豪雷使いと嘘猫のウィズ (ミシェール)
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プロローグ
あまりのエーファさんの不遇ぶりについ書いてしまいました。
今まで読む専だったので拙いところがあると思いますが、楽しんでいただければ。
ソルディア王国。
かつては隆盛を誇った国であったが、隣国に軍事力で追い付かれたことに危機感を覚え、強引な軍拡路線へと舵をきった。
具体的には、自治権を与えていた独立都市を武力をもって併呑したのだ。
当然、それを知った各地の独立都市は反抗した。
権利はもちろんだが、敗けた都市では略奪の限りを尽くされるという噂が流れたためだ。
そんな中、エーファ・ベルツは自らを育ててくれた国であるソルデイア王国のため、そして今は亡き父のために各地を転戦していた。
王国親衛隊所属特務局員として、そして常人とは異なる力を持った魔術師として。
そのエーファは今、ソルデイア王国に反抗を宣言した城塞都市、ジェラルディアを一万の兵力でもって包囲していた。
●
「ですから! 略奪とかダメだと言ってるんです。私達は正規兵なんですよ!」
エーファはそう言うが現場の指揮官である兵長は聞く耳を持たない。
「元将軍の娘だかなんだか知らないが戦場はおままごとじゃねぇんだよ。略奪は戦の法だ。」
兵長は兵を指揮し、あるいは鼓舞する役目を担っている。
当然のことながら、兵達はこの戦に勝てば報酬が、つまりは略奪が出来ると考えてこの場に集まっている。
正規兵であるにも関わらず賊軍と変わらぬ考えだが、それが事実である以上、兵長にエーファの命令を受ける選択肢はなかった。
しかし、父代わりであり、師でもある将軍の名前を出されてはエーファも黙ってはいられなかった。
「先生のことは関係ありません! 私が言っているのは戦略的な判断です。これから統治しようとしている人達の恨みを買うだけじゃないですか。反乱でもされたが二度手間ですよ! 和をもって統治するのが…っ」
がっ!
反論を最後まで言えずにエーファは胸ぐらをつかまれた。
「うるせーなぁ。それが陛下の命令なのか?特務局員さんよぉ…。」
「それは……違いますけど……。」
兵長は呆れの混じった声でエーファを詰る。
対してエーファは、それが命令された事柄とは違っているために反論の術をもたなかった。
「だったら兵器は兵器らしく言うこと聞いとけや。バケモノ。」
「………。」
バケモノ。一部でそう噂されていることは知っていた。
「さっさと連中の城壁に雷落とせよ。それで奴らもビビって開城するだろうよ。」
「………。」
それでも、モノ扱いされることに腹をたてない道理はない。
しかし、ここで怒ったところで意味がないこともエーファには分かっていた。
「将軍の娘ってのも使えねぇなあ。娘は無能か…。」
「………。」
それでも、尊敬する父のことまで持ち出されてはその感情が表情に出てしまった。
「お? なんだ? やんのか? いいぜ、それで将軍の名も地に堕ちるわな。」
「………。」
それを見て勢い付く兵長。あるいは問題を起こしてエーファの立場を悪くしようと企んでるようにも見えた。
背後にある派閥の力関係を思えば一方的にこちらを責め立てることも可能だろう。
「…わかりました。命令には従います。」
エーファはしぶしぶと魔杖を掲げて詠唱を開始した。
《虚空に眠る息吹よ我が声に応じて神気となれ。気と法は交わり、結べ。…。》
やがてエーファの体から漏れでる魔力により体が光始める。
エーファは詠唱に集中しながらも、どこか違和感を感じ取っていた。
(あれ? なにか変な音がするような…?)
ドゴンッッッ!!!
直後、上空から落ちてきた何物かに押し潰され、エーファは意識を失った…。
●
「……? ……っ! ……うぇ。」
口の中に含んだ土を吐き出し、エーファは目を覚ました。
どうやら自分は窪地の底、もっといえば、中に埋まっていたらしい。
しかし、どうしてそこにいるか、記憶が結び付かない。
「……確か、仕方なく詠唱を初めて……っ!」
声に出して記憶を思い出していたところでようやく繋がった。
ー自分が街を攻撃しようとしていたことに。
なんとか窪地から這い出て街の様子を見ると、記憶にあるまま、強いて言うならば籠城の態勢は解かれているのが見てとれた。
そしてその様子を見たエーファは瞬く間に、今の状況を理解してしまった。
「……うーん、街に被害がなくて何よりと言いますか……。」
軍に置き去りにされた自分はどうしたらいいのか、と言うべきか。
思わず現実逃避をし始めるも、生物としての欲求がそれを許してくれなかった。
ぐぅ~
「お、お腹が空きました……」
未だ気付いていないが、エーファがここに埋まってから既に1日が経過している。
お腹が空くのも自然なことであるが、問題は目の前の街では補給が出来ないということ。
仮にも攻め滅ぼそうとしておいて、敗けた身の上で「パンをください」などと言う厚顔さはエーファにはなかった。
とにもかくにもここで終わるつもりも死ぬつもりもないのは確かだ。
エーファは、王都に向けて撤退することにした。
悲しいことに一人でだが。
●
周囲を確認したところ、残党狩りの兵がいるわけでもなかったので、私は素直に街道を歩くことにしました。
警戒して森を隠れながら進んでも結局時間がかかるだけなんですよね。
ぶっちゃけ、残党狩りを返り討ちにした方が早い、ということもありますが。
「うーん、それにしても、結局あのときは何が起こったんでしょう?」
思い起こしてもさっぱり分かりません。
そりゃあ、あんなクレーターになっていたんですから何かしらの攻撃を受けたことは分かりますけど、街からそういった攻撃をされた様子はなかったんですよねぇ……。
というか、街からそんな攻撃があれば流石に周りの兵も気付くはずです。
嫌われてるとはいえ、私は攻城の要の戦力なのですから敵からの攻撃からは守ってくれるはずです。
まぁ、王都に戻ればその謎も分かりますよね。
流石に敗走したともなれば受けた攻撃がどんなものかくらいは分かるでしょう。
「あとは、獲物の一匹でも出て来てくれればいいのですが……。」
●
ぐぅ~……
「お、おかしいです……。一日歩いて……全然さっぱり、獲物どころか果物すら見当たらないなんて……!」
よくよく考えれば街を包囲するほどの敗残兵が逃げていったのだから道中に食べられるものが残っているかどうかは……。
「……。」
絶望的な状況に涙どころか声すら出ませんね、どうしてこうなった!
ぐぅ~……
そろそろお腹が減りすぎてお腹が痛くなってきました。
実際2日間飲まず食わずなのですからそうもなりますよね……。
今日はもう歩きたくないです……。
おやすみなさい……。
●
「……が、欲しいか……?」
これは……声でしょうか?
それとも夢?あるいは幻聴……?
どれも否定できないのが困ったものですが、正直目を開くことすら億劫です。
「食べ物が、欲しいか……?」
それは欲しいに決まっているでしょう。見てわからないんでしょうか。
こちとら行き倒れてるんですよ!
自分勝手とは分かっていても怒りが抑えられません。どうせ夢とか幻聴でしょうし、別に構わないでしょう。
「食べ物が、欲しいかニャ?」
ンフー。ンフーー。
声どころか変な音まで聞こえてきました。もしかして、夢じゃない……?
食べ物がもらえそうとなれば体も心も現金です。
どこからともなく力が沸いてきました。
即座に私は目を覚まし……ドアップの猫?の顔を見て目を閉ざした私は悪くないと思います。
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出会い
あと、題名が原作のクエスト名と完全一致だったのでタイトルはあとで少し変えます。
行き倒れたと思ったら未確認生物に話しかけられているエーファです。
お腹が空いて死にそうですが人間、非常時にはなんとかなるものですね。
皆さんは日々きちんとご飯を食べられているでしょうか。
もしそうならきちんと作ってくれる農家の人に感謝して残さずに食べるんですよ。
エーファさんとのお約束です。
●
「よっ」
目の前の猫?は片手をあげて挨拶をしてくれました。
……挨拶で合ってますよね?
高位の魔物の中には人の言葉を喋るものがいると聞きますから、きっとその類いなのでしょう。とてもそうは見えませんけど。
とりあえず意志疎通を図ってみましょう。
「ええと、助けてくれてありがとうございます。……私の言葉は通じていますか?」
「…………。」
エーファの言葉を聞いてもウィズは微動だにしない。
あれ? もしかして通じてない?
だとするとどうしてこの猫(仮定)は人間の言葉を……はっ。なるほど分かりましたよ。
さてはこの猫は使い魔か何かなのですね。術者が代わりに喋っていたのなら目の前の様子にも納得です。
むしろそっちの方がよっぽど自然ですよ。こんな猫?が自分で人の言葉を話すなんてあるわけないですよ!
「通じてるニャ。」
通じてるんかい!
いやいや、落ち着きましょう。猫に感情むき出しで怒るなんて大人げないことです。
魔術師は冷静に冷静に。考えてみれば今のも術者と使い魔とのラグなのかもしれませんし。
しかし、見れば見るほど腹の立つ顔をしています。この顔立ちの猫を選んだ人はとても性格が捻くれているのでしょう。
ぐぅ~…
せっかく冷静になれたのに冷静になれないお腹に赤面するばかりです。
とはいえ実際に限界なのも事実。2日も飲まず食わずなんて先生との訓練以来ではないでしょうか。
普段からそこまで訓練付けではないですしね。
「とりあえず、ついてくるニャ。」
そんな様子を見てか猫?は踵を返して歩き始めた。
どんな人が待っているかは分かりませんが、とにかく行ってみましょう。
正直足はふらつきますが目の前にご飯があると思えばささいなことです。
●
5分ほど歩いたところにあったのは川の近くに建てられた如何にも旅用というようなテントだった。
しかし、私の目はそんなものより目の前のご馳走に釘づけだった。
「チミはお腹が空いているニャ? だったらこれを食うニャ。」
そういって猫?は猫らしくテントから持ちだしてきたらしい魚の干物を差し出してきた。
「い、いいんですか!」
「アタイ、嘘はつかないニャ?」
それを聞いてひったくるように魚の干物をとって貪るように食べ始めた。
もぐもぐもぐもぐ。
うう……魚に染みついている塩気が絶品です。
多分、普通の魚の干物なのでしょうが、極限状態にある今だとどんなご馳走にも勝りますよ!
喉がかわくという問題も近くの川のおかげで無事解決です。
生きててよかった・・・。
干物を残さず食べて人心地つく。
しかし、5分歩いた程度の距離にある川とはこれ如何に。こんなものがあればいくら極限状態だからって、いや極限状態だからこそ気付きそうなものなのですが。
それに覚えている地図と頭の中で比べてみても近くにこんな川は流れていなかったはず……。
まさかこの猫が運んだ? いやいや、ないですよ。あり得ないです。
それにこんな拠点があるならむしろこっちまで運んだ方がいいですしね。
頭を捻っていると、食べてる間は微動だにしなかったウィズが突如目を見開いた。
「……食べたニャ?」
「え……?」
「全部……、食べたニャ?」
「く、くれるんじゃなかったんですか……!?」
雰囲気も合わせて鑑みると怒ってるらしい。表情の変化が無さすぎて逆に怖い!
というかつい何も考えずに食べてしまいましたが、この猫?基準で考えると一食分ではなかったのかもしれないことに気付きました。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。」
「働かざる者食うべからず、という言葉が人間にはあるニャ?」
猫の癖に慣用句を使うとは。などと見当違いな突っ込みを心の中で入れる。
「なるほど、代わりの魚を捕ってこい、と。」
それならなんとかなりそうです。
こう見えて元野生児ですからね。特に魚捕りは大得意です!
こういうときは雷属性の魔術が使えてよかったと思います。
「ぶぶー。不正解ニャ。」
いざ魚捕りに向かおうと振り返った瞬間にそんな言葉が投げ掛けられた。
「正解はちょっとアタイのお願いを聞いて欲しいニャ。」
フーー。フーー。
鼻息を荒くして猫?はそう言い放った。
●
「それで、お願いがあるってことですけど……。それならまずは面と向かって話をしませんか?」
結局今の今になるまで術者は現れなかった。
よほど警戒心が強いのかもしれない。
多少は名が売れている自覚もあるし、もしかしたら私のことも知っているのかも……。
そう考えてエーファの警戒が一段階あがった。
場に緊張感が漂い始めた中、目の前の猫はそれを無視するかのように口を動かし始めた。
「やれやれ。アタイを使い魔扱いとはナメられたものだニャ。」
「え? ということは……アナタは猫じゃない……?」
正直、目の前の存在を猫と認めたくはなかった。
猫とは自由気ままであるが顔は可愛いし愛嬌がある。
見た瞬間に現実逃避を始める出すようなインパクトはなかったはずだ。
「アタイが何なのか、と言われたらこう答えるしかないニャ。アタイは……」
どうやら答えてくれるらしい。
もしかしたら何か特別な存在なのかもしれないが、よくよく考えなくても目の前の存在は普通ではない。
エーファは素直に聞く態勢に入った。
「四聖賢のウィズニャ。」
聞いてもそれが何なのかさっぱり分からなかったが。
●
「シセイケン……?」
とりあえず聞いたことのない単語を訪ねてみる。
恐らく称号か役職だろうけど、少なくとも私のいたソルデイア王国を含め周辺の国にはなかったはず。
「そうニャ。」
「ええと、称号か何かなのでしょうか? 寡聞にして存じ上げないのですが……。」
とりあえず下手に出て聞いてみる。
役職を持っているのだ。いかに目の前の顔がふざけているとはいえ、それに実力が連動するわけではない。
むしろ突出した力を持っているのだろう。
はぁ~……。
そんな私の態度にウィズはあからさまに溜め息をついた。
ちなみに今のウィズの立ち位置は地べたに座ったエーファの目の前である。
溜め息はエーファに直撃し、野生の獣特有の口臭がエーファを襲った。
ぶっちゃけ、臭い。先ほどまでは枯れたいた涙が出てきた。
「やれやれ。不勉強な弟子だニャ。でも大丈夫ニャ。そんな弟子を導くのも師匠の役目ニャ。」
なんとか臭いから立ち直ったエーファだったが、耳から入ってきた言葉を理解するために再び動きを止めた。
え?弟子?
誰が?誰の?
「……弟子、ですか? ええと、私が……?」
嘘だと言って欲しい。
「嘘ニャ。」
ほんとに言った!
え?嘘なの?
いや、確かに私がウィズの弟子でないのは確かだけど、だとしたらどうしてそんな嘘を。
「チミが嘘と言って欲しそうな目をしているからそう言っただけニャ。」
嘘!? そんなに分かりやすかったんでしょうか……。
「これも嘘ニャ。」
なんなんですかもう!
いくら恩人、いや恩猫?でも人をからかっていいことにはならないんですよ!
「それで、結局"シセイケン"って何なんですか?」
不機嫌な態度を隠せずおまけに声にまで出てしまった。
でも謝りませんよ。ええ、謝りませんとも。
「ンフーーー。ンフーーー。」
などと自己弁護している隙にウィズは鼻先にまで近づいてきていた。
近い!鼻息が当たってる!というか鼻息が荒いです!
「よく見るニャ。これが四聖賢の力ニャ……。」
「とりあえず離れて。」
耐えきれずエーファはそう言って後ずさった。
後ずさったエーファに示された四聖賢の力はエーファをして驚くものだった。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……」
それは銀行の通帳だった。
エーファは持つどころか見たこともないようなゼロの羅列がそこにあった。
ずいぶん貯め込んでいるようだった。
これだけあればどんな生活ができるか……。エーファは夢想を止めることが出来ない。
「見たかニャ?これが、四聖賢の力ニャ……。」
そんなエーファの様子に満足したかのようにウィズは満面のニヤケ面をしていた。
●
「話が逸れましたが、結局お願いとは何なのでしょうか?」
目の前の猫?もといウィズは言動共にふざけた存在であるが、恩があること事実だった。
奇妙なことは節々にあるがそれでも命を助けられたといっても過言ではない。
そのため、エーファはよっぽど変なお願いでなければ聞く気でいた。
「うむ。その前に一つ聞きたいニャ。チミはこの辺りにダンジョンがあることは知っているニャ?」
「ダンジョンですか……? いえ、この辺りにあることは知らなかったですね。というかここがどこかもいまいち分かってないのですが。」
正直未知の場所と言っても過言ではない。
そういえばこの辺りにテントを張っているならウィズはどうして自分を見つけられたのだろうか。
「じゃあそのダンジョンが百層以上ある大型ダンジョンということも知らないニャ?」
「ひゃ、ひゃく、ですか……。」
規模としてはかなり大きい。
というか国レベルで最大規模だろう。
「お願いというのは他でもないニャ。アタイと一緒にそこに挑戦して欲しいのニャ。」
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