孤児院隊長奮闘記 (あげびたし)
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奮闘記
プロローグ


グリモア話しで盛り上がった勢いでできた。
日常ほのぼの系で頑張りたい。


「やめろっつってんだろおおおおおおおおお!!!!!」

 

悲しいかな、彼の叫びは届かない。

金切り声に近い叫びは、声の主の遥か前方に鎮座する移動砲台さながらの戦車型の機体には聞こえない。戦車の車体にMSの上半身がついたソレは両腕を丸々武器にしていた。

右手には砲身を切り詰めたジャイアントガトリング、左腕には大型の榴弾砲。その両方を盛大にぶっ放している。

その射撃音に呼応するのはバーニア音。射撃によって舞い上がる大量の土煙の中から、喜び勇んで突撃する2つの影。

1つは両手に巨大な2連パイルバンカーと大型ナックルを構えた機体。背面には巨大な補助バーニアを背負っていた。

そのバーニアを吹かしまくりながら、頭のネジが無くなってしまったかのような変態的な動きで宙を跳ね、地上を駆け、そしてたまに転がりながら予測不能な動きで迫っていく。

そしてもう1つ、そんな笑いながら突撃していくソレを追いかける4つ脚の異形な機体。

4つの脚を器用に動かす姿はまさに蜘蛛。壁を蹴り、滑空し、そして走る。

走りながらも右腕に構えたスラッグガンと背面に装備したロケットを小気味よく連射していく。

どれだけ連射していても、4つ脚による安定制御により反動を抑えているためその姿勢が崩れる事は無い。

その異形な3機の共通点は、それぞれがMSグリモアをベースに改造されたガンプラであることだ。著しい魔改造で原型はほぼ無いが。

倒壊するビル群、しなくても良いオブジェクト破壊。だが、それはその下にいた者たちにとってはひとたまりもない。

 

「なんだアイツら!!!!めちゃくちゃしやがる!!」

「リーダーはやく退避を…」

「ちょっと!こっちこないでよ!!まって…!!」

 

そんな声が聞こえた気がした。

ビルの瓦礫を避けようにも、その瓦礫の雨の中を無視して突っ込んでくるのはパイルとナックルの機体。

まず3機のうち1機がパイルに貫かれ爆散する、そしてその勢いのまま降り注ぐ瓦礫の中から脱出していった。

残り2機も、なんとか瓦礫の雨を抜け反撃態勢をとるが、今度は鉛玉の雨が彼らを襲う。高く上空まで飛び上がった4つ脚がこれでもかと言わんばかりの撃ち下ろし攻撃。逃げ場は、無い。

苦し紛れに援護を要求するも、別働していた部隊は戦車型に滅茶苦茶に撃たれて動けない。

 

「ふ、ふざけた奴ら…だ。」

 

呆れ果てて何も言えないとは、こういう事なのだろう。

無線越しに漏れた声は酷く疲れ果てていた。

 

※※※※

 

「ほんっっとーーーーーに申し訳ない!!!!」

 

砂漠に木霊するの男の声。そして深々と下げる頭。短く刈られた頭髪に、こんがりと日に焼けた肌に逞しい顎。筋骨隆々の身体。年は30代、身長は180といったところ。

黒のタンクトップの上に羽織ったモスグリーンのタンクジャケット、そしてカーキ色のカーゴパンツに黒のコンバットブーツ。

そんな見た目ゴリラで熊のような大男の謝罪を呆れた顔でそれを受けるのは、標準的な連邦軍服の男。両者の共通点は疲れ切ったその顔だ。

かたや青ざめてはいるが無理して笑っている。もう片方は胃を痛めているようなそんな鎮痛な顔だ。

青ざめているほうは苦笑いと共に片手を振りながらその場を離れ、鎮痛顔は今度は顔を真っ赤にして振り返る。

その鬼も逃げ出すような目線の先にいたのは、全員彼と同じ姿で揃いのジャケットを着込んだ子供達。

金髪に緑の目のチャラけた子供。黒の前髪で目元を隠している子供。長い赤髪後ろで縛り更にバンダナで括った金の眼の子供。それぞれ馬鹿笑いをしながら盛り上がっているようだ。

当然、ゴリラの目線には気づかない。

 

「だからよぉぉ?おまえは思い切りが足んねーんだって!!いつもみたいに突っ込んでったらいいだろ?」

「そうだそうだー」

「い、いや。そ、そういうんじゃ無くて、ね?みんなといると、強くなった気がして、ね?外に出たら無理だよぉ」

「そうだそうだー」

 

瞬間、機関砲の速射音のような音が響き、彼らは地面に両手を突き沈黙する。

表現できないほどの怒声。そして、ため息。

涙目を浮かべる彼らはそれぞれ言い訳を口にだすが、その一切を無視し彼はポツリとこぼす。

 

「今日は…なんか胃に優しいもんが食いたいなぁ…」

 

その言葉を聞き、3人の顔に笑顔が戻る。顔を見合わせ、そして駆け寄る。

 

「隊長!なら俺、煮物が食べたい!!煮豆!!」

「ぼ、ぼくはうどんがいいなーって」

「俺ぁ…カレーがくいてぇんだけど…胃に優しいって中華丼とか?」

 

それぞれ言いながら彼の大きな手を引き、周りを囲みながら歩く。

その先は彼らが基地としている場所。

周囲一帯が広大な砂漠になり、そのところどころに倒壊しかけのビル群が見える。

一度見失えば二度と同じ場所には辿りつけないであろう、そんな砂漠の中にポツンとある墜落し半分だけ地表に顔を出しているマゼラン級戦艦。

ソレが彼らの家だ。家と呼ぶには粗末なものだが、まさしく彼らの居場所だった。

 

「ホラ、お前ら。ログアウトして飯にするぞ。準備しろよー」

 

疲れているはずなのだが、張りのある声で号令をかける。そうして彼らは現実に戻っていく。

現実でもゲームでも彼の苦労は続くのだが、楽しそうな声は止まる事は無かった。

 

※※※※

 

ビルに囲まれた一角。そんなコンクリートジャングルの中に、塗装が剥げかけ看板が多少歪んだ小さい幼稚園ほどの建物がある。

周囲がギラギラとしたネオンを光らせる中、その建物の窓からは暖かい光が漏れていた。

光の中に見えるのは、やけに逞しい大男と彼を囲む小学校中学年程度の子供達。笑いながら食事をし、たまに怒られながら生活している。

この建物の名前は「孤児院・マーゼラン」そこに住むのはガンプラ好きで苦労人気質の大男と、理性が吹っ飛んだ子供達。

彼らの楽しみは、もちろんガンプラバトル。男の趣味で集めていたグリモアに目をつけた彼らは、子供の発想を最大限に発揮し改造を繰り返す。

そうやってできたのが彼らの機体。あんまりにもあんまりな改造に男は開いた口が塞がらなかったが、楽しそうに笑う彼らを止める事はしなかった。

しかしそうして彼らがそのまま飛び出して、見知らぬ他人にとんでもない迷惑をかけると心配した彼は

『いっそのこと自分も一緒にやればいいじゃない。』

という友人の声に背中を押され、共に遊び始める事になる。

ネットワークで繋がったガンプラの世界は広い、最初はオドオドしていた子供達も、徐々にそれぞれの楽しみを見つけはしゃぎ回っている。それはもう、男の胃にリアルに穴が開くレベルで。

そんな彼らの日常はもっぱら他のフォースの陣地に侵入し暴れるだけ暴れて帰ったり、唐突にフォース戦を申し込み散々散らかして帰ったりする毎日なのだ。

そんな彼らを統率し、辛うじて作戦らしきもので戦えてるのはひとえに彼のおかげなのだろう。

ならば、胃に穴も開くだというものだ。

 

 

これは、仮想電脳空間内で自分のガンプラを使って遊ぶ「ガンダムバトル・ネクサスオンライン」(通称GBN)

その広い世界の中で悪魔のような子供達に振り回される彼の、奮闘の記録である。

 

 

 

 

 

 




機体スペックとかもその内纏めれたらいいなぁ


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奮闘記:1 今日も元気だ胃が痛い

どんどんいこう。どんどん。


アジアサーバーの某砂漠地帯。ここは、あちこちに点在する崩壊した都市群に、それを飲み込む形で広がった広大な砂漠と緑の無い山岳に囲まれた土地だ。

日中は遠慮無しに照りつける太陽で肌が焼けるように痛む。そして夜は極寒の寒さが襲う過酷な土地だ。

その砂漠の中にある一角。周囲を岸壁に囲まれた中に、船首が天に向きながら突き刺さっている墜落したマゼラン級戦艦。

崩壊しかけの船体にはかつて宙で起こった戦争の名残のような大きな穴が空いていた。これを見つけた時は大人気なくはしゃいだものだ、そしてまさか拠点化できると知った時もそれは喜んだ。

なんとか穴を木材や鉄板で覆い、辛うじて住居スペースを確保した。

そうして今に至った経緯を思い出せば、この苦労も少しは和らいだ。

 

「まぁ…そういう設定なんだろうけどな…。」

 

そんな呟きをしながら手に持つコーヒーを啜る。

黒い液体は濃く、香りは芳醇な物。舌で味わい嚥下する。

なんとも幸せなひと時だ。そう、このままで終われば、だ。

 

「隊長ぉぉぉ!!!千恵(ちえ)のやつがまたどっかにつっ走って行った!!俺も行っていい?!」

「向こうにドムが3機見えたんだよなぁ。きっとそっちだろ?行こうぜぇー」

 

どうやら、俺の優雅なひと時は終わりらしい。

そのドム達が、ここを目指してきた訳では無いのはわかっている。

だが、もう遅い。俺を隊長と呼ぶこの子供達3人のうち1人がすでに突っ込んで行ってしまったのだ。戦闘は避けられないだろう。

…また胃が痛くなってきた気がするが我慢して立ち上がる。俺の手を引く金髪の子供が早く早くと急かしてくる。赤髪の子供は俺の背中をグイグイ押しながら着いてくる。

これだけなら、可愛げのあるものなのだが。今からやる事は可愛げもへったくれも無いものなのだ。

うまく追っ払えれば御の字だが、ただこの辺りを探索にきただけの人達ならば同情するしか無い。

彼らに目をつけられた不運を呪ってくれ、断じて俺のせいでは無い。

そんな鎮痛な俺の心情を他所に、格納庫に連れてこられていた。戦艦だけあって広い格納庫に備え付けられたハンガーは6つ。そのうち4つが使われている。今は3機しか無いが。

 

「ホラホラ!早く!!アイツに全部狩られちゃうじゃん!!!まぁけしかけたの俺らだけど!」

「ソレないしょっつたろぉ!?あ、隊長の機体も準備できてるからさぁ。いつもみたいによろしくぅー」

 

それぞれの機体に乗り込みながら笑顔を見せる子供達。

これからやる事を、心から楽しみにしているようだ。その気遣いを俺の身体にもしてくれていいものを…。

あとなんか聞こえたけど聞かないふりだ、もう困りたくない。

そんな事を思いながらも自分の機体を見上げる。MSグリモアをベースに各種センサー類を強化し、大型のレドームと探索用リコンセンサーを搭載したバックパックを背負っている。

武装は消音器をつけたスナイパーライフルと拳銃が2丁・ナイフが2本。これが俺の機体。

光学迷彩を施すことができるマントで身体のほとんどを覆っているのと黒のカラーリングが特徴だ。

機体整備をキッチリこなしているのがニクい。普段もそれぐらいの気の利かせ方をしてくれ。

 

「隊長ぉ!先、行くからねぇー」

 

そう言いながら機体から顔を覗かせる赤髪のバンダナ。初期型ガンタンクの車体に生えたグリモアの上半身。全身をモスグリーンとブラックで塗装している。

目をひくのはその両腕、肘から先が完全に武器と化しているのだ。

今回は右腕が2連速射砲、左腕は大型リボルバーキャノンをチョイスしているようだ。

その選択をなんでしたかを聞いてはいけない。ただ、なんとなくで決めているからだ。

3人の中で1番まともそうだがそんな事は無い。1番武装に金を掛ける戦闘狂なのである。

脳味噌まで筋肉なのだろうか。いや、みんなそうだった。

しかしその姿は別段いつもと変わらない。俺が目を見開いたのはその背後、バックパックとして装着された武装に、だ。

 

「お前…それで何するつもりだ…」

 

もう既に胃が痛い。

横に長いシルエット。機体より前方に飛び出した鋭角なアーム。ブースター上部にマウントされているのは、あれは確か300mm滑空砲だ、それが2門。

突き出たアームに取り付けられた連装砲はさながら海の戦艦を彷彿とさせる。

まさに陸の戦艦なのだが。

 

「いいでしょ?コレェ!!カッコいいもんね!」

 

ニカッと笑う顔にドヤ顔、それだけなら良いのになぁと思う。

何がどうなったらああなるのか。戦車型の機体に、大型補助ブースターを装備する。

考えはわかる。足の遅い戦車型を大型ブースターでかっ飛ばそうというのだ、だがそれを本気でやるか?!

 

「クタン参型…か。それは。」

 

やっと出てきたのは補助ブースターの正体。『鉄血のオルフェンズ』の作中、ガンダムバルバトスを運び戦場へ突撃していったあの補助ブースターだ。

数ある中でそれを選ぶのは色々思うとこはあるが、もう遅い。今にも飛び出しそうになっている彼を止める事はもうできない。

 

「…もういい…行ってこい…」

「よっしゃぁ!!!行っくぞぉ!!【グリモア・タイラント】!!茶輔(さすけ)・グリーズ!!突っ貫!!!!」

 

クタン参型のプロペラントタンクブースターに火が入り、カタパルトから勢いよくぶっ飛ぶ戦車。

…なんだアレは。

たぶん誰がみてもこの感想が出るんじゃなかろうか、だから何度でも言おう。

なんだ、アレは。

 

「あ、ずるいし!!俺も行くね隊長!!【グリモア・オンスロート】!京谷(きょうや)・グリーズ!!出るっぜぃ!!」

 

そういって追いかけて行く頭と肩を紫に、他をブラックで塗装された4つ脚のグリモアを見送る。俺も行かなきゃダメかなぁ…ダメなんだろうなぁ…。

彼の機体は前後に伸びた4本の足にローラーダッシュが備えられている。そして限界まで強化した推進機能。

空気抵抗を抑えるために装甲は最低限だが、その分攻撃に全振りの機体。

空は飛ばないが、跳躍したあと若干の時間は滑空ができる。

なによりの特徴はその安定性能。4つの脚に支えられた上半身は両腕に突撃ライフルと大型のスラッグガン。背面に装備した折りたたみ式のグレネードランチャーと連装ロケットポッド。

それらをやたらに乱射してもブレない上半身の動きと、構えを必要としないほどの反動抑止性能だ。

それを動き回りながらやるのは、センスなのかカンなのか。よくわからない。

そして、もう1人。先に突っ走っていった彼のハンガーを見る。彼はいつもはおとなしくしっかり言うことを聞いてくれる子なのだが…なぜか機体に乗ると性格が変わるというか、超ポジティブに作戦を曲解するというか…なんであんな結果になるのか…。

 

「いや、もう止そう。本当に胃薬が必要になる。はぁ…【グリモア・マーチ】八神(やがみ)・グリーズ。…出る!」

 

凄んでみせても、誰もいない格納庫に虚しく響くだけだった。

 

※※※※

 

俺はとても困惑していた。

砂漠地帯の未知を探すための探索任務だったはずだ。

それがどうしてこうなったのか、わからなかった。

フリーバトルが常時展開されているフィールドで探索任務。

おかしいとは思っていた。だから何もない訳は無いとは思っても、準備せざるを得なかった。

連れてきた仲間は全部で8人。

ドム型の改造機が3機、リック・ドム型が2機。あとバクゥ型が3機。

砂漠探索を主眼におき、個々のチームワークが高いメンバーを選んだ。

彼らとならば、この砂漠地帯に潜む悪名高き「悪魔の落し子」達とも戦えると思ったのだ。

あわよくばそのうちの一機でも落とせれば大量のGPと名声が手に入ると踏んでいた。

甘かった。そうだ、考えが至らなかった。

3機いる「悪魔の落とし子」がたった一機で突っ込んで来る訳が無いと思っていた。

笑い声が聞こえる。

あの白頭のグリモアのような機体からだ。

今俺たちは、岸壁に切れ目が入った場所に陣取り、岩を壁にしながらそれぞれがカバーしあいながら攻撃を止めないようにしている。

それでも、もう2機がやられた。バクゥとリック・ドムがそれぞれ1機づつ。

完全な奇襲をされた。岩肌から飛び出してきたグリモアにバクゥの頭がその巨大な拳で砕かれ、援護しようとしたリック・ドムには2本の杭が突き刺さっていた。

一瞬の事すぎてわからなかった。長い行軍の疲労でレーダー探知をロクにしてなかったのがケチのつき始めだった。

白頭のグリモアは、攻撃した勢いを殺さないまま回転し、杭に突き刺さった機体を無理やりに引き剥がし横っ飛びにこちらに襲いかかってきた。それも、笑いながら。

子供の声だ、遊んでもらえる事が嬉しくてしょうがないといったら声質だ。

背中に寒気が走るまま、後退指示を飛ばしマシンガンやジャイアントバズを引き撃ちする。

そして、今に至る。どうしてこうなったのか。そして何故相手は諦めてくれないのか。

そう、悪魔の子供はこれだけ攻撃しても一歩も引かないのである。

右へ左へ時々前転やバク転を決めながらこちらの攻撃を避けていく。

まるで機体そのものが己の身体のような動きだ。

 

「なんなんだよアイツ!!阿頼耶識システムかっての!!!」

 

部隊員の叫びが聞こえる。俺もそれは疑った、だがこのGBNで阿頼耶識システムなんて再現したというのは聞いたこともない。単純にパイロットの腕なのだろうが、それにしても動きが人間的すぎなのだ。

ジリジリと距離を詰めてくる悪魔の子に焦りを覚えながら、この場所からどうにかして撤退する方法を考える。倒せばいいという頭は捨てた、この弾幕の中跳ね回るあのグリモアに普通の攻撃が当たる気がしない。

そんな事を考えていたその時、警報音が機内に響く。見ればレーダーサイトに映るとてつもない速さでこちらへ近づく点が1つ。

救援かと安堵した。だがこの識別反応は見たことが、無い。

最悪の予想がよぎる、白頭のグリモアが見える前方の遥か彼方。

まだ距離があるがどう見てもおかしいシルエットが真っ青な空に染み出している。

 

「なんだ…あれは…?!」

 

徐々に見えてくるその全貌。真正面に見えるのは、下半身が戦車の車体にグリモアの上半身がちょこんと乗っている、左右には無骨な武器を構えていた。

そしてその戦車型のグリモアが巨大ブースターで突撃して来ているのだ。

 

「隊長!!あれって?!」

「い、いかん!!総員退避ぃぃ!!!!」

 

アレが何かを確認する前に俺たちの真上まで飛んで来たよく分からない戦車モドキは、あろうことかブースターのプロペラントタンクを切り離し爆撃がわりに落としてきたのだ。

無茶苦茶な攻撃だ、だがこの場所から引きづり出すには有効過ぎた。

地面に落ちたタンクは、巨大な爆発を生み、辛うじて避けられた数人が岸壁の外へ飛ばされる。運が悪く至近距離で爆発の余波を受けたドムが、きりもみ回転をしながら空を舞う。

 

「パーシー!!!ダメだ!!やめろぉ!!!」

 

隣に着地した仲間が叫ぶ、パーシーの乗ったドムが空中で回転するその更に上。

先程まで俺たちを阻んでいた白頭のグリモアが垂直降下で肉薄していた。

振りかぶる拳、パーシーには避けられない。振り下ろされる鉄拳のインパクトの瞬間、破砕音というかなんとも形容できない音で上半身と下半身が分かれたドムが爆発する。

そこで気がつく、あの戦車モドキはどこへいったのか?あれだけではないはずだ、必死で探すとレーダーに感アリ。

それは俺たちの背後から再度突撃してきていた。あれだけの勢いで旋回して来たのも驚きだが、それをやる神経が更に怖い。

低空をカッ飛んで来る戦車モドキを迎撃するべく油断なく布陣するが、戦車モドキの勢いは止まらない。

そういえば、戦車モドキの前方まで伸びたアームには、確か…!

その思考に行き着くには遅かった。戦車モドキは更に加速し、見た目通り鋭角なガントレットがリック・ドムを貫く。

 

「あぁ!!ロビンが!!!」

 

悲痛な叫びをあげるロビンの機体が貫かれたまま連れ去られ、そのまま空高く持っていかれる。

その内に遠くの空で爆発音が轟き、ロビンの表示が消えていった。

 

「なんだよ…なんなんだよぉお前らはぁぁぁ!!!!」

「待て!!単騎でいくな!!!…クソッ!!続け!!」

 

錯乱した副官のドムをカバーするようにして三角錐型の突撃起動をとる。どんな状態になっていてもこの戦法を取れるのが俺たちの強みだ。

まず標的にするのは、白頭のグリモア。

それぞれが連射が効く武器で牽制をしつつ接敵、そして先頭が近接兵装で攻撃するという黄金パターン。4機で1機を叩く、卑怯のようだが有効な作戦なのだ。

だがその黄金パターンは、すぐに破られた。

真横にいたバクゥが横っ飛びに吹っ飛んだのだ。

まるで至近距離から散弾を食らったような弾痕が見える。…事実、散弾だったのだが。

カメラに映るのは、俺達と並走するように近づく4つ脚の異形なグリモア。またグリモアだ、勘弁してくれ。

頭と肩装甲が紫にカラーリングされてるその4つ脚は、それぞれの脚のローラダッシュを器用に使いこなし、ドリフトターンを決めながら両手に持った武器をやたらに連射してくる。

前進を止められた俺達は、盾を前面に押し出し防ごうとするが縦横無尽な動きと弾幕でどんどん押され始めてしまう。

そこに加わるのはその弾幕の嵐を掻い潜りながら近づく白頭のグリモア。

脅威的の一言だった、どんな奴でも味方の射線の中を突っ走って来れる訳がない。

だが事実、その光景が目の前にあるのだ。

縦横無尽の弾幕に、変幻自在な動きの打撃が加わり更に防戦一方になる。

ひと塊りになってその攻撃を凌ぐが、それは唐突に終わりを迎える。

背後を守ってくれていたバクゥが爆散。

振り返れば、あの戦車モドキ。

ブースターから伸びたマウントされた2門の滑空砲と、両腕の砲身がそれぞれ煙を上げている。

その隙を取られ、俺の前面を守っていた副官のドムが全身を穴だらけにされ、更に頭を凶悪な杭で刺し貫かれていた。

追撃しないのは、遊んでいるのだろうか。

 

「お前等の攻撃は軽すぎなんだよぉ!!もっとドカンと行かなきゃなぁ!!」

「わかった!!!もっと強くって事だよね?!」

「はぁ?!弾幕こそパワーだろぉ?!」

 

やはり、子供の幼い声だ。声変わりもしていない幼い声で笑いあい、罵りあっている。

それだけなら、良い。だがこの状況では無かったら、だ。

突然湧いた怒り、馬鹿にされているという感情。敗北した俺の前で談笑されるという屈辱。

そんな黒い想いが爆発し、機体を動かす。まずは1番モロそうな4つ脚。引き抜いたヒートサーベルで一気に間合いを詰める。あとは振り下ろすだけだ。

だが、そこで俺の視界はブラックアウトしていた。

 

消える瞬間に聞こえたのは、遠くから聞こえる悪魔達の笑い声だった。

 

※※※※

 

最後のドムが俺の弾丸でコクピットを貫かれ爆発するのを確認し、切っていた無線をオンにする。

途端に聞こえるのは笑い声。

 

「あーあ、今ので最後の獲物だったのに。取られたじゃん。茶輔が煽るからー」

「だってよぉ?お前ら火力なさすぎだもんよ」

「隊長に褒めてもらえるかな?!僕、すっごい頑張ったもん!!」

「あ、そういや隊長だね。最後の。さっすが超スナイパーだよね。場所全くわかんね」

「だよなぁーアレずっこいけどつえーもんよぉ」

「たいちょおおおおお褒めてええええええ!敵いっぱい倒したよおおお!!お腹治ったああああ?!」

「「うるっせ」」

 

無線から聞こえる3人の声に俺の胃腸がピンチです。

あぁ…今の人達は本当に申し訳ない事をしたなぁと、ため息とともに口からでる。

最近、独り言が増えた気がする。だれかこの苦労を共有してはくれないだろうか。

山岳地帯の一角、戦場となっていたところからは、ゆうに7キロは離れた丘陵地。

その丘の上で射撃体勢を取った機体の中で、もうここから動きたくないという思いに襲われている。

仕方が無しに機体を起き上がらせ、迷彩マントの効果を切り無線越しに彼らに呼びかける。

俺の居場所当てクイズをしていたらしい子供達は全く違った方を指差しており、いまにも飛び出していきそうだったからだ。

全く。本当に、困った奴らだ。

白頭のグリモアを先頭に、手を振りながら近づいてくる彼らを見る。

 

また胃がキリリと痛んだが、楽しそうな彼らの声は不思議と心地が良かった。

 

 




千恵「あ、アレ?ぼ、僕の機体説明は?!」
八神「今度な、今度。…はぁ…」
茶輔「ケチンボだなぁ。隊長は」
京谷「やーいケチンボー」
八神「お・ま・え・らあああああああああ!!!」

茶・京「「ニゲロー!!」

千恵「あ、まってよー!じ、次回!奮闘記第2話!は、はじめての共同作戦!!お、お楽しみね!」


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奮闘記:2 はじめての共同作戦

止まるんじゃ、ねぇぞ…
今回オリジナルキャラが追加参戦します

感想・評価が餌になります!どしどし下さい!!


あの戦闘というか一方的な喧嘩というか遊びのようなナニカの翌日。

久しぶりにGBNのメインロビーにきていた。

普段のログイン先はマゼラン基地にしているため滅多に拠らないところだが、今日は違う。

目的は子供達と、今回の仕事相手の顔合わせだ。

立ち上げ以来の大掛かりな仕事内容で、しかも4人で来てくれという匿名の依頼。

胡散臭さが鼻につくが、前金の支払いが良かったから一応の信頼を寄せていた。

それに、普段からあの砂漠にこもってやたらに因縁つけて攻撃したり、模擬戦と称したじゃれ合いばかりをしている訳では無いのだ。断じて違う。そんな野盗みたいなフォースじゃないのだ。

…俺はな!!

そんな俺のフォース【グリズリー商会】の主な活動は、物資の運搬から戦力補助だ。

有り体に言えば傭兵家業なんだろう。便利使いされるのは慣れてるが、給金応相談。

胃痛に優しい仕事なら喜んで引き受けます。来たれ新入社員!!俺の苦労を分かち合える同志募集!!!

頭の中で叫んでみても、眉間に皺が寄り厳つい顔が更に厳つくなるだけでなんだか悲しくなってきた。

…あぁ癒しがほしい。世の母親達はこんな風に感じているのだろうか。凄いな母親。

 

「うっおおおおすっげええええ!!そういやここって、こんなに人いたんだよな!!!!なんだアレ!!デケェ顔!!!」

「うわぁ…オイ京谷。みろよあのキャノン砲めちゃんこカッケェ。ほしいんだけど」

「あ、あ。ちょ、ちょっと!はなれたら危ないよ!隊長、まって!はやいよっ!」

「それ、ちがう人だぞ千恵。隊長こっちじゃん?」

「ヒッ…ご、ごごごごめんなさい」

 

大丈夫だろうか。俺の胃腸は、大丈夫なんだろうか。

好き勝手に駆け回る2人とべったりな1人。テーマパークにきたお父さん気分だ。

そうか、だからあんなに疲労した顔なのか。俺、納得。

ため息がまた口から漏れそうになるが、ここはグッと我慢する。

子供達や、これから会う相手に疲れた顔を見られたく無い。

それに、周りの人達の無遠慮な視線もある。

それは目立つだろう、お上りさん丸出しの子供3人が軒並みAランカーなのだから。

主に砂漠での襲撃戦を繰り返した結果、溜まったGPと撃墜数でこうなったんだろうが。

流石に悪目立ち過ぎだ。仕事相手に迷惑にならないといいのだが。

 

「あっらぁ?八神じゃなぁい?!随分ひさしぶりじゃない!!」

「珍しい友に会えるとはな、来てみるものだ。元気にしていたか?八神。」

 

背後から聞こえるのは懐かしい声。甘ったるい声だが、いやにハキハキしていて不快感は無い。

何より見た目のインパクトで忘れるはずが無い。最近は初心者の支援に熱を上げているそうだ。

そしてもう1人。

ほんとうに久しぶりだ。この男と、またこうして会えるとは思わなかった。

知らないダイバーは1人も居ないであろうその男。

現在GBNでのトップ・オブ・トップ。

2人共、俺がまだランキング戦に固執し好き勝手に戦っていた時からの仲だ。

あの頃は、顔を付き合えば言い争っていたというのに今では先に笑顔が浮かんでいた。

 

「ほんとうに、久しぶりだな、2人共。あれから3年か?早いもんだ」

「ほんとによ!もう!連絡もしないし!場所も教えてくれないし!!」

「いや、キミらしいさ。でも、ランキング戦に来なくなったのは本当に驚いたよ」

 

久しぶりの同級生との会話が弾んでいる中、胃にドカンと響く聞き慣れた声。

そんな大きな声で叫ばなくても良いだろうに、周囲の注目が全部こっちにきてるからな?

 

「おーい!たいちょ…うわぁぁ!!チャンプ!?!?」

「うっわぁ…生チャンプじゃん。すげぇーつよそぉー…戦いてぇー」

「こ、こわい」

 

それぞれの反応。というか予想通りの反応だ。

千恵に至っては2人の姿を見てから、俺の背中にしがみ付いて離れない。

蝉かお前は。

突然の事に目を丸くした2人を余所に、ちびっこギャングを両手に抱える。

腕の中で暴れるが俺の腕力には敵わないのだ、参ったか悪餓鬼め。ついでに振り回してやろう。

そんなやりとりが可笑しかったのか、驚き顔の2人が声を出して笑う。

 

「ちょっとーもー!すっかりパパじゃない!前に相談に乗った子供達よね?!紹介しなさいよぉ!」

「なんだ、知っていたのかい?…そうかキミ。彼らが引退理由だね?いやぁ楽しそうで何よりだよ!」

「「おろせー!!」」

「め、目が回る…」

 

ダメだ、ちょっと持ち上げたぐらいじゃアトラクションと変わらない。余計騒がしくなってしまった。

それにこの2人にも笑われてしまいなんだか恥ずかしい。

幸いにもまだ待ち合わせには時間があるので適当な店の個室を借りて大人しくしよう。

しかし、皆なんでこんな嬉しそうな顔するんだ。そんなに俺の仏頂面が面白いのか。

 

※※※※

 

「そうか、そんな事だったとはね」

「黙ってて悪かったよ。だが俺にも余裕が無かったんだ。許せよ」

 

ここはチャンプ行きつけのカウンターバーらしい。

暗く落とされた照明に落ち着いた雰囲気。

手入れの行き届いた店内、マナーを守りこちらを詮索しないマスターと客達。

素晴らしい店だ、贔屓にしようと心に決めた。…子供達には内緒にせねば。

そんな雰囲気をぶち壊してしまう子供達といえば、今は彼女に連れられ様々な場所を見て回っているだろう。

それぞれの紹介を済ませた後、彼女から引率を買って出てくれた。

全く相変わらずに気の利かせ方が上手い奴だ。すこしお節介すぎるが。

お節介といえば俺の隣で涼しい顔をしてるコイツもだ、あの頃から少しも変わっちゃいない。

何かと声をかけてくるコイツを最初はめんどくさい奴だと思った。

だが、こうして年月が離れた後に改めて会うと分かる。

本当に強くなりやがった。

 

「お前、強くなったよな」

「そうかな?まだまだ強くなるよ」

 

グラスを空けながらサラッと答えるコイツの性格が嫌いだった。

俺はあの時、何を焦っていたんだろうか。

そんな受け答えも今は懐かしい。あぁ…このままこの気持ちで別れたいものだ。

俺の中でチリチリと燻っている火が燃え上がるの感じながら、グラスの中身を一気にあおる。

そろそろ、仕事相手との待ち合わせ時間だ。俺は頭の中を切り替え右手を差し出す。

少し驚いた顔を見れば、コイツに一発かませられたのだなとニヤリと笑う。

だが、涼しい顔を戦士のソレに変えながら握り返す手は力強い。変わってねぇなぁ本当に。

 

「またな、今度はこっちに遊びに来い…お前らはその…ダチ公だ」

「っ…!あぁ!またな友よ!」

 

そうやって扉を先に出た俺は、早足に待ち合わせの場所に向かう。

子供達には連絡してあったが、彼女が子供達をコントロールできるわけが無いと心配している。

ならば、自然と早足になるというものだ。

だが、俺の予想は完全に裏切られたのだった。

 

「あ、おせーぞ隊長!!!2分遅刻だ!罰金だ!!肩車して!!!」

「俺はホットドックでいいよぉ特大なぁー」

「あ、お、おねぇさん。も、もう降りますから!下ろして!!」

「えー?まだだっこさせなさいよぉ!あんな熊ゴリラよりぃワタシのほうがいいでしょぉ?!」

 

なんだアレは。すっかり懐いてるというか…言うことを聞いている、だと…。

それぞれちゃんとベンチに座りながら、ソフトクリームで口を汚している。

お前ら、何で俺の時もソレができねぇんだ。

千恵に至っては膝の上でガッチリホールドされてやがる。そこまでさせるなんて中々出来ないぞ。

というかその服はなんだ。フリフリのついたリボンに空色のワンピーススカートじゃないか。

京谷は限定コラボアイテムで人気テレビ番組の変身ベルトだろ、高いぞソレ。

茶輔はバーガー食いながら機体整備してやがる、悪い予感しかしねぇ。

 

「隊長、みろよ!!あのおねぇさんが千恵の服えらんだんだぜ!!俺もコレ買ってもらった!カッコいいじゃんね!このベルト!!」

「俺はグシオンリベイクフルシティのバックパックだぜぇー良いだろぉー!」

「た、たすけてぇー隊長ぉ〜女の子にされるぅぅぅ」

 

なんというか、満喫してんなぁお前等。

もう、帰りてぇなぁ。これから仕事なんだよなぁ。

無理だよなぁ。

深いため息が漏れるのを見かねた彼女が笑顔を向ける。

 

「ちゃんとパパしてるのね、八神。安心したわ」

「パパって呼ぶんじゃねぇよ。まぁ…しかしかわらねぇか…」

 

そんなやり取りを不思議そうな顔で見つめる3人。千恵はなんとか逃げ出したようだ。

アイツとも交わした握手を彼女とも終わらせ、子供達を連れて歩き出す。

途中で自分の服装に気づいた千恵がからかわれながら着替えるという悶着もあったが、なんとか待ち合わせの場所に到着する。

これからが大変なんだが、こんな時間もたまには悪くないかもなと思い始めている俺がいる。

本当にたまに、だが。

 

※※※※

 

待ち合わせ場所に着いた俺達は黒い軍服達に囲まれ専用格納庫の一室に通された。

その間、何か失礼な事はされなかったが子供達も少し緊張した面持ちで大人しくしていてくれたのが助かった。

埋め合わせに何を要求されるかわかったものじゃ無いが。

約束の時間5分前、待たされていた部屋の扉が空くのを察知し、立ち上がりながら出迎える。

そしてまた、驚いた。

今日はどうやら、そういう日らしい。

 

「やぁ、八神・グリーズ君。久しぶりだね」

「な、団長…!まさか貴方だとは…」

 

扉の奥に立っていたのは、また懐かしい顔。

白イタチの姿に軍服をしっかり着こなし、頭の上に被った略帽。

本当に、あの頃のままの姿だ。当時の記憶が蘇ってくる。

GBN内で彼のフォースはあまりにも有名だった。

「第7機甲師団」

この名前はあのチャンプと同じぐらいの輝きを放っている。

先の大会ではチャンプのフォースと熾烈な戦いを繰り広げていたのだ。

目の前の彼はその団長であり、俺の元上官。

感慨深く思い出に浸っている俺の脳天から冷やすのは彼らしかいない。

 

「白い!!!なんだ!!イタチか?!オコジョか?!うまそうだ!!」

「…イタチって食えるのかなぁ。肉少なそうだぜぇ?」

「煮鍋ならいけんじゃね?」

「か、可愛いねぇ。抱きしめたら、ふ、フカフカしそうだねぇ」

「「わかる!」」

 

あまりのショックに動けなくなってしまった、限界まで痛くなる胃腸が警報を鳴らしているが目の前にいる元上官の手前何もできない。

そんな俺を見かねて助け舟を出してくれたのは、後から入ってきた影だった。

 

「チィーーーッス八神ちゃーん。元気してた?アタシだよ!今回の仕事はアタシらと共同でやってもらうからね!!足引っ張んじゃないよ!」

「ゲェッ!!し、シズク教官殿ぉ?!」

 

更に胃腸がマッハだ。なんだコレは。

そんなやりとりを見て団長は盛大に吹き出していた。

子供達もそんな俺を見てまた笑っている。

 

 

誰か、誰か助けてくれ。胃薬はどこか。

 

 

 




茶輔「隊長のあの顔見たか?超おもしれぇのなぁ」
京谷「けっさくすぎだ!でもあの女の人だれなんだろな!」
千恵「フカフカ…モフモフ…」
八神「誰か…俺の心配をしてくれ…」
京谷「千恵はもうあの格好しねぇの?カワイーじゃん?」
千恵「…ヤダ」
茶輔「うおっ…コエェ…。まぁいいや。次回!奮闘記第3話ぁ!!鬼教官シズク!!つぇえのかな?」



※シズク教官はオリジナルキャラです


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奮闘記:3 鬼教官シズク

共同作戦は…いつになったら始まるのか…

沢山の閲覧感謝です!!!書いてて楽しく、読んでて楽しい作品を目指して頑張ります!!!


彼女との出会いは、俺が入隊した時まで遡る。

まだペーペーな俺は同期で入ってきた奴らを侮っていたのだろう。

体も大きく操縦の腕も同期では頭1つ抜きん出ていた、お山の大将とは俺の事だった。

そんな行いをしてれば、自然と人は寄り付かない。

だが、そんな俺に何かと歯向かう同期が1人。

それが、シズク・バーンズ。今では鬼教官のシズクと呼ばれる新人育成教官。

俺がこんな調子だったからか、全く出世しなかった。

だが、彼女はそんな俺を他所にメキメキと上達&昇進。いつのまにか開いた差は歴然だった。

それが更に気に入らず、荒れる日々。個人ランキング戦に籠もりきりになり、部隊にはほとんど顔を出さなくなっていた。

そこに舞い込んだのが、俺専用の更生プログラム。

もちろん言い出したのはシズクだ。

このまま腐らせるには惜しいとかなんとか言っていたのを覚えている。

その時は随分生意気な事を言うものだと食ってかかったが、いざ戦闘が始まればその実力は本物だった。

教官になる少し前まで最前線のしかも団長直属の切り込み隊を率いていた彼女は、まさに女傑となっていたのだ。

こうなっては従うしか他は無い。その後は地獄の特訓の日々。

やれ装備無しで一週間雪山登山しろだの、やれ釣瓶打ちしてくる砲弾をたった一機で迎撃しろだの、100m先のターゲットに当てろだの。

極め付けは20時間ぶっ続けのシズクと一対一の戦闘訓練。

それはもう…苛烈を極める特訓だ。常軌を逸している。

正直、思い出したく無い。

だがそのおかげか、いつのまにか俺は師団の中でも5本の指に入るほどの操縦技術を手に入れていたのだ。

その事には感謝している、だがそれとこれとは別だろう。

 

「なんだいなんだい?アタシの顔になんかついてんのかい?そう固まる事ぁないじゃないか。せっかく、優しい優しい同期のアタシが仕事をやるっつってんだからサ!もっと喜びなよ、八神ィ」

 

鬼の顔ってきっとこんな顔だ。身長こそ俺の方が高いが、それでも女性では大きい方だろう。

小麦色に焼けた肌で整った顔をしているが、右目に付けられたゴツいアイパッチと肩より上で切りそろえられた白い髪。

黒の軍服を腰で縛っているために、肩が露出するタイトな白シャツから覗く太い腕は傷だらけだ。

その傷跡、わざわざつけたのか。俺がいた時なかったじゃねぇか。

 

「…おっかねぇぞ。あのオバサン」

「黙ってろよ茶輔。それしんじゃうぜ?見ろよ千恵なんか完全に固まっちまってる」

 

そんなヒソヒソ声が聞こえる。それ、本当に言うなよ。俺の腹が物理的に吹っ飛ぶから。

最近の噂じゃ、あのタイガーウルフとガチで殴りあって互角らしいからな?頼むぞ?

冷や汗が額に浮き出ている俺を見かねて声を発したのは、いまだ笑いをこらえている団長だった。

 

「さて諸君。仕事の話に取り掛かろう。」

「オウ。そうだった、そうだった。忘れるところだったよ。で?この子等がお前ンとこのガキンチョかい?」

 

せっかく団長が切り替えてくれた流れをぶった斬る一言。

切り込み隊長は伊達じゃないってか?

凶悪な笑みを浮かべた顔が、子供達に向き直る。ちゃっかり同じ視線にしようとしゃがみながら近寄っていく。

子供達は後ずさらずに胸を張って睨み返していた。あの圧に良く耐えたと褒めてやりたい。

多分、後ずさったら俺のボディに一発良いのが入る。

 

「ガキじゃねぇ。京谷・グリーズだ!」

「強そうだからってナメんじゃねぇぞ?茶輔・グリーズだよ」

「…千恵・グリーズ」

 

あ、いかん。これはいかん、ヤバイ。千恵の緊張がてっぺんだ。

他2人はいつも通りだからまだ良いが、あの眼はアレだ。

機体に乗った時の眼だ。三日月・オーガスみたいになってる。

生唾が喉を通る音が嫌に大きく響き、俺の胃が最終警報を鳴らしている。

ここでは、まずい。

心臓が張り裂けるような緊張感。その均衡を破ったのは、この状況を作った張本人だった。

部屋自体が揺れているんじゃないかと思えるほどの馬鹿笑い。

いや実際に、俺の脚は震えてたのだが。

ひとしきり笑った後、勢い良く立ち上がるシズク。

そうしてこちらに向き直り、俺の肩にそのデカイ手を叩きつけてきた。

そんな予感はしていた、俺は急いで腹筋に全力を込め、次の行動に備える。

が、それはいらぬ心配だった。

 

「3年前のお前にそっっくりじゃぁないか!!!それに良く鍛えてる、度胸も良い。気に入った!…アタシはシズク・バーンズだ!ガキなんて言って悪かったよ」

 

安心しすぎて膝から崩れそうだ。

子供達も呆気にとられている。千恵はいつのまに団長を抱え込んだんだ。

俺と団長のため息が重なり、顔を見合わせる。

お互い苦労させられるなという声に、俺はただ頷く事しかできなかった。

 

※※※※

 

見渡す限りの荒野を疾走する姿を、スコープ越しに確認する。

数は4機。戦闘を駆け抜ける普通の機体より大きなソレは、オレンジにカラーリングされたグレイズアイン。

スペックをフルに改造されたシズク専用機【グレイズ・ペイン】だ。

主に関節部の強化、推進器の増設。あとは隠し腕を備えたバックパックだろう。3本目の腕を見た者はほとんどいない奥の手との事。

また変なモノ作ったもんだ。まぁそれはウチの子供達も変わらないが。

シズクの右後ろをピッタリとつけているのは京谷。

いつもは自由気ままに動き回る4つ脚の【グリモア・オンスロート】が今日は大人しく陣形を維持しているのは珍しい。

右手の巨大スラッグガンでは無く、取り回しのしやすい突撃ライフル。

それに合わせて左手には大型のマシンピストルを装備している。

背面の折り畳みのグレネードランチャーは外してあり、代わりにロケットポッドを2つにしていた。

珍しいといえば千恵もだ。シズク機の左後ろを追いかける白い頭のグリモア、茶輔と同じモスグリーンのカラーが施されている。

右手に巨大な鉄拳「インパクト・ナックル」左手に2連杭打ち機をそれぞれ持つ。

背中の補助バーニアはランドマン・ロディの脚をそう仕立て上げ、合わせて増設された推進器で固められた【グリモア・ランページ】

自分の身体そのもののように動く彼の戦闘方法は、型にはまることが無い破天荒極まるもので、一旦手綱を離せばどこまでも追いかけて行く猟犬さながらなのだが。

それも今はナリを潜めている。

そして殿。シズク機から少し離れた真後ろにつけるのは、茶輔の【グリモア・タイラント】両腕そのものを武器にした機体は、今回の作戦に合わせたのか広範囲に広がる武器では無く速射と連射に特化した武装だ。

右腕の巨大2連装砲は弾速と衝撃力に優れ、左腕の小型ガトリングは連射と装弾数に優れている。

そして問題のバックパックには、先程手に入れたグシオンリベイクフルシティのバックパックを装着。2本の隠し腕は既に展開済みで、それぞれに近接用の武器をもっていた。

右手にガンダムバルバトスのメイス、左腕にショートアックスという出で立ち。

なんだろうな。腕増やせば火力アップって凄い単純だよなぁ。

 

「なんだィなんだィ!随分大人しいじゃないか!!八神ぃ良い子達じゃないか、嘘ついたね?」

 

不意に飛び込んでくる声に一瞬たじろぐが、画面の向こうの彼女の顔は満面の笑みな事に安堵する。そのかわりに子供達の顔は少し暗い。それはそうだろうなぁ、初めて完璧に負けてたもんなぁ。

作戦が説明され、いざ開始しようとした時の事を思い出す。

 

※※※※

 

『作戦はだいたいわかった!でもこの人が見た目通りなのかためさせて下さい!!』

 

言い出したのは京谷だったか茶輔だったか。団長の正体を知って1番驚いたのは千恵だったのは覚えている。

だがそれでも、見下されてると思った彼らの戦闘意欲には既に火が入り今にも爆発しそうだった。その挑戦を受けるシズクも、散々煽りながら準備し始めていた。

団長はやれやれと肩を持ち上げ、俺はただただ慌てていたと思う。

場所を移して仕切り直し、団長の意向で用意された演習場は見慣れたソレ。この地面に何度も打ち据えられたものだ。

きっと今でもこの地面には様々な新人の涙が沁みてると思うと、なんだか俺も泣けてきた。

頑張ってくれたまえとしか先輩の俺からは言えんのだ。

 

『で?3人で来るかい?それともタイマンかい?!』

 

オレンジカラーのグレイズアインが大型アックスを左肩に担ぎ、手招きで挑発する。

それに1番に乗ったのは、京谷でも茶輔でもなく。すでに全開になっていた千恵だった。

ただでさえ緊張のピークだったのに、追い打ちのようにこの戦闘だ。

他の2機を振り切ってフルスロットルでバーニアを吹かす千恵の【グリモア・ランページ】が肉薄する。

背丈が高いグレイズアインに対して、右のダッキングを決めつつ懐まで一気に潜り込み顎に向けてアッパー気味に鉄拳を突き上げた。

それをスウェーで避けるシズク機は、飛び上がった千恵機に対して、返す刀で左腕の大型アックスを振り下ろす。

そのチョッピングに対して、千恵は背面バーニアを一瞬だけ強烈に吹かしあげ、左脚の甲をシズク機の左手首に下から引っ掛け、そのまま一回転し飛び越えるように背面に回りこんだ。

瞬時に後ろに回った千恵は、グレイズから離れようとする機体の慣性の力を無理矢理にバーニアで殺しながら今度は2連パイルで狙いを定めている。

鋭く尖った杭が目指すは、グレイズアインの中でも1番面積の広い胴体部分。

背面に回られた事で反応が遅れたようだったが、長年のカンなのか狙ったのか。

カウンターの如くシズクは右脚の踵から後ろ側に向けて蹴り上げていた。

猛禽類の爪を彷彿とさせるその脚が既に加速し始めた千恵に襲いかかる。

さすがの超反応も、この体勢ではできない。

 

『アッハ!!』

 

千恵の笑い声が聞こえる、やっと本調子になってきたようだった。迫り来る爪に全く恐れていない声。

知らずうちに自分の拳に力が入っていたのだろう、今でもあの熱は忘れられない。

そんな俺の、声にならない応援に呼応するように千恵機はその場で全身を右に高速回転させる。

攻撃の方向に合わせた回転で致命傷は避ける。

…が、右腕の鉄拳とバーニアの一部がシズク機の爪先が掠り、そのままバラバラに破壊される。

一撃の重さが並の機体を凌駕しているのだ、どんな改造施しやがったのか。

空中でバランスを崩し、そのまま地面を横向きに転がる千恵機。

だがその状態のまま起用に腕だけでジャンプし距離をとろうとしていた。

その着地の隙をシズクが見逃す訳がない。

踏み込む速度に推進器の加速を合わせ、離れた距離を一気に詰める。

だが、シズク機の左腕の装甲が爆発。

 

『お前等だけでぇ!楽しむんじゃぁねぇぇよぉぉぉぉ!行くぞ、千恵ぇ!京谷ぁ!!』

『おっしゃぁぁ!!俺たちが負ける訳ねぇだろぉぉ!!合わせろ千恵!』

 

シズク機を中心に置き3機が左螺旋を描き始める。

そしてその渦をどんどん狭めながら、茶輔の【グリモア・タイラント】と京谷の【グリモア・オンスロート】が迫っていく。

そこに体勢を整えた【グリモア・ランページ】が加わり攻撃が始まった。

攻撃の口火を切るのは茶輔機。全速力で左にサテライト起動を描きながら、左腕のガトリングと右腕のグレネードの砲身が銃弾を吐き出していく。

その射線を避けるように茶輔機の後ろに回りこんだ京谷機が、両手のマシンガンを乱射する。

壁の如く貼られた弾幕に、さすがに堪らずシズク機は両手をクロスさせ防御する…が。

防御の前にアンダスローで持っていたアックスを投擲。

その攻撃に対して、茶輔機と並走する京谷機が右背面の折り畳みグレネードランチャーで迎撃する。

そのまま発射の反動をあえて押さえ込まずに、逆に利用し機体自体を回転させ、そして茶輔機と逆のサテライト軌道にスムーズに移行しつつ乱射を再開。

京谷機と別れた茶輔機は、破壊されたアックスの残骸など気にも止めずに攻撃を続行。

グシオンリベイクフルシティのバックパックの隠し腕に持つ銃剣付きライフルと、マシンピストルもそれに加えていく。

そして、それらの攻撃自体が囮。

空中に飛び上がった千恵機が、垂直落下とバーニアの推進力を合わせて2連杭打ち機に取り付けたニッパーシールドを展開し迫る。

サイクロンのような濃密な弾幕、その中心部。

台風の目に縫いとめられたシズク機には動けるはずもなかった。

そしてその真上からは砲身から飛び出た銃弾のようになった千恵機。

これ以上無いほどの連携。

普段はただ闇雲に暴れるだけだがいつのまにこんなコンビネーションができるようになっていたのだろうか。

だが、相手はあのシズク。そんな簡単に終わらない。

徐々に狭まる弾幕の中、防御した腕をそのままに垂直に飛び上がる。

そうして、一瞬でも弾幕から逃れたシズク機の背中から通常MSの脚ほどの長さの三本目の腕が展開。

ガンダムヴィダールの脚を改造したのであろうソレが、ニッパーシールドの刃を突き刺そうとしていた千恵機を無造作に掴み締め上げ、真下に向けて叩きつける。

吹き飛んだ千恵機の先にたのは、ちょうど茶輔機と京谷機が重なりあうその場所。

3機の正面衝突による爆発はそれは派手なモノだった。

相変わらず、無茶苦茶だったアイツは。

子供達もよく戦っただろう、良いガス抜きもできたのではないだろうか。

演習場から帰ってきた3人の顔をそれぞれ見てやると、かなり不満があるようだった。

先ほどまでの戦闘データを繰り返し確認しながらコンビネーションプランを練ってる姿は、いつもの3人ではないような気さえした。

 

「さて、そろそろ襲撃ポイントだ。諸君…派手にやろう。」

 

無線から発せられる団長の声で回想から呼び戻された俺は一層気を引き締めてスコープ画面に注力する。

 

アイツらが誇れる俺になるために、だ。

 




千恵「…。」
茶輔「……。」
京谷「………。」
八神「一丁前に拗ねてやがる。やれやれ、…次回!」

シズク「だらしがないねぇ!もっとシャキっとしナぁ!!
次回奮闘記第4話!!鉱山攻防戦!!!アタシとヤリてぇ奴は前に出な!!!!」

八神「…お、俺の出番はまだなのか…」


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奮闘記:4 鉱山攻防戦・前編

今回は2部構成。

沢山の閲覧ありがとうございます!!!感想もお待ちしてます!!!


荒野を走る4機が、襲撃ポイントである高台へ到着する。

それを確認したあとに、俺も狙撃ポイントへ急ぎ移動を始める事にする。

俺が今いる場所は、荒野から数キロ離れた熱帯森林地帯の中。

このフィールドは荒野と森林地帯が綺麗に二分されたマップ構成になっており、中心部にタライを裏返しにしたような鉱山から西側が荒野、東側が熱帯森林と別れている。

目指す場所は鉱山、今回の仕事はそれが目標だ。

そう、この鉱山の奪還こそが団長達から依頼された仕事の内容なのだ。

目標である鉱山は、レートの高い換金アイテムが数多くドロップする当に金脈。

組織として大きくなってきた第7機甲師団は、喉から手が出るほど確保し独占したいのであろう。

問題は立地だった。第7機甲師団が保有していた領地のすぐ近くに存在しており。

同じく近くに拠点を構えていた敵対するフォースとその所有権を巡って、日夜紛争を繰り返していたのだ。

俺達のいる砂漠同様、フリーバトルの制限が無い所だったのも拍車をかけていたのだろう。

しかしチャンプ達との決勝戦を控えていた事が仇となり、主力が抜けていたその隙を狙われてしまう。

残された部隊達は懸命に戦ったそうだが、残念な事にの領地となってしまっていた。

 

「そんな作戦に、なんで俺達を?」

「簡単な事だよ八神君。チャンプ達との闘いで、我らの主力は改造と訓練に時間を割きたいからだ。それに、シズク君が新人の育成を兼ねたいと聞かなくてね…」

「本当の実践に勝る経験は無いからねぇ。それがあるか無いかで決まるのがフォース戦って奴サね」

 

つまり新人の育成もしたい、しかし負けたくも無い。というわけだ。だが、それなら何故こちらの部隊にシズクがいるのかが謎だ。

前線で指揮をしながら訓練をしたほうが確実なのではないだろうか。そんな疑問を投げかけると返ってきたのはぼやきに近いものだった。

 

「アイツ等の今回の訓練は、アタシの教育の最終試験なのサ。受けた作戦の中で、自分達で遂行するにはどう作戦を立てればいいか。そして自分達以外の部隊との連携が課題なわけ。これぐらいサクッとやってほしいんだけどネェ。」

 

そんな愚痴とも言えるような答え。続けて「アンタみたいな根性ある奴が少ない」との事だ。

どうやら、俺の更生プログラムはその後の育成プランとして立ち上げていたものだったらしいが、俺以外はほとんどクリアできなかったそうだ。

そりゃそうだろうな。アレを新人訓練にやらせたら、そりゃ鬼教官と呼ばれるわ。

そしてその問題の新人部隊はどうしているかというと、このフィールドの敵の探知範囲ギリギリの最外縁に沿って既に進攻済み。

ちょうどシズク達4機と挟み討ちをする形で布陣しているという、

新人部隊の総勢はのべ20機。ちょうど5部隊分の戦力だ。

そして対する敵対フォースの総勢は約30機強。

数的不利な状況ではあるが、それを覆すために俺たちがいる。

だが、あんな状態で戦えるのだろうか。いつもなら耳が痛くなるほど騒がしい子供達がまるでお通夜状態だ。

いざ始まればいつもの調子に戻るだろうが、このテンションはいただけない。何か発破をかけてやらねばと言葉を探していると、沈黙を破るように茶輔と京谷が騒ぎ出す。

 

「ああああああああ!!!!冷凍庫にアイス入れんの忘れたぁ!!!」

「ああああああああ!!!!そういや録画!!!!ライダーの録画が!!!!」

 

一瞬、何を言ってるのかわからず呆気に取られる。

何、お前等それ考えてたから黙ってたのか?

てっきり先程の戦いで負けた事がショックだったのかと思っていたのだが。

 

「オイ、千恵!帰ったらアイス買いに行こうぜぇ」

「そうだ、ぬけがけしたお前のおごりだかんな!!」

「えーーー!!!ぬけがけはごめんってば!!でも茶輔は僕におこずかい借りてるし、京谷は昨日の夕飯にハンバーグあげたじゃん!!!」

「「覚えてやがったか!!!」

 

にわかに騒がしくなる子供達に、俺は一体何を心配していたのだろうかと頭を抱える。

そうだった、彼らは負けた事でいちいち落ち込むようなタマではなかったじゃ無いか。

そんな殊勝な心があれば、俺の胃は無事のままだっただろう。

 

「お前等…大人しくしてると思ったら…」

「え?俺はバーガー食ってただけだよぉ?」

「俺はベルトで遊んでたー!オートパイロットできるし!隊長!隊長!!コレすげぇイイよ!!」

「ぼ、僕は夕焼け空が綺麗だなーって…えへへ」

 

よし、お前らには金輪際心配なんてかけてやるもんか。

子供達のそれぞれを聞いたシズクは大爆笑、団長すらも無線越しに笑いを堪える始末。

なんで俺だけこんな頭を悩ませていたのか、凄く馬鹿らしくなってきた。

そんなやりとりをしていると、鉱山の裏手で盛大な爆発がおきる。どうやら始まったらしい。

そう、本部隊は陽動。囮として入り口付近で派手に戦ってもらう。

その背後を俺達が奇襲するというシンプルな作戦だ。

 

「おっぱじめたね?よっしゃぁ!!野郎供!!派手に行こうじゃなィか!!!」

 

シズクの号令に、子供達が大きな声で呼応する。

教導機を務めるシズク機の突撃に合わせるように3人が戦場を掻き回し始めた。

完全に虚をつかれた形になった敵方は、にわかに浮足だってしまったようだ。

それはそうだろう、前線に戦力を割いているとはいえ、まだ20機近くが駐屯しているところにたった4機が襲いかかるのだ。正気の沙汰では無い。

そうやって慌てだした奴から一機一機落とされて行く。俺は狙撃ポイントを適宜変えながらただ撃ち続けるだけ、まるで鴨撃ち状態だ。

まぁ、あんな機体に急に襲われたら誰だってビビるだろうなぁ…。

 

※※※※

 

「伝達!!!敵はどうやら第7機甲師団の本隊の模様であります!数は20機ほどでございます、お館様!!」

「むむ、彼奴等め!性懲りも無く攻めてきおったか!お館様!ここはうって出るべきかと!!」

 

鉱山内部に作られた我が居城「風雲武田城」その最上部。

天守閣の間に集められた我が精鋭の臣下達がそれぞれ闘志を燃やし活気付く。

それはそうであろう、あの知将が率いる部隊からやっとの思いで奪いとったこの鉱山。

なんとか鉱石の運搬も始まり、そろそろ商いに手を広げようとしていた矢先のこの戦。

負けるわけにはいくまい。

 

「よし!!!!出陣じゃぁ!!!支度せい!!!伊達は右翼!近藤は左翼から攻め立てろ!島津と徳川はそれぞれ前に出て貰うぞ。奴らの侵攻の足止めじゃ!本陣の守りは真田と本田に任せる!!疾きこと風の如く!侵略すること火の如くじゃぁ!!!」

「「「「はっ!!!」」」」

 

臣下達が持ち場につく中、ゆるりと手を伸ばすと傍に侍っていた女中のお蝶がお酌する。

グイと煽ると喉を焼く心地良さ。そう、ここで負ける訳にはいかないのだ。

この鉱山で集めた資金を使い軍備を整え、そしてゆくゆくは我の国を起こすのだ。

あの知将を下し、そのまま頂点へと登る。そうすれば全てが思いのままだ。

崩れそうになる顔を意識の力で押しとどめ、力強く立ち上がる。

 

「我が名は武田!!武田・ゲンシンである!!この戦から始まるのだ。我が野望を止められぬものかぁ!!!」

 

天守閣から響く声が開戦の合図となり、畳をひかれた床が反転しながら開いて行く。

下からせり出してくるのは戦況を伝える巨大モニターに、オペレーターの臣下達。

我の後ろからは巨大な艦長椅子が登ってくる。その椅子にドカリと腰をおとし周囲を見渡す。

モニター群の前に座る彼らは戦場の様子をつぶさに観察している。

彼らの目は確かな戦略眼の持ち主であり、不測の事態にもすぐに対応できる。

それに加えて我が誇る精鋭達。ここまで共に苦楽を味わってきた彼らに打ち破れぬ敵はいない。

現に戦場を写すモニター群には我が方優勢の文字がデカデカと表示されている。機嫌が良くなるのを自覚しながらも、むやみやたらに銃を乱射し突撃を繰り返す敵方には不快感を覚える。

全く、知将も落ちたものだ。チャンピオンに敗北し余裕がなくなったのかのようなお粗末な闘い方だ。ならば引導を渡してやるのが武士の情けというものよ。

 

「本田と真田に伝えよ!!すぐさま本陣から出陣し蹴散らせとな!!」

 

張り上げた声へ返事を返す彼らも勝利を予感してか、満面の笑みを浮かべている。

が、その雰囲気をぶち壊す凶報をオペレーターの1人が叫ぶ。その顔は周囲と真逆に青ざめていた。

 

「お、お伝えします!!!さ、左翼の近藤様が!討ち死に!!!討ち死にでございまする!!」

「何?!何が起きたぁ!!部隊は!!彼奴の真選組はどうなったぁ!!!」

「お味方は全滅!!!!全滅でございます!!!開戦後に左翼背後より急襲してきた謎の機体4機に12機全てが破られました!!」

 

ありえない事であった。近藤が乗る【虎徹頑駄無】とその部隊『真選組』は個々の力はともかく、集団戦での戦は我が軍最強であったはずだ。それが、破られた?ありえん!!!ありえんぞ?!

左翼の戦場を急いでモニターに呼び出させると、確かに彼らがいた戦場は火の海と化していた。

薙ぎ払われた木々に抉られた岸壁。破壊された土嚢が錯乱し、極め付けはいったい何がどうやったらそんな事ができるのか、巨大なクレーターまでができていた。

しかし、そんな状況であったなら叫び声の1つも聞こえるはず。それが、無い。なぜだ??

その瞬間。戦場を写していたモニター群の画面が、右端から侵食されるように砂嵐になっていく。

オペレーター達の悲痛な叫びが天守閣の中でうねりとなり木霊する。

 

「な、なにが。なにが、おきているのだ…」

 

消え入りそうになる声に答えてくれる者は、誰もいなかった。

 

※※※※

 

その日は、いつもと変わらぬ日であった。いつも通りの哨戒任務。鉱山の周りを警戒しながらいつものルートで巡回していく。

先の戦いでそれなりの戦果をあげた俺はお館様の目にとまる事になる。

晴れて足軽李衣王(リーオー)から、武者李衣王(リーオー)への機体へと配備されたのだ。待遇も武装も良くなり心は晴れやか、足取りも軽いものだった。

そしてなんと部隊も任されるようになり、一層の忠誠をお館様に誓うのだった。

そんな日であったのだ。

それが、一瞬前の事。

はじめに聞こえたのは、どこからか聞こえる子供の笑い声だった。

部下の足軽李衣王達が当たりを見回すが、すでに日が落ち始めた森の中。捜索は困難だった。

 

「隊長、戻りましょう。きっと気のせいか何かです。探知にも何もありませんよ」

「そうですぜ、さっさと戻って交代するのが吉ってもんでさぁ」

「気味がわりぃが…しゃぁなしでしょう。これぐらいが限界とちゃいますか?」

 

臆病風に吹かれたようで癪に触るが、確かに限界だった。それにどうやら鉱山の入り口では第7機甲師団と思われる輩が確認されたらしく、合戦の準備も始まっている。

妙なモノに付き合って戦に間に合わないというのは恥である。

 

「よし、ここは一旦戻りお館様の指示を…」

 

そう言い踵を返した瞬間。

1番森に近く真後ろにいた部下の反応が消える。声をあげる事も無く、爆発音も無い。

コクピットを一撃で射抜かれたのだ。粒子となって消えていく部下。

その最後の光が消える前にもう一機。射撃音は聞こえない。慌てて本部に連絡を入れようと通信機を入れるが帰ってくるのは無音。ジャミングされている!しかもただのジャミングでは無い。普通に妨害しただけならば本部が気づかない訳が無いのだ。それが無いという事は…!

最悪の状況を考え、残り1機となった部下と背中を合わせる。

せめて、せめて部下だけでもここから逃がさなくてはいけない。そして本部に危機を知らさねば。

そう部下に伝えようとするが、その部下はすでに事切れ消えかかっていたのである。

 

「な…!!ちくしょぉ!!!どこに…!!」

 

冷たい悪寒が背中から感じる。センサー感度を最大まであげたその時、探知機が反応する。

それは真後ろにいた。

いきなり機体が動かなくなる。背後から何かが俺の機体を羽交い締めにしたのだ。

必死で手足を動かそうとするが反応が無い。何故だと機体の状態を確認すれば、手足を動かす動力部分のケーブルが切られているのだ。

 

「痛みというのは大事な信号だ。それが無い、というのは困ったものだよな。俺の腹も痛みの信号を送らないでほしいよ」

 

密着した事でできる超短距離の無線が耳に飛び込んでくる。地獄から這い出てきたかのような底冷えする声だ。

しかし腹が痛いのだろうか、妙なぼやきも聞こえる。

だが、問題はそこじゃ無い。

こいつは、この機体は。完全に周囲の風景と同化しているのだ。

 

「き、貴様何奴だ!!!まさか第7機甲師団か!!!こんな手をつかうなどひきょ…」

 

最後のセリフは言わせてもらえなかった。

コクピットを突き破ってきた大型の単分子ナイフで一突きされてしまったからだ。

あれは…いったいなんなのだ、まだ膝が笑っている。

 

※※※※

 

「逃げないでよおおおおおおおおお!!当たらないじゃないかあああああっ!!!」

 

まるで悪鬼のような猿声が響く。その声の前にまた部下が1人倒れて行く。

どうして、どうしてこうなった。

俺達『真選組』は、敵を押しとどめる前線部隊の左翼を任された精鋭部隊。

右翼の伊達殿と協力し、敵を挟撃し一網打尽にするはずだった。

だが、これはどういうことだ?!

武田・ゲンシン殿率いる『武田機甲軍』の中でも、集団での戦は最強とされる我が真選組が既に半壊状態。

本丸との通信は完全に遮断され、夜の帳が降りた森の中で完全に孤立していた。

原因は、あいつらだ。いきなり背後から襲ってきた正体不明の野盗もどき。

大斧を振りかざし、まるで竜巻のように暴れ部下達を両断していくオレンジのグレイズアイン。

異様に大きい右腕と凶悪な杭打ち機で飛びかかり、こちらを一撃で屠ってくる白頭のグリモア。

4つの脚を器用に使いこなし、この狭く障害物の多い森の中で予測不可能な立体起動で襲いかかる肩と頭が紫のグリモア。

そして両腕自体に重火器を備え、更に背中から生えた2本の腕に巨大な鈍器と斧を持つ、下半身が戦車となったの緑のグリモア。

 

「近藤局長!!貴方だけでもお逃げください!!!!ぐ、ぐわあああああ!!!!」

 

なんということだ、『真選組』の副長が目の前でやられてしまった。

機体の顔面に左側面から投げつけられた大斧が突き刺さっていた。

粒子となって消えていく機体に刺さったソレをその持ち主が無造作に引き抜く。

 

「なぁンだ。鬼の副長とか言われてた割に、呆気がないじゃないか。これなら子供達だけでも全滅できたかもしれないねぇ?」

「敵はぁぁ?!どこおおおおおお!!??」

「なんだよこいつら、ヨエーでやんの。つまんね」

「これで最後かぁ?まじか、まだ撃ってねぇんだけどぉ?」

 

目の前に現れた地獄の獄卒も裸足で逃げ出すような覇気をまとう機体が4機。

暗闇に浮かぶカメラアイの光が更に恐怖を助長する。

せめて一太刀だけでもと愛刀「無敵虎徹丸」を抜き放ち裂帛の気合を込めて突撃。

だが俺の目の前に映ったのは、逃げ切る事ができないほどの弾幕であった。

 

※※※※

 

 

なんとか復活したモニターはたった1つ。だがそれが映し出したのは凄惨の一言に尽きる。

左翼は壊滅。右翼と前線は保ってはいるものの、辛うじて戦えているという体たらく。

更に、この鉱山にある本丸めがけて突撃してくる機体が4機。この戦場の中ほぼ無傷を保っているというのは驚きだが、左翼を壊滅させたのは確実にこやつらだ。

しかし、ありえない!!

我が軍が押されているだと?!ありえん!!!我らはあの知将が率いる第7機甲師団とも互角に渡りあえた精鋭だぞ?!そんな馬鹿な事があるのか?!?!

それがなぜ、なぜたった4機に良いように掻き回されているのか!!気に食わん!!

 

「そんな馬鹿な事がぁ!!あるかぁ!!!!」

 

堪らずに振り上げた拳で肘掛けを殴りつける。乱れた髪を気にしている場合では無い。

あの賊供を狩らねばこも怒りは収まらないだろう。

ならば、仕方がない。アレを起動させるしかないようだ。

急ぎコントロールパネルを呼び出し、起動キーを解除。合わせてオペレーター達にも支持を出す。

 

「かしこまりました!!隔壁封鎖!!各関節および居住空間のロック開始!!」

「武装状態確認!70パーセントを維持!エネルギー状態良好!!」

「お味方に通達良し!姿勢制御開始!!」

 

全てのチェックが終了した事を受けると、座っていた椅子が更に上昇する。

行き着く先は天守閣の天井にあるコクピット。

そこにある操縦桿を握り込むと、久しぶりに身体中の血が燃えるように熱い。

そうだ、我もまた武士(もののふ)であったわ!!

 

「ゆくぞ!!!発進!!風雲武田城改め【武田大・将・軍】!!!!!」

 

最大限まで拡張した無線放送で戦場全域に我が声を轟かせる。

 

「目にもの見せてやるわぁ…この愚か者共めぇぇ!!」

 




八神「…あいつら、ちゃんとやれてんのかな。シズクは心配ねぇとして、アイツらが黙って作戦守るとか想像つかねぇんだけどなぁ…はぁ………。おっと、そうだった。
次回奮闘記第5話。鉱山攻防戦・後編。俺もいっちょ働くとするか!!」


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奮闘記:5 鉱山攻防戦・後編

友人達に感謝と謝罪を。
いつもありがとう、これからもよろしくね


閲覧感謝!これからもよろしくお願いします!!!!(最終回じゃないよ)


鉱山の周りの巡回兵達をたった一機で制圧するのには、流石に骨が折れた。

だが、敵はかなり練度の低い奴らだらけ。楽は楽だがそこが不思議でもあった。

本当にこいつらは、あの団長達と互角に戦えていたのだろうか。

普通に考えて、ありえないほど弱い。

偵察は穴だらけ、情報管理はお粗末。しかも武装は野太刀や槍といった戦国時代のような物。

辛うじてある遠距離武器といえば、カラクリ式の大筒と火縄銃持ちが散見する程度。

白兵戦は確かに素晴らしい練度なのだろうが、いちいち名乗りをあげ射線に飛び出してくるのは如何なものなのか。

 

「新人相手にはそれが効くだろうが…まさか、そういう事か?シズクの奴…エゲツない事しやがる」

 

スコープ越しに更に一機。俺は右翼から攻め立てていた敵の隊長機のコクピットを打ち抜く。

あんな目立つ三日月の意匠のツノ飾りじゃ狙ってくれと言わんばかりだ。

消滅を確認し次の狙撃ポイントへ移動しようとしたその時。

戦場全てに響く声。オープンチャンネルで捲したてるのは、どうやら敵の長らしい。

酷いダミ声で金ピカの羽織と真っ白な着物。

そんな悪趣味な衣装を着たのは巌のような顔に隈取りを施し、能で有名な白獅子に扮した随分と傾いた大男であった。

…なんだ、あれは。

なにやら大声で喚き散らしてはいるが、よくわからん。とりあえずアレを倒せば終わりだ。

こんな茶番は、さっさと終わらせるに限るだろう。

俺は子供達の相手をしている時以上の疲労感を感じながら、無線封鎖リコンを巻きつつ更に鉱山へ進みだす。

だがその瞬間にその目標としていた方向から、もの凄い地鳴りが響く。急ぎスコープの倍率をあげ確認。

鉱山の中腹、盛大に吹き上がる土煙りの向こう側。その中に浮かび上がる巨大な影。

 

「なんつー物を持ち出してきやがった…あれは流石に相手にするのは面倒だぞ…?!」

 

俺は急ぎ子供達と合流する為に進路を変更、全速力で来た道を戻る事にする。

そして、あんなモノを見た子供達の反応を想像する。

…嫌な予感しかしない。

そう思いながら今まで切っていた味方の回線をオンにする。

そこら中から聞こえる新人達の怒声に混じり、時々聞こえる胃にダイレクトに響く声。

絶対に聞き逃せない会話内容。

 

「なんかよぉ変なオッさん出てきたぜぇ?」

「俺知ってる!!!馬鹿トノってい言うんだろ?!テレビで見た!!」

「ちがうね!アレは!!ただの馬鹿だよ!!!!」

「ならよぉお?!アレ、先にぶっ倒した奴が今日の晩飯当番なぁ?!」

「「乗った!!」」

 

ゲラゲラと笑う声を無線が拾う。

ほら、やっぱりな。そうだよなそうなるよな。

お前らはそういう奴らだよ、知ってたよ。でも勝手に突撃していく前に合流できて本当に良かった。

まだ、間に合う。

あんなのに単騎で突っ込ませる訳にはいかないからな。

というかシズクも笑ってないで手綱をしっかり握ってくれよ。

作戦行動前にあれだけ念押ししたじゃないか!!俺の味方はいないのか!!!

また胃がキリキリと痛みだすが、ここはぐっと堪えて移動に注力する。そのおかげか、なんとか飛び出す前に彼らの目の前に追いつく事に成功する、これで大丈夫だ。

 

「あ!隊長だ!!隊長隊長!!たぁーいちょぉぉ!!敵沢山倒したよ?!偉いでしょ?!」

「はー?!ちげぇし俺のが倒したし!!千恵は止め差してねぇからノーカンだし!!」

「とどめってんなら俺が1番だろぉ?!敵部隊長穴だらけにしたの俺じゃぁねぇか!」

「そォいう事なら、アタシが1番だね!きっちり真っ二つにしたのはアタシ!!だからアタシが1番だ!」

 

いや、シズク。いやシズクさん。混ざらないでくれ。これ以上の負担は本当にやばいんだ。子供達のノリで来られたら、俺ではもう収拾がつかないんだ。

ほら見ろ、千恵のやつが無理矢理俺の機体の腕掴んで、頭撫でさせてるじゃないか。

どうにかしてくれよ。

それにな、お前ら状況わかってる?敵の親玉が頑張って見栄張ってるんだよ?見てあげようよ。

あんなでっかい機体で出てきたんだよ?あっちみよ?

 

「きぃさぁまらぁぁ…!!!我を誰だと思っておるかぁぁぁ!!!!」

 

また響くダミ声。正直耳障りも甚だしいが、ここは頑張って興味を引いてほしい。

ホラ、なんか無いのか。子供達を振り向かせられる武器とかは。

 

「しっかしまァ…見てくれは兎も角、立派なもんじゃァ無いか。サイコガンダムとはね」

「えぇ。所々に見える城の意匠を見るに城に変形できるようですな…アダッ!!」

 

同意して補足してたらどつかれた…なんでだ。俺が何をした!

 

「もうアタシは上官じゃぁないンだ!!敬語なんて使うんじゃないヨ!気持ち悪い!!」

「「やーい怒られてやんのー」」

「あぁぁ!!隊長に手ぇだしたなあああああ!?!?」

 

あぁ。早く帰って濃いコーヒーでも飲んで布団に入りたいなぁ。

でもアレ倒さなきゃ、帰れないんだろうなぁ。

現実逃避は良くない癖だと頭で理解しつつ、どうしてもやってしまう。

ダメだ、俺がしっかりしなければ。

そんな事を考えているところに丁度良くあちらから攻撃が開始される。

仮呼称【城サイコ】の指から発射される拡散メガ粒子砲の無差別攻撃。

だが、そんな大雑把な攻撃が当たる訳がない。

それぞれが余裕を持った回避行動を取りながら作戦を伝えていく。

 

「いいか、よく聞け。あの【城サイコ】との距離はまだ遠い。俺が気をそらしてやるからシズクきょ…いやシズクを先頭に突撃機動を取りつつ接敵。その後は足元から切り崩すぞ」

「なンだ。意外と普通の作戦じゃない?まぁ手堅いのもいいものサ」

 

無線画面の向こう側から凄い形相でこっちを見るな。

ただでさえ面倒なのが加速するじゃないか。

 

「わかったよおおおおおお!!!!じゃぁいってくるねええええええ!!!!!」

「あ、また抜け駆けすんな!!待てコラぁぁぁ!!」

「アイツらぁぁ!!先に行ったら俺が不利になんだろぉがぁぁぁぁ!!!」

 

敵のやたらめったらな攻撃の中、ドップラー効果を残しながら突っ込んでいく3機。

俺が!!説明した!理由は!!何だった!!!

 

「本当に元気な子だよ、全く。…正直アンタは良くやってるよ。」

「同情するならちったぁ手伝え…」

「ぷっ…アハハ!!そうそう、そうこなくっちゃ!その顔してる時のアンタが好きだよアタシは!!」

 

そう早口で言い残し子供達の後を追うシズク。

お前もかよ、俺の話を聞いてくれる奴はいないのか。

畜生め、こうなったら八つ当たりだ。

 

操縦桿のグリップの頂点にあるハッチを開け、中にある赤いボタンを押し、右脚を力強く地面に打ち着ける。

瞬間、打ち据えられた地面のフィールドデータが割れたステンドグラスのように爆ぜる。

キラキラと量子化していくデータの下には電子の海。

それが一瞬垣間見えたが、その空間を埋めるように現れたのは多数のハッチをもつ硬質な床。

いや床では無い、これは。

()()()()()()()()だ。

都合36機のミサイル・ハッチ、1つのハッチに装弾されているのは小型トマホーク型ミサイルが十二発。ソレが一斉に敵に襲いかかるという寸法。

これが俺の奥の手。いわゆる必殺技だ。

 

「ああああ!!!もう知ったことか!!コイツで吹き飛びやがれぇ!《イノンブラーブル・メテオール》!!!!!」

 

計432発のミサイルが地面から空高く舞い踊り、流星となって降り注ぐ。

ロックオン機能を搭載したミサイル群は、一心不乱に目標に向かって突き進む。

後は突撃していったアイツらがうまくやってくれるはずだ。

メテオールのミサイル達の軌跡を眺めながら、射撃姿勢をとりスコープ越しに子供達を見る。

千恵の【ランページ】京谷の【オンスロート】茶輔の【タイラント】そしてシズクの【グレイズ・ペイン】が流星群の如き弾幕の中、あの巨大な【城サイコ】に襲いかかるところだった。

 

※※※※

 

「報告します!!!右腕損傷甚大!!拡散メガ粒子砲沈黙!!」

「腹部装甲融解!!もの凄い熱量です!!隔壁456から500まで閉鎖します!!」

「ダメです!!敵機に懐に入られました!近距離銃座の弾幕が追いつきません!!焼け尽きます!!!」

 

オペレーター達の泣き叫ぶ声が遠くに聞こえる。その不協和音の中、自分の腹の内側は煮えくりかえっていた。

なんなのだ!なんなのだ奴等は!!この我が【武田大将軍】の威風堂々とした姿を見て、何故恐れぬ!

それに対して我が軍はどこにいった!直掩機は!!真田の【赤備盾無武者頑駄無】と本田の【最強東照頑駄無】という我が軍最強の矛と盾はどうしたのだ!!!

急ぎ2機の姿をレーダーで探すと、映ったのは無数のミサイルを全身に被弾し消滅する2機の瞬間であった。

唖然とするしか言いようがない。何故だ。あの知将が率いた最強の軍隊とも渡り合えた我が軍が何故?!

 

「何故だぁぁぁぁ!!!何故!!!我は武田・ゲンシン!!最強の将軍であるぞおおおおお!!」

「吠えるな、髭ダルマ。気づかなかったのかィ?アンタが一生懸命に今まで戦っていたのはサ、アタシ等の新人部隊だっていうのにねェ!!」

 

コクピットモニターに映り込むオレンジ色のグレイズアイン。

我が【武田大将軍】の顔面に張り付く不届き者。

だが、今奴はなんと言った?我が相手していたのが新人部隊?

頭の先まで登っていた血の気が一気に引いていく、と同時に闘志が急激に萎えていく。

 

「実際良い訓練相手だったよアンタ達は!でもねぇ…もう役不足なンだよ!!失せなド三品!」

 

そう言いながら大型アックスを振りかぶる不届き者。ただの状態なら容易く跳ね返す事ができただろうが、被弾により露出した機関部に食らえばひとたまりも無い。

これだけは、使いたくなかった。だが、こうなっては仕方がない。

これは最終手段。使えばもう戻れない。

だが、それがどうしたというのだ。

ここまでコケにされた我がプライドにかけて、此奴だけでも地獄に送らねばこの怒りは収まらん。

 

「調子に乗るな!!!雌狐めがぁぁぁぁ!!!」

 

禁断のボタンを拳で叩き割るように押しつける、途端に青いコクピット内部が紫とも黒とも言えない色に満ちる。

そしてわかる、身体の奥から力が湧き上がるのが!!

 

「ふ、ふははははは!天魔招来!!崩天滅神!!!これが【武田大将軍】再改め【武田大魔王】の真の力じゃぁ!!」

 

機体に満ちいる力の本流のままに、半壊した右腕を振るう。

ただそれだけで、不届き者が吹き飛んだ。

なんと愉快な事か!!これからは始まるのは、一方的な蹂躙劇じゃぁ!!

 

※※※※

 

戦いは終始こちらが優勢に進んでいた。

圧倒的な破壊力を持つ【ランページ】の一撃で機体は揺れ、手数と素早さで翻弄し続ける【オンスロート】が一方的に攻撃を繰り返す。

そして正面火力では他の追随を許さない茶輔の【タイラント】がその火力で敵に攻撃の隙を与えない。

そしてそれらの攻撃の間隙を縫うようにシズクの【グレイズ・ペイン】が効果的に露出した弱点を叩いていく。

もう、俺にはする事が無い。あの乱戦に混ざれる機体では無いのだ。

せいぜいする事は、たまに彼らが被弾しそうになるミサイルを撃ち落とす程度だ。

そしてついにコクピットがある敵の頭にシズクが取り付くのが見えた。

やっと、終わる。

だが、にわかに湧き上がるのは悪寒。この手の悪寒でロクな事が起こった試しが無い。

俺は無意識に彼らの元へ全速力で駆け出していた。

このまま終わってくれと祈るしか無い。

 

無情な事に、この悪寒は当たる事になる。

 

急激に周囲の空間が歪み、敵の【城サイコ】から紫のオーラが立ち上る。

アレは、まさか。

 

「畜生!クソが!!ふざけんな!!!マスダイバーかよ!!!!」

 

破壊したはずの右腕が真横に振られ、頭に取り付いたシズクが吹き飛ばされる。

運が良かったのはこっちに飛んできた事だ。

マント広げ全身で受け止めるが俺も一緒に吹き飛ばされてしまう。

片腕と片脚を破壊されながらもなんとか致命傷を避けたのは流石だが、これでは戦闘できないだろう。

せめて、敵の射程外にでなければならない。

瞬間、コクピット画面に映る警告表示。

 

それは目の前まで迫った極太のメガ粒子砲だった。

 

※※※※

 

シズク機がボロ雑巾のように吹き飛ばされ、八神が受け止めたその瞬間に放たれた粒子砲。

それによりロストした2人の最期を見届けていた子供達。

その彼らの精神状態は非常に不安定になっていた。

 

子供達がここにいるのは楽しいからだ。

孤児だった彼らを拾い育ててくれたのは彼だ。

様々な事を教えて、ヒトとして接し、いつも一緒にいてくれたのは。

八神という人間だけだった。

彼らにとってそれが全てであった。

 

八神の笑顔が好きだった。

八神の困った顔が好きだった。

八神に叱られてる時本当に悲しそうな顔を見るのが辛かった。

八神のお腹が自分達のせいで壊れているのが辛かった。

 

そしてその全てが自分達に向けられた愛だとは気づいてはいない。

だが、無意識に受け取ったのは確かな「愛情」だったのだ。

ーその彼が、目の前からいなくなる。

初めて出会った時から仕事の時以外でいなくなった事が無い彼が、いなくなった。

 

それが彼らに与えたストレスは、必死で封印していた彼らの本質を呼び起こしてしまう。

そしてその性質はどういう原理なのか、彼ら共に戦ってきた彼らの機体にも染み込んでいた。

彼らは、ソレを自ら開ける。

 

ソレは封印しておくべき事だ。

もう必要の無いものだ。

この平和な世界で、彼らの力の居場所はもう無いのだ。

 

「おぉぉまぁえがぁここにぃぃいるからああああああ!!!!」

 

子供とは思えない咆哮の出所は千恵。

かつて違法薬物の過剰投与により、身体能力を異常に強化されてしまった哀れな子供。

 

「ハイジョ、ハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョハイジョ」

 

瞳孔が完全に開き切り、壊れたように呟くのは京谷。

キリングマシーンとして育てあげられ、最後の1人まで殺し尽くさねばならない蠱毒の檻から生還した、悲しき戦闘人形。

 

「……フーッ…フーッ!!」

 

両目が赤く充血し、片鼻からは血を流す。ありえないほどに興奮し獣の形相になるのは茶輔。

戦争が絶えないある国でただ独り闘い続け生き残った結果、人格を失いかけた悲運な獣。

 

それに呼応する彼らの機体のカメラアイが血の色に赤々と燃え上がる。

機体そのものが彼らの身体になったかのような動き、それが敵と認識した巨大な影に襲いかかっていく。

 

それはまさに悪魔のようで、敵にとっては悪夢だろう。

赤い光の尾を引くカメラアイは血の涙のようだ。

 

彼らは今日、今この瞬間。

 

 

彼ら本来の姿に成り果ててしまった。

 

 

 

 




次回、奮闘記第6話 『獣』



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奮闘記:6 『獣』

ほのぼのが書きたい。でも、ハードも書きたい。
板挟みな純情な感情。


沢山の閲覧感謝!!1000件突破ありがとうございます!!!執筆を応援してくれる友人達と共に感謝を捧げます!!


迫ってくる。迫ってくる。

赤い目をしたアレ等が、迫ってくる。

恐ろしいほどの速さで動き回る、跳ね回る。

 

「このぉぉ!!猿風情がぁぁぁ!!!!」

 

先程から鬱陶しいほどの速さで地面を走る白頭に向け、右腕を振り上げ打ちおろす。

どんなに早く動こうがマスダイバーとなった我と、この【武田大魔王】の力ならばどんな機体でもバラバラになるだろう。

ただ腕を振るうだけ、それが必殺の一撃なのだ。そうだ負ける訳が、無い!!

轟く破砕音が小気味良い。そうだ!これだ!この力があれば!!

しかし、それに割り込むのは耳障りな警告音。

音の出所は機体状態画面だ。それを見やれば右腕が真っ赤に染まっている。

これの意味するところは…まさか?!

 

「ば、馬鹿なぁぁぁぁ!!!」

 

振り下ろした右腕。それを真正面から受け止めているのは潰れたと思っていた白頭のグリモア。巨大なクレーターほどに陥没した地面の中でまだあの赤い目がこちらを睨む。

ダメージが無かった訳では無い。左腕に装備していた杭打ち機は破壊され、胸部から左脚にかけての装甲がほとんど吹き飛び中身であるフレームが覗いていた。

恐ろしいのは、その状態でまだ動いているという事。

ただの機体ならば、もう既に粒子化し破壊判定されるはずだ。

だが、目の前のこの白頭は、何故だ。

そしてそんな状態で我が拳を受け止めているのは、右腕に装着された鉄拳型の武装。

全身からオーバーヒートの蒸気が立ち上っているにも関わらず、ソレはその拳を開きこちらの手の甲を掴み、捻り上げる。

無理やり反対に曲げられ、関節が軋む嫌な音が聞こえる。

慌てて抵抗するが遅すぎた。

不快な音を響かせながら肘部分から腕が千切られてしまう。

吹き上がる燃料に火花が混ざり、空高く巻き上げられたパーツが降り注ぐ。

その中で我が片腕を空高く掲げる佇む異形。

だが既に虫の息だ、ならばここで終わらせなければならない!

そう意気込むが、それを邪魔する小蝿が1匹。

頭が紫の4つ脚のグリモアだ。本当に虫の如く五月蠅い奴だ。

地面を無様に這い回りながら、効くわけがない豆鉄砲を繰り返し繰り返し行い続けてきている。

我が機体に傷を負わせられるのはこの子猿だけ。それが既に事切れるのを待つだけならば、先に小蝿を退治してやる!地面を跳ね回る虫は潰すに限るのだ!!

左脚を振り上げ、その頭上に脚を落とそうとした次の瞬間。左膝にビッシリと空いた弾痕が目につく。そう、それは正に定規で引いたような精確さで作られたキリトリ線の如き均等な直線。

そのキリトリ線がミシリと嫌な音を立てながら割れ始める。

…まさか、そんな。

あの猛攻の中、あんな精密な銃撃ができるものなのか?!

驚愕で見開いた目は、踏み潰そうとした虫が背中に背負っていた2つのロケットポッドを斉射したのを捉える。

弾頭が目指すのは今にも千切れてしまいそうな左脚。

切れ込みに正確に直撃したロケット弾が連続した爆発を起こし、千切れかけの左脚が爆散。

片足を失い姿勢制御ができなくなった【武田大魔王】が背中から倒れていくのがわかる。

だがこれで終われるわけが、無い。せめて、せめて1匹だけでも!!

そうやって倒れこみながら探せば、1匹だけ残っていた。素早い動きで翻弄されてしまう2匹より、遥かに鈍い動きの鈍亀の如き機体が1匹。

常に後ろに回り込みながら腕につけた見すぼらしい火器を乱射するだけのお前だ。

お前だけでも壊してやろう!!

倒れ始めてはいるが、片足だけでも方向は変えられる。腰を無理やりに捻りあげ、奴の方に右肩から倒れ込んでやる。

だが、そんな状況にもかかわらず鈍亀は動かない。

諦めたのかと会心の笑みを浮かべるが、それはすぐに消されてしまう。

鈍亀の背中に背負うバックパックの隠し腕がそれぞれ握るパイルハンマーとショートアックスが投擲され肩に直撃、もの凄い衝撃が襲いそれだけで一瞬倒れこむ速度が落ちる。

だが、それだけでは無い。

奴の機体の装甲表面を黒いタールが覆い尽くし、それが肉塊のように蠢いている。

まるで、生きているかのようにブヨブヨと不定形に膨らんでいくではないか。

爛々と怪しく光る目はそのままに、戦車の下半身の上で膨らむおぞましい塊。

その塊を突き破るように巨大な砲身が、まるでハリネズミのごとく無数に生えてきていた。

それらの砲身は、生きているように全てこちらを向き獣のような咆哮を轟かせる。

直撃し続ける無限とも思える砲弾の雨が、倒れ込もうとする我が機体を支え続けていた。

そして、遂には垂直まで戻されてしまう。

 

「ば…馬鹿な…。なんだ、なんなのだお前等は…」

 

千切られた腕を片手で振り上げ、飛び上がり叩きつけようとしてくる白頭のグリモア。

4つの脚で顔面に張り付き、万力のように締め上げてくる紫頭のグリモア。

そして、未だ蠢く身体から更に砲身を生み出す緑のグリモア。

血の色に光る3つの目、それが三匹も。悪魔としか言いようが無い。

 

…我はいったい何と戦っているのだ?

 

 

※※※※

 

縦横無尽に駆け抜けていく。

敵の攻撃に被弾しようが、装甲が破壊されようが全てを無視して一心不乱に突き進む。

機体にかかる負荷で、腰の球体関節の接合部が火花を散らすのもお構い無し。

右腕で殴りつけ左腕で突き破る。悲鳴をあげる身体には目もくれない。

 

避けては撃つ。避けては撃つ。正確に冷静に精密に。

狙った場所がどこであれ、どんな状態であれ、やっていることは変わらない。

狙って、撃つ。それを何度も繰り返している。

 

吐き出し続ける。銃弾を相手が倒れて動かなくなるまで撃ち込みつづける。

銃弾が尽きれば殴りかかる。沈黙するまで叩き続ける。

それは身体がどうなろうが、命ある限り動きつづける限り終わる事が無いのだろう。

 

彼らが成り果ててた先に手に入れた力は、そんなモノだ。

どうしようも無いほどに、呆れ返るほどに単純なモノだ。

 

獣の如き雄叫びを上げる機体。

静かに機械のように仕事をこなす機体。

薄ら寒い笑みを張り付かせながら攻撃を加え続ける機体。

 

その行動の全てが人間離れをしていた。

機体の限界値を超えた機動力、どの姿勢からでも射撃を外さない補正力、異常なほどのタフネス。

3機に共通して現れている現象は数値では測ることができない。

これが仮装空間での出来事であるにも関わらず、彼らの中に燃えているのは生への渇望だった。

 

『死にたく無い』

 

ただそれだけの感情。

孤独の中で生まれた子供達に残っているの自我は、その恐怖しか残っていないのだ。

八神という男が与えてくれた愛情も、教えてくれた常識も今の彼らは忘れている。

ただ、目の前の敵を倒す事だけが、彼らからその恐怖を忘れさせてくれるのだ。

 

京谷と呼ばれた子供が無慈悲にコクピットごと顔面を潰し。

茶輔と呼ばれた子供が機体から吐き出した砲弾でバラバラに引き裂き。

千恵と呼ばれた子供が破壊した巨大な腕を肩口に向けて振り下ろす。

 

これ以上無いほどまでに破壊された機体が光の粒子になっていく。

中から男の悲痛な叫びが聞こえるが既に彼らの興味はそちらには向かない。

 

彼らは止まらない。止まれない。

止まってしまえば彼らは終わりなのだ。

共通の敵がいなくなったならば、次は自分以外が敵。

 

半壊した白頭のグリモアは、左腕を無理やりに引きちぎりそれを武器にする。

未だ狂奔の中にいるのか、振り回す腕で牽制を繰り返す。

 

無傷な4つ脚のグリモアは、それぞれに両腕の銃口を向け油断なく構える。

淡々とした動きで正に機械のように急所を狙い、エンジン音を空転させ威嚇し続けている。

 

肉塊の奧から低い獣の唸り声を上げるのは、タールの塊となり砲身を身体から生やした戦車型。

過剰な砲撃で半ば融解してはいいるものの、今度は口径の小さい銃身を次々に生み出す。

 

今にもそれぞれが飛びかからんばかりの状態、始まれば止まらないであろう。

その彼らを背後から照らすのは、地平線の先から少し顔を見せた太陽。

光が差した瞬間に響くのは砲声。

彼らがその音に反応し、そちらに顔をむけたその時に聞こえるのは彼らにとってはかけがえのないソレ。

酷く冷たくかつ機械的な声だが、彼らにはソレで十分だった

 

「停止コード『TKS・05091718』…止まれ。お前達の戦いは、もう随分前に終わっているんだ」

 

酷く疲れた男が呟く声が、彼らのコクピットから聞こえていた。

 

※※※※

 

「あれは、なんだったのサ」

 

目の前の男は答えない。

長く一緒にいたはずだが、こんな顔は初めて見た。

どんな時でも仏頂面で乗り越えてきたコイツの顔が、今は悲惨なほどに歪んでいる。

今にも死んでしまいそうなほどに歪められた顔に血が出そうなほどに食いしばられた口元。

それが、次に開いたのはそれからだいぶたってからだった。

 

「必ず説明はする。今はアウトして子供達を家に連れてかえらねばならん」

 

そうしてログアウトしていく彼がたっていたところを見つめ、無力な自分を恨む。

まただ。また、目の前から勝手にいなくなった。

それだけの事なのに、なんでこんなに悲しいのだろうか。

胸を刺す痛みに耐えながら、空を見上げる。

 

目元が酷く、熱い

 

※※※※

 

あんな事になっていても所詮仮装空間だ。現実では無い。

まるで眠っているかのような姿でコンソールに座り続けている子供達を見て、少し安心する。

だがまさか、こんな事になるとは思わなかった。

すぐに店員に事情を話し、眠ってしまった子供達を強制ログアウトさせ長いしてしまった事を詫びる。

通い慣れ常連となっていた事が幸いしたのか、年配の店員は笑いながら許してくれた。

こちらの事情もある程度知っている彼は、孤児である子供達をまるで孫のようだとも言ってくれた。

その好意に感謝を示し3人を車に乗せ、我が家へと戻る。

真っ暗な部屋の中、布団を敷きその上にゆっくりと子供達を下ろす。始めて会った時よりもだいぶ体重は増え、肌も綺麗になってはいる。

だが、刻まれた傷は深い。もう起こらないと思っていた。だが、起こってしまった。

それが本当に悔しい。俺は無力なのか。

頬に熱いものが伝い、手の甲に落ちる。喉から出かかる嗚咽を必死で堪える。

そうしてどれほどたったのか、鳴り響く間抜けな電子音でわれにかえった。

ポケットから出した端末に表示されたメッセージ。

送信者の名前は良く知っているモノ。

 

「…話して、おくべきだな」

 

しかし今、彼らだけにしておくのは無理だ。

なので返事にはこう書き込んだ。

 

『実際に会って説明したい。できるか?』

 

震える手で送ったメッセージには、すぐに『了解』のリプライが飛んできた。

だが、その短いやり取りで身体に力が湧いてくる。少し楽にもなった。

どこから話せばいいのか、頭を悩ますが今は、この子達と一緒にいなければならない。

 

3人の頭を順番に優しく撫でながら、今日は眠らずに見ていてやる事にした。

 

 

 




シズク「はぁ…なんでなんだろうな。こんなにも悲しいのは。私らしくもない。全部アイツのせいだ。そうに決まってる。…っと!何みてるンだい!!え?予告?アイツは?はぁ?頼むって?……しょうがないねぇ全く!
次回!!奮闘記第7話!!『家族』!!絶対見るんだよ!!!」



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奮闘記:7 『家族』

シリアスを書いてるとお腹が痛い。でも楽しい
ほのぼの書いてると脳が痒い。でも楽しい



いつも閲覧してくれる方に感謝を。これからよんでくれる方にも感謝を。感謝を忘れずに楽しんで書きます


『指定された駅についたぞ』

 

端末に送られてきたメッセージは酷く簡潔なものだった。

そんなに長い付き合いではないのだが、なんだか彼女らしさがそれに滲み出ている気がして少し嬉しくなる。軽く返事を送りながら伸びをした。

リアルでは初めて会うのだが、気心が知れているからなのか、なんなのか。

かなり気分は落ち着いている自分が少し可笑しい。

ここは、駅からそう遠くない公園だ。国の緑化事業の一環で行われた都市整備にあやかって、ビル群の中にポカリと空いたエアスポット。

かなりの規模を誇るこの公園は、休みの日になれば子供連れでごった返す。

だが、今日に限って公園内は閑散としている。

だだっ広い芝生を駆け回っているのは、あの3人だけだ。

元気に走り回っている姿をみると、昨日の事が嘘のように感じる。

京谷・茶輔・千恵の3人が鈴のような笑い声を響かせながらながら駆け回り、たまに置いてかれる千恵がゴロンと転がる。

それを見て他の2人も笑い転げている。あぁしてみていれば、本当にただの子供だ。

何かと気づいたように明後日の方向を見る3人。視線の先には犬の散歩に来ていた老婦人いる。

恐る恐ると近づいていく千恵と、それを笑いながらくついていく3人。

ちゃんと断って触り出すのは、一応年長者の茶輔。千恵は京谷の背中に隠れてはいるがその顔は笑顔であった。

なんだろうか、目頭が熱くなってきた。木陰から刺す太陽の光ではない。

 

「…あの子達なのね。可愛い子供達じゃない」

「あぁ、自慢の子供だよ」

 

無遠慮に隣に座ってきた黒のパンツスーツ姿の女性には顔を向けず、答える。

少し前から気づいてはいた。だが、それとなく声をかけづらかったのだ。

あちらから話しかけてくれて良かった、声色もGBNの世界とほぼ変わらない。

それに、背格好も。

顔だちは流石に違うが雰囲気がそのままだった。

セミロングの黒髪に、気の強そうなつり上がった大きな目。本当にそのままだ。

だが解せないのはそ彼女以外の気配。何か監視するような視線を感じる。

 

「あなたってゲームそのままなのね。本当の軍人みたいよ?…あと彼等の事は気にしないで。ただの護衛だから。」

「護衛…?そんなものが必要なのか?」

 

ここで初めてしっかり顔を向ける。見ればみるほどゲームとそっくりなシズクの顔があった。こちらを見据える目には、力強い意志を感じる。

 

「まぁ…これでも大会社の社長サマだからね。仕方ないンだよ」

「あ、今のはシズクっぽいな。本当にシズクなんだな」

「アンタはゲームよりも性格が丸いんだね。ヒョロヒョロしてたら笑い転げてた」

 

そう言って軽く笑いながら懐から名刺を取り出す。それを受け取った俺を軽い目眩が襲う。

 

「か、海運会社…有澤インダストリー代表取締役。有澤(かすみ)?!」

「ま、今は代理だけどね。お爺様が父よりも孫の私を選んだのよ」

 

有澤インダストリー。

この名前を知らぬ日本人はいないだろう。業界最大手の老舗会社。

海運送業のトップに立ち国の資本を底から支え、海外にも多く支店をもっている。

その、社長が。まさか…。

少し、胃が痛い。

そんな様子がおかしかったのか、涼しげな顔を破顔させるのは良く知ったシズクの顔だった。

周りの気配も少し慌てているのを感じるとこと、かなり猫かぶりが上手いようで安心する。

 

「お前、本当に社長か?…熊田八郎だ。孤児院マーゼランの管理人だ」

「孤児院の事は知ってるわ、八郎。初めまして…は少し変ね」

 

そう言って目に涙を浮かべて笑顔をみせるシズクこと霞と立ち上がって固い握手を交わす。

その姿は社長に似つかわしい堂に入ったソレ。

身長もかなり高い、ヒールがあるとはいえそれでもかなりのものだ。

そして握手をした時にわかる、かなり鍛え上げている。

本当にゲームのシズクそのままなのだ。

 

「もう一回言うけど、アンタ凄いわね。ウチの社員にもガタイの良いのはいるけど、それ以上じゃない」

「…まぁな。それはおいおいだ。まず紹介させてくれ」

 

マジマジと観察してくる彼女の視線から逃れるように声を張り上げて、子供達を呼びつける。聞こえた声に反応し駆けつける姿はまさに子犬さながらだ。

 

「なんだ!…だれだ!!!てきか!!!」

「もうメシの時間だっけかぁ?たしかに腹ぁへったけどさぁ」

「………」

 

彼女の姿を見た三者三様の反応。

京谷、いきなり誰だはないだろう。

茶輔、飯はまだだ。それにちゃんと挨拶しないか。

千恵よ、すぐに俺の背中に飛び乗って隠れるのはやめなさい。

だが、子供達の姿を近場で見た彼女の反応はもっと突き抜けてたが。

 

「なンだい!ほんっとーにガキじゃないか!!コイツら本当に強いのかイ?!」

 

開口1番、腰に手を添え胸を張りながら呵々大笑する。

うん、いやわかりやすいけどね?もうちょっとあったでしょうよ社長!!!!

 

「…あ!!!ちょうつよゴリラおばさん!!!」

「うおっびっくりしたぁ…ってなんだあん時のおばさんかぁ」

「こ、こんにちわ…」

 

ソレは、まずいんじゃないかねキミ達。千恵はちゃんと挨拶できたな偉い偉い。

あぁなっちゃいけないぞ、なったらあんな風に振り回されちゃうからな。

公園に響くのは2人の子供と、それを笑いながら追いかける女性とは思えない声。

予想以上の驚きもあったが、これはこれでよかったと思えた。

 

※※※※

 

「…なるほど、ね。」

「あまり驚かないんだな。もっと反応してもいいだろ」

 

遊び疲れて眠ってしまった子供達を車まで運び、その足でまた出会ったベンチに座る。

既に日は傾いてはいるが、暖かい気温はまだ続いていた。

これまでの俺の経緯、そして子供達との出会い。全ての話をポツリポツリと語った。

その間、彼女は何も言わず視線を手に持った缶コーヒーに落としながら、ただ相槌を打つだけだった。

喋りすぎて枯れてきた喉を水で潤している少しの間で観察してみるが、その顔は驚きよりも悲しさの色が見て取れる。

すこし、意外だった。てっきり激怒するかとおもっていたからだ。

 

「…意外と大人しいんだ、な?」

「ハラワタが煮えくり返ってンだよ。気付け」

 

怒ってらっしゃった。

睨みつけられた蛙のように身体が縮こまる。

 

「でもまぁ、合点がいったよ。アンタの身のこなしと彼らの背景。納得できた」

「そうかい、他言してくれるなよ今日が空いててよかった」

「ソレは安心しなよ。今日はウチらの貸し切りだから」

 

社長って本当に凄いんだなぁと感じた。聞けば犬を連れていた老婦人は、心配で見にきていた祖母だという。

言われてみれば、確かにただの老婦人にしては気品があった気がする。

乾いた笑いが口をついた瞬間、目の前に出された右手。

顔を上げれば、仁王立ちした彼女。

 

「改めて、握手よ。ソレに、決めた事があるわ」

 

頭ごなしのソレは、有無を言わさぬ迫力があった。

抵抗は無駄だとわかった俺は渋々ソレに応じながら立ち上がる。

 

「決めたって…何をだ」

「アタシはアンタと結婚する」

 

ハイ?あなた今、何を言ってらっしゃるの?

ソレに手の力が凄いんだが、逃げられんのだが?

 

「あ、違った。アンタと一緒に暮らす」

「何も違わねぇ!!!」

 

遠くに見えた老婦人が視界に入る。

笑顔だ、いやいや。貴女のお孫さん暴走してるの止めてくれませんかね?!

何やら早口で捲し立てている彼女の声は、全く耳に入らずただただ天を仰ぐ。

 

一体、これからどうなるんだ、俺は。

 

※※※※

 

目の前には机に突っ伏したように笑うのは知将と呼ばれ、敵味方問わず恐れられる我らが隊長だ。

そんなに笑うことはないだろうが、顔をあげた瞬間にその笑みはいつもどおりに戻っていた。

ここは言わずと知れた作戦指令本部。その最奥地に存在する団長室。

いつもなら戦略を競い合わせる各部隊の隊長たちで騒がしいのだが、今は俺たち3人だけ。

右隣は腕を後ろで組み、仁王立ちの姿勢を崩さないシズク。

その顔は本人は喜色満面のつもりだろうが、見る人がみれば絶対に近寄りたくないだろう。

そう言う俺は、きっと胃痛で青ざめた顔をしているのだろう。脂汗すらでてきそうだ。

 

「いやいや、笑って済まなかった。だが、経緯はわかった。君が決めたのならば引き止める理由は無いだろう。…なんだ、お幸せにな」

 

そう言って握手を求める手に応じるシズク。

俺もソレに習い、何食わぬ顔で応じ団長室を後にする。

なんともまぁ、全てが急に決まったものだ。

ほとんど俺に拒否権は無かったが、トントン拍子で決まって行く事に多少目が回った。

結論から言えば、俺とシズクの結婚の話は保留となった。

ソレはそうだろう。

大企業社長が結婚、ソレもどこの馬の骨かもわから無い男とだ。

会社は上から下までの大混乱。笑っていたのは彼女の祖母と母親ぐらいではないだろうか。

いままでの生涯であんな死にそうな目にあったのは…けっこうあったが、アレは別ベクトルに緊張した。

まず先代有澤インダストリー社長との顔合わせ。いや、アレは謁見だな。

90歳だとは全く感じさせない迫力の爺さんと、ソレとは真逆なのんびりした彼女の祖母。

そして迫力こそなりを潜めたのだろうが、まだまだ絶好調だと言わんばかりの彼女と瓜二つの母親。

父親は海外出張でいなかったものの、かなりのインパクトを俺の脳に焼き付けてくれたもんだ。

聞けば有澤家はなんと女系の家系らしく、シズクはその中でも1番初代様に似ているのだとか。

いや、今はそんな事は置いておこう。まず変化があったのは2つ。

俺達のフォースにシズクが加入した事。

そしてリアルの俺達の家に霞が入居してきた事。

その2つだ。

なんだろうな、普通に言ってるけど凄い事なんだよな。でもこんな事にすこしも動揺してないのは子供達のおかげで慣れたからかな。

…慣れたく、なかったなぁ。

 

「オイ!もっと喜べよ!!これからアタシも一緒なンだぞ?」

 

そう言いながら背中をバンバン叩く手にはたと気づく。

俺達の家は、俺が溜めていた貯金でどうにかなってはいるが、こいつはどうなるんだ?

有澤家から飛び出した彼女にそんな資金があるとは…。

 

「ん?あぁ心配すんな!!!お前らを養って生きてくぐらいの蓄えあるから!!」

 

破顔一蹴とはこの事か。

顔を少し赤らめながら笑う彼女の目を見ていると、ソレもいいかと思えてくる俺が怖い。

あまり彼女に頼らずに仕事を探そうと隠れた誓いを立て、俺を待っている子供達のところへ歩を進める。

 

今までは1人だった。

だがこれからは2人で、だ。

 

言いようの無い感情に、俺の胃痛は今日に限って痛まなかった。

 




茶輔「なんか、色々あったんだなぁ」
京谷「俺らがねてる間に、なにがあったんだ…」
千恵「で、でも、なんか良いよね。…よくわかんないけど」
茶・京「「まーなぁー」」
千恵「あ、でも晩ゴハンのおかずが減るんじゃ…」
茶・京「「やっぱ今の無し!!!!!」」

八神「はぁ…全くお前らは…
次回!奮闘記第8話 ヨーロッパ遠征!…い、嫌な予感しかしねぇ」


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奮闘記:8 ヨーロッパ遠征

機体紹介も始めましたー
これからちょくちょくあげてきます!

今回友人からお借りしたキャラが登場します!!ありがとう!!

追記:タイトル変更しました。


嵐のような1ヶ月だった。

シズクこと有澤霞が同居人となったのが始まりだ。彼女としては大忙しのうちに入らないとの事だが、こっちは大慌てで住居スペースを作ったり子供達への説明に苦労をしたんだぞ。

幸いなのは、自分が綺麗好きだったということだ。

暇があれば大暴れする子供達を放っておけば、この家は遠からず倒壊していたのではないだろうか。

そんな確かにボロいが手入れが行き届いた庭がある一軒家を、俺は少なからず愛着を持って世話していたのだ。男の一軒家とはまさに城なのだ。

…だが、そんな愛着ある俺の城は今大きな布をかけられ、柵に覆われている。

そしてその布に印字されている文字は、最近よぉく思い知った会社のもの。

 

「俺の城…」

「ん?なんか言ったか?たいちょう」

「俺ぁもう腹ペコだぞーたいちょう」

「た、たいちょうコレみて元気出して!ちょうちょ!」

 

ありがとうなぁ千恵。

だがそれは蛾だ。凄い鱗粉ついてるからね。やめて!背中に入れないで!!やめろぉ!!

 

「あんた達ー早くしなーメシ冷めちまうゾ!!」

 

そう景気の良い声を張り上げるのは、庭に止まった小型のトレーラーハウスから。

荷台の窓からエプロンをつけ、Tシャツにジーンズというラフな格好の霞が手招きをしている。

トレーラーはもちろん彼女の持ち物だ。荷台を住居スペースとして改造され、手狭ながらキッチンまで付いてる優れもの。どうやら趣味、らしい。

うーむ、なんとうらやま…いや、けしからん。あんなもの俺だってワクワクするではないか。

そうやって少し羨ましく見ていれば、早速茶輔がつまみ食いをして耳をつねられている。

…しかし子供達も、随分懐いてくれたもんだ。

最初の頃はブーブー文句を垂れ全く近づかなかったが、人柄なのかなんというか。

まぁ、シズクが料理できたのが1番でかいのだろう。

茶輔は言わずもがな、京谷と千恵もそのあとすぐに陥落していった。

それに家事も分担してできるようになって、俺も自分の時間を取れるようになったは本当に助かる。

今までは子供達の世話に掛り切りでできなかった事も、これでできる。

当面の目的は仕事探し、目標は子供達を学校に通わせる事。

なのだが…。

 

『仕事ぉ?!…ならウチの会社の下請けしたら良いじゃねぇか』

 

正に鶴の一声だった。

社長のキモ入りで全世界の孤児院に向けて物資を運輸する企画が立ち上がり、社長主導で進められたプランは、社内の反応とは裏腹に世間の評判も追い風を受け、いまや専用の部署まで作られる始末だ。

そして俺はその近郊の運送ルートでトラックの1つを任されることになる。

完全に贔屓されているが、そこはソレ。

社長の連れ合いだと内外に響いた俺の名前があれば、誰もが笑顔で同情の目を向けてくれた。

何故だ、何であんななのに会社が成り立ってんだ。

そうして未だ社長業務を続けている彼女は、オフィスをここに移してからというもの今まで以上にバリバリ仕事をこなす傍、こうやって家事と子供達の世話をしているのだ。

そのタフネスはどこから来るんだ。

そんな事を思いながら重い腰を上げ、青空の下テーブルと椅子を出し始めた霞と子供達の手伝いをし始める。

春の陽気は、そろそろ夏に変わろうとしていた。

 

※※※※

 

「なんだこりゃーーー!!!!」

「すっごーーーーーい!!!!」

「うっわぁ…まじかよ…ハハハ!!すげぇや!!!」

「な…なんだよ…コレ」

 

ソレは、唐突に現れた。

昼飯の後、俺達はGBNの居住空間であるマゼランの前で立ち尽くしていた。

原因は、俺達の遥か上空からゆっくりと降りてきているモノ。

巨大な影を落とすソレには見覚えがあった。

巨大な砲身にミサイルポッド。それを支えるバーニアは更に巨大だ。

だが、その中心に位置している謎のMSがいる。

オレンジ色にカラーリングされた、逆関節の脚を持つグリモアだ。

もう誰だか1発でわかるその機体から、大音量で聞こえるのはやはりシズクの声。

 

「野郎共ォ!!コレがなんだか、知りてぇかィ?!」

「「「イエーーーーーイ!!!」」」

 

も、もう笑うしかない。本当に、なんてやつだよ。

 

「てめぇ!!!土産もってくるっつーから楽しみにしてたのによりにもよって!ンなもん持ち出して来やがって!!!!!」

 

あらん限りに叫ぶが、同時に少し嬉しくなっている俺がいた。

それは、シズクが乗ってきたもの。

【巨大兵装・ミーティア】

ガンダムSEEDのガンプラの中でも異彩を放っていたソレが今、目の前にある。

今では多額のDPを支払うことでしか手に入れらない目玉商品。

しかし、次の瞬間にはたと思い出す。

 

「オイ…シズク。お前…DPあとどれだけ残ってんだ…?」

「んぁー。アタシの機体の改造と、コレ買ったからもうほとんどねぇぞー」

 

ミーティアから降りて来たシズクはあっけらかんと言い放ち、ソレを当てにしていた俺は膝から崩れ落ちる。

あんな機体(ミーティア)どこに格納すんだよ…。砂だらけだぞここは。

落胆した俺には目もくれず、和気あいあいと盛り上がる子供達とシズク。

なーにが「昔から自分だけの船を持ちたかった」だ。

なんで誰も後先考えずに行動するのか、責任者はどこだ。…俺だ。

そんな一人ツッコミをしていると鳴り響く着信音。

画面の表示は馴染みの名前。

力無い動作で出ると、聴こえてくるのは渋く落ち着いた声。

 

『おう八神。ご無沙汰だな。…てめぇんとこのガキ共ぁ元気してるか?』

「あぁ、ダグ。久しぶりだな。それよりも仕事か?つかくれ」

『また、なんかあったな?…まぁ仕事だ。ウチんトコの若い馬鹿が、ヨーロッパサーバーで受けた仕事でヘマしやがってよ。あちらさんの輸送ルートが被害受けてんだ。それの安全確保の仕事だな。…引き受けてくれねぇか?報酬は弾んでやる』

 

通信相手の声の持ち主はフォース『喧嘩代行屋ベタ』の頭領ダグ。

恰幅の良い親父で普段は落ち着いてはいるが、一度戦闘になれば鬼神の如き強さの親父だ。

だが、子供達の前では良い顔をしたいのか、そんな顔を見せたことが無い。

そんな親父との付き合いはまだ駆け出しの頃、仕事を手伝っていたらいつのまにか馴染みになり、今の今までズルズルと続いているといういわゆる「腐れ縁」ってやつだ。

そんなやりとりに子供達が反応し、俺の手から通信端末をもぎ取りシズクも加わっていく。

また俺から離れたところで話がドンドン進んでいく。

まぁ…ヨーロッパサーバーなんて滅多に行かないから…いいかな…さっさと仕事終わらせて、観光でもしようか…。

 

そんな絶対に無事に終わらない未来に、少しでも希望をみて俺は機体準備をしに格納庫に向かう事にした。

 

※※※※

 

ヨーロッパサーバー内でも有数の観光地がある。

中心にカルデラ湖、それを囲むようにそびえるまだ山頂に白いものが残る山岳地帯。のどかなレンガ造りの街並みに、青々とした牧草地はまさに保養のためには必ず行きたいと多くのダイバーが夢見る場所だ。

だが、そんな前評判を覆すような問題を抱えていた。

街からある程度の所までを完全に戦闘を禁止しているのにも関わらず、なぜかここには強面が集まるのだ。

完全中立地帯であるのには理由がある。それはこの保養地に隣接している大型フォース同士の抗争が激化しているからだ。少し街から離れ戦闘エリアにいけば見えてくるのは戦闘の爪痕だらけ。今俺達が通ってるところだって、なんとか確保された非戦闘ルートなのだ。

そんな事など露知らず、窓から眺める始めての景色に色めき立つ子供達。

俺だって、こんなので移動しなきゃはしゃいでたかもしれない。

ここは高度限界ギリギリの空の中。

シズクが大枚叩いて買ったミーティア改め、『グリーズ商会専用輸送船』【ウルスス】。

…の底部に付けられた輸送ハンガーに掴まれた戦闘指揮装甲車の中。

今回の仕事仲間である『喧嘩代行屋ベタ』の組員が先回りしてお膳立てしてくれてるとはいえ、流石にこんなので来るとは思ってないだろうなぁ。

 

『野郎共!そろそろ到着するからしっかり捕まってなァ!!』

 

それはノリノリのシズクの声が聞こえる。

今の彼女は正に海賊の女船長となり、今までで1番のご機嫌状態だ。

そのご機嫌な調子を少しでも俺にわけてほしい。

俺は、今日1番のため息をつき着陸に備える。

どんどん高度を下げていく機体は多少の揺れを起こすが、彼女の操作センスなのか思ったほどでは無い。むしろ子供達はなぜか不満気だ。

 

「なんだよぉ…いきなり攻撃されて、落下しねぇのかよぉ」

「ここはドラゴンがでてきて、んでそれに千恵がさらわれんだよ!!」

「こ、こわいこといわないでよぉ…で、でも、いきなりほうりだされるかと、思ってたかも」

 

そんな事になったら俺の腹がぶっ壊れるから勘弁してくれ。

子供達に物騒な想像が現実になった場合、苦労するのは全部俺じゃないか。

そうこうしているうちに、地面が見えてくる。非戦闘エリア内に設けられた着陸ゾーンだ。

装甲車のタイヤがゆっくりと地面に着くのを感じ、やっと安心できた。

車から降りると、上空へ登っていく【ウルスス】が見える。流石にここでは収納できないので、大型専用の格納庫へ向かうとの事であった。

…あるもんなんだな、そんなとこ。流石全てのガンプラで遊べるように設計されてるだけはある。

そんな妙な納得をしていると背後から声がかかる。

 

「お待ちしておりました、八神・グリーズ様。そしてお子様方。私は『喧嘩代行屋ベタ』様の使いのものでございます。今回の依頼に関してのご説明と案内を任されております」

 

そう言って頭を下げてくるのは、いかにも堅気ではなさそうな茶髪の優男。

しかし風貌とは違った如何にもな物腰と雰囲気に少し違和感を感じる。

何より、『ベタ』にこんなやつはいない。

 

「あぁ!失礼しました。私は『ベタ』様に依頼をしていたフォース『ローズ・カルテル』のニコラスと申します。この度は私達の不手際でわざわざご足労、感謝いたします」

 

そう言って右手を出すニコラスに俺はきな臭いもの感じ、目だけで応じてさっさと仕事の話を進めようとしたのだが、その手を握りかえす小さな手が視界に入る。

 

「よ、俺京谷!兄ちゃんヒョロいな!!大丈夫か!」

「ん。茶輔だ。できたらでいいんだけどよぉ。美味い飯屋を教えてくれぇねぇ?」

「………。千恵」

 

うん、ぶち壊しだな!!知ってた!!仲良くしたく無い奴とどーして握手するかな君達は!!

京谷も茶輔ももう少し大人しくできないもんかな、千恵を見習って俺の足にくっついてくれないかな!!!

 

「ははは、よろしくね三人共。どうでしょう。近くに美味しいパスタの店があるんですが、そこで仕事の話、というのは」

 

子供達に笑顔を向ける奴の顔は全く信用ならないが、既にパスタで吊られた子供達のキラキラする目を裏切れる訳もない。

俺達は案内されるまま、車でその店に向かうこととなった。

できればシズクとも相談したかったのだが追い立てられる子供達のせいで、すっかり忘れていた。

 

※※※※

 

「う、うめええええ!!!なんじゃぁあ!こりゃぁぁ!!!!」

「茶輔、もう少しおちついて食べな…」

「あーーーーー!!!京谷が僕のミートボール取ったぁぁ!!!」

「ちょ、まてって!茶輔!!それ俺んだって!!コラァ!!ピザ食うな!!」

 

まぁ、こうなるだろうと予測できたさ。この前5人で行ったファミレスでもう経験済みだよ。

お前らこっちでもそうなのか、そうか。

あ、久しぶりに胃が痛い…。

 

「賑やかですね、いつもこの調子で?」

「あぁ…すまんな騒がしくして。だが、仕事の話はわかった。さっそく取り掛かる」

 

隣のテーブルで大騒ぎしている子供達は一旦無視することにして、目の前男の目を見据える。

格好こそ優男風だが、その目だけは良く知った色がみてとれた。

暴力と金の色だ、現実世界でも良く見たその目に危険を感じるが今は仕事仲間だ。

ある程度は仕方ないことだろう。ダグのオッさんも面倒な依頼をしてきたものだ。

 

「はい。ですがまだ日にちもあります。お願いした輸送トラックの警護は明朝ですし、このレストランの2階に部屋を取ってあります。どうかゆっくり観光してください」

 

そう言って軽やかに笑うニコラスに、子供達が反応した。

彼らにとって砂漠以外のところは全てが始めて、格好の遊び場なのだ。

いまだ口に麺を入れている茶輔以外の二人は、先程手に入れた地図を見ながら探検計画を楽しそうに話す始末。

どっちにしろ、今日は仕事にはならんだろう。

 

「…わかった。心遣いに甘えておくとしよう」

「いえいえ、私達としても『グリーズ商会』とは仲良くしておきたいという下心あってのことです。ここは、おきになさらず」

 

そう言いながら席を立つニコラス。

子供達にも笑顔で挨拶しながら出て行く彼の背中をにらみながら、俺はこれからの事を考えるために目を瞑ろうとした、が。

それは俺の頭に振り下ろされた鉄拳により阻まれる。

 

「やぁぁがぁぁみィィ…アタシに連絡寄越さないで美味いもン食べるたァ。良い度胸じゃァないかィ?」

 

振り向けば、鬼がいた。

星が周りそうな視界の中、憤怒の形相を浮かべるシズク。これは、いかん。

最大の敵は味方にいたのだ。

そして、1番やってはいけない事に気がつく。

それは小学生ぐらいの子供を持つ親が、絶対してはいけない事。

()()()()()()()()()()という愚行。

 

そう。3人共綺麗に居なくなっていたのだ。

 

※※

 

うまかった。すごいうまいメシだった。

あんなうまいものが、世界にあるというのはすごいことだと、俺はおもう。

俺がはじめてたべたのは犬の肉だっけ?

まぁいいや、すんごいまずかったのはおぼえてる。

でも前を歩く2人はどこいくんだ?

リーダーの俺としては、もっとうまいメシが食いたいんだけどなー

ん?向こうから肉の焼けた良い匂いだ!こっちは魚か?!

 

「うーーーーん。俺の腹は何腹だ?!」

 

さっきは、カイセンパスタってのを食べたから、こんどは肉だなにくにくー!!

 

※※

 

いやーー隊長たべんのおせーしなんかムズカシイ話してるしなーツマンネーよ!!

こんな面白そうなトコ、遊ぶに決まってんじゃーん!!

千恵はびびりだし、茶輔はメシのことばーっかりだし!やっぱここはリーダーの俺がしっかりしねぇとなー。

でもおもしれぇ店がいっぱいあんのなー!!銃だらけの店とか、銃だらけの店とか、銃だらけの店とか!!!

銃だらけってかっけーなー!!!そういや昨日のライダーの敵、隊長みてぇで笑えたなー

帰ったらもっかい録画みよーっと。

ん?!なんだあの店!!変な店だ!!ピンクの煙出てやがる!!面白そうだ!!!

 

「オイ!!あの店行ってみようぜ!!!…ってアレ?」

 

うしろにいたはずの2人がいない。

 

なんだよーアイツら迷子かよー。

 

※※

 

あ、あれ…2人ともどこいっちゃったの…?

周りは知らない人だらけで、こ、こわい。すごくこわい。

なんか女の人も男の人も、す、すごいおっきい人ばっかりだよぉ…

で、でも僕はリーダーなんだから頑張らないと、だよね。

2人をたいちょうのところにつれていけば、また。な、なでてもらえるかな。

えへへ。

あ、あのお店なか美味しそうな匂いがしてる!茶輔がいるかもしれないから、い、いってみよう、かな…?

で、ででもお店の前にいる人が怖いから、こ、こっちの京谷がいそうな銃のお店に…あわわ店員さん顔怖いよぉ…。

う…さすけーきょうやーどこー!!

 

※※※※

 

マテマテ、落ち着け、俺。

さっき出ていったばかりだし、そう遠くへは行ってないはずだ

 

「おーい!!、茶浦!京谷!千恵!どこ行ったー?!」

 

人混みをかきわけながら走る。

俺の後ろには少しむくれたシズクがいるが、彼女も少しは反省しているらしくちゃんと探してはくれている。

狭い街だ、すぐにでも見つかるだろう。だが、そんなことが心配なのでは無い。

彼らから目を離すということは、火薬庫で火遊びするのと同義なのだ。

 

ん?!…待ってくれあの騒ぎは、何だ?!

待って待ってMATTE!

なんであっちで煙上がってんの?!

 

アイツらじゃないでくださいお願いだ!!

あああ!アイツらの笑い声の幻聴が!!!

あああああ!!!なんか鍋降ってきてるぞおおおおおお!!!!




京谷「おーーーーーい!お前らーー!!どこだーーー?…はぁ…迷子とかかっこわりーなーもう!!」
茶輔「うまい!!おかわり!!これレシピどうなってんだぁ?!作り方教えやがれぇ!!」
千恵「きょうやぁ…さすけぇ…どこぉ…うわーんたいちょぉーーーー!!」
八神「うおおおおおお!!!!どこだああああああ!!!!!どこにいんだよおおおお?!?!」
シズク「ね八神、あの店行かない?なんか良い服見えたんだけど?」
八神「それどころじゃぁないでしょシズクさーーーーん!」
シズク「もう!次回奮闘記第9話 輸送部隊護衛任務!…ねね八神、たまには2人でデートしない?」
八神「だーーーーかーーーらーーー!!」



※『喧嘩代行屋ベタ』および頭領ダグは友人からお借りしました


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奮闘記:9 輸送部隊護衛任務・前編

まさか10話以上の物語を書くとは…初めての経験です
これからも楽しんでかきますのでよろしくお願いします!!


今回も友人からお借りしたキャラクターがでます!ありがとう!!


俺は走っていた、それはもう風になる勢いで走っていた。

実際に風になりそうなほど走っていた、そして焦っていた。

なにせ、あの歩けばトラブルを引き起こす3人が3人とも目の届かない範囲にいないというのが最大の理由だ。

どこに行ったのか皆目見当がつかない、多くの観光客でごった返す大通りを駆け抜け大声で子供達の名前を呼ぶが気配無し。

こんな事なら迷子センサーとか持たせればよかった!…そんなもんがあるなら、だ。

ゲーム内なのだから行方不明になる事なんてない、ただログアウトすれば良い話なのだ。

しかし、そうじゃない。

あの歩くダイナマイト達が起こすトラブルというのが、どれも超ド級なのだそっちの方が心配だ。

ダメだ。自分の足だけではラチが開かない。足を止めて休憩しつつ周囲を見回す。

見えるのは俺の後ろを着いてくる、この発端ともなったシズク。だがその顔は焦りの色では無く喜色満面の笑みだった。

 

「なァ八神、そんな心配するこたァねぇって!そのうちヒョッコリでてくんだろ?」

 

そして、そんな楽天的なセリフを吐く始末。

お前はまだ知らないからいいんだろうけどな、俺があいつらが起こす騒ぎで、どんだけ胃に穴があきそうなほど苦しんでるのか知らないだろう!!

だがそんな俺の苦しみなんてつゆ知らず、シズクは服屋の目の前で楽しそうにしている。

くそう、頼れるのは俺だけか。

そんな姿を見て頭痛を感じていると、目に入るのはレンタルバイクの看板。

コレだ!と思いシズクの手を握り無理やりにでも店の前から引き離す。

なんだか後ろでゴニョゴニョ言っているが恐らく文句であろう、そんなもの聞いている暇は無い。

急いで店員にバイクの1日レンタルを頼み、タンデムシートにシズクを乗せアクセルを吹かし捜索に戻る。

腹に巻かれたシズクの腕が、凄い力で俺の腹筋を締め上げてきているのはこの際どうでもいい。

…いや、待って!キマってるキマってるから!!!

 

「なァ八神ィ…このまま2人でデートしない?」

 

地獄までの直球コースかな?!どうやらそうとうお怒りらしい、そんなに服が欲しかったなら後で買ってやるから!!

耳元でそんな優しく声かけるな!覚えてるぞ!お前がその声を出すときは大概ヤバイ訓練考えている時だってなぁ!!!

いや、そんな事より今は子供達によって起こされる被害からこの街の安全を守る1番だ、街の外観壊して賠償金なんて洒落にならん。

いくら『ベタ』から貰った報酬と『カルテル』からの迷惑料があるからってそれは払えんぞ。

そんな焦った思考で捜索を続ければ、見えてくるのは何やら不穏な煙。

商業エリアから立ち上る、真っ黒い煙だ。

もしかしてと、思いバイクのギアを上げアクセルを全開にする。

もの凄いスピードだが、背中のシズクは何故か黄色い声を出し喜んでいる。

そんな場合じゃないっつーの!!!

 

※※

 

ピンクの煙がでていた変な店はあんまりおもしろくなかった。

あまったるいにおいのする店ん中は、千恵が喜びそうな甘いお菓子ばっかりだった。

やさしいリーダーの俺は、地図にその場所をかきこんで、2人をみつけたらつれていってやろうとおもった。さすが俺、リーダーだな!!

でもほんとに2人ともどこほっつき歩いてんだかなー迷子とかほんとダセェやつらだ。

んーーでもおもったよりツマンネー街だなー。

銃がいっぱいあるのはいいけど、なんかツマンネーなー。

ドカンとおもしろそうなことおこらねぇかなー茶輔とかがいたら、すぐにおこしそうなんだけど…ってアリャなんだ?!

 

「うお…なんかでっけぇ爆発だったなー。ケムリもあがってらー!面白そうだ!!行ってみっか!!」

 

※※

 

うぅ…たいちょう…さすけぇ…きょうや…どこにいるのぉ…。

もうつかれたよぉ…お菓子食べたいよぉ…。

な、なんかキレイなおねえさん達にかこまれたから、びっくりしてにげちゃったけど…。

わるいこと、しちゃったかな…?でもあんな近くにきたら、こわいもん…。

ケーキ食べたいなぁ…シズクさんのつくったクッキーおいしかったな、また食べたいなー。

ここできゅうけいしよ…こうえん、かな?きっと京谷が遊んでるっぽいし。

隊長、困ってるかなぁ…茶輔はまだご飯食べてるのかな…さみしいな…

…でも、僕はリーダーだからね!しっかりしないと!!

え…おじさんだれ?「おともだちの所につれてってあげる」?

 

「わー!みんなのことしってるの?!どこにいるの?!」

 

※※

 

俺は今、すごくワクワクしてる。

ソワソワだっけかぁ?まぁいいや、さすが俺。俺の目はさすがだ。

最初に見たときからピンときていたのさ。この店はちょううまいってなぁ。

さいしょに出てきたちっさい料理は量は無いけど味はサイコーだったし。

つぎのサラダも良かった、なんかのスープとかいうのはちょっとニガテだったからのこした。

あとで京谷と千恵もつれてきてやらねぇとだな。リーダーとして当たり前だからな!!

この店はサイコーだって!!

そしてやっとだ、やっと肉だ!!

なんか聞いてきた店員さんにめちゃ美味い肉!ってたのんだら、こんないっぱいでてくるとはおもわなかったけど、まぁいいや。肉だ肉だ!!

おぉ…アレは俺の肉だ!!!鉄板の上に乗ったぶあつい肉!!はやく!!くわせろ!!

その肉が、今、こっちに…ってなんだ!!この揺れ!!ジャマすんな!!

 

「…ん?あぁああああああ!!!!!俺の肉がぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

※※※※

 

「うおおおお!!ウチの子供達がご迷惑をおおおお!!!…ってなんだありゃ」

「お、いーぃねェ!!喧嘩かい?!なかなか派手じゃなィか!!」

 

大急ぎで煙が上がってるところに着くと、何やら人だかりの中でモメあっている男達。

いや、正確には男のような背格好の女性を取り囲むゴロツキって感じだ。

子供達じゃ…ない。それだけでなんだか一気に疲れた。

雰囲気も良く無い。さっさと離れるに限るだろう、なんだかノリノリのシズクの肩をこちらに寄せバイクの方へ向かう。なんだかいつもより素直だな、という感想は口にしなかった。

だが、そんな俺に声をかける声はできれば今聞きたく無い声であった。

 

「あぁー?!八神じゃねぇかよ!!お前何してんだ?ンなとこで!!!それにシズクの姉御も!!まさかデートか?!」

 

俺の嫌な予感は当たるのだ。まるでギアが合わない接合部みたいな音がなる首を動かせば、ゴロツキ供に囲まれているスカジャンを着て青い髪を後ろで雑にひと結びした女性。

…神よ、なんであんの突撃女がここにいるんだ。何故だ!!

そう、彼女こそ『喧嘩代行屋ベタ』の突撃爆弾娘(走るダイナマイト)でありダグの悩みの種である。

所構わず喧嘩をふっかけ、代行というには余りにも礼儀を欠く血の気の多さ。

だが機体の操縦は器用で、彼女の機体との相性も良い。

実は面倒見がいいのだが、それを口にすればめんどくさい事になるので絶対に口に出さない。

過去、俺とシズクで部隊を率いていた時に何度も因縁をふっかけてきて、そのたんびにシズクにけちょんけちょんにされていてからというもの、何故か懐かれてしまったのだ。

そういえば…子供達にはまだ合わせてないな…絶対に合わせないようにしなければ。

しかし、ここは無視だ。今コイツに関わっていれば子供達の犠牲者が生まれてしまう!!

俺は急いで別れの挨拶を叫び、バイクに飛びのろうとする。…が。

その腕をもの凄い力で引っ張る手。みればそれは顔を赤くしながら照れるシズクさんの手だ。

 

「ヤーだよもう!!サイネったら!!!デートに見えちまうかィ?!」

「えー違うのか姉御?でも、久しぶりだよなー!!」

 

サイネ。そう、サイネだ。この突撃女の名前はサイネ。できればすぐここを離れたいなぁ。

胃が、俺の胃が凄いキリキリ言ってるから。

何故かこの場から動かしてもらえない俺をほっといて勝手に盛り上がる女性陣。

だれか、だれか助けてくれ。

子供達はどうしてるんだ、頼む何も起こさないでくれよ!!と天を仰いだ瞬間に思い出す。

そうだ、DM(ダイレクト・メッセージ)があったではないか。急ぎコンソールを開きメッセージを送る。

これで一安心かと思いきや、サイネを取り囲んでいたゴロツキ供がさすがに耐えかねてこちらに因縁をつけてきていた。

サイネとシズクがゴロツキ供を煽り、今にも爆発しそうな雰囲気だ。だが、俺の胃の方が爆発しそうなんだ。ほっといてくれ。

 

「…っていてぇなこの野郎!!!テメェ誰に喧嘩売ってんのか分かってんだろうなぁぁ!!!!!」

 

※※

 

「んーーーー?なんだよーただの食い逃げかよーーー茶輔かとおもったのになー」

 

ケムリが上がっていたところについたけど、そんな面白くなかった。

なんか食い逃げをしたヤツがMSよびだして逃げたとかで、そのヒガイが出てるだけだった。

てっきり茶輔のやつがやらかしたかとおもったにになー。

んあ?アレは…千恵か?

なんか変なコートのおっさんと話してっけどダレだありゃ?

それに隊長からもメッセージ来たしなーさっさとつれて帰ってやるか!!

 

※※

 

あのヤロウ!!どこいきやがった!!!!

俺の肉を台無しにしたあげくにMS出して逃げるとか!ヒキョウモノめ!!

 

「クソォ!!どこだぁぁぁぁ!!!」

 

ん?なんか隊長からメッセージ?集合?!そんな場合じゃねぇ!!!俺は!!あいつを!!ギタギタにしてハンバーグにしないときがすまねぇんだ!!!!

あ、でもちょっと腹へってきたから帰ろかな…ってあれ千恵じゃん。つか京谷もいんじゃん。

なんだよアイツらー近くにいたのかよー。

あ?千恵の奴…ダレといやがんだ?

 

※※

 

あ…隊長からメッセージだ!!

よかったーここにいけばいいんだね!!

あれ…?でもおじさんが連れて行ってくれるの違うとこだよね…あれ…?

それにさっきの爆発もあったし、茶輔っぽい背中も見えたんだよね…

か、帰らなきゃ!!

 

「お、おじさん!ぼ、僕呼ばれてるから!!チョコレートありがとうだけど、か、帰らなきゃ!」

 

おじさんは僕の手をはなしてくれない、なんで?!かえりたいよ!みんな!!

 

「オイコラおっさん!!千恵に手ぇ出すな!ライダァァキッィィィィィク!!!」

「千恵に何してんだ!!このヤロウ!!ゴッドォォフィンガァァぁ!!!」

 

おじさん、京谷のとびげりと茶輔のパンチで吹っ飛んでいっちゃったけど…まぁいいや。

 

「あ!!!さ、茶輔!!京谷!どこいってたの?!」

「千恵!!お前どこほっつきあるいてやがった!!!!!」

「千恵!無事か?!なんだアイツ!!」

 

※※※※

 

「なんだい、だらしが無いねェ…もっと強いのは居ないのかィ!!」

「おー…さっすが姉御。全部ノしちまったぜ…八神も鈍ってねぇじゃん!!」

「これは!!不可抗力だ!!!全部お前のせいだぞサイネ!!!」

 

いつのまにか人だかりの中心にいる俺達。周りにはぶっ倒れたゴロツキ。その山の上で胡座をかくシズクとサイネ。

なんでこうなった、全部この女(サイネ)のせいだ。これから子供達と合流するって時にこの騒ぎはマズイ。明日の護衛任務に支障がでる。

そんな事が頭をよぎった瞬間目に入るのは、今一番会いたかった姿。

 

「千恵!!京谷!!茶輔!!!お前らどこ行ってた!!」

 

人目もはばからず3人を抱き寄せ持ち上げる。

あぁ!よかった!!無事だ!!誰も被害を受けて無いのは奇跡だ!!

そんな俺の腕の中では3人がキャッキャと笑い、背中からは2人の呆れた声が聞こえる。

だが、それがどうしたというのか、この街が無事だったんだぞ。

俺はなんとか落ち着いて明日を迎えられると、胸をなでおろした。

だが、そんな安心も束の間ボイスメッセージが届く。

相手は『カルテル』のニコラスから、その顔は悲痛というしかいいようが無い。

 

「…八神様…大変な事になりましたね…。今、八神様達がノした相手は『スコッチーニ一家』の下っ端です。間の悪い事に、我々と対立しているフォースでして、明日の護衛の際一番に警戒しなければいけなかった相手なのです…」

 

なんでこうなった!!!!

あ、いかん。胃がキリキリしてきた…なんか熱もありそうだぞ。

 

「あ?お、ニコじゃん。アタシが代行した喧嘩の雇い主だぜコイツ。なんちゃら一家ってーのが弱っちくてさー!」

 

ヘタうった若造ってお前かー!!!!おいダグ!!ちゃんと手綱つけとけよ!!!

そんな俺の事なんて、まるで無視したように画面越しにサイネが話し出す。

とりあえず頭にげんこつかまして黙らせた。

 

「…すまない。ここまでなるとは思わなかったんだ。それで、奴らに手を出した、という事なら、アレか?スケジュールの繰り上げか?」

「ええ…さすがお話が早いですね。私からも是非頼もうかと思っていたところですよ。観光の邪魔はしたくなかったのですが…すみません」

 

俺はその答えに了解の意を伝え、仕事の繰り上げを伝える。

途端に不機嫌になるシズクと子供達。だがそんな彼らをなだめ、未だ頭を抱えているサイネをほったらかして急ぎ格納庫まで走る。

…レンタルバイクに5人で乗るっていう、なかなかハードな絵面だったが。

 




八神「ちくしょう…思い切り殴りやがって…いてぇ」
千恵「た、隊長!!だ、ダレにやられたの?!」
京谷「あぁ?!隊長にケガさせたのダレだよ!!穴だらけにしてやる!!」
茶輔「いや!!そんなんじゃ生温いぜぇ京谷!ぐちゃぐちゃにしてお好み焼きにすんだよぉ!!」
シズク「なんか、アタシもムカついて来たねェ…野郎共!!敵はアイツらだよ!!」
八神「え、ちょ、まって!確かにそうだけど!!」

茶・千・京「「「次回!!奮闘記第10話!!!輸送部隊護衛任務・後編!!!!お前らぶっ飛ばしてやるからなああぁ!!!!」」」

八神「あーあ…言わんこっちゃない…」

※サイネは友人からお借りしたキャラクターです


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奮闘記:10 輸送部隊護衛任務・後編

いやぁ。創作って楽しいね。
いつまでもこの気持ち、無くしたくないなー


毎度ありがとうございます!!

次回こそレースネタ書くんや…


「ちくしょう!!コイツら!!何匹いやがんだよ!よえぇクセに多いぞ!!ワリィ茶輔ぇ!!そっちに2匹いった!!」

「ったく!無駄口叩いてねぇで撃ちまくれってんだよぉ!!京谷ぁ!!!」

「あああああああ!!!!うっとうしいぃぃんだよぉぉぉぉ!!もぉおおお!!」

「ホラホラ!まだまだ来るよ千恵!!さっさと次ィ壊しな!!」

 

おお…いつも以上に張り切ってやってるな。

シズクの新機体も調子良さそうだ。

しかし…わざわざグリモアベースで組み直す必要なかったんだがな。

シズクが組み直したのは、前に乗っていた【グレイズアイン】の改造機【グレイズ・ペイン】のボディをグリモアレッドベレーに変更し、そして脚部分だけを【ユーゴー】の逆関節型脚部に換装し、推進機の増強と機動力を強化した機体。

その名も【グリモア・アサルト】だ。

【グレイズアイン】専用の大型アックスを振り回し逆関節特有の超機動力で予測できない機動をとる姿は、子供達の機体とも遜色無い強さを誇っていた。

空中から一気に強襲し、敵を真っ二つにして突き進む。千恵の力任せな破壊ではなく、洗練された技術による一撃。

その姿はいつまでも見ていたいほどに美しかった。

…絶対に言わないけどな。

しかし、いつまでも持たないだろう。

…輸送部隊のトラックは3台。

それの護衛だが、それに襲いかかってきたのはやはり『スコッチーニ一家』の意趣返しだった。

一体どれだけの数で襲ってきてるからは不明だが、既に6機は倒したはずだ。

それにここは渓谷、目標であるゴールまではまだかなりの距離がある。

俺は輸送機を先行しつつ迎撃と警戒。

後方には茶輔の【グリモア・タイラント】。今回は中・近距離装備のジャイアントガトリング・ハンドと2連速射砲・ハンド。

【フルシティ】のバックパックには銃剣付きマシンガンとヘビークラブ。

右からの敵は京谷の【グリモア・オンスロート】が景気良く銃をぶっ放し、左はシズクの【グリモア・アサルト】が守る。

千恵の【グリモア・ランページ】は遊撃として好き勝手に飛んで貰ってはいるが、なぜか機嫌が悪い。

 

「オイ千恵!!いくらさっきのオッさんが気持ち悪かったからって、ンな突っ込んでったら守れねぇだろ!!!」

「そうだぜぇ千恵!俺と京谷がブチのめしたんだからよぉ機嫌直せってぇの!」

 

気持ち悪いおっさん?はい?キミ達何してたの?それにぶっ飛ばした?!

 

「うっるさいなあああああ!!!僕の手を握って!!あんな!!顔して!!!ああああ!!!」

 

あ、ダメだ。これはヤバイ。

普通じゃない事があったんだな。

しかし…全部が終わったら、その「おっさん」とやらをシメなきゃいけないようだ。

ウチの子に手ェ出してタダで終わると思ってんじゃぁねぇぞ?

少しテンパってる頭で俺はそう決め、また襲撃してきたデスアーミーを撃ち抜く。

 

※※※※

 

「オイ!まだあのトラックは落とせねぇのか!!!」

「へ、ヘイ!!すんません兄貴!!『カルテル』の奴ら、やたら強い用心棒雇いやがったみたいでして!」

「チィッ!!なんだってんだよクソァ!!親父とは連絡つかねぇし下っぱ共はノされて帰ってくるしよぉ!!!」

 

俺達は天下の『スコッチーニ一家』だぞ?なんでこんな簡単な山ァ片付けられねぇ!!

『ローズ・カルテル』のスカし野郎共との喧嘩にも『喧嘩代行屋』風情がしゃしゃり出てきやがって!なんで、なんでなんでなんだよぉぉぉ!!

しかしあのトラックの用心棒共、ガキばっかの癖にめちゃくちゃだ!

気味のワリィ4つ脚で紫色のグリモア、やたらつぇえ逆関節でオレンジ色のグリモア。

それにヤバイぐらい暴れる白頭のグリモア。コイツらに襲撃隊のほとんどがヤられちまった。

トラックにも腕の立つ黒いグリモアに、やたら硬ぇ緑の戦車型グリモア。

グリモアばっかりじゃねぇか!!!

…ん?グリモアばっかり?それの搭乗者はガキ??

 

「オイオイオイ!!まさか!!!「砂漠の悪童」って奴じゃぁねのか?!」

 

ここから遥か遠くにある不毛の砂漠地帯、そこを根城とするグリモアだけのフォースがあった筈だ。

ソイツらは恐ろしく容赦ない戦い方をするガキで、街一個まるごと笑いながら破壊し尽くしたとか、捜索していた部隊をたった一機で壊滅させたとか、クソでけぇサイコガンダムを一撃でバラバラにしたとか、地形データをぶっ壊したとか。

そう、親父に教えられた事がある。

本当に「砂漠の悪童」ならヤベェ。それが『カルテル』の用心棒だっつーのは更にヤベェ。

今はただの小競り合いだが、これはフォースごと潰されかねねぇ。

なら、今やるしかねぇ。

 

「オメェら!、気合い入れ直せ!!ヤツらは「砂漠の悪童」共だぁ!!ヤツらをぶっ壊して俺達がこの国のぉテッペンにいくんだよぉ!!!」

 

そうだ、俺達が「砂漠の悪童」を倒せばハクがつく。そしてそれを背景に親父を王にする!

そうすりゃこの辺一体のフォースは俺達の支配下における!!そうすりゃぁ…いずれチャンプだって俺達の下に…!!

 

「オラァ!!【ギャンブル・ホーン】ビスマルク・スコッチーニ!!いくぞぉ!!」

 

俺と俺の機体「怒れる猛牛」と呼ばれる【ギャンブル・ホーン】がいればヤツらを倒せるはずだ!!

 

※※※※

 

いやに…静かになりやがった。

渓谷への襲撃が急に止みやがった。子供達も何とか落ち着いて、今はトラックの近くで待機している。それに、目標ポイントはもうすぐそこだ。

渓谷の切れ目から見えるのは『カルテル』の本部がある街だ。

トラックの運転手にも移動を急がせ、さっさとこんな仕事を終えたかった。

だが、そうはさせてもらえないらしい。

ばら撒いたセンサーリコンに反応有りだ、数は6。こちらとほとんど同じ。

カメラアイを同期させ見えたのはホットロード調に着色された【デビルガンダム】の改造機、特徴的なガンダムフェイスの下半身を見るに中間型か。

仰々しい肩につけた巨大な角が目につく、多少強そうだ。仮に【牛デビル】と呼ぼう。

周囲には襲撃部隊と同じくデスアーミーが5機。こっちはどうでもいいだろう。

俺は輸送トラックに余分に引かせていた荷台の布を剥ぎとり、中に隠していたコイツを取り出す。

 

「おや?アンタそれ使うのかィ?珍しいじゃなィかソレをひっぱり出すなんて、サ」

 

シズクがそう言って茶化してくるのは、この際無視だ。

グリモアのマニュピレーターでソレのバレルを握り、そして本体に装着。

グリップの位置を確認して装着、弁当箱のようなマガジンをつけ薬室に1発目を装填。

コイツを出すのは、本当に久しぶりだ。

大型対MS用ストロング・ライフル「ガルム」。

これなら、どんな装甲でもぶち抜ける。

もう、あんな思いを子供達にはさせない為にも封印していた「コイツら」をまた出すしか、無い。

輸送トラック達は一旦渓谷の洞窟に避難させ、光学マントを発動。

姿を見られないように静かに移動し始める。渓谷の先ではもう戦闘が始まっていた。

デスアーミーの部隊に突っ込んでいくのは千恵の【グリモア・ランページ】憂さ晴らしなのだろうが両腕の武器で一度に3機を落とす。

…が、倒されて粒子化されかけたデスアーミー達はたちどころに回復していく。

なるほど、DG細胞の効果か。

周囲で戦っていた京谷と茶輔も驚いて攻撃の手を止めてしまっている。

しかし、回復速度がおかしいほどに早い。

これは、やはり…。

 

「オイ八神!!やっぱりコイツ!!」

 

【牛デビル】と戦っていた方角からは、珍しく焦ったシズクの声。

その声に促されるように敵の親玉である【牛デビル】を見れば、やはりというか紫色のオーラを纏っている。

マスダイバーだ。もう見飽きたぜ、嫌になるくらいにな。

先日の【城サイコ】との戦いが頭を過ぎる。

 

「もう、子供達をあんな風に、させる訳がねぇだろうが!!」

 

マントを翻し、射撃姿勢を取りスコープの倍率を上げる。

本体下部にあるチェンバーロッドを操作し初弾を廃莢、そして引き金を絞った。

あり得ないほどの砲声が轟き、ソレが空気を揺らし音にならない衝撃が襲う。

その襲いかかる衝撃を全身で抑えつけ、バレルの先につけたカウンターウェイトで無理やり軌道を安定させる。

1発につき10000DPもする特殊弾頭だ。

コイツはダグのおっさんに無理言って取り寄せたモノ。

「経費をケチっちゃ良い仕事はできねぇ」とかほざいてたが、その通りだ。

その超高価弾が真っ直ぐに目標へ向かう。

狙うのは、下半身部のガンダムフェイスの眉間部分。

ただの弾ではマスダイバーの機体には効かない。ただの弾なら、な。

着弾と同時に内部火薬が炸裂。

それに押されるように弾頭が割れ、中から飛び出るのは超硬化鉄芯だ。

コイツで貫け無い装甲なんて、あるわけねぇぞ?

見事眉間をぶち抜かれた【牛デビル】は目に見えて弱体化。

それに周囲のデスアーミーの回復効果も低下したようだ、そうなれば後はアイツらの仕事。

俺は銃を折り畳み、すぐに狙撃場所から撤退した。

 

※※※※

 

馬鹿なぁ!!なんだ今の銃弾は!!マスダイバーとなった俺の【ギャンブル・ホーン】の装甲をぶち抜きやがっただとぉ?!畜生め!!どっからだ!!

周囲を探すが、それらしい影は無し。

これじゃぁせっかく強化したデスアーミーも形無しだ!

見れば狂戦士の如き白頭に吹き飛ばされ、緑の戦車型が物凄い勢いで弾をばら撒き、紫色の4つ脚に穴だらけにされていく。

さっきから戦っていた逆関節も勢い付きやがった!めんどくせぇ!!

だが、逆関節の装甲はかなり薄い!1発入れちまえばいいんだ!

自慢の「ブル・ホーン」で串刺しにしてやらぁ!

邪魔な逆関節が振り下ろす大型アックスの攻撃を無理矢理に腕で受ける、先程の銃撃で弱った装甲では見事に両断されちまうが、知ったこっちゃねぇ!!

片腕で突きかえして間合いを離し、そのまま肩から走り出して加速する。

これが俺の必殺ムーブ!!

 

「ぶち壊れろやァァ!!『レイジングゥゥ!!ホォォォォン』!!!」

 

これで、まずは1匹目だぁ!!!

なんとも心地よい衝撃音が俺の耳に入る、これは一撃で刺し貫いちまったかな?

だが、目をモニターに移して驚いた。

俺のモニター全面に映るのはオレンジ色のグリモアの頭だ。

 

『今のが必殺技かィ?!アタシも、ナメられたもんだネェ!』

 

「ブル・ホーン」が半ばから逆関節の斧にへし折られてる。

あんな斧じゃ、傷すら着くはずが無い!しかし地面に撃ち込まれた弾痕が目に着いた。

撃ち込まれた先を見上げれば渓谷の上。

巨大な銃を構え太陽を背にし、マントをはためかせる黒いグリモア。

お前か!お前がやったのかああああああ?!?!

ソレを見て驚く俺の前には、兵隊達を倒し現れたほとんど無傷の4機のグリモア。

 

『ナイス援護!!さっすがだネェ!!どうだィ?ウチの旦那もやるだろう?』

『…旦那じゃあ、ねぇ』

『ギャハハ!隊長が親父なら、俺すげぇ嬉しいよ!!』

『さっさと終わらせて、メシにしよぉぜぇ父ちゃん』

『たいちょうがおとうさんなのおおおお?!?じゃぁぼくおよめさんだねえええ!!!』

『『『なんで(ヨ)!!!』』』

 

こ、コイツらふざけやがって…俺は…俺はぁぁぁぁ!!『スコッチーニ一家』の若頭だぞ!!!

それが、こんなふざけたヤツらにいいいい!!!

 

「く、くそがああああああああ!!!!」

 

無意味だとわかっちゃいるが、破れかぶれで突進する。

まぁ、そのままヤツらにメタメタにされちまったんだけどよ。

親父、すまねぇ。俺、もう戦えねぇや。

あんなヤツらに目ぇつけられちゃ、おちおち眠れねぇ。

あんな悪魔共に喧嘩売ったのが、間違いだったんだよ。

なぁ親父、今どこにいるんだい?

 

俺はもう…止まっちまったよ…。

 

※※※※

 

「はぁ?!変なおじさんに連れてかれそうになったぁ?!」

 

戦闘も終わり無事に輸送トラックを『カルテル』のアジトへ届けたあと、俺は気になっていた事を千恵達3人に何をしていたかを聞いて腹がギリギリと痛んだ。

これだから子供達だけにしたくなかったんだ!しかも連れて行こうとしたそのおっさんをぶっ飛ばしただぁ?!

よくや…いや何て事を!もしかしたら一緒に俺を探してくれていたかもしれないというのに!!!

無実の方をコイツらのトラブルに巻き込んでしまったかと思うと、俺の腹がヤバイ!

 

「…もしかして、そのおじさんというのは、こんな顔ではないですか?千恵君?」

 

そんな様子を見ていたニコラスが、千恵の言った特徴の男の画像データを見せてくれた。

それを見た千恵は、物凄い拒否反応だ。

コイツ…いやこの人か!!急いで見つけて侘びいれ…いや謝罪せねば!!!

だがその反応を見たニコラスは、その涼しいイケメン顔が崩れるほどの笑いを堪えている。

 

「ぷ…ククク!!これは、これは!なんと!!グッ…クハハハ!!いやぁぁまさかまさか!!!ハハハハハ!!!」

 

そんなニコラスの豹変に俺達は呆気にとられてしまう。ソレに気づいたニコラスが謝罪とともに調子を戻していく。

 

「あぁ…失礼しました。ハハハ、いやぁ。今までで1番の朗報でしてね?この画像の男なのですが、今日GBNから違法行動でBANされた人物でしてね?それも、あの『スコッチーニ一家』の組長なんですよ!!!!」

 

あぁ、なんだアイツらの頭かよ。

なら、いいや。

あーあ、BANされたならブン殴れねぇじゃねぇか。クソが。

こうして、俺達のヨーロッパ遠征の初日が終わる。

 

あー疲れた。明日は観光してぇなぁ…。

 

※※※※

 

しかし、素晴らしいなあのガキ共は。

まさか、あんなにも強いとは!!

あの力さえあれば、俺はこの国の王になれる!

その為には、あのガキ共にちゃんと首輪をつけてやらねばならん。

鍵は、あの大男だ。アイツさえ押さえれば!!

俺は違法と知りながらも、ヤツのパーソナルデータに改竄を施すプログラムを立ち上げる。

これは対象のパーソナルデータを書き換え、まともにゲームができなくなるプログラムだ。

これがあれば、あのガキ共への首輪になり得るだろう。

その瞬間、強烈なスポットライトが当てられた。

窓の向こうには、4つのグリモアヘッドが見えた。

そしてその中の一機から声が聞こえる。

 

『いやぁ、今日はサ。アイツもさすがに疲れたんだよね。だからさ、ほっといてくれやしないかい?ねぇ『ローズ・カルテル』のファーザー。ニコラスさん?』

 

女の声だ。

なぜ、バレた?しっかり隠していたじゃあねぇか!!…まさか?!

 

「余計な事、すんじゃぁねぇよ。青二才」

 

背後からかけられるのは、重厚なソレ。そして今一番聞きたく無い声だった。

少し白いものが混じった髪をオールバックにし、右目の眼帯に大柄な巨体。

(うぐいす)色の着物でその身を包み、肩にかけるのはダンダラ模様がついた黒色の羽織。

『喧嘩代行屋ベタ』頭領、ダグ。

その眼光に射すくめられ、まともに動けない。

 

「この件はよ…もう手打ちじゃあねぇのか?お?だったらもうアイツらに手ぇだすな。これがどういう事か、わかるよな?」

 

一歩踏み込むだけで威圧感が増す。そして、そのままへたり込んでしまった。

 

※※※※

 

「助かったぜ、ダグ。」

「うちの馬鹿が世話になったからな。まぁ…迷惑料変わりにもらってけ」

 

『カルテル』がキナ臭いとシズクから教えられ、警戒していればこの有様。

まさか、ニコラスがそんな事考えてたとはな。

だが、あの突撃娘(サイネ)がダグを連れてきてくれたおかげでなんとか事なきを得た。

やっとだ、やっと休めるなー…明日から、何しようか。

 

よし!たまにはいっちょパーっとやるか!!




八神「あーーーーー!!!疲れた!!!!しんどい!!」
シズク「あぁ!ほんとうによくやったね!アンタは偉いヨ!」
八神「や、ヤメろ…頭撫でんな!!ヤメろ!!!」
シズク「素直じゃないねェ?じゃぁさ!明日はアタシとデートなんて、どうだィ?」
八神「また今日の二の舞だってーの!!!
次回!!奮闘記第11話!チキチキ!グリモア大レース!!…抱きつくな!!首!首キマってるから!!」


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奮闘記:11 チキチキ!グリモア大レース!・前編

ほのぼのは素晴らしい
でも、そろそろハードなのぶっこみたい


輸送護衛任務もなんとか無事に終わった俺達5人はログインポイントをそのままに、その日のうちに解散した。

初めての長距離遠征で多少疲れた俺達は、一路我が家へと向かう。

そう。ボロくても、暖かい我が家へ…。

 

「…ってなんじゃぁこりゃぁぁ!?!」

 

俺の目の前にあるのは立派な新築2階建の孤児院、もとい一軒家だった。

ボロボロな平家の元保育園の姿は…無い。いや、一部には元の姿の面影がある…。

それに茶輔と京谷がふざけてた時にひん曲がった看板も綺麗になってやがる。

広くは無いが、狭くもない荒れ放題だった庭は綺麗に整備され何故か鉄棒やウッドブランコまである。

そんな驚きを隠さない俺の横では、子供達が目を星のように光らせ感動していた。

 

「「「うおおおおお?!?!すっげえええええええ!!!!」」」」

 

オイ、お前たちさっきまで疲れて寝てたんじゃないのか、まだ遊ぶ気か。

もうリードを離した子犬のように思い思いに駆けはしゃぎ回っている。

その姿はとても微笑ましいものだった。

 

「顔がニヤケてるよ、熊田」

 

いつのまにか横には霞が並んでいた。だがその目は俺ではなく子供達に向いている。

その横顔は、まさしく太陽のように…っていてぇ!!

なんだ?ボールか?!

 

「なーにいちゃついてんだ隊長!!」

「そうだぜぇいくらカスミさんがキレイだからってよぉ」

「…ぐぬぬ…ぐぬぬぬ」

 

ボールを放り投げたのは千恵か。ふにゃふにゃなボールなのに結構痛かったぞ。

まぁ、良い。どうやら、俺に戦いを挑むようだな?

この野戦の鬼と恐れられた俺に!!挑むんだな?!

 

「やれやれ、ホントに子供なんだから…バカだねェ」

 

背中向かって霞が何か言っていたようだが、子供達の笑い声で良く聞き取れなかった。

だがまぁ、うん。

 

楽しいな、こういうの。

 

※※※※

 

「さて!!じゃぁ楽しもうか!!お前達!!」

 

そう宣言したのが2時間ほど前、既に俺の疲れはピークに達していた。

同じ時間をガンプラで戦ってる方がマシだ、そう思える。

ソレに…予想以上の出費だ。なんでこうなった?!

そうして俺は、この一日で起こった事を振り返りだす。

 

散々遊んで泥だらけになった次の日、俺達は懲りずにまたGBNにインしていた。

場所は先日観光した街。

今日は仕事も無いし色んな所を皆で見て回る、そう決めていた。

…絶対に子供達から目を離さないように適度にはしゃぐ。

隙を見たら2人でデートしたいと行ってくるシズクはとりあえず置いておくとして、今日はパーっと遊ぶことにした。

なにせこんな所には滅多に寄らないんだ。ここから帰れば、またあの砂漠に戻って騒がしくも落ち着いた日々がまっている、ならば今日ぐらい良いだろう。

こういうのも悪くない、子供達にも良い経験になるはずだろうと考えていた。

 

まぁ結論から言えば、ハメを外させすぎたのだ。

朝から晩まで様々観光名所を見て、その場その場で色々な物を買い食べ遊んだ。

こうしてヨーロッパサーバーでの遠征はこのまま無事に終わりを迎える…はずだった。

それが、1番良かったんだが…。

 

「帰りの燃料代が、無い!!!」

 

何ということだろうか。ほんとうに、何でこうなった?!というか何でこんな燃料代高いんだ!【ウルスス】の燃料に使われているのは特殊なモノらしく、普通の整備費の倍以上がかかっていた。

それに合わせて、先の戦闘で消費した弾薬費及び整備費用を引けば『カルテル』からの報酬及び口止め料、そして『ベタ』からの報酬があったとしてもギリギリだ。

これじゃ何のためにここまできたのかわかったものじゃない。

これは由々しき事態だ。早急に仕事を見つけるか、フリークエストで稼がなければならないだろう。

設定したホームポイントがあるため、ログアウトしてから有料でできる機体回収サービスもあるのだが、それはそれで良い値段がかかる。それは流石にやりたくは無い。

さて、どうしたものか。

だが考える前に、このフォースの隊長として言っておかねばならない事がある。

 

「まず茶輔!お前は無駄弾が多すぎる!あんなにばかすか撃ちまくるなと前に言っただろう!」

「えぇー?だってよぉ…おもいっきりぶっ放すのたのしーじゃん」

「やーい怒られてやんのー!!」

 

あからさまな茶輔の不機嫌顔、うんお前はそういう奴だからな。でも頼むから節約してくれ。

 

「お前もだ京谷。ロケット弾の使い方にはあれほど注意しろと言っただろう!爆発する射程内で敵をロックするんじゃ無い!見ろ!!ただでさえ整備が難しいお前の機体の整備費用を!」

「うげぇ!今回こんなかかったのかよ?!マジで?!」

「ふ、2人とも、まともに、た、戦わないからだよ…」

 

領収書を見て目を剥く京谷。そうだろうな、ほとんど無傷だとはいえ多少のダメージはあった。それに4つ脚の機体はそう無い、その分整備費用がかかるのだ。

 

「いや、千恵。お前がそれを言えんぞ…先の戦闘、お前が無理な戦いをしたせいで右腕のインパクトナックルの損傷が大きかったんだ。これもかなりの額だ。」

「ご、ごめんなさい…」

 

それぞれが機体の領収書を見て流石に反省をしたようだ。

帰ったら久々に訓練だな、こりゃ。今まではこの3人相手に1人は無謀すぎたが、今はシズクもいる。

しかも少し前までは新人教育の教官サマだ、なんとかなるはずだ。

 

「で、どうすンのさ。回収サービスに頼むのかィ?」

 

説教もひと段落したところで、シズクが1番重要な事を聞いてくる。

有料とはいえ便利なのは確かかつ安全なのだ、確かに懐には痛いがそれもやむなしだろう。

 

「隊長ぉーそういやさぁさっき、こんなんもらったんだけどよぉ」

「あーアレか!でもさ、流石にもう無理じゃね?」

 

そう言って茶輔と京谷が渡してきたのは一枚のチラシ。

それはこの地域で行われる予定のイベントチラシであった。

 

「猛烈ガンプラグランプリ?…優勝者には…2000万DP?!」

 

 

※※※※

 

照りつける太陽に、燃え上がるような蜃気楼。

そして群衆の熱気がそれに加わり今にも爆発寸前!!

これだ、これが私の求めていた刺激!!ただの戦闘(ドンパチ)なんかよりも、私はこっちの方が好きだ!ありがとうGBN、ここで私にしかできない仕事を与えてくれた事に感謝します!!

私の眼下には、今にも爆発しそうなほどにエンジンを滾らせる者達!心が踊る!!

 

「ミスター、そろそろ…」

「おぉ…失礼しました。では、始めましょう」

 

いやいや、年甲斐も無くはしゃいでしまった。しかし仕方ないじゃないか、こんな老ぼれを燃え上がらせるんだから!

ヘッドマイクの電源はいいな?中継車の準備も良し、水は?良し!

ならば、始めよう!!

 

『それでは皆様お待たせいたしました!!第4回猛烈ガンプラグランプリ!!まもなくスタートです!!実況は私、ジョナサンがお送りしいたします!そして、今回の解説はなんとこの人!知らぬダイバーは1人もいないでしょう!先日の大会では素晴らしい戦いを繰り広げ、個人・フォース共に最強を手に入れた男!!!歴代GBN最強のチャンプ!!!クジョウ・キョウヤさんに来て頂きました!」

 

隣に座った青年を見れば、涼しげな顔の中に見て取れる戦士の目。

うーむ、素晴らしい!彼の走りも是非見てみたかった!

彼のその目を見ればわかる、君も出たかったのだろう、私も残念だよ。

そんな私の胸中を知ってか知らずか、興奮も隠さずに挨拶するチャンプの子供っぽさに私は好感が持てた。

 

「さて、チャンプ。まず、今回のレースルールの説明をもう一度させて下さい。第4回ともなるとチャンプもご存知かもしれませんが、ルールは大事ですからね。是非チャンプに説明をお願いします!」

「わかりました!では、説明させていただきましょう!」

 

爽やかな声で読み上げられる今回のルール。

このイベントが発足してから様々に変化し追加されていったものだが、一貫してあるものはただ一つ!「誰が1番凄いのか」だ。

このレースはただ速さを競うものでは無い。

何故ならこの広大なヨーロッパサーバー全土を使い、限りある物資を補給しつつゴールにたどり着くハードなレースだ。

GBN公式まで巻き込み、様々企業もスポンサーしてくれているこのレースは年に一度の大イベント。

しかも今回は、今までに無かったフォース単位でのチーム戦。一体どんな事になるのやら!!

気がつけばチャンプのルール説明も終わりに近づき、私は興奮を押さえつけマイクに向かう。

 

「チャンプ、ありがとうございました!皆様ルールはよろしいですね!!では始まる前に注目のフォースのおさらいです!今回のレースでは何とチャンプのフォースある『アヴァロン』からカルナ選手率いる『チーム・カムラン』が参加されてますね?やはりチャンプはこのチームを?」

 

そんな私に向き直る彼も興奮を抑えたよう顔だ、そうでしょうそうでしょう。分かりますよその気持ち!

 

「確かに、彼のチームも応援したいですが私はこのレースに参加している全ての選手を応援したいですね!」

「さすがチャンプ…!ですが強いて注目しているチームを教えて頂けませんか?情報によれば今回初参加チームにチャンプが注目しているチームがあるそうなんですが?」

「バレてましたか!!いやー確かに彼らには注目していますね!ロンメル隊長の率いるチームを破った彼らならこの大会も大いに盛り上げてくれるでしょう!!」

「何と!!あの知将が率いるチームを?!素晴らしいフォースが参加しているようです!!これは盛り上がってまいりましたぁ!!」

 

おぉ…!それは凄い!情報ではロンメル隊長の新人部隊を破ったフォースがあるのは知っていたけれども、まさかチャンプが目をかけるほどとは!しかもタイガーウルフやマギーなど名だたる面々との接点もある…これは楽しみだ!!

 

※※※※

 

まさか、参加する事になるとはな…しかし優勝賞金の2000万DPは魅力的だ。

それに参加者に渡される専用に調節された燃料タンクで動くため、こちらが負担しなくていいのも良かった。

この燃料は普段使用しているものよりも極端に最大量が低く設定されてはいるが、各地のチェックポイントでその都度燃料の25%までは補給してくれるらしい。

そしてこのレースはチーム戦だ。一度のコースに参加できるのは2機まで。チームの最大人数は6名までの制限付き。うまくやりくりして進めるのがポイントになる。

俺達は5人だからギリギリというところだろう。

最初のレースはコースが設置された街中を走り、その後険しい山岳コースを抜けるまでとなっている。

飛行は可能だが、燃料を大幅に使ってしまうため最終手段にした方が良い。それにこのレースでは補助兵装での走行が推奨されているのだ。まずはそれで温存して走るのが定石だろう。

子供達は自走する方が速いと言い張ってはいるが、流石に無理があるだろう。

シズクなんかは現役時代の時に散々使い回していた一輪型バイク【バトルホッパー】を引っ張りだしている。

俺も、もう使う事は無いと思っていたMS用2輪バイクを用意していた。

レース用では無いが、まぁなんとかなるだろう。

しかし、無茶なレースだ。サーバー丸々を使った横断レース、それ自体は面白そうだが各所に設けられた難関と、街中以外での戦闘行動の許可。

なかなかハードな内容になりそうなのは明白だ、そんなルールで子供達が暴走しない訳もない。

ここはうまく俺達大人がしっかりしなければ。成り行きで参加することにはなったが、やるからには勝ちたいしできれば賞金も欲しい。

そう断じて賞金に目が眩んだ訳じゃないんだからな!!

 

「隊長ぉー整備、終わったぜぇ…ってアレ?なんか元気なくねぇ?」

「なんだ隊長元気ねぇぞー!!サクッと優勝して賞金たんまりがっぽりウハウハだぜ!」

「た、隊長元気ない?ご、ごめんなさい…い、いっぱいあそんじゃったから…」

 

子供達に何で俺が心配されなきゃならんのか。むしろ俺は君らを心配してるんだからな?

あと京谷、そんな言葉どこで覚えたんだ、え?シズクが言ってた?

オイオイ、頼むぞホントに…。

しかし、そろそろ始まる頃だ。気合い入れて、勝ちにいくとしようか!

 

※※※※

 

「ねーねー!今さ!私達より小さい子供達見たよ!凄いよね!!」

「ガンプラに年は関係ないっていうけど…世界は広いなぁ」

 

猫耳をつけたピンク色の髪の女の子と、眼鏡と帽子をつけた少年が話している。

彼らが向かう先には、おそらく同年代だと思われる少年とそれに寄り添う眠たげな目をした女の子。

どうやら、忍者のようなコスプレ少女と真っ白い髪の毛の青年と一緒に、何やら打ち合わせをしているようだ。

彼らもレースの参加するのだろう、整備と作戦には抜かりがなさそうである。

 

「俺も見たぜ!!だからこそ、負けてられねぇじゃないか!!そうだろ?!」

「うん。僕達も負けてられないね!そろそろスタートの時間じゃないかな?」

 

そんな会話で盛り上がるのは、彼らだけでは無い。

そんな全世界が注目する大レースの選手達は、観客達の熱気に負けないほどに戦意を高ぶらせ自分達が1番だと宣言しているようだった。そんな待機広場に響くのは、開始5分前の合図。

 

こうして世界で最も過酷なレースの火蓋が、切って落とされたのであった。

 




茶輔「そういやさぁ、なんか俺らのことジロジロ見てた奴ら居なかったかぁ?」
千恵「そ、そういえばいたね。な、なんだろうね怖いな…」
京谷「いーんじゃねぇのー?邪魔すんならさ、ぶっ飛ばしちゃえばよ!」
茶・千恵「「そうだな(ね)!!」」
八神「なんでそうなるんだよ…!頼むからあんまり暴れないでくれよ…!」
京谷「ギャハハ!!そんな事言ったってよー結局戦うんだからカンケーねぇって!!
次回!奮闘記第12話!チキチキ!グリモア大レース!・後編!!…さぁて!ハデにぶっとばすぜ!!」


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奮闘記:12 チキチキ!グリモア大レース!・後編

今回は…難産だった…書きたいのと表現が追いつかない気持ち。
楽しいけど大変だ!


土砂降りの雨が地面ぬかるみを作る。

スタートしてからすでにどれだけの時間が経過したのだろうか。

あれだけ照りつけていた太陽は今や雨雲にかくれ、視界を奪うように襲う雨が降り注ぐ。

街中を抜け山を抜けた先の荒野、俺達が走っているのはそのあたりだ。流石にバイクの燃料もそろそろ限界だろう、それは後ろを着けてくるシズクも同じ。

スタートしてから先頭を突っ走ってるのはアイツ(チャンプ)のチームらしいが、それに食らいつくように『ビルドダイバーズ』とかいう子供達が頑張っているらしい。

若い力っていうのは本当に凄いもんだ。しかし、せいぜい最初から飛ばして行ってくれ。

俺達はその隙を狙わせてもらおう。

先頭集団からも後方集団からもある程度の距離がある、ちょうどその中間にいる俺達。

周囲には俺達以外のチームはいない、大概最初の山越えで脱落して行ったのだ。

まぁ、脱落させたに近いが。

街中以外の戦闘行動は制限されてはいない、ならば自然と起こるのは潰し合いだ。

俺達は先頭集団に追いつくフリをしながら山の中に多くのトラップを仕掛け、それでライバルチームを蹴落としていった。

誰もが燃料を温存する序盤、消費の大きい飛行という手段を取らないからこそできた荒技だったが多くのチームが掛かってくれて安心した。

俺にとっては山なんてものは遊び場であり、おもちゃ箱のようなものだ。やりようなんていくらでもある。だが、流石に天気まではどうにもならないのだ。

 

「そろそろ、最初のポイントじゃないかィ?しっかし鬱陶しい雨だよ全く!」

 

いい加減に痺れを切らせたのはシズクだ。確かにこの雨とぬかるみ機体の消費もだが実際の体力にもかなりの負担を強いられている。

街中以外のコース選択は個々のチームに丸投げ、とりあえずチェックポイントまでつけば良いという使用上、チェックポイントまでのビーコンセンサーは配布されてはいる。

それが指し示す距離はまだまだ遠い、先頭集団のチームが着いたというアナウンスメッセージも無い事から、この大雨にどのチームも難儀しているのだろう。

ならば、ここで一旦の休憩を取ることも止むなしだろう。無理矢理にすすんでも良いことは無い。無駄に体力と燃料を消費し疲労から判断を誤る事がある、ならば休息をとり万全をきす事が最優先だ。

 

「よし、あの洞窟で一旦休憩しよう、まだ先は長いんだ。」

 

そう伝えれば、シズクの機体が快諾の意を示すように親指を立てる仕草。

変に抗議をしないあたり、彼女もわかっているのが救いだった。子供達ならもっと先へ進もうとしただろう。

先に俺達大人組が先行したのにも理由はある、彼らの機体はそれぞれが戦闘に特化させすぎているためにどうしてもこのテのイベントは苦手なのだ。だからというべきか今までは見向きもしなかった。

だが、今回そんなイベントに参加したいと向こうから言ってきたのには流石に驚いたが、コレは良い方向なんじゃないのかとも思う。

こうやって、普通にゲームを楽しめるような事ができるようになれば、現実の日常生活も上手くいくようになるのではないだろうか。

そんな親心にも似た考えが頭を占めていた時、すっと目の前に出されたステンレス製のマグカップ。中に注がれたコーヒーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、少し凝り固まっていた思考を和らげていくのがわかる。どうにも、子供達の事になると真面目になりすぎてしまうようだ。

そうやって礼を言いながら受け取り、見上げればシズクの顔。しかしそれはこちらではなく、洞窟の外に向けられていた。

どうやら心配させてしまったようだ、ムスッとした表情でこちらを気にかける様子は初めて会った頃から変わってはいないようだ。

 

「子供達をさ、学校にいかせたいんだ」

 

だからというべきか、俺は今1番気にかけている事をシズクに切り出した。

それにシズクは答えない、また黙って聞いていてくれるらしい。

雨の音だけが響く洞窟の中、俺はこれ幸いと子供達との出会いを話し出す。

茶輔と初めて遭遇した場所は山岳の基地だった事、その後ある研究施設襲撃の任務内で保護した千恵の事、そして敵部隊をたった1人で壊滅させた京谷を引き取った事。

そして、どの出会いでもこんな土砂降りの雨の中だった事。

どれも血生臭い話だ、思い出したくも無い過去だ。

話すべき事でもなかったかもしれない。だが、彼女にだけは知っておいて欲しかった。

自分がしてきた事と、これからしようとしている事。それを知っていて欲しかった。

ただ、それだけなのかもしれない。

 

「つまらない昔話だな。すまん」

 

すっかり冷めてしまったコーヒーを喉に流し込み、俯いていた顔をあげる。

雨はまだつづいてはいるが、だいぶ落ち着いたようだ。

これなら、一気に進めるだろう。

意気込みも新たに、シズクに発破をかけようと向直れば。

半目を開けたシズクの間抜け面だ、オイまさか…。

 

「んぁ…?もう出るのか?」

 

コイツ…寝てやがったな?!

俺の超恥ずかしい過去話、全部スルーかよ!!!いいよ!もう!!!

なんかすげぇ顔熱いんだよ!!チクショウ!!!

 

ーでも、お前と会えてあの子等は、幸せだったと思うよ?ー

 

「あ?なんだって?」

 

シズクが何か言ったように聞こえたが、飛び乗るように搭乗し勢いよく吹かされたシズクのエンジン音で掻き消されてしまっている。

なんて言ったのかぐらい教えろよ!!

 

※※※※

 

「さぁて!レースも第2チェックポイントを通過し残すところはあと2つ!!これまで数々のの熱い戦いが繰り広げられてきましたがここで折り返しとなります!!どうですかチャンプ!素晴らしいレース展開ではなかったでしょうか?」

「そうですね!リタイヤしたチームも今もまだ戦っているチームも素晴らしいです!ガンプラにかける情熱や勝利への執念を感じる前半戦でした!」

 

前半戦ともいえる第2チェックポイントまでのレースはチャンプが言うとおり、素晴らしい戦いだった。長丁場になり興奮も冷めてしまうかと思えばそういうことも無く、各チームの戦略が光るレース展開。

ただひたすらに走るチームに、ライバルチームを蹴落とす事だけを考えるチーム。あえて全力を出さずに落ち着いた走りを見せるチーム。

罠を仕掛け後方チームを追い落とすチームもあれば、素晴らしい頭脳プレーを見せるチームなど全く飽きさせず、かつ先が読めないワクワク感!これが実に良い!!

私も年甲斐もなくはしゃいだ実況をしてしまい、少し反省したほどだ。

それほどまでに今回のレースは面白い!!特にチャンプが目をかけているという初心者チーム『ビルドダイバーズ』には驚かされるばかりだ。まさかカプルとSDユニコーンガンダムで、あんな素晴らしい走りを行うとは…全く予想外だった!!それにあのガルバルディの改造機…ガルバルディリベイクだったか。彼の安定したレース運びと全く予想外の活躍でライバルチームを翻弄するOOガンダム!そして、欠かせない縁の下の力持ちとして要所要所で輝くジムIII!!素晴らしくバランスが取れたチームだ!

それに対抗するチャンプのチームも良い。

全ての能力が他を圧倒しているのだ、チームリーダーのカルナ選手は少し猪突猛進の気があるが、それをチーム全員で支えて上手く彼をコントロールしている。全く隙らしいものが見当たらない!

そして、もう1チーム。なんといっていいのか…不気味な迫力があるチームがその後に続いている。

全くの無名のチームでありノーマークだった。とでもいうのだろうか、だが今回のダークホースに間違いない。

淡々としたレースで先頭チームの後をしっかりとついていってる様から、かなりの猛者なのは間違いないのだ。

確かチーム名は…おっと、没頭してはいけない。

そろそろ本腰を入れて実況をしなければ!ここ第三ポイントはレースの要になる事間違い無い。

さぁ!次はどんなドラマを見せてくれるのかな?!

 

※※※※

 

第2チェックポイントに到着したのは正午を少し過ぎた頃。

限界だったバイクを乗り捨て、機体の推力だけでここまでたどり着いた時には、既に3チームがここを通り過ぎていたという。

逆に考えれば、俺達を含めてまだ4チームしか第2ポイントにたどり着いていないということだ。

俺達は素早く機体の整備とメンバー交代の手続きをし、次の第3ポイントまでの2人を送り出した。俺達の後を走るのは速さに自信がある2人、つまり京谷と千恵だ。

京谷の【オンスロート】は瞬発力こそ劣るがスピードの持続力と加速を維持することにかけてはバツグンに上手い。それに合わせて並走しつつ敵の妨害を突破できるのは千恵の【ランページ】しかいなかった。次のポイントまでの地形が草原なのも相性が良い。ここで一気に先頭集団に追いつくことができればあとはどうとでもなる。

さすがに茶輔の【タイラント】はスピードでは遅れを取ってしまう、だがそれを補う持続力と1発逆転の秘策を茶輔は持っている。それで何とかなる、はずだ。

だから今は、画面越しに2人の走りを見守るしかない。

そう、どんな走りをしていても見守るしか今はできないのだ。

それがたとえ、燃料のペースを無視したフルスロットル走りでも…。

 

※※※※

 

草原と湿地帯が入り混じったような地形を並走する2つの機体。

片方は頭を白くカラーリングしたグリモア。

背や足に増設されたブースターを勢いよく吹かしながら時に走り、時に飛び、そして宙を一回転する自由な動きで進んで行く。

もう片方は肩と頭を紫にカラーリングした、4つ脚の異形なグリモア。

脚につけたローラーでこちらもまたトップスピードを維持しながらひたすらにまっすぐ突き進んでいた。

障害物らしい障害物が無い、見晴らしの良い景色。だが、そんな景色を楽しむ事などせずにただひたすらにエンジンを唸らせる2機の機体を阻む者などいなかった。

ーそう、「彼ら」を除いては。

開けた草原の中を気持ちよく疾走する2機を空中から襲撃する影は4機。クロスボーンガンダムの改造機であろうそれらは、不気味なほどに凶暴な意思で2機の進行を阻む。

そして、おもむろにそれぞれが手に持つ武器で襲いかかっていく、ビームマグナムの銃口が火を吹き、サーベルが夕陽に煌めく。

だが、そんな襲撃に驚きの声は上がらない。

むしろ、それを待っていたかのような歓声がそれに答える。

 

4つ脚の機体は「こんな時」のためにと装備していたアサルトライフルとスラッグガンを両手に持ち、最高速度を維持したまま突撃。

敵の射線をドリフトを駆使し、ギリギリでかわしつつ反撃を加えていく。動きを止めると思っていたであろう敵はその動きに反応できない、至近距離で鉛玉の雨を受け機体を穴だらけにされ沈黙する。しかし味方が一機やられてもその攻撃が止む気配はない。

敵の懐に潜った4つ脚の背後を取った一機が、その背中に向けてサーベルを突き立てようと突進。

だが、それは空中から奇襲してきた白頭のグリモアに阻まれる。

空中から真下への飛び蹴りを繰り出していたそのグリモアはその蹴りによりサーベルを粉砕、そして着地と同時に竜巻の如く回転し勢いをつけた回し蹴りを見舞う。

避けられないほどの速度の攻撃を何とか凌ぐが、その時にはもう遅い。

眼前に広げられたのは4つ脚の前脚に隠された2本の爪、それが右腕と胴体を完全にホールドする、突き立てられた爪は装甲を難なく食い破りそれだけでも致命傷だ。だが、そこで終わらない。動きを止められた敵の側頭部にアサルトライフルの銃口を突き付け、それが吠える。

頭を見事に吹き飛ばされた敵が沈黙した時には、すでにもう一機は白頭によりボロボロにされていた。

どうやったらそうなるのか。下半身は既に無く、右腕は千切れ飛び胴体には巨大な穴が空いている。その顔面を掴むのは巨大な右腕だ。無造作に放り上げられた哀れな機体はそのまま粒子化し消えていく、残ったのは一機。

だが、その敵に焦りは無い。その自信は背後の森から出てくる同型の機体が示していた。

敵の増援だ。その数はゆうに40機を超えている。

囲まれる事を嫌った4つ脚が、その機動力を生かしてあえて集団に飛び込み撹乱。乱れた隊列からあぶれた敵を一撃で屠さっていくのは白頭だ。

彼らに分があるとすれば、彼らを取り囲んでいる機体が全て無線で操作された無人機であった事だろう。だがいかんせんにも数が多い。

倒しても倒しても湧き出てくる敵に徐々に追い詰められる2機、調整されたエネルギータンクであんな動きをしてしまえば、ガス欠も間近に迫り銃の弾も尽きかけている。

徐々に包囲を狭めながら迫る敵の攻撃に、なすすべも無いままやられてかけたその時、包囲していた一部の敵の塊が爆発四散する。

その後も立て続けに降り注ぐのは、範囲爆破を目的とした榴弾の雨。それに加えて空気を切り裂き唸り声をあげる銃弾の連射が2機を救う。

浮足だった敵達は、攻撃してきた方向へ一斉に顔を向け防御の陣形を組み始めるもそれを横合いから襲撃する影が2つ。

2輪のバイクに跨ったマントを纏った黒いグリモアと、一輪バイクで飛びかかり片手に持ったマシンガンを乱射するオレンジのグリモア。

黒いグリモアはバイクの勢いを殺さずにそのまま乗り捨て、多くの敵を巻き込みながら襲われていた2機の前に着地する。

その姿は、まさしく子を守る獣のような動き。

オレンジのグリモアも負けじと片手で器用に運転しつつその手に持ったマシンガンで敵を掃討していく。

形勢が一瞬のうちに逆転し追い詰められた敵が反転して逃げ出そうとするが、彼らの前に現れた戦車の脚を持つ4つ腕のグリモアがそれを阻んだ。

背後から伸びた腕に持つ通常MSと同等サイズの巨大なメイスと、銃剣付きのライフル。

折りたたみ式の榴弾砲の左腕と、これまた巨大なリボルバータイプのキャノン砲を備えたソレが、見境なく暴れ始める。

両腕の凶悪な銃器を振り回し、間合いに入った敵機をメイスで砕き銃剣で貫いていく。

そんな一個の台風と化した猛攻に合わせるようにオレンジのグリモアもバイクから飛び降り、バネのような逆関節の脚を踊らせながら両手の斧を振るう。

その間黒いグリモアは片時も先に襲われていた2機のそばを離れずに、近づいてきた敵をただのナイフ一本ハンドガン一丁で無力化していった。

 

一体、どれほどの時間そうしていたのだろうか。

夕暮れが朝焼けに変わるほどの時間、彼らは戦い続けて守り続けた。

その頃には、襲いかかっていく機体の数も僅かになっている。

多少の反撃にはビクともしない戦車型も、数の暴力により背後の腕が根本から引きちぎられていた。

腕に自信があるのであろうオレンジの逆関節は全身に負ったかすり傷で酷いことになっている。

穴だらけになったマントを肩にかける黒いグリモアは、右脚と左肩を抉られている。

最後に残った敵はなりふり構わずに黒いグリモアに突撃していくが、それが届く事はない。

眉間に空いた穴から見えた空には太陽が見えた。

 

そう、彼らは守りきった。

 

彼は彼らの家族を襲撃者から、守りきったのだ。

 

遠くからはゴールを伝えるアナウンスと花火の音が響いている。

だが、そんな事よりも満足そうに笑う彼らを、雨上がりの太陽が照らしているのだった。

 

※※※※

 

「けっきょくさぁ…あれ、なんだったんだろうなぁ」

「しらねーよ!隙あり!!肉もーーーーらいっ!!」

「てめぇ!それは俺が育てて肉じゃぁあねぇかぁ!!!千恵!!お前のソレくれ!!」

「…ヤダ。これは隊長が僕のために焼いてくれたお肉だし」

「お前ら助けたの俺じゃん!!少しは感謝しろよぉ!!」

「あーホラ茶輔!こっち焼けてるんだからこっち食べナ!そんな慌てんじゃなィよ!!」

 

あのレースが散々な結果に終わってしまったため、俺達は諦めてログアウトをし現実世界に戻ってきていた。

今は新居の完成記念とお疲れ会を兼ねたバーベキューを綺麗に整備された庭で行ってる真っ最中。

子供達も勝てなかったレースの事などすっかり忘れて楽しんでいるようだ。霞もそんな彼らに混じり、何かと世話を焼いていてくれている。

俺はそんな彼らから少し距離を置き、今日の事を考えていた。

不気味な奴らだった、倒しても倒しても湧いて出てくる敵。無人機だったようだが、ソレらが持つ殺意は本物だった。

そんな襲撃者を倒しきったときにはレースは終わり、ルールを破り完全装備で出撃した時点で俺達は失格扱いだった。

ソレは良い、だが解せないのは京谷と千恵を襲ったあの無人機達だ。

ただの邪魔とは考えられないほどの物量。

そして、どうにもこの2人を捕獲しようとしている様子も見て取れた。

何故だ?何故あんな事をした?

大会運営者である初老の実況者を訪ねても、そんなアクシデントがあったなど知らされていない様子だった。

解説として招かれていたアイツ(チャンプ)も怒りを隠さずにこの件にの調査をしてくれる事を了解してくれた。

調べてわかった事はあの無人機は、お邪魔機体として用意されていたモノであった事。

ソレが何故か直前になって全て起動しなかったのでまとめてあの森に隠されていたということだ。それが何故あの時に限って起動し襲いかかっていった原因は不明だった。

アイツ(チャンプ)がいうには、マスダイバーの行動によりGBNに不正なバグが多数見て取れるらしい、これもその一つではないかというのが奴の見解だそうだ。

だが、俺にはそうは思えない。

あの敵達が、子供達を捕獲しようとした動きが説明できないのだ。

そんな事を考えていると、ふっと視界に入る大きな目が6つ。

子供達だ。その表情はいつもの元気な顔ではなく、どこか寂しそうに見える。

俺は苦笑と共に立ち上がり、そんな子供達をまとめて抱きしめながら決意を新たにする。

どこのどいつかは知らないが、この子達を狙ってくるならその悉くから守る盾になろう。

腕の中で無邪気に笑いだした子供達から視線を移し、俺は満点の夜空を見上げる。

 

夏が運ぶ匂いが微かに鼻腔をくすぐっていた。

 




京谷「チクショーくやしいなー!」
千恵「隊長に、あんな顔、させちゃったもんね」
京谷「強く、ならないとな。心配させないためにもさ」
千恵「そうだね。がんばろ!京谷!」
京谷「おう!!じゃまずは!!茶輔の肉奪うとこからだな!!!」
千恵「ま、まってよ!
あ!じ、次回奮闘記、第13話。孤島のサバイバーズ!…もう!茶輔のお肉とるなんて、無茶だよぉー!!」


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奮闘記:13 孤島サバイバーズ!

月末は、忙しいね…


どこまでも続く不毛な砂漠、ただ太陽が大地を焦がす音だけが静かに響く大地。

そんな喧騒とは無縁の土地に場違いな爆発音が轟く、続いて聞こえるのは銃撃と何かがぶつかりあって生まれる破砕音。

連続した銃撃音は止む事が無く、それに合わせるように爆発音もその激しさを増していく。

まさしく、戦場の音だ。

砂を掻き分け進むキャタピラの音に、甲高い回転数の車輪の音が混じり、激しく吹かされたバーニアの燃焼音がその騒音に拍車をかける。

耳を塞ぐほどの音の奔流の中に時折聞こえるのは、子供の笑い声。

心から楽しそうなその声は、それと相対している者達にとっては恐怖でしかないであろう。

砂丘から跳ね上がってきたのは4つの脚に車輪をもつ【グリモア】。

肩と頭を紫に塗ったその異形は、着地と同時にドリフトターンを決め進行方向を無理矢理に反対へと持っていき、追いかけてきた2機の【ジンクス】めがけ突撃する。

すれ違いざまに両手に持ったアサルトライフルとマシンガンを乱射し、追いつこうと必死になっていた【ジンクス】を1機撃破する。相方を失ったもう一機は慌てて飛び上ろうとするも右半身全てに銃弾のスコールを喰らい、駄目押しにロケット弾の直撃を許してしまう。

無様に落下し、強かに機体を地面に打ち据えられた【ジンクス】は最期の足掻きをしようともがくが4つ脚の機体はそんな姿に目もくれずに次の標的に向け、落下した敵の目の前を通り過ぎていく。

その先に見えるのも異形な機体、下半身を戦車へと換装し両腕を凶悪な武器にした緑色の【グリモア】。

左腕の2連速射砲を3点バーストのように打ち続け、横薙ぎに放つ右腕のガトリング砲。

2方向に打ち分けられたそれらの攻撃に加え、履帯をそれぞれに回転させた超信地旋回を駆使しながら周囲に群がっていた3体の【ザウート】を次々に破壊していく。

空から急襲していきた【ストライクガンダム】型の改造機には、背面から伸びた2本のサブアームに握られたソードメイスとショートアックスで器用に防ぎ、相手が止まった瞬間にその身体めがけてガトリングの弾を至近距離で浴びせかけている。

そうやって悶絶するように空中で身体を踊らせる【ストライクガンダム】に4つ脚のグリモアが放った背面の大型グレネードランチャーが直撃、ボディに大きな風穴を開け爆散していく。

爆炎と煙が晴れた奥からは顔を出したのは戦車型の【グリモア】。

瞬間、2機は示し合わすように視線を交差させ、背中合わせになりつつそれぞれの武器を構える。

途端に彼らの周りの砂漠が盛り上がり、飛び出してくるのは4機の影。

砂漠の海を潜り、奇襲するように改造された【ズゴック】だ。

だが彼らとしては最高のタイミングの奇襲も、それを読まれていてしまっては何の意味も無い。

突きつけられた銃口から吐き出される銃弾とマズルフラッシュ。

薬莢が雨のように地面に落ちる音が終わる頃には、その場には異形の2機しか残っていない。

彼らが油断なく構えた武器を下に向けた瞬間、背後に空から巨大なMSが降ってくる。

地面に盛大にその身体を打ち付けたのは【ドッゴーラ】と思われる巨体。

だがその身は、目を背けたくなるまで破壊し尽くされていた。

根元から引き千切れた尾に、ぐしゃぐしゃに潰れたボディ。頭は何か巨大な杭が貫通したような穴が空いていた。

降ってきた方向へ2機が視線を上げれば、今にも消滅しそうなその身体に追い打ちをかけるように急降下する機体がいた。

ソレは右腕の巨腕で腹部を貫いた【OOガンダム】を、そのまま地面にいる【ドッゴーラ】にぶつけるつもりらしい。

勢いを殺すそぶりを見せないままに更に加速し、そのまま地面に激突。

隕石が落ちてきたような激突音が周囲に轟き、砂塵を巻き上げる。その煙が晴れ出現したのは巨大なクレーター。

まさに爆心地のようになったその中心から飛び出してくるのは右腕に巨腕を携え、左腕に巨大な2連杭打ち機を装備した、すこし煤けた白い頭が目立つ【グリモア】。

あれだけの衝撃で無事なのは【ドッゴーラ】と【OOガンダム】をクッションにしたのだろう、目立った外傷はそれほど無い。

そんな3機が一同に会し談笑を始める、どれも子供の声で笑いあい今の戦闘を振り返っていた。

だが、途端にその談笑に割り込むように先程地面に落下し虫の息だった【ジンクス】が飛び出してくる。

しかしそんな体で彼らに一矢報いられるわけもなく、全身に鉛玉と巨腕と杭打ち機の連撃をくらいボロボロにされ沈黙。

 

そうしてまた元の静かな砂漠に戻っていくのだ。

哀れな犠牲者達を、飲み込むように。

 

※※※※

 

「今日で何度目だ?」

「あー…今ので4回目じゃないかィ?…アタシらん所を含めりゃ5回目か。」

 

無線から聞こえる声の主は、地面に突き刺さったままの大型アックスを引き抜きながら何事も無しに答える。

つい先程までそこにいた【ユニコーンガンダム】の改造機はとうに消滅している。

俺も油断なく周囲を見回すが敵の気配は無い。同時にリコンセンサーや仕掛けたトラップ反応も確認するが敵影無し、どうやら全て倒したらしい。

息をつく余裕はあるが、頭に湧いた疑問が休ませてはくれない。

今日だけで5回も襲撃にあうのは珍しい事だ。戦闘自体はこの砂漠では目立った事では無いのだが、それでもこの回数は異常だ。

普段ならばこんな僻地の砂漠、しかもフリーバトルの制限がされていないエリアに入り込むのは、よっぽどの物好きか賞金稼ぎぐらいだった。たまにこのエリアで取れるドロップアイテム目当てで探索をしにくる連中がいるが、ここでしか取れない訳でも無いしまず子供達に襲われて逃げ帰っていくのが関の山だ。

それがこの砂漠での日常だった筈だ。だが俺達目当てで、かつこんな規模の襲撃は今までにあった事が無い。少なく見積もっても3〜4フォース分の人数が襲いかかってきている。

流石に1度にその物量を相手取るのは難しいため、俺とシズクで地の利を生かしたゲリラ戦をこなしつつ子供達で殲滅する方法をとっていた。

今までは「マゼラン基地」の周囲だけに仕掛けていたトラップ群も、範囲を拡大し量を増やしてはいる。だがそれでもこの基地を目指して襲撃してくるフォースが後を絶たないのだ。

…子供達にとってはただの遊び相手程度にしか思って無いのが救いだが、前回のようなこちらを拉致しようとしてくる輩が混ざっているかもしれないと思うと、どうにも落ち着かない。

そこら中で恨みを買うような事は…確かにしているかもしれんが、それでもおかしい。

拠点を移す事も考えたが、この場所は守りにも攻めにも有利な土地だ。いざとなればこの場所自体を隠す事もできる。

何より周囲に被害を出さずに子供達が暴れられる所が無い、以前の拠点の時は酷かった。

廃屋が目立つ棄てられた市街地だったが、彼らの遊びで拠点ごと崩壊してしまったのだ。

砂漠地帯なら有るのは砂丘とせり上がった岩盤ぐらいしか無いため、そんなに目立った破壊は起こらない。だからというわけでは無いが、俺達にはここが似合いの場所なのだろう。

そんな事を考えながら帰路につき、最近やっと基地の隣に増設した俺とシズク用の巨大格納庫に戻れば、何か揉めているような声が基地の方から聞こえる。

怒鳴りあうような状況ではないようだが、またトラブルでもあったのだろうか。

 

「地味だよなぁ」

「地味じゃねぇよ!!茶輔が盛りすぎなんだよ!!」

 

基地内の子供達用格納庫から聞こえる声の主は京谷と茶輔だった、千恵はそんな2人の間でオロオロしている。

トラブルの元を千恵から聞けば、どうやら機体の装備の事で揉めているらしい。

最近になって増えてきた襲撃で、子供達も機体のアセンブルに余念が無いのも影響しているのだろう。滅多に本気でケンカしない2人がムキになっている所をみれば、それほどまでに擦れているのだろう。

だが実際の戦闘では2人のコンビネーションは抜群であり、穴らしいものは見受けられないのだ、しかしこればかりは好みと性格によるものではないだろうか。

 

「ハリネズミみてぇに砲塔増やしゃ良いってもんじゃないだろ?!」

「無駄に速度上げるために武装少なくしちまったら意味ねぇじゃぁねぇか!!」

 

今にも殴りあいになりそうなほど顔を近づけ徐々に盛り上がっていく2人。そろそろ止めに入ろうと腰をあげた瞬間、隣にいたシズクが声を張り上げた。

 

「元気が有るのは良い事だねェ!じゃ2人共アタシとタイマンといこうか!!」

「えぇーーー!!」

「それは、勘弁じゃんよぉ…」

 

スパルタ教官としての顔を覗かせたシズクに引きづられていく2人の手を振りながら、俺は自室で休憩しようとする。…が、そんな俺を引き止める千恵がこちらを見上げていた。

見れば千恵の両手にはコーヒーが入ったマグカップが握られそれをこちらにゆっくりと差し出して来ていた。

だいたい、こういう時は何か相談がある時だ。

俺は千恵に礼を言いつつ、格納庫内に鎮座する千恵の機体の前に腰かけた。

俯いたままの千恵は最初は戸惑うような素振りで口をパクパクさせていたが、そのうち決心がついたように目に力を込めてこちらを見る。

 

「京谷がね。し、心配してたんだ隊長の事。そ、それで茶輔と、喧嘩になっちゃったんだ」

「俺をか?それはなんでだ?」

 

勤めて優しく問いかけてはいるが、内心かなり驚いていた。

それほどまでに滅多な事である。

 

「つ、強くならなきゃって。だから機体の武装の事で、さ、茶輔と考えてたんだけど。なんか茶輔も、カリカリしてて。それで…と、止めたんだけどね。このまま…ば、バラバラになっちゃうのかなぁ…」

 

今にも泣きそうな千恵の頭を撫でながら、俺は1人納得していた。

元々この子達は1人で生きていた、誰かを守りながら戦うというのに慣れてはいない。

それがここにきて、共に生活し戦うという事で意識の変化が起こってきたのではないだろうか。

誰かに意見を貰う、という事に慣れていないゆえの弊害だろう。

それに千恵は「家族」や「仲間」というものに思い入れが強い。だからだろうか、必要以上に恐れてしまっている。

俺は良い傾向だと思うが、急すぎなのも良くは無い。シズクもその辺の事には俺よりも早く気がついて、ガス抜き役を買って出たのではないだろうか。そんな風に思える。

確かに、ここ最近の連戦でストレスが溜まっているのも確かだった。

ならば、そこから離れるのも良いんじゃないだろうか。

 

「千恵、どこか遊びにいこうか!」

「え…?また、どこかに行くの?でも…また戦うんでしょ?」

「いや現実世界で、さ。海でもいこうか!!!」

 

まだ外の世界でも思いっきり遊んだ事はほとんど無い3人だ、夏という季節も丁度良いのではないだろうか。

どこか気持ちの良いところでリラックスすれば、頭も冷えるだろうし。

なかなか良いアイデアではないだろうか、見れば千恵も満面の笑みでこちらを見ている。

海なんてほとんど間近で見た事が無いからだろう、ならば善は急げだ。

すぐにシズクに連絡をいれ、これからの準備を整える事にした。

 

 

そう、ここまでは良かったんだ。ここまでは。

 

※※※※

 

雄大な青い空に白い入道雲が立ち昇り、容赦なく照りつける太陽。

そしてきめ細かい砂浜と、透き通るほどのエメラルド色をした海が目の前に広がっている。

言うこと無しで素晴らしい景色だ。

だが、俺の気分はそんな素晴らしい景色とは真反対に急降下している。

原因は言うまでも無し。先程から首にかけた無線機から漏れる笑い声のせいだ。

楽しそうな声なのは良い。だが君達、今どこに居るんだい?俺はそれが知りたいんだよ。

 

「隊長ぉ!薪の他にも何がいるんだっけ?肉かぁー?」

「あ、隊長!すんげー美味い木ノ実見つけた!!持ってかえるぜー!」

 

うん、茶輔も京谷もホント楽しんでるね。君達喧嘩してたの忘れて楽しんでるね?

でも早く帰ってきてくれないかな、俺1人で色々準備すんのは流石に疲れてきたんだぞ?

俺は手伝ってって言ったのに、なんで君達はすぐどっか行ってしまうんだ?

さっきもそうだ、勝手に海に潜ったと思えばウニやらウツボやらヒトデやら海藻やら取ってきたり、千恵を海に放り込もうとしたり、全く協調性が無いな!!

ここが有澤家所有の孤島だったから良かったものの、もしこれがただの島だったらどうなっていたと思ってるんだ!…いや、あんまり変わらないだろうな…。

そう、俺は今霞の提案と子供達の悪ノリに付き合わされ、太平洋近海の孤島にいる。

コテージとプライベートビーチがあるというその島は、確かにバカンスには最高の場所だ。

ただ誤算があったとすれば、子供達が予想以上にサバイバルする気で用意していた事と、当てにしていたコテージが台風で見事にぶっ壊れていた事だろう。

そしてここまで来るのにも大変だった。霞が調子に乗って速度を上げまくった結果、すこし曲がった瞬間に千恵が吹き飛ばされ、それを追いかけた茶輔が同じく吹っ飛び、京谷は自ら飛び込んで行った。

慌てて俺がハンドルを奪いキーを抜く事で霞の暴走運転を止め、千恵を助けようと海に飛び込んで助けたは良いが、今度は俺が海中にクルーザーのキーを落とすという失態を犯してしまった。

なんとか見つけた時には日もどっぷりと沈み、船内で一夜を開ける事になったのだがその間に持ってきた食料は子供達の腹の中。

備蓄がほとんど残っていなかったのが、変なところで準備の良い茶輔がモリと釣竿で魚を取りまくり、密漁で捕まるんじゃないかと肝を冷やした。

だが、そんな俺の心配をよそに千恵と京谷ががまな板でサーフィンしだし、俺の胃はマッハで荒れた。幸いなのは全く海が荒れなかった事ぐらいだろう。

そんなこんなで島についたのは2日後という訳だ、全くバカンスに来たのになぜサバイバルしなければならないのか!

そして今その壊れた家屋の中から使えるモノを引っ張り出す作業を、何故か俺1人でしているというところだ。

手伝ってくれると思った霞は今はここまで俺達を運んだクルーザーの中で千恵と一緒にシャワーを浴び、残り2人の子供は喜び勇んで孤島の中心部にそびえる山の中。

頼れるのは自分だけと言うわけだ。

疲労もそろそろピークを迎えた時にまたしても鳴り響く無線。

 

「隊長ぉー京谷がいねぇ」

「隊長ー茶輔が迷子だー!」

 

誰か…俺に胃薬を持ってきてくれ。

リラックスするつもりが全くできないんだよ!!!

 




茶輔「いやぁ参ったよなぁ京谷が迷子になるんだもんよ」
京谷「はぁ?!茶輔が迷子になったんだろ?!」
千恵「もう!やめなよ!!2人とも遊びすぎだよ!!」
茶・京「「おおぅ…どうした千恵…」」
八神「ハハハ…まぁ…いいガス抜きにはなったか?明日からまた頑張るかー
次回奮闘記、第14話。喧嘩代行 …また面倒ごとになるぞ、こりゃぁ…」


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奮闘記:14 喧嘩代行

なんか忙しいぞーーーー!!まとまった休みがほしーーーー


でも遅くなりました、連載再開です。週一で仕上げていきたい所存


真っ青に染まった葉が風に揺れている。

落ち着いてきてはいるが空気は未だ熱気を帯び、まだまだ夏を感じさせている。

現実世界の我が家を改築した事によって2階に自室を持てた俺は、窓から入る風を感じながら久々の休暇を楽しんでいた。

あの散々だがそれなりに楽しめた孤島でのバカンスから一週間、霞の「全国孤児院支援プロジェクト」が本格的に動きはじめ俺もその手伝いで大忙しだった、もちろん子供達にも手伝ってもらいながらそれはもう目が回るほど働いたのだ。そして、丁度お盆の時期も過ぎた頃に手に入れたまとまった休みをこうやって静かに過ごしている。

開けた窓から下を見れば、綺麗になった庭で子供達も思い思いに過ごしているようだ。

GBNにも、あれからインしてはいない。

このままほとぼりが冷めるまで、ゆっくりしても良いかもしれない。

そんな事をぼうと考えていた矢先、階下のキッチンから何やら大きな音がする。霞は未だ会社に缶詰なので、恐らく子供達の誰か…茶輔あたりが悪さをしたのだろうと当たりをつけ階段を下っていく。

そして俺は目の前の光景に絶句してしまう。たしかにキッチンにいたのは茶輔ではあった、だがその手には包丁が握られ、まな板の上にはどこから取ってきたのか小ぶりの鳩が絶命している。

明らかに、異常な状態なのは確かだった。それにいつもなら囃し立てる他の2人の姿が周囲に居ないのもおかしかった。

 

「茶輔、何をしている?」

「お腹がさ、空いたから」

 

こちらに向ける顔付きが普段とは全く違っている。いつも笑顔を絶やさない子ではあるが、今は完全に無表情である。包丁を使い血抜きをしていたのだろうか、少し頬に飛んだ血すら拭おうとせずに舐めとっている。

俺はゆっくり近づき、茶輔の手の包丁を包み優しく取り上げる。その後腰を落としながら茶輔の目を見すえる。初めて出会った頃と同じ目だ、少し緋色が混じった金色の目はかなりの興奮状態を示しており呼吸も荒い。

俺は少し躊躇しながら彼を抱きかかえると、笑いながら話しかけた。

 

「茶輔、冷蔵庫にもちゃんと食べ物があるんだぞ?無理にとってこなくても大丈夫なんだ」

「…ここ、山が無い」

 

どこかズレている会話をしながら茶輔に話かけ続ける。俺の肩をしっかり握った手の力は子供とは思えないほど強く、皮膚を削り取る痛みに耐える。

それでも俺は優しく話しかけ、茶輔を抱き抱えたまま他の2人を探す事にした。

まず見つけたのは霞の書斎で床に座っている千恵だった。その周りには棚の本がうず高く積まれ、その中心に千恵の背中が少し見えている。

 

「凄いな千恵、これ全部読んだのか?」

「まだ3周しかしてないよ」

 

こちらを見ずに答える姿があの頃とダブる。もうそんな時期だったかと思い至り、千恵に手を伸ばしゆっくりと立たせる。小脇に抱えた辞書を離そうとはしないが、反対の手で俺の手を取っていた。

握り返す小さな手の感触は硬い、立派な戦士の証しであると共に悲しい手でもあるそれをしっかりと握り、まっすぐに子供達の部屋を目指す。

少しだけ隙間が開いた扉から中を覗く。やはりというべきか、ベッドに腰を掛け頭を抱える京谷の姿があった。

 

「鳴り止まないんだ、音が」

 

誰に言うでもなく漏れた声は子供とは思えないほど冷たい。俺は抱えていた茶輔を下ろし、千恵の手からゆっくりと手を離す。

そうしてそれぞれの頭をひと撫でしてから、京谷に近づき腰を落とした。

その後無言で京谷の横に座り、その背中をさすりながら抱き寄せる。すると安心したのかそのまま寝息を立てた京谷の目から涙が溢れた、どうやら痛みをずっと堪えていたらしい。

他の2人も同様に眠そうな目をしている、俺は3人がそれぞれの布団で寝るまでその場に留まり、部屋からででた時にはすっかり夜になっていた。

霞が見てなくてよかったと思った、話しはしているとはいえこんな急にああなるのは久しぶりだ。必ずパニックを起こしてしまうだろう。

アレの行動は、彼らにつけられた呪いのようなものだというのが俺の見解だ。

まだ俺が、この仕事をする前にしていた職場にいるかかりつけの医者にも診断してもらい徐々にだが治ってはきているが、それでも先は長そうだ。

発作はある日思い出したように現れるため予想が難しく、対処がしづらい。

だが、寝かしつける事ができればその間の記憶は失われるが元には戻る。

…後は、彼ら次第なのかもしれない。

子供達にこの症状が出ている間、自分が無力であることを強く意識させる。

だが、それに屈する事はできない。

それが彼らを育てると決めた、俺の責務なのだから。

 

※※※※

 

あれから一夜明け、霞以外の俺達は久しぶりにGBNの世界にいた。

照りつける太陽に熱砂の大地は相変わらずの様相で、ある意味で安心した。

このところ、ブレイクデカールを使用するマスダイバー達の増植によって起こるバグがGBN内でも顕著に現れており無視できない被害を被っているらしい。俺達も2度ほど対峙している事を考えれば、その異常さも理解できる。

通常ならば運営側が取り締まる案件なのだろうが、全世界規模に潜伏するマスダイバー達を見つけるのは容易な事では無く、全て後手に回っているらしい。

しかしこのまま良いように奴らに振り回されるのも、それはそれで癪に触る。あんな奴らに好き勝手に暴れられてしまうとこのGBN自体が廃れてしまう可能性だってあるのだ。それは大変困る、子供達の為にもどうにか手を打たなければならないだろう。

だからという訳では無いだろうが、以前よりも戦闘補助の依頼が多く寄せられていた。いるかもしれないマスダイバーの影を恐れるよりも、逆に戦うことをGBNのダイバー達は選んだようだ。

ブレイクデカールの氾濫を防ぐ意味でも「子供達の遊び相手」をあちらから用意してくれるというのはとても有難い事だった。

子供達も、昨日の事など微塵も感じさせずに今日も元気にはしゃぎ回っている所をみればこちらとしても安心はできる。

不安が無い訳では無いが、もしかしたらこの一連の騒動の最中に俺達を襲いにかかってきた者の尻尾でも掴めれば良いと思っている。

 

「隊長ぉ!そろそろ来るぜぇ!準備はバッチリだぜぇ」

「おっしゃー!!久々に、暴れるぜー!!」

「もう、倒していいんだよね?いいよねえええ?!いくよおおおおおおおお!!!!」

 

依頼されていたフォースバトルの真っ最中ではあるのだが、コレは余念が無さすぎるな。

俺は苦笑を漏らしながら無線から聞こえる声に応答しつつ、それぞれに一応の指示を飛ばす。久しぶりの戦闘でもあるのだから、ある程度は子供達の自由にやらせてみるつもりだ。

千恵の【ランページ】が先陣を切り、京谷の【オンスロート】と茶輔の【タイラント】が並走しつつ敵の侵攻部隊に奇襲をかけていく。

敵はいきなり側面から現れた千恵に驚いてはいたがすぐに対応し迎撃を試みるが、予測がつけづらい動きに加え京谷の射撃が敵の連携を撹乱させ、そこに茶輔の飽和火力支援が加わり敵はいよいよ混乱しているようだった。

そうやって敵達が子供達に翻弄されている間に俺は狙撃位置を変えつつあぶれた敵や、指揮官機と思わしき機体を屠る。

今回は敵が狙う都市区画中心部に位置するミサイル発射基地を防衛すれば良いのだが、何も守ってばかりいる必要は無い。相手を殲滅し尽くしても良いのだ。そうならば、こちらの土俵。

俺は子供達の攻撃の苛烈さについていけず、不用意に空に飛び上がって反撃しようとしている【ZZガンダム】型の推進機を撃ち抜きながら、あらかじめ仕掛けてあったトラップを発動させていく。

破壊され捨てられた都市部が戦場として選ばれた事もあり、罠を仕掛けておくにははうってつけのフィールドだ。ワイヤー型の爆破トラップや、動きを阻害する地形沈下トラップなどが次々と発動し敵部隊の壊滅に拍車をかけていく。

どうやら敵フォースの主力級が運良くこちらに来ていたようだ。抵抗は激しいが、彼らを足止めできていればこちらの味方が別働隊を倒しきる時間が稼げる。そうすればそのまま包囲殲滅も容易にできるだろう。

そんな風にこの戦闘の予測を立てていれば味方からの無線が入る。通信画面ごしでも伝わるような喜ぶ声は正に予測通りのソレ。

上手く別働隊を退けたようだ、既にこちらの支援のために2個部隊が先行してくれているらしい。

朗報だが、敵もそれがわかっているのだろう。先程よりも更に抵抗の手を激しくしてきている。しかし遅すぎる反撃だ。既に敵は壊滅状態、四方から撃たれ続け最後の抵抗は無意味に終わってしまう。

その後、無事に依頼を達成した俺達は根城であるマゼラン基地に戻り今後の依頼をどれにするか思案していた。子供達は暴れられればそれで良いと言ってはいるが俺としては報酬額が多く、それでいて安全な依頼が良かった。

そんな折、珍しい奴から通信が入る。

 

「八神、連絡していた筈だが。なんで来てくれなかったんだ?」

「…お前か。決起集会のことか?何とか連合とかいう。その事なら、俺達はパスさせてもらう。」

「何故だ、お前だってわかっているはずだろう!このGBNに起こっていることも!ブレイクデカールの事も!」

 

声の主は、怒りもあらわに俺を問い詰めてくる。それはそうだろう、奴としては必ず参加するとでも思っていたようだ。

だが、俺はそれに返信せず。集会にも参加しなかった。

 

「あぁ、わかっているさ。だがな、今回の作戦…団長からも聞いてはいるが、いくらにもキナ臭すぎる。今まで尻尾すら掴めていなかった奴がそう簡単に出て来るのか?それに、ブレイクデカールの進化の件も知っている。正面からぶつかるのにはリスクが高すぎるぞ」

「そこまで言うなら、何故参加しない!!」

「…怒鳴るな。俺もこのGBNを守りたい気持ちはお前と同じだ。だがな、同じ所では見えない物もある。俺達は俺達で探ってやるさ、その為の情報も仕入れてやる。その時は、共同歩調といこうじゃねぇか。…じゃぁな」

 

何かまだ言おうとしていた奴との通信を一方的に切り、何も映らなくなった画面を睨む。

どうやら、焦っているようにもみえた奴の顔。チャンプとしても矜持か、何なのか。アイツがどれだけこの世界を愛しているのかは良く知っている。

だが、だからこそ俺は共には行かない。アイツはアイツなりにやるのだろう、ならばこっちもこっちなりにやるだけだ。

何より、俺等は大勢での作戦には向いて無い。逆に足を引っ張りかねないのだ。

 

「なんだー?ケンカかー隊長?チャンプとヤるのか?!そうなんだろ!!」

「バカ京谷ちげーよぉ!アレは隊長をナカマにしたいとかそんなことじゃあねぇの?」

「え…隊長、行っちゃうの?ヤダよ…」

 

振り向けば子供達の顔だ、千恵はいつも通りだが強がっている京谷や茶輔もどこか不安気な顔だ。そんな顔は、見たくない。

 

「大丈夫だ、俺はお前達といるよ。…さぁ!次はどの依頼を受けるか決めなきゃな!」

 

そんな俺の言葉を聞いた子供達は元気な返事でそれに答え、それぞれ依頼選びをはじめだす。

俺も、その様子を眺めながら依頼リストの選別を始めるのだった。

 

※※※※

 

「まさか、あんた達が来てくれるとはねー。ま、助かるけどさ」

 

コクピット内部の通信画面の先でボヤくのは、キツイ大きな目と青い髪を無造作に後ろで縛っているのが特徴のチンピラ風の女性。そんな馴染みの顔である『喧嘩代行屋ベタ』のを視界の端に捉え、彼女のぼやきには無言を持って返す。

俺達はあの後、悩んで悩んで結局お得意様であるダグの依頼を受ける事にした。

ダグが回してくる依頼は、大概厄介事で危険も大きいのだがその分報酬額は高い。だが、今回の依頼はそんな中でも特殊なモノだった。

内容は「火星にあるフォース同士の戦闘跡地の調査と、争っているフォース同士の停戦調停における仲介役」というものだ。

この女が出てくる時点で、安全な仕事では無いなとも思っていたのだが、すでに『代行』による仲裁は終了。停戦協定を結び今後の話し合いという所まで終わっているようだった。

『代行屋』も最近はかなり忙しく働いているらしい、ダグ自身が出向く事も多いようだ。

しかし裏を返せば、それだけ大規模な戦闘が多くなってきているという事だろう。マスダイバーによる被害もかなり多くなってきているようだ。

今回の抗争でも、互いに用意したブレイクデカールによる戦闘行動があったようだが、ダグとサイネの奮戦によりなんとか収まったと聞いている。

相変わらずというか、鬼のように強いおっさんだ。そして、それをアシストする彼女もだ。

そうやって先頭を意気揚々と突き進む彼女の機体を眺める。

俺達の部隊も異形揃いだが、彼女の機体はそれとはまた別のベクトルで異形だ。

通常MSとはまず大きさが違う。巨大な鳥のようなシルエットをしたソレは、折りたたまれた脚部をこれまた巨大な羽のような腕にしまい込み巡航形態で飛行中。

そしてその周りには2機の小型無人機が秩序だった動きで辺りを警戒している。

初めて見た時は、それは驚いたものだ。何せこんな機体すら操れるとは思わなかったからだ。

黒と紫をメインカラーとしたその巨体は、そもそもMSでは無い。それは数あるガンダム作品でも強敵として出会うものだ。

彼女の機体は、天使の名を持つMA【ハシュマル】の改造機。ファンネルを組み込んだオールレンジ攻撃を可能とした【マガツ・ハシュマル】だ。

恐ろしいほどの攻撃力と生命力、そして無数の無人機である『プルーマ』を操り「鉄血のオルフェンズ」では主人公機である【ガンダムバルバトスルプス】と死闘を繰り広げた機体だ。

彼女はそれに更に手を加え『プルーマ』の操作数を減らす代わりに更なる火力増強を施したようであった。

それは、剣一本長銃一丁で戦場を突き進んで行くダグの背中を守る為の改造のように思える。それに気づいた時は、可愛げがあると思ったものだ。

そんな事を考えている間に目的である、戦闘により破壊し尽くされた火星の工場プラント群に辿り付いていた。

大きなクレーターに群生していたプラント群には、未だ生々しい戦闘の痕跡が色濃く見え、どれだけ激しい戦闘が行われていたのかがわかる。

この場所の調査がまず一つ目の依頼なのだが、一体何を調査するのだろうか。めぼしいものなど見当たらないが。

 

「隊長ーとくになんもなかったぜー?」

 

まず聞こえるのは京谷の声、部隊イチの速度を誇る京谷にはそれを活かした斥候役をやってもらっている。

そうやって大人しく索敵をしてくれたのは意外ではあったが、彼なりの気の使い方なのかもしれない。

俺はにやけそうになる顔を片手で制し、その声に了解の意図を返す。

そうやって他の2人にも報告を促せば、茶輔は万が一に備えた砲撃ポイントへの移動は終了。それの随伴機である千恵も同様だった。

あとは、俺とサイネがプラント群へ着くだけということらしい。警戒態勢と速度は維持したま俺とサイネ、そして京谷がその後に続く。

破壊尽くされたプラントを観察すれば、どうやったらそうなるのかわからない破壊痕が多く見られる。

融解した切断面は一部がガラス質までに変化している、ビームサーベルでもこうはならない。

4軒ほどのビルを貫通している巨大な穴も同様だ、一番被害が大きいであろう中央広場にはまるで隕石が落下したような巨大なクレーターができている。一体、どんなバケモノが暴れていたのであろうか。

そんな時、俺が仕掛けていたセンサーリコンが警報を鳴らし始める。しかも反応はかなり近い。どうやらサイネもそれを『プルーマ』の行動で感じ取ったらしい。

飛行形態を解き、羽の内部から脚部を展開し警戒をし始める。京谷は既に銃口を周囲に向けいつでも撃てるようにしていた。

俺も、腰からナイフを引き抜き右手に構えたハンドガンの下で構え襲撃に備える。

時間にして2分ほどだろうか、俺達がそれぞれの武器を構え辺りを警戒したのは。

 

「勘違いか?…なんかデッケェ影がアタシのプルーマに映ったんだけどよぉ?」

「ねーちゃんのみまちがえじゃねーの?まぁ俺達より弱いから仕方ねーな!!」

「ハァ?!誰がテメェより弱いって!?ここで白黒つけてやっても良いんだぜ!!」

 

ここに来るまで散々言い合っていた事で争いをまた始め出す2人。だが、今はそんな事を気にしている場合では無い、サイネの見間違えかどうかはともかく、俺のリコンに反応があったという事は必ずここには何かが、いる。

そんな俺の心配を他所に今にも戦いだしそうな2人に注意を促そうとした、その時だった。

コクピット画面に出現するアラートメッセージと強い地面の揺れ、そしてアスファルトの大地が盛り上がるのを感じ、即座に回避行動を取る。

横っ飛びにその場を離れ、2人にも警告をしようとするが既にそれぞれがこの揺れの原因へと攻撃を仕掛けようと散開済み。

ある種のプロ意識のようなものに、俺は多少なりとも敬意を払いながら改めて構えをとる。

瞬間、一際大きな揺れが遅い立ち並ぶ廃ビルが完全に倒壊。

そして、辺りを覆う土煙の奥に俺は見た。

アレは、まるで…。

 

「ドラゴン?!すっげーーーーー!!!!」

「ばっかありゃデカイトカゲだろ!!」

 

それぞれの反応。確かに、そのシルエットはファンタジー世界で見るトカゲやドラゴンに見えるだろう。

だがここはGBNだ。決してファンタジーの世界では無い。

そうだ、これは。

 

「バカでかい…ダナジン?!あり得るのか!!こんな機体が!!!」

 

そう、それは確かに【ダナジン】の姿だ。だが、禍々しく変化したその姿は一目では判断できないほどに成れ果てていた。

身体を包むほどの翼が背中から生え、顔面の口に当たる部分から生えたとしか思えない程の牙。まさにドラゴン、呼ぶならば【巨竜ダナジン】か?

そして何よりその巨体。それは以前戦った【城サイコ】を彷彿とさせるほどだ。しかも、というべきなのか。視覚化されるほどに纏っているオーラの色は「紫」。

そう、ブレイクデカールによるマスダイバー化。

だがおかしいのは、目の前の【巨竜ダナジン】にパイロットが搭乗しているようには思えない事。どこか無機質な視線でこちらを見据えてきている。

俺達はその視線と睨みあい、お互いに動きの無いまま5分が経過し緊張がピークに差し掛かったのを見通したように【巨竜ダナジン】の上空から頭めがけて勢いよく突っ込んで来る影が画面の上部に映る。

その影は着地と同時に巻き上げた砂塵を纏い猛烈な勢いで、一気に攻め始めたのだ。

すんでの所で大きく跳躍して後退した【巨竜ダナジン】の俊敏さには目を見張ったが、それよりも今やるべき事は攻撃の主を援護するように遠くから響く、甲高い落下音に注意する。

【巨竜ダナジン】目掛けて落下しているのは茶輔の【タイラント】が放った重砲による範囲爆撃、その爆撃の雨の中を怯まず突き進み、右腕の巨腕を振り回すのは千恵の【ランページ】だ。

俺達が呆気にとられている最中、遠くから砲撃を繰り返す茶輔から通信が入る。

 

「隊長ぉ!!なにぼっとしてんだよぉ!!千恵の援護しろよぉ?!京谷ぁ!!さっさと動きやがれこのノロマ野郎がぁ!!!」

 

まさか茶輔に恫喝されるとは思わなかったが、俺はすぐに行動を開始する。サイネもそれに倣い攻撃行動を開始。

京谷は何やら怒鳴りながら戦塵の中に突っ込んで行った。

やはり、ただの調査にはならなかったようだ。特別手当をもらうしかないだろう。

こんなところでまさかのドラゴンハントだ、しかもブレイクデカールを使用した無人機らしき機体。

ここで仕留めれば、何かがわかるかもしれない。ならば気は進まないがやるしかないだろう。

俺達を敵と認識した【巨竜ダナジン】は衝撃波になるほどの咆哮を出し、態勢を低くする。

 

俺達の竜退治が、ここに始まった。




サイネ「ったくよぉ!!あのガキ共ちゃんと躾けろよな!!八神!」
八神「できたら、苦労しねぇんだよ…」
茶輔「あ、チンピラだ」
京谷「ホントだヤクザねーちゃんだ」
千恵「…あ、ちょうちょ」
サイネ「てめええええらあああああ!!!!」
京谷「へへーん追いついてみやがれー!!」
茶輔「やーーーい悔しかったら捕まえてみなぁ!!
次回!奮闘記第15話!それぞれの戦い! そろそろ本気出しちゃうぜぇ?」


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奮闘記:15 それぞれの戦い

モチベーションが復活したときには、GBN終わってた…悲しい

でもまだ熱は冷めないのだ!!


 

黒色化した装甲に纏う紫色のオーラ。そして異常に発達した手足や羽の形状を見れば、それが進化したブレイクデカールの力である事は明確だ。

団長から知らされた「機体の異常変貌・凶暴化」という以前手に入れた情報とも一致している。

あとは、この機体が回復能力を持っているのかということが問題だ。

もし回復能力を持っているのであれば勝ち目は無い、すぐにでも退却しなければならなくなるだろう。

光学マントで周囲の景色と同化し、まず戦況を見極めるために戦場から離脱。

そうやって十分な距離を離し、改めて敵の姿を観察する。【巨竜ダナジン】の身体は大体俺達の5倍の大きさだろうか、そして尻尾はそれ以上に長く太い。あれに当たればひとたまりもないだろう。

突然、視界前方のビルが倒壊する。

崩れ落ちる瓦礫の中に見えるの巨竜の腕に押し潰されそうになっている【ランページ】。

急ぎ援護のために銃を構えるが、それよりも早く反対側に回り込んだ【オンスロート】が、両腕の銃を巨竜の顔面目掛けて乱射し始めている。

右手のAKに似たアサルトライフルの銃口から吐き出される弾の弾幕に加え、左手に持ったスラッグガンを超至近距離で撃ち込み続けている。

目に見えるダメージは無さそうだが、連射と衝撃力を嫌がったのか鬱陶しそうに巨竜は尻尾を【オンスロート】目掛けて叩きつける。尋常ではない轟音と粉塵を巻き上げるが、既にその場所には【オンスロート】はいない。

そして巨竜が【オンスロート】に気が向いた瞬間を見逃さずに、奴の腕に押さえつけられていた【ランページ】は脱出。

すぐさまに懐に入ると、踏み込んだ勢いをそのままに左腕の2連杭打ち機をガラ空きのボディ目掛けて振り抜く。

硬質な金属同士がぶつかるけたたましい爆音が響くが、巨竜は少しよろめいただけにとどまっている。

咆哮のような声をあげる巨竜。それと同時におそらく口に当たる部分に入った亀裂が上下に裂け、まるで本物の爬虫類の口内が顕になる。

ぞぞろに生えた鋭い牙とテラテラと光る舌、機械の身体であるのがその生々しさに更に拍車をかける。

そしてカメラアイからギョロリと覗く丸い目玉が一つ。血管が浮き出た見た目は、はまさに生物のソレ。

その姿に、一瞬たじろいだように見えた【ランページ】に掴み掛かろうと手を開きながら体当たりを仕掛ける巨竜。だが、それもすぐに阻まれる。【ランページ】の真後ろから飛び込み、同じように体当たりを仕掛けた【マガツ・ハシュマル】は真正面から巨竜と対峙する。

ハシュマルの頭の後ろから伸びたテイルブレードを巧みに操り巨竜に攻撃を牽制しつつ、追い討ちをかけるように羽から飛び出した都合20機のファンネルが周囲を囲い、頭から発射したビーム砲と収束された光の束が巨竜を襲う。通常MSならそれで跡形も無くなるような熱量のビームを巨竜はその身に受けることとなったが、それで沈黙するはずは無い。

ビーム発射までの一瞬のラグで背中の羽で全面を覆い防いでいた。しかも、その羽には少しの傷も見当たらない。

圧倒的な防御力だ。瞬間火力では最強の【ランページ】のパイルを食らい、更にあのビームを至近距離で防いでもその身には届いていないのだ。ブレイクデカールの力を加味しても、その異常さが際立っている。

しかし、なぜこの場所にこんな怪物が居るのか。無人機なのは動きと巨竜の中身で明らかだ。

ならば誰かがここに持ち込んでいたのか。

到底、制御できそうなモノでは無い。だから封印していた?

そんな推測をしながら俺は引き金を絞り、【オンスロート】を攻撃しようとしていた巨竜の腕を狙撃する。それに合わせるように遠距離から【タイラント】による絨毯爆撃のごとく降り注ぐ砲火の雨。

砂塵と爆炎が視界を覆うが、一旦はこれで距離が取れる。

だが、そんな飽和攻撃にも耐えているのが見て取れた。

 

「一体、なんなんだコイツは…!」

 

頭の奥がチリチリと焦げ付くような焦りを、俺は隠せないでいた。

 

※※※※

 

瓦礫の破壊しながらひた走る。

倒壊したビルを飛び越え、それを踏み台にしながら更に加速する。

最短最速で最強の一撃を放つために、あえて遠くに距離をとる。

振り向けばあの巨体は、茶輔の爆撃の中で身動きがとれていない、今がチャンスだ。

深呼吸を一つして思い出すの隊長の言葉。

『遊びを捨てて、一撃一撃を丁寧にな』

うん、わかったよ。一撃に全力を込めればいいんだよね。ありがとう隊長。

操縦桿上部のリミッター解除スイッチを押す。

コクピット内が真っ赤に染まり、モニターとリンクした全周対応および速度計算ができるヘルメットが降りてくる。

操縦桿を外し、シートに身体を委ねる。途端に身体全てが【ランページ】と一体化したような気分になった。

踏み出す一歩の衝撃が直に伝わる、視界がとてもゆっくりになっていく。

更に速度をあげていく機体(からだ)が空気との摩擦で真っ赤に染まりだし、流れる景色が一点に集中するように収束していく。

目標は決まっている。

 

ならあとは、全力でぶつかるだけ。

 

※※※※

 

モニターに映る巨体めがけてひたすらに撃ち込み続ける。

相手の動きに合わせてその都度に角度をかえ、位置をずらしながらトリガーを押す。

俺に近づいてこないのは前線で戦ってる仲間のおかげだ。なら、俺は何してるんだ?

俺は、火力担当だ。その俺の攻撃が効いてない。

巨龍が腕を無造作に横に薙ぎ払う。一番近くにいたのは京谷の【オンスロート】だ。

避けられるはずの攻撃をモロに食らった機体が宙を舞った。抑えきれない衝動が腹の奥から込み上げ今にも爆発しそうだった。

それを押さえ込んで冷静にさせてくれたのは、隊長が出撃前にかけてくれた言葉。

『冷静さを保て、激情の中でも冷静でいられれば良い。そうすりゃお前は無敵だよ』

あぁ…よく分かってるじゃねぇか隊長。

両手で頬を叩き深呼吸する。そうだ、俺だけで戦ってるわけじゃない。

操作パネルの中心に付いている厳重に封をしたボタンめがけて拳を叩きつける。

後のことは皆に任せよう。

 

これが、俺の全開だ。

 

【タイラント】の左腕を強制パージした途端、連結していた箇所から飛び出したのはドス黒いタールにまみれた新たな腕。

コンテナ状の四角い肩部、その肩部から更に戦艦砲が4門飛び出す。そして更にコンテナ下部からせり出す腕から、様々な砲身が産み出されていく。

タールの一部を引きづりながら持ち上げられた左腕は機体の全長をはるかに超え、せり出す砲身が標的を捉え始めていた。

 

※※※※

 

アクセルは既に全開、4つの脚に装着したローラーは火を出す勢いで回り続けている。

両手に握った銃火器をひたすらに連射してるが、まったく効いている様子が見えない。

巨大な爪がついた腕を真上から叩きてけて来た。

真横に回避し避けざまに腕と二の腕の隙間を撃つ、弾かれた。

すぐさま自分の機体を横に回転させ、上体を低くし股下を潜る。

脚と腰の関節、ダメだ。

尻尾が振るわれる。ジャンプで避けながら空中で縦回転。奴の頭を取った。

眉間と目玉めがけて全火力集中。

…クソが。

焦る気持ちが湧いてくる、千恵も茶輔も攻撃を加えてはいるがダメそうだ。

あの二人の攻撃で効かない、なら二人よりも攻撃力が足らない俺はどうすればいいんだ。

気持ちが悪いモヤモヤが腹に溜まっていることに気を取られて、迫る爪に気づけなかった。

ものすごい衝撃が襲いかかり、俺は宙に放り出されている。

頭の中で鳴り響く音が更に強くなってきた。とても、うるさい。

『慌てるなよ、京谷。お前は十分強いんだから、もっと自分を信用したらいい』

頭を締め付ける音が緩んだ気がした、隊長の声が聞こえた気がした。

「そうだよ…俺は、強ぇんだよ!!!」

緩めかけてた操縦桿を握りなおし、空中ですぐさま体勢を立て直す。食らった被害は甚大だがまだ脚は動くし、武器もある。なら、まだヤレる。

着地と同時に、武器を背面に収納し更に加速。

十分に距離を取りつつ、火器管制CPUにコマンド入力。

〈ジェネレーターリミッター解除。出力上昇、危険域突破。〉

アラートが鳴り響く中、敵の猛攻を潜り抜けながら距離を取る。

〈空間湾曲確認。バスターキャノン[エーレンベルク]背面部ドッキング成功〉

急回転のドリフトターンを決め、向き直りながら再度突撃。その巨竜の顔面が盛大に爆発する。それが飛んできた方向を見れば半身が重火器と化した【タイラント】の姿。

〈準備完了。対象ノ完全沈黙マデ限定解放承認。…レディ〉

ソレが合図だった。

トランザムの如く加速し始めた機体と、相手の動きの先が読めるような感覚。

 

ここからは、ずっと俺達のターンだぜ。

 

※※※※

 

最初に無傷の巨体を揺るがしたのは一つの爆発だった。

頭に直撃した砲弾はいままでの爆発と違い、始めてダメージらしいダメージを与えていた。

爆炎の大きさと直撃したときの衝撃力が段違いだった。それが、合図だったのだろう。

直撃を確認した瞬間にさっきまでの範囲を爆撃していた砲弾ではなく、貫通力と衝撃力に重きを置いた砲弾が絶え間なく巨竜を捕らえ続ける。

そんな動くこと封じられた竜は羽を盾にして砲弾を防ごうとするが、その羽はエメラルドに光輝く極太の光線により撃ち貫かれ、燃えおちてしまう。

機械から出るとは思えない生々しい咆哮をあげる巨竜。だが、すぐさまその光線を放った方向に向け口を開け攻撃を加えようとするが、それは叶わない。

なぜなら、巨竜の腹の下から突き上げる白い流星が、その巨体を天高く突き上げ始めていたからだ。

高度が十分に達した瞬間、白い流星と化した【ランページ】は竜の腹部を完全に貫き今度は急降下しながら竜を地面に向けて逆落としにする。

 

地面との直撃の瞬間、とてつもない衝撃波と土煙により全センサーがクラッシュする。

やっと回復した視界が捕らえたのは、超巨大クレーターとなり跡形もなくなったプラント地帯。

その中心で停止している【ランページ】と壁際に埋まった【オンスロート】、クレーター外でひっくり返っている【タイラント】。

 

そして

 

「だーーーーーかーーーーーらーーーー!!!!あれをやるときゃ俺達の近くにおとすんじゃぁあねええええええええ!!!!!」

「動けねぇんだけどよぉ…早く起こしてくんねぇ?」

「いいんじゃん!!!!あんのクソ爬虫類ぶっ壊したんだからさぁ!!!!!」

 

けたたましい子供達の声と、今の戦いを見てどん引いている代行屋だった。

そんなやりとりに少し安心し、彼らを助けようと近づこうとしたその時。

よく聴き慣れてはいるが、もう二度と聞きたくない声が響く。

 

〈いやぁー素晴らしいねぇ!ホント素晴らしいよ!〉

 

耳障りな合成音のような声と、パチパチと手を叩く音。

 

クレーターの真上、空から降りてくる人間。

 

 

それは、俺がもう見る事は無いと思っていた人間と瓜二つだった。

 

 




京谷「どうだーーー!!!俺達の必・殺・技!!!」
茶輔「オーバーキルがなんぼのもんじゃあああああ!!!」
千恵「や、やりすぎちゃったかな…ま、いっか!」
茶輔「でもよぉ、なんだぁあいつ?きもちわりぃんだけど」
京谷「同感。でもどっかで見たことあんだよなー?」
茶輔「あー俺もだわ、クッソ暑そうな格好したおっさん見たことあるわ」
京谷「千恵は?…ってあれ?」
茶輔「オイオイオイ…テメェ…千恵に何しやがったぁ!!!!!」

???「次回奮闘記、第16話 『ゴースト』…ハハハハハ!楽しみだなぁ!!」

茶・京「「まちやがれぇぇ!!」」



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機体紹介
グリーズ商会:【隊長】八神・グリーズ/グリモア・マーチ


作者の友人達により発足したグリモア部隊。
これはそんな悪ノリの産物である。

隊長機は友人から提供!渋みが深い、好き


機体名:グリモア・マーチ (マーチ:フランス語で黒幕)

 

 

 

【挿絵表示】

 

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武装

 

消音狙撃ライフル

ハンドガン×2

ダガー×2

各種大型狙撃銃

 

特殊装備

 

光学迷彩マント

索敵通信用レドーム

リコン射出機

 

グリモアレッドベレーのデータをもとに電子戦、隠密戦闘に特化させた機体。

基本的には単機での運用を想定したものでなく、他のメンバーへの情報発信および、

闇討ちにおいて真価を発揮する機体設計になっている。

胴体部分のジェネレーターには、音で感知されずらい用に消音使用のジェネレータを使用している(設定)。

また、カラーリングも発見されずらいように、グリモア本来の色に近い黒色に変更し、夜間の視認率を下げている。

 

背部バックパックは廃止し、レドームを装備、これにより通信、索敵機能を向上させている。

ジャミング対策用にサイドアーマー部分にリコン射出機を装備、これにより、ある程度の通信をリコン越しの短距離通信として行うことができる。

最後に、白昼堂々敵機体のサイドや背後に回り込むのは難しいため、光学迷彩マントを使用することで、敵機体に気づかれずに目標を発見できるようにしている。

 

 

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本機体は戦闘において直接戦闘をあまり重視していないため、武装に関しては最低限の物になっている。

主武装である消音狙撃ライフルは、狙撃ライフルから比べると射程も短く、破壊力も十分とは言えず、装填数も少ない

だが、本機用にチューニングしたこのライフルは、軽く機動力が下がらないように設計されている。

また、破壊力が低いと言え、関節部など、機体の弱い部分を狙えば的確に打撃を与えられるものでもある。

その他武装として、自衛用にハンドガンとダガーをそれぞれ2丁ずつ装備している。

あくまでも自衛用の武装であるので、これらの威力は最低限のものとなっている。

それに加えて各種爆弾やトラップなどもマントの下に隠すように運用する事がある。

なお、戦場や作戦に合わせて大型の狙撃銃を適宜使い分ける。

 

 

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狙撃戦を重視してはいるのだが、通常戦闘をしないわけでは無い。

単騎での敵地侵入や破壊工作、および妨害をする際にやむを得ず戦闘する事もある。

ワンマンアーミーだった八神・グリーズの元の機体とはかけ離れた機体設定になってはいるが、実際の運用では過去の戦歴よりもかなり洗練されている。

彼の存在がそのまま部隊の生存率上昇に繋がっているのは確かな事なのである。

 

 



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グリーズ商会:茶輔・グリーズ/グリモア・タイラント

カラーリングしてみたいけどできない…怖い…
作中で妄想するしか無い…いつかしてみたいな

戦車型は作者作。どんな機体もタンクにしたがるという病気をもっている


機体名:グリモア・タイラント(タイラント:英語で暴君の意)

 

 

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武装

 

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ジャイアントガトリング・ハンド

ハウザーキャノン・ハンド

リボルビングキャノン・ハンド

2連速射砲・ハンド

小型ガトリング・ハンド

 

 

特殊兵装・サブ武装

クタン参型バックパック『コルヌ』(ラテン語で牙の意)

・『コルヌ』武装

300mm滑空砲×2

120mm連装砲×2

100mm連装砲×2

垂直ミサイル・ポッド×2

 

ガンダムグシオンリベイクフルシティのバックパック(適宜持ち替え)

 

【挿絵表示】

 

・隠し腕用サブ武装

銃剣付きマシンガン

多目的アサルトライフル×2

マシンピストル

アサルトマシンガン

グシオンハルバート

ショートアックス

大型メイス

メイス

 

茶輔・グリーズの製作したグリモアレッドベレーの改造機。

下半身をまるまる初期型ガンタンクに交換しているのが特徴。低い車体重心のおかげで安定性能と積載量は部隊1である。

また、脚ではなく車輌なのでエネルギー効率にも恵まれており、ただ走るだけであるならば脚付きの機体よりも長い時間の行動が可能である。

ただし戦闘ともなると、その重量と巨体からかなりの消費を余儀なくされるため、見た目に反して短期決戦の奇襲が1番得意なのである。

 

最大の改造点は、両腕を丸々武器腕としている事。

これは通常の腕の多目的性を完全に廃する事で、戦闘に特化させたものである。

茶輔のフィーリングによりその日その日で武装は交換されるが、主に左腕は連射型で右腕は威力型と決められているそうだ。(必ずではない)

通常の腕より武器腕の方がエネルギー効率が良いのは後になってわかった事であり、本人は「なんかカッコいいから!」と気にしていない様子。

弾切れになった場合は完全にデッドウェイトになってしまうため、弾切れになったらすぐにパージして拠点に戻ってくる。

その際の退き際の良さは見事なものであり、彼の生存への執着が良く分かるものである。

 

 

そしてこの機体はバックパックにより性能を著しく向上させる。

クタン参型を多少弄った『コルヌ』と呼ぶ兵装は【タイラント】と合体する事で陸上戦艦さながらの見た目になる。

低い機動力をロケットブースターで補えばいいという、ど直球の解決方法で作られたコレは制御が難しいという点以外では、タイラントとの相性は良い、らしい。

 

【挿絵表示】

 

 

ガンダムグシオンリベイクフルシティのバックパックは、劇中で買ってもらったのをそのまま使用している。

このバックパックの隠し腕に各種武器を持たせる事で、対応できる状況が格段と広がったのである。

主に中距離〜遠距離が得意なレンジであったが、隠し腕のお陰で近距離にも対応できるようになった。

だが対応できる、という事だけなので自分から懐に飛び込むような事はしない。あくまで近距離での自衛用と割り切っている模様。

しかし自在に動かす隠し腕と、戦車型の利点である重心の低さからその防御力はかなりのもの。弾幕をなんとかくぐり抜け懐に入ったとしても、今度は4つ腕相手に戦わなければならないという2重苦である。

タイラントを仕留めたい場合は、彼が苦手とする超超遠距離から狙撃するのが1番であろう。

 

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単騎でも相当な機体なのだが、1番輝くのは味方の火力支援および壁として戦う時。

機動力を重視している2機が引っ掻き回している中に向かって更に弾幕を追加する姿は狂気そのものだがそれは深い信頼あってのこと。曰く「味方の銃撃に当たるような奴らじゃねーよ」

また京谷の【オンスロート】とコンビを組んだコンビネーションを繰り出す事も多い。

これに千恵の【ランページ】が加わった3機の連携は、悪夢としか言いようの無いものである。

普段は協調性の無い3人だが、テンションが上がってくると自然と連携しだすのは、お互いへの深い信頼あってこそ。

これは出自に関わる事になるが。

孤独に戦っていた彼らだからこそ、初めて背中を預けられる仲間を見つけたからでは無いだろうか。



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グリーズ商会:京谷・グリーズ/グリモア・オンスロート

機体紹介3機目!
機体提供感謝!!

強襲四脚好きという愛すべき変態の友人作。素晴らしいよね、好き!


機体名:グリモア・オンスロート(英語で猛攻の意)

 

 

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基本武装

スラッグガン

アサルトライフル

大型グレネードキャノン

ロケットポッド

 

サブ武装

大型スラッグガン

ショートバレルライフル

リボルバー式グレネードランチャー

ライフル

ロングレンジレールガン

滑空砲

180㎜キャノン

ミサイルランチャー

 

 

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大型追加ブースター【オーバード・ブースター】

 

 

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京谷・グリーズがグリモアレッドベレーを元に改造した、下半身を通常の二脚から四脚にした異形な機体。

手持ち武器と背面の武器を巧みに使い、手数と機動力で相手を翻弄していく強襲機体となっている。

 

四脚にした理由は「脚にタイヤ付いてるんなら増やしたら速くなるんじゃね?!あとカッコいいし!!」と本人は言っている

実際二脚の時よりもスピードは格段に向上している

千恵の【ランページ】や茶輔の【タイラント】よりも瞬間的なスピードは劣るが、最高速度はフォース内で一番のスピードがでる。

 

地上での機動力の他に壁を蹴って急な方向転換をしたり、壁を走行したりなど予測のつけられない機動で相手を穴だらけにしていく戦法を得意とし、撹乱に向く。

 

手持ちの武器には扱いやすいアサルトライフルと近距離での火力が高いスラッグガン、背面には高範囲に撃てるロケットポッドと威力の高い大型グレネードキャノンを標準武装としている。

接地面が増え安定性が増したことにより、通常の二脚機体では反動が大きく動きを止めてからしか使えなかった大型の火器を移動しながらでも撃てるようになった。これにより乱戦での安定した攻撃行動を可能とし、縦横無尽なパターンの攻撃を繰り出す事ができる。

 

火力と機動力に能力を割り振っているため装甲は必要最低限しかなく、部隊内では脆い部類。

本人曰く、「当たらなきゃ装甲いらないじゃん!!」とのこと

 

【ランページ】よりも火力が高く手数も多くて、【タイラント】よりも機動性が高い中間的な立ち位置の機体。

【ランページ】と一緒に突撃し、相手の陣形を崩すようなコンビネーションを得意とし、更に【タイラント】と同時に弾幕支援を行ったりと様々な動きに合わせた柔軟な機体。

(3人の中で)地味ながらチームの連携を担う重要なポジションにいる。

 

また武装も豊富でミッション内容や戦闘エリアに合わせて換装できる

(隊長の指示で装備を換装することもあるがだいたいは京谷がその時のノリとテンションで装備を決めている)

 

また意外にも精密射撃が得意で、相手の武装や関節等をピンポイントで狙い撃つほどの腕を持ち、部隊内では隊長に次ぐ実力を持っている事も重要なポイント。

 

この恐ろしいほどの射撃能力は、彼の過去が関わっている事なのだがこの場では割愛する。



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グリーズ商会:千恵・グリーズ/グリモア・ランページ

いやぁほんとぶっ飛んだ友人を持ったもんだ、楽しいな!!

特にぶっ飛んだ思考の友人の機体、近接全振りという気持ち良さだ好き!!


機体名:グリモア・ランページ(英語で暴れ回るの意)

 

 

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武装

インパクトナックル(右腕固定)

大型2連杭打ち機(左腕固定)

ニッパーシールド

脚部ヒートクロー

 

特殊兵装

背面部補助バーニア

 

グリモアレッドベレーを元にした千恵・グリーズの搭乗機。

過剰ともいえる推進機の改造と増設を施された超近接機体。最大の特徴は「遠距離武装の完全撤廃」である。これは「他の2人がやってくれるから僕には僕にしかできない事をする」という千恵の言葉をそのままに体現した構成となっている。

 

 

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また背面に装備された補助バーニアはリミッターの制御を解除してあるため、通常よりも出力が上がっている分、制御は大変困難になってしまっている。

だがそれに振り回されることなく、まるで機体そのものを自分の身体のように扱う千恵の機体とのシンクロ率のおかげで、とても通常の機体とは思えない動きで敵に襲いかかっていく。

そしてこの背面バーニアは【ランドマン・ロディ】のパーツを流用して改造した物であるため、このバーニア部分で着地して追い討ちをかけるという、なんとも破天荒な荒技を披露する事もある。

 

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この機体の基本戦術は「敵を撃ち貫き、砕ききる」という単純明快なもの。

運動性能の極端なチューンアップの結果、反応速度・瞬発性能はフォース内ではトップクラス誇る。

これにより飛び・跳ね・走り回る千恵の戦闘スタイルに拍車をかけ、野生的で変幻自在な攻撃を繰り出す事が可能となっている。この事から機械的な動きの近接機体には滅法強く(距離さえ詰められれば)遠距離型の機体も簡単に屠る事が可能である。

しかし、中距離で威力を発揮するショットガンやマシンガンによる面での攻撃には脆い事もあり、フォース内でのフォローが必要となってくる。

これは先にあった千恵の言動どおり、長所を伸ばし短所を補って戦うという考えに即したものであるのだろう。

中〜遠距離から火力支援を得意とする【タイラント】近〜中距離での銃撃特化の【オンスロート】そして超近接型の【ランページ】の動きは一見してめちゃくちゃな動きをするが、上手くハマってしまうと、まず防ぐ事も攻める事も出来なくなってしまう。

 

そして、千恵はこの機体を操縦している間は性格が180度変化し、少し頼りないが落ち着いた良い子から好戦的で理性の吹き飛んだモノとなってしまう。

それは敵を倒す事、隊長の言うことを必ず守る事に注視されており、結果がそこへ行き着けば過程は何でも良いという事に変換されてしまっている。

その際には自分への被害は全く意識しておらず、破滅的な願望が見え隠れしている。

 

隊長である八神に出会う前の彼の過去は、それは壮絶なものであった。

3人の子供達それぞれに拭えぬ傷があるのは確かであるが、ここで記す物では無いだろう。



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グリーズ商会:シズク・バーンズ/グリモア・アサルト

本当は…本当はこの機体のカラーは鮮やかなオレンジ色なんだ!!信じてください!!!

(塗装する技術も資金も無い…)


機体名:グリモア・アサルト(英語で強襲の意)

 

 

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武装

グレイズアイン用大型アックス×2

対MS用ショットガン

ロングレンジライフル(実弾LMG改造)

腕部単発パイルバンカー×2

 

特殊兵装

ミーティア型補助兵装兼輸送ユニット【ウルスス】(ラテン語の熊)

一輪型バイクユニット【バトルホッパー】

 

『グリーズ商会』の隊長である八神・グリーズの古巣である『第7機甲師団』の部隊教官であったシズク・バーンズの専用機。

以前に乗っていた【グレイズアイン】の改造機である【グレイズ・ペイン】を『グリーズ商会』に参加するにあたって更に改造したもの。

特徴的な逆関節は、子供達の機体との差別化と「立場に縛られることなく自由に戦う」事を意識して鳥をイメージしたものとなっている。

以前の機体よりも軽量化された装甲と、逆関節による独特な戦闘スタイルをすぐに把握し実践で通用できるほどのセンスを持つ彼女はフォース内最強である。事実、子供達3人がかりでの戦いでは危なげなくなく勝利を収めている。

 

 

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得意武装であるグレイズアイン用大型アックス2本をまるで手足のように振り回し、敵を薙ぎ払う様はまさに鬼神。まず近接距離で遅れを取ることはないであろう。

だが、近接一辺倒ではなく八神と同等の射撃の腕を持っている。しかし狙撃は性に合わないとのことでもっぱらショットガンや、実弾LMGに改造したロングレンジライフルでの滅多撃ちを得意としている。

 

長くトップフォースの最前線で戦ってきた経験を持つ彼女が得意とする戦法は、徹底した少数部隊での切り込みを作戦と、敵部隊の指揮系統を破壊する「首刈り戦術」だ。

また、わざと撤退した後に追いかけてきた敵を囲んだ後に殲滅する、いわゆる「釣り野伏せ」も得意としている。

これは彼女のリアルの出身地が、鹿児島県であることが影響しているのでは無いだろうか。

 

・特殊兵装【ウルスス】

 

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グリーズ商会への参加が決まった彼女が手土産がわりに購入した補助兵装。

ただのミーティア ユニットであり名前を変えただけのシロモノである。だがそうは言ってもミーティアなのは変わりない。輸送ユニットと言い張ってはいるが、その武装はそのまま使用が可能であることからかなりの殲滅力をこのフォースは手に入れた事となる。

だが、ミーティアユニットに使用される燃料は高価であることもあり滅多な事では使用されない。

 

・移動補助ユニット【バトルホッパー】

 

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なんてことは無い一輪型のMS用バイク。シズクが特に好んで使用していたため、そのまま持ってきた。

何かを運転するのが好きなのかもしれない。

 

 

彼女が『グリーズ商会』へ参加した経緯は省くが、彼女が八神・グリーズへ向ける感情は確かなものとなりつつある。

それに八神がどう答えるのかが焦点になるであろう。

 



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