いろいろな短編みたいなの集めてみた (トマト嫌い8マン)
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八幡×プリキュア案

八幡とプリキュアがコラボする作品の初期案とかですね

ひとまず二つある感じです

ドキドキとスイート、の二作品のですから、どうぞ〜


[ドキドキ!プリキュアの場合]

「大貝第一中学?」

「なんかこの前のクリスマスイベントを見ていたらしくて、総武高校と合同のイベントをしたいらしいんですよ」

 

今日は部活動もなく、早く帰れる~!と思っていた所、昇降口に待ち構えいたようなタイミングで現れた一色によって俺は足止めされていた。どうやらまたなにやら面倒ごとを生徒会が背負い込んだらしい。というか

 

「なんでうちと?海浜総合でもいいだろ?」

「ほら、一応うちは進学校じゃないですか?それに生徒会長が向こうも女の子らしくて、その方が打ち解けやすいんじゃないかって。それに、平塚先生がやれって」

「まぁ、そうでなくても玉縄とうまくやれるかどうかは大分怪しいけどな」

「さりげにひどい事言ってますね」

「んで?なんでそれを俺に言ったの?」

「いえ、ほら、先輩にも手伝ってもらいたいなぁって」

 

まぁうん予想していたけどさ、ほんとどうやってこうも連続して相談事を持ち込めるのお前?ひょっとして俺たちに内緒でそういうの募集してるの?

 

「なぁ、それって奉仕部に相談するんじゃだめなのか?」

「流石に生徒会以外の生徒が多すぎるのは……向こうも萎縮しちゃうかもしれないじゃないですし。ほら、雪ノ下先輩とか超怖い時あるじゃないですかぁ」

「それ、思ってても口に出すなよ。あいつに聞かれたら死ぬぞ、多分、俺が。というか、なら俺が行く必要あるか?」

「今日は顔合わせで会長と副会長だけの挨拶みたいなものなんですけど、副会長さん、というか他の役員は今他の事で手が離せなくて。それなら先輩についてきてもらおうかと思いまして」

「一人で行けよ」

「なんか相手に失礼な感じするじゃないですか、一人だけ?みたいな」

「俺がいた方が失礼に当たるんじゃないかと思うんだが?」

「先輩年下の扱いうまいじゃないですか。お願いしますよぉ」

「はぁ……わかった。さっさと行ってさっさと終わらせるぞ」

「じゃあ、行きましょう先輩!」

 

そう言って一色は俺の腕を掴んで引っ張りながら歩き始めた。って待て待てまだ俺は上履きのままだっての、靴くらい履き替えさせろ!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここが大貝第一中学校みたいですね」

「ほーん、なんか、いい感じのとこだな」

 

一般的な公立の中学校とのことだったがなかなかに広い、というか綺麗だ。グラウンドとか校舎まで伸びる通路とか。最近校舎の建て替えでもしたのだろうか?と、それはともかく俺と一色は気を引き締めて校門をくぐった。

 

「総武高校の生徒会の方々ですね」

 

校舎に向かって歩き出した俺たちに不意に声がかけられた。声の方向を見ると、一人の女子生徒がそこに立っていた

青く見える長い髪にいかにも優等生といった立ち姿、きちんと制服を着ているかなりの美少女だった。

 

「あ、はいそうです」

「大貝第一中学へようこそ。生徒会室に案内します。私は菱川六花、生徒書記です」

「総武高校生徒会長の一色いろはです。お出迎えありがとうございます」

「こっちが来客用入り口です。靴を履き替えて少し待っていてください」

 

言われた通りに靴を履き替えた俺たちは程なくしてやってきた菱川から許可証となる腕章を受け取り、校内をしばらく歩いた。外観からはわからなかったことだがこの学校は大分古かったのかもしれない。教室や廊下、天井などがほとんど木でできていたのだから。と、前を歩いていた菱川が突然ある部屋の前で止まった。

 

「ここが生徒会室です」

 

そう言い菱川は扉をノックした。

 

「マナ?総武高校の生徒会の人達来たよ」

「は~い、どうぞ~」

 

中から了承の声を聞いた菱川は扉を開けて俺たちに入るように促した。さっと入って行った一色に続く形で俺も生徒会室の扉をくぐった。そこで出会ったのは

 

「初めまして!大貝第一中学校生徒会会長の相田マナです!よろしくお願いします!」

 

まさかこいつらとの付き合いがあそこまで長くなるとはこの時の俺は全く思っていなかった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

[スイートプリキュア♪の場合]

 

なんだこれ、どゆこと?

俺はただ車に轢かれかけてた猫を助けただけだったんだが、どういうわけかその白い子猫と黒い猫が俺の腕の仲で喧嘩し始めた。えっ?引っかかれて大変だろうって?いやいやそんな心配はご無用だ。喧嘩は喧嘩でも…

 

「ざまぁないわねハミィ!車に轢かれかけるなんて」

「そういうセイレーンだって轢かれそうになっていたにゃ。お揃いにゃ」

「なにを嬉しそうにしてるのよ!言っとくけど私はあんなの簡単に避けられたわよ」

「でも二人とも助けてもらったんだからそれでいいんじゃないかにゃ?」

「やかましいわ!」

 

これはあれだ、所謂口喧嘩ってやつだな、なんか一方的にふっかけてるだけにも見えるけど…っていやいやいやいや、猫が口喧嘩するわけないだろ、そうだこれは夢だ夢に違いない。きっと猫を助けた時に頭をどこかにぶつけて意識を失ってしまったんだ、きっとそうだ。いやしかし夢の中でまで喧嘩か、しかも猫が。俺どんだけ卑屈なんだよ、動物くらい仲良くてもいいだろうに。

 

「ハミィ~!?どこにいるのぉ~!?」

「っまずい。ハミィ、今度会った時は覚悟しときな!」

 

誰かの声が聞こえた直後黒い方の猫は舌打ちをしどこかへ駆けて行った。なんだったんだ、ほんと俺の夢っておかしなことだらけだな。夢だからいいけど。さて、いつになったら起きれるのかね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「危ないところを助けてくれてありがとうにゃ。ハミィだにゃ、よろしくにゃ」

「あ、おう、よろしく?」

 

猫が自己紹介してきた上によろしくすることになっちゃったよなんだこれ?

 

「あ~!!ハミィ、居たぁ!」

 

と、そこに大きな声をあげてやってきたのは二人の女の子だった。水色のプレザーはどこかで見たことがある。確か小町が色がいいとか言っていた、アリア学園のものだ。二人のうちややおとなしそうな子が一歩前に出てきた。

 

「すみません、その子私たちの猫です。見つけてくれてありがとうございます」

「そうか。まぁあれだ、見つかってよかったな」

 

俺はハミィと名乗ったその猫を俺の腕からややつり目の女の子の腕の中に私ながらハミィに話しかけた。いや、うん。夢とはいえ女子中学生と話すのはハードルが高いから。

 

「ハミィが車に轢かれそうになっていたのを、この人が助けてくれたにゃ」

「轢かれそうにって、飛び出したの!?気をつけろっていつも言ってるでしょ」

 

そう言いながらつり目の子はハミィの頬を引っ張って伸ばしたり押したりと所謂お説教をしていた。ってことはこっちが飼い主か?

 

「ハミィを助けてくれてありがとうございます。私は北条響。」

「南野奏です。その制服、総武高校の生徒さんなんですか?」

「あぁ、まぁ。比企谷八幡だ。別に気にするな。体が勝手にやったことだ」

「本当に助かったにゃ、一瞬どうなるかと思ってたにゃ」

「そう思ったんならもう飼い主のそば離れるなよ」。猫が単独行動を好むってのはわかるけど命には変えられないだろ?なぁ?」

「えっ、まぁ、そうですね。ハミィ、反省しなよ」

「ごめんにゃさい」

「ってあれ?ちょっと待って響!」

「奏?どうしたの?」

「ハミィ、普通にこの人の前でしゃべっちゃってるんだけど…」

「へ?」

「ん?」

「にゃ?」

 

……

 

…………

 

………………

 

「わぁぁあああ!ち、違うんです!これはえぇと!奏、どうしようどうしよう!?」

「おおお、落ち着いて響!とにかくここは、え~と」

「今更焦っても仕方がないにゃ」

「って!あんたのせいでしょうがぁ!」

「ごめんにゃさ~い」

 

いや俺の夢って詳細だなぁ。リアクションまでこんなにリアルとは。まぁペットがしゃべる猫とか隠しておかないと面倒くさそうだしな。ポケ◯ンのしゃべる猫とかあいつで金儲けできるだろって思っちゃうし。

 

と、そこに

 

「ネガトーン!」

 

なんかでかい生き物なのかチャリなのかよくわからないやつが現れた。いや、この夢、いつまで続くんだマジで?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ネガトーンにゃ!」

「こんな時に?」

 

とそこに三人組の男がが現れた。なんというかいかにも怪しい感じの三人だった。なんか黒いマントみたいなのしてるし。

 

「トリオ・ザ・マイナーまで!」

「奏、どうしよう?」

「今は緊急事態だもの。行こう、響!」

「うん!すみません、ハミィをお願いします」

「えっ、あぁ、おう」

 

ハミィを俺に預けた二人は謎の生物と対峙するように前に出た。

 

「あんたたちの思い通りにはさせないから!行くよ、奏」

「うん!」

「「レッツプレイ、プリキュア!モジュレーション!」」

 

謎のアイテムを取り出した二人が魔法の呪文みたいなのを唱えると、二人の姿は変わっていた。ピンクと白の衣装に身を包んだ二人は髪の色までも変わり、まるで別人のようになっていた

 

「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアメロディ!」

「爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!」

「「届け!二人の組曲!スイートプリキュア♪」」

 

この戦いに巻き込まれたことが俺の人生の転機になるだなんて、俺は想像もしていなかった。ただの夢か幻ではなく、全く知らないその現実と俺の知っている現実の歯車は噛み合い、着実に動き始めていた。




最初はこんなだったのか……

自分でも久々に読み返してみましたね

これがあのコラボ小説につながるとは、よくわからん笑


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八幡×龍騎

仮面ライダーはやっぱコラボの定番ですよね!

そんなわけで、リアルタイムで観てたこの作品を

ちょこちょこドラゴンナイトの設定も混じってたりしますけどね


ライダーバトルは続いていた。私は多くのライダーと出会い、助け合うこともあれば戦うこともあった。敗北したライダーは強制的にコアミラーと呼ばれる物質の中にとらわれた。その中には・・・由比ヶ浜さんもいる。彼女は私を助けるために私をかばって・・・私はどうしても許すことができなかった。彼女を倒した、あのライダーを。

 

「雪ノ下さん、ごめんね。ここで君を倒してしまうのは」

「くっ」

 

目の前にはその時のライダー。紫色の体にコブラを思わせるマスク。どういうわけか彼は異常なまでに私に執着している。話を聞いた限りでは以前私に告白して振られたことがあるらしいのだけれど。

 

「大丈夫だよ、ほんのしばしのお別れだ。僕が勝ち残って、君をよみがえらせてあげる。そうしたら僕たちは、永遠に一緒だ」

 

そういいながら彼はバックルからカードを取り出し、彼の専用のカードリーダー、ベノバイザーへ装填した。

 

「ユナイトベント」

 

バイザーから発されたその声とともに彼が契約している3体のモンスターが現れる。そのうちの一体、エビを思わせるモンスター・・・彼が由比ヶ浜さんから奪った・・・そのことがひどく悔しい。そして3体は合体し新たなモンスターへと変化した。

 

「じゃあ、またね」

 

そして彼は引いた。私にとどめを刺すためのカードを。3つのマークが描かれている、彼の最強のカードを。

 

「ファイナルベント」

 

彼との戦闘のダメージが大きい。私はその場から動くことができずにいた。彼は走り込みそのまま私を蹴りで吹き飛ばした。その方向にはあのモンスター。腹の口を大きく広げ私を丸ごと飲み込もうとしてた。空中で体制を整える暇もなく、バイザーも衝撃で手元から離れてしまった。絶体絶命、私はもうどうすることもできなかった。

 

由比ヶ浜さん、ごめんなさい。貴方の仇をうつって約束したはずなのに・・・

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「アドベント」

 

私が待ち受けていた終わりは来なかった。突如現れた別のモンスターに王蛇のモンスターが弾き飛ばされたからだった。誰かが私を助けた?一体誰が?

 

私を助けたモンスターはすぐに目に入った。大きな龍。自らの契約者を守るかのようにその周りを飛んでいる大きな龍。そのライダーには見覚えがあった。鉄仮面のようなマスク、龍の紋章、左手のバイザー。とても見覚えがある。そのライダーもまた私の知り合いが変身したものなのだから。

 

「葉山・・・君?」

「またか・・・またかまたかまたか……葉山隼人ぉお!」

 

彼の姿を見た王蛇が先ほどまでの余裕をなくして叫んだ。

 

「僕は貴様が気に入らなかったんだよ!イケメンでリア充でおまけに雪ノ下さんと幼馴染だと?殺す!殺す!ここで貴様を殺してやる!彼女は君ではなく僕の隣にいるべきなんだ!」

 

攻撃対象を変えた王蛇が彼に向かっていく。その拳を難なく受け止めた彼は反撃した。今までも何度か葉山君が王蛇を止めようとするのは見てきた。しかし元来人の善性を信じる彼は止めようとする気持ちの方が強いため相手を倒すための攻撃をためらうことも多かった。しかし今の彼はいつもと違った。相手を倒すのにためらいがない王蛇はライダーの中でも強かった。それこそ本気で倒そうとしていた私をあしらえるくらいには。でもその王蛇が今押されていた。

 

「本当に・・・葉山君なの?」

 

その声に龍のライダーはこちらを一瞥し、肯定するでも否定するでもなく再び敵を見据えた。バックルからカードを取出しバイザーに装填する。

 

「ファイナルベント」

 

再び現れた龍は彼の周りを飛び回る。ゆっくりと浮上した彼は蹴りを放つ構えを取る。同時に龍から黒い炎が放たれる。王蛇は間一髪それをかわしたがその後ろにいた彼のモンスターはその炎の直撃を受けてしまう。その炎は王蛇のモンスターの足を地面に縫い付けるかのように動きを封じた。動けなくなったモンスターに彼の必殺の蹴りが決まる。その爆発に吹き飛ばされた王蛇が目の前まで転がってくる。しかし彼には変化が起きていた。毒々しい紫色から体は黒く変色し、バックルの中央にあった蛇の紋章も消えていた。それは彼が契約を失ったあかし、ブランク体と呼ばれる姿。今ならやれる。今なら倒せる。

 

「ソードベント」

 

バイザーにカードをセットし専用の武器、ウィングスラッシャーを召喚する。起き上がろうとした彼の前に立つ。

 

「由比ヶ浜さんの、敵・・・」

 

両手で勢いよくウィングスラッシャーを振りおろし王蛇の体を一閃する。すると彼の体は粒子状になり消えていく。少しずつ少しずつその体は消えていき、ついには完全に消えた。彼もまたコアミラーの中に転送されたのだ。カードデッキを残しながら。

 

ようやく果たせた。ずっと倒そうと思っていた相手を倒すことができた。でも私一人の力ではどうにもできなかった。だから、感謝の気持ちは伝えなくてはならないだろう。私は葉山君を探した。

 

見つけた。一人で長い廊下を歩いているその姿を。おそらくミラーワールドから外に出ようとしているのでしょう。その前にお礼を言わなくては・・・

 

「はや「雪ノ下さん!」えっ!?」

 

私の後ろから聞こえた声、それは間違いなく葉山君のものだった。振り向きながらその姿を確認すると鉄仮面のようなマスク、赤い複眼、龍の紋章に腕のバイザー。その姿は間違いなく葉山君の変身するライダー、龍騎のものだった。じゃあさっきの彼は?もう一度確認しようとしたけどそこに彼はもういなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺は一人、手にしたカードデッキを眺めながら物思いにふけっていた。

 

「やっちまったな~」

 

こんなところで作戦が崩壊するとは・・・もともと姿を見せるつもりはなかった。13人のライダー、その最後の二人になるまでは。それまでは姿をかくし、ひそかにモンスターや彼女に危害を加える可能性のあるライダーをつぶす。そういうつもりだったのに・・・

 

「けどまぁ、しょうがねぇよな」

 

幸い自分のことは葉山だと思い込んでくれているようだ。最初あいつのライダーとしての姿を見たときはびっくりしたがな。だってほとんど俺の色違いってだけだったわけだし。まぁあっちの方が正義の味方っぽいからどっちかというと俺が色違いの偽物ポジションだよな~、まぁそれでいいんだけど。

 

俺の願いは決まっている。その願いのためなら俺は頑張れる。やるしかないだろうから。雪ノ下はその優しさゆえに本気でほかのライダーをすべて倒したいとは思っていないだろう。むしろあの紫のライダーに対するものは大切なものを奪われた怒りからくるものだっただけで基本的にはこの戦いを好んでいない。それは葉山も同様だ。それでいい。あいつらはモンスターとだけ戦っていればいい。人知れず人々をモンスターの脅威から守る正義のヒーローはあいつらには似合っているだろう。なら俺はあいつらに知られぬように残るライダーを、見落とされそうな脅威を殲滅するだけだ。

 

そう決めた俺は鏡の中から覗き込んでくる相棒、ドラグブラッカーに目配せし歩き出した。

 

 

 

黒き龍は赤き龍の影であり、影として赤き龍の裏を生きる・・・

 




なお、当初の考えでは最終的に
龍騎=葉山と、リュウガ=八幡のタッグが……って感じでした

いや、流石にもう覚えてないですけどね


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はーちゃんとはーちゃん

まぁ、名前と中の人から来たネタですね、完全に

いやぁ、やってみたかったんですよこれ笑


その日曜日はあまりにも外の天気が気持ちよかったから俺も浮かれていたのだろう。朝割と早めに目が覚めてしまった俺はそのまま二度寝もせずに着替え朝食を食べて外に出た。日曜日に俺が外出しているという異常事態が起きてしまったわけなのだがこれがいけなかったのか奇妙な出会いを経験することとなるとは全く思わなかった。

 

「ねぇ、あそぼ!」

 

突然背後から声が聞こえた俺だが振り返るようなことはしなかった。だって絶対これ振り向いたら俺じゃなかったよ勘違い恥ずかしい~ってなるパターンだからな。更に言えば今のは明らかに子供、正確には少女・・・いや幼女か?まぁどっちでもいいけど、そんな声だ。まず間違いなく俺に話しかけているはずがない。

 

「ねぇ、あそぼうよ!」

 

まだ近くで声がする。なんだよ早く答えてあげろよ、子供を無視するとかかわいそうだろうが・・・ちょっとだけ気になった俺は辺りを見渡してみた。

 

「ん?誰もいなくね?」

 

俺以外周りには特に人影はなかった。そう、声をかけられた人も、声をかけていたはずの人もいなかった。えっ、何それこわい。ついになんが幻聴まで聞こえるようになったの、俺?そんなに人に飢えていたの?

 

「ここだってば!」

「は?」

 

声がしたのは下から。それも普通に考えたらありえないようなところから。さっと視線をそちらに向けてみると、

 

「あっ、やっときづいた!ねぇ、あそぼ!」

 

ピンクの髪に緑の服、背中に羽を生やした手乗りサイズの幼女が膝のあたりで浮かんでいた。中央に花が見えるエメラルド色の瞳をキラキラさせてこっちを見上げていた。て、えっ何これ?

 

 

 

 

とりあえず手のひらに乗せて目線に会う高さまで持ち上げてみる。こんな感じのキャラクターとかでグッズ出したら意外と売れそうだな。由比ヶ浜とか一色とかとりあえずかわいいって連呼してそう。そしてそれを見た雪ノ下がため息をついた挙句俺にあらぬ疑いをかけ始めるんですねわかります。

 

「ねぇ、あそぼうよ!」

「えっ、あっ、おう。いや、その前にちょっと聞いていいか?」

「なぁに?」

「お前、何?」

「はーちゃんだよ!」

「えーと、それが名前か?」

「そーだよ!ゾンビのおにいちゃん、あそぼうよ!」

 

グサァ!

 

なんだろう。悪意がないのはわかってるんだけどすごく刺さる。理由はわからないけどこの声を聞いてるとどこからか悪意を感じる。本人はそんなつもりないはずなのに、不思議だ。

 

「どーしたの?」

「あぁ、いや別に、なんでもない」

「ふーん、ねぇねぇ、おにいちゃんはなんていうの?」

「あー、俺は「はーちゃん!」へっ?」

 

大きな声がしたと思ったら今度は腰回りに衝撃が走った。とっさに抱きとめた俺だったがちゃんと片腕にしておいてもう片方の手でさっとはーちゃんと名乗った彼女を胸ポケットに隠してるあたり俺すごくね?とか思ってしまう。

 

「けーちゃん?」

「そーだよ、はーちゃん!さーちゃん、はーちゃんだよ!」

「けーちゃん、あんまりはしゃがないの」

「よぉ」

「あんた何してんのさこんなとこで?」

「ちょっとな……そっちは?」

「買い物だよ、色々とね。後で家族と合流して食事する感じ」

「そうか」

「けーちゃん、今日は用事あるから遊ぶのはまた今度ね」

「はーい!はーちゃん、またね~!」

 

ブンブンと手を振りながら去っていくけーちゃんと川・・・さーちゃん。ふぅ。とりあえず一安心って感じか。まぁ、けーちゃんのことは今度時間があったときに目一杯遊んであげるとするか。

 

――――――――――――――――――――

 

「ぷはっ、びっくりした~」

「あー、悪かったな急に」

「だいじょうぶ!みつからなかったもーん」

「俺は見つかるどころか自分から声かけてたけどいいのかよ」

「いーんだもーん!」

 

アバウトというか適当というか。何とも言えないなーこりゃ。存在の隠匿とかそういうルールがあるんじゃないのこういうのって。

 

「ねー、ゾンビのおにいちゃん」

「何だ?」

「おにいちゃんもはーちゃんっていうの?」

「えっ、あーまぁなんつーか」

「はーちゃんとおそろいだね!」

「……まぁそうだな」

「はーちゃんとはーちゃん!なかよしだね~!」

「そーだなー」

 

めっちゃ喜んでるんだけど、やべぇ普通にめっちゃかわいい。何このかわいい生き物、すっげー癒されるんですけど。何だこのほんわかとした温かい気持ち。心が浄化されていく気がする。いや、そもそもそこまで汚れてはいないと思うが・・・えっ、目はどうかって?ははは、そんな簡単に治ってくれれば俺としても助かるんですけどね。

しかし本当に何なんだこいつ?人間じゃないのは確かだけど。あれだな、妖精としか言いようがないんだけど。

 

く~

 

「ん?」

 

何だ今の可愛らしい音は?はーちゃんが少し口を尖らせていた。

 

「どした?」

「おなかすいた……はーちゃん、おなかすいちゃった」

「おぉう……えーと何食べられるんだ?」

「うーんと、そらいろのスープとかユニコーンのミルクいりシチューとか」

「ごめん、何それ?」

 

さすが妖精。聞いたこともないようなものを食べている模様。というか普段こいつはどうしてたんだ?普通のものは食べられるのだろうか。

 

「ちょっとここに入って我慢しててくれるか?」

「わかった」

 

とりあえずはーちゃんに再び胸ポケットに入ってもらいコンビニに向かう。ドーナッツ、チョコレート、サンドウィッチ、おにぎり、シュークリームなどとりあえず色々と買ってみる。どれか一つでもいいから口にあってくれればいいんだが。というか何で俺ナチュラルに世話しようとしてるんだ。俺のお兄ちゃんスキルは妖精も対象範囲内なのだろうか。

 

 

 

「わぁ~!」

 

ひとまず近くの公園にあったテーブルに座る。幸い付近にはあまり人はいないため気をつけていれば大丈夫だろう。ポケットから出てきたはーちゃんが目の前に並べられた様々な食べ物に目をキラキラさせていた。

 

「まぁ、どれがいいかわからねぇけど、とりあえず好きなのがあればいいんだが」

「ありがと~!いただきま~す!はむはむ・・・わぁっ、おいしい~」

 

早速サンドウィッチを食べ始めたはーちゃん。すごくいい笑顔で自分の体より大きいサンドウィッチを食べる姿はすごいシュールだ、シュールなんだが・・・やべぇ、超可愛い!

 

その後、俺も一緒に食べたのだがはーちゃんは予想以上に食べる子だった。半分以上は絶対食べてたもの。しかしまぁ最初は何でもいいから口に会えばいいと思っていたんだがそれどころか何でも食べる子だった。なんか人間と妖精では摂る栄養とか違うのかと思ったが同じなのだろうか。

 

「ごちそうさま、はーちゃんありがとう!」

「まぁ気にすんなよ。んで、だ。今更なこと聞くけどよ。お前、どこから何をしにここに来たんだ?」

「わたしはね、みらいとリコとモフルンといっしょにきたの。いっしょにリンクルストーンをさがしてるの」

 

・・・とりあえずわかったことはみらいとりこともふるんというのが知り合いの名前だということと、リンクルストーンというものを探しに来ているということだな。「みらい」と「りこ」は人の名前だろうけど「もふるん」ってなんだ?ペットか何かの名前か?それから「リンクルストーン」って何だ?まぁ妖精がさがしてるってことは、ラノベとかそういうのをもとに考えると多分なんかすごい力を持った宝石みたいなやつか?だとすれば、そもそも何でこいつは一人で行動してるんだ?

 

「お前他の奴ら、その、みらいとかリコとか?そいつらは一緒じゃないのか?」

「ちょうちょおいかけてはぐれちゃった」

「いや、じゃ何で探さないで遊ぼうとしてたんだよ?」

「だって、みらいもリコもあそんでくれないんだもん!」

「構ってもらえなかったってことか?」

 

よーするにあれか、小さい子供とかがよく拗ねちゃって少し目を離したすきにいなくなってしまったってのと同じパターン?まぁ見たところ大分幼いみたいだし、それも仕方のないことなのかもしれない。何だか昔の小町を見ている気分だ。

 

「けどなぁ、多分そいつらすげぇ心配してるぞ」

「ほんとに?」

「まぁな、ソースは俺」

「おソース?どうして?」

「いやそうじゃなくて、まぁ俺も妹がいるからな。年上の気持ちがわかるって感じだ」

「はーちゃんはおにいちゃんなの?」

「まぁな」

「じゃあわたしもはーちゃんをおにいちゃんってよぶ!いいでしょ?」

「えっ?あ~、まぁいいか。そしたら呼び方も一緒にならないしな」

「うん!」

 

―――――――――――――――――――

 

「はーちゃん?はーちゃん?どこぉ?」

「いたら返事して、はーちゃん!」

 

しばらく雑談をしているとどこからか「はーちゃん」を呼ぶ声がする。言うまでもないことだがこれは俺のことではない。俺のことをその呼び方で呼ぶのはけーちゃんだけだからな。そうなると必然・・・

 

「あれってお前のこと探してるんじゃね?」

「みらいとリコだ!」

 

どうやら正解のようだった。とりあえず、これで一安心だろう。だが彼女たちと合流する前に俺は消えたほうがいいかもしれない。はーちゃんは明らかにどこにでもいるような存在ではない。そんな子が二人の女の子によって育てられている。これだけでもう何か秘密があるのは丸わかりだ。というか最近見ている日朝の女の子向けアニメにすごくよく似ている展開だな・・・あれって現実じゃないよね?何はともあれ、こういうことはたいてい秘密にしていることだ。それを見ず知らずの赤の他人、しかも年上の男子高校生に知られてしまったというだけで彼女たちにとっては大きなダメージだろう。なんなら口封じ、本井口止めされるんじゃないだろうか。

 

「お~い、みらい!リコ!はーちゃんここだよ~!」

 

が、時すでに遅し。なぜだか気に入ったらしい俺の胸ポケットに入ったまま、はーちゃんは大きな声で二人を呼んでしまった。あーもうこれは逃げようにも逃げられませんわ。

 

「はーちゃん?どこから・・・」

「あの、ちょっといいか」

「えっ、あ、はい」

「何でしょうか?」

「二人が探してるのって、この子だよね」

「「えっ?」」

 

二人の視線が俺の指さす胸ポケットに集中する。なんだこれ。はーちゃんがいるからおかしくないのはわかっているんだけど普通凝視されないところを凝視されるのってなんだかむずがゆい気がする。

 

「みらい、リコ!さがしてくれてありがとう」

「無事でよかったわ。みらいが目を離しちゃうから」

「ごめんね。さみしくなかった?」

「うぅん!はーちゃんね、おにいちゃんといっしょだったから」

「あ、そうだった!この子を見つけてくれてありがとうございます!私、十六夜リコです」

「私は朝比奈みらいです!本当にありがとうございます、お兄さん」

「まぁ気にするな。偶然見かけた、というか見かけられただけだ。とりあえず合流できてよかったな」

「うん!ありがとう、お兄ちゃん!」

「ん?そういや、そのぬいぐるみは……」

「あ、この子の名前はモフルンです!」

「よろしくモフ!」

「おぉ、よろしく……ん?」

「あっ」

「はわぁ!」

「はー?」

「モフ?」

「今こいつ、しゃべったよな?」

「ああああの!今のは、そう腹話術みたいなので」

「そうそう!別に全然魔法なんて使ってなんかいないんだから!」

「魔法?」

「リコぉ、どうして魔法って言っちゃったの!?」

「あっ!」

「……とりあえず、簡単な説明してくれないか?」

 

 




そして後々大きくなったはーちゃんと八幡が再開してどえらいことに……

って感じのものを昔は考えてましたね
今はよくわかんないですけど笑


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まさにそれは再来と呼べる出来事で(八幡×ラブライブ!)

完全に見切り発車な奴ですね

ラブライブ!とのクロスオーバーは色々見ましたが、
このタイプは初めて、かな?

続く予定はないので、もしこのアイディア貰いたい!って人いたら教えてください。
譲ります笑


演奏が終わったその瞬間、ほんの一瞬だけ訪れた静寂。

 

それは次に訪れた大歓声の前触れに過ぎなかった。

 

会場全体に響き渡った歓声を、きっと俺は忘れることはないだろう。

 

隣を見ると、一緒に来ていた奴らも、飛び上がったり声をあげたりと、会場の興奮に包まれていた。

 

その中で一人だけ、俺と同じように静かにステージを見上げていた彼女がこちらを向く。

 

「やったわね」

「ああ。ほんと、あいつらはすげぇよ」

「そうね。それに、彼女たちを支えて来たあなたも、ね」

「そんな大層なことはしてねぇよ。結局はあいつらの努力の成果だからな」

「もちろん彼女たちの努力の成果よ。でも、そこにはあなたの努力も込められているもの。だから、お疲れ様、比企谷君。平塚先生からの依頼は、もう達成されたみたいね」

 

決して大きな声で話していたわけではなかった。それでも、そう言って微笑む彼女の言葉は、周りの音を超えて、耳に届く。

 

「そうかもな……」

「ええ」

「まぁ、確かに変わったかもしれないな。あいつらと、それにお前らといたから。だから、まぁ、これからも頼むわ」

「ふふっ。ええ、友達ですもの」

「……だな」

 

最後に微笑み、彼女は再びステージを見つめる。俺も視線を戻すと、丁度こちらを向いた少女と目が合う。

 

鮮やかなオレンジを彷彿とさせる彼女は、ウィンクしてピースサインを見せる。それに軽く手をあげ応えると、彼女は他のメンバーと共に観客へ顔を上げる。

 

いよいよ始まるのは最後の曲。彼女たちの積み重ねたものは、今日、終わりを告げる。

 

「それじゃあ、行っくよ〜!」

 

その9人の少女たちは観客へと手をあげる。

 

「「「「「3(スリー)」」」」」

 

「「「「「2(ツー)」」」」」

 

「「「「「1(ワン)」」」」」

 

『———、ミュージック、スタート!』

 

その瞬間、視界が真っ白になった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ん……んぁ?」

 

ボーッとする意識をはっきりさせるために頭を振る。どうやらバスの中で眠ってしまっていたらしい。

 

「随分懐かしい夢だな」

 

先ほどまで見ていた光景を思い出す。そう、あれは高校3年、奉仕部として受けた最も長期的で、最も密度の濃ゆい依頼の話。

 

忘れることはない、なんであの時思ったが、こうして夢にまで見ているのを考えると本当に忘れられない出来事だったらしい。

 

懐かしさに口元が緩むのを自覚しながらも、不思議と引き締める気にはならなかった。まぁ、実際引き締めなくても大した問題はないだろう。

 

今このバスには、自分以外の乗客はいないのだから。

 

 

「しかし、本当に田舎って感じだな……」

 

外を流れる海の景色に目をやりながら、一人呟く。

 

静岡県沼津市内浦。

 

愛すべき千葉を離れ、今日からここが俺の住む場所となる。

 

理由は単純、職場がここだからだ。

 

そう、専業主婦を目指していたはずが、比企谷八幡、現在22歳。バリバリの新人教師として、沼津の学校で教えることとなったのだ。

 

いや、元々は違った。本来は母校であるはずの総武高校で働くはずだったのだ。しかしそれは一本の電話で覆されることとなった。

 

 

 

『はぁ……沼津の高校、ですか?』

『ああ。そこの理事長から是非君に、と連絡があってね。当然こちらとしても急な話だったんだが、相手の強い要望があってね』

 

電話越しでも彼女、平塚先生の声から戸惑っているのがわかる。どうやら本当に急に決まったことらしい、しかし、

 

『なぜ俺に?』

『あまり詳しくは知らないが、君に希望を見出した、と言っていたらしい』

『はい?』

『まぁ、それに関しては学校の資料を受け渡すからそれを見たらわかるだろう。とにかく、明日来てもらってもいいか?』

『……わかりました』

 

 

 

そんなこんなで、何が目的なのかはわからないが、俺は沼津の浦の星女学院の教員としてスカウトされたのだった……

 

それにしても、だ。なぜ女学院の理事長から声がけがあったのかが全くわからない。そもそも希望ってなんだ?

 

ちらりとカバンを見る。そこにはこれから行くことになる学校の資料が入っている。

 

全校生徒を合わせても100人にも満たなくなったその学校は、現在統廃合の危機にさらされているらしい。もって三年の現状に、わざわざ俺のような者を呼ぶなんて……

 

「それにしても、なんだかあの頃を思い出すよな、これ……」

 

そんな学校にわざわざ行く奴は相当な物好きだと思われるかもしれない。ただ、あまりにも自分の中で大きなあの依頼と重なって見えて……

 

「まぁ、何ができるかは知らねぇけど……やってみますか」

 

 

時間を確認するために携帯を取り出すと、何件か連絡が来ていたらしい。

 

『貴方ならいい教師になれるかもしれないわね。とりあえず、余計な問題は起こさないように、ね』

『ヒッキー、頑張ってね。休みが取れたら遊びに行くから』

『先輩が社会人とか想像つかないですけど、頑張ってくださいね』

『頑張ってね。八幡ならいい先生になれると思うよ』

『お兄ちゃん頑張ってね〜。あと、小町的にはお義姉ちゃんができると嬉しいな』

『新任教師ともなれば色々と大変でしょう。特に私のように若手だと、色んな厄介ごとを押し付けられるかもしれませんが、頑張ってください。もし悩みとかがあれば気軽に相談してください』

 

懐かしい総武高校の面々からの励ましのメッセージだった。なんか一つ材なんとかから来てた気もするがまぁいいだろう。

 

「ん?」

 

と、あいつらの他にもメッセージが送られてきているのに気づく。

 

『新しい場所でも、ファイトだよ!』

『応援してるよ♪』

『気を引き締めて、鍛錬を忘れずに』

『沼津でもまた一緒にラーメン食べに行くにゃー』

『休みのときに遊びに行きますね』

『頑張りなさい、比企谷先生』

『にこの活躍、ちゃーんとそっちでもアンテナ張ってなさいよ』

『きっと何かスピリチュアルな出会いがあると思うから、そん時は頑張るんやで』

『今度は生徒を支える立場として、その学校の子たちを導いてあげてね』

 

他にも色々書いてあるが、どうやら祝福と応援をしてくれているらしい。示し合わせたように同じ日に送ってくるとか、仲良しかよ。

 

一先ず全員に対し『ああ』とか、『おう』とか『サンキュー』とか返し、携帯の画面を消す。

 

少しだけテンションが上がった俺は、目的地までずっと窓の外を眺めていた。

 

「♪〜♩」

 

気づかぬうちに、鼻歌が漏れていた。

 

何かの始まりの時、つい思い出すこの曲。

 

思考の海に浸かりながらも、目的地まで鼻歌が止むことはなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夕方。

 

既に春休みということもあって、すれ違う生徒は殆どいない。学長からの説明を受け、4月からに向けての準備を整えるべく、俺は新しい我が家へと向かうのだった。

 

校門を出て坂道を下っていると、小さな影が俺の横を走って通り過ぎる。少しかすっただけだったが、その少女は振り返りながら、声を上げる。

 

「あっ、ぶつかっちゃった!ごめんなさい!」

「いや、別に気にしなくていい。かすっただけだ」

 

律儀に足を止めて礼をしながらの謝罪に、一瞬戸惑うも言葉を返す。安堵の表情を浮かべながら、少女が顔を上げる。

 

「良かった〜。急いでたので、ごめんなさい。あっ!このままじゃ間に合わない!あの、すみませんでしたっ!」

 

もう一度だけ頭を下げて、少女はまた走り出す。

 

何故だろう。

 

顔立ちが似ていたわけでもないのに、その姿に知り合いの姿が重なる。出会い方まで似てた気がする。

 

『ごめ〜ん。ぶつかっちゃった』

『いや、別にいい。大したことない』

『ちょっと急いでたから。あ、もうこんな時間!本当にごめんね!』

 

 

 

「人間性が似てる、のか?」

 

少しだけ懐かしい気分になりながら、俺は帰るためにまた歩き出した。

 

 

この時の出会いが、まさかあんなことにつながるなんて、これっぽっちも想像せずに……

 




……続きませんからね

まぁ間が5年で、3年生になってからの展開と解釈すればこうなれるな、なんて思ったので

まぁでも私、ラブライブ!のアニメはどちらもそこまで詳しくないので、書けないです、はい笑

なので前書きにも言いましたが、このアイディア欲しいとかあれば譲りますよ〜笑笑


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やはり俺の聖なる夜は間違っている(八雪)

ずっと昔に書いた奴ですね〜。

久しぶりに見つけたので、折角だからシェアしちゃいますね笑


クリスマス

 

12月24日と25日あたりがピークになる日本ではおなじみのお祝いの日だ。子供たちはサンタさんに何を頼もうか悩み、大人たちは家族で過ごすために仕事をいかにして早めに切り上げられるかで悩み、恋人たちは愛だのなんだのを確かめ合う。そうでなくともリア充たちはクリスマスパーティーなるものを開くためにわざわざ集まってプレゼントを交換し合うのだ。

 

 

 

だがちょっと待ってほしい。そもそもクリスマスの本当の意味を皆は忘れがちではないのだろうか。クリスマスは本来キリスト教の聖なる日ともされ、キリストの誕生を祝うものである。まぁ実際には誕生日じゃなく、ただキリストのミサがくっついてクリスマスと呼ばれるようになったとのことらしいが。このことを正しく知っている人が少ないように、本来本元の意味を忘れて恋人と過ごすための日と勘違いしている人のなんと多いこと。そもそも海外ではどっちかというとクリスマスは家族で過ごす日で、逆に大晦日に新年を迎えるのが恋人と、という習慣があるらしい。

 

 

 

このようにクリスマスがリア充たちのための日という考え方自体がそもそも間違っているのである。間違えたままそれを覚えているのは学校の勉強にあてはめると公式や単語を間違えて覚えて披露してしまいとんでもない恥をかくことになるのと同義ではないか。グローバルな日本へというのであればこの勘違いはひどく恥ずかしいものではないのだろうか。結論を言おう、クリスマスを恋人同士で過ごそうと考えている愚か者ども、恥を知れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とか考えていたのがなんだか懐かしく感じるな……

 

 

 

「どうしてこうなった……?」

 

「何か不満でもあるのかしら?」

 

「いや、別にそういうわけじゃないんだけどよ」

 

 

 

12月の24日、クリスマスイブの朝。今までなら間違いなく家に引きこもっていたであろう俺はなんと外にいた。外というか、舞浜駅にいた。もうお分かりの人も多いだろうが俺はクリスマスディスティニーをすることになったのだ、何それ超リア充っぷりじゃないですか~。おっと一瞬意識が一色化してしまったぜ、やばいですやばいです本当にやばいです~……気持ち悪いな、俺。

 

そして隣にいるのは知る人ぞ知る総武高校奉仕部部長の雪ノ下雪乃である。白いシャツにチェックのスカート。普段部室で見られる絶対領域は黒いタイツで覆われ、彼女の足の細さと長さを強調し、茶色のブーツに収められている。羽織られている白いコートと首周りの白いファーのネックウォーマーは彼女を美しく彩っている。雪ノ下の本来の肌の白さもあり、雪の精が実在したらこんな感じなのだろうかとさえ思えてくる。

 

が、だ。

 

 

 

「え~と、まぁとりあえず行くか」

 

「えぇ、そうね……」

 

 

 

本来こうなるはずではなかったのである。そもそも高校三年生で大学受験に向かって勉強をしているべき俺がこんな時に外出しているのにもれっきとした理由がある。ことはいくばくか前にさかのぼる。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ヒッキー、今年のクリスマスって空いてる?」

 

 

 

高校最後の文化祭と体育祭も終わり、二年生たちが修学旅行に行っているこの時期。俺たちは奉仕部の部室にいた。当然三年生である俺たちはすでに部活は引退していたが、平塚先生の厚意によって部室を自習室代わりに使わせてもらっている。実際新入部員もいなかったため使う人もいなかったということもあるのだろうが。えっ、小町?無事に合格を果たした小町は現在生徒会に所属している。再び生徒会長として腕を振るっている一色の元、頑張っているようだ。最近は一色にべったりだからな~。お兄ちゃんちょっとさみしいよ。とはいえ一色と一緒にちょくちょく遊びに来ているため実はそうでもないのだが。

 

そんなわけで三人だけの部室だったのだが、雪ノ下が平塚先生と話があると席を外したこの時、由比ヶ浜から声をかけられた。

 

 

 

「ん?あぁ、まぁ一応」

 

 

 

以前の俺だったらあの手この手でその日に何も入らないようにが策しただろう。というか今でもしたと思うが。ただ今の俺は受験勉強にある程度集中していたため何も考えずに返事をしてしまっていた。

 

 

 

「じゃあさ、一緒にディスティニー行こうよ」

 

「はぁ?いや行かないだろ。クソ混んでるし大体受験勉強もあんだろうが」

 

「ほら、去年さ、約束したじゃん……行こうって」

 

「あ?あ~」

 

 

 

そういえばそんなこともありましたね。確かに約束していたな。ランドじゃなくてシーの方ではあったけど。ヤダ私ったら約束を忘れそうになるなんて悪い子ね~、うんまぁ思い出せたからいいんだけど。

 

 

 

「けど、お前大丈夫なのか?そんなに余裕あるわけじゃないと思うんだけど」

 

「一日くらい大丈夫だよ~。今はちゃんとゆきのんにいっぱい教えてもらってるし、前ほど成績も悪くないし~」

 

 

 

まぁ確かにそのとおりである。以前は総武高校七不思議の一つとして考えられていた由比ヶ浜の成績も雪ノ下という最高峰の家庭講師を得ることができたため驚くほど上昇している。もちろん上位陣にまで入るほどというわけではないが、以前とは比べ物にならないほどだ。ちなみに俺もたびたび雪ノ下に教えてもらっているがあいつ結構教えるのうまかったな。すげぇわかりやすかった。おかげで理数系も絶望的からは立ち直ることができたしな。

 

 

 

「まぁ、確かにな」

 

「それにパパが入場券もらってきてくれてね、今年中に使わないといけないからって言ってたから。だから行こうよ~」

 

「まぁ、金もあんましかかんねぇみたいだし、いいけどよ」

 

「ほんと!?じゃあ絶対だからね!」

 

 

 

そんなわけで俺は小町にクリスマスイブはいないと伝え、小町は「お兄ちゃんがクリスマスに外出、しかもデートだなんて。小町嬉しいよぉ」とか言いながらガチで泣き出してしまってマジでビビった。ちなみに両親はそれを聞いたときに母が若干涙目になり、親父に至っては服を買いにつれて行かれた。え~なにこれ親父どうしたの?マジでこんなに喜ばれるとは思っていなかったから割と引いた。まぁ服はありがたくいただいたし今も着ているわけだが。あと金、両親が割といい額のお小遣いをくれた。本当に俺の親かこいつら?成りすましの別人とかじゃないだろうな?

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

で、当日。どうして由比ヶ浜ではなく雪ノ下と一緒にいるのかというとだ。

 

 

 

「で、由比ヶ浜どうだって?」

 

「一応ただの風邪らしいのだけれど、今日病院に行くそうよ。インフルエンザじゃなければいいのだけれど」

 

「というか前日に高熱だすとかマジでついてないな」

 

 

 

そう、由比ヶ浜は病気でお休みということだ。それでチケットがもったいないとのことで雪ノ下に譲ったそうだ。雪ノ下は雪ノ下でさすがに今年は年間パスポートを買っていたわけではなかったためありがたく受け取ることにしたそうな。ちなみにこのことを俺が知らされたのは翌日、待ち合わせ場所の改札口に雪ノ下が現れてからのことである。

 

 

 

っていうかちゃんとそういうことは俺にも連絡してくれない?そしたら今回はなしにしてまた今度とか、来る人が変わることに対して少しばかりの心の準備とかもできたかもしれないのに、マジで。雪ノ下が来たときとか本気でびっくりしたから。いや、まったくもってそんなつもりはないんだけどこれあれだろ、デートの約束をしていたらいきなり相手が違う人来ちゃったよ~ってやつだよね?マジでビビるから次からは是非ともちゃんとした連絡を忘れないようにお願いしたい。まぁ病気で忘れていたんだろうけど、というかそう思いたいです。俺そんなに影薄くないよね?

 

 

 

「まぁ、あれだ。とりあえずちゃんと土産くらいは買って帰るか。チケット譲ってくれたのもあいつだしな」

 

「えぇ、そうね。クリスマスプレゼントも兼ねて、ね」

 

 

 

本来であるならばシーに行く予定だったが、相手が由比ヶ浜でないというのであれば絶叫系がどちらかと言えば多いシーよりもランドの方がいいだろうということで俺たちは二人でランドの門をくぐった。

 

 

 

「相変わらずすげぇ人の数だな」

 

「そうね、さすがだわ」

 

 

 

唯の平日ですら混んでいるディスティニーだ。クリスマスシーズン、それもイブときたものだ。来客の数は去年葉山たちときたときと比べても多いように思える。人ごみに流されるとはぐれそうだな~と考えていると服の袖がわずかな力で引っ張られるのを感じた。満員電車でもよくあることだが、ボタンとかに服が引っ掛かるのってめんどくさいよね、何も悪くないのに申し訳なくなるし、とか考えながら引っ張られる方向を見てみると雪ノ下がそっと俺の服の袖をつまんでいた。

 

 

 

「その、はぐれると、困るから……」

 

「あ……おう……まぁ、そうだな」

 

 

 

そんなに顔を赤らめながらそんなセリフを言うんじゃねぇよ。ドキドキしちゃって本気で血迷っちまうだろうが。ただでさえ白い雪ノ下の肌が赤く染まるのを彼女のまとう白い衣服が強調していた。あらためて、きれいだと思ってしまう。

 

 

 

「その、なんだ。その、きれい、だな。その、今日の格好、似合ってる」

 

「えっ?」

 

 

 

らしくないことを言ったのはわかっている。けど言わずにはいられなかった。これも家に帰ったら思い出して黒歴史になって頭をガンガン壁に打ち付けて小町からうるさいって怒られるようになるんだろうな~、やべぇ見える、私には未来が見えるぞ!

 

 

 

「ぁ、ありがとう。あ、あなたも、その……いいと思うわ」

 

「お、おう」

 

 

 

もともと会話がそんなに得意じゃない俺たちはそれ以来しばらく黙りこんでしまった。自分の顔が赤くなっているのがわかる。さっきまでと比べて大分風が冷たく感じるからだ。ちらりと横目で雪ノ下の様子を見る。若干うつむきながら歩く彼女は、しかしそれでも顔が赤くなっているのは見て取れる。なんだこれ、超恥ずかしいんですけど。ここに由比ヶ浜がいれば少しはこの空気も修正してくれるのだろうか。

 

 

 

無言で俺の行く方向についてくるだけの雪ノ下だったが、それでも俺の服をつまむ指が離れることはなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

まぁ雪ノ下とディスティニーといえば必然行く場所が大体想像がつくわけで、俺が向かったのもまさしくそこだった。

 

 

 

「やっぱり結構並ぶわね」

 

「まぁな、けどまだいいほうだろ」

 

「そうね」

 

 

 

走ったわけではなかったが入ってからすぐに並びに行ったため、パンさんのバンブーファイトのファストパスをすぐに取ることができた。雪ノ下本人も割りと満足そうだったのでとりあえずほかの乗り物ですぐに乗れそうなものを探すことにした。

 

 

 

「なぁ、時間までどうする?」

 

「そうね……このあたりですぐに乗れそうなものがあればいいのだけど」

 

 

 

少し歩きながら周りの様子を見てみる。ふとひとつ並び時間が30分ほどとなっているものを見つける。

 

 

 

「雪ノ下、あれはどうだ?待ち時間30分らしいが」

 

「どんなのかしら?」

 

 

 

カースド・キャッスル、日本語で言えば呪われた城だ。最大三人でひとつの乗り物に乗り、城の中を移動する超ハイテクお化け屋敷だ。今回は時期のこともありクリスマス仕様になっている。去年来た時はどちらかといえばハロウィンよりではないかという結論に至りこなかったアトラクションのひとつだ。

 

 

 

「あれならそんなに距離もないし、終わってすぐ来ればちょうどいいと思うが」

 

「え、えぇ、そうね」

 

 

 

雪ノ下の様子が少しおかしい。何やらカースド・キャッスルの方をちらちらとみては目をそらすことを繰り返している。ってこの反応、前にも見たことがあるぞ。確か去年も同じようなことをしていたような、あと子犬コーナーの前を横切らなければならなかったときとか。まぁつまりあれか。

 

 

 

「お前、ああいうのも苦手なのか?」

 

「その……えぇ、そうね」

 

「あくまで予想だが、これも姉の影響か?」

 

「えぇ、そうよ。基本的には暗めでしょう、だからいろいろと……ね」

 

「あぁ~すげえ想像できるわそれ。あの人がそんな状況で何もしないほうがおかしいまであるな。なら、他を探すか……」

 

「いえ、その、姉と一緒だったから苦手になっただけで。だから、その、比企谷君と一緒なら、何も問題はないと、思うのだけれど……」

 

 

 

最後の方は雪ノ下にしては珍しく小声だったな。なんか由比ヶ浜がよくぽしょぽしょと何か言いにくそうにしているときと似ていたぞ、ヤダ子のこったら結衣ちゃんのことが好きすぎて似てきちゃってるわ、本当に仲がいいのね~。うん、ほんと仲良すぎるんじゃねぇの、最近は一色も混ざって三人でキャッキャウフフとしているから男一人としてはいたたまれないんですけど。

 

 

 

「……まぁせっかく来たんだしな……乗るか」

 

「えぇ、そうね」

 

 

 

並んでいる間俺たちの間に会話はほとんどなかった。よく付き合いたてのカップルがディスティニーに来るとわかれるという話を聞く。その理由として一番有力とされているのが並んでいる時間に会話が続かないということがあるらしい。ソースは小町。昨日なんかそんなことを言った挙句、「お兄ちゃんはただでさえ会話下手なんだから心配だよ~」とか言っていた。いやそもそも俺と由比ヶ浜は付き合ってもいないんですけど、しかも今一緒にいるのは雪ノ下だし。

 

 

 

ちらりと隣に並ぶ雪ノ下の様子を確認する。さっきまでの落ち着かなさはどこへ行ったのかいたって普通になっていた……表面上は。あの雪ノ下、緊張するのはわかるしリベンジに若干燃えるというのもわからなくはないのですけれども先ほどからつままれている俺の腕がですね、若干痛いというかマジで痛いです!痛い痛い痛い!

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

並ぶこと30分、腕の痛みにひっそりと堪えながら並びぬいた俺は今アトラクションに乗り込んだ、乗り込んだのはいいが。これってこんなに狭かったっけ?あれ、この乗り物ってこんなに狭いものなの?三人まで乗れるっていうから広いと思ったけどそうでもないんだけどというか腕と腕が当たるんだけど。

 

 

 

「……」

 

 

 

ほら、雪ノ下とか無言でバー握りしめちゃってるんだけど。すんげぇ顔がこわばってるんだけどこれどうすればいいの。

 

 

 

「あの、比企谷君」

 

「ん?」

 

 

 

ちらちらとこちらを向いては正面を向く目。何か言い出したがっているのはもうわかるのだがこのタイミングで言い出すことと言えば、これが俺の自惚れとかでなければ服の袖でもつかむのだろう。まぁ最近だといつもそんな感じだしもうそれくらいじゃ動じないぜ。さぁ来い雪ノ下!今の俺なら享受できる!

 

 

 

「その……手を握ってもらえないかしら?」

 

 

 

なん……だと……

 

 

 

いやいやいやいや待ってくださいよ雪ノ下さんや。えっ、何それどゆこと?えっ、手ときましたか。袖通り越して手ときましたか。というか女子の手を握るとかいつ以来だよ、小学校のころのフォークダンス……あっ、それはエアでしたね~。ん?小町?それはノーカンに決まってるじゃないですかぁ~、とそうだ思い出した一色だ一色。フリーペーパーのときの一色が多分最後だ。にしても俺のボッチスキルの一つ脳内会合にまで出てくるとかあの後輩俺のこと好きなんじゃねぇの?まぁ俺は俺であいつのこと結構気に入ってるっちゃあ気に入ってるんだけどな。

 

 

 

とか現実逃避してる場合じゃねぇなこれ。にしても百歩譲って手を「握る」のはいいよ。うん多分それなら多分まだ多分大丈夫、多分。どんだけ多分言ってんの俺。まぁそれはそれとして、雪ノ下は今こう言いました。「握って」と。えっ、それってつまり俺から?From me to you?マジで?

 

そんな意味を込めながらちらりと彼女に視線を送ると、彼女は彼女で恥ずかしさをこらえているのか顔が真っ赤になていた。うんまぁどっちかというと怖さを紛らわそうとしているようにも見えるんだけど、というかそっちの方が可能性高かったわ。まぁこんな雪ノ下のお願いを断るのもあれだしな、それにまぁ、別にいやというわけではないしな。

 

 

 

「あ、おう……別にいいけど」

 

 

 

そういって俺は左手で雪ノ下の右手を握った。正確には包み込んだともいえる気がする。それくらい雪ノ下の手は俺の手と比べて細く、小さく、そしてやわらかかった。自分とは違うほのかな温かさを持ち、手のひらから伝わるその感触に自分の鼓動がどんどん加速するのがわかる。

 

 

 

「ふふっ、あなたも暖かいのね」

 

「……お前もな……」

 

 

 

なんだこれ、すげぇ恥ずかしい。

 

 

 

ぶっちゃけ、アトラクションの内容はほとんど覚えてなかった。

 

でも俺はどこか満足していた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「にしてもお前ほんと切り替わり早いな」

 

「何の話かしら?」

 

「……いや別にいいけどよ」

 

 

 

カースド・キャッスルに乗り終えた俺たちは時間もよかったためにすぐにパンさんのバンブーファイトのファストパス列に並んでいた。雪ノ下も先ほどまでの若干疲れていた表情もどこに行ったのかとても晴れやかな表情をしていた。というか

 

 

 

「お前ほんと楽しみにしてるのな?」

 

「えぇずっと好きだったのだから。それに、今は……」

 

「あん?」

 

「……いいえ、なんでもないわ」

 

 

 

大分機嫌がよくなった雪ノ下とそれを少しテンションが上がっている俺。そのおかげなのかはわからないが列がどんどん進んでいるように感じる。体感的な時間としては数分にも満たなかったように感じる。気づけば俺たちはすでに乗り場についていた。

 

 

 

「行きましょうか」

 

「そうだな」

 

 

 

雪ノ下と二人並んで乗り込む。さっきのライドと比べると大分広かったはずだが俺たちは先ほどとあまり変わらない距離で座っていた。気恥ずかしさはあった。けれども不思議と距離を離そうとは思わなかった。

 

 

 

「比企谷君」

 

 

 

呼ばれた方向に顔を向けると、雪ノ下はそっと片手をこちらに伸ばしかけていた。言わんとしていることはわかる。ゆっくりと手を伸ばしてその手を握る。不思議とそこにためらいはなかった。

 

 

 

「……驚いたわ。あなたは拒否すると思ったのだけれど」

 

「まぁ、断る理由もないしな。それより、始まるぞ。このアトラクションでは私語は厳禁なんだろ?」

 

「そうね……それに」

 

 

 

ぎゅっと握られた手に若干の力がこめられる。彼女は微笑んでいた。

 

 

 

私たちは言葉がなくても大丈夫でしょう?

 

 

 

とその目が言っているように感じた。言葉がなくてもわかるというのは傲慢だ。そんなこと絶対にありえない。必ずどこかで齟齬が生まれ、誤解が生まれ、勘違いが生まれ、いつか破綻していくのだろう。けど……

 

 

 

ぎゅっとその手を握り返す。こんなことをしてもきっと何も伝わるはずがない。さっき俺が勝手に解釈したことだって、雪ノ下は本当は考えていたわけではないのかもしれない。それでも、確かにそこにある温かみを感じながら俺は柄にもなく考えていた。

 

 

 

そういう関係を望んだって、いいんじゃないだろうか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

その後も由比ヶ浜と小町のためのクリスマスプレゼントを探しながら俺たちはいろんなアトラクションにも乗った。人気アトラクションであるところのライトニング・マウンテンや海賊の海にも乗ったし、昼のパレードも夜のパレードも見た。というか雪ノ下がパンさんのフロート車が目の前を通った時の写真の撮り具合がかなりガチだったのだが……クリスマス使用になっていたわけだし普段は見られないというのもあるのだろうが、去年来たときは見られなかったのも大きいだろうな。そりゃもうね、携帯の連射機能フル活用でしたわ。

 

 

 

「そろそろだな」

 

「そうね」

 

 

 

そして現在、俺と雪ノ下はディスティニーのゲート付近に来ていた。そろそろ帰ろうと思っていたのもあるが、せっかくなので最後に見ていきたいものがあったからだ。

 

 

 

『Hohoho! Merry Christmas!』

 

 

 

有名なサンタクロースの笑い声から音楽が始まり、そして観客がわき始めた。増え乃なるような音を出しながらいくつもの光が空に舞い上がり、大きな音とともにはじけた。そう、一日の最後を彩るのはディスティニー名物の一つ、スターシャワー・ディスティニー、つまりは花火だ。クリスマスバージョンである今回は赤白緑というクリスマスカラーに加えて星の形に上がる花火が数多く見られる。

 

 

 

「今年のもすげぇな」

 

「そうね……とてもきれいだわ」

 

 

 

二人並びながら花火を見る。周りの観客は隣同士で話していたり、花火を写真や動画に残していたりと大はしゃぎしていたが、俺たちはただそこに並んでいながらも互いに視線も言葉も交えなかった。

 

 

 

気が付くと俺は左手を動かしていた。ゆっくりとではあるが確実にその手を伸ばそうとしていた。そしてあるところで別の柔らかいものを感じそっと手に取った。それがいったいなんだったのかは確認しなかった。けど、それが何かは確信を持っていた。それはすぐに俺の手の中で動き、そっと握り返してきた。

 

 

 

今日だけで何度この感触を感じてきたのだろう。今まで見たどんな星空よりも美しく彩られている幻想的な空と、誰もが自分の生活と離れ純粋に子供のようになれる夢の国。現実とは隔離されたその場は本当にまるで現実のものではないようで、まるで俺が見ている一夜の夢のようで。ただそれでも、俺とつながっているこの手は、そのぬくもりは、その先にいる彼女は夢なんかじゃないのだと、そう実感していた。

 

 

 

そして空には最後の花火が上がり、再び空に静寂が訪れた。

 

 

 

「終わったわね……」

 

「あぁ、そうだな。じゃあ、まぁ、帰るか」

 

「そうね……そうしましょうか」

 

 

 

どんなにきれいな夢だとしても、それはいつかは覚めなくてはいけないもの。今宵の夢はこれでおしまい。帰るか……俺たちの日常へ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

早めに外に出られるようにゲートのすぐ近くにいたおかげか、乗り込んだ電車はそこまで混んではいなかった。それでもさすがに座れるほどはすいていなかったため俺たちは吊革につかまりながら立っていた。

 

 

 

しかし帰ったらまた勉強しなくちゃいけねぇんだよな~。受験も近いから一日って結構でかいし。けど面倒だよな~、やっぱ。よし、明日も休むことにしようそうしよう。あんまし毎日勉強ばっかしててもあれだからな。

 

 

 

「ふぅ」

 

 

 

小さくではあったが雪ノ下がため息をするのが聞こえた。さすがに今日一日歩き回っただけあり、体力のない雪ノ下は大分疲れ切っているようだ。それに由比ヶ浜へのお土産も買って、荷物増えてるしな。

 

 

 

そこまで思考した俺はいつだったか一色にしてやったようにそっとその荷物を雪ノ下の手から取った。不意の行動に驚いたようで雪ノ下が若干きょとんとした顔で首をかしげながらこっちを見た。やめてくださいよそれ、かわいいから。

 

 

 

「いやほら、疲れてるっぽいし」

 

「驚いたわね、あなたが自分からこんなことするなんて。一色さんの教育のおかげかしら?」

 

「かもな……あと、小町な」

 

「ありがとう。素直に甘えさせてもらってもいいかしら?」

 

「まぁ、自分から持ったんだしな。あ~家まで送るか?」

 

「……じゃあ、その……お願いするわね」

 

「……了解」

 

 

 

まぁあれだ。一色のことを送ったこともあるし、よくよく考えたら由比ヶ浜を家の近くまで送ったこともある。うん、そうだ。これは至って普通のことなんだ……なんでこんなにドキドキするんでしょうかね~。

 

 

 

片手は吊革、もう片方は荷物を持っていた俺だったがその腕をそっと握る手があった。言わずもがな雪ノ下の手である。本当に今日の俺もこいつもらしくない。以前ならこんなにもお互いに接触しようとしていただろうか?ここに由比ヶ浜や一色、小町がいたら?あるいは雪ノ下さんがいたとしたならば?葉山や三浦たちがいたら?きっと俺たちはこんな行動をとっていなかっただろう。じゃあ何故俺たちは今こうしているのだろうか。答えは出かかっている気がした。少なくとも俺の方は、きっと俺の考えは間違っていない。ただ、雪ノ下はどうなのだろうか、それはわからなかった。ただ、同じであってほしいと強く願っている自分がいて、自分自身ひどく驚いていた。この考え、いや気持ちは知っている。自分自身を戒めてきたからこそ間違えようがないと思う。

 

 

 

目的の駅につき、改札を出てもなお、雪ノ下の手が俺の腕を話すことはなかったし、俺から振りほどこうともしなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「着いたな」

 

「えぇ」

 

 

 

雪ノ下のマンション前。大分遅くなってしまったが、何事もなくたどり着けたのはよかった。さすがに自転車に二人乗りするのははばかられたため籠に二人の荷物をまとめて入れ、俺が自転車を押し、雪ノ下はその隣を歩く形で帰宅した。

 

 

 

「じゃあ、またな」

 

「比企谷君」

 

 

 

荷物を渡し帰ろうとした俺の背中に雪ノ下が声をかけた。何か言い忘れたことでもあるのかと思い足を止めて振り返ると雪ノ下はネックウォーマーに口元をうずめながらちらりと上目使い気味にこちらをうかがっていた。そしてとんでもない発言をすることとなる。

 

 

 

「その……今日はもう遅いのだし、その……泊まって行かないかしら?」

 

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、現在。俺は雪ノ下の自宅のリビングで紅茶を飲んでいた。疲れを取るのにいいと雪ノ下が進めてきたその紅茶はバニラの香りがするもので、普段部室で入れてくれるものと比べるとホッとする味がした。というか、そうでもしないと落着けなかった。

 

 

 

クリスマスイブ、いやもうすぐクリスマスの日か。自宅で家族と過ごしてきた今までと違い、今いるのは女の子の家。しかもあの雪ノ下雪乃のだ。えっ?なにこれどんなエロゲー?いややったことないからわからないけど、ホントホント、ハチマンウソツカナイ。

 

 

 

「……なぁ、急にどうしたんだ?なんか話でもあったとか?」

 

「そうね、話がある、と言えばそうなのだけれど、その……どう言い出せばいいのかがちょっと……」

 

 

 

最近こうやって言葉に詰まるというか要領を得ない雪ノ下をよく見るようになったと思う。それも、俺と二人でいるときにのみだ。今までの俺のままであるならここで自分を戒めるだろう。余計な期待をするなと。この雪ノ下の変化にしても別に特別な意味はないのだと。そこに理由を見出そうとするのも、変な期待をするのもただの勘違いであって、まったくもって意味のないことなのだと。ただ、俺は……

 

 

 

「その……あなたについて話したいことがあるのだけれど」

 

「奇遇だな」

 

「えっ?」

 

「俺も、お前について話したいことがあった」

 

「そ、そう……なの?」

 

「先に話させてもらってもいいか?」

 

「え、えぇ……どうぞ」

 

「雪ノ下、俺は……俺は……」

 

 

 

これが俺の求めていた本物かどうかはわからない。ただ、俺自身の中で強くなってきたこの気持ちがただの勘違いや病気だとは思えない。欲しているのがわかる。心が、体が、少しくさいかもしれないが魂が、求めているのだろう。今この現状、その先に進むことを。もしかしたら俺の自惚れかもしれない。でも今日一緒に過ごした雪ノ下は今までのどんな時よりも楽しそうで、嬉しそうに見えた。由比ヶ浜にすら見せないような、そんな表情をいくつも見せてくれたように思えた。そんな彼女の一挙手一動が、彼女と交わす一語一句が、何より触れ合った手から感じ取れた彼女のぬくもりが……愛おしいと思えた。

 

 

 

「お前が、好きだ」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

雪ノ下が息をのむのを感じる。彼女が何か言う前に今俺の気持ちをすべて伝えるべく言葉を唯紡ぐ。

 

 

 

「きっと初めて会った時から、どこかお前を特別に感じていた。その生き方に俺はあこがれていたんだと思う」

 

 

 

「ただ、お前だって人間だと気付いた時に失望していた自分もいた。けど、もっと関わっていくうちにそれも変わっていくのが分かった」

 

 

 

「傷つけたくない、なくしたくないと、そう思っていた。いつの間にかお前を本当に大事に感じている俺がいた」

 

 

 

「本物が欲しいというのを最初断られたと思った時は絶望した。その後また一緒にいられると思った時には正直嬉しかった」

 

 

 

「クリスマス会や三浦の依頼、バレンタインのときに感情にさらに変化があった。お前といると鼓動が早くなった、自分が動揺しているのが分かった」

 

 

 

「それが勘違いだと、そんなことないと何度も自分を戒めた。それでも、この気持ちはなくなるどころか大きくなっていった」

 

 

 

「今日一日お前と過ごして、俺はもう認めること以外できなかった」

 

 

 

「俺が、お前のことを、好きだということを」

 

 

 

俺が語る間、雪ノ下の方を極力見ないようにしていた。彼女がいったいどんな反応をするのかが怖かった。自身のこの気持ちを拒絶されてしまったら、俺はどうすればいいのだろうか。これまで通りに、こいつと会うことができるだろうか……

 

 

 

ちらりと雪ノ下の様子をうかがった俺はびっくりした。雪ノ下は静かに泣いていたのだから。口を両手で覆い、声を漏らさずに泣いていたのだから。

 

 

 

「ぁ、悪い……そうだよな……その、なんだ、忘れてくれ」

 

 

 

その涙を拒絶の意と受け取った俺はすぐにその場を立ち去ろうとした。その背中に軽い衝撃を感じた直後、俺に背中から体の正面にかけて二つのの細い腕が巻きつけられていた。雪ノ下が、俺の背中に抱き着いていたのだ。

 

 

 

「好き……私は、比企谷君が……好き」

 

 

 

そう呟くように何度も彼女は繰り返して言った。俺が好きだと。何度も何度も、俺に言い聞かせるように、捻くれて人の好意を素直に受け取れなくなっている俺の心に届くように。何度も何度も、そう繰り返した。

 

 

 

「あなたの捻くれた優しさが好き」

 

 

 

「めんどくさがりのくせにちゃんと仕事をこなす真面目さが好き」

 

 

 

「いつだって私や由比ヶ浜さん、一色さんのことを大切にしてくれるところが好き」

 

 

 

「あなたと交わす一つ一つの会話が好き」

 

 

 

「少ない言葉でも私を理解してくれるところが好き」

 

 

 

「私のことをちゃんと見てくれて、認めてくれるあなたが好き」

 

 

 

「『雪ノ下雪乃』を認めてくれるあなたが好き」

 

 

 

「何よりも、誰よりも、雪ノ下雪乃は比企谷八幡君が、好き」

 

 

 

背中から聞こえるその一つ一つの言葉が心に染み入るように入ってくる。今までに感じたことのないあたたかい気持ちで満たされていくのを感じる。俺は振り返り雪ノ下をそのまま抱きしめた。本当に細くて、力を入れすぎたら壊れてしまいそうで、それでいてあたたかくて柔らかくて、安心できて、満たされる。あぁ、これが、幸福なのだろうか。

 

 

 

「雪ノ下……」

 

「比企谷君……」

 

 

 

どちらともなく名前を呼び、どちらともなく顔を近づける。

 

唇に感じた柔らかさは、今までのどんな雪ノ下よりも鮮明に彼女の存在を俺の中に刻み込んだ。ぼんやりと聞こえるのは時計の音、12回なったその音は、日付が変わったのを教えてくれる。既に12月25日、クリスマスの日。

 

 

 

「メリークリスマス、雪ノ下」

 

「えぇ。メリークリスマス、比企谷君」

 

 

 

今年のクリスマスのプレゼントは、今までで最高のものに間違いないな。そう思いながら俺は再び雪ノ下と口づけをかわした。

 

 

 




みなさんにも素敵なクリスマスでありますように。

メリークリスマス!


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