バカと仲間とFクラス (八舞 六花)
しおりを挟む

第0章:明久の過去
0話:過去と努力と下剋上


八舞 六花と申します。今更ながらバカとテストと召喚獣の小説を書いていきたいと思います。
作品全体通しての誤字脱字、修正点などなど書ききれないほどのミスがでると思いますが、読者様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います。


夕暮れの教室に、2人の男女がいた。男子の方は真剣な眼差しで、女子の方は何なのかよくわからないような表情で見つめあっていた。

 

男子の名は吉井明久……通称『ムードメーカー吉井』。彼はずっと片想いをしていた女子、音無冬美に思いを伝えようとしていた。

 

明久と音無は、小学4年生の時に同じクラスになってからずっと一緒に遊んだりしてきた友人同士であり、いつも楽しそうに過ごしていた。周りの生徒から付き合っているのかという疑問をぶつけられる事が、もはや日常茶飯事だった程に仲がよかった。

 

その事もあり、明久は今回の告白には絶対の自信があった。

 

「冬美ちゃん、僕と付き合ってください!」

 

多くを語らずともきっとこの思いは成就する……そう高を括っていた。

 

「ごめんなさい、恋人にはなれません」

 

しかし、そう思っていた本人とは裏腹に、返ってきた言葉は実にシンプルで、拒絶する内容であった。

 

この言葉を聞いた明久は、呆然としてしまった。理由を聞こうとしたが、声がでなかった。それほどまでにショックが大きく、瞳からは涙が流れていた。

 

「友人としては、これまでに良い人なんていないと思ってるよ。でも、今後のことを考えると、やっぱりちょっと不安が強いんだ。明久くんって、その、頭悪いし、運動も苦手だし……。私の器が小さいだけかもしれないけど、ごめんなさい、これからも良い友達でいましょう」

 

そう言って、教室から彼女は去っていった。

 

教室内に、とても居心地の悪い沈黙が流れた。明久は、そんな沈黙の中、膝をついてただ静かに落涙した。

 

家に帰った後も涙が止まることはなく、結局その日は一晩中泣き続けた。当然翌日の学校は休んだ。

 

その日から、明久は虚無と表すに相応しい程の状態になった。授業中にノートをとることは一切無くなり、教師からの評価も、地についてしまうのではないかというレベルにまで落ちてしまった。当然体育の時間もそれが治ることはなく、着替えはするが、ただ突っ立っている事が大半だった。

 

そんな明久に、誰も声をかけなかった。クラスのムードメーカーであった彼の学校生活は、完全に一転してしまったのだった。

 

それから2ヶ月、相変わらず虚無だった明久は、ぼうっとしながら下校をしていた。そんな時、彼の耳に彼女の声が届いた。しかし、それは自分宛の声ではなかった。

 

「もぅ、結羽くんったら、私は逃げないよぉ」

 

学年一の秀才且つ眉目秀麗という羨ましいものを兼ね備えた嶋崎結羽という人物と仲が良さそうに歩いている冬美を明久は発見してしまった。

 

もう、昔の冬美は帰ってこない、変わってしまった。そう思った明久は、1つの思いが溢れた。それは……見返してやるという大きな欲望であった。

 

 

 

 

それから明久は、大きく変わった。

 

近所にある図書館で必死に勉強をするようになり、テニス部に入って体をたくさん動かすようにもなった。勿論、どちらも全く知識が無いと言っても過言ではないため、明久は周りの人よりも3倍――いや、もっとかもしれない――努力をした。

 

 

先に成果が出たのは、テニスの方であった。

 

「せいっ!」

 

明久のフラットショットは、相手コートのコーナーぎりぎりを的確に打ち抜いた。

 

努力が実り、テニス部のレギュラーに一年生ながら選出され、地区大会に団体戦シングルスで出場することが確定した。

 

明久のプレイスタイルは俗にいうオールラウンダーであり、相手のショットを瞬時に見抜き、前後左右どこに打たれても返球することができるようになっていた。

 

そして、決め球を数種類会得していた。

 

その1つがこのコーナーぎりぎりを的確に打ち抜く『角打ち《コーナーショット》』であり、相手はなすすべもなく、静かに球の軌道を見るだけだった。

 

ゲームセットの声がコートに響き渡り、明久達の中学が無事に勝利した。その後明久は、先輩達の感謝と激励をその身いっぱいに受けた。

 

「次は県南大会だ、お前ら、勝つぞ!」

 

部長の言葉に部員の士気もかなり高まる。明久も当然例外ではなく、他の部員達と共に雄叫びをあげた。

 

そんな明久を、じっと見つめる女子がいた。

 

「あの人、名前なんだっけ?」

 

「あの茶髪っぽい人のこと? かっこよかったよね、同い年とは思えないよ。んーと、ゼッケンには吉井って書いてあるけど、どうしたの宏美ちゃん?」

 

「う、ううん、なんでもないわ。行くわよ美子」

 

その明久を眺めていた宏美と美子はその場を去っていった。

 

 

 

 

 

「だー! もうわかんない!」

 

部活の方は大成功を成し遂げたのだが、勉強の方に関しては行き詰まっていた。教材とにらめっこをする日々が続き、はや4ヶ月半が経過しても尚、理解が到底追い付かなかった。部活の疲れも相俟って、明久は図書室の机でぐでっとなってしまった。

 

「(やっぱり、勉強は上手くいかないな……)」

 

そう思いながら目を閉じる明久だが、不意に声をかけられた。

 

「あの、勉強をしないのなら、周りの迷惑にもなるのでどいてくれませんか?」

 

少々棘のあるその言葉を聞いて、明久は瞬時に起き上がった。

 

振り向くと、そこには明久と同い年位の女子が教材を抱え立っていた。

 

「あっ、ごめんなさい。すぐに帰ります!」

 

そう言って急いでその場から消えようとした明久は、その女子の目の前に自分の教材を落としてしまった。

 

その女子はため息をつきながらその教材を拾おうとした。が、そんな手がピタッと止まった。

 

落としたのは、小学4年生の算数の問題集だった。それをみて、その女子はさらに声をかける。

 

「あの、えっとおいくつですか?」

 

「ごめん、多分君と同じ年齢だよ。その君の持っている教科書学校でみたことあるしね、うん……」

 

バカにされるのを重々承知の上敢えて本当のことを言った。しかし、その女子がかけた言葉は、明久の想像とは逆の言葉だった。

 

「……私で良ければ勉強を教えてあげましょうか?」

 

「えっ?」

 

明久は目を丸くした。先程までの発言と全く意味の違う言葉だったからだ。

 

「私双子の弟がいるんですけど、弟は勉強が苦手で、その姿をあなたと重ねてしまって、ほっとけなくなっちゃったので……勿論、迷惑なら断ってくれても問題ないですけど」

 

「本当に!? もう是非! お願いしますっ!」

 

「し、静かにしてください! 皆見てるじゃないですかっ!」

 

声を大にして喜んでしまうほど、明久は困っていたのだ。

 

不安が一気に吹き飛んだ明久の表情はとても明るく、身体を揺らしながら鼻唄を奏でていた。その姿をみた女子……木下優子はやれやれと額を押さえながらも微笑んでいた。

 

 

 

 

冬休みになり、学生達、彼氏彼女のいる人々の幸せが世間に蔓延している中、明久と優子は黙々と勉強に明け暮れていた。

 

優子の教えもあり、明久の学力はみるみる高まっていき、学年全体の半分くらいの順位になるまでの実力がついた。

 

教えている優子本人が、明久の成長ぶりを一番驚いていた。頭の回転が早く、理解すればスラスラ問題を解けるようになるその能力を、優子は絶賛していた。

 

勉強に一区切りつけ、休憩スペースに2人で移動した。

 

「ふぅ、吉井くんも中々に出来るようになってきたわね。もう普通の中学生と同等の知識は身に付いたんじゃないかしら?」

 

「そうだね、全部全部ここまで教えてくれた木下さんのお陰だよ。本当にありがとねっ」

 

それなりに長い時間を過ごした2人の会話はとてもフランクになっていた。部活がない日はほぼ毎日図書館に通い続ける生活を送っていた明久と、その日に合わせて図書館に通っていた優子は、その図書館の小さな有名人になっていた。

 

「日本史に関しては私が吉井くんに教わるようになってるもんね、まさかこうなるとは思わなかったわよ」

 

優子は苦笑いしながらそう言った。

 

そう、明久は日本史に関してはもう学年で上位に食い込めるレベルにまで成長していた。

 

「日本史はなんかやる気がめっちゃでるんだよね!」

 

「他の科目にもそれなりのやる気をだしなさいよ?」

 

「わかってるって。教わってるんだし、これからもしっかりと頑張るよ」

 

そう微笑んでいた2人だったが、ふと優子の顔が陰った。それに気づいた明久は、心配になり何かあったのかときいた。

 

すると、優子は急に涙を流し始めた。

 

それを見た明久はおどおどしながらも自分のハンカチを優子に差し出した。ハンカチを受け取った優子は涙を拭き取った。

 

「ごめんね、吉井くん。私もうしばらくはここに来れないの……」

 

「えっ、ど、どうして?」

 

急な優子の言葉に明久は少しショックを受けた。理由を聞くと、優子はゆっくりと話し出した。

 

 

 

 

 

「木下さんの、お母さんが倒れた?! だ、大丈夫なの!?」

 

「正直、まだわかんないの……。くも膜下出血っていう病気で、あんまり生存率は高くない病気で手術はぎりぎり間に合ったみたいなんだけど、後遺症とか何かが残る可能性が高いみたい……。私、どうすればいいのかな……」

 

明久は返答に困った。ここで証拠もない言葉を投げ掛けたとして、それはそれで優子を傷つけてしまわないか。かといってここでさらに不安にさせる言葉をぶつけてしまったら、メンタルの弱っている今の優子ではさらに辛い思いをさせてしまう……ととても真剣に悩んだ。

 

その結果、明久は静かに優子を抱き締めた。そこに恋愛感情だの下心だの何もなく、ただただ純粋に優しさで包んであげたいと思った為の行動であった。

 

「大丈夫だよ、きっと良くなるよ。だけど今は、好きなだけ泣いていいよ、木下さん……」

 

明久の胸のなかで、優子は子供のように泣きじゃくった。明久は大丈夫、大丈夫と言いながら優しく優子の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

結局、もう勉強できないとなり、解散することになった。

 

明久は優子と別れる際に、ちゃんとお母さんが治るまで、僕のことは置いておいて、家族を大事にしなと伝えたため、その日を境に優子と明久が会うことは無くなった。

 

しかし、明久は優子の今までの努力のためにも、結果を出さなきゃとより一層奮起し、中学最後の学年末試験で嶋崎の点数を抜かし、学年首席の座を奪い取ったのだった。

 

順位が発表されたその日、明久は冬美に呼び出された。

 

「すごいね、明久くん! 私、見直しちゃったよ。あのさ、1年生の頃、私に告白してくれたけどさ、その気持ちは、まだ変わってなかったりするの、かな?」

 

明久はその言葉を聞いて、目を見開いた。所詮冬美はそういう人間だったのだ、ということが明久の苛立ちを助長させた。

 

「ごめん、もうそんな気持ち微塵も持ち合わせてないよ。もう、話すこともないだろうね、じゃあね、“音無さん”」

 

明久の言葉に、冬美は俯いてしまった。

 

「でも、君のお陰で僕はここまで上に上がることができた。そこは、感謝しておくよ」

 

そう言って、明久は教室から去っていった。教室からは、冬美の泣き声が聞こえたが、明久は気にもとめず、自宅へと真っ直ぐに帰った。

 

 

 

 

 

 

 

その後、文月学園に入学することができた明久は、そこで友人に恵まれ、楽しい生活を送っていた。そこに、転校生がやって来た。

 

黒板には、ブレブレの線で島田美彼と書いてあった。

 

「えーっと、し、しま、だみな、みです。よろしくお願、いします」

 

クラスからは笑いが起こった。自分の漢字も書けないのかよという声があちらこちらから響き渡ってきた。明久は、この現状に酷く苛立ちを覚えた。

 

「(帰国子女なのに、日本語が話せて漢字が書けるっていうのはそれだけですごいことじゃないか……。自分が出来ていることは皆できるとか思っているのか……?)」

 

明久は美波に対して大きな拍手を送った。周りからは不審な目で見られたりもしたが、そんなことは気にせず、拍手を送り続けた。

 

 

自己紹介が終わったあと、明久は美波を廊下へ連れ出した。

 

「さっきは、大丈夫だった?」

 

「だ、だいじょぶ、です」

 

美波は片言ながら、しっかりと言葉を返してくる。明久はそれを笑ったクラスの皆がよくわからなくなった。

 

「クラスの人達のことはきにしなくていいよ、仕方ないことだもんね」

 

そう言うと、美波は首をかしげた。どうやら理解できていないようで、あ、あー?みたいな声を出しながら明久を見つめていた。

 

「あーそっか、難しかったよね。ちょっと待ってね……」

 

明久はある機械を取りだし、カチャカチャと、いじり出した。その機械を美波は興味津々な様子で見ていた。

 

明久はそこに先程言った言葉を話しかけた。すると、その機械から、ドイツ語が発音された。

 

美波は驚き、その機械をさらにジーっと見つめていた。

 

「これはね、話した言葉を設定した言語に変換して発音してくれる機械なんだよ」

 

『へぇ、それはすごいですね!』

 

美波は目をキラキラ光らせながら、ドイツ語をどんどん話していく。

 

『さっきはありがとう、とても嬉しかったです』

 

『あの、学校を案内してくれませんか?』

 

『ちなみに、どんな食べ物が好きですか?』

 

機械に興奮しているようで、言っていることの脈絡がほとんどないが、明久は気にせず、美波の言葉にしっかりと答えていく。そして、昼休みになって美波に学校案内をした。

 

昼休みは無くなってしまったけれど、充実した時間を過ごせた明久は満足そうにしていた。美波にもたくさん感謝されて、嬉しそうにしていた。

 

放課後になって、近所のことを知りたいと言ってきた美波に明久はすぐにOKをだして、街を回った。そこで、たまたま人形屋さんを見つけた2人は中に入っていった。

 

「あっ、おねーちゃん!!」

 

『あ、葉月! どうしたのこんなところで!』

 

「えーっと、島田さ……み、美波さんの妹ちゃん?」

 

「はい! 私、島田葉月っていいます、よろしくですっ! えっと、お兄さんは?」

 

「あ、僕は島田さ……美波さんと同じクラスの友達だよ、よろしくねっ」

 

葉月はまたよろしくですっと言いながら店内でぴょんぴょん跳ねていた。年相応の雰囲気に、明久は思わず口角が緩んでしまった。そのせいで近くにいた他のお客に変な目で見られてしまった。

 

明久はんんっと咳払いをすると、葉月にここで何をしているのかという質問をした。

 

「えっと、おねーちゃんの為にぬいぐるみを買ってあげようと思ったんですけど、お金が足りなくて、困ってたんです……」

 

葉月の指す方を見ると、そこには、中々のサイズの熊のぬいぐるみがあった。値段も中々の物で、明久も手持ちにそこまでのお金を持っていなかった。

 

「……あっ、そういえば鉄人に盗まれた僕のゲーム機、今日学校を案内している最中に取り戻したんだよな……。これを売れば、多分買えるかな」

 

明久は2人にここで待っていてと伝え、急いで質屋に向かい、ゲームを売却した。

 

そして、そのお金を、ぬいぐるみ屋にいる葉月に渡した。

 

「このお金で、ぬいぐるみを買ってあげな? でも今日じゃなくて明日また来て買いな? おねーちゃんにプレゼントしたらきっと喜んでくれるよ」

 

そう言うと、葉月は、またぴょんぴょんと飛び跳ねて、明久に近づいた。そして、頬に口づけをした。

 

明久は急な出来事に驚きを隠せなかった。あわあわとしていると、さらに追い打ちをかけるように葉月はこう言ってきた。

 

「おにーちゃんは私のお婿さんになるのです!」

 

満面の笑みでとんでもないことを言ってきた葉月に、明久は数歩後ろに下がった。

 

「じゃ、じゃあ僕はもう帰るね! 2人とも気をつけて帰ってね!」

 

明久は急ぎ足で店内を後にした。

 

「(葉月ちゃん……中々に恐ろしい子だっ!)」

 

そう思いながら、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、明久が学校に着くや否や鉄人こと西村先生に呼び出された。

 

「お前、昨日島田の案内やってるときに俺の机から没収したゲーム機を持ち出しただろう?」

 

「はい、持ち出しました」

 

正直に答えると、西村先生は頭を抱えながら封筒を差し出してきた。

 

その封筒には吉井明久殿と書かれており、丁寧に封までしっかりとしてあった。

 

「お前は、残念なやつだ。吉井明久、お前を文月学園初の観察処分者に認定する。これからは教師の手足となって頑張るがいい」

 

観察処分者と聞いて、明久は驚いた。校則に記載されている、停学・退学を除いた中で一番重い処罰であった。

 

観察処分者になると、2年生から行われる振り分け試験というクラス配属をかけた試験で、点数にかかわらず、確定で最低クラスであるFクラスになってしまうという大きなペナルティがある。

 

これを知っていた明久は、西村先生に少し抗議をしたが、結果はやはり覆すことができず、観察処分者になってしまった。

 

「はぁ……これからどうしようかな。まあ、大人しく教師の手足になるしかないかな……」

 

明久はそう言いながらとぼとぼと廊下を歩いていった。

 

その姿を近くの柱の影から1人の男子が見ていた。

 

「……へぇ、あいつがFクラスか。中々に楽しそうじゃねぇか。こりゃ来年が楽しみだぜ、はっはっは」

 

赤い髪の男子は、明久とは逆の方に歩きだした。

 

この2人は後にちゃんと出会うことになるのだが、それはまだ先の話である。

 

 

 

………to be continued




はい、第0話、どうでしたか?私的にはここまで暗い話にするつもりは無かったのですが、書いているうちに色々思い浮かんでこんな感じになりました。

次回からは2年生編です、気に入っていただけたら是非また覗いてみてください。ありがとうございました!

※誤字脱字、修正点、矛盾点その他諸々ありましたらご報告ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章:バカな仲間と試験召喚戦争
1話:僕とおじさんとFクラス


どうも、八舞六花です。今回から2年生編です。

※活動報告の方にキャラクター募集を投稿しているので、興味があれば覗いてみてください。


ジリリリリリッジリリリリリッと目覚まし時計の音が、明久の自室に鳴り響いていた。時刻は朝の4時25分であり、なにか行動を起こすにしては少し早い時間帯である。

 

布団から伸びる明久の腕は、正確に目覚まし時計の音を止める。自動車の放つエンジン音も、自転車のペダルを漕ぐ音も、人々の喧騒も何も聞こえない、そんな静寂の中、明久はゆっくりと立ち上がった。

 

半袖と長ズボンの運動着を見に纏い、明久は体操を始めた。彼の習慣である朝のランニングの為の準備体操である。

 

中学でテニス部に入部したての頃は、体力もなく周りについていくことができなかった。その現状をおもいしった明久は、体力作りの為にランニングを始めた。それを未だに続けているのだ。

 

高校ではテニス部に入っていないが、腕は衰えておらず、体育の時間にテニスを行った際には、体育教師ダブルスをシングルスで破るなど、プロを目指せるような実力を誇っていた。

 

体操も終え、玄関扉を開き大きく息を吸う。まだ4月の頭である為、少し肌寒く感じた明久だったが特に気にすることもなく住宅街を軽快に走り出した。

 

誰もいない道を走るのは、まるで自分だけの世界に入り込んでしまったかのような不思議な感覚だと明久は昔から思っていた。

 

そんな時、不意に明久に声をかける者がいた。

 

「おお、明久くんではないか、久しぶりやのう」

 

「あっ、槙原のおじさんお久しぶりです! 今まで全く姿を見なかったんで、心配してたんですよ?」

 

槙原のおじさんと呼ばれたこの人は、ランニングをよく一緒に行っていて、明久にとって年の離れたライバルのような存在であった。

 

 

 

 

 

2人が出会ったのは明久が中学の2年生の時であり、レギュラーになっても驕らずにランニングを続けているときに、隣に並走するような形でやってきたのが槙原のおじさんだった。

 

おじさんと同等にしか走れないのかい、少年よという煽りを与えてそのまま明久を抜かしていった。それに対抗するように明久もスピードをあげる。しかし、距離はいっこうに縮まることはなかった。

 

少し走っていると、おじさんはゆっくりと減速し明久の横についた。

 

「若いのにここまでついてくるとは、中々骨のあるやつだ」

 

そう言いおじさんはニッと笑った。その表情からまだまだ余裕があるのだろうということを、明久は瞬時に察した。もうあれから8kmは走っているのにもかかわらず、おじさんは息をあげてもいなかった。

 

「おじさんは、何か運動をしてるんですか?」

 

そんなおじさんに我慢できずに明久は訊ねた。

 

「そうだねぇ……今から40年前は陸上部の長距離を走っていたね。それからずっと、私はこうやって走っているね。走ることは私の数少ない趣味でもあり、生き甲斐でもあるんだよ」

 

話し方はゆっくりで穏やかそうな雰囲気を感じたが、おじさんの身体はスラッとしていて、むき出しの腕や足は、中々に筋肉がついていた。それは運動を始めたばかりの明久に大きなインパクトを与えた。

 

「その身体が、40年の努力の結晶なんですね」

 

「まあ、そうだね。今年54歳のおじいだが、そこらのおじさんと同じに見られる訳にはいかないからね。これからも走るのは続けるよ。それじゃ、これからも頑張りたまえよ、少年!」

 

おじさんはそう言うと、再び加速し、先程までのスピードを遥かに越える速さで朝の住宅街に消えていった。

 

 

 

 

 

それから幾度となく明久はおじさんに出会い、いつしかおじさんの横を並走できるまでに成長した。

 

「ふぅ、若いやつの成長幅ってもんをバカにしてたよ。まさかこんな短期間でここまで成長するとはな」

 

「おじさん、ありがとうございます。でも、まだ抜かすことはできないです……」

 

「はっはっは! 私の隣を走れているだけで、並の人より速いことは決まっているさ、そう落ち込むな明久くん」

 

そう言っておじさんは明久の肩を数回叩いて近くのベンチに腰かけた。それに合わせて明久もベンチに腰をかける。首にかけたタオルで顔を拭いていると、おじさんはバッグから水を取りだし、明久に手渡した。

 

「ほれ、水分をとるタイミングを知っとらんと、身を滅ぼすぞ」

 

おじさんはやはり穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。

 

明久はその好意を無下にはできないと思い、水を受け取り口に含んだ。特に味もない普通の水ではあるが、運動して疲れた体に冷気が広がり、心地よくなっていた。

 

すると、遠くの方から声が聞こえてきた。始めは何を言っているか聞き取れなかったが、近づいてくるごとに内容が聞き取れるようになってきた。

 

声の主は少し若めの女性で、手を振りながらこちらに向かって走ってきていた。

 

「んっ、あぁ女房じゃないか」

 

「あ、おじさんの奥さんですか?」

 

おじさんは少し照れながら頭を掻いた。

 

おじさんの奥さんが明久の目の前までやってきた。近くで見ると、顔にシワや染みは無く、遠くで見るよりもかなり若く見えた。

 

「あら、あなたは?」

 

奥さんが至極当然の質問を投げ掛けてきたので、明久は丁寧に答える。

 

「夫が迷惑をおかけしました……。あなた、こんな小さい子に煽りをしたのね、中々ひどいのね」

 

「というか、おじさん……随分若い奥さんだね。歳の差がすごそうだけど……」

 

そう言うと、奥さんは照れながら明久の肩を強めに数回叩いた。

 

「あらやだー、そんなに若く見えるかしらぁ? 私これでも今年で48よ?」

 

「えええっ!?」

 

「はっはっは、やはりお前は若く見られるんだな」

 

この日から明久とおじさんは世間話のようなこともするようになり、奥さんとも近所であったら立ち話をするような仲になった。

 

しかし、それから2ヶ月が過ぎた頃から、明久は槙原夫妻を見かけることは無くなった。明久は近所の人に聞き込みを行い、理由は不明だが引っ越してしまったということがわかった。

 

明るく元気な2人ともう会うことは無いということに少し淋しさを感じた明久だったが、それを理由にランニングを辞めるということはしなかった。

 

今まで続けてきたからということもあったが、もしまた会えたときに、劣化した自分を見せたくはないということも、明久がランニングをし続ける理由となった。

 

 

 

 

 

 

そして今、目の前にはそのおじさんがいて、元気そうに話しかけてきた。約3年ぶりの再開に明久は胸を躍らせた。

 

「いやぁ実はな、腰を悪くしてしまってな。実家の方にある腕のいい整形外科の方に通っていてね、当分帰れそうに無かったから引っ越してしまったんだよ」

 

3年前と変わらない穏やかな表情でそう言ってきた。歳を実感してしまったねぇと呟きながら、おじさんは未だに太陽の登っていない暗い空を眺めていた。

 

「じゃあ、もう走ることはやめてしまったんですか?」

 

その言葉を聞いたおじさんは昔と変わらない笑い方で首を横に振った。

 

「言っただろう、ランニングは私の趣味なのだよ。そう簡単に捨てるわけないだろう?」

 

「そうですよね、当たり前の事でしたね」

 

その場で少しおしゃべりをしていると、おじさんの元に誰かが走ってきた。

 

「あれ、お父さん。こんなとこで何してんの?」

 

「おお、蘭。実家で話していた明久くんと久々に再会してなぁ。懐かしくて長い時間話してしまったよ」

 

蘭と呼ばれた女子は、明久の近くにまで駆け寄り、じーっと全身を見つめ始めた。

 

「えっと、槙原のおじさん、この子は?」

 

「私の娘だよ。今までは実家で過ごしていたのだが、今年から高校生ということで、こっちの方に連れてきたんだ」

 

「あー、槙原蘭です。文月学園に今日から通い始めます」

 

簡単な自己紹介をして、蘭はゆっくりと明久から離れていった。意外に優しそうな顔してる……という呟きを明久は聞き逃さなかったが、特に追求もしなかった。

 

明久はふと腕時計を見ると、中々いい時間になっていることに気がついた。明久はその場から駆け足で離れ、自宅に帰宅した。

 

「まさか槙原さんに娘さんがいたなんてなぁ。奥さんに似て中々の美人さんだったなぁ」

 

そんなことを言いながら明久はすぐにシャワーと着替えを済ませ、軽めな朝食を食し、再び外に出た。

 

先ほどまで暗かった空は姿を変え、青空と白い雲が延々と広がっていた。

 

春の爽やかな風は、桜の花びらを舞わせ、辺りを美しい桃色に染め上げていた。

 

「相変わらずこの季節になるとここら一帯は桜の花びらでいっぱいになるなぁ。これを見るともうこんな時期になったんだなと実感するね……」

 

家の鍵を閉め、桜の雨の中をゆっくりと歩き始めた。明久はゆっくりと回りを見渡すが、視界の中に学生の姿は1人もなかった。学校が始まるにはまだまだ時間があるため、当然と言えば当然ではある。

 

小鳥の囀りを全身に受けながら、明久は校門の前にたどり着いた。そこには1人の男が立っていた。

 

「鉄人先生、おはようございます」

 

「んっ、吉井ではないか。相変わらず早めの登校だな、関心だ」

 

西村宗一。明久が1年生の時に観察処分者を言い渡した生徒指導の教師であり、趣味がトライアスロンということから、生徒達からは鉄人先生という愛称で呼ばれている。見た目などで怖がられがちだが、生徒の事を一番よく考えていて、正義感に熱い理想の教師と言えるだろう。

 

そんな彼が、朝からこんなところにいるには訳がある。

 

「しかし、先生も大変ですね。2年生だけでも300人いるのに、3年生もいるからその倍の600人にわざわざ手渡しで振り分け結果を配布するなんて」

 

「ふっ、確かに大変だが、生徒の事を考えるとこのくらいは苦でもないさ」

 

そういいながら明久に振り分け結果を手渡した。

 

「開封するまでもないんですけど……? 紙の無駄遣いですよ、先生」

 

そこには明久の予想通りFクラスと記載されていた。

 

「お前も、あの件がなければ確実にAクラスだったんだがなぁ」

 

「後悔はしてないですよ? 確かにフィードバックがあるから試験召喚戦争は危険だと思います。しかし、観察処分者の利点として現実の物を運搬できますし、何せ2年生で召喚獣を召喚したことがあるのは僕だけじゃないですか。これは他人と大きな差がありますよ、攻撃を避けれる操作技術があればフィードバックも怖くないですしね」

 

「ふっ、観察処分者さえも、お前にとっては自分を強くする1つということか。まあ、3年になるときには、学園長に俺の方から振り分け結果の確定を変えられないかという話をしておこう。とりあえず、この1年は頑張ってくれ、吉井」

 

その言葉を聞いた明久は、軽く頭を下げ、教室に向かって歩いていった。

 

 

 

 

「ここが、Aクラスか。噂には聞いていたけど、デカいなこれ。本当に教室なのかこれ」

 

明久は教室の出入り口の小窓から中を覗いてみた。まず始めに驚いたのは黒板が無いということだった。黒板があるべき場所には大きなスクリーンがあり、その前には投射機があった。

 

椅子も電車の個人席のようなソファーであり、机はオフィスなどでよく見るタイプのものであり、個人の冷蔵庫まで完備されていた。近くの壁には【設備に不備などがある際は申し出てください。すぐに新しいものと交換します】と書かれたポスターが貼ってあった。

 

「こりゃ皆Aクラスに入りたいって言ってた気持ちが今になってすごくわかったよ……。これは憧れるよ、正直」

 

明久はそう呟き、Fクラスの方へ歩いていった。その数十秒後、ある女子生徒がAクラス前にやってきた。

 

「どうやら私がAクラス一番乗りのようね。……はぁ、Aクラスの名簿に吉井くんの名前が無かったわね……。やっぱり別の高校に進学したのかしらね。テニス部にも所属してないみたいだし、元気にしてるかしら、吉井くん……」

 

その女子生徒は、明久を大きく成長させた張本人である木下優子であった。入れ違いで離れていった明久の事に気づくこと無く、優子は教室に入っていった。

 

2人がお互いの存在に気づくのは、もう少し先のことである。

 

 

 

 

 

 

「……えっと、物置部屋にでもたどり着いたのかな、僕は」

 

Aクラスを見てからこのFクラスを見てしまうと、どんでもない格差を感じるであろう。教室の壁は木材で出来ており、所々腐敗している。窓も割れている箇所があり、床は畳になっていて、机も卓袱台と明らかに授業を受けるような環境ではないことは一目瞭然であった。

 

畳を踏むと、明久は何か違和感を感じた。どうやら床も所々腐敗しているようだ。

 

「(あまりにも劣悪な環境過ぎる……。これを許容しているなんて、教師陣は腐っているのか……? これじゃあ体調不良も続出だろうな)」

 

そう思いつつも明久は自分の席に座った。窓から外を見ると、続々と生徒がやって来ているのが見え、ここにもすぐに人が来るだろうと明久は思い、くつろぎながらクラスメートが来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

……to be continued




中途半端な場所で終わってしまい申し訳ないです。次回からは原作キャラクターも続々と登場していきます、楽しみにしていてください。

前書きでも書きましたが、活動報告の方でキャラクター募集をしていますので、是非覗いてみてください。

それでは、次回また会いましょう


※誤字脱字、矛盾点等ありましたらご報告ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話:バカと赤毛の士気高揚

はい、なるべく早め早めの投稿を心がけている八舞六花です。

原作との変更点の1つなのですが、美波は明久に関節技をかけることはありません。1年生の時に明久が頑張って教育した賜物だとお考えください。


教室で待っている明久の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あっ、アキ! これから1年間よろしくね」

 

ドイツからの帰国子女、島田美波だ。1年生の時に明久が美波の教育係を担当したからか、美波は明久にかなりなついていた。ちなみに美波が流暢に日本語を話せているのは、明久の教育の賜物であり、1日何時間も一緒に練習していたからである。

 

「おはよう、美波。1年生の時は日本語の読み書きをあんまり教えてあげられなかったから、Fクラスにさせちゃったね、ごめんね……」

 

「何言ってるのよ、アキがいなかったらアタシは未だにこんな流暢に流暢に日本語喋れてないわよ? それに、日本語を話せるようになったからこそこうやってアキとも普通に話せるし、友達だって出来たんだからね? 本当に感謝してるわよ、アキ」

 

そう言いながら、美波は明久の後ろに回り、肩に手を回した。その美波の頭を、明久はありがとうと言いながら撫で始めた。端から見ると恋人同士のやり取りのようだが、お互いにそのような感情は無く、軽いスキンシップのようなこととしか考えていない。

 

「次は読み書きちゃんと教えてあげるから、頑張ってね。日本語を1年でそこまで流暢に話せるようになったんだがら、きっとすぐにどっちも出来るようになるよ」

 

「うん、わかったわアキ。大変かもしれないけど、お願い」

 

「あ、あの、わしはお邪魔かのぅ?」

 

入り口の方から声が聞こえてきたので、明久はそっちの方を向く。そして、驚愕の表情を顔に浮かべた。

 

「きの、したさん?」

 

「わしを知っておるのか? わしは木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。よろしくお願いしますなのじゃ」

 

名前を聞いて、明久はすぐに察しがついた。優子が言っていた勉強が苦手な双子の弟だ、と。あまりに顔が似ているため、一瞬見間違えてしまったが、記憶にある優子の声よりも少し低く、男子の制服を着こなしている点から明久は確信をもった。

 

「(木下さん、元気にしてるかなぁ……。でも、いきなりそんなこと聞いたら怪しまれるだろうし、もう少し仲良くなったら聞いてみようかな)」

 

一通りの自己紹介を終えた後、たくさんの男子生徒がぞろぞろと教室内に入ってきた。入ってきた男子1人1人が明久の現状を見て舌打ちを鳴らしているのは、当然のことであった。

 

「おーい、明久ー!」

 

「須川くんに横溝くん! 君達もFクラスだったんだね」

 

須川亮に横溝浩二。明久が高校に入って最初にできた友人であり、よく一緒に遊びに出掛けたりする仲である。ただしご飯を食べに行く際は、好物が皆バラバラのため、軽い言い争いになることがある。

 

「ははっ俺達の頭の弱さは、お前がよく知ってるはずだろ、明久?」

 

「全くだぜ。定期テストで散々からかってきたのを忘れたのか?」

 

「あははは、ごめんごめん」

 

この2人は、明久と美波のスキンシップを見慣れてしまっているためか、何の反応も見せずに自分達の席に戻っていった。

 

「……やはり、お前は生かしておけないっ!」

 

急に明久の脇腹に軽い痛みがはしる。下を見ると、三角定規が落ちていたので、これを投げられたのだと察した明久は瞬時に辺りを見渡した。

 

しかし、特に不審な人物は存在しなかったが、何か視線を感じた。視線の先には特に誰もいなかったが、何かを感じた明久はそこに三角定規を投げ返した。

 

壁にぶつかると、刺さった。それと同時にイテッという間抜けな声が聞こえた。

 

「布で壁に擬態してたみたいだけど、まだまだ完全な擬態とはいえないね、ムッツリーニ」

 

その言葉を明久が言い切った時、壁にそっくりな模様の布がはらりとその場に落ちた。中にいたのは土屋康太、またの名を寡黙なる性識者、ムッツリーニ。学校のある場所で、秘密の商売をしていて、明久も行ったことはないが存在は知っている程の有名な販売人であり、写真部の副部長を務めている生粋の写真マニアでもある。

 

「……明久が島田美波といつもいるせいで、彼女のベストな写真が撮れないんだ。たまには離れてくれないか、俺の商売のために」

 

「実際やってることグレーゾーンすれすれなんでしょ? 美波はまだそういうの理解できないんだから、対象に考えるのは止めてあげてくれないかな?」

 

「……くっ、中々に手強いやつだ」

 

そう言いながら康太も席についた。これで、教室の席の大半が埋まった。

 

「お前ら、おはよう」

 

そう言いながら、教室に入ってきたのは赤毛の長身の男だった。明久はその男を見た瞬間、何か危険な雰囲気を感じ取った。

 

「俺は坂本雄二だ。ここFクラスの代表を務めることになった、よろしく頼む」

 

その名前を聞いた明久は、過去の彼の素性を理解した。

 

坂本雄二は悪鬼羅刹と呼ばれた不良であり、中学時代に他校の不良同士の喧嘩で多数の負傷者を出し、少年院に容れられそうになったというこの付近一帯で一番恐れられていた人物だった。

 

そんな人物がクラス代表だなんて、大丈夫なのだろうかというのが、明久の本心であった。

 

「えー、2年生になり、俺達は勉強ができない、欠席したなど様々な理由で最低クラスのFクラスに振り分けられてしまった! しかし、2年生からは試験召喚戦争という一発逆転のチャンスがある。そのため俺達は、下剋上を起こす!」

 

その雄二の言葉に一瞬士気が上がったが、すぐに現実に戻ってきたクラスの男子達は勝てるわけ無い、現実を見ろ、などなどのネガティブな言葉をぶつけた。

 

雄二はそう言われるのも想定通りという具合でニヤッと口角をあげる。

 

「確かに、ただのFクラスなら勝ち目なんてないだろう。だが、今回のFクラスには、たくさんの戦力が眠っている! まず、廊下に立って教室に入ってこない女子、入ってこい」

 

そう言うと、男子の目が一斉に教室の外を向く。男子がほぼ100%の教室ではそうなってしまうのも致し方ないのかもしれない。

 

視線に気づいているのか、中々教室のドアを開けようとしない廊下の女子生徒にイライラしたのか雄二は強引にドアを開けて中に入れさせた。

 

「あっあっ、あの、ひ、姫路、瑞希って言います。よろしくお願いします」

 

入ってきたのは小柄ながらもかなり立派なものを備え付けているピンク髪の女子、姫路瑞希であった。

 

その彼女の登場に、教室は大きな騒ぎになった。姫路瑞希と言えば、学年の中でも上位の方に君臨している才女であり、明らかにこんなクラスに振り分けられるような人物ではなかったからだ。

 

どうやら体調不良で途中退席をしてしまったため、強制Fクラスになってしまったようであり、その事を聞いた男子は理不尽だ、と怒りの声をあげる。

 

「いえ、私の体調管理の能力が無かったから熱を出してしまったんですし、私の落ち度です……」

 

「確かに、俺も熱がでなければもっとちゃんとできたかもしれないな」

 

「あー、化学のことだろ、あれ難しかったよな」

 

「俺も妹が救急車で搬送されただなんて聞かなければ、もっと集中してできたのに……!」

 

「お前、確か一人っ子だよな?」

 

「前の晩に彼女が寝かせてくれなくて……「異端者だ、殺せぇぇぇ!」冗談だ! 夢くらい見させてくれよぉぉ!!」

 

クラスのまとまりが無くなってきたところで、雄二の渇が飛ぶ。それを聞いた男子全員は、黙って雄二のを見つめた。隣にいた瑞希に関しては、急な大声で驚いてしまい、腰を抜かしていた。

 

「さて、話を元に戻すが、この姫路瑞希は誰がどう考えても主戦力であり、かつ名前が知られている。他のクラスのやつも、まさかFクラスにいるとは思いもしないだろう。だから姫路はウチのクラスの切り札とも呼べる存在だ」

 

これにはクラスの誰もが首を縦に振った。当然である。彼女は学年優等生の5本指には間違いなく入る人材である。これを切り札と言わずになんと言おうか。

 

「他にも木下秀吉、土屋……いや、ムッツリーニという2人の男がいる。秀吉は古典、ムッツリーニは保健体育に関しては、Aクラスに対してもひけをとらないだろう」

 

2人は軽く頭を下げた。

 

「そして、今そこの卓袱台で幸せそうな顔をして寝ている佐久間莉苑。こいつは振り分け試験の時間全てを面倒だと言って参加しなかったが、やる気を出せば確実にAクラスに入れるような実力を持っているだろう」

 

「そして……」

 

雄二は教卓の前からゆっくりと移動し、明久の横までやってきた。そして、明久の肩に手を置いた。

 

「観察処分者というバカの代名詞を与えられたが、実際の学力は多分だが学年首席にも並ぶだろう男、吉井明久がいる!」

 

クラスが静まった。当たり前と言えば当たり前だろう。瑞希は有名人であり、男子しかいないクラスにおいて康太は商売人として有名であり、秀吉も演劇部のホープとまで呼ばれる程の実力者である。莉苑に関しても静かになったが、本人が寝ているということもあり、軽くスルーされたが、しっかりと起きている明久にとって、その視線は中々に刺さるものがあった。

 

「こいつは特別なやつだ。観察処分者として教師の手と足になったが、その際に召喚獣を出すことを許可されていた。これだけで、他の誰よりも1歩先にいるだろう。そして、その操作技術に加えて学年首席並の学力だ、明らかに主戦力だ」

 

「へぇ、随分と僕に詳しいんだね。事前に調べでもいれていたのかな、代表」

 

「ふっ、たまたまだ」

 

そういいながら雄二は再び教卓の前に立った。そして、教卓をおもいっきり叩いた。

 

「俺はこの教室を、最高のものに変えたい。目指すはAクラスの設備だッ!」

 

その言葉に、クラスの男子は総立ちし、雄叫びをあげた。その瞬間、教卓が嫌な音をたて始めた。衝撃に耐えきれず、脚が折れてしまったようだ。そのまま音をたてて崩れ落ちてしまった。

 

「……あー、新しい教卓の申請に行ってくる。帰ってき次第作戦会議を行う。少し休んでてくれ」

 

そう言いながら雄二は教室を出て職員室に向かっていった。すると、クラスの男子が明久の元に集まってきた、

 

「お前ってすごいやつだったんだな! よろしく頼むぜ!」

 

「俺らを勝利に導いてくれ!」

 

「え、あっわかった、できる限りのことはするよ」

 

何故かクラスの主戦力になってしまった明久だが、皆から信頼を寄せられることは、嫌な気分にはならなかった。

 

「(さて、色々作戦を考えないとな。正面から挑むのはバカがやることだしな……)」

 

この戦争で、明久はクラスの軍師と呼ばれることになるのだが、それはまだ誰も知らない……。

 

 

 

 

 

……to be continued




はい、今回は少し短めですが、お許しください。

次はDクラス戦です。

キャラクター募集は常に募集しているのでどうぞ、活動報告をお覗きください。

※誤字脱字、修正点、矛盾点諸々ありましたらご報告ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話:策と軍師と暴走兵器

時間が開いてしまい申し訳ないです。

時間は開きましたが、キャラクター募集は常にしているので、ぜひ応募ください。

そして、まだ投稿して4話目ですが、1000回の閲覧と約30名のお気に入り登録してくださった読者様、誠にありがとうございます。正直ここまで行くとは思っていなかったのでかなり嬉しいです。これからも頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。


雄二が帰ってきて、最初の狙いを話し合うことになった。

 

「さて、とりあえずはEクラスを狙ってみようと思うんだが、異論はあるか?」

 

雄二の意見は勝てる確率の一番高い選択なのかもしれないが、明久はそれを良しとはしなかった。

 

「いや、Dクラスにしよう」

 

「ほう、あえて上を狙うか。お前の考えを教えてもらおうか、吉井明久」

 

雄二は異を唱えた明久を、軽く腕を組みながら見た。

 

「Eクラスの名簿をムッツリーニから見せてもらったけど、どうやら運動部が多く在籍してるみたいなんだ。そんなところに宣戦布告したらスピード勝負を仕掛けられて作戦を実行する前に押し潰される可能性がある」

 

「ほう、中々考えているじゃないか。で、他に理由はあるのか?」

 

「Dクラスの代表平賀くんは、どうやらEクラスの副代表三上さんって人といい感じらしいんだ。多分どちらに宣戦布告をしても、相手にする人数は変わらないと思うんだ。なら勝ったときの対価が大きいDクラスに勝負を挑んだ方が合理的だと思う」

 

その言葉を聞いて、雄二は明久に称賛を送った。

 

「この戦争の指揮はお前に任せた。俺はひとまずどこかに身を潜めておくことにするから、宣戦布告をしてきてくれ。開始時間は今からとも伝えておいてくれ」

 

そう言いながら、雄二は教室を出ていった。

 

「さて、誰か宣戦布告をしてきてくれないかな?」

 

そう発言するも、誰も行こうとはしない。それもそうであろう、下のクラスから上のクラスに試験召喚戦争を仕掛ける場合は、相手に拒否をする権利はない。Fクラス側からすれば、それは大きな利点であるが、相手からしてみれば良い迷惑である。きっと罵詈雑言や軽い暴力に合うであろう。そんなところに宣戦布告をしに行こうと思う自殺志願者はそういないであろう。

 

「なら、俺らが行ってこよう」

 

「俺らって……俺を巻き込むなよ!」

 

須川と横溝が自ら志願して、Dクラスに宣戦布告をしに行った。それから数分後、ボロボロになった2人が廊下に倒れているのが発見された。どうやら宣戦布告はできたようだが、Dクラスの恨みを買ってボコボコにやられたようだ。

 

そんな2人を教室の中に運び入れ、卓袱台の上に寝かせた。あまり行儀は良くないが、こんな環境下で床に寝かせることはできないという明久の発言が採用され、このような形になった。

 

それから少し時間が経ち、廊下が騒がしくなり始めた。どうやら戦争を早々に仕掛けたことがもう噂として広まっているようで、付近にはギャラリーが続々と集まってきていた。教師陣もいきなりか、と言わんばかりに頭を抱えていた。

 

「さて、今回の作戦は騙し討ちだ」

 

明久が、今回の戦争の策を説明しだした。

 

「今回の戦争はみんな操作になれていないはずだから、とりあえず時間を稼いでほしい」

 

「時間を稼ぐ、とな?」

 

「そう。Dクラスの平賀君は、絶対姫路さんがFクラスであることを知らないだろうから、近づいても怪しまれない姫路さんを平賀君にぶつける。でも姫路さんは振り分け試験を途中退席してしまったから全教科0点なんだ。だから姫路さんのテストが終わるまで時間を稼ぐのが今回の作戦の最大のポイントなんだ」

 

「あー、なら俺も受け直してきた方がいいな。姫路さんと同じ現状だし」

 

先程まで寝ていた佐久間莉苑が起き上がり、明久の元に歩いてきた。卓袱台に伏せていたため顔などもわかっていなかったが、少しつり目で雄二程ではないが高身長であった。

 

「あ、えっと佐久間くん。佐久間くんはAクラス並の成績だってきいたんだけど、得意な科目ってあるかな?」

 

「あ? んー、得意って訳じゃないが、物理と数学……まあ理数系なら一通りはできるぞ」

 

「わかった。じゃあ姫路さんと佐久間くんは今すぐテストを受けに行ってきて! 時間はこっちで頑張って稼ぐから、焦らないで」

 

その言葉を聞いた2人は頭を軽く下げて教室を後にした。そして、明久は考えていた。Eクラスが合同して攻めてきた場合の対処法である。

 

Fクラスの現段階の戦力は、身を潜めている雄二、殴られて気を失っている須川と横溝、補充試験を受けに行っている莉苑と瑞希を抜いて45人であり、Dクラス単体だけでも相当な苦戦を強いられる現状であり、そこにEクラスが加わると、勝率は一気に暴落する。

 

相手はFクラスなぞに負けるはずはない、と意気込んでいるだろう。その士気を挫く為には、Eクラスを迅速に処理しなくてはならない。

 

迅速に処理をするのなら、得意科目で大量に点数を獲得している人物を派遣するのがベストなのだが、何分その条件を満たしているのが、秀吉とムッツリーニ、そして美波の3人のみである。しかも全員得意科目が一教科しかないため、その他の科目で攻められてしまうと簡単に敗北してしまうであろう。

 

「よし、とりあえず僕がEクラスを単独で抑えるから、秀吉とムッツリーニ、そして美波はそれぞれ部隊を率いて、混戦ポイントで時間を稼いで! 3人の得意科目の担任を、できるだけ早く見つければ、有利に戦闘を進められるから、よろしくね! それじゃ始めようか、僕らの下剋上を!」

 

明久の作戦を聞いたFクラスの全員はおうっ、と声を揃えた。今ここに、戦いの火蓋が切られたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「源氏からは助太刀を頼まれたけど、どうする? 代表は宏美だから、決めてほしいんだけど」

 

場所は変わってEクラス。どうやら平賀からの救援に答えるかどうかを吟味しているようだ。

 

「美子は平賀くんと仲が良いから、助けてあげたいという気持ちは私もわかるわよ? でも、それじゃ私達になんの利点もないじゃない」

 

言っている事は正論である。この戦争に協力したとしても、Eクラスには何の得もない。それなのに行動をするなんて馬鹿げている、というのが宏美の考えであり、それを聞いた美子はうぅっと弱々しい声をあげる。

 

その声を聞いて宏美はため息をついた。

 

「でも、美子の頼みだし、私も答えてあげたいわ。でも、50人全員を危険に晒すわけには行かないわ。私と美子、それとEクラスの上位数名をつれて参戦しましょう」

 

「あ、ありがとう宏美っ! じゃあ、早速出撃しましょう!」

 

美子は目をキラキラと輝かせながらそう言った。

 

宏美は美子、そこに8名の上位メンバーを連れて、Fクラスの教室を目標地点に定め、出撃した。

 

しかし、廊下を通ってFクラスに行くには、どうしても混戦ポイントに脚を踏み入れなくてはならない。そこで宏美は、迂回して非常階段を降り、正面玄関から再び校内に入り、Fクラスの正面階段から強襲しようと企てた。

 

非常階段付近は混戦ポイントからはかなり離れており、Fクラス、Dクラスの両者どちらもいなかった。足早に非常階段を降り、正面玄関まで移動した。

 

「これなら、すぐに戦争もおしまいになりそうね。平賀くんには感謝してもらわないとね」

 

宏美がそう発言し、正面玄関に脚を踏み入れた瞬間、階段から1人の生徒がゆっくりと階段から降りてきた。その隣には世界史の田中先生を引き連れていた。

 

「君達が、Eクラスの増援部隊だね。悪いけど、僕に見つかっちゃったからには、補習を覚悟しておくといいよ!」

 

その生徒の姿をしっかりと捉えた宏美と美子はその存在をすぐに理解した。そう、中学時代に尊敬の眼差しで眺めていたあの男子である。

 

「吉井……さん!?」

 

「あれ、僕のこと知ってるの? どこかで会ったことあるっけ?」

 

2人は、ただ遠くから見つめていただけである。明久はそんな2人を知っているわけもなかった。

 

「中学のテニス大会で、すごく活躍してたのを見てました……!」

 

「あ、もしかして僕が最初に出た大会のことかな? あのときに何か視線を感じるなぁとは思ったけど、もしかして君だったのかな?」

 

「た、多分そうだと思います。試合中も終わった後もずっと見つめていたので……」

 

「そっか、ありがとう。でも、今この場ではそんなのは関係ないよ! クラスのため、僕は全力で君達Eクラスの進軍を止めるっ! 田中先生、お願いします!」

 

「うむ、世界史フィールド、展開承認!」

 

田中先生の宣告で、辺りの景色が一変する。まるで電子世界に入ったかのような不思議な感覚にその場の全員が呆気にとられる。

 

先に召喚獣を出したのはEクラス側の生徒であり、10体の召喚獣が一列に並んでいた。

 

Eクラス上位8人:平均点数98点

 

中林宏美:115点

 

三上美子:103点

 

上位メンバーであるため、点数はDクラスの下位メンバーに匹敵している。その場の誰もが勝利を確信していた。しかし、その確信は一瞬で崩れ去った。

 

吉井明久:428点

 

Eクラスの全員が、驚愕を浮かべた。当然であろう、明らかにその点数はFクラスのものではなく、学年上位に余裕で入るようなものである。明久は武器の木刀を肩に置き、Eクラスのメンバーに挑発をかけた。

 

その挑発に乗ってしまった2人の生徒が、明久に突撃をした。その2人は日本刀に両刃剣という接近タイプの武器であり、左右から挟み撃ちのように明久を攻める。

 

寸でのところで明久はサッと後ろに避けた。その結果挑発に乗った2人の召喚獣は、お互いの武器が刺さりあい、その場に倒れていた。

 

Eクラス上位メンバー2名:戦死

 

「ごめんね、召喚獣の操作技術なら、僕は誰にも負けないよ?」

 

優しい声色ながらも自分の手を使わずに2人の召喚獣を戦死にした明久に、Eクラスのメンバーは逃げ出してしまった。その結果、フィールド外に故意に退出したとして、戦死扱いとなってしまった。

 

自分の手を使わずに、上位メンバーを全て戦死に追いやった明久が、ゆっくりと近づいてきて2人に話しかけた。

 

「今ならまだ助けてあげるよ? 僕も戦意が無い人を戦死に追いやるような事は趣味じゃないんだ」

 

それは、ここで降伏をしろというものと同義であり、その際には補習は免除される。普段の戦争で行うことはほとんど適用されることは無いが、相手が代表である際には使用することができる方法である。

 

「いいえ、残念だけど私達は仮にも代表と副代表。仲間を戦死にされて怖じ気づいて降伏するような、柔な精神は持ち歩いていないわ」

 

「だから、勝ち目がなくても全力で吉井さんを止めるために戦う!」

 

2人の召喚獣は先程の2人とは全く比べ物になら無いような動きを見せた。左右を交互に入れ替わり、明久に迫る。その途中で、美子は大きく横に移動した。

 

明久は美子の移動した先を横目で確認し、動き始めた。

 

ガキンッと武器と武器がぶつかり合う音が響く。宏美の武器であるテニスラケットの叩きつけを、明久は片手で持った木刀で防ぎ、空いている片方の手で宏美のラケットを奪った。そのまま宏美を蹴り飛ばし距離をとる。

 

「召喚獣の操作技術が私と全然違う……っ! いったい何故……?!」

 

「僕はね、学年1のバカに与えられる称号観察処分者っていうものをもらっていてね、1年の時から召喚獣の使用を許可されていたってだけだよ。だから他人より操作技術が上回ってるってだけだ……よっ!!」

 

そう言いながら明久は、突如飛んできた火の玉を宏美のラケットで打ち返す。

 

火の玉は美子の少し横を通過した。発動した本人である美子は、目を見開いた。

 

「うっそ、そんなことが可能なんて……! でも、例えあなたでも動き回っている人にそれを的確に返すことなんてできないでしょ!」

 

そう言って美子は、走り回りながら火の玉を連射した。その火の玉を明久は一度も当たることなく避け続けた。そして、丁度打ちやすいところにきた火の玉を打ち、ラケットを地面に置いた。

 

「なめてもらっちゃ困るよ! 僕と召喚獣は一心同体っ! 自分の実力と同じレベルのショットなら打てるよ。しかもただ一方向に走り続けるだけの単調な動き、僕が当てられないわけないでしょ?」

 

打ち返した火の玉は見事美子にぶち当たり、彼女は戦死した。

 

三上美子:戦死

 

中林宏美:83点

 

「美子っ!」

 

「ごめん、宏美……。吉井さんあり得ないくらい強い。力になれなくてごめんね……」

 

そう言って落ち込む美子に、明久は声をかける。

 

「んー、でも操作に関しては初めてにしてはよく動けてたと思うよ? 後は自分の召喚獣の情報をもっと知っておくべきだったかな」

 

「えっ、どういうことですか?」

 

美子の質問に明久は丁寧に答えた。

 

「えっとね、三上さんの召喚獣は魔法使いタイプの召喚獣で、詠唱することによって魔法を打つことができる。そして、その威力は中々に高くて厄介な存在。そこはわかると思うんだけど、実はデメリットがあって、魔法を使うたびに自分の点数を消費しているんだ。連射して沢山の点数を削ってしまったせいで、さっきは一撃で仕留められちゃったんだよ」

 

それを聞いて美子は驚いた。当然内容にも驚きはしていたが、何より召喚獣にとても詳しい明久に驚いていた。

 

「気になって、昔西村先生とかに聞いたってだけだよ。あ、後魔法使いは魔法の耐性もあるから、覚えておいた方がいいよっ!」

 

「なんか、敵なのにありがとうございます」

 

「敵以前に文月学園の生徒でしょ? 助け合うのは必要なことだから気にすることはないよ」

 

その言葉を聞いた美子はありがとうと口にして、鉄人に連行された。明久はそれを見届けると、視線を元に戻す。宏美は先程から1歩も動いていなかった。

 

「あれだけ隙があったのに、狙ってこないなんてびっくりしたよ」

 

「そんなことするわけないでしょ、仮にもテニス部よ? スポーツマンシップは弁えてるつもりよ」

 

明久は再びラケットを握り、宏美の方に歩いていった。今の宏美は丸腰であり、点数の差も歴然である。宏美は戦死を覚悟した。

 

しかし、明久は攻撃をすることなく、ラケットを宏美に差し出した。

 

「僕も、テニスをやっていたからね。君と同じくスポーツマンシップは持っているつもりなんだ。だからこれは返すよ」

 

宏美がラケットを受けとるのを確認すると、明久はさっきまでいた場所まで戻り、木刀を構えた。

 

「さあ、正々堂々といくよ!」

 

「……ええ、私も本気でいくわっ!」

 

2人は同時に駆け出し、再び武器と武器がぶつかり合う。点数の差があり、じわじわと宏美の召喚獣が押されてきている。そこで宏美は足払いを仕掛けた。しかし、それすらも、明久は容易に回避してしまう。

 

「今、目が一瞬下を向いたからね、僕ならそれくらいでもわかっちゃうんだよね」

 

体のバランスを崩している宏美に対して、軸にしているもう片方の足に、明久も足払いを仕掛けた。その払いはとても素早く、宏美は反応することができずにその場に倒れてしまった。

 

明久は木刀で突き刺すような構えをとった。宏美はそれを見て軽くため息をつき、首を縦に動かした。

 

明久の木刀は、宏美の首を貫いた。

 

中林宏美:戦死

 

フィールドは消滅し、明久は宏美に手を差し出した。

 

「良いガッツだったよ、お疲れさま」

 

「ふふ、さすがに勝てなかったわね。……ところで吉井くん、もうテニスは辞めちゃったの?」

 

「うーん、始めた理由がバカにしてたやつを見返すっていう私情で、それを達成しちゃったから中々やる気がでなくてさ……」

 

「……じゃあ、もうやりたくないという訳ではないのね? ならそ、その、私にテニス、教えてくれないかしら? あなたならきっと、顧問の先生より上手く教えられるわ。……私もやる気出るし、うん」

 

最後の方は小声で聞き取れなかった明久だったが、テニスをする理ができるのは普通に嬉しかったためにその誘いを受けた。

 

宏美は鉄人に連れられながら、ありがとうと明久に感謝の言葉を送った。明久は自分の口角が緩んでいるのを感じていた。

 

「さて、と。こっちは片付いたけど、本隊は無事かな? 助太刀しに行かなくちゃね」

 

明久は階段を登り、本隊のいる混戦ポイントまで走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

混戦ポイントはDクラスにより壊滅的になっていた。

 

「Fクラスの分際で俺達Dクラスをここまで抑えるとはな。だが、やはり平均の点数差は埋められなかったな」

 

Dクラスの人数は13人、Fクラスの人数は6人であり、ムッツリーニは保健体育の教師を捕まえることができずすぐに戦死してしまい、それにより分隊は壊滅してしまった。

 

秀吉、美波は得意科目の教師を捕まえ善戦していたが、ムッツリーニ部隊が全滅し多勢に無勢の状態になり、徐々に点数を削られ、数十点にまで減らされてしまっていた。

 

「くっ、まだわしらはやられるわけにはいかんのじゃ……!」

 

「ええ、退くわけにはいかないわっ!」

 

古典

 

木下秀吉:46点

 

 

数学

 

島田美波:37点

 

「はっ、お前らなんて一瞬で捻り潰してやるわっ!」

 

「おっと、悪いけどあんたらはここで終了だぞ」

 

大口を叩いていたDクラスの生徒が、一瞬で戦死となった。彼の横には、先程まではいなかった人物がいた。

 

「おお、佐久間殿! どうやら作戦は成功のようじゃな!」

 

「いーや、まだ姫路さんの方が終わってねぇ。まあここを制圧する頃には終わってると思うから、気にせず暴れるぜっ!」

 

数学

 

佐久間莉苑:475点

 

「なっ……!? 何者だ、お前は!?」

 

「何者っつわれてもなぁ……ただ暴れたいだけの“暴走兵器”っつうところか?」

 

そう答えながら、莉苑は自分の武器である双鎌を振り回しながら敵陣に突っ込んだ。その様子は先程彼が自称した通りの暴走っぷりであり、攻撃を食らったとしてもびくともせずにただ目の前の敵を切り刻んでいく。

 

先程まではおしていたDクラスの数学フィールドにいた5人は、為す術もなく戦死した。

 

Dクラスメンバー:戦死

 

佐久間莉苑:295点

 

「古典担当の俺らも数学フィールドに助太刀するぜ! さっきのでそれだけ削れていれば、余裕で仕留められるぜっ!」

 

古典的フィールドにいたメンバーが数学フィールドに入ってきた。普通はこうはならないのだが、今回の混戦ポイントは非常に狭く、フィールドが一部重なってしまい、フィールド間の移動が可能になってしまっていた。その為Dクラスのメンバーは片方の科目で危険になればもう片方のフィールドに逃げるという手を使い、Fクラスを壊滅寸前まで追い詰めていたのだ。

 

Fクラスもそれを行っていたが、逃げたとしてもすぐに戦死してしまうような点数しか持ち合わせておらず、圧倒的に不利な状況だった。

 

その移動してきたメンバーの1人が、莉苑を切りつけた。しかし、莉苑はびくともしなかった。

 

佐久間莉苑:284点

 

「なっ、なぜだ?! さっきはたった数回の攻撃を受けて200点程度減っていたのに……?!」

 

「あー、悪い、それ勘違いだわ。俺、400点越えの腕輪持ち。さぁ、もうわかったな?」

 

「う、腕輪発動の際の点数消費……か!?」

 

ご名答といわんばかりの笑顔で、攻撃をしてきたDクラス生徒を葬った。

 

「さて、かかってこいよ。俺を倒さねぇと、Fクラスには辿り着けねぇぜ?」

 

そう言うと、Dクラスの生徒の1人が笑いだした。

 

「悪いが、もうじきFクラスは終わる。先程伝令で裏の非常階段からEクラスがFクラスを目指して突き進んでいるという情報を得た。もう、お前らの負けは確定してんだよ!」

 

そう言うと周りのDクラス生徒も笑いだした。秀吉と美波はその言葉を聞いて顔を青くした。が、莉苑は冷静にFクラスの方を見ると、笑みを浮かべた。その方向には、今作戦の指揮官である明久がいた。

 

「申し訳ないけど、Eクラスの特攻部隊は僕が殲滅させてもらったよ!」

 

少し遠くにいるので、声を大にして発する明久。その言葉を聞いて、さらにDクラス生徒は笑いだした。

 

「お前1人でか? 笑わせてくれるなぁFクラスの雑魚がっ!」

 

そんな彼の下に再び伝令が届いた。その内容は、今明久が言った通りのことであった。笑っていた生徒達は顔を強ばらせた。

 

明久が混戦ポイントに到着し、召喚獣を出した。

 

吉井明久:415点

 

「こ、こいつも腕輪持ちだと!? Fクラスの戦力はどうなってんだ!?」

 

「あれ、俺の方が点数高いのな。何か意外だぜ」

 

「数学は得意科目じゃないけど、多分得意科目以外は全部これくらいの点数だと思うよ」

 

「はっはっは! さすがだぜ吉井さんよぉ! さあ、あいつらをぶっ倒してやろうぜ!」

 

そう言いながら再び莉苑は突撃した。しかし、さすがに相手もパターンを読んでいるようで、全員がバラバラの方向に避けた。

 

「避けやがったな、くそがっ!」

 

莉苑が避けた1人の走っていくと、辿り着く前にその生徒は戦死した。

 

何が起きたのかわからなかった莉苑は辺りを見渡すと、少し離れた位置に明久の姿を確認した。何かを投げたような格好をしており、莉苑の足下には木刀が落ちていた。

 

「すげぇぜ吉井さんっ! あんたは文武両道という言葉が一番似合う人間だぜぇ!」

 

そう叫びながら木刀を拾い上げ、明久に投げ渡す。

 

その木刀をキャッチした明久は再び木刀を投げる。その木刀はまたしてもDクラス生徒に突き刺さり、戦死に追いやった。

 

負けてられないとさらに熱くなった莉苑は、再び木刀を投げ渡し、突撃した。しかし、今回の突撃はただの突撃ではなく、しっかりと敵を見定めたうえでの突撃だった。1人、また1人と戦死していく。

 

気づくとDクラスの生徒は全滅していた。

 

「ふふ、呆気なかったね、佐久間くん」

 

「その通りだな。おっと、来たぜ、この戦争のキーマンがよ」

 

莉苑が指さす方を見ると、瑞希がDクラスに向かって歩いてきていた。後は明久が事前に瑞希に伝えていたことを本人が実行するだけである。

 

瑞希が明久達に気づくと、頭を下げてDクラスの扉をノックした。

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

瑞希がDクラスに入ると、教室にいた全ての生徒が不思議な顔をした。それもそうであろう、今は戦争中であり、そんな中でAクラスの生徒と思われる人物が入ってくるなんて、普通は考えられないであろう。

 

「あ、えっと姫路さん? こんな時にどうしたの?」

 

「え、えっと実は平賀くんに急ぎの用事がありまして……戦争中なのは重々承知なのですが、少しお時間をいただけないでしょうか……?」

 

瑞希は学年でもかなり天然だという事は周知の事実であり、今回もその性格が原因なのだろうと考えたDクラスの生徒達は微笑んだ。

 

「何の用事かはわからないけど、いいよ。廊下で話そうか」

 

自ら廊下に出ようと発言したことに対して、瑞希は笑いそうになってしまった。今回の芝居で一番怪しまれるであろうと思った廊下への呼び出しを自分から切り出してくるのが、あまりにも無用心であったためである。

 

瑞希は先に1人で廊下に出た。そして、明久達に親指を立てた。そう、この合図は戦争への勝利を意味していた。

 

「姫路さん、それで、用事っていうのは……」

 

「平賀くん、ごめんなさい。Fクラス姫路瑞希、平賀くんに物理で勝負を挑みます! サモン!」

 

「えっ、えっ!?」

 

訳もわからずに平賀は狼狽えた。自動で召喚された召喚獣の点数差は、およそ300点だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『試験召喚戦争はFクラスの勝利です』

 

そのアナウンスを聞いた明久達は、その場で飛び上がるように喜んだ。

 

「よう、作戦は上手く行ったようだな」

 

「坂本くん! ああ、無事に成功したよ」

 

雄二はサンキュと明久に告げると、平賀の前に立った。

 

「……わかってる。設備はお前達と交換する」

 

平賀は目に涙を溜めながら言った。自分が戦死したせいで設備が劣化してしまうのだ、責任を感じているのだろう。しかも、戦死の理由が自分の無用心さである。

 

しかし、雄二の提案は周りの誰もが考えてもいないものだった。

 

「いや、俺の目的は違う。俺らFクラスと不可侵条約を結んでほしい。そこの教室の外で盗み聞きしてるEクラス代表にもお願いしたい」

 

ガタッと扉が揺れる。気づかれたことに動揺して動いてしまったのだろう。その盗み聞きをしている姿は、先程までスポーツマンシップと語っていた人物の面影もなかった。

 

「………わかった。それで設備を守れるなら是非お願いするよ」

 

「私も、別に構わないわ。戦争をしたわけではないけど、代表の私は戦死しちゃったしね」

 

2人は納得し、Fクラスと不可侵条約を締結した。しかし、それに対してFクラスの生徒から苦情が飛んできた。

 

「せっかく買ったのに、なんで設備交換しないんだよ代表!」

 

「ふん、それはだな……交換してしまえばきっとお前達はそれに満足してしまうだろう? 俺らの目標はここじゃない。高みを目指すのならここは交換しないのがベストな考えだと思った、以上だ」

 

その言葉を聞いて、反対する人物はいなかった。きっと図星だったのだろう。

 

その日は詳しい条約内容は話さずに解散することになった。時計を見ると完全下校時刻ギリギリになっていた。皆が急ぎ教室に戻っていく中、明久は宏美に呼び止められた。

 

「これ、私の連絡先。教えてくれる日はこれで連絡してちょうだい。……待ってるから」

 

そう言って、宏美は走り去っていった。またしても最後の部分だけ聞き取れなかった明久だが、特に気にすることもなく、もらった連絡先を携帯に登録した。

 

「吉井くん……。あぁ、なんて可愛らしいんだ……」

 

それを遠くから見つめ、興奮している人物がいたが、明久は気づかずにFクラスの教室に向かって走り去った。

 

 

 

 

………to be continued




さて、今回から明久とオリジナルキャラクターの紹介を1人ずつこの後書きに書いていこうと思います。今回は、明久です。

名前:吉井 明久
性別:男
所属クラス:Fクラス
性格:普段はムードメーカー的存在であり、戦争時では冷静に分析し、策を講じる軍師的な一面も兼ね備えている。他人からの恋愛等の好意に気づかぬ鈍感である。
容姿:原作通りだが少し筋肉などは多めになっている
得意科目と苦手科目:現代文、日本史が得意で点数は500点を越える。苦手な科目はなく、満遍なく400点付近の点数をとれる秀才。
召喚獣の武器と見た目:原作通り
趣味:朝のランニング、料理、ゲーム、勉強、テニスなど
腕輪能力:未使用の為不明

何かありましたら追記します。

さて、1話で完結してしまったDクラス戦、ちょっとあっさりしすぎましたかね?少し長めに書いてほしいなどの意見がありましたらどうぞ声をかけてください。

※誤字脱字、修正点、矛盾点などありましたらご報告ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話:クズと鬼神とBクラス

投稿が1週間も開いてしまい申し訳ありませんでした。

通して書いたのですが中々の量になってしまいまして、1度に読むのは大変かと思ったので、今回の対Bクラスは2つに分けたいと思います。

今回はキャラクター募集をしてくださったエクシリオン様のオリジナルキャラクター2名と私のオリジナルキャラクター1名を出したいと思います。これからオリジナルのキャラクターが増えていくと思いますので、ご了承下さい。


Dクラスとの戦争を終えた翌日、明久達は昨日の戦争で削られた点数を回復するためにテストを受けていた。当然Fクラスのモブメンバー達は真面目には受けておらず、睡眠をとっていたりシャーペンで絵を描いていたりと各々好き勝手にやっていた。

 

全てのテストが終わり、明日には点数が反映されているということで、次の戦争を仕掛ける日は明日ということになった。

 

「さて吉井よ、次の攻めるべきクラス、お前ならどうする?」

 

雄二がDクラス戦の前と同じ事を聞いてくる。明久は頭を悩ませていた。そう、今回も繋がりがあるのだ。

 

「正直僕はBクラスを攻めたい。だけど今回も繋がりがある。Bクラスの根本くんはCクラスの代表の小山さんっていう女子と付き合ってるみたいなんだ。前回はEクラスが増援だったからまだなんとかなったけど、Cクラスが相手だとさすがにキツくなってくる」

 

そう言うと、天井からムッツリーニが降ってきた。

 

「……明久、朗報だ。どうやら小山友香があいつと付き合っている理由は頭が良いからだそうだ。そんな薄い関係なら戦争前になにか仕掛ければ綻びができると思う」

 

その言葉を聞いた明久に策が浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

放課後、人が減ってきた時間帯に小山は1人教室で本を読んでいた。悪評高き根本と付き合っているということもあり、友人は少なくこのように放課後一緒に過ごすということは行っていなかった。

 

「……はぁ、退屈ね。今日は気分も乗らないし、早めに帰ろうかしら」

 

そう言って荷物を持ち教室から出ようとしたとき、外から声が聞こえてきた。少し内容が気になった小山は聞き耳をたてることにした。

 

「………え、まじで?! お前ってBクラス代表の根本より頭良いのかぁ?! なんでそんなやつがFクラスにいるんだよぉ!」

 

「ほんとほんと! 冗談言うのはやめなよ明久ー」

 

小山はその言葉を聞いて苛立ちを覚えた。例え周りになんと言われようが今の彼氏は根本である彼女にとって、その彼氏を馬鹿にされることは許せなかった。

 

教室の扉を思い切り開いた小山は、近くにいる男子3人組に声をかけた。その表情はまさに鬼のようだった。

 

「あんたらかしら、今うちの恭二を馬鹿にしたのは?」

 

「ひっ! まさか、根本の彼女の小山かっ!?」

 

「おい、明久どうする!? 聞かれてたみたいだぞ!?」

 

取り巻きのような役を演じているのは、須川と横溝の2人である。その2人の抜群の演技により、小山の怒りはだんだんと強まっていった。

 

「そんな感じで他人にしか頼れないなんて、さすが本当の馬鹿は違うわね。Dクラスに勝ったからといってそんな調子に乗ったこと言う悪い口縫い付けてあげましょうか?」

 

ひぃとさらに小さくなる須川と横溝。当然演技ではあるのだが、演技さを感じさせない素晴らしい役者ぶりである。

 

「ふふ、ごめんね小山さん。でもね、僕たちFクラスは明日Bクラスに戦争を仕掛けるんだ。僕の実力なら、根本くんなんて捻り潰せる」

 

「はぁ? あんた調子のりすぎ。恭二があなたたちのようなクズに負けるはずないわっ!」

 

「そう。だから君が本当に根本くんを信じるなら、彼が率いるBクラスの援護をするのは止めてほしいんだ。まあ、どうしても根本くんが心配ならCクラスから助けをだしてもいいけど、まさかFクラス相手なのに、そんなことしないよねぇ?」

 

「ふん、挑発のつもり? でもいいわ、その挑発買ってる。どうせあんたらなんかに恭二は負けないわ!」

 

「うん、わかった。君の根本くんを思う気持ちは本物みたいだね。馬鹿にしてごめん。2人とも、帰るよ」

 

明久は須川と横溝を連れて、Fクラスまで戻った。その姿を最後まで見ていた小山の頭には根本を馬鹿にされたことへの恨みの他に、新たな思いが芽生えていた。仮にも自分より格上の相手にあそこまで余裕な態度でいれるのかということである。

 

「(もしかしたら、あの余裕……本物なのかも、ね。信じたくはないけれど)」

 

そう心の中で呟いた小山は教室を後にした。

 

 

 

 

 

「坂本くん、作戦は成功したよ。これでCクラスが攻めてくることはなくなったと思うよ」

 

「よし、よくやった。ひとまずBクラスが相手となると、それこそ正面突破、時間稼ぎはできない。Dクラス戦とは難易度が違う。吉井、どうする」

 

明久は思考を巡らせた。

 

「……正直、この戦争も、時間稼ぎが必要だ。振り分けの結果をもらって、その時に一クラスずつ見て回ったんだけど、Bクラスには室外機があったはずだ。それを止めさせて、暑くなってたまらなくなったBクラスの生徒が窓を開けるまでの時間を作らなきゃ……。Bクラスの上には柵がしっかりとついている屋上があるから、ムッツリーニにそこは仕掛けてもらう。お得意の機敏性、見せてもらうよ?」

 

「……わかった。とりあえず今回はしっかりと大島を見つける。ボコボコにやられてイライラしたしな」

 

Dクラス戦の時に保健体育の大島先生は丁度予定があったようで早帰りだったらしい。

 

「そして、一番大きな問題がある。それは、鬼神と呼ばれている存在だ。Bクラスの副代表、相模美鶴……女子なんだけど、自分よりも弱い人間は雑魚扱いするような人なんだ。でも自分よりも強い人にはすごく従順で、根本の言うことは絶対に従うみたいなんだ。ただでさえ強いのに、そこに根本の悪知恵が入ったとなると、相手は手段を選んでこないと思うんだ」

 

「へぇ、そいつ、中々に面白そうじゃん。俺にやらせろよ」

 

莉苑がその話を聞いて立ち上がった。明久は満足げな表情をして、彼に鬼神討伐の命を与えた。

 

「よし、これで対策は一通り練れた。さあ、明日のために今日は早く帰って英気を養う!」

 

その日は解散となった。

 

 

 

「うん、やっぱりあそこのメンバーは興味深いね……。このクラスにきてやっぱりよかった。これほどまでに最下層クラスに逸材が集まってるなんて……。でも、これ以上彼らを知るにはもっと近づかなきゃな……よし、明日の戦争で名乗りをあげよっと!」

 

明るい声でそう言った少年は、スキップをしながら校舎を後にした。

 

 

 

 

 

翌日、Bクラスはどよめいていた。

 

「はぁ?! Fクラスの馬鹿共が、俺達に宣戦布告ぅ!?」

 

「はい、根本様。先程Bクラスの者に果たし状と銘打った封筒が渡されたようで、今日の午後一から戦争を始めたいと記載されていた模様です」

 

「ぐっ……くそっ下位クラスからの戦争は受けなきゃならねぇ……めんどくせぇが、俺も色々作戦を練ろうかねぇ。おい美鶴、Fクラスの連中に気づかれないようにちょっかいだしてこい。俺はその間に友香のところに行って援軍要請をしてくる」

 

「了解しました、根本様。あなたの仰せのままに」

 

相模はそのまま教室を出ていき、工作に向かった。根本も急ぎCクラスの元へ向かった。

 

しかし、そこで根本を待っていたのは想像もしていない言葉だった。

 

「援軍を、拒否する、だとぉ?」

 

「ええ。ある人から言われたの。恭二の本当の強さを私に見せて」

 

「くっそ……誰の入れ知恵だ……?」

 

根本はCクラスの全員を見渡すと、1人見知った人物がいた。

 

「おい……テメェか、不動くぅん?」

 

不動(ふゆるぎ)と呼ばれたその男子生徒は、鼻で笑った。

 

「僕の入れ知恵ではない。だが、お前みたいなヤツに協力をする気なんて毛頭ない。さっさと出ていってくれないか? 君の姿を長時間見ているとイライラする」

 

不動は根本と同じ中学校の生徒であり、昔からお互いの性格や性根を嫌っており、衝突を繰り返していた。

 

「不動くん、ごめんなさい。あなたの過去に何があったかは詳しくないけれど、恭二を愚弄するなら許さないわよ?」

 

「くっ……。すまない、恭二、くん……」

 

心底嫌そうな顔をしながら謝った不動に、根本は不愉快な笑みを浮かべながら彼に近づいた。

 

そして、根本は耳元で囁いた。その言葉を聞いた瞬間、不動は根本のYシャツの首を掴み上げる。不動の目は怒りで鋭くなっており、余程のことを言われたというのは一目瞭然だった。

 

「あっれぇ、いいのかなこんなことして。友香の眼前だぞー?」

 

「っ! くそっ!」

 

小山の名前を出された瞬間、不動は根本を解放させた。普段冷静で通っていたため、周りの生徒はその豹変に驚きを隠せなかった。

 

周りから変な視線を向けられている不動を見て満足したのか根本はそのまま教室を去っていった。

 

「小山さんっ! やはり根本のやつは……っ!」

 

不動は言い切る前に、言葉を止めた。それは、自分をまるで敵をみるかのように鋭く冷たい目で見つめる小山が自分の目に入ったからであった。

 

無言の圧に負けた不動は、俯きながら自分の机へと戻った。

 

「……」

 

その姿を小山はなにも言わずに見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……何、これ?」

 

四時限目の体育を終え、教室に帰ってきた明久達一同は、Fクラスに入り目を疑った。

 

クラスはメチャクチャだった。卓袱台の脚は折られ、窓ガラスは全壊、クラスに置いたままにしていた文房具は無惨にもへし折られていた。

 

誰がこんなことを……と呟いた明久にある男が声をかけた。

 

「これは、Bクラス代表根本恭二が命令し、相模美鶴が実行した、立派な作戦妨害ですよ」

 

明久に声をかけたのは、背丈の小さな少年だった。

 

「君は、確かうちのクラスの……えっと、天願朝陽くんだったかな?」

 

「うわぁ! 僕の名前知っているんですね! 何か嬉しいです!」

 

朝陽はその場で嬉しそうに飛び跳ねていた。身長と声とがあいまって、見ていてとても微笑ましくなる。

 

だが、教室の現状を見るとそうも思っていられない。

 

事情を知っている朝陽に話を聞くと、その場にいる明久を含む全ての人が驚いていた。明久自身、根本の悪知恵を聞いて、相模が何かしらの行動を取ってくるとは予想していたが、ここまで犯罪行為スレスレのことまでも実行することは予想しておらず、動揺を隠せなかった。

 

「これじゃあ補充テストを受けることは厳しいのう。どうするのじゃ?」

 

「……これは、教師に要相談の案件。器物破損で停学になるかもしれないが」

 

「でも、相模さんがやったという証拠はない。BクラスとFクラスの信用の差なんて、たかがしれてるしね。今回の件は諦めよう」

 

明久がそういうと誰も何も言わなかった。実際にその通りであるし、もう戦争が始まる。

 

「ごめんね、吉井くん。僕は報道部員なんだけど、流石に体育の時間まではカメラ持っていかないからさ……」

 

そう謝る朝陽に、明久は優しく大丈夫だよ、と声をかけた。その言葉を聞いて朝陽は少し笑顔になり、

 

「そして、新しい策を思い付いたんだけど、坂本くんは前回に引き続き、どこかに隠れてるんだよね?」

 

「あぁそうだな。俺はFクラスの代表だが、明らかにうちのクラスには俺よりも頭のいいやつがいるしな。死なないっていうのが俺の役目だしな」

 

雄二がそういうと、明久は頷きながら莉苑を見る。

 

「今回佐久間くんにはFクラス内に残ってもらうよ」

 

「あ? なんでだ?」

 

Dクラスとの戦争で戦闘狂なことがわかっているはずの明久がそう言ってくるのは莉苑にとっても不可解だった。そこに明久は続ける。

 

「多分だけど、今回も敵は特攻を仕掛けてくると思うんだ。何でも言うことを聞く存在である相模さんを使ってね。それで相模さんを敢えて教室に招き入れ、待ち構えていた佐久間くんが倒す……これが今回の作戦の要だよ。これを成功させればBクラスの士気は下がるだろうけど、もし失敗したらしらみ潰しに坂本くんを探されちゃうし、責任重大だけど頑張ってね、佐久間くん」

 

「あー……重要かどうかとかよくわかんねぇけど、とりあえず、Fクラスに入ってきたやつを片っ端からやっつけりゃいいんだな! 任せてくれ!」

 

どうやら作戦の重要さを理解していないようだが、やるべにことは理解しているようなので明久は深く言わなかった。

 

そして、明久はもうひとつの作戦である室外機の停止に関しての策を練っていた。昨日から一晩中といって良いほど長い時間考えていたのだが、良い案が浮かばずに悩んでいた。

 

そんな明久に朝陽が声をかける。その内容は、室外機を止める役割を任せてほしい、というものであった。

 

明久としては、案も浮かんでいなかったこともあり、かなり助かるような提案であったが、不安もあった。

 

「僕はね、これでも意外に頭はキレる方なんだ。任せてほしいな?」

 

その言葉を信用した明久は、室外機停止の作戦を朝陽に一任した。

 

その時、校内にチャイムが鳴り響いた。それが、今回の戦争の始まりの合図だった。今回は補充テストが受けられないため、同じ科目で戦い続けるのは非常に危険な状態である。戦力の差も当然ながらDクラスとは訳が違う。必然的に全員の顔に緊張が浮かぶ。

 

「み、みなさん、頑張りましょう! おー!」

 

そんな中で、瑞希が声を上げる。

 

その声はあまりにもか細く、士気が高まるようなものではなかったが、今のFクラスの全員には効果覿面であり、皆の表情が柔らかくなった。

 

「姫路さんのためだ! 俺は本気でいくぜ!」

 

「姫路さん、この戦いが終わったら、俺と付き合ってく……」

 

「異端者だ、つまみだせぇぇぇ!!」

 

「ぐっ……! 吉井、俺は出陣する! じゃあな!」

 

「待たんか、異端者がぁ!」

 

Fクラスの男子陣の大半が今の騒ぎで出ていってしまった。秀吉やムッツリーニは呆れ顔で眺めていたが、明久は質より量考えていたので、特に止めはしなかった。

 

気づけばその騒ぎに乗じて、雄二もどこかに隠れたようであり、明久は感心していた。

 

「(確かにあの大群が出ていったら、皆は間違いなくそっちに注目する……。今回に限ってはFFF団に感謝しなきゃかな)」

 

「さて、佐久間くんはここで待機、秀吉と美波はさっきの大群についていって交戦、ムッツリーニは大島先生を確保して屋上で待機、朝陽くんは君の考えた作戦で動いてくれ!」

 

今後の動きを聞いた皆は、各々の指名を果たすために行動を開始した。そして、教室には3人の生徒が残った。残ってほしいと言われた莉苑、作戦を伝えた明久、そして、瑞希の3人である。

 

「姫路さん、さっきの言葉、良かったよ。おかげで緊張が解れたよ」

 

「い、いえ、気にしないでくださいっ! ところで、あの、私はどうすれば?」

 

「姫路さんには、教室の扉の前で待機していてほしいんだ。そして、僕が姫路さんの携帯を鳴らすから、そうしたらBクラスの方に走っていってもらいたいんだ」

 

「理由は、わからないですけど、了解しました!吉井くんも、気を付けてくださいね」

 

瑞希からの言葉を受け、明久も教室を去っていった。今回の戦争、明久は自分自身に特に何の役割も課せていない。強いて言えば瑞希への連絡をするということだけである。

 

「(戦死したら姫路さんに連絡を送ることはたぶんきつくなる。なら、僕はあそこに行こうかな)」

 

明久は階段を降り、昇降口から外に出た。付近を確認し、誰もいないことを確認すると、部室棟……第2校舎まで走り出した。

 

 

 

 

 

「さーてと、Dクラスの代表さん、いますか?」

 

「Dクラス代表は俺だが……一体何の用だ?」

 

「僕はFクラスの天願朝陽って言います! 実はお願いがありまして……」

 

「戦争に関することか? Fクラス代表と交渉したと通り、俺達は今Fクラスについている。気にせず言ってくれ」

 

平賀はそう言うと、朝陽は嬉々として話を進めた。

 

その内容は、明久が悩んでいた室外機を止めるということであり、平賀は真剣に話を聞いていた。

 

「室外機のスイッチは職員室にあるんだけど、それを気づかれないように押してほしいんだ。今は戦争中だから教師の数は少ないし、行けるはずだよ」

 

「あぁ、わかった。気づかれたときが怖いが、致し方ない。その任俺が果たそう」

 

「ありがとう、平賀くん。じゃあ、僕はまだやることがあるから、失礼するね、ばいばい!」

 

朝陽は教室から出ると、次にCクラスの教室に向かった。

 

「瞬、いるー?」

 

「……朝陽か。どうした?」

 

探していたのは、根本と因縁をもつ不動であった。朝陽と不動は同じ報道部員であり、校内の報道新聞はこの2人がほぼ全てを作っている。

 

「瞬。根本率いるBクラスを、潰さない?」

 

その言葉を聞いた不動は、目を見開いた。そして、口角を上にあげ、すぐに参加の表明をした。先程までバカにされてきた不動にとって、思ってもいないチャンスに、興奮気味になっていた。

 

「えっと、私はCクラス代表だけど、それを私が承認するとでも思っているのかしら?」

 

「悪いけど、急いでいるんだ。行こう、瞬!」

 

「あぁ、了解だ朝陽!」

 

「不動くん!? はあ、これじゃBクラスが勝ったとしても、恭二には嫌われちゃうじゃない……。こうなったら私だけでもFクラスに殴り込んでやるわ!」

 

小山は足早に教室を去り、Fクラスの方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと、ここは本当に見通しがいいな。まあ、屋上だからだけどさ」

 

明久は第2校舎の屋上に来ていた。ここから、ある一点を凝視していた。それはFクラス前の階段……宏美達が攻めていこうとしたあの場所である。

 

Bクラスの前にも階段があり、前回のEクラスのような大回りをしなくてもFクラスの前にまで簡単にたどり着いてしまう。その為、明久は誰にも気づかれないであろう第2校舎の屋上を選んだのだ。

 

「お、あれは相模さん達だね。予想通りの動きをしてくれて助かるよ。多分だけど姫路さんがあの場に立っているから、不用意には攻めないだろうね。なんせ相手はAクラスレベルの才女、戦闘で何人犠牲者が出るかわかったもんじゃないしねっと。さて、かけようかな」

 

明久はスマホで瑞希の電話番号を選択し、着信を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

「……なぜ、こんなところに姫路瑞希が……?」

 

相模率いる強襲部隊は立ち往生していた。攻める教室の目の前に瑞希がいるからである。

 

「根本様のご命令では、誰にも気づかれずにというものでしたし、どうするべきか……」

 

そう考えていると、瑞希の携帯に着信が入った。

 

「はい、姫路です。吉井くん、どうかした……えっ、前線が!? わ、わかりました、すぐに向かいますぅ!」

 

瑞希は明久の言葉を聞いて、Bクラスとの戦闘を行っている前線へ走り出した。

 

「ふふふ、何て愚かな……吉井という者は阿呆だな。守備を前へ出させるとは。さあ、雑魚の大将首、この私がいただく!」

 

相模は教室の扉を開け、すぐにフィールドを展開させ、召喚獣を出した。科目は明久の予想通り物理だった。

 

Bクラス生徒×6人:平均187点

 

相模美鶴:414点

 

「おいおい、Bクラスの鬼神さんよ……ちゃんと相手は確認した方がいいぜ! サモン!」

 

佐久間莉苑:472点

 

「なっ!? この私よりも上位の存在だと……!? 貴様ただの雑魚ではないな、何者だ!」

 

「あー……何者だとか言われてもなぁ。まあ、Fクラスでいうお前みたいな感じかねぇ、鬼神さんよぉ!」

 

安定の特攻をし、避けきれなかった2名の生徒は一瞬で戦死となってしまう。

 

「っく、さすが400を越える成績優秀者枠の火力だ。Bクラスの者でも歯が立たぬか……雑魚クラスの分際で、生意気なやつだ!」

 

相模は自身の武器である長剣を構え、一気に間合いを詰める。武器のリーチの差で、少し押される莉苑だが、彼は笑顔だった。

 

「へっ、この気迫、Dクラスの野郎とは一味違うなぁ! 面白くなってきたじゃねぇか。吉井さんよぉ、俺にこの命を与えてくれてサンキューな!」

 

そう叫び、相模から一定の距離をとった。そして、腕輪が光り始めた。

 

発動を阻止しようと、Bクラスの生徒が多方向から突進してくるが、一歩間に合わず彼らの武器は莉苑を貫くことはできなかった。

 

「へっ、そんな低火力じゃ仕留められないぜ、雑魚がっ!」

 

双鎌の一振りで、襲いかかってきたBクラス生徒の大半は戦死ギリギリにまで点数を下げられた。限界まで高められた防御力と元々の高い攻撃力を有している彼の召喚獣は、最早誰にも止められることはない。そう思っていた時だった。

 

「ふふふ、中々に面白いやつだ、佐久間という男よ。だが、これならどうだ?」

 

相模の腕輪も光りだした。莉苑は腕輪の力を警戒し、おもいっきり後ろに下がった。しかし、相模は特に攻撃もしてくる様子もなかった。

 

「あ? 俺と同じ自己強化型の腕輪か? なら恐れるに足りねぇな! ここでくたばれや、鬼神さんよっ!」

 

莉苑は何もしてこない相模に突撃した。そこで相模はふっと笑った。

 

近づいてきた莉苑に先程と同じように長剣で攻撃を仕掛ける。仰け反らない効果を持つ莉苑は気にせずその攻撃を受け、相模に連続斬りを行う。しかし、途中で莉苑は違和感を覚えた。与えられているダメージが今までと比べると明らかに下がっていたのだ。そして、自分の点数が徐々に低下していっていることにも気がついた。

 

「っち、これがあんたの腕輪か?」

 

「そう。私の腕輪は与毒。これを使って攻撃をして、相手に当たれば、点数の低下に攻撃力ダウンのデバフを付与することができるの。しかも毒に関しては私が戦死にならないとほぼ解毒不可能……もう、あなたの負けよ、おとなしく諦めなさい?」

 

「……はははは、くっふ、あっははははは!」

 

突如狂ったかのように笑いだした莉苑に、相模はそこはかとなく恐怖を感じた。実際に戦場を見れば優劣は一目瞭然であり、点数の低下、攻撃力低下をしている莉苑に対し、相模率いる強襲部隊はまだ5人も残っている。

 

「こんな危機的状況なのに、笑うなんて、あなた中々に変態なのね?」

 

「何とでも言え! 俺はよくわかんねぇけどここを任せられてんだ、易々と戦死するわけにゃいかねぇんだよ! 戦死するにしても1人でも多くこの戦場から退場させてやんぜ、覚悟しろや!」

 

1人、また1人と彼の鎌に切り裂かれていく。その迫力に、相模は大きな恐怖を覚えながらも、自分と同じようなその戦いぶりに、大きな興奮を得ていた。自分の事を指揮する根本とは明らかに異質なその強さに、惹かれていた。

 

「あぁ……なんて激しくも美しい戦いぶり……。まさか最下層のクラスに、私をここまで昂らせてくれる人がいるなんて……! 本気でいくわ、あなたも本気でかかってらっしゃい!」

 

「あっははははは!! いいぜ、どっちが本当の狂鬼か、白黒つけようやぁ!」

 

Bクラスの生徒を全滅させた莉苑は、鎌を上空に投げ、素手で特攻した。そのあまりにも想定外の行動に、一瞬の戸惑いを見せる相模だが、すぐにその動きに対応する。莉苑は正面から殴りかかると、当然見え見えの動きであるため相模は簡単に避ける。そしてその隙を狙い長剣を横に一閃した。

 

「残念だったな、Fクラスの猛者よ。此度の戦いは、私の勝ちだ」

 

そう宣言する相模であったが、攻撃をした場所に莉苑の姿は無かった。

 

「甘い。後ろがら空きだぜ!」

 

ドゴッという音と共に相模は吹き飛ばされた。吹き飛ばされた相模が、起き上がろうとしたその時、上から先程投げた鎌が落下し、腹部に突き刺さった。

 

「な、なんだ、と?!」

 

「悪いな、ここまで上手く行くとは考えてもなかったが、どうだ? 中々に芸術的だろ?」

 

「ふっ、ふふふ……まさかこの私がFクラスなどという雑魚戦で戦死するはめになるとはな……見事だ、佐久間殿」

 

「へっ、殿とかやめろ。まあ、いい勝負だったぜ、俺ももう毒で戦死ギリギリだ。きっと、同士討ちだろうな」

 

「毒が無かったら負けていた、か。さあ、一思いにやってくれ」

 

莉苑は相模の武器である長剣を拾い上げ、一突きした。その瞬間、莉苑の点数は0になり、戦死した。そして、長剣で貫かれた相模もまた、戦死した。

 

連行される前に、2人は握手をし、お互いの功績を讃えあった。

 

 

 

 

 

……to be continued




今回は今回活躍してくれた佐久間莉苑のキャラクター設定をここに記します。

名前:佐久間莉苑
性別:男
所属クラス:Fクラス
性格:普段はマイペースな感じだが、戦争になると戦闘狂になる
容姿:背は雄二よりも少し低めでつり目の銀髪で髪は長め
得意科目と苦手科目:理数系が得意で400点を越えるが、文系は壊滅的にできず、古典に関しては50点前後
召喚獣の武器と見た目:特攻服のような格好に2つの鎌
趣味:寝ること、激しめの曲を聴くこと
原作キャラとの関係性:特になし
腕輪:硬化(消費150点) 防御力をあげ、仰け反らなくなる。
CV:岸尾 だいすけ
備考:成績などに興味を持っておらず、最低限のことができればよいと考えているため、理数系の授業はテスト点が良いため寝ているが、文系の授業は点数がとれない分真面目に受けている。しかし理解はしていない。


次回も、オリジナルキャラクターが登場しますので、よろしくお願いいたします。

※誤字脱字、矛盾点、修正点がございましたら、ご報告ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話:バカと怒りの料理人

はい、今回はリアルの友人からいただいたオリジナルキャラクターとあんこ入りチョコ様のオリジナルキャラクターを1体ずつ出します、キャラクター応募、ありがとうございます。

そして、早いことにお気に入り登録者様が50人を越えまして、私の当初考えていた目標の人数に達してしまいました。まだまだ物語は序盤ですが、多くの方に少しでも楽しんでいただけるようにこれからも精進します。


 

莉苑と相模の死闘がFクラスで行われている最中、とある事件が明久の耳に入ってきた。その内容を聞いた明久は、目を見開いて驚いた。

 

「それは、本当なの?」

 

「……あぁ、間違いない。鉄人に連行されていくのを俺はこの屋上から見た。あの見た目を間違えるわけもない」

 

内容、それは瑞希の戦死であった。明久の電話を受けた後、待ち伏せしていたBクラスのある生徒に奇襲を仕掛けられ、呆気なくその命を落としたらしい。

 

「……相手は?」

 

「……残念だが、俺が見たのは連行されている姿だけだ。ここから動くこともできないし、詳しくは明久、自分で探ってくれ」

 

第1校舎に向かって明久は駆け出した。あの瑞希を陥れたような人物を、Fクラスの部隊で抑えられるはずがないと思っているため、そのスピードはどんどん上がっていき、すぐに戦争の中心地にまでたどり着いた。

 

回りを見渡すと、Fクラスは意外にもBクラス相手に善戦しており、人数の差は無かった。1度戦争で動かしているからか、操作技術がわずかに上がっているようで、Bクラスの攻撃を何度もかわしている。

 

「お、明久! どうやら佐久間は鬼神やったみたいだぜ?!」

 

「まあ、同士討ちらしいけどな!」

 

須川と横溝がそう言って、Bクラスの生徒2人を葬りさった。今のフィールドはお互い得意な世界史であり、その点数はAクラスの下位レベルはあるであろう。それを見て、本当に今年のFクラスは強者揃いだなと感じていた明久に、1人の女子生徒が声をかけてきた。

 

「あ、えっと吉井くん?」

 

「ん? えーっと、君は……?」

 

「んー、まあ、覚えてないか。あたしは吉井くんと同じ中学に通ってた園崎零奈だよ。名前聞いても思い出せない?」

 

明久は悩んだがどうしても思い出すことはできなかった。それを見て零奈はがっくりと項垂れた。

 

「まあ、実際に話したのは1,2回程度だし、仕方ないか。あたし、他人と過ごすのめんどくさくて好きじゃなかったからさ」

 

そういいながらうんうんと首を縦に振る零奈に明久は声をかけてきた理由を聞いた。どうやら先程まで廊下の曲がり角で明久をじっと見つめる男子生徒がいたらしく、不審に思って伝えに来たらしい。もしかしたら瑞希を戦死にした生徒かもしれないと思った明久はその曲がり角まで無音で歩いた。

 

すると、角から顔がひょこっと出てきた。中性的な顔つきの男子生徒であり、穏やかそうな表情をしていた。

 

「君は……?」

 

「あ、吉井さん、わざわざこっちまで来てくれたんですね! いやー、実はこっちから声をかけようと思っていたのですが、少し恥ずかしくて……不審でしたよね?」

 

「かなーり不審だったよ、君ぃ? このめんどくさがりのあたしが報告しようと思えたレベルでね」

 

脱力気味の声のトーンになった零奈を軽く無視した明久は、単刀直入に聞いた。

 

「君が、うちのクラスの姫路さんを倒したのかな?」

 

「……はい、その通りです。僕はBクラスの矢作和美というものです。趣味で料理をよく作っているんです」

 

「へぇ、料理好きなんだ! 僕も料理好きなんだー、気が合いそうだね」

 

「個人的に料理が好きという吉井さんの話は1年の時から知っていました。調理実習の時間に作った料理が絶品で、結局人数分の料理を1人で作ったという伝説を聞いて僕は吉井さんに、尊敬し始めました。そして、僕達の調理実習の時に、少しでも吉井さんのようにできたら、とそう思っていたんです。そう、思っていたのに……っ!!」

 

突如穏やかそうな表情が一転し、怒りの表情となった。

 

「あの女……姫路瑞希は、料理というその物を愚弄したっ! なぜだ、なぜ彼女ほどの才女が、調理実習の時間に王水などという恐怖の物質を作り上げ、それを使用したのか、僕は怒りと疑問に包まれた……そして聞くと? とろみをつけようと思ったなんてことをいいやがったんだ……!! 許せなかった。僕の大好きな料理を、あんな粗末に扱うなんて……!!」

 

その話を聞いた明久は色々なことで驚いていた。一番大きな驚きは、瑞希は料理の技術が皆無であり、殺人料理を作り上げるレベルで家庭科、化学ができないということだ。

 

普通に考えて王水なんて危険な物質を使った場合、鍋は鉄のため溶けだし、台所にも一気に広がり、水道管に入ったりなどした場合はもう手遅れの事態である。鍋がそのような状態になった場合は専門業者に処理してもらう他ないため、学校は大騒ぎになったことだろう。

 

確かに料理好きであればそのような行為は許せないものであり、苛めでは無く戦争でその恨みを晴らしたということにも明久は共感を持てた。

 

「さて、どうする吉井さん。今この場所には僕達とそこにいる女子しかいないんだけど。家庭科でも良いなら、勝負してもいいよ?」

 

「いいよ、趣味が合ったとしても今のこの場は敵同士。仲間を戦死にさせられたら見逃せるわけないよねっ!」

 

家庭科のフィールドが展開され、2人は召喚獣を出した。

 

吉井明久:430点

 

矢作和美:520点

 

「うわ、点数たっか!?」

 

「家庭科は当然得意科目だからね。このおかげで楽に姫路を戦死させられたよ。さあ、早速始めようか! 腕輪発動っ!」

 

矢作の姿は、まさにコックのような格好であり、武器もフライパンであった。腕輪を発動した瞬間、彼のフライパンにはある料理が完成していた。

 

「おお、今回は炒飯か。これなら中々の効果だね」

 

「……君の腕輪は、どういう効果なんだい?」

 

「僕の腕輪の能力は、調理だよ。使用した点数に応じて作られる物を決め、パラメーターを上げるっていう腕輪なんだよ。そして最低の使用点数は80点。この際はランダムで作られるけど、運が良いと最高ランクのやつが出来たりするんだ。今回はまあまあだったけどね」

 

その料理を食べた矢作の体から、赤いオーラが溢れだしてきた。どうやら、攻撃力が上がっているようだ。

 

「さぁ、正々堂々いくよ!」

 

矢作は走り出し、フライパンで容赦なく明久に襲いかかってきた。

 

「料理人なのに、フライパン武器にするってどうなの!?」

 

「仕方ないでしょ!? 僕だって不本意なんだよ!!」

 

矢作はがむしゃらにフライパンを振っているが、それが逆に明久は恐怖であった。観察処分者は召喚獣が受けた痛みのいくつかを己の体にもフィードバックするという仕組みになっている。攻撃力が増していて、且つ力一杯振っているフライパンの一撃を受ければその痛みはとてつもないものであろう。

 

「……っく、もう少し秘密にしておきたかったけど……使うしかないか! 腕輪発動!」

 

そう叫ぶと、明久の木刀に七色のオーラが集まってきた。そして、そのオーラを真空波のように飛ばした。

 

その真空波を受けた矢作は、とんでもない大ダメージを受けていた。そして、自分の召喚獣の動きに異変を起こしていた。

 

「動きが……鈍いっ! 吉井さん、あなたの腕輪は……?!」

 

「僕の腕輪は、フルブレイク。相手の召喚獣が得ている腕輪の能力……例えば矢作くんのバフ効果や、攻撃成功時に相手にデバフをかけるような付与効果なんかも全てを打ち消し、相手に様々な弱体化効果を付与させるというのが僕の腕輪の効果だよ」

 

明久のフルブレイクは相手のバフや付与効果を打ち消し、そこにさらにデバフをかけるといういやらしくも強力な腕輪だった。しかし、強力な効果ゆえに消費点数も凄まじく、平均的な腕輪の消費点数は100点前後となっているのだが、明久のフルブレイクは200点も消費するという諸刃の剣である。この腕輪は、操作技術が誰よりも上回っていって、且つ高い点数をキープできる明久にしか扱うことのできない腕輪と言えるであろう。

 

「くっ……僕も調理の最高消費点数を使えばデバフを消せるけど、そんなことをしたら勝ち目は薄れる。けど、この状況で戦えるとも思えない……どうするべきか」

 

「悩んでる時間はないよ? 僕はこれからBクラスの根本くんを倒しにいくんだから、早めにやられてよね!」

 

すると、明久はもう一度腕輪を光らせた。もう一度、フルブレイクを放つのである。

 

「消費点数は激しいけどね、フルブレイクを1発受けたらもう勝ち目はないよっ! さぁ、これで終わりだよっ!」

 

明久はフルブレイクを放った。矢作は、移動速度低下に防御力ダウンというデバフを受けた影響で避けることができず、切り裂かれた。

 

「くっ……流石です吉井さん。完敗です……」

 

「でも、その腕輪は正直厄介だね。僕のデバフ付与を無効化できる……もう少し使うタイミングとかを研究したら、きっととんでもない存在になるだろうね」

 

「あはは、お褒めいただきありがとうございます。これは、Bクラスが崩れるのも時間の問題ですね。相模さんも作戦失敗したようですしね……」

 

2人の前に鉄人がやって来た。戦死した矢作を連れにきたのだが、その鉄人の肩には相模と莉苑の2人がいた。

 

莉苑はぐっと親指をたてて明久に成功の報告をした。それを見て明久も親指をたて返した。

 

「まぁったく。今年のFクラスは強いやつばかりだな。俺自身、まさかここまで上位クラスを蹂躙するとは想像もしてなかったぞ」

 

鉄人はそう言うと、矢作を持ち上げ、生徒指導室に連行していった。その明らかに人間離れした腕力に明久は苦笑いをするしかなかった。

 

「さすが、吉井くんだねー。じゃ、あたしは戦死したくないから安全になったFクラスの教室で寝てくるね、がんばー」

 

緩い口調で零奈は去っていった。それを見てマイペースだなぁとため息をついた明久だったが、瑞希を戦死にさせた危険因子も取り除けたということで、安堵を浮かべていた。

 

そのまま明久はFクラスに助勢するために交戦ポイントに走っていった。それを陰から小山が見ていた。

 

「あれが、吉井明久の、実力。恭二よりも、全然頭が良くて強い……吉井、明久くん、かぁ」

 

少し頬を染めながらそう呟いていた小山には誰も気づいていなかった。

 

 

 

 

 

「吉井が来たぞー! この戦、俺たちの勝ちだぁ!」

 

明久が交戦ポイントに現れた瞬間、Fクラス勢は歓声をあげた。

 

「この僕吉井明久が来たからには、この戦場を制覇するっ! なんてねっ」

 

吉井明久:440点

 

英語のフィールドに入った明久は、そのフィールド内のBクラス生徒を一瞬で全滅させた。元々交戦していたために点数が削れていたとはいえ、その速度は常軌を逸していた。

 

其所で交戦しているときに明久は2人の男子生徒を見た。それは朝陽と不動であった。しかし、明久は不動の存在を知らないため、その行動に疑問を持っていた。

 

裏切ったという様子には見えなかったが、不安に駆られた明久はその交戦ポイントを走り抜け、2人の後を追った。

 

 

 

 

 

「今、平賀くんからの連絡で、室外機を止めることができたみたい。急いで今のうちにBクラスの内部の敵を一掃して、土屋くんの奇襲を成功させるよ! いくよ、瞬!」

 

「任せろ、朝陽っ!」

 

Bクラスの教室を勢いよく開けた不動は、根本を見つけ、声を上げる。

 

「根本っ! 俺はお前をここで降すっ!」

 

「ふ、不動っ!? くっ、何でテメェがFクラスと……!」

 

「代表は下がっててください、ここは俺達が!」

 

Bクラスの中にいた世界史の田中先生がフィールドを展開する。その瞬間、朝陽と不動はニヤッと笑った。

 

そう、世界史は不動の得意科目であり、朝陽もそれなりにはできる科目であった。

 

不動 瞬:450点

 

天願 朝陽:440点

 

Bクラスの生徒は絶句した。自分達の倍以上ある点数の生徒が2人下のクラスにいたということに驚きを隠せなかった。

 

そこに、先程追ってきた明久も到着した。

 

「面白そうなことやってるね、僕も混ぜてよ!」

 

吉井 明久:415点

 

「お、おい、おい!? なんだよこれ?! お前らなんで俺達より下位クラスにいるんだよっ!?」

 

ここにいる3人はそれぞれある理由で今のクラスに在籍している。実力で言えば、3人ともAクラス入りは確実であろう。

 

朝陽の召喚獣は、召喚獣の身の丈程ある大剣に白と紫を交えた騎士のような鎧を纏っている。

 

不動の召喚獣は二本の小太刀に苦無、そして紺の忍装束に黄色のマフラーというムッツリーニのような忍姿をしていた。

 

朝陽は、慌てているBクラスの生徒に容赦なく腕輪を使った。

 

「いくよ! 天羽々斬!」

 

大剣の一閃が、地面を抉った。その威力は絶大で、戦死者が数名でた。

 

天羽々斬は消費点数を上げることによって威力と範囲を拡大させる腕輪であり、今朝陽が打ち込んだのは最高威力よりも少し劣るレベルのものであり、200点程度の点数であれば、軽く一撃で仕留めることができるという超火力の技だが、点数があがるごとに発動までの間が伸びていくという難点がある。今回はBクラス生徒が慌てていた状態だったために簡単に当てることができたが、実際の戦闘で扱うのは非常に難しい。

 

朝陽の腕輪使用に乗じて不動も腕輪を発動する。そして、その瞬間視界から消えた。気がつくとBクラスの生徒の後ろに回り込んでおり、小太刀の乱舞で1人を戦死させた。その後数本の苦無を投げつけ、また1人為す術もなく戦死させた。

 

不動の腕輪の能力は命駆(いのちがけ)であり、攻撃力と素早さを著しく向上させる。しかし、その犠牲として、防御力が格段に下がってしまい、点数上位者の攻撃を1度食らっただけでも戦死、若しくは戦士ギリギリにまで点数を減らされてしまうという弱点がある。しかし、その弱点を含めたとしても非常に強力な効果であり、遠距離からも攻撃できる不動にとっては相性の良い腕輪であった。

 

その2人の猛攻を見て、根本は後退りをした。自分には勝つことはできない。そう感じた根本は敵前逃亡をしようと企てたが、時すでに遅かった。

 

「……根本恭二。貴様を保健体育で討ち取ってくれる」

 

屋上からロープを使い侵入してきたムッツリーニに、根本は絶叫しその場に崩れ落ちた。

 

『試験召喚戦争はFクラスの勝利です』

 

この放送が再び校内に流れ、Fクラスメンバーからは大きな歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、Bクラスの代表さんよ……」

 

「くっ……どうせ設備が目的だろう? 好きにしろくそがっ!」

 

根本は自分の机を蹴り飛ばしながらそう言った。

 

「その事なんだが……俺らは設備を奪う気はない。Bクラスの諸君! 俺はこの代表根本恭二を女装させたいと考えている! その条件をのんでくれれば設備の交換は無しにしてやる、どうだ!」

 

当然、クラスからは歓声が上がった。自分達に不利益は無く、根本だけに罰ゲームが与えられるだけで設備交換は無しになるのだ。喜ばないわけがないだろう。

 

「な、なに考えてやがる!? おい美鶴! こいつらをどうにかしろっ!」

 

「申し訳ないが、私はもうお前には従わない。私の新たな主は、佐久間様だ」

 

そう言って莉苑に近づく相模を見て、根本は発狂した。もう、自分には味方がいない。そう思っていると、1人の人物の存在に気がついた。彼女である小山が教室の中にいた。

 

「お、おい友香! 頼む、こいつらを何とかしてくれ! 今までの行動とか謝るから、な?!」

 

「ごめんなさい恭二……いえ、根本くん。私の心はもうあなたに向かってはいないわ。私は……吉井くん! あなたに着いていくわ!」

 

小山の発言に明久は驚いた。当然であろう、ここまで乗り替えが早いのは誰でも驚くことだろう。

 

「……貴様、吉井っ! 急に横から入ってきて友香の心を奪いやがって……許せねぇ。いつかお前と勝負するっ! くっそぉぉぉぉぉ!!」

 

小山の発言を聞いた不動は、涙を流しながら明久に宣戦布告をし、教室を走り去っていった。その姿を見て、明久はめんどくさいことになった、と頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 

その後根本の女装したものを写真に納めた雄二は写真集として発行させ、根本を服従させるアイテムを獲得した。

 

そして、戦争終了後のFクラスでは、作戦会議が開かれていた。そこで明久は、今までとはうって変わった作戦を提示した。それは……。

 

「――Aクラス戦は、代表者同士の選択制にしようと思う」

 

 

 

……to be continued




はい、Bクラス戦終わりました。今回のキャラクターはエクシリオン様のキャラクター天願朝陽くんと不動瞬くんです。

名前:天願朝陽(てんがんあさひ)
性別:男性
所属クラス:Fクラス
性格:明るく人懐っこい。時折頭の切れる一面も見せる。
身長:163㎝
体格:一見細身だが、鍛えられている。
髪型:ショート。少し伸びた後ろ髪を一本結び。
髪の色:黒紫色
瞳の色:黄土色
得意科目と苦手科目:文系科目全般が得意で、平均420点台。最高は現代文で510点。苦手科目は数学と物理。それでも300点台は取れる。
召喚獣の武器と見た目:大剣装備と白+紫の騎士服
趣味:情報収集、謎解き、ゲーム(特に格ゲー)
特技:琉球空手
腕輪能力:天羽々斬(消費点数30〜100点)。敵を一刀の下に薙ぎ払う。攻撃力と攻撃範囲は消費点数に応じて高くなる。非常に扱いが難しい。
CV:代永翼

八舞からの一言:明らかにFクラスにいるような人物ではないですが、それには何か理由があるようです。明久達の集団を興味深そうに眺めていることが度々あるようです。その真意は一体……?


名前:不動瞬(ふゆるぎしゅん)
性別:男性
所属クラス:Cクラス
性格:冷静沈着で物静か。時に熱くなる面も。
身長:161㎝
体格:中性的
髪型:前髪が少し長めのセミショート
髪の色:黒
瞳の色:緑
得意科目と苦手科目:世界史と化学が得意で共に400点超え。それ以外は300点前後。苦手科目は現代文で200点程。
召喚獣の武器と見た目:二刀小太刀+苦無装備と紺の忍装束+黄色マフラー
趣味:隠密行動、筋トレ、探索、ゲーム(アクションが好み)
特技:情報解析
腕輪能力:命駆(いのちがけ)(消費点数60点)。自分の攻撃力と機動力を大きく向上させる。発動後は戦闘終了まで効果が持続するが、高得点者の一撃を貰うと即戦死となるレベルにまで防御力が激減している為、常に一閃必殺を要求される能力。
CV:日野聡

八舞からの一言:根本くんとは中学からの知り合いでお互いがお互いを嫌っている。朝陽とは同じ報道部員の仲間である。しかし、小山に片想いをしていたところに唐突に現れた明久に小山の心を奪われてしまい彼に宣戦布告をしてしまう。今後の不動はどのような動きをするのか……?



さて、次回はAクラス戦です。何話に分けるかもしれませんし、1つにしてしまうかもしれませんが、是非楽しみにしていてください。

※誤字脱字、矛盾点、修正点がありましたらご報告ください


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話:見栄と再会と忘却と

今回はエクシリオン様のキャラクターを3人登場させました。まだ登場させられていないキャラクターもいるので、頑張っていきたいと思います。

6話はAクラスと戦う直前までの物語です。


「選択制? どういうことだ吉井」

 

「今回はBクラスの生徒に結構いい感じで戦えてたとは僕も思ってるよ。でも、Aクラスはきっとそうはいかない。Aクラスには、代表を守る通称八武衆と言われている8人の成績上位者が存在しているんだ。その8人が同時に攻めてきた場合、僕達の勝利確率は0だ」

 

クラスは静まり返った。そう、今までが上手く行きすぎていたのだ。明久の策略通りに敵が動いていたり、操作に不馴れなために善戦できていたり、と今まで勝ててきた要因は運と相手の実力不足であった。

 

しかし、今回のAクラス戦ではそんなことは起きないであろう。圧倒的点数差で操作技術など関係なく押し潰してくるであろう。そして相手はAクラス。明久の策略が通じるかもわからない。そうなってくると正面からぶつかり合うのは愚の骨頂である、というのが明久の考えであった。

 

これを聞いて反論をする人はおらず、明久は話を進める。

 

「そこで、今回は一番勝利できる可能性が高いであろう作戦を練った。それがこの選択制。簡単に言えば一騎討ちだね。多分相手は一騎討ちに代表と八武衆を当ててくるだろうから、僕達も合計8人の選抜メンバーを決めて、ぶつかりたいと思う。ちなみに今考えているメンバーはこんな感じだよ」

 

代表:坂本 雄二

1:吉井 明久

2:姫路 瑞希

3:土屋 康太

4:木下 秀吉

5:島田 美波

6:佐久間 莉苑

7:天願 朝陽

 

黒板に8人の名前が書かれた。皆優秀な成績を修めた科目を有していて、あのAクラスにもひけをとらない程の高水準なメンバーに仕上がっている。

 

「だが、後1人どうしても決まらないんだ。誰でも良い、立候補者はいないかな?」

 

クラスは相変わらず静かなままだ。確かにこのメンバーの中に入ってAクラスに挑むなんてしたくないという人が殆どであろう。そんな中、1人立候補者が立ち上がった。

 

「あー、誰もやらないんだったらあたしやるよー……」

 

先程から卓袱台に伏していた零奈だった。

 

「えっと、園崎さんは何か得意な科目とかあるの?」

 

「んー、ない。ちなみに、苦手科目もない」

 

「今回の戦いは熾烈なものになると思うけど、大丈夫?」

 

「あー、大丈夫大丈夫。だけど、前回のテストやる気なかったから全部100点前後なんだよね。だからテストを受けてからでもいいんだったら全然構わないよー」

 

「わかった。宣戦布告まではまだ時間があるから、ゆっくりとは言わないけど、焦らずに受けてきてね」

 

Bクラスとの戦争で負傷が多かったため、宣戦布告は明日ではなく来週の月曜日に仕掛けるということになっていた。Dクラス、Bクラスと善戦し続けているが、やはり召喚獣を扱うというのは精神力を使うため、皆は満身創痍になっていた。それは当然先程あげた優秀者達も例外ではなかった。

 

「じゃあ、僕はまだ余裕があるから、補充テスト受けてきちゃうから、皆は先に帰っちゃっていいよ」

 

その明久の言葉を聞いて、Fクラスの男子の大半はその場からいなくなっていった。

 

「のう、明久よ。お主、無理しておらんか?」

 

「そうよ、アキ。最近少し頑張りすぎじゃない? たまにはゆっくり過ごすのも悪くはないんじゃないかしら?」

 

秀吉と美波は明久を心配しているようだ。確かにここ数日、明久は戦争の策を練るために、自分の睡眠時間を大幅に削っていた。

 

睡眠時間だけではない。習慣化していた朝のランニングも、趣味の料理やゲームなどにも全く手を付けずに策を練り続けていたのだ。

 

しかし、明久はニコッと笑って大丈夫だよ、と返し、教室から去っていった。

 

2人は明久の後ろ姿をただジッと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……。皆を不安にさせない為に嘘ついちゃったけど、辛いなやっぱり……。戦争中も何度倒れそうになったか……。でも、皆の前で言っちゃったし、テス、トを……」

 

明久は、その場で倒れてしまった。意識がだんだんと薄れていく中、とある女子の声を耳にした。

 

「ちょ、ちょっとキミ、大丈夫ッ?! 優子、男の子が倒れちゃってるから、一緒に保健室まで運ぼう?!」

 

「……ゆ、うこ?」

 

聞き覚えのある名前に、明久は顔をゆっくりとあげる。しかし、明久の視界に入ったのは、聞き覚えのある名前の人物ではなかった。いや、それ以前に人でもなかった。

 

「……お、おお。純白、の……」

 

「きゃっ!? ちょっと、ボク今日スパッツ履き忘れてるんだよっ!?」

 

すごく理不尽な理由で怒られながら、明久の意識は、闇に沈んだ。

 

 

 

 

明久は夢を見ていた。それはとても懐かしいものであった。

 

周りは、木々で囲まれていた。そこは図書館の脇にある自然公園であり、勉強で疲れた後に気分転換で散歩などをしていた明久にとっては思い出深い場所であった。そこにあるベンチである女の子を慰めていた。

 

そう、これはあの時の出来事である。

 

明久と、あの日から会うことがなくなった恩人でもあり先生でもあった存在……優子の最後の1日であった。

 

『ありがと、吉井、くん。少しだけど、元気が出たわ』

 

『うん、それならよかった。木下さん、辛いかもしれないけど弟くんのこと、しっかりと守って上げるんだよ?』

 

『うん、もちろんよ』

 

そう言った優子の頭を明久はゆっくりと撫でた。そして、何かを優子に囁いた。その言葉を聞いた優子は嬉しそうに笑いながら、うん、と返答していた。

 

明久は、夢の中で悩んでいた。このときに言った言葉を、どうしても思い出せなかったのだ。片隅にも残っていないような、完全に記憶から飛んでいるその言葉を明久は懸命に思い出そうとしていた。

 

「僕は、木下さんに、何て言ったんだ……? 思い出せない……。木下さん、に何を……。木下さん、木下さん……」

 

 

 

 

 

 

「きの、したさん……」

 

「うわぁ、目覚めて第一声が木下さん、だってよ優子! これは……ってうわっ?! 優子どうしたのさそんなに涙流して……?」

 

明久は視線を横にずらした。そこには、黄緑色の髪の毛の女子生徒と涙を流しながら明久を見つめる女子生徒がいた。

 

「きの、したさん……木下さん!?」

 

「明久くんっ!」

 

眠っていた明久に、優子は飛びかかった。そのままぎゅっと抱きしめ胸に顔を押し付け、ぐりぐりと擦りつけた。その姿はまるで飼い主に甘える猫のようであり、とても微笑ましい光景になっていた。

 

しかし、明久はこの状況に非常に困惑していた。もう片方の女子生徒はあらまぁと呟きながら事の成り行きを興味津々に眺めていた。

 

「き、木下さんどうしたの?!」

 

「明久くん……よかった、また会えた……。明久くん……!」

 

段々と抱きしめる力が強くなっていくのを感じた明久は優子を止めにかかった。しかし、中々力は弱まらず、明久の意識がまた消えかかった時に、もう1人の女子から制止の声がかかり、優子はハッとして明久から離れた。その顔は真っ赤になっていて、今していたことを思い返しているということがすぐにわかってしまう。

 

「ご、ごめんね明久くん。何年も会えなくて淋しかったのが、今爆発しちゃってたわ……」

 

「いや、いいんだけどさ、僕も会えて嬉しいしね。久しぶりだね、木下さん」

 

そう言うと、何故か優子は不機嫌そうに頬を膨らませた。何やら明久は言ってはいけないことを言ってしまったようである。あわあわしながら何がいけなかったのかを考えてみたが何も思い付かなかった。

 

「……もしかして、忘れちゃったの……?」

 

「……ごめん、この数年色々あったから記憶から飛んじゃっててさ……あははは」

 

笑って誤魔化そうとしたが、優子は悲しそうな目で明久を見つめていた。

 

「……まあ、覚えてないよね。あんな約束……」

 

「……? どうしたの木下さん?」

 

「いや、何でもないわ。今は思い出せなくてもいつか思い出させてあげるから安心してね、明久くん?」

 

何故か明久の部分だけを強調して言ってきた優子だが、明久は特に気にせず、別の話題に入る。

 

「えっと、2人はどこのクラス?」

 

「ボクはAクラスだよ! あ、優子もだよ!」

 

「そういう明久くんは? あんなに勉強したのにAクラスにいなかったから別の学校に行ったのかと思っていたのよ?」

 

「僕は、Fクラスだよ、木下さん」

 

優子は驚愕した。そして、小さく揺れだした。足で床をダンッと鳴らし、明久に近づいた。その目は怒りを宿していた。

 

「なんでよ!? あんなに一緒に勉強したのに……! 私との日々はそんな程度だったのね……!もう、知らないっ!」

 

「あ、優子ー! 待ってよぉ!」

 

そう叫びながら出ていった優子とそれを追ったもう1人の女子生徒を明久はボーッと目で追った。

 

怒られた理由、それは明久にでもすぐに理解できた。優子は大きな勘違いをしてしまっている。どうやら観察処分者という制度を知らないようである。

 

「と、とりあえず時間があるときに説明しないと……」

 

明久はゆっくりとベッドから降り、夕焼けと闇が混じりあった空の下、帰路についた。

 

 

 

 

 

 

ガチャッと勢いよく家の扉を開けた優子は自室に駆け込んだ。部屋に入ると、優子は再び涙を流した。

 

机の上に飾ってある1枚の写真を胸に抱き寄せ、自身を落ち着かせようとする。その写真は、明久と勉強をしているときに撮った唯一のツーショット写真であり、写真の中の明久は、満面の笑みを浮かべていた。

 

「……明久、くん……。久しぶりに会えたのに、こんなの悲しいよ……」

 

自分の想像していた事と真逆の人間になっていたことに、優子は深い悲しみを覚えていた。

 

そんな時、優子の部屋の扉をノックする音が聞こえた。この時間帯で家にいるのは弟の秀吉しかいないため、優子は部屋に招き入れた。

 

「……姉上、どうしたのじゃ? 泣いているなんて姉上らしくないではないか」

 

「……あなた、Fクラスだったわよね? 明……吉井くんって、どんな人だか教えてほしいわ」

 

「えっ、明久のことか? そうじゃのぅ、今日思ったことはバカということじゃな。いやーまさかあやつがあそこまでバカだったとは思わんかったわい」

 

その言葉を聞いて、優子の中にあった想像が確信に変わった。変わってしまったのだ、と優子は心を痛めた。

 

「まさかあやつが……」

 

秀吉が言葉を続けようとしたので、優子はそれを遮った。聞きたくなかったのだ。自分がこの数年間思い続けていた相手の現実を。

 

そのまま秀吉を部屋から追い出し、優子はベッドに倒れこんだ。そして、全てを忘れようと意識を闇に手放した。

 

 

 

 

 

週が変わり、月曜日、明久はAクラスに宣戦布告をしに行く役目を自らが受け持ち、Aクラスの教室に向かった。

 

Aクラスの目の前まで来ると、再びその大きさに驚いてしまう明久。教室をジッと見つめていると自分達のクラスとの待遇の差を感じ、少し悔しくなった。

 

そして、教室の扉を開けた。

 

「失礼します。Aクラス代表はいらっしゃいますか?」

 

突然の他クラス生徒の入室に、Aクラスの全員が明久を見ていた。そんな中、1人の女子生徒が手をあげた。

 

「……代表は、私。何か用、吉井?」

 

「あ、首席って霧島さんだったんだね」

 

Aクラス代表且つ学年首席の霧島翔子は静かに明久に近づいてきた。まるで日本人形かのように整った顔立ちと艶やかな黒髪をもった文月学園の中でもトップクラスの美人である。

 

そんな霧島は明久と1年の時に同じクラスであり、よく話をしたりしていた。霧島は普段他人と話すことは殆ど無かったが、何故か明久とだけはよく話していた。当時の霧島の話によると、話題の提示とか、お喋りが上手で楽しかったからということであり、特に恋愛的な意味はなかったようである。

 

「……吉井はどうしてここに?」

 

霧島は明久がここに来た理由を尋ねた。

 

「実は、僕達Fクラスと試験召喚戦争をしてほしいんだ」

 

「……やっぱり。予想通り」

 

今までの勢いや上位クラスを狙ってくるFクラスを見て、Aクラスにも攻めてくるであろうと予測していたようである。

 

「それで、普通の戦争じゃなくて、一騎討ちを希望したいんだけど、いいかな?」

 

Aクラス内がざわめき始めた。最下層であるFクラスの生徒がAクラス生徒に1対1で戦いを挑みたいと言い出したのだ。そして、明久は答えを聞かずに話を進めていく。

 

「9対9の選択制で勝負したいんだ。お互いがお互いの戦いたい相手を選択して、勝った方は残り、負けた方は抜ける……そして最後に残った人がいるクラスの勝ちっていう考えなんだけど、どうかな?」

 

「……しかし、その戦い方を選ぶということは、そちらに単体の戦闘に特化した人物が多くいるということだと思うの。それだと、私達にメリットがない」

 

霧島の正論に明久は答えあぐねる。確かにその通りなのだ。これはFクラスが勝つための作戦であり、Aクラスにとっては危険な作戦である。それを簡単に承認する訳はなく、明久は頭を捻る。

 

「なら、勝った方が負けた人に1つ何でも命令できるっていうのはどう?」

 

「……! そちらのクラスの代表って、確か雄二?」

 

「そうだけど、それがどうしたの、霧島さん?」

 

「受けるわ、その内容で。でもあり相手が吉井だとしても容赦はしない」

 

「ふふ、当然だよ。それじゃ、開戦は今日の放課後にAクラスで」

 

そう言って明久は教室から出ていった。

 

そして、優子が霧島に近づき、明久について聞いた。そこで、出た言葉は最初に自分が望んでいた言葉であり、観察処分者という称号を得てしまったが故にFクラス入りをしているということも聞き、優子はその場に崩れ落ちた。

 

「ちょ、優子! どうしたのさ!」

 

「愛子……明久くんに、嫌われちゃったよ……」

 

「あのねぇ優子……深く考えすぎじゃない? もしそんなにあれだったら謝ってくればいいじゃん。ボクは彼のことそんなに知らないけどさ、そんな簡単に人を嫌いになるような人じゃないと、ボクは思うけどね?」

 

その言葉を聞いて立ち上がった優子は明久の後を追いかけていった。その後ろ姿を微笑みながら眺めていた工藤にある男女が声をかけた。

 

「ふっ、工藤よ。お前は相変わらずお人好しだな」

 

「本当だよね、でも愛子のその優しさ、私は大好きだよー」

 

声をかけた男子は、天羽来覇……Aクラスの八武衆の一角を担っている男であり、振り分け試験の結果は霧島には及ばなかったが、学年次席というかなりな好成績を修めた優等生であり、本人もこれは努力の賜物だと自信を持って言っている。

 

そして女子は、多嘉良命……同じくAクラスの八武衆の一角を担っている人物であり、天真爛漫という言葉がとても似合う明るい少女。見た目はかなりほっそりとしているが、すごく着痩せするタイプであり、胸はかなり大きめである。

 

「あぁ、来覇くんに命ちゃん。お人好しっていうか、優子は放っておけないんだよねぇ。なんかこう、守ってあげたくなるような……わかるかな?」

 

「わかるわかる、優子ちゃんは守ってあげたくなるよね!」

 

「確かに、木下はどこか儚げな感じがあるからな。……さて、代表さん、あの男がよく俺に話してくれていた吉井という男か」

 

天羽は霧島に近づき、先程の男が噂の明久であるかの確認をとる。

 

「……そう」

 

「確かに、話をしっかりと進めてくるし、話が上手いというのは感じたが、思っていたよりも貧相な体つきだったな。そこは少し期待はずれだったな」

 

その言葉を聞いた霧島は、普段からは考えられない程の大きな声で、その言葉に異を唱えた。そう彼女は知っているのだ、振り分け試験の本当の結果を。自分が本当はこの座にいるはずではないということを。

 

「ならばあの男、この俺がぶちのめしてやるさ。俺は男子の最高得点者、誰にも負けはしないさ」

 

高笑いをして天羽は自分の席に戻っていった。これだけ見ると印象は最悪なのだが、彼はこのAクラスの中で嫌っているものがいないという程の人気者であった。

 

天羽は自信家で他人を見下すような発言が目立つ人物だが、リーダーシップ、キャプテン気質な性格であり、皆を引っ張っていくことができる人物であり、例え自分より劣っていたとしても仲間であれば見捨てるようなことはせず、敵でも実力を兼ね備えていれば、下位のクラスでも敬意を表す真面目で熱血漢な男である。

 

その性格があってか、クラスでの彼の人気は非常に高く、皆から信頼されている。

 

実は朝陽とも親友と呼べる間柄であり、彼からも明久という人物は面白い、という話をきいていた。

 

「(吉井明久……霧島や朝陽にここまで推されているその実力……この俺が試してやろう)」

 

天羽はそう言いながら、先程明久が入ってきた教室の入り口をジッと眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ……明久くんっ!」

 

「あ、あれ木下さん、どうしたの?」

 

Fクラスの教室が見え始めていた時に、優子は明久に追い付いた。先週の一件もあり、明久は一瞬ビクッとするも、すぐに優子と向き合った。

 

優子は明久に対して、頭を下げた。

 

「ごめん、明久くん! 最近のあなたのこと、私全然知らなくて……ちゃんと理由があったのに、ごめん!」

 

そんな優子に明久はゆっくりと歩みより、肩を抱いた。あの日、あの時のように。その瞬間、明久は思い出せなかったあの言葉が一言一句、正確に頭の中に浮かんだ。

 

『「次に会う時は、お互い名前で呼び会おう」』

 

優子は小さくえっ……と、呟いた。ゆっくりと頭をあげ、明久の目を見た。

 

『「その時は先生と教え子じゃなくて、友達として 」』

 

優子の目から、また涙が流れ出した。そして、お互いにゆっくりと離れ、見つめあった。

 

『「こうやって手を伸ばして、握りあうんだ」』

 

明久の伸ばした手を、優子は静かに掴んだ。

 

「遅くなったけど、やっと会えたね、優子」

 

「明久、くん!」

 

保健室のベッドでの抱きつきと同じくらいの力で、優子は明久を抱きしめた。明久は照れながらもその抱きつきを受け止めた。

 

「……! 異端者だ、須川!」

 

「まあ、待て。今日はそんな気分じゃねぇから、行こうぜ」

 

「え、お、おう」

 

須川は何かを感じ取ったのか、その2人には触れずに、教室へと戻っていった。

 

 

 

 

その後、2人は数分間抱きあっていたが、今日の戦争の準備があるため、一旦別れることになった。詳しい話なども出来ていなかったため、今度改めて時間をとるという約束をして、2人はお互いの教室に帰っていった。

 

その2人の事をある人物が目撃していた。

 

「木下さん……吉井くんとあんなに仲が良いなんて……羨ましいわ」

 

Cクラス代表の小山だった。廊下の角から眺めていた小山は、優子に大きな嫉妬をしていた。

 

結局Bクラス戦の後に根本と別れた彼女だが、あの時見た明久の強さに心惹かれてしまったようで、軽くストーカーと化していた。そんな彼女に1人の女子生徒が声をかける。

 

「代表、何してるんですか」

 

「ひゃっ!? なんだ多嘉良さんか、驚かさないでよ」

 

多嘉良未幸。Aクラスの多嘉良命の双子の妹で、容姿は瓜二つで、見分ける方法は頭のアホ毛の方向に胸のサイズである。しかしそれもそこまで大差があるわけでもなく、2年の大抵の生徒は見分けがついていない。朝陽と不動は中学からの友人であり、不動に関しては、片想いをしている。そのため、不動が片想いをしている小山のことをライバル視している。

 

「驚かすつもりは無かったのですけど……先程の男女に何か興味でも?」

 

「……あの男子、吉井明久くんと言うのだけど、私今彼が気になっているんだけど、どうしようかと思ってね……」

 

この言葉を聞いて、ガッツポーズを内心浮かべていた。これは良いチャンスである、と思い、小山を励ます。

 

「相手に例え好きな人がいても、諦めるのはもったいないですよ。自分が本当に好きなら尚更です」

 

「……そうよね。ありがとう多嘉良さん、少し元気が出たわ!」

 

そう言いながら小山は笑顔で教室まで戻っていった。その後ろ姿を見ながら、未幸はニヤッと悪い笑みを浮かべた。

 

「はぁ、これで私に大きなチャンスが廻ってきたわ……! お姉ちゃん、私絶対に不動くんと付き合って見せるわっ!」

 

そう言いながら、軽くスキップをしながら未幸も教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「さて、皆準備はいいか? 相手はあのAクラス。しかも八武衆に代表だ。勝てる可能性は低い。だが、これで勝つことができれば俺達の生活は一気に華やかになる。全力で行くぞ!」

 

雄二の言葉にクラスの士気が大きく上がった。しかし、この中で実際に戦争を行うのは9人だけなのだが、誰もそれに関しては口にしなかった。

 

「あー、私もテストは無事に終わったから、安心してねー」

 

相変わらずの緩い声で零奈は言う。意外にも自信があるようなので明久は期待を寄せていた。

 

準備は整った。最後の戦いの火蓋を切る時がきたのだ。

 

「さあ、俺達の戦争を始めよう!」

 

 

 

 

 

……to be continued




誰 だ こ れ

書いててキャラ崩壊すさまじいな、と思いました。正直これでENDでも綺麗に終わりそうだな、と感じました。しかしまだまだ終わりません。

明久が、約束を思い出すまでが早すぎる件について。

今回は諸事情でキャラクター紹介を延期します。申し訳ないです。

※誤字脱字、矛盾点、修正点ございましたらご報告下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話:巨と炎とAクラス

少し時間が開いてしまいました、申し訳ないです。

今回は鳴神ソラ様のオリジナルキャラクターを1人出したいと思います。

Aクラスとの戦いです。戦闘は毎度のごとく技量がないので短めです。申し訳ないです。


放課後のチャイムが鳴り響き、明久達Fクラスは、Aクラスに向けて出発した。

 

他のクラスの生徒も、最高クラス対最低クラスの戦いに興味があるようで、帰宅していない生徒が大勢いた。そんな中で数人の生徒が話しかけにきた。

 

「佐久間様、本日の戦を私しっかりとこの目に焼き付けます。頑張って下さい」

 

すっかり莉苑の事を慕っている相模は、今回の戦いを最後まで観戦するようで、莉苑の横についた。莉苑本人はめんどくさそうにため息をついていた。誰かに慕われたりすることに慣れていないのだろう。

 

「吉井くん、頑張って下さい。僕も応援してます」

 

矢作も明久の戦闘をこの目でみたいそうであり、明久の横についた。

 

その後も、宏美と美子、小山に不動、平賀なども集まり、Fクラスはかなりの賑わいを見せていた。

 

そして、Aクラスの前に到着し、雄二が教室の扉を開ける。扉の向こうには、今回の戦いに参加する9人の生徒が立ち塞がっていた。

 

「……雄二、今回の戦い、私達は負けるわけにはいかない。吉井の提案してくれた勝った方が何でも1つ命令できるという権利を私は得てみせる」

 

「……おい明久、お前何言いやがったんだ?」

 

「え”っ、あーいやぁ、何か説得上手くいかなかったから何か適当にその場で思い浮かんだこと口走っちゃってさ、あははは」

 

「あぁきぃひぃさぁ!何めんどくさいことしてくれてんだよ! お前それでもウチの軍師様かっ!?」

 

明久と雄二の口喧嘩が始まる前に、秀吉とムッツリーニが止めに入る。雄二は深いため息をついて、霧島に向き合った。

 

「わかった、俺の出来ることであれば何でも言うことを聞こう。だが俺たちが勝ったら……わかってるよな?」

 

「……わかってる」

 

2人は握手をして、此度の戦闘での不正禁止を誓った。

 

両者が元に戻ると、Aクラス担任の高橋先生がフィールドを展開する。高橋先生のフィールドは特殊で、両者の合意の下であれば、即座に科目の変更ができる。今回の戦いにはうってつけの教師である。

 

第1回戦の出場者を考えている。対戦相手と科目選択の権利は奇数時にFクラス、偶数時にAクラスとなっているので、1回戦目の出場はどの科目でも戦える明久、朝陽、零奈、瑞希、莉苑を除いた3人が候補となった。

 

「……ならば、最初は俺が行く」

 

ムッツリーニがそう言ってフィールドに入る。ムッツリーニが対戦相手を指名しようとしたが、その前にある生徒がフィールドに入ってきた。

 

「キミが相手なら、当然相手はボクだよね、ムッツリーニくん?」

 

「……フッ、よく分かっているな、工藤愛子。だが、俺とお前には、天と地程の点数差がある。一瞬でけりをつける」

 

科目は当然保健体育であり、お互いの召喚獣がフィールドに現れた。

 

工藤 愛子:376点

 

土屋 康太:625点

 

点数差はムッツリーニが言った通り歴然であった。まず工藤に腕輪が付いていない時点で勝負は決したも同然であった。しかし、ここで工藤が仕掛けてきた。

 

「ムッツリーニくんはぁ……こういうの、興味あるのカナ?」

 

スカートの端をちょんと摘まんで、上に少し持ち上げる。その行動にムッツリーニだけではなく、Fクラス男子の大半が絶叫する。

 

「き、貴様工藤愛子……せ、正々堂々と勝負……ぐふぅ……」

 

「む、ムッツリーニィィィィ!!」

 

ムッツリーニは案の定血の海に沈んでしまった。体がピクピクと痙攣しているため、Fクラス勢の迅速な蘇生が始まった。輸血パックから血液を放出し、ムッツリーニの体内に血を戻す。AEDを用い、ムッツリーニはゆっくりと起き上がった。制服は血塗れである。

 

「くっ……不覚っ! さっき代表が不正無しにと誓っていたのに不正ギリギリの行動をしてくるとは……っ!」

 

「あ、あっははは、ごめんね、ムッツリーニくん。悪気は無かったんだよ……ホントだよ? なんなら私の反則負けでもいいんだけど……」

 

「……それには及ばない。例えこんな状態でも、お前を倒すことなど、容易、だ、はぁはぁ……」

 

凄く格好いい台詞に聞こえるが、未だに鼻血は止まっておらず、危険な状態であることが伺えた。

 

その後結局ムッツリーニはその場に倒れてしまい、Aクラスの提案もあり、Fクラスに1勝が付いた。

 

第2回戦になり、Aクラスからは1人の女子生徒が立ち上がった。

 

「では、私が行きます」

 

「みほっちー、頑張れー!」

 

工藤にみほっちと呼ばれた生徒、佐藤美穂はフィールドにゆっくりと入った。選ばれたのは、美波だった。

 

「(やっぱり、勝てそうなところから攻めてくるよね……。実際美波はあれから少し成績は良くなったけど、まだまだAクラスには及ばないし、数学以外だったら負け試合だね、美波には悪いけど……)」

 

佐藤が選択した科目は、やはり数学ではなく、物理だった。美波は、何の抵抗もできずに大剣で真っ二つにされてしまった。

 

通常のAクラス対Fクラスの戦いならこれが普通なのであろう。Aクラスの生徒から罵声のようなものが飛んできた。調子に乗ってきたのにその程度か、などの容赦ない言葉が美波を攻め立てた。

 

「黙らんかっ!」

 

突如大きな声で制止が入った。声をあげたのは、天羽だった。その表情は怒りとしか形容できなかった。

 

「確かに、相手はFクラス。しかし、今は戦争中だ。相手に敬意を払うことは当然であろう、それすらもわからないのかたわけ者共がっ!」

 

天羽のその言葉に誰も声を出さなかった。彼の言っている事がわかったのだろう。そのまま美波に歩みより、肩を軽く叩いた。

 

「ウチの連中が悪いことをした。ここに立っていたということは、お前も何か得意な科目があったのだろう? そのことに自身を持ちたまえ。そして、努力をしてもう一度ここに来るが良い、わかったな?」

 

「あ、ありがとう、ございます。えっと、天羽さん」

 

そう言いながら美波はFクラス陣営に戻っていった。

 

「大丈夫、美波?」

 

「ええ、大丈夫よ。むしろやる気出たわ。アキ、戦争が終わってしっかり休息をとってから、またよろしく頼むわね?」

 

その言葉に明久は笑顔で了承した。そして、第3回戦になり、選択権がFクラスにきた。当然こちらから出すのは秀吉であり、科目は古典だ。

 

秀吉がフィールドに入り、相手を選択する。

 

「なら、姉上じゃのう。気心が知れた人の方がわしも楽じゃしのう」

 

優子がフィールドに入ってきた。お互いの召喚獣が場に出るが、見た目が本当に瓜二つである。服を同じにしたらどちらが秀吉でどちらが優子か分からなくなってしまいそうになるだろう。

 

木下 秀吉:410点

 

木下 優子:369点

 

「さすがは秀吉ね、古典だけは勝てそうにないわね」

 

「古典はわしの唯一の得意科目じゃしのう、そう簡単に越えられてはたまったもんじゃないわい!」

 

秀吉は自信の武器である薙刀を優子に向かって放り投げた。その薙刀を華麗に避けた優子は、丸腰の秀吉に自身の武器である槍で貫こうとした。

 

ガキンッという金属音が鳴り響き、優子は秀吉の手に薙刀が戻ってきていることに気がついた。

 

「姉上はあまり戦争に詳しくないから言っておくが、武器はフィールド外に出た場合は、持ち主の手元に戻ってくるのじゃ。今のはそういうことじゃの」

 

「ご丁寧に説明ありがとね、ひ、で、よ、しっ!」

 

優子の蹴り上げで秀吉の体が空中に上がる。秀吉が体勢を立て直すよりも早く、優子は秀吉を掴みあげ、ランスで腹を突き刺した。

 

秀吉の点数が、優子の点数の3分の2程度まで低下し、万事休すかと思われたが、秀吉がニヤリと笑った。その瞬間に腕輪が光りだした。

 

フィールドが炎に包まれた。

 

「炎上じゃよ、姉上。わしが戦死するまで何をしても消えぬ」

 

優子の点数が徐々に減ってきている。

 

「じわじわ削っていくなんて、随分と趣味の悪い腕輪ね。私に信長の気持ちになれとでも言うのかしら?」

 

「何を言っておるのじゃ姉上。もう点数は200点ぐらいしかないぞ?」

 

そう、秀吉の腕輪炎上は、自分以外の全ての召喚獣に適用され、敵味方関係なくじわじわと点数を減らしていくのだが、時間が経てば経つ程、炎の勢いは増していき、最終的には1秒で10点以上削れるようになるというかなり破格の威力を持った腕輪なのである。

 

「くっ、まさか秀吉にここまで削られるとはね……。でも、点数はまだ私の方が上。一瞬でけりをつけるわ!」

 

優子の槍は的確に秀吉の体を貫いていく。仮にも秀吉は2度の戦争を経験し、且つ前線で勝ち抜く程の実力と操作技術を有しているのにも関わらずここまで当てることが出来るのは相当なセンスが優子にはあるのだろう。

 

しかし、秀吉もただやられているわけではない。防げる攻撃がきたならば防ぎ、瞬時にカウンターを仕掛ける。炎上の効果と相まって、中々の勢いで優子の点数を削っていく。

 

その今まで見た試合の中でも指折りの名勝負に、観戦している全ての生徒は言葉を発さず静かに見ていた。

 

両者の点数が50を切り、次の一撃で勝負が決まるという状況になった。お互い武器を構え、一瞬の静寂がフィールドを包み込んだ。

 

先に動き出したのは優子であった。しかし、自分の点数への焦りからか秀吉が動く前に勝負を決しようとしたのか、先程までとは違う少し短絡的な動きをしてしまう。

 

当然今までの経験が多い秀吉にとってその攻撃を避けるのは容易かった。そして、薙刀が優子の体を切り裂き、勝負が決した。

 

「やられたわ秀吉。でも、次戦うときはこんな簡単にはやられないわよ?」

 

「わかっておるわい。姉上に勝てたなどたまたまにすぎん。姉上は物覚えが良いからのう、すぐに抜かれてしまうわい」

 

「はいはい、お褒めいただき光栄でございますよ、秀吉様」

 

そう言いながら優子は秀吉の頭をポンポンと軽く叩き自分の居場所に戻っていった。

 

「秀吉、よくやったー!」

 

Fクラスの陣営からはそんな声が上がり、数名の生徒による愛の告白が起こった。当然粛清された。

 

 

 

 

第4回戦、相手の陣営からは久保が選ばれ、フィールドに入っていた。彼が対戦相手に選んだのは、瑞希であった。

 

「本当は吉井くんと一線……いや、1戦興じたかったのだが、彼女との約束があるからね」

 

「……久保くん、何言ってるの? なんで1戦って2回言ったのさ……?」

 

一時期噂になっていた久保利光の男好き疑惑は本当なのかもしれないと思った明久は、悪寒を感じ、数歩後ろに下がった。

 

「さあ姫路さん。君はそんな無粋なクラスにいる必要はないよ。この僕が君を華々しいAクラスに編入させてあげるよっ!」

 

どうやら久保の勝った際の言うことを聞いてもらうというのは瑞希をAクラスに入れることのようだ。それを聞いた明久は焦った。

 

今年のFクラスは猛者が多いとしても、主戦力の一人が減るのは大いに被害がある。この戦いへの緊張に、固唾を飲み込んだ。

 

選択された科目は、総合科目。実力が一番表れる科目である。

 

久保利光:4300点

 

総合科目では、4000点を越える場合に腕輪が支給されるのだが、どうやら久保はそれを越えているようで、明久の不安が一気に高まった。

 

しかし、瑞希の点数は、そんな久保を越えていたのだった。

 

姫路瑞希:4670点

 

「なっ!? そ、その点数は……!?」

 

驚きで固まっていた久保に、瑞希は容赦なく熱線をぶちこんだ。もろにくらった久保の召喚獣は跡形もなく消し飛んでいた。

 

「今、あなたはFクラスをバカにしましたね!? 許せません。Fクラスは確かに騒がしくて貴方には迷惑に映るかもしれませんが、私は騒がしくも元気のあるこのFクラスが大好きなんですっ! 私のお願いはFクラスへの謝罪です。久保くん、貴方ならわかってくれますよね?」

 

「こ、この僕が? Fクラスで吉井くん以外に頭を下げる……? こ、こんな屈辱は生まれて始めてだ……! 悪いが、後にしてくれ。少し気分を落ち着かせてくる」

 

そう言って久保はAクラスから逃げるように出ていった。当然、納得のいかない瑞希はその後を追いかけていった。

 

彼女のFクラスへの愛を知った明久は、意外だと思いながらも嬉しく感じていた。

 

 

 

 

 

「中々にいいペースだね、坂本くん」

 

「ああ、そうだな。だが吉井、今出てきている木下姉に工藤、佐藤、久保の4人は、八武衆でも下位の4人だ。これからはかなりきつい戦いになるだろうが、勝算はあるか?」

 

「ふふ、それを言ったら僕たちだってそうだよ。まだまだ上位の精鋭揃いだし、こっちは3勝。正直いけるかもしれないね、この戦い」

 

明久は不敵な笑みを浮かべていた。しかし、明久は侮っていた。下位とその上に、そこまで大きな差があるわけないというのが明久の本心であった。しかし、それが一瞬で崩れ去ったのだった。

 

「では、貴方にしましょう、そこの、目付きの少しきつい貴方っ」

 

フィールドには1人の女子生徒が立っていた。その女子生徒を見や否や、Fクラスの男子勢から歓喜の声が上がった。

 

「私は及川彩目、よろしくね?」

 

身長が雄二と同等くらい、もしくはそれ以上という高身長かつ瑞希よりも大きいのではないか、という程の胸を持った女子生徒、及川が優しく挨拶をした。

 

その穏やかな物腰で屈託の無い笑顔の挨拶を見て、Fクラスは血に染まった。当然、鼻血である。

 

目付きの少し悪い男子……莉苑を指名した彼女は、さらに言葉を続ける。

 

「本当は、彼のことが気になってはいるんだけど、天羽君がやりたそうにしてたから、次に興味のある君にしたんだよ、何かごめんね……」

 

フィールドに入った莉苑は頭をかきながら別に、と答えた。

 

彼は特に色恋沙汰、女子と関わるようなことを自ら渇望していない。というか、戦闘以外にさほど文月学園に求めているものはない。

 

彼が欲するのは己を満足させてくれる強者であり、強者であるならば男女問わない。

 

莉苑は召喚獣を呼び出した。科目は再び数学で、莉苑の点数は古典の秀吉の点数を越え、Aクラスからはざわめきが起きた。

 

しかし、及川は笑みを崩さなかった。気づくと彼女は時すでに召喚獣を呼び出しており、その点数を見た莉苑は体を震わせた。

 

 

佐久間莉苑:474点

 

及川彩目:598点

 

 

「なっ!?」

 

明久は声をあげる。理数系の莉苑の点数を越える生徒がいることに驚きを隠せなかった。

 

Aクラスの陣営には余裕の表情を浮かべる生徒が多数いた。召喚獣の点数はHPという役割以外にも、攻撃力の高さを表していて、それは例え数値が下がっても、攻撃力低下のデバフを受けなければ弱体しない。莉苑は常に点数600近くの攻撃力の相手と交戦しなければいけないという状況に陥っていた。

 

「ごめんね、私数学が大の得意なの。後は理系科目と保健体育とか、ね?」

 

「及川さんっ! 俺に保健体育教えて下さいっ!!」

 

「お、お前ずるいぞっ! 及川さん、俺にもお願いしますっ!!」

 

「お、俺は、その、実技のほ……」

 

「異端者め、成敗っ!」

 

Fクラスのバカ共が騒ぎ立ててしまい、教師が介入し、場を収めた。

 

「え、えっと、Fクラスの代表さん、なんかごめんなさい……」

 

「いや、気にするな。得意科目を言っただけで興奮しちまうこいつらが全面的に悪い。続けてくれ」

 

その言葉をきき、及川は莉苑に向き合う。

 

莉苑の顔を見た彼女は、目を見開いた。そう、笑っていたのだ。

 

「あっははははっ!! さっすがAクラスの八武衆……相模よりも楽しめそうじゃねぇか!!」

 

「なっ!? 佐久間様、いけません! そんな乳袋よりも私の方がきっと強いはずですっ! お気を確かに!」

 

「ち、乳袋ぉ!? 酷くないっ!?」

 

莉苑の言葉を聞いた相模が声を荒げて自分を推すが、その時に及川を表現した乳袋という言葉に彼女も声を荒げる。

 

しかし莉苑は気にせず話を進める。時すでに彼は、戦闘中の通常状態、暴走兵器モードになっていた。

 

「俺を越えるその実力……是非見せてもらおうじゃねえか! いくぜっ!」

 

早速硬化を使用した莉苑は突撃した。豹変ぶりを見て戸惑っていた及川は数回の切り裂きを食らい、距離をとった。

 

「へぇ、戦闘で性格変わるんだ。中々に面白い人だねー! じゃあ私も容赦なくいくよー!」

 

及川の腕輪が光り、辺りに強い光が広がった。

 

そこにいたのは、及川……なのだが、大きさが違った。

 

「で、でっけぇぇぇ!?」

 

及川の体は巨大化していた。それも倍や3倍どころではない。廊下で戦っていたら通せんぼできるであろうという程の巨体であった。当然体が大きくなるということは胸も大きくなるわけであり、Fクラスからは様々な言葉が飛び交っていた。粗方性的な戯言であったが。

 

しかし、莉苑は余裕の表情を浮かべていた。そう、彼からしてみれば、それは的がでかくなる、つまりは勝ちやすくなるということになる。何の戸惑いもなく斬りかかる。しかし、攻撃は効かなかった。

 

「あ? 全然点数が削れねぇ……。何なんだ、その力ぁ!?」

 

「私の能力は見ての通り巨大化。200点消費っていうかなり危険な能力なんだけど、攻撃による被ダメージが極端に少なくなるの」

 

そう、それが彼女の腕輪の最強の力。どんな攻撃でもダメージを極端に下げるのだ。例え点数1000点の召喚獣に攻撃力アップのバフをかけたとしても、その攻撃はほぼ無効化される。さらに大きくなっていることにより、武器も巨大化し、リーチが凄まじくのびている。それにプラスし攻撃力も上昇している。そのあまりにも強い能力に、あの莉苑ですら一瞬焦りを覚えていた。

 

「(どうすればいい……? あんだけチートみてぇな能力だ。きっと何か相当なリスクがあるはずだ……。そいつを見極めねぇとな)」

 

普段真面目に考えずに特攻する癖のある彼が、ここまで真剣に物事を考えるのは珍しいことである。それほどまでに目の前の及川は脅威的であったのだ。

 

お互いの召喚獣が全く動かない静かな状態がフィールドに起こっていた。どちらも動こうとしない、それを見て莉苑は1つの考えにたどり着いた。

 

「(これが本当なら、相手がなかなか攻撃してこないのも納得だが、気づかないふりをしておくか)」

 

「あぁくそ! じっとしてんのは性に合わねぇ、いくぜっ及川さんよぉ!」

 

莉苑が動いたのを見て、及川は巨大な農業用フォークを振り回した。

 

リーチが大きくなったことにより、フォークを振るスピードはかなり遅く、莉苑は簡単に避けた。そして、一瞬で彼女の点数を確認した。そして、推測が確信に変わった。

 

「(なるほどねぇ、ならもう少しやっておくか)」

 

莉苑は再び攻撃を仕掛ける。当然、それを止めようと及川は攻撃を繰り出す。再び避ける。それを何度か繰り返すと、他の生徒も気づき始めた。彼女の点数が減り続けていることに。

 

及川の腕輪はそれこそかなり強力な部類になるだろう。しかしその代償として攻撃、そして移動をする度に20点のダメージを受け続けるのだ。しかし、移動は少し例外があり、止まることがなければ消費は20点のまま動き続けることができる。しかし、今回の戦闘が初の実戦であり、召喚獣を長く動かし続けることはかなり困難であり、移動に関しても今回はかなり消費することになるだろう。

 

「実戦を積めば、こいつは化けるな……。今はまだ未完成だが、完成した日には俺でも手がつけられねぇかもな」

 

莉苑はそう言いながら同じ行動を繰り返していた。だが、攻略法を得て油断したのか、彼は及川の一撃をもろにくらってしまった。その一撃を受けた瞬間、彼の点数は一気に戦死ギリギリまでに減らされていた。

 

「硬化した俺に一撃で戦死ギリギリまでの点数を与えるとはな……だが、まだ負けては……ん?」

 

莉苑の召喚獣は、先程までいた地点にいなかった。辺りをくまなく探すと、フィールドの端という扱いになっている教室の壁にめり込んでいた。普段は円形のフィールドなのだが、大きすぎて教室の壁に阻害されているためそのような扱いになっている。

 

そこにいた莉苑は点数が0になっていた。

 

「なるほどなぁ……仰け反りはしねぇが風圧には勝てなかったってわけか。こりゃ意外な弱点が発覚しちまったなぁ」

 

点数ギリギリまでに減らされていたため、壁に激突した衝撃で、点数が0になってしまったのだ。それに気づいた莉苑は苦笑した。そして、戦った及川のところまで歩いていき、手を伸ばした。

 

「あんたは回数こなしたら絶対に化ける。Fクラスの暴走兵器と呼ばれてる俺が言うんだ、自信持て」

 

「……ありがとう、目付きのわりに普段は優しいんだね?」

 

「目付きは生まれつきだ、言うんじゃねぇ」

 

少し怒りながらも莉苑は自分の陣地に戻っていった。そして、及川も己の陣地に帰った。

 

「……彩目、勝利おめでとう。正直この1勝は大きいわ」

 

「ありがとうございます、代表。……しかし、あの佐久間くんという人物ですらこの強さなのに、代表の語る吉井くんというのはそんなに強い人なの?」

 

「……正直、吉井とは戦いたくない。きっと、今の私達で彼に勝てる人は、0」

 

その言葉を聞いていた天羽が、目を見開いた。

 

「おい、代表さんよ、そりゃどういうことだ? 俺が負けるとでもいうのか?」

 

「……ええ、彼には勝てない。吉井は天羽よりも上を行っている人物」

 

「ふっ、こりゃ楽しみだなぁ? 代表がそこまで言うんだ、良い意味で期待を裏切らなきゃなぁ?」

 

天羽の笑みを遠くから見た明久は、一瞬雄二と最初に出会った時のような恐怖を感じた。

 

「(彼は……やはり要注意人物だね。きっと僕を選んでくるし、負けるわけにはいかないな)」

 

明久は、ジッと天羽を見続けていた……。

 

 

 

 

 

 

……to be continued




翔子の謎なほどの明久推し。しかしタグの通り明久とは何も起きません。

一気に5回戦まで、進みました。原作キャラの戦闘は比較的に短くしています。元々が短いですが。

オリジナルキャラクター紹介は次にまとまった機会にやろうと思います。次回でAクラスとの戦いに決着が着くと思います。

※誤字脱字、修正点、矛盾点等がありましたらご報告下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話:猛者と決着と幸福と

10日ぶりくらいですね、遅くなりました。リアルでゴタゴタして中々書く時間がとれませんでした。その為少し戦闘が簡単に進んでしまっています。お許しください。

今回は読者様のオリジナルキャラクター同士の戦いがあります。勝敗で気分を害されてしまった場合は謝ります、申し訳ないです。

Aクラス戦からその後のちょっとしたお話まで書きました。次回からは章を変える予定です、よろしくお願いします。


第6試合の合図がされ、Aクラスから1人の生徒が歩いてきた。

 

「命……」

 

朝陽は小さく呟いた。明久はそれを聞き逃さず、朝陽に知り合いかときいたがはぐらかされてしまった。

 

「じゃあ、そこの可愛らしくも良い体つきの男子生徒さん、お願いしますっ」

 

なにやらご機嫌そうに朝陽を指名した人物、命はあまり背は高くなく、胸もそこまで大きく感じないが、かなりの細身であり、可愛らしい顔立ちをしていた。

 

「……あれはっ!?」

 

何かの気配を察したのか、保健室にいるはずのムッツリーニが明久の真横に出現した。当然、驚いた明久は素っ頓狂な声を出してその場に尻餅をついた。

 

「む、ムッツリーニ……どうしたの? 保健室にいるはずなんじゃ……」

 

「あの女子生徒は、着やせするタイプだな。俺の目に狂いはない」

 

キリッとした表情で自慢気に言っているが、中々に最低な発言である。見ず知らずの人物に投げ掛けては、必ず争いになるであろう発言をムッツリーニは何の戸惑いもなく口にしたのだ。おそらく本心なのだろう。先程せっかく止めた鼻血が再び流れで始めていた。

 

「もう、ムッツリーニ! 出血多量で本当に死んじゃうよぅ! 坂本くん、また手伝って!」

 

「はぁ? またかよ……大概にしろよ、ムッツリーニ」

 

「……善処はする。多分、きっと」

 

気絶まではしないものの大量の血を出しているムッツリーニに血を供給している明久と雄二を横目に、朝陽はフィールドへと、上がっていった。

 

「さてこの戦い、僕個人としては非常にやりにくいなぁ……」

 

その言葉を聞いた命はクスリと笑い、召喚獣を呼び出した。科目は、物理である。朝陽の数少ない苦手科目である。

 

多嘉良 命:404点

 

天願 朝陽:347点

 

「自分の得意な家庭科で来ると思ったんだけど、予想外だったな……」

 

「私があなたの苦手科目を把握してないわけないでしょ、朝陽?」

 

「腕輪を潰しに来たのか……これは実力勝負になりそうだね」

 

命は、ミニスカート巫女服に方天戟という服装であり、大剣の朝陽に比べると、微々たる差だがリーチがあり、攻撃速度も高めであるため、実力勝負のこの場合には圧倒的に命の方が有利である。

 

しかし、命は方天戟を構えるそぶりはせず、ただその場で凍ったように動かなかった。しかし、その行動は物事を長考しやすい朝陽にとっては、効果的な行動だった。

 

朝陽は静かに汗を流した。今まで戦ってきた生徒とは明らかに違う何かのオーラに、気圧されていた。

 

「くっ……行くよ!」

 

大剣と方天戟がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。両者1歩も引くことなく、鍔迫り合いは今までのどの戦いよりも長く続いた。

 

少しすると、朝陽は瞬時に上に飛び、大剣を降り下ろしながら着地した。その場所には大きなヒビが入り、その威力を物語っていた。

 

しかし、そこに命の姿は無く、気づいたときにはもう遅く、命は朝陽と同じ攻撃方法で彼を切り裂いた。一撃の威力は朝陽ほどでは無いにしろ、400点を越えた召喚獣の重い一撃は、朝陽の点数を3分の1も削り取っていた。

 

「あの唐突な動きに反応して、且つカウンターアタックを決めてくるなんて……考えられない」

 

「朝陽ならもうわかるでしょ? これは私の腕輪の能力、先読みだよ。発動すると召喚獣の動きが完全に止まっちゃうから、大変だけど発動し続けた時間×8秒後の相手召喚獣の動きを見ることができるの。長考してくれて助かったよ、朝陽?」

 

朝陽の癖を完全に把握している命にとって、今の朝陽は彼女にとって思う通りに動く人形のようなものであった。

 

朝陽が戦闘開始時に考えていた時間は約10秒。ということは、命には80秒先まで彼の動きを理解できている。どのタイミングで攻撃をし、どのタイミングで防御し、どのタイミングで回避するか……その全てを理解している命は、このフィールドを支配している神のような存在であった。

 

「これは……勝てないかな? ……いや、待てよ……いや、でもこれはさすがに卑怯……」

 

「どうしたの、朝陽?」

 

「あっ! 命胸元はだけてるよ!」

 

「なにぃぃぃぃぃ!?」

 

Fクラスのバカ共が反応するが当然朝陽の嘘である。

 

「えっ、嘘っ!?」

 

すぐに胸元を見たが、そこには特に変わらない制服しかなかった。嘘じゃんと朝陽のことを見ようとした瞬間に、命の召喚獣は吹っ飛ばされた。

 

「召喚主の方を油断させる……あんまり好ましいやり方じゃないけど、許してね?」

 

「やってくれるじゃん……でも召喚獣の動きは読めるから少し反応は遅れたけど、受け身はとれた! すぐに反撃しちゃうよぉ!」

 

命は方天戟を振るい、朝陽は避けようとする。しかし、当然そうはいかず、逃げた先に攻撃が来る。攻撃を仕掛けても読まれているため、当てることができない。先程のような不正ギリギリの行動はもう通用しないであろう。この状態で、朝陽に勝てる要素は無かった。

 

しかし、そんな中で一瞬命の動きが鈍くなったのを朝陽は見逃さなかった。そう、80秒という地獄の時間が終了したのだった。

 

腕輪の効果が切れてしまえばもう朝陽に怖いものはない。点数の差は大きいが、それを踏まえたとしても有り余る程の操作技術の差がある。

 

「ここから、反撃だよ!」

 

再び腕輪を使われる事を避けるために、朝陽は急接近し大剣が大きく振った。当たれば大ダメージは確定であろうし、今の2人の距離では、それこそ先読が発動していないと避けることは不可能であろう。

 

しかし、朝陽に大剣は命に当たることなく、空を切った。目を見開いて驚く彼の後ろに瞬時に移動した命の一撃が首を貫き、彼を戦死へと誘った。

 

天願 朝陽:戦死

 

「上手くいった上手くいったー。ここまで上手くいくとはねぇ」

 

「あれを避けるとか、操作技術すごすぎでしょ、命……」

 

「あ、あれはただ単にまだ先読が続いてただけだからね? 途中の違和感ある動きはフェイクだよ、朝陽」

 

「くっそー……命に1本とられるとか、僕もまだまだだなぁ……」

 

仲が良さそうな2人にFクラスの男子が声を荒げながら叫んだ。

 

「女子と仲良さそうに話している異端者がおりますぞ、団長! これは成敗するしかないですよねぇ!」

 

その言葉を聞いたFクラスの男子生徒ほぼ全員が立ち上がり、どこからともなくハサミやカッターなどを取りだし、朝陽に構えた。

 

えっ、と言いながら後退りをする朝陽に向かって数名が突撃をした。

 

「う、うわぁぁぁぁ!? ご、ごめんね皆、落ち着いて、落ち着いてぇ!?」

 

朝陽はそのままAクラスから飛び出し、Fクラスの方向へ全速力で駆けていった。それをまるでネズミを追う猫のように走っていくFFF団を明久達は呆れ顔で見送った。

 

「……」

 

悲しそうにも怒っているようにも見える表情をしている命が静かにフィールドから退却し、再びFクラスに選択権がやってきた。

 

「じゃー次は私が行きますねー」

 

ゆっくりと立ち上がった零奈がフィールドに入っていくと、1人の男子生徒もほぼ同時にフィールドに入ってきた。

 

「天羽は吉井と、翔子さんはアホの雄二とやりたがっているようだし、ここは俺で決まりだろう?」

 

「げっ、幸人……! お前うちの高校にいたのか……」

 

雄二が少し嫌そうな顔をしながらフィールドに入ってきた男子生徒に声をかける。名前で呼びあっていることから知人であることが伺えた。

 

「坂本くん、あの人とは知り合いなの?」

 

「あー……知り合いというか腐れ縁というか……」

 

雄二と知り合いのこの男子生徒……東 幸人は雄二と霧島の幼馴染みであり、真面目だがマイペースな人物である。雄二の神童時代、悪鬼羅刹時代の両方を近くで見てきた数少ない一人であり、どんな状態の雄二も見捨てることはなかった友人思いという一面も持ち合わせているが、少しおせっかい焼きな所もあり、霧島と雄二の関係性を知っているが故に恋愛の催促をしてくる。本人に悪気はないのだが、雄二にとってはいい迷惑であった。その為雄二は少し苦手意識を持っている。

 

「まあ、いいさ。とりあえず今はこの戦いを終わらせる」

 

「じゃー、私の得意科目……ってほどでもないけど現代社会で勝負だー」

 

園崎 零奈:446点

 

東 幸人:439点

 

「現代社会、か。俺としては可もなく不可もなくってとこだな……さぁて、はじめっか! いくぜぇ!」

 

「! あいつ、俺と同じタイプの人間かぁ! なら今度はあいつと戦ってみてぇなぁ!」

 

莉苑がそう言う通り、東は戦闘狂気質であった。先程までの大人しく余裕を持った話し方ではなくなっており、荒れてきていた。

 

「……ふふふ、なら私も真の姿を見せるときっ!行くぞ、東なる者よ!」

 

「……おい、園崎の方もなんか、おかしくねぇか? なんていうんだ、そう、中二病? っていうやつっぽくねぇか?」

 

「坂本くんの言う通りだね。あれは中二病だ……僕も昔は少し患ってたけど、まさか未だにいるなんてね……」

 

零奈の発言に少し引きながらも、明久と雄二は声援を送った。

 

零奈の武器は自分の身ほどの大剣で、全体的に青っぽいカラーリングになっており、防具は甲冑にマントというRPGの勇者のような格好であり、東の方は打刀に某アニメの格好にそっくりな黒のロングコートであり、身軽そうな格好である。

 

最初に動き出したのは零奈の方であり、彼女は大剣を一振りした。そのスピードは先程の朝陽よりも早く、あまりの早さに、直撃はしなかったものの、東は回避をし損ねる。

 

「へぇ……中々にすげー力じゃん。でも、まあ、俺にはもう2度と攻撃は当たらないけどなぁ!」

 

「っ!? か、体が動かないっ?! 貴様まさか、重力《グラビティ》の使い手かっ!」

 

「御名答……俺の前では重力なんて玩具なんだよっ!」

 

東の腕輪は重力操作であり、自分の半径10m以内であれば好きに重力を変えることができる。半径10m全て変えることも出来れば、局所的に変えることができる。消費点数に応じて時間が増減する仕組みになっており、最低でも150点の消費であり、その際は2分、最高は200点で4分となっている。

 

性能がかなり強めになっているが、使用者自身も多少は重力の影響を受けるためコントロールがかなり難しいという点と、重力操作が解除された後1分は自身の弱体化が付与されるというデメリットがあるが、それを差し引いても強い腕輪である。

 

その腕輪の力を使い、零奈の体に、とんでもない重力をかけた。体が上がるとごろかまるで地に埋もれてしまいそうになるほどの強い圧が彼女を襲った。

 

「ぐっ……卑怯だぞっ!」

 

「なんとでもいいなぁ? 悪いがこれが俺の能力なんでねぇ!」

 

そう言い、打刀を零奈に放り投げる。重力の影響を受けた打刀は、物凄い勢いで零奈に突き刺さった。

 

「うっ……中々に惨いことをやってくれるではないかっ!」

 

「ふっ、この力がありゃ誰にも負けねぇよ」

 

零奈にかかっている重力を弱め、東は打刀を引き抜く。そして、そのまま振り下ろした。

 

……が、そこに零奈の姿はなかった。

 

東は何事かと辺りを見渡すと、上空に浮遊している零奈を発見した。

 

「おい、俺の重力をどうやって抜けやがったぁ?!」

 

「私の腕輪の力は神器創造っていう能力でね、自分の想像した武器が出来て、そこに好きな効果を付けられるんだ……。まあ、一か八かだったけど、今回は成功したみたいだね」

 

神器創造。自分の想像した武器が出現するというものだが、自分が武器だと想像すれば何でも出すことが出来るというこちらも中々に強い腕輪である。武器を出すのに100点、そこに何かの効果を付与するのに100点と、消費点数はかなり大きいものの、使いこなす事が出来れば最強クラスの腕輪である。

 

そして今回彼女が作り出した武器……それは自分である。そう、彼女は自分自身を武器であると想像したのである。そして、付与させた能力は、見ての通り重力の無効果である。

 

「ぐっ……まさかそんな事が可能だとはな……。しかし、先程の打刀の一撃、そしてその能力の発動……もうお前に残っている点数なんてたかが知れてんだよ! ここで朽ち果てなぁ!」

 

しかし、重力の影響を受けている東は、零奈に届かなかった。

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ…… っ! 降りてこいっチキン野郎がっ!」

 

「重力弄くってなにも出来ない相手に容赦なく打刀ぶっ刺すあなたにだけは言われたくない言葉ですねー……」

 

呆れて零奈が首を横に降っていると、東が浮遊してきた。どうやら自分にかかっている重力をほぼ0にして飛んでようである。しかし、そんな状態で攻撃が当たるわけもなく打刀は空を切った。

 

しかし、それは零奈も同じことであり、零奈は完全に重力を失っているため、どんどんと地上から離れていってしまった。そしてそのままフィールドの端にぶつかり、外に出てしまった。

 

「んなっ!? ちょ、待て、私の召喚獣ぅぅ!!」

 

フィールド外に出てしまった零奈は、そこで敗戦となった。当然納得のいかない様子の零奈だったが、明久に宥められ、項垂れながらFクラスの陣営に戻った。

 

「もう、なんなんですかねあの能力! ずるいったらないですよもう!」

 

東の腕輪にかなりご立腹のご様子の零奈を再度宥めた明久はフィールドに入った。

 

「さて吉井、俺と勝負せよ! 科目は総合科目だ!」

 

天羽 来覇:6245点

 

Aクラスの陣営からも6000点越えに驚きの声が上がっている。それもそうであろう。Aクラスの中の半数以上はBクラスに毛が生えた程度の成績であり、3000点前後であろう。その倍の点数を取っているのだ、あまりにも大きな差がある。

 

「うわぁ……こりゃ久々にとんでもない人と戦うことになるな……。でも、僕も負けられないからね!」

 

「(……天羽、今のあなたじゃ吉井は越えられない。なぜなら吉井は……)」

 

吉井 明久:7426点

 

「(振り分け試験最高得点者だから……っ!)」

 

「な、なんだ、と?! この俺が1000点以上の差をつけられている……だと!?」

 

「悪いけど、僕にも面子があるからね。そう簡単には負けられないんだ!」

 

明久は木刀を構え、天羽に突撃した。

 

天羽は日本刀を装備しており、防具は黒と黄色の鎧であり、武者風な姿をしている。その姿からもただ者ではないオーラが漂っている。

 

「俺もな……Aクラスを引っ張っていく身として負けるわけにはいかねぇ! いくぞ、吉井!」

 

木刀と日本刀がぶつかり合い、つばぜり合いが起こる。両者真剣な眼差しで、お互いの目を見つめあっていた。

 

押しきったのは天羽であり、そのまま連続で斬りかかった。数発は受けたものの、すぐに守りの体勢になった明久はその後の攻撃をすべて弾き返した。

 

「ほう、操作技術がピカイチと聞いたが、確かにその通りのようだな。今まで見た全ての召喚獣の誰よりも早く緻密に動けている。そしてその高得点……少し見くびっていたようだ、すまなかった」

 

戦闘中にいきなり頭を下げだした天羽に驚いた明久はオドオドしながらも言葉を返した。

 

「え、えっと、ありがとう。嬉しいよ」

 

「そして、再び強く思ったぞ。お前を、倒したいとな!」

 

天羽の腕輪が光りだした。その瞬間、明久は思いっきり吹っ飛ばされた。

 

彼の腕輪は、滅界。広範囲に衝撃波を叩き込むというシンプルなものだが、殲滅力は絶大であり、並みの召喚獣では2発食らったら戦死であろう。隙も少なく、どんなタイミングでも発動できるため強力だが、消費点数は150点と高めのため、連発はできない。なのでどこでも使えるが、使いどころを吟味する必要がある。

 

その滅界を食らった明久の点数は、2700点ほど削られていた。総合科目の際は受けるダメージと腕輪の消費点数が個別科目の10倍となっているため、通常では270点も削ることが可能である。その威力を目の当たりにした明久は、固唾を飲み込んだ。

 

「1回で2700点……文月学園の腕輪の中でも、瞬間火力だったらピカイチだね……。でも、これならどうかなっ!」

 

明久の腕輪が発動し、前方向の広範囲へ衝撃波が飛んでいく。

 

「その腕輪の効果はもう調べている! 当たらなければ問題ないっ!」

 

広範囲に及ぶその一撃を簡単に避けた天羽は、明久に斬りかかった。その刀が明久に触れる寸前、再び明久の腕輪が光り出した。

 

地面に木刀を突き刺し、再びフルブレイクを発動する。前方に行くはずの衝撃波が地面に直にぶつかるため、木刀を中心に爆発のようなものが起こった。

 

「よし、これで僕の勝ちだね」

 

爆発に巻き込まれた天羽は、その場に倒れこんでいた。デバフの効果も受けているので、彼に勝機はもうないだろう。

 

「くっ、そんな荒業まで使えるとはな。少々見くびりすぎたな……」

 

天羽は悔しそうに明久を見つめた。

 

「天羽くんも、強かったよ。正直あの滅界を連発されていたら危なかったよ」

 

「ふっ……俺ももう少し攻めてみるべきだったかもな。今回の戦いで俺もたくさん勉強になった。良ければだが、また手合わせ願いたい」

 

そう言いながら天羽は頭を下げた。明久はそんな彼に手を差し伸べ、笑顔で了承した。

 

 

 

 

 

 

「……まさか、Fクラスにここまで押されるとは思わなかった」

 

「俺も、まさかここまで善戦してくれるとは思ってなかったさ」

 

勝敗が4対4となった為、フィールドには雄二と霧島が立っていた。この戦争の勝ち負けはこの2人に委ねられた。

 

「坂本くん、頑張って!」

 

「頑張るのじゃぞ、雄二よ!」

 

「……応援、してる」

 

「アタシたちの雪辱も全部ぶつける勢いで頼むわよ!」

 

「坂本くん、絶対勝ってくださいねっ!」

 

「代表、アンタの戦い、未だに見たことねぇから楽しみにしてるぜ?」

 

「がんばれー、代表ー」

 

この戦いを繰り広げてきた戦士達の言葉が雄二を高揚とさせる。彼の目にはもう敗北という二文字は見えていなかった。

 

「行くぜ、翔子。日本史でお前を倒すっ!」

 

「……雄二、私はこの戦い、負けるわけにはいかない。たとえ相手が雄二でも、全力でいく」

 

霧島 翔子:479点

 

主席であるだけあり、点数の高さは安定である。その高得点を見て、いつの間にか戻ってきていたFクラスの男子がため息をついた。

 

今年のFクラスは、確かに逸材ばかりであった。観察処分者として強制的にFクラスになった明久に、体調不良で途中退席した瑞希。めんどくさいという理由から真面目に受けていなかった莉苑に零奈、そして朝陽。この5人はFクラスにいるような成績ではないが、それぞれの理由がありFクラスにいる。

 

しかし、Fクラスの代表ということは、無得点扱いではない。ということは実力がその程度しかないということである。それを理解しているFクラスの生徒達は諦めのモードに入っていた。

 

「ふっ……久々に真面目に勉強したが、中々いけるもんなんだなぁ?」

 

坂本 雄二:510点

 

「……ゆ、うじ?」

 

「昔は、よくお前に勉強を教えてやったよな……。なら、これくらいはできねぇと、お前の教師として失格だからな」

 

その場にいたのは、高校に入ってバカをやっていた雄二でもなく、中学時代の悪鬼羅刹と呼ばれている雄二でもなかった。霧島の憧れていた、神童と呼ばれていた時代の雄二がそこにはいた。

 

「まぁ、まだ日本史だけしか勉強してねぇから他の科目はゴミ同然だが、奇数の時の選択権をうちに譲ってくれたときから勝利は見えてたぜ?」

 

雄二は拳を握りしめ、霧島に伸ばした。

 

「俺達がこの戦争に勝利して、文月学園の歴史に名を残してやるっ! いくぞ、翔子ぉ!」

 

「……雄二も、本気みたいね、嬉しい。私も、全力で」

 

霧島の武器は日本刀であり、防具は赤を基調とした武者鎧のようなものであった。一方雄二は改造学ランに拳と男気溢れる格好である。

 

先に攻撃を仕掛けたのは霧島であった。日本刀を片手に持ち、全速力で雄二の近くにまで接近し、一閃した。当然見え見えの攻撃であるため、雄二は軽く避ける。が、何故か雄二に避けたはずの攻撃のダメージを受けた。

 

「……お前の腕輪か、翔子」

 

「……そう。私の腕輪は神速。雄二が避けたと思った攻撃は、私の残像によるもの。本当はもっと早い段階で攻撃が当たっている」

 

神速……使用すると一定時間召喚獣の動きが見えないほどのスピードになり、相手が見えていると思っていた召喚獣は、先程までいた残像である。しかし、一定時間が過ぎると、鈍化のデバフがかかり、戦闘を続行するのが困難になる。鈍化中にもう一度使った際には、通常のスピードに戻るという効果になる。消費点数は130点と少し低めに設定されている。

 

「ほう……中々にめんどくさい腕輪じゃねぇか。だがまぁ、俺の腕輪も中々だけどなぁ!」

 

雄二の召喚獣を光が包み込んだ。その光が消えた後、召喚獣に異変があった。そう、細身になっているのだ。

 

「これが俺の能力、フォルムチェンジだ!」

 

そう叫び、雄二は霧島に向かって突進した。そのスピードは、かなりのもので、神速を使った彼女ですら当てることが出来ないほどである。そして、残像をすり抜け、その前方に回し蹴りを放った。それは見事に霧島に直撃し、彼女の姿が目視できるようになった。

 

「くっ……さすが雄二。あの状態で攻撃を当てることができる人は少ないと思う」

 

「へっ、サンキューな。さて、まだ終わりじゃねえよな?」

 

そう言った雄二の召喚獣は再び光に包まれた。その光の中から筋肉ムキムキの召喚獣が現れた。まるで西村先生のような肉体美である。

 

「パワーモードだ。神速状態じゃないお前にならこれでも十分に当たる!」

 

雄二の豪腕からの一振りをもろに食らった霧島は、フィールド外ギリギリのところに飛んでいった。そのあまりの力に、鎧にヒビが走っていた。

 

しかし、そんな状況でも諦めることなく霧島は日本刀を構えた。狙いを雄二の首に定める。彼女的には神速を使いたい場面であるのだが、先程の雄二の攻撃で、神速を使うことの出来ない点数にまで減らされてしまっている為、使用できない。勝負は決したも同然であった。

 

接近してきた霧島の日本刀を横殴りで弾き飛ばした雄二は、彼女を上へ放り投げ、アッパーをぶちこんだ。

 

 

霧島 翔子:戦死

 

 

Fクラスの勝利が、確定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さすが、吉井が率いているだけあって、強さは相当なものだった。私達も精進しなければと思った」

 

「いやーあの霧島さん、率いてたのは僕じゃなくて坂本くんの方だよ?」

 

「……雄二はあまり前線には出てきていなかったときいた。そして、吉井が作戦を練っていたこともきいた。正直どっちが代表だかはわからない……」

 

霧島の鋭い言葉に雄二は言葉を失った。確かに彼は前線に出てくることは全くなく、それどころか戦争中に彼を見たという人物は誰もいなかった。そう言われても致し方ないところもある。

 

「まあ、そこは置いといてだな……とりあえず吉井が勝手に設定した言うことをなんでもきくというものを早速だが決めていこうか」

 

「あー……雄二よ。ワシは姉上に願いなどないのじゃが、この際はどうするべきかのう?」

 

「まあ、特に望むものがないのであれば無しでいいんじゃないか?」

 

「わかったのじゃ。姉上、ワシからの願いは特になしじゃ」

 

「わかったわ。とりあえず今日は秀吉の好きなものでも食べに行きましょうか。得意科目だとはいえ、私に勝ったんだからね」

 

秀吉が目を輝かせながら首を縦に振っていた。姉弟の仲の良さそうな雰囲気を見て、その場にいるほぼ全員がまったりとした気分になっていた。

 

他にも瑞希や佐藤が特に願いはなしとしており、及川と東、明久はもう一度ちゃんとした場での再戦を莉苑、零奈、天羽に願った。

 

ムッツリーニも何かをお願いしようとしていたが、再び鼻血を噴き出してしまい、なしとなった。

 

「命は何かないのー?」

 

工藤にそう言われた命は首を横に振り、特になにもないよと言った。

 

朝陽との関係性を知っている工藤はえーと残念そうに言ったが、命の片手にスマホが握られているのを見て、すぐに理解し、ニヤニヤしながらも口を閉じた。

 

「こ、これは……わかったよ、命」

 

朝陽が小さく呟いたこの言葉を聞いた者はいなかった。

 

「さてと、翔子。俺の言うことを聞いてもらおうか?」

 

「……嫌だ」

 

「おい、まだ何も言ってないぞ……」

 

頭を掻きながらため息混じりにそう言った雄二をじっと霧島は見た。

 

「……どうせ雄二のこと。婚約届を捨てろとかそういうことでしょう?」

 

その言葉を聞いたFクラスの生徒は、瞬時に雄二に向かって凶器を構えた。

 

「霧島さんが好きだって言ってたの、坂本くんのことだったんだね」

 

「……そう。吉井には恋愛絡みの話題を振られなかったから言っていなかったけれど、私と雄二は幼馴染み」

 

「まあ、翔子の言ったことは半分正解だな」

 

雄二の発言に霧島は頭を傾ける。

 

「……あーその、なんだ。俺もいい加減素直にならないとな、と思ったんだ。正直吉井がこの言うことをきくというのを設定したというのを知った時は、チャンスだと思った。きっとそういう契約がないと俺は言うことが出来ない。こんな場で言うのは正直申し訳ねぇが、出来ればきいてくれ、翔子」

 

 

 

 

 

 

「婚約届なんてもんはいらねぇ。俺と、付き合ってくれ、翔子」

 

「貴様ぁ! 我らの前でそんな事を口にするとは、よほど死にたいようだなぁ?!」

 

「すまない、黙ってくれ。俺は今真剣に話をしているんだ。邪魔するんだったら……テメェら全員捻り潰すぞ?」

 

今までとは比べ物にならない圧がFFF団に襲いかかり、彼らは黙りこんだ。

 

「……悪いな、邪魔が入った。どうだ、翔子?」

 

「……断るわけ、ない」

 

涙を流しながら、霧島は雄二に抱きついた。雄二は照れながらも抱き締め返し、辺りは指笛と拍手で包まれた。

 

「はー……ようやく素直になったかバカ雄二。翔子さんも、ようやく叶ったな。……おめでとう、2人共」

 

東のその言葉を聞いた雄二は、驚きながらも感謝を送った。

 

そんなとても良い雰囲気の中に、1人の女性がやって来た。

 

「やあやあクソジャリ共。どうやら戦争は終わったようだね」

 

この文月学園の学園長である、藤堂カヲルが教室に入ってきた。

 

「で、出たな、妖怪!」

 

「うるさいよ吉井! アンタは頭が良いのに、時々バカなのがたまにキズだねぇ……。まあそれは置いといてだね、幸せそうなのを邪魔して申し訳ないが、代表の2人よちょっといいかい?」

 

霧島と雄二は少し名残惜しそうに離れ、学園長を見た。

 

「さてと、まずはFクラスの代表、坂本雄二。この前提案にきたことだが、慢心せずに頑張るのを条件として了承しようではないか」

 

そう言いながら雄二に書類を渡してきた。その内容はFクラスをAクラスと同じ設備に変えること、そしてAクラスの教室になんの変更もさせないということが書かれていた。恋人となった霧島をFクラスの環境で勉強させるのが嫌だったのであろう。

 

その後も学園長の話は長々と続き、結局外が暗くなり始めた頃に解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、明久は優子に呼び出され、近所の公園にいた。呼び出された内容は、会わなくなってからどうなったかということであった。

 

昔の懐かしい話を交えながら話を進めていくと、驚愕の事実を明久は知った。

 

「木し……優子のお母さん、あの後亡くなっちゃったんだ……」

 

「ええ……血管から溢れた血が脳に圧をすごくかけちゃってたみたいで、病院に着く前の救急車の中でもうほぼ死にかけだったみたい……」

 

泣きながら優子は話を続ける。

 

「お医者さんから、お母さんを生かすには植物状態にするしかない、って言われて、それで、私……」

 

「……もういいよ、優子。辛かったんだね……」

 

「お母さんに、死を与えたのは私……私は人殺しと罵られても、仕方ないような事を、したの……」

 

泣きながらのため途切れ途切れながらも自分を責める優子を昔と同じように明久は優しく包み込んだ。

 

明久の胸で優子は泣き続けた。

 

 

 

 

 

「ごめん、ありがとね明久くん」

 

涙が止まり少し冷静になった優子が赤面しながら謝る。

 

「ううん、大丈夫だよ。でも確か優子の家ってあの当時母子家庭だったよね? 今はどうしてるの?」

 

「あの時は祖父母の家に行っていたけど、あんまり歓迎されていないようだったから、高校に入ったタイミングで秀吉と二人で暮らしてるわ」

 

「えっ、生活費とか家賃、大丈夫なの?」

 

「……昔は祖父母の方から僅かだけど支援があったわ。けど半年くらい経ったくらいだったかしらね……全く支援が無くなって、アルバイトの時間をかなりいれてるわ」

 

そう言ってシフト表を明久に見せる優子。そのシフト表には休みの日にちが殆ど入っていなかった。その惨状を見て、明久は悩んだ。こんなことを勝手にしたらきっと姉に怒られるであろう。けれど、助けたい。その揺れ動く感情の末、明久は決意した。

 

「優子、もし、もし良かったらだけどさ、秀吉と一緒に家にこない? 遊びとかじゃなくてさ、同棲的な意味合いで!」

 

その言葉を聞いた優子は目を丸くした。当然であろう、相手は自分と同じ高校生である。通常そんなことは言う人はいないであろう。

 

しかし、明久は本気であった。自分を成長させてくれた恩人である優子に、今度は自分が恩を返す番だ、と真剣な表情で優子を見た。

 

「……いいの? こんな私を……」

 

再び涙を流しながら優子は問いかけた。その言葉を聞いた明久はもちろんだよ、と笑顔で返した。

 

「じゃあ、すぐって訳にはいかないから、ちょっと先になるけどよろしくね、明久くん!」

 

嬉しそうに笑う優子を見て、明久は心地よくなった。秀吉に嬉々としながら電話を掛ける優子を横目に近くの自動販売機に向かって歩きだし、ごく普通のお茶を2本購入して優子のもとに戻る。

 

「あ、ありがとう明久くん」

 

そう言いお茶を受け取った優子だが、一向に飲む気配がない。明久はもしかして嫌いだったのかなと思っていた。そんな時に優子がいきなり驚いた顔をして明久の方向を向き、指をさした。

 

「が、学園長と西村先生が楽しそうに歩いているわっ!?」

 

「なっ、なにぃ?!」

 

その衝撃の言葉に明久は優子が指をさした方向を凝視した。しかし、そこにはその2人どころか人っ子1人いなかった。

 

いないじゃんと言いながら優子の方に向き直そうとしている明久の頬に、柔らかい感触が襲った。それを口付けだと気づくまでに、明久は数秒かかった。

 

「ふふふ、これはお礼よ。それじゃあね明久くん!」

 

微笑みながら走り去っていった優子の後ろ姿を見つめながら、明久は口付けの余韻に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

……to be continued




少し長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。今回で最初の章は終わりになります。あまり笑いの要素を組み込めていない章だったので、次回からはもう少しそちらの方面も取り入れていこうと思います。

そして、相変わらず誰?状態な原作のキャラクター達……

※誤字脱字、修正点、矛盾点ありましたらご報告ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。