名探偵の事件簿(ケース・ファイル) -コナンVS金田一少年- (ワニ夫くん)
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1:『序章:工藤新一VS金田一一』/『オープニング』

【いつもの登場人物】


【名探偵コナン】

工藤新一(17):高校生名探偵。
江戸川コナン(7):工藤新一が特殊な薬で子供になった姿。
毛利蘭(17):新一の幼馴染。空手部の女主将。
毛利小五郎(38):毛利探偵事務所の探偵。蘭の父で、元刑事。通称・眠りの小五郎。
灰原哀(7):科学者・宮野志保が薬で子供になった姿。
阿笠博士(52):奇妙な発明をするのが好きな老人。
少年探偵団:コナン、哀のほか、同級生の小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美が属する探偵団。
目暮十三(41):警視庁捜査一課・強行犯捜査三係の警部。
佐藤美和子(28):警視庁捜査一課・強行犯捜査三係の警部補。
高木渉(26):警視庁捜査一課・強行犯捜査三係の巡査部長。


【金田一少年の事件簿】

金田一一(17):金田一耕助の孫。
七瀬美雪(17):金田一一の幼馴染。
明智健悟(28):警視庁捜査一課・特殊犯捜査七係。キャリアで、階級は警視。
剣持勇(48):警視庁捜査一課・特殊犯捜査七係。階級は警部。
佐木竜二(15):金田一の同級生・佐木竜太(故)の弟。
高遠遙一(23):地獄の傀儡師を名乗る犯罪コーディネーター。指名手配中。


【オリジナル・キャラクター(容疑者)】

鬼沢 誠人/おにざわ あきひと(25)
半年前の「雪割荘事件」で逮捕された殺人犯。現在は拘置所。
不動高校ミステリー研究会(推理小説研究部)OB。
極めて穏やかな好青年だが、悲しい動機から事件を起こした。
[容姿]爽やかな青年という感じ。

笠原 和美/かさはら かずみ(25)
鬼沢の幼馴染。
不動高校ミステリー研究会(推理小説研究部)OG。元・鬼沢探偵事務所助手。
ホームズに対するワトソンのように、「笠原和美」の名で小説家として活躍していた。
現在は米花町在住。
[容姿]眼鏡をかけた清純そうな女性。

栗本 翼/くりもと つばさ(25)
不動高校の教師。化学部顧問。陽気な性格。
不動高校ミステリー研究会(推理小説研究部)OB。
米花町在住で、いまは恋仲の和美と同居している。不動高校の教師。
[容姿]少し情けなさそうな外見の若い先生。

松山 美紀/まつやま みき(21)
半年前のミステリーツアーの参加者。
ホームズのような特技を持ち、女ホームズと呼ばれている。
[容姿]髪が長く、ちょっと大人っぽい女子大生探偵。

時任 新奈/ときとう にな(21)
半年前のミステリーツアーの参加者。
とある探偵社に属する、若手エース探偵。
妙な発明品を使って犯人を撃退する、通称「おもちゃ探偵」として名を馳せる。
[容姿]背も低く短髪で、かなり子供っぽい性格。つまり松山と正反対。

深海 十四郎/ふかみ じゅうしろう(24)
半年前のミステリーツアーの参加者。
元・神奈川県警の警察官。しかし、血を見るのが嫌で占い師になる。
占いはまったく当たらないが、警察を辞めた今も行く先々で事件に巻き込まれ、嫌々事件を解決している。
[容姿]着物を着た髪の長い男性で、本業は占い師。目が細い。


【雪割荘事件の被害者】

黒須 宗男/くろむら むねお(故人・享年62):探偵。鬼沢に殺害される。

王 剛/おう つよし(故人・享年60):探偵。元・鬼警部。警察として長年黒須と頻繁に協力していた。鬼沢に殺害される。

※こいつらの容姿は、あくどくて金持ってそうなおっさん。


【今回の事件の被害者】

戸塚 美津子/とづか みつこ(42):ゲーム会社のパート事務員。元黒村探偵事務所経理事務。

本田 秀樹/ほんだ ひでき(58):検察官。ある冤罪事件の主任検事を担当。

亀田 五郎/かめだ ごろう(60):元・警察官で王の部下だった事もある男。

※このへんの容姿は地味に殺される、コナンの目つき悪い人たち。


【その他】

佐山 天成/さやま あまなり(27)
マガデーゲームス社長。今回爆発する建造物「ドームス」を公園に寄贈した人。
両親はマガデーコーポレーションの社長で、二世のボンボン。
[容姿]サラサラの長髪で背丈が高く、人を見下してる感じの嫌な金持ち。そこそこ顔は良い。





【今回の事件に関連する過去の事件】

【雪割荘殺人事件】
半年前、五月ごろに発生。
「若き探偵たちによるミステリーツアー」と題して長野県のコテージ・『雪割荘』に集められた探偵たち。特別ゲストとして連れてこられた熟練の探偵・王剛と黒須宗男の二名が殺害された事件。
高校生探偵・工藤新一が解決、目暮十三警部によって犯人逮捕。犯人の名前は鬼沢誠人。
五年前の「クラウン事件」で逮捕された父・鬼沢誠一が強引な取り調べで逮捕された事を動機とする。

【クラウン事件】
五年前に発生した殺人事件。
玩具屋の老人が川に突き落とされ、殺害された。目撃者によると、ピエロの恰好をして、ナタを持った男が夜中に被害者を川から突き落としていたとの事。
この事件は一時、探偵の黒須宗男によって解決、警察官の黒須宗男によって犯人・鬼沢誠一が逮捕されたとされていたが、鬼沢の死後に冤罪が確定。
真犯人は不明。真相は闇の中になった。

【不動高校化学部殺人事件】
今回の事件の数日前に化学部で発生した殺人事件。
詳細は不明だが、学内の生徒が別の生徒を殺害したという内容らしい。
不動高校の生徒・金田一一が解決、剣持勇警部によって犯人逮捕。

【軽井沢暗号解読ゲーム殺人事件】
『金田一少年の殺人』の事件の事。

【巌窟王殺人事件】
『金田一少年の決死行』の事件の事。雪割荘事件の直後に発生。

ほか、いくつか原作の事件名も引用されるが、ほかの事件は実績として語られる面が多いので、知らなきゃ知らないで良いっす。







【注意】

※プライベッターに投稿したものをそのまま使っています。

※この作品は劇場版コナンのようなストーリーを想定しているので、台本形式です(ただ、普段のコナンの映画の尺に収まるシナリオではないと思います)。
 とはいえ、元々小説を書いていたので、台本形式はしっかりした文法までは把握しておらず、そういう意味では適当です。
 特にト書きの書き方とかは勉強してないです(クズ)。
 場面の意味がわかればいいという感じです。

※ふだんはパロロワを書いています。
 「変身ロワイアル」(◆gry038wOvE)とか「金田一少年の事件簿バトルロワイアル」(◆CKro7V0jEc)とか書きました。
 そっちの方が得意なので、今度小説に直します。
 
※登場人物(特にコナン側)のちょっとした台詞や呼称、「原作と違うんじゃね?」とか「こことここで矛盾してね?」みたいなところがあったら、指摘があれば修正版を作るかもしれません(物語の流れが大きく変わるレベルだと無理ですが)。
 ちなみに、あんまり重きを置いてないので、科学考証・トリック考証に関する指摘は聞こえません。



※時系列については原作からして矛盾しかないのであやふやですが、今回の設定においては、次の通り。

【金田一少年の事件簿】
・半年前の時点で第一期最終回『金田一少年の決死行』直前
・現代の時点では、Rシリーズ最終回『金田一二三誘拐殺人事件』終了後(くらい)

【名探偵コナン】
・半年前の時点で『ジェットコースター殺人事件』より前の話(要するに工藤新一だった頃)
・現代の時点では、現行の94巻~95巻あたり、修学旅行が終わったりしたのかな?みたいな時期(くらい)

【本作の季節】
・事件発生の時期も、11月ごろを想定。半年前にだいたい5月現在である事を想定。
・作中技術は現代に準拠(2018年・スマホなどが普及)。



※金田一は完全に原作設定。アニメは踏襲せず、完全に原作設定です(佐木が2号です)。
 ただ、CVはテレビアニメ版を想定して書きました。

※コナンはある程度原作準拠しつつも、アニメ(劇場版寄り)っぽい設定です。

※一部人物設定(高木刑事の年齢、剣持警部・明智警視の所属等)は、原作で厳密に定められているものではないですが、今作品のみの設定で設定しておきました。
 他にも原作にない設定がちょこちょこ出てきますが、大きく原作から逸脱するものはありません。

※DSソフト版は無視してます。嫌いだから黒歴史扱いにしてるとかじゃなく、あれを踏襲すると書きたい内容にならないので除外してます(というか好きです)。

※淫夢要素はありません。

※光彦は死にません。

※阿笠博士は黒幕じゃないです。変なスイッチも発明しません。

※服部は出ません。

※赤井も出ません。

※キッドもいないです。

※安室さんも出ないです。

※代わりにそいつらの劇場版でのポジションに金田一の民がいます。

※高遠は出ます。







○モノローグ

 

 

コナン「今から遡る事、半年ほど前。江戸川コナンが工藤新一だった頃、『若き探偵』を参加条件とする奇妙なミステリーツアーの手紙が俺たちのもとに届き、俺と蘭はそのツアーに参加した。そして、そこである殺人事件が起きた」

 

コナン「事件そのものは単純。昭和に多くの重大事件を解決した名探偵・黒須宗男(くろすむねお)と、相棒刑事の王剛(おうつよし)が、何者かに殺害された。使われたトリックは今更語るほどでもない古典的なモノだったが、犯人はほとんど手がかりを残さなかったので、犯人の特定は少々難航した」

 

コナン「しかし、俺は誰より先に、その事件の真犯人を、現場にいた警察や『若き名探偵たち』の前で暴く事となった……」

 

コナン「そう、俺……江戸川コナンが、もう一人の名探偵と共に巻き込まれる今回の事件は、工藤新一だった頃から既に始まっていたのかもしれない……」

 

 

 

 

 

 

○回想。半年前、雪割荘ミステリーツアー殺人事件

 

 集合している一同。工藤新一、毛利蘭、目暮警部らがその中にいる。

 

工藤新一「――つまり、以上の証拠から、犯人は鬼沢誠人さん。あなた以外に考えられないんですよ! ……さて。何か、言いたい事はありますか? 鬼沢さん」

 

目暮警部「という話ですが、どうかね。鬼沢さん。何か反論は?」

 

 鬼沢と呼ばれた男は、わなわなと震え、観念したように体の力を抜く。

 

鬼沢誠人「……ありません。あの男を殺したのは、間違いなくこの私です」

 

笠原和美「アキくん、どうして!? ! (何かに気づき)まさか……!!」

 

鬼沢「ああ。……刑事さん。五年前に俺の父……鬼沢誠一は、黒須と王によって、近所の玩具屋の老人を殺した罪を着せられ、殺人犯にされました」

 

新一「……聞いた事があります。ピエロの恰好をした男が玩具屋の老人に襲い掛かり、川に突き落とし死なせた事件……通称、『クラウン事件』。そうか、あなたはその事件の犯人とされている鬼沢誠一の息子だったんですね」

 

鬼沢「ええ。だけど、父が本当は無実である事は、あの日、一緒に病気の母さんのお見舞いに行ったこの俺が誰より知っていた。だから、俺だけはずっと父の無実を訴えてきた。……やがて、俺自身が探偵として、情報を得られるようになって、すべてわかりました。あいつらは、探偵としてのちっぽけなプライドと名誉を守る為に、一度犯人として告発した父を、無理矢理に自白させ、証拠を捏造したんです!」

 

目暮「証拠を捏造!?」

 

鬼沢「ええ。そうやってあいつらは何度も無実の人を強引に犯人にしてきた! ……いつも気の弱い人や怪しい人を狙っていました! 自白強要、証拠捏造、探偵や警察という立場のすべてを使って、声をあげられない人たちの言葉を殺してきたんです! そして……父が獄中にいる間に母は死んだ。父ももう……。俺の貯金じゃ、両親にまともな葬式をあげる事はできませんでした。父は先祖の墓にも、母と同じ墓にも入れてもらえません。平和だった俺の一家はバラバラになったんです。……俺には、どうしてもあいつらを許せなかった!! 俺はもう、失うものなんてない!! でも、何があっても、あいつらは……あいつらだけは……!!」

 

和美「……アキくん……失うものなんてないなんて言わないで……私がいるじゃない!!」

 

鬼沢「ああ……そうだったね、ごめん。和美ちゃん」

 

 容疑者たちは複雑そうな顔でそれを見送る。

 一同の中に、髪を縛った少年。金田一一もまた、奇妙な沈黙を続ける。

 

目暮「気の毒だが、続きは署で聞こう」

 

鬼沢「ええ、刑事さん。……元気でね、和美ちゃん」

 

 去っていく目暮と鬼沢。

 新一を黙って見つめ続ける金田一。

 

金田一「鬼沢さん……」

 

 立ち止まった鬼沢が最後に振り返って言う。

 

鬼沢「そうだ。金田一くん、きみにも迷惑かけたね……本当にごめん」

 

金田一「……いえ」

 

金田一(……鬼沢さん、この事件はまだ終わってないよ。……工藤新一。あんたはこの事に気づいているのか!?)

 

 これは、半年前の出来事である。

 

 

 

 

 

 

○高遠の隠れ家

 

 半年前の『雪割荘ミステリーツアー事件』の資料に目を通す高遠。その顔には笑みがある。

 

高遠「……なるほど、どうやら彼らは既に交わっていたようですね。運命とは、案外誰にも思いもよらないところで繋がっているのかもしれません。――ひとまず、私も彼らの行く末を見届けてみる事にしましょう」

 

 高遠の隠れ家には、数名の名探偵を模した人形が乱雑に置かれていた。

 

 

 

 

 

 

○オープニング

 

♪メイン・テーマ

 

 

 

工藤新一「――俺は高校生探偵、工藤新一。幼馴染で同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、黒ずくめの男の怪しげな取引現場を目撃した! 取引を見るのに夢中になっていた俺は、背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかった! 俺はその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら……」

 

江戸川コナン「体が縮んでしまっていた!! 工藤新一が生きていると奴らにバレたら、また命を狙われ、周りの人間にも被害が及ぶ。阿笠博士の助言で正体を隠す事にした俺は、蘭に名前を聞かれて、咄嗟に『江戸川コナン』と名乗り、奴らの情報を掴むために、父親が探偵をやっている蘭の家に転がり込んだ……」

 

コナン「俺が工藤新一だと知っている人物は、この阿笠博士の他にも何人かいる。とりあえず今回紹介するのは、彼女……灰原哀だ。本名は宮野志保。元々は組織の一員で、俺を子供にした薬、APTX-4869を作った科学者だった。だが、組織に姉の宮野明美を殺された事で、自ら薬を飲んで自殺を図った彼女は、俺のように子供になってしまった」

 

コナン「彼らは少年探偵団。左から、歩美、元太、光彦だ。俺と灰原も一緒にこいつらに巻き込まれる事がある。俺たち二人と違って、彼らはただの子供だが、意外と侮れない仲間たちだぜ!」

 

コナン「それから、博士の発明品……もう知ってるよな? ターボエンジン付きスケボー、蝶ネクタイ型変声器、伸縮サスペンダー、時計型麻酔銃、それにキック力増強シューズ。いま、博士は俺が工藤新一に戻った時の為に、機能を向上した大人用のスケートボードを実験中らしいぜ。でも、俺たちの一番の武器は、やっぱり頭脳(ここ)さ!」

 

コナン「――小さくなっても頭脳は同じ! 迷宮なしの名探偵!」

 

コナン「真実は……いつもひとつ!」

 

 

音が途切れる。

 

 

♪疾走(メインテーマ)

 

 

 

金田一一「~~~っとストップ! ういーっす、俺、金田一ハジメ! 私立不動高校に通う高校二年生。特技はゲーム、カラオケ、大食い! 好きな女の子のタイプは、ちょっとお姉さんっぽい美人! よろしく~」

 

コナン「あ、コラ、俺の余韻を邪魔すんなっ! っていうか、なんだよ、この音とその紹介はっ!」

 

金田一「どぅぁーって、お前の独り言長いんだもん。そんだけじゃ俺たちの事がまったく伝わらないだろ! だいたいー、なーんでお前が先なんだっつーの」

 

コナン「独り言って、おまえ! これは大事な……あ!」

 

七瀬美雪「コホン、埒があかないのではじめちゃんの紹介は私がしますっ! 彼は、不動高校二年生の金田一一。普段はだらしないうえにアホでバカでスケベでほんっとどうしようもないんですが、彼のおじいさんは、なんと戦後最大の難事件と呼ばれた『獄門島殺人事件』を解決したあの金田一耕助なんです! はじめちゃんも、普段はこんなですが、いざ事件に遭遇するとおじいさん譲りのIQ180の頭脳でいつも解決に導いてきました! オペラ座館、背氷村、露西亜館……これまでに解決してきた事件の数なら、はじめちゃんも負けません」

 

美雪「この人たちは、警視庁の剣持警部と明智警視。はじめちゃんが巻き込まれる事件で、何故か一緒にいる刑事さんたちです。あんまり詳しくはないんですが、所属は警視庁捜査一課の特殊強行犯七係という変わった部署で、管轄外の事件や二課が請け負う事件も命令一つで担当しているチームだそう……。目暮警部たちとは同じ捜査一課でも部署の違いで、これまではあまり面識はなかったみたいです」

 

美雪「それから、今回はこの人も……」

 

金田一「地獄の傀儡師、高遠遙一……! 母親の復讐の為に殺人を犯して以来、多くの殺人事件にトリックを提供し、誰かを殺すように促してきた天才犯罪コーディネーター……。これまでに俺が関わった事件で何度も逮捕されているが、脱獄を繰り返して罪を重ねている。今度の事件もお前が絡んでいるのか……? お前が誰かに犯罪を教え込んだのか……? 高遠、お前は俺が必ず刑務所に返してやるッ!」

 

美雪「――そして、私ははじめちゃんの助手の七瀬美雪。はじめちゃんとは幼馴染で、同じ不動高校でミステリー研究会の会長をやっています。……こんな感じでいいかしら? コナンくん」

 

コナン「あ、うん……。大丈夫だよ、美雪お姉ちゃん。……おっと、さて、そろそろ時間だ」

 

金田一「時間? 何の!?」

 

コナン「シメの時間だよっ!」

 

金田一「あ、そうかそうか。悪い悪い、慣れてないもんだからさ」

 

金田一「――米花町と不動山市で起こる凄惨な連続殺人事件。“死神の子”……お前は一体、何故こんな事をする!? この事件は、俺が絶対に暴いてみせる!」

 

金田一「名探偵と呼ばれた、ジッチャンの名にかけて……!」

 

 

 



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2:『探偵たちの日常』

 

 

 

○現在。夜、米花自然公園・本陣広場

 

 米花自然公園を捜査中の剣持警部。『本陣広場』で遺体が発見されたらしく、たくさんの捜査員が群がる。

 

剣持「ったく、非番の時に呼び出されたと思ったらまたコロシかよ……。胸を刺してわざわざ頭も撃つなんて、面倒なコロシ方だな……それで、ガイシャの身元は?」

 

警察A「はっ! 戸塚美津子……職業は、事務員。年齢は四十二歳です」

 

剣持「事務員? どこの事務員だ?」

 

警察A「それが……」

 

 そこへ、目暮警部、佐藤刑事、高木刑事が歩み寄る。

 

目暮「……おーい、待ってくれ、剣持警部」

 

剣持「ん? あんたは確か……目暮警部でしたな」

 

目暮「ああ。これよりこの米花町での事件は我々強行犯捜査三係と、特殊犯捜査七係で合同捜査を執り行うよう指示が出た」

 

剣持「合同捜査? そりゃまたなんで」

 

目暮「上からの指示だよ、理由はわからんがな」

 

剣持「はぁ。まあ、ご苦労な事です。そういう事なら、よろしくお願いします、目暮警部」

 

目暮「ええ、こちらこそ、よろしくお願いします。剣持警部」

 

高木・佐藤「よろしくお願い致します」

 

剣持「……しっかし、このくらいの事件ならそっちに全部任せちまってもよさそうなもんだな。わざわざ呼びつけやがって……」

 

目暮「は?」

 

剣持「ああ、いや、俺は非番だったんですがね。たまたま近くで学生時代の同期と飲み会をしていたせいで、こちらに合流してくれと言われまして。ま、幸い帰りも車だったんで飲んではいませんが」

 

高木「はぁ」

 

剣持「いやあ、てっきり人手不足で呼ばれたのかと思っていたんですがね……この様子だと、いつも通り、上司の気まぐれってやつですよ。……まったく、とんだ災難です」

 

目暮「……あなたの直属の上司というと……やっぱりあの?」

 

剣持「ええ。多分その人ですよ、有名な」

 

目暮「そうか……そりゃ不幸な事だ」

 

剣持「ええ、まったく」

 

 ため息をつく二人。

 

高木「佐藤さん、剣持警部の上司って……?」

 

佐藤「知らないの? 警視庁で最も敵に回してはいけない相手トップ5の一人……いずれ嫌でも会うわよ」

 

高木「……警視庁で最も敵に回してはいけない相手、ですか? ……なんだか会いたくないなぁ」

 

 

 

 

 

 

○翌朝、毛利探偵事務所

 

 

 江戸川コナン、毛利小五郎、毛利蘭が朝食を食べている。

 小五郎が新聞を広げ、社会欄の記事を読んでいる。

 ニュースから映像が流れているが、無視されている。

 

ニュース・レポーター『この米花運動公園に、来週、新たなモニュメントが披露されます。その名も、「ドームス」! 名前の通り、小さなドーム状で、中にはいくつもの遊具が入っています。寄贈者は、あのマガデーグループの子会社・マガデーゲームスやマガデートイズを束ねる若き社長、佐山天成さんです! 今回はそんな佐山社長にお話を伺いました!』

 

ニュース・佐山天成『こんにちは、マガデーゲームス社長の佐山です。このドームスは、子供たちが雨の日でも公園の遊具で遊べるよう設計されました。御覧のように大きさは半径40メートルほど。室内ですが、小さな公園で遊んでいるような感覚で楽しんで頂けたらと思います。子供たちにはきっと、秘密基地のように思えるかもしれませんがね……。天井はスイッチ一つでほら!』

 

 佐山がスイッチを押すと天井が開閉して、ガラス張りの状態になる。

 

ニュース・佐山『晴れの日には、こうしてガラス張りにできますから、青空を楽しむ事も可能です。小さい子が危ない目に遭わないよう、防犯カメラも設置されています』

 

ニュース・レポーター『あの……上の窓は外れたり、落ちたりしないんですか?』

 

ニュース・佐山『ええ、あくまで室内にいる安全さと、外にいるような楽しさを両立させる事がコンセプトです。窓も滅多な事では割れないように特殊な防弾ガラスを使っています。サッカーボールどころか、砲丸をぶつけても壊れません。安全性にはかなり気を使いました。まあ、あとは中に自社の広告を貼るだけで完成ですよ。ははは』

 

ニュース・レポーター『佐山社長、ありがとうございました! ドームスは来週日曜日より一般に解放されるようです。続けて、本日の天気は……』

 

 コナンはご飯を食べている。

 

コナン「蘭姉ちゃん、おかわり!」

 

小五郎「かぁ~っ! 何がドームスだ、そんなニュースはどうでもいいんだよっ! またどっかのガキが事件に首突っ込んで警察の邪魔してやがるじゃねえか! そっちをやれ、そっちを!」

 

蘭「もうお父さん。また新聞読みながらご飯食べて……」

 

小五郎「んー! だが見ろよ蘭、まーた高校生が事件解決だとよ! 近頃この手のニュースがいくらなんでも多すぎるぜ! あの……なんだ、工藤新一とかいうガキに、関西のあの服部平次とかいうガキ! 事件は子供の遊びじゃねえっての! ちなみに、この事件を解決した『高校生探偵』とやらは、本名一切非公開だとよ。スカしやがって!」

 

コナン(今日も朝っぱらからうるせえな……。工藤新一がいなくなって有名になれたと思ったら、また商売敵が登場してご機嫌斜めか……?)

 

蘭「ねえ、お父さん、その新聞見せてっ!」

 

 蘭が新聞を取り上げ、真剣に読み進める。

 記事に書いてあるのは、「私立不動高校にて発生した殺人事件」との事。

 

小五郎「おい蘭。まさかお前、新一が絡んでるとでも思ってんのか? 残念だが、その事件は、その不動高校とかいう学校の生徒が解決したんだとよ」

 

蘭「……先の不動高校の殺人事件、同校の生徒が解決したと複数の情報が寄せられており、警察はそれを事実と発表したが、本人の希望により本名非公開……」

 

小五郎「聞いてんのか? まったく、ガキが軽々しく事件なんぞに首を突っ込みやがって……そういうのは警察や大人の探偵に任せろってんだ、大人の探偵に!」

 

蘭「なんだ……やっぱり新一じゃないのか。まあ、そうよね。あの目立ちたがり屋が本名も明かさずに事件解決なんてするわけないもん」

 

コナン(おいおい、ずっと目立たずやってるっつーの……)

 

 と呆れつつ、コナンもふと思い出す。

 

コナン(ん? 待てよ? 不動高校? 確かその名前どっかで……)

 

コナン「ねえねえ蘭姉ちゃん! その事件って」

 

蘭「もう、コナンくんも! いまは食事中でしょ、事件は後! 食事が先! まったく……」

 

コナン「はぁい……ごめんなさぁい……」

 

小五郎「おいコナン、おめえも毎回毎回事件に首突っ込んでばかりいると、あの新一とかいうガキみたいに嫌味と目立ちたがりと推理オタクが治らなくなるぞ。気ぃつけろよ?」

 

コナン「えへへ……」

 

コナン(ったく、誰が嫌味で目立ちたがりの推理オタクだっての……)

 

小五郎「だいたいなあ、近頃物騒すぎるぜ。ガキが同級生を殺してガキが解決。この事件に出てくる名前、全部少年ABCじゃねえか」

 

コナン(なるほど、結局、読んでもさっぱりってワケね)

 

 と、突然蘭が大きな声を出す。

 

蘭「あ、そうだ、忘れてた! 新一といえば……今日ポストに入ってた!」

 

小五郎「ああ!? 新一がポストに入ってただ?」

 

蘭「違うわよ、なんだか変な手紙がポストに入ってたの。『若き名探偵と、その助手へ』って書いてあって……だから新一にも届けられてると思うんだけど。えっと……どこやったかな……」

 

コナン(俺宛……?)

 

小五郎「ああ? なんで俺宛じゃねえんだよ。探偵宛だろ?」

 

蘭「だって、お父さんは若くないでしょ。あ、ほらこれよ」

 

小五郎「……お? それもそうだな。んー、どれどれ、見せてみろ」

 

 蘭が取り出した手紙をコナンと小五郎が見る。

 

小五郎「招待状。毛利蘭様へ。半年ぶりでございます。この度、若き探偵を集めた極上のミステリーゲームを主催致しました。工藤新一様の助手として、あなたにもぜひミステリーゲームに参加して頂きます。最初のステージは本陣広場……。“死神の子”より」

 

コナン(黒字に白。それにしても変なフォントだな……自作か? それに、これとほとんど同じモノをどこかで見た事があるような……日時も書いてないし、本陣広場なんて聞いた事もない。妙な手紙だ)

 

小五郎「あー、そういや最近脱出ゲームだの謎解きゲームだのが流行ってるんだったか? 道理で俺には招待が来ないワケだ。ガキの遊びに興味はねえからな。だーっはっはっ!」

コナン「ねえ、蘭姉ちゃん。半年ぶりって?」

 

蘭「実は、半年前、確か同じように『若き探偵を集めるミステリーツアー』っていうゲームに新一の付き添いで参加した事があったのよ。でも変ね……あの時私たちを呼んだ鬼沢さんが招待するわけないし。一体、今度は誰がこんなものを届けたのかしら?」

 

 蘭が悩んでいるところで、コナンがふと気づく。

 

コナン(そうだ、思い出した! 若き探偵を集めるミステリーツアー……俺がまだ工藤新一だった時の事件だ!)

 

コナン「ねえ、蘭姉ちゃん! 差出人は!?」

 

蘭「それが、どこにも書いていないみたいで……」

 

コナン「じゃあ、なんか、その時他のミステリーツアーに参加してた人覚えてない? 平次兄ちゃんとかはいないよね?」

 

蘭「うーん、服部くんはあの時招待されてなかったみたいだし、世良ちゃんも……いまよく会う人はいないわね。確か……あっ! そうよ」

 

コナン(そうそう、その通り! そいつを辿れば、何かわかるかもしれねえ!)

 

蘭「さっき新聞に載ってた不動高校よ、どっかで聞いた事あると思ったら、半年前の事件で一緒だった! 七瀬美雪ちゃんと、それから……確か、キンダニくん!」

 

小五郎「キンダニー?」

 

コナン「がくっ」(ずっこける)

 

蘭「え? どうしたのコナンくん」

 

コナン「え、いや……たぶん、それ、金田一一(ハジメ)さんって名前だと思うよ。日本にキンダニなんていう苗字の世帯はないし、ほら、金田一一っていう名前、盾に書くと『金田一一』で『金田二』に見えるでしょ。それでどこかで縦書きされたのを見て、蘭姉ちゃんも勘違いしちゃったのかなーって」

 

コナン(実際、おめー半年前にそっくりそのまま同じ勘違いしてたもんな……)

 

蘭「あっ、そうね、確か金田一くんよ。そういえば、確か名前もコナンくんの言う通り、ハジメだったはずだわ!」

 

小五郎「金田一一……なーんか聞いた事のある名前だな」

 

コナン「ね、じゃあさ、その人たちに連絡とってみたら? もしかしたら同じような手紙が来ているかもしれないよ」

 

小五郎「んー。っつっても、どうせただの悪戯だろ。相手にすんなよ、そんなもん」

 

蘭「そうね、誰かの悪戯かしら。捨てた方が良かったりしてね」

 

コナン(いや……この手紙、どうやらただの悪戯じゃない! あの時と全く同じフォントで書かれている……だが、あの時の犯人は刑務所の中だ。一体、誰が? とにかく、まずはあの時のあの探偵……金田一一だ。半年前にあの事件で出会った、あいつを当たれば、あるいは……)

 

 

 

 

 

 

○回想。半年前、雪割荘

 

 件のミステリーツアーの参加者たちが座っている。

 

工藤「――さて、どうやら我々を呼んだ主催者もまだ準備ができていないようですし、今のうちに自己紹介でもしておきましょうか。これから始まるミステリーゲームのライバルとしてね。ちなみに、私は工藤新一。こっちは幼馴染の毛利蘭です。皆さんも、順にお名前と、それから一言程度の紹介をお願いします」

 

 

黒須宗男「黒須だ。彼は王剛。コンビで探偵をやっている。スペシャルゲストだとか何とかで、今日は若い探偵たちに指導をするよう言われて来ている」

 

王剛「……」

 

工藤(黒須宗男……伝説の名探偵と呼ばれた探偵。強引な捜査や警察との繋がりが指摘されているが、伝説と呼ばれるだけあって解決した事件の数は知れない。黒須探偵事務所で一緒に働いている王は元・鬼警部だ。二人とも金がないと動かない事で有名な探偵だが、一体どうやって呼んだんだ?)

 

 

松山美紀「私は松山美紀よ。何件かの事件を解決した程度だから、有名な高校生名探偵の工藤くんに勝てるかは不安だけど、よろしくね」

 

工藤(松山美紀……いくつもの特技を持つ、『女ホームズ』と呼ばれる女子大生か。何度か新聞にも出ていた。犯罪組織『白のリボン』の壊滅には彼女のちょっとした助言が不可欠だったと言われている……)

 

 

鬼沢誠人「鬼沢誠人です。彼女は幼馴染で助手の笠原和美。二人で探偵事務所を開いて、それなりに事件に関わってます」

 

笠原和美「よろしくお願いします……」

 

工藤(彼は鬼沢探偵事務所の鬼沢探偵。かつては高校生探偵として名を馳せたらしい……俺や蘭みたいなものかもな。助手の和美さんは初めて見るが、メガネをかけていて大人しそうな人だ……確か、この人は本名で小説家もやっているんだっけ)

 

 

時任新奈「時任新奈。一応、短大卒業してすぐに探偵社に勤めたから、探偵としては日が浅いんだ。もう知ってる人もいるけど、ここで多くの同業者と友達になっておきたいな。よろしく! あはは」

 

工藤(時任新奈。私物のミョーな発明品を使って犯人を撃退する事で有名な、通称『おもちゃ探偵』。子供みたいな性格の女だって聞いたが、この様子だとどうやら本当らしいな。とても松山さんと同い年には見えねえし、俺や蘭より年上で成人っていうのも信じがたいぜ)

 

 

深海十四郎「深海十四郎です。探偵というよりは、占い師ですが……よろしくお願いします」

 

工藤(占い師探偵・深海十四郎。本業が占い師で、事件に関わるのを好まないが、どういうわけかいつも必ず事件に遭遇してしまう探偵。……結局、占いより推理が当たると専ら評判だ。そして――)

 

 

金田一一「俺は、不動高校二年生の金田一ハジメっす。キンダニじゃなくて、金田一ね」

 

 蘭を見やり、蘭が少々恥ずかしそうにする。

 

金田一「で、こっちは、幼馴染で同級生の七瀬美雪。松山さん、よろしく!」

 

松山「え……あ、よろしくね、金田一くん」

 

美雪「もう、はじめちゃん! 松山さんにデレデレしない!」

 

黒須「……フンッ、この頭の悪そうなガキがどうして彼らのような名探偵と一緒に呼ばれたのか疑問だな」

 

金田一「ムッ」

 

美雪「……コホン。でも、これでもはじめちゃんは、あの有名な名探偵・金田一耕助の孫なんですよ? これまでにいくつもの難事件を解決してるんです!」

 

黒須「何? じゃあ、こいつがあの、警察の間で有名な……?」

 

工藤「ええ、私も会うのは初めてで気づきませんでしたが、彼こそ、あのオペラ座館の事件や背氷村の事件を解決した、本名非公開の探偵ですよ。よろしく、金田一さん」

 

 金田一に握手を求める新一。

 

金田一「……(嫌そうな顔をする)」

 

 

 

 

 

 

○現代。私立不動高校

 

 

金田一「すかーっ! すかーっ!」

 

 教室に巨大ないびきが響き渡っている。

 いびきの正体は、授業中にも関わらず爆睡している金田一一。

 

七瀬美雪「起きて、起きて、ねえはじめちゃん!」

 

金田一一「むにゃむにゃ……俺の名前は金田一はじめ……幼馴染で同級生の七瀬美雪と遊園地に遊びに行って……むにゃむにゃ……背後から近づいてくる玲香ちゃんと四つのおっぱいに挟まれて……むふふ」

 

美雪「もう、なんて夢見てんのよっ!!」

 

 美雪が怒ってハジメの頭をチョップで叩く。

 

金田一「イデデデデ……痛ってぇ~! 何すんだよ美雪! 嫉妬はみっともないぞ……あれ? 玲香ちゃんは? 玲香ちゃんはどこ~!?」

 

美雪「いつまで寝ぼけてんのよ……!」

 

金田一「寝ぼけてる? ……はっ! なんだよ美雪、今のは夢かよ……折角良い夢見てたってのに起こしやがって……」

 

美雪「もう! それより今、授業中よ! はじめちゃん!」

 

金田一「え? あっ……バカ、それを早く言えよ美雪っ!」

 

美雪「ブースカ寝てたあんたが悪いんでしょうがっ!」

 

金田一「なんだよブースカって。それを言うならグースカだろ! 快獣じゃねえんだから……」

 

 喧嘩する金田一たちの前に、先生が立つ。

 

先生「金田一っ! またお前か……」

 

金田一「げっ、ノモッツァン! え、えっと、ほら、俺、今美雪に殴られたばっかりで、もうそういうのは間に合って……!」

 

 金田一をひっぱたく音が鳴る。大笑いしつつ、方々で噂する同級生たち。

 

同級生A(男子)「なあ、先週の科学部の殺人事件、あいつが解決したって噂あるけど、結局あれマジなのか?」

 

同級生B(男子)「そんなわけないだろ。あいつが……。でもあの学年一美人の七瀬さんがあいつの面倒見てくれてるっていうのは凄えよな」

 

同級生C(女子)「保体の岡部に聞いたけど、あの事件、だいたい警察がやってくれて、キンダニはそこに突っ立ってたなんだって」

 

同級生D(女子)「そりゃキンダニじゃ無理でしょ。立派な名探偵の孫だって聞いたけど、本当におじいさんが偉いだけで本人はあれだもん」

 

同級生E(女子)「おじいさんが凄いって話だけで、毎回色んな噂が立つのよね。まあ、ある意味スゴいけど」

 

 ため息をつく美雪。

 

美雪「もう……本当にはじめちゃんが解決したのに。……でも、普段のあれを見てたら仕方ないか……」

 

金田一「許して、先生!」

 

先生「うるさい、放課後に職員室に来いっ! いいな!?」

 

金田一「……へーい」

 

 

 

 

 

 

○不動高校・職員室

 

 教師が金田一に話をしている。

 

先生「まったく、お前はいつになったら反省を覚えるんだ。成績は赤点スレスレ、スポーツが出来たり、他の特技があったりするわけでもないし、挙句に素行も悪い。出席もギリギリじゃないか。これじゃあ大学進学どころか就職も……いや、進級さえも厳しいぞ」

 

金田一「えへへ、そこをなんとかしてほしいんすけど……」

 

先生「ダメだ。多めに見る事はできん。お前の頑張り次第だな」

 

金田一「ちぇっ!」

 

先生「舌打ちをするな! ……それから、もう一つ言いたい事がある。お前この前の殺人事件に関わってたそうだな?」

 

金田一「……え? いや、でも俺、悪い事は何もしてないっすよ」

 

先生「それはわかってる。だが、生徒の間ではなんでもお前が解決したっていう話が飛び交ってるそうじゃないか。俺もあんまり詳しくは訊けてないんだが、あれはまさかお前が自分で流した噂じゃないだろうな?」

 

金田一「え、そんな」

 

 そんなとき、近くの白衣の教師が横から口を挟んだ。彼の名前は、栗本翼。

 

栗本翼「あの……すみません。口を挟むようで悪いんですけど、先週の化学部の件でしたら、解決したのは、ほんとうに彼なんですよ」

 

先生「栗本先生! そんな冗談を。こいつがあの事件をなんて……」

 

金田一「そうっすよ、栗本先生、それ言わない約束……!」

 

栗本「いいじゃないか、それが真実なんだから。あの事件に立ち会って、君の凄さは他人に伝えたいくらい見せてもらったつもりだしね。他にも、きみの活躍は色々聞いてるよ」

 

金田一「……ったくもう、おしゃべりな人がいるんだよな」

 

先生「まさか、本当にこいつが……?」

 

栗本「ええ、まあ、そういうわけなんです。もしかすると、彼にも出来る事があると言えるかもしれませんよ。すぐに、新たな東の高校生探偵と呼ばれる時が来るかも……」

 

金田一「冗談きついよ、栗本先生。そんなの絶対やだね。そんな事して、どれだけ恨みを買うかわかんねーし、命がいくつあっても足りねえじゃん」

 

先生「コホン。あー……まあ、そういう事なら、とにかく今日は良い。栗本先生はああいうが、たかだか一度まぐれで事件を解決したからといって、お前にそれ以上、事件解決なんて真似は無理だ。くれぐれも、勘違いしないようにな! それに、加害者にもなるなよ! それじゃあ帰って良いぞ」

 

金田一「へいへーい。わかりましたよ。さよなら、先生。また明日」

 

金田一(べろべろばー)

 

栗本「――あ、そうだ。金田一くん! ちょっと。近々、俺の方から面白い報告をする事になると思うから、ちょっと楽しみにしててくれよ」

 

金田一「え? 面白い報告? ああ、もしかして、……その薬指のリングの事っすか?」

 

 金田一が笑って去る。

 

栗本「……やれやれ、なんでもお見通しか」

 

 栗本の左手の薬指には、金色の指輪がはまっていた。

 

 

 



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3:『容疑者』

 

 

 

○不動山市

 

 コナンと蘭が並んで歩いている。放課後らしい。

 

蘭「……不動高校、思ったよりも近くにあったのね。電車で三十分くらいだなんて。これならもっと早く会いに行ってみても良かったかな」

 

コナン「まあ、東京は狭いからね。その代わり、人も多いけど」

 

蘭「ところで、コナンくん。なんでコナンくんもついてきたの?」

 

コナン「うん。金田一耕助の孫なんて、どんな人かちょっと気になったから……」

 

蘭「そっか。うん、結構、面白い人だったし、コナンくんとは気が合うかもね。楽しみにしててね、コナンくん」

 

コナン「えへへ、楽しみだなー」

 

コナン(とは言っても……半年前に俺も会ってるけどな。もう一度、会ってみたいというのも事実だが……この姿じゃ、思い出話の一つもできねえか)

 

 走っている覆面パトカーを横目にするコナン。

 

コナン(しっかし、やけにパトカーが多いな今日は。何かあったのか?)

 

 

 

 

 

 

○放課後、不動高校

 

 

 廊下を歩いている金田一と美雪。

 職員室からの帰りに話している。

 

金田一「……え? 手紙? そういえば、なんかそのようなものが家のポストにそんなもんが入ってたような……入ってなかったような」

 

美雪「え、今日の朝起こしに行った時に、私の手でちゃんと渡したでしょ! あの変な手紙よ!」

 

金田一「んな事言ったって、俺昨日寝たの三時半だぜ? あんな時間に起こされたって夢と現実の区別つかねえよ」

 

美雪「あれ以上のんびり寝てたら遅刻でしょっ!」

 

金田一「そんな、一度や二度の遅刻くらいで……」

 

美雪「一度や二度じゃないでしょ! 今月に入ってから何度目よ! もうっ!」

 

金田一「……ん?(窓を見る)」

 

美雪「? どうしたの、はじめちゃん?」

 

金田一「なあ、美雪、あそこの女の人、どっかで見た事ないか?」

 

 廊下の窓から見える校庭を指さす。美雪が目を細める。

 そこには、蘭とコナンがいる。

 

美雪「よく見えるわねー」

 

金田一「……ほら、あそこの他所の制服の」

 

美雪「あら、ほんと。どこの高校かしら。小学生の男の子と一緒みたいね」

 

金田一「うーん。なーんか、どっかで見た事あんだよな、あの美人。……なあ、美雪。そういえば前にも似たようなミステリーゲームだかツアーだかの手紙が来た事なかったか?」

美雪「確かにあるけど、えーーーっと……どの?」

 

金田一「今回と同じ、若い探偵をナントカってやつだよ。……そうだよ! あの人は、その時俺たちみたいに犯人に招かれていた毛利蘭さんだ!」

 

美雪「あ、思い出したわ! 空手でインターハイの出場した……私もちょっとだけ教わったのよね」

 

金田一「ああっ! 道理でさっき俺を起こした一撃も痛ぇわけだ!」

 

美雪「……でも、蘭さん。急にどうしたのかしら」

 

金田一「ん。……もしかすると、あの人も、俺たちと同じく、ミステリーツアーの招待状を貰ったのかもな」

 

美雪「え? そんな事でわざわざ?」

 

金田一「ああ、タイミングからすると、たぶんそうだよ。人を呼ぶにしては日付も書いてない……なんだか妙な手紙だったし、半年前にほとんど同じ手紙があって事件に巻き込まれただろ? それで今回、また呼び出されるなんて、まるで嫌がらせだぜ。あの時の犯人が捕まってるのに、またこうして手紙が来るなんて妙じゃないか?」

 

美雪「それもそうね。それでも、わざわざやってきてくれるなんて。帝丹高校って案外近所だったのかしら」

 

金田一「……まあ、そんな事より、あそこの子供……なんか違和感あんだよな。ただの子供にしては、なんつーか……」

 

美雪「? ただの可愛い男の子じゃない」

 

金田一「……そうかな」

 

 コナン、ふと上を見上げる。

 窓から覗く金田一と視線が重なる。

 

コナン(金田一、一……!)

 

金田一「……それに、なんだか、見た事あるような」

 

 金田一、思いはせる。

 

 

 

 

 

 

○回想、雪割荘

 

 半年前。外は土砂降りの雨。

 最初の一人の被害者が出た部屋で、推理を行う鬼沢。呼ばれている探偵は、松山美紀、時任新奈、深海十四郎、そして黒須宗男。金田一、新一、美雪、蘭、和美もいる。

 玄関から王の部屋までがびしょ濡れで、その部屋の中で王は撲殺死体となっていた。

 

鬼沢「――そう、犯人は、おそらくこの部屋に招かれた後で、衝動的に王さんを殺害したんです! 実際、ここにいる皆さんは、黒須さんを除いて誰も王さんとの接点はないでしょう? そして、決定的なアリバイのある黒須さんは犯人ではない」

 

鬼沢「この現場の状況を見たところ、ずぶぬれで雪割荘に戻ってきた犯人に、王さんは親切心から、『玄関から近いこの部屋の風呂を使ってくれ』とでも声をかけたんでしょう。……しかし、それが仇となって犯人に侵入されてしまった。そのすぐあとに、犯人と王さんの間には何かのトラブルがあって、王さんは衝動的に撲殺された」

 

鬼沢「犯人はレインコートを着ていたので、返り血はすべて偶然、そのレインコートに付着する。ひとまず、血痕のほかに指紋やDNAのついているレインコートを処分しなければならないが、事が終わってから警察が調べたら、誰に支給されたレインコートが隠滅されているのかわかってしまう。そこで、犯人は全員分のレインコートを盗み、後から処分した……そんなところでしょう」

 

新一「おい、それは違っ……」

 

金田一「――それは違うよ」

 

 新一と鬼沢が同時に金田一を見る。

 

鬼沢「どうしてそう言い切れるんだい? 金田一くん」

 

金田一「簡単だよ。今回の事件は、明らかに計画的な犯行だ。鬼沢さん、残念だけどあんたの推理にはかなり穴があるぜ」

 

時任新奈「彼の推理に穴が? どういう事?」

 

新一「……」

 

鬼沢「聞かせてもらおうか、金田一くん」

 

金田一「まず、いくら、雨で濡れていてすぐに風呂に入りたいからって、膝下まである長いレインコートを着てこの部屋まで歩いてくるなんて、無理があるよ。玄関にはハンガーや、誰も使っていないコートかけだってあったんだから、いくら近くても流石にレインコートはそっちにかけてからここに上がって来るのが自然じゃないかな」

 

松山美紀「あ、それもそうね! あたしもレインコートはすぐに玄関でかけたわ! さっきまで泥だらけのレインコートがいっぱいあったし」

 

時任「でも、それくらいの距離なら、あたしは歩くかもしれないな。玄関から部屋まで二メートルくらいだし、面倒に思うかも!」

 

金田一「そうかい? ……でも、王さんの部屋を見ると、着替えには一切手を付けられていないんだ。レインコートを着てたって、あの嵐だったらびしょ濡れになる。犯人がびしょ濡れのままこの部屋から出た形跡はないし、まさか裸で自分の部屋に帰ったり、死体と一緒に乾くのを待ってたりなんてするはずもない。勿論、玄関から直行している以上、着替えを持って上がったとは考えにくい。犯人は、おそらく、この部屋で王さんを殺害した後で、犯人が外から玄関から上がってきたように見せかけたんだ!」

 

時任「そ、それじゃあ、金田一くんには今回の事件の犯人は見当がついているの?」

 

金田一「いや……そこまではまだわからない。でも、これだけは言える! 王さんが殺されたのは、もっと周到に計画された殺人によるものだ!」

 

 一同、圧倒されて少し沈黙する。

 少し悔しそうに、鬼沢が口を開く。

 

鬼沢「……。なるほど。さすがは金田一くんだ、まったく見事だよ。完敗だ。すっかり言い任されてしまったけど、不動高校・推理小説研究部のOBとしては、鼻が高いな」

 

和美「アキくん……」

 

鬼沢「どうやら、俺はまったく的外れな推理をしてしまったらしい。疲れているのかもな。和美ちゃん、もう一度捜査し直そうか」

 

和美「あ、うん……そうしよう、鬼……沢くん」

 

工藤「……」

 

深海「それじゃあ、私も部屋に帰りますよ。皆さんの運命を占う為にね……当たるかはわかりませんけど」

 

黒須宗男「わ、私も部屋に戻る! だが、いいか? 何があっても私の部屋を開けるなよ! 絶対だぞっ!」

 

松山「私も、この中にそんな殺人鬼がいるかもしれないのに一緒にはいられないわ。自分の部屋に戻るから、夕ご飯の時間になったら呼んで頂戴」

 

時任「……バイバイ」

 

 早々に部屋から去っていく周囲を金田一が見送る。新一はそんな金田一を興味深そうに見つめる。

 

 

 

 

 

 

○回想、雪割荘

 

 

 自動販売機の設置されたロビーで、金田一は思案気にジュースを握っている。ずっと何かを考えて一人になっていたらしい。

 そんな彼の隣に、新一が座る。

 

新一「よっ、名探偵の孫。なかなかの名推理じゃねえか」

 

金田一「あんたは確か……工藤新一?」

 

新一「ああ、まさか、折角の推理をあんたに取られちまうとはな……。まあ、推理は早い者勝ち。今回は俺の負けだぜ」

 

金田一「そんなもん関係ねえよ。ああして人が死んだ以上、誰が先に推理しようが、結局は真実にたどり着かないといけない。鬼沢さんの推理はちょっと無理があった。だから、それに気づいてああ言っただけさ。……でもなー、その結論がまだわかんねえんだよな……どうしてあの人はあの時、とか、あの状況でこれは……とか。うーん……」

 

 金田一が髪を搔き始める。その様子を見て新一が笑う。

 

新一「ふっ。なるほど。真実はいつも一つ……だから、推理には勝ちも負けも関係ないってわけか」

 

金田一「そんな大層な話じゃないけどね。でも、それにしちゃ、アンタも目立ちたがってるの見え見えだぜ。今話題の高校生探偵、工藤新一だろ」

 

新一「お、俺の事知ってんのか?」

 

金田一「そりゃあ、さすがにアンタは有名すぎるからね。高校生探偵とか言って、新聞に出て変なポーズなんか決めてさ。うちの部室でも何度か見たよ」

 

新一「誰が変なポーズだよ。……でも、俺もあんたの事は警察の噂で知ってたぜ! なんでも、ついこの前の怪盗紳士の窃盗事件や、露西亜館の殺人事件を解決したのも、本当はあんただって言うじゃん!」

 

金田一「……まあ、一応ね。あんたみたいに、わざわざテレビや新聞に出て目立つつもりはないけど」

 

 新一はふと、見上げる。

 

新一「でもな……俺はこう思うぜ! 探偵はそこに存在して、真実を明かし続ける事で、犯罪を止める力になれる。……こうしてこの現実にもホームズみたいな探偵がいるんだ。だから、どんな犯罪を起こそうとしても、どんな嘘を通そうとしても、真実は必ず見抜かれる。隠す事はできない。そんな事を、悪い奴らに示してやる一番手っ取り早い方法が……」

 

金田一「ユーメージンってわけね」

 

新一「そーゆー事♪ だから、どんな事件だって迷宮入りにはさせねえ。最後に絶対バレるとわかってもらえれば、犯罪なんて最初しない。そうだろ?」

 

金田一「そうか? ……殺人っていうのは、本当に止むに止まれない人間の、最後の手段だと思うけどな。それに、悪いけど俺には、あんたはただ気取ってるようにしか見えないね!」

 

新一「……ふっ、まあないってワケじゃないんだよな! ホームズみたいな名探偵に憧れちまうのも俺の宿命さ。なんだかんだ言っても、難事件であればあるほどワクワクしちまうんだ。あんただってそうだろ? ほんとは名探偵の血が騒がないか? 探偵って一度やったらやめられねーだろ!? な、金田一!」

 

金田一「さあね。……俺には、理解できねーよ。そこらへんは、どうぞ、ご勝手に」

 

新一「……。なんつーか、おめー、案外嫌な奴だな」

 

金田一「あんたにだけは言われたくねぇよ。どっかの誰かさんに、ホンットそっくりな奴だね」

 

新一「? どっかの誰か?」

 

金田一「――で、それはそれとして、工藤。あんたはこの事件、どう思ってる?」

 

新一「え?」

 

金田一「犯人の動機は、一体なんだと思う? わざわざあんたや黒須さんみたいな有名な探偵を招いて、その中で元警察の王さんを殺したのか……。強い動機があるような気がしてならないんだ。俺も色んな事件に巻き込まれてきたけど、今回の事件にはなんだか……自分自身の罪を誰かに暴いてほしいような、そんな葛藤があるように思えてならない……」

 

新一「……それは俺もまだわからねえな。殺人犯の気持ちなんて、納得できねえし、したくもねえよ。犯人はただ俺たちに挑戦したい愉快犯かもしれないだろ」

 

金田一「……」

 

新一「何より、やっぱり許せねえんだ……俺があこがれ続けた『名探偵』っていう称号を、血みどろに汚しちまう、この事件の犯人が! この事件の真犯人は、……間違いなく、俺たち探偵役の中にいる!」

 

 

 

 

 

 

○現代に戻る。警視庁、米花自然公園殺人事件対策本部

 

 

 明智警視が大勢の捜査官の前に立っている。

 

明智健悟「――これより、米花自然公園殺人事件合同対策本部の指揮を執る事になった、明智健悟です」

 

 捜査官たちが各所で噂をし始める。

 高木刑事は隣の佐藤刑事に耳打ちしている。

 

高木「あ、あれが……剣持警部の上司っすか? なんだか随分若いような」

 

佐藤「明智健悟。東大法学部卒のキャリア警視よ」

 

高木「えっ!? あれ東大っすか!?」

 

佐藤「それだけじゃないわ。都内屈指の名門校・秀央高校で学年トップを取り続けた真正の天才。文武両道で、何をやらせてみてもプロ級のスーパー超人だそうよ。婦警の間でも人気が高いけど…私は性格のイヤミが強すぎて好みじゃないわね」

 

高木「佐藤さん……」

 

明智「高木巡査部長、佐藤警部補。人の噂話で親睦を深めるのは後にしてもらえますか」

 

佐藤・高木「は……はいっ!」(立ち上がる)

 

明智「……では、立ち上がったついでに高木巡査部長。事件の報告をお願いできますか」

 

高木「あっ……えーと……被害者は、戸塚美津子。職業は、ゲーム会社『マガデーゲームス』の事務員。三ヶ月前に就職したパート社員のようです……。年齢は四十二歳。独身、結婚歴もありません」

 

高木「死因は、刃物で胸を刺された事による刺殺。その後、どういうわけか頭部に一発、銃撃した痕が残っています。そちらの銃は、S&W M66と思われます」

 

高木「死亡推定時刻は、昨日午後十一時から十二時の間。公園は夜間にゲートを閉めてましたが、入ろうと思えば入れない事もないようです。ちなみに、血痕の様子から、現場は米花自然公園内の広場の付近で間違いありません。今のところ、犯人らしき目撃情報はナシ」

 

剣持「すみません。高木くんの意見に捕捉いたします。えー、この戸塚美津子氏ですが、半年前は、『黒須探偵事務所』の事務員をやっとったようです。この事務所の経営者である黒須宗男、王剛は、半年前、とある事件で殺害されており、それにより事務所が倒産。職を失っていたところで、マガデーゲームスに準社員として就職したとの事。念のため、半年前に発生した、この通称『雪割荘事件』との関連も念のために調べております」

 

明智「わかりました。高木巡査部長、佐藤警部補は着席して構いません。……では、剣持警部、雪割荘事件についての報告をお願いします」

 

 目暮、手を挙げる。

 

目暮「あ、その事件ならば私が!」

 

明智「何を言ってるんですか、目暮警部。私は剣持警部に聞いているんです」

 

目暮「は、はい……?」

 

明智「剣持くん、報告を」

 

剣持「え、あ、はいっ……えー、なんといいますか、雪割荘事件は、半年前に私の友人が巻き込まれた事件でして、そのー……確か、死体がバラバラだったやつかと」

 

 剣持が曖昧な知識を見せたため、場が冷える。

 

明智「……ふぅ、要するに、あなたは雪割荘事件についてはあまり具体的に把握できていないわけですね」

 

剣持「は、はあ。すみません。何分、昨日の今日でして。当時目暮警部が事件を担当したとの事だったので、私の方からは調査はあまり進めておりません。も、申し訳ありません……」(その場で屈辱そうに頭を下げる)

 

明智「構いませんよ。現状の情報共有具合は、今のあなたの回答で把握できました。要するに、こちらで掛け合ってわざわざ合同捜査をさせてはみたものの、あなた方はまだ結束や情報共有には至っていないと。……それでは、雪割荘事件については、代わりに私の方から説明させていただきましょう。着席してください、剣持警部」

 

剣持「は、はい……。……ぐぅぅ……この野郎……絶対いつかぶん投げてやる……」

 

目暮(まったく、噂通り嫌味な奴だな……剣持警部の気苦労が計り知れんよ)

 

 目暮が剣持の姿を横目に呆れ気味に言う。

 

明智「雪割荘事件。長野県にある雪割荘にて発生した二件の殺人事件です。殺害されたのは、王剛、黒須宗男の二名。それぞれ撲殺、刺殺。犯人の名前は、鬼沢誠人。当時二十四歳。現在も服役中。動機は、怨恨によるものです。以上の事件は、高校生探偵の工藤新一によって暴かれ、ここにいる目暮十三警部によって逮捕された。間違いないですね、目暮警部」

 

目暮「は、はい。間違いありません!」

 

明智「――ところで、目暮警部。資料を見るに、あなたはこの工藤という少年をよほど頼っていたようですね」

 

目暮「は? はぁ……確かに工藤くんはかなり頼りにしてましたが」

 

明智「同じ警察組織としては、あまり関心はしません。民間人の少年を巻き込み、あまつさえ先を越されるなどとは。……これは、うちの剣持警部も同様ですが」

 

目暮「はぁ……面目ない」

 

剣持(あんたもだろ……)

 

明智「尤も、とうの工藤新一はこの頃姿を現さず。どこにいるのか、行方は知れず……。生存はしているようですが、いつまでも頼るわけにはいかなかったというわけです。不甲斐ない我々のメシアは、一体いまどこへいるのやら……。私には案外、見えないだけで近くにいるような気がしてなりませんがね」

 

女性捜査官「かっこいい……!」

 

女性捜査官「あれが噂の明智サマの華麗なるポエムよ……!」

 

目暮(くっ、嫌味な上に、なんてキザな奴だこいつ……!)

 

 その時、突然、ドアが開く。千葉刑事が現れる。

 

千葉刑事「――すみません! 会議中のところ、失礼します! 緊急の情報です!」

 

目暮「なんだね、千葉くん!」

 

千葉「たった今、米花駅の監視カメラの映像や、公園内に落ちていたナイフの指紋から、本件の容疑者が一名浮かび上がりました!」

 

目暮「何ぃっ!? それは本当かね?」

 

千葉「ええ、どうやら半年前の事件の容疑者の一人で……」

 

剣持「そいつの名は!?」

 

千葉「容疑者は、少年です! 現在、私立不動高校に通う二年生……」

 

剣持「不動高校? まさか……!」

 

千葉「容疑者の名前は、金田一一!」

 

 モニターに金田一の生徒手帳の写真やパーソナルデータが映り、警察官たちがざわめく。

 剣持は思わず立ち上がる。

 

剣持「またあいつかよ~っ! 何回殺人犯にされりゃ気が済むんだ!」

 

明智「……やれやれ、どうやらもう一人の高校生探偵の方も、我々警察が頼るべきではなかったようですね」

 

 

 



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4:『怪しい少年』

 

 

 

○ミステリー研究会部室

 

 

 座っているのは、金田一一、七瀬美雪、江戸川コナン、毛利蘭。

 部としては休みの日だったが、とりあえずコナンと蘭を招いたのだ。

 コナンは辺りを見回している。蘭たちは話を進めている。

 

コナン(不動高校ミステリー研究会……そういや、この高校、推理作家も輩出してたんだっけ)

 

美雪「ごめんなさい、はじめちゃんのせいで散らかってるけど」

 

蘭「いえ、全然。お構いなく。……とにかく、そういうわけで、二人のところに来てみたんだけど、お二人は何かこの手紙の差出人について心当たりありませんか?」

 

美雪「ううん。特には何も……」

 

金田一「俺もナシ。うーん……わかるのは、やっぱりあの時の参加者の可能性が特に高いって程度の事かな」

 

蘭「え? どうして?」

 

金田一「……俺たちの住所を調べられる人間だからだよ」

 

蘭「でも、あの事件を報道か何かで見た人が、後から調査したのかも」

 

金田一「それが変なんだ。俺や美雪は、毎回警察やマスコミにちょっと融通効かせてもらって、事件に関与してない事にしてもらってたんだから。一緒に事件に巻き込まれた有名な探偵たちならともかく、あの場にいなかった人たちは俺や美雪の事なんて知らないはずだぜ。仮に外から関わった人間を調べ上げて手紙を出したとしても、俺や美雪の名前になんて滅多に行き着けないはずだ」

 

美雪「……それもそうね。考えてみれば、あたしたちがあの事件に関わった事を知ってる人なんて、あの時のメンバーと警察以外にはほとんどいないわ」

 

蘭「へえ。どっかの推理オタクとは、まるで反対ね」

 

金田一「……どっかの推理オタクねぇ」

 

 金田一は思案気になる。その前で、コナンがスマホをいじっている。

 

コナン「……うーん。確かに、いまネットで検索してみたけど、金田一さんの名前はあんまりヒットしないね。ちょっとは金田一さんの事だと思う話題も出てくるけど」

 

コナン(まあ、俺はあの頃から、警察関係の噂で何となく彼の事は知っていたが、流石に未成年の情報だけあって、顔や所在地など詳しい事までは知らなかった……。そう考えると、ごく一部の人間しか彼の名前を知りえないのも事実だ。まして、解決したわけでもないあの事件なら特に彼のプライバシーを追う必要がない……)

 

金田一「――それで、蘭さんだって今回は、俺たちの家じゃなくて学校を訪ねてきたんだろ。あの時は多分、住所は言ってなくても、高校の名前くらいは言ったから、それでこの学校を当たったわけだ」

 

蘭「ええ。確かにそうね……」

 

コナン「蘭姉ちゃんは、ニュースになってた事件を思い出してここに来たんだよ。金田一さん、ここで起きた事件を解決したんでしょ? すごいよねー?」

 

金田一「ん? ああ、何度かでかい事件が起きてるからわかんねえけど、多分この間の化学部のだろ? 一応俺が解決したって事にはなってるけど」

 

美雪「はじめちゃんは、他にも色んな事件を解決してるのよ」

 

コナン「へぇ。何度も事件を解決したんだー! 高校生なのに、まるで新一兄ちゃんや平次兄ちゃんみたいだね!」

 

 ソファの裏から、カメラを持った少年が現れる。彼は佐木竜二。

 

佐木竜二「そりゃあ、先輩がいれば大概の事件は片が付きますから。何しろ、あの名探偵の孫で、この高校でも何度となく様々な事件を解決してきた英雄ですもんね」

 

金田一「げっ、佐木二号。お前どっから湧いて出た!?」

 

佐木「ボクは先輩のピンチが来るときは必ずこのカメラに収める係ですから♪」

 

金田一「あぁ? ピンチ?」

 

佐木「ええ、実は今日も、ボクの亡き兄が夢に出てきましてね。また先輩がピンチに陥るから、今すぐセンパイのもとに向かってお助けしろ……助けられなくてもカメラを回して記録しておけとお告げがあったんです」

 

金田一「だぁ~っ! もう、不吉な事言わないでくれよ佐木……毎回そのパターンで酷い目に遭ってきたんだからな!」

 

佐木「ボクは事実を言ったまでです! ……うーん、それにしても画になりますねぇ。二人の探偵、夢の共演!」

 

 佐木は金田一とコナンがフレームに入るようにカメラを回す。

 

コナン「え!?」

 

金田一「二人の探偵? なんでこのガキが探偵なんだよ?」

 

コナン「いや、ぼく……!」

 

佐木「知らないんですか、先輩。この子、世間を賑わす怪盗キッドを追い詰めて、何度か新聞にも載ってるんですよ?」

 

コナン(あ、なんだそっちか……)

 

美雪「ああ! そうね! どこかで見た事あると思ったら! あの怪盗キッドの! ミス研でもスクラップしてあるわよ! ほら!」

 

 ミス研のファイルを取り出し、怪盗キッドの事件で新聞に載るコナンの写真を、美雪が金田一に見せる。

 

金田一「う~ん。こいつがね。……それにしても、なんか、それ以外のどっかでも見た事あるような……」

 

コナン(やべっ!)

 

コナン「えへへ~! ぼく、新聞に載ったんだ~偉いでしょ~金田一さん」

 

金田一「うーん……。まあいっか!」

 

コナン「……ふぅ。ん?」

 

 コナンのポケットで、スマホが鳴る。

 

金田一「?」

 

コナン「あ、あはは。蘭姉ちゃん、ちょっと僕トイレ!」

 

美雪「あら、コナンくん。場所わかる?」

 

コナン「うん! ここ来るまでに見たから」

 

 すぐに教室を出て走り出すコナン。

 

金田一「……やっぱり怪しい」

 

 

 

 

 

 

○不動高校・屋上

 

 

 電話を取るコナン。相手は阿笠博士。

 

コナン「もしもし、博士?」

 

阿笠『ああ、新一。さっき沖矢さんに聞いてみたんじゃが、確かに新一の家のポストに妙な手紙が入っていたようじゃ』

 

コナン「内容は、やっぱりミステリーゲームの招待状ってやつか?」

 

阿笠『ああ。いま哀くんがフォントを調べている最中じゃ。確かに、一見明朝体に見えるが、普通のパソコンには搭載されていない、誰かの自作のフォントが使われているみたいじゃな。ほとんどそこらのフォントと変わらないんじゃが、『新一』の『一』の字はずいぶん歪な形になっておる』

 

コナン「ネットのフリーフォントとかでもないのか?」

 

阿笠『調査中ではあるんじゃが、何しろ哀くんもついさっき帰ってきたばかりだからな……』

 

コナン「なるべく早くしてくれって言っといてく……」

 

灰原哀『――言っといてもらうよう頼まなくても、直接言ってくれていいわよ』

 

コナン「あ、灰原! 丁度良かったぜ! ネットで今回のフォントと同じものがねえか……」

 

哀『……あのねぇ!!! こっちはさっき帰ってまだ一時間しか経ってないってのに、ずーっとインターネットでフォントを照合してんのよ!! これでもかってくらい早く!!』

 

コナン「あ、ああ……わ、悪かった……悪かったって……。でも、ありがとな。今度、比護さんの試合のチケット当たったらお前にやるから……」

 

 コナンの通話が切れる。

 

コナン(げっ、切りやがった……)

 

???「おい、何の調査を誰に頼んでるんだ?」

 

コナン「え?」

 

 振り返ると、そこには金田一がいる。

 

コナン「あ、あれれ……金田一お兄さん。どうしたの?」

 

金田一「『どうしたの?』はこっちだよ。この屋上はこの俺の庭なの! ……なーんか怪しいと思ってついてきてみたら、案の定だよ。小学生がスマホで何してんだ」

 

コナン「えへへ、いいでしょ。買ってもらったんだぁ~」

 

金田一「へー、そうか。それはともかく、どう見たってここはトイレじゃないぜ?」

 

コナン「ぎくっ!」

 

金田一「それに、さっきと口調は違うわ、ゲームの招待状について独自に調べてるわで、どうも何か隠してるっぽく見えるんだけど?」

 

コナン「き、気のせいじゃないかな? ぼくただの普通の小学一年生だもん……」

 

 慌てるコナン。怪しむ金田一。金田一は少し気を抜く。

 

金田一「……まっ、いいや。あのフォントなら、ちょっと調べりゃすぐわかるよ」

 

コナン「え?」

 

金田一「あれ、『バーチャバトラー』っていうソシャゲーのタイトル用フォントだよ。すぐピンときたね」

 

コナン「『バーチャバトラー』?」

 

コナン(そういえば、最近、元太や光彦がやってたな……ん? でもそれって)

 

コナン「で、でも、それって、炎か何かを字にしたようなロゴじゃなかったっけ?」

 

金田一「そうじゃなくて、そのゲームは毎回、『第一話』とか『第二話』とか章題が分かれてて、サブタイトルがつくの。そのタイトルのロゴが、あれと全く同じって事。俺の名前の『一』がちょっと反り返ってたり、『七瀬』の『七』が丸っこいのも、全く同じだったよ。漢数字のフォントが毎回ちょっと変わっててさ」

 

コナン「ね、ねえ、そのフォントってネットとかでも手に入る? ほら、ロゴメーカーってあるじゃない? ゲームやアニメのロゴを再現できるようなサイト」

 

金田一「うーん、多分そうだと思うんだよな」

 

コナン「え? 多分って?」

 

金田一「バーチャバトラーがサービスを開始したのは、つい一か月前なんだ。それより前、半年前にも同じフォントで手紙が来ている。だから、元のフォント自体がどこかで配信されてないとおかしいんだ」

 

コナン「それじゃあ、犯人もゲーム会社も、どこかからそのフォントを引用した可能性が高いって事だね!」

 

コナン(もし、ネットに転がってるようなフォントだったら、犯人の特定は厳しそうだが……)

 

金田一「ああ。とにかく、フォントのモトを探るなら、まずはそのゲーム会社に問い合わせて、どこからフォントを見つけたのか探ればいいって事だな。めんどくさいから俺はそういうのパスだけどね。それに、もし本当にただネットから引用しただけだったら、犯人の特定も難しいし」

 

コナン「……あれ、金田一さんは、あの手紙の差出人の事、興味ないの?」

 

金田一「あんまりね」

 

コナン(意外だな。だが……)

 

 コナンが声色を変える。

 

コナン「金田一さんは、確か、偉大な名探偵、金田一耕助の孫なんだよね。この程度の謎じゃ、その血は騒がない?」

 

金田一「……悪いけど、俺には俺の事情があんの。まあ、巻き込まれた事件や、どうしても解かなきゃいけない事件が解けるなら、その時は解くしかないけどさ、それ以外は全部警察の仕事だろ。……だいたい、大変なんだぜ。報酬も出ないし、毎回殺されかけるし」

 

コナン(……確かに、俺もこうして子供になっちまったのも、事件に余計な首を突っ込んだのが原因だ……。しかし――)

 

コナン「でも!」

 

金田一「……そもそも、俺も何度も事件に首突っ込んだけど、それで良かった事なんて一度だってないんだ。まあ、ただ、今回の件は確かにちょっと気になるし、警察の知り合いにちょっとは相談してみるつもりだけど。……あ、あと、お前にも一応忠告しておくけど、お前もこういう事件に首突っ込んでも、ほんとろくな事ねえぞ? ……ほら、戻るぜ」

 

 金田一がそう言って顔を顰める。金田一は先に屋上を去る。

 

コナン(確かに、彼の言っている事は理解できる。だが、気に食わねえ……! あいつだって、あれだけの頭脳があるならわかってるはずだ! あの手紙には、かつての殺人事件とつながる……俺たち探偵への怨念のような感情が込められてる事くらい!)

 

 金田一の背中を見つめるコナン。

 

 

 

 

 

 

○不動高校・廊下

 

金田一(……工藤新一、か)

 

 金田一が窓の外を見ながら何か考えている。

 

金田一(そういえば、あの高校生探偵、なんていうか……出会った頃の明智警視にそっくりな奴だったな。嫌味でスカした性格で、事件を楽しんでるようにも感じた。だけど、今も本当にそうなのか……? あの時の犯人……鬼沢さんは)

 

 

 

 

 

 

 

○回想、三か月前。留置所

 

 面会室、金田一が鬼沢誠人を訪問している。

 

鬼沢「――久しぶりだね、金田一くん。元気だったかい? ……まさか君が面会に来てくれるとは思ってなかったよ」

 

金田一「ええ。鬼沢さんも、思ったよりは元気そうで」

 

鬼沢「……そうでもないよ。あんまり元気が出る環境じゃなくてね」

 

金田一「そりゃそうか……。でも、実は、俺もなんすよ。あの事件以来、なんていうか……何かが引っかかり続けててさ」

 

鬼沢「もしかして、推理で工藤くんに負けたからかい?」

 

金田一「……いえ、それは関係ないです。あれは、あくまで殺人事件っすから。俺は、こうして犯人が見つかって、罪を償ってくれていればそれで良いと思ってます。……でも、なんていうかな、もっと別の部分では、終わっている気がしないんすよ、あの事件」

 

鬼沢「終わった気がしない? 僕はすべてを自供したよ。小説やドラマのように、誰かを庇ってるというわけじゃない。工藤くんや君の推理に間違いはない」

 

金田一「ええ、それはわかってます。犯人はあんたで間違いないと思う。ただ、俺もこれまで……何度かこういう事件に首突っ込んだ事があるんですよ。事件って、解決してそれで終わりってわけじゃないんですよね。大抵いつも、事件を目にした人々の人生には続きがあるし、事件そのものにももっと深い裏があるんです。……俺はいつも、そういう運命に弄ばれる人たちを、たくさん見てきました」

 

鬼沢「なるほどね。この事件の裏にもドラマがあると」

 

金田一「……それで、最近、ちょっと調べたんすよ。うちの部室に、ミステリー研究会……いや、推理小説研究部の会報が全部残ってて、その中に高校時代のあんたや和美さんの書いた物も見つかったんです」

 

鬼沢「会報? ――……なるほど、そうか。言いたい事はわかったよ。まいったな。それなら、君の事だから、僕たちの事情もすべて調べてお見通しなんだろうね」

 

金田一「全てかはわかんないっすけどね。……勿論、その事で、これ以上詮索するつもりや、調べてわかった事を外に話すつもりもありません」

 

鬼沢「そうか。……とても助かるよ」

 

金田一「でも、まだ、その件であんたに伝えておきたい事があって……。あ、そうだ。その前に一つ訊きたいんすけど、工藤はここに来ましたか?」

 

鬼沢「工藤くん? いや、別に見かけなかったが」

 

金田一「そうっすか……」

 

鬼沢「何かあったのかい?」

 

金田一「いや、別になんでもないっすよ……」

 

 

 



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5:『追跡』

 

 

 

○不動高校・校門

 

 覆面パトカーが止まっている。

 

佐藤「――金田一一、来ました!」

 

 合図とともに、高木や千葉、数名の捜査員がパトカーを降りて、金田一、美雪、佐木、コナン、蘭のもとへと歩いてくる。

 

コナン「あれ……高木刑事?」

 

高木「あれ? コナンくんたち。どうしてここに!?」

 

蘭「高木刑事こそ……」

 

高木「あ、いや……ちょっと色々あってね。外には話せないんだ。用があるのは、金田一くんなんだけど……」

 

金田一「え? 金田一は俺っすけど」

 

高木「ああ、初めまして。警視庁の高木だ。ちょっと、都内で起きた事件についてきみに、聞かなきゃならない事がある。ついてきてくれるかな」

 

金田一「別に構いませんけど、この辺で起きた事件なんて俺全然知りませんよ? あっ、警察の捜査協力とかならパスですよ! 俺この後、家でゲームする用事もあるし……」

 

 そんな折、パトカーから剣持警部と明智警視が降りてくる。

 

剣持「……とにかく、いいから来てくれよ、金田一」

 

金田一「あれ、オッサン!? それに明智さん!? どうしたんだよ、こんなにたくさん若い刑事連れて」

 

剣持「ったく……こんな状況になるまでなんにも知らねえとは」

 

明智「――金田一くん。君には、米花自然公園で発生した事件の殺人容疑がかけられているんですよ」

 

一同「殺人容疑!?」

 

明智「ええ、凶器のナイフに君の指紋がついていて、おまけに米花駅の監視カメラにも君の映像が残されています」

 

高木「あ、明智警視! いくらなんでも、彼は未成年ですから、あんまり一般人の前で情報が漏れるような事は……」

 

明智「大丈夫、彼らなら既に何度も似たような目に遭っていますし、情報リテラシーの面でも心配がありませんからね。むしろ私は、未成年犯の情報流出については、警察組織やマスコミの方が信頼できないと思っていますから。――それにしても、初めて目にかかる毛利蘭さんに……江戸川コナン少年。どうやら、よくこうした事件に巻き込まれると噂のメンバーが揃っているようじゃないですか。まるで死神に好かれたような一場面だ」

 

金田一「お、おいおい、冗談キツいぜ! 明智さん! 確かに最近米花町には行ったけど、ナイフの指紋なんて全く知らないぜ!」

 

美雪「そうですよ、はじめちゃんが殺人なんてするはずありません! 何かの間違いです!」

剣持「ああ。俺もそうは思ってるんだがな……。だからこそ、ひとまずお前の話を聞いて、無実を証明しておきたいんだ。お前は殺人なんてする奴じゃない。ただ、少しばかり運が悪くて疑われやすいだけだってな」

 

明智「……尤も、私や剣持くんが、取り調べを担当したり、あなたに手心を加えたりする事も出来ませんけどね」

 

佐木「うーん。どうやら、予想通り、ピンチの臭いがしますね……」

 

コナン(金田一が殺人容疑……? 妙だ、何か知っている様子にはとても見えない。演技なのか? ん?)

 

 そんな事を考えている横で、半年前の容疑者・笠原和美が不動高校の前を通りすがっている。

 和美、慌てて引き返す。誰も和美には気づいていない。

 

コナン(いまそこで見てた人、どっかで……)

 

高木「あー、きみ、カメラは控えて……」

 

佐木「お構いなく。私用でしか使いませんから」

 

高木「いや、そういう問題じゃなくて……」

 

コナン(……それにしても、一体だれが殺されたんだ? 何故金田一は米花町に?)

 

コナン「ねぇ、ねぇ。金田一さん、高木刑事は良い人だから、一度取り調べを受けてみたら?」

 

 そう言いつつ、コナンが金田一の袖に触って盗聴器付の発信機を取り付ける。

 

金田一「そうは言われたってさ! こういうパターンはろくな事になんねえの! これまでも、捕まっちまったら自由に動けなかったじゃんよ!」

 

コナン「え?」

 

金田一「とにかく、俺はやってない! 悪い、オッサン、明智さん……! これ任意だろ? あと頼むわ!」

 

 金田一が回れ右して校舎に向けて走り出す。

 

コナン「あ、金田一……!」

 

剣持「あのバカ……まったく」

 

高木「え、これってどういう……」

 

コナン(あいつ……逃げやがった!)

 

明智「何してるんですか、高木くん、千葉くん。さっさと彼を追ってみてください」

 

高木・千葉「あ、は、はい……」

 

 校舎に入った金田一を追う高木、千葉。

 

明智「我々も追いたいところですが、ここはともかく、彼らに任せましょう」

 

剣持「いいんですか……」

 

明智「もとより、彼の確保は我々の急務ではありません。私も調べたい事がありますから、彼に構ってもいられませんしね」

 

剣持「はぁ」

 

 

 

 

 

 

○不動高校校舎内

 

 高木と千葉が走り回っている。

 

高木「金田一くーん、話だけでも聞かせてくれないか!」

 

千葉「もう見えなくなった。運動は苦手だって聞いてたんだが……逃げ足は思ったより速いな!」

 

高木「千葉刑事! とにかく向こうを! 僕はこっちを!」

 

 天井裏で高木と千葉の様子を見る金田一。

 

金田一「ふぅ、この高校内のサボリ場所は網羅してるっての。さて、応援が来る前に脱出しちまおう……」

 

 

 

 

 

 

○佐藤警部補のパトカー

 

 コナンと蘭が乗せられている。

 コナンたちを家まで送るらしい。コナンが話しかける。

 

コナン「……ねえ、佐藤刑事。金田一さんって、以前にも警察に捕まった事があるの?」

 

佐藤「え?」

 

コナン「金田一さん、前にも捕まった事があるって言ってたみたいだけど」

 

蘭「そうね、私も気になってた」

 

佐藤「……私も二件ほど、彼をめぐる冤罪事件を把握しているわ。一件目は、軽井沢で発生した暗号解読ゲーム連続殺人事件、二件目は、香港で起きた巌窟王殺人事件……いずれの事件も、非公式だけど金田一くん本人が解決している。警察の信用にかかわる事件だから、あんまり公にはしたくないみたいなんだけど、どうしても耳に入っちゃうのよね」

 

コナン「二度に渡る冤罪事件か……本当の犯人は捕まったの?」

 

佐藤「軽井沢の犯人は自殺、香港の犯人は現在も日本に移送されて服役・更正中よ」

 

コナン「犯人は自殺、か……」

 

佐藤「でも、あくまでこの二件における金田一くんの無実は確定。立派に証明もされてるわ。どちらも間が悪くて起きてしまったみたいで、ある犯罪者によって、わざと彼に疑いが向くように仕組まれた事件もあったらしいし……」

 

コナン「ある犯罪者?」

 

佐藤「おっといけない。つい話しすぎちゃったかしら。……でも、とにかく金田一くんはこれまで多くの殺人事件を解決して、警察に協力してくれている。剣持警部には、とても正義感の強い少年だと聞いているわ。……個人的な考えだけど、私も、あれだけ信頼されている彼が殺人犯だとは思わない」

 

コナン「……」

 

 

 

 

 

 

○覆面パトカー(剣持の運転)

 

 剣持、明智、美雪、佐木が乗っている。

 

剣持「……ったく、いくら俺や明智が直接取り調べる事ができないとはいえ、無実なら逃げださなくてもいいってのに」

 

明智「いくら我々でも、無実を証明できるとは言えませんからね。……いえ、おそらく、あの状況では無実だと主張する事のほうが難しいでしょう」

 

美雪「明智警視、あの状況って? そんなにはじめちゃんが怪しいんですか?」

 

明智「……なんとも言えません」

 

剣持「じゃ、じゃあ、あんたはあいつがやったというんですか!? あいつが人を殺したと本気で思ってるんですか!? 明智警視!」

 

明智「落ち着いてください。そういうわけではありません。彼が犯人ではない事は、この私が一番よくわかっています」

 

剣持「? 明智警視……すみません。あんたがそんな事を言うなんて」

 

明智「……勘違いされては困りますが、これは、論理的な理由に基づいたものです。尤も、論理的である事と、それを警察として主張できる事は少々異なる。我々の立場から彼の無実を暴くのは、今の段階では厳しいでしょうね」

 

剣持「はい? そりゃどういう事ですか?」

 

明智「……凶器に使われていたナイフですよ、剣持くん。気づきませんでしたか?」

 

美雪「ナイフ? ナイフに何かあったんですか?」

 

明智「……いえ。まあいいでしょう。しかし、金田一くんや工藤くんに頼るなと言ったそばから、こんな事を言うのは何ですが……どうやら、この事件には、助っ人が必要になりそうですね」

 

 

 

 

 

 

○場面は夜になる。阿笠邸の庭

 

 民家の木の上でパトカーが通り過ぎるのを確認する金田一。

 

金田一「ふぅ、すっかり米花町の方もパトカーだらけか。無理もないや。……とにかく、この事件、俺の手で解決しないと。えっと、こっから自然公園は……」

 

灰原哀「……何を自分の手で解決するって?」

 

金田一「え、あ、う……! うわあ!」

 

 金田一が木から落ちる。

 

金田一「いててて……」

 

哀「随分と間抜けな泥棒さんだと思ったら、何? あなた。この家には、金目の物はないわよ。あるのはガラクタだけ」

 

金田一「えっと、俺は……とにかく、怪しい物じゃないんだ! ただ、ちょっと警察に追われててさ……!」

 

哀「その言い訳は怪しすぎるわよ。……嘘を暴くのは得意でも、嘘をつくのは下手みたいね。金田一耕助三世さん」

 

金田一「……え? なんで俺の事を……? 君は?」

 

哀「あなたの事は把握しているわ。なんでも金田一耕助の孫だとか」

 

金田一「そ、そう。……えっと、どうでもいいけど、ここは君の家なのかな? ごめんよ、すぐに出るからさ!」

 

哀「待って!」

 

金田一「え?」

 

哀「……この家に匿ってあげてもいいわよ。博士も、すっかりその気だから」

 

金田一「博士?」

 

 

 



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6:『短い屋敷』

 

 

 

○阿笠邸

 

 阿笠邸の金田一がソファに座っている。

 

金田一「いや、すみません、匿ってもらっちゃって。俺もなんでこんな事になったのか……まったく心当たりもないし、どんな事件が起きたのかも全く知らないですよ」

 

阿笠「はっはっはっ、そりゃ災難だったな金田一くん。ワシは阿笠博士(ひろし)。発明家じゃ。この家にあるのは、ぜーんぶワシの発明じゃぞい!」

 

金田一「ははは、凄いんすね」

 

金田一(……なんつーか、アブねえじいさんだな)

 

阿笠「じゃが、金田一くん。ワシは、今すぐに君を匿うなんて、一言も言ってないぞい。世の中はそんな甘くないからのう!」

 

金田一「えっ!? まさか、通報でもしたの!?」

 

哀「……安心して。別にまだ、通報もしてないみたいよ」(冷静に紅茶を飲む)

 

金田一「え……それじゃあ」

 

阿笠「ふっふっふ。本当にきみが新一に匹敵する高校生探偵か試してやろう! ここはひとつ、ワシの出すクイズに解けたら匿うという条件でどうじゃ!?」

 

金田一「はぁ?」

 

哀「とにかく、これを解いてみれば泊めてくれるそうよ。解いてみたら」

 

 哀を一瞥して、博士を見直す金田一。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

阿笠「コホン。では問題じゃ! 短い屋敷の中には、臼、家、弓がある。さて、この中に、ケチな人は入れるかな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

金田一「……屋敷に家? ケチな人……? なんだそりゃ」

 

阿笠「わかったかのう? まあ、新一なら三十秒で解けるはずじゃが」

 

哀「まともに考えちゃダメよ。どうせ大した問題じゃないんだから」

 

 少し考えた後、金田一が何かに気づいて呆れる。

 

金田一「なあ、阿笠博士。まさか、それ……凄くくだらない話じゃないっすよねー?」

 

阿笠「そんなワケ……」

 

哀「博士の出す問題は、いつもくだらないわ。何か浮かんだなら、たぶん、あなたが思っているのが正解よ」

 

阿笠「……」

 

 哀をまた一瞥。

 

金田一「……じゃあ、その人は屋敷に入れるよ」

 

阿笠「どうしてじゃ?」

 

金田一「たぶん、臼はそのまま。家はホーム、弓はアローって事でしょ。臼は『金田一こ「うす」け』、ホームは『シャーロック・「ホーム」ズ』、弓は『エルキュール・ポ「アロー」』。短い屋敷は、『短』『邸』で『探偵』。『明智小五郎』の名前の中に、『ケチ』が入ってるから、ケチな人はその屋敷に入れるよ」

 

阿笠「ピンポーン! さすが金田一耕助の孫じゃ、ピッタリ三十秒! 泊めてやってもいいぞい!」

 

金田一「え、こんな事で……ほんとに!?」

 

哀「毎度の事ながら、くだらないうえに強引なクイズね。25点」

 

阿笠「うう……自信作なのに、手厳しいな、哀くんは」

 

金田一「……それはともかく、本当にいい、のか?」

 

阿笠「う。うむ。まあ、以前に新一も君の事を話しとってな。半年前に事件で会ったんじゃろ? 新一も、金田一くんは面白いしまた会いたいと言っておったからな。新一がそう言うなら、悪い子ではなさそうじゃ」

 

金田一「あいつがそんな事を……?」

 

哀「それに。さっき、あなた外で『事件の謎は解く』って言ってたわね。誰もいない状況でそんな独り言を言えるって事は、まあとりあえず事件の犯人ではなさそうだし、あなたが本当に冤罪なら、誰かさんも手がかりを探ってる頃よ」

 

金田一「……そうか」

 

阿笠「まあ、そんなわけでの。しばらくはこの場所が安全じゃ。何しろ、ここは君以外にも、新一や哀くんが……」

 

哀「あ、バカッ! 何言ってんのよっ!」

 

阿笠「あ、ああ……すまん」

 

金田一「? 新一って……工藤?」

 

哀「え、ええ。まあね。気にしないでもらえると助かるわ」

 

阿笠「ほ、ほっほっほ」

 

哀「……あら? ちょっと電話ね。江戸川くんからだわ」

 

 哀がその場から去る。

 

 

 

 

 

 

○毛利探偵事務所

 

 

 コナンがこっそり哀に電話をかけている。

 

コナン「おい、何やってんだよ、灰原! まだ金田一が無実と決まったわけじゃねえんだぞ!」

 

哀『そうね。少なくとも、あなたの盗聴も良い趣味とは言えないと思うけど。一体どうしたのよ』

 

コナン「今日、放課後に金田一と会ったんだ。ちょうど、高木刑事たちが来て、金田一に任意同行を求めた……だが、金田一は拒否して逃走。ちょっと前になんとかこの発信機はつけられたけど、まさか博士の家にいるなんて!」

 

哀『まったく、それなのに今の今まで追わなかったわけ?』

 

コナン「まだ、あくまで任意同行を求められてた段階だ。容疑者の一人ってところかもしれない。凶器に指紋がついてたという話もしてたが、剣持警部もどうやら本意ではなさそうだった。あいつは逃げるどころか、逆に現場に向かって犯人を捜そうとしてるみたいだったしな」

 

哀『それで、まだ追いかける段階じゃないと思ったわけね』

 

コナン「ああ。でもな、灰原。金田一が無実だとしても、この後本格的に容疑が向いてきたら、あいつを匿うのは犯罪だぜ?」

 

哀『あら、それなら、私の件でも警察に出頭しなきゃダメかしらね』

 

コナン「……バーロー。とにかく、俺は今からそっちに行く! あいつは犯人じゃないと思うけど……念のため、用心しろよ!」

 

哀『言われなくてもね』

 

 電話を切り、着替えようとするコナン。

 しかし、そこに待ち構えていたように蘭が現れる。

 

蘭「コナンくん! どうしたのよ、こんな時間に!」

 

コナン「あ、えっと……博士の家から電話があって、今日泊まらないかって」

 

蘭「今から!? もう十時よ!? それに、明日も学校でしょ!? なんで泊まる必要があるのよ?」

 

コナン「え、えっと……それは」

 

蘭「とにかくダメ! まったく、博士も一体何考えてんのかしら……」

 

コナン(悪ぃ、灰原……)

 

 

 

 

 

 

○阿笠邸

 

 

 鳴っている携帯電話のメール「悪い、行けなくなった」を見て、ため息をつく灰原。

 

哀「どうかしら、博士の家の居心地は」

 

金田一「なあ、さっきから気になってたんだけど、君は一体?」

 

哀「灰原哀。江戸川くんの同級生、御覧の通りの小学一年生よ。色々あって、博士の家でお世話になってるわ」

 

金田一「江戸川? 江戸川コナンか?」

 

哀「ええ」

 

金田一「……なんていうかさ。はっきり言って、二人とも、とても小学一年生には見えないね。……あいつといい、君といい、なんかちょっと特殊だよ。その年なのにジョオーサマって感じ」

 

哀「それは褒めてるのかしら?」

 

金田一「まあね。まるで、俺より頭の良い女の子と話してるみたいな気分だ。俺が子供の時なんて、ゲームしてテレビ見てサッカーして学校サボって、とてもじゃないけど、きみたちとは違う生活してたぜ? ほんと、凄いよ」

 

哀「あら、ありがとう。でも、あなただって、本当は相当頭が良い筈よ。金田一耕助の孫で、いくつもの事件を解決に導いた名探偵……金田一一でしょ? あの工藤くんが頭脳を認めているくらいだもの」

 

金田一「あの工藤がねぇ……」

 

哀「で、そんな事より、あなた、殺したの?」

 

金田一「え?」

 

哀「――米花自然公園の被害者。ナイフで一突きだってね」

 

金田一「お、おれはやってないよ! 第一、一体どんな事件が起きたのかだって知らないんだって!」

 

哀「そう。……それなら教えてあげるわ。被害者は、ゲーム会社のパート事務員・戸塚美津子。死因は刺殺。ついでに頭が銃で撃たれていたらしいわね。死亡推定時刻は、昨夜十一時から十二時」

 

金田一「え? なんでそこまで……」

 

哀「江戸川くんが今日警察の人に聞いた情報を、さっきメールで送ってきたわ。何かの参考になるかわからないけど」

 

金田一「……」

 

 金田一は少し真面目な顔になる。

 

金田一(この子も、コナンも、やっぱりただの小学一年生じゃない。単に同年代より頭が良いだけじゃない、そんな気がする。……もしかすると、工藤新一と江戸川コナンは、あのミステリーツアーの“あの人”たちと同じ――いや、だが、それなら妙だ!)

 

哀(……少しは違和感に気づいてるみたいね。組織とはあまり関係なさそうだし、今までも高校生探偵たちは、私たちの秘密に気づいてきた。どちらにせよ、時間の問題に感じるわ)

 

 

 

 

 

 

○七瀬美雪の部屋

 

 布団にくるまる美雪は、心配そうに天井を見つめている。

 

美雪「はじめちゃん……」

 

 

 

 

 

 

○深夜の警視庁・資料室

 

 明智の前に、佐藤、高木、剣持の三名がいる。

 明智が何やら三人の前で資料に目を通している。

 

明智「なるほど、例の事件の証拠は日本に移送済、ですか。……わかりました。ご苦労様です、剣持警部、佐藤警部補、高木巡査部長。ひとまず、過去の事件データから考えて、あなたたちは信用できると考え、今回の捜査を非公式に命じてみました」

 

剣持「一体、どうしたんです。香港の証拠保管庫に問い合わせろだなんて……」

 

高木「該当の証拠品は、こちらでも発見できず、今も捜索中なのですが……」

 

明智「ええ、おそらくはもう見つかりませんよ。……どうやら今回の一件、警察側の不祥事が絡んでるかもしれませんからね」

 

剣持「警察の……」

 

高木「不祥事だって?」

 

佐藤「それって一体どういう事ですか!? 教えてください、明智警視!」

 

明智「ふぅ。……実は、私と剣持くんは、以前に香港で金田一くんに殺人容疑がかけられた際に、少々事件に立ち会いましてね」

 

高木「え、金田一くんが殺人容疑って……今回が初じゃないんですか?」

 

佐藤「嘘でしょ高木くん……(呆れる)」

 

明智「ええ、今回以前にも四回か五回……残念ながら、正確な回数は失念しましたが、彼には殺人容疑がかけられた事があります。勿論、いずれも冤罪でしたが」

 

佐藤「え、そんなに……?」

 

高木「それは、いくらなんでもかけられすぎでは……」

 

明智「まあ、彼には不幸な死神がついているんでしょうね。そんな天命に生まれたのは、彼だけではないのかもしれませんが」

 

高木「そういう問題なんですか……」

 

剣持「ああ、まったく……あいつは、とにかく運が悪いんだ。よく行く先々で殺人事件に巻き込まれちまう。俺も人の事は言えねえがな、あいつはそれで毎回事件を解決してきたんだよ」

 

高木「うーん。でも、なんだか、よく考えるとそれって、毛利さんに似てますね。事件の通報を聞いて言って見ると、いつも毛利さんがそこにいるような……」

 

佐藤「そうかしら?」

 

高木「え? 佐藤刑事も前に言ってたじゃないですか」

 

佐藤「ええ。確かに毛利さんはよく見かけるけど、それ以上に見かける子がいる気がするわ。いつも『あれれ~おかしいぞ~』と私たちに的確なヒントをくれる眼鏡の男の子が……」

高木「ああ、言われてみると、確かに……」

 

明智「コホン。とにかく、話を戻します。香港での事件の際、私がナイフで刺される事件があり、その時に、金田一くんはそのナイフを証拠品と思わず、直に触れました。私の記憶が正しければ、今回のナイフはそれと全く同じ種類のものです」

 

剣持「え!? そりゃ全然気づかなかった……」

 

明智「刺された私が言うんですから間違いありませんよ。……つまり、ほぼ間違いなく、あの時に使われたナイフがそのまま今回の殺人事件に使われていると考えています」

 

佐藤「でも、それってどういう!?」

 

明智「そこで、私は、二つの可能性を考えています。まず一つは、その事件を演出した“ある指名手配犯”が、警察の監視をくぐって証拠のナイフを盗み出した可能性。あの男ならそうした芸当もやりかねません。しかし、その場合、目的は不明慮です」

 

明智「……そして、もう一つは、警察の不祥事によって証拠品が外部に流出した可能性。いずれにせよ、そうしたケースを警察内部から告発するのは少々骨の折れる話で……私には、以前にもそういう経験があります」

 

高木「警察の不祥事……だから、僕たちをここへ?」

 

明智「ええ。だから、過去の実績などから信頼できると判断した捜査員にのみ、この事を話す事にしました。……今回は、未成年の少年が冤罪に巻き込まれている可能性がありえます。警察の不正により、市民の少年が疑いを被るなどという事は、決してあってはならない事です。私は、組織人としてではなく、一個人としてあなたがたに協力を申し出たい」

 

 遠い目をする明智。

 そんな横で、佐藤が決意の表情をする。

 

佐藤「……明智警視。私の父も、警官でした。あなたは知っているかわかりませんが、父は明智警視のお父様とも面識があります。あなたと同じく、私も父から受け継いだ誇りを、忘れるわけにはいきません」

 

高木「(佐藤を見て)……わかりました。そういう事なら……自分は、警察の職務に誇りを持っています! だから、仮に証拠の流出があって、それにより冤罪が発生するというのなら、それを放置する事はできない!」

 

明智「ありがたい限りです。それで、剣持くんは?」

 

剣持「……断る事はできないでしょうな。あんまり敵を作るわけにもいかないんですが、何しろ今回はあいつに容疑がかかってます。誰が敵だろうと、このまま放っておくわけにもいきませんよ」

 

明智「やはり。あなたたちは、私が見込んだ通り、どうやら上の人間よりも……ずっと『警察官』のようだ……。ところで、この場合、不服ですが……我々の声はなかなかその『上』には通りません。証拠流出を前提に捜査しているとなれば、上からの妨害が発生する事は必然。これは経験上、よく知っています。……と、なれば、打つ手はひとつじゃありませんか?」

 

 少し沈黙が流れて、佐藤がハッとする。

 

佐藤「まさか……外部協力者の黙認ですか!?」

 

剣持・高木「え!?」

 

明智「ええ。それも、完全な民間人のね。上には報告せず、信頼できる外部協力者に無制限に情報を回します。……我々の今の見解を前提に、非公式に捜査に協力して、犯人逮捕まで漕ぎつけてくれる……そう、『探偵』と呼ばれる方たちに頼り、我々のシナリオ通りに解決してもらう。今回は彼らを頼りたい唯一の場面じゃないですか」

 

剣持「それじゃあんた……。(ため息をつき)……目的の為には手段を択ばない……流石明智警視だ。良くも悪くも、あなたらしいやり方だよ」

 

高木「わ、わかりました! それなら、明智警視! 毛利さん……眠りの小五郎で有名な、毛利小五郎探偵はどうでしょうか!? 彼ならきっと……」

 

剣持「毛利小五郎……?(何かを考える)」

 

明智「……いいえ、毛利さんは元刑事。私の私見では、これらの情報を伝えるのに適した相手とは思えません。それに、彼とは会った事もありますが、私はまだ彼の実力をそこまで高く評価できていませんからね」

 

佐藤「では、一体誰に!」

 

明智「……いるんでしょう、もう一人。よく殺人事件に巻き込まれる、死神のような探偵が」

 

 高木がハッとする。

 

高木「まさか」

 

明智「――ここは、協力を仰ごうじゃありませんか。現場に必ず現れては、答えを知ったようにヒントを告げる……あなた方の間で噂の、小さな名探偵にね!」

 

 

 



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7:『調査』

 

 

 

○翌日、米花自然公園・本陣広場

 

 巨大なビルに見下される公園。

 KEEP OUTの外の野次馬の中に、コナンの姿がある。

 内側では捜査こそされていないが、厳重な監視体制。

 

コナン(ここが殺人事件の現場か……封鎖されてて入れねえや。せめて高木刑事でもいてくれれば助かるんだが)

 

 ふと、コナンが看板を見る。そこに『本陣広場』と書かれている。

 

コナン(ん? この広場の名前……『本陣広場』!? そうか、手紙に書いてあった本陣広場は、この公園の広場の名前だったのか! それじゃあ、あの手紙はまさか……犯行予告!)

 

 そんなコナンが後ろから声をかけられる。

 そこには阿笠と、もう一人謎の女性が立っている。

 

阿笠「やあ、コナンくん! 奇遇じゃの」

 

コナン「あ! 博士!」

 

阿笠「ところで学校はどうしたんじゃ学校は」

 

コナン「近くで事件があったから、早めに終わったんだよ。……で、博士。隣にいるその女の人は誰?」

 

阿笠「知りたいか?」

 

コナン「まさか……」

 

金田一「……」

 

 金田一、メイクまでして女装をしている。口にはマスクをして、首にはスカーフ。伊達メガネをかけて、髪はロングのカツラ。

 

阿笠「ふっふっふ。変装じゃよ。どうしても現場に来たいって言うからのう。髪が長いと目立つんで、女の子になってもらったんじゃ!」

 

コナン「服はどこで用意したんだよ……」

 

金田一(声は速水玲香)「ふふふ、私、四五(ヨーコ)! よろしく、コナンくん!」

 

コナン(なははーん……とにかく本人はまんざらでもなさそうってか……)

 

コナン「へへへ、よろしく……ヨーコさん」

 

コナン(……まあ、彼の場合、身長は170cm届くか届かないかってとこだ。それに、丸顔で、女装は似合いやすい。あとは、歌舞伎の女形のように肩甲骨を閉じて、胸を張るようにして歩いてもらえば、ほとんど見た目は女性に近づく。変声器付のマスクで輪郭を隠せばほとんど金田一だとわからないし、こうして声を女にしちまえば、万が一話しかけられても女性だと思って納得されるだろう。……にしても、他に方法はなかったのか? 眉毛も剃ってねえし……)

 

阿笠「ところで、哀くんたちは一緒ではないのか?」

 

コナン「……こっちは集団下校だからな。俺だけこっそり分かれさせてもらったんだよ。にしても、現場は米花自然公園の『本陣広場』か……あの手紙で指定されていた場所だな」

阿笠「ああ、どうやら、“死神の子供”を名乗る犯人は、ここでの殺人の事を予告していたらしい」

 

金田一「……」

 

コナン「犯人はこの事件を『最初のステージ』と表現していた……という事は――」

 

 と、そこまで言ってから哀が現れる。

 

哀「これからまた殺人事件が起きてもおかしくないって事ね」

 

コナン「げっ! 灰原、なんでお前が!」

 

哀「私だけじゃないわよ」

 

 哀の後ろから小嶋元太、円谷光彦、吉田歩美が現れた。

 

元太・光彦・歩美「少年探偵団参上!」

 

コナン「げっ! おめーら」

 

元太「何度も言ってんだろ、抜け駆けは許さねえって!」

 

光彦「そうですよ。今回の事件は、何しろ犯人も見つかってませんし、今回の犯人は拳銃を持っています。一人では危険です! それに、コナンくんにもちょっと用が……」

 

歩美「ねえ、それより阿笠博士。このキレイな女の人、誰?」

 

阿笠「あ、ああ……えっと」

 

金田一「まあ、キレイだなんて!」

 

コナン(おいおい……)

 

阿笠「彼女は哀くんの親戚の金田一ヨーコさんじゃ!」

 

金田一「よろしくね! キャピ!」

 

元太「なんか変な姉ちゃんだな……まるで男みてえ」

 

金田一「むっ」

 

光彦「し、失礼ですよ元太くん! 確かに背はちょっと高いように見えますけど……」

 

金田一「そ、そうよ……何も変じゃないわ」

 

歩美「あれ? お姉さん、なんか誰かに声が似てるー」

 

金田一「よ、よくいる声だからね。速水玲香に似てるって言われるわ」

 

元太「速水玲香? 誰だっけそれ」

 

光彦「もう、沖野ヨーコと双璧を成すトップアイドルの玲香ちゃんですよ。知らないんですか、元太くん」

 

コナン「おい、それより光彦。おまえ、何か用があってここに来たんじゃねえのかよ」

 

光彦「ああ、そうだ。コナンくんが先に帰っちゃったのですれ違う形になっちゃいましたけど、なんだか高木刑事がコナンくんに用があるって学校に来てましたよ」

 

コナン「え? 高木刑事が?」

 

歩美「いないならいないで別にいいよって言ってたけど……高木刑事、なんだかコナンくんと会えなくてほっとしてたみたい」

 

コナン(金田一の件で事情聴取か? だが、それなら昨日、俺を家まで送った時でも……)

 

哀「……案外、捜査が難航してるから、あなたのヒントがほしいなんていう申し出だったりね」

 

コナン「おいおい、んなわけねえだろ……ん?」

 

 コナンがふと、群衆の中に見覚えのある女性を見つける。左手の薬指には金色の指輪がはまっている。

 

コナン(あれ。なんだ……あの女の人。どこかで……あっ!)

 

 コナンの脳裏に、笠原和美の姿が浮かぶ。

 

コナン(そうか! 半年前の事件の容疑者、笠原和美さんだっ! 昨日不動高校に来ていたのは、和美さんだったのか!)

 

コナン「あ、僕ちょっとトイレ!」

 

元太「あっ! あいつまた抜け駆けする気だな!」

 

コナン「ほんとにトイレだよっ!」

 

金田一「あいつ……!」

 

 コナンが急いで和美を追いかける。

 

 

 

 

 

 

○どこかの公園

 

 初老の男が、銃と刃物を持った犯人から逃げ回っている。犯人は黒いライダースーツにフルフェイスのヘルメットで人相がわからない。

 初老の男は、躓いて転ぶ。

 

男「――ぐああっ! あ、ああ……やめてくれ……何をっ!! まさか……お前か!? お前なのか!? カメ……うわあっ!!」

 

 倒れた男の胸が突き刺される。

 犯人は、黒いライダースーツに、フルフェイスのヘルメットで人相がわからない。

 そのまま、犯人は持っている銃で倒れた男の足を撃つ。

 

通行人「きゃあっ!!」

 

通行人「警察に連絡しないと!!」

 

 公園にいた人々に目撃されたのを悟り、犯人は慌ててそのまま逃げる。

 パトカーのサイレン音が流れる。

 

 

 

 

 

 

○米花自然公園

 

 コナンは和美を追いかけていた。

 

コナン「くそっ! 見失っちまった!」

 

 そこで警官の声が聞こえる。

 

警官A「えっ!? 何!? また事件……!?」

 

警官B「現場は……不動山市不動第一中央公園の石門塔!? わかった、捜査は任せてすぐに応援に行く!」

 

コナン(また事件か!? 不動山市……? くっ、どうなってんだ!)

 

 パトカーの音が鳴る。

 

 

 

 

 

 

○警視庁・廊下

 

 明智と佐藤が早歩きで進んでいる。

 

明智「――今回の事件で使われたのも、S&W M66。線条痕も一致したところを見ると、どうやらこれは第二の事件のようですね。金田一くんの行方は不明ですが……彼の住む不動山市が事件の舞台となれば、警察側の心象にはバイアスがかかるでしょう」

 

佐藤「結局、警察もヒトです。こういうちょっとした繋がりで、金田一くんは心象が悪くなり、疑われやすくなるに違いありません」

 

明智「ええ。勿論、現段階では彼の疑いは晴れたわけではありませんが、一件目が別所で発生している以上、不動山市内で事件が発生した事実は、彼が犯人であるかどうかとは関係ないと言えます。しかし、おそらく……常にそうした間の悪さが引き起こすのでしょうね、冤罪というのは……」

 

 ため息をつく明智。

 

佐藤「インターネット上では、様々な憶測が流れています。実銃を使っているので、警察の犯行だとか、ある指定暴力団によるものだとか、中には、ヒットマンを使った政府の陰謀というものまで……どこまで冗談なのかはわかりませんが、本気で信じているような人もいます」

 

明智「――今回の事件については、極力情報は公表しないようにしましょう。今はまだ、事件の連続性を断定するような発表、二件目も銃が使われていた事などは発表しないように。あとの上層部との会議は剣持警部や目暮警部に任せて、我々は現場へ急ぎましょう」

 

佐藤「はい!」

 

 

 

 

 

 

○警視庁某所

 

 剣持警部と目暮警部、高木刑事が上層部の意見を聞いている。

 

警察上層部A「今回の二件の殺人事件。やはり、容疑者である金田一一が犯人である可能性が極めて高い」

 

警察上層部B「過去に遭遇した事件の多さ、それに容疑をかけられた事件も多すぎるな。もしかすると、過去の事件についても、洗い直す必要があるかも……」

 

警察上層部C「普段の学校での素行もあまり良くはないようだし、髪もほら、長くて怪しい」

 

警察上層部D「早急に家宅捜索を行った方が……」

 

警察上層部E「剣持警部、きみは金田一容疑者と知り合いのようだが、なんだ、彼を疑っているわけじゃないが、過去に彼が事件の最中に何か不審な行動をしたケースがあれば、この場で報告をお願いしたい」

 

 剣持が回答する。

 

剣持「ここは、私から、この警察手帳に誓いましょう! 今回を含め、奴が起こしたと考えられる事件は、私の私見においては皆無と断定します! もし犯人があいつだったなら、どうぞこいつはあんたたちが持っていってください!」

 

 

 

 

 

 

○警視庁・廊下

 

剣持「ったく……話の通じない奴らめ! 偉いばかりの頭でっかちばっかりだ!」

 

目暮「まあ、仕方のない事だろう」

 

高木「それに、金田一くんもあくまで今は疑われてるだけですから……。しかし、やっぱり、今回は毛利さんや、それからコナンくんの力が必要になるかもな……」

 

目暮「コナンくんが? どうしてまた!?」

 

高木「あ、いや、あ、その……」

 

目暮「……おまえ、何か隠しとるんじゃないだろうな?」

 

高木「あはは……そんな事は……」

 

剣持「……ところで、高木。あの江戸川コナンとかいう少年は、本当にそんなにいくつもの事件のヒントを警察に提供してきたのか? いくらなんでも、小学一年生だぞ?」

 

高木「え? ええ。直接解決した事件はあんまりないんですけどね、いつも小学一年生とは思えないヒントをくれるんですよ」

 

剣持「そりゃあ俺にはどうも信じがたいね。うちにもそのくらいのガキがいるが、まだ漢字もろくに読めんよ」

 

高木「まあ、ほら。コナンくんは特殊ですから。僕も彼が何者なのか、ある時以来ずっと気になって仕方がなくて……」

 

目暮「ただの頭の良い小学一年生だろう。まあ、いる事はいるんだろうな」

 

剣持「……まあ、言われて見りゃそうか。あの金田一や明智のように俺たちの理解の及ばんような奴がいてもおかしくない……あいつらなら、昔から普通と違っていてもおかしくはないだろうな」

 

目暮「剣持警部……あんたも金田一という少年に対する信頼は相当高いようですな」

 

高木「僕なら、ああいう風に偉い人に啖呵切れませんよ……。本当、剣持警部のはデカ魂って感じですね」

 

剣持「そんなんじゃないさ。あいつとはいくつもの事件を一緒に解決してきたからな。あいつの性格や能力は、俺が誰より知ってる。……おそらく……今回の事件、仮に誰の協力も得られずに犯人を見つけ出せと言われたとしても」

 

 にやりと笑う。

 

剣持「奴なら出来る!」

 

 

 



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8:『地獄の傀儡師』

 

 

 

○不動山市・不動第一中央公園・石門塔(こくもんとう)

 

 相変わらず大量の捜査員が派遣されている。

 

コナン「あっ! ねえ、トメさん。今回は一体どんな事件が起きたの?」

 

トメさん「ん? ああ、コナンくん。今回の事件は……」

 

明智「――今回の事件の被害者は、本田秀樹。検察官ですよ。心臓をナイフで刺された後、至近距離から足を撃たれています。死亡推定時刻は、先ほど、午後三時半。犯人の目撃情報も出ていますが、ヘルメットにライダースーツで、特定には至りませんでした」

 

金田一(あ、明智警視……!)

 

コナン「本田さんって、検察官だっけ? どんな事件を担当したの?」

 

明智「きみにそこまで教えるわけにはいきませんが、ひとまず前回の被害者と繋がる事件とだけ言っておきましょう」

 

コナン「それって、もしかして半年前の雪割荘ミステリーツアーの事件!?」

 

明智「……ご存知なんですか? 江戸川コナンくん」

 

コナン「新一兄ちゃんから聞いてるんだ、今回の事件はその事件に関係してるかもしれないって!」

 

明智「……なるほど。工藤新一も噂に違わぬ直観力のようだ。しかし、先ほども言った通り、そんな事をあなたのように子供には教えません。無論、私も教えるわけにはいきませんね」

 

コナン「え、えへへ……そっかー。それより、刑事さんは誰? あんまり見かけないけど、この前金田一さんのところに警察の人が来た時もいたよね?」

 

明智「……私は、警視庁の明智健悟警視です。米花自然公園の殺人事件の合同捜査を担当しています。今回より、広域連続殺人へと切り替わりましたがね。よろしくお願いします、コナンくん」

 

コナン「よ、よろしくね……明智警視」

 

コナン(なんだこの人……すべてを見透かしているような瞳。まるで出会った頃の白鳥刑事だ……まさか俺が工藤新一だって気づいてるわけじゃねえよな……)

 

コナン「あ……でも、明智警視! ぼく、金田一さんは、絶対犯人じゃないと思うな」

 

明智「ほう? それは何故」

 

コナン「えっと、それは……」

 

 

 後ろから、マスクを脱いだ金田一が現れる。

 

金田一「俺にはそん時のアリバイがきっちりあんの! 残念だったね、明智サン!」

 

明智「……ほう、学校をサボっていると思ったら、随分と愉快な恰好をしていますね、金田一くん。それは新しい趣味ですか?」

 

金田一「ちげーよ! あんたたちに見つからない為に、こうして阿笠博士のところに泊めてもらってたんだ!」

 

明智「……阿笠博士?」

 

 阿笠たちが現れる。

 

阿笠「ほっほっほっ……わしの事じゃよ。まさか、彼が警察に追われている身とは知らなくての。どうしても泊めてほしいと言われたから、一日だけうちに泊めていたんじゃ。しかし、昨日からずっと彼と行動していたアリバイがある以上、彼は犯人ではないようじゃな」

 

哀「アリバイなら、私も証言するわ。その時間なら、ちょうど私や江戸川くんも一緒に、米花自然公園の方で野次馬をやってたわよ」

 

光彦「あ、それなら僕たちもいました!」

 

元太「すっかり姉ちゃんだと思ってたけどな!」

 

歩美「すっごくキレイだったんだよ、金田一ヨーコさん!」

 

金田一「あはは……できれば忘れてほしいんだけど。……でも、とにかく、一応目撃者がこれだけいるんだ、俺は犯人じゃないの!」

 

 少年探偵団たちが険しい顔で明智を見る。

 

明智「ふぅ。……なるほど。ともかく、私の中ではシロとしておきましょう」

 

金田一「な、なんだよ、ともかくって」

 

明智「今は言えません。証拠品のナイフは指紋がついていて、当日米花町に来ていた。そうした証拠を見るに、あなたに容疑はかかり続けます。どうしてそこまで怪しいのかは、今の内に聞いておきたいですがね」

 

金田一「……ナイフの事は知らないけど、米花町に来ていた理由なら大した事じゃないぜ」

明智「ほう。聞かせてもらいましょうか」

 

金田一「米花自然公園の前にマンションがあるだろ。あそこに住んでる高校の先生に、課題を提出してたんだよ。調べりゃわかるぜ。午後十一時半、本当に提出期限日にギリギリ提出したんで、流石に先生も慌ててたね。でも、こっちはあの課題に留年がかかってたからさ。それからしばらく話して、先生に車で家まで送ってもらってたんだ。さすがに栗本先生も覚えてるはずだ」

 

明智「それはそれは。そんな事でわざわざ先生の自宅まで……迷惑を考えない人ですね」

 

コナン(だはは……まったくだぜ)

 

明智「とにかく、その教師についてはあとで私の方で調査します。二件の事件のアリバイを証明する手がかりになりますからね」

 

金田一「なあ、それより、俺の指紋がついたナイフがあったって話……!」

 

明智「……実は、その件ですが。もしかしたら、我々は『あの男』が関わっている可能性を考慮しなければならないかもしれません」

 

金田一「まさか……! あいつが!? そんな!」

 

コナン「?」

 

明智「尤も、今はまだ何とも言えません。もう一つの可能性もないとは言い切れないのですが……とにかく、そちらは我々に任せて、あなた方は出来る事ならばまだ表に出ずに、独自調査をお願いします。調べたいところもあるでしょう?」

 

金田一「ああ、わかったよ。それから、明智サン。俺が課題を提出した先生なんだけど、実は……」(耳打ちする)

 

明智「えっ? まさか……」

 

金田一「ああ。そっちの方も念のため洗っておいた方がいいかもしれないぜ」

 

明智「わかりました。あとで、連絡を取ってくれれば、情報は提供します」

 

金田一「サンキュー、明智サン」

 

明智「それでは、私は捜査に戻ります。あなたは、すぐにここから去ってください」

 

阿笠「言う通りにした方が良さそうじゃ、退散退散」

 

 金田一一向、そこから立ち去る。

 

金田一「ん? 待てよ?」

 

回想・明智『あなた方は出来る事ならばまだ表に出ずに、独自調査をお願いします』

 

金田一「『あなた方』って、一体……?」

 

コナン「ねーねー! さっき話してた『あの男』って誰? 金田一さん!」

 

金田一「! えっ?」

 

金田一(まさか……明智さんが言ってた『あなた方』って……いや、まさかな……)

 

金田一「どうしても、『あの男』について知りたいか? コナン」

 

コナン「う、うん。できれば、知ってる事全部、新一兄ちゃんに伝えないと。新一兄ちゃんと協力すれば、もっと早く犯人に辿り着くかもしれないでしょ?」

 

金田一「そういや、工藤と知り合いなんだっけな。俺一人だってかまわないけど……まあいいや、教えてやるよ。でも、お前はあんまり面倒な事に関わるなよ?」

 

コナン「うん。だから教えて!」

 

金田一「その男は…………地獄の傀儡師、高遠遙一だよ」

 

コナン「……何っ!?」

 

哀・光彦・阿笠「!?」

 

元太「誰だ? その地獄の振り込め詐欺師って」

 

光彦「……もう、元太くん。地獄の傀儡師ですよ! 元・幻想魔術団のマネージャーで、同じ魔術団の団員たちを立て続けに殺害した事件の犯人です!」

 

元太「えっ!?」

 

哀「更に、その後に多くの社会的事件にトリックを提供し、劇場型犯罪を演出した犯罪プロデューサー。香港での日本人殺人事件――通称巌窟王事件や、獄門塾生徒の殺人事件も彼の仕業と言われているわ……」

 

歩美「……こ、怖い人なんだね」

 

哀「大丈夫よ。江戸川くんが守ってくれるんでしょ」

 

コナン「……バーロー。それより、よりによって、何故あの高遠が関わってるなんて!」

 

金田一「以前起こった、その香港の巌窟王殺人事件だ。あいつは俺が殺人犯だと思わせるように、トリックを使って俺に疑いを向けた事があったんだ!」

 

コナン(なるほど、佐藤刑事が言っていた、金田一を陥れようとした犯罪者ってのは、高遠の事だったのか……!)

 

金田一「……だが、今回の事件……奴の事件にしては、何だかどうも引っかかる!」

 

 ふと、ベンチに座っていた彼らの前に、奇術師がいる。

 

奇術師「さて、ここからがお楽しみだよ。二人の探偵は、この恐るべき犯人を捕まえられるのかな?」

 

そこらへんの子供「えー!? どうなるのかなー」棒読み

 

そこらへんの子供「楽しみだなー」棒読み

 

そこらへんの子供「きっと犯人を捕まえてほしいわー」棒読み

 

歩美「あれーっ! 面白そうな人形劇やってるよ!」

 

光彦「今時、公園で人形劇なんて珍しいですね!」

 

元太「お、おい、待ってくれよ!」

 

奇術師「おっと、ごめんよ、今回の劇はここでもう終わりなんだ。この続きはまた来週ね。……そうだ、代わりに君たち三人と、そっちのお兄さんたちには……別のショーを見せる事にしようかな」

 

 そう言って、先にショーを見ていた子供たちがどこかへ行ったのを見届けると、奇術師はマスクを外す。そこにあったのは、高遠遙一の顔である。

 

金田一「高遠……!」

 

高遠「やれやれ……。心外ですね、この稚拙な連続殺人の仕掛け人が私だと疑われているとは……」

 

コナン「何っ!? 高遠っ!?」

 

哀「まさか、本物の高遠遙一なのっ!? こんな捜査員の多い公園で!?」

 

歩美「コ、コナンくん、この人怖い……!」

 

高遠「――しっ! ……あまり声をあげると、たとえ子供でも容赦はしませんよ。私も極力、面倒な目には遭いたくないのでね」

 

 高遠がナイフを取り出す。

 歩美たち三人は震えて動けない。既に彼がナイフを投げられる射程にいる。

 

歩美「ひっ!」

 

金田一「何だと……!? お前……! 歩美ちゃんたちから離れろ!」

 

コナン「……くっ!」

 

高遠「言った通りですよ、金田一くん。ここには多くの捜査官が派遣されていますから。正体を知る人になるべく声をあげられたくはありません。あなたたちはいずれも、私のナイフの射程にある」

 

元太「う、お、おい……光彦、こいつ見た事あんぞ!」

 

光彦「ええ……手配書の写真そのままです! 間違いなく地獄の傀儡師ですよ!」

 

コナン「黙ってろ、元太、光彦! こいつ本気かもしれない! 騒いだら本気で俺たちを……もしそうだったら一瞬だぞ!」

 

高遠「さすが江戸川コナンくんだ。私が殺し慣れているのをよく知っている。……しかし、私はあまり子供を傷つけるのは好みません。彼らは、私のショーの最も純粋な観客ですからね。そう……出来るなら、殺さずに済ませたい」

 

金田一「おまえは、一体何が狙いなんだ、高遠!?」

 

高遠「勘違いしないでください。今回、私は一切、殺人に関与していません。ただ、私が過去に演出した事件の凶器が、本件に流用されているという話を聞きましてね。その情報をあなたに提供しに来たんです」

 

金田一「凶器、だと?」

 

高遠「どうやら、香港で君が明智警視を『刺した』あのナイフが最初の被害者を刺した凶器のようです」

 

金田一「馬鹿なっ! あの時はあんたがそういう風に見せかけただけで、俺は……!」

 

高遠「しかし、あのナイフには指紋がべったりとついている。犯人は、ライダースーツを着てヘルメットを被った人物でしょう? その恰好で犯行を起こす人物が、ナイフに指紋を残すような事はありませんよ。そう……そのナイフに元々指紋がついていない限りはね」

 

金田一「じゃあ、今回の凶器はあの時のナイフだっていうのか? 警察が保管している筈じゃないのか?」

 

コナン「凶器が流用って! まさか警察内部の不正があったって事っ!?」

 

金田一「何だと!?」

 

高遠「さあ? 私はそこまでは知りません。続きの真実は、あなた方……探偵で見つけてください」

 

金田一「高遠っ! なんであんたは、危険を冒してまで、こんなところにそんな情報をっ!?」

 

高遠「……私は二度も同じやり方であなたを追い詰めるほど愚かではない。それに、今回のように観客のいないつまらない殺人劇など犯すつもりはありません。それを伝える為ですよ」

 

金田一「あんたは本当にそれを伝えるだけの為にここに来たのか!?」

 

高遠「ふっ……それに、たとえ捜査官が多くいる状況だとしても、私にとっては少々骨が折れても、別に『とても危険な事』ではない。それだけの事ですよ」

 

金田一「高遠……」

 

 不敵に笑って立ち去ろうとする高遠。それを追おうとするのを、金田一が躊躇する。

 しかし、そこでコナンが声を出す。

 

コナン「……おいおい、本当にそうか? ここの刑事から逃げられないとしても、俺からは逃がさねえよ!」

 

 コナン、にやりと笑って時計型麻酔銃から麻酔針を射出する。

 

高遠「!」

 

 しかし、高遠は麻酔銃の向けられた部分に手のひらをかざす。

 

金田一「コナン!」

 

 高遠の手で、麻酔針は薔薇になる。

 

コナン「何っ!?」

 

高遠「言った筈です。たとえ子供であっても、騒げば容赦はないと!」

 

 薔薇はナイフとなって、コナンの方へと投擲される。

 金田一が、慌ててコナンを抱えて転がる。

 

金田一「危ないっ!」

 

コナン「!」

 

 そこに少年探偵団が駆け寄る。

 

元太「大丈夫か、コナン!」

 

光彦「金田一さんも!」

 

金田一「ああ、なんとか! コナン、お前も刺されてはないよな!?」

 

コナン「ああ!」

 

歩美「良かった……コナンくん」

 

金田一「だが、あの高遠が狙いを外すなんて……」

 

コナン「いや、今のは逃げる為の時間稼ぎだっ! くそっ!」

 

 高遠は、既に隠してあったバイクにまたがっており、逃走の為にエンジンをかけている。

 

高遠「Good Luck! 金田一くん、それに小さな探偵の皆さん」

 

コナン「逃がすかよっ! 高遠っ!」

 

哀「あ、ちょっと江戸川くんっ!」

 

金田一「コナンっ!!」

 

 ターボエンジン付きスケートボードに載ったコナンが音を立てて走り出す。

 

金田一「なんだあのスケボー!? って、言ってる場合じゃねえ……あのバカ、首突っ込んだら危ないって言ったのに!! くそ、あいつを追う方法がねぇっ!!」

 

阿笠「金田一くん!! それなら、これを使えっ!!」

 

 阿笠は何かを金田一に投げた。

 

金田一「阿笠博士、何だこりゃっ?」

 

阿笠「いまコナンくんの使っているターボエンジン付きスケートボードの大人用じゃよ!」

金田一「おい、いいのかよ! これ!!」

 

阿笠「考えている時間はないぞっ。このままじゃ犯人に逃げられてしまう!」

 

金田一「あ、ああ……わかってるよ! くそっ……!! 仕方ないっ!!」

 

 金田一、スケートボード起動。

 

金田一「うおっ……!」

 

 あまりのスピードに体がよろけて転びそうになる。

 

金田一「ったく、無茶しやがって! あのガキ!」

 

 

 

 

 

 

○不動山市・公道

 

 

 金田一、木にぶつかったりよろけたりしそうになりつつもコナンに追いつく。

 

金田一「あぶねっ! うわっ!」

 

コナン「あ、何しに来たんだ、金田一っ! そのスケボーは!?」

 

金田一「こっちの台詞だよ、あいつは俺に任せて博士たちのところへ戻れ!」

 

コナン「奴は何人も殺してきた連続殺人犯だ! 逃がすわけにはいかねえんだよっ!!」

 

金田一「人の話を聞けっ!! だいたい、お前、何者なんだよ!! こんな……っ!」

 

 コナンは金田一の方を向く。

 

コナン「――江戸川コナン……探偵さ!」

 

金田一「探偵……うわっ!」

 

コナン「……金田一さん! 僕はこのまま追うから、金田一さんは向こうから回り込んで!」

 

金田一「ったく! ほんとにどうなっても知らねえぞ!」

 

 金田一が仕方なく、別口から回り込み、路地に消える。

 追われている高遠はミラーを見る。そこにコナンが映る。

 

高遠「なるほど、あくまで追って来るか……。なら、今度こそほんとうに容赦はしませんよ」

 

 高遠のバイクから、大量の煙が噴き出される。

 

コナン「ちっ!」

 

 犯人追跡メガネの精度を上げ、煙の向こうの映像を見る。

 トラックが煙で視界を遮られて逆車線に飛び込んできているが、コナンは寸前で避ける。

 その前にいた高遠を視認。

 自転車用の狭い橋の上に来る。隣の橋では車が進んでいる。下は川。

 

コナン「逃がさねえよっ! 高遠っ!!」

 

高遠「やはり、ただの少年ではないようですが、これでゲームオーバーです!」

 

 高遠、銃を取り出してコナンに向けて発砲。

 コナンは上手く避けていく。が、目の前を撃たれ、バランスを崩して倒れる。

 

高遠「これでもう私を追えませんね、江戸川コナンくん」

 

金田一「いや、もう逃げ道はないぜ! 高遠!」

 

 前方からスケボーで走ってきて、高遠の退路を断つ。

 

金田一「あんたの逃亡歴もここまでだ! 今回こそ逃がさない! 大人しく刑務所に戻れ! 高遠!」

 

コナン「へへっ。悪ぃが、監獄という名の地獄に帰ってもらうぜ! 地獄の傀儡師さんよ!」

 

 立ち上がっていたコナンがボールをベルトから射出し、キック力増強シューズのエネルギーを充填する。

 

コナン「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

高遠「ふっ!」

 

 高遠がそれを避ける為、ひらりと身をかわして真下の川へと飛び込む。

 ボールはそのまままっすぐ飛んでいく。

 

コナン「何っ!? あ、避けろ、金田一っ!」

 

金田一「えっ!? ぐわっ!!」

 

 ボールは金田一に軽く激突する。

 慌てて金田一に駆け寄るコナン。

 

コナン「くそっ……大丈夫か! 金田一!」

 

金田一「!! ダメだ……来るなコナンっ! そのバイクはっ!」

 

コナン「え!? そうか、しまった!!」

 

 そう言った瞬間、高遠のバイクが音を立てて爆発する。

 高遠が証拠隠滅を図ったのだ。

 

コナン「うわあっ!!」

 

 コナンも直撃こそしなかったが、爆風に吹き飛ばされる。

 

高遠「私はそう簡単には捕まりませんよ、工藤新一くん……。それから、先ほどの情報で、ジゼルの件は完全に貸し借りナシですよ……金田一くん! Good Luck!!」

 

 高遠は川の中から真上の光景を見上げ、水の中へと潜り、消えていく。

 

 

 



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9:『コナンVS金田一少年』

 

 

 

○不動総合病院

 

 

 蘭と小五郎が不動総合病院に来ている。

 

蘭「――もう、コナンくんったら。また心配かけて……」

 

小五郎「まったく、またおめえは余計な事に首突っ込んで……」

 

コナン「ご、ごめんなさい。でも、大丈夫だよ……どこにも異常はなかったみたいだから」

 

小五郎「そういう問題じゃねえ! おめえを追いかけたあの金田一とかいうガキも怪我を負ったそうじゃねえかっ! いいか、コナン。事件ってのはな、ガキの遊びじゃねえんだ……!! 相手はいかれた連続殺人犯なんだぞ! 奴を追うのがどれだけ危険な事かわかってんのかっ!?」

 

蘭「そうよ、コナンくん。これで少しはわかったでしょ?」

 

コナン「……」

 

コナン(金田一があの時呼びかけてくれなかったら、俺はあの爆発に直撃していたかもしれない……)

 

蘭「本当に反省してるの!?」

 

 怒る蘭を見て、小五郎は声のトーンを抑える。

 

小五郎「もういい、蘭。こいつも金田一の事では、きっちり反省してるみたいだからな。……それからな、金田一についてだが、なんでも、あいつの疑いは今回の疑いは晴れたらしいな」

 

コナン「ほんとっ!? おじさんっ!!」

 

小五郎「ああ、目暮警部の話だと、確かに二つの事件でアリバイがあったし、凶器はどこかの店で金田一が触ってたモノが、偶然犯人に使われたんじゃないかって話だ。最近の指紋じゃねえ事がわかったみてえだからな」

 

コナン「……よかった。ありがとう、おじさん」

 

小五郎「ふんっ」

 

 その時、同じ病院で検査を受けていた金田一が現れる。

 

金田一「あ、こんちわ。毛利サン、それに蘭さん。さっきはどうも……」

 

小五郎「ああ、お前か……金田一。どうだ、おまえ、具合は」

 

金田一「とりあえず、打撲があったくらいでなんとか。すんません、心配かけたみたいで」

 

蘭「良かった……」

 

コナン「ごめんなさい、金田一さん……」

 

金田一「いや……とにかく、お前や少年探偵団の奴らに大きな怪我がなくて良かったよ」

 

小五郎「コホン。それより金田一、お前にも少し話がある。確かに、今回の怪我については、うちのコナンが一番悪い! ……だが、おめーもこれまで色んな事件に首突っ込んで警察の邪魔してきたそうじゃねえか。この前の不動高校の事件を解決したのもお前だって聞いたぞ!? ええ、どうなんだっ!?」

 

金田一「あ、あはは……。あん時は、俺しか解く人間がいなかったんだよ……それに、解いたのは剣持警部って事にしとくつもりだったし……」

 

小五郎「首突っ込んだ事に変わらねえだろっ! 二度とくだらん推理ができねえように……」

 

蘭「もう、お父さん……その辺に……」

 

 そんなとき、美雪と佐木がやってくる。

 美雪が思わず金田一に抱き着く。

 

美雪「――はじめちゃん!」

 

金田一「美雪……悪い、心配かけたな」

 

美雪「ううん。コナンくんを追いかけてたんでしょ?」

 

金田一「ああ。でも、ほら、ここ二日ずっと警察から逃げてたし、そっちの事でも心配かけちまったかなって」

 

美雪「はじめちゃんは悪くないじゃない!」

 

金田一「……まあな。でも、ごめん!」

 

美雪「ううん。良かった。無事でこうしてまた会えて……」

 

佐木「じーっ」

 

 金田一と美雪がそれぞれお互いの身体を離す。

 

金田一「あ、佐木! 馬鹿、撮るなよっ!」

 

小五郎「なんだ、ガキが色気づきやがって……ケッ! こいつらも同じかよ」

 

金田一「そんなんじゃないって……!」

 

 そんな様子を、蘭はじっと見つめる。

 蘭の中には、自分のもとへこうして帰ってくる新一の姿が浮かんでいた。

 なつかしさに、少し蘭の目に涙がたまる。

 

蘭「……」

 

美雪「蘭さん……どうかしたの?」

 

蘭「あ、ううん……。金田一さんが美雪ちゃんのところにちゃんと帰ってきて良かったなって、そう思ったらちょっと涙が出てきちゃって……」

 

金田一「大袈裟だな、蘭さん。こんな事よくあるって! あ、もしかして、蘭さん俺の事好きだったり……それなら大丈夫! 俺は蘭さんが抱き着いてくれたって、もう全然……」

 

美雪「はじめちゃん!(諫める) ……ごめんね、蘭さん。きっと、工藤新一さんの事を考えてたのよね」

 

金田一「え? あ、そうだ、その工藤って奴、どこにいるんだよ。この事件に関わってるらしいんだけどさ、まだ一度も会って話を聞いてないんだよ」

 

 美雪、蘭、コナンがうつむく。

 

蘭「……新一はね、いま、事件で遠くに行ってるらしいの」

 

金田一「なんだって!? それじゃあ、コナン、お前の連絡相手は……」

 

コナン「あ、えっと」

 

蘭「あ、でもたまにコナンくんや私に電話するのよ。帰ってきてはくれないけど……」

 

金田一「そうか……そういえば、あんたたちも幼馴染なんだったな」

 

蘭「どこにいるのかな……。今度の事件でも、コナンくんに協力してるって。でも、私たちの前には来てくれないんだよね」

 

コナン(蘭……悪い。俺もいつか、金田一みたいに、絶対にお前のもとに帰ってくるからよ……)

 

 コナンの神妙な表情を見て、金田一は押し黙る。

 

金田一「……あ、そうだっ! 蘭さん、喉乾かないっ!?(少し焦ったように)」

 

蘭「え?」

 

金田一「そういう時はさ、ちょっとあったかい飲み物でも飲んで落ち着くのが良いよ。俺が買って来るから!」

 

美雪「で、でも、はじめちゃん。怪我してるじゃない! いいわ、それなら私が買って来るわよ」

 

金田一「いいよ、俺とコナンで行くから。こんなのかすり傷だし、心配かけたお詫びにさ。えーっと、俺とコイツと、美雪と佐木と、蘭さんと小五郎さんの分ね」

 

コナン「えっ!?」

 

蘭「ごめんなさい、変な心配かけちゃって……でも大丈夫だから」

 

金田一「良いよ、良いよっ! なんでもいいから、とにかくおごるよ! 行こうぜ、コナン!」

 

コナン「えっ!」

 

小五郎「せっかくこいつが心配料に飲み物の一杯でも奢るって言ってんだ。ここはひとつ、お言葉に甘えようじゃねえか。……というわけで、金田一。俺のはビールを頼むぞ!」

 

金田一「とりあえず、全員コーヒー買って来るからなー!」

 

 既に金田一とコナンは向こうに行っている。

 

小五郎「……聞いてねえのかよ」

 

佐木「あのー、そもそも僕たち未成年だからビールは買えませんし、病院の自販機にビールなんてありません……」

 

小五郎「……あ、そっか」

 

 

 

 

 

 

○不動総合病院・自動販売機の設置されている休憩スペース

 

 金田一とコナンが二人でいる。

 他には誰もいない。

 

コナン「ねえ、どういうつもり? 金田一さん。わざわざ僕を指名して呼ぶなんて。普段はこういうとき、美雪さんと一緒に行動するんでしょ」

 

金田一「江戸川コナン……探偵、だろ。お前、話すたびに口調を変えてるよな。感情的になった時には、素が出る」

 

コナン「……それがどうかした?」

 

金田一「いや、それは別に良いよ。でも、蘭さんはずっと待ってるってよ、工藤新一の事。……なあ、コナン。本当は、あいつがどこにいるのか、お前が一番よく知ってるんじゃないか? 信頼できる同級生の蘭さんや、探偵の毛利さん、他にも警察の知り合いがいるっていうのに、工藤新一はわざわざお前を頼ってる。流石にそれは妙だよ」

 

コナン「どう思ってるの? 金田一さんは」

 

金田一「これから言う事に確証はないよ。どうしてそんな事になってるのかだってわからない。はっきりとした根拠もない。でも、俺はこう思ってる」

 

コナン「……」

 

金田一「……俺の目の前にいる江戸川コナンが、工藤新一本人だって!」

 

コナン「……」

 

金田一「最初は、弟か何かだと思った。だけど、そもそもお前は最初に会った時から少し様子が違っていた。……ただ頭が良いだけじゃない。俺や工藤しか知りえない半年前の事件についても、かなり普通についていってるんだ。お前が屋上で連絡を取っていた相手も、あの状況は本来なら工藤なのが自然なのに、そうじゃなかっただろ?」

 

金田一「きみは、直接博士に電話をしていた。これは、あくまで推測だけど……あれだけの高い技術を持っている博士がいるなら、もしかしたら人間を子供にする事だってできるかもしれない。ファンタジーじゃなくてさ」

 

 コナンは何か考えている。

 

金田一「どうだい、江戸川コナン!」

 

コナン「……ねえ、金田一さん。前に、事件は、あくまで警察に任せるべきものだって言ったよね? 自分は関わりたくないって。……でも、この真実を知ってしまったら、どうなるかはわからないよ? 金田一さんの身にも危険が及ぶかもしれない。それを背負う覚悟はある?」

 

 金田一は少し髪を掻く。

 

金田一「……そんなの今更関係ねえよ。もし、俺が同じ立場だったら、美雪の事を絶対に泣かせない! 近くにいて、それでも泣かせるなんて……平気でそんな事をする奴がいるなら……俺は、絶対に許したくないね! まして、目の前にいるならさ!」

 

コナン「金田一……」

 

金田一「どうなんだよ、コナン!」

 

 横から灰原が現れる。

 

哀「――隠し通せる相手じゃないみたいよ。名探偵さん」

 

コナン「灰原……! お前、いつからそこに!」

 

哀「さっきから、ずっとよ」

 

金田一「哀ちゃん……? きみも何か知っているのか?」

 

哀「ええ、教えてあげるわ。その代わり……あなたにはまた新しい死神からの招待状(チケット)が届くかもしれないけど、あなたはそれも……覚悟の上なんでしょう?」

 

 金田一が頷く。

 

 

 

 

 

 ――時間が経過する。

 

 

 

 

 

哀「――つまりは、そういう事よ」

 

金田一「……人間を小さくする薬。そんなものが……それに、黒の組織だって……?」

 

哀「世の中には知らない方が良い事もあるわ。でも、あなたはそれを知ってしまった。私たちと同じね。もう、あなたには一生影が付きまとう……」

 

金田一「ああ、でもまだ信じられねえよ。きみが、もう俺たちみたいな年だって? 本当なら、どんな姿か見てみたいね」

 

哀「信じても信じなくても、もし他言したらあなたは組織に消される。悪いけど、私の話はここまでよ」

 

金田一「そうか。……話してくれて、ありがとう。……どっちにしろ知っちまったもんはしゃーないよ。きみの言う通り、隠して生きるしかない」

 

哀「あなたのその前向きさが、ちょっとうらやましくなるわ。……とりあえず、私はもうコーヒーを持って先に行ってるわね。あんまりみんなを待たせちゃ悪いものね」

 

金田一「あ、ああ。サンキュー……哀ちゃん」

 

 金田一、コナンの方を見下す。

 

金田一「コナン……」

 

 コナンは薄く笑う。

 

コナン「……間抜けな話だろ、金田一。俺は、余計な事に首を突っ込んじまったばっかりにこの世で最も危険な組織に追われるようになっちまった。まったく、本当に笑えない冗談だぜ。この姿の事も、相手に危険が及ぶ以上、誰にも言えねえ……大切な人にもな」

 

金田一「お前は、あの蘭さんを危険な目に遭わせない為に、ずっと自分がいる事を隠してたのか……」

 

コナン「ああ。あいつを組織との戦いに巻き込むわけにはいかねえ。たとえ、この身が滅んじまっても、どんなにつらい想いをさせちまっても……あいつだけは、守りたいんだ」

 

金田一「……」

 

 金田一、少し黙る。

 

金田一「……悪かったな、コナン。いや、工藤。何も知らないのに、自分だったら許さねえなんて言っちまった」

 

コナン「いや……おめえの気持ちは痛いほどよくわかるさ。だって――工藤新一を地球上の誰より許してねえ人間は、他でもない、ここにいるんだから」

 

金田一「……」

 

コナン「やっぱり、今となっては、やっぱりあん時は大人しくしてればよかったのかもしれねえよ。結局、奴らは捕まえられなかったし、蘭を今もずっと泣かしちまってる……もし、おめえみてえに大人しくしてたなら、そうならずに済んだかもしれない……そう思うと――」

 

金田一「……それはわかんないね! 俺も同じ状況なら、同じ事をしてたかもしれねーし」

 

コナン「? どうしてだ? 事件に関わりたくねえんだろ?」

 

金田一「さあね……。でも、俺は昔からジッチャンからこう教わってきた。――真実がわかった時に初めて誰かが救われる事が、きっとある。それなら、その真実を暴いてみせる誰かが必要なんだって! そして……きっと暴かれない事で誰かが苦しみ続ける事が、不幸になる事が、世の中にはたくさんある筈なんだ! それをジッチャンは、教えてくれた……」

 

コナン「……なるほど、誰かを助けるのに論理的な理由はいらねえってワケか。でも、そうか……やっぱり、あんたのおじいさんは、日本が誇る名探偵なのかもな……」

 

 コナンは、笑いながら立ち上がる。金田一がその背中に語り掛ける。

 

金田一「ああ……俺も、ジッチャンの事はそう思ってるよ。……なあ、工藤新一は、俺と同じ、高校生探偵なんだろ」

 

コナン「……ちょっと前までの話だけどな」

 

金田一「ちょっと、最後にひとつだけ訊いていいかな?」

 

コナン「何だよ」

 

 金田一の声のトーンが暗くなる。

 

金田一「……お前も、誰かを救えなかった事や、……自分のせいで誰かを死なせちまった事があるのか……?」

 

コナン「……」

 

金田一「さっき俺は、真実を暴く事で人が救えるって言ったよ。でも、必ずそういうわけじゃない――そうじゃなかった事も、ある」

 

コナン「真実は時に人を殺してしまう……か」

 

金田一「……ちょっと前に、俺が関わった事件でさ、俺がいなけりゃ起きなかった事件があったんだ。それに、今までも何人も、『助けてほしい』って声を聞いてやれなかった子や、俺が事件に巻き込んで死んじまったヤツや、俺が真実を明かした事で自殺を選んだ犯人がいた。その中には大事な友達もいたよ」

 

コナン「……」

 

金田一「……だけど、俺がやってきた事は間違いじゃないって……俺が謎を解かなきゃ救われなかったものもたくさんある筈だって、美雪には言われた。俺は、いまも美雪の言葉を信じてる。……お前もそういうの、ちょっとはわかってて、それで探偵やってんのかと思ってさ……」

 

コナン「……ああ。その痛みも、ちょっとはわかるよ。――ただ、ほんの、一人分くらいだけどな……」

 

金田一「一人分?」

 

コナン「……だから、俺は、もう、絶対に犯人に自殺なんてさせねえ。推理で犯人を追い詰めて、死なせちまったら殺人者と同じだ」

 

金田一「……」

 

コナン「……でも、何人もの犯人を自殺させちまったとしても……お前は違うぜ、金田一。美雪さんが言ってたんだろ? お前は、自分が暴いてきた真実で、確かに誰かを救ってきてるって。それなら、お前は、これからも多くの真実を見つけて、それでも、犯人を二度と死なせないようにすればいい……。それに、お前は今日、あの高遠から、俺を二度も助けようとしてくれた。この俺自身の無傷が、金田一一が誰かを助けられた立派な証拠だろ?」

 

金田一「後悔するのは仕方ないけど前に進め、か……」

 

コナン「……それに、もしかしたら……お前の見てきた真実は、本当は俺より多くの人を救ってきたのかもしれない。――俺も、これまで、救えなかった人や、後悔している事だってある。でもやめられない、やめちゃいけないんだ! そうやって死んで……言葉をなくした被害者たちに言葉を与え、人が犯罪を犯す本当の理由を見つけて……誰かの心や、消しちゃいけない真実を護る事が出来るのは、スーパーマンじゃない……俺たち探偵だけなんだよ!!」

 

金田一「コナン……」

 

コナン「ふっ……まっ、そのやり方はそれぞれだけどな! それに、お前にだって良い幼馴染(ワトソン)がいるんだろ。……だから」

 

金田一「だから? 何だよ」

 

コナン「お前も……幼馴染は大切にしろよ。そのままで、ずっとそばにいられるんだからな……」

 

 コナンは、金田一の方を見て悲しそうに笑った。

 

金田一「……ああ。言われなくても、名探偵と呼ばれた金田一耕助(ジッチャン)の名にかけてね!」

 

 立ち上がり、コナンの後ろを歩く金田一。

 

金田一(工藤新一……お前も、ただのいけ好かない奴だと思ってたけど……違ったよ。『犯人を絶対に死なせない』……その信念があるなら、俺はあんたと一緒にこの謎を探っていく事が出来る!)

 

コナン(金田一一……誰よりも犯罪を憎み、誰よりも犯罪者を憎まない探偵か。ホント、面白い奴だ!)

 

 

 



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10:『休息』

 

 

 

○不動総合病院・ロビー

 

 コナンと金田一が、蘭たちのもとに現れる。

 

蘭「あ、コナンくん! 遅いじゃない」

 

美雪「はじめちゃん、何かあったの?」

 

コナン「あ、いや……ちょっと金田一さんと二人で話してたんだ!」

 

金田一「そうそう、二人で積もる話もあったしな!」

 

蘭&美雪「???」

 

佐木「なーんか怪しいですね。七瀬先輩の噂話でもしてたんじゃないですか?」

 

金田一「んなワケねーだろ。なんでこんなガキに」

 

コナン「新一兄ちゃんや小五郎のおじさんの活躍を話してたんだよ! ほら、金田一お兄ちゃんも、探偵だから気になると思ったんだぁー」

 

金田一「……」

 

美雪「どうしたのよ、はじめちゃん。なんだか鳥肌凄いわよ」

 

金田一「な、なんでもねえよ!」

 

金田一(……な、なあ、おまえ、その金田一お兄ちゃんってのやめてくれねえか? だいたい、お前いつもそんな口調なのかよ!)

 

コナン(仕方ねえだろ! 小学一年生になっちまったんだから!)

 

 ふと、コナンが周りを見る。小五郎がいないのだ。

 

コナン「あれ? 小五郎のおじさんは?」

 

美雪「それが……」

 

蘭「あ、ダメよ! コナンくんに言ったら、また……」

 

美雪「あ、いけない」

 

コナン「まさか……事件?」

 

蘭「ダーメ。教えない」

 

コナン「えー! 教えて教えて教えてよー!」

 

金田一「……なあ、美雪。俺だけにちょっと聞かせてくれよ」

 

美雪「あ、うん。それがね……」

 

美雪(小声)「なんでも、三人目の被害者が出たらしいの。それでコーヒー飲んだらすぐに行っちゃって」

 

金田一「なんだって!?」

 

美雪「あ、でもはじめちゃんもダメよ! 大人しくしてないと!」

 

蘭「そうよ、金田一さん! もし……美雪ちゃんを泣かせるような事があったら……ハァー……(構える)」

 

金田一「は、ははは……大丈夫、大丈夫」

 

金田一(この姉ちゃん、空手の腕前がすさまじいんだった……)

 

コナン(悪ぃ事は言わねえから、何があっても今日一日は大人しくしといた方がいいみたいだぜ、金田一)

 

 金田一が一度ため息をつく。

 

金田一「……まっ。とにかく疑いは晴れたんだし。事件は明智警視たちに任せて、俺たちは大人しくしてますよっと」

 

コナン「そうだね! わーい、金田一お兄ちゃん! そうだ、阿笠博士のところでゲームしようよ、ゲーム!」

 

金田一「え? 阿笠博士のところへ、今から?」

 

コナン「少年探偵団のみんなと泊まって、新しいゲームを見せてもらう予定だったんだー。ねえ、金田一さんも行こうよー」

 

蘭「すっかり金田一さんと仲良くなっちゃったのね、コナンくん」

 

金田一「へ、へへへ……(ひきつった笑い)。お、おにいちゃんはなー、ゲームでは負けねえんだぞー!」

 

コナン「わぁい、金田一さんとゲームだゲームだ! やったー! 阿笠博士の車に乗って! 阿笠博士のところに行こうよ!」

 

金田一「よ、よーし、俺も泊まってゲーム三昧させてもらうか~っ!」

 

美雪「なんか変ねぇ……」

 

蘭「っていうか、金田一さん、鳥肌凄いわよ!」

 

哀「……まったく、先が思いやられるわね」

 

 

 

 

 

 

○不動山市・犬神湖公園・犬神湖畔

 

 小五郎たちが捜査官たちのところに来ている。

 

小五郎「あー、どいたどいた! 警察の許可は貰ってる!」

 

 小五郎の行く先には目暮と剣持。

 

剣持「お? これはこれは、待ってましたよ。毛利くん」

 

小五郎「はっ! これはもしや、剣持警部殿! お久しぶりです!」

 

剣持「いやあ、すっかりご無沙汰だったね」

 

目暮「なんだね、二人は知り合いかね」

 

小五郎「ええ、実は、私が警視庁にいた頃、剣持警部とは柔道で組手をやらされた事がありまして。いやあ、なかなかに手ごわい相手でした。その後も何度か飲みに連れて行ってもらったもんですよ」

 

剣持「懐かしいなぁ……私が会った中でも柔道の達人といえば、毛利くんを置いて他にはいないほどです。今も探偵として活躍しとるようだし、さぞ優秀な警察官だったんでしょう!」

 

小五郎「はっはっは……剣持警部殿もなかなか」

 

剣持「いやぁ、しかし、こうして俺たちが揃ったからには、もう安心だ!」

 

小五郎「ええ、いくつもの事件を解決に導いてきた名探偵が二人、しかも柔道の腕は最高級。これでもう、犯人が地面に投げ飛ばされるのは確実ですな!」

 

剣持・小五郎「だーっはっはっはっはっ……!!」

 

目暮「本当に大丈夫なのかね……彼らは」

 

小五郎「……で、剣持警部、目暮警部。被害者は?」

 

剣持「むっ。今回の被害者は、半年前に亡くなった王剛の元部下だった亀田五郎。つい先月まで警官だったんだが……残念ながらボウガンで体を何度も刺されている。おそらく、一発目で前から仕留められなかったから、二発目、三発目を背後から発射したんだろう。近くには、外した矢も落ちていたようだ」

 

小五郎「へぇ~元警官ゴロシとは、そりゃあなかなか大胆な事を」

 

剣持「……ガイシャは全員、半年前に死んだ王や黒須宗男の関係者だ。おそらく、私怨による計画的な犯行だな。事務員に、検察官に、元警官。彼の足もどうやら鉄砲で撃たれちまってるらしい」

 

小五郎「一体、なんで殺してから足を狙ったんでしょうな?」

 

目暮「一件目は頭だったんだが……果たしてこの行為にどんな意味があるのかは、我々も調査中だ」

 

剣持「うむ。しかし……こうなると、本格的に半年前の事件の犯人やその周囲を洗ってみる必要がありそうだ」

 

小五郎「うーん。やはり、あの地獄の傀儡師とかいうイカレ犯罪者が犯人という事はないですかな? 今日、コナンとあの金田一を怪我させたとか……」

 

目暮「彼の事も含めて、現在調査中だよ」

 

剣持「だが、奴は基本的に他人の犯罪にトリックを提供し、犯罪を行うよう扇動する手口を使う……おそらく、そうだとしても別に犯人がいると見て間違いないでしょう」

 

目暮「とにかく、毛利くん。雪割荘ミステリーツアー事件に関わった人間には、あす米花町内のホテルに集まってもらう手配はした。この事件の犯人は一刻も早く見つけんといかん! これ以上被害者を出す前に!」

 

小五郎「はっ! わかりました、目暮警部殿! 剣持警部殿!」

 

 

 

 

 

 

○阿笠博士の車

 

 阿笠、コナン、少年探偵団、金田一が搭乗している。

 

阿笠「コナンくん、明日はマガデーゲームスの本社に向かえばいいんじゃな?」

 

コナン「ああ、マガデーゲームスが『バーチャバトラー』に使ったフォントの出どころがわかれば、何か手がかりがつかめるかもしれねえ」

 

金田一「それに、明智警視から送られてきた捜査資料によれば、最初の被害者の戸塚さんはマガデーゲームスで事務員をやっていたらしいんだ。その事も調べておきたい」

 

阿笠「なるほどのう」

 

光彦「それにしても、金田一さんがあの金田一耕助のお孫さんだったとは驚きです。獄門島殺人事件や八つ墓村殺人事件など、数々の事件による功績で、戦後最高の名探偵と呼ばれた方なんですよね!」

 

金田一「お、詳しいな」

 

元太「なんだそれ、工藤新一や服部の兄ちゃんより凄ぇのか?」

 

光彦「勿論! 僕は断然、金田一耕助派です! 戦後、ほとんど日本の探偵術が確立されていなかった時代に数多くの難事件を解決した功績は計り知れませんからね! 彼の親友・横溝正史が書き残した伝記の本もぜーんぶ読んでますから!」

 

金田一「マジかよ……俺もほとんど読んでねえのに」

 

歩美「えー、でも多分新一さんの方が凄いよ。だって、高校生なのにたくさんの事件を解決してるんだよ?」

 

金田一「ムッ。……あのね、歩美ちゃん。俺のジッチャンは、光彦の言う通り戦後最高の名探偵なんだぜ、工藤新一よりずっと凄いんだよ。ジッチャンがいま生まれてたら絶対、工藤新一なんかより有名になってたね!」

 

歩美「えー……」

 

哀「大人げないわよ、金田一くん。小さい子の夢を壊すなんて」

 

金田一「うっ……でも、さすがに工藤新一とジッチャンだったら、ジッチャンの方が凄いと思うけどな。……あ、それじゃあジッチャン譲りの手品でも見せようか」

 

歩美「手品?」

 

元太「おめえのじいちゃん手品師だったのかよ」

 

光彦「いや、だから元太くん。名探偵だったって、言ってるでしょう? 手品はきっと、彼の特技の一つですよ」

 

金田一「いいか? 良く見てろよ、ほら!」

 

 金田一、何か凄い手品をやる。

 

歩美「あーすっごーい」

 

元太「ほんとだ、すっげー!」

 

光彦「どうやったんですか!?」

 

金田一「へへーん」

 

コナン「おいおい……おまえ子供並かよ」

 

金田一「……うるせーな」

 

哀「案外、これで、どっかの誰かよりも大人だったりしてね」

 

コナン「はは……んなわけねーだろ」

 

金田一「やっぱやなやつ……」

 

阿笠「これ、喧嘩はいかんぞ。……おっと、もうワシの家に着くぞい。今日はワシの作ったゲーム、明日はマガデーゲームスに社会科見学じゃ!」

 

少年探偵団「はーい!」

 

金田一「うーし! 今日も泊めてくれるんだよな、博士!」

 

阿笠「あ、ああ……それはそうじゃが。まさか、本当に金田一くんがワシのゲームをやりに来るとは……」

 

金田一「へへっ、じゃあ夜まで博士の新作ゲームで遊ぼうぜ。はじめお兄ちゃんがお前らに見本を見せてやるよ!」

 

コナン(オイオイ、灰原。……俺はホントにコイツ以下か?)

 

 

 

 

○阿笠邸

 

 探偵同士が戦うヘンテコな格闘ゲームに興じる金田一とコナン。

 阿笠博士が作ったテレビゲームらしい。

 画面はコナンの劣勢。

 

コナン「あああああ!! クソッ!!」

 

金田一「コナン、お前……ゲーム下手だな! 隙だらけだぜ!」

 

コナン「うっせバーロー! このっ、このっ! ホームズは負けねえんだっ!」

 

金田一「よっしゃ、これでトドメ! ジッチャンの勝ち!」

 

コナン「くそっ! もう一回だ!」

 

コナン(にしても、なんでホームズや金田一耕助が格闘技で戦うんだ? このゲーム。……まあ、阿笠博士の作ったもんだししゃあねえか……)

 

元太「おいコナン……いつまでゲームやってんだよ……もう飽きちまったぜ……」

 

歩美「もう寝ちゃうよー」

 

光彦「だいたいこんな時間までお風呂にも入らずにゲームばっかりして……子供じゃないんですから。明日、寝坊しますよ」

 

哀「放っておきなさい。二人とも子供なのよ。あの調子だと誰の言葉も耳に入ってないわよ」

光彦「そうですね……。すっかり夢中みたいですし、邪魔するのも悪いですし」

 

阿笠「やれやれ……もう十時だというのに」

 

金田一「あれ? もう十時か。コナン、そろそろ切り上げて一回風呂入るぞ」

 

コナン「おい、まだ勝負は終わって……!」

 

金田一「当たり前だよ、ゲーマー金田一にはこのくらい朝みたいなもんだって。風呂あがったらもう一勝負だ、コナン!」

 

コナン「ったく、後悔すんじゃねえぞ……」

 

阿笠「まだやる気なのか……この二人は」

 

 

 



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11:『幼馴染』

 

 

 

○毛利探偵事務所

 

 パジャマ姿の美雪と蘭が布団を敷いている。

 

美雪「ねえ、何度も聞くようだけど、本当に良いのかしら、今日こっちに泊まっちゃって……」

 

蘭「いいのよ別に。お父さんも今日は仕事でいないし、コナンくんも阿笠博士のところに泊まってるし。それに、私たちも明日はまた目暮警部たちに呼ばれてるじゃない? 明日、不動山市から米花町に行くより、この方が楽でしょ?」

 

美雪「それはそうだけど……」

 

蘭「それに、本当はお父さんもコナンくんもいないから、私の方がちょっと寂しいくらいよ。美雪ちゃんが来てくれて、ちょっと嬉しいもの」

 

美雪「まあ、そういう事なら、御言葉に甘えます……」

 

蘭「そうそう! 積もる話もあるしね! ……で、さー、さっそくだけど、美雪ちゃん。金田一くんとはどうなの?」

 

美雪「え、はじめちゃんとどうって……?」

 

蘭「ほら、二人とも随分親しくしてるじゃない。あれは一体、どっちから告白したのかなって」

 

美雪「告白……? そ、そんなんじゃないのよ! 蘭ちゃん!」

 

蘭「あれ? そうなの……てっきり」

 

美雪「あたしとはじめちゃんは、ただの! 幼馴染です!」

 

蘭「へえ……そうなんだ。でも、美雪ちゃんは金田一くんの事好きでしょ?」

 

美雪「そ、そんな事ないわよ……!」

 

蘭「わかるわよ。だって、二人ともあたしと新一に似てるから……」

 

 蘭が薄く笑う。

 

美雪「……あの、蘭ちゃんと新一さん、恋人だったのかしら?」

 

蘭「うーん、ちょっと違うかな。でも、一応新一から告白はされてたのよ。ロンドンで会えた時にね」

 

回想・新一『好きな女の心を……正確に読み取るなんて事はな!』

 

美雪「へぇ……」

 

蘭「たまに会えるんだけどね、すぐにいなくなっちゃうんだ。あの告白の後も、そうだった。……美雪ちゃんは、どう? 何か金田一くんと決定的な事ってあった?」

 

美雪「そうね。……やっぱり……」

 

回想・金田一『俺……いなくなったら寂しい?』

 

美雪「キス、とか……」

 

蘭「え!?」

 

美雪「あ、あの! はじめちゃんも、雪割荘の事件のちょっと後くらいに、色々あってしばらく旅に出てたのよ! その前に、挨拶みたいに、ね……! 内緒よ、蘭ちゃん!」

 

蘭「……そっか。なんだかんだで美雪ちゃんも……」

 

 ふと、蘭が何かを思い出す。

 

蘭「――そういえば、半年前の事件で会った和美さんも、鬼沢さんとは幼馴染だったわよね」

 

美雪「……そうね。その時にも、三人でこんな事を話したわね……」

 

蘭「あたしたちとはちょっと違うかもしれないけど、そっか……。和美さんも大切な人と離れ離れなんだよね……」

 

美雪「うん……」

 

蘭「鬼沢さんも、和美さんも、今はどうしてるのかな……」

 

 

 

 

 

 

○回想。半年前、雪割荘

 

 女性浴場で、美雪、蘭、和美らが言葉を交わしている。

 

蘭「――でも大変よね、美雪さん、和美さん。幼馴染が探偵で、ずーっと推理推理って!」

 

美雪「うーん……まあ、そうだけど。話を聞いているとちょっと新一さんは度を超しているような……」

 

蘭「この前一緒に帰った時もシャーロック・ホームズの推理がどうのってひたすらウンチクを語られて……もう、何度も何度も! しばらくあいつのウンチクはもううんざり! もう、しばらく聞きたくないくらいよ!」

 

和美「……ホームズがお好きなんですね、新一さんって」

 

蘭「ええ、でもほんと凄いんです。病的なシャーロキアンっていうやつで! なんでも現代のシャーロック・ホームズになるのを夢見てるとかで」

 

和美「でも……ホームズってそれくらい面白いんですよ。私もアキくんも、昔から本当にホームズが大好きで……」

 

美雪「……あ、そういえば、鬼沢さんと和美さんは二人ともうちのミス研のOBとOGだったんですよね! じゃあ和美さんもホームズが好きなんですか?」

 

和美「ええ……私たちがいた頃はまだ、あそこは推理小説研究部でしたけど……ホームズが好きで推理研に入って、アキくんも、あともう一人栗本くんっていう子も一緒に入部していたんです。……三人でいつもミステリーの話をして……アキくんと私はいまは、本当にホームズとワトソンみたい」

 

蘭「……へえ、でもカップルが二組も出来るなんて、そのミステリー研究会も、なんだか恋のキューピットみたいな部活なのね」

 

美雪「カップル……!? そ、そんなんじゃありません! あたしだって、はじめちゃんにはうんざりしてるんです! 早引けしたり、遅刻したり、さぼったり、早弁したり、目を離すとすぐ問題起こすし……!」

 

和美「……あたしも、アキくんとはそういうのじゃ……」

 

 それを、ちょっと遠いところから見る松山美紀、時任新奈。

 

松山美紀「いいわね、みんなカレシ持ちで。もうすっかり彼氏なんて出来ないわ。……時任さん、まさかあなたは彼氏いないわよね?」

 

時任新奈「……」

 

松山「ちょっと、時任さん」

 

時任「え……あ、うん! あ、あたしも彼氏は出来ないんだよね! でもほら、あっちの三人はワトソン役、こっちはホームズ役だから! あたしたちは向こうとは違うワトソン系男子を狙わないと! あはは……」

 

松山「ワトソン系男子……なんているのかしら」

 

時任「うーん、どうだろ……やっぱり少ないんじゃない? どっちにしろ、松山ちゃんみたいにボクシングに、射撃に、乗馬までできる探偵なんて、恐ろしすぎてなかなか声がかからないと思うけど」

 

松山「ちょっと時任さん!」

 

美雪「へえ、意外……松山さんってそこまで凄い人だったのね。……後で、はじめちゃんにも、蘭さんや松山さんに声をかけたら危ないわよって言っとこ」

 

蘭「そういえば、新一も女ホームズだって言ってたわ、松山さんの事」

 

松山「……はぁ、困るわ、本当に。どこかに、私よりボクシングと射撃が強くて、白馬に乗ってやってきてくれる男性はいないかしら……」

 

時任「ムリだと思うなぁ」

 

 蘭が少しそちらを見ている。

 

時任「――あ、でも、彼氏持ち三人も気を付けた方が良いよ! いくら幼馴染で仲が良くても、ちょっとした事で別れ別れになるなんて……珍しくないから! なんてね」

 

 

 

 

 

 

○現代、阿笠邸・風呂

 

 金田一とコナンが一緒に入っている。

 

コナン「――なあ、金田一。笠原和美って覚えてるか?」

 

金田一「ああ。鬼沢さんの助手の和美さんだろ。ちゃんと覚えてるよ」

 

コナン「この前、お前が捕まった時に不動高校で、それからそのあと米花自然公園で和美さんを見た。こっちは最初の事件の後、お前が女装して阿笠博士たちとやって来た時だ」

 

金田一「あ、それでお前はあの時走ってどっかに……!」

 

コナン「ああ。だが、間違いない、和美さんは事件の様子を頻繁に確認していた。もしかしたら、俺や蘭みたいに予告状が届いていて金田一に会いに来て、本陣広場のある米花自然公園の様子を見に来たのかもしれない」

 

金田一「……」

 

コナン「そして、同じ頃に、不動山市で事件が起きた。これが単独犯なら、和美さんは犯人じゃない。だが共犯だったら……。どっちにしろ容疑者の一人には違いないな」

 

金田一「どうして、そう思うんだ?」

 

コナン「決まってんだろ。鬼沢さんと和美さんは、幼馴染で助手という関係だ。今回の事件で亡くなったのは、事務員の戸塚に、検察官の本田……黒須や王が引き起こした鬼沢誠一の冤罪に関わる人間ばかりだ……鬼沢さんのやり残した復讐を完成させるっていう明確な動機がある。それに、鬼沢と親しかったなら、全員の連絡先や、例のフォントも持っていたっておかしくはない」

 

金田一「ああ、確かにそれはそうだけど……」

 

コナン「……勿論、妙な点はある。なぜ、自分が怪しまれる状況まで作って、半年前と同じ手紙を渡したのかという点だ」

 

金田一「ああ、その理由がない。何故わざわざ半年前の事件と絡めて足がつくような状況を作ったのかはさっぱりわからないんだ。警察も当然、半年前に殺された二人との関連性を調べていた。まして、こんな手紙まで用意されていたら、真っ先にあの時のメンバーに疑いが向くだけだ。それなら、最初からあんな予告の手紙なんて出さない方が良い。誰が犯人だったとしてもね」

 

コナン「ああ、一体何故なんだ……?」

 

金田一「最初はその理由をこう考えてたよ。半年前の事件と絡める事で、俺に疑いを向けさせようとしてるんだってね。……でも、それにしては、かなり杜撰なんだ。もしかすると、犯人――“死神の子”は俺がスケープゴートになるところまでは想定していなかったんじゃないか?」

 

金田一「……だから、最初の事件では俺の指紋付のナイフを用意したけど、第二・第三の事件では俺にアリバイのある状況で事件を起こし、俺に関わる痕跡を一切残していなかった。もっと言うと、俺が米花町に来ていたのも、まったくの偶然だ。あれじゃあ、家にいて、母さんや美雪がアリバイを証言してくれる状況だった可能性だって高い。俺を追い込む状況は、まったく完成できてないんだ。実際、すぐに俺の容疑は晴れた」

 

コナン「その死神の子って奴は、一体何をするつもりなんだ……」

 

金田一「……あとは全くの情報不足だよ。明智警視たちからの続報があれば、何かわかるかもしれないけど、今の俺たちじゃ現場の捜査もさせてもらえない」

 

コナン「そうだな……。あとは、これ以上犠牲者が増えない事を祈るくらいしかできねえか」

金田一「ああ。……なあ、それよりコナン」

 

コナン「なんだよ」

 

金田一「――どうでもいいけど、お前のその姿、考えてみると、便利なところもあるよな!」

 

コナン「え」

 

金田一「電車や映画は子供料金だし、宿題もテストも楽だし、夏休みも結構長いし……何より、怪しまれずに女湯入り放題! 添い寝し放題!」

 

コナン「そ、そんな事ねーよ……! バ、バーロー……」

 

金田一「あーっ! まさかお前、既に蘭さんと……」

 

コナン「バ、バーロー!」

 

 

 



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12:『それぞれの手がかり』

 

 

 

○翌日、昼間。米花ホテル

 

 松山美紀、時任新奈、深海十四郎、笠原和美、毛利蘭、七瀬美雪、佐木竜二らが集められている。佐木はずっとビデオを回している。

 明智警視、毛利小五郎、目暮警部、剣持警部らが事情聴取をしている。

 

明智「――皆さん、お忙しい中、お集まりいただき感謝します」

 

松山「あの、イケメン刑事さん。何故あたしたちがこんなところに?」

 

時任「ここにいるって半年前の事件のメンバーだよね。一体、何かあったのかな?」

 

明智「実は、現在、具体的な内容の報道は控えていますが、米花町と不動山市の間で連続殺人と思しき事件が発生しています。この事件が半年前の雪割荘事件と何らかの関わりがあるという本署の見解により、事情聴取の為に皆さんをお呼びしました」

 

和美「このあたりで起きているっていう、例の事件ですか? あれって連続殺人なんですね……」

 

明智「ええ。被害者のもとに送られていた手紙などに、半年前との繋がりを想起させる手がかりが残っていましてね」

 

深海十四郎「ほう。なるほど……。ところで、あなた、もしかしてあに有名な警視庁の明智警視ですか? だとしたら、お会いできて光栄です」

 

明智「あなたは深海さん。確か、元神奈川県警の刑事でしたね」

 

深海「ええ、尤も、今はしがない占い師です。推理はともかく、占いは20%しか当たらないんですよ」

 

 深海はばつが悪そうに笑う。

 

剣持「20%……よくそれで占い師が務まりますな……」

 

松山「簡単よ、刑事さん。深海さんが占った内容とまったく反対の事が起きる可能性は、80%。だから、逆の内容が当たるのよ。それで『当たらないけど結果がわかる占い師』として私たち女子大生や若い子の間では人気なの」

 

蘭「私も聞いた事あるわ。新宿の父みたいに言われてるのよね」

 

剣持「あ、ああ、なんだ、そういう事か」

 

深海「まあ、それも私としては、不本意なんですがね……。そうだ、松山さん。そういえば、あなたは確か、あの事件の以前にも二度、私のもとにお客様としてお越しいただきましたね。去年の12月28日と、今年の2月7日の事です」

 

松山「えっ? 覚えているの? しかも日付まで完全に……」

 

深海「ええ、今日までのお客様は全員、占った内容と日付と名前、すべて記憶しています。そういうのを覚えるのは得意で」

 

美雪「へー、すごいわね」

 

時任「あ! それじゃあ、松山ちゃんはクリスマスとバレンタインの一週間前に占いをしてたんだ! 恋占い? ねえねえ、どうなの!? 今年はワトソン見つかりそう?」

 

松山「もう、時任さん!」

 

目暮「あの、深海さん……」

 

深海「……ああ、話題を逸らしてしまってすみません。無駄話はここまでにして、事件の話に移りましょうか。ねえ、明智警視」

 

明智「ええ、失礼しました。皆さんには、事件当日のアリバイのほか、いくつか聞きたい事があります。そうですね、まずは……こちらの手紙に覚えがないか聞いておきましょう」

 

 明智は、被害者たちに届けられていた手紙を取り出す。

 

深海「そういえば、その手紙なら……私にも届きましたね。半年前のものと同じ人物から届いたようですが……半年前の犯人は逮捕されているので、いささか不審には思っていました」

 

松山「え? そうなの? てっきり、誰かの悪戯だと思って捨てちゃったけど」

 

笠原「これ、手紙に使われているフォントが半年前の手紙と同じなんですよ。私のところにも届きました。……でも、アキくんが出したわけじゃないみたいだし」

 

時任「へぇ、気づかなかったなぁ! あ、刑事さん。あたし丁度持ってますよ! 私宛の手紙、これですよね?」

 

 時任がポーチから手紙を取り出す。

 

明智「……」

 

小五郎「……」

 

 明智と小五郎はそんな彼らの様子を見て思案する。

 

目暮「……時任さん、そちらの手紙を拝見してもよろしいですか?」

 

笠原「ええ、勿論!」

 

 目暮が手紙を受け取る。

 来ていた手紙は、同じ内容。

 

目暮「……招待状。時任新奈様へ。半年ぶりでございます。この度、若き探偵を集めた極上のミステリーゲームを主催致しました。あなたにもぜひミステリーゲームに参加して頂きます。最初のステージは本陣広場。“死神の子”より」

 

明智「金田一くんたちのもとにも、同様の手紙が来ていたそうです。彼と、そこにいる七瀬美雪さん、毛利蘭さんは別口で事情聴取済、工藤新一君は現在行方不明で、足取りがつかめず。……しかし、どうやら半年前の雪割荘事件との関係があるのはこれで間違いないですね」

 

松山「それで、警察はあたしたちの中に犯人がいるって考えてるのかしら?」

 

剣持「あ、そうは言っていません! あくまで……」

 

明智「……いいえ、正直に申し上げて私はあなたたちの中に一連の事件の犯人がいると考えています」

 

目暮「ちょ、ちょっと明智警視!」

 

明智「金田一くんや七瀬さん、それに毛利さんなど、半年前の事件に招かれた事が公になっていない人物がこの中にいる以上、関係者全員にこんな犯罪予告を出す事ができる人物は当時そこにいた人物に限られています。こんな事をする理由はわかりませんし、それが誰かも断定もできていませんが、間違いなく――犯人は、この中にいる!」

 

 

 

 

○マガデーゲームス本社ビル

 

 マガデーゲームスの社員と、金田一やコナンが話している。

 少年探偵団たちはゲームミュージアムなどを見学中だ。

 

金田一「――え!? このフォントを作ったのは、亡くなった戸塚さんだって!?」

 

コナン「それはほんと!?」

 

社員「ああ、すべて、先日亡くなった戸塚さんの作品だよ。なんでも、前職の現場で広告の為に作ったフォントらしいんだけど、タイトルの演出に使えるって開発部のみんなが気に入ったみたいでね。使わせてもらう事にしたんだ」

 

金田一「つまり、これはネットから拾ったものじゃなかったってわけか……」

 

コナン「……出所がわかったのは大きな進歩だな。黒須探偵事務所……そこに俺たちの探っている謎の手がかりがあるみてえだ」

 

哀「――そうね。少なくとも、この手紙の差出人は探偵事務所の関係者か、それを盗めた人物で間違いないみたいよ」

 

金田一「盗めた人物……って言ったら、結局誰でもその気になればできちまうかもしれないけどな」

 

社員「おいおい、なんだか君たちも物騒な話をしているねぇ。気に入られたと言っても、英数字や漢数字がちょっと変わったカタチなくらいで、あとはほとんど明朝体と変わらないんだ。盗むほどのものじゃないよ」

 

金田一「ええ……。そういえば、戸塚さんって、どんな方だったんですか?」

 

社員「ん? うーん……ああいう事があったからあんまり悪く言いたくはないけど、ちょっととっつきづらい感じの人だったね。ちょっと怖い人っていう印象があったし、社長とも元々知り合いだったみたいだし、検察官とかとも知り合いでさ、なんかよく社長に呼ばわれてそういう人たちと会ってたんだよね。だから、トラブルを避けて誰も関わろうとしなかったよ」

 

金田一「そうっすか……ありがとうございます」

 

 そんなとき、マガデーゲームスの社長・佐山天成の怒号が聞こえる。

 少年探偵団たちとトラブルになっているらしい。

 

佐山天成「おい、なんで子供がこんなところにいるんだ!」

 

元太「そんな事言ったってよ、博士に頼んで貰って来たんだぜ!」

 

光彦「僕たちは正式な手続きを踏んでここにいます! 毎週土曜日は、申し込みをすれば本社を解放して見学ができるようになってるはずじゃありませんか!」

 

歩美「そうよ! 社会科見学で来たんだから!」

 

秘書「申し訳ありません、つい昨日に見学の申し込みがあったので……」

 

佐山「社会科見学だと? まだ続けていたのか、誰も来ないっていうのに! それに、保護者はどこだ、保護者は! 保護者の付き添いがないと見学は出来ない筈じゃないか! 前日の申し込みも遅すぎるだろう!? すぐに追い返せよ!」

 

秘書「いえ、それが、開発協力者の阿笠さんのご要望なんです……。大人一名、高校生一名、小学生五名で申し込まれていたのですが」

 

佐山「ん、阿笠……? ああ、あの阿笠博士か! そういう事なら、まあいいや……! それより、阿笠博士はどこだ、今度のエピソードでドームスを使って、実写の爆発シーンを撮りたいんだ。リアルな映像の爆発をさ……! 阿笠博士にもぜひ協力してほしいと思ってたところなんだよ!」

 

歩美「博士なら、いまトイレに行ってるよ」

 

佐山「そうか、あー、サンキュー、お嬢ちゃん!」

 

 そこにコナンや金田一や哀が歩いてくる。

 

コナン「ねー、おじさん。どうしたの?」

 

佐山「おお、君たちも見学者か? バーチャバトラーはやってくれてるか!?」

 

金田一「えっと……失礼ですけどあなたは?」

 

佐山「知らないのか!? 社長の佐山天成だよ。名刺名刺っと。ほら」

 

 金田一が名刺を受け取る。

 

金田一「社長って……え、あのゲーム作った社長ってこんなに若かったんすか! えへへ……バーチャバトラー、ついこの前三万課金しちゃって今月ピンチなんすよね……」

 

元太「え、金田一の兄ちゃん、そんなにバーチャバトラーに使ってるのかよ! そんだけありゃうな重何杯食えんだ!?」

 

光彦「もう、元太くんはそればっかり」

 

歩美「でも、金田一さんももっとお金大事に使わないとダメだよ?」

 

金田一「……反省してます」

 

佐山「ハッハッハッ、さっそくたくさん遊ばれてるみたいで嬉しいな。だが、バーチャバトラーは、もっと進化するんだ! 他のゲームはもう古いっていうくらいにな! ぜひその時までに破産しないように気を付けてくれ! もっと迫力のあるバーチャバトラーが作ってやる!」

 

金田一「……あ、あはは」

 

 その時、阿笠博士が帰ってくる。

 

阿笠「ふぃ~……お、佐山社長! ご無沙汰ですな」

 

佐山「これはこれは、阿笠博士! お久しぶりです! この度は、彼らのような可愛い子供たちを連れて見学に来ていただいて喜ばしい限り……」

 

元太「あのおっさん調子いいぜ……」

 

金田一「同感」

 

哀「でも、こちらがユーザーだと気付けば、最初からもう少し丁寧な態度で接するのが自然よ。社長というには、ちょっと周りの見えないタイプね」

 

 呆れる子供たちを気にせず、佐山が阿笠に交渉を続けている。

 

佐山「……ところで阿笠博士、良ければ時間を頂きたいのですが」

 

阿笠「うーん、構わんが、子供たちは……」

 

佐山「なに、彼らにはしばらくゲームでもしながらお茶でもしてもらえれば――おい、お茶でも出してやれ!」

 

 

 

 

○拘置所

 

 高木と佐藤は拘置所に来ていた。

 係官がドアの向こうから鬼沢を呼んできた。

 鬼沢は、金田一が面会に来た時よりも少しやせている。

 

佐藤「――初めまして、鬼沢誠人さん」

 

高木「初めまして。我々は警視庁の高木と、こちらが佐藤刑事です」

 

鬼沢「初めまして。――あの……刑事さん。今回は、俺に一体何の用ですか? まだあの事件の事で何か訊きたい事でも?」

 

高木「鬼沢誠人さん。……あなたは、その、半年前の雪割荘殺人事件の犯人で間違いありませんよね?」

 

鬼沢「え、ええ……間違いありません」

 

高木「実はいま、あなたが殺害した黒須さんと王さんの関係者が、また次々に殺害される事件が都内で発生しています」

 

鬼沢「えっ!? そんな、一体どうして……!」

 

佐藤「理由はまだわかっていません。だから、あなたに心当たりがないか聞きに来たんです」

 

高木「あなたなら、何か知ってればきっと答えてくれる。我々はそう考えています」

 

 鬼沢は少し考える。だが、何も浮かばなかったように返答する。

 

鬼沢「……いえ。……残念ですが、心当たりは全くありません。しかし、こんな事を言ってしまうのも何ですが、黒須や王は、私の父以外にも多くの事件に冤罪疑惑が囁かれています。黒須絡みなら新聞で読みました。他の事件でも無罪が確定したんですよね!?」

 

佐藤「ええ。それは確かです。ただ、今回はやはり半年前の雪割荘事件との関連している可能性が最も高いんです。これを見てください」

 

 佐藤、何か紙を見せる。

 

鬼沢「これは?」

 

佐藤「今回の事件の被害者たちの自宅から発見された手紙です。『告発されたくなければ現場に来い』といった内容が書かれています。他にも、半年前に事件に呼ばれた探偵たちには、同じ人物が送ったと思われる別の内容の手紙が配られています」

 

鬼沢「まさか。……!?」

 

佐藤「心当たりがあるんですね?」

 

鬼沢「……ええ、これは、半年前に私が使った招待状とほとんど同じです」

 

高木「どうしてそうわかるんですか」

 

鬼沢「この字のフォント、英字と数字と漢数字だけ、ちょっと普通のフォントと違うんです! そうだ、この『五郎』の『五』という字……間違いない。しかし、何故これが!?」

 

 高木が少々声を荒げる。

 

高木「鬼沢さん! このフォント、どこで手に入れたんですか!!」

 

鬼沢「これは、彼らの……黒須探偵事務所から盗み出した事務データに入っていたフォントですよ! 彼らの持っていたデータ抜き出した時、事務所のファイルから一緒に手に入れたんです!」

 

高木「えっ!?」

 

鬼沢「あの事件の前に、俺は黒須たちの不正の証拠データを掴む為にハッキングを仕掛けました。その時に、俺はあのフォントで手紙を出して黒須たちを呼び出す事を考えたんです。自分たちの使っている独自のフォントで招待状が来れば、自然とデータが盗まれている可能性を考えて、ツアーに来ざるを得なくなる。……でも、それなら俺以外にも黒須たちのデータを盗んだ人間がいたという事になります」

 

高木「つまり、彼を騙る為にあのフォントを使ったという事でしょうか……」

 

鬼沢「ええ、おそらく」

 

佐藤「……出どころがわかったみたいね! とりあえず、急いで明智警視に連絡しましょう!」

 

 佐藤がそこから去る。

 高木も後を追おうとするが、それを鬼沢が呼び止める。

 

鬼沢「あ、高木刑事。もう少しいいですか? 他にも色々と、教えたい事があるので……」

 

高木「え? 教えたい事……?」

 

 

 



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13:『小五郎の迷推理』

 

 

 

○米花町ホテル

 

 引き続き、明智が容疑者たちに話している。

 

明智「――以上の内容を、さきほど佐藤警部補の連絡により受理しました。手紙のフォントについては、どうやら黒須探偵事務所のPCデータから手に入れたもののようです。尤も、データを盗むという行為が自然に行われている以上、今回の犯人もそれができたと考えるのが自然ですが」

 

 そこまで言ったところで、小五郎が割り込む。

 

小五郎「いいえ、明智警視! 私はもう、今回の事件の犯人は解けましたよ。そう……言って見るのなら、謎はすべて解けた!」

 

剣持「おお、毛利くん! 遂に謎が解けたか! まさか金田一以外からその言葉を聞く事になるとは……」

 

目暮「誰なんだ、毛利くん! 一体、誰がこの事件を仕組んだ犯人なんだ!?」

 

明智「……さて。一応、彼の推理とやらを訊いておきましょうか」

 

 明智はまったく期待していないように、近くの椅子に座った。

 

小五郎「今回の事件の犯人……それは、あなただ! 和美さん!」

 

和美「えっ!?」

 

明智「ふぅ……」

 

小五郎「あなたは、先ほど、決定的なミスを犯しました。そう、今回の手紙のフォントの話でね。……和美さん、あなたは先ほど、確かにこう言いましたね? 『半年前の手紙と使われているフォントが同じ』と」

 

和美「ええ……」

 

松山「でも、口を挟むようで悪いけど、あの手紙はほとんど普通の明朝体だったはずよ? 明朝体なんて誰でも使うようなフォント、同じだって気づいたくらい……」

 

小五郎「いいえ、それは違うんですよ、松山さん。実はあのフォント、漢数字を表記する時だけ、かなり特徴的な形になるようなんです。たとえば、私の娘に送られたこの手紙。この手紙には、『工藤新一』という男の名前が表記されていますが、『一』の字が少し妙な形にひねくれているでしょう? 普通の明朝体ではないんですよ」

 

時任「あ、ほんとだ!」

 

松山「言われてみれば……」

 

小五郎「先ほどの連絡でわかった通り、これはどうやら鬼沢が黒須探偵事務所から盗み出したデータだそうです。そのデータを持っていない限りは、このフォントを再現する事はできない、そうですね? 明智警視」

 

明智「ええ、未完成品でインターネット上で配信した様子もないので、おそらくは黒須探偵事務所の人間や、パソコンに侵入できた人間にしかフォントは入手できないでしょうね」

 

小五郎「……という事だそうです。……ただ、少なくとも今回の手紙には日付や時刻は一切記載されていなかった。名前に漢数字が入っている人間以外は、使っているフォントが同じだと気付いても、ただの普通の明朝体のフォントを使った悪戯だと考えてしまうのが自然でしょう。そのくらいなら、私でも出来ますからな」

 

剣持「そうか、じゃあ……」

 

小五郎「そう、先ほど手紙の話題が出た時、名前に数字が入っていない松山さんや時任さんは、この事には気づかず、誰でもできるただの悪戯か何かだと思っていました。それが自然です。逆に、名前に数字のある深海さんが手紙の違和感に気づいたのもまた、おかしな事じゃありません。……しかし、和美さん。あなたの名前に数字が入っていないにも関わらず、半年前と同じフォントである事を根拠に、あの事件との繋がりにすぐに気づいた!」

 

和美「!」

 

小五郎「その理由は簡単です! あなたが鬼沢さんのデータを使ってこの手紙を作った張本人だからですよ! 笠原和美さん! ……それとも、死神の子とでも呼ぶべきですかな?」

 

和美「嫌っ! 違いますっ!」

 

 そんな横で、明智がため息をついている。

 

明智「ふぅ。……毛利探偵、容疑者の身辺調査にはしっかりと目を通す事をおすすめしますよ」

 

小五郎「え?」

 

明智「これは、触れないに越した事はない話ですがね……。あなたの今の推理があった以上、ここで、一つ、皆さんの前ではっきりしておかなければなりません。その根拠では、彼女は犯人になりえない理由をね」

 

小五郎「……どういう事ですかな、明智警視」

 

 小五郎が真顔で訊いた。

 

 

 

 

 

 

○マガデーゲームス・休憩室

 

 ゲームで遊ぶ元太、光彦、歩美を横目に、金田一が腰かけている。

 窓はガラス張りで、米花運動公園が見える。『ドームス』も見下せる。

 哀はその近くで紅茶を飲みながらスマホをいじっている。

 

金田一「それにしても、あの社長、随分と調子よかったよな……」

 

哀「ええ。佐山天成……どうやら、このマガデーグループの社長二世のボンボンみたいね。学生時代には、かなり過激な映画を作っていて有名だったらしいわ。実銃を撃つ映画はハワイで撮影された事になってるけど、日本で撮られたんじゃないかっていう疑惑もあるとか」

 

金田一「げ、実銃!?」

 

哀「……まあ、この人の家なら、何か犯罪の形跡があっても、誰かが揉み消してしまうんでしょうけどね。そのまま親の資産を元手に会社を興して、今ではわがままなゲーム会社の社長という『イージーモードの人生』だそうよ。日本の未来が思いやられるわね」

 

金田一「へえ……。道理で客に対しても礼儀知らずな筈だよ! もう俺二度とバーチャバトラーに課金しないね!」

 

 そこに、コナンがやってくる。

 

コナン「――鬼沢さんの事情聴取が終わったってさ、いま高木刑事から連絡が来たよ」

 

金田一「ああ。……どうやらお前も今回、完全に協力を求められてるみたいだな」

 

コナン「……まあね。それより、金田一。もうひとつだけ、高木刑事から連絡があったんだ。お前、三ヶ月前に一度、鬼沢さんと面会をしたんだってな」

 

金田一「え? うん……まあ、ちょっと色々あってさ」

 

コナン「それも推理に大事な情報かもしれない。良ければ教えてくれ」

 

金田一「……わぁってるよ。ただ、むやみに言いたくはない話なんだ……こうしてまた事件が起きた以上、話さないわけにはいかないけどな」

 

 金田一は頭を掻く。

 

金田一「鬼沢さんや和美さんの家庭事情の話。実は二人の家庭はちょっと複雑でさ」

 

コナン「複雑?」

 

金田一「ああ、和美さんの本名だよ、彼女の本名は『笠原一美』。ただ、えっと、フルネームの時に使う漢字は『和』っていう字じゃなく、数字の『一』なんだよ。そして、それはある人から字を借りてる」

 

コナン「『一』……? それってまさか!」

 

金田一「ああ、鬼沢誠一。鬼沢さんと、それから和美さんの父親だよ」

 

コナン「そんなバカな……! それじゃあ、二人は……!」

 

金田一「鬼沢さんと和美さんは、ただの馴染じゃない。腹違いの兄妹だったんだ! 二人の親は、そういう事情で世間体が悪いから、二人を幼馴染という事にしていた。母親同士はそこまで納得いってなかったみたいだけど、折角の兄妹を引き離すのは可哀想だと思って、同じ街に住んでね。……だけど、そんな折に鬼沢誠一が、老人を殺した罪で捕まった。鬼沢誠人は殺人の汚名を着せられた父親に寄り添い、笠原一美は父から譲り受けた名前を変えて、父親と決別した……」

 

コナン「そうか、それで半年前のあの時……!」

 

回想・和美『鬼……沢くん』

 

コナン「……間違えて『お兄ちゃん』という呼びかけたのを、『鬼沢さん』と呼び直したわけか」

 

金田一「ああ、よく覚えてるな。俺も最初に疑問に思ったのは、その時だった」

 

コナン「だけど、金田一、お前、まさか半年前からこの事を……?」

 

金田一「一応ね。ちょっとだけ引っかかったから、調べてみたんだ。あの二人は、ミス研のOBとOGだって言っただろ。事件の後、学校で昔の部誌を読んでいて、その時の名前が『笠原一美』だったのを確認した。それで、俺の頭にはある仮説が浮かんだ。彼女は何故、わざわざ『和美』と字を変えていたのか。……面会して、鬼沢さん本人にも確認したら、案の定だったよ。二人は兄妹だったんだ。……でも、やっぱり和美さんは犯人じゃない」

 

コナン「……二件の事件で、ともにアリバイがあるから?」

 

金田一「ああ、そうだよ。どちらの事件も、和美さんは偶然俺たちに目撃されてアリバイが出来たに過ぎないんだ。アリバイ工作がされているわけでも何でもないし、お前が見た時はひとりで行動してたんだろ?」

 

コナン「ああ、何となく合理的じゃないとは思ってたんだ。……仮にアリバイ工作をしていたとしても、誰にも目撃されなかったら結局意味はない。それもおかしいとは思ってたけど、そうか……それなら余計に身辺調査で色々疑われちまうもんな」

 

金田一「それに、和美さんはもう、兄が自分の幸せを願ってくれてる事を知ってる。俺は、鬼沢さんと面会する前に、それをちゃんと確認したんだ。……犯人じゃない、そう信じたい」

 

コナン「ああ、きっと和美さんはシロだよ」

 

 コナン、ふと何かを思い出す。

 

コナン「……そうだ、金田一。高木刑事……他にも電話で、言ってた事があるんだ」

 

金田一「何だよ?」

 

コナン「ああ、別に大した事じゃねえよ。これまでお前が関わってきた事件の犯人が、何人か、同じ拘置所にいたんだって。高木刑事は、今回ついでにその人たちにも興味本位で色々聞いてみたんだ」

 

金田一「一体何を?」

 

コナン「……逮捕された犯人たちは、みんな、お前に感謝してるって。それだけの事だよ!」

 

金田一「……」

 

コナン「お前は殺人者が逮捕された後も、彼らの為に面会に行って、励ましたり、後からわかった大事な真実を伝えたりしてたんだろ。だから、受刑者たちはお前に救われたんだって……高木刑事によると、そう言われてるんだとさ。まあ、俺はずっと、犯人には憎まれっぱなしかもしれないけどな」

 

金田一「……そうか」

 

コナン「――やっぱり、お前は、たくさんの人の心を救えてるのかもしれない。……それに、鬼沢さんに面会した時、お前はたぶん……鬼沢さんの妹が、不動高校の栗本先生とうまく行ってる事を報告して、安心させたんだろ? 逮捕された鬼沢さんにとって、最も気がかりな事……それは、犯罪者の兄を持った和美さんだ。だから、あんたは彼女が今どうしているのかを、鬼沢さんに伝えたんだ……違うか?」

 

 金田一が困ったように髪を掻く。

 

金田一「……なんつーか、いつもは推理する側だったけど、推理されるっていうのはなんか気分が悪ぃな」

 

コナン「へへへ……。あ、そうだ。それから、鬼沢さんの情報によると、以前の事件で鬼沢さんが盗めたファイルはごく一部で、どうしても開けられないシークレットファイルなんかも存在したらしい。……あの探偵事務所、やっぱりまだ何か深い闇を隠してたみたいだぜ」

 

金田一「……らしいな。あの時思った……事件はまだ終わってないって!」

 

コナン「やっぱり、お前も何かあるって気づいてたのか。……それにしても、あの二人が兄妹か。おっちゃんが変な推理してねえといいけど」

 

 

 

 

 

 

○米花町ホテル

 

 容疑者たちは相変わらず明智の話を聞いている。

 

時任「えっ!? 鬼沢さんと和美さんが兄妹!?」

 

明智「ええ、本当の名前に数字が含まれている以上、彼女が手紙のフォントに気づくのも無理のない話です。おそらく、そちらの名前で手紙が届いた。違いますか?」

 

和美「はい……」

 

 和美は手紙を差し出す。そこには、『一美』と書かれている。

 

明智「……つまり、残念ながら、毛利探偵の推理は的外れという事ですね」

 

小五郎「う、おっほん! ま、まあ、これはほんのちょっとした冗談ですからな……和美さん、あんまり気にしないでください。まさか、あなたのようなキレイな人が犯人である筈ないと思ってたんですよ、和美さん! ね、目暮警部!」

 

目暮「毛利くん……さっさと非を認めて和美さんに謝ったらどうだね」

 

 目暮が見やると、和美は泣きそうな顔になっている。

 小五郎は、ふと申し訳なさそうな顔になる。

 

小五郎「はっ! ……和美さん、失礼な事をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。……しかし、皆さん。現段階で、あくまでまだ誰の疑いも晴れてはいません! 引き続き、皆さんには警察の事情聴取に協力していただきたい!」

 

 

 



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14:『解明』

 

 

 

○マガデーゲームス・休憩室

 

 休んでいた子供たちのもとに、阿笠が現れる。

 

阿笠「――まったく……! 行くぞ、子供たち」

 

コナン「ん? 博士、なんかあったのか?」

 

阿笠「ここの社長には付き合いきれんわい。あのドームスの中で、ワシの発明品を派手に爆発させて、ゲームの映像に使わせてほしいというんじゃ。リアルな爆破映像を実写で見せたいらしくてな……」

 

哀「いいじゃない、どうせガラクタみたいなものなんだから」

 

阿笠「これ、哀くん。ワシにとっても発明品は息子みたいなものなんじゃ。そんな事の為に使いたくはないんじゃよ」

 

哀「ふーん、あんなのがね……」

 

コナン「ま、どっちにしろ、今は火薬類取締法で、たとえ撮影でも使える火薬の量は制限されてるんだ。昔の特撮が結構派手に爆発してたのに対し、今はCGやちょっとの爆発で済ませてるだろ? あんなところで撮影するのは、法律の面で考えても、ちょっと無理だな」

 

阿笠「ああ、それで断る前にちょっと口論になっての。楽しみにしていたみんなには悪いが、居心地も悪いんでもうここを出られるかの?」

 

光彦「……そういう事なら、仕方ありませんね」

 

元太「もうここのゲームも飽きちまったしな!」

 

歩美「コナンくんたちもあんまり楽しそうじゃないしね……」

 

コナン「え? ああ、まあな」

 

哀「当たり前よ。ここに来たのは、調査の為だものね。金田一くん、江戸川くん。これだけ情報があれば十分かしら?」

 

金田一「ああ。米花町のホテルの美雪たちに合流しよう!」

 

元太・光彦・歩美「はーい!」

 

 少年探偵団の三人が仲良く手を挙げる。

 

 

 

 

 

 

○犯人の部屋

 

 犯人が部屋で嘆いている。ちなみに黒タイツ。声は曇っている。口調もこんなんじゃないと思われる。

 

犯人「兄妹――!? 何て事だ! それじゃあ今度の計画は台無しだ!」

 

犯人「……」

 

犯人「……まあいい、それも仕方ない。そうだ、もう、こんな事をしなくてもいいというわけだ!」

 

犯人「……だが……最後に一人残っている……!!」

 

 犯人が部屋を出ようとしている。

 

犯人「お前を殺すまで……! 私は……!」

 

 

 

 

 

 

○米花町ホテル・ロビー

 

 金田一、コナン一行が付く。

 既に高木や佐藤もこちらに合流していた。

 

美雪「はじめちゃん!」

 

佐木「あ、先輩!」

 

金田一「よう、美雪、佐木、剣持のオッサンに明智警視まで」

 

蘭「コナンくん、それに金田一さん! ……事件は忘れて大人しくするんじゃなかったの!?(怒り気味)」

 

金田一「げっ……でも、そうは言ったって、地獄の傀儡師に俺たちも狙われてるかもしれないだろ。警察がいるコッチの方が安全なんじゃない?」

 

コナン「そ、そうだよ! 地獄の傀儡師こわーい! 蘭姉ちゃんたちと一緒がいいー!」

 

蘭「……言われてみれば、それもそうね」

 

コナン(なははーん……。お前、言い訳の達人だな)

 

金田一(お前に言われたくねえっての)

 

剣持「うーん。それにしても、なんつーか、これで全員集合ってカンジだな。金田一に七瀬くんにカメラ小僧に我々警察、それから毛利くん親子にチビども……今回の事件のオールスターが初顔合わせだ」

 

明智「剣持くん。くだらない事を言ってないで、調査の報告をお願いします」

 

剣持「あ、はい。すみません……」

 

佐藤「あ、それなら私がやりますよ。……金田一くん、とりあえず、今回の容疑者たちには監視をつけて、明日まではこのホテルに泊まってもらう事になっています。彼らには、和美さんを除いて、現時点ではっきり証明できるようなアリバイがある人はいません」

 

 金田一が美雪に耳打ちする。

 

金田一「ねえ誰? この美人の刑事さん……前にも見た気がするけど」

 

美雪「はじめちゃん! この人は佐藤警部補よ!」

 

高木「う、オッホン! ウンッ!(咳払い)」

 

光彦「あのー。金田一さん、佐藤警部補の事はあんまりそういう対象として見ない方が良いですよ」

 

目暮「まったく……(高木を見る)」

 

金田一「……わぁってるよ。で、現時点でアリバイがないって?」

 

佐藤「ええ、何しろ松山さんは、金曜は休講でアリバイなし。時任さんと深海さんはそれぞれ自営業で、不特定多数の人と会っているから、何をしていたのか証明できる人がすぐには見つからず。深海さんは、お客さんの事を覚えてるから、その人が見つかれば比較的すぐにアリバイがわかるかもしれないけど」

 

小五郎「そうなると、案外、探偵坊主どもの手を借りずとも、どっちにしろもうすぐに犯人がわかるかもしれねえって事だな」

 

 小五郎がタカをくくっている横で、金田一は佐木に聞いている。

 

金田一「……なあ、佐木。おまえ、その時の聞き込みってビデオに撮ったりしたか?」

 

佐木「ええ、バッチリです!」

 

コナン「じゃあ、金田一さん! せっかくだし、僕たちもそのビデオを見せてもらおうよ! ……僕たちも、ここにいるだけじゃ退屈だからさ!」

 

金田一「ああ……それに、ちょっとは警察の力になれるかもしれないからな!」

 

美雪「……やっぱり、捜査はやめないのね。それでこそ、はじめちゃんだけど」

 

 美雪が笑う。蘭が少し怒る。

 

蘭「まったく。でも、二人とも、ちゃんと警察に任せて大人しくしてるのよ!」

 

 

 

 

 

 

○ホテルの一室

 

 佐木の撮ったビデオを全員で見ている。

 内容は、明智警視たちが全員に事情聴取をしている時。

 

ビデオ・明智『皆さん、お忙しい中、お集まりいただき感謝します』

ビデオ・松山『あの、イケメン刑事さん。何故あたしたちがこんなところに?』

ビデオ・時任『ここにいるって半年前の事件のメンバーだよね。一体、何か……』

 

 金田一、コナン、美雪、蘭、佐木、少年探偵団が一緒になってビデオ映像を見ている。

 他の面々は別に行動しているらしい。

 

佐木「あ、この後、毛利探偵の迷推理が始まります。注目ですよ」

 

蘭「……もう、お父さん……」

 

コナン「なはは……」

 

コナン(それにしても……こうしてみると、起きてるおっちゃんにしては悪くない推理だ。さっきまで兄妹の事を知らなかった以上、俺も同じ違和感を感じたかもしれない。尤も、彼女のアリバイを知ってるから口にはしないが……)

 

金田一「うーん……犯人は多分あの人だよな……。だけど、一体犯人はなんで……」

 

コナン(ああ、金田一も俺も犯人には気づいてる。だが、あの一連の不可解な行動の正体がまだ掴めねえ……一体、これから何をするつもりなんだ?)

 

金田一(それに、この話、なんなんだ……? 何だかとてつもなく嫌な予感がする……これは一体……)

 

 阿笠がそこへやってくる。

 

阿笠「やあ、みんな! 推理も行き詰ってるんじゃないかと思って、全員分のクッキーと紅茶のパックを持ってきたぞい!」

 

元太「おっ、クッキー!? よっしゃあ、いっぱい食うぜ!!」

 

阿笠「これこれ、元太くん。一人一袋じゃ。人数分しかないんじゃからな」

 

元太「ちぇっ、わかったよ……」

 

美雪「わざわざありがとうございます、阿笠博士」

 

金田一「あ、俺はいいや。あともう少しで何かわかりそうなんだ……」

 

コナン「僕もいいや! まだ金田一さんと一緒に考えるよ!」

 

元太「もう、お前らの分も食っちまうぞ! うぉっ、このクッキーほんとにうめえっ! なあ、博士、もう一個くれよ!」

 

歩美「ダメだよ元太くん。二人の分もちゃんと残しておかないと」

 

美雪「でも、本当においしいわ」

 

蘭「もう、コナンくんたちはまったく。せっかく博士が全員の分持ってきてくれたのに、二人の分だけ余っちゃったみたいじゃない!」

 

 その蘭の一言で、ふと彼らは何かに気づく。

 

金田一「え? 人数分あったのに……」

 

コナン「二人分余った……?」

 

 遂に彼らは真相に気づいたのだ。

 

金田一・コナン「――そうか、それだ!!」

 

一同「えっ!?」

 

 金田一とコナンが立ち上がった。

 

金田一「そうか、だからすべての犯行には、わざわざ銃が使われていたんだ! それに、これなら、あの手紙を書いた意味も……!」

 

コナン「ああ! ああして手紙を出したのは、事件を起こす公園ではなく、その公園にあるモニュメントや施設に意味があると示す為……だから、二番目以降の事件には予告がいらなかったんだ!」

 

蘭「どういう事? コナンくん!」

 

金田一「そして、あの人は、これから……」

 

コナン「ああ、急がねえとまずい!」

 

美雪「それじゃあ、はじめちゃん……」

 

金田一「ああ……」

 

コナン(金田一。読めたぜ、この事件……!)

 

金田一「……謎はすべて解けた!」

 

 



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15:『犯人はあんただよ!』

 

 

 

○ホテルのロビー

 

 剣持警部の前で、コナンと金田一が何か訊いている。

 

金田一「――え!? 三人ともホテルにいない!?」

 

剣持「ああ、それぞれ監視はつけてあるが、あの連中もお前たちと同じで、『探偵』らしくてな。自分たちで捜査すると言い出したら聞かない連中なんだ……」

 

コナン「ダメだよ、他の二人はともかく、犯人はそう言って、これから最後の一人を殺しに行くつもりなんだ!」

 

剣持「なんだって!? お前たち、犯人がわかったのか!?」

 

金田一「すぐにわかるよ、だって犯人はきっと、警察の追跡をまいて最後の一人を殺しに行くんだ! 急いで全員に連絡して、米花運動公園までパトカーを手配してくれ!!」

 

剣持「あ、ああ。……わかった!」

 

コナン「剣持警部、なるべく急いでね! 僕たちは先に行くから!」

 

剣持「あ、おい……!」

 

 そこに阿笠博士と美雪が現れる。

 博士が金田一とコナンのぶんのスケボーを投げる。

 

阿笠「コナンくん、金田一くん! こいつを使ってくれ!」

 

コナン「博士! サンキュー!」

 

 金田一とコナンはそれをキャッチする。

 

美雪「はじめちゃん!」

 

金田一「あ、美雪、その……先に行って来る! 俺は、絶対にこの事件の犯人を止めなきゃならない! 最後の一人を殺す前に!」

 

美雪「うん! 頑張って、はじめちゃん! それに……コナンくんも!」

 

コナン「え? ……美雪お姉ちゃんは止めないの?」

 

美雪「……大丈夫よ、『蘭姉ちゃん』には私から言っておくわ」

 

コナン「どうして、僕たちの為にそこまでしてくれるの?」

 

美雪「だって……何度注意されても言う事を聞かないのは、まるで誰かの昔にそっくりなんだもん……! でもね、これまではじめちゃんは何があっても、必ず帰ってきたわ。コナンくんも、そうなんでしょ?」

 

コナン「(頷く)……ありがとう、美雪お姉ちゃん!」

 

コナン(ああ……今度は絶対に帰ってくる! だから、待ってろよ、蘭!)

 

金田一「行くぞ、コナン!」

 

コナン「ああ、金田一!」

 

 

 

 

 

 

○米花運動公園・ドームス内部

 

 まだ誰も立ち入れないよう封鎖されているドームス。変装した犯人がその中で、隠れて誰かを待っている。

 ドアが一つだけこじ開けられていたようだ。

 

犯人(待っていろ、佐山……ここに来たらすぐに地獄に送ってやる!)

 

 犯人の目に涙が浮かぶ。

 

犯人(あの人の、仇を……!)

 

 そう念じる犯人の前で、鍵の開いたドアの向こうから声が遮る。

 

工藤新一「……なあ、思い直した方がいいんじゃねえか? 殺人なんて、探偵のする事じゃないぜ、犯人さん」

 

犯人「その声……まさか、工藤新一!?」

 

 ドアの方を見る犯人。

 

毛利小五郎「……もうわかってるんだよ、全部。警察の監視をまいて、コインロッカーにでも隠してあった変装道具や凶器を持ってきたみたいだが、俺たちの目はごまかせねえぜ」

 

犯人「毛利探偵……?」

 

 そう言いながら、犯人はドアに近づいていく。

 

明智警視「そう、これ以上犠牲者は出すわけにはいきません……。鬼沢誠人さんの為にも、あなたの為にも……」

 

犯人「明智警視……!? あなたもそこに……!?」

 

 ドアが開き、太陽の光で真っ白な向こうから、二人が歩いてくる。

 金田一とコナンだ。

 

犯人「きみは、金田一くん! それにそっちの子供は……」

 

コナン「江戸川コナン! もう一人の……探偵さ!」

 

犯人「もう一人の探偵……?」

 

コナン「ああ……今の声は全部、僕がこの蝶ネクタイ型変声器を使って出した偽物の声だ。でも、言葉はすべて本当だよ。もうこれ以上、あなたに犯行を続けさせるわけにはいかないからね」

 

金田一「もうあんたの手で、誰も悲しませない為に……あんた自身に罪を償ってもらう為にね!」

 

犯人「何……!? なんで私が犯人だって……!」

 

 金田一とコナンが推理を始める。

 

金田一「……これまでの事件、犯人はすべて銃を使っていた。ただ、凶器として銃を使った殺人は一件もなかった! 死因はあくまで、ナイフとボウガンによる刺殺……それが俺たちにはずっと疑問だったよ。犯人は何故、銃を持ちながら、そんな手段を使ってきたのか」

 

コナン「だけど、その答えは単純だった。犯人は、銃を撃たなかったんじゃない。銃を撃てなかったんだ……! 射撃に関しては、まったくの素人だったからね?」

 

犯人「くっ……!」

 

金田一「そう……だけど、何故犯人は銃の腕がないのに銃なんて使ったのか。やっぱり、それが俺たちにはすぐにはわからなかった。でも、こう考えたんだ! 犯人は、もともと別に銃で殺したかったわけじゃなく、犯人は銃を使って事件を注目させ、銃痕を通して作り出した簡単なメッセージを、誰かに読ませる事が目的だった! だからその為に銃が必要だった……そうだろ!?」

 

 金田一は告げる。

 

金田一「……この一連の事件の真犯人……死神の子は、アンタだよ!」

 

 金田一とコナンが指をさす。

 

 

 

 

 

金田一・コナン「――時任新奈!!」

 

 

 

 

 

 その先にいたのは、変装した時任新奈だった。サングラスの奥には、時任の瞳がある。

 時任が、サングラスを脱ぐ。

 金田一とコナンは、歩いてドームスの中に入っていく。

 

時任「!」

 

金田一「新奈さん……さっきも言ったように、この事件の犯人は銃が撃てなかった。実際、ボウガンを使って亀田さんを殺害しようとした時にも、何発も矢を外している。容疑者の中で銃を使うのがそれだけ下手なのは、あんただけだったよ。他にアリバイのない松山さんは女ホームズで銃の名手……深海さんは元警察で、銃の心得があった」

 

時任「……久しぶりに会ったと思ったら、冗談みたいな事を言うんだね、金田一くん。根拠はそれだけ?」

 

コナン「――いや、根拠はそれだけじゃない。明智警視たちの事情聴取の時に、あなたは半年前の事件と今回の事件の繋がりに気づいてない素振りを見せていたけど、あの場にしっかり手紙を持ってきていて、すぐに警察に提出する事が出来た……松山さんや蘭姉ちゃんは、あの手紙が悪戯だと思って、捨てようとしてたのに、時任さんだけ何故かあの手紙を準備していたんだ。それで、僕も妙だと気付いたんだ」

 

時任「……手紙、そんな事で……!」

 

金田一「それに、あんたは別に言い逃れたいわけじゃないはずだ。あんたがここに来た目的は、おそらくマガデーゲームスの社長、佐山天成の殺害……違うかい!? いまの荷物に、これから犯行に使う凶器の銃がきっちり入ってるはずだ! この状況じゃあ、言い逃れようにも言い逃れる事はできない! 違うか、新奈さん!?」

 

時任「……」

 

金田一「……あんたは、元々あの銃で六文字のメッセージを作る予定だった! あと三人殺す予定だったんだろうけど、予定は変わって、あと一人になったはずだ! でも、もう終わりだぜ。あんたには、もう一人も殺させやしない!」

 

コナン「チェックメイトだよ、時任さん!」

 

 時任はすべて明かされた事で、ふっと諦めたように体の力を抜き、悲しそうに項垂れる。

 

時任「……そうか、そこまでバレちゃったか。そうだよ、あたしがこの事件の真犯人……“死神の子”だよ。……でも、折角だし君たちの推理を聞かせてもらおうか、金田一くん、それにコナンくん。あたしが作ろうとしたメッセージって何だと思う? それから、あとの三人は誰を殺すつもりだったのか? 何故ここを最後の場所に選んだのか? すべてわかる?」

 

 金田一とコナンが顔を見合わせる。

 

金田一「……まあね。あんたがあの銃で本当に作りたかったメッセージ……それは、何かの文字列だったんだろ。最初に事件が起きた『本陣広場』で頭が撃ちぬかれていた、次に『石門塔』で足、『犬神湖畔』でまた足……『本』『塔』『畔』……それからあと残りの三発分、別の事件を起こすつもりでいた」

 

コナン「そう……『畔』の次は、『ニン』とつなげる予定だったんだよね? おそらく、『本』『当』『犯』『人』……本当の犯人、とつなげていくのが目的だった。そして、S&Wの弾は六発。それでもあと二文字残ってる。その二文字で出来上がるのは、おそらく『黒須』の名前だね! ――」

 

コナン「――そして、このドーム『ス』をきっと、最後の事件のステージに選ぼうとしていた……あの社長が戸塚さんと親交があって、検察官とも知り合いだと気付いた時、まさかと思ってたんだ」

 

時任「なるほど、全部合ってるよ。あたしはそのメッセージを残そうとしてた。半年前の事件の犯人を、死んだ黒須だと周囲に思わせる為……」

 

金田一「新奈さん、俺たちに手紙を出した一番の目的はそこなんだろう。雪割荘の事件と結びつけ、『黒須』の名前に大きな意味を持たせ、特定の事件と人物を匂わせる。それによって、雪割荘事件は、王が黒須を殺して自殺した事件だと残したかった。そして、もう一つ。ああして出した手紙に『本陣広場』と明記する事で、その他の事件も『公園』という大きな範囲ではなく、そこにある『モニュメント』の名前の方に意味のあるメッセージであると伝えようとした」

 

時任「うん。『米花自然公園』で事件が起きたんだと思われたんじゃ、意味を成さないからね……。あたしは、これから不動山第三公園の『人形広場』と、もう一度米花自然公園の『黒猫庭園』で、ある人たちの頭を撃とうとしていた。そして、最後にここをステージにする予定だったんだよ」

 

金田一「あの三人を殺した後、殺すつもりだった残りの三人……そのうちの二人は、鬼沢さんを裏切った栗本先生と和美さんだろ? だけど、毛利さんの推理と明智警視の反論で、あんたはすべてを知ってしまった。鬼沢さんと和美さんは元々恋人同士でない事や、和美さんは鬼沢さんを裏切ったわけじゃない事をね! その瞬間に、あと三人殺す予定だったのが、あと一人になったんだ! そして、あんたはこうして最後のターゲットを狙いに来たってわけさ。彼を殺せばすべて終わると考えたから……」

 

時任「……本当、それはちゃんと気づけて良かったよ。本当に祝福されるべきカップルを、危うく誤解で殺してしまうところだった。メッセージはその時に諦めたよ。でも、毛利さんと明智警視のお陰で殺さずに済んだ……二人には本当に感謝してる」

 

コナン「……でも、あのメッセージの為に六人殺そうとしたとはいえ、たぶん半年前の事件の犯人は別に、黒須じゃないよね? あの事件の犯人は、鬼沢さんで間違いない。……ただ、時任さんはたぶん、その事実をわかっていても、納得はいってなかったんだ。……好きだったんだよね、鬼沢さんのこと」

 

 時任は、はっとしたような顔をする。

 

時任「……うん。そうだよ。あの人はあたしの高校時代の家庭教師だった。探偵にあこがれたのも、その時に悩んでいたストーカー事件を鬼沢先生があっという間に解決してくれて、守ってくれた時が一番の理由だったんだ。あたしはそれからずっと鬼沢先生が、本当に好きになってた」

 

時任「……でも、お父さんが逮捕されて、それからあの人はあたしの前からいなくなった。だから、半年前に雪割荘で再会して、……その時の鬼沢さんはそっけなかったけど、ああして、すべての動機を聞いた時……本当に黒須が許せなかった。本当に悪いのは、黒須たちなのに! 鬼沢先生が裁かれて、これから一生殺人鬼と言われ続けるなんて! あいつらは……あいつらは……!」

 

金田一「……だけど、新奈さん……あんたが、そんな鬼沢さんに出来る事は、恨みを持つ六人を殺して、このメッセージを残し、鬼沢さんの冤罪説の噂を流す事だけだった。鬼沢さんが黒須たちを殺した真実は変えられない……でも他人からの見え方はいくらでも変えられる! 意味深なメッセージが残っていたら、後は誰かが根拠を羅列して架空の事実を作ってくれると思ったんだ。事件を知らない多くの人たちは、それで事件の全体像を曲解し、『逆冤罪』を起こせると思った。そうだろう?」

 

コナン「誰かが殺人を犯してまで残したメッセージが存在すれば、事件に裏があると邪推する人たちが現れる。不穏な噂で怪しまれるのと逆に、冤罪を示す噂を流して疑念を持たせたかった。もしかしたら、自分でネットの掲示板にそういう書き込みをしていくつもりでもあったのかもね。陰謀説みたいなのって、案外すぐに流行るからさ」

 

時任「ああ、本当に凄いな。あたしに出来るのは、それだけだった。……半年前に工藤くんに先を越されて、鬼沢先生をみすみす逮捕させてちゃったのは、残念だったな。あたしが気づいてれば、鬼沢先生を無実にする証拠をいくつも作って、鬼沢先生を、あんな事で捕まらせなかったのに……」

 

金田一「その鬼沢さんへの愛情が、今回のすべての動機か……。でも、もう終わりだよ」

 

コナン「警察に戻ろう、時任さん。鬼沢さんも、きっとこんな事は望んでないと思うよ。鬼沢さんの復讐は終わったんだ。彼はいま、真実と向き合って、きっちり罪を償ってる! あなたがこれ以上こんな事を続けて、鬼沢さんの想いを踏みにじっちゃダメだ!」

 

時任「……うん。そうだね……ありがとう……でも、ごめん、金田一くん、コナンくん。あたしには、まだやる事が残ってるよ!」

 

 時任が、銃を構える。

 

金田一「!」

 

コナン「なんだと!?」

 

時任「動かないで! あたしは目的を果たすまでは絶対に捕まらない! まだ三発残ってる……もし止めるようなら、容赦なく撃つよ! 二人のいう通り……確かに鬼沢先生の復讐は終わったのかもしれない……でも、あたしの復讐は、まだ終わってないんだ!」

 

金田一「あんたの復讐……!?」

 

 金田一がぎょっとする。

 時任の銃を握る手に圧倒される。

 

時任「金田一くん……鬼沢先生のお父さんが殺したって言われている、玩具屋のおじいさん知ってる!?」

 

金田一「クラウン事件……」

 

コナン「その被害者か!」

 

時任「うん……あの事件の被害者は、あたしの慕っていた、おもちゃ屋のおじいちゃんなのよ……! 小さい頃から腕白だったあたしと、いつも遊んでくれた、近所のおもちゃ屋のおじいちゃん……! あたしがいつも使ってる探偵道具も、全部おじいちゃんの発明なんだ! でも、佐山がおじいちゃんの命を、面白半分に奪ったんだ! あいつだけは許せないんだ、絶対に!」

 

金田一「……何?」

 

コナン「まさか、あの事件も繋がってたのか!?」

 

時任「以前、黒須探偵事務所に侵入した時、佐山に流される筈だった証拠品や、極秘の紙の資料が残されてた……あたしはそれを盗んで確認した。そしたら、そこには佐山がクラウン事件や多くの事件に関わってた本当の犯人だった事が書いてあったんだ……!!」

 

金田一「何だって!?」

 

 そんな時、物陰から拳銃を構えた佐山が現れた。

 

佐山「――おおっと、そこまでだ。それ以上喋るなよ、時任サン!! それにお前らも動くな!!」

 

金田一「あ、あんた!?」

 

コナン「佐山社長……!? いつからそこにいたんだっ!」

 

佐山「俺は、この女より一足先に来てたんだよ。その遊具の裏で立ち聞きさせてもらったぜ、名探偵サンたち。……いやぁ、まさか、俺のあの時の事が、こんな奴にバレてるとは思わなかったぜ。あいつらもツメが甘いよなぁ!」

 

金田一「あんた、一体……! 新奈さんの言ってる事は事実なのか? 佐山!」

 

 佐山が笑いながら語りだす。

 

佐山「ふぅ。……坊やたちよぉ、キラークラウンって知ってるか? ピエロの恰好をして、通行人を驚かせるドッキリだよ。俺は学生の頃、たまたま、それに似た事をした事があったんだよ。その時に殺人ピエロの映画を考えてた俺は、試しにピエロの衣装で何も知らない通行人を驚かせてみようと思ったんだ。やらせだと迫力が出ないから、ナタを持って、たまたま通りがかったあの玩具屋のジイサンを追いかけまわしてみたのさ」

 

佐山「そしたら、あのジイサン冗談がわかんなくてさ! 本気で殺されると思って、必死で逃げて川岸に来たんだ。そんで、抵抗してきやがったから、やばいと思って川に突き落としちまった。通行人に見られたうえ、黒須にも感づかれたが、幸いピエロの恰好をしていて顔はバレてなかったし、俺は黒須にちょっと金をやって、誰か別の奴にでも罪を着せるよう依頼したのさ!」

 

コナン「それが、鬼沢さんのお父さん……!」

 

金田一「何てやつだ!」

 

佐山「これまでも、黒須たちは俺に逆らえなかったんだ。俺のオヤジとオフクロは、大企業の社長だ。親戚には、政治家や警察のお偉いさんもいる。みんな、縁故があってさ、ほんのちょっとした事でも、大金を持ってあの探偵事務所に依頼してたんだよな」

 

佐山「もし、俺が捕まってオヤジたちが失脚するような事があれば、あの探偵事務所はすぐにでも潰れちまう状態だった。だから、いつも必死で接待してくれてたよ。……ま、結局あの事務所はなくなっちまったがな」

 

コナン「……あの探偵事務所が冤罪を作り出したのは、プライドの為なんかじゃなく、こいつの事件をもみ消す為だったのか! くそっ……!!」

 

金田一「なんでそんな事をするんだよ、あんたは!? そんな事して何の意味がある!? あんたにだって手間じゃないか!?」

 

佐山「わかってないなぁ。……ほら、どうせならパチモンじゃなくて、リアルなモノを作って残したいじゃない? 映画でもゲームでも何でもさ。……こいつもエアガンじゃないぜ。王のジジイに頼んでみたら、警察のコネを使って、証拠保管庫から色んなモノをパクってくれたよ」

 

金田一「そんな事の為に!?」

 

佐山「亀田とかいう奴が内部から王に渡してくれてたらしくてな、実際に人を殺した凶器をたくさん俺に流してくれた。結構色んなコレクションがあるんだぜ! その後も、そのネタで亀田を強請って、最近まで色んなオモチャを流してくれてたんだが……どうやら死んじまったみたいだな」

 

コナン「それが流出事件の真相か……!」

 

 コナンは時任を横目で見やる。

 

コナン(そうか……時任さんが彼らを殺すのに使った凶器……あれも彼らに内輪もめだと思わせる為に直接黒須探偵事務所に侵入して盗んだモノだった。だから、彼ら三人のうち、三番目に殺されたのは亀田だった! 戸塚と本田は、きっと、死ぬ間際まで亀田や佐山の仕業だと思ってたんだ!)

 

佐山「ま、その辺は良いからさ……もう終わりでいいよな? どっちにしろ、あとはもう、お前らには死んでもらうしかないんだよ……」

 

 その時、轟音が鳴った。遊具が突然爆発したのだ。

 

金田一「なんだ!?」

 

佐山「このドームスの遊具や、ドームスの周りには、大量の爆薬が詰んであるんだよ! ……俺は別に、こんなところに金かけてガキの遊び場を作りたかったわけじゃない。適当な事故に見せかけてこいつを吹っ飛ばして、リアルな爆発映像を撮りたかったんだ。勿体ないが、三人もの人間に知られちまった。ここらで証拠隠滅の為に吹き飛ばすのも悪くねえかな!」

 

 銃を向けたまま、佐山がドアの方に去った。

 佐山はドアを閉め、外から鍵をかける。出入り口のドアは一つ。他はすべて、外からも硬く閉められている。

 

金田一「あいつ……っ!」

 

コナン「くそっ……外から鍵をかけて閉じ込めやがったっ!!」

 

時任「佐山……っ!!」

 

 ドームスの外から佐山が煽る。

 

佐山「子供が事件に関わるとろくな事がねえんだよ、ひひひっ!! ゆっくりと焼かれて死ねや、探偵さん方!!」

 

 そんな佐山がボタンを押し、ドームスの周囲全体が数メートルに渡って爆発する。

 佐山は逃げてしまった。

 

 

 



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16:『painful heart ~犯人の過去~』

 

 

 

○米花運動公園

 

 

 ランナーたちを押しのけて、佐山がドームスから逃げようと走っている。

 その顔には笑みがある。

 

佐山「ははは、あとはあん中の監視カメラが、あいつらの焼けただれる姿を撮ってくれる……! マニアには売れるかもなっ!!」

 

 しかし、そんな佐山の前に何かが現れる。

 警察のパトカーたちだ。中から警察の人間が降りてくる。

 

目暮「――動くな、警察だ! 佐山社長……たったいま、佐山社長を捕まえてくれとコナンくんから連絡があった! これはどういう事か、説明してもらおうか!」

 

佐山「……は?」

 

剣持「それに、その銃、まさか実銃じゃないだろうな? だとすれば、銃刀法違反だ。とにかく俺たちについてきてもらう」

 

佐山「ふっ。……く、くくく……こいつはホンモノだ! 動くんじゃねえぞ、ウスノロども!」

 

 佐山は、彼らに笑いながら銃を突きつける。

 警察たちがぎょっとする。

 

佐山「ハッハッハッ! 俺のオヤジの妹の旦那の兄貴は警視庁の副総監なんだ! お前らなんか簡単にクビにできる! さあ、お前ら全員、道を空けろ!」

 

小五郎「――オヤジの妹の旦那の兄貴が何だって? そんなもん知るかよっ!」

 

 彼の背後から迫った小五郎の一本背負いが佐山に叩き込まれる。

 佐山の身体が地面に大きな音を立てて叩きつけられた。

 

佐山「がっ!」

 

 しかし、佐山が、這うようにして警官隊の方に逃げる。

 やっと立ち上がれた佐山。彼の前には剣持たちがいる。

 

佐山「ひ、ひぃっ! ゆ、ゆるして!」

 

剣持「まったく……こいつはどうやらもう一発投げられたいみたいだな……!」

 

目暮「やってやれ、剣持警部!」

 

剣持「……どりゃあっ!」

 

 剣持がまた背負い投げを叩き込み、今度は佐山が泡を吹いて倒れる。

 剣持たちのもとに、小五郎が駆け寄る。

 

剣持「やれやれ。……しかし、毛利くんにしては犯人に甘い一本だったな」

 

小五郎「なぁに、剣持警部の為に、一本目はわざと甘めに投げたんですよ。……こいつには、俺の一本じゃ足りねえ! 市民の怒りと、法の怒りをそれぞれ叩きこまねえと気が済まねえからな……!」

 

目暮「ああ! よくやった、毛利くん、それに剣持警部……それより、早くドームスに向かうぞ! コナンくんたちが危ないっ!」

 

 

 

 

 

 

○米花運動公園・ドームス前

 

 ドームスが炎上している。周囲には野次馬と警官たち。

 パトカーは一足先に着いたが、消防署はまだだ。

 明智たちのもとに、高木がいま来た無線の内容を報告する。

 

高木「明智警視! 佐山は、確保されたそうです」

 

明智「わかりました。……どうやら、私とした事が、彼に目をつけるのが一足遅かったようです」

 

佐藤「え? どういう事ですか?」

 

明智「鬼沢が盗んだ黒須探偵事務所のデータ……その中に、彼でも開けられなかったシークレットのファイルがありました。内容は、クラウン事件の真相が暗号化されているファイルだったのですが、厳重すぎて少々手間取りましてね。もう少し早く解読できていれば……」

 

高木「まさか明智警視、あともう少しで鬼沢が解読できなかった真相に辿り着いていたんですか?」

 

明智「今となっては意味のない事です。……過去の事を悔いるより、今は彼ら三人を助ける最善の方法を考えましょう」

 

 明智が燃えるドームスを見る。

 

美雪「はじめちゃん……!」

 

蘭「コナンくん……!」

 

 小五郎や剣持、目暮たちも合流する。

 

小五郎「ったく、あの馬鹿野郎……! ちゃんと警察が来るのを待てって言っただろうが! くそっ、待ってろコナン! すぐに消防隊が来るからな!」

 

明智「――ダメです、毛利さん。火の回りが早い。このまま消防隊を待っていては、とても間に合いません。それに、外の火は消せても、中の火は消せない……ドアのロックを解除している間に、彼らは焼け死んでしまいます」

 

小五郎「じゃあ、あんた、この状況でどうしろって!? あいつらを見捨てろっていうのか!?」

 

明智「既にヘリを用意して、上空から助ける準備は出来ています」

 

小五郎「上空から? 上空からってあんた! あのドームスにはどでかい天井があるんだぞ!」

 

明智「……ガラス張りの天井なら破壊してしまえば良い。たとえサッカーボールでも割れないガラスだとして――しかし、もしそのサッカーボールが砲丸よりも威力の強いシュートを決めたら……どうなると思いますか?」

 

 

 

 

 

 

○ドームス内

 

 金田一が上着で必死に火を消そうとしている。しかし、あまり大きな効果が起きない。

 コナンも消火器で内部の火を必死で消しているが、思った以上に周囲一面が火に焼かれていて焼石に水だ。

 

金田一「くそっ……!」

 

コナン「これじゃあ埒があかねえ! このままじゃこの中もすぐ煙が充満してお陀仏だっ!」

 

時任「無駄だよ……。ここにはもう逃げ場はない。……佐山の奴には……やられたな、ほんとに……悔しいよ……」

 

 必死で動いているコナンや金田一と違い、時任はすっかり諦めた様子で座っている。

 金田一はそんな時任に少し怒りを見せる。

 

金田一「無駄かどうかはやってみなきゃわからないだろ……! ただ座ってるだけじゃ絶対に助かりっこないんだ! ……あんたも佐山に酷い目に遭ったなら、これから生きて見返してみろよ! 死んだら終わりだぜ! あんたも佐山も!」

 

時任「? ……金田一くん。きみはあくまで、佐山にも生きててほしいと思うの?」

 

金田一「……ああ、確かに佐山は酷い奴だよ、最低だ! 俺だってあいつの事は絶対許さねえよ……! でも、だからって、あんな奴らの為に、あんたみたいな優しい人が不幸になってどうするんだよ……。俺は、一度だって見た事ないよ! 誰かを殺して……大切な人の復讐をして、幸せになれた人なんて……!」

 

コナン「金田一……」

 

時任「はは、優しいって……。……でも、残念だね、名探偵さん。あたしは、ただの殺人者だよ」

 

 時任が悲しそうに言うと、コナンが口を開く。

 

コナン「……そんな事ないよ、時任さん。金田一さんは、こう推理してるんだ。――これまで玩具屋のおじいちゃんが作ってくれた色んな凄い発明品を使って、悪い奴らをたくさん捕まえてきたんでしょ? ……でも、今回の事件では、一度もそんな便利な道具は使った様子がない。もし使えば、もっと完全な犯罪が出来たかもしれないのにね。……それは、時任さんがおじいちゃんの作った道具を、絶対に殺人の為に使いたくなかったから……そうだよね?」

 

 時任は少しうつむいた。

 

時任「鋭いな、小さな探偵さんは。これは、あたしの復讐だった……。たとえおじいちゃんの復讐の為でも、おじいちゃんが作った発明品だけは正しい事の為だけに使いたかった。きみも、便利な道具をいくつも持ってるみたいだね、コナンくん」

 

コナン「うん。阿笠博士って人に作ってもらったんだ……あの蝶ネクタイ型変声器も」

 

時任「あたしにとって、おじいちゃんは、その博士みたいな人だったのかな……。いつも、学校から帰ると遊びに行ってた。おじいちゃんの玩具屋の裏には桜がいっぱい植えられてて、春になるととても綺麗だった……」

 

 時任は何かを思い出す。

 

 

 

 

 

 

○回想。まちの小さな玩具屋

 

 ずっと昔の光景。

 幼少期の新奈が、泣きながら、玩具屋のおじいちゃんに会いに来ている。

 通りには桜の木が咲いている。

 

新奈「えーん! おじいちゃーん!」

 

おじいちゃん「おや、新奈ちゃん。また泣いておるのかな?」

 

新奈「おじいちゃん……! 男の子がいじめるの! あたしのおうち、お医者さんなのに、あたしはバカで、男の子みたいだからって! しかも、泣き虫で、悪いところばっかり女の子みたいだって!」

 

おじいちゃん「そんな事はないんじゃがのう。新奈ちゃんは、本当は頭も良いし、綺麗だし、ほれ、この間つけてたリボンもよく似合ってたじゃないか……」

 

 新奈がうつむく。

 

新奈「そのリボン……男の子たちが解いてぐちゃぐちゃにしちゃったの……」

 

おじいちゃん「ああ、そうか、それで泣いておったのか。……どれどれ、見せて見なさい。ああ、このくらいならすぐにまたこの間みたいな可愛い形に戻れるから安心せい」

 

新奈「でも、また、解かれちゃうかもしれない」

 

 新奈はまだぐずっている。

 

おじいちゃん「そういう時は、これなんかどうじゃ? 凍る・ド・スプレー!」

 

新奈「凍る・ド・スプレー?」

 

おじいちゃん「ほっほっほっ! これは、布製品なんかを一瞬にして凍らせてしまう玩具なんじゃ。このスプレーをかけると、ほれ、こうしてずっと同じ形を保つ事が出来る。しかも、冷たくなくて、硬度も高くて安心じゃ!」

 

新奈「すごい!」

 

おじいちゃん「まあ、周囲の熱が高すぎると溶けてしまうんじゃが、普段は凍ったようにきっちり形が保たれる。ほれ、このままつければ可愛いままじゃ。きっと、これから好きな子が出来ても、これで振り向いてくれるぞい」

 

 新奈の頭にりぼんをつける玩具屋の老人。新奈もニコニコ笑う。

 新奈は桜の木をふと見る。

 

新奈「ねえ、おじいちゃん。あの桜の木は、このスプレーで凍ったままに出来ないの?」

 

おじいちゃん「……うーん、それは出来ないのう。あれは、命じゃからな。これから散っていくのを止める事は出来ないんじゃ。でも、だからこそ、とても大切で、大事にしなきゃならないものなんじゃよ」

 

新奈「……うん」

 

 寂しそうな新奈を見て、玩具屋の老人は彼女を慰めようとする。

 

おじいちゃん「……新奈ちゃん。わしがきみにあげた玩具は、ともすれば誰かを傷つける使い方も出来るようなものばかりじゃ。マジックハンドで遠くの物をパンチする『パンチングキャッチャー』……それに、素早く張手をしてくれる『お相撲ハリテくん』。じゃが、新奈ちゃんはパンチングキャッチャーを野良猫から小鳥を守るのに、お相撲ハリテくんを近所のおばあちゃんの肩たたきに使った。とても優しい子じゃ」

 

新奈「え?」

 

おじいちゃん「……きみは、わしのくだらない玩具を、誰より優しい事の為に使ってくれる天才じゃよ。こういう子がいてくれる事が、わしが子供たちの為に玩具を作りたい一番の理由なんじゃ」

 

 

 

 

○ドームス内

 

 まだ火は燃え盛っている。

 

コナン「……」

 

時任「本当に良い人だった……本当に大好きだったから、いつか死んじゃうのかもしれないって思って悲しくなった事も何度もあった……。でも、あんな理由で命を奪われて……遺体も酷い状態になってるのを見たんだ……! 犯人が近所の男性だってわかって……大好きな鬼沢先生も、あたしの前からいなくなっちゃった! でも、本当に……一番許せないやつは、他人に罪をかぶせて、優しい人たちの人生を台無しにして、逃げようとしてたんだ!」

 

 しかし、そこまで言って、時任はハッとする。

 

時任「……でも、あたしも同じだ。三人もの人を殺した。他にもまだ人を殺そうとした。……この手はもう、あいつらの血がべっとりついた……血みどろの血なんだよね……! ……佐山の事なんて、言えないか」

 

コナン「……それならさ、また生きて償えば良いじゃない。過去はどうしようもないかもしれないけど……これから、その血を洗う権利は、きっと誰にでもあると思うよ」

 

金田一「……ああ。いま、側面から外に出るのは無理だが、あの天井をぶち破る事さえできれば……! ヘリが助けに来てくれる! そこから、また新しくやり直せばいいんだよ。今からだって遅くないよ!」

 

時任「コナンくん、金田一くん……」

 

 コナンは何かを思いながら、真上を見上げる。

 

コナン(ああ……死なせねえよ……そんなに悲しい事を言うなら……そんな悲しい台詞を思い出させるなら……余計に……絶対に死なせるわけにはいかねえんだっ!)

 

金田一(時任さん……あんただってきっと、また帰れる……あんたは、生きたまま、その桜並木がある場所に帰ったって良いんだ……!)

 

 金田一は引き続き消化を続けようとする。

 

時任「わかった……そうまで言うなら……あたしも手伝うよ! 一緒に……一緒にここから出よう!」

 

金田一「ああ……!」

 

 その時、コナンにDBバッジで連絡が入る。

 

阿笠『新一、聞こえるか?』

 

コナン「阿笠博士!」」

 

阿笠『おっ、新一か? いま、空からヘリが向かっておる!』

 

コナン「だが、博士。天井はガラス張りだ!」

 

阿笠『いいか、キック力増強シューズの威力を最大にセットし、タイミングよく真上にボールを蹴るんじゃ!』

 

コナン「威力最大!? そんな、危険すぎる!」

 

 コナンはふと金田一の方を見る。

 

阿笠「確かに危険じゃ。……だが、ワシの発明は、こういう時の為の発明じゃ! わしはお前が正しい事の為に発明を使ってくれると信じておる! きみや少年探偵団が、いつも正しい事の為に発明を使ってくれた……その事は、ワシの一番の宝じゃ! やってくれ、新一!」

 

コナン「博士……。……ああ、わかった! どっちみちそれ以外に助かる手段はねえ。……チャンスは一度きりだ! 金田一! 時任さん! 今からいう事をよく聞いて!」

 

 

 



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17:『今度は外さない』

 

 

 

○ドームスの外

 

 野次馬が集まりつつある。

 警察たちがその様子を周囲から見守る。

 蘭たちがそこに駆け寄る。

 

蘭「お父さん! コナンくんがあの中にいるって!」

 

小五郎「蘭! ……ああ、だが、いま警察と消防がボウズたちを助けに向かってる」

 

歩美「コナンくん……!」

 

哀「大丈夫よ、吉田さん。江戸川くんは死なないわ。それに、今度はもう一人の彼が一緒だもの」

 

光彦「コナンくんと、金田一さん。あの二人なら……もしかしたら!」

 

元太「死ぬなよ、コナン、金田一の兄ちゃん……!」

 

 そんな時、明智が全員に指示する。

 

明智「今、内側から天井のガラスを破壊します。みなさん、念のために離れてください!」

 

美雪「はじめちゃん……一体何をする気なの!?」

 

 

 

 

 

 

○ドームス内

 

 コナンがドームスの中央に立っている。

 

コナン「……」

 

 ボール射出ベルトからボールを出すコナン。

 

回想・金田一『うわあっ!』

 

 脳裏に、金田一にボールが激突した瞬間の事を思い出す。

 しかし、鋭い目で天井を睨む。

 

コナン(――今度は、外さねえ!)

 

金田一「いけ、コナン!」

 

 キック力増強ベルトの威力を最大にしたコナンが、天井に狙いを定める。

 

コナン「いっけえええええええええええええええ!!!!!!!」

 

 最大威力のキックが天上に向けて放たれる。

 それは天井にガラスをたたき割り、巨大な柱となる。ドームスの外でギャラリーが驚く。

 ガラスの破片が、次々と降り注ぐ。

 あらかじめ離れていた金田一たちは平気だったが、コナンのもとにガラスの破片が落ちる。

 

コナン「あ!」

 

時任「あぶないっ!」

 

 時任がそう叫んで駆け出し、コナンの身体を抱えて転がる。

 先ほどまでコナンがいたところに、ガラスの雨が降る。

 

時任「……良かった、危ないところだったね」

 

コナン「あ、ありがとう、時任さん……。やっぱり、時任さんは優しい探偵だよ」

 

時任「へへっ」

 

金田一「やったな、コナン!」

 

コナン「ああ……これであとは救助を待つだけだ!」

 

 

 

 

 

 

○ドームスの外

 

 明智が連絡を受けている。

 

明智「え、何っ!? これ以上近づけない!?」

 

ヘリからの通信『はい、これ以上高度を下げると危険な状態です! とても、中にハシゴを伸ばせるほど高度を下げられません! 出来るとしたら、天井が限界です!』

 

明智「くっ……! 簡単には行きませんか。とにかく、なるべく低く飛んでください!」

 

ヘリからの通信『は、はい! しかし……ドームスの中からでは、天井まで飛ぶ事はおそらく……』

 

明智「それはわかりません。しかし、中にいるのは、この国で一番賢い探偵たちです。――金田一くん、それにコナンくん……彼は、『神童』と呼ばれていた小学生の頃の私にそっくりです。だから……彼らなら、あるいは、空を飛ぶ事も」

 

 

 

 

 

 

○ドームス内

 

 コナンが連絡を受けて、スマホを地面に叩きつける。

 

コナン「……くそっ! 天井を開けただけじゃまだ助からないっていうのか!」

 

コナン(このままじゃ、あと一分も持たない……一体どうすりゃいいんだ!)

 

 金田一も悩んでいる。

 

金田一「まだ方法はある……何か方法があるはずなんだ……」

 

金田一(考えろ、考えろ金田一……! 一体どうすれば、あの高さまで飛べる!? 天井の高さは十五メートル近くある! どうすればあの高さまで……!)

 

時任「何かまだ使える発明品はないの、コナンくん! その靴であの高さまで飛べたり……!」

 

コナン「残念だけど、あの高さじゃ厳しいな……あと使えるのは、あのスケボーと、この伸縮サスペンダーくらいだ。伸縮サスペンダーはあの天井より長く伸びるが、何かに引っかけてあの高さまで投げねえと……クソッ! こんな事ならあのボールに巻きつけてから突き破っちまえばよかった……!」

 

金田一「新奈さんは? 何か、その玩具屋のおじいちゃんの発明品を持ち歩いてないの?」

 

時任「凍る・ド・スプレーと、パンチングキャッチャー……いま持ってる発明品はこの二つだけかな。でも、こんなの……役に立ちそうもないや。パンチキャッチャーも、せいぜい一メートルしか伸びないし……天井まで届くならな……」

 

 コナンは少々頭を抱える。

 

金田一「伸縮サスペンダー、凍る・ド・スプレー……それにスケボーが俺の分を含めて二つ。――待てよ? 新奈さん、その凍る・ド・スプレーって、布を凍らせる事が出来るんだよな!?」

 

時任「え? そうだけど?」

 

コナン「布を凍らせる……? ……そうか! ……なるほど、お前の考える事が読めたぜ、金田一!」

 

金田一「ああ、こいつを使えば……二人の発明が、俺たちを守ってくれる……!」

 

時任「どういう事?」

 

コナン「飛ぶんだよ。――こいつと、その凍る・ド・スプレーを使ってな!」

 

 

 



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18:『終章:キミがいれば/君がいるから‥ ~脱出・優しい名探偵~』

 

 

 

○ドームス内

 

 消火器で、ドームスの対面部だけ炎の勢いを消している。

 そこにサスペンダーの端を持った金田一が駆け寄り、スケボーの一つを壁に設置させる。

 逆サイドにいる時任も同じようにサスペンダーの端を持ってスケボーを壁に設置させ、その板の上にサスペンダーの端を軽く接着させている。

 コナンが『凍る・ド・スプレー』をサスペンダーにかけながら歩き、サスペンダーを端から端まで凍らせていく。

 

コナン(――二つのターボエンジン付きスケボーの車輪を、それぞれ対面上の壁に設置させ、その板上に、サスペンダーの端を接着する。そのあとでサスペンダーを伸ばしたまま、この『凍る・ド・スプレー』で凍らせて、二つのスケボーを繋げる巨大なつっかえ棒にする!)

 

金田一(そして、あとは、このスケボーに、壁を走らせる! ロケットみたいなエネルギーを持つターボエンジン付きスケボーが二つあれば、間のつっかえ棒に大人二人に子供一人乗せて壁を昇る事も出来なくはない……)

 

時任(ただし、あたしたちの足場は不安定な棒一本だ。ちょっとでもバランスを崩したり、タイミングを外したり、先にサスペンダーが溶けたりしたら即アウト……! ドームスは名前の通りドーム状だから、壁を走っていたターボエンジン付きスケボーも、あるタイミングで重力に負けて落下する! だから、その前の一瞬でガラスの天井までジャンプして、脱出しなきゃならない……ただでさえ綱渡りな賭けだけど、いまからドームの上に上る方法はこれしかない!)

 

 コナンがつぶやく。

 

コナン「蘭姉ちゃん……待っててね。すぐにそっちに行くから!」

 

金田一「……美雪」

 

 キリッと、した瞳で金田一が叫ぶ。

 

コナン「――いくぞ! さん!」

 

時任「に!」

 

コナン「いち!」

 

 ターボエンジン付きスケボーのスイッチを金田一と時任がオンにして、ターボエンジン付きスケボーがかなりのスピードで発射する。

 金田一と時任は、急いで中央部まで走り、真ん中のつっかえ棒に掴まると、なんとかその棒の上にまで上る。

 スケボーは急速に壁を走っていき、三人を天井に近づけていく。

 

コナン「ふう、とりあえず、上るところまでは成功だ! あとは、この細長い足場でバランスを保って、最後にうまくジャンプして、天井まで跳ぶだけだ!」

 

金田一「……やれるか? コナン」

 

コナン「金田一さんこそ、怖がってない?」

 

 コナンの余裕ぶった笑みに、金田一も笑みを返す。

 

金田一「そりゃ……びびってるよ!」

 

 スケボーの勢いは想像以上に早く、三人を押し上げる。

 

コナン「……今だッ!」

 

金田一「よし!」

 

 コナンと金田一が天井に向けてジャンプし、コナンはガラスの上に飛び込む。空中で体をひねったコナンは、見事に天井部分へと転がる。

 金田一もそこに飛ぼうとしていた。

 

時任「……あっ!」

 

 しかし、時任だけ一歩遅れていた。ジャンプの勢いが足りず、ガラスの窓まで飛距離が届かずに、自由落下していく。

 

金田一「時任さん!」

 

 直後、スケボーが落下し、地面に激突して破壊される。

 金田一が左手を伸ばしている。

 

時任「……!」

 

回想・金田一『死んだら終わりだぜ! あんたも佐山も!』

 

回想・コナン『……それならさ、また生きて償えば良いじゃない』

 

時任「……」

 

時任「あたしは……」

 

時任「生きたい……!」

 

 だが、その手は届かない。

 

金田一「あ……!」

 

コナン「くそ……!」

 

時任「……!」

 

 ……しかし、金田一の左手には、時任が伸ばしたパンチングキャッチャー(マジックハンド)が掴まれていた。

 最後の瞬間、時任は思わずパンチングキャッチャーを握りしめ、そのこぶしを金田一の手のひらに向けて放っていたのだ。

 

金田一「新奈さん!」

 

時任「おじいちゃんの発明は……こんな物じゃないよ……! 金田一くん!」

 

金田一「良かった……ははは!」

 

コナン「……ふぅ。そうだ」

 

 金田一は左手でパンチングキャッチャーを掴み、右手でガラスの天井を掴んでいた。

 彼の腕からは血が出ている。

 レスキュー隊は、既に天井まで降りていた。ヘリコプターの音が鳴り続いている。

 

コナン「……急いで! 早く、金田一さんが落ちちゃう!」

 

金田一「うおっ……痛てててててて!!」

 

時任「は、離さないでね、金田一くん!」

 

レスキュー隊「よし、もう大丈夫だ、今引き上げてやる!」

 

 金田一と時任の身体がレスキュー隊に引き上げられる。

 ガラス片で切ってしまって血まみれの右手。

 

金田一「いててててて……」

 

コナン「大丈夫か? 金田一」

 

金田一「ああ、なんとかな。まあ、これくらいの怪我で済んだのも、奇跡みたいなもんだし……」

 

コナン「そりゃ良かったけど……」

 

金田一「……あ! でもこれでしばらくペンも持てねえし、ノート取れねーな……授業とかどうしよ」

 

コナン「おいおい。元々、授業なんて寝るか、早弁してるか、屋上でサボってるかだけだろ?」

 

金田一「なっ!? お前ー!!」

 

コナン「ほんとの事だろ!?」

 

金田一「どうやって推理したー!?」

 

コナン「んなもん推理でもなんでもねーよ……」

 

時任「ははは……」

 

 金田一とコナンは、ふと時任の方を見る。

 

時任「……二人には……迷惑かけたね。……でも、助けてくれて、ありがとう。二人の名探偵さん」

 

 

 

 

 

 

○米花総合病院

 

 

 米花総合病院で、時任が警察に連行されていく。

 

時任「金田一くん、コナンくん……」

 

金田一「……よかったよ、本当に。あんたを助ける事が出来て。……それから新奈さん。もう一つだけいいかな」

 

時任「え?」

 

金田一「いま、明智警視から連絡があってさ! 鬼沢さん、あんたに一刻も早く償ってほしいってさ! 鬼沢さんも新奈さんにほんの少し、淡い好意を寄せてた事もあったけど、そんな時にあの事件が起きた。……だから、それできみの前から姿を消した。でも……それでも鬼沢さんが半年前の事件にきみを呼んだのは……鬼沢さんがホームズにあこがれてたからだ! 自分が信頼する名探偵に、自分の犯行を必ず暴いてほしかったからなんだよ……」

 

時任「……」

 

コナン「……また会おうね、時任さん。今度は同じ探偵としてさ」

 

 コナンが見送ると、時任は薄く笑った。時任が連れられて行く。

 

時任「ああ、またね。二人の探偵さん!」

 

 金田一の目に、ちょっと涙が浮かんでいる。

 

金田一「……」

 

 コナンはそれを見てあきれている。

 

コナン「おいおい、犯人を救ったヒーローが泣いてんのか? 金田一」

 

金田一「うるせー、別に泣いてねえよ」

 

 そこに、いつからいたのか、後ろにいた美雪が声をかけて、コナンの方に歩いてくる。

 

美雪「――違うわよ、コナンくん」

 

コナン「え?」

 

美雪「……はじめちゃんはね、誰かの為に涙を流せるから、ヒーローなのよ!」

 

金田一「美雪……」

 

コナン「……うん」

 

コナン(わかってるよ、美雪さん……)

 

 コナンが笑う。

 その時、うつむいて立っていた蘭が、涙いっぱいでコナンに抱き着く。

 

蘭「コナンくん!」

 

コナン「蘭姉ちゃん、ごめ……」

 

蘭「もう……ほんとに……心配したんだからね……!!」

 

コナン(……ああ。……俺は前にも見た事があるんだよ……! 犯人に同情して涙を流す、そんな優しい探偵をな!)

 

 いまの蘭に、かつての事件の出来事を重ねて、コナンがほほ笑む。

 

 

 

 



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19:『エンディング』/『エピローグ』

 

 

 

♪エンディング

 

・結婚式をする栗本と和美。

 祝福する金田一たち。

 剣持たち警官が見張っているが、鬼沢の姿もある。

 

・王や亀田の不祥事の件で記者会見をして頭を下げる明智。

 

・今度は時任の面会に来ている高木と佐藤。

 

・公園で奇術を見せている高遠。

 

・目暮にこってり絞られる佐山。

 

・その後、ちゃっかり出来ていた深海と松山。

 

・阿笠博士のくだらない発明に呆れる哀や少年探偵団。

 

・小さなおもちゃ屋、公園、桜並木の実写映像。

 

 

 

 

 

 

○エピローグ

 

 

 コナンが誰かと電話している。

 

服部平次『――いま新幹線で向かっとるで工藤! そっちで噂の隠れ高校生探偵・金田一一とおもろい事件に巻き込まれたそうやないか! すぐそっちに合流するから、もうちょっとだけ待っとき!』

 

コナン「え? なに、聞こえない!? ちょっと、こっちのカラオケ、トイレでも音楽がうるせえんだよ!」

 

服部『じゃ、そういう事で切るで! ほな、さいなら』

 

コナン「おい、服部! ったく……一体、何しに電話かけたんだ?」

 

コナン(もし事件に合流とかだったら……とっくに終わっちまってるがな、ははは……)

 

 コナンがカラオケルームに戻る。

 金田一、美雪、佐木、蘭、歩美、元太、光彦、哀、鈴木園子らが歌で盛り上がっている。

 

蘭「金田一さん、上手~」

 

金田一「へへ、これでもキンキは得意なんだよね。……じゃあ、次お前の番だぞ、コナン」

 

 金田一が包帯を巻いた手でコナンにマイクを渡す。

 コナンはその包帯の巻いた手を見て、密かに優しく笑う。

 

コナン「あ、僕の番か。えへへ……じゃあ僕は、TWO-MIX、いきまぁす!」

 

 金田一、美雪、佐木以外の全員が、そっと耳をふさいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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