ルドラサウム大陸に転生したが、双子の妹がヤバイ件について (ローカルランス)
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日記1・旅立ちの経緯について

オリ主の容姿はエール君(男1)


久しぶりに『この状態』になったので、以前から『この状態』用に買っておいた日記を使い始めようと思う。

 

俺の名はビール・モフス。現在11歳。転生者、あるいは憑依者だ。

ネット小説でよく見るアレだと思ってもらえば概ね間違い無い。

 

詳しい理屈はわからないが、普段の俺は前世の事をあまり意識することが出来ない。

かつて日本という国で社会人をやっていた『俺』という意識と、この世界で生まれた『ビール』の魂が混ざっているとでも言えば良いのだろうか。

 

普段は2つが混ざりあった、前世の事は知っているが詳しく意識することが出来ない『ビール・モフス』として生きているが、ふとした時に『俺』が完全に表に出た丁度今の様な状態になる時があったり、はたまた前世など何も知らないこの世界の『ビール』の姿を『俺』という意識が後ろから見ている状態になったりと不安定極まりない。

 

とは言え『俺』が分離して思考する事ができる頻度は年々少なくなっているので、どうやら2つの魂の融合は進んでいるらしい。近い内に完全に溶け合って個々の意識は完全になくなると思われるので、この日記も使い切ることは無いだろう。

そんな状況だが不思議と恐怖は無い。というか、今の『俺』は混ざっている『ビール・モフス』としての記憶も自覚も持っている。溶け合ったとしても別物になるわけではなく、結局は同一人物だ。

 

そんな俺について少しだけ書いておこう。

 

物心ついたころには前世のことを思い出せたし、その影響なのか明らかに普通の子どもよりも早く喋れたり歩けるようになったりした。更には才能があったのか3歳になる前には魔法を使えるようになり、5歳の頃には既に剣を振るい岩を一刀両断にしたりと、当時は我ながら『俺TUEEEキタコレ!』と調子に乗っていたものだ。

 

そんな事をすれば今生の親から気味悪がられるのが普通だとも後から思ったのだが、幸か不幸か、母も妹も世間一般から見て変わり者という評価すら生温いほどぶっ飛んだ人だったので問題にはならなかった。

 

母親の名はクルックー・モフスで、AL教という世界的に信仰されている一大宗教の法王だ。最近はかなり勢力が落ちてきているが、それでも全世界の半数程度が信仰している宗教だといえば規模の大きさは想像できるだろう。

現在は自由都市帯西部のトリダシタ村で、双子の兄妹……つまり俺と妹を育てており、仕事の時だけAL教の本部がある川中島に行く。

 

 

ここまで書いたが、つまり俺が転生した世界というのはエロゲ『ランスシリーズ』の世界だ。最終作やってないんだよな……。

ちなみに先程才能がどうたらと書いたが、この世界に生きる人間はレベルなどのステータスを持っており、その中には『技能レベル』という物がある。つまり各分野における才能を数値化したものだ。

 

ちなみに俺の技能レベルは、神魔法LV2、魔法LV1、剣LV1。

技能レベルはLV1でその分野におけるプロ級、LV2でその分野における最高峰、LV3ともなれば伝説に名を残すような規格外だ。ちなみにその分野で努力すればある程度までは形になるLV0という段階があり、この世界の人はLV0を含めればだいたい20種類前後の技能レベルをもっているらしい。

つまり俺は客観的に見てもかなり恵まれた才能を持っていると言える。前述のアレコレもこの才能持ってるなら当然程度の所業だったらしい。チートとか無かった。

 

ちなみに現在の年号はRA13年。この世界の年号はその時の魔王の名前から付けられており、俺が知っているランスシリーズの時代は魔王リトルプリンセスの時代、LP歴だ。

聞いた所によるとLP歴は8年で終了しており、現在は魔王ランスの時代。

 

……そう、なんか原作主人公が魔王になってる。

というかウチの母親、原作の8あたりで登場したヒロインだったわ。道理で美人だと思った。この辺考えると、教えられた事は無いが俺の父親は魔王なのかもしらん。

 

どうやら俺が転生した時点で原作時系列は終了し、あとは魔王をどうするべきか……なんて転生者的な上から目線で考えていた事もあった。

今考えれば何いってんだお前というカンジである。

いや、魔王をどうにかしなけりゃいけないのは確かなのだが……。

 

 

 

さて、色々前置きが長くなったが、本題だ。

 

題をつけるなら『俺の双子の妹がヤバイ奴だった件について』

 

俺の双子の妹、名前はエール。

母さんがどちらが兄とか姉とか明言しないため、常日頃からどっちが上だのと言い合いをする仲であるが、誰が何と言おうと俺の方が兄だ。

なんか名前の時点で順番付けられてる気がしないでも無いが、気にしないことにする。

 

この妹、身内贔屓抜きにしても見てくれは中々可愛い。俺とは違う茶色のロングヘア(余談だが俺は母と同じ黒髪、この茶髪は誰から遺伝したんだろうね?)、常にニンマリとした笑みを浮かべおり、どこか悪戯好きな小悪魔といった雰囲気だ。

 

そんな妹だがヤバイ。何がどうと言われると難しいがヤバイ。

割とエキセントリックな行動をするが、それに関しては母親の影響で済まされる範囲だ。

では何がヤバイかと言えば、この妹。明らかに『何か憑いてる』。

 

最初に気づいたのはまだ赤ん坊の時だ。同じベッドに纏めて寝かされていた俺は、ある時エールがこちらをじっと見つめていることに気づいた。

それだけならどうという事は無いが、この世界の『ビール』の影響か当時の俺は赤ん坊特有の超感覚とも言うべき敏感さを備えていた。その感覚がエールからエールとは別の視線を感じ取ったのだ。

その後も度々謎の視線をエールから感じる事は有ったし、決定的なのは『俺』と『ビール』が分離していた時だ。

 

その時『俺』は『ビール』を後ろから覗くような視点で存在していたのだが、『ビール』とお喋りしているエールの向こうに『ソレ』を見た。

 

白く巨大な、とてつもない存在を。

 

それがどんな姿だったのかはハッキリ認識できなかったが、ソレの前では自分など塵のようなものだと本能的に悟った。

ヤバイと思ったときには既に『ビール』と融合していたが、アレの存在は融合後でもハッキリと脳裏に刻まれており、思い出す度に背筋が寒くなる。気づかれた瞬間、俺という存在が跡形もなく消えてしまうという確信。本能的に俺は『異物』なのだと再認識させられたような、そんな感覚だ。

 

つまりエールから感じていた視線の正体はアレであり、常にアレに見られていると思うと気が気じゃない。幸いと言うべきか、この身体は母親からの遺伝なのか無表情がデフォのためそういった態度は悟られていないと思うが……。

 

そして今日。久しぶりに『俺』が表に出た状態で、エールの背後に『アレ』を直視してしまい、いよいよエールの近くにいるとヤバイと思ったため家を出ることにした。

一言でまとめると。俺は、妹から、逃げる。

 

唐突かと思われるが、何故か前々から母親によって冒険者としての訓練を受けていた俺は、いつか家を出て冒険の旅に行こうと思っていたのだ。

なんかエールからは「一緒に行こう」みたいな約束をされていた気がするが、この際忘れることにする。

 

 

母さんはは仕事で家を空けてるし、エールは昼寝中なので行くのなら今しかない。

決めたときには荷物をまとめ、既に村の出口まで来ていた。

 

荷物は数日分の食料や、テントなどを含めた冒険者セット。動きやすい服に、ゴーグル付きの帽子。服の上から軽装のアーマー。武器はALソード(神官が使う剣。母親が職場から横領してきた)、メイス(同様)、そしてヒロシ君(盾。近所のパン屋のねーちゃんからもらった)。

 

さて、後は村を出るだけなのだが……。

 

「どうしたの?早く行かないの?」

 

「……いや。お前何してんの?」

 

「あらひどい。幼馴染を置いて行くつもりなのかしら?」

 

などと宣うのは、何故か村の出口で待ち伏せしていた幼馴染(笑)のアム。

黒いゴシックドレスに草冠を被った少女で、隣の家に住んでいる。

ちなみに幼馴染を自称するだけ有って物心ついたころからの知り合いだが、初めて有った時からまったく容姿が変わっていない。

 

見た目だけは今の俺と近い歳に見えるのだが、実際は何歳なのやら。

……というかコイツ、元ラスボスだ。

 

 

そんな締まらない始まりでは有るが、余計な同行者も連れてこの俺、ビール・モフスの冒険は始まった。

既に色々と終わってしまったこの世界で何をするべきか。

 

それはこの旅の中で考えていこうと思う。

 

……とりあえずは、この幼馴染(笑)をどこかで振り切る所から始めなければ……。




エールちゃんの容姿は女1


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シャングリラのお転婆娘・1

この時点で主人公のレベルは70オーバー


シャングリラと呼ばれる都市がある。

大陸の東半分に住まう人間たちの勢力圏の中心部にあるキナニ砂漠の更に中心。

かつて幻の都市と呼ばれていたそこは、聖女モンスターの力によって人間界の4つの国と結ばれた結果、世界最大の貿易都市となった。

 

リーザス、ゼス、西ヘルマン、自由都市帯の4つの地域からシャングリラへ向かって伸びるアウトバーンは今や昼夜問わず商人の行き来する、経済にとって無くてはならない存在だ。

そんな場所だからこそ、儲けを狙って盗賊が現れるのも必然と言える。

 

 

「ヒャッハァ!エモノだぁ!」

「おら、そこのテメエ!さっさと停まりやがれ!」

 

夕暮れ時。

自由都市帯からシャングリラへ向かって走る一台のうし車を追う盗賊は8人。

その一団は多くの人から見れば奇妙な乗り物に乗っていた。

 

ゴムを履かせたタイヤを二つ前後に並べてフレームに繋ぎ、その上に座席とハンドルを載せたような、自立しそうもないデザイン。

それが爆音と共にタイヤを高速回転させて、アウトバーンをうし車の倍近い速さで疾走しているのだ。

見る人が見ればそれを『バイク』と呼んだだろう。

 

 

 

現在、アウトバーンの安全はシャングリラの警備隊によって管理されている。

とは言え、一本でも数10キロに及ぶ道路が4本。その全体に常に目を光らせることなど不可能だ。純粋に範囲が広すぎる。警備隊も定期的に巡回はしているが、当然のようにそれを掻い潜って強盗をする者もいる。

各国も経済の流れを止めたくはないので軍を派遣して警備を強化しようと打診しているのだが、シャングリラの都市長が頑なに首を縦に振らないために増員は望めないのが現状だ。

 

つまるところアウトバーンは、モンスターが出現する街道を行くよりは安全とは言え身一つで移動するには些か危険な場所だ。

むしろモンスターが居ない分、盗賊が活動しやすいとも言える。

 

この道路を『モンスターが居ない街道』としか認識せずに護衛を雇えない商人が多いため、そういった部分も盗賊にとって美味い話なのだ。

そんなアウトバーンに出現する盗賊団のなかでも厄介なのがこの一団。

バイクの速度にものを言わせて犯行を繰り返し、警備隊が到着する頃には比喩では無く地平線まで逃げる事ができるため、尻尾を掴むことが出来ない。

 

バイク自体、近年やっと流通が始まったばかりであり、更には庶民では手が出せないほどに高価なのだが、何故それを盗賊団ごときが用意できるのか、判明してはいない。

確かなのは、バイクという移動手段をこの一団が手に入れたためにアウトバーンにおける商人たちの被害は、ここ暫くで右肩上がりということだ。

 

 

 

 

「ツイてない……まさかこんな時に……」

バイクの盗賊団に追われる商人。彼も件の盗賊については聞いていた。

とは言え、何故シャングリラが世界一の交易都市になったかといえば、そこまでのアウトバーンにモンスターが現れないからという一点が大きい。

モンスター対策の護衛を雇う費用が浮く分、商人も活発になるという寸法だ。

盗賊などそうそう出ないだろうとタカを括って、今回の護衛も子どものような冒険者2人相場より安値でを雇っただけである。

 

 

そんな商人をあざ笑うかのように、盗賊団の中で最も血気逸る一人の男は、何時ものようにエンジンの爆音と下品な笑い声で威嚇しながらうし車に並走する。そのまま御者台の商人に止まるように命令をした所で。

 

「悪い、幌は弁償する」

 

荷台の幌を突き破って振るわれたメイスに顔面を強打され、そのまま転落、地面に叩きつけられた。

 

「あぁ!?」

「二つ」

 

続けて一振り。不用意にうし車に寄せていた一人を、荷台で立ち上がった少年がメイスで吹き飛ばす。

それだけにとどまらず、走行中に転倒したバイクは後ろに続いていた2台を巻き込み、それに乗っていた2人はまとめてアウトバーンの外へ放り出される事となった。

 

「くそっ、逃げるぞ!」

 

集団の頭はそれなりに判断力があるのか、いつもどおり護衛の居ないカモと思っていた相手に、一瞬にして4人がやられた時点で撤退を決めた。

このまま深追いすれば被害が増えるどころか、警備隊が到着してしまえば全滅もあり得る。そう計算した上での撤退だ。

リーダーを含めた4台は即座にターンを決めると、あっさりと背中を向けて走り去ろうとする。

 

「炎の矢」

 

その背中に向かって容赦のない追撃の魔法。

まとめて3つ放たれた炎の矢のは、盗賊に直撃、あるいは地面に着弾した爆発の余波でバイクを転倒させ、さらに2人を行動不能に。

 

「……逃したか」

 

そして残る2人は仲間に目もくれず、全速力で走り去った。流石に今からでは追いつくことも難しいだろう。

 

「無事か?」

「あ、ああ……助かったよ」

 

護衛に雇った少年、ビール・モフスの問いかけに、戸惑いながらも商人は答える。

今しがた襲いかかってきた盗賊団を一蹴したにもかかわらず、汗一つかかないどころか、表情すら変えていない。

雇った時は「たかが子ども」と侮っていたが、これを見た後では見る目が変わらざるを得ない。

 

結局、その場から動けなくなった盗賊6名は捕縛した後その場に放置、狼煙で警備隊に場所だけを教えて商人はシャングリラへ移動した。

本来は途中で野営をして次の日の昼前に到着する予定だったが、流石に一度盗賊に襲われた後に野営をする気にもならず、少し無理をして夜中はシャングリラに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったより儲かったな」

 

シャングリラの宿の一室。

朝食を取りながら、俺は財布の確認をしていた。

商人の護衛依頼でシャングリラ入りしたのが日付の変わる直前。そのまま軽い食事だけを済ませた後、朝まで熟睡していた所だ。

 

昨日はあまり食べていなかったし、朝食もこれだけじゃ足りない感じだ。懐に余裕があるし、このあと屋台で何か食べるのもいいだろう。

 

家を出て早数ヶ月。俺は既に冒険者としてギルドに在籍し、10件以上の依頼をこなしていた。一番多いのは昨日のような商人の護衛だが、ダンジョンアタックも何度か成功させている。

ちなみに所属はキースギルド。コパ帝国のCITYに本部を置くギルドで、原作に置いて主人公ランスが所属していたギルドだ。ちょっとしたミーハーみたいな行動だが、数あるギルドの中でもかなり大きな所なので悪い選択肢ではない。

ちなみに連日多くの依頼が舞い込むキースギルドであるが、現在は最盛期に比べて勢いが落ちたらしい。

というのも、魔王ランスが在籍していたギルドとして一部で噂になってしまったため、移籍していく冒険者も増え、依頼も減っているとか。

それでも傍目に見て大きなギルドであることは間違いないし、経営状態も黒字続きとのことなので、経営陣はかなりの敏腕のようだ。

 

現在の俺は、とにかく先立つものが必要と言う事で休む間もなく依頼を受けては貯金を増やしている。宿暮らしも身軽で悪くはないが、何れは拠点となる場所が欲しい所だ。

とは言えそれほど急ぐ事でもなし。シャングリラに来るのは初めてだし、一日くらいは観光に当てても良いだろう。

さて、そうなればこの後は自由行動だ。美味いものでも食べて英気を養うとしよう。

 

 

「あら、それなら私の買い物に付き合ってくれないかしら?」

 

楽しみな気分を一言で台無しにしてくれたのは、何故か対面の席でティーカップを傾けていた幼馴染(笑)ことアム・イスエル。

ちなみにここは俺が取った一人部屋なのだが、何時入ったのかとか突っ込むのは無駄だと既に悟っている。

 

そう、村を出た日について来やがったこの女。

あの後、宿を取るためによったとある街で、目的地も教えずに置き去りにすることに成功したのだ。その時は大人しく村に帰るものだと思っていたが、正直認識が甘かった。

 

次にコイツに会ったのはその一ヶ月後。

ギルドの依頼の途中、導く者(シュメルツ・カイゼリン)なる組織とやり合うハメになり最終的に組織ごと叩き潰したのだが、その拠点の最奥で優雅にお茶してやがったのがこの幼馴染(笑)だ。正直組織の名前の時点で嫌な予感はしていた。

 

その後。結局コイツを連れて冒険を続ける事になった。一緒にギルドに登録してからは常に一緒に依頼を受けているせいか、周囲からは俺の相棒だと思われているフシがある。

正直放り出したいのは山々なのだが、迂闊に目を離すと何を仕出かすか分からないというのを身をもって味わったために監視を続けているのが現状だ。

 

「一応聞くが、何を買うんだよ」

「あら、私だって女の子だもの。都会まで来たんだし、ウィンドウショッピングくらいしてみたいと思うわよ?折角だし新しい服も買おうかしら……」

「お前常にその真っ黒ドレスだろうが……」

 

食後の茶を飲みながら、半目でボヤく。

 

「つーか、前から聞きたかったんだけどお前そんなに金持ってるの?あの組織の資金だってどこから出てたのかわからんし」

「ああ、それなら私の不動産収入よ」

 

どこに持ってるんだよ不動産。羨ましいなオイ。

 

そんな話をしていると扉がノックされた。

 

「失礼します」

 

出てみれば居たのは宿の受付嬢。何事かとも思ったが、俺に手紙を渡してすぐにそそくさと戻っていった。

 

「あら?ひょっとしてラブレターかしら。お姉ちゃん、ちょっと嫉妬しちゃうわ……」

「黙ってろ年齢詐称」

 

 

悪態を突きながら封を開くと、そこにはシャングリラの警備隊の署名と、出頭命令が書かれていた。

 




オリキャラ出る所まで進めたかった……


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小ネタ IFのRA15年・1

この作品を書こうと思ったキッカケは、第二部をプレイしながら「あのキャラとの子どもはいないの?」みたいな事を何回か思った事でした。

とか何とか言いつつ、本編でオリ魔王の子が出る前に小ネタに逃げるあたり意志薄弱さが滲み出ている気がする……。

感想欄見てたらふと思いついてしまったんです。


ちなみにサブタイの通り、本編時系列が原作第二部に追いついてもこういう展開にはなりません。


 

地面に叩きつけられたせいか、全身がズキズキと痛む。

エールは何とか立ち上がろうと、腕に力を込める。

 

『貴様、なにか混じっているな……』

 

視界に影がさした。

自分を見下ろすのは、ドラゴンの骸骨のような頭を持つ巨大な悪魔。

以前キナニ砂漠でも襲われたが、今回は本気でマズイ。

先程、大怪獣クエルプランを追い返した力。何故自分にそんな事が出来たのかわからないが、この悪魔はそれに興味があるようだ。

既に仲間たちも倒れ、動ける者は居ない。絶体絶命の状況。

 

捕まったら何をされるかわかったものじゃない。そう思いつつも、自分の手は無意識に剣を取り、この相手に一矢報いようとしている。

最も、そんなことが叶う程の体力も残っていないのだが。

 

『抵抗は無意味だ……。あるがままを受け入れろ……』

 

そうして巨大な腕が、自分を捕らえようと伸ばされ―――

 

『ぐぁっ!?』

 

光と共に衝撃が悪魔の鼻先へ叩き込まれた。

同時に、自分が誰かに抱き上げられる。その誰かは、即座に悪魔から距離を取ると、優しく自分を地面に降ろした。

 

「ゴメン、回復してる時間はなさそう。……ヒーリングは使えるよね?」

 

どこまでも冷静な少女の声。

どうやら自分で回復しろということらしい。

そこでようやく、エールは声の主を視認できた。

 

銀色の軽装鎧に砂色のマント。同色のゴーグル付きキャップから溢れた黒髪を、短めのツインテールに纏めている。目を引くのは左手に装備した大盾だ。

声からイメージした通り考えの読めない無表情を貼り付けた顔は、誰かに似ている気がした……。

 

少女は、するりとALソードを抜くと、エールに背を向けて悪魔ネプラカスに向き直る。

 

『また羽虫が湧いたか……』

「……」

 

苛立ちを隠さない悪魔に対して、少女は無言。

 

次の瞬間、少女は悪魔に向けて疾走する。

 

当然のように振るわれる迎撃の爪を掻い潜り、懐に潜り込んでの一撃。

白い光を纏った剣が、空間に軌跡を残しながら振るわれる。

AL魔法剣―――自分も使う、神魔法と剣の合わせ技だ。

 

だがその一撃にも悪魔は揺るがない。

お返しとばかりに振るわれた爪を盾で捌き、距離を取り、追撃の魔法を魔法で防ぐ。

 

その後は焼き直しのように、少女が飛び込んでは一撃を与え、距離を取り、また一撃。

それは端から見てもギリギリの綱渡りながら、エールたちが回復するだけの時間を確実に稼いでいた。

 

最終的に、自分たちの長兄であるダークランスが助けに現れるまで、黒髪の少女の時間稼ぎは続けられる事になる。

 

実際の時間にしてみれば極僅かな間。しかし、それまでエールたち一行を軽く蹴散らした強大な悪魔を相手に単身で戦い続けた少女の姿は、その場に居た全員の眼に焼き付いていた……。

 

 

 

 

 

 

(もう無理。帰って寝たい。いや、実家に帰れる状態じゃないんだけど……)

 

自分を殺してくれ、などと言ってくる謎の声を追って訪れた死国で、我が妹が悪魔に襲われる場面に出くわしてから10分ほど。

一体何の冗談だと思えるほどバカ強い悪魔との戦いは、ダークランスの加勢によって敵が逃げ出すことで収束した。

 

と言うか何ださっきの悪魔。レベル250超えた今の俺が一撃貰えば戦闘不能になりかねないほど強かったんだけど。勝てる気がしねえ。

少なくとも魔人より強いのは断言できる。階級幾つだよ、ラスボスか何か?

 

などと考えていると、カラーの少女がコチラに近づいてきた。隣にはエールも一緒にいる。

その後ろにはエールのパーティーである魔王の子一行。

リセット・カラーにザンス・リーザス。山本乱義、見当ウズメ、徳川深根。

それ以外にも魔想志津香とナギ・ス・ラガール。あと謎のハニー。

我が妹が魔王の子を集めて魔王退治の旅に出たという噂は聞いていたが、まさかJAPANに来ているとは思わなかったぜ。

 

「あの、さっきはありがとうございます」

 

礼儀正しくお辞儀をするのはランスの娘、リセット・カラー。なんか15年以上経っているはずなのに幼女体型のままだ。

とは言え言動はしっかりと大人びている。会うのは初めてだが、なるほど流石は時期カラーの女王と思わせるだけの貫禄がある。何より話上手なようだ。

俺が年下だと見ても、礼儀を損なわない程度に砕けた話し方で、こちらが「大したことじゃない」と伝えても相手を不愉快にさせない距離感で感謝の言葉を続け……

 

「そうだ!お名前聞かせてもらっても良いかな?」

 

ちなみにそう言ってる間にも、隣にいるエールはこちらをじっと観察するように見ているだけで口を挟んでこない。

ふむ、流石に今の俺をビール・モフスとは認識できないようだ。置き去りにして逃走してから2年だ、バレたら今頃何をされているやら……。

とは言えわからないのも無理はない。

 

 

……なにせ今。俺は正真正銘の女の子になってるからな!

 

 

 

 

きっかけは極単純。

俺とアムはギルドから受けたクエストでJAPANに来ていたのだ。

依頼を達成した帰り。天満橋があるモロッコで宿を取ったので、俺は暇つぶしに周囲を探索していた。当たり前のように幼馴染(笑)も付いてきたのだが。

 

「モロッコ」「探索」という単語を頭に思い浮かべた時点で何かが警鐘を鳴らして居たのだが、その時の俺は大して警戒することも無く探索を続行してしまった。

 

その結果、然程時間を掛けることも無く発見してしまったのだ。『性転換の神殿』を。

 

そして俺は何を思ったのか―――後で考えてみればアムの話術を喰らっていた―――性転換の儀式を受け、エールとよく似た少女の姿になっていた。何故か喋ろうとすると口調が女の子っぽくなるおまけ付きで。

ちなみに鎧は何故か性転換した時点で変形していた。どういう仕組だ……?

 

その後、一晩明けた時点で我に帰った俺は速攻で性転換をし直しに神殿へと戻ったのだが、何故か神殿は破壊された後。

復旧は出来るがどれだけ時間が掛かるか解らないらしい。

 

ちなみにアムは姿を消していた。次に見つけたら泣かす。

 

そうこうしている間に、JAPANの国主が地獄穴を開いている北条早雲を探しているという御触れが出されているのを聞き、開き直って謝礼目的で捜索に参加。

 

死国に地獄穴が多い事を思い出した俺は真っ先にそこへ向かい、死国に入った辺りで謎の声を聞き―――そして今に至る。

 

 

 

 

「……ルビー」

「ルビーちゃんって言うんだ!よろしくね!」

 

ニコニコと笑うリセットの後ろで、ザンスがエールに話しかけている。

 

「おい、アレ出せ。少し気になる事がある」

 

言われたエールがバッグから取り出したのは、「R」のマークがついた手鏡。それをこっちに向けると。

 

―――ピンポーン!

 

何かの音がなった。

それを聞いた一行はマイペースな一部を除いて驚いたような表情をしている。

 

「……、それは?」

 

恐る恐る聞いてみると、答えたのは派手な髪型のハニー。

 

「おう!なんとコレは魔王ランスの血縁者を判別出来るっていうスゲーアイテムなんだよ。まさかJAPANに入ってから3人目が見つかるとは思っても見なかったぜ!」

「ハン!道理でな。随分レベルも高ぇようだし、戦力にはなるな」

 

なにそれ初耳なんだけど。

 

「……何かの間違いじゃないかな」

 

やんわりと否定しておくが、どうやら完全にロックオンされたらしい。特にエールの視線がヤバイ感じになりつつある。

 

「となると誰の子どもかしら……?リセットは面識ないの?」

 

志津香がリセットに問いかけるが、当然彼女は知らない。

なにせ性転換前でも他の兄弟に会った事なんて無いからな。

家を出てから調べた所、法王クルックー・モフスに子どもが居るなんて話は全く聞かないし、俺たち兄妹の情報は徹底的に隠されてるようだ。

 

「……知らない。両親とは会った事が無いし」

 

とりあえずこの場は嘘で切り抜けよう。

狙った通り、この言葉で殆どのメンバーは気まずそうな顔になった。基本的に兄弟たちは善良な人物のようだ。

 

もっとも、空気を読まないやつが一人居るのだが。

 

 

「仲間になってくれませんか?」

 

言わずもがな、我が妹エールである。

 

「ちょっ!?この空気で」

「いや、私は……」

 

ハニワ君がツッコミに回ってくれるが、それで止まるエールではない。

 

「仲間になってくれませんか?」

 

いつの間にか距離を詰め、俺の手をガッチリ握っている。

 

「仲間になってくれませんか?」

「あの、手を離してくれるとありがたいんだけど……」

 

距離が近いし、なんかコイツの雰囲気が怖いんだけど!

 

「仲間に……」

「あーもう!わかった!一緒に行けば良いんでしょ!」

 

結局。

以前置き去りにした負い目もあって俺は旅に同行する事になった。

実際の所、魔王はどうにかしなければならないのも確かで、現状最も可能性があるのはこのパーティーだろう。

あわよくば2年の間にエールの後ろにいるアレの視線がマシになっていれば、なんて期待もあるし。

 

……まあ、当然ながら俺の正体は教えるつもりはないがな。

性転換しましたとか言えるはずも無し。

 

願わくば、この旅が終わるまでに神殿が再建されますように……。




言うまでもなく容姿は黒エールちゃん。

画集の描き下ろし見てやっぱりエールちゃんはいいなと思いました(小並感)


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シャングリラのお転婆娘・2

更新が遅くなりました……。



先程、警備隊に長期の休暇届を出してきた。

時期が時期だからママは難しい顔をしていたが、最終的には受理してくれた。これで来週からはシフトに入る事もなく、自由な時間を満喫できる。

その時間で何をしようかという予定は、全く決まっていないのだが……。

 

15年。ボクは生まれてから殆どの時間をこのシャングリラで過ごし、そのまた殆どの時間を警備隊としてこの街を守りながら過ごしてきた。

シャングリラの警備隊の前身は、カラーの里であるペンシルカウの防衛隊だ。当時の防衛隊の存在意義は、カラーのクリスタルを狙う人間たちから里を護るという、外敵から種族そのものを護るための武力という面が強かった。当然ながら構成員は全てカラーであり、辞めるとか辞めないなどと言うものではなく、カラーの中でも戦う才能を持って生まれたなら、里を護るために戦うのは当たり前というのが常識だった。

 

 

翻ってシャングリラ警備隊は、その名の通り純粋に都市の自治組織に過ぎない。業務内容は自由都市帯にある各都市の警備隊とそう変わらない。

今では他種族の隊員も増えているし、仕事の内容は犯罪者の取締り。間違っても相手が国家規模の軍隊になる事などありえない。

カラーだからといって入らなければならない訳でも無し。辞めるのも自由だ。

 

そんな警備隊に何故ボクが入ったかと言えば、それしか知らなかったから。カラーの成長は早い。生まれて数週間で人間で言う5歳程度の体格と知能は手に入るし、数年で成人すると言って良い。

ボクが生まれたのは丁度ペンシルカウに変わる新たな拠点としてシャングリラに入植する直前であり、戦士として戦えると判断されたのもカラー防衛隊がシャングリラ警備隊へと名前を変えた頃だ。

 

5年、10年と時間が過ぎ、組織の形態が変わっていく中で、自分で選んだ訳でもない警備隊を続ける事に疑問を持ち始めた。同時に、もう辞めても良いんじゃないかと考える事が多くなってきた。

事実、ママはそれでも良いと言ってくれたけど……。

 

それでも私は他に生き方を知らなかったし、まだ警備隊でやりたい事も幾らかは残ってた。そうして「やりたい事」と惰性とでズルズルと時間だけが過ぎ……先日「やりたい事」は全て済んでしまった。

 

もう、流石にここまでだろう。そう思って衝動的に休暇届を出した。

 

実を言えば、なにか警備隊以外でやりたい事があった訳じゃない。

「これまでと違う事をしてみたい」と思いは間違いなくある。もしくは「惰性で生きてちゃダメだ」という義務感か。そして、漠然と「外の世界を見たい」と思ってはいるのだ。

 

同時にこれまでと違う生き方への不安のようなものや、「別にこのままでも良いだろう」という怠惰な感情ががあるのも事実。

 

……まあ、なるようになる。自慢じゃないが要領は良い方だし、図らずとも腕っぷしの方は先日シャングリラ最強だと証明されてしまったから。

 

とりあえず、最後のお勤めだけはやり切ろう。後の事は後で考えればいいさ。

 

 

―――そんな事を思っていた時、ボクはあの2人と出会ったんだ。

 

 

 

シャングリラ都市長の館の一角、警備隊の本部は妙な緊張感に包まれていた。

警戒と困惑、それに僅かな恐怖。

そんな感情が煙のように応接室に充満している。

 

飾り気のない仕事場と言った雰囲気の応接室に居るのは、警備隊の隊長、イージス・カラー。出頭命令を受けて参上した冒険者2人と、それを案内してきた隊員、セピア・カラー。

 

問題は冒険者の片割れ、アム・イスエル。イージスにとって知らぬ相手ではない。当然、良い意味ではない。

部屋に漂う空気はこの2人によって―――正確にはイージスからアムに対して放たれる感情が原因である。

蚊帳の外に要るセピアはただ困惑するのみだ。

 

そして入室して数分、もしかしたら数十秒程度か。

沈黙を破ったのはアムからだった。

 

「あら、お久しぶりね、イージスさん。魔人討伐隊以来かしら?」

 

嫌らしく一拍の間を置いて。

 

「―――パステルさんは元気?」

「っ!貴様―――」

 

ごつん!!

冒険者のもう片割れの少年が無言でアムにげんこつを落とした。

一切動かない表情とは裏腹に、拳の方は盛大に音を立てた。

 

「……うん?」

「え?」

 

困惑するカラー2人を他所に、変わらず無表情の少年が頭を下げる。

 

「連れがご迷惑をお掛けします。この街で妙な事は起こさぬよう監督しますので、ご容赦頂けないでしょうか……」

 

 

「あ、ああ……。とりあえず掛けてくれ」

 

先程の空気から10割増し程度の困惑を浮かべてイージスが頷いた。

 

「もう、痛いじゃない……」

 

頭を抑えながら全く痛そうに見えないアムに関しては、全員がとりあえず無視した。

 

 

 

「……盗賊団の逮捕、ですか?」

 

警備隊に呼び出されて早々アムがやらかしかけたが、どうにかその場は収めることが出来たようだ。そういやコイツ、カラーに散々迷惑掛けてましたね。

俺はなんでコイツを連れてきたんだろう……。いやまあ、目を離した好きにシャングリラで暗躍されても困るんだけどさ。

 

ともあれ、呼び出された件は昨日遭遇したバイク乗りの盗賊連中について。

シャングリラに着いたあとで連中をふん縛って転がしておいた場所を警備隊に通報しておいたので、その件で呼出があるのは想定内だ。

まさか追加で連中の逮捕を依頼されるとは思わなかったが。

 

「ああ。正確には件の盗賊団の調査と逮捕……。とは言えこちらの人員の補助、という形になるがな。昨日の手際は行商人から聞いている。そちらの実力を見込んで頼みたい」

「それは光栄ですが……」

 

仕事を受けること事態は問題ない。提示された書面を見る限り、報酬額も盗賊退治としては相当に割の良い部類だ。

問題は何故わざわざ冒険者に依頼するのか、という点だが。

都市の外に現れる盗賊の退治を冒険者が依頼される事は良くある話だが、あのアウトバーンはシャングリラの管轄だったハズだ。

こちらが補助とは言え、本来は組織内で完結させるべき話だ。自分たちの手柄をみすみす余所者に譲るという話である。

 

「疑問はあるだろうが、詳しい事は受ける事を決めてからにしてくれ。当然ながら依頼に関する内容を口外するのは禁止だ」

 

……なるほど、依頼料は口止め料込か。

 

「つまり、ギルドは通さない形の依頼と。分かりました、受けましょう」

 

「そう言ってくれると助かる。……セピア」

「……、え?はいっ!」

 

イージスが声を掛けたのは同席していた少女。先程からアムの方をチラチラと気にしていたようだが、慌てて返事をしていた。

 

「あとはお前に任せる。彼らと協力して盗賊団を捕まえろ」

「ん、了解!期待して待ってて!」

 

気安い調子で答えるセピアと呼ばれた少女。

その様子を見てふと気になったことが一つ。

 

「……そちらからは一人で?」

「む。そんなに不安?こう見えて結構強いんだけど」

 

如何にも気分を害したと言ったような素振りのセピア。どう見てもからかっている様子なので本気で怒っているワケではなさそうだが。

 

「詳しいことは後で聞いてくれ。彼女の実力は保証しよう」

「そういう事!ま、相手のアジトを探すのに3人じゃ少ないってのはボク思うけどね」

 

こちらの懸念は伝わったようだが、実際どうする積もりだろうか。あちらに案があると助かるのだが。

まあ、最悪レベル補正に依るフィジカルのゴリ押しでローラー作戦とかも出来るので無理とは言わないが……。

などと話している間に、俺の隣に座っている女が再び爆弾を落とした。

 

「……へえ。まさかイージスさんに娘が出来てるなんて。父親はやっぱりランス君かしら?」

 

ゴスッ!

とりあえず肘打ちで黙らせておいた。コイツに喋らせると碌な事が起きないのは目に見えている。

 

「……え?ボクがママの娘だって言ったっけ……?」

 

疑問符を浮かべているのは今回の同行者となるセピア。

話の流れから察するにイージスの娘らしい。

 

話を受けて苦虫を噛み潰したような顔をしているのはイージス。

 

「……あまり余計な事は口にしないでくれ。特にこの建物の中では」

「ああ、パステルさんに知られると面倒だものね」

 

楽しそうにクスクスと笑うアム。

疲れた表情のイージス。

何故か興味深そうにこちらを伺ってくるセピア。

 

ただでさえ面倒な依頼に、アムのせいで余計な面倒事までやって来そうな今回の冒険。

間違いなく俺が苦労させられるパターンだな、などと予想できる程度には冒険者生活にも慣れてきた。

……まあ、慣れただけで苦労するのは変わらないのだが。

 

 

こうして、暫定魔王の子、セピア・カラーとの縁が生まれたワケである。

 

 

 




オリ魔王の子登場回(ホントに登場しただけ)

やはり最初の仲間はカラーの娘。
詳しい事は次の話で。

このペースなら1話ごとの分量増やしたほうが良さそうだけど、とりあえず投稿はしておきたいジレンマ。


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シャングリラのお転婆娘・3

私生活の事もあってなかなか話が進められない。

オリ魔王の子2人め登場(また登場しただけ)
母親とこの展開はまた賛否が分かれそうな所をチョイスしてしまった……。


それからセピアの名前について、感想欄で指摘されるまで03の軍人と名前かぶってたのに気づいてませんでした。カラーの名前だから色関連の単語にしようという所だけ先にあって、他のカラーと名前被りが無いのは確認したんですが……。
今から変えるのもどうかと思うので、このまま行きます。


「とりあえず腹拵えしよっか。どうせ経費で落とせるし、今日はボク奢るよ!」

 

 そう言って連れて来られたのはシャングリラのメインストリートから少し外れた所にある酒場だ。どうやら昼間は軽食をメインに営業しているらしい。少々手狭だが、しっかりと掃除が行き届いているようで、店の雰囲気も悪くない。

 

「んー……オススメは魚料理かな?ここ砂漠のド真ん中だから割高だけど、ここのマスターの料理は食べて損は無いよ。オツマミも良いんだけど今はなー……」

 

 今回同行する事になった少女……セピア・カラー。

 外見だけ見ればスレンダーな美人と言った印象を受ける。当然というべきか、まだ肉体的には11歳の俺よりも背が高い。恐らく成人女性の平均よりも長身だろう。

 ……背の高さの割に胸は控えめな様だが。

 カラーの特徴である水色の髪をポニーテールに結い、砂漠の気候もあってか露出度の高い白い衣装を身に纏っている。美人なのもカラーの特徴だったか?

 ちなみに額のクリスタルは赤だった。カラーのクリスタルって相手の顔を見ると自然と目に入ってしまうのだが、意識して見るのはやっぱりマナー違反だろうか?セクハラで訴えられたらどうしよう。シャングリラの司法機関ってなんかアテにならなそう(偏見)。

 

「おう、セピアちゃん。またパトロールサボって昼間から酒かい?」

「ちょっと!失礼しちゃうなー。今日はお仕事中だよ。昼ごはん食べながらミーティング!」

 

 なにやら店主の中年とは顔見知りらしい。そう言えばこの店に移動するまでにも何度か住民に声を掛けられていたな。警備隊長の娘という立場だが、住民との距離は近いらしい。

 それはそれとして警備隊の職業意識について聞いてみたくなったが、今は置いておこう。

 

「あ、注文決まった?遠慮しないで良いからねー。マスター!ボクはサラダと、揚げ物の盛り合わせと……後はいつものやつね!お酒はナシで!」

 

 顔を合わせてから1時間も経たないが、どうやらよく喋る娘のようだ。意識して見れば顔立ちはイージス隊長に似てクール系だが、お喋りに合わせて表情がコロコロ変わるためか子供っぽい印象を受ける。実際カラーは外見から年齢を探ることが難しいので、如何にもお姉さんといった外見に反して俺より年下という事もあり得るのだが。

 いや、さっきアムが言っていた事が本当なら俺と同じくらいか?

 

 そんな事を考えつつ適当に注文を済ませ、一息ついたところでセピアが切り出してきた。

 

 ちなみにアムはアムで料理を頼みつつ、仕事の話には殆ど口を挟んでこない。毎回この手の話は俺が進めるのがパターンになりつつある。

 コイツに好き勝手喋らせたら収拾がつかなくなるから別に良いんだが。

 

「それじゃ、先に仕事の話済ませちゃおっか」

 

 相槌を打ちつつ、質問を投げかける。

 

「ええ。確認ですが、昨晩のバイクで襲ってきた連中の残りを捕まえれば良いんですか?」

「んー……まあ要点だけ言えばそんなカンジなんだけどね。……あ、ボク相手に敬語は良いから。多分歳も変わらないしね」

 

 言いながら、最初に運ばれてきた簡単なサラダをテーブルの中央に寄せてくる。俺は注文していないが、好きにつついて良いという事らしい。断るのもどうかと思うので、失礼にならない程度に摘みながら続きを促す。

 

「まあ、面倒な相手ではあるけど所詮は盗賊だしね。時間かければどうとでもなるんだけどさ。……正直、ちょっと急ぎで解決しなきゃいけない理由があってさ」

 

 ちらりとセピアが周囲に目を配った。話が聞こえる範囲に他の人が居ないか気を張っているようだ。

 まあ、敢えてその理由を聞く事はすまい。一介の冒険者が公的機関の事情に首を突っ込んでも良いことはない。仕事の内容に差し障りがないなら構わないだろう。

 

「それで、どうやって本拠地を探すんだ?昨日捕まえた連中が口を割ったとか?」

「実はまだ解ってないんだよねぇ……。ウチって一応公的機関だから、あんまりキツイ尋問は出来ないし……。それに、後で言う問題にも絡んでくるんだけど、多分口を割らせるのは難しいかな。大体の範囲は解ってるから、最終的には現地で探索する事になりそう」

「了解だ。まあ、なにか良い手が無いかこっちでも考えておくとしよう」

「で、ボクたちは今から急いで盗賊団のボスを倒して連中を一掃する必要するがあるんだけど、警備隊だけじゃ手が出せない問題が2つ」

 

 こちらと同じくセピアもサラダを口に運びながら言葉を続ける。

 

「1つ。例の盗賊団、ボスが魔物将軍なんだって」

「……魔物将軍というと、あれか」

「そ。魔軍を指揮する上級のモンスターだね。魔王が交代してから魔物界も色々あるらしくてさ、聞いた話によると逃げてきた魔物将軍が居るんだって。ちなみに部下の魔物兵も何体か居るみたい。」

 

 話によるとそういった魔軍の逃亡兵が表に出てこないのは、バイクが魔物たちが乗るのに適していないかららしい。その連中は別に人間に対して軍事的な攻撃を仕掛けるでもなく、手下にした盗賊団に自分たちの為の金や食料を集めさせているのだとか。

 

「なるほど。下っ端もその魔物将軍からの報復を恐れて口を割らないわけだ」

 

 そう聞くと、表に出ないのも目立たない為と考えることも出来るか。最近は人間と魔物の垣根も幾らか低くなっている。逃亡兵である自分たちの存在が魔物界に伝わるのは避けたいらしい。実際、俺のようなただの冒険者という立場では聞くことすら無かった話だ。かなり巧妙に隠れているらしい。

 

「ソイツとは前に一度、警備隊が連中のアジトを見つけた時に交戦してね。……ああ、流石にもうアジトの場所は移ってるよ?魔物の軍団は率いてないけど、魔物将軍自体が普通の兵士じゃ勝ち目が無いくらい強いからなー。ウチだと勝てるのはボクとママくらい?流石にパステル様やリセット様を戦わせる訳にはいかないしね」

 

 と、セピアがこちらに目線を寄越してきた。

 

「その点ビールは強いみたいだし、頼りになりそうだね。レベルもボクと同じくらいでしょ?」

「……さて。足を引っ張らない程度には強いとは思うが」

 

 実の所、俺は自分の強さがどの程度なのか正確には把握できていない。

 どうも俺は、戦闘に関しては才能があるらしい。レベルで言えば70オーバー。これが世界基準で見てもトップクラスだというのは知識として理解している。実際にこれまでの依頼でも、人間魔物を問わず負け無しだ。流石に魔物将軍と戦った事は無いが。

 

 だが逆に、これまで格上と戦った経験が無い。エールとの訓練は同格相手と言えるかもしれないが、あくまで訓練だ。

 旅に出て以降は、質より量で経験値を稼いでレベルアップを重ねてここまで来た。

 そう言った事情もあって、相手の強さを測る基準を俺は持っていない。セピアと相対しても、漠然と強いなと感じ取れるだけだ。

 

「あら、私はどうかしら?」

 

 面白そうに口を挟むのはアムだ。コイツはコイツでちゃっかりサラダを食いまくっていた。仕事の話に口を出さない分、俺より食ってる。

 

「んー……アムさんは何ていうかねぇ……。単純に強さだけ見たら私でも戦えそうなんだけど、それ以上に得体が知れないって言うか……」

「あら、失礼ね」

 

 良いカンをしている。

 追加で届いた揚げ物を摘みつつ、俺はその様子を眺めていた。

 アムは現在レベル80だが、これが才能限界。俺がこのまま鍛え続ければ超えるのは間違いないが、正直レベル100を超えてもコイツには勝てる気がしない。

 これが得体の知れなさから来るものなのか、幼い頃からの苦手意識によるものなのかは微妙な所だが……。

 

 ともかく、これで俺たちを雇った理由はハッキリした。下手に警備隊のメンバーを連れて行って死人を出すよりは、魔物将軍と戦えるレベルの冒険者を雇った方が良いと判断したんだろう。

 

「それで、もう一つの問題というのは?」

 

「ん……まあ、こっちも言っちゃえば警備隊の人たちじゃ荷が重いって話なんだよね。ちょっと事情が特殊なんだけど……んー……」

 

 少し悩んで。

 

「望み薄だけど、事前にどうにか出来る可能性もあるし……。ご飯の後で付いてきてくれるかな。問題の相手と一度会っておくからさ」

 

 丁度届いたドリンクに口を付けてから、セピアが言った。

 

「キミたちにも教えておくよ。場合によっては今回戦う事になる相手……魔王の子について、さ」

 

 

 

 

 シャングリラの外縁部の路地裏。

 元々人が住まない廃墟として砂漠の真ん中に存在していたシャングリラの中には、急速な発展に取り残された結果人が寄り付かない場所が点在している。

 そんな路地裏に数人の男がたむろしていた。それも、どちらかと言えば『ガラが悪い』と評されるタイプの者たちが。

 目を引くのは、近くの壁に立てかけられた人数分のバイクか。一般人では手に入れることが困難な貴重品である。それが人数分。外見で判断するなら、この場にいる男たちが手に入れられるような代物では無い。

 

「んで、あの野郎どもの居場所はわかったのかよ?」

 

 口を開くのはリーダー格と思しき男。青髪に赤のメッシュの入った髪に、サングラスが特徴的な男。黒革のツナギに身を包んだ彼は、他の男達と比べて明らかに若い。せいぜいが10代中盤と言った所だが、周囲はその乱暴な口調に反感を抱く事もなく従っている。

 

「いや……連中、隠れるのは上手くてな……」

「ちっ……」

 

 舌打ちしながら足元の酒瓶を乱暴に蹴り上げる。瓶はそのまま壁にぶつかって粉々に割れた。

 

「しゃあねえ、今夜も出るぞ。さっさと連中にオトシマエ付けてもらわねえとなぁ……!」

 

 コツコツと足音を立てて、3人の招かれざる客が路地裏を訪れたのはそんな時だった。

 

「やあブラック君。相変わらず荒れてるねぇ」

 

 その場の雰囲気にそぐわぬ、軽い調子で現れたのは警備隊のセピア・カラー。この場にいる面々とは一応の面識があった。

 

 

「んだ、テメエ。何の用だ」

 

 億劫そうに答えたのはリーダー……ブラックと呼ばれた少年。他のメンバーは道を開けるように一歩下がった。この場でこの女に勝てるのはリーダーだけだと、実力差を理解しているのだ。

 

「時間も無いから手短に言うけどさ。例の盗賊団、今夜私達が潰すから邪魔しないでね」

「……あぁ?」

 

 その瞬間、ブラックから威圧感が放たれる。仲間である男たちもたじろぐ程の重圧を受けて、セピアは変わらずの笑顔だった。

 ブラックがちらりと目を向ければ、セピアが連れてきた2人も同様。黒いドレスの少女は柔らかな笑顔を浮かべたままで、黒髪の少年は眉一つ動かす様子が無い。

 

「邪魔すんなってのはこっちの台詞だ。手ェ出すなって言っといただろうが」

「そう言われてもねぇ、こっちもお仕事だし。ていうかキミらがさっさと片付けてくれればそれで済んだ話でしょ?」

 

 ブラックがサングラス越しに相手を睨みつける。一方ニコニコと笑いながら、セピアも臨戦態勢だ。

 

「これ以上あの連中の被害が増えるのはキミとしてもアレでしょ?今回は大人しくしておいてくれない?」

「断る。そっちこそ大人しくしとけよ。ガキ引き連れて、余裕こいてるつもりか?」

「んー?この子達の方がキミよりよっぽど強いけど思うよ?」

 

 その言葉に反応したのは、ブラックよりも周りの男達だった。

 

「んだとテメェ!」

 

 その中の一人が肩を怒らせて前に出たのを見て、セピアは後ろの少年、ビールの肩を叩いて前に出した。

 

 

「……おい」

「良いから良いから」

 

 男がビールに掴みかかる。体格的に見れば完全に大人と子供。頭2つ分は体格が違う。

 だがビールは伸ばされた手を取ると、アッサリと男を地面に叩きつけた。母親から教えられた対人用の格闘技術である。

 

「がっ……!」

「何故挑発した……」

 

 苦しげに呻く男を無視して、ビールはセピアに講義の視線を送る。最もけしかけた本人は殆ど気にしていない様子だが。

 

「ま、一応忠告をね。ブラック君さ、どうしても自分たちが関わりたいみたいだけど、この調子だとキミ以外死ぬよ?」

 

 笑いながらも、その警告は重く裏路地に響いた。

 

「相手はホンモノの魔軍だ。喧嘩で済むのはキミくらいのものだよ。仲間が大事なら止めときなって」

「……余計な世話だ」

 

 はあ、とため息を一つ吐いて、セピアは踵を返した。

 

「ま、忠告はしたからね。今夜出てきて怪我しても自己責任で。……ああそれと」

 

 思い出したように振り返って。

 

「またマリアさんからキミの捜索願出てるから。あんまり心配させちゃだめだよ?」

 

 言うだけ言って去っていくセピアに続き、ビールとアムも裏路地を出ていった。

 

 耳に入ってきた内容を吟味して、また面倒事が増えるとビールは確信した



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