勇者のかーちゃん (丸焼きどらごん)
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勇者のかーちゃん

 

 

 

 あの子が消えた。

 

 

 昔学校でいじめられたことをきっかけに、ずっと引きこもったきり部屋から出てこなくなった息子がある日姿を消していた。

 外に出ないはずの息子が部屋の中に居ない。その事実に、私は呆然と立ち尽くす。直前まで使っていたのか、パソコンの液晶だけが煌々と輝いていた。

 

 親しい知り合いのいないあの子が行く場所なんて分からないし、警察にも連絡したけれど、それでも見つからない。焦燥感ばかりがつのり、食事も喉を通らなくなる。気が狂いそうだ。

 

 早くに父親を亡くしたあの子にはずっと苦労をかけてきた。いじめられたのだってきっと家庭環境のせいだと、私は思っている。正義感の強い子で、私を馬鹿にされて怒ったのだと後で知った時は自分の不甲斐なさに悔しくて悔しくてたまらなかったわ。

 それでも、そんなあの子だから。馬鹿みたいに真っすぐで愛しいあの子だから。部屋から出てこなくても、きっと時間が癒やしてくれる、きっといつか立ち直ってくれると信じていた。どんなに時間がかかってもいいから、もう一度立ち上がってほしいと願っていた。だってあんないい子が、世界を諦めるなんてまだ早すぎる。あの子にはこの先、きっと明るい未来が待っている。

 

 

 だけどその助けになるなら、いくらでも支えて、何でもしようと思っていたのに…………あの子はどこかへ行ってしまった。

 

 

 無責任な知り合いは「あんな穀潰し、居なくなって良かったじゃないか」「これであなたも身軽になったし、再婚相手を探したら?」なんて言うものだから、初めて人を殴るという行為をした。私はとても暴力というものが嫌いだったのに、不思議。大事な物を馬鹿にされることがこんなに腹立たしいなんて知らなかった。殴ってすっきりすることも、あるのね。

 

 もう何にでもすがる思いで探偵に依頼したり、聞き込みをしたり、ビラを配ったり、本当にいろいろな事をした。

 神様にもすがりたい思いで、お百度参りまでした私を世間は馬鹿と言うかしら。でもそんな意見、私には関係ない。誰が何と言ったって、あの子は私がお腹を痛めて生んだ大事な息子だもの。世間の意見なんて知った事か。私は、私だけは最後まであの子の味方。それは義務感なんかじゃない、私の誇り。

 

 

 もしどこかで幸せに暮らしているならそれでいい。

 でも、そうでないなら。何処かで苦しい思いをしているなら、行ってあげたい。助けてあげたい。他でもない私自身が。

 

 

 

 

 

 

 そしてあの子を探し始めてしばらく経った、ある日の事だった。

 

『やあ、キミはツヨシの母親かい? あんな奴のためにご苦労な事だ』

 

 百度目のお参りを済ませた時に、私が祈っていた神社の神様を押しのけて自称「神」だというふざけた小僧が出てきたのは。

 

 

 

 

 

『ツヨシは異世界に行ったよ。すっごく強い力を手に入れて、綺麗なお姫様と知り合って、魔王を倒すための旅に出たんだ。きっとそのうち英雄になるよ。どう、安心した? キミはあいつが幸せだったらいいんだろ。よかったじゃない、近況が知れて!』

 

 何を言っているのだこいつは。

 

「ふざけないで」

 

 自分でも初めて聞くような、殺意のこもった声が出た。それほどに、怒りが心の底から湧き出てきたのだ。

 こいつの発する言葉には、問答無用でその話の内容を真実だと理解させる押しつけがましいほどの力を感じる。だからこいつの身元も、あの子の身に起きた出来事も、疑う事は出来ない。でもそれだったらなおのこと、私はこいつを許してはいけない。

 だって、内容を理解させる言葉にはこいつの真意も含まれていた。こいつは息子を助けてやろうとか、そういった感情で動いたわけでは無い。……単に退屈しのぎがしたかっただけだ。

 

 私は怒りのままに言葉を吐き出す。

 

「そんな事を聞いて、安心できるはずないでしょう! 私はたしかにあの子に幸せになってほしい! でもその願った幸せは、魔王だなんて物騒な物に立ち向かうことじゃないわ! 異世界!? 強い力!? お姫様!? 馬鹿にするんじゃないわよ! そんな物語の主人公みたいなものを他から与えられなくったって、あの子は強い子だった! そんなもの無くても幸せになれたわ!! 私の息子はお前の玩具じゃない!! 今すぐ返しなさい!! 返して!!」

『おお、怖いねぇ~。でも無理だよ。魔王を倒すっていう約束なんだ。それが出来ないと帰れないし、彼がもう一度この世界を望むとは思えない』

「そんなこと……ッ」

『魔法も無い、冒険も無い、夢も希望も無い。彼が言ったんだよ? その彼が異世界では活き活きとしている。息子が幸せなのに連れ帰りたいなんて、それはキミのエゴじゃないかなぁ』

 

 気づいたら、私はそいつを殴っていた。

 殴れたことにビックリだけど、心の底からすっきりしたわ!! その殴られた相手が楽しそうに笑っているのがムカつくけど!!

 

「話にならないわね! なら、私をその世界に連れて行きなさい! 実際に息子と話して、決めるのは息子と私! 親子の問題よ!! 外野にとやかく言われたくないわ!」

『ふふっ、殴られちゃった! キミって、良い度胸してるね! じゃあ特別サービスでキミにも能力を……』

 

 言い切る前に自称神の口に長ネギ(五本束根付き)をつっこんでやった。買い物帰りだったのよ。もう殴った後だし怖い物なんて無いわ。

 

「そんなもんいらないわよ! さっさと異世界とやらに送りなさい!!」

『ふが、ぺっぺ! うえ、土の味が……。まったく、知らないよ? 死んでも責任とらないからね』

「もとから無責任じゃない!」

『あはは、そっか! じゃあ行くよ。勇者殿の母上に幸運を!』

 

 自称神が指を打ち鳴らすと、私は白い光に包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 オレの名前はツヨシ。二年前に勇者としてこの世界に召喚されて、その時にこの世界の神様に英雄の力をもらった。

 

 最初のころは憧れのゲームのような世界とチートな能力、次々と出会う可愛い女の子にと浮かれていた俺も旅が進むにつれてこの世界もやっぱり現実だったんだって思い知った。

 

 人が死んだ。裏切られた。怪我をしたら痛いし、人を助けたつもりがそれが裏目に出て巡り巡って恨まれた。

 

 オレも苦難を経て一応成長というものをして、仲間もたくさんできた。でも率いる立場になったらずんと重く責任がのしかかってきて……。時々死にたくなる。

 今ではあの狭かった暗い一室が懐かしい。だってあの世界では一人ぼっちだったけど、扉をあければかーちゃんが居た。怒ってくれて、見守ってくれて、俺のために働いてくれた。一日中動かない俺にはもったいないような手料理は、動かないからいつも満たされて腹の減らなかった自分の胃には重くていつも残していたけど……今は無性にあの味が食べたい。

 

 

 けど泣き言は言ってられない。二年の冒険を経て、俺は今魔王城の目の前に居る。

 

 

 仲間はエルフの魔法使い、王国随一の剣の使い手、虎の獣人、賢者のじいさん、若作りの魔女。そして魔王を相手にする俺達を先頭に、魔王軍と戦うために集まった各国の軍勢が俺の背中に控えていた。

 正直重責に押しつぶされて吐きそうだけど、ここでやらないと今までの全部が無駄になる。やるしかないんだ……!

 

 

「行くぞ! 魔王を打ち滅ぼして、世界に平和を取り戻すんだ!!」

 

 オレの号令に、軍勢の雄叫びが大地を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この程度か、勇者とは」

「ぐっ……」

 

 イテェ……。すっげー痛い……。何だこれ……。

 

 無様に魔王の前で膝をつく俺を、宿敵はつまらなそうに見下している。

 魔王の護衛軍を倒すまでは上手くいっていた。しかし俺たちは大きな誤解をしていたようだ。魔王軍や護衛軍などただのお飾り、ただ使い勝手が良かっただけだ。本当は魔王一人でだって世界は簡単に滅ぼせる。

 

「つまらぬな……」

 

 呆れを滲ませた言葉に、ああ、こいつにとって世界征服ってただの遊びなんだなってのがわかった。オレがゲームで領地を広げて喜んでいたのと同じで、コイツにとってはただの陣取りゲーム。

 そんなの相手に、オレは何必死になってたんだろうな。ゲームと違ってプレイヤーは向こう。俺たちが所詮NPCみたいなもんで、攻略者は魔王だったってだけなのに。

 

 だけどそんな諦めの思考に染まりかけても、心の底でそれが嫌だと叫ぶ自分が居ることに気づく。

 俺はもう、諦められない。諦めたくない!!

 

 悔しい、そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ!!

 この世界はゲームじゃないのに!! 攻略者!? NPC!? そんな言葉を持ち出してまで、諦めて何になるってんだよ!!

 

 

 俺は生きたい!

 

 

 

「お前の、好きにはさせない……! 俺は、お前に勝つ!!」

「この後におよんで往生際が悪いとは、見るに堪えぬ。……消えろ」

 

 粋がってみたものの体がもういう事をきかない。魔王が掌に膨大な魔力を秘めた光球を集めるのを、ただ歯噛みして見る事しか出来なかった。

 

 

 

_________ゴメン、かーちゃん。せめて母の日に花くらい、送りたかった

 

 

 

 

 最後に思い出すのが旅した仲間でも、可愛いあの子でもないのはどうなんだろう。でも、オレが最後に謝りたかったのはかーちゃんだった。

 かーちゃんまだ若いし美人なんだから、オレが居なくなった後は再婚とかしてればいいな。ちょっと嫌だけど、幸せになってくれたほうがいいや。そしたら弟か妹だって生まれるかも。そしたらかーちゃん、お前にはお兄ちゃんがいたんだよって教えてくれるかな? それとも俺みたいな駄目息子のこと、内緒にするかな。でもそれならそれでいいや。だって、向こうに居た時の自分を思い出すと恥ずかしいし。知られない方がいい。

 

 

 一瞬が長く引き伸ばされる感覚を初体験しながら、オレは目をつむった。

 

 ごめん、かーちゃん。ごめん、みんな。

 

 

 

 

 

 

 これで、さよならだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ツヨシーーーー!!」

「!?」

 

 聞こえるはずの無い声に、俺は目を開いだ。

 すると俺に向けて魔法を放とうとしていた魔王が上空を見上げて、今までの冷徹な表情が嘘のように動揺していた。

 

「は、母上!?」

 

 しかもすっげぇ汗かいてやがる……。今の声といい、上に何があるってんだ?

 

 オレも空を見上げると、魔王と同じくまぬけなほどに驚いた。

 

 

 

 

 

 

「かーちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

+++++++++++

 

 

 

 

 

 

 私は異世界に渡った後、勇者の仲間の家族から情報を集めて回った。

 

 エルフのお嬢さんのご両親は旅の無事を祈った魔法の加護を授けてくれて、都会に出て息子が出世したと喜んでいた老夫婦はそれでもやはり心配なのか、村に伝わるお守りを預けてくれた。

 虎の獣人さんのお母さんは気さくな人で、「娘はお転婆だから結婚できるか心配で」と言っていた。途中まで私を守りながら一緒に旅してくれたことには、とても感謝している。

 賢者の奥さんだと言う人は、年寄りが無理をして、と憤慨しつつ魔法の薬をもたせてくれた。賢者さんはぎっくり腰もちなんだとか。

 魔女さんの弟子だという男の子は「なんで僕を置いていったんだ!」とお師匠様にとてもご立腹。私ととても気が合って、役に立つ魔法をたくさん教えてくれた。

 

 

 

 たくさんたくさん助けられて、私はついに魔界に到着した。ここで待っていれば絶対あの子がやってくるはずだと思っていたけど、ちょっと先走り過ぎていたかもしれない。勇者一行は目立つんだからそれを追えばいいのに、先に目的地に着いてしまうとか……。

 

 

 けど、結果的にそれは私によい出会いをもたらしてくれた。

 

「うん? そなた、どこからまいった」

 

 

 

 

 私に声をかけてきたのは、魔王のお母様でした。

 

 

 

 

 

 

 

++++++++++++++

 

 

 

 

 

 

 

 邪竜に引かれた竜車で空を駆ってきたのは、禍々しいオーラを放つボンキュボンな美女だった。そしてなぜかその隣には、二年ぶりに見るオレのかーちゃんがいる。え、何で!?

 ちょっとふくよかだった記憶のかーちゃんに比べて、頬がこけて痩せたように思う。かーちゃんはオレを見つけると、くしゃっと顔を歪めて泣きそうな表情になった。

 

「かーちゃん、なんで……」

「母上、どうしてこのような場所へ……!?」

 

 オレと同じ疑問を発したのは魔王。おい、あのグラマラス美人お前のかーちゃんかよ。

 

「なに、友人の息子がお前の所に居ると聞いてな。興味があったし、来てみたのだ。……しかし母親に対してずいぶんな物言いではないか。母親が息子の様子を見に来て、何が悪い?」

「い、いえ。悪いなどとは、言っておりません……」

 

 何だこいつ、かーちゃんの前だとずいぶん大人しいな。さっきまでの絶望の体現者だった魔王なお前はどこにいったんだよ。これじゃ真面目に戦ってたオレが馬鹿みたいじゃねーか。

 ……いや、でもどこの世界でも母親ってのはそういう存在なのか。かーちゃんには勝てないってことか。って、おいやめろよ!! 敵に妙な親近感とか覚えたくねーよ!!

 

 けどオレのこんな思考も現実逃避なわけで、竜車から飛び降りてきたかーちゃんに抱きしめられたことで一気にこれが現実だって気づかされた。

 懐かしい、かーちゃんのにおい。昔から粋がる癖に泣き虫だったオレは、よく抱きしめられて「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と慰められていた。特売の洗剤の臭いはしないけど、これは、かーちゃんのにおいだ。

 

 何で来たんだよとか、何でいるんだとか、危険だとかそんな言葉は全部ぶっ飛んだ。

 気づけばオレの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、さっきまでどんなに痛くても泣かなかったのに、もうそれを押さえることは出来なかった。

 

「かあちゃんかあちゃん、かーちゃん! うあああああ! があぢゃあああああん!!」

「ツヨシ、本当に、ツヨシなのね!? 夢じゃないわよね!」

 

 きつく抱きしめてくるかーちゃんの腕の力は、鍛えられたオレの体にも力強く感じられた。

 

「だいじょうぶ、もうだいじょうぶよ。よく今まで頑張ったわね。偉いわ」

 

 そう言って頭を撫でてくれるかーちゃんに、仲間と敵の前だと言うのに泣くのを止められなかった。今までの全部がその言葉で報われたような気がして、俺は赤子のように泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方でそんな温かな親子の再会の背後では極寒の空気の中対面する親子が一組。知ったこっちゃねーが。

 

「お前は相変わらずのようだな。飽きもせず壊すだけしか能が無いとは、お前の脳みそに詰まっているのはおが屑か?」

 

 グラマラス美女の言葉に息子(魔王)が反論する。

 

「ですが、母上! 破壊こそ我等魔族の快楽ではありませんか!」

「黙れ。前時代的だ、と申しておるのだ。今までは我も息子が可愛い故に見逃してきたが、友人の息子が殺されかかっておるとなれば腰をあげるしかあるまい」

「友人!? あの人間ですか! 私より人間のような羽虫のごとき存在が大事だとおっしゃるのか!?」

「ええい、この馬鹿息子が!! いい加減親離れをせんかッッ! しかも我の友を馬鹿にするとは何事か! 決めたぞ。お前はこれから別の世界へ送る。虫から転生を繰り返して、立派な魔人になるまでこの世界へ戻ることは許さぬ!!」

「そんな!?」

 

 

 ほーん、なんか愉快な会話が聞こえてくるな。まあ、何度も言うが知ったこっちゃねー。

 

 

 

 かーちゃんと再会した俺は、やっと終わりが見えた異世界生活に、ただただ俺は安堵したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから魔王は魔王母に別世界へ追い出され、魔王軍は魔王母に絶対服従。彼女の敏腕な腕前であっという間に人間と魔族の間で平和協定が結ばれて、世界に平和が訪れた。

 そのあっさり具合にあんなに頑張ったのにナーと思わなくもないが、平和になるならそれが一番だ。多少疑問は残るものの、魔王を倒すという召喚の契約が果たされたのでオレはもとの世界に帰れることになった。

 地位や名誉、好意をよせてくれる女の子とかちょっと惜しかったけど、オレは元の世界に戻ることを選択した。

 

「お前を大切に思う人、いたじゃねーか」

「ツヨシ、よかったね!」

「寂しいけど、絶対忘れないよ」

「この世界のために戦ってくれてありがとう。今度は貴方だけの幸せを掴んでね。いつもあなたの幸福を祈っているわ」

「ご苦労じゃったなぁ。むこうでちゃんと嫁さんみつけるんじゃぞ? そして母上を安心させてやれ」

 

 仲間から貰った言葉に、柄にもなく泣いた。どうやらかーちゃんに再会してから涙腺が緩んでいるらしい。

 

 帰りにはオレに力を授けた少年姿の神が姿を現して、オレと並ぶかーちゃんを見て驚いていた。

 

 

『すごいね! 正直みくびってたよ。色々とごめんね、キミは特別な力なんてなくても十分強かった』

 

 母を見送りに来ていた魔王母は神の言葉に「あの性悪が謝るとはな」とか驚いていた。でも俺は神や魔王母の言葉よりも、かーちゃんの言葉のが印象的だった。

 

 

 かーちゃんは胸を張って言ったのだ。

 

 

 

「当然よ! 私はこの子のお母さんなんだから!」

 

 

 

 母は強し。俺が心に刻んだ言葉である。

 

 

 

 

 

+++++++++

 

 

 

 

 

 

 帰って来てからは、まるであれが夢だったかのように普通の生活に戻った私達。あの自称神とやらが、おわびだとかでツヨシが失踪する前まで時間を巻き戻してくれたのだ。

 

 変わったことと言えば、ツヨシが外へ出るようになったこと。学歴が無いから苦労しているみたいだけど、それに挫けず頑張ってアルバイトをしながら正社員の仕事を探している。最近は資格の勉強も始めたみたい。

 私は相変わらず、ツヨシを見守りながらパートをする毎日。再婚とか勧められたけど、ツヨシに良い人が見つかるまでそんなのどうでもいいわ。それより早く孫の顔の方が見たいもの。ふふっ、最近のツヨシを見ていると、異世界に行ったことも無駄じゃなかったかしら? なんて思えてしまう。まあ、あの神様と召喚した王様お姫様は絶対許さないけど。本当一生恨むけど。

 

 

 夕飯を作りながらツヨシの帰りを待っていると、どこかそわそわした様子のツヨシが帰って来た。

 首を傾げると、「あ~」とか「う~」とかはっきりしないツヨシ。

 

「なに、どうしたの?」

「え、えっとさ。……これ、やるよ!」

 

 ばっと差し出されたのは、赤とピンクのカーネーションの花束。

 

 

 

 

「いつもありがとう、かーちゃん」

 

 

 

 

 照れた息子の顔が、私にとって何よりの贈り物でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




母の日なので、昔母の日に書いた短編をやや修正して投稿してみました。


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