吸血鬼の憂鬱(魔法使いの消失) (NeoNuc2001)
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本編
第二話 少女覚醒中/ 別名:召喚儀礼


 とある家の地下。暗くジメジメとしたその空間、人々はそれを牢屋と言い、彼女はそこに収容されていた。そこは、淡い光を放つ神代の片鱗が所々に散りばめられ、無限の空間と錯覚してしまうその領域はまさしく怪物を収用するのに相応しい場所であった。だがしかし彼女は罪を侵したわけではない、濡れ衣を着せられたわけでもない。ただ、その姿の異形のみを以って投獄されていたのだ。

 

 

「あぅ〜」

 

 

 例え、彼女が道理も分からぬだろう幼児だとしても。

 

 

 

 

 

 彼女の一日は傍目から見れば退屈を通り越して、狂気だった。

 

 基本、彼女の空間に変化はない。淡い光はその色調や明暗を変えることなく、ただ、重苦しく、粘つくような重圧感が辺りを漂うのみだった。文字通り、檻の力による重圧はかかっていたのだが。

 

 しかし、その中で唯一存在する彼女の"娯楽"とも言うべき出来事は、食事である。

 まず、彼女の食事は一般的な食事時から2、3時間程経過してから運ばれる。無論、貴族のようにその家に多数存在するメイドやコックの怠惰などではない。彼女は異形とはいえ、幼児らしい可愛さを持ち、そんな彼女に食事を持っていかないのは、むしろ、罪悪感を覚えるほどだ。

 

 しかし、自尊心(Guilty)罪悪感(Guilty)を上回る。

 

 それは彼女の力、投獄だけではなく封印の目的を以って縛る理由。

 

 触れられば自身が爆散し、見られれば恐怖で固まり破壊される。そのような怪物を相手に食事を持って行くその行為は正しく死を意味するものであった、彼らの間では。無論、牢屋に食事を投げ入れ、すぐに逃げだせば死ぬことはほぼない。しかしそのリスクを受け入れて率先して行う者は誰一人としていなかった。

 

 やがて、食事がダストシュートのような通路を経由して輸送されるようになり、その通路が掃除され無いがゆえに汚臭を帯び、食事が食事と呼べなくなった頃、

 

「話してくれないかしら、お母様」

 

「...」

 

 ───────────

 

「そろそろお前一人でも行けるだろう。配下を連れて人里を襲ってこい」

 

「はい、お父様」

 

 ───────────

 

「貴様たちは、な、ぜ、?」

 

 運命は流転した。

 

 

 

 

 

 一人の少女が階段を降りる。

 彼女には地から、天からの力を纏い、誰も寄せ付けぬ威圧感、違和感を放っていた。故にか天国ではなく地獄の入り口とも言えるその階段を彼女はなんもためらいもなく降りていった。

 

 降りる先には一人の赤子。

 少女は己の力で神代の檻を容易く砕く。

 そして手を差し出し、こう言い放つ。

 

「私の名前はレミリア・スカーレットよ。そして貴方はフランドール・スカーレット、私の妹よ」

 

 少女、レミリア・スカーレットは微笑みながら自己紹介をした。

 

 赤子、フランドール・スカーレットはその言葉の意味を知ることなく、牢屋から解放された幸福を噛み締めることもなく、新しい何かに出会えた喜びを感じることもないまま、悪環境下においてすら変わることなかったスベスベな手をレミリアのそれの上に乗せた。

 握手ともダンスにおけるリードとも認識しなかったフランドールだが、

 

 確実に感じる生命の鼓動に安心したのだった。

 

 レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット、後にスカーレット姉妹と呼ばれる二人は仲間を従え、幻想郷に戦争(遊戯)を仕掛けることになる、そして、レミ■アの■血■■に■り■争(■■)は■話■■と■■

 

()()()()()()()()()

 

 フランドールの狂気(■■)が覚醒した。



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第三話 The Fifth?

───???───

 

「こんばんは」

 

それは気さくで、ウキウキするような夜の挨拶。挨拶は、私はここにいるのだと伝えてくれる簡潔で便利なおまじない。挨拶をすれば相手が嬉しくなる。挨拶を返してもらえばこちらも嬉しくなる。だから私は挨拶をする。

 

「あぁ。こんばんは、人の身でよくここまで来れたな」

 

やっぱり、返してくれた。嬉しいんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったけどそうじゃないみたい、年齢より、容姿よりずっと大きな経験をしてきたのでしょうね。

 

「門番の人と一悶着あったけど、貴方に会いたいと言ったら喜んで通してくれたわ」

 

「美鈴を破ったのか。まぁ、よい。とにかく、私に一体何用だ」

 

「まぁ、貴方というよりは貴方の妹、そうフランちゃんに用事があるのだけど」

 

 

 

 

 

───レミリア・スカーレット───

 

目の前の相手はとんがり帽子、サイズはやや大きめで先が折れており星がついている、に長い縮れた白髪、灰色と黒の布地を重ねて着込んでおり、そして下は暗い緑色のロングスカートを着ている。なんというか、あまり目立つような格好ではなく、オーラのようなものも感じない。

 

とはいえ、いやだからこそ、私は妹の名を聞いたときに思わず全身が強ばってしまった。私の愛しき妹のフランドール・スカーレットの話題はこの館の中ですらあまり上がらない。私にはフランの話を部下にする必要はなく、また彼らも同様である。パチュリーとは仕事上しない訳にはいかないが、彼女自身が外に出たがらない。現に今も図書館にて読書をしているのがわかる。

 

だとすれば、一体なぜ。

 

「多分本来なら、気にすることはなかったと思うんだけど、フランちゃんが見えて立ち寄ろうかなと思ったんだよね」

 

「!」

 

私の心を読んだのか?いや、そもそもパチュリーと私が作り上げた結界を無視してフランを見通したのか。そのようなことができると言うことは、

 

「千里眼か。だとすれば、」

 

そう千里眼の使い手ならば、

 

「そう、私は種族としてではなく、歴とした真の魔法使い!アリス・マルティークよ。よろしくね」

 

と彼女は仁王立ちしながら偉そうに言った。

 

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

遂に言ってしまったわ、私が魔法使いだって!魔女ならともかく、魔法使いと来れば吸血鬼とはいえ驚きで興奮を隠せないでしょう。

 

「な、成る程な。やはりか。ならばこれまでの出来事に説明がつく」

 

やっぱり動揺が隠せてないみたいね。だって、魔法使いって響きがいいものね。こういうピカピカするような、キラキラするような名前って子供を惹くのよね。どんな天才でも、どんな悪人でも!

 

これならきっとすんなり通してくれるよね?

 

「良いだろう、フランに会わせてやろう。但し、この私、レミリア・スカーレットを倒すことができるならばな!」

 

あれ?

 

 

 

 

───レミリア・スカーレット───

 

手にスピア・ザ・グングニル(必中の槍)を生成し、虚空を切り裂く。人はこの挑発が生み出す風と音だけで恐怖で震え上がるか、少なくとも身を僅かに震わせる程度の変化は表すだろう。しかし、この魔法使いはその風によって動じることは一切なく、ただその笑顔をキープし、

 

「よし!いいよ。一緒に戦おうか」

 

と、その大きめのとんがり帽子をより深く被り直しながら言い、虚無から杖を取り出したのだ。

 

そう、魔法使いだ。もはや五つのみしか存在しない魔法の使い手。てっきり抑止力の何かだ程度に思っていたが、魔法使いと判ればこちらが有利になる。

 

とは言え、このような相手ならば油断はしない。しかし、余裕はある。相手が如何なる魔法を使おうとこちらには空想具現化がある。私がただ一言消えろと唱えれば、いやただ念じるだけで如何なる魔法も消え、全てが決する。その上、仮に因果を操るものだとしても、私には運命操る能力がある。負ける道理はない。

 

しかし、相手はフランの隠蔽を見通し、美鈴をも倒した強者。ならば、空想具現化能力にも何かしらの対策を講じている可能性が高いと見て間違いがないだろう。何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だとすれば、こちらは手練手管を以てしてその策を封殺するのみ。

 

「では、行くぞ」

 

掛け声をかける。

と、同時に魔法使いが詠唱を開始する。とても早い。言の葉が拾えないほどに早い。恐らく、高速詠唱の類い、いや神言の領域に入りうるかもしれない。

 

しかし、それでもまだ遅い。詠唱の完成前に槍を大きくふりかぶって投げつける。私の本来の力である運命操作により簡単には避けられない代物を一体どうやって避けるか。

 

あちらの詠唱の中身は、魔力量から見て、魔法には届かずとも、魔法級の大魔術。恐らく、槍ごと消し去るつもりか。ならばよい。この速攻の槍の投擲はあくまでも魔法の発動を封じるもの。魔術だろうと体術だろうとなんだろうと、魔法が付随していなければ勝機はこちらにある。

だが、そもそも詠唱が完成していない状況であるにも関わらず槍が魔法使いの目の前まで迫った時、彼女はふと顔を上げた。

 

Eternal Ray

 

私には唐突に詠唱を破棄し、一言のみ、何か発したように見えるが、魔法使いが前にかざした手から一条の光線が現れ、こちらに向かうのを見て考えを変えた。どうやら、彼女の詠唱には思った以上に柔軟性があるらしい。

 

だが、まだ甘い。今度は魔法使いの周囲に大量のスピア・ザ・グングニル(必中の槍)を生成し、運命操作により必中効果も付ける。それらは最初のそれよりはるかに鋭く、多く、速く、運命操作の効果も遥かに強い。光線が相手を攻撃していると思ったら逆に攻撃されていた、という状況を作り出す。相手には時間を与えない、大魔術を使わせない、魔法も無論だ。

 

ここまで僅か一瞬。しかし、ここで気付く。槍を消し去った光条が一切衰えることなくこちらに向かっていくことに。即席の槍とはいえ、かなりの強度を持つはずであり、魔術発動時の魔力量、威圧感からしてある程度の相殺はしてくれるだろうと踏んでいたが、それが一切衰えないのであれば話は変わる。いくら真祖とはいえ、直撃はまずい。

 

消えろ

 

思わず空想具現化を使う。しかし、

 

「くっ!」

 

思わず避ける。光線だからといって光の速度では進まないし、そもそも吸血鬼の速度よりは遅い故に回避事態に苦労はない。だが、それ以前に光線は消えなかった。そう命じたはずなのに。私が僅かな驚きに包まれている間にもうひとつの衝撃が訪れる。

 

「う〜ん、いきなり周りに槍がいっぱい出来た時は驚いたけど、マジカルパワーでどうにかなるものね」

 

そこには一歩も動かなかった魔法使いと周囲に刺さっているスピア・ザ・グングニル(必中の槍)があった。綺麗な形を表現している槍の刺さり具合からして恐らく、壊されることも、流されることも、止められることもなく、定められた運命通りの軌道を描いた筈だ。つまり、魔法使いは回避をした。

 

だとしたら尚更変だ。空間転移を含めた如何なる回避方法も運命操作には敵わない。あり得るとすれば、私のを上回る因果操作系の、それこそ魔法そのも...!

 

「成る程な。それがお前の魔法か」

 

「気づいちゃったわね」

 

魔法使いが妖しく微笑む。片目を閉じ、舌を出している。余裕かそれとも作戦か。

 

「名を聞こう」

 

「さっき言ったのだけどね、私の名前はアリス・マルティークよ」

 

「そうか、アリスか」

 

どうやら私は魔法使いを、いやアリスを侮っていたらしい。私はまず気付くべきだった。そもそも魔法使いが魔術程度に詠唱を必要とするのだろうかと。答えは勿論Noだ。だとすれば、先程の詠唱は魔法の発動のためのそれ。そして同時に大魔術の無言詠唱を行った。その大魔術を魔法でコーティングする事により空想具現化を防いだ。運命操作の効果つきの大量のスピア・ザ・グングニル(必中の槍)を防いだのも、魔法による何かしらの時空操作系の効果だろう。この事から察するに、

 

「第五魔法か」

 

現存している魔法は第二(Second)第三(Third)第五(Fifth)の三つのみ。第一(First)第四(Fourth)は既に失われ、第六(Sixth)は未だ現れていない。そして先程の現象と合致するのは第五(Fifth)のみ。

 

「わぁ、すごい!まさかこんなすぐに当てられるとは思ってもみなかった」

 

心底驚いたような顔ぶりでアリスは言う。実際にそうなのかは分からない。こんなお気楽な相手に苦戦を強いられるのは苦痛だが、その責任は全て私にある。今度は爪を使い、接近戦を試してみよう。

 

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

魔法使いらしく詠唱みたいなものをしてから仕掛けようと思ったら、思った以上の数倍速く槍を投げてきたから思わずビームを打っちゃったけど、さらにそのビームを消したり、さらに沢山の槍が出てくるから魔法を使っちゃったけど、元から無いものだしいいかな。

 

そしたら今度は格闘戦か、

 

「格闘技は師匠に教えてもらったから得意だよ!」

 

身体強化の魔術をかけて、杖をよく握って、足に力を入れて、さぁ行くぞ!

 

 

 

 

 

 

───レミリア・スカーレット───

 

完敗だ。空想具現化をもう少し上手く使えば、運命操作をもう少し上手く利用すればあるいはあったかも知れないが、届かなかった。

 

だが、何日かかっただろうか。体力切れ等を起こすとは、一体何十年ぶりだろうか。もう指先ひとつも動かない。

 

「さぁ、私を殺してフランに会うがいい」

 

こうなってしまっては仕方ない。私では無理でもフランの力ならばアリスは倒せるだろう。私が殺されたことを知ればフランも本気になる筈だ。幸い、アリスも無傷という訳ではない。各所にかすり傷があり、息も荒い。これなら行ける筈だ。

 

「殺さないよ」

 

「うん?」

 

「だから、殺さないよ。だってもう私の勝ちでしょ?」

 

「いや、美鈴を殺ったのだろ?ならば、」

 

「いやいや、別に一悶着といっても世間話みたいなものだからね。門番は大変だねぇとか、立ちながら休んでみたらとか」

 

見えないが、アリスが手を左右に振っているのが分かる。いやしかし、

 

「では、あの光線は何だ?直撃してたら間違いなく重傷だぞ」

 

というか死んでる。あの時は直感的にヤバイとしか思わなかったが、よく考えれば魔法で減衰しないのだから見た目の魔力以上の継続ダメージをものすごい勢いで食らってしまう。恐らく吸血鬼としての回復が数十年単位でかかってしまう程に。

 

「あれは、開幕の一撃でビックリしてコントロールを間違えたんだよね、本当にごめん!」

 

今度は手を合わせ、腰を大きく折っているように見える。というか見えなくても分かるということはかなり大袈裟にやっている訳だが...まぁいい。どちらにせよ負けて、手加減されたと知ればもうどうしようもない。幸いアリスには敵意がない。ならば、

 

「わかった、敵意がないのは理解した。先程の条件通り今すぐにでもフランの所に案内したいが、体が全く言うことを聞かなくてな。後日ということにしてもらえないか。無論、部屋はこちらで用意してあげよう」

 

「いいの?でも吸血鬼用のベットはちょっと...」

 

「なに、気にするな。ここは吸血鬼以外も住む館だ。人間用のベットも用意してある」

 

「やった!久しぶりのふかふかベットだ!」

 

ふかふかとは言ってないのだが...まぁいい。

 

唯一動く口で部下を呼ぶ。私を見たときギョッとされたがまぁいい。いや良くないか、もしかしたら反乱が起こりうるかもしれないな。その時はその時だ。美鈴やパチュリーにどうにかしてもらおう。

 

「彼女を客人の部屋に連れていってやれ」

 

部下が恭しく返事をし、アリスを連れていく。さて私も休憩を...いやもうここでいいか。

 

しかし、魔法使いか。かなりいい駒を手に入れたな。

 

彼女ならば..緊急時のブレーキに...なって...くれるだろう...

 

少女睡眠中




話数が気になった人、第五魔法と聞いて、うん?、と思った人、魔法使いの言葉使いにおや?と思った人、あれ?これ原作「月姫 レミリア・スカーレット」となんか違くね?と思った人、最後のを除いて伏線です、お楽しみを。

文字数はこれまでの最高を走ってる予感です。実際に確かめていないですが。

評価、感想を入れてくれると作者は喜びます。俗に言う創作意欲というやつです。

ここまで書いてるんです。察してください。


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第四話 伝説の証明 (上)

イズミさんの月レミはリメイクまでしばらくお待ちください。

レミリアの敗北後。とはいえ、初敗北ではないので注意。

追記
どうやら月レミの閉鎖は一時的だったようです。


───???───

意識は回り、精神は静寂

 

ただ(Scarlet)が在るのみ。

 

上を見ようと、下を見ようと、左右を見渡そうと、(Scarlet)しかない。

 

その中では私は紅一点なんだろう、笑えない。

 

だがやがて、周りの(Scarlet)が静かな血の海だと気づくと最初からそうであったかのように心がくるりと反転したように感じた。

 

欲しい

 

欲しい

 

欲しい

 

その心は強くなる。

 

思わず笑みをこぼしてしまう。

 

ああ、心地がいい。

 

やがてその心に従い、血の海の流れの強さに構わず、血を吸う。そう、吸うだ。

 

しかし、吸えない。

 

心は強くなり続けているのに、吸えない。

そして気づく。

 

自身の服が深紅に染まっていないことに。

 

血の感触、匂いが一切ないことに。

 

不透明な海に浸かりながら自身の服が見えるのはおかしいが...そうか、これは夢か。

 

夢か。()()()()()()()

 

自身の虚ろを自覚しながら、私は至福の満足感と絶望の渇望感に挟まれながら精神を少しずつ狂気に落としてこの心を漂う。

 

 

 

 

 

───レミリア・スカーレット───

 

目を開けようとする。昨晩の戦闘からか疲れでまぶだが重いが、日差しが窓から否応なく私のまぶたを貫通する。鳥は歌い、花は咲き誇る。目覚めの朝としては最高、人間ならば。吸血鬼は人間とは昼夜逆転した生活をする。確かに真祖である私に睡眠が必要ではないとは言え、睡眠欲自体が無いわけでもない。さらに言えば、昨夜の戦いの回復をしなければならない。そんな私の睡眠を邪魔したのは、

 

「ほ〜ら!起きなさい!もう朝だよ!」

 

魔法使いのアリス。どうやら彼女はお節介らしい。

 

「いや、吸血鬼にとって朝は睡眠時間だが?そもそも、昨夜の戦闘で疲れているんだ。寝かせてくれ。」

 

「そんな残業帰りのサラリーマンみたいなことは言わないの!そもそも、それを言ったら私も同じでーす!」

 

サラリーマン?一体なんのこと言っているんだ。まぁいい。

 

「それを言うならばお前は手加減を...いやもういい!眠気が失せた。」

 

アリスと話していたらすっかり眠気が失せてしまった。一杯食わされたと言うべきか、ぐたらないと嘆くべきか。

しかし、なぜ私はアリスとこうまで親しく話しているのだろうか。立ち上がった私をニコニコと見る彼女には悪意は無いように見える。しかし、それだけでは理由にならない。

 

本当に何故だろうか。

 

そう考え始めようとしたところ、アリスが彼女自身の手を私の頭の上に乗せ、

 

「よ〜しよし。やっと起きられたね〜。」

 

「私は子供か!」

 

と、いわゆるなでなでをして、そして当然、私は怒った、先程の疑問など忘れて。

 

「会ったときから気になっていたが、お前は私を子供扱いしているようだな?容姿のみを理由にしているなら改めた方がいいぞ。何故なら私は既に200年を生きた───」

 

「やっぱり子供だね〜」

 

私の威圧的な言葉に対し、アリスはテヘッ、と笑みをこぼしながら反撃する。

 

「いや、なぜそうなる!?人の寿命より遥かに長く私は生きているぞ。」

 

「だって、私が生きた年月と比べたらまだ赤ん坊みたいなものよ。」

 

「いや、あり得ない」と私は心の中で即答する。何故なら、彼女の言葉を信じるならば最低でも8000年は生きている。今から逆算したら、当然、人の文明が生まれる前の時代にアリスは誕生したとなる。やはりあり得ない。しかし相手は魔法使い、仮にあり得るとすれば、

 

「さては...未来から来た時間渡航者か?」

 

アリスが未来から来たのならば話は変わる。寿命の問題も年齢の問題も全て時間と未来の文明が解決してくれるだろう。何より魔法使いであるならば時間渡航という壮大な奇跡も不可能には聞こえない。

 

「違うよ。」

 

しかし、私の仮説はあっさり否定された。

 

「ならば、一体どうして人間の身で、そこまで長く生きている?もしや、人間ではないのか?」

 

「ううん。私は、少なくとも肉体はれっきとした人間だよ。理由は...秘密にしようかな。あっ!でも、おばさんって呼ばないでね。怒っちゃうから。」

 

前半は妖しく微笑みながら、後半は慌てたように、でも最終的に不気味な笑みをこぼしながら、アリスは言った。

 

この瞬間から遠くに真っ赤で細い運命線が一つ、私には見えるが...詳細は知らないでおこう。

 

「そうか。折角だ、私が直々に館を案内しよ...うん?」

 

館を紹介をするために扉を開けようとしたら、全く動かない。真祖の腕力で動かないことからして空間固定の類いだろうが、

 

これは結界か?

 

「あぁ、ごめんごめん。それ、わたし。何か嫌な感じがしたから結界を張っといたの。」

 

「嫌な感じ...だと?」

 

だとすれば敵襲か?いや、昨晩のことを考えれば謀反の可能性も。だとすれば、

 

「ハッ!」

 

自慢の爪をもって結界をぶち壊す。

仮に空間固定を使おうと、それが結界であるならば結界自体を破壊してしまえばいい。相手が魔法使いであろうとこちらは真祖なのだ、魔法ならともかく、魔術ならば不可能などではない。

 

しかし、周囲の物ごと破壊する強引な手だが、そのようなことを考えている暇はない。

 

結果的に扉ごと吹き飛ばし、広間を視界に収めた瞬間。

 

「うん?」

 

二人の吸血鬼が広間に横たわっていた。

 

「多分その二人じゃないかなぁ。よっぽどの初心者じゃなければこの結界の効果に気付くから。」

 

結界の効果とやらはおそらく失神のような物だろうが、

 

今はどうでもいい。

 

部下の謀反の意思を見抜けなかったのは痛かったが、

 

「とりあえず殺すか。」

 

私は殺意と爪を剥き出しにこれらに歩み寄る。

 

「待って!彼らの処遇は私に任せてくれないかな?実際に倒したのは私だし。」

 

ここでふと一考する。これらを無力化したのはアリスだ、それなりに強力な結界を利用して。ならば、これらはアリスに任せるべきではないか?そもそも、このような低俗なモノに対して私が手をわずわらせる理由はない。ならば───

 

「確かに、一理あるな。アリス、こいつらはあなたに任せる。但し、この館にはもう二度と入れるな。」

 

そう私がいった瞬間に二つの物体が消えた、ように感じた。

 

「空間転移で適当な異界に飛ばしたよ。二度とここには来ないんじゃないかな?」

 

「そうか、ならばそれでよい。」

 

今の感じでは文字通り、飛ばしたのではなく、別領域に転移したのだろう。あいつら程度ならば異界から脱出することはまず無理だろう。

 

私では出来ないとは言えない魔術だが、能力を使うならばまだしも、純粋な魔術理論のみでは魔力量が足りない。しかし、流石は魔法使いと言うべきか、苦もなく魔術を発動した、無詠唱で。

 

やはり、彼女は必要な逸材だ。

 

 

 

 

 

 

───フランドール・スカーレット───

「何...これ...?」




真祖
地球に住むヤベー存在。核兵器程度では傷もつかない。

魔法使い?
人類から生まれたヤベー存在。魔力だけなら真祖を上回りうる。

■■
■■に■■■■ヤベー存在。■■な■■を保有する。

ここまで来て気づいたが、「月姫」というワードが入ってる作品のリメイクってそもそもできるのか?
いや、イズミさんはきのこと違うから...

というわけで第四話。フランの初セリフ。多分主人公のはずなのに...

というわけで、ここまで読んでくださってありがとうございます。

面白いと思ったら高評価を、気になることがございましたら感想をお願いします。そうしたら作者が喜びます。

それではまた次回


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第五話 伝説の証明 (中)

アリスとパチュリーの会話に注目&伏線まみれの回


───レミリア・スカーレット───

 

謁見の広間から抜け、フランに会うために地下への入り口のある書庫に向かう途中、一人の少女がこちらに歩いてきた。

 

「パチュリーか。わざわざ書庫から出てきてどうした?」

 

一人の少女、パチュリー・ノーレッジは用がないにも関わらず読書をやめ、書庫を出るような気楽者ではない。つまり、何か用事があるのだろう、恐らく私に。そう推測したからこそ私はパチュリーに用事を聞いたのだ。

いやしかし、それ以前にアリスを紹介しないといけないのでは?フランの狂気の件に関してもアリスは関与するだろう。ならば──

 

「アリスについては既に知ってるわ。昨晩ずっと話してたし、私が来たのは彼女についてのことだし」

 

と心を読んだかのようにパチュリーは言った。そしてそのままアリスにスタスタと歩いていき、

 

「さぁ!あなたの知ってることを全部教えてもらうわよ!!」

 

と満面の笑みで、アリスの肩を掴み、目に星を描きながら七曜の魔女はアリスに言ったのだった。

 

 

 

 

 

───パチュリー・ノーレッジ───

 

それは昨日の早朝のこと。

 

私は三日三晩続けられていたレミリアとアリスの戦闘を使い魔を通して見ていた、声は使い魔の都合上聞き取れなかったが。

できれば私もレミリアの応援したかったが、多対一の戦闘ならばともかく一対一の戦いに乱入できるほど私は強くない。だからこそ“静観”が私にできた最善手であった。

 

そのような一切の隙を許さない戦闘の最中、レミリア・スカーレットは私に念話を飛ばし、

 

「書庫に罠を張れ」

 

と短く私に指示した。

 

なぜという質問には答えてもらえそうになかったからあくまで推測だが、状況から見て、負けを確信していたのだろう。ならばトラップを張る意味とは一体?

 

守りたいのは蔵書?私?いや違う、それらは彼女にとって死してなお、守りたい()()()()()ではない。恐らく、彼女がトラップを利用してでも守りたかった存在は───

 

「フランドールね」

 

そう推測した私は戦闘を時折監視しながら即死級のトラップを書庫の幾所にも、特にフランドールがいる地下牢への入り口がある書庫の奥を重点的に設置した。半分、私の魔術工房と化し、トラップを多量に設置した書庫は、レミリアを倒した強者であっても、無傷で通り抜けられるものではないだろう。

 

私はあの時、そう思っていた。

 

「さて...」

 

トラップの設置が一通り終わり、木製の椅子に座り休憩する。木の軋む音と共に一呼吸の間ができる。

そして水晶越しにレミリアと挑戦者の戦闘を覗いたら、レミリアが倒れ伏し、戦闘は終了したところだった。

 

やはり勝者は、レミリアの予想通り、挑戦者となった。

 

本来ならこの時点で、いや戦闘が縺れた時点から逃げる準備をすべきだった。蔵書の特に重要なもののみを回収し、フランドールを放置すればいい。

 

一つ私の研究を手伝って欲しい。それさえしてくれれば、本は好きにして構わん。

 

悪魔の契約。本人をも含めた契約者全員に契約の遂行を強制させる神秘の一つ。しかしこれは、フランドールの死で研究は()()をもって終了となり、実質解除される。したがってこれもまた私を拘束する理由にはならない。

 

しかし、私はそうしなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうでるかしら」

 

戦闘が終わった今、挑戦者はこちらに来るはずだ。魔力検知、霊的検知、その他様々な結界を利用しており、気付かずに書庫を通過することは出来ない。そしてトラップも含め、書庫を通過したとしても、それなりののダメージを負ってフランドールと対面するはずだ。フランドールの力はレミリアが認める強さ。無傷ならともかくそれなりにダメージを背負っているならばフランドールには勝てない。

 

そう思ってた矢先、

 

「ふ~ん、水晶は結構いいかもね」

 

挑戦者が突如、私の隣に現れた。私はその瞬間意識を思わず彼女に向けてしまう。さながら彼女を除いた全てが()()()()かのように。

 

「..!、アグニシャイン!」

 

だからだろうか。私は席を立ち、慌てて魔術を発動させる。しかし───

 

「ふふっ、駄目でしょう。こんな場所で暴れちゃ」

 

と言いながら私の魔術を帰した。すなわち、一瞬にして私の魔術の構造を理解し、如何なる力か私が行使した魔術をマナに変換し、私に帰したのだ。ついでに私が倒した椅子も元通りにしてあった。

 

「うそ...信じられない」

 

私の魔術は、一工程(シングルアクション)であるものの、精霊を媒介とした大魔術。それを理解できたとなれば、仮に相手が魔術師であろうとなかろうと、私は魔術の知識面においてはこの人には勝てない。その上、私が設置したトラップの一切を検知、発動をさせずに無効化したことも追い打ちをかける。

 

すなわち、この刹那に発生した情報、獲得した情報は、魔術師である私ではこの人に戦闘で勝つことは絶対にできないことを示す。

戦闘を諦め、私は心を落ち着かせて言う。

 

「参ったわね。さあ、煮るなり、焼くなり好きにしなさい」

 

美味しくないけど。そう私は心の中で付け加えた。

 

「別に食べないわよ。まぁ、もう少し運動したら美味しくなるかもだけど。」

 

「別に食べられるとは思ってないわよ。最後のささやかな反抗..って、何で私が美味しくないって...?」

 

私の心を読んだ?

 

「そうなるわね。私には千里眼があるの。強引に変性でもしない限り自然と心が読めちゃうから」

 

静かに理由を告げる。

 

「だとすれば、私の魔術も千里眼で?」

 

驚きはしない。むしろ安心した。千里眼でアグニシャインの魔術構造を把握したならば先程のようなことも、特異的な性質を保有している、という仮説で納得できるものになる。どちらにせよ最後の足掻き、ノーレッジ(知識)の名において、せめて目の前の未知は死ぬ前に理解してみせる。

 

「自分を卑下しないで。あなたの精霊魔術は内容を知った(見た)からといって、理解に至れるほど簡易な構造をしてないわ。膨大な魔術知識を持ってさえいなければね」

 

下から覗くかのように私を満面の笑みで見る。間違いない、挑発されてる。

 

「つまりあなたは膨大な魔術知識を持っていると?」

 

「知りたい?」

 

「もちろん」

 

しかし、未知があると言われれば聞かざるを得ない。

 

「そうだ!まず自己紹介をしないと。私の名前はアリス、アリス・マルティーク。あなたは?」

 

「私の名前はパチュリー、パチュリー・ノーレッジ」

 

そして私とアリスは死の実感を遥か彼方に押しやり、雑談を始めたのだった。

 

 

 

 

────────

 

「置換魔術は使い方次第ではすごいことになるらしいよ」

 

「あの錬金術における劣化が?私には想像出来ないわね」

 

置換魔術は錬金術を発展させた魔術、と言えば聞こえが良いが実際には何も産み出さない偶像(贋作)の魔術。そのような魔術に何の力があるだろうか。

 

「ある領域を一つ丸ごと連続的に置換してその座標を悟らせなかったり、世界のテクスチャを置換して無理矢理自分勝手なルールを敷いたりする事もできるらしいわね」

 

テクスチャの張り替え、強力な結界。結果だけみれば実に素晴らしい。しかし───

 

「でもそれ、割には合わないんじゃない?」

 

そう、割に合わないのだ。魔術の大原則である等価交換の法則をアリスが述べた置換魔術に成り立たせるにはどう考えてもリターン以上のコストを支払わなければならない。その莫大なコストを払うには私のような生粋の魔術師か、今となっては世界に5、6人しかいない魔法使いがそれなりの魔力(マナ)を抽出しなければならない。やはり割に合わない。

 

「普通に考えたらそうだけど、ネタは単純だよ。自分の魔力(マナ)大魔(オド)を少しずつ置換して、獲得した魔力(マナ)を元に魔術を並列展開する。スピードにこそ技量や魔術回路の差が現れるけれども、得られる結果は、いい意味で()()()()()()

 

「!」

 

確かに()()()()ならば先程の馬鹿げた大魔術も行使可能。魔力の流れ関連は魔術師一般が最も得意とするもの。何せ日頃から感じているのだから。魔力(マナ)大魔(オド)の置換を工房等の大規模な魔術礼装を利用すれば比較的低コストで発動可能だ。後は置換した大魔(オド)が溢れないように何かしらの魔術を発動すればいい。確かに、()()()()()()。だからこそ、

 

「ズルをしてるわね」

 

「!...よく気がついたわね」

 

魔術において等価交換の大原則は何にも曲げられない。仮にそう見えるなら何か裏があると考えるべきだ。

 

「それで、(オチ)は?」

 

「実はね───」

 

 

────────

 

「精霊がどうかしたのかしら?」

 

「ううん。あなたが得意な精霊魔術の精霊じゃなくて、(ほし)(れい)と書いて()()と読むほうだよ。星の代弁者、原初における最初に生まれしもの。だから、原初の一(アルテミッド・ワン)とも呼ばれてるわ。それで、今その地球の星霊が存在しないらしいの」

 

「そうなのね...」

 

「興味ないの?」

 

「そうね。なにせその、星霊、がどのようにして役に立つかわからないもの。むしろいないほうがましだと思うわ」

 

()()()()なら何も問題はなかったけど、これからもしかしたら宇宙人とかやって来たら交渉とかしなきゃいけないのよ」

 

宇宙人...気にもしていなかった。

 

「確かに、人類(アラヤ)はともかく、地球(ガイヤ)には交渉役が必要かもしれないわね。それで、候補は誰なの?地球(ガイヤ)だって馬鹿じゃないだろうし、あなたほどの博識なら一人ぐらい知ってるんじゃないのかしら?」

 

「それが、まだ会ったことないのよ。原初に生まれなかったら、力があることが次の条件なんだけど...」

 

それなら知人に一人いる───

 

「ならレミリアじゃないかしら。私が知る限り、あんなでたらめに強力な力を持つのは彼女だけよ」

 

「ううん。星霊になるにはあと三倍ぐらい強くなってもらわないとダメかな」

 

「そんなに...」

 

 

────────

 

 

私の精霊魔術から、世界の(からくり)まで様々なことで雑談を、討論を、教授をし、その過程でアリスが敵ではないと知った。

そして気付けば一日が過ぎていた。

 

「そろそろ行かないと」

 

「どこへ?」

 

「レミちゃんの介抱に。昨日は色々とイジめちゃったからね」

 

アリスとの親交を深めた結果か、敵である可能性を思い起こさせるその言葉に対して私は最早、緊張感を抱かなかった。私にとってアリスは敵というより、お茶目な賢者のように思える。これ程なら根源にも到達しうるのではないだろうか、と思うほどの凄腕の賢者だが。

 

「いじめたって...」

 

だからむしろ、あの壮絶な戦闘を「イジメ」程度に評価したアリスに私は呆れ返ってしまった。

 

「まぁ、いいわ。行きなさい。どうせフランドールに会いに行くのにまた私に会うだろうから」

 

「そうだね!それじゃあ、またね!」

 

と彼女は言ってこの大図書館から去っていった。

 

「───さてと。」

 

アリスが去ったのを確認したら、水晶で広間を確認する。そこには珍しく眠っているレミリアがいた。いや二十四時間失神していた、という表現が正しいか。そういえば、私はレミリアが寝る姿どころかその素ぶりすら見たことだろうがない。吸血鬼といえども睡眠は必要なはずだが───

 

「まぁ十数年単位の過労働だと思ってればいいでしょう」

 

そう自身を納得させた。

 

そして時はアリスとの再会に帰る。

 

───レミリア・スカーレット───

 

「全てとは大きく出たな、パチュリー。魔法使いであるアリスに全てを聞くのはそれなりの覚悟必要だぞ」

 

魔法使いであるアリスは既に根源に到達している存在だ。根源とは霊長の起源、ゆえにその霊長の起源に到達しているアリスはおよそ全てを知っていると言っても過言ではない。様子から見て、未来や過去の全てを知り尽くしているようではないようだが、膨大な魔術知識や魔力はその根源から供給されているとみて間違いがないだろう。そのアリスに全てを聞くというのは、すなわち自身の(時間も地位も)全てを以て(もって)彼女の知識を受け取るということだが、

 

「えっ...え!?」

 

パチュリーは一度キョトンとした直後に赤面しながら驚く。その切り替えまで、僅か一瞬。瞬きしか許されないほどの回転の早さ。しかし、いつもの理知的なイメージに反したその一瞬のキョトン顔が何とも可愛らしかった、というのは内緒にしておこう。

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

「し、知らなかったわよ。まさかア、アリスが魔法使いだったなんて。ど、道理でレミリアが負けるわけね」

 

パチュリーの言葉から動揺とはまた違う、そう、畏怖と驚愕を感じる。さすがと言うべきか、アリスに対するそれは()()()()()()()()()()()()。おそらくパチュリーはアリスを同格もしくは格上の()()()として接していたのだろう。確かにパチュリーの実力を鑑みればそれだけで凄いことなのだが、それでも魔術師と魔法使いの差は無視できないものである。だからこそ、()()使()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がパチュリーに表れたのだろう。無論、推測の域は出ないものだが。

 

「全て..ね。別にいいけど、精神がすり減るのが先だと思うよ」

 

アリスがさらりと恐ろしいことを言う。

 

「いえ、ごめんなさい。取り乱してしまったわ。私はあなたが使用した奇怪な魔術について聞きたかったのだけど、あんなに話してもらって未だに知らなかったことがあると思うと..」

 

「う、うん!わかったよ。でもその話はまた───」

 

アリスが述べる言葉が最後まで紡がないうちに爆音が響く。その原因は地下───

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

何かの爆音が響いた刹那の瞬間、否それすら置き去りにする程の限りない無遅延でレミちゃんはここではないどこかに行ってしまった。

 

「音の方角からして地下の方ね。私の結界が、恐らくレミリアによってだけど、強引に破られて地下に入っていったわ。姉思いのレミリアのことだから、きっとフランドールに何かあったと考えるべきね。」

 

パチュリーが答えをくれた。確かに千里眼で確認してみればレミちゃんとフランちゃんが向かい合って何かを話してる。今は大丈夫みたいだけど───

 

「時間がないわ。急いで向かわないと」

 

何か嫌な予感がする。何かに吸い込まれるような。私の千里眼ですら見通せない何かが...

 

「えぇ、そうね。さっきの爆風で本がやられているかもしれないなら早急に対処しないと」

 

パチュリーはレミちゃんとフランちゃんではなく本の心配をしている。それも考えてみれば当たり前。館を破壊するほどの規模ならともかく、館を揺らす程度の爆発でレミちゃんとフランちゃんが重傷を負うことはない。そう考えるとやはりの私の杞憂?どちらにせよ今は地下に向かうのが先だ。

 

パチュリーは精霊の力を借りて、私は私が愛する神秘なる力を現して地下に向かう。




長い、長い。でも評価高い人は長いらしいから多少はね。

本当はフランを出したかったんだけど、がまんか。

という訳でここまで読んでくれましてありがとうございました。
評価は評価欄に、感想は感想欄に、誤字報告は誤字報告欄に是非お願いします。

次回は戦闘回かな?

解説
星霊
Rewriteに出てきたワードを拝借。本家様と全く同じ意味なのかは不明

書庫
色々とあれすぎて、それ自体が神秘性を纏い始めた大図書館。気づいたら本が増えてたり、そうでなかったり。

パチュリーのフルネーム呼び
レミリアとは実はまだ親密な関係ではないが、アリスの呼び方は...

置換魔術
エインズワースの特権じゃないよ。

原初に生まれて(ry、
アリス、何s...

もう少しやs(ry
アリスは脂身が好きではない、多分。


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第六話 伝説の証明 (下)

───ついてこれるか?


伝説の証明

 

───レミリア・スカーレット───

 

「さて、どうしたものか。」

 

目の前ではフランが手を精一杯広げ、壮絶ながらも可愛らしい笑顔を浮かべる。

 

周りには本来ならば部屋にあったはずの一切の遮蔽物となりうる物は存在しない。

 

そして、フランのあの手の中には()()()()()()がある。

 

フランがここであの核を握り潰せば、ほぼ間違いなく私の心臓は破壊されるだろう、運命を操ることができる私が相手ではなかったなら。

 

しかし、それでも現状のピンチは変わらない。

 

「さぁ、お姉さま。」

 

フランが可愛らしく私に声をかける。

 

「あの人を早く連れてきて?」

 

さて、本当にどうしたものか。

 

───パチュリー・ノーレッジ───

 

書庫の方で爆発が起きた。

 

それと同時に消えたレミリア

 

この一連の出来事によって弾き出される可能性は一つ。

 

フランは重傷を負っている。

 

レミリアは自身が多少の物理的、精神的ダメージを受けようと許してくれるだろう。だが、その矛先が彼女の妹であるフランに向けば話は変わる。加害者の価値と危険性、主にフランに対する、を秤にかけ、近くに置けないと判断した時、文字通りクビになるだろう。どれほどレミリアと親しかろうと、その秤の匙加減に変化はない。

 

さらに今回の爆発騒ぎ。館内部、フランのいる地下牢に繋がる書庫での爆発。

 

これはとてもまずい。

 

監督責任ということもあるだろうが、それ以上にこの爆発には心当たりがあった。

 

「侵入者用のトラップ...」

 

トラップはアリスが解除したため入り口付近には少なく、逆に守りを固めるために地下牢入り口付近には多い。仮にトラップが原因の爆発なら、爆心地は地下牢付近の可能性が高い

 

冷や汗が走る。

 

しかし、トラップはレミリアの指示で行ったもの。そもそもトラップ程度ではフランは傷つけられないだろうし、私には狂気を抑え込めるという役割がある以上...

 

「...」

 

隣を見る。アリスが真剣な面持ちで前を睨む。

 

聡明な魔法使いと共に書庫に進む。しかし、冷や汗は止まるどころか一層勢いを増してるように感じた。

 

 

 

 

 

───アリス・マルティーク───

 

私たちの道を示すかのように灯る蝋燭が照らす薄暗い廊下を通り、やがて木製の重苦しい書庫の扉の前に立つ。

 

「さっきの爆発から不気味なぐらいに何も起きてないわね。やはり事故かしら。」

 

「わからない...取り敢えず中に入ろう。」

 

扉の取っ手に手を掛ける。扉は軋む音を上げながらも、殆どの抵抗をなくして開かれる。

 

パチュリーが一歩中に入って、こちらに振り向いて、

 

「取り敢えず、書庫内のトラップを解除しておきましょう。」

 

と言った。

 

いや、というかまだトラップを放置してたの....

 

そう思いパチュリーを見ると、

 

「そんあジト目で見ないで、片付けしようと思ったら貴方が当たり前のように転移の神秘を操るものだから気になって飛び出してきたのよ。」

 

そう言い訳するパチュリーは頰を赤らめ、恥ずかしそうに手を口に当てていたのだった。

 

可愛い。

 

じゃなくて、

 

「えぇ、それなら仕方ないわね。とりあえず罠の解除をしようか。」

 

 

 

 

 

 

そして、私たち二人は書庫内に点在するトラップを解除する。

 

やがて、先ほどの爆音の原因と見られる場所、地下牢(フランの部屋)と記されたプレートが飾ってある扉の前に辿り着いた。

 

「...勿体無いわね。」

 

先程の面影を一切感じさせないほどの冷徹さ、静けさを内包したパチェリーが静かに呟く。魔術を扱う者として感情を抑えることは巧みのようだけど、それでも僅かな怒りがその表情に見え隠れしていた。

 

そう...そこには、木っ端微塵にされた本棚や書物があった。

 

私が見た限りでは棚や本には防御の術式が込められている、それもかなり強力な。中には本そのものにも何かしらの神秘が付随していてパチュリーが展開したトラップでは、方向性が違うこともあって、こんな派手に破壊は出来ない、せいぜい軽い跡が付くだけだ。それも魔術で簡単に綺麗にできるが、それでも尚このような惨状になっているということは...

 

「ここで戦闘が起きていた?」

 

まさしく台風のようなレミちゃんの力なら、その余波だけで図書館をボロボロにすることはできるだろう。その妹も同じく。だから納得こそはいくけど、それでも動機が判らない。

 

姉妹喧嘩だろうか、よくあるどうでもいい理由から始まるアレ。

 

「多分レミちゃんはこの地下室にいると思う。」

 

とにかく、下へ降りよう。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

「えぇ、そうね」

 

 

 

 

 

 

階段を一段ずつ降りていく。私とバチュリーの履いている靴と石の階段が音を響かせる。階段では一切の戦闘の痕跡はなく、先ほどの書庫の惨状が嘘のようだ。

 

「...本当に地下牢の方にいるのかしら?」

 

「えぇ、いるはずよ。私の千里眼がそれを裏付けている。」

 

一歩ずつ階段を降りる。ジメジメとしたその薄暗い雰囲気は女の子にとってはあまり入りたくないところだ。

 

だけど、何故か言い知れぬ高揚感と不安感が湧き起こる。これは───

 

「もしかして、私...期待してる?」

 

なら、何に?

 

───レミリア・スカーレット───

 

「お姉ちゃん!」

 

「なんだ、フラン。」

 

「問題出すよ!私が次に何しようとしてるか、わかる?」

 

フランが私に問題(Question)を出す。理不尽なその問題(Question)、本来なら、当てようがないが私の場合は別だ。なにせ、私はその問題(Question)の答えを既に知っている。運命を覗けるが故に一歩先を観れる私が既に知っていて当然であろう。しかし、私の問題(My Problem)はそこではない。

 

「...そうだな。」

 

思案する、という演技をする。それ以前に現状を打開するために解決策を模索しているところだが、フランが癇癪を起こさないように大げさにフランの話に乗る必要がある。だから演技。無意識(本音)有意識()のどちらにおいても「私が考えている」必要がある。

 

故に大きな間違いを犯す。

 

なんて皮肉だろうか、考えていたのに、探していたのに、その行動故に見逃すとは。

 

静かに、されど重々しく後ろの扉が開く。(刻限に至る)

 

───パチュリー・ノーレッジ───

分かれ道、右は観測室への道、前は地下牢への入り口

 

「パチュリーは観測室から援護して。パチュリーの能力だと近接戦闘は無理だから。」

 

「わ、わかったわ。」

 

私は慌てて頷き、右の道を登っていく。

 

近接戦闘は出来ない、その評価は正しい。精霊魔術を行使する結果には強大な力が纏う。前に炎の球をレミリアに、そして無数のトラップをアリスに無効化されたものの、それでもしてこの世界においては強力な力だ。その自信に一切の揺らぎはない、何故ならその揺らぎの無さこそが私の力の源、精霊を行使する上で必要最低限な資源(リソース)なのだから。

 

しかし、その傲慢や油断ともとれる自信(制約)があるが故に戦闘時における瞬間的な選択、反射神経を要する行為はできないのだ。

 

私がアリスに驚いたのは、異常なまでのそのスピード性。

 

フランに作る予定の拘束具のようにあくまで非戦闘的な魔術具を作ってきたが、そろそろ戦闘用のそれも作る時が来たかもしれない。

 

やがて観測室に辿りつく。

 

一つの古びた木の椅子、長机、そして机に置かれている水晶があるのみ魔法陣などなく、とても部屋の観測などできる様子ではない、だが準備は既に終わっている。

 

魔力を込める。

 

すると、水晶から地下牢の映像、各種計器の数値が空間に投写される、さらに地下牢に音声を伝える魔術も発動している。

 

このシステムの起動において詠唱はいらない、部屋の構造そのものがシステムの起動、操作するための回路となっているのだから。

 

「さて、部屋の様子は...!」

 

部屋の様子を見て気づき、驚く。フランは、アリスの言動からなんとなくわかってたけど傷は負ってない。でもフランとレミリア、双方は内部に少しずつ妖力を溜めている。そしてフランは「なんでも破壊する程度の能力」を既に発動し、レミリアの心臓の急所を手の中に収めているのも分かる。あれを潰されればレミリアの心臓も跡形もなく破壊されるだろう、しかしその程度ではあの吸血鬼は倒れない。故に問題は別にある────

 

フランの本当の狙いはレミリアのではなく、アリスの心臓にあるということ。

 

状況を把握し、考察し、それに気づいたのが、たった今。映像の端を見れば地下牢の唯一の扉は開き始めている。音声で警告しないと────

 

地下牢の扉が開く。

 

───アリス・マルティーク───

 

魔法とは奇なるものだ。知恵ある者が考えもつかないことを為す技、力ある者の不可能を可能にする術、ありとあらゆる現象の限界を突破するための鍵、それが()()だ。だからこそ、私が未熟だからその魔法の行使は嫌だった。それは誰かが死ぬのを見るより次に嫌いなこと。

 

だからこそ!

 

使う対象が()()なら構わない。

 

扉が開く、そして間もなくフランちゃんはレミちゃんのではなく、私の心臓の急所を素早く、確実にすくい上げるだろう。それがフランちゃんの狙い、扉の前に立った時に彼女の感情、密かに私に向けられた興奮、期待、そして溢れんばかりの殺意を千里眼をも用いて感じ取ったことだから間違いがない。故に、私は────

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

あらゆる物体には急所があって、それを潰せはなんでも破壊できるだって?そんなものは知らない、私の魔法の前では全てのルールは無意味になるのだから。

 

「えっ?そんな?なんで!」

 

フランちゃんが周囲の壁を破壊しながら発した、苛立ち、不安、悲しみを含んだ言葉はフランちゃん自身の能力に対する信頼を裏付ける。ならば行ける。

 

「レミちゃん!パチュリーの準備もできてる、フランちゃんの能力を封印する魔道具、そのためのデータを集めるなら今だよ!」

 

「何故それを、いや愚問だったか。パチュリー、準備はできてるか?」

 

視線はフランに向けたままレミちゃんはパチュリーと会話を取る。

 

「えぇ、もちろん。この時のために一年間準備しつづけたのだから」

 

パチュリーが発動した魔術の作用で空間にパチュリーの声が響く。この場にはレミちゃんと私で2対1、だけどこの状況ですら安堵はできない。なにせフランちゃんはレミちゃんと同じく◼️◼️◼️の一翼を担う◼️◼️の一人なのだから。

 

息を吐き、再びフランちゃんを見つめる。

 

───レミリア・スカーレット───

 

フランの戦闘能力は、生い立ちを考えると、信じられないほど高い。戦闘の運び方、爪の一振り、それらのフランの一挙動は...長きに渡る生活を鑑みるに最早習得し得うる機会のなかっただろう長年の経験を基にしたかのようなスキルを思わせるようなものだった。そう、彼女の戦闘スキルは正しくプロフェッショナルの領域にある。

 

私はフランを見つめ、されどフランはアリスを笑顔で見つめ返す。妖艶でもあり、恐ろしくもあったフランの笑顔は吸血鬼としては及第点であったが、それでも私に向けられてないのは若干の妬みを感じる。

 

一瞬の空白

 

その引き伸ばされたような無音の刹那を以って戦いの火蓋はきって落とされた。最初に動いたのはフラン。暴力的な嵐のごとく力、花をも殺さぬそよ風のごとき力、その相反する二つの力による超加速、超停止を以って接近する。その相手は私、ではなくアリス。右手の()が必殺の一撃として襲いかかる、一般においてその速さと威力は必中でる以上に避ける意思すらも起こさせない。されど、ここに()るのは異常のみ。それぞれが異なる理に居座る者、すなわちその力と速さを常とする者。

 

揺れ動くような甲高い重低音が鳴り響く。

 

杖から現れ、必殺の一撃(フランの攻撃)を食い止めたのは銀色に輝く隠し刀。溢れ出る神秘性は並々ならぬ業物であると表し、フランの爪を正面から受け止めた、尚折れぬことが尋常ではない名刀であることを証明する。

 

一瞬目を合わせた次の瞬間にフランが左から突き刺すような形で手をアリスにねじ込もうとするも、防がれる。わずかな一瞬における刃同士の攻防が三度繰り返された直後、アリスとフランが同時に部屋の端まで吹き飛ばされる。フランが爪の攻撃の勢いそのまま足蹴りをアリスの頭にかましてきたのだ。しかしアリスは好機ありと見たかのように同じく足技でカウンターをいれたのだった。

 

刃と格闘の応酬、その結果としてフランはかなりの傷を負った様だがやがて治癒されるだろう。対照にアリスは息をそれなりに上げているものの、ほとんど傷を負ってなく、彼女の巧みな体の運び方が再び見てとれる。

 

フランがダメージを負った今、好機か。

 

「さて、次はこちらの番だ、フラン!」

 

神槍(勝利の槍)を取り出し、低空滑空しながら突撃する。さながら特攻兵のように。

 

───アリス・マルティーク ───

フランちゃんに蹴り飛ばされたけどその勢いのまま起き上がる。ジェット機のように隣をレミちゃんが走り抜ける。かくいう私は部屋の端で息を軽く整えながら半分本業の魔術を詠唱する。

 

レミちゃんはフランちゃんの狂気(◼️◼️)を封じ込めたい。そのためにはフランちゃんの能力を解析してそれに合った封印用の礼装を用意する必要がある。仮にそれがもう一つの人格(◼️◼️◼️)を無視する行為だとしても、そして私はそれを許容する。だって、封印されようと無視されようとそれは()()()()から。だからこそ、私はこの作戦(未来)に協力する。

 

フランちゃんが次々と能力を発動させていく。レミちゃんの体の至る所の急所がフランちゃんの手の内側の集まり、あっさりと潰される。しかしそのいずれもレミちゃんを倒す決定打にはならず、それどころか私の魔術とレミちゃんの自己修復能力でほぼ無意味にされる。

 

レミちゃんが思い描いた作戦(未来)は簡単。私がフランちゃんを弱体化させて、レミちゃんが弱ったフランちゃんの能力を受け続ける、そしてパチュリーがそれを解析する。フランちゃんの能力を無効化できる私とフランちゃんの能力を受け続けられるレミちゃんと安全に確実にフランちゃんの能力を解析できるパチュリーのまさしく適材適所。さながらワクチンのごとくこの作戦は上手くことが運ぶはず。

 

レミちゃんの槍による牽制を大きく避けるフランちゃん。

 

「...来なさい、レヴァーティン」

 

ふとフランちゃんは一言何か発した。

 

───フランドール・スカーレット───

 

呼び寄せるのは神話における破壊、歴史に終焉をもたらる絶対の剣、その模造にして空想。

 

壊すの?なにもかも?

 

えぇ、ここにある全てを壊す。ことはそれから、だから。

 

でも、

 

わかってる。この程度でお姉ちゃんは壊れない。

 

だからこそ、この熱い、溶岩のように溢れんばかりのこの気持ちは()()()に投げつける。

 

だって、こんな気持ち、たかぶり、初めてだから。

 

───レミリア・スカーレット───

 

背中に感じたのは熱と痛みと嫌悪感。私が見た運命にはなかった現象。そして肌で感じる、続く二撃目の熱、そしてありえないはずの圧倒的な死の気配。

 

思わず右に避ける。後ろの攻撃に気を取られすぎて、目の前にいたフランの能力で槍を破壊されるも構わない。

 

そしてすぐさま後ろを確認し、確信に至る。

 

「そうか、そんな技まで身につけていたか」

 

後ろにはもう1人のフラン、変わらず凄惨な笑みを浮かべる。すなわちは分身、それも基本性能をほとんど落としていない状態の。そして、

 

「レヴァーティン、と言ったな。フラン。」

 

レヴァーティン、私が持つ槍とは北欧神話においてはおそらく対極に位置するだろう剣。全てを破壊し、全てを燃やし尽くす。太陽の権能を持つレヴァーティンは絶対の破壊を生み出す。

 

そう、太陽の権能だ。それが嫌悪感の正体、吸血鬼の天敵とも言える太陽の光は、しかしながら真祖の力を保有する私には効かないが、それが伝説級のものならば話は変わる。恐らくは私と同じく、模造品であろうが、正確さで言えば間違いなくあちらの方が上だ。フランをフランだと知らなければ、本来の持ち主であるスルトではないかと疑うほどに。

 

「驚いたな。フランもここまで成長してたとはな」

 

賞賛の言葉、その文字通り私は驚いた。なにせ魔術にしろ、何にしろ、フランがここまでのものを作り出すとは思わなかった。真祖である私を畏怖させるだけの炎の具現。私が空想具現化で、瞬時とは言え、作り出すものよりも数段格上というのはある種の才能すら感じる。

 

さらにはそれを分身を以ってして複数作成するというのは最早感銘を覚えてしまうほどだ。妹の成長がよもやここまで来ていたとは。

 

「しかし、やっとこれで人数差は同じというわけだ。妹相手に数の暴力で押さえつけるのは気に食わなかったからな」

 

しかしまだ余裕はある。私もまだ本領(空想具現化)は発揮してない上に、魔法使いであるアリスとの連携を以ってすれば十分に対抗可能な状況である。ならば計画は変えずに───

 

「ふふっ。それはどうかな、お姉ちゃん?」

 

ふと、愛しいフランが囁く。いや、囁き声が聞こえる距離にはいなかった筈だ。ならば、声を発したのは───

 

「レミちゃん!」

 

アリスの声が響く。途中までの考えで得た違和感とこれまでの戦闘経験によって得た直感、それ頼りに反射で右にグングニルを───

 

目の前のフランの燃えるような笑顔が私を打ち伏した。

 




解説
アリスとレミリアがお互いに未来を認知できる能力がある上に、アリスはレミリアの思考を千里眼で覗き放題なので、阿吽の呼吸で戦闘が始まるというなんともわかりずらい展開に。魔法使いと真祖、それに対抗するのはフランが一人、いや四人ですね。

まぁ既に原作のレールを大幅に脱線してるのですが、どうなるんですかね。

追記
感想、欲しいです


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Extra
第零話 最終分岐点


英霊の話をしよう。

 

英霊とは英雄としてその一つ及び複数の文明の保護、発展を担った人のコピー。

 

中には人の形として断定できない者、人に仇をなした者もいるが、いずれも英霊の範疇にあるものである。

 

すなわち、如何なる英霊だろうと人類の味方である。

 

しかし、今回の英霊はその絶対の原則を外れたもの。すなわち、英雄として人を守ることはなかったもの。

 

曰く、それは幻想。

曰く、それは血肉を喰らう怪物。

曰く、それは人の敵。

曰く、それは世俗より消えたもの。

 

それは裏には落ちず、消えることあらず、ただひっそりとある場所に存在していた。我々には場所も時も環境も分かり得ない所であった。

 

それ故に、それは英霊として確立し、抑止力の一環となったのだ。とはいえ、横破りな反則は幾つかしているのだが。

 

これは一人の姉思いの英霊の物語である。

 

 

魔法使いの話をしよう。

 

魔法使いとは人の文明が成し得ぬ魔術をも超えた一つの奇跡の頂点である魔法を操る者。

 

過去には数多の魔法使いが居たとされるが、人類の発展に伴い少しずつ消えていった。今や魔法に到達するための根幹とも言える魔術は現代科学に追い越されている状況である。

 

しかし、今回のそれは従来の魔法とは一線を画するものである。すなわち人の理にあらず。

 

曰く、その結果は何にも成し得ず。

曰く、その数は五つ。

曰く、それは世界を守るもの。

曰く、それはまさしく偶然の奇跡である。

 

それは魔法をあくまで些細な奇跡に留め、旅を続ける一人の少女だった。彼女は人間らしく、笑い、悲しみ、嘆き、喜び、感動しながら文字通り彷徨い続けた。

 

それ故に幻想の英霊に興味を持ち、定住することを決める。それが己が享受に反していようと。

 

これは一人の優しくも悲しい魔法使いの少女の物語でもある。

 

導かれるように魔法使いと英霊は会合する。それが吉と出るか凶と出るか、誰にもわからない。

 

「さて、お姉様を殺しにいくわよ!」

 

「あなたの場合、殺すと言うより壊すほうだと思うけどね。」

 

楔から解き放たれた英霊は目を見開き、空間を切り裂くように炎の大剣を構え直す。きっとそれは一つの目的のために。

 

「あと、こんな私のために協力してくれてありがとう。」

 

「いいのよ。別に私は、私が赴くままに好き勝手するだけだから。」

 

魔法使いは杖をクルクル回し、絶望をはねのけるように希望の歌を歌うように詠唱を始める。それこそ、気まぐれに。

 

二つの物語が紡ぐのは、日常と非日常、幸せと神秘、嘆きと悲劇という虹色かつ目立つ糸である。

 

彼女らに幸あれ。

 




Fate/Terminated Point参照

というわけで東方です。魔法使いです。パチュリーとかアリスとは違い魔法です。

そんな感じの要素で始めましたが、恐らく投稿は気まぐれになります。

ちなみに東方は地霊殿、輝針城、カンジュをやってます。イーグルショットのルナがむずい。まぁ、本作とは関係がないけど。なので、にわかとして執筆したいと思います。

感想、評価はしたの方で。反応があると嬉しくて続きを書きたくなるのでお願いします。


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