ラブライブ!ワークス!! (どこぞの馬の骨)
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3年前のあの日
軽い気持ちで、お付き合いください。
…3年前、東京である事件があった。
アキバドームで行われたラブライブ決勝戦のとき、終わり際に格闘戦が繰り広げられた。
「ふははは!なんと膨大なエネルギーを持ったプシュケーなんだ!」
「うぅ…」
「ツバメ君、しっかりして!」
「あなた、大丈夫ですの!?」
私はその当時、ジコチューとプリキュアの存在をニュースで少しだけ聞きかじっていた。ジコチューが世界の崩壊を目論む組織の一つで、それをプリキュアが阻止しようと動いていることも知っていた。
でも、その現場に自分が居合わせるとは…まして大好きなラブライブの最中に戦いが始まるとは思っていなかった。
私の目の前には、プシュケー…つまり心を抜き取られてしまった少年が倒れて居る。すぐそばには、友達と思われる女の子が彼を揺り動かしていた。
「すぐに応急処置を…」
「ダメだよ、プシュケーを取り戻さないと蘇生したって効果が…!」
「さぁ、プリキュアは来ないのか?来ないなら、ここにいる全員をジコチューにしてやる!」
「…」
《プリキュアマトン・コード"ブリッツ”、自動迎撃モードを起動します》
「えっ?」
怪物を操る男の誘いに乗るかの様に、意識のない少年は立ち上がる。でも、何故かその声は別人とも機械ともつかない様な、無機質な声だった。
事態の分からない私を尻目に、彼は光に包まれ…まもなく黒ずくめのオーバーコート姿に変わった。ヘルメットや服の全てに青白い光が縦横無尽に走り、まるで機械の様な姿。両腕にも、盾くらいの大きさの板がついていた。しかもそこからは、ピンクに輝く光の棒が伸びている。
「嘘っ、キュアブリッツが動いちゃったの!?」
「おい、あの小僧…まさか、お前がキュアブリッツだったのか!?」
《システム・オールクリア。ユーザーの意識障害感知につき、自己判断で応戦します》
「やめてっ、それじゃ自分で自分のプシュケーを壊しちゃうよ!」
「と、止められないのですか!?」
「止まってっ!お願いよブリッツ、もう戦わないで!ツバメ君を返してよぉ!」
「面白い…プシュケーはおろか意識も無いまま、私を倒そうと言うのか!」
結局彼は意識も戻らないまま、"キュアブリッツ"と呼ばれた力に操られるままに戦い、ジコチューを完全に蹴散らしてしまった。
ラブライブ決勝戦にジコチューとプリキュアが現れる…もちろんあちこちでニュースになり、警備が一層厳重になったのは言うまでもない。浦ノ星に戻ってきても、その騒ぎは生徒達の間で話題になり続けた。
でも、私が気にしているのはそこではなかった。
「…お姉ちゃん、やっぱり気になる?」
「えぇ…あれからしばらく経っても、プリキュアになった彼の話は挙がってきませんわ。無事なのか、それとも死んでしまったのか…」
「うん…何もニュースが無いのは心配だけど…助かってると良いよね…」
「…そう願いましょう…」
…私は黒澤ダイヤ。あの時、ルビィと共に現場に居合わせた目撃者。
そして、あの時の少年は…私がスクールアイドルから身を引いた今もなお、消息不明のままである。
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舞い降りた少年達
《…示現エンジンを狙ったテロ行為の防止を目的として、地球連邦政府は駐留軍の増備を議会で決定しました。先月発生した「テロ組織ラ・イデンラのモビルスーツが示現エンジンに突撃する」事件を受けての対応とされており…》
3月の終わり、少しだけ肌寒い風が吹く中でバスが走る。今年は比較的暖かい、なんて言われているが、雲が広がっているせいか実感があまり無い。
「…教授、何か面白いニュースでも出てる?」
「示現エンジンを狙ったテロへの対応が決まった、と言ってるわね。現場はこの近所じゃないかしら」
「…伊豆か…」
「プロデューサーは休めたの?」
「バスの中なんて寝られないよ」
"教授"と呼ばれた少女は、スマートフォンから流れるラジオを聴きながら、ぼんやりと窓の外を見る。随分と小柄で可愛らしい、しかしどことなく大人びた雰囲気を持つ、ピンクのツインテールである。
スマートフォンから流れる音はラジオのニュースだが、画面にはおよそニュースと関係の無さそうなものが映っていた。
「…それにしても、わざわざ県外から来た入学希望者を受け入れるというのも、変な高校ね」
「5人一斉に志願して通るというのもそうだけど、その内の2人が男なのに女学院の体裁を保とうとしているのもおかしいよ」
「存続の為になりふり構っていられない、というところかしらね。もっとも今回は好都合だけど…」
私立浦ノ星女学院…日本の片隅、静岡県沼津市の外れにある、ちょっと寂れた高校。"教授"のスマートフォンに映った学校であり、バスの外で少しだけ見えている岡の上の校舎である。
《…県内で活動するスクールアイドルの総数が、今シーズンは150組に上ったという情報が上がりました。静岡県統計センターの集計によると、138校ある高等学校のうち120校がスクールアイドル部を持ち、その約2割程が1校内で複数のグループを持つということです。グループの総数が学校数を上回ることは、ラブライブの開始から静岡が初めてで、人気の高さを伺わせます》
「…プロデューサーは、スクールアイドルに関わる気は無いの?」
「難しいな…実業系の芸能学校が強いから、ただの進学校が勝つのは奇跡だよ」
「勝てない勝負には乗らないって?」
「誰だってそうだよ」
「…何というか,妙に諦めが良いわね…」
"プロデューサー"と呼ばれた少年もまた、ぼんやりと窓の外を見ていた。黒い髪に縁なし眼鏡、透き通る様な青い瞳…しかし、その姿からは何故か覇気が見られず、落ち込んでいる感じさえ見て取れる。
彼の手には、スマートフォンの画面に映ったメールのメッセージが流れている。何かの連絡だ。
「…巡査達は?確か先行して入居してるでしょ?」
「してるね。ついさっき、全員分の制服も届いたらしいよ」
「男用が2人だから、もう少し掛かると想像してたんだけど…」
「確かに。入学式ギリギリになると見込んだら、意外と早いんだね」
画面に映るグループメッセージも、名前の全てが役職になっている。
巡査
[制服が届いたぞ。後はお前達の到着を待つだけだ]
プロデューサー
[郵便物は届いてない?]
巡査
[俺がさっき精査した。ご令嬢が手続きをしているから、その辺は心配しなくて良い]
プロデューサー
[何が届いてた?]
巡査
[ガス、水道、電気だ。後は30分もあればインターネットの開通まで終わるだろう]
教授
[ホームセンターを通り過ぎてるけど、本当に何も買わなくて良いのね?]
パパラッチ
[大丈夫だよー!]
「…パパラッチの"大丈夫"って、今一つ信用出来ないんだよな…」
「巡査が居るから平気でしょ。その為に先行させたんだから」
ご令嬢
[ごめん、単4電池を3本ちょうだい!]
パパラッチ
[あれっ、買ってなかった?]
ご令嬢
[さっき袋を見たら無かったよ]
パパラッチ
[おかしいなぁ…]
「あ…」
「ほら、やっぱりね。忘れることが有り得るんだよ」
「仕方ないわね…」
教授
[単4を3本ね?買って持ってくるわ]
ご令嬢
[助かるよ!]
…この面子がそれぞれ何を意味するのかは、これから分かること。彼らはこの地で、新しい生活を始めるのだ。
…三ノ浦にあるこじんまりとした住宅街、その一角にある小さな家。人目にはつきにくいが、元々ここは空き家であった。お世辞にも綺麗な家とは言い難いが、インターネットをはじめとした現代生活を営むには別段困りそうにない。
「ようプロデューサー、やっと来たな」
「遅くなっちゃったよ、もっと早く東京を出るつもりだったけどさ…」
「仕方あるまい、あの襲撃の直後ではな」
「巡査は部屋の用意は終わったの?」
「終わってるぞ。その辺は心配ない」
"プロデューサー"を出迎えたのは、"巡査"と呼ばれた少年。少し紫がかったボブカットの、鋭い三白眼が印象的な男。歳で言えば間違いなく高校生だが、その佇まいからは既に人の父親とも言えそうな空気が漂う。
この家を整えていたのは、この巡査だった。
「ほら、お嬢様。電池が要るんでしょ?」
「やめてよ、私はお嬢様じゃないってば」
「でも血筋はそうでしょ?」
「今の私はただの高校生だよ…」
「これから高校生、よ」
「あはは、そうだったね…」
「それで、手続きは?」
「ほら、これが書類だよ。私の別荘扱いだから、何も気にしないで住んでね」
「いつもながら、あなたの金遣いには感心するわ…」
"お嬢様"…つまり"ご令嬢"は、"教授"から荷物を受け取る。緑のポニーテール、無邪気で幼げな顔つき、そして呼び名からは少しズレたはしゃぎっぷり…それでもどこかの名家の生まれだ。
どうやらこの家は、彼女が買ったらしい。
「それで、もう一人は?」
「パパラッチなら料理中だ」
「私はジャーナリストよ!いい加減に覚えて、堅物君!」
「お前ほどに下品ならパパラッチが似合いだ」
「こらーっ!そうやって私を弄らないで!」
「ははは…もう許してやりなよ」
「それより、もうすぐ食べられるよ!」
奥のキッチンで料理をしている"パパラッチ"が吠える。青いショートカット、パッチリとしたつり目、そして身のこなしが軽そうな体つき…とは言うものの、この中では比較的品の無い少女に入るようだ。
「じゃ、すぐに着替えないと…」
「後は教授とプロデューサーだけだ」
呼び名からはまるで繋がりが見えない、この不思議な5人…その事情が判明するのは、また後の話である…。
…やはりこの部分は書きたくないところである為か、メチャクチャですね…。
それでも書かなければならなかったのは、物語全般を端折りたくなかったからです。
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アンノウン
風化してしまいそうで怖いです…。
「…それでは、確認しますわ。天宮りりかさん?」
「はい」
天宮りりか。川崎エリアのベッドタウン・星里ニュータウンから来た5人組の一人。鮮やかな緑のロングヘアに見入ってしまう。
手元の資料によると、彼女は天宮財閥に生まれた双子の片割れ。それ故に15歳でありながら自力である程度の資金を操り、その蓄財の一部を元手に三ノ浦の空き家を5人の下宿先として持つ。
…三ノ浦は浦の星女学院からそう遠くない。ある程度、通学しやすい立地を狙った結果なのだろう。
「えぇと…黒澤ダイヤさん、ですね?」
「はい。こういう形でお会いするとは思いませんでしたが、ともあれ嬉しいことですわ」
「こちらこそ、これからご厄介になります」
…住所を見る限りでは、黒澤家からも大して離れていない。
黒髪の大和撫子…黒澤ダイヤは、転入の為に東京からやって来た5人組と顔合わせを行っている。転入にさしあたって何らかの事情があったらしいが、それを手続きの合間にりりかから聞こうとしても「警察が絡んでいるので答えられない」と突っ跳ねられた。
そして…
「あなたが八雲ユウキさん、ですわね?」
「はい、お初にお目にかかります」
「例の件、あなたでもお答えいただけないのですね?」
「申し訳ない次第ですが、これは我々を含めた当事者全員の命に関わる事態です。いくら生徒会長として事情を知らねばならぬとは言え、警視庁の方針を個人的に翻すことはできません」
「…あなたがそう言うのでしたら、仕方の無いことですわ。よほど慎重を要する状況なのですね」
「今はそうとしかお答えできません」
…その当事者でもある警察関係者は、りりかの隣に立っている。紫のボブカットをしている彼の鋭い三白眼が、眼鏡の奥からダイヤを突き刺す。互いに敵意を持っていないにもかかわらず、彼の顔付きが原因でそうなってしまうという。
親が警察として治安維持に関わることもあり、その息子もかなりお堅い雰囲気を醸し出しているが、いざ話してみるとさほど気難しくはなさそうだ。
「…し…しぐ…しぐれ…?」
「…それで"しぐさわ"と読みます」
「なるほど、これで"しぐさわらん"ですね。失礼致しました」
「よく間違われます」
…むしろユウキより、こちらの小柄なピンクのツーサイドアップが気難しそうに感じる。名前は時雨沢蘭。
それなりの服を着せれば人形としても通用しそうな愛くるしい姿だが、一方でその容姿故にセクハラや誘拐に苦しめられたトラウマがある。りりか曰く「泣いてしまうから聞かないで欲しい」とのことだったが、むしろそうした弱さを隠す為に気難しく振る舞っているのかもしれない。
「…東雲愛美さん?」
「はいっ!」
「元気で良いですわ。私の妹もこれくらいハキハキしていれば…」
「そう言ってもらえると、嬉しい限りです」
「それにしても、こんな名字の方が実在するとは…」
青いセミロングの東雲愛美。カラコンを着けてそれなりに着飾れば、アイドル"霧矢あおい"を名乗っても違和感は無さそうだ。
聞けば父親がジャーナリストで海外に居る為、多少なりとも世界の裏側を聞いたことはあるらしい。とは言え、絵に描いたような天真爛漫さを見る限りでは、それを(父親の仕事内容を含めて)きちんと理解できているかは怪しいだろう。
「…そして、あなたが舞原ツバメさんですわね」
「はい」
「…」
「…どうかしましたか?」
「いえ…昔、あなたによく似た人を見ただけですわ」
そして、見るからに周囲に埋没しそうな容姿の舞原ツバメ。黒い短髪も一切の立ち居振舞いも、他の4人と比べたら没個性そのものだ。
しかし、この男は…ダイヤが3年前に見た少年と、あまりにも姿が重なる。体格と言い「ツバメ君」と言われていた記憶と言い、偶然にしてはよく出来ている。
「…皆さんにはすみませんが、ツバメさんは今日の下校時にもう一度ここへお越しいただけませんか?」
「何かあるのですか?」
「どうしても確認せねばならないことがあります」
「かしこまりました」
「入学であり転入でもある状況で、かなり大変なことは承知をしておりますが…」
「いえ、ご厄介になる以上は協力せねば…」
ダイヤはどうしても、そのことについて聞こうと考えた。
5人の素性や浦の星への入学、関東圏から沼津の片田舎へ移った経緯等、彼らにはあまりに謎が多い。ともすれば、まずはツバメに対して感じたことを聞くくらいならハードルが低いだろう。以降は彼らの警戒心を少しずつ崩して、全てを聞くまで根気よく関わるしかない。
そうした事情の全容が分からなければ、共学化の制度試験にかこつけて身柄を捩じ込んだ彼らを、りりかの財力も含めて学校に対する脅威と認識せざるを得ない。
「それでは失礼致します」
「えぇ、後程お待ちしておりますわ」
「私達は全員1年だから向こうね…」
「…ツバメさん…今はあなたが、どうにも気になりますわ…」
彼らが生徒会室を出たタイミングで、入れ違う様にピンクのツインテールの少女が入ってきた。
ダイヤにとっては見紛うはずもない、妹の黒澤ルビィ。3年前の出来事を共に目撃したのだから、彼ら…特にツバメの素性は彼女も気になっている。
「…お姉ちゃん…」
「ルビィ…わざわざ見に来たんですの?」
「ごめんなさい…どうしても気になって…」
「その気持ちは同じですわ。私が後程確認しますから、あなたは自然にお付き合いをしなさい。なんと言っても、一緒に学ぶクラスメートなのですよ」
「…うん…」
ルビィに元気が無い。ダイヤでなくても分かるほどだ。
姉妹の趣味が離垂してきたことや、生徒会室に入ることの緊張感もあろう。しかし、それ以上にツバメに対する動揺が強いのだ。
ダイヤも書類を初めて見たときに動揺したのだから、ルビィが落ち着けるはずもない。言ってみれば「死んだと思っていた人が、同じ学校の生徒として現れた」のかもしれないのだ…。
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