こえたから、なんて言えない。

言えるもんかい、はずかしくて。

 

「でも本当にお見事でしたよ」

「分かってないな〜。私達の愛情込めたsってあだだだだ!?」

「取り合えず、応援ありがとう・・・でも、こなたさんは・・・もうそろそろ、少し頭を・・・冷やそうか?」

「ひぎゃ〜!? 応援したのに管理局の白い魔王は勘弁って痛い痛い痛い!」

「・・・アンタのアレは違うと思うぞ。」

 

息を整えつつもこなたさんに対し、両の拳で頭を挟み込むようにグリグリ(通称ウメボシ)をお見舞いしておく。

とりあえずそれなりに反省はしてる様なのでこなたさんを開放してやった。

 

その後、競技は滞りなく進行していった。

学年ごとの得点はほぼ横ばい。

2学年が頭1つ飛び出してるが、まだ油断は出来ない。

そんな状態で迎えた最終競技、学年対抗4×100Mリレー。

クラスが多いために各クラス代表者が1人ずつ、それぞれ参加することになっている。

ちなみに最終リレーのみ、人数あわせのため(13クラス÷4人=3回、余り1クラス)走者が1人多くなり、5×100Mリレーになる。

 

 

 

<みゆき視点>

 

 

 

はぅ〜、リレー1組目のアンカーに選ばれていたのをすっかり忘れていました!

今更ながら私で本当に良いんでしょうか?

皆さんには『何でも出来る』なんて評価していただいてますけど、私なんてまだまだ・・・。

でも・・・。

 

「おお! みゆきさんがアンカーか!」

「ゆきちゃんがんばって〜♪」

「結果なんか気にしちゃダメよ〜!」

「今持ってる全部(すべて)の力を存分に出し切って来〜い!」

 

ああやって応援してくださってくれる皆さんのためにも、私、頑張ります!

そうして私の心の中で決意してる頃、まさきさんが泉さんとかがみさんにからかわれてますね、ふふふ♪

ああやって気軽に、わけ隔てなく話が出来て、笑い合える・・・何時(いつ)までもそうありたい物ですね。

でも・・・もう少し、もうちょっと先へ・・・というのは我侭でしょうか?

この心の奥にある『想い』は、決して偽りのものではない。

本物の『想い』だと信じたい。

そしてこなたさん、かがみさん、つかささんもその『想い』はきっと同じ。

だけど今は・・・!

 

「高良さん!」

「はいっ!」

 

まさきさんの言うように、全部(すべて)を出し切れるように!

私はバトンを受け取りました。

トップとの差は私の足で追いつけるかどうかくらい・・・いえ、絶対に、追い越して見せます!

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

「おお! みゆきさんもかなり気合はいって・・・てか速いね」

 

みゆきさんは明らかに・・・こなたさんほどとは言わないけどかなり足が速い。

トップとの差がどんどん縮まっていく!

 

「みゆきさんがんばれ〜!」

「いけるいける! もう一息だよ!」

「がんばれゆきちゃ〜ん!」

「ココまで来るとかなり微妙な差ね・・・がんばれみゆき!」

『おお!』

 

トップの選手に並んだ!

そしてゴールテープを先に切ったのは・・・!

 

 

 

<体育祭終了後:通学路>

 

 

 

「今日は中々盛り上がったよね」

「ホントだよね~。つかさもお約束を地で行ってたし♪」

 

下校途中、話題はもちろん今日の体育祭のこと。

 

「こなちゃ〜ん、もう言わないでよぅ・・・」

「こ〜な〜た? あんまり人の妹を困らせないでくれる?」

「きゃ〜、怖いお姉ちゃんに襲われるぅ〜♪」

「ああもう! 1発殴らせろ〜!!」

 

2人はもうスルーでいいだろ。

あのじゃれ合いもいつもの事だし・・・。

 

「でもみゆきさんの最後の走り、本当に凄かったよ。ギリギリで1位取っちゃうし」

「いえ、あれは・・・皆さんのご声援もありましたから・・・」

 

あ、少し赤くなってる。

かなりの僅差ではあったが、みゆきさんがわずかに速くゴールテープを切っていたのだからまたスゴイ。

中々あんな展開は見れないぞ?

そのお陰で勢いがついた2年生がリレー全制覇して総合優勝出来たんじゃないかな。

 

「まさき〜、助けて〜♪」

「ハイ、かがみさん」

「てちょっ!?」

 

助けを求めてきたこなたさんを即時かがみさんに引き渡す。

これもある意味いつもの光景だ。

 

「アリガトまさきくん。さ〜てこなた、覚悟はいいかしら♪」

「まさきの裏切り者〜! てかがみん笑顔でその拳骨は・・・アッー!」

 

 

 

その後、いつもの駅でみゆきさんやこなたさんと別れ、いつもの3人で帰路につく。

 

「ねぇまーくん。まーくんって何であんなに速いの?」

「あ、私も気になってた。スタートから十分速かったけど、あれでも温存してたの?」

 

話題が尽きない中、姉妹がそろって聞いてくる。

別に温存してた訳じゃないんだけどね。

今は運動部には入ってないし。

 

「ん〜、毎朝走ってるから体力にはそれなりに自信があったし、こっち来る前は一応運動部に入ってたからそのお陰・・・かな?」

「そういえばいつだったかそんなことも言ってたわね」

「私も毎朝ランニングしてたらちょっとは違ったのかな・・・?」

「人それぞれって言うか、最終的には本人のやる気次第だと思うけどね。ちなみに俺は朝5時半から毎日欠かさずランニングしてるよ」

 

もっとも、俺の場合はバイトや車の往来の関係上、念を置いて交通量の少ない早朝にやっているだけだ。

 

「まぁ、さすがに悪天候の時は控えてるけどね」

『・・・・・・』

「・・・・・・?」

 

2人とも何やら黙り込んでしまった・・・というか考え込んでるようだけど・・・?

 

 

 

<翌日:早朝>

 

 

 

俺が日課(ランニング)のために外に出たら・・・。

 

「おはよ、まさきくん!」

「おふぁよ〜、ま〜くん」

 

待ってましたと言わんばかりのかがみさんと、明らかに眠そうなつかささんがアパート前にスポーツウェアを着て立っていました(汗)。

無理したらかえって逆効果なんだが・・・。

取り合えずやる気になってる様だから、しばらくの間は2人のペースにあわせる様にしようかな?

 

 

 

つづく・・・




こちらに引越す上で前後編に分けていたこの話を一つにまとめました。
にじファンで読んでた人によっては長いと感じるかもしれませんが、前編後編共に文章量がかなり短かったので・・・。


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第十七話 意外な一面

体育祭から1週間。

俺はいつもの様に早朝のジョキングコースを走っていた・・・柊姉妹と一緒に(汗)。

すれ違う人達(主にお年寄りとか)にからかわれるのもすでに定番となりつつある。

 

「もう1週間になるけど、よく続くね?」

「それは私達に対する挑戦か?」

「いや、かがみさんじゃなく・・・」

 

最初の頃は眠そうな顔で危なっかしく走っていたつかささんだが、たった1週間で俺のペース(若干落としてるが)に付いて来ている。

 

「えへへ〜、わたしもがんばってるもん♪」

 

・・・やっぱりつかささんってやれば出来る子だよなぁ。

 

「明日からもうちょっとペースを上げても大丈夫そうかな?」

「ほえ・・・?」

「もうちょっとって・・・あんたこれ以上のペースで走ってたの!?」

「慣れだよ慣れ♪」

 

姉妹揃って若干顔を引きつらせてたのはご愛嬌。

走りながらこんな会話も出来るんだから大丈夫だと思う。

実際は徐々にペースアップしてたのだが(それでもまだ俺のペースじゃない)2人とも気づいてただろうか?

もう少ししたら多少距離も伸ばしてみようと思ったのは、今のところ2人には内緒である。

そんな感じで、平和な早朝の秋の1コマが流れていった。

 

 

 

<2−B:昼休み>

 

 

 

「そういやさ、前々から気になってたんだけど・・・」

「あ、私も聞きたい事があったんだけど」

「何よ二人揃って・・・?」

 

こなたさんの視線の先から考えられる質問は多分俺と同じだろう。

 

「2人の弁当って基本的に中身同じだよね?」

「そうだよ〜。私とお姉ちゃんが交代で作ってるんだよ」

「何かとっても質素な時とちゃんとした時で差が激しいんだけど何でなのかな、かがみ?」

「そこでストレートに私に聞いてくるのがなんか腹立つんだけど・・・」

 

取り合えずかがみさんは料理は作るほうじゃなく食べるほうが主らしい。

まぁ前々からそうなんじゃないか、とは思ってたけどね・・・あ、さっそくかがみさん、こなたさんに絡まれてる。

それに対して・・・。

 

「ちなみにみゆきさんの弁当、やけに豪華な時があるよね? 今日みたいに」

「いえ、コレは夕飯のあまり物を使ってるので、たいした物では・・・」

「あまり物・・・だと?」

「夕飯の余り物を使うのはわたしもよくやるけど・・・」

 

卵焼きで巻き付けるように、中にうなぎが入っていた。

うなぎが余る夕飯・・・余るか普通?

 

「みゆきさんちの昨夜の夕飯はうな重? それとも蒲焼?」

「い、いえ、普通におかずとして出てきたものですけど(汗)」

「コレが格差か・・・」

「あんたはまた何かのネタか・・・? でもやっぱりみゆきのお弁当は豪華よね」

「こんなに綺麗にタマゴをうなぎに巻きつけるのってやった事ないなぁ・・・今度試してみようかな?」

 

ずいぶんチャレンジ精神旺盛(料理限定)なつかささん。

彼女にとって料理は妥協できないって言うことか?

まぁ好きこそ物の上手なれって言うし。

 

「そしてみずから実験台になったかがみんは舌と共に体重も・・・」

「言うな! こんな所で!!」

「でもダイエットの効果は出てると思うヨ〜?」

 

あれ?

毎朝走ってるけどダイエットなんてしてたんだ。

・・・見た感じ、必要ないような気がするけどな。

 

「え、ホント?」

 

かがみさん、嬉しそうにしてるって事は相当我慢してたんだな・・・色々と。

それ以前に男子の目の前でそういう話題って普通避けるのでは・・・?

と、こなたさんは切なげにかがみさんのある部分を見る。

 

「ダイエットしても減って欲しくない所が減っt「もういい! みなまで言うな!!」」

 

取り合えず俺は見ないフリ見ないフリ・・・。

 

「あ、そういえばこなちゃん。こなちゃんから借りてたマンガ返すね♪」

「お、どうだった? 馬鹿っぽくて笑えたでしょ?」

「えぇ!? 私は感動して泣いちゃったんだけど・・・」

「どんだけ感性がずれてんの2人とも・・・?」

「・・・同じ本を読んだとは思えないくらいの反応ですね。」

 

これにはさすがのみゆきさんも苦笑気味。

2人の感性はかなりずれてる様だが好きなマンガは一緒らしいから不思議なモンである。

 

「ていうかこなたさんってアニメに限らずマンガとかも好きなんだよね? アニ研とかには入ろうとは思わなかったの?」

 

確か今年度から『アニメ研究同好会』なるモノが出来ていたハズ。

 

「ん〜、入っても良かったんだけどね、時間が限られちゃうし・・・」

 

そういってノートに何かを書き始めたようだが・・・。

 

「ちょ!? コレマジ書きっすか?」

 

何だか絶句してる柊姉妹。

どれどれ、と俺やみゆきさんも覗いて見るが・・・誰かの似顔絵っぽいけどコレは(汗)。

 

一応こなたさんに聞いてみるとリボンらしき物が付いてるのがつかささん、眼鏡らしきものをつけて何だか全身にきらきら光ってるものが書いてあるのがみゆきさん、そして・・・。

 

「コレかがみ♪」

「・・・ほう、あんたの中では私は火を吹いてると・・・?」

 

とりあえずなんで漫研に入らんかがよ〜く分かった。

さて、チャイムがそろそろ成る頃だし次の授業の準備を・・・。

 

「あれ〜、まさき。まさきの似顔絵一応書いといたんだけど見ないの?」

「見えない、俺には何も見えん」

 

どんな似顔絵だったかは想像にお任せします(汗)。

 

 

 

<6時間目:LHR>

 

 

 

この時間は10月にある修学旅行についての話し合い・・・のはずなのだが。

 

「みなさ〜ん、静かにしてください。話が進みません」

「ったく、小学生やないんやし、お前らもうちっと静かにしぃや!」

 

と、注意されてるにもかかわらず、中々静かにならないのもまぁ無理はないのかもしれない。

何せ中間テストの数日後に修学旅行があるのだ。

行き先は修学旅行定番の京都、奈良。

自分達の行きたい所や、自由時間をどうするかで既にクラス内どころか2年生全体でもテンションが高くなってるようである。

繰り返すが出発日は中間テストの数日後・・・既に中間テストを忘れてる生徒もいるんじゃなかろ〜か?

と、そこでこなたさんがみゆきさんに主張する!

 

「みゆきさん、我々は人の言うことを聞くだけの、型にはまった大人にはなりたくないのだよ!」

『おお〜! 泉が良い事言った〜!』

 

非常に分かりやすいな皆して・・・確かにいいセリフだ。

が、このセリフが凄まじい威力のカウンターとなって返って来ることになる。

 

「ちょうお前ら、いい加減に「それは大変いい心がけだと思います」・・・高良?」

 

先生からの注意だと思ったら意外なことにみゆきさんが肯定した・・・凄まじいオーラと共に(汗)。

 

「では議題に沿ったご意見を、皆さんで思う存分、話し合ってもらいましょう♪」

 

・・・みゆきさん、ひょっとしなくても怒ってる・・・?

いつもの笑顔ではあるのだが・・・。

ちなみに騒いでたクラスメイトは一瞬で静かになった。

クラスの空気が一気に絶対零度まで下がったような・・・というかみゆきさんにクラス全体が気圧された(汗)。

いるもんだな〜、笑顔で威圧できる人って。

あ、先生も少し引いてる。

 

 

 

とまあそんな事もあったが、時間は緩やかなようで過ぎてみればわりとあっさり中間テスト当日を迎える。

珍しく学校に着く前にこなたさんと合流した。

 

「おはよ〜」

「こなちゃん、おはよう!」

「よっすこなたさん」

「お、皆おはよ〜! 今日も仲良く登校ですね御三方♪」

 

ちなみにこなたさんのからかい方は最初の時はえらい動揺してたが、今では軽く流してる・・・本当に慣れって怖いな。

 

「こなたさん、何かずいぶん上機嫌だけど、テストに自信あるの?」

「いつも通りやってれば大丈夫なのだよワトソン君♪」

 

誰がワトソン君か・・・つまり。

 

「一夜漬けか」

「一夜漬けね」

「一夜漬けだね♪」

「否定はしないけどさ、何か馬鹿にされたような気がするのは何故カナ・・・?」

 

 

 

<中間テスト終了後>

 

 

 

で、案の定ヤマを外したこなたさんの結果はほぼ壊滅状態(それでもギリギリ赤点回避)、つかささんは多少勉強の結果が付いて順位は中の中。

かがみさんは少し調子が悪かったようだけど俺とみゆきさんと揃って大体いつも通り、といった所だった。

 

「いつも通りにやったんだけど・・・不思議とダメだったんだよね〜」

「不思議というより必然でしょ」

「同感」

 

まず一夜漬けを何とかした方が良いと思うのは俺だけじゃないだろう。

でもこなたさん本人は特に気にしてない様子。

 

「今回はお父さんと何も賭けなかったから気にして無いし♪」

「あんた絶対まともな大人にならないぞ・・・」

 

それ以前にテストの結果を賭けに出来る泉家ってある意味すごいと思う。

 

 

 

<通学路:下校中>

 

 

 

いつものように途中まで5人での下校中。

 

「それにしても類は友を呼ぶ的なカンジだと思ってたんだけどね〜」

「何がですか?」

 

みゆきさんがそう尋ねると、こなたさん曰く。

みゆきさんとかがみさんは委員長で成績上位者繋がり。

俺は柊姉妹のご近所さん・・・類友とかは関係ないような気がするのは気のせいじゃないはず。

こなたさん、かがみさん、俺はゲーム好き同士・・・ジャンルはかなり違うと一応主張はさせてもらおう。

 

「私とつかさは頭悪いモノ同士だと思ったんだけどネ〜。今回ずいぶん差が付いたヨ」

「はぅっ!? こ、こなちゃんのクセに〜!」

 

つかささんから抗議の声が上がったのはまぁ当然だろう・・・取り合えず今回は。

しかしつかささんって稀にだけど今みたいな凄いことを言うよな〜(笑)。

でもやっぱり一夜漬けで点数負けたら俺やみゆきさんはともかくとしてかがみさんは絶対落ち込むだろうな・・・。

それはさて置き、中間テストという関門も無事に突破したことだし、少しずつ修学旅行の準備も始めないとね。

 

 

 

つづく・・・



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第十八話 いざ、修学旅行!:1日目

「ついに・・・ついにわが世の修学()旅行()がキタ〜!!」

「どっかの御大将(おんたいしょう)かこなたさんは?」

 

10月、紅葉も深く色付き始める季節。

今日は修学旅行の出発日だ。

しかも週間天気予報では秋晴れが続くと言う。

この学園に晴れ男、もしくは晴れ女でもいるのだろうか?

体育祭の時も思いっきり晴れてたからな〜(前日まで微妙な空模様だった)。

そんなこともあってか、こなたさんじゃなくても気分は月○蝶もとい! 絶好調な生徒が多いようだ。

 

「こなちゃん、今は秋だよ?」

「つかささん、恐らく泉さんの言ってる意味は季節とは関係ないかと(苦笑)」

「最近は訳の分かんないこなたのボケをまさきくんがツッコんでくれるから楽で良いわ♪」

 

かがみさ~ん、俺1人じゃ捌ききれないんスけど?

加えて天然な娘が2人もいるし(汗)。

取り合えずクラスごとのバス移動になるから、最悪こなたさんのボケを俺1人で・・・まあそんときゃスルーしとくのも良いかもしれないけど。

 

「柊〜! もうすぐ集合時間だぞ〜!」

「あ、ゴメン。そろそろ行くから! それじゃまた後でね」

 

かがみさんのクラスメートの友達だろう・・・ずいぶんボーイッシュな娘のようだけどその娘の隣にもう1人手招きしてる娘もいる。

昼食時間は席自由だからひょっとしたら一緒になるかも・・・ま た 女 子 か !!

まあそれはともかくとして校長のこれまた長〜いお言葉と生徒代表挨拶も済ませ、クラスごとのバスに分乗する。

さてどこに・・・。

 

「最後部座席で皆一緒に座ろーよ!」

「こなちゃん、まーくん。こっちこっち〜!」

 

こんな時に限って手回し早いねつかささん。

あ、みゆきさんもおいでおいでしてるし。

本当にいい友達を持ったな〜・・・胃に穴開いたりしないかね、俺?

何気に男子の目線がキツクなったりしてるんだが(汗)。

 

「あ〜・・・私の席、端で良いかな? 昨夜も遅かったから眠くて眠くて・・・」

「さっきまでのテンションはどこ行ったのこなたさん?」

 

夜更かししないこなたさんってのもあまり想像できないけど。

取り合えず全員乗った所でバスが順次出発する。

ちなみに最後部座席は5人乗り。

クラスは約40人だけどバスは大型の補助席無しで50人は乗れるから、最後部5人座れる場所を俺達で独占!

・・・ちなみに内訳は男1:女3。

並びは窓際からこなたさん、俺、みゆきさん、つかささん。

周りからの視線が生暖かい様な気がするのは・・・ハァ(涙)。

ってことでこなたさんが寝やすいように1席空けた方が良いんじゃないかと思った矢先・・・。

 

ポフッ☆

 

・・・え〜っと。

 

「こなたさん? 頭置くところ間違ってない?」

「ちょうどいい枕があったもんだから利用してるだけだよ〜。休憩地に付いたら起こしてネ?・・・ふぁっ」

 

欠伸1つかいて速攻爆睡ってか寝るの速いなおい!

しかし俺の膝の上で気持ちよさそうに眠ったこなたさんを邪険には出来ないし・・・。

 

「こなちゃん気持ちよさそうに寝てるね♪」

「膝枕は女の子の憧れですよね♪」

 

むしろ男の憧れでもあるんだがあえて言わないでおこう、うん。

幸い周囲はかなり騒がしくなってる上、前の座席で隠れているため見つかる心配はなさそうだ。

見つかったらどんな目にあうかな(汗)。

 

 

 

<休憩地:昼食時間>

 

 

 

「こなたさ〜ん、飯の時間だぞ〜」

「ふわぁ〜い・・・もうちょっと色気のある起こし方は選べなかったのまさき?」

「どんなおこs・・・いや、いい、なんでもない」

 

昼食を食べるために大きなS.Aに立ち寄った俺ら陵桜学園2年生。

7クラスがココで昼食(弁当持参)を食べることになる・・・さすがに全員は無理だったのだろう。

残りの6クラスのバスはもう少し先のS.Aで昼食をとる為に先行している。

 

「で、合流したのは良いけど、そっちの2人はかがみさんのクラスメイトでオッケー?」

 

今朝方見かけた初顔の2人がかがみさんと一緒にいた。

 

「あ、そういえば実際に会うのって始めてよね」

 

かがみさんの紹介により、2人は日下部みさおさん、峰岸あやのさんと判明。

俺達も簡単な自己紹介を済ませ、どうせなら一緒に、ということでテーブル席に移動する。

 

()()()()が世話になってんな。ま、よろしくな♪」

「いやいや、()()()()()()()がそっちのクラスでお世話になってるみたいで。こっちこそよろ〜♪」

 

『・・・・・・』

 

・・・なんか沈黙が重いぞ。

 

「柊はアタシのクラスメートだからウチのだ!」

「いやいやかがみはしょっちゅうウチのクラスに来てるしいつも一緒だからウチのだよ〜♪」

「マテコラ、あんた達何言ってんのよ・・・(汗)」

 

取り合えず2人の微笑ましい(?)やり取りはまだまだ続きそうだ。

 

「アホらし・・・」

「柊ちゃん、人気者ね♪」

「ひょっとしてかがみさんって一部の生徒のアイドルとか?」

「んな訳あるか! 大体女子に所有権主張されても嬉しくないわよっ!」

 

特殊な趣向の持ち主だったらどうしようと思ってたのだが問題ないようだ。

 

「だったらお姉ちゃん、男の子だったら良いの?」

「この中で男性の方と言えば・・・」

「そうなんだ・・・柊ちゃん、お昼になったらしょっちゅう他のクラスに行くのは・・・」

「マテ、そういう訳じゃない! たまたまよ! た・ま・た・ま!」

 

取り合えず真っ赤な顔で全力否定されるのはもうお約束だからなんとも思わないけどね。

ついでに言わせてもらうと『たまたま』がほぼ毎日ってのはどうなんだろう?

 

「何〜、柊には既に彼氏がいるだと〜!?」

『誰もそんなこと言っとらんわ!!』

 

でかい声でそんなこと言うな!

最近ようやく落ち着いてきたのにまた要らん誤解が蔓延したらどうする!?

 

「そうだよ。かがみんは私の嫁だよ!」

「アンタはもう黙ってコロネでも食ってろ!」

 

取り合えず興奮した日下部さんを峰岸さんが宥めてようやく落ち着いて昼食を食べる事となった。

が、静かに食べる訳もなく、女の子同士の語り合いの場に・・・あれ?

俺、かなり浮いてね?

そして話は自分の夢と言うか、やりたいことが話題になった所のようで・・・。

 

「峰岸さんは将来何になりたいの?」

「え? 私は・・・その・・・『お嫁さん』・・・カナ?」

 

峰岸さんは俗に言う『永久就職』と言うヤツか。

 

「ちなみに、あやのの場合はわりと具体的な話だぞ〜?」

『・・・・・・』

 

具体的か・・・う、羨ましくなんてないぞコンチクショウ。

そしてクラスメイト3人が大人しく聞いてたと思ったら・・・。

 

『ぜひ詳しく!!』

「え、ええ!?」

「本っ当にわかりやすい奴らだな〜。私も気持ちは分かるけどさ・・・」

 

まったくだ。

てか女の子ってこういう話題好きだよな〜。

取り合えず俺は傍観者に徹することにする。

 

「相手はどんな人!?」

「えっとみさちゃんのお兄さん・・・」

「つまり順調に行けばあやのはアタシの義理の姉貴になるんだよな♪」

「もう、みさちゃん!」

「どんな所が好きになったの〜?」

「・・・優しいところ、とか」

「好きになったきっかけとかはあるんですか?」

「・・・自然に、その、好きになった、というか・・・」

 

おお、峰岸さんがどんどん俯いていくぞ・・・顔を真っ赤にしながら。

つーかその辺にしてやんないと峰岸さん、オーバヒートしかねないんだが。

まぁ俺が止めるのは非常に難しいのでツッコミはかがみさんに・・・。

 

「ちなみに、峰岸は彼氏とどこまで進んじゃってるのかな〜?」

「柊ちゃんまで・・・はぅ〜・・・」

 

かがみさん、あんたもか!

とまあこんな感じで峰岸さん弄りをしてる内に昼食時間は終了。

それぞれのバスに戻っていくのであった。

 

 

 

<高速道路:車内>

 

 

 

その後バス車内で目的地(今日は宿泊先のホテルに直行)に着くまでカラオケ大会になった。

まあ面白くも無いビデオを見せられるよりはよっぽどマシだ・・・こなたさんの目が輝いていたが・・・。

 

「泉〜。アニソンは結構入ってるみたいだから安心しときや♪」

「ならば不肖泉こなた、歌わせていただきます!」

 

こなたさんってこういう時は積極的に行動するんだなぁ。

それだけの情熱をもう少し勉学に・・・言っても無駄か。

 

「泉こなた、いっきま〜す!」

『わぁぁぁぁぁぁ!!』

 

さすがにテンション高いな、ノリノリじゃん皆してってか高速走ってるのに席を立って前に出て大丈夫なのか(汗)?

そう思ってるうちに曲が流れてくる。

 

「♪~~~♪」

 

・・・なんか何時だったか皆でカラオケに行ったときより上手くなってね?

 

 

 

「♪~~~?♪」

『おぉぉぉぉぉ!』

「泉さんって何気に歌上手〜!」

「あ~りがと~♪」

 

盛り上がりの余韻を過ぎぬまま戻ってくる。

 

「いや〜、バイトの時に人前でよく歌うから慣れちゃったんだよね。」

 

なるほど・・・やるのはコスプレ、接客以外にもあるのか。

『流石にこんな大勢の前では歌ったことないけどね~』と言いつつ・・・。

 

「ハイ次まさきね♪」

「なんで!?」

 

いきなりお鉢が回ってきたと思ったら・・・車内の空気が変わった!?

 

「赤井が音痴だと思うヤツ挙手」

 

なんていきなり男子(だれか)が言ったと思ったら・・・男子全員手を挙げた!

 

「・・・俺って(汗)?」

「取り合えず君の魂のシャウトを聞かせてあげればいいのだよ♪」

「まーくんがんばってね♪」

「まさきさんなら大丈夫ですよ♪」

 

こいつらはこいつらで重圧(プレッシャー)掛けてくるし・・・。

ええぃもう何とでもなれ!

 

『・・・・・・』

「赤井、コレもひとつの試練やと思って、気張っていきや!」

 

先生、この状況楽しんでません?

ため息1つ付いて・・・俺なりに真面目に歌ってみますか。

 

「♪~~~♪」

『微妙に古!?』

 

おお、ものの見事に男子全員ハモッとる。

 

 

 

で、歌い終わった後マイクを先生に渡して席に戻る途中、何故か男子からの視線が微妙に変わったような気がするんだが、はて?

 

「男子全員ものの見事に意表を突かれた! みたいな顔してるね。しかも結構上手いし」

「ん〜、聞いたことあるような無いような・・・?」

「確か今のは『G○t Wi○d』ですよね。私も小さい時に何回か聞いたことがあります。沢山の歌手がカバーしたことがある有名な曲ですよ」

 

ちなみに俺はアニメ再放送で憶えたクチである。

 

 

 

こうして夕方には無事に本日の目的地である京都に到着した。

クラスが、というか人数が多いのでいくつかのホテルに分かれて宿泊することになる。

2〜3班ごとと(当然ながら)男女ごとに個室があてがわれていて・・・そういやウチの班って女子はかがみさんを除くいつものメンツ+俺と白石君だったんだっけ。

 

「しっかし・・・赤井って何気に歌うまいな?」

「今更そこかい(汗)。レパートリーはかなり偏ってる上に下手の横好きレベルだよ」

 

取り合えず白石君に無難に答えておくが、数名のクラスメートが食いついてくる!

 

「謙遜することないんじゃない? てことは何? 偏ってるって赤井君の趣味は・・・あの歌からして泉さん方面なの?」

「こなたさん程ディープじゃないけどそんな感じかな? ただ、最近のヤツは主にロボット物とかなんだけど原作知らないんだよね〜」

「原作しらねーヤツが何で歌だけ知ってるんだよ・・・?」

「情報源は何も原作だけじゃないからね」

 

とまぁこんな感じでクラスメートと話をして夕飯も食べ終え、風呂に入って今日1日が終わる・・・と思ってたんだがなぁ。

 

「さあ同志達よ! これから桃源郷に向かおうではないか!」

『オウ!』

 

せめて1日を平穏に終わらせることは出来ないのか?

 

「コラコラ・・・やめといた方がいいよ? 先生方が見張りに立ってる上に大浴場って2階にあるし、壁でもよじ登る気?」

「赤井〜、気分が醒める事言うなよ〜。俺達は漢の浪漫を求めてだな!」

「取り合えず俺は行かないよ?」

 

興味がないといえば嘘になる。

が、流石に危険を犯してまで行く気にはならない。

 

「まぁ赤井の周りには必ず誰かいるもんな・・・」

「選り取りみどりだもんね〜・・・」

「何か納得いかねぇ・・・」

 

俺にとってはそっちの言い分のほうが納得いかんわい(汗)。

 

「取り合えず繰り返し言っておく、やめとけ。下手すりゃ地獄に真っ逆さまだよ」

「赤井・・・絶対に・・・絶対に後悔させてやるからな!」

 

何かそんなような事を言い残して、俺以外のこの部屋のクラスメートは部屋から出て行った。

さて、黒井先生の部屋の電話番号は何番だったかな・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第十九話 いざ、修学旅行!:2日目

<修学旅行2日目:早朝>

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

いつも通りの時間に起きてしまうのはしょうがないだろう、もう生活習慣なんだし。

まだ5時半・・・さすがに出歩くわけにも行かないしどうしたモンか。

ひとまず窓から朝の光景を眺めてみる。

今日も天気が良さそうだ。

太陽が顔を出し始めてかすかに明るくなっているのが何だか幻想的。

 

「ぐ・・・あう・・・」

「そ、それ、だけは・・・」

「あ、ああ、・・・」

「ひい・・・う、うあぁ・・・」

 

これで後の寝床で悲痛な寝言さえ聞こえなければ・・・ね(汗)。

どっちみち見つかるだろうと判断した俺は、被害が出る前に黒井先生に通報しといたんだけど・・・一体何したんスか、黒井先生?

朝食の時間は7時半。

はたしてそれまで起きれるのだろうか・・・。

反省してないヤツとか今日もやらかしそうだけど・・・耳栓、買っといた方が良いかな?

 

「うう・・・はっ! ハァッハァ・・・夢、か・・・あんなコトは・・・もう・・・」

 

時間は過ぎて7時頃。

そろそろ起こした方がいいかなと思っていたらうなされてた男子のうちの1人が目を覚ましたみたいだ。

 

「あ、おはよう。皆してうなされてるけど・・・何があったかは聞かないほうがいいのかな・・・?」

「聞くな! 頼むから思い出させないでくれ!!」

「あ、う、うん・・・(汗)」

 

本当に何されたんだろ・・・。

 

 

 

<移動中:車内>

 

 

 

国宝の約20%、重要文化財の約14%が集まる日本有数の古都、京都府。

今日はそんな観光名所をガイドさんの案内でひたすら回ることになる。

もっともそのガイドさんはさむ〜いギャグでバス内の気温を氷点下まで持ってくというある意味恐ろしい人だが・・・あ、白石君、1人で爆笑してる。

 

「京都といったら嵐山に平等院鳳凰堂、それから祇園祭りくらいしか思いつかないんだけど?」

「どんだけ知識が偏ってるのこなたさん・・・?」

 

どれも某マンガのキャラ名に技名その他じゃん。

そういえば極楽鳥の舞はどっから来たんだろ?

 

「泉さんの仰ってる意味はよくわかりませんが、嵐山は桜や紅葉の名所でして平安時代の貴族の別荘地となって以来、観光名所となった所ですね。嵐山の名前の由来までは分かりませんが・・・」

 

苦笑交じりにみゆきさんが解説する。

 

「へ〜、さすがゆきちゃん♪」

「そこまで知ってりゃ十分だと思うけど・・・やっぱりみゆきさんって物知りだね」

「い、いえ、たまたま知ってただけなので・・・(真っ赤)」

 

たまたまでそこまで知識を取り入れてるみゆきさんって・・・。

何でそこまで詳しいのかツッコミたくなるが、俺も雑学として憶えておこう。

・・・ウチの親父、歴史マニア(酒が入ると歴史語りが更に止まらなくなる)だからみゆきさんと語らせたらどうなるかなぁ?

 

「むむう・・・じゃあ平等院鳳凰堂は?」

「それは、本尊阿弥陀如来像を安置する中堂、左右の翼廊、中堂背後の尾廊の4棟をあわせたのが『平等院鳳凰堂』と呼ばれていまして、国宝に指定されているんですよ」

 

詳しいことは長くなるので割愛しますが、とあっさり答えられてこなたさんは既にぐうの音もでないようである。

絶対ウチの親父と歴史で互角に語れるぞ、みゆきさん・・・。

 

「ちなみに10円玉にもかかれてるよね。平等院鳳凰堂」

「はい。1万円札に書かれてる鳥も、鳳凰堂の屋根に飾られてる鳳凰がモデルなんですよね♪」

 

コレくらいは一般じょうs「ふぇ、そうだったの?」・・・じゃなかったらしい。

結構有名なんだけどなぁ。

で、あっちこっち回って現在位置は清水寺。

ガイドの案内が終わったあとの自由行動ということもあり、かがみさんや峰岸さん、日下部さんと合流した俺達は境内を回っていた。

 

「うわ、ここって凄く高いね〜!」

「コレ飛び降りたらぜってー死ぬぜ?」

「でも下は一面木が生い茂ってるから助かるかもしれないよ?」

 

その場合でも大怪我は避けられんだろ。

 

「でもさ、漫画じゃ赤ん坊を助けたヒロインが下に落ちて、主人公がナイスキャッチする場面とかもあるよね?」

「いくらなんでも両腕骨折もしく脱臼を免れないような気がすると思うのは俺だけ?」

「同感・・・てかまた漫画の話か?」

 

こ○亀でそんな話があったような気がする。

 

「まさきやってみる?」

「絶対NO! んな無謀なこと出来るかい!」

 

そんな会話の後、くじ引きして運試し。

俺の運勢は末吉・・・『女難の気有り』と書かれてたのは何だか偶然じゃないような気がするんだが。

ちなみに神社の娘が、

 

「くじ引きの結果なんて参考程度にしかしないわよ。結局は本人の努力次第なんだから」

 

ときっぱり言い切るのはどうなんだろう・・・?

 

 

 

<清水坂>

 

 

 

清水寺まで続く長い坂道、通称『清水坂』にはたくさんのお土産屋が軒を連ねている。

お土産選びも旅行の楽しみの一つ。

実家に送るのは自宅アパートに帰ってからで良いとして、何かご当地の名産品なんか無いか皆でわいわい騒ぎながら見て回る。

地元での買い物とはまた違った感覚が楽しいんだよね。

 

「あ、コレかわいいかも」

「へへ〜。かがみんはこういう頭でっかちなキャラがお好き?」

「でも愛嬌あっていいんじゃないかな・・・家族お揃いに買っとこ」

 

そう言って俺は色違いの物を1つずつ取っていく。

 

「むむっ? まさきとおそr「じゃあ私も〜♪」「私もお母さんに買っていきます♪」・・・お父さんのお土産に買っていこうかな、わたしも」

 

少し手を出しにくかっただけで絶対みんな買う気だったなコレ。

 

「でもどっかでみたような顔だよな〜」

「そうね・・・白いのが一番近いような気がするわ」

 

日下部さんも峰岸さんも変なところで頭を使ってるな。

そういやニュース番組のとあるコーナーで出てきたあれに似てる様な気が・・・。

 

「ト○と旅する・・・」

『それだ(よ)!!』

 

なんとなく思いついたのをボソッと言ってみただけなんだけど(汗)。

自分で言っといてアレだけど、耳が付いてないだけで確かに似ているなコレ。

 

「ははは、赤井って中々おもしれーやつなんだな〜」

「はっ?」

「柊ちゃんったら昨日今日とバスの中で「峰岸ストップ!!」モゴモゴ」

 

峰岸さんが何かを言いかけるけどかがみさんが慌ててストップをかけた・・・影で何て言われてるんだ、俺?

 

「ふ、私が最初にフラグを立てたから自然に溶け込んだのだよみさきち」

「・・・ま、確かに話をするきっかけにはなったかもしれないけど」

 

考えてみるとこなたさんがきっかけになって柊姉妹やみゆきさんと仲良くなったようなモンだよな。

さすがに平日ほぼ毎日女子と行動するようになるとは思わなかったけど(汗)。

 

「何か夜食になるようなヤツ無いかな? 昨夜(ゆうべ)はホテルの飯だけじゃもの足りなかったし」

「少し・・・少しくらいなら大丈夫・・・毎日ジョキングしてるし・・・」

「みさちゃん・・・柊ちゃんまで(汗)」

 

隣のクラスの2人はよく食べるようで・・・。

 

 

 

「なぁ赤井・・・」

「ん?」

 

横から突然声をかけられた。

これで『やらないか』と聞かれたらどうしようかと内心ビビッていたりする・・・んな事あるワケ無いのは分かってるが。

ちなみに今現在、俺は男子便所で用足し中ある。

 

「さっきの土産物屋で買ってたやつ、金出すから譲ってくれないか?」

「はい?」

「いや〜、自分で買おうにも何か恥ずかしくて♪」

「いや、普通に買えばいいでしょ・・・」

 

家族にお土産として買っといたんだが・・・ま、合わせていくつか買っといたから別にいいけど。

 

「サンキュー赤井。あ、これ御代ね。んじゃお先!」

 

そう言って去ってしまった・・・そういやあいつどこのクラスの人だっけ?

俺の名前知ってるからどっかで会ったことあるんだろうけど・・・記憶に無いや(汗)。

その後、集合時間になったのでバス移動、宿泊するホテルへと向かった。

ちなみにバスは坂の下に止めてあるのだが下に降りきった時・・・。

 

「この学校は好きですか? 私はとってもt「ネタやってないでさっさと行くよ、こなたさ~ん!」ぶ〜ぶ〜! ノリが悪いよまさき!」

 

相変わらずネタに走るこなたさんとそこをツッコム俺がいた・・・。

ちなみに不覚にも一瞬かわいいと思ってしまったのは秘密である。

 

 

 

<宿泊ホテル:自室>

 

 

 

「諸君、今宵も聖戦(ジハード)の時が来た!」

『おお〜!!』

「いや昨夜のことで懲りたんじゃなかったの!?」

 

食事も入浴も終えて就寝時間を待つだけとなったのだが・・・こいつらは(汗)。

 

「赤井の周りはいつも女子ばっかだからそんなことが言えるんだ!」

「ちょっとくらい俺達にも良い思いさせてくれよ!」

「昨夜は不覚を取ったが・・・赤井、お前の時代は今日で終わる!」

「どんな時代だ!?」

 

何か理不尽だ・・・。

そして昨日同じく嬉々として彼らは天国へ(地獄とも言う)向かっていった。

さて、通報通報っと・・・。

 

「・・・もしもし、黒井先生ですかー?」←ちょっと投げやり

『お、赤井か?・・・昨夜と同じメンツで女湯に向かってってるん?』

「ええ、すいません止められなくて」

『気にすることあらへんよ。しかし昨夜で懲りとらんかったんか・・・まぁええわ。ウチらが始末しとくで♪』

 

何か楽しそうだな黒井先生・・・取り合えず今日は買っといた耳栓つけて寝よう。

そう思っていたところ・・・。

 

「やっほうまさき〜。遊びにって・・・あれ?」

「このお部屋、まーくんしかいなかったっけ?」

 

さすがに本音は言えないが・・・何で皆揃ってくるかな?

 

「まぁいつ戻ってくるかわかr(ボフッ)・・・またやる気かい、こなたさん他みんなして・・・?」

「いや〜、今回は宣戦布告だけで・・・」

「赤井、話は聞かせてもらった・・・柊のカタキはあたしが取ってやるんだってヴぁ!」

「だから勝手に人を殺すな・・・」

 

夏休みの時の事話してたんかい。

てかヴぁって何だヴぁって・・・。

 

「私達はたまに援護するだけですよ♪」

「みさちゃんの応援で・・・ゴメンね赤井君?」

 

そう思うんなら止めてくれ・・・。

そんな感じで日下部さんとの枕投げという名の一騎撃ち(日下部さんは援護有り)は、就寝時間10分前というタイムリミットを条件に始まった。

 

で、結果はやっぱり引き分けに終わる。

 

「くっそ〜・・・赤井、次は絶対、絶対決着つけてやるからな! 絶対だぞ!」

「みさちゃん取り合えず落ち着いて・・・」

 

峰岸さんが宥めてるが日下部さんは若干不満だったのか、興奮気味である。

 

「はいはいチャッチャと部屋に戻る。ゴメンねまさきくん」

「いやはやいいものを見せてもらったよ」

「おやすみなさい、まさきさん」

「まーくん、また明日〜♪」

「ああ、おやすみ」

 

女性陣が部屋に戻った後、一気に部屋が静かになる。

寂しさを憶えるのは、騒がしすぎたからなのかそれとも・・・。

とりあえず、未だに戻ってこない男子達に心の中で黙祷を捧げるという軽い現実逃避をしつつ、俺は布団に入った。

 

 

 

つづく・・・



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第二十話 いざ、修学旅行!:3日目

<修学旅行3日目:早朝>

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

いつも通りの時間に起きてしまうのはしょうがないだろう、もう生活習慣なんだし。

まだ5時半・・・さすがに出歩くわけにも行かないしどうしたモンか。

ひとまず窓から朝の光景を眺めてみる。

今日も天気が良さそうだ。

太陽が顔を出し始めてかすかに明るくなっているのが何だか幻想的。

 

・・・出だしが前回と同じ?

気にするな、俺は気にしない。

と言いたくなるのは、軽い現実逃避のようなものだ。

何せ同部屋のクラスメイトが誰1人として戻っていないのだから・・・。

俺は口頭とはいえ彼らの行動を止めたし、止められなかったから先生に通報したのだから彼らの自業自得ではあるが・・・初日に続いて何されてるんだろう(汗)。

それ以前に俺が通報したことがバレたら・・・考えないようにしよう、うん。

取り合えず部屋のトイレに行って・・・・・・?

部屋の入り口の外から何か聞こえる・・・呻き声?

 

入り口を開けてみますか?

 

→ はい

  いいえ

 

って何RPG風に選択肢出すかな俺の脳内!

・・・こなたさんに毒されたか?

取り合えず開けて見ると・・・。

 

「・・・皆揃って何やってんの?」

「う・・・うう・・・もうげんか・・・? 赤井?」

「な・・・赤井・・・? こん・・・な時間・・・に・・・」

「お・・・起きて・・・くれ・・・たのか・・・?」

 

『た、助かった〜!』

 

白石君をはじめとした同部屋のクラスメイト全員が扉の前で正座していた・・・。

どうやら速攻で先生方に見つかった上、就寝時間と同じ時間まで延々と説教を食らった挙句、

 

-バツとして、同部屋のヤツに自然に気づかれるまで寝ずに正座。あと助けを求めるのも大声出すのも物音立てて意図的に気づかせるのも却下-

 

と言われてたそうだ。

・・・地味に効きそうだな~(汗)。

ちなみに他の部屋の男子も同じことをしでかしたヤツがいたらしい。

事情を聞いた後、彼らは

 

「あと2時間は寝れる!」

「少しだけでも寝るぞ・・・」

 

と痺れる足に鞭打って布団に入った。

やれやれ・・・。

 

 

 

<移動中:バス内>

 

 

 

修学旅行も折り返し、今日は奈良県の観光スポットをまわことになる。

 

現在の奈良県には8世紀末まで、この地域に大和朝廷の累代の天皇の宮があり、都が置かれていた。

大和時代から飛鳥時代にかけては、現在の奈良県内に宮が置かれていることが多かったと言う。

特に藤原京は、690年に着工、694年に完成した日本史上最初の条坊制(じょうぼうせい)による中国風都城として知られている。

その後、710年に平城京遷都が行われた。

しかしその後、784年に長岡京に遷都されてからは、日本の首都が奈良県内に置かれることは無かったと言う。※Wikipedia参照

 

・・・とまあ奈良県の歴史についてはこのくらいでいいかな?

みゆきさんに聞いたらもっと出てきそうだけど長くなりそうだからさすがに聞かなかったけど。

 

で、今日も今日とて歴史&博物館を巡り、昼食後の時間は『奈良公園』内での自由行動となる。

自由行動と言っても、その日の宿泊先に移動しなければならない都合上、そんなに時間があるわけじゃないけど。

既に定着となった峰岸さんと日下部さんを加えて7人で散策していた。

 

「わ〜、鹿さんがいっぱ〜い♪」

「・・・鹿、今日の夕飯は鹿肉か?(ボソ)」

 

・・・日下部さんは食うことしか考えてないのか?

ちなみにここは1000頭以上の鹿が放し飼いされてるらしく、『鹿せんべい』なる物をねだる鹿の仕草が観光客の人気の的になっているという。

さっそくつかささんや峰岸さんが鹿にせんべいをあげていた。

 

「あそこで買っといたせんべいがこの鹿達の主食なのかね?」

「一概にそうとは言い難いと思いますが・・・ってつかささん!?」

 

みゆきさんの言葉に反応して、俺もつかささんの方を見た。

すると何かオスっぽい、いかにも『獰猛です』と主張してそうな鹿がつかささんに近づいている!

 

「あ・・・妹ちゃん、危ない!」

「およよ!?」

 

峰岸さんも危険を察知したようだが、咄嗟の事でつかささんも峰岸さんも反応出来て無い!

 

「峰岸さん、せんべいもらうよ!」

「赤井くん!?」

 

取り合えずまわりの言葉は無視!

俺は鹿とつかささんの間に割り込んだ!

 

「てい!」

 

襲い掛かりそうな鹿の口の中にせんべいを突っ込む!

勢い余って俺の手も口に入ったもんだからそのまま・・・。

 

ガブ!!

 

「・・・・・・っ!」

 

さすがに声を上げそうになるが大事にはしたくないので黙って堪える!

鹿の口の力が抜けたと同時に俺は手を引き抜いた。

幸いあまり強く噛まれなかったのか、出血まではしなかったが・・・それでも歯の跡が残った上に痛いぞコンニャロウ。

 

「まさきくん、大丈夫!?」

「赤井くん! 無茶しちゃって・・・」

「骨折れてね〜か、赤井!?」

「血は出てませんか? ひとまず手を冷やした方が・・・」

「血はでてないし、痛みも引き始めてるから多分平気。俺のこの手は唾でベトベトだけど」

 

さすがにこのままじゃヤバイから手を洗おうと水道を探す。

 

「ありがとうまーくん。助けてくれて・・・」

「気にしない気にしない。旅行にアクシデントは付き物でしょ?」

 

申し訳なさそうに言うつかささんと、

 

「とりあえず太陽の光が反射して必殺のシャイニング・・・」

「出来ないっていうか原理が違う!」

 

相変わらずネタに走ろうとするこなたさん。

大事に至らなかったからこなたさんもこんなやり取りが出来るんだろう。

つかささんに関しては・・・まあ女の子がケモノにおs(ゲフンゲフン)いやなんでもない。

まあともかく、他の鹿も近くにいたから一斉に群がって来そうな雰囲気だったので・・・。

あ、落っこちたせんべいに鹿が群がってる。

・・・とっさに手を出して正解だったようだ。

とにかく俺は、水道を見つけ手を洗い、ついでに冷やしていると・・・。

 

「かがみ〜ん、ほれほれ」

「何のつもりだ!?」

 

こんなやり取りが後から聞こえてきたのはまぁご愛嬌だろう。

そういやこなたさんも一袋買ってたんだっけ・・・さすがのかがみさんもそれには食いつかんと思うぞ?

 

「そういやこのせんべいって美味いのか? 夜食になんねぇかな」

「みさちゃん、それはどうかと思う・・・」

 

日下部さん、あなたは食い意地張りすぎだ(汗)。

 

 

 

それからは再び鹿と戯れてる(つかささんは流石に見てるだけだったが)内に集合時間となり、バスに乗車して宿泊先に向かった。

 

 

 

ちなみにこの時白石君が乗り遅れたのに誰も気付かず、必死になって追いかけて来ると言うアクシデントがあり、黒井先生から拳骨をもらっていた・・・。

でもこの場合、同じ班員である俺達はもとより、点呼をとったのに何故か気付かなかった黒井先生も悪いような気がするんだけど(汗)。

 

 

 

<ホテル:男子大浴場>

 

 

 

「なあ、入り口の位置的に隣が女湯のはずなのに上から女子の声が聞こえてくるのは何でだろうな?」

 

食事を終えて大浴場にて。

温泉を満喫して今日の疲れを癒していた所、色々と酷い目にあってるにもかかわらず無駄に元気な白石君が尋ねてくる。

確かに・・・壁や天井が異様に高く、ご丁寧に壁の上部分はねずみ返しのように弧を描いている。

これは間違いなく・・・。

 

「覗き対策に入り口が同じ場所にあるだけで女湯が上の階にあるからじゃない?」

 

ちなみに男湯の扉をくぐったら少し下に降りる階段を降りている。

あの高さからすると、女湯は階段を少し上がって行くのかもしれない。

 

「・・・上から誰かこっち覗いたりしないかなぁ」

「それ逆セクハラね」

 

そんなややこしい事をしないで最初っから壁で完全に塞げばいいのに、と思うのは俺だけか?

上からは楽しそうな女子の声が聞こえてくる。

その上、向こうからはこっちが・・・完全にとは言わないのだろうが丸見えと来たもんだ。

確かに女湯を覗くのは不可能だろうが・・・男湯は覗かれていいのか?

聞き覚えのある声も混じってるが可能性としては・・・まさか、ね(汗)。

 

「おお〜。こっから男湯が見下ろせるよ。ほらほらかがみん、つかさ、みゆきさ〜ん。まさきの入浴シーンを見れるよ〜♪」

「お、あっかい〜! こっちはいい湯だぞ〜。そっちはどうだ?」

「・・・こっちもいい湯だけど、それ以前にでかい声で俺の名前を出すなっての!!」

 

案の定、上からこなたさんと日下部さんがこっちを見下ろしていた!

上から2人を止める声が聞こえるが、あの2人はニタニタしながら、しかも大声で俺に呼びかけて来る。

・・・だんだん日下部さんの性格が分かってきたぞ・・・。

取り合えず、顔くらいしか見えないとは言え大声で俺を呼ばないでくれ!

じゃないと・・・

 

「赤井〜! ま た お ま え か !!」

「ほんっと〜に赤井君って女子から人気あるね〜・・・」

「ああもう、何度もいってるでしょ! 全員ただの友達だよ!」

 

こうなるんだから・・・(涙)。

 

「そんな事言って! 今日だって自由時間の時、女子グループに1人混じって行動してただろ!」

「あれか!? ギ○スでも使ってるのか!」

「んな訳あるか〜〜〜〜〜〜!!」

 

俺の叫びが空しく大浴場に響き渡った・・・。

 

 

 

<自室>

 

 

 

入浴後、自室に戻ったが・・・。

 

「・・・風呂に入っただけなのに何でこんなに疲れなきゃいけないんだ」

「そりゃおまえ・・・」

「ハタから見たら女はべらせてハーレム作ってる様なモンだろう」

「だから・・・」

 

何か不毛な会話に突入しそうな感じなので反論はやめておく事にする。

周りはどう見ようと俺達は俺達。

そう自分自身に結論付けて布団によk「ピンポ〜ン」・・・マテ、まさか・・・。

 

ガチャ。

 

扉が開いたと思ったら・・・。

 

「お、今日は皆揃ってるね〜」

「遊びに来たぜ♪」

 

とりあえず見知った顔が6人・・・昨日に引き続きご来客〜。

 

「なぁ赤井・・・これって夢か?」

「現実。ちなみに昨日も来てたよ」

『・・・・・・』

 

取り合えず同室の男子から鋭い視線が来たと思ったら、

 

「なんだと〜!?」

「何で言ってくれなかったんだ赤井!」

「僕達の友情はその程度なわけ!?」

「・・・何か随分勝手なこと言っているような気がするんだけど?」

 

男子達の抗議にかがみさんの冷たい一言。

 

「取り合えず覗きはやめてほしいな・・・」

「あやののハダカ見ていいのは兄貴だけだもんな♪」

「こら日下部! さりげなく問題発言しないように!」

 

あ、やっぱり気付いてたんだ。

 

「いや〜、皆若いね」

「こなちゃん、私達同じ歳だよ?」

「泉さんが仰ることはさて置き・・・次は無いと思ってくださいね♪」

 

みゆきさんが放った笑顔オーラで男子全員(俺を除く)思いっきりうなずいていた。

 

で、その後・・・

 

「おわ、泉! おま、どんだけやりこんでんだよ!」

「はっはっは、私の相手が務まる猛者(モサ)はいないのか!」

「これ以上は俺がやらせんぜ!」

「チクショウ! これで勝ったと思うなよ〜!」

 

こなたさんが何故か持ってた4台のDSで男子3人相手にテーブルゲームでフルボッコ中。

 

「よっしゃドローツーだ!」

「同じく」

 

日下部さんが出したカードを皮切りに白石君が続き、

 

「あ、私も♪」

「私も同じく」

「ドローフォーです。色は赤で。」

「赤井君、ゴメンね?ドローツー」

「・・・え〜と、赤井?」

 

恐る恐る尋ねて来る時点で地獄逝き確定だぜ!

 

「日下部さん、覚悟はいいかい・・・ドローフォー、青で」

「ヴぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

こっちはUNOで盛り上がってる真っ最中である。

ちなみにみゆきさんが常勝街道まっしぐら。

そんな感じで修学旅行3日目の夜は皆で楽しく、そして明るく時間が過ぎていく。

やっぱり旅行は全員で楽しまないとね♪

 

 

 

つづく・・・



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第二十一話 いざ、修学旅行!:4日目

<修学旅行4日目:朝>

 

 

 

今日は全員揃って爽やかな目覚めとなった。

昨夜の女性陣との交流が効いたのか、就寝時間になっても全員いろんな意味でテンションが上がっていたため、今日に限っては俺も少し遅めの起床(それでも6時だが)になった。

 

「いや〜、赤井の班と同じで良かったぜ♪」

「俺らは同部屋でラッキー♪ て感じ?」

「君らってほんっと〜に分かりやすいね・・・」

 

普段人のこと恨み辛み言ってるにも拘らず、昨夜の一件で(少なくとも同部屋の男子は)妙に好意的になってたりする。

 

「で、実際のところ誰なんだ?」

「・・・何が?」

「何がって決まってるだろう。赤井の本命」

「まだ言うか(汗)」

 

こいつらは・・・。

昨夜、女性陣が引き上げた後から、からかい半分で問い詰められていた。

普段から彼女らと行動してることも多いからまぁ無理も無いかもしれない。

だが女性として意識してるかと言われると結構難しいもんで・・・。

 

「何回も言ってるけどそういう目で彼女らを見たことは無いよ」

「あれだけ美人揃いなのにもったいねぇ・・・」

「泉は・・・見た目がアレだから下手すりゃ犯罪に近いよな。柊は姉のほうはちっときついけど黙ってりゃ美人だし」

「妹の方はドジッ娘だけどがんばりやで結構恋とかしたら一途そうだし、委員長は美人で成績優秀。オマケに運動神経はおろか、スタイルも抜群・・・この2人は彼氏がいないのが不思議なくらいだよな」

 

『この2人が狙い目なんじゃないか?』なんて事を言って来る。

まぁ美人揃いなのは否定しないけどさ・・・。

 

「こなたさんは結構家庭的な面があるし、かがみさんもあれでカワイイ所もあるよ・・・?」

 

何だかこなたさんとかがみさんが遠まわしに酷いこと言われてるような気がしたから一応フォローをいれておく。

・・・本人に聞かれたら間違いなく(主にかがみさんの)拳が飛ぶぞ。

 

「赤井、お前結局あの()らをちゃんと見てんじゃねーか・・・俺らに対する挑戦か?」

「死の点って見えないのかな~?」

「むしろ光にでもなっちまえコンニャロウ。」

「朝から物騒なこと言わないでよ・・・」

 

どっちにしても死ぬっての!

まぁ本気で言って無さそうだからいいけどね。

 

 

 

<バス内:移動中>

 

 

 

4日目は1日自由行動。

奈良県内を回っても良し、京都府に戻ってそっちを回るも良し。

1人で行動しようが何人かの好きな人数で行動しようが、最終的には宿泊地に5時まで到着すればいいというある意味困った1日でもある。

・・・良いのかこんな放置プレイで(汗)。

何せ慣れない場所に放り出されるようなもの。

行きたい所を自分達で決めなければならない。

綿密な計画を立てて、迅速に行動しなければ何も出来ずに1日終了・・・となってしまう。

ちなみに俺は事前にいつものメンツ(こなたさんたち)に誘われて京都組。

日下部さんと峰岸さんは奈良組のようだ。

 

 

 

<京都府>

 

 

 

さて、再び立った京の都。

出発前のLHRで、2日目に見れなかった文化財、建造物を見て回る(こなたさんは反対していたが)ことにしており、途中何か興味がある場所や物を見つけたら見て回ろうと言う非常に大雑把な計画だったが結構見てて飽きないもんだ。

そのため途中・・・。

 

「ここで皆の集合写真撮ろうよ♪」

「え? ここって・・・何々、京都アニm「ほらまさき、早く撮ろうよ〜!」あ、うん」

 

何故か来たことも無いのに妙に親近感が湧く建物の前で写真を撮ったり、

 

「いや〜、コッチ限定のレアグッズが買えて良かったヨ〜♪」

「良かったのはあんただけだろ・・・」

「ていうかいいの? あんなもん買って・・・黒井先生に没収されそうな気がするんだけど」

 

とまぁ、こんな感じで相変わらずこなたさんはマイペース。

ちなみに彼女の両手には何かのフィギュアやら漫画やらでいっぱいだったりする。

でも・・・

 

「お姉ちゃんも小説買ってたよね」

「しょ、しょうがないじゃない! たまたま新刊のラノベ出てたんだから・・・」

 

それはしょうがないの部類に入るのか?

おまけに、

 

「みゆきさんまで・・・」

「お恥ずかしながら、何かの役に立つかも、と思いまして(赤面)」

 

いや、将来医者を目指したいのはいいんだけどさ・・・本人が決めた事とは言え神の手が輝く漫画を買うのは(汗)。

ちなみに誰が勧めたのかは言わなくても分かるだろう。

 

「むふふ、みゆきさんも徐々にコッチのなk『こなた(さん)の世界に引き込むな!!』え〜、みゆきさんってああいうの読んでなさそうだしせっかくだから参考になるかもって思って勧めたんだよ・・・て、聞いてる2人とも?」

「みゆきさん、あんまり漫画の内容を鵜呑みにしちゃだめだからね? 個人で楽しむなら話は別だけど」

「そうよ。しかもコレ結構な巻数出てるみたいだから読むなら少しずつ読んで行かないと、最悪お小遣いが足りなくなるわよ!?」

「は、はぁ・・・(汗)」

 

とりあえずみゆきさんは真面目な顔して全巻(現在40冊以上)買ってしまいそうな気がしたため、こなたさんの抗議を無視してかがみさんと2人がかりで説得しておいた。

 

 

 

「あ、ねぇねぇ。皆で一緒にあそこでプリクラ撮ろうよ」

「わざわざ京都(ここ)で撮る意味はあるのか・・・?」

「私は賛成です。修学旅行記念のプリクラっていうのも良いのではないですか?」

「おー、んじゃ俺は待ってるから好きに撮ってk「まーくんも一緒だよ♪」って俺も!?・・・それ以前に5人もはいるスペースある?」

「まさにすし詰め状態だね。当然まさきは真ん中だよ♪」

「何でッ!?」

 

結局俺の周りに4人が引っ付く形でプリクラを取るハメに・・・こんなんだから妙な誤解を受けるんだよな・・・。

ていうかどさくさ紛れにこなたさん、平たい(どこがとは言わない)とは言え腕組まないで恥ずかしいから。

それにかがみさん、顔近い、近いって!

 

(やれやれ。それにしても本命、ねぇ・・・)

 

プリクラを撮った後。

ふと、今朝の男子の言葉が頭をよぎる。

もう高校生活も折り返しなんだし、そういう経験は無いよりはあったほうがいいのかもしれない。

が、残念ながら今のところ誰ともそういう関係どころか、感情を持っているかも怪しい。

いつかそういう気持ちを抱く日が来るんだろうか?

もしそうなったとしたら一体誰と・・・?

父さんや母さんもこんな感じで考えたり、悩んだりしてたのかな?

進路のこと・・・そして恋愛のことも。

 

「まさき〜。何ボーっとしてんの!?」

「ほら、さっさと行くわよ!」

 

おっと、柄にも無く考え込んじゃった。

 

「今行くよ!」

 

焦る必要は無いだろう。

幸い時間はまだまだあるんだし、周りがどう言おうと俺は俺のペースで行けばいい。

 

「大丈夫だよ」

「何が?」

 

唐突にこなたさんが呟いた。

 

「これから先、何があっても私達は・・・・・・」

「え・・・?」

 

こなたさんの声のトーンが小さくなったから聞き取れない。

 

「・・・ん、何でもない。ほら、いこいこ♪」

「て、わかったから腕引っぱるなっての!」

 

そんな緩やかな時間が流れる、いつもとは違う場所での平和な秋の1コマがそこにある・・・。

 

 

 

<お土産屋>

 

 

 

ホテルの近くに偶々大きなお土産屋を見つけたので寄っていく事にした。

 

「さすが京都! ここに来たらやっぱr「人を新撰組のコスプレさせないでよ?」・・・え〜、いいじゃんそれくらいさ〜」

 

やっぱそう来たか(汗)。

こなたさんの言うとおり新撰組の羽織や模造刀がみやげ物として販売している上に・・・。

 

「組長クラスが使ってたとされる名刀はやはり人気があるんですね」

「無名のヤツは何とか買えそうな値段なのに・・・うわ! コレ銘が入っただけで万単位じゃない・・・てつかさ?」

「う〜ん、う〜ん・・・結構重いねコレ」

 

そこには片手で納刀状態の刀を持とうとするつかささん。

展示用の模造刀を持ってみたようだが・・・日本刀って刀剣類の中じゃ軽い方じゃなかったっけ?

 

「あんまり無理しないように」

 

ひょいっと取り上げて元の場所に戻す。

 

「まったく、何やってのよアンタは」

「えへへ、時代劇みたいに片手で振り回せるのかなって思って・・・まーくん凄いね」

 

力持ち! と言いたげに笑顔で言ってくるが・・・。

 

「まぁ今時の女の子が片手で振るうもんじゃないでしょ。持ってみた感じ、1キロくらいしか無さそうだけど」

「あうぅ・・・」

「ちなみにまさき、男の子ってやっぱりこういうの好きなの?」

 

こなたさんの質問に対して少々考えてみる。

 

「・・・(おとこ)のロマンだな、やっぱり」

 

本気で買おうかちょっと考えてしまう。

 

「なら羽織も買って新撰組のコスp「だからやらんっちゅ〜に」・・・ブーブー!」

 

ブーイングは受け付けません。

結局、模造刀は買わず実家へのお土産として漬物やまんじゅうを買った俺達は店を出て、宿泊先(ホテル)へと向かった。

 

 

 

<宿泊ホテル:自室>

 

 

 

「なぁ赤井。今日は委員長達来ないのか?」

「何で俺に聞くのかが気になるけど彼女達(みんな)の気分次第でしょ」

 

毎度のごとく夕飯を食べて温泉で疲れを取って、就寝時間までまだ時間はあるが、彼女達が来るかどうかは分からない。

実際、初日は来ていないし。

大体、毎夜毎夜来るわけがn『がちゃ』・・・あるか、テンション高いのが混ざってる上に昨夜だいぶ馴染んでたし。

という訳で今晩も6名様ごあんな〜い。

 

「やふ〜、また遊びに来たよ~ん」

「こんばんわ〜」

『いぃらっしゃいませぇ!!』

「・・・無駄に元気ね~、この部屋の男子は」

 

お前らはザッ○スか、とツッコミたくなる様な歓迎っぷりだ。

ものの見事に数名引いてるぞ。

だがそれも数分後・・・。

 

「赤井! お前に再戦を申し込むんだってヴぁ!」

「懲りないねぇ・・・やるからには本気で行くよ?」

「みさちゃんがんばって♪」

「まさきさん、ファイトです!」

「ま〜くんがんばれ〜♪」

「ま、同じクラスのよしみで・・・日下部、負けんじゃないわよ!」

 

俺は2日前に行った日下部さんとのガチンコバトルの続き(今回はそれぞれの応援のみ)。

 

「ガンバレル、いっけ〜!」

「よっしゃ、援護するぜ!」

「な、何だこの動きは・・・おわ、落ちる落ちる!」

「戦闘機でこの動き・・・まさか泉さんは噂に聞くエンデュ○オンの鷹か!?」

 

あっちはこれまた何故かこなたさんが持ってきた4台のP○P(新型)で2VS2のバトル中。

で、残りは・・・。

 

「・・・・・・」

 

白石君がはぶられてた・・・がんばれ、白石君!

その内良い事あるさ・・・多分。

 

 

 

つづく・・・



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第二十二話 いざ、修学旅行!:最終日

<修学旅行最終日:朝>

 

 

 

修学旅行も今日で最終日。

と言っても帰るだけなんだけどね。

振り返って見るとあっという間だった気がするこの4泊5日の旅。

昨夜もやっぱり質問攻めだったけど予想の範疇だったために軽くスルーして、さっさと寝たため今日はいつもの時間に目が覚めた。

荷物さえ漁られなければいい。

バックの中に皆で撮ったプリクラが入ってる。

それを見られたらその瞬間に・・・考えるの、やめよ(汗)。

カーテンを開けてみるとうっすらと明るくなり始めた山々が、やっぱり2度寝はもったいないと言う気分にさせてくれる。

そんな訳で・・・お茶をすすりながら皆が起きるまで、少しずつ明るくなっていく外の様子を見ながらのんびりと過ごした。

 

「ふわ・・・お、おはよ。やっぱり朝早いな赤井」

「おはよ〜」

「相変わらず朝早いってか夜寝るの早すぎじゃね?」

「毎朝5時半に起きてランニングとかしてみる?」

「・・・今日の朝飯なんだろな〜」

 

こらこら、いい若いモンが現実逃避するなこのくらいで。

 

 

 

<帰路:バス内>

 

 

 

S.Aで数回休憩や昼食の時間をはさみながら一路埼玉へ向かう俺達陵桜学園2年生。

バスの中は修学旅行の余韻のためか、クラスメート同士のおしゃべりが途絶えることがない。

 

「しっかし結構ないもんだね〜・・・逆刃刀とか赤い着物とか」

「あったとしても着物はともかく、間違いなく銃刀法違反だろ逆刃刀って(汗)」

「模造刀だよ〜。いくらなんでも本物の刀を探しちゃいないよ」

 

模造刀とはいえ探してたのかこなたさん。

懲りずにネタ全開でハイテンションな彼女。

新撰組がダメなら左頬に十字傷を付けた明治剣客の浪漫譚に出て来る赤い髪の主人公にでもする気だったのか、俺を?

ちなみに、昨日の道中で買った物はお土産だと主張するこなたさんを黒井先生が一蹴し、予想通り没収となったが埼玉に帰ったら返してもらえるとのこと。

反面、みゆきさんやかがみさんは隠しやすい本だっため、被害を免れたのはここだけの話である。

 

「鹿さん可愛かったな〜」

「そうですね。わたしも色々な歴史のことを本など知識だけではなく、直に触れることが出来てとても楽しかったです」

「つかさは鹿に襲われそうになったけどね〜♪」

 

こなたさ〜ん、そこで蒸し返すなって。

 

「あう・・・ごめんねまーくん」

「だから気にするなって。こなたさんも蒸し返さない!」

「きゃ〜、まさきが怒った〜♪」

 

鹿からつかささんをかばったせいか、つかささんは思い出したら何度も謝ってくる。

・・・こりゃつかささんをかばって大怪我でもしたら彼女のトラウマになりかねないな。

 

「ちなみに逆刃刀でもパイナップルを一刀両断できるのは知ってた?」

「・・・もしそうだとするとあの主人公の不殺(ころさず)の誓いは早々に破られちゃってるよね」

「強烈な一撃食らって立ってても頑丈とかのレベルじゃないし(笑)」

 

それはさて置き。

 

「さ〜て、修学旅行帰りのお楽しみ、くじ引き大会始めるで~!」

 

S.Aで昼食後、全員バスに乗った時に黒井先生から渡された紙。

コレに番号が書いてあって黒井先生が引いた番号と同じ番号の紙を持ってる人に景品が送られると言うもの。

景品は民芸品から饅頭などの食べ物まで様々なものが用意されているそうだ。

 

「私25番だよ〜」

「33番ですね」

「19番! ぜひあの羽織と模造刀を我らに!!」

「俺は6番か・・・にしてもまだ諦めてなかったのこなたさん?」

 

こなたさんはあくまで新撰組にこだわってる様だ・・・何か思い入れでもあるんだろうか?

それ以前に羽織はともかく模造刀(木製)まで景品ににしていいのか?

ちなみに全員分はさすがに用意してないようである。

 

「まずはコレや。6個入りの黒おたべ! 3名様までや!」

 

黒おたべ、つまり生八つ橋のことである。

コレは俺たちには当たらず他の生徒達へ。

 

「次はやっぱり6個入りの薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)! コレは1箱だけやで! さあ誰に当たるか!?」

 

ちなみに薯蕷とは山芋のこと。

俺に当たったらみやげ物と重複するがコレも別な生徒の手へ。

 

「お次はコイツや、京扇子! 100均の安モンと比べたらアカンで? コレも1名様や!」

 

何か先生のテンションも上がってるな〜。

 

「あ、私当たりました〜♪」

 

おぉ!

33番のみゆきさんがゲット!

 

「さすがみゆきさん、一番似合いそうなのが当たったね〜」

「・・・まぁ確かに優雅なイメージはあるわな」

「べ、別にそんなことは・・・(赤)」

 

扇子で自分を扇いでるみゆきさん・・・コレで着物を着てたら完璧だ。

 

「でもこれからの季節は使いようがありませんから・・・来年まで大事に取って置きます」

「何か扇子ひろげて高笑いすると言うイメーz「泉さん♪」ナンデモナイデスハイ!」

 

こなたさんのイメージは極端すぎるだろ(汗)。

そんな感じでくじ引きが行われ遂に景品が残る所後2種類まで来た。

ちなみに俺たちの中で当たったのはみゆきさんだけである。

 

「さあ今度は新撰組の羽織や! こいつが当たるのは2名様やで。40番と・・・19番や!」

「キターーーーーーーー!!」

 

こなたさんに当たってしまった・・・本人は『買わずにゲットしたよ、ラッキー♪』とご機嫌である。

ちなみに40番は白石君だったりする。

 

「とりあえずコスプレするなら自分で楽しんでね」

「ふっふっふ・・・自分でやっても面白くないじゃん?」

「その不気味な笑い方はやめい・・・」

「後は着物と鉢巻があればまさきさんも新撰組の一員ですね♪」

「わ〜、まーくんカッコイイ!」

 

勘弁してくれっていうか2人とも便乗しないでくれ・・・今のつかささんの言葉で凄まじい反応を示してる男子が結構いるんだから。

そんなやり取りをしてる内に・・・。

 

「最後は模造刀と言う名の木刀や。ゲットしたからってむやみに振り回したらアカンで25番!?」

 

25番って・・・。

 

「え・・・私?」

『なんですと〜!?』

 

何と予想外にもつかささんに模造刀が大当たり!!

金属製のヤツとは違うとはいえ木刀を振り回すつかささん・・・イメージ出来ないなぁ。

 

「ほい柊。あまり危ないことに使うんや無いで?」

「えっと、はい!」

 

それでも景品に当たったのが純粋に嬉しかったらしく、笑顔で受け取った・・・パッと見、日本刀そのものを。

 

「いやー、またつかさのイメージに合わないものが当たっちゃったね。」

「う、うん。コレ、どうしよう・・・」

「むっふっふ、ねぇねぇつかさ、みゆきさ~ん♪」

「どしたのこなちゃん?」

「あ、ひょっとしてソレを・・・?」

「話の流れから何がしたいかなんとなく見当つくけど、とりあえず俺を巻き込まないでくれよ~?」

 

わざわざ俺から離れて3人で内緒話・・・すいません、嫌な予感しかしません(汗)。

残念ながら俺には当たりが来なかったけど、それなりに楽しめたから良しとしておこう・・・これから先に不安が残るけどね。

そして埼玉までまだ時間があるため・・・。

 

「さぁお前ら、ここからは自由(フリーダム)なカラオケタイムやで。パァ〜っと歌えや〜!」

「ならば私g「いくら自由でも1人連続で歌うのは無しやで泉?」・・・うぐぅ」

 

うぐぅ言うな・・・。

ま、こなたさんがマイク握ったら下手すりゃアニソンオンリーになりかねないし・・・人のこと、言えないけど。

気を取り直して、マイクを握ったこなたさんが先陣を切る!

 

「♪~~~♪」

 

相変わらず上手いな〜。

周りは既にかなりの盛り上がりを見せていた。

何気に歌手でいけるんじゃないかこなたさんって?

で、歌い終わるなり何で俺に回すかな?

・・・何か既視感が・・・まぁいいや。

 

俺は魂を込めて歌うのみ!

 

「♪~~~♪」

『クリ○タルキ○グかよ!?』

『お前いくつだ!!』

 

予想通りのツッコミと爆笑が返ってくる。

ふ、年齢なんて関係ないさ!

その後も1人また1人へとマイクが渡っていき、気が付けばまもなく陵桜学園、と言う所まで来ていた。

家に帰るまでが修学旅行です、と言わんばかりに先生から注意事項が伝えられる。

楽しい思い出を、帰宅途中に事故ったりして暗い影を落とすのはゴメンだからね。

 

 

 

<帰り道>

 

 

 

「いや〜、楽しかったのはいいんだけどさ・・・」

 

いつものメンツで大量の荷物(減るどころかお土産で一杯である)と格闘しながらの帰り道。

日下部さん達やみゆきさんと別れた後、何か浮かない顔してるこなたさん。

 

「こなた、何かあったの?」

「携帯マナーモードにしてたんだけど・・・大量に着信履歴があってね・・・」

 

なんとなく想像が付く・・・。

 

「全部お父さんからなんだよね・・・200件近く」

「こなちゃんのお父さん、心配性なんだね」

「そういうレベルじゃないわよソレ・・・」

「同感。親馬鹿もそこまでいくと・・・」

 

泉父、あなたは心配しすぎだ(汗)。

 

 

 

「ゴメンね、荷物持ってもらっちゃって・・・」

「コレくらいは平気だよ」

「ま、男の子なら当然よね♪」

 

こなたさんとも別れ、3人での帰り道。

つかささんとついでにかがみさんの分も荷物を持ってやった。

単に俺の荷物が少ないから申し出ただけなのだが・・・。

 

「しっかしこんなに大量に自分で持ってくか? ここまで多いなら宅急便でも使わせてもらえただろうに」

『あ・・・』

 

2人揃ってどっか抜けてるなオイ(苦笑)。

 

「まぁ過ぎた事は仕方ないとして、とりあえず玄関先まででいい?」

「帰ってきたばかりなのに何かあるの?」

「晩飯の用意。けどさすがに疲れたから弁当でも買いに行こうかと思ってさ」

 

色々あって疲れたからなぁ・・・主に精神的に。

いっその事、出前で済ますかな?

 

「あ、だったらウチで食べていくといいよ。みんなで食べよ♪」

「まさきくんも疲れてるでしょ? お父さん達には私達で説明しとくから自分の荷物置いたらウチに来なさいよ。出前も高くつくでしょうし」

 

その申し出はありがたいんだけど・・・何か違う(汗)。

結局2人の申し出を断りきれず、柊家で夕飯を頂くことになってしまった。

・・・そういや2人の親父さんに会った事ないなぁ。

神主やってるって話だけど、どんな人だろ?

 

 

 

<夕方6時:柊家>

 

 

 

「お邪魔します」

 

自宅に荷物を置き、普段着に着替えて柊家へ。

玄関でみきさんに出迎えられた。

 

「いらっしゃい。話は聞いてるわよ。居間で待っててくれる?」

「すいません、突然お邪魔してしまって・・・」

「気にしないで良いわよ。ウチは娘ばっかりだし、まさきくんは美味しそうに沢山食べてくれるでしょ? 作りがいがあるのよ♪」

「あ、いらっしゃいまさきくん」

「ちょうど良かったわ。かがみ、まさきくんを居間に連れてってやって」

「は〜い。こっちよ」

 

かがみさんに案内されて柊家の居間へ。

居間には柊家の大黒柱と思われる人が居た。

 

「おお、いらっしゃい。それから初めましてかな? 柊ただおです。娘達がいつもお世話になってるね」

「あ、い、いえそんな事無いです! えっと、初めまして。赤井まさきです」

 

柊ただおさん・・・何回か柊家(ココ)に勉強しに来た事はあるが、会うのは初めてだ。

何か緊張するな(汗)。

と、そこへ台所からサラダや炊飯器を持って来たいのりさんとまつりさんがやってきた。

 

「まさきくんいらっしゃ〜い♪ そんなに緊張すること無いわよ? ほらほらお姉さんだよ〜♪」

「ちょ、ま、まつりさん!?」

 

まつりさん、いきなり後から抱きしめないでください!

あ、やわらk・・・だから違うだろ、俺!

 

「こらこらまつり、そういうのはあたしが先よ!」

「ツッコムところそこですか!?」

「え〜、いいじゃん私も弟が欲しかったし速いモン勝ちよ♪」

「ふ、2人とも論点がズレてますって!」

 

っていうか弟が欲しかったら御両親に頼んでください!

 

「ってお姉ちゃん達、何やってんのよ!?」

「そうだよ! まーくんも疲れてるんだから!」

 

そこにかがみさんとつかささんで食器を、みきさんが夕飯のカレーを鍋ごと運んできた。

 

「ふふふ。やっぱり男の子が1人は欲しかったわね、あなた♪」

「そうだなぁ。どうだいまさきくん、うちの子になる気は無いかい?」

「初対面の男に対して言う言葉(セリフ)じゃないですよソレは〜!」

 

いのりさん、まつりさんに弄られてる上にただおさん、何で笑って見てるんですか!?

こうしていつもとはかなり違う夕飯の時間が過ぎていく修学旅行の最終日だった。

 

 

 

ちなみに家に帰ったのは10時過ぎだが、帰りがこの時間になったのはただ柊家一同に弄られてただけ、と主張させていただきます(涙)。

 

 

 

つづく・・・



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第二十三話 初体験と後輩な女の子

<10月某日:東京某所>

 

 

 

「はぁ・・・どうして、俺達の世界は、こんな所まで来てしまったんだろう・・・?」

 

その日の日曜日、真昼間から俺のテンションは大幅に下がっていた。

着物に新撰組の羽織、かつらに白い鉢巻を巻いて、腰には日本刀を模した木刀。

どこからどう見てもお巡りさんのお世話になりそうな格好だが、ココではソレも許される。

 

そう、いわゆる『コスプレ祭り(パーティ)』と言うヤツだ。

 

知らない人に頼まれてポーズとった所を撮影されたり、知らない誰かと一緒に撮影されたりするだけなんだけどね。

見世物になってる様な感じがして俺はあまり好きじゃないかったんだが・・・。

修学旅行の帰りのバスの中、新撰組の羽織と日本刀と言う名の木刀をこなたさんとつかささんがクジで当ててしまったのが事の始まり。

みゆきさんがちょうど時代劇に登場しそうな着物を持っていたり(何故持ってたかは不明である)、こなたさんがバイト先からかつらと鉢巻を借りたりして、なし崩し的にココに来るハメになってしまった。

っていうか4人の女の子が揃って上目使い+お願い事は卑怯だろう。

そしてその張本人達は・・・。

 

「お、やっと見つけたよ〜」

「へぇ、中々似合ってるじゃない」

「うんうん、やっぱりまーくん格好いいよ♪」

「ふふふ、とってもお似合いですよ、まさきさん」

「そりゃど〜も・・・」

 

みんな揃ってご機嫌である。

褒められてるはずなのに嬉しくないと思うのは初めてだぞコンチクショウ。

ポーズをとる時は、某漫画に出てきた突きを必殺技に昇華させた3番隊組長の構えである(ソレしか知らない)。

それ以外は刀を肩に乗せて見たり、納刀のまま普通に腕を組んで仁王立ちっぽくしてたりと撮影者によって色々なポーズを要求されてくうちに、途中からノリノリになるんだから不思議なもんだ。

ちなみに偶然会った人(40前後のおっさん)が同じ格好(コスプレ)をしていたのを参加者に発見されて一緒に撮影するハメになるなど、初体験の連続である。

 

 

 

「何か俺だけコスプレしてるのが微妙に納得いかないんだけど・・・?」

「細かいことはキニシナ〜イ♪」

「ま、今回はいいとして・・・こなた、ココから更にまさきくんを変な道に引っぱらないようにね?」

「おやおやかがみんはまさきのことが心配ですか♪」

「これ以上友達をソッチの道に進ませないためよ!」

 

そんなやり取りをつかささんやみゆきさんは微笑ましそうに見ていた。

あの2人のじゃれ合いはいつものことだからね。

それよりかがみさ〜ん、そこまで心配するなら最初から同行を申し出て、挙句の果てに俺を連れ出したりないでほしかったんですけど(汗)。

ちなみにこの4人は、つい先ほど俺の姿を様々な角度から撮影済みである。

そんな時・・・。

 

「あーーーーーーーーっ!!」

 

突然大声を張り上げたら周りに迷惑だぞ〜。

そんなことを思いながら叫び声がした方を見てみると、女の子が2人・・・おや?

何かどっかで見たことあるような・・・はて?

 

「どこかで見かけた様な・・・誰かの知り合いだっけ?」

「う〜ん・・・」

「ちょっとわからないわね・・・」

「すいません、私も心当たりは・・・」

 

とりあえずかがみさんたちは知らないようだが、こなたさんは首をかしげて・・・。

 

「あ、何回かゲーセンで私に格ゲーを挑んで来た()だ!」

 

こなたさんの関係者のようだ。

そういえばあんな子っぽかったような気がする・・・この場合、関係者って言うのだろうか?

隣にいるのは・・・たまにこなたさんに同行した時に見かける彼女の別の学校の友達と思われる子か?

俺同様、コスプレをしてるが、表情は不機嫌そのものだ。

 

「そうよ! 何回やっても勝てなくてやっと勝ったと思ったら・・・!」

「あれは毎回毎回こうがしつこかっただけでしょ?」

「あはは。そりゃ毎回10回以上も連戦してるからさ、いつも飽きちゃって♪」

「な、なんだって〜!? そんな理由で毎回毎回あんな放置プレイを・・・!」

 

格ゲーを毎回10連戦・・・確かに飽きそうだがそれ以前に。

 

「そんなに連続でやったらさすがにお金がもったいないと思うんだけど・・・」

「同感ね」

 

俺とコスプレしてる()がバッサリ切り捨てたもんだから、彼女はしゃがみこんで後を向き、いじけてしまった。

 

「まぁアレはほっとくとして、友達が迷惑かけてごめんなさい。私は永森やまと。聖フィオリナ女学院の1年生よ。で、あっちでいじけてるのが八坂こう。彼女は()()私の親友で陵桜学園の1年生」

「あ、それじゃ私達の1つ下なんだ」

「・・・・・・え?」

 

こなたさんの言葉に一瞬きょとんとする永森さん。

まぁ、気持ちは解るけどね・・・。

 

「永森さんって言ったっけ? このちみっこいのも()()含めて俺らは全員陵桜の2年生で、ついでに言うと俺は赤井まさき」

「まさき〜、なんか最近冷たいよ・・・。改めて泉こなたをよろしく〜!」

「こなたは自業自得だ。でもここであったのも何かの縁でしょ。私は柊かがみ、こっちは双子の妹のつかさよ」

「よろしくね♪」

「初めまして、高良みゆきと申します」

 

で、自己紹介したのは良いのだが、やはり疑わしいのだろう・・・こなたさんの年齢が。

しかし後輩だったのかあの子。

 

「こう言うのを聞くのは失礼かも知れないけど・・・やっぱりあなたもコスプレとか好きでやってるの?」

「・・・初めてでその上拒否権ナシ」

「・・・あなたも、苦労してるようね」

 

この会話だけでまだいじけてる八坂さんの性格がなんとなく分かってしまう。

 

「じゃあ永森さんも私達と同じクチか・・・。ちなみにこういうのが好きなのは、私達の中じゃこなただけよ」

「素直じゃないね〜、かがみも結構ノリノリだったじゃん」

「べ、別にそんな事無いわよ!」

「でもお姉ちゃん、今回のこと話したら、なんだが嬉しそうだったよね?」

「つかさぁ!」

 

その隣でみゆきさんが口に手をあてて、微笑ましそうに見守っている。

コレもある意味いつもの光景だからな・・・。

 

「ホント、お疲れ様」

「お互い様・・・になるのかね?」

「・・・ええ。あの手この手で何回こうにつき合わされたことか」

 

ちなみに彼女の格好はどう見てもFa○eの遠○凛です。

俺と彼女の間に、学校を枠を超えた奇妙な友情が芽生えた・・・かもしれない。

友情が芽生えたかもしれない相手が女子なのはもう気にしないことにした。

 

そしてその後・・・。

 

いじけてた時の俺達の会話が聴こえてなかった八坂さんはこなたさんが自分より1つ上だったと知り、

 

「ゑ? じょ、上級生!?」

「うんうん、この反応を見ただけでなんだか下級生が可愛く見えるから不思議だよネ♪」

 

更にショックを受けたようだ。

が・・・、

 

「ならば泉先輩・・・今日こそは勝たせて頂ますよ!?」

「ふっふっふ、どのくらい腕を上げたか知らないけどその申し出、受けて立ってやろうではないか」

 

と、まあこんな感じで意気投合してゲーセンに向かうことになった。

すでに時刻は2時過ぎ。

皆それぞれ気が済んでいたらしく、時間にもまだ余裕あるということで皆で一緒に近くのゲーセンに行く2人に付いていく。

・・・もちろん俺と永森さんが着替えてからだが。

 

 

 

<ゲームセンター>

 

 

 

そんな訳でゲームセンターに到着後、さっそくこなたさんと八坂さんの勝負が始まった。

俺は俺でゲームセンター内を一通り見て回ることにする。

すると・・・。

 

「何だコレ、戦場の絆?」

 

何か大きな球体のようなものを見つけた俺は少し興味を持って近くまで行って見た。

大雑把に言うと、オンライン回線を通じた3Dロボットアクションゲームのようだ。

この球体のような物はそのゲームで使うロボットのコクピットらしい。

とりあえず空いてるコクピットを覗いて見る。

 

「うわ、すげ・・・」

 

中は前方180度見渡せるような大きなスクリーン状になっており、操縦桿やフットペダルもある。

ゲームセンターではUFOキャッチャー以外はノータッチだったんだがな・・・。

とりあえずその球体(コクピット)から出て説明書のような物を読んでみる。

500円で2回プレイ可能、練習モードもあるようだ。

専用のカードを作り、ソレが無いとプレイが出来ない。

さらにプレイすることでポイントが貯まり、より強い機体や武器を支給されるという。

・・・ちょっとやってみたくなったけど、こなたさん達もいることだしまた今度にしよう。

さて、向こうはどうなってるのかなっと。

 

「男の子ってやっぱりああいうのに興味があるものなの?」

「へ?」

 

こなたさん達がいる所に戻ろうとすると永森さんが声をかけて来た。

 

「ん〜、俺は少しやってみたい気はするけど、やっぱり人によるんじゃないかな?」

「ふぅん・・・」

 

答えを聞くなりすたすたと八坂さんのほうに行ってしまった。

・・・なんだったんだろ?

とりあえず俺もこなたさん達の方に行ってみるか。

 

 

 

「ふっふっふ、修行が足りんのう、八坂君?」

「ぐ、適度に手を抜かれてるなんて、こんな屈辱!」

 

今の状況を見ただけでなんとなくどうなってるか解かるぞ・・・。

近くにいたかがみさんに一応聞いてみた。

 

「もう何回()ったの・・・?」

「・・・こなたの13連勝よ。」

 

・・・ここに来てから確か30分も経ってないよな?

こなたさん、恐るべし(汗)。

ていうかかがみさん、数えてたのか・・・?

 

「まーくんはやんないの?」

「家にある奴くらいしかやらないからね。こういう複雑なコマンド入力のやつはなぁ・・・」

「やはり操作方法が違うんですか?」

「全ッ然違う。こないだ家でやったヤツの方が・・・まぁある意味シンプルかな」

 

だからこういう入力が複雑なアーケードゲーム、すなわちこなたさんの土俵では、俺はまず勝てない。

そしてこの後、こなたさんが20連勝を飾ったところでひとまず終了。

それぞれ帰路につく事になった・・・八坂さんはまだ諦め切れてない様だったが。

 

 

 

<帰宅中>

 

 

 

「え、戦場の絆?」

 

みゆきさんと別れた後の電車の中で、こなたさんが意表をつかれたような声を出す。

自宅に帰る途中、彼女なら知ってるかな〜と思い聞いてみたのだ。

ちなみに八坂さん達はまだ用事があるとの事で帰りは別である。

 

「ん〜、私はやったこと無いからな〜・・・おとーさんならやってそうだけど。何々、ひょっとして興味あるの?」

「ま、ああいうの(ロボットもの)は元々嫌いじゃないからね。どんなもんだかこなたさんなら知ってそうな気がしたから聞いたんだけど・・・ネットで調べてみるかな?」

 

さすがにこなたさんも女の子。

やっぱりああいうのは知っててもやらないか・・・こなたさんの場合、ペダルに足が届かなそうだけど。

 

「何か酷いこと考えてない?」

「・・・ゼンゼンソンナコトナイヨ?」

「まーくん、喋り方が変だよ?」

「ま、何やるかはまさきくんの勝手だけど、程ほどにしときなさいよ?」

「分かってるよ。破産したくはないからね・・・八坂さんみたいに」

 

彼女は今回のこなたさんとの勝負でお小遣いの全てを使い切ってしまったのだ。

ゲーセンを出てから『今月残りどうしよう・・・』なんてぼやいていたのを『自業自得よ』と永森さんにバッサリ切り捨てられたのは仕方ないだろう。

 

「ま、やるかやらないかはその内決めればいっか」

 

こんな感じでいつも道理、俺たち4人はそれぞれの帰路につくのであった。

 

 

 

ちなみに、こなたさんが別れ際に・・・

 

「今度の年末にあるお祭りの時にもまさきはコスプレ決定だね♪」

「忘れて、今すぐ」

 

なんて会話があったがこなたさんの言うお祭りってまさか・・・(汗)。

 

 

 

つづく・・・



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第二十四話 完璧少女の原点

ある日の帰り道・・・。

俺達はみゆきさんと別れた後、電車の中でちょっとした話し合いをしていた。

 

数日後に控えた10月25日・・・みゆきさんの誕生日のことでだ。

 

しかしその日は平日で・・・学校にプレゼントを持っていくわけにもいかず(見つかったら即没収である)、どうしたものか。

そもそもこなたさんや柊姉妹の誕生日の時は元より、俺の時はあれだけ盛大に祝ってもらったのだ。

彼女だけおめでとうと言ってハイ終わり・・・というのはさすがに気が引ける。

もっとも彼女は、それだけでも十分とでも言いそうだが。

そして話し合った結果・・・。

 

「それじゃあ、少し遅くなったけど」

「改めてゆきちゃん♪」

『お誕生日おめでとう〜♪』

「ありがとうございます、皆さん♪」

 

誕生日の数日後である休日に、改めて祝うことになったのだ。

ちなみに岩崎さんも一緒である。

場所は高良邸のみゆきさんの部屋。

すっかりおなじみのメンバー+岩崎さんでプレゼントを我先に、と渡している光景をゆかりさんがちゃっかり写真に収めていたりする。

 

「お誕生日が平日だったからその次の休日にお誕生日を祝ってくれるなんて、みゆきもお友達に恵まれたわね〜♪」

「わ、私はそこまでする事は無いと遠慮したんですが・・・」←真っ赤

「そういうわけには行かないじゃない」

「そうそう、かがみの言うとおりだよみゆきさん。友達にはそういう遠慮はナシナシ!」

 

自分達は祝ってもらってるのにみゆきさんだけ祝わないのは友達として如何かと思うしね。

そんな訳で、いつの間にか加わってたゆかりさんも交えてちょっと遅めの誕生会が始まった。

 

「みゆきが男の子からプレゼント貰ったのもいつ以来かしら?」

「お、お母さん!?」

 

ソレを言ったら俺だって女の子にあれだけ誕生日を盛大に祝ってもらったのも初めてなんですけど・・・。

 

「みなみちゃん以外はみんな貰ってますよ?」

 

つかささ〜ん、ソレをあっさり言わないでくれ。

はっきり言われたら恥ずかしいんだから・・・。

そういえば岩崎さんの誕生日って知らないな。

 

「というわけで、みなみちゃんは誕生日いつ? 男の子(まさき)から何か貰えるかもよ〜♪」

「何が『というわけで』なの・・・?」

「わ、わたしは、別に・・・」←真っ赤

 

こなたさん、岩崎さんが困ってるでしょ。

 

「みなみさんの誕生日は、実はこの中にいる、ある人の誕生日の前日なんですよ♪」

「あ、あう・・・」←顔から火が出そうなくらい真っ赤

 

ってことはもう誕生日は過ぎてる可能性が高いと・・・みゆきさんの口ぶりからするとみゆきさん以外の誰かのようだけど。

 

「まぁ、無理して言うこt「こなちゃんは5月、私達は7月、まーくんは9月だからそのどれかかな?」・・・つかささん(汗)」

 

本人が言う気が無いなら無理に詮索する必要ないだろうに。

大体、誕生日が何時だか解らないけどゆかりさんって言う選択肢は無いのか?

でも岩崎さん、顔に出しすぎ。

 

「ほほう・・・その表情から察するにみなみちゃんの誕じょうb「無理に掘り起こすな、みなみちゃんが困ってるでしょ!」はうぁ!?」

 

ここでかがみさんがこなたさんに拳骨と言う名のブレーキをかける。

そんな感じでわいわいとおしゃべりしていた時、俺はふと気になっていた事を思い出し、みゆきさんの部屋を見回した。

 

「う〜ん・・・」

「どうしたのまさきくん・・・女の子の部屋をじっくり見回すのは如何かと思うんだけど?」

「とりあえずその握り拳はしまってね。いや、みゆきさんって勉強以外の事でもかなり物知りだからさ、色々な本とかあるのかなって思ってたんだけど・・・」

「そういえばそうだね。見た感じ、あそこに収まってる何冊かの本と分厚い辞書とパソコンくらい・・・かな?」

 

こなたさんの言う通り、他に知識を得られそうな媒体はあまり見かけ無い。

ちなみにこなたさんが言う分厚い辞書は広辞苑だったりする。

聞いてみたところ、家の中に書斎があって殆どの本はそこに保管しているとの事。

 

「みゆきが物知りになるような、切っ掛けとかって何かあるの?」

 

それこそ誰でも気になるだろう、あれだけ物知りなんだから。

 

「お恥ずかしながら、小さい頃お母さんに

 

『お母さんが知らないようなことを色々知ってて、みゆきって凄いわね〜』

 

って褒められたのが嬉しくて・・・それからはいろいろと調べるのが癖になったんですよ。それが今では色々な事を知るのが楽しくなってるんです♪」

「それってつまり、私の育て方が良かったって言うことよね♪」

 

子供心に母親に褒められて、それが良い癖になって、その延長線上で今に至ると言うことか。

ある意味良い傾向だけどそれにしても・・・。

 

「みゆきさんってさ、お母さん似っぽいよね」

「みゆきさんの親父さんを知らないからハッキリとは言えないけど、俺もそうなんじゃないかって思う」

 

何この母娘(おやこ)のほのぼのとした天然会話(苦笑)。

 

「え、そうですか?」

 

うんうんと岩崎さんも含めて俺達4人は頷いた。

 

「その影響で小さい頃から一緒だったみなみちゃんも読書が好きになったのよね?」

「・・・(コク)」

 

あ、否定はしないんだ。

 

「小さい頃からご近所さんということで、みなみさんと一緒にいることが多かったんですよ」

「だから周りからは姉妹だって勘違いされることがあるくらい、みゆきの傍から離れないこともあったのよね♪」

「みゆきさんは・・・私にとって本当に尊敬できるお姉さんですから」

 

2人の付き合いからして幼馴染といったほうが合ってるような気もするけど、何か本当の姉妹みたいで微笑ましい。

ちなみに岩崎さんはみゆきさんを心から慕っており、それが理由で陵桜を受験するのだと言う。

 

「姉妹とか兄弟ってさ、お互いが何かを吸収してるって言うか、結構対な性質があるよね」

「ウチの姉貴達はそんな感じしないけどな〜・・・」

「・・・なるほど。吸収、ですか」

 

ん?

何か岩崎さんの様子が・・・。

するとこなたさんが近づいて、

 

「病まない病まない、需要はあるさ♪」

 

なんてつぶやいて岩崎さんがさらに落ち込んでいた・・・何か心当たりでもあるのか?

 

「岩崎さんは大切な何かをみゆきさんに吸収されたとか?」

「まさき〜、それ以上は言っちゃダメだよ。乙女心は複雑なんだから・・・私の場合はお母さんの血脈からカナ〜」

 

あれ?

こなたさんまで落ち込んでしまった。

 

「こなちゃんもみなみちゃんも大丈夫だよ、2人も私達もまだ成長期だからこれからきっと大きくなるよ!」

「はいはい、それ以上は男の子の前でなくても、深入りするのは禁句(タブー)よ」

 

禁句っていうほどのことか?

こなたさんは・・・まぁ絶望的、かな。

柊姉妹もそんなに低くは無いと思うし。

岩崎さんは吸収されてるって思うほど()()は低くないと思うけど。

 

「す、すいませんみなみさん。私ったら知らないうちに・・・」

「ストップ! これ以上はさすがに人前で話すようなことじゃないわよみゆき。特にまさきくんの前では」

 

よく分からんが俺だけ仲間はずれかい・・・ま、ここにいる時点で色々と浮いてるような気がするけどね。

とりあえず女の子同士の悩みということで納得しておこう。

 

「そういえばみゆきさんってパソコンは主に何に使ってるの? やっぱり調べ物とか?」

「そうですね。インターネットでWikipediaのようなフリー百科事典は、辞書に乗ってない事も沢山ありますのでよく利用しているんです。後はたまにソリティアやマインスイーパといったゲームもやりますね」

 

使用目的がWikipediaとはまたみゆきさんらしい。

それにみゆきさんって頭脳派だからソリティアみたいなゲームを1度始めるとやりこんでそうだ。

 

「へぇ、みゆきがそういうゲームをするのってちょっと意外・・・でもないか(苦笑)」

「こなたさんちでやった落ちゲーを少し見てただけであっさりコツ掴んだ人だからね」

「でもわかる気がするなぁ。ああいう単純なゲームって結構熱中しちゃうし・・・ゆきちゃんはどれ位できるの?」

「時々熱くなってしまいまして、運にもよるんですがソリティアでは稀に1万点を超える事もあるんですよ」

 

・・・今さらっと凄まじいこと言ったぞこの人。

 

「俺、せいぜい4千点が限度なんだけど・・・?」

「流石はみゆきさん・・・やっぱりやりこみ派だね」

 

彼女の集中力を持ってすればきっとぷよ○よでも10数連鎖とか普通に連続でこなしてしまうに違いない。

 

「でも、そんなみゆきでも苦手なものがあるのよね〜♪」

「はう・・・はい。どうしても歯医者さんは苦手で・・・」

「でもそれって普通だよね?」

「この子はちゃんと歯磨きしてても、虫歯になっちゃう体質だから」

 

へぇ、歯をちゃんと磨いててもなる人はなるんだ。

虫歯は痛い→治す為に歯医者に通わなければいけない→でも歯医者は苦手→いつまでも虫歯が治らない、と悪循環になってしまうということか。

 

「かかったこと無いから分かんないんだけど、歯医者さんってそんなに怖いの?」

「え、こなちゃんって歯医者さんに行ったことないんだ〜」

「私も、無いです・・・」

「ゴメン、俺も行ったことが無いや。」

「みなみちゃんにまさきくんも!? ・・・そうすると食べる量とかってやっぱり虫歯とは関係ないのか」

「ほほう、かがみは食べる量が多いから虫歯には注意していると?」

「・・・! う、うっさい!」

 

かがみさんってよく自爆するよな(汗)。

でも歯を削る時ってやっぱり痛いんだろうか?

 

「あのドリルの音が怖い上に、歯にも神経が通ってるから痛いんですよ」

「そ、それは怖そうだね・・・でも男の子は結構好きそうだね、まさき?」

「は・・・?」

 

こなたさんの言いたい事がよく解らんが・・・。

 

「だってドリルって漢のロマンじゃん?」

「ソッチ方面にロマンを感じるのはかなり特殊なヤツだと思うぞ・・・?」

 

見るのはともかく削られるのは・・・なぁ。

・・・うん、想像しただけで痛そうだ。

俺も虫歯には気をつけねば。

ちなみに参考までに聞いておこう。

 

「みゆきさんは歯磨きにどれくらい時間かけてるの?」

「ちゃんとお医者さんに教わった方法で15分ほど磨いてるんですけど・・・」

「じ、じゅうごふん!?」

 

・・・そんなに時間かけたこと無いぞ俺(汗)。

こなたさんも流石に絶句してるし・・・。

 

「夏休みとか長いお休みが終わる前に行けばいいのに中々行かないから、最期には歯医者さんに来てもらおうと思ったこともあるのよ。」

「・・・つまり、押してダメだから引いてみようと?」

「そうそう、そんな感じ♪」

 

やっぱり天然だな、この母娘。

 

「でもゆきちゃんって結構努力家な面もあるよね。」

「そういえば泳げないのを自分から教えて欲しいって言ったこともあるもんね・・・まさきくんに」

 

そういや海に行った時、俺に頼み込んで来た時はえらく力が入ってたような・・・。

でもみゆきさんの場合は水中で目を開けられないだけだから、それさえ何とかすればちゃんと泳げたからな〜。

ある意味俺も精神面を多少は鍛えられたし。

 

「あらあら、みゆきったらいつのm「お、お母さん、それ以上はストップです(真っ赤)」・・・時間掛かりそうね〜、色々と」

「なんですかその意味深な発言は・・・?」

 

何だか含みを持ったその一言が気になってしょうがなかった・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第二十五話 友達の系譜

11月も半ば・・・寒さが徐々に近づいてくる時期。

東北出身の俺はまだまだ寒いとは思っていない。

その代わり実家に帰った時はかなり肌寒く感じて、慣れるまで結構堪えるワケだけど。

それでも、元々この地域に住んでる人達からすると、特に早朝は(当たり前だが)冷え込みを感じるようだ。

 

「何だかすっかり冬が近づいて来たって感じがするね」

「そうね。でもこれでまだ11月なんだもんね〜。そろそろ厚めのコート準備しないと」

「そんなに寒い? あまり無理しないほうがいいよ?」

 

汗が冷えて風邪でも引いたら本末転倒だ。

ちなみに現在は毎朝恒例のランニングの真っ最中。

更に言うとペースも距離も最初の頃から比べるとずいぶんのびていたりする

早朝と言うこともあり確かに冷え込むが・・・。

 

「まさきくん、寒くないの・・・?」

「東北出身の人間からすると、まだまだこの程度って感じ?」

「お〜、さすがまーくん。男の子はやっぱり凄いね♪」

 

大体、走って体が暖まってきてるから寒さをさほど感じない。

でも彼女らはやっぱり女の子だ。

冷えは大敵・・・なんだろうな。

男の俺には理解不能な域だが。

 

 

 

<通学路>

 

 

 

いつも通りランニングを済ませて一旦家に戻った俺たちは、朝食を取って制服に着替え、いつも通りに同じ風景を見ながら通学する。

しかしたまにいつもと違う風景を見ることもある。

いや、風景と言うより・・・。

 

「改めておはよう、まさきくん♪」

「おはよ〜・・・ま、まーくん」

「おはよう、2人とも(汗)」

 

具体的にいうと、ご近所の双子姉妹が髪型だけじゃなく、性格や口調まで入れ替えてるとか・・・。

面白そうだから気付かないフリをしておこう♪

特にかがみさんがつかささんの真似をして、顔を真っ赤にしながら呼びなれない俺のあだ名で俺を呼んでる時の表情が何だか新鮮で面白い。

で・・・そのままこなたさんと合流した。

 

「お〜っす、こなた♪」

「おはよう、こなちゃん」

「おはよ〜」

「お、おはよう・・・」

 

こなたさんはそんな2人を見て絶句した挙句、俺を引っぱって2人から離れて小声で聞いてくる。

 

「ねぇまさき、気付いてないワケじゃないよね・・・?」

「気付かない訳ないっしょ・・・ククク♪」

「おぬしも悪よのう♪・・・だけどあの2人は分かってないな〜、やっぱり」

 

何が?

と聞こうとした時には、こなたさんは何故か2人を説教してたりする。

 

「何で私達が怒られてるのよ・・・?」

「まーくんは気付かなかったのにな・・・」

「つかささんはともかくとして、かがみさんまでばれてないとでも思ってたの?」

『え~!?』

 

本気でばれてないと思ってたらしい。

てか髪の長さで一目瞭然なんだが・・・かがみさんもどっか抜けてるな。

 

「ちなみに解説者のまさきさん、どこを直せば2人は完璧だと思いますか?」

 

いつものこなたさんの悪乗りである。

今回は便乗してみよう♪

 

「そ〜ですね〜、まず髪の長さ、目つき、頭の中身ってか主に成績。後は家事の腕前。この辺りを何とかしない事には・・・」

「て、それって全部じゃないの!」

「あぅぅ・・・」

 

今日もこんな感じで、いつも通り平和な登校風景を送った。

 

 

 

<2−B:昼休み>

 

 

 

「にしても柊がいきなり髪形変えて来たからさ~、何かあったのかと思ったぞ」

「そうね、私達はいつもツインテールな柊ちゃんしか見てないし」

「う、うっさい。たまたまよた・ま・た・ま! そういう気分になることもあるの!」

 

かがみさん、何か失敗した時『たまたま』で全部片付けるのは如何かと思うぞ?

 

「私は髪が短いから、お姉ちゃん達くらいの長さだったら色んな髪形に出来るんだけどな〜って思うんだけどね」

「でもそうすると手入れも大変なんじゃないの?」

「そうですね、髪質によっては痛みやすい方もいらっしゃいますから」

「まぁ手入れくらいはするけど、いじるのはメンドイし自分でやっても面白くないからな〜」

 

友人達との憩いのひととき。

修学旅行以降、周りが2人増えて更に賑やかになった・・・やっぱり女子だが(汗)。

ますます注目度(主に男子からの)が上がってたりする。

・・・夜道には気を付けよう。

バイトが夜遅くになることもあるし。

 

「しっかしあっさり馴染んだよね、あやのさんとみさきち♪」

「む〜、みさきちって呼ぶなって何度も言ってるだろ、このチビッ子〜!」

「ふふ、良いじゃないみさちゃん。こんなに短期間で仲良くなれるのって中々無いよ?」

 

性格は正反対なこのコンビ。

だがこの2人は幼馴染というだけあって結構仲が良い。

だからこんなことも聞いてみたくなる。

 

「2人はずいぶん仲良いみたいだけど、喧嘩したことって無いの?」

 

日下部さんはともかく、峰岸さんが怒ってる所がイマイチ想像できん。

ていうか既に姉妹に見えなくも無い。

 

「んあ? ああ、あやのってこう見えて怒るとメチャメチャ怖いんだぜ♪」

 

さらっとそんな事を言う日下部さん。

何か怒らせるようなことをしたんだな・・・。

 

「あれか、大人しい人ほどキレると怖いってタイプ?」

「おお、そんな感じそんな感じ」

「あれはみさちゃんが悪いんじゃないの、もう・・・」

 

どうやら何か前例があるらしい。

峰岸さんはウチのクラスで言うみゆきさんの様な位置付けか。

 

「まさきさん♪」

「ナンデモナイデスミユキサン・・・」

 

あとみゆきさん、ナチュラルに人の心を読まないでくれ(汗)。

 

「そういえば妹ちゃんは柊ちゃんとは双子なんだよね?」

「そうだけど・・・あ、やっぱり似てないとか?」

「ううん、もし立場が逆だったらどうなってたのかなって思って・・・私はまだ妹ちゃんのことはよく知らないけど柊ちゃん、想像つく?」

 

・・・・・・。

 

『つかさお姉ちゃん、宿題見せて〜?』

『もう〜しょうがないなぁ、かがみったら♪』

 

「うわ〜、何か凄いことになっちゃってるよ〜!?」

「・・・お〜いつかささん、戻って来〜い」

 

あぶねぇ、俺も想像してしまった。

はっきり言って違和感バリバリだ。

ついでに言うとかがみさんは苦笑い。

 

「どんな想像したかなんとなく察したけど・・・私は立場上自然とつかさの姉としてしっかりしなきゃって意識があったからね」

「へぇ〜、柊って妹思いなんだな〜♪」

「そうそう、ウチのかがみは妹思いの良いお姉さんなのだよ」

「むむ!? 前半部は聞き捨てならねぇぞ、チビッ子! 柊はウチんだぞ!?」

「みさきち、時には諦めも肝心だよ・・・?」

「そのセリフ、そっくり返してやるぜチビッ子・・・」

 

おお、いつもの牽制が始まった。

日下部さん達が来るようになってからはもはやB組の恒例行事だ。

全部引き分けに終わってるが。

一部のクラスメートが、最終的にどっちが勝つか賭けをやってるのはご愛嬌である。

 

「ま、なんにしても、今日も平和だってことだよね」

「アレに関しては私ももう諦めたわよ・・・」

 

かがみさんの言葉に俺達は苦笑するしかなかった。

 

「そういや気になってたんだけど、皆が仲良くなったきっかけとかって何かあったの?」

 

前々から気になって聞こうと思ってたのをいつも忘れてたんですでに今更って感じだが。

 

「ん〜・・・最初は私がこなちゃんに外人さんから助けてくれた時かな〜」

「助けて・・・くれた?」

 

何かやばそうなフレーズだぞ?

 

「でもよく考えてみると、あの外人さん、道を聞いてただけかも」

「マテ」

 

どういう助け方したんだ(汗)。

話を聞くとこなたさんは格闘技経験者ということで、力ずくで追い返したらしい。

外人さんにとっては災難も良いとこだな。

 

「まぁ、そこからの繋がりでこなたと私が知り合って・・・みゆきとは元々面識があったのよね」

「そうですね、委員会繋がりで♪」

 

優等生+委員長(かがみさんは1年の時のみ)ということで面識があったようだ。

 

「私達は中学の頃から柊ちゃんとは一緒だったのよ。妹ちゃんことは聞いてたけど、ちゃんと挨拶したのはこの前の修学旅行の時ね」

「あ・・・あはは、そうそう、そうだったわね!」

 

・・・かがみさん?

 

「さすがにそれは酷いと思うんだけど?」

「ナイナイ! 忘れてたなんてそんな事・・・あ」

 

言っちゃった・・・さすがの峰岸さんも苦笑気味である。

日下部さんは幸い聞いていなかったらしく、相変わらずこなたさんとにらみ合ったままだ。

ちなみに俺はボソッと呟いただけで、そんなに突っ込んで聞いたわけじゃない。

 

「そうすると俺だけ全員、今年から知り合った事になるのか」

「それが必然だったとしたら、私たちが出会ってお友達になれたのも、何だか運命的な物を感じますね♪」

「そうね、まるで赤井君を中心に自然と集まったような感じ・・・」

「恥ずかしいからそれ以上は勘弁してくれ」

 

そう言われると意識せざるを得ないでしょ〜に・・・。

 

ちなみに。

こなたさんと日下部さんの勝負(?)はやっぱり引き分けに終わった。

 

 

 

<放課後>

 

 

 

「あらこんにちわ」(CV:くじら)

『こんにちわ〜』

 

通学路ででよく出くわすおばさんに声をかけられた。

最初は俺達3人の関係をからかい半分聞かれたモノだが今は慣れたもの。

半年もすればかわし方くらいは学習する。

 

「ふふふ、3人とも何時もしっかりしてるから羨ましいわ〜♪」

「いえ、そんなことないですよ~」

 

かがみさんには悪いけど、おばさんとの会話は基本彼女のみである。

女性同士のほうが話しやすいだろうし、つかささんは・・・会話、成立するかな?

 

「陵桜でいつも高成績取ってるんでしょ? うちの子にもあなた達の爪の垢を飲ませてやりたいわよ」

 

・・・ていうかなんで知ってるんだそんなこと。

 

「ねぇまーくん・・・」

「どしたのつかささん?」

「何かお姉ちゃんやまーくんの威光みたいで素直に喜べないよ〜」

「つかささんはつかささんらしくしてれば良いでしょ。周りに何言われても俺らは俺らなんだからさ」

「・・・うん、そうだよね♪」

 

さて、そんなこんなで今年ももう残り1月ちょい。

12月に入ったらすぐに期末テストだ。

それを乗り越えれば冬休み・・・それを考えると今から何だかワクワクしてる自分に気付く。

とりあえず先立つモノを用意した方が良いかな〜なんて考えながら、俺はかがみさんとおばさんの会話を聞き流していた。

 

 

 

つづく・・・



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第二十六話 聖夜計画は多種多様

季節がすっかり冬になった12月。

明日からは期末テストが始まる。

そのために俺は範囲を確認しつつ苦手な科目を重点的に勉強をしていた。

時間を確認すると・・・うわ、既に11時!?

いかん、時間のことをすっかり失念していた。

 

「ふわ・・・そろそろ寝るk『♪~~~~~~♪』誰だこんな時間に・・・こなたさん?」

 

液晶に出てきた名前に珍しいなと思いつつ、俺は電話に出た。

 

「もしも〜し、こんな時間にどうしたの?」

『あ、まさき? ちょっと聞きたいことがあるんだけど』

「珍しいね、こなたさんが俺に聞きたいことって」

『うん、実はちょっと詰まっててさ〜。リオン編の裏ダンジョンのあの桁違いのレベルのモンスターってどう対処してた?」

「・・・その前に勉強するように。反論は認めません」

 

そう言って電話口で騒ぎ始めたこなたさんの言葉は聞かなかった事にして通話を切った。

やれやれ・・・。

 

 

 

<陵桜学園:2−B>

 

 

 

翌日、いつも通りに俺は柊姉妹と登校して教室に入った。

 

「おはよう」

「おはよ〜、ゆきちゃん」

「おはようございます、つかささん、まさきさん。今日からしばらくテスト漬けですね」

「午前中で帰れるのは嬉しいんだけどね〜」

「代わりに勉強頑張らなきゃいけないからな」

 

そろそろ先を見据えて頑張らないといけないからね。

っていうか午後いっぱい自習時間にした方が良いような気がすると思ってるのは俺だけじゃないはずだ。

何故かと言うと・・・。

 

「みんなおはよ〜。ねぇまさき、昨夜のアレはちょっと酷いよ〜。少しくらい教えてくれても良いじゃん!」

「そういう事は普段から勉強してる人が言うことだよ」

 

教室に入ってくるなり凄い剣幕でこなたさんが問い詰めてくる。

・・・内容が内容だからなぁ。

まぁ、普段から勉強してる人はこの期間中にゲームをやろうなんて普通の神経じゃ思わないだろうけど。

 

「失礼な! ちょっと息抜きしてただけだよ!」

「で、その息抜きがどんどんのめり込んで・・・」

「うん、最終的には一夜漬け」

「それがダメなんだっての!」

 

こういう輩が最低一人は身近にいるのだ。

息抜きが必要なのは分かるけど、いつの間にか目的を履き違えてたら意味無いっての。

 

「いや〜、最近ネトゲのほうでは黒井先生の監視がキツくてさ〜、テ○ルズやってたらいつの間にかあの時間に」

「ダメだコイツ、早く何とかしないと」

「・・・あの、何のお話でしょうか?」

「ああ、こなたさんがね、昨夜の11時ごろだったかな? 電話かけてきて詰まってるって言うから何かと思ったら・・・ゲームの攻略法のことだったんだよ」

 

この言葉にさすがのみゆきさんも納得した上で苦笑い。

ちなみにつかささんは難しい問題になるとすぐに眠くなるとか・・・まぁその気持ちは分からんでもないが。

そんなこんなでチャイムも鳴り、テストが始まった。

 

 

 

<テスト終了数日後:2−B>

 

 

 

「おーっす、テスト結果どうだった〜?」

 

テスト用紙に点数が付いて全部戻ってきた日の休み時間、かがみさんがやってきた。

何か少し沈んでるなぁかがみさん。

まあ手ごたえが掴めないとか通学中言ってたからな。

 

「ゴメンねお姉ちゃん、私の面倒見てくれてたから・・・」

「いいのいいの。調子悪いのは自分のせいだし、それでも一応上位はキープしたし」

「へぇ〜、さすがのかがみでもそういうことがあるんだ。」

 

そんな調子でも上位をキープ出来るのは流石だと思う。

 

「こなたは・・・聞かなくても分かるか」

「失敬な! 私だってそれなりにがんばったんだよ!?」

「逆に私は用事があって中々勉強時間の確保ができなかったのよね〜。つかさの面倒も見てたけどソッチは逆に復習になったから良いんだけどね」

「ちなみに二人とも、どのくらい勉強したの?」

「四時間も!」

「四時間しか・・・」

 

・・・・・・。

 

『あれ?』

 

かがみさんの場合、テスト前に用事を引き受けるのもおかしな話だがそれでも上位をキープできたのは、普段からきちんと授業を受けてたためだろう。

が、こなたさんは・・・言わずもがな。

 

「それにしても、双子といってもそれぞれ考え方や姿勢はやはり違うものなんですね」

「ま、一卵生だろうが二卵生だろうがかがみさんはかがみさんだし、つかささんはつかささんだからね」

 

遺伝子が同じなだけで別の人間だからな。

 

「私の場合、姉って言う立場上つかさよりしっかりしなきゃって昔から思ってたからね」

「妹には負けられないってか?」

「でもかがみ、張り合う相手がつかさじゃ張り合いがいが無いんじゃない?」

 

流石にそれは酷いぞこなたさん。

 

「はぅっ!? こなちゃんのくせに〜!」

「・・・あ〜、それも少しあるかも」

「ってうぉい!?」

 

かがみさんもフォロー無しかい!

そしてなんだこの奇視感!?

 

 

 

<翌日昼休み:2−B>

 

 

 

テストも無事終わり、まもなく冬休み。

今年一年ホントにいろんなことがあったと思う。

一番何が変わったかと言われると・・・やはり交友関係だろう。

 

「ん? どうした赤井?」

「いや、今年一年いろいろあったな〜と」

「そうね・・・気が付いたらもう12月なんだもんね」

 

しみじみと言う峰岸さん。

こうやって7人で昼飯を食べること・・・そもそも知り合って間もないのにも拘らず、あっさり馴染んだもんな〜、俺・・・この女子の輪に(汗)。

まぁ人の噂も七十九日、今ではすっかり2−Bでは馴染みの光景だ。

未だに男子からの羨ましげな視線は残ってるが。

 

「今年はプロ野球とかも色々あったわよね」

「だね、優勝決定戦も最後までもつれ込んだし」

「プロ野球といえばパのプレーオフ!ダイエーを応援しちゃったよ」

 

おや?

野球の話にこなたさんが絡んでくるのは珍しい。

彼女曰く、

 

「延長してアニメの放送を妨害する悪!」

 

なんて言うくらい嫌ってたのに。

 

「セール目的でさ〜。近くに西友ないし・・・ダイエーはあるんけどネ」

 

あ、成る程。

父子家庭だし、その辺は結構気を使ってるのか。

 

「惜しくも優勝は逃しちゃったんだよね〜」

「でも応援感謝セールはやってたよね」

「ああ、俺も結構買い込んだよ」

 

と言った所・・・。

 

「ウソ〜!! 優勝した時だけじゃないの!? ズルイ!!」

 

いやこなたさん、ズルイって・・・(汗)。

 

「広告くらいちゃんとチェックしときなさいよ」

「む〜、来年からはそうしよう」

「でもチビッ子の場合はお菓子が目的なんじゃないか?」

「あ、私もそう思った」

 

かがみさんと日下部さんは人のことは言えないと思ったのは俺だけか・・・?

 

「違うよ、調味料その他の日用品だよ」

「そだね〜。狙ったほうが結構お得なんだよね♪」

「まぁ・・・かがみとみさきちには縁の無い話だろうけど・・・ネ?」

「悪かったなチビッ子!」

「ど〜せ家事は苦手だよ!」

 

今のところ消費専門っぽいこの二人。

どこぞの漫画じゃないんだからやれば出来ると思うんだけどな〜。

俺でも何とかなってるのに・・・。

と、ここでつかささんが話題を転換させた。

 

「ねぇねぇ、皆はクリスマスの予定って何かあるの?」

「あ、そうそう。皆でパ〜ッと騒がない?」

 

ちなみに俺は既に了承済みである。

他の男子(クラスメート)からの誘いもあったのだが、先着順ということでそのまんま話したら泣きながら去っていったが・・・。

 

「あやのは兄貴とデートだもんな♪」

「み、みさちゃん!!(真っ赤)」

「ちなみにウチは家族と親戚んトコに行くんだ、兄貴を置いて♪」

 

峰岸さん、戦闘不能確認。

日下部さんも同じく参加できないとのこと。

 

「申し訳ありません。せっかくのお誘いはありがたいんですが、わたしも近所の方達や親戚と過ごす予定がありまして・・・」

 

みゆきさんも諸々の都合で参加不能。

残るは・・・。

 

「ゴメ〜ン、私も用事あるんだ〜」

「何だこなたも男関係か〜」

「かがみさん、それに触れるのは野暮ってもんでしょ」

「こなちゃん、おじさんとどこかに出かけるの?」

「つかささんまで言及しちゃ・・・て親父さんとk「お父さんには遅くなるって言っといたよ?」・・・ほう?」

 

まさかこなたさんに一足早い春が!?

 

「え・・・マジで彼氏とデート!?」

 

まわりもそう思ったらしく皆顔を染めて驚いている。

が・・・。

 

 

 

「期待を裏切るようで悪いけどただのバイトだから」

 

 

 

<通学路:下校中>

 

 

 

結局柊姉妹と俺以外の友達はクリスマスを一緒には過ごせないようだ。

で、どうするのか聞いてみると・・・。

 

「とりあえずウチの家族に+まさきくんじゃない?」

「クリスマスに1人なんて、寂しいもんね」

「まぁそりゃそうなんだけどさ」

 

冬休みなんだし、最終手段として実家に帰るという手もあるんだが・・・。

ウチの両親は母さんはともかく、親父のほうが仕事を休むなんてコトはまずないと思って良いだろう。

しかも母さんは宗教関連で、教会の祭事に参加するだろうから家にはまず居ない。

姉貴は姉貴で友達と遊び回ってるだろうし。

しかし柊家のクリスマスに赤の他人である俺が混ざって良いものかどうか?

 

「別に知らない相手じゃないんだし、まさきくんなら姉さん達も含めて皆で大歓迎するわよ♪」

「いや、歓迎してくれるのは嬉しいんだけどね・・・」

 

流石にこの前みたいに弄られるのは勘弁して欲しいところだ。

 

「まーくんが来るなら腕によりをかけてお料理作らなきゃ!」

「あれ? もう決定済みってか拒否権なし?」

「あら、断るつもりだったの? せっかく女の子が2人も誘ってるのに」

 

・・・なんか最近かがみさんが小悪魔っぽく見えるんですけど?

いくら友達とは言え俺は男だぞオイ。

しかし柊家の面々の分・・・つまり6人分のプレゼントを考えなきゃいけないのか?

むう、バイト、少し増やすかな・・・?

 

「それにしてもこなたには驚かされたわよね〜」

「あはは、でもまぁ似たようなモンでしょ?」

 

確かに言ってることは間違ってないだろう。

来るのはほぼ男性客のようだし。

 

「サンタさんの格好で接客するんだってね♪」

 

まぁそれは良いんだけど・・・。

 

「サンタは子供達に夢を与えるのが仕事なのに、あんなちみっ子に夢を求めるお客さん(おとこたち)もどうかと思うけどね・・・」

「ま、否定はしない」

「お姉ちゃんもまーくんも言いすぎだよ〜。サンタさんのカッコしたこなちゃん、きっとかわいいよ」

 

そんな話をしながら俺達はそれぞれの家に帰っていった。

冬休みも間近。

本気でバイト増やそうかな?

何か大きいの買って柊家の皆にまとめてプレゼントってのも良いかもしれない。

ともあれ時間もまだ少しあることだし、もう少し考えてみよう。

 

 

 

つづく・・・




アニメ放映時はまだ「ソフトバンク・ホークス」ではなく「ダイエー・ホークス」でしたよね。


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第二十七話 聖夜は家族と共に その1

柊家の庭先。

ただおさんが野球ボールを投げてくる。

俺はそれをミットで受けてただおさんに投げ返す・・・いわゆるキャッチボールというヤツだ。

 

「夢だったんだよ。息子とこうしてキャッチボールをするのがね」

「父親ってそういうものなんですかね?」

 

漫画とかでよく見る描写・・・あ、いけね。

そう思いながらボールを投げ返した。

 

「まさき?」

「っとと・・・そういうモンなの? 父さん」

「・・・ああ。まさきも、父親になったら分かるよ」

 

まさかこの歳になって叶うとはね、と言うのは(ただお)さんの言葉である。

でもやっぱり違和感があるな〜・・・。

 

 

 

今日は12月24日、世間で言うクリスマス・イブの日だ。

柊家でクリスマスを過ごさないか、と提案されたのは2学期がまもなく終わりそうな日の通学中のこと。

しかし俺は柊家の皆にプレゼントを用意するような余裕があるはずも無く、その上バイトで生活費を稼いでいる1人暮らしの学生の身。

柊家一同へのプレゼント等どうしようか悩んでるのを見抜いたんだろうか?

かがみさんがご両親に相談した上で俺に出した提案が今の状況。

つまり・・・。

 

『柊家の息子(誕生日的に末弟)としてクリスマスを一緒に楽しく過ごすこと』

 

そんな事で良いのか、そもそも何か違うような気がすると思ったんだけど向こうがそれで良い、と言うのだからそれに甘えることにしたのだ。

しかし女子からの誘いにあっさり乗る俺も俺だよなぁ・・・(汗)。

そんな訳で、ある意味滑稽かも知れないけど柊家の一員として今日の朝から明日の夜まで、柊家で過ごすことになった。

ちなみに寝場所は居間だと思ってたんだけど何故か柊夫妻の寝室に・・・ある意味こっちのほうがよっぽど緊張するんですけど・・・?

 

 

 

<柊家:昼食時>

 

 

 

「まさきには他に誰かとクリスマスを過ごす予定とか無かったのかな〜?」

 

さっそくからかい口調でまつりさんがそんな事を尋ねて来た。

ちなみに父さんとキャッチボールの時に呼び間違えしてしまったものの、演技力にはそこそこ自信があるほうだ。

 

「あったら今頃ここにはいないよ、姉さん」

 

反撃しても良かったけど不毛な争いになると判断して無難に返したが・・・。

 

「あ〜ら、姉さんって誰のことかしら♪」

 

姉さんだけじゃ分からないわよ?

と言うまつりさん。

いのりさん他2名・・・つまり4人全員がどうしても名前付きで○○姉さんとかで呼んで欲しいからだろうか?

ちょっと目を妖しく輝かせてるようだが・・・そんな時、何となく悪戯心が湧いてくるのが男の子である♪

 

「ん〜む、それじゃあ、分かりやすいように・・・」

 

少し間を置いてみる。

4姉妹は目の輝きが強くなるが・・・。

 

「上から順に姉壱号、姉弐号、姉参号、姉四号で・・・ってあれ?」

 

指差しながらそう呼んでいったら、4人揃ってものの見事にひっくり返ってた!

父さんも(みき)さんもこれは予想外だったのか、一瞬呆けたあと、懸命に笑いを堪えている。

 

「ちょ、ちょっとまさき! いくらなんでもそれは無いでしょう!?」

「お、落ち着きなさいってまつり・・・しかしまさ、あんたって結構侮れないわね」

 

ヨロヨロと起き上がって抗議の声をあげるまつりさん・・・じゃなくて姉弐号。

ちなみに「まさ」は姉壱号(いのりさん)が俺につけたあだ名で、他の3人のうち2人は呼び捨て、姉四号(つかささん)はいつも通りである。

ついでに言うと実際にいる俺の二人の姉も、普段は『姉さん』だが2人揃った時やメールでは『姉壱号』『姉弐号』と呼んでいるため、俺としてはそっちで呼んだほうが分かりやすいのだが・・・。

 

「何なのよそのどっかの決戦兵器の型式番号みたいな呼び方は・・・もうちょっと何とかならないの?」

「そうだよま〜くん・・・」

 

姉参号(かがみさん)と姉四号も再起動を確認!

あ、姉四号が少し拗ねてる。

 

「いや〜、ちょっとひねりがあったほうが面白いかと・・・」

『そんなことで面白がるな(らないでよ)!』

「え〜、いいアイデアだと『思わないよ(わよ)!』・・・が、がぉ・・・」

 

4姉妹の全員一致で否決されました・・・。

 

 

 

<午後:市街地のデパート>

 

 

 

俺は父さんに連れられて一緒について来た姉弐号、姉参号とデパート内のホビーショップ(つまりおもちゃ屋)に来ていた。

ちなみに母さんと姉壱号、姉四号は食料品の買い物中だ。

 

「本当に良いの、父さん・・・冗談のつもりで言ったんだけど(汗)」

「息子のワガママを聞くのも父親の役目だからね」

「男の子っていくつになってもそういうのが好きなんだね〜」

「そういえばまさきの部屋ってロボットがたくさんあったわよね・・・それにしてもお父さんって息子にはずいぶん甘いわね~♪」

 

父さんがクリスマスプレゼントを買ってくれるというから冗談交じりに超合金シリーズのある物が欲しいといったのだが・・・まさか本当に買ってくれようとは。

父さん、懐広すぎ(滝汗)。

 

「福澤さんと樋口さんが軽く飛んでっちゃう位の額なんだけど・・・?」

「それくらいの甲斐性はあるから遠慮はいらないよ、まさき」

 

・・・デパート(ココ)に無いとなれば別の物に出来たんだけど・・・。

 

「おおぅ、パッケージがでか!」

「へぇ〜・・・合体変形を完全再現、武器を飾る台座付き・・・」

「ほほぅ、台座を使って飛び蹴りのポーズをとれるのか。最近はこういうのがはやってるのかい?」

「いや、まぁ元は俺らが生まれる前のOVAなんだけど・・・」

 

ゲーム等で再評価され、何らかの形で再び日の目を見る・・・というロボットアニメ作品は結構ある。

模型化、最新技術でプラモデル化、中には数十年ぶりに新しいシリーズをDVDとしてリリースする等々。

クリスマスセールという事で値段はある程度落ちてはいるが、大きさと材質に見合った金額がする。

が、それ以前に・・・。

何でデパートにあるんだよコレ!

発売されたの2年くらい前だぞ!?

 

「ガン○スター・・・設定上の全長が200メートル!?」

「・・・こいつが出てきたゲームでは反則並みの性能を誇ってたんだよね〜」

 

ノンスケールとは言えコレだけの大きさのものだから驚いて当然だろう。

 

「斧に指先からミサイルに・・・シールド? どう見てもマントなんだけど。てか盾になるのこれ?」

「約2万の集中砲火から全長7kmの戦艦を守ったヤツだよそれ。額からビームも出るし。あと両腕両足から大量の棒が出てきて電撃を出したりパーツ差し替えで胸の装甲板をはがして動力部を引きずり出すシーンとかも再現してるし」

「どんな状況でそうなるワケ・・・?」

「私は全長7kmの戦艦ってのが気になるんだけど・・・」

 

他にも全長70km超の超弩級戦艦とかも登場するがこれ以上説明しようとすると小1時間近くはかかるので割愛しとく。

 

「他にも色々あるのね・・・知ってるのってある意味有名なこっちのマジ○ガーZくらいなんだけど。」

「かがみやまさきの歳で知ってるだけでも凄いと思うわよソレ・・・まぁ確かに有名だけど。あ、鉄○28号だ。」

「ほほう、ゲッ○ーにザブン○ル・・・懐かしいな。こういうのも最新技術で立体化しているのか・・・さて、おしゃべりはこれくらいにして、お会計を済ませるとしよう。」

 

あくまで温和な父さん。

今の内は家族でも、クリスマスが終わればただの他人に戻ってしまうのにな・・・。

だから本当に、感謝の気持ちを込めて言おう。

 

「本当にありがとう、父さん。これ、ずっと大事にする・・・」

「なに、これ位なら気にすることは無いさ。こっちはまさきのお陰でかなった夢もあるからね」

「あ、お父さん実はジ〜ンと来てる?」

「こういうお父さんもある意味新鮮かも♪」

「こ、こらこら、あまり父親をからかうんじゃない」

 

あはは、父さんの顔が赤くなってる♪

本当に・・・大切にしよう。

10年後も、20年後もずっと・・・。

 

でもいつまでも感慨深い想いに浸ってる暇も無く。

 

「あ、姉さん、あれカワイイ♪」

「こっちもいいわよ?これなんかまつりに似合いそうじゃない」

「お姉ちゃん、こんなのどうかな?」

「うん、似合ってるわよつかさ♪ 私は・・・う〜ん」

「これだけあるとやっぱり迷っちゃうわね・・・ただおさん、こんなのどうかしら?」

「ああ、よく似合ってるよ、みき」

 

男の子定番の荷物持ち。

女性の買い物は長いからなぁ。

母さん達と合流した後、彼女達の分もクリスマスプレゼントを買ってあげてると言う父さん。

一家の大黒柱も大変だ。

姉壱号は社会に出てるからと言う理由で断ったらしいけど、結局親にとって子供は子供のままと言うことらしく、結局押し切られてしまったとか。

俺は先ほど買ってもらったということもあり、母さん達が買ってきた食料やら何やらが入った袋を脇に置いてベンチで待機中。

柊一家のやり取りをぼんやりと眺めていた。

将来、俺も実家の親父や(ただお)さんのような立派な父親になれるのかな?

でも今は・・・この瞬間を、この時を大事にしよう。

 

「いやしかし、大家族も大変だよネ〜」

「私は少し、羨ましいですね。ああやって仲の良い大家族って憧れます・・・」

「そうだよな〜。あの仲の良さをウチの姉貴達も見習って欲しい・・・ってうえぇぇぇぇ!?」

 

自然に会話してきたからまったく気付かなかった(汗)。

 

「いつから居たの、こなたさんにみゆきさん!?」

「ついさっきだよ。まさきがベンチでボ〜っとしてたからその間に♪」

「泉さんとは先に合流してましたので♪」

 

げ、見られてたのか!?

いや、楽しそうに言うけど二人とも確か・・・。

 

「こないだ言った私のバイト予定は明日だよ」

「私も、出かけるのは明日の午前中ですから」

 

ちらっと姉参号と姉四号を見ると姉参号は微笑みながら小さく舌を出し、姉四号は満面の笑みでしてやったり、と言った感じのガッツポーズをとっていた。

他の柊家の皆も知ってたようでこちらを見た後、笑いあっていた。

・・・何も知らなかったのはまたしても俺だけかい。

 

「しかし何を買ってもら・・・うわぁ、よくこんなおっきいの買ってもらえたね」

「冗談のつもりで言ったのが本当に買って貰っちゃってね・・・」

「すごく・・・大きいですね。やはりロボットなのですか?」

 

包装してるから中身は解らないだろう。

とは言え、俺の部屋の状況を知ってたらそう思うわな。

 

「・・・原作じゃそいつ1体で億単位の宇宙怪獣と渡り合ったロボットだよ」

「ど、どんなロボットなんですか!?」

「話すると長くなるからみゆきさんには後で説明してあげるよ。で、まさき。お姉さん達のことを何て呼んでるのカナ? カナ?」

 

さっきの言葉でこなたさんも解った様だが・・・まぁスパ○ボ貸したことがあるから解るか。

てかこなたさん、アンタもそのネタで来ますか。

 

「とりあえず姉さん達のことは上から姉壱号、姉弐号、姉参g『だからそれはやめてってば!』おわ!?」

 

いつの間にかプレゼント選びも終わってたらしく、俺の言葉に反応するや否や4人揃ってダッシュで駆け寄ってきて否定された。

 

「まさき、さすがにそれは無いよ〜・・・」

「あ、あはは(汗)」

 

こなたさんは愚かみゆきさんも微妙な反応だった。

ウチの姉貴たちはそれでよかったんだけどなぁ・・・。

ま、人それぞれって事にしておこう。

 

 

 

つづく・・・



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第二十八話 聖夜は家族と共に その2

<帰宅後:柊家>

 

 

 

「ココをこうして・・・これはこうで・・・」

 

俺は説明書を片手に買って貰った超合金魂ガン○スターをいじり回していた。

正直明日まで開けるのを待とうとしていたのだが、現状は既に開放済み。

というのも柊家に帰ってくる途中・・・。

 

「ね〜ね〜、折角だしかがみんちに着いたら開けてみてよ」

「あ、わたしも見てみた〜い!」

「そうね、まさきも開けたくてウズウズしてるんじゃない?」

「まさきがそうしたいんならそうしなさい」

「一体どの様な物なんでしょう・・・?」

 

上から順にこなたさん、姉弐号(まつりさん)姉参号(かがみさん)(ただお)さん、みゆきさんの順である。

こなたさんもみゆきさんも1泊して明日の朝帰るのだそうだ。

ちなみに(みき)さんと姉壱号(いのりさん)姉四号(つかささん)は台所で夕飯の準備やクリスマスケーキの製作等で忙しく動き回っているため、後で写真を見せてもらうとの事。

そのため俺が買ってもらった物をいじくり回している所を父さんがデジカメで撮影していたりする。

・・・何かそうなると柊家のアルバムに納まってそうで恥ずかしいなぁ。

まぁ、何はともあれ。

組み上げたガン○スターの多種多様な武器を一通り構えさせて(ついでにこなたさんの要望&解説も済ませて)箱を開けてから約1時間とちょっとで台座(と言うより見た目は格納庫に近い)に納めたところで一息ついた。

発売は2年前のものだが重量感もあり、俺的には大満足♪

 

「何だかまさきの新しい一面が見られたよ」

「へ?」

 

いやいや来て良かった、なんて言うこなたさん。

・・・何か良い物でも見せたっけ?

 

「そうですね、何だか目が輝いていたように見えました」

「確かに、普段学校じゃまずお目にかかれないわよね♪」

 

姉参号もみゆきさんもそんな事を言う。

むう・・・なんか恥ずかしい。

 

「ふふふ。息子(まさき)にここまで喜んでもらえたなら、奮発したこっちもうれしいな」

「お願いだからもう勘弁してよ、恥ずかしいから・・・」

「あ、まさきの顔があか〜い♪」

「へぇ〜、かわいいトコもあるじゃん。よしよし♪」

 

そんな事を言って姉参号がはやしたて、姉弐号が頭をなでてくる。

 

「ああもう! 俺も高校生なんだから子ども扱いしないでよ姉弐号!」

「だからそんな呼び方するな〜!」

「とりあえずまさき、姉壱号から姉四号は使用禁止ね。」

 

むう、使用禁止されてしまった・・・ならば!

 

「じゃあ姉壱号から姉四号改め、姉壱式から姉四式まd『だからなんでそんな呼び方なのよ!?』・・・えぇ~・・・?」

 

これ以外なんかあったかな〜。

ちなみにこの呼び方は今まで散々弄くりまわされた仕返しのようなものなのでこの辺にしとこうかな?

 

「えぇ~、じゃないわよ!? ほとんど変わってないじゃない!!」

「コイツは今のうちに徹底的に教育するべきか・・・?」

 

ヒートアップする姉弐式(まつりさん)になんかブツブツと怖いことを言ってる姉参式(かがみさん)

この辺にしとかないとそろそろやばいなこりゃ。

 

「こらこら、まつり。かがみもそうケンカ腰になるんじゃない。まさきもふざけてないで、ちゃんとお姉ちゃんの事を呼んであげないと」

『・・・ハ〜イ』

 

ということで父さんの仲裁によりこの場は何とか納まった。

 

「それにしてもまさきって環境適応能力Sランクだよね」

「はい? なんのこっちゃ・・・?」

「今のやり取りを見てるだけでも、まさきさんも柊家の家族にしか見えなかったということですよ」

 

・・・ここまで言われると、将来役者でもやってみるかな、なんて思ったりする。

まだ先の話だけど進路の1つと言う事で・・・図に乗りすぎか。

その後、俺はただ待ってるのも悪いと思い、何か手伝おうかと良いにおいを漂わせた台所に顔を出すが・・・。

 

「あら、もうお腹すいちゃった? もうちょっとまっててね」

「いや、何か手伝える事ってあるかな〜と思って」

「だめよまさ、ここは今戦場なんだから!」

「そうそう。まーくんは居間で待っててね♪」

 

てな感じで追い出されてしまった。

この調子だと姉妹間の中では料理が一番できるのがつかさ姉さん、少し劣っていのり姉さん、そして見えない壁があってまつり姉さん、かがみ姉さん、といったところか。

まつり姉さんとかがみ姉さん、どっちが上手いかは知らないけど。

 

「あら、手伝いに行くんじゃなかったの?」

「・・・追い出された」

「あはは♪ 台所は女の戦場だからね〜」

「とか言って、まつり姉さんも女じゃない。手伝わないの?」

「そういうかがみも女よね。手伝いに行かないの?」

 

なんか2人の間に火花が飛び散り始めたので飛び火しないうちに退避しとこう。

 

 

 

<夕食時間:柊家居間>

 

 

 

『メリークリスマ〜ス!!』

 

カチン、とグラスとグラスを軽く合わせた音が鳴り響く。

柊家+αのクリスマスパーティ。

柊夫妻と長女はシャンパンで、残りはジュースで乾杯した。

テーブルの真ん中には手作りケーキと、隣にあるのは七面鳥の丸焼きか?

他にも色とりどりの柊母娘(おやこ)達の力作が所狭しと並んでる。

そしてワイワイと騒いでる時のこと・・・。

 

「そういえばさ、クリスマスイヴとクリスマスって、何が違うんだろ?」

 

とこなたさんが素朴な疑問を投げかけてきた。

 

「クリスマスイヴの元々の意味は『クリスマスの夜』なんだけど、実際には『クリスマスの前夜』を指しているんだ。これはユダヤ暦や、それを継承する教会暦に照らし合わせると、日没をもって日付の変り目としていることから、長い時間を経て一般的に『クリスマスの前日=クリスマスイヴ』として広まったんじゃなかったっけかな。つまり現在使われてる太陽暦で言う12月24日の日の入りから25日の日の出までがクリスマスイヴ、そこから25日の日の入りまでがクリスマスってこと」 ※Wikipedia参照

 

こなたさんの疑問にそう答えて、俺は切り分けられた七面鳥にかぶりついた。

 

「ええ。ですから伝統的な教会では24日の日没から既に日付が変更されたことになり、クリスマスイヴが始まるんです」

 

ようするに、この時間はキリスト教会では既に12月25日なのだ。

 

「・・・みゆきさんから答えが帰ってくるのは予想してたけどさ・・・何でまさきが知ってるの?」

「そうですね。私もちょっと驚いてます。しかも何だか凄く詳しく説明してましたし・・・」

 

まあそういう反応は当然だよな。

普通は知らなくていい事だし、知ろうとするのはみゆきさんのようなよっぽど知識欲がある人じゃなきゃ調べる気もしないだろう。

 

「まさも結構詳しいじゃない。て言うかホント、何で知ってんのよ?」

 

いのり姉さんを初めみんな揃って首を傾げてる。

 

「んあ、ひょうはふへひほほろひゅうひょほほひはんひははっは」

「まさき、お行儀が悪いわよ? ちゃんと飲み込んでからしゃべりなさい」

「そうだよまーくん、お料理は逃げないよ〜?」

 

おっといけね。

母さんとつかさ姉さんに頷いてから口の中の七面鳥(もの)を飲み込んで改めて話す。

 

「小学生の頃、宗教の時間に習ったんだ。私立でキリスト教の学校だったからさ」

「まぁ、そうだったんですか?」

「あれ? それじゃまさきって実はキリスト教?」

「いんや、無宗教」

 

こなたさんの質問に俺はあっさりと答えた。

母さんはキリスト教徒だが。

 

「まぁ疑問は残るけど・・・じゃあまさは何かクリスマスソングとかも歌えたりするの?」

「ここで歌えっての? いのり姉さん」

『おお!』

「うわ!? 4人揃っていきなり何・・・あ、なるほど」

 

考えてみると『姉さん』と呼んだのは初めてか。

そんなわけで、残り3人をまつり姉さん、かがみ姉さん、つかさ姉さんとそれぞれ呼んだら、特につかさ姉さんが喜んでいた。

末っ子だからよっぽど呼ばれたかったんだな・・・。

まぁそれはさて置き。

 

「・・・1番だけでその上うろ憶えなんだけど、それでいいなら歌えないこともないよ」

 

結構ポピュラーな歌だから知ってる人も多いのではなかろうか。

 

『わぁ〜!(パチパチパチ)』

 

ここで全員からの拍手・・・ってちょっと待て!

 

「うわ墓穴掘った・・・しかもすでに決定事項!?」

「ちょうど良いわ。ケーキのロウソクをつけて明かりを消しましょう♪」

「ツリーの電球とロウソクの明かりだけでも結構雰囲気が出そうだね」

「父さんに母さんまで・・・」

 

なし崩し的に演出完了。

皆の前で歌うハメに・・・とりあえず頭をひねって何とか歌詞を捻り出す。

確か・・・うん、こんな感じでよかったはず。

 

「あ〜・・・それじゃあ歌います。曲名は『Silent Night』」

 

拍手の後、俺はゆっくりと歌い出した。

 

「♪~~~~~~♪」

 

 

 

『おお〜!』

「まーくんすご〜い!」

「まさかの英歌詞・・・そういやどっかで聞き覚えがあるね」

「結構ポピュラーな歌だし、こなたでも聞いた事くらいはあるんじゃない?」

「てか何気にまさって歌上手いわね〜」

「ねぇねぇ、明日辺り皆でカラオケ行こっか♪」

 

とりあえず好評な様で良かった。

バスの中でカラオケやった時より死ぬほど緊張したぞ。

 

「ちょっと発音おかしな所があったと思うんだけど」

「いやいや、それだけ出来れば十分だろう」

「そうよ、歌手デビューでもいけるんじゃない?」

「父さんも母さんも大げさすぎるって!」

 

こんな感じでワイワイ騒ぎながらイヴの夜は更けていった・・・。

 

 

 

<入浴中:柊家風呂場>

 

 

 

「・・・ふう、何か疲れた」

 

今頃居間と台所は後片付けで大忙しだろう。

今日1日、楽しいこと、嬉しいこと、大変だったことと、いろんな事がぎっしり詰まった非常に濃い1日だったと思う。

てかかがみ姉さんやつかさ姉さんがいつも入ってるお風呂・・・。

いかんいかん、煩悩退散煩悩退散!

俺は変態か!

・・・とりあえずまだ終わりじゃないだろう。

まつり姉さんに『先にお風呂は行ってきなさいよ。もう入れるから♪』となにやら企んでそうな含みを持って入浴を勧められた。

一癖も二癖もあるあのまつり姉さんが何か仕掛けて『ガララ』・・・マテ、まさか・・・(汗)。

 

「やっほ〜まさき、今日は大変だったでしょう〜? 背中流してあげるわ♪」

「ふっふっふ、おねーさん達が綺麗にしてあ・げ・る♪」

「ちったぁ恥じらいってモンが無いのかあんたらはぁっ!!」

 

思わず入り口を見るも高速で後ろを向く。

てかいのり姉さん、あんたもか!

 

「と、とりあえずバスタオル巻くくらいして隠してよ!」

 

いくらなんでもタオル1本はないだろ(汗)。

 

「あら、気にすること無いわよ、まさ。実は水着着てるし♪」

「いや気にしてよ! て水着・・・・・・!」

「はいは〜い、暴れない暴れな〜い♪」

 

思いっきり大胆なビキニタイプじゃん!

で、結局。

 

「やっぱり男の子の背中って高校生になるとおっきいのね〜」

「小さい頃はこうやってお父さんの背中もよく流してあげたっけな〜♪」

「あうあうあう・・・」

 

大人しく背中を流されるハメになりました・・・。

 

「あ、今度は私の背中、お願いね♪」

「姉さんの次は私ね♪」

 

正直、この後のことはよく憶えていない。

ていうか俺はこの時、あまりの出来事に既に思考停止状態だった。

そして気が付いたら居間でボ〜っとしてたりする。

居間にいた父さんや母さんは普通に居間に入ってきたと言うが・・・。

 

 

 

「で、ほんっと〜に何にも無かったんでしょうね・・・?」

「む〜、今度は私とかがみお姉ちゃんが・・・」

「やんないわよ!」

「おやおやかがみ、ヤキモチですかい?」

「でもさすがにやりすぎなのでは・・・?」

「ふふ、長女の特権よ♪」

「思いついたのは私だけどね。いのり姉さん、かなり乗り気だったけど実は焦ってるとか?」

「・・・グーで良いかしら?」

「スミマセンデシタ・・・」

「あらあら♪」

「まぁ今回は不可抗力で見逃しておくが・・・次があったらお仕置きかな?」

「はい・・・(泣)」

 

寝る前にこんなやり取りがあったとかなかったとか・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第二十九話 聖夜は家族と共に その3

<12月25日早朝>

 

 

 

「結構意外だね〜。つかさが最近持久力つけてるから何かあるな〜とは思ってたんだけど、まさかこんな事してたとは」

「スポーツウェアを持ってくるようにと言ったのはこのためなんですね」

「えへへ。私、がんばってるよ♪」

「最初はつかさに合わせてもっとゆっくり走ってたんだけどね」

「ま、誰でもやれば出来るってこった」

 

クリスマス当日の早朝。

祝日だろうが祭日だろうが天候が悪くならない限り、俺は早朝のランニングは欠かさない。

何事も継続は力になる。

傍から見ると大した事じゃなくても、いつか役に立つ時が来るというのが俺の信条だ。

でもそんなことより・・・。

 

「俺としてはみゆきさんはともかく、こなたさんがこの場にいる事がすっげぇビックリなんだけど・・・?」

「なんと失礼な!? 私だってやるときゃやるよ!」

 

遅刻ギリギリが多い(主に夜更かしが原因と思われる)こなたさんが、早朝きっちり起きていたのには正直驚いていた。

ちなみに現在5人で町内のランニングコースを疾走中。

いや、疾走と言うほど速いわけじゃないけどね。

 

「でもこれを毎日やってたら確かに持久力は養えますね。お2人はいつから?」

「ん〜っと・・・体育祭の後からかな?」

「その前から話だけは聞いてたんだけどね。つかさが自分から言い出したのよ」

「お〜、頑張り屋なつかさらしいね〜。で、それに便乗してかがみはダイエットに乗じて始めたんだけど結果的にはあんまり変わってないとか♪」

「うっさいわ!」

 

図星・・・なのかな?

ちなみに聞いた話、朝食の量が増えてるらしい。

まぁダイエット云々は置いといて。

 

「こうやって走ってるから足に筋肉が付いて来たんでしょ。だから結果的に余分な脂肪が落ちていても体重がさほど変わらないんじゃない?」

「まさき〜? 女の子に対してストレートに体重がどうのって話は感心しないわよ〜? でもそうだとするとなんか複雑な気分だわ・・・」

 

ツッコんだり怒ったり落ち込んだりと朝から忙しいなぁかがみ姉さんは。

 

今日はクリスマス。

 

そんな日にも拘らずいつも通りの何気ない朝の1コマが流れていた。

 

 

 

「ねぇねぇ、皆年末はどう過ごすの? 空いてるんだったら私とお祭りに行かない?」

 

ランニングを終えて朝の1コマ。

こなたさんから年末のお祭りに関する勧誘を受けた。

場所は有明なんだけど、なんてのたまう時点で間違いなく・・・。

 

「すいません、私は親戚の家で過ごす事になってますので」

「こなちゃん、どんなお祭りなの?」

「・・・あ〜、こなたの言うことを要約すると、コミックマーケットの買出し要員よ。夏休みに行った時はビックリしたわよ!」

「なるほど、こなたさんにパシられたんだ」

「む〜、皆で行けばば楽しいもん。お祭りはお祭りだもん」

 

確かにあの人数はお祭りだわな。

俺も以前一度だけ行った事があるが・・・何あの人ごみ(汗)。

とりあえず既につかさ姉さんは興味津々、かがみ姉さんはつかさ姉さんが行くと言えば面倒見るために行かざるを得ないだろう。

あの凄まじい人ごみの中に女の子ばかり行かせるのも如何かと思うし・・・。

そう考えると俺も行くハメになるかも(汗)。

 

「どんな所だろ。行ってみたいな〜」

「え、つかさ本気? 人ごみがハンパじゃ無いわよ?」

「ま、社会勉強にはなるんじゃない? あまりオススメは出来ないってかしないけど」

 

つかさ姉さんのことだ、到着するなり大量の人ごみで怯えてそうだが・・・。

 

 

 

<柊家:居間>

 

 

 

「と言うわけで皆暇だよね? どこか遊びに行きましょうよ♪」

「まつり姉さん唐突すぎ」

 

朝食を終え、こなたさんとみゆきさんが帰った後、まつり姉さんが突然そんな事を提案してきた。

多分行き当たりばったりなんだろうが。

 

「遊びに行くってまつりお姉ちゃん、どこか行きたい所でもあるの?」

「まぁ私も考えてはいたんだけどね。折角の休みだしその上弟もいるんだし」

「いのり姉さんの言う通りかもね。お父さんもお母さんも誘って家族皆でさ」

「俺は特にそういう希望やら予定やらは無いから姉さん達に合わせるけど?」

 

そうすると少なくとも男女7人皆で楽しめる場所が望まれる訳だ。

 

「無難に考えるとボウリングとかカラオケとか映画とか?」

「あ、それで思い出した! まさきって結構歌上手いからさ、カラオケ行こうよカラオケ!」

 

その一言でとんとん拍子に話が進んで皆で少し遠くのラ○ンド1に行くことになった。

あそこなら色んなものが揃ってるからそれぞれやりたいことをやれる。

まずは早めに昼食(外食になる)をとり、2時間ほどカラオケを楽しんだ後(延長の可能性大)、店内の施設で各自自由行動、スーパーで買い物して帰宅する、という即興の計画を立てる。

そして思い立ったら即行動。

(ただお)さんと(みき)さんに話をして即出かけることになった。

 

 

 

<ラ○ンド1:カラオケルーム>

 

 

 

『♪~~~♪』

 

現在、父さんと母さんが熱唱中。

内容が演歌の・・・ていうか自分達の願望入ってません?

いのり姉さんとまつり姉さんが思いっきり頭抱えてるし・・・。

 

アレから軽く昼食をとってラ○ンド1に到着。

ゲームを見ても『見ててもさっぱりだしボーリングもあまり上手くないから』と言う父さんと母さんの意見で少し長めに時間をとった。

でもそういうとわざわざラ○ンド1(ここ)まで来た意味ないんですけど(汗)。

で、1番手に父さんが歌い始めたのに母さんが便乗したのだが・・・。

 

「姉さん達にそういう話は・・・?」

「言わないで、お願いだから(涙)」

「ま、まだ大学生だから大丈夫・・・多分」

『・・・・・・』

 

いのり姉さんが頭を抱え、まつり姉さんも遠い目をしている。

他2人は我関せず、もしくは何か思うところがあるのか・・・黙って聞いている。

そんなこともあって・・・。

 

「♪~~~♪」

 

「♪~~~♪」

 

上から順にいのり姉さん、まつり姉さんである。

何か2人の心情をそのまま歌に込めてるよ〜な・・・あ、少し涙浮かべてる(汗)。

続いてかがみ姉さんがつかさ姉さんとデュエットで歌うようだが・・・。

 

「♪~~~♪」

「♪~~~♪」

『♪~~~~~~♪』

 

さすが双子、息もぴったりだ。

24時間テレビのフィナーレでよくうたわれる歌だ・・・何気に姉さん達を応援しているようにも聞こえるが(何を、とはあえて言わない)。

 

「まさは何を歌うの?」

「やっぱりロボット物の歌?」

 

多少吹っ切れたのか姉さん達に聞かれる。

父さんも母さんも興味津々って感じだ。

が、とりあえず俺が入れたのは・・・。

 

「♪~~~♪」

 

『ちょ! まさ(まさき)!?』

「なんでまさきがタッ○知ってるのか聞いた方が良いのかな・・・?」

「でもこれはこれである意味有名な曲よ?」

「まさきらしいっちゃまさきらしいわね・・・」

「でもやっぱり上手だよね♪」

 

うん、昨日買ってもらった物の歌でも良いけどさすがに男が歌ったらドン引きされる内容(うた)だからね。

あとこういう時に期待されると・・・裏切りたくなるじゃん♪

その後、まつり姉さんの「ロボット物の何か歌ってみてよ〜!」と言う要望により歌うことにしたのだが・・・まつり姉さん、何でそこまでこだわるのかな?

とりあえずこれなら分りやすいかな?

 

「♪~~~!!♪」

 

「聞いたことはあるけど、これってロボット物だったんだ・・・」

「しかしまさは女性歌手の歌が好きなのかしら?」

「単に歌いやすいって少し前に言ってたわよ?」

「あ、そっか。私とかがみお姉ちゃん、まーくんとカラオケに来るのって初めてじゃないもんね」

 

どうでもいいが、1万2千年前から愛してると言い切るのはすごいと思う。

そうして皆で楽しんでるうちにあっという間に時間が過ぎていく。

既に夕方。

今日も残りあとわずかだ。

 

 

 

<柊家:夕食時>

 

 

 

「な〜んかさびしいな〜。せっかく弟が出来て昨日今日と新鮮な日だったのに」

「まつり、あんまりワガママ言うもんじゃないわよ?」

 

何か神妙な顔つきな長女と次女。

まあそれを言ったらこっちも同じだ。

 

「でもまつりお姉ちゃんが言うのも分かるよ〜。私もまーくんに『つかさ姉さん』って呼ばれて、ホントに弟が出来たんだなって思えたんだもん」

「まさきは夕飯食べ終わったらもう帰っちゃうの?」

「片付けの手伝いくらいはやってくよ。でも近いとはいえ夜中だし、家を出たら全力ダッシュかな?」

 

無いとは思うが補導されるのは勘弁である。

それに始まりがあるから終わりがある。

こればかりはどうしようもない。

時間は止まらないし、ましてや戻すことなんて出来ないんだから。

 

 

 

「まさきくんのお陰で楽しいクリスマスを過ごせたよ」

「本当に、ありがとう。またいつでもいらっしゃい」

「あ、いや、べ、別にお礼なんて・・・こっちこそありがとうございました」

 

柊夫妻にお礼を言われてこっちも逆に恐縮してしまった。

玄関先で一家総出で見送られたからなおさらである。

 

「初詣の時はいらっしゃい。美人な巫女さんが4人もいるんだから♪」

「姉さん、いくらなんでもショタはd『ゴツン』あいた!?」

 

何かあの2人、かがみさんとこなたさんの姿がダブって見えるような・・・。

 

「まぁ姉さん達のことは置いといて、また・・・ね?」

「楽しかったよ。また一緒に遊ぼ♪」

「うん。それじゃあみなさん、昨日今日とお世話になりました。おやすみなさい」

 

 

 

たった2日。

その2日間が物凄く濃くて、そして楽しい・・・本当に楽しい時間だった。

そしてさほど遠くない(と言うか目と鼻の先と言ってもいい)自宅に帰って来た。

家に帰って来てまずやったのは、ただおさんに買ってもらったガン○スターを大事に飾る事。

その時の音がやけに大きく聞こえる。

・・・アパートの部屋ってこんなに静かだったっけ?

そう思えるほどに、1人暮らしの寂しさを改めて痛感した夜だった。

 

 

 

つづく・・・



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第三十話 オタクの戦い

<東京某所>

 

 

 

今日は12月31日。

一般には大晦日で、家の大掃除やら年賀状書きやら宿題やらで忙しい日なのだが・・・。

 

「どんな所かな〜。ワクワクするね♪」←何も知らない

「気楽で良いわね、あんたは・・・」←2回目だからどういう場所か知ってる

「何でも楽しんだモンが勝ちだよ、かがみん」←常連

「とりあえずなんで俺までここに居るワケ?」←何気に経験者

 

現在ゆりかもめで移動中。

目的地は有明・・・国際展示場である。

そこでは年に2回のオタク達の熱い戦いが繰り広げられるのだ。

いや、かなり大げさだと言わざるを得ないが、オタク達の聖戦(ジハード)とも言われるほど規模が凄まじい。

 

「まさきくんも行ったことあったんだ・・・」

「まぁあそこまで凄い所だとは思わなかったけどね。また行くハメになるとはなぁ・・・」

 

中学生の頃、友達と友達の親父さんに連れられて行ったことがあった。

その当時、滅多に行くことがなかった日本の首都。

ましてやそこで開催される大きなお祭りとならば、内容を知らなきゃ行ってみたいと思うのはしょうがないだろう。

が、その結果・・・。

どこぞの誰かみたいに『見ろ! 人がゴミのようだ!!』という表現がピッタリな中、何が何だかわからず人の海に揉まれまくって、ただ疲れて帰るだけとなってしまった。

あの人の海は凄まじいとしか言いようが無い。

 

「とりあえず俺はコスプレ広場には近づきたくないということでファイナルアンサー?」

「え〜・・・?」

「反論は受け付けません」

「何言ってんのよ、今回はある意味それが唯一の楽しみなんだけど?」

「・・・マテ、まさか・・・」

「今回は皆で一緒だよ。しっかり準備してるからお楽しみに〜♪」

 

柊姉妹は同意の上らしい・・・少しずつこなたさんに(せんのう)されつつあるような気がするが。

といっても今回は割りとまともなヤツだという。

どうなることやら・・・。

 

 

 

<国際展示場>

 

 

 

どこを見ても人、ひと、ヒト・・・。

一体どこから集まってくるのだろうか?

あ、ちらほらと痛車めっけ。

うわ、あそこにゃ早速女装コスプレの人がいるし。

展示場の正面玄関には大量の人の列・・・既に大勢の人が館内で準備をしてることを考えると、万単位の人がすでに集まってるのが伺える。

 

「うぅ〜、お姉ちゃん、まーくん、何だかココ怖いよ〜」

「だ〜から言ったでしょ、つかさが思ってるような所じゃないって」

「そうそう、忘れないうちに作戦を君達に伝えておくよ」

「作戦?」

「綿密な作戦こそが勝利の鍵となるのだよ、まさき」

 

そう言って1人ずつ回る順路(ルート)や買う物のが記入された地図とお金が入った財布、そして糖分多めの飲み物が配られた。

そして細かい注意事項をいくつか伝えられる。

 

「そういうわけで各員、健闘を祈る!」

「アンタってこういう時だけ凄まじい情熱と知性を発揮するのね・・・」

「いや〜、褒めても何もでないよかがみん♪」

 

既に柊姉妹はゲンナリしている。

あとこなたさん。

今の言葉、少しも褒めてないぞソレ・・・。

 

 

 

<国際展示場館内>

 

 

 

『走らないでください! 皆様歩いての移動をお願いいたします!』

 

・・・誰も守っちゃいないがな(俺含む)。

 

『新刊の販売はお一人様に付き、それぞれ4冊までとさせていただいております!』

 

普通の感覚ならそんなに買わないって。

もっとも・・・。

 

「新刊3冊ずつください」

「ハイ、え~っと・・・合わせて○○円になります」

 

こなたさんの頼みとは言え、こうやって纏め買いしてる俺がいるんだが・・・この薄っぺらい本が単行本並か、それ以上の値段するんだから世の中って不思議でいっぱいだ。

まあ自費出版なんだろうからしゃ〜ないのかもしれないけど。

うわ、あそこの・・・壁サークルって言うんだっけ?

凄い行列と思ったら最後尾で2時間待ちかよ!?

 

「後は・・・あっちで終わりか」

 

既にサークルを回ること約10箇所。

薄いヤツとは言えチリも積もれば何とやら、正直言ってめちゃめちゃ重い。

だがそれも次で最後。

人ごみ掻き分けてさっさと買い物済ませて集合場所に行こう。

・・・そういやかがみさんやつかささんは大丈夫だろうか?

こんな人ごみを掻き分けないと通れないような場所を、こういう事に慣れない女の子が1人で行動すること自体かなり無謀なような気が・・・。

今になって本気で心配になってきたぞ(汗)。

しかし携帯電話で確認しようにも、回線が混雑してるせいか中々繋がらない。

 

「最悪、俺が足で探し回ることになりそうだなぁ・・・やれやれ。」

 

この人ごみの中、迷子捜索はかなり難しいだろコレ(汗)。

そうぼやきながら最後のサークルに向かう。

 

「いらっしゃいませ〜って赤井先輩?」

「・・・あら?」

「え? 八坂さんに永森さん!?」

 

思わぬ所で思わぬ後輩に遭遇・・・そういや仮装(コスプレ)大会に出てたんだからこっちにも参加してる可能性はあったか。

売る側だとは思わなかったが。

ちなみにこうさんとはこういう場所では会うのに、学校では一回も会った事がないから不思議なもんである。

これだけの人ごみの中より学校で会うほうが確率的には高いはずなんだが・・・。

 

「あれ? こうちゃん先輩の知り合いッスか?」

 

見慣れない娘もいるが恐らくサークル関係者だろう・・・高1の八坂さんのことを先輩と呼んでるんだから彼女はまだ中学生・・・大丈夫か、日本の将来?

 

「そうそう、ひよりんの先輩になるかもしれない人だから挨拶くらいしときなよ?」

「初めまして。田村ひよりッス。え〜と赤井先輩、でいいんスか?」

「ああ。赤井まさきです。よろしく。それはそうと永森さん、また巻き添え食ったの? 人が良いのも大概にしないと次何に巻き込まれるか分かったモンじゃないぞ」

「・・・それに関してはお互い様って言って良いですか?」

「ちょ、ちょっと、2人揃って何変なところで意気投合してるの!!」

「そうッスよ! 腐女子を何だと思ってるんスか!?」

「腐った女子」

「うわそのまんまじゃないッスか! だいt「とりあえず新刊3冊ずつくれ」「・・・○○円よ。しかしよく買う気になりますね」「言うな。てかそもそも俺のじゃない。あくまで買出し要員・・・ぶっちゃけパシリか」「・・・ご苦労様です」って聞いるんスか! きいてm「そんじゃな〜。」しかも放置プレイ? それなんてドS!?」

「はいはい言いたいことは分かったからチャッチャと仕事する!」

 

この程度の扱いでドSはないだろ。

俺はため息をついて集合場所に向かった。

そもそも言い合いしたって時間がかかるばかり。

俺の後ろに何人か並んでたし。

なんだかまた癖の強いヤツ・・・もとい後輩と知り合ったもんだ。

 

 

 

<国際展示場:集合場所>

 

 

 

とりあえず時間通りに集合場所の簡易カフェ(ウェイトレスは皆メイドさん)に集まって戦果をこなたさんに報告した。

 

「おお〜、さすがというか頼りになるネ♪・・・でもホントに全部回って来るとは、まさき、恐ろしい子!」

「・・・よく、全部回れたわね」

「私なんか道に迷っちゃって結局何もできなかったよ〜・・・」

「最後は結局体力差かな。こういうことで役に立ってもあんまり嬉しくないけどね・・・」

 

こなたさんは上機嫌、かがみさんはグッタリ、つかささんにいたっては疲労困憊の様子。

ま、男が人を掻き分けて強引に進んで行ってようやくたどり着いたって感じだったからな。

柊姉妹(特につかささん)が迷子にならずここまでこれたこと事態が僥倖と言うべきか。

 

「まぁ初心者にはキツイルートかな〜と思ったんだけどネ。もう少し休んだら皆でのんびり回ろうよ♪」

「何気にタフだなこなたさん・・・」

 

まぁさすが常連と言うのもあるのか。

ちなみに後で聞いたら俺のルートは上級者クラス(こなたさん級)並みにきついルートで、こなたさんも半分無理だと思ってたらしい。

そう思ったんだったらそんなルートを設定しないでくれ、ホントに(涙)。

 

 

 

<国際展示場:企業ブース>

 

 

 

「あ、ながもんの中の人だ!!」

「ってことは声優か? あの人」

「声優さんが売り子をやることって結構多いみたいよ?」

「お姉ちゃん詳しいね〜」

「く、詳しくなんかない! この前似た様な事があっただけよ!」

 

現在4人で企業ブース散策中。

こういう大きいイベントではゲリラ的にアニメキャラの中の人(せいゆう)が売り子をすることもあるのだという。

と、その隣で・・・。

 

「限定版トレカが売り切れだぁ!? アレが買えなきゃ俺がここまで来た意味がねぇんだよ!!」

「も、もうしわけありません(汗)」

 

うわ、絵に描いたような迷惑な客・・・じゃない、参加者だな。

 

「ああいう人がいるからオタクって叩かれやすいんだよね」

「・・・まぁ確かに、アレを見てると度を超えた芸能人かスターのファンと変わらないっぽいわね」

「大体ああいう人は自分も『客』じゃなくて『参加者』だってことを認識してない事が多いんだよね。コミケは皆で作るものなのに・・・」

 

暗い表情で残念そうにこなたさんが言うが、もっともな話だ。

 

「情熱を向ける対象が2次元か3次元か・・・それだけの違いにしか俺には思えないけどね」

「まーくんは平等に見てるんだね」

「毎回言ってるけど、他人(ひと)の好みや趣味には出来るだけ口出ししないようにしているだけd「この馬鹿野郎〜〜〜〜〜!!」な、なんだ!?」

「あっちで何かあった・・・みたいね(汗)」

 

見てみるとあそこのブースはアニ○イト。

真冬なのにあそこは無駄に熱そう・・・いや、暑そうに見える。

2人の見覚えのある店員が参加者(きゃく)を前にして熱く語り合ってるようだが・・・参加者がオロオロしてるぞ。

てかあの参加者、白石くんに似てるような・・・?

 

「そんな訳でぜひこのきょんを!」

「いや、そーすけがオススメです!」

「そうじゃなくて僕は「こぉんの馬鹿者共が〜!!」おわ!?」

 

あ、眼鏡をかけたさらに熱そうな人が乱入してきた。

 

「君達の話は聞かせてらった! 君達のアニメに対する熱意、そして商魂は大いに結構! だが、それにかこつけて不人気キャラを参加者(きゃく)に対して押し付けようなどと言うさもしい根性は見過ごせん!!」

『・・・いえ、どっちも主人公です』

 

話の内容からどうやらあの人は社長らしい。

その一部始終に圧倒されつつも俺たちは静観していた。

 

「あそこはいつもテンション高いよネ」

「そ、そういうものなの?」

 

2人のやり取りに返す言葉もない俺とつかささんだった。

 

 

 

<国際展示場:コスプレ広場>

 

 

 

「へ〜、似合うじゃないその制服」

「まーくんかっこいい♪」

「さらっと言わないでくれ恥ずかしい。てかコスプレで髪まで染めるハメになるとはね・・・」

 

染めた髪はシャンプーで落ちるとのこと。

で、俺は某ギャルゲーの主人公のコスプレ。←ゲームの制服着て髪を軽く染めた

柊姉妹は双子の姉妹のコスプレなんだが・・・性格やらがえらい似てると思ったのは俺だけじゃないはず。

しかもかなりシャレにならないレベルで(汗)。

さらにかがみさんが辞書を持って歩いてたり、つかささんがトランプを持ってたりするのはおそらく仕様だろう。

 

「そういやこなたさんは?」

「もうここにいるの・・・」

「おわぁ!?」

 

こっそり後から忍び込んでくるのはやめていただきたい。

それともう1つ・・・。

 

「私の名前は一○瀬こ○み。ひらがなみっつでこ○み。呼ぶときはこ○みちゃん。」

「・・・話し方は良いとして、色々と無理あるんじゃない?」

 

成績とか見た目(どことは言わない)とか。

 

「にゃにおう!?」

 

いくらなんでもそのキャラより、三角帽子をかぶったヒトデ大好き少女のほうが身体的に合ってるような気がするんだが。

 

「Oh,コナタ、やっとみつけマシタ〜!」

「あ、パティ〜、こっちこっち〜!」

「ほえ? こなちゃん、外国人のお友達?」

「こなたにそこまでの社交性・・・あ〜」

 

思い当たる節は一応、ある。

こなたさんはコスプレ喫茶でバイトをしているから恐らくその繋がりだろう。

ちなみに銀髪(かつらのように見える)でこなたさん達と同じ制服を着ている・・・金髪キャラじゃなくて良かったな俺。

そっちだったらきっと某格ゲーの女性格闘家もビックリな高速蹴りコンボを極められて宙に舞ってたに違いない。

ひとまず俺達は自己紹介を済ませた。

 

「紹介するね。彼女は私のバイト先の後輩でパトリシア=マーティンって言うの。留学生で今度陵桜(ウチ)を受験するんだって。」

「パティとよんでくだサイ。どうデスかマサキ、オンナノコらしいでショウ?」

「セリフの使い方間違ってるよパティさん・・・」

「それと場合によってはかがみんがいちゃもんつける所だよネ♪」

「言ってる意味がさっぱり分からんわ!」

 

 

こっち(パティさん)は適材・・・なのかな?

見た目だけだが。

てか何人目だ女子の後輩。

 

「えっと・・・乙女のいんすぴれーしょんです」

「つかささんも変な所で対抗しない!」

 

 

 

その後、俺を中心に写真撮影に勤しんだのは・・・もう気にしないことにした。

同時に何か大切なものを失くした様な気がする(涙)。

そんな感じで異様に疲れる大晦日だった。

 

 

 

つづく・・・



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第三十一話 少女達の見解

年が明けて1月。

今日は3学期の始業式。

何だかあっという間に月日が流れてるように感じる今日この頃・・・って毎回そう感じてる様な気もする。

去年は旅行に思いがけない誕生日にクリスマス、大晦日は・・・最後の最後でメチャメチャ疲れた1日だったがそれも良き・・・思い出に・・・したくは無いな、アレは(汗)。

まあそういう事で・・・。

 

 

 

<陵桜学園:2−B>

 

 

 

「ほーい、席つけお前ら〜」

 

新年の初登校。

だからと言って何かが変わる事も無く、いつもの様に柊姉妹と登校して、クラスメートに新年の挨拶をして。

そして始業ベルが鳴り、担任の黒井先生が教室に入ってくる。

いつもの学校生活がまた始まる。

 

「明けましておめでとう。今年もよろしゅうな〜・・・もっとも、よろしくされるのは後3ヶ月くらいのヤツもおるやろけどな♪」

 

まぁクラス替えもあるし当然っちゃ当然だが。

黒井先生もいつも通りというか、ある意味不吉なことを言いながらも絶好調のようだ。

そして始業式を終えて冬休みの宿題を提出して、午前中で終了する事になる。

 

「お正月気分って言いますけど、確かに不思議な雰囲気と言いますか・・・独特の空気を感じますよね」

「ま、学校が始まった瞬間に綺麗サッパリと無くなるけどね」

「そういやみゆきさんやまさきはお正月どう過ごしてたの?」

「俺はあの後初詣してから実家に帰省して、ばあちゃんちで過ごした」

 

もっとも直前のあのお祭り(コミケ)疲れで初詣も帰るのも億劫な気分だったが。

みゆきさんはと言うと・・・。

 

「田舎の家は和風なので、着物を着て初詣をしたり、百人一首や福笑い等をして遊びましたよ?」

 

うっわ〜すっげぇ日本人してるわ・・・てか福笑いってなんだっけ?

 

「俺はコタツでゴロゴロしていたかったんだけど従兄弟達に捕まっちゃってね〜。まったくあんのやんちゃ坊主どもめ」

「そういえばまーくんの従兄弟ってまだ小さいんだよね。どんなことして遊んだの?」

「実家って言うより田舎のばあちゃんちでなんだけどね。何故か子供になつかれやすいんだよな、俺」

 

じっちゃんやばっちゃん、自分達の両親、俺の両親や姉貴にでは無く、何故か俺になついてとにかく俺を振り回す。

 

「さすがに電線とかあって危ない所も多いからね。ばあちゃんちの土地も広くは無いし、正月らしく羽子板やらやろうとしても出来る場所はおろか道具が無い上に雪が積もってたからね。結局毎日が雪合戦」

「うわ〜、正月からまさきは凄く動きまわってたんだね〜。集中砲火を受けてるのが容易に想像つくよ。しかしさすが北国、そっちは雪だったんだネ」

 

言うほど北のほうじゃない上に大きなお世話だコンチクショウ。

 

「ま、当然返り討ちにしたけど」

「でも少しは加減してあげたんでしょ?」

「まぁ少しは・・・」

 

従兄弟達4人(それぞれ姉弟と兄妹)揃っての集中砲火である。

雪を子供の力で丸めたとは言え、おもいっきり固めればそれなりに痛いわけで。

最終的に気が付いたら全員雪まみれ。

一番小さい子にいたっては半泣き状態だったが、俺に雪をぶつけるとけろっとして元気に動き回るんだから不思議なモンである。

で、俺が帰る時、4人全員揃って俺にしがみ付き、大泣きしたのはご愛嬌だ。

てかかがみさん、いつの間に2−B(こっち)に来たんだ。

 

「後はお節とは言わんが、暫らくはそれっぽいのや餅ばっかり食ってたな〜」

 

ばあちゃんちで作った餅を持ち帰り、自宅で冷凍保存していたりする。

それでも早めに食べないといけないが。

 

「へ〜。ウチはお母さんいないからお餅ってあんまり食べないんだよね」

「うわもったいない、お雑煮お汁粉きなこ餅、お餅の美味しい食べ方いっぱいあるのに」

 

ちなみにかがみさんは正月3ヶ日は忙しかったのに体重がどうのって騒いでたらしく(まつりさん談)、実家から帰ってきた俺との新年初のランニングで妙に気合が入っていたのは記憶に新しい。

 

「かがみさぁ、そんな(たべる)ことばかりするk「言うなこんな所で〜!」フゴフゴ」

 

かがみさんが真っ赤になってこなたさんの口を塞ぐ。

なるほど、問題は未だに解決してないということか。

 

「冬は寒いこともあって中々脂肪が燃焼しないかr「ま〜さ〜き〜く〜ん? 年頃の乙女にそれを言うか!」おご!?」

 

ぐあ、脳天におもいっきり来たぜ・・・。

 

「おお、遂にまさきにも拳王の一撃が!」

「うっさいわ! てか誰が拳王か!」

 

気にしてるからって力に訴えるのはどうかと思うぞ。

 

「でもお姉ちゃんの言う通りだよ? まーくん」

「女性はいつだって自分の些細な所を気にしていたりするんですから、今のお言葉はちょっと・・・」

 

むう、怒られてしまった・・・。

気にして無さそうなヤツが目の前に2〜3人いるような気がするがそれはひとまず置いといて。

 

「そういえば、ゆきちゃんの所もお正月にお節料理とか食べたの?」

 

何となく洋風っぽい印象を持っているみゆきさんだからお節とかは・・・あ、田舎は和風って言ってたっけ。

 

「お節料理も食べましたし、お餅を食べて、噛み切れずにどこまでもうにょ〜んって言うのもやりましたよ?」

「何か普通にみゆきさんが親戚一同に混じって仲良く杵と臼で餅つきしてる所が想像できるんだが・・・」

「おもちうにょ〜ん」

 

市販品では膨らむことはあってもそこまで伸びることはあまり無かったような気がする。

 

「でも、お正月って何だか足早に過ぎちゃうよね」

 

つかささんの意見ももっともだ。

やることは結構多いし春、夏、冬の中では一番休みが少ないことも関係してるだろうし。

 

「そだね〜。冬休みも一応長期休暇になってるけどさ、大掃除したりとか」

 

とこなたさん。

俺も自分の部屋1つでさえ結構かかったからな〜。

 

「年賀状書いたり」

 

あれ、こなたさんから年賀状来たっけ?

 

「宿題やったりで実際休める時間って少ないよね」

 

・・・ちょっとマテコラ。

 

「あんた、今言ったことの半分もやってないだろ! 年賀状来てないし、昨日堂々と宿題を写していったじゃないの!」

「スギタコトハキニシナ〜イ」

「じゃあ何でカタコトになってるのかな、こなたさん?」

 

俺も宿題写しに巻き込まれたのはもはやお約束である。

 

「ちなみにそういう3人は正月どう過ごしたの?」

「お父さんとかがみんのとこに初詣に行ったよ〜♪」

()()()からすぐ神社(ウチ)の手伝い』

 

・・・うわ〜、あの後すぐに手伝いですか。

あ、姉妹揃って遠い目をしてる。

ちなみにこなたさんは親父さんが巫女服見たいがために行くと主張したために夜中に行くハメになったとか・・・。

 

「いや〜、かがみんとつかさの巫女服、かなり萌えたよ〜?」

「んな事俺に言ってどうするつもり・・・? てか俺も行ったのそこだから」

 

既に2人どころか、柊家一同の神事に着る衣装は一通り見ていたりするのは別な話である。

 

 

 

<放課後:ゲームセンター>

 

 

 

「おっしゃ赤井〜、対戦やろうぜ対戦!」

「・・・・・・」

「ゴメンね赤井君、止められなくて・・・」

 

いや、峰岸さんは悪くないと思う。

悪いのはこの目の前ではしゃぎまくってる元気っ娘(くさかべさん)だ。

まぁ、元気なのは悪くはないけど。

ちなみにこなたさんはバイト、柊姉妹とみゆきさんはそれぞれの都合で既に帰宅済み。

そんな時、校門付近でたまたまこの2人と遭遇した結果、日下部さんに強制連行された(暇だったらしい)。

・・・なんかどこかの誰かを思い出すぞ。

そんな訳で俺と日下部さん、峰岸さんという珍しい組み合わせでゲーセンに来ていた。

 

「格ゲーとかは苦手だけどこっちのほうならやってみたい・・・かな?」

 

俺がやってみたかったのは前々から興味を持っていた『戦場の絆』。

さすがにこういうロボットモノは女の子はあまりやらないだろうな〜と思ったんだが・・・。

 

「よっしゃ、やってみようぜ!」

「ゑ、マジ!?」

「何だよ〜、自分で言ったんじゃん」

「や、そうだけどさ・・・」

 

そういって峰岸さんに視線を移す・・・あ、苦笑してる。

どうやら見た目だけじゃなく中身もボーイッシュなようだ。

とりあえず峰岸さんは見学、俺と日下部さんでPK(パイロットカード)を作成する。

 

「赤井は青軍と赤軍、どっちにするんだ?」

「ん〜む・・・赤軍かな?」

()()なだけにってか? じゃ、アタシも♪」

 

何か馬鹿にされたような気がするが・・・そっちは良いのかそれで(汗)。

とりあえずカード作成後、それぞれの固体に入ってカードを入れて初心者の練習用ステージを開始する。

自軍の確認っと・・・あれ、俺1人だけで他はCPU?

日下部さんはどうしたんだろう・・・?

ひょっとして練習用フィールドは基本1人だけか?

まぁその疑問は置いといて、基本操作をある程度憶えた俺は、敵機がいるフィールドを目指して自機を進ませていった。

 

 

 

「お、赤井どうだった? ちなみにアタシは1機やっつけたぜ♪」

「こっちも集中砲火で何とかね。何気に近接での攻撃って難しいね」

「ふふ、二人ともお疲れ様」

 

峰岸さんがいつもの笑顔で労ってくれた・・・ただのゲームなんだが(汗)。

カードをターミナル機に挿入し、ポイントが加算される。

結構やってみるとおもしろい。

・・・でもあまりドツボにはまらない様にしないと。

 

「今度はオンラインでやってみねーか?」

「そっちの懐は大丈夫?」

「こういう時のお金の貸し借りは絶対ダメだからね、みさちゃん?」

 

俺は少し余裕があるが日下部さんは財布の中身と睨めっこ・・・。

カード作るのに100円、500円で2ゲーム。

高校生には決して安いモノでは無い。

普通のアーケードゲームと違って結構かかるから、そういった面から自然と制約がかかる。

バイトでもしてれば話は別だが、日下部さんはどこぞの後輩みたいに小遣いが底つくまでやるほど入れ込むタイプじゃないみたいだし。

 

「は〜、しょうがないか。今日はこれくらいにして次の機会にまわすぜ・・・」

「ま、賢明な判断だね」

「ふふ、みさちゃんったら随分とはしゃいj「わわわ! あやの、ストップストップ!」・・・ぼやぼやしてると取られちゃうよ? なんだか知らない所でも結構人気あるみたいだし」

「・・・何の話?」

「ん〜、乙女の秘密、かな?」

 

そんな会話をしながらそれぞれの帰路についた。

しかし日下部さんの顔が心なしか赤いような・・・何この既視感?

ともあれ、今日も1日が過ぎていく。

違う点といえばいつものメンバーじゃなく別のメンバーと帰ってるって事くらいかな?

今日の夕飯は餅の話が上がったこともあり、雑煮にでもするかと考えながら2人と別れ、俺はアパートに帰っていった。

 

 

 

つづく・・・



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第三十二話 恋せよ乙女達!

<とある休日:商店街>

 

 

 

「もうすぐ2月か〜・・・」

 

そんな事をぼやきながら休日の街中を俺はのんびり歩いていた。

既に1月も末日。

あちこちで月末バーゲンなんてやってるので、俺は安い食材やら冷凍食品の特売やらのチェックを事前に行った上であちこちのスーパーを巡っている。

ついこないだ歳末バーゲンだの新年大売出しだのやったばっかりなのにホント、この不況を生き残るのにどこも必死なんだなぁと思う一幕である。

と、視界の端に移った店頭に目が引かれた。

 

『もうすぐ聖バレンタイン! 彼氏に送るチョコレート集』

 

バレンタインまで残り一ヶ月過ぎたとは言え気が早いと思うのは俺だけだろうか?

それに、恋人がいるわけでもない俺にとっては無縁のものだが、この一年で異性の友達がだいぶ増えてはいる。

 

「ま、義理くらいなら貰えるだろう・・・だと、いいなぁ」

 

俺もやっぱり健全な青年男子だ。

製菓会社の陰謀とはいえ、義理でももらえたら嬉しいものは嬉しい。

今までは母さんや姉さん達といった、身内からしか貰えなかったからある意味空しいだけだったが。

本命チョコなんて夢のまた夢である。

 

「ま、過度な期待は控えとこ」

 

理想と現実。

それが分かるくらいには俺も成長したつもりだ。

期待した結果が空回り、なんて事にもなりかねない。

勝手に盛り上がったところで貰える訳でもないし、逆に引かれかねん。

いつも通りの俺でいよう。

そして買い物を再開、一通り済ませた俺はこれ以上余計なことを考えないようにしようと思いながら帰路についた。

 

そこから少し時間が遡る。

 

 

 

<かがみ視点>

 

 

 

「かがみ、次はどこ?」

「えっと・・・あっちのスーパーね」

 

休日は、大家族な事もあり姉妹で家のお手伝い。

今日は午前中に私といのり姉さんで買い物を終わらせて帰るために、おばさん達と熾烈な戦いを繰り広げている・・・ちょっと大げさかな?

まだお昼前だし。

午後はこなた達と遊びに行く予定だからさっさと終わらせないと。

ちなみにまつり姉さんは神社の手伝い、つかさは家事手伝い。

それぞれ交代でやってるのに何で私ってつかさみたいに家事を上手く出来ないんだろ・・・。

そんな事を考えてる時。

 

「あら、あそこにいるのってまさくんじゃない?」

「・・・え? あ、ホントだ」

 

一瞬反応が遅れたけど、よく見たらいのり姉さんの視線の先にいるのは紛れも無くまさきくんだ。

声をかけようとも思ったけどなんだか何かを見てるように・・・・・・!

いのり姉さんも気付いたみたい。

 

「へ〜、やっぱりまさくんもチョコレートが欲しいのかしら?」

 

そう、彼の視線の先にあったのはずらりと並んだバレンタインチョコのショーケース。

普段だったらまだ1月なのに、と流すところだけど・・・。

やっぱり友達として送ったほうが良いわよね・・・?

色々とお世話にもなってる友達だし。

そう、()()

あくまで友達としてよ!

 

「かがみ、さっきからどうしたの?」

「べ、別にまさきくんにチョコをどう渡そうかなんて・・・あ」

「あはは。相変わらずわかりやすい()ね〜、よしよし♪」

「う〜・・・」

 

しまった、これじゃ考えてることがいのり姉さんに丸分かりじゃないの・・・。

とりあえず、誰か良い相談相手がいないものか。

いのり姉さんのからかいをかろうじてかわしつつ、私達は帰路についた。

 

 

 

<午後:喫茶店>

 

 

 

「・・・ということがあったのよ」

「私はいつもお世話になってるし、ちゃんと作ったチョコをあげようかな〜って思ってるよ?」

「へ〜。で、かがみはどうするの?」

「わ、わたしは・・・」

 

数少ない男友達だし、家が近所でつかさの言うとおり、何度かお世話になって・・・てか目の前にいる友人がらみでお世話になってるからあげても良いかな、とは思ってたけど。

・・・それ以前に私、なんでこんなことをこなたに話したんだろ?

 

「そういうあんたはどうすんのよ?」

「私? いくつかちゃんと人に渡すつもりだけど」

「いくつかって、バイト先の仲間とかお得意様とか?」

「ううん、同じオンラインゲームをやってる人にだよ」

「え? まさか直接手渡しで!?」

 

実際に会って渡すって事か!?

ま、まさかあのこなたがここまで進んでいたなんて!

 

「まぁ、本当に会ったりする訳じゃないけどね〜」

「・・・はい?」

 

今の一言で一気に雲行きが怪しくなったぞ・・・?

 

「ゲーム内でキャラとしてチョコを渡すんだよ」

「・・・()()()()()()・・・?」

「中身は一応人間だし♪」

 

忘れてた・・・こなたはこういうヤツなのだということを(溜め息)。

 

「でももうすぐバレンタインだって思うと、心が暖かくなるよね♪」

「1年が過ぎるのってホントにあっという間だったわよね」

 

そう感じるのはやっぱり毎日が充実してるからなのかな?

少し前まではそんな風に思ったことなんてあまり無いのに。

 

「でもさ、よく『お金で愛は買えない』って言うけどさ、実際バレンタインチョコってお金で愛を表してるよね」

「ゲームでしか恋愛を知らないやつは言うことがシビアね・・・」

 

でも否定も出来ないわよね。

良いチョコを買おうとすると結構お金がかかるし、自分で作ろうにも材料はタダじゃない。

 

「でも私もつかさと同じで、まさきには手作りでチョコあげようかな〜と思ってるけどネ」

 

・・・手作り、か。

こなたもしっかり考えてるんだ。

それに比べて私は・・・。

 

「お姉ちゃんは作らないの?」

「かがみん、渡す時は皆一緒だヨ♪」

「でも・・・私、あんた達みたいに料理上手くないし・・・」

「かがみ〜? 最初っから何でも出来る人なんていないんだよ? 姉としての威厳を保ちたいのは分かるけどさ、たまには妹を頼ってみたら?」

「こなちゃんの言うとおりだよ・・・って私がお姉ちゃんに頼られるの!?」

 

こなたの言葉を真に受けてつかさはかなりパニクってるけど・・・こなたの言ってることも一理ある。

一理あるんだけど・・・。

 

「そのまんま行動しないんじゃ後悔するかもよ? せっかく近所に同い年の親しい男の子がいるっていう羨ましい利点があるんだから、もっと積極的にならなきゃ」

 

・・・・・・?

今何かサラッと凄い事言われたような・・・?

 

「私はまだしもみゆきさんは学校で会うか遠出してわざわざ会いに行くくらいしないと接点無いんだから」

「ってちょっとマテ! 私は別にまさきくんのコトはなんとm「ホントにそう言い切れる?」・・・っ!」

 

・・・こんな話をして盛り上がってる時点で決定済み、になるのかな?

いつからか抱いている、この曖昧な気持ち。

今までも無意識の内に行動に出ていたことも少なくない。

それにこなたの言いたい事は何となく分かる。

こなたも、つかさもみゆきも彼をどう思っているんだろ?

 

「正直、分からないのよね。自分の気持ち」

「おやおや、かがみんも珍しく素直だね」

「余計なお世話よ!」

「まぁ恋愛はロジックじゃない、なんて言うけどさ、私もそうだよ。パニクってるつかさも同じじゃないかな?」

「・・・難しいわね〜、恋愛って」

 

普段はオタクでアニメやらゲームやらで勝手に盛り上がるこなたでさえこうなのだ。

そして分かった事は、多分みゆきも・・・と考えると少なくても自分も含めて4人は彼に対し、友人以上恋人未満の想いを抱いてるって事かな?

 

「まぁ結論から言うと、私達はいつものようにまさきと楽しく過ごして、イベントこなすことだと思うよ」

 

決めるのは、まさきくん。

こなたの言うイベント云々は置いといて、その時、私達は彼をどう想ってるんだろう?

 

「はぁ、来年は受験もあるのに先が思いやられるわ」

「・・・受験、結局決めてないや♪」

「あんたは・・・」

 

結局いつも通りの私達に戻った後、未だに混乱しているつかさを落ち着かせて喫茶店を出た。

 

 

 

<2月14日:まさき視点>

 

 

 

「まーくん。いつもお世話になってるお礼に、はいこれ。ハッピーバレンタイン♪」

「・・・つかさがいくつも作ってたから私も便乗して。ハイこれ」

 

ジョキング後の登校時間に2人を迎えに行ってみたらいきなり渡されたチョコレート・・・夢、じゃ、ない?

とりあえず頬を思いっきり引っぱってみる。

 

「何やってんのよアンタは・・・」

「いや、夢じゃなかろーかと・・・()()から貰うの初めてだし。えっと・・・その、ありがと」

 

さすがに朝一番(?)に渡されるとは思わなかった。

とりあえず2人には後で追いつくから先に行くよう言って、チョコを自宅に置いてくるために一旦家に戻り(双子曰く、何時かの体育祭より速かったらしい)戻って来ると2人は待っていてくれた。

そしていつも通り登校したのだが・・・。

 

 

 

<陵桜学園:2−B>

 

 

 

「おはようございます。まさきさん、よろしければこれを受け取ってくださいませんか?」

 

みゆきさん、上目遣いはわかっててやってません?

 

「オハヨ〜、あ、まさき。はいコレ、『愛情』たっぷりの『手作り』チョコだよ〜♪」

 

コイツは絶対確信犯だ!

しかもわざと『愛情』だの『手作り』だのを強調させるな!

 

「お〜っす、赤井〜! これチョコな♪」

 

日下部さんは素だな。

てかなんか一瞬こなたさん達の視線が鋭くなったような気が・・・(汗)。

 

「あ、あはは。とりあえず私は仲の良いお友達の意味で・・・ね」

 

峰岸さんは彼氏持ちだし一言礼を言って・・・そろそろ男子一同の視線がきつくなってきた。

 

「赤井・・・下級生の女子がお前を呼んでるんだけど・・・?」

 

もう胃に穴開きそうだから勘弁してください(涙)。

 

 

 

<放課後:とある公園>

 

 

 

俺を呼び出したのは八坂さん。

放課後ちょっと付き合って欲しいと言う事で、ついて行った先は少し大きめの公園だった。

ちなみにいつものメンバーも一緒である。

八坂さんは、ある人に頼まれて俺を連れて来るよう頼まれたと言うがまさか・・・いや、数回しか会った事無いし親しくした記憶も無いんだけど。

 

「あら? 珍しいわね、こうが時間を守るなんて・・・明日は槍でも降るのかしら?」

「も〜、少しは親友を信用してよ〜・・・」

 

やっぱり永森さんかい!

何回か会った事があるだけなのに律儀だな。

ていうか、後から刺さる様な視線が痛い・・・。

 

「・・・こうの言う事はさて置き、わざわざ来ていただいてすいません。コレ、受け取ってもらえますか?」

「あ、ああ・・・えっと、ありがとう」

 

え〜っとコレで何個目だっけ、チョコ貰ったの。←思考が追いついてない

 

「いや〜、まさきってモテモテだね♪」

「4人まではって思ってたんだけど」

「・・・む〜」

「親交が広いのは良いことですけど、ちょっと複雑ですね」

「赤井って前からこうなのか?」

「女子からチョコを貰うこと事態今日が初めて・・・なんだけどなぁ」

「モテモテっすね先輩。・・・ところでコレ、ネタにして良いですか?」

「勘弁してくれ・・・てかネタとしては如何かと思うぞ?」

「なるほど。私が今のところ一番不利・・・みたいね」

 

なんか不穏なことを永森さんがつぶやいてる気がしたけど・・・とりあえずもらえたことを素直に喜んでおこう、うん。

そして帰る前に柊家に寄って欲しい、というので寄ってみたら・・・。

 

「ハイまさくん、お姉さん達からの真心をプレゼント♪」

 

あのクリスマスの後、いのりさんからはまさくんと呼ばれるようになった。

しかしいのりさん、今日は平日なんですけど仕事はどうしたんですか?←時間はまだ4時半頃

まつりさんは・・・こういっちゃ失礼だが普通に大学サボってそう(汗)。

 

「ふふふ、本命って言ったら信じるかな〜?」

「色々と誤解を招きそうだから勘弁してください(泣)」

 

からかい口調で本命なんていっても説得力皆無ですよまつりさん。

そこにみきさんも顔を出す。

 

「あらあら、それじゃあ私も本命にしようかしら♪」

『・・・・・・』

 

・・・分かってる。

この人は4女を授かった母親だという事は・・・。

見た目が無駄に若いから一瞬心臓が止まりそうになったが。

 

「冗談よ♪ コレくらい簡単に流せるようにならなきゃダメよ、まさきくん?」

 

本命はただおさんにもう渡してるしね、何て言って引っ込んでしまった。

暫らくはお菓子には困らないなこりゃ。

甘いのは嫌いじゃないし(甘すぎるのはダメだが)とりあえず今日は初めてチョコを貰えた記念日・・・になるのかな?

また夜道が怖くなりそうだけど・・・ハァ。

 

 

 

つづく・・・



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第三十三話 ある意味人生初めての日

<3月某日:商店街>

 

 

 

「やっぱ定番はキャンデー、マシュマロ、クッキーか・・・でも定番過ぎるよね・・・しかしそんなにひねってもな・・・」

 

俺は商店街をあちこち見て回りながらお返しするものを考えてた。

お返し・・・もちろんバレンタインデーのお返しだ。

一部では『3倍返し』なんて言われてるが、はっきり言って1人ならまだしも10人となると(後で数えた)懐がかなり・・・てかぶっちゃけ足りん。

後は定番・・・というか一番懐が痛まずに、なお且つ気持ちを込めて送れる物といったら・・・。

 

「自分で作るしかない、か。とりあえず本屋にでも行こう」

 

そうぼやいて、俺はそこそこ大きい本屋へお菓子の作り方が載ってる本を買いに行くのであった。

 

 

 

<自宅>

 

 

 

「え〜っと最初は小麦粉に砂糖、バターに・・・卵黄!? こんなの原材料に入ってたのか。それから・・・」

 

いくら1人暮らしが長くなってきたとはいえ、料理はお世辞にも上手いとは言えない。

だから買ってきた料理本(お菓子専門)を片手に必死になって練習していた。

 

「飴・・・まぁ結局は砂糖水を固めたようなモンみたいだけど・・・てアチッ! ち、侮れねえゼ、クッキー作りってのもよぅ」

 

そんな1人漫才をやりながら、ちょっとやけどもしたりしてるけど自分が納得できるようになるまで練習練習。

その合間に少し思い出す。

渡されたチョコレート。

いくつかは本命・・・なのだろう。

少々形がいびつな物、包装が上手くいかなかったっぽい物等々もいくつかあったが、やはり『想い』というのは実際に伝わって来るという事を痛感した。

さすがに全員ってワケじゃなかったけど。

だけどそんなに好かれるようなことしたかな俺?

2年生になってどっかの古い恋愛漫画みたいな出会いをしてこなたさんと知り合って。

そこからつかささん、みゆきさん、かがみさんと立て続けに知り合って。

柊姉妹の家が思いのほか近かったことが判明して。

それからはゆったりとした、でも足早に1年が経過しようとしている。

そんな中で誰かと親密になるような事ってあっただろうか?

そりゃあ皆と遊びにはよく行くし、誕生日は皆で祝ったり祝ってもらったりしたし(強制だったとはいえ)コスプレされて互いに同情してみたり・・・。

あっという間に時間が過ぎて残りあと1年・・・いや、もう1年しか時間は残ってない。

そして過ぎ去った(とき)は戻らない・・・なら悔いの無い学生生活を送って、答えを模索していこう。

 

「・・・同じ問答を自分の中で何回繰り返したかな?」

 

その中で答えを見つけた時・・・俺は、皆は、どうなってるだろう・・・?

 

 

 

<陵桜学園2−B:昼休み>

 

 

 

んでホワイトデー当日。

昼休みにチョコをくれた皆に俺の努力の結晶とも言うべき手作りクッキーを渡して回った。

ちなみに柊家の面々には今朝のうちに手渡し済みである。

いのりさんとまつりさんのかなり驚いた顔は記憶に新しい。

 

「ねぇ、やっぱりアンタのその手・・・」

「ホントに大丈夫?」

「慣れない事をやったからかな。やらかしたのは最初のうちだけだし、心配しなくても大丈夫」

「いやしかしまさかの手作りでお返しが来ようとは・・・」

「でもとっても美味しそうに焼けてますね♪」

「味は保障できないぞ〜」

 

あくまで俺の味覚で、まあ大丈夫だろうという程度の出来だ。

 

「でもこういうのって気持ちが大事だと思うの」

「あやのの言うとおりだと思うぜ? サンキュ〜な、赤井!」

「そう言ってもらえると、作った甲斐ってのもあるもんだ」

 

野郎のちょっとした努力でコレだけ言われりゃ男冥利に尽きるってモンだ。

身内からもらった時は、全部売ってるものくらいしか送らなかったからな。

ま、コレも良い経験ってことで。

ついでに言うと他校生である永森さんには連絡済。

今日の放課後、チョコを貰った公園で会う約束をメールでしている。

ちなみにアドレスや番号はチョコを貰った日に交換済み。

 

「そういえばこなたの従姉妹、陵桜(ここ)受けたんでしょ? どうだったの?」

「あ〜、受かったって。今日ウチに挨拶に来るんだよ〜」

「泉さんのお宅にですか?」

「ゆーちゃん・・・小早川ゆたかっていう、私の妹みたいな()なんだけどね、実家が遠い上に体が弱いからね」

 

そこで下宿先として親戚である泉家が預かる事になったという。

 

「へ〜。でもチビッ子と並んだらどっちが上かわからなくなるんじゃね〜か?」

「あっはは♪ それありそうだね。こなたさんちっこいし」

「ちっこい言うな〜! でも妹みたいってのはホントだよ?」

 

・・・どんだけちっこいんだ泉家の家系・・・?

 

「でもここをすんなり受かるなんて従姉妹さん、凄いね〜」

「つかさ・・・とりようによっては自信過剰に聞こえるわよ?」

「でもそれを踏まえてもさ、体が弱いって事は結構学校も休みがちだったんじゃないの?」

 

そうなると休んだ分を取り返すためには結構な努力が必要になる。

ねぇこなたさん? と俺は話をふった。

 

「そだね〜。病欠や早退もあったみたいだし、ゆーちゃん自身もちょっとした事で体調を崩す事も多かったから」

 

どのくらい休んでるかは分からないけど、受験に向けてさらに相当な努力もしたはずだ。

 

「そっか・・・来年はいよいよ私達も受験だね」

「受験・・・するのかな? まだ全然決めてね〜や」

「みさちゃん・・・(汗)」

 

峰岸さんは感慨深いことを言ってるが日下部さんは・・・でも(汗)。

 

「ヤバイ、いい加減にしっかり決めないと」

「奇遇だネ。私もだよ〜」

「泉さん・・・まさきさんまで(汗)」

「まぁ、まさきくんは勉強しっかりやってるからギリギリまで考えられるでしょうけど・・・この2人は本気で将来決めとかないとやばいんじゃないのか?」

 

かがみさん、ナイスツッコミ・・・。

 

 

 

<放課後:とある公園>

 

 

 

時間の余裕は十分。

俺は以前、永森さんからチョコを貰ったこの公園に1人で来ていた。

そもそもどの辺に住んでるのかも知らないんだよなぁ。

それを言ったら日下部さんや峰岸さんも同じだが。

 

「赤井先輩、こんにちは」

「お、こんにちは永森さん。わざわざゴメンね?」

「いえ、学校からも家からも大して離れてないですから」

 

先月は私が呼び出しましたし、と永森さん。

時刻は4時・・・約束した時間にぴったり合わせて彼女はやってきた。

・・・考えてみるとお返しのためだけに呼び出したようなモンだよな。

気恥ずかしいがさすがに・・・。

 

「コレだけのためとはいえ、そっちの学校まで行くのは・・・ね」

「さすがに、ですね・・・」

 

俺は思わず苦笑い、永森さんは無表情・・・でもないか。

ほんの少し赤くなってるのは気のせいじゃないだろう。

ていうか前から思ってたんだけど表情が読みにくい娘だなぁ。

そして俺が何か言う前に。

 

「あの・・・この後暇だったら、良ければ遊びに行きません?」

「ん? まぁバイトは今日は休みだし構わないけど、どこか行きたい所でもあるの?」

「ハイ」

 

あ、今薄く笑ったような感じがした。

とりあえずどこに行くかは着いてからのお楽しみ、という事だが着いた先は・・・。

 

 

 

<ゲームセンター:戦場の絆固体(コクピット)の中>

 

 

 

いつの間にかココに来ていた(汗)。

どうやら彼女も戦場の絆を始めていたらしい。

しかも狙ったかのように俺と同じ赤軍で。

 

『よろしくお願いします』

「ああ、よろしく。にしても結構意外だなぁ。永森さん、この手のゲームやらなそうなイメージがあったけど」

『全然やらないと言った事もありませんよ? それにこうに付き合わされてこの手の対戦ゲームは見慣れてますから』

 

後はコツを掴めば結構いけます、とは永森さんの言葉。

ちなみに現在の階級は俺が上等兵、永森さんは一等兵である。

ついでに言うと同じゲーセンで同じクラス(俺達はBクラス)のマッチングならボイスチャットが可能なため、こういった会話をしながらプレイができる。

 

『あら? もう1人ここに入った人がいるみたいですね』

「え、ほんと・・・ってこの人って(汗)」

『お〜っす、赤井に永森。たまたま入ってく所見かけたからアタシもやるぜ♪』

「やっぱり日下部さんかい!」

『・・・えっと以前、赤井先輩と一緒にいた人・・・ですよね?』

『おう! よろしくな。あと赤井、みんな観戦してるからみっともないトコ見せんなよ〜♪』

 

・・・ちょっとマテ。

 

「みんなってまさか・・・?」

『そ、いつものメンツ』

 

あやのは来れなかったけどな、とのたまうが、本当にたまたまだったのか怪しくなってきたんですけど・・・?

まあそれはともかくとして、いっちょ気合入れていきますか!

戦場はは砂漠、レーダーを使いにくくする撹乱幕濃度は0%、数は6vs6での戦闘になる。

永森さんや日下部さん、他のプレイヤーの選ぶ機体のタイプを見ながら俺は格闘型・・・近接戦闘タイプの機体を選び、武装や特殊装備を確認して選定終了。

そして3番機として出撃する!

 

「2人とも、援護よろしく!」

『よ〜っし! 任せとけ!』

『・・・ハイ。行きましょう』

 

そうして砂漠の戦場へ進んでいった。

 

 

 

<こなた視点>

 

 

 

いやはや、面白半分とは言え尾行もしてみるもんだね〜。

何かまさきがそそくさと出て行ったから・・・まあ予想はしてたんだけど、やまとさんにもキッチリお返しを渡すとは。

しかも状況からしてまさきから呼び出したみたいだしライバル・・・になるのかな?

本人に自覚があるかは後にして。

そんな事を思っていたら2人揃ってどこかに行く様子。

行った先は・・・ゲーセン!

まぁこうちゃんと一緒にいる所を見たことが何回かあるからそんな感じかと思いきや、やまとさんも隣のコクピットに入っていった!?

そうなるとここはまさきと同じく登録、プレイ済みなみさきちの出番!

一緒に始めたって話を聞いてたから様子を探る意味合いで行ってもらったんだけど・・・結構本気っぽい?

それに名前が分かりやすいこと・・・本名をローマ字にしただけじゃん。

 

「なんていうか・・・わかりやすい名前ねぇ」

「もう少しひねっても良いと思うけどね。まあ見てる方も分かりやすくて良いじゃん?」

「まーくんが青いので日下部さんが緑色っぽいの・・・永森さんは黒いのだね」

「泉さん、戦力的にはどうなんでしょうか?」

 

みゆきさんに聞かれてちょっと考え込む。

私はこのゲームの内容をあまり知らない。

お父さんの影響で多少の知識はあるけど、詳しく解説できるほどの知識は無いのだ。

 

「そだね〜・・・近距離から遠距離までバランスよく機体が揃ってるから後はプレイヤーの腕次第・・・カナ?」

「あ、まーくんのロボットから鞭みたいなのが出たよ?」

「あれって電気流したんじゃ・・・? 相手、よく動けるわね〜」

 

ダウンはしたけど、まぁゲームだしね。

そんなかがみのぼやきを聞いてる間にみさきちと永森さんの追撃で1体撃破。

組んでやるのって初めてのはずなんだけどここまで息ぴったりに動けるのかね?

・・・この3人ならじぇっとすとりーむあたっくみたいな事も出来そうだ♪

後で聞いてみよっと。

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

2戦2勝。

撃墜数2、被弾率はさすがに高かったものの、落ちてないだけまだマシか。

対人戦としては良いほうかな?

 

「や〜、結構ヒヤヒヤしたな〜」

「日下部先輩は少し突っ込みすぎです。近接は赤井先輩に任せてヒット&アウェイに徹した方が良かったのでは・・・」

「たしかに。近接格闘型の俺より突っ込んでどうすんの」

「ほぇ? いつもアタシはあんな感じだぜ?」

 

・・・日下部さんはチームプレイを覚えた方が良いと思うぞ?

近距離型とはいえ俺のと違ってバランス型っぽいし。

 

「いやいや、見事な戦いぶりだったね」

「結構動きが統率されてた様に見えたんだけど、そんなに上手くいくものなの?」

「同じ店ならボイスチャットが出来ますから」

「そうだね。だから後は他のプレイヤーやCPUがうまく合わせてくれたんじゃないかな?」

 

その後は普通のおしゃべりタイムになりそうだからカードをターミナルに通してゲーセンを出る。

 

「あ、悪いけどまさきくんは先に帰っててもらえる?」

「何か用事?」

「ん〜・・・親睦会みたいなものかな?」

「そうですね。せっかく他校の生徒とお友達になれそうですし」

「そゆことだから。じゃ、永森さん、逝こうか♪」

「・・・は、はい」

「じゃあ赤井、まったな〜♪」

 

なんて言って女性陣は行ってしまった・・・まあ女の子同士じゃないと出来ない話もあるだろうし。

でもこなたさん、なんか言葉のイントネーション違くない?

とりあえず俺は無難に返事して皆に軽く手を振り、帰路についた。

 

「あ、そういえば皆があそこにいた理由聞いてないや・・・」

 

結局家に帰るまでそんな事を考えていた。

時は3月。

みんなと知り合ってから2年目の春はもうすぐだ。

 

 

 

つづく・・・



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第三十四話 そして再び出会いの季節へ・・・

<3月下旬:ゲー○ーズ>

 

 

 

春休み。

暇な時は大体いつものメンツ(こなたさん達)の誰かと一緒にいることが増えてるような気がする辺りどうなんだろう?

まぁそんな疑問はさておき、今日はこなたさん、柊姉妹とゲ○ズで買い物してから泉家に行くことになっている。

 

「ん〜、アニメの原作って中々手を出し辛いんだよね〜」

「ま、たしかに。最初から買ってるとかしてないとね」

 

10冊程度ならまだしも、30冊40冊、物によっては100冊以上出てる物もある。

こ○亀とか美○しんぼとかクッキ○グパパとか。

 

「でもこなちゃん、ある程度溜まってるからアニメ化してるんじゃないのかな?」

「そりゃそうなんだけどさ・・・ギャップが激しいのが多くてさ。アニメだとかわいいのに漫画だと何か違ったり」

「絵を優先してんのかアンタは・・・」

「それと1巻が無いってことが多いんだよね」

 

あ〜、あれですか。

1巻試しに読んで確かめようと考えるですか。

考えてることは皆同じなんだろうかと思うが物によっては・・・特に長期連載のものは初期と現在で絵柄がガラリと変わるものも多いからな〜。

てかそれなら中古本屋に行って立ち読みでもしたほうがよくね?

アニメが原作に追いついちゃったアニメ(もの)もあるけどね。

とにかくある程度物色を済ませて会計に向かう。

と・・・。

 

「ぶほぅ!!」

「うぉ!? ど、どうしたのこなたさん・・・?」

 

こなださんが突然オーバーリアクションをしてヨロヨロと俺に寄りかかってきた!

そして力なく俺の服を掴んで、いかにも『私は落ち込んでます』と言いたげなオーラが漂わせてたりする。

 

「ううう、まさき。この世は常に戦争だよ・・・」

「・・・はい?」

 

こなたさん曰く、少し前にちょっと欲しいと思ったものをポイント交換するかどうかで散々迷った挙句、結局交換したらしいが・・・。

 

「今度は即決で欲しい景品があるんだよ! ホラ、アレだよアレ! ポイントが足りないヨ!!」

「んなこと俺に言われても知るかっての!」

「なんというかまぁ・・・」

「あ、あはは・・・」

 

相変わらず人生を楽しんでるこなたさんであった・・・。

 

 

 

<泉家:玄関先>

 

 

 

『おじゃましま〜す!』

「はいいらっしゃ〜い。今日は夜までお父さんいないから安心してねまさき♪」

 

それはある意味問題発言だぞ。

まあ俺のことをかなり敵視していたみたいだしどうやってかわすか考えていたんだが、杞憂に終わりそうだ。

そして俺たちに紹介したい娘がいるという。

恐らく以前話してた『妹のような従姉妹』の事だろう。

 

「この()が従姉妹のゆーちゃんだよ」

「は、初めまして。小早川ゆたかです。よ、よろしく・・・お願い、します・・・」

 

挨拶が段々小さくなってるのは・・・人見知り、かな?

顔が真っ赤になってるし。

それとも男子が苦手とか。

そうなると俺はこないほうが良かったんじゃ・・・?

 

「ほらほら、ゆーちゃんがんばるんでしょ?」

「う、うん。よ、よろしくお願いします! まさき先輩!!」

「ああ、よろしく・・・て俺?」

 

よろしくするのって俺だけ?

しかも下の名前呼び・・・普通初対面とかでは苗字で呼ぶもんだが。

 

「あはは、ごめんね3人共。ゆーちゃんって歳の近い男の子が苦手だからさ。きー兄さんはまだ大丈夫なんだけど歳の近い男の子だとどうしても距離取っちゃうんだよネ~」

 

やっぱ人見知りか。

コンプレックスを克服するというなら身近にいる歳の近い異性と積極的に接するのが良いと判断したのだろうか?

そしてその対象として俺が選出された・・・てか俺しかいなかったのか。

 

「そっか、頑張ってねゆたかちゃん。私は柊かがみよ。よろしくね」

「双子の妹のつかさです。よろしくね♪」

「あ〜・・・改めて赤井まさきです。よろしく」

「は、はい! よろしくおねがいしまふッ!?」

 

気合が空回りして舌噛んだな(汗)。

 

 

 

<泉家:こなたさんの部屋>

 

 

 

「小早川さんは卒業式、どうだった?」

「あはは、実は特に何も。殆ど休んでばかりだったので」

「こうやって話してるとさ〜、卒業式のことってあまり憶えてないもんだよね」

 

多少は憶えとけっての。

 

「卒業式か・・・懐かしいわね〜。」

「何だか昔の小中学校に行ってみたくなるよね。私達がいた頃から何か変わった所ってあるのかな?」

 

柊姉妹は回想中の模様。

 

「ちなみに俺は小学校だったらたまに顔を出してるぞ」

「ふえ、そうなの? まーくん」

「うん。たまに帰省した時にね。小学校は私立で教師が変わることが少なかったから、今でも知っている・・・てかお世話になった先生がいるんだ」

 

ちなみに長い人では30年以上そこで教師をしているのだからビックリだ。

中学校は・・・あまり良い思い出が無かったり・・・(苦笑)。

 

「でも最近乱入闖入事件が多いから、場所や時期によっては変質者扱いされるかもよ〜?」

「まあ、こなたはそういう心配しなくても良さそうだけどね?」

「それってもしかしなくても褒めてないよね?」

「かがみさん、それはちょっと・・・」

「お、ここはまさきのナイスセーブが!」

 

そんなこと言うな。

裏切りたくなるだろ♪

 

「さすがにシャレにならないと思うぞ?」

「・・・ま〜さ〜き〜?」

「冗談冗談♪」

「冗談に聞こえないよ!」

 

そんなやり取りをしていると小早川さんがクスクスと笑っていた。

 

「何だか漫才みたいですね・・・クスクス♪」

「うんうん、みんな仲良しさんだもんね♪」

 

・・・なんだろう、つかささんが普通に小早川さんと同じくらいの年齢に見えてきたぞ・・・?

まぁ言われたことに対して反論する気はないが。

 

「ゆたかちゃんは卒業式の時、誰かから第二ボタンを貰ったりした?」

「い、いえ・・・私病弱だし、学校に行ってもすぐ体調を崩すし、体型も子供っぽいし・・・それに私の学校の男子制服はブレザーでしたから」

「そういえば最近そういうとこ多いみたいだね」

「そうでもないぞ? 俺の実家周りの中学校は学ランだし」

「ネット見る限りじゃまだまだそういうところは多いみたいだけどさ・・・本人貰ったほうが良いような気がしない? 第2ボタンを貰いに行った時点で告白してるようなもんだし」

 

さすがにそれは実も蓋も無いだろ・・・。

 

「それに大丈夫だよ、ゆーちゃん。相手を選ばなきゃ需要バッチリだし!」

「じゅ、需要・・・?」

 

本人の意思をある意味全否定ってのもどうかと思うぞ(汗)。

 

 

 

2時間後・・・。

 

 

 

こなたさんとかがみさんはゲームで対戦中。

残された俺たち3人は既に打ち解けてたりする。

 

「へ〜、じゃあその時の娘に会えたんだ」

「いっぱいいる人達の中で会えたなんてスゴイね〜」

「はい。でも・・・」

 

何かしゅんとする様な表情になる。

・・・何かあったのか?

 

「名前・・・聞くの忘れちゃって」

「・・・ぷっ」

「あ〜! 先輩今笑った〜!」

「ご、ごめ、ん・・・ククク♪」

 

なんとゆ〜か、ベタなオチである。

小早川さんは入試の時、気分を悪くして休憩していた時、手を差し伸べて親切にしてくれてた娘がいたそうだ。

その娘がその時ハンカチを貸してくれて、入学説明会の時に再開、お礼を言ってハンカチを返したそうだが、お互い名前を聞き忘れたらしい。

 

「どんな娘だったの? ひょっとしたら私達が知ってる人かも」

「さすがにそれは無いんじゃないかな?」

 

陵桜はそれなりにレベルの高い進学校である。

俺のように他県から来る人もいれば同じ県内でも遠方から来る人もいるだろう。

稀に不純な動機でここに入ったヤツもいるようだが。

・・・何人かは心当たりがあるがさすがに人生そこまで上手くいくとは思えない。

 

「えっと、ちょっと背が高めで髪がショートで・・・あと見た目冷たそうなんだけど、実は凄く優しい人です♪」

 

ああいう人って誤解されやすそうですよね、なんて小早川さんは言うが・・・。

1人、心当たりがあったりする。

もし本当だとしたら世の中ってそうとう狭いんだな〜って思うぞ、心から。

て言うかある意味世の中上手く行きすぎ?

 

「ねぇ、まーくん・・・」

「多分・・・合ってるとは思う・・・けど、いくらなんでも・・・」

「え、ホントに知ってるんですか!?」

 

するとかがみさんに快勝したこなたさんが微妙にげっそりとしたかがみさんとこちらに戻って来た。

 

「私も多分そうじゃないかと思ってたんだけど確証が無くてね。まさきはおろかつかさまで同じ意見だとすると確率は高め・・・かな?」

「・・・何の話よ?」

「だめだよかがみん、空気読まなきゃ」

「あんた相手に格ゲーで必死だったから聞こえてなかったのよ!」

 

ちなみにあのじゃれ合いはいつものことだから気にしないよう話したら小早川さんは笑うしかなかったようだ。

それでも少し羨ましげにこなたさんとかがみさんを見ていたように見える。

と、そこに闖入者が!

その人は物凄い勢いで扉を開けたので俺は反射的に身構えてしまった。

しかし入ってきたのは・・・。

 

「ゆたか〜、遅くなったけど卒業おめでと〜!」

 

ハイテンション警察官、成実ゆいさんだった!

 

「あ、ゆいねーさんいらっしゃ〜い」

『おじゃましてま〜す』

「ちっす・・・あれ? 玄関の鍵、こなたさんが閉めてたような」

「何かあったら大変だからこの家のスペアキーを貰ってるのだよ少年! そんなことより、ゆたかの卒業祝いって事で、今夜おじさんも誘って飲みに行くか!」

「て、警察官が何言ってるんですか!!」

「大丈夫大丈夫♪ 未成年でも堂々としてれば結構バレナイもんだよ」

「俺の話聞いてくださいよ、ちょっと!?」

 

さすがにコレはツッコミを入れざるをえない。

てか主に成実さんの身内二人のせいでばれるだろ(汗)。

 

「さすが天性のツッコミ要員まさき。的確にツッコミいれてるね〜」

「感心してないでこの人の暴走を止めてくれ・・・」

「あはは・・・迷惑かけてごめんなさい、まさき先輩」

「いやいや、小早川さんが謝ることは無いって」

 

と、成実さんが突然静かになった・・・なにやらにこやかな顔はしてるけど・・・なんか怖い(汗)。

 

「赤井くん。ゆたかに手を出したr「出しません!!」・・・本人はこうきっぱり言ってるけどどうかな我が従姉妹よ?」

「今日が初の顔合わせだから何とも言えませんね〜」

「なんだかちょっと、複雑ですね・・・。ホッとした様な残念な様な・・・」←苦笑い

 

小早川さ〜ん、お願いだから誤解を招きそうな事言わないでくれ。

てかもしそうなったら俺は完全に犯罪者になってしまうぞ。

 

「今何か失礼なこと考えてませんでしたか? まさき先輩」

「ゼンゼンソンナコトハナイゾ」

「む〜!」

 

そう言ったものの、完全に棒読みになってしまったため小早川さんに後からぽこぽこ叩かれてしまうハメになった。

痛くは無いから好きなようにやらせてるが・・・こうなると何だか小早川さんが本当に妹のように思えてしまう。

イカンイカン、何を考えてるんだ俺の頭。

 

「・・・とりあえず馴染んだようだね」

「みんな仲が良いのが一番いいよね♪」

「そうなんだけど・・・なんかホントに兄妹みたい」

「なんだいかがみん、まさか妬いてる?」

「んな!? んな訳あるか!」

 

まあ女性陣の反応は置いといて。

何だか小早川さんも楽しそうにしている感じがしたこともあり、しばらくの間そんな光景が続くのであった。

 

 

 

<自室:夜>

 

 

 

『まぁ、そのような事があったんですか?』

「うん。だからちょっと確認したくてさ。場合によっちゃ春休み中に会わせてあげられるでしょ?」

『そうですね、私から確認してお知らせします。あ、時間は何時ごろが大丈夫ですか?』

「こなたさんに連絡入れてくれるかな? 最近はちゃんと携帯電話を持ってるみたいだし♪」

『ふふ・・・分かりました。そうしておきますね』

「うん。こんな時間にゴメンね? それじゃおやすみ」

『私は気にしてませんよ? おやすみなさい、まさきさん。』

 

ふう・・・。

コレで明日辺りには判明するだろう。

あの後すっかり馴染んだ小早川さんの探し人はみゆきさんの幼馴染であると俺達は推測し、みゆきさんに確認をお願いしたのだ。

ぶっつけ本番で会わせて見たら別人でした、なんてオチは避けたいところ。

春休み中は花見を皆で、なんて話もしたからその時会わせるのも良いかもしれない。

そんな事を考えつつ俺は明日の早朝の日課(ジョキング)に備えるために布団に入った。

 

 

 

つづく・・・



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第三十五話 大きく咲かせ、仲間の輪

<某ゲーセン:コクピット内>

 

 

 

『うおぅりゃ〜!』

 

日下部さんが格闘型の青い機体で敵陣に切り込む!

 

『日下部! 一旦下がりなさいって!』

 

熱くなった日下部さんを制止しようと緑色の汎用機に乗ってるかがみさんが声をかけるが、ああなると彼女は絶対に引かない。

 

「ああなったら日下部さんは止まらないからかがみさん、援護してあげて。八坂さん、永森さん、西側の敵機を止めるよ!?」←近距離型

『おっけ〜、任せて!』←上に同じ

『日下部先輩は相変わらずですね・・・』←遠距離型

 

現在、『戦場の絆』を6vs6で戦闘中。

・・・てか今日はどこで花見をするか相談しようということで集まったはずなんだが・・・(汗)

 

「砲撃型2体に格闘型・・・って指揮官機のカスタム仕様だぁ!? Bクラスで入手出来る機体なのかアレ!?」

 

砲撃型の方はともかく、指揮官機は原作での某小隊の隊長機ってか主人公機だ・・・やっぱりコクピット目指して殴りかかってくるのだろうか?

もしくはオープン回線で恥ずかしいセリフを大声で叫ぶとか。

そんなくだらない事を考えながら砲撃型に自軍拠点を落とされるのを防ぐため、八坂さんと永森さんに砲撃型の方に行ってもらった。

そして俺はマシンガンで指揮官機を牽制しつつ、赤軍近距離型機体特有の高温を纏わせた斧で切り込んでいく。

 

 

 

「はぁ〜・・・つかれた〜」

「・・・日下部、少しは引くことを覚えた方が良いんじゃない?」

「柊、攻撃は最大の防御だぜ?」

「・・・・・・」

 

頭抱えたくなるのは分かるぞ、かがみさん。

 

「反面、私達は息ピッタリ!」

「フォローにすっごく苦労したんだけどね・・・」

 

自信満々に言う八坂さんを尻目に永森さんがバッサリ。

相変わらず親友を親友と思ってるのか分からない2人である。

 

「お疲れ様でした、皆さん」

「これって見てる方も結構熱くなっちゃうね」

 

みゆきさんと峰岸さんはやっぱり見ている方が良いみたいだ。

しかし・・・気が付いたらゲーム仲間がずいぶんと増えたなヲイ。

ちなみに花見についてはかがみさんとみゆきさん、俺の3人で決めることになってたが、都内で良い場所があるとのみゆきさんの提言であっさり決定。

余った時間をどうしようかと話し込んでる時に日下部さん、峰岸さんと鉢合わせた。

日下部さんが『ゲーセン行こう!』っと言うことで行って見たら今度は八坂さんと永森さんのコンビと鉢合わせ。

さらにビックリな事に八坂さんはおろか、かがみさんまで『戦場の絆』を始めたとの事・・・。

『受験生なんだから自重しなさい!』なんて言いそうなかがみさんまで始めたのは驚きだが、まぁ息抜きやストレス発散程度にやるのは良いかもしれない。

撃墜されたら逆にストレスが溜まりそうだけど。

 

 

 

<夕方:柊家>

 

 

 

自宅アパートに帰る前に柊家に寄っていく。

というのも、最近すっかり柊一家に馴染んでしまった俺は、時々かがみさんやつかささんを通して柊家の夕飯に招待をされる事がある。

冗談抜きで違和感のカケラも無くなって来てるあたりはどうなんだろう?

それに最初のうちは、タダ飯ってのも何か良い気がしなかった。

そのため何度か手伝おうとしたんだけどみきさんにやんわりと断られている。

ま、時間は少し早いけど退屈はしないし。

バイトは夜だから構わないだろうと判断して柊家にお邪魔した。

 

「ただいま〜・・・あら? この靴・・・こなたが来てたんだ」

「お邪魔します、と。晩飯も一緒に食ってく気だとか」

「それは無いでしょ・・・なんかこなたとつかさの話し声が聞こえるわね・・・」

 

盗み聞きはよくないぞ。

そう思いつつ俺も一緒になって聞き耳を立ててみる。

てか居間のふすまが開きっぱなしだから聞こえるのは当然だ。

 

「最近あったかいね〜」

「そだね〜」

「春眠暁を覚えずって言うけど、ホント眠くなりそうだね〜」

「そだね〜」

「春休みは宿題が無いから良いよね〜」

「そだね〜」

 

・・・この2人の会話、そろそろツッコンだ方が良いのか?

結論が出ない無限ループと化してるぞ(汗)。

てか・・・。

 

「そういうのはいつも一生懸命にやってる人の言うことだと私は思うんだけど?」

「同感。とりあえず今年の2人の目標は『宿題を全て自分でやること』かな?」

「ぎく!?」

「はぅ!?」

「まぁ言いたい事はなんとなく分かるけどさ・・・」

「隠居した老人かあんたらは」

 

日向ぼっこしてる2人はまさにそれである。

とりあえずこのツッコミも慣れたもんで、無限ループは強制終了。

こなたさんは誤魔化しつつゲームを再開した・・・電源どころかゲームもつけっ放しでほっといてたんかい・・・ってやってんのはス○ロボかよ!?

人の家でやるゲームかよそれ?

 

 

 

『左舷!弾幕薄いぞ、何やってるの!?』

『長い砲身には、こういう使い方もあるんだ!』

『不死鳥は、炎の中から・・・蘇る!』

『やぁってやるぜ!』

 

「アンタ、こういうロボット物のヤツのキャラクターや元ネタってわかるの?」

「まぁある程度はね〜。まさきに色々と教えてもらったしキャラやロボットの図鑑付きだし。あ、そうそう。かがみ、コレコレ」

「ん? これって・・・」

「まーくんが買ってもらってたロボットも出てきたから私もビックリしたよ〜」

 

そりゃあサ○ファには出演してるからね。

てか最終的な話の中核になっていくし。

ちなみに戦闘シーンには定評のあるこのゲーム。

再現度もシリーズを追うごとに力が入っている。

反面、不思議な光景も見られるがそこはツッコンだら負けである。

 

「他の主力機も随分力が入ってるね」

「わかる? そりゃ主人公はこれで全部コンプしたし、ルートもカンペキ! 今やってるのをクリアすればパーフェクト!」

「あ〜、もう何も言わないけど・・・確かガン○スターっていったっけ? ソイツの実力はどうなのよ?」

 

何だかんだで結構気になってるらしいかがみさん。

こなたさんもニヤニヤしながら戦闘シーンをONにした。

 

『お姉さま、あれをやるわ』

『ええ、よくってよ』

 

2人のパイロットのやり取りの後、画面には技を大声で叫んだ後に思いっきり必殺の蹴りを繰り出すという、大迫力の戦闘シーンが!

・・・よくよく考えるとこれも含めて広範囲殲滅武器ばっかりだよね、ガン○スターって。

 

「・・・・・・」

「かがみ〜ん、これ見てどうだい?」

「凄い迫力ね・・・えっと原作のモノもこうなの、コレ・・・?」

「動画サイトで見たことはあるけど、原作のシーンを見る限りじゃ大体こんな感じだね」

 

開発スタッフの皆さん、本当におつかれさまです。

 

 

 

<柊家:夕食時>

 

 

 

『いただきま〜す!』

「たくさんお食べ」

 

こなたさん帰宅後に夕食の時間がやって来た。

柊家の今日の晩御飯は鍋物。

大所帯だからかナベ自体もかなりデカイ。

が、ナベの中身が何だか分からない。

別に蓋をしてる訳じゃないが、真っ白いもの・・・大根おろしだろうか?

とにかく表面全てが真っ白に覆われていて、他にどんな具が入ってるのかがさっぱり分からないのだ。

みきさんが取り分けてくれたのでそれを受け取ってみると・・・。

 

「白菜に・・・豚肉、ですか?」

「そう。白菜と豚肉を交互に重ねて大根おろしを乗せて煮込むだけ。水は白菜や大根おろしに火が通ればいっぱい水分が出るから少しで良いの。簡単だから、もし実家に帰ったら親御さんに作ってあげたらどう?」

 

ポン酢で食べると美味しいわよ、と俺にポン酢を取ってくれた。

交互に重ねてって・・・量がとんでもないんですけど(汗)。

鍋一面の大根おろしなんか大根を丸々一本使っても足りないらしく、ただおさんががんばってすりおろしているとか。

 

「うん、おいし〜♪」

「これなら私でも何とかなりそうね・・・」

「・・・大根おろすのが大変そうだけど」

「〜♪」

 

いのりさんはご満悦、まつりさんとかがみさんはブツブツ呟きながらもくもくと食べてる。

つかささんも食べるのに夢中で、それを見てると相変わらず俺と同い年には見えなかったりするのは秘密だ。

とりあえずその辺りはひとまず置いとき、俺はいつもの様にコレでもか、というくらいの量を平らげた。

以前初めて招待された時、自分は客だから、と控え目に食べた事がある。

が、みきさんには俺の食べる量が知られているため、結構な量のおかずを残してしまった。

少し残念そうなみきさんを見てると何だか凄い罪悪感が湧いてきたので残ったおかずを全部食べて、その後は出されたものは大抵平らげるようにしたのだ。

案の定、4姉妹からは驚愕の表情(当初のみ)、柊夫婦からはホッとした様な、そんな感じでたまに見る少し変わった食事風景を楽しんでいるようだ。

 

 

 

『・・・ファイナルアンサー?』

『ファ、ファイナルアンサー!』

『・・・・・・』

『・・・・・・ッ!』

 

夕飯後、少し時間に余裕があるので柊家と一緒に某クイズ番組を見てるが・・・相変わらず息が詰まるなここまで来ると。

で、こういう時のお約束で・・・。

 

『あ、僕は麺にうるさい○○麺です』

 

『はぁ〜〜〜〜・・・』

 

CMに突入した瞬間に脱力する。

全員息を呑んで見ていたため、分かっていたけど当たるか外れるかの独特の雰囲気は見てる方もある種のプレッシャーになる。

それでも、顔色1つ変えずに見ている人が約1名いるが・・・。

と、そこでつかささんが時計を見た。

 

「つかさ〜、時間見て正否判断するのやめない?」

「だ、だって緊張感に耐えられなくて・・・(汗)」

「あっははは、物凄く引っぱるからね〜、この番組」

 

まつりさんも同じ意見だった様だ。

ちなみに俺の場合は・・・。

 

「とりあえずこの番組が終わったら、バイトの時間も近いしそろそろ失礼しますね」

「あら、まさくんもう・・・てかこんな時間にアルバイトって、大丈夫なの?」

「まぁ一応学校には許可取ってるんで。」

 

時間が時間だからか、いのりさんが心配してくれるが許可を貰ってれば何とでもなる。

バイトを始めて約2年、昼間はもとより夜の方も任せられていたりする。

ちなみに学校は夜のバイトは不許可である・・・当然だが。

夕方ならまだしも、夜中遅くまでバイトをやってたらある意味違法だし。

もっとも、この辺りでは学校関係者を見たことが無い・・・てかそんな時間に出歩く方が珍しいだろう。

警察の巡回もあるがその時はレジのカウンターに隠れて凌いでいる(笑)。

とりあえず番組が終わったところで皆に挨拶とお礼を言って、俺は柊家を後にした。

 

 

 

 

つづく・・・



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第三十六話 面識・・・の無い二人?

<4月:東京某所>

 

 

 

満開の桜のトンネルをのんびり歩きながらいつもの5人+αでのんびり花見を楽しんでいた。

ちなみに+αと言うのは・・・。

 

「自己紹介、遅れちゃいましたね。小早川ゆたかです」

「・・・岩崎みなみです。よろしく、小早川さん」

 

この新入生後輩コンビだ。

以前小早川さんの話で、彼女に親切にしてくれた人の事を聞いた俺達はその人の特徴から岩崎さんではないかと俺達は推測。

みゆきさんに確認を取ってもらったところ、ビンゴだったというわけだ。

で、2人を会わせる事と少し速めの入学祝と言う名目で、2人を引き合わせたのだ。

ちなみに本人達にその事を伏せていたので顔を合わせた2人はずいぶん驚いてたが、今ではすっかり意気投合したようである。

 

「・・・で、こなたはあそこで何やってるの?」

「まぁいつものごとくネタに走ってるんでしょ」

 

一方こっちは桜を見ながら雑談中のところ、ごろんと横になったこなたさんが舞い散る桜の花びらを口に含み、咳をするような感じでケホ、ケホっと吐き出している。

 

「こなちゃん大丈夫?」

「え〜っと・・・(汗)」

 

つかささんもみゆきさんも対応に困って・・・つかささんは普通に心配してるなありゃ。

・・・ええ子や。

 

「とりあえずこなたさん、ここじゃあ1年中桜が咲いてたり純粋な願いが叶うわけじゃないんだからその辺にしといた方が・・・てかこなたさんの願いは叶わないだろうけど」

「何気にきっついな〜まさきは。それに桜といったら初n「ハイストップそこまで!」モゴモゴ」

 

とりあえず買っておいたたこ焼き(ジャンボサイズ)を口に突っ込んで止めておく。

・・・桜を取り扱ったモノが他にもあるだろと一瞬言いかけたが何とか飲み込んだ。

 

「まさきくんはまっとうに見えるのに何でこなたは不純に見えるのかしら・・・?」

「そりゃまぁこなたさんのほうが色んな意味でディープだから」

「まぁ一言でオタクといっても色んな人がいるからね〜」

 

自覚してる分さらにタチが悪いと思うのは俺だけか?

・・・それ以前に俺、いつの間にかオタクと認定されてる?

 

「まーくん、金魚すくいやろ〜♪」

「お〜う」

 

とりあえずつかささんのご指名があったからみゆきさん共々、金魚すくいをやって見ることにする。

・・・昔からほとんど取れた試しが無いが。

 

「あうっ!?」

「中々難しいですね・・・あ、網に穴が開いちゃいました」

 

つかささん、みゆきさん、揃って敗北。

 

「こういうのは・・・スピードと、角度! それ!」

「わぁ!」

「お見事です・・・あ」

 

ぽちゃん。

勢い余って受け皿に入らずに、そのまま水槽に落ちてしまった。

むう、あなどれん。

 

「まだまだ、俺の網は伊達じゃない!」

「まーくんファイトォ!」

「がんばって下さい、まさきさん!」

「にーちゃん中々筋がいいじゃねぇか。しかも彼女2人の応援つきで気合入ったか?」

「ち、違います! て、あ・・・」

 

思いっきり動揺してしまった俺は網を直接水に叩くように突っ込んでしまい・・・。

 

「親父さん、アンタって中々の策士だな」

「くっくっく。これくらいで動揺するようじゃ兄ちゃんもまだまだ青いぜ?」

「(く、否定が出来ない。これが年期というものか!)」

 

なんて馬鹿のことを考えてしまうが結果は結果である

結局取ることが出来ずに終わってしまった。

 

「惜しかったねまーくん。」

「でもあんな事言われたら仕方ないかと・・・」

 

今のセリフでみゆきさんはもとよりつかささんまで赤面してしまう。

さっきは思いっきり否定したが何か罪悪感が(汗)。

 

「あれ? どしたの3人揃って」

「何か顔赤いけど・・・風邪でもひいた?」

「いや別に・・・そういやかがみさん、去年の夏に取った金魚ってどうしてるの?」

「へっ?」

 

とりあえずボロを出す前に話題を変えておこう。

確か去年の夏祭りの時、かがみさんは一匹ゲットしたはずだ。

ちなみにその時、かがみさんが近寄っただけで金魚があちこちに逃げて行ったと言うのは嘘のようでホントの話である。

 

「え〜っと・・・ちょっと、その・・・餌をやり(かわいがり)過ぎて、こ〜んなに」

 

手で形を現すが・・・でかいって言うか(汗)。

 

「・・・金魚ってレベルじゃないでしょそのサイズ」

「せめて幸せ太りだと思いたいわ・・・」

 

ペットは飼い主に似るって言うが・・・。

 

「ちょっと、今何か失礼なこと考えなかった・・・?」

 

こんな時ばっかり妙に勘が鋭いなおい!

 

 

 

で、数分後。

あの2人がいないことに気付いた俺は周りを見回す。

 

「・・・そういや小早川さんと岩崎さんは?」

「あれ? 2人ともちょっと前まで一緒だったんだけど・・・はてな?」

 

会話に気をとられたせいか、いつの間にか2人を見失って・・・。

 

「あれは親愛の表れか? それとも新たな世界への飛躍か?」

「むう・・・まさかこんな展開があろうとは!」

 

少し先のベンチ。

恐らく小早川さんが体調を崩したんだろうか。

俺達に何も言わなかったのは俺達が聞き逃したのか心配かけないよう少し休むつもりだったのか。

前者だったらダメじゃん、俺達・・・。

 

「みなみちゃんってホントに優しいよね」

「あの2人って、確かほとんど面識なかったはずよね・・・?」

「ふふ。私の自慢の、『妹』ですから♪」

 

面識が今まで無かったと思えない・・・女の子同士とは言え、ほぼ初対面の相手に膝枕で看病するか岩崎さん?

あの2人、入学してクラスメイトになったら岩崎さんが保険委員になって小早川さんの世話を焼いてそうだな。

 

「まあ、今日は少し寒いもんね」

「そうですね。女性にとって冷えは大敵ですから」

 

また野郎には理解不能な話になり始めたから屋台に行って・・・とりあえずお好み焼きを3つゲット。

皆で食べようと思ったものの・・・足りないか?

とりあえず4人とも2人の様子見がてら、からかいに行ったみたいだから俺もそっちに向かった。

 

「ほ〜い、出前一丁っと。焼きたてのお()()きを食えば多少は身体、暖まるだろ?」

「あ、ありがとうございます、まさき先輩」

「頂いて良いんですか・・・?」

「こういう時はありがたく受け取っておくべきだよ、2人とも」

 

小早川さんは多少持ち直したようで一安心。

そんな訳で皆揃ってお好み焼きを食べつつ花見の続きを楽しんだ。

 

 

 

<夕方:泉家>

 

 

 

「ゆーちゃんがんばれ〜!」

「みなみさん、ファイトです!」

「はわわわ!?」

「・・・ッ! 車体が、上手く動かない」

「・・・・・・」

 

現在の状況。

場所、泉さんちのこなたさんの部屋。

岩崎さんと小早川さんがレースゲームで悪戦苦闘中。

こなたさんにみゆきさんはそんな2人に声援を送ってる。

てゆーか突発的に決まってしまったこのお泊り会。

まぁ俺は明日の朝早くからバイトだから参加しないと言ったが、晩飯くらい食べて行けとの事。

作家である親父さんの許可を取ってるとのことだがその親父さんはしばらくの間カンヅメになってるそうで。

・・・万が一にでも遭遇したらどうすんだよヲイ。

 

「どったのまさき? あ、大丈夫。今日はゆい姉さん付きだからお父さんも文句は言わないと思うし。ついでに言うとゆいねーさん、夕飯前くらいの時間には来ると思うよ」

 

どうやら成実さんも来るらしい。

こっちはこっちで宴会にならないことを祈ろう・・・酔ってなければまだしも、酔ったら誰にでも絡もうとするみたいだしな、あの人。

ちなみに柊姉妹は家の手伝いがあるとのことで今回は不参加である。

とりあえず2人のスコアはよくはなかったものの、2人が楽しそうにしてたから問題ないだろう。

 

「こなたさん、パソコン立ち上げっぱなしなの?」

「そだよ〜。韓国発信のMMORPGで露店放置中〜。売り上げは上々かな? かな?」

 

これって・・・マ○ノギか?

 

「へ〜、サーバーは?」

「『たるら』だけど・・・まさき、ひょっとして・・・?」

「同じサーバーかい・・・どこまで縁があるんだか。あ、でもこなたさんは他にも色々やってそうだね」

「と言っても今の所はこれに集中してるからね〜。」

 

やりがいがあるんだよ〜、と言うのはこなたさん談である。

数あるMMORPGのうち、ある意味異色なゲームのマ○ノギ。

ストーリーはもちろんのこと、生活、生産とやることは多岐に渡っており、ストーリーではなく生産に力を入れてるプレイヤーも多いゲームだ。

一応無料でプレイできるがやはり本腰を入れてプレイするなら課金(30日で千円コースがオススメ)をした方が色々と便利ではある。

ま、それはさて置き。

 

「夕飯はどうするの? 作るんなら手伝うよ?」

「それには及ばないよ。私が今日の当番だからね」

「こなたお姉ちゃんって家事も出来るし、ゲームも凄く上手だし、コミュニケーションの幅も広いんですよね♪ こなたお姉ちゃんみたいになれるように、私もがんばらなきゃ!」

「わたしも・・・みゆきさんの様になりたいから・・・一緒だね、小早川さん」

「うん!!」

 

2人のこのセリフにお姉さん組は・・・。

 

「いや〜、最近姉としてのプレッシャーというか、そういうのが分かってきたよ・・・」

「まぁその辺りは人によりけりなのでは(苦笑)?」

 

みゆきさんはともかく、こなたさんは何だかプレッシャーを感じてるようだ。

まあ自分らしくしてれば良いような・・・あ、こなたさんの場合はそれじゃだめか」

 

「まさき・・・」

「なに? こなたさん」

「私の場合・・・何だって?」

「げ(汗)」

 

声に出してしまったらしく、珍しくこなたさんが怒気を発している。

いかん、ここはこなたさんの陣地(ホーム)だ。

てかどこぞのギャルゲの主人公みたくなっちまった・・・あ、後輩が2人揃って笑ってる。

 

「・・・私と対戦して勝ったら、特別に許してしんぜよう」

「・・・負けたら?」

「まさきの今日の夕ご飯は紅しょうが。茶碗いっぱいのべn「こなたさん、そのネタはアウトォ!」・・・むう、まあいいけどね。ゆいねーさんもあんなだけどゆーちゃんはしっかりしてるし」

「あ、あはは・・・(汗)」

 

さすがの小早川さんも若干苦笑気味である。

まぁ面識は少ないものの何となくは分かる。

何だかノリが軽い人だし暴走もとい! 爆走するし・・・あれ?

ほかに思いつかない・・・。

 

「そういえば先輩達に聞きたかったんですけど、中学と高校って何か違うところってありますか?」

「ん〜・・・部活動が強制じゃないとか」

「でもそれは学校によると思いますよ?」

「あと給食も無いからね〜。弁当とか学食とか」

「皆さん、親御さんかご自分で作ってるのですか?」

「こなたお姉ちゃんも毎日作ってるの?」←純粋無垢な眼差し

「・・・ま、まぁね〜♪」←滝汗

 

墓穴掘ったなありゃ。

ほぼ毎日チョココロネ頬張ってるのに(笑)。

 

「あと通学するにも結構距離があるからね。相応の体力が無いときついかもね」

「それと進学校ですから、授業の進みが速いって言うのもありますね」

「そして同時に眠気が・・・特に苦手な科目は眠気の威力が倍増するんだよ〜」

「・・・2人とも、ああはならない様にね?」

 

こなたさんのいう事には特に注意するようにと付け加えたら、ふたりとも苦笑気味だった。

 

とりあえず夕飯の準備のためにこなたさんはキッチンへ。

俺はと言うと・・・。

 

「以前のリベンジをさせていただきますよ?」

「負ける気は無いからそのつもりで」

「みゆきさん、頑張ってください」

「まさき先輩も頑張れ〜♪」

 

みゆきさんに挑まれてしまった・・・何時かやった『でっていうのタマゴ』で。

結果はほぼ五分だったという事に・・・最後は集中力が切れた俺が惨敗したけどね。

 

 

 

つづく・・・



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第三十七話 小さな奇跡の方程式

<4月の朝:通学路>

 

 

 

「春・・・新しい何かが始まりそう・・・そんな予感をさせるような季節。新しい出会いと少しの不安。そして大きな期待! まさに恋する5秒前!・・・てさわやかなイメージがあるけどさ。実際知らない人と1から始めなきゃならないからなんか欝だよね」

「今日は朝から絶好調だねこなちゃん(汗)」

「小早川さんは、ああいう風にならないようにね?」

「あ、あはは・・・(汗)」

「私はもう慣れたわよ・・・」

 

冒頭から失礼。

4月に入り、俺達は3年生に進級し、小早川さんたちが無事に入学してから数日。

こなたさんも小早川さんにあまり負担をかけないように、早めに登校するようになったり、弁当作ったりと言うのはある意味ビックリなんだがホントの話である。

小早川さんはみにまむなテンポで隣をてってって〜と歩いており、それを見てるとなんか癒されるというか・・・まぁそれはさて置き。

 

「かがみさん・・・実はまだ気にしてるとか?」

「だ〜か〜ら〜! いつもの事だって言ってるでしょうが!?」

「ようするに寂しいんですね? わかr「くぉ〜なぁ〜たぁ〜?」ってかがみ様おゆるsぐへぇ!?」

 

今年もかがみさんは隣のクラス(C組)だった。

だが遠いクラスじゃない分まだマシだろう。

もともと双子で同じ学校に通う場合、大抵別のクラスになると言う話を聞いたことがある。

その後、峰岸さんは困ったような笑みを浮かべて、あの日下部さんですら呆れたのはもはやお約束だ。

ちなみに小早川さんは本当に岩崎さんと同じクラスになったという・・・あれか、こうなったらもう運命か?

 

「オ〜ッス、皆の衆〜♪」

「おはよう。みんな今日も一緒なのね♪」

「おはよう。でもその中で俺1人だけ思いっきり浮いてると思うんだけどね・・・視線も痛いし」

「・・・あれ? ねぇまーくん、しせんってそんなに痛いの?」

 

つかささん・・・それは天然か、素で言ってるのか?

新1年生(主に男子)から感じる視線・・・他の2、3年生は既に気にしてないようだが1年生は・・・まぁ、多分俺も同じ光景を見たら後から刺したくなるかもしれん状況だからな。

その内慣れるだろう。

しかし・・・いつも思うが俺もすっかり染まっちまったもんだ(汗)。

 

 

 

<陵桜学園:3−B>

 

 

 

「おっはよ」

「お〜っす赤井。今日もやっぱりハーレムしてるか?」

「アホか」

「ぬお!?」

 

ビシッと一発脳天に入れておく。

去年の修学旅行以来、何かと話す機会が多くなってる白石さんちのみのるくん。

今年は席替えの結果、白石くんは俺の前の席になった。

ついでに言うと俺の隣がこなたさん、その後ろにつかささんとみゆきさんが続く。

ホントに縁があるな〜(汗)。

・・・しかしこなたさん、黒板は見えるのだろうか?

それはさて置き。

去年の修学旅行の後、白石くん(コイツ)との朝の挨拶は大体こんな感じから始まるようになった。

当初は思いっきり一撃をお見舞いしたもんだが、今は挨拶代わりに軽い拳骨(もしくは裏拳)で済ませている。

つくづく慣れとは恐ろしい。

 

「しかし修学旅行以降、何かと縁があるよな、赤井とは」

「縁があるかどうかはともかく、話することは多くなったよね・・・内容は主に女子(こなたさんたち)関連で(怒)」

「い、いやいやそこは、あの、ほら、赤井にモテる秘訣を教えてもらおうとだな(滝汗)」

 

話して分かった事。

コイツはこういうヤツである。

 

「・・・全員友達だって言ってるのにいつになったら分かるのかねぇ?」

「またまた〜、そんな事言って、実際は心の中で『よっしゃぁ! 俺様超ラッキー!』とk「イッペン・・・シンデミル?」ごめんなさいごめんなさいマジごめんなさい」

 

某ギャルゲーのパン屋の親父か俺は。

やれやれ・・・。

 

 

 

「すいませんまさきさん、無理をお願いして・・・」

「さっきから何度も言ってるでしょ? このくらいなら気にしないって」

 

休み時間中、先生経由でみゆきさんが荷物運びを頼まれたと言うことで、席が近くて話しやすい男子な俺に協力要請が来た。

てかこの荷物(大量の紙)って何に使うんだろ・・・印刷用紙?

 

「結構な量だしみゆきさん1人じゃ相当無理があるぞこれ」

 

塵も積もれば何とやら、枚数が多けりゃその分かなりの重量になる。

先生は俺が協力(こう)すると分かっていて、それでみゆきさんに頼んだのだろうか?

考え・・・いや、自惚れすぎか。

 

「あ、まさき先輩、高良先輩!」

「・・・こんにちわ」

 

そこで遭遇した1年生の凹凸コンビ(身長的な意味で)。

小早川さんと岩崎さんだ。

正式に知り合ってまだ半月も経ってないにも拘らず、相変わらず仲が良い2人である。

 

「よ。どうしたのこんな所で?」

「何か用事ですか?」

「いえ、ちょっと確認しようと思ってたのをすっかり忘れてて・・・保健室の場所聞こうと思ったんですけど・・・」

「でもその様子では・・・すみません、別の人に聞いてみます」

 

聖人君子の妹(正確には幼馴染)はやっぱり聖人君子か・・・見た目では分かりにくいのが難点だな。

それにちょっと抜けてるところまでよく似ている。

 

「ああ、それなら今すぐにでも案内出来ると思うよ?」

「ふふふ、そうですね」

「近いんですか?」

「いや、すぐ分かる場所にあるというか・・・」

「・・・・・・?」

 

岩崎さんも少ない表情で疑問を投げかけている。

俺とみゆきさんの取った行動はまったく同じでとてもシンプルだった。

俺達は隣の教室(?)のプレートを見上げてみる。

釣られるように後輩2人も同じところを見上げる。

 

『あ・・・』

 

後輩2人の声が重なる。

そのプレートにはこう書かれていた。

 

『保健室』

 

 

 

<3−B:昼休み>

 

 

 

「あはは、そんな事あったんだ〜」

「しっかりしてる様に見えても、どこか抜けてるところがあるんだな、岩崎さんって」

 

いつものように7人でお昼ご飯。

先ほどの出来事を皆に話したら大爆笑・・・とまでは行かないが一気に明るくなった。

ちなみにあの後、2人とも顔面真っ赤になって慌ててお礼を言ったが、何を言ってるのかさっぱり分からないくらい慌てふためいていたのは俺とみゆきさんの秘密だ。

 

「パティもゆーちゃんと同じクラスみたいなんだよ」

「パティって・・・ああ、パトリシアさんか」

「加えてみなみちゃんとゆーちゃんが同じクラスになったのってある意味奇跡だよね。」

 

まぁ13クラスもある時点で、知り合いが同じクラスになるかどうかは完全に1割以下の確率ではあるからな。

 

「そだね〜。わたしもこなちゃんやゆきちゃん、まーくんにみさちゃんやあやちゃんと知り合えたのも、奇跡かも〜♪」

「・・・そうかもね」

 

つかささんはいつからか峰岸さんと日下部さんもあだ名で呼ぶようになっていた。

2人とそれくらい親密になったからだろうか?

かがみさんもつかささんと同意見のようだ。

 

「それを言ったらあたしらなんか5年連続同じクラスだぜ♪」

「そうね・・・みさちゃんと幼馴染になれたのも、あの人と出会えたのも・・・」

 

出会いはいつも偶然から。

でもそれをいくつも重ねたモノはやがて必然となる。

そこから友達になり、こうやって気軽に喋れるようになるのは、大した事では無くても小さな奇跡のようなものだ。

 

「私達がこうやって過ごすことが出来るのも、あと1年なんですね」

「奇跡・・・か。ここから窓の外の桜を皆で見られるのも奇跡・・・なのかな?」

 

そしてみんなの視線は、多少散り始めているものの、校庭で咲き誇る桜へと移る。

こんな光景をみんなといつまでも見ていたい、と思うのは俺のワガママだろうか?

ちゃんと花見もしたのにまだ見ていたいと思うほど、俺たちはしばらくの間、外の桜を静かに見続けていた・・・。

 

 

 

<6時間目:授業中(歴史)>

 

 

 

メキャ!

 

「ふおぉ・・・」

「まったく懲りんやっちゃな。これで少しは目ぇさましたやろ。仏の顔も3度までやで泉?」

「は、はひ・・・」

 

黒井先生はそう言ってても、3度目はとっくに超えるくらいの拳骨を与えてる様な気がする。

まぁ涎たらして寝てるんだから気付かないはずは無いわな。

 

「うぅ〜、まさき〜。どうやったら居眠りしないで授業受けられるの〜? 毎朝ジョキングして疲れてる上にかなりの早起きじゃん?」

 

眠くならないのかと放課後に聞かれたが・・・。

 

「こなたさん、『早寝早起きは3文の得』ってことわざを知ってるか?」

「・・・参考までにまさきは何時に寝てるの?」

「遅くても11時」

「早っ!? 人生絶対損してるよそれ! それは私には真似出来ないよ〜!」

 

人間、6時間眠れれば十分である、と言われている。

それに人生の楽しみ方なんて人の数だけあると思うぞ。

おそらく毎日朝早く起きる努力はしてるんだろうけど、夜早く寝る努力はほとんどしてない・・・てか無理か。

こなたさんだし。

 

「まーくんはそうなんだ。わたしは9時には寝ちゃうよ〜?」

「わたしは今でこそ11時くらいですが、去年までは10時には寝てましたね」

 

こなたさん、撃沈を確認。

 

「お〜い帰ろ〜・・・って今度は何があったのよ・・・?」

 

ガバッ!

 

「うぉっ、復活した!?」

「かがみ! かがみは何時に寝てる!?」

「な、何よ急に・・・まぁ、大体日付が変わる前には寝てるわ。毎朝ジョキングもしてるし」

「・・・わたしもやってみようかな、ジョキング」

 

撃沈したと思ったら突然起き上がって必死になったりまた落ち込んでみたりと元気いっぱいの様な気がするが。

だがそれ以前に・・・。

 

「睡眠時間の確保のために、やめろとは言わないけどゲームを少しは控えて早めに寝ること。あとは本人(こなたさん)次第ってことだね」

「そういうことよ。アンタも今年は大学受験あるでしょ? 大学行くことを決めた以上キチンとした日常生活送るようにならなきゃダメじゃない」

「そんな事言ったって・・・深夜アニメが・・・積ゲーが・・・ネトゲが・・・」

「答えは聞いてないからがんばれよ〜」

「うう〜、まさきの鬼〜・・・」

 

俺とかがみさん、2人がかりで説教されたこなたさんは今度こそ撃沈・・・いや、轟沈するハメになった。

 

 

 

つづく・・・



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第三十八話 変わらないもの

<柊家:夕食時>

 

 

 

「やっぱり鍋、デカイですね・・・(汗)」

「あら、いっぱい食べる子がいるんですもの。やっぱりこのくらいの大きさじゃないと・・・ね♪」

「まさきくんが来る時はずいぶん賑やかになるからね」

 

大体月1〜2回になった柊家での夕食会・・・といっても俺が1人増えるだけだが。

今日のメニューはすき焼き。

通常の倍くらいの大きさの鍋にたっぷりの野菜と肉がグツグツと煮えたぎっている。

 

『いっただっきま〜す♪』

「たくさんお食べ」

 

姉妹が全員揃って箸を動かし始める。

が・・・。

 

 

 

<10分後>

 

 

 

「(やっぱりこうなるんだな・・・)」

 

おしゃべりしながらだが、姉妹揃って肉を重点的に食べてるようで、野菜がほとんど減っていない。

さらに・・・。

 

「それでね、こなちゃんが言うには、携帯電話が繋がらなくなるのはナントカ粒子が濃いから電波が妨害されてるんだって」

「ほほぅ、そうなのかい」

 

つかささんが途中からおしゃべりの比率が多くなりはじめて箸が完全にストップ。

って言うかさすがに今のはただおさんもツッコムべきなのでは?

そんな訳で、多めに材料が用意されてるとはいえ、下手したらもうすぐに無くなるぞ。

主に肉が。

 

「つかささ〜ん、こなたさんの言うことをあんまり真に受けちゃダメだって。あと肉が主におねーさん達に取られて相当減ってるぞ〜?」

 

大体ナントカ粒子を開発した博士が現代にいるわけ無いだろ。

 

「て、そこで何であたしたちを真っ先に出すかな!?」

「ふぇ・・・? あ、お肉〜! わたしの分は〜!?」

「まぁまさくんは野菜も一緒に食べてるみたいだし、まつりもかがみもちゃんとバランスよく食べないとだめよ?」

「わ、わたしはちゃんと考えて食べてるわよ! それに多めに取っといたのはつかさに分けるためで・・・!」

「ってゆーか姉さんだって結構お肉食べてるじゃない!」

「あら、わたしはちゃんと野菜も食べてるもの。」

「・・・まあ、本っ当にたま〜にですけどねぇ。」

「ちょ!? そ、そこはまさくんが結構野菜を食べてくれてるから・・・!」

 

慌てて取り繕うところで自白したようなモンである。

 

「ん〜、俺の場合は肉と野菜を食べる割合は大体5:5(イーブン)です。それと肉ばかり食べてると・・・太りますよ?」

 

ピシィ!

 

そんな音が聞こえたような気がした。

一言ツッコミを入れるだけでこの騒ぎである。

そんな姉妹+αをただおさんとみきさんは微笑みながら見守っているのであった。

ホントに仲の良い家族だ。

 

 

 

<陵桜学園:3−B>

 

 

 

こなたさんも弁当を持ってくるようになって少し狭くなってるような気がする昼飯時。

そのうちみんなでワイワイ弁当を食べれる広い場所でも確保した方がいいかね?

 

「わたしも遂に携帯を買い換えたのだよ」

「泉ちゃん、前の携帯電話はどのくらい使ってたの・・・?」

 

峰岸さんの苦笑気味のツッコミも何のその、終始ご機嫌な様子のこなたさん。

こなたさんが携帯電話を買い換えた(ずいぶん古い機種を使ってた)事で、

 

「着信や壁紙を自由にいじれるよ〜♪」

 

とご満悦の様子である。

もっとも、使ってる着信(着歌フル)や壁紙は彼女の趣味を大きく反映しているようだが。

 

「番号やメアドはそのままだから安心してね♪」

「了解・・・ちなみに調子に乗ってダウンロードしまくってると大変な目にあうぞ?」

「そうだな〜。あたしも使いすぎて怒られたことがあるぜ・・・」

 

日下部さんも経験した事があるのだろう。

目移りして色々と着メロを試聴したりサンプル画像を色々と見てて気が付いたら手遅れ・・・なんてこともやったな〜、買ったばかりの時。

 

「あ、そういえばもうそろそろ1年なんだよね」

「何がよ?」

「わたしのアルバイト。バイト先の皆がお祝いしてくれるみたい」

「ほほぅ、結構気さくなトコなんだ」

「へ? ちびっこってバイトしてんのか?」

「泉ちゃん、これから受験があるのに大変だね」

 

そういや話したこと無かったな、この2人には。

こなたさんの場合、受験はともかくとして、定期テストの時もバイトに精を出してるようだが。

 

「そう言えば、泉さんがアルバイトを始めたのは去年の今頃でしたね」

「そだよ〜。まさきはそういうことしてもらった事無いの?」

「生憎、コンビニのバイトだからなぁ・・・。みんな良い人たちではあるんだけどね」

 

お祝いをして貰ったことは無いなぁ。

ま、お祝いをしたことも無いからおあいこか。

 

「・・・試しに今度みんなでこなたのバイト姿見に行ってみよっか♪」

「あ、それ面白そうだね。こなちゃん、どんなカッコしてるんだろ〜♪」

「いい機会ですから、わたしも1度行って見たいですね♪」

 

かがみさんがからかう様に言った所をつかささんとみゆきさんが援護射撃。

そういや正月の時にこなたさんが父娘(おやこ)でかがみさん達の巫女服姿を見に来たとか行ってたっけ。

まぁかがみさん本人はわざわざ見に来たお返しのつもりで言ったのだろうが・・・。

 

「うん、いいよ〜」

「て、いいのかよ!? 普通嫌がるトコだろ!」

「かがみさん・・・コスプレって見られるためにしてる様なモンだよ?」

「そりゃそうだろうけど・・・」

「うんうん、まさきは分かってるね〜♪」

 

こういう事はまだかがみさんよりこなたさんの方が1枚上手のようだ。

 

 

 

<陵桜学園:放課後>

 

 

 

「あ、お姉ちゃ〜ん、まさき先輩!」

「お、ゆーちゃんにみなみちゃん」

「お〜っす」

「こんにちは、泉先輩、赤井先輩」

「・・・はうっ!?」

 

帰り際、岩崎さんとなんとなく見覚えのある二人を引き連れた小早川さんに昇降口で遭遇。

ちなみに今日はこなたさんと2人で帰宅する所である。

しかし小早川さんがこなたさんを見るなり、こんな反応を・・・?

あ、なるほど。

 

「そういや今日から1年生は身体測定か。」

「・・・そういやそういう時期だったネ。お、パティと・・・どなた?」

「ハロー! コナタ、マサキ!」

 

片方は外国人って事とハイテンションで印象も強かったパトリシア=マーティンさん。

相変わらずマイペースというか・・・無駄にテンションが高いなぁ。

もう1人はどっかで会ったような・・・はて?

 

「あ、とりあえず初めましてっす。小早川さんから聞いてますよ。泉先輩に・・・赤井先輩、で良いんですよね?」

「あれ、まさきの知り合い?」

「・・・ああ、年末のコミケの時に八坂さん達のトコにいた・・・村田さんだっけ?」

「田村っすよ!田村ひより!」

「ああ、そうだそうだ。印象薄いからこんがらがってた」

「うわ酷ッ!」

「冗談だよ」

「・・・ワザとっすか? ワザとなんっすか!?」

「うん」

「即答!? やっぱ赤井先輩ってドSっすか!?」

「いんや全然。てか前も思ったけどこれでドSっていう程か?」

 

うん、やっぱりからかうと面白いなこの娘。

しかし彼女も小早川さん達と同じクラスだったらしい。

ここまで来ると・・・何かに導かれし者たち?

 

「・・・何だかまさきの新しい一面が見えたような気がするよ」

「・・・・・・(コクコク)」←同じ意見

「えっと・・・(汗)」←付き合いが短いから何とも言えない

「ナンだかマサキがいきいきシテマスネ」←やっぱりマイペース

 

まぁそれは置いといて。

 

「そういや小早川さんのさっきの反応は何?」

「あ、その・・・お姉ちゃん、高校に入ってからどの位成長したかな~って・・・」

 

やっぱり・・・そりゃ聞きにくいわな。

 

「いや〜、縦も横もさっぱりでさ〜」

「え〜!?」

「・・・(ぺたぺた)・・・大丈夫、この先きっと成長する。」

「ミナミ、キニシナイキニシナイ! ジュヨウはありまスヨ〜♪」

「パトリシアさんはそんなに成長してるからそんな事が言えるんすよ・・・わたしだって。わたしだってぇ!」

 

・・・毎度毎度こいつは(汗)。

てか後輩達もどこぞのご近所姉妹と同じかい。

 

「何度も言うがな・・・男の前でそういう会話はやめい」

「・・・あれあれ〜? ナニを想像したのかな、まさきくぅ〜ん?」

「やかましっていうかいちいち引っ付くな!」

 

こっちは健全な青年男子である。

多少いかがわしい事を考えてしまうのはしょうがないだろ・・・て!

 

「それ以前に、後輩達に変な誤解を生みそうな事をいうn「使える・・・」・・・は?」

 

とりあえずこなたさんを黙らせようとしたら、田村さん突然呟き始めた。

 

「先輩を・・・して・・・こういう展開は・・・いや、でも・・・ブツブツ・・・」

 

急にブツブツと早口でつぶやき始めた・・・なんか怖いぞ(汗)。

するとこなたさんが何かを悟ったのか田村さんに近づく。

 

「ねぇねぇ、田村さんで良いんだよね?・・・ゴニョゴニョゴニョ・・・」

「マジッすか!? となると・・・キタキタ、ネタがキタ〜! 先輩方ありがとうございます!」

「いや、俺は何もしてないんだけど・・・」

 

こなたさんが田村さんに何か耳打ちをしたとたんに何故かお礼を言われてしまった。

 

「がんばってね〜♪」

「みんなゴメン、私先帰るから!」

「え? え? 田村さん?」

「ユタカ、ヒヨリには大事な使命がウマレタのデス」

「・・・使命? 絵を描くこと?」

 

物凄く・・・嫌な予感がします。

 

「こなたさん、何吹き込んだの?」

「ん? まさきの生態系」

「うぉい!?」

 

 

 

つづく・・・



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第三十九話 拝啓、オタクの街より

<○○線電車内>

 

 

 

現在秋葉原に向かって移動中。

と言うのも以前かがみさんが『今度みんなでこなたのバイト姿見に行ってみよっか♪』と言ったところ、こなたさんがそれを大歓迎したのだ。

で、こなたさんのバイト先は秋葉原にあるとの事で、こなたさんが先に向かって俺たちは後から行くことになった。

・・・一緒に行けばいいのにと思うかも知れないが、そうなってしまった理由は俺が日直だったからである。

しかも来る途中、ついでにアニ○イトに寄って買い物も頼まれてたりする。

実は初めて行く秋葉原・・・どんな所だろう?

 

 

 

<秋葉原:駅前>

 

 

 

「駅を出た瞬間、凄い人達がいたわね・・・」

「まぁこの近辺くらいだと思うけど・・・てか思いたい(汗)」

 

駅を出てすぐに目に入ったもの・・・チラシを配ってるメイドさんやコスプレイヤーの皆様方(汗)。

お客さんの勧誘に頑張ってるんだろうけどさすがに・・・なぁ。

 

「こなちゃんもあんな格好して働いてるのかな?」

「コスプレと言っても、色々なものがありますし・・・そもそもあの格好では『メイド喫茶』なのでは・・・?」

 

メイド服もある意味コスプレだろう。

 

「とりあえずさっさと買うもの買って移動しようか」

「そうね」

 

そして移動を開始したら何だかチラチラと見られてる・・・ぶっちゃけ視線を感じる。

俺達の内の誰かを・・・見てる?

何だか数人のいい年した大人達(主に男)がこちらを見て、何か話してるようだが。

そのうち1人の男性がこちらに寄ってきた。

 

「すいません、写真取らせてもらってもいいですか?」

『は?』

 

いきなりそんな事を言われても反応できるはずが無く、こちらの返事を聞く前に写真を取り始めた・・・つかささんを。

 

「すいません、こっちもいいですか?」

「ひろ○きちゃんって言ってみてください!」

「すいません、こっちも・・・」

 

次々とカメラを持って集まってくる男達。

こういう人達をカメラ小僧って言うんだっけ?

つかささんはカバンで顔を隠すなどして相当嫌がっているが、彼らはそんな事はお構い無しと言わんばかりに写真を取っている。

 

「・・・わたし神○じゃないです、柊です・・・」

 

そういや去年の誕生日にこなたさんがつかささんに贈ったのが確か・・・(汗)。

 

「おお〜、その顔いいね〜!」

「こっちもこっちも!」

「富○フラッシュ!」

 

どうやらつかささんをコスプレイヤーと勘違いしている様子。

しかし・・・友達がそんなつもりも無いのに見世物同然にされるのはいい気分がしないな。

 

「ちょっとあんた達、いい加減にしなさいよ! ウチの妹が嫌がってるじゃない!」

 

かがみさんが動き出したが人数が人数である。

 

「いちいち相手してたらキリが無い。こんな連中ほっといてさっさと行こう」

「さ、最後にこっちもお願いします!」

「って、何やってんのアンタって人はぁ!」

 

スパ〜ン!

 

「あいったぁ!?」

 

()()の頭にハリセンを叩き込んだら実にいい音を立てて入った。

 

「たたたた・・・なんでわたしだけ実力行使なんスか!?」

「それ以前に先輩、どっからハリセンを・・・?」

 

何故か店先に置いてあったハリセンを使って叩いたのはカメラこぞ・・・じゃなくて田村さんだった。

 

「すいません勝手に使わせてもらって」

「これくらいお安い御用よ、お兄さん。それにしても中々切れ味鋭いツッコミだったわ!」

 

使わせてもらったハリセンを店の店員に返す。

ちなみにハリセンで田村さんをしばいた際に八坂さんも発見。

ネタを探しに秋葉原(ココ)に来たとか。

それはさておき。

俺がつかささんの手を引き強引にカメラ小僧の群れ(いつの間にか増えてた)を掻き分けて進み、つかささんの両サイドをかがみさんとみゆきさん、後方を協力要請をして引き受けてくれた八坂さんと田村さんが(表情が少し危ないが)隠す形でやはり強引に進んだ。

 

「みんなありがとう・・・怖かったよ〜(涙)」

「よしよし、もう大丈夫よ」

「あの方達ももう少し常識とマナーを守ってもらいたいですね」

「ああいう連中は、断わってもしつこいのが多いみたいだから無視が一番だよ」

「ふむふむ、これでまた1つネタのストックが・・・」

「さすがにベタ過ぎるよひよりん」

 

そんな事を話しながら俺たちはアニ○イトの前に着いた。

ちなみに後輩2人はいろいろと目的地があるらしく、途中で別の店に入って行った。

 

「ところでまさきくん、いつまでつかさの手を握ってるのかしらね?」

「へ?・・・あ、ごめん! ここまでくればさすがに大丈夫だよね(顔真っ赤)」

「う、うん! ありがとう、まーくん(上に同じ)」

 

その後、散々からかわれたのは言うまでも無い・・・。

 

 

 

<アニ○イト店内>

 

 

 

「この手の店ってこんなに大きかったかしら・・・?」

「何階建てなんだろうね?」

 

フロアごとの広さはそうでもないがそれを補う建物の高さがある。

地方のそれよりかなり充実した品揃えのようで、所々でマンガ雑誌(新刊)やキャラグッズ(新作)等が所狭しと並んでいる。

 

秋葉原(ここ)の店は初めてだからな〜。どこに何があるのかさっぱりだね」

 

頼まれたのは新刊の月刊誌だから、分かりやすい所に置いてあると思うんだが。

 

「ひとまず、店員さんに聞いてみましょう」

「まぁ客商売なんだから変なヤツはいないだろうし。すいませ〜ん」

 

かがみさん達は近くにいた女性店員(眼鏡っ娘)に探し物を尋ね、親切に教えてもらっていた。

俺は適当に辺りを物色していたのだが・・・。

 

「初のご来店ありがとうございます! 何をお探しかね少年よ!?」

「見つからないのであれば! 俺たちに任せておけ!」

「うぉわ!?」

 

忘れていた・・・この系統の店の店員は異様にテンションが高いのだ。

ってあれ?

片方は見覚えが・・・。

 

「俺の名は殿鬼ガイ! この秋葉原店の、アニメ店長であぁる!」

「そして俺の名は兄沢命斗! 池袋本店の、アニメ店長であぁる!」

「・・・本店の店長が何してるんですかこんな所で?」

 

関わりたくない人に関わってしまった(汗)。

 

「細かいことは気にするな少年よ! 『お客様は神様です!』の精神にのっとり・・・ん? 君はもしかして伝説の少女Aとよく見かける少年ではないか!?」

「何? ことごとくお前の『伝説の少女Aシフト』を打ち破って来た、あの少年か!?」

 

・・・いつの間にか変な方向で有名になってたらしい。

てか妨害したつもりはまったく無かったんだが。

 

「フッフッフ、相手にとって不足はなし。そして秋葉原店には初めてのご来店と来たら・・・ふぅむ、兄沢よ、アレをやるか!」

「ふ、当然だ。以前は不覚を取ったが、今回は俺が頂く! 店長ファイト! レディ〜・・・ゴォー!!」

 

ダダダダダダダダダダダダダ・・・・・・。

 

「え〜っと・・・?」

 

何で俺が初めて来た事を知ってるのかとかツッコミたいところが色々あったのだが(汗)。

イマイチ状況が把握できないところにかがみさん達が戻って来る。

 

「どうかされましたか? まさきさん」

「いや、なんと言うか・・・」

「初めてのご来店のお客様に対する突発的で不定期なイベントですよ〜」

「・・・イベント?」

 

先ほどの眼鏡をかけた女性店員さんだ。

何でも店長達がオススメの一品を紹介するから気に入ったほうを買えばいいとの事。

ちなみに拒否権は一応あるらしい。

なんか軽く眩暈がしてきた・・・。

 

「無視するのも悪いし、皆は先行ってて。後から行くから」

「付き合い良すぎるのも程ほどにしときなさいよ?」

「まーくんがんばってね〜♪」

「泉さんのアルバイト先の地図です。これなら道に迷わないでしょうし、わたしは覚えましたから。気を付けてくださいね?」

 

と言うわけで地図を受け取り、3人には先にいってもらった。

ちなみにこなたさんが事前に地図書いてはくれたが、さっぱり分からなかったのでみゆきさんが調べてくれたのは余談である。

 

・・・・・・ドドドドドドドドドドドドド!

 

あ、店長達が戻ってきた。

 

「さあまずは俺のターン! ネオスポーツ代表、『でぃあーぼーいず』! ただいま第3章絶賛連載中!」

「・・・ああ、あのバスケ漫画ですか」

 

深夜の時間帯にアニメをやってたとか何とか。

そういや週刊誌から月刊誌に引っ越した事もあったっけ。

 

「甘い! 甘いぜ兄沢! 俺のターン、ネオバトル代表、『天使の心』! こちらも絶賛連載中!」

「・・・週刊少年誌でやってた昔の漫画のパラレルモノでしたっけ?」

 

パラレルとはいえ結構違う設定もあるが、そこさえ気にしなければ読んでて結構面白い。

ちなみに100tはんまぁは健在である。

 

「さあ、熱い青春時代を取るか?」

「それとも、非日常な毎日を取るか!?」

『少年よ・・・判定は、どっち!?』

 

なんだか某料理番組を思い出すな。

ちなみにこの場合俺の答えは・・・。

 

「どっちもネカフェで全巻読破してるんで遠慮しときます」

『ぬぅわぁにぃ〜〜〜!?』

 

いちいちリアクションがオーバーだが、だからこそからかい甲斐がある♪

・・・あれ、俺って田村さんの言うようにひょっとしてドS?

ま、何はともあれ。

何とか商品を買ってもらおうと右往左往する2人を適当にあしらい、アニ○イトを出た俺は3人の後を追った。

 

「・・・兄沢よ、これがあの少年の実力か・・・?」

「ヤツを普通の少年だと思って甘く見るなよ・・・? 俺も何度敗北を味わってきたことか・・・」

 

俺がアニ○イトを出てから、こんなやりとりがあったとか・・・。

 

 

 

<コスプレ喫茶:入り口>

 

 

 

「本当にここであってるのかな・・・?」

 

雑居ビルのとある一室・・・にしか見えないが一応張り紙があるから合ってるのだろう・・・多分。

とりあえず入ってみることにする。

 

ガチャ。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様♪」

 

・・・パタン。

 

・・・あれ、ここでいいんだよな?

てかコスプレ喫茶だもんな?

もう一度扉を開けて見る。

 

ガチャ。

 

「お帰りなさいませご主人様♪」

「・・・こなたさん、某学生服のコスプレなのに何でご主人様?」

「気にしない気にしない♪ あ、遅れるって話は聞いてたよ〜。皆のところにご案内するね?・・・でもいきなり扉を閉めるのはさすがに酷いよまさき」

「あ~、ごめん。色んな意味で頭が混乱したもんだからつい・・・」

 

そして3人のテーブルで皆と合流、飲み物を注文することにする。

お菓子はフリーらしい・・・普通は飲み物がフリーなのでは?

とりあえずキャラになりきって店員が接客するため、こなたさんの接客態度が若干・・・てかかなりキツメの印象だ。

なにせ・・・

 

「ちょっとアンタ、飲み物は何にする?」

「早く決めなさいよ。遅いと罰金よ!?」

「ただのメニューには興味はありません」

「団長命令よ、待ってなさい!」

 

なんて言われりゃね・・・。

 

「本来のこなたを知ってなきゃ蹴っ飛ばして帰るわよ、わたし・・・」

 

そのためか、物凄く不機嫌そうなかがみさん。

 

「お姉ちゃん。こなちゃんはわたし達にしかやってないみたいだし、お仕事なんだから許してあげようよ」

「それに、普段とは違う一面も見れて楽しいですよ?」

「俺はここに入った時のこなたさんの対応のほうがビックリしたんだけど」

 

今の彼女は某小説の団長兼ヒロインになりきってるからああいう態度なのだろう。

・・・某ヒロイン、バイトは出来そうもないなぁ。

イメージ的に。

 

 

 

それから暫らく経って。

こなたさんと一緒にここでバイトしているパトリシアさんに加えてながもんっぽいコスプレしてる人の3人のステージを楽しんだ。

ステージを無事に終わらせたこなたさんとパトリシアさんが嬉しそう戯れてるのを見ていたかがみさんが、ここでようやく笑顔を見せた。

 

「ハロー! ホンジツはごライテンイタダキありがとうゴザイマス! ワタシたちのダンス、タノシんでいただけマシタカ〜?」

「うん、凄く上手だったよ〜♪」

「やはり踊りと言うのは、生で見ると迫力が違いますね」

「相当練習したんでしょ? 大変じゃなかった?」

 

会話が弾み、気が付いたときには少々長居しすぎたようで日が陰って来た。

こういう所に来るのも、たまには良いかもしれない。

・・・駅を出たときの出来事が無ければ、だが。

 

「どう、まさき? ここでバイトしてみない?」

「遠慮しておく」

 

さすがにやるかと言われたら俺には出来ん。

 

「ムムム・・・ツンデレ、テンネンドジッ子にメガネっ子、そしてコナタ・・・マサキ、やりまスネ!」

「・・・君が何を言ってるのか分からないよ、パトリシアさん」

 

意味不明の無茶振りが来たのでワケわからんからとりあえずネタで対抗しておく。

 

「これイジョウはキンソクじこうデス♪・・・ホントにヤリますネ、マサキ♪」

 

こんな会話がフツーに出来るから周りから変な目で見られるんだよな〜。

 

 

 

つづく・・・



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第四十話 中間テストでサプライズ!

<夜:バイト中>

 

 

 

この時間帯は客が少ない。

販売店(コンビニ)としては良いことなのか悪いことなのか、ひじょ〜に判断に悩むところだが、コンビニの明かりが地域の防犯に一役かってる、と言う話もある。

まぁ忘れた頃にやって来そう・・・いや、来なくていいが。

面倒事はゴメンである。

とりあえず暇だ。

仕事が無いわけじゃないが暇だ。

と、そこに見覚えのある()()が入ってきた。

 

「あ、まさきくん、こんばんわ。今日はバイトだったんだ」

「いらっしゃいませこんばんわ〜。かがみさん・・・何か、あったの?」

「・・・別に」

 

怒ってる・・・絶対怒ってる(汗)。

何か気に触るような事したっけ?

今朝から普通にランニングして普通に登校して普通に喋って普通に下校したが・・・今さらだがホントに違和感ねぇなおい。

そんな事を考えてるうちに、かがみさんが2リットルのペットボトルを持ってカウンターまで会計に来た。

 

「○○円になります。袋に入れる?」

「そのままで良いわ・・・え〜っと・・・あれ?」

 

友達が客として来店するとどうしても言葉使いが崩れるな〜・・・おや?

かがみさんがポシェットやポケットをあちこちとごそごそあさり回っている。

なんていうか、かがみさんもたまにポカやることがあるんだなぁ。

おそらく・・・。

 

「あ〜、とりあえず俺が立て替えるってことで良い?」

「・・・ええ。お願いするわ(怒)」

「明日、返済ヨロシク・・・(ビクビク)」

 

財布を忘れて来たらしい。

てか妙にイラついてるかがみさん、マジで怖いぞ・・・。

 

「・・・一応何があったか聞いて良い?」

「何かイライラしてるとさ、小さいミスが多くなって余計イライラすることってない?」

「まぁ中間テストも近いし気持ちは分かるけど、たまには気分転換でもしたほうが良いんじゃない?」

「それもそうね・・・考えとく」

 

そういってジュース代を俺が立て替えて、かがみさんは帰っていった。

ヘタな強盗より怖いかもしれないと思ったのは俺だけだろうか・・・?

 

 

 

<陵桜学園:3−B>

 

 

 

中間テストも近い今日のお昼も、俺たちはいつも通り。

 

「何かまたチビッ子みたいなヤツが出たみたいだナ♪」

「あ〜、今朝のニュースでやってた、オタクがつかまって漫画とかゲームが押収されたってヤツ?」

 

かがみさんの昨夜の不機嫌はとりあえず収まったらしい。

今日の昼休みは、朝方やってたそんなニュースの話題から始まった。

けど、かがみさんはともかく日下部さん、その話を出したら・・・。

 

「毎回毎回さ、不公平だと思うんだよね。そういうのはす〜ぐ槍玉に挙げちゃってさ。良いゲーム、良い漫画もいっぱいあるのに・・・」

 

こなたさんのスイッチが入るって(汗)。

まぁ正論ではあるが。

 

「たしかにね。世間の風潮って言うか、そういう時に悪い作品(ヤツ)ばかりを目立たせて叩いて、それに近いジャンル全体に悪いイメージを植えつけてるようにも思えるな、俺は」

 

こなたさんの反論は向こうも予想してただろうが俺の反論は予想してなかったようで。

 

「あ〜・・・えっと、何かワリィなチビッ子、赤井」

「わ、悪かったわよ・・・」

 

2人揃って謝ってきました(苦笑)。

 

「2人がそこまで気にするようなことじゃないって」

「まさきの言う通りだよ。てか何気に2人とも良い人だよね。普通だったら『オタク必死!』とか言って馬鹿にされそうな所だけど」

「趣味は人それぞれ、とまさきさんがよく仰ってますものね」

 

さりげなく俺を担ぎ上げないでくれ、恥ずかしいから(汗)。

 

「そういう事で犯罪をおこす人達が悪いだけだもんね♪」

「気にするなって言う方が難しいかもしれないけど、今時は子供の頃から漫画やゲームに関わらないで大人になる人ってそんなにいないと思うよ?」

「まぁ、影響を受けてる部分も確かにあるかもしれないけど、あからさますぎるのが多いよね。オマケにソレを筆頭にしてニュースとかで大騒ぎするんだよね」

 

やる方もやる方だが、報道する方もある意味誇張してる部分があるように思える。

 

他のユーザー(わたしたち)が迷惑するから勘弁してほしいよ、ホント・・・」

「アンタの場合はまず年齢制限を守れ・・・」

 

ごもっとも。

てかテスト前にする会話かこれ?

そんな訳で・・・。

 

「とりあえず、まずは目の前のテストだよね。」

「ちょ、まさき! 何そのムチャ振り!?」

 

話題を変えてみる。

こなたさんはスルーしたかったんだろうが一応受験生だろ(汗)。

ここにいるメンツは、とりあえず全員が進学希望という事が決まったのでテスト勉強くらいはやっておかないと。

てかそれが学生の本分なんだけどね。

 

「じゃあ皆で助け合いも兼ねて、放課後に図書室で勉強する?」

「賛成。心配なのが少なくても3人はいるし」

 

峰岸さんの提案に特に異論は無い。

ちなみに・・・。

 

「そりゃ、まさきが心配してくれるのは嬉しいけどさ・・・うぐぅ・・・」

「うう、私ももっとがんばんなきゃ。でも・・・はう〜(涙)」

「ヴぁ〜・・・アタシは頭使うより体動かしてるほうが性に合うぜ・・・」

 

心当たりのある3人がそれぞれ否定できない事実を突かれて大人しくなったのは言うまでも無い。

ちなみに中間テストまで既にあと1週間である。

 

 

 

<放課後:図書室>

 

 

 

後輩達(ギャラリー)が居るだけでプライドがムクムクと出てくるのは何でだろうね?」

「そう思うんならさっさと手を動かしなさい。まだテスト範囲の半分くらいなんだから」

「頭使う時はやっぱり甘いものが必要だゼ!」

「まぁまぁ、勉強会(これ)が終わったらこの前のクッキー持って行くから、頑張ろうよ」

「お姉ちゃん、は手が離せないみたいだし・・・峰岸さん、ちょっと良いかな? ここなんだけど・・・」

 

あっちは既に教わる側がダウンしかかってるみたいだ。

頑張ってるのはつかささんくらい・・・こなたさんも頑張ってはいるみたいだが。

日下部さんは・・・アウトかな?

ちなみにこっちは・・・。

 

「まさき先輩、ここから先、どう解けばいいんですか?」

「ん? ああ、ここはこうしてね・・・」

「みゆきさん、ここ、理解できなかったんですけど・・・」

「ここはですね・・・」

「マサキ、ちょっとイイデスか?」

「ん? ああ、日本史か・・・さすがにパトリシアさんには難しいよなぁ(汗)」

「こーちゃん先ぱ〜い! ここがゼンゼンわからないっす!!」

「まったく常日頃から言ってるでしょ? きちんと趣味と勉強を両立させないとダメだって」

 

それと田村さん、図書室ではお静かに。

現在、何故か後輩5人も加えてテスト勉強をしていたりする。

図書室前でばったり出くわした俺たちと1年生4人組。

考えることは皆同じかと思って中に入ったら偶々いた八坂さんと鉢合わせ。

何だかんだで皆でやることになったのだ。

ダメな娘と飲み込みがいい娘に加えて復習を兼ねた指導員を合わせて総勢12人!

俺は後輩達の勉強を見ながら自分の勉強、優秀組であるかがみさん、峰岸さんに、こなたさん達3人を見てもらって、みゆきさんと八坂さんが俺と一緒に後輩達に教えている。

 

「しかし人は見かけによらないモンだね。八坂さん、成績良い上に生徒会会計だったとは・・・」

「別に上位ってワケじゃありませんし、ある程度両立しないと両親が許してくれないんですよ。趣味とかいろいろと」

 

・・・正直八坂さんが勉強を教えられるのが意外だったんだが。

まぁそれくらい出来なきゃ生徒会になんて入れないよな。

 

「もうすぐ下校時刻・・・まだまだ終わりそうに無いなコレじゃ」

「そうですね。テスト前の休日にまたどこかに集まって、改めて始めたほうがよさそうです」

 

後輩に教えながら自分も勉強する、というのはさすがにキツイ。

 

「あ、私達は今度うちって言うか、お姉ちゃんの家で皆と勉強会開く予定だから大丈夫ですよ?」

「今回は偶然でしたけど、色々教えてもらって助かりました」

 

どうやら小早川さんの家ってか泉家で勉強会を開くのは確定だったらしい。

 

「ゆーちゃん、ソコはきっぱりと『わたしの家』って言ってもいいんだよ?」

「あはは、まだ慣れてなくて・・・」

 

親戚とはいえ他人(ひと)の家だからね。

慣れるのはまだ時間がかかりそうだ。

 

「じゃあ、あたし達もやっとくか?」

 

唐突にかがみさんが提案する。

そうなると・・・。

 

「場所はどうする?」

 

特に反対する理由が無かったので乗ることにする。

 

「みんなで出来るくらいのお部屋があるところって言うと・・・」

「わたしの家は皆さんの家から少し遠いですし・・・」←都心在住

「やっぱり柊家かな? みゆきさんに負担かかっちゃうけど」

「わたしは特に気にしませんから大丈夫ですよ?」

「ウチだとゆーちゃん達と被っちゃうしね〜・・・お父さんは大喜びしそうだけど。むぅ、いっその事、土日と勉強合宿にする?」

 

・・・時間が止まった・・・ような気がした。

まさかこなたさんの口から『勉強合宿』という言葉が出てくるとは(汗)。

 

「・・・こなたさん、頭でも打ったの?」

「勉強しすぎて知恵熱でも出したかもしれないわね。保健室に行く?」

「2人ともヒドイよソレ!」

 

そりゃあ普段の彼女の行動を見てると・・・ねぇ。

 

「そうすると、多すぎて大変だからわたしとみさちゃんはみさちゃんの家でやるよ?」

 

峰岸さん達は大抵テスト勉強を日下部さんの家でやってるらしい。

日下部さん曰く、『ホントの目当てはアニキだろうけどな♪』との事らしいが、峰岸さんの成績とは関係は無さそうだ。

泊まるかどうかはさて置き、次の土日は柊家で勉強会を開くことになった。

 

その結果・・・。

 

こなたさんが自己ベストの点数を叩き出したのは嘘のようでホントの話である。

さらに一部の教科では俺はもとよりかがみさんの点数をも1点差で上回ったのは記憶に新しい。

ちなみに小早川さん達1年生組もかなりいい成績を残したとか。

 

 

 

「ふっふっふ。わたしが本気を出せばざっとこんなモンよ」←順位2ケタまであと少し

「こなちゃんすご〜い!」←初の160位台

「やはりきちんと勉強すれば、泉さんもつかささんも学力は中々なものですね」←数点差で学年トップ

「あ〜・・・まぁ常に本気を出せば普通に進学も問題ないんだろうけど」←成績はトップ30だが上記の理由でショック

「何か・・・何か納得できない・・・」←初の70位台だがやっぱり素直に喜べない

「おお〜、あたしの成績も上向いてきたぜ♪」←ピッタリ200位

「みさちゃんも最近は頑張ってるもんね。」←何気にトップ50入り

 

 

 

つづく・・・



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第四十一話 流れ行く時間の中で

<陵桜学園:昼休み>

 

 

 

「へ? チビッ子って今日が誕生日だったんか?」

「そだよ〜。わたしも大人の仲間入りなのだよみさきち〜♪」

「まだ未成年でしょ〜に」

「ふふふ。とにかく泉ちゃんおめでとう。明日何か用意してくるよ♪」

「いやいや、気持ちだけでも十分、お腹いっぱいだよあやのさん」

 

俺が一言ボソッと呟いても気にせずこなたさんは終始ご機嫌である。

そう、今日5月28日はこなたさんの誕生日。

去年は泉家でささやかなお祝いをしたのだが、今年は平日な上に受験生ということもあって控えようということになった。

まぁ主にかがみさんが主張したのだが。

そのため俺たちは朝の内にちょっとしたプレゼントを用意して渡したのだが、峰岸さんや日下部さんはその事を知らず、昼休みの会話中に初めて知ったという訳だ。

 

「でもさ、そろそろ誕生日って言われてもあんまり嬉しいとか、そういう感覚は無くなっちゃわね?」

「日下部の言う通りかもね。何年か経ったら誕生日が嫌になるって話も聞いたことあるし」

「でもお祝いしてくれるのは嬉しいと思うな〜」

 

ちなみにウチの母さんは嫌がる、というかウンザリするタイプである・・・どうでもいいか。

少なくともここにいる6人のうち、最低4人はあまり心配いらないような気がするぞ。

見た目と遺伝子的な意味で。

 

「いや〜、わたしは普通に嬉しいよ?」

「泉さんは、何か目標があるのですか?車の免許を取るとか・・・」

 

車の運転ねぇ・・・ペダルに足、届かないんじゃ?

しかも行くところは多分・・・。

 

「秋葉原にしょっちゅう行ってそうだね」

「それは否定はしないヨ、まさき・・・けどそれ以外にも嬉しい事があるからね〜♪」

「嬉しい事?」

 

否定はしないらしいが、他にも嬉しいことって・・・あ。

 

「これで堂々と18禁ギャルゲーが出来るのだよ!」

「今までも堂々とやってたでしょ・・・」

「てか学生がそんなもんやってていいのか・・・?」

「ぎゃるげー? チビッ子、なんだそりゃ?」

「それはだね、男の子や女の子がいr「普通の女子高生はまずやらんゲームだ」モゴモゴ・・・」

 

やっぱりそれかい(汗)。

他のみんなは苦笑気味・・・みゆきさんはおろか峰岸さんも一応どんなものか知ってるようだ。

しかし日下部さんは知らないらしく、こなたさんが普通に説明し始めたのでとりあえず口を塞いでおく。

てか普通は手に入らないがこなたさんの環境は色んな意味で特殊だからなぁ・・・。

 

「ぷはぁ! ハァ、ハァ・・・まさきって結構大胆だね・・・」

「は?」

「女の子の口を手でふs『スパァン!』あいたぁ!?」

「わかりたくないけど、わかったから言うな!」

 

とりあえずノートをハリセンの代わりにしてこなたさんの言いたい事を止めておく。

他のみんなはこんな光景を見て笑っていた。

・・・条件反射で体が動くことがあるんだが何とかならんかね?

 

 

 

<放課後:下校時>

 

 

 

昇降口で小早川さん、岩崎さんの2人と遭遇するも、

 

「ゴメンねおねえちゃん、先輩達もすいません! ちょっと急いでるので!」

 

と、めずらしく興奮した様子で帰っていった。

岩崎さんに尋ねるも、

 

「わたしも詳しい話は聞いていませんので何とも・・・」

 

と言ってペコリと頭を下げ、小早川さんの後を追って行った。

表情からは読みにくかったが、口止めされたのか空気を読んだのか・・・多分知ってるんだろう。

聞いてないのは『詳しい』話だし。

それに俺も大体の想像はつく。

しかし・・・。

 

「ゆーちゃん、どうしたんだろ?」

 

1番気付きそうなヤツが気付いていなかった!

今日の朝昼の事を考えれば解るだろうに・・・。

 

「今日の晩飯はパーティかもしれないよ?」

「晩め・・・・・・あ」

 

こなたさんがポン、と手を叩く。

俺の言葉でようやく気付いたらしい。

 

「同じ家に住んでるんなら察しなさいよ」

「ひょっとしたら泉さんに内緒で準備してるのかも知れませんね♪」

 

みゆきさん、何でそこまで言っちゃうかな・・・ておや?

こなたさんが思案顔・・・まさかとは思うけど(汗)。

 

「こなたさん、今日はこれからバイトだっけ?」

「うん・・・」

「・・・バイト先のみんなって結構気さくな人達なんだよね?」

「・・・うん」

「こなたさんの誕生日も祝ってくれるとか・・・?」

「・・・・・・」

 

こなたさん、ノーコメント・・・ダメじゃん。

なんというダブルブッキング・・・どちらかをキャンセルするしかないだろう。

とりあえずバイト先に着いたら、キャンセルもしくは次のバイトの時に祝ってもらうようお願いして、今日はバイトが終わったら速めに帰るとの事。

向こうも向こうで準備してただろうに(汗)。

 

「こなちゃんも案外抜けてるトコ、あるんだね」

「つ、つかさにそんな事を言われるなんて・・・でも今回ばかりはさすがに何にもいえないよ」

「それに、18歳って主張してもこんなちんちくりんじゃ説得力のカケラも無いわよね〜」

「にゅお〜!? HA☆NA☆SE!」

 

かがみさんにならともかく、つかささんにまでそう言われた上にかがみさんに頭を掴まれて暴れるこなたさんの様子に、みゆきさんも苦笑している。

 

「まさきさんも、よくあそこまで気付きましたね?」

「まさかここまでお約束を地で行ってるヤツがいるとは思わなかったけどね・・・」

 

家族が本人に内緒でパーティの準備をしたにもかかわらず、本人は別の所でお祝いしてもらい帰りが遅くなることを後から、つまり家の方でパーティの準備が終わってから連絡が入る。

さすがにソレは・・・ねぇ(苦笑)。

 

「何はともあれ、今日からはわたしのほうが年上なのだよ!」

「・・・何言ってんだか」

 

遂に開き直ったらしい。

かがみさんもため息ついているが、本人の性格を知ってるためかそれ以上何も言うつもりは無いようだ。

 

「と、言うわけで私の事は『こなたお姉さま』とお呼び!」

「わかったよ、呼べば良いんでしょ? こなたお姉さま」←即答

 

『・・・・・・』

 

この場にいる俺以外の全員が、凍りついた。

 

「どしたのみんな。それにこなたお姉さまも?」←あくまで素の状態な俺

「・・・ごめんまさき、やっぱキャラじゃないからやめてお願いだから」←ある程度耐性があったため復活は速いがダメージは大きい

「わがままだなぁ、こなたの(あね)さん」

「ああもう! いつも通りでいいってば!」

「りょ〜かい」

 

ちなみにかがみさんを含め3人は未だに凍結中。

とりあえず俺は3人を正気に戻す作業に入るのであった・・・。

 

 

 

<それから数日後:泉家>

 

 

 

6月に入り衣替え・・・といっても6月に入ったらすぐ土日だから袖を通すのはもう少し先。

ちなみに俺は現在小早川さんが『男子に慣れるため』と言う理由で、泉家にお邪魔している。

話を聞く限りじゃもう必要ないような気がするが。

ちなみに泉父・・・そうじろうさんも俺に害は無いと判断したのかそれとも娘(こなたさん)に諭されたのか、最近ようやく普通に俺と話をするようになった・・・たまに殺気を感じるけど(汗)。

 

「そろそろ梅雨だね」

「雨が多くて嫌になっちゃいますよね。ジメジメするし」

「そろそろ洗濯物も乾きにくくなるんだよな〜。コインランドリーだってタダじゃないのに」

 

湿気が鬱陶しいったらありゃしない。

 

「やっぱり1人暮らしって大変なんですね」

「何でも1人でやらなきゃいけないからね。アレもコレも纏めてやろうとすると1日じゃとてもとても」

 

学生の本分である勉強、生活費のためのアルバイト、そして炊事などの家事。

やることが多く、受験勉強もあるため正直言ってかなり・・・とまでは言わないが負担は大きい。

だからどこかで必然的に力を抜かなければダウンしかねない。

でも1度『やる』と言った以上は最後までやらなければ意味が無い。

両親もその事にかけては心配してくれているが、月に1度は母さんが俺の顔を見に来て安堵してくれている。

 

「少なくともご飯の心配はいらないよね。イザとなればかがみんちに転がり込めばいいんだし♪」

「そんな事出来るかい!」

 

ちなみにこのことは早々につかささんの口から漏れてこなたさん達に追及されたのは余談である。

まぁ正直な話、柊家の食卓に招待されるのは非常にありがたいのだが。

 

「後は体調管理かな。そろそろ寒暖の差が出てくる時期だし・・・実家よりはまだマシだけど」

「そんなに違うんですか?」

「冬はこっちのほうがまだ暖かいからね」

「へぇ〜」

 

東北の南部とはいえ、関東との環境の差を肌で感じる時期でもある。

体調を崩しやすい小早川さんはあまり遠出をしないらしく、この手の話になると結構面白そうに聞いてくれる。

と、そこに、

 

「やほ〜、最近ジメジメしてきたね〜。元気にしてるか若人(わこうど)達よ!」

「あ、ゆいお姉ちゃん♪」

「お〜、ゆいねーさんいらっしゃ〜い」

「お邪魔してま〜す」

 

成実さんが現れた!

まぁそんな大げさに言うことじゃないけど。

旦那さんが単身赴任中で時間があるためか、非番の時はしょっちゅう妹の様子を見に来るそうだ。

・・・寂しさをまぎらわしているのか単に暇なのか。

 

「いや〜、最近曇りがちだし、これから本格的に梅雨の時期かと思うと気が滅入って来るよね〜」

「じゃあ明るい話題ということで。ねーさんもうすぐ結婚1周年だね〜」

「・・・そういえばそうですね。紙婚式、一足先におめでとうございます♪」

「あ、1周年だと紙婚式っていうんでしたっけ。2周年からは・・・えっと?」

「俺もあんまり詳しくはないから・・・」

「ネットで見てみる?」

 

そんな事で俺たちは盛り上がったのだが当の本人は会話に入ってこない。

・・・なんか悪いこと、言ったっけ?

 

「え~、梅雨の空模様とかけて、もうすぐ結婚記念日なのに旦那が単身赴任中なゆいねーさんの心ととく・・・」

「え〜っと(汗)」

 

何となく成実さんの言いたいことはわかった。

 

「その・・・ココロは?」

 

そこまで言って成実さんは落ち込んでしまった(汗)。

その背景には『ズ~ン・・・』と沈んでるような何かが見える。

 

「ふぇ〜ん、きよたかさ〜ん! あいたいよ〜ぅおぅおぅおぅ・・・!」

「ゴメンナサイゆいねーさん、わたしが悪かったよ・・・」

 

さすがにこれは、なぁ・・・。

 

「ハイ、お姉ちゃん。これ飲んで元気出して!」

「うぅぅ~、ありがと〜ゆたか」

 

暖かいココアを飲んで少し落ち着いたようである。

ていうかそこまで落ち込むならついて行けば良かったのでは・・・?

まぁ成実さんなりの事情や理由があるんだろうけど。

 

「このままじゃわたしの愛も錆び付いちゃうよ〜・・・」

 

ソレはないけどさ、と呟くあたりまだまだ余裕がありそうだ。

 

「どっかの修理工場に頼めば45分くらいで直りそうだネ」

「車の整備じゃあるまいし、傷口に塩どころか海水をぶっかけてどうすんの・・・成実さんも、電話で話すくらい出来るんじゃないんですか?」

「うっうっう・・・ありがとう少年よ。君のその言葉だけで十分だよ〜」

 

と、そこに携帯電話の着信音が鳴り響く。

何やら成実さんの携帯電話がなってるようだが・・・着信を確認した後、凄い勢いで電話に出た。

 

「もしもし!・・・うん、わたしは元気だよ〜! きよたかさんの声を聞けば元気100倍だよ!・・・・・・え?・・・じゃあ帰ってこれるんだ〜♪」

 

おいおい・・・。

 

「45分もかからないですね。お姉ちゃん嬉しそう♪」

「ホントに、愛の力は偉大だね〜。一瞬だったヨ」

「・・・・・・」

 

嬉しそうな成実さんを見て、離れ離れでも本当に幸せなんだなと思う。

相次いで離婚を発表する多くの有名人達にこの場面を見せてやりたいと思うほど。

 

「・・・どうしたんですか、先輩?」

「ん? いや、成実さんは幸せなんだな〜って思ってさ」

「そうですよね。距離が離れてるけど、お互いを想いあえるのってすごくいいですよね♪」

 

無邪気に微笑む小早川さん、電話を終えた成実さんをつっつくこなたさんに嬉しそうに頬を緩める成実さん。

将来、成実さんのような恋をして、家族を創っていきたい・・・。

そう思った6月の初頭だった。

 

 

 

つづく・・・



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第四十二話 誰もが持ってる黒歴史?

「野球中継が潰れるのはいいけどさ、やっぱ雨だと気が滅入るよね〜」

 

全国のプロ野球ファンが聞いたらフルボッコされそうな事をサラッと言ってしまうこなたさんの言い分は置いといて、梅雨に入ったからか暫らくは雨が続きそうだと週間天気予報は告げている。

 

「それに少し肌寒いよね。まーくん達男子はいいな〜、Yシャツは長袖があるし」

「それでもまさきさんは半袖でいられるのは・・・?」

「実家はもっと冷え込むからね。ついでに言うと小学生の頃は真冬でも制服のズボンは短パンだったし」

「そういや前にも似たような事言ってたっけ」

 

まあ卒業まで半年を切った時期にとある理由で長ズボンが使用不可になってしまったからなのだがそれは余談。

ちなみに帰りのHR終了後、かがみさんが来た後の今も雨が降ったり止んだりを繰り返している。

降るなら思いっきり降りやがれ、と文句を言いたくなるがそれがまかり通るはずも無いし、それでもし降って来たらある意味問題だ。

ちなみに5人で何となく話し込んでしまうのは受験生になった今でも変わらない。

 

「なんや自分らまだ残っとったんか?」

「・・・先生はいいですよネ〜、服装が自由に変えられて」

「こなた、幾らなんでもそれは・・・」

 

黒井先生が何か取りに来たのか、教室に戻って来た。

声をかけられたのは良いがこなたさん、先生に愚痴ってどうする。

 

「あっははは、何言うとる。着るモン考えんでええ制服のほうがよっぽど気楽やろ♪」

「黒井先生・・・教師としてその発言は如何かと(汗)」

「先生ってホンット〜にアレですよね・・・」

 

そういや黒井先生ってあんまり服装の変化が無いような気がする・・・。

そんな先生の言葉にかがみさんですら言葉がない。

こんなだから今になっても彼氏とか出来ないんじゃ・・・?

と、そんな事は口が裂けても言えない、6月のとある放課後の一コマだった。

 

 

 

<休日:埼玉某所>

 

 

 

「ありがとうございました〜!」

「・・・そんな本のどこがいいんだか・・・はい、こちら合わせて○○円になります。ありがとうございました」

「ちょっとやまとぉ、そういう事をここで言っちゃダメだよ〜」

「そうっスよ。(ピ〜)が(ブブ〜)して(完全規制用語)する良さが何で分からないんスか!?」

「そ〜デスヨ、ヤマト。せっかくニッポンジンとシテうまれてソダッタのにモッタイナイですヨ!!」

「・・・・・・」

 

俺、何でココにいるんだろう・・・?

八坂さんに『助けてくれ』と電話で救援要請を受けて何かと思い、駆けつけたのは良いが・・・いきなり執事服を着せられて、現在八坂さん達の後ろに立っている・・・てか立たされてる。

しかもさっきから何だかお客さんの黄色い声やら生暖かい視線やらが気になってしょうがない。

何かの罰ゲームですか、これは・・・?

聞いてみたらBL同人誌の即売会(イベント)らしい・・・話はやっぱ最後まで聞くべきだった(泣)。

 

「・・・取り合えずさ、もう帰っていい?」

「何言ってんスか赤井先輩! 先輩のコスのおかげで集客率が凄いことになってるんスよ!?」

「人を勝手に客寄せパンダに使わないでよ!」

「まぁまぁ、コウフンしないでじっくりハナシアイましょうマサキ♪」

 

頼むから俺の名前をココでデカイ声で呼ばないでくれ、パトリシアさん・・・。

その手の人間と思われそうで怖い。

最悪、学校関係者がいたらと思うとゾッとする。

 

「ま、ココはカワイイ後輩のために一肌脱いだって事で♪」

「・・・お前がそれを言うか、諸悪の根源?」←多少キレ気味

「・・・先輩、ご愁傷様です」

 

八坂さ〜ん、火に油を注ぐどころかぶちまけられたらいくら温厚な(と自分では思ってる)俺でもいつかは大爆発するぞ?

あと永森さん、その言葉はある意味トドメの一撃なんですけど・・・。

ちなみに今回の目玉は田村さんが書いた新作で、他は再発行したコピー誌だとの事。

内容は見ていない・・・つーか見たくもない。

聞いた限りじゃ相当ハードな内容らしい。

 

で、お昼を過ぎた頃、新刊を含めて見事に完売した。

なるほど、立ち読みしてた女性(腐女子とも言う)もいたし実力はあるという事か。

・・・実力の方向性がかなり間違ってるような気もするが。

ちなみに他のブースはまだ頑張ってる所があるようだが客足は引き始めてるらしく、先程までの喧騒はあまり見られない。

 

「・・・やっと開放される」

「お疲れ様でした、赤井先輩」

「てか永森さん、こうなること分かってたの・・・?」

「こうはギリギリになるまで企んでる事を話そうとしない()ですから・・・事前に分かればストップをかけられたんですけどね」

「要注意人物だな、もう・・・」

「正しい判断です」

「やまと、何ぼそぼそと話してんの? あ、ひょっとしてあこg『メキャ!』ふんぎゃ!?」

「こうは少し黙っててちょうだい・・・」←何故か顔真っ赤

「ハイ、スイマセンデシタ・・・」

 

何か今鈍い音がしたような気がしたんだが(汗)。

 

「あ、すいません先輩。最後にもう1人、VIPが来るんスよ」

「VIP?」

「あ、ちょうど来たみたいっス」

 

何かちっこい長髪の女の子が・・・って、げぇ!

 

「やふ〜、ひよりん☆ 新刊残って・・・ってまさき? 何やってんのそんな執事姿(カッコ)で」

「VIPってこなたさんかい・・・。取り合えずそこは聞かないで。てか聞くな・・・」

 

田村さんのサークルではなにやらお得意様らしく、慣れた感じで別に取っておいた新刊をこなたさんに売った・・・当然という感じで3冊。

 

「まさきのコスも板について来た感じだね〜。あ、ちなみにゆーちゃんとみなみちゃんもいるよ♪」

「いいかんz・・・ってうぉい!?」

 

聞き捨てられないことを言われたがその前に、まずは言わせてもらおう。

何故あの2人を連れて来た!?

 

「ちょ!? ちょっとまってくだs『こんにちは、田村さん。』・・・すいません、もう売り切れてますんでまたのご来場をよろしくお願いいたします・・・(涙)」

「へ〜、無いのはちょっと残念だけど、田村さんの漫画って人気あるんだ〜♪」

「・・・まだ高校生なのに、凄い」

 

どういう所か説明はしなかったのはある意味救いか・・・。

しかしこなたさん、純粋なこの2人を黒く染め上げる気か?

2人のご両親や成実さんが泣くぞ。

ちなみに田村さんが書いた同人誌をこなたさんが複数持ってるという事を聞いた小早川さんが、田村さんの本を読んでみたいそうで・・・。

田村さんがこなたさんに「武士の情けを!」とか「せめて一般的なものを〜!」と懇願していたが、曲者なこなたさんのことだ。

とりあえず恋愛物を見せてそう・・・未成年が見ちゃいけない様なやつも含めて。

小早川さん、真っ赤になって失神してそうだ・・・。

 

 

 

「あ〜、また雨か・・・」

 

1年生4人組(カルテット)と一緒に会場を出たのはいいが、雨が降り出してきた。

先ほどまでは霧雨程度だったのが段々雨足が強くなって来ている。

俺1人なら何て事は無いけど、後輩達が一緒である事を考えると無理はできない。

 

「どこかで雨宿りした方がいいかね・・・?」

「そうですね・・・小早川さん、大丈夫?」

「うん、ちょっと寒いかな・・・?」

「あ、だったら雨が落ち着くまでウチに寄ってく? ここから家近いし、赤井先輩にも無理を聞いてくれたお礼をしたいですし」

「ソレはイイカンガエですネ、ヒヨリ!」

「いや、別に礼はいいんだけど・・・」

 

でもこの際だ、もう少ししたら雨足も弱くなるかもしれない。

喫茶店でも良いが、タダより安い物は無いし。

そんな訳で、田村さんの家に皆でお邪魔することにした。

ちなみにこなたさん達はゲーセン直行。

付き合わされる永森さん、南無・・・。

助けを求めるような目で俺を見ていたのだが、ある意味こっちの方が心配だったし、意気投合したこなたさんと八坂さんは誰にも止められないからなぁ。

 

 

 

「おじゃましま〜す♪」

「おじゃまします」

「ホウホウ、ココがヒヨリのマイホームデスね」

「おじゃましますっと・・・」

「何も無いところですけどごゆっくり・・・あ、わたしの部屋はこっちっス」

 

取り合えず到着した田村邸。

着いた時にはさらに雨足が強くなってきた・・・雨宿りさせてもらって正解だったようだ。

ちなみに家族は留守らしい。

しかし、何で俺の知り合いの女子は自分の部屋に男の俺を上がらせてもなんとも思わないんだろうか(汗)。

部屋に案内された所で何か飲み物とお菓子を持ってくると言い、田村さんが部屋を後にした。

 

 

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

 

 

 

「いや〜、お菓子(いいの)が中々見つからなくて。おまたせし・・・ってアッ〜!?」

 

悲鳴を上げるのは無理も無いだろう。

田村さんが部屋を出た後、パトリシアさんが部屋を漁り始めたのだ(家捜しとも言う)。

俺はさすがに関わるワケにはいかないが、残る2人も興味津々だった。

そして出て来たのが・・・。

 

「ヒヨリにもこんなジダイがあったのデスネ♪」←笑いながら見ている

「う〜ん、確かに今見てみると・・・だな」←笑いを堪えてる

「何で・・・何で家捜しをしてるんスか〜!」←魂の絶叫

 

パトリシアさんが田村さんの過去の遺物、複数のスケッチブック(ある意味デスノート)を発見し、中身を覗いた俺は思わず笑いそうになってしまった。

取り合えず田村さんの悲鳴を綺麗にスルーした俺達はページをめくっていく。

 

「殺してください・・・もうひと思いに殺してください・・・」

「・・・大丈夫、田村さん。恥ずかしがることは無い」

「誰だって最初から上手な人なんていないよ。田村さん、そこまで落ち込まなくてもいいと思うよ?」

 

絶望のどん底に落ちた田村さんを2人で励ましてるのを尻目に、俺とパトリシアさんは何冊目かは既に覚えてないが、ノートのページをめくっていく。

 

「へ〜、段々絵が上手くなっていってるのがよくわかるなコレ」

「・・・ホントだ〜。田村さん、こんなにがんばったんだ」

「努力の賜物ですね」

 

興味を持ったのか、後から岩崎さんと小早川さんが覗き込んでくる。

 

「ってヤッバァ! それ、後のほうは!!」

 

俺が眺めているノートを見て田村さんが明らかに挙動不審になり始めた。

と、おや・・・?

 

「あれ、これ・・・ひょっとして、わたしかな?」

「後から抱きしめてるのは・・・わたし?」

 

鉛筆書き・・・つい最近書いたものだろうか?

よく見ると、『岩崎さんが小早川さんを後から抱きしめてる絵』のように見える。

しかも本人達が一目で自分だと認識出来るほど上手く書けてる。

 

「い、いや〜。絵の練習に人物画を描こうと思ったんだけど・・・すぐに思いついたのが小早川さんと岩崎さんの顔でして・・・」←かなり動揺中

「そうなんだ〜」←照れてる

「少し、恥ずかしいかも・・・」←上に同じ

 

でもこれを何も見ずに書いたのであれば、田村さんの画力は相当なものだ。

・・・なんでこんな構成になったのかは不明だが。

オリジナルの構想がすぐに浮かぶんならあっという間に漫画家としてデビュー出来そう・・・いや、プロの世界はそんなに甘いもんじゃないだろう。

 

「で、これを元に次の作品を描くと」

「ソ〜ナンですカ、ヒヨリ?」

 

からかい口調の俺に続くパトリシアさんの言葉が田村さんの心に突き刺さる!

 

「あ・・・えっと・・・その・・・」←錯乱中

「完成したらわたしも見てみたいなぁ。田村さん、がんばってね♪」←純粋無邪気に激励

「うう・・・鋭意、努力させていただきます・・・」←激しく自己嫌悪中

 

小早川さんは友達(たむらさん)の作品を純粋に楽しみにしているようだ。

ひょっとしたら実際に岩崎さんと小早川さんをモデルにした作品が既にあるんじゃないかな?

・・・俺もこなたさんに見せてもらおうかね♪

一通り田村さんいじりを終えた俺達(主に俺とパトリシアさん)は外の天気を窺いつつ、ようやく落ち着いた田村さんを交えた雑談に入った。

 

「そういえば先輩って、誰に対しても『さん』付けで呼んでますよね」

「ん? まぁ、後輩って言ってもなんか呼び捨てで呼ぶのははばかれると言うか・・・しかも異性だし」

「ワタシとユタカはマサキとヨンでマスヨ?」

「それは俺自身が呼ばれることに対してあまり気にしていないからだけどね・・・」

 

考えてみると男子は普通に呼び捨てにした事はあるが下の名前で呼ぶヤツは殆どいない。

この中である意味付き合いが長いのは岩崎さんだが、やっぱり『岩崎さん』と呼んでいる。

考えてみると女子は全員『さん』付けだな・・・性格上、て言うのもあるのかもしれないけど。

下の名前で呼んでるのは本人達の了承の元で呼んでるこなたさん達くらいだし呼び捨てでなんて・・・呼べるか恥ずかしい!

 

「・・・こなたさんたちも最初知り合った頃は指摘されるまで苗字で呼んでたしなぁ」

「その後、下の名前で呼ぶような仲になったと・・・成る程、参考になるっス」

「変な方向に曲解しないように・・・(汗)」

 

田村さんは田村さんですぐにネタにしようとするから発言には注意が必要だなこりゃ。

今もせっせとメモを取っている。

 

「わたしは男の子が苦手だったから・・・だからまさき先輩って呼んで、男子に慣れる様にがんばってたら定着しちゃったんですよね」

「1度定着すると中々変えづらいから・・・ね、『ゆたか』」

「・・・! うん、でもがんばれば変えられるんだよね、『みなみ』ちゃん♪」

 

・・・微笑ましいなぁ、この2人。

あ、田村さんが一心不乱にペンを走らせてる。

 

「ヒヨリはベンキョウネッシンですネ♪ それとマサキ、ワタシは『パティ』でOKですヨ?」

「そうは言っても・・・ねぇ」

 

人間いきなりは変われないし。

 

「ま、前向きに検討しときますか」

「それがイイですヨ〜」

 

そこまで話し込んだ所で、外が少し静かになってきた。

雨もだいぶ止んできたし、すでに夕焼けが綺麗な時間帯。

その日はそこで解散となり、それぞれ無事に帰宅と相成った。

 

 

 

後日、1年生組を名前で呼ぶようになったらこなたさんを筆頭に何があったかを散々問い詰められる事となった。

何か理不尽だ・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第四十三話 萌えの定義

6月もすでに下旬・・・梅雨の真っ只中なためか、不安定な天気が続いている。

今日も朝から湿っぽい空気が纏わりついている上に霧雨が降ったり止んだり。

そんな中でも授業は滞りなく進行するわけで・・・。

 

「お〜っす。なぁチビッ子、オマエってすっげぇオタクなんだって? 生でホンモノのオタクなんて初めて見たぜ♪」

「なんだかみさきちにそう言われるとさ、ものすっご〜く馬鹿にされてる様な・・・」

「ていうか今更それを言う?」

 

昼休みになって、いつも通りにやってきたC組の面子(さんにん)が来るなり、日下部さんがこなたさんにそんな事を言ってきた。

というか普段の言動を見てれば大体そうだと分かる様な気がするけど。

 

「こなた、教科書ありがと・・・でも落書きはどうかと思うわよ?」

 

かがみさんは珍しく世界史の教科書を忘れたらしく、学校に教科書を置きっぱなしにしていたこなたさんから借りたのは良いが、それが落書きだらけだったそうだ。

タイミング悪く、その落書きだらけの教科書のページを黒井先生に見られたらしい。

 

「いや〜、授業中暇だったから眠気対策でつい♪」

『眠気対策で落書きなんかするな!』

 

スパン!

スパン!

 

「ぶべら!?」

 

久々のダブルツッコミ・・・かがみさんが手にしてたこなたさんの教科書と俺がとっさに手にした机の中のノートがほぼ同時に小気味いい音を上げる。

 

「なぁなぁそれよりチビッ子、私らをオタクで言う『萌えー』で言うとどんな感じなんだ〜?」

「・・・かがみ〜?」←頭をさすりながら珍しく困った顔

()()()はこういうヤツよ」←溜息交じり

 

諦めろ、と言わんばかりにかがみさんが言う。

まぁこういう困った表情のこなたさんもある意味初めて見るかも・・・もう少し静観してみよう♪

で、当人はヤレヤレと溜息をつきながら解説を始める。

 

「かがみは釣り目ツンデレにツインテール、あやのさんはオデコと絶対領域・・・かな?」

「まだ言うか・・・」←半分諦め気味

「絶対・・・領域?」

 

峰岸さんは分からない様だが分かったら・・・てまて、分かる俺ってひょっとしてもう手遅れ?

ちなみにツインテールは本来ツーテールと呼ぶらしいのは余談である。

 

「みさきちはボーイッシュに八重歯、後は・・・馬鹿キャラ?」

「なんだと〜!?」

「否定する要素が見当たらないわね」

「あ〜・・・ガキっぽいってのもあるかも♪」

「・・・あやの〜、ちびっこと柊が〜!」

「よしよし・・・(汗)」

 

日下部さん、撃沈(笑)。

ある程度気が済んだのか、こなたさんはいつもの調子に戻っている。

 

「あと、わたしはチビッ子&貧乳にアホ毛、つかさが天然ドジッ子に妹属性、みゆきさんは同じく天然ドジッ子、巨乳にメガネ、まさきは人当たりのいいギャルゲ主人公ってトコかな?」

「わたしって天然なの?」←自覚無し

「あ、あまり大きいという事は無いと思うのですが・・・」←真っ赤

「誰がギャルゲ主人公か・・・てか俺も入るのかソレ?」

 

今度はこっちに飛び火した!

いや確かに周りに女の子はいっぱいいるけど一応否定しておく。

それ以前に男に対する萌えって・・・ある意味危険な領域だろ。

てかでかい声で『巨乳』とかゆ〜な・・・何人か男子生徒が反応しているぞ。

 

「そういえばこなちゃん、萌えって何?」

「むう・・・改めて聞かれると・・・ねぇ? 好きってことの感情表現には間違いないんだけどね〜」

「分からんまま使ってたんかい」

 

俺は苦笑気味に言ったがまぁ、大体言葉なんてのはそんなモンだろう。

噂とかと一緒でいつから使われた、とか誰から聞いた、なんてのは結構有耶無耶になるもんだ。

 

「『萌える』と言うのは、古典文法で言うヤ行下二段活用の動詞の連用形でして、草木が芽吹くなどの表現で使われる、と言う意味では聞き及んでますが・・・」

「・・・普通に勉強になったよみゆきさん(汗)」

 

そういう意味もあったのか・・・。

古典でそんな単語が出てきたら普通に目に付きそうなもんだが。

 

「あ、それともう1つ前から気になってた事があるんだけど・・・」

「まだ何かあるの、つかさ?」

 

そんな事をどうでも良いと思えてしまうような疑問を、つかささんの口から爆弾発言として投下されることになる!

 

「うん、今の話とは違うんだけどね。犬の躾って言うか、芸の

 

『ちんちん』

 

ってどんな意味なんだろ?」

 

 

 

ピシィッ!!

 

 

 

空間が凍りついた・・・ような音がした。

幻聴だと思いたい・・・つかささんの口から・・・いや、あくまで犬の躾のことだろ落ち着け俺(汗)。

だが爆弾発言には変わりない。

俺達はもとより、クラス中にも聞こえたのか、(見える範囲の)全クラスメートが完全に硬直している。

 

「え、えええええっと! ち、中国から由来する言葉なのは、あの、その、確かなようd☆Ωωγ♯@!!?」←我に返るも激しく動揺中

「みゆきさん、ひとまず落ち着いて・・・」←表面上冷静だが内心は上に同じ

 

一瞬早く我に返ったみゆきさんが解説するが、動揺しているため言葉が支離滅裂になっている・・・ってか動揺しないほうがおかしい。

つかささんってやっぱ天然だよな・・・あ、言った本人も何気に固まってる。

 

「へぇ〜・・・そうなんだ〜」

 

こなたさん、再起動を確認・・・ってなんか嫌な予感がするんですけど(汗)。

 

「今のつかさの発言を聞いてまさきの(自主規制)を想像した人挙手〜」

「て、うぉい!?」

 

こなたさんの追い討ち・・・さすがに誰も手を挙げなかったが皆揃って顔が真っ赤なのは仕方ない・・・のか?

峰岸さんは少し困ったような顔をしていたが。

 

 

 

<放課後:教室>

 

 

 

「はぁ、梅雨なのに野球が中々中止にならないし、延長の時の録画やり直しがメンドくてさ〜」

 

外はちょっと雲行きが怪しいがこなたさんの調子も晴れてないようだ。

まぁドーム型球場が増えて、本格的に中止になるという話は最近じゃあまり聞かないからなぁ。

異常気象で雨の量も少ないっぽいし。

 

「姉貴も似たようなことして失敗したことがよくあったな〜。今のこなたさんほどじゃないけど」

「まーくんのお姉さんもそ〜なんだ〜」

「何や自分らまだ残ってたんか? 受験生ははよ帰って勉強しぃ」

 

と、ここで黒井先生が登場・・・前にも似たようなことなかったっけ?

まぁいっか。

 

「あ、せんせー。野球の延長嫌だね〜って話ですよ〜」

 

それにしてもこなたさん、完全にダレてるな・・・。

 

「あ〜、延長ね。ま、仕方ないんちゃうか?」

「うっわ、交流戦でパもゴールデンで見れる時期になったからソレですか先生!?」

 

何年か前からセとパの交流戦が行われるようになったため、パのロ○テファンである黒井先生は特に気にしてないどころか、逆に嬉しいようである。

こなたさんはこなたさんで『先生は味方だと思ってたのに!!』と大騒ぎの真っ最中。

ちなみに俺も一緒に残ってるつかささんも野球には興味がないので2人の舌戦を静観している。

俺の場合は、よく見る番組が潰れたら別のチャンネルに回すか、ネットで動画見てるから特に害とは思ってない。

 

「まぁ今だけのお楽しみなんやし、少しは容赦せぇよ」

「アニメはそれっきりですよ。DVDが出てもいくらすると思ってるんですか〜?」

「格闘技だって時間とって特番組んだりするやろ。やってたんやろ、泉?」

「経験者だけど特にそういうのが好きってワケじゃありませんしあんま見てません!」

「アニメやってたまに特番組んでんやん」

「延長とかして後続番組の邪魔はしませよ!」

 

う〜ん、泥沼だな〜。

てか先生が目に見えていらついてきてる。

てことは・・・。

 

「・・・ええぃ、つべこべ言わずに! 受験生ならそんな事言っとらんで、勉・強・せぇ〜い!」

 

メキャ!

 

「ぎゃふん!?・・・うう、最後はやっぱり力技だよ〜」

 

おおう、かなり良い音したなぁ・・・まぁこういうオチになるわな。

こんな感じで不毛な舌戦は黒井先生の拳骨で終了となった・・・。

 

 

 

<下校前:昇降口>

 

 

 

「お、雨降ってきた」

「にゃんと!?」

 

帰り際、天気予報の言う通りに雨が降り始めた。

あまり強い雨ではないが、傘を差した方が良さそうだ。

 

「こなちゃん、傘持ってきてないの?」

「いや〜、前は置き傘してたんだけど、1度持って帰っちゃったらそのまま・・・。てなワケでどっちか貸してもらえないかな?」

「俺は多少濡れてもいいから貸してもいいけど・・・明日ちゃんと返すよ〜に?」

 

ちなみにかがみさんとみゆきさんは用事があるために既に下校済み。

後輩組も、遭遇しない限りは誘って帰るということも無い・・・ついでに言うと、ゆたかさんは体調を崩して今日は休みらしい。

そもそも女の子が雨でずぶ濡れになって帰るって事が分かってる時点で、俺が傘を貸すのはある意味必然だ。

 

「まーくん、風邪ひかない?」

「・・・このくらいの雨なら平気だと思う。」

 

よく言ってせいぜいにわか雨、といったところか。

 

「帰る方面一緒なんだからつかさの傘に入れてもらうとか♪」

「ふぇぇぇぇっ!?」←真っ赤

「あのねぇ・・・」

 

明らかに周囲から誤解されるだろ(汗)。

 

「にしても男子ってあんまり濡れるの気にしないよね。やっぱり女子(わたしら)と違って下着とか透けても平気だから?」

「それもあるけどそういう事を平然と言うのはやめい・・・」

 

周りにいた生徒が一瞬こっち見たぞ。

結局、途中まで一緒だからということでこなたさんとつかささんが同じ傘を使い、こなたさんと別れ際に傘を貸した後は、駅からそんなに遠くないからダッシュで帰ろうと思ったのだが・・・。

 

「なんで雨足が強くなってるかな・・・?」

 

家からはさほど離れてるわけじゃないから駅から家までダッシュすること事態は問題ない。

が、ソレは晴天時や雨が降ってもにわか雨程度の時くらい。

最寄の駅は小さく、売店がない上、近くにコンビニもスーパーもない。

てかコンビニに寄ろうとすると逆に遠回りになってしまう。

ついでに言うと雨の勢いは学校を出た時の倍くらい強くなっている。

・・・傘貸したの、失敗だったかも。

よくよく考えれば、学校の職員室に行けば傘って借りれたんじゃ・・・?

気付いた所で今更だけどね。

何事も上手くいかないのは世の常だ。

そんな訳で覚悟を決めたところで・・・。

 

「え〜っと・・・。まーくんの家、そんなに離れてないし、少しくらいならわたし、一緒に入っても、大丈夫だよ?」

 

本日のつかささんがお送りする爆弾発言パート2。

やべぇ、この表情めっちゃ可愛い・・・じゃないだろ俺!

そういう事を頬を赤く染めながらモジモジと言わんでくれ。

大体、そう言われたら無下に断れない。

・・・あ〜、なんか雨降ってるのに暑くなってきたな(汗)。

 

 

 

「で、2人仲良く相々傘になったってワケね♪」

「あうぅぅぅ〜・・・」←真っ赤

「もう勘弁してください・・・」←涙目

 

たまたま帰宅途中だったまつりさんに遭遇してしまい、散々冷やかされるハメになった。

何でこんな時に遭遇するかなぁ・・・。

今日は昼休みの時といい今といい、恥ずかしい目にあってばっかりのような気がする・・・。

 

後日、そこからかがみさん、こなたさんとゆたかさんから話の内容が脚色されつつ友人全員に伝わり、度々からかいのネタにされるようになったのは別の話。

 

 

 

つづく・・・



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第四十四話 高校生活最後の夏休み計画

7月に入り、まもなく始まる期末テストを乗り切れば待望の夏休み!

まぁ今年は受験生だから息抜き程度ならともかく、そうホイホイと遊びに行くわけにはいかないけどね。

それはともかく、日曜日である今日はいつものメンツで泉家に集まり勉強会の真っ最中。

中間テストの時のショッキングな出来事もあり、俺はもとよりかがみさんは凄まじいまでの勢いで勉強に励んでいる。

 

「それにしても台風の後ってなんだか暑いよね~・・・今日も30℃超えるみたいだし」

 

つかささんは今日の最高気温に多少ウンザリしながらシャープペンを動かしている。

黙りこくって勉強するより、多少話しながらのほうが続けやすいか。

台風一過・・・昨日あたりは関東に接近どころか上陸の恐れもあったのだが、夜のうちに通過してしまったらしく、今日は梅雨の中休みといった所か一足速い夏の日差しが降り注いでいる。

 

「そだね~。台風一()なだけに兄弟姉妹がいっぱいだったよね~」

「ふふふ、こなたにしては上手い事言うわね~」

「みゆきさ~ん、こなたさんに座布団1枚あげてちょ~だい!」

「ハイ、かしこまりました~♪」

 

こんな会話でも結構空気が和むよな~。

しかしみゆきさん、ノリが良いのはいいけどホントに持ってきたその座布団、どっから出してきたの・・・?

 

「ねぇかがみ、まさき。『上手い』ってどゆこと?」

「・・・一応聞いとくけど、本気で言ったんじゃないわよね?」

「お姉ちゃん、こなちゃん何か変なこと言ったの?」

「え~っと・・・(汗)」

「まさかとは思うけどさ、2人共ホントに『一家』だとは思ってないよね・・・?」

 

俺の質問にこなたさんとつかささんが揃って首を傾げていたりする。

それでいいのか高校3年生・・・?

みゆきさんですら言葉が無いぞ。

と、そこでゆたかさんが冷たい飲み物を持ってきてくれた。

 

「先輩方お疲れ様です。冷たい麦茶をどうぞ~♪」

「お、ゆーちゃんありがと~♪」

「ありがと、ゆたかさん。ゆたかさんも自分の期末試験の勉強で大変だろうに。」

「い、いえ。こなたお姉ちゃんや先輩達みたいに受験が絡んでない分まだ楽ですから・・・」←ちょっと照れてる

「分からない事があったらいつでも聞きに来て下さいね?」

「あ、ありがとうございます・・・えっと、それじゃあ勉強とかとは違う事なんですけど1つ、いいですか?」

「お、さっそくお悩み相談? どんな事だいゆーちゃん?」

 

ゆたかさんはちょっと言いずらそうにしていたが躊躇いがちに口を開いた。

 

「中学生の頃の友達に彼氏が出来たみたいで、『何を送ったら喜ばれるかな?』って相談されたんですけど・・・」

 

何かアドバイスを、と言うが・・・。

 

『・・・・・・』

 

思わず全員が固まってしまう。

いや、他の男子はどうかは知らんけど俺も去年の誕生日にこなたさん達からプレゼントを貰ったくらいで異性からまともに何か貰った事は・・・バレンタインのチョコくらいか。

どうしたモノか・・・すっごく気まずい空気が流れている(汗)。

 

「と、取り合えずこの中で唯一の男の子であるまさきから一言!」

「やっぱ俺に振るんかい・・・まぁ単純に相手が喜びそうな物・・・例えば相手の趣味にあった物とか、いつも身に付けられる物とか・・・」

 

無理して高い物は・・・バイトでもしてれば話は別だが、そういうのは大抵男の領分だろう。

後は・・・う~む。

 

「学生なんだし、手軽に買えてなお且つ気持ちがこもってるヤツ・・・もしくは手作りの何かってのもあり・・・かな?」

 

そこまで言うとゆたかさんは熱心にメモを取り始めていた。

何故かこなたさん達も真面目に聞いているようだが、自分に彼氏が出来た時の参考にでもするつもりだろうか?

 

「そういえばまさきさんは、去年の誕生日にわたし達が送った腕時計をいつも身に付けてますよね」←悪気無し

「・・・それだけ嬉しかったのかなまさきクン?」←(=ω=.)ニヤニヤ

「まさきくんがそこまで気に入ってくれてるって事は、一緒になって選んだ甲斐もあったって事かしら?」←一緒に選んだ人

「そうだよね・・・わたし達皆の気持ちがこもってるからなのかな・・・?」←ちょっと嬉しそう

 

みゆきさん、よく見てるのは良い事だが、ここで言われるとさすがに恥ずかしいって。

しかも皆に弄られるネタにされるだけでしょ(汗)。

最近こんな事ばっかだな、俺・・・。

結局ゆたかさんも交えて、休憩と言う名のおしゃべりタイムになった。

 

「ゆたかちゃん、高校生活のほうはもう慣れてきた?」

「慣れてはきましたけど、勉強は難しいし、宿題も多くて大変です」

「最初は誰だってそんなモンでしょ。俺もこっちに来たばかりの時は、今みたいな余裕なんて全然無かったからなぁ・・・」

 

自分から望んだ事とはいえ、見知らぬ場所での生活環境に慣れなきゃいけなかったし、バイトやら家事やら朝のジョキングやら体調管理やら・・・。

その上陵桜はそれなりにレベルの高い学校だから、最初は授業についてくのに一苦労だったのを覚えてる。

 

「おに・・・まさき先輩は1人暮らしだからもっと大変だったんだですよね?」

「(おに?)慣れてくりゃ何とかなるけどね。そうなるまでの、生活のリズムを作るのが大変だった」

「やっぱり先輩達は凄いな~。でも3年生って受験勉強中心で、宿題とかはあまり出ないんですよね?」

 

・・・はい?

 

「や、普通に宿題、出てるんだけど・・・」

「こなた・・・あんたまさか」

 

全員の視線がこなたさんに降り注ぐ。

そっぽ向いてとぼけてるがその様子だと・・・。

 

「いや~、何のことだか」

「人間簡単には変われないって事だね」

 

かがみさん、みゆきさんはおろかつかささんでさえ頷いている。

こんなんでよくゆたかさんの憧れを一身に背負えるもんだ。

 

「そういやゆたかさん、さっき何か言いかけてなかった?」

「あ、いえ、何でも無いです、何でも!!」

 

凄い勢いで何でも無いという割には顔が赤いんだけど大丈夫かな(汗)。

それから約30分、談笑が続く。

 

「狐・・・う~ん、犬、リス・・・それから・・・」

「突然何よ?」

「いや~、わたし達を動物に例えたら何かな~と思って」

 

相変わらずいきなり話の路線を変更するなこなたさんは。

 

「わたしは悪戯好きな狐、つかさはイメージ的に子犬、ゆーちゃんは小動物的なリス」

「で、さしずめわたしは色々理由つけて熊とか虎とか言いたいんでしょ?」

「そんな事無いと思いますけど(苦笑)」

「そうそう、かがみはツインテだし、寂しがり屋だからウサちゃんかもよ~?」

「・・・それはそれで気恥ずかしいからやめてくれ」←真っ赤

 

・・・・・・。

少し、いや、かなり見てみたいかも。

寂しがってるウサギなかがみさん、ちょっと想像がつかない。

や、他の娘も見てみたいけどさ。

てか寂しがり屋ってトコは否定しないのか、かがみさん?

 

「でもそれ面白いね。他の人はどうなるだろ~?」

「ゆいねーさんは凄まじいスピードで峠を駆け抜ける豹って感じで・・・」

「みなみちゃんはクールで颯爽としてカッコイイから鷹かな?」

「みゆきさんは髪の毛のモフモフ感からして羊か・・・? そうなると俺はどうなるんだろ?」

『狼!』

「・・・チョットマテオマエラ」

 

皆から見た俺のイメージって・・・しかも満場一致即決かよ!?

 

「別に悪い意味じゃないわよ」

「まーくん足速いし」

「いつもご飯食べるのも速いよネ・・・それも結構な量を食べる様はまさに肉食獣って感じだし。それとも、まさきは別の意味で理解したのカナ~?」

「し、知るかんなモン! たく、手洗い(トイレ)借りるよ」

「いてら~」

 

そう一言こなたさんに断って部屋を出る。

状況が状況だからしょうがないのかもしれないが、()()()()とやらを女の子が言うなっての・・・。

そんな事をブツブツ言いながら部屋から出ると、少し離れた所でそうじろうさんを発見した。

雰囲気的にブラックな空気を纏ってるが。

 

「こんな所で何やってんですか、そうじろうさん」

「ん? ああ、赤井君か。いやな、ああいう時って何でいつも親は戦力外通告なのかなぁ、とな・・・お父さんは悲しいよ・・・うっうっう(涙)」

 

うわホントに泣き出したよこの人(汗)。

まぁ今の状況で『お父さんが教えてあげよう!』なんて言って部屋に入ったら明らかに邪魔者扱いされるだろうな・・・。

普通に会話できるようになっても俺はまだこの人の人知を超えた行動には理解に苦しむ時がある。

とりあえずそんなそうじろうさんを適当にスルーして用を足し、こなたさんの部屋に戻った。

 

「へ~、みなみちゃんちは別荘持ってるんだ~」

「毎年避暑のために行ってますし、この際お友達いっぱい誘って来ないか、と言うお話もあるんですよ。よろしければ皆さん全員で♪」

「何の話?」

「あ、まーくんおかえり~」

「今年の夏休みは遊びに行くんじゃなくて、落ち着いて勉強が出来て息抜きもできるとこ無いかな、て事で話してたのよ」

 

そんな話の中、みなみさんちが毎年避暑目的で利用してる別荘を持っているのだという事をみゆきさんが話す。

今年の夏、そこに皆で来ないか、と言うお誘いが持ち上がっているらしい。

結構な大きさの別荘で、1部屋4~5人寝泊り出来るスペースがいくつかあるとか。

みゆきさんの親戚の家がある所からわりと近いらしく、よく一緒に夏祭りや川遊びなどに興じているそうだ。

 

「みなみさんのご両親の都合に合わせることになるので何時になったら行けるかわからないんですが、まさきさんもご一緒にどうですか?」

「俺が行っても激しく場違いなような気がするんだけど・・・?」

 

主に男女比的な意味で。

 

「ふふふ・・・そんなの今更じゃないの」

「去年も5人で海に行ったもんね♪」

「まぁそうなんd「何ぃぃぃ~~~!?」うぉわ!?」

 

ばたん! と思いっきり扉が開く。

まだ扉の前に張りついていたのかそうじろうさん(汗)。

 

「5人で・・・だと!? 赤井君も行ってたなんて、おとーさんは聞いてないぞ、こなた!」

「そりゃおとーさんに話したら強引について来そうなんだもん」

「あたりまえだ! 男と一緒に海に行って、しかもそれがハーレム状態なんてそんなうらやまs・・・じゃなくて、かなり危険な状況じゃないか!!」

「その辺は保護者に婦警であるゆいねーさんと担任の黒井先生にお願いしたから大丈夫だし、まさきは実際一緒に楽しく遊んだだけで、普段の態度からして見ても信頼出来るし、実際特に何もなかったから問題無しだよ」

 

てか去年のこと、言ってなかったんだな。

まぁさすがに言ったら猛反対してそうだよな、こ の 人(そうじろうさん)

・・・よくよく考えるとそうじろうさんの様な反応が正しい様な気がするぞ?

親娘で不毛な大騒ぎが続く。

が、それはいいとして・・・テスト勉強は?

 

「今日はもう遅いですし、これ以上はお邪魔するわけにはいきませんね」

「それもそうね。だいぶ日が傾いてきたし」

「夏休みはみなみちゃん次第ですね」

「その前に目の前の期末テストだからな~」

「うん、そうだね。みんな、がんばろうね♪」

 

つかささんの言葉が合図となってその日は解散になった。

 

 

 

その後の期末テストの結果、やはりダークホースなこなたさんが好成績を叩き出すも、俺もかがみさんも全教科でこなたさんの成績を上回っていたのでホッと胸をなで下ろしたのは秘密である。

 

 

 

つづく・・・



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第四十五話 それぞれの事情

「それってわたし等も参加していいのか?」

 

ガガガガ!

チュインチュインチュインチュイン!

 

「構わないと思うよ? 一応親の許可は取って貰うことになるけどね。結構遠い上に泊まりだし」

 

ザン!

ガキッ!

チュドォ~ン!!

 

「・・・わたし、顔を合わせたことがあるくらいで、殆ど面識が無いんですけど?」

 

ドシュッ!

ドゴォ~ン!

 

「わたしの場合、学校違う上にその娘に会ったことありましたっけ?」

 

ビーー!

ドォンドォンドガァ~ン!

 

『敵拠点の破壊に成功しました!』

 

「お、永森さんナイス・・・その娘は田村さんの友達だし、こっちから説明すれば大丈夫だと思うよ」

 

永森さんの顔を知らないのは恐らくみなみさんとゆたかさんくらいだろうし・・・あ、パティさんもか。

一応同人誌即売会で1回会ってはいるんだけど会話も無かったからね。

・・・傍から見たらどういう状況か分からない人もいるだろう。

もっとも、外から見てて会話内容が分かる事も無いだろうが。

現在俺、日下部さん、八坂さん、永森さんが久しぶりに戦場の絆(4VS4のBクラスマッチング)をプレイ中。

テスト明けだし息抜きも兼ねて、と言う事で夏休みの事も含めて親しい友人に声をかけようと言う話になり、2年生の2人(やさかさんとながもりさん)にも声をかけようとしたらいつの間にかゲーセンに(汗)。

俺って結構相手の言葉に流される性格(たち)なのかも・・・。

まぁそんな訳で個別に離れてプレイしながら話も出来るって何気に便利だよな~と思いつつ、夏休みに避暑地に行く話をしていた訳だ。

ちなみに峰岸さんはかがみさんと一緒にいるので(おそらくシューティングゲーム)そっちで話をつけてるだろう。

1年生組はみなみさんとゆたかさんで声をかける事になっている。

ついでに言うと今の所は人数の制限は無い・・・どんだけ広いんだみなみさんちの別荘(汗)。

 

 

 

「や~、久しぶりの快勝だったナ♪」

「日下部先輩、落とされてましたけどね・・・いつもの突撃戦法で」

 

永森さんがさらっと釘を打っておく。

が、何度注意しても自分のスタイルは崩さないつもりだなコリャ。

 

「・・・ソコを補うのがチームプレイってヤツなんじゃね~か?」

「サポートにも限度がありますよ~・・・」

 

八坂さんもぼやきたくなるだろう。

1人のサポートに回ろうとすると当然ほかの所に影響が出る。

最悪、自軍の拠点をやられかねない。

 

「ちなみに俺は今ので階級上がってマッチングがAクラスになったから暫らくは一緒にプレイできないからね」

『え~!?』

 

女性陣は非難の声を上げるがこればっかりはどうしようもない・・・永森さんも一緒になって非難するとは思わなかったが。

 

「む~、暫らくは柊と一緒に・・・」

「かがみさん、今日を境に受験が終わるまでゲームはなるべく自粛するって言ってたよ」

「なに~!? 息抜きぐらいは必要だと思うんだってヴぁ!」

「そういう事は少しでも自分から勉強を毎日がんばってる人の言うことよね」

「ヴぁっ!?」

「あはは・・・」

 

既にこちらに来ていたかがみさんと峰岸さん。

ま、俺もかがみさんの言うことには賛成だ。

それに今回は避暑と勉強、ついでに俺たち3年生は高校生活最後になる夏休みの思い出作りになる。

 

「あ、どう? みんな大丈夫そう?」

「はうぅ~・・・」

 

こなたさんはつかささんと太○の達人やクレーンゲームに興じていたが、つかささんは相変わらずぼろぼろだったようで(苦笑)。

 

「取り合えず話は聞いたから、まずお父さんとお母さんに・・・」

「あやの~? ごにょごにょごにょ・・・」

「・・・!?」

 

・・・日下部さん、峰岸さんに何言った?

峰岸さんの顔色が凄い勢いで赤くなってるんですけど(汗)。

 

「あ・・・な・・・な・・・」

 

おお、峰岸さんが顔の耳まで真っ赤になった上に、珍しく狼狽している。

 

「何言ってるの、みさちゃん! わたし達にはまだはy・・・!」←真っ赤になって自分の口を抑えた

 

あ~、なるほど、つまり・・・。

 

「ついでに言うと日程次第じゃウチの親、そろっていないこt「みさちゃん、それ以上はダメ!!」ムグムグ・・・」

「友達のお兄さんが彼氏ってのも良し悪しだよね~・・・」

「でも恋人同士ならお決まりのシチュだよね・・・こうしてあやのさんは先に大人のかいd『ハイ、そこまで!』あいたぁ!?」

 

そういう事をこんなトコで言うな・・・周りの音で聞こえないかもしれないとは言え、万が一があったらどうする。

 

「うう~、まさきもかがみも2人揃ってグーで殴ること無いじゃん・・・」

「お前が危ない発言しようとするからだろ!」

「まず公共の場でそんな事言わないように・・・」

 

 

 

それからゲーセンを出ての帰り道。

話を元に戻して夏休みの話が続く。

 

「親の了解を取ったら誰に連絡を入れればいでしょうか?」

「ではわたしに連絡を入れてくれますか?」

「高良先輩に・・・あ、そっか。高良先輩の幼馴染の娘でしたっけ」

 

日取りはまだ決まってないものの岩崎家所有地への旅行だ。

本人に面識が無いならみなみさんに一番親しいみゆきさんに連絡を入れるのが一番だろう。

 

「後は保護者にはみゆきさんの両親、みなみさんの両親・・・」

「移動手段はやっぱり車だよね?」

「・・・去年のアレを思い出すわ」

「・・・あぅぅぅ~」

 

ちなみに避暑と言う事で、日頃よくお世話になっている成実さんと黒井先生にも声をかけている。

まぁ場所は山の中とは言え先導役に岩崎家か高良家の車がつくだろうから黒井先生のほうは心配ないだろうが問題は・・・。

 

「ゆいねーさんも暴走しなきゃ結構安全運転するんだけどね~」

「たまに思うんだけどさ、よく成実さんって交通安全課が勤まるよね・・・」

「それは言わないお約束だよ、まさき・・・」

 

ちなみに成実さんの趣味のドライブにこなたさんも付き合う事があるようだが、7~8割の確率で暴走するらしい。

 

「えっと・・・そんなにスゴイんですか? 成実さんって人の運転?」

 

会話内容が何気に暗雲漂ってきた所を不安に思ったのか、永森さんが怪訝そうに尋ねて来る。

そりゃこんな会話してりゃ、ねぇ。

 

「・・・普通自動車で狭い片側1斜線の山道を猛スピードで突っ走った挙句に公道でドリフトかます様な人。ついでに言うと婦警さんね」

「それなんて頭○字Dですか・・・?」←少し引き気味

「しかもそれで婦警って・・・」←絶句中

「警察やりながらレーシングドライバーでもやってんのか?」←あくまで能天気

 

去年の()()体験を簡単に説明するとこういう反応になるよねぇ。

一応言っておくが日下部さんが言ったような話は聞いたことが無い。

こうして途中話が多少ずれたが、夏休みに入ったら少しずつ宿題を進めておく事やどんな場所で何が必要なのかを確認し、いつ頃行くのかは後で連絡することを確認した後にその日は解散となった。

 

数日後・・・。

 

待望の夏休みに突入した7月下旬。

旅行は8月の頭から、ということになった。

ちなみに参加者は

 

3年生組:俺 こなたさん かがみさん つかささん みゆきさん 日下部さん

2年生組:八坂さん 永森さん

1年生組:ゆたかさん ひよりさん みなみさん パティさん

保護者組:ゆかりさん 黒井先生 成実さん いのりさん

 

峰岸さん、結局行かないのね(汗)。

ちなみにそうじろうさんは最後まで自分も保護者としてついて行く、と主張したがこなたさんと成実さんの説得(実力行使とも言う)により何とか収まったそうだ。

そして肝心のみなみさんの両親は突然都合が悪くなったらしく、今年は行けなくなってしまったと言う。

ゆかりさんの旦那さんも仕事の都合で行けなくなってしまった。

一時は中止やむ無しの方向に話が進みかけたが、『せっかく計画したことが大人達の勝手な都合で中止になるのは避けてあげたい』と言って別荘は使わせてもらえる事になったのだ。

・・・さすがにこの状況では俺も遠慮したほうがいいかと思ったが全員揃って『却下』の一言。

保護者も全員女性、友達も全員女子・・・去年海に行った時の比じゃないぞヲイ(汗)。

ちなみにちゃっかり保護者をかって出たいのりさん。

ちょうど仕事も早めの夏休みを取るということで、社会人ということもあり急遽保護者兼運転手として来てくれる事になったのだった。

 

「本当にゴメンなさいね? その代わりと言うのも悪いけど、わたし達のことは気にしないで精一杯楽しんできてね」

「い、いえ。主人が行けないのに別荘を使わせて頂けるだけでも十分感謝してますから」

「ええ。それに、せっかくですからわたしも皆さんと一緒に別荘の方で過ごすつもりでしたから、本当にありがとうございます」

 

あ、でもちゃんと親戚のお家にも行きますよ? とみゆきさん。

ちなみに今回の件についてほのかさんから話を聞くため、みゆきさん、ゆかりさんと岩崎家にお邪魔している。

みなみさんは少し前に席を外した。

 

「それにしても・・・まさきくんだったかしら? 何だかスゴイ状況になっちゃってるわね」

「・・・正直自分でもビックリしてます、ハイ」

「まさきさんには、人を引き付ける不思議な魅力があるのかもしれませんね♪」

「みゆきさんまで・・・勘弁してくれよ」←真っ赤

 

いや、確かに状況的には美味しいかもしれないけどさ。

それ以前に、肩身が狭いっつ~の!

それにそんな不思議な魅力とやらがあったら中学時代もそれなりに・・・いやいや、違うだろ!

 

「・・・それにしてもみなみちゃん、遅いわねぇ。わたしもちょっとお手洗いに行きたくなっちゃったから失礼するわね?」

「ええ」

「ハイ、分かりました」

「・・・・・・」

 

こんな時、俺はどう言えばいいんだろう?

と、扉を開けたゆかりさんが『あらあら♪』とおもちゃを見つけた子供のような笑みを浮かべていた。

どうしたのかと思い、俺とみゆきさんも扉の先を覗き込む。

 

「何かあったんです・・・ね(汗)」

「あらあら、みなみさんったら♪」

 

・・・今、みゆきさんは間違いなくゆかりさんの娘だと思ったぞ。

この母娘、反応似すぎ。

廊下で見つけたもの、ソレは・・・。

 

「スー・・・スー・・・」

「・・・バウ」

 

廊下のド真ん中で岩崎家のペット、チェリーの腹を枕に眠っているみなみさんだった!

あ、ゆかりさんが携帯電話のカメラを起動してる。

 

パシャ☆

 

「・・・・・・はっ!?」

 

カメラのシャッター音で目を覚まし、慌ててみなみさんが起き上がるがもう遅い。

 

「周りの評価はカッコイイとかクールとか言われてるけど・・・」

「ふふふ♪」

「・・・あうあう」←真っ赤

 

ゆかりさんの待ち受けはその写真が暫らく使われる事になるのは余談だ。

 

「それにしてもみなみちゃんってそんな風に言われてるのね~。ホントはすっごくカワイイのに・・・クスクス♪」

「あ、あの、おばさま、できればその辺で・・・」←さらに真っ赤

「ちなみにどの辺がゆかりさん的にはそう思うんです?」

「あらあら、まさきくんはみなみちゃんが気になる?」

「というより素の顔を見てみたいってのじゃダメですかね?」←真顔

 

ボフンッ!!

 

おおう、みなみさんがいきなり・・・てかさらに真っ赤になったぞ(ゾクッ!)。

何か・・・背後から寒気と冷たい視線が・・・(汗)。

恐る恐る振り向いていると、いつも通りのみゆきさんがいた、が・・・。

オーラが、みゆきさんからドス黒いオーラが!!

 

「あ、あの~、みゆきさん?」

「ハイ、何でしょうかまさきさん♪」

「いや、その・・・ナンデモナイデススイマセン・・・」

「どうしました? そんなに震えて・・・夏風邪をひいたら旅行に支障をきたしますよ?」

「ハイ、キヲツケマス・・・」

 

この言い様の無い寒気が収まるのにしばらく時間がかかる事になる・・・みゆきさん、恐ろしい子!

その後女性同士の話になったので、俺はしばらくの間、庭でチェリーと戯れる事となった・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第四十六話 どうにもならない悪い癖

「今回はわざわざ俺達のためにすいません、いのりさん。お世話になります」

「いーのいーの。まさくんには妹達が色々とお世話になってるし・・・それにしても聞けば聞くほど凄い状況よね~♪」

「・・・そこはもう諦めました」

 

岩崎家所有の避暑地への旅行兼勉強合宿出発日。

俺はいのりさんの運転する車にかがみさん、つかささんと一緒に乗って、集合場所である東京某所の岩崎家へ向かっている。

電車以外では行った事が無いが最近は便利なもので、カーナビゲーションを使用しているから道に迷うことは無いだろう。

後は道路状況次第かな?

 

「色々と急だったもんね。いのり姉さんが車の免許持っててくれて助かったわ」

「まつりお姉ちゃんも一緒だったら良かったのにね♪」

「しょうがない・・・ていうかまつりのアレの場合は自業自得よ」

 

どうやら大学のレポートが溜まってる上に運悪く、提出期間が近いために缶詰状態になってるようだ。

・・・状況的にどこかの誰かを思い出す(汗)。

 

「万が一の場合は母さんを召喚しようかとも思ったんだけどね」

「召喚ってアンタ・・・(汗)」

 

もっとも仕事の関係上、1週間以上も休んでもらうわけには行かないもんなぁ。

まぁ結果オーライって事で。

 

「でもこうやって車で行くのは初めてだから、行き先は分かってても結構新鮮だよね」

「そうね・・・ドライブっていうのも悪くないか」

「ねぇねぇまーくん。18歳になったら免許取るの?」

「ん~・・・。早い方が良いんだろうけどまずは受験を終わらせてからかな」

 

それ以前に自動車学校に通わなきゃいけないし、その費用も確かハンパな額じゃなかったはずだ。

その辺りは貯金でギリギリ何とかなるかもしれないけど肝心の自動車は・・・無理!

 

「あらあら、つかさはまさくんと2人っきりでドライブに行きたいの?」←ニヤニヤ

「ふえぇ!? ちちちち違うよ、みんなで一緒にドライブするのもいいなぁって思っただけで!」←真っ赤になって錯乱中

「・・・当然、運転するのは俺の役目になるんだろうけど、そうするとワゴン車辺り買わないといけないんじゃないか、それ・・・? 経済的に難しいなぁ」←素の状態

「レンタカーの場合はいくらかかるのかしらね?」←スルー

 

と、こんな感じでつかささんを弄りながら目的地に向かう俺達だった。

 

夏休み、ということもあって多少道路の混雑を予想していたが、国道は比較的流れている様子。

この調子なら待ち合わせ時間に遅れることも無いだろう。

ちなみにこなたさんとゆたかさんは成実さんの車で途中日下部さんを拾い、八坂さんと永森さんはひよりさん、パティさんと一緒にそれぞれ行くそうだ。

・・・成実さん、いきなりスイッチ入んなきゃいいんだけど(汗)。

 

 

 

「うっわ~・・・この辺高級住宅街じゃん。さすが別荘を持ってるだけあるわね。えっと、岩崎さんだっけ?」

「まぁ持ってる人は持ってるって事で。ちなみに反対側の家はクラスメイトで委員長の高良さんちです」

 

岩崎家に到着するなり、いのりさんの一言。

社会人とは言え、そう思うのも無理は無い・・・のかな?

考えたこと無かったけど岩崎さんの家の敷地、何坪あるんだろ?

あ、庭でチェリーがはしゃいでる。

ちなみにいのりさんは反対側の家を見て・・・こっちを見ても口をあんぐりしていた。

 

「あ、チェリーちゃん、今日も元気だね」

「ていうか車が来たから興奮してるだけなんじゃない?」

 

そんな中でいのりさんの妹達は慣れた動作で岩崎家のインターホンを鳴らす。

どうやら俺達が一番乗りだったようだ(高良家の2人は家が真正面だから除く)。

玄関のドアが開き、ほのかさんが出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいみなさん。そちらが保護者の方かしら? 初めまして、岩崎ほのかと申します。」

「あ、えと、初めまして、柊いのりと申します。今回は妹達共々、若輩者ですが保護者として同行させていただきます。よろしくお願いいたします」

 

おおう、大人な会話のやりとりだ。

てかこうして見るといのりさんも社会人っぽく見える。

 

「なんかいのりお姉ちゃんかっこいいね」

「いつもああだと良いんだけどね~」

「まぁ、今だけじゃない? 社交辞令って事で」

「・・・何気に言うわね、まさきくんも」

 

もちろん本人に聞かれたらカミナリが落ちかねないので小声で話している。

その後全員が揃うまでティータイムにするようだ。

が、俺の場合・・・。

 

「おいこらチェリー、あんまり舐めるなくすぐったい、てかひっかくなコラ!」

 

岩崎家に入ろうとした時に何故かチェリーが俺について来たので、相手をするために外に残って暇を潰していた。

こんなに犬に懐かれやすかったっけ、俺?

 

「あの、赤井先輩・・・」

「ん? どうしたのみなみさん?」

 

むう、人の家のペットに馴れ馴れしくしすぎたかな?

かと思いきや・・・。

 

「先輩とチェリーが遊んでる所、撮って良いですか?」

「へ・・・?」

 

どうやらチェリーが尻尾を振って()()遊んでいるところがみなみさん的にグッと来たらしい・・・あくまでチェリーに、ね。

まぁ断る理由もないから構わないと言ったら、いそいそとデジカメを取り出してシャッターを押し始めた。

そこに八坂さん達が来たらしく、ひよりさん達に教えられたのかみなみさんに挨拶をしに来た。

 

「あなたがみなみちゃん? 初めまして、八坂こうです。今回は誘ってくれてありがとね!」

「永森やまとです、よろしく・・・こう、もうちょっとテンション下げられないの?」

「いえ、私は気にしてませんし、元々母の提案でしたから・・・」

 

八坂さんを諌める永森さんだが、みなみさんが特に気にしてないと知るとホッと一息ついたようだ・・・相変わらず苦労してるなぁ。

 

「・・・ねぇ岩崎さん、私も混ぜてもらっていいかしら?」

「・・・ええ、どうぞご遠慮なく」

「永森さんって犬は大丈夫なんだ?」

「ええ、まぁ・・・ね」

 

そんな訳で永森さんも混じってきた・・・なんかニヤニヤした八坂さんの視線が気になるが。

チェリーは永森さんの足元をくるくると臭いを嗅いで回っていたが、永森さんが遠慮がちに手を出すと前足をポン、と乗せた。

その後は永森さんがチェリーの頭や顎を撫でたり、体に顔を埋めたりしてはうっすらと笑みを覗かせていた。

ちなみにこっちもみなみさんは激写中である・・・あっさり馴染んだな、こっちも。

そんな事をしてる間に成実車に乗ったこなたさんたちや、黒井先生が来て全員が揃ったようだ。

正直黒井先生や成実車辺りが遅れ・・・いや、成実車はさらに早く来るか(汗)。

実際、黒井先生が一番遅かったんだがこれは誤差の範疇。

 

「しかしこうして見るとますます俺の存在が浮くな~・・・」

「何言ってんの、まさきがいなきゃ私達は全員揃ったとは言えないじゃん♪」

「いや、意味解かんないし」

 

保護者含めて女性15人に対して男性は俺1人・・・肩身がおもいっきり狭いっての(汗)。

 

「そういや誰がどの車に乗るか決めてるの?」

「いえ、それに関してはこれから決めようかと・・・ご希望があるんですか?」

「いや、希望というより提案かな・・・」

 

ドライバーの性格など色々と考慮して考えていた事をみゆきさんに提案した。

その結果・・・。

 

高良車 ゆかりさん(運転手)、柊姉妹、日下部さん。

黒井車 黒井先生(運転手)、みゆきさん、八坂さん、永森さん。

柊車 いのりさん(運転手)、みなみさん、ゆたかさん、パティさん、オマケにチェリー。

成実車 成実さん(運転手)、俺、こなたさん、ひよりさん。

 

となった。

基本的にこの順番で走る事になる。

目的地を知ってる人をそれぞれの車に最低1人乗せて、例外的に場所を知らないメンツの成実車が前を走るいのりさんの車を見失う、という事はないと判断。

さらに俺は目的地を事前に聞いて、インターネット等を駆使して道順を頭に叩き込み、さらに地図帳を持った上で助手席に乗ることを選んだ。

こうして万が一に備えた上で成実さんが爆走(暴走とも言う)しそうになったら、彼女を止める役を自ら引き受けたのである。

こなたさんは成実さんが暴走してもある程度慣れてるし、ひよりさんは・・・まぁ抽選の結果ってことで。

少々距離がある事から高速道路を利用し、岩崎家や高良家がいつも使ってるS.Aで休憩することも確認した。

乗車する車が決まった人から車に乗り、順次出発となる。

目的地は軽井沢だ。

 

 

 

「いや~、去年より更に凄い人数で旅行することになるとはね~。赤井君も大変だね☆」

「まぁ大変ではありますけどね・・・今は主に成実さんの爆走を止めるために」

「他に誰がゆいねーさんを止められるかって考えると、きーにいさんくらいしかいないもんね~」

「ええっと、何だか先輩方との話を聞いてるとすっごくヤな予感しかしないんスけど~・・・?」

 

現在高速道路を走行中。

今の所、猛スピードで走る車は特に無く、暴走の兆しも見えない。

ま、杞憂に終わるのが一番良いんだけどね。

 

「しかしまさきも考えたもんだね」

「何が?」

「分乗の時の事だよ~。私ら揃って何も考えてなかったからさ。ゆーちゃんが乗った状態で暴走しようモンなら間違いなく体調崩すしさ」

「むむ、おねーさんをもうちょっと信用してくれても良いんじゃないかな?」

「そうは言いますけどね・・・」

 

去年の『アレ』を思い出すとどうしても、なぁ。

ひよりさんは言ってる意味が解からなかったようで・・・。

 

「あの~、さっきから気になってるんスけど・・・爆走とか暴走って?」

「ああ、成実さんって猛スピードで追い抜かれるとスイッチが入っちゃってね」

「スイッチ?」

「つまり、ゆいねーさんはその瞬間に頭○字D的な走りになるんだ!」

「な、なんだって~!?」

 

ネタをネタで返したのは良いが、後部座席でこなたさんがポン、とひよりさんの肩を叩いた。

ひよりさんはネタで返す余裕はあったようだがすぐに顔面蒼白になっている。

 

「生きて、帰れますよね?」

「運が良ければ死なない程度に気絶するだけじゃない?」

「私はもうそこそこ慣れたけどネ~」

「ダ~イジョウブだって。おねーさんにまかs『ブゥオンッ!!』・・・・・・」

 

俺たちが冗談半分で言ってるそばから猛スピードのスポーツカーが通り抜けました(汗)。

やべ、成美さんの表情が既に頭○字D的なタッチに・・・!

 

「・・・あんにゃろう、いい気になr「ハイストップ。成実さん、ひとまず落ち着いてください」ここで引くわけにはいかないんだよ赤井くん!?」

 

うお、怖!

でもここで怖気づいたら何のために助手席(ココ)に乗ったか分からない。

何としても止めなければ!

俺は急ハンドルを切れないようにハンドルを押さえて、クラッチレバーにも手をかけた。

後ろから何か聞こえるが気にしてる余裕は無い!

 

「成実さん、高校生とは言え子供達の前ですよ!? それに最悪の事態になった時、悲しむ人たちがいると言う事を考えてください!」

「・・・・・・!」

「こなたさんは成実さんのかわいい妹でしょ!? 成実さんに何かあったら旦那さんやゆたかさんも悲しむでしょう!? ひよりさんにもそういう人はいるんですよ!!」

「・・・くっ・・・!」

 

成実さんが頭の中で理性と本能が戦ってる・・・でももう一息!

 

「もしこれが原因で成実さんが俺に対して悪いイメージを持ったとしても俺は後悔しませんよ。俺は、俺の正しいと思ったことを言って、行動しただけなんですから」

「・・・分かったヨまさきくん。分かったからまず手を離してくれないかな?」

 

成実さんの声は暴走した時のまま。

でもここは成実さんを信じて俺は手を離した。

 

「(スゥ~、ハァ~)・・・ゴメンね~怖がらせちゃって。もう大丈夫! 心配要らないよ~☆」

 

大きく深呼吸をした後の成実さんはいつもの成実さんだ。

あ~、怖かった・・・。

幸いなことに前を走ってる柊車は見失っていない。

と、そこに・・・。

 

「減点!」

 

バキッ!

 

「痛っ! いきなり何すんの!?」

 

突然後からこなたさんが俺の頭を拳骨で叩いたのだ・・・それも結構な力で。

 

「さっきのゆいねーさんを止めたまさきは凄かったけどさ、まさきにだって何かあったら悲しむ人が一杯いるんだからね? それを忘れちゃダメだよ?」

「あっはっは。考えてみると赤井君、自分の事に関しては全然触れてなかったもんね~」

 

・・・そういや自分の事はまるで考えてなかったっけ。

 

「・・・は! メモメモ! 今のは・・・えっとあそこで・・・ああいう風に。でも・・・いや待てよ? アレンジを加えて・・・キタキタ、ネタがキタ~!」

「も~好きにしてくれ・・・」

 

ひよりさんは相変わらず研究熱心な事だ。

こっちはこっちで相手をする余裕は既に無い・・・。

 

 

 

<軽井沢:岩崎家別荘>

 

 

 

「・・・ということがあったんスよ~」

「す、凄いですね、赤井先輩」

「中々出来る事じゃないですね・・・」

「さすがニッポンダンジ、キめるトコロでキめますネ、マサキ!」

 

別荘に着いた時は既に夕方。

水やガス、電気はキッチリ管理されていたのですぐに夕飯の準備に取り掛かれた。

長旅だったこともあり、今日の夕飯は簡単な物で済ませる事になる。

ちなみに高良母娘は今日は親戚の家に行くとの事でココにはいない。

その後、全員風呂に入り(もちろんお約束なんて無かった)、ひよりさんが興奮気味にみんなに話していたため、成実さんを説得した時の言葉が鮮明に思い出されて・・・。

うわ、メチャメチャクサい事言ったな、俺(汗)。

 

「それにしてもアンタは最初っからそのつもりだったのか?」

「まーくん、確かに凄いけど・・・」

「もう少し自分を大事にした方が良いと思います」

「でもお姉ちゃん達がなんとも無くてよかった~」

 

実際、あのスポーツカーを見た時、ゆたかさんは成実さんが暴走しないか相当心配してたようだ。

直線の高速道路も十分危険だからね。

ついでに言うと成実さんを説得中、後から聞こえた話し声はゆたかさんがこなたさんの携帯に電話をして状況の確認をしていたとか。

 

「あ~・・・俺はもう寝るよ」

「ええ~? もうすこs「今日はお疲れ様、お休みまさきくん」フガモガ~!」

『お休みなさ~い』

「Good Night! マサキ!」

「ああ。お休み、みんな」

 

 

 

場所は移して保護者達の部屋。

俺の寝床は居間のソファーでも良いって言ったんだけどなぁ。

 

「お、来おったな今日の勇者君!」

「何ですかそれは・・・」

 

今日あったことは既に保護者組にも伝わっているようで、成実さんは部屋の隅で小さくなってブツブツ呟いてる・・・ビール片手に。

 

「結局何事も無かったんんですから、お咎め無しでも良いんじゃ?」

「まぁね。まさくんの言う通り、そう言ったんだけど・・・お酒入ったら成実さん、ああなっちゃって・・・」

 

この後、成実さんを立ち直らせるのにまた一苦労したのは余談である。

さらに・・・。

 

「赤井、お前のとった行動は正しいのかも知れへんけどな・・・最悪の場合、赤井のご両親にうちら全員顔向けが出来なくなるんやからな?」

「何かあったらあの娘達が悲しむし、私達も同じなのよ? それだけは憶えておいてちょうだい」

「ハイ、すいませんでした・・・」

 

自分を大事にしなかった点について、追い討ちをかけるようにいのりさんと黒井先生に説教されました(涙)。

 

 

 

つづく・・・



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第四十七話 みんなで過ごす、夏の1日 1日目

「確かにさ、早起きは3文の得って言うけどね・・・」

 

別荘生活初めての早朝5時半。

俺はいつも通りに早起きしてジャージに着替え、軽く顔を洗って外に出た。

周囲の散策も兼ねたランニング。

いつもとは状況も環境も違うから誰にも声をかけず、タオルのほかに携帯電話のみを持って外に出た。

予想出来るのは2~3人くらい同じく準備して待ってるのかと思いきや、居間にもいないし洗面所で顔を合わせる事も無かったから拍子抜けしてたのだが・・・。

 

「何で人数増えてるの?」

 

別にダメって言う訳じゃないけど。

 

「私はもっと体力付けたいので」

「近場にランニングコースがあるので、そこまで案内します。チェリーの散歩もあるし・・・ゆたかに何かあった時は私が付添いますので」

「ワウッ!」

「ゆーちゃんは健気に頑張る所が可愛いんだよね~♪」

「ま、私達は言うまでも無いんじゃない?」

「今日も一緒にがんばろうね、まーくん♪」

「私は朝錬とかで慣れてるからナ♪」

「・・・私も、運動は嫌いじゃないので・・・ついでです」

 

上から順にゆたかさん、みなみさん、チェリー、こなたさん、柊姉妹に日下部さん、そして永森さんまで(汗)。

ずいぶんな大所帯になったなオイ。

とりあえずみなみさんの言葉に甘えてランニングコースに案内してもらった。

と言っても別荘からは目と鼻の先、近くの小川の土手の上。

コンクリートで固められてて、スタート地点が記されている。

幅もそれなりの広さがあって、みなみさん曰く往復で最長4キロあるとか。

どこにでもありがちなコースだが、皆で走るならこういう場所のほうが安全なのかもしれない。

ちなみにこの場にいない人達は爆睡中である。

 

 

 

「ほいゆたかさん、お疲れ様!」

「よくがんばったね~。ゆーちゃん苦しくなかった?」

「はぁ・・・はぁ・・・何とか・・・みなみちゃんや・・・チェリーちゃんが・・・励ましてくれたから・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「そんな事ない。逆に私は、声をかける事くらいしか出来なくて・・・」

 

永森さんがこういう事は初めてだという事で2キロ程で切り上げる事にしたが、やはり体の弱いゆたかさんには無理がある。

俺と陸上部である日下部さんは、少しずつ慣らして行くという意味で、ゆたかさんは走る距離を縮めた方が良いと判断した。

本人もその事には納得したようで、短い距離だが足を止める事無く俺たちとほぼ同時にきっちり完走している。

 

「はっ・・・はっ・・・」

「永森~、大丈夫か?」

「体力には、ある程度、自信が、あったのですが・・・。先輩達は、毎朝、こんな距離、走ってるんですか・・・?」

「ん~、もうちょっと走ってるよね?」

「結局は慣れよ。私たちも最初はキツかったもの」

 

こっちは永森さんが若干バテ気味である。

まぁ柊姉妹は俺と毎朝走ってるし、こなたさんは何故か体力だけはあるインドア派。

日下部さんに至っては陸上部である。

永森さんが普段どんな生活をしているか知らないが、彼女には少しキツイ距離だったかも知れない。

そんな事を話しながら俺たちは2人の回復を待ち、別荘に戻っていった。

 

 

 

玄関を開けた途端にいいにおいがしてくる。

時間はまだ7時になる前だが朝食の準備をしてくれてるようだ。

台所を覗くと・・・。

 

「おはようございます、いのりさん、成実さん」

「あ、いのりお姉ちゃん、成実さん。私も手伝います」

「あら、みんなお帰りなさい。それとおはよう」

「おはよ~。君らは疲れてるでしょ? ご飯炊けるまでもう少しかかるから休んでなよ。朝食の用意はおねーさん達にまっかせなさい♪」

「ハハ、ありがとうございます」

 

成実さん、昨夜はあんなだったけど切り替えが早いのかすっかり立ち直ってるようだ。

心の中で少し安堵ながら、俺はもう1人の保護者がいる(正確には爆睡してると思われる)部屋に向かった。

黒井先生、昨夜はビール片手に俺を説教してたからなぁ。

そして戻ってみると案の定、黒井先生は気持ち良さそうに爆睡していた。

長距離の運転で疲れが残ってる上に結構な量のアルコールが入ってるからそうそうは起きないだろう。

・・・去年、海に行った時はちゃんと起きてたような気がするが。

ひとまずその場はそっとして置いて、俺は必 要 な 物(べんきょうどうぐ)を纏めてあるカバンを持ち出し、静かに部屋を後にした。

 

 

 

「おはよう、八坂さんにひよりさん、パティさん」

『おはようございます!』

 

居間に戻ってきたら、まだ寝ていた(と思っていた)3人の後輩も起きて来ていた。

返事は良かったがかなり眠そうである。

話を聞いてみると『夜のほうが集中できる』とかで夏コミのすぐ後にあるイベントの原稿を書いていたとの事・・・もう8月だけど間に合うのか?

 

「いや~、趣味に没頭してる時って自分は人生楽しんでるな~って思いません?」

「ひよりさん、何事も程ほどにな・・・」

 

ちなみに原稿の方は明け方近くまで書いてたそうだ。

・・・作家って大変だな~。

 

 

 

「今年の夏休みは危うく勉強ばっかりで、楽しみは夏コミくらいか~って思っちゃってたよ~」

「こなた。あんたココに来たのが避暑のためだけって訳じゃないの、解かってるんでしょうね・・・?」

 

皆でワイワイ話ながらの朝食の一コマ。

こなたさんは相変わらずだがあまり本気で言ってる訳ではない様子。

この時期に本気で遊ぶ事ばかり言ってたら大問題だが・・・。

大雑把な予定としては移動日を除き、この別荘を1週間利用させてもらう事になっている。

俺達3年生組は夏休みの宿題を速めに片付けて受験勉強を。

後輩達は同じく宿題を片付けて、その後は俺達次第で決めるという。

その辺りは彼女達なりの気遣いだろうと個人的には思う。

もっとも、今から気合を入れすぎても身に入らない可能性が大きいから、なるべく涼しいうちに勉強の時間を割り当てて、昼間は外に出るか屋内で過ごすか。

近くに綺麗な川や、ちょっとした森を抜けた先に見晴らしのいい高台もあるという事で、気分転換に外に出るのも良いだろう。

そういえば、周りを見て気付いた事が1つ。

 

「いのりさん、成実さんはどうしたんです?」

「ああ、成実さんならご飯出来た後に自分の分軽く食べてすぐに車で出かけていったわ」

「えっと、ひょっとしてゆいお姉ちゃん・・・」

「ゆいねーさん、今頃嬉々として峠を走ってるんだろうね~」

 

昨日、あんな事があったからやっぱりストレスが溜まったのかなぁ。

まぁ趣味に関して口を挟むつもりは無いけど警察官が警察官に捕まる、なんて事になったらどうする気だろ・・・。

ちなみに当の成実さんは、昼前にはずいぶんスッキリとした顔で帰ってきたのは余談である。

 

 

 

カリカリカリカリカリカリカリカリ・・・。

ノートに書き込むシャ-プペンの音が静かに響く。

居間が予想以上に広かったこともあり、皆で集まって夏休みの宿題に取り掛かっている。

みゆきさんもついさっき、こちらに来て宿題を進め始めた。

と言っても手のかかる娘が何人かいるだろうと思い、殆ど終わらせていたのが俺を含めて数名いる。

誰かが解からない所を聞きに来るまでは自習のようなものだ。

 

「あの、赤井先輩。ちょっと良いですか?」

「何、永森さん・・・聖フィオリナって結構授業の進行が速いんだね」

 

陵桜より授業が進んでるようで、永森さんが八坂さんに聞かず俺に聞きに来る。

俺よりみゆきさんに聞いたほうが確実なんだが。

何だかその後も永森さんはちょくちょく俺に聞きに来てる上に次第にあちらこちらから妙なプレッシャーが(汗)。

 

「ねぇねぇまさき、ココはどうするの?」

「まーくんちょっといい?」

「まさきさん、ここ、計算が間違ってますよ?」

「まさきくん、ここの訳はこれであってるかな?」

「赤井~・・・あれ、赤井?」

「いやさ、何で皆して俺に・・・日下部さん、どうかした?」

 

聞いたり指摘したり確認したり色々と復習出来てありがたいのだが。

日下部さん、何か聞こうとしたけど・・・はて?

 

「なぁなぁ、私もまさきって呼んでいいか?」

「へ・・・? 構わないけどどうしたの、突然?」

 

かがみさん達は名前で呼んでるのに日下部さんは苗字呼びなのが少し不快だったらしい。

これを気に俺は日下部さんの事をみさおさんと呼ぶようになった。

おまけに永森さんや八坂さんまで名前で呼び合う事を提案してきた。

 

「やっぱりスタートラインは皆が一緒の方がいいよね」

「スタートライン? それに皆って?」

「それは秘密です♪」

 

つかささんの言葉に疑問を覚えるがこなたさんが某獣神官のようなそぶりで軽くかわしたので、とりあえず気にしない事にする。

なんとなく、今までの経緯からして予想できる事はあるけどあくまで予想だ。

多分、あってるとは思うけど今はまだ、記憶の片隅に置いておこう。

 

 

 

「こういう森林浴ってのもたまにはいいですね♪」

「ここは、チェリーもお気に入りな散歩道」

「深い森の中を歩く数名の男女・・・何か創作意欲g「こ~ら」あう・・・先輩いきなり何するんスか~?」

「こういうのは静かに楽しむもんだ」

「キモチはワカリますヨ。デモヒヨリ、モウソウがダダもれでしたヨ?」

「うわマジッ!?」

 

その日の午後。

軽く昼食を食べた俺達は、1年生組とチェリーの散歩を含めて近くの森で森林浴を楽しんでいた。

暑い陽射しも木の葉が遮っていて、ちょうどいい日傘代わりになってくれてる。

たまにひよりさんが暴走気味になるが、適当に消火しておく。

てか彼 女 等(どうじんさっか)はいつもそういう事を考えてるのだろうか?

そんな時。

 

「ひゃあっ!」

『田村さん!?』

 

石に躓いたのかひよりさんが体制を崩した!

手を貸そうにも距離が離れてて届かない!

しかし、俺はある意味凄いものを見る事になる。

 

「ふんぬぉぉぉぉう!!」

 

女子高生にあるまじき絶叫を上げて体を横に回転させて地面に背中から落ちたのだ。

空中で咄嗟に体を回転させるなんて簡単に出来る事じゃない・・・て違うだろ、俺。

 

「ひよりさん、大丈夫!?」

「は、はい・・・利き手は守りました・・・」

「・・・は?」

「絵描きにとって利き手は命っス・・・」

「・・・ヒヨリはたくましいデスネ」

 

ゆたかさんやみなみさんも同じく思ったようで、うんうんと頷いている。

とりあえず起してやろうとしたら突然チェリーがひよりさんにのしかかった!

 

「わふわふっ!」

「わ、わ、タイムタイム! 利き手だけは! てかわたしは餌じゃないっすよ~!」

「ずいぶん懐かれてるな~」

「ヒヨリはチェリーにアイされてるのデスネ~♪」

「ちょ!? 2人ともほのぼのしてないで助けてくださいよ!?」

 

結局その場は俺が何とかチェリーを引き剥がし、みなみさんが諌める事で収まった。

 

「やっぱり男の人って力あるんですね。ちょっと羨ましいな」

「人によると思うよ? 俺は軽い筋トレとかしてるし」

 

体が弱いゆたかさんにとってはやはり羨ましいのだろうか?

もっともチェリーをひよりさんから引き剥がした時に、大型犬を軽く持ち上げたからそういう風に見えるのかもしれない。

 

「やっぱり筋肉の付き方は男女差って大きいと思います。腕力が無いのはゆたかだけじゃないから」

「そっか~・・・私もまさきお兄ちゃんみたいに努力すれば少しは強くなれるのかな?」

「結局は日ごろの積み重ねかな・・・ん?」

 

何か今引っかかるような事を言われたような・・・。

 

「小早川さ~ん、今・・・」

「え・・・はう!」

「ナルホド、ユタカはマサキのことをおにいty・・・」

「わぁ~! パトリシアさんストップストップ!!」

「・・・まぁどう呼ばれても不快にならん限り別に良いけどね」

 

最初会った時もいきなり名前で呼ばれたからな~。

また何か色々と誤解を招きそうだがもう慣れたし。

結局、ゆたかさんから『まさきお兄ちゃん』と呼ばれるようになった事に関して、別荘に戻ってから成実さん達に色々問い詰められるようになるのはもはやお約束である・・・。

 

 

 

『それじゃあ早速行ってみよ~!!』

「・・・・・・」

 

現状。

俺は腕を2人に引っぱられて廊下を引きずられている。

右腕、こなたさん。

左腕、みさおさん。

他には柊姉妹にみゆきさん、やまとさんがついて来るがみんな揃って苦笑い。

てか助けろよコンチクショウ。

夕飯も風呂も済ませて居間でくつろいでいた所をこの2人に捕まり、彼女らの相部屋の4人と一緒に彼女らが使ってる部屋に連れて行かれている・・・強制的に。

まぁ何されるか分からないから彼女達の誘いを断ったってのが強制連行の原因っぽいが。

そしてその予感は的中する事になる。

 

「さぁ! 今夜のお楽しみ、ゲーム大会を開始だゼ~♪」

「トランプで大富豪! 負けた人、つまり貧民と大貧民は罰ゲームにコスプレを命令される! ちなみに敗者に拒否権は無いよ♪」

「その事で泉さんと色々用意してみました♪」

 

あと、その格好のままゲームを続けるのだよ~、とはこなたさんの言葉である。

大きなクローゼットを開けた途端に目に入ったのは様々な衣装と小物類。

つまりはコスプレセットがずらり。

ああ、みゆきさんがどんどんこなたさん色に染まっていく・・・。

詳しく聞いて無かったのかかがみさんややまとさんは呆然としてる。

ついでに言うとその格好を撮影までされるらしい。

しかもココにあるのって・・・。

 

「ずいぶんマニアックな物もある・・・てか女物ばっかって・・・(汗)」

「そう、コスプレして写真撮られたくなければ勝つ以外に道は無いのだよ!」

 

負けられない・・・絶対に負けるわけにはいかない!

いくら続けてもキリがなくなる可能性を考慮に入れて、ゲームは10回。

男の尊厳を賭けた勝負が今、俺の中で静かに始まった。

が、その結果・・・。

 

1回戦:貧民、かがみさん 大貧民、俺。

 

「次は、負けないわよ(怒)・・・」

「なんてこった・・・」

 

気合が空回りして俺とかがみさんが罰ゲーム。

俺はセ○ラー○ーン、かがみさんはねこ耳付きのメイドさん。

当然、みんな俺を見て大爆笑・・・穴があったら入りてぇ(涙)。

ちなみに着替えは当然、離れで別々である。

 

2回戦:貧民、みさおさん 大貧民、つかささん。

 

「ヴぁ~(涙)・・・」

「ちょっと、恥ずかしいかも・・・」

 

今度はこの2人。

みさおさんは幼稚園児の服(帽子とポーチ付き)、つかささんはどう見てもミー○・キャ○ベ○だ。

 

3回戦:貧民、やまとさん 大貧民、こなたさん。

 

「・・・・・・」←真っ赤

「むう、大型のパット・・・精神的にクルよこれは・・・」

 

やまとさんはレースクイーン(露出度がやたら激しい)、こなたさんはメイド服(朝○奈み○るバージョン)。

その後、予定通り計10回大富豪をやったが・・・。

 

「何で高良先輩だけ・・・」

「みゆきさんは・・・絶対的天運を持ってるんだよ、きっと」

「え、えっと・・・」

 

みゆきさんは相変わらず負けナシ・・・。

最低でも平民・・・当然納得がいくはずがない。

 

「ココまで最低1回は罰ゲームやってるよね・・・みゆきさん以外」←某主人公の妹(ランドセル付き)コス

「わたし達はみんな恥ずかしいカッコしてるのに・・・みゆき以外」←初○○クコス

「みんな可愛かったよね・・・ゆきちゃん以外」←どこぞのスターズ3コス

「何か納得いかねぇゼ・・・眼鏡ちゃんの結果だけ」←何故かピッチリな白いプ○グスーツコス

「やはりココは無条件でやるべきですよね・・・高良先輩のみ」←同じく何故かピッチリな赤いプ○グスーツ

「あう・・・み、皆さん、目が怖いです・・・」←滝汗

 

困った顔で俺に目で助けを求めてくるが、俺もノーコメント。←タ○ヤノ○ココス

そういうわけで・・・。

 

「というわけで、みゆきさんをご案内~♪」

「え? ええ!?」

「はいはい暴れな~い♪ みゆきにピッタリな物を見繕ってあげるわ~♪」

「私も手伝うよ~♪」

 

こなたさんと柊姉妹にしきりの向こう側に連れて行かれた・・・。

運が良すぎるのもよしあしだな。

 

それから数分後、みゆきさんの悲鳴が聞こえたが・・・。

 

「ま、待ってください! さすがにこれでは!」

「はいはい文句言わない♪」

「はいみんな~、みゆきのコスプレをどうぞ~!」

 

かがみさん、のりのりだな~・・・て!

 

「うわ・・・」←真っ赤

「た、高良先輩って・・・」←同じく真っ赤

 

さ、さすがにこれは・・・スタイルの良いみゆきさんの体にピッタリフィットするバニーガールコスは(汗)。

これには俺も直視できずに回れ右をせざるをえない・・・。

 

「まさき~、みゆきさんに対して感想は? 感想は?」

「俺に聞くなバカタレェ!」

 

あえて言うと・・・立てません!

理由は・・・まぁあれだ、生理現象というヤツだ。

てかみゆきさん色っぽすぎ!

俺みたいな健全な青年男子にはある意味目の毒だ。

結局小1時間大騒ぎした上に他の後輩組や保護者組が来てその場の全員のコスプレを見られるハメになった・・・。

 

「赤井先輩・・・何かつらい事でもあったんですか?」

「私でよければ相談に乗りますが・・・」

「頼むからかわいそうな目で見るのはやめてくれ・・・」←半泣き状態

 

 

 

つづく・・・



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第四十八話 みんなで過ごす、夏の1日 2日目

「ふわ~あ・・・」

「あ、おはようございます。黒井先生」

 

早朝の恒例行事(ランニング)を済ませて部屋に戻ると黒井先生がちょうど起きた所だった。

 

「おぅ、おはようさん、赤井。いや~、昨夜は少し飲みすぎたさかい、昼間までぐっすりやと思っとったけど・・・ふぁ。ウチもまだまだ若いんかな~」

 

ちなみに時間はまだ7時前。

普通に考えれば休日の朝としては確かに早い時間だろう。

そう、普通に考えれば。

 

「一応言っときますけど先生。今日はもう2日目ですよ?」

「・・・へ?」

 

つまり黒井先生はここに来た日の夜から昨日丸一日、そして今朝の大体7時まで、約30時間以上熟睡していた事になる。

 

「一応みんなには体調不良ってことで言ってあるので」

「え? え? あれ?」

 

黒井先生は状況が理解出来ずにいたようだが、その内分かるだろう。

ちなみに今日は朝起きた時から成実さんがいなくなってたりする。

ついでに言うと車も無い。

・・・無茶な事をして事故って無きゃ良いけど(汗)。

 

 

 

「本当に大した事無くてよかったです、黒井先生」

「あ、あはは、要らん心配かけてすまんかったな~」

「これで先生に教えてもらいながらお勉強できますね♪」

「柊~・・・て2人いるか。ウチのクラスの柊? ウチの受け持ちは社会ってか世界史やで? あんま期待すんなや~♪」

 

そういうことを平然と言うのは教師としてどうかと思います、黒井先生。

今日は全員揃っての朝食。

成実さんも満足げな顔で帰ってきており、黒井先生は誤魔化すので忙しい。

先生に何があったのか、勘が良い娘は何人か気付いてそうだ。

昨日は高良母娘が抜けていたが昨夜からこちらに泊まる事になっている。

にぎやかになるのは大歓迎だがやっぱり肩身は狭い。

・・・あんまり考えないようにしよう。

俺はそういう考えを頭の隅に追いやり、素直に今の状況を楽しむ事にした。

 

 

 

「にしてもさ~、私思うんだけど・・・」

「下らない事だったらはっ倒すわよ♪」

「怖!? いやいや、うちらを1つの家族だとしたら誰がどの役かと思って・・・」

「・・・天誅!」

 

メキャ!

 

「あいたぁ!? そんなにくだらない事じゃないじゃん!」

「とりあえず今する話じゃないね」

「まさきくんの言う通りよ。ほら、さっさと手を動かしなさい」

 

どこの家族○画だ・・・。

ちなみに今は午前の勉強中。

黒井先生も加わり、結構熱の入った勉強会となっている。

しかし・・・この場に父親役は男性保護者がいないので却下。

母親役は年功序列で・・・ゆかりさん?

後は上から順に・・・ってんな事どうでもいいっての!

あれ、成実さんといのりさんって何さい・・・いやだから!

 

「赤井君」

「まさくん」

「はい?」

 

突然洗い物や掃除の真っ最中の2人が顔を出す。

 

『今何か物凄く失礼な事考えてなかった?』

「何にも考えてません!」

 

ホント、こういう時の女性って勘が良いな~・・・女性ってもしかしてニュー○イプ?

そんな人類の革新なんて嫌すぎる、なんてアホな事を考えつつ英文の訳に取り掛かった。

 

 

 

その日の午後。

別荘の裏手にある小川でみんなで遊んでいた。

そんなに深い川じゃないし、山の中で綺麗な水と言う事で、全員用意しておいた水着に着替えて遊びまわっている。

あっちではゆたかさんにみなみさんが泳ぎ方を教えていたり、こっちではこなたさんに悪戯されたみさおさんがこなたさんを追い掛け回している。

みゆきさんはかがみさんと一緒に水をかけ合ってはしゃいでいる。

向こうでは何故か浮き輪持ちのパティさんがひよりさんと仲良く浮かんでいる・・・どっかで見た光景だな。

保護者組はパラソルとテーブルセットがあるのでお茶を飲みながら談笑中。

てかそこにいのりさんも混じってるのだが・・・違和感が無い(汗)。

ちなみに俺はと言うと・・・。

 

「ふんぬうぅおおおおああああ!!」

「・・・はっ・・・はっ!」

「まーくんがんばれ~!」

「やまとぉ! 負けるな~!」

 

やまとさんとガチで競泳中。

特に深い意味は無いが、話の成り行き上こうなってしまった。

ま、楽しければ良いんだけどね♪

しかし水泳が得意なのか、やまとさんも速い速い。

体育の授業で水泳がある・・・んだろうなぁ。

ちなみに陵桜には何故か無い。

プールはあるのに・・・謎っていうか、理不尽だ。

そして結果はというと・・・。

 

「ほとんど同着だね」

「2人ともお疲れ~!」

「はぁ、はぁ、女子とほぼ同じってのがちょっと悔しいけど・・・」

「ジョキングでは、遅れをとりましたが、こっちは負けませんよ」

 

基本的に夏が好きだと言うやまとさん。

天気の良い休日は、よくサイクリングに行ったり、同じ高校の友達と市民プールに遊びに行くと言う。

もっとも、こうさんの無茶に付き合わされることも多いようだが。

 

「しかしやまとさんもやるね~。俺は息が上がってるのに」

「まさき先輩の場合、何だか無駄に力が入ってるように見えましたよ? 適度に力を抜かないと」

 

いやこうさん、そうはいうけどね・・・。

保護者組は全員1枚上に羽織ってるが、学生組は全員水着・・・つまり俺以外みんな素肌が眩しい水着姿な女の子。

みゆきさんは去年もそうだったが露出の多いビキニ。

ついでスタイルの良いパティさんは何故かスクール水着である・・・しかも微妙に胸がはみdゲフンゲフン!

あ~、あまり目立たないが何気にこうさんも・・・まぁあれだ、脱いだら凄かったってことで。

正直な話、大人顔負けのスタイルを持つこの3人には目のやり場が非常に困ります、はい。

ついでに言うと他のみんなも歳相応のかわいらしい水着・・・あのこなたさんでさえ普通の水着を着用していた。

こんな状況で平常心を保てる男はある意味凄いと思う。

疲れきって何も考えられないようにしないとある意味身が持たん。

そんな時。

 

「みなさ~ん、集まってくださ~い!」

「みんなでゲームやろうよ~。先生達も参加しませんか?」

「あらあら、こんなおばさんが混ざってもいいのかしら?」

「ウチはまだまだ若いからやったるで!」

 

みゆきさんの呼びかけにより、全員が集まってゲームとやらの内容を聞いた。

内容は単純、雪合戦ならぬ水鉄砲合戦。

旗のような物がつけられた帽子をかぶって、用意されてる色々な種類の水鉄砲を使い、相手の旗を撃ち抜く。

旗は薄い網のような物・・・ぶっちゃけ金魚すくいとかに使うような薄いもので、あたったらすぐに穴が開くような代物だ。

見た目にかなり難があるのが欠点か。

そして4人1組による総当たり戦で勝ち残った1人が他の勝ち残った人と戦い、最後に残った人が優勝、と言った形になる。

水鉄砲はコンビニで売ってそうな小型の物から、圧縮空気を用いるポンプ式の大型のものまで色々ある中から好きなものを使える。

しかも使う水鉄砲の数に制限はナシ。

もっとも、開始直後はまず水を入れる事から始めるため、場合によっては数や機構が敗因になりかねない。

中には誰が用意したのか竹筒型の水鉄砲なんて物もあるが・・・誰か使うのかコレ(汗)。

ちなみに戦闘フィールドは小川周辺の芝生・・・水を汲む関係上動きにくくなるものの、浅い所なら川に浸かっても問題は無い。

 

「これって風○た○し城ちゃうんか?」

「懐かしいですね~・・・」

 

保護者組の呟き流しつつ、面倒なルールもコレくらいにして。

真夏の日差しの下、1回戦が始まる!

組み合わせはみなみさん、ゆたかさん、パティさん、ひよりさん。

レフェリーであるみゆきさんの合図で戦闘開始!

全員すばやく水を汲み、戦闘態勢に入る!

 

「ゆたか!」←小型2丁

「うん、みなみちゃん!」←小型1丁

 

みなみさんが一時的にゆたかさんと手を組んだようで共に行動開始。

ちなみにわざと負けないで正々堂々と勝負しよう、なんて言葉が聞こえたから、手を抜く事は無いだろう。

対してパティさんとひよりさんも手を組んだようだ。

 

「さぁ、パトリシアさん! 2人に腐女子パワーを見せてやるっすよ!」←空気圧式1丁

「OK、ヒヨリ! バックアップをタノミます!」上に同じ

 

射程の差がどうしても出てしまうが、ゆたかさんにはすばやく動いて狙いをつける、と言う芸当は難しいだろう。

そうなると彼女達が取る戦法は・・・。

 

「やぁぁぁぁぁっ!」

「ナント!?」

「えっ!?」

 

ゆたかさん自らが囮となって突っ込み、反応が遅れた2人に対して顔面に狙いをつけて水鉄砲を発射。

その一瞬ひるんだスキにみなみさんが2人の旗をねらう短期決戦。

だがひよりさんがとっさに撃った水鉄砲がゆたかさんの網に直撃してゆたかさん、アウト。

しかしそのすぐ後、懐に飛び込んで来たみなみさんが近距離から撃った水流がひよりさんの網を撃ちぬきひよりさんもアウト。

だがパティさんは横に飛んで直撃を免れた。

 

「ヤッテくれますネ、ミナミ・・・」

「ゆたかのためにも、負けない・・・!」

 

その後、射程の長さを活かしたパティさんが撃ちまくるも、みなみさんに中々あたらない。

業を煮やしたパティさんが接近を試みるもみなみさんが散発的に撃ってくるため中々近寄れない。

均衡してるかに見えるが・・・。

 

「そろそろ・・・かな?」

 

そう呟きパティさんに向かってみなみさんがダッシュ!

チャンスとばかりにパティさんが引き金を引くが・・・。

 

「ア、ポンプが・・・!」

「そこ!」

 

撃つ事に専念して空気を圧縮しなかったためにパティさんの水鉄砲は発射されず、みなみさんの放った正確な1撃でパティさん、アウト。

勝者はみなみさんとなった。

 

 

 

続いて2回戦。

組み合わせは俺、みさおさん、こうさん、やまとさん。

みゆきさんの合図で試合開始!

水鉄砲に水を入れて・・・。

 

「さ~て、まさき?」←空気圧式1丁

「お覚悟は・・・」←上に同じ

「出来ていますよね?」←上に同じ

「やっぱりこうなるのかよ!?」←小型2丁

 

ある程度予想はしていたが・・・やっぱり肩身が狭い(涙)。

てかこうさんは知らないが、他2人はアウトドア派で体力もある。

さっきのみなみさんの様な策は通じないだろうがまずは数を減らさなければ・・・。

 

「私がディフェンスをやるから、やまとはオフェンス、日下部先輩はバックアップ! いいですね!?」

「分かったわ」

「いくぜ、永森!」

Gehen(ゲーエン)!!」

「て、全員オフェンスになってるだろそれ!!」

 

どっかで聞いたようなやり取りをして3人揃っての一斉射撃。

飛び交う水流を何とかかわしてこうさんに一発威嚇射撃をして横に移動する。

 

「ぐ・・・! このぉ!」

 

こうさんが反撃をしてくるが・・・。

 

バシャ!

バシャ!

 

「あ・・・」

「へ・・・?」←状況に追いつけない

「・・・何となく、こうなるような気はしてたけどね」←半ば諦めた表情

 

俺がやった事はこうさんに向けて、適当に1発当てて3人の横に移動した事。

つまり、俺が狙ったこうさんが一番奥になって、且つ縦一列になる場所を選び、こうさんが反撃で撃った水がやまとさんとみさおさんの網をかすめて穴が開いてしまい、一気に2人脱落した。

・・・ココまで上手くいくとは思わなかったけど。

残ったこうさんはがむしゃらに撃ってきたが落ち着いて間合いを詰めた俺がこうさんの網を打ち抜き勝負あり。

その後、にこやかな顔で出迎えたみさおさんと無表情のやまとさんがこうさんを引きずっていった・・・南無。

 

 

 

3回戦。

組み合わせはこなたさん、柊姉妹、みゆきさん。

みゆきさんの代わりに俺が合図をして試合開始!

 

「やるわよ、つかさ!」←空気圧式1丁

「うん。がんばる!」←小型1丁

「こっちも負けてらんないね~・・・みゆきさん、つかさをヨロ!」←・・・カメラ型?

「分かりました・・・つかささん、お覚悟を」←小型2丁

 

地味に怖いぞみゆきさん(汗)。

おお、危なっかしい足取りだがつかささん、結構善戦してるぞ。

対してこなたさん達は・・・。

 

「とみ・・・じゃなくて、泉フラッシュ!」

「きゃあ! 何なのよそれ!?」

 

カメラ型の水鉄砲・・・どこから見つけてきたんだそんなモン(汗)。

どんな作りをしてるのか謎だが、何気に射程長いなあれ・・・。

壮絶な撃ち合いの結果、水鉄砲の数の差でみゆきさんがつかささんを下し、こなたさんがトリッキーな動きと意味不明で、なお且つ分かる人には分かる言動でかがみさんを下した。

 

「ふっふっふ・・・君のその笑顔とナイスボディ、いただk「辞世の句をどうぞ・・・」って怖!?」

 

確かに怖い(汗)。

周りの皆も若干引き気味である。

そしてそのみゆきさんのプレッシャーに圧倒される形でこなたさん、脱落。

勝者はみゆきさんとなった。

 

 

 

4回戦。

組み合わせは保護者組全員。

かがみさんの合図で試合開始!

 

「腕がなるね~♪」←小型2丁

「まだまだウチらはケツの青い学生には負けへんで!」←空気圧式1丁

「黒井先生、このメンバーの中には学生はいませんよ(汗)」←空気圧式1丁

「ふふふ・・・年甲斐もなくはしゃいじゃおうかしら♪」←竹筒型水鉄砲

 

・・・ゆかりさん、何使ってんですか(汗)。

古風の竹で出来た水鉄砲。

ピストンシリンダー式の物で中の水をピストンで押し出してしまうと全部噴射してしまう。

 

「いや~、ホントに使う人がいるとは・・・」

「こなたさんが選んだの?」

「ジョークでね~」

「アンタもアンタだけど・・・」

 

と用意した張本人に突っ込みを入れたところ・・・。

 

「・・・あなどれない」

「高良先輩のお母さんすご~い・・・」

『なにぃ!?』

 

勝負があっさりついていた!

見る限りじゃゆかりさんが川辺で佇んでるようにしか見えないんだが・・・。

いのりさん曰く、正確無比な射撃と直後にすばやく水を補給してさらに撃ってくるという・・・しかもその場からまったく動かずに。

あ、成実さんと先生がすっげぇ落ち込んでる。

 

 

 

そして休憩をはさんでの決勝戦。

組み合わせはみなみさん、俺、みゆきさん、ゆかりさん。

かがみさんの合図で決勝戦、スタート!

全員さっきと同じ水鉄砲を利用している。

俺はゆかりさんを警戒し、まずは・・・。

 

「あらあら、こんなおばさん相手にムキになっちゃって、まさきくんったらかわいぃわぁ~♪」

「ぶ、ちょっと何をっておわ!?」

 

あぶね~、見た目とセリフが正反対・・・笑いながら撃って来たぞこの人(汗)。

そしてこっちの体制が整う間にゆかりさんはすばやく水を補給する。

・・・脳ある鷹は爪を隠すってか?

普段の天然っぷりからは想像できないぞこの人の動き。

そして体勢を整えた俺はゆかりさんに対して構えるも向こうもこちらを変わらぬ笑顔で狙っていた。

こうなると迂闊に身動きが取れないな・・・。

しかも向こうの状況・・・みゆきさんとみなみさんの状況が解からない。

早めにケリつけないと・・・!

直後、嫌な予感がして俺は咄嗟にその場から離れる。

そして・・・。

 

バシャ!

 

「なんとぉっ!?」

「あらあら・・・やられちゃった♪」

 

あくまでのほほんとしてるゆかりさん・・・この人はホントに分からん。

俺はギリギリでかわしたが、ゆかりさんは直撃でアウト。

そして振り返った先には・・・。

 

「避けられちゃいましたね・・・次は外しませんよ?」

「・・・みゆきさんが来たか」

 

みなみさんがやられたらしく、帽子をはずして見物席に座ってる。

だがそのおかげでこっちとしてはみゆきさんを残すのみ。

ポーカーフェイスか余裕があるのか、みゆきさんの表情はいつも通り。

だが条件は同じ。

動かなきゃ始まらない。

俺とみゆきさんは同時に動き始めた。

お互いが放った水撃が頭をかすめる。

どこに当たろうがお構いなし。

ただ頭の旗に当たらなければ良い。

そして決定打を欠いたまま時間だけが流れていく。

お互い1丁は撃ちつくし、もう1丁はほぼ1発の水を残すのみ。

結構動き回ったんだがなぁ・・・お互いうっすらと笑ってたりする。

 

「まさきさん・・・決着をつけましょう」

「ああ・・・でも一言。コレで終わらせるのは何だか惜しいな」

「奇遇ですね。私もそう思います♪」

 

そんな言葉を交わして使い切った水鉄砲を捨てて、次の一撃に集中する。

そして互いに駆け出し、射程圏内に入った所でお互い最後の一発を撃った。

 

バシャ!

 

「・・・あっちゃ~」

「あ・・・勝ちました!」

 

勝負は、ついた。

俺が撃った一撃は的を外し、逆にみゆきさんが撃った一撃が見事に俺の的を撃ちぬいた。

 

パチパチパチパチパチ!

 

「スゴイ! 2人ともスゴイよ~!」

「遊びとは言え見入っちゃたわよ。」

「燃える展開・・・そして萌える展開! 使えるネタが満載っス!」

「みゆきさん、おめでとうございます」

「まさきお兄ちゃんもかっこよかったよ~♪」

 

勝ったみゆきさんはおろか、俺にも賞賛の嵐・・・悔しいやら嬉しいやら。

でもせっかくだから勝ちたかった・・・かな?

こうして本日の・・・突発だか予定されてたのか知らないが、水鉄砲大会はみゆきさんが優勝と言う事で幕を閉じた。

 

 

 

つづく・・・



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第四十九話 みんなで過ごす、夏の1日 3日目

「雨だな~」

「雨ね~」

「雨だね~」

「って事は雨天中止?」

「何だかそう聞くと、何かの競技が中止するように聞こえますね」

「この雨じゃ今日は無理だな~」

 

早朝。

目が覚めたとき、妙に薄暗かった。

その上ザァーっと外から音がするからカーテンを開けてみると案の定である。

いつもランニングに参加してるメンバーも一応起きて来ており、居間でどうするか話したが、正直天候はどうしようもない。

 

「雨天中止・・・いつもなら歓喜に浸る所なんだけどね~」

「アンタの場合はアニメの録画だろ」

 

2人のやり取りはさて置き、俺は普段着に着替えて居間でのんびりする事にした。

こなたさん、つかささん、みゆきさんは少し早めの朝食の準備のためにキッチンに入る・・・正直俺はこなたさん辺りが2度寝するのかと思っていたんだが(笑)。

残ったかがみさん、みさおさん、やまとさん、ゆたかさん、みなみさんも居間でのんびりくつろぎ、又はお喋りに花を咲かせている。

と、周囲の変化に気づいたのか、居間で寝ていたチェリーが頭を起して周りをキョロキョロ見回した。

そこにゆたかさんが近づく。

 

「おはよう、チェリーちゃん♪」

「・・・ワン!」

 

ゆたかさんはチェリーの前足を取ってご機嫌だ。

チェリーは特に抵抗する事もなく、ゆたかさんの好きにさせている様だ。

 

「チェリーちゃんいい子! ふふふ・・・チェリーちゃんはかわいいな、チェリーちゃんはかわいいな♪」

 

ゆたかさんはご満悦・・・てか周りの事、忘れてるなあれ。

その光景をみなみさんはデジカメで激写してるんだが・・・。

 

「躾もちゃんとされてるし、いい()ですね」

「まぁひよりさんは吼えられてるけどね」

「そういえば確かに・・・チェリーの嫌いな臭いでも付いてるのかしら?」

「ん~む。ひょっとして腐・・・ナントカだからじゃね~か?」

「いや、関係ないし(汗)」

 

みさおさん、それはさすがに失礼だぞ。

大体、それを言ったらこなたさんやパティさんにも吼える事になるがそういう所は見た事がない。

そしてゆたかさんの後にこっそりと近づくちみっこい影が1つ・・・。

 

「楽しそ~に歌ってますネ、ゆーちゃん?」←(=ω=.)ニヤニヤ

「はぅっ!?」←我に返った

 

こなたさんの言葉に驚くと同時に、周囲の視線を一身に受けてる事に気づいたゆたかさん。

こなたさんと一緒にキッチンから出てきたつかささんやみゆきさんも状況を察したらしく、微笑ましく見守っていた。

その後、ゆたかさんは朝食の時間まで、顔を染めながらもチェリーと戯れていた。

 

 

 

みんなが起きて来て、朝食を終えた後の勉強時間。

宿題のほうはみんな順調に消化しており、あのこなたさんでさえもうすぐ終わりそうなほどの勢いで進めている。

やっぱり皆でやると早く終わるね~。

 

「天気予報を見る限りじゃ今日は雨が一日中降るみたい・・・」

「そうね・・・今日1日は外に出るのはやめておいた方が良さそう」

「お祭りの日じゃなくてよかった」

「ホントだね~」

「オマツリ・・・ナンとカンビなヒビキなんでショウ・・・」

 

こうやって話をしながら勉強をする余裕もおのずと出てくる。

もっとも、勘違いしてるのが一人いるようだが・・・。

 

「パティさん、一応言っておくけど、お祭りってのはコミケでもサンクリでもコスパでもないからね?」

「ナ、ナンダッテ~!? それイガイナニがアルとイうのですカ、マサキ!?」

「本気でそれ以外知らないんかい!?」

 

俺がツッコミを入れてる間にみゆきさん・・・ではなくかがみさんが説明に入った。

 

「あのね、パティさん。『まつり』っていう言葉は『(まつ)る』の名詞形で、本来は神を祀ること、またはその儀式を指すものを言うの。この意味では、個人がそういった儀式に参加することも『まつり』で、現在でも地鎮祭、祈願祭などの祭がそれにあたるのよ。 日本は古代において、祭祀(さいし)を司る者と政治を司る者が一致した祭政一致の体制だったから、政治のことを(まつりごと)とも呼ぶの」

「それに、祭祀の時には、神霊に対して供物や行為見たいな事とか、色々なものが奉げられて、儀式が行われるんだよ。その規模って結構大きくて、地域を挙げて行われているような行事の全体を指して『祭』って呼ぶこともあるんだよ」

「もっとも、祭祀に伴う賑やかな行事の方のみについて『祭』と認識される場合もあって、元から祭祀と関係なく行われる賑やかな催事、イベントについて『祭』と称されることもあるけどね」

 

と、通りかかったいのりさんの言葉で〆。

今回の説明役は柊家の3姉妹となった。

さすが神社の娘だけあって詳しい・・・ってか詳しすぎ。

みゆきさんが感心して聞いてたから相当なもんだぞ。

ちなみにいのりさんは偶々洗濯物を干しに通りかかったために補則をつけただけだが。

 

「・・・???」

 

さすがに難しい言葉も混じってるためか、パティさんの頭にはさっ○り妖精が踊ってる状態だがまぁ実際に行って見れば分かるだろう。

 

「パティさん、漫画とかアニメもいいけど、もっと日本の文化を知ったほうが良いんじゃない? せっかく留学して来たんだから」

 

よくよく考えると単身で海外留学なんて中々出来ない事だと今更ながらに気づく。

しかも俺より年下の女の子が、だ。

 

「そうですね。日本の伝統的な遊びや行事も沢山ありますから、知りたくなったらいつでもお教えしますよ♪」

「ムム・・・ニッポンのブンカもオクがフカイですネ」

「それでも! 腐女子精神は不滅っス! こうなったらそのお祭りを乗っ取って・・・!」

「やめろよこの馬鹿!!」

 

スパァ~ン!

 

「あ痛ぁっ! まさき先輩何するんスか~! ちょっとした冗談なのに~・・・」

「本気でやりそうだから全力で止めたんだよまったく・・・。まさかこのハリセンをこなたさん以外の相手に使う事になるとはね」

「ねぇねぇまさきクン。どこから出したんだい、そのハリセン?」

「ポケット」←即答

「・・・まさきはいつからバニラアイス好きの4次元使いになったのかな?」←(=ω=;)

「いや、アレはネタでしょ。てか本気じゃないよね?」

 

無論、ポケットから出したと言うのは冗談である。

が、こなたさん。

また微妙に危ないネタを・・・。

 

 

 

ドゴォン!

キーーーーーン!

こなたさんの超4○空が俺の超4ベ○ータをぶっ飛ばす!

ヒュン!

ダッシュで追ってくるもその場でタイミングを合わせてカウンター!

ガン!

ドゴン!ヒュ!ドゴン!ヒュ!ドゴン!ヒュ!ドゴン!ヒュ!バキャ!

数回カウンターで背後の取り合いをするも俺はタイミングを誤り吹き飛ばされる!

ドウ!ドウ!

すぐに体勢を立て直し、さらに追撃をしてくる超4○空を迎え撃つ!

ガガガガガガガガガガガガガガガ!

 

『おおおおおおおおおおおおおっ!』

 

俺とこなたさんはコントローラーのスティックを回転させて激しい攻防を繰り返す!

今度は俺が打ち勝ち、コンボを決める!

 

「うっは、なんだコレ。ありえね~」

「まさきお兄ちゃんもこなたお姉ちゃんも凄~い(汗)」

「私、泉先輩とやってみたいな~。日頃のゲーセンのリベンジを・・・」

「こう、時には諦めも肝心よ?」

「しっかし最近のTVゲームはここまで来とるんか~」

「私が小学生の頃に流行ったヤツ、今でもゲーム化してるんですね~。お姉さんビックリだ!」

 

そんな事言ってると歳がバレますよ、成実さん?

とにかく、これでフィニッシュ!

 

『勝負あり! 勝者2P!』

 

「よっしゃ、俺の勝ち!」

「あっちゃ~、負けちゃった~」

 

別に何か賭けた訳でもないがこなたさん、やけにノリが軽くないか?

ちなみに現状。

時間は既に夜。

居間にて、少し前までこなたさんが持ってきたある意味懐かしいニ○テン○ー64でこれまた懐かしいヒゲ親父や亀の化け物、はてはお姫様がゴーカートで激走する『マ○オカート64』で皆でワイワイやってたものの、全員ほどよく満足したため今度はP○2の『龍 球 Z(スパーキングでメテオ)』でこなたさんと勝負。

で、先ほどの展開になったという訳だ。

ちなみにこの辺りで保護者組が部屋に戻っていった。

 

「こなたが前もやったヤツで連敗・・・まさきくん、やっぱりやり込んでるの?」

「久しぶりだから感覚取り戻すのに必死だったよ。かなりギリギリだったし」

 

ぶっちゃけ最後の攻防で撃ち負けてたら結果は逆だっただろう。

ちなみに説明書を熟読していたこうさんがこなたさんに挑んできた!

 

「泉先輩? 日頃の雪辱を晴らさせていただきます!」←孫○空(後期)

「ふふふ、圧倒的な力の差というものを教えて差し上げましょう。」←孫○飯(青年)

 

結果・・・。

 

『勝負あり!勝者1PパーフェクトKO!』

 

「うわ~ん、明かに初心者だって分かってて手加減無しなんて酷いじゃないですか~!」

 

そういい残して走り去ってしまった・・・数分後には戻ってきたが(汗)。

 

「ふっふっふ。まだまだ修行が足りんのう」

「てか初心者がこなたに挑むのが間違ってるような気がするんだけど・・・」

「ならこれだぁ!」

「お、ゲーセンでいつもやってるアレかね。ふ、笑止千万!」

「・・・先に風呂入るよ~」

『は~い!』

 

何だか2人で盛り上がっているのでひとまず部屋に戻る。

既に自室では保護者達のささやかな酒宴が開かれており、それに苦笑しつつも入浴しに行く事を伝えて着替えを用意し、風呂場に向かった。

 

別荘が広いだけに風呂場も広い。

1度に6~7人入れそうなくらい広い。

さすがに誰かと遭遇したらヤバイので風呂に入る前と入った後には先ほどの様に必ず全員に声をかけている。

そのおかげか、今の所遭遇率は0%だ。

ちなみに風呂掃除は交代制である。

 

「・・・う~ん!」

 

体を伸ばして風呂に入るのなんて滅多に無い。

・・・色々思う所はあるがまあとにかく、ココに来てからは1人になれる貴重な時間でもある。

しかしここに来てから考える事はいつも同じだった。

 

間違い無く、好きな娘があの中にいる。

 

いったいそれが誰なのか、誰と会話をしてもまだ確証が得られない。

数名、自分に対して好意を抱いてるんじゃないか、と言うのが分かるくらい。

誰に対しての自分の気持ち、と言うのがよく分からない。

・・・自分の気持ちを確かめるのにはいい機会だと思ったんだけどなぁ。

イレギュラーはあったが、みんなと1週間も一緒に過ごす機会が得られたのだ。

焦ってもしょうがないのは分かってるが、早く決めないと俺から離れていくのではないか。

『卒業』と共に・・・。

会う機会すらなくなるかも知れないと思うとゾッとする。

そんな事だけがグルグルと頭の中を駆け回る。

と・・・。

 

ガチャ。

 

誰かが脱衣所に入ってきた・・・?

それも複数。

・・・皆には俺が風呂に入るって言ったはずなんだけど。

 

「お~い、誰かいるのか~? まだ俺が入ってるぞ~!」

 

・・・返事が無い。

何だろう、前にも同じ事があったような気がする。

いつだったk(がららら!)・・・・・・。

 

「やふ~、まさき♪」

「背中流しに来たぜ~♪」

「・・・やっほ♪」

「ちょっと恥ずかしいかも・・・」

「・・・はぅ」

「・・・どうも」

 

上から順にこなたさん、みさおさん、かがみさん、つかささん、みゆきさん、やまとさんがタオルを巻いた状態で入ってきた。

え~と何コレ、新手のドッキリ?

凄まじい超展開に俺の思考、停止中。

 

「はいはい、まずはいったん後ろ向いてから上がってね~♪」

「とりあえずコレ巻いときゃいいよな?」

 

ごしごしごしごし。

 

「こうして見るとやっぱり男の子の背中って大きいのね・・・」

「うんしょ、うんしょ・・・どうかな、まーくん?」

 

コクコク。

 

「じゃあ次は私がやりますね♪」

「えっと・・・流石に前は・・・」←真っ赤

「そ、そうですね。じゃあ上半身と足の方を・・・」←上に同じ

 

ごしごしごしごし。

 

「じゃ、流すぞ~。」

「シャワーが二つあるとかけっことか出来ていいよね~♪」

「子供かアンタは・・・」

 

シャ~~~~。

 

「完了~!じゃ、一緒に暖まろうか~♪」←真っ赤

『・・・・・・』←俺含む全員上に同じ

 

浴槽の中、スシ詰め状態。

繰り返すが浴槽は6~7人は入れそうな広さ。

そこに全員が入る。

男:1人、女:6人。

6人の女の子と完全に密着してる状態で正直何も考えられない・・・。

 

 

 

気が付いたら俺は自室に戻っていた。

しっかり自分の足で歩いて部屋に戻ってきたらしいがよく憶えていない。

・・・やっぱり何だか前にも同じ事があったような気がする。

 

「ふふふ、いいお湯だった?」

 

いのりさんの言葉でようやく頭が回転し始めた。

 

「・・・いのりさんの差し金ですか?」

「あら、お姉さんからがんばってるまさくんへのプレゼント見たいなものよ」

 

と指さした方角にいるのはすっかり酔いつぶれてるいのりさん以外の保護者の方々(汗)。

何かあったらどうするつもりだったんだろう。

てか先ほどの事が思考停止中だったものの、鮮明に思い出されて顔が非常に熱い。

 

「答えを急げ、とは言わないけど、出来るだけ早く気持ちを伝えてあげてね」

「・・・・・・」

 

いのりさんなりに応援してくれてるのかな・・・。

あの6人のうちの誰か。

間違いなく、いる。

俺は寝床に入って明日に備える事にした。

ごちゃごちゃ考えてもしょうがない。

あんな事があって内心かなり動揺していたが、俺は少しスッキリした気分で眠りに付く事が出来た。

 

 

 

つづく・・・



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第五十話 みんなで過ごす、夏の1日 4日目

 

 

今日も楽しい1日が終わる。

みんなでお勉強して、一緒に遊んで・・・イタズラしたこなたお姉ちゃんや日下部先輩をまさきお兄ちゃんや柊先輩・・・かがみ先輩が追い掛け回すのを見るのももう珍い事じゃなくなって。

夏休みがこんなに楽しいと思った事っていつ以来だろう?

そりゃあ、毎年お父さんもお母さんもゆいお姉ちゃんも一緒でそれぞれ楽しかったけど・・・。

今回ほど楽しい夏休みは無かったように思う。

そしてあっという間に折り返し。

 

「で、みんなどう思う?」

「ふぇっ?」

 

ちょっと考え事してたら突然尋ねられた。

えっと、何の話だったっけ?

 

「まさき先輩の意中の人よ! 絶っ対にあの中にいると思うんだけど」

「こうちゃん先ぱ~い、ちょっと入れ込みすぎっス」

「ミナミもユタカもヒいてるネ」

「あっ・・・! いや~、ゴメンね。やっぱり他人の色恋沙汰って気になるじゃん?」

 

八坂先輩って突然切り替わるよね(汗)。

しかも何だか面白がってるような気がする。

でもいいな~、私も恋をしてみたいなぁ。

 

「私は柊先輩方が1歩リードしてるんじゃないかと思うっス。何しろ家は近所だし毎朝一緒にジョキング! さらに登下校も一緒となると親密度もハンパ無いっすよ」

「でも私はこなたお姉ちゃんじゃないかな~って思ってます。柊先輩達もこなたお姉ちゃんがきっかけを作らなかったらどうなってたか分からないみたいですから」

「それを言ったらみゆきさんも同じ。それに、私はよくみゆきさんの家に行ったり登下校が一緒になって話す事が多いけど、第一にまさき先輩の事を話題に出す事が多い。もしかしたら本人もその事に気付いてないかも」

「ミサオはコウドウハですネ。マサキをげーせんにヒッぱっていってイッショにアソんだりもシテマス」

「行動力ならやまとも負けてないんだけどね~。いかんせん学校が違うじゃん? 会う機会もかなり限定されるし、そもそも本人があんまり素直じゃないし」

 

聞いた話じゃ永森先輩、バレンタインの時にはまさきお兄ちゃんを呼んでチョコを渡したって言ってたっけ。

逆にホワイトデーの時はまさきお兄ちゃんが永森先輩を呼んでお返しを渡した上にそのままゲームセンターに行ったって言うし・・・そう考えると、永森先輩も十分がんばってると思うけどな。

 

「ぶっちゃけ当の本人がどう考えてるかなんだけどね~」

「いくらなんでも気付いてないって事は無いとおもうっすよ~。それこそ漫画じゃあるまいし・・・」

「ひよりんは甘い! 現に6人の女子が1人の男子に恋をするなんて普通じゃありえない状況になってるでしょ~が!」

 

ホントだよね(汗)。

それに私だって、まさきお兄ちゃんにはお世話になってる内にいつの間にか憧れちゃってるし。

この場合、憧れと恋はやっぱり違うのかな~って思うけど。

 

「でも、まさきお兄ちゃんは実際に慕われてるわけですよね」

「事実は小説よりも奇なり、とは言いますけど・・・」

「マサにリアルなレンアイゲームですネ。デモ、ダレかヒトリでもヤンデレになってしまったらダイサンジデス・・・」

 

やんでれ・・・止ん出れ?

みなみちゃんを見てみるとみなみちゃんも首を傾げてる・・・何のことだろ?

 

「あ~、そこの後輩2人! 発言には気をつけなさい。ゆたかちゃんもみなみちゃんも困ってるでしょ!」

「Oh,ヤンデレ、ツまりそれh・・・」

「は~いパティスト~っプ! それ以上はダメだって!」

『???』

 

結局、『やんでれ』の意味は分からなかった。

こなたおねえちゃんなら知ってそうだし、明日あたりにでも聞いてみようかな?

 

 

 

 

 

 

 

「さて諸君、今日を含めてこの4日間、手応えはあったかね?」

「いきなりなに言ってんのよアンタは・・・」

 

むう、ノリが悪いな~、かがみは。

うちらに共通してる事といったらもちろん・・・。

 

「まさきのことだよかがみん♪ 距離は縮まったと思うかい?」

「・・・! べ、別に・・・今までと変わら・・・ないわよ・・・」

 

むう、ちょっと言葉が尻すぼみになってなお且つ落ち込み気味だなんてかがみらしくない。

でも無理ないかもしれないね。

 

「昨夜の事があったにも拘らず、まさき先輩はいつも通りでしたね・・・」

「あう・・・」

「・・・~~~!」

「・・・かえってやる事が過激すぎたのかナ?」

 

やまとちゃんの言うとおり、今日のまさきはいつものペースを崩さなかった。

気まずくもならなければ進展すると言う事も無い。

あまりにもいつもと変わらない1日。

そりゃ遊んだりイタズラして追いかけられたりした時は楽しかったけどさ。

 

「長期戦は覚悟してたんだけどね~・・・とまぁ暗い話は置いといて」

 

このままじゃ辛気臭い雰囲気になりそうだからこのまま流しておこう。

シリアスは好きじゃないしね。

そこでやまとちゃんに前からずっと思ってた疑問を1つ。

 

「やまとちゃんってさ、いつからまさきの事を好きになってたの?」

「へ? わ、私ですか?」

「そういえばバレンタインの時にはチョコを手渡しするためにまさきくんを呼び出ししてたわよね・・・」

「学校違うからそれしかなかったんだろうけど、なかなか出来る事じゃないよね~・・・」

「私が記憶する限りでは、殆どお会いしてなかったはずなのですが・・・」

「ココまで来たらいい加減、白状してもいいよな~。私らはこないだ話したし・・・」

 

そう、以前ホワイトデーの時に一緒にお茶した時、遠まわしに聞いたんだけど結局かわされたんだよね~。

しかしココまで来たら私達は既に一蓮托生、毒食わば皿まで!

・・・なんか違うような気がするけどそれは良いとして。

 

『・・・・・・』

「最初は親近感かと、思ってたんですが・・・。」

 

声がしぼんでモジモジし始めた。

おぅおぅ、照れちゃってかわいいね~。

 

「特にカッコいい、訳じゃないのに・・・何回か会ってるうちに・・・その・・・いつの間にか先輩を目で追うようになって、て感じで・・・その内胸の中で何かモヤモヤするようになって・・・」

 

むう、峰岸さんも似たような事を言ってたような・・・?

でもこの部屋にいる全員が1人の男の子を好きになっちゃってるんだよね~。

まさか自分がギャルゲーのヒロインになろうとは。

でもゲームとは違ってコンティニューが出来ない一発勝負・・・しかも選択肢を自分で選ぶどころか、探さなきゃいけないんだから大変だ!

 

「とりあえず全員フラグが立ってるものの、全然数が足りないって事だよね」

「フラグ言うな・・・完全に否定できないのも悔しいけど」

「でも・・・」

 

かがみに続いてみゆきさんが何か言いかけた。

自分を奮い立たせるように大きい胸(←コレ重要)に手を当てて。

 

「でも、最後に選ぶのはまさきさんです。それにまさきさんは私たちのうち誰かを選ぶと思います」

 

そう、力強く言いきった。

 

「・・・高良先輩は、選ばれるのは自分だと?」

「確かに選ぶのはまーくんだけど・・・」

 

みゆきさんだけの問題だったらそうなってもおかしくはない。

彼女の場合、彼氏がいないのが不思議なくらいだから。

私達は友達として、全力で彼女をバックアップするだろう。

しかし今現在、みゆきさんの好きな人は私達も同じなワケで・・・。

ついでに言うとまさきは今のところ何の行動も取っていないのだ。

 

「皆さんも、同じように考えてみてはどうでしょうか。必ず、選ばれるのは自分だと。確かに確率的に言ったら可能性は低いかもしれませんし、ひょっとしたらまさきさんは他に好きな方がいるのかもしれません。でも諦めたら、得られる物も得られなくなります」

「・・・代償が大きい。みゆきみたいに考えてた分、反動から立ち直れなくなるかもしれない。でも私は・・・諦めたくない!」

「お~、かがみんは一途ですな~♪」

「かがみん言うな! とにかく、私は最後まで諦めない。でもその代わり、私以外の誰かがまさきくんと付き合うことになったら・・・大人しく身を引いて、応援してあげようと思う。まさきくんには、幸せになってほしいし・・・」

 

結局シリアスな会話になっちゃった・・・。

でもあの決意のこもった眼差し・・・このくらいいつも気合入ってたらダイエットも成功するんだろうけどね~。

でも、コレだけは言っておかなくちゃ♪

 

「かがみ、何か勘違いしてない? そもそもまさきは私の婿だから」

「わ、わたしも、この気持ちだけは絶対負けないもん!」

「ちびっこ~、柊を譲る事があってもよ、まさきは私が貰うゼ?」

「状況は圧倒的に不利だけど・・・ここは私も引けませんし、引くつもりもありません。まさき先輩の心は私が必ず射止めます!」

 

やまとちゃんも言うね~♪

みゆきさんの一言のおかげで全員決意が固まったかな?

最初から失う事を恐れてたら何も出来ないもんね。

ならば全力で。

例え結果がどうなろうと、私達は止まらない。

恋する女の子は無敵なのだ。

まったく・・・まさきは私達からものの見事に大変な物を盗んで逝っちゃったよね~♪

そう思っても嫌な気分にならないって事は、私自身も結構マジかもね☆

 

「コレでこの場にいる私達は全員親友兼好敵手(ライバル)って事になるよね♪」

「えっと・・・その親友って私も入るんですか?」

「当然、やまとちゃんもだよ~♪」

「表面上はいつも通りに接していたほうがいいわよね?」

「そうですね・・・その方がお互いの戸惑いも最小限に収まるでしょうし。軽く意味ありげな言葉でも加える程度に抑えたほうがいいかもしれません」

「でもお休みの日とかはどうするの?」

 

むう、まさきの近所に住んでるかがみとつかさは有利すぎるなぁ。

しかも家族ぐるみの付き合いで夕飯の招待も受けてるし、対策を練らねばなるまい。

決めなきゃいけない事も沢山あるし、勉強よりもやりがいがありそうな感じ・・・いや、間違いなくやりがいがある!

まさか自分がこういう立場になるとは思いもしなかったヨ。

・・・おとーさんが聞いたら卒倒しそうだけどそれは後で何とかするとして。

そう考えながら、私達の話し合いは日付が変わっても続く事になる・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうなんや?」

「どうって・・・何がですか?」

「決まってるじゃないの~。赤井くんの意中の人の事だよ~♪」

「・・・・・・」

 

頭が痛い・・・。

昨夜の事があってからも何とか平常心を保つ事ができたものの、今日1日、何の行動も起さなかったのがこの人達には不満だったみたいで・・・てか先生、成実さん。

現役の教職員や警察官が色恋沙汰について酒を飲みながら未成年に説教するのはどうかと思います(汗)。

いのりさんやゆかりさんは傍観中・・・てか部屋のテレビを見て談笑中。

救援は求められそうに無い。

てかそれでいいのか保護者の皆さん・・・?

 

「意中って言っても・・・あの中にいるんじゃないかってだけでまだ・・・」

「なるほど~。選り取りみどりだもんね~♪」←酔ってる為に悪気はナシ

「ずいぶんと引っかかる言い方ですね、成実さん・・・?」←少し顔が引きつってる

「なぁ赤井? 自分もあと半年経ったら卒業やろ。卒業したら時間の経過なんて・・・10年なんてあっという間やで?」←何故かテンション下降中

 

黒井先生、あなたは何かあったんですか・・・?

 

「で、現状の黒井先生が出来あがt『メキャ!』ぐおぉぉぉぉぉ!?」

「やぁかましぃ! ウチは売れ残りや無い・・・まだまだイケるっちゅ~ねん! ええか、ウチは結婚出来んやない! せぇへんだけや! それなのにウチの親と来たら結婚しろ見合いしろと・・・!!」

 

酔った勢いのせいかほぼ全力(だと思われる)の一撃で強制的に黙らされてしまった・・・(泣)。

そのまま愚痴りモードに入った黒井先生を成実さんが慰めにかかっている。

・・・何気に良いコンビだな、この2人。

 

 

 

その後酔い潰れた2人を布団に移動させて一息つく。

・・・お姫様抱っこじゃないぞ、念のため。

時間は9時。

寝るにはまだ少し早い。

 

「お疲れ様、まさくん。」

「出来れば手伝ってほしかったんですが・・・?」

「あらあら女の子にそんな事言っちゃいや~ん、よ☆」

『・・・・・・』

 

ゆかりさん、あなたがソレを言うとシャレに聞こえないんですけど・・・。

いのりさんも少し顔が引きつってるし。

てかみゆきさんの制服着たらマジで高校生に見えそうで怖い。

それを言ったらみきさんもそうなんだけどね。

 

「ま、まぁその話は置いといて、今更こういっちゃなんだけどまさくんの周りって凄いことになってるわよね。地元の頃から女の子の友達って多かったの?」

「あ~・・・いや、そんな事はなかったんですけどね~。話はするけど学校以外では会う事なんて偶然でしかなかったし、良くて友達で終わるタイプだと思ってたんですがね。今みたいな・・・てかこっちに来てから・・・や、正確に言うと去年からかな? この状況。」

 

ホントに何でこうなったんだろ、と疑問ばかりが浮かんでくる。

しかし何故か妙にスラスラと答えてしまう・・・俺って年上に弱い?

 

「思春期の真っ盛りだから・・・て訳じゃ無さそうね。あの娘達の気持ちを知ったのはいつ頃?」

「・・・バレンタインの時ですね。想いはホントに伝わるんだなって痛感しましたよ」

 

こなたさん、かがみさん、つかささん、みゆきさん、みさおさん、やまとさん。

あの時点でそうなんじゃないか、とは思っていた。

そして昨夜の彼女達の暴走(?)である意味はっきりとしている。

でも簡単には答えを出せない。

安易な選択でその娘はおろか、他の娘達も不幸にする可能性もあるから。

さすがにni○e b○atは勘弁したい所だ。

・・・最近、ギャルゲーなんてやってないんだけどなぁ。

 

「優しいのねぇ、まさきくんは」

「はい?」

「『もし、他の娘が立ち直れなかったら』とか色々考えちゃうんじゃない?」

「俺が優しいかどうかはともかく、考えてることは否定・・・出来ないですね」

 

実際、あの6人の中から誰かを選んだとして、残った娘達はどうなるんだろう?

俺の事を本気で好きだったとしたら、俺に関わったばかりに相当なショックを抱え込んでしまうのではないか。

今までの『友達』として過ごした時間が、音を立てて崩れてしまうんじゃないか。

分かってる。

ドラマでもアニメでもないんだからそうそうはそんな状態にはならない・・・と、思う。

 

「その優しさが、今は仇になってるみたいね。女の子の戦いって言うのは修羅場だけじゃ無いのよ?」

「・・・何か妙に説得力がありますね」

「大学卒業して就職までしてるんだから、色々あるものよ。いい事も悪い事も含めて、ね」

 

そう言って遠い目をするいのりさん。

ひょっとしたら本当に何かあったのかも知れない。

でもその事をポン、と聞こうとするほど空気を読めない人間ではないつもりだ。

 

「もっとも、先を越されるのはちょっと癪に障るけど、妹達の内どっちかを選んでくれたら私も嬉しいんだけどな~♪」

「あらあら、いのりちゃん、まさきくんはうちのみゆきが頂く予定ですよ?」

「ゆかりさん何言ってるですか。てか『いのりちゃん』って呼び方はやめてください」

 

・・・本人の目の前でそういう会話をしないでください(汗)。

今のにこやかなにらみ合いで一瞬にして場の空気が見事に吹き飛んでしまった。

てか付き合うことになったらこの2人は公認確定ってのもどうかと思う。

とりあえずこの2人のにらみ合いは置いといて、少し早いが俺はもう明日に備えて寝る事にしよう。

 

 

 

<オマケ:翌朝>

 

 

 

「ふわぁ・・・」

「あふ・・・」

「え~っと・・・みんな、大丈夫?」

「ふにゅ~・・・あと5分だけ~・・・ホントに~・・・」

「ほらつかさ、走るならちゃんと起きなさい・・・ふぁ」

 

ちゃんと起きて来たのはゆたかさんとみなみさんのみ。

他のみんなは、何だか帰ってきたら全員爆睡しそう・・・ぶっちゃけ物凄く眠そうだ。

 

「・・・昨夜何してたかは知らないけど、無理だけは絶対にしないようにね」

『ふぁ~い・・・』

「・・・・・・(汗)」

 

かがみさんにみゆきさん、やまとさんまで・・・。

今日は朝から別の意味で頭を抱えたくなる1日のスタートとなった。

 

 

 

つづく・・・



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第五十一話 みんなで過ごす、夏の1日 5日目

5日目の朝。

朝食を食べ終わった俺達はそれぞれのんびりくつろいでいた。

と言うのも、予想以上に宿題を消化するペースが速くて、たまにはのんびりしようという事になったのだ。

ちなみに今現在、居間にいるのは1年生組+こうさん。

3年生組+やまとさんは部屋に戻ってもう一眠りしてくるとか・・・ホントに昨夜何してたんだか(汗)。

 

「あ、そうだ。まさきお兄ちゃん」

「ん?」

 

ゆたかさんが話しかけてくるが・・・いい加減、この呼び方をやめてもらったほうがいいかもしんない。

まあソレは後にしとくとして。

 

「昨夜みんなとお話してた時に出てきた『やんでれ』って言う言葉があるんだけど、お兄ちゃん、知ってる?」

「・・・・・・」

 

ゆたかさんはおろか、みなみさんも気になってしょうがないらしい。

俺はこの問題発言をしそうな3人を見る。

こうさん、苦笑い。

ひよりさん、同じく。

パティさん、露骨にそっぽ向く・・・なるほど、犯人はオマエか・・・。

 

「ゆたかさん、みなみさん。普通に生きていたらそんな言葉はまず縁が無いから覚える必要は無いからね・・・さて、パティさん?」

「マ、マサキ。ハナせばワカりまス! ダカラそのコブシは!」

「あのね、日本にはこんな四文字熟語があるんだ。覚えて損はないと思うよ?・・・問答無用~!!」

「アッ~~~~~~!?」

 

その後、俺のウメボシ攻撃に晒されたパティさんは朝から大きな悲鳴をあげる事になる・・・。

 

 

 

「やれやれ、悲鳴が聞こえたから何事かと思ったよ」

「単なるお仕置きです」

 

パティさんの悲鳴を聞いて慌てて駆けつけた成実さんに即答する。

ちなみに当の本人は頭を抱えてうずくまっている・・・ちょっとは反省したかな?

 

「だめよ、まさくん。女の子の顔に傷がついたらお嫁の行き先に困るでしょ」

「そのトキはマサキにセキニンを・・・!」

「ぜんっぜん反省してないなコイツ」

「ま、まぁまぁ先輩、それくらいにしてやって下さい。パティも悪気があって言った訳じゃ無いんですから・・・」

 

俺が拳をパキポキと鳴らしたためか、パティさんは慌ててこうさんの後に隠れた。

ひよりさんの弁護にも一理あるし、今回はコレくらいにしておこう。

こんな事で一々怒ってたらキリが無いし。

 

「まさきく~ん、お昼すぎたらお買い物に行くからお願いね~?」

「はい、分かりました~」

 

ゆかりさんのお願いである買い物が何かと言ったら、もちろん消耗品や食料品の買い物である。

食事その他諸々が10人分以上になるとかなりの量になるため、このメンツの中で唯一の男である俺に荷物持ちを頼まれるのはある意味当然だろう。

ちなみに一番近いスーパーまで車で行く関係上、俺以外に何人か付いて来るくらいだ。

人数も多くかなりの量になるため、買うのは丸1日分の食料品や、切らした日用品である。

そんな訳で、今日の買出し要員はゆかりさん(運転手兼務)、俺、ひよりさん、ゆたかさんが行く事になった。

 

 

 

昼食後、ゆかりさんが運転する車に乗り込み、スーパーに到着。

あ、そういや今日発売の漫画雑誌があったっけ。

 

「ゆかりさん、すぐに合流しますんでちょっと行って来ます。」

「は~い、気をつけてねいってらっしゃい。オヤツは300円までよ~♪」

 

そこまで子供じゃありません(汗)。

それとバナナはオヤツに入るのか、と聞いてみたい衝動を抑えながら心の中で反論し、雑誌が並んでるスペースに向かった。

手持ちのお金で雑誌を先に買い、すぐにみんなと合流する。

 

「あれ、まさき先輩速かったっスね」

「漫画雑誌(少年マ○ジン)1冊買ってきただけだからね」

「あ~、言われてみれば発売日・・・ってあれ? それって発売日昨日じゃ?」

「地域によって発売日が微妙にずれるところがあるからさ」

 

ゆかりさんの後に続きながら買い物カゴが乗った手押し車を覗く。

ジャガイモに玉葱、糸コンニャク、肉は豚肉・・・となると今日は肉じゃがか?

この他にも野菜や米も大量に買う事になるから俺の持つ荷物は米+αってトコか。

 

「そういえば田村さんも漫画を描いてるんだよね、漫画のネタってどうやって考えてるの?」

「ん~、一概には言えないけど、私の場合は実体験とかを参考にするかな~」

「・・・実体験」

 

まぁ漫画であれ小説であれ、文学作品には少し内容がかぶっただけで『パクリ』ととられる事があるみたいだし。

プロになればなおさらだ。

もっとも、作品の数が膨大だから多少のダブリはしょうがないと思うけど・・・ってあれ?

ゆたかさんの顔が何だか赤いような・・・。

 

「小早川さん・・・も、もしかして私の本、読んだの!?」

「え・・・えっと、その(汗)」

「読んだのね!? あれほど見せないでって言ったのに~!!」

 

『それは体験違うから!』っと言って騒いでるあたり、おそらくゆたかさんがこなたさんに頼んで見せてもらったんだろうが・・・。

こなたさん、純粋な彼 女(ゆたかさん)を黒く染め上げる気か?

でも別に問題が1つ。

 

「ひよりさん、あんまり騒がないように」

「ひよりちゃ~ん、あんまりはしゃいじゃ駄目よ~?」

 

・・・はしゃぐ、で済ませますかゆかりさん。

とりあえず大人しくなったがひよりさんは涙目である。

 

「でもいいお話の物もあったし、既視感って言うのかな? どこかで体験したな~って思ったのもあったし」

「・・・あ~・・・」

「・・・どしたのひよりさん?」

「イ、イエ、ナンデモナイデス・・・」

 

なんだか頭を抱えてる・・・まさかと思うが。

 

「ひょっとしてさ、参考にするのが自分の先輩達とかクラスメイトだったりしない?」

「ぎっくぅ!?」

 

さすがひよりさん、分かりやすいリアクションをありがとう。

 

「・・・今度どんな内容かこなたさんに頼んで見せてもらうかな」

「か、カンベンして下さい、いやマジでカンベンしてください・・・」

 

ひよりさんの魂が半分抜けてるんだが・・・どんな内容か本当に気になってきたぞオイ。

何はともあれ買い物のほうも無事終わり、俺は右肩に米を担いで左手に飲み物その他の入った袋を持って車まで移動した。

 

「お兄ちゃんってやっぱり力持ちだね。私なんかコレだけでも精一杯なのに・・・」

 

食料等が入った少し大きめの袋1個を両手で持ったゆたかさんが羨ましげに言う。

やっぱりコンプレックスになってるのかな?

 

「まぁ、腕力の差って事で納得しといてくれ・・・あとお兄ちゃんはそろそろやめないか?」

「え、やっぱり嫌ですか・・・?」

「あ、いや、そうじゃなくて・・・」

 

今の内・・・友人同士ならまだ冗談で済ませられるが、学校で『まさきお兄ちゃん』なんて呼ばれた日にゃ本気で刺されかねんし、妙な噂が広がるかもしれない。

・・・ただでさえ贅沢な悩みもあるってのに。

しかし寂しそうなゆたかさんのお願いポーズには勝てず、結局夏休みまで、と言う事になった。

 

「先輩には悪いですけど、そのネタ頂いていいっスか? てかイタダキます。最近詰まり気味で・・・」

「頼むから勘弁してくれ(涙)」

 

 

 

量はともかくとして、買う物があらかじめ殆ど決まっていたため約1時間ほどで別 荘(みなみさんち)に帰ってきた。

買って来た物を纏めて台所に置いて居間に戻る。

が・・・。

 

「居間で2人揃って爆睡中かい・・・」

「起こしちゃ可哀想だからそっとしてあげてね?」

 

居間で寝ているのはパティさんにこうさん。

どうやら家事手伝いをさっきまでしていたらしく、疲れたのかそのまま眠ってしまったらしい。

なお、俺たちが出かけた後こなたさん達は水着に着替えて川へ直行した模様。

黒井先生も混じってまた水鉄砲で撃ち合ってる様だ・・・あれ?

 

「みなみさんは?」

「そういえばお散歩の準備をするって言って部屋に戻ったけど」

 

いのりさんの言葉が終わるくらいに出かけ支度を整えたみなみさんがちょうど出てくるところだったので、俺とゆたかさん、ひよりさんも付き合うことにした。

 

 

 

場所は初日にも歩いた遊歩道。

木々が沢山生い茂ってるので日陰と日向がいい感じに混ざり合っている。

しかしそのためかあちらこちらに水溜りやうっすらと湿った土が顔を覗かせている。

しかしソッチより・・・。

 

「おいコラチェリー、あんまり暴れるな。人のまわりぐるぐる回るな、そしてその足で俺の服に引っ付くな泥が付くだろ、汚れ落とすの結構大変なんだから!」

「こ、こらチェリー、落ち着いて・・・!」

 

こっちのほうがある意味問題だ。

なにやらチェリーが興奮気味で俺に纏わりついてくる。

初日以降俺はチェリーと散歩はしてなかったんだが、こんなに活発だったっけ・・・そういやいつも活発だったな、うん。

 

「チェリーって結構言う事聞かん坊だったりする?」

「す、すいません。でもちゃんと言えば言う事を聞いてくれます」

「でも私には普通に跳びかかって来るよね~」

「そ、そうだけど大丈夫・・・多分」

 

ひよりさんの言葉に対して自信無さげにそう言って、チェリーを宥めるために持ち歩いてるのだろうか?

ポケットから取り出したビーフジャーキーを片手に、岩崎みなみが命ずる!

 

「チェリー。お座り、お手!」

 

一瞬チェリーは動きを止めるが、みなみさんの持ってるビーフジャーキー目指して飛び掛った!

 

「こ、こらチェリー、お座り! い、いつもはちゃんと言う事聞くんです。ほ、本当ですよ? 何で人前の時に限って言う事聞かないの・・・」

 

わふわふとジャーキーを食べるチェリーにみなみさんがオロオロしている。

・・・みなみさんが取り乱すなんて珍しい。

 

「チェリー面白いね~。岩崎さんが慌ててるのなんて初めて見るよ」

「そういえばそうかも。みなみちゃん、ファイト~♪」

 

ゆたかさん達は何故か応援に回っていたりする。

面白いからもう少し放置しておこう。

幸い、時間にはまだ余裕があるし。

 

 

 

で、チェリーとみなみさんが落ち着いたところで再び出発。

暫らく進むと木々が開けるちょっとした広場に到着した。

 

「さすがに直射日光のみだと熱いなぁ」

「空気が少し湿気ってる分、余計暑く感じますね」

 

一昨日の雨が効いているのか、肌にまとわりつくようなジメジメとした暑さ。

だが綱から開放されたチェリーは元気にひよりさんを追い掛け回している。

・・・相当好かれてるのか逆に嫌われているのか。

うわ、ひよりさん、汗だくになってるな。

みなみさんはそんなチェリーを止めるために一緒になって走り回ってるため、こっちの汗の量もハンパじゃないだろう。

 

「こまめに水分補給しろよ~」

「そんな余裕ないッス! てか助けてくださいよ先輩! ちょ、また左手っスか!?」

「こらチェリー、私の友達を困らせちゃダメ!」

 

向こうはさて置き、今日は天候には恵まれており、青空の下、蝉達の元気な鳴き声が響いている。

ふと、広場からの景色を見渡す。

大自然に囲まれて、都会の喧騒から隔離されたような静かな集落・・・と言えばいいのだろうか。

古い建物、新しい家などが所々に見受けられる。

・・・今から考えるような事じゃないけど、何十年か経って定年に達する歳になったら、こういう所で余生を楽しむのもいいかもしれない。

そうなるまで、俺のそばに立ってくれているのは誰だろう・・・?

 

「まさきお兄ちゃん、どうかしたんですか?」

「へ?・・・いや、何でもないよ。そろそろいい時間だし、戻ろうか」

 

腕時計をチラッと見たら既に4時半。

みなみさん達に声をかけようとした時だった。

 

「まさき先輩」

 

ゆたかさんがここに来る前の呼び方に突然変わったと言う事に気付くのに少し、時間を要した。

 

「・・・何、ゆたかさん?」

「ちゃんと、選んであげてくださいね?」

「─────!」

 

そう言ってみなみさん達のところに駆けて行く。

・・・どうやら周りからはお見通しらしい。

この分じゃ本人達はもとより、ココに来ている全員に知られてるのかもしれない。

まぁ実際知られていたのだがこの時の俺はまだその事は知らなかった。

いつになるか、ひょっとしたら卒業するまでわからないかもしれないけど。

せめて後悔だけはしないように、よく考えなくちゃいけない。

ひとまずあの3人・・・俺も含めて4人か。

帰ったら1回シャワーを浴びたほうが良さそうだ。

もちろん俺は別・・・ってか最後だぞ?

 

 

 

<おまけ:帰宅後のちょっとした会話>

 

 

 

「先ぱ~い、一緒に入ってこないんですか~?」

「マサキ、ドアをクグればトウゲンキョウがミえますよ♪」

「それじゃあ俺は単なる犯罪者だろうが!」

 

 

 

つづく・・・



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第五十二話 みんなで過ごす、夏の1日 6日目

「おのれ作者め!」

「いきなり何、こなたさん」

 

朝のランニング中突然こなたさんが訳の分からない事を叫び出す。

 

「・・・こなた先輩、どうしたんです?」

「前回ではヒロインのはずの私たちが名前だk「ハイスト~ップ、危ない発言禁止!」フゴフゴ・・・」

 

おいおい・・・。

こなたさんの危険(メタ)な発言にかがみさんがストップをかけた。

 

(や、本当にスマンかった。今は反省している。)

 

・・・今何か聞こえたような気がするんだが(汗)。

ともあれ今日はいつも通り、いつもの時間にいつものメンバーでランニング。

ゆたかさんは少し距離を伸ばしてがんばっている。

やまとさんも走るリズムを掴んだのか、初日のように大きく息を切らす事も無い。

 

「ねぇねぇまさき。ラスト500Mで競争しない?」

「賭け事無しならいいけど?」

「・・・ち。まぁいいや。参加する人~・・・って全員だネ」

 

こなたさ~ん、今舌打ちしてなかったか?

他のみんなは体力的に余裕が出来てきたのか全員参加のようだ。

ちなみに今この場にゆたかさんはいないぞ、念のため。

ココまで約2キロ程走ってるためある程度消耗しているから一応俺はハンデを・・・つけたらこなたさんかかがみさんの争い確定なんじゃ(汗)。

あ、何気にみゆきさんも速いか。

いや、みさおさんは陸上部だし・・・ハンデいらないな、うん。

 

「まさきくん、私たちが女の子だからって遠慮は無用よ?」

「今度は私が勝ちますから」

 

とまぁ、かがみさんややまとさん他全員が笑顔で言って来る辺り、みんな揃って余裕があるようだ。

 

「んじゃ、あそこの500Mの所から・・・合図はどうする?」

「ではつかささんを先頭にして、つかささんが到達したら、その場から一斉スタートでよろしいのでは?」

「む~、負けないもん!」

「へへ、燃えてきたゼ!」

「無茶だけはするなよ~・・・」

『は~い!』

 

みさおさんは気合が入り、つかささんは頬を膨らませて気合を入れてるが・・・空回りしなきゃ良いんだけどね。

てか走りながら喋れる時点で十分凄いと思うんだけど。

 

「じゃあみんなで一気に行くか!」

『お~♪』

 

こんな感じで急遽、500M走が始まった。

この際順位はどうでも良いか。

楽しければそれで良し!

そんな訳で、つかささんが500M地点に到達すると同時に全速力で7人の男女が突っ走っていった。

 

「ひゃ!・・・今の、お姉ちゃん達? うわ、はや~い」

「みんな、気合入ってる・・・ジュースか何か賭けてるのかな?」

 

途中、前より少し速くなっていたゆたかさんと、チェリーの散歩中でゆたかさんに併走していたみなみさんのこんな感じの会話が少し聞こえた。

 

 

 

「は・・・は・・・は・・・やるじゃねーかまさき・・・」

「そっちこそ・・・はぁっはぁっ・・・さすが陸上部・・・」

 

ほぼ同着。

順位は気にせず全力疾走で走った結果。

俺とみさおさんに次いでこなたさんとかがみさん、みゆきさんがほぼ同時にゴール。

その後殆どすぐにつかささんとやまとさん。

つかささんもだいぶ速くなったな~。

殆ど差は無いようなものだったぞ。

とりあえずゆたかさん達が戻ってくるまでは一休み。

 

「うむむ、さすがに男の子や陸上部には敵わないか~」

「やっぱりこなちゃんも運動部に入れば良かったんじゃないかな?」

「そうだぞチビッ子。何で陸上やんなかったんだよ。もったいねぇぞ」

「いや~、部活に入っちゃうとさ、時間の都合がつかなくなるじゃん?」

 

時間の都合・・・間違いなく本人の趣味に、だろうな。

前にもそんな事言ってたし。

さらに言うとこなたさんはインドア派だからねぇ。

と、そこにゆたかさんとみなみさんが戻ってきた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・お姉ちゃん達凄いですね。あっという間に行っちゃうんだもん」

「お、ゆたかさんお疲れ~。そっちこそ大分慣れてきたんじゃない?」

「ゆたかも持久力がついて来てますから。それに、集中力も」

 

みなみさんの太鼓判付きだ。

それにこっちに来てからのゆたかさんは体調を崩す事も無く、日々を過ごしているから本人にも良い結果に繋がってるようである。

 

 

 

そして帰って来た時のこと。

ひよりさんがあからさまに元気が無かった。

こうさんやパティさんが声をかけてるようだけど・・・はて?

 

「おはよう3人とも・・・どしたの?」

「あ、おはようございます先輩。ちょっと聞いてやってくださいよ。ひよりん、昨夜見た夢の事をずっと気にしてるんです」

「夢?」

 

夢・・・一般的には睡眠中に無意味な情報を捨て去る際に知覚される現象とか必要な情報を忘れないようにする活動の際に知覚される現象とか言われてるアレである。

 

「どんな内容だったの?」

「・・・途中まではすっごく良い感じなんですよ。ネタがスイスイ出て原稿もはかどって」

「ほほう」

「でも最後になって急に悪い事が起こるんすよ。土壇場になってインクが無くなったり原稿用紙が全滅してたりパソコンが壊れたり・・・夢の中でくらい全部都合良くたっていいじゃないっスか~!」

「あ~・・・その場合ってそういう事が起こりえるって呼びかけてるんじゃないの?」

「ダレがデスカ、マサキ?」

「獏が」

「獏って悪夢を食べるヤツじゃないんスか!?」

「田村さん、それは悪い夢を見た後に『この夢を獏にあげます』と唱えて初めて効果があると言われているんですよ?それにまさきさん、獏がそう呼びかけるという話は聞いたことが無いです」←やや冷や汗気味

「いや、冗談で言ったんだけどそういうモンなんだ」←ちょっと楽しそう

「・・・まさき先輩って・・・」←泣きそう

 

まぁ元気出せ、と声をかけてから勉強道具一式を取りに俺は部屋へ戻っていった。

 

 

 

「そういやみなみさん、ずっと気になってたんだけどさ」

「・・・はい?」

「みなみさんってピアノ弾けるの?」

「ハイ、とてもお上手なんですよ♪」

 

みなみさんに聞いたのにみゆきさんから返事が返って来た・・・まるで自分の妹を自慢するように。

まぁ本人が照れ屋だからみゆきさんが代わって答えたんだろう。

当のみなみさんは赤面してるし。

岩崎家の居間でグランドピアノを見かけたことがあるが、弾いてるのは今のところ見た事が無かった。

そしてココにもアップライトピアノが置かれている。

という事は本人の趣味で弾いてるのか習っているのか。

でもピアノって確か定期的に調律してやんないとダメだったような気がする上に、1台買うのに結構なお値段がかかるハズだけど、その辺はさすがお金持ちってトコロか。

 

「へぇ・・・岩崎さんはどんな曲を弾けるのかしら?」

「ふむふむ、ゲームとかの音楽も弾けるのカナ?」

「んな訳あるか! でもみなみちゃんならクラシックとか弾いてそうなイメージがあるわよね」

「クラシックとかはよく分からないけど凄いな~」

 

まるで弾いて見せてと言わんばかりにみんなからの質問攻め。

みなみさんは少々困惑気味・・・じゃなくて何か思い出してる?

 

「い、いろいろです。クラシックもやります・・・」

『お~!』

 

みんなは普通に受け取ってるが俺としてはみなみさんはともかく、みゆきさんが軽く俯いてるのが少し気になった。

 

「そうそう、どらちゃんの曲とかちゃ○めらの曲とか、とっても上手なのよね~♪」

「お、お母さん!」

 

『また弾いてほしいわ~』とのたまうゆかりさんに慌てて止めようとするみゆきさん。

そのセリフに全員が一瞬固まり、みなみさんがさらに赤面する。

・・・さすがに気まずい空気が流れて来た。

誰か、誰か話題を変えてくれ!

 

「そ、そういや弾き語りなんてのもあるよナ~」

「あ、はい。みなみさんは歌もお上手なんですよ~」

 

気を取り直したみさおさんが話題を修正。

みんなも硬直を解除し、みなみさんは再び質問攻めを受ける。

が・・・。

 

「フム、ミナミのイメージにピッタリデスネ!」

「うんうん、みなみちゃんの弾き語り、聞いてみたいな~」

「かっこいいっスよ岩崎さん!」

「何か1曲やって見てよ~」

「い、いえ、お聞かせするほどでは・・・」

「そうそう、保険のCMでやってたアヒルちゃんの曲、歌付きでやったのが上手だったわ~♪」

『・・・・・・』

 

友人の母親に向かってこんな事を言うのもアレだけど・・・ゆかりさん、アンタって人は(汗)。

あ、みゆきさんがみなみさんに必死になって謝ってる・・・ように見える。

いや、確か話題に出したの俺だから、謝るんなら俺のほうだと思うんだけどどうだろ・・・?

結局その後、みなみさんが数曲弾いたがゆかりさんのトンデモリクエストが何回か飛び出し、終わる頃には非常に疲れた顔をしたみなみさんがいた・・・。

 

 

 

「イヤッホ~!」

「それそれそれそれ~!」

「やったわねこの!」

「まっけないぞ~!」

「・・・よく飽きないな~、みんなして」

 

午後、俺達3年組にいのりさん、やまとさんは川遊びに・・・と言っても俺はパラソルの下でねっころがってるだけだが。

両隣には何故か当然のように水着姿のみゆきさんとやまとさん。

 

「私達はこういう環境で川遊びなんて滅多に体験できませんし、楽しめるだけ楽しもうと。まさき先輩も行きませんか?」

「みんなで遊んだほうがきっと楽しいですよ?」

「まぁそれはそうなんだけどね。」

 

ちなみにあそこにはいのりさんも混じってる。

それ以前にあの中に入っていったら集中砲火を浴びそうで怖いんだが。

どうしようか思考を巡らせてる時・・・。

 

「ま~さき~?」

 

バシャァ!

 

「・・・・・・」

「君に私を倒す自信があると言うのなら・・・あそこにある武器を取るがよい!」

 

こなたさんが撃った水鉄砲、俺の顔面に直撃。

何か1人で怪しい行動してると思ってたらコンニャロウ。

俺は無言で立ち上がり、スタスタと歩いていく・・・こなたさんが指差した、水鉄砲が置いてある場所へ。

 

「あ、まー・・・くん?」

「ん? どうしたの、つか・・・さ?」

「まさくん?」

「まさき・・・なんか、こえ~ぞ?」

 

空気圧式の水鉄砲を1つ取り、タンクに水を入れてひたすら圧縮する・・・ここまで無言である。

圧縮して圧縮して圧縮して圧縮して圧縮して・・・限界近くまで圧縮完了。

そしてゆらりとこなたさんの方へ向かう。

繰り返すが無言で、ついでに言うと半眼で。

 

「え、え~っとまさき? さすがにそこまで圧縮したヤツは・・・てか目が怖いんだけどってうっひゃぁ!?」

 

凄まじい勢いで水流がこなたさんの脇を通り抜ける。

あたったら薄い木の板くらいなら貫通しそうな勢いだ・・・まぁ誇張表現だけどね。

 

「ご、ごめんなさい! 調子に乗りすぎましたってにょわぁ!? ちょ、まさき、これマジでシャレにならないって!」

「まさきく~ん、良い機会だからこなたを徹底的に痛めつけちゃえ~♪」

「こなちゃんもがんばれ~♪」

「さりげなく酷いよかがみんってうひゃぁ!?」

「外野に文句言ってる暇なんてあるのか~?」

 

俺は圧縮しながらひたすら撃つ。

もうこうなったら意地でも当ててやる!

その時、別の場所に移動しようとしていたみゆきさんとやまとさんの近くで俺は足を滑らせてしまった。

ヤバイ、このままでは2人を巻き込む!

そう判断した俺はとっさに2人と離れるようにもがくも、2人のうち1人を巻き込んでしまった。

 

「おわ!」

「きゃあ!?」

 

今の声は・・・やまとさんか?

転んで目の前が真っ暗になり、混乱した頭を何とか整理して、現状の・・・把握を・・・。

 

『・・・・・・』

 

俺、仰向けになって倒れている。

やまとさん、うつ伏せの状態で俺に覆いかぶさるように倒れている・・・らしい。

あの、この顔に感じるやわらかい感触ってまさか・・・(汗)

 

「ゴ、ゴメンなさいまさき先輩! すぐ退けます!」

「あ、いや、こっちこそゴメン!」

 

そうして退けてもらったのは良いがやまとさんと目が合った瞬間お互い目を逸らしてしまう。

うっわ、気まずい上に顔があt『バシュ!』・・・はい?

水鉄砲の水流が鼻先を掠めた。

え~っと、まさかとは思うけど・・・。

ギギギ、と擬音がなりそうな感じで首を後に回す。

視線に入ったのは・・・水鉄砲(圧縮式)を構えたこなたさんといつの間にか水鉄砲(圧縮式)で武装し、修羅と化したかがみさん達!

 

「あっちゃ~、外しちゃったよ♪」

 

にこやかな笑顔でこなたさんが言って来るが、正直言って怖い。

やっべ、立場が逆転してる(汗)。

ちなみにやまとさんは未だに立ち上がらず、胸を両手で抱えて耳まで真っ赤になった顔を伏せている。

 

「いや、今のは明らかに不可こうr『問答・・・無用~!』のわぁっ!? てイタタタタタタ!」

 

こなたさん達5人の一斉放火はさすがに回避できず、痛みに耐えて応戦するがさすがに限度がある。

てかここから動いたらやまとさんに当たっちゃうんですけど!?

 

「お~お~、若いね~♪」

「そんな事言ったらいのりさんは年寄り見たく聞こえますよ・・・」←小声でボソッと

 

とりあえずそろそろこの状況打開しなければ・・・ってあれ?

いのりさんが何故か水鉄砲(圧縮式)を準備して・・・見かねて援護してくれるのかな?

と思った矢先!

 

「私もまだまだ若いわぁ!」

「って女はみんな地獄耳かよぉ!?」

 

思わず本気で叫んでしまう。

しかも敵が1人増えてしまった。

結局そのまま俺は火ダルマならぬ水ダルマになるのであった・・・。

 

 

 

「あっはっはっはっは♪」

「笑い事じゃないですよ、もう・・・」

 

その日の夜。

今日の午後の出来事を話したら黒井先生は大笑い・・・まぁ酒が入ってるからかもしれないが。

 

「でも偶然とは言えみんなの前で女の子の胸に顔をあてちゃったのは良くないね~」

「せやで。女の子はデリケートやからな」

 

酔ってるとは言えさすがにその言葉には反論できない。

事故とはいえ、やまとさんには恥ずかしい思いをさせちゃったからな。

しかもあの後、目を合わせてくれないどころかまともに会話が成立しなくなったし。

 

「まぁ、多少ギクシャクすると思うけど、時間が解決してくれるのを待つしかないよ」

「せやな。ちゃんとあやまったんやろ?」

「はい・・・」

「なら大丈夫! 1度や2度の失敗を恐れちゃ次のステップに進めないぞ若者よ!」

 

次のステップって何ですか、と思いつつ、こうして今日も2人の酔っ払いの相手をする事になる。

まぁ夕飯の時も飲んでるからすぐに酔い潰れるんだけどね。

この2人を布団に運ぶのは何回目だろ(汗)。

 

「ハイ今日もお疲れ様!」

「ども・・・すいません、いのりさん。あんな状況だったとは言え心無い事言っちゃって・・・」

「もう気にしてないわよ。それにあの事も事故みたいな物なんだから元気出しなさい」

「そうよ~。明日はお祭りもあるんだから。そんな顔してちゃ楽しめないわよ?」

「・・・ですね」

 

過ぎた事はどうしようもない。

ならこれからどうすればいいか。

普通に考えたら嫌われてもおかしくないけど、先程までの様子ではその心配は無さそうだし・・・。

明日の朝は頭を切りかえて行こう。

 

 

 

<オマケ:乙女達の会話>

 

 

 

「ん~・・・」

「どうしました、こなた先輩?」

「てい!(ムニュ)」

「きゃ!」

「何やってんのよあんたは」

「いや~、さっきまさきが感じた感触はどんなもんかと・・・」

「・・・・・・!」←思い出して真っ赤

「でもな~、落ち込んだ時のまさきを慰めるとなる時はやっぱりこう、ぎゅ~って抱きしめて・・・」←頭の中でシュミレート中

「まーくんを抱きしめて・・・ぽ~・・・」←赤くなって目が泳いでる

「・・・少し足りない、かな」←みゆきの胸を見て

「べ、別に大きければ良いと言う訳では!」←真っ赤

「貧乳はステータス・・・と主張していた時期が私にもありました・・・」←小さい胸をポンポン叩きながら

 

 

 

つづく・・・



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第五十三話 みんなで過ごす、夏の1日 最終日

「夏だ! 花火だ! お・ま・つ・り・だ~!!」

「こなたさん少し抑えて・・・」

「でも泉さんらしく、元気がよくて良いのではないでしょうか。実は私もちょっとウキウキしてますし♪」

 

ココにいられるのは、明日朝一で帰路につくために実質今日で最後となる。

最終日である今日はお祭りをみんなで楽しむ事になっていた。

だから勉強もそこそこに切り上げ、利用させてもらった 別 荘 (みなみさんち)をみんなで大掃除。

こなたさん辺りは少しかったるそうにしていたが、それでもゆたかさんのお姉さんらしくキチッとやるのはある意味彼女らしい。

ちなみにやまとさんとは会話は出来るものの、まだ俺と顔を合わせると赤くなる・・・コレばっかりは夕べ先生達に言われた通り、時間が必要みたいだ。

でもやわらかかったな・・・って違うだろ、俺!

とにかくそれらが終わったあと、学生組全員が浴衣姿に着替えた・・・ご丁寧に俺の分まで浴衣を用意してくれていたり(汗)。

そしてお昼過ぎ。

みんなでお祭りの会場に向った。

 

「ねぇみなみちゃん、ココのお祭りってどのくらい人がくるの?」

「避暑を目的に来る人も多いから、地元の人達を合わせると・・・都会のお祭りとさほど変わらないと思う」

「そうすると大人数だと返って危ないかもしれないね~」

 

みなみさんの答えにひよりさんが呟く。

まぁなんせ保護者含めて15人の大人数だしな・・・。

 

「難しい事は着いてから考えよう・・・って訳には行かなそうだなありゃ」

「結構集まってますね・・・」

「お神輿や盆踊りもあるから、毎年結構盛り上がるのよ~」

 

お祭り会場らしき場所が見えてきた。

まだ明るいからゆかりさんが言ったような事はまだ先のようだけど、出店は普通に賑わっている。

都会並、となるともっと増えるなアレ(汗)。

 

「着いたら何人かで別行動取ったほうがよさそうだな・・・あれは」

「そうね。全員携帯持ってるけどあの大人数じゃ繋がるかどうかも怪しいし、集合場所とかも決めておいた方がいいかも・・・」

「ふ、こんなモノ、コミケだと思えばなんとも無いさ!」

「ソ-デスヨ、ミナサン。オソレるコトはナニもアリマセン!」

 

・・・まぁオタク組は置いといて、さっそく保護者達と話しあう。

 

「一緒に行動する人数、決めておいた方が良いですかね?」

「そうだね~・・・。でもまずは怪我に気をつけて、人に当たっちゃったらきちんとごめんなさいと謝るように!」

「成実さん、いくらなんでもそこまで子供じゃないですよ・・・」

 

まぁ心配してくれてるんだろうけど・・・成実さん、子供が出来たらいい母親になりそうだ。

いや、少々過保護になるかもしれない(苦笑)。

 

「あの~、まさき? 私達は無視?」

「コレがイワユルホウチプレイとイうモノですカ?」

「うんまぁそんなとこ」

「うわ認めてるし!?」

 

とまぁそんな感じでオタク(こなたさん)達をおちょくりながら保護者達の決定を待つ事にする。

他のみんなはそんな俺達を呆れ気味、苦笑気味に見守っていた。

 

 

 

結局、好きな人数でお祭りを見回る事になった。

俺はこなたさん、柊姉妹、みゆきさんにみさおさん、やまとさんと一緒に。

・・・十分人数が多いような気がするんですけど(汗)。

それ以前にこのメンツが滞りなく決まったのは周りが気遣ったのか、意図した事なのか?

でもまぁ、俺ばっかり意識して一人相撲ってのもどうかと思うし、今はこのメンツでお祭りを楽しむ事にしよう。

 

「さぁ、行くぞ皆の衆! 目指すは屋台全制覇だ~!」

「無茶言うなって」

「いやいや、まさきとかがみがふたりがか・・・りで・・・ごめんなさい調子に乗りました」

『よろしい』

 

俺とかがみさんは袖口から出しかけたハリセンを収めた。

ホント、しょっぱながら絶好調だなこなたさんは。

 

「じゃああそこから順番に回って行こうよ」

「そうだな、じゃ、さっそく行こうゼ!」

「てこらこら、ひっぱるなっての!」

 

みさおさんに俺が引っぱられる形で最初の出店に入る事になる

 

 

 

その1:金魚すくい

 

 

 

そういや花見の時は挑戦したものの、結局取れなかったっけ。

 

「・・・花見の時のリベンジと行くか」

「先輩、何だかんだで、気合が入ってます、ね・・・」←まだちょっと緊張気味

「お、兄ちゃん彼女がいっぱいいるね~。カッコイイとこみせてやんなよ?」

「うっす。でも彼女とかじゃなくてみんな友達っすよ」

 

後から「ぐはっ!」とか「はぅっ!」とか聞こえたような気がするが、とりあえず今は・・・目の前の金魚達に全神経を集中!

 

「・・・それ!」

「わ、まーくんすご~い!」

「有言実行ね。さっすがまさきくん!」

「ありがと♪ さて、この網1つでどれだけいけるか・・・?」

 

結果、金魚を4匹取ったところで網は破れてしまった。

残りの網をこなたさん達に譲るとおっちゃんが俺が取った金魚を渡してくれた。

 

「網1つで4匹ってのも中々のモンじゃね~か。兄ちゃん達はどっから来たんだい?」

「あ、俺達はそれぞれ学友で、東京やら埼玉からきたんです」

 

と会話を弾ませている所でみんなのチャレンジは終わったようである。

 

「まさき~、オマエどんなマジック使ったんだよ~」

「・・・金魚すくいにマジックも何も無いでしょ(汗)」

「私ら一匹も取れなかったんだよ~・・・それ以前にまさき、その金魚はどうすんだ?」

「・・・あ」

「考えて、なかったんですか・・・」

「むう・・・かがみさん、つかささん。悪いけど預かってくれる?」

「それって・・・ウチの池でって事?」

「ああ。家も近いし、餌やりくらいは出来るからさ」

 

ちなみに去年のお祭りでかがみさんが取った金魚は今も元気に丸くなってるそうで・・・。

成長の仕方が間違ってるような気がするが。

 

「金魚ばちやら何やらと何気にお金がかかるし、餌代くらいなら俺も出せると思うんだけど」

「・・・いいわよ別に。その代わり、ちゃんと面倒見に来なさいよ?」

 

 

 

その2:くじ引き

 

 

 

大量の紐の内、1本の紐を引っぱる形のくじ引き・・・でいいのかな、これ?

ガラスケースの中には色んな景品が見えるがどの紐がどの景品を吊るしているのかはさすがに判別できない。

 

「とりあえず引いて見るか・・・これだ!」

「あ、何か動いたぜ!」

「大当たりはあのP○3なんだろうけど・・・なんだろ、なんだろ?」

 

そして取り出された物は・・・。

 

『・・・・・・』

「お、兄さん面白いの当てたな。ほい、バルサミコ酢だ♪」

「あっはは、バルサミコ酢~♪」

『何でやねん!?』

 

そう、引き当てたのは何故かバルサミコ酢・・・いや、確かに酢は体に良いけどさ・・・。

思わずつかささん以外全員で力いっぱいツッコンでしまった。

てかツッコミを入れざるをえないだろコレは(汗)。

 

「ちなみにアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレとか言う高級品だ。ある意味大当たりだぜ?」

「はい・・・?」

「えっと・・・確かアチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレは、熟成に最低12年、原料のブドウの種類、その他細かな製法がイタリアの法律で定められていると言うものでは・・・?(Wikipedia参照)」

「へぇ、お譲ちゃんは物知りだね。面白半分で仕込んだんだがいきなり引かれるとはな。大事に使えよ、坊主!」

「は、はぁ・・・」

 

何か釈然としないものを感じながらバルサミコ酢を受け取る。

・・・うわ、書いてある文字が読めね~・・・。

みゆきさん曰く、高級レストランとかで使用してるようなヤツで、一般の家庭で使う事は殆ど無いらしい。

てかこんなモン、1人暮らしの学生が使うモンじゃないと思うぞ。

実家に送った所で扱いに困りそうだし。

 

「もしくは料理上手な彼女にでもプレゼントして見たらどうだ?」

「かなり微妙なプレゼントだと思うんですけど・・・」

 

少し・・・いや、かなり引かれるだろ、こんな訳の分からんモン送られたら。

まぁそれ以前に彼女がまだいないんだが。

 

「ねぇまーくん。良かったら今度のお夕飯にそれで何か作って見て良いかな?」

「へ? 良いけど・・・そうだね、料理上手なつかささんなら良いか」

「うん、がんばって美味しいお料理作ってあげるね♪」

「あ、ああ。よろしく・・・」

 

つかささんが無邪気な笑顔で答えるのは良いが、何か後から妙な気配が・・・(汗)。

でその後、今度は普通のくじ引きをやる事にする。

 

「あっちゃ~、ハズレだ」

「あ、わたしは・・・キーホルダーか~」

「可もなく不可もなく、かな・・・」

「お、何か当たった・・・」

『え、何々!?』

「おわ、みんなして詰め寄るなよ!」

「だってさっきからまさきばっかり当たってるんだもん」

「・・・運を使い果たしそうで逆に怖いけどね。この番号は・・・リラッタヌ?」

 

なにやらたれた形が印象的な狸のぬいぐるみ。

男がもらってもあまり嬉しくないぞコレ(汗)。

 

「・・・欲しいヤツいねぇんならあやののお土産にしていいか?」

「峰岸さん、こういうの好きなの?」

「ああ。前、わたしがあやののぬいぐるみにコーヒーかけて汚しちまった事があってさ。クジ代は払うから・・・」

「いいよ別に。なんならみさおさんが引いたって事にして渡してもいいんじゃない?」

「ヴぁ!? それはさすがに・・・」

 

ああだこうだ言ってる内に有耶無耶になったのでとりあえずみさおさんにあげる事になる。

 

 

 

その3:射的

 

 

 

的をコルク銃で当てて、落っことしたら景品をゲットできるというお祭りではおなじみの物。

みんなそれぞれ思い思いの物を狙ってる様だが俺は特に欲しい物が無い。

ちなみにダンボールに書かれた的もあるようだがどうやらこなたさんがしきりに狙ってるようで・・・。

 

「まさき、あれ落としてよあれ!」

「あれって・・・『小神あきらサイン会招待券』? なんでそんなモンが・・・」

「何回やっても落とせないんだよ~(涙)」

「いや泣くなよ!」

 

こなたさんにも好きな芸能人がいるんだな~なんて思いつつ狙ってみる。

1回目・・・隣にあったチビ人形げっと。

2回目・・・ダンボールのヤツに当たるも少し後退させた程度。

 

「まさき~・・・」

「分かったからその上目使いはやめい(汗)」

 

思ってない・・・今のこなたさんがめちゃくちゃ可愛かったなんて思ってない・・・。

それにしても見た目ダンボールを折り曲げた程度のヤツの下の部分に当ったのに、ゆれる事無く後退させたとなると・・・。

3回目、ダンボールの上の部分にうまく当たりめでたくゲット!

 

「やった~! まさき大好き~!!」

「うわ、抱きつくなってか声がでけぇよ!」

「いや~お見事! ハイ、コレが例のブツだ。」

 

そんな言われ方をすると物凄く怪しいんだが・・・まぁ日付が1ヶ月後になってるから大丈夫だろう。

ちなみにこなたさんの言葉に反応したのか周りからまた痛い視線が(汗)。

しかしくじ引きといい射的屋といい景品がピンポイント過ぎないか・・・?

 

 

 

その4:出店(たべもの)

 

 

 

「カキ氷に焼きソバでしょ? たこ焼きに綿あめチョコバナナ、それから・・・」

「かがみさ~ん、チリも積もれば何とやらってことわざ知ってる?」

「・・・! ま、毎日運動してるからコレくらい平気よ平気!」

 

俺がツッコムのもなんだが周りは止めないだろうし・・・。

 

「リバウンドですね、分かります」

「・・・天誅!」

 

スパァン! といい音を立てて漫才してる2人は置いといて。

みさおさんは焼きソバ、つかささんは綿あめ、みゆきさんはカキ氷とそこまではいいんだが・・・。

やまとさん、水羊羹って(汗)。

お祭りでそんな物売ってる出店なんてあったっけ?

とりあえずそのチョイスについてツッコミたいんだが・・・ツッコメない。

昔ながらの長椅子に座ってお茶を飲んでたら完璧だ。

でもそんな和風なやまとさんもいいかも・・・って!

一々何考えてるかな俺の脳みそ!

 

「ど、どうしました?」

「あ、いや・・・水羊羹、好きなの?」

「・・・ハイ」

「そ、そっか・・・」

『・・・・・・』

 

か、会話が続かね~(汗)。

とりあえず俺もたこ焼きを買ってみんなで食べた。

時には分けたり分けてもらったり。

やまとさんにも分けてやったら少し微笑んだような、そんな気がした。

そんなこんなで・・・。

 

「あ、もうすぐ集合時間ですね」

「へ、もう?」

「夏だからね。日もあんまり傾いてないし」

 

分かりにくいが何気に時間は既に6時近い。

みんなで打ち上げ花火を見る事になってるので集合場所に来たが・・・。

 

「連絡、取れない?」

「・・・ダメね。みんなの携帯に繋がらないみたい」

「時間はもうすぎてるんですけど・・・こうがまた何かやらかして無ければいいんですけどね」

 

やまとさんは親友の事で心配事が尽きないようである。

足で探そうにもこの大人数だ。

ミイラ取りがミイラになりかねない。

 

「・・・他の皆さんはもうあの場所に行ってるのかもしれませんね」

「あの場所って・・・会場(ここ)に来た時に話に出てきた穴場の事?」

 

花火を近くで見ようと沢山の人が詰め掛けてくるらしく、そのおかげで何でもない場所が絶好の穴場になってるとゆかりさんが言っていた。

『灯台下暗し』とはよく言ったモンだ。

万が一お互いの連絡が取れない時はそこに集合しようと言う事になっている。

既に会場は人でほとんど埋めつくされているため、俺達はその穴場・・・いつも俺達がランニングしている土手に行くことにした。

 

 

 

「お、来たね青春を謳歌している若者達が♪」

「みんな~、こっちよ~♪」

 

無事、他のみんなと合流出来た。

先に来てたなら連絡して欲しかったがやっぱり繋がらなかったとか。

 

「・・・・・・」

「・・・!・・・・・・!!」

 

なんか俺と一緒に行動をしていたみんなが何かを聞かれて赤面してるようだが・・・?

俺は俺で酔っ払った保護者・・・ぶっちゃけ黒井先生と成実さんに絡まれて身動きが取れなかったりする(汗)。

そうして数分後。

1発目の花火が上がる。

それを追うかのように、去年見た東京での花火大会に勝るとも劣らないくらいの花火が数百発以上・・・。

ほんの一瞬のきらめきを見せては散っていく。

どこかの漫画で言ってたような、一瞬だけど閃光のように。

いや、漫画の引用で表現しちゃだめか。

ふと、周りを見てみる。

こなたさん、かがみさん、つかささん、みゆきさん、みさおさん、やまとさん。

みんな花火を見上げて・・・月並みな言葉だけど、みんなとても綺麗だった。

これから先、どうなるかまだ分からないけど。

せめて、この穏やかな時間がもう少しだけでも続きますように・・・。

 

 

 

<オマケ>

 

 

 

「な~んや赤井、花火そっちのけで女の子を物色か~?」

「ちょ、な! そんな事してないですよ・・・」

「いや~、アレは立派に青春を謳歌してる男の子の目だね~♪」

「て! あんた等2人そろって声デカイですって!」

「赤井・・・教師に対してその言葉遣いはちと修正の必要があるな~」

「赤井君・・・嘘はいけないよ? おねーさん、本職のお仕事するハメになっちゃうよ?」

「何でそうなるんですか!」

 

 

 

「ふふ、良かったわね、かがみ、つかさ?」

「こなたお姉ちゃんも先輩達も脈ありって感じですね。うらやましいな~」

「みゆきさん、応援してますから・・・」

「日下部先輩もまだまだいけるっスよ?」

「アキらめたらソコでシアイシューリョーネ♪」

『・・・・・・』←5人揃って硬直中

「ハンデは大きいけどやまと、ただでさえ女子高に通ってて男っ気が無いんだから、ちゃんと捕まえなきゃダメよ?」

「こう・・・あなたこの状況楽しんでるだけでしょう・・・」←真っ赤

 

 

 

つづく・・・



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第五十四話 みんなで過ごす、夏の1日 後日談

『ありがとうございました!』

「楽しんでもらえて良かったわ。あと、こちらこそありがとう。大掃除までしてもらっちゃって」

「俺達で使ったんですからそれくらいはやらないと」

「ふふふ・・・特にまさきさんは念入りにお掃除してましたね♪」

「・・・べ、別にみんなと大して変わらないと思うけど・・・」←少し照れてる

 

軽井沢の岩崎さん所有の別荘での生活を終えて、特にトラブルも無く帰ってきた時には既に夕方。

別荘を使わせてもらったお礼を言うためにいったん岩崎さんちによってみんなでお礼を言ったところだ。

主の娘やご近所さんが一緒だったとは言え、中々気軽に使わせてもらえるなんて普通は無いだろう。

だから掃除も念入りにしたし、本当に心を込めてお礼を言ったのだ。

 

「機会があったらまたいつでもいらっしゃいね。赤井君や田村さんにはウチのチェリーがずいぶん懐いてるみたいだし。」

「い、いや、私の場合は懐くというレベルではないんスけど・・・」←ちょっと複雑

「みゆきさんちの目の前だし、機会はいくらでもあるとは思いますがね・・・」←チェリーが足元でお座りをしている

 

ある程度仲の良い後輩とはいえ女の子の家に自分からホイホイ行くほど俺は軽い男じゃないつもりだ。

誘われたら話は別だが。

そんな所で会話も程々にして、それぞれ自宅に帰ることになった。

 

 

 

「それにしても1週間なんて結構あっという間だったわね~」

「そうですね。まぁ色んな意味で忘れられない1週間になりましたよ」

「へ~・・・まーくん的にはどの辺が忘れられないのかな?」

「参考までに教えて欲しいわね・・・」

「いや、何の参考だよ(汗)」

 

いのりさんの運転する車の中でちょっとした議論を交わすハメになる・・・まぁ、優柔不断な態度ばっかり取ってる俺も悪いんだが。

てかつかささん、そのバルサミコ酢、そこまで大事そうに抱えるような物か?

・・・あ、忘れてたけど一応高級品か。

くじで引いたから実感無いけどね。

ちなみにかがみさんにもすでに金魚を預かってもらってる。

 

「みんなで過ごした時間全部かな・・・勉強はもちろん、トランプで遊んだり川辺で遊んだり森の中を散歩したりお祭りで遊んだり」

 

いろんな意味で忘れられんぞ。

トランプ=罰ゲームで女装。

水遊び=集中砲火もとい砲水。

お祭り=酔っ払った保護者に絡まれる。

一番のサプライズは・・・いや、あえて言うまい。

それに普段滅多に会うことの無い他校生(やまとさん)との交流も出来た。

この1週間で親しくなったのは良いけど、同時にトラブルも発生したんだよなぁ。

 

「そ・れ・に♪ かわいい女の子達と一緒におh「いのりさんそれマジ勘弁して下さい!」・・・お父さん達に話したらどうなるかしらね~?」←ニヤケ顔

「・・・人生・・・オワタ」←思い出して全身真っ赤

「あ、アレは・・・まさきくんは、別に悪くないじゃない」←上に同じ

「はうぅ・・・」←上に同じ

 

経験の差か年期か、それとも年上に弱いのか。

最近弄られる回数が増えてるような気がしてならない自分が少々情けないと思う、帰宅中の車内での会話だった・・・。

 

 

 

それから数日後。

俺はお盆の時期に差し掛かった所で里帰りをした。

帰ったら帰ったで従姉弟達に振り回されたが。

墓参りや家族、親戚への顔出しの意味もあったが別の理由もある。

その理由とは・・・。

 

「今年はみなみちゃんトコの別荘とコミケだけだったな~」

「それでもこなたさんはコミケに行ったんかい」

 

コミケに行かされる事(きょうせいれんこう)を回避するためだ(汗)。

ただでさえ暑いのに相乗効果でさらに数倍にも暑くなるあんな場所になんて連れて行かれたらたまったもんじゃない。

ちなみに現在こなたさんちに柊姉妹、みゆきさんと一緒にお邪魔している。

 

「ふ。苦難の先にある希望を求めて私達は向かったのだよ、まさき!」

「私・・・()?」

「今年はおとーさんも一緒だったから♪」

 

ダメだこの父娘(おやこ)、早く何とかしないと・・・。

 

「丁度ゆーちゃんも実家に帰ってたからある意味タイミングが良かったんだよ~。そうじゃなきゃおとーさん共々丸1日遠出なんてするわけ無いじゃん?」

「その辺の気遣いは良いけど、どのくらい使ってきたのよ?」

「ん~・・・1冊500円とすると・・・」

 

こなたさんは完全に人生楽しんでるからな~。

趣味にはお金に糸目をつけずに結構な額をつぎ込むから・・・そういや去年の年末に行った時も預かった財布の中身に驚いたっけ(汗)。

 

「ざっと4~5万円くらいかな?」

「そ、そんなに使ったの、こなちゃん!?」

「金銭感覚絶対おかしいわよそれ・・・」

「まさきさん、同人誌というのはそんなに高いのですか?」

「物によるとは思うけど・・・そうだね。本の厚さに比べたら少し高いかも」

 

自費出版物は高い、という話は聞いたことがあるけどこなたさん、何をそんなに買い込んだんだ?

あ、彼女の場合、新刊を3冊ずつ買うのが常識だったっけ・・・。

ちなみに限定品なる物もあるがソレはそうじろうさんに任せたとか。

限定品に限らず、そこ(コミケ)ではそんなに高くはなくても市場・・・てかぶっちゃけオークションとかに流れるととんでもない額になる事も珍しくはない。

 

「しっかし随分買い込んだわね~。徹夜とか迷惑行為はしなかったんでしょうね・・・?」

「お父さん同伴とはいえさすがにそれは無いよ~。私はチケット組みだし」

「・・・あんたまさかダミーサークルとかじゃ」

「そこはコネだよ。売り子もやったからね」

 

ちなみにこうさんの所の売り子をやっていたそうだがそれにしても・・・。

 

「かがみさん、何気にソッチ方面も詳しくなってきたよね」

「そんな事無いわよまったく・・・少しはそのエネルギーを私生活に回せば良いのに」

「いやいやかがみ。君はもう立派なオタクだよ」

「ち・が・う! 大体、それを言ったらまさきくんだって分かってるじゃない」

 

まぁ確かに俺も分かる。

実際ソッチの世界に片足を突っ込んでしまったと自覚している身だ。

今更隠そうとは思わない。

が・・・。

 

「かがみさん、あの2人の反応を見てみ?」

「へ?」←振り向く

『・・・・・・?』←2人揃って何の事? と言いたげな顔

「・・・・・・(汗)」←気づいた

「かがみさん、認めたら楽になるよ?」←かがみさんの右肩を叩く

「何気にオタク用語も理解してるモンね~」←かがみさんの左肩を叩く

「な・・・ちがっ! コレはこなたが、あぅっ・・・!」

 

かがみさん、テーブルに突っ伏して撃沈を確認っと。

そこで扉がノックされてゆたかさんが入ってくる。

 

「えっと、冷たい飲み物を持って・・・て、かがみ先輩、どうしたんです?」

「あ~・・・暫らくほっといてあげた方が良いと思うよ」

「・・・はぁ」

 

首をかしげながら氷を入れた麦茶を出してくれる。

クーラーが効いているとはいえ喉は渇く。

礼を言ってありがたく頂いてると・・・。

 

「おに~ちゃん♪」

「ぬぉ?」

 

ゆたかさんがポフッと後からくっ付いてくる。

『お兄ちゃん』と呼ぶのは夏休み中まで、という事にしているためか、別荘に行って俺の事を『お兄ちゃん』と呼び始めた時から、ゆたかさんはよく後から甘えるようにくっついてくる。

よっぽど『兄』に憧れてたのかね?

さすがに正面からは抱きついてはこないが。

 

「それにしてもゆーちゃん、随分と懐いてるね~。下手すりゃきー兄さん以上に」顔は笑ってるけど目が笑ってない

「何だか、見てて微笑ましいですね」←言ってる事とは裏腹に黒いオーラ発生

「じ~・・・」←羨ましそう

 

セリフに微妙なトゲがあると思うのは俺の被害妄想なんでしょうか(汗)。

あとつかささん、頼むから羨ましげに見ないでくれ。

落ち着いて考えると結構恥ずかしいんだから。

とりあえずゆたかさんからは、俺を一種の『憧れ』のように見ている感じがする。

だから、諸々の理由もあって意識せずにすんでいた。

ちなみにこの状況は復活したかがみさんの冷静なツッコミが入るまで続く事になる。

 

 

 

翌日早朝。

俺は日課のために今日も早起き。

昨日聞いた話では、ゆたかさんに付き合う形でこなたさんもランニングをしてるそうだ。

さすがに早朝は無理だったようだが・・・こなたさんが、ね。

この調子だとひょっとしたらみゆきさんもやまとさんも続けてるかも知れない。

そんな事を考えながら外に出る。

 

「おはよ~。」

「おはよ、まーくん♪」

「おはよう、まさきくん」

「おはようございます、先輩」

「それじゃ今日も行きますか・・・ってやまとさん!?」

「気付くの遅っ!?」

 

なぜかいつもいないはずの娘がいた!

さりげなく混じってたから本気で流す所だったぞ(汗)。

 

「1人で走ると何だか物足りなくて。続けるなら、やっぱり誰かとやってた方が楽しいし、継続出来ると思ってここに来たんです」

 

友 達(パートナー)としてこうさんが思い浮かぶが・・・無理だな、彼女には悪いが早起きするイメージがわかない。

 

「・・・ココまでどうやって来たの?」

 

いくらなんでもこんな時間にバスが動いてるかは分からないし、タクシーだと無駄に金がかかる。

 

自 転 車(マウンテンバイク)です。鷲宮(ここ)ならそんなに時間はかからないので」

 

意外と近いらしい永森家。

自転車は一時的に柊家に置いてもらってるらしい。

そういやあの時の事はもう完全にやまとさんの中で解決したのか、普通に喋ってるな、俺と。

とりあえず気を取り直してランニングを開始する。

・・・今の時間、6時前。

何時に起きたんだやまとさん(汗)。

 

「こうと違ってちゃんと早起きくらい出来ますよ。それに、自転車でここまで走る2~30分くらいなら私にとっては準備運動みたいなものです」

「そういうのをこなたにぜひ見習って欲しい所だわ」

「やまとちゃん、すごいね~♪」

「・・・にしてもさりげなく酷い言われようだな、こうさん」

 

俺も似たような事を考えたが・・・本当にこうさんの親友なのか、やまとさん・・・?

もっとも、あっちは社会人になったら・・・場合によっては昼夜逆転生活になってたりして。

ま、生徒会に入るくらいだからそれは無いだろう・・・多分。

そういえばやまとさんがどの辺りに住んでるのかまだ聞いた事無かったっけ。

走りながら聞いて見ると隣町・・・いや、隣市?

確かに自転車でいけない距離ではない。

とりあえず夏休み中こっちに来てランニングに付き合う事も考えてるそうだ。

が、毎朝俺達の時間に付き合わせたらさすがにキツイと思うんだけど(汗)。

てかランニングじゃなくてもサイクリングでいいんじゃ・・・?

あ、そうなると結局やまとさん1人になっちゃうのか。

 

「あんまり無理しないようにね?」

「・・・ありがとうございます」

 

礼を言われながらそっぽ向かれてしまった。

う~ん、女の子って分からない。

 

 

 

その日のバイト帰り。

俺は本屋に行くつもりで町に出たが、たまたま1人でぶらついていたみさおさんに捕まってしまった。

 

「いや~、あやのが兄キと買い物中だから暇でさ~♪」

「いや勉強しようよ、みさおさん。せっかくがんばったんだから」

 

・・・・・・

 

「て、峰岸さんはデート中ってこと? わざわざ遠まわしに言う事かそれ・・・」

「いやだってさ、まじめに言ったらこっぱずかしいじゃん・・・」

 

『デート』って認識かかるまで少し時間かかったぞ。

 

「で、俺は本屋に行くとこだけどみさおさんは?」

「せっかくだからゲーセン行こうぜゲーセン♪」

「少しは受験生としての自覚を持てよ!?」

「たまには遊んだって良いじゃん。こないだの旅行で大体宿題片付いたし」

「全部終わったわけじゃないでしょ・・・」

 

みさおさん、沈黙。

さらに追い討ちをかけておいた方が良いかな?

 

「受験勉強、ちゃんとやってる?」

 

さらに沈黙・・・てか硬直?

このまま話してても時間がもったいないから歩きながら話そう、と思った矢先!

 

「さて、俺はそろそr「いーじゃんいーじゃん遊ぼうぜ! たまには息抜きも必要だってヴぁ!」・・・おのれは子供か(汗)」

 

とりあえず人の往来のド真ん中でみさおさんが暴れ始めたから、本屋での用事が済んだ後に付き合うことにする。

 

で、最寄のゲーセンに入ると早速『戦場の絆』が置いてあるスペースへ。

みさおさんは最近Aランクになったのに対して、同じAランクでも俺には少々ブランクがある。

ちなみに夏休み中ということもあり、俺達と同じくらいの学生や小学生くらいかと思われる人達が順番待ちをしているため、俺達も少し待つ事になった。

 

「今日の戦場はジャングルか~。まさきはどうs「みさちゃん、こんな所で赤井くんと何をやってるのかな・・・?」ってあやの!? 何でココに!」

「お、峰岸さんお久しぶり。」

「お久しぶり赤井くん。お土産アリガトね?」

 

俺がくじで引いたリラッタヌのぬいぐるみは結局『俺が取ったヤツ』として渡したという。

それはさて置き、何だか随分ご機嫌ナナメようだが・・・?

 

「峰岸さんはデートじゃなかったの?」

「うん、お兄さんに急用が・・・って何で赤井くんが知ってるのかな、みさちゃん?」

「え、あ、えっと~・・・」

 

あ、峰岸さん、顔は笑ってるけど額には青筋が・・・(汗)

話を聞いたら峰岸さんの彼氏・・・みさおさんのお兄さん(そういや名前知らないな・・・)が突然急用が出来たとかでこれからの予定もパーに・・・峰岸さん、不憫な子。

そんな時、たまたまゲームセンターに俺達が入って行く所を偶然目撃して追ってみたら案の定、だったらしい。

予定が狂った鬱憤も溜まってるのかもしれない。

という事はこれってもしかして・・・八つ当たり?

いつだったか『キレると怖い』と聞いたような・・・。

何となく嫌な予感がしてきたから早々に退散しよう。

 

「う~ん、待ってたら遅くなりそうだし、やっぱり俺はやめとくよ」

「うん、またね赤井くん。さて、みさちゃん。残りの宿題はどのくらい進んだのかな?」

「ヴぁ!? まさき~!」

 

みさおさんの断末魔が聞こえたような気がするが気のせいだろう、きっと。

さて、夏休みもすでに残り1週間。

宿題は終わらせてるし、受験勉強でもしますかね。

そう思ったとき、俺の携帯電話が鳴り響いた。

発信者は・・・柊家。

出てみたら、みきさんからの夕飯のお誘い。

1回家に寄って本を置いたらすぐに柊家に向かう事にする。

ただ心配なのは、柊一家の面々に弄られないかと、それだけだ。

既に躊躇や戸惑いはかけらも無い、こんな日々が俺の日常。

人間、そう簡単には変われない・・・と思ってたんだけどなぁ。

そう思いながら、俺は柊家に向かい、インターホンを鳴らすのであった。

 

 

 

つづく・・・



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第五十五話 へる・あんど・へぶん☆

<始業式当日>

 

 

 

「お、おっはよ~。新学期になっても仲が良いねぇ3人衆!」

「おはよー・・・てなんだその3人衆って(汗)」

「おはよ。こなたの言う事一々気にしてたらキリが無いのは分かってるでしょ・・・?」

「私達、いつも一緒だもんね♪」

 

月が変わり、夏休み明けのこなたさんの第一声がそれかい。

大体、今に始まった事じゃないだろうに。

今日から2学期。

そろそろ受験に対して本腰を入れなきゃならないんだけどこなたさんは相変わらず。

・・・短期集中とはいえ中間、期末で俺やかがみさんを脅かす点数を稀に叩き出すんだからこなたさんは結構侮れない。

ちなみにつかささん、その発言は誤解を招くぞ。

・・・間違っちゃいないから強く否定できないが。

 

「おはようございます・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさき先輩」

「おはよう、ゆたかさん・・・そのたっぷりの間は何?」

「えへへ・・・」

 

舌を出して照れ笑いするゆたかさん。

まぁ夏休み中、会う度に俺の事を『お兄ちゃん』って呼んでたからなぁ。

今この場で間違えなかっただけマシか?

ここでならともかく、学校の・・・しかも教室でそんな事言われたらシャレにならん。

そんな感じで5人揃って学校までの道のりを、お喋りしながらてくてく歩く。

新学期からどんな毎日が待ってるかな・・・?

 

 

 

「あ~んむ! もぐ、もぐ、もぐ、もぐ、もぐ、ごっきゅん!」

「みさおさんって何でも美味しそうに食べるよね~」

「そうなんだけど、みさちゃんってよく口の中を噛んじゃうから口内炎にも結構なってるのよ」

 

ある日の昼休み、いつものメンバーで昼食タイム中。

前々から食事中のみさおさんって幸せそうだと、つくづく思っている。

みさおさんは食事中、常に笑顔を絶やさない上にお喋りが止まらない事もしばしば。

もっとも、峰岸さんの言うとおり、喋りながら食べてて口の中を噛んだり舌を噛んだりしてるんだが本人は一向に改善せず・・・いや、しようとせず、こんなことも・・・。

 

ポロ。

 

「あ・・・!」

「さすがにそれは洗って食べるワケにはいかないねぇ、みさきち」

「みゅ~・・・大好物のミートボールが~・・・」

 

もったいないと言えば確かにそうなんだけど・・・みさおさん、泣く事ないだろ(汗)。

そんな時にかがみさんが呟いた。

 

「・・・3秒ルールは?」

「ぎく! いや、場合によってって事でカンベン・・・」

 

ニヤニヤしながらかがみさんがみさおさんを見ている。

 

「何かあった?」

「あ~、少し前に峰岸と2人で日下部の家に行った時の事なんだけど・・・」

 

 

 

『あ~むん! もぐ、もぐ、もぐ、もぐ、もぐ、ごっきゅん♪ あ~・・・あ!』

 

ポロ。

ひょいパク。

 

『もぐ、もぐ、もぐ、ごっきゅん!』

『・・・・・・』

『ほら、3秒ルール3秒ルールゥ!』

『・・・・・・』

『5秒以内だったら菌がつかないから大丈夫だってヴぁ!』

『なによ、何も言ってないでしょ・・・?』

『みさちゃん、さすがにお行儀が悪いよ?』

『みゅ~ん・・・』

 

 

 

「・・・なんて事があってね」

「今回はさすがのみさちゃんも無理だったわね♪」

「うう~・・・いくら何でもまさきに言わなくても良いじゃん・・・」

 

信じてる人、いたんだ・・・3秒ルール。

いや、信じてる、というより誤魔化しか。

 

「みさおさん、それは諸説ありますが、都市伝説に類する物ですから、床に落ちた食べ物はあまり口に入れないほうがよろしいですよ?」

 

・・・そういや根拠も何も無いよな、3秒ルール(そ れ)って。

ちなみに地域によって5秒ルール、10秒ルールとも呼ばれてるらしいが。

 

「それにしても9月にはなったけど、暑い日がまだ続くよね~」

 

流れを切ってこなたさんが話題を投下!

温暖化が進んでる事もあるためか、今日も最高気温は30℃に近い。

電気代の節約のため、極力冷房は使わないようにしてるが暑い時は暑い。

さすがに自室で脱水症状はカンベンなので、そうならない程度に気温を少し高めに調整し、節電に心がけております!

 

「うちのゆーちゃんは暑さに当てられやすいからさ、いつも居間で休んでるんだよ~」

 

泉家の居間は常時クーラーで一定の気温(25℃くらい)を保ってると言う。

・・・羨ましくなんか無いやい。

 

「私は部活である程度の暑さには慣れてるけどナ~。あやのはクーラーのきいた部屋でアニキとイチャついt「み~さ~ちゃ~ん!!」じょ、ジョ~ダンだってあやの!」

 

なにやら向こうでギャーギャー騒いでいる。

珍しいな、峰岸さんが真っ赤になって騒いで・・・まぁ、あれは仕方ないか。

 

「つかさも冷房のきいた部屋に入りびたりよ。こっちはだらけてだけど」

「あぅ~・・・」

「ま、気持ちは分かるけどね」

 

誰だってクソ暑い所に汗水たらしながら居たいと思うやつなんてそうそう居ないだろう。

 

「ちなみに私とお父さんもたまに混じって小の字になってお昼寝してるんだよね」

「小の字・・・ですか? それを言うなら『川』の字では・・・?」

「いや~、それがお父さん、必ず真ん中に入るから」

 

そうじろうさん、両脇に娘と姪をはべらせて何やってるんですか。

身長の高いそうじろうさんの両脇にこなたさんとゆたかさん・・・容易に想像は出来るぞ。

確かに『小』の字になる。

 

「ゆたかさんも慣れてきたもんだね~」

「あんたの家ってホント、相変わらずだな・・・」

「でも仲の良い家庭じゃないですk『ガリッ』・・・・・・」

 

今、何か聞こえたような気が・・・?

よくみるとみゆきさんが何だか涙目になっている。

そそくさとティッシュを取り出し口元に当てた。

 

「歯の詰め物が取れてしまったみたいです・・・(涙)」

「だ・・・大丈夫?」

 

また歯医者さんに通い詰めです~、と涙ながらに語ったみゆきさんだった・・・。

 

 

 

<放課後>

 

 

 

4人揃って寄り道中。

みゆきさんは泣く泣く歯医者に直行、みさおさんはおそらく部活だろう。

ゲー○ーズに着くなり、こなたさんは食玩と睨めっこ。

かがみさんは相変わらずラノベを物色中。

つかささんはCDのスペースへ向かっていった。

ついでに言うと・・・。

 

「何故にやまとさんがここに?」

「たまたま見かけたので早めに合流しようかと・・・」

 

こうさんが一緒じゃないにも拘らず、なぜか店の中でやまとさんと遭遇。

はて、やまとさんの学校も家もこっちのほうじゃなかったはずだが?

その事を聞くと俯いてボソボソと何か言ったと思ったら、かがみさんのほう(ラノベコーナー)に行ってしまった。

・・・こうさんの影響か、かがみさんに薦められたのか。

ちなみに新学期が始まっても相変わらず毎日一緒にランニングをしていたりする。

体の方、負担になって無きゃいいんだけど。

と、視界の端に食玩を耳元で軽く振って中の音を聞いているこなたさんが目に入った。

 

「何やってるの?」

「鑑定~。こうしないとお金がいくらあっても足りないからね」

「ストライクゾーン狭いなおい!? 一般人は普通やらんぞそんな事!」

 

ていうかそんな事をしても絶対に分からないぞ。

 

「はっはっは♪ ちなみに食玩のカードで箱開けたばっかのヤツなら狙ったのを大体引けるよ~」

「・・・確かに凄いけどさ、褒める気には全然ならないぞソレ」

 

そんなピンポイントで狙ったヤツを取れるってどんだけ研究熱心なんだか(汗)。

 

「纏めて箱買いしてる内にパターンが読めるようになりますた。財力に物を言わせる大人買いってヤツ?バイト様々ですよ~♪」

「・・・やってることは子供だけどな~」

「あ~・・・大きな子供買いが適切かもネ」

「というか独占欲が強いとも取れますよね」

「何気にきっついナ~、やまちゃんは」

「ソレはやめてください・・・」

 

気がついたら後ろにいたやまとさんがツッコンで来た。

しかしこなたさん、いくら何でも『やまちゃん』はないだろ・・・。

 

 

 

「え・・・柊家にお泊り?」

「はい、今日明日お世話になろうかと・・・と言いますか、つかさ先輩に誘われまして」

 

帰り道。

こなたさんと別れた後も俺達と一緒に歩いてくるやまとさん。

ついでに言うと、ゲー○ーズにいたのはあの近辺で待ち合わせてたらしく・・・時間はまだあったそうだが。

なにやら大きなスポーツバックを抱えてると思ったら・・・てかそこまでするほど仲良かったっけ?

夏休みの旅行が効いてるのかな・・・?

 

「ま、女の子には色々あるのよ。」

「むう、そう言われると・・・」

 

確かに男にとって不可侵領域的な物もあるよなぁ。

年頃の女の子なんだし。

 

「まーくんも夕飯の時間までに来てね♪」

「りょ~かい。期待してるよ~♪」

「うん!」

「へ・・・?」

 

元気よく返事をするつかささんに対し、何だかまるで『私、聞いてません』みたいな事を顔に書いたやまとさんが反応する。

そういや知らない・・・よなぁ。

あんな事普通は無いし。

 

「えっと、まさき先輩も・・・?」←ちょっと顔が赤い

「俺の場合は去年のクリスマス以降、よく夕飯をご馳走になるようになってね。といっても月に1回か2回くらいだけど」←あくまで平常運転

「・・・クリスマスに何かあったんです?」←複雑な顔

 

とりあえず何があったかは簡単に説明しておく・・・長くなるから割愛したけど。

 

「家族として、ですか・・・」

「今考えてみると、結構貴重な体験させてもらったと思ってるけどね」

「そだよね~。同じ歳の弟なんて普通は双子とかじゃないといないし」

「つかささん、指摘する所間違ってるって(汗)」

 

ある意味一番のツッコミ所は『女友達の家族に抵抗無く溶け込んだ事』だろう・・・。

普通だったら父親(ただおさん)あたりが猛反対しそうな物だが。

やっぱり家族が女性ばかりだからだろうか?

そういや『息子とキャッチボールをしたかった』なんていってたし、やっぱり肩身が狭かったのもあったのかそれとも・・・。

 

「ん~・・・じゃあクリスマスの時だけ弟が出来る?」

「つかさ、色々誤解を招くわよその発言!」

「姉参号の言う通りだぞ姉四号」

「だからソレはやめろって~!」

「私たち、ロボットじゃないよ!」

「・・・・・・」

 

呆れてるのかどうなのか、やまとさんはぐうの音も出ないようだ。

 

「やっぱり私が1番不利・・・いっその事転校して、は流石に学年が違うし・・・こうやって会おうと思えば会えるけど・・・」

「ん? やまとさん何か言った?」

「いえ、別に・・・」

 

何だかブツブツ言ってたような気がしたんだが。

ともあれ、家に着いた俺は荷物を置いて、着替えてから時間近くまで宿題の消化を進める事にした。

 

 

 

夕方6時。

柊家のインターホンを押して玄関をゆっくり開ける。

 

「こんばんは~」

「いらっしゃい、まさくん。もう少しかかるみたいだから居間で待っててね?」

 

かがみもやまとちゃんもいるから~、と言いつつ台所に消えていった。

手伝いで忙しいのかと思いつつ居間に入る。

 

「あ、いらっしゃい」

「お邪魔しまっす」

「ホントに夕飯をご一緒してるんですね・・・」

 

やまとさんが半信半疑だったのも当たり前といえば当たり前の話だ。

・・・てあれ?

 

「まつりさんはまだ帰ってないの?」

「台所で夕飯作ってるわ」

「はい?」

 

まつりさんが、夕飯を・・・?

今まで聞いたことってか見た事無いけど、大丈夫かな?

 

「不安なのはわかるけど、つかさといのり姉さんが一緒だから大丈夫よ・・・多分」

「その多分って所がすっごく気になる・・・あれ、みきさんにただおさんは?」

「2人仲良く旅行中。帰りは明日の夜だって。」

 

・・・少し不安になってきたけど、ここはまつりさんを信じてみよう。

彼女なりにがんばってるのかもしれないし。

そして出て来た物が・・・。

 

「いらっしゃいまさきくん、やまとちゃん。つかさからもお墨付き! 私の渾身の力作『パエリア』だよ~♪」

「パエリアって確か・・・」

 

少々特殊な香辛料を必要とすると思ったけど、この辺のスーパーで売ってたっけ?

・・・細かい事は後にしよう。

まつりさんの力作は魚介類をふんだんに用いたシーフードのパエリア。

サラダとスープはそれぞれいのりさん、つかささんが作ったらしい。

 

「それじゃ食べてみて、感想聞かせてよ~♪」

 

なんか興奮してるけどまつりさん、何かあったのかな?

とりあえず1口、あむっ・・・。

 

「あ、美味し」

「パエリアって食べた事無いですけど・・・うん。美味しいですよまつりさん」

「・・・悔しいけど美味しい。うん、ちょっと見直したかな?」

「ホント!? やった~! てかがみ、ソレどういう意味よ~!」

 

まつりさん、舞い上がりすぎ(汗)。

ホントに何かあったんだろうか・・・?

ま、余計な詮索は後にして、今はまつりさんのパエリアを食べながら楽しい夕飯の時間を過ごしたのであった。

ちなみに食後、まだまだテンションが高いまつりさんが・・・。

 

「へへ~(だきゅ~)♪」

「・・・まつりさん、お酒入ってないですよね?」

「ほっほっほ~。まさきったら抱き心地良いね~♪」

「いや答えになってないですから!」

 

しばらくの間、上機嫌なまつりさんにぬいぐるみのように後から抱き付かれました(汗)。

なんだかかがみさん達が羨ましそうに見てたのは気のせいだと思いたい・・・。

 

 

 

<オマケ:土曜日早朝>

 

 

 

日課のために今日も早起き。

昨日はある意味(精神的な意味で)散々な目にあったが、今日は・・・どうなるだろ?

そう思いつつ外に出る。

 

「おはよう」

「おはようまさきくん」

「まーくんおはよ~♪」

「おはようございます、先輩」

「おっすまさき~♪」

「んじゃいこ・・・ってみさおさん!?」←今気づいた

「おう!」←マイペース

「ソレってもうノリツッコミの領域よね・・・」←呆れ半分

 

突然増えてたら普通驚くっての・・・。

 

 

 

<オマケその2:日曜日早朝>

 

 

 

いつもの時間に目が覚める。

昨日は朝から驚かされたが今日はどうだろ?

やまとさんは昨日の内に帰ったが・・・今日も来るのかね?

そんな事考えつつ外に出る。

 

「おはよう」

「おはようまさきくん」

「まーくんおはよ~♪」

「おはようございます、先輩」

「おっすまさき~♪」

「おはようございます、まさきさん」

「まさき、おっは~♪」

「おはようございます、まさき先輩♪」

「・・・・・・」

 

人数、また増えてるし(汗)。

しかもゆたかさんまで・・・。

朝から軽い頭痛を覚える日曜日の早朝だった。

 

 

 

つづく・・・



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第五十六話 季節の変わり目

もうすぐ10月。

まだ少し暑い時期だがそろそろ衣替えの季節。

この半袖のYシャツももうすぐ着収めかと思うと時間の流れの速さを感じる。

少し感慨深げにいつもの3人で登校して、これから少しずつ変わり始めるであろう高校生活を想いながら教室に入った。

 

「あ、おはようございます、まさきさん、つかささん・・・」

「おはよう、みゆきさん・・・?」

「おはよ~・・・? ゆきちゃん、どうしたの?」

 

心なしか元気が無さげなみゆきさんの挨拶。

彼女が頬を押さえて途方にくれているのは大抵・・・。

 

「みゆきさん、ひょっとしてまた・・・?(汗)」

「はい・・・実は先日、詰め物が取れた時に歯医者さんに行ったのですが・・・」

 

 

 

『では取れてしまった所を見せてください』

『ハ、ハイ・・・』←少し怯え気味に口を開く

『・・・あ~、これならくっつけるだけですぐに終わりますね』

『・・・・・・♪』←少し安心した

『でも奥の方に虫歯になりかけのがあるからそっちの治療、始めちゃいましょう』

『~~~~~~!!』←一転、大ショック

 

 

 

「という訳で、またしばらくの間、歯医者さんに通う羽目になりまして・・・」←朝から涙目

「ご、ご愁傷様・・・」

「みゆきさんも大変だね~。ちょっとついてないみゆきさん萌え~」

「あ、こなちゃんおはよ~」

「おはよ。一応行っとくけど後ろから囁かれたくらいじゃもう驚かないぞ?」

「むむ、まさきはともかくつかさにまで耐性がついてしまったか・・・」

 

こなたさんがよく後からいきなり出て来て会話に参加するのはいい加減慣れた。

そしてこんな時間に彼女が来たという事は・・・。

 

キーンコーンカーンコーン♪

 

朝のSHRの時間だという事だ。

ちなみに最近の平日、朝のランニングはゆたかさん1人でやってることもあるとか。

ゆたかさんが病弱なのは『病は気から』ってヤツなのかもしれない。

まぁそれはさて置き、黒井先生が教室に入って来たところでそれぞれの席に着いた。

 

 

 

 

「ようやく大人しくなってきたよな~。蚊とか蝿とかさ」

「まぁ、もうすぐ10月だしね」

 

放課後、こなたさん、つかささん、みゆきさんはそれぞれ用事で下校済み。

たまたま教室を出たところでC組の3人と一緒に下校してる。

 

「暑くなったらいつの間にか出て来るのよね」

「ちょこまかと逃げ足速いのよね~、虫って」

 

ちなみに帰る方向はみさおさんも峰岸さんも方向は同じである。

まぁ、よくよく考えるとかがみさんと中学も同じだったらしいから同じ学区内・・・つまり鷲宮近辺だもんな。

 

「でも、昔のお侍さんで、箸で蝿を捕まえた人がいるって言う話は有名だよね?」

「あ~、宮本武蔵か」

「マジでか? よく食いモンに使うヤツでそんな事するなソイツ」

「ってツッコむとこそっち?」

「日下部・・・気持ちは分かるけど、とりあえずその人の反射神経とか動体視力とかを感心するべきだと思うんだけど?」

 

よくよく考えるとこの面子で一緒に下校ってあまり無いよな~。

そんなどうでも良い事を考えながら、例によってみさおさんに引っぱられてゲーセンに立ち寄ってく俺達だった。

相変わらず俺って押しに弱いな・・・。

てかかがみさん、受験終わるまで戦場の絆(コッチ)はやらないって言ってなかったっけ?

 

 

 

<数日後:かがみ視点>

 

 

 

「ん~・・・」

 

いつもの日課のために早朝5時に起床。

つかさもそろそろ起き始めてる頃だろう。

あの子も最初は私が起こしてやってたんだけど、いつからか自分から・・・最初は半分寝ぼけてたけど・・・起きるようになった。

手がかからなくなったのはいいけど、妹の成長ぶりに嬉しいやら寂しいやら。

 

「そういえばそろそろ1年か・・・」

 

継続は力なり、何てまさきくんは言ってたけど、ホントにそうよね。

以前の自分じゃ考えられない、なんて思いながら運動着に着替える。

 

「あ、お姉ちゃん、おはよ~♪」

「おはよ、つかさ」

 

同じく運動着に着替えたつかさと一緒に外に出た。

あの頃はあやふやだった気持ちも今では既にはっきりと見えている。

それは(つかさ)も同じ。

しかも競争相手が多い上に全員が友達と来たもんだ。

・・・こなたが言ってるような『ギャルゲー』状態なのは考え物だけど。

さらに言ったら早朝のこの時間は私達姉妹の特権だったけど、最近は平日休日共に恋敵(なかま)が増えた(特に休日)。

そして今、一番積極的・・・というか頑張ってるのはあの娘。

 

「あ、来た来た。やまとちゃんおはよ~♪」

「おはようございます、先輩方」

「おはよ、やまとさん」

 

学校は違うけど・・・いや、だからこそ、か?

あの夏休み以降、鷲宮(こっち)まで毎日自転車で。

しかも早朝に来てまで彼と一緒に走ろうとしている永森やまとさん。

私達は同じクラスだったり別のクラスだったりするけど同じ学年、同じ学校だ。

だけど彼女は学年はおろか学校そのものが違う。

だから少しくらい、この時間・・・彼女にとっても貴重なこの時間を大事にしてあげよう、というのがいつだったかの話し合いの時にみんなで決めた事だ。

・・・私達ってひょっとしてお人好しなのかな?

 

「やまとさん、そろそろその『先輩』って呼ぶのはやめてみない? 年上とは言え私達、学校違うんだからさ」

「さ、さすがにそれはちょっと・・・」

「あはは、照れてるやまとちゃんってカワイイね♪」←ナデナデ

「・・・・・・」←真っ赤

 

つかさの言動はともかくとして、もうちょっとフレンドリーでもいいような気がするんだけどね。

それに最近になって彼女の事で分かった事。

それは・・・。

 

「3人ともおはよ~」

「おはよ~♪」

「おはよ、まさきくん」

「おはようございます、まさき先輩♪」

 

本人は気付いているのかいないのか、最近まさきくんに対して随分やわらかい表情や言動を見せ始めている事。

まさきくんだけじゃなく、私たちに対しても。

八坂さん曰く、『やまとは甘えん坊だけど甘え下手で、友達になっても打ち解けるまではそっけない態度を取る事が多い』という。

つまりそれなりに打ち解けてきたようで、見ていて凄く分かりやすい。

最近はまさきくんの隣を走ってる事も多いし・・・見てて何だか胸が痛むのはやっぱり嫉妬なのかなぁ。

複雑な心境なのはつかさも同じみたいで、2人で話してる時によく話題に出てくる。

でも私達もお互い、こんな状況でも譲る気はまったく無いのよね♪

普段は表にはまず出さないけど、私は友達であるみんなが好きだから。

そしてもちろん、彼のことも好き。

もちろん、異性として・・・ね♪

でも。

いつになったら、打ち明けられるかな・・・?

 

 

 

<まさき視点>

 

 

 

日課を済ませてやまとさんを見送った俺は、朝食を食べながらニュースを見る。

週刊予報じゃまだ暑い日が稀にあるか・・・。

今日から衣替え。

クリーニングから返って来たままの制服を引っ張り出して袖を通し、外に出る。

外に出れば久しぶりに見る冬服姿の柊姉妹。

他愛の無い話をしながら学校に向かった。

 

「お、3人ともおはよ~」

「おはよう、こなたさん・・・ちゃんと冬服着てるね」

「いやそんなつかさじゃあるまいし~♪」

「はうっ!?」

「人の妹に対して随分な言いようね?」

「かがみ~ん、笑いながら握り拳を往来で作るのはヤバイんじゃない?」

「じゃ、学校についてからね♪」

「うわ、まさき助けて~♪」

 

そんな軽口交じりの挨拶をして・・・ありゃ?

 

「そういえば、ゆたかさんは?」

「あ、ゆーちゃんはちょっと遅れてくるって」

「・・・ふぅん?」

 

途中で体調崩さなきゃいいんだけど。

そんな事を考えつつ2人の軽い漫才を見ながら学校に足を運ぶ。

 

「もうしばらく暑い日が続くみたいだし、夏服のままでもイイような気がするよネ~」

「ソレわかるよ~。逆に夏服になった途端に寒くなったりするし」

「どっちかって言うと気持ちの切り替え重視なんでしょ。あんた達みたいにメリハリないヤツが増えそうだし」

「逆に男子は学ラン1枚脱げば済むからねぇ」

 

俺がそう言った途端に3人とも、抗議の視線を投げかけないでくれ決めたのは俺じゃないんだから。

てかかがみさんも内心は2人に同意見だったのね・・・(汗)。

 

 

 

それから数日後。

『暑い』と言っていた本人が風邪をひいて今日は欠席。

ゆたかさんも風邪で寝込んでしまったらしい。

あいにく、みんな揃って用事があって見舞いに行けないらしく、代表して俺が行く事になった。

まぁみんなで押しかけても迷惑なだけ・・・いや、そうじろうさんが狂喜乱舞するか。

そんな訳でみなみさん達1年生組と合流して泉家に向かう。

 

「お、赤井君にみなみちゃん達、お見舞いに来てくれてありがと~!」

 

出迎えてくれたのは、今日はたまたま非番だったのか成美さんだった。

寝込んだと聞いて大急ぎで駆けつけてくる彼女の姿が容易に想像できる。

 

「今回は寝込んじゃったけどゆたかがあんなに元気なのって初めてでね~、おねーさんは赤井くんやみなみちゃんに感謝してるのだよ~♪」

「い、いえ、私は何も・・・」

「俺も特に何もしてないっす」

 

てか成美さん、今の言葉聞くと何だか約2名ほど視界から外れてません・・・?

 

「いやいや、2人とも謙遜する事ないよ~。ゆたかが中学の時も仲がいい娘がいたんだけどさ、相性がいいっていうのかな。赤井くんのことやみなみちゃんの事が話題によく出るし、学校が楽しくてしょうがないんじゃないかな~? ほら、病は気からって言うし、楽しい事やってれば病気も忘れるみたいだし♪ それに赤井くんの事、m「成美さん、言いたい事は分かりましたからそのマシンガントークはその辺に!」・・・とにかく、おねーさんは君らに感謝してるって事だよ♪」

「は、はぁ・・・」←顔面真っ赤

「・・・どうも」←それなりに恥ずかしい

 

ちなみにこの場にひよりさんとパティさんが居たのに成美さんの話の中に出てこなかった・・・2人とも終始ニコニコしていたが。

とにもかくにもゆたかさんの部屋まで移動する。

 

「あ・・・みんな、来てくれてありがと~」

「あ、まさきにみなみちゃん達いらっしゃ~い」

「泉先輩、寝てなくていいんスか?」

「・・・こなたさん、風邪ひいて休んだんじゃなかったの?」

 

何故かこなたさんがゆたかさんの部屋に居たりする。

一応厚着をしているようだが大人しく寝てないとダメでしょ風邪は治りかけが大事なんだから・・・。

 

「・・・・・・」←(=ω=.)ニヤニヤ

「フム、ナンだかコナタのメがカガヤいてマスネ♪」

 

しまった、薮蛇だったか!?

 

「なに~。まさき、私の事心配してくれたの? かがみ達が来ない中私のために来てくれたのカナ~?」

「何馬鹿言ってんの、てかへばり付くな風邪が移るでしょ!」

「移してやんよ♪」

「楽しげに言うな~!」

 

てかそれだけ動けたら授業普通に受けられるだろ絶対!

さっき成美さんが言ってた言葉の意味、よ~く分かったぞ・・・気付くのが遅かったけど。

 

 

 

・・・10分後。

 

「はー、はー、はー・・・」

 

ようやくこの場が落ち着いた。

てか回りのみんなは揃って観戦モードだったから誰も止める人間がいなかったのだ。

ツッコミ役(かがみさん)の存在って結構重要だったのな・・・。

 

「いやー、久しぶりに勝った気がするよ♪」

「・・・縦、一文字チョップ!」

「はう!? 頭が、頭が~!!」

「よし、こなたさんにはまだ余裕があるね」

 

頭に多少響いたようだが問題はないな、うん。

 

「私も先輩達みたいにいつも元気な体だったら良いのにな・・・なんで私、こんなに体が弱いんだろ・・・?」

「でも昔よりはマシなんでしょ?」

「そうだね~・・・昔はもっと頻繁に休んでたし、赤井くんのおかげかな?」

「何でそこで俺の名前が出てくるんですか・・・」

 

何かまた話がこじれそうな気が(汗)。

 

「それはアレだよ。夏休みの時からまさきや私達と一緒にランニングするようになって、少しずつ体力と自信がついてるんだよ」

「そうかな・・・?」

 

復活したこなたさんがゆたかさんにやさしく諭す。

 

「でも、みんなに心配かけるのはやっぱりやだな・・・」

「ユタカ、ソウイウジャクテンがアルからコソマモッテあげたいト、マワリはオモうンデスヨ」

「いや~、やっぱり本人は辛いもんだよ?」

「言うなれば・・・実際に妹がいる人は妹萌えしにくいってことッスかね?」

「おお! それだよひよりん!」

 

・・・こいつらは(汗)。

 

「おおっと、キタキタ! 一般人の(さげす)み攻撃!」

「コレがイワユル『ツイテイケナイオーラ』デスネ♪」

「しょうがないっス先輩、パティ。我々は日陰者のアウトローっスよ!」

 

ゆたかさんやみなみさんはともかく、成美さんもついていけないのだろう。

俺は・・・ノーコメント。

 

「弱点といえばさ、みなみちゃん、胸無いの気にしてたよね?」

「そうだったんっスか~?」

「(ボフン!)い、いえ、そんなコトは・・・」←真っ赤

 

ま た そ の 話 題 か !

男の前で、しかも現役警察官の目の前でなんっつ~ことを言い出しやがる!?

 

「胸は揉めば大きくなるって言うよね~♪」

「あ、聞いた事ある~♪」

 

成美さん、アンタもか・・・(涙)。

とりあえず部屋の隅っこで耳を閉じt「うわ~!!」な、なんだ!?

 

「自重しろ、私~! 友達や先輩をそんな腐った目で見ちゃダメ・・・っくは~! 自重しろ、私~。落ち着け~。自重しろ、自 重 し ろ~!」

 

何か1人で大騒ぎしてると思ったらひよりさんが・・・壊れた?

こなたさんはこなたさんで少し顔が赤いし・・・って!

 

「こなたさん、風邪ぶり返したんじゃないの? 顔も赤いし熱測って大人しく寝てた方が・・・」

「だだだだだだだだだだだ大丈夫! 大丈夫だから気にしないで!!」

 

うおっ!?

デカイ声で否定してるけど・・・誤魔化してるのか?

下手すりゃ頭に響くぞ・・・彼女の頭にチョップした俺が言うこっちゃ無いが。

 

「成美さん・・・」

「おっけ~任せといて。さ~こなた、部屋に戻って体温測ろうか~♪」

 

そう言ってこなたさんを引きずって部屋を出て行った。

・・・大丈夫か、あれ?

その代わり・・・と言っては何だが、ひよりさんは落ち着いたようだ。

 

「・・・気付いてないわけじゃないんだよね?」

「スでシンパイしてたダケのヨウにミえますネ・・・」

「かわしたのかボケたのか・・・」←多少息切れ気味

「それにしてはちょっと鈍い・・・かな?」

「4人揃って何の話?」

 

返事は仲良く『何でもないです』の一言。

俺、何か変なこと言った・・・?

 

 

 

つづく・・・



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第五十七話 いろんなイメージ

「ほんじゃ各自、気ィつけて帰るよ~にな♪」

 

帰りのHRが終わってようやく放課後。

といってもそこまで長く感じないと言うのはやはり毎日が充実しているからだと思う。

しっかし・・・。

 

「それにしても黒井先生、今日は・・・といいますか、昨日辺りから妙に機嫌がいいですよね?」

「ん~、きっと先生に彼氏とかが出来て嬉しいとかじゃないかな?」

「・・・それは微妙、いや、無いんじゃないか?」

「ですよね~♪」

「ほ~・・・言ぅてくれるやないか、自分ら?」

 

こなたさんがそう言った後に、背筋が凍るような低い声が後から響いてくる・・・。

 

ゴン!

バキャ!

 

『ぬぅぉぉぉぉぉお!?』

 

まだ教室にいたらしい黒井先生の鉄拳をこなたさん共々食らうハメになりました(涙)。

 

「まったく・・・ウチが嬉しいのはロ○テが最近調子がええからや! くっくっく、ここからがロ○テ伝説の幕開けやで~♪」

 

そういやこの人って熱烈なロ○テファンだったっけ。

シーズン当初は低迷していたが最近は調子を上げているらしく、熾烈なAランク争いをしてるとか何とか。

 

「この調子でプレーオフも日本シリーズも、ロ○テがいただくんや♪」

「まるで我が事のように喜ばれてますね・・・(苦笑)」←ちょっと引き気味

 

よっぽど好きなんだろうな~、黒井先生。

そういえば・・・。

 

「日本シリーズで思い出しましたけど、メジャーでは総合優勝したチームがワールドチャンピオンって言うのは何ででしょーか?」

「そういえばそうだね、国内なのに世界一・・・何でかな?」

 

WBCでは日本が優勝してたんだがなぁ・・・はて?

 

「そ~やな・・・ま、世界一名乗るにはロ○テを倒してからにしろっちゅーの。は~っはっはっはっはっは!!」

 

豪快に笑う黒井先生。

う~む、黒井先生の鼻が天狗のように伸びてる気がするのは気のせいだろうか?

それを見ると何だか折ってみたくなるのは俺だけじゃないよね?

 

「ま、聞いた話(ニュース)ではたかが3連勝って言うくらいらしいですけどねぇ・・・」←ボソッと

「・・・何を言うとるんや赤井。この連勝から勢いっちゅうもんが出てやな!」←聞き逃さなかった

「その時だけってのも結構ありますし」

「・・・・・・」

「状況的に今からじゃAクラスにはかなりギリギリのラインっぽいし」

「・・・・・・・・・」

「リーグ制覇出来なくなった時点で勢い出てきてもなんか今更って感じがするし」

 

ちなみに1位2位は既に確定済みのようである。

っと、そろそろ止めとかないと黒井先生の反撃が来そう・・・。

 

「・・・ふっふっふ、ええか赤井、日本シリーズで優勝する事に意味があるんや。リーグ優勝してもプレーオフでこけるチームも結構あるやろ?」

「は、はぁ・・・」

 

先生の目が据わってる・・・しまった遅かったか!?

 

「そもそもリーグ優勝したチームがコケるのは試合の間隔が空いて気ィ抜けてしまうからや。そしてそこに2位対3位の勝者が付け入る隙があってやな・・・」

 

 

 

・・・30分後。

 

「分かったか赤井? 大体最近のにわかファンときたら・・・」

「いやもうすいませんでした、ええ本当に」

 

結局コッチのほうが折れてしまった・・・。

趣味・・・てか好きなチームに対するファンの愛ってすげ~、何て思いつつ、ようやく開放される事になった。

 

 

 

「まさきも災難だったよね~♪」

「聞いた話じゃある意味まさきくんの自業自得だろそれ・・・」←少々呆れ気味

「軽い言葉が持つ責任の重さを思い知ったぜ・・・」←かなりグッタリ

 

下校中。

いつもの5人で途中まで一緒に帰る傍ら、かがみさんに放課後の一連の出来事をこなたさんが面白そうに話し、かがみさんに呆れられてしまった。

いや、まぁその通りなんだけどさ、ちょっとからかうつもりがいつの間にかs「は・・・は・・・」って何だ?

 

「はぁ~っくしょん!」

「うひゃっ!?」

「また豪快に出したわね~」

 

こなたさん、せめて口を押さえたほうがいい思うぞ。

てか花の女子高生が豪快にくしゃみってどうよ?

 

「いや~、くしゃみってあんま加減が出来なくってさ~」

「そうかな~? 俺は結構出来るけど」

「ホント、絵に描いたような『はっくしょん!』なんていうくしゃみ、初めて見るわよ」

「こなちゃん風邪治りきってないの?」

 

つかささん、相変わらずええk「は・・・くちゅん!」っておや?

 

「みゆきさんも実は風邪気味?」

「い、いえ。そんな事は・・・お恥ずかしながら、少し鼻がむずむずしてしまいまして」

 

みゆきさんも小さく控えめにくしゃみをした・・・どっかの誰かが放った豪快なくしゃみと違い、さすがお嬢様って感じに。

本人も風邪はひいてないから大丈夫って言ってる訳だし鼻声じゃないしみゆきさんだし。

そんな俺とみゆきさんのやり取りに闖入してくるちっこい影が1つ・・・。

 

「何かさー、ずるいよね~。くしゃみ1つとってもこの個体差がさ~。加減できないだけに何してもカワイイのって何かずるいよね~」←みゆきさんに絡み中

「え、いえ、そんな事は」←ちょっと顔が赤い

「コラコラ、絡むなよ・・・」

 

かがみさんが呆れたように言うがこなたさんは悪ノリ中。

みゆきさんは・・・まぁ、ああいうノりに対して嫌とは言えない性格だしなぁ。

しかしこうしてみてると・・・。

 

「・・・ハタから見たら中々危険な香りがするぞ、こなたさん」

「ほぇ・・・?」

 

現在の現状、顔を赤くしたみゆきさんにこなたさんが体をくっつけてスリスリしている。

コレはどう見ても・・・キマシ?

 

「いや、私は確かに自他共に認めるオタクだけどさ、リアルで同姓趣味無いから。普通だから、ノーマルだから!」

 

こなたさんが必死に弁解中・・・ある意味珍しい光景だ。

みゆきさんも開放されたからか安堵したようで・・・ホッとしてるのかそれとも別な理由か、とそう考えてしまう時点で俺もアウトなんだろ~か?

 

 

 

<数日後、土曜日の午後:柊家>

 

 

 

「かがみとつかさの誕生日ってさ、7月7日じゃん?」

「ちょうど七夕だな~」

 

大変覚えやすい誕生日だがその日が何の日かにもよるだろう。

クリスマスや正月だったりすると成長するにつれて微妙な心境になる人もいるとかいないとか。

 

「それ以外に『ポニーテールの日』でもあるんだよネ♪」

「なんで7月7日なのよ?」

「それは、七夕の織姫がポニーテールだったからと言われています」

「・・・なんか無理やり理由をねじ込んでるような気がするぞ」

「でも、実際にポニーテール協会と言うのがありまして、ポニーテール人気の理由、歴史、文化的価値の考察と、21世紀にポニーテールを流行させることを目的にしていると聞いています」

「さっすがみゆきさん!」

「へ~」

 

ちなみに毎年ポニーテールが一番似合う有名人に『ポニーテール大賞』を送っているとか。

そんなみゆきさんの話を感心しながらこなたさんとつかささんが聞いている。

っていうかいつの間にか雑談に入っているけど、みんなで柊家に集まって現在何をしているのか忘れてないか・・・?

 

「でもポニーテールってd「待て待て、その前に一言、言いたいことがあるんだけど?」・・・どったのかがみん?」

「何で一番勉強しないといけないヤツが積極的に話をずらしてんのよ!?」←リミットブレイク中

「あー、かがみさんひとまず落ち着いて(汗)」←ちょっと冷や汗気味

「あはは、きっと一番勉強をしたく無いからヤバイんだよね、きっと。うん」←誤魔化し中

 

そう、今はテスト勉強中・・・ぶっちゃけ中間テストが明後日の月曜日からである。

てか色んな意味で俺とかがみさんは必死だ。

何せ一夜漬けで俺やかがみさんを脅かすほどの高得点を叩き出すヤツが目の前にいるのだから。

 

「う~、自分の目指す教科だけに絞れればいいのに・・・」

「目標も決めてないやつが贅沢言うな!」

 

そんなこんなでこなたさんはダウン気味。

でも休憩は必要だよな・・・?

なにせ休み無しに2時間ぶっ通しだし。

 

「そんな訳で休憩がてらゲームでもしようよ。」

 

同じことを考えていたのか、こなたさんはバックの中からDSを取り出し、「みゆきさん、コレやってみない~?」とみゆきさんに勧めていた・・・パズルゲームみたいだけどちょっと無茶ぶりっぽくないか?

かがみさんはその事にブツブツ言いながらも、みゆきさんが初見でどれくらい出来るのか興味はあったのだろう、特に何も言わずにいる。

実際、彼女は凄まじい集中力と幸運の持ち主なのは今までの経験の中で証明済み。

 

「皆さんとプレイしたゲーム以外はあまりやったことが無いのですが・・・では少しだけ」

 

・・・えっと、なんかみゆきさんの雰囲気が変わったのは気のせい?

 

「何かオーラっぽいのが出ましたネ~・・・」

「う、うん・・・」

「空間、隔離してるわよね・・・?」

「・・・しばらくそっとしておこう。」

 

こなたさん達もそう思ったらしい。

そして待つ事数分。

 

「・・・・・・orz」←あっさり記録を抜かれた

「・・・こなちゃん、大丈夫?」←状況についていけない

「す、すみません・・・」←オロオロしてる

「どうする、あれ・・・?」こなたさんを指差しながら

「ほっときゃその内復活するでしょ。」←即答

 

そのまた数分後。

 

「ねぇねぇさっきの話だけどさ、みんなでポニーテールやってみない?」

「なんだそのストレートな無茶振りは・・・」

 

ワリとあっさり復活したこなたさんがどこからとも無く取り出したヘアブラシと髪留めに使われるゴムを取り出す・・・何であるんだよ。

そして彼女はみゆきさんから許可も取らずに髪を弄り始めた。

 

 

 

それからさらに数分後。

 

置いてけぼりな形になった俺だが・・・。

何故か目の前に4人の少女がポニーテール姿で鎮座しております、ハイ。

正直、いつもと違う髪形になってると凄く新鮮でいつもより何だか可愛く見えたりします、ハイ。

そういえば以前にも彼女達は何回か髪形を変えてた時がありました、ハイ。

さほど気にしてなかったのをある意味後悔してます、ハイ。

・・・みさおさんややまとさんも似合うだろうか?

って、何故あの二人の顔が頭に浮かぶ!?

やべぇ、俺正気じゃね~や(汗)。

そんな俺の心境を知ってか知らずか、こなたさん達はそれぞれのポニテ姿を評している。

・・・頼むから俺を巻き込むなよ?

俺自身、何を言い出すか分かったモンじゃない。

話を振られないようにと俺は心の中で神に祈りつつ、教科書を眺めると言う現実逃避に入った。

 

「ねぇまーくん。私のこの髪型、似合ってるかな?」

「そうだよね~、まさきの意見も聞きたいよね~♪」

 

・・・俺は神様なんかもう絶対信じません(涙)。

2人の言葉に反応したかがみさんやみゆきさんもこっちを向いて俺の様子を窺っている。

 

「イインジャナイカ? ミンナニアッテルヨ。ハッハッハッハッハ・・・」

「・・・まさきさん?」

「まさきくんどうしたの、大丈夫?」

 

結局この後は勉強にならなかったのは言うまでも無い・・・。

 

 

 

<オマケ:翌日早朝>

 

 

 

「おっすまさき!私の髪型はどうだ?」←ポニーテール

「おはようございます・・・あの、私は元々この髪型なんですけど・・・似合ってるでしょうか?」←上に同じ、ちょっと恥ずかしそう

「あ、あはは・・・」←上に同じ、苦笑気味

 

全員、ポニーテールだった・・・。

何があったのかは詳しくは知らないけど、何故に昨日あの話をした時あの場にいなかったみさおさんにやまとさん、その上ゆたかさんまでポニーテール?

みさおさんはいつもの様に振舞い、やまとさんは上目使いで顔を染めつつ窺ってくる・・・どうしろと?

ちなみにゆたかさんは半分巻き込まれたようなモンらしい。

 

「なぁなぁまさき、似合ってるか?」←ちょっと顔が赤い

「あの・・・できれば感想を言ってもらいたいです・・・」←真っ赤

「まさき先輩、私はどうですか?」←純粋無垢

 

・・・どないせいっちゅうんじゃ~!

 

 

 

・・・つづく



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第五十八話 誰にでもある(?)秋の1日

「おはよ~、こなた・・・さん?」

「あ~・・・おふぁよ~。今日も仲良く登校かい・・・?」

 

うわぁ、朝っぱらからものすっごく暗いなこなたさん!

柊姉妹と3人で登校中、こなたさんを見つけたから声をかけたのだが、こなたさんの表情がかなり暗い・・・。

 

「今日はやけにローテンションね?」

「こなちゃん、何かあったの?」

 

いつもの活発なこなたさんじゃない。

今はむしろ落ち込んでる・・・のかな?

その辺の理由を尋ねてみると・・・。

 

「いや~、ビデオ録画に失敗した時の朝って・・・やるせないよね~。もう何もかもやる気が起きないよ~・・・」

 

ある意味彼女(こなたさん)らしく、そして分かりやすい回答をありがとう。

 

「時々感心するよその情熱・・・(汗)」

「でもさ、感心はするけど尊敬はしないわよね~・・・」

「お、お姉ちゃんもまーくんもさすがにキツイよそれ・・・」

「大丈夫だよつかさ・・・こういう時の2人の言葉はもう挨拶のようなもんだしネ~」

 

まあ特に否定はしない。

そんなこんなで落ち込んだこなたさんと共に学校までの道のりを今日も行く。

 

「あとさ~、新聞の番組欄のさ、深夜番組の表示は何とかならないのかな~? いくら略すって言っても番組名2文字とかやめよぅよ~!」

 

たまに何のことだか分からないんだよ~、とか騒いでるがだったらソッチ系の専門雑誌を買えば良いと思うのは俺だけか?

もっとも、彼女の部屋の収納スペースを考えると難しいかもしれないが。

そんなこんなで昇降口でみゆきさんと合流。

5人揃って(かがみさんはお隣だが)教室に入っていくのであった。

 

 

 

「あれ? 珍しいね、こなたさんがコロネ以外のパンを食べてるの」

 

昼休み、いつものメンバーで昼食中。

何か違うところと言ったら、以前よりこなたさんが弁当を持ってくるようになったものの、諸々の理由で弁当を用意できなかった場合はチョココロネを食べているのだが・・・。

こなたさんが今、嬉しそうに食べてるのはメロンパンだった。

 

「・・・そういえばチビッ子がパン食ってる時って大抵はチョココロネだよな。売り切れてたのか?」

「いやいや、今やってるアニメの主人公の好物でさ、そういうのって何だか無性に食べたくなっちゃって♪」

 

最後の1個だったらしい・・・ってアニメの影響かよ!

ちなみにこの時、とある後輩がメロンパンを買い損ねて泣く泣く学食に向かったと言うのは余談である。

しかしまぁ、コレで贄殿○那があればある意味カンペキだ。

ていうかキャラクターそのものとしてはまったく似てないが身長(誤差約1cm程度)や髪の長さはほぼ同じだし、コスプレしたら・・・ダメだ、凛々しさが足りない。

 

「実にわかりやすい奴だな、アンタは・・・」

「でも何だかこなちゃんの気持ち、分かる様な気がするよ~。TVで動物の特集とかやってると私もペット飼いたいなって思うもん」

「でも、ペットを飼うのって実際はかなり大変なんだよね?」

「そうですね、躾はもちろんですがお散歩に食事(エサやり)、それ以外にも動物特有の病気もありますから予防接種等々、きちんと面倒を見なければいけませんから」

「そういう事を考えないでペットを飼う人が多いから、捨て猫や捨て犬も多いんだもんね・・・」

 

ペットはモノじゃない、生き物だ。

単純に『かわいいから』なんて理由で飼ったところでキチンとした世話の仕方を覚えてないと、手に余って捨ててしまうと言う事もニュース等でよく聞く話である。

ちなみに俺が夏休みの時に獲得した金魚は今日も元気に柊家の池で泳いでいる。

金魚も一応ペット・・・になるのかな?

 

「そだよね。ヘビさんやワニさんが逃げて大騒ぎになった事もあるし・・・それを言ったらみなみちゃんちって凄いよね♪」

「確かに、それは言えてるね。」

 

あれほどの大型犬(たしかシベリアンハスキー)をきちんと躾けて家族の一員として暮らしてるんだから確かに岩崎家は凄い。

でもつかささんが言った、ヘビもワニも愛玩用としては個人的にどうかと思う・・・まぁ人の好みも人それぞれだからとりあえず何も言わないけど。

そんなこんなで俺達は昼休み終了5分前までペットの話で盛り上がっていたんだけど・・・いつの間にかみさおさんが爆睡していた。

しかも俺の机で。

 

「お~い、みさおさんもうそろそろ教室に戻らないとやばいぞ~。つーか俺の机返せ~。ここで授業を受ける気か~?」

「・・・日下部、いつから寝てたのかしら?」

「みさちゃん、そろそろおk「あ、あやの~・・・」・・・みさちゃん?」

 

起きてる・・・訳じゃないよな?

起きるそぶりも無いって事は寝言か?

 

「と、何だ・・・兄貴、いたのか~・・・」

「え・・・ちょ、みさちゃん!?」

 

どうやら夢の中では現在進行形で峰岸さんとみさおさんのお兄さんが一緒にいるらしい。

てか顔赤いぞ、峰岸さん。

しかしそれも次の言葉で一気に怒気に染まることになる。

 

「・・・うわ、・・・エロッ・・・」

 

・・・・・・

 

一気に周囲の空気が冷えていく。

 

「峰岸、とりあえず貸すからコレを一発お見舞いしてやんなさい・・・」

「・・・ありがとう、柊ちゃん」

 

かがみさんがいつからか常備するようになったツッコミ用兵器(ハ リ セ ン)を峰岸さんに渡す。

てか前にも思ったけど、怒った峰岸さんってメチャメチャ怖ぇ(汗)。

そして峰岸さんはハリセン(そ れ)を高々と振り上げて・・・。

 

スパァァ~ン!!

 

っと一気にみさおさんの脳天に振り下ろした!

いい感じに入ったらしく、効果は抜群だ!

 

「いって! な、なんだなんだ!?」

「ふう、スッキリした♪」

「・・・それは何よりだネ~」

 

そのやり取りに、こなたさんでさえ引いてる・・・。

ついでに言うとみさおさんは状況がつかめてないようだ・・・あたりまえっちゃあたりまえだが。

 

「さて。ねぇみさちゃん? 何か私に後ろ暗い夢を見てなかった・・・? 根も葉もない、無責任なカンジの・・・」←笑顔だが額に血管が浮いている

「えっえっ、あやの? て、何で怒ってんだ!?」←状況がつかめない

「と、とりあえず謝っておいたほうがよろしいかと・・・(汗)」

 

その後、チャイムがなるきっかり1分前にみさおさんが全面降伏し、彼女は峰岸さんにズルズルと引っぱられて教室を出て行った。

かがみさんも苦笑気味にその後を追う。

・・・みさおさん、南無。

 

 

 

「みさおさんもこの手のゲームやるんだ?」

「下手の横好きだけどな~。ほら、夏休みの時さ、まさきがチビッ子と勝負してて私にも出来るかな~と思ってさ。でも小遣い少くねぇからひとつ前のヤツしか買えなくて」

「だからパッケージも違うヤツなのね・・・にしても日下部、わざわざ買わなくても、まさきくんが持ってるの知ってるでしょうに」

「・・・ま、まぁとりあえず対戦しようぜ(汗)!」

 

現在の状況。

場所:日下部さんちのみさおさんの部屋。

部屋に居る人:俺、みさおさん、かがみさん。

あれから放課後になってもまだ峰岸さんは少々怒っているらしく、機嫌が悪いとかでみさおさんが『1人じゃ怖いから』と言い、俺とかがみさんを巻き込んでみさおさんの家に向かったのだ。

そして峰岸さんを宥めつつ・・・てか話してて思ったんだけど特に怒ってない様な気がするんだが・・・?

結局到着した日下部邸に、『せっかくだから寄ってけ』と言われて素直にお邪魔した所、タイミング良くみさおさんのお兄さんに遭遇。

峰岸さんはその場で硬直するも急に乙女モードのスイッチが入ったようでモジモジし始めた。

・・・こんな峰岸さん、見たこと無いぞ(汗)。

ちなみにみさおさんのお兄さん(相変わらず本名不明、以下みさお兄と呼称)は『みさおが男を連れてきた!』と叫ぶも、峰岸さんがみさお兄に耳打ちで上手く説明したようだが、複雑そうな顔をしていた。

・・・どんな説明をしたのかかなり気になるんだが。

それでも峰岸さんに会えたことが素直に嬉しかったようで、上機嫌な様子で家に上がらせてくれた。

他の家族は揃って外出中だそうだが・・・今更だがちっとは気にしてくれ(汗)。

ちなみに峰岸さんはみさお兄とそのまま出かけている(デートとも言う)。

で、先の会話に戻ると言う訳だ。

 

「という訳で勝負だまさき!」

「どういう訳だ。てかシステム面や操作方法に若干の違いがあるけど、まぁ何とかなるかな・・・?」

「何か違うの?」

「見てりゃ分かるよ」

 

3作目(メテオ)ではなく2作目(ネオ)だ。

少々めんどくさい操作が必要だが、難易度は低め。

経験者ならすぐに適応できるレベルとも言える。

そんな訳で。

1P:みさおさん(孫○空)

2P:俺(ウ○ブ)

場所:岩地

アニメであった師弟対決の組み合わせで始める。

ちなみにキャラのカスタマイズは一切無し。

 

「目標補足! いくぜ、まさき!」

「ターゲット確認、排除開始!」

「・・・へ?」

 

かがみさんが呆けたような声を出すがそれもそのはず。

2作目のヤツは、お互い相手を探す事から始まる。

大抵は目の前に相手がいることが多いが、場合によっては見失う事もあるから要注意。

 

「うぉりゃ~!」

 

真正面から突っ込んでくる・・・みさおさんらしい。

それを上手くガードして、俺はそのままラッシュを仕掛ける。

上手くタイミングを狂わせて真横から蹴り上げてさらに追撃、○空を叩き落したと同時に、○空のサーチが解除された。

その間に俺は後に回りこんで気を溜める。

 

「日下部、あんたの真後ろにいるじゃない!」

「ヴぁ? ヴぁ!?」

 

画面が2分割されるために少しでも冷静さを欠けばこの通りである。

視野が狭くなるため、ちょっとズレただけでこっちの居場所が気配を察知されるまでわからない。

3作目ではこの手間を省いているので、説明無しでかがみさんが2作目(これ)をやったら恐らくみさおさんに勝つのも難しいだろう。

で、かく乱しまくって翻弄した結果・・・。

 

『勝負あり!勝者2P、パーフェクトKO!!』

 

「ヴぁ~! あんなに練習したのに何で1発も攻撃があたらねぇんだよ~!!」

「や、雄たけびあげられても困るんだけど・・・」

「・・・日下部、アンタの気持ちはよ~く分かるわ」

「柊~、私の敵をとってくれ~・・・」

「ゴメン私じゃ無理」

「即答かよ!?」

 

その後・・・。

 

「柊、覚悟~!」←ヤケクソ気味

「くっ、基本操作は同じ、だけどサーチが解けたら厄介ね・・・」←操作方法を模索しながら向かえ討つ

「2人ともがんばれ~」←超棒読み

『・・・・・・』

 

「ちょ!? いくら何でもキャラ性能違いすぎるだろ!」←圧倒的な実力差に内心絶望中

「さすがにアニメ版最強形態+融合した主人公対フツーの地球人チャンピオンじゃあ、ねぇ・・・」←でも手は緩めない

「おめぇだったら勝てる、行け、まさき!」←セリフとは裏腹に腹を抱えて笑いをこらえてる

 

 

 

「か・・・勝った・・・」←疲労困憊

「う、うそ・・・」←絶句中

「あ、ありえね~・・・まさきってやっぱすげ~んだな~」←呆れを通り越して感心

 

てな感じで格闘ゲーム(ネ オ)を延々とプレイし続ける俺達だった。

 

 

 

その後、バイトの時間が近づいて来たのでキリのいい所で帰宅する旨を2人に伝えた。

かがみさんはみさおさんの他に峰岸さんにも用があるそうで、もうしばらく残ると言う。

俺は自宅に帰って軽く夕飯を食べてバイト先のコンビニへ向かった。

そしてコンビニに入って仕事を初めて約3時間後。

すっかり外が暗くなった時間帯にもかかわらず、俺以外に店内にいるのは・・・。

 

「受験生なのに大変ですね。」

「・・・そう言うやまとさんこそ何やってんの?」

 

会計を済ませて、ここ・・・というかレジの前にいる理由が無いはずのやまとさんだけだった。

入って来た時はさすがに驚いたが、アレからちょくちょく柊家に泊まってるらしいから来る事は別におかしくない・・・ていうか今日も泊りらしい。

が、買い物が済んだ後も立ち読みする事もなく、商品を見る事もなく、レジの・・・というか俺の傍に立っている。

 

「他にお客さんがいないみたいですから、暇かなって・・・」

「まぁ暇ではあるけど・・・」

「話し相手くらいにはなれますよ?」

 

微笑しながら言う彼女。

確かに客が来ないと暇だが、だからと言ってココを離れるわけにも行かないし、もう1人のバイト仲間は何故か事務所に引っ込んでいる。

暇なのにはとっくに慣れたつもりだったが、他の仕事も全部終わってしまい、後の仕事は客を待つだけで・・・。

それでも話し相手がいるならそれに越した事はない。

一応念のために言っとくが、別に1人で仕事をしてる訳じゃないぞ?

ついでに言うと時間的にもちょっと問題だ(現在8時)。

その後、何故か客が一向に来ないコンビニ店内でしばらくの間、やまとさんと雑談をして過ごした。

しかしやまとさんも初めて会ったときと比べると随分話しやすくなったもんだ。

話す内容によっては表情も・・・小さな変化だがコロコロ変わるようになったし。

 

ちなみに引っ込んでいたバイト仲間や次のシフトに入る人に仕事を引継ぐ時、あらぬ誤解を受けて散々からかわれたのは言うまでも無い。

また、防犯カメラにもしっかりその時の様子が映っていたために店長や他のバイト仲間からも追求されるのも別の話である。

 

 

 

やまとさんを柊家に送り届けてから俺は帰宅した。

さすがに時間が時間だし、すぐソコとはいえ女の子を1人歩きさせる訳にはいかないしね。

10月も半ばを過ぎて、そろそろ大学受験に向けて本格的に試験対策を練らねばなるまい。

しかしまだ1つ、大きなイベントが残っている。

陵桜学園3大行事の一つ、文化祭。

『桜籐祭』と名付けられているらしく、訪れるのは生徒の父兄や卒業生のみならず、一般客もくれば特別ゲストに人気アイドルも招待するとか。

俺達3年生にとっての最後の学校行事。

みんなで最高の思い出をつくれれば。

思えばあの時、本当に『フラグ』が立っていたのかも知れない。

だからと言う訳じゃないけど。

もうそろそろ自分の気持ちにしっかりとケリをつけないと・・・ね。

 

 

 

つづく・・・



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第五十九話 迫る陵桜学園桜籐祭!

「では、占い師役に選ばれた人たちはどんな占いをやるかを考えて置いてください。それが決まったら僕を通じて大道具小道具係のみんなと必要な道具などを決めていきたいと思います」

 

壇上で仕切ってるのは白石さんちのみのる君。

実は彼は文化祭の実行委員長だったりする。

ちなみに各クラスから実行委員を選出しているのだが、彼はなし崩し的に実行委員長まで押し付けられたとか。

そのわりには本人も結構楽しんでやってるようだし、結果オーライ・・・なんだろうか?

と、視界にみゆきさんが入る。

少々落ち込んでるように見える原因は、多分黒板に書かれてるアレのせいだろう・・・。

 

迷路(クイズ付き):3人

喫茶店:4人

占いの館:21人 ←こなたさんの発案

ハミガキ体操:5人

桐箪笥の歴史と作り方:1人 ←みゆきさんの発案

お化け屋敷:6人

 

みゆきさんの提案が誰も支持されなかったという悲しいお話・・・(汗)。

 

「はうぅ・・・(涙)」

「がんばったよみゆきさん、あなたはがんばった・・・」

 

こなたさんにまで同情されているみゆきさん、哀れなり・・・。

てかハミガキ体操って何だよ(汗)。

 

 

 

「それは・・・災難だったわね、みゆき・・・」

「でも、決まってしまったものはしょうがありません・・・」

 

その日の帰り道、今日のホームルームでの一幕をかがみさん達(おとなりさん)に話したところ、3人揃って苦笑している。

ちなみにこなたさんとつかささんは占い役、俺は必要な事が決まってから動く道具係である。

 

「そういうC組は何をやるのか決まったの?」

「私たちはお化け屋敷なのよ」

「お姉ちゃん達のクラスは文化祭の定番だね♪」

「他にいいアイデアが出なくてさ~」

 

文化祭と言ったらお食事所や喫茶店、お化け屋敷あたりがある意味一番人気を競う所だろう。

・・・別にみゆきさんの案を否定してるわけじゃないぞ、念のため。

 

「定番って言えばさ、文化祭の時にやるのって喫茶店とか食いもん屋が多いのは何でだろ?」

「・・・そういやそうだよな~。喫茶店とが先に思いつくのは何でだ?」

 

こなたさんやみさおさんの疑問ももっともだろう。

文化祭とは本来、生徒の日頃の成果等の発表する学校行事だ。

しかし、実際そういう事よりも普段学校で出来ない張っちゃけぶりを発揮して楽しむ傾向が強い。

ウチのクラスの H R (ホームルーム)で決まった『占いの館』が多かったのもそれにあたるのだろう。

もっとも、みゆきさんのように真面目にやろうとする人もいるけど、さっきのHRを見て分かる通り、やはりそういうのはあまり支持されないようである。

 

「・・・さしずめ、『食文化』と言ったところでしょうか・・・?」

『ソレダ!』

「え・・・(汗)」

 

みゆきさんは冗談のつもりで言ったのだろうが、あいにく真っ先に答えたのははこなたさんとみさおさんだった。

この2人が真面目に答えるのはちょっと考えづらい。

 

「やれやれ・・・ところでまさきくん達って占いなんて出来るの?」

「俺は裏方。ぶっちゃけ大道具小道具なんでも来いってとこ。人手が足りない部分を必要に応じて助けて回る感じだから占いはやらないよ。てか占いなんて知らんし」

「わたしもさっぱり~♪」

「おいおい・・・まさきくんは良いとしても・・・」←呆れ顔

「どんだけ~・・・」←苦笑気味

「チビッ子が発案者なんだろ? それで大丈夫なのか・・・?」

「文化祭でやる占いなんてそんなもんだよかがみん、みさきち♪」

「泉ちゃん、さすがにソレはどうかと思うけど・・・」

 

占いの種類ややり方を調べようとか、そういう事をまったく考えてないなこのチビッ娘・・・。

てか占いのやり方を知らないのに提案するってどうよ?

 

 

 

数日後。

 

 

 

「オープニングセレモニー? こなたさんが?」

「私だけじゃないよ~。正確にはパティの発案で私とゆーちゃん、みなみちゃんにひよりんは決定済み!・・・と言っても人数がまだ5人だけでね。もうちょっと欲しいな~・・・」

 

登校中、こなたさんが唐突に『高校生活最後の思い出作りをしよう』と言い出した。

発案者のパティさんが『ミンナでオモいデツクりをカネて、チアダンスをやりまショウ!』と言って周囲を巻き込んでいるそうだ。

そして協力する事になったのは良いが、人の集まりが悪いとか。

 

「というわけで、かがみもつかさもやってみない?」

「て、話が唐突すぎるわよ!」

「思い出か~・・・私はやってみようかな?」

「そうなるとますます忙しくなるんじゃないか?」

 

ただでさえクラスの出し物の準備に最近忙しくなりつつある。

準備片手にダンスの練習・・・相当ハードだと思うんですけど(汗)。

 

「私はやらないわよ。ただでさえ忙しいんだから!」

「え~、お姉ちゃんもやろうよ~」

 

そうは言っても中々かがみさんは譲らないだろう。

最近はクラスの出し物関連で学校の閉門時間ギリギリまで出し物のミーティングやらで時間を費やしてるらしく、登校は一緒だが下校の時は殆ど一緒には帰れない状態だし。

 

「ゆーちゃんもさ、体が弱くて今まで何も出来なかった分、自分も皆と一緒に最後まで出来る何かをがんばりたいって言っててさ。私は一応止めたんだけど・・・」

「そっか・・・」

 

ゆたかさんはこっちに来る前は休みがちだった反動か、最近はランニング効果でも出てきたのか、結構活発に動き回るようになってるみたいだ。

友人にも恵まれてるし、そういった意味では彼女が陵桜学園に来たのは正解だったのかもしれない。

 

「・・・・・・」

「でもやっぱ無理強いしてまでやっても楽しくないもんね・・・ごめんねかがみ、他を当たることにするよ」

 

お、珍しいなこなたさんの方から引くとは。

 

「分かったわよ・・・」

「へ?」

「分かったわよ、私もやるって言ったの!」

「おお~、かがみんよ~!」

「お姉ちゃん、一緒にがんばろ~♪」

「・・・いいの?」

「しょうがないじゃない、人手が足りないみたいだし・・・私だって皆との思い出は欲しいし・・・」

 

最後の方は段々声が小さくなったがとりあえず『嫌々』とか、口で言ってても『しょうがない』って思ってる訳じゃないなありゃ。

相変わらず素直じゃない・・・ああ、こなたさん的に言う『ツンデレ』ってとこか。

いや、これは『押してダメなら引いてみよう』って感じにこなたさんがやり方を変えたのか?

 

「一応聞いとくけどまさきもどうだい?」

「・・・俺にもソレをやれと、そう言いたいのか! こなたさんは!」

「大丈夫大丈夫、まさきは女装が似合うし♪」

「しねぇよ! 絶対に却下!」

 

なんでやねんって感じでこなたさんにはツッコミを入れておく。

それを聞いていた柊姉妹は『ナニか』を想像したらしくつかささんは苦笑、かがみさんにいたっては口と腹を抑えて笑いを堪えていたりする。

こいつらは・・・(汗)。

 

 

 

「で、みゆきさんもやるハメになったと」

「その、別に嫌と言うわけではありませんので。それに私も皆さんといい思い出を作れればいいなって考えてましたから」

 

こなたさんは教室についてから即、みゆきさんの勧誘を実行。

みゆきさんは少し考え込むも意外とあっさり承諾した。

 

「まさきさんはどうするんですか?」

「何が・・・?」

「いえ、まさきさんもやるんですかって」

 

え~っと・・・天然、だよね?

本気じゃないよね?

こなたさんみたいにわざと言ってるんじゃないよね!?

嘘だと言ってよ、みゆきさん!!

 

「あ、あの、冗談です! 冗談ですから真顔でそんなに近づかれるのは・・・!」←真っ赤

「・・・はっ!?」←我に返った

「まさき~? 朝っぱらから教室のド真ん中で女の子に迫るのは・・・」

「違うっての!」

 

今日も今日とて騒がしい朝のひと時であった。

 

 

 

それからしばらくの時が過ぎて。

現在進行形で本格的に文化祭改め桜籐祭の準備が始まっている。

レイアウトも決まったのでここからが俺達道具係の仕事だ。

占いで使うスペースは窓側メインに教室の約半分。

1度に5人の占い師役のクラスメイトがそれぞれ1スペース使う。

教室の中にそのための仕切りを作り、それぞれの入り口も作って外からは可能な限り見えないよう、入り口には扉も作る。

雰囲気作りのために暗幕を教室の中に張り巡らせて、厚紙に金色の折り紙を切り合せた大小の星や月を貼り付ける。

ついでにソレっぽい音楽を静かに流す事も検討中。

時間ごとに占い担当の生徒が変わり、なお且つ占いのやり方も変わるためにそれぞれ1人ずつどんな占いをするのか聞いて回り、それっぽい立て看板とあわせて、教室の入り口と出口の看板も作らなければならない。

そしてやっぱり言うのとやるのとじゃ大違い。

たったコレだけの作業と思うかもしれないが、結構な手間と時間がかかってる。

てか授業もあわせてやってるからいきなり大きな物は作れない。

・・・いっそ授業なくしちまわね?

まぁ、リハーサル前日は丸1日準備期間にするらしいから何とかなりそうだけど。

そんな事を考えつつ、俺はここ最近続けている事(既に日課になりつつある)の準備を始める。

 

「お、赤井。もうそんな時間か?」

「あ、うん。そんな訳で少し抜けるよ~」

「赤井くん、高良委員長達にお菓子(コ レ)も持って行ってあげて?」

「いい加減誰かに絞らないとだめよ~?」

「委員長達も大変だよな~。桜籐祭のオープニングセレモニーを引き受けるなんて、僕だったらまず無理!」

「・・・私だったら練習で出来ても本番では緊張して心臓が破裂するかも」

 

とまぁそんな訳で、オープニングセレモニーの練習をしているこなたさん達に飲み物(2ℓ入りの清涼飲料水と紙コップ)と今日はお菓子のオマケ付きで差し入れをしている・・・何か関係ない言葉が混じってたような気がするがそこはスルー。

がんばってる皆に今の俺が出来る事と言ったら、精一杯応援する事ぐらいしかない。

今頃猛練習をしているはずだ。

ダンスの振り付けがお披露目になったのはつい先日。

今日の段階で練習時間は既に残り1週間を切っている。

最終的に集まった人数は11人。

こなたさん、つかささん、かがみさん、みゆきさん、みさおさん、峰岸さん、こうさん、ゆたかさん、みなみさん、ひよりさん、そして発案者のパティさん。

・・・全員知り合いなのは意図的なのだろうか?

オマケに何やら企んでいるようで、『当日はハプニングがあるかもよ~?』なんてこなたさんが含み笑いをしながら言ってたけど・・・そんな事を仕込んでる余裕あるのか?

とりあえず目的地(視聴覚室)に到着、ノックをして中に入る。

 

「うぃ~っす。WAWAWAわs・・・じゃなくて、練習はかどってる~?」

「あ、たにg・・・じゃなくてまさき先輩! いつも差し入れありがとうございます♪」

「こうさ~ん。俺、名目上応援しに来てるんだけど・・・?」

 

とりあえずネタでなごませつつ(効果があるかは不明だが)、そうぼやきながらクラスメイトからの差し入れもあるということで、休憩タイムに入った。

大抵俺が決まった時間に差し入れを持ってくるので皆もそれに合わせて練習してるようである。

 

「調子はどう?」

「まだ通しでは上手くいかなくて・・・」

「はいゆーちゃん、そこで悲観的にならないの!」

「・・・必ず出来る。全員が一丸になってがんばってるんだから」

「うん・・・うん、そうだよね♪」

「通しはまだまだだけど個人ならいい感じなんだよな♪」

「後はひたすら練習あるのみっス!」

 

おお、気合は十分だ。

それほど悲観的な顔はしてないし、この様子なら大丈夫そうだ。

何せ振り付けを初めて見た時なんか・・・。

 

 

 

『コレがフリツケになりマ~ス♪』←携帯動画を公開中

『ちょ、ちょっと待ってよ。これ、今からやるつもり?』

『・・・ダメですカ?』

『ダメと言うよりは・・・』

『・・・かなり厳しいんじゃないかな?』

『考えてもしょうがない。俺が口出しするのも何だけど、時間も無いんだし、どうしてもダメな部分は簡略化してやるしかないでしょこれ・・・』

『そだね~。それにしてもパティ・・・どんだけ~・・・』

『ウグ・・・シ、シカ~シ! ソレをノりコえたトキにはオオいなるカンドウがミンナをツツミコむのデス!』

『あんたが言うな!』

 

 

 

てな感じで、尺は短いけどかなり難易度が高そうなもので先行き不安そうな顔していたけど。

今は全員、肩で息をしているが皆そろって笑顔だ。

ちなみにオープニングセレモニーで何をやるかは当日まで当事者達と俺、一部の実行委員、そして教師陣以外は秘密と言う事になっている。

 

「どうにか形にはなってきましたね♪」

「まだ完成したわけじゃないんだし、さっきひよりさんが言った通りに繰り返し練習すればいいんじゃないかな?」

「そうね。後は集中力がモノを言うんだから気合入れなきゃ!・・・コレで失敗しちゃったら、応援してくれてるまさきくんに申し訳ないし・・・」

「ん? かがみさん、最後なんか言った?」

「な、何でもないわよ!」

「ひいらぎ~・・・」←ニヤニヤ

「かがみ~ん・・・」←(=ω=.)ニヤニヤ

「な、何だよ、あんたらもいちいちこっち見んな!」←なんだか顔が赤い

 

かがみさんってわりと自爆する性格だよな~、なんて思いつつ。

いつものやり取りが出来るくらいの余裕もある見たいだ。

やる時はやるオタクな娘、怒りっぽいけど妹想いな優しい娘、ちょっとドジだけどがんばりやな娘、頭脳明晰だけど天然っぽい娘、とにかく元気100%な娘・・・そしてそんな彼女達を後輩達が支えあいながら、1つの目標に向かって、力を合わせてがんばっている。

ここにもう1人、クールで少し照れ屋なあの娘がいたら、とふいに思うがさすがにそれは無理な相談だ。

当日は見に来るって言ってたから、その時に皆で思いっきり楽しんで一緒に思い出を作ればいい。

そんな事を考えながら俺は目の前の・・・かがみさんがやたら怒ってるけどどこか楽しげなやり取りをを眺めていた。

桜籐祭まであと少し・・・。

 

 

 

つづく・・・



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第六十話 もってけ! セーラーふく

「や~、今日もおつかれ~」

「あ、まーくんもお疲れ様♪」

「すいません、クラスのほうのお手伝いもままならなくて・・・」

「いいのいいの。みゆきさん達にはしっかり(まつり)を盛り上げてもらわなきゃ♪」

 

桜籐祭までの時間が迫ってきて準備に追われる今日この頃。

てか明日はもうリハーサルだ。

こなたさん達はどんな占いをやるのかは既に確認済みなので後はそれっぽい衣装を各自用意するだけなのでダンスの練習に専念している。

練習を終えたこなたさん達とばったり出くわして互いの近況報告をしている所だ。

 

「衣装も届いたし、全体練習の繰り返しで撤退的に煮詰めてるところだよ~。まさきの度肝を抜いちゃる!」

「まさきくんの度肝を抜いてどうすんのよまったく・・・」

 

差し入れの時に多少様子を見ているが、どのくらいのレベルに達しているのかまでは分からない。

ちなみに衣装をチョイスしたのはひよりさんのお兄さんだとか。

どんな衣装かは『当日のお楽しみだよ~♪』とこなたさんがのたまって見せてくれないため、どんな衣装かは分からない。

・・・別に気になってるわけじゃないぞ?

でも男がチアの衣装を選択してる時点でどうかと思うんだが(汗)。

ちなみに後輩組はまだ仕事が残ってるらしく居残り中。

本番前に体調崩さなきゃ良いけど。

 

「明日は最後の通し練習だからな。気合入れていこーぜ!」

「みさちゃん、たまには肩の力を抜かないと・・・」

 

ごもっとも。

ある意味巻き込まれる形で参加したみさおさんと峰岸さんだが、何だかんだで楽しんでやっている。

本番まであと2日。

クラスでの出し物の準備は明日1日で終わらせられるくらいの余裕はある。

裏方として出来る事はちゃんとやっておかないとね。

 

 

 

<翌日:リハーサル>

 

 

 

「いや~、お互いクラスの未完成具合がいい感じだね~♪」

『やかましいわ!』

 

スパ~ン!

スパ~ン!

 

「ふおぉぉっ!?」

 

桜籐祭前日。

今日いっぱい準備に追われるため、教室内の飾り付けや立て看板の仕上げなど残ってる仕事を片っ端から片付けている所にこなたさんのこの一言である。

俺とかがみさんはもはや慣れきったように今日もハリセンでこなたさんにツッコミを入れた。

 

「まったく。そういうあんたもなんでそんな格好でうろついてんのよ?」

「そういうかがみさんのそのカッコは・・・?」

「・・・今衣装あわせしてたのよ」

 

こなたさんの格好は某高校の制服に全身を覆う黒マント、それと黒い三角帽子。

典型的なファンタジーに出てくる魔法使いのようなカッコだ・・・マントの下は学生服だが。

明らかに長○有○の格好のような気がするがそこはスルー。

ついでに言うとかがみさんは白装束、白髪のかつらにバンダナ巻いて作り物のロウソクをつけて、ご丁寧に藁人形もぶら下げている。

・・・どういう脅かし方をするんだろう?

 

「私はまず、形から入って見たのだよ。宣伝にもなるしね♪」

「こなちゃんの衣装、かわいいよね♪」

「ちなみにこなたさんはどんな占いをするの?」

 

特に占いをするような道具は・・・このカッコからして杖でも出すか?

でも内容までは解からないが。

そう考えてると、こなたさんはおもむろに杖・・・ではなく先っぽに星のついた短いステッキを取り出す。

 

「・・・あなたはこれから4分19秒後に飲み物を買って4分57秒後につまずいて中身を見知らぬ男性にかけてしまい、直後に謝罪をしてその後、1週間以内にその縁でその方と付き合うことになるでしょう。」←超早口

「それは占いではなく、予言では・・・?」←苦笑

「っていうか、あまりにも占いとはかけ離れてるんじゃない・・・?」←呆れ声

 

すっかりなりきってる様だが、俺もあいにくみゆきさんと同意見である。

そういやみゆきさんはタロット占いをするとか言ってたけど・・・。

 

「つかささんは何の占いだっけ?」

「私? 私はね、ゆきちゃんに勧められて『形を見る占い』なんだけど・・・」

「へ~、つかさ、どんなの?」

「え、えっと・・・」

 

何か答え難そうなつかささん。

・・・もしかして上手くいってないのかな?

 

「・・・こないだウチで実演した時はせんべいを2つに割って、その場で即興で考えた答えを披露してくれたのよね~♪」←からかうように

「お、お姉ちゃ~ん・・・」←涙目

「ふふふ、大丈夫よつかさ。こなたみたいに結構適当にやってるヤツもいるみたいだから♪」

「・・・まさき~。かがみんがいじめる~!」

「あきらかに嘘泣きだって分かるからやめい」

 

そんな感じで盛り上がっていると不意に後輩の声が聞こえてきた。

 

「おお~、先輩達も気合入ってますね~」

「コナタもカガミもサイショっからクライマックスデスネ♪」

 

ひよりさんとパティさんの登場。

そして後ろには・・・見なかった振りをした方が良いのだろうか、アレは?

 

「あのさ、後方に控えてるゆたかさんとみなみさんのあのカッコは・・・(汗)」

「ふっふっふ。ギリギリになりましたけど、ようやく完成したっス!」

「ドウゾ~!!」

 

そして2人が指し示した場所には、材料はともかくとして、見た目きらびやかに着飾ったゆたかさんと、彼女と腕を組む形でみなみさんが立っていた。

みなみさんは白い紳士風の衣装、そしてゆたかさんは真紅のドレスを身に纏っている。

 

「おお~!」

「2人ともかわいい♪」

「とってもよくお似合いですよ♪」

 

・・・てか気合入りすぎだろコレ。学園祭でやるレベルじゃねぇ(汗)。

 

「そういえば聞いてなかったけど、田村さん達のクラスがやるのって・・・?」

「ヅカ喫茶っス♪」

「あ~、かがみにも分かりやすく説明すると、『ヅカ』のようなショーを簡単に楽しめる喫茶店らしいよ~」

 

こなたさん、解説ありがとう。

それでみなみさんが男役、ゆたかさんが娘役と言った所か・・・みなみさん、本意じゃないんだろうなぁ。

本人達も『いつのまにそんな事に・・・』とか『チアもだけど、こっちも大丈夫かな・・・?』とか冷や汗混じりにぼやいていたとかなんとか。

・・・この辺はひよりさん辺りがまた妄想を暴走させてパティさんもそれに同調したのかもしれない。

 

「この衣装で・・・歩き回るのは・・・」←真っ赤

「何だか凄く恥ずかしいな・・・」←同じく

「そりゃそうだろうね。それは宣伝?」

 

宣伝効果は抜群だろうがこの2人にとってはある意味針のむしろなのではなかろ~か・・・。

格好が格好だから視線が2人に集中されるのは容易に想像できる。

 

「ユタカとミナミはワがクラスのエースなのデス。」

「ちなみにゆーちゃんとみなみちゃんはトップを勤めるっスよ。艶やかなドレスの娘や凛々しい男装の娘をウェイトレスとして指名できる・・・ああ、めくるめく美の世界・・・」

「お~い、戻ってこ~い」

「・・・ハ!?」

 

とりあえず帰還できたようで何より。

そしてひよりさんは気を取り直したところで特別ゲストとして招いたアイドルのステージ(リハーサルだが)が始まると言うので俺も行ってみる事にする。

何でも14歳のスーパーアイドル、とかで人気を集めているそうだ。

ちなみに他の皆は準備や衣装あわせのために一旦それぞれのクラスに戻っていった。

 

 

 

『おっはらっき~! みんな、今日はあきらのために集まってくれてありがとう♪』

 

集まったといっても今日はリハーサルだぞ~、と心の中でツッコンでおく。

ちなみに体育館でやる演目の総合司会は白石くんが担当している。

でもなんか・・・ネコかぶってそうな印象だな、あの娘。

こなたさんにひよりさん、パティさんと4人で行くも席は半分も埋まっていない。

もっとも、リハーサルだから明日を純粋に楽しもうとしてるのか興味が無いのか・・・おれはどっちでm『ゴルゥアテメェ!ちゃんと歌わせろや!』な、何だ!?

 

『だから今日はリハーサルだって言ったでしょ! 時間もないんですよ!?』

『んなこと知ったこっちゃ無いわよ!』

『あ~あ~、難しい日本語分からないね~!』

 

「・・・なんで白石くんって普通にアイドルと口喧嘩してるんだ?」

「そういやあきらちゃんのラジオパーソナリティの声に似ているような似てないような・・・」

「泉先ぱ~い、その辺にした方がよろしいかと・・・」

 

とりあえず触れないようにした方がよさそうである。

それにしてもやっぱりあの娘、ネコかぶってるのね・・・他のアイドルもそうなんだろうかと思いつつ、俺達は体育館を後にする。

片付けないといけない仕事はまだ残ってるのだ。

 

 

 

時間はもうすぐ6時を回る頃。

クラス内での準備はもうまもなく終わる。

こなたさん達の練習もそろそろ仕上げに入るはず。

ちなみに今日は何故かこうさんに『いつも先輩から差し入れとか貰ってるのに悪いんですけど・・・今日の練習、体育館で通しの練習するんですけど、終わるまで体育館に来るのを遠慮して欲しいんです』なんて言われている。

その時のこうさんの申し訳無さそうな顔も珍しいし、彼女がそんな顔をしながらそんな事を言うのはかなりの事情があるのだろう。

俺は少し考えたが無難にそれを承諾した。

その時、ついでに今日の分の差し入れをこうさんを通して届けてもらっている。

気になる事と言えばその後、こうさんが茶色い髪をポニーテールにした同級生らしき女子と一緒に体育館に入って行くのが遠目で見えた事くらいか。

 

「あれ、赤井。今日はまだ行かないのか?」

「ああ、何か訳有りみたいでね。先生以外は完全シャットアウトだって」

「え? それって赤井くんも締め出されちゃったの?」

「ま、事を荒立てる必要も無いでしょ」

 

今頃、明日の本番に向けてラストスパートをかけているはずだ。

一丸となってがんばってる皆に出来る事は今の俺には無い。

ただ、成功をする事を・・・いや、皆でいい思い出に出来るように祈るのみ。

・・・俺、無宗教なんだがなぁ。

そんな事を思いつつたまたま見かけた白石くんに話を振ってみる。

 

「そういや白石くんさ、あの小神あきらの関係者?」

「あまりツッコまないで欲しかったんだけどやっぱ無理か・・・バイトでラジオ番組のアシスタントやってるんだけどさ・・・」

 

この後の会話は皆さんの想像にお任せします。

下手すりゃファンが一気に減りかねん(汗)。

それともう1つ、白石くんに無茶をお願いした。

少し渋っていたが何とか了承してもらえたから後はタイミングかな?

 

 

 

時計が7時を回った頃にこなたさん、つかささん、みゆきさんが荷物を取りに教室に戻って来た。

ちなみに教室の鍵は俺が持っている上、準備も万端。

他のクラスメートは既に下校済みだがまだ作業してるクラスもある。

 

「お、お疲れさん。首尾はどうだい?」

 

俺の問いに3人は互いに笑顔になる。

この反応なら明日は大丈夫だろう。

 

「答えは明日って事で♪」

「でも何だか不思議な感じがするな~」

 

教室を出ながらそんな会話を交わしつつ、かがみさんたちと合流した。

 

「私もちょっと寂しい気分です。お祭りは、準備してるときが一番楽しいって言いますしね・・・」

「そっか、明日が本番なんだよな~」

「って何だよ今更」

 

俺がそうみさおさんにツッコムと皆がクスクスと笑う。

何となく実感が湧かないと言うのも、みゆきさんが言う事も分かる気がする。

 

「明日からはもうこんな形で・・・夜まで残る事も、もうないんだもんね」

「・・・そう思うと、確かにみゆきの言う通り、寂しい感じがするわね」

「祭を楽しむための準備、なんだけどな~・・・」

 

少ししんみりとした雰囲気になる。

明日が終われば後は勉強に打ち込むことになるだろう。

でも今は・・・。

 

「明日は皆で、思いっきり楽しもう!」

『お~!』

 

高校生活、最後にして最高の思い出を作るために・・・。

 

 

 

<桜籐祭当日:体育館>

 

 

 

体育館は生徒や生徒の関係者等、後ろのほうでは立ち見しているほどの超満員。

コレで緊張しないヤツなんてそういないだろう。

・・・あ、後ろのほうで立派なカメラやビデオ構えてるの、絶対そうじろうさんだなあれ。

舞台の幕の向こうではこなたさん達が待機している。

朝からこなたさんも含めて少し緊張気味にしていたし、下手したら・・・。

だから俺は、俺に出来る最後のサポートをする事を決めている。

上手くいけば一気に緊張を和らげる事が出来るはずだ。

約1名、恥をかいてもらうことになるが本人は『何を今更』なんて言ってくる辺り、案外大物なのかもしれない。

そしてその時間が遂にやってきた。

 

『それではこれより、陵桜学園桜籐祭を開催いたします。まず最初の発表は、留学生のパトリシア=マーティンさんの発案によるオープニングセレモニーです。上級生も下級生もなく、仲の良いメンバーで行います。チアリーディングです!』

 

ちなみにウチの学校には応援団はあるがチアリーディング部は無い。

会場の、それも男子生徒からはどよめきが走る。

・・・実にわかりやすい反応だなお前ら(苦笑)。

しかし白石くんよ・・・あんたホントに大物だよ。

こんな大観衆の中、司会とはいえよくそんなに流暢に喋れるな?

だけどタイミング的にはそろそろ・・・ん、良し。

 

『それでは、さっそく始めてもらいm『♪み、み、み○くる☆み○ルンルン み、み、み○くる☆み○ルンルン♪』あ、すいません、携帯電話はって俺のじゃん!? うわヤバヤバ!』

 

・・・・・・

 

一瞬の静寂の後、会場から沸き起こる大爆笑。

ちなみにこれは俺が白石くんにお願いした無茶・・・会場でアクシデントを起こし、皆の緊張を少しでも和らげる事。

総合司会と言う都合上、彼はある意味もっとも注目される立場にある。

それを利用して大音量で携帯電話の着信を鳴らしたのだから・・・しかも着うたでアレである。

ある意味彼には個人的にMVPを送りたい。

ちなみに俺の席は幸いな事に最前列。

幕の後ろからもほんのわずかだけど、笑い声が漏れ聞こえていた。

後は、彼女達次第だ。

 

『はいすいません! さあ、それでは気を取り直していってみましょう! 『もってけ!セーラーふく』!」

 

そして大喝采の中、ステージの幕が上がる。

幕が上がりきった所で体育館の明かりが消えて、ステージのみが照らされて音楽が流れ始めた。

ワンピースタイプ、とでも言うんだろうか?

下から大部分を紫色。

そこから緑色のライン、そして白になって中央には星のマーク。

そして前列に4人、後列に・・・あれ?

何か違和感が・・・って、ええええええええええええ!?

舞台の上を見た俺は大声を出さなかった自分を褒めてやりたい。

もっとも、回りが盛り上がっているから気にならないだろうけど・・・なんで・・・なんで!

何で舞台の上に、やまとさんがいるんだよ!?

他校生なのに・・・いや思い出にするにはかなりのインパクトがあるけどさ!

俺が顎を外しそうなくらい大きな口を開けてるうちに、舞台の上では少女達の魅力を最大限に引き出すような、華麗なダンスを披露していた。

精一杯体を動かし、黄色いポンポンを流れるように動かして。

そして皆の満開の花を咲かせるような笑顔。

最後に皆がポーズを横一列に決めてチアリーディングが終わる。

このたった数分のために、一生懸命がんばった結果がこの割れんばかりの拍手喝采だろう。

その後、自由に行動が出来るようになった頃にはどうにか冷静になれた。

やまとさんの登場にはメチャクチャ驚いたけど、見事なダンスだったと思う。

そして俺は大役を終えた『彼女達』を探し始めた・・・。

 

 

 

エピローグへ・・・



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エピローグ それからの日々

<陵桜学園:屋上>

 

 

 

チアダンスを見事に成功させたみんなに労いの言葉と、何故にやまとさんが混ざっていたのかを聞くためにこなたさん達を探し始めてから数分後。

こなたさんからメールが送られてきた。

 

『みんなで屋上に集まるから先行ってて~。答えは聞いていない!』

 

・・・なんじゃこりゃ?

探す手間が省けたから良いけど、何だか妙に必死と言うか何と言うか・・・。

そんな事を考えながら階段を上っていく。

ちなみに屋上はフェンスが高いうえに点検も行き届いてるらしく、特に出入り禁止と言うワケではない。

そして俺は屋上の扉を開いた。

こなたさん達は着替えやら疲労やら色々とあるんだろう。

まだ誰も来ていない・・・てか完全に無人だった。

まぁ、こんな日にここで何か催し物をするはずも無く、それを分かっててわざわざ来る物好きはそういないだろうけど。

しかしみんなで集まる場所が何故に屋上(ここ)なんだろ?

思い当たる節は・・・一応、あるにはある。

そんな事をぼんやり考えながらグラウンドを見下ろす。

グラウンドの一部では部活動の体験や屋台などを出しているが、基本的には一般開放になっており、小さい子供たちが元気に走り回っている。

それから約10分後。

屋上に来たのはチアをやったメンバーの半分・・・こなたさん、かがみさん、つかささん、みゆきさん、みさおさん、そしてやまとさんだった。

 

「お、みんなお疲れ様・・・って他のみんなは?」

「みんなそれぞれのクラスに戻って活動中よ」

 

・・・やまとさんはともかく、こなたさん達は時間的に大丈夫だったっけ?

それと丁度疑問を持ってた本人が来たので聞いておく事にする。

 

「ねぇやまとさん、どうして陵桜(ウチ)の制服着てるの・・・?」

「あ、えっと実は私も皆さんがメンバーに入れてくれて。他校生だから無理なんじゃないかって言ったんですけど・・・」

「そこでこうちゃんには生徒会長、黒井先生には私達でお願いしたのだよ」

「ていうか黒井先生があんなにあっさり許可するとは思ってなかったけどな~」

「制服はこうちゃんが予備の制服を貸してくれたんだよ♪」

 

生徒の数が数だ。

放課後の時に紛れ込んだら簡単にはばれないだろう。

ちなみに練習は個人練習はともかく、合わせての練習は柊家や日下部家などで行い、前日に俺を締め出したのは通し練習をやまとさんも含めて一緒にやっていたからだとか。

当日に俺を驚かすため、と言うのもあったらしい。

確かに驚いたけどね・・・。

てか生徒会長もよく許可したなオイ。

 

「とりあえず、俺をここに呼び出した理由・・・聞いて良い?」

 

成功を祝うならこんな所ではなく、他の場所の方が良いだろう。

にも拘らず俺をここに呼び出したのは、多分他人(ひと)に聞かれたくない事があるのではないかと予想は出来る。

 

「・・・私達さ、初めて会った時からそれなりに経つよね。」

「最初はこなたさんに、使い古した昔の恋愛漫画のネタみたいな出会いをしたっけ」

「その日の放課後に、泉さんからの紹介で私やつかささんと自己紹介をして・・・」

「ウチのクラスのホームルームが終わった後に、つかさ達と一緒に帰るつもりで教室をのぞいたら男子(まさきくん)と一緒にいるんだもの。内心、かなりビックリしたわよ」

「その後は一緒に帰って、実はご近所さんって事が分かったんだよね?」

 

そこから俺の日常が、約1ヶ月・・・いや、半月か?

とにかく、足早に変わっていったのを覚えている。

 

「私は直接面識を持ったのは修学旅行の時だったよな?」

「・・・その後何故か枕投げで因縁つけられたような気がするけど(苦笑)」

「その後になるんですよね・・・こうに連れ出された私と、先輩達に出会ったのは」

「学校違うのに何故か会う機会が・・・大体がこうさん絡みだったような気がするけどね」

「そう、ですね・・・」←ちょっと苦笑気味

 

2年生になってから俺の日常が変わり、いつの間にか女性陣と一緒にいても違和感も何もかも無くなっていった。

そして彼女達に対する想いが少しずつ変わっていったのもある意味では当然かもしれない。

その変化が、この中にいる『誰か1人』だけだったら、とも思う。

だけどこの世に『if』は無い。

現実を受け入れてしっかりと答えを出さなければいけない。

 

「実際の所、バレンタイン前後から・・・ひょっとしたらもっと前から、私達は殆ど同じ感情を持っていたのよね」

「それも、ものの見事に全員の意見が一致して」

「うん・・・その事に関しては痛いくらいよく伝わった」

「・・・まーくんに、ちゃんと伝わってたんだね」

「まさきが鈍いわけじゃなかったんだな・・・」

 

()()()に関しては気付いてはいた・・・気付いてたからこそずっと考えていた。

けどまだ答えが見えてこないまま、現在(いま)を迎えてしまった。

きっと俺に愛想を尽かすか、失望するだろう。

覚悟を決めた上で、俺はみんなに話そうと口を開く。

 

「俺は「ストップ!」・・・へ?」

 

思っていることを素直に言おうとしたらこなたさんに止められてしまった。

 

「そんな暗い顔で言われても気まずくなるだけだよ」

「そういう訳で、私達の方から言わせてもらいますね?」

 

・・・ゑ?

理由はどうあれ、こういうのは普通、男から言うもんじゃ・・・それも偏見なのかね・・・じゃなくて!

 

「まさき」

「まさきくん」

「まーくん」

「まさきさん」

「まさき」

「まさき先輩」

 

みんなが俺の名前を呼ぶ。

そしてその後に紡ぎだされる言葉も、俺は多分知っている。

 

『私達は、あなたの事が大好きです!』

 

1言1句、完全に重なったみんなの言葉が俺に向けて伝えられた。

複数の女子から告白されるという、普通に考えたら絶対にありえない様な体験。

恋愛に対して多少の知識はあっても、この状況はまったく予想していなかった。

そして改めてそう言われることで、俺の頬が自然と熱くなって来た。

 

「ちなみにまさきの事だから何を言えば良いのか分からないんでしょ~?」←(=ω=)ニヤニヤするも少し赤い

「は、初めて告白されて、それが女の子6人から一斉になんて状況、普通は考え無いでしょ!?」←顔面真っ赤で狼狽中

「そうかもしれないけどさ、これからは色々と覚悟してた方が良いんじゃない?」←顔が少し赤い

「・・・一応聞いておくけど、何の覚悟?」

 

俺が何かを言う前にニヤケ顔のこなたさんやかがみさんが畳み掛けて来る。

 

「ふふふ。ちょっと方針を変更するだけですよ♪」←赤くなりつついつもの笑顔

「方針って・・・?」

「あの夏休みの旅行の時に、今まではあまり目立たないようにって決めてたんだけど・・・」←モジモジしてる

「これからは学校以外では全員全力全開でいくぜ♪」←赤くなりつつ拳を握る

「ぜ、全力全開て(汗)」

 

さすがに昼ドラのようなドロドロした展開は避けなければ・・・。

 

「恋を賭けた戦いは何も修羅場だけじゃありませんよ? それに、私が一番立ち位置的に不利ですから・・・。それこそ本気で、まさきさんにアタックします!」←珍しく熱くなってるもやはり赤い

 

どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。

・・・今のやまとさんの言葉、前にいのりさんから聞いたような気もする。

てかさりげなくやまとさんが俺の呼び方、変えてるし。

 

「ちなみに学校以外なのは、やまとさんが圧倒的に不利になってしまうからです」

「この時期に変な噂が流れてもお互い困るし、恋敵はみんな親友だし、やっぱり勝負は公平にしなきゃね」

 

ここまで聞いてて疑問が1つ。

 

「なんで・・・みんな、こんな優柔不断な俺を怒ったり愛想尽かしたりしないでいられるの・・・?」

 

普通に考えたら、状況的に今から最悪、地獄絵図になっててもおかしくは無い。

でも彼女達はそんなそぶりも見せず、むしろ自分自身をもっとアピールして俺を振り向かせようとしている。

 

「・・・つまりまさきは私達に愛想尽かされたり、ここで今すぐ血で血を洗う修羅場になったほうが良かったって事?」

「いやいやいやいや!」

 

こなたさんの言葉に俺は首を横に振る。

自分から修羅場になる事を望むやつなんてそういないだろう。

何事も平和的解決が一番だ。

 

「ならいいじゃねぇか。私達の事をまさきは受け入れてくれて、なお且つ答えを探そうと必死になってくれてるんだろ?」

「まさきさんは優しい方ですからね♪」

「・・・優しいかはともかく、俺ってそんなに分かりやすいの?」

『うん(はい)』

 

全員一致ですか(汗)。

自分で『優しい』とか思ったことは1度も無いんだが。

微妙に凹みつつ、彼女達も目的を達したため、今はみんなで桜籐祭を楽しむ事となった。

ちなみにこの時、両方の手は必ず誰かと繋がっていたため、既に彼女達の戦いは始まっているようである。

これから、どうなるのかね・・・?

 

 

 

 

 

桜籐祭(そ れ)から既に約1ヶ月。

学校では受験のために多少ピリピリしているものの、いつもと変わらない日々を俺達は送っている。

朝はいつものようにランニングをして、学校ではいつものように登校して授業を受けて、昼休みにはいつものメンバーで他愛の無い会話をしながら昼食を食べて。

そして放課後を迎えるのだが・・・。

ここからは桜籐祭より前の日々とは明らかに変わった。

話をしながら下校するのは良いのだが、校門を出た後は彼女達との距離が今までとはまるで違う。

 

「えい♪」

「てい!」

「いやだからさ、2人とも・・・ちとくっつきすぎだってば(汗)」

 

現在右にはみゆきさん、左にはこなたさんが腕を組んでくる・・・その密着度は正直冷静を保つので精一杯。

特にみゆきさんのモノ(あえてどことは言わない)が密着するとかなりやばいんですけど・・・。

そして下校途中、いつも同じ場所で俺達を待っているやまとさん。

そこでこなたさんが名残惜しそうに俺から腕を放し、俺達を見つけたやまとさんが開いた腕に飛び込んでくる・・・満面の笑みで。

 

「こんにちは、まさきさん♪」

「・・・お~っす」

 

やまとさんも表情豊かになったよなぁ、なんて思いつつ(ついでに言うと周囲の好奇やら嫉妬やらの視線を浴びながら)みんなで駅まで会話をしながらのんびり歩く。

ちなみに最初のうちは『手を繋ぐ』くらいだったがいつの間にか『腕を組む』にバージョンアップし、現在は『体を密着させる』にさらにバージョンアップしていた。

ちなみにみゆきさんとやまとさんが今、腕を組んでくるのは住んでる場所の都合上、1番早く別れるからだ。

そして駅に着いたら別々の電車に乗るため、かなり寂しそうな表情(かお)をするもんだから必ず俺は『また明日ね?』と声をかける。

この言葉が結構効くらしく、この2人に限らず、みんなに対して有効だ。

その後、電車に乗って席に座ると・・・。

 

「隣もーらい♪」

「う~、なんかチビッ子が1番得してるような気がするぞ!」

「喧嘩するなよ~・・・頼むから」

 

両隣にこなたさんとみさおさんが(密着状態で)座って、真正面に柊姉妹が立つ。

立ち乗りの場合は四方を囲まれてたりする。

てか座れる方が珍しいんだけどね・・・。

そしてこなたさんとみさおさんとも途中で別れる(やっぱり寂しそうな顔をする)と、後に残ってるのは・・・。

 

「えへへ~♪」

「・・・・・・」

 

嬉しそうなつかささんと顔が真っ赤になっているかがみさんが腕を組んでくる。

ちなみにご近所さんからあらぬ噂が囁かれるんじゃないかと覚悟していたが、今のところそういう話は聞こえてこない。

1度偶然通りかかった柊夫妻に見つかった時はどうなるかと思ったが・・・。

ついでに言うと、休日はみんな何かしらの理由をつけて俺の家に集まるようになった。

 

 

 

「何だか時間が経つのってあっという間ですね」

「そだね~。もうすぐ12月だもんね♪」

「そっか。もうそんな時期なんだな~・・・」

「12月と言えばクリスマス! 去年みたいにかがみ達に独占させるつもりは無いからね~。むふふ、まさき、覚悟したまえよ~? クリスマスの後も年末年始、バレンタインにホワイトデー! イベント目白押しなのですよ♪」

「こなたさ~ん・・・過剰な行動はなるべく控えてくれよ?」

「節度くらいわきまえるよ~・・・多分」

「大丈夫よ。こなたが馬鹿な事したらちゃんと止めるから。大体、いつまでも今の状況に甘んじてるつもりも無いしね」

「ふふふ、そうですね。去年まではあまり気に留めませんでしたが、今年はそうも言ってられませんから♪」

 

女の子達が笑顔でそろって頷く。

え~っとつまり、こなたさんが言ってたクリスマス云々の度に彼女達は今まで以上の、何らかのアプローチを俺に仕掛けてくる、と言う事なのだろうか?

 

「目指せまさきの第2ボタン! そのためにも、私達はあらゆる努力を惜しまないのだ~!」

 

自分で言うのも何だけど、恋する女の子達ってたくましいなぁ。

そう思いながらも出来るだけ早く、そして焦らずに答えを見つけよう。

出した答えによっては傷つく娘が中にはいるかもしれないけど、全員を泣かせるよりよっぽど良い。

そして大人になって高校生活を振り返るようになったら、迷わず『最高の高校生活だった』と胸を張って言えるように。

 

 

 

『私達は、あなたの事が大好きです!』

 

 

 

桜籐祭でみんなに告白された時の、あの言葉を思い出しながら。

絶対に後悔をしないように・・・。

 

 

 

終わり・・・



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