ウマ娘プリティーダービー 短編集 (ピーナ)
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あの日を超えて プロローグ 11月1日

競馬ファン歴はかなり浅いですが、ウマ娘は普通に楽しく見ています。なので、勢いで書きました。

あらすじ

1998年11月1日、競馬ファンが「沈黙の日曜日」と呼ぶ第118回天皇賞(秋)の主役にして悲劇の名馬となったサイレンススズカ。
異世界で同じ名前のウマ娘がその運命を逃れたとしたら? 



第7話「約束」をニコ動でリピートして、あのレースのもしもを考えてみました。


秋の天皇賞を数日後に控えたある日。

 

「スズカ、今日から練習禁止な」

 

スピカの練習前の準備体操中にトレーナーがサイレンススズカに突然そう言い渡した。

 

「ど、どうしてですか?」

「いや、温泉まで走らせたのは、期間の開けれる他の奴等と違って秋に何走もするお前にやらせたのはミスだと思ってな。毎日王冠からの間も短かったわけだし、本番までゆっくり休め」

「「「「「お前が悪いんじゃねえか!」」」」」

 

と、ゴールドシップ、ウオッカ、ダイワスカーレット、トウカイテイオー、メジロマックイーンの強烈な蹴りがトレーナーに入る。スペシャルウィークは苦笑いだ。

 

「……分かりました。でも、皆の練習の手伝いは良いですよね?」

「ああ。だけど、絶対走るなよ」

 

 

 

 

『1000メートルの走破タイムは……57秒4! なんというタイムでしょうか!』

 

天皇賞・秋。サイレンススズカが前半1000メートルで叩き出したタイムは玉砕覚悟の逃げ馬が出すような狂気のタイムだった。しかしそれでも心身ともに充実だった彼女にとっては余力を残してのタイムだ。

そして、第三コーナーに差し掛かった時、

 

(左足に違和感!? でも、走れないわけじゃない!)

 

違和感を感じた物のそのままレースを続行するスズカ。

 

『第4コーナーを回って、府中の526メートルの直線に入った! 依然、先頭はサイレンススズカ! 2番手にはエルコンドルパサーだが、未だ30メートルほどの差!』

 

(残しておいた差し足はギリギリまで使わない。ここからは我慢比べ!)

 

『残り400メートル! 坂を上る! 後続がどんどん迫ってきた! サイレンススズカ、このまま逃げ切れるか! それとも後続が飲み込むのか!』

 

3週間前は聞こえなかった足音が聞こえる。

 

(レース前に逃がさないと言ったあの子かしら? けど!)

 

『坂を登り切ったサイレンススズカ! 二番手にエルコンドルパサー! すぐ後ろにヒシアマゾン! 差がどんどん……いや、縮まらない! ラスト200メートルでサイレンススズカ再加速! 後続をじりじりと引き離し……今、ゴール! 二着にエルコンドルパサー、三着がヒシアマゾン! そして、タイムが1分58秒丁度! レコードタイムでの決着となりました!』

 

(やった……先頭のままゴール出来た)

 

気を抜いたからなのか、力の抜けた左足から倒れていくスズカ。しかし、

 

「スズカさん!」

 

真っ先に駆け込んできたスペシャルウィークが彼女を支える。

 

「足、大丈夫ですか?」

 

しかも、スズカの異変に気付いていたようだ。

 

「スぺちゃん、どうして……」

「万全のスズカさんならもっと速いと思ってましたから! あっ、おめでとうございます! スズカさん!」

「ありがとう、スぺちゃん」

 

笑顔のスペシャルウィークと微笑むスズカに近付いていく、他のスピカのメンバー。

 

「スズカ、さっきのスぺの話は本当か?」

「はい……少し痛みがあります。走れないほどでは無いですが……」

「そうか……。まずは、よく頑張った! が、次走以降は白紙に戻す。まずは治す事だけを考えろ!」

「はい」

 

次走に予定していたジャパンカップもアメリカ留学も白紙になったがそれでもスズカの顔は明るかった。

 

「意外と落ち込んでいないな?」

「そうですね。留学できない悔しさもありますけど、スピカの皆と居れる嬉しさが大きいです。皆とならきっともっと速くなれると思いますから」

「スズカさん……」

 

スズカの言葉を聞いて、スペシャルウィークをはじめ、チームの皆の目には光るものがあった。

 

「よーし!」

 

ゴールドシップがスズカを肩車する。

 

「スズカの足の代わりに私がなって、ウイニングランだ!」

「「俺も(私も)やる!」」

「よっしゃ、騎馬作んぞ!」

 

三人の騎馬に乗ってスズカはホームスタンドのファンの前に戻っていく。大歓声で彼女を称えるファンの前に。

 

 

 

こうして11月1日、1枠1番から走ったサイレンススズカは誰よりも速くゴールし、もう一つ1を増やし、歓喜の日曜日としたのだった。

これから、彼女がどのような道を選ぶのだろうか? どのような道を選んでも、そばに皆がいる限り、彼女は戦闘で走り続けるのだろう。




アニメを見て、スズカの故障の原因は温泉へ行ったことだろうと思います。
現状の番組表なら菊花賞→天皇賞は一週間。そりゃ、怪我するだろ。+その年7走目は多いかなあ。



さて、この先ですが、この作品を読んでくれた方にレース選択を手伝って貰おうと思います。詳しくは活動報告の『スズカの次走』を上げておくので参加していただけると嬉しいです。


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札幌記念 堕ちた逃亡者と捕らえられなかった者

暁海洋介様の『札幌記念からの始動、敗北→再覚醒』というのを書かせていただきました。
思った以上に長くなったので札幌記念編と天皇賞編に分かれています。

アニメとは違った復活劇をどうぞ。


「一体、私はどうすれば良いの? どう走れば良いの……?」

 

彼女、サイレンススズカは悩んでいた。理由は数日前の北海道遠征にある。

 

 

 

『さあ、ついにやってまいりましたサマートウィンクルシリーズ最大のレース、札幌記念! 秋のG1シリーズを見据えた芝2000メートル戦! なんといっても注目は10か月ぶりの復帰となる昨年の宝塚記念、天皇賞・秋の勝ちウマ娘のであるサイレンススズカ! 天皇賞後に発覚した怪我によりレースからは離れていましたが昨年の有馬記念、今年の宝塚記念共にファン投票で1位に選ばれました! 復帰を心待ちにしていたファンが訪れた札幌レース場は超満員! URAからの発表で動員記録が更新されたそうです!』

 

 

 

 

レースはいつも通りスズカが後続を突き離す展開になった。異変が起こったのは第3コーナー、突然スズカの脚が鈍ったのだ。第3コーナーからゴールまでが短い札幌レース場だったので何とか3着に残ったものの、秋のG1シリーズに不安の残る一戦になった。何よりもスズカ自身へのダメージが大きかったのだ。札幌記念やその先を想定した練習では2000を逃げ切る事が出来ていたし、それ以上の距離の模擬レースもこなせていた。実際、実績を積んだスペシャルウィークにも先着で来ていたのだが、本番で脚色が悪くなった。その理由が彼女には分からなかったのだ。

 

 

 

「スズカ、お前にお客さんだ」

 

練習の途中でトレーナーそう告げられたスズカ。

 

「スズカ個人に客? 珍しくね?」

 

ゴールドシップの言う通り、ウマ娘個人への来客というのはあまりない。取材は合同会見、敷地内は原則関係者以外立ち入り禁止なので来客は家族位なのだが、スズカの母は彼女のデビュー直前に亡くなっている。

 

「誰ですか?」

「行けば分かるさ」

 

 

寮の応接室にやって来たスズカは待っていた人物を見て驚いた。

 

「や、スズカ。久し振り」

「サニー……あなたもウマ娘なのに来客?」

 

サニーブライアン。スズカと同期であり三冠レースで皐月賞とダービーを制した二冠ウマ娘。逃げの戦法を得意とするスズカが唯一捕まえられなかった相手である。

 

「脚の怪我で引退したからね」

「そ、そうだったの……ごめんなさい」

「気にしないで。怪我の間は迷ってたけど、去年のスズカの走りのお陰で諦められたから」

「諦められた?」

「うん。完成したスズカの走りをされたら、私がどれだけ頭を捻って作戦を考えても勝てないだろうからさ。なら、スパっと辞めた方がカッコいいじゃん?」

 

笑いながらそういうサニー。

 

「私は……そこまで割り切れない」

「……だよね。私もそうだった。やりたい事は見つけれたのに、もう一度レース場に走りたいって思った。でも、練習に復帰しても前みたいな走りは出来なくて、どうすれば良いかを考えていた時、スズカのレースを見て同じスタイルの君に勝手に夢を託したんだ」

「夢を託す……」

「そ。もっと走れたかもしれない私の、負け続けながらも走り続けたかもしれない私のね」

 

きっとそれは、親が子供に託すような、アマチュアスポーツのエールの交換のようなものだろう。

 

「これはスズカは気にしなくても良いよ。私の心の落としどころだから」

「私は……走れなくなるのが怖い。まだ、走っていたい。まだ、諦めたくない」

「諦める必要なんてないよ。札幌記念のスズカは去年と遜色なかった」

「でも、第三コーナーであの痛みがもう一度来るんじゃないかって……」

 

誰にも言えなかった心の内を涙声になりながら語るスズカ。チーム内で憧れの存在だった彼女にとって弱音が吐ける相手が居なかったのだ。

 

「分かるよ。私もレース中の怪我を味わった身だし、治ったと言われてもまた来るかもって身構えるよね。特に怪我をしたのと同じ地点だと。うーん……スズカ、次走は?」

「えっと、オールカマーか毎日王冠から天皇賞をを考えてるけど……」

 

共に天皇賞・秋の前哨戦として使われるレースであり、強豪ウマ娘達が秋の初戦として使うのでレースのレベルもG1並みになる事でも知られる。

 

「両方スキップで直接天皇賞行こう。ギリギリまでトラウマの治療に充てる」

「ちょ、ちょっと待って! サニーは一体どういう立場なの?」

「今はチームの垣根を超えたアドバイザーかな。勉強したでしょ? ウマ娘の関連職業優遇制度。いずれはトレーナーになって帰ってくるつもり」

 

華やかな世界にいる彼女達もやがては引退する。そして一生というのはそれからが長い。完全に競技関連から離れる人も多いが、裏方に回る人も少なからずいる。

しかし、裏方は専門職なので、かなりの勉強がいるのだが、現役中に得た知識という形で学んでいる事も多い。有用な人材を早期育成という面も含めて、現役のウマ娘を支える職業に引退した娘たちが就きやすくする制度が『関連職業優遇制度』なのだ。

 

「でも、トレーナーになったウマ娘って聞いた事無い」

「大体は故郷に戻っての幼年期育成に携わるってのが多いらしいよ。でも、私はお節介焼きだからさ。現役の皆に関わりたいんだよね。で、ちょっと前に東条さんに呼び戻されたんだ」

「そういえば、タイキシャトルが短距離に専念した切っ掛けが当時二冠を取って世代の代表になったサニーに相談した結果というの本人から聞いたわ」

 

事、レースの戦術とウマ娘達に合った走り方を見極める目に関してはトレーナー側からも認められていて、チームに属さず、世代の頂点にまで上り詰めたのだ。

 

「あー、怪我で時間があった時期に色々相談を受けたことがあったね。シャトルはダート路線、天皇賞・秋への挑戦とかもあったけど、彼女はスプリント~マイルがベストなんじゃない? とは言ったね。去年の毎日王冠に出て欲しかったなあ」

 

リゲルの問題(エルコンドルパサーとグラスワンダーとレースが被る、短距離専門が少なく、前週にスプリンターズステークスがあった)もあって、実現しなかったが、もしもシャトルが参戦していれば、どうなっていたか分からない。

 

「それは楽しそうだけど、厳しいレースになったと思うわ」

「だねー。……よし、タイマンを毎日やろうか。時間は……夕方の5時位から。第三コース左回り、距離は1600から始めていずれは2000メートルかなあ」

「それがトラウマの治療になるの?」

「なるかもしれないけど多分ならないね。結局はスズカが乗り越えないといけない事だから。多分、結果はどうあれ天皇賞を全力を出して走りきらないと治らないと私は思うよ。けど、G1なんだ。私はスズカに勝ってほしい。私のわがままだけど、怪我したスズカを終わった存在にさせたくない。だから、2冠を獲った私の頭でスズカを進化させたいんだ」

「進化……それは良く分からないけど、私は勝ちきれなかった時、サニーの走りに憧れたの。全てを使って何が何でも勝ちに行く走りを」

「華も能力も足りないだけだよ。自信があったのはスタミナだけだったし、実際、大きい所は2冠だけだし」

 

サニーの生涯戦績は10戦4勝でメインレースでの勝ち星は皐月賞とダービーだけである。しかも両方とも人気薄での勝利だった。ダービー前に彼女が言った『一番人気じゃないのは別に良い。一生に一度なんだから、ダービーの1着が欲しい』という言葉は勝負師の彼女を表す言葉としてピッタリだと、学園内でもちきりだった。

 

「逃げの戦法を始めたのはあなたを見てなのよ? 慣れるまで時間はかかったけど」

「ありがたいけど、スズカの場合スピードの絶対値が違うだけだからなあ。私的に逃げとして合格なのは宝塚~天皇賞の3レースだよ」

「厳しいわね」

「んじゃ、スズカに戦術のいろはもついでに教えちゃおうかな」

 

 

ターフを駆ける異次元の逃亡者の復活はターフを駆けた天才勝負師の頭脳に託された。サニーブライアンをよく知る同期達はこの話を聞いてサイレンスズカの復活を確信した。それは他ならぬ自分達が彼女の相談を切っ掛けに成長出来た事を理解しているから。




オリキャラとしてサニーブライアンを登場させました。


サニーブライアン

「まあ、人気は他の子に譲るよ。勝ちは頂くけどね」

学園随一のレース巧者であり頭脳の持ち主。元々、レースの戦略を立てるために同期を中心に相談に乗っていた所、生来の面倒見の良さとお節介を発揮してアドバイスをしており、それで自身の道を決めたウマ娘も多い。
チームの垣根を超えた活動をしていたために特例としてチームに所属せずに活動していた。
レースでは持ち前の頭脳とデータ、それを無視する自身の勝負勘を活かした逃げを見せ、コアなファンが多い。
『皇帝』シンボリルドルフをして「奇才」と評されるレースで人気薄で2冠馬となったのち、怪我で引退。現在はトレーナーを目指しながら学園内でアドバイザーとしてウマ娘とトレーナーの間に立っている。
また、麻雀が得意でトレーナー、一部のウマ娘が参加しているトレセン学園麻雀リーグ(1リーグ3か月)で8連覇中。

……この子で『サニー トレセン学園に降り立った奇才』というネタを思い浮かべました。

合宿編を見る前に書いたのでスズカの敗因は怪我への恐怖というのは読みやすかったのですが、復活をどうするかを考えた時、スズカに弱音を吐かせて導ける存在がいるかな? と思い、同期の2冠馬である彼女を作りました。
スズカのいる97年クラシック世代と言えば実装されているだけでもタイキシャトルやシーキングザパール、メジロドーベル、マチカネフクキタルもいるのですが、牝馬の二人やフクキタルは少し物足りないかな? と思い、実績ならタイキシャトルもアリなのですが、王道路線で最も活躍し、同じ逃げ馬で怪我をしたサニーブライアンが良いのではと思い、誕生させました。
二次創作する上で使っていただけたらなと思います。

天皇賞秋編は近い内に上げれるように頑張ります。


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天皇賞・秋 先輩の意地

後編の天皇賞・秋編です。

レース描写って大変です。


「さって、天皇賞・秋。大本命は凱旋門賞2着からのエルコンドルパサー、対抗に毎日王冠を勝ったグランプリウマ娘のグラスワンダーに札幌記念を勝ったセイウンスカイ。京都大賞典の惨敗が気になるけど、体を絞ってきて、スズカと一緒に走りたがっていた、天皇賞春秋連覇を狙うスペシャルウィーク。相手は強敵ばかりで厳しいけど……私のダービー前以来の四暗刻緑一色が来たし、問題ないでしょ。頑張れ、スズカ」

 

 

 

ターフ入り前の地下道に私は居た。

 

「そういえば……」

「どうしたんですか、スズカさん?」

 

私の横には苦しかったこの1年間一緒に居てくれた、スぺちゃん。1年越しの約束が叶った形だ。

 

「去年はこの辺で左の靴紐外れたなあって思い出したの」

 

今思うとあれが故障の予兆だったのかもしれない。でも、今は何も起こってない。きっと……何も起こらない。

 

「そんな事があったんですか?」

「ええ。……ずっと練習別メニューだったけど、スぺちゃんの調子は?」

「……分かんないです。ダービーの時に近付けるようにダイエットはしてましたけど、どうなるか……」

 

スぺちゃんは私のせいでレースへの集中力を欠いた状態で宝塚でグラスちゃんに負けてから調子を崩している。秋の始動戦でも7着に負けて、ベストだった状態を思い出すためにダービーの頃に近付けるメニューを行っていたらしい。

 

「スズカさんはどうですか?」

「体調は良いと思う。後は気持ちだけ。誰よりも速くゴール板を超える事だけ」

 

その為に私は大欅を超えないといけない。サニーの為に、私を応援してくれる人の為に、何より自分の為に。

 

「そうですね! 誰よりも速く駆け抜ける、それだけですね! 私もサニーさんに相談してヒントを頂きましたし!」

 

サニーはいつの間にかスピカの皆とも仲良くなっていた。あの気まぐれなゴールドシップすら制御できるのだ、トレーナーはピッタリかもしれない。

スぺちゃんの『ダービーの頃を思い出す』というプランもサニーが言った、「不調の時は良い時のを見て思い出せばいいよ」という言葉が切っ掛けだった。

 

「スぺちゃん、全力で頑張りましょうね」

「はい!」

 

 

 

 

『過去最高と言っても良いレベルの出場選手がそろった天皇賞・秋! 連覇のかかるサイレンススズカか? 春秋制覇を狙うスペシャルウィークか? 世界に名を轟かせたエルコンドルパサーか? グランプリ連覇のグラスワンダーか? 二冠ウマ娘のセイウンスカイなのか? シニアクラス最高の栄冠を賭けて、間もなくスタートです!』

 

 

 

ゲートが開かれてスタートを切る。私はいつも通りの先頭だ。レース前にサニーに言われた事を思い出した。

 

『逃げってのは基本的に繊細な物なんだ。後続の馬との差、自分の最後の差し脚、諸々を計算に入れてレースを組み立てなんなきゃならない。綺麗にはまったのが私の2冠だったり、去年のセイウンスカイの菊花賞だな。だけど、スズカは違う。君はスピードの絶対差で勝手に逃げを作れる。それは皆知ってる。そこを上手く使えば簡単に勝てるだろうよ』

 

それを聞いた時、彼女が学園に戻って来てからスピカのトレーナーを含めた何人かの大人と麻雀をして、勝ちまくっている事を知っている私としては勝負師としての彼女のここ一番の勝負勘があって成立する事だと思った。

 

(今回一番厄介なのはセイウンスカイ。ペースを乱されると途端に厳しくなるけど……)

『セイウンスカイは札幌で沈んだスズカを見ているから大逃げを打っても「前回より差を付けようと考えている」、途中でペースを落としても「もう限界」と思うはずさ』

 

負けから学ぶ。三冠レースの頃は当たり前だった事を札幌の後に久し振りにした。それから一歩進んで負けを活かす方法をサニーは教えてくれた。

 

『前半1000メートルを通過! 先頭はサイレンススズカ、去年とほぼ同等のタイムで駆け抜けていきます! 少し離れてセイウンスカイ、さらにそこから離れた中団にエルコンドルパサー、グラスワンダー、スペシャルウィークは後方待機です』

 

『最初の1000メートルはいつも通りで良いよ。他の子のハイペースがスズカのマイペースだから。肝はラストの直線までの400メートル』

 

(この400メートルで一息入れる。そうすれば)

 

「一流と超一流の差は回復力。スズカは当然超一流。1ハロン(200メートル)11秒台をマイペースで出せるスズカが12秒台後半で2ハロン息を入れれば、最後まで粘れるし……」

 

『最後の直線に向いた! 先頭はサイレンススズカ! すぐ後ろにはセイウンスカイ! 中団からエルコンドルパサー、伸びて来た! その後方、グラスワンダーとスペシャルウィークがものすごい脚で突っ込んで来る! 5人の大接戦! だれも先頭を譲らず最後の坂を登る!』

 

横から足音が聞こえる。誰もが一着を、センターを狙っている。ただ、私には一つの思いがあった。というのも昨日の最後のミーティングでサニーの立てたレース展開の予想がぴたりと当てはまっていたのだ。ここまで来ると凄いを通り越してちょっと怖い。

本人曰く、「私の皐月~ダービーの頃以来の勘の冴えだね」らしいけど、あの勝利もプラン通りだったのだろうか? ……これに勝てたら聞いてみよう。

 

「さて、皆脚色は同じ感じ。スカイはスズカの追走で、後方からの三人は追いつくための脚で一杯、スズカも決して楽じゃない。けど、スズカには私を含めた一部同期しか知らない秘密がある」

 

(まさか、学園に来た時の事まで引っ張り出されるなんてね)

 

『5者横並びで坂を登りきった! サイレンススズカ! セイウンスカイ! エルコンドルパサー! グラスワンダー! スペシャルウィーク! ラスト100メートル!』

 

「今だ!」

(ここ!)

 

『サイレンススズカ、ここで再び加速! そして、そのままゴール! サイレンススズカ1年ぶりの勝利! 史上初の天皇賞・秋連覇という偉業を達成しました!』

 

 

 

 

「……やっぱ、スズカは桁外れだわ。世代的には下の子達もヤバいけど。ま、とりあえずはおめでとう、スズカ」

 

 

 

「やった……」

 

私はゴールから100メートルほどで立ち止まり、勝利の味をかみしめる。電光掲示板を見上げるとまさかの4人同着だった。正直、私が勝った事より驚きだ。

1年前は私の走りたいように走れば勝てた。走るのが好きな私は沢山走り続けた(実績が無かったのもあるけど)。その末にパンクしたのだと思う。けど、リハビリと復活までの1年で支えてくれる人、応援してくれる人、一緒に進んでくれる仲間に気付けた。走りたい理由、勝ちたい理由が出来た。留学は無くなったけど、貴重な経験で決して遠回りじゃ無かったと思う。

 

「スズカさん!」

「スぺちゃん」

 

ずっと私の傍で心配してくれたスぺちゃんが私の傍に駆け寄ってくる。意外と元気そう。中長距離が主戦場なだけあるなあ。

 

「最後、凄かったです! あんなスズカさんの走り、初めてみました!」

「私もデス!」

「まるで私やスぺちゃんのような後ろからレースをするような娘の脚でしたね」

「私より前で走って、あんなのされたら無理ですよ」

 

いつの間にかエルちゃん、グラスちゃん、スカイちゃんにまで捕まった。レースじゃ捕まらない自信があるんだけど。

 

「あれはデビューする前、学園に来てすぐに教えられた走り方なの。私の性格の問題で後ろからのレースは出来なかったけど、活かす方法はなんとなく怪我する前に気付けてたの。それを札幌記念の後にサニーと体系化させて、磨いたの。これから武器として使えそう。皆のお陰で自信が付いた」

「これは厄介な人に厄介な自信を付けちゃったかなあ。私とスぺちゃんは長距離に逃げれるけど」

「私とエルは対決する機会が多そうね」

「次は負けマセン!」

「次も私が勝つわ。……と言っても、怪我明けだし、今年は走るかどうか分からないけど」

 

秋の王道路線は毎月の末にG1が待っている。怪我明けで皆勤は厳しいだろう。

 

「となるとスズカさんの適距離のレースって……3月の中山記念まで無い?」

「いや、1月のAUCGがあるよ」

「あ、あのね、私に気にせず、自分の目標に向かって走る方が良いと思うよ?」

 

日本の最長G1である天皇賞・春に勝ったスぺちゃん、二番目に長い菊花賞に勝ったスカイちゃんは言わずもがな、エルちゃんとグラスちゃんも私より長い距離で結果を出しているから、2000前後が主戦場の私と無理に合わせる必要はないと思う。

 

「「「「スズカさんに勝つのが目標です!」」」」

 

こういってもらえるのも先輩の冥利ではあるのだけど、やっぱり自分の事も考えて欲しいな。

 

「……交わったら、きっちりお相手するわ」

 

彼女達4人を含めてこの世代は多士済々。そんな彼女達を相手に壁となれるのは私とシャトル位。先輩の意地も見せないとね。




やり過ぎたかな? と思いますが接戦には出来たかなと思います。

現実の競馬でスぺちゃん達の世代の壁となった馬というのが居なかったように思います。1歳上の有力馬は古馬の時に殆どいなかった(メジロドーベル位?)のですが、この世界は短距離のタイキシャトル、中距離のサイレンススズカが立ちはだかり、面白いレースを繰り広げてくれるでしょう。


短編集にしたので、スズカの次走でのご意見を見てこれとは違った歴史にしたいと思います。天皇賞・秋はこのような感じに収束していくでしょうが。


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ジャパンカップ 世界へ飛び立つために

もしもスズカの故障が問題なくそのまま予定通りジャパンカップに進んだら? というIFです。あくまで僕の妄想の上で成り立っているのでそれはご了承ください。


「東京競馬場、芝2400メートル……ダービーと同じ。あの時私は9着だった。けど……今回は」

 

 

スズカの脚のダメージは検査の結果、大した物ではない事が判明した。念のため、ウイニングライブを欠席し2週間の休養を入れ経過を見て当初の予定通りジャパンカップを次走に選んだ。

他の有力ウマ娘で出走を決めているのは、スズカに三度目の挑戦をするエルコンドルパサー、宝塚記念のリベンジを誓うエアグルーヴなどもいるが、最も注目されているのは当年のダービーを同着で勝利し、セイウンスカイが世界レコードで逃げ切った菊花賞でも二着に入って、尚且つスズカと初対決であり、ルームメイトでチームメイトでもあるスペシャルウィークだった。

 

 

 

 

「スズカさん! いよいよ一緒のレースですね!」

 

入場前の地下道にてスぺとスズカ、勝負服に身を包んだ二人で話していた。

 

「そうね、スぺちゃん。それと今日のレースは1年半前の私との勝負でもあるから」

「1年半前……ダービーですね?」

 

スぺ自身のダービー前にスズカは自身のダービーの事を話していた。実力はあったものの、まだ完成しきっていなかった彼女の走りとレース巧者だった同期の皐月賞ウマ娘の逃げの前に負けたのだった。

 

「あの時出来なかった事を今、最高の舞台でしたいと思うわ。その上で勝つ」

「簡単には勝たせません! 春以上の走りでスズカさんに勝ちます!」

 

 

 

 

『さあ、今年も様々なドラマを生み出してきた東京レース場! 最後の大舞台は世界のトップウマ娘達も参加する国際G1ジャパンカップ! 選ばれた18人のウマ娘、たった一つの栄光を掴むのは誰なのか!? 日本が世界に送る至高の2分30秒、スタートです!』

 

抜群のスタートを決めて、先頭に飛び出したスズカ。二番手以下はメートルほど後方で控える。スぺは最後方にいる。

 

『先頭はサイレンススズカ、持ち前の快足を活かし、後続との差をどんどんと放していく! 続いてエルコンドルパサー、エアグルーヴと続きます! スペシャルウィークは最後方からのレースですが届くのでしょうか!?』

 

一月前のレースを見るかのような大逃げを見せるスズカ。

 

『今、1000メートルを通過! タイムは57秒5! とんでもないタイムを見せてくれます、サイレンススズカ! 後方集団とは15~20メートルほどの差を付け独走!』

 

差を維持しながらバックストレートの坂を上り、スズカが第3コーナーに差し掛かったところで後方集団に異変が起こる。

 

『おおっと!? 最後方に控えていたスペシャルウィーク、第3コーナーに入った所で進出を開始! 少しずつ順位を上げていく! 4番手、3番手、2番手まで行った! しかし、先頭のサイレンススズカまでまだ15メートルほど!』

 

本来瞬発力を活かし、最後の直線での爆発的な加速での『差し』の戦法を得意とするスぺが超ロングスパートの『捲り』を見せたのだ。これには観客からもどよめきの声が上がる。

 

『さあ、真っ向勝負の最後の直線! 先頭にはサイレンススズカ! 2番手はスペシャルウィーク! 差は15メートルほどに縮まっている! 3番手以降との差は少しある! 実質2頭の勝負か!? 差が縮まりながら坂を上る!』

 

逃げるスズカ、じりじりと差を詰めていくスぺ。高低差2メートルの坂を駆け上がる。

 

『坂を登り切った! サイレンススズカ、ここで再び伸びる! なんというウマ娘だ! しかし、スペシャルウィークの末脚も凄い! 差が縮まる! ついに逃亡者の影を捉えた!』

 

並んだ二人。そしてその並んだ地点が

 

『ゴール! 二人並んでのゴール! 勝者はどっちだ!』

 

電光掲示板の順位発表の1着と2着の所は未だに発表されていない。しかし、会場には驚きの声が上がっている。

 

『タイムは2分22秒! 2分22秒丁度! 世界レコードです! レースの結果は写真判定ですが、サイレンススズカとスペシャルウィークが叩き出したタイムは芝2400メートルの世界記録! ジャパンカップ史上に残る激走でした!』

 

 

 

「お疲れ様でした、スズカさん!」

「お疲れ、スぺちゃん」

 

レース場から控室に戻る地下道で二人は並んで歩いている。

 

「それにしてもスズカさん、今日は途中でペース落としてませんでした?」

「気付いてたの、スぺちゃん? 少しね」

 

スぺの指摘に驚きながら答えるスズカ。

 

「……東京の2400って完敗だったダービーしか走った事が無かったから、久しぶりに自分のダービーを見直したの。そうしたら、綺麗な逃げ切りをされてたから、参考にしたの。他の皆は私が好きに走ってペースがかなり早くなるって分かってたから、ちょっと緩めたのよ」

「後ろの私達は一番前のスズカさんを基準にペースを見ますからね。スズカさんが普段よりゆっくりになったら少し離れた後ろの私達はスローペースのレース展開になってスズカさん有利になりましたね」

「でもスぺちゃん、どうして私がペースを落としたのを気付いたの?」

「それはいつもスズカさんの事、いつも見ていましたから!」

「ふふ、ありがとう」

 

 

 

このレースがサイレンススズカとスペシャルウィークの最初で最後のレースになるかどうか、今は誰にも分からない。

 

「とりあえず、一年お疲れ様スぺちゃん」

「お疲れさまでした!」




タイムはやり過ぎました。


サイレンススズカの距離適性の可能性


僕自身はサイレンススズカは2400こなせたと思います。現実でスズカが2400を走ったのはダービーのみ。それも能力を発揮できない中での9着なので、考えないものとしました。
スズカは2200の宝塚を勝っています。夏より秋冬のJCの方が消耗は少ないと思うので行けると思います。

血統構成の面からの考察

サンデーサイレンスは成績的に中距離の種牡馬と思われていると思います。確かに一番長いベルモントSの2400は二着ですが8馬身差の惨敗でした。
しかし、この年は歴代2位(1位はぶっちぎりのUMAなので気にしない)で平均的なタイムなら勝っていた可能性が高いです。
母親はスプリンターだったそうですが、母父のミスワキは産駒に凱旋門賞馬もいる名種牡馬で母父ミスワキの馬と言えば今をときめくガリレオ、シーザスターズの兄弟をはじめ中長距離の活躍馬が沢山いますし、サンデー系×ミスワキで菊花賞馬のザッツザプレンディという例もあります。まあ、能力の全てが分かっていないので想像の域を出ませんが、あくまで一意見という事で。




次は何処を書きましょうかねえ。


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二人の3冠ウマ娘シリーズ 2冠ウマ娘と新人さん ついでに未完の大器と絶対王者

今までとは違う短編です。3~4話で纏められたらなあ。


私がトレセン学園に入学した頃、トゥインクルシリーズは類を見ない位盛り上がっていたと思う。

 

 

 

数多のウマ娘と同じく私もレースとウイニングライブに憧れた。子供の頃から華やかなスターウマ娘は何人もいた。地方からたたき上げたハイセイコーさん、激しいライバル関係だったトウショウボーイさん、テンポイントさん、グリーングラスさんなど、私達の世代が憧れた物だ。けど、強さの象徴は居なかった。

日本のトゥインクルシリーズにおいて、強さの象徴と言えば戦後初の3冠ウマ娘シンザンさん。大レースを獲り逃さず、当時あった大レースをすべて取った伝説の5冠ウマ娘。彼女を超える事、それがすべてのウマ娘やその関係者の合言葉にいつしかなっていた。

 

 

 

私が入学してすぐの頃、ある一人の先輩と出会った。中長距離がメインだった日本において、短距離に注目を集めさせ開拓していった先駆者、『短距離の絶対王者』ニホンピロウイナー先輩だ。高飛車なお嬢様然とした風貌とは違い、非常に面倒見も良く、私の先代の生徒会長でもあった彼女にデビュー前から目をかけてもらっていた。

 

「ルドルフ。貴女はあのシンザンさんを超えるようなウマ娘になるかもしれないわね」

 

ある時、彼女は私にそう言った事があった。しかし、彼女達の世代には2冠を制し、3冠目にチャレンジする権利を持っていたミスターシービー先輩がいた。ウイナー先輩はシービー先輩と仲が良く、一緒に居る事も多かったのだが、それだからこそ何故私にそんな事を言うのか分からなかった。

確かにその当時から自分の実力に自信はあったし、3冠を狙う心積もりではあったが、『3冠を獲れる』などという言葉を簡単には吐けなかった。

 

 

 

私のデビューが11月の末に決まって、そこへ向かって調整をしていた時、シービー先輩の3冠の掛かった菊花賞の直前の事だった。

遅くまで練習をしていた私が更衣室に戻ると、更衣室の入り口から明かりが漏れていた。誰かいるのか除いてみるとシービー先輩が一人でいた。彼女は一人で脚のアイシングをしていたのだ。それだけなら自己管理の範疇で片付けられた。けど、その横には大量のテープが置かれていた。それから考えられるのは一つだけ。あの人は脚を練習中からテーピングでガチガチに固めていたのだ。

勝負服が珍しくロングパンツスタイルで、練習中もそうなのは慣れるためだと思っていた。けど、それは違った。痛々しいテーピングを誰にも気付かせないため。事情を聴こうと私が室内に入ろうとした時、後ろから止められた。振り向くとウイナー先輩とカツラギエース先輩がいた。

 

 

 

「あー、見ちゃったか。シービーの秘密」

 

更衣室の裏手に連れていかれた私にエース先輩はそう言った。

 

「先輩、シービー先輩のあのテーピングは?」

「あれはアイツの脚の爆弾をかばうためのだよ」

「分かったのはクラシック前の練習中だったかしら。それからずっとテーピングとアイシングでだましだましやっているの。これは他言無用よ」

 

あり得ない。確かに3冠レースは一生に一回だけど、治してからでもシービー先輩の実力なら大きいレースをいくつも勝てると思う。

 

「なんで! なんでそんな事をしてるんですか! おふたりもどうして止めないんですか!?」

「止まらないわよ。あの娘はマイペースだけど頑固で責任感が服を着ているような娘なの」

「アイツは自分に能力があるのを知ってる。だから、3冠ウマ娘になって自分がトゥインクルシリーズの旗頭になろうとしてるんだよ」

「旗頭……」

 

確かに私が入学する直前のトゥインクルシリーズはスター不在だと言われた。中距離までなら『スーパーカー』と謳われるマルゼンスキー先輩がいるけれど、王道路線には何年も核になる存在が居ない。

 

「短距離を狙った私も発展途上なエースもあの娘を止められなかった。きっと、シービーは壊れるまで走り続けるでしょうね。止められるとしたら、あの娘と同じくらい、ひょっとしたらそれ以上の実績を作れる貴女だけよ」

「私だけ……」

 

ウイナー先輩が言った言葉の意味が分かった。距離不安が無ければシービー先輩は3冠ウマ娘になるだろう。そんな先輩を止めれるとしたら、シンザンさんを超えるようなウマ娘じゃないといけない。ウイナー先輩は私にそれを見出したのだ。

 

「デビュー前のルドルフに言うのも酷だと思うけどな。まあ、あんまり気にすんなよ。お前まで怪我したら元も子もないし」

「それに脚に不安があっても、あの娘は正真正銘の怪物よ。ベストディスタンスは中距離までなのに圧倒的な能力とセンスでそんな物を乗り越えるんだから、私達の心配なんて杞憂かもしれないし」

 

そう言ったウイナー先輩の顔には不安の色があった。

シービー先輩の絶大な人気の裏に最後方から最後の何百メートルで全部を抜き去る極端な『追い込み』戦法である事が理由だと言われている。派手だけど、取りこぼしもあるし、シービー先輩ならもっと前でのレースの方が安定して勝てると思っていた。けど、あの極端な戦術は距離適性を誤魔化すための苦肉の策だった。

 

「……1年後、無敗で3冠ウマ娘になって、シービー先輩を倒します。目標は……ジャパンカップ」

「言い切ったな。OK、私もそこまでに自分の走りを完成させるか」

「エースは普段せっかちなのに一部はのんびりなのかしら?」

「私もシービーと同じでマイペースなんだよ。……ルドルフ」

 

真剣な表情で私の名前を呼ぶエース先輩。

 

「無敗って言ったけどレースに絶対は無え。シービーだって負けてる。シンザンさんだってパーフェクトレコードじゃない。それでも挑むのか?」

「はい。私が絶対を証明して見せます」

「そっか……あー、やっぱり私にシリアスは似合わねえわ。こんなのはウイナーの仕事だろ」

「エースは普段からそうしていれば後輩からの人気ももっと出るでしょうに」

 

後輩人気では抜群のルックスと強さを持つシービー先輩が1番人気、才色兼備、文武両道の生徒会長ウイナー先輩が2番人気でエース先輩は3番人気だけど、マイペースで強者のオーラを持つシービー先輩やお嬢様なウイナー先輩より接しやすさでは断然上だ。

 

「疲れるから、やだ!」

「でしょうね。ルドルフ、練習熱心は良いけど、オーバーワークにはならないようにね」

「そーそー。レースが決まってから遅くまで練習してるのシービーも気にしてたからな」

「はい……」

 

秘密の練習を見られていた事は少し恥ずかしい……私が先輩になったら、見ていてもオーバーワークじゃない限り言わないでおこう。




何故かの後輩ルドルフと一個上の世代のウマ娘達のお話でした。
本当はシービーとルドルフの話にする予定だったのですが、アニメの2話で出て来たシービーの勝負服が珍しいロングパンツ(現状分かっている娘ではフジキセキのみ)だったので、その理由を妄想して話を書いてみました。

キャラ紹介もどうぞ今回はシービーです

ミスターシービー

「私は走る事しかできないし、この走り方しかできないからさ」

圧倒的な実力とビジュアルで流星の如く現れた3冠ウマ娘。現在のトゥインクルシリーズを引っ張るスターの一人。
『天馬』と謳われたトウショウボーイに憧れて、学園に入り、同期のニホンピロウイナー、カツラギエースと共にチームを結成し活躍中。
最後の直線で持ち前のスピードと瞬発力を活かし全ての相手を抜き去る極端な追い込み戦法で『魅せる』レースをしながら勝てる稀代のエンターテイナーでもある。
しかし、それは自分の能力を鑑みた苦肉の策であり、本領は中距離とウイナー、エース、担当トレーナーは評している。
自分が今のトゥインクルシリーズを引っ張っている自覚と責任を背負い、怪我を隠しながらレースに出続けている。



実は僕が考えているウマ娘の作品のルームメイトに選んだのがシービーでした。怪我の設定なんかは勝負服を見て思いついた事ではあったのですが、マイペースな頑固者というのはその時に作った性格付けでした。



短編なので次回があるとしたら翌年のジャパンカップになるかなと。史実ではシービーVSルドルフで勝者がエースでしたがこの世界ではどうなるか……


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3冠ウマ娘が二人 それと世界のカツラギエース

アニメが一段落で、やや喪失感でした。やっぱりスペシャルウィークにはドラマがあったと感じます。


あの日の誓いから1年。結局私はその誓いを完全には守り切れなかった。無敗で3冠ウマ娘にはなれたけど、ジャパンカップに勝てなかったのだ。……エース先輩に。

3冠ウマ娘になった後も去年のジャパンカップ、有馬記念は疲労から回避したものの、(シービー先輩の回避を受けてURAは翌年から菊花賞を天皇賞・秋の翌週から前週に変えた)今年に入って大阪杯、天皇賞・春、宝塚記念、天皇賞・秋と大レースを総なめにしてきたシービー先輩はジャパンカップを10着惨敗という結果で終えた。世間では疲労からの調整不足と言われていたけど、「脚の限界が近くて無意識に抑えたのだと思うわ。あの脚でも無理をすればそれなりの勝負は出来ていたはずよ」とウイナー先輩が言っていた。

エース先輩には完全にしてやられた。ずっと好位追走で戦っていた先輩が大逃げを打ったのだ。結局最後まで後ろの私達は先輩を捕まえきれなかった。エース先輩曰く「私の見た絶好調の時のシービーの末脚を想像してレースを組み立てたんだ。それでも先着できるような走り方を考えて実行しただけさ。ルドルフや他の皆を抑えて勝てたのは意外だったけどな」らしい。

 

 

 

1年の最後のG1、有馬記念。そのレース前に私はシービー先輩に話しかけられた。

 

「ルドルフ、一年間フル参戦してみて疲れてない?」

 

何気なく、私の体調の事を聞く先輩。この辺はシービー先輩だけでなくエース先輩もウイナー先輩も後輩の事をちゃんと気にかけてくれている。その辺は私も見習っていきたいなと思う。

 

「やっぱり疲れはあると思います。でも、今年もこのレースで終わりですし、全力で走るだけです。先輩は……その……」

「私の脚の事?」

 

サラっと聞きにくい事を口にするシービー先輩。というか……

 

「私が気付いている事知ってたんですか!?」

「声は小さくね。あの時も声が大きかったし」

 

何の事は無く、一年前の私が知った時から先輩には知られていたのだ。

 

「……ルドルフには、心配かけたね。ウイナーやエースにはもう話したけど、有馬を最後に長い休養に入るよ。もう、私一人で背負う必要もなくなったと思うし」

 

間違いなく、この2年の盛り上がりはシービー先輩がいたからだ。けど、ここ数か月の盛り上がりはそれに合わせて私を含めた何人ものウマ娘達の存在があってこそだと思う。私達はようやく先輩が一人で背負っていた重荷を一緒に持てるようになった。

 

「おっシービー、こんな所で盤外戦か?」

 

話している所にエース先輩が現れた。

 

「いや、このレースが終わったらぶっ倒れる予定だから、早いうちにルドルフに言っておこうと思ってね。後、ルドルフは盤外戦を仕掛けても揺れるような奴じゃない」

 

サラっと褒められた。シービー先輩ってあんまり誰かをほめる印象が無いから結構嬉しい。

 

「寝る前にちゃんと風呂入って、歯磨いて、勝負服クリーニングに出さないとウイナーに怒られるぞ」

「ウイナーお母さんに怒られるのは嫌だな。気をつけよ」

「ウイナーお母さんを怒らせると怖いからな~」

 

このお二人はたまにウイナー先輩をお母さん呼びしている。あの、面倒見の良さから分からなくはないのだが、目の前の先輩たちはそれを言って怒らせるのを楽しんでいる節がある。

 

「ルドルフも気をつけなよ。お母さん、細かい所うるさいから」

「私らが適当ってのもあるんだろうけどな」

「その辺は大丈夫です」

 

私はプライベートの方もかなりキッチリしているから、エース先輩に褒められたことはあっても怒られた事が無い。……最近はそれが理由からか、ウイナー先輩の後釜の生徒会長にならないかと言われている。まだ早いと思うのだけど。

 

「さて、そろそろレースの時間だな」

「エース、ルドルフ、2500メートル向こうでまた」

 

そう言って、私より先にレース場に向かうお二人。その背中は入学した時から憧れ続けたカッコよさがあった。いつか私もああなれるのだろうか?

 

 

 

『さて、いよいよやってまいりました年末の大一番、有馬記念! 人気投票で選ばれたウマ娘達が暮れの中山を走ります! 今年最後の栄光を掴むのはどのウマ娘か? 間もなく発走です!』

 

 

スタートゲートが開く。最初のポジション取りは大切だ。私は先頭を走るエース先輩の少し後ろの二番手に付けた。エース先輩を中山レース場の短い直線で捉えられるようにあまり離され過ぎず、かといって最後の二の脚を使えるような余力を残さないといけない。ただ、JCより100メートルの延長は私有利に働くはず。

シービー先輩は……後ろから3番手といったところか。

このレース、私はどうやって走るかをずっと迷ってきた。そんな時、私はウイナー先輩に相談した。

 

 

 

 

「強い相手との戦い方?」

 

JCが終って少しした頃の事、ジュニアクラスのチャンピオン決定戦が行われた辺りだったと思う。私は直接生徒会室に出向いた。ウイナー先輩が気を利かせてくれたのか、部屋には先輩が一人でいた。

 

「正直な所同世代でライバルが不在だったので、一番勝ちやすい戦い方をしていただけなんです」

「まあ、クラシック路線で大本命のみでライバル不在はあり得ない事ではないからね。一年前の誓いもあるし、流れを見極めてのレースをしていたと」

「はい。JCもそれで行って、エース先輩に負けました。それで私には本当に強い相手との戦い方が無いんだと感じたのと、若干の後悔がありまして。マルゼンスキー先輩と激しいライバル対決を繰り広げているウイナー先輩に会いに来たんです」

 

短距離路線の盛り上がりはこのお二人のレベルの高い一騎打ちが大きな理由だと思う。

 

「なるほど……なまじ頭が良くて何でも出来るから、煮詰まってるのね。そんな事は簡単よ、それはね……」

 

 

 

今回、私は何もしない。何も考えない。前のエース先輩をいつでも捉えられる所に置いておいて、最後まで脚が持つ所でスパートをかける。小細工なしの私の一番強い戦い方。それで、全力を出すことがウイナー先輩直伝の「ケンカの作法」。……まさか、ウイナー先輩からケンカなんて単語が出てくるとは思わなかったけど。

 

『さて、レースもいよいよ終盤! 先頭は依然としてカツラギエース、10メートルほど後ろにシンボリルドルフ、ミスターシービーは後方待機のまま第三コーナーに入っていきます! ああっと、シービー動いた! どんどんと加速して前との差を詰めていきます! 続けて後続の各ウマ娘が仕掛けていく!』

 

気持ち、後ろの足音が大きくなったように感じる。私も少し加速して、徐々に前のエース先輩を捕まえに行く。水色の下地にピンクの蓮の花をあしらった改造和装のような勝負服の背中を目の前において、三コーナーを駆け抜けていく。

 

『第四コーナーを抜けて最後の直線! シンボリルドルフ、カツラギエースを捉えた! 内にカツラギエース、外はシンボリルドルフ!』

 

加速している後続の仲で中で一つ凄い勢いで伸びてくる足音が聞こえる。

 

『後ろからインを突いてミスターシービー! 凄い脚で突っ込んで来た!』

 

日本中を魅了する切れ味抜群の末脚は一緒にレースに出る身としては最後の一瞬まで気が抜けない恐ろしい武器だ。けど!

 

『先頭変わってシンボリルドルフ! 粘るカツラギエース! 追うミスターシービー! 三人の争い!』

 

先頭に出て後少しなのに、凄く苦しい。走り切っていないのに体は悲鳴を上げている。それだけ消耗するくらいミスターシービーとカツラギエースという存在は抜きんでている。今も後ろからのプレッシャーが凄い。けど、今日は、今日だけは負けたくない!

 

『まだ伸びるシンボリルドルフ! 強い! 強い! 今年最後のG1も彼女の勝利! まさに、皇帝! シンボリルドルフ!』

 

 

 

「お疲れ、ルドルフ」

 

早くも呼吸を整えて私の元に来てくれたシービー先輩。そういえば、「人前では弱い姿は見せられない」って教えてくれたのは先輩たちだったなあ。

 

「お疲れさまでした、先輩」

「今度は私達がルドルフに挑む番だね」

「……待ってます。それまでトップで居続けます」

 

先輩が帰ってくるまで勝ち続ける。それが私の『皇帝』としてのプライドだ。




もう一話続きます。

キャラ紹介

カツラギエース

「世界のカツラギエースに私はなる!」

シービーの同期にして最大のライバル。レースの戦法は正反対だが、馬が合うのでプライベートではよく一緒に行動している。
意外と周りが見えているタイプで、後輩にさりげなくアドバイスを送る事も多い。(実はシービーの異変を最初に気付いたのもエース)
レースでは抜群のスタート技術と持ち前の快足を活かした逃げ戦法を得意としている。


なんか、書く事が短かったなあ。もうちょっと掘り下げたいような気もします。


アニメ12話はスぺちゃん強いって話でしたね。現実でも99年JCは歴代屈指メンバーで非常に強いレースをしていたと思います。
エルグラスぺ最強論争という不毛な争いもありますけど、僕個人は皆素晴らしい馬だったで良いと思っています。アニメの流れ的にグラスぺの伝説の有馬記念は無しなんですよね~。少し残念です。

本作の次回は……未定としておきます。期待せずにお願いします。


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3冠ウマ娘が二人 さらにマイルの皇帝さん

あけおめです。びっくりするくらい強い三歳世代だった昨年の競馬、今年はどうなるでしょうね?

シリーズではとりあえずの最終回です。


『クラシック戦線も終わり、秋深まる東京レース場。この舞台で行われるのはシニアクラス最高の栄誉を賭けての天皇賞・秋。様々な路線のトップ達が集う中、最も早くゴールを駆け抜けるのは誰なのでしょうか!? やはり大本命はシンボリルドルフ! 昨年のジャパンカップから負けなし、堂々としたレースはまさに『皇帝』の名に相応しいでしょう! 対抗は『マイルの絶対王者』ニホンピロウイナー! 今年は『スーパーカー』マルゼンスキーを抑えて春の短距離G1を完全制覇! 秋初戦の毎日王冠も快勝で2000メートルへの挑戦を発表し、シンボリルドルフとの夢の対決が実現しました! しかし、今日の主役はこの人! 『魅惑の末脚』ミスターシービー! 昨年の有馬記念後に故障による長期欠場を発表してから10か月、いよいよファンが待ち望んだ復活となりました! 私達を魅了するあの末脚は再び爆発するのでしょうか? 天皇賞・秋、間もなくスタートです!』

 

 

 

 

「シービー、流石の貴女も久し振りのレースで緊張しているのかしら?」

「……そう見える?」

 

東京レース場の地下道にて勝負服のウイナーとシービーが並んで話している。久し振りのレースなのだが、シービーの顔には笑みが浮かんでいる。

いつも一番人気で最後の入場が当たり前の二人だが、今回は後輩のルドルフにその座を譲っている。

 

「一応、聞いてみただけよ。貴女はどんな大舞台でもいつもと変わらないわよね」

「どんなレースだろうと、誰が相手だろうと、私は私の走りをして、見に来てくれた人を楽しませる。それだけだよ」

「私達が最高のパフォーマンスをしてトゥインクルシリーズを輝かせ、その中で私達が最も輝く。それが私達『チーム・シリウス』よね」

 

ミスターシービー、ニホンピロウイナー、カツラギエース、そして、アメリカに遠征中の留学生で構成された少数精鋭の現在最強チーム、シリウス。

何物でもなかった彼女達が自分達のパフォーマンスをする場を自分で選ぶために作り上げた場所であるから、他の選手よりチームという物に愛着がある。だからこそ、層の厚い東京2000メートルの栄光が欲しいのだ。

 

「エースを始めとした海外遠征組に胸張って結果を言えるように頑張らないとね」

「そうね。……たとえ貴女でも勝利は譲らないわよ」

「当然。勝利は自分で勝ち取ってこそでしょ」

 

 

 

『3人のチャンピオンが集った東京レース場、2000メートル先の栄光を掴むのはルドルフかウイナーかシービーか!

はたまた世紀の下克上が起こるのか! 天皇賞・秋スタートです!』

 

レースはウイナーが引っ張る展開になった。2000メートルになった天皇賞・秋には、マイラーから中距離、ステイヤーまで幅広い距離のトップレベルが顔をそろえる。求められる資質と得意な戦法の関係でウイナーが先頭に立つのは必然だったと言える。

 

『ニホンピロウイナーが先頭で第三コーナーに突入します! しかし、ルドルフを始めとした後続の各選手が虎視眈々と狙っているぞ! シービーは未だ最後方、10か月ぶりは厳しいのか!?』

 

 

 

沢山のスパイクが地面を蹴る音とG1の大歓声。鮮やかな芝の緑と色とりどりの勝負服。芝と土の香り。私は大好きなこの舞台に帰ってきた。後は結果を残すだけ。

脚に痛みはない。

大きく息を吐き、大きく息を吸い込む。さあ、後は最後の直線、誰のものでもない。私が魅せる舞台だ。

 

『最後の直線に入り、ミスターシービーが一気に来た! 前を走る選手たちを抜き去り、先頭争いをしているウイナーとルドルフに襲い掛かった!』

 

あー、私の脚もここまで素直に伸びてくれてる。こんな事なら、去年の天皇賞・春と宝塚をスキップしておけばよかったかな? 

でも、去年の私がいたから体の調子を崩したルドルフが宝塚をスキップしても特に批判が起こらなかったんだと思うし、これで良かったのだと思う。

 

『坂を登り切り、先頭が変わってシンボリルドルフ! ニホンピロウイナーも粘る! しかし、ミスターシービーが捉えた! そして、まだ伸びる! 差し切った! ミスターシービー、主役は自分だと主張するような激走で復活の勝利です!』

 

ゴール板を超えて少しずつ減速し立ち止まる。そして、私は10万人以上のお客さんがいるスタンドを見た。

ああそうだ、私がテレビで初めて見たトゥインクルシリーズもゴール後こんな感じだった。小さかった私にはそれが輝いて見えた。

 

向こう側(かんきゃくせき)からこっち側(ターフ)へ、憧れは現実になった。今は私が誰かの憧れになる番。

……なんて、少し大袈裟かな? とにかく今は久し振りのウイニングライブを楽しみましょうか!




いかがだったでしょうか? ルドルフの国内敗北の二つをルドルフの上世代と絡めた3話でした。



ニホンピロウイナー

「私達には私達のプライドがあるのよ」

ルドルフ入学時の生徒会長でシービー、エースとはクラスメイトでチームメイト。エースとはさらにルームメイトでもある。
持ち前のスピードを活かすためにあまり注目されていない短距離路線に自ら進み、その実力で短距離専門のウマ娘の注目度を上げた立役者。永遠のライバルマルゼンスキーとの名勝負数え唄は、マルゼンスキーの距離変更まで続いたG1の注目カードとなった。
生徒会長を務めるほどのしっかり者だが、案外短気。エースはよく餌食になっている。


チームシリウス

シービー、エース、ウイナーと留学生を中心とした少数精鋭のチーム。トウィンクルシリーズブームの火付け役になった功績でチーム名が阪神レース場での重賞のレース名になった。
ぶっちゃけると拙作『日曜日は騒がしく』での主人公所属チームで日本3人海外3人の予定。


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海外ウマ娘シリーズ ウマ娘昔話

ネタです。wiki見ながら書きました。


むかしむかし、イギリスの片田舎に一人のウマ娘がいました。生まれた日が日食だった事から、その現象を意味する「エクリプス」と名付けられた彼女は成長すると沢山の人の目を引き付ける美貌と圧倒的なレース能力を持つウマ娘に成長しました。

その当時、ウマ娘は草レースや貴族が開くレースに出る事で見初められ、貴族のスポンサーが付く事が目標であり、どれだけ地位の高い人に見初められるかが彼女達の中でのステータスでした。

ウマ娘という存在も今のようなレースや歌は副業で、パーティーに共に出席したりと社交の華としての役割がメインであり、貴族を着飾るステータスの一つでありました。

そんな中、彼女は生まれ育った街の酒場の看板娘として、楽しい時間と歌を提供していました。時が経つにつれ類稀なる美貌と、人を引き付ける歌声が噂となり、遠くからも彼女に会いに来る人が現れるようになりました。

 

 

 

他のウマ娘とは違い、レースに出ず、着飾る事も無く、日々を生まれた時から知っている人達と過ごしていた彼女にある一人の貴族がやってきます。

社交界で『変人』と呼ばれる彼は貴族の嗜みであるレースは結果を楽しみ、ウマ娘には目もくれない。美しい歌も興味を示さず曲の良さを褒める。パーティーで食事を楽しみ、所領内の店に入り浸る。おおよそ、貴族の常識から外れたその男は何故かエクリプスに興味を持ち、供を連れず彼女のいる街にやってきます。

 

「あら、こんな田舎の酒場に貴族様がいらしゃるなんて。明日は雨かしら?」

「俺も社交場とレース場以外でウマ娘を、しかも働いているウマ娘なんて初めて見たぜ?」

 

すこしピリピリした空気が酒場に広がっていきます。野次馬に来た街の人々も息をのんで見守っていました。

 

「なんで貴族様の為に走らなければならないのかしら? 走る事なんて自分のやりたい時にすればいい事よ。私からすれば、飼われる方がどういう神経しているのか分からないわ。私は自分で立って歩けるもの」

「……ま、そうだな。爺がウマ娘の地位向上の為に始めた事が、いつの間にか生産性の無い所になっちまったからな」

 

この貴族の祖父がウマ娘の働き口と所得の上がった庶民の娯楽をという考えでレースとそれに付随したステージ(今のトゥインクルシリーズの原型)を作り上げ、一大産業にした人物でした。しかし、それも今は貴族が食い物にするだけのものになってしまった。

 

「ああ、ダービー伯爵家ってどこかで聞いたって思ってたら、レースの胴元の家でしたか。私をスカウトにでも?」

「ちょっと違う。俺は爺の目指したレースを作りたい。そのためには既存のレースをぶっ壊せる能力と人を惹きつけるカリスマ性が欲しい。で、噂のウマ娘に会いに来たって訳だ」

「噂? ……ああ、ウチの店が忙しい理由ね。まあ、見た目と歌にはそれなりに自信はあるけど、レースはどうか知らないわよ?」

「そのへんは臨機応変にやるさ」

「ふーん……まあ、面白そうだから、今のレース界を食べちゃおうか」

 

 

 

彼女の走りを見た彼は「俺を含め、貴族たちは見る目が無かった」と言いました。それほどエクリプスの走りは凄い物だったのです。

 

 

 

初めてのレースの日。当時のレース形態はヒートレースと呼ばれ、1回の競争を1ヒートと呼び、同じ組み合わせで何度か勝つ事で決着が付くというルールでした。(現在ほど判定がしっかりしていなく、僅差の場合は同着とされ無効になっていた。これを『デッドヒート』言ったのだが、今使われている死闘、接戦では誤訳で、正しい意味は『無意味な争い』である)

 

「おや、ダービー伯ではないですか。あのような田舎娘を連れてきてどのようになさるつもりですか?」

 

「アンタみたいな田舎娘が出るようなレースじゃないんだよ!」

 

二人は違う場所で馬鹿にされる的でしたが、そんな言葉など耳に届いていません。

 

 

 

レースが始まると見ていた人間は言葉を失いました。最初から先頭に立ち、そのまま圧倒的な差を見せて逃げ切ったのです。

 

「皆さんに奪われたレースを私達の手に取り戻す為ですよ。あの娘はその為に見つけた私のパートナーです」

 

「走るのに誰だとか関係ないでしょ。そんな物でしか見れない人には負けないし、たかが4マイルでそんなに疲れているなんて、なまり過ぎじゃない?」

 

この時代は1ヒートの距離が数マイルでそれを何度も、一日に10000メートルを超える事もざらにありました。しかし、エクリプスにそんな事は関係ありません。息を整えなおした彼女の様子を見て、彼は観覧席を立ちました。

 

「レースは見るまでもないですね。順位は決まってる。Eclipse first, the rest nowhere.(エクリプスの勝ちだ、2着以下は居ない)」

 

と言い残しました。ヒートレースは2着以下に240ヤード(約220メートル)以上離してゴールをすると他のウマ娘は失格となるのです。つまり、彼はエクリプスの第1ヒート以上の圧勝を予想したのです。

そして、その言葉通り彼女は勝ちました。これが二人の伝説の幕開けとなったのです。

 

 

 

この後、彼女は圧倒的な競争能力と美貌、カリスマ性をもってイギリスの国民的アイドルとして、貴族の物だったレースをたくさんの人の物にしていきました。

レース体系も今のような短い距離から長い距離までを走れるようにし、今までスポットの浴びなかったウマ娘たちや少女たちも戦えるようにしていきました。(ヒートレースの頃は超長距離を戦うために完成した肉体が必要なので、成人したウマ娘しか走る事が無かったのです)

 

 

 

 

『Eclipse first, the rest nowhere.』

 

彼女の代名詞となったこの言葉は後に「唯一抜きんでて並ぶものなし」という意味で使われるようになります。

それは彼女の実力を指すのかもしれません。あるいは、彼女が今に続くウマ娘文化を作り上げた事に対する最大限の敬意なのかもしれません。




アニメ再放送の生徒会室でのシーンをみて「エクリプスで書くかあ」となぜか思ったので書きました。

エクリプス

「世界は私が染めるわ!」

今や伝説のウマ娘。彼女が世界に与えた影響は計り知れない。
田舎生まれ田舎育ちで地元の酒場で働きながら、生計を立てるという、この時代のウマ娘としては異端児だった。
後に「ダービー」のレース名に名を遺す十二代ダービー伯爵に見出され、貴族のレースにでて、圧倒的な強さで当時のレース界を侵食していった。その強さは無敗の戦績、対戦相手が逃げていったなどという逸話からも窺い知れる。
引退後はダービー伯と共に現在に続くレース体系の整備、一般化などのウマ娘文化の浸透をしていき、象徴として、国中の人気を集めた。
今もなお尊敬を集め、彼女のお墓の前には花が絶えない。



アプリが始まって実装……あるんですかねえ。エクリプスもそうですけど、海外ウマ娘。海外ウマ娘で書いてみたいのはやっぱりSS×イージーゴアですかねえ。


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幼馴染襲来!

こういうのはいかがでしょう?


「おハナさん、明日お休み貰ってもよろしいかしら?」

 

ある日の練習終わり、皆の前でマルゼンスキーがそう言った。

 

「うん? 病院の日はまだだったはずだが……」

 

マルゼンスキーはその競争能力と引き換えに慢性的な脚の故障を抱えており、定期的に病院で検査をしてしっかりとケアをしている。この知識を故障をした後輩や、ケアに疎い新入生に教えているから後輩にも慕われている。

 

「脚は大丈夫ですよ。幼馴染がアメリカから来るので」

「まあ、多すぎる練習量はお前にとっては毒だからな。一日と言わず、何日間か休んでも構わないぞ」

 

普段から練習熱心であるが、爆弾も抱えているため、マルゼンスキーには他のウマ娘達よりも休みが多くなっている。そういう日もサボらず練習の手伝いに来る辺り、彼女らしいのだが。

 

「まあ、あの子も時間が出来たとはいえ、まだ現役ですからね」

「なら、練習に「マルちゃ~ん!」」

 

そう言って練習コースのスタンドを凄い勢いで駆け下って来る影が一つあった。その影はマルゼンスキーに向かって飛び込む。マルゼンスキーはそれを……

 

「「「「「避けたぁ!?」」」」」

「ぶへっ」

 

変なうめき声と共に地面に突っ込む黒い影。周囲はあの速度で突っ込んで怪我がないのかと内心心配に思っているのだが、突っ込んだ本人は

 

「もう~、受け止めてよ~」

 

とすぐに起き上がりマルゼンスキーに文句を言った。

 

「だって、危ないじゃない。それに、シア? 貴女来るの明日じゃ無かったかしら?」

「ハリケーンが起こったから明日だと飛行機が飛ばないかもしれないって思って、一日前倒しにしたんだ。ここに来たのはサプライズ!」

「まあ、私はともかく他の娘達は驚くでしょうね」

 

エルコンドルパサー、グラスワンダー、タイキシャトル、ヒシアマゾン、それにシンボリルドルフはこのマルゼンスキーの幼馴染が誰か気付けているらしく、開いた口が塞がっていない。(流石にグラスとルドルフは手で隠してはいるが)

 

「あの、マルゼンスキー先輩?」

「どうしたの、グラス?」

「あの人、シアトルスルーさんですよね?」

「ええ」

「『あの』シアトルスルーさんデスカ?」

「エルの言う『あの』が何かは知らないけど、現役のウマ娘でシアトルスルーはあの娘だけだと思うわよ」

「『The American dream』のシアトルスルーさんデスカ?」

「アメリカではそう呼ばれているらしいわね、シャトル」

「タ、タイマンだ!」

「ダートメインのシアと芝のアマゾンが戦っても仕方ないと思うんだけど。それよりもシア、挨拶」

「はいよ~、日本の皆さんこんにちは! アメリカでウマ娘やってる、シアトルスルーです! 日本にはマルちゃんと一緒に観光するために来ました! よろしくね!」

 

黒髪ショートのマルゼンスキーに負けず劣らずの美少女、シアトルスルーは長いアメリカウマ娘史史上唯一の無敗の3冠ウマ娘である。あまり裕福ではない家庭から、地元のトレセンに通い、そこから栄光を掴んだ事から『The American dream』と呼ばれ、今やアメリカ中のウマ娘の憧れとなっている、正真正銘のスーパースターである。

 

「あのー、シアトルスルーさん?」

「呼び捨てで良いよ、シンボリルドルフ。あの時の脚の怪我は大丈夫?」

 

ルドルフはかつてアメリカ遠征をしたのだが、芝コースを横切るダートコースに足を取られ怪我をして遠征を中止したという過去がある。

 

「え? ええ。もう完治しています。でも、どうして……」

「そりゃ、マルちゃんが行った国だからね。注目はしてたんだ。それに私と同じ無敗のクラシック3冠ウマ娘だったし」

「なるほど。マルゼンスキー先輩とは長いんですか?」

「そうだね~。お互いが話せるようになる前からの付き合いだよ。アメリカのマルちゃん家のお屋敷でお母さんが料理人として働いていて、お互いのお母さんが仲良いから、自然とね」

 

マルゼンスキーの実家はアメリカでも有数の名門であり、彼女自身かなり期待されている。しかし、ガラスの脚故にある程度力を加減してでも勝てるレベル(世界水準になった現在からは考えられないかもしれないが、マルゼンスキーの留学当初の日本と世界の差はかなり大きかった。アメリカのジュニアクラスでもトップレベルと目されていたマルゼンスキーはまさに黒船だったのだ)だった日本に留学を決めた。

 

「あ、そうだマルちゃん」

「どうしたの?」

「マルちゃんってダート走れるよね?」

「あっちはそれがメインだから、それなりにはね。今すぐ勝負は流石に無理よ。脚の事もあるし、今日のメニューも消化したし」

 

実はマルゼンスキー、WDTに出走しているので芝の活躍の印象が大きいが、ダートも走れる二刀流なのだ。むしろ、日本は芝中心というのを知って途中から練習し始めたという経緯もあり、以前はダートが本業だった時期もある。

 

「そんな、私が有利な事言わないよ~。実はね12月にも日本に来ようかなって思ってるんだ」

 

今までのフレンドリーな雰囲気から一変、流石は3冠ウマ娘と言った引き締まった表情を見せるシアトルスルー。

 

「……なるほど、アメリカ3冠ウマ娘が日本に襲来って訳ね」

 

そう、年末には中京レース場で日本の中央レースの中で2つしかないダートG1の1つチャンピオンズカップが行われるのだ。

 

「そういう事。私としてはさ、現役の間にマルちゃんと戦いたいんだよね。時間はかかったけど、ようやくわがままを言える位の実力を手に入れられたから、直接日本に乗り込もうかなって思ってさ。今回は宣戦布告ついでに観光しに来たんだ」

「そう……分かったわ。しっかりその日に向けて準備しておくわ」

 

 

 

数日後、アメリカから世界に『シアトルスルー、日本へ参戦決定!』の報が発信された。日本独特のダートの前に本場のウマ娘達も負けていたから、世間では『アメリカの威信を賭けた遠征』なんて言われているが、真実は当の本人達とリゲルしか知らない。




という訳で同い年の名馬で書いてみました。両者ともウイポで結構お世話になっています。

シアトルスルー

「夢を掴むためにはさ、努力と根性しかないでしょ!」

マルゼンスキーの同い年の幼馴染であり、アメリカ3冠ウマ娘。
州立の小さなトレセンという恵まれない環境から栄光を掴んだ事から『The American Dream』と称されるほどの国民的アイドル。
マルゼンスキーとは幼い頃からのライバルであり、お互いがリスペクトしあう関係。
年に何度か会いに日本に来ていたためか、かなりの親日家でもある。
一つの事に集中するタイプで集中している時は他の物が目に入らない。日本語もこれであっという間に覚えた。
レースでは驚異的な集中力から来る、抜群のスタートと持ち前のスピードで逃げの戦法を得意としているが、彼女の最大の武器は最後の最後まで抜かせず全力で走りきる精神力である。


意外と古い馬のレース映像って残ってるものですね。


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消えたヒロイン

ウマ娘の世界はきっと優しい世界だから。


ウマ娘達がスターダムに上がるのはどのタイミングだろうか。

日本なら勝負服の着る事の出来るG1での活躍だと言える。しかし、海外は日本よりもG1の数が多いので一概には言えない。だから、G1の中でもダービーなどの特別なレースや凱旋門賞などの世界中が注目するレースで勝つ事が条件だと言える。しかし、スターになる事が決して彼女達にプラスになるわけではない。

 

 

 

 

「はあ……」

 

ここは、イギリスのとある場所。ここにはイギリスを主戦場として活躍するウマ娘達の学園の寮の一室。そこで一人の少女がため息を吐いていた。

彼女の名前はシャーガー、ヨーロッパのレースの最高峰、ダービーを史上最大着差で勝利したのを皮切りにいくつもの大レースを勝ち、一気にスターに駆け上がった少女である。いわば今のヨーロッパのトウィンクルシリーズ人気を一身で集めている存在なのだ。

なぜ、そうなったかというと、ヨーロッパにおけるマンネリ化が原因だった。

ここ数年、世界的なトウィンクルシリーズ人気はアメリカの方に集まっている。3人のトリプルクラウンを含め、スター揃いのアメリカに比べるとヨーロッパ勢はやや格落ちの感が否めなかった。そこに現れたのがシャーガーというスーパースター候補。ヨーロッパのファンの注目を集めるのも仕方がない事だろう。

しかし、抜きんでたレースセンスを持つ彼女だが、ダービーに勝つまでは目立たない存在であり、彼女自身目立つのを好まない性格なために今の状況にストレスを感じ、練習以外は部屋に閉じこもっているのである。

 

「大分、字読みにくくなって来たなあ……」

 

練習以外はずっと読書をし、本に書かれた文字が読みにくくなって日暮れに気付く、そんな生活を続けている。

逃げだしたい。それが彼女の本音。しかし、彼女には周囲の人たちが自分にかける期待が分かっている。だから逃げられない。

 

「誰かここから連れ出してくれないかな……なんて、そんな物語みたいな事あるわけないよね」

「あるかもよ?」

 

彼女以外に誰もいない部屋に男性の声が響いた。シャーガーはその声が聞こえた方、つまり窓の方に目線を向けた。鍵をかけていた窓は開けられその縁に立っていたのは黒のシルクハットに黒のスーツ、目元だけを隠したマスクを付けたシャーガーとそれ程変わらない年齢の男性。

 

「だ、誰?」

「イギリスの至宝を盗みに来た怪盗……って所かな」

「怪盗さん……でも、どこかで聞いた事のあるような……」

 

不用心にも怪盗を名乗る男に近付くシャーガー。マスクの奥の綺麗は灰色の瞳と帽子の下に見えるブロンドの髪。彼女には一人心当たりがあった。

 

「もしかして、デティークさん?」

「正解」

 

マスクを外した青年は彼女がよく行く古本屋の主人。寮の近くの通りの外れにあるその店を彼女は気に入っており、目立つようになるまではかなりの頻度で通っていた。もちろん本が目的だったのだが、この容姿の整った青年がいた事も少なからずあった。

 

「でも、どうしてこんな真似を?」

「副業かな。イギリスの誇る将軍様の依頼でね。ま、名前は隠してほしいみたいだから秘密だよ。時に、僕のフルネーム知ってる?」

「ラウール・デティークさんですよね」

「そう。で、それはある有名な作品の登場人物から取られているんだ。今の状況もある意味ヒント」

「アルセーヌ・ルパンですか? ラウールはアルセーヌの幼い頃の名前、デティークは最初の妻の苗字だったはずです。ってまさか」

「そ、僕はアルセーヌのひ孫にあたる存在さ。もちろん、泥棒はやってないよ。色々と技術は爺さんや父さんに叩き込まれたけど、初代以外は普通に暮らしてる」

「でも、あれは空想のお話じゃあ……」

「パリで古物商をやってた爺さんがルブランと知り合いで、うだつの上がらなかったルブランに爺さんがルパンを紹介して書かれたらしいぜ」

 

思わぬ裏話に驚きの表情を浮かべるシャーガー。

 

「さて長居はこの辺にして、さらわれてくれますか? お嬢さん?」

 

芝居がかった仕草で手を差し出すルパン4世。

 

「よろしくお願いします。怪盗さん」

 

その手に自分の手を重ねたシャーガー。

そして二人はイギリスの夜に消えていった。

 

 

『シャーガー、誘拐される』

 

このニュースは瞬く間にヨーロッパ、全世界に広がった。イギリスの威信を賭けた捜索は実を結ばず、この事件は迷宮入り。様々な憶測が流れながら、未だにエイプリルフールのネタになる伝説のなったのだ。

 

 

 

「しかし、将軍様も無茶な相談をしてくれるよ。風の噂でしかないルパン一族にアポを取ってほしいだなんて」

「麗しの珊瑚に頼んで正解だったよ。で、彼女は今どこに?」

「先祖の愛した極東の地らしいよ。4世には場所をちゃんと聞いてるから引退したら会いに行こうね」

 

 

 

「セラ、これ何処の本棚に置けばいい?」

「左から三番目の所に空きがあったと思いますから、そこにお願いします」

「了解」

 

東京は府中市、東京レース場のほど近くにある店主こだわりの紅茶と本を楽しめるお店「エプソム」。美男美女の夫婦で切り盛りするこのお店には一つのジンクスがあります。

それは『ここを贔屓にしたウマ娘は大活躍できる』という物です。世界でも権威のあるレースの一つ行われるレース場を冠したこのお店にはたくさんのウマ娘の笑顔が溢れています。そして今日もカランコロンとドアの開く音と共にお客様がやってきます。

 

 

「「いらっしゃい」」




最初はエイプリルフール位までに完成すれば良いかなと思ってました。でも、ルパパトを見てたら完成しました。



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極北からの風

平成最後に間に合いました。


「さむっ……」

 

約一年ぶりの帰郷での一言目がそれだった。

今日私はアメリカ遠征を怪我という不本意な形で終えて帰ってきた。

正直、カナダのレースレベルはアメリカやイギリス、フランスなどの国に比べるとレベルが落ちる。ジュニアクラス時に能力を認められた私はアメリカ遠征を勧められた。不安もあった中、その勧めを受けたのは『カナダの代表として私の実力を見せつける』という、ただの意地からだった。

人よりも小柄な私の体に見合わない大きな誇りをもって単身挑んだアメリカ遠征はクラシック2冠という成果で大成功となった。

練習メニューからレース選択、宿の手配や食事管理まで全部ひとりでやったのは大変だったけど、勉強になった。

素晴らしい結果の反面、今の私は完全に燃え尽きている。シニアクラスのレースに参加という選択肢もあるけど、アメリカはどちらかというとジュニア~クラシックの路線の方が層が厚い。シニアの大レースは秋の祭典、SCデー位なものだ。(SCはステーツカップの略で各州に1つあるトレーニングスクールの代表が様々なジャンルのレースで実力を競い合う世界でも最大級のお祭りである。毎年8・9月に予選としてのレースが開かれ、10月の終わりに行われている)

 

「これからどうするかなあ……」

 

確かに遠征は怪我で終わった。けど、遠征の目的、私のアイデンティティみたいなものは達成できたと思う。だから正直な所、次のモチベーションが見つけられていないのだ。

アメリカやカナダの関係者、同期の皆に先輩や後輩たちは私に復帰して欲しいらしい。誰かと一緒に走りたいとか、輝くステージの真ん中に立って歌いたいとか、ウマ娘の本能みたいなものはあるのだけど、今の私はそれが魅力的には見えないでいる。

 

 

 

身の振り方をどうするかを考えていた私はいつの間にか小さい頃よく走っていた公園に来ていた。

そこそこ広い芝生のエリアの中にいくつかのベンチと遊歩道があって天気がいいときは散歩をしている人やピクニックに来ている人もいる近所の人の憩いの場。まあ、雪が積もっているこの時期は私のような変人か元気のいい子供たち位しか来ないのだけど。実際今も小さいウマ娘二人が走り回っている。

その娘たちを見ながら、数年前の私も多分あんな感じだったんだろうなと、年寄り臭いことを思ってしまった。久しぶりの地元だからなのかな?

 

「おねーちゃん、寒くないの?」

 

いつの間にか近寄ってきた子供たち。話しかけてきたのはショートカットで元気そうな可愛い子。その後ろには少し長めの髪の綺麗な子。帽子とマフラーで気づかれてないとは思うけど、騒ぎになることだけは避けないと。

 

「平気だよ。おねーちゃんもここの生まれだからね」

「あの……ノーザンダンサーさんですよね?」

 

地元の子供にまで顔と名前を知られるようになったのはちょっと嬉しい。

 

「ノーザンダンサーってこの町出身の凄いウマ娘でしょ! 私もなりたい!」

「私のこと知ってくれてるんだ」

「多分、カナダの子たちは貴女の事をスーパースターだと思っていますよ。もちろん私も」

 

二人のキラキラした目が眩しい。……こんな目をした子たちにもっと会ってみたいな。

 

「何かが見えた気がする」

 

私の独り言に目の前の二人は後ろを振り向く。

 

「? 何もないよ?」

「そうじゃないよ」

 

ショートカットの子の頭を撫でながら、そう答えた。私が見たいのはゴール後の風景でも、ステージからの後継でもない。目の前の少女たちのような夢を持った子の道しるべを作って上げる事。それで、彼女たちが私のようにこの街から羽ばたいていくのを見る事なんだ。

道は私が作るのだ。ここから世界へ続く道を。

 

「二人の名前、教えてくれるかな」

「私はヴァイスリージェント!」

「ニジンスキーです」

「私はノーザンダンサー。雪が解けたら、この街で君たちのような私に憧れている子達の先生になりたいと思ってるんだ。もしよかったら、私の学校……なんて大したものじゃないけど、来ない?」

「「うん!」」

「ならば、来年の5月27日のお昼にここで会おうか。その時までに君たちのための場所を用意しておくよ」

 

 

 

これは一人の少女の小さな一歩だった。しかし、彼女のこの一歩が数年後世界を席巻する事を誰も知らない。

 

 

 

「そういえば、どうして5月27日なの?」

「私の誕生日だよ。準備期間は余裕があったほうが良いかなって思って考えてたら、思い出してね」




現在の競馬で最も重要な存在を書いてみました。


ノーザンダンサー

「子供たちの進む道を照らしていけたら良いな」

カナダが産んだスーパースター。
ウマ娘は上半期に生まれ、ピークは3~4月なのだが、彼女は5月の終わり生まれかつ、未熟児で肉体的なハンデを持ちながら、アメリカクラシックレースで2冠を得た。(と同時に最年少記録保持者)
その後、ケガで引退し、故郷でウマ娘のトレーニングスクール(日本のトレセン学園)入学前の子供たちの為の学校を開き、ハンデを克服するために身に着けた知識と単身渡米の経験を教え子達に教えていく。



ヴァイスリージェント

「せんせーにみたいな人になりたい!」

ノーザンダンサーの教え子の一人。
非常に面倒見が良い性格で同じ学年の少女たちを引っ張る中心人物。ニジンスキーとは幼馴染で親友。選手としては芽が出なかったが、自身の憧れた先生の後を追いかける。



ニジンスキー

「ここまでこれたのは、あの日先生に会えたからです」

ノーザンダンサーの教え子の一人。
抜群のスタイルと圧倒的な表現力を持つ『舞姫』。
幼い頃はあまり人前が得意ではなかったが、幼馴染のヴァイスリージェントと共にノーザンダンサーの学校に入り、様々な経験を積む事で才能が開花していく。
恩師の名前を広げるために、かつての恩師と同じく単身渡欧、世界最高峰の芝レースに挑戦していく。



今や世界中のサラブレットの血統表で見るノーザンダンサー。それと世界中にいる直仔達の関係をこの世界に落とし込むのはどうしようかと考えた時、このような形になりました。
ウマ娘のノーザンダンサーの教えを受けた少女達がカナダで、アメリカで、ヨーロッパで、日本で、その知識と経験を広げていく。というのが種牡馬としてのノーザンダンサーの広がりと考えていただければと思います。


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その他短編 キンイロリョテイは自分の旅程を振り返る

やたら様々なレースに名前が出てくるモブ子さん事「キンイロリョテイ」。そんな彼女が区切りのレースのスタート前に自身のこれまでのレース人生を振り返ります。


私のレース人生は名前通り、金色だったのだろうか?

 

 

 

デビューは冬の阪神レース場。ジュニアクラス最強決定戦の行われる前の週だった。そこでは3着、初レースにしては上々だったと思うけど、この後のレース人生を暗示しているような感じもする。

初めて勝ったのは既にクラシック初戦が終わった後の東京レース場の未勝利戦。6戦目の事だった。あの時の感覚は忘れられない。あの感覚を何度も味わいたくて私は走り続けたのだろう。

そして私の代名詞となった9戦目、3勝目を挙げた阿寒湖特別。勝った時はただの勝利、その後は苦難の始まり、今は……私のある意味原点かな。

初めての重賞、初めてのG1はクラシック戦線の間にやって来た。……まあ、初G1の菊花賞はおこぼれではあったけど。フクちゃんもスズカちゃんも強かったなあ。

そこから私は勝ちきれなかった。沢山重賞に出たけど、いつも2着、3着。悔しいレースばっかりだったけど、自信は少しずつ出来ていたし、不思議な人気が出てきたのも分かっていた。

勝ちきれない私を応援するファンがどんどん増えていく不思議。同期も先輩も後輩もスターばかりだったけど、ファンレターの数は上位だったりする。

初めて重賞を勝ったのは38戦目の目黒記念。初勝利から丸3年、最後の勝利からは2年8か月が経っていた。そこまで28連敗、決して褒められた数字ではないけど、G1の無い土曜日開催で生憎の悪天候の中沢山のファンが、仲間たちが祝福してくれた事が、とっても嬉しかった。

その翌年、私は何故か中東はドバイにいた。『ドバイウマ娘ミーティング』と言われる国際レースデーに招待されたからだった。春先に行われる様々な条件下のレースを世界中のウマ娘を呼んで行われるこのイベントに何故か私は呼ばれたのだった。現地の評価は最低ランク。それもそうだ。同期や後輩の活躍で日本のウマ娘の評価が上がって来たからとはいえ、私は所詮G1未勝利の重賞2勝ウマ娘。けど、私にもプライドがある。日本の看板を背負っているプライドが。

……乾坤一擲の激走で私は海外重賞を制した。我ながらよく走ったな、よく勝てたなと思う。けど、結局私は国内のG1を勝つことは出来なかった。

振り返ってみても、やっぱり私のレース人生は金色なんかじゃない。

 

 

 

私は沢山の素晴らしいウマ娘と一緒に走った。先輩だとエアグルーヴにメジロドーベル、同期だとマチカネフクキタルやサイレンススズカ、後輩だと挙げきれない。私が走ってきた時代は間違いなく日本のトゥインクルシリーズの黄金時代だった。

フクちゃんの渾身の追い込みも、スズカちゃんの異次元の逃げも、エルちゃんの世界に挑んだ走りも、グラちゃんの復活からの激走も、スぺちゃんの日本の代表としての走りも、オペちゃんの1年を彩り続けた走りも、ドトウちゃんの乾坤一擲の走りも、デジタルちゃんの外野の声を一掃した走りも全部私は同じターフの上で見て来た。

私が走ってきた時代。それはきっと金色に輝いている。

 

 

 

ドバイで私の名前を英語表記にされた『Stay Gold』。直訳すると『輝き続ける』。私の旅程が金色に輝き続けるか、その評価は今の私ではなく何年後かの私やファンの皆さんがする事だ。今の私は区切りの50戦目、年末の香港で行われる『香港国際競争』の一つで最長の香港ヴァーズに集中して、初G1を海外で飾らせていただきましょう!




割と真面目に書きすぎた。元ネタのステイゴールドはゴルシの親父だから、もっとフリーダムでも良かったなあ。


このレースの結果を知りたいウマ娘から競馬に興味を持った人は『ステイゴールド』で検索すればレース映像が出てくると思うのでぜひご覧ください。


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もしもスピカに新メンバーが入るとしたら……

サブタイ通りです。多分誰もが考えるネタではあると思いますが。


ある日のスピカのチームルーム。メンバー全員がトレーナーの呼び出しで待機している。

 

「一体なんなんだろうな~」

 

いつも手に持っているルービックキューブを揃えながらゴールドシップが話題を出した。

 

「そうっすね~、普段ならすぐ練習場集合っすし」

「普段は定期ミーティング位ですものね」

「そのミーティングも練習コースのスタンドで適当だもんね~」

 

 

ウオッカ、メジロマックイーン、トウカイテイオーがそれぞれ思った事を口にした。スペシャルウィークとサイレンスズカが苦笑いしている辺り、トレーナーのいい加減さは皆の共通認識なんだろう。

 

「そんな事はどうでも良いのよ! 今日は大切な用事があったのに!」

「どうしたんだよ、スカーレット? ミーティングや練習より大事な用事があったのかよ」

「そうよ! せっかく……」

 

スカーレットの話を遮るようにチームルームのドアが開かれてトレーナーが入ってきた。

 

「お、全員揃ってるな」

「トレーナー! とっとと今日集めた要件を話しなさい! 私には用事があるの!」

「あら~スカーレットちゃん、トレーナーさんにそんな事言っちゃ駄目よ~」

「「お姉ちゃん!?(メジャー姉!?)」」

 

トレーナーの後ろからスカーレットに声をかけたのはスカーレットと同じ髪色のショートカットの美女。髪型とやや高い身長、少したれ目な事を除けばスカーレットそっくりである。

 

「えーと、今日からチームスピカにお世話になる事になりました、ダイワメジャーと言います。妹のスカーレット共々、よろしくお願いします」

「メジャーにはウチの手薄なマイル路線を担当してもらおうと思っている」

 

どちらかというと中距離以上で活躍するウマ娘ばかり集まったスピカ、リギルとのチーム争いをするなら他路線の強化は必須事項だといえる。

 

「お姉ちゃん、病気の方は?」

「お医者様からもOKが出たから大丈夫よ。当分はマイル前後を走っていくと思うわ」

「スカーレットさん、病気って?」

 

事情を知っているスカーレットとウオッカを除いたメンバーを代表してスぺがそう尋ねた。

 

「皐月賞を勝った頃に呼吸器系の病気が見つかってね。ダービー後に入院して治療してたのよ」

「呼吸器系って大問題じゃん!?」

「容赦なく引退勧告までありますわよ!?」

「それでも私は走る事が好きだし、スカーレットちゃんやウオッカちゃんが頑張っている姿を見て一緒に走りたいって気持ちが大きくなったの。スピカに入りたいなって思ったのはスズカさんのお陰です」

「私?」

 

突然、話題に上がって少し驚きながら首をかしげるスズカ。

 

「はい。レース中に走れなくなるほどの故障をしたのに、復帰を目指して努力していた事をスカーレットちゃんやウオッカちゃんから聞いていました。それで私も病気に負けてられないって頑張れました」

「私は誰かの力になれていたのね……」

 

実際、怪我からの復帰までの間、スズカの元には怪我をした人や病気の人の「私も頑張りますから、スズカさんも頑張って下さい」というファンレターがたくさん来ていたのだが、面と向かって直接言われる事で実感が持てた。

 

「んじゃ、メジャーの歓迎会に行くか!」

「トレーナーのおごりでな」

 

飛ぶ鳥を落とす勢いのスピカ。きっと彼女達が中心となってトゥインクルシリーズも盛り上がっていくだろう。

 

 

 

 

 

この後、トレーナーの財布は真冬を迎えた。




という訳で最強兄妹の兄? の方、ダイワメジャーを創作してみました。
マイラーでありながらそれより長い距離でも中々の成績を残しているので、喉鳴りさえなければ……と思ってしまいます。



ダイワメジャー

「スカーレットちゃんもウオッカちゃんもケンカしちゃだめよ~」

病気からの復活を目指すダイワスカーレットの姉。実妹のスカーレットと腐れ縁(本人談)のウオッカからはかなり慕われている。
普段は包容力もあり温厚だが、その分怒らせると怖いタイプ。プライベートでは駄目駄目な面な一面も。
トップスピードの持続力を武器に先行押し切りのレースを得意とするが、彼女の最大の武器はどんな時もあきらめない根性だったりする。
呼吸器系の病気からの復帰なのでマイル前後を主戦場に戦っていく。


駄姉ジャーとか考えたり考えなかったり……。誰か書いてくれてもええんやで?


こんな感じでスピカのメンバーから思い浮かんだ新キャラ投入のネタもやっていきたいなと思っています。スカーレットと同じく上の兄弟がG1馬なマックイーンは簡単なのですが、意外と他のメンバーが難しい。特にスぺ、スズに関しては同世代がバリバリ実装済みなのもあって大変そうです。


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最強VS最強 ~歌劇王未だ覚醒せず~

アニメでカットされて、スぺちゃんのあの顔が印象的な1999年有馬記念を書いてみました。


『今年もやってまいりました、冬の祭典、有馬記念! クラシック世代が世代の壁を打ち破るのか? シニアクラスの強豪たちが立ちはだかるのか? しかし、今年はこの二人の直接対決が最大の注目でしょう! 一人はスペシャルウィーク! 秋初戦こそ惨敗しましたが、そこから天皇賞・秋、ジャパンカップとG1を2連勝。まだ、誰も達成していない秋3冠を狙う、名実ともに日本レース界の主役の一人です! もう一人はグラスワンダー! 今年は春の安田記念こそ落としましたが、それ以外の3戦は勝利と抜群の安定感を誇り、前人未到のグランプリ3連覇を目指します! 今年最後のセンターステージは誰なのか? まもなく、レースのスタートです!』

 

 

 

 

「スぺちゃん」

「グラスちゃん、今日は負けません!」

 

レース場に入場前、スペシャルウィークとグラスワンダーは二人で話していた。

 

「あのブロワイエを倒したスぺちゃんに私が挑む方だと思うのだけれども……」

「それと今日のレースは別問題です! 私は宝塚で負けてますし、去年の有馬にも勝っているグラスちゃんに勝ちたいと思うのは当たり前です!」

 

スぺからすると、ふがいないレース(とはいう物の3着以下とはかなりの差を付けての2着であり、結果だけなら京都大賞典の方が悪い)を見せた自分への反省と同じレースに出る最強のクラスメイトへの敬意から出た言葉だった。

 

「私も、今年一年シニアクラスの王道路線を走り続けて一番多くG1を勝ったスぺちゃんに勝ちたい」

 

グラスも、脚の不安から間隔をあけての出場だった自分とは違い、シニアの王道路線を走り続け、文字通り日本を代表するウマ娘となったスぺへのリスペクトがある。直接対決で勝っていようともそれは変わらない。

 

「そうはさせないよ。最強は僕だからね。華麗に二人に引導を渡して見せるさ!」

 

二人の間に突然入って来たのは今年の皐月賞ウマ娘、テイエムオペラオー。いきなりの割り込みとナルシストな発言に苦笑いなスぺ。一方のグラスは……

 

「オ~ペ~ラ~オ~?」

 

なんか黒いオーラを纏っていた。クラスメイトでチームメイトのエルコンドルパサーをたしなめる時に近いが、後輩の分エルの時より圧力が強めになっている。

 

「ひいっ!?」

「はあ……自信があるのは良いと思うし、それに見合う実力もあるけど、その自信過剰な部分で足をすくわれたのよ?」

 

生徒会長のシンボリルドルフが「3冠を獲れる可能性がある才能」だと太鼓判を押していたオペラオー。しかし、彼女は皐月賞しか獲れなかった。ライバルの激走もあったが、彼女の慢心も理由の一つだとグラスは考えている。

 

「お、王者は慢心してこそです!」

「それは今日、私やスぺちゃんを倒してから言いなさい」

「……はい」

 

恐らく、オペラオーがどれだけ実績を上げても変わらないであろう力関係がそこにはあった。

 

「それに、そろそろ貴女の入場じゃない?」

「行ってきます……。でも、お二人にも負けませんから!」

 

そう言い残して入場していく。G1の入場は人気順で上位人気のスぺとグラスはもう少し後だ。

 

「グラスちゃん、『倒してから』って言う位、オペラオーちゃんの能力を買ってるんだね」

「……本人には言わないでね。また調子に乗りすぎるから。トレーナーさんにもそう言われてるの」

 

グラスの言葉に頷いて答えるスぺ。慢心があるというのはレースに集中しきれていないという事。スぺ自身、それで大きいレースを落としているので、周りがそれを何とかしようとしているのは理解できた。

 

「それと、スぺちゃんは来年ドリームクラスに上がるの?」

 

ドリームクラスというのはG1を複数勝ち、人気、実力ともにトップレベルのウマ娘だけが所属できる日本ウマ娘界のピラミッドの頂点である。すでにエルは昇格を表明しているのだが、その資格のある同世代馬のスぺとグラスは動向を発表していない。

 

「うーん、実はブロワイエさんからヨーロッパ留学しないか? ってお話をいただいたから、迷ってるの」

「スぺちゃん凄い!」

「でも、そうなると会長やエルちゃんを始めとした日本の凄い人たちと戦えないんですよね」

 

ドリームクラスは一部の国際招待レース以外、各国原則として国内所属のウマ娘のみの出走になるので、留学生はジュニアクラスかシニアクラスに居ないといけないのだが、ドリームクラスへの昇格は年末のみなので、スぺが留学すると日本のドリームクラス所属が翌年に持ち越しになる。

 

「それは難しいわね。私にも生まれたアメリカから留学のお話があるけど、同じ理由で私も迷ってるもの」

「ブロワイエさんと戦って世界と戦ってみたいと思ったし、日本で学園の皆と戦いたいなと思うんです。……時間は無いけど、納得できる答えを出すよ」

「私もそうね。まあ、今は今年最後のレースだけを考えましょう」

 

 

 

レースが始まった。

今年の有馬記念はスズカやセイウンスカイのようなはっきりとしたレースを引っ張るウマ娘が居なく、普段は好位追走の一人が押し出されて先頭になる展開だった。オペラオーは中団、グラスは後方3、4番手、スぺは最後方からのレースになった。

 

『今、1000メートルを通過! なんと、1000メートルの通過が1分5秒! 超スローペースで流れています!』

 

1000メートルの通過は1分が目安とされている。例えばスズカが普段刻む1000メートル57~58秒は超ハイペースと言ってよく、今回の65秒というのは実況通りの超スローペースと言っても良い。そして、レースはハイペースなほど後続が有利でスローペースなほど先行勢が有利である。つまり、レースの展開は後方にいるグラス、スぺにはかなり不利なのだ。しかも、ここ中山レース場は最高速を出せる直線が310メートルと同じ関東の東京レース場の6割ほどしかないので、厳しい要素が沢山ある。

 

『向こう正面を駆け抜けて、間もなく第三コーナーに差し掛かります。ここで、後続の各選手仕掛けていく! グラスワンダー、スペシャルウィーク、両選手も動き出した! ここで先頭変わって、今年の皐月賞ウマ娘のテイエムオペラオー! オペラオー先頭で最後の直線に入る!』

 

大きく有利不利の無い中団でレースを進めたオペラオーは第四コーナーの辺りで先頭に立ち、そのまま押し切るつもりでラストスパートをかける。他の娘達もスローで流れたためスパートの余力があった。

 

『しかし! しかし、後方から最強の二人! スペシャルウィークとグラスワンダーが伸びて来た! 先頭変わった! スペシャルウィークとグラスワンダーの二人の競り合い!』

 

が、そんな事は二人には関係が無かった。他の選手に力の差を見せつけるように二人だけのデッドヒート。その勝負に観客から惜しみない声援がかけられる。

 

『どちらも譲らない! 意地と意地! プライドとプライドがぶつかり合う! スペシャルウィーク! グラスワンダー! スペシャルウィーク! グラスワンダー! どっちだー!』

 

実況も、観客も、テレビで観戦していたファンも、判断する係員も、走っていた本人達でさえもどっちが勝ったか分からない。判定は写真に委ねられることになった。

他のウマ娘が控室に戻っていく中、1位を争う二人は結果の出る電光掲示板を目を離さず見ている。

どちらも、自分が勝ったと信じている。けど、結果が出る瞬間までは確信が持てない。何よりもお互いの実力をよく知るから。

長いような短いような時間が経った後、写真判定の結果が出た。一着に表示されたのは7。グラスワンダーの勝利だった。

涙を流すグラスワンダーとちょっと人前で見せられないような顔のスペシャルウィーク。数センチの差がこの表情の差を生み出したのだ。

スぺは開きっぱなしだった口を閉じて、人前で見せられる顔に戻ってから、

 

「おめでとう、グラスちゃん!」

 

と声をかけた。ふがいないレースで負けた夏とは違う。全力で戦って負けた。だから、素直に称える事が出来る。

 

「ありがとう、スぺちゃん……」

 

グラスの涙には秋初戦を終えてから、また起こった脚の問題。その不安と戦い続けて、何とかこぎつけた有馬記念。戦うのは世界最強すら倒した最強のライバルにして、名実ともに『日本一のウマ娘』と言っても良いスペシャルウィーク。苦しみを超えて勝ち取れた栄冠。だから、感情があふれ出したのだ。

 

 

 

泣いているグラスワンダーを抱きしめるスペシャルウィーク。それが最強の二人が引っ張ったこの年を締めるレースに相応しい一枚となった。それはそこに送られる歓声が証明している。




あのレースは何処まで行ってもグラスぺの為のレースで、最強世代の実力を見せつけたレースだと思います。


グラスとオペラオーの関係
エルとグラスの関係っぽくなりそうだなあと思い、そのように書きました。オペラオーを書くのが難しいです。なんか、モバマスの幸子に寄って行きました。

オリジナル設定について
ドリームクラスについては実力があるはずなのにWDTにしか出ていなかった会長やナリブー、オグリ達のクラスが必要かなと思い、作りました。
グラスペの海外留学フラグはオペラオーの覇王化と世界に羽ばたいてほしかったという僕の願いを込めて設定しました。


次は何を書きましょうかね?


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奇石、奇跡の復活までの軌跡

少し空きましたけど新作です。


『幻の3冠ウマ娘』

私のキャッチフレーズとなってしまった言葉だ。デビューから脚の故障による長期離脱までの4戦で見せた私のポテンシャルを評価して付けられたものなんだけど、私はこの言葉が大嫌いだった。

 

 

 

それはまるで私と違って怪我もなくクラシック戦線を戦い抜けた同期の皆を見ていないみたいだったから。

 

 

 

そして、その言葉はシニアクラスに上がった後も私に、同期の皆に付きまとってきた。誰かが活躍しても「『幻の3冠ウマ娘』と言われるフジキセキと同世代の○○」と言われ、まるで皆が私の添え物みたいな扱いになっていた。

それが焦りとなったのか、リハビリの経過も芳しくなく、復帰までどれだけかかるかずっと分からなかった。どちらかというと人に頼られるタイプの私は、自分の問題を抱え込んでいたあの頃は精神的にずっと不安定だったと思う。

 

 

 

そんなある時、リハビリ中の私に会いに来てくれた娘がいた。

 

「キセキちゃ~ん!」

 

普通に生活できるようになったとはいえ競技に復帰できていない私に飛びついてきたのはマヤノトップガン。小学生にも間違われそうな位小柄(私とは20センチ以上離れている)な彼女はこう見えて私の同期で菊花賞ウマ娘。しかも、あのナリタブライアン先輩に勝ったこともあるほどの同世代随一の実力者だ。

 

「トップガン、もう少し加減してくれないか?」

「ごめ~ん」

 

謝る気があるのかないのか分からない謝罪までが私達のテンプレ。なんだかんだ、私は彼女に甘いのだ。実力はあるのに、性格が原因で成績にムラがあってどうも評価が低い。

 

「キセキちゃん、復帰にどれくらいかかりそう?」

 

普段は他愛のない話ばかりするトップガンが、私にとっても彼女にとっても重要な事を切り出したのが意外だった。

 

「……分からない。少なくとも春シーズンは無理だと思う」

 

この時、誤魔化そうと思えば誤魔化せたと思う。けど、良くも悪くも真っすぐなトップガンをはぐらかすのは少しだけ罪悪感があった。

 

「そっか~。一緒に走れるといいね」

 

トップガンはデビューが遅く(私の怪我前に取ったジュニアクラスのG1、朝日杯フューチュリティステークスよりも後のデビュー)、重賞戦線への参加が秋の菊花賞前だったから直接戦った事は無い。

 

「そうだね」

「今でも覚えてるよ~、キセキちゃんの朝日杯。あの時はデビューしてなかったけど、同期であんなに強くてカッコいい人がいるなんてって思って、一緒に走りたいって思ったもん」

「はは、ありがとう」

「ジェニュちゃんにヤスちゃんと話す時も何時もキセキちゃんと一緒に走りたいね~って話になるんだよ」

 

『ジェニュとヤス』 ジェニュインとタヤスツヨシは同期の皐月賞ウマ娘とダービーウマ娘。私達は所謂幼馴染である。現状はライバル……と言っていいのだろうか? 

 

「それ、本当?」

「? そうだよ? 二人とも、『勝ち逃げされたままはヤだ!』って言ってるけど、あれは照れ隠しだね!」

 

まあ、確かにあの二人は素直じゃない所があるから、分からなくはない。

 

「そっか。……トップガン」

「何?」

「私のキャッチフレーズ、どう思う?」

「『幻の3冠ウマ娘』って奴? カッコいいよね!」

「でも、それは本当に勝ったトップガン達をバカにしてない?」

「うーん、その辺は皆気にしてないと思うよ? 実際、春の二つは当然獲ってたっていうのは同期の皆の共通認識だし、菊花賞もぽっと出の私が獲ったんだからそう思われても仕方ないかな~。悔しい思いも当然あるけど、皆キセキちゃんの事好きだからね」

 

そういう物なのだろうか? ……まあ、リハビリの間同期の皆がお見舞いに来てくれたり、手伝ってくれたりしていたから、嫌われては無いんだろうとは思っていたけど。

でも、トップガンから皆の気持ちを聞けて良かったと思う。私が抱えていたものは私が勝手に感じていた重荷だったから。

 

「ありがとうね、トップガン」

「? お見舞いは私がしたいからしてるんだよ?」

「……まあ、それで良いか。ちゃんと治して、前より速くなるようにトレーニングして戻るよ。絶対」

 

目標は来年の日経新春杯。シニア王道路線の強豪達と戦うために、一年走りきるために、怪我をしないために時間をかけて体を作っていこう。

 

 

 

『今日のメインレースの目玉はなんと言ってもこの人! 3冠ウマ娘確実と言われながらも怪我に泣き約二年のブランクを経ての復帰戦となったフジキセキ! 『幻の3冠ウマ娘』と言われたその実力は健在か? 注目のスタートは間もなくです!』

 

「さあ、私の魅せる夢の世界に皆様をお連れしようか!」




最終回の会長とブライアンに意味深な目線を向けていたフジキセキを主役に同世代で最も活躍したトップガンと絡ませてみました。

ちなみにこの後のフジキセキは
日経新春杯→阪神大賞典→宝塚記念→毎日王冠→天皇賞→JC→有馬記念というローテーションになります。
阪神大賞典が疑問だと思いますが、『幻の3冠ウマ娘』の証明の為にも長い距離での結果が欲しく思い、入れました。

このまま初期発表の18人全員が主役な作品を最低1つは書くつもりで行こうかな? ネタがあればですけど。


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お試し投稿 日曜日は騒がしく

いつか後書きで書いたような書いてないような気がする、連載の物をお試し版としてあげてみます。感想やご意見を頂けたらなと思います。


   ウマ娘

 

 

それは異世界から受け継いだ輝かしい名前と競争能力をもつ存在。彼女たちのレースの結果は、運命はまだ誰も知らない。

 

 

 

アメリカ合衆国はケンタッキー州。世界最大のウマ娘生誕地である同地には世界中のウマ娘のトレーナーが次の原石を探しにやって来る。そんな場所の広大なトレーニング施設の片隅で一人ぼっちのウマ娘がいた。白色が混ざってしまっている長い黒髪に同年代のウマ娘に比べて小柄で痩せ型の体、チャームポイントのはずの長い脚も外側に見れば分かるほど反ってしまっている所謂X脚という、見た目にも競争能力的にも欠点だらけの体に、幼い頃に合った大病と一時期動けなくなるほどの大事故にあう不運もあり、避けられていた。

 

「州立の学校には学科は通ったけど面接で落とされたし、スカウトも無いし……デビューできれば良い線行くと思うんだけどなぁ」

 

トレーニング後のケアをしながら彼女は自分にそう言い聞かせる。実際、ここら辺のウマ娘達との模擬レースでは負けた事は無い。それでも何も音沙汰の無いのは見た目が理由なのだろう。

普通ならあきらめていたのかもしれないが、彼女自身の強い意志と、彼女を認めた最高の親友が居たから、今もあきらめずにいられるのだ。

 

「エス、お客さんだよ」

 

そう言って、現れた麦わら帽子にチェックのシャツとデニム生地のオーバーオールといかにも農夫といった格好をした老年の男性。ここら辺一帯の顔役であり、ウマ娘達からは「じっちゃん」と呼ばれ、慕われている。

 

「ワタシにお客? スカウトか、じっちゃん!」

 

飛び起きる「エス」と呼ばれた少女。

 

「まずは、話を聞いてみなさい。お客さんは休憩所に居るよ」

「分かった! あんがとな、じっちゃん」

 

目的地に向かって一直線に走り出す、エス。

 

「ウィークポイントを持ちながらもあれだけの走り……あの子も運が無いなあ」

 

エスの後姿を見ながら、彼が呟いた言葉はテキサスの風に消えていった。

 

 

 

エスが向かったところに居たのはスーツ姿の男性。しかも、ここ数年でこの辺りでも見るようになったアジア系の顔立ちだった。

 

「おじさん、日本人? あっ、ワタシ日本語分かるよ。敬語? は良く分からないけど」

 

向かい合って座り、話始める二人。

ウマ娘の国際交流が活発になって来た昨今、彼女達の間では他国の言葉を学ぶことがトレンドになっている。発祥の地であるヨーロッパ、最大の市場のアメリカは英語で何とかなるのだが、今最も注目されている日本だとやはり日本語の方が良いからだ。

 

「おじさんって……まあ、良い。日本語が分かるなら日本語で話させてもらう」

 

男性は持っていたカバンから書類を取り出し、本題を切り出した。

 

「日本のトレセン学園に来ないか?」

「それはスカウトって事?」

「ああ。今、我らがトレセン学園では育成機関の時代からの国際交流の一環として留学生のスカウトを活発化させている。とはいう物の、デビュー前の娘のスカウトは初めてなんだが」

「へえ~。アメリカの学園に見学に行ったけど、100パーセントアメリカのウマ娘だったよ」

「日本の歴史は浅いからな。海外からの影響を与えて国内のレースレベルを上げるのが目的だ。ウイニングライブはお国柄が出るから、そこが問題なんだが」

 

レースは国によって結構差がある。足場が悪く、自然を生かした深い芝コースが主でスタミナとスピードが求められるヨーロッパ、土のコースがメインでスピードとコーナリングの上手さ、根性が試されるアメリカ、人の手で綺麗に整備された芝と砂の両方が走り、スピードと瞬発力が大切な日本。

ウマ娘達にも得意なレースが当然出てくる。国際交流が行われるようになってから、国内でそこそこでも海外で大活躍出来る娘が現れたりしている。

 

「ワタシは日本のライブ、好きだよ? 確かにアメリカやヨーロッパとは違うけど、それぞれにそれぞれの良さがあると思うし。で、日本の留学の話だけど、もちろん受けるよ!」

「即決かよ……良いのか?」

「良いよ。だって、アメリカの学校は全部落ちたし。走れるならどこにでも行くよ」

「全部落ちたって……見た目のせいか?」

「そ。ちびで貧相、子供の頃のショックとこの辺の娘達に馬鹿にされ続けたストレスで白髪交じりの髪。見た目が低くてレース的にもかなりのX脚っていう爆弾を抱えている子を取ろうと思わないよ」

 

自虐的にそういったものの、エスの目には火が付いている。

 

「けどさ、ワタシは誰にも負けないように練習してきたつもりだし、近い年代の子には負けた事は無い。歌だってダンスだってちゃんと勉強してる。それを発揮できるなら世界のどこにだって行ってやる!」

「OKだ。俺は日野静也。お前のトレーナーになる」

「ワタシはサンデーサイレンス! 皆からエスって呼ばれてるよ! よろしくね、トレーナー!」

 

 

 

これは小さな少女が大きな夢をかなえるために走り続ける物語。とはいうものの……

 

「日本か~。美味しい物多いんだよね? 色々食べたいな~。お菓子とか」

「美味い店なら紹介するぞ。お菓子は……同級生や先輩に聞けばいいんじゃないか?」

 

今はまだ一歩目を踏み出してすらいない。彼女の運命は……異世界の私達でも分からない。




という訳で問答無用の名馬、サンデーサイレンスを主役としたもしものお話を考えていました。


サンデーサイレンス

「日曜日は静かなよりも騒がしい方が良いよ、だって私が盛り上げるんだから」

アメリカから日本に留学する事になったウマ娘。
整った容姿と傑出したレース能力を持っているが、かなりのX脚と不幸体質で初等教育時代からいじめに近い目に逢っており、そのストレスで長い黒髪に白いものが混じっている。
脚の問題でアメリカのトレセン学園に入学できなかった所をトレーナーにスカウトされ日本に来日することを決意する。


日野静也

サンデーサイレンス及び自作のオリジナルウマ娘所属チームのチーム・シリウスを率いるトレーナー。大学時代にヨーロッパとアメリカに1年ずつ留学していた事もあり、海外ウマ娘のスカウトも兼ねている。
名前の由来はサンデーサイレンス(『日』野『静』也)から。




何話か書けたら独立させると思います。


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Tony's kitchen

スーパー行って思いつきました。


日本で唯一の国立のウマ娘養成施設、通称『トレセン学園』。地方にいくつかある養成施設よりもあらゆる面で良い環境である。しかし、どれだけ素晴らしい施設でも補えない物がある。その一つが……

 

「故郷の味、恋しい……」

 

大盛りのご飯を食べながらそう呟くのは現役屈指のスターウマ娘である『葦毛の怪物』オグリキャップ。

何も知らない人から見たら、凄い食べているように見えるのだが、胃袋までもが怪物な彼女からしたら、ビックリするくらいいつもより少ない量しかない。

理由は端的に言えばホームシックである。

 

 

 

この学園にいるウマ娘達のほとんどは地方出身であるのだが、トレセン学園に入ってくるような娘達は幼年期教育の段階で同じ学校やトレーニング施設を使っている場合が多く、友人、知人がそれなりにいるから、ホームシックになる生徒は殆どいない。

しかし、オグリキャップはそういった過程を通らず直接地方自治体が開催しているウマ娘レース(ローカルトゥインクルシリーズやご当地トゥインクルシリーズなどと呼ばれているもので、URAの管轄しているトゥインクルシリーズより参加条件などが緩い)に参加して、そこで実力が認められてトレセン学園に入学したという珍しい経緯を持っている。なので、周りに知り合いがいないから、他の娘に比べるとホームシックになりやすい。

まあ、彼女の場合図太い方なので寂しさよりも独り言の通り地元の味を食べたいという思いが大きいのだが。

 

「どうしたの、オグリ?」

 

 

食堂の入口の方から何故か軍手を付けて七輪を持っている女の子が話しかけた。

 

「……トニービンさん、地元の味が食べたいです」

 

オグリに話しかけた茶髪の少女はトニービン。イタリア生まれでヨーロッパ最高のレースである凱旋門賞にも勝った超一流のウマ娘なのだが、凱旋門を制した翌シーズンから日本に移籍してきた。この謎の移籍に向こうのメディアでは移籍の理由について様々な憶測が流れている。

 

「オグリって出身何処?」

「岐阜の笠松。中京レース場が一番近い」

「ふむふむ、よし、このトニーさんに任せなさい!」

 

そう言ってトニービンは、どこからか取り出したバンダナとエプロンを装備して食堂の厨房に向かう。気になったオグリは後ろに着いていく。

 

 

 

さて、厨房は基本的に自由に使う事が出来る。生徒は使った食材を報告しておけば無償で使う事が出来るので何人かの生徒はここで自作の弁当を作っているし、休日にお菓子作りを仲間内でするという姿も見られる。その一角に通称『トニービンゾーン』がある。これはイタリア時代にグルメ本やレシピ本を出版するレベルの美食家で料理人の彼女が地元から持ち込んだ調理器具や様々な調味料、香辛料が置かれ、その品揃えは本職の料理人が足りない物を借りに来るレベルである。

そう、ヨーロッパトップレベルの彼女が日本への移籍を決めた最大の理由は「美味しい物があるから」だった。なので、本来ならレースやらその応援がある休日は日本中を飛び回って様々な料理を食べ歩いている。

 

「少し前にオグリの地元の方に行く機会があってね。その時に食べたのが美味しかったから作ろうと思ってね」

 

そう言いながらトニービンは温めなおしたご飯を荒めに潰し始める。

 

「……五平餅!」

「あ、分かるんだ。外で炭火を作ってて丁度タイミング良くオグリが故郷の味を食べたいって言うから、誘ったんだ。手伝ってくれる?」

「ああ!」

 

トニービンの潰したご飯をオグリが割っていない割り箸に小判型に貼り付けていく。トニービンが下準備を済ませると、外で炭火を作っていた円形の七輪から、お店で焼き鳥なんかを焼くのに使われるのをよく見る長方形の七輪に炭火を移して、形にした五平餅を素焼きしていく。

 

「……たれは?」

「冷蔵庫に作ったのを入れてあるよ。出してきてくれる?」

 

オグリは頷いて、冷蔵庫に向かった。戻ってくると、たれを入れた容器と透明なプラスチック製のタンブラーを持っていた。

 

「これは?」

「ああ、私特製のミックスジュースだよ。ニンジンって寒い時期が旬なんだけど、雪が降る所なんかは一冬雪の中で寝かせるんだって。そうするとそこら辺のニンジンとは一味違ったものになるのよ。そのニンジンをベースに色々入れて作ったのがそれ」

「……飲んでいい?」

「どうぞ」

 

蓋を開けて一口含んだ瞬間、大きく目を見開く。そこからは吸引力の変わらないオグリの本領発揮で一息に飲み干した。

 

「美味い、もう一杯!」

「残念ながらメインのニンジンが残ってないんだ。明日お店から送ってもらうけど、増やせないか聞いてみるよ」

「お金、一杯払います」

「いやいや、適正価格で渡すから」

 

そう言いながら、トニービンは素焼きの餅に自家製たれを塗っていく。辺りには焦げた醤油味噌系のいい匂いが漂っていく。

 

「……この匂い、良い」

「この香りは日本独特だと思うよ。食欲を刺激するズルい香りだね。……あ」

「どうした?」

「いや、この香りを換気扇で外に出してたら、人が来そうだな~って」

「……それまでに食べきらないと」

「しっかり噛んで食べてね。……さてと」

 

腕まくりをしたトニービンは再び作業を始める。廊下の方を向いている彼女の耳にはここに向かってきているいくつもの足音が聞こえていた。

 

「さて、少し腕を振るいますかね」




行ったスーパーで移動販売の車が五平餅を売ってたのを見て、思いつきました。


トニービン

「料理もレースもライブも、皆が笑顔になってくれたら嬉しいよね」

ヨーロッパから日本に主戦場を移した変わり者なウマ娘。
業界一の食通にして料理上手で本の出版やレース場のフードのプロデュース、コンテストの審査員など副業を沢山しているので日本ではトゥインクルシリーズの選手の印象がかなり薄い。
しかしその実力は本物でヨーロッパではいくつものビックタイトルを取っている、スター選手の一人である。



スタートは五平餅を見ていたら大量に食べているオグリが想像できて、誰に作らせようか? でオリキャラとしてトニービンを選びました。
ま、まあ88年のJC一緒に走ってますし。


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