英雄王の友人 (晴月)
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序章 生前の活躍
第一話 始まりの物語


バビロニア王朝時代。とある草原にて、二人の青年が殴り合いをしていた。一方は地面に付きそうなほど長い緑髪をした美少年。もう一方は、金髪で少し長い髪をした青年。

 

双方はまるで、不良が河川敷で殴り合いをするように喧嘩を続けていた。

 

そして二人がクロスカウンターを決めようとしたその時、

 

「止めろ馬鹿共!」

 

ガン、ゴン、と二人の頭を殴り付け喧嘩を止めた青年。

 

「何をする、メリス(・・・)。」

 

「痛いよ、メリス(・・・)。」

 

二人が頭を抑えながら青年の名を呼ぶ。

 

「喧しい!お前らなぁ....会うたびに喧嘩するのを止めろよなぁ、ギル(・・)エルキ(・・・)。」

 

メリスと呼ばれた青年が愛称で呼んだ二人。金髪の青年がかの有名な英雄王(・・・)ギルガメッシュ(・・・・・・・)。そして緑髪の美少年がその親友エルキドゥ(・・・・・)だ。

 

「それで?...今回の喧嘩の理由は何だ?...お前らのことだからどうせ下らないことだろうがな。」ハァ

 

メリスはため息を吐きながら二人に聞いた。

 

「そうだよ聞いてよメリス!ギルが僕のリンゴ食べちゃったんだよ。後で食べようと思って残しておいたのに...」

 

するとギルガメッシュ(以降ギル)は、

 

「ふん。残しておく方が悪い。あれでは(オレ)に食べてくれと言っているような物だ。」

 

と悪びれもせず、自分のしたことは何も悪くないと肯定した。

 

「そうやってギルは何時も何時も僕の食べ物横取りするじゃないか!」

 

「たわけ!横取りではない。我は貰ってやってるのだむしろ感謝してほしいくらいだ。」

 

「な!.....そうやってギルは、何時も自分は何も悪くないって言って!」

 

「本当のことだろうが!」

 

そう言い合ってまた喧嘩が始まろうとした時、

 

「だから止めろって言ってるだろ馬鹿共!」

 

ガン、ゴンとまた二人の頭を殴って喧嘩を止める。

 

「お前ら子供か!食べ物の取り合いするとか......子供か!」

 

メリスは二人の子供のような喧嘩に対してツッコミを入れ、喧嘩を止める。

 

「取り敢えずエルキ、ほら。」

 

メリスはそう言ってエルキドゥ(以降エルキ)に何かを投げる。

 

「おっと、何これ.....ってリンゴだ!」

 

「さっき採ってきた。取り敢えずはそれで我慢しろ。」

 

「うん!ありがとうメリス!」

 

エルキは嬉しそうに笑ってリンゴを受けとると喜んで食べ始めた。

 

(ちくしょう、可愛いな。)

 

メリスはエルキの笑顔を見てそんな感想を心に留める。

 

「それで、メリスは何のようで此処に来たの?」

 

ふと、メリスにそう訪ねるエルキ。するとメリスは思い出したかのように答える。

 

「そうそう、ギル。お前、仕事サボってきただろ?シドゥリさんが困ってたぞ。」

 

するとギルは顔を反らして冷や汗を垂れ流していた。

 

「し、知らん。」

 

「そっぽ向いても駄目だ。半分は俺が終わらせたんだからあと半分今日までにやってもらえばいいからさ。」

 

メリスはギルの襟を掴むとズルズルと引きずって連れていく。

 

「ほら、行くぞ!仕事だ仕事!」

 

「い、嫌だぁぁぁぁぁあ!!」

 

ギルは引きずられながら悲鳴を上げて嫌がるがメリスはそんな事はお構い無しと引きずっていく。

 

──────────

 

「王よ。次の報告ですが、」

 

その後ギルは祭司長のシドゥリと側近のメリスに挟まれて部下達の報告を聞き、それに対して解決案を出して次々に仕事を終わらせていった。

 

そして夕方になる頃、

 

「終わった....。」

 

本日の仕事が、全て片付きギルは一段落ついていた。

 

「それでは、私はこれで。後はお任せします。メリス殿。」

 

「ええ。お休みくださいシドゥリさん。」

 

祭司長のシドゥリがその場を後にし、玉座の間にはギルとメリスの二人しか居なくなってしまった。....正確には、警備兵が二人以上いるのだが。

 

 

「.....メリスの鬼。」

 

ふと、ギルがメリスに対して悪態をつく。

 

「なんとでも言え。俺はお前に仕事をして貰う為なら鬼にでも悪魔にでもなってやる。」

 

メリスはギルにそう返した。

 

(やれやれ、今日もギルの奴は仕事をサボったな。....まぁ、現代(・・)に比べたらまだマシな生き方か。)

 

実はこのメリスという青年、この時代の人間ではない。

 

元は現代の時代を生きる青年でその時の職業は医者。それも医療業界では名の知れた人物だった。

 

そんなある日、目を覚ますと自分の身体が子供になっており周りの風景も辺り一面が草原と化していた。おまけに自分の名前も思い出せない。有るのはメリスという新しい名前とその場所がどういった場所かという情報のみ。

 

最初の内は混乱していたが次第に慣れ、現在ではウルク市の王ギルガメッシュの側近兼友人としてその時代を生きている。

 

(まぁ、馴れればこの生活も悪くないな。)

 

メリスが物思いに耽っていると、

 

「...ス、....リス....メリス!」

 

「はっ!」

 

いつの間にギルに話し掛けられていたのか分からなかったが慌ててギルの方に振り向く。

 

「な、何だ?ギル....ではなく、王よ。」

 

メリスは慌てていたのでギルをつい何時もの愛称で呼んでしまったが慌てて訂正する。

 

「はぁ、....ギルでいい。....メリス。お前疲れてるんじゃないのか?」

 

「え?...そ、そうか?」

 

そんな事は無いが、と答えるメリス。だが、メリスの顔は明らかに体調が悪そうな土気色をしていた。

 

「お前ももう休め。....それと、お前は明日、休暇を取らせる。」

 

「え!?」

 

不味い。....そんな事になればまたギルが仕事をサボってしまう。

 

そんな事を考えてしまうメリス。それが表情に出ていたのかギルはメリスを少し睨んで答える。

 

「今お前が何を考えているのか分かるぞ。....大方、我が仕事をサボらないか心配なんだろう。」

 

「!....何故分かった?」

 

「阿呆。幾らなんでも今のは顔に出ておったぞ。....何も我はサボリたくてお前に休暇を言い渡したのではない。いつまでもお前にばかり頼っていてはいけないと思っただけだ。」

 

ギルはそう言うと顔を反らした。それを聞いたメリスは、

 

「ギル.....お前.....成長したなぁ」(泣)

 

号泣していた。まるで我が子の成長を喜ぶ親のように。

 

「な、何故泣く?」(引)

 

「いや、まさかお前が人に気を使えるようになるなんて大きな一歩を踏み出したんだなぁと思うとつい感動して....」

 

「お前は我の親か!」

 

メリスの反応につい突っ込んでしまうギル。

 

「いやなに、お前の親御さんから"ギルを宜しく"と頼まれてるからな。」

 

メリスの発言にギルは驚く。

 

(え?....なにそれ、我知らないぞ。)

 

どうやらギルは初耳だったらしく軽くショックを受けていた。

 

「でもまぁ、これなら大丈夫だな。....それじゃギル、明日はお言葉に甘えさせて貰うよ。」

 

メリスはそう言い残して自宅へと向かう。

 

そしてメリスが去った後、残されたギルは...

 

「全く、我も甘くなったな。」

 

そう呟いて夜空を見上げる。どうやら今夜は満月らしい。

 

(メリスのお陰で....我は少しずつ成長してるのか。)

 

ギルは夜空を見上げてそんな事を考えた。

 

──────────

 

翌日。ウルク市郊外のある一軒家にて

 

「うううう。」

 

メリスが呻き声を上げながら寝込んでいた。どうやら昨日から体調を崩してしまったらしい。

 

「.........」

 

そんなメリスを看病する一人の女性。

 

名をラヌスという。

 

茶色い長髪にほんのり明るい紫の瞳を持つ、とても良くできた娘だ。

 

そんな彼女はメリスのギル以外の幼なじみでもあった。

 

そんなある時、ラヌスはメリスに命を救われた。それからというものラヌスはメリスに対して好意を寄せ、愛でたくして二人は結ばれたのである。

 

ある日、二人の結婚をどこで聞き付けたか知らないが結婚してからの翌日、エルキが結婚祝いにと果物(大量)を、翌日ギルからも祝いの品としてラピスラズリのイヤリングをラヌス用にと送られてきたのである。

 

エルキならまだ分かるが流石に自分達の街を納める一国の王からの品となると恐縮してしまうのだが、

 

「ギルから贈り物だ。」

 

「あら、何かしら?」

 

「イヤリングだとさ、ラヌス用に。」

 

「そう?なら、付けさせて貰おうかしら...ねぇメリス。」

 

「あ、やっぱり俺なのね。」

 

「当たり前じゃない。....それに、あなただから付けて欲しいのよ。メリス。」

 

「ラヌス....!」

 

と、こんな感じで二人は王様そっちの気でイチャイチャしまくっていた。

 

そして現在。ラヌスはメリスから教わった現代でも最新の看病の方法でメリスを看病していた。

 

「早く良くなってね。メリス。」

 

ラヌスは苦しそうに呻くメリスを慈しむような目で見守る。

 

───────────

 

一方の王様はというと、

 

「王よ。次の報告です。」

 

シドゥリ祭司長がギルに対して何時ものように報告を行っていた。

 

「な.......何だこの仕事量は。」

 

何時もよりも多い報告の数に対して既に疲労困憊(ひろうこんぱい)状態のギル。

 

「仕方ありません。何時もはメリス殿が王の仕事量の半分以上を担っていたのですからそのメリス殿が居なくなればこうなるのは必然です。」

 

シドゥリはキッパリとギルに対してそう答える。

 

「な、ならメリスを呼んでくれ!....あいつが居れば、」

 

ギルは昨日自分が言った事など忘れたと言わんばかりにメリスを呼ぶようにシドゥリに伝える。この発言をメリスが聞いていたらきっと、"昨日の感動を返せ"と言ってくるだろう。

 

「御言葉ですが王よ。今現在メリス殿は体調を崩して寝込んでおります。」

 

「な!?」

 

まさかあのメリスが、あの滅多な事では体調を崩さないあのメリスが?

 

ギルはメリスに対して失礼だが。事実、普段から体調管理をしっかり行っているメリスが体調を崩したのだ。驚いてしまうのも無理はない。

 

「あの仕事量ですからね。....幾ら体調管理をしっかり行っているメリス殿といえど体調を崩してしまうのは仕方ないことです。....って聞いていますか王よ!」

 

シドゥリがギルに対してメリスの何時もの業務内容を語る。それに対してギルはというと、

 

「こうしてはおれん!一刻も早くメリスの見舞いに行かなければ!」

 

そう言って玉座から立ち上がりメリスの元へと向かう。

 

それに対してシドゥリは、

 

「王よ。立派になられて......なんて言うと思いましたか!」

 

ギルの肩を掴んで即座に玉座に戻す。

 

「な、何をするシドゥリ!我は親友としてメリスの見舞いに....」

 

「そのお見舞いなら必要ありません。....今朝、私が王都を代表して行かせて貰いましたので。」

 

「な、何ィ!?」

 

「それにメリス殿から言伝てを貰っています。...."ギルが理由を付けてサボろうとしたら玉座に縛り付けてでも仕事をさせろ"....と。」

 

「メリスゥゥゥゥ!!」

 

畜生、図られた!これでは仕事をサボる口実がないではないか。

 

ギルはそう考えた。

 

「さぁ、仕事の続きをしてもらいますよ。」

 

シドゥリが器用にも玉座にギルを縛り付けて、次の報告に移らせる。

 

「お、おのれーーーーー!!!」

 

この日、ギルの魂の叫びがウルク市郊外にまで響き渡ったという。

 

──────────

 

数日後。

 

「はっ!」

 

メリスは目を覚まし、辺りの確認をする。

 

「んうう。」

 

寝言だろうか、そんな声が足元から聞こえてくる。

 

「ラヌス....。」

 

看病疲れで寝てしまったのだろう。彼女はメリスの看病をしている間一睡もしていなかったのだ。

 

「済まないな、ラヌス。....こんな俺なんかの為に。」

 

メリスはラヌスが寝ていると思い、彼女の頭を撫でながらそう呟いた。

 

「そんな事ないよ。メリス。」

 

「えっ。」

 

するとラヌスは頭に置かれたメリスの腕を握るとこう答えた。

 

「私は、あなただから。....メリスだから結婚したんだよ。....だから、自分のことをこんな俺なんかなんて言わないで。ね?」

 

ラヌスはメリスを諭すようにそう言った。

 

「ラヌス....有難う。」

 

メリスは涙を流しながらラヌスに感謝した。

 

「ところでさ、メリス。」

 

「うん?」

 

「そろそろ子供.....欲しくない?」

 

「え?」

 

突然そんな事を聞かれてどう答えれば良いのか分からずつい間の抜けた言葉が口から溢れた。

 

「えーっと、ラヌスさん?....一体どうしてそういった事を今言うのかお聞かせ願えませんかね?」

 

するとラヌスはモジモジしながら答えた。

 

「今のメリスの顔を見てたら.....ムラムラしちゃって。」

 

オイイイイ!いきなり何言ってんのこの娘!

 

「女性が間違ってもそんな事言うもんじゃ有りません!」

 

「でも私知ってるんだからね。メリスが押しに弱いの。」

 

(何で知ってるんだ?)

 

そう思いつつも逃げようとして後退りするメリス。そしてそれを追い詰めるラヌス。

 

そしてメリスがベッドの近くの壁に追い詰められると、ラヌスは、

 

「それじゃ、頂きまーす!」

 

「それどっちかって言うとこっちの台詞ー!ってちょっと待って、ホント待って!」

 

「今夜は寝かさないわよ。メリス。」

 

「い、嫌ーーーー!!!!」

 

その日、郊外のとある一軒家から男のものと思われる悲鳴が上がったという。そして後日、メリスは腰を痛めて休暇を延長したとそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話 メリス、王になる!?

メリスが休暇から戻ってきたその日、

 

「お早う御座います。シドゥリさん。」

 

「お早う御座いますメリス殿。」

 

王都に入ると同僚のシドゥリに出会い、玉座の間へと向かうとそこには...

 

いなかった。誰一人としていなかった。

 

「.......」

 

「.......」

 

二人は唖然としたが、メリスは直ぐに持ち直し、

 

「ギルの野郎、逃げやがったー!」

 

「ま、待っててください。直ぐに市内に兵士を手配します。」

 

シドゥリがそう言って兵を呼び寄せようとするが、

 

「いや、その必要は無い。」

 

メリスはシドゥリを静止した。

 

「あいつの行きそうな場所なら既に分かってる。」

 

メリスはそう言って兵を手配してある場所に向かわせる。

 

─────────

 

ウルク市郊外、メリスの家

 

ラヌスが昨日生まれたばかりの赤子の世話をしていると、コンコン。と、家の扉を叩く音が聞こえる。

 

「はい、今開けます。」

 

ラヌスはメリスが作ったベッドに赤子をそっと寝かせると直ぐに扉を開けた。そしてそこに立っていたのはなんと、

 

「お、王!」

 

ウルク市を納める王 ギルガメッシュであった。

 

「騒ぐなラヌス。(オレ)が仕事をサボった事がメリス達にバレてしまうではないか。」

 

「な!?またサボったんですか!?....はぁ。」

 

ラヌスはギルの発言に頭を抱えた。まぁ、今頃メリス達はギルがサボった事に気付いて既にギルを捜索しているのだが、

 

「ところで、なんのようでしょうか?王よ。」

 

「いや、メリスは普段どんな生活をしているのかと思ってな。こうして生活をチェックしに来たまでよ。」

 

(成る程。チェックという名のサボりだな。)

 

と、ラヌスは思った。

 

「別に普通ですよ。結婚する前と何も変わらずのどかに暮らしてます。」

 

「そうか。」

 

ギルは目の前にあった椅子に腰掛け、まるで家主のようにくつろぎ始めた。

 

「......なぁ、ラヌスよ。」

 

「はい?」

 

「お前は.........メリスと結婚して幸せか?」

 

ギルが聞くとラヌスは笑顔で答えた。

 

「はい!私は何時も幸せです!」

 

溢れんばかりの笑顔で。

 

「.........フッ、そうか。」

 

ギルは納得したのか答えを聞いたあと、口元が綻んでいた。

 

すると、ドンドンと扉を叩く音が聞こえた。

 

「王よ、迎えに来ました。」

 

(ゲッ、シドゥリ!?.....馬鹿な!この場所に来ることは誰にも伝えていないのに。.......何故バレた!?)

 

すると、次はギルが聞き慣れた声が聞こえた。

 

「ギルー、諦めろ。この家周辺に王都の兵の一部を待機させてある。.......もう逃げ場は無いぞ。」

 

(王都の兵士の一部だと!?....その人数ならこの家など囲むことは可能。.......ど、どうする?.....どうする(オレ)?)

 

ギルがどうやってこの状況を抜け出すか考えているとラヌスはスタスタと扉の前まで歩いた。

 

「お、おい。何しているラヌス!....まさかお前!」

 

ラヌスは一度だけギルを見ると微笑み、そして思い切り扉を開けた。

 

そこにはメリスを先頭に王都の兵士が集まっていた。

 

メリスは扉が開いたと同時にニヤリ、と悪い顔をすると、

 

「確保ー!!!」

 

兵士達にギルを捕縛するように支持し、ギルはまるで下手人のようにロープで身体を縛られた。

 

「さてと。」

 

メリスはラヌスの方に顔を向ける。

 

「あなた。」

 

「....兵士の前でその呼び方は止めて欲しいんだけどな。」

 

メリスは照れて頭を掻く。

 

するとラヌスがメリスに近づき、

 

「....ん。」

 

目を閉じて口付けを待つような仕草をした。

 

「........はぁ、またか。勘弁してくれよ、全く。」

 

メリスはイヤイヤながらもラヌスに口付けする。

 

「......今日は覚悟してもらうぞ。」

 

メリスがそう言うとラヌスは嬉しそうに

 

「はい!」

 

とだけ答えた。

 

────────────

 

「はぁ、今日もか。」

 

「どうしたメリス。.......浮かない顔をしおって。」ニヤニヤ

 

メリスがため息を吐くとギルが茶化すようにメリスに言う。

 

「いやな。前にお前から休暇貰ったことあったろ?.....あの日ラヌスに朝まで求められてな。」ハハハ

 

メリスはハイライトの消えた眼で遠くを見ながら答えた。

 

「...た、大変.....なんだな。」

 

これには親友のギルも何も言えなかった。

 

「そうなんだよ。.......あいつがまさか、あんなに絶倫だとは....結婚するまで思わなかった。」

 

この様子だと新婚初夜も同じだったのだろうとギルは同情するしかなかった。

 

「ところでメリス。何故我の居場所が分かった。」

 

「あぁ。動物達が教えてくれた。」

 

「は?」

 

ギルも最初はメリスが何を言っているのか分からなかった。

 

あのメリスが冗談など言わないのだから。と思っていたからだ。

 

「いや、俺さ。子供の頃からあまり友達が居なかったんだよ。.......ある時一匹の子猫を見つけてな。家に連れて帰って面倒を見てたらいつの間にか猫の言ってる事が分かってな。そこから他の動物の言葉も分かるようになった。.......今回はそれを利用しただけだ。」

 

「はぁ。」

 

ギルはメリスが本当の事を言っているのだと理解し、これ以上メリスに負担をかけまいと思った。

 

因みにこの日からギルはサボり癖が極端に減り、メリスの負担も減ったのだとか。

 

─────────

 

数年後、メリスとラヌスの子供達はスクスクと育ち。手がつけられないくらいのやんちゃに育っていた。

 

「あぁもう。レイ、ランダいい加減に落ち着け!!」

 

この日からメリスもラヌスの負担を減らそうと子育てに協力し始めた。.......のだが、前世でメリスは子育てなどしたことが無いために日に日に子供達に手を焼かされていた。

 

そんなメリスは子供の数が増えてきたこともあり、執務官の仕事だけでは家族を養えないと思い、数日前から昼は執務官。夜は傭兵として稼ぎを増やしていた。

 

そんなある日。

 

「盗賊団を壊滅させてくれと?」

 

メリスはフードが付いた黒い外套を羽織り、顔にはまるで相手に恐怖を与える為に獣の骨を加工した、いわゆるペストマスク(黒)と呼ばれるものを着けていた。

 

「はい。ここ最近、奴らが村に押し寄せて食料だけでなく村の女達までも連れ去られてしまったのです。...お願いです!お金はなんとかしますから....どうか。」

 

依頼人の男はメリスに土下座して頼んだ。

 

「.....分かった。.......なら早速用意して欲しい物がある。」

 

「え?」

 

──────────

 

メリスが依頼人に提示した物品は空き瓶数本と何かの植物。

 

「これでいいでしょうか?」

 

「あぁ、十分だ。......それじゃあ準備が整ったら呼びに行く。それまではここから離れていてくれ。.......強力な劇薬を作る。」

 

メリスは昼の執務官の時とは違い、険しい表情をした。

 

──────────

 

「さてと、まずはこれだな。」

 

メリスが手にした植物。実はこれ、ベラドンナと呼ばれる麻薬なのだ。

 

メリスは盗賊団相手に麻薬を使い、錯乱したところを一気に叩くつもりである。

 

「これをこうして.........よし。」

 

メリスは前世では医療だけでなく薬にも毒にもなる麻薬にも詳しかった。そのためどう扱えば薬となり、毒となるかなど把握済みであった。

 

「次は...これをこうしてっと。」

 

メリスはヒヨス、マオウ、トリカブトと次々に毒物を作りそれを液体にして空き瓶に入れて腰のポーチに仕舞う。

 

鈴蘭、スイセン、彼岸花、バイケイソウ、紫陽花も使い、遂に毒物は全て完成した。

 

────────────

 

「では、私はこれから盗賊団のアジトへ向かいます。」

 

「はい。お願いします。」

 

メリスは踵を返すとそのまま盗賊団のアジトとなっている洞窟へと向かった。

 

─────────────

 

「さて、先ずは。」

 

メリスは捕らえられている女性に被害が及ばない様にするため。先ずは、

 

「.......」

 

「.......」

 

近くにいた蛇に話しかけ、洞窟内の様子を出来る限り見てくる様に頼んだ。

 

蛇はそれを了承したのかメリスの方を向いて頷き、そのまま洞窟内へと姿を消した。

 

そして数分後、蛇はメリスの元まで戻ってきて内部構造、女性が捕らわれている場所まで教えてくれた。

 

「.........」ニコッ

 

メリスは蛇語で蛇に例を言うと木の実を与えてこの場を放れる様に近くの動物達に伝える様に言った。

 

「......」

 

蛇は木の実を丸呑みにすると急いで自分の住家があるだろう森へと戻った。

 

「さて、やりますか。」

 

メリスは仮面を付けるとそのまま洞窟の中へと消えた。

 

───────────

 

(.......暗いな。灯りが欲しいところだ。)

 

洞窟内は暗く、灯りが無いと周りが見渡せない程だった。

 

だが、蛇から内部構造の情報は教えて貰った為、壁伝いに歩いていけば目的地へと向かうことは可能だった。

 

そして、

 

(着いた。)

 

メリスは先ず、捕らえられた女性が居る牢屋に向かった。

 

「誰、誰か居るの?」

 

メリスの気配に気付いたのか女性の一人が声を掛けてきた。

 

(静かに!....あんたの村の男から依頼を受けてきた傭兵だ。.......あんた達を助けに来た。ここの鍵は誰が持っている?)

 

メリスは女性に近づき、助けに来たことと静かにするように伝える。

 

(ここの鍵は牢番が持ってるわ。.......そろそろ来る筈よ。.......来た!)

 

メリスは背後から誰かが来る気配を感じ、即座に扉を開けた時に死角になる場所に身体を着けた。

 

すると扉が開き、酔っ払った牢番の男が千鳥足で牢屋に入ってくる。

 

「う~い。ヒック、....異常無~し。」

 

メリスは自分の近くの灯りとなっている松明の日を全て消した。

 

「な、なんだ!....誰が灯りを消した!?」

 

メリスは牢番の背後に付くと腰に携えていた牢屋の鍵を奪うと、

 

「異常有り。」

 

と言って牢番の男の首をダガーで()ねた。

 

メリスは松明を拾い上げ、火を灯すと牢屋の鍵を全て開けた。

 

「この松明を持って右側の壁伝いに歩いていけ、そうすれば誰にも遭遇することなくこの洞窟から出られる。」

 

メリスは一人の女性に松明を手渡すとそう言った。

 

女性は頷くと捕らえられていた全員を先導して洞窟を出ていった。

 

「......さて、もう居ないよな。」

 

メリスは確認の為、松明を持って洞窟内を散策した。

 

するとある一室から女の物と思われる絶叫が聞こえた。

 

「マズイ、まだ残ってたのか!」

 

メリスは声のした部屋にまるで蛇のようにスルリと入った。

 

「や、止めて下さい!....私なら何をしても構いません。.......ですが妹だけは!」

 

中には女性が三人居り、一人が二人の姉だろうか。盗賊に許しを懇うていた。

 

「へ、そう言われると益々やりたくなるのが人のサガってもんだ!......安心しな、二人を犯したら次はお前だ。」

 

「そ、そんな.......」

 

女性の顔には最早絶望しかなかった。

 

それを暗がりから見ていたメリスは静かに怒りを蓄え、

 

盗賊の近くの灯りを足元に落ちていた小石を投げて消した。

 

「おい誰だ!灯りを消しやがったのは!」

 

メリスは再度盗賊の背後を取り、

 

「俺だよ。」

 

盗賊にそう一言だけ告げるとまた首を刎ねた。

 

最早身体だけとなった盗賊は前のめりに倒れ、女性の顔に血を飛ばした。

 

「き、きゃああああ!!!」

 

血が顔に飛んできたことと突然目の前にいた盗賊が死んでいることの相乗効果で女性はパニックを起こしてしまった。

 

「落ち着け!」パァン

 

メリスは女性に張り手をして正気に戻した。

 

「あれ、貴方は...?」

 

「俺はあんた達を助けに来たものだ。.......他の女性達は全員助けたと思ったが、あんた達三人で全員か?」

 

メリスが女性に聞くと、頷いた。

 

「ええ。今日は私達が当番だったから。」

 

(当番......だと!)

 

メリスは女性のこの言葉を聞き、激怒した。

 

盗賊のしたこともだが、直ぐに助けに行こうとしなかった村人達の勇気の無さにだ。

 

「.....取り敢えず、ここで待っていてくれ。」

 

メリスは女性をその場で待機するように伝えると残りの盗賊達を始末するためにある場所に向かった。

 

────────

 

洞窟内の大広間

 

そこでは盗賊達が円を描くように座り、酒盛りをしていた。

 

そこに盗賊達の死神となったメリスが近付く。

 

メリスは盗賊の周りの灯りを全て消すと盗賊達に一言も発させず全員の首を刎ねたのだった。

 

────────

 

「さて、あんた達はこれからどうするんだ?.....あの村に戻るのか?」

 

「......」

 

メリスは三人の女性を背負って洞窟から出て来たあと、洞窟前で待機していた女性達に訪ねた。

 

「....行くところなんて有りませんよ。」

 

ふと、一人の女性が答えた。彼女はメリスが松明を渡し、皆を先導した女性だ。

 

「.....ならウルクに来い。.......そこならどんな人でも受け入れる。」

 

「ほ、本当に!?」

 

女性の何人かは立ち上がり、喜んだ。

 

「ああ、約束しよう。......でもその前に。」

 

メリスは女性達に洞窟から離れるように伝えると作った毒を洞窟内に散布し、直ぐに立ち去る様に伝えてから村に戻った。

 

───────────

 

「あ、有難う御座います。.......この度はなんとお礼を言っていいか....」

 

依頼人の男はメリスに媚びへつらう様に感謝した。

 

だが、メリスには分かっていた。.......こんな寂れた村がメリスに報酬を払うことなど出来ない事を。

 

「おい。」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

メリスは依頼人を立ち上がらせる。

 

「歯ぁ食いしばれ!」

 

「え?......グハッ」

 

メリスは怒りを依頼人の男に向けて拳をぶつけた。

 

「....何故誰も直ぐに助けに行こうとしなかった!たとえ怖くても後をこっそり追いかけることぐらいは出来ただろ!」

 

メリスは集まっていた村の男達に向かって叫んだ。

 

「そ、それは....」

 

「あーはいはい。言っておくがな、今の俺に言い訳が通用すると思うなよ。」

 

メリスは最早村人達に対して怒りしかなかった。

 

「....言いたいことは色々あるが、....もういい。時間の無駄だ。どうせ報酬も払えないんだろう?ならその代わりとしてこの女達は俺が貰っていく。」

 

「そ、それは困る!....この村が滅んでしまう!」

 

すると村長であろう老人がメリスに向かって叫んだ。

 

だが、メリスは。

 

「だから?.....お前らの事情なんて知ったことじゃない。.......彼女達はもうここには戻りたくないと言っているんだ。こんな臆病者の村なんざ滅びればいいんだ!」

 

メリスはその後も村の男達に何かを言われ続けたが素知らぬ顔で村を出た。

 

───────────

 

そしてメリスが先導してウルクに来ると女性達は喜び、中には泣き出す者もいた。

 

「さて、着いた訳だが。.......そうだな、使ってない家が東側に沢山あったからそこを使ってくれ。.......食料はまた今度手配するように上に伝えておく。.......それでは。」

 

メリスが後腐れなくその場を立ち去ろうとした時、

 

「待って!」

 

一人の女性がメリスの腕にしがみついた。

 

「あの、動きにくいんだけど。」

 

すると女性はメリスの顔を見て答える。

 

「.....お礼をさせて下さい。」

 

だが、メリスは。

 

「別にお礼をされる程のことはしていない。私は人として当然の事をしたまでだ。」

 

と、答える。すると女性は更に強くメリスの腕にしがみつく。

 

「いえ、遠慮しないで下さい。.......私からの気持ちです。.....貴方になら私の.....ハジメテを、」

 

(マズイ!)

 

メリスは本能で危険を察知し、自分の腕を引き抜いてそのまま全力疾走してその場を離れた。

 

「あっ、」

 

女性はその場で立ち尽くしたまま暫く動かなかったという。

 

この事もあり、何度もこのような女性達を助けた事からメリスは女性達からは"英雄"と、称えられた。

 

そして誰が付けたかこうも呼ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"暗殺王"と

 

 

 

 

 

──────────

 

メリスが暗殺王となってから数年後。

 

ギルは木材を手に入れるべく友のエルキとメリスを連れてレバノン杉の森へと向かう。

 

何故そうなったのか?

 

事のいきさつはほんの数分前。

 

「.......」

 

「........」

 

「...これは.....不味いですね。」

 

ギルドとメリス。そしてシドゥリが報告を聞いていたところある兵士が木材が不足している為、レバノン杉の森に部隊が向かったが消息を絶っているとのこと。

 

これを聞いたギル達はどうすべきか考えていた。

 

すると誰かが立ち上がって言葉を発した。

 

「.....なら、俺が行こう。戦闘経験なら王都の兵士よりもあるから、もしもの時は森の主と戦って木材を手に入れてくる。」

 

声の主はメリスだった。確かに最近のメリスなら盗賊などの賊退治や魔物の討伐などを引き受けていたため、戦闘慣れしているだろう。.......だが、それに異を唱える者がいた。

 

「待て。.......我が行こう。...我が行けば民草達は我への敬意を評し、我への忠誠心が更に強くなるであろう。」

 

ギルだった。....だが確かにギルの言うことも尤もである。ギルはこのウルク市を治める王なのだ。その王が民衆の為に必要な木材を集めれば更に国民からのギルに対する評価が上がるのは先ず間違いなかった。

 

メリスもそれは理解していた。だが、不安もあった。

 

それでもしギルが怪物に倒されてしまったらその後はどうなる?.....そんな風に最悪の未来を予想してしまい、ギルを行かせる訳には行かないと思った。だからメリスは、

 

「いや。ギル、お前は王だ。...王なら玉座に座ってふんぞり返って、俺が木材を持って帰って来るのを待ってろ。」

 

と、ギルの提案を否定してしまった。だが、それで引き下がるギルではなかった。

 

「おいおいメリスよ。まさかとは思うが、 (オレ)が森の怪物にでも倒される未来を想像したか?....つくづくお前らしいな。....だが、これは王として(オレ)がすべき役目だ。....お前は引っ込んでおれ。」

 

と、ギルなりにメリスに対して気を使いってメリスを諭した。だが、メリスはギルガメッシの言い分が気に食わないのかムスッとした表情をしていた。

 

「いやいやギル。ここはお前が出るところじゃない筈だ。....なら俺が、」

 

「い~や!ここは我が行くべきだ!」

 

「いや俺が、」

 

「我が。」

 

「俺が。」

 

と、二人は言い争い始め、ついに喧嘩の一歩手前まで二人は言い争っていた。

 

「このままじゃ何時まで経っても終わらないな。....なら、」

 

「ああ。そうだな。」

 

と、二人は急に王都から郊外へと飛び出すと、それぞれ武器を構えた。

 

「お、王!?メリス殿!?.....一体何を....?」

 

後を追いかけてきていたシドゥリは、何が何だか分からないでいた。

 

「止めるなシドゥリ。....これは友であるメリスを納得させるために、我が力を示す。それだけだ。」

 

と、ギルは何時になく真剣な表情でメリスと睨み合いながらシドゥリに答えた。

 

「メリス殿もメリス殿です!...何を王と張り合っているのですか!」

 

シドゥリは事の元凶であろうメリスを叱責する。だが、メリスもギルと同じように真剣な表情でシドゥリに答えた。

 

「悪い、シドゥリ。こればかりは譲れない。」

 

シドゥリはメリスの言葉につい、後ずさりしてしまった。

 

その時のメリスの姿。シドゥリにはメリスがまるで人間の皮を被った怪物のように見えたからだ。

 

「行くぞ...メリス!」

 

「来い!....ギル!」

 

そして二人が戦おうとしたその時、二人の間に突如として鎖が割り込んできた。

 

それはまるで二人を止めるかのようだった。

 

「やぁやぁ二人とも何をしてるんだい?」

 

メリスとギルは声のした方向に顔を向けるとそこにはエルキがニコニコした表情で手を振っていた。

 

「エルキドゥ....。」

 

だが、メリスはそんなエルキに対して一言。

 

「.....止めるなエルキ。これは俺とギルの問題だ。」

 

と、言い放つ。そして、

 

「ああそうだ。こればかりはお前でも止めることは許さんぞエルキドゥ。」

 

ギルも同様にエルキに言い放つのだった。だが、エルキは笑いながらこう言った。

 

「なら、僕も行こう。これで三人だ。....なら文句はないよね、メリス。」

 

エルキはメリスの心配を知ってかそう提案し、メリスに聞く。

 

「あ、ああ。それなら構わない。....俺は兵士と装備の準備をしてくる。二人は待機しててくれ。」

 

メリスはエルキの提案を受け入れ、その場を後にするのだった。

 

─────────────

 

そしてメリスの準備が整い、いざ杉の森へ向かおうと兵士達を引き連れて向かった。その道中、太陽神シャマシュと名乗る人物が現れ、メリス達は彼女に助力を求め、彼女はそれを快く了承してくれた。

 

そして今現在、三人は兵士達の先陣を務め、遂に森にたどり着いたのだった。

 

「よし!それじゃあA班の兵士達は西を、B班は東、後に残った兵士達は丸太を運ぶための用意をしておいてくれ。以上だ。早速取りかかれ!」

 

『はっ!』

 

兵士達はメリスの指示通りに動き、黙々と杉の木を持ってきていた斧で斬り倒し、それを兵士達がウルク市へと運んでいく。

 

「凄いなメリス。...何よりも手際が良い。」

 

その光景を見ていたギルがメリスの指示内容に驚いていた。

 

「ああ。そりゃあ何処かの誰かさんが毎日のように俺に仕事を押し付けてたからじゃないですかねぇ?」

 

と、ギルに対して嫌みたらしく言うメリスであった。

 

「ぐっ。」

 

流石に図星だったからかギルはそれ以上何も言わなかった。

 

「アハハハ!....ギル。メリスに言い負かされてるじゃないか。」

 

「う、五月蝿いぞエルキドゥ!」

 

すると今度はエルキがギルと言い争いを始めてしまった。

 

(やれやれ、この二人は相変わらずだな。)

 

なんて事をメリスが考えていると突然ズシン、ズシンと地響きが近づいてきた。

 

『な、なんだ!?』

 

兵士達が突然発生した地響きに驚き戸惑う兵士達。

 

「怯むな!直ぐに陣形を作って固まれ!」

 

メリスの的確な指示に従い、陣形を作る兵士達。

 

そして地響きがした方向に向かって構えを取るギルとエルキ。

 

するとメリス達三人の目の前に巨大化怪物が現れた。

 

『我が名はフンババ。この森の主である。人間達よ何用でこの森に足を踏み入れた?....返答次第では生きては返さぬ!』

 

怪物は自らをこの森の主と言った。すると今度はギルがフンババに答えた。

 

「フッ、知れたこと。...この森の木を木材としてウルクへ運ぶのだ。」

 

すると突然、フンババは怒り出した。

 

『成る程。ならば貴様らを生かして返すことは出来ない!ここは我が森、我が領地。我の土地での蛮行....死を持って償うがいい!』

 

そう言うとフンババは拳をメリス達に向けて放つ。

 

「くっ。」

 

「ふっ、と。」

 

「おっと。」

 

三人は四方に散り、フンババの拳を避けた。

 

そして三人は直ぐ様臨戦態勢に移ると、フンババに向かって攻撃する。エルキは鎖を出してフンババの動きを封じ、ギルとメリスは剣を抜いて足を切りつけようとする。

 

だが、フンババは巨体には似つかわしくないほどの素早さで三人の攻撃を避ける。

 

「思ったよりも素早いな。」

 

「どうする、メリス。作戦はあるのか?」

 

「ギル.....幾らなんでもメリスにそこまで頼るのは...。」

 

そんな状況にも関わらず、三人は相変わらずの様子で余裕を見せていた。

 

『愚かなる人の子よ。...この森での行い、万死に値する。...大人しく我の裁きを受けるがよい!』

 

フンババはメリス達に大人しく自分に殺されろと言い放つ。だが、そんな簡単に殺されるつもりはないと思う三人。

 

「生憎だったな森の主よ。(オレ)は半人半神の王だ。」

 

「僕も神の兵器だからね。...人間はこのメリスしか居ないよ。」

 

「っておい、エルキ!この貼り積めた空気を一瞬にして壊すようなことを言うんじゃない!」

 

エルキは事実を言ったまでだよ、とメリスに補足した。

 

するとフンババはメリスに質問を投げ掛けた。

 

『ならばお前に問おう人の子よ。...お前は大人しく我の裁きを受けるのか?』

 

するとメリスはエルキとギル、互いの目を見て頷くとフンババを睨んでこう答えた。

 

「愚問だな森の主よ。...俺が人間代表だと言うのならば、ここで大人しく殺される訳には行かないんだ!」

 

するとメリスは指を鳴らして誰かに合図する。

 

すると突然フンババの背後から鎖が現れ、フンババの身体に巻き付いた。

 

「こ、これは!?」

 

フンババは背後から鎖に縛られ、戸惑った。

 

「エルキの鎖だ。もうお前は動くことは出来ない。」

 

「なんだと!?」

 

フンババはもう動くことは出来ない。エルキの鎖は神の鎖。つまりは神性を持っている相手に対して、絶対に切れる事の無い鎖となっている。フンババは謂わばこの神代においては神が作り出した怪物。よってフンババは神性の塊のようなものなのでもう動くことは出来ない。

 

「さて、後は今回の目的を達成するだけだな。」

 

と、メリスは森の奥深くへと向かう。するとそこには一本だけ他の杉の木とは違うものを発見した。

 

「なんだ。この木は?」

 

『止めろ!その木に近付くな!』

 

背後からフンババの悲痛な叫びが聞こえた。

 

(そうか。フンババはこの木を奪われたくなかったのか。)

 

「よし、撤退だ!....もう充分取り尽くしただろう。撤退だ!急げ!」

 

『はっ!』

 

兵士達はメリスの指示に従い、森を一人、また一人と出ていく。

 

「よし、帰るぞギル、エルキ。」

 

「......いいのか?」

 

「ああ。これでいいんだ。」

 

すると今度はフンババがメリスに聞いてきた。

 

『我を....殺さないのか?』

 

「お前を殺して何になる?.....俺は自然から与えられてるものには常に感謝してるんだ。...それに、お前を殺したところで何も得るものが無いだろうよ。...ほらエルキ、鎖を解いてやれ。」

 

だが、エルキは鎖を緩めるどころか更にキツくフンババを締め上げた。

 

『ぐぅおおおおおお!』

 

「おい何してるエルキ!フンババには戦意は感じられない!....もう充分だ!」

 

「いいや、メリス。...僕は君みたいに優しくないからね。」

 

そして次の瞬間、エルキはフンババの首を刎ね、メリスが近付いた『特別』な杉の木を斬り倒した。そしてそれを兵士に運ばせるのだった。

 

「だから殺すんだ。...ギルの為に。」

 

その光景を目の当たりにしたメリスは少しフリーズしたが、直ぐに動いてエルキに近付いた。

 

「おや?どうしたんだメリス、そんな怖い顔をして。」

 

「ふざけるな!」

 

メリスは次の瞬間、エルキを殴り飛ばしていた。。

 

「落ち着け、メリス!」

 

ギルが慌ててメリスを止めに入る。

 

「これが落ち着いて要られるか!!...何故だエルキ!何故もう戦意の無いフンババを殺し、あまつさえ奴が守っていた木を斬り倒した!....答えろ!」

 

メリスのエルキに対する怒りは収まるどころか更に勢いを増し、最早行き場を失っていた。

 

すると吹っ飛ばされたエルキが起き上がり、メリスを睨み付ける。

 

「何故だって?.....決まっている。フンババはいずれ、ギルに対して牙を向けると僕自身が考えたからだ。木を斬り倒したのもそれと似たような理由さ。」

 

「なら、そうなった時、俺がギルを守る。...それなら文句は無いだろ!」

 

「いいや、ある。....メリス、君は人間(・・)なんだ。ただの人間だ。僕みたいに神の兵器でもなければギルみたいに半人半神でもない。...そんな君が不足の事態に何が出来る?.....ただ、無惨に殺されるだけだ。」

 

そしてエルキはメリスの目の前を通り過ぎると同時に彼にしか聞こえないようにこう告げた。

 

「これは君の為でもある。」

 

と、だがメリスはエルキの在り方に何処か自分達とは一線を引いて接しているのを感じ取った。

 

「お前は....まだ兵器であるつもりなのか、エルキ。」

 

その問いかけに答えるものは誰も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話 女神登場、そして友との別れ

フンババを倒し、杉の木を採取して王都へと帰還するメリス達。だが、その様子はとても気持ちのよいものではなかった。

 

「.......」

 

「.......」

 

「.......」(き、気まずい。)

 

部隊の先頭には右からメリス、二人の間にギル、そしてエルキの順に並び、歩を進める。

 

ギルはメリスとエルキが揉めたこともあり、自分が間に入らなければまた言い争いになると思い、こうして部隊の先頭、それも中心に鎮座していた。

 

この気まずい雰囲気は王都に帰還するまで続いた。

 

───────────

 

『王の帰還だ!』

 

『メリス殿、万歳!』

 

『エルキドゥに感謝を!』

 

王都に帰還すると国民達からの感謝の言葉が周囲から聞こえてくる。

 

「どうだメリスよ。英雄も悪くはないであろう?」

 

ギルは帰還するまで黙っていたメリスにそう聞いた。

 

「あぁ、こういうのも悪くはない。」

 

メリスも満更ではなさそうに少し微笑んだ。

 

─────────

 

そしてその夜。ウルク市の都市部、それも広場に位置する場所にて宴が開かれた。

 

そこでもギルは気を効かせてメリスとエルキの仲を取り持とうと二人を一ヶ所に集めたが、

 

「......」

 

「......」

 

やはり二人は黙ったままだった。

 

「おい、メリス。何時まで黙っているつもりだ?..酒の席だぞ。笑え笑え。」

 

と言ってギルがメリスに酒を勧める。

 

「ああ、ありがとう。」

 

メリスはギルから杯を受け取り、そのまま酒を飲む。

 

「おっ?」

 

実をいうとメリスは、今まで酒と名の付くものを飲んだことが無かったのだが、この酒はどの酒とも違う"何か"があると感じた。

 

「上手いなこの酒。....俺は今まで酒を飲んだことはないがこの酒だけは別格だと思える。」

 

と、ギルに素直な感想を伝えるメリス。それを聞いた。ギルは、

 

「そうだろうよ!...この酒は王たる我の蔵から出してきたもの。...上手くない筈がないであろう。」

 

と、まるで自分が褒められたように嬉しそうに笑った。

 

────────

 

宴を初めてから数時間後。

夜も更けてきた頃、空から光り輝く何かがメリス達の前に降りてきた。

 

メリスは何かと思いながらも顔を反らし、ギルとエルキはしかめっ面で光を見た。

 

メリスが再度光を確認すると、そこには美女が立っていた。その容姿は男性の理想であるグラマラス体型で、漆黒の髪を靡かせており、見るものの目を惹く存在感である。

 

「お初にお目にかかります、ギルガメッシュ王。....私は女神。女神イシュタル。以後お見知りおきを。」

 

自らを女神と称した女性はイシュタルと名乗った。

 

イシュタルとは、このウルク市を守護している女神の名である。

 

その権能は戦いと施しを司り、世の男を翻弄すると伝えられている。

 

その女神が一体何のようでメリス達の前に現れたのか、

 

メリスがそう考えていると隣にいたギルが小声で話しかけてきた。

 

「気を付けろよメリス。...奴には気を許すなよ。」

 

「ああ。分かってる。」

 

 

と、メリスに忠告したギルだったが、

 

「フハハハハ!」

 

「アハハハ!」

 

と、いつの間にやらギルとイシュタルは仲睦まじくなっていた。

 

「お前ら....仲良くなりすぎだろ。」

 

と、メリスは仮にも女神であるイシュタルに対してついタメ口でツッコんでしまったが、聞いていなかったのかギルと仲良く酒を飲み交わしていた。

 

だが、

 

「あっ。」

 

イシュタルにのせられてを引こうとしたギルだったが、うっかりその楽器を近くの穴に落としてしまった。

 

この時代はまだ神のいる領域と人間の世界が繋がっていた時代だった為、穴の先は冥界へと繋がっている。普通の人間ならば穴に物を落としてしまった場合、取りに行く事は死ぬ事と同義の為、諦めるしかない。のだが、

 

「王よ、お止め下さい!」

 

「ええい!放せ、我が取りに行くと言っておろうが!」

 

ギルは自分から取りに行くと言って聞かず、兵士達に取り押さえられていた。

 

「.......はぁ、しょうがない。」

 

メリスはそんなギルの様子を確認すると仕方なく立ち上がる。

 

『なら俺(僕)が取りに行く(こう)。......ん?』

 

メリスがギルに取りに行くと言ったと同時に同じ事を言った声をメリスは右隣から聞いた。

 

メリスがそちらに振り向くとそこに居たのはエルキだった。

 

『...........』

 

この二人、先程まで少し揉めていたこともあり、互いの顔を見合わせて何かを言いたげであったが、そのまま無言の状態が続いた。これを見たギルはニヤリと笑い、何かを思い付いたようだった。

 

「そうかそうか。なら取りに行って貰おうか....二人で一緒に(・・・・・・)。」

 

「は!?」

 

ギルの突然の提案に対してメリスは戸惑ってしまった。

 

------------------

 

「待たせたな。」

 

あの後メリスは直ぐに自宅に戻り、着替えてきた。

 

「おや、成る程。...それが君のもう一つの姿か。」

 

それはメリスが傭兵家業で何時も身に付けている黒装束であった。

 

「なんだ、知ってたのか。」

 

「まぁ、ギルから聞いているからね。」

 

「それもそうか。」

 

メリスはギルが未来視出来る事を今まで忘れていたが、思い出してから考えてみると隠しても意味が無かったと今更ながら思うのだった。

 

「さて、そろそろ行くか。」

 

「ああ。」

 

-------------------------

 

冥界

 

第一の門を通り抜けた時、メリスは立ち止まった。

 

「メリス?」

 

メリスの異変を感じたエルキは振り返ってメリスを見る。

 

「エルキ.......済まなかった!」

 

メリスはエルキに謝罪した。それも土下座だった。

 

「何故、謝るんだいメリス。」

 

エルキはまるで意味が分からないという様でキョトンとしている。

 

「もしかしてフンババのことかい?....なら君が謝る必要は無い。僕は僕が正しいと思ったことを、君は君が正しいと思ったことをお互いにした。......ただそれだけのことだ。」

 

エルキはそう言うとそそくさと先に進んでいく。

 

「俺は!....お前に兵器としてではなく、一つの命として生きて欲しいんだ!」

 

エルキは立ち止まった。

 

「余計な心配だ....僕は兵器、それは今も変わらない事実だ。」

 

そうメリスに告げて先に進む。

 

「....そんなの....悲しいとは...お前は思わないんだろうな、エルキ。」

 

━━━━━━━━━━━━━

 

冥界の第一の門前にて、

 

「此所が.....第一の門...。」

 

ギルから話を聞いていた二人は、門自体の大きさに圧倒されていた。

 

「エルキーあったか~?」

 

「此方には無いよ~。」

 

二人は呑気にもギルが落とした楽器を探している。

 

すると、

 

『誰だ?』

 

何処からか声が響いてきた。

 

「ん?エルキ...今何か言ったか?」

 

「いいや、何も。」

 

メリスはエルキの声だと錯覚したが、それはきっと自分が聞き間違えたのだろうと自分一人で納得した。

 

『誰だ.......我の冥界に肉体を持ち込んだ輩は...!』

 

声は先程よりも鮮明に聞こえた。

 

すると二人の周りに幽霊が出現する。

 

「ガルラ霊か!!」

 

「どうするつもりだいメリス?」

 

エルキがメリスの判断を仰ぐ。

 

「......仕方ない、此処まで来たからにはやるしかないか。」

 

メリスは暫く考えてから左腕に付けていた"縄"を解く(ほど)

 

すると縄は独りでに動きだし、メリスの目の前にいたガルラ霊を全て締め上げた。

 

「なっ!?バカな!....縄でガルラ霊を締め上げただと!?」

 

「この"縄"は特別製でね。」

 

得意気にメリスは答える。

 

「成る程.....その"縄"、レバノン杉の光る木から作ってあるね?」

 

エルキが気付いたのか、そうメリスに指摘する。

 

「正解だ.....といっても正確には光る杉の樹液を染み込ませただけのただの"縄"さ。」

 

メリスが"縄"を引き寄せ、捕らえたガルラ霊を右手に握ったダガーで斬りつける。

 

するとガルラ霊は消失した。

 

『.....成る程、その"縄"は捕らえた者を強制的に実体化させる事が出来るのか。』

 

メリスはふと、エルキの方はどうだろうか?と思い視線を向ける。そこにはガルラ霊を全て消し去り、冷たい目を地面に向けているエルキがいた。

 

『......どうやら、私の完敗のようだな。』

 

声はメリス達の近くから聞こえ、次第にその声の主が実体化する。

 

そこには先程のガルラ霊よりも更に巨大なガルラ霊が佇んでいた。

 

『問おう、人の子よ....何故我が冥界を荒らす?』

 

ガルラ霊はメリスに問いかけた。メリスは静かに答える。

 

「別に荒らしに来た訳じゃない......ただ、ウチのサボり魔が楽器を落としてね、それを取ってこいって言うから仕方なく来てるだけさ。.......もし楽器を返してくれないなら....そうだな...。」

 

メリスは暫く考え、こう結論を出した。

 

「俺らが引き返す、それなら文句は無いだろう。」

 

『え?』

 

ガルラ霊(以後悪霊)は驚いた。

 

『え?.....それ、本気で言ってる?』

 

「え?本気だけど、それがどうかしたの?」

 

悪霊は口調が変わり、メリスもつい素に戻っていた。

 

『いや、だって....そういう場合、「殺してでも奪い取る!」...って言うかと思ってたんだけど。』

 

急にモジモジしだす悪霊、それを見てメリスは...

 

「いや、殺す訳ないじゃん.....俺、ただの人間だよ?.....ましてや"冥界の女主人"を殺せるなんて傲慢な考えは持ち合わせてないし。」

 

『え?.....あんた、私の正体.....知ってたの?』

 

冥界の女主人 エレシュキガルと看破するメリス。

 

「いや...ギルに聞いたことあったし。」

 

「ギル?......まさかあのギルガメッシュ!?」

 

「え?....そうだけど?」

 

キョトンとしながらメリスは答える。

 

「う、嘘....あの暴君に人間の友人がいたなんて.....」

 

ワナワナと震える エレシュキガルは遂に、真の姿を見せた。

 

「....それがあんたの本当の姿か...。」

 

「ええそうよ....と言ってもまさか楽器一つの為に此処まで来るとは思わなかったのだわ。」

 

(だわ?)

 

先程とは違って変な語尾が付いていた。

 

「まぁ....正直言って俺らも取りに来るつもりはなかったんだが.....」

 

「ギルが自分が取りに行くって聞かなくてね。」

 

やれやれとため息を吐きながらメリスとエルキは話す。

 

「.....その楽器ってこれの事かしら?」

 

エレシュキガルがガルラ霊に運ばせてきた物をメリス達に見せる

 

それこそギルが落とした楽器であった。

 

「ああこれだ.....ありがとうエレシュキガル。」

 

ニコッと笑ってメリスはエレシュキガルに感謝した。

 

「///.....べ、別に邪魔だったから...持っていってもいいわよ。」

 

照れながら楽器をメリスに渡す。

 

「そうだ.....お礼といってはなんだけど.....あった。」

 

ガサゴソとポーチを漁って取り出した物 それは種であった。

 

「何これ.....種?」

 

「花の種だ...と言ってもただの種じゃない....夜に咲く花の種だ。」

 

「え....!?」

 

「この冥界では日の光りが入ってこない....なら、せめて夜に咲く花の種を蒔いて、花畑を作って見ればいいんじゃないかな?」

 

「あ...ありがとう。」

 

エレシュキガルは種を受けとると、そのまま歩きだして近くの土の中に種を植えた。

 

「後は水を定期的に与えれば花が咲く筈だ。」

 

「メリス....君も隅に置けないね。」

 

ニヤニヤしながらエルキがメリスを見る。

 

「なんだよエルキ、俺は親切のつもりだぞ。」

 

「これは....ラヌスも苦労するだろうな。」

 

「え...!?ちょっと待って...今、ラヌスって言った?」

 

何故かその名前を聞いた途端、エレシュキガルが慌て始めた。

 

「?......言ったけどそれがどうかした?」

 

「?」

 

メリスとエルキはエレシュキガルが驚いたことに疑問符を浮かべる。

 

「あんた達.....まさか知らないの?」

 

「「何を?」」

 

「何をって...ラヌスって言ったら天界でも一、二を争う程の嫉妬心の強い女神なのよ!!?」

 

「「え!?」」

 

初耳だった。まさか自分の妻が女神だったなんて知りもしなかったからだ。

 

「え...何それ聞いてない....俺全く知らなかった。」

 

「僕も....まさかラヌスが....」

 

「...貴方達の反応を見る限りだと本当に知らなかったのね...」

 

呆れたような様子でエレシュキガルは まぁいいわとだけ口にした。

 

「それで...あいつ、今何してんの?」

 

「此処にいるメリスの妻になってるよ。」

 

「子供も今は14人いるな。」

 

「え!?....あいつあんたと結婚したの....!?....しかも子供14人って.....多すぎるでしょ!?」

 

現在のラヌスの様子に対して驚愕するしかないエレシュキガル。子供の数に関しては至極真っ当な返答を返してくれている。

 

「な....なんでそんなに子供がいるのよ....。」

 

「あー....簡単に説明すると....俺に近付いた女の匂いを消す為とか変な理由つけては毎晩犯されてたんで....ホント、勘弁してくれと何度言ったことか....。」

 

淡々とハイライトの消えた目で語るメリス。どうやら過去のトラウマを思い出している様子である。

 

「あ....ごめんなさい....まさかそこまでとは。」

 

「メリスも苦労してるんだなぁ.....。」

 

「あっ....ちょっと待ってて。」

 

急に何かを思い出したエレシュキガルは何処かへ走って行った

 

そして暫くしてから戻って来ると、両腕に黒い布に包まれた剣を抱えていた。

 

「それは?」

 

「一週間位前に地上から落ちてきた剣よ.....メリス、貴方にこれを差し上げます。」

 

女神の威厳を見せながらメリスに剣を渡す。

 

「....いいのか?」

 

「ええ、私には必要ないから。」

 

メリスは剣を受け取ると、ベルトに差し込み、軽く素振りをする。

 

「うん...しっくりくる...有り難うエレシュキガル。」

 

「お...お礼を言われる程のことではないのだわ。」

 

照れ臭そうに顔を背けるが、何処か嬉しそうな表情を見せるエレシュキガル。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「それじゃあ...私は此処までだから。」

 

「ありがとうエレシュキガル、お陰で助かった。」

 

「ギルの代わりにお礼を言うよ....ありがとう。」

 

「も...もう、そんなに言わないでよ...恥ずかしいじゃない....」

 

「次に来るときは死後か....そん時は一緒に花の世話でもするかな。」

 

「えっ...///」

 

(あー....これは)

 

何かを察した様子のエルキ、これは苦労するなとメリスを見る。

 

(やれやれ....ギルがこの場に居たらこの女たらし...とかメリスに言いそうだ。)

 

と、口に出さずに先に地上へと戻り、メリスはその後に続くようにして戻るのだった。

 

━━━━━━━━━━━

 

「戻ってきたはいいものの.....」

 

二人が戻るとそこは━━地獄であった。

 

「何だこれ.....?」

 

目の前ではギルとイシュタルが口喧嘩を始めていた。

 

「おいおいお二人さん、痴話喧嘩なら他所でやってくれませんかねぇ?」

 

メリスが悪戯っぽく言うと、

 

「「誰が夫婦だ(よ)!!」」

 

と盛大にハモる。

 

「....それで?俺達が冥界に行ってる間、一体何があったんだギル....」

 

「それがだな.....」

 

事の経緯はこうだ。

 

メリスとエルキが冥界に向かった数時間後、イシュタルが身の上話や悩み事をギルに相談した。それに対してギルは難なく答えた。それに気を良くしたのか、イシュタルが突然ギルに告白したらしい。

 

一目惚れだとか、恐らく遠征での様子も見ていたようである。

 

「成る程ね。」

 

(つまりはイシュタルに告白されたことに対する返答でギルが断り、それに対してイシュタルは何故断られたのか分からず憤慨している....と。)

 

情報を整理した結果を思考し、どうすべきなのかを考えていると、

 

「ほら、あんたからも何か言いなさいよ!」

 

「えっ、俺?....そこで俺に振るの?」

 

イシュタルにメリス。

 

「そうだな....付き合うとか結婚とかって互いが互いに好意を持っていないと成立しないから...先ずはギルをその気にさせないと駄目だと思う。」

 

「成る程ね....一理あるわ。」

 

「おいメリス!どっちの味方なのだ!!」

 

イシュタルの味方をしたことでギルがメリスに吠える。

 

「....しかしだ、ギル自身が女神のあんたとの結婚が嫌だと拒否してるんだ...だから諦めたらどうだ?」

 

「メリス....!」

 

下げてから上げられたギルの表情は、雲りから晴れた空のように明るくなった。

 

「ち、ちょっと!あんた...私の味方じゃなかったの?」

 

「ん?何を言ってんだ...俺はギルの...人間で唯一の親友だぞ?....友を売ることなんてしねぇよ。」

 

「ぐぬぬぬぬ......!あんた、私が誰だか分かって言ってるの?」

 

「このウルクを守っていると言い張る自称女神様だろ?」

 

「なっ...!あんた、私に対して不敬もいいとこよ...今この場であんたを殺してやりましょうか....!!」

 

「....俺を殺したらウチの嫁さんとそこの王様が黙ってないと思うが、それでもいいなら別に構わないぜ。」

 

「言わせておけば.....!!」

 

ギルとイシュタルの口論から一転、今度はメリスとイシュタルが口論を始めてしまった。

 

「おい、メリス....その辺にしておけ、我は大丈夫だ...というか元から結婚する気は無いからな。」

 

「イシュタル様もその辺でお止めください...女神としての。」

 

「....分かった、ギルがそう言うなら。」

 

「.....シドゥリがそこまで言うなら、止めるわよ。」

 

メリスとイシュタルはギルとシドゥリに止められて一時的に矛を収めたが、

 

「....でも、メリスとかいったかしら.....あんたは許さないわ!」

 

そう言い放ってイシュタルは飛んで行ってしまった。

 

「......もしかして、俺....やらかした?」

 

イシュタルを見送った後、冷や汗だらだらでギル達に問い質すがギル以外は全員顔を反らす。

 

「ちょっと!?何でギル以外顔を反らすんだよ!!?」

 

慌てふためきながらも周囲に助けを求めるが、誰も目を合わせてくれず戸惑っていたが、

 

「よくやったぞメリス、あの強欲女神を退けるなど...この我でも出来んことだからな。」

 

ニヤニヤしながらメリスに近寄っていくギル。

 

「嬉しくねーよ!それよりも俺が言いたいのは、あいつを退けたことでこのウルクに何かしらの災害が来るんじゃないかってことだよ!」

 

メリスのその言葉は説得力があった。

 

これまでこのウルクを守護してきたイシュタルがまさか自分が守っているウルクの住民の一人にあそこまで言われた事が無かったのだろう。天に帰る時にちょっと泣いていたし....

 

「メリス殿の言うことも一理あります....彼女なら、父神(アン)に頼んで災厄を起こすことも可能です。」

 

「.........どうしよう。」

 

『.....................』

 

メリスのやってしまったという感じの言葉に対して、返答するものは誰も居なかった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「......ここか。」

 

宴会から数日後のある日の深夜、メリスは再び黒衣をその身に纏って、ある洞窟の中を進んで最奥を目指していた。

 

「...........!!」

 

たどり着いた其処は、ゴブリン達の巣窟だった。

 

しかも、今から捕らえた女達を今から犯そうとしている所であった。

 

「....てめぇら.......覚悟は出来てんだろうなぁ!!!」

 

ゴブリン達の所業にメリスは激怒し、ダガーで突っ込み、一匹一匹、首を落としていく。その時のメリスの表情は正に鬼であった。

 

「ナンダ....コイツハ!?」

 

「シルカ!ヤッチマエ!!」

 

何匹かは殺されまいとしてメリスを殺しにくる、生き物として当然の反応である。

 

殺されるくらいならば逆に殺す。自然での弱肉強食に酷似した考え方である。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

群がってくるゴブリンの首を正確に狙って斬りつけるメリス、その切り口からは緑色の体液が滝のように噴出している。

 

「うおおおおおおお!!!!」

 

メリスも負けじとゴブリン達を斬り捨てていく。

 

だがメリスは気付いていなかった。

 

この時、背後から近付いているゴブリンがいることを━━━

 

「シネ!」

 

(しまった!.....後ろをとられた....!)

 

メリスが死を覚悟した時、彼の右腕は無意識に動き、持っていたダガーの片割れを手放すと、腰に差していた黒曜石の剣を引き抜き、ゴブリンの攻撃を受け止めた。

 

「ナンダト!!?」

 

驚いたゴブリンは引き下がり、メリスとの距離を空ける。

 

(何だ.....今のは....!!?)

 

この事に一番驚いたのはメリス本人であった。

 

無意識の内に自身の右腕が動き、そのまま剣を抜いたのだからだ。

 

(もしかしてこの剣....何か特別な力が宿っているのか?)

 

エレシュキガルから受け取った剣が自分の危機を救ってくれた。

 

この事実にメリスは自分はエレシュキガルに守られているのではと錯覚してしまいそうになった。

 

(なんて事考えてる場合じゃない!今はこいつらの殲滅に集中しろ俺!)

 

直ぐに思考していた事を頭から消去し、ゴブリン達に向き直るメリス。

 

「行くぞオラァァァァァ!!!」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

その後、ものの数分でその場にいたゴブリン達は一匹を残して殲滅された。

 

「ヒ、ヒィィィィ...!!」

 

「........」

 

メリスに恐怖を抱いてしまったゴブリンは尻餅を付いてしまいそのまま後退りする。

 

それを見たメリスは一言、

 

「....命まではとらねぇよ....だがな、二度と人間を襲うんじゃねぇぞ...でなければお前を殺す。」

 

ゴブリンを見下して言い放つ。

 

「ウ、ウワァァァァァ!!!!」

 

ゴブリンは急いで立ち上がると洞窟から飛び出して逃げていった。

 

「.....さてと、」

 

メリスは犯される後一歩というところで助け出した女性達に近寄る。

 

「大丈夫か?....助けに来たぞ。」

 

「あ...あの、ありがとうございます。」

 

助けられた女性の一人は何処か怯えた様子でメリスに感謝の言葉を述べる。

 

「?....ああ、この返り血と仮面か。」

 

女性が恐怖している理由に気付いたメリスは仮面を外し、外套を脱いだ。

 

「別に怪しい者じゃない、あんた達を助けに来ただけだ。」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「あぁ、嘘はつかない。」

 

メリスの言葉にその場にいた女性達の表情が暗いものからどんどん明るくなっていくのが見て分かった。

 

「ありがとうございます!...本当に何とお礼を申し上げればいいのか」

 

「いや、そういうのいいから....ほら、あそこに向かって走れば直ぐに外だ....拐われた場所まで護衛ぐらいならするから。」

 

「ありがとうございます。」

 

「.......」

 

(ここまで感謝されるとは思ってなかったから....反応に困るな。)

 

そう考えつつも、メリスは彼女達をまで誘導するのだった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「ここまで来れば安心だろう。」

 

メリスは彼女達が拐われたと思われる場所まで護衛し、安全に送り届けた。

 

「本当にありがとうございます。」

 

「いいよ、別に大した事をした訳じゃないから。」

 

それじゃ、と一言残してメリスは走り去って行った。

 

(あの方角は......確かウルクの町があった筈。)

 

その時、メリスが助けた女性の一人がメリスの走り去って行った方角を見てメリスがウルクに住んでいるのではないかという憶測を立てた。

 

(明日の朝、確かめに行ってみよう。)

 

女性は後日、メリスの正体を知るためにウルクへと向かうのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

後日、ウルクにて

 

女性は自分達を助けてくれた"彼"の事が知りたくて、この町を訪ねてきた。

 

「彼は何処に...」

 

女性は辺りを見回しながら、この町の中心を目指す。

 

其処に自分達を救いだしてくれた"彼"がいると信じて━━━

 

━━━━━━━━━━━━

 

「何処にも居ない。」

 

あれから数分後、町中をくまなく探したが肝心の"彼"の姿は何処にも無く、もう諦めて帰ろうか。そう考えた矢先、

 

「コラァァァ!またサボったなギルゥゥゥゥゥ!!!」

 

「ち、ちょっとくらいならよいであろう!」

 

「お前のちょっとは約2時間だろうが!そんなにサボったらウルク崩壊するわ!」

 

彼女の目の前を二人の男が通り過ぎていった。のだが、彼女は追いかけていた男性の姿に何処と無く、"彼"に似た雰囲気を感じ取った。

 

(もしかして....あの人が....?)

 

そんな予想を立てて男性を追いかける。

 

━━━━━━━━━━━

 

「だーっ!クソッ!見失っちまった.....あのサボり魔が行きそうな場所は....」

 

「あの~」

 

「うひゃう!?」

 

突然後ろから声を掛けられてしまったメリスは驚いて変な声を出してしまう。

 

「あの....すいません。」

 

振り向くと其処には以前、自分が助けたうちの一人の女性が立っていた。

 

「えーっと.....何か?」

 

メリスは一応、傭兵稼業は隠れて行っている為、あまり身元が割れるような行いは控えている(それでもギルとエルキにはバレているが。)その為、女性に対しても素っ気ない態度をとり自分に向けられる意識を反らしたいのだ。

 

「貴方......以前、私達を助けてくれた人...ですよね?」

 

(いきなり核心付いた発言が飛んできたー!?)

 

「あの....一体、何の話でしょうか?」

 

メリスはそれでも惚けた様子で返事を返す。

 

「惚けてもダメです....先程、貴方とすれ違った時...核心しました....貴方が...貴方こそが、私を...私達を助けてくれた"あの人"だということに。」

 

そう言うと女性は深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございました。」

 

「......え?」

 

予想外の行動にメリスは唖然としてしまう。

 

「貴方のお陰で、私達は普段の生活に戻る事が出来ました。」

 

「いや.....その....」

 

(こうなっては隠しても無駄だな...。)

 

「そっか....でも俺は、金の為に依頼をこなしただけだ。」

 

「そうですか.....でも、私にとっては貴方は"英雄"です....あの時の出来事だけで...私達は救われました。」

 

女性はメリスそう言って抱き付いた。

 

だがメリスの方は、

 

(ヤバイヤバイヤバイ!....こんなのがラヌスに見つかったら....!)

 

先ず間違いなく搾り尽くされるだろう....性的な意味で、

 

「あ...あのさ、俺....妻と子供がいるんだよ....だから」

 

「だから....なんです?」

 

「え....いや、それはその......」

 

底で口ごもって何も言えなくなってしまう。

 

「....大丈夫ですよ、バレなければいいんですから。」

 

「いや、それバレたら後で大変なことになるヤツ....」

 

その後、メリスは女性の頼みを断りきれずにそのまま共に床についてしまうのだった。

 

因みに、ギルはシドゥリ達の別動隊に確保された。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

それから数日後、

 

「...となるから、ここではこう動いてくれ。」

 

「はっ、了解しました。」

 

現在メリスは兵士達にに兵法を指南しており、隊列の組み方や進軍の方法等の内容を指南していた。

 

すると、

 

ズシン、ズシンと地響きが聞こえ始める。

 

「何だ!?」

 

「報告します! 南西方向から巨大な牛がこのウルクに接近中!」

 

「何!?」

 

メリスが建物から飛び出して見たもの、それは━━巨大な()であった。

 

「牛!?」

 

「いいや、あれはただの牛ではない....天の牝牛、名をグガランナという。」

 

「グガランナ...。」

 

建物の上には既に臨戦態勢となっているギルがグガランナを睨み付けていた。

 

「メリスよ....直ぐに支度しろ、奴を止める。」

 

「ああ、了解した...!」

 

急いで自宅へと戻り、裏の仕事人の姿へと装いを変える。

 

そして、

 

(仮面はこっちの方がいいな...ペストマスク風は見えずらいから。)

 

新調した仮面(目元を隠すゾロマスクと呼ばれるもの)を装着して家を飛び出して、ギルの元へと向かう。

 

━━━━━━━━━━

 

「...来たか。」

 

「ああ。」

 

ギルの隣に立ち、グガランナを見る。

 

「....流石に大きいな...。」

 

「当然だ、グガランナはシュメル最大の神獣....普通の人間なら太刀打ちできまい。」

 

「なら、何故俺を?.....って今更聞くのは無粋か...」

 

━━━━━━━━━━━━

 

数日前、

 

「どうしたギル?...こんなところに呼び出して。」

 

メリスはギルに呼び出され、

 

「以前、我達が行ったフンババの討伐後、イシュタルが来ただろ?」

 

「あぁ、お前に求婚したアレか...」

 

「奴の事だ....父神に泣きついてグガランナをこのウルクに向かわせて滅ぼすやもしれん。」

 

「あぁ......成る程、納得した。」

 

イシュタルの素行の悪さはギルから聞いていたので理解していた。

 

その為、次にイシュタルがする行動もおおよそではあるが、メリス自身も理解が出来ていた。

 

「要するに、俺とギル....お前でグガランナを討伐する...そういうことだろう。」

 

「そうだ。」

 

此所でエルキの名前が出てこなかったのには理由がある。

 

エルキは神に作られた泥人形であり、神に逆らうような行動を行えば即座にエルキドゥとしての意識は奪われてしまい、ただの泥に戻ってしまう。

だからギルはもう一人の友であるメリスを呼び出し、エルキをグガランナと戦わせない為にこうして話を進めていた。

 

「....それで?策はあるのか?....流石に無策じゃ俺達に勝ち目は無いぞ。」

 

「だからこそお前を呼んだのだメリス....お前ならば必ず良い策を見せてくれるとな。」

 

フハハと高笑いするギル

 

やれやれ、また俺に全部任せるのか...と、ため息をつきながら

 

ギルに愚痴るもメリスは長考する。

 

「こんなのはどうだろうか?」

 

そして、メリスが思い付いた策とは━━━━━━━

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「そろそろグガランナが襲ってくる.....手筈通りに頼むぞ、メリス。」

 

「任せとけ.....ギル。」

 

二人は建物から飛び降りると、二手に分かれた。そしてメリスが先ず最初にとった行動は━━━━

 

「オラァ!」

 

グガランナの左前脚に左腕のロープをくくりつけ、霊体化させるというものであった。

 

「ブモッ!?」

 

突然自分の左前足が消失したことに驚いてバランスを崩してしまう。

 

無理もない。痛みもなく、自分の前足が突然消失すればどんな獣であれ戸惑いを覚えてしまう筈だ。

 

「ブモォォォォォ!?」

 

そのまま左側に身体が倒れ、ウルクの町は一部崩壊してしまう。

 

「よし!今だギル!」

 

メリスの合図と同時に、ギルがグガランナの眼前に姿を現す。

 

「喰らえ、天の遣いよ!」

 

背後から剣や槍、斧などをグガランナ目掛けて射出する。

 

「ブモォォォォォ!!!」

 

様々な武器を撃ち込まれたグガランナはたまったものではなく、悲鳴を上げ、痛みから必死に逃れようともがき始める。

 

「無駄だグガランナよ....我達の策の前に...無様に死に行け。」

 

だが、その時...

 

「ブモォォォォォ!!!」

 

「なっ!?」

 

突如グガランナが身体を起こし、咆哮を上げた。

 

「確かにバランスを崩した筈なのに....!?」

 

分からなかった。何故倒れた筈のグガランナが突然起き上がったのか?...何故、ギルの攻撃を受けたのにダメージが少ないのか?

 

メリスはそんな事を考えたが、それよりも次の手を考えなければと再度、思考の渦に意識を傾けた。

 

「メリス!」

 

「ハッ!」

 

気が付いた時には、時既に遅くグガランナの脚が今にもメリスを踏み潰そうとしていた。

 

「クソッ!....此処までなのか....!?」

 

ただ巨大な脚を見上げる事しか出来ないメリス、自分の死を悟り自分は此処までの活躍しか出来ないのかと絶望してしまう。

 

だが、

 

「いや、まだだよ。」

 

(え?)

 

声と同時にグガランナの脚には金色の鎖が巻き付いていた。

 

振り返ると太陽を背にして何者かがメリス達を見下ろしていた。

 

「な....」

 

「な.....」

 

「何で、此所にいるんだ....エルキ!」

 

見下ろしていたのは二人の親友 エルキドゥであった。

 

「大きな地響きが響いた瞬間、二人が居なくなったのに気付いて探してたんだよ....そしたら天の遣いであるグガランナを倒してたから、加勢したってだけだよ。」

 

メリスの元に降りて軽く言ってみせたが、メリスの心情は穏やかではなかった。

 

...けんな

 

「うん?」

 

「ふざけんな!...エルキドゥ、分かってるのか!?...お前が加勢したら....お前は....!」

 

「分かってる....でも、どうしても抑えられなかった。君達が頑張ってるのに...僕だけ何もしないなんて考えられなかった。」

 

その時のエルキドゥは悔しそうな表情をメリスに見せていた。

 

「お前...」

 

(ここまで感情的になるエルキを見るのは初めてだ。)

 

それほどまで二人と行動を共にしたいと思っていたのだろう。

 

「....分かった。」

 

「メリス...!」

 

「ただし!....止めはギルに任せて俺達はグガランナの足止めだけだ....それ以上はたとえお前でも俺は許さない。」

 

メリスの目には怒りの感情が見え、エルキに負担を強いることが無いように配慮したつもりでそう言ったのであった。

 

「分かった、君の言うとおりに行動しよう。」

 

エルキはメリスに従う意思を見せると、我先にと自身の身体の一部である鎖を地中から生み出し、グガランナの脚全てに巻き付ける。

 

「足止めは僕に任せてくれ、ギル。」

 

「エルキドゥ....貴様、」

 

「大丈夫だ、俺がそうならないよう配慮する.....だから、」

 

メリスは一度俯いたが、直ぐに顔を上げて頭上のギルに向き直る。

 

俺を信じろ!ギルガメッシュ!!!

 

メリスの力強い声にギルは、フッとだけ笑い、グガランナに向かって再び王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を解放し、奴目掛けて投擲を再開する。

 

「喰らえ、天の遣い、グガランナよ....そして公開するがいい、貴様が狙ったウルクは.....三人の英雄が居たことを...!」

 

『ブモオオオオオオオ!!!!』

 

グガランナはギルの放った投擲を全て一身に受け、そのまま絶命してしまった。

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「宴だ!」

 

その後、グガランナの死体はギルの意向によって解体され、全て焼き肉としてギルと兵士達に賄われた。

 

「やはり美味い.....天の遣いなだけあって肉質も上等な様だ....それにしても、メリスとエルキは何処へ行ったのか。」

 

そう言いつつもグガランナの焼き肉に舌鼓を打つギルである。

 

━━━━━━━━━━

 

ギル達から少し離れた建物の屋根の上、具体的に言うならエルキが登場した建物の上にメリスとエルキはギル達を見下げていた。

 

「本当に....これで良かったのか、エルキ?」

 

不安そうにエルキを気遣って訪ねるメリス。

 

「心配いらないよ.....僕は兵器だ....それに、何かあれば君とギルが何とかしてくれる....そう、信じているからね。」

 

「そうか....。」

 

「......」

 

「......」

 

そして二人の間に、暫しの沈黙が続いた。

 

「杉の木を、」

 

「うん?」

 

「杉の木を取りに行ったあの日遭遇した怪物」

 

「フンババか....」

 

左腕に巻き付けた縄を一瞥してエルキの返答を待つ。

 

「彼は、僕の親友だった。」

 

「!?......親友、だった?」

 

コクりと頷くとエルキは更に話を続けた。

 

「ギルやメリスと出会う前の僕は、神様達からギルを殺す様に命じられ、このウルクの地に降り立った。」

 

「そこで最初に降り立ったのが、あの杉の木が生い茂る森で最初に出逢った怪物、フンババだった。」

 

「...」

 

メリスはエルキの話を黙って聞いた。そうすべきなのだと、理解していたから。

 

「彼と出逢い、この土地での出来事を全て教えてもらいいざギルを殺しにウルクへと向かった先で...."彼女"と出逢った。」

 

「"シャムハト"....」

 

エルキの語った"彼女"というのは、エルキに人間とは何かを説いた、人物である。

 

メリス自身も出逢い、肌を重ねた事が幾度もあった為、シャムハトの事は知っていたし、彼女から頼まれていた事もあった。

 

エルキとギルの仲を取り持ってほしい、と。

 

「そう...彼女から人として大切な事を教えてもらい、彼女の姿を借り、ギルと殺し合いを始めた。」

 

「だけど、決着はつかなかった...。」

 

「ああ。」

 

「そして暫くしたある時、何処かからやって来たメリス....君と出逢った。」

 

今まで楽しそうにしているギル達を見下げるだけだったエルキがメリスに顔を向けた。

 

「ありがとうメリス....僕みたいな兵器と友達になってくれて....ギルとの仲を取り持ってくれて。」

 

エルキは笑っていた。だが、その笑顔は嬉しいといった感情のものでなく、泣きそうな気持ちを圧し殺しているようであった。

 

「エルキ.....」

 

メリスはエルキを抱き締める。

 

「メ、メリス....!?」

 

「隠さなくていい....ホントは怖いんだろ....死ぬことが。」

 

メリスの一言を皮切りに、エルキは遂に...

 

「ヒッ.....グスッ.....ホントは....死ぬの....怖い....怖いよ、メリス....。」

 

メリスを強く抱き締め返し、圧し殺していた感情を爆発させた。

 

「当たり前だ......死ぬのが怖くない奴なんて....一人も居ないんだからさ。」

 

エルキは暫く泣き続け、メリスはそんなエルキを抱き締めて気持ちを受け止め続けた。

 

そして暫くしてからエルキが口を開く。

 

「メリス....頼みがある。」

 

「何だ?....俺に出来る範囲なら、何でもやってやるよ。」

 

「何でも?....ホントに?」

 

「?....お、おう....出来る範囲でだけど。」

 

次の瞬間、エルキの口から飛び出た言葉は彼の予想をはるかに越えていた。

 

「僕を....抱いて欲しい。」

 

「...........................は?」

 

暫くメリスは思考停止してしまい、エルキの言葉の意味が理解出来なかった。

 

「何を......言ってるんだ.....エルキ?」

 

「?....聞こえなかったのかい?僕をラヌスみたいに抱いて欲しいんだ。」

 

そう言うとエルキは着ていた服をおもむろに脱ぎ始める。

 

「今までギルがやってることを見て、何故か抱かれている女性達が羨ましく思えた....更に言うなら、もし機会があるなら...僕の相手は君がいいと思っていた。」

 

「.....ギルじゃ駄目なのか...?」

 

「ギルは基本的にだらしないから嫌、真面目なメリスなら僕を気遣ってくれるし優しいから....いいかなって...。」

 

「お前なぁ....。」

 

「駄目.....?」

 

エルキはメリスに対して上目遣いでこちらを見てくる。

 

「.......」(これは.....断れないっ!!!)

 

エルキドゥの上目遣い+ウルウルとした瞳に断れないと感じ取り、エルキドゥの願いを叶えることにした。

 

「後悔.....するなよ。」

 

「しないよ....メリスなら、尚更だ。」

 

そして二人は肌を重ね合い、それは夜明けまで続いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「もう朝か....」

 

夜明けの朝日をバックに、エルキを見守る。

 

(とうとう、やってしまった.....。)

 

昨日の事を思い出し、失意に陥る。

 

(いくらあのシャムハトと同じ見た目でも、相手は親友のエルキドゥだぞ....何で手出したんだ俺!....あぁ、あの上目遣いか....はぁ、死にたい。)

 

かなり落ち込んでいる。

 

彼の頭の中では、大切にしている親友とヤってしまった事で一杯いっぱいになっており、ラヌスにどう弁明しようか等とは考えていなかった。

 

(でもまぁ、流石に子供は出来ないだろう.....なんたってエルキだし、というかデキたらヤバい....俺が死ぬ....ラヌスに服上死させられる。)

 

今度はラヌスの事を思いだし、ガクガクと震えだす。

 

(そう言えば、昨日エルキが気になることを言ってたな....俺が"何処かからやって来た"...と、)

 

(俺は一体、何処から来たのだろうか?)

 

次に彼が考えたのは、自分がどうやってこの地にやって来たのかだった。

 

(今思い出しても不思議な事だ、気がついたらこのウルクの土地に一人で立ち尽くしていた....それも、子供の姿で....ん?"子供の姿".....?)

 

子供の姿という言葉に疑問を感じ取り、次の瞬間、突如として頭に激痛が走り出す。

 

「ぐっ.....がっ....」 (何だ!?....急に、頭が....割れる様に....痛い。)

 

頭を押さえて必死で考える。自分という人間の存在価値を...

 

(子供の姿に疑問を感じた....それは、つまり...俺は子供ではなく、ここに来る前は....既に大人だった...?)

 

ならば何故、子供の姿となってウルクに来たのか、メリスは考える。

 

(ウルクに来る前.....俺は、何をしていた?....大人だったら...仕事をしていた筈だ.....一体、何の仕事を....)

 

メリスは更に長考する。

 

(そういえば、何故か毒とか薬草に詳しかったな....なんでだろうか....)

 

もしかして、人を助ける仕事をしていたのだろうか?

 

そう考えた途端、また頭が割れるような感覚に襲われた。

 

(また....この痛み、まるで俺を妨害してるようだ...。)

 

だが、それと同時にこの痛みは真実に近づく度に起こっているような気がした為、自分が真実に近付いている。そう、メリスは感じ取っていた。

 

(人を助ける仕事....."医者"?)

 

その言葉が思い浮かんだ瞬間、まるで足りなかったパズルのピースが嵌まったような感じがした。

 

(俺は、ウルクに来るまでは大人で....医者だった...そういう事か?)

 

(だがまだ名前を思い出せない...."メリス"は違う...."それ"は此処に来た時の名前だ。)

 

だが、どうやっても思い出せない。

 

(....まぁ、俺の過去はまた今度にしよう....今はそれよりも、)

 

隣で眠っている女性、の体型をしているエルキの頬に指をなぞらせる。眠っているエルキを見て、何故だかとても愛しく感じてしまい、そんな行動をとってしまう。

 

「ん?....メリ...ス?」

 

「悪い、起こしたか?」

 

「ううん....ん?」

 

身体を起こしてメリスに近付こうとした時、何かに気付く。

 

「これ、メリスの外套?」

 

「あぁ、建物の上でそのままするのは冷たいと思ってな...」

 

「フフッ。」

 

「?」

 

「やっぱり、メリスは優しいね。」

 

「俺が、優しい?」

 

「だって、僕を気遣ってこんな事をしてくれるんだもの。」

 

笑顔でメリスを見つめるエルキ。

 

「........///」

 

「あれ?どうしたの...そんなに顔を真っ赤にして。」

 

「わ 、悪い....今のお前は、美少女にしか見えなくて...その、照れ臭くなった。」

 

「.........../////.......!」

 

メリスの照れ顔を見てエルキは自身の顔が赤くなっていくのを理解し、それと同時に自分の下腹部が暑くなっていくのを感じた。

 

「ゴメンメリス....もう、我慢....出来ない。」

 

「え?」

 

顔をエルキに向けた途端、彼女に馬乗りになられた。

 

「ち、ちょっとエルキドゥさん!?」

 

「君の照れた顔を見てたら....ココが、どんどん暑くなってきて....君に、静めて貰いたいんだ。」

 

「え?...ええええええええ!!!?...ちょっ、待て待て待て...お前もしかして発情してんの!?...昨日までのシリアスな展開何処行った!?」

 

「さぁ、どうなったんだろうね?」

 

「あ、あの.....エルキドゥさん....目、目が怖いです。」

 

「大丈夫だよ...大人しくしてれば...直ぐに終わるよ。」

 

「いやこの場合、直ぐには終わらな....ア━━━━━━━!!!

 

この日、メリスはエルキに昼まで犯されてしまい...後日、執務を行っているメリスの腰は、生まれたばかりの小鹿の如く、震えていたという。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

グガランナを討伐してから数日後、

 

「急いで解熱用の薬草を用意しろ!これに全て書いてある...全部は取るな少し残して採取してこい!」

 

「は、はい直ちに....」

 

メリスは突然高熱を出して倒れたエルキの看病を行っていた。

 

「何でだ.....エルキはグガランナの動きを封じただけの筈だ....なのに何で...?」

 

「それが....グガランナを討伐した要因の一つ...だったからじゃない?」

 

横になっていたエルキが上体を起こしてメリスに答える。

 

「エルキ!?今は大人しく安静にしてた方が...」

 

「大丈夫、今はまだそこまで苦しくないから。」

 

そうメリスに告げるがメリスから見たエルキはやせ我慢をしているようにしか見えなかった。

 

「メリス。」

 

エルキを尻目に、薬草の調合を行っているメリスに話しかけるエルキ。

 

「何だ、エルキ?」

 

「もし、僕の人格が消えたら...この鎖を君に託そう...。」

 

そう言ってエルキは自身の身体から取り出した鎖をメリスに見せた。

 

「....」

 

「メリス?」

 

「いらねーよ....その代わり、ちゃんと治して俺とギル....そしてエルキ...お前達とまた三人で楽しく日々を過ごさせてくれ。」

 

それは、メリスの心からの願いであった。自分はどうなってもいい...だけどエルキは助けて欲しい。それだけを心に留め、何度も何度も、試行錯誤を繰り返して薬を調合し続けるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

それからメリスは自身の知識を活用し、薬草から作り出した薬を何度も服用させたが効果は無く、それどころか日に日に増して、エルキは苦しんでいった。

 

ギルも今回ばかりはメリスの指示に従い、何度も必要な薬草や薬に使える花等を採取してはまた採取といった様子で手伝ったものの、そんな二人の頑張りを嘲るかの如く、エルキの様子は前述の通りであった。

 

そして、エルキの原因不明の高熱から約12日後のある日、

 

「僕は....どうやら、ここまでのようだ。」

 

「何言ってんだ....まだ助かる方法はある筈だ!」

 

「でも....」

 

「待ってろ、今から薬草を採りに...」

 

篭を背負い、何処かへと出掛けようとした所、ギルが行く手を阻んだ。

 

「メリス....もうよい。」

 

「でも.....でも.....!」

 

メリスは悔しくて涙を流した。自分には薬草だけでなく、人体に関する知識がある。漸く思い出した自分の技術や知識...それらを活用してもエルキを助けることが出来ない。その事実を認めたくはなかった。だが、ギルに「もういい。」と言われ、体から力が抜けていくのが分かった。

 

「クソッ....何も出来ないのか....俺には何も...」

 

「メリス....」

 

「そんな悲しそうな顔をしないでくれ...メリス」

 

「エルキ...?」

 

エルキに声を掛けられてメリスは少しずつ、近付いていく。

 

「こんなにもしてもらったんだ...悔いは無いよ....でも、ただ一つ....たった一つだけ心残りがあるとしたら....それはギル...君の事だ。」

 

「我のこと....?」

 

「僕が居なくなってしまえば....もう君を理解出来る者は居なくなる....誰が君の孤独を埋めてくれるのか....それだけが、僕の心残りだ。」

 

エルキは悲しそうな目をしてギルを見た。

 

するとメリスは、エルキの手を取って、

 

「大丈夫だ....俺がいる....例え、お前が居なくなっても...俺はギルを孤独にはしないしさせない...約束するよ....お前に、ギルにも。」

 

「メリス....」

 

メリスの言葉を聞き、エルキはクスリと笑った。

 

「それを聞けて安心したよ....もうギルは...一人じゃないんだね。」

 

エルキはそれだけを告げると眠るようにして息を引き取った。

 

「エルキ?...おい、エルキ....エルキドゥ!」

 

「エルキドゥ!」

 

二人が何度呼び掛けてもエルキドゥは答えず、二人は自分達の親友エルキドゥはもう此処には居ないのだと、嫌でも理解させられた。

 

「エルキ....お前言ってたな、俺に鎖をやると...」

 

メリスはエルキの服から飛び出していた鎖を掴むと、それを自身の右腕に巻き付けた。

 

「有り難く使わせて貰うぞ...エルキドゥ。」

 

「!....この気配は...」

 

「!....あいつ....よくも...!」

 

ギルとメリスが何者かの気配を感じ取り、我先にとメリスが飛び出していった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「さて、あいつらの間抜けな顔でも拝んでやるとしますか。」

 

ふたりが感じ取った気配は女神、イシュタルのものであった。

 

「さてさて...あの暴君ったらどんな様子かしら....ってあぶな!」

 

イシュタルが王宮に入ろうとした時、鎖が彼女の顔目掛けて飛んできた。

 

「これは...エルキドゥの鎖...?」

 

「貴様、よくも俺たちの前に姿を見せられたな、この恥知らず!」

 

イシュタルが顔を向けた先には、右腕に鎖を巻き付けたメリスが怒りを剥き出しにしてこちらを睨んでいた。

 

「貴様の性で.....貴様のせいで....エルキは....!」

 

メリスの目には、イシュタルを殺す対象としか認識出来ておらず、彼はエルキを殺された怒りと憎しみをイシュタルにぶつけてやろうとしか考えていなかった。

 

「止めろメリス!...人間のお前が、女神に叶うものか...!」

 

メリスを後ろから羽交い締めにして、止めるギル。

 

「放せギル!...俺はコイツを...!」

 

「お前がエルキを失った悔しさは我も理解している....だが、お前が今此処でイシュタルに殺されたら...残された者達はどうなる!」

 

「ハッ!」

 

ギルの言葉で我に返り、鎖を納めて怒りを何とか静めた。

 

「そう...だな、悪かったよギル。」

 

「ちょっと!私に対する謝罪の言葉は無いの!?」

 

「「は?」」

 

イシュタルの発言にメリスとギルは怒りを露にした。

 

「な、何よ....大体、あんな泥人形が居なくなった程度で落ち込んでんじゃ無いわよ!」

 

「あ?」

 

イシュタルの発言は文字通り、火に油を注ぐ行為であった。

 

「貴様....ん?」

 

メリスは隣にいたギルにふと顔を向けた。そこには、今まで滅多な事で怒る事の無かった暴君が女神に対して、怒りの矛先を向けていた。

 

「女神イシュタルよ...我が盟友に対する侮辱の言葉...これ以上発するならば、命は無いと思え...!

 

ギルの言葉には、怒りだけでなく先程のメリスと同様の感情が篭っていた。

 

「う...わ、悪かったわよ....暫くは此処には来ないわ。」

 

それだけ言うとそそくさと姿を眩ませるのだった。

 

そしてこの日を境に、メリスは「女神」とエルキドゥに対する「侮辱」に怒りを覚える様になった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

それから数日後、

 

「行くのか?」

 

「ああ、我はこれから不死を求めて旅に出る。」

 

「.....止められないんだな?」

 

「ああ、止まるつもりは無い。」

 

メリスはエルキの死から死とは何かを探す為、そして不死となるため旅に出る事を決めたギルを見送りに来ていた。

 

「留守は任せるぞ、メリス。」

 

「全く、何時も何時も...面倒事は俺に任せて....まぁ、良いさ....行ってこい...お前が帰ってくるまで...俺がこのウルクを守る...約束しよう。」

 

「ああ、頼んだぞ....メリス。」

 

「じゃあな...ギル。」

 

「また逢おう...我が盟友、メリスよ。」

 

ギルはメリスをそう呼んでから旅に出た。

 

これから先、ウルクを任されたメリスはどうなるのか、それはまだ誰にも分からない。だが、確実に言えるのは、ただ一つ━━━━

 

メリスの運命はもうじき終わりを迎えようとしている。ということである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話 王の帰還 そして....

ギルが旅立って数日が経ったある日、

 

「漸く...戻ってこれた。」

 

ウルクの王 ギルガメッシュは自身の盟友 メリスに国の運営を一任し、不死を求めて旅に出ており、漸く帰還したところであった。

 

だが、

 

(どういう事だ?....門の前に兵士が一人もおらぬ...?)

 

門は何者かの手によってボロボロにされており、普段から門の前に配置されている兵士が一人も居ないのである。

 

(まさか....あの時我が見たのは....!)

 

「王。」

 

「!...シドゥリか。」

 

突然声を掛けられて驚いたが、その人物がシドゥリだと理解すると安堵の表情を浮かべた。

 

「シドゥリ、一体これはどういう事だ?...門の前に兵士が一人もおらぬ...それに門が崩れている...これは一体...」

 

一体、何があったのか? そう訪ねようとした時、

 

「失礼します。」

 

一言だけギルに謝罪するとシドゥリは彼の頬に平手打ちを放った。

 

「な!?....何をするのだ!...シドゥ...リ?」

 

シドゥリの目からは、涙を滝の様に流しており、とても悔しそうな表情を浮かべてギルを睨み付けていた。

 

「一体...この数日間、何をしていたのですか!....貴方が居たら....メリス殿は....!」

 

(メリス?)

 

「一体、メリスに何があったというのだ!?」

 

ギルの質問に対し、シドゥリは踵を返すと、

 

「こちらです、付いてきて下さい。」

 

とだけ伝え、ギルをウルクへと案内する。

 

(まさか....あの時見た"未来"が....?)

 

ギルは旅立つ前、自身が視た"未来"を思いだし、それが現実になったのではと危惧しつつもシドゥリの後に続いた。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

王宮内の王の間にて、

 

「ラヌス、連れてきましたよ。」

 

「ラヌス?」

 

見るとそこには何故か、メリスの妻でありギル達の幼なじみでもあった女性 ラヌスがしゃがみ、目を腫らしてこちらを見ていた。

 

「お帰りなさい、ギルガメッシュ王....」

 

「ラヌス.....。」

 

自分が不在の際、何かあったのだろう。

 

そうギルは理解し、申し訳ない気持ちになった。

 

だが、彼女がしゃがんでいた理由を目撃した瞬間、その気持ちが更に罪悪感に苛まれる事になる。

 

「メリ...ス?」

 

ラヌスがしゃがんでいた理由。それは、ボロボロになり、眼は両方とも瞳が白濁に染まり、左胸にナイフが刺さったメリスを介抱しているからであった。

 

「その声....まさかギルか?」

 

「あ、ああ....メリス、お前...!」

 

「安心しろ....急所はギリギリ外れている...だが、もう何も見えない...."魔眼"を使い過ぎたせいかな。」

 

「"魔眼"?...今、魔眼と言ったのか!?」

 

「ああ....。」

 

メリスが"魔眼"を所持していた事は驚きだったが、今はそれよりも何故こうなっているのか疑問を確かめる事にした。

 

「一体、何があったのだ?」

 

「.....なら、話すとしよう....そうだな、お前が旅に出た日の話から語ろう....」

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

数日前、ギルが旅立った後の事

 

「おはようございますメリス殿。」

 

「おはようございます、シドゥリさん。」

 

互いに挨拶を交わし、業務に取り掛かろうとしたところでシドゥリが気付く。

 

「そう言えば、まだ王の姿を見ていませんね。」

 

また何処かでサボっているのだろうと目星を付け、探しに行こうとしたところで、

 

「あー...シドゥリさん...非常に言いにくいんだけど...」

 

言葉を濁しながらメリスはシドゥリに伝えた。

 

「あいつ、旅に出ました。」

 

「............................え?」

 

ほんの数秒程であったが、シドゥリはポカンとし、メリスの言葉の意味が分からないといった様子であった。

 

「え?....な、何故です?」

 

「エルキの死を体験して死とは何かとあいつなりに考えた結果、不死になろうとしたらしいです...全く、馬鹿だよな...あいつ。」

 

嘲るように笑うとメリスは仕事に取り掛かろうとして王宮に入ろうとした時、

 

....けるな

 

「え?」

 

ふざけんなあの馬鹿王━━━━━!!!

 

「おおっ....こんなシドゥリさん、初めて見た。」

 

シドゥリは遂に堪忍袋の尾が切れ、この場に居ないギルに対して初めて悪態をついた。

 

「ちょっとあの馬鹿王殺してきます。」

 

「え?....いや、え?」

 

突然のギルガメッシュ殺害予告に戸惑ったメリスだったが、直ぐにシドゥリを止める。

 

「ま、待って待って...あの馬鹿殺そうと思ったらエルキの力必要になるから...というかシドゥリさんみたいな普通の人なら先ず間違いなく殺されます。」

 

冷静に分析して落ち着きを取り戻して貰おうとシドゥリを宥めるものの、

 

「ならメリス殿....私と共にあの馬鹿を殺しましょう。」

 

と、共謀して殺してやろうとこちらに持ち掛けてきた。

 

「いやいやいや!何で俺?...何で俺まであの馬鹿を殺さないといけないんですか!?」

 

「だってそのほうが精神的ダメージ与えられると思ったの。」

 

「思ったの....?」

 

普段から真面目なシドゥリがこんな風に可愛く話した事で戸惑いつつも普段とのギャップで少しだけ萌えたメリスであった。

 

その後、何とか落ち着いてもらい、普段通りの業務を行ったもののメリスの負担は普段の約3倍程となり、業務が全て終了する頃には真っ白に燃え尽きてしまっていた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「今日の報告は以上です。」

 

「分かりました、下がって大丈夫です。」

 

本日の業務を終え、メリスの代わりにシドゥリが兵を下がらせる。

 

メリスはギルの分まで業務を行い、へとへとになってしまった。

 

(つ...疲れた、あいつの分までやるとなると此処まで大変だとは...)

 

これは今日の"夜勤"は厳しいかな と思い、休む事にした。

 

因みに"夜勤"とは言わずもがな、暗殺家業のことである。

 

「~♪....ん?」

 

通り過ぎようとした裏路地に何かを見つけ、立ち止まる。

 

「止めてください!」

 

「いいじゃねぇかよ~~ほら、」

 

どうやら男が女性に対して如何わしい事を仕出かそうとしている様子、

 

「おい!そこで何やってる!」

 

メリスが男に向かって声を荒げる。

 

「チッ!...執務官か...クソッ!」

 

男はメリスの姿を見るや否や直ぐ様、その場から走り去っていった。

 

「大丈夫ですか?」

 

「え、ええ...ありがとうございます。」

 

メリスは男には目も暮れず、女性に声を掛けて様子を伺う。

 

どうやら男に襲われそうになっただけであった。

 

「この辺りは暗くてさっきみたいなのに襲われやすい...気を付けな。」

 

ヒラヒラと後ろ手で手を振ってその場を後にした。

 

「あっ...名前、」

 

聞きそびれちゃったな...と呟いた女性は胸を締め付ける感覚が何なのか分からずにいた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

それからメリスはギルの仕事まで掛け持ち、王政を何とか取り仕切ってウルクの街を発展させ続け、夜は何時ものように依頼を受け、ある時は女装して潜入...またある時は、魔獣の討伐を行っていた。

 

そんなある日の事、

 

「今、何と言った?」

 

「ええ、ですから...この街から逃げた男達を殺して(・・・・)欲しいのです。」

 

一瞬、耳を疑った。何故、自分達の土地から逃げ出した者達を殺さなければならないのか、何故自分達の手でやろうとしないのかなど考えは様々なものであった。

 

(でもまぁ...今までの依頼内容を考えれば、有り得ない依頼ではないしなぁ...)

 

少し悩んだ後、彼が導き出した結論は...

 

━━━━━━━━━━━

 

「この辺りかな?」

 

結局メリスは依頼を受け、逃げ出した男達の居場所を動物に訪ね、そして特定していた。

 

(いくら仕事とはいえ....やっぱキツいな。)

 

今までの暗殺者としての活動を思い出しては、そう思うメリスであった。

 

━━━━━━━━━━

 

「誰だ!」

 

逃げ出した男達の集落にメリスが脚を踏み入れると、集落の中にいた一人の男が槍を彼に突き立てた。

 

「...少し落ち着いてくれ。」

 

両手を挙げて降参の意思を男に見せ、落ち着きを取り戻して貰おうとするが、

 

「うるさい!...お前"も"なんだろ...」

 

(お前"も"?)

 

男の言葉に耳を傾け、何か裏があることを悟ったメリス。

 

「あんたの言い分だと、以前にも依頼されてあんた達を殺しに来た奴らがいたようだな...だが、俺は一思いにあんた達を殺そうとは思っていない...少しばかり、話を聞きたいだけだ。」

 

落ち着いた言葉で何とか男達を落ち着かせようとするが、

 

「うるさい!そんなの...そんなの、信用出来るか!やっちまえ!」

 

男は怒りで我を忘れており、メリスの言葉など聞く耳持たない様子。

 

これにはメリスもやむ無しとみなして痛い目を見てもらおうかと考えた時、

 

「そこまでだ!」

 

突如、男の後ろから別の男性の声が響いた。

 

「リーダー...!」

 

男性はリーダーと呼ばれ、男達の注目を浴びていた。

 

「ラーム、この者の言葉に嘘偽りは全く感じられない...ここは素直に話をすべきではないだろうか?」

 

「リーダー...しかし...!」

 

「"暫く黙っていろ...!"これはリーダーとしての命令だ。」

 

「....分かった。」

 

リーダーはラームと呼ばれた男を黙らせるとメリスに近付き、メリスを取り囲んでいた男達を下がらせた。

 

「手荒な歓迎で済まない...私はこの集落のリーダーを努めているマーニアという者だ。」

 

「いや、侵入者に対しては正しい反応だ...俺は依頼を受けたメリスというものだ。」

 

マーニアはメリスの名を聞いて戸惑いを見せた。

 

「メリス...!?まさかあんた、ウルクの執務官では?」

 

「まぁ、そうだが。」

 

「何であんたがこんなことを?」

 

「まぁ、色々事情があってな....今の仕事だけじゃ子供を養えないんでな。」

 

メリスがそう説明するとマーニアは納得した。

 

「成る程な....それで、何で俺達から話を聞きたいと思ったんだ?」

 

いきなり核心を突いた質問をメリスに投げ掛けるマーニア。

 

「依頼してきた村長の反応がおかしかったんでな、依頼した理由を聞いても全く答えてくれなくて...これは、あんた達に聞いた方が分かるかと思ってな、仕事を受けるかどうかはそれから決めれば良いと...そう、俺が判断しただけさ。」

 

「成る程....。」

 

マーニアはメリスの言葉を聞いてから少し考える素振りを見せた。

 

「ここで立ち話もなんだ...少し移動しよう。」

 

「ああ。」

 

━━━━━━━━━━━━

 

集落の中心部にて、

 

焚き火を囲うようにしてマーニアとメリスは座り、マーニアは話を始めた。

 

「俺達も最初は、あの村はとても住みやすい場所だと思って暫く過ごしていたさ。」

 

「なら何故?」

 

「.........」

 

マーニアはメリスを一瞥し、黙った。

 

「....話すべきかどうか....いや、言った方がいいな。

 

「?」

 

独り言でブツブツと何か呟くマーニアにメリスは疑問符を浮かべる。

 

「あんたなら話しても大丈夫そうだな.....あの村では、夜な夜な恐ろしい事が行われていたんだ。」

 

「恐ろしい事?」

 

マーニアの表情は次第に曇り始め、次に彼の口から飛び出た言葉はメリスを驚かせた。

 

「"生け贄"さ....それも全く意味の無い、ただの殺しだ。」

 

「!!」

 

マーニアの話はこうだ。

 

自分達は別の場所からやって来た流れ者だったが、あの村で暮らし始めた頃、村人達は自分達にとても優しく、親切にしてくれ自分達は彼らに恩を返す為に毎日毎日、汗水垂らして畑を耕したり、家畜の世話をして暮らしていたそうだ。しかし、ある日の夜マーニアは眠れず、散歩でもしてから床につこう...そう考えて家を出た時、

村長の家から灯りが漏れている事に気付き、何をしているのだろうと興味本位で覗いたそうだ。

 

その中では何と、

 

「以前、流れ着いた者が生きたまま"解体"されていた...と。」

 

「.....ああ。」

 

なんとも信じられない話であったが、マーニアの表情から察するに真実のようである。

 

「流石に目を疑った....しかし、俺が今話した事は事実だ。」

 

「....流石に、キツかっただろう。」

 

「ああ、直ぐに家に戻って床に付こうとしたが...目に焼き付いちまって....吐いてしまったよ。」

 

無理もない。生きたままの人間の解体ショーなんて常人が見れば嘔吐するのは当然の反応である。

 

「そこからは、流れ者達を全員集めて逃げ....現在に至る訳だ。」

 

マーニアの話を聞いて、納得した。

 

「成る程、合点がいった....要するに、あの村長は自分達の所業を見られたと思い、俺をあんた達に差し向けた訳だ。」

 

"狂っている"...メリスは村長に対してそう評価した。

 

生きた人間を解体するなんて正気の沙汰ではない。

 

何よりも、現在ギルが居ないこの国でそんな悪行は断じて許す事が出来ない....そう思った。

 

「話してくれてありがとう...俺はこれで。」

 

「もう行くのか?」

 

「ああ」

 

何にせよ、真実を見極めなければならない。

 

マーニアの言葉を信じるべきかどうかはこれから考えるとしよう。

 

そう思い、集落を後にした。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「さて、どうしたもんか。」

 

マーニアの話を聞いて、これは村から話も聞くべきではないだろうか?と思った。

 

「そうだ...こういう時は...」

 

何かを思いつき、メリスは再び村へと足を踏み入れるのだった。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

深夜、

 

 

「....準備はいいか?」

 

「ああ。」

 

ある場所から様子を伺う集団が、闇夜に紛れていた。

 

「よし、行くぞ!」

 

今度(・・)こそ!皆殺しだ!」

 

意気込んで、()へと入っていく"男"達

 

そして、

 

『うおおおおおお!?』

 

入り口に罠が仕掛けられており、男達は一人残らず網に捕らえられてぶらんと宙に浮かんでしまう。

 

「"やはり"....嘘つき(・・・)はお前だったか....マーニア(・・・・)

 

悲しそうな顔をして、男達を見上げる一人の男

 

そう、メリスであった。

 

「何で...!?」

 

「何でバレたか(・・・・)....そう言いたいんだな?」

 

簡単な話さ。そう言って、右腕を真横につき出す。

 

するとメリスの腕に一羽の鳥が止まる。

 

「俺は昔から動物の言葉が分かる....何故かは知らないが、コイツに聞いた所、村で殺しをしていたのはお前らだと証言してくれた。」

 

「.....くっ!」

 

ここまでかとマーニアは悔しがった様子を見せた。

 

(計画が破綻して悔しがっているのかお前達が殺してやる癖に俺に嘘をついたな....全く、これだから(・・・・・)....人間は信じられない(・・・・・・・・・).....ん?)

 

メリスは自身の考えにふとした違和感を感じた。

 

(今...なんて考えた?....これだから、人間は信じられない...?....何だ...それ?まるで俺が、人間に裏切られた(・・・・・)みたいな物言い....)

 

「ぐっ!!」

 

再び、メリスの身体は強烈な頭痛という警鐘を鳴らす。

 

まるで、それ以上考えれば今までの自分には戻れないような...そんな感じであった。

(ここまで頭痛が酷くなると....俺は、自分自身の過去に近付いて来ているのか....?)

 

恐らくはそうなのだろうと、納得する。

 

━━━━━━━━━━━━

 

その後マーニア達を引き渡し、 メリスは先程の頭痛の理由について考え始めていた。

 

(最初に頭痛が起こったのは、グガランナを討伐した次の日だったな....)

 

その時、メリスは自分が子供の姿(・・・・・)で立っていた。と考えた事で頭痛が発生、次に発生したのはその後自分の職業は医者であったと理解した時、その次は先程、人間は信じられないと無意識に思った事で発生、

 

この事からメリスは、過去の自分は、実は子供ではなく大人か青年の姿をしており、医者として働いていた。そして、人に裏切られた事がある。

 

そういう事か...と納得する。

 

勿論、頭が割れそうな程の痛みが彼を襲ったが、それでも何とか思考を続け、上記の仮説に辿り着いた。

 

「此処までは分かった...後は...名前(・・)...か...」

 

メリス自身、ホントは此処まで思い出せただけでもよかったのだが、自分の本当の名前を思い出す。それだけで、何か新たな"力"に目覚めるるのではないだろうか?そんな気持ちが浮かび上がってくる。

 

━━━━━━━━━━━

 

「それで、自分の過去の記憶を殆ど思い出した訳か...」

 

「と言っても、全体の9割位だな....残りの記憶は虫食い状態で肝心なものは全く分からなかった。だからこそ、後は名前を思い出せれば全ての記憶を取り戻せると考えた。」

 

まぁ、かなり時間が掛かったが...と、

 

「それで、その後どうやって記憶を取り戻したのだ?」

 

「そうだな....まぁ、色々あったが....」

 

━━━━━━━━━━━

 

それから数日が経ったある日、

 

「はぁ....今日も憂鬱な1日....。」

 

ため息を吐きながら鬱蒼とした様子のメリス。

 

「ま、まぁ...頑張りましょうよ...ね?」

 

シドゥリが何とかメリスを説得して今日の業務を開始しようと試みる....そんな時、

 

「報告します!このウルクに向かって大量の魔獣が押し寄せてきます!」

 

一人の兵士からの報告に耳を疑った。

 

「何だと!?」

 

不足の事態に、メリスは戸惑いを隠せないでいる。

 

突然の強襲、それに対する策など何一つとして出来上がっていないのだから...

 

「直ぐに伝令を回せ!」

 

「ハッ!」

 

慌てて、対策を講じるメリス。それが吉と出るか凶と出るか誰にも分からない。

 

「先ずは、ウルクの防衛の為にバリケードを作る....粘土板をこっちに...!」

 

「此方に...」

 

渡された粘土板にイメージしたバリケードの設計図を刻んでいく。

 

「これを木で作れ。」

 

「木で...ですか?」

 

「いいから急げ!ウルクの危機なんだぞ!」

 

「ハッ、はい!直ちに!」

 

「そっちは門の強化を急げ!」

 

「そこの隊は砲台を用意しろ!」

 

次々に指示を出し、魔獣に対して戦う意思を見せる。

 

しかし、

 

「砲台完成までの時間は?」

 

「急いでも、3日は掛かるそうです。」

 

「門の強化は?」

 

「今、急いで作らせていますが....時間が...」

 

といった具合で、出来上がるまでに時間が足りず、例え完成してもそれまでにウルクは魔獣の手によって壊滅は免れないだろう...

 

(どうする?...仮に急がせれば...最高でも3日...かといって遅らせても魔獣によってウルクは壊滅....兵士を防衛に回す?...駄目だ、犠牲が多くなる...。)

 

メリスは必死で考えた、どうすれば魔獣の群れを倒せるか...どうすれば、犠牲無くウルクを救う事が出来るのかを...

 

「!」

 

そして気付いた、必要最低限の犠牲でウルクを救う方法を...

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「これでよし...後は、」

 

その後、メリスは自宅へと戻り暗殺家業で使う衣装、武器、薬品等を準備していた。

 

「ダガー、剣、薬品よし....最後に」

 

仮面を手にし、そのまま付ける。

 

「.........」

 

自宅を見渡し、目を閉じる。そして覚悟を決めたメリスは、

 

「行ってくるよ。」

 

そう言い残し、家を出ようとした所、

 

「誰!?」

 

ラヌスに見つかってしまう。

 

「既に避難したと思ったんだが...」

 

「...忘れ物を取りに戻ってきたのよ....それより、あなた誰...?」

 

暗がりなので顔は見えず、今のメリスは仮面を付けているため、ラヌスは正体が分からなかったのだろう。

 

「気にするな...何も盗っちゃいない...邪魔したな。」

 

そう言ってラヌスの横を通り過ぎようとした時、

 

「...!...待って!」

 

メリスから漂う匂いにラヌスはハッとなり、そのまま腕を掴んだ。

 

「....まだ何か?」

 

怪訝そうにラヌスを見るメリス、彼なりの最期の別れのつもりなのだろう。

 

「...そうやって、誰にも知られずに死ぬ気?...メリス。」

 

「!...やっぱり、気付くか。」

 

自分の変装には自身があったものの、匂いは消すことが出来なかった。

 

「当たり前よ、私があなたの事で気付かない事なんか無いもの」

 

「それにしては、俺の正体に気付くまで時間が掛かったみたいだが?」

 

「そ、それは...その...」

 

「...まぁ、下らない話は此処までだ....俺は行く...例え、俺が死ぬことになってもだ。」

 

メリスの目は真剣そのものであった。だが、

 

「...駄目よ。」

 

「...駄目か。」

 

「認めない....認められないわよ...こんなの、貴方を見殺しにしろと言ってるようなものじゃない!!!」

 

ラヌスはそんなの受け入れられないと怒りを露にする。

 

(そりゃそうか......そうだろうな...でも...それでも俺は、)

 

「それでも俺は、このウルクを救いたい...ただ、それだけなんだ。」

 

メリスはそう言って、ポーチから小瓶を取り出してラヌスに嗅がせる。

 

「何...を......!?」

 

ラヌスはそのままメリスにもたれ掛かるように倒れ、メリスに抱き抱えられる。

 

「強力な睡眠薬だ....最低でも3日は目を覚まさない....悪いな、こんな...不出来な夫で。」

 

自虐的に笑い、ラヌスを寝かせる。

 

「じゃあな。」

 

そして、門の前まで歩いて行くのだった。

 

その途中、

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

ふと呼び止められ、足を止める。そこには身体を腕で覆い、顔を俯かせた女性がそこに立っていた。

 

「あんたは?」

 

「以前、貴方に助けて頂いたものです。」

 

そんな事あったっけ?と思いながら思い出す。

 

「もしかして、夜襲われそうになってた...?」

 

「はい!...やっぱり、覚えててくれたんですね。」

 

そう言うと女性は嬉しそうに笑顔で此方に近付いてくる。

 

「....えっと、どういったご用で...?」

 

恐る恐る聞きながら女性の返答を待つ。

 

「どうせ、最期ですから...せめて、貴方にお礼をと...」

 

女性の目からは光が消えており、これから死ぬのであろうと予感し、悟った様子。

 

どうやらこの都市に、大量の魔獣が責めてきている事を知り、自分の死を悟ったのだろう。

 

だからこそ、最期に自分を助けたメリスにお礼を言いに来たのだろう。

 

メリスはそんな女性の肩に手を置いた。

 

「え?」

 

「安心してほしい、この街は...必ず俺が救う....何があっても。」

 

それだけ言い残すと、メリスは再び門へと歩いていった。

 

━━━━━━━━━━━━

 

「さて、行く前に思い出さないと....」

 

路地裏で自分の過去について思い出そうと躍起になっていた。

 

どうやら最期にやり残した事として、自分の過去を思い出すことがあったようで、現在門の近くの路地裏に佇んでいた。

 

(といっても、俺の過去を知ってる奴なんて...いないよなぁ。)

 

そんな事を考えていたら、チリン、と鈴の音が聞こえた。

 

「!?....今の、音は....」

 

周囲を見渡すと、メリスの目の前に一匹の黒猫が鎮座し、此方を見ていた。

 

「どうした?....こんなところ....で!?」

 

その瞬間、メリスは再び激しい頭痛に襲われた。

 

「ぐあっ.....!!!」

 

(何だ....急に頭痛が!?....黒猫を見ただけで.....ん?黒、猫?)

 

メリスは目の前の黒猫が気になり、一瞥する。

 

「ニャーン」

 

猫は嬉しそうに此方を見て鳴いた。

 

(この猫は....俺の事を知っているのか?)

 

「黒猫...いや、違う....こいつの....名前は....」

 

目の前の黒猫に既視感を感じ取り、必死に名前を思い出そうとする。

 

「そうだ...確か......ネロ...」

 

そして、メリスも....遂に、

 

「轟....烈斗...!」

 

自身の名前を思いだし、途端に自身の両目に何かの力が宿ったのを感じ取った。

 

「これは....一体...?」

 

目をネロに向けると身体が透けて見え、 赤く光る箇所を見つけた。

 

「もしかして....弱点....か?」

 

恐らくはそうなのだろうと考え、ネロを撫でた。

 

「悪いな...お前まで巻き添えにしたみたいで...でも、俺は大丈夫だから....お前はラヌスの所に行ってくれ。」

 

メリスの言葉を聞き、ネロは一言 ニャーン、とだけ鳴いてそそくさと何処かへと歩いていった。

 

「....さて、と...行くか...!」

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

門の上、メリスは目下の地面を見下ろし、その先を見た。

 

「来ているな....それもかなりの数だ。」

 

そこには、恐らく数十万匹の魔獣であろう影が此方に向かって走ってきているのが見えた。

 

「.........」

 

それを見てメリスは目を閉じて胸の前で拳を握った。

 

思い出すのは、ギルやエルキ、ラヌス達と出会い楽しかった思い出の数々。

 

「ありがとうよ、ギル...ラヌス....そしてエルキ....お陰で俺は幸せだったよ。」

 

そう言って飛び降りようとした時、

 

「そこで何をしている!!」

 

振り向くとそこには門を守る兵士が二人に此方に近付いてくる。

 

「ここは危険だ....早く避難しろ!」

 

「メリス殿の指示があるまで、住民は避難が言い渡されている筈だ。」

 

その言葉を聞いてメリスはクスリ、と笑い。

 

「なら命令だ....砲台と門、そしてバリケードの完成を急げ。」

 

それだけ言うと、メリスは門の前に飛び降りた。

 

「あっ、おい!」

 

兵士達は訳が分からなかったが、それでもメリスの伝えた砲台と門、そしてバリケードの完成を急ぐ必要があると理解していたので、直ぐに門とバリケードの作成に取り掛かった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「さて....俺の人生最大の修羅場だ....やるだけやってやる...!」

 

降りた先で先ず最初に襲いかかってきたのは、四足獣のウシュガルムだった。

 

噛み付かれそうになった所で避けつつ、首を切り落とす。

 

それを幾度も重ねて行い、徐々に門から引き離していく。

 

『怯むな!相手はたった一人だ...数で押せば勝てる...前進しろ!』

 

どうやら魔獣の中にの人語を介する物がいるらしく、そんな声がメリスの耳に届いた。

 

だが、

 

「遅い...」

 

魔獣の動きよりもメリスの速度が勝っており、魔獣がメリスに近付くよりも速くメリスは反応して、魔獣の首を落としていく。

 

「かかってきな...人間の力を思い知らせてやる...!」

 

メリスの眼光は鋭く、魔獣のリーダー格となっているギルタブリルを圧倒するほどであった。

 

『なんだ....お前は一体、何者なんだ!?』

 

「この都市を守護する王の....親友だ!!!」

 

それからのメリスの活躍は凄まじい程であった。

 

ウシュガルム、ムシュフシュの頸をダガーで斬り落とし、ウガルの脚を黒曜石の剣で切断、他にも多種多様な魔獣の急所を"魔眼"の力を使い、的確に見抜いて攻撃を繰り返していた。

 

そして...

 

━━━━━━━━━━━━━

 

それから三日程経過したが、メリスは一睡もせずただただ自分に近付いてくる魔獣を一匹、また一匹と屠っていった。

 

だが、

 

「ハァッ...ハァッ...ハァッ...」

 

流石のメリスにも疲労の色が見え始め、肩で息を始める。

 

『奴に疲れが見え始めた!今なら殺せる...かかれ!』

 

そんなメリスをほおっておく筈もなく、メリスの様子から現在の身体状態を察知したギルタブリルは襲い掛かるよう指示を出した。

 

「....」

 

しかしメリスはいち早く反応し、右腕に巻き付けたかつての友

 

エルキドゥの鎖を使い、魔獣を数匹捕獲する。

 

「オォ...ラァ...!!!」

 

纏めた魔獣を地面に叩き付け、殺す。

 

その瞳には、未だ闘志が宿っていた。

 

「何の...目的があって....このウルクを...攻めて...来たのか...知らないが、引き返すなら....今の内だぞ...魔獣ども...!!!」

 

メリスの言葉に底知れぬ威圧感を感じ取った魔獣のリーダー格

 

ギルタブリルは、

 

『て、撤退...直ちに撤退しろ!!!』

 

魔獣達に撤退の指示を出すと、引き返していった。

 

攻めてきた魔獣の数はおよそ数万匹いたが、撤退した魔獣の数はおよそ数百匹程度にまで減っていた。

 

この事から、メリスはたった一人で三日三晩一睡もせず魔獣の群れに立ち向かっていったのだと分かるほどである。

 

━━━━━━━━━━━

 

(流石に....ヤバイな。)

 

メリス本人は、魔獣が撤退したことで安堵したがそれと同時に自身の視界がボヤけていくのを感じ取った。

 

(完全に見えなくなる前に、ウルクへ...)

 

一歩、また一歩と歩みを進めてウルクへと戻ろうとするメリス。

 

そして、

 

(もう...少し)

 

あと一歩でウルクに戻れる。

 

そう思った瞬間、

 

ザグッ!!!

 

そんな音を立てて、背中から刃物が胸まで飛び出していた。

 

「な...に...!?」

 

振り向くと其処には、

 

『ゲ...グゲゲゲ...。』

 

以前メリスが殺さなかったゴブリンがメリスの身体を貫いた刃物を握りしめていた。

 

『アイツラノ...カタキ...!!!』

 

その様子を見たメリスは、沸々と自身の中で怒りが噴き出してくるのを感じ取った。

 

「俺が生かしてやった理由....分からなかったみたいだな...!」

 

左腕の縄でゴブリンを拘束し、そのままダガーで頸を翅ねた。

 

「全く、最後まで...格好つかないな。」

 

その後、目を覚ましたラヌスに抱き締められ、自身の背中に深々と突き刺さった刃物を抜いてそのまま膝枕を堪能している所で、

 

━━━━━━━━━━━━━━

 

「我が...帰還したと云う訳か...。」

 

「そういう事だ。」

 

「....」

 

メリスの様子と話を聞いて、ギルは後悔した。自分がもっと早く、ウルクに戻ってきていればメリスのこんな姿を見る事は無かったのに、と。

 

「なぁ、ギル...」

 

「なんだ...メリス。」

 

メリスは一呼吸置いて話し始めた。

 

「俺は...エルキと共に、お前達を見守ってるよ。」

 

自分の死を悟り、そう呟いた。

 

「馬鹿な事を言うでない!....お前は、お前が居なくなれば....我は...」

 

「はは....お前の感情的な所、見るのはこれで二回目だな...」

 

そう言って目を閉じようとした時、

 

『メリスさん』

 

突如としてメリスの耳に声が聞こえた。

 

(誰だ....?)

 

『私は何者でもありません。ですが、呼ぶのでしたらら"抑止力"と呼んでください。』

 

(その抑止力が...死に行く俺に、何の用だ?)

 

『簡単な話です、貴方に"英霊"となってもらいたいのです。』

 

(ハッ、俺が英霊だ?...馬鹿な事を言うな....それならギルになってもらえばいいじゃないか。)

 

メリスがそう言うと、

 

『ええ、彼"にも"英霊となって貰いましょう...只し、彼の死後に...ですが。』

 

(な...!?)

 

言っている意味が分からない。コイツは一体、何を言っているのだろう?そんな疑問がメリスの中を駆け巡った。

 

『貴方には英霊になってもらいます....その代わり』

 

(その代わり?)

 

『どんな願いも一つだけ叶えて差し上げましょう。』

 

(願い...か)

 

メリスは考えた。これと言って特に叶えたい願いなど無かったからだ。

 

だが、一つだけメリスの中で叶えたい願いがあった。

 

(なら、俺の願いは...)

 

━━━━━━━━━━━━

 

『宜しいでしょう、では今から貴方を英霊に昇華させましょう。』

 

抑止力は、メリスにスポットライトのような物を当て、彼を空に昇らせていく。

 

そして、

 

(此処は...?)

 

気が付いた時、メリスがいたそこは.....

 

 

 

 

 

 

 



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番外編 その後のウルク

メリスがウルクから消えた数日後、

 

「報告します、西の門の守りについてですが...」

 

「後程、増員を手配する...次。」

 

「報告します...」

 

今日も今日とて、英雄王 ギルガメッシュはウルクを統治する為に報告を聞き、即座に打開策や解決方法を指示して次の報告に移る。

 

全ては、メリスと交わした最期の頼みの為である。

 

━━━━━━━━━━━

 

メリスが抑止力によって英霊に昇華される数分前、

 

「ギル...このウルクは、王であるお前が統治するべき都市だ...だから次は、お前がしっかり統治してくれ...友としての...最期の頼みだ。」

 

「あい分かった...お前の頼み、しかとこのギルガメッシュが受け負った。」

 

━━━━━━━━━━━━━

 

それからというもの、ギルガメッシュは生前のメリス同様に意欲的に王としての執務をこなすようになり、それを最初見たシドゥリは、喜びのあまり「メリス殿のお陰で、やっと王が働いてくれた...!」と言って感極まって号泣したそうな...

 

━━━━━━━━

 

ラヌスはというと、

 

「おかあさ~ん!」

 

メリスとの間に設けた子供達に囲まれて日々を過ごしている。

 

「はいはい...どうしたの?また喧嘩したの?」

 

メリスがいた頃はまだ妻といった雰囲気であったが、もうすっかり母親の顔になっている。

 

「おうさまきたよ━」

 

「...直ぐ行くわ。」

 

━━━━━━━━━━━

 

「もう、また仕事抜け出して来たんですか!?」

 

「いいや、あらかた片付けて来た。」

 

誇らしげにラヌスにそう言い切ったギル。

 

「...なら、いいんですけど。」

 

「....なぁ、ラヌスよ。」

 

「はい。」

 

「自分の"国"に帰るつもりは無いのか?」

 

ギルがそう切り出したが、ラヌスは一呼吸置いて、

 

「...ええ、帰るつもりはありません。」

 

「そうか...」

 

此所で言う"国"とは、神の世界のことであり、メリスは勿論のことエルキもエレシュキガルに教えてもらうまでは知らなかったラヌスの"秘密"である。因みにギルは千里眼で既に見透かしていた。

 

「...」

 

「...」

 

暫しの沈黙、そしてまたギルが口を開いた。

 

「....我は、神の世界とこの地上を切り離すつもりだ....本当にいいのか?」

 

「ええ...私は、メリスの...夫との間にできたこの子達を置いて、帰る訳にはいきませんから。」

 

「!...そうか」

 

ラヌスの言葉と表情に妻として、母親としての強い意志を感じ取り、もはや何も言うまいと思った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「なぁエルキドゥ、メリスよ....我を、見守っていてくれるか?....もし、見守ってくれるというのなら...我は...」

 

二人の友を亡くし、深夜一人で丘の上から夜空を見上げてそう呟くギル。

 

やはり寂しさを感じてか、少し弱気であった。

 

「...いや、弱気になっていてはメリス達に申し開きがたたぬな。」

 

フッ、と笑ってからその場を後にしようとしたが、再び振り向いて夜空を見上げる。そして...

 

「見ていろエルキドゥ、メリス...我は必ず、ウルクを発展させて見せる....!」

 

胸の前で握った拳を強く握り締めて、自分の意志を再確認し。

 

二人の友にそう誓った。

 

この数年後、ギルもメリスと同様に抑止力に英霊として昇華されるのだが、それはまた別の話。

 

 

序章 生前の活躍 ~完~



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第一章 Fate/apocrypha (聖杯大戦)
第一話 始めての参加


「....ん?」

 

メリスが目を覚ますと、目の前には容姿が似ている男が二人。恐らくは双子の兄弟であろうと即座にメリスは理解した。

 

(此処は...一体?)

 

ウルクとは別の場所に転送されたのだとメリスは理解した。

 

(これは......!?)

 

その直後、自分の中に膨大な量の情報が流れ込んでくる。

 

("聖杯戦争"....それに英霊...サーヴァント(英霊)として参加し、自分の願いを叶えろ...と...成る程、願いを叶える...)

 

あの時、抑止力が言った願いを一つだけ叶えるとはこのことなのかと理解する。

 

(確かに嘘は言ってないな....情報を"隠していた"だけで....性質(タチ)悪いなぁ....)

 

ため息を付きたい所だが、今はそれどころではない。

 

(それで?....俺の役割は...?....狂戦士(バーサーカー)!?...狂った戦士!?....でも、なんかカッコいいからもうそれでいいや。)

 

そして口を開いた。

 

「サーヴァントバーサーカー...召喚に応じ参上した....それで、あんたが俺のマスター....で、いいのか?」

 

出来る限り気さくな感じで自分を召喚したであろうマスターに話しかけるメリス。だが、返って来た言葉にメリスは驚愕することになる。

 

「ああそうだ....サーヴァント風情がわざわざつまらん事を聞くな。」

 

「............は?」

 

明らかにメリスに対して侮辱の意が汲み取れそうな返答で、メリスは固まってしまう。

 

(え?何この反応....普通、自分が召喚したサーヴァントとは信頼関係を築いていくものじゃないの!?)

 

聖杯からの知識でそう学んだのに、明らかに嫌そうな男の反応に戸惑いを隠せないメリス。

 

「え?...俺を喚びたくて召喚したんじゃないのか?」

 

「そんな筈があるか...俺は別の英霊を喚ぶつもりだったんだ....それがこんな...」

 

(こんな...?)

 

男の言い分にメリスはカチンとくるが、此処は年上として余裕を持たないといけないと思い、我慢することにした。

 

一方、もう一人の男はというと、

 

「サーヴァントライダー、召喚に応じ参上した。」

 

ライダークラスのサーヴァントを召喚していた。

 

「やったやったぞ!」

 

召喚した男は嬉しそうにしている。

 

「....チッ!」

 

対してメリスを召喚した男は忌々しそうにメリスを睨んだ。

 

(俺が悪い訳じゃないんだけどなぁ....)

 

正直どうでもいいとさえ思えてきたので深くは考え無いようにすることにした。

 

「で、マスター...俺の召喚にどんな触媒を用意したんだ?」

 

メリスが訪ねると男は睨み付けながら指を指した。

 

「成る程、これか。」

 

指差した先にあったもの。それはメリスが生前使用していた毒の原料、すなわち毒草であった。

 

(成る程、俺が生前使用していたからこそ俺とマスターの縁が結ばれて召喚された訳か。)

 

自分が喚ばれた理由に納得がいったが、やはり自分を召喚した男の事はいまいち信用しきれないと感じるのであった。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

黒の陣営 ユグドミレニア城塞地下

 

(ここは....?)

 

巨大な水槽の中にそれぞれ容姿が似通った人間が容れられている。

 

彼らはユグドミレニアが鋳造した人造人間 所謂ホムンクルスである。

 

彼らが造られた理由はただ一つ 来るべき"聖杯大戦"の時、サーヴァントの魔力を供給する役目を担うことである。

 

その中で一人、目覚めようとしているホムンクルスの少年。

 

彼はこの"聖杯大戦"にどう関わっていくのか?

 

 

 



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第二話 聖堂教会へ.../少年の願い

「...それで?今から何処へ行くんだ?」

 

「............」

 

マスターとなる魔術師に尋ねても返答は無い。

 

(相変わらずガン無視ですか....全く、魔術師ってのは皆こうなのか?)

 

魔術師という存在の態度の悪さに、もはや怒りを通り越して呆れさえ感じるようになってしまったメリス。

 

しかし、今は自分の願いを叶える為に仕方なくこの男に付き合うとしよう。そう思って後に続くのだった。

 

━━━━━━━━━━━

 

「ここだな。」

 

メリス達はトゥリファスという街に辿り着き、そこの丘の上に建てられている教会の前まで来ていた。

 

(?....なんだ....この嫌な感じは...?)

 

教会の中から何か異質なモノを感じ取ったメリス。

 

「マスター、此処はヤバい....引き返すぞ。」

 

メリスがデムライトにそう話し掛けるも、

 

「.........」

 

デムライトはひたすらメリスを無視し、教会の扉を潜った。

 

(アイツ....この嫌な感じが分からないのか?...それとも逆に利用してやろうと考えているのか?)

 

だがそれは、生前メリスが遭遇した男 マーニアに似た考え方の元、行動しているのだとメリスは理解する。

 

(此処で待っていても仕方ない....入るか。)

 

後を追い掛けようとして霊体化しようとしたが、

 

(...あれ?)

 

なろうとしても出来ない。

 

(どういうことだ?)

 

聖杯に尋ねると、メリスはまだ生きている状態でサーヴァントとなった為、霊体になることが出来ないのだと伝えられた。

 

(成る程....なら、正体がバレないように配慮するしかないか。)

 

自分の正体が露見すれば、先ず間違いなく対策を取られるだろうからと考え、付けていた仮面を取れないように取り付け、フードを深く被ってから教会の中に入っていった。

 

━━━━━━━━━━

中へ入ると、そこには神父が一人。

 

(神父....いや、この感じは....成る程。)

 

メリスは先程感じた嫌なモノの正体に気付いて納得した。

 

「初めまして。シロウ・コトミネです。今回、聖杯大戦の監督役を務めさせて戴きます。」

 

「デムライト・ペンテルだ。」

 

互いに挨拶を交わし終えるとシロウの隣には黒いドレスを身に纏った女性が佇んでいた。

 

「我は"赤"のアサシン。宜しく頼むぞ、デムライトとやら。」

 

メリスはアサシンから甘い香りと独特の雰囲気から嫌なモノを感じた。

 

(成る程、やはりあの独特の嫌な感じはコイツからしていたのか...。)

 

シロウはメリスをじっと見ていたが、

 

「おや......」

 

「どうしました?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

シロウの態度に不穏なモノを感じたメリスであったが、デムライトがメリスを紹介しようとした時、

 

「此方は...」

 

「赤のバーサーカーだ....それでいいだろう。」

 

デムライトの言葉を遮り、メリス自身が自ら名乗りを上げた。...クラス名でだが。

 

「ふむ....まぁいいだろう。」

 

赤のアサシンは少々不満げではあるが納得したのかそれだけを口にした。

 

「さて、早速ですが現状の報告です。ユグドミレニア一族は、既に六騎のサーヴァントを保有しています。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカー、キャスター......唯一、アサシンだけが合流を果たせてないようです。」

 

「真名が分かっているサーヴァントは?」

 

シロウの報告にメリスは質問を問いかける。

 

「現時点では残念ながら一人も掴んでおりません。まぁ、直接戦った訳ではないので当然と言えば当然ですが。六騎のステータス程度なら、既に確認できています。」

 

シロウが懐から書類を取り出してデムライトに見せる。

 

メリスはデムライトの後ろから資料を閲覧し、敵となるサーヴァントのクラス、見た目、ステータス情報を一度見て、直ぐに覚えた。

 

(現状、相手取るならセイバー、ランサーが厄介だな...例え、奇襲を掛けても勝てる可能性は限りなく低い。)

 

メリスの予想はかなり当たっている。セイバークラスはサーヴァントの中でも最優とまで言われるほど、他のクラスのサーヴァントと比較してステータス値が高くなっている。一方、ランサーのステータスはセイバー程ではないがかなり高い。聖杯曰く、知名度補正というものらしい。対してメリスのステータスはセイバー、ランサーの比べればかなりの差がある。

 

(ランサーがルーマニア地で知名度補正を受けている....なら、真名は....!)

 

聖杯から知名度補正を聞いた瞬間、メリスはランサーの正体に気付いた。

 

「成る程....。」

 

デムライトは分かっていないのか、それしか言わなかった。

 

(今この瞬間ハッキリ分かった....デムライトは使えない...だが、シロウという神父の企みを探る為に懐に飛び込む訳にもいかない。)

 

コトミネ神父の自分に向けた視線と態度でメリスは核心した。

 

何かを企んでいる(・・・・・・・・) と、

 

「ともあれ、デムライトさんのバーサーカー召喚で六騎揃いました。さて、それでは━━━バーサーカーの真名を、教えて戴けませんか?」

 

(俺の正体を知ってどうする気だ?)

 

シロウの質問は自分の正体を知ること以外に何かしらの理由があることを悟ったメリスは、

 

「バーサーカーは...「悪いが、俺の正体を誰にも明かすつもりは無いぞ。」

 

デムライトの言葉を遮ってシロウの質問に頑なに、NO!と答えた。

 

「━━━ふむ。理由を教えてもらえませんか?」

 

「?....何故だ?」

 

「今回、我々は仲間です。互いの命を預ける以上、真名は明かしておいた方がいいのでは?」

 

そもそもの話、真名とはサーヴァントの最重要情報であり、その英霊の本当の名前である。迂闊に明かせば、必然的にどんな宝具を保有しているか?どんな弱点があるか?などの事柄が知られてしまうのである。

 

「それに共同戦線を張る以上、どのような宝具を使用するかは教えて戴けないと。ところがそうすると、ほぼ高確率で真名も看破されるでしょう。同じことですよ。」

 

シロウの提案は確かに道理に適っている。が、メリスにとってはシロウと━━━そして、アサシンと共同戦線を張るという行為事態が、罠のように感じられた。

 

(もし、自分がコイツなら、力ずくで俺を味方に付けようとするだろうな。)

 

メリスはアサシンと対峙した時、自分の事を"我"と言った事からかなり高い地位を持った人物だと目星も付けていた。

 

(暗殺に特化した王女....いや、女帝か?)

 

奇妙で、どこか寒々しいといった感覚。メリスが過去に体験しかけた謀略の感覚だ。

明らかに怪しさしか感じないシロウの提案に対してメリスは、

 

「もちろ...が...!?」

 

「悪いが、俺は俺なりのやり方がある....好きにやらせてもらうぞ。」

 

デムライトを気絶させ、個人で戦うと宣言したメリス。

 

幸いにも、彼のクラスはバーサーカー。他のクラスのサーヴァント相手であれば、太刀打ちが可能だが、逆に言えばそのサーヴァント達が相性としては最悪。つまり、有利であり、不利でもあるクラス。それがバーサーカークラスの強みであり、弱みでもある。

 

「すると、共同戦線を取るつもりは無いと?」

 

(バーサーカー)とセイバー以外ならサーヴァントが揃ってるんだろ?...それに、此方のランサーとライダーが優秀なら、俺が抜けても何も問題は無い筈だ。」

 

「参りましたね。......確かにその通りですが。」

 

少し困ったように、シロウは頭を掻いた。

 

メリスの発言に対し、わずかに目を吊り上げる。表情にはわずかに不快さが滲み出ていた。

 

「━━━すると、お主は我々の助力が不要だと申すのだな?我々ならば、トゥリファスのあらゆる情報が手に入るぞ。」

 

「?...何故そんなに苛立っている(・・・・・・)....まるで自分の思い通りにならないことが納得いかない...って感じだな。」

 

「なっ....言わせておけば....!」

 

メリスの発言に益々アサシンの目が不愉快そうに吊り上げる。シロウがそっと彼女を静止した。そうしなければ、此処でアサシンとメリスが戦う羽目になっていたであろう。

 

これ以上喋るのは不味いと思ったメリスは、

 

「それじゃあ...俺達はこれで、何か緊急の連絡があれば通達してくれ。....それじゃあ、また何処かで...神父様...そして、女帝(・・)殿?」

 

「なっ...!?」

 

デムライトを担いでメリスは教会から出ていく。女帝とアサシンを呼んだ際、彼女が怒りを剥き出しにしたことなど気付く事無く。

 

━━━━━━━━━━━━━

 

「参ったな。どうやら、"彼"には気付かれていたようです。」

 

「そのようだな....全く、いけ好かない男だ。だが、シロウ。お前ならば、あのバーサーカーの真名を見抜けるのではないか?」

 

メリス達が去った後、シロウとアサシンはバーサーカーに勘付かれてしまった。と察していた。アサシンの問い掛けに、シロウは困ったように頭を掻いた。

 

「いやそれが。どうもあのバーサーカーは真名を秘匿するスキルか宝具を持ち合わせているようでして、真名どころかステータスまで靄がかかったように見えなかったので。」

 

「不確定要素は早めに潰しておいた方がいいと我は思うぞ。」

 

「いやいや、止めておきましょう。仲間同士で争うのはまだ早い。」

 

アサシンの容赦の無い提案をあっさりとシロウは拒絶した。

 

「ですが、バーサーカーとセイバークラス以外のサーヴァントは此方にある....後はセイバークラスを引き入れることが出来れば...」

 

神妙な面持ちで何かを考えるコトミネ神父、

 

その企みとは一体...?

 

━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ここまで来れば大丈夫か。」

 

トゥリファスから数㎞離れた場所にある空き家の中までメリスは警戒しながらたどり着いた。

 

「よい...しょっと。」

 

ソファーの上に下ろして、一息つくメリス。

 

「どういうつもりだ貴様!」

 

「......」

 

デムライトはメリスに対して怒りを剥き出しにする。メリスは呆れながらもにこう答えた。

 

「...あそこで俺が発言しなかったら...あんた、同盟に加わっていただろう。」

 

「そうだ!それの何が....」

 

「それが間違ってるんだよ....まだ分からないのか?...アイツらは何かを企んでいた....それも俺達を利用してまで行おうとしていた程だ。」

 

一息置いてから話を戻す。

 

「アイツらの目論見がなんなのかはまだ分からない....だが、これだけはハッキリ言える....アイツらとの同盟は間違いなくあんたにとって...有害でしかないことだ。」

 

「ふざけおって....今から戻って同盟の話を...」

 

「行かせるかよ。」

 

メリスは魔眼(・・)を発動してデムライトの腹部に拳を叩き込んだ。

 

「なっ....貴...様...」

 

ドサッとその場に倒れこみ、メリスはベッドまで彼を運び、睡眠薬を投薬する。

 

「やれやれ、ここまで無能だと怒りを通り越して呆れしかでないな...まぁ、何にせよ...俺のやることはただ一つ。」

 

願いを叶える。

 

その為だけにこの『聖杯大戦』に勝利する。ただ、それだけだ。

 

━━━━━━━━━━━━

 

メリス達が聖堂教会を訪れる少し前、ミレニア城塞内部にて、

 

「......ク、ァ......ッ!!」

 

一人の少年。いや、ホムンクルスが喉に焼け付くような痛みを感じながら、這って移動する。

 

彼は地下の魔力供給槽から脱出し、この城塞から逃げ出そうとしていた。

 

目標は達成したものの、最終目標である逃走は未だ達成していない。それどころか『立ち上がる』事さえ、出来ずにいた。

 

「......?」

 

不意に、自身の鼓動が弾んだ。

 

自分以外の存在が傍らにいることに気付く。視線が彼を捉えている。見られている事が感覚で分かる。逃げなければならないと思う。しかし、どうにもできない。恐怖で身が軋む。押し潰されそうな沈黙に、心臓が耐えきれない程の早鐘を打つ、その時━━。

 

「どうしたのさ、キミ。そんな格好で風邪引くよ?」

 

投げ掛けられた言葉は、彼を案じた温かなものだった。

 

反射的に顔を上げ、目を合わせる。

 

そこには、"黒"のライダーとして召喚されたピンク髪のサーヴァントが此方を一瞥している。

 

「風邪引くよ?」

 

そんな言葉を繰り返す。しかし、どんな言葉を返せばいいのか分からない。ただライダーは自分の返答を待っているのだということは彼にも理解できた。

 

何を言えばいいのだろうか? 何と言えば、適切なのだろうか?

 

助け......て。」

 

聞こえなかったのか、ライダーは顔を近付けて耳をそばだててくる。

 

彼は自分が気絶する事を理解し、怯えた。ただ歩いただけで、これ程苦しかった筈なのに、まだ生きていたいと......彼自身が心の底から、願った。

 

 

 

 

 

 




赤のバーサーカー 真名:メリス

クラス:バーサーカー

ステータス

筋力:C+ 耐久:C

敏捷:A 魔力:C

幸運:A 宝具:?


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