荒廃した世界で兎は跳ねる (うっちぃ)
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SAO生還者
ああ、またこの夢だ。
目の前で親友である幼馴染が吹き飛ぶ。その身体からは血の様な赤いダメージエフェクトがいくつも刻まれている。地に倒れ伏した親友がこちらを向き必死の形相で何かを叫ぶ。だが、音は何も聞こえない。聞こえないが何を言っていたのかは覚えている。
"逃げろ!"
私の身体は動かない。確か初めてのPKに恐怖で竦んでいたような気がする。視線は嫌な笑顔を浮かべた襲撃者であるパーティメンバーであった3人に向けられたままで、3人の目的は親友の持つレアアイテム。3人のうち一番STRが高い1人が大剣を振り上げた。庇えば助かるかもしれない、その一撃を食らっても私自身のHPは全損まではいかないと知っている。
大剣は振り下ろされ、叩き付けられたのは私ではなく親友。私は動けなかったのである、我ながら情けない。赤いダメージエフェクトが瞬き、次の瞬間に親友の身体は青いカケラとなって空へ消えた。その死ぬ瞬間の表情が頭から離れず、その場で塞ぎ込んでしまいたくなるが、身体は当時の動きをトレースするだけだ。気がつけば、その場には私1人しかいなくなっていた。
次々と場面が切り替わる。食事に毒を盛られ殺されかけ、待ち合わせ場所に待ち伏せされ、ギルドメンバーに背後から襲われて。どれも流れは似たようなもので、裏切りにあい親しい人が死んでいき最後は私1人になる。
私自身がまるで忘れるなといっているように繰り返し同じ場面を繰り返す。この夢は朝目覚めるまで繰り返し続けるのを私は知っている。あまりにも同じ夢を見続けた結果なのか心が麻痺しているのか、私の心は何も感じない。親友が殺される瞬間を無感動に眺めるだけ。
私の身体は仲間の血で染まっている。
閉じた視界に光がちらつき、夢から覚めた事に気がついた。起き上がり、軽く伸びをして身体をほぐす。SAO帰還後すぐにあの悪夢を見始めた。当初は悲鳴を上げはね起きたり時にはパニックに陥り泣きじゃくり、あまりの酷さに病室を個室に移されるほどだった。夜中に良く様子を見に来てくれた看護師さんとカウンセラーの先生には頭が上がらない。結局悪夢は去らなかったが人間慣れる生き物なのか、もしくは心が麻痺してしまったのか今は問題なく寝起きできている。ベットから降り、簡単に身なりを整え、日課の早朝ランニングのため家を飛び出した。身体を動かすことで体力をつけ、眠気を覚ます。SAO生還後に始めた事の1つである。
ランニングを終え、シャワーを浴びスッキリしてから家にあった菓子パンで朝食を簡単に済ませてしまう。一人暮らしはこういうところが楽でいい。行儀悪く菓子パン片手に冷蔵庫を開き、牛乳をコップに注ぐ。決して凹凸が少なく平均より小柄な身体を気にしているわけではない。成長期にSAOへ囚われた結果がこの身体なのだ、私は悪くないのである。昔から運動は好きなので体力はあるのだ。生還後に身体を鍛えなおし、体調は前より良くなったほど。牛乳を一気に飲み干し、コップは洗って戻しておく。
今日は学校は休みである。先月入学したばかりの新造学校はSAO
頭にアミュスフィアと呼ばれる機械をつけ、ベットに再び横になる。休日の朝からゲームとはダメ人間みたいに見られそうだが、学業に影響は出てないし規則正しい生活を心掛けているため問題はない。たとえそれ以外の時間が全てゲームに費やされていたって問題はないはずである。・・・たぶん、きっと。バイト?ゲームでそれなりに稼げてるし、うん。そもそもこのゲームを始めたのはコミュ障・・・、ではなくカウンセリングで緩和したとはいえ、SAOで人間不信に陥った自分を変えるためであり理由はあるのだ。アミュスフィアを起動し準備を整えてから私は誰でも使える別世界へと飛び込む魔法の呪文を唱える。
「リンク・スタート」
これから飛び込むはSAOとは全くジャンルの違う銃弾飛び交う荒廃した世界、ガンゲイル・オンライン。通称GGOだ。
どこにでもいるゲーマー女子だった私をミリオタへの道に引きずり込んだ元凶である。
基本主人公視点で話は進みます。
今は5月くらいでGGOも始まって間もない頃。
第1回と第2回BoBの時期が調べても分からず、5月の後半から6月初めに第1回がありシノンちゃんがへカートを手に入れる前の8月あたりに第2回BoBがあったと仮定しています。
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