ソラト ーゲイムギョウ界を彷徨う一陣の風ー (箱りあ)
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過去の回想——現在(プロローグ)
——XX17年某日より。過去の回想。
その日。俺は、崩壊した遺跡に取り残され、大切な相棒を失った。
何年前のことだったか。今となっては、随分と昔のことのように思える。もしかすると、そう錯覚してしまうほど、相棒と過ごした時間が輝いていたのかもしれない。
宝を探し出しては、大喜びして。笑いながら夕焼けを見上げ、宝をその茜色にかざしてみたり。苦しいと言えた日も、なんだかんだで楽しんで、失敗した日もポジティブに前を向いていた。
でも、そんな時間はもう帰ってはこない。一度逸れたら、二度と関わらないと約束していたからだ。
遺跡から脱出してからは、相棒とは会話したことはない。一度だけ、その姿を見たことがあったが、その姿は、俺と過ごしていた時よりも輝いていたように思える。
「……人ってのは昔っから、正義を信じられる奴には勝てねぇ。だから、正義を信じられない俺は、今もこうして地面に這いつくばっている。そうする事で、生きるという快感を得られると知ってしまったから」
どうやら、
1
XX14年 12/XX 20:00
「そういや。また、この国の違法取り締まりがキツくなったらしいぜ」そのガタイのいい男は、酒を飲みながら、言った。「なんでも、マジコン?って違法機械が、表で大暴れしたらしい。まったく。俺たちにしちゃ、大損どころの話じゃねえ」
「俺もこの前、いつも溜まり場にしている店にサツが入ってきちまったらしくてな。おかげさまで、俺にぁ居場所がねぇよ。悲しいもんだ」その向かいの席に座るヒョロヒョロな男は、グラスを握り締めながら、言った。
「俺の行きつけでも紹介してやろうか?」
「あぁ、頼むよ」ヒョロヒョロな男は、グラスに入った酒を飲み干した。
……。
国で一番ギャンブルが盛んであった、ラステイションの中心部で、溜まり場が消えつつあるということは、そろそろこの国に留まるのは限界だという事だろう。この場所にはそこそこ愛着があったのだが、まぁ、仕方がない。
俺は席を立ち、酒場を出る。規則正しい足音が聞こえてこないかを確認してから、夜道を歩き始めた。この感触とも今日限りと考えると、少し名残惜しい。
ラステイションは、全体的に見れば、かなり暗い街だ。それでいて、道が複雑に入り組んでいる。当然、死角も多かった。ギャンブラーたちからすれば、これほどにまで最高の街は他にない。言ってしまば、「楽園」だ。
だが、その楽園も崩壊を始めた。違法という言葉に敏感になったゲイムギョウ界が、レッドゾーンに両足を突っ込んでいるギャンブルの存在を許すはずがない。楽園っていうのはいわば自由の象徴だから、街が厳しくなればなるほど、楽園は崩壊していく。
そして、底辺の居場所は消えていく——。
「お宝を夢中で探せたあの頃が懐かしいねぇ……」ラステイションの地面は相変わらず、宝が眠っていなさそうな硬さをしていた。そんな感触とも、今日で別れを告げなければならない。
XX15年 1/XX 23:00
「……微妙」
ラステイションに比べれば、美味い。だが、ルウィーには遠く及ばない。そんな味をしていた。
舌を肥やした覚えはないから、これはおそらく、好みの問題だろう。でも、食えるだけマシだと思っているから、下手な文句は言わず、パンを頬張る。
「……見ねぇ内に変わっちまったな。ココも」夜の原っぱで、のんびりと夜空を見上げる。
俺が生まれ育ったのは、プラネテューヌの中心部から離れたちっぽけな村だったはずなのだが、久しぶりに来たその村も、見ないうちに変わってしまっていた。こうして、自分の居場所がなくなっていくのだなと思うと、少し寂しくなる。
「てか、どうしよ……マジで稼ぎ場所がねぇ……」俺は頭を掻く。
去年から、女神たちの違法に対する目が尋常じゃなく鋭くなったせいで、金が思うように入ってこない。そろそろ、金が底を尽きそうだ。
……そろそろ、トレジャーハンター業を本格的に再開した方がいいかもしれない。
XX16年 12/XX XX:XX
「今度はあっちか……。こりゃあ、ココが潰されるのも時間の問題か……」グラップは、溜め息を吐きながら、頭をぽりぽりと掻いた。「それで? どうよ、今日のクエストは?」
「吐きそうになった。もう二度と、あんなクエストは寄越さないでほしい」俺は、その対価とは明らかに釣り合わない報酬を握りしめ、言った。
「それは、すまなかったな。以後、気をつけるよ」グラップは、壁に貼り付けている地図にの一点に「×」をつけながら、そう言った。おそらく、潰されたギルド支部の位置だろう。「ちと、お前の有能さを利用し過ぎちまったようだ」
「おだてても、俺はしないぞ?」
「いいや、本心だ。最近の野郎はヘマばっかやらかしやがるから、お前のような人材は、心の底から尊敬している」
「随分と、この裏ギルドも落ちたもんだな」俺の全盛期と呼べた頃は、この場所に、俺より有能な奴がごまんといた。それを比べたら、今のギルドは、廃墟のようなものだ。
「そう言われると、耳が痛いな」グラップはそう言ってタバコを取り出し、自身の魔法で火を点けた。そのトレードマークである黄色のバンダナの汚れが、鮮明に見えた。「昔、お前とコンビを組む前のお嬢ちゃんにも、同じことを言われたよ」
「あいつが?」俺は首を傾げる。
「あぁ。ここのクエストは、スリルがあっても宝が転がっていることが滅多にないからつまらんとな」
「まぁ、その通りかもな……いや、違うか」
結論から言うと、この裏ギルドに、お宝はほとんど存在しなかった。底辺を救い出すクエストを主としていた当時としては考えられないほど、ちゃっちいクエストばかりだ。かなり酷いものになると、どっかの富豪の財布をスリをやらされることになる。この復帰した一年間の内の一時期は、能無しの盗賊の気分にもなった。
「今はスリルすら残っちゃいねぇな。あるのは罪悪感だけだ」俺はそう呟き「さて、そろそろ行かないと」と言って立ち上がる。
「おう、いってらっしゃい。何日かける予定だ?」グラップはタバコを灰皿に押し付けながら尋ねる。
「一週間以内には。潜入だから、目安でしかないけど」
「それもそうか。じゃあ、幸運を祈ってるぜ」
「あぁ、ありがとう」
——回想終了。XX17年 1/XX
2
「……生きる、ね。貴方の生き方を強く否定する気はないけれど……、如何仕方のないことだったのよ。許して頂戴」目の前で、足組の体制で腕を組んでいる、ラステイションの
「……それを知って、どうするつもりだ?」俺は、
「貴方にそれを聞く権利はないわ」
「そうか」その返答を聞いても、特にこれといった感情が出てくるわけでもなく。あぁ、そうですか。程度の感想が浮かび上がったくらいだった。「話せることは全て話した。それは、俺に自白剤まで打ってきた女神様方も重々承知しているだろう。これ以上、こんなことをしたって無駄だ」
「……そうね」
こんな、地下何階かも分からねえほどに薄気味悪い牢獄の部屋で、よくもまぁ、そこまで凛としていられる。眩しい限りだ、まったく。こっちは底辺らしく鎖で繋がれたら腕輪なんてしてるってのに。やっぱり、女神様っていうのは、俺とは違うのかね。
「帰るのか?」
「えぇ。私は忙しいもの」そう言って
「……そうかい」
やはり、正義を信じている奴は、俺とはかなり違うらしい。
「それじゃあ、俺は用済みになったわけだが」俺は、ヒヒヒっと、柄にもない笑い声が上げる。「女神様よ。早く自分の居場所へ帰ってくれないか? 俺は、輝かしいあんたの前で死にたくねぇ」
「……貴方まさか、自分が死ねるとでも思っているの?」
「……ちっ」
「でも、私は人の魅力を尊重するタイプなの。だから、貴方にしかできないことをやってもらう」気のせいではなく、確実に、その
「……俺は、何をさせられる」
「それは、私の口から話すことじゃないわ。これから先は、彼女に聞きなさい」
「久しぶりね、ソラト。……いえ、私の元相棒」
俺と関わるなと約束したはずだ、アイエフ。
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罪と罰。罪と罪。
「まさか、貴方がこうして捕まるなんて。奇跡っていうのは起こるものなのね」アイエフは俺の方を見て、言った。「奇跡なんて、本当は無いと思っていたのだけど」
「……俺と関わるなと約束したはずだ」俺は、アイエフを睨みつける。
こうしてアイエフを睨みつけたのは、初めてのことかもしれない。
「あいにくだけど、私だって、関わろうと思ってこうしているわけじゃないわ」アイエフは、コートのポケットから携帯を取り出しながら、俺の目の前に座った。「確かに、貴方と話がしたいと言い出したのは私。でもそれは、私の立場上での行動。こういう状況が作り上げられたのは、完全に偶然。だから、私の前職が貴方と同じだったことは、女神たちにはバレていないわ」
「そうか」俺はアイエフの瞳を見ながら「それじゃあ、俺は何をすればいい?」
「……先に言っておくけど、どんな内容でも、動揺しないで頂戴」
「分かってる。それくらいの覚悟は出来てる」
「じゃあ言うわ。貴方には潜入任務に協力してもらう」アイエフは簡潔にそう言った。
……潜入?
「……言いたいことは色々とあるが、そんな簡単なことでいいのか?」
「構わない、というよりは、そうして貰った方が助かる。と言った方が良いわね。この手の仕事はいつも人手不足なのよ」
「まぁ、それは分かる。それで、場所は?」俺は単刀直入に尋ねる。
「リーンボックスにある、違法ギャンブルを行なっている店。主な内容は聞き込み。対応は貴方に任せるわ」
「了解」俺は自然と、足に力を込めていた。癖というのは恐ろしい。
「装備は、ラステイションの方で用意しているのを使用してもらう。ちなみに、装備の中には、貴方が裏切ったとき用の麻痺針が仕組んであるのも混じってるわ」そう言ってアイエフは、手に持っていた携帯を俺の前に置いた。「それは指定されていないものだけど、連絡用に持っていて頂戴。ラステイション側が知るとマズイような情報は、こっちにかけるように」
「分かった」
俺はそこまで言って、頭に中で情報を整理する。リーンボックスで潜入任務。数少ない違法ギャンブル店の調査。行うのは聞き込み。……。ん?
「……さっきの口ぶりから推測するに。さてやお前、ラステイションの人間じゃないな?」……あ。やべ。
おそらく、自覚剤が抜けきっていなかったのだろう。俺はつい、そんな事を口走ってしまった、地雷を踏んでしまった、と直感する。……が、それをへし折るかのように、
「あぁ、言い忘れてたわ。私いま、プラネテューヌの諜報部員をやっているのよ」アイエフはあっさりと答えてきた。「もちろん、スパイとかの非合法な手段は禁止されているけれど」
「……俺からふっかけた話題だが、言っていいのか? それ」
「貴方は表社会に一切関わろうとしないし、大して問題にならないでしょ……ほら、腕出して」アイエフはそう言って、コートのポケットを漁り始めた。おそらく、ヘアピンでも探しているのだろう。
「それでよく、諜報部員なんてやっていられるな」俺は手錠で繋がれた両手をテーブルに乗せる。人生のうちに、リードで繋がれている犬の気持ちを知ることになるとは、去年の俺は思いもしなかっただろう。「それに、ピッキング技術なんて覚えてたって、使う機会がないだろ?」
「まぁ、技術は持っているに越したことはないから」アイエフは数本のヘアピンを手錠の鍵穴に差し込む。そして、少しヘアピンの先が沈んだあたりで、「あー。これはナメられてる。並びが簡単かつ単純だわ」とぼやいてきた。
「……鍵は貰ってないのか?」俺は、単純な疑問をぶつける。
「うちの国の技術を盗まれたらマズイからというのと費用削減のため、基本的に鍵は作ってないんですって」
「……そうなのか」
「しかも、諜報部員なんだから、ピッキングくらいできるだろ。なんて言ってくれちゃって。ピッキングするにも体力がいるってことをなんで理解してくれないのかしら、ほんと」
「……そうか」心なしか、俺を繋いでいた手錠を外すアイエフの手先が、少しだけ荒っぽくなっていたように見えた。
3
「こちらコード1。定位置に着いた。どうぞ」
『了解。こちらはもう既に準備完了済み。作戦通り、21:00に潜入開始』と、耳元の通信機から聞こえてきた。
俺は「了解」と返事をしてから、腕時計を見つめる。20:57。あと三分前後。この三分間は、雑に付近をぶらつきながら、時間を調整する。事前にラステイション側に確認を取り、三十秒のズレは許容範囲として認めると、許可を得ている。
緊張はしていない。あるのは恐怖だけ。それも、失敗というものではなく、潜入中にラステイション側の人間に殺されるという事態が起こり得るという妄想によるもの。
そしてそれ以前に、この任務も一つの罪だ。それを考えたら、あっちが殺してくれるというのは有り難い限りだ。死んで許される罪ほど軽い罪は無い。一番重い罪は、死ぬことが許されない罪。
『カウントダウン一分前』
俺の心臓が叫んでいる。死ぬのは罪だ。自殺こそ、己の人生に対する無礼だ、と。心臓が、俺に生という釘を打ち付けてくる。
『三十秒前』
それに、あの女神様は俺を殺さない。……絶対に。
『潜入開始』
「こちらコード1、潜入開始」
俺は少し崩れた歩き方でその店に近づき、扉を開ける。少し存在感を出しつつ、かつ目立ち過ぎないように、店内へと入る。
XX17年 1/XX 21:01 潜入調査
「……見ねえ顔だな」店内すぐのカウンターで雑誌を読んでいた店長と思われる人物が、俺に声をかけてきた。「他所もんか?」
「他所者じゃないと言えば嘘になる。俺は元々ラステイションの人間だ」俺は、ある意味本当で、ある意味嘘とも言える事を言った。
「なんで俺ん店に来た」店長はタバコを取り出し、火を点ける。
「ここ数年で、一気にラステイションの規制が強くなったのは知ってるよな? そのおかげで、俺の知っている限りの店は、全部潰れっちまったんだよ」
「なんなら、プラネテューヌやルウィーに行きゃあ良かっただろ」
「プラネテューヌは行った。でも、そっちで色々と酷い目に遭ったもんで、逃げてきた。ルウィーは最後に回してる。あんな極寒の地を歩き回るのは、ちと気が引ける」
「寒がり特有の消去法を使ったわけだ」
「そういうこと」俺はそう言って、店内を見回す。やはりというべきか、空いている席はない。全員、テーブルに置かれている大金の詰まったゲームに夢中だ。「……懐かしい音だ」
「ま、立っているのもなんだ。とりあえずそこに座りな」店長はそう言って、近くの椅子を指差した。俺はそこに座り、店長と向かい合う。店長は「今のラステイションの裏はどうなってる?」と尋ねてきた。
「最後にラステイションに居たのは二年前だから、最近はよく知らないが、その時でもう既にかなり潰れていた。おそらく、今頃はほとんど残っちゃいないだろう。プラネテューヌは逆で、増えてるっぽいが」俺は答える。嘘はついていない。
「ラステイションのクズがプラネテューヌに回った感じか」
「おそらくは。しかも、特に民度の低い奴らが、ね。俺はそいつらに三回くらい、腹いせに腕に根性焼きをされかけた」
「うひゃあ、そりゃあ酷え。逃げたくなったお前さんの気持ちが分かるよ」店長は、タバコを灰皿にグリグリと押し付ける。「それを考えると、ここの連中はまだ民度が高いんだな。感謝しねぇと」
「と言うことは、騒ぎになったりしないのか?」
「あぁ。見ねえ顔が勝手に暴れ出すことはあるが、常連が暴れることはねぇ。ここにいる奴らは全員、『マジコンショック』で職を失った輩だ。最低限のリテラシーは持ってる」
「『マジコンショック』でってことは、ここにいる奴ら全員がクリエイターだったわけだ」
『マジコンショック』。四年前、違法マシンであるマジコンの一般流通により、食っていけるクリエイターが減り、結果、多くの失業者を産んでしまったという大事件だ。
「皮肉だな。違法で苦しめられた人間が、こうして違法で生きていくしかなくなってしまったってのは」俺は辺りを見渡し、元クリエイター達を見る。その後ろ姿に、輝きは一切見られない。「辛い世界だことで」
「それは、違法に手を染めているお前さんにも言えるがな」店長はそう言って、タバコを点ける。「お前さんはどうして、違法に手を染めた?」
「つまらない話だ。俺は、犯罪を当然のようにやってのける親の元で育ってな。気付けば違法に染まっていたんだよ」別に隠す事でもない話だから、正直に話す。「俺の意思で違法に手を出したのは、四、五歳の時だった。当時の俺の食事は朝晩の二食で、内容はずっと塩無しの握り飯一個。あん時の俺は、一度でもいいから、監獄食くらいの贅沢な食事をしたかった。そんだけの理由。今思えばクソみたいな理由さ」
「……お前さんも苦労してるのな」
「その分、自由を知れた。だから、苦労したとは思っちゃいない。後は……」
「後は、なんだ?」
「夜のルウィーは死ぬほど寒いって事を知った」
1
「店長、ここってトイレはあるか?」俺は、店長にそう尋ねた。
「いいや。うちにはない。行きたいなら、ここから十分ほどの公園のを使うしかない」店長は答えた。
「そうか。じゃあ、行ってくる」俺は椅子から立ち上がり、言った。「すぐに戻ってくる」
「そろそろ、テーブルシャッフル*の頃合いだ。そこまでに帰ってこないと、また席がねぇ事になるぞ」
「了解」
俺は、扉を少しだけ開け、左右を見渡してから、店を後にした。通信機の通話モードを開く。
「これからどうする?」俺は尋ねる。
『テーブルシャッフルと同時に突入する。聞き込みご苦労だった』通信機からは、そう返事が来た。
「了解。コード1、帰還する」俺はそう言って、例の地下牢獄の方へと歩き出した。
*『テーブルシャッフル』。ゲイムギョウ界の用語。テーブルに座っている人をシャッフルし、ギャンブル特有の悪い流れを平等にすることを指す。また、この行為によって、流れが悪くなることを、航海時の津波とかけて『悪天候』と呼ばれている。
XX17年 1/XX 23:00
「俺はやれと言われたことはやった。俺の役目は終わった。だから、さっさと殺してくれ」牢獄へ戻った俺は、
「それはできないわ」目の前で足を組んでいる
「……罪と罰は釣り合うべきだ」
「何か言ったかしら?」
「俺に構ってるくらいなら、その時間を人の悲鳴の一つや二つを聞き入れられる余裕を作る時間に回してくれ言ったんだ」言い直すのが面倒だったから、雑に本音を言ってみた。
最初は、俺みたいな人間と構っている時間の間で、不幸になっている人間の数を考えてみろ。と言おうと思ったが、やめた。
「あら? 私を心配してくれるの?」
「女神様が国や人を変えるんだ。心配して何が悪い?」
「それは、皮肉かしら?」
「解釈は人それぞれさ。それが皮肉だと思うのなら、そう受け取ればいい」伝わらなくとも、伝えるだけで満足することだってある。俺はそう思っている。
「…………あっ、そう」
…………。
……。
そして、時は流れる。
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