とある運命の聖杯探索 (ラビット晴晞)
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プロローグ
召喚


───────少し、夢を見た。

 

 

───────それは……ただひたすらに美しく

 

 

───────ただひたすらに醜く

 

 

───────ただひたすらに純粋な想い

 

 

 

 

 

 

 彼はさながら翼をもがれた鳥のように醜く『理想』という空に手を伸ばし続けた。これは、『理想』のために『現実』に立ち向かった男の挑戦の物語だ。

 彼は守護者と呼ばれる者だった。人類の持つ破滅回避の祈りが生み出した抑止力であるアラヤと契約を交わして人類史を存続させる為の道具となること……それが彼が願いを叶えるために差し出した代償だった。

 

『それで……誰も泣かずに済むのなら………』

 

 そう言って、彼は何の躊躇いもなく死後の自分を差し出した。多くの人を救うために……

 彼は多くの人を救いたかった。とにかく大勢の人々を……出来ることなら加害者ごと救いたかった。けれど彼は知っていた。誰かを助ける行為は誰かを見捨てる行為であることを……わかっていて、それでも尚、万人を救う方法はないのかと歯を食い縛りながら足掻き続けた。

 その思いを抱いた事の発端は幼い頃に起こったある出来事にある。

 彼は少年の頃ある大火災に巻き込まれた。両親は死んだ。母は家に取り残されて、父は母を助けに戻って、そうしてたくさんの人が死んだ。少年は歩いた。少年は死を怖れて、生きたいがために助けを求める人を見捨てて歩いた。

 それは途中から強迫観念のようなものに変わった。自分を助けた両親の行いを無駄にしないために、見捨てたきた人の分まで生きなくてはならない。そうために立ち止まりたい気持ちを無視して歩き続けた。

 一晩たって炎も消え始めた頃、彼は倒れた。もう痛みさえない。水の底に沈んでいくような……それでいてそこまで苦しくない感覚が一つだけある。多分、自分は死ぬのだろう。特に感情はなかった。もう出し尽くしたのか、それとも炎とともに焼け焦げてしまったのか、どちらにしても死ぬのだから関係ない。もう生きているなんて幸せなユメも終わりだと……そう思っていた。

 そこに一人の男が現れて少年を救ってみせた。救った方法は後から知ったが、そんなことはどうでもよかった。白昼夢を見ているようだった。時間という概念が丸々、消滅してしまった。

 

『よかった……生きててくれて……』

 

 憧れ。生き残ったことへの喜びよりも、助けてもらったことへの感謝よりも早くに浮かんだ感情……それは、憧れだった死の淵にいた少年のもとへ現れて救った男。まるで正義の味方だ。なにより、自分を助けた男の顔があまりにも幸せそうだったのだ。まるで、救われたのが自分ではなく男の方だと思えるほどに……少年は男の養子となった。男が旅行だと言って家を空けることは多かったが、あまり苦ではなかった。むしろその旅行の土産話は一つの楽しみになっていた。でも、男は三年程経った頃からなにかを悟ったように旅行には行かなくなった。それからさらに、2年経った頃に男は月の綺麗な夜で語り始めた。

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』

 

 男は語った。正義の味方がどれ程のエゴイストなのかを……男はそのエゴイストに憧れて、諦めてしまったことを……まだ幼かった少年は正直納得していなかったし、分かってもいなかった。

 だが、妙に説得力があった。

 なにを言えばいいのかは分からなかった。

 だから、言いたいことを言うことにした。

 

『うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

 

 男は驚いた様子で少年を見る。少年は誓うように続けて言った。

 

『爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は──』

 

─────俺が、ちゃんと形にしてやるから。

 

 男は少年の言葉を噛みしめ──そして、少年を少し微笑んでから言った。

 

『そうか。ああ───安心した』

 

 男は眠るように、穏やかに、この言葉とともにその生涯に幕を下ろした。それから少年は五年間、理想(じごく)をひたすらに磨き続けた。そして、少年はある戦いに巻き込まれる。

 

『問おう。貴方が私のマスターか』

 

 七人のマスターと七騎のサーヴァントが己が願いを叶えるために最後の一人になるまで殺し合う。その名を聖杯戦争という。少年はその勝者となる過程で少年は自分のじごくの果てと相対した。少年は己を阻む自分自身を切り伏せるために……男は己を生み出す自分自身を亡きものにしようとするために剣を振るった。そこで少年は自分の夢が借り物だと叩きつけられた。

 

『そうだ、誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた!故に、自身からこぼれおちた気持ちなどない。これを偽善と言わずなんという!』

 

 男は八つ当たりにも近い思いを少年にぶつける。きっと男は、長いだけなら耐えきれた。苦しくだけなら耐えきれた。けど、その思いが偽物なことに我慢できなかったんだろう。少年は正しいと感じた。剣戟を繰り返すうちに少年は見た。

 

 

────死────死────死────死

 

 

────理想(じごく)を見た。

────未来(じごく)を見た。

────末路(じごく)を見た。

 

 おびただしい量の死を見た。おびただしい程の虐殺を見た。その地獄を歩む自分を見た。これから先辿る地獄を見た。それが理想の果てだと知った。けれど、それと同時に少年は思った。男はきっとなにかを大切なものを忘れているのだと……

 視界が炎に染まる。少年が最初に見た地獄。少年は自分を呼び止めた。

 

『おい。その先は地獄だぞ』

 

 子供は泣きながら少年の制止を聞かずに歩いていく。少年は自分が何のためにあの地獄を生き残ったのかをもう一度思い出した。そして、少年は歩き出す。すると、男が呼び止めた。

 

『おい。その先は地獄だぞ』

 

『これがお前の忘れたものだ。

 確かに、始まりは憧れだった。けど、根底にあったものは願いなんだよ。この地獄を覆してほしいという願い。

 誰かの為になりたかったのに───結局、何もかも取りこぼしてしまった男の果たされなかった願いだ』

 

 少年は微笑んでから答えた。そう、これが地獄を歩み続けた男の忘れたもの。何千何万何億何兆の地獄を歩もうとした想い。その願いがあったから憧れたのだ。そして、少年は夢のために理想(じごく)を進み続けることを決めた。少年は瓦礫の山を進む。そして、そこに突き刺さっている剣を握った。

 

『その人生が機械的なものだったとしても……』

 

『あぁ。その人生が偽善に満ちたものだとしても、俺は……正義の味方を張り続ける』

 

 そして、少年は男の言う現実を……正しさを否定した。例え、この夢が借り物でも、偽善でも、自身が偽物でも構わない。この夢は美しいものだと……例え偽物でも、掲げたじごくが正しいのならその人生に間違いなんてないと……

 

『この夢は……間違いなんかじゃない!!』

 

 彼は目を開ける。自分を呼ぶ声に気づいた……『自分達の力になってもらいたい』、と……アラヤの呼び出しではなく人間の生存を望む声が……視界が変転した。挨拶ぐらいはしないとな……

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。君が俺のマスターってことでいいのかな」



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設定集
サーヴァント 衛宮士郎


クラス セイバー→受肉したためなし【第七特異点突破後】

真名 衛宮士郎

属性 中立・善

隠し属性 人

好きなこと 家事全般・ガラクタいじり

嫌いなこと 現実主義者

天敵 エミヤ、イシュタル

 

ステータス

筋力A

耐久C

敏捷B

魔力B

幸運C+

宝具A++

 

宝具

究極の一太刀(リミテッド/ゼロオーバー)

分類 対悪宝具

ランク A++

刀本来の銘は『火竜』。

彼の保有する固有結界。『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』を一太刀の刀に収束した宝具。固有結界にストックされた宝具を刀に纏わせることができる。発動プロセスは二種類あり、詠唱をするか、もしくは発動した『無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)』を収束させる。これは、相手が固有結界を発動させていた場合には詠唱するしかないが、もうひとつの宝具によって可能になっている。そして、彼の心が折れぬ限り、この刀もまた折れることを知らない。

 

詠唱

I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)

 

Steel is my body, and fire is my blood. (血潮は鉄で心は硝子)

 

I have created over a thousand blades. (幾度の戦場を越えて不敗)

 

Not fulfill its ideal.(その理想は果たされず)

 

There is no meaning to the dream.(その夢に意味はない)

 

Have withstood pain to create many weapons. (彼の者は常に独り剣の丘で鉄を打つ)

 

It will not be corruptible but the heart.(けれど、その心が朽ちることはない)

 

Therefore convergence what ideal of proof. (故に、収斂こそ理想の証)

 

The body was false.(偽りだったこの体は)

 

"LIMITED/ZERO OVER(無限の剣を携え究極の一に至る)"

 

塗りつぶす世界(フィル・ザ・ワールド)

ランク C

相手が固有結界を発動している場合、それを塗り潰して一瞬だけ自分の固有結界を展開する。その間に『究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)』を発動する。生前にある相手の固有結界を侵食した伝承から誕生した。

 

無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)

ランク E~A++

剣を構成するあらゆる要素を内包した固有結界。見た宝具をストックし、貯蔵する。但し、ランクは一つ落ちる。そして、担い手の技術ごと投影するため真名解放等もある程度使いこなせる。

 

火竜剣術

『剣』に変質する前の士郎本来の魔術属性『火』を覚醒させることで限定的に二つの魔術属性を複合させた戦い方を可能にする士郎の奥の手。しかし、『火』に変化させているには時間制限があり、あくまでも『火』に変わっているため、『火』に変化させる以前に投影したものしか使えなくなる。冬木の時点で使用可能なものは4つ。

 

一ノ型 火竜斬

剣に炎を纏わせて切り裂く士郎が一番得意としている技にしてあらゆる火竜術の起点になる技、炎が竜の形を成すことから凛が名付けた。そこで、士郎が『なんか子供っぽくないか』と言い、凛に殴られたとか殴られていないとか

 

二ノ型 火竜砲

火竜斬を斬撃として飛ばす技。

 

一ノ型・改 火竜斬・双

火竜斬を双剣で持続させることを目的として開発した技。ただ、元の火竜斬の威力を持続させるには片腕では支えきれず魔力もすぐに尽きるため威力は百分の一にまで落としている。

 

四ノ型 火竜王斬

火竜斬の威力を極限まで高めた技。大量の魔力を必要とするためカルデアの電力に支障をきたさない範囲では1日三回しか使用出来ない。

 

スキル

対魔力 D

 

騎乗 D

本人に騎乗に関する伝承がないため、基礎をちょっとできる程度に留まっている。

 

心眼(真)B

修行・鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 

投影魔術C(条件付きでA+)

道具をイメージで数分だけ複製する魔術。

セイバーが愛用する双剣『干将・莫耶』も投影魔術によってつくられたもの。

投影する対象が『剣』カテゴリの時のみ、ランクは飛躍的に跳ね上がる。

この、『何度も贋作を用意できる』特性から、士郎は投影した宝具を破壊。爆発させる事で瞬間的な威力向上を行う。

 

彼方への旅路→正義の味方 EX

彼の万人に笑顔でいてほしい願い……そして、それを貫き通すという覚悟が形づいたスキル。精神耐性がとんでもなく高く、精神干渉の類いは殆ど効くことはない。

 

マイルーム会話

1 「休みすぎはマスターのためにならないぞ。そろそろ出陣した方がいいんじゃないか」

 

2 「君は俺のマスターだ。そういう上下関係はきっちりしてるんで、主人を立てるのは慣れてるさ」

 

3 「サーヴァントにも相性はある。だから青のランサーや、金色のアーチャーとは同じチームには入れないでくれ。苦手でさ」

 

4 「凛!?……なに、疑似サーヴァント。いや、その前に……人の妻の肌をそんなに見せびらかさないでくれ!?」イシュタル(弓)所持時

 

5 「マスター、ちょっと相談があるんだ……最近、冷蔵庫の食材の減りが早くてさ。原因は分かってるんだけど、俺が注意したって聞かないと思うから。君の方から注意してもらえないか。藤ね……虎っぽい人に……」ジャガーマン所持時

 

6 「セイバー……あぁ、悪い。あのセイバーとは個人的に縁があって……一緒に戦えるのは素直に嬉しいかな……」アルトリア(剣)所持時

 

7 「マスター、悪いんだがあそこで俺に殺意を放っている弓兵に言ってくれないか。別に殺意を向けてくるのはいいがことあるごとに俺を殺そうとするのはやめろって」エミヤ所持時

 

8 「これは……納得できるよ。似てるしな……」パールヴァティー所持時

 

9 「なんか嫌な予感がするな……いや、これを機に少し反省してもらおうか。あの駄女神には」イシュタル(騎)所持時

 

10 「俺さ、アイツに気に入られるようなことしたか……いや、してないよな……じゃあ、アイツなんで俺に好意的なんだ」ギルガメッシュ(弓)所持時

 

11 「幾分か話が分かるとはいえ……やっぱり慣れないな。あいつの言動には」ギルガメッシュ(術)所持時

 

12 「そうか、俺にはこんな可能性もあったんだな。あらゆる『正義』の体現者、自分の『わがまま』で正義の味方を目指した俺とは真逆のやり方で……か。はぁ、これならアイツのほうがまだマシだ」エミヤ[オルタ]所持時

 

絆レベル

1 「新米マスター……いや、新米魔術師か。気持ちは分かる。無力な自分をもどかしく思うだろけど、今はじっくり進むことだ」

 

2 「サーヴァントがどんな生活を送っているかだって……? そうだな。召喚されてからは、君達とそう変わらない。サーヴァントごとに個人差はあるけど、食事や睡眠を楽しみにする者もいる。──俺? 俺は……まぁ、食事は楽しんでいるよ。主に作る側で、だけど」

 

3 「実のところ、俺のなかにはもう一つの霊騎が混じっている。本来なら英霊には届かない身なんだが、ソイツも含めて俺ってことで、英霊衛宮士郎は成立してるんだ」

 

4 「俺にも奥さんが居てさ……守護者になったことに後悔はないけど、その人を置いてきたってのは少し心残りかな……」

 

5 「この戦いもじき終わるかと思うと、少し寂しいな。英霊として多くの戦場を経験したが、この戦いは特別だ。人類を救うなんて大きすぎる話だが、君が戦う以上……俺も負けてはいられない」

 

霊基再臨

1 「そろそろ本領発揮といくか」

 

2 「魔力の底が上がってきたみたいだ」

 

3 「これなら、単騎でも戦えそうかな」

 

4 「見事だ、マスター。君の信頼に答えないとな。無様なところは見せられない」

 

好きなこと 「好きなこと……笑っている人を見ると嬉しくなる。他には……そうだな。好きなことって訳ではないけど、家事とかガラクタいじりとかしてると気分は落ち着くよ、あとは、ガンプ……模型作りが趣味かな」

 

嫌いなこと 「嫌いなことは特にない。だけど、誰かを助けるために誰かを見捨てることを当たり前と思っている奴は認められないな……」

 

召喚 「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。君が俺のマスターってことでいいのかな」

 

誕生日 「今日は君の誕生日か……ご馳走用意しないとな……食べたいものとかあるか?」

 

聖杯 「聖杯に興味はないよ。願いの一つもないつまらない男だと思ってくれ」




あぁ。ちなみにこの世界での第1回ガンプラバトル選手権優勝者です。


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設定集2

書いてる間に思いつき、設定になってしまったものです。
幻想殺しは、もっと壮大な設定があるだろうが、勝手に解釈させてもらおう。


衛宮士郎の追加設定

火竜剣術について~

魔術属性を『剣』から『火』に変化させている。しかし、これは本来の威力を底上げする裏技で、本来の使い方をしなかったのは冬木の時には本来の魔力が使用不能だったことに由来する。

魔力『火竜(レッドドラゴン)

紅蓮の竜の形をした業火を生み出し、操る。

その威力は50%でも山を消し飛ばし、本気を出せば小さい国家や軽い隕石クラスなら焼き尽くせる。但し、これは士郎本人の負担が大きいのと、周りの被害を考慮したため、生前に本気を出したのは一回しかない。あと、士郎本人の魔力量を考えれば本気の威力は『二回使えれば上々、五回使えたら奇跡』とのこと。

士郎本人に敵意や害意がなければ害はなく、生み出した竜を交通手段としても使用可能。

誰かの負の感情を誘われ、その負の感情を喰らうことが出来る。

異能に関しても、本質も原理も違うが、幻想殺し(イマジンブレイカー)と同様の効果を持つゆえこの作品でのとある世界のほとんどは士郎単体には勝てない。

火之神(カグツチ)モード≫

魔力の最大火力を全身に纏わせた状態。身体機能も、飛躍的に上昇するが、只でさえ最大火力の負担は莫大なため使用時間は五分が限度。だが、特異点を巡る過程でそのデメリットはなくなっていく。というか、まだ完成しきってない。

士郎個人について~

士郎の在り方は『魔神』や『異能』の破壊に対して絶対的権限を持っており、全力の『魔神』を真っ向から打倒出来る可能性を持つ。

彼は自分が英霊崩れの『守護者』と認識しているが、実は違う。アラヤとの契約とは別に、彼はある偉業を成し遂げた。今、カルデアに召喚された彼は紛れもなく『英霊』であり、彼がそう誤認しているのは、『英霊』としての彼と、『守護者』としての彼が存在したことで『守護者』としての記録が『英霊』としての彼にも還元され続けている為である。世界のバグのようなものだ。

“刀魂火竜の相”

火ノ丸相撲の鬼炎万丈の相みたいなもんです。っていうかパクリです。わからない人も居るでしょうから……まぁ、ざっくり言えば黒子のバスケで『ゾーン』みたいなもんです。

士郎が到達する魔法について~

本質を明かすつもりはないので、上っ面のみという形で……

『魔神』達と同じく『位相』……というより、『次元』を観測する能力。しかし、その権限は『魔神』達よりもワンランク上。『魔神』達からその権限を剥奪することも可能。この世界で唯一『外宇宙』にアクセスできる能力。

一言で言い表すなら『運命に抗い続けた少年に許された……ささやかな奇跡』って感じです。あと『達してしまった』タイプの魔法です。

 

世界について~

『魔神』の容量は無限なのではなく、その容量を身体に留めるだけの力がない。まぁ、簡単に言えば神の力を制御しきれていない。振るうことはできてもコントロールするまでの力はない。コントロールできるものが魔法使い。神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの。これそんのままtype-moon世界で紐解くと魔法使いになるヨネってこと。

まぁ、魔神でいう1+1=3の3の部分を3のまま正しく2として扱える。無限の力をさも有限のように扱える。もっと簡単に言えば神の権限を『人間』の身のままなんのデメリットもなく扱える。ドラゴンボールで言うところの神の気は神の域に達してない者には感じ取れないってやつです

士郎達の魔術は、位相の全く関わっていない状態の魔術。そして、学園都市の能力者は逆に位相に歪められた人達。なので脳しか変わっていない『異能力者』

『個性』は身体そのものから変質しているため、負担は全くない。

この作品の設定のなかで作品が終わるまでに『魔神』を打倒出来る人物。これはfate側の設定を優先したため。

EX倒せるが……わからない状態

◯確実に倒せる

△可能性に留まる

fate勢

衛宮士郎◯

ギルガメッシュ◯

織田信長◯

スカサハ◯

アルジュナ◯

カルナ◯

とある勢

上条当麻EX

ヒロアカ勢

爆豪勝己△

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この先多少オルレアンのネタバレあり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上条当麻

基本的な設定は原作と同じ。

緑谷と同一人物であるという辻褄合わせは今回は省略。

幻想殺し(イマジンブレイカー)は、アルトリアの魔力、令呪の影響で変質し、死霊の類いには効果を発揮するようになる。あと、ジル・ド・レェの魔物にも対応した。

魔力『慈愛(ルナ)

手で触れたものを直す。有機物、無機物は問わず、サーヴァントの霊核でも修復可能。

直すという方向性であれば、状態はある程度の自由が効く。例えば巨木を苗木に戻すなども可能

目覚めさせるとすれば黒いジャンヌ辺りからかな、と思っています。

ルナ・ポインター

魔力が届く範囲のすべての物体を自分が指定した地点まで戻す。但し、既に活動を停止したものに関してはその例外となる。

ルナ・リターン

相手の世界そのものを巻き戻し相手の行動を0にする。1日一回しか使えない。第四特異点から使用可能になる。

個性『ワン・フォー・オール』

記憶を喪失、故に使い方が分からず使用不能。

 

炎龍王ドラゴノイド

龍神家の伝承に伝わる竜種、神秘の消失とともに、世界の裏側へと消えたようだ。性格は、傲慢で狂暴、しかし一度友人関係になれば約束は守る。義理は通す。要はツンデレ。第五特異点で本格的に登場の予定。

 

御坂美琴

第三章から参戦。しかし、本編から間違った成長を続けている。

 

槇尾信

オリキャラ、17歳という若さでカルデアのスタッフになっている。そして、前の上条とは幼稚園と小学校が同じで良く遊んだようだ

 

上条良三郎

上条の祖父。学園都市で警備員(アンチスキル )として働いていた。上条も高一まではこの良三郎との二人暮らしだった。そして、高校からの上条の人格形成に重要な人物。



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炎上汚染都市 冬木
邂逅


再臨姿
第一再臨
SN時点での私服。パーカーを着ている。
第二再臨
SN時点での私服
第三再臨
リミゼロの士郎
です。
あと、士郎視点の時のみきのこの文章を真似てみます。余り、似てませんが……


───────自分達を助けてほしい。

 

 声が聞こえた。アラヤの呼び声ではない。もっと単純な、自分達の生存を望む声が……そして、俺はそれに応じて聖杯戦争の世界へと足を赴いた。

 

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」

 

 召喚された先、最初に視界に入ったのは炎だった。辺り一面が炎で燃えている。それもただの炎ではない。明確な殺意を帯びた───人を殺すためだけに燃えている炎だった。

 その光景に一瞬の動揺を見せた後、俺の視界に三人の女性が入った。そして、一人の少女の右手に令呪が刻まれているのを見て、マスターであることの確認をとった。

 

「君が俺のマスターってことでいいのかな」

 

「えっと、多分そうだと思う……」

 

 少女は答えた。しかし、少女──改めマスターにはその、なんと言えばいいのだろうか。

 強さを感じなかった。

 聖杯戦争に参加するマスターは大抵、超一流か、恐るべき才能を持った魔術師だ。

 確かに、俺のような例外は居た。だが、それは第五次聖杯戦争のときだけという超がつくほどの特殊な例外だ。そして、そういう人間には強者の風格というのだろうか。それが出る。いや、もっと厳密にいえば出てしまうものなのだ。

 彼女からはそれを感じなかった。考えられるのは二つ……俺のように半人前の魔術師なのか、それとも本当に一般人か───おそらく後者だろう。前者であれば多少なりとも心意気だけはあるはずだ。

 だが、彼女にはそれすら感じられない。かといって、生存を望む声が偶然にも呼び掛けとなって伝えられた訳でもない。その証拠として二人からは魔力を感じる。そして、一人の女性が俺に近付いてきた。

 

「私はオルガマリー・アニムスフィア。貴方のマスターの上司です。早速で悪いけどセイバー、貴方の真名を教えてもらえる」

 

 真名とは読んで字の如く、そのサーヴァントの真の名のことだ。セイバーなどのクラス名ではない。例えば俺の真名が衛宮士郎のように───しかし、一瞬躊躇った。

 真名とは聖杯戦争に於いて最も秘匿しなければならないものだ。理由は、サーヴァントの真名は手の内の全てを知るのに匹敵する情報だ。

 そもそも英霊とは俺も含めて教科書などに載るほどの偉業を成した者が英霊として召し上がられたものを人間の使役できるまで霊基を格落ちさせたものだ。

 どちらにしろ、それだけ有名なのだから真名がわかるということは手の内をすべてを明かすようなものだ。そのため、本来なら宝具の真名解放も可能な限り使用を控えるものであり、使うのなら必ず仕留めなければならない。奥の手中の奥の手だ。

 しかし、この状況から考えるに、通常の聖杯戦争ではない。故に、俺は真名を明かした。

 

「……衛宮士郎。マイナー過ぎてわからないだろうけど、理想のために自分を鍛え続けた無銘の英霊だ」

 

「なによ。よりにもよって無名の英霊って、ついてなさすぎるわよ」

 

「所長、そんな言い方じゃ……」

 

 一人の武装をした少女が女性を咎めるが、怒りで一色となった彼女の耳には届いていないらしい。彼女のニュアンスからして俺が言った『無銘の英霊』とは違うみたいだが、ここまでストレートに言われるとさすがに少し傷付くな、と腕を組み少し苦笑いを浮かべながら言った。

 

「悪かったな。名のある英霊じゃなくて……」

 

「えぇ。全くよ、マスターは数合わせの一人だけで、戦力はマシュと無名の英霊だけなんて……」

 

「オルガマリー!!」

 

 俺の言葉は怒りの火に油を注いでしまったようだが、それで自分のマスターが貶されるのは我慢ならないと思い、語気を強めて彼女を制止した。

 そして、彼女はなにかを気付いたように押し黙り、俺に言った。

 

「な、なによ」

 

「確かに俺は他のサーヴァントには及ばないだろうけど、呼ばれたからには結果は出すぞ。だから、信じてやってほしい。俺のマスターを……」

 

 一応、自分を喚んでくれたマスターだ。信頼はしている。それに『力を貸してほしい』と言われた。そういう人間に罵声が浴びせられるのは駄目だ。

 だから、結果を出すことを約束した。

 そうすれば、俺を召喚したマスターを貶すことは出来ないだろう。

 少し、落ち着きを取り戻したオルガマリーに近付き言った。

 

「つい、その場のテンションでオルガマリーって呼んだけど、なんて呼べばいいかな」

 

「お構い無く。オルガマリーでもアニムスフィアでもご自由に」

 

「じゃあ、所長でいいか」

 

「えぇ。それで構わないわ」

 

 これで、オルガマリー───いや、所長の能力と人間性は大体わかった。

 所長は、落ち着いていればとても優秀なんだと思う。しかし、良くも悪くも常識にとらわれすぎてしまうことがあるようだ。そして、なにか───コンプレックスを持っているようだ。

 それがなにかまではわからないが、とても大きなコンプレックスのようだ。

 次に、俺はマスターのもとへ向かった。

 

「えっと、君達のことはなんて呼べばいいかな」

 

「わたしはマシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントです」

 

 デミ・サーヴァント……理論だけは聞いたことはある。確か生きている人間に英霊を憑依させて、霊体化や食欲のような生者ではないサーヴァントのメリットを失う代わりに魔力供給のデメリットを補うものだったはずだ。失敗例ばかりが出て中止になったとも聞いたが───

 

「マシュか。ん、どうかしたかマスター」

 

「え。あぁ。ごめん。その───マスターって呼ばれるの馴れてなくて……」

 

 マスターは、マスターと呼ばれるのがしっくり来ないらしい。所々昔の俺と似ているところがある。髪や瞳の色も同じ……血縁関係はない筈だが、ここまでくると縁を感じる。まぁ、一般人だという見解に間違いはなかったようだ。こういう場合、かつてのセイバーがやってくれたようにやってみよう。

 

「なら、名前で呼ぼう。その方が信頼関係が築けていい」

 

「藤丸立香……です」

 

「藤丸立香……か。よろしくな」

 

 手を差し出す。すると、マスター────またまた改め立香は少し戸惑いながらこちらこそと手を出し、俺と軽く握手を交わした。

 それから、歩きながら所長から事情を説明された。

 立香達は人理継続保障機関フィニス・カルデアという組織に属する者達でこの特異点と呼ばれる歴史の歪みを修復するための作戦を実行する過程でトラブルが発生し、本来その作戦に参加するはずの46人のマスターは危篤状態のためコールドスリープ───奇跡的にレイシフトに成功した立香達は、このトラブルの原因究明のために予定通り作戦を進行するようだ。

 しかし、戦力はデミ・サーヴァントとして覚醒したばかりで戦い方もおぼつかなく宝具の真名解放を出来ない状態では頼りないため、マシュの盾の効果の一つで仮契約という形で俺が召喚されたという訳らしい。

 さらに暫く歩いて、俺が周りを囲むような気配に気付いた。

 

「どうやら……そうゆっくりもしていられないらしい」

 

「ッ、敵です。マスター、指示を」

 

 そして、俺達を囲うように骨だけでできた人形が現れた。

 なるほど。怨念だけで漂い、それだけを本能として動く人形──しかも、これがこの聖杯戦争の結末のようだ。遠坂、間桐、アインツベルンはこんなものを作ったのだ。儀式のために、そして、勝つために反則を行った結果、汚染されてこうなった。だから尚更性質が悪い。

 今ならアイツの言った言葉がよく分かる。願いを叶える願望機。しかし、それを費やさなくてはいけない願い───それ即ち人間の悪性に他ならない。

 

「迎撃して。マシュ、士郎」

 

「了解、立香」

 

 立香の指示が聞こえた。それに応える。これが本来、マスターとサーヴァントのあるべき形なのかもしれない。

 この姿で呼び出されたため、普通に動けるかの確認を少しだけとった。

 俺は『戦う者』ではない。

 そんな大層なものでは断じて────

 俺は『生み出す者』に過ぎない。

 俺がすることはただ一つ。常に最強の自分を造り続けること。

 その武具が創造理念の鑑定(どのようないとで)基本骨子の想定(なにをめざし)構成物質の複製(なにをつかい)製作技術の模倣(なにをみがき)成長経験を共感(なにをおもい)蓄積年月の再現(なにをかさねたか)追想(トレース)し、そのすべての工程を凌駕しつくし、幻想を結び剣の形を成すことのみ。

 ある剣をイメージし、先程反芻した工程を踏み詠唱とともにイメージの剣に形がもたらされる。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 俺の両手に白と黒の双剣が握られている。そして、それを振るい骨だけの亡者を切り裂いていく。向かってくるものを次から次に───マシュが反応できない敵を倒す等の援護をしながら戦い、数分後。あらかた倒し終えて一段落着いた後に何かの映像が流され始めた。

 

『皆、無事か』

 

「うわっ、ビックリした」

 

『無事ならよかった。やはり怨念がスケルトンになったようだね』

 

 不覚にもビクッとしてしまった。

 そんな俺を所長が不機嫌そうに、立香とマシュは苦笑いを浮かべながら見ていた。

 それにしても────最近の技術進歩は凄いな、生前、凛がスマホを使えるようになったとき大喜びしてたけどこれじゃまた追い抜かれてるな、等と呑気な思考を巡らせていると、ロマンから俺へ質問があるようだ。

 

『それと、士郎くん。それは君の宝具でいいのかな』

 

「───確かに宝具だけど、俺のってわけじゃない。それにこれは、贋作……偽物だ」

 

『そうか……解析の結果。士郎くんの宝具は投影魔術によるものだと思われます』

 

 ロマンは俺の回答を聞いて一呼吸置いてから解析の結果として俺の宝具が投影魔術によるものだと報告した。最近の魔術組織はこんなことすら解析出来てしまうのだろうか。と思っていると、所長がまた怒鳴り出した。

 

「な、あり得ないわ。宝具の投影なんて出来っこない。第一、虚影と言われるほど効率の悪い投影がこんなに持続するわけない」

 

 ──所長は、やはり常識にとらわれることが多いらしい。ここら辺は凛と違うところらしい。いや、ここ一番で大ボカをやらかす点もあるからプラマイ零で似ているという判断を下した俺だったが、このままでは事態の収集が着かないと判断した俺は魔術師だったことを打ち明けた。

 

「えっと。俺は生前、投影魔術に特化した魔術師だったんだ」

 

 そう言うと、一同が何故か押し黙ってしまった。その理由を俺の投影の特異性について考えていると判断して、その特異性について少しだけだが言及した。

 

「まぁ、普通の投影魔術とは少し違うんだけど……」

 

『───具体的には』

 

「それについてはまだ言えない。それは俺本来の宝具の一つだ。今ここで話すには危険性が高すぎる」

 

 そう言うと、ロマンは連絡を切った。それから俺達がどこへ向かうべきかと話になり、土地勘のある俺が案内することになった。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 さて、時間を少し遡り衛宮士郎が召喚される数分前──上条当麻と御坂美琴は待合室で待っていた。

 どうしてこうなったかの経緯を出来るだけ簡潔に説明すると『世界の基準点』である上条当麻とその近くに居た御坂美琴はカルデアと同じく時間軸から弾き飛ばされ、それをカルデアに観測され救助され、待合室で待たされているわけだ。そして、衛宮士郎が召喚され、所長と一悶着有った頃、何者かが待合室に入ってきた。

 

「いや、驚いたよ。僕たちカルデアの職員以外にも無事な人が居たなんてね」

 

「えっと、まず……アンタは」

 

「あぁ。ごめん、自己紹介がまだだったね。ボクはロマニ・アーキマン。このカルデアの医療部門のトップを務めいて皆からはDr.ロマンって呼ばれている」

 

 ロマンと名乗った男は、上条達に事情を説明した。自分達はカルデアという組織に所属していて、特異点と呼ばれる時空の歪みを修復する作戦を実行する過程でトラブルが発生し、原因究明のために予定通り作戦を進行しているということらしい。

 

「ってことは、原因はまだ判明してないんですか」

 

「……残念ながら」

 

 美琴が結末を簡潔にして確認をとった。ロマンは肯定して、なにかを言おうとしたときカルデアという組織の職員らしき人物が入ってきた。

 

「衛宮士郎のステータスとスキルが判明しました」

 

「ッ……それは本当かい」

 

「はい、本当に基礎的なものですが……」

 

 そして、職員が数枚程度のプリントをロマンに渡してロマンがそれに目を通す。大体二枚目辺りからロマンが目を見開いた。

 

「なんだこのステータスの高さ……彼は本当に無名の英霊なのか」

 

「それより、事情の説明は私からします。Dr.ロマンは指揮に戻ってください」

 

「いや、もう大体説明し終えた。君達も来てくれないか。悪いが、人手が欲しい」

 

 上条達はロマンの案内に従って指令室に入った。そして、モニターに映し出されたのは戦闘の場面だった。

 特に赤銅色の髪をした上条と同じ年くらいの少年が鬼神の活躍と言っても過言ではない活躍をしていた。

 武器の解析結果を映し出すと、職員達に動揺が広がる。ロマンも一瞬動揺を見せたが、確認しないことには始まらない。ロマンは通信を繋いだ。

 

「皆、無事か」

 

『うわっ、ビックリした』

 

「無事ならよかった。やはり怨念がスケルトンになったようだね」

 

 取り敢えず、現状確認に努めているようだった。しかし、士郎がロマンの話を聞きながら武具を消したのを見て職員の動揺が増すだけだった。ロマンは本題に入り始めた。

 

「ところで、士郎くん。それは君の宝具でいいんだね」

 

『───確かに宝具だけど、俺のってわけじゃない。それにこれは、贋作……偽物だ』

 

「そうか……解析の結果。士郎くんの宝具は投影魔術によるものだと思われます」

 

『な、あり得ないわ。宝具の投影なんて出来っこない。第一、虚影と言われるほど効率の悪い投影がこんなに持続するわけない』

 

 それを聞いてオルガマリーが怒鳴り始めた。その動揺は必然だ。いくら彼女が優秀でも、順接を追って情報ですら職員は動揺を隠せなかったのだ。そんな情報を簡潔にしたとしてもその情報を一気に伝えられたのでは動揺するしかない。士郎は頭を掻きながら答えた。

 

『えっと。俺は生前、投影魔術に特化した魔術師だったんだ』

 

 職員の動揺がさらに大きくなった。マシュは腑に落ちたようだが、それでも動揺を隠せていなかった。

 

『まぁ、普通の投影魔術とは少し違うんだけど……』

 

「───具体的には」

 

『それについてはまだ言えない。それは俺本来の宝具の一つだ。今ここで話すには危険性が高すぎる』

 

 それで、職員の動揺が少しだけ落ち着いた。そうだ。あれほどの投影が通常の投影魔術の筈がない。そして、それを聞いてロマンは士郎の宝具にある程度の予測を着いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 立香達は土地勘のある士郎の案内でかつて士郎が通っていた高校へ赴いた。しかし、もうほとんど炎はないにしろ廃墟に近かった。

 

「ここならもしかしたら……と思ったんだけどな」

 

「いえ、休むのなら丁度いいわ。ここで今後の方針を決めましょう」

 

 そう言って、廃墟ような高校の一室の入った。

 立香はそこで一息つきながら、改めて士郎を観察し始めた。黒のラインが入った白いパーカーにジーンズ、現代の日本の私服って言われても通用する感じだった。しかし、なにより優しい顔立ちをしていた。本質から優しい人間だと分かるほどに……

 士郎が外に敵がいないかの警戒をしながらロマンとオルガマリーの会議を聞いていた。

 

『円蔵山と呼ばれる山に新都の霊脈地を越える霊脈が存在しています。恐らく原因はそこかと……』

 

「いえ、他の可能性を潰して置くべきでしょう。目ぼしい霊脈を調査していきます」

 

「やっぱり、聖杯が原因なのか……」

 

 それを聞いて、士郎が呟いた。そしてその呟きが聞こえたのは立香だけだった。立香にはその言葉の意味が理解できなかった。



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調査

投稿遅くなりました。はっきり言いましょう。めんどくさくて遅れました。
後、英雄王が士郎を見たらこういうと思います。
「ふはははははは、贋作もそこまでいけば尊敬に値するぞ。いや、あの顔立ち……もう贋作ではないということか。面白い、これもまた一興。ちょっと待っていろ。あの雑種や征服王、セイバーとともに酒を酌み交わしてくる」
そして、士郎だけ肩身が狭くなっているという。面白い。これ番外編で書こうっと


 廃墟と化した俺のかつての母校であり、聖杯戦争の戦いの舞台にもなった穂群原学園での方針会議(ほとんど所長とロマンによる)により冬木にある目ぼしい霊脈を調査していくことになった。

 最初に深海町と新都を繋ぐ大橋を調べた。なにも問題はなかったようだ。

 いや、こんな状況でなにも問題がないわけがないのだが、大きな問題はなかったみたいなので問題はないと仮定する。

 次に港を調べた。結果は伴わなかったようだ。

 次に協会跡の調査を行ったが、またしても収穫はなし。

 むしろ、度重なる戦闘でマシュに疲労が溜まり始めているようだ。それに気づいたのかは不明だが所長がその場で休息をとることになり、所長が状況を分析し始めた。

 

「そもそもカルデアスを灰色にする事態ってなんなのよ……未来が見えなくなるってことは人類が消えるということ……」

 

 聞き耳を立てていた俺だが、次の瞬間、俺も盲点だったことを言った。

 

「もしかして……特異点では抑止力が働かない?」

 

 その言葉とともに俺は思考を始めた。

 考えみれば確かにそうだ。

 これほどの事態ならそうなる前に抑止力が俺達守護者を寄越すだろう。そう、通常の世界なら……しかし此処は元の歴史から独立した歪みだ。俺達の世界に存在しない以上は抑止力の監視下にはないって訳か───

 

「……ふぅ。今回もなんとかなりましたね。マスター」

 

「もう完全にサーヴァントとしてやっていけるわね。ここの程度も知れたし、もう怖いものもないんじゃない?」

 

「それは……どうでしょう。どんなにうまく武器を使えても、戦闘そのもの」

 

 その会話を聞いた俺は思考を中断してマシュを見た。やはり、これで精一杯なのだろう。経験はこれから積むとしてしっかりサポートしなげればと、気持ちを改めた。

 

『ごめん、話は後!みんなすぐそこか逃げ───』

 

 刹那、その一瞬に皆は見た。女性とは思えぬ怪力を用いて地面を破壊する様を───俺は心眼による危機察知で一足早く立香と所長を背負って跳躍した。マシュも間一髪で対応できたのか俺とは違う方向に跳躍した。

 

「間一髪だな」

 

「な────まさか、あれって!?」

 

『そこにいるのはサーヴァントだ!戦うな立香、マシュ。君達にサーヴァント戦はまだ早い……!』

 

「こんな状況で逃げれるわけないでしょ。それこっちには正規のサーヴァントがいるわ。士郎、なんとかしなさい。同じサーヴァントでしょ」

 

「うん、まぁ、やるだけやってみるよ」

 

 立ち上がると同時に双剣を投影、斬りかかる。

 女性は鎖に繋がれた短剣を取り出し鎖で受け流しながら短剣で斬りつける。

 俺は左手の干将で受けて持ち直した右手の莫耶で短剣を無理矢理手から離れさせて首に斬りかかる。

 それを読んでいたのか鎖を巧みに操り短剣手に戻し斬ろうとするが、俺の危機察知が勝り、一瞬早くに避けて距離をとった。

 それから敵を観察し出した。

 これが聖杯戦争のサーヴァントだとするなら慎二から聞いた身体的特徴と一致するから恐らくクラスはライダー、真名も同じだろう。

 

「士郎先輩、大丈夫ですか」

 

「あぁ、なんとかな。あいつは恐らくライダー、真名はメデューサだろうな。攻略方法もあるんだが、隙を作る必要がある。頼めるか」

 

「……私に出来るでしょうか」

 

「俺も狙撃で援護する。それに今のお前ならあのメデューサとも十分に渡り合えるはずだ」

 

 マシュは少し迷って数秒経ってから覚悟を決めた顔で言った。

 

「やってみます」

 

 そう言って、メデューサへと突撃していった。攻めすぎても守りすぎてもメデューサは隙を見せない。だからこそ力が拮抗しているマシュに囮を頼んだのだ。しかし、経験では断然劣っているのでやられると思ったときには俺が狙撃で援護した。

 

「貴方セイバーでしょ。なんで弓を使えるのよ」

 

「まぁ、一応これでも元弓道部のエースでね。まぁ、セイバーで召喚されたから多少腕は落ちてるけど……」

 

 そう言いながら隙を探した。

 そうして一分が経過する頃……見せた。

 俺にとっての隙を、俺が全速力で双剣を投影しながら突っ込む。

 それを確認したマシュは引いた。

 かすりはしたが避けられた。

 しかし、かなり無理矢理避けたためにもう避けれはしない。俺は双剣を消してある鎌を投影してライダーを切り裂いた。ライダーは倒れ付して俺を見つめた。

 今さっき投影したのは不死身殺しの鎌・ハルペーだ。ギリシャ神話においてペルセウスがメドゥーサを討ち取った因縁のある宝具だ。

 なので─────

 

「貴方は……何者ですか」

 

 当然聞いてくる訳である。

 しかし、名乗るほどの名を持ち合わせている訳でもないので、最低限の名を伝えた。

 

「別に───ただ英霊崩れの守護者だよ」

 

 そう言うとライダーは、納得したような……やはり納得できないような苦笑を浮かべて消滅した。

 

「ハァ────ハ、ァ、勝てた、もうダメかと思ったのに……」

 

 やはりマシュは成長している。俺の見込みではもう少し援護を入れなければダメだと思っていたが──その必要がない……つまり、俺の予想以上に経験を自分の物にしている。

 

『ごめん休んでる暇はないんだ。士郎、マシュ。今の反応と同じもの(・・・・・・・・・)がそちらに向かっている。どうするべきか、言わなくてもわかるね?』

 

「え───同じ反応って、そんな───」

 

「立香、撤退よ。とにかくここから離れるの」

 

「迷ってる暇はないな。マシュ、俺は立香を背負う。お前は所長を頼む」

 

 そう言って、俺は立香をおんぶで背負い、マシュは盾に所長を乗せて走った。そして、数分マシュがついてこれる最速の速度で大橋のところで追い付かれた。立香をおろしマシュの方を見た。明らかに息が荒い。さすがに消耗もピークに達し始めているようだ。

 

「立香。迎撃するんなら俺をメインに……マシュは消耗してる」

 

「……士郎、迎撃して。マシュは援護をお願い」

 

「「了解」」

 

 双剣を投影して斬りかかる。

 心眼の危険察知でアサシンを重点的に攻撃するが、あと一歩のところでランサーに邪魔をされてしまう。

 それを気づいたのかアサシンがなにかをすると判断したときにはアサシンを妨害してくれた。

 しかし、経験という面においてはこちらが多少不利だろうか。

 俺自身は多分アサシンやランサーよりは経験同じ程度には経験を積んだと思うがマシュがいる。マシュには思考や観察眼はあっても経験から来る読みがない。そこに関してはあちらに軍配が上がるか。

 そろそろ何か起死回生の一手が欲しいと思っていた頃、たった一言。声が響く──────

 

「小僧、小娘の連中かと思ったらそれなりに(つわもの)じゃねぇか。なら放っとく訳にはいかねぇな」

 

 その言葉とともに炎が現れ、二体のサーヴァントを攻撃した。

 そして、サーヴァントが後退した後に男が現れた。皆は驚くが俺の驚愕は一際大きかった。

 何せ生前に敵だったサーヴァントだったからだ。

 服装が変わっているが忘れるはずはない。

 時には敵として戦い、時には共闘しそして、なにより自分を一度殺した男だったのだから……

 

「お前は……ランサー」

 

 自然と声に出てた。それを聞いたランサーは不機嫌にこちらを見ながら近付いてきた。

 

「なに言ってんだ小僧。俺はキャスター、ランサーならあちらさんにいんだろ。そりゃランサーとして呼ばれてたらこんなことにはならなかったんだろうが……」

 

 途中で我に帰ったように振り替えった。そして、少し咳払いをしながら言った。

 

「俺もあいつらとは敵対しててな。敵の敵は味方とは言わねぇが共闘戦線と行こうぜ。積もる話はその後だ」

 

 ランサー……改めキャスターはその言葉とともに俺が見慣れた獰猛な笑みに変わり、杖を構えた。

 

ansuz(アンサズ)!」

 

 ルーン文字が浮かび炎となってランサーに襲いかかる。ランサーはすんでのところで避けるが、追尾性があるのかランサーを追っていった。それについて動揺したようで反応が遅れ命中した。

 しかし俊敏性に優れたランサーそこは致命傷は避けた。しかし、キャスターの放ったルーン魔術に意識が行きすぎたようでその隙を突き俺の双剣で貫き消滅した。

 そして、ルーンが追ったアサシンは辛うじで避けてキャスターに言った。

 

「キャスター。何故漂流者の肩を持つ」

 

「そりゃ、テメーらよりマシだからだろ。それより後ろ気を付けた方がいいんじゃねぇの」

 

「アサシンが後ろとられちゃ駄目だろ」

 

 キャスターに気をとられたアサシンを後ろから突き刺し切り裂いた。アサシンは倒れ消滅した。

 キャスターを見ると乾いた笑顔を浮かべて指でサインを出した。

 

「まぁ、積もる話もあるだろ。協力するかはその後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 舞台は変わりカルデアで上条と美琴はテキパキ働いていた。取り敢えず上条から説明しよう。上条はロマンの命令……もとい依頼によって職員の資源運びを手伝っていた。その合間に上条はさっきの出来事について考えていた。衛宮士郎を見たとき─────懐かしさを感じた。しかしあり得ない。これでも上条は記憶喪失だ。しかも記憶を取り戻すことが絶望的なほど深刻な……

 

「あの人───『前の俺』と会ったことあるのかな。でも思い出すことなんてないだろうしな」

 

「ん、なんのことかな当麻君」

 

「いや、なんでもないです」

 

「なら、美琴ちゃんのところに行ってくれるかな。彼女にはコールドスリープへの電力供給を頼んでいる」

 

 上条は頷いて指令室を出た。

 そういや1ヶ月前ぐらいにも同じことがあったな、と思い出してみる。

 なんかふわふわした感じの女性から上条君といわれてすごい話しかけられた。

 人違いじゃないかと言って振り切って帰った。そうして、何故か『前の上条当麻』を知っている人が俺の周りに現れ初めていることに若干の恐怖を覚えつつコールドスリープの装置が置かれている部屋に入ると、美琴が電源コードにビリビリッと電力を充電していた。

 

「なにしに来たのよ。アンタは」

 

「いや、ロマ二さんが見てこいって……」

 

「じゃあ、そこで休んでなさいよ。もう数時間も動きっぱなしなんでしょ。私もあと数分で終わるから……」

 

「そういや、そう言われるとどっと疲労感が……じゃあお言葉に甘えて上条さんは休ませてもらいますよ」

 

 そう言って美琴の指差された方向で座り込み、それから五分くらい美琴の仕事を見つつさっきの思考を再開した。

 衛宮士郎───恐らく彼は自分を知っている。

 上条自身の感覚でしかないが士郎を見たとき懐かしいと感じたのは事実だ。

 多分俺の記憶に残っている『前の上条当麻』の残骸が俺に訴えかけたんだろう。つまりそれだけ『前の上条当麻』にとって大きな存在ってことだろう。そんな人を忘れてしまったことに罪悪感を感じ始めた頃、丁度美琴の電力供給も終わったようだ。

 

「うん、これで数週間は持つでしょ……どうしたの、ボー、としちゃって」

 

「え、あ、あぁ。この人達、起きんのかなって……」

 

「そんなの私たちが気にしたってしょうがないでしょ」

 

 急に聞かれて、咄嗟に別のことを言ってしまったがそれに関しても多少は考えていたことは事実である。指令実に戻った美琴が終わったと報告するとロマンが言った。

 

「二人ともお疲れ様。しばらく休憩してくれ、今から空きの部屋に案内するから」

 

 ロマンが案内してくれた二つの部屋に別々に入った。上条は取り敢えず椅子に座りボーッとして5分くらい経った頃、突然美琴が部屋に入ってきた。

 

「どうしたんだよ。御坂、なんか用か」

 

「いや……一人じゃ落ち着かなくて……」

 

「俺には今の方が落ち着きがないように見えるんだが……」

 

 美琴の顔はリンゴよりも真っ赤に染まっていた。それもそのはず美琴の想い人こそ今目の前にいる上条当麻なのだ。しかし、ここまでここまで真っ赤に染まった顔を見たら誰だって気づくものだが、そこは上条当麻。彼はこうとしか思っていない。『風邪でもひいているのか』と……解説しておくが、まず落ち着かないというのは事実であり本心だ。そこで話し相手を求めて上条の元まで来たのはいいものも上条が自分にとってどんな存在なのかを忘れていた。美琴の胸には後悔が埋め尽くされた。

 

「まぁ、話し相手が欲しいってのは分かったから取り敢えずそこ座れよ」

 

 美琴は無言で頷いてベッドに座った。そこからお互い何を話していいか分からず数分の沈黙という名の気まずい時間が続きそこから何故か近況報告会が始まった。

 

「へぇ~、そんなことがあったのか」

 

「アンタはまた厄介なことに巻き込まれたみたいね」

 

「は、はは、まぁな。はぁ」

 

 上条はこれまでに自分の事態を考えるがもうそれが日常の一部になりかけているに関して若干の恐怖を覚えた。しかし、これもちょっと不幸な出来事にしかならないわけで……

 上条がため息をついた瞬間、カルデアの職員が部屋に入ってきた。

 

「上条くん、ちょっと来てもらえるかな」

 

「あ、はい。分かりました。悪い、御坂。そこら辺の話はまた今度な」

 

 そう言って、上条は部屋を出て行った。手伝いというのも荷物を指令室に運ぶのを少し手伝うだけの簡単なことだった。

 

「悪いね。休憩中なのに手伝わせちゃって」

 

「いいっスよ。動いてたほうが落ち着きますし……」

 

 そう言いつつ上条はモニターに視線に向けた。そこには見たことのない男がいた。

 

「また新しいサーヴァントですか」

 

「いや、この特異点での唯一正常なサーヴァントみたいだ。Dr.ロマンがこれから協力を要請するらしい」

 

「……見ててもいいですか」

 

「え、なんで……別にいいと思うよ。そこら辺にひっそりと見てるぐらいなら」

 

 彼が……衛宮士郎が自分を知っているなら、この戦いは見届けなくてはならないと上条は感じた。なので、一応ロマンに確認をとり角に座りモニターで戦いを見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーヴァント戦を終えた後、その近くの公園でキャスターと話すことになった。

 

『先程はご協力感謝します。私たちは人理継続保証機関フィニス……』

 

「あぁ。そういうのはいいや。さっさと本題に入ろうぜ」

 

 それからロマンは多少戸惑った後、俺たちの状況を説明した。一通り説明し終えた直後、キャスターが自己紹介を始めた。

 

「俺はキャスター。そっちの小僧は知ってるだろうから明かすが真名はクー・フーリンだ。ランサーで召喚されりゃセイバーなんて一発なんだがな」

 

 その言葉を聞いて立香が頭から?マークを出し始めた頃にマシュが英霊には複数のクラス適正があると解説していた。

 ちなみに俺にもアーチャークラスの適正がある。

 まぁ、そっちの場合ほとんどアイツに出番持ってかれるんだが……そして解説が終わり、俺は一番の疑問をぶつけた。

 

「だけど、キャスターとはいえアンタともあろう英霊が勝てない相手ってのはなんなんだ」

 

「我ながら情けねぇんだがよ。仕方ねぇんじゃねえの。相手があのアーサー王なんだからよ」

 

「な、アイツがか」

 

「その様子じゃ奴さんについても知ってるみてぇだな。少しばかり変質してるが、あれは間違いなくアーサー王だぜ」

 

 アーサー王は生前俺が第五次聖杯戦争で召喚したサーヴァントだ。クラスはセイバー、恐らく万全の状態ならあの聖杯戦争でも一位二位を争うほど強さだろう。

 しかし、アイツがこんな惨状を望むだろうか。例え、変質していたとしても……

 

「あれは正直性質が悪いぜ。もうあれには俺一人じゃ打つ手なしさ。ということでよ。アンタらもこの問題を解決してぇんだろ。俺もこの狂った状況を何とかしたい。目的は違うが、目指す場所は同じってこったな。手ぇ組まねぇか」

 

「どうする、立香。俺の経験から行くとコイツ滅茶苦茶頼りになるぞ」

 

「え、じゃあなんでそんな不機嫌そうな顔してるの」

 

 む、これは痛いところを突かれた。

 しかし、話すしかないだろ。というよりこの程度のことを秘密にする必要もないだろ。俺は立香を連れて少し距離を置いてから言った。

 

「実はさ、俺生前にランサーとして召喚されたアイツに一度殺されたことあるんだよ。そのときはその数年後に結婚した俺の奥さんのお陰で生き返れたんだけど、どうも苦手でさ」

 

「なんだ。そういうことか」

 

 キャスターの声がして少し驚いた。聞き耳たててやがったのかコイツ……

 

「んな、細かいこと気にしてっとでっかくなれねぇぞ。坊主」

 

「この姿が全盛期なら別にいいよ。それにこれの数年後に20㎝ぐらい伸びたわ。つか、わしゃってすんな」

 

 キャスターの手を払いのけて立香を見ると、口をアワアワさせながら驚いていた。

 

「士郎、結婚してたの。その歳で!!」

 

「え、いや、これでも英霊だ。見てくれの歳じゃないぞ。って言っても俺の実年齢も10歳程度しか違わないけど」

 

 その後何故か大笑いされて場が和んだ。

 そして、立香マシュや所長と相談した結果、正式に協力することになった。それからキャスター───改めクー・フーリンはマシュに言った。

 

「見たとこ嬢ちゃん。宝具が使えねぇみてぇだな。ついてきな。稽古つけてやる」

 

 そう言って、マシュを連れていった。それに所長も着いていった。しかし、立香は俺が動かないことを心配したようだ。

 

「大丈夫だよ。俺もすぐ行くから……」

 

 そう言うと立香もマシュをのもとへ行った。俺はその後暫く考えて投影品を磨くことにした。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 そう言って、よく使う干将・莫耶に始まって使わないものまで次々に投影し始めた。ちゃんと工程を丁寧に踏まえて投影したので、いつものより多少出来はよかった。

 

「はぁ、刀鍛冶じゃまだまだ若輩。達人には及ばないってことだな」

 

 魔力を辿ってマシュ達のもとへ急ぐ。着くと、マシュがこれまで以上に消耗していた。それだけハードなスパルタ特訓だったのか。

 

「そんなにキツかったのか」

 

「……キツイなんてレベルじゃないよ」

 

 立香もかなり消耗したようで(精神的に)座り込んだ。しかし、二人には自信に満ちた顔をしていたのでこの指導法はあながち間違っていないのか。マシュ達は円蔵山を見ていた。やはり、あそこに聖杯があるのか。自分の不始末は自分で決着を着けないとな、と俺も覚悟を新たにした。



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激闘

こんな夜遅くに投稿ってバカだろ。自虐から入りますが、しばらく見ないうちに57人もの人がこの小説をお気に入りにしてくれるって言うのでビビって転んで頭を打ちました。さて、茶番はこれぐらいにして……さぁ、どうなる第3話


 今俺たちは円蔵山にある洞窟────いや、大空洞といった方が正しいだろうか俺はおろかこの山にある柳洞寺の息子である流洞一成すら来ないと言っていた祠──────『龍洞』の入り口にいた。

 此処に来るまでに可能な限り戦闘は避けて来たのでマシュ達も大分回復したようだ。

 そして、入ろうとすると一人の男が現れた。

 

「これはこれは、一体なんの用かね。キャスター」

 

「お前達を倒しに来たとしたら、どうする」

 

「無論、止めるさ。さすがにこの数では勝てないだろうが足止めぐらいは……」

 

 男の……アーチャーの眼は俺を捉えた。

 その一瞬でアーチャーは歴戦のサーヴァントのクー・フーリンですら驚愕を隠しきれない程の殺気を俺にぶつけてきた。

 

「いや、少し方針を変えよう。お前だけは殺す。衛宮士郎」

 

「生憎、今の俺はサーヴァントだ。例え俺を倒しても、お前が消滅する訳じゃない」

 

「そんなことは────」

 

 その瞬間、キャスターと俺が構えた。アーチャーが臨戦体勢に入ったのを『読み取った』からだ。

 

「どうでもいい」

 

 しかし、狙われたのは俺ではなかった。その隣の立香だ。

 俺は間一髪、干将・莫耶で受け止めた。

 そこからつばぜり合いになり、その隙に立香に言った。

 

「立香、先に行け。後で必ず追い付く」

 

 そう言うと立香は少し迷ったが、マシュが小さく呼び掛けてくれたお陰で立夏達は大空洞のなかへと走っていった。

 一瞬遅れてアーチャーが追おうとするが今度は俺が斬りかかりそれを避けてアーチャーは距離をとった。

 

「オレの邪魔をするつもりか」

 

「そっちこそ。俺達の目的の邪魔をするつもりか」

 

「抑止力の手駒風情がこのオレと戦うと……」

 

「手駒なのはお互い様だろ。まぁ、マスターはお前のとは違っててね」

 

 お互いに皮肉を言い合う。

 これが俺とアイツの挨拶であり、俺はそのつもりはないが、少なくともアイツにとってはお互いに違う存在なのだということの証明なのだろう。

 そしてその『挨拶』が終わった直後、俺達はお互いの持つ干将・莫耶を打ち合った。

 お互いの剣にヒビが入るがすぐに補強(なお)して打ち合った。

 その二度の打ち合いでお互いに力量を把握したのだろう。

 まず、お互いがするべきこと─────

 そんなもの明白だ。森に入る。そこで数度打ち合い、アーチャーは姿を消した。

 

────答えろ。衛宮士郎、お前はまだ正義の味方等というものを目指しているのか

 

 どこからかわからない声が聞こえる。それは、アーチャーの問い掛け。

 

「まぁな。なんで今更、そんな分かりきったこと聞いてるんだ」

 

────なに、私がお前を殺すべき理由を再確認していただけだ。

 

 矢が飛んでくる。

 それを撃ち落としながら柳洞寺へと向かう。

 柄にもなく全力疾走して柳洞寺に着くと双剣を消す。そして弓と剣を投影し、剣を矢へと造り変えてアーチャーが放った矢にぶつけて相殺した。

 

「軌道がわかってれば撃ち落とすことぐらいできるさ。セイバークラスの俺にもな」

 

「そういうことか。やれやれ、馬鹿正直に付き合うべきではなかったな」

 

 毎度の皮肉を言いながらアーチャーが姿を表した。

 今なら理解できる。

 アーチャー自身は否定するだろうが、アイツは俺を……そして自分自身の中に残っている『正義の味方を目指す衛宮士郎』を殺すことで決別し俺達が正義の味方として殺してきた人達に贖罪をしようとしている。だってそうだろう。

 誰だって正しいと思ってやって来たことが間違いだと知れば、自分を完全に殺すしかない。

 それは、きっと正しい。

 俺はアーチャーにはならない自信はあるが、俺は多分、まだあそこまで積み重ねていない。

 アーチャーは凛達が想像するより、何百倍も悩んで、覚悟して、俺を殺そうとしている。良い意味でも、悪い意味でも、あいつには……俺には遊びがない、余裕がない、無駄がない、余白がない。

 しかし、それは違う。

 それだけは言える。

 例えこの理想があの人からの借り物だとしても、正しいと思えたのなら、その人生に間違いなんてない。それを証明するために俺はもう一度アーチャーを打ち負かす。

 

「ここからは、手加減なしの殺し合いだ」

 

「何を今更、元よりそういうものだろう。俺達の戦いは……」

 

 そして、お互いにもう一度干将・莫耶を投影し打ち合った。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 立香達は大空洞の奥へと突き進んでいた。しかし、囮ととして残った士郎のことが気になるのか道中で現れる竜牙兵との戦いに集中できずにいた。そして、立香に迫った攻撃をクー・フーリンは受け止めながら言った。

 

「おい、嬢ちゃん。坊主が心配なのは分かるが、アイツはそう簡単にくたばる奴じゃねぇ。必ず生きてる。だからドッシリ構えてろ。それが大将ってもんだ」

 

「……はい」

 

 力強く答えた立香の瞳にはもう迷いはなかった。そこからはマシュの士気も上がり、竜牙兵を薙ぎ倒しながら奥へ奥へと進んで行った。そして、最深部に到達した。そこには禍々しい光の柱が真っ直ぐに伸びていた。それを見て所長は驚愕を露にした。

 

「これが大聖杯……超抜級の魔術炉心じゃない……なんで極東の島国にこんなものがあるのよ……」

 

『資料によると、製作はアインツベルンという錬金術の大家だそうです。魔術協会に属さない人造人間 (ホムンクルス)だけで構成された一族のようですが』

 

「悪いな、お喋りはそこまでだ。奴さんに気付かれたぜ」

 

 クー・フーリンの呼び掛けで彼が見る先のものに目を向けた。黒く重い鎧を着た少年とも少女とも取れる顔をした……しかし、生気など感じられない人形のような不気味さを感じさせるものが立っていた。

 

「─────」

 

「……なんて魔力放出……あれが、本当にあのアーサー王なんですか」

 

『間違いない。キャスターの言う通りなにか変質しているようだけど、彼女はブリテンの王、聖剣の担い手アーサー王だ』

 

 ロマンはあれがアーサー王だと断定した。そして、彼が……いや、彼女が何故あのような格好をしていたを分析し始めた。

 

『伝説とは性別が違うけど、なにか事情があってキャメロットでは男装をしていたんだろう。ほら、男子じゃないと王座につけないだろ?お家事情で男のフリをさせられたんだよ、きっと。宮廷魔術師の入れ知恵だろうね。伝承にもあるけど、マーリンはほんとうに趣味が悪い』

 

「え……?あ、ホントです。女性なんですね、あの方。男性かと思いました」

 

 ……多分そう思っていたのはマシュだけなんじゃないかな~、と少し余裕のできた思考で思う立香だったが、クー・フーリンが警戒しているのを見てそれだけの相手だと改めて認識した。そして、クー・フーリンはマシュに言った。

 

「見た目は華奢だが甘く見るなよ。アレは筋肉じゃなく魔力放出でカッ飛ぶ化け物だからな。一撃一撃が馬鹿みたいに重い。気を抜くと上半身ごとぶっ飛ばされるぞ」

 

「ロボットの擬人化のようなものですね……理解しました。全力で応戦します」

 

 その言葉でマシュは一気に臨戦体勢に入った。

 この切り換えの速さはサーヴァントとしての自覚、宝具が使用可能になったことへの自信。

 まぁ、成長しているということだ。

 それを見てクー・フーリンはサッパリした笑みを浮かべて立香達に言った。

 

「おう。ヤツを倒せばこの街の異変は消える。いいか、それはオレもヤツも例外じゃない(・・・・・・・・・・・・・・・)その後はおまえさんたちの仕事だ。なにが起こるか分からんができる範囲できっちりやんな」

 

「─────ほう。面白いサーヴァントがいるな」

 

「なぬ!?テメェ、喋れたのか!?今までだんまり決め込んでやがったのか!?」

 

 この態度で今まで張っていた緊張と警戒が崩れそうになったが、そこで崩れない辺り立香もマスターとして成長しているということだろう。

 口を開けた黒い少女は言った。

 

「あぁ。なにを語っても見られている。故に案山子に徹していた」

 

 ここまでは無表情に淡々と述べていたが、少し邪悪に染まった微笑を浮かべてマシュを見ながら言った。

 

「だが────面白い。その宝具は面白い」

 

 黒い少女……セイバーは剣を構えた。そして、普通の人間である立香すらわかるほどの魔力を放出させ剣に収束させていった。

 

「構えるがいい、名も知れぬ娘。その守りが真実かどうか、この剣で確かめてやろう!」

 

「─────来ます。マスター」

 

「うん、一緒に戦おう。マシュ」

 

「はい。マシュ・キリエライト。出撃します」

 

 セイバーの構えた剣に収束された魔力が黒い光の柱に変化した。

 マシュも宝具を展開する構えをとる。それを見て立香達はマシュの後ろに下がった。

 そして、セイバーが振り抜く。

 

「卑王鉄槌。極光は反転する、光を呑め!約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!」

 

「宝具、展開します……!仮想宝具 疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)!!」

 

 マシュの盾から出現した守護障壁が現れる。それが黒い光の柱を受け止める。だがそれも一瞬ジリジリと押され始める。これが聖剣の威力か、とマシュは実感する。しかし、後ろには立香達が居る。彼女らを守りきる。それ想いが守護障壁を強くする。そして、威力は再び拮抗し防ぎきった。それと同時にクー・フーリンが攻撃し始めた。

 

ansuz(アンサズ)!」

 

 ルーンが炎になり、セイバーに向かって行く。

 セイバーはまるでそれが自身のどこに当たるか分かったように、すべての炎を撃ち落とした。

 

「チッ、これじゃダメかよ」

 

 その隙にマシュがセイバーに突撃する。

 盾で剣と打ち合う。

 盾の重量もあってつばぜり合いになるが、セイバーが瞬時に魔力を放出し、マシュは吹っ飛んだ。

 しかし、マシュはすぐに体勢を立て直し改めて打ち合い始める。

 マシュはさっきの一撃から、出来る限りセイバーの攻撃を避けて攻撃していた。マシュが避けたセイバーの一撃は土を抉り、岩となってマシュの動きを阻害する。

 それでもかのアーサー王と互角に打ち合えているのは、彼女の意思の力があってこそだろう。

 

「嬢ちゃん、デカイの飛ばすぞ。少し下がってろ!!」

 

 クー・フーリンが叫ぶ。それを聞いて、マシュが全速力で撤退していく。クー・フーリンが最大の魔力を使う。

 

「焼き尽くせ木々の巨人。灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!!」

 

 ルーンから放たれた木々達が一つに集まり一つの巨人となる。

 そして、木々の巨人はセイバーに向かい、手を振り下ろした。セイバーは避けながら打ち込む。さすがにセイバーと言えど普通の一撃では宝具に傷はつけられないらしい。

 

「なるほど、さすがに硬いな。だが、思った程ではない」

 

「言ってくれるじゃねぇの。なら、これはどうだ」

 

 そういうと、木々の巨人はセイバーを掴み取ろうとする。すると、セイバーは避けて剣を構えた。

 

「風よ、荒れ狂え。風王鉄槌(ストライク・エア)

 

 セイバーの剣に風が集まり、それが一点に凝縮されて撃ち出される。

 その貫通力は容易く木々の巨人の核を撃ち抜いた。

 木々の巨人は倒れる前に消滅したが、セイバーはもはや万策尽きたと、思ったのか微笑を浮かべるが同時にキャスターも微笑を浮かべた。

 

「やっと、射程距離内に入れたぜ」

 

「キャスター、どういうことだ」

 

「こういうことだ。そらよ、大仕掛けだ!!」

 

 キャスターは微笑は獰猛な笑みを変化し、地面に手を着けた。

 そして、ルーンが地面、空中にいくつも浮かび始めた。セイバーは、キャスターの意図に気付いたのか高く跳躍するがルーン文字にぶつかり叩き落とされた。

 

「空中にルーン文字を固定したのか」

 

「おう、俺の師匠に冥界の門を呼ぶ術があってな。そいつの応用、パクリってやつさ」

 

 クー・フーリンは少し歩いてから杖を構えた。───────そして

 

「嬢ちゃんが近接戦闘で俺が遠距離で撃ち合っても倒せねぇ。これはわかってた。だからよ、ここからは好きじゃねぇが2対1の喧嘩としゃれこもうぜ」

 

「キャスタークラスになって、少しは賢くなったのではないのか」

 

「ヘ、頭の出来と、趣味趣向は別ってことさね」

 

 そう言って、杖に炎のルーンを纏わせ突撃していく。そして、セイバーと打ち合う。

 立香は驚愕と感心を同時に顔に出した。

 キャスタークラスは元来戦闘には向かない、とマシュや所長に教えられたのだ。

 しかし、例外とは常に存在するもの。

 今目の前に居るキャスタークラスのクー・フーリンがまさにそれだったらしい。

 キャスターのセイバーの重い一撃一撃を見事にいなしながら、ここぞ、というときに苛烈に一撃を入れていく。

 見事な戦いぶりであった。

 マシュも積極的に攻撃に参加していた。マシュの一撃も当たり始め、ジリジリとこちらが優勢になっていた。

 

「さすがにかの騎士王も、俺と嬢ちゃんとの2対1はキツイみてぇだな」

 

「ふ、それはどうかな」

 

 そう言って、クー・フーリンの杖をいなして剣で地面を切りつける。そこから飛んでくる岩を避けようと跳躍した。

 

「クー・フーリンさん、そこはダメです。すぐに方向転換を……」

 

 マシュが叫ぶ。

 セイバーが魔力を放出させ、クー・フーリンの着地地点に先回りしていた。

 

「ッ、しまった」

 

「遅い」

 

 クー・フーリンが身体を捻って、着地地点をずらそうとするが、セイバーが冷たい一言とともにクー・フーリンの身体を突き刺した。

 勝利を確信したように笑うセイバー、クー・フーリンが敗北したことに戦慄する立香達。

 しかし、次の瞬間、その場にいた皆の表情は驚愕に満ちた。クー・フーリンの身体は、木に変化し、枝となってセイバーの腕を拘束した。

 そして、中からクー・フーリンが顔を出す。

 

「あんま森の賢者を舐めるなよ」

 

 クー・フーリンは跳躍して距離を取る。その隙に、セイバーは枝を力任せに引き裂き拘束を脱していた。しかし、クー・フーリンは止まらない。すぐに杖を構える。

 

「生憎、こっちはお前を倒すために鍛え上げた新ネタでよ」

 

 無数の木が連なり、悪魔の如き腕に変貌した。

 その腕はセイバーの身体を容易に覆い尽くし、握り潰した。セイバーは振りほどこうとするが、腕はそれを許さない。

 そして、そのまま地面へと叩き付ける。セイバーは叩き付けられた直後、握る力が薄くなった隙をついて脱出した。

 かなりのダメージにはなったようだが、決定打にはなっていない。

 だが──────────

 

「はぁあああああああああ」

 

 雄叫びとともに突進し、渾身の一撃を叩き込んだ。

 セイバーは、力が抜けたように倒れ込んだ。そして、上半身裸のクー・フーリンが微笑んで一言。

 

「まぁ、一番の新ネタはその嬢ちゃんってとこかな」

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 アーチャーと打ち合うこと数十分。

 剣が折れては補強(なお)し、折れては補強(なお)しを繰り返し、何度かつばぜり合いに持ち込んで筋力の差で強引に押しきろうとしたが、見事にいなされ、お互いに決定打に欠けていた状況が続いていた。

 

「そういや……一つだけ聞きたいことがある」

 

「……なんだ。つまらん質問なら答えんぞ」

 

 む。こいつなんでこんな言い回しを使うんだろうか。という軽い疑問を浮かべながら質問した。

 

「お前、なんで変質したセイバーの味方をしてるんだ」

 

「何かと思えば……敗者が勝者に従うのは当然の道理だと思うがね」

 

「こんなことを、本当のアイツが望むと思ってるのか」

 

「さぁな。オレにとってはそれすら幻に思える」

 

 な。お前……、と言いかけそうになったのを喉の奥におい戻してから頭のなかで深呼吸して言った。

 

「お前、生前の記憶はほとんど残ってないんだったよな」

 

「なんだ。急に声色を変えて……それに、その口ぶり。お前は覚えているのか」

 

「そりゃ、まぁ。奥さんや息子の記憶を捨てるわけにはいかないからな」

 

 その言葉を聞いた瞬間、心なしかアーチャーの顔がこれまでにない驚愕に包まれたようだった。

 

「お前、妻子がいるのか」

 

「……なんだよ。悪いか」

 

 刹那。

 アーチャーは無言で両手にあった干将・莫耶を投げてきた。それを辛うじて避けると、アーチャーが新たに投影した干将・莫耶で斬りかかってきた。

 

「お前なぁ。なんでなにも答えずに斬りかかってくるんだよ」

 

「貴様が正義の味方なんぞ目指してる合間に家族サービスしているところを想像すると無性に腹が立ってきてな。それより、後ろ。気を付けろ」

 

「ッ、しまった」

 

 心眼の危機察知が剣を投影させ日本の剣を砕き、アーチャーの剣をいなして距離をとった。ったく、なにが腹が立っただ。今、贖罪より嫉妬の方が勝ってただろ。絶対。

 

「まぁ、いい。今から見せてやる。オレが行き着いた……お前が行き着く世界を」

 

 アーチャー双剣を消しては手をかざす。

 

「───I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)

 

 アーチャーの周りに青い炎が駆け巡る。それは詠唱を進める程に強くなり、ある世界の輪郭を示し始めた。

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. (その体は、きっと剣でできていた)

 

 その瞬間、俺達がいた柳洞寺は握りつぶされ世界が変わった。

 なにもない虚無。それがこの世界だった。その世界は美しかった。醜かった。強かった。弱かった。最強であり、最弱だった。あらゆる矛盾を内包し、それでいてなにもなく、あるのは墓標のように建てられあの男の心のように錆び付いた剣だけだ。

 

「この世界を見ろ!これが叶わぬ夢の果てだ!!お前が醜く足掻き続けた成れの果てだ!!」

 

「だからどうした」

 

「ッ、なんだと」

 

 俺は冷たく言い放った。それは、アーチャーの行動の否定。贖罪のために自分を殺そうとした男の葛藤の否定を意味していた。続けて言う。

 

「だってそうだろう。例え借り物でも掲げた理想が正しいのなら、その人生に間違いなんてないはずだ。それは昔、お前がセイバーに振りかざした答えじゃないのか」

 

「では、どうする。この世界を見て、お前も持ちうる世界を見て、違いを比べろ。その末路を見ろ!!」

 

「さぁな、第一お前と俺じゃ末路の形が違う。参考にならないな」

 

「それはどういう意味だ」

 

「真髄が違うってことさ。今から見せてやる」

 

 その言葉とともに、俺も手をかざした。そして、詠唱を開始する。

 

I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)

 

 今なお燃え盛る赤い炎が、オレの腕のなかで剣の形を成す。それを見たアーチャーが剣を放つ。それを左手の干将で薙ぎ払いながら詠唱を続ける。

 

Steel is my body, and fire is my blood. (血潮は鉄で心は硝子)

 

 その詠唱の余波で放たれた新たに放たれた剣が吹き飛ばされる。

 

I have created over a thousand blades. (幾度の戦場を越えて不敗)

 

 それでもアーチャーは剣を放ち続ける。

 

Not fulfill its ideal.(その理想は果たされず)

 

 今度は、詠唱の区切る間に剣の雨が降り注ぐ。一つ一つが人の信仰の証。出来る限り避けながら双剣を使い薙ぎ払う。

 

There is no meaning to the dream.(その夢に意味はない)

 

 今度はアーチャー自身が双剣を用いて攻めてくる。なるべくつばぜり合いを避けながら、跳躍して距離を取る。離れた一瞬にアーチャーは剣を放つ。

 

Have withstood pain to create many weapons. (彼の者は常に独り剣の丘で鉄を打つ)

 

 その瞬間だった。

 たった一瞬、アーチャーの固有結界の夕焼けのような赤い空が青天へと変わった。アーチャーは、その光景に顔をしかめつつも剣を放ち続ける。

 

It will not be corruptible but the heart.(けれど、その心が朽ちることはない)

 

 もう一度──────

 空が青く澄む。

 青空に続いて突き刺さるあの男の理想のように錆びてしまった剣が輝きを取り戻す。

 

Therefore convergence what ideal of proof. (故に、収斂こそ理想の証)

 

 ただひたすらに研ぎ澄ませ──────

 ただひとすらに凝縮しろ───────

 俺の世界、俺のすべてを『究極の一』に再構成しろ。

 

The body was false.(偽りだったこの体は)

 

 もうこの身体は、偽り等ではない。

 このそうして最後の詠唱が紡がれる。

 

「"LIMITED/ZERO OVER(無限の剣を携え究極の一に至る)"」

 

 刹那。一斉に剣が放たれた。

 その数、数十、数百、数千─────まさしく剣の雨と形容せざるおえない。

 すべての速度が神速───────

 すべての威力が必殺───────

 余程格の高いサーヴァントでなければ……それこそセイバーやランサー、ライダーにバーサーカー等でなければ一瞬のうちに倒されてしまうだろう。

 だからこそ、土煙のなかで現れた士郎にアーチャーは驚愕する。放たれた剣は双剣……いや、士郎の世界に貯蔵された剣で捌ききれるような数ではない。それをすべてあの刀一つで打ち払ったというのか。

 

「なんだよ。驚いた顔して」

 

「その刀どのような宝具だ。オレの世界にもない」

 

「そりゃ、そうさ。これは、俺が編み出した俺だけの究極の一だからな。名を『究極の一太刀(リミテッド/ゼロオーバー)』。あらゆる不幸を、怨恨を、業を断ち切る刃だ」

 

「貴様だけの真髄。その一太刀がか」

 

「その力はお前がさっき目にした通りだがな。まぁ、なにはともかく」

 

 ここまで言うと俺は不敵に笑い、最後の言葉を言った。

 

「お前が俺の理想を否定するように……俺もこの刀で……究極の一でお前の答えを否定する!!」



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決着

最後の方とか結構雑になっています。



 あの瞬間から、さらに数分経過した。

 アーチャーが剣を放ち、俺が放たれた宝具と相性の良い宝具を検索して刀に纏わせて撃ち落とす。その状況が続いていた。お互いに間合いギリギリの距離に離れてからアーチャーが話し始めた。

 

「お前の宝具。大体の能力はわかった。悔しいが、オレには至れなかった極致にお前は至ったようだな」

 

「……お前にしては素直な感想だな。なにか裏があるように思えるぞ」

 

「貴様の言う通り素直な感想だ。特に意味はない」

 

 ……そう言いながらなにかするのがお前だろうに、と思ったが口には出さない。それを言ってしまったらさらに、アイツはバレにくい策を講じてくる筈だ。いくらこの宝具といえど不意に出されたものには対応できない。

 この宝具の名は『究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)』俺の保有する固有結界である無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス )を一太刀の刀に収束した宝具だ。基本的な能力でもランクB程度のポテンシャルを持っているが、その最たる力は固有結界にストックされた宝具の能力を刀に纏わせることができる。複数の宝具の力を同時に纏わせることが可能で生前に一度自滅覚悟ですべての宝具を纏わせた結果、遠阪からセイバーの約束された勝利の剣(エクスカリバー)(もちろんいくつも制限がかかりあのときよりちょっと威力をおとしたもの)を越えたとのお墨付きを貰った。

 そして、アイツは剣を放ちながら両手に握られていた干将・莫耶で斬りかかってきた。それを受け止め、つばぜり合いに持ち込んだ。そして、刀に筋力をブーストする宝具をいくつか纏わせて押しきろうとしたその時、アーチャーの顔に笑みが浮かんだ。後ろに、剣が近づいていることを感じ取った。それを、間一髪で避けた距離を取ると、さらに剣の発射し追撃する。

 

「宝具の力が足りないのなら作戦で埋めるしかないのでね」

 

 どうする。剣を避けながら考える。

 どうする。

 どうすればこの状況を打破するができる。いや、ある。俺が迫る剣を一斉に撃ち落とせばいい。しかし、それをするには究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)だけでは足りない。奥の手を使うしか無いのか。

 今までより多い剣が放たれる。 究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)では捌ききれないほどの量の剣が……

 

「終わりだ」

 

 放たれた剣は一秒の間もなく士郎に目掛けて飛んでいく。

 しかし、その一瞬にアーチャーは確かに見た。士郎の刀が炎を纏い、それを斬撃として打ち出すことで放たれたすべての剣を撃ち落とし、その攻撃の余波がアーチャーの一メートル程度手前まで届いたところを……

 

「まさか、まだ隠し玉を用意していたとはな」

 

「別に……手加減したり、隠そうなんて思ってた訳じゃないんだ」

 

「なんだと……お前、何を言って……」

 

「この戦いを終えたら、俺達はもっと大きな戦いに巻き込まれるだろうと思ってな。そのためにも、こんなところで本気出すわけにはいかないと思ってた……下らない」

 

 その最後の一言に、度肝を抜かれたようでなにか驚きを一瞬見せたあとすぐに微笑に戻して言い返してきた。

 

「何を言う。更なる高みに至るために自分を戒めることは立派なことだと思うがな」

 

「別に、こんなピンチ乗り越えられないようじゃ……これから先の戦い乗り越えられないと思っただけさ」

 

 アーチャーはそれを聞くと改めて士郎の様子を観察し始めた。

 宝具を解放したことでパーカーのチャックは開き、さらに赤い霊装を乙姫のようにかけている。

 そして、溢れんばかりの闘気をすべて剣に注ぎ込みそれに答えるように剣もまた燃え盛る炎を纏っている。

 

「お前がストックした宝具のなかには、炎を操る宝具もあるのか」

 

「いや、これはあくまで俺の力さ。なぁ、アーチャー。お前は俺の……俺達の本来の魔術属性を知っているか」

 

「な、まさか……貴様は」

 

「そう。これが俺本来の魔力。俺は火竜剣術って呼んでる」

 

 その瞬間、アーチャーは数十本の剣を放った。

 先程より数は十本程少ないが、それでも俺の刀一つで捌ききれる量ではない。

 しかし……それは、究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)だけでの話だ。刀に纏わせた火を斬撃として撃ち放ち、すべての宝具を焼け炭にした。

 

「火竜剣術、火竜砲。刀に纏わせた火を斬撃として撃ち放つ技さ」

 

「いいのか、自分の手の内をみすみす相手に晒してしまっても……理屈が分かってしまえば対策はいくらでも建てられる」

 

「勝てる気もしないのに、手の内明かすわけないだろ。それに、技一つしかないのに剣術って呼べるか」

 

 アーチャーは直ぐ様、干将・莫耶を投影して俺に斬りかかってきた。

 剣に炎を纏わせ受け止めつつ、残った炎でアーチャーを死角から攻撃した。

 アーチャーも察知していたようで、剣を盾にして防いだ。俺は筋力ブーストをかけてアーチャーを押しきったがすんでのところでいなされ、距離をとられた。

 

「……正直すぎる。良くも悪くもな」

 

「え。なにが」

 

「その力があったかは知らんが、お前の剣技は正直すぎる。もっと騙しを覚えるべきだ」

 

「なんだよ。敵にわざわざ講義してくれとはな。お前って案外優しいのな」

 

 一閃。

 アーチャーはその手に握った干将・莫耶で、突き刺さっていた剣を切り裂いた。そして、さっきまでの微笑を消して、急にまともな顔になった。

 

「勘違いするな。そこまで至ったお前がオレに負けるようでは自分自身に腹が立つだけだ。だからといって負けるつもりもないぞ」

 

「そうかい。じゃあ、こっちも遠慮なしに行くぞ」

 

 再びアーチャーと俺は剣を交えた。

 剣戟を繰り返しながらアーチャーは剣、俺は炎を撃ち合う。

 そうして、アーチャーは干将・莫耶をオーバーエッジに変えて、斬りつけてきた。

 さすがに、オーバーエッジに変化した干将・莫耶は力もけた違いに上がり、受け止めるのに多少苦労した。

 アーチャーは距離をとった。

 

「なんだ、顔から余裕が消えてるぞ。アーチャー」

 

「それは、貴様もだろう。だが、お互いに限界が近い。この一撃を決着をつけるぞ」

 

「その意見だけには賛成だ」

 

 アーチャーはオーバーエッジにこれでもかと言うほどの最後の魔力を込めた。俺も負けじと刀に渾身の炎を込める。

 そして、炎が竜の形を成す。

 

「火竜剣術、火竜斬。俺の一番得意な技だ」

 

 数秒の静寂がこの場に満ちた。そして……

 

「行くぞ」

 

 その言葉をトリガーに俺達は互いが持てる瞬発力を限界まで引き出し、数メートルあった距離を一瞬にしてお互いの間合いまで詰めた。

 そして、最後の剣が交わった。

 結果、アーチャーの剣が砕け俺の技……火竜斬がアーチャーの身体を切り裂いた。

 その火竜は留まるところを知らず天高く舞い上がった。

 そして、竜が咆哮をあげ、消滅したときにこの無限の剣の世界も消えた。アーチャーは力尽きたように倒れ込む。

 

「俺の勝ちだ……アーチャー」

 

「あぁ。そして…私の……敗北だ……」

 

 アーチャーを抱えて近くにあった木に座らせた。すると、アーチャーは最後の力を振り絞るように、声を出した。

 

「何をしている。敗者への気遣いは相手のプライドを傷付けるだけだぞ」

 

「いや、お前に伝えときたいことがあってな……」

 

「……なんだ、早めに済ませろ。もうこちらも長くは居られない」

 

 困ったな。

 俺は苦笑いを浮かべて頭を掻きながら語り始めた。究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)と火竜剣術の根元を……

 

「まずは究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)からだな。これは 無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)をこの刀に収束させたものだ。つまり、お前の世界にと同じ状態になったときにこの刀ははじめて折れる」

 

「そこまではオレにもわかる。二つあるのだろう。早く言え」

 

「俺の本来の魔術属性は『火』なんだよ。それを覚醒させて究極の一(リミテッド/ゼロオーバー)と同時に使うことで限定的に二つの魔術属性を複合した戦闘を可能にするのが火竜剣術なんだけど……」

 

「わざわざ知ってることを話さなくていい。さっさと本題に入れ」

 

「いちいちイラッと来るな。まぁいいや」

 

 アーチャーはなにかを備えたようだった。しかし、俺の言葉でその顔は崩れ去った。

 

「それを覚醒させるためには俺は思い出さなきゃいけなかった。あの火災の前の記憶を……いや、受け入れなきゃいけなかった。俺にもあんな道があった。その上で、俺はこの道を選んだって、それが本当の意味で母さん達の行いを無駄にしないって意味だと思ったからな」

 

「それは……それでは、もうお前は…………」

 

「アーチャー。俺は、俺達は普通は普通の人間だったよな。母さんの作ってくれる晩飯が好きで、たまに買ってもらうゲームも好きで……でも、あの火災で普通の世界から隔絶されて……爺さんと出会えた。藤ねえや桜とも、そして、愛する人ともな。そりゃ、すべてがいいわけだった訳じゃない。うまくできずに失うこともあったけど、でも……『無駄』とは思えなかった。すべてが今のために『必要』だったんだ。例えあのときの俺が俺達の顛末をすべてを知ったとしても、俺はあのときに歩みを止めなかったし、爺さんに誓ったと思う。俺の『理想』は間違ってないと思えるよ」

 

 それを聞いたアーチャーは微笑を浮かべたあと、少し幼さを残したかつての少年のように微笑んだ。

 

「あぁ、そうか。一つ見落としがあった。俺達が打倒しようしていたのはお前達ではなかった訳だ」

 

「……?なんのことだよ」

 

「いずれ分かる……なぁ。俺、普通に生きてみたかったって言ったら……嗤うよな」

 

 俺はその言葉に、多少の驚きを覚えた後に微笑みを返し、言った。そして、その面影は俺によく似た少年のものになった。

 

「いや、全然」

 

「なら急げよ。セイバーにも話したいことがあるんだろ。俺はもう大丈夫だよ」

 

「それは、分かってるさ。凛から聞いた。俺はもう大丈夫って言ってたってな」

 

「そうか。遠阪が……じゃあ、またな。まぁ、お前にこのままで会うことはもうないだろうけど……」

 

 その言葉を最後に少年の体は光になって消滅した。俺は、拳を握りしめて言った。

 

「……ったく、最後くらい皮肉言っていけよ。なんか変な気持ちになっただろ」

 

 一度深呼吸と同時に瞬きした。それで胸に起こった気持ちに完全に切り離し、大空洞を奥深くを目指した。数分経って着くと、予想外のものが広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 地に伏せたセイバーが微笑を浮かべた。

 でも、それは邪悪に染まったものではない。もっとこう……なんと言えばいいのだろうか。ちょっと意地悪な少女のような笑顔だった。こう例えてみてなんだが、この表現だと邪悪に染まってると思う。ちょっと……

 

「────フ。知らず、私も力が緩んでいたらしい。最後の最後で手を止めるとはな。聖杯を守り通す気がいたが、己が執着に傾いたあげく敗北してしまった」

 

 そこまで言ってセイバーの表情は微笑から思慮深く、同時に感慨深げな顔に変わり、なにかを思い出すように続けた。

 

「結局。どう運命が変わろうと、私一人では同じ末路を迎えるという事か」

 

「あ?どういう意味だそりゃあ。テメェ、何を知っていやがる」

 

 クー・フーリンが問うが、それを聞いて先程の微笑に戻り答えた。

 

「いずれ知る。アイルランドの光の御子よ。グランドオーダー───聖杯を巡る戦いは、まだ始まったばかりだという事をな」

 

 その言葉を最後にセイバーの身体は光に変換されてこの世界から姿を消した。

 一瞬遅れて反射的にクー・フーリンが問い詰めようとした瞬間、クー・フーリンの身体も光に変わり始めた。

 

「オイ待て、それはどういう────おぉお!?やべぇ、ここで強制帰還かよ」

 

 クー・フーリンは自分の状態に気付いてため息を吐いて頭を掻きながら言った。

 

「チッ、納得いかねぇがしょうがねぇ!お嬢ちゃん、あとは任せたぜ!次があるんなら、そん時はランサーとして喚んでくれ」

 

 その言葉を最後にしてクー・フーリンもまた、この世界から姿を消した。それを見てマシュは、恐る恐る状況の確認をとった。

 

「セイバー、キャスター、ともに消滅を確認しました……わたしたちの勝利、なのでしょうか」

 

「あぁ。よくやってくれたマシュ、立香。所長もさぞ喜んで……あれ、所長は」

 

 その言葉を聞いて、立香とマシュが周りを見回すとなにかを考え込んでいる所長がいた。

 

「……冠位指定(グランドオーダー)……あのサーヴァントがどうしてその呼称を……」

 

「あの……所長。なにか気になることでも」

 

「え……?そ、そうね。よくやったわ。マシュ、立香。不明な点は多いですが、これでミッションは終了とします」

 

 所長は立香の声に一瞬ビクッとなっていたが、すぐに冷静に対応した。

 しかし、さすがに立香には違和感を持たれたが自分が踏みいる領分ではないと判断し、追求はしなかった。

 そして、気を取り直した所長が指示を出した。

 

「まずはあの水晶体を回収しましょう。セイバーが異常を期待していた理由……冬木の街が特異点になっていた原因はどう見てもアレのようだし」

 

「はい、至急回収―――な!?」

 

 指示を受けた立香とマシュは、水晶体に向けて足を動かす。しかし、その歩みは数歩後に止まった。そして、マシュは自分の目に見えたものに驚愕を覚えた。

 

「いや、まさか君たちがここまでやるとはね。計画の想定外にして、私の寛容さの範囲外だ」

 

 そこにいたのは、カルデアでの事故で行方不明に……そして生存は絶望的とまでされたあの男が今目の前に居たのだから……

 

「48人目のマスター適正者。全く見込みのない子供だからと、善意で見逃してあげた私の失態だよ」

 

 現れた男はレフ・ライノール。

 カルデアの顧問を受け持ち近未来観測レンズ「シバ」を開発した魔術師であり、マシュにとっては恩師、所長にとっては相棒のような人だった。

 

「レフ教授?」

 

『レフ―――!?レフ教授だって!? 彼がそこにいるのか!?』

 

「うん?その声はロマニ君かな?君も生き残ってしまったのか。すぐに管制室に来てほしい言ったのに、私の指示を聞かなかったようだね。まったく────」

 

 レフはそこまで言うと邪悪に染まった笑顔になり、狂った笑いをあげながら言った。

 

「どいつもこいつも統制のとれていないクズばかりで吐き気が止まらないな」

 

 立香達がその言葉に呆気にとられている中、レフはため息を吐き、続けて言った。

 

「人間というものはどうしてこう、定められた運命からズレたがるんだい?」

 

「───!マスター、下がって……下がってください!あの男は危険です……あれは、私たちの知っているレフ教授ではありません」

 

「レフ......あぁ、レフ、レフ、生きていたのねレフ!良かった。あなたがいなくなったらわたし、この先どうやってカルデアを守ればいいか分からなかった!」

 

「所長……!いけません、その男は……!」

 

 オルガマリーはマシュの制止を聞かずにレフのもとにに向かっていく。

 まるで、親を見つけた子供のように……

 そして、レフのもとに着くと、レフは微笑みをオルガマリーに向けた。

 

「やあオルガ。元気そうでなによりだ。君もたいへんだったようだね」

 

「ええ、ええ、そうなのレフ!管制室は爆発するし、この街は廃墟そのものだし、カルデアには帰れないし!予想外の事ばかりで頭がどうにかなりそうだった!」

 

 そして、子供のように今までの苦痛をレフにぶつける。

 レフなら、受け止めてくれる。そう信じているのだ。

 そして、今度は頼れる助手として言葉を投げ掛ける。

 

「でもいいの、あなたがいれば何とかなるわよね?だって今までそうだったもの。今回だってわたしを助けてくれるんでしょう?」

 

 しかし、レフの返答はそんなオルガマリーの思いをすべて踏みにじるものだった。

 

「ああ。もちろんだとも。本当に予想外のことばかりで頭にくる」

 

 偽りの微笑みで答えながら、本来の狂った笑顔でオルガマリーを鬱陶しいと言わんばかりの嫌悪の目線を向け続けて言った。

 

「その中でもっとも予想外なのが君だよ、オルガ。爆弾は君の足下に設置したのに、まさか生きているなんて」

 

「……え?……レ、レフ? あの、それ、どういう、意味?」

 

「いや、生きている、というのは違うな。君はもう死んでいる。肉体はとっくにね。トリスメギストスはご丁寧にも、残留思念になった君をこの土地に転移させてしまったんだ。ほら。君は生前、レイシフトの適性がなかっただろう?肉体があったままでは転移できない。わかるかな。君は死んだ事ではじめて、あれほど切望した適性を手に入れたんだ。だからカルデアにも戻れない。だってカルデアに戻った時点で、君のその意識は消滅するんだから」

 

 レフは、淡々と他人事のように現実というち刃をオルガマリーの心に突き刺した。

 自分はもう死んでいる─────

 自分はもうカルデアには戻れない─────

 一つ一つの言葉がオルガマリーの心にヒビを入れ、崩し尽くす。オルガマリーは自分の身体が底のない奈落へ突き落とされる感覚に襲われた。

 そして現実を突き付けられたオルガマリーは、身体を震わせながら必死に否定しようとした。

 

「え……え? 消滅って、わたしが……?ちょっと待ってよ……カルデアに、戻れない?」

 

「そうだとも。だがそれではあまりにも哀れだ。生涯をカルデアに捧げた君のために、せめて今のカルデアがどうなっているか見せてあげよう」

 

 レフが指を鳴らすと、レフとオルガマリーのいる場所にカルデアスが現れた。そしてそれは、太陽のような深紅の炎に染まっていた。

 

「な……なによあれ。カルデアスが真っ赤になってる……?嘘、よね? あれ、ただの虚像でしょう、レフ?」

 

「本物だよ。君のために時空を繋げてあげたんだ。聖杯があればこんな事もできるからね」

 

 もはやそこに、紳士然としたレフ・ライノールはもういない。

 そこにいるのは、ヒトではなくなった化け物だ。

 狂った笑みでオルガマリーを見据え、嘲笑するように更なる現実を突き付けた。

 

「さあ、よく見たまえアニムスフィアの末裔。あれがおまえたちの愚行の末路だ。人類の生存を示す青色は一片もない。あるのは燃え盛る赤色だけ」

 

 そして、次に結果というものを突きつける。

 

「あれが今回のミッションが引き起こした結果だよ。良かったねぇマリー? 今回もまた、君のいたらなさが悲劇を呼び起こしたワケだ!」

 

「ふざ……ふざけないで!」

 

 オルガマリーはレフの言うことを遮って叫んだ。自分を正当化するために……自分を肯定するために……

 

「わたしの責任じゃない、わたしは失敗していない、わたしは死んでなんかいない……!アンタ、どこの誰なのよ!?わたしのカルデアスに何をしたっていうのよぉ……!」

 

「アレは君の、ではない。まったく……最後まで耳障りな小娘だったなぁ、君は」

 

 そこまで言い終えると、実に不可解な現象が起こった。

 突然、オルガマリーの肉体が宙に浮かんだ。オルガマリー自身もその現象に困惑を露にした。

 

「なっ……体が、宙に……何かに引っ張られて」

 

「言っただろう、そこはいまカルデアに繋がっていると。と、その前に……邪魔な虫を片付けるとしよう」

 

 レフが立香に手をかざす。

 すると、光の柱が現れ立香に向かって一直線に向かっていく。突然の出来事にマシュの反応が遅れ、光は立香に直撃する……はずだった。

 

「火竜砲!!」

 

 その叫びとともに放たれた竜の斬撃は容易く光を喰らった。そして、立香の前に現れた後ろ姿、士郎だ。彼は語気を強めて立香の安全を確認した。

 

「立香、大丈夫か」

 

「う、うん。でも、所長が……」

 

 士郎は、レフを見る。

 同時にレフも士郎を見る。

 見た当初は邪魔な虫が一匹増えたか、とでも言うような目で見ていたが、しばらく見て歓喜にも似た表情を見せた。

 

「いや、先に君を殺すことにするよ。オルガ。話を戻すが、このまま殺すのは簡単だが、それでは芸がない。最後に君の望みを叶えてあげよう。君の宝物(・・・・)なに、私からの慈悲だと思ってくれたまえ」

 

「ちょ、なに言ってるの、レフ?わたしの宝物って……カルデアスの、こと?や、止めて。お願い。だってカルデアスよ?高密度の情報体よ?」

 

「ああ。ブラックホールと何も変わらない。それとも太陽かな。まあ、どちらにせよ……人間が触れれば分子レベルで分解される地獄の具現だ。遠慮なく、生きたまま無限の死を味わいたまえ。」

 

「いや、いや、いや、助けて、誰か助けて!わた、わたし、こんなところで死にたくない!だってまだ褒められてない……!誰も、わたしを認めてくれていないじゃない……!どうして!?どうしてこんなコトばっかりなの!?誰もわたしを評価してくれなかった!みんなわたしを嫌っていた!やだ、やめて、いやいやいやいやいやいやいや……!だってまだ何もしていない!生まれてからずっと、ただの一度も、誰にも認めてもらえなかったのに」

 

 そんな悲しい叫びは虚しく響くのみ。

 オルガマリーはカルデアスに飲み込まれて意識の濁流のなかに溶けていく。

 

「……所長」

 

 立香がオルガマリーのもとへ走っていこうとするが、士郎が引き留めた。

 

「今、言ったって殺されるだけだ」

 

「ほう。さすがは無銘の英霊、私が根本的に人間とは違う生き物だと感じ取っているな」

 

 レフは、あんな凄惨なことが起こったなかでも士郎にまるで隣人を見るような眼をして話した。

 

「改めて自己紹介をしようか。私はレフ・ライノール・フラウロス。貴様たち人類を処理するために遣わされた、2015年担当者だ」

 

「まるで、自分が人類とは別の種族だ、と言っているようだな。レフ・ライノール」

 

「その通りだ。衛宮士郎君、君のことは我らが王から聞いている。私たちと同類とね」

 

「お前の王ってやつが知ってるほどすごいことをした覚えはないがな。それに、お前と同類にされるのは少し……いや、かなり不愉快だな」

 

 レフは友人を見るような微笑みで、士郎は敵に怒りを向けるようにお互いを見据えていた。レフは一度瞬きしてから語りかけるように言った。

 

「聞いているなドクター・ロマニ?共に魔道を研究した学友として、最後の忠告をしてやろう。カルデアは用済みになった。おまえたち人類は、この時点で滅んでいる」

 

「レフ教授……いや、レフ・ライノール。それはどういう意味ですか。2016年が見えない事に関係があると?」

 

「関係ではない。もう終わってしまったという事実だ」

 

 そう言って、レフ・ライノールは語り始めた。なぜ未来が分からなくなったのかを……

 

「未来が観測できなくなり、おまえたちは“未来が消失した”などとほざいたな。まさに希望的観測だ。未来は消失したのではない。焼却されたのだ。カルデアスが深紅に染まった時点でな。結末は確定した。貴様たちの時代はもう存在しない。カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう。カルデアスの磁場でカルデアは守られているだろうが、外はこの冬木と同じ末路を迎えているだろう」

 

 その言葉は冷たく鋭く突き刺さる。その言葉にすべてのものが息を呑むが、ロマンは一呼吸おいたあとに言った。

 

「……そうでしたか。外部と連絡がとれないのは通信の故障ではなく、そもそも受け取る相手が消え去っていたのですね」

 

「ふん、やはり貴様は賢しいな。真っ先に殺しておけなかったのは悔やまれるよ。だがそれも虚しい抵抗だ。カルデア内の時間が2015年を過ぎれば過ぎれば、そこもこの宇宙から消滅する。もはや誰にもこの結末は変えられない。なぜならこれは人類史による人類の否定だからだ。おまえたちは進化の行き止まりで衰退するのでも、異種族との交戦の末に滅びるのではない。自らの無意味さに!自らの無能さ故に!我らが王の寵愛を失ったが故に!何の価値もない紙クズのように、跡形もなく燃え尽きるのさ!」

 

 そこまで言い終えると、世界が歪み揺れ始めた。レフはため息を吐き、舌打ちをながら言った。

 

「おっと。この特異点もそろそろ限界か……セイバーめ、おとなしく従っていれば生き残らせてやったものを。聖杯を与えられながらこの時代を維持しようなどと、余計な手間を取らせてくれた」

 

 レフはくるりと振り返り続けて言った。

 

「では、さらばだロマニ。そしてマシュ、48人目の適性者、士郎君。こう見えても私には次の仕事があるのでね。君たちの末路を愉しむのはここまでにしておこう。

 このまま時空の歪みに呑みこまれるがいい。私も鬼じゃあない。最後の祈りぐらいは許容しよう」

 

 レフは歩いていく。しかし、どんな気まぐれを起こしたのかは知らないが、言った。

 

「もし君たちが生き残り、私たちを倒したくば……騎士団〈七つの大罪〉と衛宮士郎、君の記憶の欠片(・・・・・)を集めることだ」

 

 そう言うと、今度こそこの世界からレフは姿を消した。マシュはロマンは叫ぶ。

 

「地下空洞が崩れます……!いえ、それ以前に空間が安定していません!ドクター!至急レイシフトを実行してください!このままではわたしはともかく、先輩まで……!」

 

「わかってる、もう実行しているとも!でもゴメン、そっちの崩壊の方が早いかもだ!その時は諦めてそっちで何とかしてほしい!ほら、宇宙空間でも数十秒なら生身でも平気らしいし!」

 

「すみません、黙ってくださいドクター!怒りで冷静さを失いそうです!」

 

「とにかく意識だけは強くもってくれ!意味消失さえしなければサルベージは」

 

 その瞬間、視界が白に染まる。

 

「っ、間に合わない!」

 

「マシュ、こっち……!」

 

「先輩、手を……!」

 

 お互いに手を伸ばす。そして、お互いに手を握った直後立香は意識を手放した。



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一時の帰還

早くも第5話ですね。
ここに来て気付いたのですが、やっぱり感想貰えるのって嬉しいですね。あるのとないのでモチベーションがここまで違うとは思わなかったな。
あとで活動報告書くので、そこにやろうとしている後書き茶番のアイディアあるって人はお願いします。出来たらリンク張っとくので
それとここから青王が参戦しますが、セイバールートのセイバーです。チートみたいなもんですがご勘弁を……
じゃあ、行きますか。どうなる、第5話!!


 俺、上条当麻とDr.ロマンはともに管制室に向かっていた。立香とマシュ、そして士郎。三人がレイシフトから帰ってくるであろう場所に……

 

「レフはいったい……なにを話していたんだろう」

 

「どういうことですか」

 

 走っている最中レフが呟いた言葉に俺が疑問をぶつける。

 

「あれは確かに親しい友人を見ていた目だ。そこら辺は長い付き合いだからよく分かる」

 

「でも……アイツがそんな目を向ける相手がいるんですか」

 

 いや、聞いてみて失敗だった。

 音声が拾えなかったのは恐らく、レフ・ライノールが妨害していたからだろう。そこから会話が途切れ、管制室まで駆け抜けていった。

 数十秒後、管制室に着くと気を失った立香を抱き抱える士郎と、息を荒くしながら座り込んでいるマシュがいた。

 

「マシュ、士郎くん。大丈夫?」

 

「あぁ、マシュも立香も疲れきってるみたいだけど……一応は大丈夫だ。悪いけど立香の部屋まで案内してもらえないか」

 

「あぁ。それでいいけど……マシュ、彼は……レフはなにを言っていたんだ」

 

 ロマンがその言葉を口にした瞬間、マシュが凍りついた。気力を失った目に少し光が見せてからその感情を言葉にして出した。

 

「先輩を守ることに必死でよくは聞き取れませんでしたが、自分達を倒したければ、騎士団〈七つの大罪〉と士郎先輩の記憶の欠片を集めろとのことでした」

 

 ……ほぼほぼもろもろ聞き取れてるのではないだろうか、という当然の疑問が頭に浮かぶがこの場合口に出したら終わりだろうな。

 

「自分達……彼には仲間がいて組織的に行動しているということかな。騎士団〈七つの大罪〉とはなんだ。なぜ士郎くんの記憶の欠片なのか」

 

「あぁ。そういえばアイツ……俺のことを自分達と同類っていってたな」

 

 その言葉で今度はマシュとロマンの動きが止まる。

 ……え、なに。この状況よく理解できてないのこの中で俺だけ。

 

「その話は一度置いておくとして……士郎くん。君、なにか思い出せないことはないのかい」

 

「まぁな。生前の記憶ならあらかた覚えてるよ。それより早く立香を寝かさないと……」

 

「……そうだね。この話はまたあとで……それと上条くん、この後いくつか検査させてもらうからあとで此方が指示した場所に向かっておいてくれ」

 

「ん、はい。分かりました」

 

 理解できない話が終わってくれたのは少し嬉しいが検査という言葉は学園都市ではごく日常のことだが、やはり面と向かって言われては抵抗があるみたいだな。

 

「俺は衛宮士郎。よろしく」

 

「上条当麻です。よろしくお願いします」

 

 思わず反射的に返してしまったが、士郎さんは俺のことを知っているはずだ。

 なぜわざわざ知らないフリをするのか……まさか、俺が記憶喪失になったことに気付いてるのか。

 聞く暇もなく士郎さんは管制室から出ていってしまった。

 

「あの……すみません。私はマシュ・キリエライトという者なのですが……上条さん。どうか私を休める場所へ運んでくれませんか」

 

 ……はい?

 それはアレですか。

 そんな際どい格好をした少女を担いで運べということか。

 いや、取り敢えず答える他ないが、しかし、その、条件というものがある。って誰に言い訳してるんだ俺。

 

「はぁ、別にいいけどさ……もっと肌隠れるような格好になってくれないか。目のやり場に困る」

 

「は……はぁ」

 

 そう答えると、マシュは鎧を消して制服のようなものを一瞬で着替えた。俺はマシュをおんぶして管制室を出た。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

「はい、上条さん。よろしくお願いします」

 

 数分歩いて、一番近いベンチに座らせた。

 そして、これまた都合よく近くにあった自販機で飲み物を買い、手渡した。

 

「ほい、俺の好みで選んだから期待はするなよ」

 

「ありがとうございます。上条先輩」

 

「え、先輩……いやいや、上条でも当麻でも呼んでくれ」

 

 そう言って、隣に座りながら缶コーヒーを一口飲む。それにならってマシュも俺が買ったペットボトルの紅茶を一口飲んだ。

 

「あの……当麻先輩はなんでカルデアに居るんですか」

 

「えっと……話せばいろいろと長かったり短かったりするんだけど」

 

 あれは、丁度4時間前ほど前だったなぁ。

 学園都市は機能を取り戻し、以前ほどの営みはないが戻ってきた奴も居るようだ。

 まぁ、俺もその一人なわけだ。しかし、インデックスはそれを気にイギリスに戻ってしまった。

 今日は小萌先生の補修がなくて、まだ時間があるしスーパーまで寄り道しながら行こうかな~、なんて思ってるときだった。

 

「いやがったわね、アンタ!!」

 

「なんだよビリビリ、またなんか用か」

 

「ビリビリ言わないでもらえる。私には御坂美琴って名前があるんだから……」

 

 はぁ、不幸だ。

 普段なら真っ先にこの言葉が出てくるものだが、上条さんは学習しました。

 こんなことを言ってしまったら電撃の槍が飛んでくることはわかっている。

 でも、偉い。ちゃんと相手してる、すんごい偉い。だから大丈夫。

 

「それでさ、御坂。なんか用か。俺だって暇じゃないんだけど……これから夕飯の買い出しに行かなきゃいかんのだが……」

 

「え、いや、その、特にないけど……ただアンタが居たから……」

 

「いや、急にモジモジしながらなに言ってんの。俺そんな目の敵にされてるのかよ」

 

 すると、御坂はなにかを言いかけて口を閉じる。

 そのあと、なにか色々言いたげな顔をしてまたなにかを言いかけた直後、突然の地震が襲った。

 俺が不幸だ~、なんて嘆いていると、急に爆発でもあったような勢いで炎が燃え盛り、俺たちがいた地面が割れ、二人で奈落に落ちていると気付いたらここにいた。

 

「……っていう感じでな。はぁ、思い出しただけでも不幸だよ」

 

「……この状況を不幸で済ませられる胆力に驚きです」

 

「そうか?まぁ、人理焼却……だっけ。俺にはよくわかんねぇけど、その問題を解決しねぇと俺たちは帰れねぇんだろ」

 

 その言葉を聞いて、マシュはなにか変な顔(別に変顔とかではなく変な表情)になった。

 

「……当麻さんは先輩によく似てますね。なにか……温かいものを感じます」

 

 マシュが言い終えた直後、俺は缶コーヒーを飲み干しそこにあったゴミ箱に捨てて時計を見た。

 

「ヤベッ、悪いマシュ。さっき言ってたロマニさんの用事があるんだ。時間があったらまた話そうぜ」

 

 そう言ってロマニが指定した場所に急いだ。

 検査室に行くと、ロマニから訳の分からないアンケートのようなテストを数枚やらされそこから30分程が経つと検査の内容と結果が聞かされた。

 

「この検査は君のレイシフト適正を測るものだったんだ」

 

 0だなこれ。

 そう思ったのには理由がある。

 実は俺の右手には『幻想殺し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる能力がある。

 いや、超能力とか……そういう類いではないと思う。

 しかし、それが『異能』であれば超能力、魔術、神様の奇跡そのどれであったとしても消せる。だからその……レイシフトとやらもこの右手が阻害してしまう筈なのだ

 

「なんと100%だ。こんな数値は滅多にないよ。僕だって立香以外に見たことがない」

 

「……は?」

 

 思わず疑問の言葉が出てきた。

 なんだ。レイシフトとは魔術サイドの技術ではないのか。なのに、なぜ俺に適正があるのだ

 

「なんだい、まるであり得ないとでも言うかのように……」

 

「あり得ないですよ。そういう類いのものは俺の右手が邪魔してできたりはしないんだ」

 

 そう前置きして、俺は右手のことを話した。

 ロマンは面白そうに聞いてくれていた。

 こんなものでも、誰かに興味を持ってくれる人が居たことに驚きと感謝を同時に胸に浮かべながら話し終えた。

 ロマンは少し考えてから答えた。

 

「いや、それならば問題はないだろう。だって君の右手、こちらのものには効力ないから」

 

 驚き

 それが、素直な感情だった。ロマンはそんな俺を見て微笑を浮かべながら続けて説明を加えた。

 

「今まで君があってきた魔術師は、本当の意味での魔術師ではないんだ。どちらかというと魔術使いと言った方が正しい」

 

「その……魔術使いも魔術師もあんまり変わらないって思うんだけど」

 

「いや、変わるんだ。でもまぁ、これはあとで説明するとして……多分だけど、彼らの魔術は僕たちのよく知る魔術とは根本から違う。いうなればルールからはみ出した異物なんだ」

 

「……ドユコト」

 

「簡単に言うと……魔術は学問なんだ。だから魔術は『目的』であって『手段』ではないんだ。ルールからはみ出したものは正さなきゃならない。それが……」

 

 俺の『幻想殺し(イマジンブレイカー)』って訳なのか。なにか察したような俺を見てロマンは少し笑いながら続けた。

 

「まぁ、あくまでも憶測だから確固たる証拠はないんだけけどね」

 

「で、そこまでは分かったよ。さっさと本題に入ろうぜ。俺になにやらせる気だよ」

 

 ロマンは急に真剣な顔になり、少し言い方を考えるように頭を掻きながら言った。

 

「君に、サーヴァントを召喚してもらいたい。只、君の幻想殺し(イマジンブレイカー)がなにも干渉を起こさないとも限らないから、マシュに少しだけ協力してもらうけど……」

 

 そう言って、ロマンは検査室を出て俺もそれに着いていく。少し歩いてまださっきまでのベンチに座っていたマシュにロマンが事情を話して着いてきてもらった。

 

「いいのか?こんなことに付き合ってもらってさ」

 

「いいえ、大丈夫です。それに、この事態を解決するには人手が圧倒的に足りなすぎる。私たちこそ、あなたをこんな戦いに巻き込んでしまって申し訳ないです」

 

「いや、結局は自分のためだからな」

 

 それを聞いて、マシュも再び微笑んだ。

 召喚ルームに入ると、なにか大掛かりな装置がお出迎えしてきた。

 

「普通は詠唱を行わなきゃいけないんだけど、面倒だからこれを使う。マシュ、盾を出してもらえるかな」

 

 マシュは指示されたように身の丈ほどある盾を一瞬にして取り出し、装置の上に置いた。

 

「これのお陰で君は安全に召喚ができる。指紋認証はさっきやっといたからパネルに手を置いてくれ」

 

 言われたように透明な液晶に手をかざす。すると、機械はなにかの部品が高速回転しだし、煙に出した。

 

「おい、煙出てるぞ。成功したのか」

 

「いや、名のある英霊を呼べたときはだいたいこうなるんだ。逆に言えばこれで多大な戦力を確保できたということさ」

 

 そう言われて右手を見ていると、赤く悪魔の手のような模様が刻まれていた。

 煙が晴れて現れた者にロマンもマシュも────勿論、俺も、その場にいたものすべての表情が驚愕に染まった。

 そこにいたのは、マシュたちを苦しめた少女によく似た女性であったのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 アルトリア・ペンドラゴン。

 ブリテン、キャメロットの騎士王。

 そして、第五次聖杯戦争にセイバーのサーヴァントとして衛宮士郎をマスターとして聖杯戦争を勝ち残った者。

 しかし、この世界ではあり得ない可能性のアルトリア・ペンドラゴンだ。聖杯を破壊し、アヴァロンに招かれると同時にある塔を上る。

 

「久し振りですね、マーリン」

 

「おや、久し振りだね。アルトリア。なにかスッキリした顔だけど……なにかいいことでもあったのかな」

 

「見えているくせに……」

 

 思わず微笑んでしまう。

 思い出してみればいつもそうだった。

 マーリンのイタズラに苦笑いを浮かべならいつの間にか話に乗せられてしまう。

 王になるための修行のときはそれの繰り返しだった。

 

「ははは、そうだね。それはそれとして、君にはまだやるべきことがあるだろ」

 

「やるべきこと?」

 

「忘れちゃダメだろ。リオネス国王陛下が最後に残した予言を……」

 

「まさか、今がその……」

 

 マーリンがいつも浮かべている微笑が深刻を告げる表情となる。あの予言が今、現実になろうとしているのか……?

 

「あぁ、そしてその戦場には衛宮士郎がいる。但し、君の知る衛宮士郎ではないけどね」

 

「シロウが……」

 

「ボクも別行動をとらせてもらう。あとで合流するつもりだ」

 

 その瞬間だった。

 アルトリアの下に、ある模様が浮かび上がる。その模様の形には見覚えがあった。

 

「これは驚いた。まさか、彼が一枚絡んでいるとは……それじゃ、活躍を期待しているよ。騎士王、アーサー・ペンドラゴン」

 

 その言葉で、アルトリアの顔は凛々しく、雄々しく、気高く、騎士の誇りを……王の矜持を体現するしていた。

 

「それでは、此度も遠征に参ります。マーリン、あなたの無事を祈っています」

 

「まぁ、ここから出ずに行動するから……無事は確保されているよ」

 

 その一言にアルトリアは苦笑いを浮かべ、同時に模様とともに景色が変転した。

 そして、煙に包まれた場所を歩くと現れた3人すべての表情が驚愕に染まった。

 そして、一人の少年に令呪が刻まれているのが見えた。

 ならば、いうことは一つだ。

 

「問おう。貴方が私のマスターか」

 

 少年は、この質問に呆気をとられたのか目を何度も瞬きしてからなにかに気付いたように言った。

 

「え、あ、あぁ。多分……そんなんじゃないのかな」

 

「突然で悪いが、質問させていただきたい。御身は騎士王アーサー・ペンドラゴンに間違いはありまさんか」

 

「貴方は……」

 

 一人の男が質問してきた。この返しは端的にいえば『名を知りたいのなら自分の名を名乗れ』という意味である。だが、男は動揺することなく答える。

 

「失礼しました。まずは自分の名を名乗るべきでしたね。私は人理継続保障機関フィニス・カルデア医療部門トップ、ロマニ・アーキマンです。今は、トップが不在のため、今一番立場の高い私がトップということになります」

 

「質問に質問を返して申し訳無い。そして如何にも、私こそブリテンの騎士王、アルトリア・ペンドラゴンです」

 

 男──────改め、ロマニはさっきまでの張り積めた声ではなく『あ、やっぱり……よかった』と言っていた。しかし、一番聞かなくてはいけない名を聞いてない。

 

「そしてマスター、できれば名前を教えてもらいたいのですが……」

 

 少年は少し考え、頭を掻きながら自分の名を語った。

 

「……当麻。上条当麻だ。こうなったら仕方ない。こっちこそ聞くけど……お前が俺のサーヴァントってことでいいのか」

 

「カミジョウ……トウマ。もしよければ名前で呼んでいいでしょうか」

 

「え、まぁ、別にいいけど……」

 

 少年……改め、トウマは苦笑いを浮かべながら言う。その直後にロマニから事情を説明するとして、どこかの部屋に案内された。

 

「まず、貴女を呼んだ理由は聖杯戦争のためではありません」

 

「その点に関しては理解しています。なにが起こったのかも……生前にこの状況を予言していた者がいて」

 

「その予言というのは……聞いても」

 

「分かりました。知っていて損はないでしょう。『遠き未来、世界は跡形もなく燃え尽きる。新たな予兆は72もの闇の柱。これを迎え撃つは7人の大罪人、そしてブリテンの騎士王、並びに光と闇の祝福を受けし少年』とのことでした」

 

 それを聞いて、難しい顔をしたロマニは少し考えてから答えた。

 

「ブリテンの騎士王を貴女として、他に心覚えはありますか」

 

「7人の大罪人は恐らく騎士団〈七つの大罪〉でしょう。彼らはブリテンを何度も救った英雄です」

 

「……そうですか。でも、まだ情報が少なすぎますね。分かりました。では、上条くん、カルデアを案内してもらえるかな」

 

 トウマは『分かりました』と言い、部屋を出た。

 しかし、妙にぎこちない気がする。自身ではなくトウマの方が────ここは、一度聞いてみるに越したことはない。

 

「すみません。どうも堅いようなので、出来ればどうしてか聞かせてもらえないでしょうか」

 

 質問の意味が理解できないのか、トウマは少し呆然としてから、なにかに気がついたように言った。

 

「あ、悪い悪い。えっと、何て言えばいいのかな。その……一応、俺とお前は契約関係にあるってことでいいのか」

 

「はい。そうですね、私はセイバーのサーヴァントです。貴方を主として剣を振るうつもりです」

 

「その─────主従関係ってやつ?それが馴れてなくてさ……距離感が掴みづらいというか、なんというか」

 

 まだ堅い苦笑いを浮かべながら、トウマが言う。

 この面影、似ている。彼と……

 不器用なのに、いつも誰かのことを考えていて、その癖自分が最も救われない道を選んでしまう彼と……

 

「貴方は……私の昔のマスターとよく似ていますね」

 

「それは……俺か?それとも凛か?」

 

 その言葉ですぐに後ろを振り返る。振り返った現れた少年は続けて言った。

 

「懐かしい魔力を感じてきてみれば……お前だったのか、セイバー。久し振りだな」

 

 少年の顔に目を見開く。

 

 ──────君の知る衛宮士郎ではないけどね

 

 マーリンの言っていた言葉がようやく理解できた。

 少年が……士郎に向けた表情で気付いてしまった。彼は──────自分のよく知る衛宮士郎ではない。

 自分が愛し、自分を愛してくれた衛宮士郎ではない。

 かつて自分が戦うことを拒み、自分が出した答えを否定した……衛宮士郎ではない。

 しかし、だからどうした。

 彼がここにいる。

 それだけで充分だろう。

 目頭が熱くなっていた。

 言葉が出ない。

 だが、言わねば……

 

「はい、本当に……お久し振りですね。シロウ」







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決意の前に……記憶の跡に……

すいません。サボってました。
楽しみにしてくれた人が一人でもいるなら、読んでくれると嬉しいです。
しかし、ここで序章に区切りをつけるつもりだったんですけど、文章的に今回じゃないと思い、見送りました。次で冬木を確実に終わらせます。あと、次回から後書き茶番『カルデアこぼれ話』が始まります。かみことssから着想を得ました。
さぁ、どうなる第六話!!


 思わず息が止まった。

 その姿を見違うはずもない。あの光景を─────忘れるはずはない。

 恐らくは一秒すらなかった刹那の記憶

 されどあの景色は、例えなにもかも忘れても鮮明に脳裏に浮かぶであろう記憶。それほどまでに鮮烈に、鋭利に記憶に……心に焼き付いているであろう光景。

 自分より多少低い身長。いや、本来はもっと差がついているはずだが17歳程度の身体で召喚されたせいであのときから殆ど変わっていない。

 

「それは俺か?それとも凛か?」

 

 少女は不意を突かれたようにこちらを振り向く。

 彼女も俺の姿に、息を呑んだようだ。それから数秒絶句していたので俺から話を切り出すことになった。

 

「懐かしい魔力を感じてきてみれば……お前だったのか、セイバー。久し振りだな」

 

 言った言葉に少女は目を見開く。なにかおかしなところでもあったかな、と頭を掻きながら苦笑いを浮かべると少女は涙ぐみながら声も返した。

 

「はい、本当に……お久し振りですね。シロウ」

 

「あのさ……アルトリア。感動の再開のとこ悪いが、なにも泣くことはないんじゃいか。なにも理解してない俺が言うのもなんなんだろうけど」

 

 口には出さないが、俺も同意見だ。俺と彼女はそれほど深い関係ではなかった気がする。確かに最後に彼女と話すことができなかったのは後悔ではあるが、泣かれるほどのものではなかったはずだ。彼女は涙を拭きながら答えた。

 

「すみません。つい感極まってしまって……」

 

 セイバーは俺に近づきながら続けて言った。

 

「貴方は、本当にシロウなのですか。あのときとまるで変わっていませんが……」

 

 そこまで言って彼女は、なにか申し訳なさそうな哀れみを含んだ眼で俺を見てきた。

 いや、この魔力から大体察しをつけくれるものだと踏んだが、さすがにセイバーの直感を以てしてもここまでの察しはつかないようだ。

 

「実はな、俺もサーヴァントなんだ。それでこの姿で現界してさ……だから、そんな哀れみの視線を向けないでくれ。さすがに傷付く」

 

「すみません。そうですか……貴方も英霊に……」

 

 いや、正確には守護者だけどな。と言いかけたが、それはセイバーも知っていることなので止めた。なにを言いかけたことに疑問の表情を浮かべるが、なにかを察したのかなにも言わなくなった。

 

「じゃあ、俺はもう行くよ。頼まれてることがたくさんあるから」

 

「はい、あの……」

 

「ん、なんだ」

 

「また、剣を……」

 

 俺は頷いく。

 

「あ、そうだ。セイバー、その格好じゃなにかと不便だろ。服を投影したから適当に着てくれ」

 

 そこから数分歩いて頼まれていたクーラー等の修理に加え、適当に茶菓子などを作って配っていくことを続けた。

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 俺がアルトリアにカルデアを一通り案内して、既に数分が経った。

 理由を説明すると、一通り案内してからアルトリアの着替えの場所を用意しようと俺の部屋に案内することになった。

 

「ふ、不幸だ……」

 

 カルデアに来てアルトリアを案内するまで、なにもないところで転ぶこと五回、転がる缶を見事に踏んで一回転して転ぶこと七回、という感じである。

 

「例えマスターとはいえ、自らの不幸を嘆くとは感心しませんね」

 

「いや、そうゆう訳じゃなくてさ。今日も不幸だ~、俺だ~、っていう確認……みたいな」

 

「どういうことですか?」

 

「俺、不幸体質ってやつ?なんか日常的にこういうことがあるんだよ。大きさはまちまちだけど、これが俺のアイデンティティっていうか……」

 

 アルトリアはそれでも分からないと、いわんばかりの顔でこちらを訝しげに見ている。

 俺も説明するつもりが、着地すべき結論に行けなくなり逃げるように言った。

 

「まぁ、わかってくれなくていいよ」

 

「……善処します」

 

 してくれなくていいけど……

 いや、むしろ同情や哀れみをを向けられるほうが困る。さっきも言った通り、別に気にしてないし『不幸だ』というのも自分が自分であることの確認なわけで……というか、もう完全に口癖と化してるよな。

 

「そういや……」

 

「なんですか?」

 

「士郎さんとはどのようなご関係で?」

 

 瞬間、空気が凍りついた。さ、寒いよー。

 しかし、凍りついた空気をアルトリアは気にすることなく言い放った。

 

「先程の会話で悟っていると思っていましたが、彼が私の昔のマスターなのです」

 

「どうリアクションすればいいかな。無言でいい」

 

「構いません。それより、着替える場所はどこでしょうか?」

 

 ─────────へ?

 

 今度こそリアクションに困る。来てから数時間程度しか経ってないし、ってかそもそも更衣室なんてあるのか。見た感じ部屋で着替えてるっぽいけど……

 

「じゃあ、取り敢えず俺の部屋に行くか。当たり前だけど、そこでは着替えるなよ」

 

「何故でしょう?」

 

 あのな、健全な男子高校生にそれ聞くやつがあるか、バカタレ!!

 

「あのな、健全な男子高校生にそれ聞くやつがあるか、バカタレ!!」

 

 声に出てた。

 

「って、ハッ。つい勢いで……悪い」

 

 アルトリアは一瞬、驚愕に満ちた表情を浮かべた。

 それは、すぐに微笑みへと変わった。

 

「こちらそこ申し訳ありません。思慮の浅い発言でした」

 

「いいよ、もう。気にしてないし……こんなグダグダな会話をいつまでもするつもりもないし……」

 

 言い終わる直後で、部屋についてしまった。

 取り敢えずドアを開けた。すると、誰かいた。そこには、俺に与えられた部屋のベッドで幸せそうに眠る御坂の姿があった。

 

「はぁ、なんで俺のベッドで寝てんだよ。悪い、今起こす。ついでに御坂の部屋で着替えてくれ」

 

「分かりました」

 

 セイバーは一言で答え、俺から一歩下がった。

 こりゃ、なんかめんどくさい日々になりそうだ。 俺はベッドの上で寝ている御坂に近付き、肩を揺さぶった。

 

「おい、起きろ御坂。お前なんで俺のベッドで寝てんだよ」

 

「ん……黒子。あと、5分」

 

「白井じゃないし、俺の部屋なんだからさっさと起きろ。頼みがあるんだよ」

 

「え……、えっと、え」

 

 起きたばかりの半目で目を擦りながら、周りを見渡している。そして数秒後、自分の置かれた状況をようやく理解した御坂はみるみる頬を赤くしていき……

 

「ふにゃー」

 

「漏電すんじゃねぇぇぇぇぇえええええええええええ!!もう、不幸だぁぁぁぁぁああああ!!」

 

 部屋の一部が焦げるほどの漏電をした御坂は五秒間気を失い、目を覚ますと無言で俺をポコポコ殴ってきた。擬音から察してほしいが、あまり痛くない。不覚にもドキッとしてしまった。

 

「おい、御坂。まず人の話を聞けって……」

 

「うるさいうるさいうるさい」

 

 全く関係ないが、後で聞いたが士郎さんが管制質でこの光景を見てなんとなく生前を思い出したそうだ。

 

「後ろに要る奴の着替えを手伝ってやってほしいだけなんだって」

 

「え、えっと、だ、誰」

 

「そっか、アルトリア。自己紹介してくれるか」

 

「はい、わたしはアルトリア・ペンドラゴン。トウマのサーヴァントです」

 

「えっと、ご丁寧にどうも。御坂美琴です」

 

 呆気にとられて反射的に自己紹介を返してしまった御坂が、何を思ったのか、俺を不機嫌そうに睨み出した。

 

「えっと……御坂さん。どうしたんでせうか?」

 

「別に……なんでもないわよ」

 

「じゃあ、アルトリアの着替えに部屋貸してやってくれ」

 

 御坂はそれを苦虫を噛み潰すように頷き、二人で部屋から出ていった。

 ……どうしたんだろうか。ベッドに座りながら考えてみる。

 

「どうしよう。暇だ」

 

 考えても分かるわけがない、なんてふざけた結論に達した俺が次に達した疑問は『暇』ということだった。

 

「ゲームなんて持ってきてるわけないし……携帯は圏外だし……」

 

 暇を潰す手段がない。

 そういや、ロビーになんかトランプとかオセロとかあったな。とってくるか。

 

「一人じゃできねぇ。いや、できるけどそれじゃ俺悲しいやつじゃねぇか。人がいたとしても俺負けてばっかで気まずくなるだけだし……結局なんも出来ないじゃん」

 

 一人ベッドの上でもがき転げ回っていると、ふと、思い出した。俺、ベッドで寝たことなんてあったけ。自分のいる高校の寮はあの禁欲なんて辞書から削除済みであろう暴飲暴食シスターが使っていたし、寝れたとしても病院のベッドだった。

 いや、それにしても……ベッドというものがこんなに気持ちいいものだったとはな……御坂が昼寝してしまうのも理解できる

 

「いや、それにしても……ベッドというものがこんなに気持ちいいものだったとはな……御坂が昼寝してしまうのも理解できる」

 

 声に出てた。

 もうそんなことはどうでもいい。このまま惰眠を貪ってやる。

 

「着替えが出来ました」

 

 ノックとともに聞こえた声で一瞬で我に帰る。立ち上がり答える。

 

「あぁ、いいぞ」

 

「「失礼します」」

 

「なんでハモるんだ」

 

 セイバーはいつも通り凛とした声で、御坂はさっきよりもっと不機嫌そうに入ってきた。

 

「どうでしょうか、トウマ」

 

「え、えっと、まぁ、似合ってます」

 

 似合ってはいる。白いYシャツに青いスカート、それだけなら単に地味な服装だ。しかし、アルトリアが着ると、その端正な顔立ちもあって、決して派手過ぎず、見事に調和している。

 なにスキル地味に羨ましい。

 

「いや、これ以上ない組み合わせだと思う。なんかご令嬢みたいだな」

 

「ありがとうございます」

 

 なんでそこで微笑む。

 そしてなんだ、その破壊力。普通の男子高校生なら理性崩壊が免れないような威力だぞ。

 次の一瞬、御坂から電撃の槍が飛んできた。右手で打ち消す。

 

「おい、御坂。なにしやがる」

 

「アンタがその子に鼻の下伸ばすのがいけないんでしょ」

 

「馬鹿野郎、あれにドキッとしない男がいてたまるか。むしろドキッとですんだほうがまだマシだよ。大体なんでそれで御坂が電撃を飛ばす必要があるんだよ」

 

「え、それは……その」

 

 御坂は頬を赤く染めながら、急に口ごもり、その数秒後……

 

「なんでもないって言ってんでしょ。このバカ!!」

 

 と言って平手打ちを噛ましてきた。多少帯電していたのかビリッとした。

 御坂はそのまま俺の部屋から出ていってしまった。

 

「古来より馬鹿と言った奴が本当の馬鹿と相場が決まっているのだ。で、言っていい」

 

「構いません。これには、さすがに……なにも言えません」

 

「それじゃ、遠慮なく……不幸だ」

 

 突然だが、管制室で偶然この様子を見ていた士郎はこう言っていたに違いない。

 

『二人って……案外似た者同士なんだな』

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 目が覚めると、見知った天井がある。

 だが、見慣れた天井ではない。ここは、カルデアでの自分の部屋だろうか。纏まらない思考と混乱した記憶をはっきりさせるために辺りを見渡す。

 

「よーし、キミは随分いい子でちゅねー。なにか食べる?木の実?それとも魚?」

 

 視界の端に入った女性がフォウと戯れている。

 なんか羨ましい。わたしもフォウと遊びたいモフモフしたい。

 

「んー、ネコなのかリスなのかイマイチ不明だね。でもいっか、可愛いから!」

 

 そうそう可愛いは正義だよね。

 可愛いの前にあらゆる常識など意味を為さないといっても過言じゃないよね。

 

「フォーウ……ンキュ、キュウぅ……」

 

 いまだにハッキリしない思考をふざけた考えで無理矢理起こそうとするとフォウが鳴きながら飛び付いてきた。うん、やっぱり可愛いは正義。モフモフしながら割と本気で考えていると、女性の方も近付いてきた。

 

「ん?おっと、本命の目が覚めたね。よしよし、それでこそ主人公というヤツだ。おはよう、こんにちは、立香。意識はしっかりしてるかい?」

 

「えっと、貴方は……?」

 

「ん~、まだ思考回路は戻ってないみたいだね。こうして直接話をするのは初めてだね」

 

 まぁ、直接会話するのは初めてだ。

 だって知らない人だし、と、今しがた女性に言われたようにぼやけた思考で思った。

 

「なに?目を覚ましたら絶世の美女がいた?わかるわかる。でも慣れて」

 

 微笑みながら、実にとんでもないことを言っている。

 しかし、絶世の美女という部分は否定しきれないし、それに言葉にも妙な説得力があり、顔をしかめているのを気にせず、女性は自己紹介を始めた。

 

「わたしはダ・ヴィンチちゃん。カルデアの協力者だ。というか、召喚英霊第三号、みたいな?とにかく話は後。キミを待っている人がいるんだから、管制室にいきなさい」

 

「待ってる人……?Drロマンですか」

 

「ロマン?ロマンも待ってるけど、あんなのどうでもいいでしょ」

 

 まぁ、そうですけど……

 流石に酷くないですかね?

 

「まったく。他にも要るだろうに、大事に後輩が。まだまだ主人公ってヤツがなってないなぁ」

 

「フォウ、フォウ!」

 

「ほら、この子だってそう言ってる。いい加減立ち上がる時だよ立香君」

 

 自分の言葉に相槌を打ったフォウを撫でながらダ・ヴィンチちゃんが言う。

 しかし、そんなことはどうでもいい。寝ぼけていた思考が呼び起こされた。そうだ、マシュが……大事な後輩は大丈夫なのだろうか。

 急に深刻になっていく私を見てダ・ヴィンチちゃんが続けて言った。

 

「ここからは君が中心の物語です。キミの判断が我々を救うだろう。人類を救いながら歴史に残らなかった、数多無数の勇者たちと同じように……英雄ではなく、ただの人間として星の行く末を定める戦いが、キミに与えられた役割だ」

 

 それを聞き終えると、そのまま走っていた。

 傷の痛みなんて気にならないほどにアドレナリンが出まくっていた。

 管制室まで5分もかからなかったと思う。

 

「……マシュ?」

 

「おはようございます先輩。無事で何よりです」

 

 マシュはわたしに微笑み、暖かい言葉で答えてくれた。

 ……よかった、本当によかった。

 

「おはよう、立香。無事で何よりだよ」

 

 そう言いながら、自分と同じ赤銅色の髪の少年が近付いてきた。

 

「おはよう二人とも。無事でよかったよ」

 

「コホン。再開を喜ぶのは結構だけど、今はこっちにも注目してくれないかな」

 

 わざとらしく咳払いをしながら、ロマンが近付いてきた。そのとなりには、黒いツンツンした髪の少年と、自分達が戦った黒い鎧のセイバーによく似た少女がいた

 

「紹介するよ。彼は本来存在し得なかった48人目のマスター上条当麻くんだ、そして彼女はよく知っているだろうが、本来のアーサー・ペンドラゴン。当麻のサーヴァントだ。彼らも一緒に戦ってくれる」

 

「上条当麻だ。俺も普通の高校生だから、よろしく頼むよ」

 

「う、うん、よろしく」

 

「自我を失っていたとはいえ、貴方たちに刃を向けてしまったことを謝罪します。申し訳ありません」

 

「いいよ。わたしは気にしてないし、むしろ心強いよ」

 

 気にしてないというところははっきり言って嘘になってしまうが、ここまで深々と謝罪をされてしまってはいささか思うところがある。それに、あれほどの強敵だ。味方であればこれ以上に頼もしい者はいない。

 

「取り敢えず、まずは生還おめでとう立香ちゃん。そして、ミッション達成お疲れさま。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、君は勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。その事に心からの尊敬と感謝を送るよ。キミのおかげでマシュとカルデアは救われた。所長残念だったけど……今は弔うだけの余裕はない。悼むことぐらいしかできない」

 

「…………」

 

 それは、わたし自身に向けられた言葉だった。

 しかし、所長の話で一気に重くなる。そんな中、語気を強くしたロマンが続けて言う。

 

「いいかい。ボクらは彼に変わって人類を守る。それが彼女への手向けになる」

 

 ロマンはそのまま語った。

 今からわたしたちが挑むミッション、そして……この物語の名を…………



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グランドオーダー

今回から後書きコーナがスタート。
どんどんぐだぐだになっていく本編を救って欲しい。まぁ、初回ですしコーナーの概要説明です。
あと、今回は一場面のみで短めです。お気に入り100件突破目指したい。気に入ってくれたらお気に入り、感想、ご指摘、何でも受け付けます。
さぁ、どうなる第7話!!


「いいかい。ボクらは彼に変わって人類を守る。それが彼女への手向けになる」

 

 その一言で、管制室に居た私たちの達の空気が一気に引き締まる。

 

「この事態の解決策が見つかったってことでいいのか?」

 

「取り敢えずこれを見てくれ」

 

 士郎の問いに答えたロマンが、管制室にあるカルデアス目を向けながら説明を始める。

 

「マシュから聖杯と呼ばれる水晶体とレフの言動に関する報告を受けて、カルデアスを確認してみたが、おそらくレフの言葉は真実だろう。外部との連絡がとれないところをみても明らかだ」

 

 それはつまり、人類の絶滅に関する現実を認める言葉だった。レフの言うとおり、人類は今、暫定的に絶滅し、2016年を以てそれは完全なものということだ。

 しかし、ここからなにもせずに絶滅までの一年間をのうのうと過ごすつまりはない。それに、さっきのロマンの言葉から解決する方法はどうやらあるようだ

 

「……カルデアから外に出たスタッフも全滅しているとみていい。既に人類は絶滅している」

 

「じゃあ、このカルデア今どんな状態なんだ?」

 

「このカルデアは通常の時間軸にはない状態だ。崩壊直前の歴史に踏みとどまっている……というのかな。宇宙空間にコロニーと思えばいい。外の世界は死の世界だ。この状況を打破するまではね」

 

 コロニーのところで、質問した士郎が一瞬ソワッとしたような気がしたが……見間違いだろうか、思考を打ち切る。ロマンはそのまま説明を続ける。

 

「……解決策はあるんですよね?」

 

 私が聞く。その問いに、ロマンが無言で頷く。ロマンはそこで初めてその解決策についてシバを操作しながら触れ始めた。

 

「勿論。まずはこれを見てほしい。復興させたシバで地球の状態をスキャンしてみた」

 

「でも、レフの言葉では2016年以降の未来は焼却されたんだろ。だったらなにを……」

 

 早速、士郎が質問する。ロマンはありがとう、と礼を言いつつその質問に対して返答と説明を再開する

 

「その通り、だからスキャンしたのは未来ではなく過去の地球だ。冬木の特異点は立香やマシュ、士郎くん達のおかげで消滅した。なのに未来が変わらないということは、他にも原因があると仮定した。その結果が────これだ」

 

 ロマンがシバを操作すると、そこに現れたのは歴史で見るものとは明らかに違う世界地図だった。

 その光景に、少しだけ浮かんだ疑問に対する解答を得ようと考えたが、自分ではわからないし、ロマンが説明してくれるだろうと思い思考を打ち切った。

 ちょうどロマンが説明を再開する。

 

「この狂った世界地図。新たに発見された、冬木のものとは比べものにならない時空の乱れだ」

 

 あんなことが起こったから、大抵のことでは驚かないつもりでいたけど、これは……驚かせてください。

 

「「あれ以上のがあるの!!」」

 

 もうホントだよ。

 冬木の修復だけでもあんなに苦労してギリギリようやく解決できたのに、それとは比べものにならないなんて……これは、解決できるのかな。

 あれ、隣の上条くんも同じこと考えてる感じ……かな。

 

「立香、上条くん。確かに言いたいことはわかる。ただ……まず話を全部聞いてほしい」

 

「「すいません」」

 

 私たちは教師に怒られた生徒のように、ショボンとする感じになった。

 私にはマシュが、上条くんにはアルトリアが苦笑いを浮かべながら慰めてくれてきた。士郎も苦笑いを浮かべて私たちを見ていた。

 

「話を戻すけど、よく過去が変われば未来も変わる、というけど、ちょっとやそっとの過去改竄では未来は変革できない。歴史には修正力というものがあってね。確かに人間の一人や二人を救うことは出来ても、その時代が迎える結末───────決定的な結果だけは変わらないようになっている」

 

 最近のゲームや小説でもよくある話な気がしなくもないけど……

 そういう意味では本などの解釈は的を射ている気がする。説明するロマンの言葉の意味について思考しているとロマンは続きを言う。

 

「でもこれらの特異点は違う。これは、人類のターニングポイント。

 “この戦争が終わらなかったら”

 “この航海が成功しなかったら”

 “この発明が間違っていたら”

 “この国が独立できなかったら”

 そういった、現在の人類を決定づけた究極の選択点だ」

 

「ホワット……????」

 

 ボンッ!!!!

 上条くんが頭から煙を出した。そのまま脳がショートして倒れるくらいの勢いで……私も右に同じのような感じで、それを見かねてくれた士郎がため息をつきながら説明に入ってくれた。

 

「日本で例えるなら第二次世界大戦とか……あれで、日本が負けたから今の日本が決まったって言っても過言じゃないだろ。あの出来事をもっと大きくした感じで見ればいいんじゃないか」

 

「「あぁ~」」

 

 手のひらに拳をポンと立てる。

 

「分かったのジェスチャーが古くないか?あぁ、悪い。ロマン、説明を続けてくれ」

 

「うん、分かった。士郎くんが言うとおり、そういう事象が崩されるということは、人類史の土台が崩れることに等しい。この七つの特異点はまさにそれだ。この特異点が出来た時点で未来は決定してしまった。レフの言うとおり、2017年はやってこない」

 

 つまり……人類史の土台が根本から覆された結果、人類の歴史が成立しなくなり、レフの言葉通り焼却されて燃え尽きたということか。

 人類史って意外と脆いんだな……というのが素直且つすぐに思い浮かんだ感想だった。

 いや、おそらく自分の考えていること以上に重要な出来事で、それが七つも覆されてしまったからなのだろうが、如何せん自分は普通の高校生でそういう出来事とは無縁なところで生きてきた。

 そんな人間にそういうことを理解しろって言うほうが無理だろう。

 

「────けど、ボクらだけは違う。カルデアはまだその未来に到達していないからね」

 

 んー、焦れったい。

 それは、もう分かっておるのだ。

 何故そうなったかは兎も角として言葉の雰囲気はなんとなく分かっている。事態を詳しく説明する必要があるのは分かってるけど、早く言ってもらたい。

 本題に入って欲しい。そんな思考を感じ取ったのかロマンは真面目な表情になりながら言った。

 

「分かるかい?ボクらだけがこの間違いを修復できる。今こうして崩れている特異点を元に戻す機会(チャンス)がある」

 

 そう。カルデアにはその手段があるということ。つまり、自分たちがやるしかない、ってことだ。

 しかし、それを実行できるのは自分とマシュ、士郎に上条くんにアルトリアだけということだ。だから、こうしてロマンは話している。

 

「結論を言おう」

 

 ロマンは、一度深呼吸を挟んでから、漸く最後の言葉を話し始めた。

 

「この七つの特異点にレイシフトし、歴史を正しいカタチに戻す。それが人類を救う唯一の方法だ。けれどボクらにはあまりにも力がない。マスター候補者は君達を残して凍結、所持するサーヴァントは二人合わせても3騎のみ……この状況で話すのは強制に近いことは理解している。それでもボクはこう言うしかない」

 

 ロマンは申し訳なさそうにこちらを見つける。しかし、それは、決して同情や哀れみなどは一切ない。そのような役目を押し付けるしかない自分たちに対する謝罪しかない。

 

「マスター適合者48番、藤丸立香。49番、上条当麻」

 

 ロマンは、強い瞳でわたしと上条くんを見つめ、わたしたちの決意を問う。

 

「君が人類を救いたいのなら、2016年から先の未来を取り戻したいのなら……君たちはこれからたった二人でこの七つの人類史と戦わなくてはいけない。その覚悟はあるか?君たちにカルデアの、人類の未来を背負う力はあるか?」

 

 ロマンが言い終えた直後、上条はため息を一つ挟んだ。そして、頭をかきながら言った。

 

「そういうことは俺には、よく分かんねぇよ。人類史だの、特異点だの……でも、俺にも帰りたいところならある。その為なら……俺は戦うよ。というか、俺にアルトリア召喚させた時にもう決まってんだろ」

 

 上条は自分なりの決意を述べた。ロマンは、一瞬安心を見せつつ、すぐにさらに、強い瞳でわたしを見る。私も、自分の言いたいことを言うんだ。

 

「わたしも、そういうことは良く分かりません。でも、自分にできることなら……やります。大事な後輩だけに戦わせるわけには行かないので」

 

「────ありがとう。その言葉でボク達の運命は決定した」

 

 ロマンと士郎、この場にいた全員がわたしたちの言葉に微笑みを浮かべた。

 わたしたちに強く決意をのべる。

 

「これよりカルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続を全うする。目的は人類史の保護、及び奪還。捜索対象は、各年代と原因と思われる聖遺物・聖杯。我々が戦うべきは歴史そのものだ。君達の前に立ちはだかるのは、多くの英霊、伝説になる。それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜だ。我々は、人類を守るために人類史に立ち向かうのだから。けど、生き残るにはそれしかない。いや、未来を取り戻すにはこれしかない……例え、どんな結末が待っていようとも、だ」

 

 ロマンはそれから振り返り、上の管制司令室に要る職員達に力強く呼び掛けた。

 

「以上の決意をもって、作戦名をファーストオーダーから改める。これは、カルデア最後にして原初の使命。人理守護指定・ (グランド). (オーダー)。魔術世界の最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!」

 

 それは、己が信念を貫く物語。未来を取り戻す物語。そして、願いを叶える物語だ。




「立香と」 「当麻の」

『カルデアこぼれ話』パチパチパチ~(二人のセルフ拍手)

「こんにちは、藤丸立香です!」

「どうも!!上条当麻です!」

「いや~、ついに始まったね。当麻くん」

「そうだよなー。『カルデア放送局』かで迷ったのと、作者のサボりでこれ始まるのにどれだけかかったことやら」

「それは、触れないお約束だよ。確かに作者さんは馬鹿丸出しで、不登校で、暇潰しで始めたこの作品ですら書くのをめんどくさがる馬鹿野郎だけど……」

「立香。お前、現在進行形で作者を殺しにかかってるけどな」

「あ、でも、まぁ、自覚はあるみたいだし大丈夫じゃないかな……」

「そうか、ならいいけど……ところで、話を変えるけど、今日は何すりゃいいんだ」

「あぁ、本格的な活動は次回からで、今日はゲストもいないらしいしこのコーナーの説明とわたしたちのする無駄話でいいみたいだよ」

「あぁ、ならコーナーの説明は俺から、このコーナーはゲストをお呼びして、その人のキャラ紹介と、名シーンを二話構成にしてお送りするコーナーです」

「作者さんが、適当に見ていたかみことssがモデルなんだよね~」

「なぁ、かみことってなんなんだ」

「……ヘ?」

「いや、純粋に気になってな。一応俺と誰かのことを指しているみたいなんだけど、誰かが分かんないんだよ」

「知らなくていいよ。後で、嫌でも知らなきゃいけないんだから」

「そ、そうか。まぁ、初回だしこの辺で終わるか。次回のゲストは……誰だっけ」

「それは、わたしから。次回のゲストは、この作品の主人公。作者さんの性格改変の一番の被害者にしてこの作品の主人公です」

???「そんなに原作から変わってるか……俺」


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邪竜百年戦争 オルレアン
歪みへの出発


どうも、晴輝です。
明日学校祭。本来、陰キャである僕には地獄だが、楽しみです。
まぁ、僕は楽しみます。皆さんも僕の小説で楽しんでくれたらなと思います。
士郎がダ・ヴィンチちゃんに対してちょっと辛辣ですが、そこについては後日ということで


 見えたのは、炎だった。

 次に視界に映ったのは瓦礫。逃げ惑う人々。

 昨日まで自分がいた世界に良く似た景色。ただ一つ違うのは人が死んでいくことだろうか。歩く度に聞こえてくる悲鳴、絶望、そんなもので埋め尽くされて、それを養分として炎はさらに燃え盛る。

 

──────歩く。歩く。歩く。

 

 意味もなく歩く。何故か、無性に歩こうとしてしまう。使命感というより、なにか……歩けと自分に強制されているような感覚だった。

 ここは何処なのだろうか……いや、もう理解しているだろう。ここは冬木だ。分かる。それも、自分のいた地獄よりも遥かに重く苦しい地獄だ。

 

──────走る。走る。走る。

 

 空気も気分も苦しくなるのに、足取りだけは軽くなる。本能が察している。ここに居ては壊れてしまう。身体ではない。心が……壊れてしまう。

 

──────走る。走る。走る。

 

 もう何分、全速力で走ったろうか。

 体力なんてもう切れている。なのに、走れてしまう。喉は焼け爛れ、四肢は燃え、身体は震える。なにより心が壊れる。

 悲鳴が……絶望が……慟哭が……一つ一つ、心にヒビを入れる。

 死ぬほど走って、限界が来て倒れた。不思議と頭は冴えていた。当たり前だ。人間の体にだって限界はある。むしろ、ここまで走れていたことのほうが摩訶不思議だ。これが火事場の馬鹿力というやつだろうか。考えてきたら、笑えてしまう。

 あぁ、ここで倒れたまま、死んでしまえたら、どんなに楽なんだろうか。

 そう思い始めた頃に、それは現れた。

 自分と同じ……赤銅色の髪に、琥珀色の目の少年が歩いていた。

 その目を見て、今までの自分の行動が崩れ落ちるような感覚が襲ってきた。

 

──────カラだった。

 

 その瞳には光なんてなく、ましてや、心なんてない。

 なのに、泣いている。涙を流して、流して、流して、それでも進んでいる。

 あぁ、きっと……あの少年は壊れてしまったのだ。あの行動に意味なんてない。ただ、歩かなきゃなんてふざけた漠然とした意思がある。今にも崩れそうな意思を涙で繋ぎ止めながら、それでも歩き続けている。

 何故か……応援したくなる。本当なら、少年を止めるべきだ。じゃなきゃ、少年は助かったとしても、そのまま壊れたまま生きていくことになるだろう。

 でも、少年には歩き続けて欲しい。その先にあの子の救いがあるような気がした。

 

 ──────歩いて。歩いて。歩いて。

 

 そんな保証なんてどこにもない。第一、あの子に同情してるだけ。こんな状況で、同情してるなんて傲慢だろうが、それでも歩いて欲しいと思った。そのまま、意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、3日しかいないのに何故か見慣れてしまった天井が見える。ボヤッとした体を起こしながら、頭を数度振る。なんとか意識が正常に戻ると、さっきの夢について考え始めた。

 

「はぁ、なんか怖い夢だったな」

 

 支給された寝巻き姿から制服に着替え、夢について考えながら部屋を出ようとすると、マシュが挨拶をしてきた。

 

「おはようございます、先輩。そろそろブリーフィングのじか─────きゃ!?」

 

「キュウゥゥゥ……」

 

 一緒に入ってきたフォウが、吠えながらマシュに飛び付いてきた。それに驚いたマシュが尻餅をつく。そして、巨大な盾が落ちる音が耳障りにだったので、反射的に目と耳を塞いでしまった。

 

「ごめんなさいフォウさん、避けられませんでした……でも、朝から元気なようで嬉しいです」

 

「おはよう、マシュ。元気そうだね」

 

「はい、先輩は少し顔色が優れませんね。なにかあったんですか」

 

「うん、実は怖い夢を見てさ」

 

 会議室に向かう途中で、夢のことを話した。

 冬木に良く似た街で、赤髪の少年が歩いていく様子を……それを聞いたマシュは、少し考える仕草を見せて数秒ほどで思考の結論を述べた。

 

「本人に聞いていないので確証はありませんが、恐らく士郎先輩の生前の様子でしょう」

 

「士郎の……生前?」

 

 言葉の要所を切り取り、質問する。マシュは、はい、と前置きをして説明を始めた。

 

「サーヴァントの契約というものは魔力がリンクしている状態です。ですから、サーヴァントの生前の記憶がその繋がりを通して逆流するということが時々あるんです」

 

「時々……というよりほとんどの場合あると思うぞ」

 

 後ろから声をかけられ、マシュと揃ってビクッとしてしまった。後ろを振り替えると、夢の中の赤毛の少年が成長させた男が立っていた。

 

「おはよう、二人とも。今朝は良く眠れたか?」

 

「わたしは良く眠れましたが、先輩のほうが……」

 

「あぁ、確かに……俺の記憶を見て、良く寝れるわけないよな。悪い、立香」

 

「偶然だし、謝らなくていいよ。それに、士郎のことを知れて少し嬉しいし」

 

「そう言ってもらえると、俺も気が楽だよ」

 

 歩きながら軽く話をしていると、すぐに会議室に着いてしまった。

 中に入る。するとロマンと当麻くん、アルトリアが挨拶をくれた。それを返して、用意された席に座る。

 

「おはよう、立香。良く眠れたかな」

 

「ちょっと、眠れなかったな」

 

「そうか。まぁ、馴れるまで待つしかないね。当麻もそうだったし……」

 

 当麻くんも、眠れなかったらしい。

 何故だろうか。聞いてみよう。

 

「なんで眠れなかったの」

 

「あぁ、ふかふかのベッドが馴れてなくてな……」

 

「普通、そっちのほうが良く眠れそうだけどね」

 

「というのは建前で何故かアルトリアも寝るからさ……落ち着いて眠れなかったんだよ」

 

「あぁ、それは……」

 

「結局ミコトの部屋で寝たではないですか」

 

 アルトリアも弁明する。それに笑みをこぼしてしまう。このまま無駄話を始めそうになって、二人とも慌てて気分を落ち着かせる。それを見たロマンが、微笑みながら言った。

 

「それじゃ、早速ブリーフィングを始めよう」

 

 ロマンは、真面目な表情で画面になにかを映しながら言った。

 

「まずは……そうだね。キミたちにやって貰いたいことを改めて説明しよう」

 

 徹夜で作った感丸出しの資料を動かしながら、ロマンが説明を始めた。

 

「一つ目、特異点の調査及び修正。その時代における決定的なターニングポイント。それがなければ我々はここまで至れなかった人類史における決定的な“事変”だね」

 

 改めて説明されてみると、言葉の意味が分かるようになってきた。意味というより、言葉の雰囲気が理解できるようになってきた。

 

「キミたちはその時代に飛び、それが何であるかを調査・解析して、これ修正をしなくてはならない」

 

 要約すると、本来辿る歴史からズレて歪んでしまった特異点を修正することで正しいカタチに戻さくてはいけない、ということだ。

 

「さもなければ2017年は訪れない。2016年のまま人類は破滅するだけだ。以上が第一の目的。これからの作戦の大原則ってワケ」

 

 ……今更だけど、難易度高すぎではありませんかね、これ。

 

「では、作戦の第二目的。それは『聖杯』の調査だ。『聖杯』とは願いを叶える魔導器の一種でね。膨大な魔力を有しているんだけど……」

 

 ……あの水晶体のことだろうか?

 

「恐らく、何らかの形でレフは聖杯を手に入れ、悪用したんじゃないかな」

 

 んー、情報が限られてるって不便だなー、っと改めて思う。けど、まぁ、そこは今から調べていくしかないんだろうな。

 

「というか、聖杯でもなければ時間旅行とか過去改変とか不可能だから。ホントに」

 

「そういうことはあまり言わない方がいいぞ。立香も当麻も引きかけてる」

 

 ロマンの弱気発言に士郎がツッコむ。

 あれ、顔に出てた。出してるつもりなかったんだけど……やっぱり、ロマンは大人としては反面教師にしなくちゃいけないのかな。

 それでもロマンの話は続いていく。それに、この状況を纏められているのは、人間性はともかくとして能力はあるということだし、そんな人たちが建てた作戦だ。信用して聞かなくては……

 

「まぁ、そういう人間だから僕は。話を戻すけど、だから特異点を調査する過程で必ず聖杯に関する情報も見つかるはずだ。歴史が正しいカタチに戻ったところで、その時代に聖杯が残っているのでは元の木阿弥だ」

 

 元の木阿弥。確か、上手く進んでいた物事が同じ状態に戻ってしまうということだったけ、例え過去改変をどうにかしても、元凶となった聖杯を回収しなければ、同じことの繰り返しになってしまう。

 

「以上、二点がこの作戦の主目的だ……ここまではいいかな」

 

「質問いいか?」

 

 士郎が手を上げて、確認をとる。なにかな、とロマンが許可をだすと士郎は疑問を口にし始めた。

 

「聖杯についてなんだが、聖杯はただの願望器としてとらえていいのか」

 

「あぁ、その点に関して言えば問題ないだろう。冬木の場合は特殊だ。特異点の一端は確認できたが、アレのような惨事にはなっていなかったよ」

 

「そうか。話の腰を折って悪い」

 

「二人はどうだい。なにか質問はあるか」

 

 私も当麻くんも特に理解できないところはないようで、スムーズに次の話に進んだ。

 

「うん、理解が良くて助かるよ……さて、任務の前にやって欲しいことがある」

 

「「やって欲しいこと?」」

 

 二人揃ってポカンとする。なんか自分たちのバカさ加減に恥ずかしくなるが、ロマンはうん、と前置きしてから説明を続ける。

 

「と言っても、そんなに大したことをしてもらうワケじゃない。レイシフトしてその時代に跳んだあとのことなんだけど、霊脈を探しだし、召喚サークルをつくって欲しいんだ。ほら、冬木でもやっただろう?」

 

 あぁ、所長が通信を回復させるために行こうといっていた場所か。あそこで士郎を召喚したんだったけ。

 

「冬木のときと違って施設はある程度復旧したから念話連絡程度ならこのままでもなんとかなるけど、補給物資などを転送するには、召喚サークルが確立していないといけないからさ」

 

「具体的にはどうすればいいんだよ?」

 

 今度は当麻が聞く。案外物怖じしない性格らしい。空気を読まないだけかもしれないが、私も言おうとしていたので、人のことを言えないが……

 

「冬木のときと同じさ。マシュの宝具をセットすればそれが触媒になって召喚サークルが起動できる。そうすれば君たちはいつでもサーヴァントを召喚できる。恐らく、召喚されるのはその時代や場所に近しいサーヴァントが主になるだろう。そうやって戦力を強化していくわけだ。分かったかな?」

 

「……理解しました。何はなくとも、まずはベースキャンプを目指す」

 

 マシュは、ロマンの言葉を要約していく。

 

「必要なのは安心できる場所、屋根のある建物、帰るべきホーム……ですよね、マスター?」

 

「うん、マシュはいいこと言うよね」

 

 ……と言ってはみたものの、本人に悪意はない。意味にだって単純に聞けば、可笑しいところはなにもない。なのに、何故こうもおかしく聞こえてしまうのだろうか。

 

「そ、そう言っていただけると、わたしもたいへん励みになります。サーヴァントとしていぜん未熟なわたしですが、どうか任せてください。頑張りますから!」

 

 いいよいいよ。頑張って。でも、死なないで。生きてくれるだけでいいよ。

 

「キュー!」

 

「うんうん、あの大人しくて、無口で、正直なにを考えているか分からなかったマシュが立派になって……」

 

 保護者目線。でも、ちょっとイラッとしそうだな。

 

「おい、そこのお調子者。いつまでわたしを待たせておく気だ」

 

「おっと、そうだった。気乗りしないからつい忘れてしまった」

 

 いや、さっきから存在感有りまくりでしたよ。ダ・ヴィンチさん。

 

「紹介するよ。立香、当麻。彼……いや、彼女……いや、ソレ……いや、ダレ……?」

 

 見た感じ彼女……だと思うけど……なにを迷っているのだろうか。

 

「ええい。ともかく、そこにいるのは我がカルデアが誇る技術部のトップ、レオナルド氏だ」

 

 悩みに強引に結論を下したロマンがダ・ヴィンチさんの説明をする。ロマンは本当に面倒くさそうな顔をして説明を続ける。

 

「見た目から分かる通り、普通の性格じゃない。当然、普通の人間じゃない。というか説明したくない。なぜなら────」

 

「……サーヴァント、先輩、大変です。この方サーヴァントです」

 

 いつの間にか制服に戻っていたマシュが驚いたように口にする。

 それを聞いたダ・ヴィンチさんは胸を張りながら自己紹介を始める。

 

「はいせいか~い♪カルデア技術局特別名誉顧問、レオナルドとは仮の名前。私こそ誉れの高い、万能の発明家、レオナルド・ダ・ヴィンチその人さ!」

 

 ……まぁ、なんかそんな気はしてたけどね。ダ・ヴィンチさんは自己紹介を続ける。

 

「はい、気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼ぶように。こんなキレイなお姉さん、そうそういないって?」

 

「ダ・ヴィンチ……ちゃん?」

 

「おかしいです。異常です。倒錯です!だって、レオナルド・ダ・ヴィンチは男性────」

 

 マシュの言うとおり、確かレオナルド・ダ・ヴィンチって男性じゃなかったけ。

 

「既成事実は疑ってかかるべきだぞー。というかそれってそんなに重要?」

 

 重要です。

 なにがともなく重要です。だって三人称での呼び方変わるじゃん。やっぱり見た目的に彼女、いや、史実通りなら男だし彼、え、え、こんがらがってきた。ロマンが呼び方分からないのも納得いくな~。

 

「実は男だったとか女だったとか、最初に言い出したのは誰なんだろうね。まったく。わたしは美を追究する。発明も芸術もそこは同じ。すべては理想を────美を体現するための私だった……そして私にとって理想の美とはモナ・リザだ。となれば───ほら、こうなるのは当然の帰結だろう」

 

「フォウ……」

 

 事情を知っているのか、ロマンと士郎は苦笑いを浮かべていたが、そうでない私たちは、その原理がさっぱりわからない。というような顔をした。

 

「いや、ボクも一応学者のはしくれだが、カレの持論はこれぽっちも理解できなくてね。モナ・リザが好きだから自分までモナ・リザにするとか、そんなねじ曲がった変態はかれくらいさ」

 

「んー、俺も一応理解はできるけど、やろうとは思わないな」

 

 ロマンは頭を掻きながら、面倒くさそうに言った。士郎も理解はできても共感は無理ということを口にする

 二人の意見を聞いたダ・ヴィンチさん……訂正。ダ・ヴィンチちゃんは聞き捨てならん、とばかりに微笑みながら反論する。

 

「フフフ。それはどうかなDr.ロマン。士郎くん。文明も円熟すればもうなんでもありだ。『美少女になりたい!』なんて願望はノーマルにあるかもよ」

 

「そうかもしれないけどな、ダ・ヴィンチさん。アンタ、いつの時代の英霊だよ」

 

「ノンノン、ダ・ヴィンチちゃんと呼んでおくれ、士郎くん。それに、天才に時代は関係ない。キミがそうだったようにね。キミ達も覚えておくといい、立香、当麻」

 

 士郎を見据えて、言及する。そして、私たちにもなにかを語りかけるように言う。

 

「この先、何人もの芸術家系サーヴァントと出会うだろう。その誰もが例外なく、素晴らしい偏執者だと……!」

 

「待て、俺をその素晴らしい偏執者のカテゴリーの中に入れるな」

 

 堂々と持論を展開するダ・ヴィンチちゃんに今度は士郎が聞き捨てならんとチョップを入れる。頭を押さえながらイテテ、と片目を閉じながら微笑むダ・ヴィンチちゃんを他所に今度はロマンが慌てふためく。

 

「マジか……!あぁでも、ホントにそんな気がしてきたなぁ!」

 

「なるほど、知りたくはなかった真実ですが、ご忠告感謝します。ダ・ヴィンチちゃん」

 

 マシュも難しい顔をしながらダ・ヴィンチちゃんに礼を述べる。

 

「よしよし、マシュは相変わらず物わかりがいい。じゃ、わたしの紹介はこれで終わり」

 

 ダ・ヴィンチちゃんはマシュを撫でながら自己紹介を終わらせる。急に撫でられたマシュはどうリアクションしていいか分からず恥ずかしがっている。

 

「これからは主に支援物資の提供、開発、英霊契約の更新等でキミ達のバックアップをする」

 

「え、一緒に戦ってくんないんですか」

 

 当麻が疑問を口にする。ダ・ヴィンチちゃんは苦笑いを浮かべながら事情を説明する。

 

「わたしは戦闘を得意とするサーヴァントではない。それうえ、君たちと直接契約しているマシュ、士郎、アルトリアと違いカルデアに召喚されたわたしは各時代にそうそう跳んではいけない」

 

 要するに、行けないということだろう。でも、待てよ。それなら……

 

「無論、キミ達のどちらかがわたしと正式に契約できたのなら話は別だかね。そのときは一介のサーヴァントとして力を貸そう。そうなることを楽しみにしているよ。マスター」

 

 そう言って、彼女は管制室を出ていってしまった。ロマンは、史実通り彼と呼んでいるようだがわたしは見た目的に彼女で呼ぶことにしよう。

 

「……本当に自己紹介して立ち去ったな、カレ。話の腰を折られたが本題に戻ろう。休む暇もなくて申し訳ないが、ボクらも余裕がない。早速レイシフトの準備をするが、いいかい?」

 

「うん、大丈夫……だと思う」

 

「確かに今ので大分精神的に疲れたけどな」

 

 頼りない返答だが、見栄を張るよりはいいだろう。ロマンは、その返答に微笑む。

 

「今回は立香、そして、当麻用に調整したコフィンがある。勿論、サーヴァント用のもだ。安全、かつ迅速にできるはずだ。特異点は7つ観測されたが、今回はその中でもっとも揺らぎの小さい時代を選んだ。向こうに着いたら、こちらは連絡しかできない。いいかい?繰り返すけど、まずはベースキャンプになる霊脈を探すこと。その時代に対応してやるべきことをやるんだぞ。では、検討を祈る───立香、当麻」

 

 揺らぎの少ないところを……つまりは、難易度の低いところを選んでくれる辺り優しさを感じる。

 コフィンに乗り込むと、レイシフトのアナウンスが始まる。

 

『アンサモンプログラム スタート。霊子変換 開始します。レイシフト開始まで3、2、1……』

 

 カウントダウンに唾を飲む。ジェットコースターの一番うえに来ているような気分だ。

 

『全工程 完了(クリア)。グランドオーダー 実証を 開始 します』

 

 視界が閃光に包まれる。次に重さを失う。そうしてわたしは、新たな世界へと旅立った。




立香「立香と~」
当麻「当麻の~」
二人「「カルデアこぼれ話」」パチパチパチ
当麻「今回は前回からあんま開いてないな」
立香「作者のモチベが比較的保たれてる証拠じゃん」
当麻「だな。よし、じゃあ今回のゲスト呼ぶか」
立香「そうだね。じゃあ、今回のゲストよ、召喚!!」






士郎「どうも衛宮士郎です」
当麻「いきなり主人公とか飛ばすよなー、作者も」
士郎「いや、むしろ当たり前じゃないか。まぁ俺なんがこの作品の主人公でいいのかは分からないけど……」
立香「そういうとこだよ。士郎が主人公に選ばれたのって」
士郎「そうなのか?まぁ、それならありがたいけど……」
当麻「士郎さんはもっと主役らしくドーンッと構えときゃいいんですよ。あとは、俺達が適当にお膳立てしますんで」
士郎「そうか、じゃあ頼む」
当麻「じゃあ、ぼちぼち始めてこうかね」

















立香「取り敢えず士郎のキャラクター紹介をしていこう」
当麻「初登場作品は『fate/staynight』。このときは17歳だったんですよね?」
士郎「あぁ。丁度今のお前達くらいのときだよ」
立香「で、この作品の俗に言うUBWルートの士郎の未来が今ここに居る士郎なんだよね」
士郎「その通りだ、凛は俺の自慢の奥さんだよ。まぁ、あのときは彼女だけどな」
当麻「これが世に言う愛妻家か。俺の父親もそうだからなんとも言えないけど……」
立香「うちの両親は普通だな。士郎は子供とか居るの」
士郎「息子が一人な。かわいいぞ、まずなにが可愛いかっていうとな……」
当麻「ストップ、話が脱線しかけてる」
士郎「そ、そうだな。悪い」
当麻(危うく親バカ自慢に巻き込まれるところだった)
立香(人が変わってたよ)
立香「話を戻すけど、士郎は正義の味方を目指してるんだよね」
士郎「あぁ、親父から継いだ夢さ」
当麻「でも、その結末の一つが冬木のアーチャーなんですよね?」
士郎「あぁ、でももう別物さ。同一存在であって同一人物じゃないんだよ」
立香「む、難しくてよくわからないな~」
士郎「まぁ、あいつのことは尊敬してるよ。人としてはお互いに相容れないけどな」
立香「他に苦手な人って居るの」
士郎「二人くらい……ギルガメッシュって奴と、言峰綺礼ってやつだな」
当麻「へぇ~、意外と居るんですね。士郎さんって誰とでも仲良くなれる感じしてた」
士郎「そうか。俺の交友関係って狭いぞ。料理関係の人と傭兵の部隊何個かと高校時代からの友人くらいさ」
当麻&立香「「マニアックすぎね」」
士郎「料理関係の人には色々教わったな。凛にはご飯が美味くなりすぎて怖いって言われたけど……」
当麻「確かにうまかったもんな。士郎さんの料理。一流ホテルのレストランって感じがしたもんな」
立香「でも、そういうのとちがって何度でも食べたくなる美味さだったよね」
当麻「分かる。あぁ言うたまに食べるからいいって感じじゃなくてな」
士郎「そういうこと言われると嬉しくなるよな」
当麻「まぁ、基本的にこれでこの作品での基本キャラ紹介はこんな感じでいいかな」
立香「うん、次回で名台詞紹介をやっていく感じだね」
三人『じゃあ、また次回に会いましょう。さようなら~』


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裁定者ジャンヌ・ダルク

もっと場面を深く掘り下げたい……!
次はカルデアベースよお話です。ご意見ください。どうなところが悪いか……ご指導お願いします。
あと、時系列についてですがとある勢は本編の一年後として進行しております。


 見渡す限り草原。

 旅行にでも来ているような気分だ。まぁ、実際旅行な気もしないでもない。時間旅行って感じだ。そんな呑気な気持ちではいちゃ悪いんだろうが、つい、そんな気分になっちまう。

 

「前回は事故による転移でしたが、今回はコフィンによる正常な転移です。身体状況も問題ありません」

 

「いや、無さすぎて、夢でも見てるような気分だよ」

 

「トウマ、少しは気を引き締めたほうがいいですよ」

 

「つってもなぁ、これ見て気を引き締めろって言われても無理だ。第一、そんなに気を引き締めてたら、いざってとき対応できないと思うんだよ」

 

「確かに……当麻の意見も一理ある。だが、切り替えも大事だぞ」

 

 士郎さんの言葉……なんか説得力あるな。でも、士郎さんも大分自然体な気がするぞ。

 

「フォーウ……ンキュ、キャーウ……」

 

「うわっ、」

 

 マシュの盾の裏からフォウが俺めがけて飛び出てきた。それを避けられず転んでしまう。

 

「……不幸だ」

 

「だから言ったではありませんか。最低限の警戒心は持ってください」

 

「お、おう、悪い。」

 

 フォウについてはレイシフトについてきたようだ。だが、やっぱり謎だな。フォウって……可愛いからいいけど。

 

「フォウさんに異常はないようです。私たちに固定されているのですから、私たちが帰還すれば自動的に帰還できます」

 

「フォウのためにも無事に帰らないとね」

 

 立香が言う。

 

「まぁ、なるようになるだろ。俺はまったくの役立たずだけど……」

 

「そんなことありません。私たちは運命共同体です」

 

 その直後、電子音が鳴る。どうやらマシュからだ。

 

「──時間軸の座標を確認しました。どうやらここは1431年のようです。現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです」

 

「戦争に休みとかあんの?」

 

 俺が疑問を口にする。

 

「はい。百年戦争とはその名の通り、百年間継続して戦争が行っていた訳ではありません。この時代の戦争は比較的のんびりしていて、捕虜として捕らえられた騎士がお金を払うと釈放されるというのも日常茶飯事だったそうです」

 

 ようは休戦期間ってことか。百年戦争と言えば馬鹿な俺でも分かる。ジャンヌ・ダルクとかが活躍した戦争だろ。何気なく空を……見上げ……る。

 

「どうしたの?当麻」

 

 俺の顔が驚愕に染まるのを見て、立香も空を見上げる。立香も驚きの表情を表す。俺たちの異変を感じ取ったマシュも見上げる。

 俺たちの視界に写ったもの。巨大な光の輪が空を走っていた。そのなかにはどこかに繋がっているような黒がある。テレビでしか見たことはないが、皆既日食に良く似ている。でも、それよりももっと巨大だ。疑問が次から次へと浮かんでくる。頭がパンクする直前ロマンの音声が聞こえた。

 

「よし、回線が繋がった!画質も粗いけど映像も通るようになったぞ!……って、どうしただい皆して空見上げて……」

 

「ドクター、映像を送ります。アレは、なんですか?」

 

 一足早く冷静さを取り戻したマシュが、俺や立香にも支給された腕時計型端末を操作して、映像をカルデアへと送った。

 

『これは───』

 

 管制室からザワザワ、という音が聞こえる。

 ロマンはいち早く状況の分析を開始した。

 

『光の輪……いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か……?なんにせよとんでもない大きさだ。下手をすると北米大陸と同サイズ……か』

 

 あんな馬鹿デカイ大陸とほぼ同程度って……いや、でも、これは馬鹿な俺でも分かる。これは……

 

『ともあれ、1431年にこんな現象が起きたという記録がない。間違いなく未来消失の理由の一端だろう。アレはこちらで解析するしかないな……』

 

「どっちにしろ、これもレフの仕業って考えるのが妥当だろうな」

 

 士郎さんが言う。

 

『そうだろうね。さっきも言ったが、アレはこちらで解析する。キミたちは現地の調査に専念してくれていい。まずは霊脈を探してくれ』

 

 そんなこと言ったって、アレがなんなのかは嫌でも気になる。

 

「ロマンの言う通りだな」

 

 士郎さんが言う。士郎さんの方向を見るが、真面目な表情をしている。

 

「周囲の探索、この時代の人達と接触して情報収集、召喚サークルの設置……やるべきことは山ほどある。一つずつこなしいくしかない」

 

「はい、そうっスね」

 

「うん、そうだね」

 

 俺と立香、マシュもアルトリアも士郎さんの言葉に同意したようだ。それを見た士郎さんはいつもの微笑みを浮かべた顔に戻った。

 

「まずは町を目指して歩こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、俺たちの端末が示す一番近い町へ向かい歩いていく。

 数度の休憩を挟み、3時間ほど歩いているとマシュが皆を呼び止めた。

 

「皆さん、止まってください。確認……どうやらフランスの排斥部隊のようです」

 

 マシュが視線が向いている先を見ると、十数人の甲冑に身を包んだ騎士がいた。

 今まで半信半疑だった時間旅行も確信を得た。あんなRPGに出てきそうな騎士を見たら納得せざるお得ないだろ。

 

「どうしましょう。接触(コンタクト)を試みますか?」

 

 珍しさに立香と揃って見入っていると、マシュが質問してきた。

 排斥部隊ってことは下手すりゃ戦闘になりかねないぞ。どうしたもんかね。

 

「下手をすれば戦闘になりかねないよな」

 

「そうだよね」

 

「その場合は、死なない程度に拘束して聞き出せばいいがな」

 

 立香と考え込んでいると、士郎さんが言ってくれた。

 

「まぁ、そうならないのが一番いいんだが……向かってくるなら正当防衛にできる」

 

「結構物騒なこと言うね。士郎」

 

 場が和んだのを見て、接触することを決めた。

 

「一応、基本話し合いな。戦闘はあくまでも最終手段ってことで頼む」

 

 俺の言った言葉に全員が同意の素振りを見せる。少数の方がいいと言う士郎さんの判断から、俺、マシュ、士郎さんでいくことになった。士郎さんが言うには『セイバーは手加減してもうっかり殺しかねない。犠牲は最小限、だろ』ってことで外されてしまった。そんな化け物なのか……アーサー王って……

 

「ヘイ、エクスキューズミー。こんにちは。わたしたちは旅のものなのですが───」

 

「……」

 

 第一印象は……最悪……かな。

 

「?」

 

「フォウ?」

 

「ヒッ……強襲!強襲ー!」

 

 そっか、マシュの格好……制服に戻させとくべきだった。しかも、マシュの言葉、フランス語じゃなくて英語だ。

 

『ヤッホー、手が空いたから観に……ってなんでまわりを武装集団に囲まれてるんだい!?』

 

「……すみません。わたしの失敗です。挨拶はフランス語にするべきでした」

 

「言えんのかよ。そもそも言葉伝わってんのか!?」

 

「勿論です。そしてこうなっては戦闘回避は困難だと進言します」

 

 どっちみちこうなるのかよ……不幸だ。

 

『いきなり荒事か!しかも、フランスの精鋭!』

 

「ロマン、うるさい」

 

『ま、まぁ取り敢えず落ち着こう!その世界は隔離された状態だ。なにが起きようとタイムパラドックスは発生しないから、彼等とここで戦闘になっても問題はないだろうけど……』

 

 案外俺の言葉に傷付いたようだが、なんで普通の高校生の俺のほうが落ち着いてるんだ。いや、そんなん一年前からそうだったよな。

 

「ドクター。何かアイデアを。こういう時のためのフランスジョークとか知らないんですか?」

 

 そういうもんだいじゃない気がする。

 

『知るもんか、ぼっちだからね!でもちょっと待って、考えさせて……!小粋な冗談を思いつけばいいんだろう?その帽子ドイツんだ、みたいな』

 

「そういう問題でもねぇよ!。それに、つまんねぇよ!」

 

 俺の罵声を聞いて、落ち込んでしまったロマン。

 帰ったら、そこはたとなく謝ろう……なんでロマンから、あの二人の馬鹿と同じ雰囲気がするんだ

 

「どこからともなく軽薄そうな声がする……!総員、構えろ!こいつら、怪しすぎるぞ!」

 

「すみません。当麻先輩。ドクターを期待したわたしが間違っていました。やはり現地人を傷つけるのはマズイと思います。抑えるために、攻撃しましょう!」

 

「言ってることが、ロマンと同レベルだ……」

 

「な、なにかおかしかったですか!?」

 

 無力化するのに、自分達から攻撃するやつがどこに居るんだよ……!!、と心のなかで思ってみる。

 

「無力化するんなら俺たちから攻撃しちゃダメだろ。マシュ」

 

 士郎さんの言葉で、マシュは鳩に豆鉄砲食らったような顔をした。言う前に気づけよな。

 

『ええい、仕方ない。こうなったら峰打ちだ!極力流血はナシの方向で!峰打ちで行こう!』

 

「盾で……?」

 

「な、なんとかします!ファイヤー!」

 

『いや、燃やすのも論外だよ!?』

 

 仕方ない……といわんばかりに、士郎さんは俺たちの一歩先にでて構える。

 

「士郎さん、なにやってるんですか」

 

「流血させずに無力化……なら、これが一番だ。でも、さすがに拳だけは無理だからマシュ、サポート頼んだ」

 

「は、はい」

 

 士郎さんは拳を握る。

 そして、向かってくる騎士団の攻撃を出来る限り回避かいなしつつ、急所を外しながら……且つ、しばらく戦えなくが程度に反撃をしてきた。無論、攻撃する回数も最小限に留めながら……

 

「撤退……!撤退だ……!」

 

「……ふぅ、肉体的にはともかく、精神的な疲労が大です」

 

「一番疲れたのは当麻だろうな」

 

 尻餅をつく俺を見て、士郎さんが言う。全くだよ。マシュもロマンも言うことが斬新すぎて……疲れた。茂みに隠れていた立香とアルトリアが出てきた俺が立つのを手伝ってくれた。

 

「見ててハラハラしたよ」

 

「えぇ、あまりに、突拍子過ぎて……」

 

「すみません」

 

「気にしてねぇよ。それよりも、お疲れ」

 

 そう言うとマシュは笑顔になった。不覚にもドキッとなってしまった。

 

「はい、盾の峰打ちは難しいですね。学習しました」

 

『どうやら砦に逃げ帰るようだね。そっと追いかけて状況を問い詰めよう。くれぐれも次は刺激しないようにね。ちゃんとフランス語で話しかけるんだぞ?』

 

 いや、あの怯えようは……なんか、もっと別の理由があるように見える。

 まぁ、話し合いをするためには親しみをを持たせなきゃいけない意味じゃ使った方がいいかな。

 さっきの排斥部隊を一定の距離を保ちながら着けて行く。

 

「了解、ボンジュール」

 

 気の抜けた返事を返す。

 

「ダンケシューン、ヘル……なるほど完璧、のような。お任せします」

 

「おい、発言が矛盾してるぞ。第一、それに関しちゃ、俺より適任が居るだろ」

 

 士郎さんを見ながら言う。すると、士郎さんは珍しく動揺しながら……

 

「おい、待て。そこでなんで俺を頼る」

 

「なんか、交渉とか得意そうだから……」

 

 アルトリア以外の全員が『うんうん』という同意のサインを取る。

 

「はぁ……分かったよ。やってみるよ」

 

 俺と立香はよし、ガッツポーズを取る。そのまま30分くらい歩いて砦に着いた。

 中に入ると、俺達は、また新たな驚愕を知った。

 

「これは……酷い、ですね……」

 

 そこで、その映像を見ていたロマンが俺の端末に連絡を繋いできた。

 

『中がボロボロじゃないか……外壁もそこそこ。無事だけど、砦とは呼べないぞ。これ』

 

「良く見たら、怪我してる人ばかりだね」

 

「おかしいぞ、休戦中なんじゃないのか」

 

 俺と立香が周りを見渡しながら言うと、マシュは考える仕草をとりながら答える。

 

「そのはずですが……1431、フランス側のシャルル七世がイギリス側についたフィリップ三世と休戦条約を結んだはずです。勿論、小競り合いはあったかもしれませんが───」

 

「こんな規模はあり得ないと……」

 

「はい。士郎先輩」

 

 そういえばイギリスといえば、時代は違えどアルトリアの国だよな。なんの反応もないけど……

 

「なぁ、アルトリア。イギリスって……」

 

「トウマ、イギリスとはいえわたしが統治していた国キャメロットはこの時代には滅んでいます。確かに気にはなりますが、今はこちらのほうが優先でしょう」

 

 すげぇな、さすが騎士王。言葉に貫禄がある。確固たる信念が垣間見える。英雄って皆こんなもんなのかな……でも、士郎さんは親しみやすいし、人それぞれなのだろうか。でも、俺はアルトリアをその言葉ひとつで尊敬できる。今ここで一緒に戦えることも光栄に思える。アルトリアとはそのまま話し込んでいた。面白い話には素直に笑ってくれるし、少し天然なところもあるから、すぐに仲良くなれそうでよかった。

 そしてしばらく歩いていると、さっきの斥候部隊の隊員の一人が居た。

 

「ひぃ……!?ま、また来たぞ!!」

 

 その怯えように焦ると、士郎さんはそんな動揺を全く見せずに親しみを込めた微笑みを浮かべた。良く見ると、アルトリアも動揺を浮かべていない。積んできた場数の違いだろうか。否が応でも彼等が英雄と呼ばれる者であることを認識できた。

 そして、士郎さんは近づき口を開く。

 

「ボンジュール、俺達は旅の者だ。風の噂でこの国が芳しくないと知ったので状況だけでも知りたいと思った。情報さえ貰えれば此方からは危害を加えないと誓って約束しよう。応じてくれるか、ムッシュ」

 

 その言葉で騎士も警戒心を和らぐ。しかし、まだ完全には解いてくれはせずに、確認をとった

 

「敵では……ないのか……?」

 

『む。案外簡単に信用するね。理性を取り戻したのかな。それとも────戦う気力がないほど、萎えきっているとか……?』

 

「この国はシャルル七世が休戦条約を結んだと聞いたが……?」

 

「シャルル王?本当になにも知らんようだな、アンタら。分かった。話すよ」

 

 俺達は無でを撫で下ろすように息を吐く。

 

「シャルル王なら死んだよ。魔女の炎に焼かれた」

 

 シャルル七世が……死んだ。だから、こんな規模の戦争が起きているのか。

 

「魔女の炎……というのは?」

 

 士郎は真剣な表情になりながら、質問する。騎士は以前、疲れきった表情で返答した。

 

ジャンヌ・ダルク(・・・・・・・・)だ。あの方は“竜の魔女”になって蘇ったんだ。イングランドはとうに撤退した。だが、俺たちはどこへ逃げればいい?ここが故郷なのに、畜生、どうすることもできないんだ」

 

 それは、騎士の悔しさと祖国に対する忠誠心、すべてが込められた言葉だった。俺たちと話している騎士だけではない。その近くに居る騎士達も表情を歪めた。涙を流すものさえ居た。

 それを見た俺は、拳を強く握り閉める。士郎さんも、その動作をとったが、顔には出さずに質問を続ける。きっと、気持ちを徹底して押さえつけているんだ。その鋼のような理性に俺も立香も息を呑んだ。

 

「ジャンヌ・ダルクが、魔女……?」

 

「ジャンヌ・ダルクって……確か……」

 

 士郎が質問している後ろで立香が小声で疑問を口にする。それに対して同じく小声でマシュが答える。

 

「救国の聖女ジャンヌ・ダルク。世界的に有名な英雄で、百年戦争後期、征服されかかったフランスを救うために立ち上がった女性です。十七才でフランスを救うために立ち上がり、わずか一年でオルレアン奪還を果たしたのですが……」

 

「……ですが」

 

 言葉の相槌を打ちながら話を続きを促す。

 

「イングランド軍に捕縛され、異端尋問の末、火刑に処せられました……彼女が投獄されてから火刑に至るまでの日々は、あまりにも惨い拷問と屈辱の日々だったようです。イングランド側は彼女を聖人としてではなく異端者として発表したかった。そのためにあらゆる責め苦で“私は主の声を聞いてはいない”と言わせたかった───ですが、彼女は最後まで心を折らなかった。火にくべられた時でさえ祈りを放さなかった。その後、名誉回復が行われ、四百年後には正式な聖人として認定されました。無力な少女の想いが世界を変えた────その例で言うのなら、ジャンヌ・ダルクは最高級の英雄です」

 

 恐らくだが、ここでの聖人はあくまで俺の知っている方の魔術的意味合いではなく、宗教的な意味での聖人のはずだろうという意味だと思う。

『出る杭は打たれる』とは良くできたことわざだろう。だが、それに屈しなかったジャンヌ・ダルクは聖人と呼んでもなんの違和感もない……その行いを知れば誰もが聖人と呼ぶだろうと俺は思った。

 

「マシュ、ヒートアップしてこの人たちにも声聞こえてるぞ」

 

 我に帰ったマシュは、恥ずかしそうに頬を赤らめた。対して、騎士達は何をいっているのかさっぱり分からないと言う顔をしていた。

 

「とはいえ、俺もそういう風に聞いている。憎しみにと囚われ、魔女になるような人ではないと思うが……」

 

「それは……」

 

 騎士達もその疑問を拭いきれていなかったのか、痛いところを疲れたような顔をしている。その直後、なんらかの咆哮が鳴り響いた。

 

「何だッ」

 

 士郎さんが振り返る。そして、俺たちの端末にロマンからの通信が入った。

 

『注意してくれ!魔力反応がある!』

 

 敵襲ってことか。

 

「敵はなんだよ」

 

『少量の魔力による人体を用いた使い魔……骸骨兵だな。今度はさっきと違う。思う存分暴れていいぞ、皆』

 

 ロマンがそう言う。しかし、騎士達は砦の外に出ていく。

 

「旅の人、アンタらは逃げな」

 

「いや、俺たちも多少の心得がある。少しではあるが力を貸そう」

 

 騎士は一瞬、躊躇った。だが、次に真剣な表情で話してくれた。

 

「……信用するよ。アンタは俺たちの部隊を倒したからな、全力も出さずに……どうか、今は一緒に戦ってくれ」

 

 俺たちは、頷く。 アルトリアになんらかの力が集まる。そして、次の瞬間、その力は鎧の形に変化した。それを見た俺は、自然とこの言葉を口にした。

 

「騎士王様のお手並み拝見と行くぞ」

 

「分かりました。全霊を尽くします」

 

 士郎さんは、双剣を持ち次々に敵を蹴散らしていく。一秒に十体ぐらいのペースで……アルトリアなんか、一振りで何十体は吹き飛んだ。斬られた骸は力を失ったようにその場に倒れた。そうして、一分も経たずして骸の軍団は全滅した。しかも、二人とも消耗らしい消耗を見せていない。これでも全力じゃないってことか……

 

「……ふぅ、お疲れ様でした」

 

「生で見ると本当に化け物だな」

 

「私はもうなれちゃったけどね」

 

 俺は苦笑いを、立香は微笑みを浮かべながら、お互いの感想を述べる。

 

「なっ!?」

 

 瞬間、骸の一体が力なくノロノロと立ち上がり、立香に斬りかかっていた。士郎もアルトリアもマシュも突然のことで対応できず、間に合わない。俺は咄嗟に立香を押し倒す。そして、マシュが盾で骸の持っていた剣を受け止める

 

「てめぇ、なにしやがるッ!!」

 

 すぐさま起き上がり、この台詞を吐き右手で殴りつけていた。

 剣を受けられた直後の骸は避けられずに俺の拳を受けた。すると、俺は右手がなにかを打ち消した感覚が走った。そして、骸は灰へと帰り、消滅した。

 

「悪い、遅れた。それより、当麻。今のは……?」

 

「いや、俺にも……なにが何だか」

 

 今の感覚、あれは幻想殺し(イマジンブレイカー)が異能を打ち消した時の感覚だ。俺の右手はカルデア側の魔術には通用しないんじゃなかったのか。

 俺が考え込んでいる間に、さっきの騎士さんが近付いてきた。

 

「アンタ達、あいつら相手に良くやるなぁ」

 

「まぁ、それなりに場数は踏んだからな。それより、この状況、改めて一から説明を頼めるか?」

 

 士郎さんはもう一度説明を求める。確かに、あれだけでは情報が少なすぎる。もうちょっとだけでもあった方がいい。

 

「あ、あぁ。まぁいいけど……」

 

「じゃあ、さっきの話を繰り返すけどジャンヌ・ダルクが蘇ったというのは本当だろうか?」

 

「あぁ、俺はオルレアン包囲戦と式典に参加したから良く覚えてる。髪や肌の色は異なるが、あれは紛れもなくかつての聖女様だ」

 

 髪や肌の色が異なるってところがどうも引っ掛かるが、ジャンヌ・ダルクで間違いないってところは確かなみたいだな。

 

「イングランドに捕らえられ、火刑に処されたと聞いて俺たちは憤りに震えたものさ。だが、彼女は蘇った。しかも、悪魔と取引して!」

 

「悪魔、とは?……さっきの骸骨兵のようなものか?」

 

「あれじゃない。あれだけなら俺たちでも対処できる」

 

 士郎やアルトリア、マシュはなにかに気付いたように振り返る。それを見た騎士も急に焦り出した。

 

「くそ、やっぱりだ!来たぞ、迎え討て!ほらほら立て立て!ドラゴンが来た!抵抗しなきゃ食われちまうぞ!」

 

 それを聞いて、俺たちは立つ。でも、ドラゴンって……いや、まだ分からない、心の奥に閉まって置いた方がいいな。

 

『君たちの周囲に大型の生体反応!しかも、速い……!!』

 

「黙視しました!あれは、まさか─────」

 

 視た、確かに視た。緑色の鱗、獰猛且つ凶悪な野獣の眼、腕と合体したような羽、強靭な足、あれは、あの姿はドラゴンというより……

 

「「ワイバーン!?」」

 

 マシュは、俺たちの心の叫びに一瞬驚いたようだがすぐに説明してくれた。

 

「はい。あれは、ワイバーンと呼ばれる竜の亜種態です。間違っても、絶対に、十五世紀のフランスに存在していい生物ではありません!」

 

『来るぞ!』

 

「二人とも指示頼む。あれは、さっきの雑魚とは桁が違うぞ」

 

 士郎さんはいつの間にか刀を取り出し、火炎を纏わせていた。

 

「兵たちよ。水を被りなさい!彼等の炎を一瞬ですが防げます」

 

 どこからか兵たちを叱咤する声がする。声のした方角を向くと、金色の髪、青色の眼、そして、剣と旗を携えている自分と同年代であろう少女がいた。

 

「えっ……!?」

 

 騎士が驚愕の混ざっている青ざめた顔をしている……どういうことだ。

 

「そこの御方!どうか、武器をとって戦ってください。私とともに続いてください!」

 

「あの方は……?」

 

『おおう、サーヴァントだ!しかし反応が弱いな。彼女はいったい……』

 

 その言葉で士気を上げた騎士達が水を被り、ワイバーンへと突進していく。その隙に士郎さんが、炎の斬撃を飛ばして次々にワイバーンの首を切り落としていく。一匹、また一匹と、ワイバーンが倒れていく。アルトリアも負けじと次々にワイバーンを撃ち取っていく。そして、風を一つに収束させ、解き放ち、数匹のワイバーンが一気に倒れる。そして、アルトリアの黄金の剣が姿を表すと、アルトリアの討ち取る速さはどんどん上がっていく

 そして、最後の一体をマシュが撃ち取りワイバーンの部隊も全滅した。

 マシュの息が荒い。相当消耗してるみたいだ。俺と立香で肩を貸す。

 

「……今ので……最後のようですね」

 

「そうみたいだな」

 

 士郎さんが近寄りながら、答える。これで、骸も、ワイバーンも、全部倒した。まだなにかあるってこと……はないよな……?

 

『ようし、良く頑張ったぞ諸君!いやぁ、手に汗とゴマ饅頭を握って見走っちゃったな!』

 

「ドクター、それはわたしが用意したゴマ饅頭ですね」

 

『え?あれ?そうなの?管制室にお茶と一緒にあったから、てっきり……』

 

 ツッコミところはそこであってるのか……?と、疑問に思う私上条当麻なのでありました。

 

「……このオーダーから帰還できたときのことを想定し、ささやかな労いとして用意していたのです。勿論、ドクター用ではなく、現地で活躍したであろう先輩と当麻先輩の二人のために」

 

「マシュ……なんて気の利く子に育って……もしゃもしゃ」

 

「「感心してるなら食うな!マシュが用意してくれた俺(私)たちの饅頭」」

 

 思わずツッコンでしまった。しかし、マシュが用意してくれたものだ。帰ったらマシュや御坂、アルトリアに士郎さんも誘ってお茶会しよう。絶対に……。

 ここに新たな帰る理由が生まれ、勝手に士気が上がっている二人を他所にロマンは言う

 

『うん。それにしても美味しいね、この饅頭。これなら二人とも大喜びで食べてくれるだろう!』

 

「……マスター。カルデアに帰る時、一回分の戦闘ソリースを残しておいてください。もう一人、峰打ちを見舞わせたいエネミーを登録しました」

 

「うん。いいよ。可愛い後輩を怒らせた罰はしっかりさせてもらうよ」

 

 ロマンは立香の言葉を聞き、一度無言で通信を切った。そんな下らない話で盛り上がっていると、一人の兵士が言った。

 

「そんな、貴方は─────いや、お前は!逃げろ!魔女が出たぞ!」

 

 兵士たちは一目散に砦へと逃げてしまった。

 

「え、魔女?」

 

「……」

 

 マシュは少女を見て言う。ってことはやっぱり……俺は納得する。ただ去っていく兵士たちを、少女……いや、ジャンヌは寂しげに見つめていた。俺は、マシュを立香に任せてジャンヌに近付いた。

 

「あの。ありがとうございます」

 

「いや、アンタがこの戦いはもっと長くなって犠牲も出たと思う。俺たちのほうこそアンタに礼を言うべきなんだと思う。でも、それより、今は確信が欲しい。アンタの名前を教えてもらえるか」

 

 その言葉にジャンヌは驚きを浮かべ、次に微笑みを浮かべた。そして、自分の名を語った。

 

ルーラー(・・・・)。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名をジャンヌ・ダルクと申します」




当麻「当麻と」
立香「立香の」
二人「カルデアこぼれ話」パチパチ
立香「このコーナーはこの小説に登場する様々登場人物をゲストとしてお迎えし、原作とこの作品のなかでの名言を振り返っていこうというコーナーです」
当麻「ゲストは引き続き衛宮士郎さんです」
士郎「どうも、衛宮士郎です」
当麻「今日は作者が名言4選part1ですね」
立香「いい場面とかいっぱいあるもんね」
士郎「そ、そうかな」
当麻「それでは、ボチボチ行きましょう」
















いくぞ英雄王────武器の貯蔵は十分か


士郎「……」
当麻「やっぱり士郎さんと云えばこのシーンからでしょ」
士郎「俺って……こんな恥ずかしいこと言ってたのか」
立香「なに言ってるの?違和感全くないよ。カッコいいよ」
士郎「やめてくれ、フォローはいらない」
当麻(いや、普通にカッコいいけどな)
立香(やめよう。フォローとしか捉えない)
当麻「これって確か、士郎さんが最終決戦で固有結界を展開したときでしたっけ」
士郎「あ、あぁ。英雄王との戦いでな」

これらは全て偽物、おまえの言う取るに足らない存在だ。だがな、偽物が本物にかなわないなんて道理はない!

当麻「これは、さっきの直前の言葉ですね」
士郎「あぁ、これらは確かに贋作だ。でも、本物に限りなく力なら技術でどうにかなる。俺のはその担い手の技術ごと複製するからな。本物を所有するだけの英雄王にとって俺は致命的に相性が悪いんだ」
??? 「自分だけの力で勝ったのではないぞ。我の慢心があったことを忘れるな」
立香「わざわざ○ンバ・○ルのノリで割り込まないでよ!!」

何だよ、悪いか。言っとくけど、遠坂はやらないからな

立香「ごちそうさまでした」
士郎「なんでさ!?」
当麻「青春してるな~、士郎さん。はぁ、出会いが欲しい」
士郎「まぁ、俺は出会いに恵まれたよ」
当麻「羨ましい」
立香「男子高校生の心の叫びだね」
士郎「でも、当麻も出会う機会多そうだけどな」
当麻「それがね。不思議なほどないですよ……不幸だ」
立香「でも、美琴ちゃんとかどうなの。あの子、結構可愛いけど」
当麻「さすがに中学ですし、御坂は俺のこと嫌ってるだろ」
??? 「あははははは、はははは、はぁ」

なんでさ

士郎「なんでさ」
当麻「お、生の『なんでさ』だ」
立香「でも、最後はこれで閉めないと」
士郎「さっきまで結構いい台詞ばっかだったのに……これはこれで」
当麻「士郎さん、諦めてください」
士郎「なんでさ!?」
立香「本日二回目!」
士郎「遊んでるだろお前ら」
当麻「まぁ、頑張って下さい」


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誓いと盟約

すみません。嘘つきました。
カルデアベースの話、次回まで持ち越しでいいですか。あと、こぼれ話も所要(単に面倒くさいだけ)でお休みです。というより、もうちょい長く出来るように色々訓練中なんです。あと今回も上条視点です。お許しください。そして、こんな僕をあわれんでくれるなら評価、感想、お気に入り登録。じゃんじゃん送ってください。あぁ、次回は、次回こそは絶対にこぼれ話もカルデアでの場面も出します。誓って言います。こぼれ話もカルデアでの場面も出します!!!!


 当麻のその問いに少女は悠然と答えた。

 

ルーラー(・・・・)。私のサーヴァントクラスはルーラーです。真名をジャンヌ・ダルクと申します」

 

 その返答に対する反応は二つに別れた。まずは前者、立香とマシュの反応。

 

「ジャンヌ……ダルク!?」

 

「えっと……死んだはずじゃ……」

 

 状況に困惑する二人とは対照的に、大体の予測を立てた俺とセイバーは、あまり動揺を見せなかった。当麻も『確信が欲しい』と言っていたため、俺たちと同じ予測をようだ。それでも、先の情報との食い違いに対する疑問が全くないわけではない。

 さっきから思ってはいたが、この当麻の落ち着きよう、いや、あの判断力はなんだろうか……『普通の高校生』というにはあまりにも慣れがありすぎる気がする。俺が言えたことではないが、あれからどんな経験をすればあそこまで達観できるのだろうか───────

 いや、今からこんなこと考えても仕方ない。

 話を戻すが、ジャンヌは立香達の言葉を聞いて当麻に話した。

 

「その話は後で……彼等の前で、話すことではありませんから。こちらに来て下さい。お願いします」

 

 簡単に言えば、話しても信じてもらえないだろうし場所を変えて話そうということだ。

 

「皆、どうする」

 

 当麻が俺達に呼び掛ける。

 

「ついていく価値はあるんじゃないかな」

 

「万が一、罠であったとしてもそのときはそのときだよ」

 

 立香、それに同意する形で俺も同意を示す。そして俺達の発言の直後に、ロマンが通信を繋いできた。ただ、マシュと立香の言葉に恐怖を覚えたのか当麻の端末にのみ繋いできた。あぁ、補足だが、俺とセイバーには渡されていない。俺達はマスターから離れることもないからという理由からだそうだ。

 

『ボクも賛成だ。弱まっているようだけど彼女だってサーヴァントだ。きっとこの時代に精通している。詳しい話を聞いてみよう』

 

「キュウ、キュウ」

 

 一人で立てる程度に体力を回復させたマシュの腕のなかでフォウが暴れる。いや、同意しているのだろうか。その様子を見て、セイバーやマシュもジャンヌの提案を承諾してくれた。

 そして、そのまま俺たちは情報をくれた騎士に感謝の意を砦の外から呼び掛けてから、その砦を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 砦から離れて既に一時間が経過した。

 俺達は、森の中で落ち着ける場所を探している。しかし、問題がひとつある。いや、問題と呼べるものではない。気まずいのだ。俺や立香、士郎さんが無理矢理にでも振っているが、一番乗って貰いたいジャンヌがちゃんとした反応を返して貰えない。マシュも多少なりか警戒しているのか話し掛けても上の空な返事しか返ってこない。

 さて、そろそろも日も暮れるから早めに落ち着ける場所を見つけて食料を確保しときたいな……と、立香や士郎さんと話していると、士郎さんとアルトリアが立ち止まった。その直後、ジャンヌが口を開いた。

 

「……わずかですが魔性の者たちが居るようです」

 

 魔性の者っていうと、さっきの骸骨軍団か。

 

「ここから東に600m、数はおよそ骸骨兵が40体、ワイバーンが15体ってところか」

 

 続いて、士郎さんが敵の規模を告げた。40体と15体……さっき砦を襲撃したのが合計20~30体程だったから多いな。

 

「ここから砦までは近い。攻め入る前に、倒してしまいましょう」

 

「確かに……この距離なら明日の日が昇る頃にはあの砦にたどり着いてしまうでしょう」

 

 ジャンヌの提案に、アルトリアが同調する。

 まぁ、あんなに親切にしてもらったし多少なりとも恩返しはしときたいと思った俺達もそれを承諾して、そのまま来た道を骸たちが通るであろうところを逆算して、5分程でその地点まで引き返して木々が密集しているところに隠れながら俺と立香、士郎さんを交えて作戦を考えた。

 まず、士郎さんとアルトリアが先陣を切って骸を数匹倒したままワイバーンの相手をしてもらう。ここまで木々が密集した森ではワイバーンは先程よりも倒しやすいという士郎さんのアドバイスを受け、ならばと戦力の大半をワイバーン戦に向けてしまうことになってしまうが、マシュとジャンヌなら、ジャンヌが弱っているというハンデを差し引いても充分やってくれるという判断を俺と立香で下した。

 

「うん、二人とも上出来な作戦だ。これならざっとシミュレートしてみても96%で成功する筈だ」

 

 そうお墨付きをもらった俺達は音が小さいようにハイタッチしてガッツポーズを取る。

 

「ただ、今後の確認も兼ねて……当麻。マシュと一緒に戦闘に参加して貰いたい」

 

「……ヘ?」

 

 思わず腑抜けた返事を返す。

 士郎さんは少々笑いながら、説明を始める。

 

「士郎、どういうこと?」

 

「当麻、お前の右手の幻想殺し(イマジンブレイカー)が変質している可能性がある。それはお前自身が良く理解しているだろうがな」

 

 痛いところを疲れた。

 確かにそれは俺の気になるところではある。ロマンがいうには『学問』であるこちらの魔術には全くといっていいほど効果がないといっていた。俺もそれで納得していた。マシュとの間接的な繋がりであったとはいえ、今は直接パスを繋いで契約している。だから、俺の幻想殺し(イマジンブレイカー)は『学問』の魔術には全く通用しないと思っていた。だが、骸骨を殴った時にその骸骨はそのまま灰になって消滅した。

 

「まぁ、お前の気が進まないならすべて倒し終わった後に骸骨やワイバーンに触ってもらうって手もあるが……」

 

 俺の身の安全を考えればそれが最善策なのだろう。

 だが……マシュ達に戦わせて自分は安全地帯から見ているのことに歯痒さを感じたことも確かだ。役立たずで終わるのかもしれないが、なにもしないよりマシだ。

 

「分かりました。マシュが居てくれるなら……やってみます」

 

「ありがとな、当麻」

 

「いや、後ろから見てるだけってのも性に合わないんで…」

 

 そのまま立香はマシュに、士郎はジャンヌに、俺はアルトリアに作戦を伝えた。

 そのさらに7分後、骸骨兵とワイバーンが俺達の10mのところまで近付いた時点で手筈通りに士郎さんとアルトリアが敵に向かって突進していく。そして、骸骨兵を一気にそれぞれ10体ずつ倒して、ワイバーンに向かって突き進んでいく。ジャンヌは旗を縛り付け、それを棒のように扱い骸骨兵を倒していく。マシュも盾で敵の攻撃を防ぎながら、的確に急所を突いていく。そして、俺はマシュが盾で攻撃を防いだ直後に右手で殴りつける。拳が命中した相手は、さっきと同じように灰になって消滅した。俺が最後の一匹を殴りつけると、同じく士郎さんが最後のワイバーンを斬り伏せ、すべての敵を倒した。疲労からかまた尻餅をつきそうな俺を今度はマシュが肩を貸してくれた。

 

「全敵殲滅です。お疲れ様でした」

 

 それから俺が右手で骸骨を触り、すべてを灰に還した。

 そして、ワイバーンにも触れてみたがそれに対しては効果がなかった。

 それから更に歩きながら、士郎さんが猪を数匹程狩って手早く丁寧に血抜きまでして捌く。そして、日が暮れた直後ちょっと木が少なく周りの木々の密度の高いところを見つけた。

 

「そうですね……此処ならば落ち着けそうです」

 

 ジャンヌが提案すると士郎さんが木の枝を投影して、火を放った。そして、今度は三人用、二人用、一人用を一つずつレジャーベンチと調理器具を投影して俺達を座らせ、猪の調理を開始した。

 ジャンヌはレジャーベンチを見て、不思議そうに眺めていたが、暫くすると他にも空きがあるのに何故か俺の隣に座った。あぁ、余裕が欲しいし俺が座ったら後で士郎さんが座るだろうから二人席に座ったが素直に一人席にするんだった。因みにアルトリアは立香に手を引っ張られ強引に三人席に座らせてしまった。アルトリアも最初こそ戸惑っていたが、今はもう三人で女子会……?のようなものを開催している。そこから五分後、ジャンヌが咳払いし、その場は一旦静寂に包まれた。

 

「まず、貴方たちのお名前をお聞かせください」

 

「了解しました。私の個体名はマシュ・キリエライト」

 

「私は藤丸立香。マシュのマスターです」

 

「アルトリア・ペンドラゴンと申します。クラスはセイバーです」

 

「俺は上条当麻。アルトリアのマスターをやってる」

 

 一人一人が手早く自己紹介をやってると、ジャンヌは聞いてない士郎さんの方を見た。

 

「ん、あぁ。悪いな。俺は衛宮士郎、マシュと同じく立香のサーヴァントだ。クラスはセイバー」

 

 そして、今度はこれまた不思議そうに俺と立香を交互に二度見てから言った。

 

「マスター……?この聖杯戦争にもマスターが居るのですね」

 

「いえ、聖杯戦争とは無関係なのです。そして、アルトリアさんや士郎先輩は正規のサーヴァントですが、わたしはデミ・サーヴァントに過ぎません」

 

「デミ・サーヴァント……?」

 

「正規の英霊ではないのです。ご存じありませんか?」

 

 ジャンヌの疑問にマシュが素早く回答する。

 

「……そうですね。まずはここからハッキリさせておくべきでしょう」

 

 ジャンヌは何故か自虐的に前置きして自らの現状を説明し始めた。

 

「私は確かにサーヴァントです。クラスはルーラー、そのことは理解できています。しかし……本来与えられるべき聖杯戦争に関する知識が、大部分存在していません」

 

 要は、最低限のルール説明すらされずにゲームスタートしちまった……みたいな感覚か?

 

「要は、最低限のルール説明すらされずにゲームスタートしちまった……みたいな感覚か?」

 

 声に出てた。

 

「その例えは……まぁ、合ってるけど、当麻。ジャンヌは理解できていないようだぞ」

 

 士郎さんから正論を叩きつけられた。隣を向いているとゲームとはなんですか……?みたいなキョトンとした顔をしていた。何故かアルトリアも……

 

「あ、あ~、えっと、その、なんでもない。今の例えは忘れてくれ。悪いな、話の腰を折って……続けてくれ」

 

 苦し紛れの言い訳と謝罪を並べると、ジャンヌは一瞬微笑み話を戻した。

 

「説明を続けますが、知恵だけではなく、ステータス面でもランクダウンしています。対サーヴァント用の令呪は無論、真名看破すらもできません。幸い、ここは私の生まれ育った故郷。唯一言語だけは通じるようですが……」

 

 自分を卑下し続け、少し照れながら説明していく。

 聖女様もやっぱり一人の人間なんだな~、間抜けた思考で思ってみる。

 でも、やはり名のある人物であることも砦での戦闘で認識している。

 

「いや、あの判断力と兵士さんたちの士気を高めるのは、凄いよ。さすがはジャンヌ・ダルクだよな」

 

「えっと、私のことを知っているのですか」

 

「そりゃ、俺達の世界じゃ教科書に乗るぐらいの有名人だし……」

 

 因みに、一年前の俺ならジャンヌ・ダルクなんて名前でしか知らなかっただろうが、美琴が勉強を教えてくれたため、普通に高校では中の下ぐらいの成績をとれるようになった。なので、ジャンヌ・ダルクが何をしたかぐらいは分かるのだ

 

「私が教科書に載るぐらい……なんだか照れますね」

 

 ジャンヌが照れ笑いを浮かべていると、士郎さんがマシュとアイコンタクトを取る。すると、士郎さんはジャンヌがに対して質問をして来た。

 

「話を戻すが、砦で俺達は君が“竜の魔女”になったと聞いた」

 

「……私も数時間前に限界したばかりで、詳細は定かではないのですが」

 

 そう前置きしたうえで、ジャンヌは事実を口にした。

 

「どうやら、こちらの世界にはもう一人、ジャンヌ・ダルクがいるようです。あのフランス王シャルル七世を殺し、オルレアンにて大虐殺を行ったというジャンヌが……」

 

「同時代に同じサーヴァントが二体召喚された、ということでしょうか……?」

 

『うーん……聖杯戦争の記録を紐解けば、その手の同時召喚の例はあると思うけど……』

 

 マシュが疑問とともに思考を開始すると、ロマンも同調した。士郎がアルトリアを見ながら微笑んだ。

 

「と言っても、厳密には同じサーヴァントとは言えないのかもしれないぞ」

 

「シロウ。何故私を見るのです?」

 

 キョトンとするアルトリアとマシュを差し置いて、俺と立香は、お互いを見合ってから士郎さんのほうを向きお互いの結論を同時に述べた。

 

「「黒いアルトリア!!」」

 

「……当たり」

 

 それを聞いてアルトリアやマシュもあぁ、と眼を見開く。唯一事情を知らないジャンヌだけが事態に着いていけず困惑の表情を示している。

 アルトリアは外的要因……恐らくは聖杯が原因だろうがそのせいで変質していた。この特異点にも聖杯があるのならその可能性は充分にあるということか。と、ここら辺の説明を俺がしている間に、ロマンが口を開いた。

 

『ともかく、それで確定した。シャルル七世が死に、オルレアンが占領された。それはつまり、フランスという国家の崩壊を意味する』

 

 フランスという国家の崩壊。

 それが……人類史の基盤から覆されるような出来事なのだろうか。ロマンが説明を続ける。

 

『歴史上、フランスは人間の自由と平等を謳った最初の国であり、多くの国がそれに追随した。この権利が百年遅れれば、それだけ文明は停滞する』

 

 グランドオーダー時に言った“この戦争が終わらなかったら”がこの特異点ということか……

 ロマンは、そのまま説明を続けていく。

 

『もし認められなければ、我々は未だに中世と同じ生活を繰り返しいたかもしれない』

 

「たまに声だけが聞こえる……今のは魔術ですか?貴方たちは一体────」

 

 ジャンヌはこれ以上ない困惑の視線を俺に向ける。何故だ……貴方たちっていってるのに、何故俺だけを見るんだ。とジャンヌを視界から外し考える。ロマンもロマンで今更自己紹介してなかったことに対して気付いたらしく呆けた声を出した。そして、何故ジャンヌの視線が俺に向くのかがわかった。俺の端末に繋いでいるからだ。

 

『おっと、そういえば紹介がまだだった。初めまして、聖女ジャンヌ・ダルク。ボクはロマニ・アーキマン。皆からはロマンと呼ばれています。彼等のサポートを行っているものです。よろしくお願いします』

 

「なるほど、ロマン。夢見がちな人なんですね!」

 

 順応するの早すぎません?

 俺なんて未だに心の中でビクッ、てしてるんですよ?

 

『……なんだろう、この敗北感。誉められたのにぜんぜん嬉しくないような……』

 

「ざまぁみろ」

 

『当麻くんッ、辛辣すぎない』

 

 俺が吐き捨てると、ロマンがオーバーなリアクションで反応してきた。そして、通信を切った。聞こえるか聞こえないかが肝だな……これ……

 

「はぁ……不幸だ」

 

「大丈夫ですか。カミジョーさん」

 

 続けて自分のアイデンティティーを口走ると、ジャンヌで本気で心配されてしまった。大丈夫であることを告げると……士郎さんがさっきからずっと調理していた猪の肉を手渡してきた。

 

「塩胡椒と、ちょっとした香辛料で味付けしただけだからあまり期待しないでくれ」

 

 既に立香やマシュ、特にアルトリアは美味しそうに食べている。ジャンヌにも渡そうとしている。

 

「いえ、私はいいです」

 

「腹が減っては戦は出来ぬって、サーヴァントだから要らないんだが、食べながらの方がゆっくり会話できるだろ」

 

 そう説得して受け取らせた。士郎さんも自分の分を食べている。というか、アルトリアが凄い勢いでおかわりし続けている。まさか、こんなに捕ったのってアルトリアが食うからなのだろうか。なんて、考えていると肉を半分ほど食べ終え、一息ついたマシュがご飯に話しかけた。

 

「失礼しました。マドモアゼル・ジャンヌ。今度は我々の番ですね」

 

 そう言ってマシュは俺達の説明を始めた。

 

「わたしたちの目的は、この歪んだ歴史の修正です。カルデア。そう呼ばれる組織に属しています」

 

 そのままマシュは、カルデアの崩壊から冬木の特異点の修正。グランドオーダーの発令やここに至るまでの経緯をなるべく簡潔に、それでいてちゃんと要点を抑え、伝わるように説明した。ジャンヌもすんなりその説明を理解してしまった。そして、自分の感想を述べた。

 

「……なるほど、良く分かりました。まさか、世界そのものが焼却されているとは」

 

 説明を横から聞いてアレだが、やっぱり実感が湧かないな。世界がもう滅んでますって言われても……

 

「私の悩みなど小さなことでした。ですが今の私は───」

 

「フォウ?」

 

「サーヴァントとして万全ではなく、自分でさえ“私”を信用できずにいる……オルレアンを占拠したジャンヌ・ダルク……それだけでなく、あの飛竜……」

 

「ワイバーンですね……十五世紀のフランスに飛竜がいるはずがない。そして何よりあの砦の兵士は“竜の魔女”と呼んでいた」

 

 それを聞くと、ジャンヌは苦笑いを浮かべながら言いたくないことを言うように言葉にした。

 

「えぇ。認めたくはありませんが、あの竜たちを操っているのは“(ジャンヌ)”なのでしょう。どうやって操っているのかは分かりません。生前の私は、そんなこと思いつきもしなかったですし。竜の召喚は最上級の魔術と聞きます。まして、これだけの数となれば───」

 

「絶対無理……だろうな。まだ神秘の残骸が残ってるこの時代の魔術だって困難だ……となると、そんな反則が出来る物と言えば……」

 

「……聖杯」

 

 俺が確信を持った強い口調で言う。

 それを聞いたマシュがある程度、今の状況のある程度の推論を出した。

 

「マドモアゼル・ジャンヌ。貴方はこれからどうするのですか?」

 

 ……え、俺達と一緒にいくんじゃねぇの?

 

「……え、俺達と一緒にいくんじゃねぇの?」

 

 声に出てた。

 立香もマシュもアルトリアもジャンヌも……そして、士郎さんまで唖然としている。そして次の瞬間、全員が大笑いした。

 

『はははははははっ、ははは、はははは、ははははははははっ』

 

 立香と士郎さんなんか腹を抱えて本当に痛そうにしながら笑い転げた。なんか恥ずかしくなってそっぽを向いていると、笑い終えたジャンヌが言った。

 

「……目的は決まっています。オルレアンに向かい、都市を奪還する。そのための障害であるジャンヌ・ダルクを排除する」

 

 それは、さっきの大笑いからは想像できない覚悟に満ちた声だった。そのまま力強く言葉を紡ぐ。

 

「主からの啓示はなく、その手段は見えませんが、ここで眼を背ける事はできませんから」

 

 その信念の言葉にマシュは感嘆していた。

 

「……一人でも戦う……なんというか、歴史書通りの方ですね、マスター」

 

「あぁ、ダ・ヴィンチちゃんとは大違いだね」

 

 立香と会話していると、いきなり深呼吸して皆に呼び掛けた。

 

「皆さん、わたしたちとジャンヌさんの目的は一致しています。今後の方針ですが、当麻先輩の提案通り、彼女と行動をともにする、というのはどうでしょうか」

 

 提案を聞いた瞬間、立香が吹き出した。まぁ、さっきよりはマシだが、軽く殺意が湧いた。

 

「まぁ、冗談はこれくらいにして私は賛成、戦力は多いにこしたことはないでしょ」

 

 その言葉に士郎さんもアルトリアも同意の笑みを溢す。そして、皆が肉を食べ終わると、改めて俺と立香はジャンヌと向かい合った。

 

「じゃあ、ジャンヌ。俺達をお前の協力者として一緒に戦ってもいいか」

 

「はい……よろしくお願いします、そして、早速ですが、敵襲のようです。立香、当麻。指示をお願いします」

 

 その後の戦闘もなんなく終わった。暗闇というハンデがあるのに、士郎さんもアルトリアもジャンヌもマシュも見えてるのか言いたくなるほどだった。いや、焚き火してるから当たり前だけど……

 俺がいつも通り右手で消滅させると、士郎さんはテントを投影して素早く張り、俺達の分の寝袋を用意してくれた。士郎さんがいうには、認識阻害の結界と防音の術式付きだから少しぐらいなら騒いでも大丈夫なようだ。そして、サーヴァントの自分には睡眠の必要がないからと進んで見張り役を引き受けてくれた。テントの中に入ると、立香達は今度こそ女子会を始めた。男子高校生の俺には、とても入りきれない雰囲気のなか、緊張なのか走馬灯を見た気がした。記憶喪失だから一年間をスローに振り返っただけなんだが……そしてこの数分後、立香が満面の笑みで放ったこの一言で俺は、士郎さんのちょっとした嫌がらせを知る。

 

「皆、ババ抜きしない?」



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幕間1 御坂美琴、カルデアの日常

すみません、こぼれ話は本編でしかやらないことにしました。だってめんどくさいし……正直書くモチベも今、右肩下がりで……だから、モチベがチャージしたらこれにもこぼれ話をあとから付け足すかもしれない!!ってか、付け足す!!だから、嘘はついてない!!
あぁ、書いてる途中でなに書いてるんだろうってな感じになってしまった。出来が悪すぎるが取り敢えず幕間のストックが貯まってきたら設定集も含めて付け足して新しく作り直すつもりです。だから、これで満足してくれ……今の僕にはこれが限界なのだ……
ごちゃごちゃ並べたけど、気に入ってくれたらお気に入り登録、感想お願いします


 一方その頃……と前置きでもしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが、御坂美琴は今イライラしている。

 顔にも態度にも出してはいないが、内心マグマのように燃え滾る嫉妬と怒りを内包している。何故って?それを説明するには、二日前まで時間を遡る必要がある。

 ここで、時間経過を改めて確認していくが、グランドオーダーが発令されたのが現在、つまり士郎達がレイシフトし、フランスへ出発した二日前……つまり、その空白のなかで美琴は腹に穴が開きそうなほど、ストレスを抱え込んだのだ。美琴がストレスを抱える理由なんて一つしかないうえに、その原因は今レイシフトしており士郎とともにジャンヌと状況についての説明を受けている上条当麻だ。このストレスは上条に対して、電撃の槍を投げることによってのみ発散されるため、今美琴はストレス発散の術がない。そして、上条が帰ってきたとき彼女にはまた新たなストレスの種が生まれるのだが、それはそのときの話で……

 さて。話を戻すが、二日前でグランドオーダーが発令された直後に時計の針を遡る。

 

「ったく、なんなのよ。アイツ、あの子に鼻の下なんか伸ばしちゃってさ……」

 

 あの子……つまりは、アルトリア・ペンドラゴン。彼女と上条との親密な距離に美琴は嫉妬していた。いや、主従関係なのだし、あのフラグメイカー上条当麻なら当たり前にやってのけそうだ。しかし、アルトリアには既に想い人が居るから、ただ単に、相棒的な関係になるだろう。という人も居るだろう。だが、彼女は主に上半分の理由を知らない。というか、ガッチガチの科学脳な彼女には英霊、サーヴァント、人理焼却の類いを話しても絶対に理解しない。

 

「フォーウ、フォウ?」

 

 鳴き声と足元に毛並みの心地いい感覚がして、下を向く。

 

「なにこの生き物、可愛い!!」

 

 さっきまでの嫉妬はどこへやら、謎の生き物……フォウを抱き上げその毛並みを堪能している。

 そのまま数十秒ほどモフモフしていると、どこからか誰かがカツカツと音を立ててやってきた。

 

「おやおや、フォウがここまでなついているとは……」

 

「え、えっと……」

 

「なになに、突然目の前に絶世の美女が居たって?分かる分かる……でも馴れて」

 

 勝手に思考を仮定されてしまった。実際は思考停止している。というか、自分のこと美女って言ってるぞ、いや、実際美女だからなにも言えないが……

 しかし、美琴はある一部に視線が釘付けになっている。それに気付かない女性は勝手に自己紹介を始めた。

 

「私はダ・ヴィンチちゃん。君は御坂美琴ちゃんだね?」

 

「え、は、はい」

 

 美琴は我に帰ったように、同意の言葉をとった。

 

「えっと……ダ・ヴィンチさん……?貴方はいったい……」

 

「わたしかい。わたしはカルデアの技術部門のトップさ。というか、召喚英霊第三号、みたいな?」

 

「召喚……?英霊……?」

 

 分かりやすく疑問を浮かべる。

 だから言ったであろう。理解しないと……理解しないと……!!

 大事なことなので二回言いました。

 美琴の疑問を、ダ・ヴィンチちゃんは理解したのであろう。自分の技術室に招いて説明を開始した。

 

「人というものはごく稀に運命に選ばれるところがある。偶然にせよ、必然にせよ、人の世の発展という形でね」

 

 上条や立香とは違い、美琴はこの言葉で理解した。

 人の世の発展を担い、後の世に語り継がれる程の功績を残したもの。分かりやすく言えば、偉人か……いや、もっと分かりやすく例えるなら……英雄、というヤツだろうか。

 

「そういう人間は世界に登録される。人を越えた『英霊』としてね。それが……私たちだ」

 

 それは、その人間の生き様そのものが、世界から認められたということである。

 英雄の霊だから英霊……とはよく言ったものだろう。だが、美琴は理解はできても、認識には僅かな……それでいて根本的な齟齬があった。

 

「つまり、英雄の思考をAIで再現ってことですか?」

 

 彼女には科学の知識しかない。

 故に、自分の世界とは違う世界の言葉も科学の知識と常識に当てはめてしまう。まぁ、これは美琴なりに理解しようした結果なのだ。ダ・ヴィンチちゃんは、口を大きく開けて一瞬ポカンとした直後、腹を抱えて大笑いした。笑いが勢いが弱まっていた頃、荒い息づかいで言葉を発した。

 

「いや、確かに、本物のコピーであることに……間違いはないだろうけど……君、面白いね」

 

「はい。ありがとうございます」

 

 そこはかとなく馬鹿にされてるのは気のせいだろうか、と美琴は思った。

 まぁ、馬鹿にはしていない。というより、彼女の思考はそんな低次元のところに存在していない。そのときだった二人の少年が技術室に入ってきた。

 

「ダ・ヴィンチさん、入るぞ」

 

「ダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれよ。士郎くん」

 

 赤髪の少年は、なにかが入った箱を床に置く。その横に黒髪の少年……上条も、何かの箱を置いた。その直後に赤髪の少年は、上条を労う趣旨の言葉を発した。

 

「ありがとうな、当麻。手伝ってもらって……」

 

「いや、これぐらいならいつでも頼ってください」

 

 上条にしては珍しく敬語を使った。しかし、それを使った相手は、自分より背の低く童顔で幼い少年に対してだ。

 

「アンタ、なんでその人に敬語なんか使ってんのよ。アンタのほうが年上でしょ」

 

 美琴は不思議そうに質問する。

 赤髪の少年は、それを聞いて苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「酷いな、これでも27歳なんだけど……」

 

「「……………………………………え?」」

 

 何故か上条まですっとんきょうな声を出す。それを聞いたダ・ヴィンチはまた大声で腹を抱えて大笑いする。

 

「え、マジっすか」

 

「本当なら187ぐらいあるだけどな。なにしろ17歳ぐらいの姿で喚ばれたから」

 

 言葉から察するに、彼も英霊なのだろうか、と美琴は思った。しかし、彼のような偉人は見たことも聞いたこともない。彼女は常盤台の学生だ。中学校にして既に大学レベルの教育を受けている。故に、歴史には詳しい。正確には『にも』の表現が正しいのだろうが、気にしたら負けとでも思っておいてほしい。

 彼の出で立ちにも違和感を感じた。赤色……もっと具体的には赤銅色の髪に、琥珀色の瞳。そして、彼の装い。パーカーにジーンズ。明らかに現代の装いだ。

 

「えっと……」

 

 美琴は思考を確証に近づけるために、少年の名前を聞き出すことにした。それが自分に向けられた言葉と気付いたのか一瞬戸惑いながら答えた。

 

「俺は、衛宮士郎。っていってもマイナーな英霊だからな。というより、未来の英霊だからな。知らないだろうけど宜しく」

 

「……未来の英霊?」

 

 ……えっと、それはつまり未来の偉人ということか。

 

「未来の……というのは、どういうことなのかね?」

 

 さっきまで大笑いしていたダ・ヴィンチちゃんが急に声色を落とし、真面目な表情で返す。少年改め、士郎は口を滑らせたとでも言うように口に手を当て、その直後に頭を掻きながら答えた。

 

「英霊の座……正確にはサーヴァントの召喚術式には時間の概念はない。過去の英霊も、未来の英霊も、等しく平等に選ばれる。俺が召喚されたのは冬木だろ?あそこは俺の故郷だからな。その土地に縁のある俺が召喚されたのは必定だったんだよ」

 

「成る程、そういうことか……」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは納得したような……しかし、そこで新たな疑問が生まれたのか頬に手を当て思考を開始した。そして、士郎は机に行き工具箱に手を当てた。

 

「なぁ、ダ・ヴィンチさん。これ借りていいか?」

 

「え、どうして……?」

 

「空調が壊れてるみたいでな。無理なら自分で投影するんだけど……」

 

 ダ・ヴィンチちゃんは、それを聞いて『構わないよ』と士郎の提案に同意した。それを聞いた士郎は工具箱を手に急いで部屋を出て行ってしまった。

 

「まぁ、一通り説明したし……君達もなにか話したいのではないかね」

 

 その言葉とともに、二人一緒に部屋から追い出された。そのまま、二人でカルデア内を適当に歩きながら話をすることになった。しかし、これ以上ないまでに美琴の頬は紅潮し、上条の話など全くいっていいほど耳にはいってはいない。

 

「……ないのか……坂……御坂、聞いてないのか」

 

「べあ!?ごめん、えっと……なんだっけ?」

 

「なにって……人理焼却……?ってヤツでここの中に居る俺達以外の人類が滅んで……それを解決するためにここが動くんだと、それで俺も二日後にはその異変を解決しに行くって話だよ」

 

 あぁ、そうだったそうだった。と適当に言葉を返す。確かにそんなことを言っていた。

 ……かなり、ぶっ飛んだ話だな~なんて呑気に思ってみる。いつか、上条が『しあわせな世界』を壊して戻ってきたと言っていたことがあった。あのときはその場の勢いのままに“キレた”があとから考えてみれば、あまり実感の湧く話ではないと認識していた。

 そこからしばらく無駄話に花を咲かせていると……片目を隠した髪型の女性、さっきの少年をそのまま女性にしたような人が立っていた。

 

「あぁ、当麻先輩。また会いましたね」

 

「あ、当麻。数時間ぶりだね」

 

 右の角から現れた二人の少女は上条へ手を向けながら挨拶の言葉を向ける。

 

「おぉ、立香、マシュ。なにやってんの?」

 

「見ての通り、食料を厨房まで運んでいます」

 

 複数のダンボールを抱えながら片目を隠した少女……マシュが上条の問いに答える。

 上条はマシュのその様子に苦笑いを浮かべながら、次の質問を加えた。

 

「マシュってさ、こんなに力持ちなの?」

 

 今度の問いは赤髪の少女……立香に対してだ。

 立香はマシュの方を見ながら、上条と同じく苦笑いを浮かべた。その上で上条の質問に対しての回答を述べた。

 

「ロマンが言うには、デミ・サーヴァントになった影響じゃないかって……元々運動は苦手だったみたい」

 

「そっか、でも流石に重いだろ。手伝うよ」

 

 上条はマシュの持っていたいくつかのダンボールのうちの一つを貰い腕で抱えて持ち上げた。

 

「うわ、重いな……これを4つも5つも、やっぱりサーヴァントってすげぇ」

 

 美琴も上条も画面越しにしかサーヴァントの戦闘を見てはいない。しかし、彼らの戦力が自分達の能力を遥かに凌駕しているという事実は理解していた(少なくとも上条は)。

 仕方がないので美琴も1つ持ち上げて厨房まで行くことになった。

 

「いえ、私は宝具の使用すらままならないデミ・サーヴァントですから……」

 

「いや、お前は強いよ。そんな状態なのにあんなに戦えたんだ。きっと、もっと強くなれるさ」

 

 ピキッ……。

 分かるだろう。これがなんの音か……

 しかし、音にならない音に同じく声も声にならない。ただちょっとだけ頭の周辺をバチバチ言わせているだけだ。上条もいつもなら気付くのに、立香との話のせいで気付いていない。これを怒りに気付かぬ幸運と捉えるか、それとも後で怒りを受ける不幸と考えるかは今は気付かぬ上条に任せよう。

 まぁ、そんなわけで御坂美琴の空前絶後の二日間は幕を開けた。そして、上条達のカルデアでの甲斐甲斐しく騒がしい日常も同時にスタートした。



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信頼の確認

今回は自信作です。
M-1グランプリ面白かったですね。特にジャルジャルが面白かったですね。
さぁ、どうぞ。
あと、また新しい小説投稿したのでできれば読んでみてください。リンク張っておきます。
https://syosetu.org/novel/183824/


 今、私達は1431年のフランスに居る。ここで起こった歴史の歪みを修正するために……

 そして、私たちはそこで出会ったフランスの大英雄ジャンヌ・ダルクと行動をともにしている。そして、私達が倒すべき敵も定まった。ジャンヌ・ダルクだ─────

 いや、言い方が悪かったかな。正確には聖杯に歪められてしまい、フランスを滅ぼしてしまったジャンヌ・ダルクだ。

 そして、現在時刻は午後9時10分頃。只でさえ森であるため街灯なんてない。というより、この時代に街灯なんてものがあるわけがないが……だから私達は士郎の投影してくれたテントの中に入り、 ランタンをテントの中のフックに掛けて夜の暗闇を凌いでいる。

 ジャンヌはテントを張る私と当麻、士郎(といってもやったのはほとんど士郎で私達が手伝ったのは最後のテントを張るところのみ)を不思議そうに見ていた。マシュも知識として知ってはいても、目を輝かせながら見ていた。

 さて、やっと本題に入るが私達は今、当麻も含めて女子会を開催している、といってもカルデアであった面白い話などをしているだけ……だが、やはりジャンヌが堅い。

 やはり、ここは無理矢理にでも笑ってもらうしかない。そして、思い付いた名案を一言で伝える……そして、帰って来た反応は……

 

「「「「……ヘ?」」」」

 

 見張りのためにテントの外に居る士郎以外もれなく予想通りの反応。逆に面白い。

 そして、当麻以外全員が固まる。辛うじて冷静さを取り戻した当麻が咳払いする。

 

「立香、とりあえずリピートアフタミー」

 

「皆、ババ抜きしない?」

 

「うん、分かった。聞き間違えではないのね」

 

 当麻はそう言った直後、私の頭を右手をポンポンと叩いた。何をしているのかな……?という感じにキョトンとする。それを見た当麻が改めて言った。

 

「うん、なんとなく本気で言ってるのは分かった」

 

「うん、そうだけど……」

 

 そうかそうか、と当麻は手を組みながら頭を上下に三回程動かすと、立ち上がって私の額に人差し指で小突きながら呆れ気味に言った。

 

「お前、馬鹿だろ。馬鹿なんだろ」

 

「ん、自覚あるけど……当麻に言われると、なんか納得いかない」

 

 一応、当麻は自分と同類だと思っている。その当麻に『馬鹿』と言われると、まぁ、さっき言った通り自分でも自覚はあるが当麻に言われると納得がいかない。

 

「この状況でなんでババ抜きなんだよ」

 

「まずはお互いにお互いのことをよく知らなきゃいけないでしょ。なら、とにかく話さなきゃいけない。でも、やっぱりジャンヌの態度が堅い。なら、話しやすい雰囲気を作らなきゃならない。なら、オリエンテーションでもした方がいいでしょ」

 

 だから、ババ抜きをしましょう。つまりはそういうことだ。これから一時でも共に戦うのなら信頼関係を築かなければならない。信頼関係を築くにはお互いの事をよく知らなければならない。お互いの事をよく知るためには話さなくてはならない。しかし、今ジャンヌは私達と初対面ということもあり、いまいち距離感が計れずに居る。ならば、話しやすい雰囲気を作ってしまおうではないか……ということである。

 

「なるほど、割と筋は通ってるな」

 

 そのちゃんとした理由に当麻は渋い顔をしながら同調する。

 

「でもなぁ、トランプどうすんだよ」

 

 当然の疑問である。誰も、私もトランプなど持ってきてはいない。なら、何故提案した。と思う人も居るだろう。だが、あるのだ。今すぐにトランプを、迅速に、それも安全に用意できる方法が……

 

「士郎に投影してもらえばいいじゃん」

 

「……」

 

 次は絶句。

 本当にリアクションに困られないな、当麻って……何故に、ここに来てからあった次々にあった私の感覚では驚愕の出来事よりも驚いているのか、純粋に疑問に思う私だったが……そのままテントの外に顔を出し、士郎に呼び掛ける。それに気付いた士郎は振り返り顔だけの私に苦笑いを浮かべながら何の用か、と聞いてきた。そして、3分に渡る説得の末、投影してもらえた。

 

「よし、これでやるよぉ!!」

 

「あの……ババ抜きとはなんなのでしょうか?」

 

 一瞬、場が固まる。

 一番肝心なところを考えていなかった。ジャンヌがトランプ自体は知っていても、イギリスのゲームと交ざり合って出来た日本特有のゲームなんて知らないじゃないか。

 因みにイギリスのゲームであることを知っているのは、まぁ、適当に調べてたのを覚えているからだ。それを聞いた当麻は溜め息をつきながら、マシュとアルトリアに聞く。

 

「マシュは、お前はルール知ってるか?」

 

「はい。ドクターと職員と数人でやったことがあるので」

 

「アルトリアは?」

 

「実際にやったことはありませんが、ルールまでは……しかし、出来るかには不安がありますね」

 

 当麻は頭を掻いてから、数秒考えてから提案した。

 

「じゃあ、俺とアルトリアで、立香はジャンヌでペアを組んでやろう。それで、ルール覚えてきたら5人で出来るだろ」

 

 どうやら当麻も乗ってくれるらしい。

 そして、後の人理修復を完遂した後も私と当麻のトラウマとなって語り継がれる『地獄のババ抜き』が始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まず一戦目。

 私がジャンヌに、当麻はアルトリアにルールをレクチャーしながら始まる。

 まぁ、ここはルールの理解や初めてババ抜きをした二人のソワソワした感がポーカーフェイスを乱してしまい、マシュの一人勝ち。

 次に二戦目

 一戦しただけなのに、もうルールに馴れてきたのか前回とは打って変わってジャンヌがその勝負強さで勝利を収めた。アルトリアの直感はこの際、当麻の不幸によってあまり意味を為さなかった。

 そして、三戦目

 問題はここからだ……

 まぁ、一部始終をご覧に頂こう。

 

「まぁ、アルトリアもジャンヌもルール覚えたっぽいし、五人でやってみるか」

 

 そう言って、当麻が一度集めたトランプを手際よくシャッフルして、私と当麻の分も含め全員に配っていく。

 そのまま、準備も全員でステップよくこなし始める。

 

「じゃあ、始めよう。私から初めていい?」

 

「構いません」

 

 アルトリアの言葉で私からのスタートとなった。

 

「じゃあ、マシュ。どれかな~」

 

 マシュは、何故か恥ずかしそうにしながら持ち札を差し出す。それで、一枚、一枚手にとって行く。あれ、結構ポーカーフェイスだな。マシュ……

 

「これかな」

 

 無難に右から二枚目を引く。

 ハートのクイーン。スペードのクイーンがあったので合わせて捨てる。これで残りは4枚。そのままアルトリアに私の手札を差し出し、アルトリアは迷いなく引く。引いたのはスペードの3。アルトリアも手札から同じ3を出す。そうなこんなな感じで適当に流しながらやっていたら、このような順位になった。

 

 一位私

 二位ジャンヌ

 三位当麻

 四位アルトリア

 五位マシュ

 

「先輩、流石です」

 

「こういうの得意なんだよね」

 

 まぁ、マシュの場合、途中からポーカーフェイスが乱れて簡単に分かったけど……

 

「でも、ジョーカー持ったときはかなり焦ったよ」

 

「あぁ、最初ジョーカー俺が持ってたんだよな。それにしても俺が三位。最下位だと思ってた」

 

 当麻の自己評価の低さ……なんだろうか。確かに、不自然なほど不幸ではある。どんなところにいても何かに躓いては転びまくる。しかし、そんな下らない考えも一瞬で吹き飛ぶほどの悪寒がした。

 

「ど、どうしたのでせうか?アルトリア?」

 

 あまりの威圧感に、当麻は全身から鳥肌、冷や汗、そして身震いをしている。

 

「このような勝負でも負けたら騎士の名折れ、もう一戦お願いします」

 

 そうしてアルトリアが勝つまで行われた。9時ほどだった時間も11時まで約148回続いた。 そして、眠気に負けて寝てしまう最中、同じく眠る当麻の最後の言葉が聞こえてきた。

 

「まさか、こんな形で現れるとは。ふ、不幸だ……」

 

 そうして、結果的に成功したとも失敗したともとれる『ババ抜きで仲良くなっちゃおう大作戦』は、わたしたちのトラウマとなって幕を閉じた。

 

 一応、結界を張った本人なのでどれだけ騒がしいか聞こえていた士郎が私達が寝た後でアルトリアを連れ出し、説教をかましていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 士郎がテントからアルトリアを連れ出し、説教が開始されたなか……糸が途切れたように眠った立香と当麻を寝袋に入れて、取り残されたジャンヌとマシュは隣に座りながら話し込んでいた。

 

「先程一人で戦う、などと言ったのが恥ずかしい。貴女方のお陰で、今はとても心強いです。たとえ相手が竜の魔女の私であろうと、こんな頼もしい方たちが居るのなら恐るるに足りません」

 

「えっと……大丈夫ですか?」

 

 ジャンヌの言葉にマシュは、苦笑いを浮かべながら質問を返した。しかし、マシュが言葉にした“大丈夫”は疲労を心配する言葉ではない。彼女の言葉がもう一人のジャンヌ・ダルクへの恐怖を紛らわす為の“強がり”なのではないかということだ。

 

「大丈夫です……はい、もちろん彼らがもう一人のジャンヌを私と誤認するのは、悲しいですけれどね」

 

 ジャンヌは少しだけ声を弱々しくしながら質問に対しての回答を口にした。こころなしか表情も悲しくなっているように感じた。

 そして、ジャンヌはその弱々しく、悲しい声で自嘲の言葉を続けた。

 

「でも……それは仕方のないことです。実際、私が火刑に処されてから数日も経っていないようですし……復活した私が、オルレアンで虐殺を行ったというのなら、恐れられるのも無理はない」

 

 悟ったような口調で自分を貶め続けるジャンヌにマシュの表情が険しくなる。

 一瞬言葉がなくなるが、ジャンヌは構うことなく続ける。

 

「……下手に動いてイングランドを刺激するかどうかが不安でしたけど、この様子では安心そうです。今は魔女と呼ばれているジャンヌを見定め、倒すだけでいい」

 

「……そうですね」

 

 この期に及んで他人の心配か……と、若干呆れてしまう。まぁ、それでこそ聖女か……と、納得する感情もある。

 飾り立てず弱音を吐きつつも、己の目的も信念も貫く……ジャンヌ・ダルクという女性の生き方がその態度に写し出されているようだ。マシュは改めてジャンヌ・ダルクという英雄に尊敬の念を抱いた。

 

「あ、ですがしばらくは斥候に徹しましょう。目的はシンプルですが、達成は困難ですから」

 

『流石はジャンヌ・ダルク、軍の戦いに慣れている。貴女の言った通り、オルレアンに突撃は無謀だ』

 

 マシュの端末からロマンの声が響く。

 ようやくマシュへの恐怖を解決できたようだ。

 

『そこは見知らぬ土地だし、まだボクらには拠点がない。いまは率先して防備に関する情報を集めないと……』

 

 情報が必要なことも今の戦力で勝ち目などないことも誰の目から見ても明らかだ。

 全員がこの場に居ても、きっとそういう方針になったことだろう。

 

『それから魔女ジャンヌ────黒ジャンヌとでも言おうか。彼女がどんなサーヴァントなのかも調べておきたい。あとは戦力だ。他に協力者がいたらいいんだけど……』

 

「ジャンヌさん。わたしたちの他にサーヴァントの反応はありましたか?」

 

 ロマンが方針の大筋を建てていく過程でマシュがジャンヌに対して質問する。

 情報を集めるのも大切だが、さっきロマンが言った通り戦力が足りないこともまた事実。ジャンヌと同じように、この特異点を修正するために召喚されたサーヴァントが居る可能性がある。

 

「申し訳ありません、ルーラーが持っているサーヴァントの探知機能も今の私には使用不可です。通常のサーヴァント同様、ある程度の距離にならなければ知覚することはできません」

 

「……待ってください。それなら、黒ジャンヌは?」

 

「……!うかつでした。その可能性はあります」

 

 マシュがなにかに気付いたように呟いた言葉を聞いて、ジャンヌも口を手で覆って、深く思考の闇に入りながら思考の過程を語り始めた。

 

「もう一人の私……いえ、魔女ジャンヌ……あぁ、もう、面倒です。私も黒ジャンヌで通します!」

 

 意識が思考のほうを優先しているのか、言葉が多少探り探りであったが、ジャンヌの思考は天井知らずの勢いで先鋭化していく。

 

「ええっと、その黒ジャンヌが本当にサーヴァントになった私なら、クラスはルーラー。その場合、我々の居場所は即座に感付かれる……いつでも戦う準備は必要です」

 

 ジャンヌは、不完全な召喚の弊害でルーラーとしてのクラススキルのほとんどが使用不能だ。だが、黒ジャンヌまでその弊害があるとは限らない、いや、その可能性は限りなく低い。

 つまり黒ジャンヌの陣営は、自分達の居場所を手に取るように把握出来ている筈だ。その気になれば黒ジャンヌ陣営の総力を以て自分達を袋叩きにすることだってできる。

 まぁ、黒ジャンヌの目的はあくまでもフランスへの復讐なのでなにもしていなければ自分達の掃討に全力を注いだりはしないだろう。

 

「できれば街や村での情報収集も最低限にしておきたいですが────────なに一つ手掛かりのない今は、そういう訳にもいかなそうですね」

 

「明日の早朝には出発しましょう。二人が起きるかは心配ですが……」

 

 ジャンヌが心配するのも無理はない。

 それなりに訓練を受けてきたマシュだって、この時間でも早朝に起きることができるだろう。だが、まったく訓練を受けていない筈の上条や立香が起きることができる保証はない。

 

「それもそうですが……貴女は大丈夫ですか」

 

 マシュが寝ている二人に視線を移しながら、ジャンヌに聞く。

 いくらサーヴァントとはいえ、彼女は不完全な召喚で喚び出されてしまったサーヴァントだ。休息が必要な可能性は無きにしも非ずである。しかし、ジャンヌは微笑みながら答えた。

 

「あぁ、私なら大丈夫です。能力はランクダウンしていますが、サーヴァントの基本的な能力は有してますから」

 

 数秒間会話が途切れ、静寂がこの空間を支配した。

 微かに聞こえる二人の寝息のみが唯一の音だった。

 

「でも、慣れない野宿でしょうに意外とあっさり寝ましたね。二人とも」

 

 寝息を聞いて、マシュが微笑みながら呟く。

 

「そうですか……」

 

 ジャンヌは安心したように答える。

 マシュは一瞬、訝しげに顔を苦い表情にしたがそれを抑えて聞いた。

 

「……もしかすると、ですが……まだなにかわたしたちに言っていないことがあるのでは?」

 

「……」

 

 聖女は後ろめたそうに少女を視界から外す。

 マシュは、焦りながら手を振りつつ自分の考えを説明する。

 

「詮索するつもりはありませんが……戦いの障害になるのであれば、払拭しておいた方がいいかと思いまして」

 

「そう、ですね。わかりました、告白します」

 

 マシュの言葉を聞いて、ジャンヌも若干照れながら答えた。その表情は、凛とした聖女としての顔ではなく、普通の少女としてのものだった。

 

「私というサーヴァントの召喚が不完全だったせいでしょうか。それとも──本来の私が数日前に死んだばかりだからでしょうか。何というか、今の私はサーヴァントの新人(・・・・・・・・・)のような感覚なんです」

 

 少女は、マシュに向けた表情のまま────いや、もう少し頬を深く染めながら自分の妙な感覚について話した。

 

「新人、ですか?」

 

 マシュがキョトン、という擬音が似合いそうな仕草で首をかしげて、聞いてみる。

 その質問に対して、ジャンヌは小さい声ではい、と前置きしてから答えた。

 

「英霊の座には過去も未来もない。ですが、今の私にはその記録に触れる力すらもない。故に、サーヴァントとして振る舞うことが難しい」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「今の私は、まるで生前の、初陣のような気分なんです。先ほどのふわふわした魔術師さん……彼は私を救国の聖女だと言いましたが、その名を期待されても、私にはその力はありません」

 

 サーヴァントは、本来死人─────霊の類いだ。

 輪廻と呼ばれるこの世の理から外され、世界のシステムとして使役される。

 しかし、その記録にアクセスできない。という事態はサーヴァントにとって記憶喪失に近い。勿論、記憶……というより記録はある。

 自分がどんな存在なのかはわかる。

 ただ、自分が死人であり、使役されているという実感がないだけなのだ。

 つまり、全盛期の姿で喚び出されたはいいものの、記録がないので歴戦の英雄という雰囲気を感じさせるような威厳……オーラのようなものすら出ないということだ。

 

「……ですので、その。私の方こそ、あなたがたの足手まといになるのでは、と」

「そんなことはないさ」

 

「……え?」

 

 マシュとジャンヌは入り口のほうを見る。

 そこには、叱られた子供のようにショボン、と肩を落とし、ちょっと涙目のアルトリアと外から顔だけを中に入れた士郎だった。

 

「あぁ、悪い。会話が聞こえたもので……つい」

 

 青年は頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。

 その間に、アルトリアも凛とした表情に戻り、正座で座り直した。

 だが、泣き止んだばかりなので少しばかり目が腫れており、その様子を見たマシュは笑顔になる。

 士郎は続けて、これまで辿ってきた数奇な人生のすべてを込めて優しく、それでいて力強い声で論すように言葉を紡ぐ。

 

「話を戻すけど、そんなことをいうなら、マシュだって初陣のようなものだ。境遇も今の君に近い」

 

「……!。そうなのですか」

 

「まぁ、その通りです」

 

 士郎の言葉を聞いて、ジャンヌは驚いたようにマシュに聞く。

 マシュは恥ずかしながら、と照れながら前置きしてから肯定した。

 

「それに、君も本来前に出て戦うようなサーヴァントでもないだろ。先陣を走るのは俺とセイバーの役目だ。君は立香と当麻の作戦を建てるのをサポートしてやって欲しい。やれることが少ないなら、尚更やれることを精一杯やるしかない。だろ、マシュ」

 

 士郎が続けた言葉を聞いて、促されたマシュもまた力強く答えた。

 

「は、はい。その通りです」

 

 若干、いや大分大声だったため士郎その他二名はすごく驚いていた。

 そして、士郎は慌ててマシュに口に手を当て静かにするように促し、上条達に目を向ける。幸い上条達は起きなかったが、起きていたら今度はマシュを説教しなければならなかった。だが、起きなくてよかったと士郎は安堵のため息を付く。

 マシュも何度も何度も頭を下げながら、謝っていた。士郎が大丈夫、と言うと一回深呼吸してから口を開いた。

 

「えっと、その、士郎先輩の言う通り、私はデミ・サーヴァントで、英霊の力をフルに発揮できているわけではありません」

 

 ジャンヌはマシュの言葉に息を呑む。

 

「それでも、私の内側にいる英霊は『それでいい』と言ってくれました。そして先輩────マスターや当麻先輩、士郎先輩にアルトリアも、こんなわたしを信頼してくれています」

 

 片目を隠した少女は、自分は万全ではない。役に立てていない。と、言葉を続ける。だが、それは自嘲の言葉ではない。

 そんな自分を支えてくれる者達への感謝の言葉だった。

 

「うまく言葉にできませんが、立香先輩も当麻先輩も“強いから”戦っているのではありません」

 

 その通りだ。

 冬木から帰還したとき、上条は言った。

 

 ──────結局は自分のためだからな

 

 その言葉には“強さ”を感じた。

 だが、それは“強さ”を自覚していないがゆえの“強さ”だった。

 

「あの人達は当たり前に、当たり前のことをしているんだと思います」

 

 彼の言葉は強かった。

 でも、それ以上に“普通”だった。

 言動も、行動も、感性も、

 紛れもなく、何処までも、隙がないほどに“普通”だった。だからだろうか。とても安心できるのだ。

 

「だから、大丈夫だと思うんです。その、根拠はまったく何もないのですが」

 

 マシュは、思ったことを言い切ったことで緊張の糸が途切れたものを繋ぎ止めるように一呼吸置いてから……頬を少し赤く染め、苦笑いを浮かべる。

 その様子を見たジャンヌは、マシュの言葉に微笑みで答え、次に言葉に表した。

 

「……ありがとうございます。少し気が楽になりました」

 

 ジャンヌは一つ、深呼吸を挟む。

 そして、聖女は凛と力強く宣言した。

 

「この時代とこの国のことは私自身、よく理解しています。明日から、頑張りましょう!」

 

 その宣言に、眠っている二人以外の全員が士気を上げるとともに小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救国の聖女は歩み出す。

 再びフランスを救済するために───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※注意 大分……というより純度100%のネタ茶番です。気に入らない方はブラウザバックを……
進む方は戻ってこれぬぞ。いいんだな、それで













立香「立香と」
当麻「当麻の」
二人「「カルデアこぼれ話」」パチパチ~
士郎「いい加減ゲスト変えるべきじゃないか」
当麻「そんなことないっスよ」
立香「えっと今回は、この作品のいままでで作者が適当な偏見で選んだ名シーンを余すところなく紹介していくみたいよー」
士上「「偏見なうえに適当かよ!!!!」救いようねーな!!!!(上条)」







───────少し、夢を見た。


───────それは……ただひたすらに美しく

 
───────ただひたすらに醜く


───────ただひたすらに純粋な想い





当麻「えっと、ここはプロローグの最初の独白ですね」
立香「作者によると『いやー、ここは結構悩んだんだよ。まぁ、結果的には付け足したんだけどね、それよりさ、カネキの骨鳴らすの真似したら、癖になっちゃってさ。困ったよ』とのことです」
当麻「どうでもいいよ」
士郎「そんなことないだろ。あの人もあの人なりに考えてるんだよ」
立香「まぁ、カネキの真似できるってすごいよね」
当麻「絶対練習してたよな」
立香「無駄な努力だね」
士郎「お前達が作者をどう思ってるかが分かったよ」

───────自分達を助けてほしい。

 声が聞こえた。アラヤの呼び声ではない。もっと単純な、自分達の生存を望む声が……そして、俺はそれに応じて聖杯戦争の世界へと足を赴いた。

「サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した。君が俺のマスターってことでいいのかな」

士郎「ここは1話とプロローグの複合だな」
当麻「セリフを分けたから、合わせたみたいですね」
立香「士郎の台詞がサーヴァントって感じがしていいね」
士郎「一応、これでも英霊だからな。これぐらいはサーヴァントっぽく振る舞わないと、って思ったんだ」
当麻「まぁ、士郎さんからは英雄って感じしないよな。お隣さんって感じがする」
士郎「普段はそんな感じだろうな。普段は一家の家長として顔で振る舞ってるから、仮面つけてると疲れるだろ。どっかの誰かさんみたいにな」
当麻「誰のこと言ってるかは触れないでおこう。殺し合いになられても困る」
立香「そうだね」
??? 「衛宮士郎……貴様、後で覚えておけ」

「悪かったな。名のある英霊じゃなくて……」

「えぇ。全くよ、マスターは数合わせの一人だけで、戦力はマシュと無名の英霊だけなんて……」

「オルガマリー!!」

 俺の言葉は怒りの火に油を注いでしまったようだが、それで自分のマスターが貶されるのは我慢ならないと思い、語気を強めて彼女を制止した。
 そして、彼女はなにかを気付いたように押し黙り、俺に言った。

「な、なによ」

「確かに俺は他のサーヴァントには及ばないだろうけど、呼ばれたからには結果は出すぞ。だから、信じてやってほしい。俺のマスターを……」

 一応、自分を喚んでくれたマスターだ。信頼はしている。それに『力を貸してほしい』と言われた。そういう人間に罵声が浴びせられるのは駄目だ。
 だから、結果を出すことを約束した。
 そうすれば、俺を召喚したマスターを貶すことは出来ないだろう。

立香「このときはホントに嬉しかったよ」
士郎「いいさ、俺はお前のサーヴァントだ。主人が貶されれば使用人は当然怒るよ」
立香「もう、私は士郎とはそんな関係になるつもりはないよ。仲間だと思ってるんだから」
士郎「分かってるさ。俺はお前のサーヴァントだからな」
当麻「やっぱり二人って仲良いですね」
士郎「それを言うなら、お前もだろ。俺はお前の」
当麻「それ、あともうちょっとしたら分かることですから、そんなネタバレすると主役降ろされますよ」
士郎「今のところ、お前達の方がよっぽど主役してるだろ。っというより今回はジャンヌが結構いいポジションだったな」
立香「そうだね。私達の出番あんまりなかったもんね」
士郎「あぁ、あのババ抜───」
上立「「あーあーあー、聞こえない聞こえない」」
士郎「な、なんだ。二人とも」
立香「あれは身体が拒絶反応を起こすの!!トラウマなの!!」
当麻「軽はずみにそんなこと言った立香もそれに乗った俺も墓まで持っていくべき記憶なんですから!!」
士郎「そ、そうなのか」

 俺は『戦う者』ではない。
 そんな大層なものでは断じて────
 俺は『生み出す者』に過ぎない。
 俺がすることはただ一つ。常に最強の自分を造り続けること。
 その武具が創造理念の鑑定(どのようないとで)基本骨子の想定(なにをめざし)構成物質の複製(なにをつかい)製作技術の模倣(なにをみがき)成長経験を共感(なにをおもい)蓄積年月の再現(なにをかさねたか)追想(トレース)し、そのすべての工程を凌駕しつくし、幻想を結び剣の形を成すことのみ。

当麻「この独白。カッコいいな~」
士郎「あぁ、この思考……もう何度反芻したんだろう」
当麻「そんな、数え切れないぐらいこんなこと考えてたんですか」
士郎「まぁな、俺の投影って結局は反復行動で、する度に鍛え続けていくしかないんだよ」
立香「魔術師から見ても士郎は異常なの?」
士郎「下手すりゃホルマリン漬けになってた……らしい」
上立「こ、怖すぎません?」(( ;゚Д゚))ガクガクブルブル
士郎「まぁ、ならなかっただけマシだよ。凛に感謝だな」

 ここまで言うと俺は不敵に笑い、最後の言葉を言った。

「お前が俺の理想を否定するように……俺もこの刀で……究極の一でお前の答えを否定する!!」

士郎「これはさすがに……アーチャーのことを言えないな」
当麻「エミヤさんのこと、尊敬してる癖に嫌いなんですか?」
士郎「これはもう生理的なものさ。頭というより身体に染み付いた反応だよ」
立香「どっちも結局オカンだけどね」
当麻「今は当番制にしてるんですよね?」
士郎「お互いがいれば喧嘩になってマトモな料理がでないんだよな」
立香「まぁ、分かるよ。1ヶ月に一回は殺し合いになるもんね」
当麻「仲裁に入る俺達の身にもなってくださいよ」
士郎「ほとんどというか必ずといっていいほどアイツから売ってきて聞かないんだよ。仕方なく迎撃してるだけだからな」
当麻「今度、エミヤさんに言って聞かせておきますよ」







立香「士郎のゲスト回は今回で終わりだね」
当麻「まぁ、また呼びますからね」
士郎「でも、それって第四特異点まで先じゃないか」
上立「「ネタバレしないで!!!!」」
士郎「あ、あぁ、悪い」
当麻「次回からのゲストは型月のドル箱、最近恵まれないヒロインです」
士郎「酷いな」
立香「もう終わるよ。せーの」
全員「今回はここまで、また会いましょう。さようなら~~~~」


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