アフロサマー&ワンコモッピー (梵葉豪豪豪)
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01

 思いついたので数話程度で短くスパッと。

↓一夏

【挿絵表示】




「都都逸軍から派遣された、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐である。年齢と階級が釣り合っていないのはクソが付くほど政治的かつ性的な理由だ気にするな。後私は織斑千冬の教え子だ。文句があるならかかって来ればいい。寧ろ来い。弾の出る電動ノコ(喩え)で迎えてやろう」

 

 全力で滑っているのはラウラも承知の上である。クラスの生徒らはどうしていいか判らない表情で固まっている。隣に立つ男性の仏(ほとけ)人シャルル・デュノア(偽名)と副担任・山田真耶(巨)は微妙に引いている。更に隣に立つスーパー担任・織斑千冬は何ボケを取りに行くか殴るぞ貧乳って目で睨んでくる。

 

 ここはニップ国ジャパンのIS学園。女性が股間とケツを晒して空飛ぶ世紀の珍兵器「IS」を学ぶ国立の高校である。ラウラはそこに1年生として編入された。軍から給料を貰っている社会人のラウラは何が悲しくて異国の学生をやれと命令されなきゃならんのかそもそも今更ISについて習うことなんかないやん後自国の機体の機密保持どうすんの、という愚痴を飲み込み従った。公僕はつらい。

 学園の制服着た写真を送ってくるよう言われて腹立ったので嫌がらせにスカートの代わりに軍のボトムを履き自撮りして送ったラウラは悪くない。

 

 ラウラはひとしきり教室を見廻して尋ねてみる。

 

「ところで教官の弟、織斑一夏はどこだ?」

 

 クラスメイトが一斉にある一点を指差す。一番前の席だった。つまるところラウラと目と鼻の先である。

 その男は顎に手を当て首を鳴らしていた。

 

「お前が……。いやまぁそうなんだろうな」

 

 どう見てもクラスで座っている生徒の中で男は一人しかいなかったのだからそれはそうである。問題は見た目だ。

 

 髪がアフロだった。それはもう立派な黒々しく。普通にしていれば普通にイケメンで通るフェイスを持っていながら、アフロである。

 あまりに異質な存在についラウラの主観がなかったものとして視界から排除していたため発見が遅れてしまった。そのアフロマンは胡散臭い目つきを隠さずニヤけながらラウラを眺めている。

 

 ラウラはドスドスと軍靴を踏みしめ一夏に歩み寄り、一発ビンタをかますために右腕を振り上げた。

 

「貴様なぞ認めんぞ! 教官の恥部が!」

 

 余談だが恥部、て部分にはクラスメイトが概ね同意できるところである。

 

 ラウラの手が一夏の頬にヒットする直前、彼女の額に向けて一夏の手が突きつけられた。予想外のリアクションにラウラがぎょっとして硬直してしまう。

 手にしているのは拳銃だった。腰や懐に手を廻した様子が全くなく、突然現れたのだ。

 

「わははははは!」

 

 一夏は空いた方の指を額に付け、実に胡散臭い目つきのままラウラに向かって語る。

 

「コイツが撃つワケない、思ってるよね、そう思ってるよね? オモチャの銃なのかもしれない、人撃ったこともないドヘタレかもしれない。こんなこと言いつつ内心ビックビクしてるかもしれないなぁ!」

 

 ラウラがもういかんこいつ殴ろうと考えた瞬間、

 

「俺は撃つけどね」

 

 彼は躊躇無くトリガーを引き、特有の乾いた発射音がクラスに響いた。

 その言葉と同時にラウラが銃身の横っ面を叩き、頭を反対方向に傾けたために直撃を避けられた。明後日の方に飛んだ銃弾は黒板にめり込んだ。

 

「本当に撃つ奴があるか!」

 

 ラウラが激高して叫んだ直後、背後から誰かから胴にしがみつかれた。振りほどこうと思う間もなく、

 

「何ッ!?」

「わおーん!」

 

 バックドロップを仕掛けられた。しかも微妙に飛んでる。女生徒のスカートの中身が一夏には見えているが、まぁどうでもいいことだろう。

 ラウラが両手を床に着いて頭がヒットするのを防ぐ。そのまま後転し、立ったと同時に自分も拳銃を構えた。両手で構えるちゃんとしたやり方である。

 

「貴様ら!?」

 

 ラウラ vs アフロ一夏&投げ飛ばした女生徒という対決の構図が出来上がった。お互いに拳銃を構えて一触即発の状態にある。周囲は妙に静かに見守っていた。ビビってるとも言う。

 

「ハッハーァ!」

「ぐるるるる」

 

 ラウラには目の前の女生徒について思い当たる節があった。ISを発明した篠ノ之束の妹、篠ノ之箒である。主に人質としての価値として各国に認識されている。しかし、ギザ歯を剥き出しにして犬のように唸る微妙に人間辞めてる変態だとは調査報告書には書かれていなかった。

 

 誰が好き好んで変態の巣窟に通わなければならんのだとラウラは嫌気が差しもう本気で撃っちゃっていいんじゃないかという気分にまでスライドした。

 

「いい加減やめろお前ら!」

 

 流石に千冬が止めに入った。行動が遅れたと言えば遅れたのであるが、ほんの10数秒の出来事だったのだ。兵士の癖というか、ラウラは何も考えずに指示に従い銃を下ろした。一方のアフロ野郎も肩を竦めて従った。クラスに流れた雰囲気は、いわば厭戦気分という奴だった。

 

 後にラウラが聞いた話では、彼は同じクラスの英吉利人セシリア・オルコットを始め幾人かの女生徒に突っかかられる度に撃っていたらしい。笑いながら。弾が当たった人もいるという。

 

 

「あの……一夏さん? 訊いてもいい?」

 

 その夜の学生寮、その一室にシャルルはいた。二人部屋が原則のため、同じ男子同士という理由で今日から一夏と同室になっている。その一夏に質問をぶつけたのだ。

 

「あー、悪ぃ悪ぃこの格好は刺激的かい?」

 

 下着姿の一夏がソファにくつろぎつつ応える。小癪なことに黒いブーメランパンツを穿いている。そんなボディに頭はアフロで。世の中の寮生がパンツ一丁で部屋中ぶらつくなぞ男女問わず珍しくもない。全裸よりマシだろう。

 

「いやそれだけじゃなくてね……。ここ二人部屋だよね? 何でこの人が?」

 

 シャルルが指した先のベッドには、箒がうつ伏せになってくつろいでいた。同様に下着姿である。彼女はシャルルをガン無視している。

 

「いやー君が来る前は箒と二人部屋だったんだよね。でもヤだっつったのに結局駄目だったから泊まり込んでんだわ箒」

「あーうん、それは大変だね……」

 

 いいワケないじゃないかと言いたくなったが、上からは一夏のISのデータを盗めと命令されているので、この場は長い物に巻かれるというかとりあえず仲良くしておこうと算段した。自身のアイデンティティが音を立ててゴリゴリ削られている気分だ。

 

「ところでさ」

「うん?」

 

 一夏が凄くアッケラ・カーンとシャルルに提案をする。

 

「脱ごうか」

「は……ハァッ!?」

 

 サラシで無理矢理隠した胸を守りつつシャルが全力で後ずさりした。

 

 ところでシャルルは男装した女性である。上からやれと言われてやってるだけだが、そんな彼女に代表候補生という公的な地位を与えるというお仏蘭西の自殺行為に付き合わされるシャルロット(本名)としては溜まったものではない。バレたらサヨウナラ。

 

「いやいやイヤイヤ! 僕そういうのは!」

 

 へたり込んで後ずさるシャルロット。一夏と箒が笑顔を湛えながらゆっくりとにじり寄って来る。下着姿で。

 

「さぁ女は度胸! 快楽の世界へようこそ!」

「がう!」

「ななな、いや僕男……」

 

 さらっと正体がバラされて狼狽するシャルロット。何かの間違いだと思いたい。一夏は笑顔でフォローを取った。

 

「ドーテーじゃあるまいし女の体くらい見りゃ判るわな」

 

 誰で捨てたかはこの際知ったことではない。一見してバレているのであればもうどうしょうもない。遂にシャルロットはその場で泣き出した。

 

「あーそうかミカンツーか、悪かったな」

 

 罰が悪くなった一夏ではあるが、世の中言い方という物がある。

 

「う、うん……」

 

 改めてソファーに座り直し正対する3人。気まずい雰囲気が流れている。

 

「雰囲気作りは大切だよな。で、まずコレをな」

 

 冷蔵庫から戻ってきた一夏がテーブルにズドドンと置いたのは、缶ビールと、ジャパンのモルトウィスキーの瓶である。ウィスキーを冷蔵庫に仕舞っていたのは単に寮長の目から隠すためだ。

 

「あーそう来るんだ……」

 

 シャルロットはもうどうにでもなーれーと色々放り投げた。胡散臭いアフロの笑顔とケモケモしいジャパンガールの飲みたそうな眼を目の当たりにして、もう何でもいいじゃないかとなった。

 

 この夜、シャルルならぬシャルロット・デュノアはロスト・バー以下略した。後の祭りである。

 




・ラウラ
 15歳で少佐。大隊持っても司令部に付いてもいないのに少佐。さぁどんな政治的かつ性的な理由で昇進したか考察してみよう。

・一夏
 突っかかられたときは、おもむろに銃を取り出し、マガジンを抜いて弾を数える。再装填した後顔を上げて再度相手の話を聞く姿勢を取る。相手は引っ込む。

・箒
 ギザ歯わんこ属性というニッチな。今回日本語喋ってない。判ってもらえるとは思っていない。

・シャル
 生きるって苦労の連続だね。後、代表候補性って簡単に与えられて安い地位だなぁと思う。


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02

「あぁ、一夏、一夏ね。あのアフロね、剃っても二日で生えてくるのよ。昔担任の先生が朝バリカンでガ―――っと丸刈りにしてね、でも1時間目終わる頃には目に見えて黒々生えてきたワケよ。それはもうモッシャモシャと。先生も意地だったのね、毎日1週間剃り続けて。ま、先生結局折れちゃったけど」

「誰が奴のヘアスタイルの話を聞いたか」

 

 都都逸国が今経済面で絶賛disり中のチューカカカ国で代表候補性やってる2組の凰鈴音へ一夏に関する情報を問い質したラウラは、速攻で己の愚を悟った。駄目だコイツサカッってやがる。

 何かを思い出しグネっている鈴音を放っておいてラウラはさっさとこの場を去ることにした。

 

「あと一夏のきのこが」

「知るか」

 

 

「織斑一夏、私と勝負しろ」

 

 とラウラが高らかに宣言したその場所は、放課後バト以下略のアリーナ。自主練習している生徒でごった返している。当然皆がやることはISの練習である。かく言うラウラもISを装着して中空に浮かんでいるところだ。

 睨み付けて指差した先には一夏らクラスメイト御一行がたむろしていた。軍人が素人に喧嘩を売るという大人気ない構図には当のラウラ本人は気付いていない。大人ではないが。

 

 当然ながら一夏もISを着込んでいた。クッソ白いISはラウラと同じように国から貸し出された専用機である。そんな白さに黒々としたアフロヘッドが刺さってるのはぶっちゃけアンバランスとしか言いようがない。更にお前は千九百何十年代だってばかりの巨大なサングラスを掛けている。

 ついでにその隣には赤いISを着込んだ箒がしゃがんでわんこ座りしていた。ISってしゃがめるんだねビックリした。どうでもいいのでとりあえずラウラは彼女を無視した。

 

 ご指名の一夏は両手を拡げ満面の笑みを湛えながら寛大に迎えた。実に余裕である。

 

「ワーオ、ワタクシ愛する教官とにゅあんにゅぅあぁんシタいので邪魔な弟は排除しまーすってか? 素晴らしい蜜濡れの師弟愛だ! マンガかラノベかweb小説みたいだ! オッケーいいぜ受けようか」

「お前は殺されたいのか」

 

 あからさまに怒らせる気マンマンで挑発する彼の態度に怒りでつい乗ってしまうラウラである。肩に装備したどでかい砲「レールカノン」を一夏に向けた。ラウラの着ているISが軍用で当然軍用の装備なのでこういう場では些かオーバーキルとは言える。

 対する一夏は右手にIS用の拳銃一丁構えているだけだった。IS用といってもグリップがちょっと延長された程度の、本体は至って普通の9mm拳銃である。そんなものがISに効くのか? という疑問をラウラが抱いたのは当然であろう。

 

 周囲のクラスメイトは一夏のスタイルを見慣れているので特に動揺がなかった。寧ろラウラに対し可哀想に明日はさくらユッケのために解体される競走馬ね的な目線を向けている。そんな連中にイラッと来たがラウラは箒同様に無視した。

 

 スタイリッシュなポーズを決めつつラウラのいる高度まで登って来る一夏。同じ目線に至った瞬間、問答無用でラウラは「レールカノン」をぶっ放した。

 大味な武器だし当たるとは思っていなかったが、おどけてグネりつつもきっちり避ける一夏に、果たしてマグレなのかはラウラには判断が付かなかった。

 逃げる一夏を追って右方向へ横一直線に連射した。バレリーナの如きスタイルで高速にひょーいひょーいと銃弾を避けていく一夏。人をナメくさった態度でありつつきっちり避ける辺り流石に彼がキャリア数か月の素人だという評には疑問を抱かざるを得ない。

 

 一夏はデタラメな軌道を描き、ラウラが廻り込むよりも先に彼女の後方へと陣取った。

 

「ハイハイハイハイ耳の穴!」

 

 ラウラが振り返ること見越して、一夏は軽やかにというか軽薄に一発撃った。振り返る途中にあったラウラの左耳に絶妙なタイミングで銃弾を捻じ込んだ。

 生身の露出した部分も含めてバリアが守ってくれるIS様なので、異物が奥に通らないよう止めてくれる仕様ではある。しかし微妙に耳穴にジャストフィットする口径の弾だったのが実に嫌らしいところで、ラウラの耳穴に軽減された衝撃を伴いピッタリ納まってしまった。慌てて熱いコイツをISの指でほじくり返したラウラだった。結果的に怒りが余計増しただけである。

 

「ふざけてんのか貴様!」

 

 怒鳴ってはみたものの、この場は余計隙を生じさせただけだった。

 

「ハイハイハイハイ上の穴!」

「ぬぐっ!」

 

 今度はラウラの口の中である。同様に止まってくれたのでペッと吐き出す程度で済んだ。どうでもよろしいことだが飛行中のISが飛んできた鳥を咥えてしまう事例はたまにある。という本気でどうでもいいことをラウラは思い出した。もうここまで来たら奴の腕は認めざるを得ない。

 

「もういかん貴様は死ね!」

 

 両手からワイヤーに繋がれたナイフをせり出し、更に相手の動きを止める「停止結界」を発動させてきっちり刺し殺してやろうと構えた。が、相手が馬鹿正直に待ってくれる道理はなかった。

 

「ハイハイハイハイけつの穴!」

「オヒョーゥ!」

 

 ちょっと入っちゃいけないところへ銃弾がめり込んだ。しかも2発目の銃弾が正確に1発目を叩いて後押しし、ISスーツの生地もろとも微妙に深いところまでズカーンと行ってしまっている。ついでに述べるなら撃たれた銃弾はグネりつつ回転しているものである。「絶対防御」とのギリギリせめぎ合いだった。

 

 その時のラウラは、およそ井上○里奈らしからぬ声色を発し、詳細に描くのははばかられたい表情になっていた。敢えて述べるなら、ラノベの表紙や挿絵を飾るクール系美少女から白○由竹への変化である。合掌。

 

 硬直した敵をアフロ野郎が見逃す筈もなかった。

 

「ハイハイハイハイ下のあぬごぉ!?」

 

 取り返しがつかなくなる直前、一夏の眼前に束ねて捩った髪の毛2束が突然襲い、彼は物凄い力ではたき落とされた。そんなに高くない高度だったのでコンクリをちょっと損壊させた程度で済んだ。生身だと死ぬ。ついでにラウラも巻き添えを食らって墜落した。周囲の目も墜落を追い揃って視線を落としていく。

 

「ばばう!」

 

 伸びた髪の毛の元、腰に手を当てたポーズの箒が落ちた先の一夏に向かってギザ歯を剥き出しに咆えた。傍目に見ても怒ってらっしゃる。

 一連の騒動を腕組みして眺めていた同じ1組の谷本癒子、鷹月静寐、四十院神楽の3名は思い思いに感慨深く眺めていた。他人事である。

 

「うんまぁそー来るよね。下品だったし」

「あの髪ってISなのか生身であんななのか」

「いつからここは富沢ひとしワールドになられたのでしょう?」

 

 どちらかというと箒の話にシフトしてしまっていた。今に至るまで日本語を喋ってるところを見たことのない級友の方が関心度は高い。彼女らから見ればどうやって現代日本を生き抜いてきたのか謎の女子である。髪の毛ドリルとか、政府の陰謀で共生でもしたのかと勘ぐりたくもなる。

 

 凝りずにシャキンと立ち上がった一夏は拳銃をラウラに向けて構えた。スタイリッシュに拳銃は横向きで持つ。空いた手で手招きのゼスチャーを取って挑発してきた辺り本当に懲りていない。ラウラも立ち上がって各種武器を一夏に向け対峙する。小刻みに震えながらも尻を押さえ果敢に挑む姿に周囲は色んな意味で涙し畏敬の念を抱いた。

 

「ボーデ何とかさんよォ、それでは本番行ってみよーか! 今度は弾丸に『零落白夜』ってるよ! バリアズブズブだぜ!」

 

 本番の好きな一夏が更に煽る。

 「零落白夜」とは一夏のISに備わった能力であり、相手のエネルギーやバリアをガン消しして剣撃を叩き込むIS委員会よくそれOKしたなって代物である。現役時代の千冬が最初にこれを使っていたので、ある意味継承したようなものと言える。だがあくまで一夏のISに標準装備されている剣での話だ。

 それはそれとしてつまるところ一夏はバリアを突き抜けて本体や生身を撃ち抜けるとそう言っている。

 

「何て応用するんだ! 教官の必殺ブランドをそんなえげつないことに使うな!」

 

 本人にとって至極当然の言い分をラウラが放つが、ニヤケ面を隠さない一夏に効きはしない。

 

「そこの二人! そこまでだ!」

 

 たまたまアリーナを見回りに来ていた大千冬先生が見かねて止めに入った。周囲はとりあえず収まったと一斉にため息をつく。

 

「……私闘とまでは言わんが物には限度というものがある。トーナメントまではお前ら対決は自重しろ」

 

 ニヤつき顔のまま肩を竦めたグラサンアフロ野郎は掲げた拳銃を目の前から消した。「量子化」というIS特有の機能で武器が収納できるのだ。しかし一夏のISには専用の剣以外収納できない。整備畑の女生徒たちには色んな意味で納得し難い話である。

 

 張り詰めていたものが切れ、遂にラウラが倒れた。ISを装着している見物人らにより緊急搬送される。あなたはアイツ相手に痛みに耐えてよく頑張った感動した可愛い、と彼女が多くの生徒からちょっと見直された小事件であった。一方の一夏の評判は聞くまでもなかろう。

 




・鈴音
 手遅れ。

・富沢ひとし
 漫画「エイリアン9」は属性にロリリョナドリルドジ教師の四重苦揃った変態にとって御用達な一作。

・零落白夜
 次回のトーナメントへの振り。


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03

 前回を鑑みて、何事もやりすぎはよくないと。後最初書いた時点でクソの単語が多過ぎたので削りました。


 ラウラは死んだ! ギャラクティカ!

 ……というワケではなかったが、生憎と彼女の周囲は真っ暗で、自身は浮遊体験ばりに浮かんでいる。ちなみに全裸である。

 

 何故こうなったか。先程まで学園行事のタッグ・トーナメントにて一夏・箒ペアと殺り合っていた。自分のパートナーは忘れた。

 結果的に、一夏の「零落白夜」付き銃弾でバリアを突き抜けボコボコに撃たれまくてダウンしたラウラである。「絶対防御」が発動して守ってはくれていたが、肉や内臓に食い込んで控えめに言って痛い目に遭った。ついでに弾は不定形に潰れて体内に残る対超鋼炸裂形態! と化して「絶対防御」の膜ともども体内に残り、ぶっちゃけ死ぬ程痛い。

 ぶっ倒れて全負けした直後に肉体が黒い何かで覆われて勝手に暴れたのをラウラは上述の空間から見ていた。本国で散々問題視された自動化システムがISに無断で搭載されていた故の暴走なのだが、この時点のラウラには知る由もない。

 

 唐突に遠くから何かが踊りながら現れた。男である。

 

「V! T! システェェエム!」

 

 キレッキレのポーズを決めながら前口上を叫ぶマッチョ野郎は、眩しい程に目を光らせながらラウラの目前に陣取った。

 

「私は羽○野チカ(うみのせんりき)! VTシステムの核であり甘酸っぱい青春のせつなさを伝える愛の伝道師! お前は我がシステムに取り込まれたのだ!」

 

 甘酸っぱさから全力で遠い濃ゆい絵柄のオッサンの登場に、ラウラは文字通りドン引きした。ローアングルで立ちはだかられて無駄に迫力がある。

 

「おい、せつなさはどうでもいい。とっとと私をここから開放しろ」

 

 これがヤーパンサブカル大好き副官クラリッサ・ハルフォーフ大尉じゅうはっさいならば、ハチミツホーリー隊員だREDの切り抜き永久保存だイヤッホゥ! とばかりに長々と解説してくれるのであるが、いないのでラウラは知らん。なのでただ指差して要求を突き付けるのみだ。全裸だが。

 

「何をハチミツスゥイーツなことを! 無理に! 決まっておる!」

 

 両の手でズビシッとラウラを指差すその態度も相まってイラッと来るラウラ。人生において他人に殺意を抱いたのは例のアフロと枕を打診した将校とコイツで3人目である。

 

「さぁお前はここで! お前の歩んだ青春のせつなさアーンド届かぬ思いに身を焦がして! 死ぬのだ!」

「こちとら研究所と軍隊生活で青春も何もないわボケェ! ……あぁ待て畜生……!」

 

 せんりきにより脳内に無理矢理引き出されてきたのは、ラウラ自身が歩んだ半生だった。施術に失敗して落ちこぼれ扱いされた悔しさに絶望、千冬に見出された希望と羨望、部隊員やクラスメイトとのガールズトークに混じれない寂しさ、そして千冬への届かぬ思いが放水したダムの如くラウラに雪崩れ込み、ままならぬ人生に押し潰されまくり頭を抱えてのけぞり返った。しつこいが全裸である。

 

「あァ……井上ェエエエエ!」

「フハハハお前はここで寂しくのたれ死んでいくのだおねツイィィィィンズ!?」

 

 高笑いするせん(略)が突然背後から無茶苦茶に撃たれまくり、頭と胴体を何10発か貫通された後、眼の光が消え前のめりにブッ倒れ、大量に血を垂れ流しぽっくり絶命した。

 

「いよゥラウラちゃん」

 

 下手人は一夏だった。馴染みの焼鳥屋にぶらっと寄った酔っ払いの如き気安さで、拳銃を持った手を振って現れた。言うまでもないが彼も全裸である。

 

「どうやって入った」

「黒いのに触れたらよォ、入れちまった」

 

 あっちの世界の中でつづく。

 




 短いが一区切りして明日更新。起承転結付けられたので。

・絶対防御
 不定形に動く肉体を覆う以上可塑性はあるからという理由で変な描写になった。

・○○野チカ
 掲載誌を取っておかなかったのは後悔している。

・おねがいツインズ
 どちらかというとロボオタがビックリしたアニメ。脚本家繋がり。


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04

 何書いてんだか。


 暗転し、今度は映画館の一室となった。中央近辺のちょっと上辺りにて二人は隣り合って座っている。今度はちゃんと二人とも制服を着ているので安心して欲しい。

 これがヤーパンサブカル大好き副官クラリッサ・ハルフォーフ大尉じゅうななさいならば、アニメお約束の心の描写! とばかり具体例を次々列挙してくれるのだが、ラウラに知る術はない。助けてもらったこともありともかく付き合うしかない状況にある。

 スクリーンにはカウントが映され、いかにもとばかりに映画が上映されようとしていた。

 

「これは貴様の半生記とやらか」

「イエス、刺激的なモノが見れるぜ」

「この際だ見てやろう」

 

 そう言いつつラウラはカップを抱えて中のポップコーンを齧りつつスクリーンに見入ることにした。当面この空間から出られそうにないから暇なのだ。

 

 どこかの乱雑なラボに立つのは、二人の子供、一夏と箒である。この頃はまだ見た目はまともであった。

 テーブルに置いてあった物をお菓子だと勘違いした二人はそれを飲み込んでしまった。直後全身から何かが溢れファイティングポーズを取る。10代の頃の篠ノ之束が泡を食って駆け寄って来るが手遅れの様子だ。

 

 その後の彼らは、現在のような出で立ちに変化し、拳銃やドリルが生えたり、いじめっ子を吹き飛ばしたり、襲い掛かる政府のエージェントを屍の山(比喩表現)にしたり、遂には白騎士事件のとばっちりで離散させられたり、爆散して自己再生したり、エイリアンと握手したりの半生だった。

 

「つまり何だ、ISコアってのは元がエイリアンであって、お前はそのISコアと共生してIS人間になったと」

「ハイ正解」

 

 映像から読み取れる情報だとそういうことになる。聞きたくなかったISと彼らの秘密だった。無事生還の暁にはこれらを本国へ報告しなければならないラウラである。実に気が滅入る。

 

 そのひ、おりむらちふゆをおしたおした。

 

「ブ――――――!」

 

 口内に含んだポップコーンを盛大に飛ばしたラウラは、狼狽して一夏の胸を捻り上げ突っ込む。

 

「お前何考えてる!? 実の姉だぞ!?」

「姉弟同士ってな、背徳感あると思わねぇか? いや俺当時はマジだったからな?」

「最低だ」

 

 敬愛する教官の絶対知りたくなかった過去である。その後の千冬の満更でもない態度から、ラウラの中で燃えていた千冬熱に冷や水をぶっかけられた。あーこの人も一人の女だったんだな、と。

 

 そのひ、ふぁんりんいんをおしたおした。

 

「あぁうん、教官相手よりはまぁマシだ」

「これは年相応というものさ」

「ジュニアハイスクール時代という点を除けばな」

 

 山本直樹作品ばりなプレイ三昧を見せられてもラウラにそういう趣味はない。スカシ目を湛え機械的にポップコーンを齧る作業に入り、ついでにコーラで喉を潤した。

 

 そのひ、ごたんだだんをおしたおした。

 

「オイオイ思わず俺たちの友情に感動しちまったのかい?」

「……そう見えるか?」

 

 ラウラが思わず目頭を揉み解した。3度目は大体オチである。世の中に蔓延るクソ映画とはこういうものなのだろうとラウラは勉強になった。そうでも思わないとやってられない。

 

 クライマックスにはISを動かし実技試験で無双し試験会場を吹き飛ばし、箒と再会して濡れ場に突入しエンドとなった。丁度ポップコーンが切れたのでカップを仰いで残った内容物を口に含み、コーラで喉を洗い流す。武○人間を観た方がまだマシだったとラウラは結論付けた。

 

「とりあえずはお前がろくでもない人間というかクソ野郎というのは判った」

「何て人聞きの悪い。俺、愛の戦士だよ? 銃使いを卑怯と言い放って弱くて守る守る詐欺でヒロインたちに嫌われるワンサマちゃんだよ」

「どこの時空の話だ心にもないこと言うな」

 

 アニメ顔の描かれたお面を顔に貼り付けのたまう一夏をとりあえずラウラは一蹴する。

 

「ラウラちゃんよォ、俺のベッドにいつでも潜り込んでいいんだぜ? 全裸で」

「私にそんな人生の選択肢は今の所ないから安心しろ。あっても貴様にではない」

 

 本気で嫌そうな顔をしてラウラは二度目の一蹴をシュートした。この映画館でのここまでに至る経緯はその殺し文句で締めるための振りだったのだが、好感度がマイナス振り切っていては実に無意味なものである。

 

 

 その後黒い塊を突き破ってアリーナへと復帰した一夏とラウラは、黒々しい何か筋肉男的な残骸をボコボコに撃ったり斬ったりして徹底的に消した。

 

 最後に千冬がいかにも恋人らしく軽く一夏の尻を叩く様を目撃し、以降ラウラは真面目に生きようと決心した。

 尚一夏は直後箒に尻を噛み付かれた。

 

 現在、ラウラは未だに一夏に狙われている。

 




・○器人間
 登場人物が主人公含めてクソ野郎だらけという終始ゲラゲラ笑えるホラー映画。ラストのオチ映像が秀逸。


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05

 誰得短編その5。
 今まで描いてなかった原作でのショッピングモールを舞台にしたあれこれ。



「ラウラちゃ~ん、それダメダメ、こっちで!」

 

 と、クラスメイトの鷹月静寐がラウラに手招きする。その手には水着がぶら下がっていた。というか紐。

 

 ここは都内、というかIS学園に近いウォーターフロントにあるショッピングモール。埋立地の遙か先に建てるとか大阪の某モール並に正気かお前と呼ばれたアレでナニな立地だが近場のラウラ達にはどうでもいい。

 

 そのカジュアルな女性服売り場でラウラ始めとする3名が寄り集まっている。今度実施される臨海学校に向けて水着を調達に来たのだ。女だらけのクッソサバい学校の行事で誰に見せる水着だという夢のないことは語らない。

 

 そんなワケでラウラと鷹月さん、シャルル改二シャルロットの3名が水着選びにあーだこーだしている。

 

 シャルル改めシャルロット。要は女だと開き直って女の制服に着替えて本名名乗って再編入したあの人である。白人美少年に喜んで濡らした数多くの女子に謝って欲しい。

 尚ラウラは軍への定期報告に「仏蘭西の代表候補性は織斑一夏のカキタレになりました(意訳)」と正直に書いて送ったことをこれっぽっちもおくびに出さず接している。本国がこのカードを仲の悪い隣国相手にどう切ろうと知ったことではない。

 

 本来はここに箒も来る予定で誘ってはいたのだが、現在教員たちが彼女に言葉とモラルを覚えさせようと奮闘しているので公共の場に連れ出すのは憚られた。ついでに彼女のギザ歯に差し歯を着けさせるかどうかで揉めているという。

 

 それはそれとして、鷹月さんがラウラに両手を掲げて見せびらかしたのは、局部を隠す僅かな布同士をV字に展開された紐で繋がれた、一応カテゴリーとして水着と称される代物である。名称をスリングショット。エロいフィギュアか変態男のプレイ位でしか見ない奴だ。

 

「……待ってくれ、海水浴でポールダンスやらせる気か!?」

「ほうほうこれはハードル高いですかぁ」

「いや普通そうだろう!?」

 

 ラウラがこれ以上見ない姿で狼狽するのは必然であろう。必死に手を振る。その手には紺色のスクール水着が握られていた。

 顎に手を当て、ニヤリとした表情で目を光らせた鷹月SUNが、即別の水着の掛かったハンガーを掲げる。

 

「じゃこちらで!」

「うん、まぁそうだなアレよりマシか。そちらにしよう」

 

 今度は和服風の水着である。極端に短いつんつるてんで胸は局部の隠れた前開き、ローライズなセパレートの下はもろ出しルックだ。商品名を「どろろルック」。先に提示された水着より露出が低いのでラウラはつい安心して選んでしまった。先に極端な物を提示して後に本命を選ばせるという鷹月さんの罠である。ラウラは恨むなら自身の体型を恨むが良い。

 

「そういやさぁ」

「何だ」

 

 速攻で会計に持って行かれつつ、鷹月さんの問いかけにラウラが首を撚る。同時にシャルロットもレジに水着を運んでいた。ブツはでかい。

 

「ラウラちゃん現役の軍人だから、生徒はISをファッションだと勘違いしてるー弛んでるーとか言って眉顰めると思ってたよ」

 

 その問に、ラウラは得心する。民間からの軍人への先入観としてはあり得る話だったからだ。

 

「そもそもあそこは競技としてのISのノウハウを学ぶ場だ。軍人の心得は軍隊で教えるものだ。……寧ろ自分が場違いという自覚はあるぞ」

「まー戦車道やってる人に軍人としてのウンタラ言っちゃうようなもんだしねぇ」

「何だそりゃはは」

 

 レジのお姉さんが微妙に聞き耳を立てていた件についてラウラは流した。今をときめくIS学園の生徒だと勘ぐられたワケだ。

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

「ちょっとそこのアナタ! 何度も言わせる気? アナタが払いなさいって言ってるのよ! は! ら! う!」

 

 3人が店舗を出た直後に、いかにもど神経質でねちっこいオバンの叫び声が響いた。

 ラウラたちがその方を見ると、別のレジにて金切り声を上げるオーバー・サーンとそれをニヤニヤしつつ受け流している男子がいた。周囲も何事かと注目している。

 鷹月さんが覗き込む一方、ラウラはうんざりしてしまった。

 

「何何?」

「選りに選ってあいつかー……」

 

 選りに選っての男子は、一夏・ザ・アフロ野郎だった。自分が選んだ服を彼に払わせようという腹積もりらしい。アフロを頭に抱く65536%怪しい男に喧嘩を売れるその女は胆力があるのか人を見る目が壊滅的な馬鹿なのか。後者だろうとラウラは見立てた。

 

「一夏……!」

「関わるな」

 

 シャルロットが一夏に助け舟を出そうとしたところをラウラが遮った。彼女が軽く腕を振るっているが、その腕はシャルロットには容易にどかせそうもない。

 

「まぁ私らに何ができるって訳でも、ねぇ?」

「酷くない?」

「奴なら自力で何とかするだろう」

 

 鷹月さんが首をすくめ、シャルロットが突っ込み、ラウラがフォローを入れる。ラウラの判断に個人的感情がないとは言わない。

 

「それでよォキンキンオバチャン、アンタ自身は強ぇのかい?」

「何言ってるのよ! 今時男なんかより女が強いに決まってるでしょ?」

「そんなマスコミ様のアジじゃなくてよ、お前はどうかって聞いてんだよ?」

 

 一夏の漂々とした問いに、件のオバチャンは苦み切った顔をする。話の内容よりも、やり返されることを想定してなかったのだ。それでも彼女が返したのは、本人の矮小なプライドと、目の前のアフロメンが口を吊り上げたいかにも邪悪な表情に当てられたからでもある。

 

「そんなの……決まってるでしょ!」

「あ、そ、うん、強いね?」

 

 表情を変えずに一夏が手を何でもないように掲げる。いつの間にか0.45口径の銀光りする拳銃が握られていた。種を明かせばIS人間だからISの機能である量子変換で銃を召喚した……というものであるが、知らん人にそんなこと判る訳もない。ついでに野次馬も騒ぎだして無駄に混乱を起こした。

 

「ひっ!?」

 

 オバチャンの悲鳴を他所に、銃床から弾倉を引き抜いて弾数を確認する。スライドに入った分を含めても8発しか納まっていない。8発しかないと述べるべきか8発もあると述べるべきかは微妙なところである。このカックイイ拳銃AMTハー○ボーラーは映画で某マッチョな殺し屋ロボとか某スキンヘッドの殺し屋が愛用していた得物であることはまぁ覚えておいて損はなかろう。

 

「ほい」

 

 そんな拳銃を一夏が手の中で回転させて銃身を握り返し、グリップをオバチャンに見せた。

 

「強いんだろ? 俺を倒して証明してみせてくれよぉ。ホラ」

 

 そんなこと迫られても命のやり取りまでしたことのないオバチャンは困る。だがどうせ拳銃は偽物だろうと踏んで震えながらも拳銃を奪い取る。だがずっしりとしたステンレスの重みに、これは本物ではないかという疑いが強くなり、目に見えてオバチャンの手の震えが強くなっていく。

 

「流石にマズくない? 止めようよ?」

 

 何ぼ何でもな事態にシャルロットが飛び出そうとするが、ラウラに腕をがっしりと掴まれ動けない。一夏の奇行を他のクラスメイト程目にしていない彼女にとっては彼のピンチである。

 

「お前らを巻き込む訳にいかん、ここは抑えてくれ」

「いいのかなぁ……」

 

 何もしない方がマシという言葉もある。それはもうスカシ目全開なラウラの表情に気後れし、シャルロットは引っ込むしかなかった。

 

 突然というか遂に、発砲音が響いた。

 オバチャンの撃った銃弾は見事にアフロ野郎にヒットした。ではあるが、彼の派手にぶっ倒れる様がすげぇ演技くせぇとラウラはどうでもいいことに呆れるだけだった。

 

「キャァァァァァァア!」

 

 今度はあらゆる方向に出鱈目に撃ちまくってきた。ラウラは即二人の頭を抑えてその場で伏せさせた。周囲の野次馬や店員も慌ててその場に伏せる。明らかにオバチャンが意図して狙って撃ってる風ではない。方々に着弾し大惨事と化す。

 残り7発全部撃ち切ってスライドが後退したままになった拳銃に対し、それでもトリガーを引き続けるオバチャンは控えめに見ても錯乱している方だろう。

 

 オバチャンが全弾撃ち尽くしたのを確認したラウラは速攻で立ち上がり、未だに喚くオバチャンの背後に廻って腕を捩り上げた。同時に拳銃を取り上げ、更に対象を床に伏せさせる。現役軍人として鍛えられた体の成せる業だ。

 

「確保! 警備員さん!」

 

 ラウラの叫びとともに、しゃがんでいた男女の警備員さん二名がはっとした直後すっ飛んできた。ラウラから引き継いで対象を拘束する。暴れるオバチャンを二人して何とか引き摺っていき、あっと言う間にその場は沈静化された。

 後にこのオバチャンが警察にて「手が勝手に動いて撃った」とほざいていたが信じる者は誰もいなかった。

 

「一夏! 一夏!」

「君! 落ち着いて!」

 

 眠れるアフロくんの傍らに、シャルロットが錯乱気味に彼の体を揺する。3人目の警備員が何とか止めようとしているが難しい。一夏の胸のど真ん中に穴が空いて彼の黒いワイシャツを血で汚して、ピックリとも動かない。彼女だって錯乱もするというものだろう。尚鷹月さんは背後で真っ青になって突っ立っている。

 スカシ目になったラウラは首を鳴らしながら近付いた。

 

「あー警備員さん、この人なら多分大丈夫ですよ? 後シャルは安易に揺するな」

「はい?」

「うん?」

 

 警備員とシャルロットは放たれた言葉の意味を咀嚼するのに時間がかかってしまい、ちょっと固まった。

 

「おい」

 

 全く躊躇することなくラウラは一夏の脇腹を思いっきり踏んづけた。レバー直撃は痛い。一瞬股間をターゲットにしようと思ったが、後々面倒なのでやめた。

 

「あーいってぇ」

 

 普通に一夏が半身を起こしてきた。思わずのけぞるシャルロット・警備員・鷹月さん御三方。

 

「な?」

「一夏! 一夏!」

「あの君、大丈夫なのか?」

 

 シャルロットは泣き顔でアフロ君に縋りつき、警備員は心配で声を掛ける他所で、なじゃねーって突っ込みたい気持ちを鷹月さんは呑み込んだ。

 

「弾ちゃんは内臓避けてくれたぜ。いってぇんだけどな!」

「そういうことにしておこう」

 

 一夏の説明をラウラは聞き流した。以前見せられた半生で上半身が爆散後自己再生したこの男のクソしぶとさを見せられているだけに、一発撃たれた位で死ぬワケがないと合理的に判断した上での一連の行動だった。後銃弾はそのうち吐き出す。

 

「酷いもの見てしまった」

「まぁ同感だ」

 

 ボヤく鷹月さんの肩をそっと叩いたラウラが心底嫌そうに呟いた。この嫌な気分を共有したい。唐突にタン○・ガールでも観て癒されたくなった。

 

「ところで俺の拳銃どこ行った?」

「さっきあそこの警備員さんが持ってったぞ。丁重に。証拠品だ」

「何てこった、アレお気に入りなのに! 帰ってこねぇ!」

「何10丁の内の1丁位別にいいだろうが。後警察に怒られろ」

 

 判っててさっさとブツを渡したのがラウラだ。

 ちなみに一夏を取り調べた警察の人の第一声が「またお前か!」だったのはご愛敬である。愛嬌で済ませていい話じゃない。

 

 さしあたって、一夏が肩を竦めて手を掲げボディを傾けたポーズで更に笑みを称えつつおどけてみせる。シャルロットが腰に抱きついていなければもうちょっと格好は付いただろう。

 

「酷い損失だ」

「物事をでかくしたお前は真面目に反省しろ」

「オーゥ何てどストライクに突っ込んでくれる。まぁ何だ、カッコ悪いとこ見せちまったな」

 

 などとアフロ野郎は爽やかに応えた。人によっては邪悪な笑みに見える。

 

「このクソ惨事をカッコ悪いの一言で済ます貴様はろくでもなさすぎる」

 

 実にスカシ目でラウラは吐き捨てた。

 尚周囲は事件のショックが尾を引いておりざわつきが収まらない。更に胸から血糊吐き出しながら平然と立ってついでに金髪女が抱きついているアフロメンに興味津々である。嫌な構図だと突っ込みたい鷹月さんの気持ちは誰も察してくれない。

 

 それはそれとして一夏が手持ちの紙袋に手を突っ込む。ラウラからは紐状の何かが見えた。

 

「ところで俺のスゲェセクシィな水着を見てくれ」

「嫌だ」

 




・ラウラ
 軍人としてのラウラというものをちょっと描いてみた。

・カキタレ
 仮にもラノベの人気キャラに付けていい言葉じゃない。原作のアイツらはカキタレを目指していると言っても過言かどうかは織斑計画の進捗状況による。

・ISをファッションだと~
 蛇足と言えば蛇足だが、思う所があったので敢えて挿入した。

・鷹月静寐
 中の人がマオちゃんとシロンのあの人。

・AMTハード○ーラー
 47がテーブルに置いた二丁拳銃に横向きに弾倉を差しながら構えるアクションは真似してみたいが無理。

・タ○ク・ガール
 某ガル○ンの世界にいてもおかしくなさそうな奴。ガールという単語に引っ掛かりを覚えても口にしてはいけない。


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