銀翼の凶星 -The DisaStar Silbernen Fluegels- (オパール)
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銀翼の凶星 -The DisaStar Silbernen Fluegels-

「タイトルおかしいだろうがks」というツッコミはスルーでお願いいたします(震え声)

モンハンの武具って機械的なデザイン割とあるよねって話


―――地上を疾る彗星を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空に立つは漆黒の騎士。

 相対するは鈍銀の剣士。

 

 さながら蝶の羽根の如く広がったバインダーを有する騎士と。

 爪のようにも、翼のようにも見えるユニットを背部に浮かばせた剣士。

 

 双方の名

 読んで字の如く、黒騎士

 対する者は、凶星(ディザスター)

 

 両者に既に言葉は要らず、互いの得物を手に、どちらともなく始まる、命の奪い合い。

 

 黒騎士が前に出れば、その分だけ凶星も躍り出る。

 一合、二合、三合。

 飛び散る火花と耳をつんざく剣戟の音、巻き上がる風圧に両者の髪が揺れ、その衝撃は遥か下方の地にさえ届く。

 

 距離を離した黒騎士がその剣から砲を放てば、凶星はそれを掻い潜って再び肉薄。両手に握った巨剣で以て大上段。

 紙一重で避けた黒騎士の目に映る、長大な砲身を持つ弩砲。間髪入れる間もなく放たれた幾重もの弾幕を、意に介することなく黒騎士はすり抜ける。

 

 三度、斬り結ぶ両雄。

 

 凶星は得物を巨剣から双剣へとシフト、持ち前の速度で接近。縦横無尽に放たれる銀の刃を、果たして黒騎士は捌ききる。

 突き出された反撃の刺突、凶星の肩を掠めるだけに留まったそれに、凶星が剣を叩き付ける。

 

 瞬間、その刀身に搭載されたスラスターが火を吹いた。

 両手の剣、それぞれから噴き出すそれを推進力に、凶星は独楽の如く乱回転。螺旋を描きながら黒騎士の剣を弾き飛ばし、その装甲に俄に抉る。

 

 鬱陶しげに舌打ちを一つ、凶星を蹴飛ばした黒騎士は続けざまにその手の剣を突き出す。凶星の腰部が僅かに削れるも、そこからの凶星は速かった。

 双剣が両手から消失、再び巨剣を構え、吶喊。それを見て、避けるでもなく迎撃の体勢に入った黒騎士。

 

 されど構えを取った瞬間に弾き飛ばされていた。

 

 姿勢を戻す黒騎士。何が起こった、と周囲を索敵。直後、後方から耳障りな空裂音が響いてくる。

 回避行動、今しがたまで黒騎士がいた場所を、紅い軌跡が斬り裂いていた。

 

 止まったそれを見れば、凶星。その背部に浮かぶウィングから、真紅の光。

 反応するどころか神経の反射さえ追い付けぬ速度、大空を駆け巡るその輝きは、さながら彗星の如しだった。

 

 凶星が迫る。だが二度も見れば容易いモノ、その挙動に的確に合わせ、黒騎士の剣から光砲が放たれた。

 直撃、その姿勢が崩れると同時に、自身の前進に合わせてもう一発。それは巨剣の腹で止められたが、一瞬の停止からの回避、防御は間に合わない。黒騎士が剣を振るう、直撃コース。勝ちには届かずとも、決定打はほぼ確実である。

 

 凶星の巨剣が火を噴く。水平に構え直していたそれは特大の推進剤。凶星が一回転、その動きは回避と同時に反撃の構え。

 振り抜かれた一閃は黒騎士の胴を一文字に薙いでいた。

 

 歯噛みしつつも、重い一撃を喰らった衝撃にあえて逆らわずそのまま離脱。バイザーに隠れた瞳は、眼前の敵を睨め殺さんばかりにギラついていた。

 

 一方で、凶星は口の中に感じる血の味を呑み干す。戦友達をして「人類に観測は無理」と言わしめた挙動の負荷は決して軽くはない。だがそうまでせねば、自分に彼の黒騎士の打倒は不可能である、とも思う。

 

 

 

 双方が纏うその鎧―――インフィニット・ストラトス

 

 

 

 機体そのものの性能面、装甲の差で言えば「天災」科学者謹製の黒騎士に。

 しかして操縦者の腕、機動性だけならば、腐っても同じ者の手で造られた凶星に。

 

 天災謹製という面では同格。しかして互いに決め手を決められず、さながら千日手の様相を呈しているこの死合。退かず、譲らず、認めず。似ても似つかぬ二人はしかし、「こいつには負けられない」と同一の感情を懐いていた。

 

 

 

 黒騎士の操縦者は思う。

 

 機体、並びに思考の速さに関しては自分は及ばない、それは認める。だがそれを補って余りある機体性能の差、見てきた地獄の場数。そんなものに頼らねばならぬ事実は業腹であるが、攻めきれるだけの差は間違いなくある、と。

 

 

 

 凶星を駆る者は思う。

 

 自分に対する者は、相違無く強者だ。だが致命的に欠けているモノがある。自分が常に抱いているモノ、確かにポンコツと最新鋭では差は明白。ならば、それを埋めるは唯一つ―――命を賭すこと。

 

 

 

 剣の鍔競り合い、砲の撃ち合い、死角の奪い合い。

 あらゆる手段で行われゆく命の奪り合い。

 黒騎士の剣が閃けば凶星が、凶星の剣が振るわれれば黒騎士がそれに合わせて剣を交える。

 

 

 黒騎士の翼が煌めき、放たれる閃光。予期せぬ攻撃をまともに喰らった凶星が吹き飛び、間髪入れずに黒騎士が肉薄。追撃は辛うじて防ぐも、ダメージは重い。臓腑から立ち上ってくる異物感を強引に呑み込み、凶星は思考で直接指示を飛ばす。

 

 途端、その翼は爪と化した。

 

 凶星の動きに合わせて突き出される翼爪の一撃。質量とは即ち破壊力。確かな威力を持つそれは黒騎士に叩き込まれる。凶星は回避は許さず、再び巨剣の推進を利用。逆袈裟に振り上げられたその一閃は、確かに黒騎士に届いた。

 たまらず後方に退がる黒騎士、だが続けざまに飛来する紅色の光弾。翼爪より放たれたその光を喰らいながらも、黒騎士は忌々しげに残りを斬り払った。

 

 

 

 開戦より、短いながらも当人達にしてみれば、圧倒的な密度を持った時間。退くことはありえない、と改めて腹を括る両者。

 勝者がどちらになるかなど、もう誰にもわからない。

 

 黒騎士は己が存在意義に誓って、凶星を墜とすだろう。

 凶星は自身の生き方に掛けてでも、黒騎士を降すだろう。

 

 

 

 凶星の胸部が染まる。

 それに呼応するように、間接部を始めとした各装甲が開いていく。

 外気を取り込む音、まるでジェット機のエンジンのような、大気つんざく音を発し、それと同調して鈍銀の機体の末端が黒く、開いた装甲からは灼熱を越えた色の光が溢れ出していた。

 

 そんな目に見えた隙を逃す黒騎士では無い。脳裏に過った、えもいわれぬ感覚に従い特攻。無防備なままの土手っ腹、装甲の存在しない箇所へと、最大出力の光剣を突き立てた。

 

 抉り取られ、削ぎ落とされる肉。灼かれる臓物。骨まで貫かれたその一撃は、まさしく致命傷足り得る一撃だった。

 

 

 

―――それが黒騎士にとっても致命傷と気付いたのは、その直後であった。

 

 

 

「……残念」

 

 

 

 初めて、凶星の操縦者が口を開いた。

 頭部全体を覆う兜から、明らかに血を吐きながらの言葉に、黒騎士は自分の失敗を悟った。

 

 

 

「狙うのなら……胸にするべきだった」

 

 

 

 瞬間、咆哮。

 

 

 

『「―――オオオオオオオオオオッ!!!」』

 

 

 

 装甲から噴き出す光の色が変わる。

 

 ある人は言う。赤だと。

 ある人は言う。いや、紅だと

 またある人は言う。いいや、血の色だと

 

 否、否、否。

 

 それは赤よりも濃く、紅よりも深く、血の色よりもなお暗く輝き、蒼空さえ染めて煌めく色。

 

 

 

 これは―――赫色だ。

 

 

 

 赫色彗星(バルファルク)

 それこそが凶星の唯一にして最強の奥の手。

 全ての得物を手放し、一切の守りを捨てて放つ、防ぐ手立ての存在しない神速の挙動(自殺行為)

 

 この瞬間だけは、武装を含めた操縦者を守る機能の一切が停止、その分のリソースは全てスピードだけに注がれる。だがその速度から生まれる破壊力たるや、地表に激突すれば広範囲に渡り、かつ数mは下らない深さのクレーターが出来るほど。

 

 それだけの超高速で、質量を持つ物体が、別の物体へと吶喊する、などと。考えるだけで寒気がする。

 

 

 

 腹を貫いた剣を強引に引き抜いた黒騎士。離脱を選び、離れるよりも先に凶星が動いた。

 

 

 

 軌跡が疾る。剣が砕け、それを握っていた腕の装甲諸共に骨が割れた。

 軌跡が疾る。背部の羽根が粉砕され、掠めた足が砕けた。

 軌跡が疾る。速度そのままの拳が腹に突き刺さる。内臓がいくらか死んだ。

 

 

 

 黒騎士の操縦者―――マドカの耳に共犯者達からの声が届く。だが届いただけだ。

 彼女の耳は既に正しくその機能を果たしていない。腕を割られ、脚を砕かれ、臓物を潰された。

 

 衝撃で揺らされた脳髄。薄れる意識の中で辛うじて聞き取れるのは、耳障りなジェット機染みた快音。

 赤く染まった視界、だがそれでも、たった一つの色だけは鮮明に見分けられた。真っ赤な視界が映し出した、蒼空を駆け巡り、やがて自身に迫る―――赫色を。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、その死合を地上から眺めていた誰もが、後に口にした。

 男も、女も、子供も老人も。一切の区別無くだ。

 

 

 

―――地上を疾る彗星を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夢を見た

 

 一目で夢だと理解出来た。何故なら、自分の身体がヒトのモノでは無かったのだから。

 

 その姿は、まさに『龍』だった。

 

 鈍く輝く銀色の甲殻。しなやかに伸びる四肢と長い尻尾。

 特に目を惹くのが、赫色の光を噴射する両翼だった。翼にも爪にも見えるそれは、今はまるでジェットノズルのようで。

 

 

 

―――夢を見た

 

 眼前に、四人の人間がいる。

 四者四様、それぞれに特徴のある鎧を纏い、それぞれの得物を向けてくる。

 

 ならば、こちらは牙を剥こう。

 

 思い知るがいい。絶対者はこちらだと。

 恐れ戦くがいい。勝利者はこの我だと。

 後悔するがいい。身の程を弁えないと。

 

 そして不変の理を知るがいい。

 

 ヒトでは、星を墜とすことは不可能であると。

 

 

 

―――夢を見た

 

 龍が倒れ伏している。

 四人のヒトが立っている。

 互いに満身創痍、だが最後に立つのはヒトだった。

 

 ヒトが、天を疾る彗星さえ墜とした瞬間であった。

 

 

 

―――夢を、見た

 

 強者の夢だった

 自由な夢だった

 

―――それを砕く、狩人達の、夢だった

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

―――欠けた夢を、見ていた気がした

 

 水平線から顔を出した朝日が照らす室内。ベッドの中、横向きに眠っていた自分の視界に、色素の違う「白」が映る。

 一つはシーツ。もう一つは自分の髪。

 背中や腰などとっくに過ぎ去り、足元辺りまで伸びに伸びた白い長髪。

 ウサミミ着けた「ご主人様」といつも眼を閉じている「飼い主」に何度も「切らせてくれ」と、頼んでも答えはいつもNoばかり。その内、頼むのをやめたのは記憶に新しい。

 

『は? お前から髪の毛取ったら何が残るのさ。ただのひょろいゴリラじゃん』

『ひょろいゴリラ』

『色合いに差はあれ、長髪という点では私とお揃いですので。……あの、お嫌、なのですか?』

『あぁん、くーちゃんてば健気すぎィ!』

 

 すぐさまそんな記憶をシャットアウト。超絶天元突破災厄級アルティメットフリーダム大天才クズなご主人様を思い出してしまってため息一つ。

 さぁストレッチでもしようかと仰向けになる。

 

 

 

 水色のショートヘアーが特徴的な息の荒い美少女(半裸)と目が合った。

 

 

 

「……」

「ハァ……ハァ……」

「……」

「……朝這いに来まフゥンッ」

 

 即座に喉と鳩尾に貫手を突き込んで黙らせる。隣のベッドにはこの女の実妹が寝てるというのに何を考えているのか。

 

「……とりあえず簪起こしますね」

「やめて!」

 

 同居人を起こそうと踏み出した足に纏わりつかれる。

 和解してからこっち、妹にめっぽう弱いこの少女―――更識楯無。

 学園最強()の生徒会長と謳われる存在が後輩に朝這い(ガチ)を仕掛けるようになるなど誰が予想出来ただろうか。

 

 とりあえず鬱陶しいので同居人―――楯無の妹、更識簪を起こすのはやめにしておく。

 足から離れたのを確認、洗面所へと向かう。何故か着いてきたが。

 

「ンフっ……二人っきりだね」

「この扉開けて大声出したら簪どんな反応するんでしょうね」

「やめてちょうだい死ぬから、私が」

「なら速くご自分の部屋戻ってくださいな」

「ちぇー」

 

 不承不承ながら了承したらしい楯無が唇を尖らせながら洗面所を出る。

 

『……あれ。おねえちゃん? なにしてるのぉ?』

『オッフ寝起きの我が妹可愛すぎかッ』

『……?』

『……か、簪ちゃんの、寝顔観察ー……かな?』

『出てって』

『ヒエッ』

 

 妹絡みでは途端にポンコツな姉である。

 

 そんなやり取りを聞きながら、鏡に写った自分の姿を眺める。

 

 線の細い身体ながら、ワイヤーを限界まで引き絞ったような筋肉の着いた肉体。

 足元まで伸びた長い白髪。やや垂れ気味の蒼い両目。

 

 原則、一人の例外を除いて男子禁制の学園において生活するに辺り、ご主人様からはこう命じられた。

 

 

 

『女装しちゃいなよYOU!!』

 

 

 

 ご主人様はトチ狂っているわけでは無い。これがデフォなのだ。

 女顔な童顔が幸いしたのかどうかは知らんが、クラスメイトで同居人の簪とその姉の楯無以外にはバレていない。

 バレたら即終了と思っていたが、元々両者に恩を売っておいたのが幸運だったらしい。おかげで口外されないばかりか何かとサポートしてくれている。その辺りには感謝している。

 

 首元、そこに巻かれた首輪―――凶星・銀翼に手を添える。

 見れば見るほど、この機体と夢に見たあの龍が似通っているのは偶然なのか否か考えてしまう。

 冷水を顔に叩き付け、そんな考えに意味無し、と即座に切って捨てる。立場を弁えない輩は早死にすると今日までの経験が語っていた。

 

 

 

 忘れていないこと。忘れてはならないことは、一つだけ

 

 何が起ころうと、どんな問題があろうと

 誰に惚れられようと、誰に惚れようと

 

 最後には用済みと捨てられようとも。

 

 

 

 自分は、篠ノ之束の『モルモット』である




~とある日~
「くーちゃんデンジャラス・ビースト! これならあのモルモットも赫醒大剣(意味深)待ったなしだよくーちゃん!」
「ろ、露出が多すぎませんか束様……お尻なんて、ほとんど見えて……」
「大丈夫! 二人で着れば怖くない!」
「束様、見えています」
「おぉっと失敗失敗」

「暇なの?」


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