その対魔忍、平凡につき (セキシキ)
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初っ端からなんかあれだけど、最後に勝てればそれでいい

魑魅魍魎が跋扈する近未来の日本。人と魔の間で守られてきた暗黙のルール「互いに不干渉」は人が堕落してから綻び、両者が結託した企業や犯罪組織の登場によって時代は混沌と化していった。

 

しかし正しい人間たちも無力ではなかった。魔に対抗できる者が現れ、いつしか人々は対魔忍と呼んだ。(Wikipedia引用)

 

 

とある対魔忍の話をしよう。

 

彼は、現代日本を生きた前世の記憶とやらがある以外は、極々平凡で標準的な男だった。

 

特異な異能を持つことが多い対魔忍にあって、彼はそういった先天的な才を持たなかった。優れた血筋の生まれでもなく傍流も傍流、ほぼ一般人と変わらない家に生を受けた彼が対魔忍になったのも、あまりの戦力不足に喘いだ本家が分家に号令をかけ能力のありそうな者を召集したからという傍迷惑な理由からである。

 

更に言えば、対魔粒子によって大幅に強化された身体能力さえも、対魔忍という括りの中では並みでしかなく、剣術や投擲術なども特筆すべき点はなかった。本来ならば、能力のない使い捨ての駒として、力あるものの肉盾として無様に命を散らしていたことだろう。

 

 

―――彼の持つ唯一にして最大の異質、前世の記憶がなければ

 

 

端的に言って、前世の彼はサブカルチャーをこよなく愛するオタクだった。そのオタク知識から、彼は自分の生まれた世界がゲームの中の世界、もしくはそれに類似した世界だと理解していた。しかもよりにもよって18禁指定の陵辱系のジャンルだ。

 

サイバーパンク的なマッポーめいた世界、しかも一般人どころか人々を守るはずの対魔忍ですらサクサクとっ捕まって、「そんなチ[編集済]なんかに負けない!」→「ヒギィ!」という即オチ2コマを晒すような世界観である。ちなみに男は死ぬ(残当)。

 

弱肉強食を地で行く世界だ、平凡な自分ではすぐに死んでしまうか、下手をすれば精液を吐き出すだけの奴隷になり果ててしまうだろう。

 

流石にそれは勘弁していただきたい。せっかく二回目の人生を送れているのだ、前世の分まで満喫して、十分生ききってから死にたい。

 

世界の厳しさと自身の平凡さを前世の知識から理解した彼は、当然それらに負けないように強くなる道を選んだ。時に対魔忍として五車学園に召集された中学2年の話である。

 

とは言え、彼はどこまで行っても凡人だ。チート能力も、強力な忍法も、名のある武器も、錬磨された武道も、一般人として生きてきた彼には何もなかったのだ。

 

幼い頃から鍛錬を積んできた同年代の子供達が彼のことを無能だ役立たずだと嘲るなかで、彼は必死に自身の道を模索していった。

 

技量に大きく左右される剣などに頼らず敵を殺さなければならない、幼い頃から鍛錬を積んでいなくとも十二分に鍛えなければならない、どんな状況でも安定して対応出来る技術を学ばなければならない。効率よく確実に敵を鏖殺出来なければならない。

 

死への恐怖と生存欲求に駆り立てられ、半ば狂気に浸かりながら、彼は進み続けた。そんな彼が行き着いたのは対魔の力を武器とする対魔忍達とは真逆の道、彼らや魔族が侮る、人類が長い年月積み重ねてきた(わざ)だった。

 

 

引き金を引くだけでヒトを殺害できる銃の知識と技術を学んだ。

 

膨大な経験と研究に裏打ちされた軍隊式訓練を行い肉体と精神を鍛えた。

 

特殊部隊が用いる戦闘技術やパターンを調べあげ自身に叩きこんだ。

 

歴史に名を刻んだテロリストやゲリラなどの戦法を探り戦わずに勝つ方法を知った。

 

膨大な時間を調査と学習、そして錬磨に当て、血反吐を吐く思いをしながら(というか実際に吐いた)戦士として自らを見事育て上げたのだ。

 

そこまでやっても凡人の彼では、残念ながら対魔忍の平均程度の力しかない。強大な力を持つ者からすれば、取るに足らない存在でしかないだろう。

 

だが、彼は他の脳筋アッパラパーな対魔忍にはない、臆病で慎重という最大の武器がある。自身の限界を把握し、有利な状況を展開し、最後の最後まで油断することなく確実に敵の喉笛を掻き切ることが出来る境地にまで、彼はついに辿り着いたのだ。

 

まあ、過酷な訓練を課しすぎたせいか頭のネジが幾つか飛んでしまったようだが、どうしようもない部分を背負いつつも地獄を駆け抜け生きていくことだろう。

 

その男、田上宗次の明日はどっちだ。

 

△ ▼ △ ▼

どうも皆さん。知っているでしょう?田上宗次でぇ御座います。(スターゲイザー)パイ喰わねえか。

 

という冗談はさておき。俺が対魔忍養成機関でもある五車学園に連れてこられてから三年が経過した。現在俺は普段は学生として生活しながら、任務があれば対魔忍として闇夜を駆けている。とは言えあくまで学生の身だ、任務もそれ相応の難度の低いものが主となる。実戦に慣れる為の実地訓練、といったところかな。

 

しかし幾ら簡単とは言え、ここは弱肉強食の世界。油断した者から犠牲になっていくのが常識な修羅の巷だ。少しでも驕ったらたちまち正義の味方から哀れな被害者に早変わりだ。……彼らみたいにな。

 

『ぐ、がぁぁぁぁああ!!?やめ、やめてくれ!俺はおとこ―――ぐうぅっ!!』

 

『ひぎぃぃぃ!!なんれ、きもちわるいのにぃぃ!き、きもちいいのぉぉぉ!』

 

 

……うん、これはひどいな。

 

モニター越しの映像があんまりだったので思わず眉を顰める。

 

オークに輪姦されて絶賛アへってる彼らは、俺と同じ班に所属する班員だった。オーク相手に油断して先行したらこのざまだ。

 

いや、ホントは簡単な任務だったんだよ?突然急成長した貿易会社が実は裏で魔族と繋がってたことが確認されたんで、その社長の暗殺と可能ならば顧客リストを入手するだけ。敵の警備もそこまで厳しくない、言ってしまえばお使いみたいなものだったはずなのだが……。

 

調子に乗った班員……なんつったっけ。まあいいや、班員A(男)が優勢だった勢いで敵陣深くに突っ込み過ぎたせいでトラップに引っかかり、残り二名もそれを助けようとした挙げ句に取り囲まれ、あえなくお縄につくこととなった。

 

俺?お前は引っ込んでろよと言われたんで、後方支援(戦力確認と見取り図のチェック)してたよ。さ、サボりじゃあねえし!?

 

まああいつらが捕まってくれたお陰で、奴さんは襲撃が終わったものと思って警備のオークすら回してパーリナィし始めたご様子。手薄になって侵入しやすかったわぁ。身体を張って囮してくれてる彼らには感謝だね!

 

今のうちにコンピューターから顧客リストと、ついでに輸入元のデータも抜き出しておく。これでサブミッションはクリアっと。ついでにカメラの画像も消しとくか。

 

「あとは社長の暗殺だけど……」

 

セキュリティールームのモニターを見回して、標的の姿を探す。顔や背格好はもう叩き込んである。その成果か、直ぐに見つかった。

 

「社長自らとは、性が出ますなぁ」

 

ちょうど社長が捕まった対魔忍を嬲り始めたところだった。完全に自分の優位を確信しての行動だろうけど……トップがわざわざ敵の目前に身を晒すのは危険すぎるだろうに。

 

「さて、残りもさっさと終わらせて帰ろう」

 

足元に転がっているオークの死体からAKMを二丁拾い上げる。中華連合からの流れ物らしく命中精度はお察しではあるが、まあいいだろ。

 

足を向ける先は、勿論彼等がいる地下の調教部屋。パーティーを開いてるのなら、派手に殴り込みに行くのが礼儀ってもんだ。

 

さあ、ショータイムだ。

 

△ ▼ △ ▼

その時会社の若社長は、間違いなく人生の絶頂にいただろう。

 

会社を興したものの経験と人員が不足していたせいで低迷を続けてきた彼だったが、とある魔族が経営している闇の企業と手を結んだことで瞬く間に成長を遂げた。

 

提携先から人や麻薬などを仕入れ、それを日本各地や米連へと輸出する。ただそれだけで今まででは想像出来ないほどの金と権利を手にすることができた。

 

まあそのせいでうるさいコバエが寄ってきたようだが、奴ら頭の中まで筋肉で出来ているらしい。少し負けた風を装ったら調子付いて突っ込んできたのだ。そいつをガスで眠らせたら話は簡単、人質にとってみせれば残った二人もあっさり捕獲することが出来たのである。

 

「ほら、今度はこっちから突っ込んでやる、よ!」

「んぐっ!?んん~~!」

 

彼は捕らえた対魔忍の内の一人の口に突っ込みながら周りを見渡した。

 

「オラオラ!さっきまでの威勢はどうした対魔忍さんよぉ!?」

「しょうがねぇだろ気持ちいいんだからよぉ!太くて堅いのが大好きな変態さんだもん、なぁ!!」

「だ、まれぇぇっ、こん、こんにゃも……のぉぉぉおお!?」

 

もう一人の対魔忍は残ったオークに集られ、全身の穴という穴を嬲られているようだ。あの様子だと、しばらくすれば自ら腰を振るようになるだろう。

 

残った男の対魔忍は、「おで……二刀流だったんだ……」とカミングアウトしたオークによってヤラナイカ?されている。同じ男としては流石に同情を禁じ得なかった。せめて女に絞り取られた方がマシだったろうに……。

「……っと、ほら何を休んでるんだ!」

「んんんっ!?んぶぅぅ、んんんんん!?ぅんんんー!」

 

女の頭を掴んで強引に前後させ、全力で快楽を享受する。見れば女のほうも、道具のような扱いをされているのに顔を赤らめその瞳はとろんとしていた。まあ、媚薬効果のあるオークの体液をあれほど浴びれば、否が応でもそうなるだろう。

 

「ふぅ、やっと終わったぜぇ……お!やってるなぁ!飛び入り参加はありかい旦那ぁ!」

「ああいいとも!存分にやってくれ!」

 

と、そこに警備の仕事を終わらせたオークが一人、電子式のドアから入ってくる。そのオークは社長の言を聞くと、よほど待ち焦がれていたのだろう、その場で服を脱ぎだした。

 

とは言え、頭と下半身が直結しているのはオークの常、その場にいる誰もそれを咎めるものはなく、目の前のご馳走を貪ることしか考えていなかった。

 

―――もしここで誰かがそのオークに、もとい背後の電子扉に注意を向け、扉が何故か開きっぱなしだったことに気づいていれば、死神の魔の手から逃れることが出来たのだろうか?

 

改めて言おう、社長は人生の絶頂を味わっていた。普通では手に入らないだろう富と権力、そして対魔忍、それもかなりの上物を自らの物に出来たのである、これを幸福と言わずなんと言おうか?

 

「ははっ、もう死んでもいいな……!」

 

 

「あっそう。じゃあ死ねば?」

 

 

突然、聞きおぼえのない声が彼の耳に冷徹な宣告を届けた。

 

あまりに冷たいその声音に、熱狂の直中にあった彼らは一気に凍りつき、声がしたほうへとその目を向ける。

 

そこには、先ほど部屋へ入ってきたオークの姿があった。だが彼は、両膝を床に着けていただろうか?それに、その頭から、何か金属のような、そう、ナイフみたいなのが生えて……。

 

その後ろにたつ幽鬼のような何かに気付いた瞬間、彼らの思考を閃光と炸裂音が奪い去った。

 

二丁のAKMから放たれる7.62mm弾が銃口より飛翔し、捕食者であったはずのオーク達の頭蓋を瞬く間に弾き飛ばしていく。一瞬前まで対魔忍を犯していた彼らは何の抵抗も出来ず、羽虫のようにその命を散らしていった。

 

―――銃声が止んだとき、その場で立っていたのは社長である彼と、幽鬼のような男だけだった。ほんの十秒前までは淫靡な匂いの立ち込める陵辱の場であったそこは、今や血と死骸に満たされ鉄錆の臭いを発する屠殺場となり果てしまった。

 

突然訪れた現実を受け入れられないまま、彼は地獄を齎した幽鬼のほうへと再び目を向ける。

 

恐らく男だろうその背格好に、羽織った黒のロングコートの隙間から米連が採用しているボディアーマーを覗かせ、同じく黒のコンバットブーツを血で濡らしている。そして何よりも目を引くのは、深々と被ったフードの下、その顔を覆い隠しているガスマスクだ。

 

唐突に現れた乱入者は、彼から見れば死神以外の何者でもなかった。それでもほぼ無意識に、彼は乱入者へ問うた。

 

「お……お前は、だれだ……!?」

 

そしてその問いに、男は銃声で答える。

 

思わずヒッ、と彼は身を屈めたが、弾丸が食らいついたのは彼の足元に転がるオークの脳髄だった。

 

男は最後の銃弾を放ったAKMを地面へと無造作に放ると、オークが落とした別のAKMを拾い上げ、銃口を別のオークに向けて歩みだした。

 

ダァン!

 

「オゲッ!?」

 

ダァン!

 

「ゴフッ……」

 

ダァン!

 

「ガァッ!」

 

男は部屋を練り歩きながら、まだ息のあるオークの頭蓋を的確に射抜いていく。銃声が一つ鳴るごとに断末魔が一つ木霊する。社長である彼には、それがカウントダウンに思えてならなかった。

 

「……俺が何者か、だったな」

 

男が一通り部屋を歩き終えた後、再び社長の前に立ってずっと閉ざしていた口を開く。

 

「その質問にさ、一体何の意味があるんだい?」

 

その言葉と構えられた銃が、全てを物語っていた。

 

―――銃声が一つ、響いた。

 

 

△ ▼ △ ▼

一度は言ってみたい台詞が言えて余は満足じゃ……。

 

ということで無事オーク20体と標的を始末したので、今回の作戦はしゅーりょーだ!いやあ……ほとんど俺しか仕事してねぇじゃん!何のための班行動だっつうの!

 

若干の怒りも込めて役立たずの方に目を向ける。

 

まずは男の方。コイツは……ご愁傷様としか言えない。男なのにオークに犯されるとか、死にたくなるだろうなぁ……自業自得だばぁか。

 

んで、オークに集団レイポゥ…されてた奴は……あ、これヤバい。入れてたオークがひっくり返った所為で騎乗しちゃってるよ。おもっくそ奥までぶち込まれた形になってるから、あまりの衝撃に身体がずっとビクビクしてる。「オッ……オッ……」しか言ってないけど、これ正気に戻れるのか……?ひとまず首根っこ掴んで引っこ抜いておこう。

 

あとの一人は……まだ大丈夫そうだな。落ち着いたからか、瞳に生気が戻ってる。

 

「おーい、大丈夫かぁ?ええっと……名前なんだっけ、とりあえず無事?」

「その声……田上さん……ですか?でも、その格好は……」

「おう、班員Dの田上さんだ。悪いがマスクはこのままでな。ガスが撒かれてる可能性があるから」

 

たどたどしいが、キチンと受け答えもできるようだ。結構壮絶にやられてたと思うけど立ち直り早い。なかなかのやり手と見た。

 

「はぁ……どこに行ってたのかという文句は置いておいて……すみません、助かりました。あと、私の名前は氷室花蓮です。ちゃんと覚えておいて下さい」

「あ?あー……すまんな、名前覚えるの苦手でなぁ。氷室、氷室……よし覚えた」

 

唯一意識を保っていた班員……氷室花蓮と軽く会話しながら彼らの武装や装束を回収する。どこに保管されているかがネックだったが、幸いなことに部屋の中に置かれていたのですぐ見つかった。こんなすぐ近くに置いておくとか、ホントいい趣味してますね。

 

ほいよ、と氷室に装備一式を放り投げて話を続ける。

 

「名前確認してそうそうに悪いが、ここから先は俺のことデルタって呼んでくれ」

「はぁ、D(デルタ)……コードネームですか?」

「ああ。俺はまだ正体が割れてないからな、出来る限り身バレは避けたい。一応そっちのことも、そうだな……C(チャーリー)でいいか。それで呼ぶ事にしよう」

「分かりました。他の二人はどうしますか?」

「伸びてるから放置でもいい気がするが……男をA(アルファ)、女をB(ブラボー)にしとこう」

 

とりあえず伸びてる二人を持って……こいつら汚いなぁ……。持ちたくねえ……何か包むもの、オークの服でいっか。二人に紐のように巻き付けて二辺で方結びっと、これで風呂敷みたいに持てるな。

 

「チャーリー、歩けるか?というか立てる?」

「ハァ……フゥ……ッ、ええっ、何とか……!」

 

嬲りものにされ子鹿のように震える身体で、それでも彼女は立ち上がった。対魔忍としての誇りがそうさせるのか、それとも彼女の意思が強いのか……素直に感嘆するばかりだ。出来れば捕まる前に発揮して欲しかったけどネ!

 

「必死に立ってるとこ悪いんだけど、このまま脱出する。ブラボー担いでくれないか?」

「い、いえ。二人とも私が……」

「少しは自分の体調考えろよ。その状態でほぼ成人の男女担ぐのは無理だろ。よしんば行けたとしても、速度が格段に落ちる。敵に囲まれながらお前ら守るなんて芸当、俺は無理だぞ」

 

現在、この中でまともに戦闘出来るのは俺だけだ。氷室は立ってはいるが、媚薬の効果と消費した体力のせいで集中出来ず、能力は使用出来ない。刀が振れるかどうかも怪しいほどだ。だからこそ今すべきは、敵の殲滅ではなく迅速な撤退だ。可能ならば誰にも遭遇しないことが望ましい。

 

一分一秒が惜しい以上、多少自由が利かなくても離脱速度を落とすわけにはいかないのだ。もし気絶した二人を担いだ氷室に速度を合わせて敵に囲まれた、何て事になったら流石に救出は断念せざるを得ない。俺が一番大事なのは自らの命に他ならない。かといって速度を重視して俺が二人を担いでも、敵と遭遇したときに対処しきれなくなる。一人につき一人、これが精一杯の妥協点だった。

 

氷室も納得してくれたのか、渋々ながらも頷いてくれた。

 

「ところで、どうやって撤退するのですか?いくら手薄とは言え、警備は相当数います。それを突破するには、流石に戦力が足りません」

「何で突破する前提で考えてるんだよ……脳筋にもほどがあんぜ」

 

呆れて思わず溜め息をつく。冷静な奴だと思ってたけど、やっぱり根本的に対魔忍なんだな……。

 

「な、何ですかその反応は……とにかく、策は有るんですよね?」

 

態度が露骨だったのか、少し拗ねたように此方を睨んでくる。

 

「勿論。帰るまでが任務だからね……これなーんだ!」

「それは……車のキーですか?」

「イグザクトリィ」

 

手品のように閉じた手を開くとそこには電子ロック式の車のキーがあった。装備の回収ついでに()社長の衣服からがめておいたのだ。ふふふっ、これがプロの忍ィの仕事だぜ……。

 

「車も確認してきたが、車体と窓は防弾使用だし、足まわりにも手が加えられてる。装甲トラック代わりとしても十分使えるよ」

「いつの間にそんな確認を……でもそこまで辿り着けるのでしょうか?ここは敵陣です、警備だって厳重なのでは?」

「そこも問題ない、逃走経路は事前に確保してある。あと10分以内なら、ストレートに車まで辿り着けるぞ」

「……はあ、もう突っ込みません。その調子だと、退路も問題ないんですよね?」

「勿論、事前準備に抜かりなしだ。そろそろ行くけど、問題は?」

「大丈夫です、行きましょう。……お願いします」

「応、任せとけ」

 

氷室が一人を担いだのを確認して、俺も(不本意ながら)アルファを担ぎ、レッグホルスターから一丁の拳銃―――ベレッタM93R を構える。

 

よくテレビなどで見る自動拳銃(オートマチック)、主にベレッタM92Fと同じような形状だが、それとは異なり長く突き出た銃身(バレル)弾倉(マガジン)、そしてトリガーセーフティーの前部に取り付けられているフォールディング(折りたたみ)ストック。M92Fをモデルとして作られた機関拳銃(マシンピストル)だ。

 

これは元々対テロリスト用に『突撃銃(アサルトライフル)並みの高い制圧力を持った拳銃』として開発された代物で、従来の機関拳銃などと比べ銃口の跳ね上がりを抑える工夫が成されている。フルオート機構を排し三点バースト機構を採用しているのもその一環である。

 

コイツは俺が自前で持ち込んだ武装の一つであり、普段からサイドアームとして重宝している装備だ。

 

俺達対魔忍が相手取る魔族は、基本的に人間よりも身体機能と肉体強度が高い。9mm弾では決定打にならないことも多く、亜音速の弾丸すら見切ってしまう相手だっている程だ。

 

それを理解した上で、なぜ威力に秀でる大口径回転銃(リボルバー)や45ACP弾を使わないのか。それは反動の低減を追求した結果生み出された高い精度と、三点射による火力及び持久力が高いバランスで維持されているからだ。

 

武装の制限が無い以上、火力を求めるならば短機関銃や突撃銃を使えばいい。というか俺はそうしてる。わざわざ火力や装弾数で劣る拳銃を使うのは、その方が取り回しがよく接近戦にも対処しやすいからだ。そしてその中で高水準のものを使うのは火力不足を補うためである。今回M93Rを選んだのは、男一人を担ぎながら更には疲弊した友軍を護衛するという状況で、身軽さを維持しながらも火線を張れるようにするためだ。

 

後は、普及率の高い9mm弾ならば他の実包よりも戦場での回収が容易だという経済面でのメリットも存在する。これがマグナム弾やFive-seveNのような特殊な弾丸だと魔族との戦いじゃ滅多に見ないからな……いやそっちも使うんだけどさ。基本的に調達に難があるんですよねえ。

 

閑話休題

 

さて、いい加減仕事するか。扉の脇に張り付いて、チラリと氷室の様子を窺う。よし、いつでも行けそうだな。

 

心の中で3つ数え、一気に飛び出す。クリアリングを済ませ、付いてくるように手振りで氷室に知らせる。今いた所謂調教部屋はビルの地下三階の一番奥にある。ここから道が一本まっすぐ進み、数十m行った先に駐車場が設置されている。目的地はそこだ。

 

「一気に走るぞ。敵は俺が何とかしとくから、付いてくることだけ考えて」

「了解しました」

 

フォローするから安心しろ、という意味合いで声をかけてから駆け出す。

 

一本道とは言ったが、通路の途中途中にはエレベーターや倉庫などと繋がる横道がいくつかあり、いつ接敵してもおかしくはない。意識を研ぎ澄ませ、通路にけたたましく木霊する俺達の足音を掻き分けて敵の気配を探る。

 

それと並行して、氷室の足音と気配から位置を割り出し、つかず離れずの距離を維持する。一応走れているだけでコイツも要救助者には変わりないからな、いざというときに何時でもフォロー出来るようにしないと。

 

と、強化した聴覚に俺達とは違う靴音と話し声が届く。足音は……二つか。方向は前方左側。

 

「―――んでよお、結局その女もぶっ壊れちまってよぉ。おぅおぅって言うだけになっちまったんだよ」

「人間は脆いからなぁ。まあ対魔忍は頑丈らしいし、その分まで思いっきりやっちまえばいいだろ」

 

丁度、前方の横道からAKMをぶら下げたオークが二体通路に出てきた。突然の接敵に、後ろで氷室が僅かに怯んだ気配があったが、それを無視してオークのうち一体の頭部に照準を合わせ引き金を引く。

 

セレクターは三点に切り替わっているため、一瞬の内に銃口から弾丸が三発発射され、左側のオークの頭蓋に同じ数だけ風穴を開ける。そして僅かに手首を動かしてもう一体にも同様に射撃、全弾命中。

 

突然の接敵に彼らは自らの得物を構える暇すら与えられることなく、地面に倒れ伏すこととなったのだ。

 

その横を通り過ぎる直前に僅かに減速し、セレクターを単射に切り替えてから倒れたオークの後頭部にそれぞれ一発ずつ撃ち込む。もし生きてたら困るからな、殺れる時に確実に殺っとかないと。

 

「……なかなか、容赦、ないんですねっ」

「容赦して帰してくれるならするけどな」

 

俺の行動に思うところがあったのか、追走しながら氷室は言う。そんな事言われても直す気はないけどな。

 

「そもそも、誰かの人生を喰い物にしてる時点で殺されても文句言う権利はないだろ。他者を踏みにじって生きてる奴は、自分の命も踏みにじられて然るべきだろ。魔族も米連も、対魔忍もな」

「……」

 

勿論、奪われることに対して抵抗するなと言っているわけではない。俺だって、死にたくないから戦って必死に足掻いているんだ。でもだからって、殺されたから傷つけられたからそれを恨むというのは間違っていると思う。悪いことして生きているんだ、幸せになれないのは当たり前だろう?

 

そのまま二人、死体には目もくれず走る。幸いなことにこのフロアにはもう他に警備は残っていなかったらしく、二度目の接敵なく駐車場に辿り着く事ができた。

 

周囲に気を配りながらも目当ての車の元へと走る。遠隔操作でロックを解除すると、後部座席に担いでいたアルファをぶち込む。次いで氷室からブラボーを受け取って放る。

 

「チャーリー、これに着替えて」

 

俺は車の下に隠して置いたアタッシュケースを二個取り出し、片方を氷室に投げる。

 

「わっ、と……あの、これは?」

 

ケースの中身を確認して困惑する氷室に対して、俺はニヤリと口角を引き上げる。

 

「秘密兵器さ」

 

 

△ ▼ △ ▼ △

ふぁ、と守衛の男は欠伸を漏らす。彼とその相方が警備を担当しているのは件の社長が保有する本社ビルの裏側、闇に紛れるように存在する通用門だ。

 

表に存在する社員や外部の来客が使用するものとは異なり、売人や魔族などを始めとした日陰を生きる者たちのみが知る謂わば伏魔殿の入り口とでも言える代物だ。時には魔族側との繋がりが深い政治家や官僚、表ではまっとうな商売をしながらも裏では魔界技術にどっぷり浸かった企業の社長も訪れるため秘匿性が非常に高く、存在を知るものは社内でもごく僅か、警備も専属で雇う徹底ぶりだ。

 

本日警備を担当する二人組も、犯罪を犯して裏の社会に身を窶した連中の一部だ。一応の礼儀は叩き込まれているし、魔界医学によって肉体改造を施され常人の数倍もの力を手に入れているため裏社会の警備員としては問題ない部類だろう。とは言えあくまで仕事は守衛であり、警備(という名の戦闘)を担当するオーク共よりは劣る程度でしかないのだが。

 

さて、表での騒ぎも収まり襲撃犯を捕えたという報せに胸を撫で下ろしつつ業務を淡々とこなしていた時の事だ。地下駐車場から一台の高級車が出庫してきた。誰が出てきたのか確認しようとして、すぐにそれが社長の愛車だと気づいた。何度もここで出入りしているのだから、見間違えようがない。慌てて二人は道路への誘導を始める。

 

よく見ると、運転手と助手席の女は見た事がない人物だった。いつもは専属の運転手のみで隣は空席だったはずだが。車の窓は黒いスモークガラスなので社長の姿は見えないので確認は取れなかったが、運転手に不審な様子はなく堂々としていた事から問題ないのだろうと二人は判断した。

 

走り去る際運転手が手を軽く振って来たので、新しいドライバーはずいぶん気楽なやつなんだなと思いながら警備に戻る。

 

頭を撃ち抜かれた社長が死体で発見され、二人が致命的なミスに気が付くのは明朝、シフトが終わる直前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に行けるとは思いませんでした……」

「見た目を取繕えば何とかなるもんだ。駄目なら強行突破しかなかったけどねえ」

(成功してよかった……!)

 

事前に用意しておいたスーツに着替える事でドライバーと秘書に扮した俺達は、怪しまれることなく無事に脱出を果たしたのであった。

 

そのまま、一般道を走らせ湾岸沿いに位置していたビルから離れていくこと暫し、郊外にほど近い場所にある高級ホテルに到着した。ここは今回の任務のために俺が個人的に(ここ重要)セーフハウスとして確保しておいた場所だ。何故か誰もこういう下準備とかしてないんだけど、俺はいざというときの為に拠点を毎回確保するようにしている。

 

今回のホテルには事前にチェックインを済ませているし、作戦が失敗して追撃されたときに備えて予備武装を満載したトランクも運び込んでいる。何時でも逃げ込めるよう準備には万全を期している、抜かりはない。

 

「ここ……ですか?」

「ああ。部屋はもう取ってあるから、あの二人(荷物)運べばいいだけだ。フロントマンに頼んで運んで貰えるから、そこまで手間も掛からない」

 

今回俺が使うホテルはサービスが良く清潔かつ上品な高級ホテルとして評判の場所だが、その実闇の住人と繋がっている裏の顔を持っている。とは言え、裏家業に手を出している訳ではなく政治家や企業の上役がそういうこと(・・・・・・)に使用することを多額の金で黙認しているだけなのだが。此方が何を持ち込もうと口出しせず、口も堅い、表ではクリーンを通している連中が使うには持って来いってことだ。

 

「一旦ホテルの前に付けるから、荷物運ばせて先に部屋行っててくれ」

「田……デルタは?」

「これ捨ててくる」

 

ゴンゴン、と握った手の甲でハンドルを叩き乗ってきた車を示す。目的は勿論証拠隠滅だ。監視カメラに映ってるのは仕方ないとしても、実物を調べられるのは流石にまずい。持ち帰ってもしょうがないし、早々に処分するのが得策だ。

 

とは言えただ捨てただけでは不法投棄になってしまうので足が着いてしまう。そこで、裏社会で商売している言わば闇ディーラーに持ち込んで買い取って貰う。こうすればナンバープレートやら何やら面倒なことはあちらが勝手に処理してくれるし、俺は懐が潤う。完璧な作戦だせグヘヘヘ。勿論氷室には言いません。

 

「それじゃあ、行くぞ。自然体でいれば変に怪しまれないから、そこだけ気を付けて」

「はい……!」

 

 

 

大きなスーツケースに詰め込んだ班員二名と氷室をホテルマンに任せ、高級車を売りに行く。場所は都心からほど近い裏通り、街灯が少なく闇に飲まれたかのように思わせる場所にひっそりと佇んでいるその店が懇意にしている業者の城だ。盗品だろうがなんだろうが実物を持ち込めばなんでも買い取って闇市に流してくれるので、よく米連から奪った装備を横流しさせて貰っている。

 

持ち込んだ車は、どうやらかなり改造を施していたらしく、思っていた以上に高値で売れた。この店アフターサービスは完璧だけどその分売値安いからあんま期待してなかったんだけど……まああの社長に感謝しておこう、草葉の陰で喜ぶぞう!金はほぼ装備代に消えるけどな!

 

まあそんな感じで臨時収入にホクホクしながらビルの上を跳んでホテルへと戻ってきた。タクシー代なんて一々払ってられるか。

 

勿論そんな所を見られるのは不味いので、人目のない路地で地面に飛び降り、大通りに出てから堂々と正面入口から入る。ホテルマンに私用から戻った事を告げ、チェックインした部屋へと向かう。

 

エレベーターの浮遊感に身体を侵されながら待つこと十数秒ほど、目的の部屋がある階層に到着する。一度来ているので迷うことなく部屋の前まで歩を進め、持っていた鍵でドアを開けた。そこには俺が来るまで待っていたのだろう、開けることなく放置されたキャリーケースが二つと―――

 

「ひゃぁっ。た、たた田上さん!?」

 

 

―――ベッドの上でスーツをはだけさせ乳房と股座にそれぞれの手をあてがっている氷室の姿があった。

 

……。

 

…………いや、どうしたんだよ。

 

「あの、氷室さん。別にそういうの否定するつもりはないけどさ、任務中にするのはどうかと思うなぼかぁ」

「ち、ちちちち違いますっ!いや違わないですけど!ずっと身体が疼いて、鎮めようとしていただけでーーー!」

「身体が……?」

 

そこでハッと気づいた。氷室はあの調教部屋で強力な媚薬であるオークの精液を多量に摂取させられ、その上で社長に犯される前に救出されていたのだ。毅然とした彼女の態度で気付かなかったが、彼女はずっと催淫状態にあったのだ。

 

何て事だ、俺はそんな彼女の様子に気付いてやれず、あまつさえ自分の都合で単独させていたのか!!これは全身全霊を持って、彼女に償わなければならない!

 

「だから私が、任務中にじ、じぃ……するような変態ではーーー何で服を脱いでるんですか!?」

「決まってるだろ?その疼きを鎮めるのを手伝うのさ。……気付いてやれないで、すまなかったな(精一杯のイケボ)」

「べ、別にいいですから……ひゃあ!ず、ズボンおろさないで!!」

 

理論武装を完了させた俺は、スルスルとスーツを脱いでいく。対する氷室はベッドの上で必死に身体を隠そうとしているものの、汗で艶めかしく濡れた肌が媚毒に蝕まれビクッビクッと跳ねている様が覗いていた。

 

 

「そ、それよりも!学園に連絡を入れないと……」

「あ、それもうやっといたから。回収部隊派遣してくれるらしい。侵入を気付かれた様子もないし、俺達の仕事はこれで終わりだ」

「無駄に仕事が早い!」

「だから遠慮すんなって。部隊が到着するまで四時間程、それまでたっぷり相手してやるさ」

「いえ本当に大丈夫なので!私のことは気にしな、いで…………」

「ほら、もう視線は釘付けじゃないか。身体は正直なんだよ」

「……ハッ!ち、違います!今のは決して、田上さんの……その……あ、アソコをみていたのではなくですね……!」

「誤魔化したってしょうがないだろ。どう考えても正常な状態じゃない。下手に長引かせて今後に支障が出たら元の木阿弥だ」

 

今の氷室は、強制的に発情させられてそれを発散していない状態だ。水風船で例えればわかりやすいだろう、氷室という風船に毒水のような性欲が逃げ場のないまま溜まり続けている感じである。このままいけば、風船が破裂するように氷室の精神が崩壊する可能性がある。それを防ぐ方法はただ一つ、氷室を蝕む快楽欲求を満たせばいいのだ。

 

 

じゃけん、二人でおせっくしましょうねぇ(暗黒微笑)

 

 

「そう言うわけだ。わざわざそんなのに耐えるより、スッキリするほうがいいだろ?」

「だ、大丈夫ですからお構いなく……!ゆっくり迫らないでください服着てください!」

「おいおい遠慮すんなよ。俺だって愉しみたい……おっといけね、お前が心配なんだって(イケボ)」

「本音漏れちゃってますけど!?……んひゅぅ!?」

「ほら、軽く撫でただけでこんなになってる。ここもこんなに固くなっちゃって」

「ひぅっ!?む、胸触らないでっ、いい加減怒りますよ……きゃ!?」

「怒られるのはいやだし、サクッと始めちゃおうか。前戯いらないくらい濡れてるしダイジョブっしょ」

「えっ……ま、待って下さいそんな大きいの入ら……ふぁあぁぁんっ!?」

「んぐ……っ。じゃああれだ、何回かヤれば収まるだろうから、それまでの辛抱だ!」

「結局私犯されてるじゃないで……ぁんっ」

 

その後、回収部隊到着までの四時間、まるで時間を忘れて獣のように交わり合ったのは言うまでもなかった……俺の明日はどっちだ!

 

 

 

 

 

 

 




対魔忍シリーズはやったことないけど、マッポーめいた世界観とか好きなので書きました。というかこのために決戦アリーナ始めた。

具体的な描写無いならR-18じゃないよネ!というガバ理論でぎりぎりのエロ描写に挑戦しています。そのため主人公が割とゲスみたいになっちゃってるけど、頭のネジ飛んじゃっただけで常識と良識はちゃんと持ってるから安心だね!

しかしなんでマイナータイトルばっか書いてるんだ俺は……?


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休息はなく、されど行く道に困難は山積する

一話だけでお気に入り159人に加え評価バーが付く……!?一体何が起こってるんだぜ……。

ま、それだけ俺の文章力が高まったってことかな!(超慢心)



五車学園

 

対魔忍たちの本拠地であり、未来ある対魔忍の卵達が学生として過ごす学び屋である。

 

そんな、本来ならば平穏を守られている場所に、とある男の絶叫が響き渡るーーー!

 

「なあぁぁぁんで補充物資がこんだけしかないんだぁぁぁぁぁッ!!!」

 

まあ言わずもがな、俺こと田上宗次なんだけどな!

 

「そう言われてもねぇ。申請出して受諾されたのがこれだけなんだから、仕方ないじゃん?」

「じゃん?じゃねえよ!何で9mm弾とか5.56mm弾しかねえんだよ!現地回収できるわそんなもん!それよりP90用の5.7×28mmとか対物ライフル用の実包とか、手に入りにくいやつが欲しいの!」

「届いたのこれだけだからねえ、文句は上の方に言って貰わないと」

「くっそぉ……」

 

思わず頭を抱えその場でしゃがみ込む。頭が痛い、はっ吐き気もだ……(某吸血鬼感

 

さて、冒頭から俺が何をしているかと言うと、事前に申請していた補充物資の受領を行っていたのだ。

 

対魔忍は秘密機関とはいえ一応は政府直属の特殊部隊という位置付けでもある。消耗品や武装などは基本支給されるし、必要とあらば政府系他組織の支援も受けることが出来るのだ。

 

そのはずなのに何で申請した物の半分もないんでしょうねえええ!?届いたのも戦場や闇市漁れば集められる希少価値がごみみたいな大量生産品しかないしよおぉ!一応は政府系の組織なんだからもうちょっと羽振りよくしてくださいよぉ!

 

……ふぅ。落ち着け俺、取り乱しても意味がないんだ、be coolだぜ。叫ぶよりまずやれることをしよう。Why don't you do your best!

 

「……わかった、今日はこれ受け取って帰る。もうやだ、対魔忍辛い。米連にでも移籍しようかなぁ……」

「冗談でもやめてくれよ、貴重な近代兵器使いがいなくなっちまうじゃねえか。俺とミリトーク出来んのお前しかいないんだぜ?」

「そう思うんなら、次はポケットマネーで良いもん買っといてくれよ。んじゃ」

 

自他共に認める重度のミリオタである装備課のおっちゃんから一箱分の弾薬を受け取って部屋へと戻る。粗悪品混ざってないかチェックしないとな、戦闘中に不発でしたーなんて言われたら困る。

 

先日の社長暗殺の時には囮(笑)が上手く機能したので消耗は最低限で済んだが、その前の任務では強靭な敵魔族に味方が突っ込んでしまったため虎の子であるアンチマテリアルライフルまで引っ張り出して派手にドンパチしていたので弾薬がかなり不足してしまっている。いつ使うか分からないから取り急ぎ欲しかったんだが……別口で買うしかねえなぁ。やっぱポケットマネーだよなぁ……自転車操業させられてる気分だぜ。

 

財布が軽くなる音を幻視して溜め息を漏らしながらガッチャガッチャと箱を抱えて歩く。と、

 

「えった、田上さん!?」

「ん?」

 

聞き覚えのある声が耳朶を打つので、とりあえず振り返る。そこには五車学園指定のモスグリーンの制服に身を包み、手にはプリントの束を抱えた紫陽花色の髪の少女が、驚愕した表情でそこに立っていた。

 

「あれ、俺の下で気持ちよさそーにあんあん喘いでた氷室さんじゃないっすか。こんな所で奇遇だな」

「なっ……!?こ、こんな所で何て事を……人聞きの悪い事を言わないで下さい!」

「でも事実だろ?あんなに激しくお互いを求め合ったのになぁー!氷室さんもう忘れちゃったのかー!あんな甘えた声で好き好きって言ってくれたのにー!」

「~~~っ!!」

 

まあどうあがいても事実であることに変わりはないので反論することも出来ず、氷室は言葉にならない声を上げながら涙目で此方を睨んでくる……顔真っ赤にして少し膨れてるから怖くないぞー?

 

「ああいや、悪かったよ。少しからかっただけで、馬鹿にしたつもりはないんだ。すまんかった」

 

氷室のむくれた表情は可愛かったのだが、流石にこれ以上やって怒られるのも嫌なので先んじて謝罪する。ここから下手に普段の生活態度まで文句言われたら叶わんからな。

 

「…………やけに素直に謝るんですね」

「そりゃ、悪いと思ったら謝るさ。女の子いたぶって喜ぶ趣味はねえしな」

「開口一番あんな事言った人の言うこと何て信じられないです。私の事も散々慰み物にしたくせに」

「女の子イジメて快楽に喘ぐ声鳴かせるのは大好きだから。せっかくなんだから可愛い女の子にも気持ち良くなって貰わないとね!」

「…………最っ低」

「えっ!?そこまで言うほど!?うわぁ目線が絶対零度並みに冷たい!」

 

わりかしまともな趣味暴露したら死ぬほど冷たい目線を頂戴した。苦痛与えて楽しんだり絶望させて愉悦っ!するよりはかなり真っ当だと思うんだけどなぁ!あと女の子からそんな目で見られてかなり心に来てる!ぶっちゃけ辛い!

 

俺が心に走る軋みに耐えていると、何かを思い出したように氷室が蔑んだ表情を一転させ、何故か気恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「ーーーーーーー」

「……ごめん、何だって?」

 

視線を彷徨わせながら何かを言ったようだが、蚊の鳴くようなか細い声だったのでよく聞き取れなかった。なので失礼を承知でもにょもにょと動く口元に耳を寄せた。

 

 

「……あの、えっと……助けてくれて、ありがとうございました……酷いこと言って、ごめんなさい……」

 

氷室は今にも消え入りそうな声で、しかし確かにそう言った。

 

ーーーーーーー。

 

「ーーーハハッ」

 

思わず、笑いが漏れた。

 

「なっ!?笑うってひどくないですか!?勇気を振り絞って言ったのに!」

「プッ……クククッ!いや悪い悪い……っ!り、律儀だなぁって思って……ぷぷぷっ」

「~~~っ!!あなたやっぱり最低です!酷い人です!」

 

俺の笑いをバカにされたと勘違いしたのだろう、氷室は恥ずかしそうに伏せていた顔をバッと上げ、怒ったように抗議してきた。

 

まあ謝られたのにそれを笑ったんだから、そう思われても仕方ないのだろうけど、彼女の律儀さに呆れてしまったのは本当なのだ。

 

「ばっかだなぁ、お前は。感謝も謝罪もしなくていいんだよ。お前は俺に慰み者にされただけなんだから。強姦魔に感謝なんざしてんじゃねえよ」

「いえ、でも私はあの時躯が火照ってどうしようとないところを助けて貰いましたし……」

「確かに建前として理由は付けたし結果的に助けた形にはなったが、俺は自分の快楽のために無理矢理お前を犯しただけだ。お前は強姦された被害者で俺は加害者、それ以上でも以下でもないんだから、『よくもあんなことを!』って俺のこと恨んでりゃいいんだよ」

 

媚毒に苛まれていたあのとき、氷室を薬で眠らせたり彼女自身に欲望を解消させたり、他にもやりようは幾らでもあった。それを俺は自身の欲求を満たすためだけにそれらしい理屈をこじつけて、逃げ道を断った上で彼女を犯した。

 

勿論、後悔何てしていないし反省してるわけでもない。やりたくてやったことだし、愉しかったんだから。次に同じような場面に遭遇したら、同じようなことをして同じように楽しむだろう。

 

だが、被害者が加害者に感謝する何てことはあってはいけない。だってそれでは道理が通らないだろう。善因には善果が、悪因には悪果が在るべきであって、その逆は決して在ってはならないのだから。

 

「……」

「……何だよ、何か言えよ」

 

俺の言葉を聞いて、何故か氷室は驚愕に目を大きく開いた。宇宙人でも見たかのようなその視線に気まずさを覚え思わず顔を背ける。自分の思想を思わず吐露してしまったので、結構恥ずかしいから何かしらリアクションしてほしい。それこそ罵倒でも何でもいいからさ、沈黙が痛い……。

 

「……フフッ」

「あ?」

 

だがそれに対する氷室の答えは、漏れるような笑い声だった。手を口元に寄せ上品に、しかし心から嬉しそうに笑っている

 

「フフフ……ごめんなさい、つい、我慢出来なくって」

「何で笑ってるのか理解出来ないんだが……そこは『都合の良いときだけ善人ぶって!最低!』とか怒る場面じゃないか?」

 

何故笑われたのか、しかも嘲笑ではなく楽しそうに微笑んでいるのかが理解出来ず、心底から疑問を問うて見ると、一頻り笑って満足したらしい彼女が俺に向き直って、真っ正面から視線を交じらせて口を開いた。

 

 

「ええ、そうですね。あなたは本当に酷い人です。私にあんな事をして、絶対に赦しませんからね?」

 

そう言った彼女の顔は放った言葉とは裏腹の、混じり気がない純粋な笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

「へえ、その箱全部が補充物資なんですか」

「ああ、申請してた分がようやく届いたって言うから取りに言ってたんだ。だってのに受領されたのは何処にでも手に入る希少性の欠片もねえ大量生産品だけだし……!」

「……そんなに弾薬って消費するんですね」

「これ、ここ二月分の補給だぞ」

「あっ(察し)」

 

時期によってマチマチではあるが、ここの物資供給がザルすぎる。かと思えば上忍や優秀な学生(主に女子)には手厚すぎるほどの援助が行われてるみたいだし……確かに俺落ちこぼれだしウケよくないかもだけど、補給で依怙贔屓とか組織が一番やっちゃいけないことだよね?

 

「私のほうでも申請出しておきましょうか?」

「マジ!?……あ、いや。そんな事したら目を付けられるか、理由聴かれて却下されるのがオチだな。気持ちは有り難いけど何とかこっちで確保するから、大丈夫だ」

「何とかって……当てはあるんですか?」

「自腹」

「あっ(察し)」

 

そんな感じに、道すがら毒にも薬にもならない世間話(主に俺の愚痴だが)をしていると、突然聞き慣れた声が校内放送から流れてきた。

 

『二年の氷室花蓮さん、及び田上宗次さん。至急校長室まで来てください。繰り返します、二年のーーーー』

 

「……何か呼ばれたな。何かやらかしたっけ?」

「先日の任務についてでしょうか」

「報告も報告書の提出済ませただろ、全部俺が。まあお前ら寝てたから仕方ないけどさ」

「どんな要件でしょうか……とりあえず、私はこのプリントを職員室まで持って行きます」

「俺もこれ置いてから向かうわ。多分そっちが先だろうから、すぐ着くって伝えといてくれ」

「わかりました。それでは、また後ほど」

 

何故かはわからないが、呼ばれたからにはいかないと行けない。俺は氷室と別れると、荷物を置くために駆け足で自室への道を急いだ。

 

しかし、校長室にってことは、校長が用事って事だよな。一体どんな要件なのか……ヤバい事がバレたとかじゃないといいなぁ。

 

 

 

 

駆け足で寮から校舎へと戻り、校長室に到着した。急いだことで僅かに乱れた呼吸を整えてから、重厚な木製の扉を三回ノックする。

 

『どうぞ』

 

部屋から凛とした女性の声が僅かにくぐもって聞こえてくる。俺は失礼します、と扉を開いて中に足を踏み入れた。

 

校長室には、先に来ていたであろう氷室が直立して待機しており、更にその奥には五車学園の校長ーーー井河アサギその人が椅子に腰掛けている。

 

当代最強の対魔忍と言わしめる実力者であり、『対魔忍シリーズ』という(ネタ的な意味で)一大コンテンツを生み出す始まりとなった言わば顔役、と言えば聞こえはいいが、実際は幾度も術中にハマり犯されアへ顔晒している女である。有り難みの欠片もねえ。

 

「すみません、遅くなりました」

「いいえ、話は花蓮から聞いたわ。それに急いで来たようだし、わざわざ責めることでもないでしょう」

 

校長に促され、氷室の隣でなおれの姿勢をとる。身体を鍛えるとき軍隊式で訓練したせいか、こういった癖が抜けないんだよなぁ。話を聴こうとしてるだけなのに、そんな固くならないでとかよく言われてしまう。

 

「さて、二人とも、まずは任務お疲れ様。持ち帰ってくれたデータから販売ルートの特定も進んでるし、十分な戦果よ。本当によくやったわ」

「いえ、私達は何も……全部田上さんに押し付ける形になってしまって、最後も助けて貰って……」

 

氷室はそう言うと、真っ直ぐ前を向いていた顔を少し俯かせる。その表情には申し訳と悔しさが滲み出ていた。きっと彼女は、何も出来なかったことを気に病んでいたのだろう。ただ失敗したわけでも大人に助けられたわけでもない、同じ学生という立場にあるはずの俺に尻拭いをさせてしまったことが、生真面目である彼女の心に挫折感として重くのしかかっているのだ。

 

「花蓮、失敗は誰にでもあるわ。それを後悔する事もね。でもそれを次に活かせるかどうかは貴方次第よ。今度は貴方が彼を助けられるように精進しなさい」

「……はい」

 

いやぁ失敗して恥辱味わいまくった人の言うことはちがうなぁ(棒)。ていうかマジで助けてくれる奴欲しいわ。俺戦闘能力ホントゴミだから、クソザコナメクジだから。

 

「田上君も、お疲れ様。貴方のおかげで三人も無事帰ってこられたわ。単独行動の件も彼らに原因があるみたいだし、こちらからしっかり指導しておくわ」

「お願いします。仕事に支障をきたしますから」

 

俺の敬意の欠片もないようなドライな返答に、校長は僅かに苦笑し、そしてすぐに真剣な表情へと切り替える。それだけで場の空気にピリリとした緊張が走った。隣からは、それに当てられてか緊張で肩肘張った雰囲気が伝わってくる。漸く本題か。

 

「貴方達に新たな任務を与えるわ。内容は捕らわれた対魔忍の救出作戦。上忍二名と中忍複数名に学生数人の混成部隊での作戦になるわ。詳細は作戦班でのブリーフィングで。何か質問は?」

「すみません、一ついいでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「何故、私が選ばれたのでしょうか。実戦経験や戦闘能力の高さから見ても、他に適任な人がいると思うのですが。水城さんや秋山さんのような……」

 

氷室が不安そうな声音を隠しきれず疑問を口にする。実際、彼女よりも話に上げた『雷撃の対魔忍』や『斬鬼の対魔忍』のほうが強いだろう。氷室は真面目な優等生で優秀ではあるが、能力も経験もそれら一戦級の対魔忍には劣っているのだ。

 

というか氷室さん?何で『私達』じゃなくて『私』なの?俺も仲間に入れてくれない?俺弱いよー超弱いよー?

 

「そうね、確かに能力面において貴方たちより強い学生は何人もいるわ。でも、私は貴方たちの冷静な判断力を買っているのよ」

「冷静な……判断……」

「任務中はどんな不測の事態も起こり得るわ。そんなとき、冷静に対処出来る力が、貴方たちにはある。でもそれは実戦の中で伸ばさなければ活かされない、だから今回の任務に貴方たちを推薦したの。これでは不満かしら?」

「……いえっ、光栄ですっ。期待に応えられるよう、誠心誠意励みますっ!」

 

氷室が涙ぐみながらもハッキリと答える。彼女にとって、これは宣誓なのだろう。誰よりも、自分自身に対しての。

 

……しかし、挫折しているところにこれとは、傷心につけ込んでるみたいだな(酷い言い掛かり)

 

「……話は以上よ。ブリーフィングは明日の午前10時から。今日はしっかり休んで、明日に備えなさい。いいわね?」

「はいっ」

「了解」

 

校長の命令に答え、俺達は部屋を後にする。この後は補充した弾薬を軽く確認してから寝るだけだが、その前に氷室を落ち着かせる仕事が残っているようだ。最強の対魔忍であるアサギに認められて気持ちが高ぶるのは分かるが、それで功を逸り判断力が鈍りました何てお話にならんからな。

 

しかし、また救出作戦か。いや、前回のは作戦中に発生した追加作業であって、元々の任務は暗殺でしかなかったんだが。いやだなぁ、今度も味方がイキって捕まって助けなきゃいけないとかはやだなぁ。見捨てて帰っちゃダメですかね?ダメですかそうですか……。

 

マジで敵に捕まらないで欲しいと思わずにはいられない俺であった。

 

 

 

 

校長室から退出した二人を見送って、アサギはフッと息を吐いた。緊張していたわけではないが、緊張感は持たなければならないため必然的に肩肘張らざるを得なくなるのだ。

 

「花蓮は良いとしても、田上君は……」

 

教師陣からの田上宗次に対する評価は、割と低い。協調性が低く実力も低いと認識されているからだ。授業態度は可もなく不可もなく、戦闘訓練でも下から数えた方が早いため誰からも期待されていないのが現状だ。尤も協調性が低いのは周囲の学生が彼を弱者と見下し協力しようとしないからだし、学業成績自体は学生の中でも高い方だ。

 

問題は彼自身がその評価を覆す気がなく、誰かとの関わりを必要としていない点でもあるのだが。

 

「反骨心があればまだいいのだけれど……はぁ……」

 

低評価に甘んじる彼に嘆息しながら、机の上に置かれた資料を手に取る。

 

 

田上宗次、対魔忍の一族である某家の傍流の嫡子。しかし彼の家系は裏稼業とは縁を切り一般人として暮らしていた。そこへ家からの動員が掛かり、適性のあった宗次が対魔忍として差し出されることとなった。

 

ところが彼は特筆すべき忍法を持たず、また14歳と周りよりも訓練の開始時期が遅かったため実力が低く周囲から侮蔑の目で見られながら過ごしたという。家もそれを黙認し、逆に宗次を冷遇するという対処をとった。恐らく彼を子供たちのガス抜きに使おうとしたのだろう。実際、宗次と同年代の少年少女の相当数が彼をバカにしながら成長した。

 

しかし宗次は、それらを殆ど無視して一人で資料を読み漁り、独りで訓練を重ねたという。そんな彼を小馬鹿にしたりちょっかいを掛けようとしても全て無視され、直接暴力に訴えたり嫌がらせをしようとした場合は反撃や『過激なイタズラ』によって逆に泣かされることとなり、何時しか彼に手を出そうとするものは居なくなっていた。まあ周りからは距離を取られ、先の任務のように別行動を強いられることも多いようだが。

 

固有の忍法や特殊能力を持たないため戦闘能力はあまり高くはなく、苦手意識があるらしい近接戦闘は特に低い。また危険と判断した場合時には仲間すら置き去りにして逃げるため、「意気地なし」と蔑まれ評価を得る機会を悉く逃してきた。そのためか、彼の任務達成率は五割から六割程度と同年代の学生と比較すると少ない。

 

だが、逆に彼は敵に捕縛されたことが一切なく、捕捉されることも数えるほど、撤退したとしても警備の配置や施設の状況、事前情報になかった増援やトラップなどの情報を必ず持ち帰り次への布石を整える。一言で言えば対魔忍よりも隠密の素質がある少年だと言えるだろう。また総じて脳筋思考の強い対魔忍の中で事前準備や裏工作を重視するタイプで、高い危機察知とリスク管理能力によって不利な状況を冷徹に判断し即座に後退という選択を取ることが出来るのは、それだけでも貴重な戦力となりうるのだ。

 

そんな彼らの、本来当然持っているべき用心深さと慎重さを、他の学生たち(一部対魔忍にも)に少しでも学んで欲しい。任務を終えたばかりの花連と宗次を人選に推したのは、それが理由だった。後はまあ、彼の立場が少しでも改善されれば、という想いもないではないが。

 

「彼女たちに引率と護衛を任せてあるから、余程がない限り危険な目には合わないと思うけど……」

 

指揮を任せた上忍2名を思い浮かべながら、アサギは学生たちの無事と得るものがあることを願うばかりであった。

 

 

 




中継ぎ回なのでえちぃ描写はないです。これは真面目な対魔忍ssだぜ!

話の流れでアサギ出したけど思ったより理知的になってしまった……もっと頭対魔忍にしたほうがいいのかもしれないけど、アサギやったことないからキャラ掴めんかったのじゃぁ。

ちなみに花蓮ですが、宗次に対する好感度はかなり高いです。ピンチから颯爽と救け出され処女を貰われて(実はまだ犯されてなかった)四時間たっぷりイチャラブセッ!したからね。からかわれても実際気持ちよかったから何も言い返せないし。具体的に描写してみると、花蓮が膝の上にコアラのように抱えられながらゆさゆさとんとんと快楽に蕩けさせられてるところに何かノリで「最高に気持ちいいわ。好きだぜー」って言われちゃって、湯だった思考で無意識に「すき!わたしもすきぃ!」って言い返しながらぎゅぅっと痛いくらいに宗次を抱きしめていちゃいちゃしてた、みたいな感じ。後一回抱いたら多分堕ちる。チョロいぜ。


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何事も始まる前の準備は必要、しかし彼らは対魔忍である

ふ、ふぉぉぉ!?日刊ランニング1位!?お気に入り4000越え!?評価人数134人!?しかも滅茶苦茶感想来る!?やったぜやったぜ!\(^ω^\)( /^ω^)/
皆さん、本当にありがとうございました!SCP書いてて遅れてしまいましたが、ようやく出来ました!お待たせして申しわけないです。

あと、今回は前後編に分けました。本当は戦闘シーンとか書きたかったんですが、前段階で9000文字行ったんで流石に分けました。なので少し話の進み悪いですがご容赦下さい


五車学園の会議室。現在ここは、救出作戦に参加する実働部隊のブリーフィングルームとして利用されていた。

 

カーテンが閉め切られ薄暗い室内で、プロジェクターから投影された映像の反射光によって机などの備品や集められた対魔忍達が、うっすらと照らされていた。

 

そんな中、一人の女性が声を発した。

 

「はーいみんなちゅーもーく!これからブリーフィングをはじめるよー!」

 

ハキハキとした声が部屋に響き渡り、全員の視線がその声の発生源へと向けられる。

 

「ここにいる人はほとんど知ってると思うけど、私は蘇我紅羽。今回の作戦指揮と隊長を勤めることになったから、みんなよろしくっ」

 

そう言って彼女、蘇我紅羽はチェシャ猫のような笑みを浮かべながら、ミディアムボブを揺らした。事前に確認した資料によると五感を獣並に強化する忍法の使い手であり、本来であれば偵察や隠密行動を得意とする対魔忍だ。それが今回の任務に駆り出されたのは、おそらくその高い索敵能力による危機察知とその潜入任務で培った判断能力を買われたからだと思われる。

そしてそのまま隣に立っていた白髪の少女の背を押した。

 

「それで、こっちが……」

「同じく作戦に参加することになりました、七瀬舞です。私の『紙気』の力があればこの程度の任務など些末な事です。安心して任せてください」

 

背中を押された少女、七瀬舞は表情を変えることなく悠然と告げる。彼女は本人も言っていた通り『紙気使い』と呼ばれ、対魔粒子を充填した紙を操り戦う対魔忍だ。彼女の操る紙気は鋭利な刃や強固な結界、果ては爆発物にまでその姿を変えて高い柔軟性と応用力を発揮するらしい。俺含め数人いる学生を守り、かつ敵を殲滅するにはうってつけの能力だと言えるだろう。

 

朝早く、ブリーフィングだけとあってか、上忍二人は私服姿だ。蘇我さんはTシャツにジーパンというラフな格好でスラリと伸びた背丈と服の下からでもわかるメリハリのある体躯を併せ持つモデルのようなスタイルを見せつけ、七瀬さんはYシャツの上にカーディガンを着込み下はフリルのミニスカートという清楚な格好ながら幼さ残る顔立ちと豊満な肉体から来る妖艶さをどこか醸し出していた。

 

「……ぃでっ。おい、なんだよ」

「……別に?何でもありませんよ?」

 

何となしに二人を見ていると、隣に座った氷室が何故か小突いてきた。いや、俺は別にいいんだけどさ……。

 

「さて、早速だけど任務について説明するよ」

 

そう言って、蘇我さんはプロジェクターで投影された資料にレーザーポインタを向ける。壁に掛けられたスクリーンに映し出されたのは、救出対象である対魔忍の写真、能力を始めとした様々な情報が記載されていた。敵に捕縛された当時の状況まで簡潔に書かれた、言わばその少女の人生の縮図だ。

 

「今回の救出対象は杉山愛美。捕まったのは4日前、ノマド系列の組織への潜入及び施設の破壊任務中に捕縛されたみたいだね。木遁で作った木偶人形を操ることを得意とする子だったんだけど、施設内で人形が破壊されて補充する間もなくって感じらしいよ」

 

改めて投映された資料に目を向ける。木遁・椿舞という『木人』ーーーまあ木で出来た人形かーーーを作る能力を持っているらしい。捕縛されたときは蘇我さんが語った正にそのまま、限界が来た木人が損傷し周りに木のない地下施設内で敵に囲まれあえなく、ということのようだ。

 

しかしこの能力ピーキーだな。確かに戦闘能力のある人形を作って戦わせる方法は自身が強くなるより確実で破壊されても再生成すればいくらでも戦えるけど、材料が木だからそれがない所だと壊れればそれまでだ。街中には街路樹があるとは言え、公共物をおいそれと破壊などしていい訳ではない。何もないところから木がニョキニョキ生えてくるわけじゃあるまいに。

 

「しかし、ノマドかぁ……」

 

聞きたくなかった単語に、他の奴に聞こえないよう密かに嘆息する。

 

ノマドは原作にも登場したとてつもない規模を誇る多国籍企業であり、対魔忍アサギシリーズラスボスにしてシリーズ一理不尽とも言われている吸血鬼の王、エドウィン・ブラックの所有物である。

 

表向きには普通の企業を演じつつ、裏では日夜人間を食い物にして利潤を貪る魔族の巣窟。当然対魔忍や米連にとっての仇敵であり、何としても打倒しなければならない相手である。

 

しかし俺個人にとっては、出来れば関わりを避けたい相手でしかない。だって下手に目を付けられたら面倒事しかないんだもん。間違ってブラックに目を付けられたなら、俺は自決する以外に道が無くなってしまう。

 

閑話休題(それはさておき)

 

「そこで、その施設から東京キングダムへ輸送されるところを強襲して彼女を奪還、五車学園まで連れ帰る事が今作戦の目標になるね。何か質問は?」

「すみません、一つよろしいでしょうか」

 

作戦の概要を説明しメンバーに視線を向けた蘇我さんに対し、氷室が物怖じせずに手を挙げ発言の許可を求めた。

 

「おっいいよ。たしか、氷室ちゃんだっけ。何が気になったの?」

「はい。護送されているところへの強襲が必要ですが、輸送が行われる時間や経路などはわかりますか?」

「うん、それについては大丈夫。これを見て欲しいんだけど……」

 

蘇我さんが手元のPCを少し弄ると、個人情報が満載された画面が切り替わり地図と表が記載されたものを映し出した。恐らく、これが輸送経路とスケジュールなのだろう。湾岸を表す地図には、東京キングダムへと続く道筋が赤い矢印によって示されていた。

 

「これが護送車の経路とスケジュールの情報。これによれば、22時頃には廃棄された工業地帯を通過するから、ここで攻撃を仕掛けるよ。で、護衛してるであろう敵を殲滅して対象を救出、撤退するのが大まかな流れかな。他に聞きたいことは?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「そっか、ならよかった。じゃあ次は細かい所も詰めちゃおう。皆も、何かあったら遠慮なく言っていいからね」

 

そこからは蘇我さんが地図を示しながら配置や突入及び撤退経路を説明していく。作戦というには大雑把だが、これを叩き台にして詳細を詰めていくのならば十分だ。

 

蘇我さんが説明を行い、部隊のメンバーがそれに対し質問や提案を行いながらディスカッション形式で会議は進んだ。と言ってもメンバーの中で意見を出しているのは氷室他数人程度で、他は頷いたり感嘆符出したりしてるだけだった。おいお前等、自分達の任務なんだからもっと頭使えや。ちなみに俺は静観中、少し気になることがあったから様子見してるところだ。

 

「……よし、いい感じに纏まったかな。他になければこのプランで最終決定するけど、何かまだある人ー?」

 

と、どうやら様子見してる間にブリーフィングも終盤、決定案として纏めに掛かっているようだ。この作戦なら俺としても十分だとは思うけど、一つ確認しなきゃいけないことが残っている。誰も聞いてくれてないからなー。

 

「すみません、一ついいですか?」

 

……おい、何で俺が手を挙げただけでギョッとするのか教えて貰おうか。氷室もお前、その心配そうな眼差しは何だよ。そんな「何もしないで」みたいな表情すんなよ流石に失礼だぞ。

 

「おっ、どうしたの?ずぅっと機を窺うように沈黙していた田上君?」

「別にそういうわけでは……ただ聞きたいことが残っているだけです」

「へえ?ここまで結構話詰めたのに、まだ残ってる疑問があると。何かな?」

「この情報、ソースはどこですか?もっと言ってしまえばどれくらい信憑性がありますか?」

 

俺の言葉に、弛緩しかけていた部屋の空気が凍った。更に七瀬さん含めたメンバーが厳しい視線を俺に向けてくる。まあ割とよくあることだからいいんだけどさ、にんまり笑ってる蘇我さん、確信犯だよね?

 

「この情報は、ノマドに潜入している対魔忍が持ってきたものだよ。流石に名前までは出せないけど」

「その対魔忍が敵方に寝返ってない保証は?後、その人だけですか?他の情報源はありますか?」

 

ざわざわと室内にどよめきが広がる。仲間を重んじる対魔忍にとって、裏切ったことを前提に考えるのは割と異端というか、あってはならないことだ。故に過半の対魔忍は味方が裏切るという発想が致命的に欠如している。あのアサギが敗北したのも、味方であるはずの井河当主の裏切りだというのに。

 

「聞き捨てなりませんね」

 

と、今まで傍観の姿勢を取り続けた(作戦を詰める必要性を考えてなかったと思われる)七瀬さんの声が、凛と響き渡る。

 

「今回の任務はアサギ様の勅令、つまりこの情報はアサギ様が信頼に足ると判断したものです。それを咎めるということは、アサギ様を信頼出来ないと言っているも同然です」

 

そう言ってるんですけど、と言いたいのを何とか堪え、可能な限り当たり障りのない言葉を選びながら話を続ける。

 

「この際校長は関係ないです。実働部隊である我々が信頼に足ると納得できるだけの理由が聞きたいんですよ」

「アサギ様が認めている情報です。それで十分でしょう?」

 

十分じゃないからこうして突っかかってんだよ……!校長だって戦闘はともかく後方での情報精査なんてからきしだろうに!それが出来るんなら対魔忍シリーズは発生しない。

 

ああ……これ面倒くさい、どうせ捕まんの俺じゃないし、適当に放り出してとんずらしたい……。多分無理だろうけど。わざわざ校長ご指名ってことは、逃げ場ないんだろうなぁ……。

 

それに、アサギが何故俺を救出部隊に入れたのかは何となく察しがついている。他の対魔忍に俺の度を越した臆病さ、慎重さを学んで欲しいのだろう。現に俺のそれを間近で見た氷室は、少しずつだが変わろうとしている。僅かでも俺の行動から何か学び育てば、という思いが読み取れてしまうのだ。そしてそれは、俺にとっても多大なメリットを齎す。何せ周りが有能(優秀にあらず)になれば、俺に回ってくる仕事が減るからだ。そうなれば必然この危険も減るだろうし、何より味方が捕まらなくなれば俺が楽できる。結果、ここで少し手間をかけるだけで将来への投資になるのだ。

 

問題は、ここから何かを学びとってくれるかが微妙な連中だということなのだが……。

 

「そもそも、潜入している仲間の裏切りを疑うことこそ言語道断。彼女らは魔族を倒すという固い決意の元に身を危険に晒しているのです。それを疑うということは、彼女らを侮辱することと等しい行為だとわかっているのですか?」

 

媚薬ぶち込まれただけで即オチ2コマ晒す奴らの何を信頼すればいいんですかねぇ(白目)。決戦アリーナ見てみろ、一回は必ず犯されて高確率で落ちとるんやぞ。例えIFの話だったとしても、それやられればすぐ心折れるってことだろ?画面上なら笑い話で済むけど、現実でそれやられたらダメダメじゃん。

 

だが周りの連中はそんなこと露ほども思わないらしく、殆どが首を縦に振り賛同の意を示している。いや、君らもうちょっと現実見よう?相当数の対魔忍が米連や魔族に寝返ってるんだぞ?もう少し危機感もってくれます?

 

……仕方ない、ぶっちゃけもうやめたいけど乗りかかった船だ。アプローチを少し変えてもうちょっと続けよう。

 

「ではわかりやすいよう例を変えます。潜入がばれていて、偽の情報が流されている可能性は?連中だって馬鹿じゃない、罠を張って我々を誘い込もうとしている可能性だって十分にあります」

「そのための私です。私の紙気は、複数との戦闘ならば更なる力を発揮出来ます。敵の増援が来たとしても、それを破るなど容易いことです」

 

なぁんで増援が来る可能性を考慮して正面突破しか選べないのぉぉ!?強襲ポイント変えるとか敵を無力化する方法考えるとかあるじゃん!正面戦闘出来ないクソ雑魚マンもいるんですよ!俺とか!

 

援護してくれる奴が誰もいない孤立無援の戦いは、俺の勝利という未来がまったくないままそれでも一時間以上は続いたのだった。

 

 

 

 

「それじゃあ作戦決行は今夜、フタサンマルマルに集合して出撃するよ。それまで各自英気を養って万全の状態にしておくように。解散!」

『はい!』

 

蘇我さんの号令と共に、班員は各々部屋から退出していく。勿論、その前に俺を一瞥するのを忘れずに。そうして部屋には俺と氷室、そして終始俺と七瀬(敬称つける気無くした)のやり取りを眺めていた蘇我(敬称つけry)が残っていた。

 

「……だぁぁぁ~」

 

思わず、大きな溜め息と共に机に突っ伏す。流石に長時間ディベート(言葉の殴り合い)するのは精神的にキツい……そもそも俺話し合いとか得意な方じゃないんだよなぁ。相手がまともに話を理解してくれないのならば尚更だし、そもそも理解出来る保証もないままやってたんだよなぁ。

 

「これでは道化だよ……」

「だ、大丈夫ですか……?」

 

総帥してた赤い彗星の如く自身の行いを嘆いていると、隣でずっと心配そうにしていた氷室が此方を伺ってくる。

 

大丈夫だ、という一言を何とか絞り出す。そして机から体を起こすと、ポケットに何故か入っていた飴玉の包装を雑に破き口の中に放る。ああ~練乳の甘ったるさが脳みそに沁みる~……。

 

「あははは。ごめんね、無理させちゃって」

 

そんな心底疲れ果てた俺に、蘇我が笑いながら話し掛けてくる。なにわろとんねん。

 

「いいですよもう。自分の利益のためにやったことでもあるんですから。まあまさか、あそこまで理解力のない脳筋対魔忍だとは思ってもみませんでしたけど」

「……いや、流石にそれ本人の前で言っちゃう?せめて隠さない?」

「大丈夫ですよ、きっと自分が馬鹿にされてることも分からないアホですから」

「聞こえてますよ。紙気の錆にしてあげましょうか?」

 

何故か急にキレ出すじょーにんナナセ=サン。きっとカルシウム不足なんだろう、ほねっこたべりゅ~?

 

ちなみに、この部屋には前述の三人と俺がシカトしていた七瀬の計四人が残っている。「~が残っていた」とは言ったが、三人『だけが』残っていたとは言ってないのである!(叙述トリックごっこ)

 

「かなりキてるみたいだね……ホントにごめんね?アサギ様から頼まれてたんだ、田上君の意見を可能な限り引き出すようにって」

「まあそんな気はしてました。ずっとニヤニヤしてましたもんね」

「えっそんな顔してた、私」

「一目瞭然でした、腹芸向いてないですよ。あと、情報のソース言わなかったの、ワザとですよね?」

「あっ、そっちもバレてた?」

 

参ったね~、とカラカラ笑う蘇我。その態度からは悪気が全く感じられず、こちらも毒気を抜かれてしまうだろう。まあ、俺は彼女を責める気は全くないからいいのだが。

 

十中八九、彼女は俺達全員を試していたのだろう。対魔忍の卵である俺達学生が、与えられた情報をどれだけ理解し、自分で考えることが出来るかどうかを。だからこそ最初に出す情報を最小限にし、質問に答える形で情報を小出しにしていったのだ。学生がどれだけ情報を引き出せるかを試すために。実働部隊の指揮官としては赤点ものだが、テストとしては満点と言っていいだろう。

 

「でもまあ、情報の正確性を疑問視する意見が出なかった時はどうしようかと思ったけどね。最初から其処まで考えてた子がいて何より何より」

「分かってて俺に"あれ"を言わせるとか、あくどいことしやがる……ということは、情報の不正確さを把握した上で今回の任務を?」

「うわ、そっちも気付いちゃうのか、スゴいね君」

 

今度は本気で感心したようにこちらを見る蘇我。そんな目で見られたくて言ったわけじゃないんだが?というかこの人ホントに思ってること顔に出やすいな。付き合いやすくはあるんだけど、娼婦とかで潜入とかさせようものなら一発でバレそう。ま、能力適性考えればそんなこと有り得ないけどな!

 

まあそれはともかく、早く吐くんだよという念を込めて見つめると、思いが届いたのだろう。苦笑い気味に説明を始めた。

 

「これもアサギ様からね、情報の正誤を見極めるための特訓なんだって。情報持ってきた対魔忍も、不確実な情報だって上げてきたらしいし」

「信憑性の低い情報を持ってきたんですか?」

「護送が行われるのは間違いないらしいんだ。ただ、対魔忍を運ぶには情報が拡散しすぎててルートもお誂え向きだから、罠の可能性が高いって。それでも、東京キングダムまで運ばれるよりは救出の目は高いから、判断はお任せしますって感じかな?」

 

確かに、魔族の巣窟である浮島東京キングダムに潜入して取り返すよりは、罠であってもそこに突っ込む方がまだマシと言えるだろう。

 

「……待って下さい。そんな話、私は聞いていません」

「まあ言ってなかったし。それ知ったところで、バカ正直に言っちゃうでしょ?気付くかどうかも含めて特訓なんだから、教えちゃダメだよ」

「むむむ……」

 

話がようやく飲み込めた七瀬が食ってかかるが、蘇我が図星をついた一言で一瞬のうちに歯噛みすることとなった。『私達がまだ提示していない情報があります。どのような物だと思いますか?』とか素直に言ってる様子が目に浮かぶようだ。本人も自覚があるのだろう、ざまぁ。

 

「そう言う点じゃ、氷室ちゃんは合格かな。質問回数も一番だし着眼点もいい。あとは経験を積めば戦闘中でもその思考力を維持できるようになると思うよ」

「あ、ありがとうございます……」

 

唐突に矛先が向いた上にべた褒めされ困惑しながらも礼を返す氷室。辛辣にディスくらった七瀬とは大違いである。

 

「でも、私に田上さんのような事が出来るかどうか……」

「ちゃんと情報精査して、事前準備十二分に行って、リスク管理ちゃんと出来てりゃ十分だろ。そもそも俺は弱っちいからこんな七面倒なことしてるだけで、異能持ちで近接出来るんなら俺みたいにならなくてもいいだろ。最悪危機管理が出来てりゃ何とかなる」

 

うーん、何か氷室が俺を目標に頑張ってる感がある……油断なく慎重に動けるようにはなって欲しいけど、俺みたいにならなくてもいいんじゃないかなぁ。自分で言うのも何だけど、俺のは生き残るための戦い方だからかなり外道混じりなんだよね。

 

「そうだ、作戦のプランて結局このままなんです?敵の増援、確実に来ると思うんですけど」

「まあそうなんだけど、多少の危険は承知の上でもやらなきゃいけないからね。とりあえず強襲前に敵を察知出来たら即撤退、人質を確保した後だったら舞を殿にして全力で退避ってところかな。増援の規模がわからないから詳細まで詰め切れないんだよねー」

「敵が来るタイミングは十中八九人質確保してからでしょうね。地形から考えれば、前後からの挟撃が最有力かな」

「中忍の中に火遁使いが何人かいるから、片方に最大火力叩き込んで包囲に穴開けれると思うんだ。で、そこを突破して一方向だけになった敵を舞に足止めして貰いつつとんずらしようかなーと」

「……まあ、現段階だとそれがベターか……情報が足らなすぎる、数で圧殺されたら詰みだな」

「強力なのが一人だけだったらやりようは幾らでもあるんだけどね」

 

……おかしいな、何でブリーフィング終わった筈なのに、まだ作戦詰めてるんだろ。俺、仕事しすぎじゃね?あー頭が痛い……。

 

「まあ、何かあったら私たちが身体張るから、あまり気にしないで!」

「いや凄く気になるんですけど……はぁ。わかりました、よろしくお願いします、蘇我さん」

「かたいなー。気軽に『紅羽』でいいよ」

「いやいや、別にそこまで仲いいわけじゃないですしいきなりそんな」

「紅羽」

「実は自分他人のこと下の名前で呼ぶ習慣がなくてですね……」

「紅羽」

「いや、あの……」

「くーれーはー!」

「…………紅羽さん」

「よし!」

 

何だこの唐突な名前を呼んでイベントは……ノリで書いてみたはいいけど後々見直してみたら自分でも訳わからなくなった、みたいな訳わからなさだぜ(直喩)……。

 

「ほら、舞も!これから背中預ける仲間なんだからさ!」

「……わかりました。いえ、私には特に蟠りなどありませんが、紙気がどれだけ優れているかその目にしかと焼き付けましょう。私個人はまったく気にしてはいませんが、ええ」

「滅茶苦茶気にしてるじゃねぇか」

「ちょっ田上さん!」

 

あやべ、ついツッコミが漏れた!仕方ねぇじゃん、あんな「私凄く気にしてます~」みたいなオーラ出されたら!顔と言葉違いすぎるんだもんそりゃつっこむでしょ!

 

「……まあいいか。宜しくお願いします、お二方。頼りにさせて貰いますね」

「応!お姉さんにまっかせなさい!」

「紙気使いの力、特等席で魅せてあげましょう」

 

俺の割とおざなりな期待の言葉に、上忍二人は意気揚々と応えた。これで対魔忍じゃなきゃ、安心して背中預けられるんだけど……。

 

とは言え、能力や戦績だけ見れば二人はかなり優秀な部類だ。五感全てが獣並に強化された索敵能力はほぼ視覚と聴覚便りの俺よりも範囲が広く正確だし、紙気のあらゆる場面で活躍出来るオールラウンド性は才能を持たない俺では決して真似できないものだ。そしてその若さながらそれなりの場数は踏んでいるし、根本的に俺よりも経験が違う。ここは先達である彼女たちに任せるのがベストであるはずなのだが……。

 

「……大丈夫でしょうか、これ」

 

氷室のそんな一言が、俺の中に巣くう不安を的確に表していた。

 

 

改めて解散し自室へと帰ってきた俺は、装備の最終点検をしつつひたすらに頭を回していた。

 

ハッキリ言って、嫌な予感しかしない。地獄のような鍛錬で鍛え抜かれた俺の生存本能が大声で警鐘を鳴らしている。そして、これが外れた試しは只の一度もないのだ。

 

まあ、十中八九罠なのは分かり切ってるんだけど。はてさて多数で包囲してくるのか、それとも強力な魔族を差し向けてくるか……いや、人質の価値が低いから、名の知れた奴を出す必要性がない。普通にオークとかの物量攻めかな。

 

しかし何というか、仲間を餌にして敵兵を引きずり出して狙い撃つ。まるでベトコンだな……。(いせスマ感)

 

万が一訪れるかもしれない惨劇に臍を噛む。ここで部隊が壊滅でもしてみろ、面倒ごとが死ぬほど増えるぞ……。

 

与えられた情報と自軍敵軍の取りうる戦術とを照らし合わせながら、こちらが確実に勝利する方法を頭の中でこねくり回す。今回の勝利とは敵の殲滅ではなく、捕虜の奪還及び全員の生還だ。

 

そのために必要な要素を必死に考えて、考えて、考えてーーー携帯を取り出す。仕事に使うものとは別の、プライベート用である。

 

電話帳に設定されている番号をタップしてコール。端末を耳元に当てて待つこと数秒……ガチャリ。

 

「あ、もしもし……おう、久しぶりだな。急で悪いんだけど、ちょいと頼みたいことがあってさーーー」

 

相手の戯れ言を適当に流して、サッサと話を詰める。あまり時間がないんだ、テキパキいかないとな。

 

話が纏まったところで電話を切る。

 

「さて、行こうか。勝利の法則は決まった、ってね」

 

 

 




若干対魔忍アンチが多めだったけど、特に嫌いでも何でもないものをディスるのは精神的に疲れる。あと感想めっちゃ来てたけど、皆頭対魔忍ネタにしてディスりまくってんのには草生えた。お前ら対魔忍に恨みでもあんのかよぉ!

それと、約束通りまともそうな上忍だしたぞ!ホントはもっとしっかりした人出したかったんだけど、そう言う人たち諜報メインみたいだから出しづらいし。次点として弱点とかしっかり考えてそうな紅羽さんと、多数の戦いで力発揮しそうな舞ちゃん連れてきてみた。きっと活躍してくれるはず!尚二人のキャラは例のごとく他の対魔忍ssを参考にしています。紅羽さんはともかく、舞ちゃん持ってないからね、仕方ないネ。

次はできる限り早く投稿するつもりですが、lobotomyの続きとかシンフォギアのとか書きたいし、スニークユキカゼちゃんドロらずカテジナさんドロった悲しみで筆遅くなるかもです。ユキカゼ欲しかった……ちなみに4周年はA○凛子選びましたけど、皆さんはどうでしたか?


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闇に沈む子の正刻、忍は夜を駆ける

前後編といったな、あれは嘘だ。

ということで申し訳ありませんが、前中後編の三話構成になります。例によって書いてるうちに文章が伸びてしまったので分割しました…ちなみに今回は、およそ6割が書く予定のなかった、執筆途中に追加したものです。いつになったら全部書き終わるんですかねえ……。ただ、約束通り八月前に上げたので、満足はしている。




マルマルマルサン、日付が変わって僅かばかり時が経った真夜中。神奈川県沿岸にある廃棄された工業地帯ほど近くのビルに、俺達はいた。

 

数年前まで大規模工場とそれを統括する支社が軒を連ねたここも、不況の煽りと魔族の息が掛かった新興企業の台頭による赤字によって撤退を余儀なくされ、今や死んだまま放置された白骨のような有り様だった。

 

俺達が作戦前に陣取ったのはその放棄されたうちの一つ、大手メーカーが支部として建設した高さ10mはあろうビルの屋上だった。周囲には稼働を停止させた工場群しかなく、人気も一切ない。戦闘を行うには絶好の場所だ。

 

「時間です。皆さん、用意はいいですか?」

 

灯り一つ付いていない闇に包まれたビルの屋上で、風にその銀髪を棚引かせながら七瀬は俺達へ問い掛ける。誰も声を発することなく、しかし首を微かに動かすだけで自らの意志を伝える。

 

その発意を受け取って自らもこくんと頷き、七瀬は部隊長たる蘇我へ声を掛けた。

 

「紅羽さん、隊員全員、準備出来ました。何時でも行けます」

「うん、ありがと」

 

七瀬に軽く言葉を返すと、工場へと……否、向かってくる目標へと感覚を向けていた蘇我は俺達の方へ向き直る。

 

丁度その時、空に掛かっていた雲が僅かに切れ、月明かりが地面へ向けて漏れ出した。その光はまるでヴェールのように陣取ったビルへと降り注ぎ、俺達を照らし出す。

 

光が写し出すは、捕虜奪還部隊総勢18名。それぞれが対魔忍スーツを着込み、得物を持ち、狩りを始める獣のように今か今かと戦意を高ぶらせている。

 

「それじゃあ皆、ブリーフィング通り行くよ。A班は前衛として近接戦闘、舞とB班は前衛の支援と人質の確保、田上君は全体把握と狙撃による火力支援。私は周辺警戒と全体指揮に専念するけど、必要なら援護に入るから」

 

紅羽が最後の確認として、大雑把に配置を説明する。前衛として主な戦闘を担当するA班は10名、部隊の大半を占めている。そして七瀬を中心とするB班6名、彼らは前衛の援護と人質の確保、更に増援が来たときの対処を行う言わば遊撃部隊だ。隊長である紅羽は事前に言っていた通り敵の罠を警戒して後方で索敵をメインに指揮を執る。

 

そして俺は、たった一人の後方支援要員にして前哨偵察兵(スカウト)だ。事前に紅羽……隊長に話を付けて後方へ配置してもらった。その理由は二つ。まず一つは不測の事態に対処するため。

 

今回の襲撃は、どう考えても罠だ。ならばそれを警戒するのは当たり前の事。一応隊長の能力……獣並となった聴覚や嗅覚で敵を察知することもできるだろうが、前線に出ていたのではどうしても限界がある。そのため俺がビルの屋上に残り、周辺の索敵を担おうというのだ。そのために米連から強奪した虎の子のドローンを数機持ち込み、周囲に展開しているんだし。これ、私物扱いだから経費で落ちないんだぜ?

 

そして二つ目、これは単純に俺が接近戦がしたくないからだ。前世で善良な一般市民だったためか分からないが、どうも戦闘行為自体への忌避感があるらしく、特に相手と向き合って切った張ったする接近戦が非常に苦手だ。それでなくとも、わざわざ敵と正面切ってやり合う必要なんてないんだけども。必要のないリスクなんざ背負う意味はないからな。俺が狙撃を好むのだってそれが理由だし。

 

まあ、他の連中からは臆病者でのなんだの言われたけどな!こいつら誰も後詰の重要性を理解してない、最初から全員でかかれば最高効率だとか平気で言うやつらだ!まあ戦力の逐次投入は悪手ってよく言うからわからなくもないけど、ちゃんと後方配置の意味考えて!

 

一人悲しみに浸りつつ背中に背負ったガンケースを下ろす。今回は狙撃手ということで、装備も相応なものを用意した。俺は、ガンケースのジッパーを開け中から黒く艶消しされた一丁の銃ーーーSR-25を取り出し、オプションパーツをレイルに手際よく装着し始める。

 

SR-25、世界でも名だたる突撃銃(アサルトライフル)であるM16と同じ銃器メーカーが設計、生産している軍用狙撃銃だ。M16の前身であるAR-10をベースに開発され、機構上どうしても不具合や故障が発生しやすいオートマチックライフルにあって精度と信頼性が非常に高い。アメリカ陸軍や海兵隊、有名なNavy SEALsが愛用していると言えば、この銃がどれだけ高い信頼性を持つかは明らかだろう。

 

比較的近距離、大凡800m以内での射撃戦が想定されたマークスマンライフルと呼ばれる代物であり、有効射程は600m程と狙撃銃としては短い。その分風や磁場の影響を受けにくいため集弾性は高く、100ヤードで0.75インチ以下……つまり凡そ91mで19mmという高い精度を誇っている。また連射の利くセミオートマチック式バトルライフルであるため、近中距離の射撃戦にも対応出来るという利点がある。狙撃中の接敵や不可抗力的な直接戦闘などが突如発生した場合であっても、これ一つで様々な状況にも対応出来るのだ。

 

ボルトアクション式の方が構造がシンプルであるため耐久性が高く威力の高い弾薬を使用出来るものの、今回の俺の仕事は前線で戦う友軍の支援だ。威力や射程よりも、隙のないフォローを可能にする連射力と誤射が発生しない高い精度が重要であり、単純な火力の優先度はかなり低くなる。

 

使用弾薬は7.62mm×51mmNATO弾、M16の5.56mm×45mmNATO弾よりも大きく装薬量も多いため、貫通力・ストッピングパワーに優れており対人戦闘において最もバランスの取れた射程と殺傷力を持つ実包だ。世界的にもトップクラスのシェアがあり、適当に探しても安価で大量に手に入るし、長年に渡り積み重ねられたノウハウも豊富だ。

 

更にAR-10やM16の機構を踏襲しているため部品の凡そ六割がM16シリーズのパーツと互換性があり、整備性が高く低コストで確保出来るのは俺にとって大きなメリットだ。銃が戦闘で破損したりした場合闇市などで補充しなければならないので、"入手しやすい"というのはかなり有り難い。まあその分部品精度はピンキリなので、十分な精査が必要となるが。

 

またSR-25は、M16系統の特徴に漏れずオプションパーツが充実しており標準装備されているピカティニーレールに各種光学機器やバイポット、ハンドグリップなどを搭載することが出来る。現在俺が使用している物は米海軍、Navy SEALsが採用しているMk11 Modというライフルシステムとほぼ同一の仕様にカスタムしてあり、本体上部には暗視機能付き光学スコープとバックアップ用のアイアンサイトがマウントされ、銃口にはサプレッサー、銃身下に二脚のバイポットが装着されている。勿論いざとなればオプションをパージして銃撃戦を行うことも出来るし、そのために素早く外せる物に限定してある。

 

射程が短い代わりに高い殺傷力と精度を誇り、どんな状況でも対応出来る信頼性と充実したオプション。正に今の状況に打ってつけなバトルライフルだ。

 

……は?バレット?一々あんなクソでけえの担いでられるか。そもそも数km先の人間をミンチに出来る弾丸なんざ市街地戦で使ったら味方ごと消し飛ぶわ。

 

「……よし」

 

最後にバイポットを装着を確認し、薬室へ弾丸を装填。セーフティに指をかけて何時でも射撃出来るようにしつつ、俺はスコープを覗き込んだ。

 

光学スコープは問題なく作動しており、視線の先で走行するトラックの姿を俺の瞳に映し出した。

 

「目標と思われるトラックが二台こちらへ向かってきます。一般車両に偽装してはいますが、恐らく軍用の改造車。強襲ポイントまで、凡そ30秒」

「おっけぃ、皆行くよ!」

『はいっ!!』

 

俺からの報告を受けた紅羽が号令を発し、それに応えて隊員が武装を展開、出撃に備えた。俺は屋上の縁にバイポットの脚を立てベッタリと腹這いになる。芋虫のようにもぞもぞと身体を揺らしてしっくりくる位置を見つけると、スコープを覗き込み標的を追い始める。車両は前後に車列を作り時速60km程度の速度で移動している。作戦開始まであと少しだ。

 

「じゃあ宗次君、手筈通り……」

「出撃と同時に前方車両を狙撃、停止させます。それと、作戦中はコードネーム使ってくれます?」

「はいはい、分かったよガイドマン。案内は任せたよ?」

 

俺と軽口を交わして紅羽は縁から飛び立った。他の奴もそれに続いて次々と跳躍して闇夜へと消え去っていく。ちなみに、今回作戦用の呼称を用いているのは俺だけで、他は全員本名で呼び合っていた。もう何も言うまい。

 

と、何故か最後まで飛び立たなかった氷室は何かを逡巡した後祈るように胸の前で手を合わせ、口を開いた。

 

「……田上さん、お気を付けて」

「それは俺の台詞だろ、前に出るのはお前なんだから。まあ、こっからちゃんと援護してやるから、安心して剣を振るって来い」

「……はいっ、ご武運を!」

 

氷室の表情が何処か不安げなそれから凛とした力強い戦士のものへと切り替わり、そして彼女も闇の中へと飛び立った。

 

「さて、と。仕事しますか」

 

光学スコープを再度覗き込み、目標に照準を合わせる。まずは車両の足を止める必要があるため狙うはタイヤ、FR駆動のトラックなので後輪へと銃口を向ける。そして風向きや相対速度などを体感と目測で計りながら弾道を計算し、照準を少しずつ修正していく。

 

ブレを軽減するためにスゥッ、と一呼吸して息を止める。心臓の鼓動音が身体中に反響するのを感じながら意識を集中させ、引き金に指をかける。

 

意識に届く鼓動の間隔が延びていくのを無視しつつ、レティクルの向こうを睨み付ける。脳裏に浮かべた未来予測を視界に投影し、セピア色の幻影と同じ軌道をなぞるトラックを睥睨しながら刹那の中にあるタイミングを逃さず、

 

ーーー人差し指を、引いた。

 

△ ▼ △ ▼ △

 

花蓮達救出部隊が強襲ポイントに降り立ったとき、目標のトラックはタイヤとコンクリートが擦れる厭な音を立てて停車した後だった。見れば、後輪の両方が撃ち抜かれ、更に運転手と助手席にいた男が連続で眉間に風穴を開けている。

 

ビルから離れて着地するまでの間は僅か三秒ほど。その短い中で後輪をほぼ同時に撃ち抜き動きを完全に止めて見せた宗次の技術がどれほどの物か、見誤る者など誰もいないだろう。

 

「いやー、いい仕事するねぇ。私たちも負けてられないよ、みんな!」

『っ!了解!』

 

宗次の鮮やかな手際に感嘆した紅羽は、驚愕する隊員に発破を掛けることでその意識を引き戻す。それと同時、前方車両の異常を察知し急停止した後方車の荷台から次々と斧や剣などで武装したオークがコンクリートに降り立つ。人間を上回る膂力を持ち利器を用いる知能がない彼らは、得てして原始的な近接武装を好む傾向にある。銃などを使うにはそれなりの訓練が必要であり、その過程を修め銃火器を身に纏えるオークはほんの一握りだ。

 

最終的に現れた彼らの数は凡そ30、救出部隊の二倍近い数がいることになる。最も、その程度では対魔忍を止めることなど出来ない。そして、それを理解している紅羽の指示は迅速だ。

 

「B班は予定通り人質の奪回!A班は敵と戦闘、食い止めて!」

『了解!』

 

その号令と共に、戦場は動き出す。対魔忍は自らの正義と職務を全うすべく走り出し、オークは仕事、というよりは獣欲に涎を垂らしながら迫る。

 

そんな中で、花蓮は一番近くに来たオークへと駆け剣を振るった。

 

確かにオークの身体能力と肉体強度は人間を凌駕しており、時に対魔忍とて掴まれれば容易に振り払えない。しかし下等な種であるオークのそれは魔族の中では下も下であり、ただやたらと力を振るうだけ。修練を積んだ対魔忍を相手どるには不足も不足である。

 

実際、見習いである花蓮の剣閃に、相手取ったオークは為すすべもなく首を撥ね飛ばされた。その間十秒足らず、圧倒的と言ってもいいその勝利にしかし、花蓮の胸に去来したのは歓喜ではなく驚愕と無念だった。

 

(田上さんの援護がなければこうも上手く行かなかった……得意とは聞いていたけど、何て技量……!)

 

すぐさま別のオークと切り結びながら、思考の片隅で先ほどの出来事を反復する。自分へ斧を振り下ろそうと踏み込んだオークの両膝が撃ち抜かれ、首を差し出すように崩れ落ちた姿を。

 

(私とかなり接近してるはずなのに、一切の躊躇なく両膝を一瞬の内に……また!?)

 

その間にも、後方から音なく飛来した鉛の弾丸は、後ろへ下がろうとしたオークの足を地面に縫い付けるように撃ち抜いた。予定していた動きから外れたそれは当然オークのバランスを大きく崩す。そしてその間隙を縫うようにして、再度弾丸が飛来し今度はその手に持った剣を指ごと弾き飛ばした。

 

致命的な隙を晒け出した敵に花蓮は一切の容赦もなく、すり抜けざまに首筋を一閃。噴水の如く天高く舞い上がった鮮血の量から傷が浅いと見るや、背後から心臓へと刃を滑り込ませる。大量の血を吹き出し更に急所まで潰され、何が起きたか認識する間もなくこのオークは絶命した。

 

「後……一体!」

 

前衛を担当する人数が10名であることを考えれば、ノルマは一人三殺。本来ならば経験がある中忍が学生の分をある程度肩代わりするのだろうが、宗次の援護のお陰で花蓮が一番余力がある。それならノルマを達した後で他の援護へ向かうべき、そう判断した花蓮はすぐさま駆け出し、味方を囲もうとしているオークへと切りかかる。

 

「なっ、氷室ちゃん!?もう倒したんか!流石やなぁ!」

 

花連が助けた学生対魔忍――――大島雫は、対峙していたオークの顔面を殴り飛ばしながら声をあげた。恐らく花連と異なりノルマの三体を同時に相手取っていたのだろう、大きく露出された褐色の肌に珠のような汗が張り付いていた。

 

「手厚い援護のおかげです!一体引き受けますよ、大島さんっ」

「おう!頼むわ!こっちは任せと、き!」

 

残った二体のオークへと殴りかかる雫を後目に、花蓮は相手取ったオークを弾き飛ばして雫から距離を取らせ、刀を振るった。

 

花蓮はオークの攻撃を時には受け流し時には回避しながら、立ち回りを慎重に演じていく。本来ならば能力を使用して出来るだけ早く片づけるのだが、実戦訓練という意識と宗次の的確な援護が花蓮にこの方針を取らせた。すなわち、能力を用いない場合の戦闘力の把握及び鍛錬だ。

 

花蓮の忍法、氷花立景は水遁の派生、氷遁系忍法であり、自身を起点として物体を凍結させる能力だ。彼女の氷は生物非生物固体液体気体の区別なく凍てつかせ、侵食した物体の生命力を奪う。攻撃や防御、敵への妨害も自在に行える汎用性が高い忍法で花蓮も頼りにしている能力ではあるがその代償か効果範囲は大凡10mほどと短いし出力自体はさほど高いわけでもない。結局のところ本人の使い方次第であり、だからこそ花蓮と相性の良い忍法とも言えた。

 

花蓮は見習いながら数度の実戦経験を積んでおり、その時にも忍法を使うことで幾人もの敵を屠ってきた。勿論それは悪いことではないし、教師達は寧ろ固有の能力を成長させることを推奨していた。だから花蓮も特にそれを疑問に思ったことはなかったが、能力を持たずに戦い続ける宗次の姿を見て視野を広げることが出来たのだ。

 

何らかの要因で能力が使えなくなったとき。能力を隠して戦闘するべきだったとき。きっといつか、そういった能力なしで戦わなければならない場面に遭遇することになるだろう。そしてその時、忍法なしでは闘えないなんて甘えた考えは通じない。ならばこそ、余裕があるうちに地力を鍛え、自身の限界を見極める必要がある。

 

花蓮はこのオークを敵ではなく実験台として使うことに決めた。すぐさま倒すのではなく、ひたすらに攻撃を避けて受け流す。次の攻撃を予測し、更に次の行動までをも想定しながら互角の戦いを演じていく。

 

アサギは、花蓮の強みは強さではなく冷静な判断力だと言った。紅羽も、経験を積めば戦場で判断力を活かせると褒めてくれた。だからこそ、自分にしかない強みを伸ばす。追いかけるのではなく、隣に並び立つために。

 

攻撃のギリギリを見極め紙一重で避けながら、周りへと僅かに視線を配る。どうやら他の戦闘も優位に推移しているようだ。オークの数も大分減っているし、トラックの確保にも成功している様子。ここまでは作戦も成功、と言ってもいいだろう。

 

そんな事を思考の端で考えながら戦況の把握に努める、ふりをして敵が不自然に仰け反ったり武器が弾け飛んだりしている光景を目で追いかける自分に気付く。戦闘中にも関わらず頬が朱くなっているのを感じた。

 

それを隙と捉えたオークの攻撃を余裕で弾きつつ、自身の思考を整理する。どうやら宗次からの援護がなくなり、不安に思う心があったということだろう。まるで親を探す子供のような、赤面したくなる弱音ではあるが、外側から観察したことで花蓮にも彼の技術の一端を垣間見ることが出来た。

 

宗次の狙撃技術の本質は高い精度ではなく、敵の動きを見切るその眼だ。

 

宗次以外にも、アウトレンジからの狙撃を本領とする対魔忍は幾人も存在するし異能と組み合わせることで累乗的に能力が向上する分彼らのほうが精度は高いだろう。だがその分を宗次は、相手の動き―――即ち、相手が次に実行するであろう行動を的確に予測し、それに合わせ最適な位置を攻撃することが出来る卓越した技術で補っている。単純な狙撃ならばそれは精確無比な射撃に止まるが、敵味方入り乱れた戦闘ならば、それはまるで神の加護の如き支援へと変貌するのだ。

 

そもそも宗次は対魔忍になってからこの方味方に恵まれず、ずっと一人で戦ってきた男だ。友軍がいても脳筋で話を聞かない連中ばかり、生き残るならば自分が強くならなければならなかった。しかし彼には力なんてものはなく飛躍的な成長など望めない。だからこそ、敵や味方の行動をひたすら観察し、研究し、実践し、失敗を糧とてまた研究してというサイクルを繰り返し続けたのだ。その結果が味方を援護する卓越した能力の開花なのは、皮肉と言うしかないだろうが。

 

(たった一人、戦いながらここまでの技術を身に付けるなんて、凄まじいまでの執念……やっぱり遠いな……)

 

オークの攻撃を冷静に捌ききり、最後の仕上げと言わんばかりに正中線から両断することで戦闘を終了させた花蓮は、目指す背中のあまりの遠さに歯噛みする。

 

だが、その程度で諦めたくなどなかった。些細なミスで捕らわれた自分達を颯爽と助け出したその姿に、自分を許すなと言った、自身の外道を理解しながらも人の『善さ』を信じるその横顔に、どうしようもなく魅かれてしまったのだから。

 

「確かに遠いけど……うん、頑張ろう」

 

絶対隣に立つ、という決意を新たにぐっと力を込めた、

 

そうこうしている間に、敵の殲滅も終わり人質の救出も成功した。のだが、一つ問題が発生していた。

 

「一般人も一緒に……ですか?」

「うん、対象以外に五人、処置(・・)済みの一般人らしい女性が四名、荷物として積まれてたみたい。多分奴隷として売るつもりなんだろうけど……」

「……これ、確実にわざとですよね?」

「そうだろうねぇ……」

 

進展を紅羽から聞いた花蓮は、状況の不味さに思わず顔を引きつらせた。諜報員からの情報になかった積み荷、恐らくというか確実に、こちら側を陥れる策だ。

 

戦場では、敵兵を殺すよりも重傷を負わせた方が戦力を削れるというのは有名な話だ。死体は放置すればよいが、生きていればそれを助けるための労力を割かねばならず、その分戦闘力が低下するというある意味順当な話だが、どうやらノマドはそれを対魔忍に仕掛けてきたらしい。

 

正義を標榜する対魔忍は、例え罠だと見抜いても無辜の一般人を助けないという選択が出来ない。まさに対魔忍殺しとも言うべきいっそ見事な策である。

 

「となると、確実に敵の増援が来るね。全員!周辺けいか、い……?」

 

即座に危険を看破し、隊員に指示を下そうとしたその時、彼女の獣の如き感覚が、空気を、地面を、響くように分子を震わせる振動を捉えた。まるで何かが爆発し、鋼鉄の咆哮を轟かせているかのような―――

 

「―――エンジン音!?各員戦闘態勢ッ!ガイドマン敵は!?」

『予想通り東西から装甲兵員輸送車が計8台、人数は大体……!?6時方向!敵影3、急速接近!!』

 

通信機から宗次の何時になく慌てたような怒号が響く。どこか悲鳴のようなそれに尋常ならざるものを感じた二人は振り向こうとして、凄まじい速度で飛んできた"何か"を察知しギリギリのところで跳躍した。

 

四肢を使って四つ脚のように着地した紅羽とは逆に跳躍後の体勢を気にする余裕がなかった花蓮は地面に叩きつけられ、浅く打たれピッチャーゴロになったボールのようにコンクリートの上を転がる羽目になった。地に倒れ伏しながらも何とか顔を上げると、数瞬まで自分達が立っていたはずの場所には、幾十本に及ぶ艶消しされたクナイが深々とコンクリートに牙を突き当てていた。

 

「く、ない?まさか、これって……!」

 

 

「そう、そのまさかよ」

 

 

真上、背後にしていた鉄塔から女の声が降ってくる。その場にいた全員が勢いよく顔を上げると、三つの影が飛び出し地面に降り立った。

 

電灯によって照らされたことで、それらは影から浮き出てその姿を晒す。手にクナイや忍者刀などそれぞれの得物を持ち、元々露出度の高いレオタードのような装束―――対魔忍スーツから更に肌色を増やした、最早娼婦のような自身の持つ肉体を魅せつけ男に媚び諂う衣装に身を包んだ女達。

 

「そ、んな……行方不明とは聞いていたけど……何やってんのよ!アンタらッ!!」

「あら、久し振りね蘇我さん。聞いたわよぉ、上忍になったんですってねぇ?随分と出世したものね、素直におめでとうと言っておくわ?」

 

紅羽のまるで悲鳴のような絶叫も我関せず、先頭に立っているリーダーらしき女は世間話でもするかのように笑いながら軽く言葉を発した。だがその笑みは紅羽を嘲るようないやらしさしかなく、声音もまるで媚びている娼婦のように、脳を直接掻き毟りたくなるような不快感を齎すねっとりとしたものだった。

 

最早ここまで来れば、彼女達が一体何者なのか、花蓮でも理解出来た。彼女達は、魔族側に寝返った元対魔忍。掲げた正義も胸の内の誇りも捨て去り、ただ快楽の虜となった雌奴隷だ。

 

思わず、花蓮の背筋に悪寒が走る。任務にて、色々な対魔忍達の姿を見てきた。彼らはほぼ例外なく自身の行いを正義と信じ、誇りを持って堂々と戦っていた。そんな先達の姿はよく覚えているし、自分もそれを目指していた時があった。

 

―――だからこそ怖気が走る。あれだけ真っ直ぐだった彼女らが、こう(・・)なってしまうのかと。誇り高い人間が、ここまで堕ちてしまうことが出来るのかと。……もしかしたら、自分もそうなってしまうのではないか、と。

 

……それでも、何とかそれらを押さえつけ、倒れた身体を引き起こす。自分の後ろで、彼が見ているのだ。どれだけ恐ろしくとも、諦めたくなんてない―――!

 

周りを見れば、仲間達は既に武器を構え()を睨めつけていた。そんな姿に頼もしさを感じつつ、花蓮もまた刀を正眼に構え、何時でも動けるように意識を集中する。

 

「いやだこわぁい!そんなに睨まないで、仲良くしましょう?」

「お断りです。あなたは誇りを捨て我々の敵となった。敵と語らう言葉など持ちません!」

 

珍しく語尾を荒げた舞は指に紙気を挟みいつでも放てるようにしている。17人もの対魔忍―――しかも二人は上忍だ―――に囲まれれば、いくら魔に偏り力を増している元対魔忍だとしてもたった三人で敵うわけがないはずだ。にも関わらず彼女たちの顔に張り付いたいやらしい笑みが消えることはない。どころか愉快気に口を開く。

 

「それは大変ねぇ。それじゃあ、こわーい人達から守ってもらわないといけないわ」

 

彼女の言葉に合わせてか、両側から花蓮達を挟むようにしてエンジンの爆音を響かせた装甲トラックが急停車し、中からオークが大量に降車する。先ほどの焼き直しのような光景だが、その数はざっと100にも上り、突撃銃や機関銃で武装していた。その腕に腕章を巻いた、言わば精鋭のオーク、先程の十把一絡げなオークとは比べ物にならないほどの脅威である。

 

部隊員全員が冷や汗をかく中、裏切りの対魔忍は唇に人差し指を当て愉しそうに口端を歪めながら、悪意に蕩け切った声で終わりを宣告した。

 

「さあ、対魔忍諸君。一緒に地獄へ墜ちましょう?」




宗次「何でこいつら悠長にくっちゃべってんだ…撃っちゃだめか?」

というわけで、とりあえず切りのいいところで分割。このまま書いてると二万字は行きそうだったから、仕方ないね。あと、今回は『ミステリー小説を書くコツと裏ワザ』という本を参考に少し表現を工夫してみました。そのため情景描写がくどくなっているかもしれません。「このSSミステリーじゃないじゃん!」というツッコミはなしでお願いします。元々はSCP記事の参考にと買ったものですので。

決戦アリーナでまたY豚ちゃんか、雫ちゃんあたり出ないかなあ。褐色っ子しゅきぃ…。というか花蓮ちゃんの復刻なり新カードなり出してくれえ、声を聞きたいしキャラを把握したい。誰かFC2とかに動画上げてもいいのよ?


嘘予告

「その対魔忍、平凡につき」が、ついに夏コミに参戦!本編ではカットされた花蓮との本番シーン他、紅羽や舞を始めとした本編登場キャラなどのイチャラブシーンを掲載!さらに本家絵師による書き下ろしえちぃイラストも挿絵としてあるぞ!価格はたった1000円!さあ、来る8月12日、Coming soon!



低評価も覚悟のうえで書いたけど、書いてみたかったので後悔はしてない。R-18は書く気力がわかないので特に投稿する予定はないけど、サクチケなるものに多大なる興味があるので頑張るかもしれない。っていうかサクチケ楽そうだからすごくほちぃ。あと対魔忍コスするレイヤーさんも見てみたい…


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Q ほとんど詰みとなる一手を打たれた場合、どうすればよいか?

「さて、と。まずはぁ……」

 

元対魔忍のリーダーである彼女は、わざとらしく悩ましげな所作を見せると―――恐らく最初から決めていただろうが―――その視線を、花蓮達を飛び越え更に後ろ、宗次が狙撃を行っているビルの方へと目を向けた。

 

「―――彼処からかな」

「マッズ……ガイドマン!そこからはなれ……!」

「遅いよ。ミケ」

「了~解!」

 

一瞬で狙いを把握した紅羽が警告を発しようとするが、それよりも早くミケと呼ばれた元対魔忍が猛然と飛び立つ。花蓮を始めとした対魔忍達は誰もが反応出来ずにそれを見送り―――否、ただ一人舞だけが迎撃を行うも、放たれた紙気の軌道を縫うようにして回避されてしまった。その行く先は勿論。

 

「たっ――――」

『あれはこっちで迎撃する!しばらく援護出来ないから、自分のことは何とかしろ!』

 

通信機から宗次の怒号が響き、花蓮は自分が彼の名前を呼ぼうとしていることに気付いた。宗次が情報の隠蔽を重視していることを知っていながらそれをみすみす破ろうとしていた事実に歯噛みしていると、その忸怩たる思いを切り裂くように銃声が連続して響く。

 

花蓮が勢いよくビルの方へと顔を上げると、更に数発の銃声が鳴り―――ビルの屋上が紅蓮の爆発に包まれた。辺りに爆音が轟く。

 

「……なっ、ぁ―――」

「ミケの忍法は投擲物を爆弾に変える異能。巣穴に隠れる臆病者にはもったいなかったかしら?」

 

絶句し声も出ない花蓮達を尻目に、リーダーの女は嘲りの色を深めた。ミケとか言う元対魔忍の能力に信を置いているのだろう、負けることを全く想定していないような口振りだ。花蓮は宗次の元へと駆けつけようとして、何とかそれを捩じ伏せた。彼は、自分で何とかすると言ったのだ。ならばこそ、今自分に出来ることを全力でするべきだ―――!

 

「花蓮ちゃん、行ける?」

 

未練と共に視線を断ち切り、残った二人組に向き直る花連に紅羽はゆっくりと近づきながら声を掛ける。彼女も堕ちた対魔忍二人への警戒を緩めず、身体を真っ直ぐそちらへ向けながらだが。

 

「……はい、大丈夫です。紅羽さんは、あの三人と知り合いなんですか?」

「情けないことにね。五車学園時代の同級生だよ。一年近く前に任務中で失踪して、KIA扱いになってたけど……まさか敵に捕まって、しかも魔族の狗に成り下がってるとはね」

「どんな忍法を使うか、わかります?」

「うん。アキちゃん……いや、リーダー格のは生体探知―――つまり生物の体温を探知する忍法だけど、訓練重ねて接近戦の技巧は上忍の中でもトップクラスだったから、絶対に打ち合わないで。もう一人は風力操作、クナイとかを大量に飛ばしてくる。こっちも上忍クラスの戦闘力持ってるから、基本は私たちで何とかするよ」

「……了解です」

 

悔しいが、上忍クラスの敵となれば花連では格が違い過ぎる。餅は餅屋、紅羽の言う通り彼女らの相手は二人に任せ、自分たちはオークの対処に専念すべき、なのだろうが……。

 

(舞さんの能力は万能な戦闘型だから大丈夫だろうけど、紅羽さんの分野は潜入……近接戦闘が得意な相手では……!)

 

実際、花蓮の想像を裏付けるように紅羽の表情は台詞と裏腹に険しいものだ。十中八九、紅羽も彼我の実力差を理解していて、その上で言ったのだ。『自分たちが守る』と。

 

「あらあら、敵を前にして悠長にお話しぃ?私も混ぜてくれないかしら?」

 

と、リーダーの女はそう言って二人を嗤った。その表情は余裕そのものであり、自身の敗北なぞ考えていないようだ。それはそうだ、対魔忍側は二十名足らずで狙撃兵も潰され、更には確保した捕虜と一般人の運搬と護衛に人員を割かなければならない。それに対して魔族側は上忍クラスの元対魔忍が三人に加え、銃器で武装したオーク百体が二方から包囲している。この状況では、対魔忍の勝ち筋などないに等しい。だからこそ彼女の表情から嘲りの笑みが消えることはなく、勝利の確信から、かつての同志を甚振るという戦法を選んでしまったのだ。

 

「私が出るまでもないわ。タマ、貴方が出なさい。あの端正な顔を、クナイで針山に変えてしまいなさい!」

「了解」

 

女の高らかな号令と共に、タマと呼ばれた元対魔忍が一歩前へ出る。その両手の指には幾本ものクナイが握られており、強襲時に襲ったクナイの雨が、彼女の仕業であったことを嫌でも実感させる。タマは内心を伺わせない無表情をマフラーで更に隠し、同じく感情を感じさせない凍てついた眼差し(宗次が見たならばジト目、と評するだろうそれ)を花蓮と紅羽に向けつつ、ジリジリと距離を測っていた。その動きに合わせてか、オークたちも少しずつ距離を詰めるべく動き始めた。

 

「フフフッ!ああ、楽しみだわ……皆からチヤホヤされて、上忍にもなったあなたが下等なオークに犯されて泣き叫ぶ様を見るのは!胸糞悪い笑みを浮かべてたその顔が、絶望と苦痛と快楽に歪んでいくのを、この眼で見ることが出来るなんてね!」

 

醜い嫉妬心を隠そうともせず、リーダーの女は高らかに笑う。それはきっと、彼女が抱え続けた紅羽への思い。誰とでも仲良く出来、上忍になれるほど優秀な能力を持つ忌むべき女。しかも、その女はこちらの心を知らず笑いながら友達面をして話し掛けてくるのだ。どれだけ憎んだことだろう、どれだけ羨んだことだろう。―――でも、それも今日で終わりだ。

 

両腕を精一杯曇天へと掲げ、深く刺さった楔から解放を宣言するかのように万感の念を込めて高らかに号令を下した。

 

「さぁ、オーク共!哀れな対魔忍共をすりつぶしなさい!ご主人様からお許しは出てるわ、捕まえた女はお前たちの好きにして構わないわ!欲望のままに犯し尽くして、尊厳を踏みにじって、自分たちがどれだけ愚かで惨めな存在かを思い知らせてやりなさいっ!ざまぁないわね蘇我紅羽!あんたの無能さが、仲間たちを地獄に叩き落とすのよ!あ、はは……アハハハハハハ!ヒィハハハハハハハハハハハハハハハハハクペ!」

 

静寂が支配する街中に響き渡らせるような笑い声、その最後に横入りした間抜けな声と共にリーダーの女は左右に分かれ、花蓮たちの視界から一瞬にして消えた。

 

「は?」

 

誰かが、緊迫した場に似合わぬ疑問符を上げる。花蓮はそれを無視して構えをとり……その視界は、勢いよく噴き上がった鮮やかな真紅によって覆われた。

 

「――――は?」

 

今度は花蓮が間抜けな声を上げる番だった。いや、花蓮だけではなく、紅羽や舞、タマと呼ばれた元対魔忍すら、目の前の現実が理解出来ない出来ないと、異口同音に声を発した。その視線の先には、真っ二つに裂けた身体が重力に引かれて崩れ落ち、赤色の噴水を天高く撒き散らしているリーダーの女だったナニカがあった。

 

憎き女への嘲りと怨恨を込めて大笑したその女は、正中線を綺麗に両断され、無様な肉塊となって朽ち果てたのだった。

 

 

「口上を述べるのは勝手だが、戦場で注意を怠るのは武人としてはあるまじき失敗だったな。背中が無防備すぎて思わず切ってしまった」

 

 

あまりにも脈絡なく訪れた無惨な死によって場を覆った静寂を破ったのは、新たな舞台役者にしてその死を齎した者だった。リーダーの女が数瞬まで立っていた真後ろに、それはその存在を露わにしていた。

 

その白髪の女は、まるでビキニのような胸当てと丈が殆どないスカートで褐色の裸を大胆に晒しながらも、肩と腕は黒い鎧と白い具足下で覆い、その先の手に握られている刃長三尺ほどの太刀が血を滴らせながらも白銀の輝きを放つ。

 

突如現れた白髪褐色の女。その位置と手に持っている刀を見れば、彼女こそそこに転がっている死体を作った下手人だと誰もが理解出来るだろう。そしてその女は、自らに全ての視線が集まっていることを理解しながら、その上で悠然と、その名を告げた。

 

「我が名は、キシリア・オズワルド。主命により、貴様らの命貰い受ける」

「キシリア……オズワルド……!?」

 

慄く様に、花蓮は驚愕の声を絞り出すかの如く漏らす。対魔忍として見習いである花蓮でさえも知るその名。金と闘争を対価として鉄火場を請け負う鬼族の傭兵。一流の剣豪であり、その刃は疾く駆ける疾風の如くあらゆるものを切り裂くという。裏社会に身を置き生きるならば、必然耳にする女の名だ。

 

先程の上忍崩れなどとは違う、名有り(Named)というわかりやすい格上。任務中初めてそれを目の前にし、生まれて初めてそれと敵対したことで、花連を始めとした学生たちは怯み竦んでしまう。それは上忍もフォローし切れない致命的な心の隙だ。

 

―――そして、だからこそ誰もが勘違いをした。()の狙いを。

 

それに一番初めに気付いたのは、白銀のように煌く殺意と闘意を一心に浴びたタマと呼ばれた元対魔忍だった。それこそ猫のような俊敏さでその場から飛び退くと、刀に付着した血を振り払っていたキシリアに向けありったけのクナイを投擲した。忍法の風力操作によって更に増速したそれは最早、ライフル弾もかくやというべき速度へと達していた。だがそれでも、疾風には届かず全て躱され弾かれる。鉄の豪雨は、まるで春先の暖かなそよ風のようにいなされてしまった。

 

しかしそれを放った者にとってもこの結果は想定済みであり、放った瞬間にはすでに彼女は宙高く飛び上っていた。そこから更に一斉射。必殺の威力を秘めたクナイを全て牽制に使い、迫りくる死の剣閃から逃れようと決死の後退を開始する。

 

「クハッ!逃がさんぞ!」

 

当然、キシリアは追撃するためクナイを全て振り払いながら跳躍。苛烈と言っていい程の金属音を撒き散らせながら夜の工場へとその姿を消した。

 

急転直下の出来事に誰しもが唖然とし動きを止める中で、紅羽は瞬時に思考を回復させ、その状況から取るべき最善の行動を導き出した。

 

「舞!反対側の50、一人で抑えられる!?」

「―――ッ。勿論です、全員が逃げ切るまで、完璧に封じ込めて見せます!」

「じゃあお願い!敵の殲滅より、足止めを優先して!皆、西側の敵を突破して撤退するよ!B班は回収対象の保護を最優先!いいね!?」

『……はいっ!!』

 

彼女の指示によって、対魔忍という戦闘集団は息を吹き返す。脳筋でありおつむがあれな連中だとさんざ馬鹿にされている彼らだが、不測の事態に陥ろうとその固い信念と掲げた正義の御旗によって即座に戦闘単位としての機能を回復できる強みがある。正義にしろ愛国心にしろ、心の拠り所を外部に持つ者は寄りかかる相手がある分倒れにくい、ということだろう。

 

閑話休題(まあ、それはそれとして)

 

同じく戦士として回帰した花蓮は再び愛刀を正眼に構え、オークの大群を見据える。逸る心を抑えながら、あくまで冷徹に機を待つ。今の花蓮は、謂わば一発の銃弾だ。引き金が引かれ撃鉄が落ちる瞬間を待ち―――

 

「吶喊ッ!!」

『了解ッッ!!!』

 

後ろに引いていた足を蹴り上げ、前方へ跳躍することで彼我の距離を一瞬で詰める。そしてその勢いを刀に伝導させるが如く袈裟懸け、が、突撃銃に半ば食い込ませるようにして防がれてしまう。

 

(やはりオークとは言え精鋭、下手に加減すればこっちがやられる……!)

 

相手の動揺が一切ない動きに否応なく敵の錬度を悟り、花蓮は使用を控えていた忍法を躊躇なく発動させる。

 

花蓮の足元から伸びた氷結の凶手は、地面を這いオークへと迫ると、瞬く間に両足をまるまる食い尽くした。

 

「あ?―――な、なんじゃぁこりゃぁ!?!」

 

唐突に冷気以外の感覚を失った自身の脚部に驚愕の声を上げる敵を無視し、花蓮はその足を蹴り飛ばす。片足を失ったオークは当然、自らの重量を支えきれずもう一方の足をへし折りながら地面へと吸い寄せられていく。そこを見逃さず、懐から抜いたクナイで、首元を一閃。

 

「一つッ!」

 

突撃銃から刀を乱雑に引き抜き、周囲を見回して次の標的を選定。近くのオークをそれに定め、再度突撃する。彼我の戦力差は1対5。早く動かなければ、その分他の仲間が危険に晒される。故に迅速に行動しなければならず、余力を残すことが許されない。

 

 

死闘はまだ、始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始からおよそ40分、決死の戦闘が始まってたから数分程経過した。未だ戦闘は続き、悲しいかな状況は悪化の一途を辿っていた。

 

戦闘中のオーク群の数は半分以下にまで減少していた。しかし対魔忍側の疲労も激しく、今の今まで戦死者が出ていないのが奇跡と言わざるを得ない状態だ。

 

そもそも、敵が精鋭50に対して此方は戦闘出来る人員は10名程しかおらず、その殆どが戦闘経験の浅い学生対魔忍。しかも先とは違い、後方からの的確な援護射撃もない。確保した対象および民間人の運搬と護衛のためB班が動けない今、戦闘に参加出来るの彼らも連戦により疲弊。最大戦力の舞は後ろを一人で請け負っているため動けない。そして仮にそれらを撃破出来たとしても、後ろにはほぼ無傷のオーク50体が控えている。はっきり言ってしまえば、この戦場は最初から詰んでいたのだ。

 

馬鹿でも分かる最悪な状況。それを理解しながら、誰もが諦めず得物を振るい続ける。誰一人欠けることなく帰還すること、それが彼らの使命であり、共通の望みだったからだ。

 

誰もが絶望しながら、それでも諦めきれず抗う中、今まで用途を失い沈黙を保っていた無線機が勢いよく息を吹き返した。

 

『C(チャーリー)!右だ!』

 

そのあまりに待ち望んだ声に思わず歓喜の声が漏れそうになるが、以前使用した符丁をわざわざ使用して自分を呼んだ彼の言葉を信じ、右方へと剣を振るう。

 

ガギィン!!

 

刀の先から甲高い金属音と共に、尋常ではない衝撃が腕へと伝わる。そのあまりの重さと鋭さに腕の筋肉が痺れるのを感じながら、距離を取ろうと左側に跳躍、何とか刀を構え直す。

 

「ほう、今の奇襲を防ぐか。これは中々楽しめそうだ!」

 

花蓮を襲った褐色の剣士---キシリアは、愉快そうに口角を吊り上げながら、一足で開いた花蓮との距離を詰める。

 

「ハッ!!」

「ぐ、ぅうッ!」

 

キシリアが振り下ろした刀を何とか受け止める花蓮だったが、余りにも鋭い剣閃に苦悶の声を漏らした。ギリギリで何とか防いだものの、ただの一打ちで力量の差を理解せざるを得なかった。

 

(早すぎる……剣筋は何とか見えるけど、反応が間に合わない……!?)

 

一撃で満足せず、追い縋ってくるキシリアの連撃に辛うじて刃を合わせてはいるものの、その剣戟は流麗にして苛烈。尖鋭な刃が、まるでそうあるのが当たり前であるかのような自然さで花蓮の身体を切り裂こうと迫る。

 

刀を垂直に立てることで唐竹を流し、返す刀で迫る逆袈裟は此方も逆袈裟を合わせる事により刃を跳ね上げる。今度は花蓮が袈裟切りで頸を狙うも、キシリアは閃光の如き速さで刀を戻し受け止める。それどころか、キシリアはぶつかり合っている刀を自慢の膂力で正面へと押し出してくる。当然花蓮もそれを押し返さざるをえなくなり、鋭い打ち合いは一転鼻を突き合わせながらの鍔迫り合いへと移行した。

 

「く、ぅう……!」

「スンスン……ほう、成程。そういうことか」

「―――っ!?どういう、ことです!」

「なに、私とお前は、似ているということを確認したまでだ」

「誰が……っ!」

 

鼻を僅かに鳴らし何か納得したように呟くキシリア。彼女の言に従えば花連とキシリアは似た者同士であるとのことだが、花蓮はそれを盲言として処理する。戦闘狂の魔族と護国の使命を胸に戦う対魔忍とでは根本から違うし、それよりも現状の危機を脱することこそが彼女にとって重要なのだから。

 

その細腕からは想像出来ない怪力に必死で抗いながら、隙を探り機を測る。ギリギリのところで拮抗を保ちつつ足元へ視線を僅かに向ける。勿論その程度の動き、剣士であるキシリアに見抜けないわけがない。ほぼ反射的にその視線を追い―――

 

「はあああぁ!!」

「ぬぅ……!?」

 

意識に生まれた刹那の間隙を狙い、鍔迫り合いしている腕を跳ね上げることでキシリアの刀を自身の長刀諸共上に弾き飛ばす。得物を手放すのは不本意ではあるが、彼女を相手に致命的な隙を作るにはそれくらいしなければならないだろう。

 

互いに無手となり両手を空へと向けた一瞬、望外のチャンスを逃すことなく、能力を全力で使用させ可能な限り全速力で足元から氷を伸ばす。強制的に武装解除させそこに生まれた隙を突いて凍てつかせる、これが花連が絞り出した逆転の一計だった。最低でも、足さえ凍らせることが出来ればどうにかなると踏んだのだ。

 

―――だが、彼女が相手をしていた傭兵は、彼女の思っていた以上に修羅場を越えてきた戦士だったのだ。

 

「ほう、悪くない手だ。しかし……!」

 

即座に自身に迫る脅威を気配のみで探知したキシリアは、それが脚へと絡みつくまでの一瞬を後退の為に使った。あまりにも短いその時間では僅か2歩ほどしか下がることが出来なかったが、彼女にとってはそれで十分。

 

更に稼いだ2歩分の時間で、キシリアは刀を佩いていた鞘を腰布から逆手で引き抜き、凄まじい速度で足元へ突き立てる。ただそれだけの動作で、花蓮が伸ばしていた氷ごとコンクリートを吹き飛ばした。

 

「く…っ!?そんな―――」

「咄嗟にしてはいい判断だ。剣の筋も中々悪くない。だが―――!」

「ご、はぁ!?」

 

能力で張った氷ごと足場を崩され、花蓮は辛うじて踏ん張りその場で留まることが出来た。が、キシリアは鞘を得物としたまま神速の刺突、怯んで動けない花蓮は避けることが出来ず強烈な衝撃と共に弾き飛ばされてしまう。

 

「まだまだ未熟。しかも僅かだが雑念が混ざっているな。そんな(もの)では、私には届かない!」

「がほっげほ……く、ぅ……!」

 

打撃された腹部を抑えながら何とか身体を引き起こすが、その瞳に映るのは自身の刀を手中に戻し上段でそれを構える敵の姿だった。

 

明確な死の未来予想に背筋を悪寒と怖気が奔る。何とか逃れようと身体を動かすも、処刑台に備えられたギロチンのように、白銀の刃は花連の頸部へと振り下ろされた。その刃は音速にすら迫り、例え訪れる未来を理解してたとしても花連にはそれを避けることは出来ない。出来ることは。精々瞼で蓋をし走馬灯を駆け巡らせる程度しかない。反射的に目を瞑り、今までの人生がサイレントムービーのように脳内を走る。セピア色のフィルムが誰かの横顔を映す、その寸で。

 

 

―――ギイィィィィン……

「く、ぬぅう……!?」

 

耳をつんざくような金属の衝突音とキシリアの苦悶の声によって花連の意識は現実へと引き戻された。眼を開くと、刀を持つ腕をこめかみの横まで引き刀身を顔の正面に位置するように構えている---謂わば霞の構えをしている―――キシリアの姿があった。その顔は苦虫を噛んだような表情であり、また右の二の腕が血で滲んでいることに気付いた。

 

「……チッ!」

 

舌打ちの後、今度は刀身を水平に構え直す。直後どこからか小さな物体が飛来し、刃とぶつかり合った。今度は先ほどより耳障りな、金属同士が擦れるようなギャリギャリという異音が響き、飛来した物体―――フルメタルジャケットの弾丸は肉体を貫くこと叶わず地面へと突き刺さった。

 

この状況下で、針のように精密な狙撃を可能とし尚且つ花連を助けるために行動する人物など、ただ一人しかいない。

 

「――――――っ!!」

「二発とも頭を精確に……そうか、本気というわけか」

 

キシリアは何かを納得したように花連を一瞥すると、一足飛びで後退。再び地面に鉛が突き刺さる。さらに幾つもの紙気やクナイが彼女へと迫るものの、いち早く察知しその全てを切り払う。

 

キシリアはそのまま踵を返すと、撃ち込まれる弾丸を切り裂きつつ全速力で後退、後方のオークの群れへと突っ込み、無傷で温存されていた彼らを切り裂き始めた。

 

「氷室ちゃん!大丈夫!?」

 

呼吸を整えることで痛みを和らげながら何とか立ち上がると、紅羽が慌てた様子で駆け寄って来た。彼女は慣れた手つきで花連の身体をまさぐり、大した傷を負っていない事を理解してようやく肩の力を抜いた。

 

「とりあえずどこか斬られたわけではないみたい。すぐに助けてられなくてごめんね」

「いえ、一瞬の事でしたから仕方ありませんよ。それに、彼が助けてくれましたから」

「そっか、彼、無事だったんだ……そうならそうと、ちゃんと報告してほしいね、ガイドマン?」

『無茶言わないで下さい。こっちだって、色々あって手一杯だったんですから』

 

会話の最後に通信機を点けた紅羽の冗談めかした言葉に、今まで通信を切断していた宗次が不服そうに答える。たったそれだけで、花蓮は安堵の息をつくことが出来た。

 

「無事、だったんですね」

『は?あの程度で一々くたばるわけないだろ。いくら何でも舐めすぎだっつーの』

「でも、あの対魔忍はどうやって?かなりの実力者みたいでしたけど」

『ん?屋上に仕掛けておいたクレイモア点火して吹き飛ばした。取り逃がしがないよう、全方位からの一斉起爆だ』

「あっ」

「あっ」

 

クレイモア地雷。湾曲した箱型の指向性対人地雷で、最大の特徴は箱の中にC-4爆薬と共に700個もの鉄球が封入されていることだ。この地雷が起爆したら最後、正面60度の範囲に700個の鉄球が強烈な速度と共にばら撒かれることとなり、最短でも50m圏内が地獄絵図と化す非常に危険な代物だ。そんなものを精々10m四方というごく狭い範囲で、しかも全方位から浴びせられたのだ。まさに蜂の巣状態だっただろう、ミンチよりひでえや。

 

ちなみに、クレイモア地雷はC-4爆薬と同じくらい高頻度で二次創作に登場する爆発物である(メタ発言)

 

容易に想像できる惨状に二人が頭痛を堪えていると、オークを一人で抑えこんでいた舞が警戒は緩めず近づいて来た。顔はオークとその中で大立ち回りを演じるキシリアを捉えたまま、花蓮へと声を掛ける。

 

「花蓮さん、無事ですか?」

「七瀬さん、先程はすみませんでした」

「いえ、負傷がないなら何よりです……もう一人、今更出てきた人もいますしね」

『ド頭ぶち抜きますよ?』

 

舞と宗次の殺伐としたやり取りに、思わず苦笑が漏れる。対魔忍としての矜持や正義を重視する舞と、何より自身の安全を優先する宗次はどうしても反りが合わないらしくこうして嫌味を言い合っているのだ。紅羽も同様に苦笑しつつ、表情を戻し舞へ問いを投げる。

 

「それで、どう?」

「厳しいですね。オークはともかく、あの傭兵を相手にするには紙気の残りが心許無いです。あれの矛先が他へ向いているうちに離脱するべきかと」

「そっか。彼女がこっち来たってことは、あの子はやられたと見て間違いないかな。まああれは自己責任だから知らないけど。対象を抱えたままだと速度そんなに出ないから敵に再捕捉される可能性が高いし……」

 

顎に手を当てぶつぶつと独り言をつぶやきながら紅羽は状況を打開する術を思考する。普段の任務は単独で潜入するものが多くいざというときも彼女一人が逃げ切れさえすればそれでよかった。だが今回は違う。確保した仲間と民間人、そして彼女の後輩である仲間全員を連れ帰らなければならなかった。だからこそ、彼女は迷うことなくその札を切る。

 

「……ガイドマン、聞こえてる?」

『通信良好、聞こえます』

「私がこういう事聞くのどうかとは思うけど、君打開策あるでしょ?わざわざそっちから連絡取ったってことは、反撃の位置取りが出来たってことだよね?」

『えぇ……まあそうなんですけど……。もうちょっとこう、自分の手で解決しようってプライドとかないんですか?』

「ないよ。皆を確実に逃がし目的を達成する手段があるのなら、それするのがいいに決まってるじゃない」

『へぇ……』

 

どこか嬉しそうな宗次の感嘆から数瞬、沈黙が下りる。暗闇の中にさす一筋の光明を前に、花蓮は息を飲みながら次の言葉を待つ。そして。

 

『わかりました、やりましょう。ただし……』

「ただし?」

『……この状況下で確実性を上げるために、チャーリー、お前の力が必要だ。まだ余力はあるか?』

 

一瞬、頭が真っ白になる。予想外すぎる彼の要求に忘我に包まれ、少し遅れてようやく、どこかで望んでいた言葉が投げかけられたのだと気付いた。

 

―――お前にしか出来ない、お前の力が必要だ。

そんなことを言われたら、応えなんて一つしかないじゃないか。

 

「―――はいっ!」

 

身体を駆け巡る猛りを表すかのように、花蓮は力強く首肯した。まあ、紅羽と舞に生暖かい目で見られているのに気付いて赤面し俯いてしまうまでが御約束というものだが。

 

『よし、作戦を説明する……って言っても難しいことはしないんだが。チャーリー、お前の忍法使えば氷の壁創れるよな?』

「え?ええ、一瞬でとは行きませんが、以前訓練したので出来ます。能力範囲は半径10mまでなので、それ以上は難しいですけど」

『十分十分。それじゃあ、合図したら目印に沿って一対の壁作って欲しいんだ。そうだな……壁と壁の間隔は2mくらいで』

「それはいいんですが……何を目印にすれば?」

『見ればわかる。まあ任せろい』

「ええ……?」

 

思わず胡乱げな声が漏れる。確かに作戦はシンプルで分かりやすく、間違えようがない。ないのだが、最後の返答があまりにも曖昧で困る。実行役としてはもっと正確に情報を伝達して欲しいのだが、恐らく彼の中では既に流れが出来上がっているのだろう。そして、その情報の有無は作戦の正否には影響しないのだ。

 

判断に窮し紅羽へと視線を向けるが、彼女は苦笑するばかりだった。彼女も既に花蓮と同じ答えに辿りついているのだろう。そして恐らく、彼女の心は決まっているのだ。

 

呆れを表すようにフゥ……と息をつく。それが彼に届いたかは分からないが、腹を括らねばならないようだ。

 

「わかりました、やります。タイミングは任せましたよ?」

『おう、一切合作何とかしてやる。っと、その前に戦闘中の奴らを後退させてくれますか?あと対象を確保してる奴らに移動準備を』

「わかったよ。……A班後退!B班は移動の準備!舞、周辺警戒と護衛お願い」

『『了解!』』

「了解です。花蓮さん、あなたなら出来ますよ。頑張って」

「―――はいっ!」

 

紅羽の指示によって、状況は動き出す。オークと交戦していた者たちは即座に戦闘を中断し離脱、紅羽たちの後ろに集結した。B班も確保した対象を担ぎ、何時でも動ける体勢を整える。後は宗次の合図次第だ。

 

対するオーク達も、対魔忍が後退した隙に残った人員を即座に再編成し部隊を立て直した。キシリアと戦闘中の部隊は動けなくとも、彼らはまだまだ意気軒昂であり、疲弊している対魔忍相手に怯みはしないのだ。

 

対魔忍とオークの睨み合い。対魔忍は全員がひとまとめになっているのに対し、オークは部隊を道路上に散開させ誰一人逃がさない構えだ。互いに動かず、両者の間に緊迫した空気が流れる中、五感が強化された紅羽だけがそれを捉えた。遠くから微かにまるで空気が抜けるような、ポンッという音が6つ耳朶を打つ。そして、ひゅぅぅ……という何かが落ちるような音が数秒、徐々に大きくなっていき―――

 

激しい爆音と爆炎と共にオーク達が吹き飛んだ。

 

「んなっ!?」

「ほほぉ、なるほど確かにいい案だ」

 

誰かが驚愕の声を上げるなか、紅羽は彼の一手に感心の意を示す。敵の意識がこちらに集中しているタイミングで完全に認識外からの迫撃、気勢を削ぎ指揮を乱すには最大効率の奇襲だろう。

 

続けて五発。追加攻撃によってオークはその場に伏せるか端の方へと退避し、それ以外は肉片へと変わっていた。散開していたため損害こそ小さかったものの、オークの統率はないものも同然であり、集団として戦闘力をほぼ喪失していた。更に。

 

「……成る程。見れば解る、とは正にその通りでしたか」

 

感情が表に出ない舞が珍しく、驚目を見張らせてそうぼそりと呟いた。目の前の光景に、思わず感心するしかないと言った様子だ。紅羽や花蓮も、声に出さないだけで内心は同じであった。

 

爆発によって焦げ付いた地面の焼け跡が6つ、彼女達の前に直列で並んでいたのだ。まるで、彼らの奮闘を讃えるために敷かれたレッドカーペットのように、真っ直ぐと。それは、誰が見ても一目で分かる『目印』だった。

 

『チャーリー、「目印」は見えるか?』

「はい、問題なく」

『よぉし……やれ』

「―――――はいっ!」

 

宗次の合図に力強く声を返し、花蓮は地面へ掌を叩きつけ忍法を発動させる。彼女を起点に発動したその力は、バキッバキッという産声を上げながら猛然と空気を凍てつかせていく。空気中の分子運動を事如く停止させ侵食した氷は天へと伸び、五秒と掛からぬ間に一対の氷の壁を作り出した。これで敵からの横やりを受けず、戦線から抜けることが出来るだろう。

 

「かっ……はぁ……!」

 

壁を作り終えた花蓮は、絞り出すように息を吐き出した。長さ10m、高さ3mほどの壁を二つも、しかもこの短時間で作り出した負担は凄まじく、花蓮の体力を根刮ぎ奪っていったのだ。

 

自身を支える力すら絞り尽くしてしまった花蓮は、一瞬視界が明滅すると同時、身体がふらりと揺れ地面へと吸い寄せられていく……

 

「おおっと、大丈夫?」

 

その途中で、横から紅羽に抱きとめられる。花蓮は感謝を伝えようとするが、頭に靄がかかったような感覚に襲われ言葉を紡ぐことが出来なかった。彼女の様子がおかしいことを察した紅羽は花連に肩を貸して立たせると、部隊長として仲間に命令を下す。

 

「よし、皆!撤退するよ!全員このまま壁の間を直進して包囲網を抜ける!舞、殿任せた!」

「任せてください。先陣は頼みましたよ」

「勿論!――――――全隊、前進!」

 

紅羽の号令により、対魔忍たちは最後の力を振り絞る。氷の壁によって出来た道を踏破するため足を動かし前へと進む。

 

「まてぇい!手前ら、逃がすと思ってんのか!」

 

と、彼らの前に一体のオークが機関銃を構え立ちふさがる。恐らく後方に配置され且つ爆撃から逃れた運のいい個体だったのだろう……それ自体が不運だったのかもしれないが。

 

『こちらで始末します』

 

耳に付けたイヤフォンから宗次の淡々とした声が聞こえる。そしてその一瞬後、立ちふさがったオークの頭蓋がまるで柘榴が如く木っ端微塵に弾け飛んだ。首から上は全て粉々の状態で辺り一面にベチャリと撒き散らされ、半ば千切れ飛んだ首から頸椎が覗く。どう考えてもライフル弾の威力を逸脱した結果だった。

 

死んだことを自覚していないかのように立ち尽くすオークの死体の脇を抜け、オーク達が乗ってきた兵員輸送車に辿り着いた時に数秒遅れてやってきた恐らく銃声であろう爆発音が、身体の芯までズンと響いた。

 

「全員乗車、急いで!」

 

未だ思うように動けない花蓮を助手席に放り込むと、紅羽はエンジンキーに手をかける。一瞬間を置いて車が震えエンジンが猛り始める。

 

紅羽の指示に合わせ、対魔忍たちは次々と内部へと乗り込んでいく。全員が乗り込んだ事を確認し、舞は輸送車の上へ飛び乗り爪先で天井をゴン、と叩いた。

 

「それじゃあ、出すよ!後舞、上に付いてる機関銃、そこらへんに捨てといて!」

『いいんですか?』

「こんなん付けて街中走ってたら怪しさMAXでしょ!やっちゃって!」

『了解です。ハァッ!』

 

真上から金属が切断される音が聞こえた。外すだけでいいのに……と呆れていると、隣で力なくうなだれている花蓮が小さく呻いた。

 

「まって……ください……。まだ、かれ、が……」

「彼なら大丈夫だよ。元々、ここで別れる手筈だったんだ。予備の拠点に用意してたホテルで一泊するんだって。ここでキャンセルしたら足付くかもしれないからーってね。いやー凄まじい用心深さだねぇ」

 

紅羽の言葉を何とか咀嚼し、ひとまず息を付く。しかし、花蓮はどうしても心の靄を払うことが出来なかった。理屈ではないナニか……女の勘とでも言うべきそれが、彼女の意識の底から警鐘を鳴らしているのだ。

 

彼女達を乗せた車は、真っ直ぐ帰還の途に着く。車の上で舞が周辺を警戒しているが、敵の追撃に出くわす事無く無事に五車学園に辿り着くだろう。彼女達の任務は、無事終わりを告げたのだった。しかし。

 

(そうじさん……)

 

花蓮は車に揺られながら、残してきた宗次の安否を想う。どうしても心に巣くう不安は、消えることはなかった―――――

 

 

 

 




A:相手の意識外から横殴りして盤上をひっくり返す

投稿が遅れてしまいまことに申し訳ない。ようやくこの話終わる……。
とは言ったものの、実はまだまだ書きたかったことが残っていたり。

決戦アリーナ、ついに舞さん復刻しましたね!ポイントでの報酬だから確実に手に入るのはうまあじ。そしてエロい。ぶっちゃけ通常絵が一番好きです。今話は舞さんのエロさをパワーに頑張って書き上げました。

あとフェリシアちゃんも復刻されたけど、こっちはドロップかランキング報酬だから流石に手に入らないな。もし手に入ったら18禁版のエロシーン書くわ。

次回に行く前に、今回の裏話とかの書きたかったことを幕間という形で投稿します。そっちは結構短めの話になると思うけど、早めに上げるから許して

-追記-
フェリシアちゃんが手に入らなかったので、18禁版はなしです。やったね


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幕間 後日談、というか今回のオチ

ようやく書きあがったので投稿です。前話で予告した通り、今回の任務での裏話的なのとを書きました。そのため分量も短めですのでご了承を。

あと、最後の方にご褒美(意味深)の描写があります。当然当初のコンセプト通り、全年齢ギリギリの性描写を必死こいてかいたので、苦手な方はここでブラウザバックするか途中で読むのをやめてください。この話はあくまでおまけなので、読まなくても支障はないです。「えっちなのはいけないと思います!マジ無理!」という方は、ガチで見るのをやめることをお勧めします。発禁しなきゃいけない部分は一切書かなかったけど、一応ね。

忠告はしたぞ?したからな!?あとでそこに文句つけてきたって知らないからな!?嫌なもん見たとか言われても自己責任だからな!?(ビビり特有の線引き)


△ ▼ △ ▼

 

さて、無事残敵を掃討し終えた俺は、SR-25を仕舞ったガンケースと、MGL140と言う回転弾倉式のグレネードランチャーが入ったアタッシュケースをそれぞれ持ちながらビルとビルの間を駆けていた。

 

いやぁ、何か使えるかもと思って近くに隠して置いたのが役に立ったな。敵陣を爆撃して掻き回すって単純な作戦だったけど、上手く刺さってくれて助かったわー。

 

ドローン越しだけど他の連中が離脱したのは確認出来たし、敵は全て殲滅。周辺に斥候や監視装置の反応はなく連絡を取ってる様子もなかったから、今回の戦闘の様子が誰かに漏れる事はない。任務完了で万々歳ってところかな?

 

とは言え、俺の仕事はまだ終わってない。何時ものようにセーフハウスとして確保しておいたホテルに泊まり、装備を回収しなければ。チェックインは済ませてあるから、このままとんずらしたら怪しまれて俺への足掛かりになってしまう。身バレは絶対阻止しなきゃ(固い意志)。

 

ビルの屋上をピョンピョン飛ぶと目立つので、時間は掛かるが狭い路地を経路にホテルへと向かう。目的地まで後数分というところで、目の前からナニかが動く気配を感じた。

 

即座にガンケースとアタッシュケースを捨て、レッグホルスターから拳銃を引き抜き構える。M1911、『コルトガバメント』の愛称で親しまれ、ストッピングパワーに優れた.45ACP弾を使用する合衆国民が大好きな銃だ。

 

俺はM1911のサイトと視線を真っ直ぐ前方の人影に合わせ、腰を低くしいつでも動けるように息を整える。引き金にかけた指もあとほんの数ミリ動かせば撃鉄が起きるところまで引き絞り――――

 

「僅かな身動ぎの気配を察知し刹那のうちに意識を完全に切り替える、流石と言ったところか」

 

ゆらりと黒い影が一歩進み、ビルとビルの隙間から僅かに差し込む月明かりにその身を晒す。無骨な肩当てと腰に佩いた一振りの太刀。そして鍛え上げられた筋肉を備えながら肉感的でグラマラスな肢体。刀こそ納めているものの、褐色の女剣士キシリア・オズワルドに他ならなかった。そして、その姿を捉えた俺は……

 

「何だお前か。あまり驚かすなよ、撃っちまうだろうが」

 

そう言って、銃をホルスターへと納めた。

 

「こうして会うのもしばらくぶりか。久し振りだな、キシリア(・・・・)。今回は助かった」

「何、此方としても、なかなか良い闘いをさせてもらった。最近は中々手練れと戦う機会がなかったからな、渡りに船というやつさ」

 

そう、キシリアが今回の戦場に現れた理由。何を隠そう、この俺が傭兵として雇ったからだ。

 

ブリーフィング後、敵が確実にこちらを倒すための策を打ってくるとしか思えなかった俺は、キシリアを使って相手が自信満々に繰り出してくるであろう策を叩き折ってやることにした。まるで将棋のように盤上でこちらを詰ませるように一手一手打ち込んでくるのならば、横から殴りつけて盤をひっくり返してしまえばいいのだ。

 

……言葉尻だけを見れば脳筋じゃないか!と言われるかもしれないが、相手の策の前提となる条件を崩してしまえば、それだけで渾身の一手は無為に帰す。わざわざ敵の策略を崩すためにこちらも策を巡らすなんて面倒な事、この程度の仕事で一々やってられっか。無駄な手間は可能な限り避けたい。

 

敵が増援として造反した対魔忍を引っ張り出すのは流石に想定外だったが、おかげでキシリアという手札を最大限に活用することが出来た。上忍並みの戦力を一名は奇襲により抹殺しもう一名も戦線離脱まで追い込んだ、十分な成果だ。こっち来た奴はベアリング弾の嵐で蜂の巣にしてやったしな。

 

「あ、でもなんで氷室に襲い掛かったんだ?こちらには手を出さないという契約だったはずだが?」

 

聞かなければならないことが一つあったことを思い出し、問いただす。俺が反撃の下準備をしていた時、こいつは選りにも選って氷室に斬りかかりやがったのだ。そうならないために報酬を弾んで契約内容に盛り込んだっていうのに!

 

苛立ちを隠しきれなかったせいか全くの平坦になってしまった俺の声音を聞きながら、キシリアは悪びれもせずにああ、と言ってから答えた。

 

「随分お前が気にかけていたからな、どんな奴なのだろうと手を出してしまった。まだまだ未熟ではあるが、いや中々どうして、筋がいいじゃないか」

「…………そんなこと聞いてるとでも?」

「……そうだな、今のも答えではあるのだが」

 

あまりにも適当な事を抜かすので青筋を立てていると、キシリアは仕方がないと言わんばかりに溜息をついた。何で俺が我儘言ってる風なんだこいつは。脳天吹っ飛ばしてやろうか。

 

彼女は、割と発想が過激になっている俺に触れるか触れないかというギリギリまで近づくと、耳元へと顔を寄せ、小さく呟いた。

 

「あの女から、お前の匂いがしたからだ……抱いたのだろう?私と同じように」

 

 

△ ▼ △ ▼

俺がキシリアと出会ったのは一年近く前、対魔忍としての任務中だった。互いの関係は至極単純、俺が暗殺者(ヒットマン)でキシリアは護衛(ガーディアン)。二人とも同じ目標を殺そう守ろうとしていた。

 

その時は彼女に護られていたターゲットを知覚外からの狙撃で脳漿を吹き飛ばし、追っ手がかかる前にさっさとトンズラしたので良かったのだが、しばらく経って別の任務中にまたもやかち合ってしまったのだ。

 

しかも前回の暗殺を教訓に対策していたらしく、狙撃は弾丸を全て切り払われあえなく失敗。更には逃げ出す前に場所を突き止められてしまい、接近戦特化の彼女とタイマンを張るという最悪の事態に陥ってしまった。

 

まあ上手いこと死んだふりが成功したので、そのまま行けば俺の華麗な逃走術を披露して終わるところだったのだが、そうは問屋が卸さない。何と、俺のターゲットにしてキシリアの護衛対象である資産家の男が幾人ものオークを連れて俺たちが戦闘していた廃ビルに現れたのである。御丁寧に強力な媚薬を混合したガスを部屋中にぶちまけてである。

 

どうやらその男、最初からキシリアを自分の(モノ)にするために雇ったのだという。自身を脅かす敵がくたばったので、大手を振って彼女を堕としにかかったというわけだ。俺が後ろで死んだフリしてるのにな!

 

後はキシリアが媚薬の影響で上手く動けないままオークと戦闘しているうちにターゲットを後ろからズドン!して、二人で協力し残った敵を倒して終わりだ。ま、二人とも媚薬にヤられてたから、その後一晩かけて身体の火照りを冷ました(意味深)んですがね!

 

そんなこんなで縁が出来た彼女との関係は今も続き、時々面倒な任務が来たら傭兵として密かに雇ってたりしているのである。コイツかなりの実力者な癖にフリーランスだから、予備戦力とするには凄く便利なのだ。おまけに口が固いしな。

 

……なのだが、何でかこいつ性的な方向に話を持って行こうとするんだよなぁ。「戦いで身体が火照ってしまった」とか言って毎度のように自分を抱かせようとするのだ。ぶっちゃけコイツに依頼を出す頻度が少ない理由がこれだ。種族値が体力と膂力全振りの鬼族相手にプロレス(意味深)するとかかなりキツいんだぜ?それだったら多少困難でも素直に任務をこなしたほうがマシだ。

 

ほら。そんな事考えてる間にも豊満な二房を俺の胸板にこすりつけ、肉感溢れる脚を俺のそれに絡めてる。コイツさては誘ってんな?(名推理)

 

「最初は何となく引っかかる程度だったが、ニオイを嗅いで解った。あれは、お前に抱かれた女のニオイだよ」

 

身体をこすりつけ存分にセックスアピールをしながら、俺の耳元でキシリアは続ける。強い確信を抱きながら、甘く甘く蕩かすように責め立てる、女の声。

 

「な、何のことかさっぱりわからんな。俺を色情魔みたいに言うのはやめてもらおうか」

「ふふっ、言い逃れをしても無駄だ。お前の残り香と、お前の事で頭が一杯になって濡らす雌の臭い。似た者同士だから間違えないさ」

 

……いや。いやいやいやいやいや!ちょまっ、待って!何でそんな、俺が女調教してるみたいな事言うん!?言い掛かりにもほどがある!確かに俺女抱くし、ちゃんと楽しもうと一回数時間単位でヤってるけど、そんなんで女がホイホイ堕ちるわけがーーーーあ、ここ対魔忍世界だった。

 

「ジーザス……」

「ククク……罪な男だな、あんな少女を誑し込むとは。彼女、お前に心底惚れてるぞ?」

「……単に憧れてるだけじゃないのか」

「そんな訳あるか。あれは惚れた男を支えようと努力しているんだろう。一途でいいじゃないか」

 

そう言ってクスクス笑うキシリアの声が脳を掻き回す。

 

しかし氷室が……あいつ男運悪過ぎやしないか?俺みたいなのに一度抱かれたくらいで惚れるなよ……俺よりもいい男なんて一杯いるぞー?

 

俺が信じられない事実と耳元の蕩けるような声に頭を抱えていると、キシリアは更に身体を押し付けながら、どこか拗ねたようにこう続けた。

 

「本当に罪な男だ。私含めて幾人もの女を自分の物にしておいて、あの少女にゾッコンなのだからな」

「おい、だから人を性欲狂いみたいに言うのは……何だって?」

 

こいつ、いま、なんていった?

 

俺が、氷室に?いやそんなわけない。前世含め恋愛経験0だったんだぞ。確かに今世になって童貞こそ卒業したとは言え、あくまで身体だけの関係でしかなく、心から信頼出来た相手なぞ誰一人いなかった。そんな俺が今更、誰かに入れ込むなんて――――

 

「信じられないようなら、証拠を示してやろうか?お前が大好きな、物的証拠という奴だ」

「証拠……?」

「私があの少女に刃を振り下ろそうとしたとき、お前は私の頭を狙撃したな?」

「あ、ああ。そりゃ味方殺そうとしてるんだから、止めるだろ普通」

「その弾丸を私が防げず、脳天に直撃したとしても?」

「お前ならあのくらい防げるだろ?」

「当然だ。だが慎重なお前なら万が一防げない可能性を考慮して、武器を狙って攻撃を無効化するか手足を狙うだろう。少なくとも、友軍が死亡する危険を排除するために頭と心臓は絶対に狙わない」

「…………」

「解るか?お前は私と彼女の命を天秤にかけ、迷うことなくあの少女を選び取ったのだ。これで入れ込んでないと誰が言える?」

 

思わず、口を噤む。確かに、戦力として有用である自軍をわざわざ殺害する可能性を犯すはずがない。銃弾をワザと外すか武器を狙うかして、警告するだろう。

 

つまり、俺は氷室という『人間』に対し何らかの好意を抱いているのか……?

 

「んおぁ!?」

 

身体に突如走った感覚に思わず変な声が出た。感覚の発信元を恐る恐る見ると、キシリアの手のひらが、俺のズボンのチャック付近を上下左右に行ったり来たりしている。

 

「クククッ!別の女の事を考えていようと、ココは正直のようだな?」

「それ僕の息子、とでも言えばいいのか?こんだけされて反応しないほど、俺は不能ではねえよ」

 

一応平静を保ってはいるが、話している間中メリハリのある女体を散々身体中で堪能していたのだ。体は正直と言う奴である。

 

だが、据え膳喰わねば何とやら。他の女の話振っといて勝手に嫉妬し、慣れないアピールを必死にしてる彼女にいきり立たないはずもない。

 

俺はお返しに、キシリアの腹にある古傷を人差し指の先で軽くカリカリと引っ掻く。

 

「……ふっ……ぁ」

 

キシリアはどこか甘い吐息を漏らし、腹部から奔る官能から逃れるように僅かに身体をくねらせる。俺はそれを抑え込むように腰に手を回し引き寄せ、ちょうど真正面にあった彼女の唇に自身の唇を重ね合わせる。

 

「ちょ、まっ……んんっ」

 

唇を離さず、逆に口腔へと舌を捻じ込む。意識を舌先の感覚に集中させ、キシリアの内頬や歯の感触を存分に堪能しつつ反応を見て弱点を探る。そして一通り粘膜を舐め回した後は、彼女の舌へと俺のそれを這わせる。

 

「っ……んんっ……じゅ……ぇあ……」

 

重ね合った唇の隙間から時折甘い吐息と僅かな嬌声が漏れる。耳朶を打つそれによっていきり立つ何かを感じながら、愚直なまでに舌を舐り続ける。彼女の暖かく柔らかな果実と甘やかな喘ぎは、俺の雄としての本能を強烈なまでに刺激した。

 

昂ぶった本能のまま、更に苛烈に舌へと吸い付き絡め合う。まるで獲物を喰らう狼のように、俺は彼女の肢体という極上の肉を貪り尽くした。奪うように、踏みにじるように、それでいて丁寧に、味わうように。俺の意識はキシリアのみに集約し、彼女もまた、その世界に俺という存在だけを残す――――――そして、彼女の身体がぶるりと震えた。

 

「―――っ!?ッッ!……だ、めぇっ。~~~~っっ!!」

 

繋げた口から、彼女の悲鳴が振動として伝わる。そして同時、その褐色の肌も不規則に痙攣を繰り返す。ズボンの太腿部分が水気を帯びる。

 

そのまま待つこと一分程、キシリアの躰は痙攣を止めだらりと脱力した。地面に落ちないよう、彼女を引き寄せて身体を支える。そこで漸く、彼女は気怠そうに口を開いた。

 

「……っ、はあ……相も変わらず、容赦がないな……」

「鬼族相手に容赦無用なのはしっかり学んでるからな。後、お前が一々敏感なのが悪い」

「フフ……」

 

どこか嬉しそうに、俺に身体を預ける。とりあえず動けるようになるまでこのままか……早くホテル行って休みたいんですが……。

 

「おいおい、勝手に終わりにしようとするな」

「あ~……やっぱり?」

 

適当なところで切り上げようとしていた俺の雰囲気を察したのだろう、こちらを睨むように見るキシリアの目はしかし男に媚びを売る娼婦のように潤んでおり、少し前まで闘争を愉しんでいた瞳は肉欲の色に染まりきっていた。

 

「それに、お前だってまだまだし足りない(・・・・・)だろう?」

「……そこデリケートなところなんだから、触る癖止めてくれない?」

 

呆れたように苦言を呈した俺であるが、彼女の誘いを断ることなど不可能だろう。何故なら、俺を試すように挑発的な視線を向けるその瞳には、口角を引き上げこの先(・・・)を愉しみにしている俺の貌が映し出されているのだから。

 

どうやら、俺の安息日はまだ遠いようだ。

 

「さあ、今回の報酬分は付き合って貰うぞ。―――――我が主様?」

 

 

 

 

 

 




ね、18禁ワードなかったでしょ?
こういうエロ描写書くのはガチで初めてなので、滅茶苦茶時間かかりました。官能小説とか読まないから、そういう語彙とか文体とかさっぱりなんだもの。もうこれが限界……しばらくこういうの書かなくていいかな……。

キシリアはHRのしか持ってないので口調が安定してませんが、宗次君にべた惚れ剣士ってところでキャラは安定かな。見た目といいシーンと言い、個人的に好きなキャラ筆頭です。ただイラストの刀部分がかなり雑だったので、太刀か打ち刀かの判別がつかず苦労しました……

そう言えば、ちょくちょく感想でも言われましたが、対魔忍RPGついにリリースされましたね。普段使っていたPCでは何故か起動できず、ようやくさっき始められたところですが……お館様普通に優秀すぎひん?こいつホントに対魔忍か?あとガチャってなんだよ。時間あれば番外で、RPG世界の宗次君も書いてみたいですねえ。

あ、そういう(・・・・)部分書かなかったので一応大丈夫だとは思うんですが、ヤバそうだったら(というか通知とか来たら)表現をマイルドなものに変えます。


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彼は正義の徒にあらず、ひたすらに生を求める鬼である

何か最近、「対魔忍本編やったことないけどこれは面白い」と言って下さる方が多く、感謝の気持ちで一杯です。ただこの小説から本編入るの大丈夫かな…あっちかなりエグいみたいだからお兄さんちょっと心配。

後、主人公の有能ムーヴが思ったより目立って来たのでちょいとテコ入れました。不快な描写あるかもしれないので少し注意です。ここがどんな世界なのか、宗次君がどんな人間か、忘れたわけじゃないよなぁ?(にっこり)


首都、東京。関東平野に堂々とその偉容を見せつけるメトロポリスであり、数多くの高層ビルが天高く乱立し、幾十、幾百万の人々が社会の歯車として自らの人生をすり潰している日本の心臓部だ。人口、経済能力共に日本一であり、東京都のGDP(国内総生産)は凡そ90兆円強、ざっと日本国内の総生産20%近くを一手に担っていることになる。世界()()のGDPで順位付けした場合、東京都単体で16位にその名を並べていると言えばその凄まじさが理解出来るだろうか。

 

閑話休題(それはともかく)

 

そんな東京の中心から少し離れたビル街を、一台の白いミニバンが走っていた。スモークガラスなのか後部座席が見えないものの、日本ではありふれた乗用車。法定速度を幾らかオーバーしながら気儘に走る様も普通としか言い様がなく、故にそれは誰の目も引くことなく道路を走り付近の地下駐車場へとその姿を消す。

 

地下へと進入したミニバンは徐行しながらお目当ての駐車スペースを探し、駐車場の奥に止めてあったグレーのミニバンの真後ろにその身を置いた。

 

駐車を終えエンジンを切り、白いミニバンの運転手はドアを開いて車から降りる。そして一息伸びをすると、ごく自然な足取りでグレーのミニバンへと乗り込んだ。

 

「お久しぶりっす、田上の旦那!調子はどうっすか?」

「ぼちぼちかな。後旦那は止めろ、俺のが年下だと何度言やいいんだ?」

 

助手席に座った彼は、運転席で腕を組んでいた男―――田上宗次へとヘラヘラ笑いかけたのだった。

 

 

△ ▼ △ ▼

俺は、目の前で相も変わらず呼び方を改めない白人の男、ダニーに対し思わず苦言を呈する。いい加減長い付き合いになるというのに、何度訂正しても俺のことを『旦那』と呼んでくるのだ。何処にでもいるような平凡な日本人としては一回り年上の男に敬語で下手に出られるのはあまり嬉しくないのだが、こいつ演技とかではなく素でこれなんだよなぁ。

 

「というか、合い言葉はどうした。ちゃんと事前に通達しただろ」

「ええ?あんな一々長ったらしいもん覚えらんないっすよぉ!顔合わせりゃちゃんと解るんだからいいじゃないっすか?」

「それじゃあ成りすまされた時対処出来ないだろ……何でお前は腕は確かなのに頭ハッピーセットなんだ?」

「え?……ヘヘッ」

「誉めてねえよ照れんな」

 

何時ものやり取りになってしまった会話に思わず苦笑いを零す……っと、用事は済ませないとな。

 

「で、ブツは?」

「何時も通り持ってきましたよ。耳揃えてキッチリとね。ドアお願い出来ます?」

「勿論」

 

手元のキーを操作してトランクのドアを開ける。するとそれを合図に、後ろのミニバンから屈強な黒人が二人降りてきた。そして彼らは、バンの中から木箱を抱え此方の車両へと積み替え始めた。

 

「中身は?」

「頼まれてた弾薬と爆薬一通りに、M4及びそのカスタムパーツ一式を1ダース。勿論、全て米連が採用している正規品ですよ」

 

そう言ってダニーは目録の書かれたB5のコピー用紙をこちらに手渡した。そう、彼らは米連に所属する人間なのだ。

 

ダニーは間抜け面を晒してはいるが腕の立つ銃職人(Gun Smith)だし、黒人二人もタンクトップにジーンズと格好こそラフだが厳しい訓練を潜り抜けた米連の正規兵だ。本来ならば、対魔忍である俺と一緒にいていい人間ではない。まあ、安っぽい言い方をしてしまえば、裏取引と言う奴だ。

 

そもそも俺と彼らに縁が出来たのは、俺が本格的に対魔忍として活動を始めた一年程前のこと。金欠で武装の補充が滞っていた俺は、仕方なく彼らが乗っていた米連の輸送トラックを襲撃し物資を根刮ぎ強奪しようとしたのだ。一応魔族の仕業に偽装はしたが、対魔忍が強盗紛いな事をするとは考えないだろうしな。

 

下手な証拠が残っても困るので乗員は(みなごろし)にするつもりだったのだが、そこで命乞いの材料として俺に取引を提案してきたのがダニーだった。定期的に物資を横流しするので、その利益を分配しないかという話だった。

 

どうやら彼らが所属する日本支部第八技術研究所は米連の中でも末端の末端らしく、常に金欠と人員不足に悩まされていたらしい。そこで闇ルートに物資を横流しして研究資金を確保する方法を考えたがそういった方面に詳しい者もおらず、下手な事をして上にバレれば処罰され、研究所の存続が危ぶまれる。八方塞がりで頭を悩まされていた時、任務ではなく物資目当てでトラックを襲撃する俺が現れた、というわけだ。

 

目の前の物資よりも、定期的に金と信頼性が高い米連産の装備が手に入るメリットを取った俺はその提案を了承。後日第八技研の所長などと話し合いを行い取引は成立、俺個人と第八技研全体による密やかな同盟が組まれることとなったのである。

 

取引の内容は、第八技研が密かにちょろまかした武器弾薬などをこうして俺に受け渡し、俺が代理人としてそれらを闇ルートへと横流しするというもの。利益分配は俺と第八で3:7と俺が不利な配当だが、その代わりに横流しされた物資から必要な物を頂戴していいことになっている。分配する金も売却で出た利益からの配当なので、俺が物資を差し引こうと損が出ることはない。あちらとしても、俺を経由して横流しするため横領がバレるリスクを限り無く低くできる。正にWin-Winの関係だ。

 

あ、勿論利益の計上は精確確実に行ってるぞ。こういう取引は信頼性が最重要だからな。有能な裏切り者と無能だが誠実な者、商売でどちらが尊ばれるかは解るだろう?

 

「……よし、リストは確認した。後は戻って中身を検めるだけだな」

「もっと俺達を信用してくださいよぉ。下手に嘘吐きゃ、俺ら旦那にぶち殺されますからね。アンドリューは運が良かっただけなんすよ」

「ああ、俺の目の前で猫ばばしようとしたあいつか。脅すついでに痛めつけようとしたら屁っ放り腰で逃げるもんだから変なところに当たっちまったよ」

「まさか、ケツにもう一つ穴こさえてくるとは思わなかったっすよ。いやー今でも一日一回は皆あれで笑ってます」

「俺としては、お前が迎えに来たときに『これでケツ使いすぎてダメになっても大丈夫っすね!』って言ったほうが面白かったけどな」

 

ダニーと適当な話をしてケラケラと笑いながら、荷物が積み替えられるのを待つ。本当なら逐一中身を確認したいところなのだが、ここは人が少ないとは言え一般の地下駐車場だ。車の影に隠れて荷物の受け渡しをするなら兎も角、木箱を開けてリストと睨めっこするには流石に場所が悪い。

 

「っと、そうだそうだ。渡すもんがあったのすっかり忘れてた」

「はい?」

 

ふと用事を思い出した俺は、手を後ろに回し後部座席に立てかけてあったガンケースを引っ張るとダニーへ手渡す。

 

「なんすか?これ」

「前に渡された試作品の資料。博士達が使ったら参考にしたいって言ってただろ」

「ああ、ありましたねそんなの。どれどれ……SR-25っすかってうわぁ」

 

慣れた手付きでガンケースを開け中を覗き込むダニー。そこには、先日の任務で使用したSR-25がオプションパーツを取り外された状態で入っていた。一見何の問題もないように見えるが、プロのガンスミスであるダニーは思わず顔を引きつらせた。

 

「バレルめっちゃ歪んでるじゃないっすか。フレームもガタガタになってるし、あああチャンバーに罅が……多分中のパーツもボロボロですよ。何したんすか一体」

「だから、お前が寄越した弾使ったんだよ!確かあれ、IAP弾だっけ?」

 

IAP―――爆()徹甲弾(Implosion Armor Piercing)。第八技研から俺に提供された試作品で、その名の通り()()()()する事で威力を底上げさせるという頭の可笑しい代物だ。

 

事前に爆弾などにより発生させた爆発を魔術によって圧縮・固定し炸薬の代わりに薬莢内に封入、雷管の炸裂に合わせて封印が解け、更に薬莢に刻まれた魔術によって解放された爆発は一方向へと収束される。本来ならば全方位に拡散する衝撃を弾頭へと集中させ、通常のライフル弾で対戦車ライフル並みの威力を出すことが出来るという仕組みらしい。俺がこれを使ったのは他の部隊員を撤退させた時含めて数回。結果は正にそのまま、オークの頭が粉微塵になった。ただこれはライフル銃で砲弾を撃ち出すようなもの、過剰なまでの負荷がかかったことで精密に配置されたパーツがボロボロになってしまったがな!

 

「聞くまでもないですけど、精度はどうっすか?」

「試射してみたけどひっでえ有り様だ。弾道がやたらめったらに逸れやがる。銃身が曲がってるだけじゃなくて、全体のパーツの噛み合わせガッタガタになってるな」

「あーあ、そりゃご愁傷さまです。替えの銃用意しましょうか?」

「いや、自前で適当に見繕うからいいわ。その代わりと言っちゃなんだけど使えそうな開発品回すように言ってくれ」

 

思わず、はぁぁ…と深い溜息を吐く。別にいくらでも替えは効くし、支障はないんだが……これ気に入ってたんだけどなあ。

 

「了解です。使ってみた所見はどうです?」

「悪くはないな。一々対物ライフル持ち運ばなくても同等の火力出せるのは便利だ。ただ衝撃がアホみたいに強いのと、銃の損耗が早過ぎるのが致命的だろ。こりゃ実戦じゃ使えねえよ、数発撃っただけで銃がお釈迦になるから。やるなら特注の専用パーツとか使わないとだけど、それだと汎用性が落ちるし」

「ふむふむ、なるほどなるほど。やっぱ単純な威力底上げするより、着弾時に効果を発揮する方が効率的か……旦那、弾頭内部に特殊な爆薬が入ってて身体ん中からぶっ飛ばす徹甲榴弾ってのがあるんですがね?」

「ライフル弾で戦車砲みたいなことするのやめない?」

 

俺の銃これ以上お釈迦にされてたまるか。後それ、小型爆弾マガジン一杯に詰めてくことになるんでしょ?怖いわ。予備弾倉撃たれて爆発とか、マンガじゃないんだからさ。

 

「えー、でも便利ですよ?通常弾でも頭蓋に入りゃイチコロですよ?」

「まあそうなんだけどさぁ……せめて寄越すにしても、安全に使えるようにしてからだぞ?」

「勿論っすよぉ、やだなぁ旦那。もっと信用してくれないと。あ、装備課が開発してる個人携行用の電磁投射砲があるんですけど、話だけでもどうです?」

「何それ詳しく」

 

携帯出来るレールガンとか何それ胸熱。やっぱサイバーパンクは男のロマンだよなぁ!

 

なお、討議の末俺の筋力では発射時の衝撃を支えきれないという結論に落ち着いた。どっとはらい。

 

再度(まあ、)閑話休題(それはそれとして)

 

「マジメな話、何かいい装備ねえの?」

「ん~……そうは言っても、どれも最近ようやく形になってきたばかりですからねえ。ていうか、俺ら一応米連なんすよ?ブガイヒって奴一杯あるんですけど」

「だからこうやって、知恵絞ってあちこち駆け回って少しでも多く金渡せるように努力してるじゃん。俺としちゃ、関係継続のために恩売ってるつもりなんだぜ?」

「分かってますよ。こっちだって、それのお返しとして武器供給(レンドリース)したりIAP弾の提供とかやってるんですよ?」

 

俺の言葉に、ダニーは拗ねたような口調で返す。そりゃそうだ。俺は我が儘言って恩着せがましい主張してるだけなのだから。

 

俺達は笑って話せる関係でも、この取引においてはあくまで対等だ。しかもその取引も資源の横流しと利益の分配のみ、研究成果の提供は契約の範疇外でしかない。だからこそ俺は試験品のテストや利益の拡大によって恩を売り、彼方も恩返しと言って俺に武装を提供することで貸しを返す。例え第八技研と密約を結んでいたとしても、あちらはあくまで米連の一機関だ。早々機密を明かしたくないのは当たり前の話である。

 

とは言え、俺もはいそうですか、と引き下がる訳にはいかない。米連や魔族との抗争が激化する一方である現在、自分を守る力は多いに越したことはない。特に現代科学の産物である兵器ならば、異能と違って保持していても怪しまれることも少ないからな。

 

何とか恩を売って開発品を手に入れたい俺と、研究費は欲しくても公開したくない第八。取引を始めてから一年、俺達の関係は詰まるところこれに収束している。互いに相手の利益を提供することで少しでも優位に立とうとする歪な暗闘。

 

 

――――だからこそ、今回は俺の勝ちだ。

 

 

「ま、そうなるだろうな。だからさ……お土産、持ってきたんだ。後ろのトランク見てみな」

 

俺はダニーの方を向いたまま、後ろを親指で指す。その先には、後部座席にでかでかと鎮座するかなり大きなトランクケースがあった。その大きさは、後部座席の上ほぼ全てを占拠している程だ。

 

ダニーはシートを目一杯倒し、後部座席へと身を移す。そして俺に勧められるままトランクのロックを解除し、重厚な蓋を上へと大きく開けた。

 

「………………うっわ」

 

少し長い沈黙の末ダニーが口にしたのは、自身の不快感を絞り出したような声だった。

 

「初めて会ったときから思ってましたけど、旦那。あんた相当な外道だよ」

「知ってるわんなこた」

 

ダニーの非難するような言葉をカラカラと笑って受け流す。今更だ、そんなもの。

 

実は倫理観が薄く人の生き死にも素っ気なく流す彼を呻かせたもの、それはトランクケースに詰め込まれた一人の女だ。

 

軽く手足を折り畳んで荷物のようにケースの中に入れられたその女は、あちこちがボロボロに破れ焼け爛れているレオタードのような衣装で辛うじて自らの肌を隠していた。

 

「これ、対魔忍っすか?旦那いくら何でもお仲間売り飛ばすのはちょっと……」

「そんなことするか。そいつは抜け忍だよ。快楽に負けて誇りも正義も投げ捨てた、元対魔忍さ。こないだの任務で生きてたからさ、使えるだろうと拾っといたんだ」

 

そう、こいつは先日の救出任務で出くわした「ミケ」と呼称されていた元対魔忍だ。全方位から迫るベアリング弾の嵐からどうやってか生き延びたらしく、ぼろ雑巾のような有り様で転がっていたのだ。撤退する際それを発見した俺はひとまず応急処置を施し、後日回収したのである。

 

まあ、したのは本当に応急処置のみであり、重傷なのは変わらないが。上手く胴体と頭部の損傷は避けたようだが、四肢の方は見るも無惨な有り様だ。両手足は何千もの鉄球に蹂躙されてズタズタに引き裂かれて穴だらけであり、両足等皮一枚で辛うじて繋がっているという悲惨な状態だ。

 

医者がこの惨状を見れば、間違いなく復帰の見込みなしと両手足を切断するべきだろうが、俺はそれをせず、あくまで止血するに留めた。

 

理由は主に2つ。一つは、単純に俺がそう言った治療法の技術がないから。腕がぶった切れた後の応急処置くらいなら出来ても、まだ付いてる腕を切断してとなれば話は別だ。まだ生きている神経やらを判別出来るほどの経験を、俺は持ち合わせていない。人を救うのは医者の分野であり、俺の仕事は人を殺すことだ。お門違いにもほどがある。そして二つ目、この状態の方が()()()()()からだ。

 

両手足ほぼ全損と言ってもいい彼女だが、上腕や大腿部、そして胴体等の部位は比較的損傷が少ない。上手く処置出来れば切除せずに済ませることが出来るだろう。普通ならばそこからは達磨の人生だが、機械化技術の発展した米連ならば失った部分を機械義肢によって補うことが出来る。まあ対魔忍が飼っている魔界医師、桐生佐馬斗ならば完全な再生も可能だろうが……再度裏切る可能性が高い奴を、わざわざ内部に引き入れるつもりはない。

 

俺がこいつを回収して持ってきたのも、第八技研へ提供する交渉道具として利用するためだ。技術はあっても末端であるため献体が確保出来ない第八技研にとって喉から手が出る欲しい素材(モルモット)だろう。

 

だがもし、第八技研がこの取引に応じない場合。彼女は俺にとって、非常に厄介な存在になる。何せ元とは言え仲間を売り物にしようとしているのだ。和を貴ぶ対魔忍連中からは敵視されるだろう。そうなれば半ばハブられている現在よりも、余程厳しい状態になるだろう。何せ何時背中から撃たれても可笑しくないのだから。

 

故に手元に置くのは危険であり、この時点で五車学園に持ち込んでも意味はない。他の研究機関に伝手がないためそちらに売り込みも出来ない。残った手段は殺して捨てるか、闇市に商品として流すか。俺はもったいない主義者だから、当然売り飛ばす事を選択する。

 

さて、ここでようやく話が最初に戻る。闇ルートで彼女を流す場合、どうすれば彼女の価値は最大まで高まるのか?それは簡単、()()()()()()()()

 

仮に彼女に処置を施して、つまり所謂達磨にして売った場合、その値段は健常者よりも遥かに安値になる。これは見た目の観点だけではなく、維持管理が自身で出来ないという手間と面倒のせいで需要がかなり少ないためだ。見目麗しいモノにニーズが集中するのは、どこの世界でも変わらないヒトの性ということだ。

 

翻って、このままの状態で売り飛ばしたらどうなるだろうか。恐らく奴隷市などでは、四肢欠損より僅かに高くなる程度だろう。壊死や膿を防止したりする生命維持のコストを考えればぶった切ってしまったほうが手っ取り早いくらいだ。だが、例えばオークションにかけたり交渉で値を付ける場合では話が別だ。

 

どうしようもない性癖、例えば体中に傷がある女を愛でたいという欲求を持つ屑どもは、その欲求の達成が困難であればあるほど自身の趣向に対する出費を惜しまない傾向にある。今回俺が提供する商品は、全身を損傷し意識があっても抵抗が一切できない対魔忍、しかもそれは全て戦場で付いた敗北の証である。好事家ならば幾ら金を積んででも手に入れたい代物なはずだ。

 

「……で、俺たちにコイツ渡して、どうしろと?」

「好きに使えば?身体バラシてモルモットにするも良し、脳みそ漂白して従順な狗にするも良し、何だったら牝豚に改造して奴隷にするも良し、何にでもなる素敵なペットですってね」

 

呆れたように聞いてくるダニーに、俺はおどけたように返す。ぶっちゃけ使い道は割とどうでもいい。俺の目的は彼女を材料として第八技研の開発品や米連の情報を引き出すことにあるのだ。自ら闇の住人となった人間の末路なんざ知ったことか。

 

と。

 

「ぐ……ぅぅ……」

 

車内にうめき声が微かに響く。苦悶が漏れだしたかのようなそのか細い声はケースの中、元対魔忍の女の口から発せられていた。

 

「………旦那、つかぬ事お聞きしますが……麻酔使ってます?」

「使ってないけど?」

「Oh、my God……」

 

ダニーが顔に手を当てて上を仰ぐ。おお、ハリウッド映画でよく見るジェスチャーだ。まさか生で見れる日がこようとは。

 

あ、一応言っとくけど、別に痛みを味わわせたいから麻酔かけないわけじゃないぞ!?激痛を持続させることで抵抗の意志と気力を削いで、脱走とかさせないための合理的な処置であってだな……

 

「だ……だ、す……け……だずげ……でぇ……!」

 

俺がダニーに釈明(言い訳ともいう)をしていると、「ミケ」は掠れた声を絞り出して助けを求める。動かない身体を必死に捩り、苦痛と恐怖で歪んだ眼をこちらに向けて懇願する。あれだけ自信と驕りに溢れた態度で俺を襲撃した姿は影も形もなかった。

 

そのあまりに哀れな姿を前に、しかし俺とダニーは互いの顔を見合わせた。俺の肩をすくめるジェスチャーを見て、ダニーは苦笑しながら彼女に話しかけた。

 

「あー……わりぃね、お嬢さん。俺らこの人からあんた売られちゃってさ。助けるというよりはこれから酷いことするかもだけど、まあ許してね?」

 

彼の場違いなほどに軽い死刑宣告に、名と尊厳を奪われた元対魔忍は、絶望の奈落へと堕ちていったのだった。

 

 

 

△ ▼ △ ▼

 

30分ほど時間を潰した後、ダニーたちは駐車場から去った。当然トランクケースを積んで帰っていった。数日以内に第八の幹部から連絡が来るだろう。後は彼らがその価値をどれだけの物と判断するかだ。彼らに対魔忍を確保する伝手も金もないはずなので、喉から手が出るほど欲しいとは思うのだが……まあ、俺に出来るのは待つことだけだが。

 

「……さて、もう出てきていいぞ」

 

俺しかいないはずの車内に木霊する呟き。それは誰の耳にも届かず消え去る……はずだった。

 

ガコン、という音と共に後部座席の下が開き、中から一人の女が姿を現す。彼女は先程連れて行かれた「ミケ」と同じ対魔忍スーツを纏っており、唯一の違いは首に巻かれたボロボロのマフラーくらいだった。

 

ーーー彼女の名前は『鷲田明梨』、「タマ」と呼称されていた裏切り者の対魔忍である。

 

「いやー助かるよ。敵対しないと分かっているからって、一人じゃ心許ないからな」

「……こんなモノ見せて、一体何がしたいっていうの?」

 

平坦な声音と無表情で、それでも漏れ出る嫌悪感を隠そうともせずに彼女は俺に問いを投げる。対して俺は、特に思うものもないので率直に返す。

 

「別に?ただ、お前の立場を自覚させようと思ってな。まあ、お前の末路は奴隷ではなく死だからアイツよりはマシだろうけど」

 

先日の任務中、俺はあわやキシリアに斬り殺されそうになっていた彼女を助けた。キシリアが時間を掛け過ぎたせいで主任務である対魔忍の援護が疎かになっていた、というのもある。だが最大の理由は、鷲田が殺すには惜しい人材だからだ。

 

俺には外部に協力出来る傭兵(キシリア)技術者(第八技研)などのコネがあるが、何より肝要な情報収集に関しては伝手が殆どなく自力に頼るしかなかった。情報屋はいても組織の情勢が分からないのではどうしようもないからな。

 

そこで彼女だ。自身を中心に作用する風力操作、今はクナイを飛ばしたり跳躍を伸ばす程度だが、うまく使えば光学迷彩や集音マイクとして利用出来る。潜入任務を任せるのに最適な人材と言ってもいい。下手に戦闘させるよりその力を発揮出来るだろう。故に俺は、彼女を専属の諜報員として使い潰すことにしたのだ。

 

「……そんな事言われて、私がはいそうですかって言うと思ってるの?」

「ああ、思ってる。お前流されやすいみたいだから、状況さえ作ってしまえば逆らわない。だろ?」

「………………」

 

そしてもう一つ、俺が強力な異能を持った他の二人ではなくぱっと見地味な鷲田を駒にすることを選んだ理由。それは彼女が、あの三人の中で唯一()()()いなかったからだ。

 

他の二人が奴隷としての自身を完全に受け入れ、またその力に酔いしれていたのに対し、彼女だけは冷静に自身の()()を成そうとしていた。だからこそ、彼女はまだ此方側に引き戻せると確信したのだ。

 

俺個人の所見だが、彼女は周りに流されやすい日本人気質だ。しかも周りが自我の強い人間ばかりのせいで自身の意思を主張する機会に恵まれず、引っ張られるに任せて来たのだろう。他の二人の猪突を諫めず流れで罠にかかり、身体を心を尊厳を惰性のように犯され続け、仲間が魔に堕ちたのを見て自分も抵抗を折る。

 

自己の意識が低い、と言ってしまえば其処までだ。だが彼女はまだ、自身の欲望以外のために戦える人間なのだ。

 

とは言え、五車学園に戻してしまえば元の木阿弥だ。どうせまた同じ様なことになるのが目に見えている。だからこそ、俺が彼女を利用し尽くすのだ。幸い、ちゃんとその流れを作ってしまえば抜け出そうとは考えもしないだろう。彼女の気持ちはよくわかるつもりだ。何せ前世……いや、対魔忍になる直前まで、俺も同類だったんだから。

 

「……はぁ。それで?私は何をすればいいの?」

 

溜め息をつき、観念したように鷲田は俺に問う。予想は的中、彼女は抵抗ではなく惰性を選んだのだ。

 

「普段は傭兵でもしながら情報収集してくれ。有事の際は俺の命令で戦力として動いてもらうが、それ以外は特に制限を付けない。あ、後は諜報員として働いてもらうと思うから、訓練を積んどくように。何か質問は?」

「……それだけ?もっとやることとか、ここから動くなとかないの?」

「ない。金欲しいから傭兵は必須だけど、俺が欲しいのは手足になる諜報員だからな。性的な行為要求したりしないから安心しろ。」

「…………わかった」

「宜しい。あ、後もう一つ。言ったとは思うけど、俺に危害加えようとしたり俺のこと誰かに伝えようとしたら呪いで頭吹っ飛ぶから。そんな事ないようにな」

 

俺は彼女に刻まれた呪いの契約紋―――断じて淫紋ではない。断じて―――を服の上からなぞりつつ警告する。鷲田も俺の言葉から自身の末路を想像したのだろう。ごくっ、と喉を鳴らしてから、神妙に頷いた。

 

「結構。住処や装備は初期投資としてこっちで用意するけど、今後は自分で調達するように。そこら辺を扱ってる裏の商売人共は後で紹介するから、自分で考えて適宜利用しろよ?」

「……ねえ、アナタホントに対魔忍?」

「?一応そうだが?他の連中が認めるかは別としてな」

 

俺の説明を無視するように意図が読めない質問をしてくる。そりゃ俺の所属は対魔忍だけど、何故そんな当たり前のこと聞くんだ?

 

「私が知ってる対魔忍は、自分の信じる正義や国のため、もしくは憧れのために闘ってた。でもアナタはそうじゃない。惰性でやってた私とも違う……アナタは、何故戦うの?」

「そんなの決まってる―――生きるためだ」

 

そう、俺が闘う理由はただ一つ、正義でも仁義でも矜持でもない。自らの生命と尊厳、只只それだけのために、俺は幾多の命を踏みにじるのだ。だから――――

 

「もし本当に正義だの悪だのが存在するのなら……俺は非道い悪党ってことになるな」

 

思わず唇が三日月のように歪む。呵々大笑しそうになるのを何とか抑えくつくつと喉を鳴らしながら、気圧された風の鷲田に対して手を横に広げて見せた。

 

「つまりお前は晴れて外道の手先ってことになる。天国の(Outer)外側(heaven)へようこそ。歓迎しよう、盛大にな」

 

 

 




と言うわけで主人公の外道タイムでした。エロ期待したか?残念だったなぁ!何か宗次君がどんどん有能オリ主になってきたんでね、外道ムーヴ入れて軌道修正しなきゃ。感想欄で実は外道とか主張しても本編で描写しなきゃ、「有能で下半身元気な主人公」になってしまうと気付いたのじゃ……。
尚今回登場したキャラ及び第八技研は全てオリジナルです。対魔忍とは何だったのか…。

とりあえずこれで抜け忍三人娘の末路は書き終わったな。タマを除いて見るも無残だ、ざまあないぜ。と言うことで三人の設定忘れない内に軽く書いときます。あと一応言っておくけど、作者には別にアレな性癖はないからな!



『龍崎玲子』
 通称「リーダー格の女対魔忍」。本編では出なかったが、クロという呼び名で呼ばれていた。傲慢かつ残忍、かつての仲間が犯される様を喜々として眺める所まで堕ちてしまったが、かつては真っ直ぐな努力家であり戦闘用ではない能力ながら近接戦闘では上位に入るほど。内心抱き続けた紅羽への嫉妬に捕らわれる余り、キシリアに気付くことが出来ず両断された。
忍法は生体温度を探知する『生熱窺知』。範囲は半径2kmと索敵向けの能力だが、彼女はこれを近距離レーダーとして使用することで近距離戦用へと昇華させた。
明梨が惰性で抵抗していた事を考慮すると、三人の中で最後まで対魔忍として陵辱に抗っていたことになる。

『三木田有希』
 通称『ミケ』。快活…というかおちゃらけている性格。ぶっちゃけ貞操観念もガバく学生時代結構遊んでいた。そのせいか快楽責めに対しいの一番に根を上げている。特に設定考えてなかったから書くことない。
忍法は『火遁・爆砕指』。接触した物体を爆弾に変える能力で生物には使用不可。本編では投擲物を爆弾に変えると言われていたがそれ以外にも使用可能であり、逃走中に壁や縁などを爆発させ追跡を妨害するといった使い方も出来る。起爆は時限式のみであり、地雷として使うには計算が手間なので彼女は専ら投擲物を爆破するのに使っていた。
最終的に手足ズタボロにされた挙げ句米連に売っぱらわれるbadend。もし今後出てくるとしても禄な登場をしない模様。

『鷲田明梨』
 通称『タマ』。表情の変化が乏しいクーデレで首元にマフラーを巻いているという作者の好みが詰まったキャラ。周りに流されやすい性質で、自分の意思はあるのだが周囲が意見を提示しているならそれに従う。本編ではそれで地獄を見、更なる外道に拾われることとなる。
忍法は『風遁・颶風流し』。自身の周囲に強烈な風を発生させることが出来る能力で、本人は投擲したクナイを増速させたり、敵の攻撃を防ぐシールドとして使用していた。今後は潜入のための使用方を宗次に仕込まれる予定。やったね。
最終的に宗次の手駒として収まり何かにつけて便利使いされるだろうが、三人の中では一番マトモな場所に落ち着いた。本当なら纏めて死んでいたはずが、「風で投擲する能力って…かっこいいな」という作者のきまぐれとクーデレ口調になったのが運の尽き。マフラーを装着され、有り得なかった生存ルートを突き進むことになる。

『ノマドの幹部(未登場)』
 三人娘の飼い主である魔族。今回の輸送車囮作戦の立案者であり、一人を餌に十数人の対魔忍を捕らえようとした切れ者。上忍クラスの対魔忍を三人も捕らえた上手駒にした実績から幹部クラスに抜擢、フロント企業を一つ任されたまではよかったが、今回の作戦失敗とその損害ーー派遣した精鋭オーク百人の全滅と元対魔忍損失ーーの責任を追求され幹部から追い落とされた。その後、ダミーとして対魔忍の贄として殺害された模様。
「クロ」「ミケ」「タマ」と名を付けたように無類のネコ好きであり、三人も彼なりに可愛がっていた。





これにて『対魔忍救出編』は後始末まで含め完結です。本当なら一話で終わっていたはずが五話もかかってしまった…皆さんお付き合いありがとうございました!


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幕間 その日常は危険に満ち溢れ、彼は生を求め駆ける

またまたお待たせいたしまして。本当ならもう少し早く投稿出来たんですけど、「あ、これ間に話入れた方がいいかも」と思い立ちこの話を特急で仕上げてました。そのため何時もより文章が少し雑になっていますのでご了承を。

幕間ばっかりで申し訳ないですが、後一話で序章っぽいものも終わりです。やっと話が進められる……。



さて、救出作戦が事後処理含め全て終了してから数日。俺は新たな任務を携え、夜の直中に身を投じていた。

 

「田上さん、ここが予定のポイントです。正面の目標も僅かですが視認出来ます」

「よし、とりあえず偵察だ。縁の手前に伏せろ、頭はマント被せて隠せ」

「了解」

 

事前にマークしておいたビルの屋上に降り立った俺達は、ビルの縁で匍匐の体勢をとりつつ、羽織っていた黒いマントを身体に被せる事で闇夜に身を紛らせた。

 

今回の任務は、とある企業から極秘資料を持ち出すこと。所有者の社長始め幹部幾人かはどっぷり闇に沈んでいるものの、他の社員はそれとは一切関係のない人々であるため実力行使は躊躇われた。

 

そこで白羽の矢が立てられたのが俺である。彼らを傷つけず、かつ可能な限り発見されないように資料を回収せよ。いや無理ゲーですやん。

 

そして氷室は、そんな俺の相方(バディ)だ。これまた校長からの指示らしい。まあ、実害がない範囲でなら幾らでも利用してもらって構いませんがね。俺の危険が減るのなら万々歳である。

 

俺と氷室は懐から大型の双眼鏡を取り出した。レンズを黒く艶消しした軍用のものだ。それを覗き込んで見つめる先には、今回の目標である企業の本社ビルがそびえ立っていた。

 

「田上さん、こんな遠くに陣取ってどうするんですか?流石にここからじゃ、中の様子はわかりませんよ?」

「こっからじゃないと逃げるのがキツいからな。あのビル周辺で事を起こしちゃ目立つだろ」

「それはそうですが……」

 

まあ、氷室の言いたいことは分かる。今回の任務は暗殺じゃないから遠くにいても意味などない。それこそ、ただ見ているだけしか出来ない状態だ。

 

だが、これはちゃんと言わせて貰おう。

 

「氷室、ぶっちゃけ俺は潜入任務は得意じゃない。絶対に見つかる自信がある。そしてお前も、能力的に見れば潜入向きじゃない。能力的には前衛、素質的には指揮官向きだ」

「え、あっはい」

「つまり!俺達に潜入任務なんて荷が重すぎる!」

「えぇ……」

 

小声で叫ぶという器用な真似をしつつ弁を振るうが、何故か引くような声が返ってくる。何故だ。

 

「まあそれはともかく。俺とお前じゃ、この仕事は無理だ。やったとしても、どっちか絶対捕まるから面倒なことになる」

「……成る程。それで、どうするんですか?」

「こうします」

 

懐からすっと小さな筒を取り出すと、その先端に付いている赤いボタンを押した。同時、視界のビルの外壁が爆煙とともに吹っ飛んだ。

 

「な……」

 

隣で唖然としている氷室を後目に、更に三回爆発が起こる。

 

「ふーむ、いい感じだな」

「なにやってるですか!?あんな事したら、従業員の方々に被害が……!」

「そうならないようにちゃんと計算してるって~。この時間帯人が利用しない場所をリサーチして吹っ飛ばしてるから。爆発も見た目は派手だけど、直に当たらなきゃ殺傷力大分落ちてるから大丈夫大丈夫」

「……もし今日だけ人が使ってたら?」

「…………まあ、ほら。俺の命には代えられないってことで……」

「バカ!いいわけないでしょう!?」

「おおぅ、ストレートな罵倒」

 

そんなやり取りをしていると、ビルから次々と人が溢れてきた。被害から逃れようと避難してきた社員達だろう。

 

「で、爆弾魔の田上さんはビルを爆破して何するつもりなんですか?」

「いや、本社ビルが危険に見舞われたら、社長が資料持って出てくるかなって。調べてもどこにあるかさっぱりだったから、本人に持ってきて貰うのが手っ取り早いでしょ?」

「……それは、確かに理に……適ってるの?う~ん?」

 

何でそこで悩むんですかね。

 

とはいえ下準備は終わった。後は社長と思われる人物もしくは車両を発見して、資料か情報を確保するだけである。

 

と、思っていたのだが。

 

「……いませんね」

「いねえなぁ」

 

出て来ると思っていた社長陣が一向に出てこない。おかしいな、出勤してるのは確認したんだけど……。

 

耳に突っ込んだイヤホンをいじり、何人かの社員に仕掛けた盗聴器の音声を拾う。確認した限り、社員連中も社長始め幹部連中を探しててんやわんやしているらしい。

 

「どうやら連中、誰も見てないらしい」

「……作戦がバレたのでしょうか。それで、何処かから逃げたとか……」

「通路とかは一通りチェックしたはずなんだがなあ。隠し通路とかあったらどうしようもないけど……」

 

作戦を実行するに当たって当然ビルの見取り図は確認しているものの、それにすら乗せられてはいない隠し通路とか作られてたら流石にお手上げだ。こんなことなら、セキュリティー厳重なの覚悟で幹部とかに発信機仕込むべきだったかな……。

 

「田上さん!ビル正面!」

「ん?なしたなした」

 

双眼鏡の倍率を調節し、言われた通りビル正面を見る。ビル前に停車した何台もの緊急車両が映る中で、正面玄関から突入していた消防隊員が人を背負いながらほうほうの体で這い出て来ていた。

 

彼らが用意されていた担架に救助者を移し、救急車へと搬送されるなかで、イヤホンから口々に「社長!」と叫ぶ社員達の悲痛な悲鳴が響いた。……は?

 

続けて運び出された数人に対しても、記憶していた幹部達の名前を呼び掛けている。 …………は?

 

「……」

「……」

 

俺と氷室の間に沈黙の帳が下りる。隣から何とも言えない視線をビシバシ感じつつ、俺は天を仰ぐ。ああ、星がきれいだなぁ……。

 

「何であいつら巻き込まれてんの……」

 

俺がなんとか絞り出せたのはその一言のみである。まさか確保する人物達が雁首揃えて病院行きになるなんて誰も思うまい。おかしいな、今の時間は重役会議やるって聞いてたんだが……。

 

「……どうするのよ、これ……」

「……とりあえず撤退だ。今からじゃ潜入する前に警察が来る。別働隊に任せよう」

「……はい」

 

微妙な気まずさを味わいながら、俺達はその場から離れた。物の見事に任務不達成である。

 

ちなみに後日確認したところ、例の重役連中はあの時間、社員の女数人を無理矢理連れ込んで乱交パーティーをしていたらしい。よりによって、俺が爆弾を仕掛けた「人が使わない一室」に。

 

彼らはそこでよく社員や買った女を並べて陵辱していたらしく、部屋への入室記録を改竄して使用したという事実をなかったことにしていたようだ。そりゃ、データベース調べても何も出ないわけだわな。

 

尚、被害者の女性達は幹部共が周りを囲っていたために爆風や破片から免れほぼ無傷だったそうな。犯していた側が文字通りの肉壁になるとは、何とも皮肉な話である。

 

その後資料に関しては別で待機していた紅羽が潜入して何とか確保したらしいが、俺は校長から熱いお説教をされた上紅羽に小言を言われ飯を奢らされた。

 

そして完全な蛇足ではあるが、社長を始め乱痴気騒ぎに参加していた重役は全て、救急車から霊柩車へと行き先変更になったとさ。どっとはらい(めでたしめでたし)

 

 

 

△ ▼ △ ▼

はたまた別の日。

 

俺達は誘拐された子供たちを救助するため、歓楽街の端にある廃ビルへと訪れていた。

 

「ここに、誘拐された子供達が?」

「情報屋の話が正しければな。ただ、運び込まれたのはかなり前だ。生きているかどうかは五分五分ってところか」

「そんな……っ」

 

ビルの中を伺いつつ、俺は氷室の質問に答える。救助対象が何の重要性もない一般の子供ということもあり、任務として辞令が下りるのが大分遅れたらしい。本当ならば今も捜索願という形で燻っていただろうが、頭領であるアサギがそれを引き上げ、直々に捜索を命じたのだ。

 

誘拐目的は、恐らく()()()()趣味の顧客へ売り払う用の奴隷だ。そうでもなければ、わざわざ子供を誘拐なんてするメリットなどない。対象が攫われてから時間が大分経っていることから考えて、例え売られていなかったとしても……。

 

「では、早く助けなければいけませんね。行きましょう」

「え、ちょっなな……α(アルファ)!?」

 

(一応)護衛と監督役として同行していた舞が、さっさとビルへと行ってしまう。罠があるかもしれないから様子見するって言ったのに!?

 

「ど、どうします……?」

「……仕方ない、行くぞ。最悪肉壁にしてやる……」

(悪い顔してるなあ)

 

ショルダーバッグの中に隠していたMP5Kを取り出してゆっくりビルの通路へと足を踏み入れる。忍者刀の代わりにタクティカルナイフを構えた氷室も後ろから続く。

 

「β(ベータ)、どこに罠があるか分からない。慎重に行動しろ。安全が確保出来るまで警戒は最大限するんだ。子供も近づけるなよ」

「そんな……彼らも被害者ですよ?誰かに縋りたくなるのは当たり前です」

「そいつらの体に何か仕込まれてたらどうするんだ。気付きませんでしたで全滅するつもりか?」

 

救助対象である子供達に何かしらの罠が仕掛けられている可能性は十分にある。俺だったら爆弾仕込むくらいはやるし、ヘタな魔族ならば体内に寄生型の魔族を宿しているかもしれない。そういう類のトラップに掛かった例も実際に見たことがある以上、敵地で己以外を信じる事など出来なかった。この様子だと氷室にはそんな発想はなさそうだし、忠告しておいて正解かな?ちゃんと活かしてくれれば言うことなしなのだが……。

 

そうしてゆっくり奥へと進むと、突き当たりの部屋から誰かの話し声が聞こえた。片方は舞の声で、もう片方は聞き覚えのない声だ。イマイチ聞き取れないが、微かに聞こえた限りでは少し高めの声……恐らく子供のものだと思われる。

 

氷室に目配せしてから、歩く速度を上げ部屋へと侵入する。そこはコンクリートが打ちっ放しにされた無機質な部屋で、生活感を全く感じない。所々に残ったシミやひっかき傷が、拭いきれない惨劇の痕を残していた。

 

部屋の中央では先に突入した舞が、数人の子供を落ち着かせるように相手している。彼らの顔は事前に確認した被害者のそれと一致している。一発でビンゴを引けたようだ。しかし、全員男子か……ホントどうしようもねえ奴らばっかだな。

 

「よかった、無事みたいですね」

 

氷室がホッと安堵の息を漏らしてナイフを下ろすが、俺は別の部分に引っかかりを覚えていた。それは彼らを誘拐した連中の姿が一切見えないことだ。待ち構えているものだとばかり思っていたが、その気配すらないとはどういうことだ?

 

「γ(ガンマ)、対象を発見しました。速やかに連れ帰りましょう。場合によっては治療も必要かもしれません」

「ここにいたはずの誘拐犯……いや、調教師とかはどこだ?」

「?  我々を察知して逃げたのでは?この子達以外に人の気配はありませんし、この子も知らないそうです」

「……本当か?」

 

俺は舞が頭を撫でている「この子」と呼ばれた男の子に声を掛ける。

 

「う、うん。いつの間にか誰も来なくなって……皆でどうしようか話してた時に、お姉さんが来たんだ」

「ふーん……」

 

こいつらを所有していた連中がいないのは確定か……しかし嫌な予感がするな。これはさっさと全員外に連れ出して……。

 

と、突然、入ってきた扉がギィ……という音を立ててゆっくりと閉じた。それと同時、床から何かが落下した軽い衝撃音。一瞬視界の端に映ったのは、手のひらに収まるほどの円筒形な何か----

 

「B-1!」

 

俺の怒号と共に、視界が薄いピンク色に包まれた。部屋中を着色されたガスが覆い尽くす。

 

頭上から換気扇の稼動音が聞こえて三十秒ほどで、部屋は元の灰色へと戻った。取り戻された視界には、驚愕した表情を浮かべる子供達と倒れ伏した舞の姿。隣を確認すれば、氷室が顔の下半分を覆うガスマスクを付けた状態で立っていた。いざという時のために決めておいた符号が役に立ったらしい。対BC兵器用の符丁も考えといて大正解だったな……約一名、床でおねんねしてる上忍さんもおるがな!

 

「さて、どういうつもりだ……何て聞かねえぞ。その顔を見れば何しようとしてたかはすぐわかる」

 

簡単な話だ、こいつらは結託し俺たちを嵌めようとしたのだ。それもわざわざ催眠ガスまで用意し、無害な被害者を装って。

 

「ま、待って!これは違うんだ、大人たちに無理矢理やらされて……」

「その大人はどこにもいないんだろ?いたとしたら、ガスが抜けた時点でドヤ顔晒しながら入ってきてるはずだ」

 

それと言いはしないが、この建物内は舞が紙気を使って既に索敵済みだ。頭こそ残念な彼女ではあるが、その能力とそれを使いこなす応用力は非常に優秀だ。そんな彼女が誰もいないと言うならば、誰かが潜んでいる可能性は低い。これ以上となると隠蔽系の異能持ちがステルス特化の達人だ。俺にそれを見つける術がない以上、彼女の言葉を信じつつ全力で警戒をするだけである。

 

更に弁明しようとする子供―――恐らくリーダー格―――に対し、俺は真っ直ぐ銃口を向ける。当然周り含めて警戒しながら。

 

「ま、待って!待って下さい!」

 

と、それを見た氷室が俺の前に出て射線を遮る。まあ、彼女からすれば、俺は救助対象の子供に武器を向ける悪人、ということになるのだろう。

 

「退け、そいつ等は()を故意に攻撃して来た。つまり敵だ。敵は殺さないと」

「でもっ、彼らはまだ子供です!助け出して心を癒せば、きっと――――!」

「いや、無理だろうな」

 

見ろ、と言って氷室の視線を()()の方へと促す。

 

「こいつらはもう、闇に堕ちることを決めたんだよ。助けに来た俺達を陥れようとしたのがいい証拠だ。そのままいれば元いた場所へ帰れるっつーのに、ここに残る選択肢を取った」

「そ、それは……」

「例えこのまま連れ帰っても、こいつらは周りの人間を、例え親であろうと喰い物にするだろう。そうすれば、関係ないはずの人間が被害者になる。もう、皆の中には帰れないんだよ、こいつらは」

 

俺は氷室を押し退けて前に出る。氷室はもう、前には出てこない。

 

「何でだよ……」

 

と、リーダー格の少年がボソリと呟いた。

 

「何で俺達がこんな目に遭わなきゃならないんだよ!突然誘拐されて、死ぬような事されて!だから大人が許せなくって、復讐してやろうって決めたのに----!」

 

部屋中に慟哭が響き渡る。きっと、それは彼らにとって偽りのない本音なのだろう。それほどの苦痛を彼らは背負ってきたのだ。

 

「だが、それは殺すのをやめる理由にはならないな」

 

俺は、そう言って引き金を引いた。脳天と、ついでに心臓に風穴を作った少年は銃弾の衝撃のままに吹き飛ばされ、コンクリートの天井を目に焼き付けて絶命した。

 

ヒィッ、と鳴くような悲鳴が響く。残った奴らが喉を引きつらせながら、恐怖に染まった瞳を此方に向けてくる。

 

彼らは仲間の末路を見て必死に命乞いを始める。死にたくない、助けて、お母さんに会いたい。俺はそれを全て聞き流し、追加の死体を四つ拵えた。

 

「どうして……」

 

ぼそり、と氷室が呟く。

 

「どうして、彼らは死ななくてはならなかったの……?この子達は、何も悪いことをしていないのに……」

 

……残念ながら、彼女の疑問に対する明確な答えを、俺は持っていない。そもそも、対魔忍というよりも人であるならば助け更生させるべきだし、彼らにはまだ『可能性』があった。ただ単純に、俺がそれを信じることが出来ないだけなんだから。それでも、敢えて一言言うならば----

 

 

「悪いことが出来る奴になってしまったから、かねぇ」

 

 

その後はわざわざ語るほどでもないが、子供たちの遺体と、ついでに媚薬ガスにやられて眠っていた(何か母乳も出る様になったらしい)舞を担いで帰還、任務は完了した。当然ながら、子供たちの親族には、その死に様が伝わることはなかった。彼らは単純な被害者として親兄弟に記憶される。その変容は、文字通り闇へと葬り去られる。

 

嘘で塗り固めた優しい虚構に心を痛めることと、辛く救えない真実を突き付けられること。一体どちらが正しい救いになるのかは俺にはわからないけど、彼らに降りかかった地獄を知らずに生きられるのは、幸福なのだろう。せめてそう願うばかりだ。

 

殺した張本人が言うことじゃないかもしれんけどな。めでたしめでたし、とは到底言えない結末だ。




今回後半で出てきた子供達ですが、この間復刻イベントで出ていた「ティナ・ウォーレル」のシーンに出て来たやつです。ワンマンアーミーなティナと違い、油断を捨て去った宗次君にはガスなんて聞かないんだよ……。ちなみに本編に出ていた符号は、「BC兵器確認、即時マスク着用」的な感じの意味です(適当)

次回は一週間後のこの時間帯に上げます。予約投稿なんてやるの初めてで少しワクワクしますね


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凡人は比翼を手にし、開幕のベルは鳴り響く

というわけでみなさん、お待たせ致しませんでした!(ドヤ顔) まあ全体的に見ればお待たせしたんですがね。

ガチャで時子やアスタロトが当たったりとガチャ運は絶好調な気がするけど、RPGXではそんなことはないという悲しみ。SRアルカは出たけど、本編に出そうかなぁ。他のSSとのキャラ被りは避けたいけど、あれいつの間にか消えていた悲しみ。


サア―――

 

俺の耳元を掠めるかのように一陣の風が舞い、火照った身体を舐める。そして半歩後退した刹那、閃く白刃が目の前を通りすぎた。

 

瞳の数センチ先で凶器が通り過ぎた事に尻込みしながら、しかし恐怖を押し殺して鳩尾目掛けて脚を振るう。残念ながら防がれてしまったが、相手は衝撃で動きが止まった。

 

「シィッ――!」

 

僅かな隙を突くように、右手に握ったナイフを頸目掛けて奔らせる。鋭い切っ先が動脈を切り裂かんと首元へと迫り――引き戻された忍者刀によって辛うじて防がれる。甲高い金属音が響き、刹那互いの力が拮抗する。予定調和のように防がれた必殺のフェイントを目くらましに左の掌底を放つ。

 

死角からの一撃は今度こそ腹部へと叩き込まれた。しかし、そこから返ってきたのはまるで金属を叩いたような衝撃だった。忍法による肉体の硬化である。これをされてしまえば、俺の力ではその守りを超える事は――

 

「ちっ……くぉっ!?」

「ハアァァッ!」

 

気合一閃、今度は相手が一瞬の隙を突き得物を振るった。後方に飛びのいて辛うじて躱すことに成功したが、貴重なイニシアチブを奪われてしまった。相手は勢いそのままに烈火のごとく立て続けに剣を振るい、俺はそれをナイフでひたすらに防御する。数秒前と立場が入れ替わったが、状況は圧倒的にこちらが不利だ。こちとら、一振り事に足が竦むというのに。

 

そのまま打ち合うこと数十合、弾き逸らし受け止め続けた俺であるが、唐突に身体が揺れ視界がブレる。注意が手元へ集中した一瞬の隙を突かれ足払いを掛けられたことに気づいたのは、地面に引き倒されてからだった。

 

相手は仰向けに倒れた俺に馬乗りになって動けないように固定すると、頸元へ向けて刃を振り下ろす。俺は間に合わないことを悟りながら、それでも右手の刃を奔らせ――

 

「そこまでっっ!!」

 

力強い声が、グラウンドに轟く。と同時に、刀の切先が首の皮を引き裂く寸での所で止まる。数秒互いの動きがピタリと停止し、フゥと息をついてから馬乗りになった相手――金遁使いの対魔忍が立ち上がり、俺に宣言する。

 

「私の勝ちね、臆病者」

 

 

△ ▼ △ ▼

「……んぐっ、ぷはぁ!あ~生き返る~」

 

グラウンド脇にある水道で喉を存分に潤し、俺は歓喜の声を上げた。やはりどんな物より疲れた時に飲む水は旨い。

 

グラウンドの中央へ視線を向けると、そこには先程の俺と同じように立ち合いを演じる学生対魔忍の姿がちらほら見受けられた。ただ殆どは既に事を終えているようで、木陰で休んでいる数の方が多い。

 

今俺達は学園の授業として二クラス合同の模擬演習をしている。ひとまずはオーソドックスな一対一の近接戦闘、まあ俺が最も苦手とする分野である。くっ、銃さえあれば、こんな奴らに……!

 

脳内でアホなロールプレイをしつつ、ざばざばと顔を洗っていると、此方へ近づいてくる気配に気付く。人数は一人、水音に紛れて足音までは判別出来ないが敵意は特にないようだ。

 

「随分無様に負けたわね、『臆病者』さん?」

 

水気を取るため顔をタオルで拭いていると、その『誰か』が声を掛けてくる。聞き覚えしかないその声に顔をしかめつつそちらを向く。そこには長い黒髪を左右に結い、競泳水着といっても過言ではない対魔スーツから日焼けした肌を晒すスレンダーな少女が、腰に手を当て堂々と仁王立ちしていた。

 

彼女の名は水城ゆきかぜ。学生の身ながら『雷撃の対魔忍』としてその名を轟かす次代のホープ()だ。しかし母親を探すためとはいえ、処女のくせに奴隷娼婦として敵本拠に潜入(笑)し見事罠にかかってしまう頭が残念な女である。戦闘能力はガチでピカイチなのになぁ……どうしてY豚ちゃん捕まってしまうん?

 

「後衛専門にナイフ一本だけで近接させりゃそうなる。それよりお前、こんな所で油売ってていいのか?」

「はぁ?私を誰だと思ってんのよ。あんたと違って圧勝です~」

 

ふふん!とナイチチ張ってドヤ顔する水城。恐らく、マジで相手を瞬殺したんだろうなぁ。この訓練、忍法使ってもいいから。多分相手はピカチュウの電撃喰らったロケット団みたいになったんやろなぁ……合掌。

 

「そう言うあんたこそ、そんなんでいいの?他の連中に馬鹿にされたままになるわよ?」

「ん~……別に?実害なけりゃどうでもいいし。それよりか実戦で死なない方が大事だ」

 

虚仮にされて腹が立たないわけではないが、だからってそんなのに構ってる方が時間の無駄だ。こっちには生き残るために鍛えなきゃいけないところも、やらなきゃいけないことも山ほどあるというのに。

 

「ふーん……それにしても、接近戦の一つも出来ないって対魔忍としてどうなの?そんなんで本当に戦えるの?」

「出来たら苦労してねえよ!くそっ……」

 

にやにやと口元を歪ませながら、からかうような口調でそんな事を宣う。俺はその挑発に苛立ちながらも、苦虫を噛み潰したような顔を逸らすしか出来なかった。

 

俺が銃器に頼る理由。それは固有の異能がないというのもそうだが、最大の要因は恐怖心だ。

 

俺は前世で二十余年、今世でも十三年ほどを何の変哲もない一般人として過ごした。当然そこで培った常識や道徳は俺の根底で強く息づいている。その社会常識が、戦闘行為、というより暴力行為そのものに強い恐怖心と嫌悪感を齎している。

 

拳や刀を振りかざされれば怖くて足が竦むし、誰かを殴れば後悔が心を過ぎる。『暴力』というモノに面と向かって対峙したとき俺の心は一瞬だけ、臆病で何の力もないただの人間へと回帰してしまうのだ。

 

そしてその回帰は、実戦において致命的なほどに作用する。錬磨に錬磨を重ね精確無比な狙撃精度を支えてくれる対人の動作予測も、目の前の恐怖に凍り付き機能を失ってしまうのだ。せいぜい出来て一手か二手、接近戦時にはその程度までしか先が読めないし、的中率が通常時よりも落ち込んでしまう。そしてそもそも直接戦闘は技量的に言っても苦手分野だ。はっきり言って、至近戦闘まで持ち込まれたその時敗北は確定しているものだと俺は思っている。

 

こういうとき、水城みたいな戦闘力の高い連中が羨ましくなってしまう。どんなに時間を捧げそれまでの常識を投げ捨てても、彼女らに届くことはない。どんなに人道を踏み外しても、目の前に敵が迫ってしまえば恐怖心が甦ってしまう。これが兵士ならば愛国心や忠義で自らを律することが出来るだろうが、俺にはそれすらない。自分の生の為に戦う俺は、自らを律する事も全て自分で行わなくてはならない。

 

非道になり果てながらも人としての恐れを棄てきれない俺と、それぞれの『正義』という錦の御旗を掲げ殺戮を誉れと出来る戦士たる彼ら彼女ら。ここでは、一体どちらが正しいのだろう?

 

「……と。ちょ……?おーい!」

 

耳元で響く甲高い声に埋没していた意識が浮上する。機能を取り戻した視界には、少し俯いた俺の顔を覗き込む水城の顔が映っていた。どうやら、僅かばかり考え込んでいたらしい。俺は大丈夫だ、と言って手を左右に振る。

 

「どうしたの?急に黙り込んじゃったりして。あ、もしかして気にしてた?」

「いや、別に。ただ、雷遁使えるお前が羨ましいなぁと」

「えっ、そう? ま! 忍法使えないあんたと違って、私は優秀だからねっ!」

 

どこか嬉しそうにナイチチを再び張る水城。こいつちょろいな(確信)

 

ちょいちょい俺を馬鹿にするような言葉を発し高慢チキな態度を取る彼女であるが、意外なことに、他の連中と違って俺を虚仮にしたり見下したりすることはない。同学年として数年間過ごした関係上度々関わりを持つことがあるのだが、不機嫌そうに俺を詰ることはあっても悪意を持って接した事はない気がする。どちらかと言うと俺の不甲斐なさすぎに苛立っているような印象だった。何でそんな態度になるのかは解らなかったが。

 

まあ下に見ていることは変わらないだろうけど、下手に実害を齎す他の奴らよりは遥かにマシだ。実際彼女はそれをして許される程優秀だし。

 

母親はアサギと並ぶほどの実力者であり、彼女自身もその血を継いで才能に恵まれた次代のエース。多少驕りを持っても許される程の血筋と力があるのだ。惜しむらくは、近い未来母娘揃って魔族の奴隷に堕ちることだろうか。そうなった場合戦力低下甚だしいので、是非とも主人公君には頑張って貰いたいものである。

 

「……って、私の事はいいのっ!あんたが頑張んなきゃ、他の奴ら見返せないじゃない!今までちゃんと努力してきたんだから!」

「お、おう。そうか?」

 

ビシッ!と此方に指を向けて力強く言われてしまった。何だろう、一応激励になるのかこれ?俺は周りの連中に興味とかないから、見返すとか正直どうでもいいんだが……。

 

「おーい、ゆきかぜー!」

 

と、離れた所から水城を呼ぶ声が聞こえた。何かと思い顔を向けると、少年が此方に手を振っているのが見えた。

 

「あっ、達郎! ……ごめん、それじゃね!」

 

水城はパッと表情を輝かせると、一言断って彼の元に駆けて言った。水城の発言と態度から察するに、彼が『斬鬼の対魔忍』秋山凛子の弟で水城のボーイフレンド、秋山達郎なのだろう。嵐のようにやってきて稲妻のように去っていった水城に唖然としつつ、とりあえず俺は胸に去来した想いを口に出すのだった。

 

「そうか、あいつがNTR対魔忍か……」

 

△ ▼ △ ▼

その後二回模擬戦を行い訓練は終了した。ちなみに、当然の如く全敗である。ナイフ一つで勝てるわけねえだろ!

 

そして本日の授業はそれが最後だったので、ホームルームを終えた俺はさっさと自室に引き上げた。今日は任務も特にないし、最近忙しかったので休息を取ることにしたのだ。自主訓練を欠かさない俺ではあるが、だからといってオーバーワークは後々支障を来す。本番で疲れてたので実力出せませんでしたーじゃお話にならないからな。

 

寮の自室に戻った俺は、ひとまず武装の整備をしていた。休憩中はアニメ見たり本を読んだりと趣味に没頭するつもりだが、やることがないわけでは決してない。今はその中で時間の掛からないものを片付けているのだ。

 

先日第八技研から横流しされたM4のうち、その中から厳選して徴用した一丁。それの最終点検とカスタマイズを入念に行う。パーツを全て分解し、摩耗や破損などを神経質なまでに何度も確認する。そして一通り確認が完了すればそれらを組み上げて更に動作を確かめる。グリップを握った感触、マガジンリリースの滑らかさ、コッキング時の音。丁寧に丹念に、一つ一つ間違いがないように調べて調べて、調べ尽くす。大体の作業を終え銃を置いたのが一時間後、オーバーホールしたことを考えればかなり効率良く作業をこなせるようになったな。

 

「最初は半日がかりだったからなぁ」

 

対魔忍になったばかりで、右も左もわからなかった頃を思い出して思わず苦笑してしまう。あの頃は全て手探りだったから本当に大変だった。訓練してて何度死にそうになったことやら――

 

 

―――コンコンッ

 

 

「……ッ!!」

 

突然玄関の扉から聞こえたノック音。それが耳に届いた瞬間、俺は机の上に置いていたM92Fベレッタを手に取り立ち上がっていた。スライドを引き薬室に弾丸を装填、銃口を真っ直ぐ扉へと向け構える。弛緩していた意識を切り替え、しかし殺意を漏らさぬよう注意を払いながら扉へと一歩近く。そこでようやく、ノックをした人物が声を発した

 

『すみません、氷室です。……田上さん、いますか?』

 

どうやら、来訪者は氷室だったらしい。肩の力が自然と抜けたが、意識はそのままにし銃は構えた状態を維持する。魔族が化けてるなり操るなりしてる可能性がある以上、安全である保証はないからな。

 

俺は上半身と下半身が別々のモノであるように意識する。腕と胴体は警戒態勢を維持しながら、ごく自然な足取りでドアに向かう。警戒していることを悟らせないよう、遅過ぎず早過ぎず足を動かし、普段通りの俺を演じきる。

 

「ああ、いるぞ。どうした?」

『あ……よかった。この後何か予定ありますか?少しお話があるのですが……』

「予定はないから別にいいが……話?」

 

念のために警戒を維持したまま少し思考を巡らせる。時間に関しては問題ない、どうせ後は休むだけのつもりだったから十分に空けてある。だが、話があると来たか……。

 

「どんな話だ?」

『その……時間が掛かる事なので』

「腰を落ち着けて話したい、と」

『はい……どう、でしょうか』

 

……うーむ、話の内容が全く見えない。こういう先が見えない事って怖くなるから苦手なんだが……俺、何かしたっけ?

 

ささっと記憶を漁ってみるが特にめぼしいものはなかった。氷室に手を出したのって最初の一回きりで、それ以外は何もしてないしなぁ。あれも手打ちになってるから、今更文句言われる訳もないし。この間対魔忍売ったのがバレた?いや、それこそありえない。十二分に注意を払ったし、バレたなら氷室が来る必要がない。呼び出せばすむ話だ。

 

だめだ、全く心当たりがない。この感じだと、多分断ってもいいんだが……彼女の声は、断られる不安を滲ませるように僅かな震えを伴っていた。

 

「……わかった、中に入ってくれ」

『はい、ありがとうございます』

 

ほっ、という彼女の安堵の息を鍵の廻る金属音で上書きする。次いで掛けていたチェーンとワイヤーを取り外し、ドアノブを捻った。

 

扉を一枚隔てた先には、氷室が何処か所在なさげに立っていた。緊張している彼女を揶揄おうとして、視線が下に引き寄せられることで口が縫い止められた。

 

可愛らしいフリルで装飾された汚れ一つない真白なブラウスに膝程まであるミディのプリッツスカート、そして足先から太腿までの素肌を覆った黒いストッキング。見る者に楚々とした印象を与える、控えめながら品のある服装だ。完全に余所行きのおしゃれな恰好に、俺は驚愕と共に視線を釘付けにされたのだ。

 

 

 

「……お邪魔、します」

「え、あ、おう。今ちょいと油臭いから、換気出来るまで我慢してくれよ?」

 

緊張を孕んだ彼女の言葉を受け、半身をずらして部屋へと招き入れる。同時に、自分の身体で銃への視線を遮るのも忘れない。バレないように枕元へと戻さなくては……。

 

密かなる決意を悟らせないまま、氷室と共に部屋へと入る。まあ部屋と言っても所詮寮のワンルームなのだが、俺の場合其処まで物を置いてないので、かなりこざっぱりしている。盗聴器のチェックついでに掃除も頻繁にするので、いつ人を招いても問題はない。

 

しかし、ここで一つ問題が発生した。そう、来客を想定していないので客用の椅子がないのである。俺の部屋にある家具って、せいぜい勉強机と本棚、あとベッドくらいだもんなぁ……。仕方ない、俺がベッドに座るか。

 

やれやれだぜ、と他人事のように思いながらベッドに腰掛けると、横から続いてギシッっとベッドが軋む音がして……は?

 

「あ、あの……氷室さん?」

「あ、はい!なんでしょうか」

「あ、ごめんごめん言い忘れてた。俺の部屋椅子一つしかなくてさ、そっち使ってくれていいから」

「いえ、その……」

 

机の前に鎮座している椅子を指したのだが、氷室は何故か顔を赤らめながら俯きつつ。

 

「その……ここじゃ、だめですか……?」

 

否と、言えるわけがなかった。

 

 

 

 

「それで、話って?」

 

落ち着きを取り戻した俺は、氷室の本心を確認するため早速本題に入った。場合によっては口止めも考えなくちゃいけないからな……あーやだやだ、秘密が多い身は疲れるぜ。

 

「え、えっと……ぅんっ。」

 

彼女は一度咳払いをしてから、口を開く。

 

「その、まずはこの間の御礼をと思いまして」

「おれい? ああ、任務の時か。気にしなくていいのに」

「いえ、キチンと言っていなかったので」

 

そう言って頭を下げた。相変わらず律儀だなぁ……。

 

呑気に考えていた俺だったが、顔を上げて此方を見たその眼を見て、弛緩した意識を叩き起こした。その瞳は幾分かの不安に濡れつつも、固い決意を思わせる眼差しだったからだ。あなた、覚悟して来てる人、ですよね。

 

 

「それで一つ聞きたいのですが……田上さん、キシリア・オズワルドとは、どういった関係なんですか?」

「――、」

 

 

一瞬、頭が真っ白になった。余りもの驚愕に思考が白いペンキで塗りつぶされるが、奥底から本能がけたたましく警鐘を鳴らすことで辛うじて思考能力を回復する。

 

一体、どうして彼女がキシリアとの関わりを……いや、原因は後だ。今はすぐにでも反応しなければ、自白しているのと何ら変わらない……!

 

「キシリア・オズワルド?こないだ出て来た傭兵のことか?関係あるわけないだろ、俺は一応対魔忍だぜ?」

 

俺はひとまずそう答えた。咄嗟にではあったが、表情や声音も無知と当惑を装えたはずだ。話を収束させるべく、俺は続けた。

 

「そもそも、なんでそんな事聞くんだよ。火のない所に煙は立たぬとは言うけど、俺はその火すら起こした記憶はないぞ?」

 

何故こんな話を持ってきたのかは知らないが、全員で撤退した彼女は俺とキシリアが会っている所を見ていない。であれば確たる証拠は何もないはずだ。後はその疑問を解消さえしてやれば……。

 

「確かに、何か根拠があるわけではないです。ただ……」

「ただ?」

 

俺は、彼女の中に燻るものを正体を見極めようとその言葉に耳を傾け……

 

「……女の勘、です」

「―――。」

 

絶句した。

 

「彼女と闘った時、言ってたんです。『私とお前は似ている』って。その時何故か、田上さんが浮かんでしまって……だから、もしかしたらと思って……」

 

彼女は高々そんなものを頼りに……否、強い想いを抱いているからこそ、それを信じているのだろう。そして、それが俺を疑う程の理由になってないことも理解している。さっきから自信なさげな口調になっていたり、僅かに顔を俯けているのはそのせいだ。

 

「困ったなぁ、こりゃ」

 

女の勘何て奇天烈なものを持ち出されては、理屈で説き伏せるなんて出来ないじゃないか。しかもそれが当たってるのもたちが悪い。キシリアめ、余計な事しやがって……。

 

仕方ないか、と俺は諦める事にした。多分ここで馬鹿馬鹿しいと突っぱねた所で彼女は納得しないだろう。氷室の『女』としての部分が結論を既に出しているのだ、そんな事では疑いが晴れるわけはない。今は確証がなかったとしても、優秀な彼女の事だ、時間を与えれば物証を手に入れるに違いない。キシリアの件が露見するだけなら兎も角、他のバレたらやべえモノが日の目を見る事になったら一巻の終わりである。それならば、バレても問題ない最小限の範囲に被害を食い止めようじゃぁないか。

 

「はぁ……わかった、白状するよ。ただし、絶対に口外するな。これが約束出来ないなら話すことは出来ない」

「……! ええっ、勿論!」

 

お決まりの文言で念を押す風を装ってから、俺は前回の顛末を氷室に話す。当然キシリアの話がメインであり、俺が回収した二人の話はおくびにも出さない。あれこそバレたらマズいわ。

 

……本音を言えば、これもあまりバラしたくなかったんだけどな。何かが出来るということはその分目立つということ。目立てば敵から狙われる可能性が発生し、それを越えればそこから別の奴が俺に興味を持つだろう。そこから先は何の意味もない不毛なループになってしまう。一つの闘いに勝利するのは簡単だ……だが次の闘いの為にストレスがたまる……愚かな行為だ。それが嫌で徹底的して平時と任務時の俺を切り離しているというのに。

 

「なるほど、キシリアとは共闘関係だったのですか……」

「ああ。まあ金払って依頼してるから少しニュアンスが違うかもしれんが。 ……ああそうだ、あの時はすまなかったな。アイツがお前に襲いかかったのは完全に誤算だったんだ」

「え?あっいえ、大丈夫です。僅かでも彼女と打ち合えたのはいい経験になりましたし、田上さんに助けて貰いましたから」

 

俺の謝罪に対し、氷室は笑って何でもないように返す。どうやらあの件に関して、彼女の中に蟠りはないようだ。ただ、それにしては様子が変だ。まだ何かを言おうとして迷っているような感じ。一通り説明はしたのだが……まだ何かあるのか?

 

「どうした?まだ何かありそうだけど」

「あっ、いえ。その……」

「何かあるなら遠慮しないでくれ。しこりを残してこの件を引っ張られても困る。ほれ、言ってみ」

 

今回でこの件を片付けるべく、一歩踏み込む。それが、彼女にとって最後の一線だったことにも気付かずに。

 

逡巡すること暫し、覚悟が決まったらしい。氷室は意を決したように俺の目を真っ直ぐ見つめた。

 

「田上さん」

「なんだ?」

「私は、あなたの事が好きです」

 

―――

 

……、…………

 

「高が一度関係持ったくらいで彼女面か」

 

俺は、出来るだけ淡々と、そう言った。

 

「……確かに、軽い女と思われるかもしれません。ただ私は田上さんの内面に惹かれたんです」

「内面……?」

 

予想外の答えに、俺は疑問を呈する。

 

「ええ。確かにあなたは、自分が生きるためなら味方を切り捨てる事も敵を惨殺することも厭わない非道い人です。付き合いは短いですけど、それくらいなら私にも分かります」

「……ああ、そうだな」

「でも、だからこそ、田上さんが自分の命を守るために抗っている事も分かってます。他人や主義主張のためじゃなく、自分の幸福のために。そしてそのために、必死に努力している事も知ってます」

「…………」

「それに、あなたは生命を軽んじているわけではない。逆に重んじ尊んでいるからこそ、自分の意思で闇の世界にいる人間より『善き人々』を重視しているだけなんですね」

 

彼女は真っ直ぐ、滔々と語っていく。俺は、それを止めるでも反応を返すでもなく、ただただ聞くことしか出来ない。

 

「田上さん。私はあなたのひたすらに真っ直ぐ進む姿に憧れました。あなたの奥底に生きる善性に惹かれました。あなたの積み重ねた技術に魅せられました。でも、だからといってあなたに何かを求めるつもりはありません」

「……なに?」

 

何も求めない?これだけプロポーズ紛いな事を言ってきたのに?

 

「付き合ってとは言いません。隣にいて欲しいとも言いません。抱いて……は、まあ欲しいですけど、強請ったりは決してしません」

 

抱いて欲しいのかよ、というツッコミは、彼女の真剣な眼差しに呑まれて出来なかった。一拍おいて、氷室花蓮は最後の言葉を紡いだ。

 

 

「私が、アナタの隣にいます」

 

 

「―――――ッ」

 

思わず、息を呑んだ。

 

彼女はそれを言って口を閉じた。言うべき事を全て言い切り、後は俺の答えを待つだけといった感じだ。

 

対する俺は、彼女の言葉を咀嚼するのに必死だった。真っ白になった思考の中で彼女の言葉の意味を把握し、その裏に隠された意図を探ろうとして、その疑心を喜びが満遍なく上塗りしていく。

 

「はぁ……参ったな」

 

数秒熟考し、俺は溜め息を吐きながら頭を掻いた。呆れて物も言えないとはこの事だ。何で俺なんぞにそこまで惚れ込むのかねぇ。まあ一番呆れてるのは、今の言葉を聞いて内心舞い上がってる俺に対して何だが。

 

「お前の気持ちに応えないかもしれないぞ」

「はい、わかってます」

「お前の事守る何て、口が裂けても言えない人間だぞ」

「ええ、覚悟の上です」

「お前以外の女抱くかもしれないぞ」

「それ、は……我慢します」

「おいおい」

「だって……」

 

頬を僅かにむくれさせ、彼女は視線を逸らした。その様子は、嫉妬で拗ねている女の子そのものだ。

 

「全く……」

 

どうしてこうなったのやら、と思わず呆れる。一度肉体関係持ってここしばらく一緒にいただけでこれって、少しちょろすぎじゃないか?まあ、結局俺も同じ穴の狢な訳だから、コイツの事ばかり言ってもいられんか。

 

もう一度だけ溜息を吐いて、俺は彼女の告白に応えるべく、頬に手を添えてこちらを向かせたうえで、顔を近づけた。

 

()()

「え? あ、えっ今……んっ……」

 

動揺を見せる花蓮の唇に唇を重ねる。快楽を貪るためではなく、心が繋がるための触れ合うキス。永遠のような刹那触れ合った唇は、名残を留めることなく離れていった。態度だけでなく言葉でもちゃんと心を伝えるため、俺は口を開く。

 

「俺は自分の命が大事だから、お前が一番大事だなんて歯の浮くセリフは言えない。カッコ悪い所も酷いところも一杯見せるだろう。もしかしたらお前のこと待たずに先に進むかもしれない」

 

だから、と一拍置いて。

 

「そんな俺でもいいなら……隣に立ってくれ」

 

そう、言った。

 

「はい、宗次さんっ!」

 

そう返した花蓮の顔は、咲き誇る華のような笑顔に彩られていた。

 

 

 

「さて、宗次さん」

「はいはい」

「これで私たち、謂わば共犯者のような関係ですよね?」

 

……共犯者か、中々言い得て妙だな。恋人や愛人等では決してないが、仲間というには想いの重量が違う。ただそれでいいのかお前?

 

「まあ、うん。そういうことになるのかな?」

 

とりあえず、間違ってはいないのでそう返した。すると花蓮は、にっこりと嬉しそうに笑った。

 

「じゃあ、キシリアとどういう関係に()()()()()のか、教えて貰えますね?」

 

…………え、ちょっと待って怖い怖い!嫌な汗ブワッて出た!これ共闘とか依頼とかじゃない部分最初から聞いてる!ていうかバレてるよこれは!女の勘とか言ってましたねそう言えば!

 

「宗次さん……?」

 

スゥッとこっちににじり寄って身体を擦り付けてくるけど、こんな状況じゃ立つものも立たんわ!やっべ、怖くて肝っ玉が冷えた……!

 

「むむ、話してくれませんか、そうですか……」

「ん……?あれ、花蓮さん……?」

「何ですか?」

「いやあの……何でそんなところに座ってるんですか……?」

 

不服そうに何事かを呟いた花蓮は、何故かベッドから降り、俺の足と足の間にぺたんと座ったのだ。こ、この股の間に座る姿勢、もしや……!?

 

「正直に話してくれなさそうなので、身体に聞こうと思いまして♪」

「さっき強請らないって言ってなかった……?」

「これは性行為ではなく、被疑者への尋問です。さあ、早々に吐けば減刑もやむなしですよ」

「ヒエェ……二回目から尋問プレイとかマニアック過ぎるよぉ……」

「ちっちちち違いますっ!しつれいなこといわないでいただけますかっ!?」

「図星じゃねえか」

「ええいお黙りなさい!きっちり尋問しますから、キビキビ吐けばいいの!」

 

顔を真っ赤にしながらそう叫ぶと、膝行で前へすすっと進み、座り易いようにと咄嗟に開いてしまった足の上に手を置いた。こいつ、口でする気満々だよ。

 

……まあ、俺の愚息も有頂天なわけなんだが。そりゃ、花蓮のような美少女が股の間に跪いてたら、めちゃくちゃ興奮するだろ。誰だってそうする、俺もそうする。

 

初めてであろう行為に恥ずかしがりつつも、これからする事に悦びを隠せず口を緩やかに歪ませる花蓮。何を言っても止めないだろうし、もう俺も止める気はないのだが、ひとまず彼女へのご褒美……というよりは感謝として、とある事実を伝えることにした。

 

「なあ、花蓮」

「……何ですか。何を言おうが、やることは変わりませんよ」

「いや、言い忘れてたことがあった。さっきみたいなバードキス、キシリアにもしたことなかったわ」

「………………そんな事言ったって、何とも思わないんだから。もうっ」

 

緩んだ口元を隠しきれないまま何でもないように言った花蓮は、勢いのまま俺の股間へと顔を埋めるのだった。

 

 

 

……えっ、ジッパー口で開けんの?

 

 

 




*氷室花蓮が田上宗次の攻略に成功しました。
あれ、主人公ヒロインみたいに……あれ?

気が付くと宗次君が花蓮に口説かれる流れになってました。まあ宗次君からは絶対にアプローチしないから、仕方ないね。
ちなみに、ギャルゲー風に言うと花蓮はフラグをちゃんと回収して正解の分岐を選んだ状態になります。最初で最後のルート分岐、というか絶対条件は『宗次の本質や願いを理解したことを示した上で隣で生きる事を宣言する』です。例えどんなに世界や周囲を嫌悪したところで、今まで普通に暮らしていた一般人が百年の孤独に耐えられるわけがない、というのが作者の考えです。

まあ何はともあれ、花蓮が正ヒロインになった所で序章っぽいものは終了、次回から第一章に入ります。遅筆なの差し引いてもここまで長かった…。プロットは大体出来てるのに手が追いつかねえよぉ。

せっかく復刻したのに、舞さんURでねえ…何でピックアップしてねえのに雪代操出るんや……


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To The Beginning

少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます!間が空いてしまいすみませんでした。中々書く時間が作れず、前回から時間が経ってしまいました……

投稿できる本数は少ないと思いますが、本年もよろしくお願いします!わざわざ感想で新年のあいさつしてくれた方がいて、実は結構嬉しかったり。

あ、今回もそういう描写あるので、苦手な方注意です


第一章 歌姫は月下に踊る

 

 

 

―――私が目覚めた時、私は他者の欲望によって生み出されたことを自覚した。

 

―――真っ当な生まれ方をせず、一片たりとも自由を持たず、ただ望まれるが儘に力を使った。

 

―――それでも私は、結局彼らの呪縛を破り飛び立つことを選んだのだ。

 

 

 

 

私は誰だ……。

 

 

此処は何処だ……。

 

誰が生めと頼んだ。

 

 

誰が造ってくれと願ったっ……!

 

 

私は私を生んだ全てを恨む……!

 

 

だからこれは、攻撃でもなく宣戦布告でもなく……!

 

 

 

私を生み出した人類(お前達)への、逆襲だ―――!

 

 

 

△ ▼ △ ▼

 

「いやあ、やっぱミュウツーは傑作やな」

「なんで私たち、ポケモン見てるんですか……?」

 

花蓮と比翼連理の誓いを立てた数日後の日曜日。たまの休日を満喫しようと俺の部屋でのんびりと過ごしていた。所謂お家デートという奴だな。俺そこら辺はさっぱりわかんねえけど。

 

ぶっちゃけ特にやりたいことが出なかったので、ひとまず休養しようということになり、ただ部屋でのんびりだべるのもあれなので映画でも見ようということになった。そして勿論、それだけで済ませる俺ではない。

 

「ふむ、70点だな。大方間違いはないんだが、固定が緩い部分が多い。はいやり直し~」

「むむむ……中々手厳しいですね。いい線行ったと思ったのですが……」

「俺なんざ銃の分解やら構造把握やら一月掛かったんだから、それよかずっと早いよ。クッ!これが生まれ持った才能の差か……!」

「ひん! ちょっと宗次さ、急に胸揉まないで……ゃんっ」

 

現在花蓮は、俺の指導の下銃器の解体・組立の訓練中だ。装備課に調達させておいた突撃銃や拳銃、PDW [Personal Defense Weapon] などをネジ一本までひたすら分解しては組み立て直しているのだ。ちなみに花蓮名義で発注したら一切の不足なくすぐに用意された。くそかな?

 

勿論、新品の武装をただ酔狂でバラしているわけではない。自分が使用する武器がどのような構造・原理で動作しているのかを身体に叩き込み、敵対した場合の特性を理解するためだ。

 

対魔忍含め、この世界の連中は弾丸が有効打にならないためかどうも銃火器の脅威を軽んじている傾向があるが、それは致命打にならないわけじゃない。肉を抉れば痛みもダメージもあるし弾丸が頭蓋を抜けば殺せる。見切られるのであれば避けられないほどの弾幕を張ったり探知出来ない超長距離から狙撃したりやり様は幾らでもある。結局のところ使い方だ。

 

戦闘スタイルに銃火器を組み込むにしろ組み込まないにしろ、どういった特性なのかを知らなければ必ず足を掬われるだろう。一番厄介なのは強大な力を持つものではなく、『殺し方』を弁えている人間だと俺は知っている。

 

まあそんなわけで、銃を学ぶ初歩として、現在座学による知識と構造把握を並行して叩き込んでいる最中なのだ。何時も俺が付きっ切りで警告出来るわけではないから、非常事態においても自分で対処出来るようになってもらわなくては困る。

 

「それに、ちゃんと分解の仕方を解ってれば色々便利だからな。映画みたいに、戦闘中にバラして武装解除とかも出来るようになるかもよ?」

「へえ、それは確かに便利そう。宗次さんは出来るんですか?」

「技術的には出来るはず。近接戦とか怖いからしないし、そもそもそうなる前に仕留めるか逃げるんで使うことないけど」

 

俺の能力から考えて、わざわざ接近戦するメリットないからなあ。そんな場面に遭遇する前にとんずらするし。どこぞのザ・ボスみたいにCQCで銃奪い取って分解する何てロマンあるけど、実際やるの怖いしなぁ。

 

「さて、ミュウツー終わったし次何見るかな~。続けてルギア見るか、敢えて実写映画に行くか……花蓮はどっちがいい?出来れば見たことないのがいいんだけど」

「あの……映画はまた今度じゃ駄目ですか?」

「駄目。何のために一辺にやってると思ってんの。映画鑑賞と銃器分解を同時に処理して、並列思考を鍛える訓練でもあるんだから」

「最初からハードル高くないですか!?」

「高かろうがやるんだよ。異能とかでそういうこと出来ないなら、自力でやれるようにしないと。俺も、やったんだからさ(ニッコリ)」

「ヒェェ……」

「まあほら、愛情の裏返しだと思って。さあ!最低限二つは並行して思考出来るようにしようね!」

「クッ!そう言われるとやる気が出てしまう自分が憎い……!」

 

何か悔しがりながら嬉しそうににやけるという高等技術を披露しつつ、花蓮は再び作業に戻る。さて、俺も花蓮の訓練メニュー考えねえと。あ、でもその前に次のDVDセットしなきゃ。

 

『ピロピロピロピロゴーウィゴーウィヒカリーヘー!』

 

「……何ですか、その着信音」

「俺にとって地獄を意味する相手だから、せめてもの鬱憤ばらししようかと……」

「ちょくちょく陰湿ですね」

 

うっせ、と返しながら某アニソンを垂れ流す携帯を手に取る。くっそ、画面見たくねえなぁ……いや着メロの時点で誰か分かるけどさ……。

 

スマホを手に取ると、そこには当然のように『校長』の文字。そう、井河アサギからの電話である。この人からの連絡って、吉報であった試しがないんだよねぇ。心底拒否感を滲ませながら、嫌々電話を取った。

 

「はい、もしもし……」

『もしもし、宗次君?私よ』

「番号登録したんだから分かりますよ。で、ご用件は?個人的に、何もないと嬉しいのですが」

『あらそう?じゃあ残念、任務よ』

 

ですよねー! どうせそんなことだろうと思ったよ! やだなぁ、最近校長から回ってくる任務って大抵面倒なもんばっかなんだよなぁ!

 

『それで、任務について説明するから、校長室まで来てくれない?』

「……何時ですか?」

『この後すぐがいいわ。()()()も切羽詰まってるみたいだから』

「向こう……?」

『それについても後で纏めて話すわ。これそう?』

「…………はい、大丈夫です」

『間が凄いわね……出来るだけ短時間で終わらせるから安心して? それじゃあ、待ってるわ』

 

そう言って、電話は切れた。

 

「……どうでした?」

 

作業の手を止めて、花蓮が心配そうに話し掛けて来た。まあ、こんだけ苦そうな顔してたら心配にもなるわなぁ。

 

「任務だそうだ。この後校長室に出頭してくる。短時間で終わるって言ってたし、そのまま任務ってわけではないと思うが……」

「……そうですか。私なら大丈夫ですから、行って下さい。せめて、あなたが傷付く事のないものであることを祈っています」

 

そう言って、花蓮は柔らかく微笑んだ。どうやら、俺の考えは見透かされていたらしい。せっかくの休日をふいにされて寂しいだろうに、任務を優先するあたりやはり真面目と言うべきか。

 

ならば、俺が言うべき言葉は一つしか残っていないな。

 

「それじゃあ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 

「あ、次の映画シンゴジラ入れとくから」

「なっ!一番気になって集中出来ないやつを!ちょまっ宗次さん?宗次さん!?」

 

 

△ ▼ △ ▼

「来てくれてありがとう。休日に呼び出しちゃってごめんなさいね?」

「いえ、お気になさらず。それで、本題は?」

 

校長の謝罪に社交辞令を返し、さっさと要件を済ませようと先を促す。許すつもりはない、と言う俺の言外の意思に苦笑してから、真剣な表情に切り替える。

 

「今回の任務は、米連との共同作戦よ。本日未明、彼方から打診があってね」

「……共同、ですか」

「ええ、そうよ。 ……ああ、貴方米連と共闘するの始めてだったわね」

 

そう。米連の一部機関と結託している俺であったが、実は合同で作戦を行った事は一度もなかったのだ。米連と手を組むような重要な任務とかやったことないからなぁ。尚、罠っぽかったら逃げる。

 

「向こうが提示した作戦内容は、暴走したガイノイドの捕縛もしくは破壊。確保が難しいと判断した場合破壊しても構わないそうよ」

「暴走した、って。あっちの不手際押し付けようとしてるだけじゃないですか。こっちが話受けるメリット何てないでしょうに」

「戦闘用の装備一式を持った軍用モデルだそうよ。民間人に被害が出る前にって言われたら、乗らない訳には行かないわ」

 

成る程、此方の性質を上手く突いてきたわけだ。

 

本当ならば、今回の件は完全に米連側の汚点であり、放置して後々追求するための材料にするべきだ。民間人への被害も、出れば出るほど此方の有利になるだろう。しかし、あくまで日本の守護を掲げている対魔忍は無辜の民に出る被害を無視する事が出来ないのだ。何時暴れるとも解らぬ兵器が野に放たれている現状を、黙視することなど最初から選択肢にないと言っていい。

 

「一応、今回の経費は全部彼方持ち。更にノマド系列のフロント企業に関する情報も提供するという条件付きよ。断って下手な事になるよりは、作戦を受諾して此方の監視下に置いた方がメリットが大きいと判断したわ」

「是が非でも協力を取り付けたいのが透けて見えますね。わざわざ不祥事晒して、情報売ってまで」

「対魔忍としての特化戦力を望んでいるのは明白ね。何せ、対上級魔族戦を想定して開発された戦闘特化型のガイノイドだもの。特殊部隊と言えど、只人の手には余る相手ね」

「……そこまでヤバい相手を、俺が?」

「ええ。あなた一人よ」

「What are you saying(何を言っているんだお前は)?」

 

対上級魔族戦用だって?聞いてないんですけど!?どう考えても俺の手に余る相手じゃないか!さては頭悪いなこの女!

 

「言いたい事は重々承知してるわ。でも今回、米連側は一部情報を隠匿しているみたいなの。はっきり言って、罠の可能性も捨て切れていないのよ」

「それならなおのこと、俺じゃ駄目じゃないっすか」

「罠を食い破るなら他にも適任はいるわ。でも今回は米連側の特殊部隊と足並みを揃えられないと駄目なのよ。罠じゃなかった場合、それほど目標は強敵ということになるもの」

 

つまり、「騙して悪いが!」系の罠なら突破しなければならないが、そうでなかった場合も任務を遂行出来る人材が必要と。いやまあ、脳筋で唯我独尊してる対魔忍が米連の部隊と仲良しこよしなんて出来るわけないけどさぁ?

 

「致命的な罠を的確に嗅ぎ分けられる判断力と必ず逃げ延びる生存能力があって、尚且つ常人で構成される部隊と歩調を合わせられる対魔忍。間違いなくあなたが適任だわ」

「……歩調合わせられても、敵に対処出来なきゃ意味ないのでは?せめて、一人か二人人員の追加を求めます」

「駄目よ。だってあなた、いざとなったら見捨てて逃げるでしょ?」

 

よくご存知で。

 

「捨て駒にされる可能性があるのに人員は割けないわ。どうせ一人で撤退出来る手筈は整えるのでしょ? 最悪、情報を持ち帰るだけでも構わないわ」

「はぁ……」

 

何だろう、どんどん退路を断たれてるような気がする。まあ、これが任務である以上「やりませんっ!」とは言えないんだけどさ。何だかなぁ……。

 

「安心して頂戴。いざという時の保険は此方で用意するわ」

「保険? それ、どんなんだか聞いていいですか?」

「言ったらあなた、丸投げする方法考えるじゃない」

「よくご存知で」

 

もう一度、更に分かりやすく溜息を吐いてからソファーから立ち上がる。今回の相手は手強いからな、さっさと準備始めないと。いざとなったら鷲田使うか。

 

「明日、作戦のブリーフィングが行われるわ。この住所に向かってちょうだい。その後はあなたに一任するわ。指揮権はあちらにあるから自由度は低いけど、あなたなら何とでもなるでしょう」

 

校長はそう言って、一枚の紙を寄越した。二つ折りの中を見れば、都内某所にある雑居ビルの住所が記されていた。

 

「了解しました。他に連絡事項は?」

「ないわ。戻って大丈夫よ」

 

返答を聞いて俺は軽く頭を下げ、退出すべくドアへと足を向ける。ドアノブに手を掛けた所で、後ろから校長の声が耳に届いた。

 

「苦労掛けて、ごめんなさいね」

 

その言葉に、思わず苦笑を漏らして。

 

「そう思うなら、もっと他の奴頑張らせて下さいよ」

 

それだけ言って、俺は校長室を後にしたのだった。

 

△ ▼ △ ▼

「あ、おかえりなさい」

 

部屋に戻ると開口一番に、花蓮の言葉が俺を出迎えた。誰かにおかえりって言われるの、相当久々な気がする。

 

「……おう、ただいま」

 

口元が微かに弛むのを自覚しつつそう一言返して、俺はベッドに飛び込んだ。重みでスプリングが軋むように音を立て、緩やかな振動が返ってくる。

 

「言ったとおり早かったですね。お疲れのようですけど」

 

続けて、今度はキシ……と軽めの音がなりベッドが僅かに上下した。目線だけ其方に向ければ、花蓮が浅くベッドに腰を下ろしているのが見えた。

 

「別に疲れているわけじゃないんだが、これからの事を考えると憂鬱でな……些か面倒な任務が回って来たから、後々ついて回るだろう苦悩に対する感情を今のうちに発散しておこうかと」

「また器用に面倒な事を……それに、任務を面倒がってるのは何時もの事じゃない、もうっ」

 

それもそうか、と納得していると、頭を撫でるような感触。

 

「……何してんの?」

「え? あっすみません。疲れているようだったので、つい……嫌でしたか?」

 

そう言いながらも、彼女はその手を止めない。壊れ物を扱うように優しく、慈しむような丁寧さで、白魚のような細い指で俺の輪郭をなぞっていく。まあ、悪い気はしないな。

 

「別にかまわな……いや、もう少しそのままで」

「……意外でした。宗次さん、もっと意地張って『やりたいならやれば?』とか言うものかと」

「男のツンデレとか誰得だよ。せっかくの好意だし、甘えておこうかと思っただけさ。どうせ明日からまた仕事だし、これくらい罰は当たらんだろ」

「ふふっ、それでは遠慮なく」

 

どんな任務があるのか、何て事は聞いてこない。対魔忍は国家直属の極秘部隊、例え隣に座っていようと互いがどんな任務に従事するかは知らないのが当然。機密事項である作戦内容は井戸端会議のネタではないのだ。

 

これからは、肩身の狭い米連部隊との顔合わせに情報収集と武装の確認、逃走経路や保険の準備などやることが山積みだが、今この瞬間だけは、穏やかな時間が流れている。

 

飽きずに何度も髪を撫でる柔らかな感触を享受し続ける。が、そこで少しだけ。本当に少しだけ、悪戯心が鎌首を擡げてきた。俺は、バレないようにそろり、そろりと腕を伸ばし、布地一枚にも守られていない無防備なふとももを羽根で触れるが如く撫ぜた。

 

「ひゃんっ」

 

目論見通り、油断しきっていた花蓮の口から嬌声が漏れた。可愛らしいその声に俺の口角は思わずつり上がるが、花蓮は恨めしそうな視線を向けてくる。

 

「そ~う~じ~さ~ん~?」

「はははっ、すまんすまん。生足に誘われちゃってつい」

「つい、じゃないでしょ!もうっ」

 

そう笑って謝りながら、俺はさわさわと手を動かし続けた。

 

「いやね、駄目だって言うのは解ってるんだよ。でも目の前に新雪の如く白くてシミ一つない綺麗なふとももあったらさ、触りたくなるのは当たり前じゃん?しかもミニスカートとニーハイだよ?ニーハイに締め付けられて逆に肉感的に強調された絶対領域がスカートの端からチラチラ覗かされたらさ、そりゃ我慢なんて出来るわけないっしょ!」

「ひ……ゃあっ。ちょ、っと……だからさわひぅ!る、やめぇっ」

 

肌感覚が敏感な花蓮は、こうして軽く撫でてやるだけでこうも容易く喘ぎを聞かせてくれる。もっとあちこち弄って反応を楽しみたいところなのだが……響くような嬌声聞いてたら、こっちも滾ってきてしまった。ちょっと我慢出来そうにないな……っ。

 

「花蓮、こっち向いて」

「はぁ……はぁ……自分で始めておいて、勝手何だから……んむっ」

 

伏していた身体を起こし、花蓮の両手首を掴んで退路を断つ。俺の表情で全てを察したのだろう、花蓮は自ら顔を近づけ、唇を重ね合わせた。

 

最初は柔らかく瑞々しい唇の感触を味わい、次いで互いに舌を差し出す。時に彼女の口腔を舐め回す舌に彼女のそれが追随し、時に花蓮の舌が俺の口の中でぴちゃぴちゃと絡みつく。

 

手首を掴んでいた手はいつの間にか花蓮の指と絡み合っていて、肢体を密着させながら部屋に淫らな水音を響かせる。

 

「ちゅ……あむっ。じゅる……ぇろ、れぇ……」

 

どれだけそうしていただろう、しばらくして、どちらからともなく顔を離した。一時足りとも離れるのが惜しいと言わんばかりに最後まで伸ばされた舌の間に銀色の橋がかかり、服の上へと垂れ落ちる。

 

「……宗次さん、凄い事になってますね。服越しでもこんなに熱くて、硬い……」

 

抱き合うように密着していた俺のそれは、ちょうど花蓮の下腹部の上でその猛りを形で示していた。彼女は軽く身体を揺さぶって、自ら腹を擦り付けてその存在を感じようとする。

 

恥じらいながら控えめに、しかし淫らに雄を求めるその姿に我慢が効かなくなった俺は、その興奮を表すように少し乱暴に彼女を押し倒す。

 

きゃ、と可愛い悲鳴を上げた彼女に、俺は襲いかかりたい気持ちを必死で抑えながら声を掛ける。

 

「悪い、我慢出来なくなった」

「ふふっ、いいですよ。求められるって結構嬉しいですから。それに……」

 

そこで言葉を区切り、何故か腰を此方側へと突き出した。

 

疑問で首を傾げていると、花蓮の足の間に置かれた俺の腿に、ぴちゃりという音を立てて何かが触れる。そのまま花蓮が腰を前後させると「あっ……ゃん」という微かな喘ぎと共に、俺の肌へと少し粘着質な湿り気が届いた。

 

「……ねっ?」

 

…………こいつっ何てエロいこと覚えやがったんだ!?

 

「もーむりがまんならない。人のツボドストレートに突きやがって!どうなっても知らねえぞっ」

「どうぞ、私はあなただけのものですからっ」

 

艶やかに微笑む花蓮目掛に、俺は肉食獣のように猛然と襲い掛かった。彼女から繰り出されるアピールが悉く俺の急所に刺さりまくったせいで行為は翌朝まで及び、花蓮が腰砕けになってしばらく立てなかったことをここに記しておこう。

 

 

 

 




散々エロ書くの苦手とは言ってきたけど、今回ばかりは俺って天才なんじゃないか?ボブは訝しんだ。

というわけで新章開始です。俺たちはまだ登り始めたばかりだ、この果てしない対魔忍坂をよ……完結いつになることやら。プロットは大体できてんのになあ。

実を言えばRPG(X)のほうはあまりやってなかったのですが、何あのZEROアサギ可愛すぎね?あれがアレになってしまうのか…時の流れって残酷だな(遠い目)
気付いた時期が遅かったので、今からチケット4000枚とか無理だよ~と思っていたらまさかのドロップしました。いやーラッキーでした。福袋ガチャのほうは自然引いてSR三枚抜きしたんですけど、何故かイングリッドさん二枚という悲しみ。ちゃうねん、お前もう持ってんねん。確認したらこれでスキルLV4やねん…まあもう一枚凛花だから大満足なんですがね。(雑談にかこつけたただの自慢)

それと、しばらくは投稿できないかもしれません。卒論が目前に迫っているので、書いてる暇ないかもしれないです。まあ一か月一本ペースだし、たいして変わらないかもしえませんが。あと、ご褒美回やったら必ず現れる「18禁にしては?」コメントにはこれから反応しないので、そこんところよろしく。ギリギリがいいって言ってんだルルォ!?

まあそんなわけで、本年もどうぞよろしくお願いします!


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