やはり俺がカバネリなのは間違っている。 (ガタオガタ)
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第一話

俺のできることは...

 

 

「はぁはぁ...逃げるぞ小町!!」

 

 

「ど、どうしたのお兄ちゃん...??」

 

 

「カバネだ!カバネが町を襲ってる!!だから急いで逃げるんだ!!」

 

 

「わ、わかったよ!お兄ちゃん!!」

 

 

この世界には噛んだ人間をウイルス感染させ同族に変える怪物・カバネが存在し、世界を覆いつくしている。

ここ、極東の島国・日ノ本では、駅と呼ばれる砦を駿城という装甲蒸気機関車で従来するというカバネから隔離された

堅牢なインフラを整備することで生活が保たれていた。

カバネによる被害はひどく、毎日どこかで人間が殺され、カバネへと姿を変えていた。

そんな生き抜くことさえ難しい、いつ死んでもおかしくない世界である一人の少女カバネへと姿を変えようとしていた。

 

「ガァァァァア!!」

 

 

「!!小町...後ろだ!!避けろ!!!」

 

 

「!!お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!!」

 

少女は少年の声で後ろから迫ってくるカバネに気付き、左前方へと飛び込むようにして回避した。

 

「小町早く立て、あのカバネが起き上がる前に逃げるぞ」

 

偶然だが、少女が回避したときカバネは少女を捉えるために飛びかかっていた。

そのため空中で捉えるべき対象が急に移動したため地面へとたたきつけられていた。

 

「う、うん」

 

再び少女が逃げようと地面を踏み込んだそのとき

 

「ホァァァァアアア!!!」

 

先ほどとは別のカバネが少女の足を掴み、転ばせていた。

 

 

「小町!!!ちくしょう!!!小町を離せ!!!!」

 

 

 

「痛い!!痛いよ!!お兄ちゃん!!」

 

 

少年は、少女の足を掴んでいるカバネを何度も踏みつけ、外すことに成功した。

 

 

「お兄ちゃん...足が痛いよぅ」

 

 

「小町...乗れ、俺が背負っていく」

 

 

「分かった...無理はしないでね?」

 

 

「ああ、休める所を探そう。少し飛ばすぞ」

 

 

まだ幼い少年たちが二度もカバネによる攻撃で死なずに済んだのは奇跡といっても過言ではない。

そんな少年たちに三度目の奇跡が舞い降りる。

 

 

どれくらい走っただろう。一人ならまだしも今俺は小町を抱えている。

体力なんてとっくに切れてる。それでも走れるのは、小町がいるからだろう。

俺は最悪死んでもいい。この町の人間たちは皆俺をいじめてきた。

逃げてる最中に町の人の死体や襲われて要るところを見た。自分の視界で人が死んでいく。

小町はそんなところを目撃するたびに涙を流していた。それも当然だろう。

小町は俺と違い社交的で、友達もたくさんいたし、大人たちにも可愛がられていきてきた。

そんな人たちが死んでいくんだ。涙を流して当たり前。

そんな小町と違い俺は、なにも思わなかった。何の感情もわかない。

そんな自分が怖くも思えたが、当然の感情だと言い聞かせて納得した。

親もいない。小町を守るのは俺だ。なにがなんでも守り抜く。

そんなことを考えながら走っていると、小さな蔵を発見した。

 

「小町...あそこで休憩するぞ」

 

 

 

 

「小町...足は大丈夫か?」

 

 

「うん、掴まれた時は痛かったけど今は大丈夫」

 

 

「そうか...ならよかった」

 

 

「お兄ちゃんこそ大丈夫?小町抱えたまま走って...疲れてないの?」

 

 

「おう、これぐらい平気だぞ」

 

 

「そっか!ありがとね!!お兄ちゃん!!」

 

 

「気にするな、それよりここにはカバネがいないみたいだ。休めるうちに休んでおこう」

 

 

「うん、もうみんなの事思い出しそうだから寝るよ

ほんとにありがとね、お兄ちゃん。おやすみ」

 

 

「おう、おやすみ小町」

 

 

こうして俺は今日一日小町を死なせずに済んだ。

正直運が良すぎたから、明日からが不安だがやるしかない。

小町は絶対に死なせはしない!!!!

そんなことを考えながら俺は深い眠りについていた。

 



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第二話

章タイトル

 

俺の生きる道

 

 

 

 

そこそこ平和な人生を過ごしていた俺達に

突如として訪れた地獄。

大量のカバネが俺達の暮らしていた町を襲い、壊滅的な打撃を与えた。

そのカバネの襲来により、俺達の親は殺され

小町の友人たちも皆殺されている所を

逃走中に目撃していた。今頃カバネにやられた

町の人々は皆カバネへと姿を変えているだろう。

そんな地獄と化した町から俺と小町は

他の人々が襲われているのを見て見ぬふりをしながらなんとか逃げ切る事に成功し、

周辺にカバネのいない、蔵へと避難していた。

 

 

「起きろ小町、もう朝だぞ」

 

「ん…あ、おはようお兄ちゃん」

 

「小町、今日が何の日か覚えてるか?」

 

「え?今日?んーあっ!今日は総武城が来る日じゃん!」

 

「そう、今日はこの町の駅に総武城が来る日だ。

確かここに到着するのは昼過ぎだったと思うから

まだ時間はあるが、なんとか駅に辿り着くためにも

俺はこの蔵の周辺に昨日と同様にカバネが

いないのかを確認しないといけない」

 

「え!?危ないよお兄ちゃん!もしカバネが居たら、お兄ちゃんカバネに襲われて死んじゃうよ!」

 

「大丈夫だ小町。俺は小町を置いて死んだりしない。さっきそこにある窓から外を確認してみたんだが、今の所この蔵の周辺にはカバネはいないみたいだ。だから安心しろ。」

 

「お兄ちゃんが大丈夫って言うなら小町は信じるよ!でもほんとに気をつけてね?信じるけど心配だから」

 

「ああ、大丈夫だ!確認作業が終わったら駅へと行くことにしよう。よし!じゃあ行ってくる。」

 

「行ってらっしゃい!絶対に帰ってきてね!」

 

 

さっそく俺が蔵の外へと向かっていたその時、

 

 

ドンドンドン!!!!!!

 

「!!!くそっ!まさかカバネか!?」

 

ダレカイルノカ!!!!イルナラアケテクレ!!!!

 

「違う!生存者か!今開けるから待ってくれ!」

 

カバネの襲撃かと一瞬焦ったが、まさか生存者だったとは…あの町の状況で生き延びたのか?

俺達以外にも生存者がいた事はかなり有難い。

しかも蔵の外からの訪問者、これはもう蔵の周辺の確認作業をするまでも無いな。この人に聞いた方が時間の短縮にもなり、俺が危ない橋を渡らないで済む。

そんな事を考えながらも、俺は生存者をこの蔵へと招き入れるために、扉をあけるのだった。

 

ガチャガチャ!

 

「ふぅ、ありがとう、もし開けてもらえなかったら確実に僕は死んでいたよ。」

 

見た所完全に大人だな…なんとも優しそうな人だが、とりあえずは外の情報を聞くのが得策だな

 

「俺達以外の生存者がいるのなら、あけて当然でしょう。俺の名前は比企谷八幡です。そしてあそこに居るのが妹の小町です。」

 

「そうか。八幡君と小町ちゃんだね。うん、覚えたよ。僕の名前は、海田秀人だよ。よろしくね。所で他に人はいないのかい?」

 

「ええ、残念ながら昨日の襲撃で逃げきれたのは俺達だけです。もしかしたら他の所へ行ってるのかもしれませんが、可能性は低いと思います。海田さんはこの蔵に来る途中、カバネと遭遇したりしましたか?」

 

「いいや、一切カバネはいなかったよ。僕は実家に地下室があるんだが、そこでやり過ごして居たんだ。最初は町の人悲鳴やカバネのうめき声とか色々な音がしていたんだけど急に静かになってね。だから地下室から出て、町を見て回っていたんだけど、カバネの姿はどこにも見当たらなかったよ」

 

「そうですか。ありがとうございます。海田さんは今日が何の日ご存知ですか?」

 

「もちろん!総武城が来る日だろ?」

 

「そうです。なので俺達はこれから駅までいって、総武城を待っていようとおもっています。海田さんはどうされますか?海田さんにも来ていただけると有難いんですが…」

 

「断る理由が無いよ。それなら早く行こうか、またいつカバネがやって来るか分からないからね」

 

「分かりました。直ぐに出発しましょう、おい小町!今から駅に向かうぞ!」

 

「もう行くの?まだお昼まで時間があるよ?」

 

「ここに居ても危険だ、駅に行けば、避難所がある。そこでやり過ごそう。もしかしたら他にも生存者がいるかもしれないしな」

 

「そっか!わかった!」

 

「それじゃあ海田さん、さっそく行きましょう」

 

「了解だよ、八幡君」

 

こうして俺達は新たな生存者である海田秀人さんと共に、総武城が来る駅まで行くとこになった。この蔵では簡単にカバネに突破されてしまうため、一刻でも早く、駅の避難所へと進み始めた。しかし、この時の俺は新たな生存者で、

大人である海田さんが同行してくれる事に安堵し、海田さんの正体に気付くことがなかったのである。まさかあの時扉を開けたことが間違いだったとはこの時の俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第三話

芽生えた気持ち

 

 

現在、俺達は海田さんと共に、駅の避難所へと向かっていた。蔵を出て1時間程経っているが、今の所カバネには遭遇していない。このまま何事も無く着いてくれればいいのだが、そういう訳には行かないだろう。せめて、抵抗するための武器を持っていた方が安全だろうと思い、避難所に向う足は止めずに、俺は海田さんに提案してみた。

 

 

「海田さん、少し提案をいいですか?」

 

「ん?どうしたんだい?八幡君」

 

「はい。今の俺達はカバネに遭遇した時に何も抵抗出来ません。勝てる事はありませんが、せてもすぐにやられないように抵抗したいんですよ?なので町に着くまでに武器を探しませんか?」

 

「うーん、そうだね。確かに今の僕達はカバネに遭遇したら何も出来ない。今の僕達は大人1人に子供が2人、もし避難所に着くまでにカバネに遭遇したら僕は君たちを守らないと行けない存在だしね。今のままでは僕はただカバネの餌になりに行くだけだね」

 

そう海田さんは笑いながら言った。正直笑い事じゃないのだが…それでも笑いながら言ったという事は、それだけ余裕があるという事だろう。

 

「流石に会ったばかりの人に守ってもらう訳には行きません。それに、小町は俺が何が何でも守り抜くと、決めているんです。その為にも絶対に武器を手に入れたい。海田さんは武器庫の位置とか知りませんかね?」

 

「ごめん、武器庫の位置は僕も知らないんだ、でも多分これから行く道には武器が沢山あると思うよ」

 

「え?何でですか?」

 

「簡単だよ八幡君。これから通る道は町へと続く道だよ?と言うことは当然…」

 

「カバネと戦闘した人達の武器が落ちている…」

 

「そう、正解だよ」

 

そう海田さんは微笑みながら教えてくれた。

正直、町の人達には悪いが、ありがたい。出来れば刀が手に入ればいいが…その時、後ろからくいッと袖が引かれた為、後ろを向いて見ると、小町が俺の袖を、泣きそうな顔で引いていた。

 

「どうしたんだ小町?」

 

「これから行く所には武器がいっぱい落ちてるの?」

 

「ああ、それを拾って、カバネに遭遇しても大丈夫な用にしようと思ってな」

 

「じゃあそこには沢山のカバネが居るのかな?」

 

「いや、それは大丈夫だと思うよ」

 

突然海田さんが会話に入ってき、小町の問いを否定した。

 

「海田さん、どうしてそんな事分かるの?カバネに襲われたら皆せすぐにカバネになるんじゃないの?じゃあそこにはいっぱいカバネがいるって事でしょ?」

 

「小町ちゃん、確かにカバネに襲われたらカバネになるけど、すぐにって訳じゃ無いんだよ。だからカバネになる前に擬死っていう状態になるんだ、それから心臓が発光して、カバネになるんだよ。まぁカバネになるまでの時間は個体差があるけどね」

 

海田さん、カバネに詳し過ぎねぇ?まぁカバネの生態に詳しいという事は、カバネが何に、反応するのかも良く知っているだろう。

 

「海田さん、えらくカバネに詳しいですね。それで聞きたい事があるんですが、カバネは人間に反応するんですか?」

 

「…八幡君、僕がカバネに詳しいのは独自に研究してきたからなんだよ。実は僕はカバネが好きでね…」

 

ん?なんだ?海田さんの雰囲気が突然変わったぞ…なんか地雷踏んじゃった?それにカバネが好き…?どういう事だ?

 

「海田さん、カバネが好きってどう…」

 

海田さんは俺の言葉に被せて俺の質問に答えてきた

 

「ああ、それとね、カバネは実は人間に反応するのはするんだけどもっと良く反応する物があるんだ…例えば、こんな真っ赤な血とかね!!!」

 

海田さんの雰囲気が急に変わったと思い、疑問をぶつけたら海田さんは懐から小刀を出し、俺の前に居た小町の首を掻っ切った

 

「……!!なんで!なにするんだ海田さん!!!」

 

「なんで?これが僕の目的だからだよ!八幡君人生の先輩として一つアドバイスしてあげよう。大人だからって簡単に信用しない事だよ、いや大人だからこそ信用しては行けないんだ。」

 

俺は海田さんを睨み付け、叫び、疑問を投げかけていたが、それに対する回答は無視して、小町の元へと向かっていた

 

「小町…!小町!!!」

 

小町の脈を調べたが完全に止まっている。首を切られたんだ。即死だったのだろう。涙が止まらない、もう俺には小町しか誇れる物がないのに、小町しか…小町しか…。

 

その時俺の中で何かが弾けた

 

「海田…俺は絶対に貴様を許さない!!!」

 

「許さない?なら君が僕を裁くのかい!?君みたいな子供が?この天才な僕を!やれるものならやってみるがいい!」

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

俺は人を信用しないと決めたのに、カバネに町を襲われ、小町が怪我をし、2人だけで逃げていた。多分ホントは怖かったんだろう。俺だって子供だ。小町を守る為にって無理をしていたんだ。そんな時に出会った優しそうな大人、海田秀人さんが一緒に行動してくれると言ってくれて俺は安心していたんだ。ああ、もう人は信用しない。俺の前で小町は死んだ。カバネにならなかったのが唯一の救いだ。小町は俺が持って帰る。その前に海田は殺す。小町を殺された事で目覚めた自分でも説明出来ない能力で、俺は海田とカバネの乱入乱闘を開始するのであった

 

 

 



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第四話

死闘の果てに…

 

 

 

「はぁはぁ…はぁぁあ」

 

やっとの思いで着いた駅には何も無かった。今までの死ぬ思いでしてきた行動は、すべて無駄だったのか、そんな風に考えていると、遠くから蒸気機関車の汽笛の音が聞こえてきた。

きた!やっと総武城に乗れる!これで小町を…

総武城がきた安心感からか、俺の体は遂に異常をきたし、その場に倒れ込んだのだった。

 

 

 

 

 

「ふっ八幡君!君の力はこんなものか!だから大切な妹を失うんだよ!もっと呪え!この僕を!もっと悔やめ!自分の力の無さを!」

 

くそっ!くそっ!くそっ!殺してやる!殺してやる!殺してやる!絶対に殺してやるぞ!

 

 

「かいだぁぁぁぁああ!!!!」

 

「うおっびっくりしたぁ」

 

「目が覚めたかね?傷だらけの少年よ」

 

目が覚めた?あっ今のは夢か…この人は誰だ?

えらく美人だが…

 

「あの、すいませんここはどこで、あなたは誰ですか?」

 

「ふむ、人に名前を尋ねる時はまず自分から名乗るのが常識じゃないか?」

 

「…すいません。自己紹介が遅れました。比企谷八幡と言います。それで?ここはどこですか?それに自分が抱えていた妹は?」

 

「私の名前は平塚静、この総武城の指揮を執っている。君達の町の駅に、君と君の妹が倒れていたのでな、私達総武城の者で回収させてもらった。それと…言い難いのだが、妹さんは、もう…」

 

 

「分かっています。俺にとって、小町の死なんか関係ありません。死んでいるからって置いていく事は俺には出来ません!」

 

そう俺が言うと、平塚静と名乗る女性は何か言いづらそうにしながらこちらを見ていた。

 

「あの…なにか?」

 

「ん?いや、なに。妹さんが死んだんだ、普通は泣き喚いてもおかしくない歳にも関わらず、強くあろうとしている姿から君の覚悟を感じ取ってな…それが本心なのか少し疑っていたんだよ」

 

そんな事は当然だろう。人は人を簡単に信じてはならない。皮肉な事にも海田から教わった事だ

 

「だが、君の姿を見れば何故か信じれるよ」

 

「は?それはどういう事ですか?」

 

「君は今の自分の姿に違和感は無いのか?今の君は全身傷だらけ、右脚は折れていて、左手首は逆に曲がっているんだ。かなりの修羅場をくぐってきたのだろう。それに痛みを感じていないようだ。痛覚がないんだろうな、だが安心していいぞ、完璧に治療してあるから後は完治を待つのみだ。後で治療してくれた城廻に礼を言っておけ」

 

「はぁ分かりました。ありがとうございます」

 

 

まじか…ってえ?まじ?確かに全体包帯巻かれてるし、左手首は変な方向向いてるけど痛みは感じない。痛覚というより触覚が機能してなくねぇかこれ?小町、お兄ちゃんは本物のバケモノになったよ。グスン

 

「そうそう、君が起きたら聞こうと思っていたんだ、それだけの傷はカバネに襲われただけじゃ付かない。君は何と戦いそんな傷を負った?もし良かったら聞かせてくれ」

 

「…かなり酷い話ですよ?それでも聞きますか?」

 

「酷いかどうかは聞いた上で私が判断する。君は子供なのだから子供らしく大人に泣き言を言えばいい」

 

俺はもう人を信じれない。この人を信じることは出来ないけれど、話してやろう。これは俺だけの問題じゃなくなったんだ。俺の願望のためにも利用してやろうじゃねぇか

こうして俺は何故この様な状態なのかを語りだした。

 

「これから話すことは自分だけの問題では無くなりました。覚悟して聞いてください。あれは3時間程前のことです……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉおおおおおお!!!」

 

小町が死んだ…俺が人を信用したばっかりに俺の目の前で死んだ。小町を殺したこいつは絶対に許さいない。しかも何故だか力のが漲ってくる。今ならカバネにも勝てる気がする

自分での理解できない力が体の奥底から溢れ出し、初めての事なのに今迄使いこなしていた力かの様に頭に使い方が浮かんでくる。まずは脊髄から右腕に電流を流すイメージで、右腕に力を溜めていき、一気に解放した。

 

ゴォォォォオン!!!!!!

 

「!!なんだその力は!人間の腕力でなるような現象じゃないぞ!これは!君は何者なんだ八幡君!!!!!!」

 

「うるせぇよ…俺が何者かなんてどうでもいいだろ…黙って俺の拳で破裂しろ!!!!」

 

そう言いながら八幡の右ストレートは海田の顔面へと吸い込まれていく…と思われたが突如としてカバネが海田を庇うような形で割り込み、八幡の拳をカバネ特有の心臓で受け止めた。

 

「くそっ!邪魔なんだよゾンビ擬き!!」

 

なんてタイミングが悪いんだ…こんな時にカバネなんて、ん?カバネ?海田はカバネは人間にも反応するけど血に良く反応すると言ってたな…まさか!

 

「お前ら邪魔なんだよ!俺の小町に手を出すんじゃねぇ!!!」

 

突如として現れたカバネから原因を導き出し、その原因が小町であると気づいた八幡は小町の死体へと向かっていたカバネをアッパーで殴り飛ばしていた。そのとき、

 

ヒュッ!ズサッ!

 

「ぐわぁ!痛てぇじゃねぇかくそ海田!!!」

 

「戦闘中によそ見をする方が悪いんじゃないかい?それに何か勘違いしてないかな?今の攻撃は僕であって僕じゃないんだよ」

 

「どういう事だよ」

 

「言っただろう?僕は天才だと。会ったばかりの時にはこう言った。僕は実家の地下室でやり過ごしていたと、これは実は少し違うんだよ。別にカバネから逃げる為に地下室にいた訳じゃないのさ。まず僕がカバネから逃げる必要はない、何故なら僕はカバネを操る事が出来るからね」

 

「カバネを操る…だと?そんな事が出来るわけない!出鱈目言ってんじゃねぇぞ」

 

「残念な事に、出鱈目でもなんでもないんだよ、証拠としていま僕達がこうして会話をしているのにも関わらず、カバネ達は襲ってこないだろう?この町にいるカバネはすべて僕の管理下にあるんだよ、八幡君が信じたく無くてもこれが現実だ。」

 

海田に言われて、慌てて周りを見渡すと、2、30体程のカバネが俺達を取り囲んでいた。にも関わらずカバネは俺達をただただ見ているだけで襲ってはこない。しかし、どこか抵抗する様な動きを見せるのは何故だろうか?まずカバネをどうやって操っている?もし本当に操っているとするならば、平和だったこの町に何の前触れもなくカバネが襲ってきたのは、海田の仕業という事なんじゃないのか?いや、それよりも町をカバネに襲わせて町の住民をあらかた殺し終わってからカバネ達を操っているのきもしれない。そもそも俺が考えた所で何も分かるはずは無いな

そう俺は結論を出し、海田に問いかけた。

 

「じゃあどうやってカバネを操っているんだよ?カバネは死体だぞ。操るって言うからには催眠術かなんかだと思うがそんなの効くはずない」

 

「なぁに簡単な事だよ。カバネはね心臓以外を傷付けても切り落としたりしない限り、直ぐに再生するんだよ。僕はその特性を利用して、カバネの頭に小さな機械を埋め込む事にしたんだ。その機械から何万通りもの電気信号が送られて、カバネの体を操るのさ。これでカバネは僕の操り人形となったのさ」

 

「自分で天才だと言ってたのは本当だったんだな、まぁ関係ねぇよ、お前がいくらカバネを操れようと俺はそのすべてを殺してやる」

 

「そうかい。それじゃあ戦闘再開だ!」

 

そう海田が叫ぶと、前後左右、全方位から八幡

へとカバネが攻撃を開始した。全方位からのカバネによる時間差攻撃、普通の人間ならば一体めで死んでいてもおかしくないのだが、八幡は全てのカバネを処理してみせた。謎の力により八幡は爆発的に飛躍した筋力を見せつけ、カバネの銃弾や刀ですら跳ね返す鋼鉄被膜で覆われているのにも関わらず、拳で胸に風穴をあけた。

 

「…!!ほんとになんなんだその力は…とても気になるな…君は僕のいい研究材料だよ!八幡君。ここから僕は君を連れて帰る為に容赦はしないよ。様子見はもう終わりだ」

 

海田がそう言うと、先ほどまで2、30体ほどしかいなかったカバネが100以上になり、一つに集まりだした。

 

「なんだ…これ。カバネの集合体だと…?」

 

「正確には融合群体だよ、さて、君にこいつが倒す事が出来るかな?」

 

まじでなんだこれ、化物じゃねぇか。融合群体だと?そんな物を作るなんて、まじで天才だな…

 

海田が作り出したのは、沢山のカバネを一体の母体に中心に合体させ、巨大な化物にする物だった。本来ならもっと多くのカバネが必要なのだが、八幡1人相手ならという事で、少ない数で小さな融合群体を作り出した。海田が融合群体を作りだしてから、八幡は一方的な攻撃を受けていた。

 

ドカッ!!バキッ!!グシャ!!

 

「ぐわぁぁああ!!!」

 

「はははっ!どうだい!一方的に蹂躙される気分は!辛いだろう!もう君に出来ることはない!死ぬ間際まで痛み付けてあげるよ!」

 

 

どれくらい時間がたっただろうか、八幡は融合群体に痛め続けられ、全身を見渡しても、傷が無いところを探す方が困難な状態になっていた。しかし、どういう訳かどこも骨が折れる事はなく、一番ひどい傷は左脚の太腿の肉が削げ落ちている事だった。

 

「カハッ!くそ…俺は…俺は…」

 

八幡は自分の力の無さを嘆いていた。自分にもっと力があればこいつを倒せるのにと、海田を殺せるのにと、神にも願いがけをする程、追い詰められていた。そんな時、八幡の心臓部分が発光し始めて、体が若干だが、変色し始めた。

 

「…!君はカバネリだったのかい!八幡君」

 

そう八幡は海田の言う通りカバネリだったのだ。カバネリとは本来、後天的になるものだが、八幡は生まれた時から、カバネリなのだ。

本体、腹に赤ちゃんを身ごもった状態でカバネに攻撃を受けたら、母体がカバネとなり、赤ちゃんが産まれる事は無いのだが、極稀に、赤ちゃんがカバネのウイルスをすべて吸収し、完全なるカバネリとして産まれる事がある。八幡はまさにその極稀に産まれる完全なるカバネリで、命の危機を本能的に感じ、死なない体へと、体組織を変化させたのである。今まさに、カバネリへと変化した八幡は完全なるカバネリだからこそ出来る力で、融合群体を倒そうと、立ち上がっていた。

 

 

「俺がカバネリ…?そんなのはどうでもいい。俺がここで勝たないと!小町は誰が連れていく?小町はここに置いていく訳には行かない!俺が責任をもって連れていく!」

 

 

八幡はそう高らかに叫ぶと、左腕に力を込め、体を腰から左側へて捻った。

 

「かいだぁぁあ、これで最後だ!俺の全てを込めた拳を受けやがれ!!!!!!」

 

 

八幡は先ほど捻っていた体を高速で戻しつつ、左拳を融合群体の心臓部目掛けて突き出した。

 

 

ゴォオオオオオオオ!ドゴォン!

 

「ホォアアアアアア!!」

 

融合群体は八幡の拳から放たれた、衝撃波により母体を覆っていたカバネが粉々になり、母体は衝撃波に乗り、海田の方へと向かって至った。

 

 

ヒューー!ドゴォン!

 

「くっ八幡…君。君は僕達の作ったカバネリよりも優秀だ。僕は絶対に君を手に入れて見せるよ。その為に此処は引かせてもらう。僕の事は忘れないでくれよ。僕への怒りを糧にもっともっと強くなり、僕を楽しませてくれ」

 

八幡の放った衝撃波により、融合群体ごと、決して軽くはないダメージを負った海田は、一時撤退を選び、新たに呼んだカバネ、ワザトリの肩に乗り、その場を立ち去っていった。

 

 

「はぁはぁはぁ。くそっ殺せなかった。これだけの力を手に入れてもまだ海田は殺せないのか…反省は後だ、とりあえず小町を連れて、駅へ向かわないと…」

 

こうして八幡と海田による戦いは幕を閉じた。

 

 

「……っていう事がありました。」

 

「…そうか。」

 

この子供はとんでもない。カバネリだとかそんなのは関係ない。とても子供とは思えない強靭な精神を持っている。それに海田とかいうやつは確かにこの子だけの問題ではないな。カバネを操るなど意味不明だな…まさに人間の敵。そいつを倒す為には確実にこの子、比企谷八幡の力が必要になる。この子には此処に残って貰って、あらゆる武術を覚えさせよう。

 

 

「比企谷、君はこの総武城で武術を学びなさい」

 

「は?」

 

「これは決定事項だ。異論反論質問抗議口答えは認めない。では、怪我が治り次第、特訓を開始する」

 

「え?ちょっ、まってく…」

 

ガチャ…バタン

 

 

 

八幡の怪我の原因を聞いた平塚静は今後の戦いの為に、八幡を鍛えようと心に決め、八幡の了承を得ること無く、総武城のメンバーに約束を取り付けるのであった。こうして比企谷八幡も英雄譚は幕を開ける

 

 

 

 

 



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第五話

八幡が怪我をし、総武城に拾われてから1週間がたち、八幡の怪我はすっかり完治していた。

 

 

「はぁ。武術を習得って俺剣術しかした事ないぞ…」

 

総武城の指揮官である平塚静の独断で特訓する事になった八幡は、これからの武術習得の事を思い与えられていた自室で嘆いていた。

 

 

ガチャガチャ…

 

「やっほー!君が噂の比企谷八幡君かな?」

 

「…っ!そうですけど…あなたは?」

 

突然の訪問者に驚いた八幡だったが入ってきた者があまりにも美人であるが為に、警戒しながらも返事を返した。

 

「私?私の名前はね〜、雪ノ下陽乃だよ!」

 

「もう知ってるとは思いますが、比企谷八幡です」

 

「それで雪ノ下さん。俺になにか用ですか?」

 

「私はね、君に武術の指導をしに来たよ」

 

八幡は陽乃の自分の所へ来た理由を聞いて、陽乃からの答えにより、顔を歪ませた。

 

「指導って…まだ完治したばかりなんですが?」

 

「怪我治ってるなら出来るでしょ?素人なんだから感覚を取り戻すとか言う事もないしね」

 

さも当たり前のように言ってのける陽乃に八幡は嫌気が指していた。まぁ理由はそれだけではないのだが…

 

「ゴネても仕方ないみたいですね…わかりました。ご指導の方宜しくお願いします」

 

「うん!お姉さんに任せなさい!」

 

 

逃げることの無意味さを感じ、即降参した八幡は、陽乃と一緒に稽古部屋へと向かっていた。

 

 

 

「一つ質問いいですか?」

 

「なにかな?」

 

「この総武城の人たちに武術を習うと聞いてますけど、そんなに教えれる人がいるんですか?」

 

八幡の疑問は当然のものだろう。総武城に拾われて1週間が過ぎているが、八幡の怪我は実質5日で完治していた。残りの2日間何をしていたのかというと、総武城の案内を受けていたのだ。その際に総武城の乗組員を見ていたがほとんどが女性だったのだ。

 

 

「比企谷君が不思議に思うのも分かるよ。ここって女の子ばっかりだもんね。でも大丈夫だよ。ここには色んな武術から医療関係までその道のプロしかいないから」

 

「…信じ難い話ですけど、嘘をつく必要性を感じませんね…ちなみに雪ノ下さんの担当は?」

 

「基本なんでも扱えるけど、私が教えるのは薙刀だよ!」

 

「薙刀…ですか?今どき珍しいですね」

 

「まぁねー。でもとても便利な得物だよ」

 

 

二人で会話をしている間にどうやら特訓部屋についたようだった。

 

 

「ここが稽古部屋の総武室だよ。ここには色んな得物があるから、とりあえずは薙刀を教える予定だけど比企谷君に薙刀は合わないと判断したら色々試してから決めようか」

 

「わかりました」

 

陽乃は稽古部屋の紹介をすると共に、八幡の今後の予定を説明した。

 

「とりあえず入ろっか」

 

陽乃は八幡にそう言うと、1人でさっさと部屋へと入っていったので、八幡は慌てて後に続いて部屋に入った。

 

「とりあえず、これが総武城で扱っている薙刀だよ」

 

「この刃の所の模様はなんですか?ただの薙刀には見えないんですが…」

 

八幡は陽乃に見せられた薙刀を訝しげに見た。

 

「そう。これは普通の薙刀じゃないんだよ。まぁ薙刀だけに限らずここにある武器にはある細工が施されているの。カバネの心臓が硬い金属で覆われているのは知ってるのね?鋼鉄被膜や金属被膜って呼ばれてるんだけど」

 

「知ってます。普通の刀で切りつけても刀が折れると聞いてます。銃の弾丸さえも弾くと」

 

「そうそう、それであってるよ。じゃあどうやってカバネを倒すか、基本的には殺せないから手足を切り落としたりするんだけど、技術があれば、刀でも銃でもカバネは殺せるんだよ」

 

「技術…ですか?それはどんな?」

 

陽乃の説明に疑問符を頭に浮かべながら八幡はその技術についての説明を求めた。

 

「それはね!刀だっからカバネの鋼鉄被膜の同じ場所を何度も切りつけるとか銃だったら、同じ場所を狙って撃ち続けるとか?」

 

「そんな事が可能なんですか?少なくとも自分には無理ですよ、そんなの」

 

陽乃が簡単に言ってのけたセリフはとてつもない発言だった。何度も同じ場所を切りつけることや撃ち続けることなど、いったいどれほどの修練を積めば身に付くのか、八幡は想像したが、とても希望的観測でも10年と判断し、泣きそうになっていた。

 

「まっこの総武城にいる人達は出来るひと多いけど、それは小さい頃から鍛錬してるからなんだよねー。比企谷に同じ事をしろなんて、そんな事は言わないから安心して。そして比企谷君みたいに、そこまでの技術力がない人でもカバネを倒すことが出来る武器がこれなんだよ」

 

陽乃はそう言うと再度、薙刀の刀身部分を八幡の前に突き出した。

 

「この刀身部分に覆われているのは、カバネの鋼鉄被膜。同じ素材の金属でも、加工してあるかどうかで強度は変わってくるでしょ?それにこっちは鋭利な刃物。切ることも突くこともできる優れものだよ。それが明確に現れるのがこの薙刀なんだよねー」

 

陽乃の説明を聞いていた八幡は納得したという顔で頷いていた。これなら自分でもカバネをぶきで殺す事が出来ると判断し、安堵のため息を漏らした。

 

「それじゃ早速稽古を始めようか」

 

 

そう陽乃は告げると、得物の山から薙刀をもう一つ持ち出すと、八幡に向かって投げ放った。

その時の陽乃の顔を、八幡は生涯忘れる事はないだろう。百人にこの人は美人かと聞いたら百人が美人と言うであろう陽乃の笑顔に見惚れていた……のではなく、いや、多少はその面もあったかもしれないが、その笑顔の下に隠れていた獰猛な虎の様な覇気を感じ、冷や汗を流しており、恐怖を感じていたのである。そんな八幡の事などお構い無しに陽乃は薙刀を構え、戦闘態勢に入り、八幡も構えるのも確認すると、なんの合図もなく稽古が開始されたのだった。

 



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第六話

「はぁはぁはぁ…」

 

「んーまぁ可もなく不可もなくって所かな?十分扱えてるけど、メインの武器にはならないんじゃない?」

 

陽乃による八幡の指導が始まって2時間が経過していた。陽乃からみた八幡の薙刀術はなんとか及第点をあげれるレベルにしかなっていなかった。

 

「…正直、自分でも思います。自分にこの武器は合ってません」

 

「だよねー。比企谷君は自分の何が行けないと思う?」

 

「…やっぱ1番は距離の取り方じゃないですかね?自分にはこんな長い得物はあまりあってない気がします」

 

「せいかーい!比企谷君相手との距離の取り方下手くそ!それに隙だらけ!薙刀の特性を全然生かせてない!」

 

 

自分の駄目な所を見事に言い当てた八幡は、自分の事を客観的に見れているだけ、冷静さは失っていないのだろう。しかし、陽乃からの厳しい叱咤には流石に来るものがあったのか、八幡は顔を歪め、陽乃の目線から逃げていた。

 

「ここでお姉さんからのアドバイス!」

 

「この2時間の稽古で、私が分かったことは、比企谷君には長物の得物は無理だよ。まぁ自分でも分かってるみたいだけど。君には無難に刀かな?でも体の使い方はピカイチ!正直単純な格闘技なら私でも適わないと思うよ」

 

陽乃からのアドバイスを貰った八幡は、薙刀の様な長物を諦めることを決意したが、陽乃の言葉に気になることがあった為聞き返していた。

 

「自分そんなに体の使い方上手ですかね?仮に上手だったとしたら、なんで武器を扱えないんすか?」

 

「そんなの簡単なことでしょ?比企谷君の身体能力に、武器っていう余計なものを上乗せしてるから思うように扱えないんだよ」

 

八幡の質問に対して陽乃は呆れ顔でそう言い、それを聞いた八幡は納得したのかため息を零した。

 

「比企谷君は刀は扱えるの?」

 

「町で剣術は習ってました。主にカウンターの技ですけど」

 

八幡の発言に陽乃は驚愕し、半ば悲鳴を上げながら八幡に詰め寄った。

 

「カ、カ、カウンター!?そんな剣術が扱えて、比企谷って苗字…比企谷君…もしかして君、比企谷一心さんの息子…?」

 

「え?親父の事知ってるんですか?」

 

「いやいや!知ってるも何もめちゃくちゃ有名な剣術家じゃん!なんで息子である君がそんなことわからないの!」

 

先程までの陽乃からは想像出来ないほど驚きを顕にした表情に八幡は戸惑いつつも、なんとか返事を返していた。

 

「い、いやそんなこと言われましても、俺は町から出たことありませんし、親父もそんな素振りは見せてませんでしたよ?まぁなんで家にあんな立派な道場があるのかは疑問でしたけど、門下生なんて俺以外には2年ほど前にみんな出ていきましたから」

 

陽乃が驚くのは当然の事だろう。なにせ比企谷一心は日ノ本でもかなりの有名人なのだから。

そして八幡がその事を知らないのも当然である。八幡の妹である小町が産まれた時に比企谷一心は自分の故郷に帰り、道場を立てひっそりと生きていたのだから。

 

「はぁ…まぁいいわ。でも納得。君がその年でなんでそんなに体さばきが異常な程に上手いのかよく分かったよ」

 

「あれ?さっきそんな事言ってましたっけ?」

 

「んーでもそうだなー。君があの比企谷一心の息子だって言うんなら剣術を教えても意味無いし…そうだ!静ちゃんに体術を習おっか!」

 

「え?無視?」

 

陽乃の先ほどの言葉との違いを指摘した八幡を陽乃は見事にスルーし、八幡の次の稽古の予定を思案顔で立てていた。

 

「よーし!さっそく静ちゃんの所に行くよ!」

 

「はぁ…俺ってこういう運命なのね…」

 

昨日に引き続き、自分の予定を勝手に決められている八幡はもはや反論することすらせずに悟りを開いたかのように呟きながらさっさと移動を開始した陽乃の後に着いて行った。



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第七話

陽乃と八幡、二人で平塚静の所へ向かっていたが、コミュ障の八幡に会話をするなど出来るわけもなく、二人は終始無言で歩みを進め、平塚静のいる部屋へと着いていた。

 

ガチャガチャ

 

 

「やっほー!静ちゃん!遊びに来たよー!」

 

「陽乃か…静ちゃんと呼ぶなと何度も言ってるだろう…」

 

いきなり部屋に入ってきた陽乃に驚く事もなく返事を返した静は、自分の呼び名に対して呆れ気味に何度目かわからない抗議をした。

 

「細かい事は気にしない!それより比企谷君の稽古に付き合ってほしいの」

 

「なに?比企谷の稽古?薙刀はどうした?」

 

陽乃からの急なお願いに、多少驚きつつも陽乃の稽古がどうなったのか気になり聞き返していた。

 

「比企谷君は、薙刀は無理だよ。槍とかも駄目。長い得物が向いてないよ!と言っても人並みには扱えるんだけど、メイン武器としては合格点は上げれなかったんだー」

 

「まぁ比企谷が薙刀が向いて無いのはわかった。それでなんで私の所にくる?普通に雪ノ下にでも剣術を頼めばいいじゃないか」

 

陽乃からの話を聞き、八幡の稽古がどうなったのかよく分かったが、なぜ自分の所に来たのか分からなかった静は別の提案をした。本音を言えば、稽古を見るのが面倒なのだ。

 

「まぁ最後まで話は聞いてよ。静ちゃんは比企谷一心さんって知ってるでしょ?って言うか多分総武城の人達はみんな知ってると思うけど」

 

「勿論知っている。逆に知らない人がいるのか?」

 

陽乃からの質問に静は深く頷いた。その時陽乃は口角を上げ、ニヤリと笑いながら

 

「実はここに!比企谷一心さんの事は知ってるのに、比企谷一心がどれだけ有名人なのか知らない人がいます!そう!比企谷八幡君です!」

 

陽乃がニヤニヤとしながら静に比企谷一心を知らない人を紹介した。それはこの部屋に来てから空気と化していた比企谷八幡であった。比企谷一心を知っているのに知らない、そんな人はこの世界に現在は2人しかいないだろう。そしてそんな陽乃の発言に静は心底驚きつつも、陽乃の発言が引っかかっていた。

 

「知ってるのに知らないとはどういう事だ?」

 

静の質問に対して陽乃はまたまたニヤリと笑い、

 

「本当は分かってるんでしょ?静ちゃん」

 

「…この目の腐った男が比企谷一心の息子であると?」

 

「正解!だから雪乃ちゃんに剣術教えさせても、逆に教わる形になるでしょ?それなら全ての基礎になる体を静に鍛えて貰おうかなって」

 

「ふむ…なるほどな。」

 

陽乃からの説明を受けて納得した静は腕を組見、悩んでいた

 

(え?おれさっきからまじで空気じゃん。しかも親父ってまじで有名人なの?あの変態が?世も末だなこりゃ。ってか勝手に話進んでるし、誰雪乃ちゃんって、雪ノ下さんの妹なんだろうけど名前だされても八幡わかんなーい)

 

陽乃と静の話をただただ横で聞いていた八幡は、勝手に進んでいく話には付いていけず、何故か途中で目を馬鹿にされ、そして平塚静もが比企谷一心を知っていた事に驚かされ、今までの自分の中の父のイメージが変わりつつあった。

 

「よし、わかった。そういうことなら引き受けよう。比企谷、私も陽乃同様、手加減などしないから覚悟しておけ」

 

陽乃からの依頼を承諾した静は胸の前で拳を合わせ、何故か目に殺気を込めて八幡にそう告げた。

 

「りょ、りょうかい…」

 

静からの殺気に八幡は冷や汗を流しながら返事を返した。

 

「じゃ、静ちゃん後はよろしくねー!バイバーイ!」

 

静への依頼を承諾された陽乃は、する事が無くなった為、さっさと帰ってしまった。

 

「では、これより稽古を開始する!!構え!!」

 

「…っ!結局こうなるのかよ!」

 

静の大きな号令により、慌てつつも構えを取り、愚痴をこぼした八幡、先程から八幡に殺気を飛ばしている静。静の指導による、過酷なら稽古が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話

静の拳が八幡の腹目掛けて唸る。

 

「抹殺のぉ!ラストブリットォーーー!」

 

ドゴォォン!!!

 

「がはっっ!」

 

静の拳が八幡の腹を捉え、八幡は後ろの壁へと飛ばされた。

 

「ふぅ中々やるじゃないか、比企谷」

 

「ゴホッゴホッ…死ぬかと思いましたよ…」

 

満足気に頷きつつ、八幡にそう言った静に、八幡は目元に涙を溜めて、痛みに耐えながら返事をなんとか返していた。

 

「いやいや、まさか衝撃のファーストブリットに撃滅のセカンドブリットが躱されるとは思わなかったよ」

 

「家の剣術が主にカウンター系なんで、避ける事に関しては自信があったんですが、最後のは何も抵抗出来ませんでした」

 

関心したように、目を瞑りながら頷く静に対して、八幡は静が最後に放った技を思い出し、青ざめていた。

 

「抹殺のラストブリットか…本当は使いたくなかったんだがな、使わなければ君を倒せなかった。いくら威力が高かろうと当たらなければ意味がない。そして君はとことん躱していく。なら奥の手を使うまでだよ」

 

苦笑い気味に告げた静は、八幡に手を伸ばし、頭を撫でた

 

「比企谷…君は多分、いや、確実にこの総武城で一番の強者になる素質がある。しかしまだ足りない、君には力が足りない。技術が足りない。センスだけで戦っているから決定打をうてない。明日からも私が君の稽古に付き合う。体を鍛えるとともに、技術を身につけなさい」

 

優しく告げた静は、八幡に聞いた話を思い出していた。

 

(この子は恐らく復讐のために技術を何が何でも身につけるだろう。妹さんを目の前で殺されたにも関わらず、理性で気持ちを押さえつけて、極めて平常心を偽って修行に取り組んでいる…もし限界が来た時には気持ちが爆発するだろう。もしかしたら死人が出るかもしれん、その為にも何が何でもちからの扱い方を身につけさせよう)

 

「…分かりました。力が無ければ、海田は殺せない…雪ノ下さんに平塚先生、二人と戦わせて貰いましたけど、どちらにも勝てませんでした。もし今海田と戦えば絶対に自分が死にます。明日からよろしくお願いします!今日はもう戻ります、ありがとうございました」

 

八幡は自分の力の無さを改めて突きつけられ、拳を握りしめながら、嘆くように静にそう言い、部屋を出ていく姿を静は悲しそうに見つめていた。

 

 

稽古部屋を出ていった八幡は1人、自室へと戻っていた。

 

「やっほー!比企谷君」

 

「…雪ノ下さん。どうしたんですか?」

 

突然現れた陽乃の驚きもせずに、八幡は陽乃に問いかけた

 

「静ちゃんとの稽古、どうだった?」

 

「自分に足りない部分が良く分かりました。小町の為にも、やはり俺は稽古を積まなければならないみたいです」

 

陽乃からの問いかけに、八幡は苦笑い気味にそう言った。しかし、八幡の目には業火の炎が灯っており、それを見た陽乃は自分でも気づかないうちに冷や汗をかいていた

 

「…そっか、ならこれから頑張らないとね!」

 

陽乃は何かを誤魔化すように八幡にそう言い、八幡の頭に手を伸ばしていた。その時…

 

 

キャアアアアア!!

 

カバネダァァァ!!!!

 

「…っ!比企谷君!カバネが…」

 

突如上がった悲鳴に反応し振り返っていた陽乃は、八幡の方に振り向こうとしたその横を、八幡がとてつもない早さで駆けていった

 

「はっや…って追いかけなきゃ!」

 

八幡のあまりの早さに呆然としていた陽乃は慌てて、八幡を追いかけ始めた。

 

 

 

八幡が駆け始めて五分…陽乃は目の前で止まっている八幡を不審に思い、後ろから話しかけた。

 

「比企谷くーん、なんで止まってるの?」

 

「……」

 

しかし、八幡からの返事は無く、無視された事にムカついた陽乃は八幡の前に回り込み、八幡の顔を見て驚愕した

 

「…こ…まち?」

 

八幡の顔は先程までの静かに怒り狂った様は無く、完全に絶望しきった顔になっていた。その時、

 

「由比ヶ浜さん!カバネを発見したわ!くちくするわよ」

 

「わ、わかったよゆきのん!」

 

二人の美少女が現れ、八幡の前にいたカバネに切りかかろうとしていた。

 

「…っ!やめろ!」

 

八幡の横を通り過ぎようとしたいた美少女の1人を八幡は裏拳で後方へと吹き飛ばしていた。

 

「あぐっ!」

 

「ちょっ雪乃ちゃんになにするの比企谷君!」

 

「ゆきのん!!!」

 

カバネに対して背を向け、陽乃と二人の美少女に対して向き直った八幡は3人からの鋭い目線を無視した、静かに告げた

 

「あのカバネには手を出すな…あれは俺の妹だ。だから俺が責任を持って殺す…だから手を出すな」

 

言い終わると八幡は3人からの返事を聞きもせずに、いつの間に奪ったのか、雪乃ちゃんと呼ばれた美少女の刀を奪っており、構えた

 

「…小町。ごめんな。俺が弱いばっかりに…」

 

ホォアアアアア!!

 

「絶対に敵を取るからな…敵取ったらおれもすぐ行くから…待っててくれよ。じゃあな、小町」

 

そう言うと八幡は、刀を立て、カバネと化した小町の心臓目掛けて一突き、一撃で絶命させた。カバネになった小町は何故か微笑みながら地面へと倒れ、その上に被さるように八幡も倒れ込んだのだった

 



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第九話

絶命した小町の上に覆い被さる八幡を見ていた、ゆきのんと呼ばれていた美少女、雪ノ下雪乃は、実の姉である雪ノ下陽乃に視線を変え、睨めつけていた。

 

「こっわ〜!そんなに睨まないでよゆきのちゃん!私は何もしてないでしょ?」

 

「ええ、姉さんは何もしていないわ。ここに倒れている男が私に武力を働き、終いには私の刀でカバネを殺した。この男は一体だれなの?」

 

八幡を睨みながら雪乃は陽乃に問いかけた。

 

 

「雪乃ちゃん。最近カバネリがこの総武城に来たのは知ってるよね?」

 

「ええ、知ってるわ。若いカバネリが女の子を抱えながら駅で倒れていた。だから平塚先生が助けたと聞いているけれど…まさか、この男がそのカバネリだと言うの?」

 

「え!?」

 

「せいかーい!」

 

陽乃から知らされた驚愕の事実に、雪乃と横から話を聞いていた、もう一人の美少女は驚いていた

 

「まぁとりあえずは比企谷君を運ぼうよ」

 

未だに驚いている雪乃達を尻目に、陽乃は八幡を抱えながら救護室へと向かった

 

 

 

 

 

「…カバネリ。ふ、ふふふ、はははっ!!!」

 

「…やっと見つけた。これからが楽しみだ」

 

怪しく嗤う男がいる事に、誰1人気づくことは無かった

 

陽乃から八幡がカバネリと聞いた衝撃から比較的早く回復した雪乃は、自身の唯一の友であり、親友である由比ヶ浜結衣が明らかに衝撃による表情をしていない所を怪訝に思い、問いかけた

 

「由比ヶ浜さん?どうしたの?」

 

「あっゆきのん…ほら、比企谷君がカバネリつだってさっきわかったじゃん?確かにそれには驚いたんだけど、それよりも優美子とかどう思うかなって…」

 

「……」

 

結衣の言葉に雪乃は、返事も忘れ、思わず考え込んでしまっていた。結衣は雪乃が考え込んでいる事を理解しつつも、自分の意見を話し始めた

 

「きっと優美子は、同情すると思うんだ。カバネリって事はさ?結局じんたいじっけん?のせいでそうなったって事でしょ?それに妹はカバネになって…全然比企谷君の事知らないけど、絶対同情されるのとか嫌いだよ!だから比企谷君が孤立しないか心配…」

 

考え込んでいながらも、しっかりと結衣の主張を聞いていた雪乃は自分の考えも混ぜながら、話をまとめにかかった

 

「確かに、三浦さんは同情するかもしれないわね。というか私も同情するわ。あそこまで人生をめちゃくちゃにされるなんて、普通では有り得ない。でも多分比企谷君は、復讐に走ると私は思うわ。だから多分三浦さんに同情されようと大丈夫だと思うわよ。」

 

「そっか!なら安心だね!」

 

雪乃は意見を聞き、結衣は満面の笑みを雪乃に向けた。しかし、雪乃はほんの少し微笑み返しただけで、すぐに思案顔へと表情を戻していた

 

「どうしたの?ゆきのん。まだ何か問題があるの?」

 

結衣の問いかけに雪乃は頷き返し、回答を示した

 

「三浦さんとはきっと大丈夫。それは間違えないと思うわ。あの人見た目に反してとても優しいのは私にもわかるから。ただ、私は葉山君が心配なのよ」

 

「隼人くん?隼人くんならなんか普通に仲良く接しそうじゃない?」

 

雪乃の意見に被せられた結衣の意見。どちらかと言えば、結衣の意見の方が有り得る話だと、関係者なら分かる内容だ

 

「ええ、相手が普通の人間ならば、ね」

 

雪乃のこの言葉に結衣は少しムッとした顔をして、雪乃に軽く反撃をした

 

「ゆきのんが隼人くん嫌いなのは知ってるし、仕方ないとは思うけど、隼人くん、別にそんな差別する人じゃないよ?むしろ、比企谷君を傷つける事は言わないはずだよ」

 

親友である結衣からの思わぬ反撃に多少驚きつつも、別に葉山を貶める発言をしたつもりは無かった為、素直に謝り、雪乃はより詳しく話し始めた

 

「ごめんなさい、由比ヶ浜さん。別に葉山君を悪くいうつもりは無かったわ。でも由比ヶ浜さんも知っている筈よ。葉山君のお父さんは、カバネリに殺されているのよ?」

 

雪乃からの言葉に結衣は思わず口を手で覆い、驚愕を露わにして言葉足らずに話し始めた

 

「じゃ、じゃあ隼人くんは、比企谷君に復讐するって、こと?」

 

「そうなる可能性が高いと思うわ」

 

「正直、そうなってしまっても、私達には多分、止めることはできないでしょうね…」

 

「そ、そんな…」

 

雪乃の示した答えに、結衣は人柄故にか、まるで自分の事のように悲しんでいた

 

 

 

 

一方その頃、陽乃に運ばれていた八幡は、陽乃の背中で目を覚ました

 

「…え?あれ?ちょっなんで運ばれてるんですか俺!」

 

「あっ起きた?比企谷君はね〜妹ちゃんを倒した後すぐに倒れ込んだよ!まぁ今日はずっとハードな稽古をしてたし、疲労が蓄積してたんだろうね。そこに妹ちゃんを自分の手で殺したというストレスから気を失ったんだと思うよ!」

 

「いや、そんな笑顔で言う話じゃないでしょ…とりあえず降ろしてください、もう大丈夫なんで」

 

陽乃のトラウマを抉るような物言いに、八幡はげんなりしつつ、しっかりと自分の言いたい事は伝えていた

 

「えー?まだゆっくりしててもいいのにー!ってはいはい、降ろしますよー」

 

からかう様に後ろを目線をやりながら言った陽乃は、八幡の刺すような視線に居心地を悪くし、素直に八幡を降ろした

 

「運んでくれてありがとうございました」

 

「全然気にしなくていいよ!」

 

八幡の素直な感謝の言葉に陽乃も素直に答えた

 

「…それで?比企谷君はこれからどうするの?」

 

「そうですね、とりあえずは寝ますかね。明日からとりあえず明日考えます」

 

質問に答えた八幡に陽乃は鋭い視線を浴びせ、言った

 

「私のした質問がそんな事を聞いてないってことは、分かってるでしょ?分かっててそんなこと言うんだ?へぇ〜…次が最後だよ?比企谷君は、これから、どうするの?」

 

目を細め、普段の明るい表情からは想像も出来ないほど冷たい顔をした陽乃に寒気を感じた八幡は、即白旗をあげ、素直に答えることにした

この時、八幡の下着が少し湿ったのは、八幡以外に知られることは無かった

 

「…今日稽古してみて、分かりました。俺には技術が足りません。剣術だけではなく、銃や弓、全てが足りません。俺は、自分の無力さに絶望しました。こんな俺だから、俺は小町を死なせてしまったんだと、死なせないと、絶対に守ると決めたのに、守れませんでした。ここで俺が小町の後を追って死ぬのも一つの道かも知れません。でもきっと、小町はそれを望まない。なら俺に出来ることは、2度と小町のようになる人を少しでも救うために、鍛えるだけです。これからすることは死ぬ寸前まで稽古をする、それだけです」

 

長く語った八幡の目をみて、陽乃はため息をこぼし、更に冷気を放っていると錯覚する程に冷たい声で告げた

 

「そんな建前いらないよ。君の本音を話なさい。すべて!」

 

最後には声を荒らげた陽乃に応えるように、八幡も声を荒げながら言った

 

「俺は!他の人なんて正直どうでもいい!あなたも!静先生も!俺が成長する為の踏み台だ!俺は小町をあんな姿にした俺を殺したい!でもその前に!海田を殺したい!海田を殺して!カバネを根絶やしにして!俺も死ぬ!これが!俺のこれからやりたい事、これからの理想像です!」

 

八幡の魂の叫びを聞けた陽乃は満足そうに頷き、俯いている八幡へと近づき、優しく抱きしめた

 

「君は、復讐に走っていい。君の事は私が支えてあげる。この私の事を踏み台って言ったんだからこれからの稽古は容赦しない。まっ最初っからするつもりはないけど!」

 

そう言いながらカラカラと笑う陽乃に、八幡はどこかで感じたことのある温もりを感じていた。それがなんの温もりなのか、まだ気づいてはいないが…

 

「君の復讐は私が手伝ってあげる、最強のカバネリにしてあげる。だから私の事も手伝って欲しい。君にしか出来ないことがあるの。手伝ってくれるよね?」

 

あまりにも弱々しい陽乃の声に、とうとう耐えれなくなり、八幡はここでようやく顔をあげた。そして陽乃の顔をみて、驚愕した

 

「陽乃さん…なんであなたが、泣いてるんですか?」

 

そう、あの雪ノ下陽乃が泣いていたのだ。知り合って時間はあまり経っていないが、それでも雪ノ下陽乃がそう簡単に泣くような女の子では無いことは、さすがの八幡でも理解していた

そんな雪ノ下陽乃が泣いていたのだ。驚くなという方が無理な話だろう。

 

「君は、私とダブるの。別に私がカバネリって訳じゃないよ?妹も雪乃ちゃん生きてる。でもね、自分を押し殺して、押し殺して、それが普通になって、自分がおかしいんだって分かってても止めることができない。そんな憐れな人間。それが私、そして君も。私は自分と似ている人に初めて出会った。君は私が育てる。だから、私と一緒に行こう?」

 

陽乃の告白に、八幡の心は揺らいでいた。つい先程陽乃のこと踏み台と言ったのだ。そんな相手に信頼を寄せるなんて出来るのかと、しかし、悩んでいる時点で八幡は陽乃の要求を断る事は出来ない。嫌だと思っていないから。そして遂に八幡は決断を下す

 

「分かりました…俺になにが出来るかなんて分かりません。それでも俺が力になれるのなら、俺はやります。陽乃さんが泣いてまで伝えてくれたんですから。それを断るほど男を辞めちゃいませんよ」

 

そう苦笑いを浮かべながら答えた八幡をみて、陽乃は再び涙を浮かべ、静かにこぼした。

その時、

 

ピカッピカッ

 

「…っ!心臓が!!!」

 

突然の現象に戸惑いを隠せない八幡は大声をあげ、顔全体に不安を浮かべていた。そんな中陽乃は、先程まで泣いていたのが嘘かのように冷静に状況を理解し、自分の首筋を八幡に差し出した。

 

「比企谷君、ううん、八幡。それはね、カバネリの吸血症状の際に起こる現象なの。身体がよりカバネに近づこうとしてるからだと思う。だから私の血を吸って、八幡!」

 

そういうと陽乃は更に八幡の方に首筋を近づけた

 

「俺は、吸いたく、ないです。陽乃さんの事手伝うって言いましたけど、まだ信用出来ない部分はやっぱりあります。そんな人から一方的に恩を売られたら、俺は奴隷も同然では?違いますか?」

 

八幡の主張に陽乃は首筋を引っ込めたが、何を思ったのか、自分のひた唇を噛み、血を流し始めた

 

「八幡が私の事、まだ信用できないってのはよく分かったよ。でも絶対これで信用できるよ」

 

そう言うと陽乃はニヒルと笑い、八幡目掛けて飛びかかった。すると何故か八幡の心臓の発行が治まり始めた

 

 

 

「はっ陽乃さん!あんた何してるんだ!」

 

「え?私の血を口移しであげただけだよ?」

 

「いや、分かってるわ!」

 

陽乃からの突然のキスからの血の口移し、女の子と手すら繋いだことの無い八幡には、少々過激だったようだ。八幡の慌ててる様子をニヤニヤと眺めていた陽乃は、八幡の上から降り、八幡を立たせた後に耳に口を近づけて告げた

 

「ちなみに、私のファーストキスだから!」

 

「まっまじか…」

 

陽乃の告白には愕然とした八幡は、膝から崩れ落ち、それをみてまた陽乃は爆笑していた

 

「これで信用してくれるかな?」

 

「女の人にここまでされて、信用しないなんて、男としてどうかと思いますよ」

 

八幡の遠回しな物言いに、うんざりと、しながら陽乃は指摘した

 

「その八幡の遠回しな言い方、たまにムカつくからやめてよ」

 

「うっ…ぜ、善処します」

 

「うむ!それじゃ、これから宜しくね八幡!」

 

元気よく言った陽乃に八幡は静かに応えた

 

「よろしくお願いします。俺はあなたの盾で、剣です。俺の復讐と共に、あなたの願いを叶えてみせます」

 

それに合わせた陽乃も宣言をする

 

「私は君の燃料。君の力を引き出す為の力の源。君がいつでも最善の力が出せるようにする。君の復讐、必ず成功させてあげる」

 

2人の宣言が終わり、お互いにお互いの覚悟を確認した所で二人はニヤリと笑い、今後について本格的に話し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時刻

 

 

 

 

 

「遂に新型の完成だ…八幡くん、君を参考にさせて貰ったよ…ははっはははっはーっはっは!!!」

 

 

何処かの研究所では1人の研究者が新たな兵器を完成させていた。

 

「さぁ!お披露目といこうか!」

 

そういうと1人の研究者は研究成果と共にどこかへと向かった

 

 

 

 

 

 

次の日、全国で3番目に大きな駅、千代田駅が1人のカバネリに壊滅されたという情報が流れてきたのだった

 

 

 

 

 

 

 



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第十話

日ノ本、全国で三番目に大きな駅、千代田駅が一体のカバネリにより、壊滅したという情報は瞬く間に広がり、当然総武城へもその情報は届いていた。確かに大事件で、決して無視出来る内容ではないのかもしれないが、総武城の乗組員の殆どの人間からしては、気の毒だなと思うだけで、自分達には関係の無い話であった……ただ1人の少女を除いては。

 

「千代田駅が壊滅したって本当何ですか!?」

 

そう叫ぶのは、総武城に乗組員の中で唯一総武城との関係がある一色いろはという少女である。一色いろはは、総武城の最高責任者である、平塚静に叫び声を上げていた。

 

「ああ、残念な事に、千代田駅は本当に壊滅した」

 

嘘の情報である事を願っていたいろはは、静の言葉、表情から千代田駅の壊滅は本当の事だと痛感し、先程から目元に溜めていた涙をとうとう流した。

 

「そんな……あそこには、千代田駅には、私の、私の家族が……」

 

顔全体で、表情で絶望を表し、ため間なく涙を流しているいろはの肩に手を置き、静はこう告げた。

 

「一色、確かに千代田駅は壊滅したが、新たな情報によると生存者は思いのほかいるようだ。そしてこの総武城には生存者の救出へと向かうよう指示された。まだ希望は捨てるな。だが希望を持ちすぎるのもいけない。ほら、君は葉山達の所に行きなさい」

 

静の言葉を黙って聞いていたいろはは、頷き、静かに立ち上がり、葉山達のいる広場へと歩みを進めた。それを見届けた静は放送室へと向かい、今後の総武城の方針を城内の乗組員へと告げる。

 

「総武城、最高責任者の平塚静だ!皆ももう知っているとは思うが、千代田駅がカバネリにより壊滅させられた!これは実に由々しき事態である!そして先程新たな情報が入ってきた!千代田駅は壊滅してしまったが、生存者は多数いるそうだ!上からの命令という形であるが、これより総武城は千代田駅へと向かい、生存者の救出を行う!総員!直ちに武装し、カバネとの戦闘に備えよ!」

 

静の放送により、総武城は騒がしくなった。あるものは自分の獲物を取りに、あるものは救急用具の準備へ、皆がそれぞれの準備を始め、千代田駅へと発車した。

 

 

 

 

静の放送を聞いていた八幡は、陽乃と自室で会議をしていた。それは、千代田駅への生存者救出の会議ではなく、千代田駅を壊滅させたカバネリの正体を模索する会議だ。

 

「八幡、君はどう思う?今回の事件。幾ら何でも 只のカバネリには千代田駅を壊滅出来るとは私には思わないけど」

 

「自分もそう思います。この事件は十中八九、海田の仕業です」

 

八幡の確信をもった意見に、陽乃は意外な事に首を傾げていた。

 

「八幡?」

 

「はい?」

 

「海田って誰?」

 

陽乃の質問で、自分は海田の話をしたのは、静にだけだったと思い出し、八幡は陽乃に海田についての情報を提示した。ついでに自分の事も。

 

「な〜るほど!要するに海田っていう科学者は、八幡にとっては復讐するべきもの……ね、やっと八幡が誰に復讐するのか分かったよ」

 

キスまでした中にも関わらず、二人は互いにお互いのことをあまり把握していない。二人の関係については今後に期待と言ったところだろう。

 

「まぁそう言う訳で、この事件の首謀者は海田だと思います。でも海田にはもう研究室は無いはず、なので誰かと結託して事件を起こしたんじゃないですか?」

 

八幡の推理に、陽乃は思案顔で頷き、そして何か合点がいったのか、八幡に対して自分の意見を言い始めた。

 

「八幡は知らないと思うけど、これまでにもカバネリは結構存在してきたの、それでもかなり少ないけどね。だから私達は君の存在を聞いても驚きはしても、警戒はしなかった。まぁ君がまだ子供だってのもあるけど。まぁそれで今までのカバネリは対して力は無かった。カバネの身体に普通の人間の頭脳、確かに手強かったけど、それ程脅威ではなかった。でもカバネリは自然には殆どならない。殆どが人工的に作られた存在。それで海田って人はカバネリの存在は知っていたけど、カバネリを所有してはいなかったんでしょ?」

 

「はい、海田が使っていたのは、完全にカバネでした。カバネの再生力を生かして、脳内に何万通りもの電気信号を発するチップを埋め込むことで、動きを操っていると。海田との戦闘ではカバネリは一体も現れませんでした。」

 

八幡の回答を聞いて、陽乃は確信を持って告げた。

 

「やっぱり、八幡の考えは合ってるよ。この事件の首謀者は二人、1人はカバネリの製造、そして海田はカバネリを操り人形にして、肉体改造、実に非人道的だけど、この考えで間違いないと思う」

 

二人の話し合いは、陽乃のまとめにより、終了した。

 

「まぁとりあえずは、千代田駅での生存者救出だね!」

 

「そうですね、幾ら考えた所で海田の居場所が分からないんじゃどうしようもない、今は仲間を増やす事を考えますか」

 

そう八幡は言うと、陽乃と武器庫へと向かい、千代田駅での生存者救出に向けて、準備進めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話

千代田駅に着いた総武城のメンバーは、捜索活動に入った。

 

 

「これは……ひどいな」

 

今酷く顔を歪めている爽やかイケメンは葉山隼人。あまりこいつについては知らないが、葉山の俺を見る目は普通ではない気がする。

 

キマシタワー!!

 

謎の声は無視するのが良いと陽乃から習った。皆も無視するように!

 

「葉山、千代田駅が壊滅したと聞いた時から想像はできただろ。とりあえず生存者を探すぞ」

 

現在総武城から駆り出された班は六班存在する。俺の班は第四班で、主に瓦礫などの下を捜索する力仕事に分類される捜索班だ。ほんと嫌になる。

 

「だいたい、この班のメンバー決めは誰がやったんだ?」

 

「まぁまぁそんな事言わずに探そうよ、ヒキタニ君」

 

「葉山…お前さっきまでこの光景に呆気にとられてた癖に」

 

「貴方達、いつまで話し込むつもりかしら?さっさと作業に戻りなさい」

 

そしてこの偉そうな女は、雪ノ下雪乃。雪ノ下と話す事はあまり無かったが、意外と良い奴だと思った。毒舌だけど。すげー毒舌だけど。あと俺はこいつのギャップには正直悶えてしまった。だってこいつ、捜索作業中に居なくなったと思ったら猫と戯れていたんだぜ?誰だって悶えるだろ!

 

「そうだよ!ヒッキー!早くしないと助かる人も死んじゃうかもしれないじゃん!」

 

そしてこの如何にも馬鹿そうな女は、由比ヶ浜結衣。由比ヶ浜を一言で表すなら犬。だって俺には見えるんだもん、尻尾が。ほら、今も注意してる癖に構ってもらえると思ったのか俺が振り向いた瞬間に回り始めたよ。ただ由比ヶ浜から溢れでる母性が時々判断を鈍らせる。視覚的にも、感覚的にも母性の塊だよ、ほんと。

 

「いや、お前ら何もしてないじゃん。ほんとこの班のメンバーには疑問を隠しきれないぞ、俺は」

 

俺の班には葉山、由比ヶ浜、雪ノ下、俺とあと一人いる。今の所そいつは葉山にぴったりだがどんな奴なんだろうか?

 

「仕方ないじゃない。平塚さんが決めたんだから。私だってこんな菌と一緒に作業なんてしたくないわ。近寄らないでくれる?伝染るわ」

 

「誰が菌だよ。誰が好きこのんで極寒の地獄へと向かうかっつーの。何故かお前の周り寒いんだよ」

 

いやほんと寒いからね?雪ノ下の近くで作業してると凄い寒気が俺を襲うんだよ。

 

「あら?それは貴方が菌だからじゃないの?」

 

「いや関係ないだろ。そもそも菌じゃないし」

 

そんなふうに俺達が言い合っているともう一人の班のメンバーが話しかけてきた。何気に声を聞くのは初めてだ。

 

「雪ノ下せんぱーい?さっき葉山先輩には作業するように言ったのに自分はそこのゾンビとお喋りですかー?」

 

おおう。なんと間延びした声だろうか。明らかに媚を売る声だと言うのが分かる。というか先輩と言ってるから後輩か。雪ノ下相手に意見を言えるのはいいが、俺をゾンビ呼ばわりしたのはおかしいと思います。なんだあの後輩。

 

「一色さん?私はお喋りなんかしてないわ。ただの除菌活動よ。貴方もバイオテロには遭いたくないでしょう?」

 

「確かにそうですねー。でも一旦除菌活動は中止して捜索活動に力を入れてください!私達の班だけ明らかに作業が進んでいません!」

 

なんとこの二人はこの後普通に作業に戻りました。おかしい。どう考えてもおかしい。俺あの二人になにかしたっけ?

 

「たははー。ゆきのんもいろはちゃんもヒッキーの扱い酷いね」

 

どうやらさっきの後輩は一色いろはと言うらしい。第一印象は最悪だ。

 

「由比ヶ浜、そう思うならどうして止めてくれなかった」

 

「あーなると二人共満足するまで止まらないから。特にゆきのん。それに私じゃ止めれないしね!それより大丈夫?ヒッキー」

 

「これくらいなんともなーよ。俺達も作業しようぜ」

 

「うん!そうだね!」

 

作業前からとても精神を消費したが、まぁいいだろう。とりあえず生き残りを探さなければ。

俺達は捜索活動を開始してから30分たってやっと本格的な捜索活動を開始した。

 

 

 

総武城六班による捜索活動は6時間にも及んだ。しかし情報にあった生存者は今の所一人も見つかっていない。何処を見渡しても瓦礫や死体の山が転がっているだけだ。もう少し頑張るかーと思った所で、何やら地下への階段らしきものを発見した。

 

「おい葉山、平塚さん達呼んでもらえるか?」

 

「どうしてだい?」

 

「地下への階段を発見した。ここに生存者がいるかもしれない」

 

そういうと、葉山は驚き、そして力強く首を縦に振った。

 

「分かった。俺が平塚さん達を呼んでくるけど、くれぐれも一人で入るなよ?」

 

「わーってるよ、さっさといけ」

 

ったく。そんなの言われなくても分かってるっつーの。

 

葉山が平塚さん達を呼びに言って大体五分くらいだろうか?それぐらいで総武城の捜索班は六班すべてこの地下への階段前へと集合した。

 

「先ほど全班から報告を受けたが、生存者のいる可能性があるような場所はこの他には存在しないそうだ。なので班活動はここまでとする。これからは全員で地下へと向かう。ただカバネりがいないという保証はない。皆各自武器の準備をするように!その間に休憩も挟む。30分後にまたこの場所に集合だ!では解散!」

 

はっ!という総武城の掛け声を合図にみな総武城へと走っていく。因みに俺の武器は刀だ。それ以外に使ったことあるの薙刀くらいだし。それなら刀がいい。

 

それから30分の休憩を皆各々に過ごし、地下階段へと集まっていた。

 

「ではこれより、地下階段へと突入する!生存者を発見次第、総武城へと誘導する!救護班は怪我人を発見した際には第一優先で手当するように!では、行くぞ!」

 

オー!!!!!

 

みんなして武器を頭上へと掲げている。あの陽乃までもが掲げている。これはもしかしら総武城での儀式みたいなものなのかもしれない。そう思い俺も頭上へと刀を掲げる。周りを見渡してみるが皆引き締まった顔をしている。その中で一色だけ表情が皆とは違い、とても焦っている様に見えたのは間違いではなかったと思う。

ただ俺は特に気にしなかった。その事に後悔するなんてこの時の俺は思ってもいなかった。

 



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第十二話

お久しぶりです。
大学がはじまり、三年生へとなりました。
研究室も素晴らしい所へと配属され、成績不良者の私は大変満足しております。
そしてモチベーションが何故か上がりました。
応募用の小説も書いてますが、正直文才が無いので難しいとは思いますが、しないよりマシだと思いました。

この作品も読んでくださっている方がいますので、亀更新ではありますが完結へと導いていけたらと考えています。
今後ともよろしくお願いします。


 

フォォォォアアアアアアアアアア!!!!!

 

地下階段の内部は地獄だった。右も左も、至る所から現れるカバネ。

しかしそこは、流石総武城と言った所だろうか。次々現れるカバネを完璧に、冷静に、確実に仕留めていく。

ある程度進むと班ごとに手分けして探索し、後に合流する手筈だ。

そして俺達第六班のメンバーだが、思いの外動ける連中だということがわかった。特に驚いたのが葉山だ。あいつの戦闘スタイルは正直いって、異常だった。

 

靴に仕込まれた小さな刀。腰に携えた2本の刀を器用に扱い、正確にカバネの心臓を貫いていく。というか靴の刀が恐ろしい。爪先から伸びる刃でに見えないほどの速度の蹴りを放つんだぞ?脚力が異常だ。しかもイケメン。

それに対して俺は、普通にカバネを駆除しているだけだった。

正直、葉山をかっこいいと思ってしまった……く、悔しくなんてないんだからねっ!

それからもカバネを狩りつつ探索していると、正面に平塚さん達が見えた。どうやら俺達の班は最後の到着のようだ。

合流してから道は一本だけ。そこを進み始める

 

 

 

「止まれ!」

 

グングンと奥へと進んでいた俺達へ平塚さんから、静止の声がかかる。静だけにってか?つまんな。

「みんな、これを見てくれ」

 

そういう平塚さんが指を指した場所は床である。一見するとただの床だが、そこには大量の足跡があった。

 

「今まで手分けして探して、各通路を見て回ったが足跡はすべて一方向に進んでいた。そして先に一本道からここまで足跡は奥へ奥へと続いている。確実にこの先に生存者がいるはずだ。ここからは更に気を引き締めていくぞ」

 

恐らく、この先に生存者がいるという考えは皆考えたことだろう。しかし平塚さん以外は、いくら戦えるとはいえまだ未成年。精神が未熟なのだ。それにここまでの戦闘で死者どころか負傷者すら出ていない。完全勝利なのである。

そして平塚さんは、そんな俺達の慢心を見抜いていたのであろう。明らかに地下階段突入時とは異なり、雑談をしている奴が増えていたのがその証拠だ。大体あいつなんだようるさいな。べーべーって何語だよ。

 

 

「質問があります」

 

ピンと手を伸ばし、雪ノ下雪乃が質問をする。

 

「なんだ?」

 

「生存者がいる可能性は分かりました。そして恐らく人数も多いであろうことも。そして私達も大世帯です。全員でむかうのでしょうか?正直混雑してカバネが現れた際、戦闘に支障が生じると思いますが」

 

「ふむ。確かにな。よし、戦闘担当、救助担当と、どちらも少数精鋭で向かう。今いるのは30人。半数で向かうとしよう。戦闘担当は、第二班と、第六班!救助担当は第三班で向かう!残りの班はここで待機してくれ。カバネが現れた際は即排除するように」

 

「「「はっ!」」」

 

俺以外の全員が力強い返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

足跡を辿っていくと、ひとつの大きな個室へと繋がっていた。

扉は廃棄処分された城の扉が使われており、とても頑丈だ。

しかし、その扉はこじ開けられていた。取っては曲がり、扉は半分に割れていた。

その状態は、明らかに襲われた後だと理解出来た。

急いで突入しないといけない状態だ。しかし、誰も突入することはない。仮にここで突入したとして、最悪中の生存者が全てカバネと化していた場合、俺達は襲われる側になるのだから。

平塚さんが扉の隙間から松明を投げ込む。それで中を確認した平塚さんからハンドサインで行けが出た。

流れ込むように、いっせいに突入する。

1班5人編成のため、松明もちは半に2人、先頭と最後尾に1人だ。

 

 

松明もちが明かりを部屋にかざす。

見える範囲に、カバネはいなかった。

だが、くちゃくちゃと咀嚼音が聴こえてくる。

 

(これは……)

 

恐らく、最悪だと想定していた生存者の全滅だろう。

ブンっ!

 

突如、部屋のくぼみからカバネが刀を振ってきた。幸い、誰一人怪我はしていないようだ。

 

「この部屋はカバネに侵入されたようだ!総員、カバネの駆除を開始せよ!」

 

 

平塚さんの掛け声を合図に、戦闘が始まる。

最初は一体だったカバネも、平塚さんの声や戦闘につられてどんどんと流れてくる。

ワザトリもいたが、複数人で相手することで、難なく倒していた。

 

5分程戦闘をしていた時、突如悲鳴が聞こえた。

 

「うそ、うそ。い、いやぁぁぁああああ!!!!!」

 

 悲鳴と共に、武器の落ちる音が聞こえた。

慌てて声の方を向けば、生意気な後輩、一色が崩れて落ちていた。

 

「どうしたんだいろは!」

 

葉山が叫ぶ。

 

「わ、わたしの。お母さんが……」

 

プルプルと震える手で、一色はある一体のカバネを指差す。

 

そこに居たのは、一色に似た栗色の髪の毛に、目の大きな女性のカバネ。

ここに来る前に一色は母がいると言っていたが、カバネとして再会するとは。

 

一色の言葉を聞いたほかの戦闘員は、一色の母カバネを避けるようにして戦闘を再開する。

どうやら一色には葉山と由比ヶ浜が付くようだ。

一色はひたすら泣いている。それも仕方ないことだ。

 

というかカバネ多過ぎないか?何処に隠れていたのか分からないが、明らかに異常な量のカバネだ。

 

戦闘をしながらも一色の母カバネを監視する。

見た目は確かに一色の母であり、胸元も光っており、カバネと判断出来る。

しかし、しかしだ。何故人を襲わない?まさか!

 

確信はないが、一色の母カバネはカバネリにされたのではと俺は考え、海田の操り人形になっている可能性もある為、行動される前に首を撥ねるべく母カバネへと走る。

 

 

「せ、せんぱい!やめてぇぇーーー!!」

 

俺の行動に気付いた一色が叫ぶが、全力で無視をする。例えここで恨まれることになろうと、海田の操り人形になられるよりはマシだ。

腰に携えた鞘に刀を戻し、一瞬で抜き放つ。所謂居合切りは、母カバネの首へと到達する。

 

 

 

 

 

カキン!

 

「なっ」

 

瞬間、何かに俺の刀は弾かれた。

 

「いやいや、流石はカバネリの八幡君かな?このカバネリ擬きの可能性に気付いたのは恐らく君だけだよ」

 

ニヤニヤと話す存在に、血が沸騰する。

 

「海田ぁぁぁあ!てめぇどこから現れやがった!」

 

「何処も何も、僕は最初からここにいたさ。そもそもは僕の研究室だよ?」

 

海田は会話を続けるが、俺にそのつもりは無い。足に力を込め、飛び出そうとする。

しかしそれは、横から来た平塚さんに止められた。

未だに怒りは収まらない。収まらないが、平塚さんには何か考えがあるのだろう。ここは任せることにする。

平塚さんは静かに口を開くと、質問を問いかけていく。

 

 

「ここが研究室とはどういうことだ?」

「そのままの意味だよ?」

 

淡々と返す海田。

 

「研究室にしては何も無いが?」

 

「今している僕の研究には動画がいらないんだ」

 

そうだ、と海田は続ける。

 

「君たちにいい事をおしえてやろう。ここを襲わせたカバネリを作ったのは私。そして、ここでの研究はカバネリもどきの作成。そしてその完成品がそいつだよ」

 

 

海田が示すのは、未だにたち続けている母カバネ。

 

「カバネリとは、脳以外はカバネなんだ。そして脳が無事だと言うことは自身で行動できる。だから普通の人間とそう大差はないのさ。しかしだ、そのカバネリもどきは違う。私の作ったナノマシン。こいつを直接カバネの脳内に注ぐことで、脳は回復。しかし、出来上がるのは自我のない植物状態のカバネリだ」

 

相変わらず巫山戯た研究をしている。

そもそも脳を回復だと?もっとほかにいかせよ。

そもそも脳にナノマシンを打った。そして脳は回復したが植物状態になった。それはもう、ナノマシンによる電気信号で操られる、海田の操り人形の完成なのではないのか。

 

 

「そして私は改めて自分は天才だとおもったね。そのカバネリもどきに集合群体の核となってもらうことで、大量生産できるんだ。こんな風にね」

 

 

ピッ、と電子音が聞こえた。

それを合図に、母カバネは奇声をあげる。それによってくるまだ死んでいなかったカバネたち。

俺達は見ていることしか出来ない。なぜなら母カバネを庇うように海田が前に立ち、明らかに強者の風格も纏っているカバネが複数体現れたからだ。

あれは恐らく海田のナノマシンによって戦闘パターンを記録されたカバネだと予想する。

そいつらとカバネの雰囲気にあてられた俺達は、一色は、呆然と母カバネを見つめていた。

 

そしてできたのは集合群体。明らかに少ない数で作られたため、大きさはそれほど無いが、普通のものより恐ろしく感じる。

なぜなら、そいつは人型であり、両腕には武器を持ったカバネ達が着いており、凶器とかしていたからだ。

 

沈み込むように胸に溶けていく母カバネ。

 

 

 

 

 

ほぉあぁああああああああああああぁぁぁ!

 

集合群体の奇声を合図に、海田達との戦闘が開始した。

 

 

 

 

 



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