フランがシスコン過ぎて困っています (かくてる)
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日常編
1話 姉妹の時間


初回からコッテコテの百合だよ。




 幻想郷中心地に位置する紅き館。紅魔館。ここには、スカーレットデビルと恐れられる吸血鬼にして紅魔館当主、レミリア・スカーレットという幼い吸血鬼がいた。

 そんなレミリア・スカーレットは私の姉。私、フランドール・スカーレットは全てを破壊し尽くせる能力を持ち合わせていた。レミリアお姉様はそんな私を恐れて地下室に隔離した。

 それから、私を飽きさせないように、毎日のようにレミリアお姉様は私の相手をしてくれた。そんなレミリアお姉様の優しさと親切心に徐々に惹かれていっていたのだ。

 

「失礼するわよ。フラン」

「あ、お姉様!」

 

 今日も私はお姉様に飛びつく。そんな急な抱擁にも余裕で対応してくれ、頭すらも撫でてくれる。

 

「んふふ〜」

「今日も御機嫌ね。フラン」

「明日ね! こいしちゃんと遊ぶ約束をしたんだ!」

 

 能力を恐れられて地下室に隔離されていたのは、もう一昔前の話。今では能力のコントロールを自分で行えるようになり、自由に外を出入り出来ている。お姉様もそれを許容してくれた。

 

「あら、古明地のところの? ええ、楽しんでらっしゃい」

「やった! お姉様大好き!」

「私もよ。フラン」

 

 優しい声音と共に、お姉様の右手が私の頭を撫でる。いつものナイトキャップが無いため、お姉様の温もりが直に届く。その温かさは私を自然に笑顔にさせる。そんな魔法がかかってるみたいだった。

 

「さて、今日は……その……」

 

 少し言いにくそうに口ごもるお姉様。そんなお姉様もとても可愛かった。そして意を決したのか、顔を上げた。

 

「一緒に寝ない?」

「……」

 

 一瞬、私の思考回路が停止した。どれだけお姉様と親しかろうが、一緒に寝ることなんて一度も無かった。そんな私たちの関係だったのにお姉様がその拮抗を破ったのだ。

 

「も、もちろん! いいよ」

「そう、じゃあ先にベッドに入っててちょうだい」

 

 安堵したように顔を緩め、すぐに引き締めたお姉様。無理してカリスマ性を醸し出そうとしているお姉様の頑張りもまた誰が見ても感心するものだ。

 お姉様は身を翻し一度部屋を後にした。寝間着にでも着替えてくるのだろうが、私の心臓はバクバクと跳ねたままだ。

 単刀直入に言うと、私はお姉様に親愛感情を抱いていると同時に「恋愛感情」すらも抱いてしまっている。これがいけない事だってことくらい、世間を知らない私でも分かるけど、芽生えたものを戻すことなんて出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ……緊張した。

 最近、フランが私へのスキンシップが多く、体によく触れる。それは大きく被さる感じではなく、撫で回すように触れるので、少しいやらしい。心配になった私は咲夜に相談した。

 

「ねぇ、咲夜」

「いかが致しましたか? お嬢様?」

「最近ね? フランが私の身体を撫でるように触れてくるのよ。それって何かの兆しなのかしら?」

 

 一瞬、咲夜の手が止まった。そしてぎこちなさそうな顔をした咲夜は人差し指を立てた。

 

「そ、それはですね。恐らく、「発情期」のようなものではないでしょうか?」

 

 発情期。それは雌が子孫を残すために性交を求める時期のこと。そんなの、私には来たことがないのに、フランには来ている。個人差があるのだろうか? 

 

(い、妹様がお嬢様に恋してるなんて口が裂けても言えない……!)

「じ、じゃあ咲夜。その発情期を解消させるにはどうすれば……」

「え、え!?」

 

 咲夜はさっきよりも大きく戸惑う。

 

(ど、どうしよう! 解消法なんて…………あるにはあるけど! ダメだ! こんなこと言えない! お嬢様、貴方はどうしてそこまでそういった話題には無知なのですか!?)

「ねぇ咲夜?」

「はい!? え、あ、えーとですね……」

(ここは安全策を取るのが最善かしら……)

 

 咲夜は何だか辺りをキョロキョロと見渡していたが、大きく息を吸って、私に顔を近づけた。

 

「一緒に寝ることです」

「一緒に……寝る?」

「はい、発情期とは人肌に触れたいという気待ちが溢れます。なら、一緒に寝て、触れさせてあげればいいのです。それだけ長時間触れていれば、妹様の気は晴れるはずです」

 

 私は咲夜の話をくい込むように聞いていた。そう、一緒に寝る。つまり「添い寝」すればフランのスキンシップは無くなると言う。私はそれを信じて、今日の夜。フランに一緒に寝ることを提案したら、快く快諾していた。

 

「どうして私が緊張しているのかしら……」

 

 高鳴る心臓に苛立ちを感じながら、寝巻きに着替え、鏡の前で一回転。肉親だとしても、みっともない所はあまり見せたくないからだ。自室を出てフランのいる部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はお姉様が来るのをずっと待っていた。心臓が高鳴り、息を荒くなっていた。どうしてここまで気分が高揚しているのかは知らないが、とにかく大好きなお姉様と一緒に寝れるという事実だけが私を興奮させていた。

 しばらくすると、ドアが叩かれ、寝間着姿のお姉様が少し照れながら入ってくる。ああ、可愛いなぁ……

 

「いらっしゃい、お姉様。寝よっか。もう夜遅いし」

「そ、そうね……」

 

 私が先にベッドに入り、お姉様を誘導する。普段は誰も寄せ付けない主の威圧があるが、今はただの幼い少女だ。私とお姉様は向かい合わせになり、お互いが目を見つめ合う。

 赤色の目と頬。私はそれを見てとてもお姉様が愛らしくなってきた。

 

「ふ、フランは恥ずかしくないの?」

「え? なんで?」

「だ、だって……こんな近距離で……」

「だって姉妹だし! 別に気にしてないよ?」

 

 私とお姉様の関係は姉妹。でも、私はそれ以上の感情を持っていることは知らずにね……

 

「そ、そうだけど…………うう……」

「ふふっ、お姉様可愛い」

「か、からかわないでっ」

 

 そうやって慌て始めるお姉様は本当に可愛い。私と違ってハリのある肌。保湿が行き届いている唇。吸い込まれるような赤い瞳。妹の私でもついつい見蕩れてしまう。

 

「ねぇ、お姉様…………いい?」

「いいって……何が?」

 

 鈍感すぎるお姉様に私は少し苛立った。もどかしかったので、私は何も言わず唇を差し出した。それで察してもらえるだろう。

 

「ふ、フラン!? 私達は……」

「姉妹……だよ?」

「わ、分かってるなら……」

「もう、我慢出来ないの」

 

 私はお姉様の頬を両手で掴み、無理やり唇を重ねる。甘い味が続く中、私は目をうっすらと開けてお姉様を見る。顔を真っ赤して、目を閉じているお姉様が数センチ先にいる。その顔がまた美しかった。

 

「んっ……ふ、フラ…………」

「んぅ……逃がさないよ……」

 

 私を押し、離そうとする手を制しながら耳元で囁くとお姉様は身体をビクンと震わせた。

 

「舌…………入れるね……」

「え!? だ、だめ…………んぐ……あっ……」

 

 舌を無理やりねじ込ませて、お姉様の口内を舐め回す。お姉様の唾液もとっても甘い味がして、私は幸せの最絶頂にいた気分になった。

 

「ぷはぁ……はぁ……はぁ……」

「フラン……もう……」

 

 私とお姉様の唇の間に銀色の糸が引かれる。もうお姉様の顔は完全に蕩けており、これ以上抵抗は出来そうにないみたいだった。流石に可哀想に見えた私はイタズラな笑顔を浮かばせ、口元を拭いた。

 

「仕方ないなぁ……今日はこれで……おしまいね……」

「う、うん……」

 

 私は布団に潜り込み、お姉様に抱きつく、お姉様はまた身体を強ばらせるが、私は安心させるように声をかける。

 

「大丈夫。"今日は"は何もしないよ?」

「え、ええ…」

 

 私はそれだけ言って、お姉様の温もりを感じながら、眠りへと誘われた。




尊い


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2話 無意識と甘味処

今回は百合要素少し少なめ、エロ要素はゼロだけど、少し恋に近いかな。


 ────紅魔館

 

 結局、あれからお姉様に手出しすることは出来なかった。お姉様がすぐ寝ちゃって、その可愛い寝顔を見ていたらいつの間にか私も寝ちゃってたから。

 

「んっ……んん……」

 

 私は朝日とともに目が覚めた。背伸びをした後にすぐ隣を見ると、そこにはもうお姉様の姿は無かった。時計を見ると、現在は八時半を回っており、メイドたちが廊下を行き来している足音が聞こえた。

 

「おはようございます。妹様」

「ん、おはよ、咲夜」

 

 身だしなみが整えられている咲夜とその隣には大きな欠伸をして入ってきた霊夢がいた。

 

「あれ、霊夢?」

「……咲夜。いいの?」

「ええ、調べてちょうだい」

 

 それだけ言うと、霊夢は私にズカズカと近寄ってきた。その勢いに私は何歩か後ろに後ずさる。そして壁に背中が当たった後、私は叫んだ。

 

「ちょ、ちょっと! 何するの!」

「申し訳ありません。これも妹様のためなのです」

「大丈夫よ。痛くするわけじゃない」

 

 それだけ言って、霊夢は私のデコに左手を添えた。少しひんやりした手に私は全身の力が抜けた。そして数秒経った後、霊夢は手を離して咲夜の方へと向き直った。

 

「……問題は無いわ。この子がレミリアを好きなのは病気でも何でもないわ」

「ちょ、病気って何!?」

「妹様。昨日の夜中、レミリアお嬢様が私のところに来てですね……「咲夜ぁ〜、フランにキスされたぁ〜」って泣きながら来たんです」

 

 下手くそなお姉様の演技に少し笑いがこみ上げてきた。なるほど、いつもなら昼頃に起きるお姉様が今日だけ早いと思ったら咲夜の部屋に行ったのか。

 

「うぐぐっ……」

「姉妹で楽しむのは結構です。しかし、妹様ももう物心が無いわけではありません。限度というものを考えていただかないと、お嬢様は……」

 

 私は苛立ちを隠せず、咲夜に強く言ってしまう。

 自分の目を細めて、咲夜の目に向けて強く睨みつける。

 

「お姉様が何? 咲夜には関係ないでしょ?」

 

 しかし、咲夜はそんな私の態度に物怖じすらせず、平然とした顔で口を開いた。

 

「堕ちますよ?」

「ッ!?」

「お嬢様があなたの言いなりになってしまったり、機械のようにあなたの命令しか聞けない。そんな状態になるのは誰も望んではいませんよね?」

「で、でも……」

「妹様がお嬢様を好きなのは重々承知しています。しかし、限度を考えてください。無理矢理キスさせるのはお嬢様は望んではいないのですよ?」

 

 ここまで言われてしまったら、私は引くしかない。確かにお姉様が馬鹿みたいに堕ちるのは嫌だ。今の、ありのままのお姉様が私は好きなんだから、無理矢理やるのは違う。

 

「そう……だね……ありがと、咲夜」

「分かっていただけたのなら嬉しいです」

「しっかし、ここまで姉に執着する妹も初めてね……こいしだってここまで……」

 

 霊夢の口から「こいし」の単語が出た瞬間、私は昨日の約束を思い出した。

 

「こいしちゃん! 今日遊ぶ約束してるんだった!」

 

 慌てて服を脱ぎ、いつもの服に着替える。

 

「い、妹様! 朝食は……」

「いらない! 地霊殿で食べてくるよ!」

 

 霊夢と咲夜の間を抜けて、紅魔館の廊下を走る。するとその途中、レミリアお姉様が歩いているのが見えた。

 

「おはよ! お姉様、昨日はごめんね」

「え? あ、ええ。大丈夫よ?」

 

 私が唐突に謝罪したから驚いているのだろう。今はその顔を堪能したいが、時間が無い。こいしちゃんを怒らせると色々と面倒くさいので、急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランちゃん。来ないかなぁ……」

 

 地霊殿前。今日は友人のフランちゃんと遊ぶ約束をしている。

 階段に座っている私、古明地こいしは地底に住む覚妖怪である。

 姉であるさとり

 

 

「こいしちゃぁぁん!」

「あ、フランちゃん! おはよ……」

「ごめんね! 寝坊しちゃった……」

 

 フランちゃんの頭を見ると、ところどころ、金色の髪が跳ねているのが分かる。少し慌ててきた感じがある。可愛いなぁ……

 私はフランちゃんに近づいて、手を握る。

 

「さっ、行こっか!」

「あれ? 今日はどこに行くの?」

「人里に美味しい甘味処を見つけたんだ。今から行かない?」

「甘味処…………か……太りそう……」

 

 お腹をさすりながら少し苦笑いをするフランちゃん。可愛い仕草に思わず見とれそうになったが、頭を振って、それを振り払う。

 

「大丈夫だよ。ゼロカロリーのものもあったはずだから……」

「はず……なんだね……」

 

 私はフランちゃんの手を引きながらフワッと浮く。そして地上に向かって飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 ────人里

 

「ねぇ、まだお昼にもなってないのに食べちゃって大丈夫かな?」

「多分……大丈夫……」

 

 フランちゃんの一言に私を急に自信が無くなった。確かにここで食べれば、お昼ご飯食べれなさそうだもんなぁ……

 私はただ、フランちゃんとここの抹茶パフェが食べたかったからだし……お昼ご飯無くても大丈夫かな……

 

「私は食べてもいいけど、フランちゃんはダメかな?」

「ううん、お腹すぐ空くし、甘いものは別腹だよ」

「あははっ! それ太る人のセリフだよ」

「むっ、絶対太らないもん!」

 

 頬をふくらませ、可愛らしく怒るフランちゃんを横目で見ながら、目的の甘味処を探す。一軒家に紛れて建っているため、少しだけ探すのに時間がかかるのだ。

 

「あ、あった!」

「ここ?」

 

 看板には「甘味処 七星」。可愛らしいネーミングだが、周りは思い切り和の雰囲気を醸し出している。

 

「へぇ……雰囲気のある店だねぇ……」

「でしょ? 一度お空といってからここの常連なんだ!」

 

 躊躇いもせずに私は入店し、そこにフランちゃんを連れていく。そして二人席に迷わず座る。

 

「さて、何食べる? 私はもう決めてあるけど」

「そうなの? んー」

 

 フランちゃんはメニューを見ながら難しい顔をする。時々首を傾げ、無意識に髪を耳にかける仕草とかに一々ドキッとさせられている。

 

「決めた。チョコレートパフェにする」

「おっけい」

 

 机の端っこにあるベルを一回鳴らすと、すぐに店員が紙を持って近くまで来た。

 

「はい、ご注文を承ります」

「えと、抹茶パフェとチョコレートパフェを一つずつで」

「かしこまりました」

 

 一礼をし、厨房にかえる店員さんを見送ってから、フランちゃんは店を見渡した。

 

「ほんとに雰囲気がいいね……」

「でしょ? 西洋の館に住んでるフランちゃんは新鮮かなと思ってさ」

「新鮮新鮮。ありがと、今日連れてきてくれて」

 

 輝かしい笑顔が炸裂する。それも私に向けられたもの。それを見ただけで、今日は彼女を連れてきた甲斐があったというものだ。

 間もなくしてパフェが届き、私達は早速それを頬張る。

 

「んぅ〜おいし〜!」

 

 

 足をパタパタさせてほっぺたを抑えるフランちゃん。私はそれをしばらく見ていたら、不思議に思ったフランちゃんが手を止めた。

 

「どうしたの?」

「い、いや……」

 

 慌てて視線を逸らす。何故だろう。いつもなら無意識を使って照れ隠しなど容易にできたのに、フランちゃんが相手だと能力を使うのをすっかり忘れてしまって、素のままで対応してしまう。心の底から笑えるのもフランちゃんだけなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「はぁ〜美味しかった!」

「満足だなぁ……」

 

 お日様が真上に上り始めた頃、私達は甘味処を出て、人里の空気を思い切り吸う。

 

「さて、これからフランちゃんは用事があるんだよね?」

「う、うん……ごめんね?」

 

 それはフランちゃんは事前に話してくれていたので、驚くことは無かった。

 

「そう、じゃあ、ここでお別れだね。バイバイフランちゃん。また遊ぼ?」

「うん! ありがと、こいしちゃん!」

 

 私に背を向け、羽を軽く動かしながら飛んでいくフランちゃん。私はフランちゃんの背中が少し遠くに感じた頃、無意識に言葉が出ていた。

 

「大好きだよ……フランちゃん」

 

 これは本心だった。自分が心の底からフランちゃんに抱いた感情。それはフランちゃんをすぐに抱きしめたい、キスしたいと思う感情のことだった。

 しかし、今日のフランちゃんを見ていればわかる。甘味処に行った時も心の底から楽しんでいるというより、その次の用事に早く行きたいという気持ちが垣間見えていた。

 この次の用事がよっぽど大事だったのだろう。しかし、そんなことをされても私の心は揺らがない。

 私はずっと、フランちゃんが大好きだ。それはもしかしたら、ずっと心の奥に秘めていることになるかもしれない。そう思った。



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3話 博麗神社で………

今回はちょっと百合すぎます。

エロ表現多め?
苦手な方はどうぞブラウザバックを……

この小説なんかただの自己満足なんだけど。


 早く、早くお姉様に会いたい。

 会ってギューって抱きしめたい。そんな思いが私の飛行速度を上げてくれる。

 

「お姉様……!」

 

 紅魔館までは約三キロ程。飛んで行くならすぐだが、今日だけは気が遠くなるほどの距離に感じた。

 こいしちゃんと別れて、人里を出てからまだ三分しか経っていないのに……。すると、私の視界に赤い館が見えた。紅魔館だ。

 私はさらにスピードを上げて、紅魔館に突入した。

 

「あ、フランお嬢様。お帰りなさい」

「ただいま美鈴! お姉様はどこ!?」

「お、お嬢様ですか……? 今日は確か……博麗神社かな……?」

「……うぅー! ありがと!」

「あ、でも、今日は霊夢さんと大事な話があるからって言っていたので、行かない方が……行っちゃった…………」

 

 私は美鈴の話を最後まで聞かずに、全速力で博麗神社の方向に飛び立った。早く、早くお姉さまに会いたい。その一心だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───博麗神社。

 私は霊夢と大切な話をしていた。それは、今後の妖怪と人間の共存について。今では人間と妖怪の壁は完全に失せたのだが、それでも稀に妖怪は人間を襲ってしまう。

 

「だから、徹底的にこの規則を使った方がいいと思うの」

「でも、これをしたら、次は妖怪の地位が低くなるわよ? レミリアだってそれは分かるでしょう?」

「そうねぇ……」

 

 なかなか決まらないものだ。何か突破口はあると思うのだが、それにたどり着くまでの経緯が編み出せない。

 

「じゃあ、ここはどうすれば──」

「……………………おねぇさまぁぁぁぁぁぁ

「? どうしたの? レミリア」

「へっ? あ、いや、誰かの声が聞こえた気がして」

「お姉さまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「わぁぁぁぁ!」

 

 煙が上がるほどの勢いで私に突撃してきたのは、私の妹、フランだった。

 何でだろう? 今日フランはこいしと遊んでいるはず。それなのにどうして一人で来たんだろう? 

 

「ふ、フラン!? 今日、こいしと遊ぶはずじゃ……」

 

 フランは私の胸に埋めていた顔を上げて、明るい声だ言った。

 

「今日は午前中で終わる約束もしたんだ!」

「そ、そうなのね……」

「だから、んっ!」

 

 フランは黙って唇を差し出していた。瞳を閉じて頬を赤く染めていた。

 …………これは流石に重症じゃないか? こんなにキスをせがむ妹など聞いたこともない。私は助けを求めるように霊夢を見る。

 

「……ほんとに姉妹?」

「姉妹よ……」

「いいわよ別に。私は気にしないわ? 思う存分イチャつきなさい? 席を外すわね」

「やった! 霊夢ありがと! じゃあお姉さま、許可もおりたし…………ね?」

「そんな問題じゃないわよ! フラン、落ち着いて! 私達は姉妹よ!?」

「…………?」

 

 フランは何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げる。首をかしげたいのはこっちなのに。

 フランはそんな私の意見すらも踏みにじり、ジリジリと私に顔を近づけていく。

 

「ちょっ、フラン……」

「んぅー……」

 

 もう、ダメだろう。私を抱きしめる力が段々と強くなり、骨が軋んでいるみたいだ。私は諦めて、唇を差し出した。

 するとフランはパァと顔が明るくなり、即座に唇を重ねた。

 ……こんな姉妹は果たしていいのだろうか。

 

「んっ………ちゅ……」

 

 フランは私に唇を強く押し付けた。そしてフランはそのまま私を押し倒した。そして体を密着させてさらに押し付けた。

 舌は入れず、そのまま押し付けるだけなのだが、なんだか蕩けてしまう。

 

「フラ……んっ……もうダメっ……ここは……」

「博麗神社だよ…………知ってるそんなこと。でも、止められない……」

「やぁ……ぁ……ん……」

 

 フランの手が服の中に伸びる。このまま言われるがままになってしまえば、以前のようになってしまう。完全にフランのペースだ。フランはそのまま私の服の中に手を入れて肌を撫で回した。そして、私はポケットからスペルカードを取り出した。

 あまりしたくないが、これもフランのためである。少々痛い目を見せないとダメだろう。

 

「す、スペルカード…………紅魔…………んぁ……ちゅ……」

 

 ダメだ。フランがずっとキスしてくる。終いには舌を入れ、私の口の中を貪り始めた。そして離した唇の間には銀色の糸が太陽に照らされて光っていた。

 

「ダメだよ……お姉さま……乱暴は……めっ」

「乱暴にしてるのはっ……どっちよっ」

「ふふっ……嫌がってないじゃない」

「嫌がってるわよ」

「お姉さま可愛い」

 

 会話もまともに続かない。唇を一度離して一度息を吸ったらまた唇を塞がれる。

 強すぎて唾液が口から漏れてしまいそうなくらい。私は意を決して、叫んだ。

 

「ぷはぁっ! す、スペルカード! こ、紅魔「スカーレットシュート」!!」

「あっ」

 

 真っ赤な弾幕が出現、フランに向かって襲いかかった。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

 フランはそのまま数メートル吹っ飛んだ。私は唾液で濡れた口周りをハンカチで拭う。まだ感触が残っていて、顔が火照っていた。

 

「お、お姉さま!? 何するの?!」

「こっちのセリフよ! こんな所で堂々とキスなんかしちゃダメに決まってるでしょ!?」

「え? じゃあ紅魔館の中だったら……」

「そういう問題じゃない!」

「あら? 終わったかしら?」

 

 境内の裏から、霊夢が欠伸をしながら出てきた。私はそんな霊夢をきっと睨みつけた。

 

「霊夢も薄情過ぎるわよ! 私が助けてって求めたのにすぐどっか行っちゃって……」

「あ、お姉さま「助けて」って言ったの!? ひどい!」

「いやぁ……お似合いだし? いいかなって……」

 

 霊夢は目をそらしながら後頭部を掻く。フランは私の腕にくっつき、可愛く上目遣いでこちらを見た。

 

「ねぇねぇ、お姉さまぁ? また続きしようよ……ね?」

「嫌よ」

「ひどい!」

「流石にフラン。あなたも肉親にこんなことするのいいと思ってるの?」

「うん」

 

 キッパリと、フランはすまし顔で頷いた。病気だ。また永琳に見てもらおう。私はそう決意した。

 

「まぁ、今日は仕方ないか、レミリア。明後日にまたここに来れる? 話の続きをしたいのだけど」

「ええ、分かったわ。じゃあ、また」

「フラン、あなたは来ちゃダメだからね? レミリアに迷惑をかけるから」

「ぶぅ〜まぁ、いいけど!」

 

 良かった。こういう聞き分けはいいのに……と内心で思ってしまう私がいた。

 

「フラン……もう私疲れたから、やめてね?」

「うー、分かった! "今日は"お姉さまも疲れてるみたいだからやめる! "今日は"ね!」

「……」

 

 先が思いやられる。

 だから、今日のこのあとの時間は思う存分謳歌しようと。僅かな希望を抱きながら私達姉妹は紅魔館へと帰った。



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4話 好きになった理由

遅れてすいませんっしたぁ……


 紅魔館に帰宅した後、私は咲夜にこっぴどく怒られた。お嬢さまが嫌がっているのに無理やりしてはいけない。白昼堂々とキスなんかしてはいけないと。

 

「ぶぅ……どーして咲夜も分かってくれないのかなぁ?」

 

 どうして私の気持ちを受け入れてくれないのか、どうしてお姉さまは姉妹同士の恋を拒絶するのか。

 

「…………あっ」

 

 私の中に一つの考察が浮かんだ。それは、お姉さまには他に好きな人がいるということ。

 

「…………ずるいな……」

 

 お姉さまに好かれるなんて、なんて幸せ者なのだろうか。私はまだ決定打にもならない予想だけでお姉さまの好きな人に嫉妬する。

 

「応援は……しないといけない……のかな……」

 

 正直、そのお姉さまが好いている人を壊したい気持ちだってある。でも、お姉さまがそれじゃあ悲しむし、お姉さまが好きになるってことはいい人なんだ。私が邪魔しちゃいけない。

 

「…………」

 

 そんなの、絶対嫌だ。お姉様が誰かに取られるくらいなら、お姉様が私だけを必要とさえしてくれればいいんだ。

 かといって、私はお姉様を束縛したいわけじゃない。ただ純粋に、お姉様が私を好きになってくれればいいのだ。

 

「……お姉様……」

 

 お姉様の顔を浮かべるだけで顔が熱くなるのが分かる。姉妹同士の恋なんか、世間一般で考えたら、本当に頭がおかしいのかもしれない。でも、世間一般だから、普通は恋しないから。そんな理由で私の恋路を邪魔されたくない。

 私は私のままに生きる。あの日にそう決めたから。

 

「あ、フラン……」

「あっ」

 

 紅魔館の廊下でお姉様と出会う。少し、お姉様の顔がやつれている気がした。私はそんなお姉様に心配そうな顔で見つめる。

 

「お姉様? 顔色が良くないけど…………体調悪いの? もしかして私のせい?」

「いえ、違うわよ。少し寝不足なだけ……」

「……もう早く寝なよ…………後は私と咲夜で後のことはしておくから」

 

 私も少し度が過ぎたのかもしれない。あんなに無理やりキスして、挙句の果てに舌まで入れるんだから。

 

「ごめんね……私のせい…………だよね」

「そんなことないわ。別にフランは悪くないわよ」

 

 絶対嘘だ。お姉様は優しいからほんとのことを言わないだけ。私を傷つけたくないんだ……。

 

「まぁ、それでも、今日は早く寝てよ。明日からまた私と遊んでもらうんだからっ」

「…………まぁ、程々にね……」

 

 お姉様がそう言って微笑む。その顔は昔の私たちを彷彿とさせるような優しくて悲しい笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数百年前。私達スカーレット姉妹は「吸血鬼ハンター」によって両親を殺され、二人は何とか生き残ることが出来たのだが、飢餓状態が進み、瀕死の状態が続いていた。

 

「ひっぐ……お姉ちゃん……こわいよぉ……」

「大丈夫、大丈夫よフラン……私達は絶対に助かる」

 

 お姉様に抱きつきながらべそをかく私。それを必死に宥めようとするお姉様の足や頬、腕からは大量の鮮血が流れ出ていた。それでも、私のためにそれをも気にさせないように頭を撫でてくれていた。

 

「……ねぇ、フラン」

「ん? どうしたのお姉ちゃん?」

「私達はどうしてこんなにひどい目に会うのでしょうね?」

「…………私たちがバケモノだから?」

「…………それは人間のものさしで決めたものよねぇ……」

 

 ため息をつくように、呑気にそう放った。言われてみればそうだ。私たちから見れば、私たちはバケモノじゃない。人間が勝手に決めたものだ。

 

「それなら、私達はそんな人間のものさしに合わせる必要は無いわよね?」

「……うん」

「人間を殺しても、私達は別に罰せられないのよね?」

「うん」

 

 お姉様の話を聞いているだけで気分が高揚している気がした。そうだ、私達はバケモノじゃない、それは人間から見た私たちの「印象」。でも、そんなのは関係ない。

 

「なら、私達二人で人間を殺さない?」

「うんっ!」

 

 今考えたら、極悪非道なことをしているんだなと思うが、以前の私はこの事が一番大切だと思い込んでいた。

 

「なら、行くわよっ!」

 

 元気よく号令をしたお姉様のあとを私はつけて行った。

 その時からかな? 私は自然とお姉様の背中を見て、憧れるようになった。

 私もこんな人になりたい。かっこよくて可愛くなりたいと。姉としてではなく、一人の吸血鬼として恋をしていたのかもしれない。

 

 

 

 

「あぅっ!」

「フランっ!」

 

 人間に襲撃をすると必ず私は矢や剣に刺される。時には大怪我をすることもあり、その度に近くの洞窟に逃げていたことを覚えている。

 

「ごめんなさい……お姉ちゃん……私が足を引っ張っちゃって……」

「いいのよ全然。妹だもの、足手まといになんてなってないわよ」

 

 私は包帯を巻かれた胸部から左肩にかけてを摩る。少し血が滲んだそれは、私が人間に攻撃されたことを物語っている。

 

「でもこれじゃ…………いつまで経ってもお姉ちゃんは人間に復讐なんか……」

 

 そこまで言おうとするとお姉様の人差し指が私の唇に触れた。それ以上言ってはいけない。という合図なのだろう。するとお姉様は微笑み、こう言った。

 

「いいの、復讐が出来ても、何も得られないもの。これはただの自己満足。フランが遅れそうになったら、私はいつまでも待つわよ。吸血鬼だとしても、そもそもとして私はあなたの姉だもの、甘えたい時は甘えていいのよ?」

 

 涙が溢れた。こんなに優しい言葉をかけてくれたのは初めてかもしれない。

 

「う、うぁぁ……」

 

 声を上げて泣いてしまった。お姉様は私が泣き止むまでずっと私を抱きしめて、頭を撫でてくれていた。ここから、私は自分の気持ちにようやく気づいた気がした。

 私はレミリアお姉様に恋しているんだと、この人が好きなんだってことを自覚するようになった。

 

 私のスキンシップはお姉様と初めて一緒に寝る時から過度になっていった。無理やりキスをしたり、抱きついたりベッドに潜り込んだり。

 迷惑だって分かっていてもお姉様を好きな気持ちには変えられなかった。

 

「んっ…………ちゅぅ……ふぅ……」

「あっ……フラ…………ちゅ………………」

 

 今日もお姉様にキスをしていた。今日はベッドに押し倒して、私は覆いかぶさるようにキスをしていた。

 

「お姉様ぁ…………」

「だめよ…………ふらぁ……ん…………」

 

 お姉様の貧相な胸を触る。その度に体が跳ねてとても可愛かった。愛くるしくなった私はもう一度キスをした。

 こんな感じのが週に二回ほど続いた。以前にお姉様から一緒に寝てくれる。と言ってくれた日からそれヒートアップしていた。しかし、その度に私は咲夜につまみ出されては叱られていた。

 

 しかし、本当にお姉様は私のキスが嫌いなのだろうか? お姉様なら、私なんてすぐに吹っ飛ばせるのに…………と何回も疑問に思ったのだが、その答えが出ることは無かった。

 

 でも、こんな妹にも優しくしてくれるお姉様の事がどうしても諦めきれなかった。

 



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5話 独占

なんかさ、百合書いてるとすっごい執筆が捗るんだよね。




今回は百合回、個人的に




「ねぇ咲夜」

「どうされましたお嬢様?」

 

 私は今、真夜中に紅茶を飲んでいた。なんで昼に飲まないのかと言うと、私の妹、フランがティータイムの邪魔をするから、寝静まったこの時間帯に紅茶を飲むようにしているのだ。

 そんな私は今、従者の咲夜に素朴な疑問を聞いた。

 

「私って、魅力ないのかしらね」

「何をおっしゃるんです?充分魅力的じゃないですか。妹様もおっしゃってましたし」

「そのフランが原因で悩んでいるのよね」

「え?」

 

 そう、何故フランで悩んでいるか、シスコンだから、私のことが大好きだからという点で本当に悩んでいる。

 

「私、フラン以外に好かれないじゃない……」

「そんなことないと思いますけど…」

 

 何故、こんなことを思うのか、それは

 

 

「だってこいしだって振り向いてくれないし……」

 

 

 そう、私に想い人がいるからである。その相手が、フランと仲の良い地霊殿の「古明地こいし」なのである。いつもフランと仲良くしてもらってるし、私とだって仲良くしてくれる。容姿だけじゃなくて私はこいしの全てに惚れたのだ。

 

「まぁ、いつか振り向いてくれるのでは?妹様を通して距離は近付いている……と思います」

「そう……よね……ならいいのだけど…」

 

 私は紅茶を飲み干す。顔が赤くなっていくのを隠すように一気に飲んでしまい、少しむせた。咲夜がその背中を摩ってくれた。

 

「妹様だってお嬢様に魅力があるのを知ってるからあんなに好いてくれているのだと」

「……」

 

 私は黙って夜空を見た。満天の星空の下、私はこいしを想っていた。なんて、ロマンチックな事考えてもただ虚しくなるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 そんなの、嘘だ。

 

 

 私は真夜中に起きてしまい、トイレに行こうとした時、バルコニーから声がした。お姉様と咲夜の声だった。最初は大切なお話をしていると思い、そのまま素通りしようとしたが、ある言葉によって私は引き止められた。

 

『こいしだって振り向いてくれないし……』

「……え?」

 

 どうして今こいしちゃんの話題が出てきたのだろうか、お姉様とこいしちゃんはあまり関わりは無いはずなのに、それにお姉様……今「振り向いてくれない」って言った?

 私は壁に背中をつけ、その会話を聞いていた。

 

『まぁ、いつか振り向いてくれるのでは?妹様を通して距離は近付いている……と思います』

 

 お姉様は……咲夜に恋愛相談をしているのか……?

 その絶望感に駆られた私はその場に座り込んだ。天井を見て頬に何かが伝った。これこそが「失恋」なのだろうか。

 初めて味わうその感覚の後、一つの考えが浮かび上がった。

 

「お姉様を奪うしか……」

 

 以前にも同じことを考えたが、その時は踏みとどまったが、お姉様の本音を聞いてしまった今、独占欲が芽生えてきてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 お姉様がバルコニーを出て、欠伸をしながら寝室へと向かっていっていた。私は一度自分の部屋に戻り、上着を脱いで下着だけを身につけていた。

 そして、私はそのまま隣のお姉様の部屋へと向かい、扉をコンコンと叩いた。

 

「あら、咲夜かしら?」

「………っ!」

 

 私はお姉様が扉を開けた瞬間に抱きついてキスをした。そして、そのままベッドの方まで移動し、舌を入れる。

 

「んっ……ちゅ……じゅる……」

「あっ……ん……ふら……」

 

 お姉様は咄嗟のことで体が動かなくなっていた。私はそれを利用し、寝間着姿のお姉様の口の中を舌で巡らせる。

 

「お姉様ぁ………好きぃ……ちゅぅぅ」

 

 吸血するように、お姉様の舌を吸う。心地よい温度が感じられて気分は高揚していた。対するお姉様は顔を真っ赤にし、涙目で私にされるがままになっていた。

 

「ふらん………やめ……んくっ……はふぅ……………」

「……お姉様の好きな人は誰?」

「ぇっ……」

 

 唇を離す。口と口の間には銀色の太い糸が引いていたが、押し倒していたので、唾液がお姉様の顔に少々かかる。その時に質問したのでお姉様の口からは唾液が垂れたままで、私は少し心臓が高鳴った。

 

「だから、誰が好きなの?」

「…え…………あっ……」

「私じゃないの?」

「う……ぅん……」

 

 お姉様が首肯した途端、私はもう一度キスをした。次は唇を強く押し付けて、激しいキスをした。

 

「じゅるる………んちゅ……はぁ……ちゅ……」

「やっ…………ちゅぅ………んくっ……」

「こいしちゃんが好きなんでしょ?」

「……どうして…………それを……?」

 

 お姉様は驚きを隠せない表情で固まる。もうこれなら洗いざらい言おう。

 

「さっき、お姉様がバルコニーで咲夜と会話してるの見た」

「……起きてたのね」

「たまたま、トイレ行こうとしてた時」

「そう……」

「こいしちゃんが好きなの?」

「………ええ、好きよ、どうしようもないくらい」

 

 その言葉が私の胸にチクリと痛みを与えた。泣きそうになるこの衝動を抑えるために私は手をお姉様の寝間着の中に入れ、肌を撫でる。

 

「ん………ぅ………」

「お姉様が悪いんだよ?」

 

 舌を出し、お姉様のお腹を舐める。何だか甘い味がしてずっと舐めていたくなった。

 

「や、やめてフラ……んちゅ……」

「話さないで」

「ど……どうしてぇ……ちゅ……」

 

 お姉様が話す度に私はお姉様にキスをしていた。お姉様の胸を揉んだり、股を触ったり。

 私はお姉様に対してしたいことをほぼ全てしたのかもしれない。

 

「んぅぅ………ちゅぅぅぅ………じゅる……」

「んあ………ちゅ……」

 

 最後に長い長いキスをして、私はお姉様から離れた。この瞬間、私の中で何かを失った気がした。少し離れただけでお姉様が恋しくなる。最早病気なのかと自分でも心配するようになってしまった。

 

「今日はこのくらいでいいや」

「はぁ……はぁ……」

 

 お姉様は仰向けで倒れ、だらしなく涎を垂らしながらその場でぼーっとしていた。やりすぎた。少々今日はそう思った。

 

「じゃあお姉様、おやすみ」

 

 私はそう言って扉を開けて外に出た。下着だけなので少し肌寒い。

 

「………」

 

 お姉様は、こいしちゃんが好き。その事実がグサリと胸に刺さる。

 これが「失恋」。恋が叶わず、想い人がほかの子を好きになること。

 そんな嫌だ。嫌なのに、どうしてお姉様とこいしちゃんの恋の成就を願ってる私がいるの?

 

「う、ぅ………」

 

 私は真夜中の廊下で一人でに声を出してすすり泣いていた。

 この時、私が一番恨んでいたのは、お姉様を独占しようとした自分自身なのかもしれない。




R18指定が怖い


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6話 絡まる思い

最近、ストライク・ザ・ブラッドを見始め、今日書店まで買いに行きました。

キャラが可愛くてとにかくエロかわいいのがもうやばい。

今回は百合要素はあるけど激しくないです。


「妹様ー?」

「あ、咲夜、どしたの?」

 

 今日は真夏日、暑すぎて私はクーラーが効いた自室にこもっていた。お姉様も今日は博麗神社に行っちゃった。紅魔館には私の愛しのお姉様はいなかった。

 暇していた時にちょうど咲夜が声をかけてくれたのだ。

 

「地霊殿のこいしさんがいらっしゃいましたが」

「こいしちゃんが? いいよ」

 

 お姉様の一言以来、少しこいしちゃんには敵対心というかライバル心がある気がする。お姉様が好いている相手だからだろう。

 

「急にごめんねフランちゃん」

「ううん、全然、ちょうど暇してたんだ。それで、どうしたの?」

 

 するとこいしちゃんはぱぁっと顔を明るく、満面の笑みで私に歩み寄ってきた。

 

「人里に面白いものが出来たんだって、行ってみない?」

「面白いもの……?」

「私も何だか分かんないんだけど、人里の人には好評らしいよ」

「へぇ……」

 

 確かに暇だからそういうのも面白いかもしれない。それにお姉様の想い人だからとかそういうの関係なくこいしちゃんは私の親友だ。誘いを断るわけがない。

 

「うん、私も行く! それ面白そうだし」

「ほんと? 行こ行こ!」

 

 私はこいしちゃんに手を引かれ、紅魔館の外に出た案外暑くて、溶けてしまいそう。パチュリーに日光を防ぐ薬貰ってて良かった。

 人里まで行く道中、こいしちゃんの手は私の手をずっと握っていた。

 

「あ、あの……こいし……ちゃん……?」

「んー?」

「もう……手、離していいよ」

「だーめ! フランちゃんどっか行きそうなんだもん」

「い、行かないよ……」

 

 むふふーと満面の笑いを見せ、こいしちゃんは再度前を向いた。それから、こいしちゃんの手は私の手をさらに強く握っていた。

 

 

 

 ────人里。

 

「今日ほんっとに暑いねこれ……」

 

 私は汗を拭いながらこいしちゃんに話しかける。こいしちゃんも同様に汗をハンカチで拭いていた。

 

「やになっちゃうよねぇ……あ、ハンカチ使う?」

「いいの? ありがと」

 

 私はこいしちゃんから白いハンカチを受け取り、首筋や頬、額などに当てて汗を拭き取った。少し開放感があり、涼しく感じられた。

 その瞬間、こいしちゃんが少しだけ口元が緩んだ気がした。

 

 ガチャっと少しレトロなドアの開閉音と共に甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

 

「いらっしゃいませ」

「あ、二名です」

「はい、では案内いたします」

 

 美人な店員さんに連れられ、端っこの席に移動した。

 

「へぇ……凄い高級そうなお店だね」

「ふふっ、だって高級だもん!」

 

 誇らしそうにドヤ顔をするこいしちゃん。私はその答えに驚きを隠せず、席を立った。

 

「え、ええ!? 高いのここ!?」

「うん、でもその分美味しーよ!」

「そうじゃなくて、私のお小遣いで足りるかなぁ……」

「足りなかったら出すよ? 誘ったの私だし」

「ほんと? 足りなかったらお願いするね……」

 

 ポテッと席に座る。お金の問題が解決すると私は少しソワソワしてきた。甘い香りが漂い、気分が高揚してくる。すると間もなく、さっきの店員さんが来た。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「あ、忘れてた」

 

 店の雰囲気に没頭しすぎてメニューを見るのを忘れてしまっていた。私は慌ててメニューを開き、美味しそうなものを選ぶ。

 

「えと……いちご&チョコレートパフェで」

「あ、じゃあ私もそれで」

 

 私に続くようにこいしちゃんも注文した。店員さんは「かしこまりました」と一礼し、厨房の方へと行ってしまった。

 

「あ、フランちゃんごめん、私ちょっとトイレ……」

「分かった」

 

 席を立ち、可愛らしく小走りでトイレへと向かうこいしちゃん。その背中を見送り、私は天井を見る。

 

(お姉様、今博麗神社で何してるのかな……)

 

 やはりこんな時でも、お姉様の事は気になってしまう。

 昨夜の事は本当に今でも信じたくない。私の唯一無二の親友のこいしちゃんに恋をしているなんて。

 それで昨日は私が暴走しちゃって……申し訳ないな……

 今更私は我に返る。こんなことをしても無意味なのに勝手に涙ぐんでしまっていた。

 

「ごめん、お待たせフランちゃん」

「ううん、まだパフェ来てないみたいだし」

「あら、人が多いからやっぱり仕方ないのかな?」

 

 店内には親子やカップルが沢山いて、私たちだけ優先されるなんてことは無いようだ。そんなことを思っているとさっきの店員さんが二つのパフェを持って近くに来た。

 

「お待たせしました。いちご&チョコレートのパフェでございます」

「あ、ありがとうございます」

 

 目の前に置かれたパフェはイチゴのピンク色とチョコレートの茶色が混ざり、甘そうな雰囲気を醸し出していた。私は目をキラキラさせながらスプーンでクリームと掬い、口に運んだ。

 

「んむぅぅ……! 美味しっ!」

「……ホントだ! 美味しい……」

 

 私達は子供らしくはしゃぎながら味わっていた。こんなに美味しいものは食べたことがないって思うくらいだった。

 

 

 

 

 

「ぷはぁぁぁ……美味しかったぁ……」

「ね、ほんとに美味しかった……」

 

 店を出て、満悦したように腹をポンポンと叩く。お金の方も全然問題なく、逆に余るほどだった。

 

「あの美味しさであの値段なら、私常連になっちゃいそうだよー」

「んね、フランちゃん食いしん坊だし。あ、食いしん嬢かな?」

「むっ、そんな食べないし!」

「あはははは! 冗談だよ」

 

 いつも通りの会話をしていると、背後から何やら誰かが全力で走っている足音が聞こえてきた。

 

「ん?」

こいしぃぃぃぃぃ…………

「何だろ?」

 

 不思議な顔で同時に振り返ると、そこにはこいしちゃんのお姉さん、さとりがいた。

 

「こいしぃぃぃぃぃ! あなた私のケーキ食べたでしょー!」

「げっ」

 

 こいしちゃんの顔が少し険しくなり、私の手を引いた。

 

「逃げるよフランちゃん! お姉ちゃんから!」

「え? でも…………きゃあ!」

 

 すごい勢いで飛ぶこいしちゃん。余程さとりと会いたくないのだろう。食べ物の恨みでここまで追ってくるとは……仲のいい姉妹なのだろうか……

 

「いいのこいしちゃん?」

「うん、帰ったら謝らなきゃね……」

 

 さとりさんの姿が見えなくなった頃、私たちが降りたのは広大な森の中の泉だった。

 

「ここなら紅魔館が近いし、一度帰る?」

「うーん……」

 

 こいしちゃんは少し考えた後、急に服のボタンを外し始めた。

 

「えっ? ちょ、こいしちゃん!?」

 

 私は慌てて体を回転させ、こいしちゃんを見ないようにする。

 お姉様がここにいたら喜びそうだなぁ……

 

(って! なんでお姉様が出てくるの!)

 

 こんな時までお姉様が出てくる自分の不甲斐なさに頭を抱えていると、後ろからこいしちゃんが声をかけた。

 

「? どしたの? もしかして裸かと思った?」

「え?」

 

 私は正面を向いてこいしちゃんの方に振り返る。するとそこには緑と白の水着を着て、ニヤニヤするこいしちゃんがいた。

 

「って……水着着てたんだ……」

「うん、甘味処行った後水浴びする予定だったし」

「あ、そうなんだ……でも、私は水着持ってきてないよ」

「案ずるな」

「キャラ変わりすぎでしょ」

 

 こいしちゃんは自分の持ってきたオシャレなカバンの中からもう一着の水着を取り出した。赤とピンクと白のチェック柄のフリル水着だった。

 

「フランちゃんのは私が用意しました!」

「え、ほんと? ありがとこいしちゃん!」

 

 喜んでその水着を受け取り、私も服を脱ぐ。

 

「お、おお…………」

「ん? どしたの? こいしちゃん?」

「え、な、何でもない……」

 

 顔を赤くして私を凝視していた。何かあるのだろうか。

 私は無視するようにその水着を着て、一回転する。

 

「どうかな?」

「か、可愛いっ!」

「って、こいしちゃん!?」

 

 こいしちゃんは両鼻から鼻血を出し、右手の親指を立てていた。

 

「じゃあ入ろっか」

「うん」

 

 冷たい泉の中に同時に入る。この泉はよく小さい頃にお姉様と一緒に入ってた記憶があるので少し懐かしい。

 

「ていっ!」

「きゃっ!」

 

 バシャっとこいしちゃんに水をかけられる。少しカチンときた私は

 

「こーいーしーちゃーんー!?」

「いっ!?」

 

 ばっしゃぁ…………と力全てを使って水をこいしちゃんにかけたすると中々強かったらしくこいしちゃんはそのまま少し吹っ飛ばされる。

 

「あぅー……」

「もう吸血鬼を舐めないでよ!」

「やったなー!」

 

 笑いながら、私達は水をかけ合った。その時間は何だかとても楽しくて大切に感じることが出来た。

 

 

 

 

「はぁぁぁ…………楽しかったぁ……」

「ね! 暑かったからちょうどいいや」

 

 今は水辺で二人並んで足だけ泉に浸けていた。今は夕暮れ時、空もオレンジ色に染まっていた。

 

「今日はありがとうね、フランちゃん」

「いやいや、こっちこそ、楽しかったよ」

 

 その時のこいしちゃんの顔は何だか夕暮れだからか、少し赤くなっていた気がした。その顔は何だか綺麗で見惚れそうなほど。

 その時、こいしちゃんは立ち上がろうとした。

 

「さて、そろそろ帰ろっか………………って、わっ!」

 

 こいしちゃんは泉の石と石の間に躓き、バランスを崩して転びそうになってしまった。

 

「こ、こいしちゃん!」

 

 私は慌ててこいしちゃんを受け止めようとするが、こいしちゃんの体は倒れると同時に回転し、うつ伏せで倒れようとしていた。

 私は仰向けで受け止めようとしたため、こいしちゃんと向かい合う形になってしまっていた。

 

「…………大丈夫こいしちゃ…………ん?」

「フランちゃん…………」

 

 こいしちゃんの顔がすぐそこにあった。その顔はやっぱり赤くなっていて、夕暮れのせいじゃない事が判明した。

 こいしちゃんは私の顔の横に手をつき、その腕を曲げた。

 それと同時に顔も近づいてきていた。

 

「え、ちょっ……こいしちゃん?」

「ごめんね……」

 

 それだけ言ってこいしちゃんの唇が触れた。お姉様とは違う。甘い匂いがして、口の中はさっき食べたパフェの味が少しした。優しくて淡い感覚に陥った。

 

「ん…………ちゅ…………んんっ」

「はぁ……フランちゃん…………」

 

 こいしちゃんの顔は何故か悲しそうだった。そして終いには涙を流し、私の頬に何滴か落ちた。

 

「ごめんっ」

「え?」

 

 こいしちゃんはすぐに立ち上がりカバンを持って走って帰ってしまった。未だ状況が飲み込めない私はその場で呆然とするしか無かった。

 

「こいしちゃんと……キス……」

 

 これはお姉様には黙っておかないといけないな……と自分の唇を触りながらそう思った。

 その時、背後からガサガサと草が揺らぐ音が聞こえ、すぐに立ち上がる。

 

「フランー?」

「あっ、お姉様!?」

 

 そこにいたのは私を探すお姉様だった。

 

「あ、いたいた、咲夜が心配してたわよ」

「……見てた?」

 

 そう言うとお姉様は首を傾げた。

 

「何がよ、今来たばかり、ほら早く帰るわよ」

「う、うん」

 

 私は立ち上がって服を着た。そしてお姉様の隣まで寄った。

 

「今日の晩御飯、何かな?」

「さぁ、何だかお肉の匂いがしたけどね」

「じゃあお肉だ! やったー!」

 

 私はいつもの調子で話す。こいしちゃんとのキスを悟られないように振舞っていた。

 そんな私とお姉様の帰り道、月が少しずつ出始めていた。その時のお姉様の手は強く握られていた。



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7話 温泉チケット

うわぁぁぁ!!許して!
また投稿ペースあげるからぁ!次か次の次はムフフ回にするつもりだからァ!


という訳でよろしくお願いします。



 屋外は今でも暑苦しい。

 私は銀髪のメイド、咲夜と共に紅茶を啜っていた。いつも通りの美しい味が私の口内を刺激した。

 

「……はぁ……」

 

 鈴虫の音が心地いい。白い上品な椅子にもたれかかり、星空を見上げる。

 

「……」

「お嬢様? どうなされました?」

「いえ、何でもないわ」

 

 あの時のフランとこいしのあの行為を記憶から必死に消そうとしている。それなのにどうしてもあの光景だけがフラッシュバックして、完全に脳にインプットされていた。

 

「……ね、咲夜」

「はい?」

「恋って難儀なものよね」

「……?」

 

 咲夜は私のその言葉に首を傾げるだけだった。

 

「ある人の好きな人がある人を好いている人って、何だか面白いわね」

 

 鼻で笑いながら紅茶を啜る。こうやって夜空の下で紅茶を飲み、あの時の出来事を無理やり消そうとしているのだが、ダメだ。気持ちが動揺してしまっている。

 

「……お嬢様、恋愛とは誰かに決められてするものではありません」

「そんなの……分かってるわよ……」

 

 分かってはいるのに、どうしてもそれを分かりたくないのが現状だ。

 紅茶を皿におき、咲夜を見据える。咲夜はどうやら、私の今置かれている現状を分かってしまったようだった。

 

「では、お嬢様がこいしさんを好きになるように、こいしさんもまた、好きな人ができます。それが誰だか、お聞きはしませんが」

 

 咲夜は今の話を聞いて、こいしが誰を好きなのか、分かっているのだろう。

 

「……そう、ね……」

 

 なら、こいしに私がアプローチをすればいい。フランよりも素敵だと思わせればいいのだ。

 

「……簡単な事ね」

 

 無理やり奪うのではなく、こいし自身が私を好きになってくれるのを待つのだ。それがどれだけ長くなろうと、私は構わない。こいしと近くにいたい。

 

「……ありがとう咲夜。少し楽になったわ」

「ええ、お力になれたなら良かったです」

 

 私が掴んでいるマグカップは少し震えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日後

 

「温泉んんんんんんん!!!」

 

 フランが勢いよく扉を開け、私の方に走ってきた。そしてそのまま全身を私にぶつけ、抱きついてきた。

 

「ちょ、何、フラン?」

「温泉行こ、温泉!」

「温泉?」

 

 温泉など、もう数百年も行っていない気がする。西洋で生まれた私たちにとってそういった東洋の風習と縁がないからだ。

 

「また、どうして?」

 

 私がそう尋ねると、ピラ紙が4枚。

 それには、「温泉旅行! 家族でGOGO!」と記されていた。

 

「こいしちゃんが福引で当てたの!」

「こ、こいしが?」

 

 ガタンッと私の椅子が揺れる。それを見たフランはにやにやしながら。

 

「あらぁー? こいしちゃんの名前が出ると反応が違うねぇー」

「う、うるさいわね……」

「まぁ、そんな訳で、私とお姉様、こいしちゃんとさとりで行こうって話」

「そう、なのね」

 

 西洋に染まりきった紅魔館とは無縁な文化である「温泉」。無縁とは言っても、少なからず関心はある方だ。

 

「まぁ、いいわよ。温泉なんか久しぶりだし」

「ほんと!? やったぁぁ!」

 

 心の底から喜ぶフラン。大方、私とお風呂に入れるのが嬉しいのだろう。実際、私もこいしと一緒にいられるなら満更でもない。

 

 

 

 

「うむむ……」

 

 髪の毛を弄りながら自分の顔を鏡で覗く。今日はいつもの家族旅行ではない。

 あのこいしもいるのだ。だらしない格好で行けるわけがないだろう。

 

「どうしよ、こんな形でいいのかな……」

 

 少しお洒落して髪留めを付けてみたり、香水を付けたり、自分なりの努力をしてみる。

 咲夜には頼らない。自分の力だけでしてみたいからだ。

 

「お嬢様? もうこいしさんとさとりさんがおいでになられてますよ?」

「ひゃわぁぁ!?」

「……お嬢様?」

「咲夜っ!? もう、ノックしてよね!」

「しましたが……」

 

 私は口ごもりながらもキャリーケースに荷物を詰めて、扉の方へと歩き出す。

 

「あら、可愛いですわよ、お嬢様」

「う、うるさい!」

 

 咲夜はにこやかに笑った。私はその横を足早に通り過ぎたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、お姉様おそーい!」

「どうもレミリアさん」

「やっほー! レミリアちゃん!」

 

 三人が一気に挨拶してきた。どうやら、以前のこいしとフランの件は二人共気にしていないみたいだ。恐らく、事故として扱われたのだろう。

 

「え、ええ、よろしく頼むわね」

「じゃ、行こっか!」

「そう言えば、どこに行くの?」

 

 一番大事なことを聞いてなかった。私は荷物を背負うと同時にフランに問う。

 

「あ、お姉様には言ってなかった。えと、妖怪の山を越えたあと、鳳凰山ってところがあるんだって、そこは年中紅葉とかカエデとかが一面にあって、穢れのない澄んだ土地なんだって!」

「へぇ……」

 

 明らかに説明書をそのまま読んだようなフランの説明に頷く。

 そう言えば、妖怪の山の奥の方なんて言ったことないからそんな名前すらも聞いたことなかったな。

 

「はい! 長話は嫌だから、しゅっぱーつ!」

「では、お嬢様、妹様、こいしさん、さとりさん。お気を付けて」

 

 咲夜が挨拶をした後、私たち四人は同時に足を地面から離し、軽く手を振った。

 今の時期はまだ暑い方だが、やはり飛んでいるといつの時期も少し冷えてしまう。まぁこれから温泉に入るのだから、少し冷えていても問題は無い。

 

「んぅぅぅー! 楽しみだなぁー……」

「あまりはしゃぎすぎないでよこいし」

「分かってるよお姉ちゃん!」

 

 やはり、古明地の姉妹は凄く対称的でいい姉妹である。それに比べ私達は…………

 

「ねぇ、お姉様ぁ? あっち行ったら何からする? 一緒にお風呂入る? 背中流してあげよっか? そしたら…………きゃっ!」

「きゃっ! じゃないわよ……」

 

 どうしてこの妹は……と額に手を当てて私はため息をつく。フランがこうなってしまったのもいつからなのかあまり記憶に新しくないし、今更どうしようと言うわけでもないのだが、このシスコンぶりはそろそろ卒業して欲しい。

 

(……こいしに好かれてるんだから……私なんかより……)

 

 ここで私は考えるのをやめる。それは自分が弱気になってしまっているから、こんなんじゃ、こいしを振り向かせることな不可能だから、自信を持たないと。

 

「……」

「レミリアちゃん?」

「…………」

「おおーい、レミリアちゃーん?」

「うぴゃぁ! な、なに、こいし……」

 

 ぼーっと考えていたら、いつの間にかこいしの顔が数十センチ先にあって、私は思わず仰け反ってしまった。

 

「? ……何か考えてたの?」

「あ〜、いえ、そうじゃないわよ」

「……ふーん、変なの」

 

 私がそう言うと、こいしは怪訝な表情を見せながら前へ出た。

 そのやり取りを見たフランがこちらを睨んでいたのは気付かないふりをしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたぁ〜!」

 

 私は地面に足をつけるなり、大きく背伸びをし、鳳凰と呼ばれる温泉街を見渡した。

 見渡す限り「和」に包まれている。真ん中に流れる川を境に二つの道がある。その道の端には和菓子屋さんやお土産屋さん。そして温泉や旅館などが一日じゃ回れないほど並んでいた。

 

「ね、みんな! どれから回る!?」

「あまりはしゃぎすぎないでよフラン、さとりとこいしもいるのよ」

「あはは! いいよいいよ! 思いっきり楽しも! あ、フランちゃん! あそこに甘味処がっ」

「えっ、どこどこ?!」

 

 妹二人は甘味処を見つけるなり全速力でそこへ走っていった。

 

「……元気ねぇ」

「そうですね。こいし、最近何だか空元気を振舞っていたので、戻ってよかったです」

 

 こいしが空元気を振舞っていた理由は私は分かってしまっている。だから、さとりとはあまりこういう話をしたくないので、そのままスルーする。

 

「そう、フランはこいしがチケットを当ててからずっと楽しみにしてたみたいだったし、よかったわ」

「そうですか……」

「そ、だからありがとうね、さとり」

「いえいえ、私は何も」

 

 私たち二人は顔を見合わせてクスッと笑う。

 そして、姉は妹を追いかけるように、温泉街の道を歩み始めた。




あ、そう言えば、今日例大祭のカタログの発売日ですね。

表紙が可愛らしくて私の好みでございます。

秋葉原は人が多かったですわぁ……


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温泉旅行編
8話 温泉で


今回ちょっとやばいです。
エロ回ですエロ回。

いやね、私もこれはやりすぎたと思ったんですけど、許してください。私の理性がこう書けと叫んでいました。

では、今夜のオカズにどうぞ。

え?オカズって何かって?












今日の晩御飯に決まってるだろ。

まだ食べてねえんだチクショウ


「美味しいぃ〜!」

 

 足をパタパタと動かし、頬に触れるフランとこいし。それを対面の椅子で微笑ましく見ている姉二人の顔は微笑だった。

 

「ね、お姉様、これ美味しいよっ」

「ん? どれどれ……」

 

 フランが差し出してきたスプーンに顔を近づける。チョコののったクリームのようだ。私はそのままパクリとそれを食べる。

 

「……ん、美味しいわね……」

 

 これは驚きだ。咲夜以上の甘味は今まで食べたことがないが、咲夜と肩を並べられるほどの絶品と言えるだろう。

 しかし、フランが気にしていたのはそこでは無かった。

 

「お姉様とあ〜んした上に間接キス…………あぁぁっ」

 

 両手を頬に付けて、照れているようだった。私はもう面倒なので適当に流す。

 

「あ〜、はいはいそうね。で、お勘定はいくらかしら?」

「ひどいっ」

 

 ショックを受け、「ううー……」とうなるフラン。それを笑いながら見ていたこいしとさとり。こいしだけは心の底から笑っていないのが見て取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……風流な所ねぇ……」

 

 泊まる予定の旅館を前に感嘆の声を漏らす私の横で言葉を無くすさとりとこいし。フランだけはテンションがハイなまま。ダッシュで玄関へ向かっていく。

 

「あ、フラン! 走っちゃダメよ!」

「温泉! 温泉!」

「レミリアさん。ここの手続きは私がやっておくので先に部屋へ行っていて下さい」

「あ〜、悪いわねさとり」

 

 さとりの親切に甘えて私は断ってからフランを追いかけた。こいしは甲高い声で笑いながら私の後を付いてくる。

 

「ったく……」

 

 フランとこいし。私は迷惑そうにしながらも、姉妹や想い人と一緒に旅行に来れたことが何よりも嬉しかった。

 

 しばらくして、旅館の人に部屋へ案内してもらった。さとりがカウンターでチェックインしている間に案内してもらったのだ。

 

 旅館は全体的に「和」。立派なもので鳳凰山の風景をそのまま模写したかのような壁の絵や、流れる水の音、三味線。

 西洋の私たちにとって疎遠だったものが近くに感じて新鮮なものだった。

 

「わぁ……これがタタミ……」

「すうぅ…………匂いも独特だね、レミリアちゃん、寝っ転がっていいかな?」

「いいわよ。好きにくつろぎなさい」

「わーい!」

 

 これを見ていると引率の人みたいになっている。悪い気はしないが、私も思いっきり畳の上で寝転がりたい。

 

「お姉様も寝転がりなよ!」

「…………じ、じゃあ遠慮なく」

 

 ゆっくりとフランの隣で寝転ぶ。すると紅魔館では絶対にない独特な気持ちよさが伝わってきた。

 あ〜、これはダメになるやつだ。

 

「お姉様、顔が可愛い」

「なっ!?」

 

 知らないうちに気が抜けていたみたいだ。フランにそう指摘され、私はすぐに顔を正す。こいしにも見られていたみたいでケラケラと笑っている。

 

「そ、そろそろさとりが来るわね……」

 

 私は顔を赤くしながら体を起こし、窓の方へと歩いた。

 窓の外は川が静かに流れており、その先には穏やかな街並みがあった。この景色も悪くない。

 私が遠くへ言ったのを確認した後、フランがこいしに対して耳打ちをした。

 

(……ね、こいしちゃん)

(ん、なぁに?)

(今日のお風呂はさ、姉妹同士で入らない?)

 

 こいしはフランのその言動に首をかしげた。

 

(……どうしてコショコショ話なの?)

(お姉様にバレたくないから。どうせそう言ってもお姉様反対するもん)

(ええ……)

 

 こいしは呆れた顔でフランを見る。確かにそうかもしれないが。

 

(ねね、いいよねっ、明日はみんなで入ろーよ!)

(……まぁ、いいか)

(やった! じゃあこいしちゃん達先入ってもらっていい?)

(うん、いいよ)

 

 こいしはもう内心は笑っていなかった。だって、フランの裸を見れる唯一のチャンスが相手自らが潰しに行かれたからだ。

 こいしはフランが私を好きなのも薄々感づいていたらしいので、そこまで驚きもなかったらしい。

 すると部屋のドアがゆっくりと開けられた。

 

「おお……お部屋も綺麗ですね」

「さとりん」

「そうね。ここならベッドでしか寝れない私とフランも心地よく寝れるんじゃないかしら?」

 

 私の発言に対しフランは激しく首を縦に振った。

 

「うんうん! 最初は心配だったけど安心した!」

「ね、お姉ちゃん。ちょっと下までジュース買うの付き合ってー」

「もう、仕方ないわね」

 

 こいしがさとりにそうねだるとさとりは溜息をつきながらも微笑を零しながらそれを了承した。

 

「やったー!」

 

(こいしちゃんナイス!)

 

 フランは内心でガッツポーズをした。これでこのまま二人が入ってしまえば、私たちが二人で入るしかないという魂胆だった。

 

「じゃ、帰ってくるまでババ抜きしよっ!」

「え? 二人で?」

「うん」

「絶対楽しくないわよ……」

 

 文句を言いつつも机に向かってくるお姉様。この時から、温泉が楽しみで仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「……二人とも帰ってくるの遅いね」

「そうねぇ……」

 

 私達はババ抜きをしながらそう会話をする。もうかれこれ数十分かかっている。私はさとりんとこいしちゃんなら大事に巻き込まれても対処できるのでそういう面では心配していない。

 逆にほかの人に迷惑をかけていないかの方が心配である。

 

「どうしたんだろ?」

 

 私はわざとらしくそう言ってお姉様を見る。お姉様は余裕そうな顔をしてペアをどんどんと捨てていく。

 

「さ、やるわよ。フランから抜いて」

「ほーい」

 

 

 

 

 

 

「負けたぁ……」

「運命を操る私にとってこんなの造作もないわ」

「あ、お姉様能力使ったなぁ!」

「使うなってルールは無かったはずよ」

「ずるぅーい!」

 

 約15分程たっただろうか。恐らく、こいしちゃんはさとりんとお風呂に入ることに成功したのだろう。これで、後はお姉様と時間を潰すだけだ。

 

「むぅー! 次はスピードやるよ! 次は能力禁止で!」

「あら、私スピードは強いわよ? 咲夜にも勝てるんだから」

「受けて立つ!」

「どんなキャラよ」

 

 私達はカードを並べ替えて次はスピードでトランプを普通に楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから40分後。時刻は18時30分だった。

 暇していた私とお姉様の部屋の扉が空いた。

 

「ごめんねぇー! お風呂の誘惑に負けちゃって入っちゃった!」

「ごめんなさい……こいしがどうしてもと言うから」

「ええ!? ……まぁ仕方ないかぁ」

 

 と、私はわざとらしくそういった態度をとる。お姉様は苦笑いして「仕方ないわね」と事を片付けた。

 

「じゃ、お姉様。私達も入ろ?」

「そうね」

「じゃあ二人共、後はよろしく」

 

 お風呂の準備をして玄関を出る途中、私はこいしちゃんの横を通り過ぎる際に耳打ちをした。

 

(ありがとっ! こいしちゃん)

(いーえ!)

 

 私は鼻歌まじりに外へ出て、そのままお姉様の腕に引っ付きながら歩く。

 

「ちょっと……歩きづらいわよ……」

 

 お姉様、完全に今油断してる。こういう時に急にキスしてやりたい。そんな感情が芽生えてきた。

 温泉に行くと今の時間帯は人がいなかった。大体は夕食の方へと向かっているからだろう。

 

「へへっ、貸切だねお姉様」

「……そうね」

 

 お姉様は何かまずいと感じ取ったのか、目をそらしながらそう答えた。

 

「入ろ入ろー!」

 

 棚に自分の着替えを置いて、服を脱ぎ始める。私の今日の楽しみはお姉様の裸だ。

 そのためには私がまず脱がないと。お姉様なかなか脱いでくれなさそうだったから。

 

「ほほぉ……」

「あ、あまり見ないでよ……」

 

 服を脱いで下着姿になったお姉様を見て、私は驚きの声を上げる。

 白い肌、鮮やかな鎖骨。鮮やかなラインのくびれ。細くて可愛らしい太もも。そして、まだ成長途中の胸は流石に私の心を奪わせた。

 この体が自分の血縁とは思えないくらいに美しかった。

 

(こ、これは思った以上の破壊力だな……)

「うう……」

「あっ、ごめんお姉様! 早く入ろ!」

 

 見すぎたせいか、お姉様が涙目になってしまったので、早く入るよう促す。

 私は端っこの椅子にちょこんと座り、シャワーを付ける。

 

「フラン。髪洗える?」

「お姉様私を子供扱いしすぎ、それくらいできるよ」

「そう、成長したのね」

「ぶぅぅ」

 

 頬をふくらませて髪を洗う私の横に座るお姉様。私は髪が長いので洗うのは大変だが、セミロングのお姉様は少々楽そうだ。

 

「あ、お姉様、背中流すー!」

「いいわよ別に!」

 

 私がお姉様の背中に回ると、私は意識が硬直させられた。というか、理性が一気に吹っ飛んでしまった。

 

(やばいやばいやばいっ! 旅行中はいやらしいことしないって決めたのにっ!)

 

 お姉様の艶やかな背中のラインに私は意識が集中させられ、急にキスしてしまいたくなるほど、お姉様の体が恋しくて、愛おしかった。

 

(…………もう、無理だね……)

 

 私は大きく深呼吸をしたのに、全然効果はなく、お姉様の体に吸いつけられた。

 

「フラン?」

「っ!」

 

 いつまでも背中を洗わない私を呼んだ。いつも呼んでいる「フラン」と言葉を発した声が私の神経を誘惑した。

 もう私のスイッチは完全にオンになってしまった。

 

「……お姉様……」

「……フラン?」

 

 まさかと思ったのか、お姉様の顔は引きつっていた。そんな顔も愛おしい。

 私はお姉様の腕を掴んで、体をこちらに引き寄せ、密着させた。肌と肌が擦れ合い、変な感覚になる。そのままお互い力が抜け、椅子に座り込んでしまった。

 

「いや……あっ……」

 

 お姉様の艶やかな声と息が私の耳に届き、ビクンと私の体が震える。

 そうなりながらも私はお姉様を強く抱き締めた。

 ツルツルな肌同士が触れ合い、興奮が止まらなくなった。

 

「お姉様ぁ……すきぃ……」

「フラぁ……あっ」

 

 お姉様の方も顔を真っ赤にしてビクッと体を震わせる。そんなお姉様の体をもっと引き寄せ、いつものように唇を重ね、すぐに舌を入れた。

 

「んぅ……ちゅっ……じゅる……」

「んあっ……」

 

 いつものキスなのに、どうしてもいつもよりも気持ちがいい。ずっと続けていたい。

 お姉様は足を広げて座り込む私を足でホールドするような形、そのため、お姉様は私の上に座り込んでいる、太ももと胸同士が当たって、凄い変な感覚に陥った。

 

「おねえしゃまぁ…………ちゅぅぅ」

「だめ……もう…………んっ……」

 

 お姉様は必死の抵抗を見せるが、私が強く抱き締めているし、私と同様変な感覚になっているので力が入らないのだろう。

 

「ちゅぅぅ…………ぷはぁ……はぁ……」

「フラン…………」

「お姉様ごめん…………スイッチ入っちゃった……先に謝っておくね。我慢出来ないや」

「……はぁ……はぁ……」

 

 お姉様は珍しく抵抗を見せなかった。これは恐らく、お姉様も若干「スイッチ」が入っているからだろう。

 

「……人来るまで………………よ」

「やった……好きだよ、お姉様……」

 

 諦め気味に言ったお姉様の顔は少し無理をしていた気がしたのだが、この時の私はそんなの感じる余裕もなかった。

 そう言って私達は、また二人で溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………はぁ……」

「あはは……ごめんねお姉様……」

 

 温泉に浸かりながら私は大きくため息をつき、フランが苦笑しながら謝罪した。

 

「……体を執拗に触らないで、お願いだから……キスまでにしてよ……」

「やりすぎました…………反省してますぅ……」

「後、裸で抱きしめるのも禁止。これからフランと私の二人で入るのも禁止ね」

「ええー!」

 

 フランが身を乗り出してきた。私は後ずさりしながらフランを見据える。

 

「当たり前よ! 今回みたいなのが続いたら私あなたと姉妹やめるわよ!」

「分かりました。明日からはこいしちゃん達と入りましょう」

「もう……」

 

 私は唸るフランを横目で見ながら頭を石にもたれさせて上を向く。

 

「それにしても……綺麗な夜景ねぇ……」

「ね、来てよかったよ」

 

 紅魔館とは違った景色が夜空に広がる。露天風呂はこのような素晴らしい光景が見れるのだなと東洋の文化に改めて凄みを感じた。

 

「お姉様、この後街を歩かない? 浴衣で」

「いいわね。行きましょうか」

「やったぁ!」

 

 もう一度上を向く。

 私はこう言った事を悪くないのだと、微笑みながら思った。




規制かかったりしない?

もうR18検討しますね。


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9話 夜の温泉街

今回はそこまでイチャイチャ回ではありませんが、まぁ、みんな可愛いです。
レミたんもフランもこいしもさとりも。
みんな可愛い。

それより、もうすぐ例大祭ですね。私はとても楽しみです。


 カラン、カラン。

 下駄の音が私のちょうど足元から聞こえる。温泉上がりに私はフランと共に夜の温泉街を出歩いているところだった。

 

「少し……肌寒いね」

 

 今の季節はまだ残暑厳しい時期であるが、風呂上がりでそのうえこんな山の上の方に行くとなれば相応の肌寒さだと言えるだろう。

 

「そうねぇ……へっくしっ」

「お姉様、寒い?」

「ええ、少し……」

「フランがあっためてあげようか?」

「却下」

「ひどいっ」

 

 ついさっきに「あんなこと」をされて、それでもなお、フランは私に触れようとする。流石にもう無理だ。気持ち悪いとかそういう訳ではなく、何だかダメだと本能が語っている気がしたから。

 

「あ、お姉様、あそこのお団子欲しい!」

「今から晩御飯なのよ?」

「ええ〜、一本だけっ」

 

 両手を合わせて私に頼み込む。私は「はぁ……」とため息をついてお金をフランに差し出してしまった。いくらセクハラをするとはいえ、やはり妹なので甘くなってしまう。

 

「やったぁ! お姉様大好き!」

「……」

 

 こいしたちは今なにをしているのだろうか。私は静かになった温泉街を橋の上から見上げ、紅さなど微塵も感じない黄金色の満月を見つめた。

 鳳凰山は幻想郷のほぼ最果ての地。その果てを超えたら一体何が待っているのかは私たちには分からない。

 

「お腹……空いた……」

 

 その空間の中で腹の音が聞こえた私は赤面してお腹を抑える。お昼もあまり食べていないせいだろうか。

 

 それにしても、ここの風景は幻想郷のありとあらゆる所と比べても段違いだ。

 景色は普通、見下ろすものなのだが、鳳凰山のこの街の淡い灯りと山々は西洋生まれの私でさえも吸い込まれる。

 

「お姉様、お待たせっ」

「…………」

「お姉様?」

 

 ここの景色を集中して見ていたせいか、フランが帰ってきたことに気づかない私、そのまま無視して上を見上げたまま。

 

「おーねーえーさーまー?」

「…………」

「………………っ!」

「んっ!?」

 

 フランは未だ景色に集中しすぎて自分を無視する私に頬をふくらませた。

 するとフランは両手を伸ばし、私の頬を挟んだ。

 そして、顔を景色からフランに移すとフランは唇を強く私の唇に重ねた。

 

「ん、ちゅぅぅぅ……」

「ぷはぁっ!」

「はぁ…………はぁ……ちょっ、何すんのよ!」

「お姉様こそ! どーして無視するの?!」

 

「ぶぅぅ」と言って可愛らしく頬を膨らませる。フランが手元にあるお団子を持っているのを確認した。

 

「あ〜、ごめんなさいね、景色に見蕩れてたわ」

「もうっ」

「でも、…………キス以外にでもあるでしょう?」

「だって、お姉様の唇が綺麗だったんだもん」

「関係ないわよ……」

 

 私はフランに背を向けて数歩歩く。そして、踵を返してフランの方へもう一度振り向いた。

 

「さ、帰るわよフラン」

「はーい!」

 

 月が見下ろす静かなこの街を私とフランはゆっくりと歩いて帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

「遅いよ、フランちゃん、レミリアちゃん!」

 

 両手を腰に当ててさっきのフラン同様頬をふくらませて玄関前に立っていたのはこいしだった。その可愛さに私は顔を背けてしまう。頬が緩んでしまっているからである。

 

「あ〜、ごめんなさいね。ご飯は食べたの?」

「いえ、レミリアさん達が帰ってきてから食べようとこいしが……」

「だって、お姉ちゃんと二人で食べるのは、いつもと変わらないもん!」

 

 奥の机の前に座っているさとりとこいしが似たような笑顔を見せた。さすが古明地姉妹、笑った顔もそっくりだった。

 

「じゃ、食べに行こっ」

「おー!」

 

 こいしとフランは元気よく玄関を飛び出して、小走りで食事処へと向かっていった。私もその後を付いていこうとしたら、さとりが隣で呟いた。

 

「姉妹の時間も結構ですが、限度を考えてくださいね。旅行先の温泉であのような事をされて、途中からお風呂に入りに来た他のお客さん達に見られたらどうするつもりだったんですか?」

「えっ!? ちょっ、どうしてさとりが知ってるのよっ!?」

 

 私はさとりから距離を置いて少し警戒をする。するとさとりはため息を大きくついて呆れた顔で言った。

 

「脱衣所に忘れ物を取りに行ったら、温泉の扉の方からレミリアさんの艶やかな声が漏れてましたので。まったく、聞いてるこっちも恥ずかしかったですよ……まぁ、すぐ退散しましたが」

 

 顔を少し赤らめて頬を指で掻くさとり。私はその場で硬直してしまった。確かに、あの時ばかりは他のことを気にする余裕など皆無だった。

 

(あの時にほかの人が来ていたらどうなっていたのかしら…………)

 

 そう思うと寒気が止まらない。幻想郷じゃ知らない者はいないほどの有名な紅魔館の当主がその妹と濃厚なキスをしていたのだ。

 顔に泥を塗るどころか、紅魔館自体が変態の集まりに見えてしまうのは洒落にならない。

 

「さ、さとり…………このことはこいしには……」

「分かっています。こいしはフランさんの事が好きですしね。もしこの事がバレたら、レミリアさんを殺しかねませんよ?」

「怖いこと言わないでちょうだい……」

 

 私が肩を落としながらそう言うとさとりはクスクスと笑いながら「冗談です」と誤魔化した。さとりはそう言っているが、本当にそういうこともあり得る。迂闊に変な場所でキスしないようにしないと……。

 

「まぁ、このことは置いといて、早く食べに行きましょう」

「ええ」

 

 こいし達はもう食事処に着いただろう。少し歩くスピードを早めていたところ、私はふと、自分の思ったことを考え直す。

 

(そもそも、変な場所でも普通の場所でも、キスはいけないでしょう……)

 

 そう思い返した。この後の就寝もきっとフランは寝かせてくれないのだろう。と、落胆と歓喜が混じった複雑な感情が私の中を行き来していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 案の定だった。

 

「お姉様! 同じ布団で寝よっ?」

「はぁ? 4人分あるんだから1人で寝なさいよ!」

「じゃあフランちゃん、私と寝よーよー!」

 

 こいしのその発言に私は割り込むようにこいしに促した。

 

「あ…………じゃあ……こいし……わ、私と……」

「もう、みんなで寝よう!」

 

 フランの予想外の名案に私とこいしは大きく縦に首を振った。さとりはその光景を微笑ましく見ていた。

 

「じゃあ電気消すよー」

「お姉様、キスキス!」

「嫌」

「うーっ」

 

 私は体を反対側に向ける。さとり、こいし、フラン、私の順番で川の字で寝ている。何だかお泊まり会をしているみたいで少し気分は高揚した。

 

 

 

 しかし、今日ははしゃぎすぎたせいか、私以外の全員はすぐに熟睡モードへと入っていった。

 

「スゥー…………おねぇさまぁ! …………すきぃ……」

「ちょ、フラン……」

 

 フランの寝言と寝相の悪さは承知していたが、まさか私の上に乗ってくるとは思わなかった。なので私は自分が横にずれて、フランを落とした。

 

 私が転がったことによって私とフランの位置が交代された。そのため、私の目の前には小さく寝息を立てるこいしの姿があった。

 

「っ!」

 

 こいしの顔が眼前にあり、私は顔を赤くしてしまった。

 相手は寝ているのに勝手にテンパっちゃって馬鹿みたい……

 しかし、私の動揺は収まらなかった。

 

「綺麗な顔ね……」

 

 左手を伸ばして、こいしの頬に触れる。もちもちの肌、羨ましいくらいの肌の白さがまた私を駆り立てる。

 

(今日だけじゃなくて、こいしはずっといい子よね……フランが好きでも、私にも気にかけてくれる。恋情も友情も大切にするこの子は……本当にいい子だし……私はこいしが大好きよ……)

 

 これは紛れもない本心だった。フランだけ見ているのではなく、みんなを楽しませようとするこの子の気遣い、優しさ。私はその全ての虜になったのかもしれない。それほど彼女が好きだ。

 

 

「好きよ……こいし……」

 

 口は流石に恥ずかしかったので、左手でこいしの前髪をあげて、額に唇をチュッと軽く付けた。

 唇を離した後、私はリンゴのように真っ赤に顔を染めてしまった。

 

(わ、わわわわわわ私何してるのよっ!?)

 

 初めてこいしに触れたことにより、私の理性が気が気では無かった。顔を覆い、パタパタと足を動かす。

 少し落ち着いた頃、暑くなった体を冷やすために私は立ち上がった。

 

「水でも飲みましょうか……」

 

 財布だけ持ち、私は玄関を開けて自販機へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レミリアが抜けたこの部屋は3人が熟睡していた。

 しかし、その中でも古明地こいしだけは自分の額に触れて顔を真っ赤に染めていた。



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10話 絶壁の悩み

まぁ、今回は私が書きたくて書いた回なので、イチャイチャもエロもほぼゼロです。

まぁ、要約するとおっぱい談義です。


(え、えええええええ!?)

 

 内心でバタバタと暴れる私。そうなるのも無理はないだろう。何せ、レミリアちゃんが唐突に私の額にキスをしてきたのだから。

 今レミリアちゃんはいないからいいけど、いた時にリアクションしたらどんなことになるのやら……。

 フランちゃん達が起きないように深呼吸をする。大丈夫、私はフランちゃんが好きなの。フランちゃん以外好きじゃないんだ……。

 

(……待てよ……)

 

 私はその場で考えてしまう。そして気づいてしまった。

 

(立派な三角関係じゃ……?)

 

 あ、ああああああやばいやばいやばいっ! 

 私とレミリアちゃんとフランちゃん。この3人で築き上げてしまっていること。あまり良くない関係なのに、何だか心は温まった。

 

(……私はこの関係が、好き、なのかな……?)

 

 心が温まる理由こそ分からないが、私は今のこの関係が一番落ち着けて素敵なものだと、そう思えた。

 でも、それでも、私はフランちゃんを自分のものにしてこれを壊したいって思っている自分もいる。

 

(なんだろ……この気持ち…)

 

 矛盾した自分の考え。

 私は胸がキュッと苦しくなる感覚を覚えた。それに自然と零れてくる笑みは一体何なのだろうか。この夜の時の私は何も分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「おはよーみんな」

「おはよう…………」

 

 フランちゃんは誰よりも早く起きて、布団を片付けていた。まだレミリアちゃんもお姉ちゃんも私も欠伸が止まらず、目を擦っていた。

 

「フラン、早いのね……」

「だってだって! 今日は色々回れるんだよね?」

「そうだけど……」

「今日は何食べようかなぁ?」

 

 そんなことを言って想像を膨らませるフランちゃん。ちょっぴり、いや、めちゃくちゃ可愛い。

 

「さ、みんな。髪がボサボサですよ。朝に一風呂浴びませんか?」

「お、いいね!」

 

 お姉ちゃんの名案にフランちゃんは乗った。私も楽しそうなので続いて首を縦に振った。

 

「……何の話をしてるのよぉ……」

 

 まだポケーっとしているレミリアちゃん。どうやら、朝は弱いみたいだ。フランちゃんが布団から出ようとしないレミリアちゃんを引っ張る。ちなみに私は深夜のレミリアちゃんの行為を忘れられないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風呂場につくとこいしちゃん達は服を脱ぎ始めた。今日もお姉様と同じ風呂に入るとなると、相当理性を強く保たなければならない。

 

「……んぅ……」

 

 まだお姉様は完全に起きていない。寝起きのお姉様は普段のカリスマからは感じ取ることが出来ないくらいの可愛さを誇っていた。

 そんなお姉様は抵抗も何もなしに、ただ眠そうな目をしながら服を脱いでいく。

 

(無抵抗なお姉様……って、やばいやばいやばい!)

 

 このままでは、また襲ってしまいそうだ。私は慌ててお姉様から視線を逸らした。

 

「? ……フランさん?」

「な、なんでも……ない、よ?」

「昨日みたいなこと、しないでくださいよ?」

「!?」

 

 さとりが唐突に耳元でそう囁いた。私はさとりに警戒しつつ、一歩後ろに下がる。

 

「ふふっ、姉妹で反応は同じですね」

「ど、どうして知ってるのさ」

「さぁ、何故でしょう? 風呂の外まで聞こえるレミリアさんの艶めかしい声が聞こえたからでしょうか?」

「うぐっ」

 

 私は口ごもってしまう。対してさとりはクスクスと笑っていた。いつもなら可愛らしい笑顔で済むが。今日ばかりはそれが怖く感じた。

 

「レミリアさんにも言いましたが、限度を考えてくださいね?」

「分かってるよ。これでもお姉様が狂わないようにしてるから」

「そうですか。後、場所も考えてくださいね? どこでもキスしていいとは限りませんよ?」

「う、ぜ、善処します」

 

 ぺこりと頭を下げ、私は服を脱ぎ始めた。

 あれはさとりなりの警告だろうか? 私は答えがわからないまま、下着も脱ぎ終えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱり、フランちゃんはレミリアちゃんのことずっと見てる。

 羨ましい。なんて思っちゃってる私がいる。それが心地いいと、嫉妬しているという感情が私は好きなんだ。

 

「さ、フランちゃん、レミリアちゃん。入ろ?」

「はーい!」

 

 フランちゃんの裸は見るだけでも破壊力が高かった。所々見えない方が良い。という人もいるが、断然裸の方が良いに決まっている。

 

(って、変態な事考えすぎでしょ私…)

 

 自制を効かせ、私は一足先に温泉へと入る。昨日も見た光景だが、朝はやっぱり雰囲気が違った。

 

「いっちばーん!」

「あ、コラ、ちゃんと体を流さないと」

 

 レミリアちゃんはもう目は覚めたみたいだ。

 フランちゃんは「ぶぅぅ」と唸りながらも温泉から出て、シャワーへと向かった。

 私はフランちゃんの隣にちょこんと座り、蛇口を捻る。温かいお湯が私の全身を濡らした。

 

「ふぅぅ……シャワーでも充分気持ちいいや……」

「そうだねぇ」

 

 何気なくちらっとフランちゃんの方へと目をやると、フランちゃんはいつもとは別人に見えた。

 なぜかと言うと、下ろした髪は私よりも長く、サイドテールの時のフランちゃんとは打って変わって大人びているからだ。ちょくちょく見える八重歯なんかも可愛さと美しさを一層引き立てている。

 

「こ、こいしちゃん? あんまり見られると恥ずかしいんだけど……」

「ふぇっ? あ、ごめんっ」

 

 私がぼーっと見惚れているとフランちゃんは少し赤面しながら私に小さな声で呟いた。

 慌てて謝り、私は目線を正面に戻す。急いで全身を洗い、私は先にお湯に浸かった。

 

「はぁぁぁぁ……」

 

 自然と声が漏れだしてしまい、私は肩まで見えないくらい浸かった。

 

「あ、こいし、今日どこ行くの?」

「うぅん、まだ考えてないんだよねぇ」

「私達は咲夜たちにもお土産を買ってあげたいから、商店街にも寄りたいわ」

「おっけい、じゃあまずは商店街に行こう。そうしたら色々あるかもしれないしね」

 

 今日行くところを話していると、扉がガラっと開けられた。私達は自然とそちらに目がいく。

 恐らく、知らない人だろうと、四人が思っていたのだが、そこには見覚えのある女性が二人いた。

 

「あら? 紅魔組と地霊組の姉妹じゃない」

「永琳と鈴仙か……」

 

 永遠亭の医者とその弟子、八意永琳と鈴仙・優曇華院・イナバ。地霊殿は度々彼女に助けてもらっており、こいしも仲がいい。恐らく、紅魔組も同じであろう。

 

「あなた達も鳳凰山に来てたのね。旅行?」

「まぁ、そんな所ね。あなた達は?」

「急病人の治療と往診と帰りよ。昨日の夜中から夜通しでしていたから帰り際に温泉に寄ろうと師匠が」

「ここまで往診しに来るのね」

 

 私もそこは驚きだ。永遠亭もここまでは距離は遠いはず、それに医者はこの街にもいるだろうに。

 

「医者は他の病人に当たっていて人手不足だったのよ。何だか感染症も流行っているらしくてね。あなた達も気をつけなさいよ」

「わかった…」

 

 シャワーをし終えた2人がゆっくりと温泉に入ってくる。その途中、2人の胸元で揺れる二つの山があった。

 

「っ…」

「……」

「くっ……」

「はぁ……」

 

 私達4人の冷ややかな目線がふたりを襲う。2人は何のことかわからないとも言いたげなクエスチョンマークを浮かべていた。

 

「な、何よ?」

「私も、鈴仙や永琳くらい大きくなったらナイスバディになる」

「フランに同意だわ。世の中不公平よね」

「お姉ちゃん。あのボイン剥ぎとりたい」

「いいわ。ついでに私の分も取ってきて」

 

 私はお姉ちゃんの許可を受け、ナイフを取り出した。それに慌てる永遠亭の2人組。

 

「な、何よ!? やる気なの?」

「ぷっ……」

「あはははははは! 冗談だよ!」

 

 本気で心配しているふたりを見て私達は自然と笑いが包み込んだ。永琳にも読めないことがあるんだなぁと、この時に思った。

 

「まぁ、どうしてそんなにおっぱい大きいのかなって」

「い、意外と直球なのねフラン……」

 

 鈴仙は引き気味にそう答えた。

 

「別に特別なことはしてないわ。健康な食生活、睡眠、美容に気を使うことかしら? そうですよね、師匠」

「何より、揉んでもらうのが大切よ」

「し、師匠?」

 

 永琳の言葉に私達はピクリと動きを止めた。

 

「好きな人に揉んでもらうと、自然と大きくなるわ。私だってうどんげに毎日夜に揉んで────」

「うわあぁぁぁぁ! あぁぁぁぁ! 何でもない! 何でもないからぁぁ!」

 

 ほぼ最後の方まで永琳は言ってしまったのでもう私たちには通じてしまっていた。

 

「そかそか、永琳さんと鈴仙さんはそんな関係なんですね」

「さ、さとりっ!? 違うからぁぁ!」

 

 赤面して必死に弁解しようとしている鈴仙の顔は少しばかり可愛かった。ドSなお姉ちゃんはまだ少し鈴仙を苛めたいみたいだった。

 

「心は正直ですね」

「うわぁぁぁ…………」

「さ、さとり? もうそろそろ鈴仙が可愛そうよ?」

 

 レミリアちゃんが止めるとお姉ちゃんは「そうですね」と言って能力を使うのをやめた。鈴仙は未だに「うぅー」と唸りながら涙を流していた。

 するとフランちゃんが身を乗り出すように永琳に聞いていた。

 

「ねね、本当に好きな人におっぱいって揉んでもらったらおっきくなるの?」

「ええ、本当よ?」

「え、じゃあ……」

 

 ここで、「フランちゃん、揉んで」とは素直にいうことが出来なかった。何だか、言うのを阻まれた。それはレミリアちゃんも同じで私を見ながら言うとしていたが口ごもっていた。相手に気持ちがバレていないと、こういう時言いにくかった。

 しかし、フランちゃんだけは違った。

 

「お姉様ぁー! 揉んでー!」

「ちょっと、声がでかいわよ!」

「揉んでよぉ……」

「嫌」

「ひどいっ」

 

 フランちゃんはいじけたような仕草を見せる。両手の人差し指の先をツンツンするフランちゃんもとてつもなく可愛かった。

 ため息をつくレミリアちゃんといじけるフランちゃん。そしてそれを見て笑う私。この後も私たちのこの関係は、絶対に壊したくなかった。

 




この風呂に一緒に入りたい


何かこー百合の可愛い絵かいてくれる人いないかなって、ちょっと思ってる。
いや、百合の可愛い絵が欲しいとかそういうんじゃないよ、うん。
え、私が描く?







地獄絵図はみんな嫌いでしょ?


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11話 綿あめ

今回はレミフラじゃないよ。

こいフラこいフラ。
妹キャラ同士って何でこんなに愛着湧くんだろうね。
ってことで百合回です。


 着替えた私達は部屋で準備をしていた。財布などの用品をカバンに詰める。

 

「およ?さとりは?」

「あぁ、お姉ちゃんなら下にジュース買いに言ったよ」

「そっか。ねぇ、鳳凰山って何か名物があったりするのかな?」

 

 フランちゃんの問いに答えたのは、意外にもレミリアちゃんだった。

 

「ここは、温泉とりんご、後は綿あめね。ここで食べる綿あめは格別だって」

「へぇ」

「もしかしてお姉様、結構鳳凰山楽しみにしてた?」

 

 フランちゃんの推理にレミリアちゃんは顔をボッと赤らめた。どうやら図星のようで、さっきまでの余裕は消え失せていた。

 

「べ、別にっ、ちょっと本で見ただけだわ」

「………」

「ほ、ほんとよっ」

 

 私とフランちゃんは揃ってレミリアちゃんを見ながらニヤニヤする。最年長とはいえ、可愛いところがあるものだと、私は心の奥底で密かに思うのだった。

 

「お待たせしました。では、行きましょう」

 

 ジュースを持ったさとりが玄関に現れ、私達は軽いカバンだけを持って外へと出た。今日は昨日よりも寒い。

 太陽が出ていないせいか、雲が空を覆っていた。

 

「……ね、フランちゃん」

「んぅ?」

「寒いから、手つなご?」

 

 自然とそう出た。いや、出てしまったのだ。気づいた後、私はハッとして口を手で塞ぎ、慌てながらも弁解する。

 当のフランちゃんはポカンとしていた。ほかの2人は驚きの表情を少し浮かべていた。

 

「え、えと、ご、ごめんね、つい……」

「いいよ」

「へっ?」

 

 予想外の返答に私は硬直してしまう。

 いや、普通に考えてみよう。私とフランちゃんは昔、いつも手を繋いで歩いていたし、今でもたまに手を繋ぐではないか。

 つまり意識しているのは私だけということだ。そうだ、こんな所で緊張するのはお門違いだろう。

 私は心を落ち着かせ、いつもの調子に戻る。

 

「ふふっ、あーりがとっ」

 

 ギュッと握り、私はフランちゃんと共に先頭を歩いた。その後から、お姉ちゃんとレミリアちゃんがついてくる感じ、まるで家族のようなこの雰囲気が私は好きだ。

 

「……少し、甘い匂いがするね」

 

 ここは鳳凰山温泉街の奥の方。昨日は手前の方までしか行っていないので、ここはまだ私たちにとって未知の領域だ。

 

「……これは……」

 

 レミリアちゃんが前に出て、鼻をスンスンと鳴らして難しい顔をする。

 

「綿あめ?かしら……」

「綿あめっ!」

 

 フランちゃんは一気に目を輝かせた。

 それはまるで空腹のところに餌が来た時のペットのような瞳。キラキラした紅い瞳だった。

 

「ほらっ、こいしちゃん、行こっ!」

「あ、ちょっと、きゃっ!」

 

 ぐいっと引っ張られて私は腕がピンと伸びる。しばらく走ると、レミリアちゃんの言った通り、綿あめ屋さんが一角にあった。

 

「おいしそぉ…」

「……じゃあ早く買おっ、フランちゃん!」

 

 指を加えながら作るところを見るフランちゃんを促す。フランちゃんは大きく頷いて店の中に二人で入った。

 

「すいません、綿あめ二本ください」

「240円になります」

 

 私は財布を取り出し、240円を出した。するとフランちゃんは慌てて止めようとした。

 

「ちょ、ちょっと、私も出すよ」

「いーのっ、たまには私に奢らせてよ」

 

 いつも二人で遊ぶ時、さり気なくフランちゃんは私にジュースを奢ってくれたりしている。フランちゃんは多分意識的に奢ろうとしているのではなく、無意識にそういう優しさが滲み出ているのだろう。

 

「はい、どうぞ」

「ありがとうございまーす」

 

 2本の綿あめを受け取り、私はフランちゃんに一本手渡す。

 

「はい、フランちゃん。今日は私がエスコートするよ」

 

 私の言葉に一瞬呆けた顔をするが、綿あめを受け取った瞬間、眩しい笑顔を浮かべた。

 

「うんっ、よろしく、こいしちゃん!」

 

 ドキッ、と強く、激しく心臓が高なった。ここまで緊張したのは、人生で初めてかもしれない、とそう思うほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日のこいしちゃんはいつもよりも優しい。いつもが優しくない訳では無いが、今日は一段と優しくて頼りになる。

 

「んぅー!甘ぁい!」

 

 いつもと同じような反応を見せるこいしちゃん。私はそれを横目で見ながら、一口パクリと食べる。

 甘さが一瞬にして口に広がり、刺激のない爽やかな味が後になって付いてくる。

 

「おいしっ……」

 

 そのまま、私達は無言で食べ続けてしまった。

 いつの間にか、少し人気のない最奥の方まで来てしまった。お姉様とさとりとははぐれてしまい、恐らく、二人は二人で別行動しているのだろう。

 今日は、親友のこいしちゃんと楽しむことにしたから、お姉様と別行動なのは全然構わない。

 

「あ〜、美味しかった、こいしちゃん、次はどこに行く?」

「……………」

 

 こいしちゃんの反応がない。食べ終わった綿あめの棒を片手に俯いているので、表情は全く見えない。

 

「こいしちゃん?」

「……こっち来て…」

 

 少しトゲのあるこいしちゃんの言葉。私は少しだけ驚きを隠せなかった。しかし、後ずさる前にこいしちゃんに手を引かれた。

 

「あっちょっ……」

 

 抵抗する暇もなく、そのままこいしちゃんの後について行った。

 しばらく歩くと、そこは路地裏だった。

 

「ちょっと、こいしちゃん?いきなりこんな所に連れてきてどうしたの?」

「……」

 

 いつまでも黙りこくるこいしちゃんの顔をのぞき込み、小さく、優しい声で囁いた。

 すると、こいしちゃんから息を呑む音が聞こえた。

 

「?」

「………っ!」

 

 こいしちゃんが顔を上げると、顔を真っ赤に染め上げて、少し涙目になっていた。私は驚き、少し距離をとったのだが、すぐに詰められた。

 

「え?こいしちゃ……きゃっ!」

 

 腕を引き寄せられ、思い切り抱きしめられる。私はその力の強さに身動きひとつ取れなかった。

 そして、ようやく離したと思ったら、壁まで私を押して、唇を押し付けてきた。

 

「んぅ!?」

「はぁ……ちゅぅぅ……」

 

 少し、こいしちゃんの口の中から甘い味がした。先ほどの綿あめの味だった。

 しかし、それをも掻き消すように、こいしちゃんは舌をねじ込ませた。

 

「れろ……じゅる…ちゅっ」

「んぅぅ!………はふっ……」

 

 私よりも力が弱いはずのこいしちゃんなのに私の方に力が入らなくなってしまった。そのままされるがままになってしまい、こいしちゃんの手が私の胸に伸びた。

 

「あっ……あっ……こいし、ちゃん……」

「…フランちゃぁん……」

 

 こいしちゃんの声はもう蕩けきっていた。その声は"お姉様にキスをしている私のような声"だった。

 何かと親近感が湧いたのか、私はそのままそのキスに対応してしまった。

 

「んっ……ちゅっ……じゅるる……」

「んぅ……んんっ…」

 

 私とこいしちゃんの口の間からは多量の唾液が垂れ、服に少々ついてしまった。

 息苦しくなったのか、こいしちゃんは一度口を離した。これを機に、私はこいしちゃんを体ごと離した。

 

「はぁ……はぁ……ど、どうしたのさこいしちゃん?!」

「…なんか……体が……」

 

 息を荒くなっている。これはキスの影響なのか、それとも別のものかは分からなかった。

 しかし、次の瞬間、こいしちゃんは重力にしたがって、カクンと意識を落とした。私は驚きながらも意識のないこいしちゃんを抱きしめる。

 

「こ、こいしちゃん?こいしちゃん?!」

 

 こいしちゃんの体はとてつもなく熱かった。こいしちゃんの顔は辛そうで見ているこっちが顔を歪めたくなるほどの苦痛の様だ。

 

「だ、誰かっ!」

 

 私だけでは何も出来ない。そう思った私は周りに助けを呼んだ。今なら、永琳達がいるかもしれない。

 そう信じて叫んだ時、すぐに駆けつけてくれたのは、先ほどの綿あめ屋のお姉さんだった。

 

「だ、大丈夫ですかっ!?」

「と、とりあえず医者を!」

「はぁ……はぁ」

 

 意識の戻ってきたこいしちゃんの顔は更に赤くなり、熱も上がっているみたいだ。

 汗もダラダラとかき、体に力も入っていないみたいだ。しばらくすると、ちょっとした騒ぎになり、野次馬が増えた。

 しかし、そのおかげで、永琳達が駆けつけてくれた。どうやら、まだ永遠亭には帰っていないみたいだった。

 

「………うどんげ、運ぶわよ」

「はい」

 

 永琳がこいしちゃんを抱えて走った。見かけによらず力持ちである。

 私は鈴仙に連れられ、永琳のあとを付けた。

 私は走っている途中、以前の泉でのキスと言い、今回のキスといい、こいしちゃんが何を考えているのか、全く理解出来なかった。



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12話 姉と姉

 一度旅館の部屋にに戻った私はこいしちゃんの傍に座っているだけだった。

 永琳がこいしちゃんのあちこちを触ったりして、容態を確認していた。

 

「ひどい熱ね…」

 

 永琳さんの顔がさっきよりも少し引き締まっていた。

 当のこいしちゃんは息を荒らげて、辛そうにしている。こんな時、どうしたらいいのかなんて、全然分からなかった。

 自分はこいしちゃんを助けることが出来たのだろうか?単に助けを求めただけで、私自身は何もしていないのではないだろうか?

 

 自分を責め立てているとドタドタと廊下で音がした。

 バタンっと強くドアが開けられ、汗をかいたお姉様とさとりがいた。

 

「こいしが倒れたって……」

「お姉様、さとり……」

 

 どうやら、鈴仙が2人を探して呼んできてくれたみたいだ。

 私は2人と目を合わせた後、横たわるこいしちゃんを見ながら答えた。

 

「まだ分かんない。永琳が診てくれてる」

「……そう…」

 

 永琳はこいしちゃんの所々を調べた。

 そして、聴診器を外して、私たちの方に向き直る。そして優しい笑みを浮かべた。

 

「ただの熱ね。昨日とかはしゃぎすぎたんじゃないかしら?」

「……よかったぁ…」

 

 私はほっと安堵の息をつき、畳に横たわる。

 一気に力が抜けて、私はどっと疲れが溜まっていることに気がついた。

 

「とりあえず、風邪薬と氷枕だけ置いていくわね。代金はいいわ。ついでだし」

「そう、ありがとう永琳、また差し入れ持っていくわ」

 

 お姉様は永琳達に礼をいう。お姉様は礼儀正しい人だから、必ず永遠亭に出向くことだろう。

 当の永琳は「いいわよそんなの」と言って、鈴仙と共にドアの外へ向かった。

 

「ふぅ……これからどうしましょうか?」

「元々、私がこいしちゃんと行動してたから、看病も私がするよ。お姉様とさとりはどこかで堪能してきなよ」

「え、でも……」

 

 私はこいしちゃんと2人きりで話したいこともあるし、何よりお姉様とさとりはあまりここで遊ぶ機会も少なかったから、こういう時だけでも鳳凰山を楽しんできて欲しい。

 

「いいのいいの。と言うより、私が看病したいの」

「そ、そう……」

「ほら!早く行く!」

 

 遠慮がちな2人の背中を押して玄関まで運ぶ、2人は荷物を持って外に出た。

 私は2人を見送った後、こいしの傍にちょこんと座る。まだ少し息苦しそうなこいしちゃんの額のタオルを変えるために、桶に水を入れた。

 そして、タオルを絞り、こいしちゃんの額に乗せる。

 

「はぁ……はぁ…」

「こいしちゃん?大丈夫?」

「だい、……じょうぶ……」

「じゃないね。今風邪薬持ってくるよ」

 

 私がもう一度立とうとすると、こいしちゃんの手が私の指先を掴んだ。

 

「フランちゃん……寂しい……から、ここに……いて…」

「……分かった」

 

 私は風邪薬をとるよりも先にこいしちゃんの手を強く握った。

 こいしちゃんの顔は悲しい顔をしていて、一人には出来なかった。

 

「私はここにいるよ」

「……うん…」

 

 私は優しくそう言うと、こいしちゃんは満足したように微笑し、そのまま眠りについたみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいし、大丈夫かしら…」

「そこまで私の妹を心配してくれるんですねぇ?」

 

 私は旅館を出て、さとりと2人で商店街を回った。

 

「だ、だって……好きなんだもん………」

「んー?」

「な、何でもないっ、行くわよ!私、甘い物が食べたい!」

「はいはーい」

 

 わざとらしく耳を傾けるさとりに私は赤面してスタスタと早足で歩く。

 さとりは笑顔で私に対応してくれているが、雰囲気はどことなく、乗っていなかった。相当こいしの事が心配なのだろう。

 しばらく歩いていると、さとりが何かを見つけた。

 

「あ、こんな所に羊羹が…」

「えっ、羊羹!」

 

 私の食いつきぶりに、さとりは少々引き攣りながら答えた。

 

「え、ええ……」

「食べましょう、さとりっ!」

「わ、分かりました」

 

 

 

 

 店内に入り、注文をして、早速置かれた羊羹はとても美味しそうだった。

 小さな爪楊枝を使って、口に運ぶ。プルプルの食感が口内に広がり、西洋じゃ味わえない甘さを感じ取れた。

 

「美味しいわね……」

「羊羹はずっと美味しいですねぇ…」

 

 次々と口に運んでいく。その度に美味しくて幸せな感触が伝わっていく。

 

「さてさて、正直、フランさんとこいし抜きだと、やることがありませんね」

「そうねぇ…」

 

 こいしやフランがいると、あの2人はまだまだ子供っぽいので、ある程度振り回されて楽しんで入るが、性格上大人に近い私とさとりでは、あまり楽しめるところがあるのか分からない。というより、めんどくさいのだ。

 

「今帰ったら、フランさん怒りますかねぇ」

「怒るわね。一人の時間が欲しい時が多いのよ。この前だって、部屋の外までフランの声が漏れていたから、ドアを開けたら怒られたわ…」

 

 自分の体験談を交えながら話す。さとりはクスクスと上品に笑っていた。

 

「ちなみに、その時フランさん何していたんですか?」

 

 フランは窓側を向いて寝ていたので、何をしているかはハッキリ分かんなかったが、とりあえず覚えている限りのことを言う。

 

「うーん、詳しくは分からないけど、何だか「はぁ……はぁ……」とか、「んっ」とか、「あっ」とか、変な声出してたわね。というかそもそもフランが「お姉様」って呼ぶから、私は入ったのに……」

「えっ」

「ん?どうしたのよさとり?顔赤いわよ?まさか、あんたも熱を出したの?」

 

 私の答えにさとりはガタンと体が一瞬跳ねた。

 呆然と私を見るさとりの顔は真っ赤だった。

 

「あ、いや、なんでもないです…」

「あ、それと、スカートの中に手を入れていたわ。理由を聞いたら、「太ももが痒かったのっ」って言ってきて…どうにも嘘にしか聞こえないけど……」

「…ぶふっ!…れ、レミリアさんっ」

「ん?」

「それは不味いですって!」

「え?」

 

 さとりは急に声を張り上げる。そして、私の両肩を掴み、顔をぐいっと近づけた。

 

「え、え?何がよ?」

「……はっ……いけない、私ったら…いえ、何でもないです……ごめんなさい」

 

 さとりは我に返ったのか、自分の席にちょこんと座って、謝罪をする。顔を上げたさとりの顔はまだまだ赤かった。

 私は何故さとりがそんな反応をするのか、終始予想がつかなかった。

 

「さ、さて…そろそろ出ましょうか」

 

 咳払いをしたさとりが先に席を立つ。

 私は「そうね」とだけ言って、さとりの後に歩いた。代金を払って外に出ると、さとりがくるりを身を翻して、私の方を見た。

 

「レミリアさん。少し鳳凰山の山頂まで行きませんか?」

「山頂?なんでよ?」

 

 さとりは私の質問に答える前に空へと飛んでいってしまった。ぎょっとした私はさとりの後を追うように羽を動かし、飛んだ。

 

 

 

 ものの数分でついた鳳凰山の山頂は辺り一面に紅葉が張り巡らされていた。

 

「きれい……」

 

 この景色は幻想郷ではここだけなのかもしれない。そう思えるほど素晴らしい絶景が山頂には広がっていた。

 

「そこにベンチがあるので、ゆっくり休みましょう」

「そうね」

 

 どうせやることが無かったから、こう言った風流な場所で息抜きするのも悪くない。

 

「ここは絶景ねぇ…」

「本当に……」

「あ、ここから妖怪の山が見えるわ。相当な距離なのに凄いわね…」

 

 私が指を指すと、さとりもそれを目線で追う。見つけたさとりは驚きの表情を見せて、そこから目線を外さなかった。

 

「こいしやフランにも見せたいわね…」

「………やっぱり心配なんですね?」

「そりゃそうよ…」

 

 私の方に目をやったさとりは少し物悲しげに背もたれに寄りかかった。

 

「レミリアさん。あなたはこいしが好きなんですよね?」

「……ええ、大好きよ」

「でも、こいしはフランさんが好きです」

「知ってる…」

 

 ここまで聞いたら、さとりでも私でも分かることだろう。

 これがいわゆる「三角関係」だ。一人一人が違う人を好きになり、それが無限ループのように繋がること。

 つまり、3人が「叶わない恋」をしているという事だ。

 

「三角関係は人を歪めます。独占欲から拘束、拷問。ありとあらゆるものが襲います」

「………何が言いたいの?」

 

 遠まわしに言うさとりに少しだけイラつきを隠せなかった私はすぐに結論を出させるようにした。

 

「……歪まないでくださいね?」

「…分かってるわ、そんなこと。私はこいしが純粋に好きなの。それに、こいしがフランのことを好きなのなら、私はそれを全力で応援してる」

「……」

「正直、私はこいしとフランが恋仲になるのも、幸せの一つかなって考えたりもしてる。でも……」

 

 私は心配そうに顔を見つめるさとりを見て、ベンチから立ち上がり、数歩歩いてから、身を翻す。ニッと白い歯を見せて笑い、こう言った。

 

 

 

「でも、こいしが私を好きになってくれるように努力するのは、悪い事じゃないでしょ?」

 

 

 

 

 その言葉にさとりは数秒間呆然としていた。その後、さとりはクスクスを静かに微笑んだ。

 私はこんなに自分の言いたいことを気持ちよく言える場なんて無かったから、少し爽快感があった。




レミリア健気やな


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13話 妹と妹

マニアックな方どうぞ。

正直、私は今回少し気持ち悪すぎたって思ってしまいました。


 先程まで苦しそうにしていたこいしちゃんはもうぐっすりと眠っていた。

 私は特にすることがなかったので、とりあえずお風呂に入って、さっぱりしてきた。

 

「……まだ寝てるんだ」

 

 解いた髪を拭きながら、私はこいしちゃんの方へと歩んでいく。

 こいしちゃんの隣で体育座りをして、ため息をつく。

 

「…」

 

 こいしちゃんを見ていると、どうやら、少しは楽になったみたいだ。

 安心した私はこいしちゃんの煌びやかな銀髪を撫でる。

 綺麗な髪だ、お姉様が惚れる理由もわかる気がする。

 

「………こいしちゃん」

 

 寝ているこいしちゃんに私は語りかけた。

 誰も聞いていないだろうと思い、口にしてしまった。

 

「私ね…お姉様の事が大好きなんだ。家族としても、女の子としても」

 

 返事はない。

 当たり前だろうが、少し気恥しさはある。

 

「でもね……お姉様って実はこいしちゃんの事が好きだったりするんだよ……?」

 

 少しずつ、私は声が震えてきていた。

 何かこみ上げるものがあったが、必死にそれを耐えて、言葉を続ける。

 

「……私はね……お姉様とこいしちゃんが恋人になれば……それでもいいって……思ってるんだ」

 

 だって、それは、私にとって、かけがえの無い幸せになるかもしれないから。

 

「………お姉様って、友達少ないじゃない?紅魔館最強の主って呼ばれていても、まだまだウブな女の子なんだよね……」

 

 苦笑いをするように、笑いを含ませて、話していく。

 その時でも、こいしちゃんは寝息を立てていた。

 

「……だから…ね、……こいしっ、ちゃん……」

 

 私はこの言葉だけは、あまり言いたくなかった。

 私にも、こいしちゃんにも悪影響を及ぼしてしまいそうで、怖かったから。

 いつの間にか、私の頬に熱いものが伝っていた。

 

「……レミリアお姉様を……幸せにしてよ……これは、フランのお願い……だよ…」

 

 満面の笑みで、眠るこいしちゃんを見つめる。

 以前に、お姉様がこいしちゃんを好きだと知った時の涙とは違かった。

 清々しい涙。初恋を諦めることが出来た、この清々しさはなんだかとても気持ちよかった。

 でも、涙が止まることは無かった。

 

「……う、ううっ……ぐす……」

 

 溢れ出る涙を腕で拭う。

 やっと涙が止まり、私は気分転換に散歩でも行こうと思った。置き手紙を書こうと、立ち上がる。

 

 

 

 

「………っ!」

 

 私は急に腕を掴まれた。

 そして、こいしちゃんの布団に引き込まれる。

 状況が飲み込めなかった私は戸惑うが、こいしちゃんに布団の中で強く抱きしめられていることだけは分かった。

 

「こ、こいしちゃん?」

「……フランちゃん、今の全部聞いたけどさ」

 

 私は急に恥ずかしくなり、赤面してしまう。

 

「き、聞いてたんだ……」

「…無理だよ」

「え?」

 

 語尾を強めて言ったこいしちゃんの言葉に私は疑問符を浮かべるかとしかできなかった。

 

「こ、こいしちゃん?……きゃっ!」

「んっ……」

 

 顔を上げて、こいしちゃんは私の唇に自分の唇を重ねた。

 

「んっ…ちゅぅ…………」

「いゃっ……んんむ………ちゅ…」

 

 無理やり唇を引き剥がした私は呼吸を整えて、こいしちゃんを見据える。

 

「ちょ、何するの!?」

「私はね、フランちゃん」

 

 こいしちゃんは優しく、包むような目をして、私を見ていた。

 そして、こう放った。

 

 

「フランちゃんが好きなの」

「っ!?」

「薄々気づいてると思うんだ、泉でのキスだって…流れのまま、勝手に体が動いてたんだ」

「こいしちゃん…」

「これは、フランちゃんの事が好きだから故なんだって、そう思えた」

 

 こいしちゃんの声は少しずつ、震えていたが、何かを我慢しているかのようにプルプルと全身が震えだしていた。

 

「だから私は、レミリアちゃんを幸せにすることが出来ない。だって、フランちゃんと恋人になりたいから」

「…こいしちゃ………んっ……ちゅぅ……」

「好き……大好き、……愛してる………じゅるる……んぅ……」

 

 こいしちゃんの舌の暖かさが口の中全体に広がり、私は体が跳ねる。

 こいしちゃんは抱きしめる力をさらに強め、唾液が口から漏れないように強く塞いだ。

 

「……フランちゃん……フランちゃん…………ちゅっ……れろ……」

「こいしちゃん……こんな……ちゅ……」

 

 開いた口の隙間から、少量の銀の糸がこぼれ落ち、布団を濡らした。

 それに気づいたこいしちゃんは私を下敷きにして、こいしちゃんは私の上で四つん這いになっていた。

 

「こうすれば……唾液が漏れることないよね……」

「ま、まってこいしちゃ……んぅ!?」

「またなーいっ、……ちゅぅ……」

 

 さらに強く押し付けられ、息が苦しくなる。

 僅かに開いた隙間から空気を吸い込み、辛うじて呼吸を続けた。

 しかし、それはすぐに塞がれ、唾液が流し込まれる。

 

「じゅるる………ちゅう…ぷはぁ……」

「あ、やだっ、……ちゅ…こいしちゃん、ちょっと……」

 

 キスの途中、こいしちゃんが唇を離そうとするので、私はそれを止めようとする。

 しかし、こいしちゃんはすぐに私から唇を離してしまったため、口の中に溜まっていた唾液が銀の糸となって外に出た。

 それは、重力に従って、私の顔に全てかかる。

 

「あぅっ……もう……」

「……あらら、フランちゃんびちょびちょ……」

「……こいしちゃんのせいだよ……」

「じゃ、私が綺麗にするよ」

 

 こいしちゃんは私の顔を舐め始めた。

 かつて無い行為に私はギョッとしたが、こいしちゃんの力が強いため、私は身動きが取れない。

 

「フランちゃんの耳……ちっちゃくて可愛い……」

「あっ、まってこいしちゃん、そこはぁ……」

 

 こいしちゃんの舌が、私の耳を舐め始めた。

 私は体がもう一度強ばる。

 私はもう強硬策に出るしかないと思い、ポケットからカードを取り出した。

 

「スペルカード!「禁忌「レーヴァテイン」!」

 

 出現した炎の剣で、こいしちゃんを吹っ飛ばす。

 ドゴォォンという大きな音がしたが、予め防音と防壁の結界を作っていたので、外には漏れていないはずだ。

 

「いったた……」

「もう、こいしちゃんのせいで気持ち悪くなった!もう一回風呂入る!」

「……わわ、ごめんってフランちゃんっ……何か奢るよ…」

「ほんと……?」

 

 こいしちゃんの態度は何かさっきと違う感じがした。

 一安心した私はこいしちゃんに手を差し伸べる。

 

「じゃあ、行こうか、まずは温泉に」

「……うん!」

 

 口を拭いた私はこいしちゃんと共に温泉へと向かう。

 すると、こいしちゃんはいつもの呑気な口調で話す。

 

「そういえば、私たちって立派な三角関係よねぇ」

「…そんな軽々しく言って良いものなの?」

「しーらないっ、フランちゃんがレミリアちゃん好きって言うし、レミリアちゃん私の事好きだし、私はフランちゃん好きだし……」

 

 私は額に手を当てて、ため息をつく。

 

「……誰かが心動かないとダメってことか……」

「ま、私はこの関係嫌いじゃないよ」

 

 その一言に私は固まった。

 私の目線の先には、こいしちゃんがニッコリと笑っていた。

 

「なんだか、好きな人に気持ちを伝えると、楽になった気がするよ…それに……」

「それに?」

 

 数歩こいしちゃんは進んで、くるりと踵を返した。

 

「私はフランちゃんが私の事好きだって言ってくれるように自分を磨かないとねっ!」

「………私も、お姉様が振り向いてくれるように、頑張らなきゃっ!」

 

 私は、この三角関係が嫌いではない。

 むしろ、好きなのかもしれない。

 でも、いつかはお姉様と結ばれたい。

 そう強く思って、こいしちゃんと温泉へと向かった。



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立場逆転編
14話 早すぎる騒動


書きたかった物語です。

旅行編からすぐ過ぎるけど、許して。

ほのぼののネタが無くなったわけじゃないよ。
うん。

てゆか、遅れてすいません


 温泉に入り終えると、ちょうどお姉様とさとりが帰ってきた。

 沢山食べ物買ってきてくれたし、その後のお部屋でお菓子を食べながらお話するのはこの上なく楽しかった。

 トランプも、王様ゲームも、何もかもが夢のような時間だった気がする。

 

 

 

 

 

 

「っはぁー、楽しかったぁー!」

 

 紅魔館に着くや否や、私は自室のベッドに飛び込んだ。久しぶりの自分の匂いに私は心が落ち着いた。

 

「フラン、だらしないわよ」

「むぅー、いいじゃーん」

 

 お姉様が腰に手を当てながら注意する。私は枕に顔をうずめながら口を尖らせた。

 お姉様もフッと苦笑いをし、隣の部屋へと戻っていった。

 実は、旅先で何枚か写真を取っていたため、余っていた写真立てに鳳凰山をバックにした4人の写真を額縁の中に入れた。

 

「…………ふっ」

 

 この旅の思い出は、本当に何事にも変え難いものがあった。お姉様やこいしちゃん、さとりとの旅は忘れられないような気がする。

 写真を見てから、私は「よしっ」と言って、お姉様の部屋へと行く。

 

「お姉様ー」

「ん、なぁに?」

「寝よ?」

「は?」

 

 旅行から帰ってきたお姉様を癒してあげる。これが今私がしたいことである。

 

「い、いや、いいわよ別に、一人で寝たいの」

「やだ、あの日から、私、お姉様と2人きりになれてないもん」

「ま、まぁそうだけど……」

 

 お姉様は言葉を濁す。それを聞いた私はお姉様をベッドに押し倒す。と言っても、お姉様に覆いかぶさるのではなく、一緒に私も倒れた。

 お姉様の顔がもう間近にあった、その真紅の両目は見る者を魅了させられる。

 

「お姉様、綺麗」

「っ! ……な、何よ急に」

 

 目を見開いて驚くお姉様。私は照れるように二ヘラと顔を崩して笑った。

 

「なーんでもないっ」

「…………まぁ、フランが変なのはいつもの事ねぇ」

 

 ため息混じりにお姉様がそう言葉をこぼす。

 凛々しく笑うお姉様の顔は少しだけ疲れを感じさせていた。

 

 

 

 

 

「……お姉様、疲れてるの?」

「……どうして?」

「その笑い方。いつものお姉様と違う」

「よく見てるわねぇ……」

 

 感心するようにお姉様は私を褒めた。心配になった私はお姉様と少し距離をとって上目遣いで見つめた。

 

「大丈夫? もしかして、こいしちゃんのが移ったり……」

「大丈夫よ。そこまでひどい訳では無いわ。けど、なんだか貧血気味で……」

「貧血ぅ!?」

 

 思わず私は声を荒らげてしまった。吸血鬼は頻繁とは言わずとも、年に何回か血を吸わなければいけない。というのも、こうやって貧血を起こしてしまう。

 

「……そっか、今年になってお姉様、全然吸ってないね」

「そうなの、フランにあげたりしちゃってるからねぇ……」

 

 少食なお姉様は出された血液パックも私にあげると言って摂取しようとはしなかった。

 

「自業自得じゃない……」

「フランに言われるなんてね……」

 

 呆れるように言う私。それを見たお姉様も苦笑いをする。

 大きくため息をついた。

 このままではお姉様は唐突に倒れたり、高熱を出したりしてしまって、以前のこいしちゃんの比じゃないくらいの苦しさを味わうことになる。

 

「仕方ないなぁ……」

 

 私は肩をはだけさせて、お姉様を強く抱きしめる。私は下着のストラップ部分を下げ、赤面しながらお姉様に肩を突き出す。

 

「……いいよ、吸って」

「ふ、フラン……」

 

 吸血鬼は血を見ると唐突に八重歯が発達し、目が赤く光り出す。今のお姉様の状態はその状況でたじろいでいた。

 

「……でも……」

「お姉様になら、吸われてもいいし…………その……す、吸われたいし……」

 

 私は最後の方の言葉は極力小さな声で話した。私がここまで照れるのは自分でも久しぶりだ。耳まで真っ赤になってる。

 血を吸うのは、「心に決めた人」だけ、吸血鬼は直接肌を重ね合って、血を吸いあって愛を誓い合う。

 血液パックで吸う血はただの血の成分を混ぜたレプリカの血なのだ。

 生き物の鮮血を吸うのは私もしたことがない。まぁ、いわゆる、吸血鬼の性行為だ。

 

「ふ、フラン……私……」

「んっ…………はや、く……」

 

 お姉様の体は多分無意識に動いているのだろう。しかし、お姉様の理性が必死に止めようとしている。

 しかし、このままではお姉様は倒れてしまう。それだけは避けたい。

 私はナイフの長さのレーヴァテインを取り出し、首筋を少し切る。

 私の首筋からは少量の血が滴る。

 

「ごめん、フラン。私、もう我慢出来ない」

「いいよ、お姉様…………来て……」

 

 両手を広げ、お姉様を呼ぶ。お姉様の顔は背徳感に溢れていた。

 お姉様の理性がダメだと言っても、吸血鬼の本能がお姉様を突き動かしたのだ。

 私に飛びついてきて、舌を出した。

 

「…………じゅる……」

「っ……やぁ……」

 

 お姉様の舌が私の首筋を這った。私はいままでに無いくらいの喘ぎ声を出してしまった。

 

「フラン…………ごめん、別の私が……」

「へっ?」

 

 その声に私は素っ頓狂な声を出す。

「別の私」、それは吸血中に現れるもの、理性も本能も全てが本来吸血鬼であるべきものに支配されるということ。

 お姉様の顔はもう完全に蕩けてしまっている。

 エロいことをしているわけでもないのに、何故かそんな雰囲気になってしまう。

 

「……はぁ……はぁ……かぷっ……」

 

 荒い息と共に、お姉様は私の肩にかぶりついた。

 八重歯が私の肩に綺麗に刺さる感覚があって、少しビクンと体が強ばった。

 

「ぁぅ…………おね、……さまぁ……」

「んっ……んんっ……」

 

 お姉様の顔が見えないが、頑張って私の血を吸っているのが分かった。

 愛らしくなった私はお姉様を強く抱きしめた。するとお姉様も体をピクリと動かした。

 いつもは真面目で妹の私に絶対に手を出さないお姉様が今日だけは別人に見えた。

 

「んっ……ちゅぅ…………ぷはぁ……」

「お姉様…………」

 

 お姉様が私の肩から口を離す。肩からは、未だにドクドクと流れる私の血とお姉様の唾液が付いていた。

 

「もう大丈夫? お姉様?」

 

 心配そうに私は聞く。未だに顔の赤くて息の荒いお姉様は無言で私を見つめていた。

 そして、お姉様は本当に蕩けた顔で口を拭い、こう放った。

 

 

 

 

 

 

 

「まだ…………もっと欲しい…………フランが欲しい……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 私が聞き返そうと思った時にはもうお姉様は私の肩から流れた鮮血を吸うように舐めたりしていた。

 お姉様のやわらかい舌が右肩を這わせていて、私はただ体が反応するだけだった。

 

「ん……やぁぁ! …………お、おね、さま!?」

「ん、じゅる…………はぁ……かわいいよ……ふらぁん……」

 

 お姉様がお姉様じゃないみたいだった。

 こんなにも私を求め、全身を舐めまわしているのは、嬉しさを通り越して、少しの恐怖もあった。

 

「……あ、あっ……きゃ……」

「はぁ……はぁ……」

 

 お姉様も、私にキスされている時はこんな気持ちだったのかな。嬉しいのに、なんだか複雑なこの気持ちは少し嫌だった。

 

「お姉様…………おちつい…………ゃん! ……」

「フランも……こういうの…………すき、でしょ?」

 

 お姉様はとうとう私の下着に手を伸ばし、上半身を全てはだけさせた。

 血を吸われたことで私は全身に力が入らない。四肢を拘束されているのと同じだ。そのため、お姉様のされるがままだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよお姉様!」

「……ゃーだ……んちゅ……」

 

 お姉様の唇が私のオヘソに触れる。私はお姉様の頭を抑えて制止しようとするが、やはりお姉様には力では勝てなかった。

 どうしてこうなったのだろうか、私には分からなかった。お姉様がここまで興奮するのは何故なのだろうか? 

 

「……ふふっ、かわいいくびれ……」

 

 お姉様の舌がツーっと私のくびれにそって這わされる。今まで以上の快感に私はまた力が抜ける。

 しかし、これ以上はいけない。お姉様にはこいしちゃんとい想い人がいるし、こんな形ではお互いに後悔する。そう直感が語った。

 

「〜〜〜〜っ!! 禁忌「フォーオブアカインド」!」

 

 ベッドの横から私が三人現れる。そして、背後から3人が米粒の赤い弾幕を放った。

 そして、お姉様の背中を無数の弾幕が被弾する。そして小さな爆発が繰り返し起こった。

 私は分身した体の方へと移動し、スペルカードを解除した。

 

「はぁ…………はぁ……」

 

 ベッドに倒れ込むお姉様は意識が途切れていた。私は服をただし、大きく息をついた。

 一体なんだったんだろうか? お姉様は絶対に私には手を出さないと、誓っていた。確かに、血を吸う前もしっかりとそのような意を示していた。

 でも、血を吸ってから数分後、豹変したように私を求め始めた。

 嬉しさもあったが、2割くらい恐怖も感じた。

 それから、お姉様は激化していき、これ以上のものはまずいと感じた私は、今こうやってフォーオブアカインドを使って回避した。という事だ。

 お姉様の部屋を出て、私は咲夜を呼んだ。

 

「咲夜ぁー!」

「はい、こちらに」

 

 咲夜は一瞬のうちに私の目の前に現れた。私は遠まわしに言うのではなく、直球に聞いた。

 

「吸血鬼同士で吸血行動をすると、どうなるの?」

「……そ、それは……」

 

 咲夜はボッと顔を赤くして、少し言うのを躊躇った。ということは、あまり言いやすいものではないのだと思った。

 

「…………興奮しやすくなる……ですかね」

 

 それだけのためにあんなに顔を赤くしたのか。ピュアなメイドだ。

 

「い、一種の媚薬のようなものです。仲間の吸血鬼から聞いた話ですが、その効果は一週間ほど、続くそうです。それが自分の血と成分が近いほど、多少のズレで大きく興奮が増大するそうです。逆に全く別人の吸血鬼だとそこまで大事にはならないそうです。だから、妹様とお嬢様どうしでは非常に危険ですね」

「…………」

 

 まずいことになった。これは、取り返しがつかないかもしれない。

 私は後々隠してバレるより、ハッキリと今この場で言った。

 

「ねぇ、咲夜」

「はい?」

「お姉様がさ、今日帰ってきて、一緒に寝ることにしたの」

「はぁ……」

 

 咲夜は未だに私の言うことが意図できていないのか、小首をかしげながら問う。

 

「そしたらさ、お姉様疲れているみたいだったから、どうしたのって聞いたの」

「……」

「そしたら、「貧血気味だ」って言ったのね」

「…………まさか……」

 

 咲夜はようやくそれを察した。その途端、だんだんと顔が青ざめ、私からでも分かるくらい冷や汗をかいていた。

 

「そのまさかです……血を…………吸わせちゃいました……」

「何やってるんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 咲夜の声は夜の紅魔館中に響き渡った。

 そして私の両肩をつかみ、ズイっと顔を近づけてくる。

 

「以前にも言ったように、お嬢様が堕ちてしまいます! 極力! ほんっっっっとうに極力! お嬢様との接触を避けてください!」

「は、はい……分かりました」

「恐らく、2週間ほどでしょう……お嬢様はいわゆる「以前の妹様状態」になります!」

「い、以前の妹様状態……………………」

「はい、いわゆるド変態です!」

 

 咲夜の何気ない一言がフランドールを傷つけた。

 私はグサグサを心を刺された。しかし、咲夜の言いたいことも分かる。

 

「わ、分かった。お姉様から避けるよ。接触も我慢する」

「そうしてください。お嬢様には、「妹様は地霊殿に遊びに行った」と言っておきます」

「は、はい……」

 

 お姉様から来てくれるのは嬉しいけど、やっぱり正当法でお姉様を奪いたい、そう自分に言い聞かせた。

 鳳凰山から帰ってきて数時間後、また新たな騒動が紅魔館で起きようとしていた。

 私の生活は落ち着くことを知らないのだと、この時痛いほど痛感した。

 




追記

平熱クラブさん!誤字修正ありがとうございます!


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15話 レミリアの容態

少しダラダラと書きすぎたかな?


「……お姉様?」

「んふふー、なぁにフラン?」

 

 朝、私は自室のベッドで眠りに入った。ごく当たり前だが、部屋のドアには特殊な魔法をかけて、鍵をかけたはずだ。

 それも、お姉様にも絶対に破られることのない魔法。というか、私にも破れない。解除は出来るが。

 それなのに、翌朝、起きるとお姉様が部屋の内部にいて、私と向かい合わせになってて、顔を赤く染めて、添い寝してる訳で。

 

「……どうやって入ったの?」

「愛の力」

「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」

 

 寝起きは確かに嬉しかった。お姉様が私のベッドに進んで入ってきてくれたことが、しかし、私の血を飲んで性的欲求の溜まったお姉様を守るためにも、こうして我慢してお姉様と極力会わないようにしたのに。

 

(こんな最強の妖怪……どうやって止めるって言うのさ…)

 

 私はお姉様が好きだ。恋愛的にも家族的にも。お姉様と体を合わせると興奮するし、そんな気分にもなる。

 今まで私がキスとかを止めなかったのは、お姉様が「本気で止めていなかった」から。

 お姉様は本気を出せば、私なんか数秒でコテンパンにされるのに、それをしなかったのは、心のどこかでこんな私を認めていたから。

 でも、今のお姉様はそんなこともつゆ知らず、ただ吸血行動によって湧いて出てきた「偽装の性的欲求」を私で満たそうとしているのがバレバレなのだ。

 お姉様が迫ってきてくれたからと言って、お姉様を傷つけていい訳では無い。

 

 正攻法でお姉様を私に惚れさせる。

 あの日にこいしちゃんとそう約束したし、お姉様も後で絶対悲しむ。だから、今は我慢してお姉様の誘惑に耐える。

 

「さぁさぁ、フラン? お姉ちゃんと遊びましょう?」

「ご、ごめんねお姉様! 今日はこいしちゃんと約束があるんだった。朝食食べてくるね!」

「あ、待って!」

「な、何?」

「朝食、持ってきたのよ。一緒に食べましょ?」

 

 おい十六夜咲夜。

 あんたお姉様と私を引き離すんじゃないのか。どうして一緒にいる時間を増やそうとしている。

 

「それ、咲夜の?」

「ええ、私がフランと一緒に食べたいと言ったらね? 「どうぞ」って」

「…………」

 

 今のお姉様の顔を見たらわかる。

 脅されたんだな。グングニル突きつけられたんだな。ごめんね咲夜。

 私は咲夜に心の中で謝罪をして、仕方なくベッドに座る。

 

「フラン、口開けて?」

「えっ」

「えっ」

「…………食べるの?」

「ええ」

「……」

 

 ここで何か抵抗したら色々と面倒ごとになる。直感がそう語った私は温かそうなスープが差し出される。まだ出来たてのようだ。

 

「はい、あーんっ」

「あ、あーん……」

 

 おかしい。

 私はいつもお姉様にあーんをして上げてるのに、逆の立場になるとこうもやりづらいとは思わなかった。

 

「美味しい」

「咲夜が作ったものだからね」

 

 ニコニコと屈託のない笑顔で話すお姉様。次々と私の前にスプーンを差し出す。私はそれを仕方なく食べるしかなかった。

 正直、ここまで誰かに付きまとわれるのがめんどくさいとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 お姉様はようやく自室に帰り、私は一人となった。

 大きく溜息をつき、窓の外を眺める。今日は雲一つない晴天。思わず散歩したくなる程のものだった。

 

「咲夜」

「はい」

 

 ドアの外から聞こえる咲夜の声。

 咲夜は紅魔館の中なら声をかけたら数秒でやってくる。

 私たちが咲夜を呼びたい時の信号などが受け取れるらしい。それで時間を操って瞬間移動する訳だが、どう考えたって人間の出来る技じゃない。

 

「私、今日地霊殿に行くね。お姉様から出来るだけ離れなきゃ」

「そう……ですね。こいしさんと遊んで頂けると……」

「うん、そうする。お姉様には、人里に向かったって嘘ついといて」

「……心苦しいですが……了解しました」

 

 咲夜は一礼した後、この部屋を離れた。

 そして、一瞬にして咲夜の気配が近くから消えた。私はそれを確認した後、「よし」と一言置いて、部屋を出た。

 

 外に出ると、思ったよりも冷たい風が私の肌を刺激した。と言っても、まだ秋なのだから、これからもっと寒くなると考えると、少し憂鬱にもなる。

 

 私は少しずつ後ろの羽を動かした。フワッという浮遊感とともに、私は勢いよく地霊殿の方向へと飛んだ。

 

「うう……寒い……」

 

 飛んでいると、それなりにスピードが出るもので、冷たい空気抵抗が顔に当たる。

 私は直接顔面に当たらないように、下を向きながら飛んでいると、ちょうど、下に紅白の少女が歩いているのが見えた。

 

「霊夢ー!」

「あ? あ〜、フラン」

 

 いつものようにツンケンしたような態度だが、私は気にせず話しかける。

 

「霊夢が一人でここにいるなんて珍しいね。どうしたの?」

「何だか異変が起きてるらしくて」

「異変?」

「フラン、下見て」

 

 唐突に霊夢が指示を出した。急な事だったが私は言われるがまま、下を向いた。

 すると、そこには大量の芽が生えていた。人里の真ん中は種など植えないし、雑草をすぐに駆られるから、滅多に生えてこないが、これは異常な光景だった。

 

「これ……綺麗だけど……」

「どこが綺麗なのよ。ただの緑の葉っぱじゃない」

「これ育ったら向日葵になるよ」

「…………向日葵……ねぇ」

 

 霊夢が考え出した。この幻想郷の中で向日葵が好きな人物と言ったら相当限られてきていた。

 

「…………幽香ね」

「うん」

「フラン、付いてきなさい」

「わ、分かった」

 

 私は霊夢の後を追うように付いていく。

 別に大した異変じゃないが、後々面倒ごとになる前に片付けた方がいいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フラーン?」

 

 お嬢様の声が聞こえる。

 どうやら妹様を探しているようだった。

 

「咲夜」

「は、はい」

「フランがどこに行ったか知ってる?」

 

 先程、妹様は「人里に言ったと嘘ついといて」と言っていたので、そのままそれを返答する。

 

「人里に甘いものを食べに行きましたよ」

「そう…………」

 

 お嬢様の顔が少ししんみりした。従者ながらとてつもない可愛さだと思ってしまった。しかし、お嬢様はもう一度私の方に向いてこう放った。

 

「もう一度聞くわ」

「え?」

「フランがどこに行ったか知ってる?」

 

 お嬢様はニコニコしながら私にズカズカと近づいてくる。私は後ずさりながら苦し紛れに話す。

 

「で、ですから人里に行ったと…………」

「嘘ね」

「ぐっ…………」

 

 お嬢様の声が少しずつ黒くなってきているのが分かる。いつもならここで折れていたが、私は嘘を貫き通す。

 

「本当です! でしたら、自分で行ってみたら────」

「目を逸らした、嘘ね」

「……いえ、嘘では────」

 

 私の喉元に赤い槍が突きつけられた。私は恐怖で言葉が出ず、コクリと頷いてしまった。

 お嬢様…………妹様の血を吸って妹様に惚れたのはいいですけれど、ヤンデレの方向にだけは行かないでくださいね……。

 そう心に語りかけた。

 

「地霊殿に向かいました……」

「それは本当のようね。ありがとう、咲夜っ」

「っ!」

 

 先ほどのどす黒いお嬢様とは違い、恋する乙女のような可愛らしい笑顔でお礼を言われた私はますます恐怖心を駆り立てられた気がする。

 

「今行くわっ、フラン!」

 

 お嬢様がそう言ってスキップして行った。

 私は心の中で妹様に土下座しながら猛省した。その後、少しずつ正気を取り戻し、ゆっくり考えた。

 

「(……こいしさんと会わせたら色々まずいのでは……?)」

 

 私は冷や汗を流した。

 どうか、面倒なことになりませんように…………。

 強く、そう願った。




平熱クラブさん。
誤字修正ありがとうございます!


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16話 太陽の畑

遅れてすいませんでした。

もうそろ卒業式なので、卒業したら執筆を再スタートします


 幽香のいる太陽の畑までは人里からはそう遠くは無かった。

 幽香はもともと人間とは友好的な妖怪なので、人里に買い物に来ることが多々ある。そのため、自宅も人里に近くして、いつでも行けるようにしているらしい。

 

「幽香ぁー!」

 

 霊夢の声が畑一帯に響き渡る。チョウチョや蜂、色々な虫が飛んでいるが、霊夢が一叫びすると、全員の動きが止まった。

 これも博麗の力なのだろう。しかし、その中でも一人物怖じしない人物が立っていた。

 

「あー? 何よ霊夢」

「ちょっと、あんなに花生やさないでよ」

 

 そう言うと、幽香は難しい顔をしながら首をかしげた。

 

「は? 何の話よ」

「とぼけないで、人里にあんなに…………その、何? ひまわり? だっけ? 生やしといて」

「えっ? 霊夢ひまわり知らないの?」

「うっさいフラン。黙ってなさい」

 

 私は霊夢の隣で静かに聞いていた。幽香を観察してみるが、どうやら、彼女みたいだ。

 

「幽香、早くあれ止めた方がいいと思うけど」

「……あら? 吸血鬼のあなたがここに居るなんて珍しいわね? 太陽で灰になっちゃうわよ?」

 

 カチンときたが、暴れたくなる衝動を抑えて、私は言葉を続けた。

 

「残念、魔法なんて使おうと思えば、私だって使えるの。そうじゃなくて、今はあなたのお話をしてるんだよ? 幽香、あれは何?」

「…………私は知らないわ。本当に」

「………………フラン、スペルカード出しといて」

 

 霊夢は幽香を睨みつけながら、お祓い棒を取り出した。どうやら、戦闘する気らしい。

 

「で、でも、幽香になんて、勝てるわけ……」

「今は2人よ。何とかなるわ」

 

 幽香は幻想郷では五本の指に入る大妖怪であり、戦闘力は月の住民にも遅れを取らないとされている。

 また残虐性も高く。悪さを働いた人間は問答無用で花に食べさせる、私も一度その光景を見たが、なかなか過激で、目を逸らしてしまった。

 

「……わ、分かった」

「やる気なのね? いいわ、ちょうど体も訛ってたの」

「……っ!」

 

 空中を蹴り、霊夢は誰よりも高い位置から、札を投げる。しかし、幽香は自身の傘を一振、札を全て弾いた。

 

「……禁忌「レーヴァテイン」」

 

 右手に出現した燃え盛る炎の剣。霊夢とは反対方向に周り、挟み撃ちにする。

 

「てぁぁ!」

「……っ!」

 

 私の振るったレーヴァテインと幽香の傘がぶつかり合い、大きな衝撃波を巻き起こす。

 ギリギリと、鈍い音を出しながら、私と幽香は睨み合う。

 

「…………!」

 

 さすがに幽香と私では力の差があった。いくらレーヴァテインでも、使う本人の力が弱いと、さほどの威力は出ない。

 

「……きゃっ!」

 

 ギィィンという音とともに、私のレーヴァテインはどこかへ飛んでいってしまう。

 それと同時に、幽香の傘で横殴りされ、私は太陽の畑まで吹っ飛ぶ。

 

「かっはっ……」

 

 私の口からは、鮮血が吐き出される。久しぶりの痛みと苦しみに、息が苦しくなる。

 

「……フランドール・スカーレット、大したことないのねぇ?」

「…………がっ……」

 

 ドゴッと鈍い音と共に、あばら骨がビキビキと嫌な音がした。

 

「あっあぁ!」

「弾幕ごっこなんて生ぬるいこと言わないでよね? 霊夢」

「……はぁ、別に私も遊びのつもり出来てないわ。フラン! 下がって傷直してきなさい!」

「ご、ごめん!」

 

 バッと後ろに飛ぶ。とりあえず、再生が間に合うまで、後ろで待機し、霊夢に任せる。

 お姉様がいたら、こんなことにはならないのにな……。と今考えても仕方ないことを思い出してしまう。

 

「……よしっ」

 

 傷が癒えた私は、霊夢に声をかけようとする。しかし、大きな爆発と共に、霊夢が私の方に飛んできた。

 

「うわっ!」

 

 私は、慌てて霊夢を受け止めるが、数メートル後ろまで私も飛ばされた。

 

「れ、霊夢!」

「いったた……」

 

 霊夢も所々傷を作っていて、息を荒かった。吸血鬼の私は再生出来るが、人間である霊夢は治るのに時間がかかる。

 

「霊夢、これ使って」

 

 この世には、再生を封印させる妖怪が沢山いる。そんな奴らと出くわした時の緊急用に用意した包帯を霊夢に渡した。

 

「あ、ありがとう……」

 

 私は、今だ無傷で浮いている幽香の正面に立つ。

 

「禁忌「レーヴァテイン」」

 

 もう一度、レーヴァテインを取り出し、飛ぶ。

 

「無駄って分かっているでしょう」

 

 幽香の顔はもう笑っていなかった。呆れが含まれているような言い方で私を見下す。私と霊夢でも敵わない相手である幽香、私は幽香を倒せる人は一人しか知らない。

 振り下ろしたレーヴァテインを傘で受止め、鍔迫り合いが始まった。

 

「ぐぐっ……」

 

 先ほどよりも力を込めて、押す。

 

「っ! ……面白い!」

 

 幽香の顔色が初めて変わった。私はそのまま大声を出して、押し続ける。

 

「てぁぁぁぁ!」

 

 しかし、両手を使った幽香の傘には私では力不足だった。レーヴァテインは先ほどと同じように、弾かれる。

 

「今度は息の根を止めてあげるっ」

「……くっ!」

 

 傘を逆手に持って、私の首元に突きつけていた。私は慌てて体を反転させるが、それはもう焼け石に水だった。

 

「(まずい、刺されるっ)」

 

 私は目を閉じて、痛みに耐える準備をした。そして、幽香は躊躇なく、それを刺そうとした。

 

 

 

 

 

 

「その薄汚い傘は一体誰に向けているの?」

 

 

 

 

 

 瞬間、誰かの声が聞こえた。

 霊夢では無い、聞き覚えのある声。声の主の方を向くと、そこには見慣れたお姉様の姿があった。

 

「あら? 奇遇ね、一日で2人の吸血鬼に出会えるなんて、光栄だわ」

 

 嘲笑するように、幽香は傘の先端を私の首から外す。ようやく余裕のできた私は一度安堵の溜息を零して、お姉様の方を見る。

 

「……あら? そう珍しいものではないわよ?」

 

 お姉様は日傘をさして、上品に振舞っているが、瞳だけは違った。

 紅く、光り続けていた。お姉様が普段誰にも見せることの無い、「本気モード」。それは、鬼も屈するほどの実力。

 

「ご立腹かしら?」

「あなた、今、フランに何をしたの?」

「何って、攻撃されたから仕返ししただけよ」

 

 素っ気なく答える幽香の目もだんだんと鋭くなっている。先程までの余裕の表情ではなく、引き締まった顔。

 

「フランと霊夢、二人であんたに敵わないのなら、私も加勢するわ」

「…………面白いじゃない」

 

 ニィィっと白い歯をめいっぱい見せて笑う幽香の顔に私は悪寒が走る。

 しかし、私の悪寒の原因は幽香ではなかった。幽香を睨みつけ、殺意に満ちているお姉様。日傘を捨てて、グングニルを右手に、幽香を睨むその顔が妹の私でも恐怖する程だった。

 

「いいわね、この2人じゃ満足できそうにないの、最強の吸血鬼と言っても、妹は貧弱なのね」

 

 ズキンっと胸が痛む。そう、巷では私達は有名だが、それはあくまでもお姉様の実力が幻想郷の五大妖怪だから。私なんか、誰も眼中に無い。

 

「……ほら、あなたから攻撃していいわよ。もちろん、負けるつもりはな─」

 

 ピシュン…………。と、軽やかな音が私と幽香を通り過ぎる。そして、その一秒後、通り過ぎた道筋にそって、黒い炎が出現する。

 

「っ!?」

 

 幽香は初めて焦燥の顔を見せる。そう、お姉様の実力は、あの月の賢者さえも凌駕する。

 幻想郷で一番怒らせてはいけない妖怪だと紫が言っていたのを思い出す。

 

「……あら? 顔色が変わったわね」

「…………そうかしら? むしろ、面白くなって笑っちゃいそうよ」

 

 直ぐに余裕の表情を見せる幽香。お姉様はもう一度グングニルを右手に持つ。

 そして、幽香は思い切り空を蹴って、お姉様に突撃する。幻想郷五大妖怪の2人が戦うなんて、貴重なことだ。

 

「花符「幻想郷の開花」」

 

 花のような綺麗で鮮やかな色の弾幕がお姉様を囲む。お姉様は、スペルカードを出していない、スペルカード無しでどうやって戦うというのだろうか。

 

「お姉様!」

 

 思わず叫んだ。お姉様が怪我するところなんて見たくない。幽香のあの弾幕はとんでもないくらい強力なのが分かる。

 しかし、お姉様はそんな私の心配もつゆ知らず、グングニルをかざした。

 そして、まっすぐグングニルを振り下ろす。

 

「っ!?」

 

 幽香の顔はまたもや焦りと驚きに変わる。それは、私と霊夢も同じだった。

 そう、縦に振り下ろしただけのグングニルを中心に、赤黒い結界が広がっていき、弾幕を全て消去したのだ。

 

「お姉様……」

 

 普段、お姉様とは訓練をしたり、私たちが幻想郷に来る前、吸血鬼ハンターと戦う時から、お姉様の実力がずば抜けているのは知っていたが、いつの間にこんなに強くなっていたのだろうか。

 

「あなた、弾幕ごっこならやめて頂戴。私はフランを傷つけたあなたに、フランの倍以上の痛みを与えるつもりなのだけれど」

「……まずいわね……あなたがこんなにも強いだなんて」

「……興ざめよ」

 

 お姉様は、音も立てずにその場から姿を消した。そして、その刹那、お姉様の姿は幽香の背中側に存在していた。

 

「なっ!?」

「神槍「スピア・ザ・グングニル」」

 

 初めて、お姉様がスペルカードを使う。すると、赤く発光し始めたグングニルが幽香を背中から胸にかけて貫く。

 

「あっがっ……」

「このまま、痛みを与えてあげようか?」

「が、ああああああああああ!!」

 

 幽香が、苦しそうに叫ぶ。じたばたと抵抗を見せているが、お姉様の槍から出る茨によって体が拘束され、逃げ場を失っていた。

 先程までの幽香と、まるで別人みたいに、痛みにもだえる。

 お姉様の方はまだ怒りに身を任せ、「姉」ではなく、「吸血鬼」として殺気を出していた。

 怖い、お姉様が怖い。私は恐怖心を抱いた。

 

「…………っ! お姉様! もうやめて!」

 

 正気に戻った私は、幽香の息の根が止まりそうになっているのを確認した。これ以上してしまったら、五大妖怪でも出血多量で命を落としてしまう。

 

「…分かったわ」

 

 お姉様はグングニルを幽香から抜く。幽香は重力に従って真下に落ち、その場で気を失っていた。

 

「フラン、あんたはレミリアの所に、幽香は私に任せて」

 

 包帯を巻き終えた霊夢に促され、私はお姉様に駆け寄る。

 

「お姉様!」

「フラン、無茶しないでね、フランが死んだら……私……」

 

 お姉様の顔はいつもの優しい顔に戻っていた。そっか、私を大切に思ってくれたからこそ、あんなに怒っていたんだ。

 そんなお姉様がどうしようもなく愛おしく感じ、私はお姉様を抱き寄せ、きつくハグをする。

 

「フラン?」

「お姉様、私はずっと、お姉様のそばにいる、絶対に離れないよ」

「……」

「……ずっと、大好きだから」

「…………」

「お姉様?」

 

 お姉様は黙っていた。いつまで経ってもお姉様からの返事かない。いつもなら、優しく撫でたりしてくれるのに、固まったままだ。

 

「はぁ……はぁ………………ふらぁん……」

「……」

 

 完全に忘れてた。今、お姉様は私の血で洗脳されてるんだった。

 お姉様の息は荒くなり、我慢出来ないみたいで、私の首筋を思い切り舐める。

 

「んあっ! ……ちょ、お姉様!?」

「ああ……この首……好きぃ……」

 

 しまった、完全に抱きしめられて、私は逃げられなくなっていた。そのまま、お姉様の舌は、首筋から顎を通り、私の口の中に入る。

 

「んっ……ちゅ……じゅる……」

「おね、……様……ちゅ……」

 

 嬉しいのに、なんだか複雑な気分。今、ここがどんなところだか忘れるくらい蕩けてしまう。

 

「あんたら、続きは紅魔館でしなさい」

「れ、霊夢」

 

 幽香の腕を自分の肩に回し、ジト目でこちらを見つめる霊夢。私達は慌てて離れ、苦笑いをする。

 お姉様だけ、自分の唇を触り、物悲しそうに私を見つめていた。

 

「いつもはフランからなのに、レミリアも堕ちたのかしら?」

「あ、ええと……これには理由が……」

「……そう、まぁ、深くは追及しないわ。じゃ、私は幽香を家に持ってくから、先帰りなさい。付き合ってもらってありがと」

 

 霊夢は私に軽いお礼を告げた後、幽香の家の方向へと歩いていってしまった。

 

「じゃ、フラン、紅魔館で続きしましょうか?」

「いや、この後地霊殿に行くから」

「それ、私も行っていいかしら?」

「…………ダメ」

「ええ!?」

 

 今の姿をこいしちゃんにはあまり見せたくない。こいしちゃんが失恋してしまっているみたいになるし、お姉様の本物の想い人はこいしちゃんだからだ。

 

「ちょっと大事な話があるから、ごめんね?」

「……フランがそこまで言うなら行かないわ。ただ、手出されたら私に言いなさいよ、粉々にするから」

「あ、あはは……」

 

 お姉様は、やっぱり怒らせたら一番怖い人だ。怖くても、私がいくらキスをしても怒らないのだから、本当に優しい姉なんだなって、素直に思えた。

 私は太陽の畑でお姉様と離れ、地霊殿へと足を運んだ。



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17話 地底の甘味処

この物語についてのお話があります。

活動報告をご覧いただけると嬉しいです。


「っはぁ……」

 

 災難だった。まさかちょっとした異変であんなことになるとは思わなかったし、お姉様があんなに狂気じみた顔で簡単に最強の妖怪を殺せるのだから、妹の私だって怖いに決まってる。

 私が無理やりキスをしたり、胸を触ったり。私はお姉様に「妹だから」という口実に甘えていたのかもしれない。

 多分、私が妹じゃなかったら、瞬殺されていたと思う。それくらい、お姉様は優しくて、私のことを大切に思ってくれている。

 血の繋がった姉を好きになるなんて、歪んでいる。世間がそう言いたいのも分かる。でも、私はそんな恋愛に甘えたくない。姉に向ける想いなんて、この世の全ての妹が同じなんてありえないから。その中に、恋愛感情があるのはおかしくないと思う。

 

「フランちゃん?」

「およ?」

 

 地底に降りて、地霊殿までゆっくり飛んでいると、下から聞き覚えのある声が聞こえた。

 こいしちゃんが2人のペットを連れて歩いていた。

 

「お、やっほー、こいしちゃん」

「フランちゃん、ドロワもいいけど、一回は白パ……」

 

 チョップをこいしちゃんの頭に振り下ろす。こいしちゃんは「あうぅ……」と言いながら頭を抑えて蹲る。後ろにいた2人も苦笑いをしていた。

 火焔猫 燐と霊烏路 空。地霊殿に引き取られた猫とカラスである。2人とはこいしちゃんと仲良くなった時と同時に付き合いがあって、互いに信頼している。

 

「こいしちゃん、セクハラするならさりげなくだよ。感想を述べる分には構わないけど、アドバイスはいらないかな」

「せ、セクハラされた人からセクハラのアドバイス貰うなんて……」

「それに、パンツだと飛んだ時に見えちゃうじゃん」

「それがいいんだよ!」

 

 ズイっと顔を近づけてくるこいしちゃん。私は数歩後ずさるが、ズンズンと距離を詰められる。

 

「そうやって垣間見えるフランちゃんの白パンが至高なんでしょ!? 何度そんな想像したことか……」

「……うっわ……」

「引かないで! 全部冗談だから! フランちゃん引かないで!」

 

 冗談に聞こえない。こいしちゃんが少し変態さんなのは昔からだが、やはり面と面に向かって話されると、少々引いてしまうところがあり、なんでこんな人と仲良くなってんだろうと不思議に思うことも多くある。

 

「で、フランちゃんは何しに?」

「普通に遊びに来たんだけど、こいしちゃんは?」

「今からお空とお燐と私の3人で地底の甘味処に行くんだ」

「甘味処!?」

 

 私の目は一瞬でキラキラになる。それこそ、お姉様の次に好きな物であるから。

 

「フランちゃんも行く?」

「行く行く! 行かせて!」

「じゃあフランちゃん、私にキスして」

「じゃあ行かない」

「冗談だから本気で引かないで!」

 

 テンポの良い会話を繰り広げながら、甘味処へと歩き始める。地底には独特の匂いと景色があるから、幻想郷とは別の世界にも見える。

 

「で、これからどこの甘味処に?」

「ああ、甘竹っていうちょっとお高い甘味処が地底にあるの、地底じゃ人気なんだ」

「あ、聞いた事ある。文々。新聞に載ってた」

「そう、私達は常連だったんだけど、中々フランちゃんを誘う機会が無くてさ」

 

 ため息混じりに話すこいしちゃんの横を歩く。地底を散歩するのも久しぶりだ。最近は地上の人里で遊ぶことが多いから、約3ヶ月ぶりだ。

 

「おっ、ここだ」

 

 商店街の真ん中に置かれた和風な雰囲気を醸し出す甘味処、「甘竹」があった。

 

「へぇ……」

 

 カラカラと戸を開け、店内に入る。匂いは甘く、居心地は良さそうだ。客の集まりも良く、こいしちゃんの言っていた人気だと言うのも間違いじゃ無さそうだ。

 

「いらっしゃいませ、4名様ですか?」

「あ、はい。そうです」

 

 ポニーテールの女性がお燐に話しかける。お燐は指を4本立てて、店員さんに伝える。

 店員さんは「かしこまりました、こちらへどうぞ」と私たちを案内してくれた。

 指定された席に座り、メニューを見る。

 

「おお、いい値段するね……」

「まぁ、いい味だけどねー」

 

 メニューを見て、少し目を見開く。人里のパフェの1.5倍くらい。

 

「メニュー決まった?」

「うん」

 

 こいしちゃんが近くにいた店員を呼ぶ、先程の店員さんのようだ。メモ帳を取り出して、注文を聞いた。

 

「私は抹茶パフェ、後、メロンソーダ」

「あたいは苺羊羹で」

「うにゅ…………チョコフォンデュで」

「私はチョコレート&クリームパフェで」

 

 店員さんはメモをしまい、一礼をして厨房に入っていった。

 

「ね、お燐、苺羊羹って美味しいの?」

「美味しいよ、甘さと柔らかさがマッチして手が止まらないんだよ」

 

 幸せそうに話すお燐。よほど美味しいのが伝わってくる。

 

「お待たせ致しました、抹茶パフェ、苺羊羹です」

 

 先に、こいしちゃんとお燐のものが出た。さっき話していた苺羊羹を見ると、確かに美味しそうだ。

 お燐とこいしちゃんはスプーンを取り出して、早速食べ始める。

 

「んぅー甘くて美味しいぃ……」

「溶けちゃいそうだよ……」

 

 2人は満足そうにパクパクと食べていく。私はお燐の言っていた苺羊羹が気になった。

 

「…………」

「…………? フランちゃん、気になるかい?」

「ふぇ? ああ、うん。少しね」

「食べてみる?」

 

 私が見ているのに気づいたお燐は苺羊羹を乗せたスプーンを私の顔の前に差し出してみる。

 いわゆる「あーん」だ。今日の朝も血の従者お姉様にされた。

 

「え? いいの?」

「いいよいいよ、わざわざ買い直すのも高いし、面倒だからね」

「あ、ありがと。んっ」

 

 口を開け、私はお燐の苺羊羹を食べさせてもらった。甘さが一瞬で広がり、幸せな味が私を刺激した。

 

「……おいしっ、美味しい!」

「だろ? これがまたたまんないんだよねぇ……」

 

 予想外の美味しさに自分も頼もうかと悩んでしまう。すると、左斜め前からこいしちゃんが手を止めて私を睨んでいた。

 

「ん? どしたの? こいしちゃん」

「こいし様?」

 

 お燐と私はこいしちゃんが何故そこまで怒っているのか理解は出来なかった。しかし、私の隣のお空も苦笑いをしていた。

 

「2人とも、いつの間にこんなに仲良くなってたの?」

「いつの間にって……そりゃ、人里でもよく会うしね、お燐」

「そうだね。フランちゃんとはよく遊びに行くし」

 

 そう言うと、こいしちゃんは驚きを隠せず、口をあんぐりとさせていた。

 

「ふ、フランちゃん……」

「んー?」

「お燐にあーんさせてもらったり、関節キスしたり、気にしないの?」

「別に、今更そんなの気にする仲じゃ……」

「わ、私よりもお燐の方が仲が良いなんて……くっ、レミリアちゃんの次だと思ってたのに……」

 

 こいしちゃんは「ぷぅぅ」と頬をふくらませてお燐と私を交互に睨みつける。あ、ちょっと可愛い。私は苦笑いをして、その場をやり過ごす。

 

「あ、あはは……」

「じ、じゃあフランちゃん、私のも食べる!?」

「え、い、いいよ」

「食べて!」

「え、ええ……」

 

 こいしちゃんの強引さに私は思わず引いてしまう。それでも、こいしちゃんは抹茶パフェを掬って私に差し出してくる。

 

「はい、あーん!」

「あ、あーん……」

 

 仕方なく私はこいしちゃんの抹茶パフェを食べる。あ、美味しい。

 

「どう? 美味しい?」

「うん……意外と……」

「こいしちゃんは甘党だもんねぇ、抹茶パフェなんて食べないでしょ?」

「……そうだね、甘いのばっかり食べちゃうから……」

「それに……」

 

 こいしちゃんは自分の口元に手を当て、微かに頬を赤く染めあげ、視線を下に向けた。

 

「関節キス…………しちゃったね」

「あ、お燐、もう1回食べてもいい?」

「いいよ、はい」

「やったっ、ありがと。はむ……」

「ちょっ、フランちゃん!?」

 

 私はこいしちゃんの戯言をスルーしてお燐にもう一口貰った。

 

「んぅー、美味しい」

「……うぅ……」

 

 悔しそうに歯ぎしりをしてまた睨む。そうこうしているうちに、私とお空のチョコフォンデュとチョコレート&クリームパフェが来た。

 

「うっわ、甘そ……」

 

 こいしちゃんが私のパフェを見て少し顔色を青くした。私は小首を傾げて不思議に思う。

 

「そう? 美味しいよ?」

「ほんとに? じゃあ…………あーん」

 

 こいしちゃんが口を開けて、こちらに向かって体を乗り出す。私にこいしちゃんの口内が丸見えになって、恥ずかしくないのかと不思議に思ってしまう。が、確かに私もお姉様に口内見せるのは恥ずかしくない。それと同じだろう。

 

「ん……」

 

 一杯掬ってこいしちゃんの口の中にスプーンを入れる。

 

「…………甘いけど、中々美味しいね」

「でしょ? あ、お空、替えのスプーンある?」

「ちょ、フランちゃん、ひどい!」

「冗談だよ」

 

 さすがにこいしちゃんをいじめすぎたかな。罪悪感もあるが、場も和ませられたので満足もしている。まぁ、今更そんなことを気にする仲ではないが。

 

「はぁ〜、美味しかった」

「人里にある「七星」と比べて値は張るけど味も格別だよね」

 

 以前に行った地上の甘味処「七星」と比べ、味が濃く、美味しいがやはり値段が高く、少しお財布が軽くなった。

 

「さてさて、あたいとお空はこの後仕事なので、戻りますね」

「おっけ、お姉ちゃんにはフランちゃんと遊ぶって言っといて」

「了解です」

 

 そう言って、お空とお燐は飛び去って地霊殿に戻っていった。こいしちゃんと二人きりになって、少し嫌な予感もするが、今日はしっかりと抵抗しよう。そう思った。

 

「ね、フランちゃん」

「ん?」

 

 こいしちゃんは少し真面目な表情で私を見据え言葉を放った。それはあまり知られたくなかったものだった。

 

「レミリアちゃんと何があったの?」

「…………え?」

 

 こいしちゃんは確信を持って言った。「何かあった」ではなく、「何があった」と、私とお姉様の間で何が起きたかというのが前提にあるような言い方。

 

「な、何も無いよ?」

「嘘だね。だってフランちゃん、今日レミリアちゃんの話しなかったでしょ? それに避けているかのように」

「…………」

「それに、私がレミリアちゃんの話を出したら、フランちゃんは毎回止まらないくらい語り出すのに、今日は語らなかった。私に知られたくないことでもあるのかな?」

 

 こういう時のこいしちゃんは鋭い。無意識の彼女でも、感覚はさすがにさとり妖怪と言ったところなのだろうか。

 

「あ、いや、別に怒ってるとか、そういう訳じゃないんだよ?」

「う、うん……」

「それで、何かあったの?」

「え、えっと……」

 

 こいしちゃんにはあまり言いたくはない。今のお姉様が私のことを好きと言ったら、こいしちゃんは諦めてしまう。それも「虚偽の恋」で関係が崩れてしまうのは最悪だ。だから、この時期に地霊殿に来たのは、大きなミスだった。

 

「…………まぁ、いっかっ」

「……え?」

 

 こいしちゃんはニコッと笑って、身を翻した。

 

「答えにくいことをわざわざ答えさせたくないもん。ほら、遊びに行こ?」

「あ、う、うん。ありがと……」

 

 こういう時だけ、優しいこいしちゃんは好きだ。私はほっと胸をなでおろして、こいしちゃんのあとをついて行った。



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18話 こいしとフラン

おっひさっしぶりです。


「………」

 

 トントンと、机に置いた右手の人差し指がリズムよく机を叩く。なぜか、イライラするのだ。誰が悪い訳でもない、何かが欠けている。

 ああ、もう。早くこれを解消することは出来ないのかしら。ただそれだけを考えると、さらにイライラが増して意味をなさない。

 

「あ、あの……お嬢様?」

「何?」

「そ、そんな不機嫌な顔して、どうかなされましたか?」

 

 恐る恐る聞く咲夜。その顔はどうみたって私を恐れている顔だ。申し訳なさがありながらもイライラが上回ってしまう。

 

「別に、咲夜には関係ないわよ」

「も、申し訳ありません……」

「…………フランがいないと、ここまで寂しくなるとはね……」

「妹様……ですか?」

「ええ、フランに触れていたい、抱きしめたい、キスしたい」

 

 おかしいと思う。それに、こう思い始めたのはつい最近な気がする。理由は分からないが何だかフランが恋しい。

 

「…………私っておかしいのかしら?」

「……いえ、妹を大切に思う気持ちは大事だと思います。ただ……」

「ただ?」

 

 咲夜の含みのある言い方に私は無意識に聞き返していた。

 

「やはり、関係をわきまえるべきです」

「……関係?」

「お嬢様と妹様は血を分けた「姉妹」です。互いにどのような感情を抱くか、というのは自由かもしれませんが、お二人の間には大きな壁が隔てていることを忘れないでください」

「……分かってるわよ」

 

 本当は分かっていない。嫌だ、フランとの間に壁を作るなんて、考えたくもない。

 

「少し、散歩してくるわね、付き添いはいらないわ」

「かしこまりました」

 

 日傘を差し、屋上から飛んでいく。どこに行こうか。フランは地霊殿へ行くと言っていた。

 

「顔でも出そうかしら……」

 

 しかし、フランには地霊殿には来ないよう釘を刺された。フランに会いたいけど、本人から突き放されたらもう立ち直れない。

 そう思った私はとりあえず人里を歩き回ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランちゃぁーん」

「何ー?」

「キスしよ」

「バイバイこいしちゃん、今日は楽しかったよ」

「嘘! 嘘だから」

 

 こいしちゃんの冗談に飽き飽きした私は妖怪の山の広場から立ち上がって帰ろうとする。

 

「で、この暇な時間をどう解決するの?」

 

 人里や地底を歩き回った私達はとうとう暇を持て余す羽目になった。

 

「誰か来ればいいんだけどなぁ」

「そうだねぇ……」

「ね、フランちゃん」

 

 こいしちゃんがゴロンと私の方を向いた。

 

「このまま昼寝しない?」

「あ、いいね。風も気持ちいいし」

「じゃ、手繋ご」

「………………いいよ」

 

 今日の天気は雲一つない快晴の青空。幻想郷だからこそのこの景色に、私は見とれていた。

 こいしちゃんと手を繋ぐ。暖かい手は今の気温とそっくりだ。

 自然とまぶたは落ちていき、こいしちゃんの微笑む顔を見ながら、私は眠りについていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…………ふふっ」

 

 可愛い寝顔。思わず襲いたくなるくらいの吐息と口元が私の肌に当たる。

 

「可愛いよ、フランちゃん……」

 

 耳元で囁く。それに対し、フランちゃんは「んん……」とこもった声を出して、また寝息を立てた。

 今日はフランちゃんにキスしたりえっちなことをするために来たんじゃない。ゆっくりとこの時間を過ごすためだ。

 

「おやすみ…………」

 

 ゆっくりと流れる時間の中で、私は色んなことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数十年前。

 私達古明地姉妹は、幻想郷に越してきたんだ。古明地は代々、「覚妖怪」として読心の能力を手にしていた。

 忌み嫌われ、石を投げられ、時には殺されかけたことだってあった。

 ある日、私は1人で放浪としていた。能力の制御はお姉ちゃんよりも早かったし、この時にはもう心を読むことは全くしなくなった。するとしたら、動物と会話をするくらい。

 そんな時、私の身長より20センチくらいの男5人が私の前に立ち、いきなり暴力を振るいだしたんだ。

 

「ほら、とっとと死ねよ!」

「い、いや……痛い……やめっ……」

 

 5人の集団に殴られ蹴られ、通りゆく人々も無視したり、あるいはくすくすと笑ったり。

 私が「普通の人間」ならば、ただの「か弱い少女」ならば、周りの人は助けてくれたのだろう。

 そんな普通じゃない私につくづく嫌気がさしていた。

 

「やめてっ!!」

 

 暴力を振るわれて早5分、同じ能力を持つ私の血の繋がった姉、さとりお姉ちゃんが助けてくれた。

 私と男の間に入り、両手を広げて守る。男達はお構い無しにお姉ちゃんをも殴り始める。

 

「覚妖怪とか気味が悪い!」

「人の心に漬け込んで腐らせる悪い妖怪だ!」

 

 そんなこと、一度もした覚えはない。ただただ心が読めるだけで忌み嫌われているんだ。

 人間は集団でいれば強がる。自分一人では何も出来ないのに、そういう考えの奴が集まってこういった悪事を働く。

 馬鹿だ。つくづく思う。力がないくせに、集団でかかれば強くなった気分にいるこいつらが私は大嫌いだ。

 

「もう、殺しちゃってもいいよね」

 

 そんな人間に、私は殺意の一点張りだった。

 気づいた時には、辺りの道に人間たちの臓器や四肢が散らばる。悲鳴をあげて逃げる者、その場で動けなくなる者。ほら、一人じゃ何も出来ないんだ。

 

「あっはは……もう死んじゃえ」

「こ、こいし…」

「お姉ちゃん……このまま人間なんて殺しちゃおうよ! 一匹残らずさぁ!」

「ダメよ! こいし! 戻ってきて!」

 

 古明地は現在、私とお姉ちゃんしかいなかったから、頼る人は誰一人として存在しない。

 私達はこの世界に居場所がないと感じていた。当たり前だ、人を何人と殺したんだ。生きてていいはずがない。

 この時から、私の心は病んでいたのかもしれない。心が読めて忌み嫌われるのなら、「心を読めなくすればいい」。

 

 世間の目や能力によって追い詰められた私はそんな考えを思いつくまでに精神がおかしくなっていた。

 包丁を取りだした私は自分の第三の目を「切り裂いた」。

 縦に、横に、斜めに。だんだん、痛みを忘れるくらい切っていた。

 

「こいし!!」

 

 お姉ちゃんは怒っていたけど、後悔はしていない。最終的にお姉ちゃんには理解してくれた。辛かったねって、私もこいしを支えるからって、本気で心配してくれた時は死ぬほど嬉しかった。

 今まで、遠く感じていたお姉ちゃんが一気に歩み寄ってくれたみたいだった。

 

 

 

 

 

 

 でも、私の心は満たされなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 心が読めなくなった私と未だに読心の能力を持つお姉ちゃんの二人はこの世界から脱却した。

「幻想郷」。それは、私達のような奇想天外で、異様な能力を持つ妖怪や神様が集まる世界。私達は1人の妖怪によって幻想郷へと移住した。

 

 

 

 しかし、そこでの生活もあまり変わりはなかった。

 

 

 

 地上の人間達も私達のことを忌み嫌っていた。以前の世界ほどではないが、明らかに私たちと距離を取っている。

 お姉ちゃん曰く、全員「気持ち悪い」だの「死ねばいいのに」だの心で思っていたらしい。

 ショックだった。ここも全員腐ってる。誰も私たちを認めてなんかくれない。文字通り、ただの幻想なのかもしれない。

 幻想郷に来てからから一週間後、無意識にフラフラと放浪していた時だった。

 

「あれ? 見ない顔だね」

 

 可愛らしい声がした。その声の主は私の目の前にいた。

 金髪のサイドテール。その伸びた髪は腰ぐらいまであった。真っ赤な目と成長しきった八重歯に私は吸い込まれそうになった。

 どうせこいつも同じだ。私のことを嫌うんだ。この気味の悪い第三の目を。

 

「……あれ、何、これ?」

「これは目だよ。じゃあね」

 

 出来るだけ素っ気なく、あまり関わらないようにした。スタスタと早歩きで少女の横を通り過ぎる。

 

「ちょ、待って待って!」

 

 少女は引き止めてる。これ以上関わりたくない私にとって、この対応は苛立ち以外の何ものでもなかった。

 

「何?」

「今ね、私はすっごく暇なんだ。よかったら一緒に遊ばない?」

「……忙しいから」

「……ほんとに?」

 

 なんなんだこいつは。見ず知らずの私に対してこんな態度で向かってくると逆に気味が悪い。しかし、策は読めてる。どうせこの後、人目のつかない場所で私を殺すんだろう。たった一週間で私達古明地姉妹の名は通っている。それこそ、誰も知らない人はいないくらい。

 

「……いいから、放っておいて」

「やーだ、忙しいってのも嘘、だって君の進行方向。行き止まりだよ」

「………」

「はい、暇なんだね、じゃあ、甘味処にでも行こうか。君の名前は?」

「…………」

 

 無理矢理にでも私を捕まえたいのか、いいよ。そっちがそんなにやる気なら、私も本気出そう。襲われたら、即仕返ししてやる。

 そんなことばかり考えていた。私は仕方なく、彼女に付いていくことにした。

 

「古明地 こいし」

「古明地こいし……」

 

 ほら、驚けよ。私の名を知らないのなら、今ここで……。

 

「いい名前だね! 私はフランドール・スカーレット、フランでいいよー」

「……!?」

 

 私の名前を聞いてもビクともしないどころか、私の名を褒めてくれた。私にもし読心の能力が残っていたのなら、彼女の心を隅まで覗きたい。そういう衝動に駆られた。

 

「……よろしくね、こいしちゃん!」

「軽々しく呼ばないで」

「えー? でも、呼ばないと分からないでしょ? ほら、私の名前もっ」

 

 手を握られ、グイッと引き寄せられる。驚きと苛立ちが私を染めあげた。

 

「…………」

「そんな怖い顔で見ないでよっ、私の名前呼んでよ!」

「ふ、フラン……ドール……ちゃん……」

「フランでいいよ!」

「フラン……ちゃん」

 

 初めて、お姉ちゃん以外の名前を呼んだ。なんとも言えないこの新鮮な感覚に私は少し口元が緩んだ。

 

「よく出来ました! じゃあ行こうか」

「……」

 

 でもまだ油断は出来ない。こいつもきっと妖怪だ。何か裏で考えているに違いない。確信していた私は少しフランちゃんと距離を取る。

 

「ねー、なんか遠いよー」

 

 手を伸ばしてきたフランちゃん、私はイライラが増していた。

 

「気安く触らないでよ」

「でもこれだと友達に見えないじゃん!」

「……! ……とも……だち……」

 

 初めて言われた。それによって気が緩んだ私の手をすかさずフランちゃんは握る。

 

「えへへ……こうやって友達と手を握るの、初めてなんだ!」

 

 フランちゃんは嬉しそうにそうやって話す。その時の顔は今でも忘れられない。

 甘味処についた私達は甘いものを食べる。どれもこれも新しい味だった。

 

「あはは! 目がキラキラしてるよこいしちゃん!」

「……うるさい……」

 

 少し恥ずかしくなった私は頬を赤くする。フランちゃんも同じようにパクパクとパフェを食べては頬を抑えて足をパタパタとさせる。

 しかし、私が一番気になっていたのは「周りの視線」だった。突き刺さるような鋭い視線が私の背中を襲う。

 

「? ……どうしたのこいしちゃん」

「な、なんでもない……」

 

 不思議そうに見つめてくるフランちゃん。私は気づかれないように視線を落とした。フランちゃんは不思議そうにしながらも背もたれにもたれる。

 すると「……あっ」と言ってなにかに気付いた。

 

「っ!?」

「…………」

 

 雰囲気が一気に変わる。先程までの穏やかな時間とは打って変わって殺伐とした雰囲気に切り替わった。それは何故か、私は顔を上げてフランちゃんを見る。

 するとそこには先程までのフランちゃんとはまるで別人のような顔をしていた。

 目が赤く光り、八重歯もさっきよりも大きくなって、顔を怒りに狂っていた。

 私を見ていた人達は恐れ、そそくさと店を出ていっていた。

 

「……あいつらが……こいしちゃんのことを……」

「ふ、フランちゃん、やめて!」

「………」

 

 ようやく落ち着いたフランちゃんはさっきの顔に戻った。

 

「全く、少女をあんな目で見るなんて許せないよ!」

「………」

 

 可愛らしい声に戻って安堵した私はため息をつく。私は残りのパフェを食べてガタッと席を立つ。

 

「ん? どこ行くの?」

「もういいや、今日はありがとう、フランちゃん」

 

 お金だけ机に置いて、スタスタと私は甘味処を後にする。こんな所に長時間居たら、私の身がもたない気がしてそそくさと出てきた。

 さっさと地霊殿に帰ろうと思っていた時だった。

 

「こいしちゃん! 待ってよ!」

「……まだ何かあるの?」

 

 もうフランちゃんとも関わりたくなかった。面倒くさい、全てを投げ出して家に籠っていたかった。

 しかし、フランちゃんはそれを食い止めるかのように私の手を握った。

 

「ひとつだけ、いい場所があるの、行こうよ」

「……嫌って言ったら?」

「無理にでも連れてく」

「………分かった」

「ほんと? やったぁ!」

 

 さっきの雰囲気を見て、フランちゃんは只者じゃない気がした。それこそ、普通の人間や、妖怪ではなさそうな感じがする。

 それに、さっきの雰囲気と言動からして、フランちゃんは私のことを忌み嫌っている訳では無いみたいだった。だからこそ、フランちゃんを巻き込みたくもなかった。

 

 

 

 

 しばらく歩くと人里をはずれ、山の中を歩いていた。私はフランちゃんに手を引かれて歩いていた。

 

「まだなの?」

「もーすぐ」

 

 苛立ちが増してきて、私はもう帰りたくなってきた。しかし、離そうとしてもフランちゃんはギュッと握ってくる。

 諦めて私はフランちゃんの後を歩くしかなかった。

 

「ほーら、着いた!」

「…………」

 

 森の中を抜ける。するとそこには広場があった。誰もいないこの空間、太陽の光が心地よく。そしてなによりも、幻想郷全てを一望出来た。

 

「……綺麗…」

「でしょ? 私のお気に入りなんだー」

「…そんなとこ、私に教えちゃっていいの?」

「いーのっ、こいしちゃんは初めての友達だしね!」

「え?」

 

 フランちゃんの言葉に私は驚きを隠せなかった。口を開けたまま、フランちゃんの次の言葉を待つ。

 

「私はね、吸血鬼っていう妖怪なの。それはもう大量に人を殺していて、死にたくなるくらい嫌われてたんだ」

 

 私と同じだ。妖怪で、人を殺して、死にたくなるくらい嫌われてて。

 

「私にはお姉ちゃんもいるんだ。いつも私に寄り添ってくれて、頼りになるお姉ちゃんが」

 

 私と同じだ。お姉ちゃんがいて、寄り添ってくれて頼りになる。

 

「それでも、私の心は満たされなかったんだ。お姉様がいくら献身的で愛を注いでくれても」

 

 私と同じだ。何をしても満たされない。だから目を潰したんだ。

 

 

 

「殺されかけたことなんて何度もあった。食べ物もなくて、雨にも打たれて。あっ、吸血鬼って雨や日光が苦手なんだ。今は魔法で防いでるの」

 

 今のフランちゃんからは想像すらもできない壮絶な過去を聞いて、自分の過去がちっぽけにすら思えてきた。

 

「でも、お姉様が吸血鬼としての「本当の楽しさ」を教えてくれて、今こうやって私は生きてるんだ」

「……本当の楽しさ……」

「まぁ、あんまりいい事じゃないけど、それでも私は後悔はしていないんだ」

 

 頬を掻きながら恥ずかしそうに言うフランちゃん。それでも語尾は強く、私に伝わった。

 

 

 

 

 

 フランちゃんの言葉が私の無になった心に突き刺さっていく。

 

「こいしちゃんが人生を投げ出したいと思ってるのは分かってる。つまらない人生だって感じてるんだよね?」

「っ!」

 

 完全に図星だ。私は言葉に詰まり、後ずさってしまう。

 

「こいしちゃんの見ている世界は狭すぎるんだよ」

「……どういう……こと」

「こいしちゃんが投げ出したいと思っている人生が狭すぎるから、死にたい、何もしたくないって思うの」

 

 理解が追いつかない。クエスチョンマークが何個も浮かび上がってくる。

 しかし、私がこの世界で生きようと、楽しい思いをしようと、そしてフランちゃんを好きになった決定打が紡がれる。

 

 

 

 

 

 

「この幻想郷(せかい)はこいしちゃんのことを守ってくれる。幻想郷だけじゃない、私だって、こいしちゃんを守りたい。こいしちゃんが苦しむ世界なら、私が破壊してあげる!」

 

 

 

 

 

 

「っ!!」

 

 自然と涙がこぼれる。

 止めようとしても、拭ってもボロボロと零れていく。嬉しい。人生で感じたことの無いこの喜びは何事にも変え難い。

 

「……だからね、こいしちゃん。もっと希望を持って」

「……うん……うん!」

「……って、会って数時間の奴に言われても説得力ないよね……あはは……」

「そんなことない、よ! フランちゃん……」

 

 私は笑う。彼女のおかげで自分が存在する意味を見いだせそうな気がするから。

 彼女だけが特別だ。彼女にだけ本当の私を知って欲しい。

 

「……ありがとう……フランちゃん……」

「おっ、初めて笑った……」

「……ちょ、恥ずかしいからそんな見ないで……」

「そんな顔も出来るんじゃん! もっと笑お? ね?」

「う、うう……」

「笑った方が可愛いよ!」

「……分かった」

 

 最初は優しく微笑むだけだった。でも、フランちゃんの前でだけ、明るく笑顔で話せるようになっていた。

 フランちゃんに負けないくらいの元気が出せるようになったのはそう長くはなかったみたいだ。

 

 フランちゃんのようになりたい、フランちゃんに見てもらいたい。

 最初は憧れだったのかもしれない。でも、それだけじゃ満足出来ない私もいた。

 フランちゃんに触れたい、フランちゃんを見ていたい。

 それはいつしか、恋へと変わっていっていた。

 

「こいし、あなた最近変わったわね……」

「ふふっ、そーお?」

「……明るくなった。お姉ちゃん嬉しいわ」

「えへへーっ」

 

 お姉ちゃんも自然に笑ってくれるようになった。「笑う」って凄い。単純なことだけど、気づくのは難しい。

 フランちゃんは「凄いこと」を教えてくれたんだ。

 

 人間からの視線もいつしか緩んでいき、最終的にはフレンドリーに話してくれる人さえ出てきた。

 これも、笑う力なんだ。そう確信していた。

 

 これが、私がフランちゃんと出会い、恋をした始まりだ。

 

 

 

 

 途中で起きた私は目の前にフランちゃんの寝顔があった。可愛い寝顔に私は微笑む。

 

「……好きだよ……フランちゃん……」

 

 フランちゃんはやっぱり特別だ。この感情は誰にも譲りたくもない。フランちゃんと永遠に添い遂げたい。

 

(って、これって結婚のセリフ……)

 

 耳まで赤くなった私は恥ずかしくなってまた目を閉じた。

 握られた手は暖かかった。それは、フランちゃんがギュッと握ってくれているからだ。

 

 

 



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それぞれの日々編
19話 募る不安


お久しぶりです。

そろそろ最終戦に入っていきまーす


 人里に来てみたのはいいものの、やることが無い。とりあえずフランに会えないこのイライラを解消するために歩いてみたが、イライラは募るばかりだった。

 

「……あ、レミリア」

「……? ……」

 

 背後から声をかけられる。私が後ろを振り向くと、白黒の服をまとい、金色の髪は腰まで伸びている。神話や絵本に出てきそうなそのベタな格好はもう見慣れたものだった。

 

「魔理沙」

「よっ」

 

 霧雨魔理沙。私がここに来て間もない頃起こした「紅霧異変」を止めた張本人だ。実力は相当で、人間の中では霊夢や早苗と肩を並べるとか。

 

「どうしたんだ? レミリアがこんな時間にここに来るなんて珍しいな」

「いいえ、少し風に当たろうと思って」

「フランはいないのか」

「……ええ」

 

 いるのならば、こんな所に私が来るはずないだろう。という発言は野暮だと思うので、心の中に留めておく。

 

「そうだ。フランと言えば、霊夢が最近妙なことを言ってたんだ」

「妙なこと?」

 

 魔理沙の唐突な発言に私は首を傾げた。

 

「いやいや、フランって極度のシスコンだろ? それに対して、レミリアは毎回嫌がってるじゃないか」

「……?」

 

 何を言っているんだ? 私は理解できないまま、魔理沙の次の言葉を待った。

 

「なんか最近は、レミリアの方からフランに襲いかかってるって」

「……何言ってるのよ、私は昔からフランにあんな感じよ?」

「……へ?」

 

 魔理沙の素っ頓狂な声と顔に、私は少し吹いてしまう。

 

「い、いやいやボケてるのか? お前あんなに嫌がってたじゃんか」

「私はいつでも大歓迎なのよ? それに、フランからのスキンシップなんて……一度も……いち、……ど、も……」

 

 私の頭の中でひとつの世界が出来上がっていた。

『フランが迫ってきて、それを抵抗する私』

 私は絶対にフランのことならば全てを受け入れるはずなのに、どうしてか、中の私はそれを否定していた。

 ズキンッ──────

 何だ? 急に頭が締め付けられたかのように痛くなった。私は両手で頭を抑え、歯を食いしばる。

 

「お、おい! レミリア?!」

「う……がぁ……」

 

 痛い。こんな痛み、今まで経験したことがない。鎖で思い切り頭を縛られたみたいだ。頭が割れそうになる。いや、割れているのではと錯覚し始める。

 

「レミリア! レミリア!」

 

 魔理沙の必死な声が聞こえる。しかし、私はそれに応答することも出来ずに意識が朦朧としていくだけだった。

 そして、私はそのまま足の力が抜け、倒れ込んでしまう。最後まで魔理沙が叫んでいたのかも、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んぅ……」

 

 透き通った空気の中、私は目を覚ました。隣には、手を繋いで気持ちよさそうに寝るこいしちゃんの姿があった。

 今何時くらいだろうか、まだ日は傾いていないから、夕方では無いみたいだ。

 

「…………」

 

 サァァァァ…と、草が風に揺れる音だけが私の耳へと入ってくる。それは、私の中に溜まっていたものを全て浄化してくれるかのような、そんな音だった。

 

「今頃お姉様は、何してるのかな……」

 

 単純に気になった。血を吸って、私を求めるようになって私が好きなお姉様では無くなった。カリスマ性も、仕方なく私の遊びに付き合ってくれる時のあの優しい目も、何もかもが無くなった。

 

「……早く戻らないかな……」

 

 今となっては、血を吸わせたことは後悔しかない。いくら貧血だからとはいえ、吸血パックだって余っていたはずだ。余っていなくても、咲夜が用意してくれると言うのに。

 

『堕ちますよ?』

 

 咲夜の忠告を思い出す。適当に聞き流すんじゃなくて、しっかりと聞いておけばよかった。考えれば考えるほど、後悔が募っていく。

 

「……んぁ?」

「……?」

「あ、フランちゃん……おはよぉ……」

 

 眠そうに目を擦るこいしちゃんが隣にいた。声や顔からして、まだ眠たそうだ。

 

「おはよ。まだ寝ててもいいよ?」

「いんや、フランちゃんが起きてるなら、私も起きるよ」

「そっか」

 

 体を起こし、大きく背伸びをする。服に引っ付いている草を叩きながら、私たちは立ち上がった。

 

「さてさーて、今日はこれでお開きにする?」

「……そうだね」

 

 さすがに昼寝した後にたくさん遊ぼうとか、甘いもの食べようとは思わなかった。紅魔館に帰って休みたい。

 

「じゃ、またね、フランちゃん」

「ん、ばいばい」

 

 手をヒラヒラと振って、こいしちゃんはフワッと飛んでいった。1人になった私はもう一度人里からの景色を見る。少し涼しい風が心地よい。

 

「……さて、帰ろ」

 

 スタスタと少し早歩きで人里まで歩く。たまには歩いていくのもいいだろう。ちょっとした気分転換だ。

 

「……あ、咲夜」

 

 人里を歩いていると、手ぶらの咲夜が息を切らしていた。買い物以外で咲夜が人里に来るのは滅多にない。霊夢や魔理沙と飲みに行く時くらいだ。

 

「い、妹様!!」

「ど、どうしたの?」

 

 突然、切羽詰まった表情でこちらに走ってくる咲夜を見て、思わず私も慌ててしまう。そして、咲夜は私の両肩に手を置いて、叫んだ。

 

「お嬢様が……倒れました」

「……え?」

 

 倒れた。というのは、誰かにやられたということなのか。それとも……。

 

「魔理沙曰く、急に頭を抑えて倒れ込んだらしいです」

「……そ、それで今どこに!?」

「永遠亭に魔理沙が運びました!」

 

 私は迷わず永遠亭側に向かって飛んだ。全速力で飛んでいくものだから、先程まで涼しく感じていた風も少し冷たくなっていた。

 

(何で……どうして……!?)

 

 私はグルグルと疑問を頭の中で反芻させていた。今の私にはそれが精一杯の考えだった。

 そして、先程までの快晴から、黒い雲が天を覆い、ポツポツと、雨が降り始めた。

 そんな私の胸中はドキドキと、嫌な胸騒ぎがしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永遠亭に到着し、私は走って永琳のいる診察室を勢いよく開ける。

 

「お姉様!!」

「…フラン……」

 

 永琳が私を見つめる。

 

「永琳、お姉様は!?」

「今は眠っているわ。容態は紅魔館の連中が集まってから話すから、しばらくレミリアの傍にいてあげなさい。くれぐれも騒がないようにね」

「う、うん……」

 

 永琳は私を病室に案内してくれた。「ありがとう」とだけ伝えると、永琳は診察室へと戻っていった。

 永琳が角を曲がって姿を見せなくなったのを確認し、私はベッドの方へと向き直る。そこには、苦しそうに眠るお姉様の姿があった。

 

「お姉様……」

 

 一体何があったのか、隣で座る魔理沙に聞く。

 

「何があったの?」

 

 魔理沙は口を強く閉じた後、ゆっくりと話し始めた。

 

「突然、頭を抑えて倒れたんだ」

「それは……もう聞いてる。どんな話をしてた時とか、何をしてた時なのか。まさか、魔理沙が仕組んだわけないよね?」

「そんなわけないだろ。出会って少し話して倒れたんだ。仕組もうとしても時間が短すぎる」

 

 魔理沙の言いたいことは何となくわかる。それに嘘じゃないのも話し方から理解出来た。

 

「……確か、私が『以前はフランから迫っていたのに最近はレミリアから積極的になったって霊夢から聞いた』って話した後くらいから様子が変になったんだ」

「…………」

 

 どういうことだろうか? 魔理沙の言い分は分かるが、どうしてそれで頭痛を起こし、倒れるほどの重症に陥ったのか、全く理解ができず、私は固まる。

 

「……記憶がないから?」

「………?」

「魔理沙。これは後で永琳にも話すけど、魔理沙にも知ってて欲しい」

「お、おう」

 

 私は、お姉様に私の血を吸わせたこと、それにより、お姉様が私の血のせいで洗脳、もとい、魅了されたことを話した。

 

「なるほどな……だからレミリアの方から積極的に……」

「私は……それを分かってて血を吸わせたんだ……」

「……今は、レミリアが目覚めるのを待つしかないだろ。頭痛の引き金を引いたのは私だ。責任はあると思うし、私も残るよ」

 

 どうやら、魔理沙自身も少し反省をしているらしい。自分が余計な事を言わなければ、レミリアが倒れることなく、一週間迎えられたかもしれないのだ。

 

「……わかった。とりあえずパチュリー達が来るのを待とう」

「ああ、うん」

 

 しばらくすると、息を切らした紅魔館のメンバーがやってきた。パチュリーなんて数年も外に出てないから、死にそうな顔をしていた。

 

「ふ、ふら……フランっ! レミィは……はぁ……はあ……」

「ぱ、パチュリー、落ち着いて……お姉様は無事だから、とりあえず自分の心配して」

 

 パチュリーの取り乱しように驚いた私はとりあえず宥めた。ここまでパチュリーが慌てるのも何年ぶりだろうか。

 

「だ、大丈夫ですか? パチュリーさん……」

 

 後からパチュリー達を追っていた鈴仙が汗ダラダラのパチュリーにタオルを渡す。

 外は先程よりも強い雨が降り、木造の永遠亭の屋根に打ち付けていた。雨の日の独特の匂いが鼻につく。

 

「来たようね、全員」

「永琳……」

 

 カルテのようなものを片手に持った永琳が入口から顔を出す。永琳に招かれ、私達は別室の応接室に入った。ちょうど紅魔館のメンバー全員分と魔理沙の座布団がある。

 私は1番真ん中に座り、その両隣が咲夜とパチュリー、美鈴、小悪魔、そして魔理沙がいた。

 

「さて、とりあえずレミリアの安否から確認するけど」

「……」

 

 一度私達全員の目を見てから、再びカルテを見る。そして優しく微笑み、こう放つ。

 

「無事よ。後遺症の心配もないわ」

「…よかったぁ……」

 

 今までにないくらいの安堵のため息が私以外のメンバーから飛び出した。

 

「症状としては血の活性化ね」

「血の活性化?」

「ええ、フラン。貴方、以前にレミリアに血を吸わせたでしょう?」

「え? あぁ、うん……」

 

 永琳にはまだ教えていないのに見抜かれた。さすが、月の頭脳は違うと改めて認識をした。

 

「その血がやっぱり記憶を書き換えたのよね……口から胃、心臓へと繋がれて血管に貴方の血が侵入してってところ……まぁ個人差はあるのだろうけど……」

「それがきっかけでお姉様の性格が変化したと……」

「ええ……」

 

 パチュリーの考察に頷く永琳。しかし、そこで難しい顔をしたのは意外にも永琳だった。

 

「しかし、不思議ね……」

「? ……何がだ?」

 

 魔理沙の問いにすぐには答えなかった永琳だが、少し間が空いたあと、まだ曖昧だということが分かるくらい弱々しい声で答えた。

 

「血の活性化だけで、あそこまで興奮する例は今までに無かったわ。何人も吸血鬼を診たけど、せいぜい吸血衝動が大きくなるくらいよ?」

「……え……」

 

 その答えに私は耳を疑った。

 

「同じ血筋の者同士で吸血すると症状が大きくなるのは知っているわよね?」

「う、うん」

 

 以前咲夜から聞いた話だ。近ければ近いほど、興奮が増大すると。

 

「以前に吸血鬼親子がやって来てね、娘に血を吸わせたという父親がいたんだけど、その時は、誰彼構わず血を吸いたがるくらい。まぁ、永遠亭(ここ)に運ばれた理由は急激な頭痛が起きたからなのだけれどね」

「じゃあどうして……血の活性化が大きかったからとか?」

 

 パチュリーがそう尋ねる。しかし、永琳はそれにはハッキリと首を横に振った。

 

「いえ、血の活性化はむしろその吸血鬼親子よりも少ないわ」

「……どうして……」

「選択肢は二つあるわ。これは、まだ見つかっていない別の症状があるか……もしくは」

 

 永琳は真っ直ぐに私を見つめ、こう放った。

 

 

 

 

 

 

 

「レミリアの個人的な感情で動いていたか…」

 

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 ピシッと全員が固まる。別の症状を永琳が見つけていない以上、選択肢はそれだけに絞られる。

 いや、あれだけ私のアプローチを嫌がっていたんだ。それも吸血をする前まで、そんなことはありえないだろう。

 

「……話は以上よ。今日は雨もすごいし、夜も遅いから泊まっていきなさい。レミリアはあと三日、ここで入院して様子を見るわ。病室の行き来は自由だけど、くれぐれも患者に害することはしないように」

 

 永琳はそう釘をさして鈴仙と共に応接室を後にした。パチュリーは美鈴や魔理沙、小悪魔と色々仮説を立てて話し合い始めた。

 私はすくっと立ち上がり、お姉様の病室に向かう。何部屋か飛ばして『レミリア・スカーレット』の表札を確認し、入る。

 

「お姉様、入るよ」

 

 返事はない。恐らく、まだ眠っているようだ。安らかに眠るお姉様の顔は姉妹とは思えないくらいの美人だった。

 私はベッドの隣の椅子に座り、お姉様の左手を握る。

 

「お姉様……お姉様は何を考えていたの……?」

 

 囁くように、小声でそう尋ねる。返事がないのは分かっていたが、聞かずには居られなかった自分もいた。

 私は椅子から離れ、床に膝をつく。そしてお姉様の左手を私の頬に当てる。少し冷えているお姉様の手は柔らかく、心地がよかった。

 

「……お姉様は…………私をどう思ってるの……?」

 

 きっとこんなこと聞いたら「大切な妹」としか言われないだろう。

 でも、今日の永琳の話を聞いて、私はもう、お姉様と姉妹でいられるのか、分からなくなっていた。

 いや、もしお姉様が個人的な感情、意思で私にスキンシップをしていたのだとしたら。

 

 

 もう、私はお姉様と「血の繋がった姉妹」で居られない。



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20話 心底

20話行きましたねぇ………。

あと10話もないうちに最終回かもねぇ……。


「ん…………」

 

 うっすらと目を開ける。眩しくもなんともない薄暗い部屋だ。

 起き上がろうとすると左太もも辺りに何かの重みを感じた。

 

「……フラン……」

 

 スゥスゥと可愛らしい寝息を立てて眠るフラン。私はふっと微笑み、頭を撫でる。

 しかし、私は今、どうしてここにいるのだろうか。考えようとしても記憶は真っ白を主張していた。

 

「うっ……頭痛い……」

 

 起き上がるだけで激痛が走る。右手で頭を抑え、痛みが引くのを待った。

 ある程度引いた頃、私はフランを起こさないようにゆっくりとベッドから降りる。近くにあった時計を見ると、現時刻は午前1時を回った辺りだ。変な時間に起きてしまった。

 

「ここって……永遠亭?」

 

 木造の部屋なので紅魔館では無いことは分かっていたが、まさか永遠亭にいるとは思わなかったので少し驚いてしまう。

 

「どうせ今から寝れないし……散歩にでも行こうかしらね……」

 

 私が今着ている服もいつもの服ではない。淡いブルーの捻りのない和服だった。

 病室を出て、縁側に置いてあった下駄を履いて歩く。長く伸びた竹の間から注がれる月明かりはいつもよりも眩しく感じた。

 カラン、カラン、と鳳凰山で聞いた音と似ている下駄で歩く。夜風に当たるのがここまで心地いいとは思わなかった。いつもは咲夜とティータイムを過ごすことが大半であるが、こういった1人の時間も悪くない。

 私は永遠亭を出て、迷いの竹林を歩く。ここはよく迷うと言われるが、私は能力を使えば簡単に外に出られるし、永遠亭まで行くことも出来るので、心配はない。

 

「………」

 

 静かな空間にサァァという笹同士が風に揺られて触れる音だけが耳に入る。なんとも心地いい空間なのだろうか。思わず涙が出そうなほど、私はこの空気を楽しんでいた。

 

「………」

 

 未だに疑問である。どうして私は永遠亭に運ばれたのだろうか。フランの血を吸ってから何かあったのだろうか。頭をフル回転させても、記憶はそこで途切れているのだ。

 無理やり思い出そうとしても、先程の頭痛が起こるだけで、他はさっぱりだ。

 

「…朝みんなに聞くしかないわね……」

 

 ため息をつき、私は踵を返した。夜風に充分当たり、眠気がまた段々と私を支配してきた。早くベッドで寝たいと体が言っている気がしたのだ。

 そして数歩スタスタと歩いていると、聞きなれた声が右方向から聞こえた。

 

「お嬢様?」

「?」

 

 そこに居たのは、いつもとは違う和服姿の咲夜がいた。洋風なメイド服ばかり着ているせいか、浴衣を来た咲夜はどこか別人に見えたり、新鮮に思えたりもした。

 

「さ、咲夜。どうしたのこんな時間に?」

「いえ、私は夜風に当たろうと足を運んだ迄です。お嬢様、お身体の方はもう大丈夫なのですか?」

 

 咲夜は私に問うが私には何を言っているのか分からず、その場で考え込んでしまう。しかし、咲夜になら記憶が無いことを話しても大丈夫だろう。

 

「お、お嬢様? どうされました? まだどこか悪いとか……」

「いいえ、身体はもう平気よ。ねぇ、咲夜」

「はい?」

「私、フランの血を吸ってから記憶が無いのよ。そこから長い期間が経ったのは何となく分かるのだけど、永遠亭に来るまでの記憶がぽっかりと無くなっているのよね……」

「……ほ、本当ですか!?」

 

 咲夜は食いつくように私の肩を掴んだ、驚いた私は硬直してしまう。

 

「え、ええ……」

「な、治られたのですね……」

「ちょ、ちょっと咲夜。一から説明してちょうだい」

「か、かしこまりました」

 

 そして私は咲夜から血を吸ったあとの話を小一時間聞いた。それを聞いた私は驚きと後悔が入り交じった。

 

「そ、そんなことをしてしまったのね……」

「ええ、まるでお嬢様と妹様で立場が入れ替わったかのような……」

「……フランにも、謝らないといけないわね……」

「ええ、そしてもう一つ、お話があるのですが……」

 

 少し顔を曇らせた咲夜を見て、私は咲夜の顔を覗き込む。

 

「何かしら?」

「昨日の夕方、お嬢様の活性化以外にも原因がある事が判明致しました」

「えっ?」

 

 咲夜は間髪入れずに、次の言葉を発する。

 

「その原因として仮定できるのは2つありました。一つは妹様の血を吸ったことでまた別の症状が現れたか……」

 

 咲夜は指を一本立てて、一つ目の仮定を話す。私はそれを、静かに聞く。そして、咲夜は少し口ごもるが、しっかりと私の目を見据えて、二つ目の仮定を話し出した。

 

「もう一つは、お嬢様自身の意思で動いていたか……」

「……?」

 

 全く意味が分からなかった。私自身の意思? そもそも記憶が無い時点で入り込めないと思うのだが。と、自分の中で色々と考察する。

 

「お嬢様が、妹様に対して「そういった思い」を向けていた。ということです」

「…ないないないないない。絶対ないわよ、そんなこと」

 

 私ははっきりと反論する。それだけは確実に違うと言いきれる自信があったからだ。

 

「そもそも、私は血を吸った後の記憶がないのよ? 例えその思いを向けていたとしても、それは私の意思ではないわ」

「…それがお嬢様の心の奥深くにある思いだとしても、ですか?」

「っ!」

 

 咲夜のその言葉に私は言葉につまる。

 

 私は、フランが私に好意を抱き始めてから、「姉妹」という壁を使って逃げていたわけだ。血も繋がっているし、産まれてから今まで、ずっと一緒にいたパートナーでもある。

 第一、私はこいしが好きだ。この思いは今でも変わるはずのないもの。それにその気持ちに偽りは無い。それは断言が出来る。

 でも、私の中でも、フランの好意を受け止めているところもあった。例えば、温泉の時もフランの激しいキスに私は抵抗を見せなかった。今となっては後悔しているが、これが何を意味するのか、私はグルグルと頭を回転させて考えていた。

 

「……お嬢様は、妹様の思いを否定したいとは思ってませんよね?」

「……どういうこと?」

「幻想郷の中で実力はトップレベルのお嬢様が妹様のキスに抵抗をしない。これはその「思い」の現れなのでは?」

「……私は…こいしが好きなのよ?」

 

 苦し紛れに私はそう答える。これは咲夜によって追い詰められているのではなく、自分の心に追い詰められているんだろう。

 

「……そうですね。お嬢様はこいしさんが好きなのでした……申し訳ありません」

「……」

「では、失礼します」

 

 咲夜は一礼して私とは反対方向に踵を返した。どうにも腑に落ちない。

 咲夜が言いたいことは分かる。フランへの思いに否定する姿勢を見せなかったから、今このような事態になってしまっているのだ。

 しかし、1番信憑性の高い永琳が言ったんだ。吸血後の行為は私自身の意思だと。

 

「私ももう一眠りしようかしら……」

 

 今考えても無駄だ。私はくるりと振り返って、永遠亭の方へと歩き出す。月明かりがまだ明るかったが、夜は夜だ。眠気がまた支配してきている。

 ベッドに戻った私はもう何も考えられず、すぐ眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝──────。

 

「ん……」

 

 起き上がり、時計を見る。短針はまだ六を回った後だった。またしても早く起きすぎた。私は二度寝しようと、体制を変える。

 コツン……と額に何かぶつかった。少しの痛みに耐えたあと、それが何かを確認する。

 

「すぅ……すぅ……」

「ふ、フラッ……」

 

 そこに寝ていたのは、私の妹、フランが気持ちよさそうに寝息を立てていた。驚きと共に昨夜のことを思い出す。

 

(そういえば、昨日ここで寝ていたわね……)

 

 私はフランの寝顔を見つめる。いつもの元気な顔ではなく、少しお淑やかで、凛々しいフランの顔が新鮮だった。

 フランがもし起きていたら、問答無用でキスをされているのだろう、とため息混じりに思う。

 しかし、何でなんだろう。どうしてなんだろう。疑問が思い浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 何故こんなにも、心臓の鼓動が大きいのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 昨日、咲夜に指摘されて、フランを意識してしまっているのだろうか。それなら一時的だろう、きっとまた直ぐに楽になる。

 

「もう起きちゃいましょう……」

 

 フランを起こさないように、私はベッドから降りる。喉が乾いたので、隣の小さな冷蔵庫から水を取りだし、コップに入れて飲み干す。「ぷはぁ……」と大きく息を付くと

 

「んぅ……?」

 

 ベッドの方から声が聞こえ、目をやる。すると瞼の間からうっすらと見える赤い目がこちらを向いた。

 

「おはよう、フラン」

「おねえさまあ……おはよぉ……」

 

 眠そうな目を擦りながらムクリと体を起こすフラン。ここで変に意識してしまうと怪しまれてしまうので、できるだけ平常を装う。

 

「まだ眠いなら寝ててもいいわよ?」

「ううん……大丈夫……」

「はい、水」

「ありがとう……」

 

 私はコップに水を注ぎ、フランに渡す。両手で受け取りコクリ、コクリと少しずつ飲んでいく。

 

「……って、お姉様! もう大丈夫なの!?」

 

 思い出したかのように飛び跳ねて私の両肩を掴む。さすがに驚いた私は数歩後ずさる。

 

「え、ええ……大丈夫よ。心配かけたわね……」

「よ、良かったぁ…………」

「…私が血を吸ったあとの行為は咲夜から聞いたわ。色々ごめんなさい」

 

 とりあえず、フランにも迷惑を沢山かけた。私はその場で頭を下げる。フランはポカンとした後にブンブンと両手を左右に振る。

 

「う、ううん! いいって、吸わせたのは私だし……」

「いえ、それでも……」

「いいよいいよ……」

 

 姉妹とは思えない気まずさがあった。しかし、お互いに目を合わせて数秒が経つと自然に笑顔がほろりと見てる。

 

「まぁ、とりあえずお姉様が戻って良かった。やっぱり記憶ってないの?」

「ええ、そうね。フランの血を吸ったあとから今までぽっかり記憶が空いてるわ。まるでずっと眠っていたみたいに……」

「そう、なんだ……」

 

 そう、記憶は無いんだ。なら、その時の私は何が原動力だったんだ? フランの血なのか、それとも、吸血鬼の本能なのか。それはまだ答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、お姉様の真意を聞き出せずにいた。でも、まだその時じゃない。今聞いても、その答えは「姉妹として」の答えしか、返ってこない。

 それでも、早く聞きたい、お姉様の思いを早く知りたいと思う自分もいた。

 

 今はこの病室に二人きり、聞くタイミングはきっと今だ。そう脳も判断している。この際、もう聞いてしまおうか。

 

「ねぇ、お姉様」

「ん、何かしら?」

「お姉様はさ……」

 

 一言聞くだけなのに、どうしてこんなにドキドキするのだろう。口が動かない、お姉様を見れない。

 

「あ……えと……」

 

 もう迷っても仕方ない。この中途半端な関係は嫌だ。これはきっと好機だ。

 私は一呼吸置いてお姉様をしっかり見すえる。その綺麗な紅い瞳にその愛おしい姉に、私は問う。

 

 

 

 

「お姉様は、私のこと、どう思っているの?」



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21話 最後の想い

HappyBirthday to me

遅れてすみません


「……ぇ……」

 

 顔を真っ赤に染めながらもハッキリと言ったフランとは裏腹に、私はか細い声で返してしまった。

 もちろん、言っている意味が分からないのもあるが、それ以前に、唐突の質問に頭が追いついていない。

 

「………ちょ、ちょっとフラン? 何を言って……」

「……お姉様。咲夜から話を聞いたってことは、血の活性化以外の原因があることも、知ってる?」

 

 これにはしっかりと首を縦に振ることが出来た。なぜなら、確信をもって答えられる質問だから。

 

「……え、ええ、知っているわ」

「それなら、今の質問の意味もわかるよね?」

「………」

 

 少し低い声で問うフランの顔は見えなかった。でも、少しだけ見える耳は真っ赤だったのだ。困惑する私にフランは縋り付くように問い詰める。

 

「ねぇ、答えて……お姉様は…お姉様は……っ」

 

 

 

 

「誰が好きなの……?」

 

 

 

 

 フランの問いに私は息を呑む。

 

「……あっ……ぅ……」

 

 普段なら、「こいしが好き」と素直に言えるはずなのに、どうしてか、言葉に詰まる。

 答えられない。フランの質問に、何一つ発せられない。

 

「…………お姉様……」

 

 フランが私に甘えるたび、許していた。

 フランが抱きつくたび、抵抗せずにじっとしていた。

 フランがキスするたび、少しの間は我慢していた。

 こいしとそんな事をしたい。そう思っていた昔の私を思い出す。しかし、どうしてなのか、「今の」私の心の中にこいしが「いなかった」

 誰も映らない。私の心に誰もいない。

 

「……答えて、くれないんだね……」

 

 冷たいフランの声が耳に入り、ハッとする。その頃にはもうフランの頬に涙が伝っていた。

 

「………ごめんなさい……」

 

 謝るしかなかった。今の私には好きな人がいないんじゃないかと、錯覚をし始めてきた。

 

「…そっか……」

 

 フランはそのまま踵を返す。いつも見ているフランの背中が大きく見えたのは気のせいだろうか。

 そして、フランは病室を早足で出る。

 

「フラン!」

「…ついてこないで」

 

 私はフランの後を追う。しかし、フランは縁側から飛び立ってしまい。みるみるうちに小さくなっていってしまった。

 

「…フラン……」

 

 今の私に「誰が好き」なんて答えられる資格なんか無い。思わせぶりな態度を取ってフランを傷つけて、それでもなお、こいしが好きだと言い張る私が憎かったのだろう。

 私は私自身につくづく嫌気が指す。自分の気持ちにすら向き合えないのだ。何が紅魔館の主だ。笑えてくるじゃないか。

 私はその場で呆然と立ち、朝焼けの空をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、目が覚めたのね」

「……あ……ええ、正しくは夜からよ。手間を掛けさせてしまったみたいね。ごめんなさい」

 

 30分後に永遠亭を歩いていると永琳と出くわした。どうやら彼女も寝起きみたいで、寝巻きのままだった。まだ早朝と言っていい時間だ。別に不思議ではなかった。

 

「いいえ、急病人の治療をするのは医者として当然の役目よ。礼はいらないわ」

「……そう」

「そういえば、ここまであなたを運んだのは魔理沙よ? 覚えてる?」

「……いえ、知らないわ」

「もう魔理沙は帰っちゃったから、また会った時にでもお礼しておきなさい」

「ええ、そうするわ」

 

 永琳はそれだけ言うとスタスタと私の横を通り過ぎ、すぐ右に曲がった。そして障子の戸を開くと同時に私に声を掛ける。

 

「今から朝ご飯よ。東洋の食事は慣れないだろうけど、ちゃんと食べなさい」

「え、……ええ……」

 

 私は慌てて永琳のあとを追った。するとそこは大きな机の食卓だった。

 そして、もうそこには永遠亭のメンバーと咲夜がいた。

 

「おはようございます。お嬢様」

「お、おはよう……他のみんなは?」

「早朝に出ていかれました。パチュリー様は研究途中のものを片すために、こあと美鈴はその付き添いです」

 

 どうやら咲夜とフランだけがここに残っていたみたいだ。

 

「…お嬢様、妹様は?」

「……フランは先に戻ったわ」

「そうですか」

 

 咲夜は何か察したみたいで、これ以上聞いては来なかった。

 

「あら、昨日の夜はいたのにねぇ……」

「ええ、パチェの手伝いか何かみたいよ」

 

 永琳には何となく誤魔化す。本当のことなんて、赤の他人に言えるわけが無いのだ。

 それからは、とにかく無言を決め込んで、黙々と食べていった。その間、咲夜が怪訝そうに見ていたのは、気のせいではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつの間にか、人里まで降りてしまったようだ。

 何の当てもなく、ただひたすらに歩いていたのだ。何も考えず、無心で。そうしたら、いつの間にか迷いの竹林も抜けて、いつの間にか人で賑わっていた。

 

(何してるんだろ……)

 

 だんだん、馬鹿みたいに思えてきた。お姉様が答えてくれなかった事で、私の方が耐えられなくて、逃げてきてしまった。

 あのまま、お姉様が答えを出すまで、傍に居ることも出来たはずなのに、心が壊れそうだった。

 きっとそうだ。こんな状況が続けば、私はきっと滝のように想いが溢れ出てしまう。

 そんなもの、胸の奥底に仕舞わなければならないんだ。もう、諦めてもいいんじゃないか? 

 お姉様とこいしちゃんの幸せを傍から見るだけで、二人の行く末を見守る側に立った方がいいんじゃないか? 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 背後から声がする。それはもう、聞き慣れた声。

 

「フランちゃん? どしたの?」

 

 言わずもがな、こいしちゃんだった。

 

「こいしちゃん? 昨日も今日も人里に来るなんて珍しいね」

「うん、それよりお姉ちゃんから聞いたんだけど、レミリアちゃん、大丈夫?」

 

 どうやら、こいしちゃんにも情報が届いていたらしい。どこの伝手かは知らないが、あまり深入りはしてこなさそうだ。

 

「大丈夫。明日には退院出来るみたいだよ」

「そっか、良かった……」

 

 こいしちゃんの安堵の顔を見た後、私は踵を返した。

 

「じゃ、ちょっと忙しいから、またね」

「……私も行くよ」

 

 こいしちゃんの思いがけない発言に私は「はぁ!?」と言いながら振り向いてしまう。こいしちゃんは頭にクエスチョンマークを浮かべながら、可愛らしく首を傾げた。

 

「? ……別にいいでしょ?」

「だ、ダメ。大切な用事だから」

「内容も教えられないの?」

「……う、うん」

 

 苦し紛れに答える。この状況から脱却する為とはいえ、嘘をつくのは少し心苦しい。

 しかし、今のこいしちゃんの目は何かを見え透いているみたいだ。

 

「嘘」

「……」

「フランちゃん、目元赤いよ。さっきまで泣いていたんだよね。そんな用事なら、放っておくわけには行かない。それがもし別件でも、今のフランちゃんを1人にさせたくない」

「……こいしちゃん……」

 

 本当はこいしちゃん、心が読めるんじゃないかと思わざるを得ないくらい的確なものであった。

 そんな私の顔を見て、こいしちゃんはふっと微笑む。その顔は末っ子ながらも、包容力があった気がした。

 

「……じゃあさ、付いてきてよ」

 

 私はくるりと振り返って、スタスタと歩き出す。こいしちゃんは「はーいっ」と言って上機嫌そうにスキップを踏んでついてきた。

 こいしちゃんとあった事で色々と気持ちが複雑になったところもあるが、少し楽になったのも事実だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し長い距離を歩いた気がした。フランちゃんに付いてきて早10分程だろう。

 

「……ここ」

 

 いつもよりも元気の無いフランちゃんの声を聞き、私は周囲を見渡した。

 しかし、ここは何の変哲もない小さな公園。それも人里から大きく離れた場所にある、結界ギリギリに作られたようだ。

 

「……? ここに何かあるの?」

「いや、人がいないところが良くって……」

「……そっか」

 

 一つだけあるベンチに二人で腰掛ける。フランちゃんはもう疲れきっているのだろうか、ため息がとても多い。

 

「……ねぇ、フランちゃん、相談なら聞くよ。私じゃ力不足かもしれないけど、なるべく応えたいから」

「…………こいしちゃん……ありがと……」

 

 少しだけ微笑む。その顔は大人びているように見えて、私の心臓がドクッと跳ね上がる。胸を抑え、鼓動が収まるのを待つ。

 

「……あのね……旅行から帰った後、私はお姉様に血を吸わせたんだ」

「血を?」

「そう、これは吸血鬼にとっては……まぁ、一種の性行為とでも思ってくれたらいいや」

「せ、性行為…………」

 

 フランちゃんの口からそんな言葉が出て、聞いていた私が少し赤面してしまう。

 

「でもね、それのせいでお姉様は私の血が欲しいがために、別のお姉様が表になって、立場が逆転したの」

「立場が……逆転?」

 

 何となく理解はできる。要するに、血を吸わせたことで、レミリアちゃんがフランちゃんに仮染めの「想い」を向けてしまったということだろう。

 

「……お姉様が私のことを好きになっちゃったの」

「…………」

「私はそんな仮の「好き」は欲しくなかったから、必死に抵抗し続けたんだ」

 

 フランちゃんなりに頑張ったのだろう。せっかく愛しくて、繋がりたい相手からのスキンシップに耐えたのだから。

 

「それでね、昨日ひょんな事でお姉様が元に戻ったの」

「よ、良かった……」

 

 このままなんだ。なんて言われたら、私はもう一線を引くしかなかった。

 

「でもね、永琳から「お姉様の意思で動いていた可能性がある」って、言われて……」

「っ!」

「私はね、「もしかしたら、お姉様も私のことが好きなのかも」って思ったんだ」

 

 ドクンドクンとさっきよりも心臓が早く、大きく動いている気がした。つまり、今までの行動は本物のレミリアちゃんの想いということだろう。

 

「……今日の朝、聞いたんだ……」

「な、なんて?」

「「お姉様は私のことどう思ってるの?」って……」

「……っ……」

 

 これ以上、聞きたくなかった。でも、フランちゃんとレミリアちゃんの幸せを第一に考えるとか言っておいて、結局は自分可愛さだった。

 でも、そんな思いも押し殺して、私はフランちゃんが口を開くのを待った。

 

「……ぅ……」

「ふ、フランちゃん!?」

 

 フランちゃんの目から水滴が落ちる。フランちゃんは左手で涙を拭おうとしていたが、次々と溢れ出ていた。

 

「……勇気をだして来てたのに……答えてくれなくて…………」

「…………」

「分かってる……! 姉妹同士で恋が出来ないのも……! 世間的に女の子同士で結婚が出来ないのも……!」

 

 私は何も言い出せずにいた。フランちゃんの境遇は私にとても似ていたから。

 私だって、今目の前にいるフランちゃんに恋をしている。言葉じゃ表せないほど愛おしい。フランちゃんと恋人になれたらって、何度も夢に見た。

 フランちゃんとのハグだってキスだって、夢のようなものだった。

 でもそれはきっと、フランちゃんも一緒なんだろう。しかも、それは私に向けられたものでは無い。レミリアちゃんへの想いなんだろう。

 

「……フラン……ちゃん……」

「でも! それでも……! 私は……お姉様に、本気の恋をしたの!」

「……」

「お姉様の隣にいる度に、心臓が鳴り止まなくて、キスしてる間だって……何も考えたくなくて……」

 

 同じだ。私と……。

 

「それでも……お姉様の想いの先は私じゃなかった…………」

「……」

「お姉様と恋人同士になりたいって思っていても、結局は姉妹。どう足掻いても拭いきれない肩書きなら、もういっそ、諦めてお姉様の恋を応援することにしたんだ」

 

 黙って聞く。レミリアちゃんへの想い、フランちゃん自身がずっと胸の内に秘めていた思いが溢れ出しているんだ。

 

「……お姉様がこいしちゃんに向けて優しい目を送る時、私は……胸が痛かったんだ。こっちを見て、こっちに来て……って、ずっと考えていた。でも、お姉様の意中に私が入る余地なんてなかったんだ…………」

「フランちゃん……」

「我慢しようと思った! お姉様の恋を応援するように努力した……! でも……! 私の心は満たされなくて……」

 

 フランちゃんは私の知らないうちに我慢してきたんだろう。姉の恋路を邪魔しないために、自分の恋路を断ち切る。そんなこと、誰にでもできるものじゃない。

 フランちゃんは止まらない涙を放置したまま、最後の思いをこぼした。

 

「……私はお姉様と結ばれたかった……!」

「フランちゃん!」

 

 

 

 

 

 泣きじゃくるフランちゃんを私は強く抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

「……フランちゃん。私はフランちゃんが好き。大好き」

「っ!」

「フランちゃんがレミリアちゃんのことが好きでも、私はずっとフランちゃんを好きでいる」

 

 フランちゃんの苦しみを一緒に背負える自信がある。

 

「フランちゃん……レミリアちゃんを諦めるの?」

「……ぅ……ぁ……」

 

 私なら、はっきり答えられるよ。君への思い。曖昧になんてしない。

 

「……私は、フランちゃんに救われたんだ」

「…………え?」

「サードアイのせいで嫌われていた私をね? どん底から引き上げてくれたのは、他でもない、フランちゃんなんだよ」

「そ、そんな大したこと……」

「私は、何事にも笑顔で、そして他人には優しく……そんな君に私は惚れたんだ」

 

 最大限にして伝えたい。私が伝えたいこと全てを今から言うよ。

 

「……次は私がフランちゃんの思いを一緒に背負う番だ。悲しみや怒り、嬉しい気持ちや楽しい気持ちも、全て寄り添っていける」

「こいし……ちゃん……」

「これで最後にするよ。フランちゃん、あなたがレミリアちゃんを選ぶなら、諦める。でも……でもね……」

 

 最後に言いたい。私がもしフランちゃんと恋人になったらっていうたらればを……。

 

 

 

 

「フランちゃんがもし、私の想いを受け止めてくれたなら、私は、一生君を幸せにする」

 

 

 

 

「っ!!」

 

 フランちゃんの涙が溢れ出すのを感じた。私はフランちゃんから少し離れて、目を見る。

 その紅くて美しい目も、その綺麗な金髪も、クリスタルのような鮮やかな羽根も、そして、その可愛らしくて愛おしい顔も。全てが私は大好きだったんだ。

 

 私にとって最初で最後の恋。

 それを伝える時が来たんだ。伝えよう。私の恋心を。

 

「だから……だからね……」

 

 そして私は、最後の告白をした。

 

 

 

 

 

「好きだよ。フランちゃん。大好き……私の……恋人になってくれますか?」




ここから物語が分岐します。

分岐ルート

レミリア×フランドール(完結)

フランドール×こいし(完結)

こいし×レミリア(完結)


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分岐 : 姉妹の壁を超えて
分岐ルート1話 幸せを満たす気持ち


エロエロ回最近ないけど、いいよね別に

分岐ルート1つ目、レミフラです


 コンコンと、木製の良い音がした。

 

「どうぞ」

 

 ベッドの上で本を読んでいた私はすぐさまそれに対応した。

 

「失礼します。お嬢様」

 

 ゆっくりと戸を開けて入ってきたのは、予想通り、咲夜だった。

 

「どうしたのかしら? 咲夜」

「…………お嬢様。妹様はどちらに?」

「……私が起きた時にはもういなかったけれど」

 

 咄嗟に嘘をつく、あんな事咲夜にも言えるわけが無い。しかし、鋭い咲夜にとってはそんなのただの戯言に過ぎなかった。

 

「何を言ったのですか? お嬢様」

「……何の話?」

 

 私はまだ粘ろうとして、平然を装う。しかし、咲夜は目までもが鋭くなっていた。

 

「……お嬢様、妹様を呼びに戻られないのですか?」

「……呼び戻すも何も、どこにいるかも分からないのよ? どうしようもないじゃない」

「そう、ですか…………」

 

 少し強めに言ってしまった。少しのイラつきでこう威圧を与えてしまうのは、私の悪い癖だ。咲夜は慣れっこだが、私が怒ってしまうと手が付けられないみたいで、諦めてしまうらしい。

 

「お嬢様自身はもう大丈夫なのですか?」

「ええ、お陰様で、咲夜にも面倒をかけたわね」

「いいえ、主の大事に駆けつける。当たり前のことです」

 

 誇らしげに笑う咲夜。その顔を見て私も微笑む。

 

「……では、私はパチュリー様にお呼び出しを頂いたので、先に紅魔館に帰らせて貰います」

「ええ、分かったわ」

 

 咲夜は扉の前で一礼すると、早々と病室を後にしてしまった。そうして私はまた一人になった。

 

「…………」

 

 朝の事で頭がいっぱいになっているのが分かる。それくらい、フランの顔と言動が私の心に突き刺さったのだ。

「誰が好き」そんなの、私はこいしが好きだ。でも、フランも大切で、これからずっと一緒にいたい。

 でも、それは妹として? それとも、一人の吸血鬼として? 自分の心に問いかけるが、答えは分からなかった。

 

「……気分転換……ねぇ」

 

 頭が混ざりに混ざりあってしまっているので、深夜と同じく、気分転換しようと病室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こいしちゃん……」

 

 こいしちゃんの告白にさらに涙が溢れ出た。嬉しかったんだ。単純に私のことを支えてくれたこいしちゃんの言葉が。

 

「……返事が……欲しいな……」

 

 甘えるように、でも、そっと包み込むようなこいしちゃんの声音が耳に入る。

 こいしちゃんの覚悟が本気だってことは目を見れば分かる。きっと、こいしちゃんになら、この身を委ねることだってきっと幸せになれる。

 

「……」

 

 言葉が出てこない。

 なぜかと言うと、言わずもがな、お姉様の顔が思い浮かんでしまうからだ。

 

 

 

 

 小さい時から、お姉様に助けてもらってばかり。怪我をした時だって、失敗をした時だって。お姉様に頼りきりの私は本当に情けなかったと思う。

 それでも、お姉様の存在は確実に私を変えてくれた。お姉様に真っ直ぐな恋心を向けることが出来たのは、お姉様の何も考えない真っ直ぐな心のおかげだ。

 

 こいしちゃんも、私の初めてできた友達だった。お姉様や咲夜、紅魔館のメンバー以外には、恐れられてきた私。その中でも、こいしちゃんだけが唯一私を怖がらなかった。くだらない理由に聞こえるかもしれないが、私にとってはそれが飛び上がるくらい嬉しくて、こいしちゃんも関われるのも幸せだったと思う。

 でも、そんなこいしちゃんが今、私に真っ直ぐな恋心、気持ちを伝えた。

 

 このまま、こいしちゃんと恋人になるのも悪くないと思う。きっとそれが、「正解」のルートなんだろう。血のつながっていない、親しい相手との付き合い。恋人。

 絶対に楽しい。明るくて、元気なこいしちゃんと一緒にバカみたいなことを沢山やってみたい。悪い妖怪を退治したり、霊夢やみんなとどんちゃん騒ぎしたり。そして、二人で肌を重ね合う。きっと幸せだろう。

 

「私は……」

 

 口を開き、こいしちゃんの目を見据えて、微笑む。

 きっとこれが本当の気持ちだから。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……こいしちゃん。やっぱり私はレミリアお姉様が好き」

 

 

 

 

 

 

 

 きっと「正解」のルートから外れて、「不正解」のルートに進んだら、それはきっと茨の道なんだろう。

 でも、お姉様と共にその道を歩むのなら、それ以上の幸せはない。

 

 

 

 

 

 だから私は、レミリアお姉様を選んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そっか」

 

 こいしちゃんは優しく微笑んだ。少し涙ぐんでるような気もしたが、私はそのまま目を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね……」

 

 その言葉が私の心に突き刺さる。槍でも刺されたかのように、強く刺さった。

 

 知り合ってからずっと、私はフランちゃんの事が好きだった。嫌われ者だった覚り妖怪である私のことを大切に思ってくれて、私に生きる意味をも与えてくれた。いわゆる恩人と言うやつだろう。

 フランちゃんがレミリアちゃんを好きなのは分かっていたし、姉妹の仲に入ることなんて出来なかった。それで、レミリアちゃんは私に想いを向けて、私はフランちゃんに想いを向けて。こんな三角関係が出来て、それでもなお、私はそれが心地よく感じた。

 でも、やっぱり終止符を打ちたかった。こうやってフランちゃんに告白したのも、結局は自分が幸せになりたかったんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 でも、一方通行の幸せは、きっと幸せなんかじゃない。

 

 

 

 

 

 

 幸せにも色々なものがある。食べる時、眠る時、誰かと話す時、好きなことが出来る時。どれもこれも、私は確かにそれらに幸せを感じた。

 でも、フランちゃんと出会ってから、もうひとつ新しいピースが生まれたかのように心が欠けていた。

 私の心は以前までのものでは満たされることは無くなっていた。そこに「フランちゃん」という大きな存在が、いつの間にか私の心を埋めつくしてくれるキーになっていた。

 そうして私は今日、フランちゃんとの距離を縮めて、互いに幸せになっていく為に最後の告白をした。

 フランちゃんと繋がっていたい。想い合っていたい。幸せになりたい。そう願った。

 

 でも、それは叶うことはなかった。

 

 フランちゃんが幸せになれる相手はきっと私じゃない。人を好きになることに縛りなんて無いのだから、不思議なことでは無い。

 

「……そっか」

 

 不思議なことでは無いはずなのに、予想することだって安易だったはずなのに、私は考えたくなかった。

 私の想いは届かない。永遠に、私の心のうちに秘めることしか出来ない。

 

「……仕方ないか。フランちゃんの好きな子はレミリアちゃんだもんね」

「うん、私はレミリアお姉様とずっと繋がっていたい。想い合っていたい…………ふたりで、幸せになりたい」

 

 フランちゃんの眼中にもう私はいなかった。彼女はもうあの子(レミリアちゃん)しか写っていなかった。

 

「なら、早くレミリアちゃんに答えを聞きに行きなよ。きっとあっちもフランちゃんを探してる」

「……うん……」

 

 これできっと、この想いにキッパリと決別が出来る。この数十年のモヤモヤが、ようやく今日、開放されたんだ。

 

「ありがとう、フランちゃん。これからも、よろしくね。ずっとずっと、大好きだよ」

「……こちらこそ、本当にありがとう」

 

 笑顔を返すフランちゃん。今ここで、「やっぱり付き合って」と言ったら、OKしてくれるだろうか。

 フランちゃんの笑顔を見ていたら、たまらなく寂しく感じた。

 

「っとと……その前に……フランちゃん」

「?」

 

 ちょいちょいと手招きする。不思議に思ったフランちゃんは小首を傾げながらも私に近寄る。

 そうして、私は近づいてきた顔に向けて

 

 

 

 

 

 

 

 そっと、優しく唇を重ねた。

 

 

 

 

 

 

 

「……っ……」

 

 フランちゃんは一瞬だけ驚くが、直ぐに私を受け入れた。フランちゃんの柔らかい唇の感触が、今だけは悲しいくらいに胸を痛くさせる。

 唇を離して、私は精一杯の笑顔でフランちゃんを見る。

 

「ほらほら、フランちゃん。レミリアちゃんが待ってるから、急ぎな?」

「……う、うん!」

 

 大きく頷いたフランちゃんはすぐさま踵を返して、公園から離れていく。私はそれをずっと見送っていた。

 

 その途端から、私は何かが崩れ落ちる音がした。フランちゃんに振られた時から我慢していた涙のダムが決壊したのだ。頬から零れ落ちる涙は止まることを知らなかった。

 

「そっか……私……失恋したんだ……」

 

 想いが届かない事がこんなにも悲しくて辛いなんて思いもしなかった。

 チクチクと胸が痛くなるのが辛い。今すぐにでもフランちゃんに会いたい。でも、それが叶わないんだ。

 

「うぅ……あぁ……」

 

 悲しくて、辛くて、苦しい。

 恋が叶わないという事実が私を押し潰しそうになる。

 上を見る。雲一つない青空が私たちを照らしていた。その太陽の光はとてつもなく綺麗で、美しかった。

 その光が私の涙をも照らしてくれた。

 

 

 

 

 

「……こいし……」

 

 聞き慣れた声がした。ベンチの上で泣いていた私の正面にいたのは、正真正銘、さとりお姉ちゃんだった。私の気配を感じて、ここにいると分かったんだろう。

 私はお姉ちゃんに向けて笑いかける。

 

「へへっ……私、失恋しちゃった……」

 

 白い歯を見せて笑う。でも、上手く笑うことが出来ない。作り笑いとか、愛想笑いなんていつでも出来たのに、どうしてか、涙が止まらない。

 お姉ちゃんはすぐさま、私を抱きしめた。お姉ちゃんの温もりが直接伝わる。

 

「よく……頑張ったわね……こいし……」

「ひぐっ……あぁ……」

 

 お姉ちゃんに包み込むように言われる。それによって、また涙が溢れ出す。

 

 叶わない。届かない。この気持ちは永遠に胸の奥に。

 

「……たくさん泣きなさい。お姉ちゃんが傍にいるから」

「お姉ちゃぁぁん……」

 

 情けなく泣いてしまう。フランちゃんにはあまり見られたくない顔だ。

 でもお姉ちゃんにはよく見せてしまうから。今更どうってことない。

 泣いている時は昔からこうやってお姉ちゃんがそばにいてくれた。虐められた時も、怪我をした時も、「大丈夫大丈夫」と言って頭を撫でてくれたんだ。

 今もこうして、抱きしめられながら、優しく撫でられている。

 

 そうだ、私はひとりじゃない。ひとつの恋が終わっただけなんだ。周りには、レミリアちゃんやお姉ちゃん、地霊殿のみんなだっている。そして、フランちゃんもきっと、これから先友達でいてくれるだろう。

 

 色々な想いが混ざった涙を流しきるまで、お姉ちゃんはずっと頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「う、うん。ありがとうお姉ちゃん」

「フランさんは結局、レミリアさんを選んだのね……」

「……うん……でも、後悔はしてないよ。モヤモヤしていた気持ちをきっちり断つことが出来たから」

 

 お姉ちゃんは少しだけ驚いた顔をするが、すぐに表情を緩めて、笑う。

 

「そう、いい顔をするようになったわね。お姉ちゃん嬉しいわ」

「い、いつまでも子供扱いしないでよね……」

「いいえ? 私の妹である限り、ずっと子供よ?」

「それってつまり一生子供? つ、辛いなぁ……」

 

 やっぱり私はお姉ちゃんがいないとダメになってしまう。辛いことがあった今でもお姉ちゃんと話せば楽になる。きっと、これが姉妹の間で出来た絆なんだろう。

 

「……さってと、もう日が暮れてきたわね」

「え、嘘っ、さっきまでの青空だったのに……」

「この季節は日が沈むのが早いのよねぇ……さ、暗くならないうちに帰りましょう?」

「…………そうだね……」

 

 お姉ちゃんが立ち上がり、私に右手を差し伸べる。それを掴んで立ち上がる。

 

「今日は久しぶりにお姉ちゃんが晩御飯を作ってあげる。こいしさん、リクエストどーぞっ」

「うーん……あ、ハンバーグ!」

「了解。じゃあ材料買って帰りましょうか」

「……あっ、晩御飯買いに行くついでだったんだ」

「当たり前よ。今日こいしが告白するなんて思っても見なかったもの。せっかくデートから告白までのプラン組んだのに……」

「あ、あれはその場の勢いもあったからね……」

 

 苦笑いをする私は繋がれた左手をギュッと握る。それに気づいたお姉ちゃんも握り返してくれた。

 

 

 

 

 

 

 届かない、叶わない。そんな辛くて悲しい気持ち。

 この想いはもう終わりだ。実現することは無い。

 でも、この想いを持ち続けることは出来る。「好き」という気持ちに偽りがないのならば、容易だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 だからこの気持ちは胸の奥に閉じ込めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の幸せを満たす気持ちはこれだけでは無いのだから。



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2話 本当の気持ち

めっちゃさまよった。
駄文です。


 スタスタと早足で歩いていく。迷いの竹林は本当に人がいないから、静寂の一言に尽きる。

 

「……いい風……」

 

 普段バルコニーなんかで浴びる風は紅茶の味なんかもあって感じることはなかったが、ただ単に風を浴びるだけというのもいいものだ。

 こう考えるのも、私の頭の中で色々と混ざりあってしまっているからだ。曖昧な答えに、私もフランも納得がいかなかったから。

 

(誰が好き…………か……)

 

 仮にだ。もし私がフランのことを想っているとする。フランと手を繋いで、抱き合って、そしてキスをする。

 そうしたら、その先は? 姉妹同士で、さらには恋人同士であるその先にあるものはなんなんだ? 

 頭の中でグルグルとそんな疑問が反芻させられる。

 

 もうひとつ、私の恋。つまり、こいしと恋人同士になれたとする。

 周りからは応援されて、きっとフランや皆は喜んでくれると思う。私の想いも叶い、幸せな日常が待っているに違いない。

 でも、それが本当に私の想いなのか? 本当の気持ちを晒けだせているのか? 

 

(いっそ、誰も好きではない。っていうのが、一番平和……ではあるわよね)

 

 別に無理やり誰かを好きになる必要なんかない。このまま余生を過ごすのも、絶対に幸せではあると思う。

 

「………」

 

 でも、それは違う。いや、きっと私の心の中に恋心は確かに存在している。それがまだ曇っているだけだ。

 

「おいおい、なーに湿気った顔してんだよ」

「っ!?」

 

 驚いた私はバッと後ろに飛ぶ。考え事のしすぎで、周りの気配を感じることが出来なかったのだ。

 

「……ま、魔理沙……」

 

 上の木の幹に座っていたのは、紛れもなく魔理沙だった。一安心する私は一つため息をついた。

 

「どうした? 私の気配に気づかないなんて珍しいな…………って言っても、ある程度事情は知ってるが」

 

 魔理沙は「よっ」と言いながら軽快に木から飛び降りる。そして、大きな三角帽子を被った後、口を開く。

 

「さて、もう身体は大丈夫なのか?」

「ええ、ありがとう魔理沙。あなたがいなかったら今頃どうなってたか……」

「そんな大袈裟な。まぁ、無事なら何よりだぜ」

 

 少し照れながらも受け止めてくれる。魔理沙は古くからの友人と言っても過言ではない。

 すると、魔理沙は切り替えたかのように急に真顔に戻る。

 

「今日、朝からここの竹林にいたんだ。そしたら、泣きながら飛んでくフランを見たんだ。フランが速すぎて声をかけれなかったが……どうしたんだ?」

「……私がフランを傷つけた。それだけよ」

 

 話すと長くなる。それに、これは私の問題だ。他人を巻き込んでいいものでは無い。なので、出来るだけ簡単に返答していく。

 

「……なるほどな…なんだ、喧嘩でもしたのか?」

「…まぁ、そんなとこよ。思わせぶりな態度をとった挙句、質問に答えなかったから怒ったんでしょう」

「……大方、お前がフランの気持ちを裏切ったりしたんだろ?」

 

 少し強めに言ってきた魔理沙。いつもは温厚で優しい魔理沙だが、今回は少し怒りも入っていた気がする。

 助けて貰った恩人なのに、私は苛立ちを隠せず、魔理沙にも強く当たってしまう。

 

「うるさいわね。これは私とフランの問題よ。あまり首を突っ込まないでちょうだい」

「じゃあお前は一人で解決出来るのか?」

「………」

 

 食い気味に質問した魔理沙に対し、私は口ごもってしまう。

 私一人で解決出来るのだろうか? あやふやな気持ちのまま、気分転換とか調子のいいこと言って、今もフランを傷つけているのではないか。

 きっと、フランは私が「こいしが好き」とはっきり答えたら、諦めてくれていたかもしれない。いや、きっとそうしてくれる。

 でもそれが本当に私の本心なのかと聞かれれば、必ずしもそうでは無い。

 

「…珍しいよな。お前らが喧嘩だなんて」

「な、何? 急に」

「私はな、羨ましかったんだよ。レミリアとフランが」

 

 太めの竹の根元に腰掛け、魔理沙は目を閉じながら、何かを思い出すかのように語り始めた。

 

「心を寄せ合うことの出来るパートナーがいて、運命共同体、一心同体のような素敵な関係の姉妹って、一人っ子の私にとっちゃ、羨ましいものなんだぜ」

「………そう……」

「紅霧異変の時もさ、私がお前を倒して、霊夢がフランを倒しただろ?」

「ええ」

「あん時のお前の顔、すっげぇ怖かったんだ。もうただただ支配することだけが目的で、何もかも見失ってる顔してた」

 

 あまり思い出したくもないが、あの時は圧倒的に魔理沙の実力が上だった。フランも同じく、博麗の巫女の力の前に呆気なく膝をついた。

 

「……でもな、あの後、お前らが諦めずに私たちを殺そうとしていた時の顔、すっげぇいい笑顔だったんだなぁ、もはや狂気的」

「え、ええぇ……」

 

 苦笑いをする。そんな顔をしていたのかと、恥ずかしさもあるが、「狂気的」と言われたことに少しショックを受ける。

 

「……あの時な私思ったんだ。『あんなカタブツのやつでも、信頼出来るパートナーがいれば、あんなに楽しくなるんだな』って」

「…………」

「きっとお前らは、紅霧異変の前も辛い体験をしてきたんだと思う。そりゃそうだ。吸血鬼なんて、人からしたら恐怖でしかないもんな」

「わ、悪かったわね……」

 

 否定は出来ないが、実際に言われると少しムッと来るものがあった。魔理沙は白い歯を見せて「すまんすまん」と軽く謝ってきた。

 

「でも、そんな困難も2人で乗り越えてきたんじゃねぇか?」

「……そうね。互いに支え合って、寂しさを埋めて、守り抜く………そんな生活だったわ」

「……お前の信頼出来るパートナーなんて、フラン以外には務まらない。お前ら一人ずつじゃ、きっと弱い。二人で協力し合って初めて「最強のスカーレット」が誕生するんだ」

「…………」

「きっとお前も今は混乱していると思う。だからちゃんと整理だけはしておくんだぞ」

 

 魔理沙は強い眼差しで私を見つめてきた。

「信頼出来るパートナー」。そう言われても、当たり前のようにフランが隣にいたからそう認識することはなかった。

 

「っと、私から言えるのはそこまでだ。あんま部外者が言える立場じゃないしな。じゃあとは頼むぜ、咲夜」

「さ、咲夜!?」

「申し訳ありませんお嬢様。盗み聞きみたいな形になってしまって……」

 

 突然、魔理沙の後ろから姿を現した咲夜は直ぐに頭を下げた。

 

「こ、紅魔館に戻ったんじゃ……」

「嘘…では無いのですが、どうしてもお嬢様が心配で、私じゃあれ以上踏み込めないので、魔理沙に頼みました」

「…そう……」

 

 すると咲夜はスタスタとこちらに歩いてきて、1メートル前くらいで立ち止まる。

 

「……お嬢様、フラン様にお気持ちを伝えられなかったのですか?」

「……気持ちも何も、伝えるものなんか…………」

「気持ちの整理がつかない。という事ですか?」

 

 心を読んだかのようにそう答える咲夜。私は「ええ」と言いながら首を縦に振った。

 しかし咲夜は「はぁ……」あからさまに大きなため息を目の前でついた。

 

「あのですね……お嬢様……」

「な、何よ……」

 

 咲夜は少し困ったような顔をするが、直ぐに私に告げた。

 

 

 

 

 

 

「お嬢様の想いは、とっくにフラン様に向いてますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 思わず、素っ頓狂な声を上げてしまう。というか、咲夜の言葉の意味をイマイチ理解出来ていないというのもある。

 

「だから、お嬢様はとっくにフラン様のことを好いておられるのですよ」

「いやいやいや……」

 

 と、否定しようとするが、「こいしが好き」とも言えなかった。というより、否定「しなかった」。

 

「ではお嬢様。目を閉じてください」

「え、な、何……?」

「そーっと……目を閉じてください」

 

 私は言われるがまま、目を閉じた。

 

「お嬢様は今、私たち紅魔館メンバーと出会う前に戻っています」

「ええ…………」

 

 昔を思い出す。

 吸血鬼ハンターに追われ、血まみれになりながらもハンターたちを殺戮していき、フランと共に生き抜いた日々。

 

「お二人はきっと困難な道でしたでしょう……」

 

 フランを守るために、身代わりになったり、怪我をしたフランを見ているのがとても辛かった。

 涙を流すフランを抱きしめてあげることしか出来ず、自分の無力さを知った。

 

「きっとその後、2人で何か希望を見出したのではないですか?」

 

 希望。綺麗に言えばそうなるかもしれないが、実際は人を殺すことだ。裁くものはいない。

 だから、自由に人を殺めることも容易い。だから私たちはそれを楽しみにしていた。それこそ、私たちの希望だと思う。

 

「その日々と希望は一人で支えることが出来ると思いますか?」

 

 即答だ。支えられるわけが無い。フランが居ないと、結局私も何も出来ないのだ。フランの前だけ「いい姉」を演じていただけで、まだ私も子供なのだ。

 

「………そうして、私たち紅魔館メンバーと出会いましたね」

 

 最初に美鈴と出会い、決闘を申し込まれて、勝った挙句に部下になりたいと言われ、美鈴が2年足らずで最初の紅魔館を立てた。まだ小さかったが、日に日に増築されていった。

 

 その後、パチュリーと小悪魔に出会い、本のことで話し合っていたら、いつの間にか日をまたいでいたこともある。魔法使いが来たことで、紅魔館がより強固になった。

 

 そして、咲夜と出会った。彼女は恐らく虐待か何かを受けていたのだろう、身体中アザだらけの咲夜を私は放って置けなかった。私がメイドのイロハを教え、咲夜が成長していく様を間近で見ていた。

 

「私は、拾われた時からお嬢様とフラン様を観察していました」

「か、観察……」

 

 少し言い方が不気味で、当初からそう思われていたのは少しショックだった。

 

「私に向ける目とフラン様に向ける目がまるで違ったんです」

「……え?」

「私に向ける目は優しい家族のような慈愛に満ちた目でした」

 

 私は最初から咲夜を家族のように愛していた。きっとこれから、彼女も大切になると思うから。

 

 

 

「ですが、フラン様に向ける目はとろけていて、まるで乙女でした」

 

 

 

「はぁ!?」

 

 思わず目を開ける。

 

「そ、そんなわけ……」

「あるんです」

「う……」

 

 咲夜は強めに正す。

 

「それから、フラン様がお嬢様に惚れ、キスやハグなどといった恋人がするようなことを求めるようになっていった」

「ええ、そうね……」

「お嬢様は一度たりともそれに抵抗しませんでした」

「そ、それはフランを傷つけたくないから」

「いえ、『あなたも求めていたから』です」

 

 そう言われ、私はドキッとする。やりすぎた時には少しお仕置をしたが、たしかに一度も最初から「嫌だ」とは言ったことはなかった。

 

「お嬢様はその後こいしさんと出会いました。そして、こいしさんに恋をした。恐らく、その気持ちは本物ですよね」

「当たり前よ」

「でもきっと、あなたはフラン様の方がずっとずっと好きだったんじゃないですか?」

「…………」

 

 言葉につまる。何も言い返せない私がいた。それに、さっきからチクチクと胸が痛くなっているのもわかる。

 

「姉妹だから、というのを免罪符にフラン様への気持ちを隠していた。でも、その気持ちをさらけ出せるフラン様が羨ましかった。違いますか?」

「……違……わない……」

「……まだ心にモヤがあるみたいですね。では、もう一度目を閉じてください」

 

 苦し紛れに認める私だが心の中ではまだ何も認められていない。フランが好きなのかどうか、ここまでくればハッキリさせたいというのもある。

 

「では、これで最後の質問にしましょう。正直に答えてください」

 

 目を閉じた私の両手を握る咲夜。その声色はとても優しかった。

 

 

 

 

 

 

「レミリア様。あなたの目に映る大切な人は……誰ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 目に映る。

 私にとって、この生涯でずっとずっと大切にして、愛せる人。

 辛い道も楽しい道も、悲しい道も全てを2人で背負える人。甘やかすこと、そして、時に甘えることができて、全てをさらけ出せる人。

 

 私の心の迷いの正体、きっと自分から勝手に霧を被せていたんだ。答えは最初から決まっているのに、自分から……。

 

 小さい頃から、ずっと二人でいたから気づかなかったんだろう。

 

 

 

 

 一人の家族として愛している存在、そして、たった一人の吸血鬼として好いている存在がずっと私の隣にいたんだ。

 

 

 

 

 

 そして、私の目には一人の少女が浮かび、その名を口にする。

 

 

 

 

「……フラン……」

 

 

 

 

 

「……お嬢様、目を開けてください」

「…………私の……好きな人……」

「ええ、どなたですか?」

 

 咲夜は目じりに涙を浮かべながら、微笑み、私を見つめる。

 

「フランドール……」

 

 私が、ずっと隣にいて欲しい存在はずっと前から決まっていたんだ。

 フランドール・スカーレット。彼女こそが私の愛しい人だった。姉妹という壁が隔たれたおかげでこの奥底の気持ちを掘り出すことが出来た。

 

「……きっと、フラン様は今もお嬢様を想い続けています。裏切られても尚、どこかでお嬢様に助けを求めています。それを救えるのは他でもないレミリアお嬢様だけなんです」

「咲夜……」

「……さぁ、行ってください。その気持ちをフラン様に伝えてください。心に決して偽りなんかありません。本物なのだから……」

「………ええ、ありがとう。咲夜、あなたのおかけで、私は自分の気持ちと向き合うことが出来た。きっとこれからもあなたのお世話を求めるわ……」

「ええ、お任せ下さい」

 

 私は決めた。この想いは偽物なんかじゃない。

 私はフランドールを、一人の吸血鬼として、いつの間にか好きになっていたんだ。

 きっとフランよりも前に私は惚れていたんじゃないか、それを姉妹なんかという壁によって苛まれいたんだ。今となっては馬鹿馬鹿しい。

 いつも私は「もしフランと姉妹ではなかったら」と考えていた。そんなたらればの話をする時、想像すると心地がよかった。

 

 きっとこいしの事も好きなんだと思う。二人を好きになるなんて卑怯で強欲かもしれないけど、結局、行き着く先はフランの顔が思い浮かぶだけだった。

 

 伝えたい。この気持ちを今すぐ。上手く言えなくてもいい、全てを伝えられなくてもいい。

 ただただ、大切な人(フランドール)に「好き」と言えるだけでいい。

 

 私はその気持ちだけを胸に、フランを探すため走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お疲れ、咲夜」

「魔理沙……」

 

 お嬢様が自分の気持ちに気づき、走り去っていく姿を最後まで見守っていた。

 私は涙を拭い、魔理沙の方を向く。どうやら、私が話している間はずっと竹の裏側で聞いていたみたいだ。

 

「……お前んとこの主は一歩成長……したな」

「ええ、世話の焼ける方だけど……素敵な方よ。清純な心の持ち主というのが改めて分かったもの」

「ちょいと誘導尋問しすぎたか、私も咲夜も」

「あのくらいしないと自分の気持ちに気づかないでしょう?」

「全く、自分よりも身内の方が自分の気持ち知ってるっておかしな話だよなぁ……」

「お嬢様は鈍感な方だから……」

 

 そう言って苦笑いをする。魔理沙は後頭部で手を組みながら、私の顔を微笑みながら見ていた。

 

「な、何よ」

「いや、咲夜はやっぱり保護者だなって」

「…………あの二人の保護者……ねぇ」

「なんだ、嫌なのか?」

「いいえ、あの二人のお母さんになるのも悪くないかなって……そう思っただけよ」

「あははっ、そりゃいいかもな……」

 

 私は信じている。あの二人が全ての気持ちを伝えてくれることを。

 二人が道を外しても、それを支えるのが、側近のメイドとしての役目。いや、一人の家族としての役目なんだろう。

 

 

 

 

 神様、どうか、二人の行く末が幸せなものでありますように。



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最終話 スカーレット姉妹

気づけばお気に入りしてくださる方が300件を超え……20話も超え……。
最初は1番続ける気が無かった作品でした。
今回、最終回です。



 私の心臓はまだバクバク高鳴ったままだ。こいしちゃんとの別れの言葉の後、私は永遠亭へと走っていった。

 今、お姉様は誰が好きなのだろうか? きっと、まだこいしちゃんが好きなんじゃないか。

 そんな嫌な考えが頭の中をグルグルと回っている。しかし、今の私に弱気になっている暇はない。

 

 きっと、こいしちゃんは勇気を振り絞ったんだ。私への最後の告白、今までの軽い気持ちと比べ物にならないくらい、こいしちゃんは真剣に想いを伝えてくれた。

 今思うと、そのこいしちゃんの気持ちが今の私の原動力かもしれない。

 お姉様にもう一度伝えたい。けど、伝えてもきっと、また朝のような結末になるに違いない。そんなマイナスの考えも時折姿を見せてくる。

 

「うーん……」

 

 今この時にお姉様に気持ちを伝えるべきなのだろうか。私の質問を曖昧に返され、気持ちの整理もついていない。

 

「でもきっと……」

 

 今しかない。直感がそう語っている。多分、この先も告白のチャンスは沢山あると思う。でも、それでも、お姉様への「気持ち」は今伝えなきゃいけないと思った。

 ここまで、お姉様への気持ちが溢れ出しているのは初めてかもしれない。何故かは分からないが、こいしちゃんの言葉の返答のとき、「お姉様を選ぶ」という言葉に凄い重みを感じた。

 

 そしてあっという間に、永遠亭に着いた。

 

「永琳!」

 

 私は、玄関を通りかかった永琳に声をかける。声に反応し、振り向いた永琳は少しだけ驚きの顔を見せる。

 

「フラン、戻ってきたの?」

「う、うん。それより、お姉様いる?」

 

 そう問うと、永琳はすぐさま顔を横に振った。

 

「いいえ、少し前にここを出たわよ。行先は聞いてないけれど……」

「う、ほ、ほんと? 分かった。ありがとう!」

 

 私は身を翻し、永遠亭を出た。

 

 

 

 ただお姉様を探すだけなのに、どうしてこんなにもドキドキしているんだろうか。それこそ、お姉様への気持ちが溢れた、ということなのだろう。

 早くお姉様に会いたい。そして、この気持ちをありのまま全て伝えたい。

 お姉様は、この気持ちを受け止めてくれるかな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、咲夜と魔理沙と別れ、フランを探すために飛び回っていた。

 私はようやく、長年のモヤモヤの原因を咲夜達のおかげで見つけることが出来た。

 

 私はフランが好きなんだ。好き、大好き。この気持ちはさっきから留めることを知らない。

 フランのことを考える度に早く会いたい。触れたい。そう思ってしまっている。

 

 こいしに恋をしている時、こんなにも想いが前に出たことがあったのだろうか。

 

「フラン……」

 

 名前を呼ぶ度、顔が熱くなっている。きっと、今だけはフランが妹だってことを私は忘れていたんだろう。

 あの綺麗な金色の髪に、真っ赤な瞳に、あの白い肌に、そして、あの可愛くて愛おしい笑顔に、早く出会いたかった。

 この気持ちをフランに伝わるかしら……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 

 女の子同士で、さらに姉妹で恋なんて、きっとおかしい。

 同じ母親から生まれ、そこから今まで、共に生活してきた絆は深いものではあると思う。

 

 どれだけ絆が深くても、どれだけ幸せな道を進んだとしても、恋に落ちることはまず無いだろう。

 

 でも、私達は違う。

 

 

 レミリアお姉様は、ずっと私を支えてくれた。過ちを全て受け止めてくれた。

 私達の業を嫌な顔一つせずに背負ってくれた。第一に私を考えてくれた。私がレミリアお姉様にキスをしても、ハグをしても、決して私を傷つけることは無かった。

 多分、これだけでも、私がお姉様を好きになった理由になる。

 私のこの思いはきっといつまでも変わることはないと思う。

 

 

 私は、レミリア・スカーレットに、恋をしてる。

 

 

 

 フランは、ずっと私の後を追いかけていた。フランの失敗も、過ちも、全部私が背負っていた。

 でも、嫌な気分は無かった。フランが大切な妹だから、そんな理由もあると思う。

 フランが私のことを恋愛的に見ていた時も、おかしいとは思ったけど、内心嬉しいと思っていたんじゃないかと思う。フランが私のことを好きになる前に、フランの容姿にはもちろん、眩しい笑顔やその優しさに私は惚れていたんだと思う。

 

 

 私は、フランドール・スカーレットに、恋をしてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早くフランに会いたい。

 早くお姉様に会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この溢れ出す思いを早くぶつけたい。

 こいしちゃんの思いごと、ぶつけたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が「好き」と言ったら、フランは驚くだろうか。

 私が「好き」と言ったら、お姉様に受け流されるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、もう迷わない。

 もう、迷いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 この「好き」という気持ちに偽りはない。

 この「好き」という気持ちは本物だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く。

 早く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランに会わせて。

 お姉様に会わせて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………フラン」

「…………お姉様」

 

 二人が顔を合わせる。紅い月の夜。紅色(スカーレット)の姉妹は共に笑顔になった。

 

「もしかして、私を探していたの?」

「うん……お姉様に会いたくて……」

「そう……」

 

 互いに頬を赤らめ、気まずそうに照れ笑いをする。レミリアはそんなフランの顔を見て微笑む。

 

「ねぇ、フラン」

「な、なに?」

 

 緊張しているのか、それとも、以前のいざこざが忘れられていないのか分からないが、フランはまだぎこちなかった。

 

「私はね、フランが妹で本当に良かったと思ってる」

「き、急だね……」

 

 たしかに急だったかもしれないが、もうレミリアの方が我慢出来なかったみたいだ。夜風に当たり、レミリアの紫の髪がサラサラと靡く。

 

「この数百年間で色んなことがあって、その度にフランと励ましあって、時には励ましてもらって、時には励まして……」

「……」

「その時からかしら……」

「……?」

 

 すると、レミリアの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。夜なのに、その赤面さがわかる程である。

 しかし、そんな中でも、レミリアはハッキリと話す。

 

「フランのことをね。一人の吸血鬼として見ていたのは……」

「……え……?」

 

 予想外の答えだったのか、フランは驚きで体が硬直し、呆けた顔をしてしまう。

 

 

 

 

 レミリアはそんなフランを見て、微笑みながら、「涙」を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランの優しさに、フランの笑顔に……いつの間にか……惹かれていたの…………」

「ま、まって……お姉様はこいしちゃんが好きなんじゃ……」

 

 フランだって、気持ちを伝える為に来たのに、ついついレミリアの本心を聞き出してしまった。

 

「ええ、きっと好きだったわ……でも……でもね……」

 

 レミリアの目尻からは大粒の涙が流れていた。その顔を見て、フランは大きく心臓が高鳴った。

 レミリアは嗄れた声でも、精一杯叫ぶように、伝えたかったことを口にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上に…私は……フランのことが好きだったの…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

 フランは両手を口元にやる。そして、同じように大粒の涙を流す。

 

「フランと一緒にいる時、心地がよかった。色んな家族や友人が増えても……きっと……私の目にはフランが映っていた……」

 

 レミリアはどんどんと胸が苦しくなった。伝えたい想いが溢れ出るのに対して、口が追いつかなかったからだ。

 この際、もういっそこの言葉だけ伝えれば満足するだろう。

 とめどなく溢れ出すフランへの想い。きっと、これから先もこれが続くのだろう。でも、これ以上幸せなことは無い。

 

 妹に恋をする。きっとそれは茨の道だ。全員が素直に祝福はしてくれないだろう。

 

 

 でも、そんなのは関係ない。私が好きになった人は、好きになった女の子は……。

 

 

 

 

 

 フランドールただ一人だからだ。

 

 

 

 

 

「きっと、私は! フランが私のことを好きになる前から……ずっとずっと……大好きだった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の目は鏡のように反射するほど、涙が溜まっていた。

 嬉し涙もあるが、八割がたこれは「悔し涙」だった。

 

「遅いよ…………お姉様……」

「ごめんなさい」

「私の方がずっと好きだったはずなのに…………急にそんなこと言われたって……混乱するに決まってるのに…………っ」

「分かってる……でも、この気持ちが恋だってわかった瞬間、貴方に早く伝えたかったの……」

「………………っ!」

 

 涙が止まらない。お姉様の真意を聞けて私の涙は「嬉し涙」へと変わっていった。

 

「嬉しいよ…………お姉様……」

 

 めいっぱい、笑顔で返す。するとその目の前にも、涙ながらにも微笑んでくれるお姉様、いや、レミリア姉がいた。

 

 

 

 

 そして、私は伝える。

 この思いは私だけじゃない。私のために自分の恋路を諦めてくれこいしちゃんの思いも詰まってる。

 

 きっとお姉様に抱く感情は「恋情」や「愛情」だけじゃない。「感謝」もある。気づけば迷惑ばかりかけていたし、これから先も迷惑をかける。

 

 この先、辛いことも悲しいことも必ずあるし、避けることも出来ないものもある。

 でも、お姉様と一緒なら、それ以上に幸せなものを築いていける気がする。

 

 今までの感謝も込めて、そして私に芽生えた恋の想いも込めて、私は精一杯の笑顔で、心から伝える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私もお姉様…………いえ……レミリアお姉ちゃんが好き……これからも迷惑かけるし、馬鹿なこともすると思うけど…………ずっと支えてね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、私が伝えた瞬間、温もりが全身に伝わった。

 いつの間にか、お姉様の体と密着していた。しかもそれは、いつもの抱擁とは違くて、愛の籠った、優しいハグ。

 

 お姉様は私の肩に顔を埋めて、強く私を抱きしめた。お姉様からは、まだ嗚咽が聞こえる。

 

「フラン……私はあなたを絶対に離さない……何があっても…ずっとずっと、好きでいる……これからは姉としても……そしてフランの彼女としても…愛し続ける……」

「私も……レミリア姉の気持ちを裏切るなんてことしない…………私にはお姉様しかいないから……レミリアお姉ちゃんに甘えたい……」

 

 お姉様は私から離れる。しかし、手は肩に置いたまま。

 私は、お姉様の顔を見た時に、今までにない嬉しさが込み上げてきた。

 

 

 今この瞬間、私はレミリアお姉様と結ばれた。

 

 

 ずっとずっと、夢に思っていた願いが今ここで叶った。

 

 

 これから先、レミリアお姉様を愛し続ける誓いを、大切にする誓いを、今ここで交わした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……もう一度、言うわね……」

 

 レミリアお姉様のセリフに私は「うん……」と頷いた。お姉様は涙を拭い、笑顔を向けた。

 するとお姉様は私からもう一歩離れ、スカートの裾をつまみ、カーテシーをした。

 そして、お姉様はもう一度、自分の想いを伝えてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フランドール。私は、貴方のことが好きです。この世で一番愛しています……私と……恋人になってくれますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この言葉を聞くために、私は何百年も一途に想い続けてきたんだろう。お姉様から、たった数秒の愛の言葉。それを聞くだけで、涙がまた溢れ出した。

 それでも、私はそれを拭い、負けないくらいの笑顔で返す。

 

 これは私にとって、最初で最後の告白。

 

 これから先、困難な道にぶつかろうとも、私は彼女、レミリア・スカーレットを愛し続けたい。手を繋いで、その道を歩きたい。

 

 

 

 

 

 

 

「はい……よろしく……お願いしますっ……私も……大好きです…」

 

 

 

私達はもう一度、強く抱きしめ合った。急ではなく、ゆっくりと抱きしめた。もう離さないと言わんばかりに。

 

「これで、私もシスコンね……」

「いいの。私はシスコンなレミリアお姉ちゃんが大好きだよ!」

「……そうね………ねぇ、フラン………」

「んー?」

 

 

 

 

「……愛してるわ」

「…えへへっ………私もっ!」

 

 

 

 

 

 私達は紅い月に照らされていた。その涙も、いつしか月明かりで紅くなっていたと思う。

 

 

 スカーレットの夜。「大きな紅い館」の入口で、紅月に照らされながら…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女二人が優しく唇を重ねていた。

 

 

 

 

 

 end……




なんか足りねぇ………。


イチャイチャ回書いてねぇじゃねぇかァァァァァァ!!


ということで、続けます。
アフターストーリー的な。



とりあえず、ここまで読んでいただき、感激の至りです!
また、次の分岐ルート、そして、アフターストーリーで会いましょう!



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後日話 レミリアとフラン

はい、過去一のイチャイチャ回です。

もうこれだけのために「フランがシスコン過ぎて困っています」を書いたと言っても過言じゃありません。

というわけで、堪能して言ってください。

あ、R17.9です。


 12月24日。巷で言う、クリスマスイヴ。

 人里や妖怪のみんなは様々な催し物などで賑わっている。例に漏れず、紅魔館もその一つだ。

 そして、幻想郷では久しぶりの粉雪が舞う。いわゆるホワイトクリスマスだ。

 木々や建物に雪が付き、鮮やかで綺麗な雪化粧が施されていた。

 吸血鬼も、寒いのは苦手だ。だから手袋やマフラーで防寒しないといけないし、足先も指先も冷えて赤くなってしまうから、私は冬が嫌いだ。

 

「……うぅ……寒いよぉ……」

「フラン、手を貸して」

 

 お姉様が私の手を握る。そして、その手をお姉様の頬に当てる。

 

「どう? 温まるでしょう?」

「…………お姉様、肌すべすべだね……それに……あったかぁい……」

 

 冬が嫌いなのも、1年前までだ。今年からはこうやってお姉様に触れることができるし、身を寄せることに安心感もある。

 私はお姉様の両頬に手を当てて暖まる。お姉様も満更ではないみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2ヶ月前、私とレミリアお姉様は恋人同士になった。

 絶対幸せにする。その近いを胸に、互いに愛を深め合うことができたと思う。

 

「お姉様! 雪だるま作ろ!」

「はいはい、チルノ達呼びましょうか、あの子達器用だものね」

「…………」

「……? ……何よ」

 

 私は頬をふくらませ、お姉様を睨む。私のムスッとした表情にお姉様はクエスチョンマークを浮かべる。

 

「……何でもないっ!」

 

 私は身を翻して、紅魔館に帰ろうとする。お姉様は終始ハテナを浮かべながら私の後を歩いていた。

 すると、玄関からトレイを持った咲夜が姿を現す。

 

「お嬢様、妹様。温かい紅茶をお持ちしましたが、如何なさいますか?」

「そうね……せっかくだし、庭で飲みましょう」

「……うんっ」

 

 咲夜がナイスタイミングでホット紅茶を用意してくれたみたいだ。さすが紅魔館メイド長。気が利いて、優秀だ。

 庭のテーブルに行くと、テーブルに付けられたパラソルのおかげで、雪は積もっていなかった。私とお姉様は椅子に座り、咲夜が紅茶を淹れてくれるのを待つ。

 

「ああ、咲夜。霊夢から何か手紙が来てたわよ」

「私……ですか?」

「ええ、どうやら咲夜と鈴仙が呼ばれてるみたい。何かの招集かしらね……」

 

 お姉様がニヤリと笑う。その笑いが私にはどのようなものなのか、一瞬で分かった。

 

「良かったじゃない。鈴仙と一緒で」

「お、お嬢様!?」

 

 咲夜は耳まで真っ赤にして、慌て始める。ここで、持っている紅茶を零さないのは、やはりメイド長だ。

 

「わ、私は別に鈴仙さんとは……」

「以前からそうよ? 咲夜、鈴仙を見る目だけ妙に色っぽいのよね」

「そ、それは……」

「いい加減認めたらいいのに」

 

 お姉様はそれだけ言うと、紅茶を啜る。満足気な顔をしているということは随分と美味しかったようだ。

 しかし、私の顔はお姉様とは裏腹に暗かった。それは言わずもがな、嫉妬だ。

 ずるいよ。お姉様の恋人は私なのに、あんなに咲夜と話しちゃってさ。それに、簡単に笑顔振りまいちゃって……。

 

「どうしたのよフラン?」

「……もうお姉様なんか知らないっ」

「へっ?」

 

 私はもう耐えられなかった。構って貰えないだけで怒るのはまだまだ子供だと思うが、私だってこういう時に話をしたり、甘えたりしたかったのにこのザマだ。

 私は勢いよく椅子から立ち、早足で紅魔館へと入っていってしまった。そして、そのまま自室に向かう。

 ベッドにうつ伏せになると、少しだけ涙が出る。

 

 お姉様と恋人同士になってから、みんなが祝ってくれた。幻想郷は全てを受け入れてくれる。その言葉に間違いはなかったようで、誰もが私達の恋を受け入れてくれたのだ。

 それがたまらなく嬉しくて、これからもたくさんお姉様に甘えられることが何よりも嬉しくて泣きそうだった。実際泣いたけど。

 

 けど、お姉様は顔の広い人だ。紅魔館の主だけあって、他の人と関わることも多々ある。それに関しては私も知っているし、私がどうこう言ったって何も変わりはしない。

 

 でも、それでもあんなに笑顔を振りまいて。他の人とあんなに楽しそうにされたら、嫉妬もしちゃうよ。

 

「……お姉様のバカっ……」

 

 私はそう、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え、えぇ……」

 

 私は何も理解出来なかった。フランが急に怒って、紅魔館へと帰っていってしまったのだ。

 

「ど、どうしたのかしら……」

「…………ああ、なるほど」

 

 どうやら、咲夜は何かを察したらしい。私は徹頭徹尾何も理解出来ず、ただ固まるしか出来なかった。

 すると、咲夜は少しため息を吐き、呆れたように私に話しかけてくる。

 

「お嬢様……最近、フラン様に構ってあげられてますか?」

「わ、私なりには……」

「お嬢様はお顔の広いお方で、様々な人と関わる機会もとても多いです。それにより、友人が沢山できるのは、私も、フラン様もきっと嬉しいはずです」

 

 咲夜は人差し指を立てて、一つ一つ説明していく。というより、何かの説教に聞こえた。

 

「以前から、フラン様に恋人同士らしいことしてあげられていますか?」

「キスとかハグ……てこと?」

「もちろんそれもありますが、「好き」と言ったり、彼女との時間を作ってあげたり……」

「ちゃんと作ってるつもりだわ。私だってフランに会いたいし……」

「いいですか? 女と言うものは、恋人が別の女と楽しそうに会話しているのを見るだけで、ズタズタに傷ついてしまいます。最近、お嬢様は様々な女性と楽しい談話をしていますよね? それも、フラン様と一緒にいる時に」

「うぐっ……」

 

 それに関しては返す言葉もない。私はそのまま何も言えず後頭部を掻く。

 

「……悪いことしたわね……フランに……」

「ご理解頂けたのなら幸いでごさいます」

 

 私は残りの紅茶を飲み干して、外を見る。午後4時。夕焼けが鮮やかで私たちを照らしてくれる。その下には人里があって、7色のイルミネーションがある事が紅魔館からでも分かる。

 

「ごめんなさいね咲夜。あなたには迷惑かけっぱなしだわ」

「いいえ、これもお嬢様の家族としての役目です」

 

 ニコリと笑う咲夜に私もつられて頬を緩める。

 私は椅子から離れ、フランを探しに行く。本当、咲夜には迷惑ばかりかけていて紅魔館の主の名が廃る。いや、違う、どれだけ強い者も誰かに支えられて生きていくんだ。私だって、フランや咲夜、パチェや美鈴に散々助けて貰っている。これが、家族というものなんだ。

 恋人もきっと同じようなものなのだと思う。だから、きっと私はフランに家族としても、恋人としてもたくさん迷惑をかけるのだろう。

 でも、今はただ、フランを抱きしめたくなった。抱きしめて、キスをして、ただただフランに甘えたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……むぅ……」

 

 私は頬をふくらませたまま、ベッドに寝転がっていた。お姉様が私に構ってくれないと、流石に私も悲しくなる。前までは多少我慢すればどうにかなったけどやっぱり寂しいし、もっとお姉様に甘えたい。

 

「キスしたい……」

「うんうん」

「もっと触りたいのにさぁ、色んな人と楽しそーに話しちゃってさ。そりゃ嫉妬もするよ」

「分かる分かる」

「だよね? お姉様はやっぱり恋人ってもんを分かってないよ……………………ってうぇぇ!?」

 

 感傷に浸っていたせいか、私は周りを全く見ていなかった。独り言を呟いていると、何らかの応答が返ってくるので、その声の主の方を見ると、私の顔の20センチほど前に銀緑のセミロングの少女が笑っていた。

 

「こ、ここここ、こいしちゃん……」

「やっほー、暇だから来ちゃった」

「来ちゃったって……ここ私の部屋だし……結界も張ったはずなんだけど……」

「そんなの、扉開けただけで破れたよ? 随分と弱い結界を張ってたんだね」

「…………」

 

 もちろん弱い結界を張ったつもりは無い。泣いてる顔なんて、咲夜にも見られたくないから、いつもより強固なものを展開したつもりだ。それをここまで軽々と破られると、少々悔しさもあり、こいしちゃんへの怖さをも感じる。

 

「……はぁ、で、何しに来たの?」

「いんや? 最近、フランちゃんと遊べてないからさ」

「確かに……」

 

 もう2、3週間こいしちゃんと遊べていない。大半はお姉様と過ごしてきたからだろう。

 

「……それで、レミリアちゃんと喧嘩でもしたの?」

「……ううん、私が勝手に怒っちゃっただけ」

 

 先程愚痴を聞かれていたので、隠してもしょうがない。私は洗いざらい全てをこいしちゃんに話した。

 

「……ほぉほぉ、レミリアちゃんが色んな子と話すから、フランちゃんは嫉妬が爆発したと」

「まぁ、そんなとこ」

「まぁ、恋人にはよくあるらしいけどねぇ……」

 

 こいしちゃんは部屋の中をふよふよと徘徊しながら口を開く。私はベッドに座って、下を向いていた。

 

「それでもさ、お姉様と2人きりになりたいのにさ……本当は私の事好きじゃないんじゃないかって不安にもなっちゃうの……」

「……まぁ、私がフランちゃんの立場だったら間違いなく怒ってるなぁ……」

 

 苦笑いをするこいしちゃん。それと同時、こいしちゃんはピョンと跳ねたあと着地し、こちらを向く。

 

「でもね、好きじゃなかったら、わざわざ実の妹と恋人になったりしないよ」

「……」

「フランちゃんだって、私の告白を断るほど、レミリアちゃんのことが好きだったんでしょ? それとレミリアちゃんはきっと一緒」

 

 こいしちゃんの言葉に重い説得力を感じる。私は口を噤んだまま、こいしちゃんの次の言葉を待った。

 

「きっとレミリアちゃんも理解してる。というより、今回の件でフランちゃんの大事さを改めて痛感したんじゃないかな?」

「え?」

「今回、フランちゃんがレミリアちゃんと一時的に別れたことで、きっとあっちもフランちゃんのことを恋しく思ってるってこと」

 

 こいしちゃんがスタスタとこちらに歩いていく。そして、私の隣に座った。

 

「きっとフランちゃんとレミリアちゃんは姉妹以上の絆があるんだよ。だから、フランちゃん、時には甘えさせてあげることも大事。お姉ちゃんだけど、きっと甘えたいと思う」

「……こいしちゃん…………」

 

 私が甘えさせてあげる。そんなこと、今まで一度も無かった。いつも私からキスをせがむし、抱きつくのも私からだ。

 だから、時にはレミリア姉を甘えさせてあげる。それはきっと、妹としてじゃなくて「恋人」としてなんだろう。

 

「っと、レミリアちゃんが来たみたいだから、私は退散するよ。来たばっかなのにごめんね」

 

 そう言うと、こいしちゃんは颯爽と窓から飛んでいってしまった。告白の時もそうだけど、こいしちゃんに勇気を貰ってばかりだなぁと、この時改めて思った。

 

「ありがと、こいしちゃん」

 

 小声で小さくそう呟く。すると、その瞬間、私の部屋の木製扉がコンコンと軽快な音を立てた。

 

 

 

 

 

「は、はい」

「フラン。私よ。入っていい?」

 

 声の主はどうやらお姉様みたいだ。私は戸惑いながらも「どうぞ」と答え、お姉様を招き入れた。

 お姉様の顔は珍しく、子どもっぽくて真っ赤に染まっていた。凛々しいお姉様はどこにもいなかった。

 ただそこには、一人の少女、レミリア・スカーレットがいた。

 

「お、お姉様………………っ!?」

 

 お姉様はスタスタと早足で私に近づくと、そのまま私を抱き寄せた。珍しいお姉様からのハグに私は驚く。

 

「おねえ……さま……?」

「今日だけは……甘えたいわ……」

 

 こいしちゃんの予想は見事に的中だったみたいだ。お姉様は上目遣いでこちらを見る。そして、真っ赤に染った顔と同じ色をしたその瞳は少し潤んでいた。

 なんなんだこの可愛い生き物は、本当に私の姉なのか。

 たまらなく愛おしくなった私はお姉様をさらに抱きしめる。

 

「いいよ……今日は……レミリア姉が甘える番……」

「……ぅん……」

 

 可愛い、可愛すぎる。初めてだ。お姉様の存在がここまで小さくなったことは。今だけは姉妹の関係が逆転したみたいだ。

 

「んっ……」

 

 レミリア姉は小さな唇をこちらに向けてくる。目を閉じてキスをせがんでくるその姿は可愛い少女そのものだ。私は優しくレミリア姉の口を塞いだ。

 

「んっ……ちゅ…………ふふっ」

「……どしたの? レミリア姉」

「いえ、今日だけは私もあなたの姉であることを忘れようかなって……」

「…………いいよ。今日だけは、私がお姉ちゃんになってあげる……」

 

 そう言って、私はベッドに座りレミリア姉に向けて両手を広げた。そして、できるだけ優しく、微笑んだ。

 

「……おいで?」

「…………」

 

 レミリア姉は黙って私にもう一度抱きついてきた。そして、そのままベッドに倒れ込む。レミリア姉の優しい匂いが私の鼻腔をくすぐった。

 レミリア姉は私の胸に顔をうずめたまま、すりすりと額を擦り付けていた。

 

「ね、フラン……」

「んー?」

「…………えと……」

 

 レミリア姉は一度私から顔を離した。外はもう真っ暗で、ここの部屋の電気もあまり明るくないので、顔色は伺えないが、レミリア姉の顔は真っ赤になっているのが分かった。

 

「どうしたの?」

「…………レミィって呼んで……

「聞こえないなぁ?」

 

 本当は聞こえてる。でも、すごく恥ずかしがっているレミリア姉を見て、少しからかいたくなった。レミリア姉は涙目になって、少し頬をふくらませる。

 

「聞こえてるくせに…………」

「……んーん? 聞こえないよ? 「お姉様」?」

「…………レミィって呼んで!」

 

 レミリア姉は意を決したのか、大きな声でそう叫んだ。叫び終わったあとも可愛らしく頬をふくらませて私を睨んでいた。

 私はレミリア姉の耳に顔を近づけて、吐息が当たる距離まで抱き寄せた。そして、耳元で囁く。

 

「……可愛いよ……レミィ……」

「ひゃうっ!?」

「あっははは! レミィってば、反応可愛すぎっ」

「だ、だってフランが…………んむっ!?」

 

 我慢できなくなった私は、話している途中のレミィの口を塞いだ。レミィは一瞬驚いた顔を見せるが、そのまますぐを私を受けいれて入れてくれた。

 

「んっ……ちゅ……ちゅぅ……」

「ふ、フラン…………好きぃ……ちゅ……」

 

 いつもみたいに舌を入れる濃厚はキスではなく、唇だけの優しくて子供っぽいキス。これだけでも、私の理性は崩壊しそうだったし、気分も最高潮に達している。

 

「……好き……大好き…………愛してるよレミィ……」

「わ、私も…………」

 

 そうしてまた、唇を重ねる。私はキスをしながら、レミィの服のボタンを素早く外していく。

 

「ほらほら、服脱いで」

「う、恥ずかしい……」

「だーめ、お姉ちゃんの命令だぞっ」

「……ぅぅ……」

 

 レミィは唸りながらも、服を脱ぎ、下着姿になった。白色で、フリルが付いている可愛らしい下着だった。紅魔館の主といえど、下着は可愛いのだと、この時実感した。

 そして何よりも、その成長途中の胸だ。少しふっくらとしたその胸に私は飛び込みたくなったが、我慢する。

 

「じ、じゃあ、フランも脱ぎなさいよ……」

「わ、分かった……」

 

 レミィの下着姿を見て動揺していた私はすぐさま自分の服を脱ぎ捨て、下着姿になる。

 その瞬間、レミィが私に抱きついてきた。以前の温泉の時と同様に、肌が直接触れ合うので不思議な感覚になる。

 

「フラン…………ちゅ…………ちゅぅ…………れろ……」

「…………れ、れみ……じゅる…………んんっ!」

 

 レミィは抱きついたままキスをして、今度は舌を容赦なく入れてきた。そして、そのまままたもやベッドに倒れ込んだ。

 さっきよりも強くハグしているため、胸同士が擦れあって、ビクンと体が強ばる。

 そして、私はそのまま我慢が出来ずに、声を出してしまう。

 

「ふぁぁ……! ……」

「ふ、フラン? 変な声出てるわよ?」

「あ、こ、これは……その……」

「ここ、弱いの?」

 

 そう言われ、私は目をそらす。するとレミィはニヤリと笑って、もう一度唇を重ねてきた。

 

「ちゅ…………じゅる……れろ……かわい……」

「やっ、だめ…………レミィ……そこは……んんぅ……れろ……」

 

 レミィの手は私の右側の胸を掴んできた。そしてその後、人差し指で胸の輪郭にそってなぞられる。それが何よりも変な感覚で、私はビクビクと体を揺らしてしまう。

 主導権を握られ、少しイラついた私は体を反転させて、レミィを下敷きにする。

 

「ひゃっ!」

「……れ、レミィ…………仕返しっ……」

「え? ちょ……ふら…………んむぅ…………ちゅ…………んんっ!?」

「ちゅぅぅぅぅぅぅぅうう………………」

 

 私は舌を使わず、レミィの口を吸い上げた。と言っても何も無いが、互いに完全に密着しているため、息ができない。息が来るとしても、それは互いから吐き出された息だけだ。

 

「ぷはぁ……はぁ…………ふ、フラン……」

「レミィ……の体…………綺麗…………だね……」

 

 どうやら私は完全にスイッチが入ってしまったみたい。私はレミィの首筋、くびれ、脇などを指でなぞる。

 

「……れろ……」

「んひゃん!? フラン!? やめ……」

 

 私はレミィのくびれの部分を舌で這わせる。舌の先端でレミィの体を巡る。

 くびれから胸、胸から首筋……そして耳。あらゆる所を舐めまわした。

 

「……れろ……じゅるる…………はむっ…………んむっ……」

「……やっ…………ん、んんっ……」

 

 レミィは耳を舐められ、艶やかな声を出す。そして両手で口を塞ぎ、大きな声を出さないようにしていた。

 満足した私はもう一度、レミィと正面で向き合う。レミィの恍惚とした表情に私はもう我慢が効かなくなった。

 

「ね、レミィ……ここからさ……「全部」してみない……?」

「……はぁ……はぁ……ぜ、全部?」

「そう、全部……私は、レミィと添い遂げたい…………大好きだから……愛してるから……」

 

 そう言うと、レミィも息を整えながら、私に向けて微笑む。その笑顔はやっぱりまだ私のお姉ちゃんで、それでもって大切な恋人であることを分からせてくれた。

 

 

 

「私もよ……フラン…………大好き……これから先、あなたに不安な思いをさせてしまうことがあるかもしれないけど……私はずっとあなたを愛し続けるわ……」

「……レミィ……大好きっ……」

 

 私は、レミィに飛びつく。そうして、私たちはまた唇を重ね合わせた。この幸せなキスが永遠に続けばいいのにと思ってしまう。

 きっと、姉妹としても、恋人としてもこの硬い絆は誰にも破られることは無いんだろうと、絶対的な自信が付いたと思う。

 

 今日はホワイトクリスマス。外はホロホロと雪が舞っていた。そんなクリスマスの日に私達はもう一度強い絆を結ぶことが出来たと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…………」

 

 朝、目が覚める。陽の光が直接目に入り、目を細めたまま周りを見る。

 

「…………おはよう。フラン」

 

 すると、同じベッドで向かい合わせに寝ていたお姉様が裸のまま私に微笑んだ。お姉様と私の距離はもう数十センチほどしか離れていない。

 昨夜、深夜まで捗ってしまったせいで、私もレミィもいつもより起きるのが遅くなった。

 

「おはよう。お姉様……」

「……」

「お姉様?」

 

 お姉様はムスッとした表情でこっちを見てきた。朝一番からそんなことをした覚えは無いので、私はクエスチョンマークを浮かべる。

 

「……呼び方……」

「あっ……」

 

 気がついた私は「ふふっ」と少しだけ笑ってしまう。お姉様はまた恥ずかしそうにむくれる。そんなお姉様がたまらなく愛おしい。

 そして、もう一度「レミィ」を見て笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おはよう、レミィ」

 

 

「…………ええ、おはよう。フラン…」

 

 

 

 

 

 

 大切な人が近くにいる幸せ。それは何事にも変え難いと思う。それが姉妹でも、親子でも同じこと。

 私にとって大切な人は沢山いる。咲夜やパチェ、そしてこいしちゃんと、数えればキリがない。

 

 でも、その中でも一生を捧げた人はただ一人、レミィだけだ。

 

 姉でもあり、大切な恋人でもある彼女に、私は全てを捧げたい。これから先、困難な道も、レミィ……いや、レミリアとなら、どこまでも歩いて行ける。

 

 私の形ある「幸せ」はきっとこれだけなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フランがシスコン過ぎて困っています

 

 

 

 

 

 〜END〜




では、次のフラン×こいしルートで!



さらば!


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分岐 : 親友
分岐ルート1話 かけがえのない存在


はい、分岐ルート二つ目


フランドールとこいしの恋人ルートです。


いや、ホンマに思いつきの駄文なんで期待しないでください。
ただの自己満ですので


「……」

 

 最後の、告白。

 その言葉は、私の心を響かせるには十分だった。覚悟を決めたこいしちゃんの目は今までよりも、輝いて見える。

 

「………………返事……欲しい……な……」

 

 ずっと黙ってた。もし、ここでこいしちゃんを選んだら。お姉様への想いはどうなるんだろう。今までお姉様一筋だった私に、こいしちゃんと付き合う資格があるのか。

 

「ぁ……ぅ……」

 

 このまま、こいしちゃんと付き合うのもいい。このままこいしちゃんの恋人になるのも、このままお姉様を好きでいるのも、どちらも幸せな選択だ。

 でも、どちらかを選んだら、もう片方は暗闇へ落ちる。きっと、全員がハッピーエンドは存在しない。

 

「……フランちゃん」

「……えっ……」

 

 悩んでいる時間があまりにも長すぎたのか、こいしちゃんから声がかけられ、ビクッと身体を震わせる。すると、こいしちゃんはもう一度私を抱きしめた。

 

「迷わないで、レミリアちゃんが好きなら、そう言えばいい」

「こいしちゃん……」

「でも、さっきも言ったように、フランちゃんがもし、私の想いを受け止めてくれるなら……一生君を幸せにしてみせる」

 

 その言葉は先程の繰り返しなのかもしれない。ただ、こいしちゃんの発するその一文字一文字が、私の心を溶かし続けていた。

 

 

 

 

 

「フランちゃんは……たった一人の……かけがえのない存在なんだから」

 

 

 

 

 

 

 その言葉が、決定打だったのかもしれない。先程まで強ばっていた体が一度緩む。その隙を見逃さなかったのか、こいしちゃんはもっと強く抱きしめた。

 そして、体を震わせた。涙がこぼれ始める。そして、私もこいしちゃんを強く抱き締めた。こいしちゃんの温もりがさっきよりも感じる。

 

「うぅ……あぁあ…………」

「……フランちゃん……」

 

 ひとしきり泣いた。もう涙が枯れていると思う。それまで、こいしちゃんはずっと抱きしめてくれていた。ただ黙って、私の頭を撫でてくれていた。

 まさか、こいしちゃんが私の事をここまで大切に思ってくれていたなんて思わなかった。その事だけが、今の私にとって救いの手だった。

 

「私、吸血鬼で女の子だよ?」

「そんなの知ってるよ。それも含めて好きになったの」

「きっと、イライラしちゃうことも……あるよ?」

「うん、その時はそばに居てあげる」

 

 今この場だけの流れだけでもいい。今一瞬だけこいしちゃんを好きになって、あとからお姉様が恋しくなっても、こいしちゃんは私を離さないだろう。

 

「きっと……嫉妬深いよ?」

「そんなの、私が大切に思われてる証拠だよ。嬉しい」

「それに……」

 

 まだ、未練がある。お姉様のことが好きだった私に友達の告白で揺らいじゃうなんて、情けないのかもしれない。

 まだ、お姉様のことが好きだ。それなのに、他の子と恋人になっちゃうなんて、強欲な奴かもしれない。

 

「お姉様の事、まだ好きだよ?」

「今はいいよ。私の虜にさせてみせるよ」

 

 でも、仕方ないよ。女の子はコロッと落ちちゃうものだから。

 今この一瞬で、私はこいしちゃんに……

 

「……ははっ……惚れちゃった」

「……そっか……」

 

 そう、こいしちゃんの事を一瞬で好きになっちゃったんだ。軽い女かもしれない。浮気性なのかもしれない。

 でも、どんなに辛い時でもそばに寄り添ってくれていたこいしちゃんに、私は惚れちゃっていた。

 

「ねぇ、こいしちゃん」

「んー?」

 

 私はこいしちゃんから離れ、手を繋ぐ。その手を離さないでと言わんばかりに、私は強く握った。

 

 

 

 

 

「私、こいしちゃんの事、好きになっちゃった。私の恋人になってくれますか」

 

 

 

 

 

 

 それを聞いたこいしちゃんは少し目を見張ったが、すぐニッと白い歯を見せた。その笑顔は私の心に張り付いて離れない。離したくない。

 

「はい、喜んで……フランお嬢様……」

 

 互いに目を合わせる。互いの目はキラキラと潤んでいた。

 

「お嬢様って……咲夜じゃあるまいし……」

「言ってみたかったんだよ」

「ふふっ」

「ははっ」

 

 照れ笑いを浮かべる。恥ずかしいものではあるが、後悔もない。

 

 きっと、この後お姉様に説明したり、それこそみんなに付き合っていることを伝えたら、驚かれたりするんだろう。

 

「……じゃあ、フランちゃん」

「……ん?」

「……キス、しよ?」

「こ、ここで?」

 

 ここは、人里はずれの公園だ。誰かが見てる可能性だってある。でも、我慢は出来なかった。

 今すぐ、こいしちゃんがそばに居てくれるという認識が欲しい。ずっと近くで笑ってくれる証拠が欲しい。そう思う頃には、こいしちゃんは私にキスをしていた。

 

「んっ…………」

「……」

 

 永遠に思えるこの時間。今までなんとも思わなかったこいしちゃんとのキスが今日に限って天国のような、そんな気がした。

 

「…………? …………」

 

 なんだか、妙に長い。この間は息を止めなくてはいけないのに、長々しくて息が苦しくなってきた。

 

「んっ!? ん〜〜〜〜っ! ん〜〜〜〜っ!」

 

 バンバンとこいしちゃんの肩を叩く。しかし、いつまで経ってもこいしちゃんは唇を離してくれない。こいしちゃんの力は私に匹敵する。つまり、剥がそうにも剥がれないのだ。

 そして、実質一分位の短いキスだったが、一分止めるだけでも割とキツかった。

 

「ぷはぁ……! はぁ……はぁ……こ、こいしちゃん!」

「あはは……ごめんね、幸せすぎてつい……」

 

 こいしちゃんは申し訳なさそうに後頭部に手を当てる。私は息が切れていたので、息を整えるまでこいしちゃんを睨んでいた。

 

「いや、長いキスをしていたら、フランちゃんはどこにも逃げないでしょ?」

「……べ、別に、キスをしていなくても、私はこいしちゃんのそばにずっといるよ?」

 

 やっぱり恥ずかしい。お姉様に対しては軽々と言えた言葉が、こいしちゃんに言うのはとてつもなく恥ずかしい。私は赤面して顔を覆う。

 ちらりと指の間からこいしちゃんの顔を見る。すると、同じようにこいしちゃんも赤面して硬直していた。

 

「こ、こいしちゃん? どうしたの?」

「へっ!? あぁいや、やっぱり幸せだなって……」

「な、何よそれ…………」

「さ、そんなことより帰ろう…………フラン」

「っ!」

 

 突然の続柄無しの呼び方。フラン、フラン。こいしちゃんから放たれるその言葉が私の胸を締め付けた。呼び方ひとつでこんなにも変わるんだなと、この時思った。

 

「も、もう……不意打ちは卑怯だよ…………」

「あはは、呼びたくなっちゃった。フラン」

「っ! も、もう! こいし!」

「…………こ、これは意外とクるねえ……」

 

 こいしちゃんも自分の名前を呼び捨てで呼ばれるのは恥ずかしいみたいだ。

 

「じゃあ、行こう。こいし」

「うん、フラン」

 

 こうして、フランドール・スカーレットは古明地こいしと恋人となった。

 手を繋いで、人里に帰る。

 

 

 

 

 

 

 人里に降りると、そこにはお姉様がいた。

 

「え、えと……フラン、こいし……」

「お姉様……」

 

 先程、私が一方的にお姉様を傷つけてしまって辛い思いをさせてしまった。それに、お姉様の想い人であるこいしちゃんと恋人になってしまった。何から説明すればいいか分からなかった。

 しかし、意外にも口を開いたのはお姉様からだった。私達が手を繋いでいるところを見て、何か察したのだろう。

 

「そう……フラン、さっきはごめんなさい。あなたに思わせぶりな態度をとって……私、最低だわ……」

「そ、そんなことない! 私だってお姉様にいっぱい迷惑かけた……だから……ごめんなさい」

 

 私が頭を下げて謝る。お姉様はそれを見てフッと微笑んだ。そして、私の頭を撫でる。

 

「ええ、これで仲直り、ね……じゃあ、私は先に帰ってるわ」

「あ、お姉様……」

 

 私とこいしが付き合っている事を明かすタイミングが潰されてしまった。お姉様は既に踵を返して、紅魔館方面へ帰っていってしまった。

 しかし、お姉様は途中で足を止め、こちらを振り返っていた。

 

「こいし」

「な、何? レミリアちゃん」

「……フランを、よろしくね。あなたなら、きっと幸せに出来る」

 

 お姉様のその顔は悲しみ一色だったが、私達に悟られないように精一杯笑っていた。

 

「うん、ありがとう。レミリアちゃん、きっと、フランを幸せにしてみせるよ」

「ええ……」

 

 目尻に涙を貯めていたのを、私は見逃さなかった。そうだ、お姉様は失恋したんだ。きっと、私達は悪者なんだろう。

 

「おねえ……」

「フラン、今は一人にしてあげよう。不躾な慰めはレミリアちゃんを傷つけるだけだよ」

「そっか……」

 

 今、お姉様は一人になりたいはずだ。自分の想いを受け止めてくれる人がいなくて、ただ泣いてその思いを発散するしかないのだから。

 きっと、お姉様なら私を恨んだりはしないとは思う。でも、私の中で罪悪感は残り続ける。

 

「……じゃあ、今日は地霊殿に泊まりにおいでよ」

「…………えっ!?」

「だって、今のレミリアちゃんを一人にさしてあげないときっと辛い思いをさせちゃうし……それに……」

「そ、それに……?」

「…………うーっ、い、言わせないでよフラン! 女の子に言わせるつもり!?」

「いやどっちも女の子なんだけど」

「もういいよ! 早く行こ?」

「と、とりあえず咲夜には伝えておかないと、それに荷物も……」

「部屋着なら貸してあげるから!」

「下着はぁ!?」

「下着も貸すよ! どうせサイズ同じくらいでしょ!」

「え、ええぇ……」

 

 こいしは赤面して私の手を引っ張る。かくいう私も、恋人になった初日からお泊まりができるとは思わなかった。

 きっと今は胸が張り裂けそうなくらいドキドキしているんだろう。



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2話 二人の夜

いやんエッチ。


すみません長くなりました。


「お、お邪魔しまー……す」

「ようこそ、地霊殿へ。お久しぶりだね、フランちゃん」

 

 そう言って出迎えてくれたのは、地霊殿のペット、火焔猫 燐だった。

 

「こんにちは、お燐」

「こいし様、今日はどのようなご用件で彼女を?」

「あ、私達付き合ったから」

「なるほど、では、お二人ともこちらで……え?」

 

 お燐の反応は至って普通なのだろう。お燐も私がお姉様が好きだったことを知っている。だから尚更、驚きが大きいのだろう。

 

「……え? あれ? フランちゃん? 君は……」

「あ、あはは……こいしちゃんに落ちちゃった……」

 

 付き合い始めたばかりとはいえ、こういうこと言うのも気が引ける。というか、恥ずかしすぎて死にそうだ。

 

「は、はぁ……ごゆっくりどうぞ」

 

 未だ納得出来ていないお燐は苦笑いしつつ、地霊殿へ入れてくれた。紅魔館と違って門番はいないが、内部に入るとセキュリティが硬い。

 

「ね、フラン。お部屋で何する?」

「そうだね……少し、相談があるんだけど……」

「相談?」

 

 廊下を歩きながら、私はあることを思い出し、こいしに頼るようにした。

 

「こいしの部屋……久しぶりかも……」

「フランが地霊殿に来るのがそもそも久しぶりだもんね」

 

 こいしの部屋を見渡す。必要最低限の物しか置いていない……訳でもなく、小説やちょっとしたお人形まで置いてある。私の部屋と似たり寄ったりなところが多い。

 

「じゃ、座って話そうか」

 

 2人並んでベッドに座る。私のベッドよりも幾分かフカフカなのが少し羨ましい。

 そして、言い出しづらい私は両方の人差し指を合わせながら

 

「お姉様のことなんだけど」

 

 相談を切り出した。先程のお姉様との別れから、頭の中に引っかかり続けている。

 

「どう、謝ればいいのかな。今頃、お姉様はきっと泣いてると思う……」

「そう、だね……」

 

 これにはこいしも悩みどころだったそうで、考え始めた。

 

「今考えても仕方ないことはわかってるけど……やっぱり、お姉様が心配だよ」

「やっぱり、きちんとお話するべきだとは思うよ。レミリアちゃんだって、理解してくれると思う……」

「そう、かな……」

 

 こいしの意見に賛同しかねる。というのも、今1番傷ついてるお姉様にすっぱりと状況を伝えてしまえば、トドメを私たちが刺してしまう気がしたから。

 

「お姉様をなるべく傷つけないでお話したいけど……」

「多分……無理だよ」

「……」

「私思うんだ。きっと、恋愛の辛さって好きな子に好きな子ができた時、気持ちが届かなかった時……色々ある。それを乗り越えて笑顔で恋愛を終えられる人なんて結ばれた2人しかいないから」

「そっか……」

 

 すると、木製の扉らしい軽快な音でノックがされる。そして、ガチャっと扉が開けられ

 

「失礼します。お茶をお持ちしました」

「ありがとう、お燐」

 

 お燐がトレイに乗せた紅茶を持ってきてくれた。お燐は今のこの空気を読んだのか、そそくさと出ようとしている。

 

「ねぇ、お燐」

「ん、どうしたの?」

 

 たまらなくなった私はお燐に問いかける。お燐は私よりも年上だ。何か頼れることもあるかもしれない。

 そう思って、私は先程こいしに質問したようにお燐に問う。

 

「……無理だよ。そんなの」

 

 こいしと同じ答えが返ってきた。私はその答えに目を見張る。

 

「失恋は誰にとっても辛いものだ。それを優しく傷つけないように伝えようとすれば、返ってレミリアさんを傷つけてしまう羽目になる」

「そっか……」

「ええ、あたいも色々経験してきた身だからね。レミリアさんの気持ちも、フランちゃんの気持ちもわかる気がして」

「へぇー、お燐ってどんな経験をしてきたの?」

 

説得力のあるお燐の言葉にこいしが問う。

 

「地霊殿に来る前までは彼氏もいましたよ。でも、振られたり振ったり。時には失恋もしました。数百年も生きてたら、色々経験するものなんです」

 

 お燐の経験値は私達が思うよりもずっと高かった。感心するように、私はため息をついて、

 

「ありがとう、お燐のおかげで少し楽になったよ」

「え? フラン、私は?」

「ん、こいしもだから安心して」

 

 こいしの頭を撫でる。すると、糸がほどけたように顔が緩むこいし。いつもは私よりもしっかり者の癖に、こういう時だけは普通の可愛い女の子になる。

 

「……しかし、本当にお二人は付き合ったんですね」

「……うん。やっぱり私、軽い女かな……」

 

 ついさっきまで、レミリアお姉様の事が好きだったのに、急にこいしに乗り換えるような事をしてしまって。

 

「いいや、人の気持ちは唐突に変わるものだと思うよ。だから、フランちゃんがこいし様を好きになる気持ちも決して軽いものなんかじゃない」

「……お燐はなんでもお見通しだね。ありがとう」

 

 お燐の言葉に説得力があったかと言われれば、完全にそうだと言えないかもしれない。でも、その言葉で私の気持ちが楽になったのは事実。

 

「うん、お安い御用だよ。では、ごゆっくり」

 

 頭を下げ、お燐はこの部屋を後にした。そして、しばしの静寂が訪れる。

 

「まぁ、今は考えても仕方ないよ。というか、お姉ちゃんに話さないとね」

「さとりは今いるの?」

「うん、そろそろ仕事から帰ってくると思う」

 

 さとりは地底全体の土地管理を行っているため、金銭的な問題も領土的な問題も全てを抱えている。紅魔館とは桁違いの仕事量なのだ。

 

 

 

 玄関ホールに二人で降りると、扉の前にはさとりが書類を持って歩いていた。

 

「お姉ちゃんおかえりー」

「あら、こいし……とフランさんまで、こんにちは」

「こんにちはー」

「……お姉ちゃん。私達ね、付き合うことになったんだ」

「……そう」

 

 お燐とは違い、驚くことはなかった。とは思うが少し目を見開いていた。

 

「フランさん」

「は、はい!」

 

 急に名指しされ、私は思わず背筋を正して、敬語で返事をしてしまう。さとりは私の目を見て、微笑む。

 

「こいしのこと、よろしくお願いします。少し手のかかる子ですが……」

「…………」

「もう! 私手なんかかからないもん!」

「私のケーキ今までで何個食べたのかしら?」

「うっ……」

「24個よね? 覚えているわよ? いつか奢らせるから」

「……さとり」

「はい?」

 

 姉妹で会話している途中、私はさとりの目をもう一度見て、口を開く。

 

「絶対、こいしを幸せにするから。後悔なんか絶対させない」

「フラン……」

 

 こいしは隣で顔を真っ赤にして、口を手で塞いでいた。私の言葉を聞いたさとりはその場で微笑んだ。

 

「ええ、よろしく頼みますね」

「……うん」

「それじゃあ、そろそろ晩御飯の時間ですね。今日は地霊殿(ここ)に泊まっていくんでしょう?」

「うん、とりあえず今日はね」

 

 私の心を読んださとりはさり気なく泊まるのを了承してくれた。

 

「じゃ、フラン。行こっか」

「うん」

 

 そう言って、私達3人は食堂へと向かった。

 

「あ、あの、こいし? 歩きにくいんだけど……」

「えぇー? いいでしょ別にぃ」

 

 私の右腕にはこいしが密着していた。微かに感じるこいしの胸の感触が私の心臓を高鳴らせる。

 

「ふふ……私のおっぱい。どうかな」

「ちっぱいの間違いだよこいし」

「……」

「ふふっ、仲の良さは相変わらずですね」

 

 さとりは口に手を当てて笑う。それに釣られ、私達も顔を見合せたあと、自然に笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁー! 美味しかったぁ……」

「ね、地霊殿の料理ってこんなに美味しいんだ。咲夜と並ぶよ」

「全部お空が作ってるんだよ?」

「えっ? そうなんだ……」

 

 以外な事実に私は目を見開く。そして、こいしは立ち上がると、扉の方へ歩いていった。

 

「じゃあフラン。私は先にお風呂に入るよ」

「う、うん」

 

 そう言って、こいしはこの部屋から出ていった。私は急に1人になったことから、色々と考え始めた。

 

(お姉様……また、お話に行かないと……)

 

 結局、まだお姉様が心配なのだ。何も言えずに、もどかしい感じがまだ私に残っている。

 

(でも、明日でも明後日でも、時間をかけて、お姉様とお話する)

 

 いくら時間がかかってもいい。これから、お姉様がまたいつものように笑顔でいてくれるなら、それでいい。

 

(というか、ここベッドひとつしかないんだけど…………まさか添い寝……?)

 

 今更こいしの添い寝は恥ずかしくない。というわけない。今までは「友人」として一緒に寝ることはあっても、「恋人」として一緒に寝ることは無かったから、心臓の高鳴りが止まらない。

 

「ど、どうしよ……」

 

 そう考えると、顔が燃えるように熱くなった。これから、こういう行為も増えるのだろうけど、最初は緊張して死にそうになる。

 そう考えている内に

 

「フラン、お先に貰ったよ。お風呂はすぐそこだから。あ、着替えも置いてあるよ」

「ひゃあっ!? う、うん。ありがとう」

「……何か考えてた?」

「う、ううん! じゃあお風呂に入ってくるね!」

 

 私は慌てながらも、すぐさまお風呂場へ向かった。

 衣服を脱いで、お風呂へ入り込む。

 

(……ついさっきまで……こいしが入ってたお風呂……)

 

 そう、こいしが入っていたお風呂。それだけで、ドキドキしてしまう。

 

「……スウゥゥゥゥ……」

 

 思わず、匂いを嗅いでしまう。お風呂場でこいしちゃんの匂いがするはずもないのに、どうしても心地のいい匂いを感じてしまう。

 

(何やってるの……私のバカ……)

 

 急に恥ずかしくなった私はそそくさと体を洗う。紅魔館とは一味も二味も違う新鮮さに私はずっと驚いていた。

 

「ふぅ……いい湯だった……」

 

 お風呂から上がった私は体を拭いて、こいしから借りた服を着る。

 

「……これ……」

 

 黒のドレス。ドレス? 

 鎖骨から真っ直ぐ下に向かってフリルが付いており、胸元には白いリボンがある。いわゆるゴスロリだ。

 

「こいし……」

 

 しかし、これ以上服がないので、仕方なくこれを着て私はお風呂場を後にした。

 

「……」

 

 この姿のまま、部屋に入るのは死ぬほど恥ずかしい。私は部屋の前で少し止まってしまう。

 

(……ええい! 女は度胸!)

 

 思い切って私は扉を開けた。そこには、日記のような物に羽根ペンを走らせているこいしちゃんがいた。

 

「……ふふっ……か、可愛いよフラン……」

「こいし! あなたもっとマシな服なかったの!?」

「……ご、ごめんね……ふふ……これしか、なくて……んふふ」

 

 必死に笑いをこらえるこいしを睨みつける。やっぱり恥ずかしい。

 こいしは本を閉じ、羽根ペンを立てて立ち上がる。

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「……うん……」

 

 そう言って、同時にベッドに入る。

 

 

 

 

 

「フランとこうして2人きりで寝るの……夢だったんだ」

「……そうなの?」

「うん、こうやって二人で一緒に……」

 

 こいしの顔がもう目の前にあった。薄暗い部屋の中でこいしの碧眼が輝いて見える。エメラルドのようなその瞳はとても綺麗だった。

 

「……こいし」

「ん?」

「これからも、こうして二人で寝よう? 遠慮なんてしないでさ、私たちは恋人同士なんだから……ね?」

 

 精一杯、私の想いを伝えたつもりだ。これからも二人で過ごしたい、という願いを込めて。

 

「…………」

「こ、こいし?」

 

 急にこいしが黙ってしまった。しかし、こいしの目はしっかりと私を捉えていた。

 

「遠慮はいらないんだよね?」

「へ? う、うん」

 

 こいしが私の言ったことの確認をした。唐突な問い返しに私は戸惑いながら首を縦に振った。

 すると、こいしの顔がもうゼロ距離にあった。

 

「んっ……ちゅぅ……」

「……っ! ……あむ……」

 

 唐突なキスに私は戸惑う。しかし、こいしは構わず舌を私の口内に忍び込ませた。

 

「れろ……じゅる…………あふぅ……」

「あっ……んちゅ……」

 

 私はこいしの袖を掴む。そんな私をこいしは強く抱き締めて、更に唇を押し当てた。

 

「ちゅ……ちゅ……じゅる……」

 

 私の口の中をこいしの舌が這う。それを心地よくて気持ちいいと思ってしまう私はおかしいのだろうか。

 

「こい……し…………すきぃ……ちゅぅ……」

「フラン…………わたしも……ちゅ……じゅる……」

 

 こうして、私とこいしの唇は離れる。もちろん、唇と唇よ間には銀の糸が伸びていた。

 

「フラン……はぁ……はぁ…………遠慮……しないよ?」

「……うん…………こいしとなら……いい、よ?」

 

 蕩けきったこいしの顔に私は笑顔を送る。多分、私ももう我慢ができない。

 

「こいしが欲しい……何もかも……私にちょうだい?」

「……うん、今から私はフランのもの……フランは私のもの……」

「……うん……」

 

 そう言うと、こいしは服を脱ぎ始めた。そして、私も服を脱ぎ始める。

 

「……綺麗な胸……」

「ちょ、やめてよ……恥ずかしい……」

「……B?」

「……うん……」

 

 唐突に胸のカップを聞かれ、正直に答える。すると、こいしはプクッと頬をふくらませる。

 

「……私なんてまだAなのに……」

「あ、あはは……」

 

 こいしの方が綺麗な形をしているなぁ。とは、恥ずかしくて私は口に出来なかった。

 

「じゃあ、フラン……」

「ん?」

 

 こいしは私にもう一度口付けをする。今度は唇だけの甘くてやさしいキス。そして、大人の色気を放つようなこいしの微笑み。

 

「今夜は……私達だけの……夜……」

「……えっち……」

「フランにだけだよ……」

「んっ……好きだよ、こいし……愛してる……」

「……私も」

 

 こうして、私とこいしは深くお互いを求め合う。身体も心も全てを溶かすような。そんな夜を私たちは過ごした。



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3話 姉妹の愛

感動する失恋ソングでも流しながら見てください。

私は悲しい曲を聞きながら執筆していました。



この小説の初投稿から2年経ってた


「ただいま、美鈴」

 

 午前10時を回る頃、私はこいしと共に紅魔館へ帰ってきた。

 

「い、妹様……お帰りなさいませ」

 

 私の顔を見るや否や、美鈴の顔が少しだけ歪む。言いたいことは何となく分かるが、的外れの可能性も否めないので、とりあえず状況を聞く。

 

「どうしたの?」

「いえ……お嬢様と一緒に帰ってこなかったので、何かあったのではと……それに」

「それに?」

「お嬢様は……泣いて帰ってきたので」

 

 どうやら、紅魔館内には大体の事情は知れ渡っているようだ。

 

「……そっか。ねぇ、美鈴」

「はい」

「私達……付き合うことになったの」

「そうですか。おめでとうございます。と、素直にお祝いしたいところなのですが……今はお嬢様の心配の方が大きいです」

 

 今の紅魔館メンバーで素直に私とこいしの恋仲発表を喜ぶものはいないだろう。何せ、その紅魔館の主がそれで跳ね除けられて、今悲しんでいるのだから。

 

「分かってるよ。それで、お姉様は今どこにいるの?」

「……恐らく自室かと、昨日からこもっています」

「ありがとう」

「……妹様」

「ん?」

 

 門を通り過ぎようとした時、美鈴は心配そうに私に声をかけた。

 

「お嬢様をよろしくお願いします」

「……ええ」

 

 それを聞いて安心したのか、美鈴はこれ以上口を開くことは無かった。それを確認したあと、私はこいしの手をもう一度強く握って紅魔館へと入った。

 

「ねぇ、こいし」

「うん?」

「最初は私とお姉様の二人で話す。だから、部屋の外で待っててくれない?」

「……分かった。何かあったら声を掛けて」

「うん。ありがとう」

 

 そして、迷うことなくお姉様の自室へと歩を進め、扉を開けた。

 

 

 

 

 

 そして、お姉様の部屋の扉を開ける。そこには、布団にくるまってベッドの上で座っているお姉様がいた。

 

「ただいま、お姉様」

「……ふ、フラン……」

 

 お姉様の顔は酷いものだった。目の下には隈を作り、その目からも光があまり見られない。

 

「……お話があるの」

「えと……」

「私たち、付き合うことになったんだ。こいしと」

「……」

 

 お姉様もそこら辺は理解しているはずだが、改めて聞いてしまうと、少し表情が歪んでいた。

 

「……そう、良かったわね。こいしにもおめでとうって伝えておいてくれる?」

「……お姉様はいいの?」

 

 一番気になるところだった。勝手に永遠亭から逃げ出した私を追いかけてきてくれたはずなのに、知らないうちにお姉様の想い人と結ばれている。私だったら辛くて耐えられない。

 

「……私の許可なんていらないわ。私も精一杯応援するわよ」

「そうじゃないよ」

「いいのよ。妹の幸せは私の幸せでもあるの。フランはずっと努力してた。なら、幸せになっても誰も咎めない。むしろ、私はそれが最善だと思ってる」

「違う!」

 

 少し強めに言った。お姉様はビクッと身体を震わせた。私はそれにすら気にせず続ける。

 

「最善だとか、そんなの聞いてない」

「……っ」

「こいしが好きなのに、想いも伝えないでただ一人になって……お姉様は、それでこれから耐えられるの?」

「……そんなわけないじゃない!」

 

 ベッドから降りて、布団を自分の体から引き剥がす。そして今にも泣きそうな顔で声を荒らげた。

 

「でも! 今あなた達は別れてくれるはずもないし、そんなの誰も嬉しくないの。これはいつまでもウジウジしていた私への罰なの。耐えるしかないのよ」

「お姉様……」

「でもね……フラン。あなたは一つ、私の心情の変化に気づいていないの」

「心情の……変化? 何それ……」

 

 お姉様の顔は少し赤く染まっていた。それがどんなことを意味しているのか、私には理解出来ず、その場で立ち尽くしてしまう。

 

「あなたが永遠亭を後にしたあと、私は咲夜と話したの。貴方に指摘されてから、私の気持ちには雲がかかっていた。その事を相談してもらった」

「……」

「それでね、咲夜に言われた……」

 

 お姉様はスカートをぎゅっと握り、唇を噛む。それだけでとても羞恥しているのが見て取れた。

 

 

 

 

 

「「私の想いはずっと前からフランに向いている」って……」

 

 

 

 

「……は?」

 

 耳を疑うような言葉だった。しかし、一言一句逃すことなく、お姉様の声は私の耳を通り抜けた。

 

「お姉様……それってどういう……」

「私も最初はそんなことないって笑ってやり過ごそうとした。でもね……フランの笑顔を思い出すと、胸が苦しくなってた」

 

 みるみるうちに顔が赤くなる。そして、とうとうお姉様の目には涙が浮かんでいた。頬を伝うことはなく、目じりに溜まっていた。

 

「……その時にね、「私はずっと前から、フランドールの事が好きだったんだ」って……わかったの」

「……嘘……」

 

 私の想いを一向に受け止めようとしなかったお姉様からの突然の告白。無論、私はその場で硬直してしまう。

 

「ま、待ってよお姉様……そんな急に……」

「ごめんなさい。こうでもしないと、私は貴方に想いを伝えることは出来なかった」

「で、でも……お姉様はこいしが好きなんじゃ……」

「ええ、きっと好きだったわ。本気で恋してた。じゃなきゃ、こいしが寝てる時にキスなんてしない」

 

 じゃあどうして。という質問はきっと言わない方がいい。そう思ったが、その心を読み取ったかのようにお姉様は答えを返した。

 

「二人に恋してるなんて、強欲で贅沢よね……私って」

「……」

「でも、きっとこいしよりも、私はフランの方が好き。大好き……愛してる」

 

 お姉様の口から溢れんばかりの私への想い。しかし、今更お姉様に好意を向けられない。

 

「やめてよ……お姉様……今更そんなこと言ってきてさ……」

「ごめんなさい」

 

 きっと最悪のタイミングでお姉様は自分の想いを自覚してしまった。

 そして、それに苛立ちを覚えてしまった私は大粒の涙を流して、叫ぶ。

 

 

 

「今になって、迷わせること言わないでよぉ!!」

「……」

「私だって、お姉様のこと大好き! でも……でもね……」

 

 きっと、今の私は一人じゃない。

 古明地こいしという最愛の人が隣にいてくれる。

 こいしとお姉様、2人を選ぶことなんて出来ない。2人とも同じくらい好きだ。

 そんな時、私の脳裏にはある言葉が電流のように駆け抜けた。

 

 

 

 

(フランちゃんは……たった一人の……かけがえのない存在なんだから)

 

 

 

 

「……お姉様」

「……」

「ごめんね。私は……こいしの方が好き。いつまでも、これからも……」

 

 これが、私の決意だから。

 これ以上、後悔もしない。こいしと幸せになる。こんな決断も二度としたくない。

 今、この時から、お姉様と結ばれることも無くなった。たった一人だけの姉への恋も消える。

 そう思うだけで私は涙が滝のように流れ出す。

 

「……そう。わかったわ」

「ごめん、ね……お姉様ぁ……」

「……フラン」

 

 下を向いて泣く私に近寄り、顔を上げさせる。

 その瞬間、お姉様は私の腰に腕をのばし、身を寄せる。お姉様のほんのり暖かい温度が感じ取れる。

 

「……よく言ってくれたわね。こんな辛いことやらせてしまって……私は姉失格よ」

「うぅ……あぁ……」

「でも、あなたはしっかりと決断出来た。それだけで、あなたは強い子よ……」

 

 昔からお姉様の足を引っ張って、迷惑をかけてきた私に、優しく言葉をかけるお姉様に私ら涙が止まらなかった。

 

「……これからも……よろしくね。フラン」

 

 お姉様への想いは、これで終わり。

 長く続いた私とお姉様の恋物語も、バッドエンド。

 でも、私は幸せになる。今も、この先も。

 こいしという最愛の恋人と共に。

 

「うん……ありがとう。お姉様………………いや、お姉ちゃん」

「……」

「これからは、お姉ちゃんって呼んでいいよね?」

「ええ、良いわよ。というか、そっちの方がいいわね……」

 

 これは、けじめだ。

 これからは「姉妹」という関係に戻る。そう、私たちは血の繋がった肉親。

 二度と恋心を抱くことのないように。という思いを込めての「お姉ちゃん」だ。

 

「それよりも……こいし」

「っ?」

「いるんでしょう? ずっと廊下に居させて悪かったわ」

「あ、あはは……流石の気配感知だね。レミリアちゃん」

 

 こいしは扉を開けて苦笑いしながら部屋に入ってきた。それと同時にお姉ちゃんは私から体を離して手を握った。

 

「これから、フランをよろしく頼むわね。姉としてお願いするわ」

「レミリアちゃん……」

「色々手のかかる子だし、迷惑もかけると思う。ちゃんと叱ってあげて。そして、幸せにしてあげて」

「……」

「誰よりも努力できるフランだからこそ、傍に誰かがいないと折れちゃうような弱い子なの。だから、これからはこいしがフランを支えて……お願い」

 

 こいしに頭を下げるお姉ちゃん。

 プライドの高いお姉ちゃんは人に頭を下げることなんて滅多にない。それだけで、お姉ちゃんがどれだけ本気で思っていてくれてるのが分かる。

 

「……分かった。フランをあなたの分まで幸せにするよ。レミリアちゃん」

「ええ、それが聞けただけで十分。安心したわ」

 

 頭を上げたお姉ちゃんはニコリと笑う。その顔にはもう心残りはないような気がした。

 

「……お姉ちゃん……」

「ほーら、今日はここで晩御飯を食べていきなさい。それまではフランの部屋で遊んでるといいわ」

「……うん。そうするよ」

「じゃあお姉ちゃん、後でね」

「ええ……」

 

 私はお姉ちゃんから離れて、こいしと手を繋ぐ。そして、扉を開けてお姉ちゃんの部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

「失礼します。お嬢様」

 

 コンコンと軽やかな音と共に扉が開いた。落ち着き払った声に私は反応する。

 

「入りなさい」

「はい」

 

 咲夜は手ぶらだった。いつもここに来る時は紅茶か軽食を持ってきているので余計に不思議に思った。しかし、それは咲夜の言葉でかき消される。

 

「……あれで良かったのですか?」

「フラン達のこと?」

「はい……せっかくお嬢様が本当の気持ちに気づけたのに……」

「……咲夜」

「はい」

 

 これ以上、この話題には触れないで欲しい。心底そう思った。

 それは、今一瞬でも気を緩めたら、力づくでもフランを奪ってしまいそうだから。

 

「私は、これでいいの。一途に思い続けてきてくれたフランは幸せになるべきなの。それに……」

「それに……?」

 

 結局、これだけだ。

 私がフランを諦めた理由。

 

 

 

 

「姉は、妹を幸せにするものでしょう?」



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最終話 無意識(いもうと)吸血鬼(いもうと)

はい、こいフラ最終回です。


今回、初めて一万字を超える話です。





 フランの部屋に着くや否や、私はぐっと背伸びをした。

 これで全てが解決した。そう思っていいのだろう。

 

「お疲れ様。フラン」

「うん、ありがと……」

 

 私はベッドに座るフランの方を向く。そんなフランの顔はずっと上の空だった。

 不思議に思った私はフランの顔を覗き込む。割と近距離で目が合ったからか、顔から蒸気が出るほど顔を赤くしてフランは仰け反った。

 

「わぁ!?」

「どうしたのフラン。何だか元気ないけど」

「ううん、なんか、実感湧かなくて……」

 

 実感。フランがどんな実感が湧いたのか分からないが、とりあえずフランが可愛いから、私は笑った。

 

「レミリアちゃんも、大人になったね」

「……そう、だね」

 

 一昔前なら、もしかしたらフランの争奪戦になっていたかもしれない。

 それがもし、純粋な戦闘力で勝負とか言われたら、私のようなただの覚妖怪が敵うはずが無い。

 そもそも、レミリアちゃんは普段は大人しくしているものの、本気を出せば幻想郷を丸ごと破壊することも出来る大妖怪なのだ。

 

 確か、紫ちゃんも一番怖い妖怪だって言ってたなぁ……。

 

 私は、レミリアちゃんと戦わなくて済む事にしみじみと感謝しながら、私はフランの隣に座り、右手で頭を撫でる。

 そしてそのまま、私の右肩にフランの頭を乗せた。

 

「ちょ、恥ずかしいよ……!」

「いいのいいの。フラン、今日の朝から肩に力入りすぎ。もうレミリアちゃん公認なんだから、安心していいの」

「わかってるよ……だけど……」

「だけど?」

 

 答えるのが恥ずかしかったのか、「う〜」と低い唸り声を上げたあと、りんごのように顔を赤くして両手で顔を塞いでいた。

 

「……もう、こいし……無理ぃ……」

 

 茹でダコのように頭から湯気を出すフランを愛らしく思った私は耐えられなくなってフランの頭を自分の胸で包み込む。

 

「んもぉ! 可愛いすぎるよフラン!」

「わぷっ! こ、こいし!?」

「ほらほらぁ! 私の谷間で眠りなさい?」

「谷間……谷間……あ、谷間(ぺったんこ)か」

「はぁーいフラぁン? 君の判決は黒だよぉ? 冥界でみっちり反省なさぁい?」

「なんで生前から裁かれてるのってかすみませんでした謝るので許してください。だからその頭グリグリするのやめて、分かった土下座するから頭破裂しちゃうからああぁあ!!」

 

 フランの発言は私の怒りの最終ラインを超えてしまったようで、両手でフランの両側頭部をぺしゃんこにするようにグリグリと動かしていた。

 

「全く! フランじゃなかったら一発で閻魔様に裁いて貰ってたよ!」

「こ、こいしの体からまさかあんな怪力が生まれるなんて……」

「…………とりあえず、良かったね。フラン」

「……うん」

 

 終わりよければすべてよし。とはこのために言ったものだろう。

 色々すれ違いもあって、レミリアちゃんとフランの姉妹に亀裂が入るかとか一瞬思ったけど、何とかなってよかった。

 

「まぁ、とりあえず、お腹すいたね」

「まだお昼だよ?」

「そうだなぁ……あっ、ポーカーしよポーカー!」

 

 とりあえず、今から人里に行くのは少しばかり早い。紅魔館でゆっくりしていきたい気分なのだ。

 

「ポーカーかぁ……いいけど、何か賭けるの?」

「そうだね。せっかくポーカーやるんだし……」

 

 とは言ったものの、賭け事に無頓着な私達だ。何を賭けるかなんてそんな遊びを今までしたことがない。

 

「甘味を奢るのは普通だしなぁ……」

「うーん」

 

 瞬間、私の頭の中に電流が走った。

 これだ。これしかない。

 

「フランちゃん!」

「び、びっくりした……興奮しすぎて前の呼び方になってるし……」

 

 そんなフランの指摘をも無視して、目を輝かせながらフランに顔を近づける。

 そして私はとっておきの賭けを申し出た。

 

「今日の攻め!」

「……は?」

 

 フランの顔は「何言ってんだこいつ」を表現したかのように訝しんでいた。

 フランの言いたいことは分かるけどその可哀想なものを見るような目はやめて欲しい。

 

「だから、今日のえっちの攻め!」

「今日えっちすること確定なんだ」

「いいじゃーん、昨日は何だか二人とも気分が乗らなかったんだから」

 

 昨日、地霊殿で初めてフランとそういうことをした時はお互いにレミリアのことが頭の片隅にあって、完全に溶け込めてはいなかった。

 それはお互いにわかっていた事だし、仕方ないことだとは思う。だからこそ、今日は思い切り発散したいと、そう思っているだけなのだ。

 

「えぇ……でも、こいしは昨日、八割くらい私に任せてたよね?」

「仕方ないじゃん! あんなに激しいとは思わなかったんだもん」

「その割には『今夜は……二人だけの……夜』とか言ってたのに」

「きぃいいぃい!!」

 

 顔を真っ赤にした私は恥ずかしさのあまりベッドに置いてある枕でひたすらフランを叩いていた。

 また、フランの私の真似も特徴だけ捉えていてなんとも腹立たしかった。

 

「わ、分かったごめんごめん……」

「むぅ……」

「じゃあ、ポーカーやろうか」

「早くやろ! 今度は私がフランをめちゃくちゃにしてあげるんだから!」

「言い回しが不穏だなぁ……」

 

 フランはぶつくさ言いつつ、引き出しからトランプを出した。

 こういう遊びも今まで何回もしたことはあった。それでも、「恋人と二人で遊ぶ」ことはこれが初めてだ。

 そう思うだけで、私の胸は高鳴り始める。

 やっぱり、恋人は最高だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「せーのっ!」」

「フルハウス!」

「ツーペア!」

 

 お互い床に叩きつけるように五枚のトランプを広げる。

 今現在、三十対三十でかなり拮抗していた。

 フルハウスによって負けた私は地面に額を擦りつけて、バンバンと力任せに叩く。

 

「なぁあ!! 勝てると思ったのにぃ!」

「甘いなこいし。ツーペアなんかで勝てると思ったら大間違いだよ。考えてドローすべきだったねぇ……」

「くっそぉ……」

 

 フランのドヤ顔が鼻につく。

 くそ、あの顔を羞恥で染め上げてやりたい。

 そんな歪んだ思考が思い浮かんでしまって、慌てて頭を振って取り消す。

 すると、ドアの外から誰かの声が飛んできた。

 

「フラン様ー? こいしさーん? お夕食が出来上がりましたが、如何致しますかー?」

 

 ポーカーに白熱しすぎて、お昼ご飯を食べず、トイレ以外はぶっ通しで夜までやってしまっていた。

 高度な心理戦が時の流れを忘れさせてくれたらしく、私達の腹の虫は大騒ぎだ。

 

「はーい! 少ししたら行くよー!」

「……まさか、フラン……」

「これが最終決戦……だね……」

 

 どうやら、お互い今日のえっちの攻めは譲れないらしい。

 ビカビカと赤い眼光を光らすフランとサードアイがゆらゆらと妖しく揺れる私、本気だ。

 

 目を閉じて、五枚のカードを引いた。

 そして、フランに見られないようにゆっくりとそのカードを確認する。

 

(ええと……スペードの8……ハートの8……クローバーの8……ダイヤの8……スペードの3…………えっ、これってまさか)

 

 来てしまった。

 ここに来て最強の運が舞い降りた。

 

(来たっ! 今日の攻めは私が勝ち取ったり! どうやってフランをいじめてやろうかなぁ……おっぱい揉んで……それから、身体を色々調べ回したりしてぇ……)

 

 脳内でフランとの桃色の空間が広がっていく。

 喘ぎながら私に愛を囁いてくれるフランを想像するだけで唾液と鼻血が垂れてきてしまいそうだ。

 表情に出てしまうのを必死に抑え、私は自分の手札をマジマジと見つめるフランを見た。

 

「ふむ……」

 

(あ、その表情……いいカードが無かったんだねぇ……)

 

 フランの顔はなんとも複雑な表情をしていた。

 先程からそうだったが、()()()をしている時は決まってワンペア以下の時だ。

 

(むふふ……私の勝ちね!)

 

 心の中で勝利の叫びをあげる。

 おそらく今頃は心の中で白旗を上げていることだろう。

 

「じゃあ……フラン……行くよっ」

「よ、よし……」

 

 私の一撃必殺を食らうがいい! 

 立ち上がって、めんこのように思い切り床にカードを叩きつけた。

 そして、スペルカードの詠唱のように高らかにその組を叫ぶ。

 

「フォー、カードぉおおぉお!!」

 

 見たかフラン! これが覚妖怪の強運だ! 

 さぁ、潔く負けを認めるがいい! 

 

「…………」

「どうしたのフラン? ほらほら早くぅ……貴方のペアも見せてよぉ……」

 

 煽るように、フランの頬をつんつんと叩く。

 フランの顔はなんとも表現しがたい真顔になっていた。

 そこから、私の顔を見るなり、だんだんと口角を上げていって、

 

「……ね、こいし」

「なぁにぃ? 今更「賭けはなし」なんて言わないでよぉ?」

「ううん、そうじゃなくて……覚悟はいい?」

「は、覚悟?」

 

 何を言っているんだフランは、覚悟を決めなければいけないのはフランの方だろう。と、心の中で嘲笑する。

 しかし、今のフランの顔には悔しさも焦燥も浮かんできていない。

 少し嫌な予感がした私は少しだけ距離を取る。

 

「さ、こいし、私のカードを見なさい」

 

 パサ……とゆっくり床に置かれた五枚のカード。

 それはもう、とんでもないカードだった。

 

 

 

 

 スペードの10、スペードのJ、スペードのQ、スペードのK、スペードのA。

 

 

 

 

 

「……は?」

 

 この悪魔のような組み合わせに、私は言葉を失った。

 そんな私を見て、フランは舌を可愛らしく出して、ニッコリと笑った。

 

「ロイヤルストレートフラッシュっ」

「は」

 

 ポーカーというゲームの中で最高位に置かれる最強のペア。

 それに加え、「スペード」であるという、オーバーキルにも程がある。

 

「はぁぁぁあぁぁあ!?」

 

 当然、私はそれを認める訳にはいかなくて、身を乗り出してフランの肩を掴んだ。

 

「フラン! どんなイカサマしたの!?」

「い、イカサマじゃないよ……ちゃんと引いたし」

「ロイヤルストレートフラッシュがどぉれだけ低い確率なのか知ってるの?!」

「わ、わかってるよ……」

 

 今この瞬間、私が妖怪として生を受けてから一番の奇跡かもしれない。

 早苗ちゃんにでも頼めば、実現出来たかもしれないが、生憎今はいない。

 

「じゃあ、今日のえっちの攻めは私ね」

「ふ、フランが運の横領を……」

「運の横領って何……とにかく、拒否権はないからね? 今日は私がこいしの身体を自由にしていいんだから」

「うぅ……しょんなぁ……」

「はい、晩御飯食べよ?」

 

 そう言って、立ち上がるフラン。

 私はフランに引っ張ってもらって立ち上がるが、ズーンと雰囲気は沈んだままだった。

 

 フォーカードが出た瞬間、勝ちを確信して、そこから「フランの身体をどういじめよう」とか「フランが恥ずかしくて死にそうなくらい激しくしてやる」とか、邪悪なことばかりを考えていた。

 

 そんな考えが祟ったのだろうか。

 諏訪子ちゃん。邪な気持ちだったのは謝るからこれ以上祟らないでね。

 密かに、幻想郷の祟り神にお祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんでそんなに元気ないのよ……」

 

 お姉ちゃんのため息混じりの声が、第一声だった。

 食堂に着くや否や、真っ黒いオーラが漂うこいしに全員が心配した。

 

「ちょっとゲームに白熱しちゃってさ、最後の最後まで同点だったんだけど……」

「フランが最終的に勝ったのね。ちなみになんのゲームしてたの?」

「ポーカーだよ」

「へぇ……貴方達にしては大人なゲームじゃない」

 

 少し驚いたのか、お姉ちゃんは目を見張った。

 失礼な、私だって495年も生きていたらそんじょそこらの大人よりも知識はあるもん。

 

「それでね、こいしはフォーカードが出来たらしくて」

「おお、やるじゃないこいし」

「……どうも……」

 

 お姉ちゃんが褒めてるにも関わらず、相変わらず暗黒オーラを放つこいし。

 ちょうどその時に咲夜やほかの妖精メイドが食事を運んできた。

 

「食べながら聞きましょう」というお姉ちゃんの提案により、その次の言葉が出てきたのは食べ始めて三十秒くらい経ったあとだ。

 

「えと、それでね。こいしは勝ちを確信したらしいんだよ」

「まぁ、フォーカードだったら勝ちはほぼ確定じゃない?」

「そこで、私はスペードのロイヤルストレートフラッシュ出しちゃってさ」

 

 カランとステーキを切っていたお姉ちゃんの手に治まっていたナイフが落ちる。

 そして、引きつった笑みを浮かべ、口端をひくひくと動かして訝しむように聞き返してきた。

 

「ろ、ロイヤルストレートフラッシュ? フランが?」

「……うん」

「あんた何かイカサマでもしたの?」

「してないよ! どーしてそんなに疑うのかなぁ……」

「そりゃあ……ロイヤルストレートフラッシュだもの。多少はそういうの考えるでしょ」

 

 確か、パチュリーの図書でロイヤルストレートフラッシュは何十万回分の一くらいの確率だって書いてあったのを思い出し、ようやく自分の奇跡に気づいた。

 

「わ、私もしかして、凄い奇跡起こしちゃったんじゃ……」

「……そりゃあ……勝ちを確信してたこいしには大ダメージよねぇ……」

 

「我が妹ながら強運ねぇ」と感嘆のため息をついて、ステーキを口に運んだ。

 

「それで、何か賭けてたの?」

「ああ、今日のえっちの受け攻め」

 

 もう一度、カランとナイフが落ちた。

 それに加え、後ろでティーポットを持っていた咲夜もティーポットを落とす。

 頑丈でなおかつ蓋も外れないタイプのティーポットで助かった。

 

「え、ええぇっちの受け攻めえぇ!?」

「うん、だから、今日は私が攻め。ね、こいし」

「そうだね……わぁーい楽しみだなぁ……」

「楽しみじゃない時の顔よねそれ……というか、紅魔館(ここ)でするの?!」

「? 当たり前じゃん。私の部屋でするけど?」

「……まぁ、いいけど……あんまりうるさくしないでよね」

 

 先程までは慌てていたお姉ちゃんだったが、今では大きくため息をついて呆れるくらいに落ち着いていた。

 

「まぁ、お姉ちゃんくらい声が抑えられたら百点だよね」

「昔の話はやめなさいグングニるわよ」

「何グングニるって……」

 

 お姉ちゃんの中でひとつの動詞が生まれていた。

 

「フラン様も大人になられましたね……」

 

 咲夜は顔を真っ赤にしながらしみじみとしていた。

 恥ずかしがるのかしみじみするのかどっちかにして欲しい。今かなり複雑な顔してるよ咲夜。

 

「まぁ、優しくしてやりなさいよ。フラン」

「大丈夫だって、ね、こいし?」

「……うん……」

「……元気なさすぎでしょう……そんなにフランを攻めたかったの?」

 

 お姉ちゃんの質問にこいしは先程までのオーラを振り払って、身を乗り出すようにお姉ちゃんに力説した。

 

「当たり前だよレミリアちゃん! あのフランなんだよ!? 誰もが未踏の地であったフランの身体を私一人が自由に弄ぶことが出来るんだよ!?」

「お、おお……そうなのね……よく分かったわ……だから食事中に身を乗り出すのはやめなさい?」

「そーだよこいし。今すっごい顔してるから」

「すっごい顔て……」

 

 スカーレット姉妹に注意されて、こいしは大人しく席に座ってステーキを食べ始めた。

 

「っうま……」

 

 余程美味しかったのか、先程までの喧騒を忘れて、食に集中しだした。

 

「お空じゃこれは再現できないかな……さすが咲夜さんだね」

「ありがとうございます」

 

 私も、自分の館の従者が褒められるのは悪い気分じゃない。むしろ誇らしい。

 

「ねぇ、またフランと一緒に地霊殿に来てよ。お空に料理を教えてあげて」

「とはいいますが……お空さんもかなりの料理上手でしたよね? 私が指導する立場にはないと思いますけど……」

「まぁ、その場合は料理語りってことで、ね、お願い」

 

 パンと顔の前で合唱して頼み込むこいしに咲夜が先に折れた。

 

「分かりました。時間が空けば、フラン様と共に地霊殿に参りましょう」

「ほんと? やったぁ! これでお空もこのステーキを作れる……」

 

 じゅるりとヨダレを啜るこいし。いや目の前のステーキ食べればいいじゃない。というツッコミは伏せておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を終え、二人でフランの自室に戻った。

 床には先程までの遊んでいたポーカーの痕跡があった。

 フォーカードとロイヤルストレートフラッシュの計十枚のカードが残されており、こいしは若干顔を顰めた。

 こいしはそんな記憶を消すようにフランに口を開いた。

 

「さてさて、お風呂はどうする?」

「え? 一緒に入るでしょ」

「え?」

 

 当たり前のように発せられたその声に、こいしは言葉を失った。

 フランに至っては「え? なんで別々に入るの?」みたいな顔をしていた。

 

「まさか、昨日みたいに別々に入ると思ったの?」

「う、うん……てっきり」

「ポーカーで勝ったのは私なんだから、こいしの身体は私のものでしょ?」

「言い方が不穏だけど……まぁいっかぁ」

 

 半ば諦めていたこいしはもうフランの指示に従うしか無かった。

 まぁぶっちゃけ、こういうのも悪くない。

 もしかしたら、私はマゾ気質なのかもしれないとこいしは密かに危惧していた。

 

 

 

 

 

 

 

「や、やっぱり、裸ともなると、恥ずかしいね」

「今更何言ってるの。昨日見せあったじゃん」

 

 昨日、地霊殿のベッドでお互い脱いだのはいいが、こいしはあの時はその場のテンションもあってか、抵抗はあまり無かった。

 

「だってフランの方が胸大きいし。なんか自信無くすんだよねぇ……」

 

 ガラガラと風呂の戸を開けて、だだっ広い浴場に二人で入った。

 二人は隣に座って、ほぼ同時に蛇口を捻る。

 

「そういえば、吸血鬼はシャワー大丈夫なんだね」

「うん、「流水」の概念を持たないただの「水」なら問題ないってパチュリーが言ってた」

「聡明だねぇ魔法使いって」

 

 地霊殿に魔法使いがいないこともあって、魔法使いの利便性に驚くこいし。

 フランにとっては当たり前の存在でも、周りからしたら珍しいという物に、フランは少しだけ優越感があった。

 

「そんなことより……」

 

 チラリ……とフランがこいしをチラ見する。

 そこには、お湯が全身にかかって、セミロングの髪がピタリと背中やうなじにへばり付いている。

 フランにはそれが凄くつややかに見えた。

 

「こいしの肌って真っ白だね。綺麗……」

「フランだって負けてないんじゃない?」

 

 こいしに比べ、フランは吸血鬼の癖に肌がこいしよりも少々黒い。

 一般的にはどちらも色白だが、こいしはその中でも頭二つほど抜けて白いのだ。

 

「……ふぅーん……おっぱいもきれーだしねぇ」

「ぇひんっ」

 

 ふにゅり。とフランがこいしの胸を人差し指でつつく。

 変な声が出てしまったからか、それともフランに触られたからか分からないが、顔を真っ赤にしたこいしがフランを睨みつけていた。

 

「フーラーンー!?」

「あははっ、ごめんごめん。でも、やっぱりこいし、私と同じくらいじゃない?」

「何が?」

「大きさ。私BでこいしはAなのに、見た感じ大きさ一緒だから大きくしてもいいんじゃないかなって思って」

「あー、確かに最近Aのブラは少しだけキツかったりするんだよねぇ……」

 

 こいしは自分のを触って確認してみる。

 目視では自分でも分からないが、いざ触ってみると、こいしはその変化に気づいたらしい。

 

「うん、大きくなってる。今度Bのブラ買いに行こうよ」

「いいね、初デートは下着屋さんだ」

「わーい最高のデートスポットだー」

 

 今まで友達として服屋や下着屋に行くことはあっても、恋人として下着屋に行くとなると、意味が変わってくる。

 恋人にはその下着すらもさらけ出すのだ。なので、真面目に考えなければいけない。

 

 以前まではサイズが合えば適当に選んでいた下着も今となっては真面目に悩むんだろうなぁ。と柄にもなく未来の想像をしてしまうこいし。

 

「……」

「フラン?」

「……えいっ」

「!?」

 

 手を大きく広げ、こいしの胸を鷲掴みにしたフラン。

 唐突なその行動に目を見開いて硬直してしまうこいし。耳まで真っ赤になっていて、フランにさらなる悪戯心をくすぐらせた。

 モミモミと感触を楽しむように五本の指を動かしていく。

 

「……ぅ……」

「お、さすがこいし。話が分かるねぇ」

 

 先程のポーカーで賭けた通り、今日のこいしの身体はフランのものなのだ。

 抵抗しようにもそれは先程のフランとの賭けを無かったことにしてしまうので、大きく嫌がることは出来ない。

 いや、こいし自身も満更でもないみたいで、嫌な顔ひとつしなかった。

 

「ぅう……恥ずかしいよぉ……」

「……んふふ……あっ、そうだ」

 

 フランはその感触を十分に楽しんだ後、思い出したかのように風呂を出た。

 

「ふ、フラン?」

「ちょっとまってて、すぐ戻るから」

 

 そう言ってフランはお風呂場を後にして、更衣室で何かゴソゴソと漁っていた。

「あった!」という声がした後、フランはとんでもない悪顔になって戻ってきた。

 そして右手には

 

「フラン……その顔怖いよ?」

「こいし、今からあなたは……「四人」相手にしてもらうよ?」

「え、……えっ?」

 

 言っている意味が分からない。

 こいしはシャワーを持ちながらまたもや硬直した。

 

「禁忌「フォーオブアカインド」」

 

 右手に持っていたスペルカードから光が発せられる。

 お風呂場全体が眩い真っ赤な光で包み込まれ、こいしは思わず目を瞑る。

 

「……な、何してるのフラン?」

「……ふふふ……」

 

 目を開けてフランの方を見る。

 すると、スペルカードの効果でフランが四人に分身していた。

 そこでこいしは、フランの意図を悟った。顔が真っ青になっていくのを感じる。

 

「ま、まさかフラン……」

「……はぁいこいし。私を感じて?」

 

 一人がそう発言すると、隣に立っていた三人のフランが続くように「私も」「私も」「私も」と艶やかな笑みを作っていた。

 

「ま、待って……それはさすがにきつい……あ、ちょ……」

 

 ゆっくりと、裸のフラン四人組が迫ってくる。

 ここは天国なのか地獄なのか、こいしには判断ができないほど頭がショートしていた。

 

「ちょ、あっ、……ぁぁぁぁ……」

 

 フランとこいしが入った後にレミリアは入ろうと思っていたのだが、お風呂場が空いたのは結局二時間後くらいで、レミリアは堪忍袋の緒が切れた。

 お風呂場で鬼のような形相のレミリアに正座させられるフラン×4とこいしであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……まだ足が痺れてるよぉ……」

 

 ようやくお姉ちゃんの説教から解放された私達はお風呂場で体を拭いて、寝巻きに着替え、廊下を歩いていた。

 フォーオブアカインドも解除され、私とこいしの二人になっていた。

 

「そういうことは部屋でやりなさぁぁあい!!」というお姉ちゃんの怒りから三十分ほどのお説教が待ち受けていた。

 大理石の床に三十分正座させられるのは誰でも辛いと思う。

 

「というか、こいし。さとりに言わなくてよかったの?」

「ん? 何が?」

「今日泊まる気でいたの?」

「あぁ、お燐に「今日もしかしたら紅魔館に泊まるかも」って伝えといたから、多分大丈夫だよ」

「ならいいけど……まさかパジャマまで持ってくるとは……」

 

 こいしは白色のTシャツ一枚だった。

 そのTシャツのサイズが大きいからか、下半身は下着以外何も着ていなかった。誘ってるじゃんこれ。

 かくいう私も下着の上に透けないタイプのベビードールなので、あまり変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

 自室に着くと、私はボブっと自分のベッドに飛び込んむ。

 

「さて、もう寝る?」

「寝かせる気ないくせに」

「まぁ、そうだね。じゃあこいし……おいで?」

「……ぅん」

 

 ベッドの上で私は両手を広げる。こいしは恥ずかしそうに目を逸らしながらも、フランの胸に飛び込んだ。

 ぎゅぅっと強く抱き締めているこいしの頭を優しく撫でた。

 

「今日、レミリアちゃんに認めてもらえて、ほんとに嬉しかった……」

「そうだね……」

「それでね。今日、レミリアちゃんの気持ちを知れたじゃない?」

「……うん」

 

 こいしの声が少しずつ不安げになっていた。

 

「レミリアちゃんもフランの事好きだって言ってたからさ……」

「あの時は衝撃だったね……」

 

 薄暗い部屋の中、こいしの表情は見えないが、少し体が震えてるのがわかった。

 

「もしかしたら、フランがいなくなっちゃうんじゃないかって……怖かった」

「……」

「まだ、フランの中でレミリアちゃんが大切な存在なのは分かってたけど…………こうして、フランは私を選んでくれて……嬉しかったよ?」

 

 こいしが私の胸から顔を出して、上目遣いで私を見つめる。

 碧眼が少し潤っていて、なんとも可愛らしい瞳に私は顔が熱くなるのを感じた。

 

 こいしがそんなに不安がっていたとは思いもしなかった。

 確かに、今日のお昼は私も心が揺れたのは事実だ。お姉ちゃんの気持ちを知れて、嬉しかった。

 でも、その気持ちを知れた時にはもう、私の中はこいしでいっぱいだった。

 そんなこいしに私は本心を伝えるため、口を開いた。

 

「……私の好きな人は……もう、こいしだけだよ」

「……」

「もう、私はこいししか見えない。こいししか愛せない。だから……そんな顔しないで」

「フラン……」

 

 出来るだけ優しく、こいしに笑いかける。

 こいしはそんな私の顔を確認したあと、もう一度私の胸に顔を埋めた。

 表情は見えないが、耳は薄暗い部屋でも分かるほどかなり赤かった。

 

「……その顔はずるいよ……フラン……」

「……そんな変な顔だったかな……」

「……私の好きな人が、フランで良かった」

 

 そんなこいしの一言が私にとってどれだけ優しかったことだろう。

 今まで、レミリアお姉ちゃん一筋だった私が、こうして親友と愛を確かめあっている。

 

 今思うと、私は最低な奴だったのかもって少し嫌気がさすかもしれない。軽い女だって、そう思ってしまうかもしれない。

 

 でも、後悔はない。

 

 そう思えたのは間違いなくこいしとレミリアお姉ちゃんのおかげだって、確信を持って言える。

 

「んっ……」

 

 こいしがもう一度顔を上げて、目を閉じていた。

 可愛らしい唇がキスを求めるように私に近づいてきていた。

 私はそれを受け止めるかのように、優しく口付けをした。

 

 昨日とは全く違う。

 お姉ちゃんが頭の片隅にいて、悶々としていた昨日のキスとは別物だった。

 

 思う存分、こいしを感じることが出来る。

 思う存分、こいしを触ることが出来る。

 思う存分……こいしを貪ることが出来る。

 

 その感情が更に私の興奮を助長して、すぐさま舌を口の中に入れた。

 

「んっ……じゅる……ちゅぅ」

「ふら……んぅ……しゅ……きぃ……」

「わらひ……も……んちゅ……好きだよ……」

 

 互いに唇を求め合う中で必死に想いを伝えた。

 もう、口に出していないと、幸せが溢れてしまいそうで、目の前にいる彼女に私の幸せを共有したい。

 

 私の手はいつの間にかこいしの身体に伸びていた。

 くびれを人差し指なぞるようにつーっと這わせる。その度にこいしの身体が強ばるその反応が可愛くて仕方がない。

 

 こいしの全てが可愛らしい。

 こいしの全てが欲しい。

 こいしの全てが愛おしい。

 

「こいし……今日は……朝まで……ね……」

「……ぅん……頑張る……」

 

 もう、我慢できなかった。

 こいしのそんな表情を見てしまうと、私の中にある理性が全て吹っ飛んだ。

 まるで決壊したダムのように、私の想いが流れ出していた。

 

 

 そんな私の想いと幸せを、こいしは全部受け止めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今……何時ぃ……」

 

 結局、空が明るくなるまで捗ってしまった。

 それほどまで、お互いの感情が昂っていたということなのだ。

 

 裸のまま添い寝して、疲れきった表情で目を擦る。

 

「おはよ。フラン」

「んぅ……おはよぉ……」

 

 こいしの方は完全に目が覚めていたようで、昨日来ていた白のTシャツを着ていた。

 両手には湯気がたっているマグカップを持ってベッドの隣にあった椅子に座っていた。

 

「ちなみに今はもうお昼だよ。咲夜さんは気を利かせてくれて、遅起きは許してくれてたよ」

 

 朝方に来た咲夜をほぼ裸のこいしが応対してくれたともなると、初心な咲夜もきっと慌てたんだろうな。

 

「こいし……今日あんまり寝てないんじゃない?」

「そんな事ないよ。覚妖怪の睡眠時間は短いんだ」

「そんな設定あったんだね……」

 

 私はベッドの端に脱ぎ捨てられていたベビードールを取って、身に纏う。

 カーテンの隙間から差し込む太陽の光の強さからして、今は本当にお昼なんだろう。

 

「ダメだ……腰痛い……」

 

 昨日、色々な体勢でしていたので、全身という全身が悲鳴をあげている。

 特に腰、吸血鬼とあろうものが筋肉痛とは、余程集中してしまっていたんだろう。

 

「それよりもさ、フラン」

「ん? どうしたの?」

 

 こいしはマグカップの中のコーヒーを飲んだあと、真剣な眼差しで私を見つめた。

 

「ポーカーのやつって、昨日までだよね?」

「まぁ、もう効果は切れてるけど」

「じゃあさ……」

 

 この後のこいしの言葉に私は言葉を失った。

 

 

 

 

 

「今からするのは、私が攻めでいい?」

 

 

 

 

 

「……待ってよ」

 

 状況が整理できない。

 いや、頭の中でその状況を考えようとしていない。拒絶反応が起きている。

 

「い、今から? 今からまたするの?」

「うん。だって昨日はフランばっかでさ。楽しかったけど、やっぱり物足りなくて」

 

 当たり前のようにキョトンとした顔で笑うこいし。やだその顔可愛い。

 

「私身体痛いって言ったよね?」

「でも、昨日も私が休憩しようって言ったのに休ませてくれなかったじゃん」

「う……」

 

 昨日は理性が飛んでいたので、こいしの「休憩したい」という要望すら無視していた。

 その度にこいしが頬を膨らませて睨みつけていたから、余計に興奮してしまっていたのだ。仕方ない。

 

「じゃあ、私がいただいちゃっていい?」

 

 こいしがTシャツを脱いだ。

 そして、ズカズカとベッドに座っている私に迫ってくる。

 

「わ、わかった。一回落ち着こ? ね? まだお昼だしさ……」

「関係ないよ。私がえっちしたい時なんだから、昼も夜も関係ない」

「……や、ちょ、待って……あっ、いゃあぁぁぁぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の昼頃、窓を全て開けていた紅魔館から幼さも感じられるが、少し色っぽい喘ぎ声が聞こえてきて、来客の霊夢と魔理沙がいた大図書館は少し気まずかった。

 

 そして、紅魔館当主は「いつまでやってんのよぉおおおおおぉ!!」と怒り狂い、私とこいしは一時間正座の刑を下された。

 

 

 

 

 

 

 そんなハチャメチャな紅魔館がいつしか日常となっていた。

 

 こいしとフランがところ構わずイチャイチャしだして、それをレミリアがお説教をする。

 たまに来る来客もそんな三人のやり取りを微笑ましく見ていた。

 

 覚妖怪と吸血鬼。

 

 そんな二人が幸せな恋人生活を送る日常を記すには、まだ序の口である。

 

 

 

 

 

 

 

 end……




この後、こいフラのアフターストーリー書きます。



そして、ラストカップリングのレミリア×こいしのストーリーを書きます。


実はまだ構成が定まっていないので、色々時間かかると思いますが、よろしくお願いいたします。

では、こいフラ編見ていただき、ありがとうございました。


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後日話 そう思えるのは

今回でこいフラ編、終了です!


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


 真夏。

 紅魔館内部にいても外から聞こえる蝉の声が嫌でも耳に入る。

 パチュリーの特殊魔法で有能な冷房が紅魔館には備わっているため不便はない。

 ただ、パチュリーの結界の外に出たら最後、冗談抜きで溶けてしまいそうだ。

 

「はぁ……」

「……どうしたのフラン。ため息なんて珍しいわね」

 

 陽が真上に昇る頃、私は紅魔館の食堂で食事をしていた。

 

「いや、なんでもないよ」

「大方、ここ最近こいしに会えていないから寂しいんでしょ」

 

 図星である。

 地上にある紅魔館と地霊殿ではそもそも距離がかなりある。

 地底に入るのも紫の許可や色々手続きがあるのと同時に、地上から地底に入る入口から地霊殿までは地底を横断する必要があるのだ。

 それに加え、こいしはさとりと一緒にお抱えのお仕事に出向いていて忙しいらしい。

 

「……うぅ、こいしに会いたいー」

「こればっかりは仕方ないわね。以前に地霊殿の仕事部屋を見たけど、紅魔館(ここ)の十倍以上の仕事量だもの。古明地姉妹でも手一杯って以前に地霊殿の鴉が言ってたわ」

「こいしって意外とできる女だもんねぇ……」

 

 こいしは見た目の割に、意外とカリスマ性を持ち合わせていた。

 さとりが不在の時、地霊殿を仕切るのはこいしで、その際に何か有事が起こっても的確な処理が出来るらしく、さとりから大きな信頼があるのだとか。

 地霊殿と違って、紅魔館の指揮権は全てお姉ちゃんになっているため、私にはそこまで大きな権利はない。

 私の立ち位置はいわゆる社長令嬢的なあれだ。

 

「……むぅ……会いたい……」

「……フランも変わったわね」

「そ、そう?」

 

 お姉ちゃんがなんだか感慨深い声でしみじみとしていた。

 

「ええ、こいしのこと好き好きオーラが出すぎてて気持ち悪いわ。悪い意味で変わったわね」

「き、気持ち悪い……」

 

 どストレートだ。

 

「い、妹に気持ち悪いってどうなのかなぁ……」

「じゃあところ構わずイチャつくのはやめなさい。別にそれだけは構わないけど、人里でキスだけは本当にやめて。それも私やさとりがいる前で。人里の人間の目線が痛すぎるのよ」

「う……」

「なーにが『こいし……もっと』よ。観衆の前だってのにとんでもないこと口走って」

「うぅ……」

 

 お姉ちゃんの日頃の恨みだろうか。

 一言一言全てが皮肉である。

 私達も悪いのは自覚しているがこいしと一緒にいるから仕方ない。って、前にお姉ちゃんの前で言ったらグングニル突きつけられたから言わないでおく。

 

「……まぁ、フランが家族以外に大切な人を見つけたことは何よりだけどね」

 

 私は過去、能力の暴走によって紅魔館の地下に幽閉されていた。しかし、私自身が望んだことで、お姉ちゃん達の反対を振り切って、自ら外へ顔を出すことを約495年間の間禁止した。

 その間、お姉ちゃんはもちろん、咲夜や美鈴、パチュリーやこあも、毎日のように私の相手をしてくれた。

 時にはおままごと、時には人形遊び、時には談笑、時には弾幕ごっこ。

 

 私自らが望んで他者との関わりを持とうとしなかったのに、無視して、私は一人でいることを拒んだのだ。

 そんな私は自分の「ありとあらゆる物を破壊する程度の能力」を嫌った。

 どうして私がこんな目に合わなければいけないのか、どうして家族と楽しく過ごさせてくれないのか。

 一時は自殺も考えた。でも、それを止めたお姉ちゃんの言葉が今でも私の活力になっている。

 

『紅魔館は誰一人として欠けてはいけないもの。それに、あなたは私のたった一人の妹。どんな姿になっても、取り返しのつかない罪を犯して、周りから軽蔑されるような事になっても、私はあなたを愛し続ける』

 

 お姉ちゃんのそんな言葉に私はありえないくらいに救われた。

 幽閉から解放された後も私はお姉ちゃんや咲夜、他の紅魔館メンバーとしか関わることをせず、外の世界への興味と羨望を一切遮断した。

 しかし、幸か不幸か、お姉ちゃんの起こした異変、「紅霧異変」により、霊夢や魔理沙と出会う。

 そこから、私は人間、妖怪、果てには神なんかとも仲良くなり、積極的に外に出るようになった。

 

 この「紅霧異変」は私が紅魔館以外の人とのきっかけになればと思って起こしたものらしい。

 お姉ちゃんは直接言わなかったが、後から咲夜にこっそり教えてもらった。

 そこから、私はお姉ちゃんへの愛が止まらなかった。今思えば、少し恥ずかしいのもあるかな。

 

 

 そして、こいしという大親友と出会えた。

 家族以外で、唯一気心が知れる知人。

 最初、私に恋愛的な好意は一切合切存在しなかった。

 それに、こいしの気持ちにも気づかないほどの鈍感さで、こいし自身は苦労してくれたと思う。

 知らないうちに、困った事、相談事があれば迷わずこいしに話しているようになっていた。

 それくらい、私はこいしを信頼していたし、支えられていたと思う。

 そこから、じわじわとこいしが私を想ってくれていることに気づき始め、だんだんと私も女の子として意識し始めていた。

 それから私は紅魔館にいる時間の方が少なくなったりもした。

 

「……まぁ、お姉ちゃんには色々迷惑かけたよね」

「そうね。恋人にあげるはずのファーストキスを奪われたものね。迷惑なんてレベルじゃないわ」

「お姉ちゃん私のこと嫌いになったの?」

「……ふふっ、まぁ、悪いことばかりじゃなかったし。良しとしましょう」

 

 お姉ちゃんは左手を上品に口に当ててくすくすと笑う。

 お姉ちゃんに恋心を抱いていた気持ちが消して悪い訳では無い。むしろ、そんな恋があったからこそ、今の私はここにいるんだと自覚できる。

 私達はほぼ同時に食事を終え、布巾で優しく口を拭き取ると、お姉ちゃんは席を立ち上がった。

 

「さて、私はそろそろ博麗神社に行くけど、あなたはどうするの?」

「んー、今日は暑すぎるから紅魔館にいるよ」

「そう、じゃあいってくるわね」

「はーい」

 

 ヒラヒラと手を振って私は自分の部屋に戻る。

 今日は何もすることがない。これから午後になるが、退屈な一日になるだろうな。

 

「はぁ……」

 

 こいしに会いたい。

 そんな気持ちだけが前に出てしまって、一人で部屋にいるのがなんだか虚しくなっていく。

 思ったより、こいしの存在は私の中でとんでもない大きさになっていた。

 こいしのことを考える度に胸がキュッてなって恋しくなる。

 少女漫画とやらはお姉ちゃんが香霖堂からよく借りてきてくれていたので、よく読んでいたが、作り物だと笑っていた。まさか、自分の置かれている状況が少女漫画のようなセリフでストンと腑に落ちてしまうとは思わなかった。

 

「病気になったみたい」

 

 そう、病気だこれは。

 こいしのことしか考えられない病だ。怖い。

 きっとこいし病だ。

 

 そんなくだらないことを考えていたら、部屋の扉が二回、軽快にノックされた。

「んー」と適当な返事をすると、向こう側にいた咲夜から声がかけられた。

 

「フラン様。こいしさんがいらっしゃいました。玄関でお待ちしていま──」

 

 秒速だった。

 咲夜の声を聞いた瞬間に部屋を飛び出し、咲夜の横を全速力で通り過ぎた。

 その途中、スカートが大きくめくれて黒いパンツが見えてしまった咲夜が「きゃっ!?」なんて可愛い声を出していた。後でからかってやろう。

 そんなガードの硬い咲夜のスカートをめくりあげるくらいのスピードで紅魔館を下った。

 

 私の部屋から玄関まで時間にして6秒。

 窓から飛び降りて玄関に向かうのも手だが、以前にその方法で窓を割って、飛び降りた先の地面を破壊してしまう事件があって、咲夜にめちゃくちゃ怒られたという経験がある。そのため、一応の配慮から、廊下から降りることにした。

 

「こいしぃぃぃっ」

 

 私はスピードを緩めないまま、こいしの姿を捉える。

 瞬間、何もかもが満たされた気がした。

 しかし、こいしの顔は焦燥に塗りたくられていた。

 

「えっ? ちょ、ふら、フラン?」

「会いたかったよぉぉぉ」

「どぶぅわぁぁ!?」

 

 まるで風が通り過ぎるかのような私のスピードが加わったハグに負け、玄関を飛び出して、門の近くまで吹っ飛ばしてしまった。

 私はこいしにくっついたまま、こいしの匂いを嗅ぐように胸に顔を埋めた。

 

「いったぁ……」

「……こいしぃ……」

「あのねぇフラン。会いたがってくれてたのはめちゃくちゃ嬉しいんだけど、スキンシップには限度があるよね? 恋人に容赦なくタックルするのは、そもそもスキンシップなのかな?」

「むっ、いいじゃん。こいしに触りたかったんだから」

「そういう事じゃないのに……」

 

「はぁ……」と額に手を当てて呆れるも、しっかりと私を抱きしめてくれた。

 どうやら、こいしも満更ではないみたいで、満面の笑みで応えてくれた。

 

「えっと、二週間ぶりかな? フラン、久しぶりだね」

「違うよこいし。一週間と六日、四時間ぶり」

「怖い。怖いよフラン」

「そんなことより、早く紅魔館に入ろうよ。いつまでここにいるの?」

「あなたが吹き飛ばしたんだよフラン……」

 

 こいしの手を引いて、私は小走りで紅魔館へと戻っていった。

 そして、速攻部屋に入る。そして、速攻鍵を閉めた。

 

「ね、こいし。いい?」

「ちょ、ちょっと待ってよ。今汗かいてるから」

 

 私はもう我慢出来なくなって、上着を脱いでしまう。しかし、そこで待ったをかけたのはこいしだった。

 確かに、よくよく見れば、こいしの黄色と緑の上着は汗ばんで少し水分を含んでいた。

 

「いいよ。こいしの汗なんて今更気にならないよ。てゆーか舐めさせて」

「何言ってんの!? じゃなくて、私が気にするの。お風呂借りていい?」

「えぇー」

「今日はお風呂入ったらフランの好きにしていいからさ」

「いいよ存分にお風呂を堪能しなさい」

「単純だなぁ……」

 

 こいしから言質を貰ったからには、私はもう何も言うことは無い。

 こいしは呆れてため息をつくと、お風呂場へ足を運ぼうとした。

 その時、私の中で電流が駆け抜けた。

 

「あっ!」

「ん? どうしたの?」

「ね、こいし。あそこの泉行こ?」

「泉?」

「こいしが私に初めてキスしたとこ」

「……ああ、いいね。あんまり思い出したくないけど……」

 

 どうやら、あの泉での不意打ちキスは黒歴史のようだ。これはいい情報を貰ったかもしれない。

 

「よし、そうと決まれば早く行こう。えっと、水着水着……」

「フラン。私、水着持ってきてないや」

「あ、そっか。どうしよっかな……」

「一度解散して、再集合する?」

「そうしよっか、じゃあ一時間後にあそこの泉に集合でいい?」

「分かった」

 

 そう言って、こいしは窓から飛んで、一度紅魔館を後にした。

 私は飛んでいくこいしをずっと見ていた。

 

「……白か」

 

 こいし、確かにその飛び方なら地上にいる人には見えないけど、同じ高さにいる私には丸見えなんだよ。どことは言わないけど。

 ひとしきり目の保養にして満足した後、私はもう一度水着探しに取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あっつい」

 

 早く来すぎた。

 咲夜から貰った懐中時計を見ると、集合時間よりも三十分も早く来ていた。

 

(……ああ、こいしの水着見たい……)

 

 もちろん、下心から出ている言葉では無い。こいしの体を見たいと思っているだけだ。

 別にエッチなことなんて考えてない。ないったらない。

 

「およ、フラン、来るの早いね」

 

 そんな卑猥な想像をしていると、こいしも早めに来ていたようで、背後から現れた。

 こいしはいつもの服ではなく、白いパーカーを羽織って、見えるか見えないかのラインでショートパンツを履いていた。

 スカートを履いていないこいしも珍しい。

 ちなみに私は七分丈の大きめなTシャツに白いミニスカートを着て、下に水着を付けている。

 

「……ね、こいし。言いたいことがあるんだけど」

「……私もある」

「同時に言う?」

「いいよ」

「せーの」

「「エロい」」

 

 静寂。

 そして、二人同時に笑い出す。

 

「あははっ、まさかそんな考えが一致してるなんてね」

「こんな考えで一致しちゃうのもどうかと思うけどねぇ」

「ま、とりあえず水浴びようよ」

 

 上に着ていた服を脱いで、互いに水着を晒す。

 そして、互いに硬直。

 こいしは白のフリルが着いているビキニ。私は赤色のシンプルなビキニ。

 

「ね、こいし」

「うん」

「「エロすぎ」」

「……」

「入ろう。早く」

 

 ようやく、やっている事の下らなさを感じた私達は苦笑いをしながら水の中にゆっくりと入った。

 

「ひゃっ、冷た……」

「外が暑いと、余計に感じるよねぇ」

「分かる。温度差でだいぶ違うよね」

 

 まるで温泉に入っているかのように、澄んだ水に浸かって脱力する。

 

「……ふぅ」

「こいし」

「ん?」

「……今日は、私の好きなようにしていいんだよね?」

「……え? ジャンケンでしょ?」

「え?」

 

 さっきと言っていることが違う。

 私はそう訴えようとしたが、それよりも前にこいしがくい込むように答えてきた。

 

「あれはお風呂に入ったらの場合だから。あれは無効。だから今日はジャンケン」

「……え、えぇ……」

「言ったよね私、「お風呂入ったらフランの好きにしていい」って」

「な、なんていう限定条件……」

 

 せっかくこいしをいじり倒す案をちょびっとだけ考えてきたのに。

 まぁ、勝てばいいだけの話だろう。

 

「ふふ……ジャンケンは私の庭なのよ。こいしなんかに勝てるかしら?」

「さぁ? でも、フランは以前のポーカーで運を使い果たしたんじゃないの?」

「ま、まだ根に持ってたんだ」

 

 私がロイヤルストレートフラッシュを叩き出すという奇跡の大事件。

 結構前の話だが、記憶には新しい。それは何故か。

 衝撃的すぎたからである。

 過去の話は置いておいた私達は同時に立ち上がり、拳を互いに突きつける。

 

「じゃ、いくよーっ」

「「最初はグー」」

「「ジャンケン……」」

「「ポン!」」

 

 勝負は一瞬だった。

 フランドール・スカーレット、パー

 古明地こいし、チョキ

 

「ぃやったぁぁぁあ!!」

「そ、そんな馬鹿な……」

 

 水の上で飛び跳ねるこいしとショックのあまり倒れて水中に身を捧げる私。周りから見たら凄い面白い反応だっただろうな。

 

「はいはーい、じゃあ、私の好きにしまーす」

「むぅ……どーぞ」

 

 そう言って、私を岩にもたれさせ、こいしは私に密着するように抱きついた。

 鼻と鼻が当たる距離まで近づき、ニヤリと笑うこいし。

 

「……ふふ……フランのかーわいい顔が見られるんだね……」

「……そ、その顔怖い……」

 

 妖しく笑うこいしの顔は、もはや少女の顔ではない。

 あれは、自分の欲に正直に向き合った、大人の女性の色気を放った、そんな笑みだ。

 

「じゃ、いただきまーすっ。んっ……」

「んぅ……ちゅ……ちゅぅ……」

 

 まずは唇を合わせるだけの優しいキス。

 ただただ、お互いの愛を確かめる確認作業のようなもの。

 そして、次は相手の唇をついばむように何回もキスをする。

 そして、ゆっくりと舌を使ってキスをする。

 ここまではいつものこいしと同じだ。

 

「じゅる……れろ……ちゅぅ……」

「んう……ちゅ……こぃし……」

 

 お互い、完全にスイッチが入ってしまっている。

 口の間から漏れる唾液が泉に垂れては見えなくなっていく。

 

「……ぷ……はぁ……」

「もっとぉ……こいしぃ……」

「……んー」

「……こいし? どうしたの?」

 

 お互いここから進めていく時に、こいしは顎に手を当てて何かを思考していた。

 私は我慢できなかったのか、私の上に座っているこいしを抱き寄せて、キスをせがむ。

 

「ねぇ、こいし……」

「フラン。いいこと思いついた」

「え?」

「今日さ、ずっとここで過ごさない?」

「えっと……どういうこと?」

「だから、夜までここでイチャイチャしよってこと」

 

 名案なのかそうでないのか分からないラインの提案だなと思う。

 しかし、今日はこいしが勝者なのだ。私は素直に従うことにしよう。どうせお姉ちゃんには叱られるんだし。

 

「わかった。こいしの好きなようにしていいよ」

「そう、じゃ遠慮なく」

 

 そう言うと、こいしは再び唇を塞いだ。

 しかし、さっきよりも段違いに激しいキスをしてきた。

 舌を絡め、息継ぎが出来ないほどの濃厚なキスだった。

 

「ちゅぅ……べろ……れろ……」

「んっ……こ、こい……ちゅぅぅ……」

「フラン……好き……すき……」

「わ、わらひも……ちゅぅ……」

 

 キスを重ね、少しだけ唇が腫れてしまうくらい、私達は続けていた。

 キスに満足した時には、もう陽は傾いていて、橙色で空が染め上げられている時間だった。

 

「はぁ……はぁ……」

「こいし……」

「じゃ……水着脱いで?」

「う、ぅん……」

 

 言われるがまま、私は水着を脱いで、こいしに全身をさらけ出した。

 それに呼応するように、こいしも水着を脱ぎ捨てた。

 そして、もう一度キスを重ねた。

 

「大好きだよ……フラン」

「私も……大好き」

 

 お互いがお互いの想いに精一杯答えるように、私達は体を重ね合わせた。

 そこら一帯に聞こえていたのは、艶やかな二人の声と、大きな水の音、そして、静かになくヒグラシの声だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ"ー、つっかれたぁ」

 

 一通り終えた私達は水着を着直して、岩に座る。

 ずっと水に浸かっていた私達は逆に体が冷えていたので、真夜中のこの少し涼し気な風がとても心地が良かった。

 周りはもう、蝉どころかヒグラシの声すらも聞こえず、鈴虫が活発になっていた。

 

「……午後11時半……お姉ちゃんに怒られるなぁ……」

 

 懐中時計を見ながら、私はこの先に怒るであろうことに少しだけ落胆する。

 

「まぁ、仕方ないよねぇ」

「元はと言えば、こいしが『二回目……しよ?』なんて言うからだよ」

「いいじゃん。したかったんだもん。フランは嫌だったの?」

「……別に……嬉しかったけどさ」

 

 過去一で長かったと思う。

 というのも、こいしが一度目だけじゃ物足りなかったようで、二度目を所望してきたことで、ここまでの長時間に渡ったのだ。妖怪って怖い。

 

「じゃあおあいこだね」

「……まぁ、いっか」

 

 仕方ない。

 そう簡潔にまとめて解決する。ポジティブに物事を考えられるのはこいしの影響だろうか。

 

「ね、フラン」

「なに?」

「これから一週間、お姉ちゃんが天界の方に出向いちゃうから、また遊べなくなるんだよね」

「えっ、また?」

「ごめんね」

 

 こいしは申し訳なさそうに顔を下げる。

 

「いや、仕方ないけど……こいしは大丈夫なの?」

「何が?」

「身体の方。明日から仕事するんでしょ? こんな時間まで遊んでて……」

「そうだね。確かに辛いかも」

 

 少し無理をするように笑う。

 その顔をする時は我慢している時なんだと、私はわかっている。

 

「まぁ、一週間頑張れば、フランに会えるんだから。一週間なんてちょろいもんだよね」

「……」

「……」

 

 静寂が訪れる。

 私もこいしも元気な性格なので、会話が途絶えることは滅多にないのだが、やっぱり会えないことを考えると、寂しくて声が出なくなる。

 地霊殿と紅魔館の距離を考えると、毎日行ける距離ではないし、仕事をするこいしの邪魔にもなってしまう。

 

「あ」

「ん? どしたの?」

 

 もしかしたら、とんでもない最強の案を思いついてしまったかもしれない。

 

「私が一週間地霊殿に泊まればいいのか」

「……あぁっ!?」

 

 こいしは「その手があったか!」というような顔をして立ち上がる。そして、満面の笑みではしゃぎ出す。

 

「それなら毎日フランに会えるし、触れる! えっちしたい放題プランだ!」

「間違いではないけど」

「そうと決まれば、レミリアちゃんに許可を取りに行こう!」

「……そうだね」

 

 こいしは私の前に右手を差し出す。

 その手の先では、こいしはにっこりと笑っていた。

 笑い返した私はその右手をとって、立ち上がる。

 

 

 

 そして、紅魔館への帰路を辿り始めた。

 

「お姉ちゃん、OK出してくれるかなぁ……」

「そもそも、『今何時だと思ってるのよぉぉ!』って怒りそうだよね」

「それお姉ちゃんの真似のつもり?」

 

 これから先、起こるであろう事柄が楽しみで仕方がない。

 こいしと一緒にいれるこの時間が好きすぎて仕方ない。

 

「とりあえずお腹空いたよ。紅魔館で食べていこ」

「そうだね。こいしの分も咲夜が用意してくれてると思う」

「咲夜さん。地霊殿のシェフになってくれないかなぁ……お空と組めば最強になるのになぁ」

「残念、咲夜は生まれながらに紅魔館メンバーだから、多分本人が認めないよ」

「だねぇ……」

 

 もしかしたら、こいしと家族になるかもしれない。

 もしかしたら、こいしと喧嘩するかもしれない。

 

「……ね、フラン」

 

 きっと、辛いこともあるだろう。

 きっと、悲しいこともあるだろう。

 

「何、こいし」

 

 例え、仲違いするようなことがあっても。

 例え、一時の感情で嫌いになることがあっても。

 

 

 

 

「大好きだよ!」

 

 

 

 

 私はきっと、永遠にこいしと共に生きていく。

 

 そう思えるのはきっと、私は……

 

 

 

 

 

「……私も、大好きだよ。こいし」

 

 

 

 

 

 こいしのことが、好きだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜END〜




本当にありがとうございました!

これで、こいし×フラン編は完全完結です。


次回から
レミリア×こいしの分岐ルートのお話になります。



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分岐 : たった一度の一途な恋
分岐ルート1話 友人という関係


遅くなってすみません。

レミこいルートです。


「……」

 

 フランが永遠亭から飛び出して数十分が経過した。

 私の中で、まだ心の整理がついていない。なんて言うのは、ただの言い訳かもしれない。

 一時の快楽を求め、フランに思わせぶりな態度をとった私にすべての責任がある。

 

 生き物は、快楽に依存してしまう特性がある。食欲を満たす快楽、睡眠欲を貪る快楽、そして、性欲を弄ぶ快楽。

 

 ただそれらを求めるには、必ず何かを代償としてしまうことがある。

 そして、私の欲求を満たすために代償としてしまったのが「(フラン)」なのである。

 なんて軽はずみな行動をしてしまったのだろうか。なんてくだらない思考を持っていたのだろうか。

 ただただ自分の情けなさ、不甲斐なさでいっぱいになる。

 

 これを「罪悪感」と言うのだろうか。

 なんて、ポエムっぽいこと言っていれば心が落ち着くと思っていたのに、何ら変わりがない。

 

「……お嬢様」

 

 咲夜の顔は酷く歪んでいた。

 その顔を見れば、どんな考えをしているか、それがわかってしまうくらい。

 

「妹様は……」

「……完全に私のせいよ。仮に妹とはいえ、純粋に好意を向けてくれたのに、それを無下にしたんだもの」

「……そう、ですか」

 

 口にすれば、更なる罪悪感が私を支配する。

 一つの病室とは思えない思い空気が張り詰める中、私は両手に強く握り拳を作り、昨日まで私が使っていたベッドに座る。

 咲夜は扉の横で姿勢よく立っていた。

 

「この際、お嬢様のお気持ちを整理してみてはどうですか?」

「私の……気持ち」

「はい、お嬢様が今、想いを向けているこいしさんのこと、そして、妹様のこと。そうすればきっと、お嬢様が次に取るべき行動がはっきりとするはずです」

「……そうね」

 

 まず、フランのこと。

 やっぱり彼女は私の妹だ。

 恋愛的に見ることは、今の私には正直出来そうにない。

 ただ、私はフランのことを世界で一番大切に、そして愛していた。

 気づいたらフランが隣にいて、当たり前のようにフランがそばにいる日常を過ごしていた。

 恋人。そんな肩書きにフランと共に塗り替えられるのなら、それも悪くないのかもしれない。

 

 

 そして、私は、こいしのことを思い出す。

 

 

 

 ────

 

 紅霧異変を起こし、フランが活発に外に出てくれるようになった頃。

 紅霧異変後も咲夜や他の面々の異変解決のおかげで、永遠に終わらない冬や下から飛び出る怨霊達の異変も解決されている。

 

 私はいつものようにバルコニーでお茶をして、時間を持て余す。

 暇だ。この時間はいつもフランとレクリエーションをするか、パチェの図書館で本を読むか、外に出て、博麗神社に向かうか。それくらいしかやることがない。

 

「咲夜、フラン見てない?」

 

 私は、夕飯の準備のために食堂へ向かおうとした咲夜に声をかける。

 

「妹様はご友人と遊びに行くと、今日の午前中から外に出ていらっしゃいますよ」

「……友人?」

 

 あの子、いつの間に友人なんて作っていたのだろう。

 確かに、ここ最近、フランが紅魔館にこもっていることは少なくなった。と言うより、ほぼ無くなった。

 

 意外と観察眼の鋭いフランは一目で信頼に値するかどうかを判断する能力を持っている。

 そんなフランが友人を作るとは思わなかった。

 そう不思議に思っていると、玄関の扉が開いた。

 

「お姉様! ただいまっ」

「お、お邪魔、しますっ」

 

 二人の幼い声が聞こえた。

 いつもは前者のみの声だが、今日は二つ目の別の声が私の耳に届く。

 

「あら、おかえり、フラン……その子は?」

 

 薄い緑色がかかった銀髪のセミロング。

 黒色の帽子に可愛らしい黄色のリボン。そして、フリルが使われた緑色の襟首とスカート。

 フランと身長はさほど上下せず、フランよりもほんの少しだけ高いくらいの少女。

 

「え、えとっ、古明地、こいしです。よろしくお願いします」

「前に人里で会って、仲良くなったんだ」

「へぇ、よろしくね。こいし。私はこの子の姉、レミリア・スカーレットよ」

「は、はい! よろしくお願いします……えと、レミリアさん」

 

 私は右手を差し出し、こいしと握手を交わす。

 見た感じ、あまりフランのように元気が溢れるような子では無いようだ。

 ……いや、違う。

 

(この子、自分の素を封じ込めてるわね)

 

 もしかしたら、フランと似たところが多いのかもしれない。

 というのも、フランも以前まではこんなに活発な子ではなかった。

 自分がいると迷惑になる。足でまといになる。吸血鬼ハンターに追われている時から、その節があった。

 今となってはこんなにも元気になってくれているが、一時期は心配もしたものだ。

 

「……」

「ね、お姉様。今日は私の部屋でこいしちゃんと遊んでいい?」

「ええ、いいわよ」

「やったっ、行こ、こいしちゃん」

「う、うん」

「……へぇ」

 

 どうやら、フランにだけは少しだけ心を開いているみたいだ。

 初対面に緊張する生き物は珍しくはない。ただ、こいしのように本心を丸ごと隠している者は珍しい。

 ただ、その封印はフランにのみ解けているようだ。

 

「ねね、お姉様も後で来てよ。いい? こいしちゃん」

「うん」

「分かったわ。お邪魔させてもらうわね」

 

 そう言って、二人はフランの部屋に消えていった。

 さて、と思った私は少し散歩をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 散歩から帰ったあと、玄関の前で待っていたのはフランだった。

 

「おかえり、お姉様。どこに行ってたの?」

「散歩よ。それで、どうしたの?」

「今から3人でババ抜きをやろうって話になったの。やらない?」

「いいわよ」

「今私こいしちゃんに4連敗してるんだよねぇ」

「フランは前から運悪いものね」

 

 そんな会話をしていると、いつの間にかフランの部屋に着き、そこにはトランプをシャッフルしているこいしがいた。

 

「こいし、お邪魔するわね」

「は、はい。どうぞ」

「さてさて、ババ抜きの続きをやろうかっ」

「こいしはどうだったの?」

 

 さりげなく、こいしとの会話を図る。こいしは話しかけられるとは思わなかったのか、多少慌てた様子で私の質問に返そうと必死に思考をめぐらせていた。

 

「あ、え、えと……今のところ4連勝……してます……」

「すごいじゃない。フランの運が悪いのもあるけど、こいし自身も強運なんじゃないかしら?」

「あ、ありがとうございます……」

「むぅ、私そんなに悪運じゃないもん」

「はいはい、こいしがシャッフルしてくれたから、配るわよ」

 

 そう言って、私達はババ抜きを始めた。

 案の定、フランの手札にはほぼ八割がたジョーカーを手にしている時間があった。

 

「……フラン。あなた顔に出すぎよ」

「い、いやっ、じ、ジョーカーなんて引いてないし……ほ、ほら、お姉様が引いてっ」

「……」

 

 フランの手札から一枚のカードに指をかける。

 

「……ひぅ」

 

 少し悩み、今度は右隣のカードに指をかける。

 

「……わぁ」

「いや顔に出すぎよ」

 

 二枚目に手をつけたカードが確実にジョーカーだ。ここまでわかりやすいと、こいしの4連勝も納得である。

 

「え、そ、そうかな」

「ええ、ね、こいし」

「は、はい。そうです……」

 

 まだ私に少しだけ緊張しているみたいで、フランと話す時よりもよそよそしいというかなんというか。

 まぁ、会って間もないのに馴れ馴れしく話す方が難しいので、これが普通の反応なのだろう。

 

 

 結局、こいしが一抜けで私が二番目、フランがババ持ちで五戦目は終了した。

 

「どぉーして勝てないのよぉ」

「自覚ないのもびっくりよフラン」

「あ、あはは……」

「さて、次はどうする?」

「あ、ごめんなさい、と、トイレ行ってきていいですか?」

 

 こいしが引っ込み気味に手を挙げた。

 

「ええ、右行って突き当りね」

「ありがとう、ございます」

 

 そう言って、そそくさと部屋をあとにしたこいし。

 部屋に残された私達は散らばったトランプをまとめていた。

 

「さて、お姉様。イチャイチャする?」

「嫌。それよりも、こいしのこと聞かせてちょうだい」

「そ、即答だったね……えと、こいしちゃんのこと?」

「ええ、どんな妖怪なのかとか、フランが友達としてあの子を連れてきたということは余程信用が出来るようだけど……」

 

 別にこいしを疑っている訳では無いが、フランが少し引っ込み思案な彼女と仲良くなるのが少しばかり珍しいと感じただけだ。フランはそれも汲み取ってくれていると思う。

 フランは少し微笑むと、トランプを床に置いた。

 

「……こいしちゃんね、覚妖怪っていう、心を読むことが出来る妖怪らしいんだ」

「ああ、胸にあった目はそういうことなのね」

「そう。でも、覚妖怪って言うのは世間から見たらかなり気味悪がられててさ」

「それは納得だわ。勝手に心の中を読まれたら溜まったものじゃないもの」

「それだけならいいんだけど、直接言葉をぶつけられたり、挙句の果てには暴力でこいしちゃんを殺そうとする奴らもいたみたい」

 

 フランが悲しそうに握りこぶしを作る。

 

「こいしちゃんにはお姉ちゃんがいるの。お姉ちゃんと一緒に幻想郷に来たんだけど、暴力はなくとも、心の中で自分たちを蔑まれていてさ」

「……幻想郷でも?」

「そう、それで、傷ついて傷心しきってるこいしちゃんと人里で会ってさ、なんだか、私と境遇が似てる気がして」

 

 少し照れるように微笑むフラン。私はそれを黙って聞いていた。

 

「人から恐れられていて、優しいお姉ちゃんがいて、一度はこの世界に失望して……なんて、大袈裟かもしれないけど、私はこいしちゃんを助けたいって思った」

「……そう」

「それに、こいしちゃんも本当は元気で優しい子なんだよ。今は、色々と壁があって、静かになっちゃってるけど、きっと、お姉様とも仲良くなれる気がする」

「……」

 

 私はフランの話が終わると、大きくため息をついた。

 それは呆れでも悔いでもない。フランに対しての感嘆のため息だった。

 

「成長したのね、フラン。姉として誇らしいわ」

 

 フランが自ら、他人を助けたいとそう思えることに私は何よりも喜びを感じた。

 そして、右手でフランの金色の髪をクシャッと撫でる。するとフランの顔は「にへへ……」と綻ばせていた。

 

「……きっと辛い過去があったのね、こいしにも」

「うん」

「いつかきっと、こいしも素をさらけ出してくれるように頑張りましょうか」

 

 今日初めて会った子にここまで全力を尽くそうと思えたのは、なぜなのか、未だに分からない。

 多分きっと、フランが連れてきた助けたいと思える人物だったからだろう。

 ちょうどその時、こいしがゆっくりと部屋に戻ってきた。

 

「さてさて、次は七並べやろ!」

「……フランちゃん、弱そう」

「こいしちゃん!? せめて応援してくれない!?」

 

 そんな感じで、少しずつこいしもこの環境に慣れ始めて、口数が増えたのは、もう日が暮れる前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはぁー! 楽しかったぁ……」

「熱中しすぎよフラン……いつもより全力だったような……」

「つ、疲れた……」

「むぅ、いいじゃん。二人して勝ちまくっちゃうんだもん。強すぎるんだよ二人とも!」

「いやあなたが弱いだけでしょう」

 

 呆れたようにため息をつく私と、苦笑いをするこいし。

 外を見ると、いつの間にか日が暮れていた。

 

「あら、もうこんな時間なのね」

 

 懐中時計を見るともうすぐ6時半を回るところだった。

 

「あ、もう帰ります」

 

 こいしが控えめにそう言うと、同時にフランも立ち上がる。

 

「じゃあ私送ってくるよ」

「ええ、そうしなさい」

 

 そうして私達は三人で玄関へと歩いていく。

 玄関を開けた瞬間に、フランが申し訳なさそうに口を開いた。

 

「ご、ごめん! トイレ行かせてくれない?」

「え? うん。分かった」

「ごめんねっ、ありがと」

 

 そう言うと、フランは少し足早にトイレへと向かった。

 

「……」

「……」

 

 そこからは私とこいしの気まずい時間が訪れた。互いに何を話していいのか分からず、チラチラ見るだけである。

 

「「あのっ」」

 

 案の定、声をかけるタイミングが被ってしまう。

 

「あ、ああ、ごめんなさい。こいしから話していいわよ」

「あ、はい……えと、フランちゃんってどういう人なんですか?」

「どんな人? うーん、そうねぇ」

 

 やはり、フランを一番近い距離で接してきた私からフランの事を聞きたいのだろう。

 フランが一体どういう人柄で他の人と関わるのか。

 

「あの子、少し前までは身内以外との関係を一切断ってたのよ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ、なんなら、こいし。あなたが初めての友達よ」

「えっ」

「あの子は何もかもを破壊できる能力を持っているの」

 

 瞬間、こいしの顔が驚きから恐怖へと変わっていった。あの子、こいしには話していなかったんだろうか。

 

「それで、フランは自ら、外への干渉の一切を遮断した」

 

 今となっては、忌々しい思い出である。私にもっと力があれば、フランをもっと早くに救うことが出来たなら、今のような幸せが早期にやってきたかもしれないのに。

 

「今のフランはそれを制御出来るようになって、人を傷つけることは無くなった。でも、心に大きな乱れがあると、たまに我を失うほどの狂気に侵されることもあるの」

「ほ、ほんとですか!?」

「でも今は精神も安定してるから、あまり心配はいらないの」

「よ、良かった……」

 

 その言葉は自分の身を案ずるものなのか、それとも、フランが幸せな生活を送れることに対するものなのか、どうか、後者であって欲しい。

 気になった私は思わず聞いてしまった。

 

「良かった……?」

 

 するとこいしは安堵しきった表情で即答した。

 

「はい、だってフランちゃんは今この瞬間を幸せに過ごせていると思うと私も嬉しいですから」

「……そう」

 

 私は思わず泣きそうになってしまった。この子はなんていい子なのだろう。と、心の中でこいしを絶賛する。

 

「フランも良い友達を持ったわね」

「い、いえ……そんな……私も、フランちゃんに救われた身ですから」

 

 照れるように手をブンブンと左右に振るこいし。

 

「ごめんなさい。フランからあなたの過去……聞いたわ」

「……そう、ですか」

 

 少しだけ、こいしの顔が曇る。

 やはり、こいし本人もあまり思い出したくない事情なのだろうと、表情を見れば一瞬でわかった。

 

「あなたも……辛かったのね」

「いえ、レミリアさんやフランちゃんに比べたら、可愛いものですよ」

「そんなわけない。こいし、あなたは一人で苦しんでたのよ。私はフランと一緒にいたから、乗り越えられた。でもあなたは姉にも頼らずに、自分で悩んで、苦しんで、それでも報われない。そんなこと……あっていいはずがないのよ……」

「レミリアさん……」

 

 いつの間にか、私は思ったことが全て口に出るようになってしまった。

 それも仕方ない。こんなに幼い少女が、私よりも数百歳は年下の彼女が、私よりも辛い苦しみを味わっていいはずがないのだ。

 私は無意識に彼女を救いたいと思った。どうしてか、それは今も分からない。

 

「……もし、良かったら、私とも友達になってくれないかしら?」

「……レミリアさん……」

「恥ずかしいけど、私も友達はあまり多くないのよ。だから、こいしとも仲良くしたくて……」

 

 苦笑いをして、右手を差し出す。

 私も、フランほどじゃないが似たような境遇だ。霊夢や魔理沙、その他の妖怪しか仲良く話せる人物は身内以外にはいない。

 一時は呆然と私を見ているだけだったが、少しするとこいしは今日一番の笑顔を見せて笑った。

 

「……わかりました……ううん、わかった。レミリアちゃんっ」

「……ッ」

 

 心臓が一度、大きく跳ねた気がした。いや、実際跳ねたと思う。

 心なしか顔も少し熱い気がする。

 

「? ……どうしたの?」

「い、いや、なんでもないわ。じゃあ、よろしくね。こいし」

「……う、うん。よろしく」

 

 まだ、この時はよそよそしかったと思う。

 友達になったと言えど、直ぐに仲良くなる訳では無いので、最初はフランを入れての三人で遊ぶことが多かった。

 

 そしてたまに、私とこいしの二人で遊ぶこともあった。

 

「あ、おはよー! レミリアちゃん」

「ええ、おはよう、こいし」

 

 気づいたらもう、こいしは自分の素を隠さなくなっていた。これはきっと、フランのおかげだと思っている。

 いや実際そうなのだろう。

 

「さて、今日はどこに行く?」

「うーん、お腹空いたのよねぇ……」

「あ、じゃああそこのオムライス屋さん食べに行かない? 前にお姉ちゃんが絶賛してたんだけど」

「お、いいわね名案だわ。行きましょう?」

「やったっ、いこいこっ」

 

 こんな風に私はこいしとの仲を深めていっていた。

 初めは妹と私の共通の友達として仲良くなっていた。私も、それが楽しいと思っていた。

 そしたら、いつの間にか、どうしてか。

 

 

 

 

 

 

 

 私はこいしに、惚れていた。



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2話 裏切る

遅くなりました。
色々立て込んでました。

あけましておめでとうございます!
今年もゆっくりですが執筆頑張っていきますので、見捨てないでください!


「……」

 

 気持ちの整理をするつもりが、余計に雲がかかってしまった。

 フランのことを思うと、胸が締め付けられるように苦しい。

 

 

 散々フランを苦しめた私に幸せになる権利なんかあるのか? 

 

 

 一つの疑問が私の頭を駆け巡る。

 これはきっと、私への罰なんだろう。罪なんだろう。そう自己解決してしまえば、どれだけ楽なんだろうか。

「私」はなんて強欲な生き物なんだろうか。

 人の幸せを奪ってもなお、自分の幸せを掴み取ろうとしているのだ。

 

「お嬢様……」

「咲夜。私って、こんなに醜い生き物だったの?」

「そんなことはございません」

「でも……! たった一人の妹を傷つけるようなことをしておいて、それでも好きな人のことを考えてしまう下衆な生き物のよ?!」

 

 自分の胸を強く握り、唇を噛み締める。

 視界がぼやけて、ぽたぽたと自分の服を濡らしていく。

 涙は全てを洗い流してくれる、なんて言うのは明らかな迷信だと今ここで実感できた。

 なぜなら、今、私という者が泣いていても、私の後悔と自分への失望は洗い流されないから。

 下を向き、両手で顔を隠し、さらに涙を流す。

 

「う、っ……」

「……」

 

 突如、私は何か暖かいものに包まれたような気がして、目を見開く。

 

「さ、咲夜……?」

「これ以上、自分を責めるのはおやめ下さい」

 

 強く抱きしめられた私は状況を理解できず、何も言葉を発さなかった。

 しかし、それとは反して、咲夜は口を開き、優しく、包み込むように話し始めた。

 

「いいですかお嬢様。たとえ、あなたが妹様を傷つけてしまって、それでもこいしさんのことを想い続けてしまっていても、私はあなたの味方です」

「……」

「それに、妹様にもきちんと話せば分かってくれるはずです。今は一時的なショックで心を閉ざしてしまっていますが、今後のお嬢様の行動次第で妹様もお嬢様も幸せになれるはずです」

「咲夜……」

 

 咲夜の言葉に説得力があったかと言われればそうでもなかったのかもしれない。ただ、私を勇気付けるには十分すぎる言葉だった。

 私は咲夜の腕の中で小さく深呼吸をして、顔を上げた。もう涙は流れなかった。

 

「……ありがとう、咲夜。やっぱりあなたは自慢の従者よ」

「勿体ないお言葉です。さぁ、行ってください」

「……ええ」

 

 私はいつもの服に着替え、縁側まで歩いていった。

 その隣で咲夜は優しく微笑んでいた。いや、微笑んではいたが心のどこかでは不安を感じているのを確かに感知した。

 そしてそれが的中したかのように、咲夜はその不安を口に出した。

 

「お嬢様、どうか、貴方も妹様もこいし様も……誰もが幸せになれる選択肢を……」

「ええ……ありがとう」

 

 そう言って、私は永遠亭を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

「こいしちゃん……」

「返事……欲しいな」

 

 私の告白に、フランちゃんは少し驚きを隠せずにいた。

 私は、ありのままの想いを全て伝えた。フランちゃんを一生かけて幸せにしたい。その想いだけを強く感じながら。

 

「まだ、迷ってるよね?」

「……」

「……フランちゃんの中にまだレミリアちゃんがいるのは分かってるよ。レミリアちゃんが好きで好きでたまらないんだよね?」

「……」

「それならそう言って欲しい。まだフランちゃんがレミリアちゃんを諦めていないのなら、今ここで振って欲しい」

「……」

 

 私は、どんな答えが返ってきても後悔はしない。このままもし、フランちゃんがレミリアちゃんを追い続けても、私は今日この日に告白したことを後悔はしないと思うから。

 フランちゃんと過ごした期間はかけがえのないものであることにも変わりはない。恋人になってもならなくても、今までの思い出が色褪せたりなんかしない。

 

 だから、私はどんな結末であっても、幸せに過ごせるような選択肢を選ぶ。

 フランちゃんの顔はとても悲しそうに、それでも決意したような、そんな雰囲気を漂わせていた。

 

 

 そうしてフランちゃんは口を開けた。

 

「……ごめんね」

「……」

 

 分かってはいたのに、半分期待していた私がいた。

 もしかしたらフランちゃんが私を受け入れてくれるのかも、私に笑顔を向けてくれるかも。

 ただ、それは私の期待だけの、私の夢物語。

 結局、生き物は自分が幸せでないと満足ができないのだ。

 他人の幸せが私の幸せ、なんてそんな綺麗事並べていてもただただ滑稽なだけだ。

 その幸せがただ、その他人の幸せと一致しているから、お互いを愛す事で幸せを得られる。

 

 フランちゃんの幸せと、私の幸せは違う方向を向いていただけだ。

 

「……そっか」

「……ごめんね……こいしちゃん……やっぱりまだお姉様の事、諦めたくない……」

 

 フランちゃんの涙は留まることを知らず、大粒となってフランちゃんのスカートを濡らす。

 それでも私は笑顔を絶やしたりしない。

 ここで私が泣いてしまえば、全てが無駄になる。フランちゃんの全てを奪いたくなる。

 

「……分かった。ありがとう、フランちゃん。話を聞いてくれて」

「……」

 

 それならもう、私の役目は終わった。

 これ以上、レミリアちゃんとフランちゃんの仲に干渉する訳にもいかない。

 なぜなら、私が伝えたい想いは全て伝えたから。これ以上、フランちゃんに望むものもないから。

 それならもう、私は彼女を応援する方を選ぶ。

 一度深呼吸をして、笑顔を作り直して。

 

「さて、それなら、レミリアちゃんもフランちゃんを探してる頃じゃない?」

「……うん」

「そうとなったら探さなくちゃ。きっとレミリアちゃんも君を傷つけてしまったことを後悔してる。一度会って話さなくちゃ」

「……そう、だね。ありがとう、こいしちゃん」

「うん、お易い御用だよ」

 

 きっと、これが最善なんだろう。

 もうこれ以上、私は踏み込めないから、こうしてフランちゃんの話を聞いてあげる。役得じゃないか。

 

「あの……こいしちゃん……」

「ん?」

 

 心配そうに私を見つめるフランちゃん。心配と不安が入り交じった声はとても可愛らしかった。

 

「この先、どんな事があってもさ」

「うん」

「ずっと……」

 

 フランちゃんは逸らした目をもう一度私に向けて、

 

 

 

「ずっと、親友でいようね?」

 

 

 

 その言葉はずるいと思う。

 また、フランちゃんを奪いたくなってしまうだろう。フランちゃんを私だけの物にしたいのに。結局それは叶わない。

 

「あははっ、そんなの当たり前だよ。私たちは、ずっと親友だから。ね?」

「う、うん!」

「ほら行った行った、なんか人里でレミリアちゃんらしき気配がするよ」

「ありがとう、こいしちゃん」

 

 最後にそう言い残すとフランちゃんはベンチから立って人里へと向かっていった。

 

 

 

 

「……はぁ、振られちゃったなぁ……」

「そのようね。こいし」

「……っ!?」

 

 独り言を言っていると、横から聞き覚えのある澄んだ声が耳に届く。

 驚きを隠せず、ベンチから飛び上がり、声の主の方を向くと、青紫の髪をなびかせる少女がいた。

 

「……レミリアちゃん」

「久しぶり、かしら、こいし」

 

 レミリアちゃんの顔は久しぶりに会った友人に見せる喜びの表情では決してなかった。

 逆に少し悲しげに私を憐れむかのような、寂しい表情が見受けられた。

 

「そうだね、一週間以上会、ってなかったもんね」

「……ごめんなさい。さっきのフランとの話、少しだけ聞いちゃったわ」

 

 そう、レミリアちゃんは私に言った。

 

 

 

 

 

 ──────

 

「はぁ……はぁ……」

 

 フランが向かったであろう、人里へ向かった。

 飛んで探しても良かったが、見つかって逃げられるのも面倒だ、気配を消して歩いて探すしかない。

 

「ったく……どこにいるのよ……」

 

 早く、フランと話がしたい。

 心の整理がついた訳では無い。多分、フランと会うと更なる混乱が起こり、逆効果の可能性もある。

 でも、一刻も早くフランと話をしなければならない気がした。

 

「……ん?」

 

 一瞬、フランの気配を感じた気がした。

 そんな僅かな可能性にかけて、小さな気配を辿っていく。

 そこは人里の外れで滅多に人の来るところではないような、寂れた公園。

 

「フラン……と、こいし?」

 

 フランをようやく見つけたと思ったら、どうやらこいしと一緒のようだ。

 

「しかもなんだかあの二人……距離近くないかしら」

 

 妙な不安を覚えた私は気配を消して近づいていく。すると少しずつ、二人の会話が鮮明に聞こえてくるようになった。

 

(フラン……泣いているの……?)

 

 嗚咽をしながら、こいしに自分の心の内を明けるフラン。

 私はそれを、全て聞いた。

 一言一句逃さないように、フランの心を全て知るために。

 

 

 

 

(……そういうこと……だったのね)

 

 私は近くにあった木にもたれ掛かり、そのままその場で座り込む。その時だった、あの子が望んでいた言葉が私の耳に届いてしまうのは。

 

「……私はお姉様と結ばれたかった……!」

「っ……」

 

 その言葉はいつもの軽い告白とは違い、フランの必死な思いと、努力が詰められている気がした。いや、きっとそうだ。

 この言葉をいわなきゃいけないくらい、私はフランを追い込んでいたということを嫌でも理解してしまった。

 

 実の姉と恋人になりたい。

 

 世間一般ではこれはおかしいことなのだろう。

 だが、世間一般なんて言葉は吸血鬼には通用するわけが無い。

 

 だったら、女の子として? 

 女の子は男の子と恋愛しなきゃいけないなんてルールはない。

 私たちが変な訳では無い。私たちが好きになった人がたまたま女の子だっただけだ。

 もし、こいしの性別が男の子でも、私はきっとこいしに惚れていた。

 私たちは性別に惚れているんじゃない。女の子に惚れているんじゃない。

 こいしという一個人、フランという一個人、私という一個人に惚れているんだ。

 

 そう考えてしまえば、フランの言葉は私に重く刺さった。

 私はこいしを一途に想ってきた自信があった。なのに、今になって、それが揺らぎ始めているのが分かる。

 

 

 ああ、そうか。そういうことか。

 

 私は、

 

 

「フランのことも……好きなのね……」

 

 

 ずっと目を背けてきた。妹だから、いちばん身近な存在だから、私はフランの想いの重さも理解せず、ましてや自分の気持ちにすら向き合えなかった。

 

 ああ、やっぱり。私はなんて醜い生き物なんだろう。

 同時に二人も好きになるなんて、なんて強欲で、我儘で、傲慢なんだろうか。

 でも何故だろうか。後悔は不思議と感じない。たった今自分が酷いことをしている事が明らかになったのに、どうしてか、それに後悔はしていない。

 

 むしろ、今自分の気持ちに気づけたことが何よりも嬉しい。

 全ての曇りが晴れた今、私が選ぶ選択肢がはっきりと一本道へと変わった。

 

 

 

 

 

 ──────

 

「あ、あはは……聞かれてたんだね。ちょっと、恥ずかしいな」

「……」

 

 フランは今、私を探しているんだろう。もうこの近くに、フランの気配は無い。

 

「……こいし……」

「君が、フランちゃんを幸せにしてあげてね。私はずっと応援してる」

 

 こいしの声は少し震えていた。

 こいし自身、きっと覚悟は決めていたはずだ。フランに振られるならばそれも仕方が無いと、そうしたら、私とフランの仲を応援できるように。

 

「……」

「姉妹だからって、関係ないよ。フランちゃんは姉としてのあなたじゃなくて、一人の女の子として、レミリアちゃんを好きになったんだよ」

「……」

「それに、レミリアちゃんだって本当はフランちゃんのこと、大好きでしょ? 恋人になりたいって、思ってるでしょ?」

 

 こいしの目からは涙がボロボロと溢れ出す、先程まで我慢していた涙が、堰き止めていた物が決壊した。

 

「だからっ、さ……フランちゃんを……大切にっ……して……ね」

「こいし……」

「これは……私の願い。きっと、二人ならどんな困難も乗り越えられるよ」

 

 涙を拭いたこいしは精一杯の笑顔を私に向けてくれた。

 その顔は、恋を諦めて、新たな一歩を頑張って踏み出そうとしている、そんな意志を感じ取れる。

 フランとの恋人。きっと幸せに決まってる。さっき気づいたんだ。私はフランのことも愛している。恋人になりたい。恋人になって、フランを幸せにしたい。

 

 

 

 でも、私はもう決めていた。

 

 

 

 ごめんなさい、フラン、こいし。

 あなた達の期待を、

 

 

 

「嫌よ」

 

 

 

 裏切るわ。



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3話 Own Happiness

こいしってさ…こう……やばいくらい可愛いよね


 私の言葉にこいしは硬直を強いられていた。こいしが口を開いたのは私の言葉から数十秒後だった。

 

「え、えっと……レミリア……ちゃん?」

「……」

 

 自分の言ったことに後悔はしていない。しかし、この後私はどのような言葉をかければいいのか戸惑いを見せてしまった。

 

「ど、どういうこと……? 嫌って……」

「そのままの意味よ」

 

 少しずつ頭の整理が出来つつある私は少しずつ、そして力強く、こいしに想いを伝える。

 

「あなたの願いを叶えてなんてあげない」

「……」

「でも……」

 

 ようやく気づいたこと気持ちは決して邪魔なものでは無い。むしろこの先大切にするべきものなんだ。

 

「私は、フランのことが好き。大好きよ……」

「だ、だったらっ……」

「でも、私はこの世界で一番、古明地こいしの事が好き」

「……ッ!」

「好き。大好き。愛してるわ」

 

 次々に溢れるこいしへの想い。口にすればするほど滝のように流れてくること想いをせき止める術はないのだろう。

 そして私は一歩ずつ、こいしとの距離を縮めていく。

 

「や、やめて……」

「あなたとフランがどれだけ真剣に悩んでくれたかは分からない。二人には悪いことしたって思ってるわ。どれだけ私が最低なことをしたか……でも、でもね」

「や……レミリアちゃん……」

「私は色々な思いをしてもなお、あなたのことが大好きよ」

 

 今、どれだけ顔が赤くなっているんだろう。火傷してしまうくらい、顔が熱い。実は足も震えている。声は辛うじて普通を演じているはずだ。

 普段なら恥ずかしくて死にたくなるほどの台詞を吐いている気がするが、なぜだか今は次々に言葉が溢れてくる。

 そうして一歩、一歩とこいしへ歩を進める。

 

「愛してる。あなたと、恋人になりたい」

「やめてッ!!」

「っ……」

 

 いつもの元気で無邪気なこいしからは決して聞くことのない、悲痛な叫び。私は思わず歩を止め、たじろいでしまう。

 両手で顔を隠している。そしてその指の間からは光る涙がぽたぽたと垂れていた。

 

「フランちゃんが……今必死であなたを探してる……必死であなたを想ってる……」

「……そうね」

「……フランちゃんがどれだけ必死であなたを愛していたかあなたは分かっていない!」

「……」

 

 今度はこいしが自分の思いを明かした。

 

「私が一番あの子を支えてあげられると思ってた……あの子を笑顔にするのは私の役目だって……そう、思ってた……」

「こいし……」

「でもね……あの子(フランちゃん)が見ている人は私ではなくて……あの子の目線の先にはいつだってあなたしかいなくて……」

 

 顔から手を離し、今度はこいしが私の方に詰め寄ってきた。1メートル程の間隔をあけて、こいしは立ち止まる。

 

「私は……それでもいいって思った……! フランちゃんが幸せになれるなら……姉妹でも関係ないって……思ってた……!」

「……」

「でも私は……やっぱりフランちゃんが大好きだった……フランちゃんと二人で恋人になりたかった……」

 

 こいしが俯く、緑銀髪の髪が風になびいて、優しい匂いが漂う。しかし、こいしの真下の地面は少しだけ涙で濡れていた。

 

「でも……それも叶わなかった……一番の親友だと思ってた私でも……フランちゃんは諦めて私と恋人になってくれなかった……それくらい、あなたの事が好きだったんだよ?」

「ええ、知ってる」

 

 私は少し冷たく、そう言った。

 それを聞いたこいしはキッと私を睨みつける。涙は枯れないまま、泣き叫ぶようにして、私の胸ぐらを掴んだ。

 

「ふざけないでよッ! あなたもフランちゃんが好きなんでしょう!?」

 

 こいしの必死な叫びが私の胸を痛めつける。

 私が望んだ結末は誰も望まないものになってしまっていたのだ。こいしもフランもこの終わり方だけは避けたかった。

 

「……ええ、好きよ。フランのこと」

「じゃあ……悩む必要なんてないじゃないッ! 自分の気持ちに気づいておいて、それを放棄するわけ!?」

「……放棄したわけじゃないわ」

「いいえ、放棄したわあなたは……フランちゃんと両思いなのに……そうやって自分に言い訳して、私という余計な存在に変な思いを向けてッ!」

 

 こいしの口調が段々と刺々しくなっていく。

 普段のこいしからは絶対に聞くことのない、天真爛漫とは大きくかけ離れた言葉たち。

 

「……あなたの私へ対するその想いは余計なのよ……だから早く私のことを忘れて……フランちゃんの元へ行ってきなさいよ……」

 

 

 

 

 

「さっきから黙って聞いていれば……ふざけるのも大概にしてくれる?」

 

 

 

 

 

「……え……?」

 

 私は自分の胸ぐらを掴んでいるこいしの手首を強く握る。今回ばかりは、流石に私も堪忍袋の緒が切れてしまった。

 

「自分の気持ちを放棄? こいしへ対する想いが余計? あなたが私の何を知ってるって言うのよ」

 

 強く、こいしを睨む。しかも至近距離で、流石のこいしも動揺を隠せないようだった。

 しかしこいしも涙ながらにも自分の意志を貫こうと負けじと抵抗した。

 

「し、知ってるとか知らないとかそういうのじゃない! 私は……」

「あんたはフランにあんなに恋しておいて、私があんたを好きになるのが余計とか、人のこと言えないのよ」

「う……」

「あんたは自分が報われない代わりに、親友とその姉が幸せになれればいいとか思ってるの?」

「そ、そうだよ! そうすれば、あなた達は幸せに……」

「綺麗事並べてんじゃないわよ」

 

 私の目が紅く光り出す。

 こいしの考えに流石に怒りを覚えてしまっていた。

 

「ッ……」

「あなたもフランと結ばれたかったんでしょう? でもそれが叶わなかった」

「そう……フランちゃんにはもっと大切な人がいるから……」

「でも私はこいしと結ばれたいの」

「……」

 

 色々遠回りしたが、ここからは本当の気持ちをはっきり伝えられることが出来そうだ。

 

「フランが辛い思いしてしまうのも分かる。こんなにも酷いことをしてるんだもの」

「だ、だったら……」

「でも私は……フランと恋人になっても……きっとあなたに想いが伝わらなかったことを後悔する。私は、結局自分勝手に、私の意志を尊重する」

「……」

「あなたが私を付き合う気がないのなら……振ってくれていい。フランとしか一緒にいたくないのなら突き放してくれていい。でも……でもね」

 

 こいしへの思いが今度は涙になって溢れだしてくる。拭っても拭っても次々にこぼれてくるそれに私はもう構っている暇なんてなかった。

 私はこいしが好きだ。フランという大切な存在がいても、私はやっぱりこいししかいない。

 確かに関係は薄いのかもしれない。こいしとフランに比べたら私とこいしはフランよりも親交が深いとは言えない。

 でもそれでも、私が好きになった子はこいしだけだ。

 涙声になっても構わない。今なら、こいしに弱さを見せても構わない。こいしに私の想い全てを伝えられるなら……それでいい。

 

「……私の…私だけの想いを……余計だなんて……言わないでよ……」

「レミリアちゃん……」

「私は……こいしが好き……愛してるの……。あなたの中のフランが大きいのは承知してる」

 

 唇を噛んで涙を止めようとしても今更止まるなんてことは出来ない。

 初めてかもしれない、こいしに泣き顔を見せてしまうなんてことは。フランの前でも、こいしの前でも気丈な姉であるために、泣き顔なんてものは滅多に見せたくないのに。

 

「……私は……こいしを支えたい」

「……」

「こいしと一緒にいられるなら……何もいらない……! こいしがいないと……私は……」

 

 きっと私は今、とんでもないことを口走ってしまった気がした。いや、でもこれは紛れもない私の本音だ。

 ずっとずっと胸の内に秘めていた。私だけの秘密。

 

「……生きられないよ……」

 

 私はその場で膝から崩れ落ちる。落ちてくる涙の量がとんでもない。

 これが私の本当の気持ちだった。口にして初めて感じる、想い人へ抱くもの。

 

 そう、私はもうこいしがいなくては生きられない。

 

「私にとって……こいしが全てなの……だから……」

「……さっきはフランちゃんのことも好きって言ってたのに?」

 

 今はこいしの顔を見ることは出来ない。物理的にも、心理的にも。

 私が言っていることはただの矛盾だ。フランも好きだと言っていたくせに、結局は一人しか見えていないなんて都合が良すぎる。

 

「……っ…はは…そうよね……私、何言ってるんだろ……」

「ホントだよ……レミリアちゃんらしくない」

「でもっ! 私は……こいしが大好きなの…」

 

 そうしてようやく、私は顔を上げ、こいしの顔を見る。こいしの方は涙は消え、いつもの元気な顔に戻りつつあった。そんなこいしの顔を見るとさらに涙が溢れてきた。しかしそんなことはもう私の中でどうでもよかった。

 そんなこいしに一番伝えたかったことを紡ぐ。

 

 

 

「私と……恋人になって欲しい……」

 

 

 

 結局、私が望むものはそれだった。今はもう、紅魔館当主とか、親友の姉だからとかそんなのは関係ない。

 一少女として彼女に恋をしていた。

 

「……そっか」

 

 それだけ言って、こいしは身を翻した。

 そして、人里の方へ歩き出してしまった。こいしからの返事を何も貰えないまま。

 

「こいし……」

「ほら、早く立って」

 

 こいしは私に背を向けたまま、そう言葉にした。こいしの表情が見えないままだが、私は素直に従う。

 そしてこいしはこう言った。

 

「行くよ」

「……行くってどこに?」

 

 こいしが振り返って、私の方へ向く。そして、屈託のない眩しい笑顔……とまではいかないが、優しいほほ笑みを浮かべた。

 

「フランちゃんと……お話に」

「……?」

「……察しが悪いなぁ……もう…」

 

 未だに理解できない私は首を傾げてクエスチョンマークを浮かべた。こいしはそんな察しの悪い私を見て、顔を赤く染めて後頭部を掻く。

 そして恥ずかしそうに目を逸らして、しかし最後には私の方を見て笑う。

 

「今までレミリアちゃんが隠していたフランちゃんへの思いと……それと……」

「それと……?」

 

 するとこいしは言葉を濁らせてしまった。それに、さっきよりも顔を赤く染めあげて、今度は目を閉じてしまった。まるでもがくような仕草に私は少しだけ心臓が跳ねる。

 そして、こいしはこう言った。

 

 

 

「私とレミリアちゃんが……恋人になったことを……ね?」

 

 

 

「……」

 

 私はその言葉を聞いてポカンとしてしまう。

 当の本人であるこいしは紅潮したまま、チラチラと私を見ていた。

 しかし、全てを理解した私には歓喜が舞い降りてきた。と同時に何故か羞恥も襲ってきた。

 

「……〜〜〜っ!」

「ほ、ほら……早く行くよ!」

「こいしっ!」

 

 私はこいしを後ろから抱きしめる。こいしの肩に私の顎を乗せる。こいしの甘い匂いが強くなっていく。

 しかし、当の本人であるこいしは耳まで赤く染めて硬直していた。

 

「嬉しいわ……こいし……ありがとう……大好きよ」

「わ、わわわわかったから……ちょ……恥ずかし……」

「ふふっ……こいし動揺してるの? 可愛いわね」

「うるさいなぁ……もう……」

 

 最後にはこいしも優しく微笑んでくれた。そして、こいしの手が優しく私の左手に触れた。

 こいしの体温が少しずつ伝わっていく。

 満たされていく私の気持ちと同時にぽっかりと空いてしまったような気持ちの両方があった。

 

「私……最低なことしちゃった……さっきまで必死にフランちゃんに告白してたのに……たった数十分で別の恋人が出来るなんて……」

「……たしかにそれだけで見れば随分大胆なことをした見たいね」

「……一回別れる?」

「馬鹿なこと言ってるとグングニル突き刺すわよ」

「ごめんなさい……」

 

 私は思ったよりも独占欲が強いのかもしれない。まぁでも確かに、殺していた時期は逃した獲物なんてほぼほぼいなかったし、執念深いというのは認めざるを得ないかもしれない。

 

「でも私の気持ちがきちんと伝わってくれたってことでしょう?」

「まぁそういうことなんだけどさ……」

「こいし」

「ん?」

 

 私はゆっくりと口をこいしの耳元に近づけ、吐息がかかるくらいの近距離で囁いた。

 

「大好きよ……愛してる。世界で誰よりも」

「っ!」

 

 ビクンと体が跳ねるこいしの反応が可愛くて仕方がなかった。

 

「も、もう! やめてよ!」

「ねえ、こいし」

「今度は何……」

「フランには……どう説明するの?」

「……」

 

 今一番の気がかりはそれだ。

 私がフランの気持ちを踏みにじって、こいしはフランの気持ちを裏切った。

 今の状況を見てしまえば、フランがどれだけ傷つくか、想像が出来ない。

 結局は、私もこいしも自分可愛さなのだろう。

 

 そもそも、生き物は自分の幸せに固執する習性がある。当たり前だ、自分が幸せでないと、他人の幸せを感じることが出来ないからだ。

 幸せを感じるにはまず自分が幸せでないと、何も感じれない。

 

「……きっとフランちゃんを傷つけてしまうのが目に見えてる……」

「フランに……どう伝えればいいのかしら……」

 

 私は一度こいしからは離れて、隣に立ち、考える。

 

「……一度、これを聞いた上でのフランちゃんの気持ちを聞くしか無いかもしれないね」

「そうね……そうかもしれないわ」

「じゃあとりあえず、フランちゃんの元へ行こうか」

「ええ、そうしましょう」

 

 そうして私たちは人里へ同時に歩き出した。

 ここから始まった、レミリア・スカーレットと古明地こいしの二人の話。

 気持ちを裏切ってしまった私達の思いがいい方向に繋がってくれればと、そう願うばかりだ。

 

「あ、こいし」

「どうしたの?」

「私、まだこいしに言ってもらってない」

 

 私は立ち止まってこいしを呼び止める。

 そして、肝心なことを聞き忘れていたことに気づく。こいしは何だか訝しげだった。

 

「……こいし、私のことどう思ってるの?」

「どうって……そりゃあ……」

「そりゃ?」

「…………」

 

 今更口にするのが恥ずかしいのか、こいしは顔を赤くして口を噤んでしまった。そういう反応も可愛くて私は満足なのだが、恋人になった以上、もっと求めてしまう。

 

「……す、……」

「す?」

「す……すき……」

 

 今にも消えてしまいそうな声で絞り出したようだが私は聞き取れない振りをした。

 はっきりとこいしの気持ちが聞きたくなった。

 きっと、こいしはまだフランのことが好きだ。何なら、フランの方が好きなのだろう。

 長年想い続けてきた人とは別の人と急に恋人になって、急にその人だけを愛することなんて誰にも出来ない。

 でも、きっとこいしは今私のことを意識してくれている。フランには負けても、好きだって思ってくれているはずだ。

 

「なんて言ったの? 聞こえないわ」

「……〜〜〜ッ!!」

「こいし?」

「あぁ、もう!」

 

 とうとうこいしが大爆発した。

 ズンズンと私の方へ歩いて来たかと思いきや、思い切り私の肩を掴んで、こいしの方へ。

 

「っ!?」

「んっ……ちゅ……」

 

 一瞬にして塞がれた私の唇。見開いた視線の先には赤く染まったこいしの顔があった。

 こんなの抵抗できるはずがない。私はこいし同様、目を閉じて、唇に伝わるこいしの体温を感じた。

 

「……ちゅぅ……んぅ……」

「んっ……ぷはぁ……」

 

 永遠のように感じた時間。お互い息がギリギリだったのか、吐息が漏れてしまっていた。

 こいしは私の顔と数センチの距離を保ったまま、自分の額を私の額にくっつける。

 そして、こいしは優しく、包み込むような声で言葉を紡いだ。

 

「レミリアちゃん……愛してる……一緒にいようね」

「私も愛してる……離れないで……」

「……」

「? 何よ」

「レミリアちゃんって実はかなり甘えたがり?」

「なっ!?」

 

 一気に恥ずかしくなった私はこいしから距離を取ろうとする。しかし、こいしが私の頭を掴んで離してくれない。

 

「……そ、そうよ……悪い?」

「いいや……可愛い」

 

 その言葉にいちいち心臓が跳ね上がってくるのも感じる。いい加減鬱陶しいくらいに思う。

 でも、こいしといるとそれさえも心地いいのは何故なんだろう。

 こいしと二人でこれから様々な困難に立ち向かっていくんだろう。

 でも今ある試練に目を背けたりなんかしない。こいしと二人でそれを乗り越える。そう決意したから。

 

「そろそろ行こう。フランちゃんの元に」

「ええ……そうね」

 

 私とこいしは手を繋いで、人里への道を歩き出す。

 フランは辛い思いをして私を選んでくれた。なら、それ相応の態度でフランと相対することが大切なんだと思う。

 フランと私、姉妹であってそうでは無いこの関係に、終止符を打つ。そう決めたから。




いやもうなんでもありですわ


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4話 救われた

遅すぎましたほんとごめんなさい許して下さい。


 私達は今、二人で人里を降りていた。

 ついさっき、私とレミリアちゃんは恋人になった。といっても、私の思いはまだフランちゃんに偏っている。いや、フランちゃんを忘れられないでいるのだ。

 

「ね、レミリアちゃん」

「何かしら?」

 

 隣を歩くレミリアちゃんは少し清々しそうな表情をしていた。さっきまでの暗い表情とは裏腹に全てを出し切ったように明るかった。

 

「私、まだフランちゃんを忘れられないでいるんだ」

「ええ、分かってるわ」

 

 長い間恋をしていたフランちゃんを急に忘れろなんてそんな器用な真似は出来ない。

 私そのものを救ってくれたフランちゃんには大きな恩もある。

 

「でも、ここで私は決着をつけたい。長い間続いた恋心……なんて、無意識に隔離されてる私が恋心なんて面白い言葉を使う時が来るなんてね」

「……」

 

 無意識に囚われていた。そんなのはフランちゃんやレミリアちゃんに会う前の話。

 フランちゃんに救われて、私は無意識から解放された。精神的な面での話だが。

 そう考えると、私はスカーレット姉妹に救われてばかりなのだ。

 多分、その後の話。レミリアちゃんに能力の話で助けてくれたのは。

 

 

 

 ──────

 

 

 

「あ、レミリアちゃん、おはよー」

「ええ、おはようこいし」

「突然呼び出してごめんね。実はフランちゃんの誕生日プレゼントを買いたくて」

 

 この日はフランちゃんの誕生日の5日前、私はプレゼントを渡すためにここ一週間くらい悩んだのだが、一向に決まる気配がなかったので、姉であるレミリアちゃんに協力を要請したというわけだ。

 

「そういうことだったのね……。せっかくのデートかと思ったのに……

「え? なに?」

「いえ、何でもないわ。ところで、どんな感じのプレゼントにするか目処は立ってるの?」

 

 私は顎に手を当てて、とりあえず一週間で浮かんだ大まかな候補を思い出していく。

 

「とりあえず、マフラーか手袋、それか香水とかって感じではあるんだけど……レミリアちゃんは何にしたの?」

「私はフランが欲しがってた小説にしたわ。あの子、私の真似をしたのか、本を読み出してね。そうしたら存外楽しかったらしく、最近は暇な時は本に没頭してるのよ」

「あ、それフランちゃんから聞いたよ。なんだか、悲しい恋愛小説を読んでるって、涙ながらに教えてくれたよ」

 

 私はフランちゃんがその小説を熱弁していた姿を思い出しながら苦笑いをする。あそこまで本に興味を持つとは思わなかった。

 

「だから同じ著者の新作恋愛小説を取り寄せたのよ。私が直接交渉して、販売する前に買ったの」

「それはいいねぇ。フランちゃん喜ぶよ」

「ええ、そうだったらいいわね」

 

 さて、話が一旦落ち着いたところで、私はもう一度プレゼントについて考え直す。

 

「この季節だと、やっぱり手袋かなぁ」

「秋でもこの寒さですものね」

 

 今日は11月の初旬、まだまだ薄着でも大丈夫かと思いきや、風も冷たくて、どうにも縮こまってしまう。唇も乾燥し始めてきている。

 

「でも、あの子手袋は持ってた気がするわよ?」

「ありゃ、そうなの?」

「ええ。でもマフラーは確か持ってなかったような……」

「そっか。なるほど、じゃあマフラーにしようかな」

 

 フランちゃんへ渡すプレゼントの大まかな方針が決まったところで、私達は歩き出す。

 

「とりあえず、どこかの雑貨屋さんに行こうか」

「そうね。というか、こいしと二人でお出かけなんて久しぶりね」

「そうだねぇ……フランちゃんと遊ぶことはあっても、レミリアちゃんは多忙だしね」

「まぁ久しぶりにこうして遊べたんだもの。今日は楽しみましょう?」

「うん!」

 

 こんな他人の私にも優しくしてくれる。まるで理想のお姉ちゃんだ。お姉ちゃんの他に、レミリアちゃんも私のお姉ちゃんになってくれないかな、なんてたまに思ったりもする。

 

 雑貨屋に入った私達は2人で雑談をしながらフランちゃんに似合いそうなマフラーを探していた。

 

「そういえば、もうレミリアちゃん達と出会って2年くらい経つのかな」

「そうねぇ、そう思うと時が経つのって早く感じるわ」

「分かる。もうそんなに経つのかって感じだよね」

 

 私達覚妖怪は多くの生き物から忌み嫌われ、虐げられてきた。

 読心という能力の影響は思ったよりも周りに響き渡る。それを避けるだけならまだしも、過激な人間達はそれを排除しようとする。

 人間程度は返り討ちにすればいいのだが、大人数だとそう簡単にはいかない。時には道具を駆使されて大怪我をおったこともある。

 精神的にも物理的にも限界が来ていた私達は幻想郷で息を潜めていた。

 そんなところで私たちのトラウマを救ってくれたのがフランちゃんである。

 

「2年前はこんなに元気に歩き回れるとは思わなかったなぁ……」

 

 フランちゃんのおかげで元気な自分を表に出せるようになり、幻想郷での私達のイメージは一変した。

 今では気さくに声をかけてくれる人間や妖怪もたくさんいてくれて、毎日が楽しい。

 

「……そうね。こいしがいてくれてフランも毎日が楽しそうよ」

「……それは嬉しいな」

 

 クスッと笑ってみせる。

 レミリアちゃんは凄く妹想いのお姉ちゃんだ。命懸けで戦う時もフランちゃんをずっと守ってここまでやっできたらしい。

 フランちゃんにレミリアちゃんのことを聞くと毎回トリップして会話にならないので、うろ覚えではあるが。

 今もこうして、フランちゃんの事を気にかけていて、本当にいいお姉ちゃんだなと思う。

 

「……あっ、これにしようかな」

「あら、可愛いじゃない。フランこの色好きだし、いいと思うわ」

「これにするよ。買ってくるね」

「ええ」

 

 

 

 雑貨屋を出て、私達は同時に背伸びをする。

 いつの間にか太陽は真上まで上がっていた。

 

「んんっ……はぁ……それじゃあ、どこかでお昼でも食べようか」

「そうね。あっ、そういえば前に咲夜が見つけた美味しい定食屋さんがあるのよ。行ってみない?」

「おっ、いいねぇ。お腹すいたから油っこいもの食べたいなぁ」

「私も朝ごはん食べてないからお腹すいてるのよね」

 

 耳を澄ますと、レミリアちゃんのお腹は小さくキュルキュルと可愛らしい音を立てていた。

 赤面するレミリアちゃんに苦笑いをする私。

 

「……むぅ……」

「あはは……じゃあ早く行こうか。どこにあるの?」

「ああ、こことは反対の……」

「おい」

「っ!?」

 

 突然、後ろから声をかけられる。私もレミリアちゃんも油断したこともあってかかなりの至近距離まで近づかれていた。

 慌てて距離を取って、声の主を見る。

 大柄な男で恐らく人間だ。だが、見た感じ武器や防具も揃っていて、狩人のような格好だ。

 

「……誰よ」

「……誰でもいいだろう。レミリア・スカーレット」

「いいわけないじゃない。話しかけてきたのならまず自己紹介よ? 貴方は常識という言葉を知らないのかしら?」

「レミリアちゃん……この人殺気が……」

 

 そう、この男は周りの人間でも分かるほどに殺気を放っていた。一体それは誰に向けているのか、それは明確に分かった。

 こいつは吸血鬼ハンターだ。

 

「……分かってるわこいし。私の後ろに隠れてて」

「ふん、あれだけ調子に乗っていた吸血鬼が覚妖怪なんぞと馴れ合っていたとはな」

 

 嘲笑しながら貶してくる吸血鬼ハンター。しかし、それでも殺気を放ち続けているところを見ると、かなりの手練だと、私でも分かる。

 

「……覚妖怪なんぞ……ねぇ。貴方こそ吸血鬼ハンターとかいう下賎な職業まだ続けているなんてね」

「はんっ」

 

 レミリアちゃんも強く睨みつける。幻想郷指折りの最強の妖怪であるレミリアちゃんの眼光は見るだけで震え上がりそうな鋭さを持っていた。

 しかし、吸血鬼ハンターはそれにすら動じない。

 

「……覚妖怪はクズだ。人の心を読み、蔑んで、そして腐らせる。そのような妖怪は価値すらない」

「っ!」

 

 もちろん、心は読めても人を蔑んだことなど一度もない。むしろそれで力になりたいと思って私はよく人里に足を運んで、色々な人と関わっているのに。

 悔しくなった私は思わず声を荒らげてしまった。

 

「私達はクズなんかじゃない! 必死に生きて、みんなと楽しく過ごしたいだけなんだ!」

「覚妖怪が口を開くな」

 

 吸血鬼ハンターは腰に下げた剣先を私の喉元に突きつける。そのスピードは私の反応を大きく上回った。

 

「っ……」

「お前らが喋っていい場所などどこにもない。黙って友人が殺されるのを見ていろ」

「……」

 

 私は黙っているしか無かった。喉元から剣は離れたが、いつまた剣が襲いかかって来るかわからないという恐怖から私は動けないでいた。

 

「さっきから黙って聞いていれば、随分勝手に話してくれるじゃない」

「っ!」

 

 冷めた声が私の左どなりから聞こえてくる。その声は鳥肌が立つような、そんな怒りに満ちた声。

 

「覚妖怪はクズ? 価値がない? そんなわけないじゃない」

 

 淡々とそう告げるレミリアちゃん。右手には深紅の槍が形作られていっていた。

 

「あんたはこの子がどれだけ必死にこの世を生きてきたか分からないでしょう」

「レミリアちゃん……」

「嫌われるかもしれないという恐怖に打ち勝って、明るく、元気に過ごして、そしてようやく手に入れたこの子の居場所を、あんたがどうこう出来る権利があると思っているの?」

 

 レミリアちゃんの言葉一つ一つに大きな重みを感じた。それはどうしてなのか、分からなかった。

 

「しかし、それでもこの妖怪は……」

「覚妖怪だから何? こんなにも可愛らしい子をあんたみたいなクズがクズ呼ばわりするの?」

 

 レミリアちゃんの作り出した槍、グングニルが吸血鬼ハンターの喉元を捉える。槍先が喉に触れる。

 

「妖怪の前に一人の女の子よ。あんたは女の子をクズ呼ばわりする教育を受けたのね。あぁそうだ。やり合うなら場所を変えましょ。こいし、少し待っていてちょうだい」

「あっ……がっ……」

「あ、ちょっと!」

 

 吸血鬼ハンターの胸ぐらを掴んで、山奥へと飛んで行ったレミリアちゃん。

 私はそれを追うように飛んでいくが、レミリアちゃんのスピードにはさすがに敵わない。

 

 

 

 

 

 ようやく追いつく。もうそこでは戦闘が行われていた。

 いや、戦闘と言っていいものなのか分からないくらい力は圧倒的だった。

 

「く、くそっ!」

「あら、あんなに威張っていたのにその程度なの? もう少し楽しませなさいよ」

「……凄い」

 

 吸血鬼ハンターの剣撃は決して生ぬるいものでは無い。むしろ、私なんかでは一発で殺されそうな鋭い攻撃スピードだ。

 しかし、レミリアちゃんはそれをまるで遊ぶように避けている。

 

「……はぁ、もういいわ。今日はせっかくのデートだもの。早めに終わらせてもらうわよ」

「っ!?」

 

 レミリアちゃんが視界から消える。それは私だけでなく、吸血鬼ハンターも見失ったみたいだ。

 

「どこだ!」

「ここよ」

 

 即答したレミリアちゃんの声は、吸血鬼ハンターの真後ろから聞こえた。

 吸血鬼ハンターはそれを察知してすぐさま距離を置こうとした。が、その前にレミリアちゃんが動いた。

 吸血鬼ハンターの首元に一発の弾幕が直撃し、爆発を起こす。

 

「うっ……」

 

 爆風によりしばらく前が見えなかったが、ようやく視界が開けるとそこにはボロボロになって気絶している吸血鬼ハンターとこちらに向かってもう歩いてきているレミリアちゃんがいた。

 

「ふぅ……」

「レミリアちゃん! 凄いよ!」

 

 私はその場でぴょんぴょんと跳ねて、レミリアちゃんを賞賛する。何せ、あれだけの実力があった吸血鬼ハンターをいとも容易く倒してしまうとは、幻想郷指折りは伊達じゃないことがわかった。

 

「えへへ……照れるわね……さ、ご飯食べに行きましょ?」

「そうだね。お腹すいたぁ……」

 

 私達は二人で並んで人里へ飛んでいく。

 あの吸血鬼ハンターはあの後、もう一度だけレミリアちゃんに勝負しに紅魔館へ行ったそうだが、その前に咲夜さんに返り討ちにされて、それ以降音沙汰はないらしい。

 

 

 

 

「そういえば、レミリアちゃん。私のことさ」

「えぇ、何かしら?」

「可愛らしい子って言ってくれた」

 

 途端、レミリアちゃんの顔がボッと赤くなって、顔を逸らした。

 

「あ、えっと、た、他意はないのよっ、こいしは確かに可愛らしい子だけど、別にそれ以上の理由はっ」

「ちょ、なんでそんなに慌ててるの……」

「い、いや、なんでもないわ。それがどうしたの?」

「レミリアちゃんってさ、普段は優しいお姉ちゃんって感じで、でも、プライドも少し高いから思ったことを口に出すような人じゃないって分かってたんだけど。今日は守るためとはいえレミリアちゃんにいっぱい褒めてもらって嬉しかったなぁって」

 

 吸血鬼ハンターの売り言葉に買い言葉なだけであったかもしれないが、それでもレミリアちゃんが私のことを守ろうとしてくれたのは嬉しかった。

 

「……私は、こいしを守ろうとして褒めたわけじゃないわ」

「えっ?」

「普段からそう思ってる。可愛い子だって、努力してる子だって」

 

 次は私が照れる番だった。レミリアちゃんの優しい言葉に私は耳まで赤くなってしまった。

 

「レミリアちゃん、褒めすぎだよ……」

「いいえ、あなたはこう言われるに相応しい子なの。私はあなたが塞ぎ込んでる状況がどんな感じだったのかは知らないけど。でもフランの話やあなたの今の振る舞いを見て、どれだけ頑張って手に入れた居場所なのか私には計り知れない」

 

 レミリアちゃんはふざけて言っているわけではなかった。至って真剣に、私のことを思ってくれていた。

 それが何よりも嬉しくて、私は目尻に涙を溜めてしまう。

 

「っ……」

「だから、こいしには精一杯の幸せを掴み取って欲しい…………って、こいしっ!? どうしたの!?」

「いや……っそう言われるのが……嬉しくてさ……」

「こいし……」

 

 そう言って腕で涙を拭うと、そこには優しく微笑んで私の頭を撫でるレミリアちゃんの姿があった。

 

「……辛い人生だったけどさとりと一緒に乗り越えてきたのよね。本当に凄い子だわ。さとりもこいしも」

「うっ……うぅ……」

 

 久しぶりに泣いた気がする。フランちゃんの誕生日の目前に、私がこんなにいい言葉を貰ってしまった。

 罪悪感はないが、少しだけ後ろめたさがある。そんな中、レミリアちゃんは私の頭に手を乗せながらまた口を開いた。

 

「……私は……そんな貴方を……心から……」

「……心から?」

 

 それ以降の言葉はなかった。代わりに、レミリアちゃんの顔がまたリンゴのように赤く染まっていた。プルプルと震えながら目をそらす。

 

「な、なんでもないわっ! 早く行きましょ! お腹すいたわ!」

「えっ? ちょ、ちょっと、なんなのーっ?」

 

 レミリアちゃんは羞恥からなのか、先に人里へ飛んでいってしまった。

 

 この時は、私はレミリアちゃんの気持ちを全く理解出来ていなかった。ただの優しくて凄いお姉ちゃんだった。

 私にとってさとりお姉ちゃんもレミリアちゃんもお姉ちゃんだった。こんなにも私を支えてくれる大切な存在だった。

 でも、レミリアちゃんにとって私もそれくらい大切な存在であったことを最近になって気づいた。

 

 

 

 ──────

 

 

「でも、無意識に隔離されていたのは前の話なんだ。フランちゃんやレミリアちゃんに私は救われた。ほんと、感謝してもしきれないよ」

「いえ、私は何もしていないわ。頑張ったのはこいしとフランよ。私はそれを見ていただけ」

「……いいや? あの時、レミリアちゃんは確かに私を救ってくれた」

 

 と言うと、レミリアちゃんは恥ずかしそうに頬を掻く。その空気がもどかしくなった私はレミリアちゃんの右手を握って、指を通す。

 

「……こいし?」

「えへへっ、恋人繋ぎってやつ!」

「……ううっ……恥ずかしいわ」

 

 口ではそう言いながらも、レミリアちゃんもしっかりと私の手を握ってくれていた。

 

「確かに昔は接点の少なかったレミリアちゃんに助けられたって言われても分からないかもしれないけど。しっかりと私はレミリアちゃんの言葉を忘れてないよ?」

「言葉?」

 

 レミリアちゃんが言ってくれた言葉。それは確かに今の私を形成する一つの勇気になっている。

 

「私のこと「可愛い子だ」「努力してる子だ」って言ってくれたこと」

「……そんなの、毎回言っていないかしら?」

「いやいや、レミリアちゃん恥ずかしがり屋だからあれ以降あんまり言ってもらってないんだよねぇ……」

「うっ……こ、こいしは可愛いわ! 私が惚れるくらいなんだもの!」

 

 言ってくれてない。という反応に申し訳なさを感じたのか、レミリアちゃんは赤面しながら言ってくれた。

 それに対して、私も勝手に口角が上がってしまう。

 

「……分かってるよ。レミリアちゃん……」

「……こいし」

「え? ……あっ」

 

 レミリアちゃんはそんな私を見て、私を一気に引き寄せた。レミリアちゃんは私の額に自分の額をつけて、見つめる。

 至近距離のレミリアちゃんの瞳はとても綺麗で、吸い込まれそうな妖しさを持っていた。

 

「やっぱり……大好き……貴方のことが……一生離れないで……」

「ちょ、レミリアちゃん……恥ずかしいから……」

 

 そんな至近距離のレミリアちゃんを見てしまうと、恥ずかしさで爆発してしまいそうだ。

 しかし、力の強いレミリアちゃんに勝てるはずもなく、私はその場で硬直するしかできなかった。

 

「……好き。大好き。愛してる」

「…うぅぅぅっ。もう! レミリアちゃん!」

「……何よ」

「恥ずかしいからやめてよ! 早くフランちゃんの所に……んむっ!?」

 

 言い終わる前に、レミリアちゃんは私の唇を塞いできた。柔らかくて瑞々しい唇の感触が心地よかった。

 

「んっ……ちゅぅ……っはぁ……」

「……レミリアちゃん……やっぱり重いね……」

 

 呆れるほどだった。あんなにカリスマ性のあるレミリアちゃんがこんなにも私を好きでいてくれたとは予想外過ぎた。

 

「……お、重い女は嫌いなのかしら……」

「いいや……大好き」

 

 そう言って私達は離れる。そんな時でも、私たちの手は強く握られたまま。

 

「……じゃあ行こうか。フランちゃんの所に」

「ええ……行きましょう」

 

 私達はこれからフランちゃんにお話に行く。

 これで全てが終わるように。きっとフランちゃんは悲しんでしまうだろう。怒るかもしれない。でも、私はレミリアちゃんと二人で歩んでいくと決めた。

 フランちゃんともまだ仲良くしていたいけど、それでも、私はレミリアちゃんを選ぶかしれない。

 

 私はこれ以上、後悔なんてしたくない。

 

 



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5話 親友

まだ終わらないのレミこい編。

長いねこれ


 人里を抜け、紅魔館へと続く一本道に差し掛かった。

 私とこいしは手を繋いで一歩一歩を噛み締めて歩く。いつも通る道なのに、どうしてこんなにも鼓動が早くなるのだろうか。

 

「……はぁ……」

 

 私はとても不安だった。

 全て上手くいかないまま、こいしと結ばれてしまったのではないかと。フランとの仲を戻せないまま、さらに追い打ちをかけるようなやり方をしてしまったのではないかと。

 しかし、そんな不安な気持ちは私の左手が強く握られ、温もりを感じたことで払拭される。

 

「……大丈夫だよ、レミリアちゃん」

「……ええ」

「きっとフランちゃんにも伝わる」

「……そうね」

 

 そうして、私もこいしの手を強く握る。そうだ、こいしと一緒ならきっと大丈夫だ。

 フランはきっと今、紅魔館で待っているはずだ。私に想いを伝えるために、今か今かと待ち望んでいるはずだ。

 私はそんなフランに残酷な真実を突きつけようとしているのだ。

 

 

 

 フランは紅魔館の前にいた。

 

 

 

 

 

 

 

「……え……と……」

「……ただいま、フラン」

 

 フランはその場で硬直する。想像していた光景とありのままが映し出された。

 

「……お、お姉様……これは、どういう……?」

「……見たままよ」

 

 フランの目には仲良く恋人繋ぎをしている私とこいしが映っている。

 フランにとって、これが何を意味するのか、フランはまだ理解していなかった。いや、理解したくなさそうだった。

 

「……み、見たままって……わ、悪ふざけはやめてよ……私は真剣な話が……」

 

 

 

「私とこいし、付き合うことにしたわ」

 

 

 

 

 これがフランにとって、絶望の一言だと分かっていた。

 一番聞きたくない言葉なのだろうと、私の中で理解しているつもりではあったが、そう言わないと、何も上手くいかないままだ。

 

「……は?」

「……あなたがこいしを振ったあと、私がこの子に告白したの」

 

 私は淡々と起こったことを告げていく。感情の起伏すらも捨てて、ただ無表情にそう伝えていく。

 

「……ごめん、フランちゃん。君は私を恨む権利がある。殴ってくれてもいい、クズだってそう思ってくれてもいい」

「……や、やめて……」

 

 フランは怒ることも泣くこともせず、ただ後ずさっていった。ただその顔は悲愴そのものだった。

 

「……私のこと……嫌ってくれても……いいよ」

「っ!!」

 

 フランはその言葉を聞くと、こいしに近寄り、右手を大きく振り上げた。

 そして、フランの手のひらはこいしの頬を捉える。こいしの頬は腫れはしなかったものの、赤くなっていた。

 しかしこいしは動じずにただそれを受け入れているかのように静かになっていた。

 そこで初めて、フランの目じりに涙が溜まっていることに気づいた。

 そしてそこから

 

「……もう……いいよ」

 

 そう言って、フランは身を翻し、紅魔館を超えてどこかへ走っていってしまった。

 

「っ、フランっ!」

 

 私はそれを追いかけようと私も走ろうとした。しかし、それをこいしの手が制止させた。

 

 

 

 

「……? ……私はフランを追うから、こいしは待っていて」

「……レミリアちゃん、一人で行くの?」

「ええ」

 

 こいしは私の手を掴んで離そうとしない。私にはそれを振り払ってフランを追う勇気もなかった。

 

「……レミリアちゃんがフランちゃんを1人で追うのなら止めないよ」

「……こいし……」

「でも、レミリアちゃんにとって大切な人は誰なの?」

「……」

 

 こいしは俯いていたせいか、表情は全く見えなかった。だが、今こうして近距離で見ると、こいしも涙を溜めていた。

 私はその顔を見て、もう一度こいしの手を強く握る。私たちはもう、どこまでも一緒にいると決めたから。

 

「……行きましょう。こいし」

「……うんっ」

 

 涙を拭いて、私たちは覚悟を決めた。

 そして私たちは手を離さず、互いに体温を感じながら、安心感を感じながら、全てに決着を付けるために私たちは動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ここが人生の大きなターニングポイントだって分かる。

 しかもこれが二回目だとそう思う。

 一度目は吸血鬼ハンターに追われ、フランと共に闘っていた時だ。

 あの時は二人とも余裕がなかった。でもその中でも私はフランを守り抜きたいと、強くそう思えたことで、体力的にも精神的にも強靭なものを手に入れることが出来たと思う。

 家族という大切さに触れて、愛というものを実感した。

 

 そしてこれが二度目。

 フランが望まない形で全てが終わってしまった今日。全てが流れのままになってしまった。

 生き物というのは目の前の欲望には目が眩んでしまう。後先考えず、自分の幸せを掴むチャンスがあれば徹底的に動く。なんとも面白く、醜いのだろうか。

 私はこいしという目の前の恋人に目が眩んでしまった。「恋は盲目」なんて言葉をよく耳にするが、全くもってその通りだと痛感する。

 だが、私には家族という大切な存在もいるということもまた事実で。

 フランがこいしに手を上げても、私にそれを怒る権利なんてあるわけが無い。

 それに、どちらも大切な人だから。どちらも私が生きていくためには欠けてはいけないかけがえのない存在だから。

 こいしとフラン。どちらも大切にしたいと思うのは強欲なのだろうか。欲張りで、そして浅はかだと、誰しもが笑うだろうか。

 強欲だとは思うが、それを笑う奴はきっと私の周りにはどこにもいない。

 私は紅魔館当主、強欲で何が悪い。

 

 

 

 

 

 フランの気配を辿ると、そこは人里のはずれの森だった。こんな所、微かに残る道すらももう草が生い茂っていて人が住んでいた形跡はない。

 

「……この道って……」

「……こいし? 何か知っているの?」

「この道ね、私とフランちゃんが初めて出会った時にいい場所があるって言って連れてこられた所だ」

「そう、なのね」

 

 こいしは懐かしむように周りを見る。この場所は私も知らなかったところだ。

 フランとこいしだけが知っている場所があるのが、少し疎外感があって落ち込んでしまう。

 

「懐かしいなぁ……私がレミリアちゃんやフランちゃんと仲良くできたのも、この場所があってこそなんだ」

「……そうなのね……」

「……」

「……」

 

 しばしの沈黙が訪れる。聞こえるのは、歩いている時の草を踏む音だけ。しかし、気づいた時には私の口は開いていた。

 

「……私は……フランも大切にしたい」

「……」

 

 隣にいるこいしにそう伝える。瞬間、左手がキュッと握られる。少しだけ悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべたこいし。

 

「でも、それでも、私はこいしと歩むわ。どんなことがあろうと」

「……うん」

「かけがえのない愛しい妹と、世界一好きな恋人と、私は一緒にいたい」

「……うん」

「だから、一緒に紅魔館でお茶でも飲みましょう?」

 

 

 

 

「……ねぇ、フラン」

 

 

 

 

 歩を止める。先程までの窮屈な山道とは大きく違い、開けていて、とても景色が綺麗だった。

 夕日が私達三人を照りつけている。

 フランは私達を見ない。うつろな瞳は夕焼けに照らされる人里を見つめていた。私の声にもピクリとも動かず、その場で立ち尽くしていた。

 

「……フランちゃん」

 

 こいしの呼び掛けにも反応しない。まるで、魂だけがどこかへ置き去りにされてしまったかのよう。否、置き去りになっていたのだろう。

 

「……聞いて、フランちゃん」

「嫌だ」

 

 こいしのお願いすら一蹴してしまう。瞳も体も動いていないのに、口だけ動かすフランの姿はなぜだか少し恐怖があった。

 そうして、数分の静寂が訪れた後、フランが口を開いた。

 

「……お姉様、こいしちゃん」

「っ……」

「私はさ、お姉様と一緒になりたいから、こいしちゃんの告白を断ってまで、追い続けたんだよ?」

「……」

「でもそれでさ? いざお姉様に想いを伝えようって言ってそのすぐ後に、私達付き合うことになりましたって、流石に酷すぎない?」

 

 フランの言っていることは至極真っ当な正論だった。返す言葉もない私達はその場で硬直してしまう。

 

「……ごめん、なさい」

「……こいしちゃん。君がどれだけ最低なことしてるか、分かってるの?」

「……分かってる。私はもう、フランちゃんに顔向け出来ないと思ってるよ」

「じゃあ、私に何されても文句は無いよね?」

 

 そしてようやく、フランが動き出した。表情や瞳は変わらないまま、スタスタとゆっくりこいしに近づいていった。

 今のフランは「殺気」を剥き出しにして歩いていた。こうなったフランはもう長年見ていなかったが、こうなると手がつけられなくなったのは記憶に新しかった。

 

「ま、待ってフラン! 私が悪いのよ……」

 

 流石にまずいと思った私はこいしとフランの間に割って入る。

 フランは一度歩を止めて、私を睨みつける。

 

「お姉様は黙ってて」

「で、でも……」

「大丈夫だよ。レミリアちゃん」

 

 背中側から私の右手が優しく引かれる。こいしの表情は依然と悲しそうな雰囲気を出しているが、フランの殺気に怖気付いたり、震えたりはしていなかった。

 

「……レミリアちゃんがいてくれるなら、私は、フランちゃんとも立ち向かうよ」

「こいし……」

 

 こいしを頼もしいと思ったことは申し訳ないが一度も無かった。時折、さとりと似たように明晰な一言が発せられたりはするのだが、妹というのもあって、やはり姉の背中について行く癖があった。

 でも、今、私とこいしは対等な立場にあって、お互いの想いが交わりあっている。そうやって見方を変えるとこいしという存在が頼もしくて仕方がない。

 

「……分かったわ」

 

 私にはもう、これ以上何もできることはない。全てが終わったあと、フランに私の思いを伝えるだけだ。

 

「……私、今日の一件でこいしちゃんのこと見損なった」

「……」

「私とお姉様をくっつけようとしてくれたくせに、結局は自分がいい思いしたいだけなんだ?」

「……」

 

 フランの殺気が増していく。しかしそれにも動じない。

 

「……黙ってれば済むと思ってる?」

「……そんなこと思ってないよ」

「じゃあ何か言ったらどうなの?」

 

 フランは今までにないくらい強気で責めていた。それほど、今回のことが許せないのだろう。

 私の身勝手な行動のせいで、こうなってしまったのだ。私が責任を負うべきなのに、こうして妹と恋人がぶつかり合ってしまうことに、私はとても惨めな気持ちになった。

 私は今日告白してしまったことを少しだけ後悔した。殺意を剥き出してしまうほど私が追い詰めてしまったのだ。

 

「じゃあ、一言だけ言うね?」

「……」

 

 しかし、こいしはそんな私の後悔すらも吹っ飛ばす言葉を、フランにとどめを刺すような言葉を、握りしめていた。

 

 

 

「レミリアちゃんは、私のものだよ」

 

 

 

 

 瞬間、時が止まった。

 圧倒的正義だと感じていたフランが目を見開いて硬直する。

 フランは完全な被害者だと、フランも私も、そしてきっとこいしも思っていたはずだ。

 今回悪いのは、私とこいしだと、百人中百人は答えるはずだ。

 謝れば済む問題なのかは分からない。でも、フランは深い傷を負っている。そこに私達が弁明する余地はない。

 しかし、こいしはあろうことか、フランに追撃を仕掛けた。

 

「……は、はは……」

 

 乾いた笑いが、フランからこぼれる。

 慌てた私はこいしの顔を見る。しかし、こいしの顔は至って真剣で、しっかりとフランに伝えようとしているようだった。

 

「なにそれ……? もしかして、私の事挑発してるの?」

「そんなつもりは無いよ。ただ、私が最低とか、見損なうとかの前に、そこははっきりさせておかなきゃなって」

「ふざけないでよっ!!」

 

 ついに爆発し、激昂したフランの右手から真っ赤な火が燃え上がった。そして周りにいた鳥達は逃げるように一斉に飛び立っていった。

 そしてそれはフランの持つ「レーヴァテイン」へと形作っていく。

 そして、ニタリと白い歯を見せて笑った。

 

「お姉様、見ていてよっ! どっちがお姉様にふさわしいかをねっ!」

 

 狂気に染まりあがった笑顔をこちらに振り撒くフラン。恋は盲目なんて言葉を聞くが、盲目どころの話じゃなくなってきていて、私はかなり焦っている。

 

「こ、こいしっ! 流石にまずいわよ……」

「大丈夫、レミリアちゃんは手出ししないで。これは、私とフランちゃんの問題」

「こいし……」

 

 こいしがこう言ったのも、私であればフランを止めるくらい造作もないことだからだ。今までも似たような事例があったが全てが数分で片付けられるくらいだった。

 でも、それを拒否する理由。それはこいしにとっては単純な事だった。

 

「恋人の肉親とは、やっぱり対立するものだからねっ!」

「そういう問題じゃないでしょぉ!?」

 

 全く的はずれなこいしの見解についつい突っ込んでしまったが、言い終える前に、こいしは魔法陣を展開していた。

 

「ちょ、フランっ、こいしっ!」

 

 私が止めようとする前に、二人は上空へ飛んでいってしまった。

 

「……も、もうっ!」

 

 止めようと私も飛ぼうとするが、その瞬間にこいしと目が合う。

 そして、私の目をしっかりと捉えて、微笑んでいた。

 まるで、私を安心させるかのような優しい笑顔、惚れた身としてはかなり心臓に悪い。

 こんな時なのに、こいしの微笑みにドキドキしてしまっている。

 恋愛は惚れた方が負けなんだと、改めて実感した。

 

(……こいし……頼んだわよ)

 

 私はこいしとフランの戦いを見守ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今まで見たことの無いくらいの激怒を見せたフランちゃん。右手にはレーヴァテインを手にしている。

 

「……どうしてお姉様は、こんな子を選んだのかな」

「さぁ? でも、少なくともレミリアちゃんはあなたよりも私と恋人になりたかったってことよ」

 

 私はフランちゃんをとことん煽る。

 真っ向からフランちゃんと戦えば、多分負ける。こんなにも怒ったフランちゃんを見たこともないし、我を忘れて暴走しそうな予感もするから。

 

「っ……許さないっ」

「いいよ、許さなくて」

 

 瞬間、灼熱の剣が私の頬をかすめる。激痛、とまではいかなかったが、これをまともに受けたら一溜りも無さそうだ。

 

「怖いねぇ……」

 

 私は一度フランちゃんから離れ、弾幕を放っていく。しかし、それは全て、フランちゃんのレーヴァテインによって霧散していく。

 爆散した弾幕の爆煙で私はフランちゃんを見失ってしまった。

 

「あぁぁぁ!!」

「っ!」

 

 そんな煙の中から、レーヴァテインを振りかざしたフランちゃんが私目掛けてやってくる。

 慌てて結界を貼ろうとするが、それも中途半端なところでレーヴァテインの攻撃を受けてしまった。

 その全てを両腕に受けてしまう。

 

「あうっ!」

 

 思い切り吹っ飛んでしまう。幸い、うしろに何か障害物があった訳では無いので、追加の痛みはやってこなかった。

 痛みと熱さが両腕にやってくる。私の腕は火傷を負ってしまい、変色していた。

 

「……う、っ……」

「ねぇこいしちゃん……私がどうして、こんなに怒ってるか、分かってる?」

 

 その場でうずくまっていると、フランちゃんがすぐ目の前までやってきていた。

 下を見ると、心配そうに私を見ているレミリアちゃんがいた。

 

「……分かってるよ。私がレミリアちゃんを奪ったからでしょう?」

「……」

「な、何よ」

 

 フランちゃんはその場で黙って私を睨みつけていた。その眼光の鋭さに私は少したじろいでしまう。

 

「……はぁ、やっぱりお姉様を渡したくないなぁ」

 

 フランちゃんはため息とともにもう一度レーヴァテインを出し、大きく振り上げる。

 

「こいしちゃん、君にレミリアお姉様は相応しくない」

 

 私はその一言に何かが切れた音がした。

 

「表象「弾幕パラノイア」」

「っ!」

 

 フランちゃんの周りに細かい弾幕が囲む。そしてそれはそのままフランちゃんに向かっていき、直撃した瞬間に爆発した。

 しかし、それでも立っているフランちゃんに私は叫んだ。

 

「相応しいとか相応しくないとか、そんなのどうだっていい!」

「……」

「私はフランちゃんへの想いを切り捨ててレミリアちゃんと付き合ったんじゃない!」

「……意味がわからないよ」

 

 涙が溢れてくる。

 どうして私はこんなにも愚かなことをしたのだろうか。そう思ってしまう。

 でも不思議と後悔はしていない。

 レミリアちゃんの言葉に私はストンと落ちてしまっただけだから。

 あんなにも必死に、「こいしなしでは生きられない」なんて言われてしまったら、心の軽い私には靡いてしまうものがある。

 

 でも、私にはフランちゃんという想い人がいて、いつまでも大好きだった彼女を傷つけてまで、私は別の人と付き合って。

 

「……私は……フランちゃんも大好きだよ……」

「やめてよ」

 

 冷たく言い放つフランちゃん。こればっかりは私の方がおかしいのだ。

 振られてすぐに付き合ってしまうような奴の言葉なんて信用出来ないのは当たり前だ。

 私の目からは大量の涙が流れてくる。こんなにも最低なことをしていると分かっていても、やっぱり自分の思う通りの結果になって欲しいと願うのだから。

 私は、なんて強欲な生き物なのだろうか。

 

「……でも! 私は、フランちゃんがいないと生きていけないよ!」

「……じゃあ……」

「……」

 

 フランちゃんは下を向く。表情が見えないくらい俯いているが、プルプルと震えているのを見ると、怒っているのが分かる。しかしそれは彼女から流れる一滴の涙で見方が変わった。

 そして、顔を上げ、涙声で叫んだ。

 

「じゃあどうして、嫌っていいなんて言ったのよ!」

「っ!」

 

 私は大きく目を見開いて驚いた。

 フランちゃんが怒っていた理由はレミリアちゃんの事ではなかったのだ。

 

「ずっと親友だって言ってくれたのに……どうしてそんなこと言うの!?」

 

 長年一緒にいた私とフランちゃん。お互い唯一心置き無く語り合うことの出来る血の繋がっていない友人。

 時には喧嘩もして、時には笑いあって、苦楽を共にしてきたパートナーでもあったのだ。

 そんな大切な相手から「嫌ってもいい」なんて言われてしまってはそれはもう裏切りと同じだ。

 

「……酷いよ……私達、親友じゃなかったの? ずっと一緒に遊んでくれるって思ってたのは私だけなの……?」

「フランちゃん……」

 

 段々と語尾が弱くなっていくフランちゃん。私はいつもなら頭を撫でたり、抱きしめたりしてあげて落ち着かせてやる。でも今はそれが出来なかった。

 私は、なんて最低な奴なのだろう。恋人が出来たからと言って、親友を切り捨てようと勝手に考えてしまっていたのだ。

 浅はかだ。愚かだ。阿呆だ。なんて、卑しくて、最低なのだろう。

 思い返せば思い返すほど、自分への被虐が思い浮かんでしまう。

 とても大切な存在が恋人以外にもいたというのに私は、どうして切り捨てようしてしまったのか。

 

「フランっ、こいしっ」

 

 ついにレミリアちゃんが我慢できなくなったのか、私達の元へ飛んできた。

 

「……会話は聞こえていたわ……」

 

 言いにくそうに話し始める。

 しかし、レミリアちゃんは確かに強い瞳を向けていた。

 

「私が原因だってわかってる。だから、こんなこと言う権利はないのかもしれないけど」

 

 レミリアちゃんはそう言って涙目の私とフランちゃんを見た。

 

「これは、フランとこいしの問題よ。あなた達で解決しなさい。二人とも、自分の思いをきちんと相手に伝えなさい」

 

 レミリアちゃんがそう言い放つ。それを成し遂げた人の言葉はとても説得力がある。

 そう言ってレミリアちゃんは下へ降りていった。そして、私達の会話が聞こえない物陰へと姿を消していった。

 

 レミリアちゃんが見えなくなった後、私とフランちゃんは目を合わせた。お互い、涙で顔がぐしゃぐしゃだった。

 

「……」

「……」

「あははっ」

「えへへっ」

 

 お互いの顔のおかしさに思わず笑いが込み上げてきた。こんなにも必死に戦っていたのが馬鹿みたいに思えてきた。

 

「初めてだね。こんなに本気でやり合ったの」

「んねー。フランちゃんの攻撃重すぎて死にそうだった……」

「あはは……って腕っ! 早く治療しないと……」

「大丈夫大丈夫。それよりも……」

 

 私は火傷した腕を擦りながら、フランちゃんの瞳をしっかりと見る。

 

「この話を終わらせよう」

「……うん」

 

 レミリアちゃんが言っていたように、この話は私とフランちゃんだけの問題、レミリアちゃんは全く関係がないと言ったら嘘になるが、それでも私達だけで解決しなくてはいけないものだ。

 すると、フランちゃんの方から口を開いた。

 

「私ね、お姉様と恋人にはなれないと思ったんだ」

「でも……レミリアちゃんもフランちゃんの事好きになってたって言ってたよ?」

「……そ、それは初耳だけど、それでもだよ」

 

 その話をした瞬間、フランちゃんの耳が一気に紅潮して言った。

 

「私は、心のどこかで姉妹だからっていう壁が邪魔していたんだと思う。それが結局、今みたいな結果に繋がっていたのかもしれない」

「フランちゃん……」

「そう思ってた矢先にこいしちゃんに告白されて、でもそこから色々あってさ、こいしちゃんとお姉様が恋人になったじゃん?」

 

 フランちゃんは淡々とそう話していくが、目じりに涙が溜まっているのち気づく。そして、段々と涙声になっていっていた。

 

「それでね……最初は意味わからなくて……それでお姉様を奪われてさ……すっごく悔しかったんだけど……ちょっと安心したんだ……」

「安心……?」

「お姉様は……ずうっとこいしちゃんの事を追いかけてた……周りが見えなくなるくらい、こいしちゃんに夢中だった。どれだけ悲しい思いをしても、こいしちゃんの事ばかり気にしてた……」

 

 少し悔しそうにはにかむフランちゃん。涙声も落ち着き、涙も拭く。

 

「そんなお姉様の恋がさ……ようやく実ったんだよ……? 妹として、嬉しかったんだ」

「フランちゃん……」

「でもやっぱりさ、女の子としては、悔しくてたまらなかったよ。好きな人が別の人の彼女になったんだもん。悔しくないわけがないよね」

「……」

「でも、一番悔しかったのはその後」

 

 そう、私達の間で一番大切なのはその後の私の言葉だった。

 

「嫌っててもいい……そんな言葉、聞きたくなかったよ」

「……うん」

「……どうして、そんなこと言ったの?」

 

 フランちゃんにとって、一番知りたいのはそこだろう。私がフランちゃんに対してそう言ってしまった理由。

 

「私は、永遠にこいしちゃんと友達でいたかったのに、好きな人を奪っちゃったくらいで、どうしてそんなことを言うの?」

 

 私にとって、それは「くらい」で済む問題ではなかったのだろう。それくらいあの時は気分が高揚してて、それでもってフランちゃんへの罪悪感もあったからだ。

 

「あの時は、フランちゃんに対して凄い失礼で最低なことをしちゃったって、フランちゃんに罪悪感があったんだ」

「……」

「それで、フランちゃんが私を嫌ってくれれば、私は楽になれると思った」

「……そっか」

 

 私はそんな軽率な考えで、フランちゃんを傷つけてしまったのだ。今更になって、後悔している。

 

「でも……さ、私は……フランちゃんと離れたくないよ……ずっとずっと……親友でいたいよ……」

 

 今度は私が涙を流す。今日だけで私は何回泣いているんだろう。

 でも、私は今心からの本音を放っている。

 

「また、他愛もない話をして……みんなでトランプやって……あそびたいよぉ……」

 

 涙が大粒となって流れ出す。それは、きっと後悔の涙。大親友に放ってしまったたった一言への後悔。

 フランちゃんも涙をポロポロと流して、微笑む。

 

「……うん、私も、一緒に遊びたいよ……こいしちゃん……」

「うぅ……あぁぁぁ……」

 

 ついに、涙のダムが決壊する。次々と溢れ出る涙を火傷した腕で拭うが、永遠に出続ける涙を止める術はなかった。しかしそんな私をフランちゃんは優しく包み込んでくれた。

 

「……ごめんね……こいしちゃん……ありがとう……」

「フランちゃあぁん……」

 

 親友なんて肩書きはそんな簡単に築き上げられるものでは無い。長年一緒にいないと生まれない信頼と、一緒にいて楽しいと思える高揚感。

 そうやって心置きなく関わり合える友人の事を親友と呼ぶのだろう。

 ただ上辺だけの関係じゃなくて、共に苦楽を経験し、時には笑って、時には泣いて。二人で色々な事を体験する。そうやって親友は自然に生まれるのだろう。

 

 私は、フランちゃんという親友がいてくれたことに幸運としか言い表せない。

 こんなにも優しくて、信頼できる友達はきっとフランちゃんだけだ。

 

「……ぐずっ……」

「泣き止んだ? こいしちゃん」

「うん……ずびっ……ごめんフランちゃん。服が……」

「ん? あぁいいよ全然! 気にしないよ!」

 

 フランちゃんの服は私の涙と鼻水でぐしょぐしょになってしまっていた。

 フランちゃんはもういつもの元気なフランちゃんに戻っていた。目元は少し赤くてもそれを払拭するほどの元気がある。

 

「ねぇ、フランちゃん」

「んー?」

「「フラン」って呼んでいい?」

 

 呼び方ひとつで何かが変わるわけではないと思う。しかし、私の中ではこうやってひとつの大きな経験をした親友同士で何か思い出を残しておきたい。

 

「……いいよ。こいし」

「……」

「……」

「「あっはははっ!」 」

 

 お互い、同時に大声で笑い出す。

 

「今更になって呼び捨てなんて、遅い気がするよねー」

「それは思うけど、まぁ、形だけでもさ」

「そうだね……」

 

 もう私たちの間に溝は存在しない。いや溝が出来てもそれを修復し得るだけの力が「親友」には存在するのだと思う。

 より強固な絆、なんて言い方は少しくさいかもしれないけど、私はフランちゃんとは確かに繋がっている。

 たとえ恋人とはかけ離れた存在であっても、私の大好きなレミリアちゃんとは違う存在でも、私はフランちゃんも大切にしていきたい。

 

「……さ、行こっか、お姉様の所に」

「……うんっ」

 

 そうして、私達は一緒に私の大好きな恋人、レミリアちゃんの所へと向かった。

 



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最終話 掴んだ幸せ

遅くなりました。

これにてレミこい編完結でございます。

そうしますと、この「フランがシスコン過ぎて困っています」も完全に完結となります。

一応今の希望としては

レミこいのアフターストーリーを投稿後、別の世界線の物語を一話に詰めて書こうと思っています。

その世界線の内容はまだ黙っときます。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


「全部……終わったのね?」

 

 優しいほほ笑みを向けるレミリアちゃんに私達は同じように笑顔を返す。

 

「うん……終わった」

「そう……まずはえっと……フラン」

「な、なに?」

 

 急に名前を呼ばれたフランは何かを警戒しているのか、少しどもっていたが、レミリアちゃんがフランに向けて頭を下げたことでそれらは払拭された。

 

「ごめんなさい。私はあなたの心を踏みにじるようなことをしてしまったわ」

「お姉様……」

「……私は、確かにこいしが好きよ。これは紛れもなく本心。でもね」

「……」

「私は、きっとフランのことも好きだった。昔から、あなたのことも意識してた。それに気づけなかったこと、フランの想いに応えてあげられないこと。それを謝罪させて欲しいの」

「……あははっ、今更そんなこと言われたら、強奪しちゃいたくなるよ。ね、いい? こいし」

「そんなことしたらスカーレット姉妹のこと地の果てまで追いかけるから」

「寒気が走ったのは夜で冷えるからだよね? ね?」

 

 フランもここから立ち直っていけそうだ。でも、やっぱりフランとの関係はこれからも築いていきたい。

 

「……こいし」

「ん? なぁに?」

「え、えっと……」

 

 レミリアちゃんは恥ずかしそうに左手で右肘を掴む。そして、意を決したように私の瞳を真っ直ぐと見た。

 

「私の事、レミィって呼んで」

「っ……」

 

 頬を赤く染めながらレミリアちゃんは私を見る。その恥ずかしそうな顔すらも今はとてつもなく愛おしい。

 そんな時、フランが前に言っていたレミリアちゃんに関しての話を思い出した。

 

 ────────

 

「ね、フランちゃん」

「んぅー?」

 

 確かその時はパフェを食べていた時だ。

 

「なんでパチュリーだけはレミリアちゃんのことレミィって呼ぶの?」

「んー、お姉様ってレミィって呼ばれるの実はあんまり好きじゃないみたいなの」

「え、そうなの?」

「まぁ多分紅魔館の主だからか舐められたくないからとか面子がどうとかあるんだろうけどね」

 

 フランは幸せそうに甘そうなパフェを頬張りながら話す。

 

「だから、本当に信頼のできる人だけに「レミィ」って呼ぶことが出来るんだって、紅魔館の中で唯一対等な存在がパチュリーだしね」

「えっとつまり、そう呼んでる人はレミリアちゃんに本気で信頼されてるってこと?」

「まぁそういうこと。お互い長い付き合いらしいしねー」

 

 ────────

 

 という話を思い出す。それはつまり、私はレミリアちゃんに信頼して貰えるようになったということだ。

 それが嬉しくてたまらなかった私は思わず笑みが零れた。

 

「うん、わかった。レミィ」

「う……やっぱり恥ずかしいわ……」

「え、えへへ……」

「はいはいイチャイチャしないでくれるかなぁ?」

 

 両手をパンと叩き、少し不機嫌そうに私達を睨むフラン。そんな状況に3人とも同時に笑う。こんな幸せがやってくるなんて、一昔前の私には想像すら出来なかった。

 

「えっと、とりあえず2人とも、こっちに来て」

 

 レミィがちょいちょいと手招きをする。クエスチョンマークを浮かべた私達は言われるがままに近づいた。するとレミィはそのまま私達二人を優しく抱きしめ、頭を撫でてくれた。

 

「お疲れ様。あなた達……2人とも大好きよ」

 

 優しくそう伝えるレミリアちゃんはやっぱりお姉ちゃんなんだなと思えた。どうしても、甘えたくなってしまうこれは、きっとそういうことだ。

 私はレミィやフランに出会えて、第二の人生を歩むことが出来ている。こんなに幸せになれたことを私は墓場まで零さずに持っていきたい。

 

「……ありがとう。レミィ」

 

 それはきっとフランも同じだ。こんな姉がいたら、恋してしまうのも変ではないのかもしれない。

 私の知らない間に、この二人はどれだけの深い絆で結ばれていたんだろう。

 

「さて、帰りましょう? こいし、今日はどうするの?」

「……えっとね……」

 

 もう日が暮れて、橙色の空ももうすぐ黒くなり始める頃だ。

 そうなってしまえば、私が顔を赤く染めるのを誤魔化す手段はない。

 

「……たい」

「え?」

 

 フランが目の前にいるけれど、今更そこを気にしたってしょうがない。私は一刻も早くレミィに近づきたかった。

 

「泊まり……たい、紅魔館に」

「……え、あ、う、……」

 

 赤面しているのはどうやら私だけではなかった。目の前にいる大好きな恋人もりんごのように赤く染めていた。

 

「あらあらーっ、私は先に帰ってるよん。お二人でのぉぉみつなお時間を過ごしてくださいなっ」

「あ、ちょ、フランっ!?」

 

 フランはそう言い残すと紅魔館の方へ飛び立っていってしまった。そこからは気まずい雰囲気が流れる。

 すぐに脱却したかった私は恥ずかしながらも口を開く。

 

「レミィは……」

「っ」

「私と泊まるの……嫌?」

 

 別に可愛こぶったつもりもないし、誘惑したつもりもない。それなのに、なぜだかレミィはさらに顔を赤くしてまくし立てた。

 

「い、嫌じゃないわ! こいしと一緒にいたい! 私からお願いしたいくらいだわ!」

「お、おぉう……」

 

 あまりの剣幕に少し後ずさる私。お互いに付き合いは長いものの、深いところまで知っている訳では無い。こんな機会に互いを知っていきたいなと思う。

 

「じ、じゃあ行きましょ?」

「うん……」

 

 レミィは一歩前に出ると、優しく微笑みながら私に右手を差し出してきた。

 

「……ほら、手」

「……っ……」

 

 そんな顔で見られたら、心臓の鼓動が早くなってしまう。恐る恐る手を伸ばし、指を絡ませた。

 

「……レミィってさ」

「うん?」

「……かっこいいよね」

「かっ!? ……こいいかぁ……」

 

 なんだか少し落胆したような雰囲気を見せるが、顔は少しだけ赤い。満更でもないのだろう。

 

「うん、お姉さんって感じ。でも、なんだかたまに女の子な部分もあるよね」

「そ、そんなことは無いわよ?」

「そんなことがない人は「一生離れないで……」なんてことは言わないのぉ」

「ま、待ってそれ私の真似!? 私そんな顔で言ってたの!?」

「うん、すんごい乙女な顔で。こんな顔、紅魔館で見せたらフランがトリップしちゃうよ」

「あ、あぁあ……」

 

 片手で顔を隠し、茹で上がるくらい顔が真っ赤になってしまっている。レミィはいじりがいがあってこの先も楽しめそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

「お帰りなさいませ。お嬢様、こいし様」

 

 紅魔館に戻ると、咲夜が出迎えてくれた。

 

「えっと、咲夜。私たち、付き合うことにしたわ」

「……はい。先程、妹様からお話を伺いました」

「……咲夜には、迷惑かけたわね」

 

 咲夜の言葉がなければ、ここまで上手くいくとは思えなかった。自暴自棄になりかけても、隣で咲夜が支えてくれた。そのおかげで、気持ちを洗いざらい吐き出すことも出来た。

 

「いえ、もったいないお言葉です……お嬢様」

「何かしら」

 

 咲夜は姿勢を正したまま、まるで娘を見るような優しく包容力のある瞳で私を見つめた。

 

「どうかこの先も……幸せを掴みにいってください」

「……言われなくても分かってるわ。咲夜」

 

 咲夜は従者といえどやはり何かと対等なところも多い。お互い、何かと頼るところもあるし、甘えるところもある。それでこうした信頼関係が築けたのだと我ながら誇りに思う。

 

「……では、私はご夕食の準備に戻ります。何時頃にお食べになられますか?」

「……レミィ、私お腹空いた」

「そうね……出来次第呼んでもらえるかしら?」

「かしこまりました。おおよそ30分後に出来上がる予定ですので、出来次第及び致します」

 

 軽くお辞儀をして調理場へと消えていく咲夜。私たちは私の部屋へと誘われるように入っていった。

 

「っはぁー! 疲れたねぇ」

 

 こいしがぼふっとベッドに飛び込み、ゴロゴロと寝転がる。私も書斎の椅子に腰掛け、汗ばんだ腕を布で拭き取る。

 

「あと30分は少し中途半端ね」

「……んー、ポーカーでもする?」

「あら、そんな大人なゲームこいしできるの?」

「むっ、前に地霊殿でやった時は3連続フルハウスだったもん!」

「強運がすぎるわよそれは」

「……そんなことより、やっぱり話してる方がいいかもね。ほら、こっち」

 

 こいしはベッドに座り、隣をポンポンと叩く。その仕草はどうにも甘えたくなってしまうのはどうしてだろう。

 私は言われたとおり、こいしの隣に座る。身長差はさほどないが、私の方がほんの数ミリ高いと願いたい。

 そんなことを思っていると、こいしの頭が私の右肩にコツンとあたり、そのまま重みがやってくる。

 

「こいし……」

「えへへ……いつかこんなことやってみたかったなって憧れてたんだぁ」

 

 にへらと顔を崩して笑うこいしがとてつもなく愛おしい。私は右手でこいしのサラサラな髪を撫でる。くすぐったそうに体を強ばらせていた。

 

「やっぱり、こいしの方が甘えん坊ね」

「……恋人に甘えたいと思うのは何も変な事じゃない……よね?」

「ええ、大歓迎よ」

「だ、大歓迎ね……なんだか裏がありそうで……」

 

 そこから、静寂が訪れる。

 多分、お互い意識してることは同じだと思う。

 

(……キスしたい……)

 

 バチッと目が合う。しかし、今まで見ていられたこいしの顔も、そう思ってしまうとなぜだかより可愛く見えてしまってろくに見ることも出来ない。

 

「……ね、レミィ……」

「な、何かしら……」

「……目閉じて」

「……分かったわ」

 

 ゆっくりと目を閉じる。この独特な雰囲気。こいしと2人だけ世界に取り残されたような感覚に陥る。

 途端、唇に柔らかい感触。うっすらと目を開けると、そこには同じく目を閉じたこいしの顔が目の前にあった。

 誰もいない空間で、2人だけの時間。優しいキスに幸せを感じる。

 

「んっ……」

 

 しかし、その時間は長くは続かない。数十秒も経たないうちに唇が離れてしまった。

 

「あ……」

「ね、ねぇ……レミィ……」

 

 名残惜しそうにしていると、こいしの方から呼び掛けられた。こいしの方を見ると、顔が真っ赤に染まって、荒い息を抑えようとしていた。

 

「も、もぅ……はぁ……はぁ…………我慢できない」

「え、えっ?」

「ずっと……我慢してた……だから、もう、いい?」

「……え、な、何が……んむっ!?」

 

 先程の優しいキスとは違い、貪るように私の唇を啄んできた。

 

「んぅ……ちゅ、……ちゅぅ……」

 

 さらに密着し、服越しでもこいしの体が熱くなっているのを感じた。

 もうすぐで咲夜が呼びに来るかもしれないのに引き剥がそうとも思えない。

「私も、こうしたかった」からなんだろうと、そんなことを考えていた。

 

「はぁ……はぁ、好き、大好きだよ、レミィ……」

「私も……大好き……愛してるわ……」

 

 私がそう言って微笑むと、何故かスイッチが入ったのか、こいしはもう一度キスをして、今度は小さな舌を私の口の中に潜り込ませてきた。

 

「じゅる……ちゅぅ……れろ……愛してりゅよ……レミィ……」

「んっ……ちょ、待って……こいしっ……」

 

 こいしの勢いに負けて、私がこいしに押し倒される形になってしまった。しかし、こいしのキスは止まることを知らなかった。

 

「……レミィ……レミィっ……ちゅっ……じゅるる……」

「……しゃくやが……来る……ちゅぅぅ……んぅ……」

 

 こいしの舌が私の口の中を蹂躙する。されるがままになってしまった私はもう抵抗する術も形勢逆転する術も持ってなかった。

 

「ぷはぁ……はぁ……」

 

 お互いの舌同士で糸が伸びる。キスが終わっても、こいしの興奮は収まるどころか拍車がかかっていた。

 

「……レミィ……触っても……いい?」

 

 どこをとは聞けなかった。こいしはもう、「最後まで」するつもりなのだ。嫌とも言えない。というか、「私もやめて欲しくなかった」のだろう。

 

「……いいわ……触って……」

 

 すると、こいしの手が私の胸から腹……そして……

 コンコン。

 

「っ!?」

 

 2人で飛び上がる。ここまで心臓が飛び上がったのは初めてかもしれない。

 扉の向こうから人の声がした。

 

「お嬢様、こいし様、晩御飯が出来上がりました」

「あ、え、ええっ! 分かったわ! 今向かう……」

 

 そう言うと、咲夜はヒールの足音を立てて部屋から遠ざかっていく。

 その音が聞こえなくなるまで私たちは息を止めてしまったいた。

 

「…………ぷはぁっ!」

 

 お互い、止めていた息を一気に吐き出す。

 

「はぁぁ……危なかったぁ……」

「全く……こいしが変にスイッチ入れるからよ」

「その割には「いいわ……触って……」ってレミィも言ってたじゃん」

「待って、私そんな顔で言ってたの?」

「……エロ可愛かったよ」

「……は、恥ずかしい……」

 

 こいしの感想に恥ずかしさが込み上げてくる。というか、こいしってこんなにエッチな子だったんだと実感した。

 

「……ま、まぁとにかく、食事に行きますか……」

 

 一時は切れた興奮だが、すぐにそれはぶり返してくる。私はかなりの淫乱なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食卓に行くと既にフランがいた。

 私たちが来るや否やニヤニヤと笑いながら机に両肘をついていた。

 

「あらあら、お二人さん、お楽しみでしたねぇ……」

 

 明らかに私たちをおちょくるためだけに言ってきたのだろう。しかし、こいしの反応はまさかの地雷を踏んだ。

 

「え、なんでっ……もしかして声聞こえてた……?」

「えっ」

「えっ」

 

 しばしの静寂。

 まさかフランも本当にお楽しみしてたとは思わなかったのだろう。顔を赤くして硬直。こいしも硬直。

 

「こいし……」

「あ、あぁ……ごめんレミィ」

「え、あっ、ほ、ほっ、ほん、とにしてたの?」

 

 フランの慌てようはまるで天変地異が起こったかのような反応だった。

 もうわかっただろう。こいしは丸見えの地雷を両足で思い切り踏んでしまったのだ。

 

「あ、あぁフラン? そんなあなたが想像するようなことはしてないのよ?」

「あ? え、えっと……うん、恋人だもんね! 何もおかしくないよ! おかしくない……」

 

 フランは何故こんなにも取り乱しているのだろう。フラン自身も私に色々やらかしてるのに……

 

「……まぁ、お腹も空いたし食べましょうか……」

 

 今のこの空気はなんだかまずい気がする。こいしがまたいつ口を滑らせてしまうか分からないからだ。こう言っている私もどういう形で言ってしまうか分からない。

 

「……まぁ初日から上手く行ってるようで良かったよ」

「ま、まぁおかげさまで」

「でもやっぱり、お互いの元々仲が長いだけあって急に恋人になってもあんまり実感わかないんだよね」

 

 こいしの言っていることに無言で首肯する。

 実際、こいしとはもう数ヶ月程の仲ではない。フランほどでは無いが、こいしのことをよく知っているつもりだ。

 友達としての期間が長いため、何か特別なことをする以外は特に関わりなどは変わらなさそうだ。

 

「まぁ、こいしと2人きりで遊ぶ口実ができたことが1番の収穫ね」

「……レミィって恥ずかしげもなくそういうこと言うよね……」

 

 隣で顔を赤くしながらステーキを頬張るこいしがいた。

 あ、ほっぺ膨らんでる可愛い。

 

「ともかく、気楽にやっていくわよ」

「そうだね。喧嘩とかはいっぱいしそうだけどねぇ」

「それはあるわ。私とこいし正直好みの違い大きすぎるもの」

「でも、自分と違うもの持ってる人に惹かれやすいってパチュリーの本に書いてあったよ」

「だから私はこいしが好きだったのねぇ……」

「ちょ、レミィっ、そんなはっきり……」

 

 こんな他愛もない会話ができるほど、もう私たちはこいしという存在に馴染んでいた。

 慌てふためくこいしも楽しそうに話すこいしも、全てが愛おしい。彼女(こいし)を好きになってよかったと思える瞬間だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、レミィ。お風呂入ろっか」

「……は?」

 

 食事を終え、フランが寝落ちしたところでお開きになったトランプ大会の後、フランを自室のベッドへ連行し部屋を出た時にこいしがそんなことを口走った。

 ドアの取っ手を掴んだところで私は硬直してしまう。

 

「え、2人で入るの?」

「入らないの? せっかく続きをお風呂で出来ると思ったのに……」

「っ……」

 

 顔を紅潮させてうるうるした瞳で誘ってくるこいし。その顔は非常に卑怯だと思ってしまう。

 いけないことだと分かっているのに、私はいつの間にこんなに単純になってしまったのだろう。

 

「……行きましょ……」

「ほんとっ、やったぁ!」

 

 素直に喜ぶこいしを見て、私もテンションが上がっているんだなと分かってしまう。

 

 浴室に着く。いくらこいしの前とはいえ、衣服を脱ぐのには多少の抵抗があった。一度裸を見せている仲だけども、恋人になってから肌を見せたことは無い。

 

「……や、やっぱり緊張するねっ」

 

 かくいうこいしも多少なりとも緊張していたみたいだ。しかし、テンパりながらもボタンを一つ一つ外していっていた。

 

「っ……」

 

 衣服が真ん中から開いていく度にあらわになっていく白色の下着。大人の色気があるかと言われれば正直無い方だ。

 だが、こいしという一個人としての魅力が詰まっている気がした。

 

「……こいし……綺麗ね……」

 

 私は無意識のうちにこいしに引き寄せられていた。そして、気づくと至近距離にこいしがいた。

 

「……レミィ……近いよ……?」

「……あ、ご、ごめんなさい」

 

 どうやら下着を凝視されていたのがむず痒かったのだろう。モジモジとしながらこちらをチラチラと見ていた。

 

「は、早く入りましょう」

 

 そそくさと服を脱いで、お風呂の扉をガラッと開ける。先程までパチュリーが入っていたからなのか、まだ少し湿気があった。

 

「やっぱり……紅魔館のお風呂っておっきいね……」

「これはパチュリーの好みらしいわ。私は小さくてもいいんだけど……」

「おっきい方が羨ましいよ。開放感があるしね」

「それは分かるわ」

 

 ヒタヒタとシャワーが並んでいる場所まで2人で歩く。その際に、チラチラとこいしの身体を見てしまうのは許して欲しい。

 

「ふぅ……今日は色々疲れたねぇ……」

 

 シャワーの蛇口を捻って、暖かいお湯を浴びながらこいしが呟く。

 

「そうね。改めて、こいしには迷惑かけたわ」

「いやいや。こちらこそだよ。レミィの熱意に負けちゃった」

 

 にへらと笑うこいし。お湯に濡れて緑銀髪の長い髪が首筋にへばりついていた。

 

「……っ」

 

 なかなか色気がある。これは私の性癖が歪んでいるのだろうか。

 そんな邪念を取り払うように、私は髪を濡らしてシャンプーで洗う。

 

「レミィってさ」

「ん?」

「髪、すごい綺麗だね」

「ええ、ありがとう。髪は女の命ですもの。でも、こいしもかなり綺麗よ?」

「えへへ……お空とお燐が毎日お手入れしてくれるんだ」

「そうなのね」

「お燐ったら凄いの。色んな髪型が作れてね、一昨日なんか三つ編みでおさげなんか作ってくれて」

 

 自慢げに語るこいし。さぞ家族に大切にされている事が分かる。私も家族は命に変えても守りたいと思えるが、古明地家にも素晴らしい絆があるんだと認識できる。

 

「でねでね、お空はお団子を作ってくれるの。まだ私の髪があんまり長くないからおっきいのは作れないんだけど、一生懸命作ってくれてね」

「ふぅん……」

 

 家族の話とはいえ、なんだか心がムズムズする。言葉にできないが、なんだか気持ちのいい話として捉えることが出来ていない気がする。

 体も洗い終えて、2人で湯船に浸かる。暖かいお湯が全身に刺激を与え、今日の疲れをほぐしてくれる。

 

 そう感じたのは一瞬だった。

 

「……」

「レミィ?」

 

 私は湯船の中でこいしの右手を握った。いつもより滑らかな肌の感触があった。

 

「……」

「え、レミィ? きゃっ!」

 

 気づけば、こいしを抱き寄せていた。すべすべの肌の感覚が直に感じて、さらに興奮が煽られる。

 

「……猫と鴉ばっかり……ずるい」

「……んっ!?」

 

 私は先程のもやもやを取り払うようにこいしの口を強く塞いだ。息する暇さえ与えないように、強く押さえつける。

 

「んむっ……ちぅ……」

「……はぁむ……ぷはぁ……ちょ、れ、レミ……んむっ……」

 

 一度離した唇もすぐに密着しなおす。回を重ねるにつれ、段々と強くなっていく。

 お互いの歯が当たっているのか、中でカチカチと音がしている。頃合を見た私はそのまま舌を入れた。

 

「じゅる……こいし……すきぃ……」

「んぅ……れろ……」

「ぷはぁ……はぁ……」

「レミィ、落ち着いてっ……っ!?」

 

 私はこいしの膝の上に対面で座る。お互いの肌の感覚が鮮明に、かつ広い面積で感じられる。

 こいしはビクンと身体を震わせるが、私はそれを待つ暇もなく、もう一度キスをする。

 

「ちゅぅ……じゅる……」

「あっ……れ、レミィ……」

 

 お互いの肌が擦れ合う。その不思議な感覚に私もこいしも変に興奮していた。

 太もも同士、胸同士が当たって、その度に身体が跳ね上がっていた。

 

「はぁ……はぁ、こいし……」

「れ、レミィ……嫉妬深すぎるよ……」

 

 唇を離し、額をゴツンと当てる。お互いの荒い吐息が当たる。そのせいで収まろうとしていた興奮も拍車がかかった。

 

「うるさいわね……こいしがほかの女の話するから……」

「んふふ……可愛い」

「ひゃうっ!?」

 

 するとこいしは私のことを強く抱き締めた。さらに肌が密着して、変な声が喉の奥から込み上げてしまった。

 

「レミィ、変な声」

 

 クスクスと小馬鹿にするように笑うこいしに私は赤面する。

 

「もう……」

「じゃあ……レミィ」

「……ぅん」

 

 私のか細い声は確かにこいしに届いていたみたいだ。その応答を聞いた後、こいしはまるで別人のように私を弄んできた。

 

 

 

 

 こうして愛する人と体を重ね合わせられる幸せ。本当にかけがえのないものだと、体験して初めて実感するものだ。

 しかし、この幸せに、犠牲があったことを忘れてはならない。フランという大切な妹の恋心を踏みにじり、自分の幸せを最優先にしたのだから。

 フランが気にせずとも、私はその、環境にいた事を感謝しなくてはいけない。この選択が、後悔のないものだとしても、一人の尊い恋心が犠牲になったことを、忘れてはいけない。

 

 でも、それでも、私はこいしという愛する人と共に生きたい。フランという大切な妹と支え合いたい。

 そう思うのは、悪いことではないと信じている。

 快楽に縋ってしまった私が生み出した罪を色々な形で贖罪したいと、心の底から思う。

 

 

 

 

「……ねぇ、レミィ」

 

 約二時間。私とこいしは湯船の中で様々な行為を繰り広げた。一方的に攻める。または受ける。二人の興奮が収まるまでお互いを貪り続けた。

 

「何かしら?」

 

 こいしは私の肩に頭を乗せて、目を閉じていた。その愛らしい顔に底を尽きた体力がぶり返して来そうだった。

 

「……私、レミィとずっと一緒にいたい」

「……ええ」

「でも、一日前はフランが大好きだった」

「……ええ」

「私、本当に最低なことしてるって思った。だって、一日も経っていないのに別の人と恋人になってる」

 

 段々と、こいしの声がか細くなってきている。いつも天真爛漫な彼女が自分に自信が持てなくなっていた。

 

「……レミィ」

「……」

 

 顔を上げて、私の目を見た。こいしの顔は泣きそうとは言わずとも、助けを求めているような顔だった。

 

「私のフランへの想いは……弱かったのかな……フランのこと、本当は好きじゃなかったのかな」

 

 その悲しい気持ちはこいしにしか分からない。言ってしまえば、こいしは過ちを犯した。そんな彼女を見ていると私は思わず声を上げていた。

 

「そんなわけないじゃない。あなたは真剣にフランに恋をしていた」

 

 それだけは自信を持って即答が出来る。だって、私がこいしとフランをそばで見てきたから。

 

「私はずっとこいしを見てた。こいしがフランに向ける目は本当に真剣だった。都合がいいとか、親友だからとか、そんな理由じゃない。貴方は、本気でフランに恋してた」

 

 今はこうして私とこいしが愛を誓いあっているけれど、こいしがフランのことを好きだった過去を決して色褪せさせてはいけない。

 こいしのこの思いはきっといつかどこかで助けになってくれると信じているから。

 

「確かにこいし、あなたは過ちを犯してしまったのかもしれない。好きな人をすぐに変えることを良いこととは言えない。でも……でもね……」

 

 私がいちばん言いたいこと。

 長い間、私たちスカーレット姉妹と古明地姉妹が作り上げてきた絆のこと。

 

「私達ならそんな過ちでも乗り越えていけるじゃない」

 

 そう、恋人とかそういった肩書き以前に、私達スカーレットと古明地はお互い初めての友達だった。

 気づけば家族のように関わっていた私達。今更そんなことで仲が絶てるほど私達の絆は細く作られていない。

 どんな罪だろうと、私はもう一度彼女達と関わっていきたい。

 私は友達が大好きだから。

 

「……あはは……熱弁しすぎだよレミィ」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「ううん、ありがとう、レミィ。そうだよね、私達の縁はそんな事じゃちぎれないよね」

 

 どうやらこいしは目尻に涙を浮かべていたようだ。左腕でそれを拭い、思い切り笑って白い歯を見せる。

 

「ありがとう。レミィ、あなたが私の恋人でよかった」

「……ええ、私もそう思う」

 

 色々あったこの恋煩いも、こうして幕を閉じた。

 私もこいしもフランも、全員が一途に恋を駆けていた。この気持ちは一生大切にしていくべきものなんだろうと、今こうして思える。

 

「……さて! 早々にお風呂から出ましょうか」

「フランが起きてるかもしれないわね」

「あ、次はスピードやろスピードっ!」

「スピードに関しては私最強よ?」

「じゃあレミィが負けたらグングニル使って一発芸ね」

「さすがに鬼畜じゃないかしら」

 

 私はこいしの後を追うように湯船から出る。

 その時、私は初めてこいしが恋人なんだと実感した。色々なところで教えてくれて、支えてくれたこいし。

 彼女には本当に感謝している。歳は近いが、様々な面でこいしが大人に見えたこともある。

 私がこいしに何かしてあげたことは無い。これから先、こいしのことを一生懸命サポートしよう。

 これから先、喧嘩やすれ違いもきっと多い。別れたいとそう思うことも絶対にあるだろう。

 でもきっと、私はこいしとしか共に歩めないんだろうなと情けないが思ってしまう。

 

 そう思えるのは、やっぱり私はこいしのことが好きだからだろう。

 

 この後、私とこいしがお風呂で何をやっていたかは、途中で起きたフランが一緒に入ろうと更衣室まで来ていたことでフランには半分以上知られていた。

 

 私もこいしも顔を真っ赤にして、フランと楽しくスピードをした。

 ちなみに、グングニルの一発芸で盛大に滑り、首を吊ろうとして必死で止められたのは別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 end……




エッロ

じゃあアフターストーリーで会いましょう。


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後日話 永遠の縁

マジでほんと土下座させてください遅れてすみませんでした。


 私は現在、地霊殿にいる。というのも、こいしに会いに来たのではなく、仕事の関係上さとりに用があったためだ。

 決してこいしの顔が見たいからじゃない。ないったらない。

 

「にしても暗いわね……」

 

 時刻が午前中であろうと、地底には光が届かない。壁に等間隔にぶら下がっている蝋燭の灯火だけが光源だ。

 

「それにしても、あの鴉とかは見えるのかしら?」

 

 鳥目は暗闇に弱いと聞く。一体どのようにして生活しているのだろうか。

 吸血鬼であるからといって、暗闇が好きな訳では無い。むしろ、私は暗闇が苦手な方だ。暗くて前が見えないし、何より幽霊が怖い。というのも、以前に冥界の亡霊が紅魔館でお化け屋敷を開催してから、トラウマになってしまったからだ。

 

「……は、早いこと用事を終わらせてこいしに抱きついて帰りましょう……」

 

 私の足音だけが、コツコツと響く。奥に入っていく程、暗さが増していき、私の恐怖心を煽る。

 ふぅと一息ついた瞬間、

 

「……ひぃ!?」

 

 遠くの方でなにか物音がした気がした。本当は無音のはずだが、私の恐怖心が煽られているからか、幻聴が時々現れる。しかし、今回は違った。

 

……し、……りー……いま……たの…………ろに……るの……」

「……ま、待ってちょうだい……本当になにか聞こえるのだけど……」

 

 これは声だ。地霊殿の誰かであって欲しいと諏訪子に懇願する勢いだが、それを無視して足音がコツコツと近寄ってくる。

 

「……ひっ、……い、嫌……」

 

 怖すぎる。私はここで殺されてしまうのだろうかとそう考えるだけで足が竦む。

 

わたし……りーさん…………りの……に……いるの……

「さ、さとりぃ! こいしぃ! どこにいるのー!?」

 

 たまらなくなった私は走ってさとりのいる部屋を探す。

 

「……嫌、嫌っ! こんなとこで死にたくない!」

 

 しかし、足音は近づく。もう後ろは振り返れない。何せ、「もう私の背後に何かがいる」ことは分かっているからだ。

 

「私……メリーさん、今……あなたの……後ろにいるの」

「ひぃぃいいぃぃっ!」

 

 未だかつてここまで威厳のない紅魔館当主を見たことがないと、霊夢なら笑うだろう。しかし、私に今必要なのは命の安全だ。というか、足速いわこの幽霊。

 

「い、いいわよ! 幽霊だろうとなんだろうとやってやろうじゃない! かかってきなさい!」

 

 意を決した私は右手にグングニルを手にする。きっと大丈夫だ。私なら勝てる。幻想郷でも指折りの妖怪だもの。

 私は身を翻し、グングニルを声の方向に向ける。

 

「神槍、スピア・ザ・グン……あ、あれ?」

 

 しかし、後ろを振り返っても姿が見えなかった。私は周りを見渡すが、暗い廊下が長く続いているだけで、おかしなところは何一つなかった。

 

 私の向いていた方向は、だ。

 

 

 

 

 

 

 

「……ここだよぉ?」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、心臓が止まった。

 首元にある血の付着した包丁を手にする人物が後ろでニタリと笑っていた。

 

 

「きぃぃやあぁぁぁぁぁあぁあぁあぁああぁあぁああぁっ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ以降、レミィが口聞いてくれなくてさぁ……」

「……それ、十中八九こいしが悪いよ……」

 

 フランの部屋で恋愛相談をしている。と言っても、私のお悩みだ。

 私がメリーさんの真似をしてレミィを驚かせたら、想像の十倍は面白い反応をしてくれたが、それに怒ったレミィが……

 

 

 

 

 

『えっへへー、驚いた?』

『あ、お、え、……えっ、え……こ、こい、……こい、し?』

『いやぁーそんな反応してくれるならドッキリの甲斐があったなぁ! レミィって意外と怖がりなんだね? あ、ちなみにこの包丁についてるのはケチャップだよ』

 

 未だに腰を抜かしているレミィ。涙をぼろぼろと流して真っ青な表情で私を見つめる。

 私だと分かるやいなや、プルプルと下を向いて震えていた。

 

『…………』

『……ありゃ? やりすぎた?』

 

 よっぽど怖かったのかなと少し反省しようとしたら。

 

『……もうこいしなんて知らないっ!』

『うぇえ!?』

 

 半泣きのまま、お姉ちゃんのいる部屋の方へスタスタと歩いていってしまったのだ。

 

『ちょ、レミィ!?』

『いいわよ! ついてこないで!』

『そ、そんなぁ!』

 

 

 

 

 

 

「って感じでさ……」

「ちゃんと謝ったら? どうりでお姉様帰ってきた時涙目だったわけだ……」

 

 呆れるようにやり終えたトランプを片付けるフラン。

 

「わ、分かってるんだけどさ……レミィ部屋から出てこなくて……」

「……はぁ……お姉様も子供だなぁ……」

「ねぇフラン、どうしたらいい?」

 

 未だ呆れたままのフラン。右手を額に当てている。

 

「……これ聞かされてる身にもなって欲しいよ……」

「あ、あはは……」

「とりあえずっ」

 

 苦笑いをしていると、人差し指を立てたフランがずいっと身を乗り出してくる。

 

「早くお姉様に謝ること。んで、仲直りして煮るなり焼くなり好きにしたら?」

「絶対に使い方を間違えてると思うよ……けど、わかった。行ってくる……」

 

 

 

 追い返されてしまいそうな不安を抱えながら、同じ階にあるレミィの部屋へ歩き始める。

 扉の前に立つとその不安が増大してのしかかる。さらに嫌われてしまったらどうしようという不安が私の取り柄である笑顔を奪っていきそうな気がする。

 

「すぅう……」

 

 一度大きく深呼吸をして、扉をノックする。

 

「れ、レミィ? 入るよ?」

 

 返事はない。勝手に入ってはいけないだろうが、この状態だと返事がないまま平行線になる気がするため、背に腹はかえられない。

 

「……あ、あー、レミィ?」

 

 レミィは布団の中にくるまって微動だにしない。布団が大福のようにふっくらとしている部分がある。するとその大福からズズっと鼻をすする音がした。

 

「……なによ」

「……お、脅かしちゃってごめんね?」

「……ふん」

 

 どうやら許してくれないらしい。ここまでいじけるレミィを見るのは初めてだ。正直可愛すぎてキュンキュンしっぱなしだ。

 

「……そんなに怖かった……かな?」

 

 確かに私の中でも自信作だ。たまにお燐にも同じことをしてビビらせたりしている。あの瞬間の顔が面白くてたまらないのだ。まぁ、結果的にレミィに同じことしたら怒らせちゃったわけで。

 

「……こわかった」

 

 今にも消えてしまいそうな声で、そう呟いた。流石にやりすぎたと感じた。私は慌てて頭を下げる。

 

「……ご、ごめんなさい! ただ驚かせたかっただけなんだ!」

「……」

「ゆ、許して……くれる?」

 

 ニョキっと布団から顔だけを覗かせたレミィの目元は腫れていた。余程泣いていたのだろう。今も涙を貯めている。可愛い。

 

「……嫌」

「え、えぇ……うぅん……」

 

 これは、何かお詫びが必要な時のいじけ方だと把握している。普段は凛々しい振る舞いを心がけているレミィだが、こういう時はただのいたいけな少女だ。

 

「……ちゅー……する?」

「…………」

 

 レミィは泣き腫らした顔で私を見つめる。さながらそれは寂しがっている子犬のようだ。さっきから私の心臓が高鳴っていて騒がしい。

 

「そこ……すわって……」

「……え、なん……」

「早く」

「は、はいぃっ」

 

 とはいえ、本気で怒ったレミィはめちゃくちゃ怖い。当然だ。本気を出せば幻想郷を破壊し得るのだから。

 私は言われるがままレミィのベッドに座る。すると、寝転がったまま、私の腰に腕を回して、お腹に額を擦りつけてきた。

 

「れ、レミィ……?」

「……」

 

 レミィのセミロングの髪から仄かな香りがする。気持ちのいい匂いだ。私はそのサラサラの髪を撫でながらレミィを抱きしめる。

 

「……ごめんね……レミィ」

「……ぅん……」

「……じゃあ、お詫びにレミィのしたいこと言ってよ」

「…………いいの?」

 

 顔を擦り付けたままのため、表情は見えない。しかし、少しだけ声色が明るくなった気がする。

 

「……うん! なんでも言ってよ! まぁ、お詫びになるか分からないけど……」

「じゃあ……今日はずっと部屋にいて」

「え?」

「……何よ。だめなの?」

 

 レミィは顔を上げて頬をふくらませながら私を睨む。紅色の瞳が潤っている。

 

「……い、いや。それだけでいいのかなって……」

「……今はそれだけで十分なの。あとから追加で注文するわ」

「……そゆことね……」

 

 1時間ほど、私とレミィは無言のまま抱き合っていた。途中フランが静かに扉を開けて様子を見に来たが、先程までの呆れた顔はどこへやら、安心した表情で部屋を後にした。

 恋人というのは、相手の好きでは無いところを見つけてしまうため、気持ちが逓減していくと聞く。しかし、何故だろう。レミィの意外な一面を見つけても、それすら愛おしいと感じるのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう。こいし。もう大丈夫よ」

「……ん。わかった」

 

 顔を上げたレミィの表情は少しばかりスッキリしたように見える。私は改めてレミィの顔を見て口を開く。

 

「……改めてごめんね。つい出来心で……」

「もういいわ。こいしに抱きつく口実が出来たからプラマイゼロよ」

「あ、あはは……」

 

 どうやら許してくれたみたいだ。次からは無闇にレミィを驚かせないようにしよう。本気で神槍が飛んできそう。

 

「……じゃあ、追加の注文の話ね」

「え、あれはもう終わりじゃ?」

「追加の注文の話、ね?」

「……はい」

 

 前言撤回。まだレミィの気は収まってないみたいだ。屈託のない、いや、なにか裏のありそうな笑顔を私に向けてくる。語気を強めたレミィの前に私は膝をついた。

 しかし、私が従うとわかった途端、レミィは顔を赤くしてモジモジし始めた。

 

「……えっと……」

「?」

「……今日……は、こいしに……」

 

 怒ったりいじけたり恥ずかしがったり。今日のレミィは何かと忙しいな。と危うく口に出しそうだったが、キレられそうなのでやめておこう。

 

「……せ、攻められ……たい……」

「…………」

「…………」

「…………」

「も、もうっ! 何か言ってちょうだい!」

「へっ? あ、あぁごめん。何言ってるかわからなくて……えっと、つまり?」

「だから……えっちなことする時に……こいしがリードして欲しいのっ!」

 

 やけくそなのだろう。声のボリュームに遠慮がないのがその証拠だ。

 

「あ、ええっと……私が攻めていいの?」

「え、ええ」

「いつも上は譲らないレミィが?」

「う、うるさいわね! 今日はそういう気分なのっ!」

 

 大声で捲したてるレミィに驚きを隠せない。私たちが恋人になってから、何度かそういった行為を行うことがあった。そのどれもにおいても、レミィは私の身体を弄るのが好きなようで、一向に私が上に乗ることを許してくれない。

 私がレミィに馬乗りになると「私の方が年上なんだからぁ……ね?」と甘い声を出しながら力づくで私を下にしようとするのだ。

 そんなレミィが今日は馬乗りにされたいと言っているのだ。驚きを隠せないのは無理もない。

 

「……い、いいの? というか、どうしていきなり?」

「こいしの弄られてる時の顔……凄い気持ちよさそうだから……もしかしたら気持ちいいのかもって……」

「っ!? ちょ、恥ずかしいこと言わないで!?」

「だ、だってあんなに可愛い顔して大きな声で鳴くんだもの……」

「や、やめてぇ!!」

「二人とも……何話してるの?」

 

 蕩けるような顔で行為中の私の顔を言葉にするレミィに顔をりんごのように真っ赤にする私というバカップルの会話を扉の前で目を細くして呆れているフランが聞いていた。

 

「え、ふ、フラン……んんっ、どうしたの?」

「いやもう隠しきれてないよ……「えっちなことをする時にこいしがリードして欲しいのっ!」のところからいたから」

「ほぼ話の全容!?」

 

 フランがいるとわかった途端、いつもの凛々しいレミィに戻ろうとしていたが、それはもう手遅れの極みだった。

 

「はぁ……声が大きすぎなの。お姉様もこいしも。さっきからそこの廊下を歩いてるメイドたちが真っ赤にして歩いてたよ?」

「うっ……」

「あ、あはは……レミィの声って響くもんねぇ……」

「とにかく。まだ夕方だからえっちは夜にしてね。今日は私は地霊殿に泊まるよ。どうせ隣のお部屋から聞こえる声で眠れそうにないからね」

 

「今日はお空の翼の中で寝よーっと」と言って部屋を後にするフラン。どうやら気を遣わせてしまったようだ。

 フランが部屋を出たあと、数秒の静寂が訪れた。会話が見つからない訳では無いが、どの会話も今の雰囲気には合わないと感じてしまったため、口をなかなか開けない。

 

「あ、あー、こいし? 少し散歩にでも出る?」

「う、うん。そうしよっか」

 

 痺れを切らした私達はそそくさと外に出る準備を済ませて、紅魔館を出た。

 どれだけ気まずい雰囲気でも手だけは繋いだまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さっむ……」

 

 外に出るや否や、白い息が出始める。ロングコートを着て手袋をしても、冷たい風を凌ぐことは出来なかった。

 

「幻想郷の四季は上下が激しいわ……」

「地底は寒さとかないからなぁ」

「あそこは「熱い」よ。全部溶けてしまいそうだもの」

「とはいえ、手袋しても手が冷えるって……どんな寒さだよぅ……」

「じゃ、こうしましょ」

 

 レミィは自分のコートのポケットに繋いだ私の手を入れる。レミィの手の温度とポケットの中の程よい温かさがじんわりと伝わってくる。

 同時に、ほんの少しだけ頬を染めてしまう。

 

「あら、今更こんなことで照れてるのかしら?」

「べ、別に照れてないやいっ」

「ふふっ、可愛いわね」

「……っ」

 

 ポケットの中で、レミィの指が私の手をなぞるように撫でてくる。強すぎず、弱すぎず、私の手のひらを愛撫していく。私の頬は紅潮してしくばかりだ。妖しく、それでもって艶やかなレミィの笑みが私の理性を刺激してくる。

 

「れ、レミィ……」

「……今日は……あなたが……ね?」

 

 レミィは少し小悪魔気質というか、Sっ気があるというか。私を弄る事に快感を覚えてるみたいだ。

 この前だって……

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

『はぁ……はぁ……レミィっ、もう、やめっ……』

『いーやっ。まだ足りないわよ?』

『んんっ……!? ちゅう……』

 

 夜中に響くみずみずしい音の正体は唇を押し付け、啄むようにキスをするレミィの口から発生したものだった。

 

『ぷはぁ……あ、やんっ、レミィ……っ!』

『ふふっ、やっぱりこいしの声は可愛いわ……もって聞かせて?』

 

 レミィの指が私の全身を撫でる。レミィは私が感じやすい箇所を熟知しているため、緩急をつけて「そこ」を撫でたり、摘んだり、舌で舐めたり。その度に私の反応を見て楽しんでいる。

 

『……あら? そんなはしたない顔して……』

『……あっ、……んぅ……ふっ……んんっ』

 

 息がさらに荒くなっているレミィの舌が私の首筋から耳にかけて這っていく。生暖かいレミィの唾液が付着していく。抵抗ができない、つまり私もそれを「気持ちいい」と感じている。それを知っているレミィはさらに私を弄ぶ。

 

『……あ、ほら。口から唾液が出てる……んふふ……力が入ってない証拠ね……れろ……』

『あ、ちょ……れみ……んむぅ……』

 

 耳から頬、そして口へレミィの舌が移動してくる。垂れている唾液を舐め取りながら、キスをしてくる。さらに唾液が私の口の中へ流れ込んでくる。

 

『……れ、……レミィ……もう許して……』

『……はぁ……はぁ……まだ夜明けまで数時間あるわ。言ってること……分かるわね?』

 

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

 

 とまぁこんな感じにお嬢様だからかなんなのか、自分が下になることは好まず、自分の思うがまま恋人を弄びたいと思っているのだろう。まぁ、私も満更じゃないけど。

 

 でも今日はそんなレミィが「公認」で弄んでいいと言っているのだ。本気を出させてもらいましょう。

 

「……分かってるよ。覚悟しててね?」

「……っ」

 

 そう、本気で。

 

 

 

「とは言うけど、今は散歩。早く行こ? レミィ」

「え、えぇ、そうね」

 

 少し引きつった笑顔を私に向けるレミィ。あぁ、その顔がどんな顔になるのか、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 こいしの顔が、変わった。

 いつもの可愛らしく鳴くこいしでは無い。もうそれは「捕食者」の顔だった。

 

(私……どんなことされるのかしら……)

 

 元はと言えば自分で蒔いた種だ。今更変更してくれなんて言わない。というか言えない。少しでも楽しみにしてしまっている以上、後悔はしたくないからだ。

 

「さ、レミィ。人里にでも行こっか」

「ええ、そうね」

 

 とりあえず散歩をして気を紛らわそう。と割り切れたらいいものの、下半身が湿っている気がするのは私が変態だからだろうか。

 

 

 

「あ、そういえば新しい本が……」

「あら? この本、フランが欲しいって言ってた本だわ」

「ありゃ、そうなの?」

「ええ、あの子ココ最近も本を読んでるのよ。買っていってあげようかしら」

「いいね」

 

 人里は商業施設は意外と多い。そのため、1時間ほどの散歩の時間をここで潰すことは最適である。

 

「……あ、これ、フランが持って帰ってきたパフェの店だわ」

「フランってずっと甘党だもんねぇ?」

「いつまでも子供舌ってことね。かくいう私も甘党なのだけど……」

「まぁ私含め子供だしねぇ……女の子だし、甘いのが好きで当然だよね」

 

 普段のデートと何ら変わりのないものだが、こうしてこいしと手を繋いで歩くだけでも、私は溢れるくらいの幸せを感じる。

 

「ここでね、前にフランがずっこけたのよ」

「えっ、ここで?」

「そう、そこに生えてる木の根っこに引っかかって顔面から落ちたの。鼻とおでこを真っ赤にして……ピエロみたいだったわ」

「ピエロて」

 

 思い出話も尽きない。付き合いの長い私達だけれども、まだ知り合っていない時間の方が長い。まだまだお互いにしれないところばかりだ。だからこうして、新しい発見や思い出を話したり、聞いたりすることが出来る。

 こうした時間が、とてつもなく貴重なんだとそう感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅあ……いいお風呂だったねぇ……」

 

 紅魔館に帰った後、ディナーを終えてレミィと一緒にお風呂に入った。後はもう寝るだけになった。

 

「今日は割と歩き回ったわね。結構疲れたわ」

「……そっか。ね、レミィ」

「ん、どうし……」

 

 私はレミィの肩を掴み、後ろのベッドに押し倒す。約束通り、今日は「私の番」だ。

 

「ちゅ……んぅ……じゅる……」

「んっ……ちゅ……」

 

 強く唇を押し付け、レミィの口内を私の舌で掻き回す。口を離した頃には太い銀色の唾液の糸が引いている。

 

「ふふっ、レミィ。可愛いね」

「……こんな、気持ち、なのね……」

 

 普段と立場が逆転しているため、お互いに新鮮な気分を味わっている。

 私は今日、「レミィを弄める(可愛がる)」。

 

「レミィさ」

「な、なに……」

「今日、散歩の時から濡らしてたでしょ」

「へっ、な、なんで……」

 

 私は、分かっていた。ずっと足を閉じて太もも同士を擦り合わせていた事を。普段から上品な歩き方をしているレミィだが、今回ばかりは違和感を隠せていなかった。

 

「へぇ……? レミィって、実はM?」

「そ、そんなこと……ひゃっ……!?」

 

 件の「濡れている」所に指を置く。その可愛らしい声がたまらなく愛おしくて、興奮する。

 

「あっはは……こんなになっちゃってる……かぁわいい……」

「ん、こ、こいし……」

 

 酷く歪んだ顔。汗もかいてきて、顔を赤く染め上げている。あぁ、最高だ。もっと、弄りたい。

 

「……さいっこう……レミィ、かわいいよぉ……」

「あっ、……いやっ、……んんっ……」

 

 私の舌がレミィの身体を愛撫する。愛撫、なんて優しいものじゃないかもしれないけど、跡が残るくらい、舐めて、吸って、舐めてを繰り返す。

 レミィの歪み、感じて、気持ちよくなっている顔を見つめながら。

 もしかしたら、私は歪んでいるのかもしれない。いや、きっとこれが正常であることを願う。レミィがリードしている時もきっとこんな表情だったはずだ。

 ねぇ、そうでしょう? 

 

「レミリア……ほら、もっとよく顔を見せて?」

「っ……」

「あっ、ほらまた濡れてる。満更でもないんだね?」

「や、やめっ……んぅ……んんんっ!」

 

 夕方、フランに声が大きいと指摘されたからなのか、手で口を塞ぎ、必要以上に声を出さないようにしてる。

 私はレミィの手を掴み、口から外す。

 

「ほぉら……声出しちゃったら外に聞こえちゃうよぉ?」

「あっ、こい……し、……いじわる……」

「聞こえないよ……?」

 

 キッと睨みつけるレミィの顔。まだ、余力はあるみたいだ。ここから、レミィの顔はどう歪んでいくのだろうかな。

 

「れろ……ちゅぅ……じゅるる……」

「んっ……」

 

 レミィの舌を私の舌で舐め回す。ヌルヌルした唾液が交わり合う。私はそのまま頬や耳、首筋を強く舐めていく。その度にレミィの体が強ばるのだから愉しくて仕方がない。

 

「あぁ……可愛い……愛してるよ……レミリア……」

「あ、ひゃ……こい、しっ!」

 

 レミィは耐えられなくなったのか、やりすぎだと思ったのか、私を自分の上からどかそうとした。しかし、私はそれを口を塞ぐことで制する。

 

「ちゅ……んっ……じゅる……」

「んむっ……んんっ……」

「……レミィ? 何してんの?」

「な、なにっ、て……あなた……やり、すぎっ……」

「知らないよ。そんなの」

 

 突き放すように、そう言い放つ。その瞬間のレミィの崩れた表情が垣間見える。私はその快楽に溺れる。

 

「あぁっ……その顔……最高……レミリア……愛してるよ……」

「へっ、……ちょ、こい、こいし……待って……も、もう体力なんか……あっ、ひゃ……んっ……」

「……レミィのおっぱい、やっぱり可愛いね……」

 

 完全に服を脱ぎ捨て、私のレミィの体が素肌で重なる。控えめに膨らんだ胸同士が触れ合い、潰れる。そして、私の舌で、レミィの「気持ちいいところ」をずっとずっと責め続ける。

 しかし、私の本番はここからだ。

 

「ね、レミィ」

「はぁ……はぁ…………な、なに……」

「今日の散歩でさ」

「……」

「フランの名前、何回出した?」

「えっ……えっ……」

 

 完全に困惑するレミィ。私はレミィにキスをしたあと、もう一度問う。

 

「何回、出した?」

「……えっ……と」

「別に嫉妬してたわけじゃないんだよ? でも、彼女の前で他の女の子の名前は出すのは良くないよね?」

 

 100人中100人が嫉妬であると答えるだろう。しかし、大事なのはそこではない。

 

「……時間切れ。答えは39回。霊夢やお姉ちゃんの名前を入れると46回。まぁ、今回はこれを含むことにしよっか」

「……え、こ、こいし……まさか……」

「じゃあ、お仕置きね?」

 

 そう、私の本来の目的はレミィ自身の蒔いた種で弄られるという形を作り上げることだ。こうすることで、レミィは反省と同時に罪悪感に駆られながらすることになる。表情にも変化が生まれるはずだ。

 そのシチュエーションこそ、私が求めていたもの。

 ここで私は気づいた。私という生き物はかなり変わっている生き物だと。とてつもなく変態で、狂気的だと。

 だが、それでも構わない。

 

「1セット5回のこいしちゃんコースを46セットね?」

「ちょ、ちょっと待って……」

「拒否権なーしっ」

「い、いやぁ……」

 

 あぁ、最高だ。大切な恋人を私の手で弄ぶ。照れた表情も歪んだ表情も。全てが私の思う通りになる。

 狂っているなと、そう感じる。

 しかしどれもこれも、レミィがかわいいのがいけない。

 ちなみに、こいしちゃんコースの正体は内緒ねっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「……あの……レミリア……さん……」

「……ふん」

「とりあえず……土下座させてください」

「……こいしのおたんこなす……」

「すみませんでしたぁー!」

 

 私は裸のまま、ベッドの上で土下座をする。その相手はもちろん、掛け布団を体に巻き付け、涙目になって拗ねている恋人(レミィ)に向けてのものだった。

 

「……いくらなんでもやりすぎなのよ……このバカ……アホ……ド変態」

「返す言葉もないです……」

 

 結局、昨日は暴走しすぎた。こいしちゃんコースを終えたあとも、私の興奮は収まることを知らなかった。結局、「それ」が冷めたのは今から30分前の事だった。

 我に返ることには、めちゃくちゃになったベッドの上でベトベトになった身体。そして、涙目になっていたレミィがいた。

 

「……え、で、でも。レミィも感じて……」

「何?」

「いえなんでも」

「……もう、こいしにリードさせない……」

「え、…………えぇえぇえええぇええぇ!?」

 

 大衝撃発言だった。昨日の快感が、昨日限りだったなんて、そんな話を信じたくない。

 

「だって、あなたあんなに暴走するんだものっ。私の体爆発するわよ!?」

「なんでなんで! レミィも気持ちよさそうだったじゃん! 次も私にやらせてよ!」

「ひとっこともそんなこと言ってないわよ! 私がリードする時の数十倍はやりすぎよ!」

「うそうそ! レミィもあんあん言ってたじゃん! 今ここでレミィの真似してあげようか!?」

「やめて! それだけはやめて! もう咲夜たち起きてる時間だからぁぁ!」

 

 朝の7時。小鳥のさえずりと共に、聞こえてきたのは、幼くも艶やかな2人の痴話喧嘩だった。

 

 

 

 

 一通り喧嘩を終えた後、私達は浴場へと足を運んだ。

 

「……まだ、股に変な感覚が残ってる」

「わ、悪かったって……反省してるから……」

 

 ムスッとした私に申し訳なさそうにするこいし。許してやってもいいのだが、これはこれで今後のエサになりそうな気がするので、曖昧な感じに返しておく。

 

「とりあえず、お風呂に入りましょうか」

「そうだね」

 

 服を脱ぎ、シャワーを浴びてから広い浴場に隣り合わせで座る。

 

「……本当に疲れたわ……」

「あ、あはは……ねえ、温泉行かない?」

 

 こいしが突然にそのような提案をする。

 

「温泉? いつ?」

「まあ、明明後日くらいに」

「いいけれど……どこの温泉に行くの?」

「私、あそこに行きたいんだ。鳳凰山の」

「ああ、前に4人で行ったところね」

 

 以前、フランとさとり、こいしと私で行った壮大な温泉郷のことだ。

 あそこでの出来事は、私達にとっても大きなターニングポイントになっていた。それに加え、最高の湯加減と景色だったため、もう一度行きたいとは思っていた。

 

「……いいわね。行きたいわ。今度は2人で、ね?」

「……当たり前だよ。レミィ」

 

 目を合わせ、2人でクスクスと笑う。

 彼女を見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。幸せを感じる。

 ずっと、こんな時間が続けばいいのに、なんて感じてしまう。

 

「ね、レミィ……」

「何かしら?」

 

 こいしという私の大切な存在に、いつまでも依存してしまいそう。

 昨日のこいしのように、狂気的に、そして強欲的に、こいしを求めてしまいそう。

 でも、それでいい。こんなにまで私を好きにさせたのは、紛れもなく、こいしの責任だ。

 

「愛してる……」

「私もよ……こいし、愛してる」

 

 永遠にこの時間が続くことは無い。しかし、永遠に途切れることの無い私とこいしの縁を私はつかみ続ける。

 

 

 

 いつか、別れる日が来たとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 〜END〜




これにて、3ルート全て完結致しました!

ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

この後、3人が誰も恋人にならなかった世界線みたいなやつを書いて、その後はアンケートをとって、一つ結末を増やそうかなと考えています。

では、また

執筆中です!(2024/3/9)


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