もういちどこの世界に祝福を! (クロウド、)
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もういちどこの素晴らしい世界に祝福を!

「あれ、ここは?」

 

 俺は何故かアクセルの街にいた。

 おかしい俺はさっきダンジョンで魔王にエクスプロージョンを食らわせて、自爆して。

 

「あああああ……。」

「あれ、アクアなんでお前まで!」

 

 気づかなかったが、隣には俺がこの世界に連れてきた駄女神ことアクアがいた。こいつはまだ魔王城にいたはずだ。なんでこいつがここに?あたりを見回したてみるがめぐみんやダクネス、ゆんゆんとあとマツラギだっけ?あいつもいない……。

 というより、さっきからアクアの様子がおかしいなにか絶望的な状況に追い込まれたような……。

 

「おいアクア、どうした何があった!」

 

 俺はへたりこんでいるアクアの方を掴み問いかけるが、

 

「何があった、ですって?」

「は?」

 

 アクアは短くそう呟くと俺の胸ぐらを掴み目からブワッと涙を流して俺に掴みかかってきた。てか、あれ前にもこんなことがあったような……。

 

「アンタのせいでエリートの私がこんな辺境の世界に来る羽目になったんじゃない!!」

 

 おい、ちょっと待て……。

 

「どうしてくれんのよ!!魔王を倒さない限り天界にも戻れないのよっ!?」

 

 これって、まさか……。

 

「おい、一つ聞くが俺達がこの世界に来たのってついさっきか?」

「あんた、何言ってんの?そんなの当たり前じゃない。まさか、言語取得に失敗して頭がパーに……。」

「違うわっ!?」

 

 これは、アレか?

 理屈はよくわからんが俺は意識だけ転生直後に戻ってきちまったってのか?

 ってことは何か、これからあの賞金首やら魔王軍との死闘をもう一度やらなきゃならないって事か?

 

「おいおい、勘弁してくれよ」

 

 俺はこれからのことを考え頭を抱える。

 横目でチラッとアクアを見る。せめてチート特典がこいつ以外ならまだなんとかなっただろうが。

 あれ、でもちょっと待てよ?今の俺はあいつらの情報を多く持っている。弱点から行動パターンまで幅広く。あれ?意外とイージーモードじゃね?

 つまり、何か?

 俺は前回のようなヘマをしなければ借金を作ることも、鬼畜とも呼ばれることもなく本当の意味で英雄になれるかもしれないってことなのか?

 なにそれ、最高じゃん。

 いかん、笑えてきた。

 

「ふふふ、ハハハハハハっ!!」

「ちょ、頭抱えたと思ったら今度は高笑いを始めたんですけど、やっぱり頭パーに……。せめてヒールで……。」

「違うつってんだろうが!!取り敢えずギルドに行くぞ。これからの生活費を稼ぐにはあそこが一番効率がいい」

「な、ニートのくせに急に頼もしくなったんですけど!」

 

 やってやる。今度は失敗せずもう一度この素晴らしい世界を生きてやる。

 今日この日から鬼畜のカズマは死んだ、今日より俺は本当の英雄になって見せる。



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この冒険者に懐かしのギルトへ!

 俺は慣れたアクセルの街を歩き目的の場所にたどり着いた。

 アクセルの街の冒険者ギルド、魔王討伐の為にしばらく離れてたせいで、酷く懐かしく感じる。

 考えてみるとここから、全部始まったんだよな。アクアと初めてクエストを受けてジャイアントトードに泣かされ、パーティを募集してめぐみんとダクネスに出会って、そこから面倒事に毎日のように巻き込まれた日々。今思い出すと、どれも鮮明にまぶたの裏に映る。

 大変だったけど楽しい日々だった。

 いかん、涙腺が緩く……。

 

「ちょ、どうしたの急に泣き出したりして!」

「すまん、ちょっと思うところがあってな……。」

 

 思わず涙が流れていたらしい。慌ててジャージの裾で目元を拭う。

 しっかりしろ、これからあの頃よりも楽しい日々を作ればいい。

 

「それじゃ、いくぞ」

 

 そう言って、俺はギルドの扉を開く。

 開いた先は俺の見慣れた光景、一度は会ったことのある冒険者たち。でも、こっちの世界じゃ初対面なんだよな。

 

 俺は冒険者登録をするため、人が並んでいない受付に行こうとしたが、大事なことをすっかり忘れていたことに気づいた。

 

「いっけね、登録料のこと忘れてた……。」

「はあ、あんた何やってんのよ!お金もなしにどうやって冒険者登録するのよ!」

 

 こんのアマ〜〜。

 しかし、どうする?近くでバイトでもするか?

 顎に手を当て、考えていると視線の先にいる人物を見て、いいことを思いついた。

 俺は迷うことなくそいつに近づいて声をかける。

 

「なあ、ちょっといいか?」

「ん?どうした、妙な格好の坊主?」

 

 俺が声をかけたのは前回の世界でも何かと俺に声をかけてきたモヒカン頭の巨漢機織り職人。

 

「実は、俺達冒険者になりたいんだが登録に必要な金がなくて困ってるんだ。今日中になにか依頼をこなして返すから貸してもらえないか?」

「ほお、お前みたいなやつが冒険者としてやっていけるのか?」

「俺を甘く見るなよ、俺は後に魔王を倒す男だ。アンタはそんな男に貸しを作ることになるんだぜ?」

 

 俺は人差し指を突きつけ高らかに宣言する。

 すると、男は頭を抑え笑い出す。

 

「ハッハッハ、魔王を倒すとは大きく出たな。命知らずな奴め!!いいだろう、未来の英雄に貸しを作れるなら2000エリスくらい安いもんだ」

 

 そう言って、男は機嫌良さそうに俺に金を渡してくれた。やっぱりこいつにはこのノリで合わせれば話がスムーズに進むな。

 

 俺はその金を持って早速、登録に行く。

 

「すみません、冒険者になりたいんですが?」

「はい、では登録料としてお一人1000エリスをいただきますが大丈夫ですか?」

 

 俺はさっき借りた2000エリスを受付の人に渡す。すると、受付の人は俺の身に覚えのあるものを出してきた。

 

「それでは、このカードに手をおいてください」

 

 出た。俺の心のトラウマの一つ、ステータスを測る冒険者カード。

 俺はここで最弱職のレッテルを貼られたんだった。あのトラウマをまた味わうことになるのか……。

 俺はいやいや、カードに触る。そして、カードに文字が浮かぶと指を離す。

 

「これでいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ。サトウカズマさんですね。ステータスは!!!?なんですかこの異常に高いステータスは?」

 

 ほら、また運と知力が高いだけのクソステータス……。え?今なんて言った?

 

「……全てのステータスが上級職に匹敵、いえそれより高いかもしれません。スキルは?アークウィザードの上級魔法にアークプリーストの浄化魔法や退魔魔法それに支援魔法、クルセイダーやソードマスターの近接戦闘系のスキルに、盗賊のスキルまで!!!あなたは一体何者ですか!?」

 

 え、え、えぇぇぇぇ!?

 俺は受付のお姉さんが言っていることが全く理解できなかった。

 

「す、すみません。そのカード見せてもらえますか?」

「あ、すみません。興奮してしまって……。どうぞ。」

 

 お姉さんは取り乱したことを謝罪して俺にカードを渡す。俺はカードを見る。

 

「な、なんじゃあこりゃぁぁぁあ!!!!」

 

 そのステータスはかつての俺とは比べ物にもならないものだった。え?ナニコレ?マジでナニコレ?え?魔力なんてめぐみんの倍はあるよ?耐久力だってダクネスよりはるかに多いよ?

 

 流石にこれはありえないだろ。故障か?でも、このスキルは俺が魔王を倒すために必死になって集めたスキル……。

 ん?魔王?

 

「ああああああ!!!」

「ちょ、どうしたのカズマ!?」

「どうかされましたかっ!?」

「す、すみません、なんでもないです……。」

 

 そうだよ、魔王だよ。これって魔王を倒したことで手に入れた経験値か!カードを変えたせいで倒した相手は記録されていないがあの貧弱ステータスからここまでなるにはそれ以外ありえない。

 

「あの、凄腕の冒険者だったりしますか?ひょっとしてカードを紛失したんですか。じゃなきゃそんなステータスになるわけ」

「あっ、すみません。そうなんです、ハハハ、なくしたっていうのが照れくさくて」

 

 俺は笑いながら誤魔化しお姉さんの言葉を流す。

 

「では、職業の選択をお願いします」

「職業……。」

 

 俺は冒険者カードの職業欄を見る、そこには前回と違い様々な職業がある。中にはソードマスターやアークプリースト、アークウィザードという上級職もある。 

 だが、俺の職業はもう決まっている。

 

「……冒険者で、お願いします」

「え、冒険者ですか?最弱職と言われる冒険者ですよ?」

「はい」

 

 俺は驚くお姉さんにはっきりと返す。

 俺にとってこの職業は、言うなれば俺の今まで歩んだ道そのものだ。これを捨てたくはない。

 

「……わかりました。」

 

 お姉さんは俺の表情からなにかあると思ったのだろうか?納得はしてなさそうだったが了承してくれた。

 

「さ、次はアクアだ」

「わかったわ」

 

 どうやら、俺達の話を聞いてなかったようだ。転生した直後にこんなステータスだったら説明めんどくさいから助かったぜ。

 

「えーと、アクアさんですね。あなたもすごいですね!知力と運のステータスが平均より低いですが他は全部平均以上ですね!」

「へぇ〜、まぁ私女神だし、当然よね!!」

「は、はあ…。」

 

 お姉さんはアクアの女神宣言に渋顔になっている。完全に痛い子だと思われてるなぁ……。

 

「職業はエレメンタルマスターやアークプリーストと上級職の適性がありますが、どれにします?」

「そうね、女神だし浄化の力のあるアークプリーストにするわ」

「わかりました。それではアクアさん、カズマさん、ギルトへようこそ!今後のご活躍にギルド一同期待しております!」

 

 前回と違い受付のお姉さんに洗礼を受ける。ヤバイ、ちょっと泣きそう。

 さて、早速依頼にいくか。俺が行く依頼はすでに決めている。俺は受付のお姉さんにそのまま依頼を受注する。

 

「すみません、ジャイアントトードの討伐って受けられますか?」

 

 俺は宿敵の討伐依頼を受けることにした。



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このカエルにいつかのリベンジを!

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇぇ!」

 アクセル郊外の草原でいつかのように悲鳴が響いていた。

「カズマ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 俺じゃなくて、アクアの……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ジャイアントトードですか?できますが、カズマさんのステータスならもっといいクエストがあると思いますが……。」

「いえいえ、あの今日は宿代を手に入れたいだけなので簡単に済むこのクエストで」

「ねぇ、ジャイアントトードって何なの?」

 俺と受付のお姉さんの会話にアクアが割って入ってくる。

「ん?ああ、ただのデカいカエルだ」

「カエル?ただのカエルを倒すだけでお金がもらえるの?随分簡単な仕事じゃない!女神である私がいれば楽勝じゃない」

 こいつはなんでこうもお約束が好きなんだよ……。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「カズマ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 で、ただのデカいカエルっていう俺の言葉を鵜呑みにした馬鹿が無防備に突っ込んだ結果以前の俺のように見ている。

「しょうがねぇなぁ……。」

 俺は右手を天に突き出して魔法名を口にする。

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 俺の手に現れた光は鞭のようにアクアを追い回すカエルを切り裂く、切り裂かれたカエルは爆散する。ゆんゆんがよく使った魔法だが、さすがに上級魔法だけあって強力だな、

「オラ、オラ、オラ!!」

 俺はビュンビュンと光の鞭をしならせアクアを追い回していた奴だけではなくその辺にいたジャイアントトードもまとめて爆散させる。

 一切合切吹っ飛ばした後、冒険者カードを確認する。さすがにレベルが高くなりすぎて全くレベルが上がってないが討伐欄に関しては、

『ジャイアントトード×31匹』

 31匹って、あのかつて俺を追い回したアクアやめぐみんを丸呑みしたあのジャイアントトードを一瞬で31匹……。しかも魔力全然減ってねぇ……。

 やばくね、チートじゃね?

 む?

「カズマぁぁぁぁあぁ!なんかもっと沢山向こうから来たんですけど!あれ、なんとかできるの、あれぇぇぇ!!」

 アクアの言う通り俺の視線の先にはさっきとは比べ物にはならない数のジャイアントトードが迫ってきていた。完全に泣きべそをかいている。

 さすがにあの数を倒すことは、いや、まて、俺には、あの爆裂娘直伝のあの魔法があるじゃねぇか。しかも、おあつらえ向きに一か所に集まってるじゃないか。

 やるか、爆裂魔法。

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり、無謬の境界に落ちし理、無行の歪みとなりて現出せよ!」

 本来ならさらに普通ならさらに詠唱しなきゃならないがめぐみんの爆裂魔法を教わったのでこれ以上は必要ない。

 いくぜ!人生二度目の、

「エクスプローーーージョン!!!!」

 

ドゴーーーーーーン!!!!!

 

「ふっ、魔王を倒せし我が爆裂魔法がカエルごときを倒すために使うことになるとはな」

 一度言ってみたかったんだよな、これ。

 つか、爆裂魔法打ってもたってられるってどんな魔力量だよ。確かに、ごっそり魔力持っていかれた感じはするけど後二、三発は上級魔法使えるな。

 よし、これだけ狩れば宿代は十分だろう。

 

「お~い、アクアそろそろ帰る、ぞ?」

「ん?どうしたのカズマ?」

「……アクア、後ろ」

「後ろ、後ろがどうしたの、よ……。」

 

ゲコッ

 

 そこにはいつの間にか近づいてきたジャイアントトードが。

「カエルって、よく見るとかわいいと思うの」

 

パクッ

 

「アクアぁぁぁぁぁぁぁあぁ!!!」

 

 その後、俺のライト・オブ・セイバーによってアクアを救出した後粘液まみれで泣きじゃくるアクアを何とかあやしギルドに帰って報酬をもらった。

 ちなみに俺が倒したジャイアントトードはライト・オブ・セイバー、エクスプロージョンと合わせて計89匹受け取多報酬は44万5千エリス。討伐数を見たお姉さんは卒倒しかけた。

 異世界生活二週目の一日目はうまい飯を食うことができ、清潔なベッドで眠ることができた。



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もういちどこの爆裂娘に祝福を!

「仲間、増やすか……。」

 俺は朝飯を食いながらポツリと呟いた。 「は?あんたがいれば仲間なんていらなくない?」

 アクアがそんな無責任のことを言い出した。というかこいつは昨日のジャイアントトードの一件から俺の実力を見てマジで俺が魔王を倒せると思ってか昨日からやたら俺に期待の眼差しを向けている。

「あのなぁ、俺は確かにある程度の力はあるかもしれない、だがな、俺だって体は一つしかないんだできることの範囲位ある。例えば攻めながら守ることなんてできないだろ?」

「う~ん、確かにそうだけど……。」

 アクアは余り乗り気じゃないらしい。まさかと思うがこいつ頭数が増えたら自分の取り分減りそうだから乗らないわけじゃないよな?ありそうだな。

 はあ、しょうがねぇなぁ。

「お前、そんなこと言ってるとまたジャイアントトードに食われ「さあ、カズマ仲間を探しに行くわよ!!折角なら強い仲間にしましょう!!」……お前なぁ」

 

「ワンモアこのすば!」アクア

 

「来ないなぁ……。」

「なんでよぉ!!」

 パーティ募集の掲示板にアクアが書いた募集を貼ってから三時間、誰一人として俺達のところに来ることはなかった。

 まぁ、アクアのの書いた募集の内容が「上級職のみ」だからなぁ。

 まっ、それでも来るやつがいることを俺は知っている。のちに魔王を倒すことになるパーティメンバーである、最強の魔法使いと、最強のクルセイダーがな。

 そろそろあいつが来る頃のはずなんだが。

「すみません、パーティ募集の掲示板を見たのですが、ここであってますか?」

 おっ、来た来た!

「ああ、ここで合ってるぜ。君は?」

 そういうと、俺のよく知る紅魔族の娘は紅い目を爛々と輝かせマントをばさりと翻しポーズを決めて、

「我が名はめぐみん!アークウィザードにして最強の攻撃魔法爆裂魔法を操りし者!!」

 俺はその名乗りにこたえるようにポーズを決めて、

「我が名はカズマ!最強の最弱職にして、古今東西のスキルを操りし者!」

 紅魔族特有の中二病的名乗りで返した。

「フッ」

「フッ」

 

 ガシッ

 

 俺達はお互い何も言わずに右手を差し出し固い握手をした。

「あなたとは仲良くなれる気がします」

「奇遇だな、俺もだよ」

「ねぇ、私ついていけないんだけど」

 完全に流れに置いて行かれたアクアがそんなことを言ってきた。

 

「ワンモアこのすば!」めぐみん

 

「では、改めましてめぐみんといいます。職業はアークウィザードです。」

「俺はサトウカズマでこっちはアクアだ。それよりめぐみんとりあえずこれ食え。」

「え?」

「顔色悪いぞ、しばらく何も食ってないんじゃないか?」

 俺はさっき注文した、カエルの唐揚げの皿をめぐみんに渡す。

「あの、すみません。三日間何も食べてなくて」

 そう俺に断ってめぐみんはから揚げにかぶりつく。おい、アクアなんでお前まで何食ってんだ。

「食べながらでいいんで聞いてくれ。今日はこの後ジャイアントトードを狩りに行こうと思うんだがうちのパーティってか俺とアクアしかいなんだが基本はアクアが支援で俺が遊撃みたいな感じなんだがめぐみんには俺が敵を引き付けるからそこを魔法で一気に仕留めてほしいんだ」

「わひゃりまひた!」

 うん、やる気十分なのは分かったが一回飲み込んでから話そうか。

 

「ワンモアこのすば!」カズマ

 

 俺とアクアはめぐみんをつれて昨日来た草原にい再びやってきた。実は前回ここをテレポートの転移先に設定しておいたので一瞬で到着した。

「カズマ!あなたはテレポートが使えたのですか!」

「わあ、本当に昨日来た草原じゃないまさかただのヒキニートだったカズマがこんなに便利だったなんて」

 おい、感心するのか貶すのかどっちかにしてくれ。しかし、以前の俺ならこいつにヒキニートとか言われたら高ステータスにものを言わせてアクアを折檻しててもおかしくないのにどうしたことだろう、全く怒りがわいてこない。どういう心境の変化だろうか?

「ほら、いつまでも驚いてないでめぐみんは詠唱、アクアはホルス・ファイアでジャイアントトードを集めてくれ。」

「わかったわ」「わかりました」

「ホルス・ファイア!」

 アクアは空中に小さな光球を投げる。すると、草原の向こうから大量のカエルの足音が聞こえてきた。

「二の四の十、全部で18匹ってところか昨日狩りすぎたなあ。ちょっと少ない。」

「ちょ、なんでそんなに余裕なのですか18匹ですよ大丈夫なのですか?」

「何言ってる、昨日俺はあれを89匹狩ったぞ」

「え?89って冗談ですよね?」

「マジだ」「マジよ」

「んじゃ、ちょっと囮になってくるから合図したら打てるようにしといてくれ」

「ちょ、カズマ!」

 俺はめぐみんの制止も聞かずクルセイダーのスキルデコイを使ってジャイアントトードを引き付ける。

 よし、18匹全部集まったな、ここで……。

「テレポート!」

 俺はめぐみん達のところまで一瞬で移動した。

「めぐみん、打て!!」

「なんて、絶好のシチュエーションでしょう。感謝しますよカズマ!!

エクスプローーーージョン!!」

 この世界で初めて見ためぐみんの爆裂魔法は、俺の知っているめぐみんの爆裂魔法にはまだ遠く及ばないがなかなかの威力のエクスプロージョンだった。

 

「ワンモアこのすば!」 アクア めぐみん

 

「これが今回の報酬、9万エリスです」

 俺は向こうの世界でよく相手をしてもらった受付嬢ルナさんに依頼官僚の報告をして報酬を受け取った。

 しかし、昨日多く狩りすぎたのが原因とは言え昨日に比べたらしけてるよな……

「あの~。」

「はい?」

「今日はめぐみんさんと一緒に依頼を受けたんですよね?大丈夫でしたか?」

 ああ、そういえばめぐみんは俺たちに出会うまでいろいろなパーティをたらいまわしにされてたんだっけか。

「問題ありませんよ、最後にきっちり決めてくれましたよ!!」

「そうですか、彼女はしばらくパーティに入れてもらえていなかったので良かったです。」

「そいつらの目は節穴ですよ。あいつは一人前の魔法使いです。」

 俺はルナさんにそう言ってカウンターを離れ銭湯から戻ってきた二人のところに行った。

「はい、これ今日の報酬」

「「え?」」

 俺は二人に今日の報酬の半分ずつ4万5千エリスを渡した。

「あの、カズマの取り分は?」

「俺はいいよ、前回の分がまだだいぶ余ってるし。めぐみんは生活のために必要だし、アクアだって遊ぶための金くらいほしいだろ?」

「えっと、あのありがとう……。」

「……ありがとうございます」

 なんか二人が顔を赤くしてるがまさか惚れたか?いや、ないな。

 前回の世界では俺が借金したとき助けてもらったしこれくらいの恩返しはさせてほしい。

「あの、ところで本当に私がパーティに入っていいんですか?」

「は?何言ってんだいきなり?」

「だって、さっき見たでしょう。爆裂魔法は一日一発しか打てないうえに一度打つと魔力切れで倒れてしまって動けなくなるんですよ。カズマは強いですし、私みたいな足手まといを入れる必要なんて……。」

 はあ、前の世界で人に散々迷惑かけてきたくせにいまさら何言ってんだか。

「安心しろよ、俺はお前を信頼してるよきっと俺たちの力になってくれるってな」

「!?はいっ!!」

 めぐみんはまぶしい笑顔で元気に返事を返した。

 

 アクアとめぐみんを先に返し俺はギルドに残った。 

 もう一人の俺の仲間を待たなきゃいけないからな。

 しばらくすると長い金髪を後ろにまとめた鎧姿の女騎士が俺の前に現れた。

「少しいいだろうか?君たちのパーティはまだメンバーの募集をしているか?」

 俺の愛すべきもう一人の仲間がやってきたようだ。



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もういちどこのパーティに祝福を!

「俺たちのパーティは冒険者である俺が遊撃でほかの二人のアークプリーストとアークウィザード後方支援をするフォーメーションなんだがクルセイダーのあんたには俺以外の二人を守ってほしいんだ。正直最も危ない役目だが大丈夫か?」

「望むところだ!!」

 俺の目の前にいるクルセイダーかつての世界でパーティメンバーダクネスが喜んでと言いたげに叫ぶ。なんか、微妙に頬が赤くなってるし話だけで興奮してんのか……。

 相変わらずこいつは天性のドМだな。普通なら危険な立場って言われて喜んでやりたいってやつがいるかよ、おい。

「じゃあ、明日うちのパーティメンバー連れてくるからその時正式にパーティに入ってもらえるか?」

「わかった」

 明日会う約束をして今日のところはそれでダクネスと別れた。

 

「ワンモアこのすば!」 ダクネス

 

「ねぇ、ホントなの?うちのパーティに入りたいっていうクルセイダーがいるって?」

 今日は、アクアとめぐみんをつれてダクネスと会うためギルドに向かっていた。

「ああ、昨日ギルドで飲んでたらいかにもクルセイダーって感じの女騎士が募集の掲示板を見たって訪ねてきてな。見た感じ実力問題なさそうだったぞ。」

 性格には重大な欠点を持っているがな、あと不器用すぎて攻撃当たらないが。

「ですが、このタイミングでクルセイダーとは私たちは運がいいですね!!うまく私たちの欠点をふさぐことができる職業ですから」

 めぐみんの言う通りダクネスがうちのパーティに入ってくれれば前みたいにアクアがジャイアントトードに食われる心配もないだろう。

 まあ、ドМを背負うという心配が増えるわけだが。あいつ確か医療用スライムを卑猥なスライムか何かと勘違いして強引に買収したりしたんじゃなかったっけか。ああ、アクアやめぐみんへの苦情だけでも手いっぱいだったてのにああこれ以上増えるのか厄介ごと……。

 いや、考えてみたらこいつらには確かに苦労を掛けられた。だが、こいつらにはこの世界に来てからずっとそばにいてくれてた、アクアには死んだとき何度も蘇生させてくれた。めぐみんには大型の魔物を何体も倒してもらった。ダクネスは貧弱な俺が死ぬような攻撃を受け続け俺を守ってくれた。あいつらがいなければベルディアも、デストロイヤーも、バニルも、ハンスも、シルビアも、ウォルバグも、セレナも、魔王も、倒すことなんかできなかった。

「フッ」

 なんだ俺への苦労なんかよりこいつらの苦労のほうがよっぽどじゃないか。

「どうしたんですか、カズマ?急に笑い出して?」

「いや、悪いただの思い出し笑いだ。」

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ

 

「え~と、あっ、いたいた!って、あの人は……。」

 ギルドにやってきた俺は早速ダクネスを見つけた。カウンターにいた、隣には俺のよく知るもう一人の人物がいた。

「お~いダクネス、俺のパーティメンバー連れてきたぞ~。」

「おお、カズマ待っていたぞ!」

「こいつらが俺が昨日言ってたパーティメンバーだ。アークプリーストのアクアとアークウィザードのめぐみんだ。ところでそこにいるのは?」

「ああ、彼女は……。」

「やっほー、私はダクネスの友達のクリスだよ!」

 ダクネスの隣にいた銀髪の盗賊クリスが相変わらずのハイテンションで名乗る。

「へぇ、君が最近噂の『最強の最弱職』君か……。」

「すみません、なんですかそれ?」

「え?知らないの、君突然この街に現れた高レベルなのに最弱職の冒険者をやっていることから『最強の最弱職』って冒険者の間で言われてるんだよ」

 ええぇ、何その恥ずかしい二つ名いやかっけぇけど前の世界でダクネスの実家の権力ちらつかせて特集にそう書かせたことあったけどまさか自然に広まるとは。

「まあ、あの実力ならそう呼ばれても納得ですよね」

「そうね、確かに最弱職ってスペックではないわよね」

 まさかのアクアとめぐみんまで納得してる。前の世界なら「カズマのくせに二つ名なんて生意気よ」とか「カズマだけ二つ名とかずるいですよ!」とか絶対言われるのに。

 

「ワンモアこのすば!」 クリス

 

「ところで、カズマ君ってなんで私に敬語なの?」

「いや、何となく逆らっちゃいけない気がしまして」

 ダクネスがアクアとめぐみんとこれからパーティメンバーになるに際して親交を深めようと談笑をしている。

 俺たちは離れたところのカウンターでシュワシュワ片手に話をしていた。

「というか、女神様相手にため口は無礼でしょう?おっと、あぶないですよ」

 俺の言葉にクリス、いやエリス様はジョッキを手放してしまうが慌ててこぼれる前に回収する。

「な、なにいってるのかなぁ。私は確かにエリス教徒だけど本人ではないよ」

「エリス様、俺は女神さまとは言いましたがエリス様となんて一言も言ってませんよ」

「……エリス様じゃないよ、クリス様だよ」

「ブフッ!」

「ちょっと、なんで笑うのさ!?」

 いやだって、前の世界で正体がばれた時と全く同じ反応してんだもの!思わず笑っちまうのは仕方ないんじゃないか。

「あくまでとぼけるんですね、エリス様」

「だから私はクリスだって」

「そうですか、じゃあ仕方ありません。あなたが危険な神器を回収するためとはいえ貴族の屋敷に潜入して義賊まがいのことをしていることを警察に告げに行かなくては……。」

「待ってください!待ってください!わかりました、認めますからそれだけはやめてください!」

 エリス様は観念してしゃべり方も本来の女神のものに戻して認めた。いけないいけない、鬼畜だったころの血がうずいてしまった。

 

「うう、ワンモアこのすば……。」エリス(涙声)

 

「それで、あなたはなんで私の正体を知ってるんですか?」

「それだけは、女神様だろうと閻魔様だろうと教えられません」

 この様子だと俺を過去に飛ばしたのはエリス様じゃないのか?まぁ、戻れる保証もないしこの世界で生きて行くつもりだがもし時が巻き戻ったのではなく並行世界なら向こうに残っためぐみんやダクネスのことが心配だ。向こうなら多分俺は死んだことになってるだろうからな……。

「はぁ、じゃあどこまで知ってるんですか?」

「そうですね、女神の仕事として神器を回収していることのほかには、毎日祈ってくれてる友達のいないクルセイダーの友達になってあげるくらい優しいことと、クリスという名前は好きな花の名前からとっていることですね」

 あと、胸がぱっt……。

「……今、失礼なこと考えませんでした?」

「い、いえ、滅相もございません」

 エリス様が腰のダガーを抜き俺の首筋にあててきた。しかもものすっごい笑顔で。その笑顔はとても素敵ですが目が、目からハイライトが消えております!

「そういうことにしてあげるけど、こっちでは普通にタメ口で話してね」

「……ああ、わかったよ。ついでに今度神器の回収で手が必要なら手伝うんで」

「ホント!?助かるよ!!」

 クリスは笑顔で残りのシュワシュワを飲み始めた。

 

「わ、ワンモアこのすば」 アダルトカズマ(怯)

 

「クリス、カズマと何を話していたんだ?」

「うん?困ったときはお互い助け合おうって感じの話だけだよ」

 まぁ、間違ってないけど。

「じゃあ、俺たちは新しいパーティで実践したいんでこのまま依頼を受けるんだがクリスはどうする?」

「私は用事があるからここでね!バイバイ、ダクネスのことよろしく頼むよ!!」

 そういって、クリスはギルドから出て行った。今回の世界では彼女に迷惑かけないよう死なないように生きよう。

「んじゃ、今日はどんなクエストにするか、ジャイアントトードは昨日一昨日で倒しすぎてもう受けられないらしいからな」

「じゃあ、これなんかどうですか?」

 そういって、めぐみんが見せてきたのは一撃熊の討伐依頼。確かに、ダクネスの耐久力を試すにはちょうどいいかもしれないが。

「ダメだ、俺はともかくお前らは一撃でも食らったら即死亡だぞ」

「いや、大丈夫だカズマ!どんな重い一撃だろうと受け止めて見せる」

 こんのドМが。

「今日はこいつを受けるぞ」

「「「ゴブリン討伐?」」」

 それは、俺がかつてダストの発言でブチぎれてキースやリーンと受けたクエストだ。

「このクエストにはゴブリンだけじゃなく初心者殺しっていう強力なモンスターがついてくるケースがある。俺がそいつと戦っている間ダクネスはゴブリンから二人を守る、んでアクアとめぐみんは俺の指示で後方支援だ。いいな?」

「わかったわ」「わかりました」「わかった」

「よし、んじゃ行くぞ」

 俺たちはゴブリンを討伐するべくギルドを出た。

「初心者殺しか、いったいどんな一撃何なんだろうか」

 完全にトリップした顔でそんなことを言っていたダクネスを僕は見なかったことにしました。サトウカズマ〇

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ アクア めぐみん ダクネス

 

「『ライト・オブ・セイバー』+『飛斬』!!」

 俺は左手で上級魔法をもう片方の手に握った剣でソードマスターのスキルを使って斬撃を放つ。剣はさっき来る途中いつかの鍛冶スキルを教えてもらった鍛冶屋のおっちゃんがいる店で買ってきた。

 魔法を受けたゴブリンは爆散し、斬撃を食らったゴブリンは真っ二つになる。

「『バインド』!!」

 さらに、盗賊のスキルを使ってゴブリン数体をワイヤーで縛り上げる。

「めぐみん、いいぞ打て!!」

「『エクスプロージョン』!!」

 俺の指示を受けめぐみんが爆裂魔法を打つ。それによりまとめて捕縛されたゴブリンと周りのゴブリンも巻き込んでまとめて吹っ飛んだ。

「アクア、めぐみんはもう立てない。もしものことがあった時のために背負っておいてくれ!」

「わかったわ!」

「ダクネスはまだ耐えられるか!?」

「大丈夫だ!むしろもっとガンガン来い!!」

「よーしわかった。もう聞かねぇ!!」

 本当にこのドМは~~。

「つうか多すぎるだろ、もう百匹近く倒したぞ!!」

 これは、もしかしなくてもあいつがいるな。

「!お出ましのようだな……。」

 森のほうから一体の黒いネコ科のようなモンスターが現れた。

「来やがったか、初心者殺し……。ダクネス、お前は二人守っとけ奴さんは俺が相手をする」

「おいカズマ!ずるいぞ!!」

「やかましいわ!!変態!!」

「クッ、不意打ちの罵倒とはやはりカズマは私の望む人材だ!!」

「頼むから少し黙っててくんない!!」

 こっちはこれから初の大物との戦いだってのに。雰囲気ぶち壊しだよっ!!

 ああ、怖ぇなぁ。今まで目つぶしやめぐみんの爆裂魔法で何とか切り抜けてきたが、今回は周りにゴブリンが大量にいて目つぶしを使っても逃げられない。おまけにめぐみんはもう爆裂魔法は使えない。

 

 スゥー。

 

 俺は呼吸を整える。俺の視線の先では初心者殺しが俺の様子をうかがっている。

「行くぜ……。」

 まずは牽制、

「『ライトニング』!!」

 俺は無数の雷の矢を作り出し初心者殺しに向かわせる。

 だが、初心者殺しはその攻撃を簡単によけ俺に迫ってくる。

 やっぱ、この程度じゃダメか。だったら、

「『パワード』」

 俺は剣を腰に戻し筋力強化の魔法を自身にかける。

 初心者殺しは俺に向けて口を広げ噛みつこうとする。そこを俺が、

「これで、もう噛めないだろう」

 こいつの上顎と下顎を両手で抑えて噛みつけないようにする。そして、

「いくら、初心者殺しつっても体の中まで丈夫ってわけじゃねぇだろ」

 俺は右手を牙から少しずらし、

「『カースド・ライトニング』!!」

 俺の手のひらから黒い雷の矢が現れ、初心者殺しの口から体を貫通する。

「しゃあ、初心者殺し討伐っ!!」

「「「おおっ!!」」

 俺の活躍に三人が声を上げる。

「さ、残りも討伐して帰るぞ」

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ

 

「ゴブリン討伐と初心者殺しの討伐、合計十五万エリスです」

 おお、昨日より多いな。でも確かゴブリンって大した金にはならないはずだからほとんど初心者殺しの報酬か。俺割とあっさり勝っちまったけど。

「おおい、アクア、めぐみん、ダクネス報酬もらってきたぞ、十五万エリスだから一人五万エリスな」

「な、まってくれ!なんでカズマの報酬がないのだ。初心者殺しを倒したのはカズマだろう!!」

「そうですよ、さすがにこれはもらえません!!」

「あら、それなら私がもらおうかし……。じょ、冗談よ、だから二人ともそんな目で見ないでよ!」

 アクアの図々しい発言にダクネスとめぐみんが無言の圧を送り黙らせた。

「いや、いいよ。俺それほどほしいものないし。宿で暮らせさえできればそれでいいから」

「いえ、それでもやっぱり……。」

「じゃあなんか飯奢ってくれよ、それでいいだろ?」

「はぁ、わかりました。じゃあ今日は豪勢なものをカズマに食べさせてあげましょう!!」

「ああ、そうだな」

「ねぇ、私も食べさせてもらっていいかしら?」

「「お前(あなた)は自分で払え(払いなさい)。」」

「なんでよぉ!!」

 

「ワンモアこのすば……。」 アクア(いじけ)

 

「ところでカズマのステータスはどうなってるんですか?」

 めぐみんとダクネスのおごりで俺はギルドの飯の中でも一番高いものを頼んで食事をしていると隣で食べているめぐみんがそんなことを聞いてきた。

「ん?どういうことだめぐみん?」

「どういうこともなにもおかしいじゃないですか、カズマは最強と言われてますけど最弱職なんでしょう?それなのに上級職の魔法やスキルを本職と同然の威力で使ってたじゃないですか」

「ああ、それは私も思っていた。できれば冒険者カードを見せてもらえないか?」

 俺とめぐみんの会話にダクネスまで混じってきた。あ、アクアは飯に一心不乱に豪華な飯にかぶりついている。あっ、あいつに関しては酒場のツケね。

 しかし、冒険者カードか。ひけらかすみたいでいやなんだけどこれからパーティとしてやっていくわけだし見せておいたほうが何かと便利か。

 俺はジャージのポケットから冒険者カードを取り出しめぐみんに渡す。ダクネスはそれを覗き込むように見る。

「「!!!!」」

「どした、二人とも?」

 二人は驚愕の顔で固っている。

「ハハハ、すみませんカズマどうやら私は疲れてるらしいです。いくらカズマが強いとはいえあり得ないステータスが見えるんですが」

「いや、めぐみん、多分見間違えじゃないぞ。私の目にも信じられないステータスが見えている。」

 どうやら、めぐみんは現実を受け入れられていないらしい。

「そんなにすごいか?」

「すごいなんてものじゃないでしょう!!なんですかレベル312って三桁のレベルなんて初めて見ましたよ!!」

「それになんだ、このスキルの量百は軽く超えてるぞ!!」

「そんなにすごいことなんかじゃないだろ、俺はただの器用貧乏だ」

「……これも前から思っていましたが、なんでカズマは力をひけらかすどころかむしろ過少評価ばかり自分につけるんですか?」

「ん?そうだな、弱かったころの俺を知ってるからかな?」

「弱かった?カズマがですか?」

「驚くこたぁないだろ、誰だって弱い時期くらいあるさ。そこから死に物狂いで戦って文字通り死にかけて戦って地道に強くなっていった、それだけだよ」

「でも、このステータスなら私たち三人がいなくても……。」

 はぁ、またそれかよ。

「あのなぁ、俺が言いたいのはそうじゃなくてそんな弱かったころの俺もこんな風になれたんだお前らだって頑張れば俺くらいになれるって言いたいの!!それまでは俺が守ってやるって言ってんの!!」

 俺は酒が回ってるせいか少し強めに言ってしまった。

「ふふふ、強くなるまで守ってやる、ですか」

「なかなか恥ずかしいことを真面目な顔で言うじゃないか」

 二人は俺をニヤニヤした顔で見てくる。

 俺はこっぱずかしくなり二人から目をそらして残りの飯を食った。

 しかし、本当にくさいセリフを言うようになったな、俺も。



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もういちどこのリッチーに祝福を!

「確か、これくらいの時間帯だったはずなんだが……。」

 俺たちはダクネスをパーティに加えてから毎日のようにクエストを受けていた。それも俺だけが一人で倒すわけではなくそれぞれがそれぞれの役目を担っているという感じでちゃんとパーティとして機能している。さすがに俺もいくらかの報酬はもらっている。と言ってもそれはほとんど貯金に回している。なぜって?懐かしの我が家を購入するために決まっているじゃないか。前の世界ではアクアが面倒くさがって墓場に結界を作ったのが回り回ってとんだマッチポンプみたいになってしまったが、今回はまっとうに買ってみせる。

 そのためにはクエストを受けているだけではいくらか足りない。たまにルナさんに頼まれてソロで塩づけクエストを受けているがあれを足しても少し足りない。となれば商売で稼ぐ方法しかないわけだが、そのためにはあっておかなきゃいけないやつがいる。

 直接店に行けばいいが後でアクアが「ゾンビメーカー」の依頼を受けたいとか言ったら困るので夜中、アクセルの町の共同墓地に俺は一人で来ていた。

「おっ、来たか」

 ようやくお目当ての人物がやってきたようだ。

 その人物はローブを被っているため顔は見えあないがこの墓地にこの時間帯に来る人物なんて一人しかいない。

「待ってたぜ、ウィズ」

「!!!」

 俺が、彼女の背後から潜伏で現れ。声をかけた。

「あ、あなたは誰ですか?」

 ウィズは明らかに俺を警戒している。当然か初対面の人間にいきなり名指しで声をかける人間なんて警戒しない人間なんていないだろう。いや、人間じゃないんだが。

「ああ、そう警戒しないでくれ。俺は別にあんたを浄化しに来たプリーストってわけじゃない」

「浄化って、どういうことですか?」

「だって、お前リッチーだろ。おまけに魔王軍幹部だし」

「な、なんでそこまで知ってるんですか!?お願いしますどうか見逃してください!!」

 だめだ、完全におびえられてる。ファーストコンタクトミスったか?

「いやだから、俺は別にお前を浄化しに来たわけじゃない。お前が人を傷つけたことがないこともリッチーになった経歴も知ってる。ついでに言うと、幹部らしいことは魔王城の結界の維持以外してないってことも知ってる。いくらリッチーとはいえ善良なアクセル市民を問答無用で浄化なんてしないよ。今日は話があってきたんだ。」

「……話ですか?」

 ウィズは少し警戒を解いてくれたらしい。

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ ウィズ

 

「つまり、あなたの作ったものを私の魔道具店で扱ってほしいと?」

「ああ、そうなんだ。」

 俺は一通り話すと、クエストの報酬で作ったライターを見せる。

「これ、一応試作品を持ってきてるんだが」

 俺はそのライターをウィズの前で使ってみせる。

「随分小さいですね、簡単に火がつけられるとは初級魔法である『ディンダー』にスキルポイントを割り振りたくないという人も結構いますので需要もあるでしょうね。でもなんで直接店に来るのではなくここで待ってたんです?」

「ああ、実は夜な夜なお前の魔力に反応したゾンビどものせいでゾンビメーカーが現れたってことで討伐依頼が出てるんだが、うちのパーティにはアンデットを目の敵にする狂暴アークプリーストいるんだ。あいつがそのクエストのこと知ったらマジでお前のこと消しに来る」

「ひぃぃぃ!!」

 しまった、驚かしすぎたか。

「まあ、そんなわけでここの浄化は俺が引き受けようと思ってな」

「え?でもあなたはプリーストではないんですよね?」

「ああ、でも一応浄化魔法は使えるぞ『セイクリッド・ターンアンデット』」

 俺は最上位の浄化魔法を使い墓地に霊たちを浄化した。

「ほらな、できただ、ろ……。」

 振り返ると薄くなったウィズが……。どうやら俺の魔法に巻き込まれたようだ。

「ウィズぅぅぅ!!」

 

「ワンモアこのすば!」アダルトカズマ

 

「川の向こうから慌てて私を追い返そうとする昔のパーティメンバーが見えました」

「マジごめん」

 俺は消えかかっていたウィズに慌てて『ドレイン・タッチ』で俺の生気を与えて何とか消えないようにした。

「いえ、それよりアークプリーストの浄化魔法に私と同じリッチーのスキルである『ドレイン・タッチ』が使えるなんて。」

「俺は冒険者でな、おまけにレベルが高すぎるせいでほとんど上級職に引けを取らないんだ。」

「そうなんですね」

「んじゃ、俺はそろそろ帰るよ。話は明日店に行ってするよ」

「わかりました、お待ちしています」

 俺たちはそういって、その場所を離れた。

 

「ワンモアこのすば!」アクアめぐみんダクネス

 

「アクア、頼むから会って即浄化みたいなことは勘弁してくれよ」

「不本意だけどカズマの顔に免じてそれだけはやめてあげるわ」

 俺の顔に免じてか前の世界では絶対に言われなかった言葉だ。

 今日はパーティメンバーにウィズのことをところどころ端折って話し、みんなでウィズの魔道具店に向かっていた。

「お~い、ウィズ。来たぞ」

「あ、カズマさん。いらっしゃいま、ひぃぃいぃ!!」

「アクア、そんな殺気を向けないでやってくれこいつは悪いアンデットじゃない」

「はぁ!?何言ってんのカズマ、アンデットなんて腐ったミカンと同じよ!!」

 だめだこりゃ。仕方ない。

「ウィズ、お前がリッチーになった経緯をこいつらに話してもいいか?」

「え、いいですけど」

 

「ワンモアこのすば!」 アクア

 

「なるほど、そういう経緯があったのか」

「確かに悪いアンデットではないようですね」

「その悪魔ぶっ飛ばしていいかしら?」

 いや、アクアバニルにはまだ使い道があるから勘弁してくれ。

「というかなんでカズマがそんなことを知っているんですか?」

 さて、どう言い訳をしようか。

「実は俺はさ高ステータスのせいか俺とかかわった人間の過去と未来の一部が時々見えるんだ。」

 俺がそういうとめぐみんが目を輝かせた。ダクネスは少し動揺した。

「カズマにはそんな力も持っていたんですね!!」

「な、なぁ、カズマ。その能力とやらは私のことも見えるのか?」

 どうすっか、言うか?いや、みんなにはバレない程度にいうか。

「安心しろよ、お前がどんな立場の人間だろうと俺にとってはただの仲間だ。」

「……ありがとう」

 全く、つってもこいつが貴族令嬢だなんて誰が信じるんだか。

「それで、カズマはなんで商売をしようとしてんですか?」

「ああ、実は今まで受けたクエストの報酬のいくらかを貯金をしてたんだが。もう少しで屋敷が買える金額に届くんだよ」

「カズマ、そういうことですか。報酬もらっても大して物を買わないと思ったらそういうことですか!!」

「お前というやつはまた一人でそんなことをしてたのか!!なんで、言ってくれなかったんだ!!」

 めぐみんとダクネスが俺につかみかかってきた。 

「いや、悪かったよ。黙ってたのはもともと一人でも稼げる金額だったから大丈夫だと思ってたんだよ!!」

「それで、その屋敷の金額は?」

「五千万エリス」

「「「はぁぁぁぁ!!」」」

 ちょ、君たちうるさい。

「五千万って、他のお金どこから集めたんですか!?」

「ん?ルナさんに時々塩漬けクエストを頼まれてなその報酬で」

 俺の言葉にダクネスやめぐみんが完全に呆れ始めた。

「そんなことまでやってたのか……。」

「仕方ありません、こうなればカズマの商売を全面的に協力しましょう。」

「そうだな」「そうね」

 その後、アクアの宴会芸やダクネスやめぐみんがギルドでの商売許可をもらい、最近名の売れたパーティメンバーということで注目を集め、とんでもない量のライターが売れ、売り上げの一部をもらったウィズが涙ながらに礼を言ってきた。



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このデュラハンと決闘を!

 俺たちはライターの売り上げが結構なものになったので念願の屋敷を購入した。

「わぁぁ、ここがカズマの買いたがっていた屋敷ですか」

「悪くないわね、えぇ、悪くないわ、女神の私が住むにふさわしいわ」

「「女神?」」

 あっ、そういえば言うの忘れてた。

「を、自称しているかわいそうなやつなんだ、気にしないでやってくれ」

「……そうだったんですか」

「……そうだったんだな」

 二人ともアクアの女神発言を全く信じてない。ものすごくかわいそうなものを見る目をしている。

「なんでよぉ!!」

 アクアの泣き叫ぶ声が響いた。

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ アクア めぐみん ダクネス

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者の方々は町の入り口に集まってください。』

 俺たちが苦労して買った屋敷でのんびりしていると町中に警報が鳴り響いた。

 この時期の緊急クエストっていうとアレか。

「みんな、行くぞ『キャベツ狩り』だ!!」

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ

 

「今年は荒れるぞ」

「……嵐が、来る」

『収穫だ!!』

「マヨネーズもってこーーい!!」

 草原の果てからやってくる緑の波を見ながら冒険者たちは大はしゃぎだ。

 確か、この世界のキャベツは栄養が豊富で飛ぶようになり、簡単に食われてたまるかとばかりに暴れて誰もいない荒野とかでひっそりと息を引き取るんだよな。

 二回目なのに相変わらずこの世界のシステムはわけわからん。

 なんて考えてるうちにいつの間にかうちのパーティをはじめとした冒険者たちがキャベツに突っ込んでいった。あーあ、ダクネスのやつ攻撃当たらない癖に突っ込むからキャベツにめちゃくちゃ攻撃されてるじゃん。それなのに喜んでるから始末に置けない。おっ、めぐみんが爆裂魔法を打ったな。十匹近く消し飛んだが。

 って、いかんいかん、俺も早くいかなくては。

 俺は自分に速度強化と筋力強化の魔法を使いキャベツどもに突っ込む。

 突っ込んできたキャベツを掴んではテレポートで戻り掴んではテレポートで戻る。それをひたすらに繰り返す。

「ふぅ、百匹近く捕まえたか。でもまだまだいるな。」

 仕方ない、このスキルは俺にとってトラウマの象徴だから使いたくはなかったんだが。

「『スティール』」!!」

 おお、羽どころかキャベツそのものスティールできたぞ。

 昔よくこのスキルで女性の下着をスティールしたことから鬼畜と言われ始めたのがトラウマで今まで使ったことはなかったが、やはり強力だな。

 その後、俺のスティールによりあらかたすべてのキャベツを回収した。

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ

 

『緊急クエスト、緊急クエスト、冒険者の方々は町の入り口に集まってください。』

 キャベツ狩りを終え久々にのんびりしているとまた緊急クエストの放送が鳴り響いた。この季節のもう一つの緊急クエストって言ったら。

「なぁ、めぐみんお前俺に隠れて廃城に爆裂魔法打ち込みに行ったりしてないよな?」

「? 何言ってるんですか、私の爆裂散歩にはいつもカズマの『テレポート』で」町の外の湖でしてるじゃないですか」

 うーん、うそを言っているわけじゃないみたいだな。

「とりあえず皆行くぞ」

 

「ワンモアこのすば」 ベルディア

 

 やっぱりこいつかよ。

「俺は最近近くの城に引っ越してきた魔王軍幹部のものだ」

 俺たち冒険者の視線の先には首なしの馬に乗った、首なし騎士魔王軍幹部デュラハンのベルディア。

 確か、以前はめぐみんの爆裂魔法が原因で怒鳴り込んできたんだよな。

 とりあえず、俺が代表して前に出る。

「デュラハン、そして魔王軍幹部。ということはお前はベルディアだな?そんな大物がなんでこんなところにいる。」

「ほぉ、俺のことを知っているとは貴様何者だ?」

「俺はただの情報通だ。ちょっと魔王軍の事情に詳しいだけさ。」

「ほう、興味深いな。貴様を魔王様の土産にするのもいいかもしれないな」

「そうなったら、そこで魔王の首を取るだけさ」

「ハハハ、貴様俺を前に大した度胸だ。今日はあいさつに来ただけだが気が変わった。」

 そういって、ベルディアは馬から降りた。

「貴様、俺と戦え」

「は?」

「俺が勝ったら、お前を俺の配下にする。」

 は?は?

「はぁぁあぁぁぁぁ!!」

「な、なにを言っているのです。カズマが魔王軍に寝返るわけないでしょう」

「そうよ!!カズマは女神である私の従者なんだから。あんたみたいなくそアンデットの下に着くわけあないでしょ!!」

 おい、誰がお前の従者だ。

「そいつの意思など関係ないそいつを殺してアンデットにすればいいだけの話だからな」

 うわ、いやだー。アンデットになんかなりたくねぇ。

「そんな戦いに俺が望むとでも?」

「ならば、これならどうだ。汝に死の宣告を貴様は三日後に死ぬだろう。」

 あの野郎、めぐみんに死の宣告を!!

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!!」

 俺はベルディアの死の宣告をブレイク・スペルで相殺する。

「俺の死の宣告をを相殺するとは貴様本当に何者だ!!」

「教えるわけねぇだろ、それよりてめぇなんでめぐみんを狙った!?」

「貴様ら結束の固い冒険者にはこちらのほうがきくだろう?」

 ……この野郎。

「これでもまだ戦わないというなら配下のアンデットどもに街の住人を皆殺しにするか」

「カズマは離れていろ、ここは私が……。」

「待て」

 ダクネスが突っ込もうとするがその肩を俺がつかむ。

「……あいつは俺がぶっ飛ばす」

 こんなに怒りを覚えたのは始めてだ。

 

「ワンモアこのすば」 アダルトカズマ(怒)

 

 俺とベルディアは1メートルほど離れた場所で対峙している。

「この石が地に着いたら決闘開始だ」

「それで構わない」

 ベルディアが宙に石を放る。落ちた瞬間俺たちは最大の速度で距離を詰めお互いの剣を交えた。

 体格もリーチもまともにやってたら勝ち目なんかない。となれば、

「『スティール』!!」

「何っ!?」

 とったものは、奴の大剣か!!頭なら大当たりだったが、これでもまぁいい!!

「貴様、俺の剣を!!」

「『パワード』+『豪剣』!!」

 筋力強化の支援魔法と、ソードマスターのスキルを使い剣がなくなりがら空きになった奴の胴に一太刀入れる。

「ふっとべぇぇぇぇ!!!」

「ぐぉぉぉおおぉおぉ!!」

 ベルディアは俺の剣を食らい後方に押しのけられる。結構なダメージだったようで奴は膝をつく。

 この一瞬のスキ、絶対に逃さん!!

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混淆を望みたもう、「きっ、貴様その詠唱は!!」覚醒のとき来たれり、無謬の境界に落ちし理、「ま、待て、待つんだ!!」無行の歪みとなりて現出せよ!!「そんなものを食らえばいくら俺でも……。」今更おせぇぇぇ!!

エクスプローーージョン!!!!!」

 

ドゴーン!!!

 

「はぁはぁ……。」

 俺の爆裂魔法を食らいベルディアは跡形もなく吹っ飛んだ。

「はぁはぁ、しゃあぁぁぁぁぁあぁ!!ベルディア討伐完了ぉぉぉぉぉ!!」

 俺は連続で魔法やスキルを使いすぎた疲労でその場にゴロンと寝ころび。強敵を倒した喜びから大声で叫ぶ。

『おおおおおおおおおおおお!!』

 俺の叫びに反応するように、冒険者たちが草原に寝転んだ俺に走って来た。

「「「カズマァァァァァァ!!」」」

 その中で特出して早く近づいてくる俺のパーティメンバー。

「すごいです、すごいですよカズマ!!一人で魔王軍幹部を倒してしまうなんて!!」

「さすが、私の従者ね。まさか一人であんなのを倒しちゃうなんて!!」

「これは人類にとって大きな一歩だぞ、長い間倒すことができなかった魔王軍幹部を倒してしまったんだからな!!」

 魔王軍幹部を俺が……。

「本当に勝ったんだな……。」

「そうですよ!!カズマが倒したんですよ!!」

「ふっ、どうだアクア、めぐみん、ダクネス、俺勇者っぽいか?」

 俺の質問を受けて、三人は目が点になる。そのあとすぐに口元に笑みを浮かべた。

「なにをいってるのよ、今更」

「そうですよ」

「まったくだ」

「「「あんた(あなた)(お前)は、もう私たちの勇者(よ)(ですよ)(だ)!!」」」

 満面の笑みでそう返してくれた。

「お~い、皆俺たちの勇者を胴上げだぁぁあ!!」

『よっしゃぁぁぁ!!』

 いつの間にか近づいてきた男性冒険者をひきりに倒れてる俺を持ち上げて胴上げをした。

 まさか、かつてただの雑魚だった俺がこんな光景を見ることになるとはな。

 

『ワンモアこのすば!』 冒険者一同

 

「サトウカズマさん、こちらが今回の報酬三億エリスになります!!」

『おおおおおおおおおおおお!!』

 俺たちはほかの冒険者と一緒にギルドに戻り報酬を受け取った。

 かつてはアクアの起こした大洪水によって壊れた外壁の修理費に持っていかれた金だ、それだけじゃなく俺の力だけで手に入れた金だ。やっぱり重みが違うな。

 つうか後ろの冒険者たちの奢れコールがうるさいな。言われなくても、 

「よっしゃぁぁあぁl、今日は俺の奢りだみんな朝まで騒ぐぞぉおぉぉ!!」

『うおぉぉぉぉぉぉぉおぉおぉ!!』

 

「よっ、花鳥風月!!」

 少し離れたテーブルでアクアが人を集めて宴会芸を披露している。俺は頼んだシュワシュワをちびちび飲みながらそれを遠くから見ていた。

「こんなところで、主役がいていいのかな?」

「クリス、戻ってきてたのか?」

「ついさっきようやく、仕事が終わってね。聞いたよ魔王軍幹部を一人で倒しちゃったって!!まさかここまでの大物とはね!!」

「ハハハ、あの野郎めぐみんに死の宣告使おうとしたんでブチギれて倒しちゃったてのが大きいかな。」

「ふーん、よっぽど仲間が大事なんだね」

「まあな」

 恥ずかしさを隠すようにジョッキを傾ける。

「そういえば聞いたんだけど、『スティール』でデュラハンの剣を奪ったんだって?」

「ああ、これな」

 俺は背中に担いだ大剣をクリスに見せる。この剣は戦利品として俺がもらった。

「……じゃあさ、私と一つ勝負しない?」

 無邪気に笑うクリスの顔からものすごく嫌な予感がした。

「『スティール』!!」

 クリスが俺に向かってスティールを使った。クリスの手に握られていたのは、

「それ、俺の財布!!」

「へぇ、やっぱり結構入ってるね。どう返してもらいたければ『スティール』で取り返してみれば?」

 いうと思った。

「いや、いいよそれあげるから」

 貯金はちゃんと銀行に預けてるから。

「えっ、いいの?」

 クリスは鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。

「ああ、俺は女性相手に絶対『スティール』は使わないって心に決めてるんだよ」

「えっ、なんで?」

 俺は言いたくないので顔を少しそらす。

「ねぇ、なんで、なんで!!」

 クリスが俺の肩を揺さぶる。こりゃ、教えるまで引き下がらないな。

「絶対誰にも言わないでくださいよ」

「わかったよ」

「俺が『スティール』を女性に使うとほぼ百パーセント……ツを奪うんですよ」

「え、なんだって?」

「だから、……ツを奪うんですよ」

「え、それ本当なの?」

「ええ、今までほぼ全部そうでした。そのせいで鬼畜だのなんだのと言われましたよ」

「君も大変だったんだね」

 第一号はあなたなんですけど。

「なんか悪いから、これ返すよ」

 そういって、クリスは財布を返してくれた。

 その後、めちゃくちゃ気があい朝まで二人で語り明かした。



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この起動要塞に終焉を!前編

「ふぁぁぁ~~。」

 俺は屋敷の自室、そのベッドの上で目を覚ます。

 まだ重い瞼を覚ますために洗面台で顔を洗う。そして、自分の頬を両手でたたき、気合を入れる。

「よしっ、今日もがんばるぞ!!」

 おまけに今日は決戦だからな。

 

「ワンモアこのすば!」アダルトカズマ

 

 この二度目の世界における俺、サトウカズマの朝は早い。朝六時に起床し、朝食の下ごしらえ、筋トレ、剣の素振りと朝の日課を片付ける。この屋敷に住み始めてからこの朝の日課は毎日欠かさずやっている。理由は一つ。俺は高いステータスにものを言わせて強く見せているだけだ。それを完全に使いこなせてるわけじゃない。俺には過ぎた力だ、まずはその力を受け止められる器を作らなければいけないからな。

 自分で言うのもなんだが、昔の俺に見習わせたいぜ。

 筋トレを終わらせ朝食を完成させる前に一度シャワーでかいた汗を流す。

 そして、朝食を仕上げ皿に盛り付ける。今日の朝食はトースト、コーンスープ、ポテトサラダ、ハムエッグという献立だ。こちらの世界でも料理スキルを持つ俺が主に台所に立っているんだが最近ではすっかり趣味になってしまい栄養にも気を使い始めた。

 と、そろそろ二人が起きるころか。

 おっ、言ったそばから。

「おはようございます、カズマ」

「カズマ、おはよう」

 さらに料理を盛りつけ終わったところで寝間着姿のめぐみんとダクネスが起きてきた。二人はいつもこれくらいに起きてきてくれるのに、

「おはよう、めぐみん、ダクネス。アクアはまた寝坊か?」

「そうみたいだな」

「しょうがないですね、私が起こしてきます」

 そういって、めぐみんはアクアを起こしに台所を出て行った。

 ん?

 ダクネスがなぜか俺のことを見ている。

「どうした?」

「いや、よく似合ってるなと思って……。」

 ダクネスが俺のエプロン姿を見ていった。

「そうか?見慣れてきただけじゃないか?」

「そうかもしれんが、こうしてみるとただの年相応の少年に見えるな。とても魔王軍の幹部を一人で倒した男にはとても見えん」

 ベルディアを倒してから早二週間。たまにクエストを受けるだけで、うちのパーティは基本そのほかは自由行動で平和な生活を送っていたからな。

 ----昨日までは。

「おいおい、強く見えないのは結構気にしてるんだから言わないでくれよ」

「そうか?それはすまなかったな」

 そういって、俺たちはお互いに笑いあう。

「二人とも、アクアを起こしてきましたよ」

「ふぁぁ、まだ眠い。ご飯食べたら寝ていい?」

「悪いなアクア、今日はみんなでギルドに行かなきゃいけない。」

「えぇ~、なにしにいくのよ?」

「もうすぐわかるさ」

 取り合えず今は平和に朝食をとろう。

 

「わんもあこのすば~~」 アクア(眠)

 

 カラン、カラン。

「ウィズ~、いる、……か?」

 ギルドに行く前に用事のあるウィズの魔法具店によった俺は絶句した。

「ヒッグ……ヒッグ……。あぁ、いらっしゃ…ヒグッ…ませ」

 カウンターで顔を伏せたウィズが涙を流していたからだ。

「えっと、ウィズ何があったのか聞いていいですか?」

 なんて言っていいのかわからない俺に代わって、めぐみんが泣いている理由を聞く。

「そ、それが……。」

 

 ウィズの話を聞くところによるとライターを売ったお金で新しい魔道具を仕入れようとしたらしいんだが、店のおじさんたちに進められたものを全て買っていたら食費まで使い切ってしまったらしい。おまけに最近ライターが飛ぶように売れたせいでみんないくつか持ってるからしばらく誰も買いに来ないという状況に涙を流していたらしい。

 

「それで、いったいどんな魔道具を買ったんだ?」

「これです……。」

 ウィズが取り出したのは腕輪型のマジックアイテム。あれ?これって確か……。

「これは、盗賊職に必須の『スティール』が使えるようになる魔道具です」

「ほぉ、なんだ結構売れそうな魔道具じゃないか」

 何も知らないダクネスがそんなことを言っている。

「ダクネス、そんなうまいものがそうそうあるわけがないだろ」

「む?どういうことだ?」

 俺は頭を押さえながらダクネスに説明してやる。

「その魔道具は確かに『スティール』が使えるようになる。だがな、盗賊職にしか装備できないうえに消費魔力がとんでもないんだ」

「そ、それはつまり……。」

「ーーーただのガラクタね」

「うわぁぁぁあぁん!!」

 あーあ、アクアの言葉にウィズがガチ泣きしちまった。

「うぃ、ウィズ実は今日は頼みがあってな……。」

「頼み、ですか?」

「あ、ああ、報酬は弾む……。」

「どんな頼みですか!!私ができる限りなら何でもします!!このままだとしばらく固形物が食べられないんです!!」

 お、おお、なんて迫力だ。これがあのいつもは温厚なウィズ。金の魔力とは末恐ろしい……。

「ちょ、ちょっと、待ってくれ……。そろそろ」

『緊急クエスト!緊急クエスト!!冒険者の方々は直ちに冒険者ギルドに集まってください!!』

 来たか。

「みんなギルドに行くぞ!!」

 

「ワンモアこのすばぁ」 ウィズ(泣)

 

「ルナさん、集まりましたか?」

「サトウさん!ええ、今招集できる冒険者はすべて……。」

「そうですか」

 俺は顔なじみの受付嬢ルナさんに集合状態を確認した後冒険者全員の見える場所に移動する。

「みんな、今日の招集は俺の提案だ。突然みんなをよびだしてすまない」

 まずは突然呼び出したことを謝罪し、頭を下げる。

「それはいいけどよ、何の用事か早く教えてくれよ」

 冒険者を代表し、顔見知りのチンピラ冒険者ダストが問う。

「みんなも知ってるかもしれないが、今この街に起動要塞デストロイヤーが接近している。俺は昨日クエストとしてデストロイヤーの進行方向を調査していたんだが、調査の結果、アレの速度と方向からこのままいけば100%この街に来ることが分かった。おそらく後に二週間もないだろう。」

『!!!!!!!?』

 俺の言葉に冒険者たちが一斉にざわめく。

「だが、俺は別にみんなで逃げようとか考えてるわけじゃない。」

「? じゃあ、どうしようというのです?相手はあのデストロイヤーですよ?」

 隣にいためぐみんがみんなの意見を代弁する。

「俺に、デストロイヤーを確実に落とす策がある。」

『!!!!!!!!?』

 再びざわめくギルド内。

「本当なんですか?」

「ああ、だがこの作戦にはアクア、」

「え?」

「めぐみん」

「はい?」

「ウィズ」

「私ですか?」

「そしてみんなの協力が必要になってくる。」

「でもよぉ、本当にそんな……。」

「そうだよ、相手はあのデストロイヤー……。」

 反論を唱えようとした冒険者たちはいっせいに押し黙った。いや黙らずにはいられなかった。

 ---俺がみんなの前で土下座をしたのだ。

「ちょ、カズマいきなり何を!!」

「馬鹿なことを言ってるのは分かってる!!だが、このままいけば荒はこの街に来るだけではなくそれまでにいくつの町を蹂躙する。そんなことになったら、いったい何人が苦しむことになるだろう。」

 かつて、更地になってしまった村を治すためダクネスが自分を担保にした。あいつの屋敷に潜入した時、あの時のあいつの顔を俺はおそらく死ぬまで忘れられないだろう。

「だから頼む!!どうか、どうか、俺に力を貸してほしい……。」

 俺は小さくなる声を絞り出し皆に懇願した。

『……………。』

 静まり返るギルド。

「あーあ、しゃねぇなぁ」

 その静寂を破ったのはまさかのダストだった。

 ダストは俺の近くまで来るとその肩に手を置いた。

「顔を上げてくれ、カズマ」

「ダスト、お前……。」

「俺はやるぜ……。」

「ダスト……。」

「お前は前に俺たちのためにベルディアに突っ込んでいってくれたしな」

 まさか、ダストの口からこんな言葉が聞けるなんてこいつは金にがめついだけのただのチンピラだとばかり。

「お前らぁ!!カズマが俺達に何をしてくれたのか忘れたのかよ!!こいつはあのベルディアに俺たちを守るために一人で戦ったような奴だぞ。そんな奴に助けを請われてお前ら何も感じねぇのか!?お前らがそんな薄情者だったなんて知らなかったぜ。あー、なさけねぇ」

 あっ、でも最後の挑発はダストっぽい。

「なんだと、このチンピラが!!」 「いいぜ、俺はやってやる。デストロイヤーでもなんでもかかってこいや!!」

「俺もだ!!」

「私も!!」

 ダストが挑発をしたのをひきりにみんなが討伐参加の声を挙げる。

「カズマ」

 まだ、床に手をついている俺にダストが上から語り掛けてくる。

「ほら、大将としてみんなの士気を高めてくれ」

 ダスト、お前ってやつは。かっこよすぎるだろ。

 ダストが差し伸べてくれた手を握り立ち上がる。

「よっしゃぁ、お前らデストロイヤーだか何だか知らねぇがあんな旧世代のガラクタこっちからデストロイしてスクラップにしてやろうぜぇぇぇ!!アレの討伐報酬はとんでもないぞぉぉおぉ!!」

『おおおおぉぉぉおぉおおぉぉ!!』

 皆の声がギルドどころか町中に響いた気がした。

 



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この起動要塞に終焉を!後編

 今回はいろいろカズマがカッコいい回です。


「よぉぉし、お前らぁぁぁ!!後二時間でデストロイヤーがここまでくる。魔法使いたちはクリエイト・アースで土をありったけ作ってくれ、前衛職たちはいつでも出撃できるよう準備しておけ!!」

『おおおぉおぉぉぉお!!』

 俺の指示を受けて皆が雄たけびを上げる。

 作戦内容はギルドですでに伝えてから全員でテレポート下からみんな作戦内容は頭に叩き込んでいる筈だ。

「サトウさん」

 俺もほかの魔法使いたちと一緒にクリエイト・アースで土を作っていると戦いを見届けるために一緒についてきた『テレポート』でついてきたルナさんが初老の男性を連れて俺のところにやってきた。

「こちらこの村の村長のデロアさんです」

「はじめまして、デロアです。」

「初めまして、アクセルの冒険者で今回の作戦の立案者であるサトウカズマです。」

 俺は頭を下げ、デロアさんに挨拶をする。

「この度は我々の村を守るためにわざわざ来ていただきありがとうございます。」

「いえ、ここで何もしなくてもどのみちアレはアクセルの街にやってきますだったら、今ここで倒して、被害を最小限にするのが得策なだけです」

「……ありがとう」

 最後にもう一回礼を受け取り俺は仲間たちのもとに向かう。

 

「ワンモアこのすば」 アダルトカズマ

 

「ダクネス」

「……カズマか」

 俺は前回の世界のように村の外で最前線に立っているダクネスのもとに向かった。

「お前というやつは本当に規格外だな。まさか、あのデストロイヤーを自ら討伐しようと言い出すとは」

 ダクネスは呆れたように言う。

「どっちみちあれは俺たちの街に来るんだ。だったらここで倒したほうが貴族様たちの出費が収まるってもんだ」

「---カズマ、お前やはり知っていたんだな」

「まぁな、王族の懐刀、ダスティネス家令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナ様?」

 俺は茶化すように言ってやった。

「フフ、お前は自分のことは秘密だらけのくせに私たちはお前に全く秘密がつくれないのだな」

「ま、そういうこったな。それより、こんなところにいたら危ないぞって、引くわけないか、領民より先に騎士が逃げるわけにはいかないだっけか?

「そんなことまで、知っているとはな……。」

「じゃあ、俺はめぐみん達のところに行かなきゃいけないからそろそろ行くよ」

 俺はそういって、ダクネスに背を向けた。

 だが、俺は歩き出す前に一言。顔の見えないダクネスに言い放った。

「そうそう、言い忘れてた。」

「ん、どうした?」

「お前が領民を守る騎士でいようというのなら、俺はお前を守る盾でいよう」

 ほんと、いつから俺はこんな恥ずかしいセリフを言えるようになったのか。

 

「ワンモアこのすば!」 ダクネス

 

「ウィズ、めぐみん」

「「カズマ(さん)」」

「もうすぐデストロイヤーが来るけど緊張とかはないか?」

 前回はめぐみんが俺の叱咤激励のおかげで成功したが、今回俺は前線に立ってなきゃいけないからそれはできない。

「私は問題ありませんよ」

「私も大丈夫です」

 ウィズがともかくとしてめぐみんまではっきり言うとは、俺は少し驚いた。

「どうしたのです?何を驚いてるんですか?」

「いや、普通十三歳の娘がこんな最前線にいてビビらないとはなと思って」

「私を子ども扱いしないでください!!それに、心配はありませんよ」

「? どういうことだ。」

「だって、これはカズマの考えた作戦です。今まで一度だって失敗したことのないカズマの作戦です。失敗を疑う要素なんてないでしょう?」

 ---まさかここまで信頼されてるとはな。

 だけどな、

「めぐみん、それは違うぞ」

「?」

「俺は過去に何度も失敗した。だからこそ、ここ一番で失敗できないんだ。」

「カズマ……。」

「人生の先輩から一言だ。失敗を恐れるな、その失敗をぬぐってくれる仲間がいることを忘れるな。俺たちがお前の背中にいることをどうか忘れないでほしい。」

「カズマ、わかりました。でも、カズマも私が後ろにいることを忘れないでくださいね!」

「あぁ、わかったよ」

 俺はそう返事をして最後の仲間のもとへ向かう。

 

「ワンモアこのすば!」 めぐみん ウィズ

 

「アクア、準備できてるか?」

「えぇ、もっちろんよっ!」

 全く、こういう時のこいつは本当に頼もしい。そうだよな考えてみたら俺はいつもこいつに支えられてたんだよな。こいつとの出会いがすべての始まりだったんだよな

 …………。

「なぁ」

「なによ?」

「ーーーお前は俺のことを恨んでるか?」

 俺は、今まで恐れて聞けなかったことをアクアに聞いていた。

「あんた、いきなり何言ってるのよ?」

「いやさ、ずっと思ってたんだよ。いつもへらへら笑ってるお前だけど心の中じゃこんな世界に無理やり連れてきた俺のことを恨んでるんじゃないかってさ」

 前の世界でアクアがいなくなる前日の夜あいつが泣きそうな、寂しそうな顔で「帰りたい」と言っていた光景がフラッシュバックのようによみがえる。

「いい機会だ、恨み言があるならここで全部言って……。」

 

バシッ!!

 

 乾いた音が俺の頬から響いた。

 

 一瞬俺には何が起こったのかわからなかった。だが、俺の頬から伝わる鈍い痛みからアクアに頬を叩かれたのだと分かった。俺はたたかれた反動でその場にへたり込む。

「……ふざけんじゃないわよ」

「アクア」

「ふざけたこと言ってんじゃないわよっ!!」

 尻もちをついた俺をアクアは胸ぐらをつかんで強引に立ち上がらせる。

「私があんたのことを恨んでる?そんなの当り前じゃない!!」

「!」

「楽してた天界からいきなりこんな苦労生活に落とされれば誰だって恨むに決まってるじゃない!!」

 アクアの口から出た初めての本音。それは俺の心に思っていた以上にダメージを与える。

 ……そりゃそうだよな、こいつが俺のことを恨んでないわけがない。

「悪かったな、必ず魔王を倒してお前を天界に……」

「でもね!」

 俺の言葉はアクアが重ねてきた言葉によって遮られた。

「今はそれ以上に感謝してる。」

 感謝?こいつが、俺に?

「あんたがいたから私はこの世界でめぐみんやダクネス、大切な人たちと出会えた!!もちろんあんただってその一人!!」

「アクア……」

「だから、あんたがそんなこと言わないでよ……」

 これがこいつの本音?俺がこいつにとって大事な存在?

「……私のほうもいい機会だから言わせてもらうわ。もう二度と同じことは言わないから耳の穴かっぽじってよく聞きなさい」

 

「私をこの素晴らしい世界に連れてきてくれてありがとう。」

 

  俺はこの言葉を生涯忘れることはないだろう。この言葉に俺は救われたんだ。

 

「ワンモアこのすば!」 アダルトカズマ

 

「……来たな」

 とうとう起動要塞デストロイヤーが視認できるほど近くに来ていた。

「皆!!準備はいいか!?」

『おぉおおおぉぉぉぉ!!』

 皆準備はいいみたいだな。

「始めるぞ、『クリエイト・アース・ゴーレム』!!」

 俺は魔法使いたちが『クリエイト・アース』で作った土を使い魔王戦で使ったゴーレムよりはるかに大きなゴーレムを二体作り出す。

「いっけぇぇえぇぇぇ!!」

 ゴーレムたちはデストロイヤーの足へと突っ込んでいく。当然こんなゴーレムごときで荒が止められるとは思ってない。この村にはアクセルの街のように遠くの敵を見渡せるような高いところはない。だから、荒はできる限り近くに来させないといけない。ゴーレムたちはただの時間稼ぎだ。

 そして、これだけ近づけば射程範囲だ。

「アクアァァァァァ!!!」

「セイクリッドォォォオォ!!」

 アクアが錫杖を掲げると空中に五つの魔法陣が現れる。

「『ブレイク・スペル』!!」  五つの魔法陣から閃光が放たれる。

 そして、閃光とデストロイヤーの結界が衝突する。

『砕けろぉぉぉぉぉ!!』

 

パリィィィィィィィン

 

 乾いた音とともに結界は砕け去る。

「めぐみん、ウィズ!!同時発射だ!!」

 

「「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混淆を望みたもう、覚醒のとき来たれり無謬の境界に落ちし理、無行の歪みとなりて現出せよ!!」」

「うてぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「「『エクスプロ―――――ジョン』!!」」

 

ドゴー――――ン!!

 

 爆音が周囲一帯に響く。

 二人の爆裂魔法はエクスプロージョンの上部と足を破壊する。

 

「やったか!!」

「まだだ!!」

『被害甚大につき、自爆システムが作動します。乗組員は直ちに避難してください」

 デストロイヤーから無機質な声が響く。

 俺はそんなものは無視して、フック付きの矢でデストロイヤーの壁に引っ掛ける。

「前衛職、突撃だぁぁあぁ!!」

『おぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉ!!』

 先陣を切る俺に続きが冒険者たちが次々とデストロイヤーの壁を上っていき、潜入する。

 中には当然、前回同様大量の警備用ゴーレム。俺と一緒に潜入したダクネスを見つけるなり襲い掛かってきた。

「邪魔だ!!」

 俺はそのゴーレムをベルディアから奪った剣で一太刀で切り捨てる。

「俺に続けぇぇぇぇぇぇえ!!」

『うぉぉぉぉぉおおぉぉ!!』

 

『ワンモアこのすば!!』 冒険者一同

 

 すべてのゴーレムを切り伏せ、ようやく目的の制御室にたどり着いた。そこには当然ながら白骨化したデストロイヤーの開発者(馬鹿)と暴走したコロナタイト。

 俺はそのコロナタイトに素早く手をかざし、魔法を発動する。

「『テレポート』!!」

 転移先はベルディアの城。あそこならだれにも迷惑は掛からない。

 コロナタイトは跡形もなく俺たちの前から消えた。

 あとは、

「ダスト、この死体をもって脱出してくれるか?」

「よし来た!」

 あの死体はアクセルの街に持って帰って日記と一緒に史上最強の馬鹿の墓として一生さらし者にしてくれる。

 

「ワンモアこのすば!」 デストロイヤー開発者(馬鹿)

 

 コロナタイトがなくなったことにより、内部にこもった熱があふれて、デストロイヤーの壁が赤くなっていく。

「カズマさん、このままでは熱があふれてこの村が火の海に!」

「ど、どうするんだ、カズマ!!」

 いつの間にか近くに来ていたウィズとダクネスが俺に焦って聞いてくる。その後ろにはアクアとアクアに背負われているめぐみんがいる。

「何慌ててんだ、もう一度爆裂魔法で熱ごとぶっ放せばいい」

「あんた何言ってんのよ!!めぐみんもウィズももうそんな魔力……。」

「そうですよ、もう……」

 俺は親指で自分をさす。

「忘れてないか?最強の最弱職を」

 

 俺はデストロイヤーから少し離れた場所でめぐみんから借りた杖を掲げて、あの魔法の詠唱をする。

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混淆を望みたもう、覚醒のとき来たれり無謬の境界に落ちし理、無行の歪みとなりて現出せよ!!」

 これで、本当に終わりだ!

「『エクスプローーーージョン』!!」

 聞きなれた轟音とともにデストロイヤーは木っ端みじんに消え去った。

 

「ワンモアこのすば!」 アクア めぐみん ダクネス

 

 デストロイヤーの討伐に成功した成功した俺たちはデロアさんを始めとした村の人々に散々礼を言われた後俺のテレポートで全員でアクセルの街に戻った。

「いやぁ、終わったな!!」

「まさか、俺たちがデストロイヤーを倒すことになるとはな!」

「俺たち伝説になったんじゃね?」

 冒険者たちは自身らの活躍を誇らしげに話している。

 

ドサッ!

 

『!!!!!!?』

 皆の視線が何かが倒れた場所に向かう。

 その先には、地に付した俺の姿が。

『カ、カズマァァァァァ!!』

 倒れた俺にみんなが向かってくる。

「ど、どうしたんだ!!カズマ!!」

 いち早く俺のもとにたどり着いたダクネスが俺を抱き上げる。

 そんなダクネスに俺は弱弱しく告げる。

 

「わ、わりぃ、魔力切れだ……」

『…………。』

 皆は俺の発言を聞いて脱力する。

「な、なんだよおどろかすなよ」

「まぁ、考えてみたらあんなデカいゴーレムを使った後に爆裂魔法なんか打ったらこうなって当然か」

「それもそうだ、ハハハハハハハ!!」

『ハハハハハハハハハ!』

 誰かの笑いをひきりにみんなが大きく笑う。

 人がぶっ倒れてるのにこいつらは……。

「まったく、仕様のない英雄様だ。」

 そういって、ダクネスは俺のことを背負う。

「わりぃな、お前を守るとか言っといて背負わせちまって……」

「なにをいってる」

 その時のダクネスの顔はかつての世界でも見たことがあった。

「お前は十分私を守ってくれた」

 パーティに戻ってきたときのウソ一つない笑顔だ。

 

「ルナさん、このザマなんで報酬は明日にでも……」

「はい、今日はゆっくり休んでください」

 俺はダクネスに背負われたまま、ルナさんに頭を下げパーティメンバーとウィズと一緒にギルドを出た。

 

「ウィズ、悪いな報酬は明日にでも、とりあえず、今日はこれで何かうまいもんでも食ってくれ」

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 ウィズは俺から受け取った三万エリスを受け取り。激しく頭を下げてきた。

 

「よ、ようやく帰ってこれましね」

「あぁ、まさかここまでキツイ一日になるとはな」

「ホント、カズマがもっとしっかり報告してくれたらもっと楽だったかもね」

「以後、気を付けます……」

 やっと、愛しの我が家にたどり着いた俺たちはようやく脱力できた。

 しかし、今日は俺にとって大事な日だった。

「アクア」

「ん?」

「めぐみん」

「なんです?」

「ダクネス」

「なんだ?」

 俺は誠心誠意の感謝を込めて。

「ありがとう」

 



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このもう一人の紅魔の少女に祝福を!

読者よ!私は帰ってきた!


「サトウカズマっ!僕と勝負しろッ!」

 あぁ、そういえばこんなイベントもあったわ……。

 俺たちはいつものようにクエストを終わらせ屋敷に還ろうとしていると懐かしい顔にあった。

 自称、女神に魔剣を与えられてあ勇者ミツルギである。

 すっかり忘れてたわ、ベルディアとかデストロイヤーと前より早く戦ったたり、ニートをやめたりしてたので依頼とこいつのパーティが重なっているときが少なかったから今の今まで会う機会がなかったから思い出せなかった。

 例によって、この馬鹿はアクアをかけて戦えとか言ってきやがった。おまけにめぐみんとダクネスにも勧誘してきた。無論すげぇ、不評だが。昔の俺なら掛け金につられて戦ったかもしれない、だが、俺には今そんな必要はない。だが、

「いいぜ、かかって来いよ……」

「カズマッ!?」

「ちょっと何言ってんのよッ!?」

 めぐみんとアクアが俺に咎めるような視線を向ける。

「安心しろよ、負けねぇから」

 俺は前に出ながら後ろにいる三人に告げた。

 俺は左手をポケットに突っ込んだ状態で奴の前に立つ。

「どういうつもりだ?」

「……ハンデだよ、お前程度なら右手一本で十分なんだよ」

 俺は右手でクイクイと手招きの仕草をし挑発する。

 こいつは魔剣のチートの力で全く苦労しないでここまで来たのだろう。対して俺は何のチートも強いて言うなら持ち前の幸運だけで魔王を倒すまでに至った男……。

「舐めるなぁっ!!」

 御剣が馬鹿正直に魔剣を構えて突っ込んでくる。それを体の重心をずらすだけでよけ、右手を握り、

「どっちが舐めてんだろう、なッ!!」

「ぐふぉぉぉ!!」

 その男前の面に思いっきり拳を叩き込んでやった。

 俺の限界突破したステータスによって無論筋力も限界突破している。そんなもので顔面を殴られれば無論吹っ飛ぶ。

 ミツルギは間抜けな悲鳴を上げて地面を数回バウンドしピクリとも動かなくなる。

 ミツルギの取り巻きの二人はポカーンとしている。

「三人とも帰るぞ」

 俺はそれを無視して三人に告げて踵を返す。

「カズマ、賭けの景品は?」

「あいつからもらえるもんなんてたかがしれてらぁ、あっ、そうだ……」

 俺は倒れたミツルギの元に戻り腰に着いた財布を奪う。

「コイツで飯でも食いに行こうぜッ!!」

「いいわね、賛成!」

「私もです!」

「少し良心が痛むが自業自得だろう」

 俺たちは相変わらず和気あいあいとしてその場を後にした。

 

「ワンモア!このすば!」ミツルギ

 

「なにやってんの?お前?」

「お願いしますッ!僕をあなたの弟子にしてくださいッ!」

 翌日いつものようにギルドに行くといきなりミツルギが土下座してきた。えっ、何この状況?なんで魔剣使いのソードマスターが最弱職の冒険者(レベル328)に土下座して弟子入り志願してるんだ?

 なぜかコイツのパーティメンバーの二人まで土下座ではないが頭を下げてるし。

「あなたのことはギルドの冒険者たちに聞きました。魔王軍幹部をたった一人で倒し、起動要塞デストロイヤーの討伐発案者でもある『最強の最弱職』サトウカズマ……、お願いします僕はもっと強くなりたいんですッ!!」

 うーん、熱弁してもらってるとこ悪いけど正直めんどくさい。そもそもこいつが弱いのは地道な努力をしてなかった結果だからな……。あっ、そうだ。

「師匠になるかはとりあえず置いといてお前を強くするアドバイスくらいはしてやる」

「本当ですかッ!?」

 土下座していた頭をガッと挙げて俺を見る。あぁ、暑苦しい。

「お前魔剣の力で最初から高難易度のクエストばっかり受けてただろ?」

「はい」

「お前の攻撃はレパートリーが少なすぎるんだよ」

「ど、どういうことですか?」

「お前は魔剣の力で敵を簡単に倒してきただろう?逆に弱い奴が強い奴に勝つにはどうしたらいいか?簡単だ手数で攻めること」

「手数……」

「お前は今までの戦いで少ない手札しか必要じゃなかったから手数が極端に少ないんだよ、もっと頭を使えどこを切れば効果的か、どう切ればよく切れるか、常に考えて攻撃を選べ、以上。わかったら実践、ほら行く」

「はっ、はいっ!ありがとうございましたっ!」

 ミツルギ達は新たな目標を見つけはきはきした状態でギルドを出て行った。

「なぁ、なんかやる気がそがれちゃったんで今日は自由行動にしないか?」

 ミツルギのやる気に気おされやる気をなくした三人に向けて俺はそういった。

 

「ワンモアこのすば……」アダルトカズマ(疲)

 

 結局今日は自由日となり各々好きなところ行った。アクアはギルドでプチ宴会を開きダクネスは屋敷に戻って筋トレするといっていた。そしてめぐみんは……。

「なんで、ついてきてんの?」

「いいじゃないですか、ウィズの店に行くだけなんでしょう?」

「まぁ、そうだが……」

 俺は特にやることもないのでウィズの店のライターの在庫の確認に向かっていた。それになぜか、めぐみんがついてきているのだ。

「ついてきてもなにもかってやらんぞ?」

「私は子供ですかッ!?」

 いや、誰がどう見ても立派な子供だろうが、年齢的にも……。

「今何を考えているのか詳しく話してもらおうか?さもなくば……」

「『ドレイン・タッチ』」

「ひぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 馬鹿かこいつは……。爆裂魔法打った後に誰が魔力分け与えてると思ってんだ。

「クッ、さすがカズマ、スキがない……」

「そりゃどうも」

 なんて話していたらウィズの店に着いた。

 ノックをしようと扉に近づくと中から話し声が聞こえた。一人は当然ながら店主のウィズ、もう一人の声はって、アレ?

 ……成程、もうそんな時期だったか。めぐみんが一緒にいて正解だったな。

「ウィズ、じゃまするぞ」

「あっ、カズマさん」

 やはり俺の予想は当たっていたらしく、中で話していたのはウィズそして、めぐみんと同じ紅い瞳と黒い髪の紅魔族の少女、ゆんゆん。

 彼女の視線は、俺の隣にいるめぐみんに注がれている。

「ひっ、久しぶりねめぐみん!!約束通り、修行を終えて帰ってきたわ!!さぁ、私と勝負なさい!!」

 前の世界でのゆんゆんとの出会いはジャイアントトードから助けられたときなのでこんな場面はないんだが、俺にはなんとなくめぐみんが次に言う言葉がわかった。恐らくたった一言、

「どちら様でしょうか?」

 やっぱりかぁ。

 

「ワンモアこのすば!」めぐみん

 

 暫く、めぐみんがゆんゆんをイジったあとようやくお互いの紹介を終えた。

「つまり、めぐみんはいまカズマさんのパーティのメンバーってこと?」

「まぁ、そうだな世話したり、されたり、もちっ持たれつの関係さ」

 そう言って隣に立っているめぐみんの頭をポンポンと撫でる。

「ちょ、カズマ!やめてください!」

 あらあら、照れて真っ赤になっちゃって可愛いところがあるじゃないか。

「仲間かぁ……。」

 ゆんゆんが羨ましそうにそれを眺める。そういや、そうだった、この子はぼっちをこじらせてずっとソロで頑張ってたんだっけ……。

 俺は思う……。

 ここで、前回のように唯の友人という間柄で終わっていいのか?このままではまた、一人でいることが好きという噂が広がりずっとソロになってしまう……。

「なぁ、ゆんゆん」

「なんですか?」

「良ければ、うちのパーティに入ってくれないか?」

「えっ!?」

「なっ、何を言ってるんですかカズマ!」

 驚く、ゆんゆんとめぐみん。

「私というアークウィザードがありながら、他のウィザードを雇おうなどと!カズマは私を見捨てるというのですか!?」

 おいおい、俺が仲間を見捨てる?なんの冗談だよ?

「めぐみん、俺達のパーティに必要な人材はどんなものだ?」

「え?それは……。」

 めぐみんは顎に手を当て、う~んとうねる。

「残念、時間切れ。答えは遠距離で手数の多い、魔法使いだ」

「理由は?」

「まず、うちのパーティは俺が様々なスキルを用いて相手を遊撃する。アクアはそれを補助魔法、囮魔法、回復魔法を使ってサポートする。めぐみんは囮魔法で、集まった相手を爆裂魔法で消し飛ばす。そして、ダクネスがそれらを守る。しかし、」

「爆裂魔法は魔力を全て使わないと打てないので、前衛で戦っているカズマを遠距離でサポートできる人がいない、と?」

「さすがめぐみん、紅魔族随一の頭脳は伊達じゃないな」

「でも、そうなると上級魔法が使えるようになったゆんゆんがいたら私の意味は……」

 目に見えて落ち込んでしまうめぐみん。

「めぐみん、俺は本気で魔王を倒そうとしている人間だぞ?そんな俺には強力な一撃を打てるお前が必要なんだよ」

「カズマ……」

 めぐみんは潤んだ瞳で俺を見る。

 全く、頭が良くて強力な一撃を放ててもこういうところは子供だな……。

「あの〜、私忘れられてません?」

「「あっ、ゴメン」」

 二人で真剣な話をしていたせいで話の本題であるゆんゆんをすっかり忘れていたことに気づいた。

 

「わ、ワンモアこのすば」ゆんゆん

 

「ほいっ、おもちどうっ!」

 取り敢えず、返事はまた今度として、俺の家に招待した。

 ゆんゆんはめぐみんや家でゴロゴロしていたアクアに任せ、俺は夕食をご馳走にしようと買い物をし、早速料理をした。

 献立はキャベツのサラダ、コーンスープ、特製の果物ジュース。そして、

「カズマ、この肉はひょっとして……」

 ダクネスが恐る恐る聞いてくる。

「ドラゴン肉のステーキだ」

「……カズマ、ドラゴン肉は固くて不味いことで有名なんだが」

「あぁ、そこは問題ない。その肉は一ヶ月前から香辛料のダシにつけておいてな、そのおかげでくさみも硬さも抜けてる」

 昔、レベルが上がると聞いて買ってまでは見たがひどく不味くてまいった。だが、使いようによってはにうまくなると割と前から暗中模索していた。

「本当ですね、とても美味しいです」

「ひひゅは、ひゃずまです。(流石、カズマです)」

「はいはい、落ち着いて食べような。あっ、デザートにフルーツシャーベット作ってあるから」

 俺の言葉を聞き、目に見えて喜ぶ三人、前に作ったアイスが結構人気だったから作ってみたが喜んでもらえてよかった。

「フフフ……」

「どうしたんですかゆんゆん?突然笑いだして、気持ち悪いですよ?」

「そんな言い方ないんじゃないっ!?」

 突然笑いだした、ゆんゆんに相変わらずめぐみんが辛辣なことを言う。

「で?どうしたんだゆんゆん?」

「いえ、賑やかで楽しそうだなぁって思って……。」

 ゆんゆんはそう言ってまた、羨ましそうに目を細めた。

 全く、だったら、

「だったら、お前も入ればいい」

「え?」

「この光景が羨ましいんなら俺達と一緒に来ればいい」

 前から思ってたけど、こいつだってなにも一人でいたいからいるわけじゃない時々考えてた、もし、彼女がめぐみんと一緒にうちのパーティに入っていたならと、そしたらもっと楽しかったなと。

「それでどうする?」

 俺は笑顔で問いかける。

 ゆんゆんは戸惑いながらめぐみんに視線を向ける。

「貴方の好きなようにすればいいんじゃないんですか?まぁ、このパーティの火力の座は譲りませんが」

 こいつもこいつで割とゆんゆんの事心配してたしな。

 そういうと、ゆんゆんは決心が固まった表情で、

「こ、これからよろしくお願いしますっ!」

 テンパった様子でそう言った。

「ようこそ、後の英雄のパーティへ」

 そんなセリフを言って、ゆんゆんをパーティに迎えた。

 




次はそうだなぁ……。感想が五件くらい来たら次投稿しようかな


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この誇り高きリッチーに永久の眠りを!

感想くんの早すぎんだろぉ!


「さて、今日はダンジョンに行くぞ」

「嫌です」

 ゆんゆんがパーティに入ってしばらくたった今日は前回で金欠になり受けたクエストキールのダンジョンの隠し部屋の探索という依頼を受けた。

 今回に関しては、一応この街で最強と言われている俺に依頼が舞い込んできたわけだ。

「んじゃ、三十分後に準備してここに集合だ」

「おい、私の話を聞いてもらおうか?」

 当然の如く、反対するやつが一人いた。

 まぁ、めぐみんの爆裂魔法なんてうったら俺達生き埋めだしな。いつかの魔王戦みたいに……。

 だが、今回の目的はダンジョンの探索でも、宝でもない、

「安心しろ、今回はアクアさえいてくれりゃあどうにでもなる」

「?どういうことよ、それ?」

「あそこのダンジョンはアンデッド系と下級悪魔が生息してるんだよ」

「なるほど、アクアの専売特許だな」

 俺の言葉にダクネスが納得する。

「でも、どうしてそんなこと知ってたんですか?」

「一応難易度未知数のクエストだ。リサーチくらいするさ」

 ゆんゆんの質問に簡単な嘘を返す。

 

「ワンモアこのすば!」カズマ

 

「しっかし、わくはでるわ。きりがないなぁ」

「なんというか……ここまで大量のアンデット相手にして呑気にできるところを見せられると、カズマは相変わらず無茶苦茶だと思わされますね……」

「めぐみん……人をまるで人外のように言うのはやめてくれ結構傷つく……」

 前回は弱さのせいで傷ついてたけど逆にここまで言われるとな…、これでもデリケートな心の持ち主なんで。

 攻撃してくる、悪魔、アンデッド共に浄化魔法、上級魔法を食らわせながら、一番奥の部屋に向かっていた。

「それにしても、本当にアンデッドが沢山いますね」

「まぁ、一番奥にリッチーがいるからな」

『!!?』

 あっ、いっけね。口が滑った……。

「かっ、カズマ、それはどういうことだ!?」

「……いやだって、こんなにアンデッドがいるんだぜ?となればダンジョンの主が上級アンデッドの可能性が一番高い。そんで、吸血鬼とかだったら蝙蝠なんかの眷属がいないのはおかしい、そうなると選択肢はもうリッチーしかいない」

「なっ、なるほど」

 俺はいかにもって感じの理屈を並べて、納得させる。

「で、でも、だったら早くギルドに戻って報告したほうが…」

「その必要はないだろう」

「どうしてですか?」

「考えてもみろ、ここの主が人間と敵対するような奴ならこの近くにあるアクセルの街なんてとっくに地獄絵図だ」

 俺の言葉を聞いて、あの辺一体を収めているダスティネス家の人間であるダクネスの顔が青ざめる。

「ところでゆんゆん、このダンジョンの名前は何だった?」

「えっと、キールのダンジョンですよね?」

「じゃあ、そのキールってのは誰だ?」

「確か、昔国最高と謳われたアークウィザードの名前、ですよね?」

 そうゆんゆんが答えたとき、めぐみんが何かを察した顔になった。

 さすが、こういうときは本当に勘がいい。

「リッチーになるためには魔法使いとして最高の次元まで自分を高める必要がある。そしてこのダンジョンを作ったのは国最高と言われたウィザード、こいつはただの偶然か?」

「なるほど、つまりカズマはこう言いたいんですね?魔道士キールはリッチーとなって生きていると?」

「正解だよ」

 めぐみんが俺の言いたいことを的確に指摘してくれた。

「しかし、何故だ?最強と言われたアークウィザードが何故リッチーに?」

「んなもん、一つしか理由がないだろ?お前は、キールの英雄譚を聞いてなかったのか?」

「あぁ、そういえばここにくる前にカズマが話してた気がするわね」

 そう、俺はここに入る前キールについての話をした。

 かつての大魔道士キール、彼はある偉業を成し遂げ国王から何でも一つ褒美を得ることを許された。

 彼が選んだのは、国王の妾の若い女性だった。彼女はご機嫌取りのために嫁がされた娘だったが城ではいつも虐げられていたそうだ。

 その申し出に対し、国王は怒りキールを処刑しようとした、勿論キールはそれに反抗し、たった一人で国との全面戦争をおこした。

 しかし、その後の彼を知るものはいない。

「では、キールがリッチーになったのは……」

「『愛する者を守るため』……」

 そう言って、俺は隠し部屋に繋がる壁に触れた。

「そうだろう?大魔道士キール」

「ハッハッハ、参ったね。そこまで、バレているとは……」

 壁が消え、現れたのは一つの悠長に喋る骸骨と、物言わなくなった、女性者のドレスを着込んだ白骨がベッドに横たわっていた。

「それが、例のお嬢様か?」

「あぁ、そうだよ、鎖骨のラインが美しいだろう?」

 キールは俺が話したことを自身の体験談として改めて、四人に話した。前の俺ならただカッコイイとだけしか考えなかっただろうが、今の俺には彼の気持ちがよくわかる気がした。

 誰かのために自身の身を投げ打つ、その精神が……。

 鎖骨に関しては…悪いけどさっぱりわからん…。

 キールは当然、自身の浄化をアクアに頼んだ。

 早く、お嬢様のもとへ行きたいのだろう。

 アクアが床に魔法陣を書いていると。

「少年……」

「ん?俺のことか?」

「あぁ、君の目は昔の私とよく似ている」

 キールがそんなことを言う。

「大事なものを守ることに誇りを持っているものの目だ」

「……そんな大したもんじゃないよ。俺はただ」

 アクア達を見ながら呟くようにキールに返す。

「あいつらに笑っていてほしいだけ、こいつは、いや、これが俺の望みだからな」

「フフフ、君とはもっと早くあってみたかったよ……。だが、もし生まれ変われたら酒の席でも付き合ってくれないか?」

「あぁ、構わない」

「準備できたわよ〜!」

 叶えられるかもわからない約束をすると、アクアが魔法陣を書き終えたことを告げる。

 ……どうやら、お別れのようだ。

 

「ワンモアこのすば」キール

 

「神の理を捨て、自らリッチーになったアークウィザード、キール。女神アクアの名においてあなたの罪を許します」

 ……前も思ったが、あれは一体誰だろう?

「カズマ、何故だかアクアが本物の女神様に見えるのですが……」

「あぁ……、私の目にもそうみえる」

「私もです……」

 ……もう話しておいていいかもしれないな。

「まぁ、本物の女神だからな」

『!!?』

 当然の如く、驚愕の表情で固まる三人。

「嘘ついて悪かったが、あいつは間違いなく、水の女神アクアだよ」

「なっ!?なんで、こんなところに女神様がっ!」

「まぁ、色々あってな、でも態度はいつもどおりにしたほうがいいぞ、あいつの場合、女神様なんて呼び方したら調子に乗るか、名前を呼んでもらえず拗ねるかのどっちかになるだろうからな」

『あ〜……。』

 三人は納得の表情になる。

 ゆんゆんもこの数日でアクアの性格を理解してきたようだ。

「目が覚めると、そこにはエリスという不自然に胸の膨らんだ女神がいるでしょう。もし再びお嬢様と会いたいのなら、それが男女の仲でなくどんな形でもいいというのなら、彼女に頼みなさい『もう一度お嬢様にあいたい』と。彼女はきっとその願いを叶えてくれるわ」

「感謝します……」

 どうやらもう終わりのようだ。

「『セイクリッド・ターンアンデッド』」

 アクアがそう唱えると同時にキールとお嬢様の遺体は光の粒子となって消えた。

 俺は彼の冥福を祈るように静かに手を合わせた。

 

「ワンモアこのすば」アダルトカズマ

 

「それにしても、なんでカズマは私達まで今回の依頼につれていったのですか?あれなら、カズマとアクアだけで十分だったと思うのですが?」

 キールを浄化したあと、またアンデッド共に追いかけ回されるのは困るので、『テレポート』でアクセルの街に帰ってきた俺達はキールから貰った財宝を売ってできた金で祝杯を上げているとめぐみんがそんなことを聞いてきた。

 実を言うとその理由が俺が今回この依頼を受けた最大の理由だった。

「……知っておいてほしかったんだよ、リッチーになってまで愛する者を守ろうとした誇り高いウィザードのことを一人でも多くに」

 口で話しただけでは、いつかは記憶から消えてしまうかもしれない。だが、目で見たものはそう簡単に消えない、俺はあの人の生き様を皆に知っていてほしかったのだ。俺に関しては誰一人覚えてる人がいないからな……。

 あの人のことについてはきっちり知っておいてほしかったからな……。

 俺はそんなことを考え、誰もいない席にコップをおき、そこに酒をつぐ、そして、自分のコップを軽くぶつけ、一気に飲み干した。

 




はい、このままだとストックなくなるのでこんどは十件来たら投稿しま〜す。


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この救いようのない領主に地獄を……

今回はカズマがスレてます。いわゆるスレカズです。


「フンッ、フンッ!」

 早朝、俺はいつものように屋敷の庭で剣の素振りをしていた。キールを浄化し、時期的にやつが来る頃だ、鍛錬をするに越したことはない。

 などと、考えていると屋敷につながる一本道の先から見覚えのある剣を携えた、人影がこっちに向かって走ってきた。

「師匠ぉぉぉぉ!!!」

「うるっせぇぇぇぇ!!」

「げぶらっ!!?」

 朝っぱら(五時)にいきなり大声を上げながら、俺の家にやってきた魔剣の勇者君、えっと、なんつったっけ?

 あぁ、そうそうミララギだ!

 そのミララギにジャンピングキックをかまし、ふっ飛ばす。

 そして、吹っ飛んだ先のミララギの胸ぐらを掴み、グイッと俺の眼前に顔を近づける。

「テメェ!今何時だと思ってんだ!?うちのパーティには成長期のお子様だっているんだぞ!朝っぱらから大声出して人んち駆け込んできやがって、めぐみんの成長がここで止まったらどうして……」

「あなたが一番うるさいです」

 ポカッ!

 いつの間にか後ろにいためぐみんに頭を杖で小突かれた。

「ほら見ろ、めぐみんが起きちまったじゃねぇか」

「いえ、私が起きたのはカズマの怒鳴り声が原因です」

「……………。」

 …………………。

「それで、ミララギ君?本日はどんな御用かな?」

「あっ、なかったことにした……」

 めぐみんさん、ここは言わない約束でしょう?

「いてて、実は師匠達が前に探索したという、キールのダンジョンから妙なモンスターが湧いてるそうなんです。それと僕の名前はミララギではなく、ミツルギです」

「なに?」

 キールのダンジョンから湧いて出る妙なモンスター?

 そんなフレーズに合う奴つったら……。

「ミルルギ、そのモンスターってのはどんな奴だ?」

「ミツルギです、次はミレレギですか?……なんでも、仮面をつけたタキシード姿の小さな人形のようなモンスターだと」

 やっぱ、あいつかぁ……。

 思ってたより早かったが、奴を丸め込む作戦は既に何重にも考えている。

 我に勝機ありッ!

「ありがとう、そのモンスターは俺達のパーティで対処すると、ギルドに報告してくれ、それとこの礼に今度修行に付き合ってやろう」

「本当ですか!?」

「あぁ、だから今日はもう帰ってくれ。アクア達が起きちまう」

「わかりました、それではまたっ!」

 そう言って日が昇り始めた街に戻っていく、えっと、なんだっけ?ミ、ミ、ミ……。

「あぁ、お前も頑張れよ〜、ミロロギ」

「ミツルギです!」

 あ〜、そうだった。

 

「ワンモアこのすば!」ミツルギ

 

 というわけで再びやって参りました、キールのダンジョン!

 ……うん、やっぱりダンジョンの入り口から湧いて出ているのは、見通す悪魔バニル特製、笑って自爆のバニル人形だった。

「確かに妙なモンスターですね……」

「でも、ちょっと可愛いかも……」

「ゔぇ?」

 おいおい、ゆんゆんあれが可愛いってちょっと君の美的センスを疑ってしまいますよ?

「……なぜかしら、私あの仮面が生理的に受け付けられない、見ててムカムカしてくるんですけど」

 前回と同じようなことを言うアクア。

「あっ、そうそう、あのモンスター人にくっついて自爆するそうだから近づくなよ」

「自爆だとっ!?なんだそのご褒美は!?」

 ……ホント、この変態は何度人生やり直しても修正不可能だな。

 

「ワンモアこのすば!」ダクネス

 

「当たるっ!当たるぞっ!見てくれ、カズマ、アクア、私の剣でもコイツラには当たるぞっ!」

 珍しく剣の狙いが定まり、バニル人形を片っ端から剣で叩き、爆発させるダクネス。

「いつもは当たらないだけに、イキイキしてるわね〜」

「言ってやるな、人生で二度あるかわからないチャンスだ、楽しませてやろう」

「カズマ、あんた私よりひどいこと言ってるからね?」

 アクアの呟きに自然に答えたつもりだったが、ジト目でそう言われてしまった。

 今回、ダンジョンに潜ったのは対悪魔のスペシャリストであるアクアと、露払いを買って出たダクネス、そして俺だ。

 めぐみんとゆんゆんには外で待機、もしものことがあったら、いつでも逃げられるようにしておけと伝えてある。

 さて、そろそろ最奥の一歩手前なんだが……。

 ……いたよ、仮面をつけたタキシード姿の大男が、粘土で人形作ってたよ。

 どうも、こっちには気づいてないらしい。

 よし、

「アクア、やれ……」

「『セイクリッド・エクソシズム』!」

 アクアから放たれた青色の光がバニルに向かって放たれる。

 これで、終わってくれれば助かるんだが……。

「華麗に脱皮!」

 ほらぁ、そう簡単に終わるわけなかった。

 バニルは視線も挙げずに仮面だけを投げ捨てた。そして、光のあたった、体が土塊になって崩れる。

「フハハッ!気づかれていないとでもおもったかへなちょこ女神めっ!残念、ずっと前から気づいてました!」

「あっそ」

 俺は仮面の状態のまま、悠長に喋るバニルをゲシゲシと踏みつける。

「こっ、こらっ、やめんかっ、まだ名のりすらしていないというのに!」

「はいはい、魔王軍の幹部にして、悪魔たちを率いる地獄の公爵バニルさんですよね?そういうのもういいんで、とっととくたばってもらえます?アクア、連続でエクソシズムだ、徹底的にやってやれ」

「わかったわ!」

「貴様は悪魔かっ!?」

「悪魔はお前だろうがっ!」

 などという、茶番をやっていると。

「ええい、もはや止むをえん!」

 バニルの仮面が飛び上がり、俺の顔に張り付いてきやがった。

「テッ、テメェ!」

「フハハッ!優勢だと思っていた相手に体を乗っ取られた気分はどうだ?ん〜、こいつの悪感情実に美味である!」

「カズマッ!」

「どうしましょう、カズマの身体が乗っ取られちゃった!」

 本当にどうしたものか、俺の身体を奪われてしまってはコイツラに勝ち目はない。

 ……なんて言うと思いました?

(おい小僧、これでいいのか?)

(あぁ、ナイスだバニル。あいつらを騙すのは心苦しいが、仕方ないだろう……。)

 はい、実はこれは俺が予めバニルと組んで計画していた、三文芝居です。

 ここに来る前、前回隠れてこの部屋を『テレポート』の転移先にセットしておき、バニルに事情を説明、それなりの対価の代わりに俺の芝居に付き合ってくれることになった。

(おい、約束の品は準備できてるんだろうな?)

(大丈夫だ、俺の屋敷に俺が知ってる限りの地球でのアイテムの設計図やその他諸々の知的財産権を詰め込んだバッグがあるから今度ウィズの店に持っていく、お前こそ、約束忘れるなよ?ここで残機一つ失うことと、それと……)

(わかっている、悪徳貴族に飼われている悪魔を地獄に連れ戻せ、であろう?我輩とて、同胞があんな豚の元で使役されているなど気分が悪い)

 と、言う約束の元俺たちは結託し、ひと芝居打っているわけだ。

 あの豚領主、デストロイヤーの件でダクネスの弱みを握れなかったが、今度は一体どんな手を使ってくるかわからないからな。おまけに前の世界でお頭(クリス)が調べたところアイリスが持ってたあの身体を入れ替える神器もあいつが王子に渡したものらしい。あいつが王子とダクネスをくっつけようとしたことから考えると王子の体をのっとって、ダクネスを好きにするつもりだったのだろう。全く、とんでもねぇクズ野郎だ。

 さて、あとは流れに身を任せるのみ。

 

「ワンモアこのすば!」バニル

 

「めぐみん、打てっ!」

「『エクプロージョン』!」

 俺は仮面を放り投げ、『テレポート』を使い杖を構えているめぐみんの隣に飛ぶ。

 突然話が飛んでしまい、申し訳ないが、あまりにも思い通りなってしまったので省略させてもらった。

 では、簡単なテロップを見ていただきたい。

1、アクアを追い回すふりをして、外に出る

2、必死に抵抗し、バニルを押さえつけているように見せ、めぐみんに爆裂魔法を打つ準備をさせる

3、打たれる寸前になんとか仮面を外したふりをして『テレポート』で爆裂魔法から逃げる

MISSIONCOMPLETE

 

 そんなわけで、俺達は二人目の魔王幹部バニルの討伐に成功した。

 その日から、ウィズの店で怒鳴り声と悲鳴がよく聞こえるようになったのは言うまでもない。

 ふぅ、これで不安要素がまた一つ減ったな。

 あとは……。

 

「ワンモアこのすば……」アダルトカズマ(殺)

 

 アクセル郊外の屋敷、その地下室に俺は来ていた。

「よぉ、豚領主」

「なっ、貴様は最近ララティーナと一緒にいるぼうけん……ぐふっ!?」

「くちにすんじゃねぇ……」

 俺は豚のセリフを腕でやつの顔を掴むことで喋れなくする。

「そのうすぎたねぇ口で、あいつの名をくちにすんじゃねぇ……」

 俺は放り投げるようにそいつを離す。

「きっ、貴様っ、わしにこんなことをしてただで済むとっ!」

「悪魔を飼ってる腐れ領主にだけは言われたくないねぇ」

「マッ、マクス!こいつをこの無礼者を殺せっ!!」

 切羽詰まったように檻に入れられた異形、歪める悪魔、マクスウェルに叫ぶ。

「ヒュー、ヒュー、無理だよアルダープ、そいつから同胞の匂いがするよ」

「なにっ!?」

「フハハッ!久しいな我が友、マクスウェルよ!」

 なんともいいタイミングでバニルが姿を表す。

「なっ、何だ貴様はっ!?」

「フハハッ、お初にお目にかかる豚領主よ!我輩は見通す悪魔にして地獄の公爵バニルである」

「バニルッ、バニルッ、なぜだろう!君から懐かしい感じがするよっ!」

「当然である、我が友マクスウェルよ!貴様は我輩と同じ地獄の公爵なのだから!さぁ、ともに地獄に帰ろうではないか」

「まっ、まて!」

 そこで当然の如く騒ぐ豚がいる。

「そいつは儂の下僕だぞ、勝手に連れて行くことは許さん!」

 まだ、状況を理解してないバカがバカみたいに騒ぐ。

「何を言っているのだ悪運が強いだけの傲慢で強欲、そして矮小な男よ!貴様が今まで好き勝手できたのはマクスウェルの捻じ曲げる力があったがため、地獄の公爵であるマクスウェルがそんな小物のような男の下僕なわけがなかろう」

「そして、お前はそいつの力を使いすぎた、悪魔との契約は絶対、お前はその対価を払わなければならない」

「なっ、なに!?」

 バカの顔が青ざめていく。

 そして、それに檻から出たマクスウェルが近づき、

 豚の腕をへし折った。

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 声にならない絶叫をあげるアルダープ。

「ヒュー、ヒュー、いい悲鳴だよアルダープ!」

 子供のように喜びの声をあげるマクスウェル。

 これが悪魔の力を考えなしに使った代償か……。なるほど、こいつが欲しがる悪感情ってのは苦痛か。

「ざまぁないな……」

「ほうほう、貴様かなりマクスウェルの力を酷使したようだな、これは生きてる間にすべての代償を、払うのは不可能であるな!仕方がないマクスウェルよこやつを地獄に連れ帰って、続きをやるとしようではないか」

「わかったよ、バニル!」

「そっ、そんな!?おいっ、貴様儂を助けろっ!」

「はぁ?」

 俺に向かって叫ぶ、豚。こいつは何を言ってるんだ?

 俺は豚の前まで歩き胸ぐらを掴んで持ち上げて、

「いつまでもふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!」

殴り飛ばす。

「ガハッ!」

 吹っ飛んだ先にいる豚の胸ぐらをもう一度掴む。

 こいつのせいで何人の人間が不幸になった?こいつのせいで何人、苦しんだ?

 こんなやつのせいでアイリスは危険な神器を手にした。

 そしてなにより……。

 こんなやつのせいでダクネスは涙を流した……。

「テメェは、今まで助けをこうた奴を助けたことがあったのか?テメェは今まで誰かのために自分の欲を抑えたことがあったのか?そんなやつに手を差し伸べるやつがこの世界のどこにいる?これは、テメェが行ってきたことの報い、こうなることは必然だろう?わかったら……」

「ひっ!!」

 アルダープが俺の顔を見て、小さな悲鳴をあげる。

「とっとと地獄に堕ちろよ、虫けら……」

 その言葉で希望がないことを悟ったのかアルダープは力なく項垂れた。

「フハハッ!小僧、この状況では貴様も悪魔にしか見えんぞ?」

「……上等だよ」

 背を向け、その場をあとにする。

 だが、その前に一言呟いた。

「あいつら守れるんだったら悪魔にだろうが魔王にだろうが喜んでなってやろうじゃねぇか」

 そう告げて、『テレポート』を使って、屋敷に戻った。

 数日後、今まで明るみに出ていなかった領主の悪事が発覚しアクセルの領主はダスティネス家当主、ダクネスの親父さんがその任を受けた。

 しかし、問題をおこした前領主は行方をくらまして現在捜索されている。

 しかし、決して見つかることはないだろう。

 やつは今頃地獄で報いを受けているのだから。

 




はい、今回も十件来たら次投稿します。
出来れば評価の方もお願いします。


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この冒険者に自覚を!

 俺は部屋にて一人、先日クソ領主を地獄に叩き落としたときのことを考えていた。

 何故だろう……。

 なぜ、俺はアルダープ相手にあそこまで非情になれたのだろう……。

 仲間を傷つけた、いや、傷つけようとしたそれに対しては怒って当然のことだった。だが、あのときの俺はバニルの言うとおりまさしく悪魔に相応しい出で立ちだっただろう。

 何故あそこまで俺の心は黒く染まったのだろう。

 考えてみればこの世界に来てから俺はおかしかった。

 ニートでなくなったことを抜いても、ベルディアとの戦い、デストロイヤーとの戦い、いや、その他も全てのことがある一つのことに繋がる。

 キールに言った自分の言葉を思い出す。

 

『あいつらに笑っていてほしいだけ』

 

 そう、全てはあいつらに幸せでいてほしいが為……。

 何故だ?

 確かにあいつらは俺にとって大事な仲間であることには変わりない、だが、前回の俺はここまでのことをしなかった。

 力が手に入ったからか?

 いや、違う……。

 理由はわからない、だけど、そんなくだらない理由ではないことだけはわかる。力なんてものは手段でしかない。問題はその手段をなんのために使ったのかだ。

 いや、それも違うな……。

 本当はもう気づいているはずだ……。

 

『私はカズマのことすきですよ?』

 

 紅魔の里に向かう途中、めぐみんの言葉が頭をよぎる。

 

『やはり、私はお前が好きだ』

 

 結婚騒ぎの果てにようやく帰ってきたダクネスが告げてくれた言葉が耳の奥で響く。

 

『ねぇ、カズマ!どうしてかしら!いつもと同じピンチな筈なのに私とっても楽しいの!』

 

 家出したアクアと魔王城で再開して背中合わせに戦ったときの高揚感を思い出す。

 

「はぁ〜〜〜〜……。」

 俺はとても、とても長いため息を吐き、頭を抑える。

「ったく、こんな簡単なことに気づかないとは……。」

 精神年齢がもうすぐ二十歳になるっていのに俺の心はいつまでも女々しいなぁ。

 

 そう、俺は……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつらに、惚れてたんだなぁ……」

 

「ワンモアこのすば……」アダルトカズマ(哀愁)

 

「最低だ……。」

 俺自身、自分ができた人間だと思ったことはない。だが、まさかここまでのろくでなしとは……。

 一度に複数の女性に惚れるとかどんだけ救いようのないやつなんだよ……。

「もう死のうかな?……そうだな、俺みたいなろくでなしは死んだほうがいいかもしれない……。よし死のう!」

 部屋の窓を開き、そこから身を乗り出す。そして一気に地面に向かって、ダイ……。

「カズマ〜、クリスが用事があるって……。」

「…………。」

「…………。」

 ……ブ、しようとしたところで部屋にアクアが入ってきてお互い顔を見合わせ無言になる。

「……何をしてるのかしら?」

「……………空を飛んでみたくて」

「皆!今すぐ来て!カズマが自殺を図っているわよっ!!」

 テンパって返した答えを一瞬で嘘だと判断したアクアが叫び、その声を聞いて階下にいた俺の仲間達がドタバタと部屋にやってきて、仲間を攻撃できない俺は用事で来たというクリスのバインドによってがんじがらめにされ、リビングに運ばれた。

 

『ワンモアこのすば!』アクア めくみみん ダクネス クリス ゆんゆん

 

「それで?何であんなことをしようとしたのかしら?」

 縄で縛られ、リビングの床に正座させられた俺はみんなに取り囲まれ尋問を受けていた。

「いやだから、空を飛んでみたくて……」

「嘘おっしゃい!あのときの顔はこのままどこまでも落ちてやるって顔だったわよっ!」

 適当に返した答えを未だに引っ張ってみたが、アクアに速攻で論破されてしまった。

「……カズマ、悩みがあるなら話してください」

「そうだぞ、私達は仲間じゃないか」

「そうですよ」

「アタシも友達として相談に乗るよ?」

 めぐみん、ダクネス、ゆんゆん、クリスが優しい視線と言葉をかけてくれる。

「……俺のだめさ加減に自分で嫌気がさしたんだよ」

「カズマがダメ?どんな、冗談ですか、魔王軍幹部や大物賞金首なんてものを沢山倒してるカズマの何処が駄目なんですか?」

 ……ほんっっっと、この世界の俺は随分信頼されちまったもんだな。

 もういっそのこと、吐いちまったほうが楽になるかもしれないな……。

「じゃあ、聞くけどよ?俺が複数の女性に好意を持ってるつったらどう思うよ?」

『…………。』

 暫しの沈黙。

 呆れているのだろうか?それとも軽蔑だろうか?

 まぁ、今の俺の発言からしてどう思われても仕方ないとは思うが……

「それがどうかしたの?」

 は?

 何言ってんだ、この駄目神は?

「そうですよ、それがどうしたんですか?」

 めぐみんまで……。

「いやだって、不純だろ?」

 俺がそう言うと、アクアが「あ〜」と呟いたあと納得したように話した。

「あのね、カズマ。あんたがいたところでは、結婚は一夫一妻制だったでしょうけど、この世界では一夫多妻もそれほど珍しくないのよ?」

 は?

 どういうことだ?

 前回の世界じゃ間違いなくこの世界も一夫一妻制だったはずだぞ!?

「……マジなのか?」

 俺は恐る恐る、他の四人の顔を見る。 

 四人は揃って首を縦に振る。

 ………どうなってんだ?

「それで、それで?あんたの好きな女性とやらはどんな人なのかしら?」

「それは私も気になります」

「私もだな」

「わっ、私もっ!」

「う〜ん、私もあるかな〜」

 ……何なんだろうな……。

 この世界は、まるで俺に後悔するなと言っているようだよ……。

「そのうち話してやるよ、俺の心が決まったらな」

『えぇ〜〜!』

 多分、この世界は誰かが俺のために作ってくれた世界なのかもしれない。天が俺にくれた最後のチャンスなのかもしれない、答えてやれなかったアイツらの思いに答えるチャンス……。

 俺は決して無駄にする気はない……。

「ねぇねぇ、誰なのよぉ?」

「ここまで話して、締めを話さないのはズルいですよ?」

「そうだぞ、男らしくビシッといってみろ!」

「わっ、私はカズマさんが嫌なら言ってもらわなくても……」

「ほらほら、はいちゃいなよ!」

 だけど……、もう少しこのままでもいいかもな?

 こんなただの日常を、なんでもない生活で楽しい幸せを味わっても。

 



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この少女と語らいを……

これからしばらくヒロイン候補たちとの話などを入れます。


「よしっ、来たな」

 今日俺達はギルドから正確にはセナの依頼だが、それでリザードランナーの討伐に来ていた。リザードランナーは王様と姫様を倒せば散り散りになるので俺とゆんゆんが木の上から弓と魔法で同時に狙い撃ちにすることになった。アクア達は前回同様全員への補助魔法、足止めだがめぐみんだけは二体が倒れてもこちらに来たら爆裂魔法でぶっ放してもらうことになっている。

 この依頼は俺が命を落とした依頼の一つだから、気を引き締めていこうと思う。

 今回はゆんゆんもいるしアクアにもしっかり注意をして余計なことをしないよう言い聞かせてある(この依頼を成功させたら高い酒を買ってやると言ってあるので慎重になっている)。

「んじゃ、行くぞゆんゆん」

「はいっ!」

 俺は弓を構え、ゆんゆんはワンドを構え呪文を詠唱する。

「ンッ!『狙撃』ッ!」

「『カーズドライトニング』!」

 俺の弓とゆんゆんの黒雷が二体のリザードランナーを狙うが、

「あっ!?」

「やべぇ……」

 ゆんゆんが狙っていた姫様ランナーへの攻撃が外れてしまい、こっちに突っ込んでくる。

「きゃあっ!?」

「ゆんゆんっ!?ってうわっ!」

 ゆんゆんが魔法を外したことで焦ったのか木の上でバランスを崩して木から落ちてしまう。そして、それに驚いた俺も同じく落ちてしまう。

 くっ、せめてゆんゆんだけでも……

「『ウィンドフォール』!」

「え?」

 ゆんゆんの周りに風が吹き、落下速度が減速する。

 俺もせめて首から落ちないようにして落ちる。

「いっつぅ……」

 足から落ちたことにより右足に鈍い痛みが走る。これは捻挫でもしたか……。

「カズマさん、危ないっ!」

「なっ!?」

 ゆんゆんの声で視線を足から上に上げると、二体のリザードランナーが俺の目の前まで走ってきていた。このままでは轢かれる!

 

ガシッ

 

「大丈夫か、カズマ!?」

 そう思った瞬間俺の前にダクネスが現れて二体のリザードランナーを受け止めた。

「ナイスだ、ダクネス!」

 俺は左足だけで駆け出し、腰の短刀で姫様の首をかっきり、その短剣をそのまま矢として弓に装填して、

「『狙撃』!」

 王様の脳点に向かってはなった。

 そして、それを見たほかのリザードランナーが散り散りになって走っていった。

「ふぅ、危なかったけどなんとかなったな……」

「あの状況からの機転は大したものだぞ」

「さすが、カズマね」

「……今回出番なかったんですけど」

「まぁまぁ、あとでちゃんと爆裂散歩に付き合ってやるからそう拗ねんなって」

 そう言って今回爆裂魔法を打てなかっためぐみんの頭をポンポンと撫でる。

「拗ねてませんって!それより子供じゃないんですから頭をなでないでくださいよ!」

 そんないつもの感じのノリで依頼を完遂させ。パーティのメンバーが労いの言葉をかけてくれる中ゆんゆんだけが俯いて暗い顔をしていた。

 これはリーダーとしてちゃんとフォローしないといけねぇかな……。

 

「ワンモアこのすば!」ゆんゆん

 

「やっぱりここでの昼寝はいいもんだな……」

 リザードランナーの討伐をギルドに報告した後、アクアに足の治療をしてもらい、すっかりいつもどおりに動けるようになった。さすが、女神の名は伊達じゃないってところか。

 それで俺は今、屋敷の庭にて昼寝中だ。夏や冬ならゴメンだが、今は春日向ぼっこにはちょうどいい時期だ。

 ここの屋敷にいた女の子の墓の隣で最近の冒険話でも話しながら寝転がる、最近仕事ばっかだったからこうやってのんびりできる時間がなかったからなぁ……。

「あれ、カズマさん?」

「ん?ゆんゆんか?」

 俺は閉じていた目を開けて、俺を見下ろしている少女を見る。

「こんなところで何してるんですか?」

「ここでの日向ぼっこはなかなか気持ちいいんだよ、お前もどうだ?」

「じゃ、じゃあ、失礼します……」

 そう言ってゆんゆんは俺の隣に腰掛けた。

「……あのカズマさん、今日はすいませんでした」

 やっぱり気にしてたか……。

「問題ねぇよ、足の方はアクアに直してもらったし」

「でも、私がミスをして焦って木から落ちたりしなければ……」

「はぁ、一回のミスでそんなに落ち込んでたらこれから先やってけないぞ?」

「うぅ……」

「俺なんか失敗した数なんて数え切れねぇよ」

 その言葉を聞いてゆんゆんはキョトンとした。

「めぐみん達に聞いたんですけどカズマさんって昔すごく弱かったって言ってたってその話本当なんですか?」

「そりゃあもう、最弱職の冒険者で成長値も低い、最底辺の冒険者だったからなぁ。おまけに性格もひん曲がってたよ、仲間囮にするなんざ毎度のことだったからな」

「えぇ……」

 ゆんゆんは明らかに引いた表情をしている。

「幻滅したか?」

「いっ、いえ、随分イメージが違うなぁって……」

「最近俺もそう感じ始めたよ、随分変わったなぁって……」

「あの、カズマさん」

「どうした?」

「どうやったら、人って変われますか?」

 え?

 いきなり、そんな重い質問されても困ってしまうんですが。

 その俺の気持ちを表情から察したのかゆんゆんが慌てて口を開く

「すっ、すいません、急にこんなこと聞いてしまって……」

「いや、別にいいんだけどさなんで急に?」

「……私って昔から人付き合いが苦手で友達もめぐみんくらいしかできなかったんです……」

 ……知ってる、ウィズの店で使った仲良くなれる水晶に写った一人誕生会を見たときは正直泣きたくなった。

「そうだなぁ……、人が変わるきっかけなんてものは大きく分けて二つしかないんだよ」

「?」

「一つは自分の成功から何かを学んだとき、もう一つは自分の失敗から何かを学んだとき」

「カズマさんはどっちですか?」

「さぁ、どっちだろうな……」

 俺は笑いながらそういう。まっ、俺の場合は両方なんだけどな。一つの世界を通して成功や失敗を通したからには180度とまではいかないが、ほぼ対局にいるってのは変わりないけどな。

「要するに、変わりたいと思うんならどんなことにも挑戦することだな、それが成功しようと失敗しようとそこから学べることはあるはずだぜ?」

 ゆんゆんにそう言うと彼女の顔はまた暗くなった。

「カズマさんは怖くないんですか?」

「何がだ?」

「失敗することですよ、街の皆が言ってましたよカズマさんは魔王軍の幹部や機動要塞デストロイヤーの討伐を成功させた英雄だって、でも、怖くなかったんですか?」

「失敗して死ぬことが、か?」

「はい……」

 こんなことを言っといてなんだが、世の中には失敗できないことは山のようにある。命をベットすること……。それもその一つだ。

 まぁ、昔の俺なら怖くて仕方なかったかもしれないそれこそまともに動けなくなるほどに……。

 だけど、今は違う……。

 俺は起き上がってゆんゆんを見据える。

「怖くないって言ったら嘘になるけどさ、それより怖いものがあるからそんなもの大したもんじゃない」

「死ぬより怖いこと?」

 空に右の手のひらをを空に掲げてそれをゆっくりと閉じる。

「自分の本心を隠して大事なものを掴みそこねたら俺の心は死ぬ……それが何より恐ろしいことなんだ」

「……………。」

 ゆんゆんは俺の言葉に押し黙ってしまう。この年の女の子には少しヘビーな話だったか?

「まぁ、ようするに……。」

 俺は飛び起きるように立ち上がり、ゆんゆんを見下ろしながらいう。

「明日生きるために今逃げ出すよりも、今日を全力で生きるために戦う、そっちのほうがカッコいいだろ?」

 笑いながらそう言うと、ゆんゆんは一瞬ポカンとしたあと直ぐに口元に笑みを浮かべた。

「ふふっ、そうですね。明日より今日を全力で生きる、私も頑張ってみます!」

 よかった、俺にもこの子に元気を与えることができたようだ。

「さ〜て、小腹が空いたし三時のおやつでも作るかぁ〜」

「あっ、私も手伝います!」

「よ〜っし、ホットケーキでも焼くかぁ。アクアたちも呼んでくるか?」

「はい!」

 彼女はとてもいい笑顔で俺に微笑み返した。

「っ!」

「?どうかしたんですか?」

「いや、なんでもないよ……」

 いかんいかん、つい見惚れてしまった。

 ただでさえ、三人もの女性に惚れてるっつうのに。どんだけ気の多い男なんだよ。まぁ、しゃあないかゆんゆんだって絶世の美少女と言われても納得する女の子だしな。

 そうした内面を表情に出さず、俺はゆんゆんを連れ添って屋敷に戻っていった。

 

 しっかし、本当に俺はいつからこんなキザったらしいセリフを言えるようになったのやら……。




以前のように感想数が十を超えたら投稿します。


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この女神と舞踏会を!

今回はエリス様回です。


「それで?俺を呼び出した理由は?」

 俺は今日、クリスにこの間屋敷に来たとき話せなかったことをギルドで話したいとダクネス越しに伝えられそのクリスの前に来ていた。

「それがさぁ〜、最近ここの領主が行方不明になったじゃん?その領主ろくな噂がなかったんだけど神器を隠し持ってるっていう情報もあって今度その屋敷に忍び込むから手伝いを頼もうと思って」

 なるほどね……。

 念のために回収しといて正解だったな。

 

ゴソコソ……

 

 ポケットをあさり、あの豚の屋敷からくすねたものを取り出す。

「ひょっとして、これのことか?」

「えっ!?それって!」

 俺がポケットから出したそれを見てクリスは驚きの声を上げる。

 あの豚の前に現れる前に隠れて回収しておいた2つの神器を。一つはアイリスの持っていた身体を入れ替える神器、そしてもう一個はランダムでモンスターを召喚する神器、あのマスクウェルって悪魔はこいつで呼び出されたんだろう。

 正規の方法で呼び出してないからその正体に気づかなかった、マヌケな話だな……。まぁ、同情する気なんざサラサラないけどな。

「ほらっ」

「おっとっと……」

 俺はそれをクリスになげ渡す。

「なんで、君がこれを……」

「さぁ、なんでだろうな?」

 俺はそれだけ告げてその場をあとにしようとしたが、

「ちょっと待って!」

「なんだよ?」

「なんだよ、じゃないでしょ!なんで君がこれを持ってるの!?」

「言っただろう、これはたとえ女神だろうと閻魔にだろうと教えるわけにはいかないって」

 俺は真剣な表情でそう返した。

 互いににらみ合い、沈黙が降りる。

「はぁ、わかったよ。でも、変わりにもう一仕事手伝ってもらうよ?」

 もう一仕事って、

「神器の回収か?」

「うん、夜迎えにいくからここの前に来て」

 俺に拒否権は……なさそうだな。

「わかった、わかった、ただしこれ以上の追求はなしな?」

「わかったよ」

 そう言って俺達は一度その場で別れた。

 

「ワンモアこのすば!」クリス

 

「遅いなぁ……」

 言われた通りの時間に来てみるが、クリスはなかなか姿を見せなかった。

 早くき過ぎたのか?

「おっ、お待たせしました」

「やっときた……か?」

「あの、変じゃありませんか?」

 やってきたクリスの姿はどちらかというとエリス様に近い外見で、おまけに今まで修道服のようなものではなく、舞踏会などで着ていくような服だった。

 どうしよう、すげぇ似合ってる。

「あの、どうかしましたか?」

「……いや、なんでもない。ってか、どうしたんだよその格好?」

「えっと、実は今日のターゲットは……」

 クリス(エリス)曰く、今日のターゲットの神器はある貴族が所有しているらしいのだが、その神器は今夜のダンスパーティの景品になるらしい。そして、ダンスといえばパートナーというわけで……。

「俺に白羽の矢がたったと?」

「はい、今回の貴族は悪徳貴族というわけではありませんし、正規の方法で手に入れたいので……」

「それはいいんですけど、なんでエリス様?」

「貴族のダンスパーティなので、盗賊のときよりも女神の状態のほうがいいと思いまして……」

 まぁ、確かにそうかもな……。

「つうか、俺がパートナー!?俺ダンスなんてやった経験ないですよ!」

「大丈夫です、カズマさんのステータスならなんとかなります!」

 いや、そんなこと言われましても困るんですけど……。

「取り敢えず、これに着替えてきてください」

 そう言ってエリス様は風呂敷を取り出す。中身を見てみると、そこには黒い礼服が入っていた。

「ドレスコードってやつですか……」

「はい、待っていますから早く着替えてきてください」

「はぁ、似合う気はしないですけどわかりました」

 

「ワンモアこのすば!」アダルトカズマ

 

「あの……、場違い感半端ないんですけど?」

 俺達は件の屋敷の前に来ていた。そこには当然の如く、何人もの貴族のカップルがいる。

「大丈夫ですよ、ここの貴族の方は心が広いことで有名ですから」

「いや、俺こういうところあんまなれてないんですけど……」

 前の世界では見ているだけだったからいいようなものの今回踊るのは俺自身、割と緊張するなぁ……。

「はぁ、取り敢えず……」

「え?」

「参りましょうか、お嬢様?」

「ふぇっ!?」

 俺はエリス様の手をとって、屋敷の中へと歩いていく。

 女性をエスコートするのは男の嗜みだからな……。

 

「わっ、ワンモアこのすばぁ……」エリス(テレ)

 

「競技は自由ダンス制か……」

「そうみたいですね……」

 今回の舞踏会での優劣を決める方法は制限時間内に踊ったペアの中で最も美しく、踊れたものに景品を与えるというものだった。

 制限時間は一時間……。

「初心者である俺達はもう少し様子を見て、踊り方を知ったほうが良さそうですね」

「そうですね」

 そう言っている間に曲が流れ始めて数人の組が踊り始める。俺達はその動きを食い入るように見て、動きを覚える。中々、複雑だな……。

「申し訳ありません、そこの方」

「えっ?私ですか?」

「はい、良ければ私と踊っていただけますか?」

 いつの間にやら近づいていきた、髪と目の色から貴族なのだろうという男がエリス様にダンスを申し込んできた。ここでのダンスは自由制、確かに自分のパートナーと踊る必要性はない、何よりエリス様の容姿だ、引く手数多だろう……。

 ほら、言ったそばから人の波がよってきた。

 エリス様はなれないことにアワアワしている。あのエリス様も可愛いけど、流石に可愛そうだし助けるか。

 などと、考えているとクリスの前に見るからに傲慢そうな肥え太った貴族が表れて、その手を無理矢理とろうとする。

 

パシッ

 

「なっ!?」

 俺はその手が届く前にクリスの前に表れてその手を掴む。

「カズマさん!」

「なんだ貴様は!?」

「この女性のパートナーですよ」

 相手は貴族出来るだけ丁寧な答えを返す。

「貴様が?見た目からして平民であろう。貴様のような下賤な輩にその女は似つかわしくない私に譲れ」

「フッ、フフフフ……」

「何がおかしい!?」

 俺は笑みを隠しきれず口を抑えたがそれでも笑い声がこぼれてしまったようだ。

「いえ、その言い方ではまるで自分には相応しいと言っているようなので……」

「そう言っている!」

「はぁ、呆れた人ですね……」

「なんだと!?」

 俺は思ったことを率直に言ってやった。

「確かにこの方は私には相応しくありません、ですが、女性の気持ちを考えず物のように扱うような人間は論外です。要するに……あなたにはには一生届かない花だということなので、とっとと失せてください」

「きっ、貴様ぁ!!」

 豚貴族二号が激昂して殴りかかってくるが、俺は片手でその拳を掴む。こんな鈍い拳なんざきくわきゃないだろう。

 さて、感情に任せて言っちまったけどどうしたもんかねぇ……。などと考えているとその場に一人の初老の男性が現れる。

「これはなんの騒ぎかね?」

「アルクレス様っ!?」

 アルクレス?確かこの舞踏会の主催者の貴族の人か。

「ちっ、違うのですアルクレス様!この者が私に無礼を!」

「ほう、私の目には他人のパートナーを無理矢理連れて行こうとして返り討ちにあったように見えたが?」

「グッ……」

 何だ見てたのか、この人もいい趣味してる。

「貴様のような貴族の面汚しはこの場にいる資格はない!早く出ていけ!」

「くっ!」

 アルクレス様の一喝によって豚貴族二号は悔しそうにその場を走っていった。

「申し訳なかったな……。」

 アルクレス様が俺達に謝罪をいれる。

「しかし、あんな貴族ばかりではないことを知ってもらいたい」

「いえ、わかっています。こちらこそ、騒ぎを起こしてしまい申し訳ありませんでした」

「そう言ってもらえると助かる。しかし、君は大した男だな。貴族から女性を守るために前に出るとはまるで物語に出てくる騎士のようだったぞ」

「光栄です」

「君達の踊りには期待しているよ」

 そう言ってアルクレス様はその場をあとにした。

 

『ワンモアこのすば!』アダルトカズマ エリス

 

「さて、そろそろ行きましょうか?」

「はい」

 俺はエリス様の手をとって前に出る。時間的にはこれが最後の曲、失敗するわけにはいかない。

 

♪〜〜♪〜〜♪〜〜

 

 曲が流れ始め、俺達は含むペアが踊りだす。

 俺はというと高ステータスに物を言わせて、さっきまで踊っていたペア達の動きを真似る。

 エリス様もその動きについてきている。

 そのおかげか余裕ができたのか、エリス様が俺に話しかけてくる。

「あの、カズマさん……」

「なんでしょう?」

「さっきは助けてくれてありがとうございました」

「いえいえ、女性を守るのは男の役目ですから」

 そう言った、まま俺たちは最後まで踊りきった。

 

「ワンモアこのすば!」エリス

 

「……なんとかなるもんですね」

「はい、目当ての神器も回収できましたしね」

 結果的に言って舞踏会の優勝は俺達になった。

 はぁ、でも精神的に疲れたわ……。

 まぁ、でも……、悪いことばかりじゃなかったな。

「いいものが見れたしな」

「なんですか、それ?」

 俺の呟きにエリス様が反応する。

「いつもは活発か、清楚なエリス様のドレス姿……」

「えっ!?」

 エリス様が顔を真っ赤にさせる。

 いっけね、つい口が滑っちゃった……。

「まぁ、あれですよ。やっぱり、女性はああいう服がよく似合う」

 女性ならやっぱりああいうキラびやかな姿が一番らしい。

「そっ、そうですかね?」

「そうですよ」

 それも、エリス様みたいな人にはな……。

「それじゃ、俺は帰りますから」

「はっ、はい、今日はありがとうございました」

 そう言って、俺達はその場で別れた。

 

 そのとき、エリス様の口元に笑みが浮かんでいたのを俺は気づかなかった。




次はウィズに行ってみようかなと思います。


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このリッチーとデートを!

ついに戻ってきたァァァァァァァァァァ!!!!


「それじゃあ、どこ行きましょうか?」

 

 隣に立っているウィズが俺に向かって聞いてくる。俺達は今、アクセルの街の商店街の中でも特に賑わう場所にやってきていた。

 

「そうだな、その前にひとつ聞きたいんだが」

「なんですか?」

「なんで俺達、デートみたいなことしてんの?」

 

 俺はずっと聞きたかった質問をウィズに問い掛けた。

 こうなった経緯は約三十分前に遡る。

 

「ワンモアこのすば!」 ウィズ

 

 俺は月に一度のライターの在庫の確認のためにウィズの店に向かっていた。店の前まで来て扉に手をかけると、

 

「『バニル式殺人光線』!」

「きゃああああああああ!!」

 

 中から、殺人光線の光とウィズの絶叫が響いてきた。

 はぁ、またかよ……。

 

「ウィズー、バニルー、邪魔するぞ」

「ムッ、小僧か。いいところに来たな」

 

 こいつの言ういいところに来たなっていうのは物凄く嫌な予感しかしないのだが。取り敢えず、倒れて黒焦げになっているウィズにドレインタッチで生命力を与える。

 

「すいません、助かりました」

「いや、別にいいんたが今度はどんなビックリ商品を仕入れて怒られたんだ?」

「なんでわかったんですか?」

 

 いやだってなぁ……。この光景、ぶっちゃけ前の世界から見慣れちゃってるし。

 

「今回その穀潰し店主が仕入れてきたのはこれだ」

 

 そう言ったバニルが赤い液体の入った容器を俺に見せてきた。見たことない色の魔法薬だな。

 

「こいつの効果は?」

「飲んだものの魔力を一時的に倍以上に引き上げるというものだ」

 

 ほほう、それはそれは便利なアイテムで。まぁ、ウィスが仕入れたものがそれだけなわけないけどさ。

 

「で、副作用は?」

「うむ、飲んだものは引き上げられた魔力に耐えきれずボンッとなる可能性があるというものだ」

「んな危険なものよく、仕入れられたな」

 

 ボンッて、流石にボンッはないわ。

 

「それで、お前の言ってたいいところに来たってのはどういう事なんだ?言っとくがそんなもの買うつもりは一切ないぞ?」

「そんなことではない、小僧お前はそこの役立たず店主と昼過ぎまででかけてもらいたい」

 

 は?いきなり何いってんだこいつ?

 

「お前から買い取った知的財産権を今日取引のために使うことになっているのだ。だが、その商才なし店主がいたのでは商談ができん」

「ヒドイですよバニルさん!」

「いや、これは全面的にバニルに賛成だわ」

「カズマさんまでっ!!?」

 

 しまった、ウィズがぐずってしまった。まぁ、事実だから仕方ないんだが。

 

「さあさあ!我輩はこれから大事な商談だ、出てった出てった!」

 

 バニルに追い出される形で店を出た俺達は仕方なく商店街に向かった。

 

「ワンモアこのすばっ!」バニル

 

 さてさて、仕方なくウィズとデートをする羽目になってしまった俺は商店街をのんびりと見て回っていた。

 興味のある店があったら言ってくれとは言ったが。

 

「あっ!見てくださいカズマさん!美味しそうな焼き鳥ですよ!」

 

「あっちにはコロッケもあります!」

 

「向こうにはたい焼きが!」

 

 なんでかウィズが反応するのは食べ物ばかり、それはちょっと女性としてどうなのか言いたくなる。

 

「なぁ、もうちょっと食べ物以外にも目を向けないか?」

「すみません、いつも金欠なせいであまり贅沢な食事をしたことがないので」

 

 俺は無言で目元を抑える。悲惨だ、相変わらず悲惨すぎるぞ、貧乏店主。

 今の俺にできるのは、

 

「……好きなだけ食え。払いは全部俺が持とう」

「え?いいんですか?」

「勿論だとも」

 

 今日だけは贅沢させてやってもバチは当たるまいて。

 

「ワンモアこのすば」アダルトカズマ

 

「ふう」

「満足したか?」

「はい、とても」

 

 ある程度の食べ歩きを終え丁度いいところにあった喫茶店で一息ついていた。ティーカップに注がれた紅茶を口に入れる。なんだかんだでデートみたいな要素全く無かったな。

 

「ここの紅茶上手いな」

「えぇ、私も始めてきましたがとても美味しいですね」

「なんだ、ウィズもここに来たの初めてだったのか?」

 

 この店で休もうと言い出したのはウィズだ。てっきり来たことがあるものとばかり。

 

「意外だな、ウィズもこの街に住んで長いだろうからてっきり来たことがあるのかと思ったんだが」

「フフフ、私だってこの街のこと全部わかってるわけじゃないんですよ?お店も忙しいですし」

「いつも閑古鳥が鳴いてるのにか?」

「ヒドイですよカズマさん!」

「悪い悪い」

 

 俺の言葉にむくれるウィズ。元がいいからやっぱりどんな表情になっても綺麗なもんだな。

 そういや、ウィズがこの街で店を構えてるのって昔組んでたパーティメンバーと初めて出会った街だからなんだよな。

 

「ウィズってさ、リッチーになったこと後悔とかしてないのか?」

 

 思わず口にしていた言葉に俺は慌てて口を閉じる。これはあまりにもデリカシーのない質問だ。

 だが、対するウィズは気にした様子もなく答えてくれた。

 

「そうですね、全くなかったと言えば嘘になりますね」

「なかったってことはもう」

「はい、もう全くありませんよ。自分で決めた道ですから、それに慣れてみるとリッチーも悪くはないですから」

 

 そう言って笑うウィズはどこか儚げに見えた。やっぱり何処か寂しいところがあるのだろうか?自分と同じ時間を生きてくれるものがいないというのは。

 

「そういうカズマさんはリッチーに対してどういう印象がありますか?」

「俺?俺は別にリッチーがどうのとか俺にはどうでもいいんだよなぁ」

「? どういうことですか?」

 

 俺の答えにウィズは疑問符を浮かべて問い返す。

 

「だってそうだろ? 身体がリッチーであろうとなんだろうと人間の心を持ってるならそれは人間と同じなんじゃないのか?まあ、俺の知ってるリッチーが恋人の為に国に喧嘩を売ったり、仲間の呪いを解くためにリッチーになるようなお人好しだから言えるんだろうけど」

「確かに、そうかもしれませんね」

 

 ウィズは俺の回答に笑みを浮かべる。

 どうやら、傷つけずに済んだようだ。それに安心したティーカップを傾けながらつい口が滑った。

 

「そもそも俺は自称究極の男女平等主義者だぜ?ウィズがリッチーであろうがなかろうが俺の眼から見たら、ウィズはどこか抜けてる美人店主ってだけだぜ?」

「えっ?」

 

 紅茶を口に入れてハッとする。しまった、普通に考えたら今のセリフって思いっきり口説き文句じゃないのか!?

 おそるおそる、ウィズの方を見てみると、

 

「えっ、あの…その…」

 

 ほらあああああああああああああ!!!

 顔真っ赤にしてもじもじしちゃってんじゃないかぁ〜!畜生、可愛いなぁ!もぉーーー!!!

 そのままなんとなくぎこちない気分で魔法店に戻り、その時のバニルのニヤニヤ顔に猛烈にぶん殴りたくなったのは言うまでもない。

 ん?ちょっと待てよ……。

 

「おい、お前まさか……」

 

 こいつがあらかじめさっきみたいなやり取りをすることを知っていたとしたら……俺達が羞恥の悪感情を出して帰ってくると知っていたら。

 

「フハハハハハ!!今更気づいたかラブコメ小僧よ!お前と貧乏店主の羞恥の悪感情、実に美味であるっ!」

 

 ビキッ!

 あんれ〜、おかしぃなぁ……。俺の額に何やら血管が浮かび上がるような音が聞こえたなぁ〜。

 ………一瞬、ほんの一瞬まじでアクアと協力してこいつをこの世から消滅させたいと思った。




久しぶりすぎて無茶がある気がしますが次から頑張ります。いやぁ、仮面ライダーにはまったり、バイトを始めたり忙しくて投稿が遅れて申し訳ありませんでした。


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クリスマス特別編 この聖夜にプレゼントを!

少し早いけど、メリークリスマス!


 冬、年越しも近くなった今日此の頃。しかし、その前にどうしてもやらなければいけないイベントがあることを皆さん覚えてらっしゃるでしょうか?

 

「さて、どうやら良い子の皆はすっかり寝たらしいな」

「ああ、街の住民全員が子供を早く寝かしつける手はずだったからな」

「よし、では冒険者、否!サンタ諸君!今宵は子供達の夢を叶えるために頑張ろうではないか!」

『おお〜〜〜!!』

 

 俺の号令にサンタ服を着込んだ冒険者達が少し小さめの声で返事を返す。子供達を起こすわけにはいかないからな。

 そう、今夜はクリスマスイブ。良い子の皆にプレゼントを配る日である。こっちの世界でもクリスマスってのはあるらしい、まあ転生者が伝えたんだろうけど。

 実はこの作戦、こっそりと一ヶ月以上も使って念密に考えていたクリスマスイベントなのである。日本のクリスマスにちなんで夜にプレゼントを配って回る。流石に街一つ分の子供達にプレゼントを送って回るので、ギルドに協力してもらった。勿論、プレゼント、その他依頼料は俺持ちだ。デストロイヤーの討伐報酬20億(半分は税金)があればどうということはない。

 

「しかし、カズマよぉ〜。お前も太っ腹だよな。街の餓鬼共のためにこんな大金使うなんて」

 

 近くにいたチンピラサンタことダストが俺に言ってくる。チッチッチッと指を振りながら質問に答えやる。

 

「わかってないなダスト。この街はただでさえ駆け出しの街と言われているのに最近魔王軍幹部や機動要塞デストロイヤーなんかの大物賞金首が襲ってくるだろ?それに子供達は当然怯えるわけだ、これはそれを払拭するためでもあるんだよ」

「な、なるほど」

「というのは建前で小さい頃親父がプレゼントを置いてたのを見て『ああ、やっぱりサンタさんはいないのか』というのをこの街の子供達に味合わせたくないだけだ」

「一気にグレードが下がったな……」

 

 いやあ、あれを見たときはちょっと寂しくなったあ。まあ、前者六割、後者四割ってところだな。

 

「つうわけで、皆の衆それぞれ持ち場のお家にプレゼントを配って来い。無事に終わったら明日はここでクリスマスパーティーだ!」

『おお〜〜!』

 

『ワンモアこのすば!』サンタ冒険者

 

「さて、俺達も行くぞ」

「ああ」

「うん」

 

 俺の班はダクネスとクリスだ。めぐみんとゆんゆんはまだ年齢的にプレゼントを貰う側なので家にいるし、アクアに言うと絶対どこかに漏らすからあいつにも話してない。

 ダクネスがリアカーを押し、俺とクリスがプレゼントを置く役だ。

 流石にトナカイとソリを用意することができなかったのでリアカーだが。その上には無数のプレゼントが入った白い袋がある。

 そして、問題なのは……。

 

「どうした、カズマ?」

 

 そう、ダクネスである。彼女も例に漏れずサンタ服を着てるんだが、なんというかその……きわどい。この服は俺が服屋に頼んで参加者分用意したものだが(しつこいようだが一ヶ月以上前から)、そのせいでサイズはS、M、Lしかないわけで……。

 あとは言わなくてもわかるだろ?

 そして、もう一つ問題がある。

 

「どしたの?」

 

 クリスである。

 彼女のサンタ服を普通のMサイズだ。しかし、考えてみてほしい、あのクリスがサンタ服を着ている。しかも、彼女は動きやすいようにズボンが短い。そして中身は女神様。

 男ならわかるな?

 俺はゆっくりと手を合わせて。

 

「………ありがとう」

「「いきなり、なに(どうした)っ!?」」

 

「「「ワンモアこのすばっ!」」」アダルトカズマ ダクネス クリス

 

「疲れたぁ〜!」

 

 全てのプレゼントを配り終えた俺達は一度ギルドに戻ってきていた。他の班も終わったらしく続々と帰ってくる。

 全ての班が戻ったところで解散と相成った、皆明日の朝が楽しみで仕方ない様子だったよ。

 帰り道、

 

「それにしても、皆よく協力してくれたもんだよな。俺てっきり、『んなもん一人でやれ!』とか言われるもんだと思ってたんだが」

「まあ、経費が全部カズマ持ちだったし。報酬も出るしね」

「まあ、それ以上に皆カズマに感謝してるところがあるんだろう」 

 

 は?俺に?なんで?

 俺の表情から困惑が伝わったのかクリスとダクネスが苦笑いして答える。因みにクリスは今日、家にお泊りらしい。

 

「本当に気づいてなかったんだな。この街は駆け出しの街と言われると同時に新米冒険者にとって挫折の街でもあるんだ」

「どういうことだ?」

「大体の冒険者はここで登録して仕事を始める。だが、ステータスによる職業なんかで冒険者に向いてないと思ってやめる人もそれなりにいるんだよ」

 

 なるほど、言われてみれば俺も数回冒険やめて引きこもろうとしたことがあったな。

 

「そんな街で、最弱職であるお前がベルディアやデストロイヤーに立ち向かったのを見て、皆勇気をもらったんだ」

「……………。」

 

 て、照れくせぇ!!え?皆、そんなふうに俺のこと思ってくれたの?やべぇ、ちょー嬉しいと同時に恥ずかしい!

 

「知ってた?最近のクエスト達成率、年間最高だって話だよ?」

 

 マジでっ!?前回では寧ろニート菌を伝染させておいた俺が!!?

 

「まっ、そんなカズマが街のために企画してくれたイベントを断る人なんていないよ」

「そこまで街の人達に慕われてたという新事実の方がビックリなんですけど?」

 

 そんな他愛ない話をしながら家についた。俺は部屋に戻る前に、ポケットに入れておいた二つの箱を二人に投げ出した。

 

「おっと」

「なんだ、これは?」

「プレゼントだよ、んじゃメリークリスマス」

 

 そう言って、俺は最後の仕事としてめぐみん、ゆんゆん、アクアの枕元にもプレゼントを置いてから就寝した。

 夢になんか白い髭をはやしたおじさんが現れたけど……まあ、いいか。

 

「ワンモアこのすば!」???

 

 朝起きてみると、何故か俺の枕元にもプレゼンが置いてあった。あれ?俺配り忘れたものなんてあったっけ?

 中身を見てみるとそこには、Dear Kazumaと書かれたメッセージカードそして中身にはこちらの世界には絶対ないはずのゲーム機が入っていた。

 まさか、本当にサンタさん?

 

「メリークリスマス!」サンタさん

 

 リビングに行ってみると皆ホクホク顔だ。めぐみんは新しいマナタイトの杖に頬ずりしてるし。ゆんゆんは新しいワンドに眼をキラキラさせている。アクアに関しては、俺が送った酒で既に出来上がってるし……。

 んで、ダクネスとクリスは……。

 

「なんかキモい」

「「ひど(くないか)っ!?」」

 

 イヤだってさぁ……。

 髪につけた髪飾り触ってはニヤニヤしてんだもん。

 俺がプレゼントしたのは髪飾りだ。クリスにはその名の通りクリスの花のデザイン、ダクネスにはビオラの花のデザイン、花言葉は『誠実』と『信頼』。誠実かどうかは、イマイチだがな。

 

「よしっ!ギルド行くぞ」

 

「ワンモアこのすばっ!」アダルトカズマ

 

「うおっ、すげぇなこりゃ……」

 

 ギルドにやってきた俺はその派手な飾り付けに口をあんぐりと開ける。ここの飾り付けはギルドの皆さんが受け持ってくれたが、まさかここまでとはな……。

 すると、その俺に気づいたのかサンタ帽を被ったルナさんが近づいてきた。というか、ギルド職員は全員被ってる。

 

「どうですか?ギルド職員の自信作なんですが?」

「いや、ぶっちゃけここまでとは思ってませんでしたね、かなり時間とらせちゃったんじゃ?」

「いいんですよ、皆生き生きしてましたから。それに、」

「それに?」

「クリスマスを一緒に過ごすような相手、いませんから……」

 

 なんか、すんません。

 なんと、フォローしたらいいのか迷っていると既に出来上がってるダストが俺を見つけて話しかけてくる。

 

「おっ!やっと来たかカズマ!おらっ!こっち来い!」

「はっ?なんだよ、ダスト」

 

 ダストに捕まり、ギルドの中から一番見える席に立たされシュワシュワの入ったグラスを持たされる。

 

「お〜い!お前等!主役様のご登場だぜ!」

 

 ダストの掛け声で飲み食いしていた冒険者達がこちらを向けワーワーと騒ぎ出す。は?何?俺に何しろと?

 戸惑っていると、ダストに小脇を突っつかれ、

 

「ほら、主催者なんだから乾杯の音頭をとってくれよ」

 

 ああ、そういうことね。

 俺は皆に向き直り、グラスを突き上げて一言。

 

「メリークリスマス!」

『メリークリスマス!!!』

 

 冒険者達の声がギルド内に響き渡った。



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