転生クックは人が好き (桜日紅葉雪)
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1話

息抜きに投稿。
side指定が無い場合,主人公視点です。一応流れとしては

主人公視点
  ↓
別視点
  ↓
ギルドの動き
  ↓
一話終了

を予定しております。それではごゆっくりお楽しみください。



イャンクック。大怪鳥の名で呼ばれる、飛竜種だ。

飛行、ブレス、尾を振り回す、突撃してくるなどの攻撃でハンターを襲う強敵だ。

だが、強敵といってもあくまで初心者から見れば、だ。

確かに人間など比べ物にならない大きさは脅威だし、生半可な刃物では通らない位鱗も硬い。

しかし逆に、その程度の大きさは飛竜の中では小柄で、それなりの業物なら簡単に切り裂ける。

上位ハンターから見れば、唯のでかい鳥とまで思われているかわいそうなやつでもあるのだ。

そんなイャンクックは、初心者卒業の登竜門のような扱いを受けている。これから出てくる強敵の基本的な行動を教えてくれるイャンクックは、ギルド内の一部で「クック先生」と、呼ばれている。

さて、何故こんなに長々とイャンクックについて説明したかと言うと…俺、イャンクックなんだ。

 

 

 

 

いきなりこんなことを言っても訳がわからんと思う。俺も分けわかんないから皆安心して欲しい。

まず、自己紹介からはじめよう。「草露 日光」これが、俺の名前だ。専業主婦の母とサラリーマンの父というごく平凡な夫婦の間に生まれた、ごく平凡な日本男児だ。特に運動が趣味な訳でもなく、だからといって引きこもっていたりもしない。優秀な幼馴染も兄弟姉妹さえもいない。普通に生きて普通に死にそうな何処にでもいる男。それが俺だ。

だというのに、寝て起きてみればこの体だ。一応それなりにゲームもしていたからこの体が何かはすぐにわかった。飛び方もブレスの使い方も、教えられてもいないのに自然に分かった。全く訳がわからないのに、この体のことだけが簡単に理解できた。全く持って気持ち悪い。まぁ、どうでもいいがね。

とりあえず、夢か現か、人間の俺はどうなったか等等,何にも分からんからとりあえず、生命活動を行おうと思う。なんにしても、生きてりゃどうにかなるのさ。

巣穴から飛び立つ。ゲームでは一つの巣穴にいろんなモンスターが住み着いていたけど、やっぱりこの巣穴は俺専用らしい。遠くの方に別の巣らしき物があった。まぁ、一つの巣に複数の種族なんて、縄張り的にありえんよな。

それはおいておいて、空を飛ぶのは存外気持ちがいい物だ。空から見た世界はとても綺麗だった。暫らく巣穴の上を旋回してみたが、近くに人の住んでいそうな村は無かった。道らしきものはあったから、それをたどっていけば村にはたどり着けるのだろう。まあ、この体でいけるわけも無いので関係無いのだが。

俺が探していた物は村なんかじゃなくて水場だ。これは立派な物があった。大きな川だ。幅だけで見たらアマゾンも目じゃねーだろうなって位の川があった。さっそく行ってみる。やっぱり着地は怖かった。

思わず滑走路に滑り込んだ飛行機みたいな方法で着地してしまった。早くゲームみたいに垂直着陸できるようになりたい。足が痛い…

近くで水を飲んでいた草食動物が驚いて逃げ出してしまった。ごめんよ、こんなふがいないクックで…

まあ、そんな些事は置いておいて水を飲もう。朝から何も口にしてないから早く飲みたいし。

 

 

 

御馳走様でした。うん。この水は美味しいね。

 

「Gyaaaaaaaaa!!!」

 

美味しい水に満足して悦に浸っていると、後ろから断末魔みたいな声が聞こえた。振り向いてみると、真っ白な気持ちの悪い生き物がいた。…あれだ、皆大好きな卑猥竜だ。これの紅い方に従兄弟がやられてたなぁ…とか思いながら眺める。俺が眺めるその先で卑猥竜さんは明後日の方を向き尻尾を地面にくっつけた。そのまま大きく首を撓めて…

 

「Gya!」

 

雷のブレスを吐き出した。…何度見てもおかしいよね、これ。地面を電気が這うだなんて…電気逃げないの??

俺の素朴な疑問をよそに、その雷撃は3方向に真っ直ぐと突き進み、草原を掠めて

 

「うわっ、クックもいる!!」

 

「おい!聞いてねぇぞ!!」

 

「確かに…そんな情報も無かったし、移住してきたのか??」

 

その草原から、3人のハンターが出てきた。太刀女と双剣男と槍男だ。今の話を聞くに、そこの卑猥竜の討伐にでも来てたんだろうか?まあいいや。厄介ごとになる前に俺は逃げるぜ!翼をはためかせて空へと昇る。

ハンターさん卑猥竜の討伐、頑張ってね。

なんて心にも無いことを考えてながら見下ろしていると、明らかにほっとされた。まあ、確かに同時に襲われたら面倒だよね。黒ファラとか黒カタとか…あ、俺は2Gまでしかやってないよ。最近は仕事が忙しくてね…

前世のゲーム事情に思いをはせながら対岸へと飛び様子を見る。え?逃げないのかって?逃げてるじゃん。この川、アマゾンより川幅広そうなんだぜ。

さて、対岸の卑猥竜vsハンター'sだが、結構善戦してる。今、耳を広げてハンター'sの会話聞いてるんだけど、

 

(太刀)「帯電中は私しか攻撃できないよね?」

 

(槍)「一応俺もできるが?」

 

(双)「俺は様子見だな」

 

(太刀)「うーん、じゃあ、距離感が微妙だからあんたが攻撃して。私も様子見に回るわ」

 

(槍)「了解した」

 

こんな感じだ。慎重なパーティーみたいだし、いい感じかな。っとと、太刀さんが潰されたよ。ゲームだと吹き飛ばされるだけだったけど、ここではどうなんだろう?

 

(双)「ライラ!!大丈夫か!!」

 

(槍)「貴様はこっちを向いてろ!!」

 

(太刀)「ッ…・メ…ねが…」

 

太刀使い…ライラさんだっけ?彼女は戦闘不能ながらいまだ息はありそうだ。とりあえず、一安心。いまはイャンクックだけど、元は人間だしね。人死の現場は喜べない。かなりの重症なのか、声が良く聞こえないけど、助かって欲しいね。

しかし、あのランスの人も一人でよく頑張るなぁ…声を上げながら一人で攻撃してるから集中攻撃されてるけど、槍を捨てて盾だけ構えてから、安定感が格段に増した。メイン盾さん素敵!!

卑猥竜は一向に倒れない槍使いさんに業を煮やしたのか、口から白い息を吐き始めた。怒り状態突入…かな?

一発一発の間隔が早くなってさらに攻撃も重くなるけど槍さん大丈夫かなぁ…ほら、卑猥竜も息を吸って…

 

 

「Gyaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

 

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

ウ・ル・サ・イ・ヨ☆

 

切れました。本当に切れました。んだ、あの卑猥竜め、てめえは俺が、ぶっ・殺・す☆

翼を広げる。槍使いさん達はまだ立ち直れていないのか硬直している。…関係ないね。

空をかけ、高速で卑猥竜に接近。ブレスを準備中のところ悪いが、死んでくれ。

足の爪をぶよぶよしている首に食いこませる。そのまま勢いを殺さずにライディング。地面と俺のサンドイッチだ。いくらぶよぶよしていても、流石に俺の重さで押さえつけられた状態で擦られては無事ではないらしい。皮が裂けて血が流れ始めた。

痛そうだ。止血してあげよう。足で蹴り、体を反転させる。傷口がグロイが、関係が無い。喉の奥に熱を感じる。当然だ。俺もブレスを吐こうとしているのだから。傷口に、粘着性の熱ブレスを吐き出す。着弾、炎上。肉の焼ける匂いがする。卑猥竜は悲鳴をあげているようだが、貴様の咆哮で聴覚がいかれてるみたいだ。気にもならない。ふらふらと起き上がった卑猥竜は俺を引き離そうとしているのか、帯電の準備をしている。傷のせいか行動は遅いが。

俺だけよけようと思えば簡単だ。空を飛べばいい。帯電終了と同時に自由落下をすればそれなりにダメージが入るだろう。だが、問題はすぐ近くに槍さんがいると言うことだ。このままでは巻き込まれるだろう。

仕方が無い。追撃はいったん中断しようか…

槍さんを甘噛みで咥えて、双剣さんとライラさんの下へと移動する。此方をキッと睨む双剣さんを無視して、槍さんをゆっくりと下ろす。後ろで放電している卑猥竜を無視して、水を飲み終わった後に食べようとしていた薬草をライラさんの上に落とす。何故薬草と知っていたかは分からないけど、頭の中に情報はあった。問題ない。

不思議そうにしているハンター'sを置いて卑猥竜へと向き直る。逃げ出そうとしているのか、翼をはためかせているが、そうは問屋が卸さない。

 

俺の怒りはまだ静まってないんだよ!!

 

同じく飛び上がりながら、ブレスの準備をする。地上でやるよりも時間が掛かったけど、出来たから問題は無いね。卑猥竜の上をとり、自由落下。急激な加重で卑猥竜の上昇が止まる。それどころか、落下が始まった。駄目押しとばかりに翼を足で掴み、頭にブレスを吐きかける。抵抗が止まり、落下速度も上がった。地面に墜落する寸前で足を離して翼を一振り。空からの転落死を演じた卑猥竜の上にふわりと着陸することに成功する。ハンター'sに自慢するように一鳴きして巣へと帰還する。

あ~スッキリした。…あ、そういえばご飯どうしよう…

 

 

 

 

 

ハンター's side

 

 

双剣使い

あ、ありのままに今起こった事を話すぜ

「フルフルとの戦いで窮地に立たされたと思ったら物凄い紳士なイャンクックに助けられた」

な…何を言っているのかわからねーと思うが 

俺も何が起きたのかわからなかった…

心拍数がどうにかなりそうだった…偶然とか運良くとか

そんなチャチなものじゃ断じてねぇ

凄く恐ろしい物の鱗片を味わったぜ…

 

太刀使い

何とか、歩けるぐらいまでは回復した。

あのイャンクックには感謝してもしきれないわね。

それにしても一体なんなのかしらあのイャンクック…

フルフルを倒しただけならまだ捕食のためかとも思えるけど…

いや、むしろイャンクックはされる側だと思ってたわ…

それに、あの初めの時。私たちを認識していたにもかかわらず、襲ってこずに少し離れた場所で私たちを観察してた。唯のイャンクックじゃあなさそうね。ギルドにきちんと報告しておかなきゃ…

 

槍使い

あ、ありのままに今(ry

…俺の扱い酷くね!俺、今回すげー頑張ったのに!!

にしても、あのクックすげーなぁ…フルフル相手に圧勝だぜ?訳わかんねぇよ…実は強かったんだなぁ…フルフルより上位のモンスターならハンターランク3からかぁ…でもそうしたら、ガノトトスやショウグンギザミより強い扱いなんだよなぁ…流石にそれは無いか…あっ!!そうか、フルフルが過大評価を受けてるんだ!!え?じゃあそんなフルフルに負けかけた俺たちって・・・うわぁぁぁぁ!!

 

ハンター's sideout

 

 

ギルド本部への通達

ポッケ地区森丘にて、イャンクックを確認。環境適応フルフル相手に圧勝する能力を持ちながら傷を負ったハンターを回復させると言う謎の行動を確認。討伐を見送り、調査依頼を出すことを推奨。なお、当件のイャンクックを確認したハンターはライラ(HR4)ポルナ(HR3)レファン(HR3)の3名。ライラは環境適応フルフルとの交戦時に負傷。当件のイャンクックに薬草を受け取り、帰還可能に。レファンからはフルフルの攻撃から守ってもらったとの報告が上がっています。

 

ギルドポッケ支部への通達

該当イャンクックへの調査依頼表を以下の文面で出すことを許可する。

 

     調査クエスト

      森丘の紳士?

    依頼主:ハンターズギルド

    依頼内容:

    森丘にてハンターに友好的

    と思われるイャンクックの

    目撃情報が上がった。これ

    を調査してきて欲しい。な

    お、先手を仕掛けることを

    禁止とする。

 

    報酬金 : 4000z

    契約金 : 1000Z

    指定地 : 森丘

 

    指定モンスター:

    イャンクック

 

    特殊条件

    指定モンスターに対する

    先制攻撃の禁止

 

受注可能ランクは2から。なお、当件のイャンクックに遭遇したハンター3名をドンドルマヘ招集する




いろいろ適当ですが,息抜きということで一つ。
あ、でも変な所を指摘してくださるのはありがたいです。
では,また別のやつが詰まった時にでもお会いいたしましょう。


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2話

イャンクック先生は今日も絶好調のようです。
あ、それと感想でご指摘を頂いたのですが、クック先生は鳥竜種です。が、やってみたいネタがあるので当作品内でのみクック先生=飛竜種として扱いますのでよろしくお願いします。

わーにんぐわーにんぐ
多分、残酷描写が入ります。苦手な方はブラウザバックをお願いします~。大丈夫だって人のみ進んでください。


それは一瞬の事だった。

俺はその日、何時ものように飛んでいたんだ。何時ものように起き、何時ものように食事をとり、何時ものように仲間と飛ぶ。こんな当たり前の生活をしていただけなんだ。なのに、なのにだ!

 

ドスンッ!!

 

という地響きと共に、奴が現れた。俺が何匹いようと足りないだろうその大きさ。

俺がどう頑張っても傷一つつけられないであろうその巨大な鱗。

そして広げられる巨大な翼。

ああ、これが伝せt…

 

俺が思考を終わらせる前に俺を影が覆い隠し、真っ赤な口内を呆然と見上げたまま、俺の意識は闇に包まれた…

 

 

 

 

(う~ま~い~ぞ~!!)

 

どうも、草露 日光あらためイャンクックだ。フルフルとの戦いから7日が経過した。その間に俺は垂直離着陸と日常のサイクルを確立させることに成功したんだ。

朝起きると共に水場に言って水分補給。最近、草食竜さんに逃げられなくなった。まあ、これはおいておいて、水を飲み終わると今度は少しはなれたところの草むらに行く。何をするかと言うと、食事だ。基本的に朝は小食なので虫だけで良い。ちなみに虫を食べるのに躊躇いは無かった。何故か知らんが、躊躇いが無いのだから問題ない。いまさっき、その食事をしたわけだが、雷光虫美味しいです。

翼を広げて飛び立つ。基本的に食事の後は周辺の散策だ。現代日本人としては空から見るこの光景に感動を覚えたわけだが、まあ伝えられるとも思わないから割愛だ。広大な森と草原に大小あわせていくつかの川が流れているとだけ行っておく。

ゲームもネットもないこの世界だ。巣にいてもなんもやることが無いから行く当てもなく空を飛び回る。たまに着地して水を飲んだり青い鳥竜種のランポスをからかったりしながら。

そんなことをやっていると、当然目立つわけで…現在、あのゲームの代名詞とも言える火竜さんに追い掛け回されてます。何これ怖い。

時間的に太陽がちょうど真上にあるぐらい。体の大きさ的に食いでのある昼飯とでも思われてしまったんだろうか?

何はともあれ全力疾走。いや、走ってないからな、全力飛翔か。お、なんかかっこいいなこれ。

ともかく、全力飛翔で逃げ回ってるわけだ。当然、あの火竜より下位に位置する俺では飛行速度でかなうわけもなく、だんだんと差が縮まってきている。…だがしかし、甘いな火竜。俺は唯のイャンクックじゃあない。

 

(エースコン○ット4のベリーハード、初期機縛りプレイに比べれば!!)

 

人間の頭脳を持ったイャンクックなんだぜ?

火竜が大きな口をあけて俺の尻尾に食いつこうとした瞬間、生身バレルロール。空気の流れが一瞬で変わり俺の体は急降下する。それにあわせて体勢が戻っていき、今度は急上昇。火竜の真後ろをとった。一瞬の事で俺の頭がぐらぐらするが、行動に支障は無い。俺を急に見失って減速する火竜の背面に急襲。右の翼膜を足の爪でずたずたに切り裂く。が、思ったよりも翼膜が硬く完全に切り裂くには至らなかった。が、別に問題はなさそうだ。突然の奇襲に驚いて体勢を立て直そうと思いっきり翼をはためかせた。当然左右均等に空気は流れず、揚力はバラバラになって、更にバランスが崩れる。それを立て直そうとまた翼をはためかせ…以下ループ。火竜は地上に落下していった。当然、ダメージは俺の爪と落下のみで右の翼から落ちたせいで右の翼はもう使い物にならないものの元気に生きていた。凄い生命力だと感心するが、何処もおかしい所は無いな。まあ、あの翼じゃあ俺を追いかけることはできないだろう。

こっちを見上げて咆哮を上げる。が、遠いので特に問題は無い。それでは火竜さん、さよーならー。

そんな思いを込めて声を上げ巣に戻る。ゆっくりと着地してさて何をしようか…と考えていると、どっどっと言う音が。不思議に思ってそちらに目を向けると

 

「GYAaaaaa」

 

翼のおれたエンジェ…翼の折れた火竜が走ってきてました。どういうことだ??疑問に思いながら空中へと逃げる。少し高度を上げると、理由はすぐにわかった。

 

(墜落場所、すぐそこじゃん…)

 

たった100メートルほど離れた場所に、地面がえぐれた場所が見つかりましたよ畜生!

なんて事だ、火竜を自分の巣に誘い込んでしまうだなんて…て言うか、巣に戻った時点で気付こうよ俺!

久しぶりに自分の馬鹿さ加減が嫌になった。まあ、落ち込んでいてもしょうがない。まずはあの火竜をどうにかしないと…

とりあえず、巣から離れた所へと飛んでみる。木々を薙ぎ倒しながら突進してくる火竜。

巣に戻ってみる。岩を踏み砕きながら突進してくる火竜。

別方向に飛んでみる。木々を薙ぎ倒しながら突進してくる火竜。

もう一回同じ方向に飛んで見る。止まらないで追いかけてくる火竜。

全力で巣に戻ってみる。全力で岩を(ry火竜。

…駄目じゃん!!

とりあえず、空に避難して作戦を考えよう。そう思って空へと飛び立つ。

火竜はそのまま俺がいた場所を通り過ぎ、洞窟の壁へと突っ込んでいく。その先には少しの窪みと鈍く尖った岩壁が…

 

ズボグチャァ・・・

 

うわぁ…火竜の顔面が酷いことになった。後、足も変な方向向いてる…これは、酷い。

恐る恐る近づいて、背中を嘴でつついてみる。何の反応も無い。背中に乗って潰れた頭を突付いてみる。何の反応も無い。…これはもしや…

 

(死ん…でる?)

 

ヒッ………

……

 

昼飯来た――――――!!!!

俺は喜び勇んで火竜の鱗を剥ぎ取って、背骨を取り出した。ついでに食い出がなさそうな翼をもぎ取って肉を食べ始める。

美味い。超美味い。そして旨い!!これはいくらでも食えるぞぉ!!

半分ぐらい食べた所でふと気付く。

 

(これ、焼いたらもっと旨いんじゃね?)

 

さっそく、ブレスを吐いてみる。肉は焼けた。焼けすぎてちょっと焦げた。流石に火竜だけあって炭になったりはしないがちょっと勿体無い。焦げてない部分が生よりももっと旨いだけに勿体無い。どうしようか…周りを見渡す。そんな中でふと目に付いたのは火竜が踏み潰した岩だった。表面が平らになっている。近づいて、ブレスを吐く。溶けたりはしなかったが赤くなるほど熱せられた。生肉を置いてみる。ジューッという音と共に、いい感じに焼ける。……微妙に赤身の残った………今!!

さっと口に入れる。口の中で蕩ける旨み。これが、これが…!!「ドラゴンステーキ・ミディアムレア」か!!!

 

俺は、幸福のあまり一日中はしゃぎつづけた。ちなみに鱗とかのゴミは全部、ハンターがベースキャンプにしてる所にぶち込んでやった。テントの中に隠れてるッぽいハンターいたけど、俺の聴覚は誤魔化せんぜ・・・まあ、普通に見逃すけど。この火竜素材だって俺には使い様が無いけど彼等なら有効活用してくれるだろうしな。さてと、燻製を作る作業に戻るか。

 

 

 

 

 

ハンター's side

 

 

見習片手

森丘の素材探索ツアー。これが僕の受けたクエストの名前だ。

…クエストなんていっても、別に目的があるわけじゃない。ただ、移動費をギルドが負担しますので、その地の素材を集めてください。その何割かはあげますしそれに手数料なども発生しません。ただし、報酬はギルドの不良在庫だけですし、周囲の肉食モンスターもできるだけ狩って行ってくださいね。っていう僕等みたいな初心者用のクエストだ。まあ、必要な素材があるときとかでたまに先輩ハンター達もやったりするみたいだけど。

…おっ、到着したみたいだね。さあ、今回も頑張るぞ!目標は500z分の素材だ!

そう思っていたんだけど・・・

 

バサッ、バサッって、ベースキャンプに聞こえるはずの無い音が聞こえてきたんだ。僕は迷わずテントの中に隠れた。命あってものものだねだからね。でも、情報も大事だ。こっそりと外をうかがう。

………っ!!良し、耐えた。よく頑張ったぞ僕。

目の前にいたのは大怪鳥イャンクックだった。先輩達ならともかく、今の僕じゃあ手も足も出ないモンスターだ。イャンクックはキャンプの納品ボックスの前に何かを捨てると、僕にきづかずに飛び去っていった。一安心して外に出てみると、見慣れぬ鱗や骨、爪がおいてあった。大きいし、見るからに硬そうだ。これは、もって帰っても良いんだよな。

少し迷ったけど、お金も無かったしもって帰ることにした。ありがとうイャンクック。感謝するよ。

 

ちなみに、ギルドに提出して火竜素材だと言われた時には死ぬかと思った。ギルドのお姉さんに問い詰められたのはちょっと楽しかったけどね。それにしても、火竜・リオレウスの素材かぁ…イャンクックって実は凄いモンスターだったんだなぁ…

 

 

 

ギルド本部への通達

例のイャンクックの続報です。

先先日、登録したての若手ハンターが、素材探索ツアーの帰りに火竜素材を持ち込みました。それも鱗だけではなく、爪や翼もです。事情を聞いた所、ベースキャンプにイャンクックが持ち込んだとの事です。現在、森丘で報告されているイャンクックは1体のみなので前回のフルフルを倒し、ハンターを救ったものと同一の個体であると思われます。たまたま、リオレウスの死体があったのか、それとも、可能性は低いですが、イャンクックが戦闘に勝利したのかは定かではありませんが、素材をベースキャンプに持ち込むなど、人間に友好的でなおかつそれをするだけの知能があると思われます。

 

ギルドポッケ支部への通達

事実確認後、件のハンターをドンドルマに召集する。

なお、前回の依頼の受注ランクをHR3からに変更、契約金を1000から1500に報酬も4000から6000へと変更する。なお、今回持ち込まれた火竜素材をサンプルとしてギルドが買い取ることを決定する。

 

 

 

 

ギルドポッケ支部での会話

 

ポルナ「なあ、なんか面白い依頼ねぇか??」

 

レファン「面白い依頼…ねぇ?そんなの簡単に見つかるわけ無いだろうに」

 

ライラ「…ッ!!ねえ、このクエスト受けない!?」

 

レファン「いきなりどうしたよ??…ってこれ!!」

 

ポルナ「…おいおいおい、これって」

 

下位依頼受付嬢「あら、みなさん帰ってこられていたのですか。」

 

ポルナ「あ、ああ、どうも…って、そうじゃない!これ!この依頼!!」

 

下位依頼受付嬢「ああ、森丘の紳士?ですか?そうですよ、あなた方が接触したイャンクックの調査依頼です」

 

ライラ「やっぱりね。ねぇ、この依頼私たちが受けr」

 

ギルド鑑定士「なんだとっ!!!」

 

見習片手「ですから、イャンクックがおいて行ってくれたんですって」

 

ギルド鑑定士「イャンクックがレウス素材を置いてっただぁ??嘘ぉつくな!!」

 

ライラ&ポルナレフ's「!!」

 

下位依頼受付嬢「………どうします??」

 

ライラ「え?ああ、受けさせてもらうわ」

 

下位依頼受付嬢「そうですか、御武運を」

 

 

 

 




続きが書けた奇跡。キーボードがぶっ壊れたり、学校でネットが使えなかったり、資本金が予定の4分の1だったり(マジ)色々と大変でしたが、何とか乗り越えれました。多くの感想を頂いたおかげかなと思います。これからもだいぶ遅筆ですし、こんなクオリティですが、次がありましたらどうぞ、よろしくお願いします。


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3話

何も考えてない結果がこれだよ!!
今回、いわゆる戦闘がありません。ご了承ください。

後、感想で「2日後あげるわ。」とか言ってましたが、結局無理でした。すいません。
一応いいわけですが、実家でパソコンが使えなかったんです…
いや、キーボードなしでマウスだけはちょっとやりようが…

まあ、無様な言い訳はこれくらいにしておきます(泣


話をしよう。

あれは今から三十六万…いや、一万四千年前だったか…当然、嘘である。

まあ、それは特に関係がない。話さなければいけないことがあるのは確かだからだ。

あの火竜…いい加減レウスでいいや。レウスの肉を食べた4日後の事である。

俺の身に起きたことを3行で説明しようと思う。

・レウス肉の

・燻製

・ウマー!!

きれいな3行だろう。

なんていうか、保存食の枠に当てはまらない超うまい味だった。俺の稚拙な言葉じゃあうまく伝えられないが、なんていうか…やばい。地球のA5クラスの霜降りなんて目じゃないね。食ったことないけど。

あ、それとなんか、鱗が赤くなりました。前のピンク色の鱗から鮮やかな赤色に。まあ、別に生活に支障はないから問題ないね。

と、ここまでなら別にわざわざ報告するようなことでもないだろう。誰に報告してるのか知らんけど。

今回の本題は、今俺の目の前にいる何処かで見たことがある3人組がいることなんだ。どうしてきたのかは知らない。目が覚めたらこっちを伺うように少し距離を開けてみていた。

ちなみに、その時の3人の会話はこんな感じだ。

 

ランス「見つけたけど…クック、だよなぁ…」

双剣「それにしたら…赤くないか?」

ライラ(だったはず)「通常の3倍だったりして…」

双剣「なんで?」

ライラ「私も意味わかんないけど、そんな気がした」

 

構成をみれば分かると思うが、あの時フルフルに挑んでたパーティーだ。これのおかげで鱗の色の変化に気が付いたんだ。

ちなみに、某赤い人の〇クはただの指揮官用を赤色にペイントしただけで、スペック差は通常のザ〇のスラスターを1.2倍にしただけって言う。

ていうか、なんで知ってるの…

 

さてさて、そんなこんなで俺の目の前にハンター'sがいるわけだが、どうなるのかねぇ?人間が相手だから戦いたくないんだけど…まあ、実際襲ってきたら適当にけん制して逃げるけど。

俺が困惑しながらハンター'sのほうを見ていると、代表者なのか双剣を持ったハンターが少しづつ近づいてきた。

 

双剣「お前、この前俺を助けてくれたイャンクックだよな」

 

…言葉知らないふりでもしたほうがいいのだろうか?でも、久しぶりにまともに人とコミュニケーションできるチャンスなんだよな。

どうなってしまうかわからないけど、とりあえずは話してみよう。…って、俺は喋れないか。

でもまあ、コミュニケーション自体はきちんと取ることが出来る。

双剣のハンターに向けて、縦に首を振る。後ろの2人は警戒しているのか近寄ってきていないが、双剣のハンターは俺の反応を見るとこちらにまた一歩よって来た。

 

双剣「この前はありがとう。意味が分かるかどうかも分からないけど、本当に感謝してる」

 

…照れるな。あの時はフルフルがあまりにうるさかったから俺がやりたいようにやっただけなんだが。しかしまあ、悪い気はしないわけで。

俺から向こうに直接言葉を伝えることはできないけど、きっと感情は伝えることは出来るから。

 

「クェェェ」

 

ハンター’sにいったん背を向けて近くの岩の上へと向かう。

振り返って呼んでいる事が分かるように鳴き声を上げる。

 

双剣「…呼んでいるのか?」

 

コクリと頷く。ハンター'sは迷っているようで互いに視線を交わしていたようだが、俺が今まで攻撃的な態度をとっていなかったためか、数秒の後にゆっくりとこちらに近づいてきた。

向かった先は少し大きめの平らな岩。その上にあるのは大きな肉。

岩の正面を開ける。歩いてきたハンター'sは岩の上を見ると何があるのか分からなかったのか眉を潜めたが、俺が一切れとって食べると、それが肉だと分かったらしい。

うん、やっぱりうまいな。

ひとしきり味を楽しんで嚥下した後、ハンター'sのほうを向いてみると、明らかに困惑していた。

 

ランス「たぶん、食えってことだよな」

俺「(コクリ)」

双剣「ってもなぁ…俺らが食っても大丈夫なのか?」

ライラ「そりゃあ、好意から言ってくれてることだとは思うんだけど…」

 

…そっか。何の肉かも分からなかったら食べていいかわからんよね。

少しだけ離れたところに向かい、あるものを持って(咥えて)戻る。彼らの手前にそれを落とすと、それを拾った彼らの顔に驚きが広がる。

 

ライラ「これって…」

ランス「どう見ても火竜の鱗だよな」

双剣「そういえば、ギルドでも話題になってたっけ?」

ランス「いや、流石にデマだと思っていたんだが…」

 

驚いているらしいハンター'sから鱗を取り上げて肉の前に置きなおす。

そこでやっと意図が分かったのか、リオレウスの肉か聞いてくるので頷いて返す。さっき感情は伝わるって言って、そうして確かに俺の好意も伝わったみたいだけど、やっぱり喋れないのはきついなぁ。

 

双剣「おいおい、火竜の肉って言ったら俺らのランクじゃあ手が届かないような高級品だぞ…」

ランス「普通は輸送中に腐るからな…」

ライラ「…この肉、普通に燻製処理がしてあるんだけど??」

双剣&ランス「クックェ…」

 

なぜそのネタがこっちにある…

それは置いておいて、近くに置いてあった簡単に岩を組み合わせた燻製機もどき(岩と岩の間にある隙間に、小さな間隔を開けながら木の板を置いたもの)とくちばしで木を叩きまくって作ったチップを発見すると、こっちを呆れたように見てきた。

別にいいじゃない。おいしい肉を時間を気にせず食べれるようにしたかったんだもの。

 

ライラ「モンスターが私たちよりいいもの食べてるだなんて、ちょっと癪よね」

ランス「まあまあ、味付けとか何もできないんだから多少いいもん食ってもあんま変わらんだろ」

 

ランスよ、甘いぞ?この丘を越えて少し行ったところに海があるんで、大きな岩の中心をぶっ叩いて桶みたいにして、木の中心をちょっとだけくり抜いた木のコップを作り、その木のコップに海水を入れて岩の桶の中に入れる。ブレスで一気に岩を熱して海水を蒸発させる。そうすりゃほら、塩の出来上がり。燻製にする前に肉を塩漬けしたからね。自然の塩と高級な肉。完全クリーンな煙で作った燻製は、そこらの料理よりもぶっちぎりでうまいと思う。

 

(さあ、早く食して驚くがいい!)

 

んなことを考えていると、意を決したのか双剣が肉を手に取って、端っこを少しだけ齧った。

…………どうだ??

双剣は固まったまま動かない。そうして数秒の時が流れ、おもむろにもう一度、今度は大きく齧り付いた。

 

双剣「うーまーいーぞー!!」

 

それだけ言って、瞬く間に肉を食い切った。その間、一言もしゃべらず、周りを一切見なかった。そうして食べ終わった後、はっとしたように手の中をみて、ひどく残念そうな顔を浮かべた。

 

ライラ「…そんなにおいしいの??」

双剣「こ、これは…」

ランス「し、知っているのか!ポルナ!」

 

だからなんでそのネタg(ry

それにしても、また一人名前が分かったな。双剣のポルナか…ランスのほうはレフだったりして…

 

ポルナ「し、知っている。知っているぞレファン…これは、自然の味を追求したものだ。ただの一度も市場には下りず、山奥の村でひっそりと作られその村の中でのみ消費されているといわれている、伝説の味だ…」

 

ネタは最後までやれよ!!そして名前惜しい!!レフじゃなくてレファンだった!でも二人合わせるとポルナレフ’sだ!

この世界に来て過去最高テンションになった俺は、この3人だけは忘れられそうにないと、何の根拠もなく悟ってしまった。

 

ライラ「そ、そんなに美味しいのなら食べてみようかしら…」

レファン「ああ、唯肉を焼いただけでポルナがああなるとは思えないしな」

 

そういって、2人はおもむろに肉を食べ、どこかで見た光景が繰り返されるのであった。

うん、おいしいお肉は世界を救うよね!!

ちなみに、レウス肉の燻製だが、今日で無くなった。また何か作らないとなぁ…

そんなことを考えていた俺の耳に、ドシン、ドシンと、重量感のある足音が聞こえた。その音は一直線にこの巣を目指しており、だんだんと大きくなっていった。

やれやれ、またひと騒動ありそうだなぁ…ま、別に平穏を求めてるでもなし、どうでもいいか。

 

 

 

 

 

ハンター's side

 

 

 

ポルナ

知ってるか?普通のイャンクックって鱗はピンク色に近いんだぜ?

あ、知ってる?ごめん。でもな、俺の目の前にいるイャンクック、どう見ても…赤いんだ。

そりゃあもう、鮮やかに。…そうだな、テオ・テスカトルって古龍知ってるか?あいつの鱗みたいに赤いんだ。なんていうか、神々しさを感じたね。

んでだ。俺らの会話を聞いて起きたらしいそのイャンクックは、俺らを見ても威嚇行動はとってこなかった。なんていうか、困惑??そんな感じの表情だったんだ。

んで、さらに驚くことに、こっちの言っていることを理解しているのか、頷いたり首を横に振ったりとコミュニケーションがとれたんだ。もう、この時点でモンスターって考えはなくなったね。

さて、こっちが感謝の意を伝えると、かすかに笑ったような感じがした後、俺たちに背を向けた。そして、少し離れた岩場の近くで、立ち止まって俺たちを呼んだんだ。これから本当にリオレウスに勝ってたのが分かったりいろいろあったんだけど、この一言に尽きるね。

 

マジ、肉うまい。

 

 

レファン

 

なんだこれ、なんだこれ…マジ、肉うまい。

持ち帰り用に残ってた分全部もらったし、やばい、マジやばい。あのクック先生は…紳士だ…

 

ライラ

肉うまい。

 

 

 

ハンター’s side out

 

 

 

ギルド本部への通達

件のイャンクックと接触報告が上がってきました。

接触したハンターは、当イャンクックと初めて接触したグループと同一のグループで、戦闘は起こらず、こちらの言葉を理解していたそうです。そして、非常に気になる報告で、鱗の色が桃色から緋色に変わっていたそうです。言葉を理解していた証明として、当件のイャンクックがくれたという肉を持ち帰ってきました。

なお、当件のグループが持ち帰ってきた肉ですが、以前報告したリオレウスの肉のようです。腐敗はなく、驚いたことに燻製処理がなされていました。当件のグループによりますと、簡単な仕組みではありますが、燻製機のようなものが作られていたようです。人が通った痕跡も全く見つからず、本当に件のイャンクックが制作したようです。

なお、この肉は食せることが分かっており、当ギルドで職員とハンターに振る舞った所、大好評になり、酒場の営業利益は過去最高を達成しました。

私個人としての感想ですが、「肉うまい。」以上です。

 

ギルドポッケ支部への通達

件のイャンクックはこれより他のイャンクックとの差別化を図り「善性イャンクック」と呼称し善性イャンクックにたいして、ハンター側からの敵対の禁止とする。

尚、報告ではイャンクック自身が燻製機らしきものを作ったとあるが、当ギルドはその可能性は非常に低いと判断。善性イャンクックと交流を持つ人間がいることを疑い、善性イャンクックの調査依頼は取り下げ、以下の文面で新規クエストを発行する。

 

 

       調査クエスト

    森丘の紳士と付き人の影

    依頼主:ハンターズギルド

    依頼内容:

    赤い鱗のイャンクックの巣に簡易

    燻製機のような物が発見された。

    これの製作者は不明だが、おそらく

    善性イャンクック以外の何者かが

    作っていると思われる。その何者

    かを調査してほしい。尚赤い鱗の

    イャンクックは、以降善性イャン

    クックと呼称する。

    

 

    報酬金 : 8000z

    契約金 : 1500Z

    指定地 : 森丘

 

    指定モンスター:

    なし

 

    特殊条件

    善性イャンクックに対する

    攻撃の禁止

 

受注可能ランクはHR3から。なお、善性イャンクックと接触しているハンター3人を再度ドンドルマへと招集する。

後、通達とはあまり関係がないのですが、ギルド長より伝言があります。「その肉ってまだある??すごい食べてみたいんだけど…」

 

 

 

 




感想でイャンクック希少種が出ればいいのにとか言われて心底焦った。
名前普通に希少種にしようとしてたからな…
まあ、感想がいただけるのは非常に嬉しいですからあまり関係ありませんが。

なお、燻製云々やギルドの会話、塩作りなど、この作品の8割5分は適当でできております。ご了承ください。
それでは読了ありがとうございました。

肉、うまい。


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4話

待ってくれていた方、大変長らくお待たせいたしました。

今回、結構な急展開です。後、残酷描写も入ってると思われます。
大丈夫な方のみ、お先へどうぞ


とある山の地中深く、誰も気づかぬその場所で、その龍は目覚めた。

目を薄く開き、ほとんど動かない喉を震わせる。低く唸るその声は、かすかに、ほんの微かに、山を震わせた。

身動ぎ一つもせず、ただ、目線だけで西の方角を見たその龍は、また再び目を閉じる。

伝説(龍)の目覚めは…近い。

 

 

 

(さてはて、鬼が出るか蛇が出るか…)

 

どちらにしても、デカ物が出てくることだけは間違いがない。

さっきも言ったように、別に俺は平穏を望んでいるわけではない。そも、常時平穏無事な刺激のない生活など、この娯楽のない世界では耐えられそうもないしな。

ただ、いくらなんでも痛いことでも大歓迎ってわけじゃあない。当然だ。その手の趣味は持ってないし。

ってーわけで、

 

(せっかくだから、俺は逃げるぜ!)

 

巣を捨てる気はさらさらないけど、いくら俺でもいきなり大型モンスターとの戦闘になったら勝てる気がしないし…

フルフルは不意打ちで倒したし、リオレウスは…ありゃあただの自爆だね。

まあ、そんなこんなで俺はまだ正面から大型モンスターとぶつかったことはないのだ。イャンクックって初心者卒業の登竜門とある通り、大型モンスターの中ではかなり弱い種族だしね。

巣の天井に空いてる穴から飛び出して、その穴のすぐ脇に着地する。ここなら巣に入ってくる奴からは見にくいし奇襲も不可能。こっちからは巣の入り口に入ってくる奴が微妙にだが見える。

 

(もうすぐ見えるはずなんだが…)

 

そうしてそいつが現れた。頭に誇らしげに生える一本角。強靭そうな二本の脚、ハンマーのような先端を持った尻尾。そうして…

 

(っ!…おいおいおい!!ウソだろ!!)

 

何かによってたたき折られたような傷口の…角。

巣の入り口につっかえそうなその巨体は、先日の火竜など足元にも及ばないような威圧感を放っていた。

絶対強者・天上の存在。圧倒的なまでの、一目見ただけで分かってしまう…その実力差。

俺は知っている。これは、この存在は…

 

(マ王だと!!)

 

ポッケ村のマ王…ゲームの中でなら、上位個体でありながらG級並みの体力と攻撃力を持ち、数多のハンターを苦しめ、トラウマを刻み込んだモンスターだ。というか、やりこんでたわけでもない俺は、ついぞクリアすることができなかった。

絶対的な壁、マ王は鋭い目で一直線に、俺を睨んでいた。

 

(格が、違いすぎる!!)

 

見つからないと思っていた俺は、たったそれだけで蛇に睨まれたカエルのごとく硬直していた。

心構えができていなかった。覚悟ができていなかった。たったそれだけのこと。これだけで逃げる意思ごと叩き潰された。

拮抗するというには一方的すぎるにらみ合いが続く。

勝てない…勝てるわけがない。そんな思考が俺の頭の中を駆け巡り続ける。

ふっ、と俺を睨みつけていた視線が外れる。頭を少しだけ下げて、小さく足を下げる。

次の瞬間…

 

「Gruaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

壮絶とさえいえる咆哮が、衝撃とさえなって洞窟の壁を草を、そうして俺の耳をも貫いて星の光る空へと吸い込まれていった。

圧倒的衝撃に、脳が揺さぶられる。ふらついた俺はふらふらとバランスを崩し、俺の出てきた穴へと落ちた。当然そこにはマ王がいて、無様に地面へと落ちた俺にゆっくりと近づいてきた。そうして、確実に俺の体など潰せるだろうハンマーの付いた尻尾を振り上げて…

俺の中の、何かが弾けた。

 

ズドムッ!!

 

地響きとともに、【洞窟の地面を】大きく陥没させた。

地面を円形に4メートルほどの範囲から陥没させたその威力は、まさに一撃必殺だ。…が、しかし、

耳鳴りが響く。

 

(うるさい…)

 

一撃必殺も、当たらなければただの装飾だ。

頭に血が上り、目の前の脅威が、ただの敵へと成り下がる。頭の中にあるのは、目の前の敵をいかに倒すか、それと、そのためのデータだけだ。

 

ディアブロス、砂漠の暴君として有名な飛龍種。攻撃力と突進時のスピードには目を見張るものがある。弱点は尻尾の付け根。氷属性が有効だったはずだが、今の俺には関係がない。角が一本折れているとはいえ、あの固い頭骨は俺を押しつぶすには十分すぎる威力だ。結局もらえないことに変わりはない。他にもあの尻尾のこぶの部分はシャレにならない。致命傷にもほどがある。ぞっとしないが、先ほどの振り下ろしが当たっていれば、地面に落ちたザクロのようになっていただろう。翼膜は…だめだ。地面の中の圧力にふつうに耐えきるような物質、俺の攻撃力じゃあたりない。実質、攻撃の通りそうなところは2・3個か…

 

先ほどまであった、勝てる、勝てないなんて考えは消え去る。

俺にある選択肢は2つ。このまま死ぬか、足掻きぬいて勝つか。まあ、答えなんて考えるまでもない。

陥没した地面にはまり抜けなくなっている尻尾が目の前にある。先ほど言ったように、このまま尻尾を攻撃しても意味なんてない。尻尾の瘤に飛び乗り、そのまま尻尾を踏みつけながら登っていく。ディアブロスがこちらを振り向いているが、俺が上に載ってるせいでうまく尻尾を抜けなくなっている。無視して尻尾の付け根にたどり着く。

耳鳴りがやまない。

 

(ウルサイ…)

 

尻尾の付け根に右足の爪を差し込み、掻き出す。爪が折れる感覚があったが、鱗はまだ一枚たりとも折れていない。が、多少はがれかけているのが見える。

耳鳴りが大きくなってくる。

 

(うるさい、ウルサイっ)

 

再び右足の爪をつき込む。先ほどよりも深く。そうして、宙返り。爪が足からはがれて鮮血が流れ落ちる。当然痛い。尋常じゃないほど痛い。爪がはがれたのだから当然か。どこか冷静に考える俺の目の前を、たった3枚の鱗が飛んでいた。

耳鳴りが、耳鳴りが…

 

(ウルサイって…っ!!)

 

痛みを耐えて背中側に着地する。ごく小さい範囲ながら、鱗がはがれて肉が露出しているのが見えた。喉の奥に熱。まだだ。まだ足りない。

ディアブロスの尻尾が音を立てて抜ける。これでこいつは自由だ。決めるならもう猶予はない。

熱がどんどん大きくなる。もう、暖かいなんてレベルじゃない。喉が焼けただれて肉が焦げる音が俺の体の中から聞こえてくる。だが、それでもまだ足りない。

ディアブロスがたわめていた足を元に戻す。

同時に、耐え切れなくなったブレスを露出していた肉の部分に吐き出した。吐き出した炎の色は、オレンジでも、ましても赤でもなかった。

 

(言ってんだよっ!!)

 

青。白い光に包まれた、青。

着弾、炎上、爆発。

通常では考えられないほどの熱量は、それでも、この化け物の尾を焼き切るには足りない。が、露出する肉を焼くには十分だった。俺の耳に、初めて悲鳴が聞こえた。

耳鳴りは消えない。

着弾地点からの熱の照り返しで顔がかなり熱いがそれを無視して、爆発ではじけ飛んだり、熱でもろくなった鱗に向けて、俺の最大の武器、巨大なくちばしによる打撃を敢行した。

一回、鱗を砕く感覚。けどやっぱり固い。俺の嘴もダメージを受けたっぽい。

二回、鱗と肉を潰す感覚。正直気持ちが悪い。なれたくはないけど、生きる為だ。

三回、また肉を潰す感覚。鱗はもうほとんどなさそうだ。今度は小さく口を開いて肉を食ってやった。こんな時になんだが、うまい。

四回、行けるかと思ったが、振り落とされた。地面に落ちた俺にディアブロスが振り向く。

口元から、黒っぽい色をした息を吐いていた。怒り状態突入だ。息を吸い込む。くそっ、また咆哮か。

 

「Gruaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

(ウルサイ!うるさいウルサイ五月蠅い五月蝿い!!!)

 

鼓膜がやられた。あいつの息遣いが聞こえなくなった。土を踏む音さえだ。なのに、耳鳴りはやまない。

ふざけるな。ふざけるなふざけるな!

奴が頭を下げる。足を少し下げたところを見ると突進だろうか??それはダメだな。俺が死んでしまう。

空に飛びあがる。同時に向こうがスタート。ちっ、距離が近すぎた。左足が巻き込まれた。左の足の爪も砕けてしまって使い物にならない。俺が落下するのとほぼ同時に急停止したディアブロスが、体をひねった。が、墜落して、視界がふさがれた俺がそれに気づけるわけもなく…

 

ドガッ!!

 

顔に、尋常ではない衝撃が走った。ディアブロスの遠心力に任せた尻尾攻撃が直撃したのだ。

この時、本当なら死んでいたのだろうが、衝撃を感じるのと同時に直感で、尻尾に「反発」するように動いたことが功を奏した。

俺は、嘴を欠けさせながら吹き飛び、地面に倒れた。脳震盪がひどいのか、力が入らず立ち上がれない。

対してディアブロスはというと…

 

「g…ga」

 

こけていた。まあ、当然といえば当然かもしれない。ずっと自分についていた重りが無くなったのだから。

そう、俺のブレスで焼かれ、嘴で大きくえぐられた尻尾が、俺の嘴と衝突してついに限界を迎えたのだ。幸運だったのは、ブレスの熱で骨がぼろぼろになっていたことだろう。これがなければたぶん嘴で抉れなかったし。

戸惑いを隠せないマ王は、完全な格下、ただの獲物だと思っていたであろう俺から手痛い反撃を食らったせいか混乱状態に陥り、地中へと逃げてしまった。一瞬地面からの攻撃でとどめを刺しに来たのかと思ったが,地響きが遠ざかって行ったので窮地は脱したのだろう。それを認識すると同時にゆっくりと耳鳴りが収まっていき、視界の端に点滅する光を見ながら俺の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

とある古龍観測隊の報告

 

マ王が撃退された。

この報告を行うことができたのは、だいたい2年ぶりのことだった。以前は…そう、奴の角がへし折られた時だったはずだ。

その時は、とある村の凄腕ハンターが膝に攻撃を受けながらもカウンターで仕留めていたが…いや、回りくどい言い方はよそう。イャンクックがマ王を倒すところを見たときは、自分の目を疑った。正気を伺ったともいう。イャンクックとディアブロスでは天と地ほどの差がある。ましては奴はマ王だ。通常のディアブロスよりもさらに固く、強いのだ。

確かにあのイャンクックは今ギルドで話題の善性イャンクックだ。故に我らが観察していたのだから。だが、環境適応したフルフルが受けた傷を見るに、攻撃能力は通常のイャンクックと変わらないはずだ。だとすれば、マ王の鱗に覆われたから体に傷一つ与えることができるはずがないのだ。そのはずなのだ…結果はどうか。ディアブロスの弱点である尻尾の付け根。その鱗を剥がしてしまったのだ。普通のイャンクックにはあるはずのない高度すぎる知能。私には、恐ろしいものに思えて仕方がなかった。余談だが、何故あの善性イャンクックは戦闘中に発光していたのだろう??私には理解できない。

 

 

 

ギルド本部への通達

善性イャンクックがマ王を撃退したようです。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

そうですか。

………え??

 




書く時間がない…
感想・批判をお待ちしております。

では。


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5話

大変遅れました。申し訳ありません。


目が覚めた。

何故かわからないが体中から違和感を感じた。ボーっとした頭で現在の状況を確認する。

まず、体中が痛い。身じろぎをしただけで激痛が走る。まあずっと寝ころんでいるわけにもいかない。本当、どうしてこうなったんだっけ?えっと、昨日ハンター'sを送り出して、夜になんか足音が聞こえてきて…そうっ!マ王が来たんだった!!

いや、本当にイャンクックの身でよく生き残ったよな俺。今日起きることが出来たってことは何とかなったってことなんだろう。でも実際あいつの咆哮喰らってからの記憶がほとんど無いんだよな。体がこんなになるまで何やってたんだか?

痛みを堪えて立ち上がろうとして失敗する。起き上がりかけていた体が地面へ落下して非常に痛い。けど、立たないとしっかりと状況判断もできやしない。一瞬見えたけど出血はしてないみたいだから体力の消耗も必要以上になることはないはずだ。頑張ろう。

 

 

~~~~10分後~~~~

 

 

 

(もうヤダ。寝る。)

 

諦めました。ごめん無理。てか、爪も割れてんのね。

どうりで足に力が入らないわけだ。てか…痛い。

 

 

 

~~~~怪鳥睡眠中~~~~

 

 

 

さて、ひと眠りしたわけだが…非常にやばい。腹が減ってきた。

生物は喉の潤いと満腹感があればどんな時でも体力を回復することができる。…って、コナミの人が言ってた。あれ、大雨の外だろうと水分と満腹感があったら座っただけで体力を回復できるって理不尽仕様だからなぁ…

まあ、眠っただけで俺もある程度は回復できたようだし、この体はやっぱり便利だね。これ以上寝れる気はしないけど。

フラフラとしながら起き上がる。足の痛みがかなり酷いが、なんとか耐えれた。食欲は痛覚に勝ることが証明された瞬間である。が、さすがに空を飛ぶことはできなさそうだ。まったく、誰だよ「別に平穏を求めてるでもなし」なんて言ったの!俺だったよ…

確かに平穏はそこそこでいいが、何もこんなに痛い目にあいたくはなかった。てか、今更ながら理不尽だよな。森丘にマ王が現れるだなんて…いや、この考え方の方が理不尽か。あいつらも俺も現実として生きているわけだし。

さて、そうこう考えているうちにやっと一歩動けた。…うん、今一歩だけなんだ。すごい痛い。幸運なことにマ王様も水瓶(例のごとく岩に嘴で穴をあけたもの)までは壊されなかったのでとりあえず水を飲もう。頑張れ!あともう5歩!

 

4…3…2…1…

 

着いた!かつてこれほどまで一歩一歩に全力を込めて歩いたことはないだろう。本当俺、頑張った。自画自賛だがもうそれでもいいや。誰も褒めてくれないし。じゃあ、いっただっきまーす!!

 

…………………

 

…………

 

 

(……………オー・アール・ゼット)

 

むっちゃくちゃ痛い。ただでさえ砕けて皹だらけの嘴に水がしみるのに、喉が更に酷い。冷水を飲んだはずなのに、焼けるように熱い。これ…爛れてんのか?本当に何やったんだよ…

とりあえず、満身創痍なのは理解したが、体外体内問わずとは本当に恐れ入る。無茶やったんだなぁ…それだけやらないと生き残れない相手になぜ逃げなかったのかと小一時間問い詰めたい。

にしても、水だけじゃあ腹が膨れたりはしないよなぁ…でも外に出るのも億劫だし。

洞窟を見渡す。何もないなぁ。しょうがない、あそこに落ちてる尻尾でも…

 

尻尾!?

 

飲んでた水を噴出した。…喉痛い。

しかし、何度見ても尻尾だ。先端にハンマーのついている尻尾。

どう見てもディアブロスの尻尾です。本当に(ry

しかも、根元から落ちちゃってる。何があったし…

いや、たぶん俺がやったんだろうな。それしか考えられないし。これだけ無理をして戦果無しは悲しい、ありがたく頂こう。おなかも膨れるだろうしね。

…尻尾のとこまで歩くのは辛そうだけど。背に腹は代えられない。ファイト、俺。

 

歩いていると逃げたのであろうマ王が掘った穴に落ちました。野郎、絶対にぶっ殺して…ごめん嘘。もう二度と会いたくない。

痛みと闘いながら何とか抜けてたどり着く。さあ、頂きます!!

 

ガツッ!!

 

はい、なんとなくこうなる事はわかってた。表面硬すぎて食えない。根元のへんがちょっと肉出てるし、そこだけ食べるか…

 

 

 

 

~~~~怪鳥食事中~~~~

 

 

 

 

うん、普通にうまかった。けど何の処理もしてないからか肉の違いかかはわからないが、燻製肉ほどうまくはなかった。まあ、問題はないか。まずかったわけじゃあないし。

しかし、根元叩き割れたのが火事場の馬鹿力だとして、時間をかければ今の俺でもこの尻尾も食べれると思うんだ。どうせしばらく動けなくて暇だろうからいい暇つぶしになりそうだしね。

てか、これが食べれないと怪我が治るまで何にも食べられない。うん、餓死なんてしたくないし、頑張ろう。…なんか今日は頑張ってばっかりだな、俺こんなキャラじゃないはずなのに。

まあ、硬い物を食べてたらあごの力も強くなるでしょう。

 

カツ、カツ、カツ…

 

マ王の尻尾をかじりながら、することも無くなったし、これからの目標でも建てようと思う。今回の事でよくわかったが、草露日光のときもそうだったように俺はこの世界でも強さ的には平均、もしくはそれ以下だ。俺以下の奴らも当然いるが、それ以上に上を見上げたらきりが無い。積極的にやろうとも思わないし、自分のキャラじゃあないことも十分に分かっているが、死ぬわけにもいかないので少し自分を鍛えようと思う。意味があるのかはっきりとわかるわけじゃないが、せめて上位個体に認められるくらいには強くなりたい。ゲームの時の下位と上位の間の難易度の差を考えると非常に遠いようにも思えるが、これぐらいはできないと身の安全を守ることなんてできない。同時にハンター達に好印象を与えるために体が治ったらもっと見回りを増やそうと思う。ただ無害だというアピールをしたいだけだが、前のポルナレフ'sたちのいたパーティーみたいに誰かの命を救えたら嬉しいしね。それに、印象を上げておけば何かあった時に助けてもらえるかもしれない。まあ、頼られる可能性もあるわけだけどね。

今のところハンターにも近くの村にも手を出してないし、討伐依頼も出てないはずだ。

てか、出てたらシャレにならん。特に今の状態だとね。とりあえず、これくらいだろうか。

 

パリッ

 

おっ、いくつかの鱗にひびができたな。…爪があれば一枚一枚剥がせたんだけど、ないものねだりしてもしょうがないか。ああ、これからの事も考えちゃったし、暇だなぁ…あぁ、なんか、眠く…なって…き……

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

おはよう。昨日は気が付いたら寝てた。なんだかんだ言って体も休みを求めているんだと思う。

今日も、昨日より多少ましになったとはいえ歩くのがつらい状況に変わりはない。

喉が渇けば水を飲み、腹が減るのは仕方ないと尻尾にかぶりつく。ずっとやっていたからか、鱗はすでにすべて砕き終えている。

早いとか思うかもしれないけど、これでももう…正確な時間はわかんねぇや。少なくとも5時間はずっと噛んでいるわけだから、あんまり早くはないと思う。昨日から少しだけペースも上がってきているし、体は治ってきているんじゃないかと思う。

しかし、さっき水を飲んでる時に思ったんだが、足無理矢理に動かしてるけどどう考えても骨折れてるよな、これ。一日かけて多少落ち着きが戻ってやっと気づけるんだから、自分がどれだけやばい状態になってたのかがよくわかるね。まあ、動かないと状況はよくなったりしないからすまんが足の骨にはもう少しだけ無理してほしい。本当は水の近くで眠っておきたいのだが、地面が凸凹しすぎて横になれないのだ。まったくもって難儀なものだ。体が治ったら、これの位置を移動…は無理か。周りの整地をしようと思う。

 

???「おーい、クック?いるか―??」

 

ん?お客さん?てか、聞き取りにくい。まだ鼓膜が回復し切ってないみたいだ。洞窟はいられたことに気付けないのは致命的かもしんない。頑張って後ろを向いてみると、例のポルナレフ’sのパーティーがいた。てか、よくしょっちゅう来れるな。意外とここって人里に近いのか?俺が見たときは見当たらなかったんだけど…

 

レファン「お、おいおい、瀕死じゃねぇか!」

 

ライラ「え?ってほんとだ。まあ死んでないみたいだし大丈夫そうね」

 

ポルナ「いやいやいや、このクックをここまでできる奴が近くにいるかもしれないんだぞ」

 

相変わらず賑やかだな。まあ、こいつらに会うまで気付かなかったが、実は不安だったらしい俺は、彼らの存在がありがたいものに思えた。

 

ライラ「て…あのクック、ディアブロスの尻尾咥えてない??」

 

レファン「いや、さすがにそれはアルェ~??」

 

ポルナ「流石に予想の斜め上だった…」

 

いや、なんかごめん。ちなみにこの後ハンターの使う回復薬を飲ませてもらった。のどの痛みが引いてったから、効いたんだと思う。ほんと、なんなんだろうなこの薬。

 

 

 

 

 

ハンター’s side

 

 

ライラ

 

善性イャンクックがディアブロスの尻尾を食ってた。

体中傷だらけで近くにディアブロスの死体がなかったので多分尻尾を奪って追い払うだけで限界だったのだろう。ってことで、足元に落ちてたディアブロスの物と思われる鱗をいただいて帰った。回復薬の代金としてはもらいすぎだが、このクックが自力で手に入れられるわけではないだろうから勘弁してもらおう。

 

って思ってた時期が私にもありました。

いやね、ギルドでこの鱗を調べてもらったら「角竜の堅殻」らしい。正確には角竜の堅殻片。

上位モンスターを退ける下位イャンクックはおかしいと思って一緒に落ちてた鱗も見てもらった。「怪鳥の鱗」。どう考えても下位らしい。唖然としてたら、酒場にいたおじいちゃんが、善性イャンクックと闘っていたのは、かのマ王だという。

私はここで、思考を放棄した。うん、あのクックなら何やってもおかしくないよね。

 

 

 

ポルナ&レファン

 

マ王撃退。成し遂げたのは下位のイャンクックらしい。

いろいろおかしいが…とりあえず、クック先生と呼ばせてください!!

 

 

 

ギルド本部への通達

善性イャンクックって、回復薬受け付けるんですって。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

相変わらずぶれませんね。

 




強制下校が近いんで最後かなり駆け足になってしまいました。
たぶん後で加筆します。

読了ありがとうございました。


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6話

わーにんぐ、わーにんぐ、残酷な描写あり。苦手な方は注意されるべし。

ということで次話です。いつも通り偶数話なので、いつか出てくる奴らの話を…

ではどうぞお楽しみください。


秘境と呼ばれる場所がある。

古塔の頂上、そこから飛び降りた先にあると言われている秘境に、一体の龍が現れた。

白く輝く鱗を煌めかせ、深紅の瞳が秘境を睥睨する。視線の先に、金色の月とそれに挑む歴戦のハンター達がいた。

金色の月を3人でその場に釘付けにし果敢に切りかかりながら、残る一人が遠距離より弓のつがえていた。

深紅の双眸が、戦場を射抜く。果たして、最初に気付いたのは金色の月だった。

自らに切りかかるハンターを無視して飛び上がる。ハンター達は未だに迫りくる絶望に気付かない。ただ自らの経験にない金の月の動きに戸惑うばかりだ。

金色の月が全速で逃げていく。それを後目に、ハンター達の前に絶望が降り立った。

響く咆哮、轟く雷鳴。

大きすぎる絶望に、歴戦のハンター達でさえ、逃げ惑うことしか許されはしなかった。

 

 

 

 

(祝!翼復活!!)

 

ポルナレフ’sのパーティーに回復薬をもらってから3日が経った。

未だに尻尾はまだ食べきれていないし、そろそろ水も乏しくなってきたが、これで獲物を採りに行ける。うん、虫が恋しいんだ。腹いっぱいに食べることはできないけど、ずっと硬い尻尾と水だけだったからあんなスナック感覚で食べれるものが本当に恋しい。…虫を食べたいだなんて人間だったときは考えられない考えだよな。

さて、現在の俺の状況だが、翼が全快ではないが飛ぶのに支障はなくなった。足の骨は…つながったのかな?痛みは無くなったけど違和感というかなんていうか…時々かみ合わない感じがある。そう、自転車の1ギアくらいのつもりで歩いたのに6ギアの速度が出てしまったみたいな?んで、爪は前ほどではないがぎりぎり武器に使えないこともないって程度まで伸びた。人間だったころの深爪から1週間経ったぐらいだと思ってほしい。喉はもうほとんど全快だ。あいつらにもらった回復薬が効いたんだと思う。嘴は一番最初に治った。これはもう完治と言っても問題ないだろう。

と、自己診断をしたが実際これは医療を欠片も知らない俺の勝手な診断ゆえに正確なところは知らない。動けりゃあいいんだよ。

んじゃあ、久しぶりの外を堪能しましょう。待ってろよ虫たちよ!!

 

 

というわけで久しぶりに巣を飛び出したわけなのだが…現在逃走中です。

どうせ、俺の生活穏便にはいきませんよーだ。

とりあえず遡る事時間位。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

と言うわけで、いつもの水辺。あ、アプトノスさんお久しぶりです。

最近俺を見ても警戒しなくなってきてる草食竜さんに挨拶。と言っても気分だけだが。

いつもの虫食いポイントで虫を食べる。雷光虫のビリビリも光蟲(ピカチュウ)の発光も久しぶりに食べると非常においしい。苦虫の苦みは未だに慣れないけど。

そうそう、苦虫を見つけるといったん虫を食べるのをやめてドクテングダケを食ってる。実際どうなるか知らないけど、ゲームだと毒状態になる代わりに体力の上限が上がってた気がするから。いくらこの体でもやっぱり食べるとたまに気持ちが悪くなる。苦虫を2~3匹食べると楽になるから虫を食べに来るときは持って来てる。…これのおかげでマ王様を乗り越えられたのだとしたら何がいつ役立つか分からないよな。

そうしてささやかながら幸福な食事を終え、川の水を飲んだ俺は散策に出ることにした。

久々の大空を楽しむ。久々に感じる風を切る感覚が気持ちがいい。

浮かれながら空を飛んでいると、遥か先に点が見えた。だんだん大きくなっているのを見ると近づいてきているのだろう。

多分厄介事だから、地上に降りる。だんだんと大きくなってきた点はついに正体を現し…真昼の森丘に金色の月が現れた。

 

(いやいやいやいや…なんで??)

 

マ王様に引き続きあり得ないモンスターの来訪に驚く俺。

リオレイア希少種。通常種に比べ、圧倒的な攻撃性と業物の刃さえ弾き返す強固な鱗。何よりも、金色に輝くその美しさから金色の月(ゴールドルナ)の二つ名を得ている化け物。

その化け物の双眸がしっかりと俺を捉えていた。

 

(なんでいつもこうなるんだよぉ…)

 

死にたくない俺は、病み上がりの体に鞭打ち脱兎の如く逃げ出した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

こうして、さっきの状況に戻るのである。

リオレウス通常種よりも段違いに速い飛行速度に全力で飛行するもグイグイと差が縮まっていく。急旋回やリオレウスにやった生身バレルロールもやってみたけど、引き離すことができない。難易度がベリーハードを通り越してcrazyに突入してしまっている気がする。ていうか、マ王様に引き続き金色の月とか、俺の運がここ最近地を這っている気がする。どうにかせねば…

捕まりかける度に体に負担の多い生身バレルロールや急上昇・急下降を繰り返しているので体力の消耗が激しい。このままではジリ貧だ。このまま続けても遠くないうちに捕まるだろう。

焦りながら周りを見渡す。何か使えそうなもの…

大きな木、ランポスが1・2頭、キノコやそれを食べるモス、虫のたまり場、水飲み場、自分の巣…いつの間にか自分の巣の付近まで飛んできていたようだ。が、打てる手が見つからない。どうする?どうする??

後ろで、いつまでも捕まらない俺に業を煮やしたのか、金色の月が俺より高い位置へ上昇して火球を吐きかけてきた。急旋回でよけた俺の下で火球が爆発する。爆風にあおられながら、俺は一つの手を思いついた。

金色の月が襲い掛かってくる。その強襲に背を向け俺は地上へと向けて飛翔した。

どんどんと近づいてくる地面。俺はその一角に向けてブレスを吐きかけさらに加速する。

結果的に俺は自分のブレスを追い抜いて地上すれすれで水平飛行に移り、超低空飛行を行う。

その間にも金色の月はどんどんと俺に追いつき、地面すれすれで…眼前で起きた爆発の爆風を受けて墜落した。

俺のブレスで過剰な爆発が起こることはない。ただ超高熱の粘液を相手に張り付けるものだ。では今回何が起きたのか。それは、ブレスの着弾地点にある。俺がブレスを放ったのはキノコの群生地。その群生地に、一種類のキノコがある。

 

その名も…「ニトロダケ」。

 

ゲームをやったことのある奴なら知っていると思うが、発火作用のある火炎草と組み合わせれば爆薬ができるのだ。

つまり「ニトロダケ」には火をつければ爆発するという効果があるのだ。一つあれば大樽爆弾を一つ作れるほどの爆発力を持つニトロダケがいくつも生えている場所に、着弾と同時に爆発してそこにあるものをむやみに吹き飛ばしたりしない、純粋な火種が落ちるとどうなるか?それこそが今回金色の月を堕としたトリックである。

まあ、爆発したときに黄金の月がその煽りを受ける位置にいるかや、ただの爆発で相手の体勢を崩せるか、そもそも加工前のニトロダケはきちんと爆発するのか。と言った賭けの要素が非常に多かったのでうまくいって本当に良かったと思う。

地面に着地し、一息つく。さて、奴が元気に起き上がる前にさっさと退散しようかね。

そう思い、再び飛び始めた俺の耳に、

 

Gugyyyya!!

 

という、非常に聞きたくない音が聞こえてきた。恐る恐る振り返る。

そこには、足を不自然にブランとさせながら空を飛ぶ金色の月がいた。…復活速すぎませんかね。

口から黒煙を吐き出しながらたいそうご立腹らしい奴は、空から俺に向かって火球を吐き出してきた。

あわてて逃げ出す。木々の間を走りながら敵の攻撃の第一波をかわし、その助走も使ってジャンプ。そのまま飛翔に移る。再び高空へと舞い上がり、ひたすらに金色の月の追撃をかわし続ける。ブレスを吐きかけ、時には直接かみつきに来る。怒りで我を忘れたのか先ほどよりもよほど速いスピードで俺に追いすがる奴は、ついには俺を追い抜き、そのまま高速で反転。

自分に放たれた火球をよけたばかりの俺は進路を変えることができず奴とぶつかり、もつれあいながら落ちていった。

お互いに落下しながら、奴は俺の翼にのしかかり俺の首にかみつこうとしてくる。

首をひねってよけ、そのまま頭に嘴を叩きつける。あまりの硬さに頭に衝撃が走りふらつく。それはさすがに向こうも同じだったらしく、お互いに一瞬動きが止まった。

地面がすぐそこまで迫っていることに気付いた俺はふらつく頭を押して、金色の月の上をとった。翼を抑えられているために仰向けの体勢で地面に落下する。

衝撃で息が止まって苦しい。が、幸いに大きな怪我はしなかった。金色の月の爪が俺の翼膜を傷つけたが、問題はない。落下の衝撃で奴の動きが止まる。

ゴローンと横に転がって束縛から抜け出す。奴も同じように起き上がろうとしたが、足を下にした瞬間小さく悲鳴のような声を上げて崩れ落ちる。今なら逃げられる。そう思った俺の視界に、虫のたまり場が映った。小さく笑って火球を吐きかける。同時に急いで後ろを向き目を固く閉じる。

俺のブレスが着弾した音に驚いたのか金色の月はそちらを見て、圧倒的な光量に網膜を焼かれた。同時にばら撒かれた電撃が金色の月の目を貫いた。

奴の悲鳴が響き渡る。落ち着いて奴をよく見れば顔も傷だらけだ。不自然な切り傷やはがれた鱗も見える。ハンターとの交戦の後なのだろう。俺は奴に近寄り、悶えている奴の傷口に嘴を叩きつけた。

悲痛な咆哮が響き渡る。それに頓着せずにもう一度。

何度も何度も繰り返す。

叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。叩く。

そのたびに咆哮が響き渡る。いい加減にうるさい。

俺は狙う傷口を顔の傷口に変えた。硬かろうがあまり関係がない。

瞼を叩く。中身も外側も傷ついているからか、たった一度叩いただけで大きく陥没した。

伸びかけの爪を首の傷にしっかりと食い込ませて上をとる。

がっちりと奴の首から上を固定。さあ、遠慮はいらない。ただ生き残る事だけを考えろ。

ただ無心で叩く。叩く。叩く。叩く、叩く、叩く叩く…

 

叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く

叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く

………

 

気が付けば、金色の月は声を上げていなかった。顔は元がわからないほどに陥没していたし首に食い込ませた爪も10センチほど食い込んでいる。

それでも奴は死んでいなかった。俺は奴の首を固定していた足を退けた。小さく黄金の月が動いたが首の傷を思いっきり叩いて止める。そうして今度はゆっくりとブレスを溜める。

火竜に火が効かないのはその鱗が火を遮断するからだ。ゆえに鱗のない場所には普通に火が効く。まあ、普通の肉よりは火が通りにくいのだが。

喉が熱を感じる。温かみではなく熱だ。その熱を我慢しきれなくなる寸前で吐きかけた。

肉を、血管を、圧倒的な熱量が焼き尽くしていく。体を硬直させた黄金の月がしばらくしてけいれんを始めた。そうしてまた痙攣さえしなくなり、

俺は金色の月を殺しきった。

 

………やっちゃったよ、俺。

 

 

 

 

 

とある古龍観測隊の報告

 

もう嫌じゃあ…

なんなんじゃあのイャンクック。

秘境から逃げ出したと報告のあった金火竜を追ってみれば、その金火竜はあの赤いイャンクックと追いかけっこをしておった。ちなみに今回は発光してはおらんかった。しばらく追いかけっこを続けたと思えばキノコの性質を利用するといったモンスターが考えるとは思えないような方法で金火竜をたたき落とし、あまつさえ殺してしまいよった。奴の鱗や嘴の破片を見るにどう考えても奴は下位。それが上位個体の上に上位種であるはずの金火竜を殺すじゃと?常識に喧嘩を売るのもいい加減にしてほしいもんじゃ。ああ、儂はまた上層部に正気を疑われるのじゃろうなぁ。今から気が重いわい。

それにしても、あの金火竜、何故こんなところへ現れたのだ?何かよからぬことが起こってなければいいが…

 

 

 

 

ギルド本部への通達

秘境より報告。上位ハンターが秘境にて金火竜と交戦中に謎の雷を操る龍が出現したとのことです。なお、件のハンターは全員が軽傷または重症、一名が負傷によりハンター活動が不能。治療が終了後にハンターを引退することになりました。

なお、本来のターゲットであった金火竜は森丘方面へと移動。古龍観測隊に観察を依頼したところ、以下の報告が上がってきました。正直頭の痛い報告ですが、お目通し願います。

 

           古龍観測隊より報告

      金火竜、森丘にて善性イャンクックに討たれる。

            死体は確認済み

   死体は現在善性イャンクックが食糧にしているため回収不可

   なお、燻製加工を善性イャンクック自身が行っていることを確認

  観測者が精神病を抱えたため休養中。直接の報告は現在不可能である。

 

異常です。…失礼。以上です。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

秘境の雷を操る龍は、文献に出てくるミラアンセスと呼ばれる古龍だと思われる。

非常に強力な古龍で祖なる龍とまで呼ばれているようである。

秘境へのハンターの立ち入りを厳禁し、古龍観測隊からの観測報告を待つように。

それで、金火竜および善性イャンクックについてですが…ギルドマスターからのお言葉です。

金火竜については特別大きな被害もなく解決して喜ばしく思う。

ただし善性イャンクック…てめぇは駄目だ。

何俺たちの常識をぶち壊してんだ!あと、作った燻製1枚でいいから俺によこせ!!

…とのことです。ええ、私共としても非常に同感です。

 

 

 

 




観測隊のじっちゃんは犠牲になったのだ…

感想ご批判お待ちしております。
読了ありがとうございました。


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7話

明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。


金色の月は鱗を除いてほとんど全てを食べた。

骨が硬かったが、まあ、当然というかなんというか、マ王様の尻尾よりも食べやすかったし、バリバリいけた。歯ごたえのある骨と、中のちゅるっと出てくる骨髄がすばらしく美味しかった。

本命の肉だがな…なんだあれ?うん、文句無く美味かったよ。美味かったんだけど、口に含んで噛んだ瞬間香りが広がりながら溶けて消えていった。脂っこいわけではなくさっぱりとした味でいい感じに歯ごたえがあるのだが、それの肉汁が舌にあたった瞬間肉全体が香りを撒き散らしながら溶けていくのだ。気がつけば大量に食べていてしまった。残った肉を慌てて燻製加工したほどだ。…途中で一回だけ骨ほど硬い何かを思いっきり噛んですごい痛かったけど、あれが何なのかは結局砕けてしまっていて分からなかったけど、破片が喉へ引っかかって咳き込みかけた。咳き込んだわけでもないのに何時の間にか引っかかる感がなくなったから問題無いか。うん、どうでもいいね。

さて、気になっているかもしれないが、今回体の変化は無かった。レウスの肉を食べて鱗が赤くなってたしもっと光沢が増えるかと思ったけど…まあ、別にいいか。

ただ、今回ブレスを溜め打ちしたせいなのか普通にブレスを打つときに喉のところで引っかかる感が無くなっていちいち予備動作をして力を入れなくても普通に打てるようになった。まあ、だからといってブレスが強くなったりしたわけじゃないんだけどね。これもどうでもいいか。

さて、飯でも食いに行こうかな。え?燻製?保存食なのに普段から食べてちゃ意味が無いでしょうに。

 

翼を広げて巣から出る。さて、今日は何を食べに行こうかな。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

目の前でアプトノスさんがゆっくりと倒れていく。

俺が殺したわけじゃない。殺したのは俺の目の前にいるこいつだ。黒狼鳥、イャンガルルガ。

何故か左目に傷を負っているけれど、そんなことは関係ない。重要なのはこいつは俺の癒しであるアプトノスさんの内の一匹を殺したということだ。殺して食べるというのなら、それは自然の摂理だ。弱肉強食。この世界では当たり前の真理だから、おれがとやかく言う気は無い。…だが、

 

「Guluuuuuu」

 

祖を同じ種族とするからこそ分かる、嘲笑。倒れたアプトノスさんを足蹴りにして俺に突き出してくる。

既に事切れているアプトノスさんの頭を、俺の目の前でこれ見よがしに叩き割った。

こちらへと顔をあげて再び嘲笑を浮かべると、先ほどの数倍の力でアプトノスさんを蹴る。その先は、崖。そのままとまることなく転がっていき…俺の視界から消えた。

 

(っ!!)

 

俺は、ゆっくりと膝を折る。

さらに広がる嘲笑の気配。

俺はそのままゆっくりと体を落とし…

思いっきり走り出した。お互いの距離は20メートルほど。

ぐんぐんと加速し、そのまま体当たり。踏ん張っていない黒狼鳥を吹き飛ばした。

止まることなく加速。吹き飛んだ黒狼鳥に追いつき、軽く跳んで体を思いっきり体を反転させる。

鞭のようにしなった尾が黒狼鳥の顔を打ち付ける。そのままややバランスを崩しながら着地。

そのまま空へと飛び上がりながら黒狼鳥の方に向く。体勢を立て直したらしい黒狼鳥がこちらに向けて飛び上がってきた。

 

(くそっ、思ったよりも速い!!)

 

咄嗟に頭を地面に向け、羽ばたくのをやめて急落下。一瞬後に俺のいたところを黒狼鳥の爪が薙いでいった。体を戻すも落下の勢いを止めきれず地面に着地。残った運動エネルギーが俺の足に衝撃を与えた。

ミシッと音がしたが、軽く動かせば特に痛みも無いので問題は無い。

予想外だったのはそのスピードか。黒狼鳥はそのまま少し離れた地点でこちらを睨んでいた。先ほどの様なこちらを見下す感じが消えてこちらを射殺さんとするような鋭い視線だった。

だからといって、逃げる気はない。

何よりも俺は許す気が無いからだ。無駄な殺生。恨みも無し、食べる気も無し、防衛でさえない。

ゆっくりと、視界が端のほうから赤く染まってくる。そして、何かが割れる音がした。

先ほどまで抱いていた激情も、恐怖も、覚悟も、全ての感情も、水をかけられた蝋燭のように消えた。

これでもかというほど無造作に一歩を踏み出す。

あまりにも無造作な一歩は、警戒をあらわにする黒狼鳥の意識の外側で…するりと、懐に入り込む。

黒狼鳥の細い喉に噛み付きそのまま首を捻る。突然のことにまったく反応できなかった黒狼鳥がよこなぎに倒れこんだ。上から押さえつけて一方的な展開にしようとするが、僅かに縮んだ黒狼鳥の尾の筋肉を見つけ、黒狼鳥を踏みつけた足にそのまま力を入れて反対側へと駆け抜ける。振り返ると、倒れこんだ状態から、毒がある尻尾を振り上げていた。そのまま尻尾を地面にたたき付けて反動で起き上がった。

大きく息を吸い込む黒狼鳥にあわせて走り出す。首を振り下ろすと同時に地面を蹴って体を横に倒す。

黒狼鳥から放たれたブレスの周りを一回転するような軌道を描いて足から着地。衝撃も前への推進力にして駆け出した。ブレス後の反動中の黒狼鳥はそのまま動けない。…はずだった。

頭をふらつかせたまま向こうも突進を仕掛けてきた。ゲームで言うノーモーション突撃だ。軽い助走で勢いのついた俺と、種族的上位である黒狼鳥がぶつかり合った。体が悲鳴をあげる。だが、マ王との戦いのときに比べたらそんなもの無いのと同じだ。衝撃で反り返る体に逆らわず地面を蹴り上げる。俺の体はそのまま宙で一回転して、まず爪が黒狼鳥の耳を切り裂いた。その後すぐに鞭のようにしなった尾が再び黒狼鳥の嘴を下からかち上げる。

着地した俺は無理をして完全に崩れた体勢を整えるためにいったん後ろに下がった。

 

「Gyuaaaa!!」

 

黒狼鳥の怒りの咆哮が響き渡る。

口の端から黒煙を上げながら、黒狼鳥が怒りに染まった目で俺を睨んできた。そんな目を無視して俺は記憶を呼び覚ます。

 

(確か、怒り時は我を忘れて向かってくるから、大雑把な攻撃になる代わりに速さも威力も大きく上昇するんだったか)

 

黒狼鳥が突撃をしてくる。横に回ろうにも、距離が近すぎて間に合いそうに無い。俺は横っ飛びに飛んで、崖から飛び降りた。ぎりぎりまでひきつけていたので、羽の先に向こうの羽があたったが、それだけだった。崖から落ちることを期待したが、そう上手くはいかなかったようだ。崖の前で一度立ち止まった黒狼鳥がいらだたしそうに声を漏らすのを見ながら、また少し離れたところへ着地する。

黒狼鳥は再び俺に突撃をはじめ、俺から少し離れた位置で俺のように飛び上がった。

俺の驚きの気配を感じたのか、奴の顔が笑みに変わる。…が、俺は驚きこそすれ、別に慌ててはいない。

黒狼鳥がサマーソルトを放つ。

同時に黒狼鳥の左へと回り込んだ。攻撃をはずし、顔を戻した黒狼鳥の顔に驚愕の色が浮かんだ。

俺が移動した音は、耳が切り裂かれたせいで聞こえない。俺の姿を捉えるはずの左目は、俺と出会う前から潰されていた。走りよりながらブレスを溜める。種族的下級種の俺にできる、最大の攻撃。どんどんとブレスを溜めていく。不思議と喉が熱を感じることは無かった。

黒狼鳥がこちらに振り向く。同時にブレスを吐きかけた。青白い色のブレスはそのまま顔に着弾。あまりの熱に火をまったく通さないはずの黒狼鳥の鱗は焼け落ち、嘴の表面がどろどろに溶けていった。パニックを起こし暴れる黒狼鳥から距離をとり、走り出す。

がら空きの横腹に俺の突撃が決まり、黒狼鳥が吹き飛んだ。その先は、崖。

目も見えず、自分で暴れすぎて上下感覚も麻痺していた黒狼鳥は、そのまま何もできずに地面に頭から墜落し、絶命した。

黒狼鳥の死体のすぐ後ろには、何の因果か頭を潰されたアプトノスの死体があった。

 

 

 

 

 

後任古龍龍観測隊隊員

 

前任のじっちゃんが病気でぶっ倒れた。って言うことで、俺があの善性イャンクックを観察することになった。んで、さっそく観察を開始したんだが、早速やってくれた。ありがとう。流石、俺達の期待を裏切らない。

んで、今回の哀れな犠牲者は森丘のアイドルであるアプトノス…を殺したイャンガルルガ。

正直ざまぁ!って感じだが、さっき古龍観測隊本部に報告してみたら、傷のあるイャンガルルガは上位個体だって怒られた。

えっと、上位個体??あのイャンクックって下位個体だよな。んで、今回倒したのはイャンガルルガ上位固体と。うん、分かった。ここで俺が言うべき言葉は一つだけだな。

 

「Ω<ナ…ナンダッテー!!」

 

うん、すっきりした。ていうか、びっくりしたことはびっくりしたけれど、あのクックってマ王撃退したり金火竜倒したりしてるんだからいまさら慌てるようなことじゃないだろ。って思うんだけど…

そんなことより、善性イャンクックが戦ってるときに途中から赤く光ってたことと最後に使った青い炎のほうが気になるんだけど…

 

 

 

ギルド本部への通達

今回も善性イャンクックについての報告です。というか、それぐらいしか報告事項が無いんですけどね。

さて、今回もやらかしてくれました。以下、古龍観測隊善性イャンクック観察班からの報告です。

 

               古龍観測隊よりギルドへ

        善性イャンクックが一定以上の脅威をもっていると判断

        善性イャンクックを観測する班を発足しました。

        観察班の定期報告にて、隻眼のイャンガルルガを狩猟したと

        の報告が上がってきています。

        なお、今回の報告を上げてきた物の目視のみしか資料が

        証拠が無いのですが、戦闘中に青白い炎を使ったり前任

        が言ったように赤く発光をしていたようです。前回の金

        火竜を討伐時には発光していなかったようなので発光条件

        は不明です。

 

なお、この報告を行っている古龍観測隊上層部はそろそろ胃が限界を迎えそうなんですが…

もう、上位個体扱いでいいんじゃないですかねぇ…なお、近況調査以来に初接触者の3名を送りました。おそらく次の定期連絡で報告を挙げると思われるので、宜しくお願いします。

 

 

 

ギルドポッケ支部への通達

近況調査以来の件はギルドマスターに報告しました。古龍観測隊は…胃薬の差し入れを行いますので、渡りをつけといてください。

善性イャンクックは上位指定するには個体能力が足りていませんので無理です。知能面を含めれば既に上位モンスター指定してもいいのですが、これまでその手のモンスターが古龍しかいなかったので対応がしきれないのです。

ギルドマスターも頭を抱えてましたけどね。ままならないものです。まあ、悪いのは常識に喧嘩売ってるどっかの飛竜ですが。




他者視点何にするかすごい迷う。
次回は…多分休み明けてからになるんで1月10日までに何とかがんばってみます。

読了ありがとうございました。


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8話

今回は偶数話なのでいつものあれから。

ここの質問はアンケートでは?とご指摘いただいたので活動報告に移させていただきます。詳しくはそちらで。

では、本編どうぞ。


雪の吹雪く霊峰の山頂付近。吹き付ける雪で白に覆われた世界。その中で、同色に、しかし周りに溶け込まない確固とした色として、煌めく蒼白の光が動いていた。

ゆったりとした動きで歩く蒼白の光は突如嘶き、堂々そびえる一本角に光を集めた。

同時に光へと飛びかかる色白い鳥竜種。

吹雪の音をかき消す轟音、

目を焼き尽くさんばかりの極光。

唐突に起きたその現象が止んだ時、その場には鱗を黒く焦がした鳥竜種の死体が転がるばかりだった。

 

 

 

 

(ん…朝か…)

 

いつもの如く目を覚ました俺は、全快して久しい羽を大きく伸ばした。

痺れともいえない小さな振動を羽に背に感じながら起き上がる。

巣に異常なし、体に痛みなし、天気も快晴。

さあ、今日ものんびりと日常を過ごそう。

 

(…いつもこんなこと考えたりしないんだけど、フラグじゃないよね?)

 

よぎった不吉な考えを振り払うように頭を軽く振り、外へと飛び出す。

まずはとりあえず…ご飯だね。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

さあ着きました。蟲のたまり場。ずっとおんなじ所を食べてたら虫がいなくなっちゃいそうだから、いろんな所を回って複数のたまり場を見つけておき、そこに何日か空けながらローテーションで回してる。

今日は、ゲームでいうところのベースキャンプのすぐ前。川の畔にある蟲のたまり場だ。

初めてポルナレフ'sにあったところだな。そんな思い出の場所にゆっくりと降り立つ。ゆっくりと離着陸なんてあの時には考えられなかったなぁ…って、まだ一月位しか経って無いんだけどね。

先客のアプトノスさんに(気持ちだけだが)挨拶をして、俺は食事を開始した。

 

 

 

 

(ご馳走様でした)

 

ある程度食べた俺は水を飲みに川へ近づく。透き通った川は、俺の姿をきれいに映し出す。

赤く染まった鱗に大きな翼、少し細めの足に巨大な嘴のある顔。

人間だったはずの俺が、怪鳥になり、いつの間にか怪鳥からも外れた存在になった。俺の体の事なのにほとんど何もわからない。ま、なるようにしかならないからどうでもいいね。

不思議なことに、自分の身に起きていることについて不安はない。

そんな事より、ちょくちょくやってくる俺に喧嘩を売ってくる大型モンスターの方が気がかりだ。てか、あいつらなんでこんな所にしょっちゅうやってくるんだか…

そんなことを考えながら、水を飲む。嘴をつけると同時に水面に波紋が広がり、俺の姿は見えなくなった。

 

ポチャン

 

と小さな音が響いた。俺の水を飲む音でもアプトノスさんが川を渡る音でも無い。もっと小さな、俺の耳でさえ微かに聞き取れるくらいの大きさの音だった。

首を巡らせた先に、波紋と、水中に潜っていくカエルの姿があった。

納得した俺は最後に水を一飲みして、踵を返す。

 

ボゴンッ

 

再び背後から聞こえる、今度は大きな音。振り返ると、大きな波紋と大きな板が水中に沈んでいく光景だった。不思議に思い、川に近づこうとする。ふと周りを見ると、アプトノスさんが一声鳴いて、川の浅瀬へと走っていく光景が移った。対岸には、川辺から高い場所へと続く坂があり、アプトノスさんの群れの先頭がちょうどその坂を上りきっていた。高いところに上ったものから安心したように走るのをやめて背の低い草を食むそれを見て、俺も空を飛ぶ。危険察知は俺の何倍も彼らの方がすごいのだ。

空を旋回して周りをうかがう。

森方向に大型モンスターの気配なし、遠くに小さな鳥が飛んでいるのが見えるが、間違っても飛竜のような大きな物ではない。

すぐ近くに危険なしと判断して、下へと視線を戻した。

同時に上がる大きな音と水柱。ばらばらになって飛び散り、太陽光を綺麗に反射させながら落ちていった。

その光景を余所にアプトノスさんたちは、怯えて走り出す。

水面を割って飛び出してきたのは、巨大な魚に足と翼をつけたような異形。水竜だった。

一匹のアプトノスさんが足をもつらせて倒れる。水面から顔を半分だけ出した水竜は首を持ち上げて、レーザーのような水流を吐き出した。その水流はアプトノスさんに迫り、

…当たることなく、着弾地点の水を跳ね飛ばした。

 

(あ、あっぶねー…)

 

何があったかと言うのは、水面に叩きつけられるように落ちた水竜を見ればわかりやすいんじゃないだろうか?

端的にいうと、水流が吐き出される直前に水竜の顔を蹴り飛ばしたのだ。

結果、着弾地点はずれ、蹴り飛ばした足が水流にほんの少しだけ巻き込まれ、すっぱりと切れていた。

 

(つか、超痛い。刃物でざっくりと切られた気分だ…)

 

実際に似たようなものだけど…と内心苦笑い。

倒れたアプトノスさんが無事に起き上がり対岸の壁を駆け上ったのを確認して、虫のたまり場がある方の地面に降り立つ。

攻撃を邪魔された水竜がいきり立って水面から飛び出し、俺へと飛びかかる。

その高さを見ると、どう考えても対岸の高い場所には届かない。アプトノスさん達は大丈夫そうだ。

心配事のなくなった俺は逃げようと足を動かして、あまりの激痛に地面を転がった。

体勢を崩して転んだ俺の頭上を水竜が通過し、ひときわ大きな尾びれが俺の背中を叩いていった。それだけで背中の鱗が何枚か砕け散ったのを感じた。だけど、それだけで済んだのは僥倖だ。足の痛みを何とか無視して起き上がる。何があったのかと先ほどまでたっていた場所に目を向けると、潰れた虫がパチパチと音を立てていた。それを見るにどうやら俺は傷ついた足で雷光虫を踏み殺してしまったらしい。

雷光が傷口を焼き出血が止まったが、痛いものは痛い。しばらくはマ王様との戦いの後のように歩くのが億劫になりそうだった。まあ、あの時ほどではないのだろうが。

現状確認を済ませて、水竜に向き直る。

水竜はちょうど、大きな足で体を跳ね上げて立つ所だった。

地面をその足でしっかりと踏みしめてこちらへと振り向く水竜。

その体がゆっくりと撓み、地面を滑るように這い、突進してきた。

空へと飛びあがって躱す。水竜はそのまま川へと戻っていった。引いたかと思ったのだが、そうでもないらしい。水中から空を飛ぶ俺へと向けて、あのレーザーのような水流が向かってきた。

あわてて避ける。

水中から第二射、第三射と連続で襲い掛かってくる水流。球切れとかを待とうにも、川の中じゃあ無尽蔵に撃ててしまう。このまま逃げてしまってもいいとは思うのだが、水面を見ながら飛ぶとなるとスピードが落ちてしまい、背中を向けるにはあまりにも不安だ。しかし、速く飛ぼうとすれば水面を見れず、当たってしまうかもしれない。あの水流の威力は身をもって実証済みだ。間違っても当たりたくはない。

どうにかならないかと、ブレスを吐いてみる。当然ながら、水中にいる水竜には当たらない。

攻略に行き詰ったので、状況を元に戻そうと試みる。水の中から固定砲台のように水流を放ってくるのだから、水の中から俺が見えなければいいのだろう。飛来する水流の合間を縫って頭を地面に向け、落下する。一瞬前まで俺がいた空間を水流が貫いていった。

急速に近づく地面に、以前のようにビビることなく着地する。着地の衝撃で傷が開き、刺すような激痛に体勢を崩し地面を転がりながら、水流が止まったのを確認する。どうやらうまくいったようだ。しかし、さっきの着地でゆっくり歩くならともかく走ったり跳ねたりが出来ない。水竜の攻撃圏外に出るには空を飛ぶしかなさそうだ。

最初の巻き直しのように水面を割って水竜が飛びかかってくる。

空を飛ぶにも時間が足りない。横に避けるには足が使えない。結果、やむを得ず先ほどのように体勢を低くしてやり過ごす。振るわれる尾びれに巻き込まれないように尾びれを注視して、背中に走った衝撃で俺の体が突き飛ばされた。振り返るとこけている水竜。特に怪我はなさそうだったが、絶好のチャンスだ。おそらく、俺を踏みつけようとして背中に足をつけ…勢いのままに通り抜けて行ったのだろう。何とも間抜けな話だが、俺にはありがたい。岩に生えている苔の上で滑った時に岩に全体重が乗らないように、勢いで突き飛ばされただけの俺はそこまでのダメージはなかった。怪我していない方の足に力を入れて起き上がり、腹に力を入れ羽ばたいて飛び上がる。空の俺にむかってブレスを吐こうと開けた水竜の口に、濃縮されたブレスがぶつかった。

 

(いや、いつ溜めたのって、ちゃんと[腹に力を入れて]って言ってるじゃん)

 

訳の分からない言い訳を考えているうちに、口内を焼かれる痛みに声になっていない悲鳴を上げた水竜が川へと逃げていく。大火傷をしたのだから水の中から水流を撃ってきたりはしないだろう。安心して、そのまま巣へと帰っていく。はあ、また歩くのも辛い日々がやってくるのか…

 

 

 

 

ハンター’s side

 

 

善性イャンクックの近況調査依頼を受けてギルドを発った俺たちは、早速森丘に向かった。

1日かけて森丘に着いた俺たちは、キャンプで朝食を食べていた。

 

「これを食べた後は、善性イャンクックの巣へと向かう。途中でどこかに立ち寄る気はないが、採取したいものがある奴はいるか?」

 

この発言に、誰かが異を唱えることもなく、巣へと一直線に向かうことが決まった。

決まった、のだが…

俺たちのパーティーは、3人構成だ。大剣を使うリーダーに、ハンマー使いの俺。それと、ライトボウガンを使う先月から入って来た新人。

その新人が俺たちの中で最後に飯を食い終わった後、ベースキャンプを出ようとした。

その時に、大きな爆音が響き渡った。

顔を見合わせた俺たちは走ってベースキャンプを飛び出す。開けた視界の中で、水竜ガノトトスと善性イャンクックが戦っていた。足に傷を受けていた善性イャンクックが空に飛びあがり、それを打ち落とそうとしたガノトトスがブレスを使う。

その開いた口に、図ったかのようなタイミングで善性イャンクックのブレスが炸裂した。

いや、実際にタイミングを計っていたのだろう。ガノトトスの口の中で炸裂した炎がこちらにまで吹き付ける。異常に熱い。普通のブレスでは考えられないことだった。

後で、鍛冶屋のおやじに聞いた話によると、この時善性イャンクックが吐いた青い色の炎は、俺たちが使う炎の何倍も熱いものなんだそうだ。普通に考えたら、喉が焼けただれてしまいそうなんだが…あの善性イャンクックは、もう何でもアリなんだと思う。

呆けた顔の俺たちはしばらくその場でたたずみ、リーダーが

 

「帰るか…」

 

と言うまでそこに立っていた。後にも先にも、俺たちのチーム至上、最速のクエストクリアだったのは言うまでもない。

 

 

 

ギルド本部への通達

沼地、並びに火山で、大量に小・中型モンスターの死体が発見されました。

調査をお願いします。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

調査班を数グループ送りましたが、帰投者がいません。

当件を緊急事態と認定、暫く沼地並びに火山を封鎖してください。

 

 

 

 




この流れで次はまさかのほのぼの回の予定。

いいのか、俺?

いいんだ、俺。





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番外編 流石〇〇〇キノコ。何でもアリだぜ…(前編) ※擬人化・クロス要素あり

南極海鳥様より、クロス許可をいただきましたので人化と一緒に番外編としてレンド君とランちゃんを登場させていただきました。
個人的に好きな、この二人の登場する「モンスターハンター 鳥竜種な女の子」も面白いので皆様も是非にどうぞ。大まかなあらすじはあとがきに乗せさせていただきます。

後、前後編に分けてしまいました。申し訳ないです。多分今日中に後編と本編を上げると思いますのでよろしくお願いします。


森丘と呼ばれるフィールド。大きな川が流れ、気温も風も穏やかな場所。

小型の肉食竜もいることにはいるが、彼らの巣に深入りしなければ特に襲われることも無い。

危険性が少なく、採取依頼などで初心者ハンターがお世話になる場所だ。まあ、火竜が住みつくこともあり、まったく危険がないわけではない。

そんなフィールドに、一人のハンターと一人の少女が竜車から降り立った。

 

「レンドさん、今日は何をしにここへ?私を誘うことなんて今までなかったのに…」

 

「ああ、今日は仕事じゃないからな。今日はピクニックだ。ランもずっと村の中にいるのも辛いだろうからな」

 

そういって、ベースキャンプの出口へと歩いていくレンドと呼ばれたハンター。

そのハンターを待ってくださいよーと声を出しながら追いかけていくランと呼ばれた青い髪の少女。

二人は何の気負いも無く歩いていった。

 

 

――――――――――――――――――(ハンター's prologue end)――――――――――――――――――――

 

 

おはよう。突然だが聞いてくれ。今日は俺的一大イベントがあるんだ。準備期間なんと2週間!

その間俺は森丘中を駆け回った。…基本移動手段は飛行だったけどな。んなこたぁどうでもいい。それが昨日ついに準備が整ったのだ。内容?それはまあ、その時になってからのお楽しみだ。

さあ、ますは水を飲んで来よう。楽しみはそれからだ!!

翼を広げて飛び立つ。今日の水飲み場は…アプトノスさんのところでいいかな。

行ってきまーす。

 

 

――――――――――――――――――(先生 prologue end)―――――――――――――――――――

 

 

 

水飲み場に到着。いつものように水を飲み始める。

今日もアプトノスさんがのんびりしている。和むね。

本来ならここで食事に入るのだが、今日は無し。喉も潤ったし帰ろう。

そう思い、後ろを向く。同時に、俺から見て左側奥の方から、足音が聞こえてきた。

音的には、ハンターだ。大穴で鳥竜種。

暫くその場で音の方を眺めていると、1組の男女が現れた。女性(…見た目的には女の子?)は、装備を付けていない。手にバスケットを持っている所を見ると、ピクニックだろう。まあ、ここまでなら風景もいいし危険もまずないからね。とりあえず男の方は爆発すればいいと思うよ。

そんなことを思っていると、男の方が硬直から脱し、女の子を背に庇い武器を構えた。別に襲うつもりなんてないんだけどなー。それでも武器を向けられる。

 

(解せぬ)

 

思わず漏れた声。唸り声となってハンターに届き、ハンターは警戒をさらに深めた。

 

女の子「レンドさんレンドさん、あの大きな鳥さん、武器向けられて『解せぬ』ですって。どういう意味なんでしょうね??」

 

なぜわかったし!?

女の子の方をまじまじと見ていると、レンドと呼ばれたハンターの方がこちらを警戒したままに、女の子の方に向かって声をかけた。

 

レンド「ラン。こいつ変な色してるけどどう見ても怪鳥だぞ?そんなことを本当に考えているのか??ちなみに、訳が分からないって意味だ。」

 

どこか、気の抜けた会話。それでも警戒を続けれるあたり、このレンドと言うハンターは真面目なのだろう。

なんでかは知らないけれど、俺の言葉がわかるらしい少女に向けて翻訳を願いながら声を出す。

 

(そりゃあ、俺は怪鳥だけど、別に襲いかかるつもりはないぞ?これでも何度かハンターを助けているはずなんだけどな)

 

どうでもいいことだが、この長文。文字にすると「Gugya」とこれだけにしかなっていない。法則なんて欠片もわかんねぇ…。

 

ラン「こちらを襲う気はないみたいですよ。あと、何回かハンターを助けたって…」

レンド「そうはいっても、信じられないぜ…」

 

警戒を解かないハンターの後ろから、ランと呼ばれた女の子がトコトコとやってくる。

あわてて止めようとしたハンターだが、俺の体に楽しそうにじゃれつくランちゃんをみて、後ろ頭を掻いた。

 

レンド「俺じゃあ、手も足も出ないモンスターなんだけどな…」

ラン「レンドさん!この鳥さん、面白いです!!」

 

耳に捕まったランちゃんをグイッと持ち上げて首に乗っけてみる。響く笑い声と、あわてるレンドさん。……なにこれ楽しい。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

しばらく時間がたち、昼。いつしかレンドさんも俺への警戒を解き、ランちゃんと一緒に俺の体を玩具にしていた。というか、玩具にするランちゃんに付き合わされてるだけだけど。

かくいう俺は、楽しみながらも本日のイベントをやれないことにちょっとだけもやもやしていた。普通に帰ればいいとも思うのだが、ランちゃんが可愛くて無理。

 

(まあ、たまにはこんな日もいいかな。)

 

なんて考えていた。ふと気づくと、はしゃいでいたランちゃんがいつの間にか大人しくなっていた。意識をランちゃんに持っていってみる。俺の背中ですやすやと眠っていた。レンドさんは疲れて寝転がっている。本当にお疲れ様です。寝転がるレンドさんの横でやることも無く突っ立っていると、話しかけられた。

 

レンド「なあ、お前は人を襲ったりしないんだよな…人の家畜を襲ったりしたこと、あるか?」

 

唐突な質問だが、俺はそんなことはしていない。のんびりとした動きで首を振った。そうか…と答えるランドさん。そんな彼の鼻に、水滴が散った。

 

レンド「ん?」

 

目を開いたレンドさんは空を見て口をひくつかせた。俺も空を見る。どんよりと暗く、今にも振り出しそうだった。というか、振り始めた。

俺はあわててレンドさんを背中に乗っける。意図を理解したのかしていないのか、ランちゃんをしっかりと背中で抱え込んでいた。多分傘代わりになるつもりなんだろう。なんだかんだ言って優しい人だ。

俺は翼を広げて飛び立つ。レンドさんが驚いていたが、既に飛んでいる俺から落ちるのはまずいと感じたのか、何も言わずに俺の体にランちゃんごとしがみ付いた。

少しだけ飛んで巣穴に飛び込む。洞窟内なので雨はしのげる。ゆっくりと着地して足を曲げる。これで降りやすいはずだ。レンドさんは不思議そうな顔をしながら俺から降りた。

何か言いたそうな顔をしていたが、俺はそれを無視して壁に向かう。予定はだいぶ狂ったが、イベント開始だ。ていうか、腹減った。まだ朝から何も食べてないからな…

床に置いてあるものにかぶりつく。視界がぐるっと一回転するが構わずにまたかぶりつく。それを3回ほど繰り返したところでそれは起こった。俺の体が光り、だんだんと小さくなっていく。

羽が無くなり、くちばしが消え…ほいっ!人化完了!!…あるぇ??

人化してしまうとは思ってなかったが、感動を覚えるより先に、薬草と解毒草を一気に口に含む。当然苦い。ものすごく苦い。けれど、体が軽くなった。

落ち着いたところで種明かしでもしようかと思う。俺が最初に食べまくったのは、この辺では珍しいドキドキノコ。食べれば不思議な効果がランダムで現れるという訳の分からないキノコだ。簡単に一例をあげると、毒になったり力が強くなったりスタミナが減らなくなったり、ダメージを受けたりはたまた回復したり。その効果は多種多様。ゲームだけでも5つ以上の効果がランダムで出てくるのだ。現実ならそれはさらに増えるだろう。そのキノコを100個単位で何度も口に入れた。その結果、俺の体はいかなる効果からか人化したという訳だ。ちなみに、大量に食べたせいで何度も毒になり、ダメージも受けた。だから終わった後に薬草と解毒草を食い漁ったのだ。

 

レンド「なっなっなっ…」

 

レンドさんがすごい混乱している。ごめん。俺にもわけわかんねぇわ。まあ、だからって取り乱してるわけじゃあないが。

 

鳥「いやいや、いきなり済まんね。…言葉分かる??」

 

レンド「わ、わか、わかっ…」

 

目を見開きながら何度もうなずく。

にしても流石に驚きすぎじゃない??

 

鳥「そうかい、いや、わかるならいいんだけどさ。んで、レンドさんでいいよね。大丈夫?」

 

声をかけると、暫くあわあわ言って、深呼吸を始めた。いきなり目の前で怪物が人間になったようなものなので、っていうか、実際そうなので大人しく落ち着くのを待つ。何度かやった後、ようやく落ち着いたのか最後に大きく息を吐いて口を開いた。

 

レンド「あ、あんたは、さっきのイャンクックで…あってるよな」

 

開口一番、当然の質問。そりゃあそうだろう。俺がレンドさんだったとしてもまずそれを聞くし。

 

鳥「おう。そうだぞ。ランちゃん風に言えばおっきな鳥さんだ」

 

レンド「あ、いや、すまん。あとで言い聞かせとく」

 

別にいやだったわけでも皮肉を言ったわけでもなかったんだが。ただのウィットにとんだジョークってやつだ。

 

鳥「別にかまやしないんだけどさ。んで、なんだ」

 

レンド「いろいろ聞きたいんだがとりあえず…なんで人間に?」

 

まあ、だよね。誰だってそう聞く。俺だってそう聞く。

実際俺もできるとなんて思っていなかった試みだったし。

 

鳥「いや、ドキドキノコってあるじゃん?」

 

レンド「あ、ああ。食べるたびに味やらなんやらが変わるっていうキノコだろ。たまに毒になるからめったに食べたりしないけど」

 

鳥「そうそれ。それを一気食いしたらこうなった。本当はどんな味になるのかが気になってただけなんだけどな。まさか、本当に人になれるとは…自分でびっくりだよ」

 

んで、一口食べて体が内側から変わっていく感じを感じて行けるって思ったんだよな。

ちなみにレンド達を無視して食べ始めたのはただ単にお腹が減ってただけ。まあ、紛らわしかったのは認めるけど。

 

鳥「さて、外は雨だし…飯でも食うか?」

 

レンド「は?」

 

鳥「世にも不思議な、怪鳥料理だ」

 

レンド「…食えんの?それ?」

 

 

 

 

 




小説書く時間がない…ていうか、来年のイベントの準備がもう始まってる件について。今年は営業部長だぜ!!

ということで、クロス先のモンスターハンター 鳥竜種な女の子について少し。
まず、レンド君ですが…ランポス数匹と死闘を繰り広げる片手剣使いのハンターです。わりにあまり危ない場面が少なく、期待のルーキーなのでしょうね。
次にランちゃん。ランポスです(!?)。ある日レンド君がクエスト中にランポスと戦っていると、いろいろあって窮地に立たされました。そんな彼を救ったのが、彼女…に落ちた雷様。確かに雷が落ちたはずなのにこれといったケガも受けなかった(人外確定)レンド君の脇に倒れていたのが人間形態のランちゃん初登場シーンです。全裸なんてなかった。
こんな二人の織り成すラブコメ。シャワーでお湯が出ることに驚いたランちゃんに半裸で強襲されたり、ランちゃんは肉を焼くことにカルチャーショックを受けたりとわりとドタバタしています。今現在はシリアス方面に傾いて、ランちゃんは一人、人の姿のままランポスの集団へと走ります。果たして、彼女の運命は…
ッと、こんな感じでいかがでしょう?気になって読んでみようと思ってくだされば幸いです。さて、続きはまだかなーっと。

では、また後で。


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番外編 流石〇〇〇キノコ。何でもありだぜ…(後編) ※擬人化・クロス要素あり

1時間前に前編を上げています。まずはそちらからご覧ください。


 

 

~~~~interval story~~~~

 

 

目の前で朱い鱗の怪鳥が人になった。これを見るのは初めてじゃない。いや、直接目にするのは初めてか。けれどモンスターが人になる。これは初めてじゃあない。だって、ランも…

いや、今はこんなことを考える必要はないだろう。ただ、モンスターの時から気の良かったこの赤毛の男が作る料理とやらが、人間が食べれるものを作ってくれるかのほうが問題だ。なんたって、調理器具から作っているのだから。いやほんと、大丈夫なのか?これ?

 

 

 

~~~~interval end~~~~

 

 

 

 

レンド「待て待て待て、料理つったってお前、ここで何ができるんだよ。まさか、その辺のキノコ並べて肉をちぎれば出来上がりなんて言わねぇよな!俺は人間だぞ!?」

 

鳥「落ち着きたまへよレンド君。大丈夫だから大人しく見てろって。さて、まずは包丁からか…」

 

レンド「…は?」

 

ちっとばかし固まったレンド君を無視して鉄鉱石(ゲームでいう11の奥から嘴で取ってきた。)にブレスを吐く。いくら人になったとはいえ、内臓までは変わっていないらしい。いつも道理に吐くことができた。ブレスは鉄鉱石へとあたり、不純物と鉄を分離させる。素手でぶっ叩くたびに、火花とともに鉄の中の不純物が取り除かれていく。当然、俺に鍛冶の知識なぞあるわけもなく、しっかりとした包丁何座できないが、使い捨てにするなら十分なものができた。手を使って形を整えながら何度もぶっ叩く。自分で滅茶苦茶やっている自覚はあるが、まあ、できるんだからどうでもいいや。形になった刃を水飲み桶の水につける。ばきっていう音がしたが、形は変わってないし問題ないな。ヒビなんて見えない。見えないったら見えない!

できた包丁は水につけたまま置いておく。打ち直し云々あるんだろうが、俺に知識なんかないもんね。ばきっと折れてしまわなければ上出来なんだい。

奥から金レイアの燻製肉を取ってきて、水で戻す。ちなみに火力は当然ブレス使用だ。薪が燃え尽きない程度に弱めて打つのは最初は大変だったよ…

その鍋の中に塩を入れる。ちなみにこの塩煮沸消毒した川の水を大量に用意して、塩にして水に溶かす。それをまた塩にして…と繰り返し、ものすごい時間をかけて作った。おかげで苦味もほとんどなくなった。普通に売れるレベルだと思うぞ?

しばらくして肉から出汁が出きったあたりで一旦肉を取り出す。青キノコを入れてネンチャク草で団子状にした薬草も入れる。しばらく煮込んだ後に再び肉を入れて完成!!

あたりに美味しそうな香りが広がっている。約8割が肉の匂いなんだけどな。

 

ラン「う、ぅん…」

 

掬うためのお玉を製作中に、匂いにつられたのかランちゃんが起きた。

起きた後しばらく周りを見渡してコテンと首をかしげた。ちなみにレンド君は俺のほうを呆然と見ている。まあ、人間にはとても理解できない調理法だもんな。鍋なんて水飲み桶を流用してるし。あ、もちろん包丁もどきは取り出してるぞ??

ほんの少し前に巣の前を通りがかったモスを絞めて肉を確保。包丁で切り分けて、熱した岩の上で焼く。状況を理解したのかランちゃんがテクテクとレンド君のほうへと歩いていく。…いちいち動きがかわいい子だな。

 

ラン「ねえねえレンドさん、ここどこですか?」

 

レンド「うぇっ!ああ、イャンクックの巣らしい」

 

ラン「イャンクック??」

 

レンド「あ、ええと、大きな鳥さんだ」

 

ああ、と納得するランちゃん。どうやらランちゃんの中で俺は大きな鳥さんとして記憶されたらしい。

にしても、ちらちらとこっちを見てるレンド君は一体何を気にしてるんだろうね?

 

ラン「でもレンドさん、大きな鳥さんはどこに行っちゃったんですか?ついでにあそこの赤い髪の人って誰ですか?」

 

レンド「ああ、あの人がお、大きな鳥さんだ」

 

おーい、顔が引きつってますよー?

全く、俺は気にしていないって言ってるのに…

 

鳥「おはよう、ランちゃん。大きな鳥さんだよー」

 

ラン「あ、おはようございます。鳥さんって人間だったんですねー」

 

鳥「あははっ、残念ながら俺は人間ではないのですよ。なんかキノコ食べたらこうなっちゃった」

 

ラン「へー、あ、本当だ。鱗がちゃんとあるや。駄目ですよーなにかもわからないキノコを食べちゃったら。毒があることだってあるんですから」

 

鳥「ごめんごめん。ランちゃんは優しいなぁ…あ、スープ作ったんだけど食べる??」

 

ラン「あっ、いただきますー」

 

和気あいあいと話す俺たちと、頭を抱えてうなだれるレンド君。そんな不思議な空間が出来上がった。

木をくりぬいて作った皿にスープをよそい食べる。因みに箸を木を例のナイフで割いて作ってみたが二人は使い方がよく分かっていないようだった。

 

ラン「んー、これ、使いにくいです」

 

鳥「そうかな?慣れればナイフやフォークより使いやすいと思うんだが…」

 

レンド「なんでイャンクックがこんなもんになれるんだよ…あっくそ…」

 

俺のように慣れていないランちゃんやレンド君が箸に四苦八苦している。見ていて楽しくはあるが…

 

鳥「二人とも、指が違うから食べにくいんだよ。ほら。こうやって持ってみろ」

 

指を見せながら肉をつかんでみせる。見様見真似でランちゃんも肉をつかんでみた。

今度は落とすことな持てている。

 

ラン「あ、取れました。…んぐっ。はふぅ…美味しいですねぇ…」

 

レンド「…おっ、ほんとだ。お~、刺したりもできるからフォークよりも便利かもな…」

 

やはり慣れるとそれだけ使いやすくなってくるのだろう。だんだんと食べる速度が上がってきた。

それに比例するように食材はなくなっていく。程なくして俺の用意した料理は全て無くなってしまった。口にあったようで何よりだ。

レンド君とランちゃんが二人で何かを話している。それを邪魔する気にもなれず、少しその場を離れる。まあ、せっかく来てもらったんだし、お土産でも作ろうかな。

 

(所詮、にわか知識だけどね)

 

残っていた金火竜の鱗を数枚集める。俺の手は自分のブレス程度の熱では熱さを感じない。鉄鉱石を置いてブレスを吐きかける。溶けた鉄鉱石を叩いて不純物を取り除く。冷えるのを待ってまた溶かし叩く。何度も繰り返し、溶けた時にオレンジに近い色以外に何も出てこなくなったのを確認して溶けた鉄を掬う。わかっちゃいたが熱くない。1800度を超えているだろうに…まあ、実害無いしいいか。

鱗を溶けた鉄で張り合わせていく。セルフ溶接だ。銀色に輝く鉄を金色の鱗が囲っていく。そうして花のような形になった鱗の上にもう一度今度は量を少なくして鉄を乗せる。その上に腕からとった鱗を乗せる。出来上がったそれは、金色の花だった。中央の強い緋色が全体の色を映えさせている。我ながらきれいだ。冷えるのを待ち、勝手に剥がれ落ちないのを確認する。うん。いい感じ。

次に後ろの無駄に長い髪を切り落とす。ドンドンと束ねて紐にしていく。ほどけないように両端をブレスで溶かし合わせる。…が、溶けない。鉄をも溶かす自慢のブレスは自分の髪を溶かすことができなかった。構わずもう一回。まだまだもう一回。何度か繰り返し、俺の手のほうが熱いと感じ始めたころようやく変化が現れた。そう、髪をライターで燃やした時によくあること。要するに縮れたのだ。ショックを受けた。俺の努力が…仕方がないので鉄でくっつける。紐は赤一色がよかったんだけどなぁ…まあ、我慢。

紐を溶接し(例の如く溶け縮れることはなかった)完成。名前は…えっと…「月光緋彩のお守り」って所かな?気に入ってもらえるといいけど。

 

鳥「ただいまー。お話は終わったかい?」

 

ラン「あっ鳥さん!どこに行ってたんですか?」

 

鳥「いや、ちょっと奥でね。さて、雨も止んだみたいだけど、どうする?」

 

レンド「ああ、それを話してたんだ。どうもここはベースキャンプからあんまり離れてなさそうだし、歩いて帰れるかなって」

 

そっか。まああんまり離れてないのは確かだし、武器も持ってるランド君がいれば大丈夫だよな。

 

鳥「そっか。んじゃあ気を付けて帰れよ」

 

ラン「はい。お昼ご飯ありがとうございました。」

 

鳥「こっちもな。ほかの誰かとご飯食べたの久しぶりだったから楽しかったよ。それと…ほい、ランちゃん。自作で悪いが、お土産だ」

 

ラン「?わぁっ、綺麗ですねぇ…」

 

レンド「なんだそれ…って!これ金火竜の鱗じゃねえか!」

 

鳥「いやぁ…この前襲われてさ。頑張りました。因みに君らが今日食べた肉も金火竜の肉だよ」

 

レンド「マジかよ…」

 

鳥「マジ」

 

ラン「???」

 

ランちゃんは俺たちが話している内容がよく分からなかったのか首をかしげている。

まあ、貴重なものだとは思わないよねぇ。綺麗だけど。

 

鳥「まあ、使った物が貴重ってこと。俺の手作りだから当然だけど、世界に一つしかないからね。大事にしておくれ」

 

まあ、ショックではあるけどその辺に捨ててくれても構わんのよ?レンド君が許すとも思えないけど。

 

ラン「はい!」

 

鳥「んじゃあ二人とも。またね」

 

レンド君は驚いてはいたようだが、はっと我に返って挨拶を返してくる。ランちゃんもそれに続いて俺が飛んできた道を戻っていった。多分もう人化することはないだろうけど、楽しいひと時だったな。二人を見送って洞窟に戻る。

洞窟の端に転がっていたドキドキノコを無造作に放り込む。久しぶりだったけど、楽しいひと時でした、っと。

すぐに視界がぐるっと回って力が抜ける。そうして一瞬ののちに、俺の体は怪鳥に戻っていた。

怪鳥に戻った俺の耳が最初に聞いたのは、鳥竜種の鬨の声だった。

 

 

 

 

 

~~~~side out~~~~

 

 

 

 

 

~~~レンド side~~~~

 

 

綺麗なお守りを貰ったランは、嬉しそうに山道を駆け下りていく。

最初、あの怪鳥にあったときはどうなるかと思ったが、結局なんだかんだ言って俺もランも心から楽しんだんだと思う。…まさか、猫人族以外のモンスターが作る料理にうまいと思わされるとは思わなかったが…

それにしても…と、考えがあの最後にもらったお守りに移る。

 

(あれは間違いなく金火竜の鱗だろうな。俺も本物を見たことあるわけじゃないけれど、同じ黄色主体の色でもゲネポスのような俗な色じゃない。もっと神々しい色だった。じゃああのイャンクックが仕留めたのかと聞かれると、疑問しか残らないよなぁ…)

 

まず、種族的に無理だと思う。どこの世界にリオレイアを倒すイャンクックがいるというのか。しかもリオレイアの中でも別格の強さを持つ金レイアだ。まあ、無理だわな。じゃあ、なんで持っているのかってことではあるが…と、そんなことを考えていたからだろうか。俺がそれに気づいたのは致命的に遅すぎた。

 

ガサガサっ!

 

近くの草が不自然な音を立てた。ランが動きを止めて、俺の近くに寄ってきた。しかし、聞こえる足音はどう考えても複数だった。ゆっくりゆっくりと下っていく。暫くして定期的に聞こえてきていた音が消えた。嵐の前の静けさだろうか。無意識のうちに息をのむ。意を決し、次の一歩を踏み出した瞬間、狩人の声が響き渡った。

 

「ギャオッ!ギャオッ!ギャオーッ!!」

 

同時に周囲からランポスが現れる。数は、1,2…6匹。

自分一人なら何とか切り抜けることはできるだろう。しかし、今は後ろにランもいる。この状態では…

迷っていると、ランが声をかけてきた。

 

「レンドさん、私を置いて逃げてください」

 

「なっ…できるかっそんなことっ!!」

 

こうして話しているうちにも、ランポスたちの包囲網はだんだんと縮まってくる。急がないと、強行突破も難しくなるだろう。やるなら、今しかないだろう。

 

「レンドさん、忘れていませんか?私だって、ランポスなんですよ?」

 

「それでもッ、それでも今の君は、女の子だ。行くぞっ!」

 

ランの手を引いて思いっきり走り出す。腰から抜いたハンターナイフを大きく振り、前方のランポスを無理やりに押しのけて走る。それでも、俺たちの足でランポスから逃げれるわけもなく、もう少しで最初に怪鳥とあった水辺というところで追いつかれた。とびかかってきたランポスをなんとか盾でいなすも足が完全に止まる。

 

「ランッ、先に行け!」

 

そう言って、ランを水辺のほうに突き飛ばした。そのままランポスのほうへ向きなおる。ここからは、背水の陣だ。そんな覚悟で飛びかかってくるランポスを迎え撃とうと腰を下ろす。そんな俺の目の前で…ランポスは、爆ぜ消えた。

爆風に驚いたランポスたちが完全に動きを止めた。空から飛んできた第二の火玉に巻き込まれてもう一匹が爆ぜ散る。それとほぼ同時に、もう一匹のランポスが、空から降りてきた何かに踏みつぶされて絶命。あまりのことに動けない俺の前に、舞い降りた怪鳥の咆哮が聞こえた。

ちらりとこちらを向いた瞳に、

 

(かっこいいじゃん?)

 

と、あのいけ好かない笑顔とともに言われた気がした。それにニヤリと笑い返して、押し出されたまま動いていなかったランの手をとって走り出す。

後ろで聞こえる爆音をBGMに、俺たちはベースキャンプに飛び込んだのだった。

 

 

 

~~~~番外編 end~~~~

 

 

 

 




ということで番外編でした。もうちょっとランとレンドにスポット当てたかったかな…
多分今日もう一本本編を上げると思うのでそちらもぜひ見てくださいね。
では!

感想、批判、待っています。


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11話

唐突にお久しぶりです。なんやかんやで進級できてしまった桜日紅葉雪です。
とりあえず前回言ったように今回はほのぼの回です。最後以外。
あとなんか言うことあったっけ?まあいいか。ではどうぞ~


目が覚めると、俺の背中から何かを叩くような音が聞こえた。同時に走る小さな痒み。

何事かと後ろを向いてみると、二足歩行の猫が数人で俺の背中をつるはしのようなもので叩いていた。一匹の猫が俺の背中から採ったのであろう朱い鱗の欠片を誇らしげに掲げていた。周りの猫はそれを見て無邪気に拍手している。

猫好きの俺としては和む。和むんだが…それで勢い付いてつるはしを振るいまくるのはやめてくれないかね?すごく、痒いです。

思わず身震いしてしまったことで、起きているのがばれたのか、猫たちは一斉に俺の背中から逃げ出して行った。途中で一匹の猫が凸凹している俺の背中で躓いて落ちていったので尻尾でからめとってゆっくりと地面に下ろしてやる。しっぽに絡まった瞬間ビクッと震えていたが、下ろしてやるとこちらに一礼して逃げ出して行った。なんか、いい気分。

その日はその後特に何もなく普通に水飲んで虫とキノコを食べて寝た。…そう何度も出歩くたびに騒動に巻き込まれると思うなよ?

 

次の日目が覚めると、また猫が寄ってきていた今度は起きるのが早かったらしく、俺の背中に縄を投げている所だった。彼らがとっていくのは所詮鱗の欠片でしかなく、一日もたてば治ってしまうので、別に採られてもかまいやしない。痒いけど。うまく縄がかからずに四苦八苦している彼らをポイポイと嘴で背中に乗せていく。アタフタする猫たちだったが、俺が危害を加えないとわかると

 

「にゃほーい」

 

なんて鳴きながら投げられていた。うん。可愛いな。

背中から数枚の鱗の欠片を取った彼らは背中から翼を伝って地面に戻ると、俺の前に整列して一礼してからワイワイ…というかにゃんにゃん騒ぎながら楽しそうに帰って行った。

その日の昼すぎ。ご飯を食べ終えて一服していた俺のもとに、朝方来ていた(?)猫がやって来た。

どうしたのかと思いながら見ていると、身振り手振りを加えながら話し始めた。内容は要約するとただ一つ

 

「子供たちと遊んでくれないかにゃ?」

 

だった。是非も無し。無茶苦茶遊びたい。

首を振って肯定の意を返す。猫は嬉しそうに礼をした後、子供たちを呼ぶのか、一旦戻っていった。…下手するとそこらの人間より礼儀正しいんじゃないかと要らない事を考えつつ、子猫を待つ。多分今俺はものすごく浮かれているんだろうなと思う。まあ、仕方ないよね。可愛いは正義!

5分ぐらい待っていると、地面からひょっこりと子猫が顔を出した。可愛い。その隣にも子猫が出てきた。超かわいい。そのまた隣にも、また、また、また…もう、どうしよう。可愛いが止まらない。

最終的には16匹の子猫がやって来た。

なんだここは、全て遠き理想郷(アヴァロン)か??

俺があまりの光景に固まってじっと子猫たちを見つめていると、子猫はその純粋な瞳で俺を見つめ返してくる。可愛い。

俺がどうしようかと首をかしげると、それにつられて子猫も首をかしげる。どうしようもなく可愛い。

時々手をなめて顔にこすりつける猫らしいしぐさをする。可愛すぎる。

脳内が可愛い一色に染まった俺は、とりあえず考えるのをやめて、子猫との触れ合いを楽しむことにした。朝の猫たちにやったように、一匹一匹をくちばしで背中に放り投げる。最初の一匹がビクッと怯えたものの、投げられてからは早かった。投げられては我先にと翼を伝って駆け下り、もう一度とせがんでくる。数匹の子猫は、ゆらゆら揺れる俺の尻尾を捕まえようと走り回っている。尻尾がぶつからないように細心の注意を払いながら、捕まらないように大きく動かす。尻尾が頭上を通るたびにキャイキャイ鳴く子猫がすごい可愛いです。

最後は洞窟の中で、16匹の子猫を鬼にした追いかけっこをしていた。本気で逃げるわけにもいかないので、ギリギリのところで逃げ続ける。暫くして捕まっちゃたんだけど、どうして人間にかかわらず小さい子って捕まえるときに抱き付くんだろうね?可愛すぎて足が止まり、すぐに16匹皆に捕まってしまった。その後はみんなでお昼寝時間。最初は俺の体の上で楽しそうに大騒ぎしてたのだけど、1人、また一人と眠りについて、最終的には俺を寝床に全員でお昼寝だ。おやすみ~。なんて眺めてたんだけど、結局俺も眠くなってしまった。まあ、ランポスみたいな肉食竜も近くにはいないしいいか。俺も寝ることにしました。おやすみなさい。

目を覚ますと、日がだいぶ傾いていた。背中の子猫たちはまだみんな寝ている。俺は、子猫たちの親が迎えに来るまで再び眠りへと落ちた。ああ、子猫が温かい…

 

翌日、目が覚めると猫たちが俺の周りでワイワイ騒いでた。

俺が起きたのに気付くと、こっちによってきて背中にあげてほしいと言ってきた。別段断る理由もないので乗せてあげる。今日も今日とて「にゃほーい」だ。そんなに楽しいのかね?まあ、俺は眼福だけど。

それにしてもワイワイ騒ぐのを見てるのはすごい楽しいが、痒いんだよなぁ…

 

「ありがとうにゃ!」

 

まあ、こうやって喜んでくれるからそれをこらえる価値はあるけどね。

猫さんたちを見送ってご飯を食べて帰ってくると今度は子猫たちとのふれあいだ。今日は1匹増えて17匹の子猫と遊んだ。

皆を乗せて空を飛んだら、大好評で何度もせがまれてちょっと大変だった。と言うか、空で落ちようとするのはやめてくれ。肝が冷えるから…

そんなこんなで空の旅が終われば昨日と同じように鬼ごっこをした後みんなと一緒にお昼寝。

親猫さんがくるまで一緒に眠る。なんという至福。

 

暫く、こんな日が続いた。猫さんたちとも仲良くなり、いつの間にか、

 

「赤色の旦那~、今日も上げてくださいニャ~」

 

なんて、変な呼称と一緒に呼ばれるようになった。まあ、こっちの言葉もわかるみたいだし、さみしい気持ちも殆ど薄れたからいいこと尽くめなんだけどね。そういえば今更だけど、俺の鱗なんてなんに使うんだろうか?まあ、毎日取りに来るくらいだし需要があるんだろう。俺の気にすることでもないか。

思考を打ち切ってご飯を食べに行く。水飲み場で猫さんにあって、手を振られた。尻尾を振りかえすことで返事をする。木の実を取りに来ていたのだろう。ひとしきり手を振ると足元の袋を背負って帰っていった。何とも平和な光景である。

う~ん、ここ最近大変だったからなぁ。今までの不運がこれで帳消しになった気分だ。

…なんて言ってたら、また何かしらおこりそうだけど。

 

(まあ、そうなったとしてもこの目の前の友人(友猫?)位は守りたいね。うん。せっかく力があるんだし、守れるなら守らないと。)

 

そんな風に思っていた俺は、どこかで忘れていたのかもしれない。この世界で俺の力なんて中途半端もいいところだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、強者の前に、倒れ伏している…。

 

「Gurlaaaaaaa!!!」

 

咆哮とともに金の模様の浮き上がる黒い拳が振りかぶられ、

赤色が咲いた。

 

 

 

 

 

 

前日談

 

猫人族、酒場にて

にゃ~にゃにゃ~ 日の昇る時に~

にゃにゃ 赤い神鳥が目覚める~

にゃ~にゃ~ 我ら猫人~ その背に乗り~

にゃ~あ~ 神の欠片を賜る~

神鳥は子に寄り添い~ にゃあ~ 子は神鳥の加護で眠る~

にゃにゃ~ 神鳥は~ 我らに~ にゃあ~

もっとも~ 近い~ にゃ~ 守り神~

来る禍に~ にゃ~ 立ち向かうもの~

 

猫人族B「いい歌にゃね。何の歌にゃ?」

 

猫人族A「赤色の旦那のお話にゃ~」

 

猫人族B「にゃ~、なるほどにゃ。けど赤の旦那は神鳥っていうより、気のいい兄貴って感じにゃな~」

 

猫人族A「にゃ~、そんな気もするけど、それじゃあ語呂が悪いにゃぁ…」

 

猫人族B「確かににゃあ~…そういえば、来る禍ってなんにゃ?」

 

猫人族A「猫髭の知らせにゃ。最近嫌な予感がするんだよにゃあ…」

 

猫人族B「お前の予感は良く当たるからにゃあ…あ~心配になって来たにゃ」

 

猫人族A「あ~なんかごめんにゃ。ほら、酒でも飲んで忘れるにゃ」

 

猫人族B「おうにゃ!」

 

異常現象調査班

 

ハンターK「おい、このケルビのここ…」

 

ハンターT「んあ?その毛がどうした?」

 

ハンターK「ケルビの毛よりも黒いんだが…それに、異常に硬い。」

 

ハンターT「…ちょっと見せてくれ」

 

………

 

ハンターT「やっぱり固いな。剥ぎ取りナイフでも断ち切れない…」

 

ハンターK「報告…だな」

 

ハンターT「そうだな…」

 

ハンターY「おーい、そっちにブルファンゴが行ったぞー!」

 

ハンターK&T「「え?」」

 

ドスッ!

 

「「ブルッファア!」」

 

ギルド本部への通達

あー、ギルド本部へ臨時連絡。ギルド本部へ臨時連絡。

小・中型モンスターが大量に死亡していた件ですが、沼地・火山と来て、砂漠・密林・雪山でも同じ事象が確認されました。このままこの現象が移動を続ければ、おそらく次は…森丘です。

正直、頭痛が止まりませんが、古龍観測隊を派遣したいので許可をお願いします。

善性イャンクック、ここ最近大人しくしていたと思ったら特大の問題を持ってきそうなんですが…胃薬って、経費に入りますか?

 

ギルドポッケ支部への通達

…はっ、あ、はい。了解です。ギルドマスターの認可において古龍観測隊派遣を許可します。

ああ…ここ最近ようやく通常営業に戻れたと喜べたのですが、そうですか、またですか。とりあえず、平穏無事に済むことを祈りましょう。

本来は、小・中型モンスターの大量死亡は異常事態も異常事態で口の悪い言い方をすればヤベェどころじゃないのですが…

ゴホン。真面目なお話に戻りますが、調査の結果沼地・火山では報告後異常現象は起きていないようです。このことからやはりこの異常事態は、大型モンスターの移動が原因だと考えられます。ギルドにはこのような現象の資料はありましたが、原因については信憑性のある資料が見つかりませんでした。調査班の全滅から考えれば、この原因に殺されてしまったものと思います。また近隣の村から、金色の牙獣種を見たという報告が上がってきているので、このモンスターについても分かり次第報告します。当然ながら、異常現象のあった場所には当面立ち入り禁止です。ハンターの皆様から苦情があるかと思いますが、異常現象以外については話さないようにお願いします。

願わくば、森丘で何かしらの進展があることを祈り…たくはないですね。不謹慎なのは理解してますが。

あ、胃薬は自費でお願いしますね。




と言うことで、次回は戦闘ですね。今回も血が出ますよ。ドバドバ出ます。…多分。
1週間以内にあげられたら褒めて欲しいな(チラッ


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12話

お久しぶりです。
え~、書いてたら2部構成となりました。申し訳ありませんorz
ではどうぞ。


赤色が咲いた。しかしそれは、無残に砕かれるはずだった俺の頭部からではない。

ではどこか。振りかぶられていた金色の模様を宿らせた黒い腕からだ。

突然起きた爆発が、俺の頭に振り下ろされるはずだったその剛腕をその爆風で逸らし、俺のすぐ脇に拳型のクレーターを作った。地面が砕かれたときにおこった空気の悲鳴が俺の耳を蹂躙。あっけなく俺の世界から音が消えた。地面の穴を見るに俺の頭など薄氷のようにあっけなく崩壊していたであろう。まあ、ただ単にそうなるまでの時間が増えただけのようだが。

俺の眼の前で再び剛腕が持ち上がる。数瞬後には俺の頭に振り下ろされて難なく俺の頭を砕くのだろう。あまりの事に動くことなどできない。ただ茫然と、眼前の死を見上げるばかりだ。やがてその剛腕が頂点に達し、

 

バァン!

 

と、再び赤色が咲いた。振り下ろされようとしていた腕が止まる。その腕を持つ強者…金獅子が、その爆発の元凶を見据えた。俺の視線もそれを追うように動き…

 

(!?)

 

恐怖からではなく、驚愕から、再び硬直した。俺と金獅子の視線の先にいたのは足をガタガタと震えさせながら小さな樽を構えた一匹の猫人族だった。

なぜここにいるのか、なぜ俺を助けたのか…何よりもなぜ今逃げ出さないのか。俺の思考がぐるぐると回る。眼前の死そのものに体は完全に動きを止めてしまったが、唯一といっていいまともに動く脳を、その一点に回す。そうしている間にも金獅子はゆっくりと歩を進めて、猫人族に向け無造作に腕を薙ぎ払った。猫人族はそれだけで簡単に吹き飛び、地面を転がる。自身の軽さのおかげか、死は免れたようだが、やはり痛撃だったのだろう、地面でもがいている。そんな猫人族に向けて、金獅子がゆっくりと歩いて行った。いっそ自身に怯える猫人族の姿を楽しむように、嬲るように。その足取りは本当にゆっくりだ。

このままでは、あの猫人族は簡単に殺されてしまうだろう。

こんな自分の周りでわいわい騒いでいたあの猫人族は、いなくなってしまうだろう。

子供たちに会わせてくれた、さっきは助けてくれた。そんな恩を返す機会は、もうすぐ無くなってしまうのだろう。

目の前でまた、猫人族が吹き飛ばされる。やはり手加減をしているらしく死んではいない。しかし、先ほどよりも確実に動きが小さくなっている。

 

このまま見ているだけなのか?  行っても無駄だろう。

何もできないまま終わるのか?  何をしても意味ないだろう。

何かをする力があるんだろう?  自惚れだった、馬鹿だろう。

無力を噛締めて動かないのか?  俺は弱いんだ。今さらだろう。

 

俺の頭の中を、諦観が支配する。そんな中で、何時か考えた言葉が浮かんでくる。

 

 

 

 

 

目の前の友人位は守りたいね

 

 

 

 

(何が守るだ…無駄だろう。意味ないだろう。馬鹿だろう。今さらだろう。本当に、わかりきってることだ。)

 

けれど、あの時にそう思った気持ちは本当だ。どこのだれにも否定はさせない。

萎えていた体に再び火が灯る。決して消えない、淡くも強い火が。

 

(…でも、やるんだよ!)

 

体の奥で何かが弾けるのを感じる。これまでも何度か起きた不思議な現象。けれど今回は少し違う。今までは何かに体をコントロールされていたような感じだったが、今はそんな枷は無い。拓けた世界の中で、地面を思い切り蹴りつけて走り出す。再び猫人族を殴りつけようとしていた金獅子がこちらに気づくが、構わずに飛びかかる。相手は強者とはいえ、こちらは飛竜だ。大きさでは大きくは劣っていない。超重量同士のぶつかった大きな音が響き渡り、勢いの強かった俺が金獅子を猫人族の近くから弾き飛ばした。吹き飛んだ先でのっそりと起き上った金獅子に向かって自らを、友人を守り抜くことを決めた自らを誇るように、翼を広げる。大きく、尊大に、見せつけるように。金獅子は、そんな俺を見て小さく後ろに飛ぶと、大きな咆哮をあげた。離れた場所にいる俺にまで、空気が震えるのがわかった。それと同時に、背中を覆っていた金毛に光が走った。それは瞬く間に広がり、体中の金色の模様から光が発せられる。ちょっと見ただけでわかるほど、金獅子の体は放電を起こしていた。

しかし、そんな奴の姿を見ても、俺は欠片も動揺しない。冴え渡った頭で、奴の一挙一動をも見逃すまいと観察を続けていた。そうして一瞬ののち、奴の後ろ脚の筋肉が、一気に収縮した。同時に俺も足に力を込める。

同時に走り出し、お互いの間に会った距離が、一気に食い尽くされた。お互いに駆け出した勢いのままゼロ距離で接触する。奴は左の拳を振りかぶり、勢いのままに叩きつけてくる。その一瞬の間に、振りかぶられた左腕の下をくぐるように、突進の勢いを崩さぬままに地面を蹴って跳ぶ。もちろん体勢は限界まで低くしてだ。俺の後ろで拳が地面をたたき、再びクレーターを作っていた。しかし、そんなことはわかりきっていたことだ。走り抜けた勢いそのままに、空へと飛び立つ。そのまま十八番といっていいバレルロールで反転。落下の勢いをつけて奴の背中に爪を振り下ろす。綺麗に入ったが、筋肉の鎧に阻まれて傷を与えることはできなかった。まあ想定の内だ。そのまま縦に180度回転し、バレルロール状態から元の体制に戻る。いわゆるアウトサイドループと云う奴だ。そのまま右旋回で金獅子を視界に入れる。

背中を蹴られた金獅子がこちらに向き直る。空を飛び、抗戦の構えを崩さない俺を見止めた金獅子は、前足をしっかりと地面に突き刺して首をもたげた。おそらくビーム攻撃だろう。少し動けば普通にかわせる。時計回りに金獅子の射線上からずれる。同時に放たれたビームが先ほどまで俺のいた空間を焼き払い、そのまま避けた俺を追尾してきた。再び時計周りに動きビームから逃げる。何が起こったのかと金獅子のほうを見ると、首をまげて、俺を見ていた。その動きに合わせてビームは俺を追ってくる。思えば当然だ。ただ一直線にしかとばない攻撃を持続させるなんて隙以外の何物でもない。射線を動かせることなど、不思議でもなんでもなかった。

やがて、ビームが途切れ、再び相対する。先ほどと違うのは俺が空に上がっていることか。

先ほど交錯する中でわかったことが幾つか。

まず第一に、圧倒的に火力が足りない。

そして第二に、地上での機動力は向こうが段違いで上。

次、第三。至近距離でずっといると金獅子の纏う電気で麻痺する。

第四、今視界に映っているのだが、あの猫人族は未だに動けない。

…結果、俺はこの絶望的な戦いを続けなければならないということだ。唯一の希望は、相手の対空技が少ないということだろうか。俺の知っているゲーム内での金獅子の対空になりえる技は、高空から回転しながら突撃してくる技、通称「飛鳥文化アタック」。先ほど放ってきたビーム、通称「気功波」。そして電気の球を飛ばしてくる技、通称「電気玉」の3つだ。…そうそう、エリア移動のときにやってた大ジャンプも気をつけないといけないな。あれで跳びかかられる可能性もある。

しかし、地上にいれば先ほどあげた3つ以外にも、あの剛腕を使ったいくつもの攻撃がある。やはり、勝機は空にあり…か。

この思考を一瞬で終わらせ、眼下の金獅子に意識を向ける。こうしてできた奇妙な膠着状況を、今度は俺から破った。飛行高度を落とさずに金獅子の真上へと飛び、上空からブレスを落とした。

人間でいう、「フッ」というはき方ではなく、「ハァー」というはき方で。広範囲に広がった粘着質の赤いブレスは地表に落ちるや否や、ナパーム弾のように火を噴きあげた。それは当然金獅子を巻き込み…剛腕の一振りでかき消された。わかっていたことではあるが、俺の作る火では金獅子には効かない。おそらくだが、俺の最大火力である青い火も金獅子の体毛に守られた皮膚を焼くには力不足に過ぎるだろう。

 こちらに向き直った金獅子は俺から間合いを取るように後ろに、つまり俺の背後方向に飛び下がり、そのまま飛びあがった。俺よりも高い所まで。なんという脚力か。そうして、空中で回転、加速しながら俺のほうへと向かってくる。今さらだが、本当に物理法則仕事しろ。なんで空中で別方向に向かって加速できるんだよ!嘆きながらも真上に上昇する。俺の尻尾をかすめるように金獅子は落下していき…

 

バシュッ!!

 

同じ方向から放たれた金色の光が、俺の左の翼を消し飛ばした。

空中で完全に制御を失った俺は落下していく。そんな中見えたのは、着地した金獅子の横にゆっくりと歩いてきた、もう一匹の金獅子だった。俺の翼を消し飛ばした金獅子は、空高くまでどこまでもどこまでも響き渡るような咆哮をあげた。

 

 

 

 

猫人族side

 

痛む体を必死に動かそうともがく。

僕が助けようとした、僕が守ろうとしたあの優しい怪鳥は今、僕を守って戦っている。

守ろうとしたことは後悔していない。あそこで何もしなければあの怪鳥は確実に死んでいただろう。けれど、助けようとした怪鳥に守られて、結果的にとはいえあの怪鳥の退路を断ってしまっているのは、悔しすぎる。

先ほどの光景を思い出す。あの優しい怪鳥は、目の前に迫ってきていたあの金色の悪魔を吹き飛ばした。そうして僕の前に立ちはだかり、翼をゆっくりと広げた。その翼の先から赤い光が出てきて怪鳥を包み込んだ。赤く輝いた怪鳥は、綺麗で、大きくて、かっこよくて…昨日酒場で聞いた歌を思い出す。「赤い神鳥」、「来る禍」。きっとこの事だったのだろう。

少しだけ、体に力が戻るのを感じる。ゆっくりと起き上ると、少し離れたところで炎が立ち上った。きっと、「赤い神鳥」の仕業だろう。未だ消えていない「赤い神鳥」の命に安心して、逃げようと足に力を入れたそのとき、地上から金色の柱が空に消えていった。少しあとに、おぞましい咆哮が聞こえてくる。何が起こったのかは分からない。けれど、なにかまずいことが起きたに違いない。

ようやく動くようになった体に鞭打ち、僕は村へと駆け出した。

 

 

 

ギルドポッケ支部での会話

 

事務員「あの、シャーリーさん…」

シャーリー「…何かしら?」

事務員「暫く前からあった異常現象なんですけど…」

シャーリー「ええ」

事務員「沼地と火山って、離れてますよね。ということは、異常現象の原因って、1匹じゃないんじゃあ…」

シャーリー「…これ、見てみなさい。さっき、ギルマスから渡された依頼書」

事務員「………え?」

シャーリー「つまり…そういうことよ」

 

      討伐クエスト

      一対の金色悪魔

    依頼主:ハンターズギルド

    依頼内容:

    守秘義務が課せられている

    ため、公開不可。非常に危険

    な依頼のため一部の者に指

    名依頼とする。受注した者

    は、ギルドマスターの部屋

    に集合すること。

 

    報酬金 : 60000z

    契約金 : 10000Z

    指定地 : 森丘

 

    指定モンスター:

    ラージャン激昂種2頭

 

    特殊条件:

     特別指名依頼




元ネタが双獅激天ということに気づかれず大変ご満悦の俺であります。
えっと、伏線としては最初に起こった異常現象の場所が沼地と火山で、2Gのロード画面基準ですが離れているっていうところですね。まあ、その後の異常現象の動きが特に確認取らずにやって矛盾ができたせいで気づかれなかったのかもしれませんが。

それでは、失礼します。


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13話

お久しぶりです。


羽を失って飛び続けることも出来ず、俺は為す術なく地面に落下していく。

迫る地面。某TRPGでは最強の武器扱いのそれに、俺は一直線に突貫を行う。

ドスンっと大きな音を立てながら俺は地面に落下した。

 

(落下ダメージ2d+100どうぞ。…あ、回った。)

 

うん。馬鹿なことを考えるのはやめて現実をみよう。まずは状態確認。

右翼、無事。大きな傷はない。左翼、半ばから消えている。千切れているわけでもなく、消滅しているといった表現が正しいとさえ思える傷だ。痛みはもちろん感じているが、超高熱の電撃に晒されたためか傷口が一瞬で焼かれて、炭化しているので出血は無い。ひどい状況だが、まあ俺は死んではいない。最悪ではないな。次、胴体および足。胴体に大きな傷はなく問題ない。が、先ほどの落下で無理やり足から降りた…落ちたせいで激しい痛みが襲ってきている。どうなっているかはわからないが、軽く足踏みをした感じでは骨は無事なようだ。もちろん激痛は走るから全力で走ったりは相当厳しいだろう。次、頭と尻尾。両方とも無事だ。かすり傷しかない。そしてこれは体全体で言えることなんだが…体が赤く発光している。いや、俺の鱗が赤いのは今に始まった事じゃないんだ。そうではなくて、光を発しているというかなんというか…そう、トラン〇ムみたいなあれだ!別に早くなったりはしてなさそうだけど。

と、まあ状態確認はこんな所か。次、状況確認。近くに敵影…ってか金獅子の姿はなし。と言っても木々に遮られているから案外近くにいるかもしれないが。音が聞こえないのは意外と不便なものだ。あの猫人族はどうなったかはわからないが、だいぶ引き離してたしたぶん大丈夫なはず。となると、最善は俺も逃げることなのだけれど…

と、ここまで考えたところで、地面が微かに揺れた。嫌な予感しかしない。もし次戦闘になった場合、アドバンテージに数えていた制空権は消失。加えてこちらは傷を負い、攻撃された時の状況的にもう一体増えているのだろう。絶望しかねぇな。逃亡は…おそらく無理。能力もコンディションも向こうが上なんだ。よほどのことがなければ不可能だろう。

この状況下で使える情報はゲームだった時の行動パターンだ。とは言えすぐにいい案なんて浮かんでは来ない。何をするより先に身を隠そう。

派手な落下痕の残る場所から、痛みをこらえながら歩く。未だに地面の揺れが規則的に響いてくるのが恐ろしい。ゆっくりと、足を引きずりながら進んでいく。緊張の為か、少しずつ痛みは引いていった。3分ほど経っただろうか。規則的に響いてきていた振動が最後に一際大きな振動を俺に伝え消え去った。

 

(助かった…のか?)

 

後ろを振り向いた俺が見たのは、空から背の高い木々をへし折りながら落下してくる金獅子の姿だった。それを視認すると同時に俺は地面を蹴って横に跳ぶ。急激な動きに足が絡まりそのままこけてしまったが、金獅子の攻撃はなんとか回避することが出来た。というかマジで危なかった。この変に冴えた感覚じゃないいつもの状態なら確実に今ので死んでいた。

しかし、絶体絶命であることに変わりはない。さっき気がついたが、聴力がほんの少しだけ回復している。木の折れるバキバキという音が微かに聞こえていた。ほら、また木がバキバキという音が聞こえる。何とか立ちなおして直に再び地面を蹴り飛ばす。その先にあった木に倒れかかるようにして体勢が崩れかかるのを堪える。ほぼ同時に後ろに金獅子が着地する音が聞こえた。追い詰められた…な。体をゆっくりと木から離す。振り向けば金獅子がゆっくりと身を起こすところだった。

さて、追いつめられるところまで追いつめられてしまったが…この窮地に置いて、やはり俺には不思議な全能感があった。

極限状態まで張りつめられた俺の視界は異常なまでに映るすべてのものを細部まで脳につたえる。かすかに動かした体からはくすぶる熱が伝わってくるだけで、消飛ばされた羽からも痛みを感じることはなかった。ふと考えてみれば先ほど気に倒れ掛かった時も痛みを感じることはなかった。よく考えてみれば、あたりを警戒しているならば体から発せられる痛みの信号もしっかりと感じるはずで、歩いているときに痛みが消えて行った時からおかしかったのかもしれない。

ただ全能感があるからといって傷が回復したわけではないので空に上がることはできないだろうが、ここから先逃げるという選択肢を失った俺に許されるのは抗うことだけだ。おとなしく死ぬ?そんな選択肢、最初からあるはずもない。

さあ、種族の壁もこちらの傷も意味さえもすべて無視して始めよう。勝てば生き、負ければ死ぬ、殺し合いへ。

 

体の表面にやけどの跡のある金獅子に向かって走り出す。新しく表れた金獅子が俺を轢き殺そうと俺に向かいその体を弾き飛ばし、俺を正面から消し飛ばすつもりか火傷を負った金獅子が気功波を放つ。その予備動作を見た瞬間に俺は地面をけって宙に浮く。当然半ばから消飛んだ左翼が揚力を生み出せずに沈み込み、俺は突進の速度そのままに、俺の左後方から突っ込んできた金獅子の頭を踏みつけて少しの浮遊感ののち、地面に落下した。頭を踏みつけられた金獅子は急激な荷重に耐えられず前転するようにこけ、その金獅子に向け、気功波が放たれた。自身が扱う力だからであろう。背に生える金色の体毛にその大半が効果を表すことなく吹き散らされた。しかし、それでもその防護を抜いた僅かな力が、金獅子の皮膚を焼き切り傷をつけた。

気功波を放った金獅子は反動で動けず、指向性をもっているとはいえ唯のエネルギーの塊である気功波では、トップスピードに乗った金獅子を止めることなどできず、地面を転がった金獅子が硬直で動けない金獅子に激突。二体はもつれるように地面を転がり、その体に僅かな傷を負った。

 

…どっちがどっちかわからなくなりそうだから最初に現れた小さい方を金獅子(小)次に出てきた出かいほうを金獅子(大)と呼称しよう。

 

地面に落下した俺は幸いなことに前に進む力の大半を金獅子(大)との衝突で失っており落下したとはいえ体勢を大きく崩すことはない。しかし、全体重と慣性まで利用したとび蹴りでこかせることしかできないとは…やはり身体能力の差が大きすぎる。首の骨でも折ってくれればよかったのに。

っと、無駄なことを考えている時間なんてない。急いで移動しないと。逃げるんじゃあない。向かう場所はそう、金獅子たちが並んで攻撃できない場所。いくつか候補が上がるが、その中でも特におあつらえ向きな場所に行く。そう、細い道に切り立った崖。かつて黒狼鳥と戦った場所だ。ゲームでいうとエリア3だったかな。小さな違和感を放つ足を動かし、俺を一時的に見失っている金獅子から離れていった。

 

 

 

 

俺を初めとする大型モンスターは、ハンターとは違い場所を広く取らなければ動けない。ゲームでは見えない壁に阻まれていたが、現実ではこのエリアで突進しようものなら崖に飛び込んで行ってしまうのは当然と言えるだろう。そんな小さなエリアに生えている木の下で、俺は体を休めていた。すぐ近くにある薬草は食べつくしている。ペイントの実も混じっていたのか口の中がべた付くが、まあ仕方がない。このまま何事もなく時間が過ぎていけばいいとは思うが、そんなに上手くいく事はないだろう。あの悪夢のような二体がそう簡単に諦めるとは思えない。俺は動かずに、その時を待つ。

 

暫くして、俺のもとに規則正しい振動が響いてきた。考えるまでもなくあいつらだろう。

俺は目を開きその二体を視界に捉えた。さあ、ここが決戦の地だ。

翼を広げて声を上げる。地を踏みしめる。内容なんてかけらも知らないが、こんな時に言うのだろうなと思える一言がふと心の中に浮かんだ。

 

(覚 悟 完 了)

 

その心が、俺の中にあった僅かな怯えを押し流していく。

立ちふさがるのは圧倒的な強者が二体。対するこちらは傷を負い有効打すら持たない俺がたった一人いるだけだ。

沸々と湧き上がる感情。それは、恐怖でも絶望でもなく、不思議な高揚だった。心の中で思わず苦笑いをする。今日だけで俺はどれだけ戦意が上がるのかと。

猫人族に助けられ心機一転。

戦うことを決めて自らに活を入れる。

そして今、少しの間を置きできた心の余裕に闘志が満ち満ちている。

ああ、これはもう、不可能なんてものはないのではないだろうかと、先ほどよりも色濃い全能感が体を支配した。

こちらの戦意高揚に反応したのか、二体の体に光が走り、たちまち放電が開始された。

本気の表れか咆哮を上げる二体に復活していた聴覚を刺激された俺は当然のことに

 

ブチ切れた

 

(煩いって言ってんだっ!ゴルァァァァアアアアア!!!)

 

「GULUAAAAAA!!!」

 

俺の喉から出たとは思えないような莫大な音の奔流が、二体の出した咆哮を掻き消し、それだけでは飽き足らないと二体の体を叩いた。わずかに怯む金獅子達。

そんなさま等見ることもなく、自らの声に違和感さえ抱かず、俺は熱を喉に感じながら駆けだした。人間とは比べ物にならない大きさを持つ俺の全力ダッシュは瞬く間に金獅子達との間にあった距離を埋め尽くした。そのまま小さくジャンプして、金獅子(小)の顔面に何度も嘴を叩きつけた。嘴に高熱の液体を含めたまま。青白い炎が金獅子(小)の顔で爆発し、俺と金獅子達は、爆風によって大きく距離を取り、俺に殴りかかろうとしていた金獅子(大)の剛腕が、金獅子(小)の顔面をぶん殴った。眼前を火に覆われ視界を遮られていた金獅子(小)は当然それを避けられず、もろに攻撃を受けて吹き飛んだ。ただでさえ目を高熱の炎に焼かれていたのにそこに追撃に入った金獅子(大)の拳を受け、その目は、完全に機能を失った。さて、ゲームをプレイしたことのある人ならわかると思うが、金獅子は閃光玉等で視界を失うとこれでもかというほど暴れまわる。当然、今視力を失った金獅子も同じだった。

起き上がった金獅子(小)は、先ほどまで俺がいた場所に向かおうと大きく飛び出し、拳を振り切った状態の金獅子(大)に激突。訳も分からぬままに横っ飛びに跳ね…崖下へと落下していった。まあ、あれで死んだとは思えないが、これで一体を戦闘不能に持ち込めた。まずまずの結果だろう。落ちて行った金獅子(小)に目もくれず、俺は再び駆けだした。

背後から予期せぬ突撃を受け体勢を崩していた金獅子(大)は、突っ込んでくる俺を視認すると、すぐさま顔を腕で覆った。先ほどの目つぶしを警戒しているのだろう。さあ、ここからはぶっつけ本番の大博打だ。失敗すれば絶好の好機を失いほとんど勝ち目のない戦いを続けることになる。だが、成功すれば…これでこの戦いが終わるかもしれない。

どちらにしても俺は戦闘不能になりそうだが…まあ、やるしかないことに変わりはない。俺は既に覚悟完了しているのだから。

お互いの距離がまだほんの少しあるうちから嘴の中に熱を溜める。そのままジャンプし

 

体を左に傾けながら右に飛んだ。

 

暫く前の鋭角カーブの再現のように俺の体は急激に地面に近づきながら相手の背後に滑り込むように回り込み、俺は目の前にある金獅子(大)の尾に喰らいついた。金獅子(大)が絶叫を上げる。俺の体は尾を加えたまま地面に落下し、それでも勢いを殺し切れず地面を滑る。金獅子(大)の尾が限界まで伸び切り、張り詰める。俺の嘴の中では尚も溜まり続ける熱が金獅子(大)の尾を徐々に焼切っていく。

とはいえ、俺の方も無事では済まない。放電をし続ける金獅子に常に密着しているため俺の体には常に電気が流れ続けている。それも、現在進行中でどんどん強くなっていっているのだ。正直かなりきつい。が、ここで離してしまえば満足に動けない今の俺の負けは確定するだろう。

お互いにどうしようもない状況の中、金獅子(大)は絶叫を上げ続け、俺の嘴の中の熱もどんどん高まっていく。

ふと金獅子(大)の方を向けば、不思議なことに、金の鬣が長くなっていた。よくわからんがサイ○人っぽさがさらに上昇している。これ、本当に版権大丈夫なのか?

暫くこの状態が続き、ついに金獅子の尾が焼切れた。同時に俺は電気から解放され、その場に倒れ込む。一方の金獅子は狂ったように吠え続け、暫くののちに、その体を地に横たえた。

そのまま時間は過ぎ去り俺の体のしびれが取れ立ち上がっても、金獅子がその体を再び起こすことはなかった。

ふと吹いた風がその鬣を靡かせ、戦いの終わりを俺に告げた気がした。

 

(……勝ったんだよな)

 

そんな考えが俺の頭の中に浮かんだ。次に浮かんできたのは何とも俺らしいともいえることだったが、戦いの終わりを告げるにはいい考えだったのだろう。

 

(ああ、今日の晩飯は豪華になったなぁ…)

 

…そもそも、食えるのかどうかも分からないが。

 

 

古龍観測隊隊員

 

病院を退院してから初めての仕事に、儂は胸を躍らせておった。

病院の退屈な生活がやっと終わった。やっと仕事に戻れると。

…今思えば、浅はかだったとしか思えない。ああ、儂は目の前で起こったことを本部に報告しなければいけないという当たり前のことさえ恨みがましく思えてしまう。またあの現場を見ない狸どもに頭が大丈夫かと心配されてしまうのだろうと思うと…うっ、胃がっ!

…ふう、儂の穴を埋めてくれていた若造にもらった薬と言葉がなければ即死しておった。

「激流(げんじつ)に身を任せ同化しろ(ながされろ)」

など、誇り高き古龍観測隊が何を言うのかと起ったものだが、今にして思えば至言じゃな。

ああ、あの善性イャンクックにはほとほと呆れるわい。どこの世界にG級個体しか確認されていない金獅子の激昂種を二体相手取り生き残るどころか撃退、しかも一体は討伐ときた。

もう嫌じゃ…儂、この仕事が終わったら辞表を出す。だからもう少しだけ耐えてくれ儂の胃よ。ああ、病院が恋しい。

 

ギルド本部への通達

…本日の善性イャンクックの生活。

 金獅子(激昂種) 討伐1

         撃退1

報告を終了します。病院行きたいので短いですが切り上げさせてもらいますね。

 

ギルドポッケ支部への通達

…いろいろ言いたいことはありますが、明日言わせてもらいます。

とりあえず、有給出しときますね。

 

 




自分も病院行きたいです。
全体会議で盛大にミスった…orz


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14話

今回は早いぞ!?

えっと、戦闘はないですが人によっては残酷な表現に感じるかもしれません。一応注意しておいてください。


延々と吹き出し続ける溶岩が、火山を赤く紅く照らし出している。

火口を見下ろすその場所に、何かの羽ばたく音が聞こえて来た。

背に溶岩吹き出す光景を背負い、玉座に降り立つのは一対の龍。

灼熱よりも、溶岩よりも煌々と輝く赤き炎帝。

蒼い炎を思わせる煌めきを放つ青き炎妃。

番の古龍は、遠き西の地を眺めながら

重く響く

高く通る

大きな咆哮をあげた。火山が脈動する。動乱は近いと。一対の炎龍の背後で、一際大きな噴火が起こった。

 

 

(飛べないって、不便だな…)

 

金獅子の死体を咥えたまま、俺は歩いていた。目的地は飛べば直ぐとは言え、翼を失った今足を使って歩いていくしかない。そうして気付く意外と歩くには遠い距離。

金獅子を咥えての移動なので、移動速度はさらに輪をかけて遅くなる。というか、筋肉の塊だからだろうとても重い。筋肉って脂肪の何倍の重さだっけ?6倍?よくは覚えてないけど、これだけの大きさになると相当重量に違いが出てそうだ。

肉を食いたいといったが、血抜きはしてない。というか、やろうとしたけど無理だった。嘴じゃあ鈍器で殴ってるようなもんだから脈を裂けないし、ついばもうにも筋肉が固すぎて無理。爪はそもそも刺さらないで、血抜きなんてしようがないのだ。

だから移動中。巣に向かってるわけじゃあない。ゲームでいうエリア1だ。なんでかっていうと、話の流れで分かるかもしれないけど、血抜きのため。

 

(ああ、歩く度に体の節々が痛い…早く肉食って寝たいなぁ)

 

なんて考え事していると、どこからか声が聞こえて来た。

…と言うかこの声

 

「赤色の旦那~!ご無事ですかにゃ!?」

 

なんていいながらこちらに走り寄ってくる猫人族。さっき俺を庇ってくれた子だ。

猫人族は俺の近くまで走り寄ってくると、俺の咥えている金獅子を見て毛を逆立てた。

 

「ふにゃ!…にゃー、さすが赤色の旦那。大戦果ですにゃ」

 

そういいながら、息絶えた金獅子をつんつんとつつく猫人族。

苦笑いしながらも、この先のエリアに行くからそこに刃物を持ってきてほしいと頼む。

不思議そうにしてはいたが、一応OKはしてもらえた。あの猫人族の無事も確認できたし、心置きなく自分のことに集中できそうだ。

少しだけ軽くなった足取りで、俺はエリア1を目指した。

 

 

 

 

 

 

てなわけで着きました。エリア1。水飲んでたアプトノスさんは驚いて向こう岸に行っちゃったけど、ごめんね。

数分もしないうちに猫人族がやってきた。…10人くらい。それぞれがナイフのような刃物を持っている。猫人族に頼んで金獅子の首を切ってもらう。血管まで切らないといけないから割と深くまで。

と、頼んだのはいいけれど、やっぱり猫人族の力では金獅子の皮膚を破れなかった。仕方がないので猫人族からナイフを借り、金獅子の牙の上にナイフを当てた状態で固定し、俺の嘴で上からぶっ叩いた。

全体から見れば微々たる量ながら結構な勢いで血を出しつつ牙が取れた。長さも結構あるし多分いけるはずと、今度はその牙を嘴で宛がい、それを上から足で押さえつけた。体重が乗っていくごとにゆっくりと牙が金獅子の首に食い込んでいく。中ほどまで入り牙が固定されたのを確認して足を離して上から嘴でぶっ叩く。牙が、ズブリと音を立てて首に突き立った。猫人族に牙を抜いてもらう。

 

キュポンッ

 

と、栓の抜けるような音がして、金獅子の首から噴水のような血が立ち上った。すかさず首を水の中に沈める。当然入っていけば入っていくほど深くなっていくため、首が下を向き、少しずつ川の水に血が流されていった。水につけた理由は傷がふさがらないようにするためだ。人間がリストカットするときも、ただ切っただけでは致死量の出血が起こる前に傷口が固まり止血されてしまう。しかし、風呂場でもなんでも水につけていれば傷口が固まることはなく、血がなくなるまで出ていくというわけだ。そもそもかさぶたができるのだって血の中にある血小板とかなんかがくっつきあってできてるみたいだし、今回みたいに流水があれば問題ない。

血抜きをしている間暇なので、近くに生えている薬草をついばんだ。やはりすぐに傷がなくなったりはしないが、痛みは引いて行っている。プラシーボ効果なのか本当にすごい草なのか…よくはわからないが、まあ便利だから良しとしよう。アオキノコと一緒に食べたら効果上がったりしないかな?またいつか試してみよう。

薬草を食べても血抜きはまだ終わっていない。金獅子の周りだけ川の色が変わり、なんか肉食魚っぽい魚がよってきた。アロワナとかアロワナとか。

あまりにもたくさん来たので一匹食べてみた。…美味しかった。美味しかったけど、口の中で弾けて小骨が喉に刺さっていたい。破裂アロワナだったんだね…金獅子とは別の位置にブレスをはいて喉の小骨を焼却処分する。…小骨をとるためだけにブレスをはいたイャンクックって多分俺が初めてだと思う。仕方ないね。痛かったんだもの。

肉食魚がやってきたことでまた水竜なんかが来るかと思ったがそんなことはなく、しばらくして川の色は元に戻った。金獅子の体はやせ細り、ムキムキマッチョといった感じだったからだが、血の抜けたことで体積が減り、皮がブヨブヨするほどにまで余っている。何とも不細工な格好だ。血の抜けたことで筋肉の重量も落ちたのか、持ち上げなおすとすごく軽かった。これなら持ち運びも楽になりそうだな。さっきの薬草で歩くのも楽になったし。

猫人族にお礼として先ほど使った牙をあげて別れた。家に帰ったら飯だな。中の肉をどうやって食うかあんま考えてなかったけど、楽しみにしよう。流石にさっきの血抜きで全て血がなくなったわけではないようで、まだごく少量ながら血が出ている。生のままではあまり調理保存できないだろう。

 

(いったん全身に加熱を行ったほうがいいかな?)

 

けど、ブレスじゃあ皮膚も焼けなかったしどうしたものかね?

巣についた俺はとりあえず物は試しと金獅子に食らいついた。キチギチと嘴を閉じようとするが、皮が千切れる気配はない。余った部分が逆に千切りにくくしているようだ。

どうしようかと考えていると、一つだけ閃きがあった。とりあえずやってみようと皮にブレスを吐く。しばらくすると、縮れてしわしわになる。それを確認してブレスを吐く位置を変える。1時間もこの地味な作業を続けていると、全身の皮が縮れ、皮が余ってブルドックのようだった体が、ミイラのようにカピカピになっていた。その状態で食らいついてみる。先ほどと違い、皮ではなく肉をかんだブニョッともコリッともつかない感触が俺に伝わってくる。金獅子の体が浮かないように頭に片足を乗せ、そのまま首を思いっきり跳ね上げるとブチィという音を立てて、肉が剥がれた。気をよくした俺は、そのまま顔以外の殆どを千切り取った。残ったのは骨だけ。内臓なんかは肉を千切るときに一緒に千切れたり引っ付いてきていたりする。結構スプラッタな光景だが、俺はもう見慣れてしまった。引っ付いたりくっついたりしている内臓を丁寧にとり、内臓はそのまま俺の胃へボッシュート。苦味が強かったが、砂肝のような触感が楽しめた。うむ。うまいな。残った肉はいったんひとまとめにする。その中から大体半分ほどを塩漬けにして燻製。残りをいつもの岩のプレートで焼いて食べる。全部そのまま食べるのももったいないので、一部は肉をミンチになるまで叩き潰し、粘着草とマイルドハーブ、これまたミンチのレアオニオン(一個しか見つけてない)を混ぜて、ハンバーグのようにして食べる。油を強いていないせいで、プレートに肉が引っ付くが、汚いとも思わないし、後で削って食べるさ。肉の味だが、うまいといえばうまかった。ただ、筋肉だからか結構筋っぽく、細かい処理ができない現状ハンバーグにしたのは失敗だった。まあ噛めば噛むほど出てきた肉汁はとてもおいしかったのだけれど。

ひとしきり食べて満足した俺は、デザート代わりと、金獅子の目を食べてみた。父さんが魚の目玉がうまいといって食べていたのを思い出したからだ。あの時の俺は気持ち悪いと食べなかったが、まあもっと気持ち悪いものも見てる俺は、別段に忌避感を抱くこともなく普通に食べた。

それよりも眼球を取り出す時に、視神経がブチブチィと音を立てて千切れたのが少し気持ち悪かった。で、目玉を食べてみた感想だが、なんだかイクラのようだった。口の中でぷちっと弾け、中身のゼリー状の液体が口の中に広がって、生臭い匂いを立てたが、味は上手かった。後で口を洗っておこう。匂いが残りそうだ。プチッという感覚が気に入った俺は、ちゃっかり両目とも食べて、満腹感に幸せを感じながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

で、目が覚めた。朝飯は骨と昨日の肉。骨はマ王のやつよか固くなかったから普通にせんべいのように食べた。

美味しいね。んで、負傷時恒例現状確認。昨日損傷軽微だった首より上。当然問題なし。違和感もないし、水に映った顔にも異状なし。次、胴体および足。…若干太くなった気がする。大分格上の肉だろうし、その影響だろう。後で試してみる必要あり。痛み等は特になしっと。はい、お次は本命の両翼。右翼、問題なし。こっちも若干翼膜が厚くなってる感じはあるけど、違和感はない。左翼…異状あり。

うん。問題はないけど異状はある。っていうか、治ってた。半分ぐらいなくなってた翼が治ってた。早くね?いくらなんでも早くね?マ王のとき骨がくっつくまで何日かかったよ…あー、翼膜の厚みは見たところ右翼と同じくらい。こっちは脚力とか以上に注意して試してみよう。あれだけ死と隣り合わせの戦いだったのに傷跡は直ぐに癒えてしまった。いいことではあるがなんか釈然としない。…考えても仕方ないか。とりあえず、確認がてら水飲んでこよ。

 

 

猫人族side

 

猫人族長「さて皆の衆、よく集まってくれたにゃ」

猫人族B「いえ。それで族長、話とはなんですかにゃ?」

猫人族長「うむ。これにゃ」

猫人族A「…なんですかにゃ?何かの牙に見えるのですが」

猫人族長「金の悪魔の牙にゃ。赤い竜に頂いた物にゃ。これをどうするか今日は話し合ってもらいたいにゃ」

 

猫人族たち「ザワ・・・ザワ・・・」

     「ヒキワケニシネェカ…」

     「ドォーミノー!サッサトヤルノデェース!」

     「ヤル?エィッ!」

     「キャー、エッチー!」

     「オ、オレハワルクヌェ!」

 

猫人族I「うるせーですにゃ。普通にこの里のシンボルにでもするのですにゃ…」

総員「それにゃ!」

 

以降この村は、猫人族たちの間で金牙の村と呼ばれるようになった。

 

 

ギルド本部への通達

なんかアレがラージャン食べてたらしいですけど、それ以外は平和でした。

ラージャンの肉って食べたことある人いるんですかね?そもそも目撃情報が少なすぎて研究も進んでないみたいですし…

あ、アレが撃退したもう一頭のラージャンはしばらくして衰弱死したようです。古龍観測隊が死体持って帰ってるみたいですから、研究が進むといいですね。

 

ギルドポッケ支部への通達

確かに平和ですね。いいことです。

ついにアレ呼ばわりですか。まあ、イャンクックの皮をかぶった何かですし問題ないですかね。ラージャンの肉なんて開拓民の皆様ぐらいしか食べてないんじゃないですかねぇ?少しだけ食べてみたい気もします。古龍観測隊が引き取ったラージャンはギルドで引き取りました。丸々一匹ですから大分進みそうですよ。…どっかの王女様がコート作るから皮よこせなんて言ってますけど…

 

 

 




平和だ…次の次で森丘はいったん終了かもしれん。
先生の異動とか、ギルドも苦労しそうですねぇ・・
先生も新しい生徒を迎えるでしょうし…
先生もギルドも頑張ってください。


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15話

ひっそり更新。一年以上も更新してなかったとか知らない。
あ、うちはホワイト企業ですよ?いや、本当に。ただちょっとだけサービス残業時間があるだけだから…(震)


(みんな聞いてくれ!突然だが、引っ越そうと思う)

 

いや、なんでって言われてもお前らなぁ…ここにいただけで何回理不尽に襲われた!?

卑猥竜は…まあともかく、火竜にマ王、金火竜・黒狼鳥・水竜、極めつけに金獅子だぞ!しかも2匹。

絶対ここ呪われてるわ。アプトノスさんたちも良くこんなところにいるよ。ふと浮かんだ俺が呪われてるという考えは那由多の彼方へと捨て置いておく。私が生きるにはそれなりの刺激と退屈なまでの平穏な日々でいいのだよ。

とはいえ、ここで作った道具を失うのも惜しい。いや、道具は実際どうでもいいのだ。そんなことよりも、それなりの量残っている燻製や干物を残したまま行くのは非常に惜しい。というわけで、今夜は猫人族も読んで盛大に消費しようと思う。

さっき余ってたきのこの中からドキドキノコ食べてみたけど人化できなかったから申し訳ないがハンターさんたちは呼ばない感じで。…って、レンド君達以外に俺の人化見た人いないし、出来てたら出来てたでめんどくさい事になってそうだったしいいっちゃいいか。

朝にいつものようにやってきた猫人族にこの事を伝える。子猫たちに潤んだ瞳で引き止められやめようかとも思ったが…すまん、子猫たちよ。俺も死ぬわけにはいかないんだ。

最後には泣いてしまった子猫たちをあやしながら猫人族たちは帰っていった。

「盛大にお見送りをしますにゃ!!」

と鼻声で去って行った猫人族の姿に目頭を熱くしながら見送る。これは、何が何でももてなさなければ…

というわけで、さっそく飛び立つ。向かう先はゲームで言うエリア11。着地地点に猪がいたので、ゲーム時代の鬱憤を晴らすかのように踏み潰し殺して脇にどけておく。そして水場に口を突っ込み、飲み込まずに猪をつかんで巣に戻る。…口の中に魚が当たって気持ち悪いが我慢。殺すわけにも飲み込むわけにもいかない。あっこら!勝手にはじけるな、痛いわっ!あっ、破裂に飛び火…ウボァー

 

 

 

 

一悶着あったが、とりあえず半分(肉片は含んでいない)程は無事に運び終えた。猪を離して水桶にぶち込む。猪は皮を無理やり剥がす。いくらか肉も一緒についていってしまったが大体オーケー。牙と眼球も取り出して胃袋に投下。流石にこれを猫人族に出そうとは思わない。腹裂いて内臓を取り出してこれも胃袋へIN。うまくはないけど小腹は満たせる。水桶と生肉(猪)に剥がした毛皮をかぶせる。さてと、もう一回行ってきますか。毛皮の臭い付きそうだな..大地の結晶置いとこう。確か抗菌作用のあるアイテムに変わった筈だから。

後必要なのは、きのこと薬草。その他食い物以外をもろもろ。木を倒して蔦で編んでその上に必要物資を置けば一回で済む…けど、さすがにそんな細かい作業は無理やね。諦めて一回ずつ運ぼう。

岩の真ん中をくりぬいた簡単な籠をつかんで飛び立つ。薬草ときのこは…一緒でもいいよね。

 

 

 

 

はい、全部運び終えました。ニトロダケと火炎草が運悪く重なっていろんなものが俺の下っ腹に飛び散ってきたけど、問題なんてなかった。うん。…明日お祓いでもしようかな?針の実とかはじけクルミがもうね…一番大変だと思ってた木を運ぶのが一番楽だった。ちょっかい掛けてくると思ってたランポスも何故かいなかったしね。

と言うわけで、準備完了。

今回用意メニューがこちら。

 

猪の丸焼き(一頭分)

魚と木の実の塩鍋

金火竜の焼肉

黒狼鳥の香草巻き

ハリマグロの塩釜焼

焼きキノコの野菜炒め

 

ただし、製作者が俺(イャンクック)なので非常に荒い出来となっております。…素材がいいから問題ない、はず。

流石に持ってきた物と元からあった肉はそれなりに量があり、これだけ作るのにもかなり時間がかかった。もうすぐ日が沈んでしまう。まあ、待ち時間が短いってことでいいや。

時たま木を蹴り飛ばして焚火にくべていると、騒がしい一団がやって来た。本日の主賓、猫人族たちだ。

 

「赤色の旦那ー、お邪魔しますにゃー」

 

先頭を歩いていた猫人族が挨拶してきた。

 

「Gul~」

 

おうらっしゃい、楽しんでいってくれ。的なニュアンスを含んで返事を返す。やっぱり言葉が通じるっていいね。言葉じゃないけど。

とにかく、俺の転居祝い?が始まった。

そこら中で猫人族たちが飲めや食えやの大騒ぎをしている。俺の周りにも何人も来て

 

「ありがとうございましたにゃ」

 

などと言いながら、楽しそうに話をしてくれたりした。お互いの意思疎通ができるのが本当に嬉しい。

焚き木を囲んで大騒ぎをしていると、小さな猫人族たちが眠そうに舟を漕ぎ出した。そろそろお開きだろうか。

隣にいた猫人族に聞いてみると、そろそろ帰るとのこと。

まだまだ騒ぎながら帰る猫人族たちを見送る。また次に会うことができればいいな。

 

振り返ればすっかり慣れてしまった俺の巣(いえ)がある。

突然この世界にいて、混乱している俺が落ち着いていられた数少ない場所。

ここを離れるのは心苦しいが、ここで過ごした日々は忘れない。さようなら、俺の古巣。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

と、此所で終わらないのがこの場所のクオリティ。俺クオリティではない。断じて。絶対。

さあ飛び立とうと夜空へと上昇中に、何処からともなく響く足音。

同時に正面の木が倒れた。...は?

 

ドンッ

 

「Gluaaaaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

と、大地を踏みしめ、ソイツは壮絶なまでの咆哮を上げた。

その声量は尋常ではなく、周囲に倒れていた木が吹き飛んだほどだった。

茶色い鱗に青のラインを走らせた轟竜だ。

さて、それはともかくだ。正面の木と俺の距離は10メートルと離れていない。そんなところで超巨大な咆哮なんかを上げられたわけだが…こうなると当然、

 

(耳がああああぁぁぁッぁぁぁぁっぁ!)

 

一気に聴覚情報が失われる。目の前は真っ赤に染まり…

 

(野郎、ぶっ殺してやる!)

 

理性の鎖が一気にちぎれ飛んだ。あふれ出る怒りが気炎となって口からあふれ出る。翼を広げ轟竜を睨み据えて声を張り上げた。

 

「Gyuaaaaaa!」

 

轟竜が動き出す前に走りだして、顔面へ飛び蹴りを行う。同時に口の中にブレスを溜めておく。全体重を頭蓋に乗せて押しつぶし、そのまま慣性に任せて轟竜を吹き飛ばす。そのまま頭を台にして飛び上がり、上空から溜めていおいた青いブレスを吐き出す。吐き出されたブレスは背中に着弾。業炎となって轟竜の鱗を焼いた。そしてそれが消えるのとほぼ同時に翼をたたんでのしかかる。揚力を失った俺は重力に引かれて轟竜の翼の上にのしかかる。骨がへし折れる音が響くが、構わずに嘴を持ち上げ、若干いびつに変形していた頭蓋骨へと振り下ろす。何度も何度も。翼に乗せていた足が轟竜の痙攣が完全に消えるまで振り下ろし続けた。

 

 

(はっ)

 

意識を取り戻した俺がまず目にしたのは、首から上が原型をとどめていない轟竜の死体だった。あかん。スプラッターや…

出発前からえらい目にあってしまった。とにかくもう行こう。俺は何も見てないしやってない。うん。足元の肉塊を少しだけ食べると、何事もなく飛び上がる。行先は…特に決めてないけど、あっちでいいや。

そんなわけで、東南の方に見える火山に向かって行くことにした。理由は特にない!

 

 

一直線に行くと砂漠の端を通り視界が悪くなるうえに飛びにくいので、現在は一旦東側に進路を取り、湖沿いに火山を目指して飛んでいる。火山の方へ向かわずにこのまま東に飛ぶと村が見えたりするのだが、この体じゃあやっぱり入れないよなぁ。

そんなことを思って空を飛んでいたのだが、どうにも地上の方が騒がしい。不審に思って眼下を見下ろすと、

 

(な、なんじゃこりゃ!)

 

俺の巣があった方から村の方へ向かってランポスの大群が移動していた。その数は優に100を超えていて、中にはドスランポスであろうひときわ大きなランポスも何体か見受けられる。群れ全体が何かから逃げるかのように一斉に動いていた。

考えられる理由としては、最近の大型モンスターの森丘への異常進出だろうか?それに対して今の俺のように森丘を去り新天地を探しているのだろう。しかし、この先には村がある。いくらランポスの一匹一匹が弱かろうとこの大群に襲われればあの小さな村はひとたまりもないだろう。

 

(うーん、どうするべきかなぁ?)

 

かといって、あの数だ。いくら俺が飛竜種で彼らが鳥竜種だろうと、下手に突っ込めば飲み込まれるのは俺だ。容易に突っ込むことはできない。

見て見ぬふりをして去ることもできなくはないだろうが、あの村から来たのであろうハンターたちを見捨てるのも寝覚めが悪い。このランポスたちが絶対に村に行くというわけではないだろうが、行く可能性があるのならばできる範囲でどうにかしてやりたい。

さて…と言うか、普通に空からブレス連打で何とかならないかな?こう、絨毯爆撃みたいにさ。あいつらの攻撃ここまで届かないだろうし。

 

(やってみようか…)

 

そんなわけで、ファイアー。地上にいくつかの火柱を上げた。が、問題発生。と言うか、普通に考えたらわかりそうなものだったが、突然の攻撃を受けたランポスの群れは混乱を起こし、群れの一部が方々に散っていってしまった。

 

(あー…どうしようか?)

 

大問題だがとりあえず、群れ全体の統率は乱れた。先頭を走るランポスを踏みつぶしながら着地。むろん減速などしないので、押しつぶされたランポスはその身を弾けさせて絶命した。後続のランポスへと咆哮をあげ威嚇する。

ランポスの群れは一瞬止まりかけたが、後続に押し出されるように再び向かってくる。先頭のランポスをくちばしで弾き飛ばし、そのまま体を回転させて尻尾を後続へと打ち付ける。取りつかれる前に飛び上がってブレスを吐き少し下がって今度はこちらから突撃を行う。俺の体格はランポスの優に倍はあるので、次々と跳ね飛ばす。ある程度進むと、再び飛んで先頭に戻る。何度も繰り返し、進行方向を変えた奴は無視する。何度かかみつかれたが、思ったほどの傷はできなかった。というか、鱗で弾けた。

少しずつランポスたちの進行方向が南北に分かれていく。途中ドスランポスを轢き殺してからはそれが一層顕著になった。その後も向かってくる奴だけを相手にし続け、空の月から見るに1時間ほどだろうか?ようやくすべてのランポスが逃げて行った。周りには数十匹のランポスの死体が散乱している。

なんというかすごい疲れた。とにかく、こんだけ散らせば村のハンターたちで容易に対応できるだろう。いつの間にかだいぶん北よりに来ているし、今日は沼地で眠ろう。明日こそ火山に行こう。

と、飛び上がり付近の開けた場所を探していると、突然俺の視界が真っ白に染まった。

同時に衝撃が駆け抜け、俺の意識は一瞬にして消え、そのまま落下していった。

 

 

 

 

古龍観測隊隊員

 

善性イャンクックが巣を離れた。うん。轟竜を瞬殺したとか見てないし知らない。

ランポスの大群を蹴散らしたとかなかったし、落雷に打たれて落ちたくせに死んでないとかあるわけがない。

真面目な話、善性イャンクックを打った雷はおそらく自然現象じゃあない。雨は確かに降っていたけど、雷を伴うような雲じゃあなかったはずだ。それに雷が落ちる前に一瞬地上に見えた白い光…ああ、まだまだ厄介ごとは続きそうだ。今日も胃薬が旨い。

 

 

 

ギルド本部への通達

 

善性イャンクックが巣を離れました。ついでに、下位相当の轟竜を殺してました。

有給申請通ったんで明日から暫くお休みします。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

 

休むんなら善性イャンクックがどこに新しい巣を作ったか確認してからにしてくださいね。

下位の轟竜…今季の森丘はどうなってるんでしょうね?古龍観測所にも詳しく調べるように依頼をしておきます。




次は未定。ずっと放置していたにもかかわらず感想をいくつもいただきありがとうございます。なんか感覚がおかしいので変なところもあるとは思いますが、次もいつか更新できるように頑張ります。


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16話

古龍編突入…でしょうか?

とりあえず一言。モ、苔豚―ゥゥゥ!


打ち付けるような強い雨の降るその日、一条の雷がとある山の山頂に落ちた。

すさまじい轟音とともに、山頂の一部が吹き飛ぶ。土煙が晴れると、そこには土ではなく、赤銅色をした板が覗いている。ふと、地面が揺れた。

龍は閉じていた目を開き、身じろぎする。それだけの動きで山は震え、形を崩してゆく。

やがて、山は崩れ、その中から一回り小さな山が、いな、巨龍がその姿を現す。

山の名を持つその龍の視線の先遥か彼方に、人の営みがある。まだ人々は目覚めた龍を知ることは無い。

 

 

 

束の間意識を失っていた俺がはっと気付くと、地面が目の前にあった。慌てて翼を広げ風を掴むも、重力に引かれて加速した体を完全に止めることはできず、多少ましになったとはいえかなりの勢いで地面に着地…否、墜落した。地面に轍を作りながら滑り、幾本かの木をなぎ倒してようやく止まると、膝から崩れ落ちた。

 

(やべぇ、超痛い。と言うか、何が起きたんだ?)

 

地面に体を横たえさせたまま、あたりを見回す。降りしきる雨、なぎ倒された木々、さっき墜落した時についでに轢き殺してしまった猪。キノコをのんびり食べている苔豚。…動じないな。苔豚。流石だわ。

空では雨雲がゆっくりと流れているだけで、飛龍の姿などは見えなかった。

 

(うーん、雷にでも打たれたのか?だとしたら凄いな俺。あれって確かボルト数でいうと200万から10億だろ?)

 

因みに、電気ネズミで有名な10万ボルトは、人を殺せるという電気ウナギの200ボルトの500倍である。電気の逃げ場のない空中であれを喰らって生きていられるどころか、喋る余裕もある超人達ってすごい。

 

それはともかく、恒例の自己診断。出血を伴う怪我は特になし。

墜落時に衝撃を全部受けた足は、今までのマ王やら金獅子やらの時のようにはなっていない。と言うか、普通に歩けるし走れる。

背中までは見えないが、特に痛みは無い。足の裏が若干痛いくらいで動くことに支障はなさそうだ。と言うことで、被害は特になし。さっきランポスの群れと戦ってた時のほうが被害大きいくらいだ。

はい。自己診断完了。さて、とんでもないハプニングがあったけど、そろそろ寝どこでも探そうかなっと。雨降ってるし、洞窟のそこの洞窟の中がいいかな?

 

「Quloooooo!」

 

甲高く響き渡る声を聴いた瞬間に、咄嗟に地面を蹴りつけバックステップ。

と、同時に足跡に向かって一条の閃光が落ちてきた。地面にぶつかり、四方八方に放電をさせて消える。

 

(空飛んでたから落雷に当たったんだと思ってたけど…これはひょっとしなくても)

 

「Quooooo!」

 

背後でいくつもの雷が落ちた音が響く。意を決して振り向くと、そこには額に一本の角を持つ馬のような古龍の姿が有った。幻獣の名を持つその古龍は、こちらを睥睨しながらゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。

 

(ヤバいな…俺ってやっぱり本当に呪われてるのか?)

 

沼地に幻獣が出るなんて聞いたこともない。そもそも、この幻獣は古龍種なのだ。空飛んで移動するだけで出会えるようなモンスターでは絶対にない。

いや、今は出会った不運をなげいている場合ではない。今はここを乗り切らなければ。

この幻獣の厄介な点は、今までさんざん降らせていた雷にある。何せ、空から落ちてくる攻撃だ。どこに落ちるかわからないし、見てから避けることなど絶対にできない。かつ、当たった場合動けなくなるうえ視覚も聴覚も触覚も封じられるのだ。

そうこう考えているうちに幻獣は俺から(俺の歩数で考えて)10歩ほどの位置まで近づいてきた。

怪鳥と幻獣の間で、謎の均衡が出来上がる。幻獣は何を考えているかはわからないし、俺は幻獣が予備動作を取ったらすぐに動けるよう構えているが、故に容易には動けない。

その奇妙なにらみ合いは、唐突に幕を閉じた。

 

「Booon!」

 

気の抜ける可愛い声と共に、さっきまでキノコを食べていた苔豚ちゃんが幻獣に突進をしたのだ。幻獣の足にぶつかり、強度の違いでひっくり返る苔豚ちゃん。幻獣は何の反応も返さない。そんな光景を見て俺は…

 

(えええええええ)

 

内心、腹を抱えて爆笑していた。なんだあれ、可愛いぞ!

よろよろと立ち上がった苔豚ちゃんは、トコトコと距離を取って再び突撃姿勢に入った。二三度後ろ足で地面を蹴りつけると、幻獣に突撃。再びコテンと跳ね返されてこける。幻獣完全無視。

 

「Guluu」

 

思わず漏らした声は笑いで酷く震えていた。幻獣は、若干むっとしたように鼻を鳴らすと、再び突撃してきた苔豚ちゃんに合わせて、後足で蹴りを見舞った。吹き飛ばされた苔豚ちゃんは悲しそうな声を上げて動かなくなってしまった。

 

(モ…苔豚ゥゥゥゥゥ‼!)

 

あんまりにあんまりな光景に、視界が歪む。哀愁をそそるその苔豚の眼はそれでも最後まで幻獣をとらえていた。本当に見上げた根性である。

しかし、幻獣は一瞥もくれずに鼻を鳴らすだけ。そんな幻獣と苔豚を交互に見た俺は、怒りと悲しみに打ち震えた。

こんなの…こんなの…

 

(あんまりじゃあありやせんか!!!)

 

「Glaaaaaaaa!」

 

激情が、裂帛の咆哮となって俺の口からほとばしった。何時かあったような、本来俺(怪鳥)がつかえるはずのない、衝撃を伴った咆哮。同時にまた俺の中で何かが割れた。

さっきまで逃げ腰だった俺の突然の咆哮に幻獣は驚いたようにその体を硬直させた。

その絶好の攻撃チャンス。いつも以上に冴えた感覚で持って俺は

 

 

尻尾で幻獣の顔をペチンと叩くと、幻獣に聞こえるように鼻で笑って猛然と洞窟へと駆け込んだ。

 

 

一瞬の間ののち、幻獣の怒りの咆哮が響き渡った。

 

「Qulooooooo!!」

 

背後で幾条もの雷の音が響く。ちらりと振り返ると、白銀の鬣を怒らせ体に雷をまとわせた幻獣がこちらに走ってくる所だった。

 

(怒ってる怒ってる)

 

やっぱり、古龍は普通のモンスター以上に知恵があるというのは本当らしい。故にさっきのような挑発で怒り狂う。とはいえ、モンスターはモンスター。自らの最大の武器である落雷は洞窟の中(ここ)では使えない。とは言え、俺も幻獣の持っていない武器(飛行)を十全に使うことは出来ないのだが。

入った洞窟は天井はそう低くなく、一応飛ぶことは出来そうだが、旋回や宙返り、バレルロールからの急降下と言った動きは出来そうにない。

実は、体はこちらの方が大きいので、ここから逃げようと思えば逃げることは出来る。だが、挑発をした以上逃げても追いかけられる可能性もあるし、何よりも俺が苔豚ちゃんの無念を晴らしてあげたいのだ。

戦う覚悟は決まった。あとはどうやって勝つかを考えるだけだ。…ここが一番重要でなおかつ思い浮かびにくいところなのだが。

 

洞窟の中央を貫く柱を背に、幻獣と向かい合う。あたりに居た鳥竜種や甲殻種は、幻獣の怒りに敏感に反応し、ここを離れているため、純粋な一対一だ。

まず最初に動いたのは幻獣。その身に雷を纏ったまま額の角をこちらに向け、一直線に走り寄ってくる。その角が俺と接触する寸前に、俺は翼を広げ飛び上がった。俺のジャンプに素早く反応して飛び上がった幻獣だったが、柱を蹴って幻獣を飛び越えると、空中で体勢を立て直す事が出来ない幻獣は轟音を立てて背後の柱へと激突した。柱が幾らか抉れるほどの勢いでぶつかったにもかかわらず、幻獣はふらつきもしていない。俺だったら多分、若干ふらついていたと思う。やっぱり頑丈だな。

ともかく、後ろに回った俺は幻獣の背中にブレスを吐きかける。多少はひるむと思ったが、幻獣は避けるそぶりも見せずに振り返り、ブレスに反応もせずに再度突進してきた。当然ブレスは向き直った顔に直撃するも、ダメージらしいダメージも与えられず、幻獣の纏う雷に打ち払われる。

まさか犬歯にも掛けずに突破されると思わなかった俺は若干突進への反応が遅れ、慌てて左側に飛び退ったが、直撃こそしなかったものの胴体の一部を角と雷に持っていかれた。傷自体はそこまで深くなく、雷に傷口を焼かれて出血は少ないものの、雷を鱗ではなく皮に直に受けてしまい、傷口を中心に、右足と右翼がしびれて動かしにくくなっている。まあ、しびれたせいで痛みをそこまで大きく感じないのは行幸だろうか?

ともかく、交錯を終えて再び向き直ったわけだが、こちらは軽傷と軽い麻痺。あちらは柱に激突やブレスの直撃はあるものの、基本スペックの違いからほぼ無傷だ。本当にやってられない。

右足を何度か地面に打ち付けて感覚を確かめる。まあ何とか動きそうだ。俺の重量でこんな確認をすれば洞窟は地震にあったように震える。それを感じて俺は一つの作戦を思いついた。

 

(お、やってみる価値はあるんじゃね?)

 

幻獣は余裕そうにこちらを見ている。こちらの体勢が整うまで律儀に待っていたようだ。確かに能力的には天と地の差があるが、あまりになめ過ぎではなかろうか?先ほどの苔豚の時といい、この幻獣はわりと傲慢な性格をしているらしい。

とにかく、右足と右翼の確認を終えた俺は、幻獣に向き直る。位置関係的には最初と同じく、俺が中央の柱を背にしている状態からだ。今度はこちらから攻撃を仕掛ける。まずは飛び上がって天井すれすれで滞空。ブレスを溜め始める。幻獣は洞窟の中では有効な対空攻撃を持っていない。中央の柱に走りこんで飛び上がり、先ほどの俺のように三角跳びの要領で向かってきた。俺は天井に若干色が変わったブレスを吐きかけて滞空状態から一気に滑降体勢に入る。燃え盛る天井を思い切り蹴りつけて墜落するほどの勢いで地面に突撃。途中で無理やり体勢を直して翼を広げて減速しながら着地。それでも減速期間は一瞬。かなりの速度で地面に激突し、洞窟を揺らした。幻獣は燃え盛る炎に突っ込んだものの、一瞬で炎を抜けてそのまま少し離れた地点に着地した。生身の人間でもあの程度の時間なら炎を突っ切っても何の被害もないはずで、当然幻獣も何がしたいのかというようにこちらを見据えている。

 

(うん、こんな感じでよさそう)

 

中央の柱と蹴りつけた天井を見て、とりあえずは納得。再び飛び上がると柱を挟んで反対側で滞空。再びブレスを溜める。幻獣としては、何かあると知りつつもほおっておくことは出来ず、攻撃方法も先ほどの三角蹴りだけだ。当然の結果として、こちら側に回り込んで三角蹴りを繰り出すしかなく、俺も先ほど同様にブレスを天井に吐きかけて思い切り蹴り飛ばして地面へと戻った。

 

「Quooooo1」

 

よほどイラついたのか、幻獣は再び体に雷を這わせて、地面に着地したばかりの俺へと突撃を開始した。その速度は先ほどよりもだいぶ早い。が、距離が離れていたおかげで最初の交錯の時のように柱を思いっきり蹴りつけて飛び上がり避けることが出来た。そして再び移動してブレスを溜める。

俺が何をしたいのかと言うと…

 

 

(後二回もやれば崩れるかな?)

 

 

はい。洞窟を幻獣を巻き込んで崩落させてやろうかと思ってます。

いや、だって俺の攻撃じゃあ幻獣の防御抜けないし、ゲームで唯一弱かった角とか馬鹿正直に向かって言ったら突き刺されて俺が死んじゃうし。

とは言え、それだけで古龍の一角である幻獣を倒せるとは思ってないわけだが。

と、考えているうちに中央の柱を囲むように高温にさらされて脆くなったところに超重量の俺が思いっきり蹴りこんでできた亀裂が出来ました。その中央の柱も、俺や幻獣の度重なる蹴りや激突でだいぶ抉れている。

幻獣はイライラがピークに達しているのか、明らかに理性を失ったように嘶き俺へと突撃を繰り返している。洞窟に定期的に振動が来るのを考えたら、地表ではひっきりなしに雷が落ちているのであろう。まさに好都合と言う奴だ。

再び柱を背にして幻獣をおびき寄せると、思いっきり嘴を柱にたたきつける。抉れに抉れた柱はついに轟音を立てながら折れ、俺は崩れる柱を足場に一気に蹴り飛ばして範囲の外に脱出する。ダメ押しのように雷の音が響き、洞窟は中央から一気に崩落した。幻獣は逃げる間もなく岩石に押しつぶされていく。やがてその姿は見えなくなり、それでも崩落は続く。

 

(うわー、結構壮観だなこりゃ…)

 

轟音とともに天井が崩れ、雨が落ちて来ている。洞窟の中央だった部分には岩石と土砂が降り注ぎ小さな山になっていた。

暫くして崩落が落ち着くと、再び空から雷が落ちてきて小さな山を抉った。

…やっぱり生きてたか。本当にモンスターだな。

けれど、それも予想済み。落雷が落ちた地点に回り込んでのんびりと待つ。

さて幻獣は馬のような外見と言ったが、当然その動きも馬のそれに近い。故にバックをするのは実に苦手である。もちろん出来ないわけではないが。

そんなわけで、幻獣は頭から出てくることになり、当然走ることもできはしない。つまり、頭の角を狙いたい放題なのである。

 

「Guluu-」

(いらっしゃーい)

 

「Quaaaa」(汗)

 

それでは、傲慢な幻獣にお仕置きの時間です。

そんなわけで俺は、ゆっくりと嘴を振りかぶった。

 

 

その日の夕飯はとてもおいしかったです。

 

 

 

 

ポッケ村連絡員side

 

あ、古龍観測隊の方ですよね。善性イャンクックがどこにいるかとか知りません?

え?沼地?…そういえば不自然な落雷があったって言ってましたっけ?あー、はい。古龍ですか。…ですよねー。あれならそうなりますよね。はい。あ、これ胃薬です。私のなんですけど宜しければ。え、私ですか?これから長期休暇取らせてもらうんで大丈夫ですよ?

え?今の話の報告ですか?やってくださらないんですか?いや、私の仕事って…あ、ごめんなさい、胃薬返してもらっていいですか?ってああー!もう飲んじゃってるー!

ごめんなさいって…代わりに報告してくださいよー!!!

 

 

 

連絡員の休暇はもう少し先になりそうです。

 

 

ギルド本部への通達

胃薬取られちゃいました…

あ、えっとですね。善性イャンクックは今沼地にいるそうです。さっそく古龍と喧嘩して勝っちゃったみたいですよ?そういえば、古龍の血って不思議な力があるそうなんですけど、古龍の肉を食べたモンスターって、どうなるんでしょうね?

ふう、もういいですよね?有給貰いますよ‼いいですよね!

 

ギルドポッケ支部への通達

駄目です。討伐された古龍についての報告をしてから休んでください。

ああ、またおかしくなる可能性が出来たんですか?あれ。いい加減にしてほしいものです。

それと、どっかの王女様がどこからかうわさを聞き付けたみたいで近々そちらに使いを向かわせるらしいので対応をお願いしますね。




尚、王女様登場はもう少し先の模様。
崩落とか無理があるとか思っても突っ込まないでくれるとうれしいです。ご都合主義万歳!
余裕で勝ってるように見えますが、こちらの攻撃がほとんど効かない以上、屋外で戦ってたら勝率0パーセントでした。古龍は本当に伊達じゃない。

次回は久しぶりの彼らの登場…?


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