爆豪くんが逆行しました (ネムのろ)
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第1話 もっともらしい死に方だったのに掌は紅葉?!

ネタが降ってきてしまったんですぅぅぅうううううう(゚Д゚;)
とうとう読むだけに飽き足らず、書く側になってしまったぁああああ?!?

…ま、まぁ…暖かく見守ってくだされば……
あと、励まし程度に軽く感想くだされば…嬉しいですよッと。
感想、返せるかはわかりませんが、返せたら返します。返せなかったら

「ああ忙しいのか」とか「ふーん。ま、いっか」とか
お気軽に考えてくだされば幸いです。


おい…冗談じゃねぇぞ…!

 

「この数の敵に囲まれちゃヤバい…このままじゃ…」

 

「黙れクソデク」

 

「せめてこの二人だけでも安全な場所に!」

 

「んなこたぁ言わなくってもわぁーってるだろうがクソナード!」

 

隣にいる緑色の髪の爆発頭を睨みつけながら、俺はこの状況をなんとか打破しようと頭をフルに使っていた。

 

こいつとは何の因果か知らねーが幼馴染で、前は無個性でなんの意味もなさないような守られる側の力を持たないヤツだったのが、ある日を境に個性が発覚したらしく、それをナンバーワンヒーローのオールマイトがあらかたの力の使いかたをレクチャーしたらしい。

 

 

何も聞いてねーのにクソナードがペラペラ喋ってきやがったから、まぁ大体の事情も極秘の情報も知ってる。あいつの個性が実はオールマイトから受け継いだ力だという事も、そしてその対価がどんなものなのかも。

 

 

目茶苦茶だと思ってたが、それを知った後は軽くこいつ本気でイカれてんじゃねーかって心配しちまった自分の頬を殴った。元々、こいつはこういうヤツだ。心配するだけソンだと思う反面、やっぱ頭の隅っこの奥底で心配しちまう自分が居て自己嫌悪になる。あー自分を爆発させてぇ。

 

 

自己犠牲が強くて、前を向いてしっかり歩けるヤツ。

 

 

腹立たしい。自分が傷ついてばっかりで、目につくもの全部守ろうとして、できたら自分の怪我がどんなに酷くても結果オーライなんて言ってヘラヘラ笑ってやがる。逆にできねー時はとことん自分を責めてかかるからやっかいだ。

 

 

そうだ。こいつはやっかいでもある。

 

 

つーか、なんで俺なんかに色々秘密を言ったのか問い詰めても「かっちゃんには知っててほしかった」一点張りだ。

 

こいつ、妙なところで頑固だからイラつく。まぁ、その頑固さがあったから、クソみてぇーな思考してた俺や、色んな奴にいい影響を勝手に与えまくって変えていきやがったから無駄じゃなかったみてぇだが。

 

 

結局のところ、俺にとってこいつは幼馴染でいけ好かなくて頑固者で。自己犠牲が過ぎてて放っておけねぇ。下手すりゃ自分で死にに行くような奴だ。誰か傍で睨みつけて首根っこ引っ掴んで殴って正気に戻してやんねぇとダメだ。

 

 

じゃなきゃこいつはすぐに死ぬ。

 

他人を救うのがヒーローだというのなら、自分の命も少しは大切にしやがれと何度言ったかわかんねぇ。自分を救えねぇ奴に他人を救うなんてできるかと。

 

 

だが聴きやしねぇ。だから今もこうしてこいつは敵に囲まれるなんてヘマをやらかす。ああ~本当にこいつは。こいつって奴は。

 

 

ホント俺様がいねぇとダメだな

 

 

「おい、クソデク」

 

「なに、かっちゃ…ヘブッ!」

 

 

とりあえず今までのイラつきの分を発散するように、ガキ二人をあのクソ爆発頭へと投げつける。へっ。なんだその間抜け顔。

 

 

「かっちゃん?」

 

「そのガキ二人連れてここから離れろ」

 

「え?!」

 

「お前が適任だろーが」

 

 

少なくとも俺がそいつらの泣き声にキレる心配がなくなるだろ

 

 

「そんな…!」

 

 

そしてどういうわけか、クソデクはオロオロし始めて、そして困ったような顔になりやがった。

 

 

「かっちゃんを置いて逃げられるわけないだろ!」

 

 

こいつ、本当はバカなんじゃねーかって本気で思えてきた。

 

 

「なに勘違いしてやがる」

 

「え?」

 

 

睨みつけながら、大声で言ってやる。いつものケンカのように。いつもの日常の一部のように、なるべくケンカ腰で。憎まれ口で。そうすりゃこいつは安心して子供二人を連れていく。

 

 

「だぁれが逃げろっつったよああん?!このクソナードが!!俺ぁ、このガキ共連れていけっつったんだよ!」

 

「でも、それ逃げろって言ってるのと同じ」

 

「同じじゃねーよクソがぁああ!」

 

「ええ?!ど、どこが違うのさ?!」

 

 

ボボボン!と両の掌から火花と小さい爆発を起こさせながら、敵とクソデクを威嚇する。俺様を誰だと思ってやがる?ってな。

 

 

「こいつらの泣き声が煩くて集中できねーんだよクソナード!!」

 

「え、ええ?それはかっちゃんがずっと大声で“黙れクソガキども!!”って言いながら凄い剣幕してるからでしょ?」

 

「うっせぇクソが!死ね!!」

 

「り、理不尽だよかっちゃん!」

 

 

とりあえず、あいつがガキどもをなだめている間、作戦をたてた。それをどう始めるかの前に、問題が発生した。

 

このクソナード…どうあってもここを離れないつもりらしい。クソ。ふざけんなよワカメ頭が!!

「かっちゃん」

 

 

大人になっても、何故かこんな可愛らしいあだ名で呼び続けるクソデクを睨む

 

 

「僕は絶対キミを一人にはさせないよ」

 

「…」

 

 

ああ。俺の作戦はどうやら見事に筒抜けだったらしい。だからこいつはキライだ。

 

 

「そーかよ」

 

 

思わず笑っちまう。バカが。

 

 

「俺がお前のいう事聞くと思ってんのか」

 

「…!」

 

 

そんな事、予想してなかったと思ってやがんのか

 

 

一体何年、お前と一緒に居ると思ってやがる?ちいせぇ頃からだぞ。

 

 

「かっちゃん、やめ───」

 

 

ああ、一例の動作でなにをしようとしてんのか分かったのか。さすがは観察しまくって何でもノートに書き留めやがる変な癖持つクソナードだ。

 

 

閃光弾(スタングレネード)!」

 

 

一旦、こうやって敵味方に目くらましをやりながら、次の攻撃だ。

 

 

「かっちゃん!!」

 

 

狙いはもちろん

 

 

「ぶっ飛べ」

 

 

クソデクと──そのガキども

 

 

「かっちゃぁぁぁああああん!!」

 

 

ドカン!!と大きな爆発音。そして、ガキどもを庇うように遠くへと飛んでいくデクが見えた。そうだ。そうやって守っていろ。その間、ほんのちょっとの間だ。それがあればこいつらヴィランなんて一掃できる。

 

 

「次はてめぇらの番だ」

 

 

ニヤリと、笑ってやる。身体はボロボロで、正直俺もデクももう限界だった。守れるだけの力も、逃げ切れるだけの力もアイツも俺ももう、なかった。

 

 

「てめぇらは、あいつを、デクを追い込むために、罠を用意したんだろうがなぁ、無駄だってことを思い知らせてやるよ」

 

 

そう。こいつらの目的は最初からデクだった。それに気が付いたのは俺。だから、少し体力を温存して、今の攻撃を温存していた。あとたった一回の大技しかできねぇ。しかもその反動で俺自身が無事に済むとも思えねぇ。

 

 

ハッ。結局このザマか。

 

 

「あいつは、()らせねぇよ」

 

 

あいつに散々、自己犠牲のやりすぎだ頭イカれてんのかクソがって腐るほど言ってきたっつーのに、自分はこの局面でまさに自己犠牲をやろうとしている。

 

 

「食らいやがれ」

 

 

汗だくの身体は、そこらへんに散らばった俺の血と連動できることが、判明している。自分の個性だ。自分がよく知ってる。

 

だから、もし、もしもだ。その汗だくの身体を起爆に使えば、飛び散って流れ出た俺の血と触れ合えばどうなる?

結果は明らか。大爆発が起きやがる。それはしねぇようにしてたから論理上でしか成立はしてねぇが、まぁできるだろ。さっきためしてみたら案の定、できちまったからな。

 

 

ただ、俺を中心に大爆発が起きやがるから俺も周りの奴らも無事じゃすまされねぇ。だからさっき、特別に作ってもらっておいた人体発見レーダーを使ってここいらにまだ誰かいねぇか確認しておいた。

 

 

結果は、オレとヴィラン共だけ。

 

 

さぁ、御託はもういいよな。

 

大爆発と行こうぜ?

 

 

「“血線インパクト”!!」

 

 

そう高らかに声に出して。俺は自分の個性で導火線に火をつけた。一瞬まばゆく光り輝いて、そして次々と俺の血に爆発が起こっていく。そうして起こった大爆発。俺はどこかそれを遠くで見ているような感覚で。

 

 

だが、その凄まじい威力に身体が持ってかれそうになる。

 

まだダメだ。踏ん張りやがれ爆豪勝己!せめて最小限になるために踏ん張るんだ。ここで俺の身体が吹き飛ばされりゃ、その先の民家にまで被害が出る。今の俺は爆発の導火線だからな。

 

 

「グ…うぅぅ…!!」

 

 

ああ、体中焦げ臭くなってきやがった。炭になるのかな。どうでもいいか。

 

 

「カハッ!!」

 

 

やっと爆発が納まった。ああ。身体が軽い…いや、そうじゃねぇか。あんだけの爆発の中心に居たんだ。体中の水分が飛んでてもおかしくねぇ。

 

体中、ひでぇ火傷だ。

 

 

自分でやっといてなんだが、こりゃ助からねぇな…

 

 

「ハハ…」

 

 

空笑いが出ちまうな…。そして身体は力を失って、ゆっくりと背中から倒れていく。ああ、いてぇのかな。なんて思ってたら

 

 

「…なに、やってやがる…ッ爆豪!」

 

 

ああ。ホントに今日はツイてねーな…

 

 

「なん、で…おま、え…が…」

 

 

何でお前がここにいやがる?半分ヤロウ

 

 

「お前、散々緑谷に!!」

 

「うる、せー…わ、かって…る」

 

「じゃあ、じゃあなんでこんな無茶しやがった?!」

 

 

言いながら悔しそうに唇噛みやがって。なんだよ。てめーもデクと同じなのかよ。救えねぇ奴が居たら、てめぇはなんも悪くねーのに責任感じるバカな奴。

 

 

「し、らねーよ…」

 

 

かろうじて見える左目で見ると、半分ヤロウは今にも泣きそうなほど顔をくしゃりと歪ませてやがる。

 

そして、自分の個性で少しでも良くなるようにと、俺の身体を薄く氷の膜で覆う。無駄だっつーの。見りゃわかんだろーがよ

 

 

「かっちゃん!」

 

 

ああ、目障りで無茶苦茶でイラつくクソナードがきやがった。しかも俺見てギクリと動きを一瞬止めた。お前もわかるんだよな。そうさ。もうすぐ俺は

 

 

「かっちゃん…ヤダ。ヤダよ…!なんであんな無茶な事を…!!あんな、あんな自分を!!」

 

「てめーと、いっしょだ」

 

「え?」

 

「あれが、いきすぎた、じこぎせい…だ。わかったか…クソデク…」

 

 

口がもう、上手く動かせねぇな。そう思ったら、半分ヤロウが俺を支えたまま氷をとかさないように自分の個性を使って俺を温めてくる。余計なお世話だよこの野郎。

 

 

「いてぇ…だろ」

 

「…!」

 

「みてる、がわも…いてぇんだ」

 

「かっちゃ…」

 

「わか…たか」

 

「わかった…!わかったよ!僕がどれだけ無茶してたのか、わかった…!見てる側がどれだけ痛くなるのか、わかったから!!」

 

 

だから。そう続けて言おうとしたデクは、声を発せなかった。

 

 

「な、くな」

 

「かっちゃ…うううう!!」

 

 

間抜けな顔だな。てめーはいつも

 

 

「きづくの…おそすぎ、なんだよ」

 

「かっちゃん…っ!ごめん!ごめん!!」

 

 

まぁ、こんな終わりも悪かねぇな…

 

 

せめて

 

 

長生き

 

 

しろよ

 

 

ああ、そうだ。最後だから言ってやるか

 

 

 

出久(いずく)…」

 

「かっちゃ…?!」

 

 

ハハッ…なんツー顔だよ…ざまぁ。

 

 

ああ…でももう…声あんまし出ねぇや…視界も…もう…

 

 

「嫌だ!いやだよ!かっちゃん生きて!!」

 

 

幼馴染の声が遠くへ行く感覚がする。

 

 

「爆豪!!息をしろ!おい!!」

 

 

半分ヤロウの苦しそうな声も…もう遠くに聞こえる。

 

 

そうか。

 

 

これが死ぬ感覚なのか…

 

 

「死ぬなかっちゃん!!」

 

 

ハハ…最後までそのあだ名かよ。まぁ、悪くはねぇな

 

 

「い…き…ろ…よ」

 

 

だからまぁ、餞別だ。

 

なけなしの力を振り絞った、俺からてめぇらへ

 

 

「てめぇら、ながいき、しなきゃ、あのよで、ぶっころす…」

 

 

さぁ。終いだ。俺の人生の幕を閉じよう。

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

ってーのが、俺の最後のハズだった。そう。ハズだったんだ。

 

 

「…」

 

 

気が付けば俺は生きていて。

 

 

「勝己~こっちへおいで~?」

 

「ほらほらパパのほうにママもいるわよ~?」

 

 

自分が知る両親は何故か若返っていて

 

 

「だう」

 

 

そして、俺の発せる声は何故かぜんぶ、だう。や、あう~だ。手元を見れば積み木の玩具。そして断然部屋や家具やらなんやらが嫌なくらいデカイ。ジジイとババアもデカイ。そして、極めつけに自分の掌は紅葉みてぇな明らかな赤ん坊の手だ。

 

 

ああ。そうか。と俺は合点がいった。

 

 

たしか、生前クソデクが「かっちゃん、かっちゃん!見てみてこのネットの二次小説!」って言いながら無理やり読ませてきたことがあった。その話じゃ、誰かが何かしらの理由で死んじまって、神様が出てきてチート能力授けて逆行させて一から人生やり直すまるでゲームのようなお伽話。

 

 

そんなもん読んでねぇでテスト勉強しろと言ったら、あいつたしかニッコリ笑いながら「もうやったよ」つーもんだから爆発させようかなコイツと睨んでいると無理やりアレコレ二次小説を読ませてきやがった。

 

 

嫌なことに、一度目を通したり耳に入れちまったモンは、ぜってー忘れねーから覚えちまってやがる。そうかよ。これもなにかの逆行っつーフザケタもんなのかよ。

 

 

「……」

 

 

はぁ…ため息が出るぜ。だがまぁ、なんの因果か。幸か不幸か。もう一度、爆豪勝己として一生を送るのならば。見るからに赤ん坊の俺がこれからなにをするか。

 

 

決まってる。今度こそデクにもオールマイトにも負けねぇようなナンバーワンヒーローになってやる。

 

そして…そうだな…しょうがねぇから自己犠牲が酷くなる前に。変な癖がつくまえに。俺が早くに見張ってやる。そんでちっとマシになるように鍛えてやんよ。

 

 

だから首洗って待っていやがれ

 

 

緑谷出久(おれのヒーロー)




ネタが降ってありのままに書き進めていました。無意識ですw

爆豪勝己くんが主人公のお話しです。
ザックリどうなるか言うとこの後、まぁすったもんだで死んじゃった彼が逆行して
幼馴染を不愛想&彼らしい反応で(人生二度目なので少し大人しめ)助けながら、
じゃあついでに周りのクソ共を助けるかぁってなって

いつの間にか皆に何故かそんなつもりないのに尊敬とか憧れられちゃってる勝己君を書いていきたいw
まぁ、原作にないことも起っちゃったり、色々書きたくなってます。


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第2話 前世ヒーローの闘乱1

調子に乗ってヒロアカかっちゃんの逆行の続きでッス!!
色々はぶきましたがこれはこれで爆豪君らしいかなって思っちゃったりしてます。
きっとキャラ崩壊あると思いますが大目に見てください(´-∀-`;)
今回のお話は、爆豪くんが幼馴染とな・ぜ・か!大半過ごしてしまうお話しです。
もういっそのこと、保護者になっちゃえば??かっちゃん☆

爆豪「ふっざけんな陰気作者ぁ!ちょっとこっち来やがれテメェ!!この内容どうなってやがるんだああ゛ん?!」

ハイハイ、ステイ。かっちゃん。


俺が二度目の人生でデクに出会ったのは

 

 

「ほぉら、いずく君よー。かっちゃん」

 

「いずくですー。よろしくね、かっちゃん」

 

 

まさかの、生後七か月の時だった。

 

早すぎんだろ何だよあの髪の毛ホワホワな緑色は!手がちっちぇんだよふざけんな!!あとヨダレ出すぎなんだよ目クリクリしすぎなんだよ可愛いじゃねぇかよクソが!

 

まさかの両親がデクの両親と幼馴染で、近所に住んでやがってしかも親友ときたもんだ。しょっちゅうこのウゼェ緑の髪が俺の傍に居やがるこの状況。なんなんだよ前世でももしかしてこんなだったんかああ゛ん?

 

「あうー」

 

「…」

 

 

とりあえず、しばらくは様子見か。なんて思ってたら、こいつ親が見てないほんのちょっとの間に棚は登ろうとするだのコンセント弄ろうとするだの飴玉呑み込もうとするだの色々やらかそうとしやがるからキモが冷えやがる。

 

 

『だぁあ!てめーなんつーもん食おうとしてやがる?!』

 

『え?ダメ?』

 

『当たり前だろうがぁああ!見てみろこれはビー玉だっつの!』

 

『だってキラキラしてて美味しそうだったから…』

 

『てめーはキラキラしてたらなんでも食いたくなんのかああ゛ん?!』

 

『ふぇ…』

 

『ゲッ…』

 

『ふぇぇ…かっ…かっちゃんがおごっだぁぁあああ』

 

『だぁぁぁあ!!もう!!泣くな!!怒ってねぇ!!ホラ、これは食べちゃダメだが、こっち、これは食べ物だ』

 

『ふぇ…これ?これなぁに?』

 

『赤ん坊用食品のゼリーだ。ほら、キラキラしてんだろーが』

 

『わぁホントだ!おいしそう!!』

 

『…はぁ……』

 

 

てな感じで毎日なにかやらかそうとするたびに俺様が慌ててソイツの手からとったり、ハイハイの方向を逆にしたり、怪我しそうになったら素早くなんとかして免れた。

 

おいふざけんなクソナード。てめぇ俺様をこの年で過労で殺す気か。ババァもおばさんもなんで気がつかねぇんだよクソッ!

ああっ!またてめぇは性懲りもなくんなもん口に入れたら!

 

「ダウ!」

 

「…う?」

 

 

ダメだと言っても口からは赤ちゃん語しかでねぇ。それにたいしてデクのやろうは、首を傾げて『どうしたの、かっちゃん?』なんて言ってきやがる。

 

ああああああ爆発させてチリにしてぇが生憎この身体は個性が出る随分前の身体だし、まだ乳児。

 

 

「はぁ…」

 

 

溜息は普通にできるんだな。これからが思いやられる。クッソ。親共なんて能天気におしゃべりしやがって!オレの苦労なんてこれっぽっちもわかってねぇ!ああああイラつく!!

そんな日々を三か月くれぇ過ごしてたら、デクのやろう俺様の顔をジッと見ながら

 

 

「かーちゃ?」

 

「……」

 

 

って言いやがった。かーちゃってなんだ。もしかしなくても『かっちゃん』か?

つーか、なんでてめぇは自分の親よりオレの名前を最初に覚えやがった?気色悪ぃ

 

 

「ちょ…ちょっと、いずく…今」

 

「言ったわよね?かーちゃって!!」

 

 

あああ母親共がうるせぇぇえええ

 

 

(かーちゃん)…じゃないわよね…家でもそんな風に言ってないし」

 

「てーことは、勝己のこと?!」

 

「い、いずくが最初に覚えて口にしたの、かっちゃん?!」

 

「あっちゃー…ごめんなさいね。うちの勝己が」

 

 

おいコラババア。なんで俺様が悪い事になってやがる?悪いのはデクだろうが

 

 

「い、いいのよ…それだけ勝己君のことが大好きなのよ」

 

 

ああ、面倒くせぇ事になりやがった。思わず赤ん坊のまま頭を抱える俺を見て、首かしげながら笑うアホデクに本気で殴りかかりたくなったのは言うまでもねぇ。

 

 

俺様はてめぇの保護者じゃねぇんだぞクソデク。

 

それから数年がたった。なんて言おうと数年がたったんだ文句言うな。もっと赤ちゃんエピソード欲しかったなんて聞かねーかんな。ありすぎて俺様は忘れることにした。あーあーあーなんにも覚えてねーなぁ!

あれから平和っちゃー平和な日々をおくって、時々やらかしてくれやがるデクに殺気を覚えつつ過ごしていたそんな、ある日。

 

 

おい、ウソだろ…と目の前の出来事に唖然としながら、俺は物陰からコッソリと状況を窺っていた。俺の目線の先には赤ん坊のころから一緒に過ごさざるを得なかったクソナード。そしてそのクソナードはというとまだ幼稚園児の幼い姿だ。

 

 

そう。俺が逆行したと気づいたあの頃から早数年。やっとここまで来たなぁなんて呑気にできるハズもなかった。あの野郎、これまでも知らねージジイやババァについていこうとすんのを俺がいつもさり気なく取り戻してた。

 

おい、クソナード。お前ぜってぇ前世じゃこんなに頻繁に攫われそうになったりしてなかったよな??なんで今世こんなに頻度あがりやがった?ああ゛?

だからまたこの光景を見て頭が痛くなった。

 

 

「大丈夫だよ。ちょっと調べものしているだけなんだ。」

 

「しらべもの?なんの?」

 

 

クソデクがそう首を傾げて聞けば、奴の目の前の大人の男はニヤリと気味悪ぃ笑みを浮かべやがった。

 

明らかにロクな事を考えてねぇロクデナシの大人の顔だ。怪しすぎる。さすがのボケでバカでクソなデクでも騙されねぇだろ。だってあの顔見ろ。わかんねぇ奴の方が頭イカれてやがる。

 

 

「個性の調べものだよ」

 

「わぁ!そうなの?でも、おいしゃさんしか、わからないんじゃないの?」

 

「大丈夫。私は医者だからね…」

 

「へー!」

 

 

おいおい。エセ医者かヤブ医者か知らねぇが。さすがのこの時代のどの子供も知ってる。個性を調べようとする大人は悪い奴だから全力で逃げるか、警察に連絡しろっていっつもクソ親たちとクソ先生共が耳にタコ出来るほど言ってくる。

 

いくら昔は少しの事でもバカみてぇにすぐ信じちまうクソナードでも怪しいあんな奴についていこうとはしねぇだろって考えてたが甘かったか…

 

 

そういやあいつ、まだ4歳児だったな…4歳児っつーのはあんな隙だらけなのか…?俺も4歳児だが精神年齢はもうはるか彼方だしな。

 

 

取り越し苦労になることはわかってるが、まぁ念のためだ。べつにあのクソナードがどうなったってかまわねぇ。ただ後々面倒なことが俺に起きるかもしれねぇ。

 

だから見張ってる。そう。これはあのクソデクのためじゃねぇ。断じて俺があいつのことが心配で見張ってるとかじゃねぇぜってぇそうじゃねぇ!

こりゃ言わゆる、自分のためだ。

 

 

息を殺しながら、気配を消してジッと二人の行動に注目する。前世はナンバーワンヒーローまではいかなかったが、デクと肩を並べるほどのプロヒーローだった。

 

前世でぜってーできねぇって思ってても気合で身に着けた追跡力と判断力をフルに使う。直感力とそれを確信に導いてくれるのは前世で得た経験と推理力のおかげだなこりゃ。

 

 

そんで色々頭ん中でパーツを組み立てていく。カチリ、カチリと色んなモンが組み合わさってバラバラになって、そんでやっと仕上がっていく感覚。

 

ああクソ。こりゃ面倒なことが絡んでやがる。次はどういう行動をするかに今後かかってるな。

 

 

………つーか、デクに近づいてくる奴はいっつも変人だったなそういえば。

 

 

前世でもあいつは、ヴィラン側でも味方側でもあいつにちょっかいかけてくる奴らはみんなクソみてぇな変人だった。

 

ああ思い出したら腹たってきやがったどっかに爆発しても良いカモいねぇのか。

 

そんな事をうだうだ考えてっと、嫌に口が回る(ゴミ)が仕上げだと言わんばかりに邪な笑みを浮かべながら決定打ともいえるような、いかにもデクが興味を引きそうなことを言い出し始めやがった

 

 

「…キミは自分の個性…早く知りたくないかい?」

 

「うん!知りたい!!」

 

「じつはここだけの話。キミみたいな子供限定でわかっちゃう簡単なほうほうがあるんだ!」

 

 

たちまちデクの周りから花が咲いていくような、笑顔が一層眩しくなったというか、喜びと期待と憧れがバッと出てきやがる。

 

おい。少しはその好奇心隠しやがれクソデク

 

 

「ホント?すぐにわかっちゃうなんて、まほうみたい!!」

 

「そうだろう?しかも針を指に差すだけの少量の血だけでわかるんだ。」

 

「すごいすごーい!」

 

 

聴いた事ねぇぞそんな変な検査方法。個性を知るっつーことは大切で、そう易々と判断できねぇ。

 

そもそもが個性が現れてから怪我しちまう奴だっているし、コントロールもしなくちゃいけねぇ。そんなもん幼稚園児の授業の中で習っていくが…

 

ゴミ変人の奴の言ってた方法でできるわけがねぇ。

 

 

まず、血が足りねぇ。病気を調べる時にでさえ信じらんねー量を採られる時だってあんのに、個性を調べるための、それこそ人生で一番大切で重要な検査を、血の一滴や二滴で出来るはずがねぇ。

 

 

自分の一生を決めるパートナーを知るんだ。当たり前だ。個性をよく理解し、安全に扱うためにも綿密で繊細な調査、検査を何度もおこなってやっとわかんだ。

 

だからそんな手っ取り早く個性わかってたまるかっつーの。さすがのデクでも気づけるだろ

 

 

「本当は秘密なことなんだけど、今先着で20人くらいの子供を限定でタダで検査してるんだ。キミで最後の一人なんだよ。どうだい?やっていくかい?」

 

「うん!やる!」

 

 

はぁ?!?

 

 

あのクソナード今なんつった??『うん!やる!』だぁとぉおお??

マジふざけんな!あんな全身怪しいやつについていくとか、頭沸いてんのかクソナード!!つーか、あのクソカス子供だけに声かけてやがるのか!!!ロリコンかあいつ!ああ゛イライラしてきたクソがぁあああ!!

まぁ、今ので疑問が確信に変わったな。

 

 

クソデクにしたように他のガキどもも誘ってやがるっつーことは…誘拐犯だという可能性もある。どうする?このまま怒りの感情のままツッコんであのゴミを炭にしちまえばいいんだろうが、もし万が一

 

 

他のガキ共も、どっかで捕まってたら?

 

そこまで考えたら、『このままツッコんでぶっ殺す』はできねぇな。しかたねぇ。かなり面倒くせぇが

 

 

「おい、デク」

 

 

ちょっと声に怒りと、デクを小バカにするように話しかけながら、俺は両手を片方ずつポッケにつっこんだまま、デクの隣に並んだ。んで、このバカを一発ぶん殴る。

 

勢いは殺したが、衝撃でこいつの頭が下へグラリと揺れた。ああ、やっぱこの髪の色は、あいかわらず緑だな

 

 

「いたいよ、かっちゃん!」

 

 

涙目で急になにしてくるの。と睨むこいつを、呆れたように俺が睨む。そうしたら決まってこいつは少し恐縮した後で困った顔になって、俯く。

 

ゆらゆら揺れるこの目の前の緑色のぼわぼわした髪の毛を、無性にモフり…いや、むしりたくなる。ああ爆発させてぇしんでくれねーかな

 

 

「手加減はしたぜデクしね。」

 

「ひどいよかっちゃん~」

 

「つーか、お前なにしらねぇ奴についていこーとしてんだよ」

 

 

今まで蚊帳の外においておいた変人ヤローを親指でビッシとさす。するとクソデクは今まで俺が見ていた事をすべて話した。

 

 

「だからね、だから」

 

 

ワクワクしてやがるテメーの目は、いつもキラキラ輝いてまぶしくて、俺はソレを見るたびに

 

 

「ああもう鬱陶しい奴だなてめーは!!」

 

 

鬱陶しくてしかたねぇ。クソが。爆発させるぞクソナード。んな事を思いながら舌打ちすると、ギュッと、小さな手が俺の洋服の裾を掴んできた。その手は少し震えていて

 

 

「かっちゃん…」

 

 

んだよ。なんでそんな顔で俺を申し訳なさそうに、困ったように見つめてくるんだよ?一人じゃ不安だから俺も一緒にきてほしいっていう顔だ。チッ。昔からわかりやすいんだよてめぇは。

 

 

「俺はてめーの保護者じゃねーぞ」

 

「ん?うん?そうだね…?」

 

 

言いながら首傾げてやがる。よくわかってねーなコイツ。まぁ、この方法が妥当か。

 

 

「しょーがねーな」

 

 

そう一言いっただけで、こいつの顔がパァアア!って明るくなりやがった。クルクル顔かえやがってクソナードが。感情が相手に読み取られやすい体質はこの時からだったのかよ。

 

 

「俺もいく」

 

 

そう言えば、その変人(ゴミ)は慌てたようにどこかへ連絡していた。おおかた奴の上にいる司令塔(ナマごみ)か、組織のボス(もえるゴミ)かに、かけてやがんな。しばらくして変人は了承を得たらしかった。

 

 

「さ、こっちだよ」

 

 

……車に乗せて移動かよ。しかもご丁寧にカメラと睡眠ガスを発生させる機械まである。とすると盗聴器もありそうだな。

 

ココから遠い場所に位置してやがんのか?そうだとしたら逃げる時面倒じゃねーか…相当な組織か?ここまで念入りだと…連れて行ったガキ共は家にかえってねぇな。

 

そう言えば最近、あの付近でガキが行方不明になるっつー事件があったな…

 

 

頭の中で、欠けてたピースがハマったような音がした。

 

 

ああなんだ、そういう事かよ

 

 

キラキラ目を輝かせながらなんにでも興味をしめしている、能天気な緑色を見て、途端にこの幼馴染をとてつもなく殴りたい衝動にかられた。

 

 

十中八九、その事件に巻き込まれてんじゃねぇかクソがぁぁあああああああ!!!!

 

 

「爆発してしね!!」

 

 

ついポロリとでちまった言葉に、ビクリと肩を震わせて恐る恐るこっちを振り向いてきたのはクソデクだった。

 

 

「…」

 

「んだよ」

 

「ヒッ…う、ううん…なんでも。ただ、かっちゃん少しイライラしてるから、さそったボクが、わるいのかなって……」

 

 

ハッキリ言えばてめぇのせいだクズ!と吐き捨てたい。ただ、なんとなくショボーンとしてうぜぇ。ああ…目障りなんだってその顔。

 

 

「…」

 

 

思わず無言でいれば、恐る恐ると言った感じに、クソデクはまた俺の服の裾を握って、クイっと引っ張った

 

 

「かっちゃん…ごめんなさ「ついたよ」…!」

 

 

存在を無視していた変人が言葉をかぶせてきた。んじゃまぁ、仕事にとりかかるとすっか。両腕をポッケから出してうーんと思いっきり伸ばす。その時に空気中に俺のニトロを少し発生させてみた。

 

 

個性は上々。こんな時のために少しづつ早い段階から修行をコツコツやってきたんだ。前世含めて久々に暴れられると思うと、口元が緩む。

 

三歩くれぇ前に出たら、いつもひっついてくるデクのバカが隣にいない事に気が付いた。なんだてめぇ。今更俺様に遠慮か?

 

「おい」

 

「なに…?かっちゃん」

 

 

なんつー顔してやがる

 

 

「なんで離れた?」

 

「え、だって…そのほうがかっちゃんは…イライラしないんじゃないの?」

 

「……」

 

 

てめぇは。まったく…本当に

 

 

「ハァ…」

 

「た、ためいき?!ボクかっちゃんにためいきつかれて…ッ!?」

 

「おいデク」

 

「ひゃい?!」

 

 

ポンと肩を軽くたたく。それだけでもこいつには十分の攻撃力だったらしい。冷や汗をかきながらプルプル怯えてる。でもその瞳はどこまでも真っ直ぐで…

 

道を踏み外したりはしないんだろう。こいつのことだから、命を投げ捨てても他人を救おうとヴィランに立ち向かうんだろう。

やっぱてめぇは救いようがないほどのお人好しバカだ。

 

 

「べつに邪魔じゃねーよ」

 

「え」

 

「てめぇはゴミでもねぇし」

 

「かっちゃん…?」

 

「それに」

 

 

ああ、今日はやけに勝手に口が動きやがんなぁクソムカつく!!

 

「俺の横に並んでいいのは強くなったお前だけだ」

 

「???」

 

 

そう。

 

 

未来のお前だけだ。許されてんのは。だからよぉ

 

 

「弱いままのてめぇなんか俺様の四歩後ろであるいてやがれ!」

 

「えええ?!いみわかんないよ、かっちゃん!!」

 

「わかんなくって良い」

 

 

今はそれでいい

 

 

片方の拳をもう片方の掌にぶつける。自分が今、あくどく、それこそヴィランのように笑ってるのがわかった。

 

 

作戦は頭ん中にある。ガキ共の居場所はある程度のハッキングでどこにいるのかわかってるし、さっき身元不明でオールマイトやエンデヴァーにも地図と内容を送っといたからなんとかしてくれんだろ。

 

 

さぁてと?

 

「暴れるぜェ?」

 

 



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第3話 前世ヒーローの闘乱その2

今回は続いてかっちゃんの戦い、戦い、戦いと、
かっちゃんだけのトリプルバトルとなってますw
そして最後に、ほんのちょこっとデク君の気持ちが…ね←


ハッキリ言おう。俺は甘かった。

 

 

「かっちゃん!!」

 

 

たった4歳児のガキが、結構な組織相手にして無事に居られるわけねぇ。これは俺様の失敗だ。できると思ってた。だが、身体の違和感が邪魔してうまく個性を扱いきれなかった。

 

 

まだ幼児だからかもしれねぇな。クソッ!なんつー失態だ。元・プロヒーローが聞いて呆れるぜ。

 

 

「かっちゃん!!」

 

 

背中のほうで俺のことを呼ぶこいつの目は、きっとあの時のように怯えてても、助けたくてしかたがねぇヒーローの一面をしてんだろうな。

 

 

「うるせぇクソデク黙りやがれ」

 

「で、でも…かっちゃん傷…」

 

 

傷がひっでぇのはわかりきってる。だから、だからよぉ…これ以上その震えた声で心配そうに呼ぶな。今にも飛び出していきそうな声で叫ぶんじゃねぇよ…

 

 

「てめぇの心配なんかいらねぇんだよ」

 

「でも、かっちゃ…ぼくのせいで…」

 

 

クソッ!またか…またてめぇはッ!!

 

「だぁ!泣くなウゼェ!!」

 

 

誰のせいでもねぇ。俺の失敗。そんだけだ。だからてめぇがそんな顔してんじゃねぇよ。てめぇは悪くねぇんだよクソナード!

だから…あの時みたく…なんの力もねぇのに…

 

 

「オレの前に飛び出すんじゃねぇぞ…」

 

「え?で、でも…」

 

「約束しろ」

 

「でも、かっちゃ「やくそくしろ!!!」…ッ!!」

 

それなりに怒鳴れば、デクの野郎は嫌々コクリと頷いた。よし。それでいい。口約束でもしなけりゃてめーは何をしだすか分かったモンじゃねーからな…

 

 

もう一回だ。もう一回集中しろ。やれねぇ事は後回しだ。今はできる事だけに神経を集中させろ。こういう時こそ余裕な笑みをして、なんでもねーみてぇに笑って、相手がそれを見て悔しがる様を楽しまなきゃなぁ!

 

「こんな傷、痛くも痒くもねぇなぁ!」

 

「このガキ…っ!」

 

 

やっと平常心を乱してくれやがったか。そうだ。それでいい。あとはプロヒーローたちが駆け付けてくれるまで、俺がふんばりゃいいだけの話だ。一応念のために外からこっちまで俺のニトロを含んだ汗をばら撒いてきた。

 

 

プロだったら誰か一人でも変わった甘い匂いに気づいてくれんだろ。策は尽くした。後はヴィラン側に一切この事をバレちゃいけねぇ。泣きじゃくる後ろのクソナードを守りながら、必死に耐えて、時々あいつらの隙を見て攻撃をする。

 

 

注意をこっちにもってこさせてバレにくくさせるのが、今の俺の出来る事だ。ああ、でもやべぇな。血がとまんねぇなぁ!俺が倒れるのが先か、プロヒーローの誰かが到達するのが先か…確率は半々…てとこかぁ?

 

「ハァ…!ハァ…ッ!!」

 

「随分と息が上がっているようだなクソガキ?本当は息苦しくって痛くてしかたがないんじゃないか?」

 

「ケッ…!ハンデだっつーの。俺が本気でてめーらを相手にすると思ってやがんのかああ?ロリコン野郎どもが!」

 

「お前…相当痛い目をみないとわからないようだな…」

 

 

ヴィラン側が何の個性かは戦いながら分析した。俺の個性だけじゃ不利だったが、生憎人生二度目の俺には個性だけじゃなく、経験と知恵と情報量が糧になってくれる。戦いはさほど難しいわけじゃねぇ。

 

 

問題なのがデクだ。

 

 

「おいデク」

 

「な…なに?」

 

「目ぇ瞑ってろ」

 

「え、なんd「いいから言う通りにしやがれクソが!」はわわわッ!わ、わかったよ…」

 

 

そうだ。それでいい。これからやろうとしてる事は、デクが見てたら少し目を負傷するかもしれねぇからな。

 

 

「なんの真似だクソガキ?」

 

 

ワラワラと俺たちを囲むヴィラン達と、それを少し先の方で観察してやがる研究者ども。ああそうだ。俺様に注目してやがれ。そんで

 

 

「ぶっ飛びやがれ」

 

 

手首に、いつもつけていた秘密兵器がある。これは一見するとただのリストバンドだが実を言えば、俺のニトロを存分に含めるようになってて、ある一定のニトロを保存できるようになってる。ババアと親父に頼んで特別に発注してもらった。

 

 

こんな時のために。

 

 

バシン!と俺は両腕をクロスさせて前へ伸ばす。これでリストバンドの中にあるスイッチは押された。

 

 

「食らいやがれ」

 

 

とたんに鳴り響く破裂音と破裂弾並みに発光するオレの手首。巻き上がる煙と、壁が少しばかり崩壊して煙幕が生じた。

 

 

見た目は爆発音と煙とで派手だが、威力はそんなにはねぇ。あくまでも逃げる時用と目眩ましのためのもんだ。だが、使いようによっちゃあ、色々とできることがある。今回みてぇに注意を散漫させるには、うってつけだ。

 

幸いこの組織は未来のデクと俺を欺いて罠にかけやがった危ねェ組織じゃねぇしな。正直あの最後の戦いはトラウマに近ェし。

 

 

ああでもッ…!衝撃波は俺の方に来やがるんだよなぁクソが!!傷に沁みやがる…

 

 

「グッ…!」

 

「かっちゃん?ど、どうかしたの…?目、もう開けていい?」

 

「まだ瞑っときやがれ!」

 

「ええぇぇ……」

 

 

デクの腕をとって隠れる。そんで俺は素早く違ェトコへ移動して思いっきしジャンプしながら積みあがった箱を蹴って一人の敵の背後をとった。そんで思いっきり俺の爆発をうなじに食らわせてやった。

 

 

「ゲハッ!」

 

「お、おい?!どうした?!」

 

 

まだ爆発の余波の煙幕で何が起こってるかはわかんねぇから、その間少しだけでもこいつらの急所狙って気絶させておかねぇと。数が多すぎるとデクを守りきれ…じゃねぇ。デクが邪魔になって俺が気が気じゃねぇ。戦いに集中できやしねぇからだ!

こんどは静かに相手の背後の壁を足で蹴って、宙でクルリ回転しながら踵落しだおらぁ!!死にさらせやクソロリコン共がぁああ!!

 

「フブッ?!」

 

「なっ?!おい!!一体何が起こって…」

 

 

今度はコイツだと、狙いを定めて。なるべく気づかれねぇように音を最小限に。素早く、そして一点の急所へめがけて蹴りを入れた。

 

 

「カハッ!」

 

 

うし。これで残りは…そう思いながら次の行動に移そうとしたその、瞬間だった。

 

 

「おらぁ!出てこい爆発のクソガキ!」

 

「うわぁ!?」

 

「緑色のガキがどうなっても知らねーぞいいのか?!」

 

 

あいつ…デクを人質にとりやがった!!

 

「何勝手に俺の足手まといになってやがんだクソデク!!」

 

「ご…ごめんにゃさいぃぃいいい…!」

 

 

デクの野郎。泣けば何とかなるとでも思ってやがんのか。つーかあの、大男(クソゴミ)デクを怖がらせやがってトラウマにでもなったらどうしてくれやがる爆発して死にさらしてやる!!

 

「ふー…」

 

 

ひとまず、一呼吸して冷静さを取り戻す。

 

 

さて。どうやってこの状況を回避する?

デクを傷つかせず、尚且つこの大男(ソダイゴミ)をグチャグチャに原型とどめていらんねぇほどに叩き潰して爆発させる方法。

 

 

「クソが。デクに気安く触ってんじゃねーぞ」

 

 

4歳児をなんだと思ってやがる。この歳でトラウマにでもなったら治るのに相当時間かかりやがるんだ。面倒くせぇことになるじゃねぇかよ。俺様が一体なんのために何年こいつの傍に居たと思ってやがる?

 

「そいつをボコるのは俺だけで十分だ」

 

 

そんでてめーは刑務所(ゴミバコ)にでも入ってやがれ。

 

いきり立って、そのまま戦い続けた。だがやっぱ確実に仕留められるような技もねぇ。身体も個性も育ち切ってねぇ。なにより体格差がひでぇ。おまけに俺は怪我だらけで血を流し過ぎた。

 

結果的に、そんな俺が倒れて起き上がれなくなるのは、そう時間がかからなかった。

 

 

「かっちゃん!」

 

「へっ。達者なのは口だけかよ」

 

「ゲフッ!」

 

 

俺は今、敵になぶられていた。ああ悔しいじゃねぇか。なんなんだクソ。何が足りなかった?やっぱ4歳児の身体じゃあ…大人には勝てねぇのか?

 

「カハッ!」

 

 

勝てると信じて疑わなかった。

 

 

「かっちゃん!もうやめて!!やめてよ!」

 

 

横目で、泣き叫ぶデクを見る。ああ、あんなに泣きやがって。目元真っ赤じゃねぇか…ホント、お前は泣き虫だよな…

 

 

「おらおら!まだまだ痛い目見てもらうぜクソガキが!」

 

「グアッ!!」

 

 

腹に強烈な蹴りが入って、そして勢いよく壁にぶつかった。口から血がタラリと出てきて、腹は痛ぇわ、頭は朦朧とするわ、背中も痛ぇわ…腕も痛みでか、それとも受けた攻撃でか、痙攣しはじめてやがった。

 

 

「かっちゃん!!やめて!やめてよお!かっちゃんが、しんじゃう…しんじゃうよぉおお!!」

 

 

策はあった。何通りか作戦は考えていたし、攻撃パターンも変えて色々ためした。だが…やっぱ身体が個性についていけてねぇのが現状か…

 

そのせいで、このザマだ。ハハッ。完全に俺の敗北かよ。クソ……こんなみっともねぇ形で敗北するなんてよぉ…クソっ!クソが!!

 

「ゲホッ…!ゲホゲホ!」

 

「かっちゃん、血だらけだよ…もう、やめて…だれか、だれか…たすけてぇ!」

 

「ハン。馬鹿かてめぇは。ここは誰にも知られることはねぇんだよ。特殊な加工してあるからな。子供には気が付かれるが大人にゃ感知されねぇ。無駄なんだよ!いくら泣き叫ぼうがな!!」

 

 

ああ、クソ…もう身体が動かねぇ。

 

 

「いず、く…」

 

「かっちゃん?!」

 

 

護れねぇのか。あの時も…今も。お前を危険な目にあわせてばっかで…ホント、クソ弱ぇ自分に反吐が出るッ!!

 

「ごめ、ん…」

 

「かっちゃ…?!」

 

 

でもよ…それでも立ち上がるしか俺に選択はねぇんだよ!!

 

「かっちゃん!!ダメだよ!!逃げて!!」

 

「ウグッ…ぐがぁあ!クソがぁあ!!」

 

 

フラリとしながら、膝を手で支えながら立ち上がる。そんで背筋をまっすぐ伸ばす。

 

ああ、身体が痛ぇなぁ…頭がクラクラすんなぁ。だが、敵の驚いた顔を見て、思わず笑みがこぼれる。そうそう。その顔が見たかったんだよ俺は!!

ケッ!と笑ってやる。手から小いせぇ爆発を起こしながら、俺はニヤリ笑ってやる。

 

 

「んだよ…それだけかよてめぇの個性。『身体の能力を向上させる個性』、地味だが使い勝手良いハズだろうが。瞬発力あげれば素早く動けるし、防御や攻撃も自分の身体張ってできる。自由自在じゃねーか。なんでもっと頭つかわねぇんだよゴミ。」

 

「…っ」

 

「それこそ『誰かを守る』ために使ったほうが良い個性だろうが。ヴィランなんて似合わねぇ…個性が、血が泣いてるぜ?」

 

「……ッ!」

 

 

目を見開きながら驚き固まる目の前のヴィランは───少しだけ殺気が薄くなった。

 

 

少なくとも、前世じゃ無個性でも誰かの役に立とうとしていたデクのほうが、何倍もマシだったな。あいつは、出来る限りで人を助けて守ろうとする奴だった…

 

 

「お前…何者なんだ?!普通のガキじゃねぇ…誰だお前は?!」

 

 

ニヤリ笑ってやる。俺が誰かだって?

 

「爆心地」

 

今も昔も、それは変わっちゃいねぇ。

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

ああクソ…体中痛ぇ…もうたっていらんねぇ。他の奴らが俺を取り囲んできやがった。この状況でデクをどう助ける?どう助けられる??クソ…頭がうまく回ってくれねぇ…

 

 

「一斉に攻撃するぞ」

 

 

ああ、マジでやべぇ……こんな時にまさか敵方のボスが出てきちまうとはな…

 

 

「まぁ、てめぇには驚かされたよ。俺たちの邪魔しなきゃそのまますげぇヒーローになれたのにな。残念だ」

 

 

そんなこたぁ微塵も思ってやがらねぇニヤリ顔をしながら、そいつが合図した。

 

直後に襲ってくるのはこいつらの個性や武器の攻撃───

 

 

ここまでか。

 

 

短い人生だったな。

 

 

何でか分かんねぇが、俺はそんな事を呑気に考えていた───…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果的に俺は総攻撃にあって死ぬ……

 

 

 

 

 

 

ハズだった

 

 

「…?」

 

 

いきなり攻撃音が止んで、ピタリ止まる周り。そしてどこかの壁が破壊される音と、敵が持つ武器がドロリと熱で溶けるという、異常な光景。

 

 

「まったく…どこの誰かは知らんが、場所を報告してくれて助かった」

 

 

そいつはそう言いながら、壁が破壊されて出てくる影とは別の方向からやってきた。

 

 

「エンデヴァー…」

 

 

そして、崩壊した壁のほうから見知った声が

 

 

「ハァ―ハッハッハ!!私が来た!!」

 

「オールマイト…」

 

 

そして、オールマイトの後ろに少し若い、誰かが。でも、どことなく知ってんぞ。おい、まさかあいつは──

 

 

「まったく。いい加減『何かを壊しながら登場』するのやめてくれません?オレの個性使った意味ないじゃないですかヒーロー意識低いんじゃないんですか??本当のヒーローなら壊さず救えよこれだから筋力バカは」

 

「ハァ―ハッハッハ!相変わらず相澤くんは辛口だねぇ。早く救助した方が良いだろう?」

 

「……はぁー…」

 

「…あの、頭抱えて深く溜息はかないで相澤くぅん…さすがの私でも落ち込むから…」

 

 

なんで?なんで相澤センセーが…こんなところに…よりにもよって…きっとまだヒーロー活動あんまししてねぇ時に…

 

 

「すまないね少年。」

 

「…あ?」

 

 

オールマイトは、立ち尽くす俺の前に屈んでくれて。頭をそっと撫でてきた。傷のせいでちょっと痛かった事は内緒にしておこうと思った。

 

 

「遅れてしまってすまない。どうも敵の個性で邪魔をされてしまって。」

 

 

ああそうか。だからオールマイトでもこの場所を把握するのに時間がかかったのか。

どうりで…おっせぇなって思ってたんだ。予定より十五分持ちこたえなきゃいけなかったからな。

 

 

「不覚にも俺でさえも場所がわからなかった。唯一ここだとわかった理由は、薄い甘い変わった香りが空気中に混ざっていて、それが道しるべとなったが…」

 

「変だと思って、一応その場で調べてごく薄いニトロがばら撒かれてることがわかって、それでもしかしたらと、この二人を呼んだわけだ。」

 

 

エンデヴァーと相澤センセーが代わるがわるそう言う。

やっぱニトロを空気中にばら撒いておいて正解だったな。気が付かれない場合は最終的にそれを起爆剤にして無理やり居場所を教えてたがな。

 

 

「こいつから匂ってくるってことは、やっぱりお前がワザと振りまいてくれたって事か。そして時間稼ぎと、相手の注意を外の俺たちから外すためにも、攻撃し続けてここまでボロボロに…お前、本当に4歳児か?」

 

 

センセーはすぐに俺が何をしていたか推測しちまった。さすが相澤センセー。俺が認めただけはある。

 

 

「それに、君は凄い!!プロヒーローのような意志で守ってくれたな」

 

「…あ?」

 

 

オールマイトがことさら優しくなでる。え、この人って人の頭、撫でんのこんなに好きだったか?

 

「他の子供たちを、君に注意を向かせることで、酷い実験から守ってくれていたし、君のお知り合いであるあの、泣きじゃくる緑色の髪の少年も君が守ってくれた。」

 

「べつに、そんなつもりは…」

 

「そんなつもりはなくとも、君はよく戦ったさ!!君はもう立派なヒーローだッ!!」

 

「…っ!」

 

 

ホント、あんたって人は俺の欲しい言葉を…どーしてこうも簡単にくれんのか…わかんねぇ。

それから、オールマイトは俺たちが憧れ続ける、輝かしい笑顔を晒して

 

 

「ありがとう。ここからは私たちにまかせなさい」

 

 

そう、言ってくれた。

ああ、やっぱこの人は最高のヒーローだ…俺を、俺たちをこんなにも安心させてくれる。じゃあ…もういいか

 

 

「わかった…後は…まかせる」

 

 

休んでも、いいか…

 

 

「デクを…いずくを…助けてやってくれよ…ヒーロー」

 

「もちろんだ!」

 

 

倒れかけた俺の身体を支えて壁に移しながら、オールマイトが笑顔をくれる

 

 

「もとより、そのつもりだ。我々はヒーローなのだからな」

 

 

エンデヴァーが負けじと身を乗り出す。

………アンタ、オールマイトをライバル視してるだろ…

 

 

「…まぁ、まかされちゃ、やらないわけにもいかないしな。できる事はする」

 

 

センセー…あんた相変わらずだよ…

そんで、そこで俺の意識はブラックアウトした。

 

 

 

あれから、誘拐事件は事なき終焉を迎えたらしい。子供たちを攫ってたヴィラン達はヤクザ共ともつながってたらしくって、科学兵器まで子供たちに使おうとしていたところに、俺とデクが現れたと。

 

マスコミには俺とデクの名前を伏せてくれと頼んだ。あと、個人的にオールマイトと相澤センセーとも時々連絡できるように相澤センセーとオールマイトとSNSの連絡先を交換した。

最初は渋って、「いや、個人でかかわるつもりは…」と断られそうだったのを、今までのデクと俺(おもにデクがツッコむ)事件遭遇確率と、デクの奴が異様に事件ホイホイだという事を今までの事柄を含めて説明してお願いしたら即答でOKもらえた。

 

 

彼らの目が俺を憐れんでいたのは見なかったことにする。

 

 

ちなみにエンデヴァーは何故かチラチラとすみっこで、色々話し込む俺たちを観察しながらため息を吐いてて、なんかウザくてそのまま無視(え?こいつとSNS交換?冗談だよな??)してたらデクがてくてくそいつへ歩いて行って(なんでソイツの事かまうんだほっとけよクソデクが)首を傾げながら何か話してた。

 

 

それから数分後に、「天使かッ!!」と言いながら胸押さえて打ちひしがれてるエンデヴァーの様子を見るに、デクの気まぐれ天然にかかったと見た。

 

 

…わかる。デクの気まぐれ天然はたまにしか発動されねぇが、発動したらしたで恐ろしいくれぇの破壊力を発揮するからな…アレで萌え殺され(やられねぇ)のはバケモン並の精神のヤツだけだろ。

 

 

それになぁ、俺はエンデヴァーとは関わる気はねぇ。事情は深くは聴かなかったが、舐めプ野郎に色々腐った親の代表者みてぇな事した奴だって知ってっから。

まぁ、でも、ちょっと言いてぇことがあったから丁度いいな。前世じゃ言えなかったし、まぁ良いだろ。

 

 

「エンデヴァー」

 

「なんだ」

 

 

すかさずジャンプして足蹴りをあいつの顔面に向けてやってやった。サッとよけられた。もちろんムカつくがナンバーツーヒーローの名に恥じないほどには強い。避けられるのは知ってた。

 

だから後ろの方で小さな爆発で少し上のほうに浮いた。それから踵落し。まぁ、威力は蚊ほどもねぇ。今度は避けられもしなかった。ダメージ入らねぇこと見越したって処かよ。

 

 

クソ…筋肉ウラヤマシイ……

 

 

「なにをする」

 

「テメーに言いてぇ事がある」

 

「?」

 

 

ニヤリ笑いながら、手で小さな爆発をいくつか起こした。そんな俺を見ながらデクが「Σ(゚∀゚ノ)ノキャー!!かっちゃんかっくいい!!」とかなんとか言ってやがったがちょっとお前黙れ。

軽くエンデヴァーを威嚇してヴィランみてぇなニヤリ顔をして。

 

続け様にソイツめがけてジャンプしながらキック、パンチをかまして。避けられて、そんでエンデヴァーが攻撃態勢に入った直後にすんでで向かう軌道を爆発で変えながらそいつの顔面に蹴りを入れた。

 

エンデヴァーは再び目を丸くして驚いてやがるが、それ以上の表情は見せねぇ。つーことは痛くねぇっつーことかクソが!

まぁ、制裁はここまでにしておいてやらぁ。

 

…筋肉ウラヤマシイまじムカつく!!

 

「テメーの息子、もし嫌な目してんなら何とかしてやれ。苦しそうに顔をしょっちゅう歪ませてんだろ」

 

「!!」

 

 

俺の言葉に、エンデヴァーは目を見開いて驚くばかりだ。

 

 

「なぜ…そのことを…」

 

「別に。カマかけただけだ。それよりなんとかして痛みを和らげてやれよ。父親だろうが」

 

「……」

 

 

何かを考えてやがるこいつの顔を見るに、父親がどういうものかよくわかってねぇみてぇ。おいおい…てめーどういう状況で育ってきたんだぁ?そんな事もわかんねーくれぇの変な環境で育ったのかよ?

まぁ、俺はデクみてぇなお人よしのヒーローじゃねぇし。てめぇのメンタル気遣うような真似しねぇしするつもりもまったくねぇ。

 

俺がなにかすんのは、舐めプ野郎のこれからを少し変化させるだけだ。他はするつもりねぇ。

俺はデクみてぇなお節介焼きじゃねぇから。

 

 

「子供は道具じゃねぇ。大人みてぇに丈夫でも、精神が強ぇわけでもねぇ。全部が全部、弱ぇんだ。だけどそれは、まだ色んなモン吸収して育ってるからだ」

 

 

親を見ながら成長するんだ子供って奴ぁ。だからけっこう、侮れないし、かといって厳しすぎるのもかえって逆効果だ。心が……壊れるぞ。

 

 

「だから、今のクソみてぇな態度しかとれねぇお前を見ているだけじゃ、そいつ、大きくなったらテメェのこと恨むぜ?そんで父親認定されねぇだろうな。想像してみろよ。子供に、まるで居ないかのように振るまわれる自分自身を」

 

「うっ…ウグぅ…」

 

 

簡単に想像できたんだろう。目の前の男は顔を歪ませて、汗までかいていやがった。相当辛ぇ事だと気が付いたか。

そんな何も言い返せないエンデヴァーを見て、オールマイトはポカンと呆けていた。

 

 

「少年…爆豪といったか…キミ凄いじゃないか!あのエンデヴァーを口でねじ伏せるとは!」

 

「…お前、本当に子供か?まるで大人が子供に戻ったかのような…」

 

 

相澤センセー…相変わらず、鋭いな…

 

 

クソ。

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

また、僕はかっちゃんに守られた。

いつも守られてばかりだ…

 

 

「だぁ!ひっつくんじゃねーよ!!オールマイト!!!」

 

「ハッハッハ!!いいじゃないか!君の頭は結構、撫で心地いいんだ!」

 

「知るか!!」

 

 

いつか。いつかきっと

 

 

「俺はどうすればいいのか、ぜひ君の意見を…」

 

「知らねーよエンデヴァー!!てめぇで勝手にやりゃあいいじゃねーか子供に頼んな!!」

 

「しかしキミは…」

 

「だぁ!!うっせー!!4歳児が大人相手に何ができるんだっつーの!」

 

「いや、しかし君は見事にこの事件を解決に導いたじゃ…」

 

「だぁ!てめぇはホント!!まったくもってしょうがねぇほどに!!くっそぉお!!舐めプ野郎はそこん処だけてめーとソックリだよ!」

 

「…? 誰だソレは?」

 

 

いつかきっと、かっちゃん…

 

 

(キミを、超えてみせる…)

 

 

本当は知ってた。僕は無個性なんだって。知っててあのおじさんが言う誘惑に負けてホイホイついていこうとした。そんな僕や、他の皆を守るために君は戦ってくれた。

 

 

キミはボクのヒーローでもあるんだよ。かっちゃん。

 

 

無個性でも諦めたくない。諦めたりしたくない。

今まで僕や皆を一生懸命守ってくれた君の努力を無駄にはしたくはない。

 

 

だから

 

 

だから、かっちゃん

 

 

(辛そうな顔…してほしくないよ)

 

 

僕が弱いばっかりに、いつも君を苦しめちゃう。傷つかせてしまう。

ごめんね、かっちゃん

 

 

(笑ってる顔、見たいなぁ)

 

 

いつか、君が背負うものを僕も一緒に背負えるように。支え合って、笑いあって、背中を預けられるように強く。

もっと強く強く

 

「『ぷるすうるとら』だ。」

 

僕は、相澤って言う男の人と、憧れのナンバーワンヒーローであるオールマイトに、もみくちゃにされて慌てて反逆しそうなかっちゃんを見ながら、意気込んだ。

あ、かっちゃん顔真っ赤だ。久々に見たなぁ。あんな顔なんだなぁ。かっちゃんの照れた顔って。

 

「照れてる。めずらしいなぁ」

 

そう言いながらクスッて笑ったら、エンデヴァーさんが隣で「天使がいる…っ」ってまた意味の解らない事を言ってた。

 

天使がいるって、どういう意味なんだろう?



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ある日の爆豪くん

お待たせしている第4話のまえに
番外編でかっちゃんの誕生日記念小説を書きたかったのですお許しを…ッ!
しかも誕生日記念小説とかいって遅刻してるし
オリキャラとかでてきちゃったりしてるし!
色々と…書いていくうちに3000文字くれぇでいっかぁとか思ってたら
7000文字超えてたって言うね!
いやぁ、深夜のノリって相変わらず怖いわぁ(´∀`*)ウフフ


 

これは……

 

ある日のカッちゃんとデクくんが、12歳の時の出来事です。

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

どうしようもなく不安になるときがある。

 

それは時折、ふと頭上から降ってきてそのまま俺の中に溶け込んで、不安と、恐怖を煽って蓄積されていく。そうして、段々と俺は中から言い知れない積み重なったモノたちに蝕まれていく。

 

 

「かっちゃん?」

 

 

前から気が付いてはいた。だが、俺は多分…見ようとしなかったんだろう。忙しいと、あいつがあっちいったりこっちいったりして目障りで危なっかしいからと、目を逸らして、これで、このままで良いと。

 

 

そう疑わないようにしてきた。

 

 

でも、もうそれもできねぇ。

 

 

「あのね、かっちゃん。今日僕の家にきて?」

 

「ああ?」

 

「かっちゃん今日、一人でお留守番でしょ?」

 

「…それがどうした」

 

 

俺がどう思ってたって、何を考えてたって、デクはわからねぇ。いや、わかろうともしてねぇ。築いてきた俺たちの、この関係性は前世とは違ェからか、デクの性格が少し…異なってきやがった。

 

 

前のデクなら、俺の仕草や言動を観察し、すぐさま何を思っているのか、何を感じてるのか、一言もしゃべらねぇ内に推測でわかっちまう。まぁ、それでもわかんねぇ時は殴り合って怒鳴り散らかしながら本音を暴露してたな。

 

 

だが、こいつはどうだ。この、デクは。心底お人好しで優しくて笑顔が眩しいのは変わらねぇが…ダメだ。こいつは根本的に甘ったれ野郎に成り下がってきてる…!!

たとえば何かが起こっても「かっちゃんがいるから助けてくれるよ!」や「かっちゃんが勉強見てくれるから、もう少しだけ怠けてようっと♪」やらだ。

 

 

クソ。やっちまった。ちゃんとやれてると思ってたが、大きな間違いだったか…傍にいすぎた。世話を焼き過ぎた。

 

仲良くなりすぎちまった。

 

 

「だから、今日僕の家で勉強会やろうよ!」

 

「てめぇ、まさかまだやってねぇのか。あれ簡単だぞ」

 

「えへへ~?」

 

 

だからか、最近…

 

 

「でもさ、かっちゃんとやったらすっごく楽だからさ!」

 

「…(楽…かよ)クソが」

 

「ええ?!なんで暴言?!」

 

 

コイツと一緒に居るのが辛ぇ

 

 

「だってさぁ、かっちゃんなんだかんだ言いながら一緒にやってくれるし、説明上手いし…おやつ作ってくれるし美味しいし!!」

 

「……」

 

 

どうも最近になってこいつが、このデクの顔が、俺の知る未来のデクの顔に近づいているからか、前世の記憶がフラッシュバックすることが多々ある。そんな中でもやっぱ変わってきちまっているのがデクの性格だ。

 

コイツだけは何があっても変わらねぇって信じていたかった。だが…長年の観察で理解したし、ハッキリとわかったし、受け入れることもできた。

 

 

「デク、お前ちゃんと自分一人の力でやった事あんのか」

 

「え?ないけど。だってかっちゃんが居るし!」

 

「……(またかよ)ちゃんと自分でやりやがれ。俺がいつまでもテメェの傍にいるなんて確証はどこにもねぇんだ」

 

「…どして、そういう事言うの?」

 

「どうしたもなにも───…」

 

「だって!僕は『無個性』だよ?!なんにもできないんだよ!!かっちゃんが!かっちゃんがいなくちゃダメなんだよ!ボクは───…!!」

 

 

コイツが変わってきちまったのは…『俺』のせいだ。

 

 

「ウルセェ…」

 

「かっちゃんが居れば僕は怖くないよ!無個性でもちゃんと生きれる。だってかっちゃんが隣にいてくれるんだもん。ずっとどんなものからでも、かっちゃんが僕を守ってくれるんだもん。そうでしょ?」

 

「───…!」

 

 

『前』の時、こいつに構いっきりになったりしなかった。むしろ目の前から消えろカス!くれぇの勢いで暴力を振るってた。こいつの存在を認めなかったし、こいつがどんなにヒーローになるといっても俺は励ますなんつー事は一切しなかった。

 

 

「ねぇ、かっちゃん何とか言ってよ」

 

「ウルセェ。例えばの話にガッツいてくんなキモイんだよクソナード」

 

「…かっちゃん、言葉に覇気ないけど、どうしたの?」

 

 

むしろ声を大にして意気揚々と「お前なんかヒーローになれねぇよ!」や「屋上からワンチャンダイブしちまえやクソナード!!」なんつー事も平然と言ってみせた。

 

今はもうあんなのは無理だ。これからはこいつを鍛えるために傍にいる…なーんて、俺のエゴで思い上がったばっかりに、俺は俺の一番のものを壊しかけてるなんてなぁ…皮肉すぎんだろ。

 

 

「…」

 

「かっちゃん?」

 

 

俺は

 

 

「な、ど、どうしたのかっちゃん」

 

どうしたらいい?

 

「今までに…見たこともない凄い顔…してるよ?」

 

 

なぁ、教えてくれよ

 

 

「お腹でも痛いの?」

 

 

緑谷出久(おれのヒーロー)

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

とりあえずは、ウルセェクソナードを軽くいなして、一人になりてぇから来るなって言ったが、そんな事で諦めるデクじゃなかった。ああ何でこういう頑固な部分はちっとも変わんねぇんだクソが死ね!!

だから忘れてなかったら行くとだけ言った。そんでブラブラ歩いていると──…少し遠出しちまったある公園で、アイツと出会った。

 

 

「すよすよ…」

 

「……………」

 

 

今時すよすよ…なんつーメルヘンな寝息立てながら寝る奴なんて居たんだな。そう思いながら通り過ぎようとしたら───

 

 

「この、クソ野郎!」

 

 

目に映ったのは、その寝ている無防備な奴へ、勢いよく振りかざされていく長細い銀色と、何かにあたってその場に鳴り響く鈍く痛々しい音と、赤い鮮血が宙に舞う場面。思わずその場に立ち尽くしちまった。

 

 

え?今…何が起こりやがった?

あり得ない出来事が目の前で起こって、とてもじゃねぇが頭の処理が追いつかねぇ。おい、あの鉄パイプ持った男、一体寝ていた奴に何した?

 

「ウ…」

 

 

のろりと起き上がった、頭から血ぃ出してる、俺とそう遠くない年ごろの男子。

 

 

「今ので死なないのかよテメェ…いい加減、死ねよ!!」

 

 

その、心無い男の言葉が、なんでか俺の奥底でくすぶってた何かを揺らしてくるようで。

 

 

「お前なんて生きててもしょうがねぇんだよ!」

 

 

気持ち悪くて

 

 

「死んでくれよ!!もういいだろう?!」

 

 

なんでか嫌で

 

 

「これ以上、誰の邪魔もすんじゃねぇよ!!」

 

 

いてもたってもいられなくて

 

 

「何の役にもたたねぇクソ野郎だろうがお前は!!」

 

 

ポタリ…と血が殴られた男子の頬を伝って地面へ流れ落ちた。それはまるで涙のようだった。痛い、苦しい、悲しい。色々な感情が籠ってそうなソレはポタ、ポタリ落ちてって、男子の顔は俯いててよくわかんなかった。

 

わかってるのは、こいつは怪我をしてるって事で。泣いてるわけでも、痛そうにしているわけでもなく…ただただ、自分を傷つけた喚いている男を静かに見守るようなとっても優しい眼で見ていた。

 

 

何者なんだ…?こいつ。

 

そう思っている矢先に、そいつは男に歩み寄って

 

 

「お、おいっ」

 

 

そいつは今しがた、てめぇを殺そうとしてただろうが!って言おうとしたら、ソイツの口が静かに開いた

 

 

「おとーさん」

 

「!!」

 

 

父親だったのかよ…

 

 

そいつは実の父親があんな事をやってのけたのに、あまつさえそれをすべて受け止めるかのような、男前の笑顔でニッと笑った。

 

 

「ごめんね…?でも、出来る限り邪魔にならないようにするよ…約束する。高校生になったら。いや、中学生になったら、一人暮らしする。おかーさんと一緒にずっと暮らしてあげて…」

 

 

その言葉を聞いてポカンとするのは、俺だけじゃなかった。あいつの父親もポカンと呆けた顔で、ただただニッコリ、嫌なくらい綺麗な笑みを見せる男子を、得体のしれないモノを見るような眼で見てた。

 

 

「あ、金もいらない。おかーさんをどんなモノからでも守ってくれさえすれば…俺は身を引く。」

 

「ヒッ…こ、今度は俺を殺しに来るんだろう?!そうだろう?!?!なぁ!!お前はそういうヤツだ!!近づくな!!俺に触るなぁ!!」

 

 

どう見たって男子は離れてるし、触ろうともしてねぇ。なのになんだコイツ?

 

「ごめん…」

 

なのに白緑色の髪を持つガキは、自分が悪者だと言わんばかりに、申し訳なさそうな顔で謝る。逆だろうが。あいつが、父親のアイツがお前に謝らなきゃいけねぇだろうが…それに未成年に暴力を振るったあの父親の方が圧倒的に悪い。

 

ガキと女に手を出す奴らは殺してやりたくなるほどだ。それなのに、あのガキは見た目からは到底思えねぇような風格で。

 

アイツ本当に俺と同い年のガキか?

白緑色の、長い前髪からチラリと見える少し鋭い、けれど優しい光を宿すガーデングラスの眼は、やけに綺麗と思わせた。

 

男は、何がそんなに恐ろしくなったのか、いきなり駆け出して去って行った。その場にのこされたガキは、フゥと一息つくと、元のベンチへと腰かけた。ああ、そういえばこいつ、頭に怪我してんだったよな。

 

 

「…昔はさ、良い人だったんだ」

 

 

そいつは、目を伏せたままひとり言のように語りかけてきた。俺に話してほしいんじゃないってことくれぇ、わかった。いうなりゃ、聞いてってくれって言わんばかりの、でも嫌なら帰ってくれてもかまわない。そんな風に言われているような気がした。

 

 

「だけど、何がいけなかったんだろうなぁ」

 

 

口元はニッコリと笑っている。だが

 

 

「俺の個性がさ、発現してからはさぁ…だんだん狂っていっちゃったんだよねぇ…」

 

 

目は…とても深い悲しみで染まっていた。

 

 

「いっそのこと無個性で生まれてくれば良かったのかもな」

 

 

なーんてな。そう言いながら、そいつは乾いた笑いを零した

 

 

「…無責任な事いうんじゃねぇよ」

 

「…」

 

「『無個性』に生まれてきてたら…だと?そいつらの苦しみも悲しみもあざ笑う言葉だな」

 

 

思わずソイツのトコへいって、首元を両手でつかんで睨みつけてやった。

 

 

「ふざけんなよテメェ。個性があるだけで恵まれてんのに、個性を持つ俺たちがンな事言ったらお前、無個性の奴らの立場がなくなるじゃねぇか!ザケンなよクソが!!」

 

「…そ、うだ…な…悪かった」

 

「ハン。わかったならもう二度とンなバカな事言ううんじゃねぇよクソが死ね」

 

 

そう言ってからハッとした。やべぇ。今さっきまでコイツ、実の父親にDVやられてて、それを今の俺の言葉で──

 

なんて考えて焦った俺を見て、そいつは

 

 

「プッ!」

 

 

気が抜けたように、笑った。その瞬間もの凄い恥ずかしくなって、一気に顔に熱が集結した。

 

 

「なに笑ってんだテメェ!!」

 

「ああ~ゴメンゴメン。俺に死ねって言って、すぐ後にオロオロしてくれたのお前がハジメテでさ」

 

その言葉を聞いてギクリとした。おい、その話し方だと、お前は常日頃…周りから死ねって言われ続けられて…?

 

「なんだか、嬉しくなっちゃったんだよな。心配、してくれたんだろ?」

 

「あ?」

 

「トラウマをほじくり返したかもしれねぇ。やっべ!とか思っちゃったり?」

 

クシシシと笑う白緑の奴を見ながら

 

「てめぇ、もしかして」

 

「ああ、うん。もうしょうがないかなって開き直ってるけど」

 

「開き直ってる…?」

 

「ていうか、面倒くさい」

 

「面倒くせぇだと?!それで片付けんのかテメェは?!?!」

 

「うん」

 

 

ケロリとしたソイツの顔を見て、ハァ~~~~と長く溜息を吐く。当人がこうなんだ。俺がとやかく首を突っ込むところじゃねぇな。

 

つか、こいつ…

 

「ケガ…」

 

「ああ、治る。まぁ、酷かったら治らなかったり、一生残るような傷もできるだろうけど、今さっきの程度なら俺の個性で防御して攻撃受けて、それから傷を手当するのに回せるけど…癒せるのは俺の傷だけで、他の人にとっちゃ毒になる」

 

どことなく寂しそうにそう呟くこいつの顔を見つめる。不思議と親近感を感じた。

 

「すげぇな…お前」

 

「なにが?」

 

 

小首をかしげたそいつの髪が、風に揺れる

 

 

「普通のガキだったら」

 

「…ああ。そうだな…俺、普通じゃねぇしなぁ」

 

 

普通じゃいられなかったからな。だからこうなった。

 

そう言いながら笑うソイツを、俺は笑えなかった

 

 

「そうか」

 

「ああ」

 

 

ただ、お前も色々あったんだなと思っても、それ以上は踏み込まないように踏ん張るだけだ。

 

 

「あ、俺の名前さ、尖水 (とがみ)(しん)っていうんだ。12歳」

 

「マジかよ同い年…」

 

 

下手すりゃ俺の年上じゃねぇのって思うくれぇ、精神面強くて随分大人びてて

 

 

「爆豪勝己だ」

 

 

と、自己紹介していた。

 

 

「爆豪か。よろしくな。ところでお前はこんなところで悩める迷子の子羊のような顔をして歩いてたが、一体なんで??」

 

 

思えばその言葉がキッカケだったのかもしれねぇ。

 

 

「…幼馴染の話なんだがよぉ」

 

 

何年も誰にも言えなかったこの、息苦しいモヤモヤした色んなものを…抱えきれなくなったから。俺はいつになく素直に吐き出し始めた。こいつが聞き上手だったからか、それともなにか俺と似たような雰囲気を持つからかはわからねぇが。

 

重く積み重なった色んなモンが、こいつに話していくことで外に吐き出されて、そんで跡形もなく消えていった。まるではじめから、んなモンなかったかのように。

 

 

「そうかぁ。お前も大変なんだな」

 

 

最後に苦笑しながら言われたその言葉に、気が付くとすでに夕飯の時間だと気が付いて。もう帰る時間だよな?と言われて正直渋った自分が居て自分でビックリしちまった。おいおい…なんで渋ったよ?

まさかもっとこいつと一緒に居たいなんて…思ってるな俺

 

 

「そんな顔するなって。ホラ、また明日同じ時間でよかったら、会おうぜ?」

 

「…………………………」

 

「ばくごう?」

 

「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………おう」

 

「重症かよ」

 

 

ハハハッと笑われてムッとしながら、俺は渋々

 

 

「またな」

 

「ああ。まったな~」

 

 

帰ることにした。

 

 

ひらひらとお気楽そうにニヘラと笑いながら手を振る様は、やっぱ同い年っつー実感がわかねぇ。あいつ、年齢詐欺にもほどがあんぞ…

 

それでも、ソイツと一緒の時はなんだか心が軽くなる。色んなモン、抱えてる自分がじつにバカらしく思えてくる。

 

 

「また、あえっかな」

 

 

そう言えば、デクのヤツ…家来いっつってたな

 

 

「五時…」

 

 

到底、宿題ができなくて俺も現れなくって泣きべそかいてる頃だろうな

 

 

「ケッ。ザマァ見ろクソナード」

 

 

これに懲りたら少し自分でも努力をしはじめろ

 

色々デクへ心の中で悪態つきながら、デクの家のインターホンを鳴らす。すると奥の方からドタドタとやかましい音が。

 

 

「かっちゃん!!」

 

「ウルセェ」

 

 

なんで確認もなしに俺だとわかった?

 

「来てくれてよかったぁ!もう、来てくれないんじゃないかって心配したよ~。今日のかっちゃん、追い詰められてるような顔だったから…ちょっと心配してたんだけど…あ、でもちょこっとだけだよ?かっちゃんは強いってわかってるけど、でも僕心配しててそれで今日誘っても来てくれるかなってしんぱ「長ぇ!いいから用件言えやコラクソ死ね!」う、うんわかった。えっと…とにかく入って」

 

 

ノンブレスでつらつら言い始めたコイツを一言でやめさせた。それからデクがスタスタ歩いていく。そういえばこいつを少しトレーニングさせてて思ったが、こいつ運動のセンスゼロだ。だがそれは怠けててそうなった身体だ。もう少ししたら失敗も少なくなるだろう。

 

まぁ、弱音はいて止めたいなんて言うだろうが、俺が付きっきりなんだ。止めさせるわけねぇわな。

 

つーかゲロ吐くほどしごいたるわ!!

 

と、そんなことを考えながら奥の部屋に入った時、パンパン!!と何かの破裂音が聞こえた。そして頭上からカラフルな四角い紙と長細い色の紙が降って来た。

 

 

「「「お誕生日おめでとう!!」」」

 

 

親父とババァ。おばさんとデクがそこにいて。中央にはいろんな料理を置いた机と、結構でけぇケーキ。ちゃんと名前が書かれていた。

 

刺さってるローソクの炎が揺れた気がした。

 

 

「こ、れ…」

 

 

驚いて反応しきれないでいると、皆がニヤニヤしながら言ってきた。いわゆる今日は俺の誕生日。すっかり忘れてた。そんでデクが言った宿題の話は俺を誘うための口実で。

 

 

「だからあんな…」

 

 

おおよそデクらしくねぇ言葉を吐きやがったのか。必死に俺に来てもらおうと?バカじゃねぇのコイツ。お前のその奇怪な行動のせいでこちとらヒデェ思いしちまったっつーのに。

 

 

「あいだっ?!なんでデコピン僕に?!?!」

 

「うっせぇ。それだけで済まされると思うなよクソデク。特訓のメニュー明日から10倍な」

 

「うえぇぇえええ?!?!」

 

 

まぁ、なんだかんだ俺もその残りの日を楽しめた。

 

こういうのもなんだが…そうだな……この日を清々しく終わらせられたのも、尖水(とがみ)のおかげだな。

 

 

あわよくば、あいつも。

 

 

(あいつにもいつか)

 

 

平穏が訪れることを、ローソクを消す時のたくさんの願い事の中にひっそりと潜ませた。

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

今回出てきたオリキャラですが、仲良くしてもらってる静さんにお借りしました(どゆことー?)あ、許可されてます。そこんところは抜かり在りません。

 

以下、お借りしたオリキャラ設定です↓

 

 

 

尖水(とがみ) (しん)

 

 

白緑の髪にガーデングラスの眼を持つ。

個性は水銀を自在に操れる。僅かになら生成する事も可能。

 

 

性格は基本、面倒くさがりで暇があれば昼寝をしてる。

でも温情深くて仲間思い。一度決めた事はどんな事があっても曲げないしやり遂げる。

好奇心は強くて面白い事も好き。常識人。

 

 

個性の水銀は液体、固体、気体まで自由に操れて、その気になれば気体にして水銀中毒を起こす事も出来る。

 

(尖水君は毒の耐性を持ってる)

 

でもその危険性で、周りからはあまり良く思われてない。

その為もし攻撃に使うとしたら、水銀の重さを利用して鈍器やムチにして戦う。

 

 

では、次があればまた、寄ってってくださいね(=゚ω゚)ノ



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第4話 その瞳に映るのは

やっと書けたこの話…迷いに迷いましたが書きました。
今回は轟親子がかっちゃんに迷惑かけちゃいます。
後編は結構シリアスです。尖水くんとデクくんが出会ったのは
あの公園でデク君は泣いていて───…?

尖水「まったく。こいつら一人にしたらロクなほうに進まないからメンドイよなー」
かっちゃん「んだとコラぁ?!もいっぺん言ってみやがれ尖水!!」
尖水「まったく。こいつら一人にしたらロクなほうに進まな「本当にやるな!遊ぶな!!」…バレたか」
かっちゃん「バレバレだっつーの!!」
デク「二人とも相変わらずすっごい仲良いよね」
尖・か「「ハァ?」」
デク「ワァすごーい息ピッタリだー(棒読み)」


それは爆豪勝己という少年が12歳になった時に起こった。

 

 

「…おいエンデヴァー」

 

「なんだ爆豪」

 

「なんでてめーの息子持って来やがった」

 

目の前には物凄く見慣れた赤と白の髪を持つ、父親を先ほどから睨みつけている同い年の子供がいた。

ヒデェ目だな…。爆豪はそう思いながらため息をした。四歳の時に三回くらい隠れて見て、七歳の時に何度か無理やり会わせようと必死だったエンデヴァーを軽く回避していた頃を思い出す。たしかあの時はここまで拗らせてはいなかったハズ。

 

四年間の間に何があった。

 

(デクのヤツ、こんな奴をよく救えたな…)

 

自分は無理だと爆豪は悟った。これは自分の手に余る。だって自分は破壊しかできない手なのだから。可愛い子ぶったり愛想良くなんてできない。どうやったって顔は不愛想になったり、逆に激怒して怖がらせてしまう。

 

相手を安心させることができた記憶なんて、ない。相手を怖がらせるか、相手を威嚇して成功してきたことだけは覚えている。というよりそう言う記憶しかない。むしろそっちが得意だ何故だ。

ヒーローになった後でもそれはほとんど変わらなかったように思う。

 

レスキュー自体の成績は昔から雄英でもほとんど上がらなかった。それでもヒーローになって出久の隣に立てたのは、努力を怠らなかったから。

自分は何でもこなすことのできる天才肌という奴だと言われても、それが当たり前だと思ってた時期もあったが、その視点を変えてみたら、出久が目に入った。

 

あいつは努力の天才だ…と、貶すばかりだった出久への自分の思考が変わった。変わっていったのだ。

そして認めた。認める事が出来たのだ。あいつはオールマイトが選んだだけの事はある人間だった。力を継承しただけの価値ある人間だったのだ。力がなかったからといって蔑んでいい対象ではなかった。

 

道端の石ころでも努力を惜しまず諦めずに希望を胸にし、突き進めば必ず突破口はあると、空に輝く一番星にだってなれるのだと、出久を見て勝己は思ったのだ。

そんな彼を見て、彼以外に(オールマイトを除いて)ナンバーワンヒーローなど居るはずがない。

そこまで勝己が思うようになったほど出久は本当に理想の、それでさえ、かつてのオールマイトのような、人々を笑顔にし希望を抱かせるような大きな存在となっていったのだった。

 

まぁ、そのせいで危ないヴィラン共から命を狙われていたが。

 

「息子を連れてくると連絡したはずだが?」

 

キョトン顔でそう話すエンデヴァーを見て、腹が立った勝己は怒鳴った。

 

「許可してねーよ!つーか、なんでてめーが俺の連絡先知ってんだよ!!」

「ヒーローとはそういうものだ」

「ちっげぇだろ!!つーかンなもんにヒーローの特権使ってんじゃねぇよ!!人をバカにすんのもいい加減にしやがれよ?!」

「? バカにしてないぞ?むしろお前のようなお子様がここまでできるとは思ってなかった。どういった教育をすれば、どういった特訓をすればお前のように奇才になるのか是非とも両親と話をしt」

「とぼけた顔すんじゃねぇよ舐めプ野郎二号!!誰がさせるかよ!!てーかてめぇはソイツ連れてさっさと帰りやがれ!!」

 

そうしてまたも勃発するは爆発と衝撃波と炎。さきほどから一向に帰る気配のないエンデヴァー親子を追い返そうとして、勝己がエンデヴァーと何故か戦っている。もちろんエンデヴァーは少し手加減していたのだが…

 

(先ほどより、力も瞬発力もあがっている…?)

 

弱まるどころか一向に疲れも感じないのか、どんどんと勝己の威力が増していっている。素早さも劣るどころかますます早くなっているのだ。

 

(どういうことだ…?)

 

たんに、12歳になってもっと筋力増幅できて、やれることが色々増えたために勝己の昔の記憶と身体が馴染んできて、前世で得た知識と経験から動きにムラがなくなって疲れにくくなっているだけで。

個性もだんだん勝己の“言う事”を聞くようになったからでもある。どうやらよっぽどの事でもない限り、四歳から七歳の頃に個性が暴走することはないらしい。医学的に言うなら身体がリミッターをつくっているからだとか。

 

(この子供の成長の底が見えない…!)

 

エンデヴァーは目の前の年端もいかぬ子どもを見ながら、しかし彼の繰り出す攻撃と、その子供とは思えない集中力と表情にゾクゾクしていた。こんなに戦って一喜一憂するなどと、何年ぶりだろうか?

 

「隙ありぃ!」

「しまっ!」

 

考え事をして隙を作ったエンデヴァーに、今の勝己のキックは効くようで。咄嗟にガードした彼の腕が反動で上に弾かれた。

しまったと焦りを顔に出した瞬間、勝己の顔が喜びでいっぱいになる。目は見開かれて口元はみるみるうちに上がる。ちょっと待てあれが12歳の笑顔か?いや違う絶対に違う断じて違う。

 

「しねぇぇぇえええカスがぁああ!!」

 

なんとも興奮したその叫び声を聴いて、おいコラ死ねってなんだ死ねって?と一瞬思ったが…叫びながら彼が何の迷いもなく上半身を屈めて、蹴りかぶったところを見て咄嗟に飛びのこうとするが、それを勝己はさせてくれない。

 

「!」

 

仕方なしにガードするしか選択肢がなかった。

しかし爆豪勝己という少年は、戦闘においての作戦までも考慮するのが上手いらしく──…ガードする前に、恐ろしいほどの速さで勝己が間合いに入り込んできた。そのまま攻撃のモーション──ヤバい。

 

(来る!!)

 

そう疑わなかった。

 

「…?」

 

だかしかし、衝撃が来ない。

不思議に思って目を開けると、そこには何とも言えない嬉しそうなニヤリ顔の勝己。伸ばされているのは彼の左足。その足がピタリと攻撃態勢のまま、触れるか触れないかのギリギリな距離でエンデヴァーの腹に向いたまま空中で止まっていた。

 

(つぶ)ったな?」

 

勝己の笑顔はしてやったり。と笑っている

 

「ナンバーツーともあろうエンデヴァーが…俺みてぇなガキの攻撃を避けきれずに、目ぇ、(つぶ)ったな?」

「!!」

 

その事実を言われるまで気が付かなかった。そうだ。自分は今、確実に攻撃が“来る”と予測し理解し、対処しようとした。だが、しきれなかったのだ。

そして、あろう事かプロヒーローで実力も高い己に『恐怖』を抱かせた。スピードで圧倒しながらその都度(つど)翻弄(ほんろう)された。“必ず来る攻撃”だと信じこまされ、身体を硬直させ、その勢いと彼自身の膨れ上がった殺気と何かの“圧力”によって恐怖を感じてしまった。

 

よって目を(つぶ)ってしまったのだ。

 

ヴィラン戦において目を(つぶ)る行為は死を意味する。

 

それが模擬戦や戦闘訓練だとしてもだ。相手が誰であろうと、目を瞑ってはいけない。戦うにしても逃げるにしても…

 

なのに。

 

それなのに。

 

今自分は…何をされた?

 

目を……意図的に(つぶ)らされた?

 

数多のヴィラン共と幾戦と戦ってきたエンデヴァーが。

あの、実力と共に皆に認められた、プロヒーロー№2のエンデヴァーが。

 

「このクソガキ…」

 

口では悪態つきながらも、口元は嬉しそうにニヤリと笑っている。なんとも楽しそうに口元が上がっている。

 

「なんだよ火親父さんよ。」

「火事親父みたく言うな。」

「じゃあ2」

「2?!」

「舐めプ野郎二号。№2ヒーロー。面倒くせぇから全部まとめてくっつけて縮めて2だ文句あっか」

「文句しかないが?!」

「うるせぇ。もう決めた」

 

エンデヴァーは、勝己の実力をかなり認めている。

そのうえ、お気に入りでもある。四歳児でヴィラン共に立ち向かい、心揺ぎ無く最後まで立ち上がっていた姿は素直に感心したし、そのとても幼稚園児とは思えない精神面の強さに惹かれた。

 

実を言えば何度も勝己と焦凍を会わせようと目論んでいたが、何故かことごとく断られるわ、秘密裏に会わせようとすればすぐにバレて計画失敗に終わるわで結果は残念なものになっていた。

 

なので少し間をおいてから何の計画もなしに、12歳になった焦凍を連れてきた。すでに自分の手には負えないほどだったし、それにと、焦凍を見つめる。

思っていた通りだとエンデヴァーは思った。ついさっきまで勝己に無関心だった焦凍も先ほどの戦いで勝己に興味を持ったらしかった。だって目が少しだけ、ほんの少しだけマシになった気がするから。

 

「お前すげぇな…クソ親父を騙せるほど演技上手ぇんだな」

「お前それどういう意味で言ってやがるああん?」

「いや?ただ口も顔もフザケタ不良みてぇな奴なのに、戦い方とか身のこなしとか…あと戦うフォルムとでもいうか…そんなのが熟練されててすっげぇキレイだなって思った。ドブ親父とタイマン出来る奴なんて同年代でいたなんてびっくりだ」

「ああ?!そりゃ褒めてんのか貶してんのかどっちだ舐めプ野郎?!」

 

しかし悲しいかな…己の息子が天然すぎて相手を逆に煽ってしまってるし、なにより先ほどから親である自分をさりげなく貶してくる。

 

「焦凍ぉ……」

 

もっと人間関係について教えるべきだったか…ガクリとエンデヴァーは項垂れた。

 

「そう言えば…お前にくっついて離れなかった緑色の子供…緑谷といったか?姿が見えないが…」

「知らねえよあんな奴」

 

今まで聞いたこともない心底冷えきった声が勝己の口から放たれて。一瞬二人に寒気がしたほどで。

何かが。何かが二人の間に起こった。そしてそれは触れるべきではないとエンデヴァーは悟った。

 

「そうか…」

「…もう、帰れ」

「…」

 

どことなく冷たく、しかし憂いた背中を見て何かを言いかけた焦凍を制止して。

 

「そうか。わかった。邪魔したな」

「ホントにな」

「また来る」

「くんな!ヒマ人かよ!!」

「俺も来るぞ」

「お前は一層くんな舐めプ野郎がッ!!」

 

一喝する爆豪だったが、いつもの覇気がない。ないが怒っているのはたしか。

 

「お前…面白い奴だな」

「真顔で んな事言われても笑えねぇよ!!」

「冗談じゃないぞ。本気でそう思う」

「余計にたち悪ぃじゃねーかよ!!」

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

グズグズと、出久は泣いていた。

 

(かっちゃん…)

 

彼はいつものように帰路の途中で出会った勝己に声をかけた。しかし勝己は昔のように嫌々ながらも面倒を見る彼ではなくなってしまっていた。

他の同年代の子たちがやってきて出久を馬鹿にする。しまいには殴りかかってくる。弱い者いじめと言うやつだ。

昔は少しだけ存在したソレが、今は活発になってきてしまっていたのには理由があった。

 

爆豪勝己という少年が理由だ。今まで正義(ヒーロー)という名を背負うに相応しい男だった彼が、何故か12歳になった最近、出久への態度が激変したのだ。

 

無個性だからといって絶対にバカにしてこなかった彼が

 

力がない自分でも頑張ってヒーローを目指しているのを誰よりも知っているハズのあの勝己が

 

同世代の子たちとつるみ、笑いながら出久を馬鹿にし貶し、そして虐めてきたのだ。最初は信じられなかった。何かの冗談だと思った。だがそうやって勝己の事を信じようとする出久の心を、勝己はいとも簡単に踏みにじってしまった。

なんなんだ。一体どうしてしまったのだ。こんなの彼らしくないではないか。

 

「ちく、しょう……」

 

無個性だと馬鹿にし始めて、挙句の果てに手を出してきた。キミはそんなダサい男じゃないだろ!そんな風に弱い者を下だと見下す人を、君は一番嫌っていただろ!

 

「ちくしょう!!」

 

僕だって。僕だって個性さえあれば。

 

「一生懸命、頑張ってるのに……ッなのに…!人の頑張りを嗤う奴らとつるむなんて…キミらしくないじゃないか……!」

 

そう悔しく吐き出すと、ようやっと勝己は出久を真っ直ぐ見つめた。そしてこういったのだ

 

「てめぇに、俺の何がわかるんだよ…?ええ?俺が守ってやらねぇと、何にもできねぇ石っころの意気地なしのデクがぁあ!」

「…ッ」

 

彼の顔は、恐ろしいほど無表情だった。しかしなぜか出久には……彼が泣いているような錯覚がした。だから息をのんでしまった。あまりの彼の痛々しい姿に。

 

(痛々しい……?)

 

それはおかしい。だって、痛いのは自分の心と身体なのに。それよりも目の前の、親友であり幼馴染の勝己を見て、自分よりもずっとずっと痛々しいと感じるだなんて。

いや…もはや親友ではない。ただの幼馴染。

 

いやそれよりも。

 

(そうか…僕だけが君の事、親友って思ってたんだね…)

 

勝己は違ったのだと、この時デクは思った。

 

(僕だけが君の事…信頼してたんだね…)

 

そう言えば、勝己の気持ちも何を考えていたのかも、思考した事はなかった。“爆豪勝己ならば大丈夫”。何故かそう思って安心していた。そんな根拠などどこにもないのに。

何かに追い詰められていたのかな。何かを気に病んでたのかもしれない。やっぱり好きでもない相手をずっと助けてきてボロボロになって…なり続けてきたから限界を超えてしまったのかもしれない。

 

(かっちゃんがこうなったのは…僕のせいかもしれない…)

 

彼とちゃんと向き合ってこなかった自分が悪いのだ。

 

(ごめんね。かっちゃん)

 

頼りっぱなしで、寄りかかりすぎたのだ。自分の背負うはずの重みを、勝己に丸投げてたのかもしれない。

 

「もう…遅いのかな……」

 

取り戻せないのかな……

 

「前みたいな…かっこいい爆豪勝己(ボクのヒーロー)

 

出久の脳裏には、どこまでも頼もしくって、弱さなど見たことがない、弱くあった時など見たこともなかった幼馴染の姿が浮かんでいた。

親から聞くところによると、どうやら赤ん坊の頃から勝己は自分の面倒をよく見ていたらしい。

 

「はは…僕……かっちゃんの荷物だったんだね…」

 

ポツリと吐き出したその自分の言葉に、なんだかズキリと自分自身傷ついてしまった。

 

これからどうすればいいのだろう。どうやって生きていけばいいのだろう…?自分なんてヒーローを目指す限り、きっと勝己の勘に障ってしまう。

邪魔になってしまう。荷物になってしまう。彼の夢を……自分が潰してしまう

 

「そんなのヤダ……」

 

またポロポロと零れ始めた涙を、乱暴に拭う。だが止まってはくれない。

 

『てめぇなんぞ、さっさとそこらへんのヴィランにでも捕まっちまえよ』

 

言われた言葉が、自然と脳裏に浮かんでくる。その言葉を聞いて重なる背中は、いつも何故かヴィランや問題に巻き込まれがちな出久を、ボロボロになっても何年も助け続けたカッコいい小さな背中。

 

『頭だけ良くっても個性がなくっちゃなぁ?どーしようもねぇよなぁ?』

 

風邪を引くたびに、ぶっきらぼうなしかめっ面で、看病してくれた。休んだ分のノートを写して持って来てくれた(ノートには細かく解説されていたり、先生の説明した部分などがあってとってもわかりやすかった)

 

『諦めちまえよ。そうしたら楽だ。』

『どーせ立ち向かう根性も個性もなーんもねぇんだ』

『諦めて、警察官にでもなったほうがいいんじゃねーか』

 

数々のその言葉が、出久の頭の中でリピートする。その度に悔しさが、疎外感が、あふれて胸の中で暴れまわる。

身体が震えるのを必死に止めようと、自分で自分の身体を抱くように(うずくま)った

 

勝己の邪魔にだけはなりたくはない。

 

「でも…かっちゃ……僕…ゆめ、諦めるのも……ヤダよぉ…!」

 

その震える丸まった背中に、ポンポンという小さく、優しい振動があると気が付いて、顔を上げればそこに居たのは

 

「どうしたどうした少年」

 

半分呆れたような面倒くさそうな、もう半分心配しているような声

 

「何をそんなに嘆いているのかね?」

 

ワザとらしくキザなおじさんのように喋って首を傾げている。親身になって事情を聞きだそうとしている。

 

「お兄さん…誰?」

「お兄さん…?」

 

何とも輝かしい、キレイな白緑の髪が風に揺れていて。ガーデングラスの眼がキラキラと夕陽の光を反射してとても幻想的だと出久は思った。

 

「ぷっ…!お前って面白い事を言う奴だよな」

 

随分と大人びた彼は、幾歳か年上に見えたのでお兄さんと呼んだのだが、相手はソレを聞いてプスクス笑っている。

 

「わりぃわりぃ。あんまりにもツボに入ったから」

「それにしたって、酷いよ…初対面なのに。ボク落ち込んでる時にさ…」

「ああ悪かったって。ほら。ここ座れ?話ならいくらでも聞いてやんぜ?」

 

その彼のやさしさに、少しだけ甘えてみようと思った。ズタズタのボロボロになってしまった自分の心の依り代を少しだけでも───…そう、少しだけだ。けっして同じ過ちは繰り返さない。

 

(かっちゃんに寄りかかって傷つけたようには、しない…)

 

グッと奥歯を噛みしめて嗚咽を押し殺した。

 

「じつは…」

 

声が震える。震えるけれど──…

 

「僕……」

 

誰かに聞いてほしかった。この悲しみを、苦しみを何処かに吐き出したかった。グルグルと渦巻いた胸の中の何かに、自分自身が押しつぶされて壊れて消えてしまうその前に…どこかに吐き出したかったのだ……

 

 

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

 

「………やりすぎだろ爆豪」

 

長い長い話を長い時間話し続けた出久。泣き疲れて眠ってしまうまで彼、尖水(とがみ)(しん)は根強く話を聞き続けた。結果今は自分の膝を出久に枕代わりとして貸してあげている。

 

出久は自分が何処をどう歩いたかわかってなかったらしかった。ずっと泣きながら歩き続けて、見知らぬ公園、つまりは尖水がいつもグースカ寝ている──勝己が色々なものに押しつぶされそうになった時に訪れる──公園に出久が入ってきてそのままずっと蹲って泣いていた。

 

さすがのちょい面倒くさがりの尖水も、目の前でメソメソ泣きながら、延々とブツブツブツと自分の思考を言い続けるこの少年が哀れに思えてきて。思わず手を差し伸べていた。

自分にできる事と言えば話を聞くことくらいだが、それでスッキリできればと、辛抱強く心して聞いていたのだ(勝己の時は半分頭からすっぽり抜け落ちる。大半が悪口か暴言だからだ)

 

出久は身に起き続けている出来事が相当なショックだったらしく、最初軽くパニクっていて何を話しているのか全くさっぱりわからなかったのだが。

段々と落ち着いてきたのが幸いして、彼はキチンと話すことができるまで回復していた。きっと色々我慢し続けて呑み込んできたために、言葉がありすぎて何をどう話せばいいのかすらわからなくなっていたのだろう。

 

フサフサな緑色の髪を撫でる

 

「“お兄さん”ねぇ…」

 

ぷっくく。とまだ静かに笑えてしまう。

 

「俺、お前と同い年なんだがなぁ」

 

まったく。悩みが絶えないな。お前も爆豪も。

 

「お兄さん…うん…悪くはないかもな」

 

ニマニマ笑いながら、ナデナデする手は止めずに

 

「なってやるか…?“お前ら”の兄に…」

 

言って自分ですぐ否定した。面白おかしく笑いながら。

 

「ぷっくく。なーに言ってんだか。ナイナイ…そんな事…」

 

ピタリと先ほどまで出久の頭を撫でていた手が止まる

 

「俺に、兄なんて…務まるワケねーよ…罪深い俺なんか…」

 

ふー…と息を出して。そして吸った。ブルリと出久がかすかに震えた。それを見計らって揺さぶって起こす。辺りはすでに星や月が出ていた。

 

「おーい。おっきろー」

「ん…」

「もうそろそろ家、帰らなきゃいけなくねぇ?」

「ん?」

 

ぼへーとなんとも面白い寝ぼけ顔を晒している出久。みるみるうちに何が起こったのか、把握したらしい。あわあわと顔を真っ赤にしながらお礼と謝罪を兼ねてお辞儀をしてきた。

 

「いーっていーって。気にすんな。俺は毎日ここにきてるし、よければ話でも愚痴でもいくらでも聞くぜ?」

「ほ、ホント?!」

「ホントホントー」

「で、でも…悪いですよ…」

「遠慮すんなってー。俺なんッもすることねーから」

「…それ、笑顔でいいます?」

「…あはは~。俺も暇をつぶせるし。お前はスッキリできる。お互いメリットあんじゃん?」

 

面倒そうに、しかしニッカと笑うその笑顔に。その優しさに。もっと、もっと甘えていたくなってしまって。

 

「じ、じゃあ…これからも、よろしくお願いします…」

「ウーイー。よっろしくなー」

 

出された手を、迷いながらも握った。

 

 

 

 

その日、夜遅いから途中まで送っていく尖水。出久を帰らせた後、もう片方の“弟分”の処へコッソリのぞき見していった。

 

「よいっ」

 

腰にいつも下げている、蓋をした試験管みたいな長細い銀色の瓶の蓋をとる。手を上にあげると中に入っていた物質は彼の身体を持ち上げた。相手には見えない角度で二階の勝己の部屋の窓から覗き見る。

 

「……バカ野郎…」

 

泣くほど辛いなら、最初からやんな。そう言いたくなるほどに、いつもの強気の勝己はいなかった。電気を消した部屋の隅っこに蹲って、何をするわけもなくジッと壁を見ながら泣いている。

静かに静かに、声を上げることもなく泣いていた。顔は感情が抜け落ちたかのような無表情。

 

「チッ…どいつもこいつも……」

 

だめだ。こいつらを一人にしちゃ駄目だ。

 

「結局オレかぁ…」

 

面倒くさそうに頭を掻いた尖水は、水銀を操って帰っていった。途中、水銀をもとの試験管のような中にしまった。改めて空を眺める。半月をボーっと見つめながら考えた。

 

「…うし。この作戦でいこう」

 

彼の頭の中で一瞬で構築された作戦。それを実行するのは明日。指をパキポキ鳴らす尖水は面倒そうに間延びしてから、首を鳴らした。

 

「あ~面倒くせぇなぁ」

 

しかしその声は怠そうでも、しっかりと目的を果たそうとしているような、力強い意志が籠っていた。

 

 

 

その瞳に映るのは───…

 

 

 

 

…───揺ぎ無い覚悟



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第5話 My hero

今回の話は結構詰めに詰めました。いよいよカッちゃんとデクくんが雄英に入るときがきましたよ!
個性把握テストもありまっせ!もちろん借りたオリキャラ君の事も少しわかるような、わからないような…

デクくんとかっちゃん…いや、オリジン組は大好きな私ですが
実をいうと相澤センセーも大好きなんです。
やる気がなくてやらない時とやる時のギャップがたまんねぇ……
何だよあんた!カカシ先生かよこのヤロウ大好きですありがとうございます!!!


心の中で…子供が泣いている。

それは幻なのか、たんに感覚的なモノなのかわからないけど

でも、たしかに

そこで泣いてるんだ───…

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

「ああ、嫌な夢見たな…」

 

尖水は、その呑気な怠そうな声に反して、汗だくで起きた。その顔は青白くて身体は震えている。

 

「あれから…もう11年」

 

そして、そのまま起き上がりながら、頬に伝う幾筋もの雫をそのままに。

 

「ああ…ホンット……」

 

雫がポタポタと床へ滴る。そうして消えていく。一つ一つゆっくりと。口元はほのかに笑っていて

 

 

「最悪だなぁ……」

 

しかし瞳は細く、哀しく光っていた

 

今日もまた、彼にとっての苦行難行(にちじょう)が始まる。

涙をぬぐって、鏡の前でいつもの表情の練習をしながら歯を磨く。そうして朝の5時ごろには家を出るのが日課だ。

 

彼はあまり家に滞在できない理由があった。だから───

 

「いってきます…」

 

父も母も寝ている中、誰も返事をしない冷たい空間にそう呼びかけるようにぽつりと呟く。勿論返事はない。少し寂しく思うも、ケンカなしで家を出られるのならば、寂しい思いをした方がよっぽどいい。

 

相手に怯えられて攻撃されて。泣きそうな顔で、恐怖した顔でこちらを見る瞳と遭遇しないだけでもかなりの儲けもの。そう自分を納得させながらドアを閉める。

 

「さぁてと~?今日はどっちが相談してくる日だ?」

 

彼の脳裏には緑色の髪の子と、薄い金髪の子が浮かび上がっていた。口笛を吹きながら、少し楽しそうに学校への道を行く尖水。

彼の苦難でしかない毎日が少しだけ変わったのは───この二人のおかげだった。

 

緑谷出久と爆豪勝己。

 

この二人のおかげで尖水は少しだけ。

そう。ほんの少しだけ

 

「~~♪」

 

楽しくなったのだ。

 

あの出会いの日から三年間。彼らの話し相手となり、相談相手として居続け、たまに偶然を装って出久を酷い虐めから助けたり、じつは裏でコッソリと出久を守ってたりする。ただ一番分かりづらい方法で。

 

それは勝己にも当てはまるようで。

 

「おい、テメーなんで俺が殴るよりもデク殴った?」

「え、あ…いや、だって」

「てめー俺がどこの高校いきてーか、わかってるよな?俺なら手加減できっからいいんだ。おめーはできねーだろうがああ?!」

「ひっ…す、みませ」

「俺の履歴に傷つけるような真似したヤツ、ボコる。」

 

という理由をつけては出久を守るので、実を言えば勝己もゴロツキに狙われてたりする。そのゴロツキを裏の裏でボコって勝己も守ってるのが尖水だと、誰も知らない。

 

そんなこんなでもう三年。中学生生活ともオサラバする時期がもうすぐそこまで来てる。なんだかんだ言って育児放棄はできない親が、中学生になっても尖水を自由にはさせてくれなかった。

ただ高校生になったら、即刻引っ越すつもりではある。家から少し離れた場所で、一からやり直そうとも思っている。

親がまた綺麗ごとで育児放棄なんやかんや言いそうだ。

 

「育児放棄…?そんな可愛いレベルじゃ…」

 

尖水は首を振った。

 

「いや…今起こってる事すべて…俺のせいなんだ。しかるべき罰を受けてるだけなんだ。なにも問題はない。いたって普通だ」

 

そう自分に言い聞かすように呟きながら、彼は昔から通ってる公園へと足を運んだ

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

しっかりしろ、俺。今日まで色々耐えてきたじゃねぇか。したくもねぇいじめっ子を、いかにもこいつは悪者だと誰にも思わせるような演技を三年間し続けてきた。

 

「現実を見ろよクソナード君。てめぇにゃ雄英は無理だって」

「む、無理じゃ…ないよ。実例がなかっただけで…」

「だぁから無理だっつってんだろが!」

「ひっ…!」

 

デクもあの時みたく、カタカタ震えて何も言い返せないただのノートに何かを書くヒーローオタクになっている。

 

ここ三年間、ロクに話もしなかった。あいつの大事に書いてるヒーローになるためのノートを何回か爆発したこともあった。昔俺がやった事を少しだけやった。良い大人がこんなバカげた事をやるのは気が引けたが…

 

やらなければ、こいつは変われないと思ったからだ。前世のアイツが変わっていったのは、俺の苛めもあって見返したい、超えたい壁になったからだとも言っていた。

 

だからまぁ、奇肉の策で少しだけ焦げ目がつくように加減はした。アレはアイツの努力の結晶だかんな。俺がここで破壊していいモンじゃねぇ…

研究熱心で身に着けた洞察力には目を見張るものがあった。誰にも思いつかないような方法や作戦を思いつくのにも何度も驚かされたし、そんなあいつの機転のおかげで窮地を何度も救ってくれた。

 

尊敬に値する。

 

ただ、気になるのは前世ではあまりそう感じなかったデクの視線が、時々怖ぇくれぇ俺の行動を観察してるって処以外は、変わった部分はねぇ。

これなら問題なく…オールマイトから個性をもらい受けられるハズ。

前と違って、デクがヒョロヒョロじゃなく、今も続けてるトレーニングで結構体のつくりが良いから前みてぇにボロボロのズタズタには…まぁなるかもしれねぇが、グチャグチャにはなんねぇだろ。前みてぇに苦労はしねぇとは思う。

 

後の問題は…ここ一番の難関は。

俺の演技で、あの顔あの角度で、デクに助けを求めるような、縋るような顔をすりぁいいだけだ。まぁそこが難関なんだが……

 

「ハァ……」

 

思えば長かった。ここまでくるのに自分の演技で何度、胸糞悪さで吐きかけた事か。

 

「かーつきぃ」

「ああ?」

 

チッ。こいつウゼェ―んだよな…前世はあんまし関わらなかった中学ん時のクラスメイト。正直言うとこいつと関わり合いたくなかった。俺の肩に当然のごとく腕を回しやがる。

 

「慣れ慣れしんだよボケ!」

「おっと。そういうなって。なぁなぁ、今日もう一回やろーぜ?緑谷いじり」

 

平気な顔で、さも当然のごとくそんな事をいってのけるこいつが、俺は虫唾が走るほど嫌いだ。だが、山張ってるこいつとタイマン張るのは正直面倒くさかった。しかたがねーから同点で終わらせて、こいつと俺でそこらへんを〆てた。

 

こっちのほうが効率が良かったし、なによりデクをさりげなく裏で守ることもできた。

 

ただこいつの人格が歪んでやがる。

コイツ人を痛めつけるのが趣味らしい。だからデクは格好の餌食っつーワケだ。まぁ、俺がさせねーけど。誰かに殴らせるんだったら、俺が手加減しながら殴った方が良い。アザも残らねーし反動は派手でまるで本気で殴ったみてぇに見える。

 

それでも一メートル以上吹っ飛ばねぇのはあいつが諦めずに努力し続けて、筋力つけたからだな。

 

「何言ってやがる。」

「ああ?」

「もう終いだ。てめーのお遊びに付き合ってられっか。俺はナンバーワンヒーローになるっつったろうが」

「…」

「ヒーローが、いつまでも、んな弱い者いじめすっかよ。今日でお終いだ。てめーとツルむのもな」

 

そいつは静かに最後まで聞いたかと思えば、裏路地に一人で来いと言った。最後のタイマン勝負をしろとも。どうやらあの日、同点にするためにワザといくつかあいつのパンチを顔面に食らったことに気が付いてたらしい。

 

おっかしいな…上手く演技できてたって思ったんだがな。

 

学校の帰り道、裏路地でタイマンで戦った。こいつの個性は知り尽くしてる。圧勝だった。あいつと別れた後、そう言えばと思い出した。

…そうだ。ここらへんだと…多分。

 

「あった…」

 

あの時の、ヘドロみてぇなヴィランが詰められたペットボトル。

 

「…」

 

あーあ…蹴ってこいつを出さなきゃいけねーんか。

 

「…」

 

ああ、どうすっかな…マジで今この中のヴィラン…東京湾に沈めてぇ…

 

「チッ!」

 

俺は思いっきりソレを蹴り上げた。その拍子にペットボトルの蓋がはじけ飛ぶ。それに詰められたヴィランが勢いよく飛び出した。

 

「げへへ…俺は運がいいぜぇ…」

 

少し、口元が緩んだ

 

「…クソが」

 

いまからこいつに捕まらなきゃいけねぇのかと思うと、反吐が出る。反吐が出るが…デクが個性を受け取るキッカケになるイベントだ。無くすと大変な事になる。

 

こんな嫌な俺をあの時みたく、救ってくれよな緑谷出久(My hero)

 

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

勝己は、己の渾身の演技のおかげで無事に事を進められたことに心底ほっとしていた。

出久は無事、無謀でも勝己を助けるために飛び出してくれた。正直もうそんな彼を見る事は叶わないと思っていたし。

何より今自分は、出久にとってのただの『嫌な奴』でしかないから。

 

その後オールマイトが出てきて二人を救ってくれた。そうして、出久に勝己が強がりを装って威嚇し帰っていく時、そっと物陰に隠れてオールマイトが出てくるのを待っていた。

 

そして無事オールマイトは出久に個性を渡した。勝己はそっとその場でガッツポーズをしたのは言うまでもない。

 

そんなこんなで日々は過ぎ去っていく。

最高のヒーローのオールマイトから個性を受け取り、オールマイトと共に出久はトレーニングを行っていた。

勝己はそれをひっそりと影から見守りながらグッジョブ俺。と自分自身をねぎらった。これで一応は当分の間、自分も未来にやってくる最悪な出来事を回避するためにトレーニングができるというものだ。

 

そう。爆豪勝己は三年の間、思考していた。そして決めたことがあった。

それはオールマイトもそうだが、未来で亡くすハズの英雄の先生方やクラスメイト達を救う事にした。

 

手始めに小学五年生の時、出来うる限りでオールマイトの負うはずだったあの致命的大けがを、少なからずとも最小限に止める事が出来た。

情報と経験があると、ここまでの事が出来るのかと驚き固まったが

 

(これだ…)

 

己のやるべき事、いまここでこうして第二の人生を歩んでいる理由を見つけたのだった。その日、勝己は今まで以上に打ち震えた。そして覚悟を決め、目的を見据えたのだった。

 

「爆豪少年」

「うお!?オールマイト?!お前なにして…で、デクは…」

「もう行ったよ。キミは帰らなくていいのかい?ここの所ずっと彼の様子を見ているようだが…」

 

もう夕方だよ?そういう小さい姿のオールマイトを見ながら、ハァ…と勝己は溜息をついた。

 

「…もう少ししたら…いく」

 

なんだかとても疲れたような彼の小さな背中を見ながら、オールマイトはポンと、勝己の肩を叩いた。

 

「君たちに何があったのかは聞かないよ」

 

あんなに仲良しで、キラキラ輝いていた二人を思い出す。一人は無個性でも元気良い、少し抜けている、しかし頑固な少年。

もう一人は、どこか大人びていて、とても心強い、真っ直ぐ正義を貫く眼光を宿していた。少し乱暴でも心優しい少年。

 

その凸凹でも良いコンビであろう仲良しな二人が、いつの間にかあんな風になってしまった。原因も理由もわからない。しかし

 

「爆豪少年は無意味な事はしないと、私は知っている」

 

前世のようなガリガリにというほどではない、痩せたナンバーワンヒーローが言う。あの日、最悪な事柄を回避できたはいいものの、オールマイトの負った傷は深い。

 

「…っ」

「知っているから、大丈夫だ。きっと緑谷少年も心の奥底ではわかってくれているさ。」

 

ニコリと笑う男は、力めば皆が知る、もとの姿であるオールマイトになる。活動時間は少し制限がかかっているが、前世ほど酷くはない。

 

「気休めは…いらねぇんだよ。オールマイト」

「気休めなんかでは」

「いいから。あんたはちゃんとデクに教えられる事しっかり教えといてくれよ。少し育てて置いたから、あんまし手間はかからねぇとは思うが…まぁ、色々ガンバレや」

 

オールマイトの事、個性、ワン・フォー・オールの事を知っていそうな言い方だが、彼は今更そんなことを勝己に聞くことはなかった。

勝己がなにか重大な隠し事をしている事は、初めて会ったあの日からなんとなく感じていたのだ。それが徐々に確信に変わってった。その一番の出来事があの日だった。

 

(まさかあの時、私を助けることになったのが小学五年生の爆豪少年だったとは…)

 

もしあの時、勝己が他のプロヒーローを呼びに来なかったら?もしあの時勝己の出す予測とプランと、彼の助けの爆破がなかったら敵の目を欺けられなかった。

そして、あの攻撃をモロに食らってきっと。きっと致命傷になって…考えたくもない。

 

ただ、怪我は負った。一生ものだと言われた。あの激戦だ。しかたがない。負ったが命には別条はない。まぁいくらか手術はしたが。

ただただ、あの日の勝己の言動がおかしかった。小学生が激戦の中に居れば震えあがるのに、彼はまるで歴戦のプロヒーローのように冷静沈着に振る舞った。そんなの小学生ができるはずがない。

 

彼が居たことで多くの者が救われた。ピンポイントでヴィランが攻撃する場所へ、彼が予測し仮定をたてて行動していたから。その彼を追っていったヒーローたちも遭遇し、手伝う形になった。

 

だからこそ、出久と勝己に何があったかなど、どうしてコソコソして出久のトレーニングを影から見ているのかも聴かない。いつか話してくれる時が来れば話してくれるだろう。

 

彼らに一目おいていたのはエンデヴァーとオールマイトだけではない。プロの間ではこの二人の子供は有名だ。事件に遭遇する確率が高いが、それを全て解決していることから将来有望なヒーローとして認識されていたのだ。

 

あと疲れた時に彼らを見ると和んで癒されてたから。

 

彼らがこの二人を見る回数は普通の子供よりも多かった。何故なら出久がしょっちゅうヒーローに会いたがったので、勝己が親の変わりに一緒について行ったのだ。

その場所に詳しいとかで最善のルートを伝って、見学と言う形でオールマイトやエンデヴァーに裏から手を回してもらって色んな事務所へ出向いたから、有名だ。

 

そして有名と同時に人気者だということは本人たちはまったく気が付いていなかったりする…

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 

 

 

 

そうこうして、彼らは無事に雄英高校へと入ることができたのだった。

 

「よし!」

 

家を出て電車に乗り、やっとのことで雄英へと来た出久は、自分のクラスとなる戸を開けた。

 

「かっ…かっちゃん?!」

 

そこに居て飯田と睨み合いをしている幼馴染の姿を見て、そう叫んでしまったが最後、クラス全員が二人を見つめた。

 

「…」

(うわぁぁああかっちゃんゴメンよぉ!言うつもりはなかったんだ!まったくもって注目されようと叫んだわけでもなかったんだ!)

 

勝己は睨むだけで、出久はワタワタおどおどビクビクしながら目を彷徨わせている。だからか、勝己が一瞬その凄みのある表情から寂しそうな表情をしたことに気が付かなかった。

 

(て、あれ…?何も言ってこない?)

「…」

 

出久は気が付かぬまま、他の生徒がワラワラと出久へと話しかけて、それを出久が照れながら、そしておどおどしながら短く返事を返していると、だらけた声と共に怠そうな、何とも力の抜けるような声が足元から聞こえて。

 

なんなんだと思いながら振り向けば廊下にゴロンと寝袋が転がっていて、そこに人が入っていた。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性にかくね。」

 

しかもそんな人がクラスの担任だというのだからびっくりだ。先生となったその人の名前は相澤消太。この人もプロヒーローらしい。目が少し血走っていて、くたびれ感がハンパない。

本当にプロヒーローなのか?と疑問に思うほどだ。

 

その先生がさっそくやった事は個性把握テスト。個性を使って誰がどの個性を持っていて、どこまで扱えるか。それを見るためのもの。

体力テストでソレを測る。中学の成績はどんなものだったか聞けばみんな個性は使用禁止でそのテストをやっていた。相澤に言わせてみれば合理的ではないが文部科学省の怠慢だからしかたがないなと。

 

「爆豪、ちょっとこっち来てやってみろ。」

 

さっそく試験でトップだった勝己が、皆のお手本としてどういうものなのかを見せる事になった。

 

(…っていってもな…)

 

勝己は少し困っていた。ソフトボール投げを個性を使ってやることは問題ない。問題なのはその威力もスピードも、前世の時より記録が上回ってしまわないか。他の皆を恐縮させてしまうのではないか。

 

わざと手加減をするべきか、それとも全力で行って、今の自分がどれくらいなのか確かめるか迷っていた。

 

「爆豪、なにやってる」

 

時間がもったいないと、相澤が勝己へと声をかけると、勝己はどこか上の空で。ボケッと、何とも彼らしくない顔をしたものだから、それに一番驚いてしまったのが出久で。

 

「かっちゃん…?」

 

その出久の声にハッとして

 

「…相澤センセー」

 

クラスの誰よりも相澤を先生と呼んだことに、クラス全員が目を丸くした。このナリだから相澤を先生と呼ぶのにためらいがあったのだ。

それなのに一番先にそう呼んだのが、クラスでももうすでに乱暴者で顔怖いと思われてた勝己で。

 

「なんだ」

「昔の馴染みで聞く」

 

その言葉にクラスの皆は驚いてしまって。爆豪って先生と顔なじみなのか?!やら、なんか信頼して、信頼されてるって感じ。やら言い合っている。

 

「目の前にぜってー倒さなきゃいけねーヴィランが立ちふさがった時、プロのヒーローとして何が重要だ?」

「…色々あるが、まぁ最初は周りの市民の安全確保からだな。攻撃に特化したものならばヴィランに立ち向かっていく。その間にサポートが得意な奴は人命を守るのに回るな。何が重要かは、経験で見極めていくが…一番ヒーローになくてはならないものは自己犠牲だとも言われている。まぁ、俺はその思考は少し度を超してるって思うけどな」

「そうか」

「爆豪、お前なにが…「じゃあ最後に聞くけどよ」…言ってみろ」

 

勝己は瞳だけを相澤へと向けた。

 

「大切なもん守るためには…一体何が必要だと思う?」

 

その彼の静かな、しかしほとばしるオーラを感じ取り、何かを感じた相澤は

 

「お前、一体4歳のころから何と戦って…」

 

その言葉を聞いて静かだったクラスの皆がザワリと騒がしくなった。

 

「質問に答えろ」

「…そうだな。大切なものを守るには、それ相応の時間が必要だな。その時間を有意義に使うには、一時たりとも無駄にはできない。」

「…時間か……」

「まぁ、ヒーローそれぞれ答えはある。俺のは時間。だが…お前のは何だ爆豪?」

 

それはちょっとした好奇心だった。ずいぶんと大人びた少年の本質を少しでも知りたくて。だからか、勝己はその片鱗を少しだけ見せたのだった。

 

「俺にとっての必要なもん…」

 

急に憂いた瞳。凶暴性ある声が静かになって、何故かその場に響くようで。どことなく悲しそうなのに口元は微笑していて。

 

「あ…」

 

出久には見覚えのある顔だった。何かを決意して行動に移す前の顔。その顔はまるで何か遠い記憶を思い出しているような、その思い出に少し縋っているような。誰かを記憶の中で見ているような眼。

 

そんな出来事は数秒だったかもしれない。なのにまるで一時間もそうしているような錯覚がした。

 

「昔は力だ、知恵だ、一番になることだなんだと喚き散らかしてたかもしんねぇが、今は」

 

チラリと一瞬、出久の方を見た

 

「え?」

「今、俺にとって必要なもんは」

 

グッとボールを投げる構えをする

 

「守る!!ただそれだけだ!!」

 

そしてボールを投げ出す瞬間、「死ねぇええええええ!!!」と叫びながら爆風とともに投げた。みんなポカンとしていて、出久もだ。

 

「…死ね?」

 

出久がポカンとしたまま呟く。そうして出た勝己の最大限。924メートル。前世よりも記録が伸びていた。

 

「…ちっと抑えてまだコレかよ…加減ムズイな…」

 

ポツリとそう呟いた彼の小さな声を聴いたものは、出久と相澤センセーと、心配で物陰に隠れてみていたオールマイトだけだった。

いや、あともう一人。

 

「…テストで抑えたって、本気じゃねぇってことかよ…爆豪。どこまでてめぇは…」

 

赤と白の髪を持つ彼は、そっと事の事情を静かに見守りながら、爆豪勝己という少年を目に焼き付けるようにジッと見つめていた。

 

もっとも、そんな彼らと同じくして見守っていた者がもう一人いたが、そいつはフッと笑っただけで、何も言わずにそのまま眠そうな、怠そうな顔をして。

白緑色の髪がサワリと風に泳ぐ。なんともなしに、あくびをしながらそいつは笑った。

 

「やっとここまで来たか。緑谷出久。爆豪勝己」

 

 

…………。

 

 

その後、八種目トータル点数が最下位のものは見込みなしと判断して雄英をやめてもらうことを伝えた。それに焦ったのは出久だ。

だって彼はまだ上手く個性を扱えていない。試験の時も、今やクラスメイトになった麗日を助けるために飛び出して使ったら両足と右腕がぶっ壊れた。

 

一回しか使えない上に動けなくなってしまう。出久は使うか否か迷い続け、とうとう最後から数えて三番目の科目、ソフトボール投げで個性を使おうとした。

 

そう。使おうとしたのだ。

しかし個性は発動しなかった。見れば首に巻いた細長い布をシュルリとほどき、その布がフワフワ浮き、その下の黄色いゴーグルを見た出久が何のヒーローか当てた。

 

見ただけで相手の個性を抹消する個性

抹消ヒーロー

相澤先生のヒーロー名は『イレイザーヘッド』

 

マスコミにあまり顔を出さないゆえに、あまり知られていないヒーローでも、出久の情報にかかればなんてことなかった。

 

「見たとこ、個性が制御できないんだろ?」

「?!」

「また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」

「僕は!そんなつもりは…!」

「そんなつもりがなくても、周りは、そうせざるを得なくなるんだ。一人を助けて木偶の坊になるだけだろお前は。昔は無個性だったみたいだがな…個性が出たからと言って簡単になれるもんじゃないんだよヒーローってやつは。」

 

ギロリと、赤く光った目が出久の目を貫いている

 

「緑谷出久。お前の力じゃヒーローになれないよ」

 

その言葉を聞いて、出久はますます何かを決意した。

 

個性を戻してすぐ目薬を目に数滴たらしながら、相澤は見込みはない。そう考えていた。昔知り合った時はほんの少しだけ見込みはあるかもしれないと思ってしまった手前、今の出久の姿を見てなにをちんたらやってるんだと思う反面あきらめもついた。

 

己が知る緑谷出久は、個性が発現したとともに消えて無くなったのだと。

 

(あのころはガキだったからなのか、それとも誰かが傍にいたからか。強く見えたんだがな)

 

キラキラと輝いていた。成長と共に消えてなくなったんだな。と相澤は思った。

しかし、皆の予想から斜め上に行ったのは出久だった。

 

今のままじゃ何も変われはしない。ヒーローになれやしない。変化を追い求めなきゃ前には進めない。

 

「おいおい、マジか?!」

 

オールマイトが陰で見守りながら驚き、呟いてしまった

 

(僕は人より何倍も頑張らなきゃダメなんだ!!だから全力で)

 

力強く。周りの空気さえも消すほどの威力で。まだコントロールできないありったけの力を、指一本先の部分に集中させて。

 

(今僕にできる事を!!)

 

思いっきり振りかぶったその手からボールが放たれる

 

 

「スマーッシュ!!」

 

 

そうして出た記録は

 

「805メートル…」

 

前世の時よりも上がってんじゃねぇかよ…と勝己も驚いていた。

クラス中が騒ぐ中、相澤に向かって、腫れあがって痛い人差し指をものともせずに、グッと拳をつくり

 

「先生…」

 

緑谷出久は相澤へと向き合った

 

「まだ、動けます!」

 

ニヤリと無理やり笑ってそう告げた出久に、相澤は今までに感じた事のない衝撃を受けた。それこそ何かが彼の中で革命を起こしたみたいに。

 

(こいつ…!)

 

相澤は久々に胸の底から喜びで打ち震えていた。そしてその顔にはほのかな微笑が浮かび上がった。

 

力の調整はまだできない。

行動不能になるわけにもいかない。

ならばと、考え付いたのが今の行動だ。

 

(最小限の負傷で最大限の力…)

 

何だよ少年…っ!カッコいいじゃないか!

 

と、影から見守っているオールマイトも、打ち震えていたのだった。

 

結果的に最後までポイント数が少なかったのは出久だったが、相澤が除籍は嘘だといった事によって事なきを得た。

 

もっとも、あれは本当だったが相澤も出久の中に何かを感じたのだ。

そのためアレ全部は最大限を引き出すための合理的虚偽などと言ったが、後で相澤と話をしにいったオールマイトは見抜いていた。

 




なんとなしに色々書きたいとこだけを書いていったら、いつの間にかこんな文字数に…
10000文字超えてしまったです!すんまっせん!!
最初は軽い気持ちで5000文字くらいいけばいっか☆
なんて思ってたのに…スマートに終わらせるつもりが、さらにこんな終わり方。
文字数からしても時間の無い方、疲れてる方には苦行でしょうに…

続編はもっと文字数少なくするか、二つ三つに分けて投稿しよう…

なので、今回だけは見逃してくださいね~('ω')ノ
次回もこう、ご期待あれ!

…また読みに来てくださいね…よかったらコメや感想…?待ってますです。
気力があれば返信しますが、基本読んで嬉しくて舞い上がってそのまま何書くか
迷いに迷って恥ずかしくて断念する派ですので別に返ってこないからって
読んでないということではないです。

チャンと読ませてもらってます!書く活力とさせていただいてます!!

ではでは、よい一日をお過ごしくださいませませ<m(__)m>


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第6話 絆しスキル

デクVSかっちゃんの戦闘訓練もありーの、
気が付かなかったことに色々気が付くデクくんと轟君。
それをすべて見て笑い転がりそうになってる尖水くんの提供でお送りいたします(笑)
デクくんかっちゃん轟くん、そろそろ色んなことに気が付こうぜ?
じゃないと尖水くん笑いで腹筋痙攣しちゃうよ?ww

皆様のコメント、毎回感想とても嬉しいデス!
ちゃんと読んでます!そしていつも活力もらってます☆
いつも遅い更新ですが、ついて来てくれると嬉しいです♪
待っててくれた読者様、神ってる…°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°


「飯田くん?」

「指は治ったのかい?」

 

ひょんな事から軽い会話を交えて友達になった飯田と出久は、途中まで一緒に帰る事になった。

怖い人という印象しか飯田に持っていなかった出久だったが、ただ生真面目なだけだとわかるともっと気を許すようにホッと一安心しながら緩く笑っていた。そこへさらに声をかけてきたのが

 

麗日(うららか)さん」

「君は無限女子!」

 

目の前にやってきた人のよさそうな彼女は、改めて自己紹介をした

 

「麗日お茶子です!えっと、飯田(いいだ)天哉(てんや)くんに…緑谷デクくん?」

「デク?!」

 

言い出しっぺで間違われた?!と出久は焦った。

対するお茶子はうららか~に答える

 

「え?だって、体力テストの時に爆豪って人が…」

(こんな時にまでかっちゃんの影響力が…ッ!)

 

やっぱりキミは凄い人だよ!嫌な奴だけど!!などなど思いながら、出久は初めての女子との会話に緊張しつつも答える。自分は出久と言って、かっちゃんのあれはじつは勝己がバカにして言っているのだと。

 

だが、そこでお茶子はうららか~な空気で、ある一言を放った。

 

「でも、デクって…『がんばれ!』って感じでなんか好きだ私!」

 

後にこれが、出久の中で革命を引き起こすキッカケの一部となる。

 

「デクです!!」

「緑谷くん?!」

 

顔を真っ赤にさせながら嬉しそうにニヤケる出久を見て、それでいいのかと、別称なのではなかったのかと、飯田が聞き返すが…

 

「コーペルニクス的展開…ッ!」

 

お茶子は何の事かわからずに首を傾げる

 

「こぺ?」

 

こうして、はじめての友達にワクワクドキドキしながら出久は帰っていった。その彼の背中をそっと見守っていた誰かに、気づきもせずに。

 

「なるほどな…誰かに意味を変えてもらったって、あいつだったんか」

 

たしかにアイツならばやりかねないなと、今度は青空を仰ぎ見ながら、勝己もそっと歩き出す。出久と帰り道は同じはずだが、一緒に帰ったりはしない。

今更仲良しこよしはできないし、昔みたいにいきなり話しかけるのもどうかと思った。そんな事をして彼が驚いて後ずさるのは、目に見えている。そんな彼を見て傷つく自分が安易に想像できてしまう。

 

自業自得だ。自業自得なのだ。

 

少し…いやかなり寂しいがしかたがない。強制的にそう思わなければ、自分が押しつぶされて消えてしまうような、変な圧迫感を感じて息苦しさが沸き上がるようで。だから。だからこれで…良い。

 

ふと、胸の奥がギュッと何者かに捕まれたかのような痛みを覚える。少し苦しくて立ち止まった。

深呼吸を繰り返して、息を整える。汗が噴き出したがすぐに収まった。自分の身体が心の疲れを感じて耐えられなくなってSOSを出しているのは、勝己自身薄々わかってはいたが…

見て見ぬフリをするしかなかった。だって、こんなこと…誰にも言えない。

 

こんな情けない自分など。未来の記憶に苛まれているなどと。未来に残してきた出久が、最近よくここにいる出久と重なって、勝手に自分が苦しんでしまうなどと。

今更自分のやった事を、あんな悲しそうな顔をさせてしまったまま逝った事を後悔していると…誰に話せばいい?

 

そんな事より、今は…今の出久の幸せをつくるために。自分が知るみんなの幸せを、掴ませるために。

今、俺にできる事を…やっていくだけだと。勝己は思った。

 

「あいつが…今あいつらしく居られんなら…それが一番良い。なぁ、そうだろ爆心地?」

 

ポツリとそう呟くのは、誰に聞くわけでもない。己に、これでよかったのだと言い聞かせるために呟いたのだった。

胸に手を当てて。出久が見えなくなるまで眺めていようと思った。あいつのためにした事だった。現にあいつはあいつで居てくれてる。あんな事があったからこそ、出久は人の痛みがわかるし、人にもっと優しくしようとするだろう。

 

芯は、そのまま強く育って行ってほしい。そしていつか……自分をも超えて、ナンバーワンヒーローになって皆を救っていく。そんなヒーローになってほしい。いや、皆を守れなくっても…自分を見失わないような立派なヒーローになって欲しい。

 

そのまま勝己が、物思いにふけりながら突っ立っていたからなのかはわからないが…誰かが顔の怖い自分へ声をかけてきた。

 

「よぉ!お前、爆豪って言うんだろ?」

 

昔、扱いが難しく絡みづらい自分によく絡んで、自分の事を良く知っていてくれていた友人がヒョッコリ顔を出した。

 

「…おめーはたしか、切島っつったか」

「おー!覚えててくれてたのか!」

 

忘れるわけねぇだろ。と内心ぽつりと呟く。

人懐っこく笑う顔。誰とでも気軽に話してくれるからこそ、色んな面で救われた。そんなこいつを、忘れる事などできなかった。

未来のアイツは元気にしてるかなと、ふいに思ったほどだ。

 

「お前の髪よォ」

「…お、おう」

 

ギクリと、彼の肩が不安で揺れ動いたのを、勝己は静かに見つめていた。その髪を赤く染めて憧れのヒーローのようになるために、必死になっていた背中を思い出した。だからこれは勝己のただの気まぐれだ。

かつての親友だった彼への、お礼と謝罪をこめて。

 

「漢らしくて良いと思うぜ」

「え」

 

いきなりアイデンティティを褒められた切島は、数秒固まった

 

生前言えなかった賛美を、今ここに。前世に何度も救われたから。ほんのちょっと声をかけてくれた。クズな自分を無視しないでいてくれた。

そんなこいつへ一度だって言った事がなかった褒め言葉を…。

後で後悔しないように…今になって未来のあいつへ言わなかった事を、礼と混ぜて謝罪の意をこめた。

 

ありがとうな。それから、死んじまってごめんな。

 

「じゃあな」

「あ、ちょっ…」

 

今日誰かと絡むのはこれくらいにしないと。でないと未来が変わってしまうかもしれない。未来が変わって、自分の知らないイレギュラーが発生したら…自分はどうしたらいいのかわからなくなるだろうから。

わかる範囲内で行動しなければと、勝己は慎重に動いていた。誰にも知られないように。今はまだひっそりと活動せねば。

 

でなければ、(アイツ)にバレてしまう。バレたら一巻の終わりだ…

 

「…怖ぇヤツって聞いてたけど」

 

後ろでは取り残された切島が、赤い頭を押さえて、にやけた。

 

「なんだ。やっぱあいつ、良いヤツじゃん!」

 

ぜってー親友になってみせっから!待ってろよ爆豪!

 

そんな事を切島が言いながら息巻いていたことなど、勝己は知らなかった。

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 

 

 

「先生、これ」

 

爆豪が、なんとなしに声をかけてきて、俺がそれに振り向くとポイッと何かを空中に投げ出した。反射的にそれをキャッチすれば、ビシリと指さしながら口を開いて、まるで悪あがきする子供に言い聞かせるようにこう言った。

 

「ソレ、一日一回目に垂らせば、個性使ってもしばらくは目が乾かないハズだ。よって個性使える時間が延びる」

 

手元を見れば、先ほど状況反射で無意識に掴んだものは、どうやら目薬らしい。

 

「こんなのに気を使わなくたって、俺は…」

 

俺専用の特注目薬あるから余計なお世話だ。そう言おうとすれば俺の言葉を爆豪が遮った。てんで話になんねぇな。と言いながら。

 

「あんたが持ってる専用の目薬はソレ以下だ。いいか先生、ソレは俺が長年考えてきた方法、制作調合を、雄英のサポート科複数とツルんで編み出した上にプロのヒーローたちにちょっと実験台になってもらった(誰とは言わない)そのうえで完成した奴だ。」

 

お前…ヒーロー科でプライドやけに高いから絶対他の科には興味示さないと思ってたらさっそく絡んでたのか。しかも秘密裏にコレをわざわざ俺のために?わざわざ俺のために?

 

大事だから二度、心の中で言ってみた。

 

あの爆豪が俺に気を使った少しの感動と、先ほどの彼の発言により誰の目が犠牲になったか垣間見えて。呆れ顔になってしまった俺を誰が咎めるだろう。

 

「お前…エンデヴァーさんとオールマイトさん実験台にしたのか」

 

遠慮なくあの二人を利用しようとするのは爆豪くらいのもので、他人の頼み事は冷たくあしらいながら蹴るエンデヴァーさんと、プライベートの頼み事は丁重にお断りするようなオールマイトさんが爆豪と緑谷だけには異様に甘いことは知ってる。

だからあの二人なら、爆豪の無理で危険で無謀な頼み事も聞いてしまう事は目に見えてわかっている。プロのヒーローを実験台にする爆豪も爆豪だが、それを了承したプロのヒーローもヒーローだ。

 

だとしても、まさかな…と思う自分の考えを、目の前の生徒が押し黙った事により、的中かよと溜息がもれる。あの二人が爆豪の頼み事で地面でのた打ち回ってる場面がやけに鮮明にはっきり思い浮かべられるくらいだ。

 

思わず笑ってしまいそうな顔を引き締めた。

 

「…」

「そっと顔逸らすなよ…」

 

やっぱり図星かよ。今度はため息が出てきた。

 

こいつは良くも悪くも良く視ている。そう思ったのは初めてじゃない。こいつとの付き合いは爆豪や緑谷が四歳の頃からだった。その頃から爆豪勝己という子供は、周りを良く視るタイプの少年だった。

 

まるで、周りに起こるすべての情報を逃さないとでも言うかのように。だから彼のやる事なす事すべてが何かに繋がっていると、後々じわりじわりと感じられる。

今だってそうだ。この爆豪思案の元で雄英の生徒でつくられた目薬も、きっと役に立つはずだ。

 

“雄英生徒がつくった”という事にかんしても、きっと何か意味があるのだろう。

 

「なぁ、爆豪」

「?」

 

問題はそこじゃない。こいつの事は自分でも信じられないくらい信頼しているのは自覚してる。自覚しているからこそ、こういう『おせっかい』を焼き始めた爆豪を、みすみす野放しにしてはいけないと、俺の勘が働いた。

 

「一体今度は何を知って(・・・・・)、“準備”してるんだ?」

「!」

 

思った通りだ。俺の言葉に反応して、目の前の爆豪の瞳が見開かれて、そのまま固まった。

 

こいつは昔からこうだった。どこでどんな手を使って情報を仕入れてくるのかまったくわからないが、爆豪は自分の周りが『危機』に陥ると知った時、それを打開するための準備をする傾向がある。

 

「昔から、お前はどこから情報をとってくるんだ?何と戦ってるんだ?お前の行動、言動全部、年齢にそぐわない時がある。…お前は一体何者なんだ?」

 

今みたいに俺にこんな薬を渡してくるのも、きっとその危機を回避するのではなく、危機になる人間を強化し自分で突破できるようにそっと背中を押すためだろう。

それは暗黙にこれから先、俺に何かが起きると言っているようなものでもある。

知っている。前から知っているから、どう動くか、動けるのか考えて行動するお前が、お前の持つその年齢と合わないんだ。どう考えても三十路は超えてるような繊細な作戦と思考の元で行われる行動だ。

 

俺の問いを聴いた爆豪は、しばし視線を彷徨わせていたが、後になにかに気が付いてフッと顔に影を落とした。

 

「それ、は…まだ」

「言えないか」

「…」

 

だが、年相応に落ち込むときもあるし、それなりに笑うことが出来るのだと知っている。だからこそ時々見せる“プロのヒーロー”の顔に、タジタジになってしまうのだ。

…注意しておくか。こいつの気遣いも素直に受け取ろう。昔、一度だけこいつの助言を聴かずに動いて大怪我したバカな先輩もいるしな。

 

「わかったよ。お前の好意は素直に受け取る。俺はオールマイトさんじゃないからね」

 

そう言いながらフッと笑えば、爆豪はホッと胸をなでおろしたかのような顔をした。おいおい。そこまで心配するような事が起きるのか?…今からトレーニング三倍にして少し鈍ってる身体を鍛え直すか。

 

「…」

「授業はじめるぞ。さっさと入れ」

「…おう」

 

本当に。4歳の頃から一体何と戦ってるんだろうな。お前。

 

(いつか、話せる時が来たら)

 

お前の中でまだ燻ってる何かに、お前自身終止符を打つその時まで。

 

「待ってるよ。いつまでも」

「……」

 

爆豪は俺の言葉には何も言わなかった。代わりにペコリと軽くお辞儀をした。それだけで了承したとわかるくらいには、信頼されてると見ていいんだよな?

待ってるからな。だから

 

「あんま、抱え込み過ぎるなよ。爆豪」

「…ッ!」

「何かあれば、俺にも相談しろ。いいな」

「…ッす」

 

こりゃする気はあんまり無いと捉えて差し違いないな。短い返事の後、そのままサッと教室の中へと吸い込まれるように入っていった爆豪の背中を見つめながら、なぜかクツクツと笑いが零れた俺はというと

 

(さぁて、今日も始めますかね)

 

怠い感じに教室のドアを開けて入って、皆を見わたしながら

 

「授業はじめんぞー。合理性に欠くからさっさと黙って席つけー」

 

重たい瞼をそのまんまに、授業をはじめた。

 

 

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 

 

 

わかっている。自分の心が悲鳴を上げていることなど。

 

わかっている。自分がもう、色んな重圧に耐えきれてない事を。

 

なにより…

 

「癒しが足りねぇんだよっっ!!」

 

バン!!と机を殴った爆豪を、皆は怪奇を見るような眼で見ていた。ナニアレ怖い。と。出久もあんな取り乱した勝己を見るのは初めてだったので引いていたし、何よりまだ話しかける勇気が今の彼にはなかった。

 

出久の怯えたような眼を見るたび勝手に傷ついているのは勝己だ。そして癒しが欲しいと考えてついに声に出してしまった己自身が、たまらなく今すぐに殺してやりたかった。

只今、勝己は恥ずかしさで悶えている。プルプルと震えてジッと我慢している。なんで声なんか出てしまったんだと、悶々と考えていると、肩に誰かがトントンと叩いてきたのがわかった。

 

顔を上げるとそこには───…

 

「よっ」

 

その特殊な目の色と髪の色…。そしてなにより怠そうな、眠そうな顔と声。そう。そこに居たのは──…

 

「「尖水/さん?!」」

 

思わず出久も声に出していた。

 

「尖水さん、どうして…」

「お前なんで…っ」

 

二人とも同じような事を聞いて来て、尖水はクスクスと笑った。

 

「こんなトコに居るのかって?おいおい、数日たって俺が居たことに気が付いてなかったのかよ?アハハ!ひっでぇ」

 

クルリと回って、制服を見ろと自らのクイクイ引っ張る尖水。

 

「同じ高校だったんか…」

 

何処かほっと安心する珍しい爆豪を見ながら、大騒ぎをしたのは、クラスの皆も予想していなかった出久のほうで。

 

「ええ?!尖水さんって年上じゃなかったんですか?!」

 

思いのほか声を張り上げた出久を見て、尖水は怠そうな声を出す

 

「ええ?俺、そんな老けてるような顔かね?」

 

怠そうに、しかしアハハと笑いながらそう尋ねる尖水。ワザと、口調を紳士のおじさんっぽく言った。

 

「つーか年上になんて、どう見ても思えないだろ。バーカ」

 

勝己は自然と悪態をついたが、心強い味方で馴染みある尖水の登場で、その顔は明らかに緩められ、ヒヒっと笑ってさえ居て。

あまりにも楽しそうに笑うから出久や、クラスの皆は目をかっ開いて固まるほどで。

え、こんな風にかっちゃんって笑うの?と出久さえ知らなかった勝己の素直100%の笑顔を間直で見てしまったクラスの皆は驚きに言葉さえ喉に詰まっていた。

 

(そうだよかっちゃんって、凄んでさえいなければイケメンで結構かわいいんだよ!凄んでさえいなければ!)

 

出久は混乱した頭でそんな事を思いつつ、笑う勝己から目が離せずにいる。後で絶対ノートに書こう。ていうか写真撮っておこうヨシこれをノートにはりつけよう。ていうか宝物にもう一枚撮ってしまおうヨシそうしよう。

言いながら無音でシャッターを数回押しまくった出久はそっとガッツポーズをした。

 

(なんなん爆豪くん?!ギャップ凄ない?今キュートな天使みたいだけどさっきは凄く怖かった!)

 

お茶子は声を出さず、しかし結構赤面しながら、先ほどの勝己の凄みのある睨みを思い出しながら身震いしたが、目の前の光景にすぐに目をキラキラさせた。

 

(あいつのあんな安心した顔…見た事ねぇ…それほど、爆豪にとって尖水っていう奴が、頼りになる、安心できる存在っつーワケか…)

 

焦凍も驚きながらジッと勝己を見つめる

 

(なんか…)

 

どことなく、寂しい気持ちと違う気持ちが沸々と湧き出てきて止められなかった。結果声に出してしまったのだった。

 

「「悔しい/な」」

 

その声にハッと気が付き振り向けば、出久。出久も焦凍のほうを驚きの顔で見つめていた。

 

「と、轟くん…だったよね…あの、かっちゃんとキミってどういう…?」

 

ゴクリと生唾を呑み込みながら、声を震わせて出久がおずおず尋ねる。

 

「緑谷っつってたよな、たしか。お前こそ爆豪とどんな関係なんだ?かっちゃんなんて言ってやがるし…」

「え、だってかっちゃんとは、その…お、幼馴染で…」

 

兄弟同然に育った。とは言えなかった。勝己の苦労も、彼の苦しみも悲しみも、何一つ彼の事を分かろうともしないで、そんな事が言えるハズもない。

彼が、ああいう風にひん曲がってしまったのは、きっと自分のせいだ。自分の責任だ。そう思っている出久は、だんだん顔が曇っていった。

 

「ただ…それだけだよ」

 

兄のように慕ってた。尊敬してた。自分の中の、オールマイトの次に来るヒーローだとも思っていた。

そのヒーローを、出久は自分の手で踏みにじってしまったと思っていた。あの時のようにはもう戻れないと、笑い合えないと。

しかし、何故か勝己のあの笑顔を見ると、諦めよりも、悲しみよりも、悔しさが勝ってしまった。それは目の前に居る焦凍も同じのようで

 

「き、君は?かっちゃんの、なに?」

 

だからこそ気になってしまうのだ。そんな気持ちになるほどに、彼は自分と同じように勝己に依存していると思った。だから勇気をもって聞いた。

 

「…なんだろうな。俺もよくわかってねぇ。たしか12の時にクソ親父が妙に会わせたがって、あいつは妙に会いたくないって突っぱねてたらしくって。」

 

焦凍は昔を思い出しながら話す。心なしか少しだけ楽しそうなのは、出久の気のせいではない。

 

「隙見て俺をあいつに紹介したんだが…面白いヤツだって思った。クソ親父を言い負かしたり、親父と互角に張り合えた同年齢のヤツなんて、初めて見たから」

「え、たしか轟君のお父さんって…」

「エンデヴァー」

 

それを聞くが早く、出久の脳裏には幾つものエンデヴァーの情報が浮かんでは消えていく。

 

「や、やっぱり?!でも…かっちゃんナンバーツーのヒーローと互角に張り合えたの?!しかも…12の時すでに…?でも待ってそれじゃあやっぱりあの時言ってたひとり言は本当でかっちゃん力セーブしてたって事なの?!あのかっちゃんのことだから無駄なことは一切しないと思うからきっと何か目的があって──」

 

ブツブツブツ…と言い始めた彼を止めたのは、楽しそうに尖水と談笑してた勝己で。

 

「うっせぇよクソナード。」

 

そう言い放つと、大人しく自分の席についてしまったのだった。

その後すぐに、焦凍が勝己の座っている席まで移動して、何か聞こうとしたのだったが、オールマイトが颯爽と現れてしまったので彼はしぶしぶ諦めて席に座るしかなくなった。

 

(これでいい…)

 

勝己は気づいていた。焦凍が何か言いたげだったのを。しかしこれ以上イレギュラーが起きてはいけないと、軌道修正しようとした。そして、成功したのだった。

 

(…つーか、やっぱオールマイトかっけぇよな……)

 

午後のオールマイトの授業は戦闘訓練だと告げられた。各々がコスチュームに身を包み現れて、いざどんな訓練か説明を聞いてチーム分けとなった。

すべて勝己が知る通りだった。また勝己は同じチームメイトとやるし、出久もそうだ。そして、対戦する相手も同じだった。

 

出久チームVS勝己チーム

 

一瞬、出久が萎縮したのを、勝己はギロリと睨むことで彼の底に秘めている対抗心を燻った。そうして出久は勝己を睨み返したのだった。

 

(そうだ。それで、いい)

 

思わずニヤリと笑ってしまった勝己

 

(それでこそ、俺が認めた緑谷出久だ。俺が知る、俺の hero)

 

嬉しくなってしまった。確実に出久が、自分の知る未来の出久になってきていたから。だからおもわず笑ってしまった。すぐさま自分の配置に行った勝己は知らない。

出久が、勝己のニヤリ嬉しそうな顔を見たあの後、数秒赤面して固まっていた事実は、チームメイトのお茶子しか知らなかったりする。

 

(あんな顔されたら、私だって固まってまうよ!)

 

ちゃっかりお茶子も見てしまっていたのだった。

そして、勝己が歩いていくその道すがらに、いつの間にか尖水がいて。思わずビクッと驚いて身体が一瞬だけ固まった。

それを見て少し笑いながら尖水は、困ったように怠く勝己へと言葉をかける。

 

「爆豪、お前さぁ~皆を絆そうとしないでくんねぇか?」

「はぁ?何いきなり意味わかんねぇ事いってやがんだ尖水?」

「なに、お前気が付いてねーの?うーわー…皆さまご執心様。安らかに眠ってください。南無阿弥陀仏」

 

なむなむ…と手を合わせながら擦る尖水の手を無理やり払い除けて、睨む

 

「おい、勝手に誰かを殺すな。つーかお前の言う皆って誰だ?」

 

その言葉に尖水は何かを察した。と同時に怠い顔をした。

 

「…あー…もういい。からかうのも面倒くさくなってきた。」

 

自分がいかに周りの皆を垂らし込んでいるのか。想像もしていないのだろう勝己本人に説明するのがとてつもなく面倒になった尖水は、その一切を受け流すことにして、それ以上彼をからかう事はしなかった。

 

「じゃーなー」

「あ、おい尖水!」

 

腕を上げ手を怠くゆっくり振る。その動作は本当にやる気あるのかと、聞きたくなるくらいに誰がどう見ても怠そうだった。

 

「お互い、ほどほどに頑張ろうな~」

 

有無を言わせずそのまま退場していった彼の背中を見つめて、勝己もそのまま前へと歩き出す。

 

「クソ…なんだったんだ。」

 

皆を絆すってなんだ。俺は誰からも嫌われる存在を演じてんだぞ。唯一友だと認識させなきゃいけねぇのは切島だ。それ以上はやらない。そう決めてんだ。

 

(じゃなきゃ未来が変わっちまう恐れがある)

 

なのに尖水のあの言葉は一体なんなんだと、勝己は本気で首を傾げながら頭の上にハテナマークを浮かべていた。

 

「…波乱万丈な人生だよなー。メンドクサイ性格も合わせてすべてが怠いほうへ向かってんぞー。ばくごー」

 

やる気のない声でひとり言を零すのは尖水。

 

「いつか、緑谷と轟の嫉妬が爆発しないように祈っててやるよー」

 

ケラケラ笑って、チラリとモニターを見た。そこには出久の覚悟した顔。そして尖水は今度は焦凍のほうを見た。

 

「しかも本人たちが嫉妬してるって理解してねーのが一番ウケるんですがねー」

 

ああダメだ。気を許したら爆笑する。そう思いながらクックックと彼は一人静かに笑った。



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第7話 大怪我を阻止!

大変長らくこの話の更新ストップしてましたぁ~。
待っていた人が居るかはわかりませんが…
どうぞお楽しみいただけたら幸いです_(:3」∠)_


静かだった。周りは一切の音がしなかった。ただただ、僕たちの息使いと足音がその場に反響して鳴り響くだけ。ゴクリと生唾を呑み込むけど、緊張でカラカラに渇いてしまった喉は一向に潤ってはくれない。

気配を感じ取れるように静かにゆっくりと足を進めていく。

 

(なんせ相手はあのかっちゃんだ)

 

対戦、奇襲に追撃と、かっちゃんの戦闘スキルは幅広く隙が無い。相手の癖を瞬時に見分けてどう戦えば相手が不利になるのか、どう追い込むのか作戦を一気に立てて突っ走る。

 

それこそまるで、激戦を何度も潜り抜けてきたプロのヒーローみたいだ。

 

あと要注意なのが、かっちゃんの作戦は相手を追い込むか、捕獲するか、撃退するかによって変わってくる。

頭の回転が速くてその時の状況判断がほとんど勘なんじゃないかって思うほど。でも綿密で完璧なんだ。勘じゃない。あれは経験から成せる代物だって素人の僕でもわかる。

なんでそんな経験なんて持ってるんだって凄く疑問に思うけど…あのかっちゃんだ。なんでもありが普通な気がする。

 

「麗日さん、作戦は言った通りプランAでいくから」

「わかった。」

「もしもの事があったらBで。じゃ、ここらへんでそろそろ会話はジェスチャーだけにしよう…」

「うん。相手に知られたら作戦も水の泡だしね!頑張ろうねデクくん!」

 

少しだけでも隙があったっていいのに…それをかっちゃんは感じさせない。どんな状況に追い込まれても、相手を威嚇し続けて、つねに相手の一歩先の行動を予測し動く。並大抵の人間技じゃない。

でも、僕はずっとかっちゃんを見てきたんだ。だから知ってる。きっと他のどんな誰よりも…

 

(風…?)

 

突然、建物の中から生暖かいそよ風が僕の方へ流れてきた。こんな建物の中なのに風なんか流れてくるのか?あちこち穴が開いているし…その可能性はある。けど…

 

(いや、違う!風が生暖かい…という事は、これ空気中でよくかっちゃんが使う…!)

 

他の人だったらきっと見逃してたと思う。けど僕は違う。違うぞかっちゃん!

 

「っらぁ!」

「!」

「え?!爆豪くん?!?」

 

やっぱりかっちゃんは頭上から飛んで突っ込んできた。爆風を出さずここぞという時に宙に浮くように静かに壁を蹴って移動してた。

生暖かい風は、君が静かに移動するときに使う超ミニマムな爆発の余波のせい。

 

「奇襲だ…」

「え?」

 

彼は奇襲するとき大抵ボクが(勝手に)解き明かした今の技を使用して、音速で相手へと突っ切る。

やっぱり合ってた!

 

「麗日さん下がって!このままプランAを続けて!」

「う、うん…わかった!」

 

でも何でだろう…今日に限って、らしくないミスを君は犯した。突っ込んで即爆破のかっちゃんが───なぜか僕へツッコんでくるとき一瞬、殺気を飛ばして声まで出してきた。

まるで自分が来たから要注意しろって言わんばかりに。でも、まさかね。考えすぎだよね。だって相手はあのかっちゃんだし。募った僕への怒りで口が滑っちゃったんだろうなぁ…かっちゃんらしいや。

見れば彼はもう次の攻撃のモーションへ移行していた。

 

(もう避け切る有余はない。なら防御!)

 

顔の前に両腕をクロスして防御の体制をとったと同時に、凄い爆音と爆発が僕を襲った。

 

「グゥッ!」

「デクくん…!」

「大丈夫。そんなにダメージ入ってないから…」

「…」

 

手で砂埃を拭い去ったかっちゃんは、真剣な面持ちでこちらを睨んでいる。

 

「こぉらデク。受けて無事でいるんじゃねぇよ…」

 

かっちゃんと本気でぶつかる時が来た!!

 

「かっちゃんが敵なら…まず僕を殴りに来ると思った!」

 

かっちゃんに僕を見てもらうチャンスだ…今の、僕を!

 

拳に力が入る。今の僕を見てもらうためには、まだモノにできてないオールマイトの個性(ちから)は使わない。使ったらダメだ。ただでさえこっちがバキバキになってしまうし、あんなの人に向けて撃ったら死んじゃう。

 

なら…使わず君に、勝つ!!

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 

おかしい。俺は何処か違和感を覚えていた。

 

(最初の頃と同じで、俺を背負い投げしたまでは前と同じだった)

 

思い出せ!何かが前と違ってやがる。

 

(なんだ…?何が違う?)

 

ああ、そうか。と思い出した。

 

(背負い投げしてからの、セリフがねぇんだ)

 

前世で俺を精神的に追い込んだ、あのセリフがまだ…

 

(自分の戦い方のスタイルを俺に見てほしいのか…それとも、どれくらい強くなったか見て欲しいのか…まぁ、どっちにしたって)

 

攻撃するわな!

 

「デクのくせして、俺と対等に張り合おうとしてんじゃねー!」

 

言いながら爆破しようと腕を振り上げた。その時、ああ…しまったと思った。

なぜならまた、デクが俺の腕をつかみ上げてまたも背負い投げをしたからだ。鈍い痛みが背中を襲う。この技は後にお前が磨きあげて十八番の内の一つになったほどだもんな。ヒーローの本質が出始めたテメェが使わないわけがねぇ。

 

「今のでわかっただろ…かっちゃん」

 

静かな建物の中、デクの声が良く響いた

 

「君は大抵、最初、右の大振りなんだ…」

 

デクの荒い息遣いが聞こえる。震えている。声も身体も。だが目は真っ直ぐこっちを睨んでやがる。伝えようとしてきやがる。あの頃俺が思ってもなかったもんを。

前じゃわかんなかったからあんな悲惨な結果に終わった。テメェに個性無理やり使わせて腕をバキバキにしちまった。

 

「どれだけ見てきたと思ってる?」

 

今でも昨日のように鮮明に覚えてる。内側から爆発したかのような、ボロボロになって赤黒く変色した腕の状態。

前ほどではなく、かといってこの出来事を避けて通れねェのはたしかだ。今日の失敗があって、あいつはまた一歩前進する。

失敗を重ねる事で見えてくるモンもあるっつー事だ。

 

「凄いと思ったヒーローの分析は…全部ノートにまとめてあるんだ…」

 

ああ、よかった。そう思っちまったのは内緒だ。そうだ。このセリフだよ俺が待ち望んでたのは。ヒーローデクの成長の一歩一歩を間直で見ていることに打ち震える自分が居て、なんか…みっともなかった。

だが、それもまた良いと思う。

 

ああ…やっぱり

 

「君が爆破して捨てたノートに…」

 

書いて、あったんだな。俺の事が。

わかっちゃいたんだ。だがああするしかなかった。お前が人の痛みや苦しみから目を背けないように。

身に染みているからこそ、お前は成長して、大人になって。№1ヒーローになってもどの付くお人よしになった。人の痛みがわかる奴だったからこそ、お前は本当の意味で人を救う事ができた。

 

あのノート、たしか13番目だったか…未来でもあいつはまだヒーローたちの事をノートにちまちま書いていたな。

死ぬ三日前、あいつのノートの№は1000単位にまでなっていた。しかも丁寧に俺の事はちまちま更新してやがったから気味悪がったっけか。

 

俺の最後まで、気色悪いデクの癖が治る事はなかったな。

 

ノートの中身については何も言わずに、デクはグッと拳を構えたまま睨むが俺にはわかる。俺がこんなでも、昔から俺はお前の中じゃ、身近なヒーローだったと。

泣き出しそうな潤んだ瞳は、真っ直ぐ俺を射抜いていて。いつもの弱気なデクからは考えられないほどの気迫と、瞳の奥に宿った強い強い光。

 

「いつまでも…雑魚で出来損ないの木偶(デク)じゃないぞ…!」

 

認めてもらいてぇのか?俺に。

 

「かっちゃん、僕は…!」

 

笑わせてくれるぜ。俺はもう…とっくの昔に…それこそ生まれてくる前に。

 

「頑張れって感じのデクだ!!」

 

ああそうだ。その言葉(セリフ)が聞きたかったんだ。思わずニヤケそうになる自分の表情を必死にこらえて。悔しそうに睨むだけにする。

まったくお前は。お前って奴は

 

「デェク!」

「っ!」

 

威嚇に掌にボンボンと小さな爆破を起こす

 

「ビビりながらよぉ…そういうとこが…」

 

グッと何かを見定めようと、俺を睨んでくる。そうだ。お前の持つ今の力を、俺に見せてみろ。

 

「ムカつくなぁ!(誇りに思う)」

 

震えながら、怖がりながらも、目の前の敵対するヤツを睨んで逃げずに立ち向かおうとする。困ってる奴が居たら迷わず手を差し伸べようとする。

ヒーローの本質を元々持ってて、キッカケでもっと成長したこいつだから…

最初から何も持ってなかったから。持った時、凄まじい力となって、脅威となって敵を圧倒できる。だからデク、お前は

 

(誇っていいんだぜ。お前の弱みでもあって、強さでもある“ヒーローの本質”)

 

だが調子に乗らねぇように釘刺しとかなきゃなぁ!

 

「前みてぇにボロボロになられちゃ意味がねぇ!」

「…え?」

「歯ァ食いしばれ!」

 

そう言った途端に、デクが回避するのが見えた。見えてから敢えて───取り付けられた装備の引き金を引く。

 

『爆豪少年!それはいくらなんでもやりす──』

「黙っとれやオールマイトぉ!失格にならねぇ程度に火力を抑えたらぁあ!」

 

閃光が弾けたと同時に、そこら一帯を巻き込んで、大規模な爆発音と共に爆風が衝撃波となって辺りを駆け巡った。

建物はあまり壊れていなかったが、あの規模だ。ギシギシと鳴り始めてやがる。ちっと規模がでかくなったが、まぁ良い。

デクが慌てふためいて作戦を考えようと身を隠したのも、爆風の中確認した。

背中をやられてたっつー事は、機転を生かして咄嗟にダメージを受けることが出来そうな筋肉がついている背中を犠牲にしたか。

 

状況判断はまずまずだな。なるほど…こいつは前と違って簡単にはいかなさそうだ。

だが、それでも良い!こいつと真正面向き合って戦ってる。互いに譲れないものを天秤にかけながら。必死に、無我夢中で。

 

そうだ。俺を見ろ。

お前にとっちゃあ最悪なシナリオだ。そん中で戦闘センスとスキルを磨け!お前は…お前らは、まだまだ伸びしろがある奴らなんだからよぉ!

 

「進化を見せろや緑谷出久!!」

「…っ?!」

 

気分が高まって、ついこいつを本名で呼んだ瞬間にデクが息を呑んだのが分かった。ああ、あそこか。なるほどな。

 

「咄嗟でも見つかりにくいそこを選ぶなんてな」

「っ!」

「てめーにしては上出来だったのになぁ!俺に名前呼ばれたぐれぇで何動揺しとんじゃデぇク!!」

 

そこをニュッと極悪な笑顔をしながら爆発で近づくと、デクはバッと物陰から出てきて前面に手を滅茶苦茶に振り上げて大声で叫んだ。

 

「ちょっと待ってかっちゃん今のはズルい!!」

 

心なしか顔が真っ赤だ。…なんでんな真っ赤なんだ?

…風邪か?風邪にはナシと、ヨーグルトが効き目がある…味はモモかそのまんまか…じゃなくって!!戦いに集中しろ爆豪勝己!

 

「…ちっ!」

 

なに普通にアイツの面倒見ようとしてやがるんだ俺?バカか。これが長年あいつの面倒みてきた癖か。

うっわ。自分で気が付いて引いたわ。鳥肌立ったわ。自分の顔面を爆破してぇわ。

 

「食らいやがれ!」

「そう何度も食らうわけ…」

 

デクが一歩大幅に前進した。

 

「…ないだろ!」

 

ジャンプして、俺の頭上をクルリと回転しながら攻撃をかわす。

 

「…へぇ」

 

どうやら今のお前は、前より感情のコントロールや頭の回転が速く、機転も良い。作戦も思いつくのが前より早ぇ。ガキん時に経験した数多の事が、今のお前を形作っていやがるのか。

 

「面白え…」

「…」

 

今のお前がどんぐれぇ出来るんか、試してやるよ!

 

「どっからでも、かかってきやがれデク!!」

「そのつもりだよ!かっちゃん!!」

 

 

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 

 

「デクくんメッチャ生き生きしとるけど、作戦の合図…そろそろ出してほしいなぁ…」

 

お茶子はただ今、敵陣に潜入してひっそりと物陰に隠れて事の成り行きを見守っていた。彼らの作戦はいたってシンプル。

勝己が出久に夢中になって攻撃してくるだろう事が予測できるので、その間にお茶子が敵陣まで攻め入って、合図がでるまでそこで待機する。チャンスがあればすぐさま場のすべてを利用して偽爆弾に触れればいい。

 

しかしこの作戦の時からお茶子は言い難い突っかかりを覚えていた

 

「たしかに爆豪くん、デクくんに向かっていったのはいいけど…」

 

うーんと、お茶子は静かに唸る。そう。これで作戦の半分は成功なのだ。勝己が出久へ向かったことで、彼の意識は出久に向けられる。という事は応戦の間、お茶子は自由に動けるという事。しかし…

 

「これじゃ爆豪くん、デクくん以外に興味ない事にならん…?」

 

そうなのである。先ほどの出久の作戦と良い、出久の予想通りに真っ直ぐ出久だけを狙ってきた勝己と良い、どうやら勝己は出久をぶん殴る事以外考えていなさそうなのだ。

 

勝己が勝手に前へ出たことにより、相手チームの相方の飯田はその場で待機するだろう。しかしこれで、かなり防御が手薄になった事は明白だ。

自分のチームメイトと力を合わせない時点で、すでに防御も何もかも手薄なのだが。

しかし、実のところそうではなかったりする。何故なら勝己は──

 

『飯田!準備は良いかぁ!』

「待っていたぞ、爆豪くん!」

「へ?!ば、爆豪くんが飯田くんと…連絡とったよデクくん!」

『ええ?!』

 

元から、出久とお茶子と飯田をこの戦闘訓練でしごくと決めていたからだ。勝己の行動や思考を予測し、ほとんど当たった事から出久は凄いと言える。しかし、もっと上を行ったのは勝己だった。

勝己は、出久が己の思考や行動を予測して動くことを予測していた…つまり、出久の思考や行動を読んでいたという事だ。読んでいて、あえて出久の予想通りに動き、そしてその中で自分に有利に動けるように策略していたという事。

意外や意外。あの勝己がだ。出久はそんな勝己を見て信じられずに大声を出しながら彼の方へと反撃したらしい。何かと何かがぶつかる音が聞こえる。一緒に怒号も飛ぶわ飛ぶ。

 

『かっちゃんらしくないよそんなの?!』

『俺らしいってなんだええ?!』

『頭良すぎにもほどがあるだろ?!ちょっとは隙を見せてよ!』

『甘えんじゃねぇ!隙がねぇ相手だったら隙を作らせればいい事じゃねぇか!』

 

ごもっともな意見だ。と全員が思った。

 

『そうだけどそうじゃない!』

『どういう意味だクソナード?!』

『だから、君の思考回路は異常だっていってるんだよ!どんな頭してんのさ?!それにちょっとは僕が作戦考える時間くれたっていいじゃないか!これじゃ公開処刑だよ!』

『うっせぇ!どうにかしろやクソが死ねぇえ!』

『超、理不尽!!!』

 

様々な破壊音が通信機から聞こえてくる。そしてその中で息も絶え絶えになってもおかしくないハズの二人が、ジャンプや攻撃、走ったりを繰り返しても怒鳴り合っている。

 

どんな肺持ってるんだお前ら…と、オールマイトをはじめ、その戦闘を液晶画面越しに見守っていたクラス全員が思っていた。

 

『反撃は止めかよクソナードくんよぉ!』

『…かっちゃんじゃない…こんなのかっちゃんじゃ…っ!』

『ああ?』

『だって…っ!僕はずっと君を…』

 

見てきたから…!

 

『だから…っ』

 

こんなの君じゃない!!そう啖呵を切った出久を見ながら、静かに、しかし徐々に声の音量を上げる勝己。

 

『お前ごときが俺の何を視て来たって?!生意気なんだよ!そういうトコがムカつくんじゃボケぇえ!』

『見てきたからわかるんじゃないか!こんなのやっぱりキミらしくないよ!!こんな…連係プレーなんて…ましてや他の人とタッグ組むなんて!!』

 

苦しそうに叫ぶ出久。顔は見えてないのに、お茶子の脳裏に出久が自分の胸元をギュッと手で握りながら痛々しそうに叫ぶ姿が見えたようにはっきり浮かんだ。

 

『…』

『…』

 

少しの沈黙が場を圧倒した。戦闘音も声も聞こえない。相手も、クラスの皆も息を呑んだ。そしてとうとう、誰かが溜息を零した。勝己だ。

 

『デクよぉ…てめぇはいつも…勝手な事を考えてくれやがって…なんで他のヤツと俺を別けて考えンだよ?』

『…え?』

『人を外見だけで判断するもンじゃねーって、前に言ったよな?』

 

勝己の声は静かで、しかしその場に響くようで。誰も彼に逆らえないような圧迫感が感じられた。そうそれは…プロのヒーローが強敵に当たって何かの拍子でブチ切れた時のような…

 

『…ンで…なんでそれが、俺に作用されねぇって考えンだ?』

『…え?』

『なんで、俺だけを隔てて考えンだ?』

 

あまりにも勝己が苦々しく、重苦しく言うので、出久もタジタジになってしまったらしい。先ほどの勢いがまったくなかった。

 

『そ、んなこと…』

『少し考えりゃあわかる事だ。そうだろ?お前はクソナードでも頭は良い。なのになんでさっきみてぇに、なんで俺が飯田のヤツと連携プレイできねーって決めつけた?』

『だって、かっちゃんだったら…っ』

『俺だったら?俺だったらなんだ?できっこねぇって?ふざっけンじゃねー!!』

 

声と共に、どこかで爆発音が聞こえた。

 

『これは現実(リアル)で起こる事を想定して俺たちでも気軽にかつ、厳しく訓練できるように再現された場所とルールだ。疑うべきは“自分の中の拝見や見方”であって“起こりそうな事柄”じゃねーだろ。』

 

違うかオールマイト?そう問う彼の言葉に少々気圧されながらも、オールマイトは答えた「それが今現在出来うる我々教師の義務だ」と。

 

『それ、は…そうだけど』

『“起こらなそうな出来事”をも想定して動かねぇと作戦も個性もなんもかんも活かせないうえに、“自分のせいで何人か犠牲になりうる”可能性もある。』

 

その彼の言葉は重苦しく響いて。まるでそれを経験したかのような雰囲気で。出久はもちろん、それを聞いていた全員が固まってしまっていた。それをわかっているのかいないのか、勝己は続ける

 

『そして現実じゃ、相手も自分も友も知り合いも、ヴィランやヒーローでさえ“無力に死んでしまう世の中” でもあるっつー事だ』

 

その場だけでなく、クラスの全員が動けなくなった。現実の厳しさは知っているつもりだった。しかし、彼らは今ここで改めて、爆豪の言葉によっていかに自分らが楽天家だったのかを知る。

 

「あいつって…こんなに真面目だったんだ…」

 

そう言ったのは芦戸(あしど)三奈(みな)だ。

 

「人は見かけによらないものなのね」

 

続けて言葉を発したのは蛙吹(あすい)梅雨(つゆ)

 

「爆豪すっげー!漢だぜ!!」

 

賛美したのはお馴染み切島だ。

 

「小難しい理論や建前わかったうえで、作戦考えるの上手すぎだろ。あいつ特攻系のバカだと思ってたが、やっぱ…強ぇな…心も身体も…」

 

次に顔を少し暗くしながらそう言ったのは焦凍だ。ちなみに彼はただ今、勝己と真正面で戦えている出久に嫉妬中である。ギリッと歯ぎしりもしてしまったほどだ。

 

「つーか二人とも戦闘に夢中になって頭から制限時間抜けてて草生えるー(笑)」

 

尖水が怠そうに笑いながらしゃべると、その彼の傍にいた梅雨が彼のほうを向いた。

 

「尖水辰って言ったわね貴方」

「そういうアンタは蛙吹梅雨だっけ?」

「そうよ。梅雨ちゃんと呼んで。尖水ちゃん」

「ちゃん付けかー。まぁ、お近づきの印って事で梅雨ちゃんって呼ぶけどさー…俺の事ちゃん付けは…ちょっと」

「あらどうして?クラスメイトで友達になったのだから、これくらいは当然ではないかしら?ケロケロ」

「お、やっぱツユちゃん個性カエル?」

「そうよ。あなたの個性はなぁに?」

「んー…時期にわかるんでねーの?楽しみに見てたらいーと思うぜー…」

 

言いながら欠伸をする尖水の、包帯が巻いてある手首が見えた梅雨は、そっとソレには触れずに彼をじっと見つめる。

 

「欠伸?それに気だるそうね…ケロ。尖水ちゃんもしかして寝不足なの?」

「んー…そうさなぁ…」

「朝起きるのが得意なの?それとも…」

 

そこで梅雨が尖水をまたもジッと見つめた。彼女のつぶらな大きな瞳に見つめられて、さすがの尖水もタジタジになる。

 

「べ、べつにいいんじゃね?」

「ケロケロ。ダメよ尖水ちゃん。」

 

梅雨は尖水の手をそっと取った。手首の包帯は見ずに。

 

「どんな理由があったとしても、自分を大切にできるのは自分なのよ。だから無理はしないでね。何かあったら私でよかったら話し相手…聞き相手になってあげるわ。ケロケロ」

「!」

 

その彼女の言葉と笑顔に揺り動かされて、尖水は一瞬目を見張って硬直した。そうして少しした後、フッと微笑した。

 

「ああ。約束するぜ。あんがとなツユちゃん」

「ケロケロ。ええ。どういたしまして」

 

一方その頃、あの二人も動き始めたらしい。あちこち煙があがっていた。

 

『どうして、君は…そこまで解るんだよ?』

 

出久が勝己に詰め寄る。

 

『…』

『おかしいじゃないか!一体どういう事なんだよ?!まるで全部、君自身が…!』

『敵に隙を見せるんじゃねーよ動揺しすぎだデェク』

『?!』

 

そう聞こえたが最後、また破壊音が続いた。

 

「デクくん?!」

『ごめん麗日さん!このままじゃダメだから、作戦はBのほうを!』

「わかった!」

 

キッと前を向き直していざ、飯田の後ろをとろうとしたが…麗日が一瞬目を離した隙に飯田はそこには居なくなっていて。

 

「あ、あれっ?!飯田くんはどこに…」

「油断しすぎではないか麗日くん!」

 

彼女の背後を取って、拘束しようとした飯田は、しかし避けて攻撃を仕掛けてきた麗日とまた距離をとる。

 

「女子だと思って見誤っていたよ…麗日くんキミは…格闘技が使えたのか!」

『はぁ?!あの丸顔が格闘技だと?!』

 

それに一番に反応したのは向こうで出久と戦っている勝己で。

 

「うん。ワケあって今まで黙ってたん。ごめんね」

「いや…それも作戦の内だ。それに今のはいい判断だった。」

 

飯田の個性は素早い。よって今ので避けていなかったら…

 

「ケガをさせてたかもしれないからな…」

 

少し、思いつめたような節があった飯田だが、続けてお茶子を睨む

 

「さぁ…このブツが欲しけりゃ実力で奪ってみるんだなぁ!ぐへへへへ」

「………」

 

飯田が、いきなり彼らしからぬことを言い始めたのであっけにとられてお茶子の動きが止まってしまった。彼なりの生真面目さがここで出て来てしまったらしい。彼はヴィラン役に徹している。

 

お茶子は呆れて物も言えなかった。が、しかし素早くお茶子が動いたかと思ったら、彼女はパンチとキックを交互に出しながら、犯人捕獲テープを巧みに使って飯田を翻弄する。

 

(ただ者ではないと思ったが…っ!これほどとは!)

 

お茶子の攻撃が頬スレスレに横切る。勿論、飯田も負けずと応戦する。彼のスピードにさすがのお茶子も若干ついていけてない。が負けてもいない。

そんなのが続いたかと思いきや…急に下の階が崩れ始めた。その直後だった。

 

『麗日さん、今だ!』

「了解!飯田くんごめんね!」

 

彼女が個性を発揮しつつ飛び上がった。




次回、戦いの決着がつく。お楽しみに( ・ㅂ・)ノ☆彡


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第8話 大怪我を阻止阻止!

皆様お待ちかねの~続編です!戦闘訓練編さいごのお話!
お互いライバル意識が葛藤(かっちゃんの取り合い)するデクと轟!
ここからさらにどう悪化(笑)していくのか楽しみで仕方ありません(ゲス顔)


なにが…起こった?

 

オールマイトは唖然と、液晶画面を見つめるほかなかった。それは他の皆にも言えることで。

 

(爆豪少年が有利だったのを、緑谷少年が底力を発揮して圧倒し始めたころ、爆豪少年が笑った…)

 

彼が不敵に笑った瞬間、目にもの止まらぬ速さで、指をパチン!と鳴らして小さな爆発を指先に起こしたその瞬間、全てが崩壊したのだ。

壁や障害物だった岩もすべてが消し飛んで、その影響は上の階まで広がって…お茶子と飯田が落ちてきたのを爆豪が見て、何かを飯田に呟いた。

 

『このままなにもすんじゃねぇ』

「なっ?!負けろというのか?!」

『どっちみち、建物壊しちまった俺たちの負けだ。』

 

彼曰く、たとえヴィランでも大事な核兵器を壊しかねないこんな攻撃をしかけない。売り物に傷をつけるヴィランはバカだと。

 

『今回は俺たちの負けだ』

「…わかった。君に従おう。君は無駄な事はしなさそうだからな」

『知った風に言うんじゃねーよ…』

 

結果は、爆弾回収したヒーローチームたちの勝ち。しかしヴィランチームは作戦もさる事ながら、潔く負けを認めて身を引いた事により、みんなの高評価を会得した。それもこれも爆豪の作戦や行動が語った事が大きかったりする。

 

「ボロボロだな爆豪少年」

 

オールマイトが彼へ声をかける。

 

「…あー久々に疲れたわ」

 

そう呟く彼を見ながら、少し考えた素振りをしたオールマイトは結果を伝えた。

 

「…キミに得点は入らないが、緑谷少年チームのほうは逆に点数をマイナスさせてもらう」

 

その言葉に食って掛かったのは出久だった。

 

「え?!な、なんでですかオールマイト?!」

 

今度は出久の方へと歩いて近くで止まった彼は、ジッと見つめる。

 

「…理由くらいは君がわかっているんじゃないかな?緑谷少年」

 

その言葉に、出久はシュン…と顔を伏せた。

 

「君は、爆豪少年があそこであんな無茶な行動をした本当の理由を、早く理解したほうがいい」

「…え?」

「ヒントをあげよう。もしあのまま続けてたら、君は何をしてた?」

「あのまま…?それは…」

 

そして出久はハッと何かに気が付いた。気が付いて青ざめた顔でブツブツ言い始めた

 

「そんなだってかっちゃんはそんな事知るハズないしそれにもし何か感づいたとしても僕に気遣うなんてそんなのかっちゃんじゃないしましてやそんなのは」

「ストップストップ!ここでそれはナンセンスだよ少年!」

 

オールマイトはなおも、出久と向き合って話す。

 

「君の中の爆豪勝己という少年を、もう一度見返す必要があるのではないかな?」

「僕の中の…かっちゃんを?」

「ああ。彼は君が思うほど…無慈悲でもないし無謀でもないし優しくないワケでもないと思うんだ」

 

逆に優しすぎるんではないのかな?とオールマイトが発して、反論しようとした出久の声を遮ったのは轟焦凍だった。

 

「緑谷」

「な、なに轟くん…」

 

何故だか二人の間に嫌悪な空気が流れる。

 

「俺はきっと、お前の知らない爆豪を知ってる」

「?!」

 

ギロリと睨む焦凍。

 

「爆豪は、優しすぎて空回りするが、アイツのやる事はすべてが繋がってんだ。俺でも不思議と馴染めた。そんで色々教わった。だからわかんだ…あいつ、結構繊細で傷つきやすいぞ」

「?!かっちゃんが…傷つきやすい……?」

「虚勢貼って内心なだめようとするのがあいつだ。しかも自分の心、本音を隠すのが上手すぎんだ」

 

だから、あいつをこれ以上傷つけるな。

 

「…キミに、何がわかるんだよ」

 

今まで静かだった出久が、その言葉を発して素早く焦凍の胸倉を引っ掴んだ。その緑の瞳は静かに揺らめいていて、焦凍さえ怖気づいてしまったほどだった。

 

「仲良かった幼馴染が…急に自分だけに冷たくなって、あげく自分の隣にくるなって突き飛ばしてきたら…キミだって…!!!」

 

そこまで言って、出久は首を振った。

 

「もう、いい…もうわけがわからない。疲れた」

 

そう言いながら壁にもたれて、ずるずると崩れるように地面に座った。焦凍はというと少しそんな出久を見つめてから、何も言わずに自分の番が回ってそこを去った。

 

「…何ケンカしとんじゃアイツら」

 

遠くから眺めていた爆豪がそう言えば、尖水がアハハ!と笑いながら肩を組んだ。相変わらずダルそうな声を出している。

 

「お前本当、気づいてないんだなぁ。平和だなぁ…」

「はぁ?どこが平和だ。お前の頭の中だけだろ平和なのは」

「へいへい…優しい爆豪さんは皮肉さえも真面目に答えてくれるんですねー」

「おい、それどういう意味…「ところで勝己」?!」

 

急に名前で、しかも真剣な声色で話し始めた尖水を、勝己は驚いて見つめ返した。

 

「出久に個性使わせないために無茶しすぎだろ…もっと方法あっただろーが」

 

アイツの個性、ヤバいんだろ?と尖水が問う

 

「…ああするしかなかったんだよ。」

 

チラリと、肩を落とした出久を見つめる勝己。

 

「ああしなけりゃ、あいつは自分の個性使ってアソコぶっ壊して作戦を成功させようとしたハズだ。だからこっちが…」

「なるほどなぁ」

 

勝己の肩から腕を放しながら、コキコキと腕慣らしをした尖水

 

「お前さ、このままいけば…壊れるんじゃね?精神。てか心」

「は?」

「もう耐えられないって顔してんぞ」

「!!」

 

咄嗟に顔を伏せた勝己の頭に、軽く手を乗せる尖水。その瞳は…とても優しい光を宿していた。

 

「頼れよ!俺とかさ。お前はもう一人じゃねーんだぜ?」

「…!」

 

一人じゃ…ない。そう勝己が噛みしめるように呟いて。

 

「わかったら俺の戦いもちゃんと見てろよ~?」

 

気ダルそうにそこを出ていった。

 

「…やっぱお前には敵わねぇな……」

 

尖水の背中を見つめながら、勝己はそう零していた。それを聴いている者がいると、その時の二人は気が付いていなかった。

 

(かっちゃんは、一体僕の知らない間にどうやって轟君に出会って何を教えたんだろう?そしてなんでかっちゃんは尖水さんにああも信頼を寄せてるの?分からないことだらけだ…悔しいな…一番傍にいたのに、僕はかっちゃんを本当の意味で見ていなかったんだ…)

 

出久がマシンガントークのごとく考えて少し音量低めのブツブツを言いつつ焦凍を見れば、焦凍も不満そうに顔をしかめていた。

 

「うわーやべーツユちゃん可愛いって思っちまったー」

 

はぁ~と溜息をしながら頭を抱える尖水を見ているのは、同じチームの青山(あおやま)優雅(ゆうが)だ。

 

「君はその子の事が好きなのかい?」

「好き?いや…まだそこまでじゃねーと思うけど…まぁ、友情関係の好き嫌いで言ったら好きの方が今格段にあがってっかなー」

 

ポリポリと頬をかく尖水。

 

「あんなに優しく触れられたの…初めてだったからさ…」

 

スリ…と先ほど梅雨が優しく触れた手をもう片方の手で撫でる。まるで先ほどの事を思い出すように。

 

「君はかなり彼女の事、好きだと僕は思うけど」

「ははっ。なんだよお前。面白い奴だな~俺が誰かを好きになる?それは危険だぜ?」

 

フッと一瞬、尖水の顔から笑顔が消えて能面みたいな表情をした。その顔を見てゾクリと悪寒が走った優雅は、固まってしまった。

 

「俺は誰もを不幸にしかしない存在なんだから…誰も好きにならないさ」

「へぁ?!」

 

そして冷たい眼差しに当てられて優雅が身震いしたところで、パッと明るい表情に変えた尖水は、苦笑しつつ優しく相方の頭を撫でた。

 

「冗談だって!怖がらせてゴメンなー?大丈夫か?」

「…だ、大丈夫さ」

「そっか。じゃあ作戦はどうしようか」

「んー…そうだね。じゃあ僕が「オレ突撃に回るから、お前ここで核兵器守ってくんねー?」あ、うん。いいよ」

 

尖水が体を慣らす。そして

 

「うしっ!いくぜ~」

 

間延びした声をしながら、なんとも気が抜けるような、やる気がないような声色を発して尖水は脚力を発揮し、その場からシュッと音を出して消えた。

 

「へ?」

 

優雅もポカンとするしかなくて。そしてしばらくして、またシュッと音がしたと思ったら彼は終わったと言いながら拘束していたヒーローチームを床に置いた。

 

「いま…何が起こったんだ?!」

 

切島が驚いて声を張り上げた。

 

「あいつ…なにか足元に使ってたぞ」

 

滑るように高速で移動しやがったと、焦凍が言うと出久が続けた

 

「うん。なにか液体のようなものだった。それを地面に流すように…いや、地面に触れた時は固くなってた。そして敵のチームの方へ素早く移動して…」

「手を前に出して液体みてぇなもんを使って、ヒーローチームを包んだな」

 

最後にまた焦凍がそう言うと、出久と焦凍は顔を見合わせた。

 

「どうやら君にも見えてたみたいだね。」

「てめぇがどんな奴なのかはわからねぇけど、高い分析力は持ってるようだな。あと目も良いみてぇだ」

 

またも険悪な空気になると思いきや、焦凍がすぐ背を向けた。今度は彼の番だからだ。その背中に声をかけるものが居た。勝己だ。

 

「おい轟、お前俺が言ってたトレーニング、やってねーな?」

「……」

「無言は肯定ととんぞ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………努力はしてる「嘘つけ半分ヤロウ!!」いや、してる」

「つーかなんだその間は…あーまったく。お前ホント石頭だな。まぁいい。今回じっくり見てやんよ。もし左半分使ってなかったら…どうなるかわかンな?」

「…………………努力は、する」

「お前…ああ、もういい。早よいけや」

 

勝己は自分の後ろを見る事を忘れていた。そう、彼は思いもしていなかった。出久が自分を怖いくらいジッと見つめていたことを。勝己に声をかけてもらった焦凍に嫉妬していたことを。

 

「なにあれ轟君には助言とか手伝ったりするのにどうして僕の事は邪見にするのっていうかかっちゃんにトレーニング手伝ってもらえるなんてなんて羨ましいんだっていうかかっちゃんに声をかけられるだけで僕だったら緊張しちゃうかもしれないけどやっぱり心の奥底は嬉しさでいっぱいになるよああもうホント羨ましいよなんで僕は違うの何でそんなに扱いが違うのさ…ブツブツブツ」

 

それ以上は怖くて誰も出久に近づこうとは思わなかった。

 



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第9話 月に託した願い

今回はヒロアカ本作とは全く違う私ならではのオリジナルとなってます。
めっちゃ色々と改変しております。なんだったらキャラも改変しております。
なのでそれがダメな方は回れ右をお願いしたいです…。
月の下で願ったことを死柄木は思い出して買い物に出かけたら…?
後半、かっちゃんが体調悪くて気絶。さぁてどうなる?


あの日は、月…

そう、月だ。たしか空に月が浮かんでいた。

 

真っ暗で…何も見えなくって。

 

でも月の淡い光だけがボゥって見えて、どこまでも昏い空を、弱弱しく明るく照らしてたんだ。太陽のような強い光は持ってない。だが、もてうる自分の力をそっとそっと、絶え間なく俺に…俺たちに注いでた。

 

死にぞこないである、俺たちに。皆に見離された俺たちに。諦められ、朽ちて行くしかなかったはずの人間たちだったハズなのに。

 

(まるで、俺たちを決して見放さないとでも言うかのように…)

 

絶望の節で、虫の息のような奴らが次々死んでいった。

あたりは真っ暗だった。あの空のように。

腹は空き、心も身体も傷つきボロボロ。指を動かすのも億劫になる。体力を温存するためにも、壁にもたれかかって、全身の力を抜きつつ、喉の渇きをごまかすように、パサパサな口の中に唾液を回す。

 

無意味な行動だとわかってても、気休めぐらいにはなった。

 

街のネオンの光が鬱陶しい。幸せそうな家族が、声が聞こえるたびに言いようのない悔しさと、憎しみと、羨ましさと…虚しさが沸き上がる。

 

(優しいフリ、みないフリ…)

 

俺も動けずに、ただ待った。迫りくる死を只々待つだけだった。自分の手を見続け、気まぐれに目線だけを音の聞こえた方へ送る。

猫や犬がこちらを物珍しそうに首をかしげながら見つめてくる。

 

(誰も助けに来てくれない……ヒーローでさえも…)

 

絶対に大丈夫だよと。絶対に助けに来てくれると。そういって目を輝かせながら教えてきて、結局目の前で散っていった同い年の尊い命を思い出した。

 

(なにが…ヒーロー)

 

ギリッと奥歯をかみしめる

 

(なにが……絶対に助けに来てくれる! だ…みんな……噓つきだ)

 

ちくしょう…と一言呟いた。

 

ふと差し込んできた温かい淡い光。疑問に思ってなけなしの力を振り絞って空を見上げて、月がそこにあるって気が付いて…

ああ、キレイだな…って思った。

ひび割れた建物からうっすらと差し込む月の光が、何故だか心地よくって。

だから俺はあの日、強い光しか注ぐことができない太陽じゃなくって、淡くてキレイで優しい光を持つ、あの月にお願いしたんだ。

 

(いつかで良いから、いつかで良いから。まだ生きられたら)

 

らしくもなく、祈るように小さな小汚い震える手を合わせて。

 

(あんたみたいな、月みたいな友達…ください)

 

震える身体でそんな事を、月に願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死柄(しがらき)木弔(とむら)

 

聞きなれた声に俺の意識は浮上した。ちっ。嫌な夢をみちまった。イラつきながら首元をガリガリ掻く。

 

「黒霧…今何時」

「昼の4時です。」

「あー…おやつ…」

 

そこにそっと置いてある黒霧が用意したデザートを手に取ろうとして、スカッと自分の手が空を掴んだ。あいつ、個性つかっておやつをワープさせやがった。

なんでそんな事をするのかという意を込めて黒霧を睨めば、あいつはすました顔でこういってきた。

 

「おやつの時間は過ぎてます」

「はぁ?それでなんで俺が食べるのを我慢しなきゃならないんだ。よこせ」

「ダメです。ヴィランでも規則正しくおやつの時間は守らないと」

「なんでおやつの時間だけ規則正しくしなきゃいけないんだ。俺たちはヴィラン。何者にも縛られない。ルールも関係ない…なら、おやつを何時に食べようが関係ない…食べたいときに食べる。なぁ、そうだろ?」

「…では、条件があります」

 

そう言って半分呆れている感情を隠しもせず、黒霧は俺に一枚の紙を渡してきた。

 

「買い物リスト…?ふっざけんな!俺に買い物だと?」

 

思いっきり机をぶっ叩く。もちろん個性が発動して崩れないように二本くらい指を離して。

 

「そんなものに行くくらいなら、オヤツなんていらないね」

 

興が覚めたと言わんばかりにそう言うと、黒霧は困りましたね…このままでは今日の晩御飯ありませんとか言ってきやがる。

知るか。お前が行け。お前が。ワープで楽々いけるだろ。

 

「素材買ってきてくださったら、おやつの量を普段の二倍にしますけど」

「チッ。この紙に書かれてるヤツだけでいいんだな?」

「ええ。それだけで足りる。よろしく頼みましたよ」

 

そこ、上手く丸みこまれたなんて笑うなよ?じゃないとお前、壊すぜ?

 

「あー…だりぃ」

 

足取りは重い。

 

「なんで俺が…」

 

賑わう人々の中をかいくぐって進むのは苦手だ。どいつもこいつも幸せそうな面をしながら、さも悪い事なんて起きてません。みんな平等な平和の中に居ますみたいな顔しやがって。

 

(なにも見えていないフリをしているクセに)

 

死にかけている奴が居ても、お前たちは手を差し伸べようともしない。

 

(偉そうに犯罪者、世間の屑。ヴィランなんて宣う)

 

ああ。

 

何もかもを……

 

 

 

 

…───壊したくなる

 

 

 

 

 

ついついそこにあるものを…壊したくなってくる…

 

「あー…ダメだ。」

 

先生にも言われた。感情のコントロールをマスターしなければ、いくら頭が良くても無様に負ける。

負けること自体は罪でもましてや悪い事ではない。自分の次の枷として経験として次に生かす。

しかし世の中、必要なのはコントロールだと。

 

「すぐ癇癪を起すのは俺の悪い癖だ。」

 

自覚はしているが、未だそれをコントロールする術を、俺は持ってない。

 

「さぁて…と…?」

 

買い物リストを丁寧に読み上げて、忘れ物がない事を確認する。

 

「ネギ…味噌…豚肉…」

 

どうやら何も忘れてないみたいだな。これらから連想されるもので晩御飯に適した、黒霧が作りそうなものは…

 

「豚肉の生姜焼き、豚肉のネギ味噌焼き、豚肉のネギ味噌炒めかもしれないな…」

 

嫌いじゃないな。

むしろ好きな方の料理だ。父さんの大好物で、母さんがよく作って…

 

「…黒霧のつくるヤツ、似てるんだよなー」

 

この料理はとくに母さんの味に似てる。だから嫌いじゃない。

だから壊さない。だから…

 

「さぁてと…俺を歩かせた罰として…ちょいと寄り道でもしてオヤツのおやつを買いに」

 

瞬間、目の前で爆発音とまばゆい光に包まれた。

 

「?!」

 

どうやら攻撃されたらしい。間一髪で避けたはいいが…ちっ。視覚がやられた。目が見えねぇ…

そう思いながらも、先生から学んだ通りに対処しようと意識を集中させる。

 

「目をやられて周りの状況を把握するには、残った感覚だけで全てを把握すればいいんだったな…」

 

聴覚、嗅覚、味覚、触覚…そこから導き出される情報を処理して、“空間で自分の体を認識する感覚”を発揮させる。

そう。今の俺は身体全てが音や匂い、空気の温度の違いさえもを感じ取って攻撃に移れる。さぁてと下準備は整った。あとは…目の前に現れた巨大な何者かをぶっ飛ばすのが先決だな。

 

「おい、デカブツ」

「…なんだお前。」

 

目は見えない。けどハッキリわかる。こいつが変な個性を俺に使って来た奴だ。

 

「なんで俺の買い物、吹っ飛ばした?」

 

せっかく屑みたいなヒトゴミの中を、結構久しぶりに良い気分で買い物してたのになぁ…あーホント、世の中って……

 

「クソだよなぁ…?」

 

くひひっ。こいつは壊してやるんだ。跡形もなくボロボロに崩れて、そんで!

 

「消えちまえよ!!」

 

感覚だけでこいつの攻撃をよけて、そんで隙をつくった。

 

(ここだ)

 

スッと流れるように俺の手をそいつの体へ触れようとして。あと少しでこいつへの攻撃が入ると言う所で、デカブツは避けやがった。

おまけに俺の腹に重い一撃をぶっ放す始末。

 

「ゲフッ…あーマジかよくっそ!」

 

壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したいしたい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい壊したい!!!!!!!!!!!!!!

 

「くっそぉおおお!!!」

 

目の前に迫りくる気配。ああ、こんな殴られる十秒前になんで視力が戻るんだよ…

避けられないじゃないかよ。運がないにもほどが…

そう思いながら相手を見ていた。一瞬、昔みた綺麗な月の光を思い出した。

 

(あの日も丁度、こんなクソみたいな日で…俺を励ましてた親友が死んじまった日でもあって…)

 

するとすぐ傍でドカン!という音。

 

気が付きゃ、いつの間にか目の前のデカブツが吹っ飛ばされていた。

そんで…目の前には淡い月の光をそのまま髪の毛に溶け込ませたかのような…19、20歳くらいの男子がいた。

 

キレイな月の色を髪に宿し光らせながら、そいつは不愛想な声色で、だがどこか気遣うような、そんな声色で俺へ口を開いた。

 

「おい」

「……」

「死にたくなきゃ俺の傍から離れんな」

 

その男の低い声がやけに俺の耳に心地よく馴染んで。心地が良くて。

ほど良い柔らかな優しさが声ににじみ出ていた。

 

「テメーは誰だ」

「ただの通りすがりのヒーローだ」

 

ちらりと見えた、暗闇の中でも失われないルビーみてぇな赤い真っ赤な瞳。とても力強い瞳だった。綺麗だと思った。

そして男は一瞬にして間合いをつめて、巨体を背負い投げして関節技で身動き取れなくした。そんな通りすがりのヒーローを見て俺は忘れてた願いを思い出した。

 

『いつかで良いから、いつかで良いから。まだ生きられたら』

 

ああ…あああ……っ!

 

『あんたみたいな、月みたいな友達…ください』

 

この人がそうだ。

直感的にそう、感じたんだ。

俺は歓喜に打ち震えた。

だが…こいつはヒーローと名乗った。なんでだ!なんで俺の願ったモノは…あっち側なんだよ!!!!

 

「おい」

「なんだよ」

 

むしゃくしゃしてる俺に近づくヒーロー。だがこいつは他の奴らとは違うと感じた。纏うオーラが違う。物腰が違う。ヒーローなのになんでムカつかないんだろうな。ほかの奴見てると壊したくなるのに。

あのムカつくオールマイトとも違う、何か惹き付けられるものを感じる。

 

「お前は悪くねぇよ。よく戦った。」

「?!」

 

先生と…同じ言葉を?

 

「悪いのは対処できねーヒーローでも、世の中をこんなんに仕立て上げた上層部のお偉いさん方でもねー」

「…」

「盲目の正義を掲げるやつら、そしてそれに漬け込む奴らが悪ぃ…もちろん、俺の存在も罪なもんだ」

「それはどういうことだよ?」

 

そう聞けば、月の髪の色の奴は、儚く笑ったんだ。今にも泣きだしそうな…だけどとても印象的で忘れられない──…

 

「内緒だ」

 

キレイな微笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡る事、一か月前。

 

「はぁ?身体を変化させたい?」

 

尖水辰へと相談を持ち掛けた勝己は、ああ。と言いながら何故そんな発想にたどり着いたのかを話しはじめた。

 

「はっきり言えばこれからくる、壮絶な戦いで俺が俺のままで居ちゃ分が悪ぃ。」

「いままでだって十分すぎるほど暗躍してきておいて、お前って奴は…」

「目的は守る事。それだけだ。守る範囲を広くしてぇ。そのためならなんだってするぜ。俺は」

 

その異常なまでの執着は彼の身を少しづつ滅ぼしてると、何度も辰は言ったが彼は苦々しく「わかってる…」しか言わない。

 

「そんで、なんで俺のとこ来た?」

「じつは…お前に頼みたいことがあって」

 

勝己は言いながら一つの黒いケースを取り出す。その中にはいろんな薬や変な液体が入った試験管などがあり…どっからどうみても雄英の化学班が関係しているだろと、半ば呆れを感じながら彼の説明を待つ辰。

 

「幾年もの実験の結果、お前の持つ個性“水銀”が、カギになってくるらしい」

「…ちなみに、なんの?」

「…」

「あのな爆豪…知らないとは思えないが、一応言っておくぜ?水銀ってーのはだな…」

「猛毒なんだろ。知ってる」

「…知っててお前、俺に出せって?ダチを殺す手伝いしろって?」

「ああ、そこんとこは心配いらねぇよ。知り合いに水銀詳しい奴がいてな。」

「だからってなぁ…」

「……やっぱ、ダメか?」

「あ~面倒くせぇなぁ。ホラ」

「…いいのか?」

「あはは!なんだよその顔。欲しいんだろ?お前の事だから、俺が扱う水銀が特別必要なんだろ?減るもんじゃないし、好きなだけ持って行けよ」

「恩に着るぜ!」

 

そうして出来上がった劇薬。淡く光るその液体を、一か月後に勝己は使った。副作用があるのは知ってたが、なぜかその日は使わなければいけないと、一種の使命感に似たようなものを感じたのだった。

 

たまたまだった。そう。本当にたまたまだ。

その日は、チンピラが雇ったヴィランどもを蹴散らせた。その帰り道だ。見覚えがある個性を放って、傍に居た男子に襲い掛かっていくヴィラン。

 

(取り逃がしたやつか…裏ロジでも街中であんな派手な個性使ってくれてマヌケが!あれじゃ見つけてくださいって言ってるようなモンじゃねーかバカが!)

 

よく見れば、攻撃されている男は、大体は避けてたが、擦り傷をあちこち作っていた。そして次のモーションで勝己はその青年が誰なのかわかってしまった。わかったうえで、彼は彼を助けることに神経を使った。

おかげでスムーズに事が運んだはいいものの…

 

(さて、どうしたものか…)

 

勝己が見つめる先には、絶対俺なんかにしないだろと言いそうになる憧れの眼差しをしたヴィラン……死柄木弔がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「緑谷が狙われてた?」

「ああ」

 

二人の小さな会話にはほとんど誰も気が付かないので、クラスが賑わってる中でも二人は二人だけが知る会話を気軽にしていた。

 

「普通のチンピラだとも思ったが…ありゃヴィランだな。」

「何人相手にしたんだ?」

「ざっと三人か。応援を呼ばれちまったから合計で五人だったな。」

「へぇ…五人ね。そんでなんでヴィランが緑谷を狙ったんだ?」

「……中学時代の…誰かに頼まれたんだとよ」

「…そうか」

 

ただ二人とも気が付かなかったのは、その中で唯一といってもいい焦凍だけが、彼らの会話を聞き取れていたという事。

無駄に表情を動かさないのが幸いしたのか彼らは気が付いてない。

 

(狙われる?)

 

焦凍は変わらない表情でそんな事を思いながら、渡されたプリントに名前を書いていた。轟焦凍。うん。間違えてはいない。

 

「まだアイツを狙った中学時代の奴ら居たのかよ…」

「…直接行って蹴散らした」

「え、もう問題解決してたん?」

「…野放しにしとくとやっかいだかんな…エンデヴァーに頼んで…」

 

なるほどと、焦凍は耳で聞くだけにして問題を解いていく。

 

(それで親父のヤツ、意気揚々と昨日、出かけて行ったのか)

 

見てて気持ち悪いくらいにエンデヴァーは張り切っていたのを思い出す。目はギラギラしてたのに口はへにょりとだらしなく笑おうとしていたので、無理に力んでアヒル口になってたのを思い出した。

 

「けどそのせいで今日、体調悪いんだろ?顔色いつもより悪い…白いぞ。寝てないな?何徹夜目だ?」

 

辰にそう睨まれると、勝己はしぶしぶ答えた

 

「に、二徹夜…」

「…そしてあまり食べ物が喉を通らないって?「そんなん言ってねー!」言ってなくってもわかるからオレ。」

 

そこで盛大に溜息を吐く辰。

 

「プロのヒーロー目指すなら健全に過ごせよ…身体壊したら元も子もねぇし守れるモンも守れなくなる」

「…く。」

 

二人の会話からして、焦凍は大体察した。

 

(爆豪、身体怠そうにしてるのも、体育で記録が今一だったのもソレが原因だったのか)

 

しかもそれが出久を守るためとは。特別扱いされてる出久に少なからず嫉妬してしまうのは致し方がなかった。焦凍も人間だ。爆豪に惹かれていて、少し憧れてもいる相手なのだから。

そんな相手が己の体を壊すようなことをやっている。身を削ってまで守っている。

 

(緑谷は、あいつに守られてんだな…)

 

なのにどうして

 

(緑谷は…爆豪を本当の意味で“視て”やんないんだろう…)

 

二人を隔てている大きな溝。それがちょっとやそっとじゃ近づく事も埋まる事も叶わない事を、なんとなく察してはいた。だが今まだ理解に苦しむ焦凍だった。

 

そんな時だ。

 

「あ、かっちゃん…ご、ごめん…」

 

出久の肩が勝己の肩にぶつかってしまったのだった。勝己は内心酷く動揺してしまった。久々に出久がこんなに近くにいる。それだけでおのれの胸は打ち震える。歓喜と、悲しみに。

ドクリと心臓が強く脈を打つ。そのせいで一瞬息が詰まる感覚が勝己を襲う。このままではヤバいと、勝己は焦った。薬の副作用か?続けて二日間使ったらこうなるのか?などと考える勝己。

 

「はぁ…」

 

その痛み始めた胸を隠すようにネクタイを緩めながら勝己は溜息をこぼした。まるで、痛みや悲しみをどこかへ追い出して和らげようとしているみたいに。

そう。勝己は必死になっていつもの発作みたいなものを起こさせないように振舞った。ただそれだけだ。

 

自分の弱った姿なぞ、自分が認めた誇るヒーローに見せてたまるものかと。

 

しかし何を思ったのか、その勝己の力ない目を見てカチンと切れたのは何と出久で。辰が止めようとしたソレより素早く勝己の胸倉を引っ掴んで。

 

「どこ見てるんだよ…」

「放せよ」

「なんだよその目!そんな弱い目、君らしくないじゃないか!何なんだよ君は!」

「…っ!」

 

弱い目。

 

悟られたくなかった。

 

なのに……

 

勝己は時々、このような発作が起きることが度々ある。それを、あの劇薬がさらに引き出してしまったらしい。

原因は明白だ。己の精神と身体が弱まると起こる現象。過去の罪の意識…そして前世の記憶。

 

一種のトラウマにも近く、フォビアにも近く…そしてパニック症候群とも似ていた。

今日は特にひどいのだ。学校に来る途中、三度も過呼吸になった。あのまま帰ってもよかったが…いかんせん最近、出久を狙おうとする輩が居て心配で仕方がなかった。

だから来た。怠い身体を這って。ぼーっとしてしまうこの頭は、きっと熱もあるだろう。そろそろ頭痛までしてきた頃、この出久の急接近とこの彼の言葉。

 

『弱い』

 

なんとない言葉だ。ありきたりの言葉だ。それに傷つく理由も必要性も勝己にはないハズだった。

しかし今の勝己は過去の事を簡単にフラッシュバックしてしまう危険性があった。おもに劇薬の副作用のせいで。それに続いて前世の記憶も持っている。

自分が今まで出久に仕出かしてしまった痛々しい行為を…前世の事を思い出してしまう。考えるなと命令をしても無駄だった。連鎖で自分の脳が思い出したのは

 

虐め始めたころの、出久…

 

「は…」

 

あの時の彼の顔を、きっと勝己は一生忘れないのだろう。

 

「かはっ!!」

「え?」

「…っ……ぁ…!!」

 

脳に焼き付くようにこびり付いている。

 

「かっちゃ…?」

「は、はぁ……ぅ!……ぅあ…カハッ…!!!!」

「ど、どうし」

 

絶望で勝己を見上げる、幼馴染の顔

 

「あ…ァァ!……ッは……はぅぁあ……!!」

「ど、どうしちゃったのかっ」

 

悲しみで歪む、出久の顔が

 

頭から、離れない

 

ハナレテクレナイ

 

お願いだから

 

お願いだから

 

お願いだから

 

お願いだから………!!!!!!!

 

(赦してくれ………俺のヒーロー……)

 

「緑谷!爆豪から離れろ頼むから!!」

 

状況を一部把握したらしい辰の悲痛な声が響く。とっさに離れて辰を焦りながらも困惑した顔で見る出久は何をどうすべきかわからず。

辰が大雑把に説明しようとしたその、一瞬。

勝己の体が大きく揺れて───…倒れていった。

誰も勝己を見ていなかった。だから反応ができなかった。

 

 

 

 

ただ一人を除いては




~作者の語り~

皆様お久しぶりです。お元気ですか?( ・ㅂ・)ノ
私はいたって体調良いですよ!休んでた間練ってたネタを今回詰めました!
しかし収まり切れなかったんで、半分にポキって割りました。ポキって。

今回のお話は、死柄木を少しでも救えないかと検討した結果に書き上げたものです。
常々思うんだけど…ヒロアカのキャラたちって何で悪役でさえ魅力的なの…?
救いたくなるじゃないか!そして救っちゃったっていう奴がかっちゃんだったら凄く萌える!!

己の意見が一致したり己の中で掲げる正義の定義がお互いに重なったら、
裏で暗躍しちゃったり、かっちゃんを手助けしたりすればいいと思うんだ!!
やっべ胸アツ展開じゃないかこれ!少なくとも私的にはおいしいです!
そしてそれを上手く書ける自信皆無なんで誰か私のほかに書いてくださる素敵神物書きいませんか?!
光の速さで読みに行きます!!だれか私に餌を…餌をぉおおおおおおお!!!
お与えくだせぇえええええええええええええええええええええええええええええええあああああああああアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああ!!!!!⊂⌒~⊃。Д。)⊃

(荒ぶる後書き)


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第10話 大切な思い出

書き手の活力を上げるのは、コメントや感想をくれる読者様なのだなと
いつも感想をくれる読者様たちにとっても感謝してます!
ありがとうございます!!感想を!!ありがとうです!!!
というわけで久々に褒めちぎられて活力わいたので、あっという間に書きました!
本当に!!ありがとうございます!!!!

今回のお話は前回でポッキリ折った部分+αを書きました。色々視点が変わります。
轟君だったりデクだったりかっちゃんだったり相澤先生も…今回でかっちゃんトラウマ編は一時期終わりかな~?


~轟焦凍 視点~

 

あいつと初めて会ったあの時、正直に言えばいけ好かねぇって思った。どうして親父が俺と会わせたがるのかわからなかった。

だけどあいつが親父と互角に張り合うのを見て、目を見張ってしまった。

いつの間にか食い入るように見てたんだ。アイツの動き、蹴るや殴るなどの動作がとてつもなく洗練されたものだと一目で見て気づいた。

 

「キレイだ…」

 

思わず零れた言葉は、誰の耳にも届かなかったが…俺自身が耳を疑うほどで。でも、それが自分の本心からくる言葉だった。

だから納得しちまったんだ。親父がなぜ、爆豪に異様に執着しているのかを。

 

あいつはキレイだから。あいつは、強いから…

 

だけど、親父に連れられて何度かあいつを観察する間に気づいちまったんだ。あいつの…爆豪のキレイな真紅の瞳が曇るときがあるのを。それはいつも決まって、幼馴染の“緑谷”というヤツの名前が出る時だった。

はじめは俺には関係ないし、人のデリケートな部分まで干渉するもんじゃねーとほっとこうと思った。けど…その顔が時々寂しさに歪んだり、悲しみで思考がかき乱されて、動きや思考が鈍る。そしてきまって胸を掻くような仕草を、誰も見ていない時にサッと素早くする。

 

汗がブワリとにじみ出て、嗚咽をかみ砕くように下唇から血がにじむまで噛み、無理にでも痛みを逃がしているようだった。上手く息ができてないのか、はっ…はっ…と苦しそうに息を吸っては吐いてを繰り返して。

 

その一連の動きは見覚えがある。幼い時の記憶───お母さんがよく隠れて………

 

(過呼吸…?)

 

それで理解した。あいつは幼馴染の何かの事で苦しんでいるのだと。そしてそれは───…今も彼を苦しめているのだと、目の前で倒れてしまった爆豪を見て俺は直感した。

 

あいつが苦しそうな顔をするのは、いつも

 

(緑谷が傍に居る時だ……)

 

そうだ。アイツがいつも言っていた、“バカなお人よしで鈍感で頑固な幼馴染がいる”と。懐かしむように。けど時々苦し気に。

ソイツが傍にいるときだけ…爆豪はいつにもまして喜び、そして悲しむ。そいつの話をするだけでも顔や態度にそれが現れる。

 

ようは爆豪にとって、緑谷は劇的な弱みにもなるし、強みにもなるってことだった。

理由はわからねぇ。聞いた事も、ましてや聞きてぇとも思ったこともねぇ。けど、コレはねぇだろ…

 

いくらなんでもコレはねぇよ緑谷。

こんな、弱ってる爆豪にトドメ刺すみてぇなこと。

こればっかりは………

 

「緑谷…悪ぃな…俺はお前を許せねぇ」

「?!」

 

その俺の殺気こもった言葉を聞いてクラス中どよめきが上がる。力なく倒れた爆豪の体を間一髪で支えることに成功した俺は、きっとすげぇ顔してたんだろうな。緑谷の顔が強張ってるし身体も少し震えてる。

けど、知ったこっちゃねぇな。爆豪をこんなんにしちまったのは目の前のコイツだ。コイツのせいで爆豪は限界を超えちまった。

 

「爆豪がこんなんなっちまったのは、大半はてめぇのせいなのに」

「?!?」

 

それをお前は…

 

「お前の中の爆豪って…なんなんだよ?」

「ぼ、くの…中の…」

 

ああ、見ててイライラする。こんなにイライラすんのは…アイツ以来だ。

 

「親父以来だよ。ぶっ飛ばしてぇって思ったの」

「?!」

「お前は爆豪を見ているようで何も見えちゃいねぇ…こいつの優しさに気づきもしねぇで…」

 

あんなに大切に思われて、大切に扱われて守られていながら。

 

「よくもまぁ、爆豪にこんな…」

 

ああ。ダメだ。これ以上ここに居れば俺はきっと。こいつを。

 

「と、轟くん…かっちゃんをどこに」

「保健室に連れて行く。くれぐれも後を追ってくれるなよ緑谷…じゃねーと俺はテメーに何をするかわかんねぇ」

「…っ」

 

空気ぐらい読めるヤツで助かった。俺は早々にその場を離れた。爆豪をお姫様抱っこして保健室に向かう。体温が妙に高いのは熱のせいだとわかるが、明らかに汗の量とその汗の冷たさが異常だ。

息もあんまし上手くできてねぇし…痙攣してやがる…

早くリカバリーガールに診せにいかねぇと…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~緑谷視点~

 

カッとなってしまった。頭に血が上ったんだ。だってあのかっちゃんが、ため息ついて僕に何も言わずに去ろうとするし。

なによりも、あんな彼の弱々しい目を見て、我慢ができなくなってしまったんだ。

 

どうしよう…

 

かっちゃんが…倒れてしまった。倒れないと思ってた。だってあのかっちゃんだもの。大丈夫だって思った。かっちゃんだったら何でもできるし、誰よりも丈夫で誰よりも頑丈だって信じてた。いや、過信してたんだ。

だからかもしれない。

彼の顔が、異常に青白くなっていったのにも、息苦しそうにしてたのにも…気が付かなかった。気が付かなかったんだ───…

 

どんなに強くたって、人は人。身体でさえ異常なときはあるのに。心だって……何らかの条件がそろえば人は病気になるし、壊れることも───

そこまで考えて僕は頭を抱えたくなった。後悔の念が押し寄せてきても今更だ。そうだ。今更なんだ。

どうして僕はいつも、かっちゃんだったら…と彼を他の人と隔てて考えちゃうんだろう…どうしてかっちゃんだったら、頑丈だからと、これくらいで倒れないと思ってしまうんだろう。

 

かっちゃんだって、僕らと同じ高校生なのに。僕らに悩みがあるようにかっちゃんだってあるハズなのに。なのに僕は…どうしてもかっちゃんが

 

違う次元に居る超存在だって、思ってしまうんだ。

謝りたい。かっちゃんが無事かたしかめたい。でも…今は…できない。

 

『後を追ってくれるなよ緑谷…』

 

轟くんの言葉がリフレインする。切羽詰まったようなその表情が、かっちゃんを見る時だけ優しく、そして悲し気に動くのを知っている。

 

『じゃねーと俺はテメーに何をするかわかんねぇ』

 

そう言い放った轟くんは、僕を見る時だけ眼光が鋭く、冷たかった。

 

後を追ってはいけない。僕はきっと、あの二人の触れてはいけないデリケートな部分に触れてしまったんだ。

後を追ってはいけない。無意識に握りしめてた拳から力を抜く。緊張で強張った身体はまだカタカタと震えてた。

 

そして僕は、かっちゃんが握り締めてたある物が床に転がっているのを見て、わかってしまった。理解してしまったんだ。直後押し寄せたのは後悔と“痛み”

 

「……っ!」

 

痛むあまりに胸を両手で押さえ、ギュッと握り締める。胸に剣でも突き刺さったかのような、鈍くてとっても痛い悲しみの痛みだった…

 

「ぼくは…っ! なんて事をかっちゃんに……!!」

 

その場に泣き崩れてしまった僕を、クラスの皆は唖然と見守ってて。そこにすでに居た相澤先生は、みんなをまとめる為に声をかけて。

 

「緑谷。お前はちょっと来い」

 

今まだ涙を流す震える僕をそっと立ち上がらせて、一緒に誰もいない、誰も来ないような屋上へと連れてきてくれた。

 

「少しずつでいい…お前の言葉で聞かせてくれるか。お前と爆豪の今までを」

 

先生の優しさが、今の僕にはとても痛くて苦しくて。でも、とても嬉しかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは幼い時の記憶。少しぼんやりする記憶の一つ。

 

二人はいつも一緒だった気がする。いや、時折どこかへ行きそうになる勝己を、出久が必死に手をつないで隣に縛り付けていたと言っても過言ではなかった。

それほどまで、出久は勝己に依存していた。ふとした瞬間に出久は頻繁に感じたのだ。そこら辺に吹く風でさえ、勝己をどこかへ攫ってしまいそうな…

まるで少しの事でさえも、消えていなくなってしまうような。目の前から跡形もなく掻き消えてしまうような…そんな危うい感覚がいつも出久を襲った。

 

いつも不安でたまらなかった。勝己にはどこにも行ってほしくなかったから。消えてほしくなかったから…

だって出久にとって勝己こそ己の大切な宝物だったのだから。キラキラと光り輝く彼をずっとそばで見ていたい。

自分のエゴだったのだ。だからあの時も勝己を縛るように。自分を忘れないようにするために、勝己の誕生日に願いを込めて贈った。

 

特典付きの、期間限定オールマイトキーホルダーを。

自分のコレクションの中の、特別な思い出の詰まったキーホルダーを贈った。

勝己はこんな貴重なものを貰えないと返そうとしてきたが、無理やり受け取ってもらったのだ。

 

『昔どこかで、誰かに聞いたんだ。』

 

出久は語った

 

『もしも自分の大切な人がね、遠くにいっちゃってもね』

 

自分の大切にしている宝物を贈ると、その絆は永遠につながっていてくれるのだと。たとえ何が起ころうとも、何かが二人を隔てても。

その絆を大切に思う間は、決して消えない『まじない』なのだと。

 

『だからねかっちゃん』

 

僕の前から消えないでね

 

そう言った出久を、勝己は目を見開いて驚いていた。

 

(まるで…わかってるかのような顔で笑うんじゃねーよ…)

 

勝己がこれから何をしようとしているか、まったくわかっていない癖に。だが、だからかもしれない。そんな出久を見て勝己は新たに覚悟を強固にした。

そして勝己はそれをギュッと握り締めて、真剣な顔でこう言ったのだ。

 

『わかった。何があってもオレはお前との絆を手放さねぇ。何が起こっても…俺だけでも大切に持っててやる』

 

返品はきかねーぞ!

 

最後にそう言い放った勝己の顔は、ニッと彼らしく笑っていたのを、出久は今でも昨日の事のように思い出せた。

 

「…これが、さっきかっちゃんがずっと握り締めてたキーホルダーです…」

 

出久は蹲りながらも先ほど拾ったキーホルダーを相沢に見せる。それは大切に扱われていたためか、完璧に原型をとどめていた。

丁寧に上からプラスチックのようなものの袋で包められてて、勝己の爆発にも耐えられる素材でできている。

 

「捨てたって思ってた…」

 

もう出久とは関係ないのだと、言われているような気がしていた。彼が自分を隔ててたのだと思っていた

だけれど、それは出久の思い込みだった。勝己はずっと大切に持っていてくれたのだ。絆を。あの日の思い出を。優しく包み込むようにそっと自分の胸に抱いて。

 

「ずっとずっと…かっちゃんは僕との思い出を大切にしてくれてた…」

 

勝己ではない。実際は自分が隔てていたのだ。彼を自分から。その現実を必死に見ないようにして…結果、勝己を傷つけてここまで追い込んでしまった。

 

「かっちゃんは…かっちゃんは…! こんなのに縋るほど…! 大切にしてくれてたのに!! なのに…!! ぼくはかっちゃんを傷つけるだけして…っ!」

 

そしてまた、出久は声をあげて泣いてしまうのだった。

 

「そうか」

 

静かな、先生の声が響く。

ストと隣に座って、相澤はポンポンと出久の背中を摩った。

 

「ケンカや仲間割れは人生の中じゃいくらでも湧いて出てくるトラブルだ。」

「…」

 

問題は湧いて出てきて治まるものもあれば、生涯一生解決しないものもある。

 

「だからって、何もしないで手をこまねいてるのはお前の性分じゃないだろ緑谷」

「…!」

 

ハッとした顔の出久を見て、相澤は続ける。

 

「相手も立場も顧みず、深いところまで足を踏み入れてしまうのがお前だろ」

 

相澤が思い出すのは…己が無個性でも、傷つき動けない勝己や相澤を、ヴィランの攻撃から身を挺して守ろうとした出久の小さな背中。

 

─出久が忘れてしまっている記憶だ─

 

とても小さくて頼りないはずなのに。何故かとても大きく感じてしまったのだ。あの日の事をきっと一生、相澤は忘れる事はないのだろう。

 

「お前たちの絆が具現化したようなモンなんだろソレ」

 

キーホルダーを指さす。カサリと出久の手の中で音が鳴る。懐かしむように微笑み、そっとキーホルダーを撫でる出久の顔は…物悲しそうで。

 

「……はい」

「じゃあ、あいつに返さなきゃいけないな」

「…」

 

黙りこむ出久を見て、相澤はまた出久の頭をポンポンと撫でた。

 

「爆豪を信じてやれ。あいつも苦しんでる。お前からもらった思い出の品を大事に今も持ってるっつーことは、あいつにとって掛け替えのない大切なもんだって事だ」

「そう…ですか? かっちゃんが僕との思い出を大切に……」

 

それに縋りつく程度には、彼にとってとても大切なモノなのだろう。

 

「そして必然的にそれは爆豪がお前を大切にしてるって事だな」

「ええ?! ぼ、僕を?! かっちゃんが?! うそだぁ…」

「あのな。そろそろ気づいてやれよ緑谷。」

 

呆れ顔でそう返す相澤。爆豪が可哀そうだと言った。

 

「…轟君にもオールマイトにも、言われました…」

 

思い出すはそれぞれの、言葉

 

『君の中の爆豪勝己という少年を、もう一度見返す必要があるのではないかな?』

 

オールマイトが言っていた、見返さねばいけない事柄。

 

『お前の中の爆豪って…なんなんだよ?』

 

苦し気に吐き出された言葉には、怒りと悲しみが含まれていた。まるで自分の事のように勝己を心配し、自由に思い、行動できる轟のその姿に嫉妬した自分が居て戸惑った。自分はそんなことなど出来なかった。

勝己の、あの背中を見るたびに……ああ、遠いなと目を細めるだけだった。だから対等に話している轟を見て──…どうしようもない嫉妬の炎が腹の底からせりあがってきて…気分が悪くなった。

 

だから余計に見て見ぬふりをしてしまったのだろう。おかげで普通の時ならば気づけた勝己の異変に、己は気づけなかった。

 

「僕の中の…かっちゃんは…」

 

出久は目を閉じて意識を自分の中に集中させた。

 

「いつも…横暴で、でも先を行く皆のリーダーで…」

 

そこで出久はハッとした。そうだ、なんで忘れていたんだろうと呟く

 

「とても、やさしくて…温かくて…」

 

また胸倉をギュッと握る。そうだ。そうだった。勝己はいつも傍に居てくれた。守ってくれていた。そして異常なまでに己を盾にしてまでも、出久を守っていた。あの勝己の手は一見乱暴そうに見えてじつは優しい事を知っている。

出久の頭を何度も撫でてくれた手だ。何度も弱い自分を引き上げてくれていた手だ。言葉も乱暴なだけで…すべて気遣われた結果ああなってしまったのだと気づく。

 

彼は根本的に傷つきやすく繊細な心を持つ──心優しい少年だったのだと、それは変わらずにあるのだと気づかされた。

だから。今までの自分に腹が立った。何も知らない自分が…今まで勝己をどれほど傷つけたか理解した。理解したから出久は心の奥がキュッと苦しくなった。

 

「お兄ちゃんみたいな…人でした…!!!!」

 

その言葉の後に続いたのは出久の泣き声のような叫び。

膝から崩れ落ち、大声で泣き叫ぶ出久を、相澤は黙って見つめていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(本当に覚えてねぇのか…あの時の事……)

 

相澤は一人思い出す。ある事件に幼い時の勝己がヴィランに攫われて、相澤が居たにもかかわらず苦戦し、しかしやっとの事で敵を追い詰めたその時だった。ヴィランが勝己ごと自害しようとしたのだ。

その時に相澤はすでに限界を超えており、目にダメージもあった。個性はこれ以上使えない。しかし使わなければ…そんなふうに迷っていたその時に事は起こった。

 

迷ってる相澤を置いて、こっそり後をつけてた出久が迷うことなくヴィランへと突っ込んで体当たりをした。

怯んだその瞬間に相澤が捕縛に成功した。その捕縛のさいに出久がケガをしてその日の記憶といくつかの記憶がぼんやりとしか思い出せなくなってしまうが。

すでに幾つかこういう事態の経験をしていた相澤や他の誰より早く、出久は敵へと怯むことも迷う事もなく…敵へと真っ向に向かっていった。

勝己という幼馴染を助け出すためだけに。

 

(デカいな…)

 

その小さな背中を見ながら思ったものだ。しかしその頃から勝己に変化が見られ始めたのもたしか。

 

(もっと爆豪へ配慮しておきゃよかった…)

 

そうすれば、今頃勝己だってあんなに苦しい思いをせずにすんだのかもしれない。もしかするとあの日の事が原因で彼の中でトラウマになってしまっているのかも…しれない。

出久が無茶をしでかして、ヴィランにやられてボロボロになる。それをあの日、目のあたりにしてから怖くなってしまったのではないか?

 

(だとしたら切っ掛けは緑谷の無茶だ。)

 

そう考えるとつじつまが合う。今までの勝己の無茶につながる。しかし繋がらない事柄も俄然として見えてくる。隠れた真実を追い求めていく相澤の目には、理解しつつある真実があった。

しかし、それに伴ってさらに隠れていた事柄が明白になって。

 

(だが、そうだとしてもだ。アイツの情報網がどっから来ているのか。それがわからねぇ…そもそも、子供の頃のあいつにあんな危険であいまいな情報、渡すヤツいるか普通?)

 

結局その部分は分からずじまいで。

相澤はムムムと思考に溺れていくだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも…さっきのかっちゃんの挙動を見るに考えたくはなかったけど、なんらかのコンプレックスもしくはフォビア、精神的負荷による精神と身体弱体化、それによるアンバランス性症候群で引き起こされた…」

 

相澤の思考を乱して現実へと引き戻したのは、出久の癖だった。

 

「緑谷、ストップだ」

「はっ! す、すみません…つい……」

 

いきなりいつもの癖が出た出久を見て、フッとどこか安心したように笑う相澤。

 

「お前は調子、戻ったみたいだな」

「…はい」

「じゃあ大丈夫だろ。だが問題は他にもあるな…」

「かっちゃんと轟くん…ですね」

 

あの冷たい交互の色が違う眼光を思い出す

 

「ああ。予測でしかないが、爆豪がお前の隣を歩むのを止めた時期に、あいつらは出会ったんだろうな。」

 

彼の挙動を思い出す。

 

「きっとその時が一番爆豪が不安定だった時期だ。あいつの弱いところ、強いところ、優しいところ…全部あいつは、轟は傍で見て感じたんだろうな」

「そっか…だから轟くんは、あんなことを…」

 

『俺はきっと、お前の知らない爆豪を知ってる』

 

睨むその眼光の中にたしかに感じた。嫉妬と、悲しみと、悲願を。

 

「先ずは…轟くんに謝らないといけないって思うんです。」

 

グッとこぶしを握り締めて出久は言う。

 

「僕はきっと、彼が大切に思う人を傷つけて、そして彼をも傷つけたと思うから…これから先何が起こるかわからないけど、僕は彼にも謝りたい」

 

それが僕の彼への精一杯の礼儀だと、出久は力強く言い放った。そんな彼を見て相澤はフッと笑う。

 

「やっと俺が知る“お前ら”に戻ってきやがったな」

「へ? それはいったいどういう…」

「教えないね。答えが知りたければ」

 

もがいて、足掻いて、這いつくばって、上り詰めて探してみせろ

その相澤の意地悪そうな声を聴いて、その場を静かに去っていく背中越しに大声で答えた。

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~爆豪視点~

 

「ん…」

「爆豪!」

 

目を開けると、真っ先に入ってきたのは赤と白。そして互いの片方の違う目の色。そしてよく見てみると理解した。どうやら俺は保健室に運び込まれたようだ

 

「んでてめーが、保健室にいんだよ」

「爆豪が…倒れたから、俺が、ここ…までっ」

「…そうか。倒れたんか俺」

「…」

「なに泣いてんだよ」

 

いつも涼しい顔してるヤツが、俺の横たわるベッドの脇に置いてある椅子に座りながら、子供のように泣く姿は昔のデクを思い出すな。

 

「すまねぇ…でも…」

 

未だに乗り越えられてねぇ、てめぇの壁…トラウマを思い出しちまったか? ピクリと無意識にこいつの頭を撫でようとしてる俺の手が動いて、俺はそれにも戸惑っちまったが…必要はねぇと感じて手をそのまま自分のデコへ乗っからせた。

 

「あーもういい。勝手に泣け」

「…すまねぇ……」

 

しばらく轟の押し殺すような泣き声を聞きながら考えていた。

 

(思い出しちまったな…あン時の事…)

 

ガキの頃に攫われたあの事件。センセーもいた。皆歯が立たなくって、あと少しってー時にあいつ俺ごと自害しようとして。

目の前にがむしゃらに走ってくる緑色が見えた時、心の中がザワついた…

前世でも同じような事が起きたっつーのに、なんでまた俺が攫われなきゃいけなかったんだ…しかもまだガキン頃だしよ…個性まだまだ上手く出ねぇ時だった。

 

(くっそ…)

 

デクが死んじまうんじゃねーかと、心臓が痛いほど脈打った。怖くなった。怖くなって、あいつのあの必死の顔とか見て、あの強い瞳を見て前世の記憶がフラッシュバックしちまった。

 

(今日は何もかもが上手くいかねーな…)

 

耐えられると思ってた。だが現実はそうはいかなくて。

 

「ごめん…爆豪」

「なんでてめーが謝ンだよ…」

「お前の…大切なヤツ、傷つけちまった…」

「…」

 

真剣な顔で轟は俺を涙目で見つめてきた。つーか、こいつは何を言って?

 

「でも後悔はしてねぇ…おれ、俺は…お前が大切なんだ!」

「…は」

 

え、なんだこの展開? どういう事だ。つーかどういう意味…てか俺の両手をお前の両手で包むな放せ。

 

「爆豪! 考え直せ…緑谷の奴はお前の大切にするほどのヤツじゃねぇ…あいつはお前を苦しめる元凶だろ? そんなに苦しんで守らなくったって…」

「…」

 

こいつ…

 

「俺は、俺は…お前が心配なんだ! 緑谷のために色んな事して…そして少しずつ壊れていくお前を見てらんねーんだ…頼むから、もう…」

「轟焦凍」

「?!」

 

俺は真っ直ぐ轟の目を見つめた。二つの異なった色の瞳が不安に揺れている。

 

「それは無理な話だ」

「なんで…!」

 

まるで駄々っ子に言い聞かせるように、静かに轟へ言葉を紡ぐ。

 

「あいつは、俺のヒーローだから」

「?!」

 

そう言ったときの轟の目を見開いた顔は正直珍しかった。表情筋あんまし動かねー癖してこういう時は仕事するのなお前の顔。ヴィランと対峙するときは長所になるが。日常では短所になりうるな。

そう考えていると驚いたままの轟が、何かを聞きたそうに見つめている。しゃ~ねぇな…少しだけ話してやっか。

 

「ずっと昔に、俺の中の本当の俺を、見つけて手を伸ばし続けて。引っ張った奴がいた。」

「……」

 

最初はウザったくてしかたがなくて。まるで俺が下であいつが上だと言わんばかりで。それがたまらなく嫌で。だから俺はあいつが俺より下って事をわからすために色々やった。

無理にでもそのホワホワした頭ン中に俺という名の恐怖を染みこませて、二度と歯向かわないように仕立てようとした。

けどそいつは、俺の予想を上回って俺を助けちまった。何度も何度も。ヴィランから。世間から。時には俺自身から…

 

「ガキの頃、あいつは俺の命を救ってくれたんだ」

「…」

 

轟は俺の話を静かに聞いていた。俺の言葉を一言も逃さないように、ジッと大人しくそこに居て聞いていた。こいつ、聞き上手なんだなと、今更思った。

 

「で、今のあいつにはそン時の記憶はねー。だから余計に困惑してンだろうな…」

 

いつの間にか外は夕焼けで。そろそろ帰るかとベッドから起き上がろうとしたら、思いっきり勢いよく保健室のドアが開かれた。

 

「と、轟くんっ!!」

「み、緑谷…?!」

 

ここまで走ってきたのか汗だくで、少し息が切れたままデクが入ってきて、轟の前に立つとそのままキレイに頭を垂れた。

 

「ごめんなさいっ!!」

「な、い、いきなりなんだ」

「君の大切な人…かっちゃんを傷つけて…ごめんなさい!!」

「「?!」」

 

こいつ、今までの話聞いて?

 

「君にとってかっちゃんが大切だって気が付いたの、相澤先生と屋上で話してた時で…その、本当にごめんなさい…赦す赦さないの問題じゃなくって、その、ぼ、僕が謝りたかった、だけなんだけど…」

 

後半に行くにつれて、もじもじしながら声が小さくなっていく。こいつが不安な時の癖だ。まーだ直してなかったんか。

とりあえず、こいつが話す内容を聞く限りは俺と轟の話は聞いてないみてーだ。だったらいい。

 

(デクに知られたくねぇ)

 

デクが俺の中でヒーローだっつー事。

 

「…気づいたのか」

「うん…恥ずかしながら、やっと…」

「そうか…じゃあもう爆豪を虐めないんだな?」

「え?!」

「はぁ?!」

 

素っ頓狂な声が出ちまった。聞き捨てなんねーな。

 

「おいちょっと待てコラ半分ヤロウ…誰が誰を虐めてるって?」

「緑谷が爆豪を?」

「虐めてないよ?!」

「虐められてなんかいねーよ!!」

「そうなのか? 俺には緑谷が一方的に爆豪を虐めてたようにしか…」

「は、はぁ?! てンめー、なにわけのわからねー事…」

 

そこで俺の言葉を遮った奴がデクだった。何で邪魔するんだと掴みかかったが、なぜか簡単に払いのけられちまった。

 

「君の目には、きっと僕が誰かを虐める悪いヤツに映ってたんだね…それも君の誰よりも大切な人が、君の嫌いな人に虐められて酷く傷つくような…そんなふうにかっちゃんと僕をとらえて見えちゃってたんだよね…」

 

その言葉に目を見開いたのは、轟だけじゃなく俺もだった。そうだ。たしかこいつ、こいつの母親って──…

 

「だから僕は、謝りに来たんだよ。君の中の傷に触れて、君を傷つけてしまったことに…そして君が大切にしてくれているかっちゃんを傷つけたことも含めて…」

 

もう一回デクは頭を深々と下げた。轟は最初こそ驚いていたが、少し困惑したような顔をして。自分の左側を手で覆った。

 

「もういい。緑谷」

 

その瞳は悲し気に光っていて

 

「謝ってくれたんだ…俺はお前を赦すしかないだろ」

「でも…」

「いいんだ。ここからだろお前たちは。ここから先どう接していくかとか、そんな色々…」

 

デクは気が付いてねぇけど、轟のヤツ…肩が震えてやがる。今度はこいつかよ…トラウマっつーのは本当に厄介だな。

 

「たく、どいつもこいつも…」

 

だから、これはサービスだ

 

「ば、ばく、ごう?」

「かっちゃ…?!?!」

 

俺を担いで運んでくれたり。俺の話を、濁したが誰にも話してなかった前世の記憶の話を聞いてくれた。これくれーは安いもんだろ。

 

「あんだ? 頭撫でられるのは恥ずかしいンか? やめてほしいンか?」

 

悪戯っ子のようにニヤニヤしながら聞けば意外な返事が返ってきた。

 

「……その、できれば…まいにち…」

 

もじもじしながら、毎日してくれたら、嬉しいとか言いやがって。何言ってンだこいつは? 頭逝かれたんか?

 

「は?」

「ダメ!! か、かっちゃん独り占めはズルいよ轟くん! かっちゃんもいつまで轟くんの頭撫でてるの?!?」

「はぁ?」

 

いきなり勢いよく突っかかってくるデクが、自分の頭を差し出しながら大声でいった

 

「僕のも撫でてください!!」

「死ね!」

「ギャブ!」

「み、みどりや…」

 

思わず手で爆破しちまった。手加減はしたぜ? つーかそもそもさっきの態度とちげぇし。なんなんだデクの野郎…。そんなことを考えていると、轟はデクのほうへ歩んでいって、手を貸しながらデクを立ち上がらせていた。

 

「大丈夫か?」

「轟くん…ありがとう…」

「いや。これくれーは…俺は頭撫でてもらったが、お前はもらえてねーし…」

「同情されただけだった?!?!」

 

まったく。どうなるかと思いきやこいつらは…どこまで俺を救えば気が済むんだ。心が軽くなった。凄く軽くなった。まるで今までの重さがウソのように。

なんとなくこれから先、もっと自由に動けるような…そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は知らない。

 

『爆豪! 考え直せ…緑谷の奴はお前の大切にするほどのヤツじゃねぇ…あいつはお前を苦しめる元凶だろ? そんなに苦しんで守らなくったって…』

 

相澤と緑谷が

 

『あいつは、俺のヒーローだから』

 

じつは彼らの会話を聞いてしまっていた事に。

そして少なからず、出久の事をそう言い張った勝己のその言葉に、いたく感動して廊下を何度も走ってしまった出久が数秒後に、部屋に突入していくのだった。

 

「ヒーロー…か」

 

相澤はそこをすでに離れて、特訓ルームへと足を進めていた。

 

「結局あいつら両想いっつー事…になるのか」

 

二人ともお互いにお互いを身近なヒーローとして視ていたのだ。

 

「はぁ…あんなの見たら気合入るだろうが」

 

特訓ルームについて、相澤は個性を発動させながらジャンプをした。首の周りの布を浮かばせながら目の前のロボや、特訓の相手をしてくれる教師を睨む。

 

「どいつもこいつも…世話が焼けるやつで問題児になりそうなヤツらばっかだ。」

 

しっかり監視して、正しい道へ導かねぇと…そのためには教師側(おれたち)が少しでも強くなってねーとダメだっつー事。

 

「なぁ、そうだろ爆豪?」

 

その声に返事もなければ返答もない。あるのはその場に響く戦闘訓練用のロボと爆発音と破壊音だけだった。

 




感想(作者の活力となる餌)を、ぜひともお待ちしています!!!


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第11話 尖水辰と不穏な動き

大変長らくお待たせしました!
逆行かっちゃんのお時間よ!!
今回のお話はオリキャラくんの尖水(とがみ)辰(しん)くんのお話を前半。
後半にケンカ腰の焦凍と出久くん。それを見て頭を抱えるかっちゃんとなってます☆
良い読書を……

あ、コメントは返しませんが全部読んでます!
元気もらってます!皆様、本当にありがとうございます!



勝己が倒れた。相当無理をしていたから、一生懸命あいつの面倒を見て、影ながら支えてきていたつもりだった。でも、本当につもりだったみたいだ。

目の前で倒れたアイツを支えて助けたのは轟焦凍。そして勝己を癒したのは…出久。

 

「なにも…できなかった……」

 

とっさに出たのは、出久への言葉の棘。口から出る乱暴な言葉だけだった。それ以外は…身体も足も。手でさえ動けなかった。ヒーロー志望だというのに、なんて情けないんだろう。

身体が鈍りのように動かなかった。あそこで動けた轟焦凍のほうがよっぽど強く成長しているじゃないか。

 

俺が見下していた轟焦凍のほうが、よっぽど強かったじゃないか……

 

「……アイツらの方が、頼りになっちまったな」

 

一人一人が強く。強くなっていく。

 

人として。大人として。ヒーローとして。

 

遠くなっていく背中。逞しくなっていく精神。それがヒーローになると言う事。気を抜けば置いて行かれる世界。何も得られず、成長できなければ…目指すものになれず、手さえ届かず遠ざかって行ってしまう。

そんな世界に、居ると言う事を再度認識せざるを得ない。

 

「クソッ!」

 

この、苛立ちは。この、疎外感は。この、悲しみは…

何もできなかった自分への苛立ちで。

何も成長できてないことからの、焦りと、置いてかれることからの孤独感と、恐怖。

 

まるで過去に置いてかれているような気がして。一人にしないでくれ。そんなこと言えるわけもなく。ましてや手を伸ばせるわけもなく。

自分に人を守る力などないのだと言われているようで。俺には人を傷つけるしかできないのだと指をさして言われているようで。

 

温かい場所が…クラスが、友の居る場所が、相応しくないと思えてしまって。胸が…痛くなってくる。

 

「やっぱ…俺は…俺には………xxxxしか、ねぇのかな…」

 

はじめて個性が現れた時の事を思う。

苦しむ親。

苦しむ友達。

怯える人々。

吐かれる暴言。

続けざまに起こる、暴挙の数々。

はじめて向けられた、憎しみの目──…

 

はじめて一人になって、孤独になって……

 

それで──闇の中で出会った、最悪の悪の親玉…

 

『君は、ヒーローというよりも』

 

嫌だ、嫌だ!俺は、俺は!!

 

『こっち側の人間ではないのかい?』

 

頭がズキズキと痛む。まるで、あの時の事を忘れるなと言うかのように。

 

「ふざけるな…俺は、まだやれる…っ」

 

震える声でそう言ったって、誰の耳にも届いてやしないのに。

 

『君の個性、今の側だと大層苦労すると思うよ?なんてったって今の側は縛るのが好きだし、危険とみなせばすぐに排除しようとする…君の周りの人間の態度がその結果さ!ハハッ』

 

あいつの声が頭の中で木霊する。低く、木霊する。

甘い毒をまき散らしながら、俺を支配しようとする。頭に甘い痺れが一瞬感じたような気がした。

 

『いずれ、君は君でいられなくなる。人は心があって人なんだ。だから面白い。そうは思わないかい?』

 

あいつがこっちに伸ばしてくるその手は、俺は取らなかった。払いのけてやった。

 

『ふざけるな!俺は絶対にヒーローになるんだ!』

『そうか…それは残念だ。』

 

でもね。と、そいつはクツクツ笑いながら言った。

 

『限界が来たら、きっと君は考えを改めてくれるだろう。誰も君を信じなくなり、誰も君の存在を必要としなくなる。ただの邪魔者扱いされる時がきっとくる。その時は…』

 

ニヤリと、暗闇の中でもあいつが極悪に笑った気配がはっきりわかった。

 

『迎えにくるよ』

 

ああ…頭が痛い。痛くて痛くてたまらない。呼吸がままならない。冷や汗で前髪がおでこにくっつく。

最後の頼みのように。ワラにでもすがるように。俺は願いをポツリ呟いていた。

 

「なぁ…お前ら…ヒーローなんだろ?」

 

俺を…救ってくれよ

 

「俺を導いてくれ…」

 

俺が何かをする前に。

俺が何かをやらかす前に。

俺の闇が俺を飲み込むその前に

俺の手が再び血で濡れるその前に……

 

助けて。

 

Hero(ヒーロー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

保健室で、みんなが少しワイワイやっている。その様子をこっそりと見ていたのが尖水だった。扉の前で何をすることもなく。ただただ、彼らの放たれる言葉を聞いていた。ドアに背をもたれさせ、そのまま立っているだけ。

 

心なしか、彼の顔が青白く、呼吸もままならない。

 

おもむろに、その伏せられていた瞼がゆっくりと上がっていく。クスリと、笑う気配がした。

その手はいつもの力強さはなく。震えている。

その瞳は、とてもとても悲し気で。

 

「ホント、お前ら愛されてんだなぁ」

 

クラスでも、もちろん家族内でも。

 

「……いいなぁ…」

 

ポツリと零れた本音は、誰の耳に届くことなく。

 

「…こんな感情、お前らに抱くなんて…」

 

その場に溢れて、そうして消えていく。

 

「自称兄として失格だな…」

 

流れていく涙と共に、尖水はグシグシと乱暴に腕で目をこすり、涙をぬぐった。彼の悲しさを知る者はいない。

 

また、彼の苦しさも、知る者はいないのだ。

 

彼が抱える苦悩も、彼が言わない過去も、言えない過去も…

 

すべて闇が知る事。

 

自分の胸倉をギュッと握り締めながら、フラフラと彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやぁ、尖水はどうした?」

 

勝己の発言によって、そこに居た二人は顔を見合わせた。そう言えば途中からいなくなっていたなと出久が思い出して。

 

「先生と話し合って、かっちゃんたちの居る保健室へ来る間の廊下までは、後ろの方で何か考え込んでたみたいだったけど…」

 

途中までいた。けれど、いなくなった。そう聞いた瞬間、誰にも気づかれなかったが、勝己はドキリとしたのだった。

 

「なンで、アイツの存在忘れとンだお前は」

「だ、だって!かっちゃん…と、轟くんに一刻も早く謝りたくって…」

 

チッ。と勝己はいらだつ自分を抑えるようにため息を零す。

 

(まさか、もう始まったっていうのか?)

 

勝己はとあることを知っていた。いや、知らされていた。

とある、未来が見える個性を持つヒーローに聞かされていた。

 

『いずれ、あの子は闇に飲まれるだろう。君でさえ気づけない、深い、深い闇にね』

 

尖水と一緒に、彼に無理やり会った時の話だ。彼は眼鏡をクイと上げて、勝己のやったユーモアあふれる一発ギャグに笑ったあとで、勝己の願いを聞いてくれることになった。

心なしか尖水も肩を震わせ、「ブプッ」と、必死に何かを耐えていたような気はするが。勝己は一切気にしない。

尖水を外に待たせてくれと、彼は言った。この時、勝己でさえ想定していなかった出来事を、このヒーローから聞く事になろうとは。

 

君はとても興味深い。未来を見通す個性のヒーローに、そう言われたのを思い出す。

 

『まるで未来をワザと変えるために送られてきた異邦人のようだね。いや、私が知るコミックの話さ。』

 

何でも彼は、未来で沢山のモノを失ったらしい。最後に自分の命が終わった後、また自分として生まれた。だからその主人公は、今度は

 

『悲しい未来を、なかったことにしようと動く。もちろん彼の行く所行くところ、凄まじい葛藤がおこる。十や二十じゃあない。万や億さ。まるで、運命の波が彼を飲み込もうとするかのように。運命が、彼を消そうとするかのように…』

 

そこまで言って、彼は勝己をジッと見つめた。

 

『未来を変えるなんて、今まで見た事がなかった。しかし実際に君はもう…』

 

彼には何が見えてしまったのだろうか。静かに頭を振ってから、彼はそっと溜息を吐く。

 

『とにかく、尖水辰には十分に気を付けてくれ。それか、気にかけてくれ。彼には測り知れない闇がある。今はコントロール出来ていても、いずれアレは耐えきれなくなる時が来るだろう』

 

その時が来たら、君はどうするつもりだ?

 

(どうもしねぇ。俺は俺のやりたいようにやる。)

 

グッと、勝己は己の拳を握り締めながら見つめた。あの時、答えたように、思いをもう一度拳に宿すように誓う。

 

(ぜってぇ、その闇から)

 

その瞳は強く輝いているようで。ギラギラと強く輝いていた。

 

(助け出してやっから)

 

だからその時は

 

待ってやがれ。尖水辰。

 

(今までの恩を二十倍にして返してやっから)

 

「覚悟しとけ」

 

その、勝己が零した言葉があまりにも力強く、しかし静かにその場に響くように呟いたので、出久が震えあがった。

 

「ピャッ?!」

「あ?」

 

たいして、勝己は己が先ほど、凄い気迫で呟いたことなど微塵も知らない。どうやら無意識に出てしまっていたようだ。出久は昔の勝己が降臨したのかとブルブルと震えている。それを見かねた焦凍が勝己の肩を叩いた。

 

「爆豪…」

「なんだ」

「…お前、さっきスゲェ気迫で呟いてたぜ」

「え」

「覚悟しとけって…」

「あ」

 

そこであっちゃーと、勝己が手をオデコへとあてがった。

 

「あー…なんつーか、すまねぇ。お前らの事じゃねー」

 

お前らじゃない。そう言われて何を思ったのか焦凍がグイと身体を前のめりにしながら、勝己へと質問する。

 

「誰に何を覚悟しておけと言いたかったのか、俺たちは知っちゃまずいのか?」

 

真っ直ぐ見つめてくる焦凍の瞳を、静かに見守ってから、勝己は頷いた。

 

「ああ。悪ぃが今のてめーらじゃ、そいつの足元にも及ばねぇ。知っててもただ損するだけだ。」

 

尖水辰。彼はきっと…この雄英の中でも指折り強い。それこそ本気を出せば…中からでも雄英生徒たちや教師さえ、危険に貶める事だってできる。ヒーロー側だからそれをやらないだけで。

 

だから、中途半端な覚悟で詮索するなと、勝己は彼らの安全もかねて、忠告をする。しかし頑固なのは、出久だけではなかったらしい。

 

「だが、俺はお前のために何かしたい」

 

ますます強く、顔をしかめながら言う焦凍が、とても痛ましかった。きっと過去を思い出しているのだろう。子供の自分がなにもできなかった、救えなかった大切な存在。母親の事を、焦凍はよく勝己と重ねてしまう事が最近多くなってきている。

ヤバイ。勝己はそう感じはじめていた。なぜなら、己に強く嫉妬をするものを知っているからだ。そいつはただ今、勝己の隣で絶賛ぷるぷる震え中で。

かと思えば、バッと立ち上がりつつ、力強く言う。

 

「ぼ、僕だって何かしたいよかっちゃん!僕たちに出来る事なら、なんだって!だから…かっちゃん、一人で背負わないで」

 

また倒れられたら…今度こそ僕死んじゃう…と、出久が俯き加減で言えば、勝己がオデコをデコピンした。痛い…と言いながら涙目になる出久。

 

「今のお前らじゃ無理だっつってんだろ」

「だから教えねぇーのか」

 

焦凍がそう言いながら詰め寄る。勝己はギロリと睨むように、強く言い返した。

 

「ああ。今のお前らじゃ、話す気にもなれねぇ。」

「…俺たちが…弱いからか」

「ああ」

「…ッそう、か」

 

焦凍は苦し気にそう言いながら、また、左側の顔を覆う。

そして立ち上がって、真っ直ぐに出久と勝己を交互に見た。

ギュっと拳を作りながら。

 

「じゃあ、体育祭で俺が緑谷に勝てば、お前は俺のものになって、全部話してくれるんだな?」

「「ハァ?!?!」」

 

いきなりの焦凍のトンデモな発言に二人して声がハモッた。なんだその、何を考えたらその答えになるのかまっっっったくわからない謎証言は。

 

「なんでそーなるんだ?!」

「極端すぎない?!」

 

勝己と出久が交互に言えば、きょとんとした顔の焦凍が首を傾げる。

 

「だってそーいう事だろ?俺が誰よりも強いことを爆豪に見せれば、爆豪だって隠してる色々を安心してまかせられるだろ。」

 

だからといってどうして体育祭?なんで焦凍のものにならなければいけない?焦凍の謎な思考回路を解き明かせるやつは、残念ながらこの場には居ない。

 

「手っ取り早いのは、爆豪が俺のものになる事だ。悪い手じゃねーぜ爆豪?」

「!」

 

勝己は焦凍のこの言葉に目を丸くした。あくまで焦凍は全てにおいて勝己のためを思ってやると言っている。言い方や発想がやや斜め上を横切っていっそ宇宙までいっているようなぶっ飛んだ発想だが。

勝己を守ろうとしている事、勝己を大切に思っていると言う事が、痛いほどわかった。勝己も出久も理解した。

 

だから、出久は

 

「譲れない」

「デク?!」

「僕だって、そこは譲れないし、譲らない」

 

いつもの弱々しい光がなくなり、何をも変えるような鋭く純粋なまっすぐな瞳に、強い光が差す。

 

「かっちゃんは」

 

ズイと焦凍の前に来て、背中に勝己を隠すように立ちふさがる。

 

「僕の幼馴染だ」

 

ギロリと強い眼光が焦凍を射貫く

 

「かっちゃんは、僕が守る」

 

だから君の役は必要ないよと、挑発などするものだから、焦凍の心に火が付いた

 

「へぇ…言ってくれるじゃねーか」

 

焦凍も只寄らぬ雰囲気になる。睨み返し、静かに、しかしドスの効いた声で言う。

 

「幼馴染だからっていい気になってんじゃねーぞ。ぜってー体育祭でお前に勝って、一番になって、爆豪をお前から引きはがしてやる」

 

焦凍は本気だ。本気で出久に勝ち、出久から勝己を引きはがす気だ。ゴクリと生唾を飲んだのは、一体だれか。

そんな緊迫状態の中、さらに焦凍を煽ったのが出久だった。

 

「できるものならやってみろよ。僕は絶対に負けない」

 

ゴゴゴという効果音が似合いそうな二人の睨み合いに、片隅で勝己はというと、「どうしてこうなったんだ?!?!」と頭を抱えていた。



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