機動戦士ガンダム00失伝 (ノザ鬼)
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第一章

 

第一話《始まり》

 

 

 ガンダムの襲来。それはソレスタルビーイングの軍事介入であった。

 そして、世界は新たな局面を迎える。

 

 ガンダムとの戦いは、避けられぬとの危惧(きぐ)が軍人達に広まる。

 

 その中で、歓喜するものがいた。

 

 謎の男爵と呼ばれる人物であった。

 

 

「やはり、お前の調べは間違ってなかったようだな。」

 モニターの前の男が、誰に言うわけでもなく。

「お褒めいただきありがとう御座います。」

 物陰の影に蠢く人が居た。

「例の計画はどうだ。」

 また、影に話す。

「人選を終え、訓練に入っております。」

「機体はどうなっておる?」

「間もなくかと…。」

 少し、間をとり、

「アレが手に入らなかったのは残念だが、計画は進めねばな。」

 閉じた目の周りは、ケロイド状になっている。

「左様で御座いますな。」

 自分の顔に両手を当てケロイド状の部分を確かめる様にする。

「歪んだ世界を正せねば…。」

 影が頷く。

「ソレスタルビーイングだけには任せておけぬ。出来るだけ早く計画を実行するのだ!」

「御意!」

 その言葉は力強かった。

 

 

 

第二話《計画》

 

 

 自室で音声電話を受ける白衣の女性。

「解りました。多少の不安定は、年齢から来るものでしょう。」

 モニターに、映し出された資料を確認しながら相手を安心させる。

「はい。後は脳量子波シンクロテストさえ行えば直ぐにでも。」

 画面を切り替えながら、

「では、直にテストを開始します。」

 相槌を打ち電話を切る。

 

「ソレスタルビーイングは思ったより早かった…。でも、こちらも遅れをとったわけでは無い。」

 独り言のようでもあり、決意の現れの陽でもある。

 

 

 音声電話を切った直後に

「何だって兄貴。俺達の出番か?」

 そう言ったのは、まだ年端もいかない男の子だった。

「そうだ。ついに、俺達9(ナイン)の出番だ。」

「やったー!」

 そこに居た少年少女達が全員飛び上がり喜んだ。

 

「俺達に酷い運命を背負わせた世界に復讐するんだ!」

 先程、電話をしていた少年を兄貴と呼んだ男の子が、両の拳を握り締める。

「それは、違うぞ。9−5(ナインファイブ)。」

 眼鏡をかけた利発的な少年が嗜(たし)めた。

「何が、違うんだ。9−2(ナインツー)の兄貴。」

「僕達は、世界に復讐するんじゃない。世界を正すんだ! この間違った世界を!」

 9−5は、ハッとし、

「そ、そうだね。僕達は間違った世界を正すんだね。」

 その言葉に笑顔で答えた9−2。

 

「行こう。脳量子波シンクロテストだ。」

「了解。」

 全員が大人びた返事をした。

 

 

 

第三話《テスト》

 

 

「全員の心を合わせて!」

 白衣の女性の激が飛ぶ。

 

 円形に並べられた椅子に座る九人の子供達には、器具が取り付けられ、そこからコードの類が大量に機械に繋がれていた。

 

「博士。限界です! このままでは子供達が!」

 博士と呼ばれたのは白衣の女性。

「休憩しましょうか。」

 溜息混じりの言葉で、子供達に取り付けられていた器具に点っていた光が落ちる。

 直に、白衣の集団が器具を外しにかかる。

 

 博士が子供達に近付き、

「大丈夫?」

 優しいトーンで言う。

「大丈夫!」

 一番小さいであろう子供が元気よく答えた。

「少し、休憩しましょう。」

 振り向き、

「データの再検証。不具合箇所の確認怠るな!」

 大人達には容赦無かった。

 

「博士。」

 振り向き、

「何かしら、9−1。」

 電話を受けていた少年がそこに居た。

「僕達は、どうすれば心を一つにできるんでしょうか?」

「難しい質問ね。だって私にも答えは解からないから。」

「そうですか…。」

 落胆する9−1に、

「でも、あなた達なら大丈夫。きっと、世界を正せる新たな【神】の魂となれるわ。」

と、頭を撫でる。

「頑張ります。」

 嬉しそうに言った。

 

 

 休憩室に遅れて帰って来た9−1が見たのは、真剣に話し合う皆の姿。

「なんで、うまくいかいないの?」

「どうやったら、心を一つにできるの?」

 嬉しくなり、

「今は、休憩だろ。休もう。」

「うん。」

 子供らしい返事が皆から返ってきた。

 

 

 

第四話《夜》

 

 

「電気消すよ。」

「は~い。」

 並べられたベットから寝るのには不釣り合いな元気な返事。

 

 消灯時間。

 

 暗闇の中、眠れないでいると、

「9−1。もう寝た?」

 声がかかった。

「どうした? 9−4?」

 暗闇でも彼女の声だと解る。

「ちょっと良い?」

「解った。ここじゃ、皆が起きるから休憩室へ行こう。」

 

 灯りが減った廊下を歩く二人。

 

 休憩室のテーブルに向かい合い座ると、9−4が口を開いた。

「私達、この世界を正せる新しい神様に魂をいれるんだよね。」

「そうだよ。」

「私ね。まだ、お婆ちゃんと暮らしていた頃にね。聞いたのを思い出したんだ。」

「何をだい?」

「神様に捧げる歌を。」

「歌?」

「うん…。正確には神様でも、歌でも無いかもだけど…。」

「へー。そんなものがあるんだ。」

「うん。特別な日に大勢で集まって、大きな神様の像の前で歌うの。」

「儀式みたいなものか?」

「よく解らないけど。皆の歌が一つになるの。」

「やってみる価値はありそうだ。」

「私達みたいな人を出さないように、頑張らないとだからね。」

「ああ。歌は博士に明日調べてもらおう。」

「博士なら、直に調べてくれそうね。」

「だから、今日は寝よう。明日は、忙しいぞ。」

「はい。」

 

 部屋に戻り、ベットに入ると直に睡魔が襲って来た。

 

 

 

第五話《試し》

 

 

「なるほど。調べてみましょう。」

 昨夜の事を博士に話すと、直に対応してくれた。

 

「いくつか、候補があったけど…。どれかしら?」

 9−4がモニターを覗き込む。

「えっとね…。」

 タッチパネルで、次々に候補を切り替えていく。

 

「あった! これよ、お婆ちゃんが歌っていたのは。」

 皆が見るが、そこには読めない文字が並んでいた。

「これ、どう読むんだ? 文字が縦に列んでるし。」

「そうね。他の人にもに読めるようにしましょうか。」

 

 博士が近くの男性に声を掛ける。

「これを訳して、全員にに読めるようにして。」

「解りました。解読します。」

 

 説明の文を読み、

(これって、神様じゃなくて仏様に捧げる歌…、歌でもないな。まあ、私には神様も仏様もよく解らないけど…。上手くシンクロするなら、何でもいいわ。)

 

 

 しばらくの後。

 

「博士。準備できました。」

 紙束を渡す。プリントアウトされた飜訳だった。

「やりましょうか。」

 

 子供達が座る椅子の前は、先程の紙を貼り付け読めるようにする準備も整っていた。

 

「私に付いて歌って。」

 思い出しながら9−4が歌にリズムを付ける。それに他の子供達が戸惑いながらも付いていく。

 

 博士は、

(それは、リズムじゃなくて節ね。)

 

 流石、子供といったところか覚えが良い。直に歌を覚える事かできた。

 

 

「セッティング完了です。」

 子供達に器具を付けていた研究員が告げる。

 

「脳量子波シンクロテスト開始!」

 博士の号令と共に、子供達が歌う。

 

 歌声が重なり、一つになる。

 

「シンクロ率、上昇中!」

 博士の横の研究員が、モニターを見ながら実況する。

 

「シンクロ率、更に上昇!」

 声に興奮が乗った。

 

「間もなくシンクロ率が、リアクターの起動値に届きます。」

 博士は正直、驚いていた。たかが、歌と思っていたから。たが、子供達にとっては、たかが歌が重要な要素だった。まだまだ自分は未熟だと思い知る。

 

「リアクター起動します!」

 研究員の声は報告ではなく、嬉しくて叫んだにしか聞こえない。実際にそうなのだから仕方はないが。

 

 

 

第六話《起動》

 

 

 格納庫。

 

 ハンガーデッキに立てられる巨体。調整のためか、目から下の部分は階層毎に足場が組まれ、外側からよく見えない。辛うじて、人形(ひとがた)とわかる程度。

 

 その巨体の頭。目の上にラインを引き、頭をぐるりと一周させた位置に等間隔に九つのライトが付ている。よく見ると薄っすらと光っているのが確認できるんでろう。

 

 今回ばかりは期待しないではいられない男爵。失敗の連続に半ば諦めかけていた。それが、正直なところ。

 しかし、今はライトに薄っすらとではあるが、光が見える。

 

「イオリア・シュヘンベルグよ。私もお前に賛同するぞ!」

 感極まったか、叫び声を上げた。

「数少ないお前の資料をベースに作り上げた、私の【神】。それが、お前の計画に力を貸すだろう!」

 男爵は、高らかに笑う。

「GNドライヴが手に入らなかったのは残念だが、機体に組み込んだ『脳量子リアクター』なら十分代わりになるだろう。」

 

 ふと、思い立った、

「そうだな。神に名前を付けねばな…。」

 考える…。

 

 

「シンクロ安定。」

 状況を示すモニターは緑色一色に染められていた。

 

 その状況に満足したように、

「脳量子波シンクロテスト成功。」

 博士の頬を伝うのは一筋の涙。

 

 その言葉で研究員が一斉に歓喜を上げた。

 

 

 

第七話《祝う》

 

 

 その夜、研究所の全員が集められたのは食堂。

 

 壇上に立つのは男爵。

「諸君。ようやく、我々の【神】の起動までたどり着いた!」

 演説に歓喜で答える。

「もう直ぐだ! 歪んだ世界を正す日は近い!」

 最早、歓喜は言葉でさえない。

 

 歓喜が収まるのを待って、

「気を抜くな! 本当の試練はこれからだ!」

 厳しく叱咤(しった)。

「だが、今日ぐらいは気を抜いても良いだろう。」

 満面の笑顔。

「細やかではあるが、パーティといこう。」

 

 その言葉で見せる子供達の子供らしい表情に、

(子供達が、こんな顔で暮らせる日の為に、まだ私はやるべき事が多すぎる!)

 力強く握る拳。

 

 そこに、ポンと手が被せられ、

「今ぐらいは、気を抜いても良いのだぞ。」

 男爵が声をかけた。

 

 自分の考えが見透かされた様に、恥ずかしくなり俯く博士。

 

 

 そしてパーティーは、子供達の寝顔で終わりを迎えた。

「疲れていたのだろう。重圧で緊張していたのだろう。」

 優しく頭を撫でる男爵。

「運んでやれ。」

 

 

 

 



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第ニ章

第ハ話《襲撃》

 

 

 深夜のパーティー。始まりの合図は爆発。

 

 

 少し時間を戻そう。

 

「発見しました。情報通りの場所です。」

 黒尽くめの集団が、暗躍していた。赤く光るのは暗視ゴーグル。

「これだけの偽装。発見した偵察部隊を褒めておきますよ。」

「作戦中の私語は慎むように。」

「はいはい。」

 リーダーらしき黒尽くめは肩を竦(すく)めた。

「では、作戦通りに。」

「了解。五分後に、こちらからミサイル攻撃を仕掛けます。後は、手筈通りに。」

「了解した。」

 

 通信を終え、

「直ちに、作戦開始だ。ミサイル着弾と同時に入り口を爆破。突入する。遅れるな!」

 無言で俯く黒尽くめ達。

 

 手際良く、入り口らしき場所にセットされる爆弾。

「後は、ミサイルの到着を待つだけだ。」

 

 

 現在。

 

 ミサイルの着弾に合わせ、

「爆破!」

 偽装された扉が吹き飛ぶ。

「突入!」

 合図で、黒尽くめ達が入り口から雪崩込む。

 

 

 揺れで目が覚める博士。

「地震の揺れ方では無い…。」

 答えを出すよりも早く警報が鳴り響く。

「見付かった!?」

 言うが早いか起き出す。そして、扉の開閉スイッチの横に据付けられていた小型マシンガンを手に取り、部屋を出る。

 

 

 揺れた? その疑問で覚醒した。他の子供達を見ると同じく起き出していた。

「何。怖い9−1。」

 9−4が駆け寄る。

「大丈夫だ。皆、逃げるぞ!」

(一番の年長者である自分が皆を守らないと)

「小さい子には、必ず大きい子が付き添え。」

 指示出す。

 

 扉が開き、博士が駆け込むで来る。

「大丈夫?」

 子供達を見回し、

「敵襲よ。逃げるわよ。」

 手にしていた小型マシンガンを握り直す。

 

 

 通路に出ると、銃声に怒号が飛び交い戦闘が始まっていると解る。

「こっちよ!」

 博士が子供達を先導する。

 

 

「こっちだ!」

 足音が一足早く、こちらに向かって来る。

 

「いたぞ!」

 黒尽くめ達が銃を向ける。

「子供は殺すな! 生かして確保だ。」

 その命令に助けれた。横から黒尽くめ達を銃弾の雨が襲った。

 

「無事だったか。」

 男爵が消炎が立ち昇るマシンガン片手にやって来た。

「男爵! 無事だったのですね。」

 博士も一安心したようだった。

「安心している場合では無い。早く、子供達を逃さなければ。」

「はい。あそこからなら…。」

 男爵は少し考え、

「そうだな。あそこからなら…。」

 

 先程の銃声に惹きつけられる様に、足音が集まって来る。

「急げ! わしが殿(しんがり)を務める!」

「はい。」

 返事と共に駆け出す博士、

「付いてきて!」

 

 

 男爵はマシンガンを構え直し、

「居るか?」

 影に言う。

「無論。」

 返事は影から、

「最後の命令だ。」

 影は無言で聞く。

「子供達を守れ。」

「御意。」

「今まで、よく尽くしてくれた。礼を言うぞ。」

 影は答えないのが答え。

「行け!」

 影の気配が消える。

 

 迫って来る足音が、角から出る。

「ここは、通行止めだ!」

 黒尽くめにマシンガンを浴びせた。

 

 結果の解っている銃撃戦。人数の差が明らか。

 直に男爵の引くトリガーにマシンガンが反応しなくなった。

「弾切れか…。少しは、時間が稼げたかの…。」

 

「弾切れのようだが、慎重に進め。」

 黒尽くめのリーダーは流石に気を抜かない。

 

「行かせんぞ!」

 黒尽くめへマシンガンを振り上げ突進する男爵。

 

 通路を埋め尽くす発射音に、舞う鮮血が色を付ける。

 

 うつ伏せに倒れた男爵に、ゆっくりと近寄る黒尽くめの一人。

「顔を確認しろ。」

 後ろからリーダーの指示。

 

 頷き、男爵を足で仰向けにした、黒尽くめの目から見開かれる!

 

 転がり出た手榴弾。咄嗟に、反応したのは訓練の賜物か!

 

 今度は、爆炎と爆煙が通路を埋め尽くす。

 

 

 収まる爆煙…。

 

「どうだ!」

 爆発を偵察していたものに声をかける。

「駄目です。」

「素人ばかりだと思って、油断しやがったな。」

 

「進むぞ。逃がすわけにはいかない!」

 子供達の後を追う黒尽くめ達。

 

 

 

第九話《逃げ道》

 

 

「博士。」

 その声で、全てを悟る事ができたが、子供達の為に飲み込んだ言葉。

 それが、判ったのかそれ以上は語らない影。

「急いで!」

 迫る状況が、博士を焦らせる。

 

 不注意に角を曲がった瞬間に銃撃を受け、倒れる博士。

 手から落ちたマシンガンを影が拾い反撃し、黒尽くめが銃弾で踊り倒れる。

 

「子供達は無事?」

 苦痛に歪む顔でよろけながら立ち上がる博士。

「無事だ。博…。」

 影は言葉を止め、肩を貸した。

 

 

 足を引き摺りながらも、目的の場所にたどり着いた。

「ここよ。」

 扉を開くパスワードを壁のパネルに打ち込む。

 

 扉が開くと中からカビ臭い空気が流れ出る。

「中へ。」

 子供達と共に入り、中から扉をロックした。

 

 そこは、倉庫。しかも、長い間使われていないと、先程のカビ臭さが語っている。

 

「奥の荷物をどけて…。」

「よし。皆でどかすんだ。」

 9−1が率先して荷物をよけ始めた。

 

 博士は影に肩を借りたまま、

「そこへ。」

と、壁の一角へ行き、右手で隠し戸を開く。中のパネルをひきだし操作を始めた。

 

 

「ここだ!」

 外から聞こえた。直後、扉を打ち付けられる金属音が響く。

「開かない! レーザーカッターを持って来い!」

 

 その会話にどれ程の時間が残されているのかと焦る博士。

「博士。終わったよ。」

 9−1の報告を受け、

「前を開けて!」

 パネルの実行コマンドを入力した。

 

 壁に繋ぎ目が現れ、巨大な金庫の扉の様に開く。

「一分後には、閉じるは!」

 慌てて子供達は中へ飛び込む。

「博士も。」

 9−1が影と反対側の肩を支える。

「ありがとう…。」

 

 

「開きます!」

 レーザーカッターが残した軌跡が繋がり、扉が人が通れるほど開く。

 直に控えて居た黒尽くめが中へと潜り込む。

 

 警戒しながら見回し、

「クソっ!」

 その言葉を出させたのは、分厚い扉が閉まり硬くロックされたのを見たからだった。

「逃げられました! 抜け道です!」

 外で報告を聞いたリーダーは、直に通信機に、

「抜け道だ! 一帯を探せ!」

と叫び、

「開けられそうか?」

 中に聞く。

「調べます。」

 

 パネルを調べ、

「駄目です! 回路が焼き切れてます。」

「ちぃ! 第一班はレーザーカッターで作業。」

 直ぐ様、レーザーカッターが運び込まれる。

「残りは、付いて来い!」

 踵を返し走り出す。

 

 

 

第十話《出口》

 

 

 最初は、基地と同じで明かりが灯る金属の通路が続いていた。

 進むと見えてきたのは通路を塞ぐ暗闇の壁。

「そこの壁にあるライトと背負い袋を各自取って…。」

 苦しい素振りを見せず博士が指示を出す。

 

 子供達は言われた通りに用意する。

「この先は、コンクリートで固めただけ、明かりも無い。注意して進んで。」

「はい!」

 元気のある返事だったが、子供らしさはなかった。その事に博士は悲しみを感じ、

(こんな時代でなければ…。)

と。

 

 

 手持ちのライトの灯だけを頼りに暗闇を追手の恐怖に耐えながら進む。

 

 そして、暗闇とは違う夜の暗さに浮かぶ星が見えた時、子供達は安堵のため息を付いた。

「出口だ!」

 誰かの反応は正しいが、

「しーっ! 静かに見付かる。」

と、9−2が冷静に制した。

 

 出口が見えてから余計に慎重に進み、ようやく外へ出た。

 

 

 

第十一話《運ぶ》

 

 

 出口は、小高い丘の中腹に草木の岩に隠されていた。

 

「博士は、ここ休憩を。偵察に行って参ります。」

 影と9−1は博士を下ろす。

「お前は、子供達を守れ!」

 指示の返事を待たず影は消えた。

 

 

 丘を登る影は、夜空を見上げ、

(この星の位置ならば、丘の上に出れば見えるはず。)

 身をかがめながらも、素早く丘を登って行く。

 

 周囲に気を配り、

(まだ、追手は来ていないか。)

 だが、気を抜かずゆっくりと丘の上に登った。

 

 両の眼(まなこ)に映ったのは、燃え盛る炎。自分達の秘密基地(いえ)が燃える姿。

「男爵様…。」

 小さく呼んだ。そして、炎中に見えたものに驚き、

「あれは!」

と…。

「これは、まずい!」

 直に子供達のところへトンボ返りした。

 

 

 帰って来た時間の速さに、只事ではないと子供達も感じていた。

「博士。」

「どうしました?」

「奴ら【神】を持ち出しています!」

「な、何ですって…。」

 驚き起き上がろうとするが、9−1に止められる。

「奴らの狙いは、最初から【神】だったか…。」

 影が悔しがった。

 

 

 

第十二話《目覚める》

 

 

 無言のまま目を閉じていた博士は、ゆっくりと目を開き、

「【神】に魂を入れましょう…。」

 子供達を見据えた。

 

 驚く子供達…。

「ここには、機械も何にも無い。無理だよ。」

 弱気な9−3。

 博士は、9−3の頭に手を置き、

「大丈夫。基地で使っていた機械はあなた達のデータを取るためのものだから…。」

「データ?」

 子供達には理解出来なかったようだ。

「説明が難しいわね。」

 微笑み、

「もう、【神】とは繋がっているのよ。」

「【神】様と…。」

 9−1の握られた拳は決意を固めた証。

「やろう! このままじゃ、今までやって来た事が無駄になる!」

 決意は伝播(でんぱ)し、疲れていた子供達の目に精気が戻る。

「やろう!」

「やりましょう!」

 

 子供達の心が同調していく姿を見ながら博士は、

(この子達なら…。)

 そして、感じていた…、自分の残された時間を。

 

 

「【神】に…。」

と、言いかけた博士は思い出す男爵の言葉を…、

 

「いつまでも【神】では、示しがつかないだろう。だから、このワシが名前を付けたぞ。」

 博士は無言で聞いている。

「奴が付けた名前からたがな。」

と、笑い。

「【ガンダム00N−type(ダブルオー エヌ−タイプ)】と…。」

「【ガンダム00N−type】ですか、良い名前だと思いますよ。」

「ワシもそう思う。」

 誇らしげな男爵。

「でも…。」

 博士の一言に眉をひそめた男爵は、

「でも、何だ?」

「いえ、子供達には難しいかと思いまして…。」

「確かにそうだ。」

と、声を出して笑った。

「そうだな。子供達が覚え易い方が良いな…。」

 少し考え、

「そうだ! 子供達向けの良い名前を思い付いたぞ!」

 満面の笑顔で男爵が…。

 

「そう。あれは【ガンダムーン(GUNDAM00N)】。男爵の正義。」

「【ガンダムーン】…。男爵の正義。」

 繰り返した9−1は、高ぶっていく。

 

「行くぞ! 皆!」

 9−1の言葉で、子供達が手を取り合い円陣を組む。

 

 始める【神】…。【ガンダムーン】に捧げるれる歌!

 

 

 

 基地の天井のハッチを破壊し、目的のモノを運び出す作業は、制圧後すぐに始められていた。

 

「こんな、変なモビルスーツがターゲットだなんて、上層部は何を考えいるんだか…。」

 作業員がボヤく。

「仕方ないさ。俺達は軍属なんだから命令は絶対だろ。」

 ボヤいた作業員の同僚らしい。

「そりゃそうだ。」

 諦め作業に戻ろうとモビルスーツの方を向き、気が付いた。

「頭のランプって、光ってたっけ?」

「そんなわけないだろう。誰も乗ってないぜ、このモビルスーツはよ。」

 同僚の言葉が気になり見る。

「光ってるな…。」

 

 ランプに灯る輝きは次第に明るさを増す。

 

「わぁぁぁぁ!」

 モビルスーツの上の作業員が、コックピットのハッチに跳ね飛ばされ地面へと叩きつけられる。

「何が、起きた!」

 作業監督らしい人物が慌てて確認をとる。

「判りません。いきなりハッチが閉まって…。」

 現場が大混乱となった。

 

 腕の近くの作業員が一番早く気が付いた。

「動いてる?」

 自分の目が信じられなかった。誰も乗っていないモビルスーツが動くなんてと…。

 その直後、作業員は知る事となる本当に動いているのだと。自分の命を代償として。

 モビルスーツは、力強く右腕で地面に押し起き上がろうとした。作業員を潰しながら。

 

「動きだしだぞ!」

「逃げろ!!」

 蜘蛛の子を散らすように作業員は逃げだした。

 

「動き出しただと!」

 ここを任されていた司令官が報告を受け驚く。

「しかも、誰も乗っていないと言うのだな…。」

 近くの物に八つ当たりしながら、

「クソっ! 何がモビルスーツの回収任務だ。何か隠していやがったな!」

 腹立たしさもあるが、この失敗をどう繕うかを考えなければならない自分の境遇の呪った。

「こちらもモビルスーツを出せ。捜索に出したモビルスーツも戻せ!」

 最善の指示をだした。

 

 

 立ち上がった【ガンダムーン】の目が黄色い光を放つ。それは、脳量子リアクターが起動し、[魂]が込められた証。

 ついに、ガンダムーンは目覚める。

 歪んだこの世界を正すために。

 

 

 

第十三話《ガンダムーン》

 

 

 翌朝、救援に駆け付けた部隊が見たものは…。

 

 無残に破壊された自軍のモビルスーツに部隊員の死体の山。

 

 まだ、息のあった隊員は、

「ムーンが来る! ムーンが襲って来る!」

と、恐怖に引きつり事切れた。

 

 

 

 ソレスタルビーイングの活躍の陰で、少年少女達の戦いが繰り広げられた。

 

 この戦いは、あまりにも悲惨であった…。

 

 その為か、ソレスタルビーイング以上に記録が残っていない。

 

 だが、戦いを見聞きしたものは、口を揃えて…

「ムーンが来る!」

と、怯えた。

 

 後の非公式な記録によれば、[ムーン]とは月では無く、モビルスーツの駆動音だったと…。

 

 

 この物語は、少年少女達が世界の歪みを正すために戦った記憶である…。

 

『機動戦士ガンダム00N』

 

 いや、少年少女達と仲間に敬意を表し、

 

『機動戦士ガンダムーン』

 

 開幕…。

 



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