ここは厄介払いの前線基地 (イヌ魚)
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新米指揮官が着任したようです

 鉄血艦大好き指揮官で、鉄血艦とのほのぼの日常を描きたくて始めました。鉄血の子たち可愛い、可愛くない?


「ここか……」

 

 本島から船に乗り数時間。到着したこじんまりとした島にポツンと存在する建造物。その門の前に俺は立っていた。

 

 ”第三十六補給基地”。看板にそう書かれている通り、ここは前線への補給基地の一つ。それも最前線一歩手前という割と危険そうな立地。補給基地という割に人の気配もない。ホントにここであってるのか……? そんな疑問を抱きつつボーっとしていると、奥から少女がこちらへ歩いてくるのが見えた。

 

「君は……?」

 

「第三十六補給基地へようこそ、指揮官閣下。私はZ23。ここの案内をさせて頂きます」

 

 ペコリと頭を下げ、少女――Z23は奥へと歩いていくのをしばし眺めていたが、いつまでもそうしているわけにもいかないので、彼女を後を追いかけることにする。今日からここで勤務することになるのだから。

 

「まあ、なんとかなるだろ。きっと……」

 

 

 

「ここが指揮官室になります」

 

 Z23に案内されて辿り着いたはわりかし広めな一室。指揮官室とのことだが、辺り一面にダンボール箱が散乱しており完全に物置部屋と化してしまっている。

 

「こりゃ酷い……」

 

「半年は使用されていませんでしたから……申し訳ありません、本来なら私が掃除しておくべきだったのですが、ここへの配属が決まったのもつい先日でしたので……」

 

「ああ、そういえばそんな話だったっけ」

 

 二年程前にここの指揮官が不慮の事故で怪我を負って以降、ここは指揮官も艦船少女もいない物資倉庫と化していたらしいからな。そんなとこに配属されるとは、我ながら嘆かわしい――いや俺の場合は訳ありだから仕方ないにしろ、Z23だったか? 彼女には申し訳ない気持ちになる。俺の配属に合わせて秘書艦として配属されたのだろうから。

 

「ここじゃ話もできないし、どこかゆっくり話せる場所はないのか?」

 

「えっと、なら――」

 

「――あら、ようやく新しい指揮官がきたの?」

 

 Z23の言葉を遮るように、扉のほうから誰かが声をかけてきた。声の先には一人の少女。煌めく銀色の髪に一部分だけ赤のメッシュ、どことなくミステリアスな雰囲気を纏う彼女は、俺を見定めるような視線をこちらに投げかけている。

 

「あ、オイゲンさん。戻っていたんですね」

 

「ただいまニーミ。新しい指揮官がどんな奴か気になってね。でも、ふぅん……」

 

 オイゲン……ってことは彼女が鉄血の幸運艦として名高いプリンツ・オイゲンか。

 

「プリンツ・オイゲンだね。任官したてで右も左も分からない新米指揮官だけど、まあよろしく」

 

「よろしく。まあそんなに期待なんてしてないけどね」

 

「これは手厳しい」

 

 苦笑いを返したものの、どうやら歓迎されていないようだ。ま、任官したての新米が上司だし、まともな職場でもないし仕方ないか。ひとまずZ23の案内で俺達は場所を変えることにした。

 

 

「ここは……食堂か?」

 

「はい、現状機能しているのはここと物資倉庫と寮舎くらいなので……」

 

 Z23に案内されてやってきたのは食堂だった。大人数が入れそうなほどの広さだが、悲しいかなこの基地ではその広さが活用されることは当分ないだろう。

 

「まあ構わないか。それでえっと、君はZ23だったかな」

 

「はい。あ、呼びづらければニーミとお呼び下さい」

 

 ニーミ? そういやさっきオイゲンがZ23のことをニーミって呼んでたような……ニックネームだろうか。まあそっちのほうが呼びやすいか。

 

「じゃあニーミと呼ぼうか。ここの所属は二人だけ?」

 

「ええ、丁度私とニーミは攻略班から外されていたからね」

 

 椅子に腰かけつつ面倒そうにオイゲンが答える。本来なら叱るべきところだが、ひとまず置いておくことにしよう……その横でニーミが困った素振りを見せているが、まあいいか。

 

「俺も面倒は嫌いだから本題から入ろうかな。二人とも聞いてると思うけど、この基地に配属されたのは俺。任官仕立てのぺーぺーだ。はっきり言っておくけど、厄介払いのついでさ」

 

 実際俺の同期はもっとまともな基地か鎮守府に配属されたらしいからなー。まあ、厄介払いですんで良かったともいえるくらいのことやっちまったからなあ。

 

「そのせいで秘書艦に任命されたことも、この基地配属になったことも申し訳ないと思ってる。前の配属地がどうだったかは知らないがここよりマシだったからだろうから。と、いうわけで転属希望はいつでも言ってくれ、必ず――とは約束できないが出来る限りの希望は聞くつもりだ。なんなら今からでもいいよ」

 

 これは配属先が決まったと同時に考えていたことだ。補給基地なら主任務は艦隊への物資補給だ。なら必ずしも艦船少女がいる必要はないだろう。無理矢理配属され望まぬ職場で働いてもらうよりずっといい、はず。

 

 ……返事がないと思ってたら二人ともぽかんとした顔でこっちを見ていた。え、俺そんなに変なこと言ったかな?

 

「どうした? もしかして、話聞いてなかったとか?」

 

「い、いえ、聞いてましたけど……」

 

「アンタ、どういうつもりなの? 私達は兵器よ? ただ命令すればいいだけ。兵器に意見を求めてどうするの?」

 

「どうもこうも、君達は兵器である前に意思を持った女の子だろ? 人間とは違うだろうけど、意思があるならそれを尊重すべきだと思うだけさ」

 

 けどこの様子から察するに、彼女らを兵器や駒としてのみ扱う指揮官が多いってことか。いや実際士官学校ではそう習ったし、教官達にもそういう扱いをする人達は多かった。実際俺も”彼女”に会わなければそうなっていたかも知れない……

 

「この考えが一般的じゃないのは分かってる。それがここにきた理由の一端でもあるわけだけど、変える気はないから。まあそういうわけだから、嫌になったらいつでも指揮官室に来てくれ。あ、今日はもう休んでいいよ。どうせ碌に仕事もないんだけどさ」

 

 それだけ言い俺は指揮官室へ戻ることにした。何はともかく、まずはあの部屋をなんとかしないと。あのままじゃ寝る場所すらなさそうだ……

 

 

 

「……変わった指揮官ですね」

 

 彼が去っていったあとも、私とオイゲンさんは食堂でしばしぽかんとしてしまっていた。でもそれは仕方ないことです、なんせ彼は本当に変わった指揮官だったのですから。これからがちょっと心配です。

 

「事情があってここに配属されたんでしょうけど、一体何をしたんでしょうね?」

 

「さあ? でも正直兵器扱いしないのは嬉しいわ――壊れなければ、だけど」

 

 ――それも心配事の一つですね。私達を兵器扱いするのは合理性以外にも理由がありますから。それにしてもここが嫌なら転属させてやるというのは初めて聞きましたね。まあ私はどこでもいいんですけど。

 

「それで、オイゲンさんはどうするんです? 前線に戻りますか? 確か前の鎮守府にはお姉さんもいましたよね?」

 

「私は残るわ。指揮官、面白そうだから。さ、私達も戻りましょ? まだ寮舎の掃除も終わってないんだし」

 

「あっ、はいっ」

 

 それだけ言うとオイゲンさんは先に行ってしまいました……その表情がちょっとだけ楽しそうに見えた気がするのは気のせい、でしょうか……?




 ニーミ先生改造おめでとおおおぉぉぉ!! この時を待っていたんだ!!(嘘) みんなも待ってたでしょ? でしょ?


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基地探索をしよう

「指揮官、起きて下さい。指揮官――」

 

「んぅ……?」

 

 突然の眩しさとすぐ近くから聞こえる声に目を開けると、目の前には一人の少女が。Z23――ニーミ、だったか。

 

「おはようニーミ……わざわざ起こしに来てくれたのか?」

 

「何を言ってるんですか、もう昼前ですよ? 夜更かしでもしたんですか?」

 

 ふと時計に目をやると、確かに昼前だ。なんとまあよく寝たものだ。我ながら呆れるね。

 

「すまん、昨日まで三日間独房にいたから時間間隔が狂ってるのかな?」

 

「独房って、一体何をしたんですか……」

 

 呆れたようにジト目で睨んでくるニーミ、ちょっと可愛い……っと、いかんいかん。

 

「……まあ、それはいいとして。どうしたの? 何か用事?」

 

「用事というか……仕事、してくれませんか? 指示もない起きもしないでは何をしていいのか……」

 

 ふむ、まあ至極真っ当な意見だ。俺がニーミの立場でもそう言う。きっと言う。でも困ったな……

 

「仕事、仕事……ってか、ニーミは秘書艦になるのか?」

 

「そうですけど……オイゲンさんのほうが良かったですか?」

 

「いやそういうつもりじゃないから……あ、そうだニーミ、この基地の案内お願いできない? 昨日は部屋の片づけで手一杯だったから」

 

「なら私も付き合おうかしら」

 

 扉の方へ目をやると、そこにはオイゲンが。そうか、ニーミが暇なら当然オイゲンも暇なわけだ。

 

「構わない、むしろお願いしたいくらいだよ。この基地のことはまださっぱりだからさ」

 

 そうして、部下二人を連れ基地探索をすることになった。

 

 

「これは……」

 

「まあ、見ての通りです……」

 

 二人に案内され最後にやってきたのは備蓄倉庫。仮にも補給基地を名乗っているわけだし、そうでなくても備蓄資源は大事だ。その確認ついでの案内願いだったわけだが……

 

「……これ、昨日俺の着任ついでに輸送した物資だけじゃ」

 

「そうよ。元々この基地なんて使われていなかったのだし」

 

 つまるところ、備蓄資源は空っぽだったということ。補給もできない補給基地って一体……

 

「まあ物資は伝手――とはちょっと違うけどなんとかなるはずだ」

 

「……独房に入れられるような人に伝手なんているんですか?」

 

「だから、伝手じゃないんだって」

 

 本部のお偉いさん方はいい顔をしないだろうけど、

あの子”の名前を出せばまあ通るだろう。だからニーミ、そのジト目をやめなさい。

 

「それで指揮官、この基地のことは大体頭に入った?」

 

「おかげ様で。備蓄資源はない購買部も戦術教室も大講堂も、工廠さえもない本当にただの補給基地だってことがね」

 

 真っ当な職場じゃないと思っていたが訂正しよう、ここはまともじゃない職場だ。まさに厄介払いにはちょうどいいのかもしれない。できることといえば委託で資源を集め、いつ来るか分からないここへ寄る部隊への補給くらいだろうか。

 

「なあ二人とも、ホントに転属しなくてもいいのか? 正直ここにいても委託か近海偵察くらいしか任務はないぞ?」

 

「いいんです。ここへの配属が命令でしたので」

 

「そうね、命令だったし」

 

 命令、か……まあ本人がそういうのならこれ以上言っても無駄か。正直ここにいてもらっても退屈しかさせてあげれないと思うんだよな。ここは俺と“あの子”を監視する檻なんだろうから。はぁ……

 

「それならそれでいい。ならこれからのことを話さないか? 現状ここの艦船少女は二人だけ。これだと委託と近海警備で手一杯だし」

 

 かといって新たに艦船少女を建造するのは不可能だ。この基地には艦船少女の元になるメンタルキューブも、工廠すらもないのだから。本部に増員要請するくらいしかないが、昨日今日で応じるなら最初からもっと配属させているだろうし……

 

「しばらく二人には忙しい日々を送ってもらうことになりそうだな……何か要望はないかな?」

 

「………………」

「………………」

 

「なぜ黙る」

 

「いえ、要望を聞かれたことなんてありませんでしたから……」

 

「急にそんなこと言われても、ねえ?」

 

「何もないのか? 何でもいいんだぞ?」

 

 せっかくここにいてくれるっていうんだから、少しでも快適に過ごしてほしかったんだがなー。口ぶりからすると二人はごく普通(・・・・)の職場だったろうから、急に対応が変わっても困惑するだけか。けどもう少し仲良くというか、親睦というか、なんかそういうの深めていきたいところだが。

 

「――静かに勉強できる場所がほしいです」

 

「えっ?」

 

 返事なんて返ってこないと思ってたから間抜けな声が出てしまった。

 

「なんです指揮官? 指揮官が要望を言えといったから答えたのですが」

 

「あ、ああ悪い……静かに勉強って、戦術教室のことか?」

 

「まあそうですね」

 

 戦術教室――言葉通りの施設で、持ち前のスキルやらなんやらを鍛えることができる、らしい。らしいってのは艦船少女じゃないと利用しないし、実際に利用したところなんて見たことないからな。

 

「善処する。するが……あんまり期待しないでくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 とりあえず本部に要請してみるだけしてみるか。せめて工作艦でもいてくれたら多少は勝手が変わるんだが。

 

「オイゲンは? なにかある?」

 

「そうねえ……実戦をしたいかしら。ああ、一応言っておくけど転属はしないから」

 

 転属せず実戦ね……確かここ最前線だったし、近隣の基地なり鎮守府なりに派遣って形でいけるかな? ちょっと相談してみるか。

 

「それも善処するが、どっちにしろ時間はかかる。他には?」

 

「………………」

「………………」

 

「だからなぜ黙る」

 

「いえ、すんなり聞いてくれたなと……」

 

「まあすぐにどうこうできるわけじゃなさそうだけどね」

 

 なんて優しい評価、嬉しくて泣きそうだよ……聞くと言った以上実現させようとするのは普通だろう?

 

「どっちにしろ工廠すらないのは困るから、本部に文句言うつもりではいたんだ。それで次は……」

 

 この後もとりとめのない話や今後の事を話したりと、我が基地ではのんびりとした時間が過ぎていった……




話広げるのむずい(自業自得)
もっと艦船少女の魅力を伝えたいのに指揮官の話ばっか……
次辺りでメンバー増やそうと思います。あとオリ艦船少女も出てくるかも?


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新しい艦船少女がやってきた

「はぁ……」

 

 溜め息を吐きつつ手にしていた書類を丸めゴミ箱へ投げ捨てる。一応コレ本部からの書類なんだけどもうどうでもいいから捨てたのだ。内容はごく単純。この前ニーミとオイゲンに聞いた要望を実現するため、本部に戦術教室と工廠を造る許可と資材を要求したわけだが、ものの見事に却下された。その知らせである。

 

「指揮官、コーヒーを淹れま……その様子だとダメだったみたいですね」

 

 開けっ放しの扉の先から、ティーカップを持ちながらニーミが現れる。わざわざコーヒーを淹れてくれるなど秘書艦として頑張ってくれているようだ。ちなみに我が指揮官室には机と書棚しかなく、気軽にコーヒーを飲むことすらできず一々食堂まで足を伸ばすことになる。

 

「ごめん、ひょっとしたら要望に応えられないかもしれない」

 

「いいです、元々あまり期待してませんでしたから」

 

 ぐっ……確かに応えられていないが面と向かって言われるのはキツイ。いや待て、ここで諦めていたらいつまでたっても評価は変わらないぞ……

 

「期待してもらえなかったのは残念だが、まあ期待されるような指揮官でもないからな。まあもう少し食い下がってみるつもりさ、とりあえず工作艦でも回してもらえないか聞いてみるとしよう」

 

「あ、いえ、指揮官に期待してなかったわけではなく――工作艦?」

 

「そう、工作艦」

 

 せめて工作艦がいればこの基地で艤装のメンテナンスや簡単な機材の作成ができるだろう。まさかメンテ用の機材すらなかったのは想定外だった。あと、工作艦の協力があれば申し訳程度の戦術教室や工廠も造れるのでは? という甘い考えもあったりする。ただ問題があって――

 

「でも、連合に登録されている工作艦は重桜の明石とユニオンのヴェスタルだけです。両名とも既に他所へ配属されているのでは?」

 

「そうなんだよなあ」

 

 そう、問題というのは工作艦そのものの数だ。暇を持て余している工作艦などいるはずがない。だが近くによるついでに寄ってくれたりするかもしれない、うん。

 

「指揮官、戻ったわよ」

 

 必死に自己弁護している間にまた来客が来たらしい。見なくても分かる、オイゲンだ。彼女には要望通りに近くの鎮守府にお願いして派遣戦力として一時的に向こうで戦ってもらっていた。まあ前の配属先だったようでスムーズに事が運んでよかった。そうか、もう帰ってくる日だったか。

 

「お疲れ様オイゲン。どうだった?」

 

「別に、相も変わらず平凡だったわ。そうだ、指揮官にお土産があるわ」

 

 お土産? 重桜海軍カレーのレトルトとかだろうか。だったらいいな、レトルトでもあれは美味しんだ。って、オイゲンの奴部屋の外を見て何して……んん?

 

「ほら、入った入った」

 

「ちょっ、押さないで下さいっ!」

「ほら早く早くっ!」

「ああもう、騒がないでよ」

 

 ……部屋に入ってくるオイゲン。その後ろから入ってくる少女が三人。なに? お土産ってコレ? は? あ、でもよく見ると三人ともお揃いの軍服を着てる。これは確か……

 

「紹介するわ指揮官。Z駆逐艦のZ19、Z20、Z21よ。向こうから引き取ってきたの」

 

 引き取ってきたって……合意の上なんだろうな……オイゲンに目を向けるがあとは知らんとばかりにこちらを無視してニーミにコーヒーの催促をしてやがる。

 

「あ、あの指揮官っ!」

 

「うおっ!?」

 

 声に振り向くと、三人組の一人が顔をこっちにずいっと寄せていた。確か、Z19だったか……?

 

「着任の報告をしたいのですが」

 

「あ、ああ悪い。お願いするよ」

 

 コホンっと息をたてビシっと敬礼をするZ19。どうやらニーミと同じく真面目な子らしいな。にしてもさっきはびっくりした。

 

「鉄血のZクラス駆逐艦、Z19。第三十六補給基地に着任致しました!」

 

「同じくZクラス駆逐艦のZ20だよ、よろしくね指揮官っ」

 

「同じくZクラス駆逐艦、Z21。まあ、お願いするわ」

 

 三人共ニーミと同じZクラス駆逐艦か。ん? てか今着任っていった? 一時的に預かるとかではなく?

 

「よろしく三人とも。それでまず確認するけどZ19、今着任って言った?」

 

「? はい。オイゲンさんから人手不足で指揮官が悩んでいると聞いたので」

 

 オイゲンめ、やってくれる……いや人手不足なのは確かだし嬉しいことではあるけど、転属手続きをすっ飛ばしてるんだよなぁ。本部に報告しないといけないが、ただでさえ嫌われてそうだし嫌みの一つでも言われそうだな……

 

「その気持ちは嬉しいんだが、えっとZ20、Z21も同様なのか?」

 

「あっ、ボクのことはカールでいいよ。そのようが呼びやすいでしょ?」

 

 この子はZ20か。明るいグリーンのサイドテール。今にもぴょんぴょん跳ねそうなくらい元気一杯って感じだ。というか上着羽織ってないからスポブラが見えてるんだけど……いやそれはいいから。

 

「Z20、カール・ガルスタ―だったか。確かにカールのが呼びやすいが、いいのか?」

 

「うんっ!」

 

 本人もそう言ってるわけだし、ならいいか。それによく考えればニーミのこともニックネームで呼んでるわけだしな。

 

「ヘルマン・キュンネです。出来ればキュンネとお呼び下さい」

「私はヴィルヘルム・ハイドカンプ。好きに呼んで」

 

 ふわふわしてそうな黒髪ロングのZ19、ヘルマン・キュンネはやっぱり真面目な子っぽい。大して薄紫の左右にちょっと結ってあるこの子がZ21、ヴィルヘルム・ハイドカンプか。口調もだけど、目つきもちょっとキツイ子だな。そして三人共お揃いの軍服と軍帽を身に着けている。ニーミのとか違い黒で統一されているんだな。

 

「よろしくキュンネ、ヴィルヘルム……んー、ヴィルヘルムって女の子っぽくないし、ヴィルでもいい?」

 

 正直ヴィルって名前の女の子もそういないだろうけど、まあまだマシってことでここは一つ。

 

「話を戻すが、三人共ここに転属希望ってことでいいのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

 どうやら聞き間違いではないようだ。

 

「その気持ちはとても嬉しいんだけど、この基地には現在碌な施設が整っていない。それは聞いてる?」

 

「はい。食堂と寮舎しかないと聞いています」

 

 ……事実とはいえ改めて聞かされるととんでもないところだなここは。食って寝ることしかできないじゃねえか。ただまあ、何も知らされないままこんなところに~ってことにはならなそうだ。

 

「それが分かっててここに来たのなら、勿論歓迎させてもらうよ。ようこそ第三十六補給基地へ、よろしくお願いするよ、三人共。ニーミ、彼女達を寮舎に案内してくれないか?」

 

「了解しました。さ、ついてきて下さい」

 

 ニーミの後に続き指揮官室から出ていく三人を見送り終えると、未だ部屋の中でゆったりしているオイゲンへと向き直る。

 

「で? どういうつもり?」

 

「あら、私は人手不足で困ってる指揮官を助けてあげようとしただけよ?」

 

 唇に手を当てクスクス笑っているオイゲンを見ると怒る気も失せる……まあ実際助かったし、別に悪戯する気でもないわけだし。でも正規の手続きくらいとって貰わないと困るのも確かだ。

 

「次からは事前に連絡しろよ?」

 

「善処するわ」

 

 これは凝りてないな、確実に。まあ退屈させるよりはいいか、どうせ真面目にしてたって仕事ないし。

 

「それじゃ私今からお風呂入るから。指揮官、一緒に入らない?」

 

「……からかうのよせ」

 

 一瞬ドキっとしてしまった……バレてなければいいが、オイゲンはいつもと変わらない笑みを浮かべ去っていった……




Z駆逐艦かわいい……かわいくない?
ぷにぷにしてそうで抱っこしたい。
キュンネは顔を赤らめつつもジッとしてそう。
カールはめっちゃはしゃぎそう。
ヴィルは真っ赤になってポカポカ殴ってきそう。殴って。

惜しむらくはスキルが皆同じで中々普段使いし辛いってとこ。でもちゅき


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そのツンデレは、お前たち金髪まな板の(以下略

 タイトルでバレバレ
 いやホントはもうちょいしてから登場させるつもりだったんだけど、俺の中で罵倒されたい欲が我慢出来なくなってしまって。ヒッパーの罵倒は愛情表現だからな、どんどん罵ってくれ。

 つい名前出したけどバレバレやしままえやろ


 第六十一鎮守府。ここは対セイレーンの最前線基地。規模も練度も他の鎮守府とは一線を画している。ここの指揮官である中佐は士官学校を首席で卒業し、数々の戦いを勝利に導いてきたエリートだ。その功績を認められ、最前線で一番大きなここを任されている。ただ、そんな人物にも一つ欠点があるらしい……

 

「で、また戻ってきたわけ? 今度も派遣? それとも出戻りかしら?」

 

「どっちでもないわ、今回はニーミと一緒に艤装のメンテよ。それともヒッパー、もしかして私に戻ってきてほしいの?」

 

 その工廠に私とニーミは来ていた。目的は勿論艤装のメンテナンス。三十六基地には工廠がないため定期的にこっちまで足を運ぶ必要があって、正直面倒。けどあの指揮官が何とかしてくれるそうだし、一応期待しておかないとね。

 

「ハァ!? 誰がアンタに戻ってきて欲しいって!?」

 

「あら違うの?」

 

 それでさっきから私に絡んできてるのは姉のアドミラル・ヒッパー。いつも不満気で文句ばっかり言っているけど、根はやさしいのよね。ただもう少し素直になったほうがいいと思うのだけど。

 

「アンタがいなくなって清々してるくらいよ……でもアンタ、なんか楽しそうね」

 

「楽しそう? 私が?」

 

 あんな基地にいたって別に楽しくはないのだけど。まあ新しい指揮官はからかいがいがありそうだけれど……けどヒッパーからはそう見えるのね。

 

「そうよ。いつも指揮官や整備兵もからかって、そのくせいっつもつまらなそうな顔してた。私やドイッチュラントをからかう時はイキイキしててそれが気に入らないけど……そんなアンタが楽しそうに新しい指揮官の話をしだすんだもの、驚いたわ」

 

「私、そんなにつまらなそうにしてたかしら?」

 

「してた」

 

 まあつまらなかったのは本当なんだけど、ヒッパーに気づかれるくらい顔に出てたのかしらね。でも楽しそうにあの指揮官の話なんてしてないのだけど……

 

「とにかく! まあ私はアンタが楽しそうにしてて一安心してるわけ。でも実際、そんなに面白い指揮官なわけ? 話聞いてるとただのバカにしか聞こえないんだけど。兵器を女の子として扱うとか、ここじゃ考えられないわよ。よっぽど変な指揮官なのね」

 

 まあ変な指揮官なのは認めるけど、それにしても食いつくわね。あ、もしかしてヒッパーの奴……ふふっ、また指揮官に悪戯してやるとしましょうか。それに、確認したいこともできたわけだし。そうと決まれば早速取り掛かりましょうか。

 

「ねえヒッパー、その指揮官に会ってみない?」

 

 

 

 本部から届いた書類の内容に溜め息をつき自分で淹れたコーヒーを啜る。うん、あんまり美味しくない。ニーミが淹れてくれたコーヒーは美味しいのだが、何が違うというのか。そのことにまた溜め息をつく。ふと時計を見ると既に昼過ぎになっていた。確かニーミとオイゲンがそろそろ帰ってくる時間だ。わざわざ艤装のメンテに他所まで行かなきゃいけないってのは面倒そうだよな、なんとかしてやりたいんだが。

 

コツン、コツン――

 

 っと、噂をすれば帰ってきたようだ。ちょうどいい、このあとの用事にオイゲンでも連れていくとするか。ニーミとはちょこちょこ話しているが、オイゲンとはまだあまり話せていないからな。嫌われている――わけではないよな? たまにからかってくるし。

 

 そうこうするうちに足音が止み、扉の前に人影が立つ。今にも開けて入ってくるだろう。大して美味くはないがコーヒーでも淹れて労ってやるとするか。そう思い立ち上がると同時に扉が開かれた。無論そこにいるのは――

 

「おかえ……り……?」

 

 そこにいたのは見知らぬ少女だった。赤を基調とした鉄血の軍服、綺麗な黄金色の髪、透き通るような碧眼。腰に手をあてこちらを不躾に眺めているその姿はどことなく態度が大きい。と、おもいきや一部分はとても小さく――

 

「――なに見てんの?」

 

「いやなんでもない……えっと、君は?」

 

「科学の国の重巡洋艦、アドミラル・ヒッパーよ。アンタがここの指揮官? なーんか頼りないわね」

 

 アドミラル・ヒッパー……アドミラル・ヒッパー級の一番艦、プリンツ・オイゲンの姉だよな。でもなんでここに?

 

「初めまして、アドミラル・ヒッパー。ヒッパーは確か六十一鎮守府の所属だったはずだけど、どうしてこんな辺鄙な場所に?」

 

 向こうから艦船少女が来るなんて報告は受けていない。というかニーミとオイゲンはどうしたんだろう?

 

「オイゲンから聞いてないの?」

 

「何を?」

 

「オイゲンの奴、しばらく向こうに留まるって。その代わりに私が来てあげたってわけ」

 

 うん、全く聞いていないわけだ。というか、またかオイゲン。向こうにも迷惑をかけちまって……

 

「一応聞くけどさ、それって本部に通達してある?」

 

「ハァ? そんなのしてるわけないじゃない」

 

 ……ああうん、そうだよね。突発的に閃いた悪戯なんだろうし当たり前だよな、うん。また余計な手間が増えたわけだ。

 

「まあそうだろうな……そういやニーミは?」

 

「ニーミならシャワー浴びるっていってたわよ。あ、覗くんじゃないわよ?」

 

 覗かねえよ、俺は何だと思われてるんだ。んー、でもちょっと困ったな、このあとの用事にオイゲンを連れていこうと思ってたんだよね。

 

「とにかく! オイゲンが戻ってくるまでの間世話になるから。一応よろしくしてあげるわ」

 

「よろしく。でも来てもらってすぐで悪いんだけど、俺はこれから――」

 

「指揮官、ただいま戻りました――取り込み中でしたか?」

 

 タイミング悪く、いや良く? 入ったきたニーミによって俺の言葉が遮られてしまった。でもまあニーミがいてくれた方が助かる。

 

「ニーミ、俺は今から本部に出頭せにゃならんくなった。もうじきキュンネ達が委託から戻ってくるから、出迎えと雑用を任せてもいいか?」

 

「はい、任務了解しました」

 

「いやそんな固くしなくてもいいんだが……そうそう、知ってるだろうから説明は省くから、ヒッパ―の案内もお願いしていい?」

 

 本来なら俺がやるべきことなんだが、いかんせん外せない予定が出来てしまったのだから仕方ない。行きたくないってのが本音だけどね。

 

「ハァ? 私も付いて行くわよ?」

 

 だが当の本人はそんなのおかまいなしのようだった。なんで付いてくるんだ? 本部だぞ? 絶対つまらないぞ? それに厳密にはまだヒッパーはうちの所属と認められていない。なのに一緒に本部へ出頭とか、絶対ややこしくなる。主に頭の固い上層部の連中のせいで。

 

「一応聞くけど、なんで?」

 

「本部に行くんでしょ? あそこには私の妹がいるの。中々会う機会なんてないからいいタイミングだと思っただけ――あと、アンタがどんな奴か知りたいし……」

 

 ん? 後半何か言ってたがよく聞こえなかったな。でも妹か。オイゲンはこっちにいるし、ニ番艦のブリュッヒャーだろうか。俺は会ったことない――てか、任官前に艦船少女に会わせてくれないのだから当然か。なんにせよそういう理由なら断る理由もない。それに本人がいたほうが説明もし易いのは確かだしな。

 

「よし、じゃあ三十分後にまた指揮官室に来てくれ。そしたらクソもつまらん本部ツアーに連れてってやるよ」

 

 了解だと言うように軽く手を挙げながらヒッパーとニーミが部屋を出ていく――ぱっと見はとんでもない美少女なのにちょっと態度がキツイのがなぁ……それを言ったらオイゲンもだけどな……

 

「さて、俺も準備しないとな……」

 

 放り出した書類を拾い上げ、溜息を一つつき俺も部屋をあとにする――




 おかしいな、オイゲンの出番が減ってる(真顔)。なんでなんやろ(すっとぼけ)。

 はい、皆(ではないかも)大好きツンツンデレデレ娘ヒッパーです。前書きでも書いたけどホントはまだ出番与えるハズじゃなかったんだ。でもヒッパーにハァ? って言わせたかった。反省も後悔もしてない。
 ヒッパーのタッチ2ボイスかわいすぎ。かわいすぎない? あの小学生並の罵倒マシンガンすこすこ。今は違うけど最近までずっと秘書艦にしてた。ヒッパーの魅力を伝えたいのに文章力と語彙力が足りぬ。ぐぬぬ……

 あっ、でもオイゲンも大好きだよ。知り合いに勧められて始めたアズレンだったけどプロローグのオイゲンで心持ってかれたし。ヒッパー級はさ、可愛すぎるんだよなぁ。オイゲンはエロ頼もしい。ヒッパーはツンツン癒し。だからブリュッヒャー下さいなんでもはしません運営さんよぉ。


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不完全亡霊少女

 (グレイゴーストじゃ)ないです。どこかの後書きで書いたと思いますが、オリキャラ出します。嫌いな人はブラウザバックしてニーミ先生をすこってくれよなぁ。

 あっ、無理矢理出したヒッパーちゃんの出番もないです。


 アズールレーン連合総本部。こここそが対セイレーンの総本山にしてGHQにして大本営。最後方のくせして最大の大きさを誇る鎮守府。任官直前まで俺がいた場所でもある。

 

 ここのお偉いさん達――というかアズールレーンの大半は艦船少女を兵器として扱っている。命令に従うだけの駒を求めている。実際ここでの教習ではそう習ったし、話を聞くだけでも前線ですらそういう扱いが当然という風潮らしい。合理性を考えるならそれも間違いではないだろう。事実彼女達は生まれた時からあの姿で、艦船の記憶を持ち、唯一セイレーンに対抗する力を持っている。人間でない存在。心無い輩は化け物と呼んだりもするらしい。流石にそこまでいけば問題になり処罰されるだろうが……

 

「………………」

 

 そして俺も、ほんの少しの偶然の重なりがなければそうなっていたのかもしれない。あの日、あの時、あの場所で、“彼女”に出会った。“あの子”に出会った……それが俺を変えたんだ。艦船少女もまた、意思を持った存在なんだと――

 

「何してんのよ、入るわよ?」

 

「ああ……」

 

 ついボーっとしてしまっていたか、ヒッパーに呼ばれてることにやっと気付いた。どうせ逃げることは出来ない、ならとっとと済ませてしまおうとヒッパーを連れ、総本部の中へと進んでいく。

 

 

 ――じゃ、私はここで。まあガンバんなさい――

 

 総本部に足を踏み入れてすぐ、それだけ言うとヒッパーはどっかいってしまった。あの方角は確か艦船少女の居住区のハズ。きっと妹に会いにいったのだろう。合流時間は決めてあるし、問題はない。それより、今はこっちだ。

 

 総指令室と書かれた部屋の扉をノックする。しばしの間ののち、中から返事が返ってくる。ふぅ、と一息入れ部屋の中へと踏み込む。

 

「失礼します。三十六基地指揮官、出頭しました」

 

「ふん……まあかけたまえ」

 

 総司令はこっちを一瞥すると、不機嫌そうにソファを勧めてくる。見るからに歓迎されていないが、それは承知の上なのでなんとも思わない。

 

「さて、なぜ出頭させたか分かるかね?」

 

「心当たりが多くて分かりかねます」

 

「……まあいい、貴様なぞすぐにでもスパイ容疑で牢屋に放り込みたいくらいだがな」

 

 スパイ容疑……どうやら“彼女”はまだ見つかっていないようだ。でもスパイ容疑ねえ、むしろ俺が助けられたくらいだからなぁ。

 

「さて時間も惜しいのでとっとと本題に入ろう。基地の設備を拡充したいとか?」

 

「はい。予想以上に何もなく、正直困っています」

 

「知らん、そもそもお前にもあの基地にも何の期待もしとらん」

 

 だと思った。この様子だと工作艦も無理そうだな。でも、ならなんで出頭させたんだ? “あの子”の機嫌取りか? なら必要ないと思うんだが、まあ堅物共には分からんか。

 

「次に工作艦だが……」

 

 いいよどうせ無理なんだろ? 明石もヴェスタルも最前線であっちこっち働いてるとの噂だ。実際六十一鎮守府には今明石が来港しているらしいしな。

 

「ちょうど一隻余りがでた、持っていけ」

 

「ええ、承知しています。ですがせめて――え?」

 

「聞こえなかったのか? 工作艦の余りがでたから、持っていけと言っている」

 

 余り? 工作艦の? いやいやそんなわけないだろ。工作艦なんて少ない艦種を俺のとこに寄越すのか? ――ん? 待て。今余りが出た(・・)って言ったよな? 出たって、どういうことだ?

 

「あの総司令、質問が」

 

「却下だ。とにかく貴様はその余りを連れていけばいい。おい、連れて来い」

 

 総司令の命令を受けて、部屋に待機していた一人が部屋を出ていく。総司令に視線を投げるが、まるで俺が見えていないかのように無視してくる。

 

 十分程経っただろうか、再度扉をノックする音が聞こえる。どうやら例の余りとやらを連れてきたらしい。入れという総司令の言葉ののち、先程の男が入ってき、その後ろから一人の少女が入ってきた。

 

 灰のインナーに黒のジャケット。黒ニーソに黒い軍帽。どう見ても鉄血カラー。肩まで伸びた瑠璃色の髪、青紫の瞳はどことなく悲し気な海を思わせる。背丈は駆逐艦よりちょっと高いくらいだが、それに似合わず結構いいモノをお持ちのようで――そんな少女は敬礼もせずこちらをぼんやり眺めている――こんな艦船少女、いたっけな? 必死に記憶を辿るが全く思い浮かばず、うんうん唸りそうになった時、ようやく少女が口を開いた。

 

「…………鉄血の一号工作艦、ワスカラン」

 

 それがこの少女の名前らしい――

 

 

 

 総指令室を出た俺は横にちょこんとついてくる謎の艦船少女、ワスカランを連れ本部内を歩きつつ、先程までの会話を思い出していた。

 

 このワスカランという少女、艦船少女に間違いはないのだが、どうやら不完全な状態で建造されたらしい。そもそも艦船少女には元になる素体というものがあり、艦船少女はその素体のコピーでしかない。そして素体がなければ艦船少女は建造することが出来ない。通常は(・・・)

 

 だがワスカランという艦船の素体は確認できていない、らしい。総司令の情報だから間違いはないだろうが。ではなぜ素体の確認ができていない艦船少女ワスカランが建造されたかというと……分からないというのが上の見解だ。けど凡その予想はつく。どうせ素体抜きで艦船少女が造れないかテストでもしていたんだろう、“あの子”と似たパターンだ。

 

 つまるところ、艦船少女ワスカランは想定外の産物ということだ。仮にこれから先、ワスカランの素体が発見されそのコピーを造ったとしても、目の前のこの子とは違う子が生まれるかもしれない。でもそんなことはいい、問題なのはワスカランが“失敗作”扱いされたことで――

 

「ワスカラン、だったか? いいのか? 勝手に配属先を決められて」

 

「いい。どのみちボクには居場所はなかった」

 

 厄介払いついでに俺の元に配属されたってわけだ。

 

「まあどっちにしろ俺の元にいても碌なことはないぞ」

 

「そうなの?」

 

「俺もワスカランと同じ、厄介払いされた側だからね」

 

 このあとワスカランの艤装を受け取り、ヒッパーと合流して基地に帰るだけだが、その前に寄っておかないといけないところがある。まあヒッパーとの合流はそのあとでいいか。

 

「さ、艤装を受け取りに行こう。で、それが終わったらちょっと付き合ってくれ」

 

「? ああ、構わないが」

 

 工廠に向かう間、俺はワスカランのことを色々聞いていた。なにせ初めて聞く名前だ、何も知らないままあれこれ言う気にはなれないんだよな。その代わり、ワスカランにも色々質問され、他にも他愛無い話をしている内に工廠に着いていた。さすが最大規模を誇る総本部の工廠、あっちこっちで整備員が走り回っている。近くにいた整備員を捕まえ、ワスカランの艤装の場所とついでにもう一つ聞いてから奥へと向かう。そこにあったのはまるで蜘蛛みたいな艤装だった。直方体のパーツを中心にサブアームが無数についており、さながらアシダカグモのようだ。

 

「これがボクの艤装?」

 

「そうらしいな。よっと……結構重いのな、艤装って」

 

 こんなのを背負ってセイレーンと戦うってんだから、艦船少女ってのはやっぱすごいよな。ひとまず台車に載せ、乗ってきたボートまで運ぶとするか。っと、その前に……

 

「あれか……」

 

 工廠の最奥、仕切りで厳重に守られた一角。勿論ここからでは見えない。厳重管理ごくろうなことだ。

 

「指揮官、あれは?」

 

「……最新型の艤装を造ってるんだと」

 

 あの様子だとまだ完成まではしばらくかかりそうだな。さて、ここでの用は済んだな。先に艤装を持っていこう。

 

「ごめんワスカラン、俺はちょっと寄るところがあるんだ。悪いけどボートで待っててくれるか?」

 

了解(ヤー)。指揮官、艤装の試運転をしてもいいかい?」

 

「問題を起こさなければオーケーだ」

 

 ワスカランを置いていくことに多少の抵抗もあるが、この用事に付き合わすわけにはいかない。大人しそうな子だし問題を起こしたりはしないだろうしな。

 

 そして俺は鎮守府内のとある建物へと向かう――

 

 

 

「警備ご苦労様、通りますよ」

 

 入口の警備員に許可証を見せ俺は建物のゲートをくぐる。上に用はない。用があるのは地下だ。前来た時を思い出し地下への階段を降りていく。あの時はこんなに堂々とはしてなかったっけか……

 

 そうして降りることしばらく、階段が途切れ金属製のゲートが立ち塞がる。扉を押すが開く様子はない。まあそう何度も空いてたら困るか。許可証をリーダーへ通すと、電子音と共にロックが解除される音が鳴る。もう一度確認すると、今度はちゃんと開いているようだ。そのまま奥へとすすみ一つの扉の前で止まる。“あの子”の部屋。来るのはあの時以来だが、さて昂奮してなければいいのだが。意を決して扉に手を開け、ゆっくりと開けてゆく。

 

「やあ、久しぶり」

 

 そこは一言で言うと廃棄場だ。そこかしこに機械の残骸が散らばり山となっている。部屋自体は一人用にしてはそこそこ広いが、窓はなく人口の明かりのみが照らすのだが、それさえも今は消えている。

 

「あら指揮官、来てくれたんですか?」

 

 その中心でゆったりとコーヒーを楽しむ女の子。黒を基調とし赤がアクセントで入っているお馴染みのカラーリングの軍服。ただし胸のところはグレーで、しかもその大きさからかボタンがはちきれそうになっている。ピンクがかった金色のショートヘアをしており、おだやかな表情を浮かべている少女。一見部屋の惨状からは想像できないが、この少女こそがこの部屋の主だ。

 

「野暮用でここまで来させられたからね。ならローンに会っていかないと損だろ?」

 

 ローン――鉄血の計画構想で終わってしまった巡洋艦の名を冠する艦船少女。艦歴を持たない特別な存在、計画艦開発プロジェクトの産物、軍事機密の塊だ。俺もあの日ローンに合わなければ知ることもなかったんだが。つくづく“彼女”には礼を言いたくなるよ。

 

「私も指揮官に会えて嬉しいです。コーヒーでも如何です?」

 

「貰うよ。けどその前に、これを掃除しないと……」

 

 部屋に散らばった残骸。この部屋に入れる者も入りたがる者も少ないため放っておいたら大変なことになる。前入った時は壁際の残骸が天井に届きそうになっていた。あ、そうだ。

 

「ローン、この残骸俺が引き取ってもいい?」

 

「いいですよ~? 私、もうそれに興味はありませんから」

 

 まるで他人事のような反応をしているが、この残骸を生み出したのはローンだ。

 

 既存艦より高スペックを誇る計画艦だが、その実現には苦労したらしい。なんでもイメージを形に変えるためにあーだこーだとか。まあ難しいことはいいんだ、俺の管轄外だ。問題なのは、ローンの人格に問題がある、らしいこと。普段のローンはこの通りゆるふわ系お姉さんって感じだが、こと戦いとなると性格が豹変し敵の全てを粉砕せんとばかりに暴れまわる。そしてそのことに疑問を抱いていない。そのことにお偉いさん方は危惧を抱いているらしいが……

 

「お前、ホント壊すの好きだよな」

 

「あら、私達艦船少女は敵を倒すためにいるんですよ? 敵を破壊することが好きで何が悪いのです?」

 

 この通り、疑問どころか訝しむこちらを不思議に思うくらいだ。確かに歪んでいる。けどこれがローンの意思で、ローンが自分を制御できているのならそれでいいと俺は思う。

 

『私は自分の意思でこの道を選び、進んできた。そのことに後悔などない――』

 

 “彼女”はそう言った。俺もそれに賛同したんだ。ならそれでいい、そのままでいい――そうだろ? 『――』

 

「いや、何も悪くないさ。コーヒー、いただくよ」

 

 彼女の淹れたコーヒーを味わいつつ、今はこの二人の時間を楽しむことにしよう――




 ローン
 鉄血のガチでやべーやつ。ギューって抱きしめられつつ鯖折りされたい。説明終わり。

 ワスカラン
 ドイツ第三帝国海軍の工作艦一号。元々はドイツの貨客船。ドイツ海軍の基地があったノルウェーのローフィヨルドへ回航され、その地で終戦を迎える。シャルンホルストやグナイゼナウ、プリンツ・オイゲンなどの修理を行ったこともある。終戦後は名を変え国籍を変え各地を転々とし活躍する。以上ウィキペディア先生からの教え。間違ってたら教えてくだせい。

 オリキャラワスカランちゃん。ドイツの工作艦が欲しかったんや……
小さめ青髪青眼軍帽被り黒ニーソクール巨乳ボクっ娘っていう俺の性癖欲張りセット。ニーソかタイツかで迷ったけど黒ニーソって響きが最高にグッドなのでニーソ。異論は認める


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居場所

 短いし話進まなかった


「待たせたわね……何してんの?」

 

「ああ、おかえりヒッパー。見ての通り。ゴミを積み込んでるんだよ」

 

 怪訝な表情を浮かべるヒッパーを他所に、俺とワスカランはローンの部屋から運び出した残骸をせっせと連絡ボートに積み込む作業を続ける。よし、こんなところか……ゴミにしかならないであろう残骸ですら、我が基地には貴重な資材となりえる。まあ、加工他の処理は全部工作艦であるワスカランに丸投げすることになるのだが。

 

「てか、誰そいつ?」

 

「……ボクのこと?」

 

 やはりというか、当然というべきか、ヒッパーはワスカランに覚えがないようだ。恐らく他の鉄血の子達もそうなのだろう。

 

「この子は工作艦のワスカラン。三十六基地に配属になったんだ。まあよろしくしてやってくれ」

 

「指揮官、雑」

 

 いやヒッパーはうちの所属じゃないし、このくらいでもいいだろ。だからジト目をやめなさい。

 

「それより、そろそろ出港しよう。ほら乗った乗った」

 

 ヒッパーとワスカランを促し、俺もボートへ乗り込むとするか。今からなら到着は夜になってしますが、まあ仕方ないな。

 

 

 

 空はすっかり夜の帳が降り、明かりのない海は不安になるほど真っ暗だ。もし今セイレーンに襲撃されたらたまったものじゃない。とまあこんなのんびりと考え事に耽れるのもボートのオート操作機能のおかげだ。進路さえしっかり設定しておけばあとは勝手に目的地へ導いてくれる。イレギュラーがなければだが。

 

「お疲れ様。ほら、コーヒー淹れてあげたわよ。インスタントだけど」

 

 ガチャリと船室が開く音と共にヒッパーの声が聞こえる。どうやらわざわざ様子を見に来てくれたらしい。しかもコーヒーまで淹れてくれるなんて、優しいところもあるんだな。

 

「ありがとう。ワスカランはどうしてる?」

 

「アイツならずーっと海を眺めてる」

 

「そうか」

 

 色々と思うとこはあるだろうからなぁ……出来れば色々と話をしておきたいのだが、俺にはボートの操作などやることがあるからな。基地に戻ってからだなー。ヒッパーからコーヒーを受け取り軽く口につける。んー、インスタントも悪くはないがやはりニーミの淹れたコーヒーには敵わないな。

 

「それで、いつ説明してくれるわけ?」

 

「何の話だ?」

 

「とぼけんな、ワスカランのことよ。名前と軍服から鉄血の艦船少女なんだろうけど、私はアイツを知らないの」

 

 そりゃそうだろう、艦船少女のデータベースにも登録されていないような存在だ。きっとこれから先登録されることもないだろうし。

 

「俺だって今日初めて知ったし、初めて会った」

 

「それよ、なんで何の関係もないアンタの元に配属されたわけ? 工作艦なんて貴重じゃない。アンタみたいな馬の骨のところに送るなんてちょっと信じられない」

 

「お前結構酷いこと言うのな」

 

 ただまあ、任官直前に独房入りした指揮官がまともなわけないのは確かだろうな。上層部からも煙たがられてるってのもポイントが高い。いや低い。

 

「別に話してもいいけど……これからもヒッパーの鎮守府には世話になると思う。いつかワスカランも……仲良くしてくれとまでは言わないけど、偶に気にかけてやってくれないか?」

 

「それくらい構わないけど……わざわざ念押しするってことは、何かあるの?」

 

「ワスカランには、俺のとこくらいしか居場所がないだろうから」

 

「それってどういう意味?」

 

「そのままの意味。あいつは“失敗作”らしくて、偶々俺が再三要求したのと同タイミングで生まれたから俺のとこに厄介払いされた。そうじゃなければ廃棄か、もしくは……とにかく、あいつは望まれて生まれた艦船少女じゃない」

 

 望まれつつ期待に添わず隔離されたローン、望まれずに見放されたワスカラン。過程も結果も違うが、境遇は似ている。だからなんというか、放っておけないと思った。

 

「せっかく巡り合った縁だからな、少しでも楽しく過ごしてほしいって思う。だから、気にかけてやってほしい」

 

「アンタ……」

 

 

――突然電子音が室内に鳴り響く。計器に目を向けるとレーダーが何かに反応したらしく、一定の間隔で音を鳴らし続けている。この辺りは委託の航路ではないはず。それにこの方角は……

 

「なに? 友軍? こんな暗い中どこのどいつよ」

 

「確認する――これは、登録外の艦船だな」

 

「なんですって!?」

 

 アズールレーンの登録艦艇にはない艦艇……! なんだってこんなところに。それに、もしかしたら――計測器に目を配りつつ咄嗟に船内放送のマイクを入れる。

 

「ワスカラン、すぐここに来てくれ! ――ヒッパー、悪いけど偵察に出てくれないか?」

 

「それはいいけど、水偵とかないわけ?」

 

「そんな便利なモノ、俺の基地には一機たりともないな」

 

「ほんっと嫌われてるのねアンタ――いいわ、出てあげる! 今回はアンタの指揮に従ってやるわ!」

 

 返答しつつ艤装を取りにヒッパーが駆けていく。俺も通信用のヘッドセットをつけいつでも指示を飛ばせるように準備する。とはいえ軍用でもないボートに機材を詰め込んだだけだ、どこまで出来るか……でもやるしかない。反応は大きくない。駆逐か軽巡数隻、悪くても重巡だろう。

 

「ヒッパー、恐らく相手は駆逐か軽巡クラスが数隻ってとこだ。無理せず慎重に頼むぞ」

 

『何よ恐らくって、頼りないわねえ。でもまあ、私に任せておきなさいって!』

 

 悔しいし情けないが、戦う術を持たない俺はヒッパーをサポートすることしか出来ない。なら、それを全力でやるだけだ――




 次回戦闘回……? 大変だ、俺は戦闘描写が苦手なんだ、誰か助けて!
 それにしてもコイツヒッパーよりオリキャラの話しかしてねえじゃねえか……


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初めての実戦!

 (ヒッパーは初めてじゃ)ないです。ミリタリ知識足りないのでおかしな描写などあればビシバシ突っ込んで下さい。


『通信良好。艤装チェック……オーケー。アドミラル・ヒッパー出るわよ! 』

 

 闇に包まれた海へヒッパーが抜錨する。問題がなければ数分後に例の部隊と接触するだろう。

 

「すまない指揮官、遅れた」

 

 連絡してしばらく、ワスカランが駆けこんでくる。手短に状況を説明し、室内待機を命じる。ワスカランは工作艦だ、戦闘向きではない。偵察だけならヒッパーだけで問題はないだろうから、もしもに備えておきたい。

 

「敵の所属は分かる?」

 

「いや、このポンコツ機材じゃなあ……こんなとこでも厄介払い先にされちゃ敵わないな」

 

 足りない物が多すぎる……また本部への要望が増えてしまったわけだ。

 

「……あれはセイレーンだね」

 

「えっ、分かるのか?」

 

「なんとなく……間違ってたらゴメン」

 

 なんとなくってことは確証はないわけだ。つまり直感? けどただの直感にしては迷いがなかったように見える。聞いておきたいが、今はそんな場合じゃないな。

 

「念のため、いつでも出れるようにしておいてくれ。ヒッパー、そっちの様子は?」

 

了解(ヤー)!」

 

『もうじき目標が視認できる距離――見えた!』

 

 

 

 漆黒の帳が降りた海を私は駆ける。目標はすぐ目の前、アイツは偵察と言ったが報告でも遠目から見ても大した規模じゃない。重巡クラスがいるならともかく、駆逐や軽巡に負ける私じゃないっての。

 

「見えた! 暗くて所属までは分かんないけど量産型駆逐二隻と量産型軽巡一隻」

 

『そうか――所属は分からないんだな』

 

「目視ではね。けど仕掛ければすぐに分かるわ、どうする?」

 

 まだ私には気付いていない。先手を取れば相手の反応で大体掴める。セイレーンか、ただの賊か――それとも――

 

「今なら先手を取れるわよ」

 

『探照灯や照明弾はないか? 相手の所属が知りたい』

 

「それじゃ私の位置が丸わかりじゃない! てか偵察ですらないじゃない!」

 

 コイツ、やっぱりバカなんじゃないの? ああもう、こんな奴の指揮なんて仰ぐ必要ない。一応警告だけ出してとっとと片づけてしまおう。軽巡はともかく駆逐の魚雷はマズイ。この暗闇じゃ雷跡を見逃す可能性もある。

 

『可能なら知っておきたいんだ。それに他に――』

 

「ああもう煩い! あのくらいなんてことないの! こっちから仕掛ける!」

 

『あっ、おいっ!』

 

 マヌケの指揮なんて必要ないわ。さっさと片づけてしまえばいいのよ。

 

「そこの三隻! 所属を言いなさい! 返答しないなら実力行使に移るわよ!」

 

 ――応答なし。どこの連中か知らないけど応じないのなら敵ね。艤装を構え、戦闘機動で敵船団へ駆ける! 接近したことで分かった、あれはセイレーンだ。なら手加減する必要はないわね。

 

「先手必勝! 撃ちまくれ!」

 

 手持ちの連装砲と艤装の砲塔が一斉に火を噴く。狙いは駆逐艦二隻。ほんの僅かの後、鉄を砕く音と共に一隻が燃え上がる。もう一隻には至近弾にしかならなかった。

 

「まずは一隻――くぅぅ!」

 

 勿論相手もやられっぱなしじゃない。砲撃から私の位置を掴んだのか、軽巡から砲弾が降り注ぐ。高速機動は苦手なせいで多数の砲弾が身体や艤装に掠っていく。幸いなことに私は重巡、装甲は厚いし何より――

 

「この……誰が抵抗していいって言ってんの!」

 

 艤装を前面に展開、それと同時に私の力を放出する――守護の盾。いかなる砲弾からも私を守る絶対防御。これがあるんだ、抜けさせはしないっ! 再度砲撃! 一気に殲滅してやるっ!

 

 

「これで終わり? 雑魚だったわね」

 

 最後に残ったセイレーン軽巡が爆炎と共に沈んでいく。殲滅完了。まあこんなところね。そうだ、一応あのバカに報告しないと。

 

「こちらヒッパ―。敵船団を殲滅したわ」

 

『よくやってくれた。だがなヒッパー、指示には従ってくれよ』

 

「ハァ? 誰がアンタの意味不明な指示なんて――」

 

 ――突然、風切り音が、聞こえた――

 

「あ、ぐ……」

 

 そう思った時には既に遅かった。右肩から焼けるような痛いが走り、艤装から煙りが上がってきて……徹甲弾1? どこから……痛みに耐えつつ顔を上げると遠く前方、射程ギリギリといったところに船影が見えた……

 

(失敗した、他にもいたなんて……しかもこの距離、重巡。最悪戦艦クラスかも……)

 

 早く後退しなければいけないのに、痛みで身体が動かない……嫌、こんなとこで沈みたくなんてないのに……ゴメン、ブリュッヒャー。ゴメン、オイゲン――

 

(ゴメン、バカ指揮官――)

 

――再度風切り音が響く――モーターの音が聞こえる……そして、きっと次の瞬間には私は炎と轟音に包まれ……

 

――バシャア!!

 

(……水? なんで水が降りかかって……)

 

 一拍置いて轟音がやってくる。言葉通り、鋼鉄を切り裂く徹甲弾が……あれ?

 

「私、無事じゃない……?」

 

「バカっ!! 呆けてないで早く乗れ!!」

 

 頭上からバカ指揮官の声がする……それに目の前にはバカ指揮官と乗ってたボートが……って!

 

「あ、アンタバカじゃないの!? そのオンボロボートで前線に出てくるなんて! てか被弾してるじゃないの!」

 

「そう思うなら早く乗れ! 次撃たれたら死ぬぞ!」

 

 次? そうだ私、敵重巡の砲撃を食らって、それで――コイツが、守ってくれたの……? と、とにかく今は指示に従うわ。バカ指揮官の言う通り、次撃たれたら本当に沈みかねない。

 

「乗ったわ、出して!」

 

「よし、このまま反転――伏せろっ!」

 

 考えるより先に身体が動いた。身を屈めて伏せる――どうやら間に合わなかったようね。きっともうすぐ――すぐに轟音が辺り一面に響いた――後方から――

 

「どうなってるのよ、全く……ちょっと、指揮官!」

 

「俺も分からねえよ! 敵セイレーン重巡が撃たれたってことしかな!」

 

「まさか、そんな……」

 

 そう呟いたとき、遥か上空を飛ぶ何かに気づいた。あれは確か――でも、私の意識も途切れてきて――

 

 

「最低限のデータ収集だけして帰投する。ワスカラン、ボートの応急処置を頼む」

 

了解(ヤー)……指揮官、どう思う?」

 

「どうもこうも……重巡を一撃で吹き飛ばしたんだ、戦艦クラス。もしくは砲艦かポケット戦艦でもなければ無理だ」

 

 どういうわけかセイレーンは轟沈した。だが付近に味方はいないはず、同士討ちなんてことはセイレーンに限ってない。とするとまさか……

 

「指揮官、あれを!」

 

 上空を見上げたワスカランの叫びに応じ暗闇へ目を向ける。そこには確かに飛行機が見えた。

 

「艦載機!? マズイ、対空配置!」

 

了解(ヤー)!」

 

 艤装を展開するワスカラン。戦闘能力皆無に等しい。それでも最低限レベルの対空能力は持っている。どのみち他に手立てもない、今はワスカランに頼るしかない……

 

 ………………………………………………

 

「仕掛けてこないな……」

「あれは戦闘機だよ、すぐに攻撃隊がやってくる。だから指揮官は安全なところに……」

 

 周囲を旋回する戦闘機を睨みながら時間だけが過ぎていき――漆黒の空に突如光が灯った。

 

「十時方向、照明弾だ!」

 

「照明弾だぁ!?」

 

 だが確かに不自然な灯りだ。旋回していた戦闘機が十時方向へ去っていく。恐らく、あそこに空母でもいるのだろう。灯りの下には人影が二つ。片方は禍々しい砲塔と飛行甲板を持つ者。恐らくあれが空母か。そしてもう片方は旗を掲げ――灯りが消える直前、二人がこちらを向いたような気がした。

 

「――――戦闘終了、オンボロの応急処置に移ってくれ。終わり次第今度こそ帰投だ」

 

「しかしまだ敵が」

 

「大丈夫だ、仕掛けてはこない――仮に仕掛けるなら既にやっているだろ?」

 

 突然の命令に敵を見逃す発言。普通なら文句の一つでも出そうだがワスカランは素直に従ってくれた。

 

了解(ヤ-)。だが指揮官、あれは一体……」

 

「――“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”」

 

 

 

「Me-155Aの格納を確認した」

 

「そうか。なら帰投する」

 

 横に立つ彼女の報告を聞き踵を翻す。もうここにいる理由はなくなった。ここには先ほど私が撃破した重巡を含めたセイレーン部隊の追撃で来ただけだ。連合の部隊がいることは想定外だったのだけれど――

 

「ふむ……あれが卿の言っていた指揮官か」

 

 私のすぐ横を走りながら彼女が問う――そう、彼だった。まさかこんな前線近くにいるとは思っていなかった。でもあの場をなんとか切り抜けられたようね……

 

「中々豪胆な者のようだ。身を挺して艦船少女を守るとは」

 

「彼は艦船少女の意思を尊重している。きっとあの子とも良好な関係を築いているのでしょう」

 

 素直になれずつい口が出てしまうあの子がすんなりと指示に従っていたように見えた。にしても、無茶がすぎるようだけど……

 

「そのことで一つ気になることがある」

 

「何かしら」

 

「彼の者のボートの中に見慣れぬ艦船少女がいた。歪な魂の持ち主。我と違い、未完ではなく歪められた存在というべきか」

 

 そう、そんな存在を造りだしてしまったのか、連合は……例の計画のこともある、より詳細な情報がほしいところではあるのだけれど――

 

「“伯爵”、彼のボートを追うことは可能?」

 

「不可能だ、既に距離がありすぎる。が、次の機会があれば出来よう」

 

 次――手札はある。が、それを切るべきか否か……

 

「何を悩む、“宰相”殿。我らは理想を追い求める狂人。卿はその頂点に立っているのだ。ならば卿の判断に是非を問うことはない。進む、それしかないのだ」

 

「そうか、そうだな……帰投する。ハイル・デム・ファーターラント。ジーク・グロース・アイゼンブルート!」




 ヒッパーちゃん大活躍! バカバカマヌケ言わせることが出来て大満足。やっぱヒッパーの罵倒は、最高やなって。

・Me-155A
(ス)クラップ戦闘機。クソ雑魚。素直にヘルキャットかコルセア積んで、どうぞ。装填速度最速という利点があったがそれさえも産廃兵器スカイロケットに持ってかれてしまった。

・ドイツ語
無駄にカッコイイ。ヤーはルビ振ってるからええでしょ。ハイル・デム・ファーターラントは祖国万歳。ジークは勝利。

・宰相殿
イッタイナニキュウセンカンイチバンカンナンダ……

・伯爵
ドイツ語で伯爵はグラーフ。グラーフとつく鉄血といえばグラーフ・ツェッペリンとアドミラル・グラーフ・シュペーがいる。ちなみにアドミラルは提督の意。つまりツェッペリン伯爵とシュペー伯爵提督となる。


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疑心と不安

 今回セリフと説明が多いです。別に大した説明はしてないので読まなくてもいいです。後書きで三行でまとめときます。


「んぅ……ここは……?」

 

「気が付いたか?」

 

「……バカ指揮官?」

 

 読んでいた本を置き、ヒッパ―へ向き直る。どうやら意識はハッキリしているようだ。この様子なら大したことはないだろう。

 

「ここは俺の基地。ったく心配かけさせやがって。覚えてるか? お前気絶してたんだぞ?」

 

 あのあと一向に顔を見せないヒッパーを探してみたら通路で倒れてるんだもんな、正直焦った……ひとまず連れて帰り、ベッドに寝かせてから早数時間。目を覚ましてくれて本当に良かった。

 

「……ゴメン、指揮官」

 

「なんで謝る? あれは俺の確認ミスだ、俺のほうこそすまなかった」

 

「バカっ! なんでアンタが謝るのよっ! 私がアンタの指示に従わずに先行して、それで――っ!?」

 

 急に立ち上がったせいかふらつくヒッパー。咄嗟に支えることに成功したものの、ヒッパ―はこっちに寄りかかったままだ。まだ本調子ではないのだろう。ゆっくりと彼女をベッドに横たえる。

 

「無理するな、とにかく今は休め。さて、俺はもう行くよ」

 

 落ち着いたのか、静かになったな。さ、まだ仕事が残ってるし部屋に戻るとするか……

 

「……………………ありがと、バカ指揮官」

 

 部屋を出る直前、ヒッパーが何か言った気がするが、良く聞こえなかった。まあ、大したことじゃないだろう。特に返事などもせずその場をあとにした。

 

 

 

「帰ってきたね、指揮官」

 

 夜も更け、艦船少女達も寝静まった基地。今日は散々な目に遭ったのでとっとと寝ようと思っていたのだが、どうやら先客がいたらしい。

 

「どうしたワスカラン。夜も遅い、今日は疲れただろ? あっ、それとも部屋が分からないのか?」

 

「違う、指揮官に用があってきた」

 

「俺に? もしかして一緒に寝てほしいとか?」

 

「違う」

 

 ……まあこうなるんじゃないかとは思っていた。あの時口を滑らしてしまったからなぁ。身から出た錆か、仕方あるまい。

 

「じゃあ、一体なんなんだ? 俺はもう寝るとこなんだけど」

 

「指揮官はここで寝るのか? ……いやそれも問題だけどボクの用はそれじゃない――グロース・アイゼンブルートって、なに?」

 

 やっぱりか、まあそうだよな……

 

「グロース・アイゼンブルートとはなんだ?」

 

「なにって……指揮官、ボクを馬鹿にしてるの?」

 

 予想外の言葉だったのかワスカランは一瞬呆けた顔をしたが、次の瞬間にはこちらを睨んでいた。弁明するが、別に馬鹿にするつもりは微塵もない。けどなぁ、面倒な問題だからなぁ。

 

「そうだな、じゃあまず既知の情報から教えておくか――グロース・アイゼンブルートは存在しない」

 

「……どういうこと?」

 

「アズールレーン総本部はグロース・アイゼンブルートなるものの存在を関知していない。何ならデータベースでも見るか? 俺の権限で見れる範囲に限定されるけど」

 

「でも、さっきのあれは……」

 

「あれか、あれはレッドアクシズ残党(・・・・・・・・・)だ。恐らくな」

 

「レッドアクシズの、残党……?」

 

 一気にチグハグな情報を与えすぎたからかワスカランは困惑しているな、頭の上に疑問符が見えるようだ。あれ? そういやワスカランはレッドアクシズのことは知っているのだろうか? 艦船の記憶が曖昧だとか言ってたし。

 

「レッドアクシズのことは知ってるよな?」

 

「……ゴメン、分からない。会った時も言ったけど、ボクの記憶は曖昧で……アズールレーンのことも、実はよく分かっていない」

 

 これは、思ったより重症だな……確かに、厄介払いされるだけのことはある。一応、軽く教えておくとするか。

 

「多少長くなるけど、いいか?」

 

「うん」

 

「そっか……椅子に座ってろ、コーヒーでも出してやる」

 

 

 

「セイレーンに対抗するためアズールレーンが出来たのは知ってるな?」

 

「今知ったよ」

 

「あ、そう……でもセイレーンが敵なのは知ってるんだな」

 

「それは、なんだろう? 本能?」

 

「艦船少女としての本能か……まあいいや。でもセイレーンと戦う内に考え方の違いから二つの派閥が生まれてな。あくまで人類の力でセイレーンを倒すべきだと主張する側と、セイレーンの技術を利用してでも敵を倒さんとする側。両者の溝はどんどん拡がっていって、ある時セイレーン技術利用派がアズールレーンから離反した。これがレッドアクシズだ。

 それが切欠でセイレーンそっちのけでアズールレーンとレッドアクシズの内戦が始まった。でもまあ、それも終結して結局レッドアクシズは解体、元鞘に戻って一つとなった。一部を除いて、ね――その僅か数日後、元レッドアクシズの艦船少女が脱走した。以降彼女達はアズールレーンから追われる身となっているわけ。そんな彼女達はアズールレーンからレッドアクシズ残党と思われてるってとこかな」

 

 一息つくためにコーヒーを啜る、やはりインスタントのコーヒーはちょっと苦い。今度ニーミに美味しい作り方を教わるとしよう。

 

「長くなったけど、分からないところはあったかい?」

 

「いや、大体はわかったよ。それで、その残党がグロース・アイゼンブルートだと?」

 

「俺の口からはとてもとても。次憲兵にひょっぴかれたら間違いなく処刑されちまう。意味、分かるよな?」

 

 アズールレーンが把握していない“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”という呼称。それを知ってるなんてバレたら、ねえ? その疑いをもたれてるからスパイだなんて呼ばれてるんだし。別に情報を渡したりはしてないけどな。本部に情報を渡してもないんだけどさ。立派な軍規違反なのは知ってるが、死んでも“彼女”を売る気はない。売ったが最後、俺は俺を許せなくなるし“彼女”の信頼を裏切りたくはない。俺の覚悟を感じ取ったのかワスカランはジッと俺を見つめるだけで、さっきのように睨んだりはしてこない。

 

「一つだけ、いいかい? ――指揮官は、誰の味方なの?」

 

 確かめるような、疑うような、縋るような――そんな目で俺をみつめるワスカラン。きっと不安なんだろう、自分も知る者も味方も誰一人おらず自分さえも分からない――俺には想像もできない不安に包まれているのは確かなんだろう――

 

「俺はお前たち艦船少女の、お前の味方だ」

 

「っ!! 指揮官っ!!」

 

 ドンっ! と音がしたと思ったらワスカランが俺の胸に飛び込んできていた。そうか、そうだよな、不安だったんだもんな……うん、やっぱり放っておけない――そうだ、俺はこの子を笑顔にしてやりたい、守ってやりたい。そう思った――

 

 

 

「バカ指揮官、ちょっと話が――な、何してんのよっ!?」

 

「んぅ……?」

 

 なんだ、うるさい……ああ、この罵倒はヒッパーだ。身体はもう大丈夫そうだな、こんだけ叫べてるわけだし。

 

「おはようヒッパー。朝から元気だなお前……」

 

「やかましい! とっととその子から離れなさいよっ!」

 

 何言ってんだ? その子? おいおいここは指揮官室だぞ? ここで寝るようなのは俺しかいないって。未だにガミガミ叫ぶヒッパ―から逃げるように布団に潜り込む。と、顔に何かが当たる。あったかくて柔らかくてなんとなく安心できるなにか……それだけじゃない、布団の中には柔らかいなにかが。抱き枕だろうか。まあいいや、これでも抱きしめてぐっすり昨日の疲れをとるとしよう。ぎゅーっと……

 

「んんっ、指揮官……もっと、暖めて……」

 

 ……んん? 今抱き枕が喋ったような。いやそんなことないか。抱き枕だし――

 

「すー、すー……指揮官、ボクを――」

 

「うわぁ!? わ、ワスカランっ!?」

 

 ワスカランだこれー!!?? な、なんで俺のベッドの中に……ってか、さっきの温かくて柔らかいのって、もしかして――

 

「こ、この……ヘンタイバカ指揮官!!」

 

「おぐぅ?!」

 

 ――何故かヒッパーにグ―で殴られた。お前には何もしてないじゃんかよ……




Q,“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”って?
A, ああ! それってレッドアクシズ残党?
  アズレンとレッドアクシズの抗争が既に終わってる
  でも一部が脱走して残党してる

 え? 四行だって? 答えは三行だから……

 艦船少女ってやっぱ柔らかいのかな? どんな匂いするのかな? やっぱ海の匂い? でも海の匂いってなんだよ。じゃあ女の子の匂い? 彼女いないからよくわかんね。でも柔らかそう……


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一夜明けて

 とりあえず今回でこの誰得展開も一区切り


「で、何でワスカランはバカ指揮官と一緒に寝てたのよ」

 

「いや、それはだな……アハハ……」

 

 まさか抱き着かれて泣き崩れてそのまま寝ちまって離れないから仕方なく寝た、なんて言ったらワスカランが恥ずかしさで死んでしまうかもしれん。どうしたものかと悩んでいると、おもむろにワスカランが口を開いた。

 

「指揮官は悪くない、ボクが頼んだんだ」

 

「は?」

「え?」

 

 何を言ってるんだ。そんなこと一言も言ってもなかっただろお前。一体どういう……

 

「そ、それじゃあアンタは自分の意思でバカ指揮官と同じベッドで寝たっていうの!?」

「うん」

 

 チラリとワスカランに目を向ける。変わらぬ無表情でヒッパーの問いに淡々と答えているが、一瞬だけこっちに見えるようにウィンクした。これは、庇ってくれてるのか? いやそもそも別にやましい気持ちとかは無かったんだが、まあいいか。

 

「それよりもヒッパー、指揮官に話があったんじゃないの?」

 

「あ、そうだった……」

 

 そういや部屋に入ってきた時にそんなことを言ってたな。ひょっとしてもう帰るとかそんなとこかな? 元々ヒッパーはウチの所属じゃないしな。

 

「そうだな、まずは聞かせてくれないか?」

 

「そうね、そのために来たんだし……バカ指揮官、私をアンタのとこに置きなさい!」

 

「いや、置いてるだろ」

 

 まあウチの所属なのは一時的なわけだが。それがどうしたのいうのか……なんだかヒッパーの目つきが厳しくなっている。これはもしかしなくても怒ってるのか……?

 

「アンタねえ……私は、アンタの下で働きたいって言ってんの! なにアホなこと言ってんの!?」

 

「それってつまり……転属希望?」

 

「そう言ってんじゃない!」

 

 別にそんなぷりぷりしなくても……でもまさか、ここに来たいとは予想外だったな。一日付き合ってもらったけど楽しいことなんて何一つなかっただろうし、楽しみがあるとは思えない職場なんだけどなあ。

 

「えーっと、本気?」

 

「本気」

 

「ここくっそつまんないよ?」

 

「知ってる」

 

「なのにここがいいの?」

 

「そう」

 

「でも――」

 

「ああもううるさいこのバカドジアホマヌケヘンタイ指揮官! 私がここに居たいって言ってるんだから居させなさいよっ! なに!? それとも私は置きたくないっていうの!? ふざけないでよっ! 誰がアンタの意見や許可なんか聞いてんのよ?! いいから黙ってうんって言ってればいいの! いい?! アンタが何言っても私はここにいるんだからね! ほらっ転属届けなら書いてあるのっ! あとはこれにアンタの判子押してくれればそれでいいんでしょ!? 早くしなさいよ! あーもうノロマなんだから! ほら判子貸しなさい、私がやったげるわよ。はぁ? ちょっと落ち着け!? アンタがぐずぐずしてるから私がこうして手伝ってあげてんじゃない! それなのにアンタはあれこれ理由つけて! あっちょっとそれ返しなさいよ!? なに? 冷静になれ? なってるでしょうが! アンタもしかして私が冷静じゃないって言いたいわけ?!」

 

「うん、ボクにはそう見えるけど」

 

 突然詰め寄られあたふたしていたところへワスカランが口を挟んだ。それでようやく冷静になったのか、ヒッパーの動きが止まった。と、すぐに顔が真っ赤になって――

 

「こ、この――バカァァァァァ!!!!!!」

 

 

 

「え~、このクソ暇な中わざわざ食堂にお集まり頂き誠にありがとうございます」

 

 三十分後、今はいないオイゲンを除いた基地メンバーを食堂に集め緊急の会議を行っていた。一日俺が離れていたため今日も三十六基地は平和そのもの暇だらけだ。招集をかけたらすぐに全員集まった。

 

「ねえ指揮官の頬腫れてない?」

「ホントですね。なにかあったんですかね?」

「上司に暴言でも吐いたのでは? 独房に入ってたほどですし」

「え? 独房ってなに?」

 

 なにやらひそひそ話が聞こえるがまあいい。ちなみに頬の腫れは大したことない。冷静に戻ったヒッパーが恥ずかしさからか平手してきただけだ。すぐに謝ってくれたし氷持ってきてくれたり冷やしたタオルを当ててくれたりもしてたし、ヒッパーは根は悪くなさそうだ。すぐ手が出る悪癖でもあるのだろうか……

 

「静粛に~。ほらひそひそ話はあとでやれ。っコホン、今日は全員に報告することがあってな。ほら、入ってこい」

 

 俺の声を合図に、ヒッパーとワスカランが入ってくる。ヒッパーに関しては昨日からしばらくいると連絡が回っているはずなので驚きはなかったが、ワスカランには皆一様に首を傾げていた。どことなくワスカランも居心地が悪そうに見えたので、安心させるつもりで頭を撫でてやる。あっ、帽子の上からだからな? 健全だから、憲兵さん呼ばないでね。

 

「紹介するぞ、静かに聞け。今日から三十六基地配属になるアドミラル・ヒッパーとワスカランだ。ヒッパーは元々一時的にオイゲンと交代する予定だったが、こっちに移ることになった。面識もあるだろうから問題ないと思うが、よろしくしてやってくれ。ヒッパーも、これからよろしくお願いするよ」

 

「ふんっ……そういうことだから、これからも世話になるわね。よろしく頼むわ、Z駆逐隊のみんな」

 

 よし、ヒッパーに関しては問題ないな。まあ心配なんてしてなかったけど。問題はワスカランだよなぁ。

 

「そしてこっちが工作艦のワスカラン。一応鉄血の所属なんだが、まあ気になることもあるだろうけど、一つ仲良くしてやってくれ。そうそう、艤装のメンテもやってもらうから、何かあればワスカランに相談すること。以上!」

 

 ワスカランについては事情が色々あって説明するのダルいんだよな……ともかく、仲良くしてくれると俺も助かるし、安心できる。

 

「はい会議終わり。今日も一日暇だから好きにしてていいぞ。あっニーミ、ワスカランを部屋まで案内してやってくれないか? 空き部屋ならどれでも――」

 

「必要ない」

 

 ……ん? 必要ないってどういう意味だ? 呼び止めたニーミと顔を見合わせるが、彼女も言葉の真意が読み取れないようだ。

 

「どういうこと?」

 

 ワスカランに向き直りじっと見つめる――恥ずかしいのかワスカランは帽子を深く被りそっぽを向く。この角度だと表情が読めないな。

 

「――ボクは指揮官の部屋で寝るから、いい」

 

 え?

 

「「「「「えぇー!!!!!」」」」」

 

 ――なんか、爆弾が落とされた




 ほのぼの日常とかあらすじに書いておいて誰得ストーリー繰り広げてる駄文があるってマ?
 次からきっとほのぼの書くから……

 ところで来月潜水艦が来ますね。僕の一推しはもちろんU-81ちゃんですよ。あーかわいいもちもちしてそう。一緒に潜水クルーズしたいね、あのバイクで


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私のかわいい指揮官

 今回からしばらく日常回になる予定です。書きたいことをとりあえず詰め込んだのでいつもより長いです。


「ふぅ……」

 

 扉を閉めると軽く溜め息をつく。面倒な要件が終わった安堵半分、やるせなさ半分ってところだ。オイゲンとヒッパーの交代期間も今日で終わり。ヒッパーを正式にウチの所属にしてもらうため第六十一鎮守府に来たわけだが、俺の報告を聞いた中佐殿は一言そうかと言っただけで終わった。俺にもヒッパーにもコメントしなかったのは正直意外を越えて多少腹が立った。まるでヒッパーがいなくても問題ないと言われたような気分になった。まあ、この規模の鎮守府ならそれも分かるが理解と納得は違うのだ。艦船少女は兵器である――正にそういうことなんだろう、一つ減ったところで戦力は減らないってか……

 

「やめだやめだ、そんなこと分かってたことだろう」

 

 アズールレーンの中で俺のように艦船少女の人格と意思を尊重する指揮官などそうそういない。ゼロとはいわないが、俺は出会ったことがない。まあ総本部にいるような高官共は当然といえば当然だが。

 

 それよりオイゲンを迎えに行くとするか。中佐殿の話だとそろそろ帰投する時間らしい。ドックへの行き方は――そこにいる子に聞くとするか。

 

「そこの君、ちょっといいかな?」

 

「? 綾波のこと、ですか?」

 

 綾波――重桜の駆逐艦だな。名前もだが、重桜特有のミミが生えている。これはセイレーン技術を取り入れた作用らしい。そう、重桜は元レッドアクシズだ。ちなみに鉄血も元レッドアクシズだったりする。鉄血では艤装にセイレーン技術を使っているため他の陣営と比べると生物に似た形状と独特の禍々しさを誇る。まあキュンネ達みたいに中々可愛げのある見た目の艤装もあるのだが――

 

「ドックにはどういけばいいのかな?」

 

「ドックですか? それなら……綾波が案内するのです」

 

 そういうと綾波はすたすたと歩き始めてしまった。場所が聞ければそれで良かったんだが、案内してくれるっていうならそれに甘えるとしようか――

 

 

「着いたのです」

 

 綾波に案内されやってきたドックはかなり大きく、控えめにいってウチの何倍かはある。流石最前線の鎮守府ってところか。

 

「では綾波はこれで失礼するのです」

 

「ありがとう、助かったよ」

 

 軽く手を挙げ感謝の意を伝えると、一度首を傾げ綾波はドックの奥へ行ってしまった。何か変な事でもしてしまっただろうか。それより、まだ艦隊は戻っていないのかな。きょろきょろ辺りを見渡すが、それらしい姿は確認できない。代わりに、見慣れた少女がこちらに気づき歩いてくる。

 

「にゃ、三十六の指揮官だにゃ。今日は燃料を持ってきてくれて助かったにゃ」

 

「一応補給基地だし、溜めてても使う機会はそんなにないしね」

 

 明石――猫耳と猫口調が特徴の重桜所属工作艦で、今はここの鎮守府に派遣されている。ウチも物資を融通したりしてもらったり、あと艤装のメンテでも大分世話になっている。

 

「だとしても助かるにゃ。それにお金じゃなくガラク――不要になった機材と交換でいいなんて、明石はとっても嬉しいにゃ」

 

「言い直す必要ないぞ……まあ、そんなガラクタでもウチにとっては宝の山でね」

 

 資金があっても総本部が新型の機材や装備をこっちに回すとは思えない。それなら多少ボロくてもここの型落ち品のが優秀だし、素材目的にバラしてもいいと至れり尽くせりだ。明石としても不良在庫が捌けるのでウィンウィンの関係ってやつ。

 

「それより、ここに何のようにゃ? ガラクタならもう搬入したのにゃ」

 

「ああ、オイゲンを迎えに――」

 

「あら? 指揮官じゃない。どうしたのこんなところに?」

 

 噂をするとなんとやら、背後からオイゲンがやってきていた。そういえばいつの間にかドック内が騒々しくなっていた。気付かない内に艦隊が戻っていたのか。

 

「久しぶりオイゲン。こっちに用があったついでにオイゲンを迎えにね」

 

「ついでって酷いわね……あら? ヒッパーは?」

 

「ヒッパーは、色々あってウチに転属することになった。もう中佐殿には報告済みだ」

 

 てっきり何か言ってくるかと思ったが、オイゲンはふぅんと言ったきり黙ってしまった。驚いた様子がないな、まるでこうなると分かってたかのような……まさかな。

 

「それで、問題がなければこのまま戻ろうと思うんだが。オイゲンはどうするんだ? 戻るか、こっちに残るか」

 

「勿論戻るわ――あ、でもその前に寄り道したいのだけど、いい?」

 

 寄り道? まあ急ぎの案件もないし別に構わないか。了承の意を伝えると、オイゲンはフフっと笑みを浮かべた――

 

 

 

「ごゆっくりどうぞ~」

 

 これでもかとフルーツとクリームが盛られたパフェが目の前に置かれ、しばし呆然とする。なんだこの量? これで一人前なのか? てか食い辛そう……運んできた店員はチラリと正面の席に座るオイゲンを見るとそそくさと去っていった。特盛パフェを食べにくる艦船少女、確かに珍しいだろう。艤装がないのでバレてないかもしれないが、それでなくても彼女の姿は目立って仕方ない。

 

 赤のメッシュが入った綺麗な銀髪、アンニュイでミステリアスな雰囲気。服装も結構派手。いやまあ軍服なわけだがワンピースタイプなのかスカートがない。そのくせ丈が短いので太ももは見えるわガーターも見えて色っぽいわ腋は隠す気ないしむしろ横乳が見えてしまっている。あと右乳房にある黒子も見えてるし……更にいうと丈のせいでパンツが見えそうで見えない絶妙なバランスを保ってやがる。ていうかコイツブラつけてんのか? もしかしてノーブラだったり……いやないな。ないがしかし。はっきり言って目に悪い。控えめに言っても美少女なんだよなぁ……

 

「どうしたの? 食べないの?」

 

 そんな美少女オイゲンとどうして街中の喫茶店に来ているのかというと、これがオイゲンのいう“寄り道”だからだ。寄り道というからてっきり知り合いの艦船少女に挨拶でもするのかと思っていたが、彼女は迷うことなく鎮守府の正門へ向かい、気付けば外へ出ていたわけ。そのまま真っ直ぐこの喫茶店まで来てしまったのだが……

 

「いや食べるけど……なんでまた喫茶店?」

 

「ここのパフェ、美味しくて量も多いって評判なのよ」

 

 一体どこからそんな情報を仕入れてくるのか。一口食べてみると口いっぱいにクリームの甘さが広がり、あとからフルーツの酸味が効いてきて確かに美味い。ちと甘すぎる気もするが、オイゲンは平気な顔でパクパク食べているし女の子にとってはこれくらい普通なのだろうか? というかスイーツなんぞ久しぶりに食べたな……やっぱ甘い、コーヒーでも頼んで口直ししよう。

 

「すいませーん、コーヒーお願いしまーす――それで、伝えておかないといけないことがあるんだが、今いいか?」

 

「食べながらでいいなら、いいわよ」

 

 それくらい構わないというか食べるのやめろとかいうくらいなら喫茶店で話なんかしないよ。えーっと、何から話せばいいかな。

 

「さっきも話したけど、ヒッパーがウチの所属になった」

 

「そうらしいわね」

 

「あと一人本部から艦船少女を預かってきた。紹介は戻ってからするから、一つよろしくしてやってくれ」

 

「そう」

 

 聞いてるのか聞いてないのかよく分からんな。まあそこまで重要なことじゃないし、言ってしまえば今はオフのような感じだ。このくらい目を瞑ろう。ちょうど注文していたコーヒーも届いたし、一息いれるか。

 

「ねえ指揮官。指揮官はどうして私達を人間扱いするの?」

 

 コーヒーを啜っているとプリンツがそんな質問をしてきた。やっぱりオイゲンも気になるのか。

 

「知り合いの影響。彼女がこういう考えの持ち主でそれに感化されたってとこ」

 

「ふぅん……」

 

 嘘は言っていないし要約するとこれで間違いはない。教える気は絶対ないけど。

 

「指揮官、彼女いたんだ」

 

「ぶっ!!」

 

 思わず吹き出してしまった、いきなり何を言い出すんだよ!

 

「お前なあ……彼女はそういうんじゃないよ……」

 

「あら違うの?」

 

「ちーがーいーまーすー。俺じゃ彼女と釣り合わないっていうか、そもそも……とにかくっ! 違うからな?」

 

 危ない危ない、テンパってとんでもないことを言いそうになっている、自制しろ自制……彼女と俺が? ありえないありえない。よし、オーケー。

 

「てか、なんでそう思ったんだ?」

 

「だってそんなに強い影響を受けるってことは、大事な相手なんでしょ?」

 

 っ――

 

「――くだらないこと言ってんじゃないよ。そうだ、残りのパフェ食ってくれないか? 俺にはどうも甘くて……」

 

 まだ半分は残っているパフェをオイゲンへ渡しコーヒーを啜る。そんな俺を見てオイゲンは溜め息一つ吐くと渡したパフェを食べ始めた。

 

「甘いのダメならそう言いなさいよ――いつか、話してくれる?」

 

「――いつかな」

 

 そう、いつか話せる日がくればそれに越したことはない――そのほうが“彼女”も喜ぶだろうか――

 

 

 

「で、今度はここか……」

 

 まだオイゲンの寄り道は終わらない。お次はいわゆるショッピングセンターの中にあるとある店前まで来ている。相も変わらず人目を集めてしまっているが、それはオイゲンのせいだけではなくこの店のせいでもある。

 

「いいでしょ? さ、入るわよ」

 

「いや待て! 待てって!」

 

 背後に回り目的の店へ俺を入れようと押してくるオイゲン。彼女の大きく柔らかい胸が押し付けられ何とも悩ましい状況――じゃなくって!

 

「ここ、女性服専門店じゃねえか! 行くなら一人で行け!」

 

「ダメよ指揮官。指揮官なら私達艦船少女が問題を起こさないように監視してなくちゃ」

 

 言ってることは確かに間違っていない。確かに艦船少女が軍施設から出る際は責任者がその動向を監視する必要がある。が、それとこれとは別問題だし、俺はオイゲンを監視する目的で着いてきてる訳じゃない。

 

「お前、俺に恨みでもあるのか!? 男がこんな店に入るなんて罰ゲーム以外の何物でも――」

 

「いいから入るっ」

 

 ……結局オイゲンに押し切られる形で店に入らされるのだった

 

 

「ねえ指揮官、これとかどう?」

「いいんじゃないか?」

 

「じゃあこっちはどう?」

「いいんじゃないか?」

 

「だったらこれとか? 結構派手なんだけど……」

「いいんじゃないか?」

 

「…………ヒッパーと私どっちが好き?」

「いいんじゃないか?」

 

「ちゃんと聞きなさいよっ!」

「ごはっ!?」

 

 突如腹部に鈍い痛みがはしる。どうやらオイゲンに腹パンをされたらしい。なんで俺がこんな目に……

 

「指揮官の意見を聞きたいんだから、真面目に見てくれない?」

 

「それが無理矢理連れてきた奴のセリフか……?」

 

 右も左もどこまでも店内は女だらけ、唯一の男客となってしまっている身としてはかなり居辛いものがある。そりゃ俺だって出来ることならとっととこの店からおさらばしたいものだ。

 

「大体、俺は服のセンスとかないからよく分からん」

 

「仕方ないわね……じゃあ選べとは言わないから、何着か試着するから感想言って」

 

 ……それはそれで辛いものがある。主にオイゲンが試着している間一人残されるってところが。だがまあそのくらいはしてやるか。変なことされるくらいよりまだいいはず。了承の意を伝えるとオイゲンは悪戯な笑みを浮かべ売り場へ向かっていった――あれ? 俺放置されてね?

 

 

 周りの目線に耐えつつ試着室の近くで待つことしばし、ようやくオイゲンが買い物カゴをぶら下げてやってきた。今更だが俺ではなく誰か艦船少女を誘えばよかったのでは……少なくとも俺よりマシな対応をしてくれただろうに。

 

「じゃあ試着するから待ってて。なんなら一緒に入る?」

 

「入らないから」

 

 そのままオイゲンが試着室に入る。俺はその横で手持ち無沙汰のまま待ちぼうけ。相変わらず視線が気になって仕方ない。が、それよりも重大な問題が発生してしまった――ごそごそと何かの音が聞こえる。いや分かっている、これはオイゲンの衣擦れの音だ。考えないようにしたいが、そうすればするほど考えてしまうのは男の性だからだ、仕方ないんだ。大体オイゲンはスタイル抜群だしなにかとからかってくるしたまに胸を押し付けてきやがるし……

 

「きゃっ!――」

 

 突然オイゲンの悲鳴が聞こえた。なんだ? ズッコケでもしたか?

 

「し、指揮官助けてっ!」

 

「っ!? どうしたっ!」

 

 ――そんな考えもすぐに掻き消えた。咄嗟に試着室の仕切りを開け中に入ると同時にオイゲンが抱き着いてきた。いつもの彼女らしくなく身体が震えている。

 

「し、指揮官……」

 

「ああ、俺だ。どうした? 何があった?」

 

「指揮官…………捕まえた」

 

 は?

 

 ニヤリと笑みを浮かべ更に密着するように抱き着くオイゲン。しかもいつの間にか仕切りが閉められている。そこにはついさっきまで何かに怯え震えていた少女はいなかった。

 

 は?

 

「……オイゲン?」

 

「あら? どうしたの指揮官?」

 

 いやどうしたのじゃねえし、どうなってんだよ。

 

「お前、今助けてって」

 

「あらそんなこと言ったかしら?」

 

 言った! 絶対言ったぞコイツ! ああそういうことか。つまりこれもいつものからかいってこと――

 

「ところで指揮官? この水着どうかしら?」

 

「は? 水着――水着!?」

 

 そういえばどことなくいつもより柔らかい感触が――っ!?

 

「ば、バカ離れろ! 大体試着室に男を入れるんじゃないっ!」

 

「指揮官が入ってきたんじゃない」

 

「それがお前が悲鳴なんてあげるから!」

 

「心配してくれたの? 嬉しいわ指揮官。嬉しいから放してあげるわ」

 

 そういうとオイゲンは俺が何か言う前に俺を突き飛ばした――試着室の奥へ。

 

「いつつ……おい、オイゲン……っ」

 

 打った頭を押さえつつ、文句を言おうとして顔を上げた俺は言葉を失った。黄色のラインの入ったビキニタイプの水着が白い肌をより強調し、着痩せするタイプなのか元より大きいと思っていた胸に食い込み不適な笑みを浮かべこちらを見下ろす姿がより一層エロスを醸し出す

 

「~っ!?」

 

――彼女に見惚れた――そのことに恥ずかしさを感じた俺は咄嗟に顔を背けた。恥ずかしさもあるが、正直今のオイゲンは目に毒だと思った。いい意味で。

 

「ほら指揮官、感想は? 感想を言う約束だったでしょ?」

 

 そんな俺の心境など知ったことかとじわりじわりと寄ってくるオイゲン。いや確かに感想言うとは言ったが水着とは思ってなかったし何よりこの状況がまず不味い! 冷静に、冷静に――

 

「ひょっとして興奮しちゃった? かわいいんだからー、もう」

 

 遂に目の前までオイゲンが来てしまう。立ち上がらない俺に合わせるようにしゃがみ込み、さらっと視界に胸を入れやがる。これ以上首を回すことは出来ないので諦めて正面を向く――それに合わせてなのか偶然なのか更に身体を密着させるオイゲンの胸の中に頭が入ってしまい……

 

 ――冷静になれるかこんなもんっ!!

 

 

 

「悪かったわよ、だからそろそろ機嫌直しなさいよ」

 

「…………」

 

 鎮守府への帰り道、試着室でのあれこれからずっと黙っている俺にさっきからオイゲンがあれこれ話しかけてくる。確かに直後は不機嫌な顔をしていただろうが、もうそれは治まっている。

 

「悪ふざけが過ぎたのは自覚してるから、ね?」

 

「…………」

 

 ぶっちゃけ、単に気恥ずかしいだけだ。脳裏に水着姿のオイゲンが焼き付いてしまったのかまともにオイゲンの顔を見れない。かといって正直に言えばからかいのネタになるのは必至だ。

 

「はぁ……」

 

 根負けしたのか、それとも無言の俺に飽きたのか深い溜め息をついたあと黙ってしまった。どことなく居辛そうな感じに見えるのは俺の気のせいだろうか……何にせよ、流石にこのままじゃオイゲンにも悪いか……

 

「…………公園でも寄ってくか」

 

「え?」

 

 きょとんとした声をだすオイゲンを置いて目に入った公園へと足を向ける。適当なベンチにオイゲンと一緒に座るが、やはりどことなく距離をとっているように感じる。実際そんなことはないのだが、なんだ?

 

「なあオイゲン」

 

「……ゴメンなさい」

 

 何か言う前に謝られた。これはきっとまだ怒っていると思われてるな……

 

「もう怒ってないよ」

 

「……本当?」

 

「やりすぎだとは思うが。悲鳴を上げながら女性服専門店から逃げ出す男の気持ちがお前に分かるか?」

 

「……さっぱりね」

 

 だろうな、俺も分からん。いきなりのことでテンパってたのだけは覚えている。正直恥ずかしいというか穴があったら入りたいというか、確実に不審者のそれだ。

 

「そういえば感想だが……似合ってた。それもとても……」

 

「え?」

 

 なに意外そうな顔してやがる、お前が感想欲しいっていったから。でもさっきは言う前に逃げ出したから今言っただけで……あ~くそっ! 恥ずかしさでオイゲンの顔を見れない! またかっ!

 

「飲み物買ってくる。待ってろ」

 

「あ、ちょっと指揮官っ」

 

 結局適当な言い訳でまたその場を逃げ出してしまった。面と向かって感想ってのも中々こっぱずかしいものがあるな……ただああ言った以上何か買ってこないとな。自販機くらいあるだろ。

 

 

 ――近くに自販機が見当たらず結局十分ほど経ってしまった。なんでこの辺には自販機が少ないんだ。無駄に時間を取られてしまった。オイゲンは待ってくれているだろうか……おや?

 

「――――」

 

 何やら通りすがりの男二人に絡まれてるオイゲン。これはあれだな、ナンパってやつだ。あの男達オイゲンが艦船少女だって知ってるのか? いや知ってたらナンパなんてしないか。遠目からみても分かるくらいオイゲンは不機嫌そうだし。ていうか全く相手にしてないな。とりあえずここが俺が一言言ってやるか。

 

「――――っ!」

 

 だがそれも男の一人が無理矢理オイゲンの手を引っ張ったのを見たことで無くなった。一言注意するだけで済まそうと思ったが、心のどこかから怒りが湧いてきた――

 

「おいお前ら! 何してやがる!」

 

 その感情に逆らわず声を張り上げた。当然男二人もオイゲンも俺に気づいたようで、男二人がこっちにガンを飛ばしながら近づいてくる。

 

「あ、指揮官……」

 

 が、オイゲンの口から洩れた言葉に男二人の動きが止まり、すぐに真っ青になる。当然だ、鎮守府の近くで指揮官と呼ばれる存在は十中八九軍人だと誰もが知っていることだろう。俺はここの所属じゃないけど。

 

「そいつは俺の女だ、とっとと消えろ」

 

 自分でも驚く程低い声が出た。それに、なんで俺の女だなんて……艦船少女だって言ってもこの場は収まっただろうに……いつの間にかナンパ男達は影も形もなくなっていた。頭を振りながらオイゲンの元へ向かう。

 

「あー、大丈夫だったか?」

 

「え? ええまあ。それより指揮官、今のって……」

 

「他意はない、気にするな……あのほうが追い払えそうだと思っただけだ」

 

「……ふぅん」

 

 手渡した缶コーヒーを飲みながらこっちをマジマジと眺めるオイゲンを他所に鎮守府へと歩き出す。その横をオイゲンがついてくるのだが、さっきまでと違い何やら楽しげだ。

 

「なにか楽しいことでもあったか?」

 

「そうね、あったわ。アンタのおかげよ」

 

「俺の? うわっ!?」

 

 何がだと聞き返す前にオイゲンが腕を絡め、耳元にずいっと顔を寄せ――

 

Ich liebe dich.(イッヒリーベディッヒ)好きよ、指揮官――」

 

 そう口にして――~っ!?

 

「お、お前、またからかって」

 

「本気か冗談か、どっちだと思う?」

 

 そう口にする彼女はいつもと違う、明るく柔らかな笑みを浮かべていて――

 

「知るか、俺は先に行くからな」

 

「あ、待ちなさいよ指揮官っ」

 

 こんな表情のオイゲンもいいなと思ってしまったことが恥ずかしく、オイゲンを振り払い早足で鎮守府への道を急いだ――




 というわけでオイゲン回でした。オイゲンの魅力伝わった? そもそも皆オイゲンの魅力には気付いてるよね?
 いつもアンニュイな感じなのに指揮官を誘惑するようなからかいをしてクスクス笑ってるけどさりげない気遣いが出来たりでも無意識の内に指揮官に惹かれていって次第にからかいじゃなく本気で誘惑してきたりヒッパーのことからかってるけど実はヒッパーとブリュッヒャーにだけは本音を零せたりこれは妄想というか希望なんだけど二人にだけはたまに甘えたりしてると尚グッドだしそういう一面を指揮官にだけは見せてくれて指揮官だけは特別みたいなこと言われて昇天したいあとあの暴力的なくせに着痩せするおっぱいとか素晴らしすぎてヤバい水着のオイゲンおっぱいは大きいだけじゃなく紐を吊り上げてるせいで水着が食い込んでむにゅっとした感じになっててすっごい柔らかそうだしウェールズ仕込みのあのポーズも悩ましくてもうヤバいそのうえあの位置の黒子ってもう黒子ピンポンダッシュしろってことじゃん俺は黒子なんて別段興味なかったけどオイゲンというかアドミラル・ヒッパー級のせいで黒子属性にも目覚めそうおっぱいの次はお尻だよねなにあのプリケツ卑怯でしょヒッパー級の制服ってスカートじゃないっぽいけどどうなんだろこの小説ではスカートじゃないってことにするとしてあのプリケツはもう履いてないと言われても仕方ないし正直あのプリケツに惹かれたせいでアズレン続けてるとこあるしそこからの太ももが眩しくて眩しくてあーもうえっちすぎるでもでもそんなえっちな年上お姉さん感溢れるのに戦場では熱く激しく敵に向かっていく芯の強いところがありそうでよいぞよいぞ幸運艦として有名だけどそんな渾名を嫌ってるのか悪運だと卑下するアンニュイオイゲンに幸せを徹底的に教え込んで幸福感という名の海に沈め落としてやりたいオイゲンが心の底から笑った時そこにはきっと決して散らない最高に最強に綺麗で素敵な鉄の華が咲くに決まってるでも幸せオーラ全開なのは指揮官の前だけで他の艦船少女の前では普段通りにして過ごして二人きりになった途端ダダ甘えられたいつまりなにが言いたいかっていうと

後書き先駆者兄貴達すまない、本当にすまない。やってみたくなっただけで他意はないんだ本当にすまない


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もっと、上へ

 日常回、ニーミ先生です。ニーミの可愛さ伝わるといいなー


「指揮官、起きて下さい。朝ですよ?」

 

 耳元で囁く声に目が覚める。いつもと同じ朝の始まり。気だるい身体を起こし顔を上げると、目の前にニーミの顔が見える。

 

「おはようニーミ。今日も一日よろしく」

 

「こちらこそ、指揮官閣下――それより、“また(・・)”ですか?」

 

 呆れたように布団へ視線を投げるニーミ。そこには寝息を立てながらぐっすりと眠るワスカランの姿が。この基地に来て以降毎日これだ。爆弾発言もされたが流石にそれはマズイってことでワスカランの部屋を用意してやったのだが、毎晩俺が寝た後ちゃっかり忍び込んでくる。鍵を閉めたことで回避した日もあったがそれも僅か一日、次の日には合鍵を作ったのかまた忍び込んでいたため若干諦め気味になっている。

 

「全く、指揮官はワスカランさんに甘すぎます。これでは他の士官の方に示しがつきませんよ?」

 

 そのため毎朝起こしに来てくれる秘書艦であるニーミにとってはこの光景も見慣れたものだろう。理解も納得もしてないようだが、そればかりは俺にはどうしようもない。

 

「そんなに甘いか? それに俺は期待なんて大してされてないから外聞なんてどうでもいいよ」

 

「ですがっ! ……はぁ、もういいです。さあ、今日も一日頑張りましょう」

 

 また溜め息を吐きながらもニーミは仕事に取り掛かり始めた。これもまた、いつもの光景である。

 

 

 

「備蓄資源の管理表は」

「これです」

 

「委託の計画表は」

「こっちです」

 

 こちらが言い切る前に目当ての書類を差し出してくれるニーミは優秀で気配りもできてとても助かっている。流れのままずっと秘書艦をしてもらっているが是非このまま任せたいものだ。なんでこんなに優秀な子がウチになんて配属されたのやら。

 

「ワスカラン、連絡ボートの補修案はどうなってる?」

 

 少し離れた場所で自分の艤装を弄っているワスカランに話しかける。仮工廠も出来たのでそっちでやればいいと思うが、何故かここでやりたがるのが謎だ。

 

「それならZ23に提出してある」

 

「あれ? そうなのか?」

 

 ニーミからはそんな報告は受けていないが……チラッとニーミを見ると強張った笑みを浮かべたニーミがこっちを見ながら必死に書類を漁っていた。

 

「ニーミ?」

 

「あ、あはは……私の担当でしたね。忘れてた……」

 

 ……優秀なんだが、たまにちょいミスを起こすんだよな。でもまあ、そのくらい誰だってあるだろうし大した問題にならないのなら別に構わない。

 

「いいよそれくらい。補修案はあるんだろ? なら一緒に見積もりをやってしまおう。コーヒー淹れてくるから準備してて」

 

「あっ、はいっ」

 

 インスタントで申し訳ないがな。一息入れてやればニーミも多少は気が楽になってくれるだろう。

 

 

「終わりました。はぁ……」

 

「お疲れニーミ」

 

 見積もり作業自体は一時間程度で終わった。まあ見積もりといっても大したことはない。資材は例のガラクタでどうとでもなるからな。だってニーミは仕事を失念していたことのほうが堪えているみたいだし。

 

「ニーミのおかげで早く終わったよ、ありがとう」

 

「いえ、秘書艦として当然のことです。それに指揮官も手伝ってくれましたし」

 

「それこそ気にするな。元々この手の仕事は俺がやるべきことだ。ニーミに手伝わせてることこそ問題だ」

 

「いえ、ですが私は秘書艦なので……」

 

 まあ確かに秘書艦は指揮官を補佐するのが仕事だから、ニーミの言葉も分からなくもない。けど当の指揮官よりよく働くのはどうなんだ? いや助かるっちゃ助かるんだが……俺が仕事しなさすぎなのか? いやそもそも仕事がそんなにないんだが……

 

「それで指揮官、残りの仕事は?」

 

「ん? あーそうだな……急ぎの案件はないし、今日はもう上がっていいぞ」

 

 この基地の仕事なんて資源備蓄とそのための委託任務くらいだ。近海警備に回すだけの戦力はないし、それも近場の基地や鎮守府の連中がやってくれる。散発する戦闘にも演習にも召集されたことはない。そのため今日のように昼前に業務が終わることは少なくない。

 

「え? もうですか?」

 

 ただまあそれが気になる子もいるようだ。ニーミみたいな真面目そうな子にはこんな窓際基地は合わないと思うことはしょっちゅうだ。それでもこの基地を離れようとしないのは不思議だ。やはり命令に従っているだけなのか? いつもならこの後も執務室でだらだら過ごし、大抵の場合ワスカランと一緒に飯を食うことになる。ちなみに今ワスカランは執務室にはいない。補給物資が届くタイミングだったので追い払っておいた。何かしら理由がないとアイツは執務室を離れないのはなぜなんだ……

 

「なあニーミ、一緒に飯でも食わないか?」

 

 ニーミのことをもっと知りたいと思った俺は気付けばそんなことを口にしていた。まあ一人悲しくカップ麺を食うよりはいいだろう。カップ麺はいいぞ、お手軽でジャンクな味が中々の中毒性を誇り俺を執務室から出そうとしない悪魔の食い物だ。買った覚えもないのにいつの間にか補充されているパンドラの箱。まあきっとワスカランがこっそり発注でもしてるんだろう、あいつもカップ麺中毒者だし。とにかく、俺はニーミのことをもっと知りたいんだ。

 

「私と、ですか?」

 

 当のニーミは驚きの表情でこっちを見ている。まあそれもそうか、カップ麺野郎からお誘いされるとは思ってもないだろう。基本俺から飯に誘うことはない。誘われりゃいくけどね。

 

「そう、ニーミと。ダメかな?」

 

「あ、えと……分かりました」

 

 なんとか了承してくれたな、良かった。さて、食堂にいくとするかっ。

 

 

 

「お待たせ。まあいつも通りシュバイネハクセとハーファーフロッケンだけどね」

 

 料理を盛った皿をテーブルに並べ終わるとニーミの正面に座る。昼間っからこれはちょっと重いかな。

 

「これ、指揮官が作ったんですよね?」

 

「ん? まあな。まだ下手くそだから口にあえばいいんだが」

 

 教えて貰ったレシピの通りに作ってるだけだからな、ニーミでもすぐ作れるだろう。俺だって最近まで料理自体したことなかったし。

 

「じゃあ、いただきます」

 

 ニーミがシュバイネハクセを口に運ぶ。ゆっくり味わうように咀嚼していき、ごくんと喉を鳴らしそれを呑み込み――

 

「あの指揮官、そんなに見つめられると食べ辛いのですが」

 

「あ、悪い。そういうつもりじゃなかったんだが。気に障ったのならゴメン」

 

 咄嗟に顔を背ける。気を悪くさせてしまっただろうか……

 

「いや顔を背けろとまでは言ってないのですが……やはり指揮官は変な人です」

 

「変?」

 

 変? 変か? いや変か。自覚もあるし言われたこともあるしなあ。

 

「変ですよ。私達を対等に扱ったり、要望は大体聞いて、食事すら作ってくれる――第一、艦船少女を人間扱いしているのが一番変です」

 

「まあ確かに珍しいだろうな。あっ、飯に関しては違うぞ? 作ってくれって言われたから作り始めただけだ」

 

「そうなんですか? 一体誰が……」

 

 すぐバレるだろうけどあえて俺の口から言う必要はないな。シュバイネハクセとビールの準備をせがまれただけだし。その延長でキュンネからハーファーフロッケンのレシピも教われたし。ちなみにシュバイネハクセの作り方はオイゲンから教わった。あの子は横でそうじゃないこうじゃないと騒ぎ立ててただけだった。

 

「まあそういうわけで変な指揮官なんだ。こんな俺についてきてくれるんだから要望や飯の一つや二つこなさないとね」

 

「それは……ですが就寝まで共にする必要はないのでは?」

 

「……善処します」

 

 あれは俺のせいじゃなくて勝手に忍び込んでくるワスカランのせいなんだけど……示しがつかないのは確かなだけに反論できない。苦笑を浮かべるとニーミは呆れ顔になってしまった。よく愛想尽かされないな俺。

 

「こほんっ……まあそれに関しては情状酌量があるとして、私個人として指揮官に文句があるわけではないです。いえあるにはあるのですが、些細なことなので」

 

「あるのか」

 

「あります――私は、もっと上を目指したいです。もっと強くなって、仲間を守れるような……指揮官の下でならそうなれるような、そんな気がするんです。ですから、私の期待を裏切らないで下さいね?」

 

 これはまた、責任重大だ。ニーミの真剣な眼差しを裏切るわけにはいかないな。

 

「ありがとう、期待に沿えれるように頑張るよ。だから一緒に上を目指そうな」

 

 そう感謝の意を伝えたらニーミがポカンとした顔をしてしまった。なんでこの子達はたまにこんな顔になるんだ? きっと俺が彼女達から見て変なせいだろう、うん。

 

「一緒に、ですか?」

 

「ああ、一緒に。というわけで、美味しいコーヒーの淹れ方を教えてくれないか? ニーミの淹れてくれるコーヒーは美味しいからお気に入りなんだ」

 

「っはい、分かりました。さ、指揮官、こちらへ」

 

 笑顔で厨房に向かうニーミを見るに、彼女に嫌われているってことはまずなさそうだ。さて、ニーミと一緒にもっと上の味のコーヒーの淹れ方を教わるとするか――




 オイゲンの時の半分じゃねえかコイツこんなのでニーミ先生流行らせる気あんのかよ。改造絵公開した公式のがよっぽど有能だよな。見ましたあれ? 腋太もも横乳。そしてチラリと覗く黒パン。えっちえっち。かと思えば凛々しい表情とかっこよく翻るマントそして艦種間違えたんじゃないかってくらい凄い艤装。鉄血のランチャーかな? これはきっとバスターガンダム(年代バレそう)


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一時の安らぎ

 遅れたうえに短くてすまない……


「はぁ、今日もこれなのね」

 

「文句言わずに頑張りましょう」

 

「あはは。ボクは海を走れるから好きだけどね」

 

 海を駆ける三人の少女。ヴィルヘルム・ハイドカンプ、ヘルマン・キュンネ、カール・ガルスタ―の三人だ。彼女らは最近の日課となっている委託任務に従事している真っ最中である。

 

「でも毎日毎日こればっかりよ? 流石に飽きてきたわ」

 

 口を尖らせているのはヴィル。彼女の言う通り、三十六基地メンバーの任務といえば委託に出るか暇潰しをするかの二択だ。窓際基地だけあって本当に暇である。

 

「これも立派な任務です。気を抜かずに行きましょう」

 

 キュンネは真面目。どんな任務も百点を出せるように精一杯頑張る。

 

「でもキュンネ、こう毎日毎日これじゃ何のために転属したのか」

 

「でも転属してこなければずっとドックで待ちぼうけでしたよ?」

 

「それはっ! ……分かってるけど……」

 

「――よしっ! じゃあこうしようっ!」

 

 カールはいつも元気一杯、委託任務にも別に不満は無さそう。そんなカールからある提案がなされ――

 

 

 

「一日外出権?」

 

「そう!」

 

 なんだそりゃ? それじゃまるで俺がこの子達を縛り付けてるみたいじゃないか。これはつまり、休日がほしいってことだろう。確かに、休日なんて碌になかったからそうなってもおかしくはない。ほぼ毎日昼過ぎには業務が終わってるクソ暇基地だけどね。

 

「まあそれくらい構わないよ、休日もあげれてなかったし。でも、うーん」

 

「何か問題でも?」

 

「アンタまさか、休日寄越さないつもり?」

 

 ヴィルが睨んでくるが決してそんなつもりではない。ほしいというのならいくらでもくれてやるくらいの気持ちでいる。

 

「問題があるとすれば、この基地周辺には海しかないってことだ」

 

「「「あぁー……」」」

 

 そう、そうなのだ。休日? むしろ毎日が半ドンだ。そしてここは何もない窓際基地――かといって、このまま諦めてくれと言うのは憚られるな……あ、そういえば本部近くに新しくシーパークが出来たと聞いたな、そこに誘うか――

 

「三人共、ちょっと提案があるんだけど――」

 

 

 

 というわけで翌日。“ちょっとした条件”と引き換えに本部近くの無人島に遊びにやってきた。え? シーパークじゃないのかって? 艦船少女の利用は許可できないとか言われたからな。でもまあ、こっちのほうが人目を気にしなくて済むから良かったかもしれない。

 

「指揮官、何をしてるんです?」

 

「そうだよ! 早く遊ぼうよー!」

 

 普段と違いスク水姿で水掛けあいをしているキュンネとカール。ヴィルは日陰で休んでいるが、これまたスク水。小さいスク水少女三人を連れまわす男とか最近だと通報されかねない案件だ。そういう意味でも良かったかもしれない。

 

「はいはい、もう少ししたらな。ヴィルは遊ばないのか?」

 

「日焼け止め塗ったらね。てかアンタもいい趣味してるわね、スク水なんて」

 

「これしかなかった。なんでも潜水艦少女用に試作したやつなんだと」

 

 まあその中の規格落ち品だが、まあ水遊びする分には普通のスクール水着と何も変わらない。なんでスクール水着なのかは俺も知らん。

 

「ほら指揮官っ、早く行こう!」

 

 ふと陰が差したと思ったらカールが俺の手を引っ張っていた。どうやらいつまで経っても俺が来ないことに痺れを切らしたらしい。にしても相変わらず元気だよなカールは。

 

「分かった、分かったから! でも俺は水着じゃないから!」

 

「じゃあ砂浜で追い駆けっこだね! ボク一度やってみたかったんだ! よしっ、指揮官が鬼ね!」

 

 そういうとカールはタタっと駆け出してしまった。鬼ごっこ、鬼ごっこ? 砂浜で追い駆けっこってたら普通は……まあいいか。せっかくだしいくらでも付き合ってやるとするかっ!

 

 

「はぁ、はぁ……疲れた……」

 

 あのあとキュンネやヴィルを巻き込んでひたすら遊んだ。結局水かけにも参加させられて全身びしょ濡れだ。三人は元々水着だからいいが、俺の場合は……早く乾けばいいが。

 

「いやー遊んだ遊んだ!」

 

「指揮官、大丈夫ですか?」

 

 カールはご満悦みたいだ。反してキュンネは俺の心配ばかり。せっかくの休日なんだからもっと楽しんでくれれば良かったのだが、まあ俺にも非はあるからなんとも言えない。

 

「うぅ、せっかく日焼け止め塗ったのに……」

 

 ああ、まあ……あれだけ水がかかれば致し方ないな。男の俺にはよく分からんが、気落ちするのは分かる。

 

「でも楽しかっただろ?」

 

「それは……うん。あっ! べ、別にアンタに感謝なんてしてないからねっ!」

 

 はいはい感謝ありがとう。ヒッパーといいヴィルといい素直になれない子なんだな。最初はただ嫌われてるんだと思ったよ。

 

「キュンネもそんなに気にしないで。今日の休日は何点かな?」

 

「そうですね……七十点です」

 

 七十点か、及第点だな。今度はもっといい休日をあげれればいいのだが。ボートへ向かって歩き始めると、突然誰かが抱き着いてきた/

 

「えへへー」

 

これは、カールか? 濡れるからやめとけって。あと女の子に抱き着かれるのちょっと恥ずかしい……遠くでキュンネとヴィルが顔真っ赤にしてこっちを見ている。まあその感情は全く違うようだが。

 

「カール?」

 

「今日は楽しかった! 本当に! それに指揮官はいつもボク達のことを気にかけてくれるし、指揮官のところに来て本当に良かった!」

 

「お、おう」

 

 そう言って貰えるのは純粋に嬉しいな。少しこっぱずかしいが。でも笑顔のカールはまた可愛いな……

 

「ねえ指揮官」

 

「ん?」

 

「指揮官のこと、お兄ちゃんって呼んでもいい?」

 

「お兄ちゃん?」

 

 お兄ちゃん。お兄ちゃんか……一人っ子だったから新鮮な響きだな。艦船少女は見た目通りの精神年齢らしいし。

 

「うん、指揮官はなんていうかお兄ちゃんって感じなんだ。それに、その方が仲良しみたいじゃない? ダメかな?」

 

「――いや、いいよ」

 

「やったっ、ありがとお兄ちゃん!」

 

 ……これはこれで、恥ずかしいというかなんというか、でもこういうのもいいな。




 実質カール回じゃねえか、相変わらず短いし……
 Z駆逐娘ズの回のくもりだったんだけど自分の中でキャラが固まってないとこうなるのか。次回があるのならもっとまともなモノにしないとなー。
 あ、バレバレだけど三人の中だとカールが一番好き


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縛鎖、打楔、包み込む鉄の処女(アイアンメイデン)

 今回で日常回は終わり。ヒッパー回は闇に消えました。反省点が多すぎるんだよなぁ……


 夢を見ている

 

 深淵へと沈みゆくボク――青空は遥か上空の彼方、深すぎるここからは見ることすらできない

 

 生命が何一つ存在しないその海の底から何かがボクを見ている

 

 あれはボクだ。ボクではないボク(・・・・・・・・)

 

 姿もなく、存在さえもしていないボク。けれどボクは確実にボクを見ている

 

 ――違うよ――

 

 何が違うというのだろう。ボクとキミがボクであることは間違いないはずだ

 

 ――違う。だってキミはボクじゃない――

 

 そんなはずはない。ボクはボクだ。キミだってボクのはずだ

 

 ――ならキミの名前を言ってごらんよ――

 

 名前? ボクの名前。そう、ボクは……あれ?

 

 ――そうだろうそうだろう? キミには名前がないんだ!――

 

 嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ! 名前。あったはずだ。ボクは。ボクは……

 

 ――キミはただの失敗作。そうさ失敗作!――

 

 違う

 

 ――愚かな人間に造りだされた歪んだ存在――

 

 違う。違う違う違う!

 

 ――本当は分かっているはずでしょう?――

 

 違う違う違う違う違う……

 

 ――キミは、何者でもないって――

 

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!!

 

 ボクは、ボクはっ!

 

 ボクは一体……どうして――

 

 

「っ!?」

 

 またこの夢だ。ボクではないボクがいる夢。そのもう一人のボクに全てを否定される夢。胸の奥から込み上がる負の感情――ボクは、ボクは――

 

「ボクは鉄血の工作艦、ワスカラン……」

 

 そうだ、そのはずだ。でも、ボクには素体がない。記憶がない。鉄血の艦船少女からもワスカランだと認識されない。ボクは、本当にワスカランなのか?

 

 自己否定が始まる。ボクは失敗作。歪んだ存在。望まれぬ存在――嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! だって、ボクはここにいるのにっ!

 

「…………行こ」

 

 不安と恐怖に苛まれるとボクは決まって“あそこ”に行く。ボクが安心できる、唯一の場所。ボクを認め、存在を許してくれる場所。ボクを優しく包む、暖かい場所。

 

 深夜の基地を歩く。道筋は身体が覚えているのか考え事をしていても勝手に足が動く。そうして僕は辿り着いた。指揮官室――合鍵を使い中へ忍び込む。ベッドで眠る指揮官の姿を見ると胸の中に安堵の気持ちが芽生える。一人用の狭いベッドに潜り込み、指揮官に抱き着く。これが一番安心する。ボクを包み込むこの人が、ボクにとっての最大の癒し――

 

「おやすみなさい」

 

 やっとボクは、悪夢から目覚めることができる――

 

 

 

「精が出るな、ワスカラン」

 

 昼過ぎ、指揮官が秘書艦のZ23を連れて工廠にやってきた。どうやら連絡ボートの補修具合が気になる様だ。小破してしまったボートが使えないとなるとこの基地は更に仕事が減る事だろう。

 

「仕事だからね。修理は終わったよ。ついでに装甲を厚くしておいた」

 

「おっ、それは助かる」

 

「その代わり遅くなってるかもだけど……」

 

 実際装甲版を貼ったりした程度、バランスも良くないし正直最新型のCPボートを買いたいくらいだ。けどこっちに回してくれることはないだろう。物好きな誰かが寄付してこないかな。

 

「ところでワスカランさん、今日も指揮官の部屋に行くんですか?」

 

 頭を撫でてくれる指揮官と違い、呆れ顔でZ23が聞いてくる。ボクだって指揮官の迷惑になってることは知っている。世間体が良くないことも、皆から変な眼で見られていることも。

 

「……行かないように努力はする」

 

 一応毎日努力はしている。そもそも努力する気がなかったら最初から指揮官の部屋で寝てるさ。

 

「それより指揮官、もっといいボートは手に入らないの? 正直な話、このボートで前線に出てこられても。せめて電子機器だけでもマシな物にしてほしいんだけど」

 

「あー無理。ウチにそんな物回ってこないから」

 

 全く指揮官は……自分の身がかかっているんだからもっと真剣になってほしい。見てみろ、Z23も苦笑いしているくらいだ。今度明石に相談してみるか。

 

「一応伝えておくけど、戦艦の主砲や空母の爆撃なんて食らったら一瞬で沈むと思う。重巡クラスの一撃だって、この前は運が良かっただけであれも危険なんだからね?」

 

「重巡の一撃? ……指揮官、そんな報告は受けてませんよ?」

 

「あ、あー……」

 

 報告してない? 思いっきり徹甲弾が貫通したんだけど、どう誤魔化してこの補修案を通したんだろう。いや、それよりもなんで報告書を作らなかったんだろう。

 

「この前セイレーン部隊とかちあってね。ヒッパーがなんとかしてくれたから助かったよ。ゴメン、次からはキチンと報告するから」

 

 指揮官のその言葉に胸の奥がチクりと痛んだ。ヒッパーがなんとかした? 違う、あれは……そうか、指揮官は隠したがっているのか、あのことを……確かバレたらスパイ容疑で捕まるとか言ってたけど、本心はそこじゃないんだろう、きっと……そう思うと、また胸がチクりと痛んだ……

 

「……大した損傷じゃなかったから、心配をかけたくなかったんじゃないかな?」

 

 そういうことにしておこう。実際指揮官は優しいからそういった理由もあるだろう。“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”のことを、指揮官はどこまで知っているんだろうか……

 

「……そういうことならまあいいです。でも、次からはちゃんと報告して下さいね?」

 

「分かった分かった――ワスカランもありがとな」

 

 小さく呟き頭を撫でてくれる。別に褒められるようなことはしていないと思うが、撫でられるのはやはり安心できる。その後、別の仕事があるといい指揮官は工廠を出ていった。

 

 

 夜。今日の仕事を終えボクはいつものように食堂へ行く。人間ではないボクら艦船少女でもお腹は空く。栄養とかはよく分からないし味にも特別拘りがあるわけでもないボクは基本カップ麺だ。前に指揮官に作ってもらった時から早く作れてそれなりに美味しかったからお気に入りだ。今では頻繁にカップ麺を食べている。

 

 食堂に着き中を覗くと、指揮官とヒッパーが楽しそうに食卓を囲んでいた。いや訂正、ヒッパーは顔を赤らめたり怒ったり呆れたり、楽しそうには見えない。けど本心では楽しんでいるんだろう。指揮官から聞いたが、ヒッパーはツンデレ属性? とかいうやつらしい。

 

 最近指揮官はよく食堂に顔を出している。ヒッパーだけではなく他の艦船少女とも食卓を囲んでいるところをよく見かける。部下とのコミュニケーションも大事だとかで始めたらしく、指揮官も他の皆もいつも楽しそう。その姿を見ていると、また胸がチクりと痛む。イケナイ、これはきっと良くない感情だ――ポットなら執務室にもある。カップ麺も置いてある。勝手に執務室で食事をしよう。

 

 

 誰もいない執務室で一人佇む。そろそろ夜も完全に更ける。眠りの夜、ボクにとっては悪夢の始まり。ボクではないボクが追いかけてくる――でも、ここでなら悪夢からすぐ目覚めることが出来る。

 

「あれ? ワスカラン?」

 

 気付けば指揮官が戻ってきた。いけない、長居しすぎてしまったらしい。早く戻らないと。

 

「ちょっとここにいたかっただけ。もう帰る」

 

 椅子から立ち、部屋から出ようとするボク。

 

「――まだ不安か、ワスカラン」

 

 背中にかかる指揮官の言葉。不安――そう不安だ。ボクは人間でも艦船少女でもないナにか。歪んだ存在――だから、必要以上に距離をとっているのかもしれない。仕事中も一人だし、食事だって一人だ。分かっている、ボクが心を開こうとしないのが原因だって。でも! そんなボクと仲良くしたがる物好きなんて、指揮官くらいだ。人間のくせに、艦船少女を、ボクを優しく包んでくれる――

 

「不安なら、今日は一緒に寝るか?」

 

「あっ……」

 

 だめ……駄目駄目駄目駄目駄目!! ボクに優しくしないでっ! なんで、なんで優しくするのっ!? そんなに優しくされたら、ボクはもう抜け出せなくなる。指揮官という檻に囚われてしまう。お願いだから、ボクを依存させないでくれ!!

 

「でも、ボクは……」

 

「どうせ今日も忍び込んでくるんだろ? なら同じさ」

 

 違う、全然違うよ……ボクが勝手に指揮官を利用していただけだったのに。指揮官からは一度も誘われなかった。だからまだ我慢出来ていた。なのに、なのにそんなこと言われたら……あぁ、ダメ。ダメなんだ、そんなこと……指揮官はボクのことを勘違いしている。失敗作だと詰られたボクを憐れんでいるだけ。指揮官は、ボクではなくて悲惨な境遇の女の子に同情しているだけなんだ! そう、そのはずなんだ。だからボクだって、悪夢から目覚める道具として指揮官を利用している。そう自分を騙している(・・・・・・・・)! だから、だから――

 

「違う、違うんだ指揮官……」

 

「無理するなって」

 

 やめろ

 

「俺はな? ワスカランのことが――」

 

 やめろやめろやめろ

 

「心配なんだよ――」

 

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ

 

「やめて。ダメなんだ指揮官……」

 

「どうしてだ? お前、なんか変だぞ?」

 

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ

 

「ワスカランっ」

「あっ……」

 

 抱きしめられる感触。暖かかな人肌。そっか、ボクはもう――

 

 この檻に囚われていたんだ――

 

 

 

 目を開ければ指揮官がいる。結局ボクは指揮官と一緒に寝ている。もう我慢することも、誤魔化すことも出来ない。ボクは指揮官に依存している。指揮官がいなければ、ボクは悪夢から目覚められない。唯一ボクを悪夢から助け出してくれる光。それは綺麗で、眩しく、甘美で、媚毒だ――指揮官はきっと、ボクがこんなに狂っているなんて知らない。ボクだって、知らなかったんだから。

 

 あっ……指揮官がボクを抱きしめてくれてる。きっと抱き枕にしてくれているのだろう。嬉しい。ボクをもっと必要といてほしい……ボクは指揮官にならなんだって出来るよ? だから指揮官もボクを必要としてよ。ううん、せめて傍に置いてほしい。ずっと、ずぅっと……

 

 それは鎖。ボクを縛り付ける鋼鉄の鎖。決して外れることはなく、緩まることもないただただ締め付けるだけ。

 それは楔。ボクとボク(・・)を別つために打ち込まれた楔。

 

 あぁ、なんて甘美な響き。それは、ボクを支配するためだけに存在する概念。ボクを包み込む、柔らかな温もり――

 

 檻に囚われたボクに贈られた一つのプレゼント。ボクを、ボクだけを包み込むソレは、優しく、暖かく、静かに、暗く、冷たく、痛みを伴い、じわりじわりとボクを蝕む快楽――ボクを包み込む鉄の処女(アイアンメイデン)。流れる血が、暖かい。絶えず沸き起こる痛みが、気持ちいい――

 

 これなら、悪夢をみることもない。指揮官の優しさに、身体が溶けそうだ。脳に走るノイズを掻き消し、痛みと快楽に溺れていくこの感覚は、きっと後戻りできなくなる。それでもいい。指揮官さえいえば、ボクはボクでいられる。ボクが何者だろうと関係ない。

 

 ――指揮官、ボクを支配してくれ――




 というわけでワスカラン回でした。日常回はシチュエーションが思いついてないと書くの難しいなって。質量ともに格差できちゃってるし……

 次回からまた誰得展開始まります。


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鳥籠の少女

 今回からまた誰得展開です。みんな大好きあの子が出ます


「で? わざわざ俺を呼び出して何の用です?」

 

 アズールレーン総本部・総司令室。そこにまた俺は来ていた。近いうちに出頭する予定はあったものの、予定より大分早い。何かあったのか、それともただの小言か。

 

「少尉、君は今でもあの女と会っているのかね?」

 

 ――は?

 

「お言葉の意味が分かりません」

 

「正直に答えたまえ。今すぐスパイ容疑で憲兵に引き渡していいのだぞ?」

 

「お好きに。それより早く本題に入ってくれませんか?」

 

 そんな下らない小言を聞きに来たんじゃないんだよ、俺は。

 

「ふん……昨日未明、六十一鎮守府が襲撃された」

 

 ……聞き間違いか? なんかとんでもないことを聞いた気がするんだが。

 

「襲撃してきたのはセイレーン。幸い鎮守府の被害は軽微で済んだ。だが問題はそれじゃない」

 

「というと?」

 

「その襲撃の直前、不審な艦隊を発見し、鎮圧部隊を出した。が、酷い有様で撤退してきおった。それも“人型のセイレーン”にやられたと報告してきた」

 

「人型――何度か姿を見せたテスター型ですか?」

 

 セイレーンには大きく分けて二つのタイプが存在する。以前遭遇した艦船型の量産タイプと、今話題に上がっている人型の二種だ。後者は戦闘能力も高く、人語を扱えコミュニケーションがとれる。まあ向こうにコミュニケーションを取る気はないだろうが。そしてそしてその人型は何度か姿を確認されている。その内の一つがテスター型というのだが……

 

「いやどうやら違うようだ。新型、それも空を飛んでいたとか」

 

「空を……」

 

 それが本当だとしたらとんでもないな。そもそも新型の人型セイレーンが出たというだけでも結構不味い。そしてそれに六十一の精鋭がやられた――って

 

「状況は分かったつもりです。それで結局、俺を呼んだ理由と先の意味不明な質問は何です?」

 

「我々はね、その“人型セイレーン”があの女の一味ではないかと疑っている。あくまで可能性の一つだが。そこで君から何か聞けないかと思ってね」

 

 バカバカしい。セイレーンと艦船少女を間違える奴がいるかよ。そもそも彼女ならアズールレーンを襲わない(・・・・・・・・・・・・)

 

「そしてもう一つ、六十一の精鋭部隊と中佐が現在治療中でな、その間の代理指揮官を派遣することになったので君に連れていってもらおうと思う。君のところに“あれ”を配属するついでだ、構わないな?」

 

 コイツ――

 

「……構いません、任務了解しました――ですがあの子をモノ扱いするのはやめて下さい」

 

 俺の抗議には耳を貸さず、内線をかけ始める総司令。まあ抗議しても無駄なのは分かってるが抑えられなかった。艦船少女はモノじゃない、自我と意思を持つ共に戦う仲間だろうに――

 

「ちっ、無能共が……少尉、代理指揮官の出頭まで少しかかるらしい。先にあれを回収でもしてこい」

 

 苦虫を噛み潰したような総司令の顔を見るに、どうやら代理指揮官というのも相当な問題児らしい。ああ、だから俺に投げたんだなコイツは。まあいい、そういうことなら先にあの子のところに行くとするか……

 

 

 

「あら指揮官、また来てくれたんですね」

 

 部屋に入るなりローンが出迎えてくれた。俺が来るって連絡でもあったのか? にしても相変わらずガラクタでいっぱいの女の子らしくない部屋だこと。

 

「久しぶり。早速だけど、予定よりも早く君を迎えることになった。来てくれるか?」

 

「はい、喜んで」

 

 差し出した手に笑顔で手を重ねてくれるローン。遅かれ早かれローンを迎え入れることは決まっていた。だって三十六は俺とローンの鳥籠(・・・・・・・・)なのだから。

 

「でも不思議ですね。あの時出会ったのが切欠でこうして指揮官の下に着任できる。指揮官も、私に会えたからこうして生きていられる……こんな偶然があるなんて」

 

 偶然か……ローンはいずれどこかに配属されただろうけど、俺は運が悪ければ軍法会議一直線だったからな。いや俺が独房に入ってる間にお偉いさんが色々画策してたのは確かだ。そうじゃなきゃ軍事機密を知って独房程度で済むとは思えない。それだけローンの扱いに困ってたのか?

 

「まあローンのおかげで九死に一生を得たのは間違いないな。そのおかけで二人仲良く隔離措置とはお笑いだけどね。コーヒーでも淹れるよ、ゆっくり準備しててくれ」

 

 例の代理指揮官が出頭したら連絡を受けることになっている。多少ここでのんびりする暇はあるってことだ。

 

「ふふ、私は指揮官と二人きりで過ごすのも悪くないと思いますよ? 一人なら気兼ねなく敵を潰せますし。それに、私を理解しようとしてくれる人は少ないですし」

 

 ……んん? 物騒なことが聞こえたような気がするがそれはいつものことだからいいとして、なんか変なことが聞こえたような……

 

「あのさローン……俺の基地、ローンの他にも艦船少女はいるんだけど」

 

「え――」

 

 ローンの動きが止まった。しばしの硬直のあとこちらへ振り返った彼女はいつも以上にニコニコとし、可愛らしく首を傾げ――

 

「指揮官? どうして? 私と指揮官は二人で鳥籠に入るって決まったわよね? 二人っきりで……どうして、他の子がいるの?」

 

 ――ああ、いつもの発作が始まってしまったか。スイッチが入ったローンはかなり、かなり厄介だ。これがお偉いさんの言っていた問題の性格である。

 

「私はずっとずぅっと指揮官と一緒になることを考えていたんですよあの日指揮官と出会ってお話をして喋りあって笑い合って怒りあって私を理解しようして理解できずでも諦めずに私と向き合ってくれた私を恐れないでくれた怖がらないでくれた避けないでくれた私嬉しかったんですよ私を一人の女の子として見てくれる人間は初めてだったからなのになのになのになのになのに指揮官はあの女のことばかり分かっていますよ指揮官があの女に深い感情を抱いていることはでもでもでも今あなたとお話しているのは私なんですよどうして私を見てくれないの私を見てよなんで他の女の話をするの指揮官許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せないあの女を憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで仕方がないのでも安心してあの女に手を挙げたりなんてしないからそんなことをしたら指揮官が悲しんでしまうもの指揮官の邪魔になるのなら私この身を砕いて引き裂いて磨り潰して溶かして燃やして埋めてバラバラにして海に放り捨てるわ私ね指揮官の力になりたいの指揮官のために頑張るって決めてたの二人っきりの世界で仲良くずっとずっと一緒にいるんだって思ってたのだからだからねどうして他の子がいるのねえねえねえねえねえどうして指揮官はローンの指揮官なんですよそれなのに許せない許せない許せない許せない許せない」

 

 凄まじい勢いで捲し立てるローン。普段はゆるふわお姉さんって感じなのに一度でもスイッチが入ると別人かと疑うほど豹変する。流石に最初は驚き半分恐怖半分だったが、今ではもう慣れたものだ。こういう時は――

 

「ローン」

「あっ――」

 

 抱きしめてやるのが一番いい。荒療治というかその場しのぎというか恥ずかしさも相まって人前じゃ絶対できない方法。でもこうするとすぐに落ち着きを取り戻すから非常に役立っている。ローンもきっと恥ずかしいのだろう、うん。

 

「まあ聞け、そもそも艦船少女が一人もいないんじゃ基地として成り立たないから仕方ないだろ? それに俺も助かってるし、面倒は極力起こさないよう頼むよ」

 

「でも……」

 

「まあ、元々俺とローンの檻らしいからローンを放り出したりはしない。よっぽどのことがない限り一緒にいるさ。それじゃダメか?」

 

 どうせ俺とローンは離れることが出来ない。なら少しでも納得したうえで一緒にいて貰わないと困る。あとは問題を起こさないことを祈るだけだが、さてはて――またウチに厄介者が増えるわけか。




 ローンは怪文書が似合うなあ(白目)。おいこれじゃただのヤンデレじゃないか(呆れ)。ローンはな、ただのヤンデレじゃなくってこう、もっとサイコサイコしてるサイコなんだよ(意味不明)。個人的にはいつも狂ってるわけじゃなくて普段はゆるふわだけど急にスイッチ入ってサイコるくらいだと思ってます。その一回が重いはずなのに重さが伝わってこないじゃないか……


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類は友を呼ぶ?

 ローンを連れ本部内を歩いているが、誰かとすれ違う度にヒソヒソ言葉が聞こえて鬱陶しいったらありゃしない。ローンは見世物じゃないぞ? 散れ散れ。

 

「なあ待ってなくて良かったのか? 人間の相手なんて嫌だろ?」

 

「いえ別に。それより指揮官と一緒にいたいの」

 

 そういうのならいいが……にしてもいつまで待っても連絡が来ないと思ってたら直接迎えに行けときた。適当にも程があるだろうがよ。ええと、指定された部屋は……ここか、コンコンとノックしてっと。

 

――こぶたちゃん、お客様よ?

――あっ、待って、まだリアンダーちゃんの紅茶飲み切ってないんだ!

――いいから出なさいっ!

――あぁっ! 蹴らないでエイジャックス様! 踏んで! 踏んでよぉ!

 

「…………」

「…………」

 

 うん、部屋を間違えたみたいだな。なんか変な幻聴までするし。ローンも変な顔でこっちを見てるしきっとローンも幻聴が聞こえてしまったに仕方ない。よし、二人仲良くティータイムに洒落こんでリラックスしてから出直そうか。そう思い踵を返そうとしたところでバンッと音と共にドアが開かれ青年が姿を現した。

 

「お待たせっ! 君が噂の窓際少尉かい? ボクはアーサー・イングランド少尉。ま、よろしくっ!」

 

 そいつはおよそ指揮官らしくない、金髪で、イケメンで、このうえなく残念そうな青年だった。

 

 

 

「リアンダーちゃん紅茶淹れてくれない?」

「それはこぶたちゃんの仕事でしょう?」

「あぁっ! エイジャックス様~、もっと、もっとぉ!」

 

「…………」

 

 アーサー少尉の背中をげしげしと蹴るエイジャックス。明らかに上官への態度ではないが当人は嫌がるどころかどこか嬉しそうにしているし、放っておいてもいいのか……?

 

「どうぞ、紅茶です」

「あ、どうも」

 

 じゃれあってる(?)二人を他所にリアンダーが紅茶を運んでくる。そのままテーブルに腰かける俺とローンはもうどうすればいいのか分からなかった。

 

「あははっ、二人はいつもこんな感じだから気にしないでっ」

 

 アキリーズは笑いながらお茶菓子をパクついている。どうやらアーサー少尉とエイジャックスもといリアンダー級三姉妹は普段からこんな日常を送っているようだ。しかし俺と同じ艦船少女と仲良くするタイプか。そりゃ確かにお偉いさんから毛嫌いされるわけだ。

 

「それでアーサー少尉、これから――」

 

「ところでキミ、見ない艦船少女だよね。名前は何ていうの?」

 

「私ですか? 私は三十六基地所属のローンといいます」

 

 おい何人の目の前で部下をナンパしてるんだよ。ローンも真面目に答えなくていいんだってば。

 

「ローン、ローンかあ……聞いたことないな。でもまあ、よろしく!」

 

 ウィンクしながら決めポーズして、完全に決まった感出してるけどさっきからエイジャックスに蹴られっぱなしなんだけど……

 

「それよりっ! アーサー少尉っ!」

 

「あっ、ボクのことは気軽にアーサー君って呼んでくれないかい?」

 

「こ・ぶ・た・ちゃん? いい加減真面目にやりなさいな」

 

「ふっ……エイジャックス様にそう言われたら、真面目にやるしかないね」

 

 なんでコイツはドヤ顔なんだ? なんでエイジャックスはそんなにニコニコしてるんだ? 俺もう帰りたい。チラリとローンに目を向ける。ローンも愛想笑いを浮かべているがこめかみがひくついている。帰ろうか? とアイコンタクトを送るとすぐに帰ります! との返事が飛んできた。うん、やっぱりアーサー少尉が代理指揮官だなんて何かの間違いなんだよきっと。

 

「それじゃ、俺達はこの辺で」

 

「ああ待って待ってくれよぉ! 真面目にやる! 真面目にやるからさあ!」

 

 

 

「いやー悪いねわざわざ鎮守府まで送ってくれるなんてさ」

 

「いやまあ、任務ですから」

 

 アーサー少尉とリアンダー級三姉妹をボートに乗せ、俺ら一行は六十一鎮守府へと向かっていた。ローンには艤装のチェックをさせているし、三姉妹も海風に当たってのんびりしている頃だろう。つまり船長室には俺とアーサー少尉しかいないことになる。

 

「それにしてもこんなボロボロなボートしかなかったのかい?」

 

 嫌味か、こちとらこのオンボロが生命線なんだよ……ああ、早くまともなCPボートがほしい。この際電子機器積んだモーターボートでもいいぞちきしょう。

 

「これがウチで一番豪華なCPボートです」

 

「あ、うん、その、ごめんね? そんな本気でへこむなんて思ってなかったんだ。そうだっ、六十一にあるCPボートを融通してあげるよっ! だから元気だして。ね?」

 

 そんなに慌てられると逆に虚しくなってくるだろ……というか襲撃された六十一に他所に回すCPボートあるのか?

 

「そういえばアーサー少尉は珍しく艦船少女に友好的な指揮官ですね」

 

「だからアーサーでいいって、それに君だって十分友好的だろ。でも、そうだなぁ……ボクは運命の出会いを果たしたからね!」

 

「運命の……出会い?」

 

「そう! まさしく運命! エイジャックス様はボクの女神なんだよ!」

 

 目をキラキラさせながら謎ポーズを決めるアーサー少尉のその姿は、一言で言うと純粋に気持ち悪かった。

 

「ていうか、その女神様に雑な扱いされてませんか?」

 

「何を言うんだい君はっ! あれはエイジャックス様の愛だよ、愛! エイジャックス様は愛情溢れる鞭をボクにくれてるんだよ!?」

 

 うん、すまない。さっぱり理解できないんだが。でもまあ、良好な関係なのか……?

 

「全く、エイジャックス様の愛を理解できないなんて……大体君だって運命の出会いを果たしたからこそ、そうして窓際に追いやられるくらい艦船少女を愛しているんだろう?」

 

「いや愛ではないです」

 

 そりゃまあ運命の出会い的な感じだったとは思うけど、それは愛とかじゃないし……あれはただの――

 

「――憧れ、ですかね」

 

 そう、憧れ――愛でも恋でもなくただ彼女に憧れを抱いてるだけ。彼女に惹かれて惹かれて仕方がない――

 

「なるほどなるほど、今君が頭に浮かべている子が君の運命の相手なんだね」

 

 ニカっと笑うアーサー少尉にとっさに反論しようとしたが、何も思い浮かばなかった。その様子がおかしかったのかアーサー少尉は隣でしばらく笑い続けていた――




 新たなオリキャラを増やしていくスタイル。お前キャラ書き分けできんのかよ……
 言わなくてもわかるだろうけどロイヤル担当指揮官、リアンダー級含め説明雑なのはごめん許して。
 ところでU-81ちゃん実装されたけどボイスないしニックネーム的なのないしどう呼べばええんや……クッソ可愛いんじゃあ。


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理不尽は突然やってくる

 今回もアーサーくんと愉快な仲間達です


 一週間ぶりに訪れた六十一鎮守府は、見るも無残な姿と化していた。

 

 そこかしこに付けられた弾痕。建造物はよくて半壊、ドックは集中的に砲撃を受けたのか原型を留めていないくらい壊されている。はっきりいってまともに機能しそうにないんだが……

 

「うわー、こりゃ酷いな。これじゃあ艦隊運用なんかできないね。あっはっはっはっ!」

 

 その惨状をまるで他人事のように観察し、面白がるアーサー少尉。いやここ君の鎮守府なんだけど……

 

「まあとりあえず現状把握しないとね。君も付き合ってくれるんだろ?」

 

 それは一向に構わないのだが、この惨状を復旧する方法も考えないとダメなんじゃなかろうか。アーサー少尉はリアンダー級三姉妹を連れ意気揚々と半壊した司令部に向かっていく。

 

「なんというか、変な人ですね」

 

「俺もそう思う」

 

 隣に寄りそうローンと共に、俺達も司令部に足を進める。それにしても最前線の最精鋭基地が随分とやられたものだ。この規模の鎮守府を襲う作戦をセイレーンが行うなんて、この海域にそれだけの戦力があるってことなのか……?

 

 

「はいはーいちゅうもーくっ! 今から第一回円卓会議を始めま~す!」

 

 一体どこから調達したのか部屋の中央の丸テーブルを囲うように一同が揃った途端、高らかに宣言するアーサー少尉。円卓会議って……いや確かに円卓っちゃ円卓だけど。そしてアーサーといえばまあ名前だけは確かにアーサーだけどさ。

 

 ちなみにメンバーはアーサー少尉とリアンダー級三姉妹、俺とローン。懸命に復旧作業をしてくれていた明石と元々六十一所属で今後アーサー少尉の指揮下に入るアーク・ロイヤルとグロリアスの九人。人数足りてないし余所者いるんだけど? まあ気分的なものだろうしいいのか。

 

「それはいいのだけどこぶたちゃん? 議題は何なのかしら?」

 

「まず戦力拡充をしたほうがいいのでは? 私とアーク・ロイヤルさんを含めてギリギリ一艦隊しか組めませんし」

 

「グロリアスの言う通りだ閣下。そうだな、バランスを考えてまずは小型建造で駆逐艦をだな――」

 

 なにやら暴走してるロイヤル空母がいるように見えるが、アーサー少尉は気にせず懐から一枚の手紙を取り出す。いや注意しろよ、駆逐艦談義始めてるぞ空母共が。

 

「皆色々意見はあるだろうがまずこれを見てくれ――総司令部からの命令書だ。心して聞いてくれ。えーっとなになに……」

 

 総司令部からの命令書? 一体こんな状態の六十一に何をさせるってんだ? ていうか内容確認してないのか……

 

「んーと? 六十一鎮守府艦隊は三十六基地と共同で報告された人型セイレーンを討伐せよ。尚明石は即刻総本部へ帰投すること……んん? なんだこれ? 小学生の軍人なりきり手紙と間違えたかな? あっはっはっは」

 

「――って笑い事じゃないですよ!?」

 

 どう聞いてもまともな命令じゃない! 六十一には一個艦隊しかないし、俺の三十六も大した戦力はない。どう頑張っても時間稼ぎにしか――

 

「時間稼ぎだ……」

 

「どういうことにゃ?」

 

「俺達を使って時間を稼いでその間で何かしら対抗策を打つつもりだろう。明石を呼び戻すくらいだ、きっと大規模艦隊を結成して一気に叩き潰すつもりじゃないか?」

 

 我ながら突飛なことを言っていると思うが可能性はゼロではないハズだ。この戦力でこの命令、しかも明石は使うな。ダメ押しに俺とアーサー少尉はきっと上層部からは厄介者扱いされているはず。俺に至ってはスパイ扱いだ。使い潰すのに躊躇いなどないだろう。それに付き合わされる艦船少女達には申し訳ないとしか言えないが。

 

「ボクはやれると思うんだけどな~。エイジャックス様はどう? ボク達ならやれるよね?」

「無理よ」

「あふん」

 

 何コントやってんだこの二人……危機感がないなあ、良くも悪くも。リアンダーとアキリーズが可哀そうになってきた。

 

「いいこぶたちゃん? 私達は軽巡洋艦三隻に空母二隻だけ。そっちの指揮官さん、あなたのところは?」

 

「ウチは駆逐四隻、重巡三隻、工作艦一隻だ。前衛艦は多いが、主力艦がいない。実質一個艦隊だ」

 

「ナニっ!? 駆逐艦だって!?」

 

 なんか急に反応してきた空母がいるけど放っておこう。害はない、うん。

 

「合わせて二個艦隊。しかも戦艦はいない。相手は未知の空を飛ぶ人型セイレーン。こぶたちゃん、これで満足に戦えると思う?」

 

「え? えーと……ボクは皆を信じているさっ!!」

 

 ダメだコイツ、何も考えてなさそうだ。エイジャックスと話していたほうが建設的なのかも知れん。

 

「とにかく方針を決めないと。そっちはまともに活動できるようなるまでしばらくかかるだろう? 物資もいるだろうし、偵察や近海警備くらいならしばらくこっちがやるよ。そっちの準備が整ったところで一気に攻勢に出る。こんな感じでどうかな?」

 

「明石もギリギリまで残ってここの修繕と物資の融通をしてあげるにゃ。緊急事態だから今回はタダでいいにゃ……今回だけにゃよ?」

 

「異存ありませんわ。こぶたちゃんもいいかしら?」

 

「オッケーさ。いやー持つべきものは友達と女神様だなあ!!」

 

 いつの間にか友達になっている……あと女神って。エイジャックスもなんだか嬉しそうにしてるし、この二人大分仲良しだよな。ここまでの関係が気付けるなんて羨ましい限りだ。

 

「指揮官。指揮官にはローンがいますよ?」

「何も言ってないから。だから急に腕を組むなって」

 

 二人を羨ましそうに見てたのがバレたか? いやそもそもバレても構わないだろうそんなもん。というか静かにしていると思ったらこれだ。

 

「君とローンってすごく仲いいよね。あ、でもボクとエイジャックス様には負けるけどねっ」

 

「あ、はい」

 

「そんなつれない態度取らないでくれよー。そうだ、紅茶でも飲んでいかない? 君とはもっと話が――」

「――アーサー少尉、でしたよね?」

 

 突然ローンが割り込んできた。しかもなんだかニコニコしているような……

 

「ローンちゃん、何かな? あっ! 君も一緒にどうかな? 鉄血の子には疎くて君のことよく知らないんだよね。ここは一つ親睦を――」

「私と指揮官の時間、そろそろ返してくれませんか?」

「――――え?」

 

 あ、ダメなやつだこれ。

 

「よせローン、落ち着けローン。いいか? 今は大事な会議中なの。アーサー少尉がいくらあれでも今は会議中なの。オーケー? お前との時間は後でいっぱいあるから今は大人しくしてろいいな?」

「で、でも」

「返事ははいか了解(ヤー)だ」

「や、了解(ヤー)

「よしいい子だ……すみませんアーサー少尉、後でちゃんと躾けておくんで勘弁してやってくれませんか? あと紅茶はまた落ち着いてからにしましょう」

 

「え? え? え? ……あ、うん? いいんじゃない? あっ、でも紅茶は今からが――」

 

「待て! 三十六の指揮官殿っ!」

 

 ダンッの音に目をやると、アーク・ロイヤルが机を叩き俺を見ていた。気のせいか目つきが若干鋭くなっているような……もしかして、アーサー少尉を馬鹿にしたと思って怒っている? 困ったな、そういうつもりじゃ――

 

「警備任務、私も手伝わせて貰おう! 可愛い駆逐艦の子達だけにそんな辛い役目を押し付けることなど出来ないっ! 私が駆逐艦達を守ってやろうではないかっ!」

 

………………んん? なんか変なことになってきてないか?




 やばいアーサーくん使い易くて困る。困らない。主人公君より目立ってない? ローンちゃん若干空気になってない? なんで?


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問題児がやってくる

 鉄血のやべーやつとロイヤルのやべーやつと内面がやべーウチの子が顔合わせする回


 仮ドックの奥へ接岸したボートから降り立つ。その後すぐにローンとアーク・ロイヤルも降りてくる。さて、まずこの二人を紹介しないといけないのだが……あっ、いたいた。

 

「ただいま、ワスカラン」

 

 仮ドックの名は伊達ではなく、工廠と一体化していると言ってもいい。別々に造るだけの余裕がなかっただけともいう。そして工廠を仕事場とするワスカランの姿を見つけるのは実に容易なことだ。

 

「ああ、おかえり指揮官――また艦船少女が増えているね?」

 

 呆れたような訝しむような、よく分からない表情でじっと見てくるワスカラン。それじゃまるで俺が度々艦船少女を連れ込んでいるみたいじゃないか。いやあってはいるか。

 

「ローンとアーク・ロイヤル。詳しい説明は後でまとめてやるから、みんなを集めてくれないか? また厄介事が出来ちまってな」

 

了解(ヤー)。そうだ指揮官、また新しいカップ麺を仕入れたから後で一緒に食べないかい?」

 

「お、いいねえ。今度は何味?」

 

「極辛。文字通りぶっとぶ味らしいよ?」

 

「お、おう……」

 

 それはぶっとぶ美味しさなのか? それとも味覚がぶっとぶという意味なのか? ちょっと怖いものがあるな……でも興味はある。今晩あたりワスカランを部屋に呼ぶか。そのまま抱き枕にしてもいいわけだし。どうせ毎日忍び込んでくるんだもんなぁ。

 

「指揮官にはもっと栄養のある食事をとってほしいのですが……ところであなた」

 

「ボクのこと?」

 

「ええ。どこのどなたかは知りませんが、これから同じ指揮官に従う者同士仲良くしましょうね?」

 

 おお、ローンがコミュニケーションを図っている! いやあ心配してたけどこれなら思っていたより平和になりそうだな。ローンも四六時中発作を起こすわけじゃないもんねうんうん。

 

「ボクはワスカラン。鉄血所属の工作艦だ」

 

「ふふ、ご丁寧にありがとう。私は鉄血の重巡洋艦ローンです」

 

 自己紹介までし合ってるし問題ないか。正直この二人とも周りと仲良くやっていけるか心配だったから、二人が仲良くしてくれるのはとても喜ばしいことだ。

 

「それで――あなたと指揮官は一体どういう関係なんです?」

 

 ――ん?

 

「どういうって、普通に指揮官と艦船少女だけど?」

 

「そうですか、なら良かったです」

 

「……どういう意味だい?」

 

「いえ別に」

 

 なんだか不穏な雰囲気が漂ってきたような……なんで? ついさっきまでいい感じだったのに。

 

「ただやけに親密そうでしてので気になっただけです。でも指揮官は私の指揮官なんです。私と一緒にいることが指揮官の役目なんです(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。それを忘れていないようですので安心しただけです」

 

 また誤解を招くような言い方を……いや間違っていないが言い方をだな。ほら、ワスカランが何か言いたげにこっちを見てくるだろ。

 

「あのなワスカラン、ローンのあれは」

「気にしてないよ。指揮官がローンの物だろうと別に気にしてない」

「そ、そうか」

「ああ。だってボクは指揮官のモノだから(・・・・・・・・・・・・)

 

 ――それはそれでどうなんだ? お前も言い方をだな。というかワスカランに関しては俺何もしてないんだけど……

 

「指揮官殿、そろそろ移動しないか? ずっとここで話していても仕方ないだろう?」

 

 あ、アーク・ロイヤルをすっかり忘れていた。いかんいかん、ここは指揮官としてしっかりせねば。

 

「悪かった、今から行くよ。あと、この二人はあまり気にしないでくれると助かる」

 

「なに、気にすることはない」

 

 アーク・ロイヤル、いい人だ……突然駆逐談義始めた時は実は変な人なんじゃないかと思ったよ。

 

「そういう形の愛もあるだろう。参考になった」

「え」

「私も一層駆逐艦への愛を深めないといけないな」

 

 ――やっぱり変な人だ。

 

 

 

「というわけで報告が二つほどあります」

「またいきなりですね……」

 

 呆れ顔のニーミを無視して話を進める。これもいつものことだ。ニーミには迷惑かけてばっかだな。

 

「はいはい静粛に静粛に~。とりあえずこの二人の紹介から始めるからなー。まずこっちがアーク・ロイヤル。六十一鎮守府から何故かついてきた。しばらくこっちにいるかも知れないからよろしく」

 

「ロイヤルの空母、アーク・ロイヤルだっ! 後ほど指揮官殿から詳しい説明があるだろうが、しばらく厄介になるかも知れないからよろしく頼む。特に駆逐艦の子達はよろしく頼むっ!」

 

「は、はあ……」

 

「ニーミ先生が困ってるだろ? その辺でやめておいて。そんでこっちがローン」

 

「鉄血の重巡洋艦ローンです。今日からこの三十六基地の所属になります」

 

 二コリと笑うローン。その姿はまるで優しい雰囲気のお姉さんそのものである。全くいつもこの調子ならいいのだが。見ろワスカランを。さっきからずっとローンを睨んでるじゃないか。

 

「鉄血の……ローン? 聞いたことないわね」

 

「む? そうなのか? 私は鉄血には詳しくないからな」

 

 そして当然の疑問だな。まあ隠していてもいずれバレるし、アーク・ロイヤルに聞かれても問題はないか。アーサー少尉は艦船少女とコミュニケーションをとるタイプだし。それにこれからも付き合いはあるだろうからどうせバレる。

 

「ローンはちょっと特殊な出生でな。計画艦開発プロジェクトっていう極秘計画があってな、その産物なんだ。あ、一応まだ軍事機密だからあまり他言しないでくれよ? とりあえず言えることとすれば、ローンは艦歴を持ってない艦船少女だから知らなくて当然だ。あと少々(・・)問題があるんだが……」

 

「指揮官、それだとまるで私が問題児みたいに聞こえます」

 

 実際問題児だろう? 出会う前から“狂戦士の幽霊(バーサークゴースト)”なんて噂を立てられるくらい上層部の手を焼いてたくせに。知ってるんだぞ? 戦場だといつもの発作以上に性格が豹変することを。いや性格が変わるというより、素が現れるっていったほうが正しいか?

 

「とにかく、ちょっと問題のある奴なんで仲良くしろとまでは言わん。あとローンに対する不満を受け付けないからな。いや愚痴くらいは聞く」

 

「それは、ローンさんに問題があった場合でもですか?」

 

「悪いけどニーミ先生の危惧してる通りだ。ハッキリ言っておく、三十六基地は俺とローンを閉じ込める檻だ(・・・・・・・・・・・・・)。よってローンが転属することは絶対にない。あるとすれば他の者が転属するか、俺とローンが一緒に転属するかのどっちかしかありえない」

 

 軍事機密に触れた俺を軍法会議にかけなかった理由。それは上層部が手を焼き制御できなかったローンをある程度コントロールすることができたからにすぎない。他の計画艦より早く完成したローンの実戦投入も兼ね、俺とローンを縛り付けるためだけにこの三十六基地は再稼働したんだ。それがまさかこんなに多くの艦船少女を抱えるとは思っていなかったが。

 

「というわけなので、ここは私と指揮官のために用意された鳥籠なの。色々あるでしょうけど、皆さんよろしくお願いしますね?」

 

 ニコニコしながら挨拶するローンだが、若干声が低くなっている。コイツなに威嚇してんだ、せめて平常時は仲良くしろよ。

 

「最後になったが今日の本題だ。これはアーク・ロイヤルがここにいる理由でもある――本日一三〇〇時付けでアズールレーン総本部より指令が下った。我が三十六基地は六十一鎮守府と共同で、正体不明の飛行する人型セイレーン討伐を行う」

 

「――はぁ!? アンタ正気!? 六十一って襲撃されたばかりじゃない! それなのにそことウチでセイレーン討伐なんて……無謀よっ! 断りなさいよ!」

 

「気持ちは分かるが落ち着いてくれ。これは六十一に出された指令だ、俺に拒否権はないし向こうの指揮官にも拒否権なんかないはずだ」

 

「でもっ!!」

 

「現在六十一は襲撃からの復旧作業で手一杯だ。そこでしばらくの間三十六が偵察、及び近海警備を担当する。アーク・ロイヤルはその助っ人だ。もう一度いうがこれは総本部からの指令で、うちに拒否権はない。以上だ」

 

 その突然の命令に頭が追い付かないのか、うちのメンバーは黙りこくったままだ。まあ、どう聞いてもまともな指令じゃない。俺がそっちの立場なら反発するだろう。

 

「「了解(ヤー)」」

 

 ただ二人、ワスカランとローンだけはすぐに返事を返した。ワスカランはいつも通りの無表情で何を考えてるのかよく分からない。ただ少なくとも反発ではないだろう。ローンは……とびっきりの笑顔だった――ああ、これがローンなんだな――

 

「ところで指揮官殿っ!!」

 

「うおっ!? な、なんだアーク・ロイヤル」

 

 辺りに漂う重い空気もなんのそのと目をきらきらさせたアーク・ロイヤルが俺を見ている――まさかコイツも戦闘きょ

 

「そこの可愛い駆逐艦達を紹介してくれないか!? ああそうだ、先程も名乗ったが私がアーク・ロイヤルだ。全身全霊をかけ守ってあげるから心配しなくていいぞ!? だから私と仲良くしてくれないか!?」

 

 ――戦闘狂ではないな、うん。




 やべーやつとやべーやつとやべーやつを合わせるとやべーやつ以外が空気になる(白目)ナンテッコタイ
 それにしてもアーク・ロイヤルって使いやすいね。ウチではきっとアーサー君と並んで空気ブレイカーになれる素質を持っている気がするよ


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狂戦士

「平和だ」

「平和ですね」

 

 例の指令が下ってから早一週間。毎日偵察艦隊を繰り出しているが人型セイレーンどころかセイレーン艦隊の尻尾すら掴めていない。この海域にセイレーンが潜んでいるのは間違いないはずなのだが。ああ、それにしてもニーミのコーヒーは本当に美味しい。

 

「アーク・ロイヤル隊帰還したぞ。む? それはニーミのコーヒーか。私にも淹れてくれないか?」

 

「インスタントですけど、それでいいなら」

 

「是非!」

 

 うーん、アーク・ロイヤルは相変わらずだな。定期的に六十一に戻っているようだが、それでもまだ手伝ってくれるのは本当に助かる。ウチにはまともな主力艦艇がいないからなあ。

 

 ちなみにアーク・ロイヤル隊というのは臨時編成した第二艦隊のことで、勝手にそう呼んでいるに過ぎない。編成はキュンネ、カール、ヴィルとアーク・ロイヤル。一応バランスを考えてのつもりだ。まあアーク・ロイヤルの要望が多分に含まれているのだが。そして第一艦隊はニーミとローンとワスカランの三人だ。ヒッパーとオイゲンは留守番。偵察任務に重巡はそんなに必要ない。というかローンも別に必要ないんだが、まあこれには理由がある。

 

「それじゃ特に報告するようなことはなかったってことか?」

 

「ん? いやセイレーンの偵察部隊を発見したぞ」

 

「コーヒー飲む前にそれを報告しろっ!」

 

 なんで報告よりニーミ先生のコーヒーを優先するんだよ……駆逐への愛が成す所業なのか? いやそうじゃなくとっとと報告をして貰わないと。

 

 

「じゃあこのポイントにセイレーン艦隊がいたんだな?」

 

 第一艦隊のメンバーとアーク・ロイヤルを集めて

 

「そうだ。量産型駆逐艦――Pawn(ポーン)が三隻」

 

 Pawnとは連合がセイレーン量産型に付けたコードネームだ。連合はこの戦いをチェス感覚でやってんのか? まあコードネームがあるのは呼びやすくて便利だけどさ。

 

「第一艦隊を出す。第二艦隊は戻ってきて早々で悪いけど念のため退路の確保をしておいてくれ」

 

「承知した。しかし大丈夫なのか? Z23はともかく残りの二人は実戦経験がないのだろう?」

 

「まあ実戦経験を積ませるってのも目的の一つだしね」

 

 実際ワスカランは実戦経験ないしな。ローンは……記録に残ってないだけで暴れたことがあったりする。“狂戦士の幽霊(バーサークゴースト)”の名は伊達ではないってことだ。だがまあ、記録上はこれが初の実戦になるな。

 

「第一艦隊出撃準備! ワスカランは後方から支援、ニーミはワスカランの直掩を頼む」

 

了解(ヤー)

 

「了解しました。ですがそれだとローンさん一人で戦うことになりますが」

 

「いいんだ、艤装の実戦テストを兼ねてるからな。それで、ローン」

 

 ローンに目をやる。彼女も俺を見ている。よし、問題はなさそうだ。なら命令を出さないとな――燻っているだろうお前の意思を、感情を、俺が解放させてやる――

 

「命令だ――潰せ」

「はい」

 

 そう答えたローンは、幸せそうに笑っていた――

 

 

 鋭利な爪、堅固なる腕、反り返った尻尾に異端染みた翼。尻尾の先には敵を撃ち砕かんとする毒の砲塔がしきりに首を左右に振っている。まるで狂暴な蠍――それがローンの艤装だ。

 

 同じ重巡のヒッパーの艤装と違いあまりにも禍々しいそれは、まるでローンの狂暴性を反映したかのようだ。その艤装を喜々として身に纏う姿は玩具を与えられた無邪気な子供だ。

 

「どうだ? いけるか?」

 

「はい、問題ありません」

 

 艤装の最終チェックが終わったらしい。あまり時間を無駄にすると偵察艦隊を逃してしまうかもしれない。それはよくない、報告通りならまだこちらには気付いていないはずだし、一気に片づけてしまいたいところだ。

 

「俺はこのオンボロに乗って待っててやる。一応、指揮やらなんやらはするが――ニーミもワスカランも、気を付けてな。そしてローン、好きにやってこい」

 

 俺に出来るのは信じて送り出してやることだけ。戦場へ赴く彼女らをただただ見送ることしか出来ない。

 

 

 

 水面を駆ける。ただただ敵を目指して。

 

 ニーミちゃんとワスカランちゃんは後方で待機――実質私一人だけで戦えだなんて、指揮官も酷いことをするのね。ふふ……

 

 誰かの指揮下で戦うことは初めてですけど、これといって感慨は湧いてこない。強いていうなら彼――指揮官の下で戦えることに喜びを感じているかもしれない。でもそれだけ――いつものように倒し、いつものように砕き、いつものように潰すだけ。それに変わりはないでしょう?

 

 戦うことは好き。ううん、敵を壊すことが好き――艦砲で敵を切り裂いて、木っ端微塵に壊した残骸を見るのが好き。この手で敵を殴り潰し引き裂く感触が――あぁ、好きなの――でもそれを怖がられ、恐れられ、異常者だと蔑まれ……私はそんなにおかしいの? だって私達は兵器。敵を倒すことが私の存在価値なの。だから倒して、倒して、倒して、倒して……

 

「レーダーに反応が……あれが例のセイレーン艦隊ですね」

 

 水平線の向こうに覗くセイレーン艦隊。確か報告では駆逐が三隻でしたね……あら、私の姿を見つけたのかしら。慌てて反転し始めて。そうですよね、駆逐艦如きが重巡洋艦の私に真正面から挑まないですよね。それとも、他に何か狙いがあるのでしょうか? でも、だぁめ

 

「ふふ、私のことを見て逃げようとするなんて、まさか逃げられるとでも思っているんですかぁ~?」

 

 艤装展開。尾先の砲塔が首をもたげる。あちらからは狙えなくても、既にあなた達は私の射程内ですよ?

 

「試作203mmSKC三連装砲――撃て(フォイエル)

 

 砲撃の反動に続き硝煙の匂いが私を包む。この匂いを嗅ぐと、私は戦場にいるんだって実感できるから好き。

 

 そして響く轟音。どうやら初撃は上手くいったようですね。煙をあげ、炎を身に纏いながら駆逐艦が一隻沈んでゆく――

 

「あは」

 

 沈めた。倒した。潰した。壊した――そう、この感覚。しばらく忘れていたこの感覚。これを味わうために、私は――

 

「もっと……もっと私に壊させてよぉ!」

 

 もう我慢できない! 機関全速! 敵を追い立てる!

 

「あは、あはは」

 

 砲塔が火を噴く。サブアームのバインダーの火砲が乱れ撃つ。逃げ惑う敵を見るのは楽しいのだけど、次第にイラつきが増してくる――なんで抵抗するの? 大人しく沈みなさいよ! 私の手を煩わせないでっ!!

 

撃て(フォイエル)! 撃て(フォイエル)! 撃て(フォイエル)!」

 

 放つ、放つ、放つ。敵へと走りながら撃ちまくる。乱れ撃つ。もっと壊さないと。だって、壊さないと私の存在意義はなくなってしまうから――だから、だから――

 

「壊れ壊れ壊れ壊れ……壊れろぉ!!」

 

 私が、壊してあげるの――

 

 

 

 気が付けば既にセイレーンの姿はなく、ただのガラクタがその辺りに散らばっていた。あぁ、これを私が……

 

「殲滅完了。指揮官、見ててくれた?」

 

『ああ、よくやってくれた。さ、帰ってこい』

 

 指揮官も褒めてくれたし、今日はいい日ね。でも、私個人としてはもっと歯応えの相手と戦いたかったのだけど……でも仕方ありません、今回は戻り……あら?

 

「レーダーに反応……? 何かしら、この大型の反応は……」

 

『どうした?』

 

「大型セイレーンの反応があります」

 

『なに!? ニーミ先生、アークロイヤル、そっちはどうだ?』

 

『私とワスカランさんは特には』

 

『こちらも確認できない』

 

 私だけが捉えている? だとするとこれは敵の本体。ううん、もしかしたら例の人型の可能性も? うふふ――

 

「指揮官、私あれを潰してきますね」

 

『待てローン! 今回は撤退だ! これ以上距離が離れると通信も安定しないんだぞ!?』

 

「私なら勝てますよ? だから――待っててね、指揮官」

 

『――――っ!!』

 

 声が聞こえなくなるのは寂しいけれど、大丈夫です。私が、あれを潰してきますから。あとで怒られるかしら? でもあれを倒せばきっと褒めてくれますよね? 方角はこっちだった。距離的にはそろそろのはず。

 

「見つけた……って、これは……」

 

 反応の先にあったのは、確かに件の人型セイレーンが。それに報告にあった通り飛行しているのも確かみたいですね。けど、なんといいますか

 

「巨大な……エイ?」

 

 それはまるで巨大なエイ。それも妙に武装しているみたい。砲塔のようなものが見えますね……なんにせよ今がチャンスですね。しっかりと、お相手をしてあげなければ。

 

撃て(フォイエル)

 

  ……外れましたか。それにこっちの位置もバレてしまいましたね。それに狙いにくくてて……でも人型ならいくらでもやりようはあるんですよ? そのためにまずそこから叩き落してあげないとね。

 

「だから……こっちを見なさいよっ!!」

 

 砲撃をいくら叩き込んでも奴は私を気にもとめていない。なぜ遠くを見ているの? 後ろにはニーミさんとワスカランさんと指揮官しかいませんよ? あなたの敵は私なんですよ? ダメ、水面からじゃ有効打を与えられない……なんとか引き摺り降ろさないと……あら?

 

「砲塔が光って……高熱量反応……?」

 

 何をする気か知らないけど、傷つける程度で私が止まると思わないことです。砲塔に狙いを定めて――

 

「っ!?」

 

 セイレーンの砲塔が火を噴いた。ううん、まるで光の柱……まさか、レーザー!? でも、私ではなく狙いは遥か後方に――何を狙っているの? だって後方には……後方には

 

「――指揮官?」

 

 嫌な予感がした――だから振り返ってしまった。見てしまった――指揮官のCPボートに突き刺さる光を――

 

「あ……」

 

 爆散してゆく様を――

 

「あああぁぁぁあああああ!!!!!」




 爆発オチなんてサイテー! 戦闘描写難しい。ほんまヘタクソで泣きそう……ライトノベルでも読み漁って勉強しようかな……
 にしてもコイツローン扱えてないな? もっと発狂させろって突っ込まれそうな気がする。

 ところで月末に鉄血イベントが復刻されるそうですね。今のところ追加されるのはUボート一隻のようです。死んでも手に入れてやる(鉄の意志)。ニックネームはココナちゃんになるのかな? U-81は……あーちゃんとかどうっすかね?(他力本願)。何にせよ楽しみ半分資金不足で絶望する未来半分ってところですな。


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敗走

 遅くなっちゃいました。いつもと違う書き方したら時間かけた割にくっそ短くなった。


 ――それは一瞬の出来事でした

 

『待てローン! 今回は撤退だ! これ以上距離が離れると通信も安定しないんだぞ!?』

 

 焦った指揮官の言葉を尻目にローンさんは謎の反応の元へ向かってしまって

 

「指揮官、ローンさんが!」

『分かってる! アーク・ロイヤル、緊急事態だ! すぐこっちにきてくれ!』

『了解した、すぐに向かう! 駆逐の妹達、行くぞっ!』

『だから妹じゃ……あーもうっ』

「私とワスカランさんは」

『ローンの足を止めてでも連れ戻せ! ただし無理はするな、お前達を失うわけにはいかないからな』

 

 CPボートが動き出す。もしかしなくても、ローンさんを迎えに行くんじゃ……

 

「指揮官、また自分を盾にする気だ」

 

「またってどういう……いえ、それより今はローンさんです。行きますよワスカランさん。指揮官が何を考えてるか分かりませんが、私達でローンさんを連れ戻せば――」

 

 ――そして、遥か遠く水平線の向こうから、一筋の光が迸り

 

 ――爆音と共に、指揮官の乗っていたCPボートに光が突き刺さり

 

「え――」

 

 ――幾つもの光線を浴び、炎と煙に塗れながら沈んでいく姿を、私は最初理解できなかった

 

「指揮官……? 指揮官! 嫌だ、嫌だぁぁあああ!!!」

 

 絶叫を上げるワスカランさんの声でようやく、その光景が夢でも幻でもないと確信できました

 

「っ! ワスカランさん、落ち着いて!」

「あああぁぁぁぁぁ……嘘だ嘘だ嘘だ、指揮官が……指揮官が……」

 

 ワスカランさんが完全にパニックに陥っていたからでしょうか、なぜか私は冷静でいられました

 

「ワスカランさん! 今はローンさんを止めないと。一人であんなのと戦うなんて無謀です!」

「でも指揮官が!!」

「アーク・ロイヤルさん達も向かってきてます。それに捜索するにしてもあのセイレーンを如何にかしないと。でも今の私達じゃそんなこと――」

 

「煩い! このまま指揮官が死んじゃう! そんなの、そんなの耐えられない! 指揮官がいないとボクはっ!」

 

 ダメだ、完全に冷静さを失っている。こんなに取り乱したワスカランさんを見るのは初めてですね。

 

「いいですかワスカランさん、今はローンさんと合流してこの海域から撤退しましょう」

「嫌だ」

「嫌って……」

 

「君には分からない! ボクと君達は違うんだそう違う! 君達完成された存在と違って、ボクは……でも指揮官はそんなボクを必要としてくれたんだ! ボクの味方だって、言ってくれたのに……」

 

 ……そんな風に思っていたなんて知りませんでした。完成とか未完成とかはよく分からないけど、いつも大人しいワスカランさんがこんなに感情を発露させるなんて想像もしていませんでした。一体彼女に何があったのか……ああでも、今はそのことを考えてる時間はないんです。

 

「ですがっ!」

「間に合ったか! ……って、これはどういう状態だ?」

 

 気づけばアーク・ロイヤルさん達が近くまで来ていました。ここはアーク・ロイヤルにローンさんの足止めをお願いするのが一番良さそうですね。駆逐艦の砲撃よりも艦載機の爆撃のほうが効果的でしょうから。

 

「手短にいいますと、指揮官のCPボートが沈められてしまって……」

「何だって!? ……いや分かった、私がローンの足止めをすればいいのだな? その間妹達は指揮官殿の捜索に当たるといい」

「それは……」

「急げ、そんなに時間は残されていないぞ」

 

 アーク・ロイヤルさんの言葉を合図にキュンネ達が指揮官捜索に動き出す。ワスカランさんもふらふらとCPボートが浮いていた場所へ向かっていく。そして私は――

 

「――私はアーク・ロイヤルさんの直掩に入ります」

「いいのか? ニーミも指揮官が心配だろう?」

 

 そんなの――当たり前じゃないですかっ! 今は作戦中で、私達は兵器で――でも私だって指揮官を探したいです、指揮官にいなくなってほしくないです!

 

「――私は指揮官を信じてますから」

 

 だから、無事でいて下さいね、指揮官閣下――

 

 ――それからしばらくして、ローンさんを連れ戻すことに成功しました。例の人型セイレーンと激しく撃ち合い撃退はしたそうですが、ローンさんも酷い怪我をしていました。半分程はアーク・ロイヤルさんの爆撃のせいなのですが、そうでもしないと止まらなかったというのです。ローンさんは戦闘行為に異常なまでに執着していますね……

 

 

 そして指揮官は――見つけることは叶いませんでした――




 なんか短いですねー。この数日コイツ何やってたんだ?プリコネなんかしてんじゃねーよバカか?
 今回は全編ニーミ先生視点というか、ニーミ先生の報告書みたいな感じな視点?どう表現するのか分かんないや。ワスカランもあまり狂ってないしワスカラン大好き兄貴ゴメンね?

 というわけで明日遂に鉄血復刻なわけですが……ダイヤがなくて死にそうです。なんなのあの水着?えっちすぎない?俺からダイヤ搾り取るつもりなんだろそうなんだろ?新艦も揃いも揃って可愛いしよこん畜生。

 ところで俺一押しの宰相閣下とヒッパー級二番艦とワスカランはいつ実装になるんですかね?


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目覚めるとそこは

 柔らかな感触、ほのかに感じる暖かさ。微かに舞う風が優しく頬を撫でていく――

 

 目を覚ますと、漆黒に塗りつぶされた夜空が眼前一杯に広がる。いつの間にか夜になっていたらしい。

 

 その暗闇の中に星々を求め視線を動かす。ポツポツと光っているのは見つかるが、そんなに多くは無さそうだ。

 

 ――こんな風に夜空を眺めたのはいつ以来だったか――

 

 その日も確かこんな夜空で、静かな夜で、海も見えていて――“彼女”が隣にいて――

 

 ――“彼女”

 

 今は一体何をしているだろうか。元気にやっているだろうか。こんな風にまた夜空を見ているのだろうか……なんて、大丈夫に決まってるか。彼女の意志は本物だ。例えそれが正しかろうと間違っていようと、それを貫き通す覚悟はあるのだろう。俺に出来ることは彼女の無事と幸運を祈ることだけ――叶うのならば、肩を並べ、共に歩んでいきたい。でもそれは、今の俺には叶うハズのないことで……俺は彼女の理解者でありたいのと同時に、俺は彼女の敵なのだから――

 

 ――会いたい。もう一度会って、話をしたい。敵だからなんだと言うんだ、彼女がいたからこそ今の俺がいる。そんな俺が、どうして彼女と敵対できるものか……しがらみさえ無ければ、俺は――

 

「――ビスマルク」

 

「――どうしたの?」

 

「いや、こうしてビスマルクと夜空を眺めた時のこと思い出して」

 

「そういえば、あの夜もこうして二人で空を眺めたわね」

 

「そうだな……って、ん……?」

 

 ちょっと待て、俺は一体誰と話しているんだ……? その疑問に答えるように視界の端から顔が覗いてくる。

 

 流れるような黄金色の髪。透き通る蒼い瞳。十字マークのついた軍帽。見間違えることなどありえない――

 

「――ビスマルク?」

 

「なによそんな変な物を見たような顔しちゃって。まさか私のこと忘れちゃったのかしら?」

 

 ――そう、この女性こそ鉄血宰相ことビスマルク級戦艦の一番艦ビスマルクだ――

 

 

「あのさ」

 

「あまり動かない、落ちるわよ――でも吃驚したわ、こんな危険地帯の海をボロボロのあなたが漂流していたのだから」

 

「え? 俺漂流してたの? ――じゃなくって、あのさ」

 

「ああここ? ここは私達の活動拠点よ。勿論連合の目は盗んであるから安心しなさい」

 

「それって安心してもいいのか? いやいいか――いやそうじゃなくって、あのさ」

 

「ダメよ? 怪我が治るまではここにいなさい。どのみちCPボートもないんじゃ帰るに帰れないでしょ」

 

「いやまあそうなんだけどさ――ってあのなあっ!!」

 

「何よさっきから」

 

 こっちの話を聞かずに状況説明ばかりぺらぺらと……いやすっごい助かったし今がとてもまずい状況なのは分かったんだけどさ、まずはこの状態をどうにかしたいんだよ俺は!

 

「なぜ膝枕!?」

 

 そう、どういうわけか俺はビスマルクに膝枕をされていた。だから空がよく見えるし、上から声がするし、顔が覗きこんでくるわけだ――あと、チラチラ肉の塊が……

 

「そのほうが男性は喜ぶんじゃないの?」

 

「いやまあ一般的にはそうだと思うけど、ビスマルクは嫌じゃないのか?」

 

「嫌ならしてないわ。それとも、あなたはこういうことされるのは嫌?」

 

「…………嫌じゃない」

 

「ならいいじゃない」

 

 いいのか……それに起き上がる素振りを見せると凄い力で抑え込まれてしまう。俺だって一応士官の端くれ、もやしっ子ではないはずだが艦船少女ってのはやはり凄いな。その度に太ももに押し付けられるのはちょっと困りものだが。

 

「そうそうこの前見た時も思ったのだけど、どうしてあなたはこんな前線に? 戦力も装備も充実してるとは思えないし」

 

「あーそれねえ……」

 

 真面目に説明しようとするとちょっと面倒なんだよなあ。それに内容が内容だし……ていうかやっぱりあの時の艦船少女はビスマルクだったのか。もう一人は一体誰なんだろう……でもまあ、正直に答えるとするか。

 

「――ビスマルクと別れたあと、とある艦船少女に助けられてね。その子が例の計画艦で、何故だか懐かれちゃって……軍法会議もなんの処罰もなくこんな前線の廃基地に放り込まれたんだ」

 

「何よそれ……廃基地?」

 

「ああ。見たろあのボート? あれはウチの最新鋭CPボートだよ」

 

「……それは難儀ね」

 

 分かってもらえてなによりだ。電子機器すらまともな代物がないんだぞ? まあこれはビスマルクに愚痴っても仕方ないな。愚痴られたところでってなるだろうし。

 

「そういえばこの前は助かったよ。Bishopを倒してくれたのビスマルクでしょ?」

 

「礼を言われることではないわ。元々私達が追っていたのよ。それをたまたまあなた達が見つけちゃって」

 

 そうだったのか。あれ? なら別に無茶しなくてもビスマルクが対処してくれたのか……

 

「それにしても、よくやってるわね」

 

「何のこと?」

 

「ヒッパー。あの子の手綱を握るのは中々大変だったんじゃない? 悪い子ではないけど素直じゃないから」

 

「知ってる。いつもぷりぷりしてるし、もっと素直になれば可愛くて魅力的な子になると思うんだけどね」

 

 なにかとはぁ? と言ってくるし、文句は多いし、要求も多い。でもなぜか憎めない。ちょっと素直になれない女の子ってだけだ。

 

「ふふっ、随分ヒッパーに入れ込んでるのね?」

 

「そんなんじゃないって。ただヒッパーには魅力が多いなってだけだって。それに、そのことを教えてくれたのはビスマルクだろ?」

 

「そう言って貰えるとなんだか嬉しいわね。艦船少女と対等に接する指揮官――あなたのような指揮官があの時いれば――いえ、こんなこと言っても無意味ね」

 

「ビスマルク……」

 

 今のビスマルクの側には指揮官がいない。アズールレーンから離反したのだから当然だが――いつか、ビスマルクの側に立つ指揮官が現れるのだろうか――もし、それが俺だったら――

 

「なあビス――」

「なんだ宰相殿、ここにいたのか」

 

 背後から声がかけられる。どうやらビスマルクの知り合い、恐らく同胞だろう。生憎ここからじゃ見えないが……って膝枕見られてる!? ガバっと体を起こし何もなかったかのように横に座り込む。

 

「あらもう膝枕はいいの?」

「いいから。いいから放っておいてくれ」

「? よく分からないけど、そういうなら……それで伯爵、どうしたの?」

 

 なんでそこで分からないかなぁ……男として見られてない?

 

「そろそろ会議の時間だ。だというのに宰相殿の姿が見えないのでな――ところで、卿が宰相殿の言っていた指揮官か」

「そうよ」

「え?」

 

 一体何を言ったんだろう、そんな話題に挙げるほどのことしてないんだけど。それより、今やってきたこの艦船少女、どこかで見たことあるような……

 

「我はツェッペリン。グラーフ・ツェッペリン級航空母艦の一番艦だ。短い間だがよろしく頼む」

 

 グラーフ・ツェッペリン級航空母艦というと、未完成で終わった鉄血の航空母艦か。そんな艦船少女がいたなんて聞いたことないな……

 

「丁寧にどうも、よろしく――よろしく?」

 

 ちょっと待て、俺は一応アズールレーン所属の士官だぞ? そして一応彼女達はアズールレーンから離反したレッドアクシズの残党だぞ? なんでよろしくするんだ? その横でビスマルクがスッと立ち軍帽を被り直しながら俺を見下ろし、手を差し出してくる。

 

「ようこそ、“偉大なる鉄血(グロース・アイゼンブルート)”へ」



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