「過去の出会い」 (黒華 蘭)
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1話

 

ーーねぇ、清隆

 

実は私たち昔に出会ってたんだよーー

 

 

******

 

小学3年生のとき、私は家族とニューヨークに来ていた。

 

両親が意外と旅行好きで私が物心つく前にも何度も海外に出かけていたらしい

ニューヨークにも一度来たことがあり、

その時にとても気に入ったからまた来てみたかったと

両親は話していた。

 

小さかった私は、初めての海外旅行にわくわくとした気持ちだったのを今も覚えてる

 

ーーもっとも、わくわくしていられたのは

最初だけだったけどーー

 

 

「・・・・お母さぁ…ん、お父さぁ…ん、どこぉ・・・」

小さい私は両親とはぐれ泣きじゃくっていた

 

初めての海外旅行と子供特有の好奇心にさらされ

ふらふらとしたり立ち止まったりを繰り返していたら

案の定 迷子になってしまった

幼少期に誰でも一度くらいは経験したことがあるのではないだろうか

両親がいない不安、見知らぬ景色これだけでも

小さい子にはかなりの恐怖を与えるのに

私の場合は周りの人が全て外人だというのが問題だった

 

体格も大きく、言葉もわからない大人たちは

これ以上ない恐怖の対象だった

心配して声をかけてくれたであろう人でさえ

とても怖かった

怖くて、怖くて、走りだしてしまった・・・

 

見知らぬ土地で目的もなく走りまわってしまい

もう最初に何処にいたのかさえわからなくなってしまった

走らなければまだ両親に見つけて貰えたかもしれないが

その可能性も低くなってしまった

 

ーー私はもう両親に会えないんじゃないかと思い

蹲るようにしゃがみ込み嗚咽を漏らしはじめたその時、

 

「どうして泣いているんだ?」

 

ーそんな言葉が投げかけられた

 

 

 

******

 

 

「・・・えっ・・・?」

日本語での問いかけと、明らかに大人ではない声質に

私は頭を上げ声の方向に顔を向けた

 

そこには私とさほど変わらない年齢くらいの男の子が立っていた

 

「ーいや、どうして泣いているんだ?って聞いたんだが」

その無感情な声と問いかけに私はなぜか少しの安堵を覚え

ほんの少しだけ落ち着きを取り戻すことができた

 

「・・・にほんご・・・」

ーー訂正、どうもまだ落ち着けてなかったらしい

私の口から溢れたのはそんな意味の分からない単語だけだった

こんな単語だけだったら誰でも困惑するだろう

そう思い言葉を続けようと口を開こうとする前に

 

「・・・あぁ、なぜ英語ではなく、いきなり日本語で話しかけたか 」

ーーと、こちらの思いを裏切って言葉を紡いできた

 

「簡単なことだ、まず見るからに日本人だし英語を話せるならこんなに大人がいる状況で一人蹲って泣く必要はないだろ」

「・・・で?何で泣いているんだ?どこか痛いのか?」

 

私は目の前の男の子に両親とはぐれたことを伝えた

正直、こんな同い年くらいの男の子に話しても普通

何も変わらないのだが

なんとなく話したら何とかなるんじゃないかと思った

 

「・・・?それのどこに泣くとこがあるんだ?」

男の子は心底わからないという顔をしている

この男の子は迷子になったことがないのだろうか?

 

「泣くのは痛いときだけじゃないのか?」

私はこの男の子の言っていることが理解できなかった

寂しくて泣くのもあるだろうし、

怖くて泣くこともあるだろうし、

もちろん痛くて泣くこともある

そのことを伝えると

 

「・・・そうなのか、・・・痛み以外でも人は泣くのか・・・」

小さく呟きながらこちらに向き直り

私に問いかけてきた

 

「お前の両親を見つけてやろうか?」

 

「・・・え?・・・できるの?」

おもわずそう返してしまった

私とほぼ同い年なら小学生低学年のはずだ

そんなこと常識的に考えてできる筈がない

そう思ったーーでも、

 

「あぁ、簡単にな」

この男の子はーー常識に当てはまらかった

 

******



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2話

ーーその女の子を見つけたのは偶然だった

 

両親に連れられニューヨークに来たが旅行などではない

いつも通りの"授業"だ

与えられた課題をこなし望まれた成果を叩き出す

ただそれだけのことだ

 

やるべき事を終え帰国するまえに

両親はショッピングモールに寄った

付き合いのある人たちに送るものを買いに来たのだろう

こう聞くとプレゼントに聞こえなくもないが

実際は違う関係の構築や好意を抱かせるなどを目的とした

れっきとした"戦略"だ

人との関係などそんなものだ

表面上信頼関係を構築するが実際に一枚皮を捲ればそこには利用する、しないの関係になる

 

まぁ、そんなことは今の俺には関係もなく

両親の"プレゼント"選びの間、俺はやる事なく

手持ち無沙汰のまま無表情に人間観察をしたり、テキトーにぶらぶらしていた

 

ー因みに無表情なのは

『感情を見せるのは弱点を晒すのと同義だ』

と言われ感情を隠す訓練をしているからだー

 

誰に説明しているんだろうな俺は、と自問自答をしていると

 

髪の長い小さな(といっても同じくらいの歳の)女の子が

走ってきてキョロキョロと辺りを見回しては

いきなり蹲って啜り泣きはじめた

 

いきなり泣きはじめたのを見て少し疑問に思った

怪我でもしたのだろうか?

蹲ったとこを見ると腹痛だろうか?

 

ーーしかし、小さな女の子が蹲り泣いていると言うのに

周りの大人はだれ一人気にかけない

それどころかあからさまに面倒くさいという表情をする奴もいた

だが、それらを薄情とは俺は思わない

誰しも面倒ごとは嫌いだろうし子供は論理的ではないのが普通だ会話にならず更に手間がかかる

そんなものに時間をかけるのは

その名の通り"時間の無駄"だ

そう、無駄なのだーー

 

だが、無関心な大人たちに囲まれて蹲り泣く姿にーー

何故か、そう何故かーー自分と重ねてしまった

 

望まれた成果を出せなかった頃、泣くしかなかったあの時を

鮮明に思い出させる

それがーーとても嫌だった。

 

「どうして泣いてるんだ?」

 

だから、無意識にその女の子に声をかけてしまっていた

 

俺はこの子に泣いて欲しくなかったーー

泣くしかできなかったあの頃の自分を見るのが嫌だったからーー

 

 

******

 

 

ーー変わった男の子だなぁ

何でかこの男の子と居ると少し安心する自分がいた

その妙な雰囲気も含めていろいろ変わっていると思う。

 

両親を見つけるといって突如歩きはじめた男の子の後ろをついていきながら

そんなことをボンヤリ考えていた

 

 

よく見たことなんてなかったけど

同級生の男の子もみんなこんな感じなのだろうか?

でも、いつも教室の男の子は騒いだり、

悪戯したりしていたから違うと思う

物静かで、頼りになりそうなまるで年上みたい

・・・年上なのだろうか?

ひょっとして同級生の子も高学年になったらこうなるのだろうかーーううん、ならない

私は確信を持って否定した

 

この男の子がきっと"特別"なんだと思う。

 

そんな結論を出していたら目の前を歩いていた男の子が突然止まりだした

危なかったあと少し考えていたら気づくのが遅れて

ぶつかっていたかもしれない

何で止まったのかが気になって男の子の前を覗き混んだら

"恐怖の動く階段"エスカレーターがあった

 

「・・・ひっ!?」

小さく悲鳴が漏れてしまった

耳聡くその悲鳴を聞いた男の子が不思議そうにしていた

 

「どうした?」

こんな事を人に言うのは恥ずかしい

ーーけど、既に泣き顔を見られていたのもあって

私は正直に(といっても顔を背けながら)エスカレーターが苦手なのだと伝えた

 

「怖いのか?コレが?」

またしても解らないという顔だ

無表情に見えていたけど微妙な違いがあるみたい

 

「・・・だって、いきなり動くんだもん・・・」

私は涙目になりながら答えた

前に一度エスカレーターに一人で乗って盛大にこけたことがあった

それから怖くて仕方なかったのだ

いつもエスカレーターに乗るときは両親の手を握り目をつむっていた

 

「なら、俺が手を引いてやる・・・だから行くぞ」

私は首を横に振った

親と繋いでいるときでさえ完全に恐怖は消えなかったのだ

少し大人びているとしてもーー

「!?」

いきなり腕を掴まれた

 

「両親に会いたいんだろ」

その一言に私を大きく頷いた

 

「なら行くぞ・・・大丈夫だ、怖くない」

その言葉で私は本当に怖くない気がしてきた

でもーー

 

「・・・て・・・」

消えいるような小声での呟きに男の子は聞き返してきた

 

「なんだ?」

 

「・・・手、繋いで・・・」

恥ずかしいーー見知らぬ男の子に手を繋いで欲しいと伝えるのが凄く恥ずかしかった

それでも、手を繋がずエスカレーターに乗れる自信はなかった、だから・・・

 

「わかった」

男の子は手を繋いでくれた

私より少し大きな手だった

両親の手とは比べようもないくらいに、小さな手だーー

なのに、なのに

両親の手よりも安心している自分に驚いた

それにーー何故かドキドキする

そんな妙な安堵を感じると

いつの間に気づかないうちにエスカレーターに乗っていた

ーいや、乗り終わっていた

 

「な、怖くなかっただろ?」

少しこちらを向いた横顔をみて、私は何故かまたドキドキとしていた

いったいどうしたんだろう私

 

「手、離すぞ」

そういい手を解こうとしたのを感じて私は慌て気味に

首を振った

 

「・・・その、ま、まだ怖いから繋いでて・・・」

嘘だったーー

怖いどころか乗っていたのも気づかないくらいだった

この男の子の手は凄く安心する凄くーードキドキする。

離したくなかった、離れたくなかった

もう少しこの安堵感を、味わっていたかった

だから私はーー嘘をついた

 

 

 

 

 

 

 



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3話

 

ーー手を繋いだまま歩き続け、一階がよく見えるところまできた。

 

「・・・ここからみつけるの?」

聞いておきながら 私は出来る筈がないと思っていた。

見るからに人だらけで顔の判別もままならないような状況だ、

ましてや両親の顔もわからないのに見つけることなんてできる筈ない

そう思っていたがーー

 

「そうだ」

短い返答

そして、それができると確信している声だった。

 

「どうやって・・・?」

私は不思議に思い問いかけてみた。

すると、彼は私の声が聞こえていないのか

問いかけに応えず

無言でただ一階を眺めていた

じっと見つめているその姿に私はーー

またドキドキとした

 

そして数分ほどで、

 

「見つけた」

と言い放ち静かに一階に指を指した。

 

私は信じれなかった

こんな簡単に見つかるわけがないと思った。

人違いだと思った

でも、彼の指の先を目で追うとーー

 

そこに両親の姿を見つけた。

 

「いくぞ」

彼は私の手を引き一階を目指し歩き始め

たまらず私は彼に聞いてみた。

 

「・・・どうしてわかったの?

どうやってあんなにいっぱい人がいるのに見つけれたの?」

彼はこちらを見ることなく淡々と説明を始める。

 

「ここにいる奴等は目的がないと思うか?」

「人間は意識的にしろ、無意識的にしろ、必ず目的を持って行動する」

「こんな人混みなら尚更だ」

「この大きな動きの波に異端を見つけた

お前の両親は、ほかの奴等とは違い目的があやふやだった」

「当然だ、お前の場所がわからないんだからな

つまり行動に計画性がない」

「日本でなら迷子センターなどにいくこともあるだろうが、

ここは日本じゃなくお前はここの言葉も話せないし聞き取りもできない」

「なら、足で探すほかに手はない

なにより小さな子供の行動範囲などたかが知れているからな」

「だからお前が走ってきた方向から位置を逆算し、高低差があり全体を見渡せるとこにきた

そうすることで容易く異端の動きを見つけることができる」

 

ーーただそれだけだ。と

普通小さな子供もがここまで考えれるだろうか

私には無理だ

正直言って言っている意味の半分がわからなかった

でも、彼は両親を見事に見つけだした

 

「す、すごい・・・」

おもわず呟いていた

その呟きにたいしても彼は、

 

「凄くないさ。こんなのは誰でも出来るようになる・・・それが目的なんだからな」

最後の方は声が小さく聞き取れなかったけど

彼はこんなのは当たり前だと思っているようだ

やっぱりこの男の子は変わっている

 

不思議で頼りになるカッコいい男の子だーー

 

 

 



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4話

 

一階に着き両親のいた場所に向かう途中に

彼が突然、立ち止まった

 

「・・・」

無言でどこかをみていた

その視線を追う前に彼がこちらを向いた

ふたりの目が合った

彼の目は透き通り綺麗だけど

どこか寂しそうな瞳だった

 

「どうやら時間切れだーー」

彼は私の手を離す

ただそれだけなのに

「あっ・・・」

私はいいようのない心細さを感じた

 

「このまま真っ直ぐに歩け、そうすれば両親のもとにたどり着く」

その言葉で私は泣きそうになった

また一人になる

また迷子になるのではないかと不安になった

彼が手を繋いでくれていたときは

そんなことは思わなかったのに

私は俯きそうになったーーけど

 

「俺を信じろ」

そう言って私の頭を撫でてくれた

それだけで私は顔をあげた

彼はぎこちなくけど確かに微笑んでいた

私を安心させるかのように

 

「大丈夫だ」

私はその顔に胸がキュッと締めつけられるような

感覚をおぼえた

少し苦しくなるけどでもどこか

嫌じゃなかったーー

 

「さぁ、いけー」

彼は私の背中を優しく押した

 

 

 

ーー私は走りだした。走って少しして振り返ると

彼のもとに何人かの大人が集まっていた

彼はまたあの寂しそうな目をしていた

私はその顔を見るのがつらかった

 

いつかーーいつかまた、どこかで会えたら

 

ーーまた笑ってくれるだろうか

 

そんなことを考えながら人混みを走り抜け

私は両親の元へと戻ったーー

 

 

 

******

 

 

 

女の子を送り出した俺の元に"両親"がやってきた

 

「清隆、何をしていた」

おそらく一部始終を見ていたのだろう

 

「別に、ただの暇つぶしだ」

俺の返答に僅かに眉を吊り上げる"父親"

 

「清たー、」「能力を持っていながらそれを使わないのは愚か者のすることだーーアンタが俺に教えたことだ」

"父親"の言葉を遮る

そのことに何の反応も示さない

当然だ、いつものことだ

 

「・・・まぁ、いい 帰国するぞ」

それだけをいい前を歩きはじめる"父親"

迷子になるなど考えてもいないし

なったところで気にもしないだろう

 

ふと視線を向けると先程の女の子が両親に抱き抱えられていた

「・・・」

俺は"両親"に抱きしめられたことはない

俺は"両親"と手を繋いだことない

俺は"両親"に息子だと思われたことはない

俺は"両親"を親だと思ったことはない

 

「清隆、早くしろ」

その言葉に従い俺は歩きだす

 

俺はまたあの"白い部屋"にもどる

 

いやーーこの表現は正しくないな

俺は外に出ていても"白い部屋"にいるのだから

 

いつかーーいつか、あの部屋を出て

自由というものを手に入れてみたい

いや、手に入れてみせる

 

ーー俺は静かにそう決意した。

 

 

 

 

 

 





【エピローグ】

ーー目の前の少年の寝顔を見ながら
私はそんな「過去の出会い」を思い返していた

今思い出したら、色々と恥ずかしい

でも、あの少年ーー"清隆"との出会いはやっぱり運命だったんじゃないかと思う

こうして今も側にいるのだから
普段の行動、態度、性格からは想像もできないほどに穏やかでちょっと子供っぽい寝顔だ。可愛い。

「・・・ていうか、私あの時 お礼言えてなかったのよねー」

清隆には何度も助けてもらった
なのに、
素直に"ありがとう"と言えたのは何回くらいだろう
そう思うくらいだった

「昔に会ったことも、覚えてなさそうだしねーー」
まぁ、かくゆう私もつい最近引越しのために
実家で片付けをしていたときに思い出したのだけど

虐められていた中学時代のせいで
そんな思い出も薄れていっていた
私の大切な思い出をーー

「あんたには、これからも助けてもらうことばかりだと思うーー」
でも、いつか
私があんたにとってかけがえの無い存在になってやる
そして今度は・・・ーー

「私が、あんたを助けてやるんだから」

「でもまぁ、とりあえずはーー」
これからしようとしていることに頬を赤らめる
寝ている相手とはいえ流石に恥ずかしいー

「私を助けてくれてーー"ありがとう" 清隆」
彼の寝顔にそっとーー

「……大好きだよ、ずっと・・・」

ーー唇を重ねた


-end-















ーTo Be Continued…?ー


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