少女INビーストテイマー (ノウム)
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憑依だー!

……んん?

 

気づくと、私は小屋の中の様な部屋にいた。

 

と言っても、目は動かないし、首は動かないし、指も動かない。

 

体などもっての外だ。

 

ぐぬぉおおおお……あ、無理だ。全然動かない。

 

出来ることといえば、考えることだけ。

 

それなら、最後の記憶を思い出そう。

 

思い出せば、きっとどうしてこうなったのかがわかるはずだ。

 

(えーと、確か……会社で評判の男性社員に告られて、付き合うことになって、お酒飲んで……そうそう、彼の部屋に行って、その気になって始めたんだ。それで、その最中に扉が勢いよく開いた音がしたと思ったら物凄い形相の女が来て、何かを振りかぶって……。うん、頭に衝撃が走ったと思ったら目の前が真っ暗になったんだ。つまり、死んだ?嘘でしょ……まだ子供作ってないよ。うぁー、マジかー。喪失して一時間もしないうちに死亡とか、マジかー)

 

その後、私は全く動かない中で心の整理をつけるために色々と考えた。

 

数時間かそこらで、なんとか平静を保てる程度まで回復し、現在の状況について考える。

 

(現実的じゃないけど、まず考えられるのは転生。でも、それだと動けないのは説明できない。次に何かに憑依……何に憑依したかによる。岩とか動けない物に憑依したのなら、動けないのは頷ける)

 

そうして幾つかの可能性を考えては否定や注釈を入れてを繰り返して居た時。

 

それは現れた。

 

「やっほー、アウラちゃん」

 

目の前に、黄色い服を着た異形が立っていた。

 

立てられた襟と帽子の間から覗く目が私を見つめている。

 

初めての知的生命体に出会い、生命体と言葉から今いるのがどんな世界かを推察し、私は愕然とした。

 

(ま、ままままままっまさかぁ!)

「あ、やまちゃん。こんー」

「茶釜さん。こんー」

 

超焦りまくる私をよそに、認めろよと言わんばかりにさらなる登場人物が現れた。

 

それは、ピンク色のスライム。

 

肉棒と言わんばかりの姿は、まさしくあの小説の登場人物。

 

「あんちゃんはまだっぽいね」

「うん。先に準備しとこうか」

「そだねー。アウラ、付き従え」

 

スライムがそう言うと、私の体が勝手に動き出す。

 

(ま、間違いない。私は、アウラに……オーバーロードの世界に来たんだっ)

 

オーバーロード。

 

百万部突破の大人気ファンタジー小説。

 

舞台は百年後の世界で流行っているVR-MMORPGの一つであるユグドラシルというゲームと同じ魔法やスキルにモンスターがいる異世界。

 

主人公であるモモンガが、ユグドラシル終了と共にギルド拠点である「ナザリック地下大墳墓」ごと異世界に転移してしまうという話だ。

 

二次元でしかなかったその世界に、原作の知識を持って私は来たのだ。

 

(すごい!感動だわ!)

 

私が感動していると、もう一人のメンバーが合流し、三人は仲良く話し始めた。

 

さて、どうせ暇だし原作に関しての説明を始めようか。

 

異世界で、モモンガは───本人は冗談のつもりだったが拠点NPCたちが本気にして───世界征服を目指して邁進するのだが、普通に考えれば世界征服など不可能だ。

 

だが、それを可能にする事実があった。

 

ユグドラシルではレベル100は当たり前だが、異世界では英雄級でレベル30。

 

ユグドラシルでは第十位階を超える超位魔法など当たり前だが、人間最高位が第六位階で、第七位階以上は伝説。超位魔法など異世界にある国の一つがあると言われているが存在しないと思っているというレベルだ。

 

以上、説明終わり。必要になったらその都度説明で。

 

さて、私の目の前で、主人公モモンガ様がギルド長をしているギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のメンバーであらせられるやまいこ様と餡ころもっちもち様。そして私が憑依しているアウラ・ベラ・フィオーラの創造主であるぶくぶく茶釜様が木のテーブルに座って女子会の準備をしている。

 

そう言えば、ギルメンの女子メンバー三人で女子会をしているって話があったな。

 

(これが女子会かぁ……原作でも多くを語られていない女子会!楽しみだぁ)

 

────と、思っていた時期が私にもありました。

 

蓋を開ければ、職場の愚痴や人間関係の愚痴のオンパレード。

 

流石に垢BANしそうなのは避けてはいるが、遠回しに示唆する程度はしている。

 

(聞いていて楽しくない)

 

私はそう思うが、動けないので聞くしかない。

 

そのままずっと聞いていると、不意にぶくぶく茶釜様がため息をついた。

 

「ぬーぼーさんが引退するらしいよ」

「ぬーぼーさんもかぁ」

「寂しくなるね……」

(いん、たい……もしかして、もう、ユグドラシルの全盛期を過ぎてるの?)

 

そうなると、ここからはナザリック地下大墳墓のNPCとしては悲しみしかない。

 

櫛の歯が欠けるように、一人、また一人と引退していき、そして最後にはモモンガ様のみで終わりを迎える……。

 

それが運命だとしても、受け入れるべきだとしても、私は何かをしなければならないと思った。

 

だが、私はゲームの中に居て、全力を振り絞っても動けない体で。

 

何も出来ずに、ギルメンたちを……至高の御方々が、ナザリックを……この地を去っていくのを感じ取り、心の中で涙した



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