GAMERA-ガメラ-/シンフォギアの守護者~EXTRA~:番外編&コラボ外伝集 (フォレス・ノースウッド)
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草凪朱音の勇者御記~戦姫と勇者の二重奏XDU外伝~
序曲―たびだち


コラボするきっかけは、アウスさんに朱音のイラスト化をリクエストしたところ、向こうからゲスト出演させて欲しいと言う熱烈オファーがございまして、こうして朱音も『戦姫と勇者の二重奏XDU』に出演することになりました。


 千葉県の北部中央の内陸部に位置する成田市。

 県の産業中核都市であり、日本全国でも指折りの、神仏の霊験あらたかな霊地に恵まれたこの地の、本日の晴天なりなりな田園風景の中を、一台のバイクが走っていた。

 プロミネンスレッドカラーな大型クルーザーバイク――ワルキューレウイングF6D。

 それを駆る、赤色のキャミソールと袖まくりさせたブラックチェックシャツに、濃い色合いのスキニージンズな、アメリカのハイスクールの女子がしていそうな服装(かっこう)で、黒とオレンジのジェットヘルメットを被り、オクタゴンタイプのサングラスを掛け、首に〝勾玉〟を下げている少女。

 バイクは、少女の行き先の目的地に到着した。

 市が経営する大規模霊園。

 その敷地内の駐輪場に、バイクを止め、ヘルメットを外して首を振り、夏の陽光でくっきりとエンジェルリングが巻かれた、きめ細やかで艶の豊富な葡萄色がかっている美しい黒髪を舞い踊らせた。

 バイクから降りた少女は、双眸に掛けていたサングラスを取ると、レンズで隠されていた凛々しく大人びた美貌と、その美をより際立たせる本物の翡翠の如き光沢と透明感に彩られた翡翠色の瞳が露わとなる。

 私立リディアン音楽院一回生にして、人類を災いから守護する使命、〝最後の希望〟を背負ったシンフォギア装者の一人、草凪朱音その人だった。

 

 この時期に霊園の事務所によって設営されている出店から献花用の花束を買い、園内の置き場から水桶を拝借した朱音は、姿勢を正して、夏の日差しが照らされ、多くの蝉たちの鳴き声が響き渡りながらも、静粛な空気が漂う霊園の中を、足音も控えさせて慎ましく歩いてゆく。

 そして、彼女が供養に来た、今は故人である肉親らが眠る――墓(ゆりかご)に。

 

 

 

 

 八月一日の、この日。

 一年の四季の中で、余りにも短い夏の、最後の月の、始まりの日。

 釜蓋朔日――ご先祖の霊が、一時的に現世に帰ってくるのを迎えるお盆の始まりの日。

 そして、私の、草凪朱音と言う一人の人間としての自分の、転機と呼ぶには一変の度が過ぎた、天地がひっくり返るにも等しかった、日。

 つまりは私の、父さんと、母さんの―――命日。

 私立リディアン音楽院高等科、一回生(いちねんめ)の八月一日のこの日、私は弦さん――風鳴司令ら特機二課の了承を得て、父の生まれ故郷である成田市内の霊園にまで遠出に来ている。

 家族の、私を〝草凪朱音〟として生を授けてくれた父と母の、墓参りの為だ。

 炭素に果てた父と母の亡骸は今、この墓石の内で、静かに眠っている。

 墓石を水で清め、地元の農家が丹精込めて育てたと言うお供えのお花と、火を点けた蝋燭と線香を添え、持参してきた数珠を手に、目を閉じ、しゃがみこみつつお辞儀をして、合掌。

 合いの手を解いて目を開けた私は、その場から立つと。

 

「ごめんね………ずっとここに来てあげられなくて」

 

 胸に下げている、私が物心ついてから、初めてだったバースデープレゼントでもある勾玉(かたみ)を、握りしめる。

 実は、私がここに来たのは、八年前の葬式以来、久方振り。

 祖父(グランパ)は、多忙な俳優活動を送りながらも、毎年欠かさずプライベートで来日しては、お参りに来ていたと言うのに、私は長いこと頑なに………ここに訪れようとはしなかった。

 理由は………それこそ〝混濁〟って言葉が相応しいまでに、とても一つで纏められそうになくて、気持ちの整理が付くまでに、時間がかかったのだ。

 幼い身体と心に、ガメラとしての残酷で悲愴で過酷な戦いの記憶を抱える〝歪さ〟が、その情(こころ)の混濁に拍車をかけたと言ってもいい。

 なのに皮肉にも、勾玉に、かつて〝力(じぶん)〟が宿り、装者と言う形で〝最後の希望〟と再び相成ったことが、その整理の後押しとなってくれた。

 このことも、また〝ガメラ〟となることを選んだ私が背負う運命を見守る以外にない二人にとっては、より複雑な気持ちにさせるだろうけど。

 

「安心してほしいなんて………そんな〝無理〟は言わない……でも―――」

 

〝アサギ〟のように、勾玉を強く、包み込んで。

 

「救ってくれたこの命、無碍にはしないから」

 

 父と母に、私はメッセージを送った。

 

 

 

 

 墓参りを終えて、帰路に付く途中、朱音は水分補給の為、道路の脇に設置された自販機の前で一旦バイクを止めた。

 財布から数枚コインを抜き取り、ミディペットボトルサイズの抹茶入りグリーンティーを買い、喉を潤す。

 

「はぁ…」

 

 飲み終えて、仄かに色香を帯びた息を吐き、トラッシュ自販機の傍らに置かれたトラッシュケースにボトルを入れた直後、ポケットの中のスマートフォンが、着信メロディとバイブを鳴らした。

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 今、着信音にしている曲は、朱音の故郷の片割れアメリカで鮮烈なデビューを飾った新進気鋭のアーティスト――マリア・カデンツァヴナ・イヴのデビュー曲だ。

 

〝誰からだ?〟

 

 公私共々、友達知人には本日墓参りで遠出すると前もって伝えてある。

 だから今日ばかりは創世たちや翼からのお誘いは来ないだろうし、二課からなら、緊急出動だろうとそうでなかろうと腕に付けている専用端末(スマートウォッチ)から連絡が来るはずだ。

 まさか、夏休み直前は〝やり遂げてみせる〟と宣言したものの、当人にとってノイズよりも強敵に等しい大量の〝宿題〟に根を上げた響からのSOSではあるまいか?

 まあギリギリの時期に泣き着かれるより、今日の時点で救難信号を出してくれた方がまだ幸いだし、こっちは七月の内に翼と競争して完走済みなので、手の打ちようはある。

 

〝できれば、宣言通り自力でやり遂げてほしいけど〟

 

 そう内心呟きつつ、折り畳み式のスマホを取り出して展開し、画面を見る――筈であった。

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 ♪~~~♪

 

 ポケットの布地越しに響く音色に、サングラス越しの朱音の眉が顰められる。

 流れる着信音は、今設定している〝マリア・カデンツァヴナ・イヴのデビュー曲〟ではなく、全く聞き覚えのないものだった。

 デフォルトのメロディの一覧の中にありそうなシンプルで、しかし、どこか不安や不穏さも感じさせ、煽り立てるような、まるで災害の到来を報せる警告音を思わせる旋律な、電子音。

 手早くポケットからメロディが鳴りやまないスマートフォンを手に取る。

 画面を見ようと、端末を開いた瞬間―――音色は突如、鳴り止んだ。

 

「…?」

 

 身に覚えのない着信音が消え、朱音が首を傾げた刹那――

 

「なぁっ!?」

 

 朱音――ガメラにとって、宿敵も同然だった〝災いの影〟たちが、万物を切り裂く超音波の刃を放つ前触れに似た強烈な雑音(ノイズ)が、頭の中で直接反響され、瞠目される朱音の美貌が呻いて歪む。

 まともに立つのも難しくなり、膝が地に着きかけるも、足を強く踏みしめどうにか踏ん張っていた最中。

 

〝■■■■……〟

 

 脳裏にて、微かに、けれど朱音にははっきりと、ある声が聞こえた。

 

「今のは……」

 

 確かに耳にした佐生、雑音が止み、瞼を開けると―――翡翠色の瞳含めた彼女の五感は、新たな異変を目撃する。

 しとやかに吹いていた、夏の風が途切れ。

 ゆらめく草木も、流れゆく雲も歩みを止め。

 寿命間近の中、必死に恋歌を熱唱する多くの蝉たちの歌声が消え失せ。

 日差しとともに降り注ぐ、熱気さえ、感じ取ることができない。

 まともに聞こえるのは、朱音の声と吐息と足音だけ。

 

 世界が、音楽を奏でるのをやめて………〝静止〟していた。

 

 アスファルトのセンターラインにまで踏み出して、静止した世界を見渡していた朱音は。

 

「誰だ!?」

 

 背後から気配を感じ取り、振り向く。

 翡翠の瞳が捉えたのは、太陽に似た色合いの、光の球体であった。

 その球体相手に驚きはない。

 前世から〝超常〟と深く関わってきた彼女からすれば、今さら光球が漂っている程度、些末なこと。

 

〝何なんだ? この……感じ……〟

 

 朱音は、自分を見つめているように浮遊する光球に対し、上手く言葉で表現できない、奇妙な感覚に見舞われていた。

 ようやく思い浮かんだ単語が………〝共鳴〟と、〝郷愁〟。

 さらに朱音は、自身の胸部の皮膚から、微熱を感じ取った。

 その熱を発していたのは、今はシンフォギア――ガメラとなった勾玉であり、光球の存在に呼応するかの如く、マグマに酷似する光を点滅させていた。

 

「あ、待って!」

 

 光球は、その場から道路に沿って飛び去った。

 咄嗟に追いかけようとするが、朱音は駆け出す直前に踏み止まり、スマートキーを取り出してボタンを押す。

 バイクのエンジンが野太い音色を利かして起動し、跨った朱音は動作状況をチェックし、この静止した世界でも、愛馬がただの塊を化してないことを確認する。

 

「よし」

 

 グリップを回し、その場で未来から来たターミネートマシンよろしくアクセルターンし方向転換させ、光球が飛翔していった進行方向へと全速力で追いかける。

 ほどなく、目視できる距離にまで追いついた。

 

〝ついて来いと言うのか? いいだろう〟

 

 飛行速度を上げた光球に対し、朱音もさらにアクセルの出力を上げて猛加速し、静止した世界の渦中を駆け抜けて行った。

 

 

 

 

 

 光球が朱音を招いた行き先は、道路こそ舗装されながらも緑生い茂る山間部の、段数の多い石段が連なる鳥居の前で、光球は進行を止めて、滞空する。

 少し遅れて、朱音が駆るバイクも到着。

 見止めたらしい光球は、鳥居を通り抜け、石段に沿って先に進んだ。

 

〝八亀(やがめ)神社……〟

 

 ヘルメットを取った朱音は鳥居を見上げ、神社の名を心中呟くと、一礼しつつ、左足から鳥居を走り抜け、光球の後を追った。

 二段跳びで石段を駆け上がっていく。

 二つ目の鳥居が見え、その前の踊り場で、一旦足を止め、サングラスを外す。

 鳥居の奥のお社を注視する朱音は、サングラスのモダンを鎖骨に何回かとんとんさせると、先端を甘噛みした。

 

 

 

 

 

 手のサングラスを服の袖口に掛け、点滅を繰り返す勾玉を、手に取った。

 門前町として栄えてきた、日本でも有数の霊地でもあるこの地。

 スマートフォンにかかってきた着信音。

 あらゆる音楽が止み、静止した森羅万象。

 水先案内人らしい………光の球体。

 さすがにここまで体験してきた現象にアンサーを付ける術はさすがにない。

 だが、はっきりしていることは………幾つかある。

 

 球体を目にした時の、不思議な感覚の正体。

 その球体に、地球(ほし)の生命エネルギー――マナの血脈であるレイラインを繋ぐ結び目である神社の一角にまで案内されたこと。

 それと――

 ギャオスどもの超音波を思い出させられた雑音(ノイズ)の中から、聞こえた言葉。

 

 間違いなく―――〝助けて〟と言っていた。

 

 あの声の主が何者であれ、今この瞬間、大きな災いに見舞われようとしている〝誰か〟が、確かに存在している。

 なら……翼の言葉(いいまわし)を借りるなら、この先に何が待っていようと、だからとて―――踏み込まない道理は、ない。

 

 今度は一歩ずつ、一段ずつ、石段を登り、二つ目の鳥居を潜って、境内に入る。

 

「Now………God only knows what may happen(さて………鬼が出るか、蛇が出るか)」

 

 社と鳥居の中間に立ったその瞬間―――訪れた。

 

「来る」

 

 私が立つ地点の真上の天空から、一点の光点が煌めいたかと思うと、花吹雪状の粒子が舞う、虹色の光の奔流が、地上に降り注ぎ、視界は白銀一色に、染め上がった。

 

 

 

 

 

 閃光の輝きが少しずつ治まっていくのを、瞼で守られている瞳が読み取り、ゆっくりと慎重に、朱音は自身の目を開かせた。

 翡翠色の瞳が映し出した光景は、常識を当たり前に浸かっている者ほど、その常識を理性ごと揺らがせる、それはまた〝異界〟と表するには充分な、異様なる世界だった。

 

「いかにもな――〝魔的〟――だなここは」

 

 朱音は自分が読んだことのある伝奇小説の一単語を引用して、自身が身を置かされている異界を表現した。

 そこは、豊かと言う表現では物足りないまでに、色鮮やかな異空間であった。

 地上は、暖色にして多色の派手な色を帯びた、怪獣並みに巨大な草や葉や枝や幹や根で張り巡らされ、埋め尽くされており、無数の花びらたちが飛び交っている。

 空もあらゆる色が混在して模様となり、雲の如く絶えず絵柄を変化させ続けていた。

 前世も現在も、超常と呼ばれる側にいる朱音は、冷静に、派手めの配色の〝樹海〟じみた周囲を一通り眺め終え、勾玉を見る。

 ほんの少し、輝きを発していた。

 

〝反応していると言うことは、やっぱりここは………〟

 

 この異界(じゅかい)が、自身とも縁深き地球のエネルギー――マナを糧にして形成された〝結界〟であると彼女は悟り。

 

「そろそろ、私をスカウトした理由(わけ)諸々を教えてもらいたいものだな――」

 

 背後から感じた気配の主、光球の名を。

 

「――ガメラ君」

 

 己と同じ名を、呼んだ。

 光球は、驚いた様子で宙に浮かんだまま、停止すると、光の形状を球体から変えていく。

 太陽色の球体は、人の掌に乗るほどのケヅメリクガメによく似た、口の両端に一際長い牙を一対生やし、腹部に独特の紋様が刻まれた、亀の姿となった。

 

〝か……かわいい……〟

 

 朱音は口を少々開けっ放しにし、煌めきが増した瞼をパチパチとさせて相手の亀の子を見つめている。

 ガメラだけあり、無類の子ども好きで、その対象は人間に留まらないこの少女は、一時、一言で表すと〝きゅん〟とした心境になりかけたが、現況を思い出し。

 

「こほん」

 

 咳払いで雑念を払いのけ、気と精神を取り直す。

 

「きゅう?(どうして……僕もガメラだと?)」

 

 これから自分の正体を明かす気であった、姿小さき〝ガメラ〟は、真っ黒でつぶらな、朱音と負けず劣らずの光沢を放つ瞳を相手に向け、首を傾げて鳴き声と一緒にテレパシーで朱音に問いかけた。

 

「ほとんど私の勘みたいなもの、でも〝多次元宇宙〟が現実に存在している以上、私が今生きているのとは異なる世界どこかにも、ガメラがいると前々から思ってたものでね」

 

 境遇上、朱音はガメラとしての記憶が蘇ったその瞬間から、主にSFやファンタジー、アメコミに特撮ヒーロー等で用いられる多次元宇宙――マルチバースが実在すると知っている。

 ゆえに実際に対面するまで、異世界のガメラが存在する可能性を抱いていたので、良い意味で驚きはなかった。

 

「それで、お互い見てくれは違ってもガメラだ、君のことはどう呼べばいい?」

「(僕のことは、トトって呼んで)」

「トト?」

「(僕を育ててくれたある男の子から、付けてくれた名前なんだ)」

 

 どうもこのトト、生まれてから暫くは、人間の少年が親代わりに育ててもらった時期があったらしい

 

〝まるで、チビゴジだな〟

 

 心の内で、トトの身の上をそう表した。

 一瞬、自身と因縁が深すぎる〝柳星張〟の幼体も思い浮かびそうになったが。

 

〝奴とは断じて違うッ!〟

 

 と、一蹴した。

 

「ならトト、君は私をここに連れて来た依頼人(クライアント)の代理人(エージェント)とってことで、いいのか?」

「(うん、できれば勇者部の人たちに会わせる前に、ちゃんと説明しておきたいところ、なんだけど………)」

「気にするな、分かってる」

 

 静かに、目を瞑る。

 結界(ここ)に呼び出された時点で、とうに分かっていた。

 今は、自身が関わっている事態、状況の詳細を聞いている時間(いとま)が無いと言うことを。

 カッと、一度閉じた双眸が開く。

 鋭利さを増した切れ長の翡翠の瞳は、生命に絶望を齎す悪しき災いに立ち向かう、戦士の、そして――〝ガメラ〟の眼光を放っていた。

 

(トト、サポートを頼めるか?)

(もちろん)

 

 トトとアイコンタクトを交わした朱音は、殺気を剥き出しに、彼女の後ろから〝食おう〟と迫る白い異形の突進を、軽やかな動作で躱し。

 

「デェヤッ!」

 

 遠心の勢いを相乗させたカウンターの裏拳を、異形に叩き込んだ。

 速くも重い一撃に、異形は撃破とまではいかずとも、衝撃で吹き飛ぶ。

 首に掛けた勾玉が、光を帯び始めた。

 

〝Valdura~~♪(我、ガイアの力を纏いて――)〟

 

 が、異形はその一匹だけではない。

 真っ白な袋のような体躯に、触手と巨大な口を生やした異形たちが、次々と朱音に襲い来る。

 

〝airluoues~~♪(悪しき魂と――)〟

 

 対して、敵の攻撃を跳躍やステップで踊り舞う巫女の如く回避する――だけでなく、着々と眠れるシンフォギアを覚醒させる歌――聖詠を唱えながら、トトのサポートもあるとは言え、徒手空拳によるカウンターを当てていく。

 そして、歌声を紡ぐごとに勾玉の光は強まり。

 時にアッパー。

 時にムーンサルト。

 異形に、拳を、手刀を、蹴りを、実戦と鍛錬により磨かれた己が肉体から繰り出す技を当てる度、彼女の四肢は、炎状のエネルギーを纏った紅緋色のメカニカルな鎧(アーマー)が形成、構築、固着されていき。

 

〝giaea~~♪(――戦わんッ!)〟

 

 聖詠の歌詞を歌い切り、流麗な上段廻し蹴りを繰り出すと同時に炎は全身にまで行き渡った。

 炎は、彼女の、前世(かつて)の姿となり。

 

〝ガァァァァァーーーーオォォォォォ――――ン!〟

 

 大地を、空を震撼させる雄叫びを上げ。

 

〝Ah――――!〟

 

 詞の締めより繋げた、ビブラートを利かせた、前世(じぶん)の咆哮にも負けぬ力強い歌声を響かせながら、豪壮なる正拳を真っ直ぐ、突き出した。

 拳より、ガメラの握り拳の姿をした焔の弾が放出させ、異形らを複数一度に、そのおぞましい肉体を、塵の一片も残さず、焼き尽くし。

 同時に、朱音を起点に、全方位へドーム状の炎の衝撃波が迸り、周辺にいた異形たちを吹き飛ばした。

 炎の中より現れたのは、完全にシンフォギアを身に纏い、装者として、そして人として、生命を災いより守護する――ガメラへと変身した朱音の、美しくも勇壮な戦士の姿。

 

(増援も今こっちに向かってる、それまで持ちこたえて)

(分かった)

 

〝初戦から、物量戦とは……〟

 

 敵を射抜かんとする眼光を、群れる災禍どもへ突きつけたまま、守護者は凛と、歩き出した。

 

〝上等〟

 

 一歩、また一歩、悠然と、不敵に、果敢に。

 異形どもが、朱音めがけ迫る中、先陣を切って肉薄する一体目を。

 

〝sniktッ!〟

 

 握り拳の甲より出現させた三つの銀の爪(アームドギア)による、右薙ぎの軌道からの、炎熱の一閃で、切り伏せ。

 

〝~~~♪〟

 

 左手からも、同様の爪を伸ばし、六つあるニ爪で、襲い来る異形を次々と両断し、自らの心象(こころ)が奏でる戦闘歌を、戦場に轟かせる。

 数体の異形が、一つの巨体に融合し、突進するも。

 

「ハァッ!」

 

 掌の噴射口から発した炎で編み上げ、左腕に装着させたガメラの甲羅状の盾で、叩き払い、間を置かずしてその盾を投擲、敵の血肉を裂く。

 

〝覚悟しろ! その災い――〟

 

 右手から発した炎を、アームドギア――ロッドに変え、大地を蹴り上げ。

 

〝――我が炎が、打ち破るッ!〟

 

 走る。

 この樹海(けっかい)の外にいる、災厄を前に為す術もない、戦えない多くの生命の為に、災いの影たる群体へと、電光石火の如く、朱音――ガメラは、飛び込んでいった。

 

 

 

 

 こうして、ノイズ、そしてバーテックス、二つの巨大な〝災い〟に立ち向かう装者たちと、勇者たちの戦いに、草凪朱音――ガメラが、参戦した。

 

 

 

 

《戦姫と勇者の二重奏XDUに、つづく》

 

 




後半辺り、シンフォギアでもありゆゆゆでもありクウガでもありアメコミのウルヴァリンでもあり映画も公開されるワンダーウーマンでもあり、そんでガメラ3京都決戦でもあるととオマージュのごった煮になっちゃいました。

ちなみに劇中出てくる神社は成田市の実在神社モデルにしてますが架空のものなので注意を。


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8.5A-朱音の神世紀の一日 前篇

朱音のイラストを描いてくれましたアウス・ハーメンさんがピクシブで連載しているシンフォギアシリーズと結城友奈は勇者であるシリーズとのクロスオーバー小説『戦姫と勇者の二重奏』シリーズ最新作で、朱音も出演中の二重奏XDUでの第八話の前半パートを、ほぼ完全朱音視点で描いた外伝もの+本編では描かれなかった場面付きの映画で言うとエクステンデット版風となっております。
パートナーデ○モンポジとなったトト君との朝とか、放課後のガールズトークとか。
ちゃんとアウスさんからは前もって見せ合って了承を貰ってます。


 八月一日の、父と母の命日だったその日。

 私は平行世界の地球にて実在する神々の集合体――〝神樹〟――のお呼ばれを受け、その神樹様が生み出した結界(せかい)に呼ばれ、人類を抹殺しようとする天の神側に寝返ったと言う造反神が遣わした使徒――バーテックスどもからの手荒い洗礼を受け、かの世界を守護する別世界の響や翼たちシンフォギア装者と、そして勇者たちとともに立ち向かい、そして彼女たちに自らの前世、最後の希望――ガメラとしての自分を打ち明けるなどと言った慌ただしく目まぐるしく、恐らく生涯で最も長いものになるであろう一日を過ごした。

 それから、翌日。

 アラームの設定より早めに起きてしまった私は、日課の一つである早朝のトレーニングをこなし、偶然同じ目的で鉢合わせた、こちらの世界の翼と義理の姉妹にして、この世界のシンフォギア装者兼勇者でありリーダー格であり恩人でもある風鳴静音から色々と聞かされた後、当面の住まいである勇者及び装者用の寮の部屋から戻った。

 シャワーを浴びて汗を流し、ラジオを聞きながら朝食と昼食用の弁当を作って―――って、あらら……これじゃリディアン入学以来のいつもの朝と、余り変わりがない。

 でも、いつもと違うところもある。

 

(おいしそう♪)

 

 出自は異なるも、私と同じガメラ。

 メタな表現をすれば〝小さき勇者たち~ガメラ~〟の世界でのガメラであり、同じく神樹様からお呼ばれを受け、今は私の精霊(パートナー)となっているトトが、私の頭の周りをぐるぐる回って、調理中の風景を興味深く眺めている。

 

「よっと」

 

 フライパンの上のパンケーキを宙に放り投げる。

 くるくると回る回る生地を、私の目はスローで捉え、動きに合わせて反対側の面を鉄板に着地。

 うん、我ながら良い焼け具合。

 

(おおっ~~)

 

トトのつぶらな瞳は一際煌めき、拍手を送ってきた。

 

「もう直ぐできるから、トトはテーブルで待ってて」

(は~い)

 

 トトとはテレパシーで意思疎通もお手の物である。

 今日の朝は、パンケーキとスクランブルエッグと豆腐ウインナーベーコン巻きにシーザースサラダと、アメリカンにヘルシーさもミックスさせた組み合わせです。

 

「いただきます」

(いただきます)

 

私が合いの手をすると、真似する形でトトも合掌をした。

 

「お味はどう?」

(美味しいよ♪)

 

 今は人の身な私と違い、トトは人間の男の子に育てられていた頃のちっちゃなケヅメリクガメな姿なんだけど、トトからすれば大きい過ぎるスプーンやフォークを両手で器用に使って、美味しそうに食べている。

 はぁ~~なんと、可愛いのか……思わず掌に乗せて、ほにゃんとした自分の頬で頬ずりしたくなりそう。

 それに、他の誰かと一緒に朝食なんて、ほんと久しぶりのことだったので、その分いつもより私は笑みを浮かべた表情のまま、自分の作った料理を一際堪能して味わっていた。

 

 

 

 

 

(リディアンへの行く道って分かってるの?)

「ああ、大体はもう頭に入れてある」

 

 新品なリディアンの夏服に着替えて、勾玉も首に掛けた、準備を整えた私は部屋を後にする。

 トトとのやり取りの通り、私がこの世界にいる間も通う学び舎はかのリディアン音楽院ではあるのだが、諸々の事情で急遽四国の香川にて設立された分校の方である。

 弦さんこと風鳴弦十郎が司令を務める特機二課改め、国連直轄組織――SONGの本部たる潜水艦(いどうきち)も、近くの湾港で停泊している。

 エレベーターで寮一階のエントランスに出た私は、そのまま外に出ようとするが。

 

「………」

 

 ドアガラスの奥の光景を目にして、一度その場で立ち止まった。

 鏡を見なくても、自分の顔がしかめ面――grumpy face となっているのを自覚する。

 ここで立ち往生しても埒が開かないので、再び歩き出す。

 自動ドアを潜り抜けると、嫌な感覚(におい)がした。

 この匂いには覚えがある……一億年以上の眠りで摩耗した中での数少ない、ガメラになる前の、超古代人だった頃の記憶の一つ。

 あの……ギャオスどもを生み出した狂信者どもに似た匂いだ。

 

「お迎えに上がりました、草凪朱音様」

 

 背後の扉が閉まると同時に、白装束な神道の神事服に身を包み、仮面で顔を覆い隠した輩たちが、私に頭を深く下げてきた。

 見るからに現代(私のいた世界の年代より遥か未来ではあるが)の日常では異様な風体をしたこの者たちこそ、あの神樹様を祀り立て、管理していると言う組織――大赦の神官たちだった。

 

「出迎えを頼んだ覚えなどないのですが?」

 

 まともに応対するのも煩わしい気分になりつつも、一応口を開いて彼らに応対する。

 自分でも驚きたくなるくらい、響いた自分の声色は、酷く淡々と、低いものになっていた。

 

「それは承知しております、しかし我ら一同は、神樹様の命によりお越しいただいております来訪者の方々に、誠心誠意尽くすよう仰せつかっております故、何卒……」

「私がかつて、〝ガメラ〟であったと知ってのご対応ですか?」

「はい、朱音様のおっしゃる通りでございます」

 

 仮面を被ったまま、抑揚を極端に削り切った口調でへりくだる姿は、まるで賓客をもてなす様。

 なんて――不愉快。

 丁重で腰の低い物腰だと言うのに、私は彼らのその態度が、えらく癇に障った。

 鳴らしたことのない舌打ちまで、鳴らしてしまいそうになる。

 眉間がさらにしかめられ、あの先史文明時代の巫女――フィーネのように敵対しているわけでもないのに、ただの人相手に……ここまで不快を覚えたのは………あのギャオスを生み出した連中以来。

 しょっちゅう二課に圧力をかける政治家官僚たちや、響を含めたツヴァイウイングの最後となったライブに起きた大規模特災害の生存者たちに魔女狩り同然の迫害をしてきた連中にさえ、ここまで気分を害したことはない。

 

〝でも、それ以上に憤りを感じたのは大赦のやり方よ……〟

 

 朝方に見た、静音の、憤りと悲しみと無念にやり切れなさが複雑に絡み合った横顔と、ドスさえ利いた震える声音を思い出す。

 彼女がその時話してくれた、天の神が最初にバーテックスを遣わして世界を脅かし始めて、暦が西暦から神世紀に改めてからの、約三百年。

 人間としては何代にも渡る長い年月にて積み重ねられた〝影の歴史〟。

 どこの世界でも変わらない………人間たちの〝暗部〟。

 事なかれ主義と隠蔽体質に染まり切り、木々で言う根に至るまで、組織としては腐敗し、歪み切ってしまったと言う大赦の実態。

 そして何より、バーテックスとの、過酷の一言だけでは言い表しきれない戦いと、大赦の体質によって弄ばれ、人生を狂わせてきた勇者……いや、勇者の使命を背負うことになった年端のいかぬ子どもでもあった少女たちのことを思えば、とても彼らに嘘でもいい顔ができそうにない。

 一体この仮面の輩たちによって、どれほど少女たちの、血も、涙も、時には命までも流されてきたのか……想像するだけで嘆かわしくなり、憤りたくなる。

 

「静音様から、大体のお話は聞き及んでおりますのでしょう、貴方様が我々にそのような顔をなさる理由も、重々承知です」

「分かっているのですね、自分たちのやっていることが、どれほど非道に満ちていたか」

 

 仮面への鋭利な眼差しは変えないまま、口元を皮肉たっぷりの笑みに変えて私は言い返す。

 戦場は、そこに飛び込んだ者の心を蝕み、狂わせる魔物が潜む地獄だ。

 幼い命たちに、未来の命運を握らせ、戦士としてあの地獄へと誘わせることは、実際に戦場で命を賭ける当人たち以上の重責を背負うことになる。

 避けられぬ〝宿命〟、とでも言ってもいい。

 どちらの世界の、弦さん――風鳴司令ら二課及びSONGの人たちは重々承知し、未来を委ねざるを得ない自らの無力さをも噛みしめて、覚悟を決めて背負っていた。

 その上で、自分たちができる努めを、精一杯に果たしてきた。

 なのに………大赦(かれら)は背負おうとすらせず、目と耳を塞ぎ、口すらも閉ざしてきたのだ。

 私も含めた〝勇者たち〟への態度は、表面こそ丁重にもてなしているように見えるが、実際は違う。

 彼らが芯の底まで縋り切っている神の力をお借りして戦う彼女たちを、良く言えばバーテックスと同様に神の眷属、悪く言えば〝人でない〟者へと祀り上げ、腫れ物として扱っている。

 彼女たちだって、〝勇者〟である以前に……一人の人間であり、今の向こうにある〝未来〟そのものな〝子ども〟でもあると言うのに。

 私に向けてくる神官たちの仮面越しの眼差しだけでも、静音が語った詳説の数々が、紛れもない事実であると突きつけきて、私の口の中は苦味で一杯になる。

 これでは触穢思想に浸かり切り、武士となって武器を取らざるを得なかった者たちを汚らわしい存在と切り捨て、世が乱れていく様から目を逸らしてきた平安貴族と、何が違うと言うのか………。

〝人〟を心より愛しているからこそ、私はやり切れない思いになる。

 

「ええ……まぁ、我々はまだいい方です、上層部に行けば行くほどそのような感情すら抱く様子のないモノたちが多いものですから、お恥ずかしいことに……」

 

 ただ……幸いとも言うか。

 彼らの仮面の奥に、自分たちが積み重ねてきた行いの重さを理解し、そしてまだ良心を捨てずに持っていることが窺えた私は、ほんの少しながら安堵し、表情も幾分か和らいだ。

 逆を言えば、組織のピラミッドの上部に行けば行くほど………大赦に身を置く人々の心は壊死していく悲しき事実でもあるんだけど。

 大赦の次期代表候補として、険しい変革の道を進む静音たちの日々の奔走には深く敬服するよ。

 

「分かりました、今回はあなた方のご厚意を受け取りましょう」

 

 私は一応、彼らの厚意に甘えることにしし、用意された車両に乗り、リディアン四国分校の正門まで送ってもらった。

 

「あ、一つ、〝元神様〟として、忠告しておきます」

 

 校舎に入る前に彼らへ、生体兵器としても守護神としても、出来損ないだった私の、これまでの経験から培った言葉を伝えることにする。

 

「世界に神は実在していても、信者にとっての都合のいい神様などいない、いつでもその似合わない仮面と、暑苦しい神事服を脱ぎ去れるよう、覚悟しておくようにと、上の方々に是非お伝えください」

 

 こちらのブラックジョークに、組織内では木っ端の身の神官たちは何も答えなかった。

 元より一方通行になるのは承知で投げた言葉(たま)なので、気にはしない。

 けど、事務的にSONG本部のブリーフィング後の迎えの時刻を告げて会釈する彼らの姿をよく見れば、微かだけど狼狽えている様子が滲み出ているのが見えた。

 

 大赦本部へと帰還していく彼らを見送った私は、そのまま玄関で内履きに履き替えて校舎に入る。

 校舎内のどこに行っても多くの生徒が行き交うマンモス校な本家本校と比べると、やっぱり視界に入る生徒の数は少ない、高校生である装者と勇者含めて、全校生徒は百人にも満たないそうだ。

 元はミッション系スクールだった両方の世界共通のリディアン現校舎(二課の地下本部があった前校舎は、どちらの世界も終わりの名の巫女との戦いで倒壊、周辺地区は現在も立入禁止区域となって閉鎖されている)と比べても、明治から昭和初め辺りの西洋館風な分校の校舎は規模が控えめ。

 まあハイスクールに進学するまで、学業の大半をアメリカで送った私からすれば、日本の普通の高校に見える四国分校には、却って新鮮な趣きを感じられた。

 

「あっ……」

 

 気がつけば、自分が在籍するクラスの教室が目の前に現れていた。

 さりげなく、周りを見渡す、周りの生徒から奇異の視線は向けられていない。

 よかった………さすがに今回は、興が乗っちゃうと無意識に歌っちゃういつも悪癖はしていなかったので安心。

 異世界に来てまでやらかしていたらどうしようかと……でも屋上で歌う日課は止められそうにないね。

 だって、好きなものは好きなんだもん。

 歌が大好きで何が悪い!

 

「おはようデース♪」

「おはようございます」

 

 心中を落ち着かせて教室に入れば、早速朝の挨拶をかけられた。

 響とまた違った癖のある淡い金髪のショートカットに、×印の髪留めを付けた人懐っこさのある、ですますならぬ〝デスデス調〟な口調の女の子は暁切歌(あかつき・きりか)。

 メソポタミア神話に登場する戦いの神――ザババが使っていたとされる二つの武器の片割れ、〝碧刃――イガリマ〟のシンフォギアに選ばれた適合者である。

 

 私のよりも黒味が濃い黒髪をツインテールに纏め、前髪をいわゆる姫カットで切り揃えた、大人しそうな容姿に反して瞳に意志(ちから)が籠る女の子の方は、月読調(つくよみ・しらべ)。

 同じくザババ神の武器のもう一振り、〝紅刃――シュルシャガナ〟のギアの担い手。

 親友の仲な切歌とはある意味で、二人で一人の装者である。

 

「おはようございます朱音さん」

 

 少し遅れて教室に入ってきて一礼したのは、調くらい腰まで黒髪を伸ばし、ヘアバンドを付けた、瞼の筋が水平線で、雰囲気が似ている調以上に口数が少なそうな印象を受けるこの子は、星空英理歌(ほしぞら・えりか)。

 ケルト神話の太陽神ルーが所有していたと言う、〝貫くもの〟と意味する武器(槍か投石器かと諸説ある)――〝ブリューナク〟シンフォギアの使い手たる装者だ。

 

「三人とも、おはよう」

 

 こちらの世界のシンフォギア装者である三人に、私は彼女たちの、その名は偽名であり、真の名も生みの親の顔も知らず、一時は響たち含めた世界を敵に回し、今年で初めてまっとうな教育機関の学生となった〝境遇〟に複雑な思いを秘めつつも、晴れ模様な朝の陽気のまま挨拶を返した。

 今日から暫く、造反神との戦いの間は、この三人とはクラスメイトの間柄になる。

 

 

 

 

 

 

 あっと言う間に、今日が放課後まで進んだ。

 切歌たちと、こちらでは一つ年上な響と未来(なんとこちらでは彼女も勇者で驚いた)とで私たちは、SONGの移動本部へと向かっている最中だ。

 

「朱音ちゃん、こっちの世界の授業はどうだった?」

「特に問題なく進められたよ」

「はい、私たちもフォローしようと思ってたんだけど」

「いざノートを見たら、すんごい書きこまれてたデス」

「まあ、ここに来る前には夏休みの宿題も終わって、二学期からの予習もある程度してたし」

 

 リディアンは進学校並みの厳しい上に装者としてのお役目もあるので、余裕のある内に先んじてある程度予習しておいたのは幸いだった。

 

「え? 朱音さん、いつ頃こっちに?」

「八月一日だが」

 

 英理歌からの質問に応じると、私を除いた一同にどよめきが走る。

 内一人の切歌が両手で私の手を取り。

 

「ぜ、是非、私たちに勉学のお恵みをッ!」

 

 と、強く願い出てきた。

 確かに実質学校での学業一年目でいきなりリディアンでは、ハードルが高過ぎてか~な~り苦労しているのが浮かばれる。

 

「私も一緒に勉強するのは好きだから良いけど、宿題のコピー機になる気はさらさらないからそこのところよろしく♪」

「ええぇ!? どうしてバレたデスかッ!?」

 

 やっぱり、だと思ったよ。

 快く了承しつつも、切歌の言葉の裏から見抜いた意図、宿題の丸写しだけは、やんわりと笑顔で願い下げさせてもらった。

 

「切ちゃん……私たちから見てもバレバレだったよ」

 

 調もジーとしたジト目で親友の蛮行を咎めた。

 

「あの……朱音ちゃん、できれば私にもそのお恵みを」

「響、調子に乗らないの」

「はい……」

 

 あわや響までも便乗しそうになったが、未来が未然に阻止してくれた。

 装者とリディアンでの学業の両立に苦労しているとは言え、一応こっちでは一年先輩なんだから、さすがに年下の私に教えてもらったら先輩としての沽券が危うくなると思うよ、響。

 

「ごめんね朱音さん、そっちの世界の響からも色々苦労かけられてると思うのに」

「未来が謝ることじゃない、それに私のことは遠慮せず呼び捨てで構わないよ、何なら〝あやちゃん〟と呼んでもいい」

 

 つい、出来心のジョークでえっへんと胸張ってそう言ってみたら。

 

「じゃあ、私と調は遠慮なくそう呼ばせてもらうデース ♪ あやちゃん」

「うん、あやちゃん」

「…………」

 

 一瞬、私の全身が、意識ごとフリーズしてた。

 

「どうしたんデスか?」

「も、もう一回……言ってくれないかな?」

「はい? 分かったデス…… あやちゃん」

「うん、あやちゃん」

 

 あ、あやちゃん………あやちゃん………あやちゃんあやちゃんあやちゃん。

 はぁ~~~なんて、天に舞い上がるくらい、甘美で心地いい響きだろうか♪

 ある種の、神の恵みにも等しい歓喜が沸き上がる。

 ちゃんが付いたあだ名が………こんなにも心を、舞い上がらせ踊らせるものだったなんて。

 

 

 

 

 

 

「ふ、うふふ~~あはははぁ~~♪」

「ど……どうしたのだろう?」

「明らかにあやちゃんの様子がおかしくなったデス!?」

「恍○のヤ○デレポーズ?」

 

 ほわわんとした、しかしどこか実年齢離れした妖しい色香漂う恍惚とした色合いをした前代未聞級のオーラを顔の周りに纏って、両手を赤らめた頬に付けて微笑みくるくると踊る朱音に、調と切歌と英理歌はそれぞれの表現(リアクション)で突っ込んだ。

 

(朱音大人っぽい見た目のせいで、同い年の友達と一緒にいてもよく年上に間違われるらしくて)

 

 トトがテレパシーで、当人に代わって朱音のコンプレックスを説明すると。

 

(((あ~~なるほど)))

 

 一同は心中の声が綺麗に同時にシンクロするくらい、納得するのだった。

 

 ちなみに六人の身長は――

 響:157cm

 未来:156cm

 切歌:155cm

 調と英理歌:152cm

 朱音:169cm

 ――な上に、神樹の結界の中にいる間、肉体の成長はほとんど止まっている為、こちらでも朱音の発育が飛び級した自らの美貌に対する悩みが尽きないのは、確定しているのであった。

 

 

 

 

 

 いけない………危ないところだった。

 何とかトランス状態から戻ってこれた私は、内心新たな友達からあだ名で呼ばれる喜びも慎ましく味わいながら、みんなと一緒に引き続き基地へと向かいつつ。

 

「しかし、朝礼(ホームルーム)の時のある挨拶が気になったな」

「挨拶?」

「ほら、〝神樹様に拝〟をってやつさ」

 

 この世界では異邦人な身ならではの質問を、未来たちに投げて、実際に実演してみせた。

 教室の黒板の上に、神棚が立てかけられていて。

 朝礼と終礼の時に、起立、礼までは自分の世界のジャパニーズスクールと変わらなかったのだが、その次にイスラム教のお祈りよろしく人の世を天の神の業火から守っている〝壁〟のある方角へ向いて、『神樹様に』と合掌してもう一礼する流れがあったのだ。

 別にそれ自体不思議だとは思っていない。

 今朝静音に会った時も、彼女が勇者となってからの神樹様に対する〝日課〟をしていたのを見たし、アメリカのスクールでも、クリスチャンによる礼拝とか、似たようなのをよく目にしてきたからだ。

 私が気になっているのは、いわゆる一般市民たちの、神樹様への信仰の度合いである。

 

「あぁ~ソレ」

「神樹様のことは、静音さんから聞いてるんだよね?」

「ああ、何よりその神樹様に呼ばれてこっちに来たのだから、知ってはいるさ」

「神樹様は、この世界にいる私たちに生きていくための御恵みをくださっている、だからそのことに毎日感謝しなさいって意味が込められて、学校とか会社とかでの朝礼の時とかに〝神樹様への拝〟ていう習わしが生まれたって、小学校の社会の授業の時習ったんだ」

「なるほどね」

 

 未来からの説明に、私は頷いて納得を呑み込んだ。

 

「へぇ~……そうだったんだ~」

「デ~ス……」

 

 っておい、ちょっと待て待て待ちなさいよ、そこの君たち。

 境遇上、切歌はまだ分かるが、響まで感心してどうする?

 未来と一緒に、社会の授業でその習わしを習った筈だろう?

 

「もう響ってば……」

「いや~~そう言えば確かに習ってたね、忘れてたよ」

 

 これには未来も、後頭部を掻く響に呆れ顔になって溜息を吐かざるを得なかった。

 

「まあなんというか、みんなの反応を見る限り、神樹様への敬い方というのは、信仰と言うよりも、生活の一部に定着した風習って意味合いが強いんだな」

「どういうこと? 朱音」

「私の故郷の一つのアメリカじゃ、敬虔なくらいのクリスチャンたちは、もっと神様というモノを強く信仰していて、ライフスタイルとかその域にまで神様を持ち出すようなのもいたからな……それと比べれば、なんというか……」

 

 ぶっちゃけて言ってしまうと、なんて―――ゆる~い信仰心だろうかと、感心させられた。

 でもそうなると………私はある意味で外からの〝雇われ兵〟だから、出過ぎた関心だと自覚しているけど、静音からのあの話を聞いた後では気になってしまう。

 普通の日常を送る市井の人たちと、大赦の人間たちの間には、神樹様への信仰に関して、とても広く深く、奈落ができるほどの溝が存在していることを実感させられた。

 ある意味で、大赦の現状は………かの光の巨人のヒーローたちが、命がけで地球人含めた命を守ろうとしてきた上で、最も恐れている事態………いや、それ以上にもっと酷い状態に陥っているかもしれない。

 朝、神官たちに忠告した通り、信者たちに都合のいい神様など、いない。

 現に神樹様を構成している神の一部――造反神が盛大にクーデターを起こしたが為に、奏さんも含めたこの世界の過去の勇者と装者に、私までもが召喚され、全人類まるごと結界の世界に避難させなければならない事態に陥っているではないか。

 それに………静音たちの今までの戦いの記録を見る限り………この世界の地球は、かつて私がレギオン相手に禁じ手を使った後に、嫌と言うほどよく似ている。

 その上で、この状況。

 

 ということは、いずれ―――。

 

 まあ、今は造反神の侵攻を食い止め、奴に大半を奪われたこの世界を取り戻すのが先決かと、自分に言い聞かし、SONGの本部に入った。

 

 

 

 

 

 尚、夕方の港から本部に入る直前、こんなやり取りがあった。

 

「ところで」

「「「はい(デス)?」」」

「この潜水艦、特訓中に弦さんの震脚で風穴が開いて撃沈したことって、ないよね?」

 

 潜水艦に指さした朱音からのさらりとした声音から飛び出た爆弾発言に、一同、脳髄に轟雷が迸るほどの衝撃を受ける。

 

「あやちゃん……あちらの世界の風鳴司令も、こちらの司令くらいトンデモなの?」

「ああ、私が聞く限りでは戦闘能力は互角だな、多分弦さん同士が正拳付きを正面からぶつけ合っただけで、中心から半径6km四方は、間違いなく壊滅するね」

「神樹様が師匠まで助っ人で呼んでこなくて………よかった……」

「デスデス……」

「うん、同感」

 

 全くである。

 響たちは改めて、日本国憲法抵触レベルの、元怪獣な朱音以上の人間怪獣、もとい別世界の弦十郎までも召喚しなかった神樹の采配に、感謝すら浮かんでくるのであった。

 




二重奏シリーズにはオリキャラもいるので補足。

⊡風鳴静音(ICV:喜多村英梨)
二重奏シリーズの主人公の一人、数奇な運命もあって翼とゆゆゆの東郷さん(わすゆの須美)とは義理の姉妹の仲、緒川さんと一緒に翼のマネージャーも務める。
翼とはまた違った真面目で責任感が強い一方、面倒見は良い。父親同然な弦十郎の影響で映画好き。

⊡星空英理歌(ICV:今井麻美)
二重奏シリーズのオリキャラの一人、戦災孤児でフィーネに拾われ、FISで育った。同い年のきりしらコンビと仲が良い。
日系人であること以外は、本名も出身地も誕生日も不明で、英理歌と言う名もナスターシャ教授から付けられたもの。


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8.5B-朱音の神世紀の一日 後編

前回の戦姫と勇者の二重奏XDUコラボ外伝の後編でございます。
こちらは勇者サイドの絡みが多くなりました。
こっちもちゃんとアウスさんから了承もらっています。




 SONG本部たる潜水艦が停泊している軍港で、他の装者と勇者たちと合流した私たちは、本部内に入った。

 潜水艦としては中々大型なのもあって、内部のキャットウォークも、一人で歩く分には閉塞感は感じられないくらいの結構な広さ。

 

(なんか、学校の教室より多くない?)

「実際多いよトト、分校のクラスよりもね」

 

 けれども―――さすがにリディアン四国分校一クラス分より多めな三〇人以上もいる装者勇者たちが、ずらりと通路を歩くとなると、さすがに狭さを感じてしまうし、実体化していない霊体時なトトもたじろぐくらいだった。

 

「あやちゃん、噂に聞いた学校の遠足って、こんな感じデスか?」

「ああ、大体こんな感じだな」

 

 切歌が言った遠足とは、言い得て妙。

 下は小学校高学年、上からだと大学生くらいと、結構歳の差はバラけているとは言え、メンバーの大半は年頃のティーンエイジャーたち。

 ブリーフィングルームに着くまで通路内は、それはもう各々のトークたちが重ね重ねでフェスティバルばりに賑やかで、遠足にも修学旅行にも見える光景と化してました。

 そういう自分もその一人なんだけどね、たとえ前世の記憶があっても、私だって年頃の女子なのです。

 

「来たな」

 

 そうして目的地に着けば、早々弦さんの竹を割ったような豪気なお声で私たちを出迎えた。

 彼の他にも、既にブリーフィングルームにいる者たちがいる。

 

「皆さん、お疲れ様です」

「今日も今日で、相変わらずの人数なものだ

 

 わた飴を連想させるくらいボリューミーな独特の髪型をした、外見上は小学校の低学年くらいに見える、生き写し、な程に容姿が瓜二つである二人の少女。

 髪色が淡く、内向的で気弱そうな印象を受ける子の方はエルフナイン。

 反対に髪色が濃く、幼く可憐な外見に反し、一人称(じぶん)を〝俺〟だと呼びそうな(実際そうなんだけど)激情的な趣きが窺えるもう一人の方は、キャロル・マールス・ディーンハイム。

 二人はSONGの技術部門の見習いと言う形で所属している。

 

「ごきげんよう」

 

 と、二人と同じく技術部見習いの身なもう一人の少女、イクス。

 彼女たちとこの世界の響たちにあったことを話すと、とても長くなるので、申し訳ないが中略させてもらう。

 

「師匠、エルフナインちゃんにキャロルちゃん、イクスちゃんもお疲れ!」

 

 響はいつもの元気さで、弦さんたちに挨拶を返した。

 

「そういえば師匠、今日は春信さんたちも一緒なんですね」

「あ、本当だ!」

 

 そして彼ら以外にも、ここには私からは初顔合わせになる大人たちが、もう三人いた。

 SONGの職員か? あるいは他の組織から出向しているのか?

 気になりつつ周りを見れば、大きく分けて反応が三つに分かれている。

 乃木若葉ら三〇〇年前の西暦末期から来た勇者たちと、私の世界でも新進気鋭のアーティストで名を上げ始めていた、あのマリア・カデンツァヴナ・イヴの妹のセレナは、私と同じ初対面の様。

 響たちこの世界の装者と、結城友奈らリディアンに在籍している勇者たちは緒川さんと歳が近そうな青年と見知った様子でやり取りをし。

 六年前の過去(じかんじく)より来た、中学生時代の風鳴静音――鷲尾清美ら、友奈たちからは先代に当る勇者たちは、眼鏡をかけた二人の妙齢の女性に驚いた様子を見せていた。

 後でご本人たちから自己紹介があるだろうから、この方々が何者で、装者勇者たちとどんな関係であるかの疑問には、もう少し待たせてもらおう。

 

 

 

 

 そして静音と、彼女と幼馴染であり、同時期から静音とともに勇者として戦ってきた戦友でもある篠崎奏芽(しのざき・かなめ)が、翼と奏さんとマリア・カデンツァヴナ・イヴ、を連れて入室してきたところで、本日の作戦会議(でもあるけど)―――の皮を被った交流会が幕を開けた。

 

 

 

 

「さて、それじゃ今日の話し合いの前に、みんなに紹介しておきたい人たちがいるわ」

「知ってる人も何人かいるだろうけど、改めてってことね、それじゃ、安芸先生、神崎先生、春信さん」

 

 場を仕切る静音と奏芽に促される形で、かの三人は私たちの前に立つと、自己紹介を始めた。

 

 青年の方は、三好晴信(みよし・はるのぶ)。

 友奈らな今代の勇者の一人。

 

〝あたしは三好夏凛、完成型勇者よ〟

 

 私への自己紹介の際にも自らをそう称した、三好夏凛の実兄。

 大赦の者だが、出向の形で現在SONGに所属しているとのこと。

 ルーム内に勇者装者たちからの歓迎の拍手が鳴る中、私は今朝の大赦の面々との接触時以上の安堵を抱いていた。

 あの組織にも、このような温かさと自立心を持った人格者がいることに。

 今朝は大赦に対する積年の恨み辛みを打ち明けていた静音も、彼には好意的に接しているし。

 

「まあ、あんな兄貴だけど……どうぞよろしく」

 

 夏凛本人が、直球に表すればそれはもう、照れ顔に腕組みと、絵に描いた〝ツンデレ〟的態度から見ても、兄妹間の関係性は決して悪くないことが窺えた。

 

 次に、女性一人目の方は、神崎律子(かんざき・りつこ)。

 先代勇者の頃は、中学時代の静音――清美たちが通っていたと言う国立小中高一貫校の神樹館で、現在はリディアンで教鞭を振るう教師である。

 清美たち先代勇者を補佐する監督官でもあったらしい。

 

 もう一人の方は、安芸真鈴(あき・ますず)。

 神崎先生と同じく、先代の頃は神樹館の教師で、静音の義理の妹で勇者部メンバーの一人な東郷美森の小学生時代――鷲尾須美と、乃木園子、そして三ノ輪銀が在籍していたクラスの担任教師であり、先代勇者小学生組の方の監督役だった。

 

 二人の教え子たち、この時代に呼ばれた先代勇者たちは一様に彼女たちとの再会を喜んでおり、それだけお二方が慕われて人徳があるのが窺え。

 当人たちも、中には死に別れた者もいる教え子たちへの複雑な心境の中に、たった一時の幻であったとしても、久方振りに再会できたことに対し嬉しく感じているのを、私の目も感じ取れた。

 

 でも、彼らの自己紹介の折に、一つ気になることが………。

 神崎先生と違い、安芸先生は現在、大赦内で新たに設置された〝戦士隊〟の監督官をしている――と静音と奏芽は言っていた。

 けど、私自身に喩えるなら、父と母や………浅黄に、もう一度会えたに等しい、せっかくの再会の場に水を差したくもなかったので、この疑念は一旦、胸の内に止めておくことにした。

 

 

 

 

 

 前置きの春信さんらの自己紹介はそこそこに、交流会は本題に入り。

 

「さて、先に来訪した奏君、セレナ君、朱音君も加わり、装者及び勇者たちこちら側の戦力はかなり整ったと言える、だが、それでも造反神に奪われた土地は極めて広大だ」

 

 弦さん――司令と、勇者を補佐するお役目を担う巫女である上里(うえさと)ひなたと藤森水都(ふじもり・みと)が正面のモニターの横に立つと、状況の整理も兼ねての、一連の事態の経緯を改めて説明し始めた。

 

 おさらいとして、改めて神樹様とは、この世界の地球は今か約三百年前の西暦二〇一五年より人類を滅亡するべく猛威を振るってきたバーテックスらを含めた脅威から、人類を守護する為に、日本の神道における八百万の地の神たちが結集した、神々の集合体なのだが。

 

 

〝魔法少女事変〟

 

 そう名付けられた、響や静音たち、装者と勇者たちと、世界解剖と言う名の、世界の破滅を目論む〝錬金術師〟と真の黒幕であったあるバーテックスとの戦いで、地球の血液とも言えるマナが流れる血脈――レイラインに多大なダメージを受け、一度は大規模な錬金術で分解されかけた世界の再生で、神樹様は無理がたたって消耗。

 その影響で、神樹を構成する神々の統率が乱れ、とうとうその内の一柱の神が造反し、内乱(シビルウォー)を起こした。

 この緊急事態に、神樹様は自らの内部にこの世界を模倣した結界を作り、自分も入れた装者と勇者、サポート役たる巫女やSONGの面々を召喚、それ以外のこちらの人類の魂も呼び寄せ、ほとんど現実と変わらない世界を作り上げた。

 要は――私たちはいわば、あのマト○クスの中にいるのだ。

 で、この事態を起こした張本人の造反神は元々、天の神に属していたのだが追放され、なし崩し的に地の神側に鞍替えし、神樹様の一部となったと言う。

 昨日私もその脅威の洗礼を受けたバーテックスたちは、その造反神が生み出したものとのこと。

 

 モニターに日本列島の地図が表示される。

 リディアン本校もある地区も入れた東京と四国の香川の一部分が青色になっているのを除けば、ほぼ列島全体が血に似た赤に染められている。

 この赤色の部分こそ、造反神の侵略によるもので、静音たちが事態を知った当初は、土地がここまで奴に制圧、占領されていたそうだ。

 大方奴は、神樹様の弱体化を手土産に、自らを追放した天の神に許しを請うつもり、ってところか。

 もし自分の推測が当たりなら、位こそ高いのに、なんて………未練たらたらの、甘ちゃんな神様だこと。

 今朝の静音からの口頭越しでも、天の神の人類に対する憎悪すら生ぬるい表現と感じる〝殺意〟。

 そんな連中が、自ら切り捨てたとは言え、人類に味方する側に与した神を、今さら迎い入れるとは………私には到底思えない。

 

「で、現在の勢力図はこうなっている」

 

 次に、現在の列島図に切り替わる。

 侵攻を寸前で免れた東京と香川の一部地域は、静音たちの奮戦による解放で少しばかり青色の範囲が広くなり、二課の前身組織である風鳴機関の本部がある長野の松代辺りの地域も取り戻されていた。

 依然、列島の大部分が、造反神に乗っ取られたことを示す赤色のままではあるのには、変わりないんだけど。

 それでも、当初よりこちら側の戦力も増強されているから、東京、香川、松代の三区にそれぞれ戦力を配置しつつ、そこを起点にこちらから攻勢に打って出て、開放地域を広めていくのが最も適した手であり、現に司令もその方針を提示こそしたのだが、

 

「どうも、ひなた君に水都君ら巫女の話では、それは難しいとのことだ」

 

 安易に、こちらが取れる最も効率の良い方針を取るに取れない事情があった。

 

「はい、弦十郎さんの言うとおり、本来ならこれだけの戦力、開放地域それぞれで担当する勇者、装者を分けた方が効率的に造反神に奪われた土地を解放できるのですが」

「相手が神様なだけに、何が起きるかの予測が、とても付けられないんです。システムはそれぞれ最新式のモノになっていて、西暦時代の勇者や先代の人たちは特段戦いやすくなってはいますが……」

 

 その理由を、ひなたと水都が司令に代わって説明する。

 かみ砕いて端的に言えば、相手も文字通り人知を超えた能力を隠し持っている神様であるということだ。

 もしこちらが下手に攻勢に出て土地を解放していけば、向こうがその神の力で、どのような報復に打って出るのか、こちらでは予測も見当もままならないのが実状なのである。

 

 よって、現状は神樹様からの巫女たちに伝えられる信託――指示に従う形で、侵略された地区を少しずつ解放して取り戻していく、慎重かつ受け身の方針を選ばざるを得なかった。

 もっとはっきり、一言で言うと、諺にもある通り――〝神頼み〟――なわけ。

 

「随分と面倒なもんなんだな」

「そうよね、もっとこう~スパッとできたらいいのに」

 

 この実状に対し、血気盛んなクリスと夏凛が愚痴を零す。

 割と最初から確信を持ってたけど、やっぱりこの二人、似た者同士だ。

 実際口にしたら、同じタイミングで違うと、意図せず口を揃えて反論してくる様すら、容易に想像できた。

 

「こればかりは仕方ないさ、ことわざでもあるだろ? 〝触らぬ神に祟りなし〟相手が神様だからね、人を相手にするのと同じようにはいかないものさ」

 

 一応、元神様であった私は、もう一つ神様絡みの諺を引用して、忠告も込みの補足を付け加えておいた。

 くどいようだが、今戦っている相手は〝神〟そのもの、迂闊な手を切り出しでもしたら、逆にこちらにとって致命的なしっぺ返しを貰い受けることにもなる。

 人間を相手にしているのとでは次元が違う、一欠けらの油断と慢心すら、滅亡と言う敗北に直結してしまうのだ………かの造反神との、武力も駆け引きも駆使した、ここの〝戦争〟は。

 生憎私は表現を美化して着飾るつもりはない、この世界は今まさに戦争の渦中にあり、造反神を鎮め、最後まで勝ち抜くその時まで、私たちは常に………背後には水面さえ見えない、底なしの奈落が待つ〝背水の陣〟に立っているに他ならないのだ。

 

「さて、ここまでで何か質問はあるか?」

 

 おさらいと今後の方針の大まかな説明が終わり、質問タイムへと移った。

 

「はい!」

 

 真っ先に、明朗快活さたっぷりにピンと垂直に手を挙げたのは結城友奈。

 響と並んで、風鳴司令のお弟子でもある。

 

「師匠、これで召喚される勇者、装者は全員なんですか?」

 

 友奈は、私も気になっていた質問を投げかける。

 次元の壁を越えて、私とトトまでも呼び寄せるくらいの事態だ。

 戦力の収集が、私たちで打ち止めになるとは思えない。

 

「うむ、それに関してはひなたくん」

「はい、実はあと二人、来る予定です」

 

 読み通り、もう後二人の勇者が、結界(こちら)に召喚されるらしい。

 

「戦力は十分だと思うけれど、神樹様からしたらまだ足りないという事なのかしら?」

「はい、神託だとこれでもまだ不足とのことで、ただ今回は特殊なケースとも神託できています」

 

 静音からの問いに、水都は補足を加えた。

 

「私からも一つ聞きたい」

 

 友奈、静音に続いて、私は挙手し。

 

「これは異邦人としての感想なのだが、その神託とはどういう形で巫女に送られるものなんだ? 私の場合は、頭の中に流れてくる、ある種の映像を見るという感じなのだが」

 

 神樹様から巫女に伝えられる神託について、質問を投げてみた。

〝私の場合〟と言うのは、私の世界の〝地球の意志〟が、両親の形見である勾玉にマナを送り、シンフォギアへと変質させた際、同時に地球(ほし)そのものが記録していた、翼と奏さんによる、装者たちの戦いの記憶が、私の脳に直接送りこまれた経験を指している。

 

 この神託に関しては、響たちも詳細は知らないようで、友奈と、同じ今代の勇者の一人である犬吠埼樹(いぬぼうざき・いつき)が同様の質問を送った。

 

「はい、神託は具体的にいうと、言葉ではなくイメージとして伝えてくる感じですね」

「それを私たちの言葉に直したりして、解釈するんです」

「そうね……神託に関しては、具体的に言葉で説明するのは難しいわ……琴音姉さまにも前に聞いたことがあったけど、本人もどう説明したらいいのかって言ってたもの」

 

 ひなたと水都、そして勇者にして巫女の資質もある静音からの体験談を聞く限り、神託の形は、大体一緒らしい。

 実際に神樹様からの〝お言葉〟を受け取る巫女当人でも、それを他者に人間の言葉に翻訳して説明するのは難しい、と言うわけか。

 人間同士の、異なる言語を訳すことさえ苦労するのに、神様となれば尚更なのも無理ない。

 神託の件はさておいて………問題は今回の神託、新たに召喚される手筈となっている勇者二人。

 平行世界より呼ぶ手なんて、私が元神の身の上だったから為せたからでもある上に、内乱で少なからず力が弱まっている以上、神樹様とてそう何度も使える手ではない。

 となると、若葉たち同様、この世界の過去より呼んでくるのが妥当だけど。

 どの時代の、どの場所の、誰が召喚されるのか。

 

「へ~そうなんだね。うちのところは精霊が色々教えてくれるケド」

 

 自分なりに考えてみようと思ったが、その必要はなくなった。

 

「えっ!?」

「だ―――誰!?」

 

 たった今、その二人の内一人が、このブリーフィングルーム内に、突如召喚されたからである。

 しかし神樹様や。

 実際にタイムトラベル現象を目の前で起こしておいて、その〝演出〟は素っ気無さすぎるのではありませんか?

 未来から送られてくる悪党を始末する殺し屋が、その未来から来た〝自分〟に振り回されるSF映画で描かれたタイムトラベル並みに、味気ない。

 私の時はあんな盛大な演出で連れて来たと言うのに。

 せめてター○ネーターのタイムトラベル並みの特殊効果を付加するくらいは、凝ってほしいものである。

 

「いつの間に……」

 

 なんて悠長に神樹様の演出力に内心私は苦言を呈している一方、周りは状況も状況なので、ほとんどが突然ふっと現れた、ボブカットな灰色の髪にヘアバンドをつけて眼鏡をかけた見てくれの少女に驚愕しており。

 咄嗟に友里さんと藤尭さんは、腰に掛けたホルスターに携帯している拳銃に手を掛けた。

 

「あわわ~~なんか物騒なもんに手をかけてるけど私味方ですって!」

 

 騒ぎの中心にいる張本人は、大慌てで手を挙げて敵ではないとアピール。

 

「あおいさん藤尭さん、大丈夫です、どうやら先にお話しした残りの勇者の方で、間違いはなさそうですので」

「ひなたちゃん!?」

「ですから、どうか警戒なさらないでください」

 

 これは止めた方がいいと立ち上がろうとした矢先、友里さんらが銃を引き抜く直前にひなたが二人を引き止め、諭してくれたのもあって、それ以上の大事にはならずに済んだ。

 

「さすがアヤミー、神樹様のドッキリにも全然動じてないね♪」

「ドッキリなのは同感だけどね」

 

 私の後ろの席に座っていた現在(こうこうせい)の方の園子が、傍目からはポーカーフェイスをキープしていた私をそう表した。

 アヤミーとは、その園子が付けた私のニックネーム。

 彼女は創世と同じく、親しい相手にはあだ名を作って呼ぶ一面があった。

 響には創世と同じく、〝ビッキー〟と呼んでいたから、てっきり私も〝アーヤ〟になるかなと予想してただけに、アヤミーになったのは意外だった。

 

「それにこれでもびっくりはしたさ、彼女がいきなり現れたことじゃなくて、神樹様の、毎度毎度な召喚のタイミングの悪さと雑さに」

「ああ……あたしと園子と須美を時間差置いて呼んだりとか、バーテックスが出た時にいきなり清美さんたちに若葉さんたちにあや姉さんを樹海に放り込んだりとか、考えてみると神樹様の呼び方って、確かに雑っすよね」

「だろ? 神樹様には敵を欺く前に味方を欺いてどうするって言いたいよ」

 

 隣の席にいた銀も、神樹様の雑な召喚っ振りに同意を示して、私もニコっと応じる。

 小学生時代の乃木園子――園子ちゃんとは親友の仲だった彼女の方は、私のことを〝あや姉さん〟と呼んでいた。

 創作の産物であるこの世界の〝ガメラ〟の一つな〝平成ガメラ〟の子どもにはショッキングな内容――私の境遇を知った後でも、弟たちと一緒に見てきた〝ヒーロー〟そのものでもある自分に、憧憬の気持ちがあるらしい。

 悪い気は一切しない。

 私は子どものそういう眩しい眼差しが、大好きだからだ。

 

「でもよく一目であの人が敵じゃないって分かりましたね?」

「これだけいる中、バーテックスでもない戦力一人送り込んで正面から喧嘩吹っ掛けても勝算がないだろう? もし私が造反神で、彼女がその差し金だったら―――こっそり本部(ここ)の心臓部に送り込んで艦艇丸ごと爆破してどっか~ん♪」

「姉さん………アメリカンジョークにしちゃブラック過ぎますって……」

 

 私が故意に投げた満面の笑みからのブラックジョークに、案の定銀君は中性的な顔を青ざめさせていた。

 

「あら? 〝敵を知り、己を知れば、百戦危うからず〟だよ、銀君」

「何ですかそれ?」

「最も有名な兵法書、『孫子』の一節さ、ようは〝自分も味方も敵も、常に知る努力を怠るな〟ってこと」

「おお……あや姉さんが言うと、良い意味で何かすっごい重みを感じます」

「よ~く覚えておくように」

「はい!」

 

 うん、良い子だ。あるモノクロ映画の、もう直ぐ四十郎になる凄腕浪人ばりに頷く私。

 その真っ直ぐで純白な声に、思わずなでなでしてあげたいくらい。

 

「ほよよ~~♪ ミノさんとアヤミーの百合おねショタ、これはメモらないとね、メモメモ~♪」

 

 さて、瞳をキラキラとした〝しいたけ目〟で何やら表紙に〝ネタ帳〟と書かれたメモ帳を書き書きし始めた園子の様子はさておいて、新たな勇者さんに挨拶でもしておこうか。

 彼女の第一声から、親近感と、ゾクゾクするくらい興味深い言葉があったからな。

 

 

 

 

 

「エクスキューズミー?」

 

 一騒動起きつつも、新たに召喚された勇者へ、フランクにお声を掛けたのは、西暦時代の諏訪の勇者――白鳥歌野(しらとり・うたの)。

 それも英語で。

 何かいわゆるマシレスみたいになって嫌だし、彼女の人柄ゆえだからケチまで付けやしない(だってそれが、歌野たらしめる大事な個性だからだ)けど、なまじアメリカ暮らしの長かったこちらからしたら、典型的日本人英語のイントネーションだった。

 

「貴方はどなた?」

「私は秋原雪花、北海道から来た勇者だよ、よろしくお願いシャス」

 

 歌野とまた違った陽気な調子ながら、漠然とだが私の目からは狐のイメージが浮かんだ雰囲気を感じさせる秋原雪(あきはら・せっか)花は、試される大地こと、北海道から来た勇者であると名とともに自己紹介した。

 となると、雪花に勇者の力を与えた〝土地神たち〟は、神樹様と別系統の神で間違いない。

 恐らく、アイヌ民族が信仰していた神々――〝カムイ〟と見ていい。

 

「ふぅ~流石にビビったよ、突然見ず知らずの場所に連れて行かれたと思ったら、こんな歓迎なんだもん、まぁ、精霊が事前に色々教えてくれてたから、事情は大体飲み込めてはいるけれど」

「君のところの精霊も、言葉を話すタイプなのかい?」

 

 雑な神樹様の召喚のせいでえらい目に遭い、やっとほっと一息つけた雪花に、私は歌野に続いて話しかけた。

 

「その通りだよ、黒髪の美人のお姉さん。ん? 君のところもって?」

「私もここに来る際に、いろいろとこの子(せいれい)、トトに教えてもらったからね」

 

 掌を上向きにして宙に翳すと、零体でいたトトが実体化し、私の頭にひょこっと宙返りして乗ると。

 

(どうも、朱音の精霊のトトです)

 

 はい、と挙手して挨拶した。

 

「うわぁかわいい!」

 

 だろう? そうだろう?

 雪花もトトも可愛らしさに、イチコロな様子だ、お目が高い。

 トトの可愛らしさは万国を越えて、万世界共通だと言っても過言ではないからな!

 

「言葉っていうより、ある種のテレパシーってやつかな、この子みたいな感じの、ところであなたのお名前は?」

「草凪朱音だ、よろしく」

 

 尋ねられた私は改めて自己紹介をし、手を差し出して彼女と握手し合った。

 

「紹介ありがとネ、あ、ちなみに私の精霊は、この桂蔵坊」

 

 雪花のボブカットの横に、侍の装束に刀を腰に差し、編み笠を被り、時代劇の渡世人でよく見られる口に枝を銜えた狐――〝桂蔵坊〟が実体化し現れる。

 

「北海道なのに、精霊は鳥取の妖狐なのか?」

「朱音さん詳しいネ、私も最初に会った時は、おんなじこと思ったヨ」

 

 桂蔵坊とは、今私が口にした通り、鳥取の伝承に登場する、久松山の中坂神社に祀られている化け狐である。

 精霊の方の桂蔵坊が侍の格好をしているのは、若侍に化けたエピソード繋がりだろうな。

 まさか神樹様、大雑把に狐繋がりでこの桂蔵坊を彼女に遣わしたんじゃ。

 ちょっとした下衆の勘繰りが私に過ったのを差し置いて、雪花は静音らに中央のモニター側へと連れ添われて、ここに召喚されるまでの流れを話していたのだが。

 

「あ……あの……」

「こちらにもう一人、いらっしゃるのですが……」

 

 西暦時代の勇者の一人の伊予島杏と、先代勇者の一人な雪野上舞彩の二人に挟まれる形で、神託におけるもう一人の新たな勇者が、さっきの雪花くらい素っ気ない演出でこの場に召喚されていた。

 中々背が高いスレンダーな体格に、褐色の肌、髪は銀色がかったショートヘア……と正面から見えるが実際は一本結いされたロングヘア。

 活発そうな外見の一方、口元は中々大きく開く機会がなさそうな寡黙さがあり、でも不愛想ではなく、義理堅さを感じさせる印象が窺えた少女。

 

「はぁ……ここ、かなりのセキュリティで守られてるはずなんだけどな……」

「神様が相手だと、全く機能しないのね……」

 

 一度ならず二度目な、神樹様が厳重な本部のセキュリティをあっさり飛び越えて連れてこられた勇者の突然の訪問を前に、ボヤキ癖のある藤尭さんどころか友里さんまで、ぼやくしかない。

 場所を移動した関係上、今は私と隣り合わせに立つ静音も、溜息を吐いて困り顔となっていた。

 ただ頭を抱えているだけなのに、何か妙に静音のその様が、ツボに入り。

 

「言いにくいことだけど、なんというか何でもありの神様だね、神樹様っていうのは、ふふっ」

「まぁ否定しないけど、いくら何でも、〝何でもあり〟が過ぎるわよコレは……」

 

 つい、翼と義姉妹だけあり真面目ちゃんな静音に、ちょっとばかり猫目と猫口な笑顔でからかってしまった。

 

「でもその〝何でもあり〟をいちいち真に受けてたら、身ももたないよ、多少はスルーした方がいい」

「忠告どうも……善処しておくわ、神樹様のとんでもだって今に始まったわけじゃないしね」

 

 そりゃ本物の神様だから、人様からしたら〝何でもあり〟なのは言わずもがなであるんだから、ある程度はなだらかに巧く受け流してやり過ごした方が賢明である。

 私の場合だと、さっきみたいに映画の演出に喩えるのがその一つだ。

 

「と、とりあえずお名前の方を聞いてもいいかしら?」

 

 その静音と、ほぼ同様の心境らしい奏芽は、二人目の勇者の名を尋ねると。

 

「古波蔵棗、沖縄から来た」

 

 もう一人の勇者――古波蔵棗(こはぐら・なつめ)は、抑揚が………乏しいと言うより、凪の日の海原の様に穏やかと言った方が相応しい声音で名乗った。

 

 

 

 

 

「以上がこの世界の現状と各勇者、シンフォギア装者たちの紹介だ、大体は理解できたかね?」

 

 それから棗と雪花は、司令から、世界の現状と、装者勇者らメンバーのことなどの大まかな諸々を、一通り説明を受けていた。

 

「把握した、分かりやすい説明、感謝する」

「私もです、大体の状況は精霊から聞いてましたけど、更に理解できましたよ」

 

 追加で質問を投げかける必要がないくらい、大体は把握できたみたいである。

 

「しかし、朱音の連れてたトトの時も驚いたけど、雪花、あんたの精霊も喋れたりするなんてね」

「三好の精霊と私の正宗も言葉を話せはするが、会話らしい会話は不得手故な、驚くばかりだ」

 

 するとそこへ、トトと同じく〝喋れる〟精霊をパートナーにしている雪花に、夏凛とこの世界の翼が、傍らに自分の精霊を見せて話題を振りかけてきた。

 二人の精霊は、どちらもデフォルメ化された鎧武者の風体をしていて、赤色の方は夏凛ので、剣豪としても名を馳せた(夏凛と春信さんと同じ苗字な戦国大名と因縁浅からぬ)一三代目室町幕府将軍と、同じ名を冠した義輝。

 対して青色の方の、翼の精霊は、最も著名な刀工かつ、日本のフィクションにも度々登場する名刀と同名の、正宗。

 一応、この二体の精霊も、言葉を発するには発するんだけど。

 

『諸行無常』

『常在戦場』

 

 こんな感じで、予めいくつかの音声が入力されたおもちゃと大差がなくて、ボキャブラリーはお世辞にも多くはなかった。

 だからテレパシーで難なく会話できる私とトトに対して、昨日からとても羨ましがられていたりする。

 あ、そう言えば………昨日見た、義輝が実体化してる時に起きた惨劇が脳内で再生される。

 

「あぁ~~牛鬼ってばダメだって!」

「義輝逃げて~ッ!」

 

 いきなり、名前と裏腹に花びらめいた小さな羽の生えた愛らしい子牛、友奈の精霊の牛鬼が勝手に実体化し、義輝を襲おうとしたが。

 

「トト」

(あいよ!)

 

 トトは私の頭からジャンプすると、四肢と顔を引っ込め、ガメラの十八番である〝回転ジェット〟で、あわや義輝を噛みつきかけた牛鬼に体当たり。

 加減はしてあるけど、トトの世界のギャオスの死骸を食べて怪獣化した大蜥蜴――ジーダスの巨体も突き飛ばしたジェットアタックを、腹部にもろにくらった牛鬼は宙をくるくるとたっぷり回り、勢いが止まってからも目を大きく回し、顔の上に小鳥たちをも浮かべていた。

 

「ありがとね、朱音ちゃん、トトちゃん」

「助かったわよ……私からも義輝に代わって礼を言っとくわ」

『諸行無常……』

(昨日も食べられてたけど、いつもこんな感じなの?)

「そう……ちょっとでも油断してたら、この友奈の牛鬼が勝手に出て来て、他の精霊をガブリってしてくるのよ、もっぱら義輝が」

「それは、災難だな」

(ご愁傷さま)

 

 苦笑する私とトトの額に、ジト汗が同時に流れた。

 友奈の牛鬼は、本人と響ばりに食いしん坊であり、隙あらば勝手に実体化して他の精霊に噛みついちゃう困ったちゃんなところがあり、ご覧の通り主な被害者は義輝だった。

 しかも好物はビーフジャーキーらしく………二重の意味で、〝共食い〟か。

 

「………」

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

 樹の姉で、歌手活動をしている彼女のマネージャーである犬吠埼風が、羨望の眼差しを送ってくる。

 

「あんな風に自然と会話できるトトが相棒な朱音が羨ましくなってきた……あたしも犬神たちとお喋りしたい~~!」

「お姉ちゃんってば……あはは」

「でも確かにね、私のヤタや奏芽の飛燕のような上位精霊は、色々とできることが豊富ではあるけれど、言葉を使ってのコミュケーション能力とかは皆無だもの」

 

 勇者の相棒たる精霊の中で、格が上位の精霊を有しているらしい静音に奏芽ら含めたみんなの反応をまたぞろ見回しても、やはりトトや雪花の桂蔵坊みたく明確にコミュニケーションできる精霊は、前代未聞の域で珍しいもので、各々に差があるけど、メンバーの大半がどうしても気になってしょうがない様子が、眼差しだけで読み取れた。

 

「こほん、ではお話すると――」

 

 好奇心って感情(特に小さき子どもたちの)は嫌いじゃないので、ここはちゃんと説明しておこう。

 

「――そもそも精霊は、神樹様に記録されているこの地球(ほし)全ての、あらゆる神話や伝承を元に具現化されたものだ」

 

 人間の世界に喩えれば、神樹様はある種の巨大なネットの海に保管された膨大なデータベース。

 そこから勇者一人一人の相性に合わせた〝モチーフ〟を、ゆるキャラの形で姿(かたち)を与えたのが、神世紀時代の精霊たち。

 

「でも私の――いや私とトトは、ある意味で平行世界の同一存在でもあり、あり方で言うのなら、神様そのものでもあったからな、今の私は〝元〟が付くけど、トトは今でも現役の神様、テレパシーくらい造作もないのさ」

 

 いわば本物の神そのものである守護神ガメラ――トトの魂を、映画〝小さき勇者たち~ガメラ~〟を元として編み出された精霊の器に宿しているってわけ。

 

(その朱音に関しても、ある種のテレパシーみたいな感じで人である少女と意思疎通みたいなことしてたって言ってたもんね)

「そうだね、私も前世では何かと浅黄……私と心を通わせた少女の名だが、彼女に助けられ、時に学ばされもしたものだ。今でも彼女には感謝しているよ」

 

 浅黄がいてくれなかったら………彼女と精神(こころ)を繋ぎ合っていなかったら、私は戦場の泥沼の中で、修羅の奈落に落ちたまま、二度と這い上がれなかったかもしれない………じゃないな、確実にそんな結末に至っていた。

 だから、どこまでも、たとえ私から一方的に繋がりを断ち切られたとしても、信じ続けてくれた浅黄への感謝の想いは、ありがとうを一言だけでは、言い尽くせなかった。

 目を閉じれば………あの時の浅黄の笑顔を、今でも昨日のことのようにはっきり思い出すことができる。

 けれど、今思い出すとだ……何だかこうして、たくさんの同年代の子や歳の近い方々に囲まれているのを、祝福されている気もしてきて、ちょっと………こそばゆくなった。

 顔にまで出てなきゃいいんだけど………大丈夫か、みんなの様子を見る限りは、そこまで顔に出てなくて、ほっとした。

 

「しっかし、まさか朱音さんの前世があのガメラとはね~雪花さん驚いちゃったよ、平行世界とやらで実在した存在だったとはね」

 

 その雪花の口からも出た〝平行世界――パラレルワールド〟、またの名を多次元宇宙――マルチバースからピンと来たのか。

 

「もしや、沖縄の守り神であるキン○シーサーも、別の世界では勇者だったりするのだろうか?」

 

 お、生まれも育ちも沖縄とは言え、かの怪獣の王が主演の映画シリーズに出てくる、あの目覚めの歌を二代目まで歌わないと起きてこないのがご愛嬌なシーサーの怪獣をご存知とは………特撮オタとして、お目が高い(ニヤリ。

 

「アハハ……もしそうなら屋久杉から自然の恵みをもらった巨大な昆虫型怪獣とか、某核の落とし子様もそうなっててもおかしくはないわね……」

「実際なっているかもしれないな、こことは違う別の世界とかでは」

 

 映画としても特撮としても、オタ友の仲ともなった静音と私はそれぞれの表現(ことば)を返した。

 真面目ちゃんな静音は若干困惑してたけど、多次元宇宙が実在していることをこの肌で知っている私からすれば、至って自然も同然だった。

 

「「「………?」」」

「こっちの話しだ、気にしないでくれ」

 

 私達の話題をさっぱり理解できず付いて行けてない面々に、私はこの一言で片づけておいた。

 実際詳しく話そうとすると、とんでもなく長くなる上に、オタ友の静音、もしかしたら友奈とも、周囲置き去りにして進めまくるマニアトークの花を開かせてしまいかねないからな、自重自重と。

 

 

 

 

 

 そこからの、交流会を大まかに並べると。

 

 静音の生家と、中学時代の彼女の、現在(いま)は亡き仲間の家の文献に、雪花と棗のことと思われる記録が残されていたとか。

 

 静音の言葉越しで一応知っている、勇者たちの身の上とか。

 

 それらに気を重くしつつも、改めて自分たちが精一杯支える決意を固めた弦さんら、大人たちとか。

 

「みんな、なんだかんだで凄く真面目なんだね。もっとそこそこでいいのににゃあ」

「お役目でそこそこなんて、そんな事は……」

「須美、生憎だけど、私は雪花の言うことに賛成だよ」

 

 雪花のジョークに、幼さと真面目な性分で真に受けてしまった須美に、ちょっとしたアドバイスを伝えたりとか(具体的に私の口から話すのは、ちょっと恥ずかしいので、ここでは遠慮させてもらいたい)、色々あったんだけど。

 

 

 ~~~♪

 

 

 さすが、元は天の神の一派かつ、神樹様の一角として人の世を管理してきた、空気をわざと読まない造反神さん。

 人間側からすれば、実に嫌~~なタイミングで、使徒どもを寄越してくること。

 私も、二度目まで後れを取るつもりはない。

 

 それじゃ―――行きましょうかッ!

 

 

 

 

 

戦姫と勇者の二重奏XDU:09に続く。

 



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9.5-特訓(あらし)の前の静けさ

アウスさんが連載しているシンフォギアシリーズと結城友奈は勇者であるシリーズとのクロスオーバー小説『戦姫と勇者の二重奏』シリーズ最新作で、朱音も出演中の二重奏XDUとのコラボ短編です。
今回無駄に銃器描写が凝っているのはアニメも放送中なGGOってやつの仕業なんだ。

アウスさん本人から勿論了承頂いております。


 私が、平行世界の地球の神々――神樹様に召喚されてから数日が過ぎた。

 その日の夜の私は、日頃飲んでいるお手製のグリーンスムージーを飲みながら、寮の自分に割り当てられた部屋で、支給されたパソコンと向き合って、キーボードを打ち込んでいる。

 何をしているのかと言うと、風鳴司令こと弦さんに向けた〝上申書〟ってやつである。

 実はその弦さんから、装者勇者全員による大規模な特訓を開くと、今日の日中に聞いたのだ。

 私は特訓自体には、乗る気はたっぷりあるので問題ない、鍛錬は常に行っておこないと。

 ただ………特訓を行う為の場所―――これが厄介な問題となっていた。

 一応、SONG本部な潜水艇内には、トレーニングルームがあり、そこはホログラムで様々な場所、状況を再現できるシミュレーター機能も持ってはいるのだが。

 正直、私からしてもそこを使うのはお勧めできない。

 まず人数の問題、造反神及びバーテックス相手の戦力たる勇者装者は、今や総勢で三〇人を越えた大所帯、明らかに潜水艇内のトレーニングルームでは、狭すぎる。

 大都会は精巧なCGで再現できても、自由に飛ぶことすらままならない。

 その上、潜水艇であること自体がネックだった。

 私一人例に上げても、私のシンフォギア――ガメラは、万物を焼き尽くす、超放電現象(プラズマ)の炎を扱っている。普通の火では燃焼不可な物質も問答無用で燃やせる豪火を、とても海中を泳ぐ潜水艇内で扱えるわけがない。

 控えめに見積もっても、プラズマ火球一発で、ルームの壁どころか、潜水艇そのものに風穴を開けて、巨大な棺桶に変えてしまうのが目に見えた(火力を抑え目にする手があるが、それじゃ訓練にならない、マリアは『訓練は実戦じゃない』と、前に弦さんに扱かれた時そう言っていたそうだが、私は可能な限り実戦に近づけた実戦的重視派である)。

 しかも気満々な弦さん自体が、常人同様ノイズに直に触れれば炭素化は避けられない人間でありながら、憲法抵触レベルの大怪獣並みの戦闘能力の持ち主と来た。その気になれば震脚一発で本部を真っ二つに割って撃沈させてしまう。

 これじゃ潜水艇がいくつあっても足りず。

 

〝朱音君、大人数の特訓プランの参考になるアクション映画はないだろうか?〟

 

 弦さん本人もそれを自覚しているがゆえに悩んでおり、同じ映画好きの趣味友な私に、どこか特訓の場選びに参考になる映画はないかとその日聞いてきたのだ。

 長くなったが、今纏めている上申書は、この特訓に関することである。

 幸い、参考とする映画は直ぐに思いついた。

 

『どうして僕はみんなと違うの?』

『この星を照らす太陽は若く明るい、その光を浴びて、お前の筋肉も肌も感覚も強化された、地球の重力は弱いが、大気には栄養が豊富だ、お陰でお前は、私達の想像以上に逞しく育った、どこまでその力を伸ばせられるか、自分の目で確かめてみなさい』

 

 今テレビ画面で流れている、あの原初のスーパーヒーローが主役のアメコミ映画こそ、その映画である。

 人々に自らの力を隠し続け、自身の出生を掴んだ矢先同族と戦わなければならない十字架を背負わされる暗い作風、私のあの〝過ち〟を連想させてしまう終盤の決戦場面も込みで、決して手放しで褒められる作品じゃないんだけど、この北極の氷の上から、大空へ飛び立つ場面は、私も大好きと断言できる名場面だった。

 それにエルフナインたちの錬金術を加えれば、あの古今東西のキャラクターたちが跋扈するVRを描いたSF映画の再現にもなる。

 私はプレーヤーを一旦停止し、ディスクを入れ替え、かの映画のクライマックス場面を再生させた。

 

『俺はガ○ダムで行く』

 

 私も自他込みでオタクだから大好きな映画(まさかの原作者大嫌いな映画版の方のシ○イニングの完コピには爆笑させられた)だけど、もし私がトシ○ウでガ○ダムタイプを選ぶとしたら―――ウ○ングゼロで行ってたかな。

 理由は、使っている武器がプラズマ繋がり(実はアームドギアの参考(モデル)に使った)なのと、祖国の片割れのアメリカで初めて放送されたガ○ダムにして、私が幼い頃にて最初に見たガ○ダムでもあるからだった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 軍港に停泊中なSONG本部潜水艇の、司令室にて。

 

〝~~~♪〟

 

 現状、異常も異変も観測されていない至って穏やかな現状とは言え、操作卓に腰かけたまま堂々と、ワイヤレスイヤホンを付けて音楽を聞いている藤尭に。

 

「藤尭さん」

 

 声を掛ける者が。

 イヤホンには周囲の音に反応して自動で音量調節する機能もあったので、イヤホン越しでも聞こえた藤尭は肩をビクッとさせ。

 

「な、な~んだ、若葉ちゃんとひなたちゃんか」

 

 慌てて音楽を止め、相手が私服姿の若葉とひなたであると気づくとほっと一息吐いた。

 

「どうしたの?」

「朱音さん、今日はどちらにおられますか?」

「あ~~朱音ちゃんね、今軍港(ここ)の射撃訓練場にいるよ」

「分かりました、ありがとうございます」

「では私達はこれで」

 

 二人は一礼すると、そのまま司令室を後にした。

 自動扉が閉まるのを見送ると、藤尭はもう一息、安堵の息を零すと、停止していたプレーヤーの音楽を再生。

 

「よかった………朱音ちゃんに録ってもらったのがバレたらどうしようかと」

 

 藤尭のプレーヤーに収められているのは、朱音に無理言って(本人は満面の笑みで了承してくれたが)録音させて頂いた、彼女が熱唱する歌曲集。

 今流れているのは、銃声と硝煙渦巻く荒野のVRを舞台にしたライトノベルのスピンオフのアニメ劇中曲なミディアムチェーンで、朱音の澄み渡る伸びやかな歌声に、彼は無意識に鼻唄を歌うくらい聞き入っている。

 朱音の世界の彼と同様に、こちらの藤尭も、数日ですっかり彼女のファンになっていたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 その射撃場は、〝一見〟すると屋外射撃場(アウトドアレンジ)だった。

 青空の下、草木が生い茂る斜面の上には様々な形をした標的(まと)たちが、上下左右バラバラに設置されている。

 射台側に立つ、葡萄色がかった黒髪を耳と平行の高さで纏め、タンクトップにミリタリーパンツにグローブと、ガン系統のアクション映画に出てくる女性主人公らしい出で立ちで弾込めする朱音は(勿論ゴーグルと防音用ヘッドホンも装着)、テーブルに置かれているいくつかの銃器の内の一つを手に取った。

 SIG P210。

 スイスの銃器メーカー、シグ社が一九四〇年代に開発した拳銃。

 銃身を一度後ろに引かせたP210に、先程9mmパラベラム弾を入れたマガジンを装填しスライド。

 射台に立った朱音は的たちへ向けてP210を両手で構え、トリガーを引いて発砲、場内に銃声が轟き、排出された薬莢が地面に転がり落ちて、金属音を鳴らす。

 装弾されていた八発を打ち尽くした。

 朱音は射台から、テーブル近くに移動し銃を持ちかえる。

 次に手にしたのは、M1911A1、通称コルト・ガバメント。

 アメリカのコルト社が生んだ、二〇世紀頃のアメリカ軍の制式拳銃であり、大口径を心棒する米国の象徴でもあり、今でも現役のアクション俳優である朱音の祖父――ケイシー・スティーブンソンが、歴代の出演作で愛用してきた名銃である。

 神世紀ではもうかれこれ、約四〇〇年前の銃だ。

 マガジンに入れられる弾丸も無論、45ACP弾。

 それを装填し、再び射台に立つと、撃鉄(ハンマー)を起こし、しっかりと両手で握りしめる。

 ガバメントはこうしないと発砲できない機構となっているのだ。

 銃口を的たちに向け、トリガーを引いた。

 反動の大きい45ACP弾な上に銃自身重いM1911は、とても日本人では扱いきれぬ代物で、現にガバメントを制式拳銃としていた当時の自衛隊は、扱いにかなり持て余して苦労したそうだ。

 それを朱音は、顔色も変えずなんと七連射し、素早くマガジンを排出、再装填し、もう七連射、全て的に撃ち入れた。

 朱音が撃つのは拳銃に止まらず。

 H&K社のカービン型アサルトライフル――HK416。

 神世紀の世界でも比較的近年な二一世紀初頭に開発されたライフルを、堂に入った構え方でフルオート、セミオートを交互に切り替えて放ち。

 かと思えば、かのサイバネティック生命体も使った一九世紀末頃のレバーアクション式ショットガン――ウィンチェスターM1887を、映画劇中同様左手でくるりとスピンコッキングしながら、左右横合いより放物線を描いて飛んでくる皿を次々撃ち落とした。

 

 

 

 

 

 私はまた拳銃、それもリボルバーを手に取る。

 ある意味で真打ちと言えるだろう。

 S&W M29―6インチ・44マグナム。

 一九五五年、かの怪獣の王が銀幕デビューしてから丁度一年後に世に出て、かのサンフランシスコのダーティーな刑事の映画にて彼の愛銃となったことで、銃界の伝説的大スターとなった名銃。

 今でこそ単純な威力では後に開発された後輩たちに譲ったが、映画劇中の台詞の通り、一時期は間違いなく〝世界一強力な拳銃〟の王座にいたのだ。

 スピードローダーで、44マグナム弾六発を纏めてシリンダーに装填

 両足をしっかり大地に踏みしめ、一発目は撃鉄を引いたシングルアクションで。

 二発目以降はダブルアクションで、一気に撃ち切った。

 この重みと反動は、戦場と言う泥沼の海に、飛び込み続ける上で忘れてはならない〝戒め〟を、私に改めて教えてくれる。

 そろそろ休憩でも入ろうかな、と考えていると。

 

〝~~♪〟

 

 直後に、場内に訪問者が入室を求めるチャイムが鳴った。

 

「ホログラム、オフ」

 

 ゴーグルとヘッドホンを外した私がそう発すると、音声入力を受けた射撃場が、投映していた立体映像を解除し、本来の一面ほぼ灰色な無機質な空間に戻る。

 さっきまで一面に広がっていた緑豊かな光景は、精巧かつ触れることもできる3DCG。

 元々はアメリカの聖遺物研究機関――FISが有していた立体映像技術を、エルフナインら技術部の面々が大幅に改良を加えた代物とのことだ。

 

「どうぞ」

 

 壁に埋め込まれた端末のボタンを押して、来室希望を了承すると。

 

「失礼します」

「お邪魔します」

「若葉に、ひなたか」

「取り込み中でしたか?」

「いや、丁度休憩しようと思ってたところ」

 

 射撃場に訪問してきたのは、西暦末期の初代勇者たちのリーダーであり、園子のご先祖でもある乃木若葉と、彼女の親友にして神樹様からの伝言役たる巫女な上里ひなただった。

 二人がわざわざ、勇者といえどもティーンエイジャーの少女には似つかわしくない射撃場(ここ)にまで足を運んだ理由はさておき。

 

「それよりひなた、例の君の秘蔵、持ってきてくれたかな?」

「はい♪ 若葉ちゃんの秘蔵コレクションでしたら、厳正な審査をパスした選りすぐりを持ってきましたよ」

「なっ!?」

 

 と、私とひなたが〝アイコンタクト〟してからのにこやかな笑みを浮かべると、若葉の翼ばりに堅物さが板に付いた端整な顔が、一瞬で真っ赤に。

 

「ひ~な~たっ~~! お前は散々勝手に撮り溜めてきた私の写真を、あろうことかよそ様にまで見せびらかす気なのか!?」

「冗談だ♪」

「冗談です♪」

「え?」

 

 羞恥と怒り混じりな表情になった若葉は、私とひなたが同時に発した一言で一転、牛鬼っぽい目つきな味のあるキョトン顔となった。

 ちなみにさっきの連携プレーは、顔を合わせた際にひなたとの短いアイコンタクトで咄嗟に繰り出した即興のジョークである。

 

(付き合ってくれありがとう♪)

(いえいえ、私こそ若葉ちゃんの良いお顔を拝ませてもらい感謝です♪)

 

 若葉本人にバレないよう、ひなたとこっそりまたアイコンタクトを交わし合った。

 愛も愛し方も人それぞれなので、ひなたの若葉に対する慕情にはとやかく言う気はない。

 

「なんだ冗談か………いや待て、それならなぜ朱音さんがひなたの秘蔵コレクションのことを知っているのですか!?」

 

 それは半ば勘みたいなもの。

 ひなたと初めて顔を合わせた瞬間から、一目で彼女はいわゆる――〝知○ちゃん系女子〟なのだと、自分の勘が私に伝えてきたのである。

 実際ひなたはその通りな人柄の主だったので、親友の様々な顔を余すことなく写真にしているのは簡単に窺えたのだ。

 

「まあ、言ってしまえば、ゴーストの囁きってやつ」

「ゴースト? 精霊とは違う守護霊が、貴方にいるとでも?」

 

 真に受けた若葉の大真面目な返しに、お腹に直撃を受けた私は思わず大きく破顔してしまった。

 今のボケは予想外だったのもあり、腹も抱えてしまう。

 

「ど、どうしてそこで笑い出すんだ朱音さん? っておいひなた! お前もか!?」

 

 ひなたも口を抑えて、貰い笑いをする。

 若葉も大概、真面目が過ぎた面白可愛いお人だよ、うふふ♪

 

 

 

 

 

「朱音さん、これだけの銃、どこで調達してきたのですか?」

 

 勇者にして戦士であっても、銃器に関しては完全に素人な若葉たちでも、畏怖と驚嘆が混合された眼差しで、テーブルに並ばれた銃たちを見つめる。

 

「ああこれね、大赦に頼んで集めてもらった」

 

 ダメ元で頼んで見たら、一日も経たず希望した銃器が銃弾こと提供されたことを。

 

「かかった費用も全部あっち持ちで」

 

 私は二課繋がり汎用作業機械ロボットの方の二課の第二小隊の隊長さんみたいな飄々としたトーンで打ち明けると、若葉はギャグアニメみたくその場で脚のバランスを崩してズッコケそうになった。

 勿論、ひなたがスマホ片手の知○ちゃんばりの笑顔で、そのシャッターチャンスを見逃さなかったのは言うまでもない。

 

「いいんですか? そんなことして………」

「問題ないと思いますよ、朱音さんなら不用意に発砲するわけありませんし、それに若葉ちゃんお忘れですか? ここは神樹様がお作りになられた仮想世界ですよ」

「あ……そうか」

「この世界は資源も物品も金銭も、経済の流通さえ本物(げんじつ)と寸分違わぬ幻、だから現実の大赦のお財布には何の影響もない」

 

 射撃訓練自体は、私の世界でも装者となった頃から特機二課の設備を借りて日課の一つにすてたけど、さすがに突起物とお偉いさんどもに白い眼で見られている二課にこちらが求める銃の調達なんて無理はできなかったが、神樹様特製のマト○クスなこっちではそんな遠慮はいらない。

 神様依存の隠蔽主義で、勇者たちの青春を犠牲にしてきたチキン集団なあの組織に関しては、春信さんに神崎先生と安芸先生一部を除き、まっ~~たく信用はしていないが、使えるものは活用するくらいの柔軟性や寛容さにクレバーさは、持っておかないとね。

 

「そんなにこれだけ集めて撃ちまくっている私が意外だった?」

「あ……気に障ったのでしたら、申し訳ない………」

「障ってはいないから安心してほしい」

 

 やはり私のミリタリー絡みの趣味に、若葉は驚きを隠せない様子だった。

 

「ですが……戦場を、踏み込んだ者を修羅に落とす地獄そのものと表した貴方のお言葉を聞いた身として、意外と思ったのは事実です」

「この前のその持論を曲げる気はないさ、けど私は、ガメラとしての記憶と、銀幕の中で武術と銃器を手に悪党ども成敗してきた祖父(グランパ)の影響で、本物の戦争は大嫌い、特にイデオロギーのぶつけ合いには反吐が出るくせに、兵器は嗜好する、映画の中のミリタリー描写にフェティシズムさえ覚える、とんだ困りものな人間に育ってしまったんだ」

 

 喩えるなら、私は人も自然も尊び愛する、ヒューマニストにしてエコロジスト、平和主義を自称しておいて兵器愛好家な上に必要とあらば武力の行使も辞さない、愛する歌さえ武器にすることを躊躇しない武断主義者、実際じゃ聖人と対極にいる欲望――EGO塗れのエゴイストな人間。

 まさに……矛盾の塊ってやつ。

 ガメラだった頃から変わっていない、私と言う存在の本性。

 

「だが、人間と言う生物と、その生物たちが作った社会ほど、たくさんの矛盾に満ちた世界はそうない………私たちがその手に武器を取り、神々の力さえもお借りして戦場(じごく)に飛び込み、泥を被って戦ってまでも守ろうとしているのは……そう言う世界であり、勇者となった私たちも例外なく、矛盾塗れの存在」

 

 私はシリンダーに弾どころか薬莢も入っていないS&W M29を握り直し、無機質な壁に銃口を向ける。

 

「だから私は、その矛盾の塊な世界を守る為に手にした力そのものと、手にしている己そのものへの恐怖と」

 

 あるジャパニーズコミックの時代劇劇中で、主人公と、その師も言っていた。

 

〝剣は凶器、剣術は殺人術、どんなお題目を並べてもそれが真実〟

 

 凶器を指すのは、何も剣だけではない。

 槍も鋸も鎌も糸も、我が炎も、我が友が〝誰かと繋ぐ為〟と言った拳さえ。

 正鵠を射るかの言葉は、生ける者たちを守護する戦士として絶対に避けられない、矛盾の一角にして、宿命である。

 たとえ守る為――人助けの為であっても、戦うと言うことは、自らの肉体そのものも凶器にする行為なのだから。

 

「そして災厄を相手に〝引き金を引く〟のは――」

 

 撃鉄を引き、鋭利に研いだ眼で宙に投影した敵(わざわい)どもに狙いを定め。

 

「力そのものでもましてや神でもなく、自分自身であることを忘れない為に」

 

 他ならぬ、人の一端である私の意志に応じた人差し指が、引き金を引いた。

 弾は入っていないし、銃口の先には虚空。

 しかし間違いなく、銃身の先端にある、円形の闇から、私の〝殺意〟と言う弾丸は、確かに発射されていた。

 たとえ相手が血も涙もなき災いそのものであっても、それと戦い、争い、勝って打ち破る以上………〝殺す〟ことに、変わりはない。

 

「こうして、この胸に刻み、戒めているわけさ」

 

 って、あ……あれ?

 ここまで言い切ったところで、真剣な表情で聞き入っていた二人を見た私は、我に返った。

 全く、また偉そうに何を口走っているのやら。

 

「な、何言ってるのやら……こんな湿っぽい講義を垂れるつもりじゃなかったんだ……ごめん」

「いえ、朱音さんのお言葉には、改めて身も心も沁み入りました」

 

 自嘲の苦笑いが張り付いたまま、合いの手で若葉たちに詫びる。

 特に胸に手を当てている若葉からはさらなる敬意を評されたわけだけど、さすがに話題はここら辺で変えよう。

 

「そうだ、そろそろ本題に入ろうか?」

「そうですね、でしょう若葉ちゃん」

「ああ………実は、次の休日に予定している、風鳴司令主催の大規模訓練のことでお聞きしたいことがあって」

「何を聞きたいんだ?」

「いや、その司令が『今回は特別に、俺が直に訓練を付けてやる、心して待っていてくれ』と言っていたでしょう?」

「その時の風さんや翼さんたちの反応が、気になったそうなんです」

「平行世界の司令とプライベートでもご友人な朱音さんなら、存じていると思って」

 

 先日の定例交流会(ブリーフィング)にて、弦さんから豪気たっぷりにその特訓の旨を切り出された時のことを思い返してみる。

 確かに、今代の装者と勇者たちの内。

 静音と奏芽は、言葉にすると〝え? 本気?〟と言った戸惑いの顔を見せ。

 弦さんと師弟な響と友奈と、姪の翼、そして奏さんは気合いとやる気たっぷり。

 クリスと夏凛は大層げんなりとして、世界一ついてないNY市警の刑事ばりにぼやきそうになってて。

 切歌たちそれ以外のメンバーも、多少の個人差はあれ、畏怖と畏敬と不安たっぷりな様子だった。

 この弦さんの〝特訓を付ける〟に対する響たちのリアクションの意味を知らない側からすれば、気になってしまうのも無理はない。

 

「若葉はどんな印象を受けた?」

「何と表していいか………まるでバーテックスよりも人知を超えた怪獣を相手にしなければならない状況に陥った、印象を受けまして」

「大体合ってるね」

「は、はい? どういう意味ですか」

「言葉通りの意味だよ」

 

 私は弦さんの――。

 常識を超越した超絶的戦闘能力。

 人の皮を被った大怪獣。

 存在そのものが、刑法どころか憲法にも抵触する武力。

 人類どころか、全生命最強の存在。

 なんて表されるくらいの、彼の数々の武勇伝を話すと、若葉の顔つきはみるみる青ざめて戦慄し、さしものひなたも若干驚きで引いていた。

 なまじあっさりとした何のことも無い調子(トーン)で説明したのもあり、それが弦さんのトンデモ具合がより際立つ効果を発揮させた。

 

「ほ、本当に………あのお方は、風鳴弦十郎は、人間なのですか?」

「ああ、人間のまま、超常の力を授けられることもなくあそこまでの高みに至った傑物さ」

 

 だからこそ、皮肉にも真なる超常の厄災の前には、どれほどの強さを得ても生身の人間であるがゆえに、最後には私たちに委ねざるを得ない、無力で物悲しい性を彼は背負っているのだ。

 

「そういうわけで、一応忠告しておく、半端な覚悟で臨むな、待っているのは訓練ではあるが実戦だ――死ぬほどきついぞ」

「分かりました………友奈たちにも、油断と慢心は捨てて臨むようかかるよう、伝えておきます」

 

 何の準備も心構えも覚悟もなく、いきなり弦さんの戦闘能力を目にしてしまったら、それこそヒューマンリアリティショックってやつな衝撃を与えかねなかったので、私はきっちり忠告もしておくのだった。

 

 

 

 

 

 地獄の特訓当日まで、後――約一週間。



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収穫の秋と迷える小雀 前篇

どうも、今回は時期的に若干季節外れですが、うたのんの農場収穫イベントと、タグの通りくめゆのあるキャラが登場する前後編の前篇となっております。
アウスさんからは無論了承を貰っております。


 香川のその日の晴れた早朝。

 勇者とバーテックスと激闘で現在でも大破したままの姿な瀬戸大橋とほど近い地区な綾歌郡大束町の海沿いには、一つのガラス張りな塔(タワー)がそびえ立っている。

 名は――《ゴールドタワー》。

 地上高は一五八メートルあり、こちらの世界では旧世紀扱いな西暦の、昭和末期の頃より存在する、現在は大赦の管理下にある建築物だ。

 その塔の足元で、周りをきょろきょろと少々挙動不審に見回しながら歩いている少女が一人いる。

 前髪を三角形状に切り揃えた茶色がかったショートヘア。

 猫背気味の体勢なせいで、より小柄に見える体躯。

 およそ〝自信〟と言う単語と縁がなさそうな、気弱な表情(かおだち)。

 そんな印象を抱かされる少女は、軽装なリュックをしょって、何者かに見つからぬよう、こっそり朝の街中を歩き、最寄りの大束駅に入ると、讃州市方面行きの切符を買い、ホームへ向かい、行き先の列車に乗り込んだ。

 無事に列車が発進し、やっと少女は安堵の一息をつく。

 車窓に目を移すと……瀬戸内海を煌めかせる朝陽が、段々と立ち昇っているのが見えた。

 

 

 

 

 

⊡収穫前の準備運動~♪(リディアンチャイム)

 

 同日の午前。

 十月――神無月の中頃。実際は神樹様の結界(せかい)の中とは言え、まだまだ実りの秋の季節の真っただ中の刻(とき)。

 セレナ、若葉、朱音らこの月をバースデーとするメンバーの誕生祭と、造反神側が起こしたハロウィン絡みのちょっとした騒動――カボチャ巨大化事件の直前な、秋の陽光がたっぷり地上にすみ渡るあくる日の朝方。

 後にその事件が起きる現場ともなる、遠方では神樹様の壁がそびえ立つ瀬戸内海を一望でき、どこかヨーロッパの地中海を思わせる光景が広がる地で耕された、三百年前の諏訪より召喚された勇者――白鳥歌野が営む農場では――。

 

「みんな! 今日(トゥディ)は収穫にお付き合い頂いてベリーサンクスです♪」

 

 一同、一斉に拍手。

 絶好な日和だけあり、今日も陽光に負けず日本語と英語混じりの陽気で、頭に自身の精霊である猿の妖怪――覚(さとり)を乗せ、《農業王》と言う三文字を荒々しく躍動感たっぷりな白舟書体でデカデカと印字されたTシャツを纏った農場主の歌野を筆頭に、彼女の親友にして巫女の水都と、切歌、調、英理歌、銀、棗、雪花、朱音ら作業着を纏った少女たちと、トトら精霊たちも加わって、今日は大がかりな収穫が行われようとしていた。

 メンバーが歌野と水都同様の切歌たち蕎麦派と、朱音らラーメン派と、沖縄そば派の棗で構成され、うどん派が銀くらいしかいないのはちょっとした偶然である。

 

「でも皆さんもご存知かと思いますが、農作業はかなりの重労働なので、学業にもお役目にも影響が出ないよう、まず始めに準備運動をします」

「「ああ分かった」」

「「「は~い(デス)」」」

「しゃっす」

 

 水都は、支給されたスマートフォン内のアプリを立ち上げ、端末のスピーカーから、メロディが流れ出した。

 神世紀の日本国民でも知らぬものはいない、かのポピュラーな〝ラジオ体操〟の音楽。

 

「こんな気持ちいい朝にこの体操をするの、ほんと久しぶりだ」

「それはどういう―――ああそうか、朱音はアメリカからの帰国子女だったな」

「あやっち、米国(あっち)でもラジオ体操みたいなのってあるの?」

「と言うか、最初にラジオ体操を始めたのはかの自由の国なのさ」

「ええ!? そうだったんすか!?」

「西暦一九二五年にアメリカの保険会社が考案した『メトロポリタンライフ ヘルス エクササイズ』が発祥でね、それから一九二八年に日本流でアレンジした『国民保健体操』が始まって、みんなも知ってる今の形になったのは一九五一年だ」

「あの怪○王が銀幕デビューする三年前か」

「そんな大昔からあった歴史ある体操だったなんてびっくりしました……」

 

 朱音からの、神世紀の現在ではもうかれこれ江戸の世を越えた四百年近くの歴史があるラジオ体操のルーツの講演も交えられながら、音色に合わせて、収穫作業参加メンバーは準備体操で身体を慣らしていった。

 精霊たちもパートナーたちに合わせて、宙にて身体を動かしている様は、とても微笑ましく可愛らしい。

 

「ウォーミングアップも終わったし、みんなには野菜の収穫担当を割り振っていくわね、みーちゃん」

「うん」

 

 水都は、前日に作成しておいた、本日収穫予定の野菜のリストと、それぞれの取り方に各担当も記載された用紙(しおり)をメンバーに配る。

 リストに載っている野菜は――

・レタス

・チンゲン菜

・サラダからし菜

・ニンジン

・かぼちゃ

・ジャガイモ

・里芋

・レンコン

・トマト

 ――等々。

 

「水都の説明はいつも分かり易くて助かる」

「そ、そんなことないですよ棗さん」

 

 棗からの心からのお褒めの言葉に、水都はあわあわとかぶりを手と一緒に振った。

 

 

 

 

 

 作業は一時間の内四五分、残り一五分は休憩の流れとなっており。

 最初の四五分は草むしり。

 神樹様の結界内であり、かつ毎日歌野が懸命に毎日欠かさず除草してもしぶとく生えてくる雑草たちを、一同は鎌やシャベル片手にむしっていく。

 精霊たちも飛行能力を活用してせっせと雑草を抜き、ある程度溜まれば指定された一箇所に纏めて山にしていく。

 メンバーの作業効率をキープさせるのも兼ねて、畑の近くで設置された野外用テーブルの上に置かれたラジオからは、作業にはうってつけの音楽が畑中に響き渡っていた。

 

 

 

 

 

⊡鍛えてます~♪

 

「セレナさん」

「なに三ノ輪さん?」

「最年少のあたしが言うのもなんなんですけど……もし体調悪くなったら言って下さいね、セレナさん結構ほっそりしてるから」

 

 実際、セレナの肢体は姉のマリアが過保護になるのも無理ないくらい、華奢だ。

 

「失礼ですよ、私だってシンフォギア装者の端くれ、これでも鍛えてますから、えっへん♪」

 

 と、光の巨人よろしく両手を腰に添えて胸を張るセレナ。

 

「っ………」

 

 銀もドキっと来るくらいの可憐さであり。

 

〝はぁ~~写真は愛よ……〟

 

 銀にとってはまだこの間な、ある休日にて色んなキュートさたっぷりの衣装を園子に着せ替えられた時の自分を、鼻血の噴水からのハイテンションに駆られるままカメラ(スマホから一眼レフにいつの間にか瞬時に持ち替えて)のフラッシュを焚いて撮りまくっていた須美を思い出す。

 

(もし今マリアさんもいてこのセレナさんを見たら、あの時の須美みたいなことになりそうだな)

 

 とも思って、苦笑する顔に冷や汗を流す銀。

 その推測は、あながち間違っていないのが恐ろしくもある――〝ただの姉バカなマリア〟であった。

 

 

 

 

 

⊡早熟の理由~♪

 

「(じゃあこの束は持ってくね)」

「ありがとトト」

 

 作業は続く中。

 

「前から気になってたんだけど……」

 

 作業の手を止めずに英理歌が、いつもの抑揚が控えめの声色で。

 

「歌野って、朱音とセレナと奏さんと同じ日に神樹様に召喚されたよね?」

「ああ」

 

「それにしては、畑耕して作物ができるまで、早過ぎる気がする」

 

 以前より過っていた疑問を口にする。

 

「およよ~~言われてみればそうデス」

「うん、確か召喚されて……三日後から農園(ここ)で耕し始めたそうだから……」

 

 造反神の侵略で神樹様が現実そっくりの結界を生成したのは八月の始めで、そこから一か月と数日後の九月上旬頃に朱音たちが召喚された。

 仮にその日から土地を見つけて開墾して、種まきまで行き着いても、今日の時点で収穫できるようになるまでに成長して実るのは、余りに期間が早過ぎた。

 

「静音から聞いた話なんだが、この辺は元々大赦が管理している土地で、近くに神社がある上に丁度真下にレイラインが通っているんだ」

 

 朱音は説明しながら、片手に自らのシンフォギアの待機形態である勾玉を乗せ、もう片方の手を土に触れさせると。

 

「あ、光ってるデス」

「綺麗……あったかそう」

 

 勾玉は星の血脈たるレイラインに流れる星の生命エネルギー――マナを感知してマグマ色の光を発した。

 

「あ、しかもここって神樹様の結界の中だから……」

 

 マナの強い影響で、野菜たちは現実より早い速度ですくすく育ったと言うわけだ。

 無論、献身的に丹精込めて育ててきた歌野の努力の賜物でもあるので。

 

「文字通り神の恵みと、歌野の恵みがベストマッチしたってわけさ」

「時空を超えても農業に全力全開で打ち込める歌野も凄いけど、ほんと神様って何でもあり……」

 

 リディアン四国分校と讃州中学からは自転車を使った方がいいくらいの距離があるこの辺りの土地は、現実世界では元々大赦が所有していたものだったが、歌野たちが召喚された折、彼女らの農作業用に割り当てられたのである。

 当然現実では畑の体を為してない土地だったが、神樹様のご厚意か、結界内の同地域では、植える種ごとに微調整をすればいつでも植えられるくらいには開墾されていたと、歌野と水都は証言している。

 歌野本人はこの神樹様に対して、感謝こそしているが、できれば自力で一から耕したかったともぼやいていたそうだ。

 

「でもよく大赦、土地(ここ)を歌野たちに気前よく貸してくれたよね」

「そこは静音と清美が、〝ドギツい交渉〟で何とかしたらしい」

「あの二人……一体何をしたの?」

 

 きりしらえりトリオの胸中に、ざわめきが走った。

 

「そこまで詳しくは聞いてないが、多分あれくらいのことはしただろうね」

「〝あれくらい〟ってっ何?」

「ジ○ダイがラ○トセーバー抜く」

「それって交渉と言えるんデスか!?」

「言えない言えない……」

「どう聞いても、脅迫な荒事……」

 

 切歌、調、英理歌の三人は、顔を青ざめて先月のある出来事を思い出す。

 響ら九月生まれのメンバーのバースデーパーティー当日に、傍迷惑にも出現したバーテックスどもに対し、静音と中学時代の静音――清美が、味方の方が戦慄して絶句するほどの閻魔大王染みたドス黒い怒りのオーラを纏って敵を殺戮――もとい一掃したことがあったのだ。

 

「ってのはジョークで、実際はちゃんとした手続きで借り受けたそうだよ」

「な~んだあやちゃんのジョークだったデスか~~はは」

「朱音の冗談、無駄にクオリティと演技力高過ぎ……」

 

 ほっとする切歌たち。

 しかし一時でも朱音の〝ドギツい交渉〟を真に受けてしまったのは、彼女のアメリカ暮らしで鍛えられたジョークスキルの高さもあるが、それだけ我らがリーダーの恐ろしさを痛感しているに他ならなかった。

 尚、静音たちが正規で正式な手順ではあるが早急に歌野用の農場を借り取ったのかと言うと、歌野自身の気質もあった。

 バーテックスの侵攻を切欠に初めて今やライフワークと化した農業への愛が大きすぎる余り、一日一回は土に触れていないと正気を保てない性質になったしまい。

 

〝レタス、たまねぎ、ほうれんそう、トマト、いんげん、なす、ピーマンにししとう……だいこんにぶろっこりー……とうもろこし―――〟

 

 召喚されて二日過ぎた時点で歌野の目は生気が希薄となって虚ろになり、自分が育てたい野菜たちの名を念仏よろしくひたすら唱えていくと言う軽いホラーな状態に陥ったとなれば、早急に手を打とうとした静音たちの奮闘も窺えるであろう。

 

 一巡目(だいいちらうんど)が終了し、一回目の水分補給も兼ねた休憩タイムを挟みつつ。

 

 3(ザァッ)! 2(ザァッ)! 1(ザァッ)!

 

「(ホ○レン!)」

 

 畑一杯に広がる笑い声と言う名の、草たち。

 

「いや~~まさか遥か未来に来てまでそのネタ見るとは思わなかったにゃww」

 

 精霊たちが、手元に実体化させた鍬で順序良くテンポよく耕して披露したネタに、勇者たちは爆笑しつつ、二巡目(だいにらうんど)より収穫作業に入る。

 

 

 

 

 

⊡嘘つきな我らがマリア

 

「おお~~! でっかいのキタデスよ!」

「切ちゃんおみごと~~♪」

 

 ジャガイモを担当していた切歌と調は――

 

〝~~~♪〟

 

「はぁ……」

「デース……」

 

 ラジオからある歌が流れ出した途端、うきうきと収穫していた二人の高めのテンションが急降下した。

 

「きりっちにしらべっち……急にどうしたの? せっかくラジオがマリアさんの歌流してくれているのに」

 

 気になった雪花が二人を尋ねる。

 そう。

 今ラジオが響かせている番組内で流れているのは、アーティストとしてのマリアが最近発表した新曲、恋も仕事も絶好調に乗りこなす女性の姿を高らかに謳った――《Stand up! Lady!!》。

 

「私たちからすればこの歌は――〝マリアがまた嘘ついた〟――」

「――と言いたくなるくらい悲しい歌(バッドソング)なのデス!」

「ど、どういうことか……にゃ?」

「神樹様の世界でも仕事のレバー操作は全く以て順調なんだけれど……」

「〝恋〟も順調だなんて初耳デスよ!」

「なんでそこで〝恋〟ッ!?」

 

 中々にツッコミ処のある、姉同然なマリアに対する切歌と調の、割とあからさまに酷い言いぐさ。

 

「順調過ぎて逆に疲れているのかな……」

「気の毒デスよ……休んだ方がいいデスよ」

「お二人さん………身内には案外容赦ないのね」

 

 今頃マリアは、風の噂によるくしゃみを発していることだろう。

 

 

 

 

 

⊡生きている幻たち

 

 朱音と棗の二人は、今はトマトを担当していた。

 水都が作成したしおりを参考に、鮮やかに赤く逞しく実り、完熟の印としてヘタが閉じたトマトを一本一本取り、わら籠に入れていく。

 

「歌野、一つ食べてもいいだろうか?」

「OKよ、せっかくだしとれたてをた~んと召し上がれ♪」

「それじゃ、このとりたて、頂くよ」

 

 余りに美味しそうだったので。二人は思い切ってその場で食べていいか歌野に頼んでみると、この農場主は気前よく了承した。

 

「「いただきます」」

 

 合掌して日本ならではの食事前の挨拶――恵みを頂いてもらった感謝の言葉も置きつつ、何も調味料を付けていない取れたてを、まず一かじり。

 実が舌に触れた瞬間、瞳が大きく開眼し、二人の表情(かお)は驚きを上げる。

 

「っ――とても瑞々しく」

「なんて……甘い」

 

 まるで果物の如き、水気と甘味に恵まれたそのトマトの美味に、舌から神経を通じて脳髄が、いい意味で打ち震え、我を失いかけるほどの体験を受けた二人。

 もっとこの旨味を味わいたくて、二度、三度と被りつくように頬張っていくと、あっと言う間に食べ切ってしまった。

 

「これだけの美味なら、トマトが苦手な翼とマリアも食べられるだろうし、朱音や風がどう料理してくれるか楽しみだな――」

 

 目の前にいる朱音含め、料理上手な勇者装者の面々がどう料理してくれるのか、期待に胸を膨らませていると、棗の瞳は、眼下に落ちる一滴の小さな水玉を映した。

 一瞬雨かと思い、頭上の秋の青空を見上げるが、上空は小さなわた雲が流れる晴れ模様のままで、とても天気雨さえ降りそうにない。

 

「っ……」

 

 ささやかなすすり声が聞こえ、視線を下げれば――

 

「朱音?」

 

 棗の姿を写す、宝石のように艶やかな朱音の翡翠色の瞳から、涙が頬を沿ってこぼれ落ちていた。

 

「泣くほど……美味しかったのか?」

「ああ……それも、あるんだけど……」

 

 手袋を外した指で、朱音は濡れた頬と目元を拭う、

 けれど瞳の中の震える潤いは、まだ止まることを知らず、また今にもこぼれ落ちそうにしている。

 

「芽吹いて、根付いて……〝生きているんだ〟なって………この〝夢幻の世界〟でも、生命(いのち)が……」

 

 瞳は涙に覆われていながら、歳相応より大人びた美貌を歓喜で埋め尽くした笑顔で、大地、空、海原を見渡してそう答えた。

 

 夢幻(ゆめまぼし)の世界。

 朱音が表した言葉を聞いて、棗は涙の意味を感じ取る。

 何度も言うようだが、ここは神樹様が現実そっくりに作り上げた仮想世界。

 召喚された勇者と装者、彼女たちをサポートするSONGや一部大赦の面々は身も心も生身であり、その他の人間たちも魂こそ本物。

 しかし、それ以外は全て、現実そっくりに再現された、朱音の言う通り〝幻〟。

 山も、木々も、草花も、川も海も、空も雲も大気も、そこに住む人以外の生物たち

さえ、神に作り上げた、実体無き〝プログラム〟に過ぎない存在でもあった。

 それでも―――。

 

 改めて、棗は一度海の方へ向けた瞳を閉じて、自身が愛する海も含めた……〝世界〟そのものに身を委ね、耳を傾ける。

 

「確かに、この夢幻(せかい)も……生きている」

 

 気がつけば……棗の瞳からも、陽光で煌めく泪が、慎ましく流れ落ちた。

 

「私たちを見守り……愛しているその声が、私にも聞こえてきた」

 

 二人とも、元より感性と情緒が豊かな勇者装者たちの中でも指折りで感受性が高く強いだけでなく、あらゆる森羅万象に対して強い敬意の念をその胸の内の心に宿している。

 それゆえ、神樹様からの神託とも違い、様々な生命が織りなす世界そのものからの声―――歌を、聞き、味わうことができた。

 だがそれは、同時に二人にある〝残酷な事実〟を教えてきて、歓喜と一緒に、悲しみも押し寄せてくる。

 その想いが涙となって、また二人の、世界を見つめる眼(まなこ)から、流れ落ちた。

 彼女らの髪が、そよ風で揺れる様も、ゆったりと泳ぐこの世界の中の時さえも、寂しさも醸し出す。

 ここは、神樹様が、天の神側に寝返った造反神との〝戦争〟の為、何より地の神々らが、自らに代わって戦う戦士たちへ送った、彼らなりの厚意によって生み出された幻

(せかい)。

 

 造反神が勝っても……そして〝勇者たち〟が勝っても、どちらかが勝利を掴んだその時点で、この結界(せかい)は消滅する……死する……そしていなくなる――運命だ。

 どんな存在、生きている以上、いずれは死が訪れる。

 そしてその時が来るまで、生きることは、どんな形であれ……他の命を糧にすると言うことだ。

 彼女たちが身を置く、神々と人間たちの争いと言う都合によって産み落とされた………この、ゆりかごの中の〝夢〟さえも。

 

「〝私たちの戦い〟の為に、この世界は生み出され……終わると同時に、死んでいく」

「Like……tears in the rain………As of……fall the flowers(雨の中の、涙のように………散りゆく花々のように……)」

 

 今ここにいる勇者たちにとっては長きに渡る戦いとなっても、現実に流れる時間は……結界(せかい)が生きている時間は、儚過ぎるほどに短い。

 刹那よりも一瞬な時の中で………咲き誇り、煌めいて、散華していき、次なる命への〝バトン〟が繋がれることなく、二度と咲かずに消えゆく〝花〟なのだ。

 

「なら、なおのこと、負けるわけにはいかないな……」

 

 朱音が発し、棗は頷いた。

 どんな理由、どんな目的があるにしても。

 造反神と、そして天の神が行おうとしているのは、この幻も入れて、今こうして〝ここにいて〟、賢明に生きている生命たちを冒涜し、足蹴にし、無残に消し去る行為に他ならない。

 もし自分たちが負けてしまえば………誰がこの世界(はな)が、確かに生きていた――〝ここにいた〟―――のだと、記憶に刻み、伝えることができるのだろう。

 その為にも、諦めず………みんなと、最後までこの戦いを生き抜く。

 

 改めて固めたその決意を胸に、誓いを込めた互いの拳を、朱音と棗はそっと、打ち合ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わら籠に一杯トマトを取り入れた朱音と棗は、一度水都の下へそれを持ってきた。

 

「あの……その目、どうされたんですか?」

「ああこれ……目にゴミが入っちゃって、なあ棗」

「うん、私も右に同じく」

 

ベタにも程がある咄嗟の言い分だったが、瀬戸内海から潮風も吹いてくる農場の中ともあればあり得ない話でもなかった。

 

「(いや……きっと、違う)」

 

 しかし、二人と同じくらい強い感受性の持ち主な水都は、薄々さっきまで彼女らの瞳から流れた涙の意味を察しつつも、あえて何も問わないことにした、

 

「そろそろ休憩だ、その次はランチに準備に入るね」

「はい、お願いします」

「楽しみにしているぞ」

「ああ、遠慮なく期待して待ってて――」

 

 その直後だった。

 朱音と、水都の脳内に、突如断続的なビジョンの数々が浮かび上がり、手を頭に触れさせた。

 

「どうした? まさかここで〝神託〟が!?」

「はい」

「作業中断! 全員すぐ集まってくれ!」

 

 朱音が大声で号令をかけると、歌野ら他の収穫メンバーは急ぎ集合。

 

「みーちゃん、朱音さん、ワッツハプン?(何があったの?)」

「いま、神樹様からの神託がありました」

 

 一同は驚愕を顔に浮かべた。

 

「なんて言ってきたのデスか?」

「〝防人の一茎たる小雀、閉ざされた地にて彷徨う〟……」

「私も水都と同じ内容だった」

「どういう意味なんだ……今回のは」

「防人……翼さんのことじゃ、ないよね」

「それに小雀って……」

 

 神託の意味を紐解こうと思案していると、朱音は何か閃いた様子を見せて、SONGを通じて大赦から支給された携帯端末(スマートフォン)を取り出し、専用アプリ《NARUKO》を開く。

 

「Bingo、みんな地図を見て」

 

 言われた通り、NARUKO内のGOPSアプリを開くと、地図上にて自分たちの他に、農場からそう遠くない、まだ造反神に侵略されたままの地区――《未開放地区》の真っただ中に、もう一つ〝点〟が表示されていた。

 

「かが、しろ……?」

「恐らく、『かがじょう・すずめ』と読む」

「誰なんでしょう?」

「誰であれ、奴らがテリトリーに踏み込んだ獲物を見逃す筈がない」

 

 まだ樹海化現象は発生していないが、事態は一刻も争う状況な以上、急がなければならない。

 

「私と棗、雪花、銀、セレナは『加賀城雀』の救出に向かう、歌野、調と切歌と英理歌は万が一の為に水都と農場の護衛と司令部へ報告、あと安芸先生にもこのことを伝えておいてくれ」

 

 張り詰めた早口で朱音は指示を飛ばす。

 

「オーライ!」

「「はい(デス)!」」

「了解です! でもなんで安芸先生に?」

「今は〝教え子がピンチ〟としか言えない」

「デデデース!?」

 

 未開放地区に迷い込んだその者が、安芸先生との関係がある人間である理由を朱音は端的に述べ。

 

「時間がない、さあ行くぞ!」

 

 即席に編成された救助チームの勇者たちは、急ぎ端末が示す方角へと駆け出し。

 

 Seilien coffin airget-lamh tron~♪

 

 Valdura airluoues giaea~♪

 

 ギアペンダントを手に聖詠を唱え。

 端末の変身用アプリをタップし。

 

 朱音たちは一斉同時に、変身。

 

 単独での飛行能力を持つ朱音とセレナは飛翔し。

 

「銀!乗れ!」

「あや姉さん、盾――お借りします!」

「古波蔵さんと秋原さんは私の短刀(ダガー)に!」

「分かった!」

「はいよ!」

 

 残りの飛べないメンバーの内。

 銀は自立飛行できる朱音の甲羅状のシールドに。

 棗と雪花はサーフボード並みに大型化させたダガーの刃の側面へ跳躍して乗り込んだ。

 

〝~~~♪〟

 

 未開放地域に侵入直前、端末から樹海化警報のメロディが鳴り響き、丁度目的地周辺に樹海のドームが出現した。

 

「樹海が……」

「このまま突っ込む! 全員戦闘準備ッ!」

 

(どうか持ちこたえてくれ、今助けに行く!)

 

 朱音たちはそのまま、〝同朋〟が放り込まれた戦場――樹海の渦中へと飛び込んでいった。

 

中編につづく。

 



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収穫の秋と迷える小雀 中編

さてさて二連続投稿の二打目。
亜耶ちゃんより先に雀ちゃんが出てくる回、ちょっと間が空いた上に前後編のつもりがまたボリューム上がって三部作に、面目ねえ。
一応季節がぴったりな時期に出せましたが 


 鮮やかの一言だけでは表し切れない、極農の原色な色たちが多種多色かつ半ば無秩序で無節操に樹木に大地に空にと染め上げる、神々がその超常の力で以て生み出す極彩色の異空間にして異次元――樹海にて。

 

「ひゃあぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」

 

 数多くの人類の中でも、発せられる機会も、それを耳にする機会も、一生の内に一度あるかどうか、それすらも断言できないくらいの、余りに強さだの逞しさだのと無縁な〝情けなさ〟たっぷりの、少女の悲鳴が空間のドーム内一杯に轟いた。

 その声の主を救う為に実は今回、生成された樹海内では、それでも夥しい数の、造反神に侵略された地――未開放地区を我が物顔で飛び回っていた中、自分たちがその身を賭けて駆逐しなければならぬ〝敵〟の気配を察知して内部に入り込めた星屑たちが、巨大な枝たちでできた山あり谷ありの大地を疾走するたった一つの〝人影〟を殺すべく、一斉に襲い掛かっていた。

 

「ひぃぃぃぃへぇぇぇぇぇーーーーー!!」

 

 人影――少女は、殺意が充満する星屑の大群を前に、またも奇声じみた、けれど本人にとっては命の瀬戸際に立っている状況を主張する、精一杯の悲鳴をまた異空間中に響かせた。

 そんな彼女の、華奢で小柄で幼さをの残す体躯には、どこかナズナの葉や幹を連想させる淡い緑色の、少女が纏うには武骨な形状をした鎧らしき装束、肩のアーマーには、実際にナズナの花が描かれた腕章が刻まれている。

 顔はバイザーで口以外は見えず、片手に持つ十字架状の装束と同色の盾以外に、獲物の類は……一切見当たらない。

 事実、今この少女には、星屑たちに攻撃できる手段たる〝武器〟の類を、全く持ち合わせていなかった。

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬッ! いやマジで今回お先真っ暗、あの世へ真っ逆さまな直行便! わたしいよいよさよなら! もうゼッタイ殺される~~~! メブゥゥゥゥーーー!」

 

 にも拘わらず、死の奈落まで、もう後一歩と言う余りにも絶望的な状況下で、休む手間暇も与えず常に襲ってくる星屑たちの猛攻を、口振りに反して―――凌いでいた。

 あらゆる方向方角から雪崩れ込む星屑の群れの突進の数々に、まるで敵の手の内を先読みしているかのように掻い潜り。

 それでも肉薄してきた固体を、ある時は紙一重に躱し、またある時は盾を巧みに用いて体当たりの勢いを受け流し。

 またある一体を、スイングからの盾の一撃で打ち払いさえした。

 

「きゃあ!」

 

 その隙に飛び込んだ攻撃さえ、屈んでギリギリのところで逃れる。

 

 

 

 

 

 なぜだ?

 天よりの命を以て粛清すべき人間の中でも、飛び切りの弱者にしか見えない、雀の涙程度の〝神樹〟の力の一部しか纏えていない虫けら一匹に、なぜ自分たちは殺すどころか―――攻撃の一つさえ当てられない!?

 星屑たちの、本能と言う名の集合意識には、焦燥や苛立ちが、鰻上りに積み上がっていった。

 

“コノママデハ、スマサン………〟

 

 奴らの〝全にして個、個にして全〟なる共有意識は、決意した。

 宙を駆ける速度を上げ、一層苛烈に少女を強襲しつつも、一部は一箇所に集まり出す。

 

「はっ……」

 

 バイザーの隙間から冷や汗を流す少女は、敵の意図を察した。

 星屑たちは融合しようとしている。

 かつて〝防人〟と呼ばれていた――神々の力をお借りしていながら、〝勇者〟と呼ばれることを許されなかった……雑草の一草も同然な弱っちくて臆病者な自分一人相手に。

 星屑(やつら)の融合が完了して、バーテックスとなってしまえば、防戦で手一杯だった彼女に、成す術はない。

 逃れようにも、共に窮地に立ち向かう〝仲間〟は、今ここにいない。

 

(ごめん………メブ………みんな)

 

 気がつけば、大枝の大地に、力なく尻もちを付いていた。

 

「っ………」

 

 最早、悲鳴すら上げて、全力で怖がりつつも必死に抗う余裕すらなくなりつつあった。

 

(みんなの■■……守れそうに――)

 

なけなしの、雀の涙に等しい乾いた笑みを浮かべる彼女の脳裏に走る、友たち

 絶えることのない攻撃の荒波を受ける中で、巨大なる神の使徒が誕生する瞬間を突きつけられる直前。

 

〝~~~♪〟

 

(う……うた?)

 

 歌が、歌声が………聞こえる。

 少女にはどんな言葉で、どんな意味が全く理解できぬ言語でできた詩。

 しかしそれを、大地の鼓動の如き力強さと、流れゆく水流の如き艶やかさを併せ持った歌声が、彼女に訴えかけてくる。

 

〝諦めるなッ!〟

 

 歌に籠る〝熱情〟が、少女の胸の奥へと鳴り響いたと同時に、完全に融合し終える直前の災厄の集合体たる巨躯へ、少女が結界の外で何度も目の当たりにしてきた業火に似た、鮮烈なるマグマの色をした〝火球〟が貫く。

 たった一撃―――で、バーテックスになりかけだった巨体は、瞬く間に全身が灼熱に覆われ、豪快に四散した。

 

「えっ?」

 

 何が起きたか全く呑み込めない少女に、今度こそと星屑の群体は迫るも。

 空から降り注ぐ、槍の驟雨に串刺しにされ。

 星屑以上の眼にも止まらぬ速さで翔る短刀たちに切り刻まれ。

 宙を震撼させる、二つの強烈な衝撃波たちで薙ぎ払われる。

 それでも内一体が、突然の猛攻を潜り抜け、正面から牙を剥き出しに大きく開いた口で、彼女を噛み殺そうとするも。

 

「ひぃ!」

 

 直前、彼女の前に降り立つ人影。

 

(め……メブ?)

 

 刹那、雀は、〝当人からは〟いつも頼りっ放しの助けられっぱなしな、我らのリーダーの後ろ姿が見えたが、直ぐに錯覚で、背中を見せている相手は別人だと気づく。

 逆光の視界でも鮮やかに色づく、メカニカルで紅緋色の鎧(アーマー)。

 艶やかに風で揺らめく、葡萄色がかった黒髪。

 そして先程聞こえた歌声とともに流れていた伴奏(メロディ)を鳴らし、その勇姿は彼女の前に立つ。

 

(あれ?)

 

ほんの一瞬だったが、少女の眼は、自分の救助に来たと思しき、友の面影が過った何者かの後ろ姿から――〝甲殻を背負った巨獣〟の姿が見えた。

 

(も、もしかして……この人が……)

 

 その戦士の右手に持つ鎧と同色の得物(ロッド)は、星屑の口内へ神速の勢いで突き入れた。

 少女を殺害できるまで、もう後一歩だった星屑の一個体は、結局使命を果たせぬまま、体内から急速膨張する〝プラズマ〟に、肉片残さず焼き尽くされた。

 

「How~does ~it~taste?(お味はどうだったかな?)」

 

 神の使徒たちからは皮肉(ブラック)この上ない、少女を救ったシンフォギア装者――草凪朱音の、胸の勾玉からのメロディに乗ったまま、ユーモア込めた捨て台詞な即興の歌詞とともに。

 

「Now then~ It’s slice~and~ (さて次は――輪切りと)」

 

 左手の噴射口からの炎を、甲羅状の盾に変え。

 

《旋斬甲――シェルカッター》

 

 一回転の遠心力を相乗からの投擲、ジェット噴射で高速回転する甲羅の刃は、朱音の宣言通り次々と星屑の肉体を両断(わぎり)にし。

 

「―― cinder ~~!!(消し炭だッ!)」

 

 間髪入れず、ロッドからライフルに変えたアームドギアの銃口から。

 

《烈火球――プラズマ火球》

 

 超放電現象迸る、焔の弾丸を連射し、甲羅の旋回で機動を乱された個体たちを撃ち落とす。

 時として装者としての彼女の、伴奏含めた戦闘歌は、その時の場や状況に合わせて柔軟に、さながらジャズの如く即興性たっぷりな自由気儘に変化して〝アドリブ〟をかます様が、見られることもあった。

 少し前まで同類だった球状の花火(ばくえん)から吹かれる暴風に晒された、残る敵たちの本能(いしき)は、戦慄する。

 来た………来てしまった。

 この雑草一草始末できぬまま、〝奴ら〟が現れるのを、許してしまった。

 自分達の宿敵―――勇者と、シンフォギア装者を。

 

 

 

 

 

 

 今の私たちのサッカーパンチで、相当数を減らされながらも、尚突撃を止めぬ星屑を、銀の二斧が横薙ぎの軌道で薙ぎ払い、棗の三節棍が盛大に叩きつけ破砕させる。

 

「おっと、お集まりもご遠慮――願いますよ!」

 

 再び融合しようにも、雪花が絶えず投げつける槍の乱れ投げと、セレナの脳波で飛行するダガーたちが阻む。

 

「怪我はないか?」

 

 その間私は振り返って、淡いグリーンの装束(アーマー)を纏った彼女に呼びかける。

 

「は、はい……お助けありがとございます」

 

 何とか間に合った。

 間一髪助けることができた相手には、受け答えができるだけの体力も理性も意識も、残っていて無事だった為、警戒は怠らないまま安堵する。

 彼女にこれ以上手出しはされないよう、銀、雪花、棗、セレナ、そして私の五人は、円を描く形で彼女を取り囲み防衛する。

 顔こそバイザーで隠れているが――。

 

「待たせたな――加賀城雀、君を助けに来た」

 

 ―――この人こそ、神樹様が神託で〝防人の一茎たる小雀〟と称された、安芸先生の教え子その人である。

 

「え? なんでッ!?」

 

 彼女の驚愕に反応したのか、バイザーが開いて彼女の小動物風な容貌が露わになる。

 三角おかっぱと、麻呂眉が中々チャーミングだ。

 

「いやいやいやいや~~お、恐れながらですよ………そ、装者様の、それも天下の大怪獣ガメラ様が、なぜ私なんぞの名前をご存知で?」

「今は〝元怪獣〟だ、説明なら後でじっくりするよ、君は大船に乗ったつもりで休んでいてくれ、奴らに一切手出しは―――〝私達〟がさせない」

 

 さてと――。

 

「私と銀で切り込み、棗は中距離(ミドルレンジ)で迎撃を、雪花とセレナは加賀城雀を護衛しつつ後方支援を頼む」

「「はい!」」

「了解した」

「はいよ~~♪」

 

 念仏を唱える時間ぐらいはあっただろう?

さあ〝災いども〟よ、ここからは―――It’s my turn(私たちのターンだッ!)

 人間(われら)からの盛大な引導(プレゼント)、とくと受け取れ!

 

「掃討するッ!」

 

 

 

 

 

 

 これが、ちょっと前の時間に起きた私、絶対忘れられそうにない衝撃の体験でした。

 そして今この私――加賀城雀は結構な広さのある畑の隅っこで体育座りをしたまま。

 

「歌野、水都、次はどの野菜を取ればいい?」

「それじゃ棗さん、今度は――」

 

「ほよ~~一際でかいの取ったぞデ~ス!」

「暁さん凄~い」

「なんとビック………ドクターがいたらお仕置きに使えたのに」

「英理歌さん……その人にどこの笑ってはいけない何々をやらせるつもりですか……」

 

 せっせと秋らしくたっぷり畑に実った色んな作物の収穫に励む、人間全体のヒエラルキーにおいて最底辺に位置する私より年下ながら、逆にヒエラルキー上の上位に位置する勇者の方々と装者の皆様の、訓練以外の時の自分たちの姿が浮かぶ雑談を交えながらの作業の様子を、まざまざ眺めている状態にありまして。

 ある意味で、中学以来この讃州市に久方振りに来た〝目的〟が、ある意味で達成されたわけなのでした。

 詳しく話し出すと長くなるので、簡潔に言いますと、私は過去や異世界からやってきたと言う勇者とシンフォギア装者に、ちょっとお目にかかりたい好奇心がまた沸いて………わざわざ朝早くから、実質私たち〝防人〟の学生寮も同然なゴールドタワーからこっそり抜け出してきたのです。

〝前回〟はがっつり讃州中学勇者部の方々とお会いし、活動に付き合った挙句、エールまで頂いてしまいましたが、今回こそは〝覗き見〟だけで過ごすつもりだったのですが、その顔を知られている勇者部の皆様に気づかれずに拝む機会などそう来るはずもなく、市内を彷徨っている内に気がつけば迷い。

 慌ててスマホで現在位置を確認しようとしたら、何とも底辺人間の私らしい運の悪さで、安芸先生からもメブからも耳にタコができるくらい注意喚起されていた………入ってはいけないとこ――いわゆる造反神の縄張りにされた未開放地区にうっかり入って、今まで経験したことのない、一人で星屑たちを相手にしなければならない波乱な目に遭い、今度こそ命運も尽きたと思われたところで助けられ、今に至っております。

 偶然にも、助けてくれた面々のほとんどが、いずれもこっそりの少しでもいいから顔を拝みたかった人達ばかりでした。

 諏訪の勇者、白鳥歌野。

 沖縄の勇者、古波蔵棗。

 北海道の勇者、秋原雪花。

 仲間の一人の小学生の時の同級生だった……三ノ輪銀。

 あのフロンティア事変に大きく関わっていたと言う世界的アーティストマリア・カデンツァヴナ・イヴと姉妹みたいに仲良いらしい、大昔の武器の欠片を使って変身するらしいシンフォギアって武器を使う装者(つかいて)の一人な暁切歌と月読調と星空英理歌、そんでマリアさんの実の妹のセレナって子。

 そして………なんと私も名前だけは聞いたことあった平行世界(パラレルワールド)からはるばる神樹様が呼んできた、前世がなんと、特撮だっけ? その特撮系映画に出てくる本物の怪獣だった装者、草凪朱音。

 さっきの不運から一転してのこの幸運な巡り合わせ、これ………後からもっと大きな不幸が押し寄せるフラグとかか何かじゃないよね?

 そんな自分でもどうにかしたいと思ってる不安、恐れ、マイナス思考に、また頭の中が一杯になりかける。

 

「(お~い)」

「びょえぇ~~!」

 

 直前にいきなり、私の頭の中で声が聞こえてびっくり仰天して、押し寄せる嫌な不安たちは一気に吹き飛ばされた。

 

「(ごめん、びっくりさせちゃったね)」

 

 脳みそに直接声をかけてきたのは……宙に浮いてるお腹が〝火〟にも読める模様をした小さな亀さん。

 安芸先生から話は聞いてたけど、これが勇者様に装者様の戦闘をサポートする、パートナーも同然な精霊。

 大体が妖怪モチーフらしいと聞いた時は、やたら怖い方を想像して背筋が凍ったものだけど、実際の精霊はイメージから真逆に離れすぎた、ゲーセンのUFOキャッチャー内にいてもおかしくない、いかにもゆるキャラなルックスをしていた。

 しかもその一体にして、あの異世界から召喚された、映画に出てくる怪獣も生まれ代わりでもある草凪朱音さんのパートナーにして、同じく本物のガメラな筈な、名前はトトと言うこの精霊さんは、飲み物が入った紙コップを乗せたお盆を持っていた。

 

「(取れたて野菜の、はちみつ砂糖入りのグリーンスムージーだけど、一杯どう?)」

「あ、どうも……」

 

 せっかく持って来てくれたので、両手で丁重に受け取る。

 

「精霊って、君みたいに普通に喋れるの?」

「(さすがに僕みたいなのは、精霊にもそういないよ)」

 

 さらもしかも、その子は超能力ではポピュラーな、でも精霊たちの間ではマニアックらしいテレパシーで人と会話もできる。

 空飛ぶ喋れる亀………冷静に考えると中々シュールではなかろうか?

 とは言え、スムージー自体はありがたく頂こう、丁度喉が渇きそうだったし。野菜の方のジュースはどちらかと言うと苦手だけど、甘味も入って癖も少ないだけあって、ごくごくいけるくらいすんなり飲めて、美味しい。

 

「(それじゃ僕は収穫作業に戻ってるから、どうぞごゆっくり)」

 

 と、トトは畑の方に飛んで行った。

 同じく重力何それに飛び回る他の精霊たちも、収穫のお手伝いを頑張っているんだけど………これ、ちょっとした百鬼夜行だよね?

 精霊は勇者様装者様ご本人と、関係者以外の一般人には見えないと安芸先生から聞いていたと言うのに思わず私は、通りがかりがうっかり見て腰抜かしてないか、きょろきょろ辺りを見回してみる。

 

「(僕が人避けの結界貼ってるから心配はないよ)」

 

 どうも見かねたトトが、そう説明してくれたのでした。

 安心した私は、スムージーを飲みながら暇つぶしに収穫中な畑の中に、好物のみかんの樹がないかなと探したけど……見当たらない……極早生なら丁度今が収穫時期なんだけどな、あったら今頃取れたてをたっぷり食べられたところなのに、ちょっとがっくりさせられたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

「な、何をしているのだろう? あの人は……」

「多分、トトたちが通りがかりに見られてないか心配なんだろう」

 

 名前の通り雀みたく首を振って周囲を見回る加賀城雀の様子に対し、私と調はこう受け答え合った。

 今、私と調の二人は、一旦収穫作業から離れ、ポータブルラジオからの番組をいわゆる作業用BGMに、互いの持前の料理スキルを活かしてランチの調理に取り掛かっている。

 持ち込んできた折り畳みテーブルの上には、レンタルした折り畳みリヤカーに乗せて一緒に持参してきた料理に必要たる器具は揃い踏みだし、材料そのものだって困らない、なんてったって新鮮な取れたてがたっぷりあるからだ。

 今回の料理のラインナップは――。

 チキンのささみ肉と秋野菜ときのこの混ぜ合わせソテー。

 大豆とマカロニと取れたてトマトをふんだんに使ったスープ。

 メインは香川の郷土ライス『おいでまい』と、今朝棗が市場から仕入れてきた、切ない回で取れる今が味の旬な黒鯛一匹まるごと使った香川名物の一つ――『チヌ飯』。

 ――と、なっている。

 結構メンバーがいるので、まず必要量のお米を半々で私たちは洗い、一時間くらいざるに置いておく。

 その間に、自分たちがここまで収穫した野菜たちの材料(いちぶ)を手早くテキパキと切り刻んでいたのだが――

 

「はぁ~……」

 

 最中、包丁で材料を端整に捌く手を緩めないまま、調はまた溜息を零した。

 

「戻ってきてからずっとそんな調子だが……どうした?」

 

 加賀城雀救出の為出撃した前と比べても、少々ながら彼女のテンションが低い。

 そう言えば切歌も戻った直後は似たような調子だった。

 

「あ、実はあやちゃんの指示通り、本部に報告した時なんだけどね……」

 

 私が出撃前に伝えた通り、あの後調たちは本部と通信を繋ぎ、畑の近くで未開放地区に人が入り込んでしまい、メンバーを二手に分け一手が救出に向かったこと、その相手が安芸先生の教え子、つまり彼女が監督官を務める〝戦士隊〟のメンバーである加賀城雀であることも含めて報告した。

 歌野によれば、それを聞いた安芸先生は表面(かお)こそ平静を装っていたが、内心は怒りがふつふつとオーラとなって沸き上がっていたらしい………無理はないけど。

 その際、おかんむりだったのは安芸先生だけではなかった。

 

「その時司令室にいたマリアに奏芽と、クリス先輩や夏凜先輩から、ちょ~っと………苦言を突かれちゃって」

 

 苦笑いする調からの話を纏めると、要は。

 

〝普段自分たちの言うことには渋って食ってかかる癖に、朱音の指示には素直に従うとはどういうことだ? お~い?〟

 

 意訳入っているが、大体こんな感じだ。

 

「次の訓練はいつもよりみっちり扱くのでそこのところ心の準備はしておくようにとも言われちゃった……」

「その様子じゃとことんみっちり扱かれそうだな」

「うん……」

 

 弓美が愛するアニメも、私や静音も嗜む特撮も含めたあらゆるチームものの物語において、よくいるだろう?

 勝つことなどに拘る余り、チームワークそっちのけで先走り、スタンドプレーに突っ走って痛い目を見てしまう問題児なキャラ。

 実は調と、切歌もだが、この二人で一人なシンフォギア装者のザババコンビは、戦闘に於いてはその手の問題児に該当する一面を持っていた。

 この二人、一見性格は正反対なようで、血気に逸り易く、前述の通り熱くなって突っ走りがちなところは似た者同士なところがある。実際今までの戦闘でも、マリアたちの指示を跳ね除けて独走してしまい辛酸を舐めさせられてしまう場面が何度も起きていたと、静音から聞いたことがある。

 

「なのに私の指示にはすんなり聞いてくれるよね? 君も切歌も」

「っ………」

 

 調の表情に、胸の内から明らかにドキッとした音が響いたのが見えた。

 

「ま、まあ………」

 

 見るからに目を、水棲生物ばりに右に左に泳がせてもいる。

 

「どう言ったら………あ、あやちゃんって歳は私たちと同い年だけど、戦闘じゃガメラだった頃入れるとベテランの中のベテランだから、聞き入れやすいと言うか、受けやすいと言うか……」

 

 明らかに、これは私を持ち上げて誤魔化す魂胆だな。

 それは敢えて追及しないことにして、改めて思い返してみても、先程のも入れて私からの指示(他にはリーダーの静音からのもだが)には、すんなり受容している方だった。

 この間の、日本政府からの指令――実態は風鳴家の長にして国枠主義の怪物な外道爺の無理難題も同然な差し金で進められた諏訪奪還作戦直前にて起きた、敵側の小手調べであった襲撃の際、まだ避難していなかった地元農家住民なおばあさんの安全確保の為、マリアから避難民の護送を指示された時も、最初こそ渋っていた癖に。

 

〝調、切歌聞こえるか? 状況は大体把握している、私たちのお役目の基本は、『危険に晒される命を守る』こと、戦闘は一手段であって目的じゃない、はき違えるなッ!その人を最も確実に助けられるのは、君たちなんだッ!〟

 

 指令所のモニター越しながら、状況を汲み取った私が通信で叱咤すると、二人とも一転して冷静になり、各々のギアの機動性を生かし、住民を連れて戦場から離脱したのだ。

 

「でも、マリアたちの指揮能力にも何ら問題はないんだし、もうちょっとは素直になってあげた方はいいと思うけど」

「う、うん………どうにか善処はしてみる」

「じゃあ私は黒鯛の臭みを取るから、ささみ肉のカットお願い」

「は~い」

 

 野菜を一通り切り終えた私は、肉は調に任せ、黒鯛の臭み取りの作業に入る。

 まず、臭みの大半の原因である滑りを取る為に塩を振りかけて――。

 

『さて皿の上のにはガイドのピーターが作った鹿肉の野菜炒め、山泉涼のキタカワヒメマス飯が火花を散らし合ってのご登場、果たして日本対カナダの勝負はこれいかに――』

 

 そこへ何の偶然か。

 今ラジオから流れている番組からは、あの土曜ドーでしょうを落語の小噺調で朗読すると言う趣旨のコーナーなのだが。

 タイムリーにも今日のはカナダでカヌーの川下りをしながらキャンプする回なのだが、レギュラーの天パータレントが、川で釣りたての淡水魚で作った魚飯なのだが………今まさに私がやっている臭み抜きを一切やらずに炊いたせいで、生臭さに満ちたお味となり、共演者スタッフ一同から酷評の嵐を受けていた。

 ご安心なさい、香川県民の方々と黒鯛たちの名誉にかけて、チヌ飯はとびきり美味しく作りますので♪

 

『こ~んどまたキタカワヒメマス飯みてえなもん作ったらはっ倒し~~の殴り倒しにしてやっからな!』

『仮にもそのデブリンチョな腹ん中に僕のキタカワヒメマス飯がいくらか入ってるってのに何だ? その口ぶりは~~』

 

 笑いのツボを刺激されつつ、私は臭み抜きを進める。

 

 

 

 

 

 

 

 おっとしまった………そう言えば加賀城雀が何者であるかの詳細を、全然説明していなかったな。

 けどそれはまた次の――ってことにしておこう。

 食事時にするには、重すぎる話題でもあるからだ。

 

 ではまた次回。

 

 後編に続く。

 



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収穫の秋と迷える小雀 後編

やっとできました雀ちゃん登場回の後編、二重奏シリーズ本編での防人の設定とのすり合わせもあって暫く保留したのもあってここまで伸びちゃいました(汗


 中学のあの時以来発揮された〝ちょっとした好奇心〟も含めた〝理由〟がきっかけで、うっかり未開放地区に入って一人星屑の大群を相手にする羽目になり、危うく本当に今度こそこの世からいよいよさよならしかけた―――まだ短い人生で間違いなくトップクラスに位置する加賀城雀に陥った人生最大の危機から、〝勇者〟たちに間一髪助けてくれたこの激動の一日も、気がつけば………もう夕方に差し掛かる、陽光が色づき、青空に夕焼けの色味に付き始めた頃。

 なんとなく雀でも秋って感じがする上に自身の大好物なみかんに形も色もそっくりなまるまるとした夕焼けが、いつも以上に彼女の目からもくっきり見える気がする神樹様の壁がそびえる瀬戸内海へ空の色を変えながら沈んでいく最中、な時間帯となっていた。

 

 

 

 

 

 はぁ~~~ほんと美味しかったなと、思い返しただけでとろけた笑顔のまま私はお腹を撫で上げる。

 

「どうやら余程堪能してもらったみたいだね、今日のランチは」

「ええそれはもう、まだ食べた瞬間の旨味がくっきり口の中に残ってますよ♪」

「それは何より、私も調も料理人冥利に尽きるよ♪」

 

 我が人生最悪の、自分でも自業自得と言わざるを得ないあの危機から生き延びられた私に待っていたのは――

 

 おいでまいと黒鯛をふんだんに使って混ぜ合わせて炊きあがったチヌ飯に。

 チキンのささみ肉と秋野菜ときのこの混ぜ合わせソテー。

 大豆とマカロニと取れたてトマトの野菜スープ。

 そして私のご要望に合わせて、わざわざ近くの農協から買ってきてくれたデザートの小原紅早生(おばらべにわせ)こと、赤味がかった見た目に甘味がふんだんに凝縮された、みかん好きの私にはたまらない、故郷の愛媛みかんとはまた違った味わいのある――香川みかん!

 

 ――まさに〝食欲の秋〟と呼ぶに相応しい、今が旬の食材の数々で作られた料理の数々。

 自分の語彙力では、〝ほっぺがとろけて緩む〟が精一杯ながら、秋の空と空気の下で食べるには最高に絶好の絶品な美味しさで、ゴールドタワーの食堂の料理が物足りなくならないか心配になるくらい。

 こんなアウトドアチックなのに豪勢かつ美味が極まる料理を、中学の頃にお会いした勇者部の皆さんに負けず劣らず個性溢れて愉快な――でも戦場においては〝勇者〟の名に偽りなしの勇姿を見せてくれた勇者の皆様方と一緒に食べる、それはもう賑やかで楽しい昼食(ランチ)でございました。

 しかもその後、西暦勇者の一人である歌野さんの畑の収穫作業の続きの傍ら。

 巫女の水都さんと、巫女の資質を持ってるらしい朱音さんとで次の収穫も豊作となるようにと、端末のアプリからの音色をバックに、簡単なものながら豊穣の祝詞を唱え、一緒に舞を踊ったり。

 本当に〝歌って戦う〟シンフォギア装者の皆さんによるちょっとしたミニライブも、大が付くくらいの本格的かつ圧倒的歌唱力でお披露目なさったりと、色々貴重な体験をたくさん頂きました。

 そしてまだ、勇者の方々との交流の経験の余韻による色んな意味での満腹感が残る今、隣の横並びで一緒に私と歩くもう一人こそ………助けてくれた〝勇者〟の一人であり、先程も名前を上げましたが、平行世界から神樹様の導きでやってきた、前世が〝怪獣〟と言う衝撃的な境遇の持ち主でもある装者―――草凪朱音さんですと改めてご紹介……って、あ………頭の中の温度が、我に返った瞬間一気に冷え込んだ。

 

「たたたた大変申し訳ございません!」

「uh……what?(なに?)」

 

 な……なんでこのタイミングで思い出しちゃうの!?

 普段は自分でも嫌なくらい〝起きたら嫌なこと〟を想像するくせに、この時に限ってそれが働いていなかった我が身を恨みつつ、頭をお下げする。

 

「勇者の皆様方に多大なご迷惑をかけた大バカヤローなか弱き小雀の分際の身のくせして、不覚にも調子に乗ってしまいました………改めまして謝罪を表明致します!」

 

 いくら充実のひと時を過ごしたからって、何調子こいて浮かれていたのやら私……。

 己の諸行を思い出せ、この愚か者かつ人類ヒエラルキーの最下層にいる自分よ。

 こっそり今日の訓練をサボってゴールドタワーから抜け出して来た挙句、みすみす未開放地区に入り込んで星屑の大軍に追いかけ回された、こんな自分たった一人の為にヒエラルキー青天井の勇者の皆様に助けてもらう醜態を晒しておいて、その上ご馳走やら色々施しまで貰い受けてしまっていながら………舞い上がっていたのを自覚していなかったさっきまでの自分を叱ってやりたい。

 大慌てで私は………額に冷や汗がどっと溜まり、お日様の光で誤魔化せてるけど顔はみかんの山吹色より真っかの赤で、心臓の音だって緊張でばくばく大きめに鳴る中、朱音さんに何度も何度も深々と頭を下げて、お詫びの気持ちを一生懸命に表明しました。

 

「気にしてないからそう卑下することないよ雀、私はこの件に関してこれ以上君にとやかく言うつもりはないから」

「はは~~~ありがたき幸せです」

 

 朱音さんからのお慈悲の言葉を、ありがたく頂戴し、一際深く深~く腰を九〇度の角度で一礼。

 ああ………貴方様の背後から、夕陽以上に眩しい後光が輝いているのを、頭を下げた状態でも感じるよ~~~ありがたやありがたや~~~。

 

「わ、私は殿様か……それとも王様か何かな扱いをしてないかい?」

「私からすればそれ以上の高みにおられる天上人でございます」

 

 実際、守護神とも呼ばれる大怪獣ガメラだったお方なわけですし。

 ただ安芸先生からの説明と、ネットで調べた粗筋諸々を読んだだけで凄い痛そうで怖そうなイメージが付いちゃったので、肝心の映画は全然見れておりません。

 

「天上人ね……色々ツッコみたいところだけど……まあいいか」

 

 私のこの態度に、朱音さんは最上級にお美しいお顔を苦笑交じりの困った表情を浮かべましたが、人類最弱の中の最弱たる自分が述べたことは揺るがぬ事実であるので、譲る気はありません。

 

「でもまだ気を緩めない方がいいよ、そのゴールドタワーとやらに帰れば、安芸先生と君の部隊の隊長――楠芽吹から説教の雷が強烈に落ちるのは間違いないからね」

「はぁっ! そうでした……それも忘れていました……あ~~気が増々重たくなるよ」

 

 またしても不覚、頭を抱えて溜息を零す私。

 朱音さんからのありがたいご忠告を聞くまで、その問題をすっかり私は失念していた………待ち受けているもう一地獄………最早ほんの一欠けら分の想像すらしたくない………うっかりちょっとでも頭に浮かべたら帰りたくない気持ちで足取り重くなるのは確実、それでまた相手方にご迷惑をかけたくもないし。

 

「慰めにもならないと思うけど、一応安芸先生には、『本人はいたく反省をしていらっしゃるので、穏便な処置をお願いします』とメールで伝えておいたから」

「いえいえ、重ね重ねのご厚意、ありがとうございます」

 

 全くもって覚悟は決めきれてないけど………これ以上朱音さんたちに甘えたくはないし、仮にも量産型の〝防人〟とは言え自分も一応の一応……勇者システムを持ってる戦士ではあるので、この先に待つ窮地は、どうにか一人で切り抜けよう、と自分の名前でもある雀の涙よりも小さい……なけなしの勇気を搾り取って自分を鼓舞しました。

 

 あ、それと言い忘れていましたが………そんな人類最下層の私と最上階の域に朱音さんの二人は今、海岸線に沿って、SONG所属の戦士隊となった今でも私達の訓練場兼寄宿舎となっている大束町にそびえ立つゴールドタワー、またの名を《千景殿(せんけいでん)》とも呼ばれている塔の下へと帰っている最中でして、朱音さんは護衛も兼ねて、帰りの道中に同行させてもらっております。

 いくつかのやり取りを終えて再び私達は、タワーに向けて歩き出しました。

 それにしても………朱音さん、綺麗なお人だな……今日合った勇者の皆さんもみんな容姿の偏差値進学校ばりに高いお方ばかりだったけど、特にこの人はあのマリアさんやあのツヴァイウイングら、ほんまもんの芸能人に並ぶくらいのちょ~~~べっぴんさんです、いやマジで。

 今朱音さん、農作業に着ていたつなぎ服から私服へと変わっているのですが………首に勾玉のペンダントを掛け、かなり実ったお胸が見えるVの字の襟な赤いタンクトップの上に被せた真っ白のファスナー付きパーカーと、丈が短すぎてそのパーカーに隠れちゃってる上に筋肉質で引き締まっているのに肌がすべすべで柔らかそうな魅惑的曲線が流れる長い生足を惜しげもなく露わにしてるショートデニム……の組み合わせと言う。

 私から見れば、絶対男女関係なく目立つなと思う大胆が過ぎるファッションをごく自然に着こなし。

 

〝あの……恥ずかしくないんですか? 自分にはちょっと刺激が強そうに見えるんですけど………〟

〝いや、私にはこの程度何でもない、見られるくらいは大目にみてるしね〟

 

 最初にこの服装について思い切って訊ねてみたらさらりとこう返してきて、生粋の愛媛県民にして四国民にして日本人な自分からしたら、さすがアメリカ暮らしの長かった帰国子女は違うなと、つい感心させられました。

 しかも……飽きるくらいすっかり見慣れた大束町の夕焼けの光景すら、名カメラマンが撮ったような風景に見えてくるくらいのオーラまで放ってます………絵になってます。

 こんな長身美人で私やメブより二歳年下かつ亜耶ちゃんと同い年の高一だなんて………何のジョークでしょうか?

 朱音さんの方がどう見てもお姉さんに見えてしまいます。多分本人はこのこと気にしてるかもしれないので、口には絶対しませんが。

 ちなみに私の現在の発育状況に関しましては~~~………ノーコメントとさせて頂きますのでこの話は終わり!

 

「っ………」

 

 それはさて置きまして………一体さっきから、何を見ているんだろう?

 私は、さっきから歩きながらずっと、夕陽が沈んでる最中の瀬戸内海と神樹様の壁を眺めている朱音さんがちょっと気になって、横顔を見上げてて………上手く言えないんだけど、本物の翡翠顔負けの透明感な瞳は………何だか、潤んでる?

 でもあれ? 朱音さんご本人とこうして直に会うのは今日が初めてなのに、その瞳を………どこかで見たことが。

 どこで………あ、あの装者の皆さんによるミニライブ。

 その時歌われた歌の中で、朱音さんがメインボーカルで、他の装者さんがコーラスに徹した曲があった、丁度秋の風が吹く場にぴったりな、題名に風の一文字が付く曲だった。

 それを朱音さんは、空一杯に響かせようとするくらい力強く情熱的に、でもどこか儚くて切なく抒情的と言うか、心の芯までしっとりとしみ込んでくる……そんな感じで、プロのアーティストばりの歌唱力で歌い上げていた。

 そうだ……いざ思い返してみれば、確かにその時も、今みたいな潤んでた翡翠色の瞳で、瀬戸内海を、神樹様の壁を―――見つめてた。

 

「どうした?」

 

 すると急に朱音さんが、こっちに目線を移してきて。

 

「いや~~~今になって急に、一駅前で降りたのかなって気になりまして……あはは」

 

 と、咄嗟に私は笑顔でそれらしい言い訳を朱音さんに返し、お茶を濁らせました。

 実際、電車に乗ったのにゴールドタワーの最寄りの一歩手前で朱音さんが降りようと言って、今徒歩で帰っている最中なわけだし。

 

 

 

 

 

「oh……」

 

 Ooups(しまった)……雀からの質問に、私はハッと思い出す。

 いけないいけない………うっかりしていたな。戦闘の後、ランチの調理やら、ランチの堪能やら、収穫の続きやら、それを一通り終えた後にて歌野の畑にお恵みをくださった感謝と次なる豊穣も願った祝詞の詠唱やら。

 

〝恩返しとして土地にさらなるお恵みを差し上げるべく、次は私達で歌うデスよ!〟

 

 切歌の咄嗟の発案で、即興ライブを主に私達装者メンバーで開いて、私の端末の音楽プレーヤーアプリに入れていた曲のいくつかを歌い上げ、フォニックゲインの恵みをマナが流れる大地に送っていたり。

 とまあこんな感じで何かと立て込んでたが為に、戦闘中〝後でじっくりするよ〟と言った切り、すっかり雀になぜ名前を知っていた等の説明をするのを忘れていた。

 特に、私と切歌と調と英理歌とそしてセレナの丁度五人(歌って戦う装者の身なので、訓練のメニューには勿論ボイトレも組み込まれており、よく一緒に身体の鍛錬と同時に合唱で歌唱をも鍛える機会が多い)で、某ロボットアニメシリーズの一作に出てくる戦術音楽ユニット(こちらの世界では西暦末期の企画段階でバーテックスのせいで中止になってしまったが、三百年の時を経て世に出た経緯がある)の名曲含めた歌たちを、装者にして歌を愛する者同士の共鳴が起きたせいか、ついプロばりに熱唱しちゃったりしたのが失念の決め手になったな………毎度ながら私には最高の褒め言葉でもある〝歌バカ〟はほどほどにしないと。

 

「あ……それは色々あって先延ばしにしてた説明を歩きながらにでもしようと思って」

 

 咄嗟に私は、それらしい言い分で雀に返答する。

 実際は……この〝刹那よりも一瞬の時の中で咲き誇り、煌めいて、散華していき、二度と咲かずに消えゆく花〟であるこの結界(せかい)の夕陽をじっくり眺めたかったのが、一駅前で降りた理由なんだけど………それは置いておいて。

 

「まずは君の名と防人のことをなぜ知っていたかだけど」

「はい」

「異世界から来た異邦人の身だから、神世紀の歴史を調べておきたくて、しずっ………大赦次期代表から許可を貰って―――」

 

 記録の仕方としては下の下だった大赦の書庫に所蔵されていた黒塗りだらけな史料の数々を読み進めていた時。

 

「安芸先生が纏めた一冊に、君達――防人のことも載っていたんだ」

「安芸先生がですか!?」

「そう、かなり詳しく丹念に書き止められていたよ」

 

〝防人〟

 

 そう称された、勇者たちが知らぬ――勇者たちの存在を。

 よく翼(どちらの世界でも共通して)が装者としての自身をそう呼称し、本来の意味は飛鳥時代の日本の九州沿岸警備を任じられた兵士たちを指すこの言葉だが、この世界では意味がもう一つある。

 

 端的に言えば―――〝量産型勇者システム〟で変身する戦士たち。

 そして、一度は〝勇者〟の資質があると、一度は神樹様より目を付けられていながら、友奈たちのような勇者に………選ばれなかった者たち。

 喩えるなら、花開く機会に恵まれなかった草木――そんな少女たちで構成された部隊だ。

 

 かつては大赦の工作部隊も同然な立場だったが、現在はSONG所属の外部部隊となっており、最初の交流会(ブリーフィング)で安芸先生が自己紹介の折に言っていた〝戦士隊〟こそ、この防人。

 安芸先生は大赦工作部隊の頃から現在まで、その教官役を努めて続けている。

 その安芸先生が編纂した記録には構成メンバーのリストも記載されていて、勿論ながら加賀城雀の名前もちゃんと載っていた。

 お陰で、今回の戦闘の鐘が鳴ったことを報せる神託に入っていた〝防人〟が、かの勇者たちによる部隊を指していると早急に見抜き、《NARUKO》のGPS機能で樹海が出現する前に彼女の位置も特定でき。

 

「君がどうにか踏ん張っていたところで、何とか駆けつけられたわけさ」

 

 ここまで歩きながら説明していた私は足を止めて、パーカーのポケットに手を入れたまま後ろへ振り返る。

 

「そう、だったんですか……」

 

 私より先に、雀が立ち止まったからだ。

 夕陽でできたお互いの影は、さっきより大きく伸びていた。

 そしてさっきより、今日直に会った自分でも〝おしゃべり〟が好きだと分かる、口数が多くて優れたトークスキルを有した彼女の口が、一転して寡黙となっており、表情もころころ変わっていた可愛らしい顔立ちにも、夕陽の光すら払えぬ影が差し込まれていた。

 さっき私が、静音の名前を出しかけたの境に………彼女はこんな調子となってしまっている。

 無理もない話だ……かつて静音から、防人の隊員たちからすれば理不尽な切り捨ても同然な〝宣告〟を突きつけられればな。

 

「もう少し、寄り道していくかい?」

「え?」

「(トト、安芸先生にもう少し時間が掛かると伝言を頼む)」

「(分かった)」

 

 言伝を受けたトトは霊体のまま、ゴールドタワーへと飛んで行く。

 

「打ち明けたいことがあると何となく思って、それと私も聞いておきたいことがあってね」

 

 このままあのゴールドタワーまで行くつもりだったが、もう少し、話をしてみようと思ったのだ。

 勇者と言う名の花を咲き開くことなく……しかし〝防人〟として、人々を守るお役目を背負う〝勇者〟でもあることに違いはない同朋たちの一人である、加賀城雀と。

 

 

 

 

 

 現在も防人部隊の拠点となっているゴールドタワーからほど近い臨海公園内の、瀬戸内海を眺められるベンチの一角にて。

 

「はい、あったかいものどうぞ」

「あ、あったかいものどうも」

 

 座って待っていた雀に、私は近くの自販機から買ってきた缶飲料を手渡し、自分もベンチに腰掛ける。

 彼女の希望通り、みかんジュースはちみつ味、涼しげな秋の潮風に合わせてホットの方をセレクトした。

 私は勿論、ホットのブラックコーヒーであり、早速蓋を開けて一服。

 神世紀の缶コーヒーは決して悪くないのだが、友里さんの淹れる絶品のコーヒーの味を知った後では、やはりちょっと物足りないね。まあそこは贅沢ってことで。

 

「朱音さん……」

 

 みかんジュースを一口飲んだ雀から、さっそく話を切り出されてきた。

 

「安芸先生が書いたって言う記録を読んだってことは、私達の部隊がどんなお役目について……一度はどうなったのかも……」

 

 彼女たち〝防人〟のことを、発足の経緯やら務めてお役目と言う名の激闘の数々や、戦いの合間で交わされる日常やら等々、今日までの流れを詳しく語ろうとすると……どんなに短く見積もっても小説なら二百ページは軽く超える分量となってしまうので、申し訳ないが、そこは割愛させてもらう、実際安芸先生が書き纏めた記録も何冊に渡る大長編ものだった、静音が推し進めた大赦の組織改革が無ければ、不条理な検閲によって、ああした形で書き記すことは不可能っだっただろう。

 

「ああ、大体は存じている、君達にとって苦い思い出だから余り言及はしないけど、しいて言えることがあるなら……」

 

 あえて要約するなら、並のブラックカンパニーたちのブラックな気質がまだ可愛いものだと思えるくらい、友奈たち正規の勇者たち同様、ほとんど消耗品同然の犠牲ありきな大赦の人でなしな待遇の中、散々〝結界の外に出る〟過酷な任務に放り込まれてこきつかわれた挙句―――。

 

 

「散々こき使われた挙句、ある日突然いきなりリストラの首切りなんかされたら、誰だってクーデター起こしたくなるくらい憤慨するさ」

「そう……ですよね、あはは」

 

 私がコーヒーを飲みながら口にした皮肉(ジョーク)に、雀は苦笑で応じた。

 実は一度、防人部隊は解散の憂き目に遭っている。

 まだ友奈たち勇者部の最初期メンバーが讃州中学に在籍していた頃、大赦の次期代表候補に就いた静音は、三百年の年月ですっかり腐敗の一途を辿っていた大赦の組織改革を早急に取り組み始めた。

 静音が執り行った改革の施策の数々の一つが―――当時の大赦が推し進めていたある〝計画〟の凍結と、その前準備の為、大赦の連中から課せられる〝犠牲者〟が出ることを前提とした過酷が過ぎる任務に日々命がけで携わり、必死に誰一人として死者を出さずにお役目を全うしてきた防人部隊の、即時解散だった。

 

「実際あの時みんなほとんどお怒り心頭で、決定下した次期代表候補さんに存続の嘆願を、場合によって朱音さんの言う通り実力行使も辞さないくらいの勢いでやる気でした」

 

 このいきなりの有無を言わせぬお役目御免の通達に、リーダー格の楠芽吹を筆頭に隊員たちからは猛烈な反発が起きた。

 当然だ………それではいそうですかと納得できる人間なんてそういないし、誰だって蜥蜴の尻尾切りの〝尻尾〟にはなりたくはない………が、弦さんが以前使っていた表現(ことば)を使うなら、〝木っ端役人〟たる防人たちが束になって声を荒げたところで決定が覆るわけもなく、結局その年、部隊のメンバーは散り散りとなった。

 しかしそれから三年後、弦さんら旧特機二課のメンバーが国連直轄組織たるタスクフォース――SONGへと再編成される際、その傘下の形で防人部隊も再結成され、現在も、私が見上げるこのゴールドタワーで、安芸先生の指導の下、訓練に明け暮れている日々を送っているとのことだ。

 

「その件に関しては、私たちのリーダーがとんだ迷惑を掛けた………すまない」

 

 私は、静音がその頃から現在まで推し進めている大赦(そしき)の変革の煽りを受ける羽目になった雀たちに、詫びた。

 

「いえいえいえ! 朱音さんが謝ることじゃないですって! もう三年も前の話ですし、恨みつらみは持ちたくないし、争い事もしたくない性分ですから、お気になさらず」

 

 あわあわと両手を振る雀の言う通り、私はこの件に関しては完全に部外者ではある。

 

「それはそうなんだが、それでもせめて頭ぐらいは下げさせてほしい………」

 

 一度雀に下げた頭を、暁の空にまで見上げる。

 この世界に来て、静音たちと出会ってからまだ半年も経ってはいないし、前に未来に言ったように―――〝人の面の皮は人が思う以上に、多くて分厚い〟。

 

「静音は何かと………誤解され易い人柄をしてるからね」

「はぁ……」

 

 それでも、日頃から相手を〝しっかり見る〟ことを心がけ、付き合いを重ねれば、人物像(ひととなり)の一端を汲み取り、垣間見ることはできる。

 

「本当は誰よりも友、仲間、家族を大切に思っているのに、中々それを言葉にも態度にも出さないし………その癖大事な人たちを犠牲にさせない為なら、時にその人たちから不興を買われるような手段さえ躊躇わず選んで、自分から汚れ仕事の泥を進んで被る覚悟も決めてしまう………痛む己の心を押し隠して、弱音を一切吐かず………大赦の組織改革の為、強引に〝国造り〟の計画を中止した上に防人(きみたちのぶたい)を解散させた時もだし………この前の〝諏訪での戦い〟もそうだった」

 

 正直、この〝国造り〟と称されたこの大赦の計画は、中止となって幸いだったと、雀たち防人には申し訳ないが思っている。

 

「諏訪……」

「今日訓練をサボってまで、私たちの様子を見に来た理由も、それがメインだろう?」

「はい……その通りです」

 

 薄々そうだと思って鎌をかけてみたら、見事に当たった。

 

「あの後……友奈さんたち勇者の人たちがどうしてるのか、どうしても気になっちゃって」

 

 日頃〝ルール〟は順守する方な筈の雀が、こっそりタワーから抜け出してサボタージュするとしたら―――諏訪の一件だ。

 万全の態勢でこちらの奇襲を待ち構えていたことは間違いなかったバーテックスたちを混乱させ、足並みを乱す為に静音が断行した、諏訪市全域への一斉砲撃………結果的に死者こそ一人も出なかったが、民間人の犠牲者を出すことを前提として容認した、非人道的な作戦。

 これも当然ながら………防人部隊の面々からも反発の声が上がったのを、雀の顔色と声色から容易に窺えた。

 

「信じるかどうかは好きにしていい……静音が実行したあの作戦にはみんな不満を露わにして反発してた、過去から召喚された中学生の清美(しずね)からにもね………何より静音自身も、こんな作戦を取ろうとしている自分に内心は己が無力さを呪い、良心を痛めてたけど、それを顔には微塵も出さずに――」

 

〝どう思おうがかまわないわ……私の作戦をね。でも今は私たちのやる事に集中しなさい、罵倒も何もかも、あとでいっぱい受けてあげるから……〟

 

「そう言って作戦を断行した………私だって理解はできても、今だって納得していないさ………でもそれぐらいギリギリの状況だった――」

 

 私は先日、切歌たちに話した、静音が仲間たちの反対を押し切ってまで作戦を実行させた〝事情〟諸々を、雀にも話した。

 

「そ、そんなにヤバい人なんですか………翼さんのお祖父さんって」

「ヤバいどころじゃないさ………もし本当に犠牲者が出てしまったとしても、諏訪を取り戻すのに『必要な犠牲』だったとすら考えもしないくらい、生粋の吐き気がする外道だよ……」

 

 これ以上あの『国枠主義の怪物』のことは話題にしたくないので切り上げ。

 

「話が逸れてしまった………要は静音はね、根っこは他の勇者たちと同じく人一倍以上の優しさの持ち主な自己犠牲の人で、でもそれを素直に表現できない、頑固で不器用な女の子なんだ……」

「そうだったんですか……私は神官の不気味な仮面のせいで、昔の安芸先生以上に〝怖い人〟って印象しかなかったです」

 

 せめてそれだけは知ってほしくて………私はまだ決して長くない付き合いの中で汲み取った静音の人となりを、雀に話し終えた。

 

「それに………朱音さんの話を聞いてると、次期代表、じゃなくて静音さん………何だかメブ、うちの部隊のリーダーと、似てますね」

「そうなのか?」

「そうなのです! 私からすればもう瓜二つってくらい、超が付くくらい真面目なとこも、頑固で融通が利かないとこもそっくりだし―――」

 

 雀のこの発言を皮切りに、話題はお互いのリーダーの〝共通点〟を挙げ合う方にシフトした。

 お互いの予想を超えて、静音と楠芽吹、この二人が〝似た者同士〟であることを証明するエピソードがうはうはと飛び交い、気がつけばさっきまでの湿った重い空気はすっかり裸足で逃げて行ってしまい。

 

「そんなとこまでそっくりなんて、赤の他人なのが信じられなくなるな!」

「ですよね~~~!」

 

 お互い私たちは笑いの草を生えまくるくらい、腹がよじれて抱えるくらい笑い合ってしまっていた。

 この場に当人たちがいなくて、ほんと良かった。

 

「このことは本人たちには御内密で頼むね♪」

「もちのろんです♪ 国家機密以上の厳重さで秘密にしておきますね」

 

 この辺にしておこう、今頃二人とも、噂の風に吹かれてくしゃみをしていそうだから。

 

「長話も過ぎちゃったね」

「いえいえ」

 

 トーク自体もそろそろお開きにしておかないとな、と、背後のゴールドタワーに今度こそ雀を送り返そうとしたその時―――私の脳裏に、神樹様からの神託(おつげ)のビジョンが届けられた。

 

 

 

 

 

 

 神託を受けた朱音は翡翠の眼を戦士へと変身させて、立ち上がる。

 

「朱音さん?」

 

 ほどなく、朱音と雀の端末から、かの警報が鳴り響く。

 

「これって……もしかして」

「敵襲の警報だ」

 

 朱音は端末の通信を開く。

 

「こちら朱音、現在大束町の臨界公園にいる、恐らくここが樹海に一番近い」

 

 瀬戸内海に、樹海のドームが出現し、雀は無意識の内に立って海上に佇む結界を見つめていた。

 

「先に樹海に突入する」

『分かったわ、注意は怠らずにね』

「了解」

 

 通信を切った朱音は、樹海を見据えて数歩足を進めると。

 

「朱音さん……」

 

 雀が自分を呼び、彼女がいる背後へ振り返る。

 

「散々お世話になっておいて………こんなこと言うのは忍びないんですが」

「雀、皆まで言うな、だよ」

「っ………」

 

 雀が言おうとしていたことを制しつつ。

 

「私は、災いを前に無力で戦えない生命(いのち)を守る為、神々の醜い内戦(シビルウォー)なんかのせいで、これ以上人々の悲しみを増やさない為に、この世界に来て―――〝ここにいる〟」

「朱音さん……」

「勿論、君がいる居場所(せかい)もね」

 

 戦士の眼のまま朱音は雀へと微笑み、彼女にとって異世界であるこの世界にて、己が戦う理由を、信念を――高らかに謳い上げた。

 二人は頷き合う。

 朱音は海上の樹海へと瞳を向け直し、悠然と歩み出すと、同時に彼女の横に相棒(トト)が実体化。

 首に掛けていた勾玉を右手で取り、胸の前に添えると。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪(我、ガイアの力を纏いて、悪しき魂と戦わん)〟

 

 聖詠を、粛々と、宙(そら)へと高々に歌い上げる。

 勾玉より暁よりも鮮やかな紅緋色の光が、風とともに流れ出し、朱音の葡萄色がかった黒髪を揺らめかせ。

 

「ガメラァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!」

 

 右手に携えた勾玉を真っ直ぐ伸ばして夕焼けの上空へと翳し、叫び上げ、眩い閃光が朱音を覆い包む。

 この強い輝きに、雀は両腕を瞑目した顔の前で交差して光の奔流を凌ぐ。

 やがて光が治まり、そっと交わした両腕を解いて目を開くと―――ギアを纏い変身した朱音の勇姿(うしろすがた)を目にした。

 そして―――確かに、また見えた。

 守護神――ガメラの、勇壮さに溢れた巨躯を。

 

〝~~~♪〟

 

「行くよ――相棒!」

「(おうさ!)」

 

 胸部の勾玉(マイク)より流れ始めた戦闘歌の伴奏をバックに、ギアの推進器(スラスター)が点火、白煙と強風を舞い上がらせて、朱音とトトは垂直に飛翔。

 そうして樹海の方へと飛び、急行していく。

 風を身に受けながらも、雀は見えなくなるまで、朱音を見送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 実は、戦場へと急ぎ飛ぶ朱音を見上げる者が、もう一人いた。

 

「あれが………草凪朱音………ガメラ」

 

 そう呟いた少女こそ、防人部隊の隊長――楠芽吹その人であった。

 

 

後編、終わり。

 



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夜の学校(リディアン) 前篇

シンフォギアXDUのメモリア『夜の学校』が元ですが結構魔改造しております。


 Hello(どうも)、草凪朱音です。

 Time flies like an arrow(光陰矢の如し)とか、月日が経つのも夢の内とか言いますが、私が神樹様より、平行世界からこちらの世界(暦にして神世紀三〇二年)お呼ばれを受けてから、早いものでそれなりに月日が経ちました。

 と言っても、現在私たちは外界から時間ごと遮断された神樹様が作り出した結界、言うなれば、滅茶苦茶体感時間が長~~いことを除けば、一時の夢、儚き刹那の幻の中にいるも同然なのでありますが。

 予めお断りしておきますと、今回お伝えするお話は、装者と勇者たちによる造反神との戦いの日々の狭間に起きた、紛れもなく事実であり、同時にSONGの記録にも勇者御記にも記載されることのない、当事者たちの記憶にのみ記録されたエピソードでございます。

 ただもう一つ先に断っておきますが、絶唱や満開のオンパレードとか、波乱万丈艱難辛苦のストーリーとか、手に汗が溜まるサスペンスとか、そういうのは端から期待しないで下さいね。

 まあ皆さんも、そういうのを見たくて来ているとは思いませんが(某特○二課の水虫の隊長ばりに若干ダーティなニヤり

 

 

 

 

 

 時期は、本格的な冬に入ったばかりの、とある日でした。

 その日の夜の私は、私含めて異世界もしくはこちらの世界の過去より神樹様より召喚された装者兼勇者用の寄宿舎の一室にて、明日提出必須な課題をささっとやり終えて、暇つぶしに映像ソフトを鑑賞していました。

 

「これがゾンビと言うやつか」

「あの……これはゾンビって言うよりかは、感染者でして、この感染者と言うのはある特殊なウイルスによって人間が――」

 

 見ていたのは、人知れず異形の怪人を狩る大人向け特撮ヒーローシリーズの一作で、ホラー映画マニアの映写技師に憑りついた異形によって、フィルムの中の世界に連れ込まれた主人公が、ゾンビやら殺人鬼やらの、映画史に残るホラー映画のキャラクターたちと戦う回であります。

 

「基本的なクイズだ、ジ○イソンは斧、フ○ディは鉤爪、レ○ーフェイスはチェーンソー、ではこの映画のシリアルキラーが使う武器はなんでしょう?」

「ザ○バ、知ってるか?」

「いや……俺も知らないホ○ーの名前ばっかりだ」

 

 映画マニアにして特撮マニアである私にとって、二重に美味しい回なのでありました。

 

「貴様の○○、俺が断ち切るッ!」

 

 いよいよ主人公と怪人が変身し、タイマンを張ったその時――私のスマートフォンが着信音を鳴らしました。

 

「こんな時間に誰だ?」

 

 せっかく良いところで水を差されたのもあって、私は少々イラつきつつも、一時停止。

 

「朱音」

「ありがと」

 

 私の精霊にして、同じガメラであるトトが飛んで持ってきたスマホを受け取り、画面を見ると。

 

「マリア?」

 

 電話の送り主は、同じ装者であり、世界的アーティストの一人であるマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

 とりあえず出てみると。

 

「お願い朱音! 助けに来てぇ~~!」

「な……何があった?」

 

 声だけでも明らかに、恐怖でおののきひきつって震えているのが窺えるマリアから、助けを求められたのでした。

 

 

 

 

 

 日々の造反神の尖兵たるバーテックスとの激闘で稼いだ、特機二課改めSONGからの報酬で購入した、この世界でも販売されている大型クルーザーバイク――ワルキューレウイングF6Dを駆り、目的に向かう(勿論ちゃんと免許も取りました、日々の足やたまに休みの取れたこの世界の翼とのツーリング等で使っている)。

 

 電話越しでも冷静さをほとんど失っていたマリアから、『とにかく直ぐに来てほしい、助けに来てほしい』とのことで、待ち合わせの指定場所以外の情報は手にすることはできなかった。

 まあ実態は、向こうに付けば大体分かるだろう。

 でも、何となくだが、私からしてみれば大事(おおごと)からはほど遠いものだと、自分の直感は半ば断言している。

 

 待ち合わせ場所の近場であるリディアンの駐車場に、バイクを止め、ヘルメットを脱ぐと。

 

「朱音?」

 

 私を呼ぶ声がした。

 誰かは、直ぐに見つけられた。

 褐色の肌と、中性的な顔つきに佇まい、銀色がかった髪をショートヘアに、正面から見えるが実際はロングで一本結いなその少女は。

 

「棗か」

 

 古波蔵棗(こはぐら・なつめ)。

 今より三百年前のまだ西暦だった頃、バーテックスから沖縄を守っていたと言う勇者の一人。

 私とは気が合うというか馬が合うと言うか、交流する機会の多い間柄な、この世界でできた仲の良い友人の一人である。

 

「そんなに着込んでまで、どこにお出かけかい?」

「あ……」

 

 なまじ南国生まれかつ育ちなのもあり、棗は四国圏での寒さも相当苦手、

 相応の用事や事態がなければ、炬燵にずっと猫よろしく丸くなっているくらいだ。

 現にモデルばりにスレンダーな肢体も健康的な褐色の肌も、寒さを凌ぐ為厚着の上に着込んだ分厚いコートで隠されてしまっている。

 

「実はさっき風から電話があって、急ぎリディアンの裏門まで来てほしいと頼まれて」

「風部長から?」

 

 犬吠埼風。

 この世界のシンフォギア装者と、神樹様の力をお借りして変身する勇者たちのリーダー格の一人な勇者で、リディアンのOGだ。

 こちらのリディアンでは、装者及び勇者たちの面々で構成された勇者部(要は身近な人助けを率先して行う何でも屋と言うか、ボランティア部みたいなもの、実は設立意図には〝勇者〟も深く関わっていたことは、東郷の義姉で実質勇者&装者のチームリーダー格静音から聞いている)と言う部活があり、彼女は初代部長である。

 

「もしかしてだけど、電話に出た時の風部長、やけに怖がっていなかったか?」

「ああ、それはもう恐怖に苛まれてパニックに陥った様子だった、もしかして朱音もか?」

「そう、ただ私を呼んだのはマリアの方だけど」

「一体二人に何が………急いだ方がいいのではないか?」

「焦ることはないよ」

 

 事態をやや深刻めに見ているらしい棗を、私は落ち着かせる。

 

「多分棗が思っているのより遥かに事態はしょうもない代物だろうから」

「なぜ分かる?」

「勘と言うか………そう囁くのさ、私のゴーストが―――なんてね」

 

 

 

 

 

 そして、私の直感(ゴースト)の囁きの通り。

 

「マリア姉さんが――」

「切ちゃんが――」

「風(おねえちゃん)が――」

「「「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」」」

 

「だったでしょ」

「だったな……」

 

 得心した様子で棗は頷く。

 

 私と棗へ、同時に頭を下げた。

 マリアの妹、セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

 マリアと姉妹同然の仲で、クラスメイトの月読調。

 風部長の妹であり、アーティストでもある犬吠埼樹。

 ら三人と。

 

 ガチガチかつブルブルと恐怖で震えているマリアと風部長と、調とは大親友の仲で同じくクラスメイトの暁切歌の姿で、実態はしょうもない状況であることが、当たっていた。

 

 

 

 

 

「すみません朱音さんも棗さんも、元はと言えばノートを忘れた私たちに非あるのですが……」

「気にしなくていいよ樹、リディアンの課題提出の厳守っ振りは折り紙付きだからな」

 

 マリアから電話を受けた時点で薄々そうではないかと察してはいたけど、大雑把に、経緯を説明すると。

 切歌と樹が、学校(リディアン)にノートをうっかり置き忘れてしまった。

 しかも二人とも、明日提出期限の課題を抱えており、ノートがないことには進めることもままならない。

 なので、真夜中の学校にノートを取りに行かなければならなくなったのだが、現在元はミッション系のスクールだった現在のリディアン校舎は、夜になるとホラーや怪談絡みにおあつらえ向きだった。

 外観から見ても、中に入ればたちまち霊たちが化けて出てきそうなオーラを前に、ホラー系が苦手であることが付き合いの浅い自分からでも窺えるマリアや風部長は、すっかり尻込みしてしまい、大慌てて私や棗に先程の電話で助けを求めたわけである。

 

「待て、では讃州中に通っているセレナがどうしてここにいる?」

「私は怖がりなマリア姉さんが心配で一緒に」

 

 棗の質問に、セレナ本人がわけを述べた。

 友奈たちの出身校でもある讃州中学に通っているセレナがこの場にいるのは、怖がりな姉を放っておけなかったためである。

 実際、私たちに助けを求めるくらい、ある意味で不味い精神状態なんだけど。

 

「ただまあ、これだけ人数がいるならノート取りに行くくらい何とかなるだろう、棗、帰ろう」

「あ、ああ……」

 

 と、そそくさと帰ろうとすると、柔らかい何かがタイトと言うか強めに腰に巻き着かれた感覚が。

 

「お願い、置いてかないでぇ……巫女さんの素養がある朱音ならお化け退治ぐらい造作もないでしょ?」

「マリアは巫女を何だと思っている? ジャパニーズコミックとアニメの読み過ぎだ」

 

 正体は、どこぞの軽音部のベース担当みたいな涙目かつあうあうとした表情で私の腰に抱き付き、泣き着いて、パニックの余り色々と突っ込みどころがある巫女絡みの発言をかますマリア。

 そりゃ前世(かつて)マナとともに魂をガメラの器に捧げた私も、神樹様の信託を伝えるお役目を持つ巫女のひなたや水都同様、私にも巫女の資質はあるらしいとのことだ

 私は構わず、〝わざと〟帰ろうとするが、案の定離す気がないマリアをずるずると、大股で歩いて引きずる格好になる。

 

「このか弱き女子に、ど、どうかお助けを、お慈悲を、仏様朱音様棗様ぁ……」

「風……そんなしがみつかれても困る」

 

 風部長も大体マリアとおんなじ感じで棗に抱きつき、棗は戸惑いの表情を浮かべるしかない。

 念を押して言っておくと、私と棗の方が年下である。

 

 困ってることは確かだから、助け船を出す気はあったのだが、恐がるマリアと風部長の様が、すんごいツボに嵌りそうになったのでつい、からかいたくなった♪

 でも、これ以上はほどほどにしとこ、樹たちの課題をやる時間がなくなる。

 

「ひょえ!? 今のゾンビデスかッ!?」

「切ちゃん違うよ、ただの猫」

「まったく人騒がせな猫ちゃんなのデス!」

 

 調にくっついて離れない切歌も恐怖に侵された影響で、ただの猫をゾンビと間違えていた。

 そう言えば切歌たちは最近、バ○オ系のゾンビゲームに怖いもの見たさ込みで嵌っていると、今日の学校での雑談の時に聞いた。

 

「分かった、じゃあ私と棗とセレナが代わりに樹たちと同行するから」

 

 一応、この場における最善策を提案するが。

 

「マリアと風部長は待ってくれれば―――」

「「妹を伏魔殿に行かせて大人しく待てるわけないでしょ!」」

 

 妹溺愛怪獣――ドシスコンども、もといマリアと風に、恐怖に苛まれているにもかかわらず却下された。

 妹への惜しみない愛は、恐怖を超越するくらい譲れないものであるらしい。

 間違っても〝この姉ども、めんどくせえ……〟なんて思ってはいけないよ。

 でも伏魔殿って………夜の学校(ナイトスクール)は魔物の巣窟か何かですか?

 

 とまあそんなわけで、合計八人な大所帯による学校の、実質季節外れの〝肝試し〟が始まったのであった。

 

後編に続く。



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夜の学校(リディアン) 後編

 さて、切歌と樹がノートを学校に置き忘れてきてしまい、かつ怖がりな年長者たちを端に発した、総勢八名による、季節外れの〝肝試し〟。

 裏門から勝手知ったる顔でリディアン音楽院四国分校の敷地内に入った(勿論問題行動ではあるが)一行は、そのまま校内に入る。

 朱音と棗と調とセレナの四人が横並びに先頭を歩き、その後ろを心細そうに表情は青みがかって震え気味のホラー系が苦手な方々、風、マリア、樹に切歌ら〝怖がり組〟が、なんとか着いて来ている格好だ。

 朱音の世界の二課からの支給物であるスマートウォッチのライトで、ひたすら静寂と闇が支配する夜の校舎の廊下を照らしつつ進む。

 せめてもの場を和ませる措置か、トトが朱音の頭にひょこっと乗っていた。

 

「だんまりなのも味気ないから、何か話をしよう」

「それじゃあやちゃん、私がこの前聞いたお話があってね」

 

 マリアたちの精神衛生上も込みで、何か話題がないかと朱音が切り出すと、早速調が名乗りを上げた。

 ちなみに、朱音はこちらでは同い年になる調たちに冗談交じりで『あやちゃんと呼んでほしい』と言ったら、そのままあだ名として定着してしまった経緯がある。

 日頃年相応より大人びた容姿にコンプレックスを抱いている朱音にとっては、むしろ嬉しい誤算ではあったが。

 

「赤い生徒ってお話なんだけど」

「調、それってもしかしてもしかしなくても怪談じゃないデスか!?」

「リディアンに昔から伝わる七不思議の一つで、放課後、誰もいない廊下で歩いていると後ろから足音が近づいてくるの」

「「「「ガン無視!?」」」」

 

 さらりとスルースキルを発揮する調は、偉くウキウキとした表情。

 

「ねえ調……それって、あくまで作り話よね?」

「その足音の主は昔自殺した生徒の霊らしくて、制服を真っ赤な血に染めたままの姿で、誰かを探して校内を徘徊するように――」

「なんで無視するの!?」

 

 いつも通りのやや茫洋とした棗と怖がり組を除けば――

 

「それで、もし夜中にでもその足音が聞こえたら、どうなるんだ?」

 

 朱音もセレナも、ワクワクとした顔つきで明らかにこの状況を調と同等に楽しんでいる。

 

「もし、夜中にその生徒の霊に追いつかれたら―――ふふ♪」

 

 怖がり組たちの、震えが大きくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

「中々面白かったが、さすがにこの状況で怪談話はベタなんじゃないか?」

「それなら、前に板場さんに紹介してもらったアニメの話をしますね」

 

 話題転換を棗が申し出た中、次はセレナが名乗り出た。

 

「女子高校生たちがゆる~くキャンプを楽しむお話で、第一話ではソロキャンが趣味な主人公の女の子が、富士山の近くのキャンプ場で、ベンチで居眠りしてた見慣れない同い年のピンク髪女の子を見たのを除けば、いつも通りに松ぼっくりと薪でたき火してのソロキャンをしてたんだけど、その日の夜トイレに寄ったら、持ってたランタンの灯りでおどろおどろしく照らされたその女の子が大泣きで――」

「キャァァァァァーーー~~~!」

 

 突如、ホラー映画でよく耳にする女性の絶叫そのものなマリアの悲鳴が上がる。

 幸い、一行の周囲にはトトが張っている防音結界で、今の悲鳴はシャットアウトされている。

 

「急にどうしたのマリア姉さん、ここからがごはん&ごはんの響さんが涎たらしそうなくらい美味しい話なのに」

「『急にどうしたの』じゃないわよ! 女子高生たちの楽しそうなほんわかキャンプを期待してたらとんだホラーなだまし討ちじゃない! お姉さんはそんな悪い子に育てた覚えはありませんッ!」

 

 ちなみにこの後、セレナが口にしてた通り、二人はカレー味のカップ麺を美味しそうに食べる微笑ましく見てるだけで身も心も温まる光景が待っているのだが、怖がりかつシスコンなマリアのせいでそのお話の続きを話すのは中断せざるを得なくなった。

 

 

 

 

 

 朱音たちのクラスの教室でまずは切歌のノートをゲットした一行は、次に樹らのクラスに向かう。

 

「軽く聞き流しても構わないんだが、前に友人の一人から聞いた話があってね」

 

 いよいよ真打ち、とばかりに今度は朱音自らが話題を切り出した。

 陰湿ささえある、校舎内の回廊には似つかわしくない、人並み以上の美貌を引き立てる晴れ晴れとして、後光も射しそうな輝かしい笑顔で。

 ごくり。

 怖がり組は、却って不安を煽られて、息を呑む。

 

 

「その友人は、人助けのボランティアを率先して請け負う部活の部員だったんだけど、ある日、中学の文化祭の出し物の仕掛けがちゃんと作動するかチェックしてほしい依頼が来て」

「その出し物、もしやお化け屋敷のことでは?」

「その通りだ棗、ただ子どもの出し物と侮ってはいけないよ、友人の話では文化祭の出し物としては破格の本格クオリティだったとのことでね、お化け役の気配はバレバレだったらしいけど」

「………」

「それで、暗闇の中はやまった部員の一人と、それを止めようとしたもう一人が………チェック対象だった仕掛けに引っかかってしまった………その仕掛けと言うのが、続日本記にも記載されている椿油がたっ~~ぷり塗られた………触手がべちゃ~~と―――」

「「いやぁぁぁぁぁぁぁ~~~!」」

 

 今度は犬吠埼姉妹の悲鳴が、廊下に轟いた。

 

「またどうしたんだ? 樹も風部長も、ここから先が一気に面白くなるのに」

「『一気に面白くなる』じゃないわよ朱音! その話私と樹の体験談じゃない! 中学の文化祭の時のトラウマじゃない! うら若き中学生だった頃の黒歴史じゃない! あれを思い出すだけで身の毛が鳥肌でよだって背筋が凍るのに思い出させないでよッ!」

 

 続いて、涙目な風の金切声スレスレな絶叫。

 お分かりかと思うが、その部活とは讃州中学時代の勇者部のことで、ある年の文化祭の出し物の一つだったあるクラス主催のお化け屋敷のチェックの際、よりにもよって勇者部一ホラーが苦手な犬吠埼姉妹が二人揃って、中学生が作ったとは思えぬ来訪者の身体に絡みつく触手の罠に引っかかってしまったのである。

 特に風は、どうにか脱出してからもしばらく腰を抜かして、幼子同然に大泣きするほど恐怖を味わったとのことだ。

 

「と言うかその話、一体誰から聞いたのよ!? 実際あの場にいた部員以外に話したことなんてないのに!」

「勿論勇者部メンバーのお一人からですが、それ以上は伏せさせて頂きます」

「ぐぅ……絶対バラした奴を見つけて、相応の報いでとっちめてやるわ」

 

 尚、朱音にその話をしたのは、自らを完成型勇者と豪語するツンデレ勇者である。

 最初こそ、テレパシーで会話できるほど意思疎通できる精霊(北海道の西暦勇者の精霊もそうなのだが)――トトがいる朱音にその勇者は若干ライバル意識を抱いたそうだが、今はよく一緒にトレーニングし合うくらいの仲になっている。

 

 

 

 

 

 とまあそんなこんなで、響や未来も在籍している樹のクラス教室に到着し、彼女のノートもゲット。

 あとはささっと、何事もなく帰れば万々歳、なのであったが―――。

 

「もう怖い話はマジ勘弁してよね……本当にお化けが寄ってでもしたら――」

「お化けではないんだが……それぐらい厄介な奴らが、お出迎えだ」

「え?」

 

 翡翠色の瞳が鋭利になった朱音がそう発した直後―――全員の懐のスマートフォンから、あの着信音(けいこくおん)が鳴り響いたと同時に、世界は〝静止〟した。

 

「確かに連中の嫌な時に来る空気の読まなさはお化けより性質悪いわね、みんな用意は良い?」

 

 慣れた手つきで懐からスマートフォンを取り出し、アプリを起動させた風からの号令に。

 

「いつでも」

「ああ」

「ええ」

「うん」

「「「はい(デス)!」」」

 

 朱音は勾玉を、マリアたちはコンバーターを、樹に棗はスマートフォンを手に取り、風からの号令に応じ。

 

Seilien coffin airget-lamh tron~♪

 

Various shul shagana tron~♪

 

Zeios igalima raizen tron~♪

 

Valdura airluoues giaea~♪

 

 静止する世界に〝樹海化〟が迫る中、聖詠を唱え、勇者アプリをタップし――変身した。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、彼女たちを待っていたのは――

 

「えーと……これも、樹海……よね?」

 

 いつも見る樹海とは、異なる〝異界〟がそこにはあった。

 極彩色のけばけばしい色合いの巨大な植物たちが地面から生えている点は、変わらないのだが………。

 ニューヨークともロンドンともパリとも、香港とも東京とも言い難い、さしずめゴーストシティな荒廃し、樹木や苔に侵食された高層ビル群が立ち並んでいた。

 

「摩天楼と言うのは、こういうことなのか……」

「そこ、感心してる場合じゃないわ」

 

 沖縄生まれかつ育ちの身で、見上げるほどの高層建築物に見慣れていない棗が興味津々に連立するビル群を眺めている。

 

「なんか前にもこんなことなかったデスか?」

「そう言えば、ハロウィンの時にも似た様なことがあったな」

 

 実は以前、ハロウィンでお馴染み十月三一日目前の頃、長野の西暦勇者で某農業アイドルばりの農業力を持つうたのんこと白鳥歌野(しらとり。うたの)の畑で、ランタンに丁度いいカボチャを探していた際に、バーテックスの方からハロウィン風味の樹海を生成して攻められたことがあった。

 おまけに星屑もハロウィンの扮装をし、カボチャのモンスターまんまなバーテックスまで現れるという事態まで起き、事を収めてからも、歌野に育てられたカボチャの一部が樹海化の影響による突然変異で巨大化した事態まで起きた。

 その巨大カボチャがジャック・オー・ランタンにされたのは言うまでもない。

 今回の樹海化も、それらの現象と若干似てないこともない。

 

「皆さん、敵の反応をキャッチしました、前方約三千メートル」

 

 スマートフォンのアプリで周囲の状況を確認していた樹が、敵の所在を発見。

 

「こちらでも目視で確認した、だがあれは……」

 

 ギアの恩恵により、強化された視力で敵方を捉えた朱音は怪訝な表情を浮かべる。

 

「あれは……星屑なの?」

 

 同じく目視で確認した調の頭に疑問符が過る。

 摩天楼の渦中にて、地上を闊歩する無数の群体は、真っ白な体表と目のない顔に巨大な牙と、星屑の特徴を有していたのだが。

 

「さしずめ、ゾンビ型星屑と言うべきか」

「ぞ、ゾンビデスか!?」

 

 そいつらの体格は人間に近くも、嫌悪感を齎すほどの極端に痩躯で四肢の長い体躯に、浮浪者の様な前傾姿勢でふらりとおぼつかない足取りな星屑たちで、朱音が冷静に表した通りゾンビの名に相応しい異形であった。

 

「で、でも……あいつら昔の映画のゾンビくらいノロノロじゃない」

「そ、そうね、映画劇中の通り頭を潰すくらい余裕で」

 

 風とマリアは少々ビビり気味ながら、洋もの系ホラー映画のセオリーで何とかなる自らを鼓舞しようとしたが………SONG司令の弦十郎直伝による映画鑑賞トレーニングの一環で見た古典的ゾンビ映画ようには。

 

「ひぃ~! こっちに猛スピード来るデスよ!」

 

 いかなかった。

 やはり星屑、人間を無慈悲に襲うバーテックスの細胞(かけら)だけあり、こちらの存在に気づいた途端、ゾンビ型星屑は一変してわらわらと物凄い速さで突撃し始め、一気に距離を詰めてくる。

 

「後ろからでも迫ってきてます!」

 

 さらに反対方向からも。

 一行を数の暴力で挟み撃ちにする気だろう。

 

「新○染タイプとは、最新の流行に目敏いこと」

 

 朱音はお隣の国発のゾンビ映画を皮肉な笑み込みで引用しつつ、手のプラズマ噴射口から放出した炎でライフルモードのアームドギアを生成。

 正規のシンフォギア同様、朱音のギア――ガメラも、戦闘経験を積むごとにアップグレードされる為、ライフルの砲門は横並びの二連装となり、砲撃の出力も安定性も向上されている。

 

「か……囲まれる前に、先手を打つしかないわね」

 

 最初は人型の星屑に少々怯え気味だったマリアは、気を引き締め直す。

 

「そうだな、私とマリアの第一波の次、調とセレナの刃で斬り込め、それで残りを一気に刈り取るぞ」

「分かった」

 

 某公○九課のメスゴリラばりに朱音は指示を飛ばす同時に、ライフルを構え、砲門にプラズマエネルギーが集束。

 マリアも左手の籠手(アームドギア)を、何枚ものリフレクターを添えたキャノン砲へと変形させ、同様にエネルギーを充填し、リフレクターと砲身の先が輝きを帯びる。

 

「「セレナ!」」

「はい!」

 

〝~~~♪〟

 

 ともにエネルギーベクトルの操作能力を持つセレナと合わせて歌唱。

 

「もう少し星屑を引きつけて下さい、カウント始めます」

 

 端末のアプリで敵の相対距離を測りながら、樹は二人の発射のタイミングをあやせる役を担う。

 

「5、4、3、2、1――今です!」

 

「穿てッ!」

 

《バスタープラズマ――烈火流》

 

《HORIZON†CANNON》

 

 朱音とマリア、それぞれもアームドギアの砲身から、セレナのサポートで出力強化され練り込まれた高威力の熱線と光線の奔流が、放射。

 季節外れの、飛んで火にいる夏の虫とばかり、朱音の太陽色の熱線とマリアの白銀色の光線は、瞬く間に多数のゾンビ型を呑み込み、蒸発。

 

「面の乱れ撃ちッ!」

 

《α式・百輪廻》

 

 間髪入れず、調のツインテールに装着されたヘッドギアから無数の丸鋸と。

 

「行って!」

 

《GNOME†TRIAL》

 

 セレナからの複数な諸刃のダガーが投擲による同時攻撃が繰り出される。

 丸鋸は星屑の首筋を次々と裂き、ダガーは着弾時に衝撃破を発して、さらに敵の数を減らした。

 

「大剣と大鎌の出番ですよ、風部長、切歌」

「ああもう! こうなったら破れかぶれのやけっぱちだッ!」

「まるごと刈り取ってやるデスッ!」

 

 そして切歌と風が先陣を切り、突貫。

 

《双斬・死nデRぇラ》

 

 二つの鎌を鋏状に合体させた切歌の大鎌(アームドギア)と、巨大化させた大剣。

 

「大人しく斬られなさいよ!」

 

《EMPRESS†REBELLION》

 

 そして、籠手から引き抜いたダガーの連なりによるマリアの蛇腹剣が、群れる敵をまとめて両断し。

 

「血の花となり、散華しろ!」

 

 得物のヌンチャクを大型の三節棍に変えた棗の遠心力を相乗させた強力な打撃が、星屑の頭部を破砕し。

 

 樹の細くも切れ味抜群のワイヤーが切り刻み。

 

《ヴァリアブルセイバー――裂火斬》

 

 朱音のエルボークローからのプラズマ炎刃が、残る敵を残さず前言通り刈り取っていくのだった。

 

 

 

 

 

 新たな形態の星屑たちを根こそぎ撃破してからも、大型のバーテックス複数との戦闘があったが。

 樹の腕飾りからのワイヤー、切歌からの鉤爪付きのロープ、調のヨーヨーの糸で巻き付け、その上にセレナの脳波で遠隔操作されるダガーたちが生成した多面体状のバリアの檻が覆い。

 風の大剣と、棗がヌンチャクから変形させた琉球古武術の武器の一つである大型の櫂(ウェーク)からの逆風の一撃で盛大に打ち上げられ。

 

「落ちなさいッ!」

 

《HORIZON†CANNON》

 

 地上からの、先のよりさら出力を上げたマリアの左腕の砲塔からの白銀の光線と。

 

「今楽にしてやる」

 

《BLAZE WAVE SHOOT(ウェーブシュート)》

 

 空中にて、伸長された砲身に三本の爪を立てたライフルからのプラズマ過流の熱線が、同時発射。

 宙にて綺麗に斜線に繋げる形で、熱線と光線は打ち上げられた、着弾直前でセレナの檻(バリア)が解除されたバーテックスを挟撃。

 衝突の瞬間に生じて膨れ上がった高エネルギーは一瞬でバーテックスを呑み込み、樹海内の宙空にて、盛大な花火が上がったのだった。

 

 

 

 

 

 ほれこそ、どこのバ○ターライフルとサ○ライトキ○ノンの悪夢の組み合わせなどと言っちゃいけないよ。

 

 

 

 

 

 季節外れの肝試しから、数日後。

 

「お、こうして食べると結構ラーメンもいけるわね」

「よかった、静音のお口にも合って何より」

 

 私は翼と、東郷美森とは義姉妹の仲でもあるこの世界でできた友人の一人で映画オタ友でもある風鳴静音と一緒に、リディアン四国分校と讃州中学の近所でよく開いており、うどん県な香川の人々にも結構人気もあり、自分の行きつけの店ともなっている屋台『おきた亭』(おきたとは香川の方言で満腹って意味)で、ラジオからの歌謡曲をバックにラーメンを食べていた。

 静音から今日のお昼は奢るから希望のお店はないかと言われ、ここを選んだわけである。

 勇者部の、特に香川出身のメンバーは当然と言うかうどん派な面々が多く、静音もその一人なんだけど、そんな静音でもここラーメンを堪能していた、うどんが不動の一位なのは変わらないだろうけど。

 ちなみに私は、うどんも蕎麦も好きな方ですが、ご覧の通りのラーメン派です。

 それを正直に口にした時は、勇者部内で天地がひっくり返るに等しい衝撃が起きました。

 

「この間はほ~んと仲間が迷惑をかけてすまなかったわ……はぁ……」

 

 と、ためいきをついた静音の頭にはアニメでよく見るあのどよ~んとした縦線が流れる。

 そんな彼女にこうして奢ってもらったのは、先日の肝試しの件の、お詫びもかねていた。

 翼とはまた違ったベクトルでド真面目な性分なので、樹たちがノートを忘れたことはともかくとして、怖がりな先輩たちのなんて体たらくな泣きつきは、当事者でないにも拘わらず響いていた。

 

「静音が落ち込むことないよ、夜のスクールを歩くの中々楽しかったしね」

「朱音のそういう何でもユーモアに変えられるところが羨ましいわ」

 

 なんてやり取りをしていると。

 

「あら朱音ちゃん、お友達どうかしたのかい?」

「いやちょっとね」

 

 かのAにしてΩな仮面戦士の劇中に出てきたラーメン屋の店主とそっくりな店主が会話の輪に入ってきて。

 

「どれどれ」

 

 私たちが食べているラーメンに具ななるとを凝視する。

 

「おじさんってばまた〝なると占い〟?」

「なると占い?」

「ええ、私に言わせりゃなるとは曼荼羅も同然でね、ピンクの渦巻きの中に、食べてる人の運が織り込まれてのさ」

 

 なんとなるとの模様で運勢を占うところまでそっくりである。

 

「それで君のは―――あ、こりゃダメだ、君、風変わり揃いな友達、先輩後輩に振り回されると出てる、間違いないね」

「はっ……やっぱり」

 

 静音の頭に浮かぶ、どんよりとした縦線とオーラが濃くなる。

 

「あ~~占いなんだから真に受けることはないって」

 

 まあ、あながち間違ってないのがなんともだった。

 

「朱音……それでだけど、最近お勧めのホラー映画はないかしら?」

「ホラー縛りとは何でまた?」

「いや………なまじ戦力が豊富で、ここのところ連勝してるから最近メンバーに弛んでるのがいる気がするの………しごくのに参考になりそうなホラー映画がないかなと思って」

「静音ならホラーを参考するまでもなさそうだけど」

「ちょっとぉ~~」

 

 静音のまさに大和撫子そのものと断言できる美貌が、清々しささえ感じさせる満面の笑顔になる。

 だが静音がこんな笑顔になる事態は一つしかない。

 それは即ち――怒った時である。

 

「それ、どういう意味かしら?(^▽^)」

 

 もらい笑いしたくなる気持ちを必死に抑える。

 だって怒ってる時の静音の笑顔は、そこらのホラーと比較にならないくらいホラーで面白い。

 怒りのゲージが上がれば上がる程、恐怖と同時にコメディさもうなぎ上りになっていくのだ。

 さすが、あの天性のコメディアンな翼と義理とは言え姉妹だけあるね。

 

「静音の考えてるような意味じゃないし、ホラーなんか参考にしなくても、静音はみんなをちゃんと纏められてるから安心して」

「そ、そう……だといいんだけどね」

「まあでも、これはお勧めできるホラーコメディ映画ならあるけど」

「へぇ~~それってどんなの?」

 

 興味津々に食いついてくる静音。

 そうして私と静音は、ラーメンを食べながらいつもの映画絡みのオタトークなガールズトークを花開かせるのでした。

 

 

終わり。

 




ぶっちゃけ後半のある場面はそれやりたかっただけだろと言われればその通りでございます。


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朱音と友奈はお料理師弟である

料理が絡む回からか、やたらカ○トネタが多い回に(汗


 私は草凪朱音! またの名を最後の希望――ガメラ!

 いきなりだがゴ○スト(+ウ○ザード)な仮面の戦士っぽく自己紹介してみた。

 人が人を殺す為に生み出されたノイズだけでなく、天の神とやらが人類への鉄槌の為に生み出されたバーテックスと言う二重の脅威に晒された世界の、人間社会を守護していると言う地の神様たちの集合体――『神樹』から英霊の座から呼ばれたサーヴァントよろしくお呼ばれをされ、その世界の危機に立ち向かってきた響たちシンフォギア装者と、神樹の力をお借りして変身し戦う『勇者』たちとともに、造反神との戦いに馳せ参じてから、幾月か経ったある日。

 こちらの世界のリディアン高等科の、その日の授業を終えて、帰る途中。

 

「朱音ちゃん、私を弟子にして下さい!」

「え?」

 

 校舎の回廊内で私は、勇者の一人であり、スーパーヒーロー関係でオタ友の仲でもある結城友奈から、いきなり頭を下げられ、弟子入りを志願されたのだった。

 

「えーと……友奈? 私に、何の師匠になってほしいんだ?」

 

 とりあえず、色々と飛ばされた詳細を聞くとしよう。

 

 

 

 

 

 友奈が弟子入りを求めてきたのは、『料理』のことだった。

 自分で言うのも何だが、私は料理のスキルに関してはか~な~りできる方だ。

 他の調理技術を持った装者と勇者の面々と一緒に、大所帯な仲間たちの食事を作って振る舞うことも、こちらの世界に来てからほとんど日課になっているし、こっちでもごはん&ごはんな響を筆頭に、みんなからの評判は良い方だ。

 ちなみに最初にみんなに振る舞った料理の一つは、サバ味噌だったりする。

 

「それでね、料理も上手なヒーローのカ○トを見直してね」

 

 どうやら、サバ味噌だったのも込みで、それらをきっかけに天の道を行き、全てを司る俺様な仮面戦士を見直して影響で、今までほとんど関わりのなかった料理をやってみたくなったそうなのだ。

 ともかく理由は分かった、熱意も一時の迷いのものじゃない確かなものだし、師匠とまでは行かなくても、付き合ってあげる気はある。

 ただ――

 

「でも、どうして私なんだ? 勇者部には他にも料理ができる女子はいるじゃないか、調に歌野、風部長に、君の親友の東郷と須美だって」

 

 一応、料理ができる勇者部員が複数いる中で、私に頼んで来たわけを聞いておく。

 

「そのね、何となくなんだけど、朱音ちゃんに教えてほしいなって思って、えへへ」

 

 樹海の中の戦場で初めて会った時を思い出す、虚構の産物でもある憧れのヒーローと本当に会えた子ども(実際私は――ガメラは、この世界はそうだったんだけど)のようなキラキラとした、屈託の欠片もない、みんなの笑顔の為に戦った冒険ヤローに負けない青空な笑顔で、友奈はそう答えた。

 

「よし、友奈が本気だってことは分かった、付き合ってあげる」

「はぁぁ………お願いします! 師匠!」

「いや………そこはいつもの『ちゃん』付けでいいから」

 

 これでも彼女(リディアン三回生)より年下(一回生)なのに、自分の方が年上に見えるルックスに時々コンプレックスがぶり返すことがあるだけに、ちゃん付けされるのは正直とても嬉しかったので、そこは訂正させて頂いた。

 

 それはそれとして考えてみると、私が料理の先生に選ばれたのは、ある意味無理ないことだった。

 

「調ちゃんにも頼んでみたんだけど、『私が教えるなんてとんでもないです』って、遠慮されちゃって」

 

 調は人にものを教える経験がないし、一度は敵対しながらも今は仲間な〝先輩たち〟へのリスペクトで、自分がものを教えることに気後れするのも無理はない。

 両手を大きく振りながら、あわあわと慌てる調の姿が浮かぶ、カワイイ。

 

「歌野は持前の農業の知識の説明で、ちょくちょく脱線しそうだし」

「そうだよね」

 

 農業王と自称し、実際に高い農作スキルを持つ歌野も、料理技術は高いが、農業へのその愛の大きさでちょくちょく蘊蓄を並べて脱線を起こしてしまいそうだし。

 

 一番友奈と付き合いの長い一人の風部長はアーティスト活動をこなす妹の樹のマネージャー業で忙しいし。

 まあ、仮に時間があったとしても。

 

「あの部長は料理含めて〝女子力〟が絡むと、セ○ンの息子並みにカッコつけたがるからな」

「あはは、確かに〝女子力〟が絡んでる時の風先輩って、ゼ○ちゃんっぽいですよね」

 

 後は彼女の親友の東郷(本当はファーストネームで呼びたいのだが、本人の希望を尊重して苗字で呼んでいる)なのだが、何と言うか……あの人は友奈には若干過保護なところがあるので。

 

〝全て私に任せて! 友奈ちゃんは見ているだけでいいわッ!〟

 

 と、最終的に趣旨が大きくブレてしまいそうだった。

 その東郷の、小学生時代の〝過去の自分〟である須美ちゃんに教えを請うもの手だけど………そうなったら――― I have a bad feeling about this(いやな予感がする).

 

 よし、こうして白羽の矢が立てられたわけだし、友奈にはバースデープレゼントの御恩もある、こちらも一肌脱いて、応えてあげるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 翌日。

 リディアンの学生寮内にある、広いだけでなく、ショールーム顔負けにオシャレで手入れが行き届き綺麗なキッチンに、制服のシャツの上に、上着の代わりにエプロンを着た朱音と友奈の二人がいた。

 

「家庭科の授業で何度か経験はあっても、友奈は、知識、技術、経験、感覚も含めて初心者だ、だからこれから鍛える上で、勇者部五箇条に倣って五つ、頭に入れておいてほしいことがある」

「うん」

 

 朱音は五本指を立て。

 

「一つ、慣れるまではレシピと基本に忠実であること」

 

 一度握り拳にして、人差し指一本を立て。

 

「二つ、スピードと出来に拘り過ぎないこと、三つ、同時並行はせず、一つ一つ順番に調理すること」

 

 中指、薬指を立てていく。

 

「たとえ途中で失敗したと思っても、最後まで作り切ること」

 

 そして親指を残して四本立たせると、、天を指すように再び一本にして腕をゆっくりと垂直に上げ、宙に翳す。

 

「そして五つ目、祖父(グランパ)は言っていた―――〝型を知り、型通りにこさせるようになってこそ、驚天動地の型破りを為せる〟―――ってね♪」

「おおぉ………朱音ちゃんのおじいちゃんも、天○さんのおばあちゃんみたいな人なんだね」

「ああ、私が尊敬する偉人の一人さ」

 

 メモ帳で朱音からの五箇条をメモしていた友奈。

 言うまでもなく、カ○トのパロディだが、言葉自体は実際に朱音が祖父――ケイシー・スティーブンソンから聞かされたものだ。

 

「それじゃまず、調味料のさしすせそ、覚えているかな?」

「え~と………砂糖……し、塩……酢に……醤油と……そ、そ……味噌」

「That’s rigit《その通り》」

「はぁ……よかった」

「なら次は、主な調理器具も改めて説明しておく」

 

 最初に『調味料のさしすせそ』をクイズに出した朱音は、次に料理には絶対欠かせぬ基本の一つである調理器具たちを、メイン所を中心改めて説明したのだが、この辺は中略。

 

「器具の説明をしていくとキリがないから、この辺にして」

「それで、今日は何を作るの?」

「目玉焼きにするつもりだったが、友奈も作ったことあるそうだから、今回は〝だし巻き卵〟にします、まずは私が一通り作ってみせるから、見てて」

「うん」

 

 朱音にそう言われて、調理過程を間近で見た友奈は。

 

(朱音ちゃん……なんてテキパキ……)

 

 その手際の素早さと良さに、友奈驚きを隠せなかった。

 先にサラダ油を入れた小さめのボールに四角に畳んだキッチンペーパーを浸させ、別の小型ボールには水、顆粒だし、醤油、砂糖、片栗粉を入れて混ぜてだし汁を作り、専用の長方形型フライパンを弱火と中火の中間の火力で熱し始めると、大き目のボールに片手かつ一瞬で卵たちを割っていれ、手に力を入れ過ぎずに手早く調理箸をかき混ぜ、だし汁を入れてさらに混ぜ合わせる。

 そしてフライパンにサラダ油を塗り、箸の先との接触で起きる油の音で適切な火力であると確認すると、ボールから直接一杯目を入れた。

 卵を一面均等に維持させながら、泡袋を箸で潰していき、卵の端っこが焼けてきたところを見計らって、二回分折り畳んで巻き付けた。

 すかさずサラダ油を塗り直し、卵を奥へと移動させると、同様の行程で、二杯目、三杯目を入れ、巻いて巻かれた卵の生地は厚みを増していく。

 そして直方体状に形を整え、卵の上に巻きす代わりのキッチンペーパーを添え、ささっとひっくり返して乗せ、五等分に包丁で切って四角皿に乗せて完成させた。

 友奈は時計を見てみたが、ここまで十分も経っていない。

 

「ごめん、いつもの感じで作っちゃったから、全然参考にならないと思うけど……」

「そんなことないよ、すんごい綺麗で美味しそうだもん♪ 味見していい?」

「いいよ」

「いただきま~す―――美味しい」

 

 パクッと食べてみれば、出汁が利いてふっくらとした卵そのものの甘味と感触と風味が口の中で広がる。

 

「それじゃ今度は、このレシピの通りに友奈もやってみて、勿論さっきの特訓五箇条も踏まえてだ」

「うん」

「フォローはするから、落ち着いてゆっくりとね」

 

 朱音は、昨夜大学ノートに書き込んでおいた、初心者でもできる絵付きの出し巻き卵のレシピを渡した。

 書いてある通りに、まずだし汁を作り始める。

 

「砂糖は……小さじ四分の一」

 

 計量器の力もお借りして、調味料それぞれの適量を計って、混ぜ合わせ。

 

「平らなところで二回とんとんして、凹んだところを両手の親指で押し込んで割る」

「そう、角でやると割れた殻が入りやすくなるからな」

 

 卵を一つずつ両手で割り。

 

「格闘技の稽古と同じだ、手は力み過ぎず、渦巻きを描くイメージで」

 

 かき混ぜた卵とだし汁を混ぜ合わせ、同じサイズの計量カップ三杯それぞれに、均等に入れる。

 

「弱火と、中火の、真ん中」

 

 ここからが本当の本番、プライパンを熱しサラダ油を引き、一杯目をフライパンの淵に沿うように入れた。

 さすがの友奈も、額に汗を浮かべた真剣な表情で、泡立つ卵液を注視している。

 

「今だ、一回目は巻くと言うより、折り畳む感じで、回数も多くていいから」

「うん」

 

 手前に、一回、また一回と畳んで寄せていくが。

 

「あっ……」

 

 生地が破れてしまった。

 

「大丈夫、そのまま続けて」

 

 何とか一回目を終え、同様の作業を反復して続ける。

 体がコツを掴んできたためか、段々手際が良くなっていった。

 そして卵液を使い切って焼き上げ。

 

「せーの、はい!」

 

 キッチンペーパーに乗せ返した。

 

「あはは……やっぱり少し不格好で焦げちゃってるね」

「そんなことない、私が初めて作った時はもっと形が悪かったから、ここまでできただけでも素晴らしいよ、味見してみるね」

「う……うん」

 

 いよいよ朱音(せんせい)の味見。

 過去最高の緊張感が、友奈に押し寄せてくる。

 朱音が箸でつまんで、口に入れるまでの間の時間すら、ひどくゆっくりに感じられた。

 もぐもぐと食べる、口の中に溜まってきた唾液を呑み込んだ中。

 

「美味しい♪」

 

 朱音は一言、感想を口にした。

 

「え? 本当?」

「論より証拠、食べてみて」

 

 もう一切れを箸で摘まんで。

 

「はぁ~~ん」

 

 いわゆるあ~んで友奈も自分で作っただし巻き卵を口にした。

 

「ほんとだ♪」

 

 美味が齎す喜びのまま、二人は満面の笑みでイェーイと互いの手をハァーイタッチッ!した。

 

「よ~し、この調子でどんどん鍛えていきましょう~~♪」

「お~~♪」

 

 この時の二人は共用キッチンの窓越しに、自分たちを見ている者がいることに気づかずにいた。

 

(あ~~………まさかの東郷さんに見られちゃったよ……)

 

今は朱音の精霊であり、朱音と同じガメラであるトトは、窓の眼下の光景を見て、冷や汗を流していた。

 

つづく?



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朱音と友奈はお料理師弟である その2

『朱音と友奈はお料理師弟である』の続きでございます。
前回と違って、今回やたら某どうでしょうネタがてんこ盛りに(劇中ではあくまでよく似た別物です)
作る料理の一つがパスタとゆゆゆいの四月バカネタと被ったのは偶然です(その日より前に決めてたので)


 友奈が朱音に料理の弟子入りをしてから数日が過ぎた、休日。

 神樹に召喚された勇者たちの住まいともなっている寄宿舎の自炊用キッチンの一角では、今日も二人の料理教室が開かれていた。

 

「朱音ちゃん、そのポータブルテレビって」

「まあこれは一旦置いといて、ランチも兼ねた今日のメニューはこれだ」

 

 葡萄色がかった黒髪ロングをアップで纏め、黒のタートルネックにジーンズ、その上にエプロンとシンプルながら、マリアや奏に負けず劣らずの八頭身なプロポーションを、意図せず却って引き立て魅せる格好な朱音は、友奈に今日調理するメニューの載ったリスト――

 

・シンプルにスライスしたフランスパンのトースト

・ミートボールスパゲッティ

・オニオンスープ

・気まぐれサラダ

・抹茶プリン

 

「って、どうした友奈?」

 

 ――を見せて説明していると、少ししゅんとしている友奈の様子に気づく。

 

「あ~ごめん、昨日麺類だって聞いた時、ついうどんかもと期待しちゃって」

「うどん県民のお一人なら無理ないから気にしないでくれ、でも、日本国外の麺類だっていけるもんだよ」

 

 生まれも育ちも日本屈指のうどん県な勇者部創立メンバーの一人な友奈にとって、麺類と言えばうどん、これは生涯絶対に揺るがぬ節理であり、朱音もまだ決して長くはない彼女たちの付き合いの中で、彼女たちの県民性を重々承知していた。

 

「まあいずれうどんも取り上げるさ、領土を取り戻していけば、他の地域のうどんだって取り寄せられるしね」

「うわぁ~~それは楽しみだな、朱音ちゃんならどんなうどんでも美味しく作れそうだよ♪」

 

 期待に胸を膨らませつつ、友奈は改めて今日のラインナップを反芻し。

 

〝あれ?〟

 

 一つ、気がかりが過った。

 

「どうした?」

「今日のって、デザートも付いてたよね?」

「ああ、そうだが?」

「この間クッキー作った時みたいに、牛鬼に食べ――」

 

 と、ここまで言いかけたところで、向かい合う友奈と朱音の間を、高速で飛ぶ何が横切り、友奈の言葉は中途で途切れてしまう。

 

「ぎゅ、牛鬼!?」

 

 その飛ぶ何かとは――いつもより慌てふためく様子で調理場の宙を飛び回る牛鬼だった。

 友奈は偶然自分の方へと向かってきた牛鬼をキャッチすると。

 

「うへっ!? 牛鬼どうしたのその口!?」

 

 なんと牛鬼の口周りはたらこかってぐらい腫れあがって、昔中学の頃、あるトラブルで東郷に縄で吊るされおしおきを受けた時を思い出させる涙目となっていた。

 

「(友奈、このミルクセーキ飲ませてあげて)」

「トトちゃんありがと」

 

 トトからミルクセーキの入ったコップを受け取った友奈は、牛鬼に飲ませてあげる。甘味で大分口の腫れが引いた。

 

「すまない友奈……」

「へ? なんで朱音ちゃんが謝るの?」

「実は冷蔵庫にちょっとした〝つまみ食い対策〟のトラップを張っておいたんだ」

「トラップ?」

 

 とりあえず調理場に設置されている冷蔵庫を開けてみると。

 

「これに入ってたのって、プリン?」

 

 デザートが入ってたと思われる、食われた痕跡が残るガラス容器があった。

 

「そうだ、でもただのプリンじゃない、わさびのエキスをたっ~ぷり入れた特性激辛プリンだ」

「ええ!? じゃあ牛鬼ってばこれをつまみ食いして」

「ああ、この前の対策と――〝お仕置き〟も兼ねて、おみまいしてやったのさ」

 

 ニコリとした顔で、〝お仕置き〟の部分をやけに強調して

 

 数日前、その日はクッキーを作っていたのだが、当初はみんなに配ろうと多めに作っていたところ、食いしん坊の牛鬼によって大半がの胃袋に吸い込まれてしまい、かつ膨れた腹からのゲップまで零される事態に見舞われた。

 苦杯を舐められた朱音は、次もこうなる可能性が高いと踏み、ならばとこちらから網(トラップ)を張っていた―――それがかの、甘さなど一欠けらもない激辛わさびプリンである。

 しかも食い残しされぬよう、牛鬼が一口で食べられる量も計算して。

 そうとも知らず牛鬼は、二人が会話している間こっそり冷蔵庫内で実体化し、置かれていたプリンを食べてしまい、朱音からの逆襲をまんまと受けてしまったわけである。

 トトが渡したミルクセーキは、引っかかった場合のフォローとして一緒に作っておいたものだった(万が一プリンを食う前に飲まれぬよう、朱音の部屋の冷蔵庫で保管し、精霊の移動能力を生かし、ほぼ一瞬で調理場まで持ってきた)のだ。

 

「あはは…」

 

 友奈自身、相棒の暴食(グラトニー)染みた大食漢っ振りには幾度となく泣きを見て手を焼かされてきたのもあって、朱音の策謀による逆襲を責める気にもなれず苦笑いするしかない。

 

「さて、牛鬼く~ん♪」

 

 しかし、朱音はこれだけで終わらせるつもりもない。

 友奈の腕に抱かれる牛鬼の前で、トトと共に両腕を組んで仁王立ちすると。

 

「もし今日も性懲りもなく、友奈が一生懸命作った料理を不躾に食べるようならば、これ以上の地獄をおみまいしてあげるから、その時は―――覚悟しなさ~い♪」

 

 全身の佇まいとは正反対の晴れやかな女神の如く、しかし、悪魔の如き凄まじく底冷えする威圧さで最後通牒(アルティメイタム)を突きつけた。

 

「朱音ちゃん……なんでおひさまみたいな笑顔なのに……そんな、怖いの?」

 

 これには友奈も、下手するとノイズやバーテックスを相手にしてきた以上に、怒った時の静音を目の当たりにした時以上に顔が青ざめ。

 あの牛鬼すら、戦慄でガクガクと震えあがり、今までになく号泣するほどであった。

 友奈たちが中学時代の頃、東郷が腕によりをかけて作ったお重三段分の、友奈曰く讃州一を讃えるほどの美味なぼた餅を全て食べ尽くして、縄で括られ吊るされたあの時以上の恐怖が、神々の眷属の端くれに襲いかかっている。

 牛鬼からは、朱音とトトの背後に、映画で言えば朱音はG3のガメラ、トトは先代のアヴァンガメラが浮かび上がる幻が見えており、その二体から口からいつでも火球を放つ気満々な笑顔を向けられていた。

 

「いいね?」

 

 コクコクッ。全身を震撼させたまま、牛鬼が頷く。

 すると一変、周囲を支配していた朱音から発せられる冷感な空気が、瞬く間に消え去り。

 

「よし、いい子だ」

 

 最初に下顎、次に頭の順番で牛鬼を優しく柔らかに撫で上げていた。

 

「ご馳走が全部できるまでは、しばらくこれで賄ってね」

 

 と、ポケットからビーフジャーキーを取り出し、差し出す。

 それを頬張った牛鬼は、コクリと頷くと、珍しく自分から姿を消して、友奈の変身用端末に引っ込んだ。

 

(あ、あの牛鬼をてなずけるなんて……)

 

 勇者たちの精霊一、奔放で友奈も手を焼かせる可愛いけど問題児でもある牛鬼を手懐けた事実に、友奈は口を開けたまま瞳をパチパチと驚嘆させられ、今はは元が付くとは言え、かつて神様――守護神ガメラであった風格を朱音から感じさせられるには充分であった。

 

 

 

 

 

 

「さてと、気を取り直して実際に作る前に、百聞は一見に如かずと言うことで、まずは失敗例をご覧頂くよ」

「失敗例? あ、それで今日はテレビ持ってきたんだね」

「sure(そうさ)」

 

 朱音はポータブルテレビの電源を点けて、予め付けていたSDカードに入っている動画を再生させた。

 

「あれ? これって………『土曜ドーでしょう』?」

 

 動画の中身は、西暦の二〇世紀末に最初に放送されてから約三〇〇年以上も経った神世紀の時代でも未だ人気の衰えず再放送されている、西暦時代のローカルバラエティ番組だった。

 

「ただオーロラ見る為だけに、わざわざア○スカの北極圏に向かう回があるんだけど」

 

 朱音は友奈に見せたい場面へと動画をスキップさせた。

 出演者たちがアラスカに向かう道中の夜、レンタルしたキャンピングカーでその一人のタレント――山泉涼が料理を振る舞っているのだが……。

 

「一品作るのに四五分!? その間に風先輩は肉ぶっかけうどん十杯は余裕で食べちゃってるよ!」

「風部長の大食漢はそこまでなのか……犬吠埼家のエンゲル係数が心配になってくるな、樹の印税の大半は食費につぎこまれてるんじゃないのか?」

「あはは、さすがにそこまで切迫してないって」

 

 なんて風の食いしん坊な話は置いておいて。

 まだ素人の友奈も驚愕するくらい、恐ろしく……そのタレントの調理の手際は、最悪だった。

 無駄にこだわりは持っているくせに、調理進行は複数並行できずグダグダとしか言いようのない、滑らかかつ手早くからはほど遠い鈍重具合で、プロ及び朱音や風クラスなら一〇分もかからない前菜一品を作るのに、尺が九〇分の長編映画の半分も費やす有様だった。

 

「やっとスパゲッティに入ったね」

「ここからが本番だ」

 

 調理開始から二時間以上過ぎ、ようやく主食のスパゲッティに入った。

 

「ねえ、パスタとソースって、あんまり一緒に作らない方がいいよね?」

「ああ、よほど手慣れてないとお勧めしない」

 

 ――上に、予め朱音から提示された調理五箇条にも反していることである。

 

「ねえねえ、あのボールに入ったパスタをこのまま放っておいたらどうなるの?」

「それは見てのお楽しみ♪」

「ほぇ~~……」

 

 先にパスタがゆで上がってしまい、大慌てでフライパン上のソースを作り込むも、時間は無情に経過していき。

 

『パスタ入れます!』

 

 とタレント宣言して、ようやくできたソースにパスタを入れた瞬間。

 

「えええぇッ!?」

 

 友奈の顔は、牛鬼みたいな顔つきの驚愕顔となった。

 

「『な――なんでそんなに増えちゃったのォ~~ッ!?』」

 

 奇しくも、劇中の出演者と友奈が、同じリアクションで同じ言葉をぴったり重ねた。

 半ば放置されていたパスタはすっかり水分がほとんど蒸発し切ってドーム状にまで膨張、肥大化し、とても麺全てにソースを手早く絡めさせるのは土台無理な状態に陥っていた。

 そんなこんなで何とか完成、番組内の時間、午後一一時半くらい。

 

「み、見た目は美味しそうだね……」

「あくまで見た目は、な」

 

 ソースの味自体は好評だったが、案の定、水分が逃げ切ってのびたパスタはその旨味をプラマイゼロにするまでに大不評であった。

 

「パスタにやうどん、ひいては麺類に限らず、調理手順手際を間違えた料理が、それを食べる者にどう牙を向くか、改めて分かってもらえたかな?」

「う、うん……美味しい料理のストライクゾーンって、結構狭いんだね」

「お、そう言えばグランパも似たようなこと言ってた、『料理のストライクゾーンはベースボールのより遥かに狭い、だからこそ、日々料理に悪戦苦闘する料理人は全て偉大であり、自ら美味い料理を創作した料理人たちはもっと偉大なのさ』だってね」

 

 せっかくなので、その場面を最後まで見る二人。

 他のレギュラーたちから料理の大ブーイングを受けて、盛大に逆ギレする山泉涼に、朱音も友奈も、これまた盛大に大笑いで鑑賞していた。

 

 

 

 

 

 

 反面教師としてこれ以上になく相応しい失敗例を鑑賞中の二人を、窓越しに遠間のビルの上でまるで狙撃手がスナイパーライフルを構える体勢かつ、悔しさでぐぬぬと歯ぎしりしながら泣きそうにすらなっている状態で、耳に付けたイヤホンから二人の会話を〝盗聴〟しつつ、双眼鏡で眺めている黒髪の大和撫子が一人。

 誰なのかは……まだ言わないでおこう。

 てか言わずとも分かる筈だ。

 

 

 

 

 

「さあ、今日の調理を始めようか」

「はい!」

 

 さて、今宵の朱音が先生、友奈が教え子なマンツーマンの個人調理実習の幕が上がる。

 なんてことないことだが、後にこの光景を見たアニメオタクな板場弓美からは――

 

〝どこの、新○姉妹の二人ご○んよ〟

 

 と、二人は親の再婚で姉妹になった二人の少女が料理を通じて交流を深めていくグルメ漫画の主人公たちに比喩されることになる。

 

 

 

 

 

・抹茶プリン

 

「抹茶が、大さじ一杯……」

 

 まず朱音が書いたレシピに書かれた材料の分量をそれぞれ小皿に入れ、耐熱使用のボールに入れて温めた砂糖入りの牛乳に入れ、かき混ぜる。

 

「私、実はプリンの黄色ってカスタードだと思ってたんだ」

「カスタードか、正確にはプリンは卵とミルクと砂糖を混ぜたカスタードの塊だから、間違ってないな」

 

 混ぜながら、会話も二人は交えさせる。

 

「でも、こうして料理を習うと、あの時作ったプリンがどれだけ間違いだらけだったか思い知らされるよ……」

「あの時?」

「中学の、勇者になるちょっと前に、樹ちゃんと一緒に徹夜でプリンを研究して作ったんだけど」

「て……徹夜だって?」

 

 Oh―― I have a bad feeling about this.(なんか――嫌な予感がする)

 内心朱音は、一晩一睡もせずプリンに打ち込んだらしい友奈に対し、英語で呟きを一言、零し、冷や汗を一滴額から流した。

 そして、案の定と言うか……友奈の説明を聞いても、とてもそれがプリンとは思えず、形容しがたい謎めいた物体と言う、ク○ゥルフめいた表現(イメージ)しか浮かばず。

 

「黄色っぽさが足りなかったからってウコンを入れて、カラメルの茶色っぽさを出そうとして魚醬(しょっつる)も入れちゃって、ほんと……〝なせば大抵なんとかなる〟って舐めてたあの時の私っておバカだったよ」

「Bless……my soul…(なんて……こったい…)」

 

 これには朱音も、翼から初めて部屋を片付けられず整理整頓は緒川に任せきりな彼女の悪癖を聞いた時並みに……引いていた。

 プリンを作る為に、ウコンにしょっつるなど、まさにベストならぬワーストマッチである。

 

「それはまた……典型的メシマズ理論だな」

「だよね……」

 

 苦笑し合っている内に、良い具合に混ぜ切ったので、レンジで温めたゼラチンを入れて再びかき混ぜ、さらに生クリームも入れてかき混ぜて、氷水で冷やし。

 

「通常は六時間だけど、この冷蔵庫の瞬冷スペースを使えば、二時間で固まる、その間に主食たちを作るぞ」

「おーっ!」

 

 

 

 

・気まぐれサラダ+フランスパンスライス+コンソメスープ材料切り。

 

 名前の通り気まぐれなので、洗った野菜たちの内。

 レタスは手で破って千切り。

 

「そう、翼が刀で敵を斬るように、稲妻を描く感じのジグザグで、垂直に引き切っていって」

 

 トマト、パプリカ、アボカドを切り。

 紫キャベツをみじん切りにして、それらもボールに入れて気まぐれに混ぜ合わせ、それらも冷蔵庫に入れ、続いてコンソメスープ用のニンジンと玉ねぎ(ミートボール用込み)を切る。

 

「チンするだけでこんなに切りやすくなるなんて知らなかったよ」

 

 硫化アリル対策で、レンジで温めていたので、目が染みることなく友奈は、朱音からのアドバイス通り、トントン音を鳴らさない(玉ねぎのせっかくの旨味を壊してしまうので)加減で細かく切り刻む。

 既に野菜の切り方はレクチャーされていたとは言え、中学の頃の料理音痴が嘘のように、友奈は片手を猫の手で食材を切り捌いていた。

 これだけでも、あの頃の調理音痴だった彼女とは違うと窺える。

 

「でもこのフランスパンは固くて切りにくそう……」

「でもないぞ」

「ほえ?」

「逆さにして底から切ればいいんだ」

 

 言われた通り、逆さまにして包丁を入れると。

 

「ほんどだ! すご~い!」

 

 硬そうな外見から想像できないくらい、さくっと綺麗にスライスできて友奈は簡単だけに感嘆の声を上げたのだった。

 

 

 

 

 

「ぐぐっ……」

 

 出歯亀+盗聴している黒髪美少女は、悔しさで唸り染みた奇声を上げた。

 

 

 

 

 

・ミートボールスパゲッティ

 

 そして、いよいよ本命に入る。

 まず本命の顔である、パンチェッターーバラ肉付きミートボールから。

 挽肉に混ぜるバラ肉を二人一緒でギリギリまで細切りし。

 刻んでおいた玉ねぎを弱火のフライパンで、飴色になるまで軽く炒める。

 ソース用に玉ねぎとパプリカの一部をミキサーでさらに細かく、すり大根くらい刻んでおき。

 小皿にミルクとパン粉を混ぜ。

 ボールに入れてある牛ひき肉に、バラ肉、卵、玉ねぎ、パン粉入りミルク、胡椒、オレガノスパイス、シーニングソルトを入れた。

 

「友奈、牛鬼を呼び出してくれる」

「う、うん」

 

 朱音の荒療治(おしおき)込みの躾が利いたのか、ビーフジャーキーと同じ牛肉を前にしても勝手に出てこない牛鬼を、端末で呼び出した。

 

「牛鬼、頼みがあるんだけど、このひき肉をコロコロしてくれたら、ビーフジャーキーをもう一枚あげよう」

 

 当然、ぶら下げられた好物を前に、牛鬼の瞳は煌めき、口の中は唾液が溜まった。

 

「でも、条件もあるよ、さっきも言ったが料理が全部できていただきますをするまでは、一口でも食べないこと、でないと―――恐ろしいことが起きる」

 

 友奈と牛鬼は、朱音の含みは感じられても意味まで読み取れない言葉に、頭をかしげて?顔となる。

 

「実は生肉には、君のような精霊にとっても恐ろしいばい菌がいてね、この世界でも神樹様はそのばい菌までも再現してしまってるんだ、うっかり口にすれば………君のお腹の中もそいつらが大暴れしてぐちゃぐちゃにされ、耐え難い苦痛に苛まれることになる、つまり―――好物が、食べられなくなると言うことだ」

 

 朱音の言わんとしていることを理解したらしい牛鬼の額が、ショックで一気に青味掛かって。

 

〝NOoooooooo―――――!〟

 

 と、叫びそうな、両手で両頬を押し付けた。

 

「さ、○び!?」

 

 リディアン分校の美術の教科書にも記載されているかの北欧の画家の代表作の如き形相となり、縦線までも流れ、羽ごと全身が震えて、滞空もおぼつかなくなる。

 

「一度ばい菌がお腹に入れば、当分はどんな大好物でも、食べたいのに苦しみで食べることができない、長ければ……数か月はそんな地獄が続く、君もそんな目に遭いたくないだろう?」

 

 コクコクッ。

 顔を青くして震えたまま、頷き応える。

 

「(そしてそうなっちゃうと、腹痛で精霊のお役目たる勇者のサポートも碌にできなっちゃう、牛鬼だって友奈が必死に戦っているのに、自分だけ布団でお寝んねしたくもないでしょ?)」

 

 コクコクッ。

 トトからの言葉にも頷く。

 日常では奔放なやんちゃ坊主である牛鬼だが、いざ戦闘に入れば精霊の本分たる、勇者のサポートと言うお役目をきっちりこなすプロフェッショナルな一面もある。

 友奈たちとの毎日の一番の嗜好(たしなみ)――食べることがままならなくなるどころか、お役目――神樹様の眷属たる自らの存在意義すら揺らがすことになりかねないとあっては、いつものマイペースで見過ごせるわけがなかった。

 

「だから、君の牛肉(こうぶつ)に限らず、作ってる途中の食べ物は、うっかりでも口にしないように、これを心がけて手伝ってくれるなら、このビーフジャーキーもう一枚をあげる、分かった?」

 

 コックリ。

 

「よし、はいどうぞ」

 

 パクッ、モグモグ。ともう一枚を口で受け取りそのまま食べた。

 

「今の決まりを最後まで守り切って手伝ってくれたら、ジャーキーさらにもう一枚あげるからね」

 

 キラキラッ☆彡

 

「じゃあその前に、石鹸も込みで手もしっかり洗ってくるように、トトもだよ」

 

「(は~い♪)」

 コクッ♪。

 

 二体の精霊は意気たっぷりに挙手。

 朱音に言われた通りトトと牛鬼は、近くのシンクで石鹸も使って自分の手を洗う。

 

(はっ、ただ見てるだけじゃダメだ、園ちゃんみたいに参考にメモっておこう)

 

 一度ならず二度までも、飴と鞭を使い分けて牛鬼を巧みに手懐けている朱音の弁腕をできうる限りメモしておいた。

 自分も躾できるようになれば、他の精霊たちも心置きなく実体化できると気づいたからである。

 

「さて、挽肉(ミンチ)をこねるわけだけれども、私の場合はこれを使っている」

 

 朱音が手にして見せたのは、予め氷水で冷やしておいた樹脂製の調理用へらだ。

 

「手でこねるんじゃないの?」

「手でこねると体温の熱で肉の脂が溶けて、焼く時に旨味も逃げて形崩れしやすくなるんだ、ハンバーグらミンチ料理がパサパサになる原因は大体がこれでね、だからこねる時は道具を使った方が、形も端整で美味しくなるわけ」

 

 朱音の場合、その道具が樹脂製で柔軟性のあるへら(またはスパチュラ)だった。

 

「なるほどなるほど~~」

「それじゃ冷やしたこのへらでたっぷりこねてみて、冷やし直すのも忘れないように」

「はい!」

 

 友奈は熱対策に冷やされたへらで、挽肉及び材料を混ぜ合わせていく。

 歳相応に華奢な外見な反面、自身の実父からの武道、師の弦十郎からのトンデモ拳法と、そして実戦で鍛えられてきた友奈の腕力と力加減で、挽肉ら素材は、みるみる一つに混合されていった。

 

 

 

 

 

「うちの弟たちくらいやんちゃな、友奈さんの牛鬼をああも飼いならすなんて、あや姉さんとトト、さすがっすね……あたしも一人の姉として見習わないと」

 

 二人の調理風景を、陰からこっそり見ている者が、他にも二人いた。

 ジャージ姿の三好夏凜と三ノ輪銀(夏凜は勇者装束に違わぬ鮮やかな赤だが、銀は根っこの乙女性が窺えるピンクカラーを着ている)、同じ〝変身端末〟を持つ、二刀使いの勇者たちである。

 二人は今日の午前中では二刀流同士で鍛錬を行っており、一旦小休止してシャワーを浴びた後に調理場の近くまで寄り、調理中の友奈たちを偶然目にして、こっそり模様を拝む格好となっていた。

 

「………」

 

 感心している銀をよそに、夏凜はと言えば……何だかむすっとして普段より遥かに無口となった顔に、〝面白くない〟とそう主張しており、朱音と楽しく料理を作っている友奈の笑顔を見つめている。

 

「夏凜さん、もしかして羨ましがってるんですか?」

「べ、別に羨ましがってなんかないわよ!」

 

 などと、これはまたベタベタのツンデレな言い返しを、あからさまに赤面したツンデレフェイスで銀へと言い放った刹那。

 

「ならこっそり見てないで堂々と入ってくればいいじゃないか、銀、夏凜」

「うわっ!?」

 

 夏凜と銀は目ん玉大きく見開いてびっくら仰天。いつの間にか朱音は二人の目の前に立っていたからだ。

 

「あや姉さん、いつからあたしらのこと気づいてたんっすか?」

「割とのぞき見し始めた頃かな」

 

 牛鬼に手伝いを頼んでいた時から覗き見ていたのだが、朱音にはその時点で気取られていたのだ。

 

「自分の気配をコントロールするのも兵法の内だよ、銀君」

「筒抜けでしたか、面目ないっす……はは」

「あ、夏凜ちゃんに銀ちゃん♪」

 

 少し遅れて、友奈と浮遊している牛鬼が調理場から同時にひょっこり顔を出した。

 

「二人とも鍛錬の帰り?」

「まあそうよ、午後から続きをするつもりだけど」

「そうだ、せっかくだしミートボール作りを手伝ってくれないかな? スタミナ補給も兼ねてのご馳走もするから」

「ええ!? いいんっすか!? 喜んで手伝わせて頂きます」

「ちょっと! 私たちまで……なんでよ?」

 

 大喜びを見せて承諾した銀と、ちょっと戸惑い気味の夏凜と、実に好対照な反応を見せるお二人。

 

「ただ空腹に耐えながらランチまで待っているのも芸がないだろう? それにこのミートボールの生地を練ったのは友奈だよ」

「え?」

「そうだよ! せっかくだから一緒にやろう! 夏凜ちゃんのこねたミートボールも食べてみたいし♪」

「ゆ……友奈……」

 

 生地を練ったのは友奈と言う事実。

 その友奈からの熱烈な呼びかけに、頬を赤らめた彼女は、数秒の葛藤を経て。

 

「しょ、しょうがないわね……友奈がそこまで言うなら……て、手伝ってあげないことはないわ」

「わ~いやった♪」

 

 表向き渋々な感じに徹しようとしているが、明らかに喜んでいる口元を見せる夏凜も了承した。

 ほれそこ、友達(ゆうな)からの押しに弱いツンデレな夏凜のことを間違っても〝チョロい〟などと言ってはいけないよ。

 

 

 

 

 

「あや姉さん、友奈さん相手じゃ夏凜さんは絶対断らないと分かってて提案したんじゃ……」

「さあ、どうかしらね、銀君のご想像に任せるよ」

 

 銀からの小声で投げかけられた質問に、朱音は人差し指を口元の端に添え、ティーンエイジャー離れした母性的にして小悪魔な微笑ではぐらかした。

 

 

 

 

「スプーンで適量を取ってこねる時はビニール手袋を使って――」

 

 まず朱音が三個、生地を丸めて。

 

「――大体この大きさを目安で丸くさせてね」

「分かりましたあや姉さん」

 

 お手本を見せる。

 

(お、大きさが全く一緒!? しかも綺麗……卓球のボールみたい)

(朱音もやっぱり、東郷と風クラスの逸材ね……)

 

 スプーンも使っているとは言え、丸められたミートボールは、目視する限り三個ともほぼ全く同じ大きさで、綺麗にピンポンボール状にさせた朱音の手慣れた手際に対し、身近に料理の達人がいる友奈と夏凜は瞳をパチパチとし、改めて舌を巻いていた。

 

 朱音、友奈、夏凜、銀の四人と、トトと牛鬼の精霊らで、生地を丸めていく。

 牛鬼の食欲を見越して多めに材料を揃えていたので、この人数で丁度いいくらいだった。

 幾分か経つと、サラダボール内にあった生地は、人それぞれ精霊それぞれが現れた多様性たっぷりなミートボールたちになっていた。

 

 

 

 

 そして、いよいよ焼く。

 

「まずオリーブオイルを、大さじ――」

 

 フライパンの上にオリーブオイルを撒いて広げ、弱火で熱したところで、ミートボールたちを入れて、強火で焼いていく。

 

「焼き色がついて、弾力が出て固くなってきたらOKだったよね?」

「ああ」

 

 友奈は手に持つ箸で裏返すと、丁度いい焼き目が肉に刻まれていた。

 弾力がついてきたところを見計らい、ボールを一度お盆に移した。

 

「量が多いから、ソースはフライパンの代わりに鍋を使うよ、パスタ用の鍋にも水入れて沸騰させておくけど、友奈はソースに集中して」

「うん」

 

 鍋の上にオリーブオイルを敷き、ニンニクペーストとミキサーで刻んだ玉ねぎパプリカの混合物、アクセントに辛し唐辛子を少々入れ、色が変わるまで炒める。

 香りも出てきたところで、缶詰のトマトソースを入れて混ぜ混ぜ。

 バジルパウダーに砂糖、塩胡椒、ウスターソースを入れ、中火で煮込み、焼いたミートボールを入れてソースに絡ませ、蓋をして暫く弱火で蒸し焼きに。

 

 ここからが問題のパスタ。

 

 既に沸騰した湯水に、友奈はパスタを入れ、朱音が設定しておいたデジタルのキッチンタイマーを押す。

 

「必ずタイマーに合わせて茹でるように、プロほど器具の力をお借りするものだから、長泉さんの言ってた『料理人が使う時計は体内時計で充分』なんて言葉は、机上にもならない戯言だと思いなさい!」

「はい!」

 

 実際体内時計に頼った惨憺たる結果を目にしている友奈は、心して応じた。

 

「あの二人は何を言ってるの?」

「多分、土曜ドーでしょうってバラエティのことだと思います」

 

 数分後。

 タイマーのカウントダウンが終了すると同時に、パスタをザルボウルに入れ、素早く水を切り。

 絡めやすいようまた一度ミートボールが取り除かれたソースに放り込み、トングで麺を染め上げていき、再びミートボールも入れた。

 

「よしその調子♪」

「美味しそう……」

「ちゃんと手順守って器具使うだけでも全然違うでしょ?」

「全然違うね、これ作ってるのが自分なんて信じられないくらいだよ」

 

 うどん派で自ら作っている友奈も、食欲をそそるほどのでき具合になっていた。

 

 友奈がスパゲッティに集中している間に、朱音はコンソメスープと作り、刻んだフランスパンをオーブンで焼いておいたので。

 

 完成!(ド~ン♪)

 

 

 

 

 寄宿舎の食堂スペースの一角で。

 

「すご~い、ル○ンと次○が食べてたのそのまんまっすね」

 

「「「いただきます」」」

 

 朱音の手で均等に分けられた料理たちを前に、友奈たち合いの手をして、ランチを取り始めた。

 

「どう? 夏凜ちゃん、銀ちゃん……」

「美味しいですよ友奈さん! お肉もすんごいジューシーで、トマトが苦手なうちの弟もバクバク食べれちゃうくらいです」

「パスタも結構いけるもんね………美味しい」

 

 二人の評判は上々。

 グッドッ!

 牛鬼からもサムズアップで讃えられた。

 

「でも朱音ちゃんのレシピとご指導のお陰でもあるかな……」

「前にも言ったがそんなことないさ、着実に友奈の腕前は上がっている」

「そうよ友奈、完成型勇者(このあたし)の舌もうならせるんだから、どぉーんと自信持ちなさいよ」

「あ、ありがとうみんな♪」

 

 ちゅるり。

 

「うん、美味しいね♪」

 

 友奈の満面の笑みで食卓の温かみが増す中、彼女たちはランチを堪能するのであった。

 

 

 つづく?

 



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東郷さんは嫉妬深く、チョロい

今回の話は『朱音と友奈はお料理師弟である その2』の続きとなっております。
割とドストレートなサブタイだけど、他に思いつかなかったんだ 
劇中に出てくる神社は、ゆゆゆ一期劇中でも出てきた聖地が元(微妙に名称を変えてありますが)。
和菓子の方は、うどん粉を使うに惹かれて先日見たバラエティから早速拝借。
店名は無論、科学特捜隊のキャップからです(おやっさんの方は既に響鬼で使われてたので)


 さてさて、朱音ご指導の下、友奈が丹精込めて作ったミートボールスパゲッティら今日のメニューを、偶然通りかかった銀と夏凜と一緒にランチを取っている様を、引き続き嫉妬心を半ば剥き出しにして遠くのビルの上から双眼鏡で見ていた黒髪ロングの大和撫子。

 敢えて言うと………当然と言うかその少女とは、神世紀の日本で護国思想の強めな日本人でもある東郷美森その人だ。

 彼女が、朱音ご指導の下、友奈が料理の特訓に励む姿を見てしまったのは、あのだし巻き卵を作った初日だった。

 同日、いつものように友奈と帰ろうとした際。

 

〝ごめん東郷さん、今日はどうしても外せない用事があるんだ〟

 

 その友奈から、謝意を示す合いの手でこう断られた。

 どうしても外せない用事の詳細ははぐらかされながらも、一時は渋々了承した東郷だったが、直ぐに胸に引っかかりを覚え始め、その状態のまま友人たちと帰宅の途中。

 

「はぁっ!?」

「あれ……友奈に朱音?」

 

 寄宿舎の近くを通った際、見てしまった、見えてしまったのだ。

 丁度、エプロン姿の朱音と友奈が、仲睦まじくイェーイとハーイタッチした姿を。

 東郷の大和撫子に相応しい白磁の肌な顔は、一瞬で酷く青ざめ、浮浪者の様に足をふらつかせた挙句。

 

「嘘よ……嘘だわ……そんなの嘘よ……そんなことあるわけないわ……」

「友奈ちゃん、もしかして朱音ちゃんからお料理習ってる?」

「嘘だぁぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 傍らにあった電灯の柱にしがみ付き、悲鳴を上げた。

 その日以来、料理人としての師弟となった二人を出歯亀する日々が続いて今日に至る。

 

「いけない! 友奈ちゃん! 銀! これは罠よ! 欧米列強からの精神的侵略よ!」

 

 すっかり、お淑やか、とは程遠い取り乱し様。

 鷲尾須美(しょうがくせい)の頃の自分と親友だった銀、そして東郷美森に戻って以来の自分とは大親友な友奈。

 今の彼女からは、生涯の親友たちが、アメリカ人とのクォーターでもある朱音から、日本で言う戦国時代におけるキリスト教の布教も同然な、文化、価値観、精神の侵略行為を受けているようにしか見えなかった。

 それ以上に、嫉妬の感情もあったわけだが。

 

「こうなったら――」

 

 冷静さを失った東郷は、懐に置いていたバックに手を伸ばそうとする。

 中に入っているのは、小学生時代に園子が見た夢から生まれた、あるコスチュームだ。

 

《国防仮面》

 

 と、言えば大体分かるだろう。

 だが、その自警団(ヴィジランテ)的装束が、その時纏われることはなかった。

 東郷の視界(めのまえ)に、ビルの頂に仁王立つ足が二つ。

 

「須美~♪」

 

 鷲尾家の養女にして、先代勇者だった頃の自分の名を呼ぶその声を聞いた東郷は、心底から底冷えする戦慄と、そして恐怖が押し寄せた。

 

「き……清美姉さん」

 

 両腕を強く組んで、額に濃い影が射し込んだ満面の笑みで東郷を見下ろすのは――清美、かつて同じ鷲尾家の勇者であった義理の姉、静音だった。

 

「な~にをしているのかな?」

 

 真面目で堅物な静音がこんな笑顔を見せる理由は一つ。

 愛する者たちが犯した蛮行に対する、怒りだ。

 

「(お取込み中ごめんね)」

 

 するとこの場に、朱音の精霊であるガメラ――トトが現れ。

 

「(はい)」

「どうもねトト、動かぬ証拠も持ってきてくれて♪」

 

 黒い物体を手渡し、その場から消えた。

 受け取った静音は、それを問答無用に握りつぶし、破片(スクラップ)と化したそれらを床へと無造作に放り捨てた。

 東郷が、こっそり調理場に取りつけていた盗聴器の、成れの果て。

 

(しまった……なんたる不覚)

 

 東郷は、相手に悟られることなく出歯亀(かんし)できていたのは、間違いであったと、思い知らされた。

 

「さあ、今すぐ私の部屋に来なさい~~たっぷり~可愛がってあげるから♪」

 

 

 

 

 

 数時間後。

 静音の部屋の片隅では――

 

「ぐすっ……」

 

 その間、義姉の静音よりたっぷり絞られ――もとい可愛がられた挙句、顔に『反省中』と書かれた紙を貼られ、正座を強いられたまましくしく涙している東郷がいた。

 静音からは、自分が張り紙を取るまで正座を解くなと釘をさされていた。

 もし勝手に解いたら、今回の含めた今までの蛮行諸行悪行の数々を、須美――過去の自分と、そして銀に洗いざらいぶちまけ告発すると言う、東郷にはある意味でこの上ない罰を与えるとも脅迫されている。

 なのでほとんど東郷は身動きを許されず反省を強いられ、もし下手に正座を崩せば――。

 

〝私が、六年後に貴方みたいな人になるなんて―――不愉快です! 最悪ですッ!〟

 

 須美(かこ)から、現在の己へ、徹底的に糾弾され。

 

〝須美をここまで堕ちぶらせるなんて……おっきい方の須美……見損なったっす!〟

 

 下手すれば銀からも失望される未来が確定してしまうので、東郷は必死に時を刻むごとに増す両脚の苦行(しびれ)に、ひたすら耐え続けていた。

 その光景を、後から部屋に訪れた篠崎奏芽と犬吠埼風は哀れに見え。

 

「清美、これはちょっと……さすがにやり過ぎじゃないかな?」

「当然の報いよ♪」

「いやいや、東郷だってこんな長い時間正座させられたらきついでしょ、せめて足くらい楽にさせたら……」

「楽にさせたらお仕置きにならないじゃない♪」

 

 減刑を主張するも、静音は一切二人の提言を聞き入れる気配はなく。

 静音が怒りの笑顔を解くまで、まだ当分は愛する義妹(いもうと)へのお仕置きは続きそうだった。

 

「そ、そうだ、朱音もここに呼ぼう奏芽」

「そうね、彼女も今の須美の姿見たら大目に見ようって言ってくれる筈」

「甘いわね二人とも」

 

 それでもどうにか刑罰を軽くしようと、朱音に助け船を求めようとする奏芽と風だったが。

 

「「え?」」

「だって今回のお仕置きは―――朱音(あのこ)と一緒に画策したのだからね♪」

「「なん……ですって……」」

 

 静音から突きつけられた、彼女と朱音は最初から結託していた事実に、二人の脳髄は荒ぶる閃光が走るほどの衝撃を受ける。

 奏芽と風がとっさに思いついた目論見は、初めからとうに崩れ去っていたのだ。

 

 

 

 

 東郷の出歯亀は、二人の料理特訓初日の翌日から始まっていたのだが、その日には既に朱音は鍛えられた感覚で、自分たちを〝監視〟している視線(けはい)の存在に気づいていた。

 初日にトトが、多大なショックを受けた東郷を目にしていたのもあり、視線の正体が彼女であるとも見抜いていた。

 しかし朱音は、気づいていながらしばらく何もせず、何日も素知らぬ振りを取った。

 本人に追及したりや、義姉の静音に報せると言った手も打たず、友奈に料理を教える自分への監視の目をポーカーフェイスで放置した。

 孫子の言葉の一つ、動かざること、山の如し――の如く。勿論、朱音はただ放置していたのではなく、相手を油断させつつ向こうの様子、出方を窺っていたのである。

 その間、トトのサポートもあって盗聴器の場所もちゃっかり把握し。

 

〝ところで、あの勇者部の凝った作りなHPって、誰がプログラミングしたんだ?〟

〝あ、あれは東郷さんだよ〟

〝あの人のパソコンスキルって凄いんだよね~~ほんの一、二分ちょっとで高速タイピングしてちゃちゃっとHP強化しちゃうし、勇者端末のアプリ改造だってやっちゃうし〟

〝それ……合法の範囲内なんだよね?〟

 

 それとなく響たちから聞き込みして、迂闊に電話やメールを使えばハッキングされる可能性も突き止め。

 そして、ミートボールスパゲッティらのメニューの日の前日の早朝。静音とともに毎朝のトレーニングの場として使っている公園で、鍛錬の傍ら、彼女に友奈に料理を教えている件と、その模様を義妹(とうごう)より盗み見されている件を口頭で報告。

 

〝実は今、友奈からの折入っての頼みで料理を教えているんだけど、それを毎度盗み見している輩がいてね〟

〝その輩って……まさか……〟

〝まだ確証はないが……多分、東郷だ……ハッキングされるかもしれなかったから、端末で連絡できなくて〟

 

 当然、身内の諸行を聞いた静音が、額に青筋(いかり)のマークを浮かべた笑顔になったのは言うまでもなく。

 

〝明日、何とか監視中を取り押さえて君の義妹(いもうと)にお灸を据えたいのだが、どうかな?〟

〝断る理由がないわ♪ 喜んで協力するわよ♪〟

〝ありがたい、これ以上友奈の一生懸命を、親友の彼女に水を差されたくなかったからな♪〟

〝ええ、日頃親友と豪語しておいて肝心な時に友奈の想いを察しない愚昧には、相応の報いを与えないとね♪〟

〝Hah―――hahahaha♪〟

 

 との、朱音からの申し出にも快く了承、協力を約束し、二人は爽やかな朝の下には似つかわしくない、ダーティーな笑顔を交わし合い結託。

 その日の放課後の特訓の後の夜にて、東郷が監視に使っている場所を静音が運転する車でともに回りながら絞り込みつつ、盗聴の心配はない彼女の車内でお仕置きの算段を立てて練り。

 そして当日、朱音は敢えてパスタと言う西洋の麺料理メインのラインナップで東郷の冷静さを奪い。

 まんまと術中に嵌った彼女は盗聴現場を義姉(しずね)にまんまと押さえられ、ダメ押しにトトが盗聴器をわざわざ静音に渡してそれを壊す――までに至ったわけである。

 

「じゃあ、この東郷のお仕置きも、朱音と一緒に考えたって……こと?」

「当然じゃない♪ ほんと朱音を呼んでくれた神樹様には感謝しているわ、問題児どもをどう御するか、俄然やりやすくなったからね♪」

 

 奏芽と風は、静音と朱音の二人に対し改めて戦慄、息が止まりかけるほど絶句。

 そう言えば……と前にあったある出来事を二人は思い出した、否、思い出させられた。

 仲間の精霊にも(さすがに本当に食べはしないが)かじっちゃう牛鬼が、朱音の精霊にして同じガメラのトトにもそのお約束(?)を、しようとした際。

 

《激突貫――ラッシングクロー》

 

 直前、電光石火の勢いで朱音は牛鬼の柔らかい口元を鷲掴みにし。

 

〝牛鬼く~ん♪ 私のかわいい相棒(トト)に、何をしようとしたのかな~?〟

 

 その時にも、晴れやかに瞼を閉じた聖母の如き笑顔から、今にもハイプラズマを放射しそうな威圧力で周囲を凍えさせ。

 

〝まあいい、丁度いい機会だから一つ君に聞きたいことがある――〟

 

 ゆっくりと瞳を開き、災いたちへの怒れる翡翠の眼光を突きつけ。

 

〝――Tell me………Do you bleed?(教えてくれ、血は流れるのか?)〟

 

 こう、言ったことを(無論、スーパーヒーローの映画劇中からの引用である)。

 この一件もあって、トトは園子の精霊の一人(?)――セバスチャンこと烏天狗と同様に、同じ場で一緒に端末から実体化していてもかじられない側になっていた。

 

 真面目で堅物な方な静音と、おおらかで朗らかな方の朱音。

 同じ黒髪ロングの似合う大人びた美貌ながら、表面的な性格は真逆な二人だが、ルックス以外にも共通項は多い、

 内一つが、一度怒った時の凄みだ。

 

〝絶対あの二人を同時に怒らせてはいけない、でないと涙どころか血が流れ、地獄を見る〟

 

 そんな二人が結託すれば、どれだけ恐ろしいことになるか忘れてはならないと、己に言い聞かせた。

 

 結局、件のお灸すえはもう数時間続いた後に、やっと東郷は解放され、現在も結城家とお隣同士な東郷家(じっか)への帰宅を許された。

 本人の名誉の為に、お仕置き終了直後の彼女の様子は、敢えて明記しないでおく。

 

 

 

 

 

 ようやく愛する義妹への怒りが沈んで、機嫌が平時に戻った静音は。

 

「これ朱音とトトが撮ってくれた写真なんだけど」

「うわ~……私から見てもすんごい美味しそう、ミートボールなんて肉汁たっぷりだし、私も今度パスタやってみようかしら」

 

 

 朱音やトトが撮り、静音のスマートフォンに送られた特訓の後のランチの模様を奏芽と風に見せた。

 味わっているのは装者勇者だけでなく。

 

「銀も夏凜も、友奈が作ったのもあって嬉しそう、あ、あの牛鬼が珍しく行儀よく食べてるなんて」

「本当ね、口元はクリスばりにソース塗れだけど全然こぼしてない」

 

 一度お菓子に手を出せば、食い尽くすまでテーブルに滓をばら撒いちゃう牛鬼が、トトから食べ方のレクチャーを受けつつ、フォークでパスタをくるくる丸めて頬張っていた。

 後日トト本人に聞くと――『パスタはフォークで丸めてソースを零さず食べるのが〝一番美味しい食べ方〟』――だとアドバイスしてあげたそうだ。

 

「銀の精霊も、大層堪能なさってる」

「てかあの子お口あったんだ……」

 

 見れば銀の精霊な鈴鹿御前も、閉じている時は全く目立たない小さな口を開けて口にしている。

 それはもう皆、精霊たちも入れて笑顔満面な、朱音の指導下で友奈が一生懸命に作った料理を味わっている昼食模様であった。

 

「樹と一緒に徹夜して、プリンもどき作ってたあの頃はもう遠い昔だわ」

「あ~あの翼のアバンギャルドな絵心並みにトンデモだったプリンのことね」

「何のこと?」

「奏芽は知らなかったわね、私たち旧二課が四国に来る前の話なんだけど」

「ひょんなことから、樹と友奈がサプライズで洋菓子作るって急に言い出してね」

「先に言ったらサプライズにならないんじゃ……」

 

 尤もなツッコミをした奏芽に、ウコンや魚醬らを使い、心身削って徹夜まで作った甲斐もなく、朱音からも曰くク○ゥルフ系と表された友奈と樹の特製とんでもプリンのエピソードを、風が打ち明ける。

 

「私も最初に聞いた時は、人類を滅ぼすのにわざわざノイズやらバーテックスやら差し向ける必要はないと思ったわね」

「あの須美がケーキに紅茶を自ら作ると言い出すのも納得だわ……」

 

 あれだけ和風に拘る東郷が自分から洋菓子に手を出すに至らせた、まさに絵に描いた料理下手っ振りに、奏芽は苦笑いした。

 

「けどまあ、こんな楽しいひととき見せられちゃ………東郷も大人しくはしていられないわね、前から銀絡みでやきもちよく妬いてたし」

 

 東郷の、朱音に対する人物評は決して悪くはない。むしろ良好以上である。

 ガメラと言う少女一人が背負うには重すぎる前世を抱える境遇にはシンパシーを少なからず覚え。

 ともに国防の為災禍に立ち向かう戦友としても、アメリカ人のクォーターで帰国子女ながら、新日家の祖父の影響もあって日本暮らしの日本人以上に日本文化への知見にも精通している彼女には、日本人としても敬意を評し。

 面倒見も乗りもよく自然体な彼女個人の人となりにも、好意的である。

 ただ……だからこそと言うべきか、時に鷲尾須美(かこのじぶん)にさえ嫉妬してしまう、生来の妬き易い東郷の気質が刺激されてしまうことも少なからずある。

 内一つが、朱音を〝あや姉さん〟と呼び慕っている、小学生時代の親友の銀(尤も、ゲーマー繋がりで千景、ボーイッシュ繋がりで球子、姉繋がりで風と、朱音以外にも風が特に慕う諸先輩方はいる)。

 好奇心たっぷりで、世話焼きな一面を朱音と共有して気が合うのも慕う理由の一つだが―――弟たちの影響で、ヒーローものも自然と嗜好の一つとしている銀にとって、朱音はフィクションの壁を飛び越えて現れた本物の〝スーパーヒーロー〟そのものなのである。

 映画を通じて目の当たりにされた、彼女の前世(ガメラ)の境遇にはさすがに一時はショックを受けたものの、それをも乗り越え今でも人々を守る為に戦う勇姿に、憧れを持てないわけがなかった。

 朱音も、自身が愛する〝子ども〟なお年頃である銀には満更でもなく、自ら彼女に戦闘訓練だけでなく、銀の苦手な勉学にも教え役を買って出たりなどよく面倒を見てあげている上に、時に彼女がやる〝ビバーグ〟にも気前よく付き合ってあげてさえいる。

 東郷もそれに対し頭では理解しているのだが………心は複雑。

 何せ、死に別れてから六年を経てまた巡り合えたの親友なのだから……無理もない。

 その上、大親友の友奈にまで仲良く料理を作る姿を見せられては、嫉妬で気が気でいられなくもなるだろう。

 

「実際やったことは全く褒められたことじゃないけど」

 

 静音の言葉もまた然りではあるが。

 

「清美……ま、まだ根に持ってるの?」

「まさか~~須美の悪事諸行の数々は今に始まったことじゃないのよ、いちいち根に持ってなんて~~いられないわ♪」

 

 とは言いつつも、またにっこりと微笑む静音。その微笑が何を意味しているか、聞くのは止めておこうと風と奏芽は心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 さてと、妬き易くてやきもち深いお人柄な東郷の今後が心配になっている者も多いだろうが、その心配は無用だ。

 なぜかと言うと―――さらに数日後の休日。

 

《甘味処――むらまつ》

 

 讃州市内にある、大正時代からかれこれ四百年近い長い歴史のある甘味処の店内の、窓際の座敷の一角にて、姿勢正しく気品すらも感じさせる大和撫子然とした正座姿で腰かける女子二人。

 

「朱音さん、何にいたしますか?」

「じゃあこの南蛮焼と、抹茶オレでいいかな?」

「おお、お目が高いですね♪ この和菓子には我ら香川県民の血肉の一部であるうどん粉が入っているのです」

「あ、やっぱりあの南蛮焼か………この世界の神世紀(このじだい)にまで伝わっているなんてね」

「○×代目が修行先の『大里(おおさと)』から受け継いだ逸品なんですよ」

 

 たおやかでもある雰囲気で向かい合う、朱音と東郷のお二人である。

 

 

 

 

 

 どうして東郷が、一時は嫉妬で狂い咲きしてしまいそうだった相手と、偽りなき睦まじさで和菓子を食べようとしているのか………過程を飛ばされると急展開にしか見えないだろう。

 それは、静音(あね)たちからお仕置きを受けたから二日が過ぎた月曜日のことだった。

 

「東郷さん!」

 

 その日のリディアン高等科四国分校、友奈たちが在籍するクラス。

 午前の授業の終わりを告げるチャイムがまだ残響する、お昼の始め時、今日もひとりでに端末から出てきた牛鬼を頭に乗せた(精霊は基本、勇者と装者以外には目に見えない)友奈が、いつもの一緒に昼食を催促してきた。

 

「一緒にお昼食べよう♪」

「う、うん………ん? 友奈ちゃん? その箱って」

 

 東郷は友奈の手にぶら下がっている、風呂敷に包まれた箱を指さした。

 

「これね、私が作った―――私と東郷さんの分の〝お弁当〟♪」

「っ……?」

 

 お弁当。

 親友の口から響いたそのたった一言で、東郷の全身は意識ごと、一時凍結した。

 

「と、東郷さ~ん? ワッツアップドッ~ク?(どったのせんせ~?)」

「はっ!?」

 

 眼前で手を振ったりなどして友奈が呼びかけると、どうにか東郷は覚醒。

 

「ゆ、友奈ちゃん……い、今の……本当?」

「本当♪ 今日のお昼は私のご馳走、勿論食後は東郷さんのぼた餅でね♪」

「ええ!?」

 

 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、 友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り、友奈ちゃんの弁当、友奈ちゃんの手作り――ッ!?

 

 友奈が持つ弁当の意味をどうにか呑み込んだ東郷の白磁の美肌な頬が、一瞬で紅潮。シンプルだが、彼女にとっては多すぎる情報量と大きすぎる情報密度を前に脳内(ハードディスクドライブ)の温度がまたショート寸前に急上昇し。

 

「ええええぇぇぇぇぇーーーーー!」

 

 教室中に、東郷の驚愕(ぜっきょう)が轟いた。

 

 

 

 

 

 琴彈八幡宮(ことびきはちまんぐう)。

 リディアン四国分校、そして讃州中学から歩いて一分の距離にある神社境内の一部な公園のベンチに、友奈と東郷は腰かけていた。

 この公園は二人が、二人きりの時によく使っている場所である。

 

「それじゃ開けるね」

「待って友奈ちゃん」

 

 弁当の風呂敷を解こうとした友奈を東郷は一時、待ったをかけた。

 公園に着く頃には平静を取り戻した彼女だったが、落ち着いたら落ち着いたで、ある疑念が過ったのだ。

 

「どうしたの?」

「牛鬼、まさかとは思うけど、友奈ちゃんが丹精込めて作った弁当の中身、つまみ食いしてないでしょうね? あと私のぼた餅も」

 

 ブルブルブルッ!

 煌めく疑惑の眼光を東郷から向けられた牛鬼は、何かと彼女から怒りを買われて縄に縛られ吊るされる等のお仕置きを受けてきた(例の『三段お重ぼた餅消失事件』も込みで、大抵牛鬼自身が撒いた種が原因ではあるのだが)のもあり、大慌てで首と手を振り〝やってないやってない!〟と無罪を主張する。

 

「なら論より証拠、本当かどうかは私のこの目で確かめさせてもらいます、お口をお開けなさい!」

 

 しかし、それだけでは納得しない東郷は、牛鬼の口端を掴んでぐい~っとかつぐににっ――と、きつめに引っ張り、口を大きく開かせ、ご勘弁をと両手を上下に小刻みで振り、涙目で懇願する親友の精霊(あいぼう)の口内を隅々まで厳しく検閲。

 

「あわわ~東郷さ~ん、その辺にしてあげて~!」

 

 幸い、牛鬼の腫れた口元にも口内にも、つまみ食いをした物的証拠たる食べ物の食べ滓は一切発見されなかったので、掛けられた疑惑は解消された。

 

 

 

 

 

「「いただきます(ま~す)」」

 

 ようやく風呂敷が解かれ、合掌して蓋を開けると。

 

「はぁ~~……」

 

 東郷の口から感嘆の息が零れ落ちる。

 箱の中には、海苔巻き三角おにぎり、鮭の塩焼き、野菜入りだし巻き卵に、カボチャの煮物にごぼうサラダらによる和風弁当の光景が広がっていた。

 この時の為に、友奈は朱音に弟子入り志願をしたわけである。

 

「これ全部……友奈ちゃんが?」

「うん♪ 東郷さんのぼた餅も一緒に食べるのを見越して朱音ちゃんがレシピを書いてくれたんだけど、何とか私一人で作ったんだ、お母さんもびっくりしてたよ、『友奈いつの間にこんな腕上げたの!?』って」

 

 箸を手に取った東郷は、だし巻き卵を掴んだ。

 

「特にこれが自信作だよ♪ 食べてみて」

「うん」

 

 頬張ると、ふんわり柔らかに焼き上がった卵に宿った美味が――

 

(はぁ………友奈ちゃんの優しさが、愛が……伝わってくる)

 

 ――一緒に、口の中に広がっていき、とろけた表情になるくらいに、東郷は舞い上がる気持ちになっていた。

 

「美味しいよ、友奈ちゃん♪」

「ありがと東郷さん♪」

 

 お互い、満開の花の如くな笑顔たっぷりに昼食を堪能する親友二人。

 気がつけば、東郷の心の内にこびりついていた嫉妬の感情は、洗いざらい………親友の手作り弁当による一緒の食事を通じて、〝浄化〟されていった。

 まさに――人が良くなると書いて、〝食〟である。

 

 

 

 

 

次回『朱音からの忠告』に続く。

 




この世界の東郷さんと義理の姉妹な二重奏シリーズの主人公の静音さんの怒った時の怖さは、これくらいで作者(アウスさん)本人から『これくらい当然だな』と言うレベルです(汗


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朱音からの忠告

前回の『東郷さんは嫉妬深く、チョロい』の続きでございます。途中からシリアス度が一気に増す仕様、朱音が東郷に何を打ち明けたかはゆゆゆ勇者の章参照。
ラストの人物が何者かは、ヒミツです。二重奏XDU本編で明らかになるまでお待ちを。
あと東郷さんがぼた餅に拘る理由は二重奏シリーズオリジナルなのでご注意を。


[chapter:朱音からの忠告]

 

 時の流れがゆったりと感じさせてくる、落ち着いた色合いで和の情緒溢れ、橙がかった色味の灯りが照らす甘味処の、庭園を拝める窓際な座敷の一角で、卓袱台の前に正座で座り込む私と東郷は注文した和菓子を今か今かと待ちつつ。

 

「それにしても朱音さん、どうやってあの牛鬼を手懐けたのですか? 昔からあの子には色々苦労しているので、気になって」

「特に難しいことはしていないよ、ちょっとした発想の転換さ」

「転換?」

「東郷の言う通り時に厳しく躾けることも必要だけど、〝言いつけを破ると損する〟ことより、〝言いつけを守った方が得〟だと強調して伝えることも必要だ、食いしん坊君な牛鬼の場合だと、〝一人で全部食べてしまう〟より、〝みんなで一緒に食べた方が一番美味しいしお腹一杯〟とそれとなく認識させてあげることがコツかな」

「はぁ……なるほど」

「子どもと言うのは、私にとってはやんちゃさも含めて愛らしいが、同時にある種の怪獣、混沌の化身でもある、ただ抑えつけるだけじゃ、却って大暴れさせてしまうものなんだ」

「参考にさせていただきます」

 

 とりとめもないトークを交わす。

 ここ数分で頻繁に話題を取り換えて。

 ある時はさっきのように(主に牛鬼だけど)精霊たちの躾方だったり。

 

「でも天正一四年辺りの農民があんな柔なわけないよな、太閤様が刀狩りを出す二年も前なのに」

「私もそこは気になりました、完全に兵農分離する以前な上に、当時はどの国の百姓たちも叩き上げの侍だったわけですし、野武士どもになされるがままなわけがありません」

 

 またある時は、西暦一九五〇年代に最初に公開され、三時間以上の休憩付きな大長編ながら、日本国外の映画界にも多大な影響を与え、神世紀の現在でも傑作として伝わっている時代劇映画のことだったり。

 傑作扱いしているのに時代設定の矛盾を追及しているのは、まあ言うなればマニアのめんどくさい性の一種ってことで。

 

「(つまりこの駒を動かせる向きは、こうと、こうと、こうなんだね)」

 

 私たちがこんなトークを交わす傍ら、トトは東郷の四体いる精霊の中で最も彼女と付き合いが長い青坊主から、精霊の能力で実体化した小さな駒と将棋盤で、将棋の遊び方をご教授されている。

 

 グッド! チョーイイネ!

 

 青坊主は親指をサムズアップして、『その通り!』と言った。

 彼はトトの様に喋れないので、卵状の身体(なんか電子世界のモンスターに似たようなキャラがいたな)の割れ目から伸びる黒い手による身振り手振りのジェスチャーでレクチャーしていた。

 精霊は周囲にいる一般人には一切見えないので、トトも青坊主ともこうして堂々と現界しているわけ。

 

 さてさてと、本題に入る前に、前回の大まかな流れもおさらいしておこう。

 友奈からの折入っての頼みで、料理を教えていた私だったが、それを偶然見た彼女の大親友の東郷が妬き易い心に、エンヴィーな火を点けてしまい。

 それぐらいならまだ良かったが……毎日、どこの裏窓よろしくのぞき見と言う凶行に走ったが為に、義姉の静音と組んできっちりお灸をすわせて。

 その後、レシピこそ私からのものだが、友奈の手作り弁当を前に、あっさり嫉妬の感情が浄化させられた東郷から、一転してお礼にと、ここ――《甘味処 むらまつ》で奢ってもらっているのが、今である。

 

〝須美って……大和撫子を目指している割には杭が出過ぎるところがあってね、特に友奈が絡むとタガが外れやすくて、暴走機関車になるのもしょっちゅうで、色々と手の掛かる義妹(いもうと)なのよ〟

 

 注文時に店員さんがサービスで持ってきた湯呑みの茶を一口飲んでいれば、ふとこの前の静音との早朝トレーニング中に交わした雑談(ガールズトーク)での、彼女の言葉を思い出す。

 心中、その通りだと思った。

 前々から友奈に対する慕情は強い(何せ似たような人間たちを知っている、はっきり言うと響の親友な未来であり、奏さんの親友だった翼である)とは思ってたけど、皮肉でも揶揄でもなく、想像の斜め遥か上を行っていた。

 聞けば、友奈に可愛がられた過去の自分が満更でもなく照れている様にも妬いていたそうで。

 一方で友奈の丹精を込めた手作り弁当によるランチ一つで、あっさりと、掌返ししちゃうところから見ても、筋金入りだ。

 そう言えば夏凜も、友奈絡みでそういうところがあるし(ただ生来のツンデレ女子な夏凜の場合、友奈に限った話じゃない)。

 外見も性格も名前すら友奈そっくりだが、違う時代に生きる別人な西暦勇者の一人な高嶋友奈と仲の良い、郡千景も然りだし。

 どうやらこの世界には――〝友奈〟と言う名前を持った人間を特に慕い、とことん惚れ込んだ人間は総じて〝チョロイン〟になる法則があるようだ。

 まあ前にも言ったが、想う誰か〝愛し方〟だって人それぞれの百人百様で、多様性がたっぷりな世界なので、東郷の友奈への慕う気持ちそのものは尊重しております。

 でもだからこそ、今回のような行き過ぎた事態――のぞき見と言うストーカー行為には厳しく対処させて頂きました。

 Love & peaceは私もこよなく愛しているが、時には――

 

〝Fight fire with fire(火は火をもって制す)〟

 

 ――ことも辞さない、これは私と静音が共有しているモットーの一つ。

 先日の牛鬼と東郷へのお仕置きの件を見ていれば、お分かりだろう。

 けれど遺恨と言う尾を引きずる気もさらさらないので、東郷からのお礼には快く、ありがたく頂戴させていただきます。

 

「お待たせしました」

 

 店員さんが持ってきた、私が頼んだ南蛮焼と抹茶オレ、東郷が頼んだ四色ぼた餅日本茶セットが、丸いお盆の上から卓袱台に置かれ、お皿と卓上との澄んだ接触音が鳴る。

 この甘味処は最近讃州市でもできた二号店で、本店は東郷の家がこちらに引っ越す前の地域のご近所にあったそうで、小さい頃――鷲尾家に一時養子になるまではよく家族みんなで食べに行っていたらしい。

 特にお店の看板メニューであるぼた餅は、東郷家でも通う度に必ず食べていたくらいの鉄板メニューであり、東郷のぼた餅へのあくなき拘りの原点の一つとも言えた。

 

「「いただきます」」

 

 合掌した私たちは、和の風味たっぷりなティータイムを始めた。

 律唱市にもこの南蛮焼と言う和菓子を売っている甘味処の支店があり、響たちと休日遊びに出た時はかの店によく通っていたりする。

 東郷によれば、この世界のこの店の南蛮焼は、西暦の代の店主が修行先の東京の甘味処から受け継いだもの、なのだそうだ。

 

「トト」

「(ありがとう♪)」

 

 その一つを、トトに手渡し、私たちはほぼ同時に頬張る。

 姿は見えなくても、和菓子は見えるのだから傍からは浮いて消える様に見えて不気味ではと思うかもしれないが、そこはトトが認識操作の機能も付いた結界を使っているので問題ない。

 柔らかくて弾力のある生地と、それに挟まれた黒糖にうどん粉も交わったあんのゆったりと舌に流れ込んでくる奥行きと品のある甘味が広がる。

 うん、私の世界で食べていたのと、寸分違わぬ同じ美味、何百年の年月に代々紡いできた美味しさ。

 私とトトの頬まで、ふんわりと緩み、口元の角が登っていき、お互いの食べる姿を見合うと、共有された美味しい気持ちが相乗されていった。

 

「お二人揃ってご堪能なさっているところ、すみませんが……」

 

 すると、讃州中学に入学して以来久方振りに、家族ぐるみの思い出の味を堪能している筈の東郷から、改まって正座姿の背筋を伸び直し、畏まった調子でこちらに振ってきて。

 

「先日のその節は、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 

 例の〝覗き〟絡みのトラブルの件で、東郷は慎ましく、頭を下げる。青坊主も同様の所作をした。

 日々、自らの求める〝日本人像〟な日本人たれと努めているだけあり、その佇まいは大和撫子と表するに相応しい美麗さがある。

 

「私の方こそ、友奈に弟子入りを志願したその日の内に貴方にお伝えしておくべした、なのでここはおあいこの手打ちと行きましょう」

「はい」

 

 私の方からも、謹んで、頭を下げ返しつつも。

 

「まあお陰で友奈とは、多分東郷(あなた)も知らない内緒の話もできたしね」

 

 はにかんだ口元の端に人差し指を添えて、こう言うと。

 

「っ―――! ナン……デスッテ?」

 

 東郷から発せられていた気品も漂う静謐な空気が一変した。

 

「ナ……ナイショ? ワタシノシラナイ………友奈チャンヲ……」

 

 東郷の全身から、奈落の底から轟音を響かせて這い出てくるような黒味たっぷりのオーラが放出され、濡羽色と呼べる美しい黒髪は、その髪を纏める水色のスカーフごとオーラの風で浮き上がっている。

 青坊主が抑えて堪えてと落ち着かせようとするが、効果が見られない。

 

〝黒い黒い黒いっ! 朱音!あんた何誤解招く言い方してんのよ!? 友奈じゃあるまいし!〟

 

 風部長がこんな感じで大慌てに突っ込んできそうな、トトの結界がなかったら周辺の他のお客様方が恐怖の余り一斉に急いで勘定して出て行きそうな状況に陥った。

 一服する余裕はあるので、グラスの抹茶オレを一口してほどよい甘さと苦さが噛み合ったオレの美味を味わう。

 なんでこうも平然とできるかと言うと、事態を収束する方法は既に把握しているからだ。

 

「なんてのは根も葉もないジョークさ、それに本当に私が東郷の知らない友奈を知っていたとしても、それ以上に友奈自身も知らない友奈を見つけて、本人に伝えてあげれば良いじゃないか? その方が君の親友も目一杯君を祝福してくれるよ」

「……っ」

 

 と、さらにもう一言発すると、ほらこの通り。

 また空気は一変し、東郷を纏っていた闇のオーラは一瞬で消え失せ、一転彼女は照れ気味になり、よそよそしい物腰となる。

 

「それに東郷と友奈はハイスクールを門出したら晴れて籍を入れるつもりだろう? それに水を差す趣味は私にはない」

「せ、せせせせせせき、籍を入れるッ!?」

 

 と、もう一発ダメ押しに発すると、東郷の顔の赤具合が一気に濃くなった。

 瞳も水中をせわしなく飛び回る魚の如く泳がせられている。

 大方、私の言ったシチュエーションを大真面目に想像して、笑顔を向けてくる友奈の姿にときめいている――ってところだろう。

 

「なんだ? てっきり私は東郷のことを、友奈といつでも婚姻届は出せるよう準備済みな、事実婚の通い妻だと思っていたが、違うのか?」

「ち、違います! わ、わわわわ私と友奈ちゃんはその………そう、あくまで大親友、大が付くくらい仲が宜しい親友なだけですから!」

 

 日頃、友奈への愛を色んな形で惜しみなく表現している東郷も、さすがにここまであからさまに言われたら、大いにたじろいていた。

 全く、〝面白国防三姉妹〟の末っ子だけあって、ついにやけたくなるくらい彼女も面白いね。

 三姉妹とは、翼と東郷と、そして静音ら三人のこと。

 彼女たちに直接の血縁はない。静音が今は弦さんの養子で、それ以前は東郷――須美とともに鷲尾家の養子だったので、それにちなんで私が勝手に〝三姉妹〟と見なしているだけだ。

 

「はぁ……」

 

 東郷は深呼吸を繰り返してどうにか落ち着きを取り戻すと。

 

「全く……清美姉さんと翼さんが、朱音さんのことを意地悪と称してましたが、今のでその通りだと思い知らされました」

「ああ、生憎と私はそういう性分でね♪」

 

 さらりと東郷の返しを受け流す。

 それに、この世界の翼からも奏さんばりに〝意地悪〟と言われたとなれば、むしろ私にとっては〝友達〟として、本望かつ名誉で光栄なことでもあったとさ。

 

 

 

 

 

 中学の時は引っ越しと足の障害と勇者部の活動で、高校も造反神の一件で讃州市に戻るまでは首都にあるリディアン本校の寮生活だったのもあり久々な、思い出の味を日本茶と一緒に深く味わう手を止めずに、私の口からは溜息が一つ。

 また朱音さんから、まんまと手玉に取られてしまったが為の、己が未熟さにだ。

 なけなしの反撃をしてはみたが、朱音さんは全く動じずに抹茶牛乳をさらにもう一飲みする。

 彼女が神樹様より異世界から召喚されてから数か月、それまで積み上げてきた交流で分かったこの人の人物像の一端は、あの奏さんばりに気に入った相手ほど揶揄う癖があることだった。

 しかも、故意なのか偶然なのか、それとも修羅場を潜り抜いて磨き上げた技かまでは定かじゃないけど……的確な時機を狙い撃ちでこちらの不意を突いてくるので、相手はまんまと嵌められてしまう。

 かくいう私も、今丁度嵌められ、一本取られた。

 けど嫌な気までにはなっていない。

 奏さんにも言えることだけど、あの二人の揶揄いは加減と限度が絶妙で、絶対に相手を不愉快な気分にまではさせないのだ。

 

「意地悪な自分が言うのはあれだけど、実際掛け値なしに、東郷と友奈は大親友だろう? それこそいちいちやきもちする必要がないくらいに」

「………」

 

 そ、それに――。

 

「確かに友奈は――これは高奈にも言えることだけど、人間どころか動物にまで愛嬌を振りまいて引き寄せる天然の人たらしなところがあるから、気が気でなくなるのは分からないわけじゃないが」

 

 これも奏さんにも言えることだが、意地悪な以上に、面倒見のいい一面もあった(ちなみに補足として、朱音さんはそのっちのご先祖様な若葉さんとともに西暦から召喚された友奈ちゃんと生き写しにそっくりな高嶋さんのことを〝高奈〟と言うあだ名で呼んでいる)。

 

「そんな誰に対しても底なし好意と笑顔で接する友奈が、何よりも〝一番に特別な相手〟としているのが東郷、貴方でしょう?」

「っ……」

 

 下手な本物の宝石よりも麗しい艶に恵まれた、朱音さんの翡翠色の瞳に見つめられると同時に、水面のさざ波に似た声と言い回しで伝えられる、的を射たお言葉に、私は縮こまる想いになる。

 ちらっと窓に視線を向ければ、淡い鏡面に自分の照れ顔がはっきり見えた。

 気を紛らわそうと日本茶を飲むも、同じ茶の筈なのに、味がほとんど味わえない。

 

「それぐらいの強い縁で通じ合っているんだ、妬かれるくらい慕われるなら友奈も親友冥利に尽きるだろうけど、余裕も持ってどんと構えてた方が良いと、私は思うけどね」

「はい……」

 

 また溜息が零れそうになる、理由はまたしても、未熟な己に。

 これでも……自覚は、できてはいるのだ。

 友奈ちゃんに向けられる、自分以外の誰かの好意に対する、過敏で過剰な反応………と言うのは回りくどいので、もう端的に言ってしまえば、我ながら漆黒な、嫉妬の感情。

 その対象は、中学の時に友奈ちゃんへ恋文を送った顔も名も知らぬ同級生だったり、夏凜ちゃんだったり――。

 

〝須美ちゃんイイここイイこ、なでなで♪〟

〝ほほ~~須美、嬉しそうじゃないか~~ん?〟

〝そ、そんなこと……〟

 

 ――挙句、神樹様の導きで召喚された過去の自分である須美ちゃんにまで、この黒い感情を向けてしまった……我ながら多岐に渡っている有様。

 困った悪癖だと重々承知しているんだけど、いざ件の状況に鉢合わせたり、立ち合ったりすると……途端に激情に一瞬で呑まれて我を忘れ、我ながら禍々しい色合いをした炎に心中埋め尽くされ、後から理性が戻った時は何をやってるのだと内なる自分に問いただしたくなる〝奇行〟をやらかしてしまい、その度に、主に清美姉さんから大目玉をくらい、お仕置きを受けてきた。

 まだその清美姉さんの、朱音さんとの結託による今回のお仕置きの影響が残っているから、思い出そうとするだけで背後に我が義姉が立っていると錯覚して身の毛もよだつ悪寒が過るのだが……先日の友奈ちゃんのお料理修行を盗み見と盗聴していたかの一件も然り。

 どうにかしたいとは、思っている。 かの悪癖は、自分にとっても、友奈ちゃんにとっても、芳しくないもの。

 友奈ちゃんの、誰も彼も、性別も年代も種族も問わず惹き寄せてしまうあの〝天然たらし〟な一面も含めて、私は〝結城友奈〟と言う女の子に、心奪われたのだ。

 自分の邪な独占欲の為に、そんな友奈ちゃんを友奈ちゃんたらしめる友奈ちゃんらしさに抑圧なんてするなど、断固あってはならない………ではあるのだけれども。

 

「それは……そうなのですが……」

 

 冬の季節のものではない寒気をどうにか悟られまいと平静を心がける私の声は、車いすだった頃のようなか細いものになっていた。

 

「で、では……」

 

 朱音さんからのお言葉を粛々とありがたく受け止める気はあるけど。

 

「もし、朱音さんが友奈ちゃんと大親友で、他に友奈ちゃんに恋文を送るくらい好意を抱いている輩が現れたら、どうしますか?」

 

 負けず嫌いで頑固な〝自分〟は、思わず彼女に今の質問をぶつけてみた。

 

「そうだな、『のぞむところだ、いくらでも相手になってやる』とその相手に敬意を以て言ってやるさ」

 

 でも、それが大いなる過ちだった。

 

〝朱音ちゃんの味噌汁おぉ~~いしい! 毎日でも食べたいよ♪〟

〝友奈がお望みなら、味噌汁に限らず毎日いくらでもご馳走してあげるよ、勿論食後のぼた餅とセットでね〟

〝わ~い♪ ありがとう!〟

 

 不覚にも私は、今思い浮かべた、友奈ちゃんと朱音さんが満面の笑顔を向け合う、二人が大親友の間柄な様の、想像の濁流に――

 

(いやぁぁぁぁぁーーーーーーー!!)

 

※自分の想像に自分で大ショックを受けました(ピンポ~ン)

 

 

 

 

 

 突然だが、突然東郷がフリーズした。

 もっと具体的に言えば、樹海が形成される直前に起きる、勇者装者以外の人間やあらゆる物体の動きが時間ごと停止する感じで、固まってしまっている。

 顔なんて、どこのホラーコミックに定評のある漫画家が描く絶叫したキャラみたいな顔芸をお披露目おり、これまたトトの結界がなかったら周りの客は恐怖で慌てて店から出て行ったことだろう。

 私は東郷の顔の前で手を振り、同時に青坊主が彼女の耳元で指を鳴らしてみるも一切反応なし。

 多分待てば自然に再起動するだろうけど。

 

「What’s up doc?」

 

 と、英語で『どったの先生?』と言ってみると。

 

「はっ!」

 

 日々、自身の理想とする純日本人を目指す東郷は、アメリカ暮らしで鍛えられた私のネイティブな英語の響きによって、一瞬で目が覚めた。

 

「すみません……意識がフリーズしていました、本当にごく希になのですか……私のハードディスクはこうなる時がございまして」

 

 なんて、高性能だがポンコツなハードディスクだか……まあそれは風部長にもマリアにも言えることだけど。

 でもその〝ごく希に〟が今起きるとか………大方〝もし友奈と○○が親友〟だったらをイメージしたのが窺えるが、誰をご指名したらそうなるのやら、義姉の静音か、彼女の幼馴染の奏芽か、それとも棗か若葉辺りか?

 

※貴方です(ピンポ~ン)

 

 ちなみに、主に英語からの派生な外来語(例:チョコレート→猪口令糖)も和製英語が一般的な名詞もできる限り純日本語で使う徹底振りの東郷だが、特技の一つであるPC関連の単語に限って普通に横文字を使っていたりする(ただしブルースクリーンは全くお手上げらしい)。

この東郷の一面はここで置いておくとして。

 

 本当、ここまでぞっこんで、心から想われてる友奈や銀は果報者だよ。

 奇行に走って義姉や仲間たちを困らせちゃうところはともかくとして。

 出会ってからの数か月で、東郷美森と言う女の子は、友奈や、銀に園子に限らず、自分と繋がりを結んだ大切な人たちとの縁を、どこまでも大事に携え抜くお人なのだと言うことが窺えた。

 同時に、口の中全体に、憂いが混じった苦さが広がる。東郷のこの一面は、静音の言葉越しに知った……彼女の勇者としての戦いによって、育まれてしまったものでもあると、改めて……思い知らされたからだ。

 でもこれで、決心がついた

 前々から私は、勇者部としてのボランティアと、東郷の表現を借りて国防活動と、それと友奈の料理指導等々の傍ら、この世界の〝現状〟と、そこに至る歴史を独自に調べていた。

 そして――ある〝可能性〟に、行き着いた。

 それは……まだ可能性の問題とは言え……かの四年前のバーテックスとの戦いを生き抜いた勇者たちにとって、残酷な事実。

 私がかつて、レギオンに禁忌の技を使う決断を下したその先にも等しい運命。

 だが、だからこそだ。どんな形であれ、神樹様が弱っているのは目も耳も塞げぬ事実であり、その裏には災いに立ち向かう勇者たちを待ち受ける現実と言う名前を持った〝魔物〟が、牙を潜めて今か今かと待ち受けており、いずれ友奈たちに容赦なく襲いかかるのは明白。

 幸いなことにまだ当分、この結界(せかい)の中での、造反神との戦いが続く今だからこそ……ちゃんと、伝えておかなきゃならないことでもあった。

 

 

 

 

 

「東郷……」

「どうしました朱音さん? 急にそのような真剣なお顔になって」

 

 突如として、眉が鋭利になった朱音の、翡翠色の瞳から放たれる真剣な眼差しに訝しむ。

 

「丁度いい機会だから、今のうちに貴方へ話しておきたいことがある、まだ私の推測の域を出ないが、とても皆がいる勇者部の部室では打ち明けにくい、余り気持ちの良い話じゃない……忠告と言ってもいい」

「それは一体……どういうことです? 忠告だなんて……」

 

〝忠告〟と言う単語から、東郷の脳裏に不穏な気配が潜り込んで来た。

 

「言葉通りの意味さ、それを話す前に一つ、前置きがある―――ともに国防活動をして分かったことだが、東郷、貴方のその明晰でカミソリのように切れて勇者部の活動に欠かせない頭脳は、同時に〝アキレスの腱〟だ」

 

 日本の諺――〝弁慶の泣きどころ〟と同様の意味を持つ言葉を聞いた東郷の意識は、一層緊張の糸が張り詰められて、息を呑む。

 

「私は決断に求められるスキルが二種類あると思っている、一つは即座に判断して実行できる瞬発さと、もう一つは深く念入りに思案する為の慎重さ、貴方の場合、前者は秀でているが、後者の方はむしろ苦手としている………加えて、強い激情に駆られるほどの問題が目の前に現れた時、なまじ切れすぎる貴方の頭脳は、悩む段階を飛ばして激情に流されるまま、極端が過ぎる手段を選んでしまうところがあると、私は見た」

 

 張り詰め過ぎて固くなった全身は、震えそうになり、俯く東郷の視界は正座した脚の上に置かれた両手から

 今まさに、東郷は正確に的を射抜くほどの図星を、突かれる格好となっていた。

 

「きつい言い方になるけど、その選んだ極端な手段が生み出すものは、悲劇だ」

 

 実際に四年前、東郷は友奈たち勇者部と静音たち旧特機二課との国防活動の折に突きつけられた残酷な真実を前に、友も家族も世界すらも巻き添えにした〝心中〟と言う過ちを犯してしまったことがある。

 神樹様の壁(ベール)に包まれた地獄を目の当たりにしたあの時の東郷は、〝悩み〟を打ち明けられる仲間とともにいたと言うのに、自身の劇場の熱に魘された機敏過ぎる頭脳は、朱音の見立て通り悩む間もなく極端が過ぎる手段を選び取り、あわや実現させてしまうところだった。

 今でも東郷は、その過ちを絶対に忘れてはならない〝戒め〟として、自らの胸の内の奥に、刻ませている。

 

「………たとえ最悪の事態は免れても、貴方が愛する親友たちに、大きな代償を背負わせかねない」

 

 朱音が打ち明けようとしているものの具体的な形までは、まだ東郷には図りかねずにいる。

 しかし……それはかつて、勇者システムに備わっている機能――精霊と満開、そして自分たちが身を置き生きるこの世界そのものの〝隠された真実〟や、かつて融合症例だった響の〝ガングニールの侵食〟にも匹敵する重さを秘めた代物であると、察していた。

 何とか動揺する精神を落ち着かせようと、湯呑みに残っていた日本茶を口にする。

 礼儀礼節に対し、昔銀から半ば口うるさいと揶揄されるくらい敏感な性格上、普段は絶対にしない一気飲みで、最後の一滴まで飲み尽くした。

 息まですっかり荒れてしまっている。

 

「ここまではっきり言ったのは、貴方のその優しさが、大事な人たちを傷つけてしまう悲劇に繋げたくはないから………まだ聞く準備(こころがまえ)ができていないなら、今無理にここで話しは、しないけど……」

「いえ……」

 

 その息を、繰り返し深呼吸で整え直し。

 

「私とて……前に朱音さんが地獄と称した戦場に、覚悟を以て馳せ参じ、国防に務める身です、お願いします」

 

 背筋を伸ばして深く、朱音にお辞儀をし、朱音の翡翠の瞳と目線を交わした。

 たとえ朱音から告げられるものが、どれだけの残酷さを帯びていようとも、今ここで聞いておかなければ、後々―――〝あの時〟以上の、一生拭えない強い後悔に見舞われる。

 東郷自身の直感が、そう告げていたのである。

 

「分かりました、では今の前置き念頭に置いた上で―――これから私が話す〝本題〟を聞いて下さい、まだ〝可能性の問題〟ですが……事実神樹様が弱体化している以上、あり得ないと一蹴もできない事柄ですので」

 

 さらなる念を前もって置きつつ、朱音はガメラとしての戦いも含めたこれまでの経験と独自の調査から導き出した〝可能性〟を、東郷に打ち明け始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夕方、朱音は愛用のバイク――ワルキューレウイングF6Dで讃州市内の臨界公園の、両腕を置いたフェンス越しに、夕焼けに染まった瀬戸内海と、その向こうに佇む神樹様の壁を見つめていた。

 造反神との戦いが終われば、跡形もなく消え去る運命なこの神々が作り上げた結界(まぼろし)な、ほんの一瞬に煌めいて咲き散る儚い運命なこの世界も、〝生きている〟と実感して以来、朱音は日々時間を見つけては、世界のあらゆる風景を鑑賞するようにしていた。

 少しでも……確かに〝存在していた〟と、自身の脳裏に焼き付かせる為に。

 

 

 

 

 私の脳は、瞳(レンズ)が捉えた数々の光を、夕焼けの海に形作って投影すると同時に、自分が打ち明けた未来の〝可能性〟を聞かされた東郷の姿も同時に再生し続けていた。

 かなりショックを受けさせてしまったのは、避けられなかった。話すことを無闇に先延ばしにすれば、もっと大きな代償となっていたとしてもだ。

 だって、バーテックスとの戦いの最中、勇者システムに備わる決戦機能――満開の実態も知らされぬまま、代価の支払いとして捧げられた供物が帰ってきたと言う祝福は、ある意味で偽りも同然だったと私は突きつけたのだから。

 首に下げた勾玉と一緒に、胸に手を当てる。

 当然だけど、ただ伝えたままそれっきり東郷たちの心を放置にする気はないし、今胸の内に淀む痛みから逃げる気など毛頭ない。

 この痛みは、私たちに未来の命運を委ねるしかなかった弦さんたちが背負ってきた痛みに他ならないからだ。

 いわば今日私は、この世界の弦さんたち大人と、同じ〝十字架〟を背負った身。

 なら、その十字架を背負いし者の責務を、果たすまでだ。

 私は、壁の向こうの神々へ、引き締めた瞳で見据え。

 

〝聞こえているか? 私は自ら、もう一つお役目を自身に課した……それは、勇者以前に、一人の人間な少女たちを、神々の淫蕩から守ることだ〟

 

 決意を表明した上で、その場を後にする。

 また今日も、誰かの視線を感じたが、意に介さない振りをして、愛機(バイク)のエンジンを吹かし、アスファルトへと走らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も簡単には手の内を見せてくれないか………まあそれぐらいの強かさを見せてくれないと、こっちも張り合いが足りなくなるから良いけどね――最後の希望、ガメラ様」

 

 いまだ―――姿を見せぬ敵が、呟いた。

 



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巫女修行の旅 その1

今回はゆゆゆいの、ひなたたちの巫女修行の際のすったもんだを描いた回を元にしてます。
またとんだ魔改造になってますけど(汗
原作ではあのうたのんすら農作業がおぼつかないほどの禁断症状に見舞われましたが……


⊡対策会議~♪(リディアン高等科チャイム)

 

 夏に始まった造反神との戦いは、秋をとうに通り過ぎて、真冬の真っただ中に入っていた。無論、神樹様の結界内での時間なので、実際の時間は刹那よりも短い微々たるものなのだが。

 

 そんな、冬の瀬戸内海を泳ぐSONG本部の潜水艇。

 いつも定例ミーティングの皮を被った交流会に使っているブリーフィングルームとは違うレクレーションルームにて。

 

「改めて日程を確認するわよ、期間は○月の×日から――」

 

 ちょっとした会議が行われていた。

 この会議に参加している勇者と装者は――仕切り役の静音と風に、翼、夏凛、須美、銀、朱音の七人である。

 人数がかの侍の名作映画と被っているのはただの偶然である。

 

「朱音たちが合宿で離れる一週間の間、翼は梨花さんと共同で若葉と剣の稽古を」

「引き受けた、時代劇の映画も見せた方がいいか?」

「ええお願い、銀の方は、歌野の農作業の手伝いを」

「はい!」

「須美ちゃんと夏凛は友奈の面倒を」

「分かりました」

「任せて」

「そして朱音は、修行中の須美たちのフォロー、頼むわね」

「ああ」

 

 ベジタリアンな特撮愛好アニメ監督がメガホンを取った、実はこちらの世界では二〇一五年よりバーテックスの襲来が始まったのもあり幻の作品となってしまった、かの怪獣の王の映画劇中の、主にミーティングの場面で流れてた劇伴が流れ、各々の顔のアップをバチッと決めていそうなカメラワークと、矢継ぎ早にカットが次々割られそうなきそうな独特の物々しい雰囲気が流れる中、静音と風はメンバー各自に役割を振り、詳細が記載された用紙を配る。

 一体何の会議をしているのかと言うと。

 巫女であるひなたと水都に、東郷と朱音ら四人による、巫女修行合宿の間の、一部メンバーの精神面でのサポートに関することが議題であった。

 神樹様により、時間も時空も越え、もはや小隊の域にまで集結した勇者、装者らうら若き戦乙女たる戦士たち。

 しかし今後、戦力の数も質も高いこれだけの面々を集めても尚、いやだからこそ、造反神との戦いは、より過酷で熾烈を極めることになると予想される。

 戦いの規模一つ取っても、日本列島全域にまで広がるのは確定であり、その為にも戦士たる彼女らをサポートする神樹様のメッセンジャーでもある巫女たちの力も、高めておく必要があった。

 その為に今回企画されたのが、巫女の強化合宿である。

 ひなた、水都、東郷、朱音の四人は一週間、現実世界で大赦が設営し、神樹様が隅々まで再現した巫女用の訓練場にて、泊まり込みでみっちり鍛えることになっている。

 東郷と朱音も加わっているのは、二人とも巫女の資質保有者であるからでもあるが、戦闘能力は持たないひなたと水都の、合宿期間中のボディガードも兼ねていた。

 

「ちょっと気になったんすけど、なんでこの場に私と須美はいて、園子だけ呼ばれてないんすか?」

「あ、そう言えばね」

 

 銀は、さっきまで気になっていたことを打ち明ける。

 この場には、年少組の内、銀と小学生時代の東郷こと須美こそいると言うのに、二人のクラスメイトである当時の園子も、現在の園子も会議に呼ばれてはいなかった。

 

「呼べるわけないでしょ……考えてみなさい、もし園子ちゃんにまでサポートを頼みでもしたら、園子(みらいのじぶん)と結託して、また小説のネタ蒐集に碌でもない騒ぎを起こすに決まってるもの」

 

 静音から理由を聞いた一同は。

 

〝はいは~い♪ この乃木園子たちにお任せあれ~♪ ワクワクテカテカドキドキ♪〟

 

(乃木と園子ならあり得るな)

(園子ズならあり得るわね)

(園子と園子さんならやりそう)

(そのっちと園子さんならあり得るわね)

(いや~園子たちならやりそうだわ)

(あのカップリングマニアなお二人なら、確かにな)

 

 目をキラキラと煌めかせている過去と現在の二人の園子を奇しくも同時に思い浮かべ、酷いくらいに納得させられたのであった。

 

 

 

 

⊡友へのエール~♪

 

 そして巫女修行合宿、一日目の当日。

 

「みなさん準備はどうですか?」

「ええ、用意はもうできているわ」

「私も万端だ」

「まだちょっと不安がありますけど……何とか」

「では行きましょう、神崎先生も今こちらに向かっておられるそうなので」

 

 本部内で、改めて荷物チェックを余念なく行った巫女ご一行は、待ち合わせ場所である軍港内の駐車場に向かった。

 四人は場内の片隅で、暫く待っていると、部活動の遠征でよく見かけるマイクロバスが一台走って来て、彼女たちの前で止まった。

 

「みんな、待たせたわね」

「よろしくお願いします、神崎先生」

 

 運転席から降りてきたのは、先の会話でも名が挙がった眼鏡の似合う知的さを帯びた妙齢の女性、この世界のリディアン音楽院の教師にして、かつての静音たちの先生にして先代勇者の指導役でもあった、出向の形で大赦よりSONGに所属している勇者装者たちのサポートを担っている神崎律子である。

 今回の合宿でも、引率役として合宿参加メンバーに同行することになっており、四人は彼女に一礼をした。

 バスの扉が開き、宿泊用の荷物を携えた四人が乗車しようとした直前――アスファルトを慌ただしく鳴らして走る足音たちが、彼女らの背後へ急速に接近してきた。

 

「待ってぇぇぇーー!」

 

 その声を聞いた東郷の美貌に、切なさが覆われる。

 

「待って東郷さん! やっぱり嫌だよ……離れ離れになるのは」

「ひなた……どうしても、どうしても行くと言うのか!?」

「みーちゃん………こっちのワールドでも……ずっと一緒にいられると思ってたのに」

 

 軍港内を脱兎の如く走ってここまで来た足音の主たちは、瞳を潤わせる結城友奈、乃木若葉、白鳥歌野の三人。つまり、東郷と、ひなたと、水都と大親友と言い切れる強い結びつきがある勇者たちだ。

 ただ、なまじ強く結ばれ過ぎている縁の糸も困りもの。

 たった一週間、されど一週間の――時の間、離れ離れになってしまうだけで彼女たちは、寂しく、辛く、哀しく、胸を大きく締め付けられるくらいに、揺れ動き、心が痛めさせられていた。

 

「振り向くな」

 

 親友と同じくらいに、胸の奥より想いが急激に込み上げて、思わず親友に駆け寄ろうとする東郷と水都を。

 

「そうです、今ここで逡巡してしまえば、せっかくの決心を鈍らせ、無下にしてしまうことになります」

 

 朱音とひなたが、伸ばした腕で東郷たちを制して引き止めた。

 

「でも……今にも泣きそうな友奈ちゃんを放って行くなんて、私には耐えられない……」

「私も、あんな寂しそうなうたのんの声を聞いて、このまま行ってしまうこと……できません」

「分かっている、だからここは、私に任せてほしい、ひなたたちは先に乗っておいてくれ、神崎先生は二人のフォローを頼みます」

「ええ、分かったわ、こちらこそ頼むわね」

「はい」

 

 三人を先にバスに乗るよう促せた朱音は。

 

「(トト、これからの会話をテレパシーでひなたたちに送ってくれ)」

「(あいよ、任せて)」

 

 トトに精神感応でそう伝えると、振り返って友奈たちを見据え、凛とした佇まいで歩み出し。

 

「朱音さん…」

「朱音ちゃん……」

「若葉、歌野、友奈、胸(こころ)をすませて、よく聞いてほしい」

 

 三人の潤んだ瞳を、その翡翠色の瞳で見据える朱音は、自らの胸の奥の心臓に手を添えて。

 

「君たちが、親友をどれほど心から想い、いついかなる時も、共に穏やかな時を過ごし、どんな苦難にも乗り越え、結びを強めてきたかは、私の眼にも痛いほど伝わってきた………」

 

 彼女たちを諭し始める。

 

「だが、友奈、勇者部が掲げる目的、〝信念〟は何だった?」

「……っ!?」

 

 友奈の涙に濡れかけていた面立ちははっと気づいた様子で、大きな瞳が見開かれた。

 

「世の為……人の為になることを、勇んでやっていくこと……」

「そうだ」

 

 勇者部が勇者部たる〝精神〟を口にした友奈の言葉を、朱音は肯定した。

 

「君たちの親友たちはその信念の下、自分たちが人として今できることを成す為に、勇者である以前に、一人の人である大切な君たちの為に、たとえひと時でも離れ離れになるのを承知で、自らを鍛える道を選んだんだ、それでも胸の痛みは、掻き消せないかもしれない、でもどうかせめて、彼女たちの意志は、尊重してあげてくれないか?」

「ひなたたちは………そこまでの覚悟で」

「ああ、それにこれは、君たちにとってもチャンスなんだ」

「チャンス? ワッドゥーユーミーン?」

 

 疑問符が浮かぶ三人に対し、朱音は〝チャンス〟の一言に籠めた意味を応え、エールを送っていく。

 まず、若葉へと。

 

「若葉、巫女の力を鍛えれば鍛えるほど、神事で神樹様の力を強めるのと引き換えに、造反神も黙ってはいないだろう」

 

 実際、以前勇者部の活動として、ある祭りの神事を実際に行おうとした際、妨害しようとバーテックスが現れたことがあった。

 

「幸い今は、剣腕に秀でた仲間にしてライバルたちがいる、存分に競い合って一層その腕を磨き上げ、神のお声は聞こえても、神々の災厄を前では無力なひなたたちを守り抜く――剣士(ナイト)となれ」

「な、ナイト………朱音さん………その言葉、ありがたく頂戴致します!」

 

 次に、歌野。

 

「歌野、実は本好きの杏と舞彩、緒川さんらエージェントの尽力で、君が前から欲しかった西暦時代の〝アグリカルチャー〟を見つけたそうなんだ」

 

 アグリカルチャーとは、歌野が愛読し、三〇〇年以上にも渡って神世紀の現在でも刊行されている歴史ある農業雑誌のことである。

 

「え? 朱音さんリアリィ!?」

「It’s ture(本当さ)、たとえ離れていても、君と水都は、君たちが命を育む大地を通じて繋がっている、だからこそ、もっと農業の知識と技術を身に着けて、ハイパーをも超える究極の農業王へと、友と一緒に目指そうじゃないか」

「きゅ、究極……アルティメット農業王……なんてアッ~メイジングなグレイス! なら、みーちゃんとワンウィークも会えないからって、いや会えないからこそ、土も根も葉も実も、マイハートだって枯らしておくわけにはいかないわね!」

 

 そして、彼女たっての希望で、朱音とは料理の師弟の間柄ともなっている、友奈。

 

「友奈、君のパソコンに、私特製の〝おしるこうどん〟のレシピを送っておいた、ここまで鍛えてきた友奈なら、作れる筈さ」

「朱音ちゃん……」

「せっかくだから、今まで食べさせてもらったおはぎの分だけ、友奈のとっておきのおしるこうどんを、お礼の気持ちと笑顔と一緒に――大親友(とうごう)に振る舞ってあげよう」

「うん! ありがとう朱音ちゃん! 私、頑張る――頑張るよ!」

 

 朱音からの、静かな、しかしそこに熱さも携えたエールを受けた友奈たちの、一度は嘆きに暮れていた瞳は、俄然、心から漲り沸き上がる活力があふれ出ていた。

 トトのテレパシーを通じて、朱音たちのやり取りを聞いていたひなたたちも、感極まり車内で止まってはいられなくなって、飛び出した。

 

「さあみんな、諦めず、生きて――この今を未来(あした)に繋げるぞ!」

「勇者部ファイトォォォォーーー!」

「「「「オォォォォーーー!」」」」

 

 誰が言い出したわけでもなく、熱気たっぷりな彼女たちと、パートナーたる精霊たちは、自然な成り行きで円陣を組み、互いの声を重ね合わせた。

 その様子を、神崎先生は温かな眼差しで、見守っていた。

 

 

 

 

 

 

⊡おまけ~♪

 

 ちなみに、あの場を見守っていたのは、神崎先生だけでなく。

 

「なんとか大人として引き止めるつもりだったが、野暮だったな」

 

 弦十郎と、他の装者勇者何人かも、遠間からその模様を見ていたのだ。

 

「あいつ……ボケ指数ダダ上がりの場で、一切ツッコミを使わずに収めやがった……」

「まあお陰で助かったけどね……あれ以上ボケられたらツッコミ切れなくて、疲労困憊になってたところよ」

 

 とは、比較的メンバーの中でツッコミ役に回されがちな、クリスと夏凛のツンデレコンビである。

 

「皆を巧みにまとめ上げる朱音のあの手腕、私も先輩として見習わなくてわな」

「せんぱ~い、それならまず自分の部屋を纏められるようなった方が良いんじゃないんですか?」

「なっ! 雪音まで私に意地悪すると言うのかッ!?」

 

 ―――――

 

「しかし、了承しておいて何なのだが、結城も白鳥も若葉も、たった一週間親友が不在な程度で自堕落に陥るほど――」

 

 それは、先日の、巫女合宿のサポート打ち合わせ中にて。

 

「――柔ではないと思うのだが、って何だ!? 皆のその顔はッ!?」

 

 翼がこんなことを口走ると。

 静音と風と夏凛からは呆れ混じりの苦笑を。

 朱音からは生暖かい眼差しも宿した、柔らかくも小悪魔的微笑を。

 それぞれ向けられ。

 須美と銀は、静音らの表情の意味が分からずキョトンとしている。

 

「卒業しても〝その気にならないと〟部屋を全然片付けられない翼がそれを言う?」

「そうよ、緒川さんからも相変わらずの爆心地だと聞いてるし」

「学業は卒業しても、女子力を学ぶ道はまだまだ険しいわよね」

「朱音さん、これは一体どういう?」

「つまりね、須美君と銀君」

 

 普段は二人にも呼び捨てで呼んでいる朱音が、君付けをした。

 つまり、誰かを揶揄おうとする意志が満々にあると言うこと。

 

「戦場では刀を手に勇猛果敢に先陣切るこの先輩は、プライベードでは堕落(だらしなさ)の極みでね」

「ま、待て朱音! どうかそれを口にするのは」

 

 翼本人は止めようとしたが、結局。

 朱音からはダストルーム。

 夏凛からは爆心地。

 マリアからは地獄。

 そして静音からはストレートに汚部屋またはゴミ屋敷。

 と、表されるくらい部屋を片付けられない込みの、私生活のだらしな一面が、小学生組の勇者に知れ渡ることになった。

 勿論、マネージャーとは言え、異性の緒川さんにしょっちゅう面倒見てもらっているのも含めて。

 

「なんか、意外ですね……翼さんって、何でもそつなくこなせるイメージがありました」

「はい、私もその話を聞くまでは銀と同じ印象を持っていました」

 

 これには銀たちも彼女なりに気を遣っていた。

 

「翼は自分を実態より大きく見せる天才(てぇ~んさい)だからね♪」

「また朱音も奏みたくそうやって私を……それを己が才として誇りに思える器など私にはないぞ!」

「まあまあ落ち着きなさいよ、ここは多数決と行こうじゃない」

「な、何が多数決だ!?三好!」

「風鳴翼の一人暮らしは緒川さんがいないと一週間どころか三日ももたないと思う人、手を挙げなさ~い♪」

 

 そう夏凛が、ノリノリ手を真っ直ぐ垂直に伸ばしてそう言うと。

 静音と風も、夏凛ほどではないが高めに挙手して同意を示し。

 銀と須美も、肘を曲げた控えめに手を挙げる、一際幼い彼女らに、負い目はあっても嘘を使うことはけできなかった。

 

(あ、朱音?)

 

 その光景に表情をぐぬぬとさせられる翼は、まだ朱音が挙手していないことに気づき、期待と喜びの眼差しと笑みを送る。

 対して、朱音本人はと言えば。

 

 デデデデン!

 

 満面の温和さ爽やかさに満ち満ちた笑顔で。

 

 デデ――ピコピコピコピコ。

 

 ゆっくりと。

 

 ピコン!

 

 手を挙げた。背後には、朱音と同様の仕草と笑顔な前世(ガメラ)姿さえ浮かんでいる。

 呆然を眼前の光景を見せつけられる翼の時間は、一瞬静止した。

 満場一致の満点とは、このこと。

 

「ひっ……へく……ひぇ………ひっひくひっ……」

 

 呼吸が乱れる彼女の頭上に、祝福の紙吹雪が舞い降り。

 

「そんな………皆まで私に意地悪だぁ……」

 

 翼はその場から力なく崩れ落ちてorzする。

 図らずもその光景は、鏡の世界を舞台とした人の自由を守る仮面の戦士屈指の異色作の、ある場面に瓜二つでもあった。

 

その2へ続く。

 



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真夏の水泳特訓

今回はゆゆゆいの『泳げ!遊べ!勇者達の夏 前編』を元にした短編です。ですが二重奏世界のXDU編時点では樹ちゃん高2でプロデビューし、風先輩も卒業して妹のマネージャーをしているのでどうするかなと思ったら、マリアとセレナちゃんにチェンジすれば行けると気づき、セレナちゃんの出番も多い回になりました。


 夏真っ盛りに始まった、造反神との戦いから約一年。

 神樹様の結界内では、二度目の夏が訪れていた。

 言うなれば仮想世界そのものと言える結界は、神々が現実そっくりの精巧に作り上げたとあって、日本の夏の光景もまた本物同然。

 香川県讃州市内においても、鮮烈過ぎる白銀の陽光、瀬戸内海の上空に流れる鮮明で濃い目な青が広がる蒼穹、そこに流れる巨大な入道の雲海たち。

 ゆらめくほどの熱気に湿気を高密度に抱えたまま漂い、時にそよそよと微風となって泳ぐ大気。

 生い茂る緑たちたちから、誰も彼も我先にとばかり盛大に鳴き轟かせ、歌い続ける蝉たち。

 とまあざっと述べるだけでも、実に日本の夏らし~い暑~い夏模様が描かれていた。

 

 今日は休日なこの日も青い炎天の下な讃州市内にいくつかある、ドライバーがドライブの疲れを癒す道の駅の一つである『はまとよ』では―――。

 

「「「はぁ……」」」

 

 北海道出身の勇者――秋原雪花。

 長野諏訪出身の巫女――藤森水都。

 東欧出身の装者――セレナ・カデンツァヴナ・イヴ。

 この三人が、猛暑対策で降り注ぐミストシャワーの涼風を浴びつつ、アイスキャンデーを頬張りながら、口から流れる生暖かいため息を宙の熱気と同化させていた。

 

 

 

 

 

 この三人が今日揃って行動する発端は、数時間前に遡る。

 SONG本部の潜水艦内のキャットウォークの一角にて。

 

「行かないって言ってはみたけど……やっぱ楽しそうだよね」

「ちゃんと練習しておけばよかったな……」

 

 雪花と水都の二人がちょっと前までブリーフィングルームで上がっていた話題で溜息交じりにトークしていた。

 その話題とは、興奮冷めやらぬ銀から、讃州市内に新しくオープン予定のプール場。

 あっと言う間にオープン当日にみんなで行こうと言うことになったのだが、本日の交流会の参加メンバーの中で、プールのお誘いを自ら一度は断ったのが、この二人。

 雪花は今まで本格的に水泳を習った経験がなく、水都も得意と言えない運動の中で最も水泳が苦手、であったのだ。

 しかも例のプールは、足がつくかつかないかの深さらしく、それを聞いた彼女たちはより身構えて遠慮がちになってしまっていたからだ。

 しかし、困ったことに〝やらない〟と表明したらしたらで、悔いでできた感情の杭は、心に突き刺さってくるもので。

 少し時間が経って、プールイベント当日に参加した皆の姿を想像した途端、二人の心中はすっかり未練たらたらとなっていた。

 

「あの……」

「お、セレナっち、どったの?」

 

 そこへ、讃州中学の夏服も様になっているセレナが二人に声を掛け。

 

「よかったら三人で、泳ぐ練習をしませんか?」

 

 渡りに船とばかりの提案を、投げかけてきた。

 かくいうセレナも、一度はプールイベントの参加を渋った一人だった。

 東ヨーロッパの、民族紛争吹き荒れる辺境の地にて生まれたセレナは、姉のマリアとともに難民として幼い頃より戦火を渡り歩き、アメリカの聖遺物研究機関《F.I.S》にて身柄を拾われてからも、無機質な部屋に閉じ込められてきた、実質籠の鳥。

 こんな境遇を送ってきたゆえ、セレナは水泳の経験どころか、海を見たことさえ、神樹様の導きで結界(このせかい)に来るまでなかったのだ。

 海に限らず、水中に飛び込んで泳ぐこと自体、戦地の炎が身近だった彼女にしてみれば未知の世界であり、一度は逡巡したが………ほどなく、その未知なる世界と、この世界でできた友、仲間たちとともに楽しみたい衝動が勝り、思い切って雪花と水都に声をかけてみた――と言うわけである。

 

「やっぱり私も、泳いでみたいんです、この世界で出会えたみんなと一緒に」

「そっか……泳げないなら、泳げるようになればいいんだよね」

「うん、そうだよ……私もうたのんと一緒に、泳げるようになりたい」

 

 セレナの勇気がきっかけとなり、二人も泳げるようになりたい願望と、それを実現させる為の活力が漲ってきた。

 

「泳ぎが上手な人に習えば、まだ間に合うかもしれないもんね」

「それなら善は急げ、その上手い人にご指南して、鍛えるとしますか」

「うん!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 あの後一旦寮に戻って私服に着替え直して再集合した三人は、プールイベント当日までに、水泳の技術を会得する為に、まずはその〝泳ぎの上手な人〟へ弟子入り志願し、ご教授を受けることにしたのだったが………その相手を探すのは、意外なほどに、困難に見舞われた。

 最初に当たってみたのは、沖縄出身の勇者で、日頃海中を泳ぐことの多い棗に頼んでみたのだが――。

 

「そうだな……一番大切なのは、まず海に感謝すること、正月に酒をまき、春には舞を捧げて―――」

「あの……夏が終わってしまいます」

「できれば、一週間くらいでちゃちゃっと上達できる裏技みたいなの……ないですか?」

「それなら……魚たちと心を一つに」

 

 棗の水泳の心得は、初心者の三人にはちと上級者過ぎた為に、撤収。

 次に――。

 

「結城さんや土井さん、高嶋さんに立花さんはどうでしょう?」

「確かに四人とも運動神経抜群だし、良いかも」

「あ、水都ちゃんにせっちゃんにセレナちゃ~ん♪」

 

 友奈と球子に当たってみようと海岸線を歩いていたところ、噂をすれば何とやら、丁度その四人の内の二人――結城の方の友奈と球子とばったり鉢合わせたのだが……。

 

「今すっごいもの見ちゃったの! 聞いて聞いて!」

「あれはびっくらタマげたよな~~出前中だった蕎麦屋のバイクが、バーン!となってワァー!と思ったらさ!」

「反対側から猫さんがシャーと出てきて、出前のおじさんがひょえー!とハンドル回したら、ギュイ~ンと来てどわーってなってもうウィリーでね!」

「凄いだろ? 三人にも見て欲しかったよな~!」

 

 友奈も球子も、頼まれたら得意分野だけあって熱心に応じてくれるだろうが、彼女たちが見たあっと驚いた光景の説明を聞くだけでも、フィーリングたっぷりの擬音だらけでさっぱりどんな状況だったのか、聞く雪花たちからはほとんど分からない。

 せいぜい二人の口振りから、出前中だった蕎麦屋の店員はアクシデントにこそ見舞われたものの、幸い怪我は一つも負わなかった程度ぐらいしか汲み取れなかった。

 響も高嶋の方の友奈も一緒にいたら、同様の擬音だらけの表現となっただろう。

 かの四人では、人にものを教えるのにはお世辞にも向いていない………その事実を突きつけられ、断念。

 

 そこから偶然通りかかった道の駅で一旦小休止することにしてアイスキャンデーを買い、ミストシャワーが吹くベンチに腰掛けて、アイスの冷たさで暑さを凌ぐ三人は、先の溜息を吐くに至ったのだった。

 

「次は上里さんと伊予島さんに頼むのはどうでしょう? あの二人なら丁寧に分かり易く教えてくれそうですし」

「でも水泳って……結構体力使うスポーツだって聞くし」

 

 余り運動が得意と言えない方々に頼むのも悪い気がしたため、教え方が上手そうなひなたたちに教えを請う案も却下となった。

 

「はぁ~……どこかに良い指導者がいないかにゃ……」

「考えてみればそんな人が都合よくいるわけ――」

 

 すると――。

 

〝~~~~♪〟

 

 どこからか、切なくも心にしっとりと響いてくる、街から街へ絶えずさすらい続けるメロディを奏でる、口笛とアコースティックギターの音色が三人の耳に聞こえてきたかと思うと。

 

「HI(やあ)♪」

 

 聞き覚えのある、滴る水のような澄んだ声がしたので、振り返ってみると。

 そこには、つばが広めのストローハットを被り、ラウンド型のサングラスを掛けた朱音と、彼女の肩に腰かけ、同じくサングラスを掛け、朱色のアロハシャツを着てギターを携えた精霊トトのガメラコンビ、なお二方がいた。

 

「奇遇だね」

 

 サングラスを外して、隠れていた翡翠の瞳が雪花たちを見つめる。

 さっきのメロディを鳴らしていたのも何を隠そうこの二人で、朱音は口笛を、トトはギターを担っており。

 そうして当然と言うべきかそのメロディは、さすらいの風来坊な光の巨人が、よく愛用のハーモニカで弾いている曲であった。

 

「朱音さん……はっ!」

 

 その時、三人の脳裏に眩い閃きが走った。

 

「「「いたぁぁぁぁぁぁぁっーーーーー!」」」

「ど、どうした急に?」

 

 いきなり絶叫を上げた三人を前に、さすがの朱音もたじろぐ様子を見せたのだった。

 

 

 

 

 

 道の駅『はまとよ』構内にある食堂にて、丁度ランチな時間帯だったのもあり、一同は朱音の奢りで券売機から注文を取り。

 

「「「「いただきます」」」」

 

 全員分の料理が来たところで、昼食を取り始めた。

 ここも香川県の一角ゆえ、利用者の大半の県民は当然うどんを選ぶのだが。

 

「藤森さん、なんとお見事なすすり音」

「いつもこれぐらい鳴らして美味しそうに食べるうたのん見てたら、自然と覚えちゃって」

「信州のお蕎麦さん、おそるべしです……いつかマリア姉さんと一緒に食べたいな」

「長野の土地も全部取り戻したら、是非マリアさんと一緒に食べるといいよ」

「はい♪」

 

 諏訪生まれで蕎麦にうるさい親友を持つ水都と、今や蕎麦好きとなっている姉を持つセレナはざるそばセットを選び。

 北海道生まれの雪花と、国外通り越して異世界来訪者な朱音は――。

 

「朱音さんってば、この暑いのによくそんな熱々ラーメン食べれるよね」

「クーラーがひんやり利いた店内で食べる熱いラーメンも、悪くはないよ」

 

 こちらも景気よく響く麺のすすり音。

 

「それにこのうどんに負けないこしの良い麺、ホットなスープが私には丁度いい」

「はは、暑さが苦手な北海道民には到底真似できないにゃ……」

 

 現状勇者部内で数少ないラーメン派である二人は、夏の定番料理の一つな中華そばと、うどん県な香川県民の舌もうならす讃岐ラーメンをそれぞれ選んでいた。

 

「それにしても朱音さん、今日の交流会の後、何してたんすか? いつものデッカいバイクでツーリング?」

 

 デッカいバイクとは、朱音がこの世界でも愛用する大型クルーザーバイク、ワルキューレウイングF6Dのこと。

 

「それもあるが、静音に頼まれて、一部の神社の〝浄化の儀〟が綻びてないか、念には念を入れた見回りに行ってたのさ」

 

 浄化の儀。

 簡単に説明すると、造反神の侵略から奪還した土地を再度奪われ難くする為の為の対策の一環で施す〝おまじない〟の様なものであり、この一年、こちら側の領土が勇者装者たちの奮戦によって拡張されていくごとに、執り行われてきた儀式だ。

 朱音も巫女の資質保有者だけあり、幾度もその儀式に直接携わってきた身だ。

 さすがに彼女一人で全てをカバーし切れないので、特に神樹様とレイラインの結びつきが強い地区に絞って見回っており、道の駅へは昼食込みの休憩で立ち寄り、雪花らと鉢合わせたのだ。

 

「あの……状況はどうでしたか、私儀式の時必死で頭が一杯だったから、ちゃんとおまじないが機能しているか心配になる時があって……」

「その心配な気持ちは忘れちゃいけないけど、今のところはご無用だよ水都、君の日頃の頑張りもあって、儀式の効力はちゃんと発揮されていたしね」

「そうですか……良かった」

 

 見回りに対し、儀を執り行った巫女の一人である水都の胸に一瞬不安が過るも、朱音がそれを和らいであげる。

 事実、今日ここまで見回った神社には異常も異変もなく、おまじないは正常に機能していた。

 

 

 

 

 

「「「「ごちそうさまでした」」」」

 

 ランチタイムも終わり。

 

「ところでまだ聞いてなかったが、三人は三人で何を?」

 

 朱音は雪花たちが一緒に行動していた理由を聞いてみる。

 実のところ朱音は、午前のプールの話題と、その時イベントの参加を遠慮したこの三人が一緒に行動している時点で、あらかた見当はついていたのだが、一応改めて。

 

「実は、かくかくしかじかで――」

 

 詳細は、この魔法の言葉で中略させて頂く。

 

「なるほど、大体分かった、それでさっきは綺麗にシンクロしたシャウトを見せてくれたわけだ」

「はい、陸海空全てを制覇した守護神ガメラ様、どうか私たちに水泳の心得を」

 

 現在のガメラ――朱音も、身体能力は高い上に、シンフォギアとしてのガメラにも飛行能力を有している為、実質今も尚、陸海空を制覇している身な彼女は。

 

「私は構わないよ」

 

 気前よく了承する。

 一学期の期末試験も終わり、後は夏休み本番まで平日の授業は半日で終わる為、練習の時間はたっぷりあった。

 

「でもこの後も見回りがあって、全部回る頃には夕方になるな……特訓は明日の朝からで良いかな?問題は、どこで練習するかだが」

「あ、そういえば練習場所のこと、全然考えてなかった……」

 

 三人はようやく失念していた事実に直面した。

 誰に指導を頼むかに頭が行き過ぎて、練習場所の確保が必須と言う肝心な点をすっかり忘れていたのだ。

 

「讃州中のプールはどうだ?」

「実はあそこのプール、今週の間は清掃で水を抜いてるそうなんです」

「そうか……なら他には―――あっ、ちょっと待ってて、静音に頼んでみるから」

 

 何やら閃いた笑みを浮かべる朱音はその場で立ち上がり、テーブル前で腰かけている雪花から少し離れると、スマホを取り出して誰かと電話し始めた。

 一~二分ほど経って通話を切り、満面の笑顔で戻ってくると。

 

「朗報だ、乃木さん家が所有している大型プールが一週間貸し切りで使えるぞ」

「「「ええ!?」」」

 

 三人の想像を超えた、目が点にもなる驚愕の朗報が舞い降りた。

 あの乃木家がどれ程の大富豪で、大赦内でも絶大な権力と発言力を有しているかは静音たちから聞かされていたこともあり、朱音が三分も満たない通話時間でその乃木家の施設を貸し切るに至らせた事実に対し、驚けないわけがなかった。

 

「どうやって静音さんと園子さんのパパさんママさんを納得させたのですか?」

「すまないがそこは企業秘密ってことで」

 

 セレナたちには交渉を成功に至らせた詳細は伏せた朱音だったが、どうこぎつけたかと言うと。

 

〝使用料の五分の一は私の給与で、残りは園子ズの小遣いから徴収の割り勘で良いかな? トラブルメーカーな二人へのペナルティーには、丁度良いだろう?〟

 

 とこのように、ある程度身銭は切りつつも、日頃何かとトラブルをメイクする園子たちの奇行を逆手に取った一手が静音ひいては乃木家夫妻との利害を一致させる決定打となり、ちゃっかり一週間分のプール貸し切り使用の権利をゲットしてしまったのだ。

 

「良いんですよね? 本当に……」

「遠慮することないよ」

「お昼もご馳走になった上に、ほんと重ね重ねありがとうございます」

「気にするな、私もウォータースライダーどころかプール自体久々だから、肩慣らししておきたかったしね」

 

 こうしてお気兼ねなく練習できる場所を確保した四人は返却口にお皿を返し、自動ドアから食堂を後にしたが――。

 

〝~~~♪〟

 

 直後、あの樹海化警報が鳴り響いた。

 

「もう~~猛暑日にやる気たっぷりなのは蝉だけで充分だって!」

「まあまあ秋原さん、どうか落ち着いて下さい」

 

 北海道生まれでなくともきつい暑さの中現れたバーテックスたちに対し、不満たっぷりにぼやく雪花を、セレナが宥めた。

 

〝念には念を入れて見回っておいたのは正解だったな〟

 

 端末の地図アプリを表示された朱音は心中呟く。

 複数ある今回の出現場所の一つは、ここからほど近く、まさに浄化の儀を行った神社の一社から、そう離れていない地点にあった。

 

 

「ここでぼやいててもどうにもならない――行くぞッ!」

 

 

 

 

 

 ――――

 

「状況終了」

 

 朱音たちは途中合流した若葉、歌野、友奈、球子とともに樹海内で対処に当たり、掃討を完了させた。

 変身を解除すると同時に、樹海化も解け、讃州中の屋上に設置されたお社前で現実世界に引き戻された。

 朱音はすぐさまSONGのエージェントにメールで、非常時だった為に道の駅に置いてきたバイクの回収を頼んでいると。

 

「そう言えば三人とも、棗さんに何やら相談していたみたいだが……」

 

 雪花たちに質問を投げかけていた若葉に。

 

「それは私が説明するよ、実はかくかくしかじかで――」

 

 当人たちに代って、詳細を話すと同時に。

 

「なるほど、泳ぎの特訓ですか、しかも乃木家のプールで」

「そこでなんだけど、鍛錬と農業で忙しいのは承知で、二人にも指導を手伝ってもらえないかな? さすがに三人を一週間でそれ相応に上達させるのは骨が折れそうでね」

 

 若葉と歌野にも、指導の手伝いを願い出て。

 

「朱音さんからのお願いとあれば断る理由がありません、引き受けましょう」

「オーライ♪ 私もみーちゃんとエキサイティングにウォータースライダーをライドしてエンジョイしてみたかったのよね、手伝わせて頂きます」

「ありがとう、これでman‐to‐manで指導ができるな」

 

 二人からの了解をこぎ着けた。

 

「何か、どんどん大事になってる気がする……」

「雪花、だからって『頭で理解してから動いた方が上手くやれる』とか言わないように」

「ひぇ! なんで見破ったの!?」

「一年も付き合っていれば君の怠け癖くらいは分かるさ、ついでにgive & takeで、特訓を乗り越えたあかつきに『徳○家至宝展』のチケット代は弾むが、どうする?」

「あらら、そう言われちゃやる気出さないわけにはいかないね……こうなりゃいっちょやってやりますわ」

 

 少々怠け癖のある雪花へ、釘を予め刺しつつ、歴女な彼女のやる気を引き出す手を打っておくことも忘れずに。

 

「よし、バスも手配してくれるそうだから、明日の九時、寮の正門前に集合するように」

「「「はい!」」」」

 

 こうして、真夏の水泳特訓の準備は整った。

 

 

 

 

 

 翌日。

 集合場所の寮の正門から、SONGのエージェントが運転するマイクロバスに乗って目的地に向かった一行に待っていたのは――。

 

「………」

 

 特にセレナと水都が言葉を失って牛鬼風の目つきになるくらいの大型プールが、目の前に広がり、今日も鮮やかで瀬戸内海側には入道雲が流れる青空の下で佇んでおり。

 

「VSゴ○ラ一体分あるな」

「朱音さん、そこは普通に一〇〇メートルと言いましょうよ」

 

 陽光で煌めき、たゆたう水面は透明感たっぷりの空色、まるで今日ここを使う彼女たちが飛び込んで泳ぐのを、今か今かと待ちわびていた。

 一同を圧倒する大型の他にももう二つ、二五メートルのと五〇メートルのプールが置かれている。

 これだけの規模の施設を、一週間貸し切りで使えるとあっては、言葉も一時失くしてしまうは無理からぬことだ。

 

「歌野、朱音さん、準備体操する前に一つ聞いていいか?」

「ワットゥ?」

「何だ?」

「二人が着ている水着が……私には少し、気になるんだ」

「オーこれね、水中でも農業王を目指す気概を忘れない為よ!」

 

 ドヤ顔で胸を張る歌野はと言えば、真っ白なワンピースタイプなのだが……中央にいつも着ているTシャツ同様に『農業王』の三文字が、白舟書体の荒ぶる書体で大きく描かれており。

 

「私のは、この前買ってきた今年のトレンドの一つだよ」

 

 一方朱音はと言えば、チューブブラにクロスホルダーな、彼女のスレンダーとグラマーが巧みに調和するモグラ女子なスタイルと、白磁の肌を引き立てる黒ビキニ。

 今からグラビア撮影する予定と言われれば、思わず信じてしまうくらいに、オシャレにも相当気合いが入っているのが分かる。

 二人とも、意味合いは真逆だが、一際夏場で人目を惹きやすい姿なのは間違いない。

 

「特訓とは言え、目的はセレナたちが楽しく安全に泳げるようになることだ、本格的な競泳大会に出るわけじゃないんだから、気にしない気にしない」

「それは、そうですね、気合いを入れ過ぎて危うく本来の趣旨を忘れるところでした、面目ない」

 

 ちなみに、他のメンバーと言えば。

 若葉は質実剛健な性格が反映された、水色メインに黄色のラインがアクセントなスポーツビキニ。

 雪花と水都は、讃州中指定の紺色なスクール水着。

 セレナもその一人と思いきや。

 

「セレナっち、いつの間にそんな可愛いらしい水着を」

 

 肩周りにも腰周りにもフリルが付いた、淡い桃色柄のワンピース型の水着を纏っていた。

 

「この水着、マリア姉さんがこの前の休みで買ってきたものなんです、せっかくだから持ってきたんだけど、サイズがぴったりで良かった」

 

 なんと、マリアが歌手活動の多忙さの隙間を潜って、セレナの体格を一切計測せずサイズは正確に、かつ本人の好みに合致したものを購入した代物だった。

 

〝なんて……姉(シスター)バカ〟

 

 姉妹の境遇上そうなるのは無理ないとは言え、マリアのとんだ姉バカ様に驚く朱音たちだったが、まだ序の口であったとはこの時点では知る由もない。

 

 

 

 

 

 

「「1、2、3、4!」」

「「5、6、7、8!」」

 

 さて、まず準備運動で体を慣らさせて。

 

「まずは水の感覚に慣れておくこと、今から三〇分、一五分の休憩を置いてウォーキング行くよ」

「「「はい!」」」

「その前に、水は無駄に力を入れて抗うと、却って体力を一気に削ってくる厄介な一面がある、そこで背筋を伸ばして胸も張って深呼吸―――してから、力を抜いたこの状態をイメージして、歩いてみてくれ」

 

 ビギナーな三人にいきなり水深も深い大型に入れるわけにもいかないので、まずは浅めの二五メートルから、浸かった状態でプールの端をぐるりと回ること。

 

「はい五秒数えながら潜水!」

 

 顔ごと潜ることも忘れずに。

 なまじ単調作業になるので、集中力を適度にキープさせる目的も兼ねて、防水機能付き太陽電池式のポータブルラジオから番組を流しつつ、指導は続く。

 

「よし、休憩に入ろう、トト、ボックス持ってきて」

「(はいよ!)」

 

 朱音の呼びかけで、トトがクーラーボックスを持ってきた。

 中に入っていたのは。

 

「これイイっすね」

「うん、ほんのりと甘くて、身体にすーと染みてくる感じ」

「この甘いのって、はちみつですか?」

「そうだよ、それも嶺山直売所の特製ものでね」

「リアリィ!? 前から一度味わってみたかったのよこれ……」

 

 氷で冷やされた、朱音の熱中症対策用手作りはちみつ入りスポーツドリンクが入った、ペットボトルの数々。

 使っているはちみつも、香川県内の名のある養蜂場から仕入れてきたもので、以前朱音がツーリングで偶然立ち寄って知ってからは、毎日の朝食やデザートにも重宝しており、歌野も一目以上置いている逸品であった。

 

 そうして合間に、朱音の特製ドリンクで体内を潤しながら、午前は水中歩きと潜水に徹し。

 朱音と歌野の二人が、歌野農園で育てた野菜も使って今朝作っておいた弁当セットでお昼を取った。

 

 

 

 

 

 まだ午後の部まで休憩時間が残っている中。

 

「ちょっと泳いでくる」

「え、まだ休憩中ですよ」

「実は身体が泳ぎたくて武者震いしてたものでね、よっと!」

 

 身体をほぐし直したところで、軽快に朱音は一〇〇メートルに飛び込んだ。

 そのまま水中に潜ったまま、時折顔を出しつつ悠々と、水棲生物にも、棗にも勝るとも劣らぬ軽やかだがスピーディーなフォームでプール内を、トトとともに自由気ままに泳いでいた。

 

「さすがガメラさんたちっスね………」

 

 人間な現在でも健在なガメラの水泳能力に、ビギナーメンバーは感心させられている。

 間違いなく朱音と棗は、この結界(せかい)に集められた勇者装者内で一、二を争うトップスイマーと言えた。

 

 

 

 

 

 そして午後の部。

 歩行を通じて、水中での身体の動かし方を覚えた次は、浮き方。

 中でも基礎中の基礎な、仰向けで浮く〝背浮き〟だ。水に慣れておく上で欠かせない浮き方なのだが、だからこそ初心者には難関な代物。

 

「全身の力は抜いて、顎は引き過ぎず上げ過ぎず、ベッドに横たわる感覚で水に身を委ねれば」

 

 まず教える側の三人がコツを説明しつつ実践。

 ここからは、マンツーマンの個別指導方式でセレナたちに教える。

 

「みーちゃん、どうしても怖くて力んじゃうなら、自分に言い聞かせるの、自分はトマトなんだって」

「トマト?」

「そう、一度ドボンと水に落ちて浮いてくるトマトが、力を入れていると思う?」

「入れて……ないね、確かに」

「それじゃみーちゃん、トマトになったイメージで、ビリーブユアセルフ!」

「うん、やってみるようたのん、私はトマト、私はトマト、私はトマト――」

 

 歌野は水都に。

 

「イメトレと言うか、洗脳にしか見えないんすけどあれ」

「そうか? 私には歌野らしくも、水に身を任せる上で良い喩えだと思うのだがな、ほら、雪花も実践あるのみだ」

「は~い」

「胸は張るなよ、浮く面積が狭まって足先から水底に沈んでいくからな」

 

 若葉は雪花に。

 

「セレナ、このビート板をお腹に抱えて、ラッコさんの体勢になってみるといい」

「は、はい」

「頭は上げずに、ビート板を軽く抱きしめる加減で、常にお腹と腰に密着させるんだ」

「あ、浮いた、私……浮いてます」

 

 朱音はセレナに、各々の教え方で背浮きの心得を指導する。

 

「そうそう、もう暫く今の体勢をキープしてみて」

「分かりました、水面から見上げる空って、まるで向こうに大きな海がもう一つあるみたいです、雲さんも島みたい」

「だろう? それぐらいの余裕が出てくるなら、板なしでも浮ける――」

 

 とまで言いかけたところで、朱音は誰かの気配を感じつつ、咄嗟に手を素早く伸ばし、セレナの華奢な腕を掴み取り、続けて腰に手を回して支えてあげる。

 突然、浮くことができていたセレナのバランスが崩れ、あわや溺れかけたからだ。

 見ようによっては、背後に倒れかけたプリンセスを抱き支えるナイトの図、にも見えなくはない。

 

「大丈夫か?」

「はい、姉さん……あっ」

「姉さん?」

 

 照れた様子のセレナは、無意識にその言葉を零したようで、さらに顔を赤く染め上げ、朱音はキョトンとした面立ちになる。

 

「す、すみません! 草凪さんの手の感触がマリア姉さんのとよく似てたから……」

「そうか、あのアイドル大統領と同じ手触りとは、光栄だね」

「アイドル大統領?」

「君の姉の異名の一つさ、それより………セレナも感じたのだろう?」

「はい、何だか……誰かに見られているような」

「朱音さんとセレナもですか? 私もここ数分、妙な視線が刺さってきて気になってまして……」

「多分……あの更衣室のドアの隙間から……」

 

 雪花が指を差した先に目線を辿ると、確かに僅かながら隙間が開いた、更衣室に繋がる扉が見え。

 

「「きゃぁぁぁぁーーー! 覗きぃぃぃぃーーーー!」」

 

 セレナと水都は思わず黄色味のる悲鳴を上げ、顔を残して水中に身を隠し。

 

「どこの誰だ! 神聖な鍛錬の場を覗き見る不届き者は! 姿を現せ!」

 

 義憤に駆られた若葉が、扉越しの相手に叫んで告げると――ゆっくりと、扉が開かれ、そこにいたのは――。

 

「マリア!?」

「マリアさん!?」

「マリア姉さん!?」

 

 なんと、覗き見をしていた輩の正体は、マリアその人であった。

 類まれなる美貌は、顔色が青ざめ、朱音の翡翠の瞳と比肩する透明感な瞳から流れる涙で濡れ尽くされていた。

 今にも崩れそうな弱弱しい足取りで、朱音たちのいるプールの方へ歩み寄ってくる。

 彼女の心情を反映しているかのように、プールの傍らに置いていた防水ラジオから、一九七〇年代に公開されたイタリアンマフィアの栄枯盛衰を描いた映画のテーマ音楽が哀愁たっぷりに流れ始める。

 ついに立つこともできなくなったようで、地面へ両手の掌と一緒に尻もちを付き、力なく項垂れ、涙の雫が大地にぽたぽたと落ちた。

 朱音たちはあの場にいなかったので知る筈もないのだが、その姿は、かのフロンティア事変にて全世界の人々に見せた姿と、全く同じだった。

 

「姉さん……どうしてここが?」

「ぐすっ……セレナ……泳ぎは私が教えてあげるって………前からずっと言ってたのに……」

 

 涙は止まらぬまま、マリアは悲痛な思いを愛する妹に伝える。

 

「そうだったのですか……」

 

 考えてみれば、あれ程妹を溺愛しているマリアだ。自分から率先してセレナに泳ぎを指導する気は満々だったであろう。

 その役を実質他人に奪われたとあっては、ここまで天地がひっくり返るくらいの大きなショックを受けるのも窺える。

 

「セレナ、ちゃんと理由があって君は、マリアに頼まなかったのだろう?」

「はい……ごめんね姉さん、でも私、泳ぎは草凪さんたちに教えてもらうから」

「そんな……これからも色んなことを教えてあげたかったのに……どうして?」

 

 涙顔な姉に、胸が締め付けられる想いが込み上げるセレナだったが、決然と意志を結び直し。

 

「私、ずっと姉さんに頼ってばかりだったから、今回はやれるところまで、自分でやってみたいんだ」

「なるほどなるほど、大好きなお姉ちゃんに成長した姿を見せてサプラ~イズ! だったのねん、イイ話じゃん」

「本当にごめんね、余計な心配をかけちゃって」

「うぅ……セレナってば、いつの間にかこんなに立派になって……」

 

 未だ止まらぬ涙はうれし涙となって、マリアの美貌は祝福の笑顔に包まれる。

 その名の如き、聖母と呼ぶに相応しい笑みだった。

 

「マリアさん、セレナの意向を汲んで、ここは私たちが責任を以て指導すると言うことで、よろしいでしょうか?」

「ちょっと寂しいけど、プールの外から見守らせてもらうわね……うぅっ……」

「でもマリア、今日は確か……新曲のレコーディングだったんじゃ――」

「その通りよ朱音ッ!」

 

 朱音が今日のマリアの予定を思い出して口にした瞬間、プール構内に新たな進入者たちが現れる。

 

「静音に奏芽、緒川さんまで」

「ようやく見つけたわよマリアぁ……」

「すみません、皆さんの特訓に、文字通り水を差してしまいましたね……」

 

 どうやら妹を想う余り、歌手としての仕事をサボタージュしてしまったマリアを暑い中探し回っていたようで、ぜえぜえと息を荒くしている静音と奏芽の二人と、真夏日でもいつもの黒ずくめなスーツ姿で涼しい好青年顔のまま緒川さんだった。

 

「さあマリア……戻るわよ、プロデューサーもおっかんむりなんだから」

「嫌よ! 私にはレコーディングよりも大事な、セレナの頑張る姿を目にしかと焼き付ける大事なお役目が――」

「言い訳問答無用ッ!」

 

 静音と奏芽は、マリアの腕をそれぞれ自身の両腕で巻き付かせて鷲掴みにし、引きずってまでも強引に、彼女をこの場から連れ出そうとした。

 

「い、いやぁ~~いやだ! やめろ! はなせッ! 鬼! 悪魔! 魔王ぅ~~人でなしぃぃぃぃ~~~~ッ!」

「「うっさいッ!」」

「セレナァァァァァァァァーーーーーーーッ!!」

 

 最後に緒川さんが頭を下げると、扉はバタンと閉められた。

 この時、朱音たちの脳裏には。

 

〝ただの姉バカなマリア〟

 

 この言葉はふっと沸いて浮き上がっていた。

 

「うぇえさぁんのわぁか……(姉さんのバカ……)」

 

 眼前で起きたマリアの奇行に、これにはお姉ちゃん子なセレナも、恥ずかしさで顔を真っ赤にし、口を水につけてぶくぶくと蟹の如く泡を立てていた。

 そんな彼女の肩に、朱音はそっと肩を置き。

 

「セレナ……まあ折角だ、当日は上達した泳ぎの腕前を大好きな姉に見せてあげよう」

 

 エールを送り。

 

「っ……、はいッ!」

 

 セレナは特訓への気合いを入れ直した。

 そうして、プールイベント当日に向けた特訓が再開されたのだった。

 




後半の下りは適合者ならきっと誰もが思うでしょう―――『ただの姉バカなマリア』



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10.5 前進の狭間でA

今回はリディアン一回生組とワイワイしつつも、二重奏世界の実状を調べている朱音の日々でございます。
話題に上がるマリアの猫舌ネタは言うまでも無く555ですが、実は食卓も『綺麗な555の食事シーン』をイメージ。
草加が現れてからは言うに及ばず、序盤の食事シーンも割とたっくんとマリが喧嘩してそれを啓太郎が宥めようとして却って煽ってるなとこ結構多かったりと、和気藹々な場合があんまなかったり 


 弦さん主催による、未開放地区解放作戦に備えた四日間かけての大規模訓練は、私たちの大方の予想の通り、半分は散々な結果となった。

 特訓と言うことで、いつもより一際やる気たっぷりな弦さんから繰り出される、存在自体が日本国憲法第九条を紙切れにしてしまいかねない驚異的かつ超常的、人のまま最終兵器もしくは怪獣になったも同然な戦闘能力を前に、いまや一個小隊クラスのメンバー数な私たち装者と勇者たちは、戦闘ってほどのものにすらならないくらい善戦も一矢報いることもできず、模擬戦とはいえ、あえなく全滅し………惨敗した。

 この敗北が、戦力向上と互いの連携、連帯感を高めさせる当初の特訓意図に繋がったかと言えば―――弦さん本人には申し訳ないが、ほとんどゼロである。

 むしろ一部のメンバーに無用なトラウマを受け付けただけだ。

 なので私と静音は心を鬼にし、ペナルティとして、日々自らの大人への道を極めるべく精進する弦さんには、大人としてのけじめとして、一か月のアクション映画鑑賞停止処分を下した。

 神世紀でも営業しているTATSUYAでの映画ソフトのレンタルは無論、ネット配信での鑑賞も期間中は禁止である。

 その間は、SONGの皆さんにもきっちりお目付役を全うする手はずも、静音と二人で予め手筈を取っていた。

 

〝朱音君……せ、せめて……そこは二週間ぐらいに短縮させてはもらえないだろうか……〟

 

 その弦さんが、いつもからは考えられない抑えきれない焦燥があふれ出た顔色の悪さで、譲歩を求めてきたけど――。

 

〝Well you can’t♪(そりゃ、無理、です♪)〟

 人差し指をちくたく振りつつの満面の笑顔で、全面却下しました。

 

 この宣告を前に、模擬戦では膝すら大地に付くことなく私たちに圧勝したさしもの弦さんも、両手ごと脚が崩れ落ち、項垂れて好物を一時でも禁止された絶望を味わったっとさ。

 組織の自浄は、きっちり内部で作用させておかないとね。

 

〝お、おっさんをああも簡単にへこませやがった……〟

〝静音と朱音って………ヤバいコンビになるんじゃない……〟

 

 でもその模様を見ていた仲間たちの一部から、畏敬の眼差しを向けられた気がするが、気のせいか。

 ここまで説明すると、まるで特訓は半分どころか全部失敗と言われるかもしれないが、そんなことはない。

 もう半分は、春信さんに神崎先生と安芸先生が丁寧に練りに練られて組み上げた計画(プラン)の下で行われた訓練で、当初掲げた目的はちゃんと達成できたからである。

 

 

 

 さて、この大規模特訓から数日後にして、造反神に侵略された『未開放地区』をこちらからの攻勢による奪還を目的として第一次解放作戦まで後数日なその日。

 その日の授業の後、私は、大赦の書庫にいた。

 色温度の低く淡めの薄明りが彩られた、明治期の趣きが漂う木造建築の中で、均等に並び立つ本棚の横一列一列に整然と、西暦二〇一五年七月三〇日から、神世紀の現在までの約三〇〇年に渡る史料(きろく)が――〝一応〟――粛々と保管されている。

 前もって静音から正式に許可を貰っている私は、こうしてこの書庫の戸棚たちから収められた史料たちを取り出しては、室内にある閲覧用の机に腰かけて、拝見していた。

 

「(朱音……)」

「どうした? テレパシーでも、こういう場所では声を控えて、心穏やかに本を読むものだよトト」

「(うん、そうなんだけど………それを言ったら朱音、本を読むにしてはちょっとしかめ過ぎだよ)」

 

 トトは私のスマホのカメラアプリを立ち上げ、内側のレンズが捉えた私の顔が、画面に表示される。

 紙上に刻まれた文字たちと向き合うには、とても芳しくないgrumpy face(しかめつら)だった。

 この表情(かお)は、この前も見たことがある。

 リディアン四国分校通学初日に、大赦の連中が送迎の為お越しになった時に、寮のエントランスのガラスに映っていたものと、ほとんど同じ表情(かお)だった。

 

「確かに穏やかにほど遠いな、ご忠言ありがとう」

 

 手に持っていた史料の一冊を、開いたまま机上に置いた。

 

「(ええ……なにこれ?)」

 

 丁度、私が〝読もうとしていた〟ページを見たトトが絶句する。

 そのページは、先に書かれていたであろう、縦列に並ばれていた文字たちが、全て墨で塗りつぶされいたからだ。

 トトはせわしない調子で、他の記憶も開いてパラパラと捲ると、段々私のとよく似た苦虫を噛まされているくらいのしかめ面に変わっていった。

 

「(これ、記録としてわざわざとって置く〝意味〟、あるの?)」

「nothing(ないね)……」

 

 私は背中が腰かける椅子の背板との密着を強め、両手を後頭部に付けて淡い灯りが照射されている天井を見上げ。

 

「とまでは行かないけど、少なくとも、当時を知る手がかりとしては、余りあてになりそうにないな」

 

 大赦の記録保管方針を、ばっさり断じた。

 

「しいて言えば、静音の言ってた大赦の体質(げんじょう)が、確たるものだったと教えてくれる証拠くらいにしかならない………こいつは神世紀三〇〇年の歴史を書き記す行為としては下の下だよ」

「(この間見せてくれた仮面ラ○ダーに出てきた地○の本棚を検索できる能力が、欲しくなってくるね)」

「I agree(同感だ)、風の都の名探偵たちの手も欲しくなるよ」

 

 こんな調子で辛辣に皮肉げに述べ合う私たちが読んだ史料には、いずれも、全てのページにて、大小なり黒く太い墨の線で、文字の一部が上書きされていた。

 正直喩えに使いたくないが……また父と母が生きていた昔、季節は夏だったか、どこかの資料館で現物を見たことがある……第二次大戦終結直後の、当時の学校で使われていた教科書に瓜二つだ。

 ページによっては、紙面の文字全てが無情に塗りつぶされている箇所さえある。

 潰された箇所は悉く、大赦の人間の大半にとって都合の悪い、目を背きたく耳も塞ぎたい、そして絶対に向き合いたくない〝事実〟の一端が記されているのは、どうにか見当がついた。

 まだ書庫(ここ)に保管されている記録の一部しか閲覧していないが……恐らくほとんどの史料がこの状態だろう………焚書されていないだけ、まだ幸いかもな。

 私がこうしてこの書庫で史料を読み込んでいるのは、異邦人であるがゆえに神世紀の歴史を改めて把握しておこうと思ったのが、数ある理由の〝一つ〟だ。

 静音が語ってくれたことは真であると信じてはいるけど、だからこそ自分の眼で、この世界の歴史の〝実像〟に近づきたかったのだ。

 だがご覧の通り、西暦二〇一五年、七月三〇日―――初めてバーテックスが、天空より人類の前に姿を現し、殺戮と暴虐の限りを尽くしたその日から始まった、この世界の地球の、三〇〇年の歴史を記した貴重な史料たちは、残念ながらその記録としてのお役目をまともに果たしていなかった………いや、全うできないようにさせられたと言った方が良い、書物(かれら)もまた、大赦の組織の闇に翻弄された被害者であるのだから。

 これでは愛する人の為に手段を選ばず生き残り、仲間だった勇者の存在を抹消し、当初は大社だったかの組織を〝赦し〟を入れ替え大赦とした――を含めた汚れ役の泥を被ったひなたたちの、いつかの未来で、人の手で災いそのものたる神々から世界を取り戻す礎を築こうと、手と足をべとつかせてまでの努力が報われないじゃないか。

 かと言って、天井を眺めて黄昏続けてもいられず、もう少し何冊か読んでみることにした。

 歴史の実像に近づく上では、これらもまたそれをより明確に形作らせる為に重要な欠片(てがかり)たちではあるからな。

 相変わらず、太い墨の線(ベール)だらけの記録を読み進め、特に重要だと直感で過った記述を持参したノートに纏めていくと。

 

「っ……」

 

 視力はかなり良い方なのに、思わず瞳とページとの距離を縮めるくらい関心が沸き上がる〝事件〟を見つける。

 それは、暦にして神世紀七二年の年の項目に記載されていたもので、〝表向きの記録〟では、カルト集団の自殺――

 

「(朱音、メールが来てるよ)」

「あ、ああ……」

 

 とそこへ、サイレントに設定していたスマホにメールの着信が入り、トトが端末当人に代わってそれを報せてくれた。

 送り主を確認すれば。

 

「水都か……」

 

 その相手は、西暦時代の諏訪の勇者、白鳥歌野の相棒である巫女――藤森水都からであった。

 彼女からのメールを読んだ後、もう少し読み進め、書き纏めてはいたけど、根の詰め過ぎは禁物なので、今日の〝この世界の現状に行き着くまでの流れと実状〟に関する調査は、この辺で一度お開きにすることにした。

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 話も空気も、それらの色合いを急に変えるが、その日の私の、いや、それを言うなら、私と切歌と調と英理歌らリディアン一回生組は、私の寮部屋にて、そろってテーブルを囲んでディナータイムとトークとセットで満喫していた。

 

「今日も調とあやちゃんのお料理は、ベストマ~ッチ!な美味しさなのデス♪」

「切ちゃんってば、また覚えたての言葉を早速使って調子乗るんだから」

「でも、切歌のハイテンションも分かるくらい、今日の麻婆豆腐も、冴えた美味しさ、ピリリとくるのにまろやか」

「光栄だ、二人の良い食べ具合を見てると、私たちも料理人冥利に尽きるよ、なあ調」

「そうだねあやちゃん」

 

 料理人同士、互いの健闘のたたえ合いを示す、サムズアップを向け合った。

 同じ学年で、かつ同じクラスと言うこともあって、リディアン四国分校での寮暮らしな学生生活になってからほどなく、ごくごく自然な成り行きで、夕食はこの面々で一緒に食することが日課の一つに定着していた。

 必然的に料理担当は、その手の技術を有する私と調になったが、お互い苦にはなっていない。

 一方食卓の場に選ばれる寮部屋の方は日によって半ばローテーションで変わり、今日はたまたま私の部屋だった。

 そんな今日のディナーのメインは、テーブルの中央に鎮座するミニIHヒーターに乗る鍋の中で少々集めに保温される特製麻婆豆腐、それと春雨サラダにザーサイ、卵スープな中華の組み合わせ。麻婆は鍋から各々適量を取って食べる形式だ。

 こうなった理由は、今日の放課後にて帰宅中に切歌からの――。

 

〝第一次解放作戦決行日までもう一週間とあとちょっとな今、活力をつける為にも今日は麻婆豆腐をご所望するのデ~ス!〟

 

 ――この一声がきっかけ。

 切歌の意志意向は可能な限り尊重する親友の調と、特に食べ物に対し好き嫌いはない私と英理歌には、反対する理由も言葉もなかったので、即、決定。

 でも口ではそれなりに高尚っぽい理由を述べてた自称〝常識人〟の切歌だったけど、実際はたまたま帰りに通りがかった中華料理店から空気に乗って流れてきた匂いから急に食べたくなったのが実情だったと、私たちには筒抜けなのでした。

 しかしこれが中々の食わせ物だった。料理そのものでなく、食する面々にだ。

 自分と英理歌は、何も問題ない………厄介なのは、ザババコンビ。

 切歌は性格から予想できる通りに、肉系は大好き。

 反対に調は、ベジタリアンってほどでもないが、野菜を好む方。

 そして調本人と一緒にアイディアを張り巡らせた結果、本物の鳥ひき肉と、低カロリーながらタンパク質は本物と変わらぬ大豆ひき肉を5:5の割合で掛け合わせ、油も控え目にしつつミルクも織り交ぜた、ヘルシーさと高タンパクを両立させ、かつ麻婆らしいスパイスさも辛味も利いた〝特製麻婆豆腐〟となったと言うわけ。

 

「熱加減はこれぐらいで大丈夫だったかな?」

「無問題(も~まんたい)なのデス♪、でもマリアだとクレームが出そうな熱さデスね」

「マリアってあの猫耳ヘア通りの猫舌だから」

「どれくらい苦手なんだ?」

「そうだね……」

 

 調は茶碗内の米粒幾つかを箸でつまみ上げ、結構念入りにふ~ふ~と吹きかけた。

 

「これぐらいの温かさなご飯でも、こうしないと食べられないくらい猫舌」

「そしてそれを追及されると、ムキになって――」

 

〝違うわよ! 癖よ! つい出ただけよ! 断じて猫舌なんかじゃないんだからッ!〟

 

 なんて感じで、頑なに突っぱねるらしい。

 

「癖なら充分猫舌だよそれ」

「だよね~」

「ここまでバレバレなのに猫舌であることを絶対に認めないのデス、マリアもその辺素直じゃない困ったさんデスよ」

 

 これまた歌手業の時にはお目にかかれない親しみやすく、揶揄い甲斐のあるお人柄なこと♪

 じゃあ今、この場に彼女もいたら――。

 

〝ふ~ふ~してるうちに私の分が無くなるじゃない! いいわ……私は冷奴食う! 絶対にね! あっちゅぅ……〟

 

 ぐらいは言いそうだ。

 

「これだど鍋焼きうどんにもなれば――『猫舌にとって大の天敵なのよ! いっくらふ~ふ~しても全然冷めないのに!』とも言いそうだね」

「あ、結構似てる……」

「うんうん」

「お墨付きのお言葉、恐悦至極に存じます」

 

 即興で物真似をしてみたら、彼女ろ付き合い長い三人から意外に好評を貰った。

 多分今喩えに上げた猫舌なガラケーラ○ダーと、一瞬でガッチリ握手して意気投合しそうなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 てな感じで、トークで華も彩らせながら、みんなとのディナーを満喫し。

 食後、私が皿を洗っているのをよそに、ネットが繋がれているテレビが表示するネット用チャンネルから、クリスから熱烈かつツンデレ風味全開でお勧めされたと言うアニメ『快傑うたずきん』。

 タイトルと裏腹に大層シリアスな本編と正反対に、全編ギャグテイストな一話一〇分ほどの短編スピンオフが一話から今週の最新話までまとめて放送中なのを、みんなが見ていたのだが。

 

「むむむ……」

「どうしたの切ちゃん?」

 

 EDに入ったところで急に切歌が、本校同様学生寮の部屋にしては破格の広さな部屋の片隅に置かれている机の――上に置かれた本たちを凝視した。

 本はおおまかに二種類ある。

 一種目は、二輪免許資格試験の問題集と、バイクのカタログ。

 

「あやちゃん今度免許でも取るおつもりデスか? バイクの」

「もちろんさ、こっちでもお役目の傍ら、趣味は味わっておきたいんでね」

 

 神樹様の結界内〝設定〟では、私は自分の世界と同様アメリカからの帰国子女となっており、バイクの免許も向こうの方だが取得済みとなっていた。

 とは言え暫くこの結界の日本暮らしは続くのは予想できるので、今のうちに免許の切り替え試験(国によって試験は免除できるがアメリカは例外なので)をしておいて、ついでにバイクも買っておく予定。

 実は召喚されてからほどなく、大赦のから静音が眉を潜めるくらいの、バイク一台は買ってもおつりがたっぷり残る大金を〝特別手当〟として提供されたのである(これは他の時代から召喚された勇者装者たちも同様)。

 これを使わない手はなかった。

 あ、言っておくが、射撃訓練を名目とした指定の銃器の仕入れは味をしめたからではないぞ。あれは敢えて〝無茶振り〟を大赦にけしかけることで、組織の成員(かおぶれ)たちのそれぞれの反応から、内部の〝相関図〟をこちらで掴んでおく為に仕掛けたものだからね。

 

「女子高生が乗るにしては……このバイク、ごついと思う」

 

 カタログに目を通して三人の内、英理歌はペンで赤丸が書かれた目当ての機種を見て、無表情でいることの多い美貌に微かな動揺を表した。

 

「日頃乗りこなしてるからノープログレムさ」

 

 ワルキューレウイングF6D。

 自分の世界でも販売され、愛用している大型クルーザーバイクである。私の時代から三〇〇年ぐらい経つのに現役ばりばりで存在していたのは幸運だった。

 

「それで……こっちの〝逆説の神道史〟とかの歴史本って」

 

 もう一種は、昨日大赦の書庫からの帰りに寄った市立図書館から借りてきた、今の神樹様への信仰にも繋がっている日本独自の宗教――〝神道〟に関する書物の数々。

 

「若葉たちと違って、私は完全に異邦人だ、この三〇〇年の神世紀の歴史を、私なりに調べて把握しておきたくてね」

「授業の教科書じゃ物足りなかったの?」

「大いに物足りないね」

 

 結論から言うと、歴史の授業の教科書には、〝結果〟しか記されていない。

 歴史の流れを大きく変える程の出来事一つ取っても、発端、原因に経緯や過程、結果に直接的に関わる〝瞬間〟と言った、結果までのストーリーやらドラマやらが省かれ、英語に喩えるなら5W1Hがほとんど書かれていない。

 ただ時代ごとに起きた〝結果〟だけの羅列となっている。

 

「喩えるなら、料理の名前と完成図しか載ってなくて、必要になる材料とか調理器具とか、そしてどう作るか過程のレシピが、一切書かれてない写真本みたいなものさ」

「あ~~……何となく分かったデス……どうりで授業で一番眠たくなるわけデスよ」

 

 担当の先生が聞いたら噴飯ものだが、私も同意できる。

 やれつまらない、やれ退屈だのとぼやく学生たちが少なくないのも無理ないくらい、歴史の教科書は味気ない代物なのである。

 私も実際、こちらに来る以前からリディアン指定の歴史の教科書は授業以外に開いたことがないし、淡泊な文面に目を通したこともない………既に大体のことは頭に入っているしな。

 なので切歌とは違う意味でだが、私も彼女と同様、かの授業の時は英語に並んで押し寄せる睡魔との戦いとなっていた。

 

「切歌の場合、眠気が来るのは歴史だけじゃないでしょ?」

「そ、そそそそんなことないデスよ!」

 

 実際はどうなのかは、あえて明言しないでおこう。

 皿を洗い終わった私も、テレビの前に座ってうたずきんのスピンオフアニメの逆展開にみんなで大笑いしながら鑑賞する。

 けど、一方で私の理性的な思考は、二つの〝考え〟に対して、思案を止めようとしなかった。

 こちらも二種類ある。

 一つは水都からの、第一次解放作戦決行日まで丁度後一週間になる明日、静音と私に〝折り入って話したいこと〟があると言うメール。

 静音ならまだ分かる。次期大赦代表であり、この度招集結成されたチームのリーダーであるからだ。

 となると……翼や奏さんや、マリアに奏芽に風と、メンバーの年長組を差し置いて私を選んだ理由は――置いておこう。明日、直接本人に聞けば分かることだ。

 そして、もう一つは……大赦の記録に載っていた一つの記述。

 神世紀七二年、最初のバーテックス襲来の洗礼を直に受けた最後の生き証人が、老衰で天寿を全うした年でもあるらしいその年。

 

〝カルト集団の一斉自殺〟

 

 表向きはそうなっているが、実際はあの年にて――

 

〝天の神を盲信する新興宗教の狂信者たちが、大規模テロを引き起こした〟

 

 ―――などと言う惨劇が、起きてしまったと言う。

 宗教、イデオロギー、狂信者、テロ。

 いずれも私にとって(日本人としてもアメリカ人としても、一人の人間としても、そしてガメラとしても)、文章にすれば〝嫌い〟に分類される言葉ばかり並びたてられる代物だったこともあり、かの出来事に対する疑念は、私の頭の中から………離れずにいた。



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11.5 前進の狭間でB

今回は二本立て、一本目は前回の続きでAXZ4話も元な本編11話の風鳴の外道爺余計なことしやがってと読者も思ったであろう松代でのやり取りの朱音視点です。


 神樹様が作り出した結界(せかい)の中の日本列島本州と、快晴そのものと言っていい、透明感が広がる青空の狭間を飛ぶ黒点たちがいた。

 三角状を描くように編隊を組む黒点たち――飛行物体の正体は、陸上自衛隊の輸送ヘリだった。

 その一つのヘリ内部の、窓の一つから、ガラス越しに地上を眺めているのは、神樹様より平行世界の地球から半ば傭兵として召喚されたシンフォギア装者、草凪朱音その人である。

 

 

 

 

 

 最初のバーテックス襲来から三〇〇年経っても、碁盤の目が端整に張り巡らされた古都を、嵐の闇夜での柳星張との決戦(第二次世界大戦で、原爆を広島長崎に落としてしまったアメリカ軍すら行わなかった古都炎上をヤツとの戦いで犯してしまった経験があるだけに、少し苦い想いになる)以来の上空からの俯瞰図が通り過ぎ。

 国内で最も巨大な湖たる琵琶湖の真上を通り抜け、今にも『ワルキューレの騎行』のメロディが聞こえてきそうな、三角を描くように並んで飛び行くヘリたちは、神世紀ビ現在では〝旧〟が付く長野県の、歌野と水都の故郷たる諏訪市とそう遠くない長野市の南側に位置する松代地区に向かっていた。

 まだ到着まで暫くあるので、ローター音のメロディも堪能しつつ、まるで特殊撮影技術でお馴染みのミニチュアにも見えてしまう地上の街々や自然の光景を、私は眺める。

 自分自身が翼になって飛ぶまたは機体を自ら操縦するか、他の誰かが操縦する航空機に乗るか、どちらが好きかと言われれば、俄然前者であるけど、後者も嫌いと言うわけじゃない。

 こうしてじっくり地上を鑑賞できると言う、乗られる方の楽しみだってあるからだ。

 とは言ったものの、正直こう長時間、飛行物体の中で俯瞰風景を目にしていると、シートベルトを解き、機内から飛び出して自分で飛びたくなる衝動に駆られそうにもなり、理性で上手いこと御しながら、私は今の状態をキープさせていた。

 

「朱音さん」

 

 そこに、元から震えている声をより震え上がらせて強ばっている声音、私を呼びかける声が耳に入る。

 

「どうした雪花?」

 

 その相手は先日、静音とともに水都に呼ばれた時に話題にも上がった、北海道出身の西暦勇者の雪花だった。

 その水都から相談を受けてからほどなく、当初の予定通りに決行され成功は収められた第一次奪還作戦の直後。

 

 

 

 静音が雪花に話を持ちかける場面を目にしたのだが、あの後実際何を話したのかは、今はまだ聞かないでいる。

 コミュニケーションにおける相手との距離間や、踏み込み時は、きっちり見極めるのを怠らない性分だからな、当然踏み入れる時は、ちゃんと靴も脱いだ上でね。

 まあ直接聞かなくても、二人が二人なりに〝腹を割って話した〟ぐらいは察せられるし。

 実際前よりかは、彼女のフレンドリーな表の物腰の裏に潜む〝遠くから見ている〟感覚は、和らいでいる気がした。

 

「ま、まだ着かないんですかね? 松代」

 

 元から高所は得意と言えない性分だったみたいだが、この結界(せかい)での初陣で超高度を滞空するヘリから落下しながら変身して樹海に飛び込む洗礼を受けて以来、より苦手意識が高所込みで少々増してしまったようで、落ちませようにと主に祈願しているとばかり両手の五指を顔の前で握り合い、ヘリの振動ばりに身体を震えさせている。

 

〝酔い止めのサプリ、決めとく?〟

〝じゃあ一番利くのでお願いします……〟

 

 顔は薄暗い機内でもはっきり見えるほど青っぽく、勿論乗る前はサプリメントマニアの夏凜のご厚意で提供された酔い止め効果のあるカプセルを、水のがぶ飲みで一気に胃腸へと放り込んでいた。

 けれど彼女曰く、この前の大規模訓練の時に行った、ギアを纏いつつマリアの妹セレナが自らのギア――アガートラームから生成した、彼女の遠隔操作で飛行できるダガーに乗って空を波乗りする分にはまだ大丈夫らしい。

 

「到着予定時刻までもうちょっとだな、この先はまだ未開放地区だから迂回しないといけない」

「はぁ~~そうだった……星屑がうじゃうじゃいるから遠回りするのは分かるんだけど……」

 

 こちらの世界でも太陽電池である程度の機能は使えるスマートウォッチのデジタル時計で確認しながら答えた。

 ここまま直進すればもっと早く到着できるが、生憎そのルートはまだ造反神に侵略された地区だった。

 うっかり多数の星屑たちが跋扈する未開放地区入れば、その瞬間からヘリは空飛ぶ棺桶になってしまい、パイロットの自衛官は勿論、変身できる私たちでさえ運が悪ければその棺桶にもれなく直行しかねない。

 空の上でさえ、目的地一つ向かうのにも、場所によっては遠回りをせざるを得ないか、奪還するまで踏み入ることさえできないである。

 天駆ける姿から想像できる以上に、緊張感の中での綱渡りをパイロットの自衛官たちは行っているのだ。着いたら前線基地設置も織り込んだお礼のご馳走を歌唱付きのセットで振る舞ってあげよう。

 

「進路を変更します、しっかりシートにへばりついてて下さいよ、ベルトが仕事しないくらいに」

「了解しました」

 

 パイロットがユーモア込みで同乗者(わたしたち)に忠告すると、ヘリたちは取り舵で大きくカーブし始め、平行を保っていた機内は揺れを増して一時傾いた。

 両手を握りしめる祈祷状態のまま俯く雪花の背中をさするくらいは余裕を保っている私は、ふと………向かいの席で両腕を組ませて同乗しているこの世界の、同一にして別人な翼の顔を見た。

 機内の薄暗さでは説明がつかない暗色が、青味がかった前髪が下がる額に、漂っていた。

 

 

 

 

 

 そう言えば、なぜ私たちが長野の松代に向かっている理由を話していなかったな。

 時は遡り、それは数日前にして第一次奪還作戦から一週間経ったあの日のことだ。

 いつものように、実質メンバーの交流会の場と化しているSONG本部の潜水艦内のブリーフィングルームにて。

 

「みんな、例の未開放地区の解放からまだそれほど時間が経っていない中での突然の招集、まずはすまないと謝らせてもらいたい」

 

 いきなり弦さん――風鳴司令から頭を下げて謝られると言う奇襲(サッカーパンチ)を受けた。

 当然みんなは驚愕、困惑している中、自分の心中の驚きの荒波を鎮めようとしている私は、既に司令からの突然の謝意のわけを存じているらしい静音、奏芽、ひなた、水都の四人の、それぞれの険しい面持ちを目にする。

 性格柄、お役目中の時は険しさを常備してるリーダー格の静音やその右腕同然な幼馴染の奏芽はともかく、お役目中のよほどのこと以外は笑顔を絶やさないあのひなたや、引っ込み思案な方だが付き合いは良い水都までも先日の雪花の一件を説明した時以上に苦味のある表情を浮かべ。

 何より、豪放磊落を絵に描いた人柄で、かつては特機部二――突起物と揶揄されたこの世界では現在〝旧〟の一文字が付く特機二課――現在のSONGの司令塔として静音とともにみんなを引っ張る司令が、ここまで口元を強く噛みしめて、ひたすら耐え忍んでいる姿から見ても………重い話、と言うより〝指令〟を伝えられそうだと、自分の直感が語った。

 

「みんなに急遽、話さなければならないことができてな」

 

 司令は文字通り、苦虫を噛まされた様に固く結んだ口から打ち明け始める。

 

「実は――新たに解放する地域が決まった」

 

 このカミングアウトに、みんなまた困惑と驚愕に見舞われ、薄々そうではないかと感づいていた私の眉間も、静音たちくらいに険しくなった。

 

「朱音、東郷、こんな短期間に神託は来るものなのか?」

「いや、私の脳裏には一切、神樹様からの連絡は来ていない」

「同じく私もです、神託自体、そう頻繁に起きるものでもありませんし」

 

 棗から質問投げかけられた、巫女の資質保有者でひなたたちと同様に神託を受けられる私と東郷は、それぞれ応じた。

 

「今から理由を説明するわ」

 

 司令に加わる形で、静音たちも説明役を担い始める。

 

「今回の件は、主に日本国政府から直々の依頼――と言うより、〝指令〟ね」

 

 予想通り、静音の言葉の中に……〝指令〟と言う胸をざわめかけさせてくる一言が、混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 そして一週間後の今日。

 私たちを乗せたヘリは全機無事に、松代にて前もって設置された前線基地に到着した。

 

「六番から五八番のグループの方はこちらにお集まり下さい――」

 

 ヘリから降りて早々、私は自衛官たちと、現特異災害対策機動部の職員たちの指示に従って避難中な松代の住民たちの姿――な光景が目に入り。

 

〝避難とは、住民に生活を根こそぎ捨てさせるものだ〟

 

 口の中に苦さが広がると同時にかの怪獣王の映画にて、劇中の怪獣災害でその時の内閣の大臣たちのほとんどが死亡したために臨時に総理になったある大臣の台詞(ことば)が思い出されて、申し訳ない気持ちになり。

 

〝簡単に下さないでもらいたいものだな……〟

 

 内心、この状況を作り出した者たちへの怒り含めたやり切れなさに、前世(かつて)自分も生み出す側にいる身でもあった自分は、その総理とほとんど同じ言葉を呟いた。

 避難用に用意されたバスたちが住民を乗せて、次々に松代から離れ行く様から目を離せずに私は、みんなと基地指令所に入った。

 

 今回、表向きは〝日本政府〟からとなっている、私たちに下された指令は――歌野たちの故郷たる諏訪地域を、先に展開中とのことらしい風鳴機関所属部隊の支援並びに、諏訪を奪還せよ――と言うものだった。

 

〝よって、直ちに我々SONGは日本国政府の指令に従い、長野へと向かい作戦を決行することとなった、突然の事だが、直ちに準備を開始してもらいたい〟

 

 よって私たちはこうして、神樹様の意志が介在していない二度目の大規模解放作戦の為、こうして松代の地に降り立ったのであった。

 まだ本格的に作戦が決行されるまで、住民たちの避難も込みで猶予はあるものの、私達もそれまでただ待機と言うわけではない。

 指令所の周辺地域に、避難せずに残っている住民を捜して回る調査も含めた警戒任務と、指令所の防衛。

 この戦争に於いて欠かせぬ戦力ではあっても、戦闘能力そのものは持たない巫女のひなたたちの護衛役。

 小隊規模なメンバーを数組に分けた上でこれらの役目を分担し、定期的に交代も行い休憩時間も設けた上でとり行われている。

 最初こそ、突然の指令にみんな戸惑うばかりだったが。

 

〝これは、中々順調な感じなんじゃない〟

〝あぁ、短期間にさらに一つの土地を奪い返せる〟

 

 再びこちらから攻勢で打って出る方針に対し、今日までの間に大半のメンバーはすぐさま意気も士気もうなぎ登りになり。

 

〝絶対に諏訪を取り戻すわ!〟

〝ああ、私も力の限り手伝うぞ、歌野!〟

〝ベリーベリーサンキューね若葉!〟

 

 特に、正にこれから奪還する地たる諏訪が故郷の歌野と、この世界で直接対面する以前から、四国と諏訪の間を結ぶ通信機での声越しとは言え交流があった若葉は、俄然気合いが全身から溢れんばかりに放出して決行の火蓋が切られる瞬間を待ちわびて警戒任務に当たってさえいた。

 彼女たちの心意気に水こそ差したくないけど、さっき大半って言葉で表した通り、例外なメンバーも少なからずいる。

 内何人かを上げるなら――指令所内のある一室にいる司令、静音、奏芽、ひなたに水都、今はこの二人の護衛役に付いているこの私と。

 そして、諏訪奪還作戦の報を伝えられてからこの一週間、口数は多すぎないが少なくもない口を、さっきのヘリ搭乗中の込みで、堅く結んだまま黙していることが多くなっていた翼だった。

 気になって緒川さん聞いた限りでは、歌手業の仕事自体は問題なくこなしているらしい(この世界の翼は、念願の海外デビューを既に果たしているのだが、結界での疑似世界ではお役目に支障を来すと神樹様が判断したのか、国内での歌手活動を続けていることになっている、同様にマリアも結界内では日本を拠点に活動中と言う〝設定〟になっていた、神の仮想世界だけあり、人間一人の身の上の設定改変などお手の物)

 

「西暦時代、旧日本陸軍が大本営移設のために選ばれたここ、松代には特異災害対策機動部の前身となる非公開組織、風鳴機関本部も置かれていたのだ」

 

 今指令は、私達になぜ今回の作戦の前線基地にこの松代が選ばれた理由を説明している最中だ。

 私の世界でもこちらでも、特異災害対策機動部の前進組織は、第二次大戦時の旧陸軍傘下の特務組織であった〝風鳴機関〟と称された諜報組織で、その本部は、大戦当時東京に代わる本営地の候補でもあったこの松代に置かれ、当時から聖遺物も含めた先史文明期の異端技術の研究もこの地で行われていたらしい。

 この点も、私の世界と事情は大体同じ。

 しかし、二〇一五年の最初のバーテックス襲来から始まった、若葉たちの戦いも含めた西暦末期の終末戦争を経て神世紀に改暦された後、大赦の構成員でもあった当時の風鳴家は離脱、改めて古巣も同然な松代に現在の風鳴機関を置いたとのこと。

 

「ひなた君はやはり不満か? 今回の日本政府からの要請に関しては……」

「正直な話し……その通りとしか言えません」

「はい、私もひなたさんと同意見です」

 

 一通り説明を終えた司令は、未だ浮かない顔のままの面々の一人であるひなたに問い、本人は正直に、不服の意を示し、水都もそれに続いた。

 かくいう私も同意見である。今の時点でも、神樹様からの神託(れんらく)は全く己の脳内に届けられる様子がない。

 これは前にも言ったことだが、この戦争の相手は神樹様の一部であった造反神、神そのものだ。下手にこちらからアクションを起こすものなら、造反神がその人知を超えた超常の力で、どんな報復を返してくるのか、人間側の自分たちでは予測も検討も碌につかない。

 なので今までは、未開放地区の奪還に関しては、神託を通じた神樹様の意志に沿う形で、当初は向こうから仕掛けてきたところを迎撃する防衛戦で勝利と一緒に地区を少しずつ取り戻し、先日は満を持してこちらから打って出て大幅に領土を奪還し、ここまでこの〝戦争〟を進めてきたのだ。

 なのにここに来て、日本政府の要請とは言え、前回と違って今回の〝諏訪奪還作戦〟は、神樹様からの新たな神託がない中、つまりこの世界の秩序の維持の大半を担う神々(かれら)の意志は一切介在していない状況で、完全に実質、私達人類の〝独断〟によって行われようとしている。

 巫女たる彼女たちが納得しかねる状態なのは、無理もない。

 造反神(やつら)がどうこちら側を窺っているかは、元神の私でも推し量れないが、さっきのヘリから見たような俯瞰の視点をお持ちなら、こっちが仕掛ける準備中であるのが筒抜け………加えて人間たちのみの独断ともなれば、むしろ向こう側が対処しやすい筈。

 

「今回の未開放地区開放は、現在の特異災害対策機動部との共同で行うと兼ねてから聞いていましたし、そのことを鑑みた退去命令にも理解はしています、ですが――」

 

 ここに来て翼は、両腕を固めに組ませたまま、ようやく重々しくなっていた口を開く。

 

「どうしても納得しかねます……今回の件は、あまりに大赦やこの地に暮らす人々に対し、無理を強いているのでは!?」

 

 巫女の立場ならではの観点で苦言を呈したひなたたちと少し違い、どちらとも世界の翼が日頃標榜する独特の国防への拘りから形成されている守護戦士の概念――〝防人〟ならではの視点によるものだが、現在の方針に不満や納得しかねる思いを抱いている意見自体は翼も同意同様で、段々と語気を強められるくらいに、今回の作戦の方針に対し司令へ諫言を申し立てた。

 静音も、表情と眼差しの鋭さから、翼と同意見であることが分かる。

 

 私も私で………あの日通達した司令たちの様子から踏まえても、この諏訪奪還はその日の内に急遽決定したものであることも、その決定から一週間、この瞬間にもほとんど突貫工事の勢いで、ここの指令所の設置含めた作戦の前準備が行われていることも。

 何より、現場に携わる自衛官たちや現特機部の職員たちには相当どころじゃない負担を背負って自らに課せられた仕事(おやくめ)を全うしていることが、容易に想像できた。

 翼も言った通り、地元住民たちにもそう。

 住民たちには、表向き大規模災害を想定した避難訓練だと説明している。

 実際に災害が起きた時の為に備えをすること自体は間違ってないが………実際の理由を踏まえれば………私達の都合であの人たちを騙して、その人ら自らが身を置く土地を、生活を、日常を………私たちが、本来守ろうとしているものを、たとえ一時とは言え、奪っているのだ。

 私の、歌を生み出す原動力たる〝胸〟には、罪悪感のしこりが漂い、手を当てた。

 戦闘にまで影響は出ないだろうけど、当分手の血肉や熱にも伝わってくるこの感覚は、消えそうにないな。

 

 それに、今回の作戦の指令を出した〝日本政府〟。

 この有無を言わせぬ性急さ、強制具合から見ても、実際に下したのは、この国の政治の表舞台に立つ者達じゃない。

 むしろ、その裏側にいる――。

 

「実はな――」

 

 翼たちからの諫言に、最早この場にいる私達に実態を隠し通すのは無理だと判断司令は、傍からでも読み取れるくらい苦味に苛まれている重い口を開く。

 

「今回の件には……〝鎌倉〟が強い意向を示しているのだ……」

 

 余りに端を折った表現に、ひなたと水都は当然ながら首を傾げて意味を理解し切れずにいるに対し。

 

「鎌倉……ですか……」

「やっぱり……」

 

 翼と静音は、言葉の内に入っていた〝鎌倉〟の一単語だけで、実情をほぼ把握できていた。

 なら私はどうなのか? と言うと――。

 

「そう言うことか……」

 

 成程……今ので大体分かった。

 

「ひなた、水都、今司令が挙げた相手は―――俗にいうこの国を陰で操るフィクサー、黒幕という奴さ」

「その通りだ、朱音君……故に、その意向に政府は勿論大赦ですら抗い難いものがあるんだ」

 

 私が黒幕(フィクサー)と称したその人物の名は――風鳴訃堂。

 この世界では、静音の生家である『櫛名田家』と、先代勇者時代の静音――鷲尾清美の戦友である篩梨花の生家『篩家』並び大赦を創設した〝御三家〟の一面も持つ(が、神世紀五五年から始まった聖遺物研究に関する方針の違いで、最初のバーテックス襲来の最後の生き証人が死去した年でもある七二年に離脱、同年独自に聖遺物研究機関としてここ松代に『風鳴機関』を設立したそうだが)、日本の国防を諜報面から担ってきた風鳴家現当主。

 弦十郎司令、彼の兄にして翼の父たる風鳴八紘内閣情報官らの、生みの親である。

 司令が自らの父を〝鎌倉〟と称したのは、実際に初めて武家政権が誕生した地にて居を構えているからである。

 こちらの世界でも、かつては特異災害機動部の初代司令であったが、私の世界と同様、日本政府が所有していた聖遺物の損失(ただし、私の世界ではクリスの使うイチイバルであったが、こちらでは奏芽が愛用するシンフォギアとなっている、古代イングランドの叙事詩『ベオウルフ』に登場する魔剣――《フルンティング》と言う違いがある)による引責辞任で、表舞台から退きはした。

 しかし、それはあくまで表向きのこと。

 現在でも、SONG、風鳴機関、現特機部、そして日本と言う国の政治そのものに対しても、強大な権限を手にしたまま、それに裏打ちされた絶大な発言力、影響力を現在も尚、有していると言う。

 実際、この諏訪奪還作戦の、勇み足にも等しい、度が過ぎて早急かつ無理やりな進行具合から見ても、何より溜息が零れ続ける静音たち当人の様子から見ても、事実だと窺い知れた。

 

「訃堂氏は今の大赦を腑抜けと呼び、そのやり方に関してあまりいい感情を抱かない人物でもある」

 

 大赦が〝腑抜け〟。

 その点は、ある意味で同意できるなと思いつつも。

 

「きわめて強い護国思想の持ち主でもあり、今回の諏訪の件に関しても、自分たちの領地近くがいつまでも敵の領域にある事を快く思っていないのでしょうね」

 

 静音の発言に入っていた〝護国思想〟と言う単語に、黙って聞き手に徹していた私の口元は思わず、皮肉たっぷりに鼻で笑った。

 そんな小奇麗な言葉で片づけられる人物では、断じてない。

 

「まさか司令、守るべきは〝人ではなく国〟だとでもその〝鎌倉の意志〟とやらがほざいたのですか?」

 

 以前から薄々感じ取っていたが、咄嗟に発した私の問いの中に籠めた単語が。

 

「言うまでもなく、そのまさかさ……」

「あの風鳴のおじじの事だから、そのくらいの無茶は言い出してもおかしくはないわよ……」

 

 一言一句違わず、合っていたことで、確信を得た。

 風鳴訃堂と言う輩は……〝人類〟を愛するガメラとしても、一人の人間としても、最も反吐が出て虫唾が走る存在(タイプ)。

 過剰で凝り固まったイデオロギーに支配された――外道。

 この世界では、幕末からも第二次大戦からも、江戸の太平の世以上に時を積み重ねてきたと言うに、時代錯誤の極みにして、国体維持の為なら多数の人民を犠牲に切り捨てても全く厭わぬ〝国枠主義〟に囚われた、人にして人ならざる怪物――だとね。

 

「というか、朱音も知っているのか? お爺様の事」

「直接は知りませんけど、元の世界で既に風鳴八紘情報官には会っていますし、その雰囲気とあなたとの関係から、なんとなくだけど想像は尽きますよ」

「そうか……」

 

 やはり……相当な〝業〟を風鳴家は秘めていると、翼の顔から離れずに居座り続ける影から垣間見えた。

 

「実際に、俺如きが意見したところで、聞き入れはしないさ」

「それどころか大赦関係の人間の言葉ですら聞き入れる余地なんか持っていないわ。たとえそれが正式な抗議であろうともね……櫛名田の現当主、私の母でも彼の御仁の下した決定を曲げることはできないもの……」

 

 司令達の諦観の言葉を前に、自分たちの世界の、遥か先な未来の実状の一端を目にしたひなたと、水都は、すっかり言葉を失ってしまっていた。

 相変わらず………意識を集中しても神託が響いてくる気配がない。

 神樹様は、人間(わたしたち)の愚かしいスタンドプレーに対し未だ何も応えず、黙秘を貫いたままだった。

 

 何事も起きてほしくないとは……私も思ってはいる。

 だが何事も起きないなどと、甘い考えは抱いてはいない。

 一筋縄ではいかないことは……確実に起きると。

 なら、覚悟を一層、引き締めておかないとな。

 何が起きても、どんな災いが待ち受けていようとも―――立ち向かえるように。

 

 

 

 

 

 ――――――――――

 

 

 

 

 

「静音さん、マリアさんたちの班より通信が」

「繋いで」

 

 暫くして、巡回任務に就いていたマリアから通信が入った。

 

「こちら本部、マリア、一体どうしたの?」

『ごめんなさい、ポイント26で252発見』

 

 この252とは、逃げ遅れ、要救助者を意味しており、つまり今マリアたちがいるエリアに、まだ避難していない住民が残っていると言うことだ。

 

『されど当の住人曰く夏野菜の収穫の最盛期であるために、可能な限り収穫を行いたいとの要望が……それに言い辛いんだけど』

「いい……大体は察したから」

 

 どんどん言い方に歯切れが悪くなって気まずさが増していくマリアの報告とその内容を前に、静音は呆れを包み隠さずに溜息を零した。

 経緯を説明すると、マリアをリーダーに、調と切歌と歌野に、高嶋友奈と、その高嶋と親友でどこか………私たち〝怪獣〟に人生を翻弄された〝彼女〟を思い出させられる郡千景で構成された班は、こちらでスマホで調べたところトマト畑含めた夏野菜を育てている畑が広がるエリアにて、地元住民を発見。

 直ぐに避難するよう呼びかけたが、その畑の主である農家の方なご年配の女性は、丁度自分の育てる作物が実りの時だったこともあり、少しでも収穫しておこうと一人残っていたそうなのだ。

 これを聞いた農業をライフワークとする歌野は、この手の大変さを重々知っているのもあり是非手伝いたいと言い出し、響や結城友奈に負けず劣らず人助け好きな高嶋も乗り、結構その場のノリに乗り易い調と切歌も賛同。

 

「千景さんもいたでしょうけど……おそらくは友奈さんが賛成に回った結果そちらに賛同してしまったのでしょうね」

「マリアの苦労が手に取るようにわかるわ……」

 

 最初は反対していたであろう千景も、高嶋(しんゆう)の説得に折れ、静音たちの了承を貰えれば、との条件を付けてマリアは渋々承諾し、こちらに連絡してきたってところか。

 

「どうします司令?」

「うむ……本来ならすぐにでも避難させるべきなんだがな……こうなっては彼女らも聞かんだろうし……仕方がない」

 

 司令も顔こそ渋らせていたものの、結局なし崩しに、歌野たちによる住民の農作業の手伝いを了承した。

 

「些か甘いんじゃないですか? 〝弦さん〟」

「分かってはいるさ、だが、変に揉められてもな」

 

 私は敢えて、公的な場では呼ぶのを控えている愛称で、司令に釘を刺した。

 諜報機関に携わってきた家の出で、かつては公安の警察官だったキャリアを持ち、豪胆な性格なのにこういう時は甘ちゃんになるところは、どちらの世界の弦さんも一緒だった。

 私個人はそんな弦さんのお人柄はむしろ好きではあるけど、ことこの手の〝お役目〟においては厄介なアキレス腱である。

 実際、ルナアタックの時は、一連の事件の首謀者にそこを突かれての串刺しを受けて深手を負わされたわけだし。

 まあそう言う私も、人のことは言えない、人との繋がりを断ち切れなかったガメラな〝甘ちゃん〟の身ではあるんだけどね。

 

「多分うたのんがいるから勝手は分かるだろうし、効率よくやればそう時間はかからないかもしれません、私たちが長野にいた時もこういったことは結構頻繁に起きていましたから」

 

 フォローに入った、自分が生きる時代の諏訪では勇者及び巫女活動の傍ら、歌野と生き残っていた人々ともに農作業にも従事していた水都の言う通り、実際勝手が分かっている彼女もいるから、早めには終わりそうだけど………。

 

「でも……やっぱり不服ですか? 朱音さんも」

 

 その水都から、続けざまにこう問われた。

 どうやら気弱な性格の水都が不安を覚えるくらい、重々しい表情になっていたらしい。

 

「これが作戦決行の直前じゃなくて、勇者部の活動の一環だったら、私も喜んで賛成の手を挙げて手伝ったさ」

 

 一人の人間としての〝自分〟は、むしろ歌野たちの行為と意志には大いに賛同してはいる。

 けど、一方で戦士としての……守護者(ガメラ)としての〝自分〟は……その対極。

 

〝早急に避難しなければ、逆に人命を危険に晒すことになる〟

 

 と、私に警告を絶えず投げかけていた。

 

「だが、水都も忘れてはいないだろ? 今私たちは、神樹様と碌に連携を取れていない状況にある、それを見逃してくれるほど、敵は甘くはない………君もそれを嫌と言うほど知っている筈だ」

「は……はい」

 

 水都に、ガメラとしての自分の意見を、述べた直後だった。

 

「っ―――!?」

 

 脳裏に突然走る、フラッシュバック。

 

「朱音さん! 水都さん!」

「ああ、私たちも受け取ったさ」

 

 ここに来て訪れた神託(おつげ)。

 全く………落ち度は強行的に独断に走った人間(こちら)側にあるとは言え、もう少し早く報せてほしかったものだな。

 

「バーテックス出現! 松代より南南西付近から侵攻の模様!」

 

 ほどなくして、指令所中に、敵が出現したことを知らせるエマージェンシーが、響き渡った。

 



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12.5 - 翻弄せし外道

今回は意外な正体だったこのシリーズでの現特機部の司令が明らかになるパートの朱音視点と、本編ではAXZ四話にも出てきたあのトマトのおばあちゃんを連れての戦闘中朱音がどうきりしらコンビに指示送ったかを描いた話となっております。
しかしトト君が郡ちゃんのご子孫と会話するパートがあるとか、自分でも予想外の展開出してくるなアウスさん。
それにしても本当に余計なことしかしない、事態の悪化しか招かない外道な風鳴のク○じじいですよ全く。




 日本の政治を裏から操りしフィクサーの強行的姿勢によって端を発した、諏訪奪還作戦と言う名の人類の〝スタンドプレー〟。

 その状況に不安を覚えていた一部の装者勇者に巫女、SONGの面々の〝起きてほしくない〟願いを嘲笑うように。

 

「バーテックス出現! 松代より南南西付近から侵攻の模様!」

 

 諏訪方面にいたと思われるバーテックスが、人類及び神樹側の領土(エリア)に現れ、再度奪取すべく侵攻を開始しようとしていた。

 

「不味いわ!」

 

 しかも、群体のいくつかが、まだ避難をしていなかった農業を生業とする地元住民の収穫作業を手伝っているマリアたちの班のいるエリアに向かっていた。

 モニターに表示された地図には、事態を把握したマリアたちを示す光点たちが、その場から離れ出したが、民間人を抱えた状態では、星屑たちにいずれ追いつかれるのは避けられない。

 

「分かったわ! マリア、クリスたちの班が今そっちに向かっている。それまで頑張って!」

『言われなくとも!』

『デス‼』

 

 幸いマリアたちの班に最も近い地点にいた、クリスと夏凜、響、梨花、若葉、友奈の面々で構成された班が、静音からの連絡を受け、援護の為に急ぎ向かう中。

 

「朱音、どこに行くの?」

「基地(ここ)を狙う伏兵がいるとも限らないからな、いつでも迎撃できるよう、私は外で待機している」

 

 司令室が慌ただしくなる中、いつの間にか傍らにトトを呼び出していた朱音は大赦から支給された端末を操作しながら、司令室を後にしようとする。

 今日までの付き合いで、何の意図もなしに彼女がそう言う行動を取らないと悟っている静音と弦十郎は、敢えてと何も言わずに見送った。

 

 

 

 

 私が司令室を後にしたのは、司令たちに説明したのも理由の一つだ。

 マリアたちに襲撃をしかけた群体も込みで、あれが陽動で、本命の伏兵がこちら側の本拠地を攻めてくる可能性がゼロでない以上、少しでも素早く出撃して迎い撃てるよう、構えておいて損はない。

 が、もう幾つか実は目的がある。

 トトとともに基地内の回廊を進みながら、端末に搭載されているアプリ《NARUKO》を立ち上げて、地図機能を開き、マリアたちとクリスたち、そして星屑たちの現在地を同時に閲覧できるまでに範囲を広げた。

 

「(時間の問題、だよね……)」

「ああ」

 

 外に出た私たちは、現況を把握する。

このままだと、クリスたちの班が到着する前に、星屑どもが追いつく。

 仮に逃げ切れても、向かう先の民間人が大勢集まる避難所に、みすみす奴らを招き寄せるしまうことになる。

 なら今マリアたちが打てる最善は一つ――住民を避難所に送る役と、奴らを足止めする役の二手に分かれること。

 マリアの今頃その一手を思いついて実行しようとしているだろう………しかし、彼女がリーダーだからこその懸念もあった。

 

「(朱音?)」

「打てる手は打っておきたいからね、トト、すまないが霊体化して、基地周辺に敵が潜んでないか念の為見回ってきてくれ」

「(うん、もし異変を見つけたら直接司令室にも報告、だね)」

「そうだ」

 

 トトがテレパシーで意思疎通できる相棒(せいれい)として召喚されたのは、本当に有り難いと思う瞬間である。

 

「後、こっそり基地内の隊員たちの様子の確認も頼む」

「(分かった)」

 

 もう一つトトに頼み事もした私は、端末の地図を表示させたまま、予め耳に装着していた通信機でマリアの班にいる調と切歌へと通信を繋いだ。

 

『そんな、私たちだって』

『適材適所よ! 血を流すばかりが戦いではないわ!』

 

 なんてタイミングで繋がったのやらだ。

 自分が予想していた懸念通り、切歌たちはマリアからの〝役割分担〟の指示に対し、明らかに食ってかかっている。

 

「こちら朱音――調、切歌、聞こえるか?」

『っ!?』

 

 二人の驚く息遣いが聞こえる。こちらからの言葉が伝達できるかは、今のリアクションで充分確認できた。

 時間がないので、本題へ一足飛びに切り出す。

 これが、私のもう一つの目的(いと)。

 

「状況は大体把握している、私たちのお役目の基本は、『危険に晒される命を守る』こと、戦闘は一手段であって目的じゃない、はき違えるなッ!」

 

 張り上げた私の声に、向こうの二人の口がハッとする声音が鳴った。

 マリアたちの中で、最も迅速に民間人を送り届けられるのは、オートモービルへの可変機能で高い機動力を発揮できるイガリマとシュルシャガナの担い手な調と切歌の二人。

 けれど二人は二人とも、血気に逸り易く、かつ特に近しい人からの指示ほど、素直に聞き入れられなくなる一面もあると、まだ短い付き合いながらも、私は汲み取っていた。

 いつもなら二人のヒートした頭を冷やすのは英理歌が担ってくれるのだが、今はそのストッパー役ご本人が同伴していない為。

 

「その人を最も確実に助けられるのは、君たちなんだッ!」

 

 状況の悪化を少しでも進ませず、逆に人命を救える確率を高める為に、私からも戒告と喚起の言葉を送ったのである。

 

『分かったデス!』

 

 切歌からそう活力たっぷり返答が来てほどなく、地図上から、二人の光点がマリアたちから離れていった。

 ほどなくして、星屑たちの光点が、マリアたちのものと接触、戦闘が開始されたのを私に報せる。

 

『あやちゃん、ありがとう』

「例には及ばないさ、今のところマリアたちは一体たりとも通していないが、警戒は怠るなよ」

『うん』

 

 そこへ調からお礼の言葉が来て、こう返しておいた。

 攻撃力の高い高嶋と歌野、精霊の力で七人に分身できる千景、蛇腹剣にキャノン砲と手数の多いマリアなら、どうにか迎撃し切ってくれるだろう。

 

「(ただいま)」

 

 トトが見回りから戻ってきた。

 

「(今のところ基地周りは異常なしだよ)」

「部隊の方々の様子は?」

「(『別命あるまで待機』って感じ、いつでもみんなの支援に行けるよう準備万端な様子でもあったけど)」

「そうか……」

 

 そして今のが、さらなるもう一つの目的(ねらい)。

 共闘することになる現特機部の前線部隊の、統制具合も含めた兵の〝質〟の把握だった。

 私の視界内で把握できる範囲だけでも、緊張感は維持されたまま、隊員たちは落ち着いた様相で待機状態にいるのが窺えた。

 

「相当な〝切れ者〟、だな」

 

 私はまだ顔も知らぬ現特機部の司令官への印象を、そう言い表して、端末内の地図を見直す。

 丁度、クリスたちの班が合流した――瞬間、まだ数の上では有利な星屑(バーテックス)たちは、一斉に撤退を開始して相見えていたマリアたちから離れていく。

 

「やはりな……」

「(最初から連中の目的は、小手調べだったってこと?)」

「そうだ、特機の司令もそれを見抜いていたからこそ、部下に待機を徹底させていた筈さ」

「(なら確かに、切れ者だね)」

 

 その後、住民は無事に避難所に送り届けたと切歌たちから連絡が入り、一応のほっとする息を吐く。

 けれども、厄介な事態になってしまったな、。

 これで連中にはっきりと、私たちがこちらから諏訪を攻めようとする意図が知られてしまった。

 もし造反神側が、今回の作戦には神樹様がほとんど関与していないとも感づいていたとしたら……いや、もうとっくに感づいているだろう。

 先の戦闘では、一切樹海化現象が起きていなかった………相手側がこちら側の現況を把握するには充分な情報だ。

 

『朱音、もう存じてると思うけど敵は撤退したわ、司令室に戻ってきて』

「了解」

 

 司令室へ戻る道中、私は思わず。

 

「頃合いを見誤ったな……」

 

 この一連の元凶であり――

 

〝守るべきは人ではなく、国〟

 

 ――などと、自分の眼(しこう)からすれば軽挙妄動にも程がある、国を運営していく姿勢としては最悪に値する言葉をほざき、大勢の国民(ひとびと)の日常と命を弄び、いたずらに掻き回すかの〝鎌倉の意志〟へ。

 

「痴れ者が……」

 

 憤りの熱も帯びた毒のある言葉を、険しさが増していく顔の一部たる口から、零した。

 

 

 

 

 

 司令室に戻った私が最初に目にしたのは――。

 

「司令、静音さん……特異災害対策機動部駐屯基地から入電です」

「やはり来たか!」

「繋いで!」

 

 現特機部から丁度、こちらに通信を寄越され、即座に応じようとしている司令たちの姿と、それを神妙に眺めるしかないひなたたちだった。

 戦闘が終了してからまだ五分の経っていないのに、この手際。

 空気が張り詰める宙に現れた立体モニターに、その通信相手――現特機部司令官の姿が映し出される。

 私や静音に勝るとも劣らぬ艶やかさと、それ以上に色濃く長い黒髪と、刀や槍よりも、長柄の鎌の刃を連想させる鋭利な眼(まなこ)を中心とした、冷ややかで険のある、どこか見覚えのある美貌を持った女性だった。

 

『久しいものだな、弦』

 

 冷々たる佇まいのまま、明らかに弦十郎司令とは因縁浅からぬ〝縁(つながり)〟を持っていると、初対面な私でも分かる物腰と言い様で、司令官は第一声を上げる。

 櫻井博士でさえ〝弦十郎君〟だったのに、私以外の人間で彼を〝弦〟の一文字で呼ぶ人間が、他にもいたとはね。

 

「そちらもな……郡千明管理官、今は――」

『現特異災害対策機動部の司令だ、お前がS.O.N.Gの司令をやるくらいに、こちらも出世している』

 

 こちらの司令も、いつもより一際厳めしい面持ちで特機司令官に応じ………待て、今彼は彼女相手に何と言った?

 順を追って整理しよう。

 まず〝管理官〟と言う役職、司令――風鳴弦十郎がかつて公安の警察官を務めていた頃もあったことを踏まえれば、警視庁、警察庁、全国の地方警察問わず日本警察の、事件の捜査指揮を担う官職の方であるのは間違いない。

 その上で司令の経歴と、モニター越し対峙するの両者の態度を見れば、二人はかつて、公安警察内の上司と部下の間柄だったことが分かる。

 

「郡……まさか、そんな!?」

「郡って、ひょっとして……」

 

 そして、特にひなたと水都の心境をざわめかせている、郡(こおり)と言う名の、聞き覚えがあるどころではない、苗字一文字と、とある勇者の面影と重なる、特機司令官の容姿。

 何より、まだこの世界に来たばかりの頃、静音が、異邦人である身の上な自分だからこそ打ち明けてくれた勇者たちの〝戦い〟の記録。

 

「これはこれは……」

 

 これだけで私は司令官の女性、〝郡千明〟の正体に、正確には彼女のご先祖が何者であることに、行き着いた。

 

「静音、もしやと思うが、今の特機部の司令官とやらは……」

「ええ……」

 

 まだ戸惑いが拭えないひなたたちの疑問どうにかしようと、静音に問いかけ、肯定を私たちに示した。

 

「幸いここには当人たちはいないし、ひなたと水都の二人にならそれなりに情報を与えても問題はなさげだから話すわね」

 

 静音は打ち明ける前に、念を入れ過ぎるほどの断りを、ひなたと水都相手にまず前もって述べ、二人は疑問すら言葉にできずに困惑するばかりだ。

 これから話す〝真実〟を踏まえれば、過剰に前置きを重ねた、はっきり口にするのは憚られる態度になるのも………無理はないか。

 だって、この方のご先祖は、何を隠そう――

 

「彼女は、西暦の終末戦争の後に名を消され、その存在自体がなかったこととされた勇者、郡千景の子孫よ」

 

 ――今静音が言った通り、若葉ら西暦末期の勇者の一人、郡千景その人なのだから。

 当然ながら、静音の口から齎された〝事実〟に、巫女二人は全身が凝固してしまいそうなくらい驚愕する。

 特にひなたは、相手が自身の仲間の血縁者であること、その仲間が〝存在を抹消〟されていた時もあった。

 

「ッ!? 千景さんの……それよりも、名を消された……」

「ええ、ほかならぬ貴方の手でね、上里ひなた」

 

 何よりそれを実行したのは、他ならぬ〝未来の自分〟だったと言う事実を前に、日常での微笑みを絶やさぬ物腰と、お役目の時でも、どんな事態を前にしても動じず冷静に凛と対処しようとする姿と打って変わって………酷く狼狽している。

 日頃の大人びた態度で忘れられがちだが、彼女もまだ、一四歳のあどけない少女である何よりの証明だった。

 

『なるほど、噂は本当か、上里の開祖がこの時代に呼び出され、お前たちを導いているというのは』

「まぁ、そんなところですよ」

 

 お陰さまでね――私も内心で呟く。

 私が召喚された神託を受け取ったのはひなたであり、トトもいたとは言えいきなり単独でバーテックスと、それも銀が差し違える代償と引き換えにやっと追い返せた強敵三体を相手にさせられた私に静音たちが間に合うことができたのも彼女のお陰でもあり、私にとって恩人の一人だ。

 

「あの……」

『なんだ、上里の開祖よ』

 

 そのひなたから声を掛けられた瞬間、郡千明司令官の様相が変わった。

 元より鋭利な一対の瞳に宿る冷気が増し、殺気すらも帯びた見るものの背筋も凍らせかねない眼光で、彼女を睨みつけてくる。

 自らに向けられた………〝憎悪〟と呼べるものを前に、なぜ〝未来の自分〟がそのようなことをしたのか聞こうとしていたひなたは完全に閉口して委縮し、水都は今にも泣きそうになって身体の震えを隠せずにいた為、せめてものと私は彼女の崩れ落ちそうな両肩を自身の手で支え、背中をさすり、少しでも落ち着かせようとする。

 私もあの〝眼光〟を、かつて目にした。

〝柳星張〟と燃え盛る京都で対峙した時、テレパシー越しに、私が修羅となってまで倒(ころ)してきたギャオスどもの怨念をも取り込んでいた奴と精神感応する〝彼女〟から……突きつけられたその目と、同じものだった。

 傍から見ているこちらすら不愉快な気分にさせられる様態だが、郡司令官がこの態度を見せるのも、理解できる。

 若葉たちとともに、天より遣わされた災厄(バーテックス)に立ち向かい、最後には悲惨な最期を遂げたご先祖たる千景を、一時とは言え、後に大社の最高権威に上り詰める当時のひなたらによって存在を〝消された〟からだ。

 大赦の保管庫に所蔵されている史料にも、徹底して千景に関する記録は消され、黒く塗りつぶされ、初めから〝いなかった〟ものとされていた。

 子孫からすれば、先祖の千景はと天の神と大赦(大社)によって二度、〝殺された〟も等しい。

 そう言えば、今でも読むことが多々ある日本の時代小説たちの作者(うみのおや)が生前残した言葉に、こんな一節があった。

 

〝封建社会は、恨みが何代にも渡って伝えられる〟

 

 実際一つ喩えを出すと、かの関ヶ原で敗者となった長州藩は、策謀の一環で領土安堵の約束を取りつけていながら、一方的に反故にして減封させた江戸幕府に対し、幕末の時代にまで胸の内に憎しみを宿し続け、最終的に討幕を成し遂げ、長い積年の恨みを晴らし切るまでに至った。

 大赦と、そして風鳴家、二つの組織の気風(じったい)を踏まえれば、どちらとも江戸の世に近い、実質封建社会であると分かる。

 つまり今の郡家の一人が、特機部の司令官に任じられるほどの出世の階段を上ることができるのは、郡千明当人の能力の高さもあるにしても、風鳴家の傘下にいることでもあると他ならず。

 その風鳴の影響で、約三〇〇年過ぎた現在にまで、ひなた含めた上里家への恨みが連綿と紡がれるに至ってしまった。

 まあこれは、あくまで現状掴める情報から組み上げた自分の見立てなので、〝かもしれない〟に留めておくとしても……また一つ、私は風鳴と言う家の〝業の深さ〟を垣間見た。

 せめて願わくは………この特機司令一個人には、そこまで昏い情に染まり切っていてほしくはないと、信じたいところでもあるだけど。

 

「ひなたよしなさい。いくらなんでも〝今のあなた〟で真っ向から渡り合える相手じゃないわ、それに、知ったところできっと何も変わることはない……」

「静音さん……わかりました」

 

 引き止めた静音の判断は賢明だ。丁度自分も、ひなたのコンディションをこれ以上悪化させない為にそうする気でいたし、そろそろ本題に入らないと。

 これ以上人間同士の内輪揉めで、予断の許さぬ状況下で話を停滞させるわけにもいかない。

 

「こうして通信を入れたのは、そのような些事の為ではないのでしょう郡司令官。鎌倉で……動きがあった……そうでしょう?」

 

 こちら側を代表して本題の詳細を問い詰めた静音に対し。

 

『賢しすぎるは考え物だぞ、〝櫛名田の子〟よ』

 

 皮肉さを大量に混ぜ込ませた不敵な笑みで、郡司令官はそう言い放ち。

 

「…………私がそう呼ばれるのが嫌いなのを、あなたもご存知でしょう」

 

 水都たちどころか、幼馴染の奏芽、義姉妹の翼すら息を呑んでしまうほどに、静音は内なる激情を抑えつつも、それでも微かにあふれ出た怒気の籠った、尾を踏まれた虎の如き形相で、郡司令官に睨み返す。

 どうやらこの二人の間も、大変芳しくない関係性なようで。

〝櫛名田の子〟と呼ばれたことになぜそこまで静音が怒りを見せたかも含めて気になるところだし、今のやり取りだけで櫛名田家の――静音のお家事情には合う程度想像つくが、その気持ちごと詮索は控えて行こう。

 また本題から逸れるし、今さっき〝賢しすぎるは考え物〟と揶揄されたばかりだしな。

 

『相も変わらず可愛げがないな、姉の方がまだ話しやすい』

 

 しいて補足すると、静音には双子の姉がいるが、関係は今でも良好な姉妹だとは言っておこう。

 

『まぁ、確かにこのようなことは些事よ、ああ……その通りだぞ、弦、静音』

「ということはやはり……か……」

『〝鎌倉の御仁〟は、先の星屑どもの襲来にご立腹だ』

 

 それもそうだ、こちらから先手を打つ準備を急ピッチで進めていたところに、虚を突かれて先に小手調べの戦闘(けんか)を売られて、鼻先であしらわれたのだから。

 こうなる可能性も、実際に起きるまで全く考慮してなかったとしたら、ある意味でおめでたいよ。

 

『全く厄介な事よ、先祖が先祖故の因果かは知らぬが、どうも貧乏くじばかりを引かされる……』

 

 静音の言葉から聞いた千景の生涯を知っている身だと、微笑にもできそうにない自虐のジョークだ。

 

「それはあなたの性格も込みでしょ。元〝氷の管理官〟」

『貴様も、私がそう呼ばれるのを嫌っているのを知っておろうが……』

「さっきの仕返しですよ」

 

 これなら〝やられたらやり返す〟なところもある静音の意趣返しの方が、場が場でなかったら、まだくすりとできる方だな。

 当の本人にとっては不名誉な〝公安時代〟の異名なのには違いないけど、何しろかの称号、名前と性格と仕事振り、その三つを揶揄する三重な〝ブラックユーモア〟の意味合いで付けられた代物に他ならない。

 

『鎌倉の御仁はこう言っていたぞ――』

 

 さて、やっとわざわざ通信を寄越してきた主題だ。

 私の、いや……私たちの予想が正しければ。

 

『「諏訪は国土安全保障の要たる松代の橋頭堡。その地をいつまでも異界の賊どもに踏み荒らされるなどまかり成らぬ」とな……諏訪奪還作戦の決行時刻が早まった。作戦決行は本日000だ』

 

 やはりか……と、溜息をつく。

 先手を打つ筈が、虚を突かれて逆に打たれてしまった以上、いっそ作戦そのものを中止にする手もある………いや、ダメだ、今となっては最早叶わぬ相談。

 我(わたし)よ………忘れたわけではないだろう?

 この造反神との戦争において、敗北は一切許されない、常に私たちは〝背水の陣〟に立っている。

 一度でも、敵に勝利の花を送ってしまえば………この世界は破滅の奈落に堕ち、天の神の思うつぼとなってしまう。

 ゆえに、獅子身中の虫も同然な鎌倉の意志より〝弱腰〟となじられようとも、敵側の襲撃を迎え撃つ防衛戦にしても、この前のような満を持してのこちらから打って出た攻撃戦にしても、神樹様との連携を怠らずに、堅実かつ着実に領土をここまで解放してきた。

 けれども、鎌倉の意志より端を発したとは言え、人間側(わたしら)が調子に乗ってスタンドプレーに走った挙句、先手を打たれ、賽は投げられてしまった。

 こうなった以上、むしろ退くことはもうできず、敵が待ち構えているであろう諏訪へ決戦を臨むしかなく、だからこそより慎重な戦略の練り直しが必要だと言うのに、。

 ところがあの〝痴れ者〟め、よりにもよって作戦決行の前倒しと言う、限られた選択肢の中で最も無謀極めた最悪なる愚策を捻じ込み、特機部の戦士隊含めた〝現場〟に押し付けてきた。

 スマートウォッチで時間を確認すれば、変更後の決行まで残り時間が半日すらない。

 筋肉隆々な元コマンド部隊の隊長が、さらわれた愛娘を取り戻せるタイムリミットさえ、十一時間はあったと言うのに、それよりも刻限が短すぎる。

 

「ぐっ!」

 

 同じく作戦の前倒しだと薄々見当ついていた司令は、苦虫を強く噛みしめ。

 

「あのくそたれジジイ……よくもまぁ、そんな馬鹿げたことを……」

 

 静音など、義理の祖父に対し憤怒の情を以て、はっきり糾弾の口上を口走らせた。

 

『報告は以上だ、こちらもそれなりには働きかけたが、彼の御仁の決断。一度下されれば止めること叶うものではない、くれぐれも用心を怠らぬことだ』

 

 本題を伝え終えると、郡司令官はさっさと通信を切った。

 この引き際の潔さと、忠告をわざわざ送ってくれたことから見ても、彼女の切れ者具合と、根にはちゃんと〝血も涙も〟も確かにあると、窺い痴れた。

 そうだな、決断とも言いたくない愚行だが、作戦決行の時を変えられない、まして中止することもままならない以上、郡司令官からせめてもの、ささやかなありがたい〝ご忠告〟の通り、せめて〝用心を怠らぬ〟ように、重々承知して努めてことにして。

 さて……次はどんな〝鬼か蛇〟が飛び出てくるか、覚悟も新たにしておこう。

 それと。

 

「静音、ひなたと水都を少し休ませてくる、今ので相当疲労が溜まってしまったからな」

「分かった、二人のことは朱音、貴方に任せるわ」

 

 巫女の二人には、少しでも心身を休める必要がある。

 勇者と装者同様、巫女の能力も当人のコンディションの影響を受けやすい、繊細な代物だからな、放っておけば疲れで神託を聞き逃してしまう可能性も、ないと言い切れない。

 時間は決して多くないが、なあに、幸い限られた中にも一時休められるよう有効的に使える分ぐらいはある。

 

「ああ、それと静音」

 

 さらに私は――。

 

「君にも〝用心〟の為に休息が必要だ、特に頭(ここ)と心(ここ)にね」

 

 静音にも今は自身を休ませる時だと、伝えておくのであった。

 



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13.5 - Coordinator

さてさて今回もこちらは本編同様、諏訪奪還作戦回辺りのお話。
サブタイの『コーディネーター』は、うちのガメラズ=朱音とトトが本人たちはあくまで自分ができることをやってるだけなのですが、風鳴の外道ジジイのせいで静音が非情な作戦(一応説明するとバーテックスを混乱させるために諏訪全地域にまず砲撃したところを奇襲)を敢行せざるを得ず、不協和音でバラバラになりかけるチームを意図ぜず『調停』しようと奮闘してたからです(汗
全く余計なことしかしないよあのジジイは(2回目)


 諏訪奪還作戦の結構前に先手を打たれた上、〝鎌倉の御仁〟からの理不尽な通告によって当初の予定より開始時刻が前倒しにされた直後。

 

「よし」

 

松代前線基地内に設置された、隊員用の食堂の調理場では、この場をお借りしてもらい、SONGの制式制服の上にエプロンを羽織り、葡萄色がかった黒髪をアップで纏めた朱音が、丁度作っていたサンドイッチたちを完成させていた。

 三枚の紙の皿に、三人分を均等に盛り付け、レストランの店員よろしく手に持った朱音は調理場を後にする。

 途中、ホルダー付き紙コップ三つ(内二つは朱音とひなたへのコーヒーで、一つは水都へのココアである)を乗せたお盆を持って飛ぶトトと合流し。

 

「おまたせ、私お手製サンドと――」

「(あおいの淹れたてな〝あったかいもの〟どうぞ)」

「ありがたく頂戴させてもらいます」

 

 食堂内の一角のテーブルで待っていたひなたと水都――巫女のお二人の前に置き、ひなたは感謝の一礼をした。

 

「もう少し時間と材料があれば、そば粉とうどん粉使ったパン生地作れたんだけどね」

「いえいえ、せっかく作ってもらったのにそこまでワガママ言えませんって」

 

 あわわと手を水都は振る。

 朱音はできることなら、蕎麦派の水都とうどん派のひなたに、それぞれの麺の粉も使ったパン生地から作りたかったのだが、いかんせん材料はなく、あっても一から作る暇もなく、トマトハムサンドと卵サンドぐらいのしか作れなかった。

 

「「「いただきます」」」

 

 作戦決行時間まで、お世辞にも長いと言えない時間を使って、心身へのエネルギー補給を主な目的としている軽食を取り始めた。

 

 

 

 

 

 さっきの、司令の公安警察時代の元上司にして郡千景の子孫でもある、現特機部司令官の郡千明との対面と、静音より明かされた〝事実〟で相当、身にも、特に心にも疲労が溜まった二人の為に、私は軽く料理を振る舞っていた。

 時間の制約上、そう凝った料理にもできなかったので、妥協の結果としてサンドイッチを選ばざるを得なかったけど、せっかくの休息に、何も食べないよりはいい。

〝病は食から〟、とも言うからね。

 それに、二人の食べっぷりから見る限り、食べられるだけの心の余裕は残っているようで、少し安心しつつ、自分の分のサンドを、いつもながら奥行きのある旨味な苦味を齎してくれる友里さんのホットコーヒーと合わせて食していると。

 

「あの……」

「何だ?」

 

 水都が何やら訊ねてくる。

 

「ちょっと聞きにくいことなんですけど……」

「いいよ、私は構わないから遠慮なく」

「それじゃ………朱音さんは………どこまでご存知なんですか?」

 

 少し歯切れの良くない調子で発せられる、水都からの漠然とした質問。

 

「私も、知りたくないと言われれば、嘘になりますね………なぜ少し先の未来の〝自分〟が、千景さんにあんなことをしたのかを」

 

 ひなたも、そう眼差しと一緒に、偽らざる胸の内を私に送っていた。

 彼女らが私に聞きたい問い具体的な内容は、わざわざ聞き直さなくても把握できている。

 西暦勇者一人である千景が、大赦の記録から存在を一時抹消されたのも含めて、自分にいた時代のその先の未来に、一体何が起きたと言うことを。

 そして、 この世界の西暦二〇一五年から神世紀三〇二年までの、約三百年の歴史、即ち二人にとっての〝未来〟を、どれくらい私が知っているのか? いつ知ったのか?―――と言うものだ。

 

「召喚された次の日には、静音から彼女が知りうる限りのことはほとんど聞いたよ、さすがに今の特機部の司令が千景の子孫で弦さんの元上司だとは、私も初耳で寝耳に水だったけどね」

 

 コーヒー一口飲み挟んで、私は質問に答えた。今の返答で、二人には充分意味も伝わっている。

 

「だが――」

 

 手に持っていたカップを手に置き、私は二人の瞳と自分の瞳が、正面から合わさるように向き合い直し。

 

「私の口からは君たちにとっての〝未来〟を不用意に話すつもりはない、静音とは下手に口外はしないと約束を交わしたからね、すまないがそこは理解してもらえるかな?」

「はい……」

「うん……」

 

 静音から聞かされたその〝歴史〟を、自分の口からは二人にも、彼ら以外の他の時間軸より召喚された勇者たちにも、不用意に打ち明ける気はないことを伝え、了解を貰う。

 ただ……これだけでは、ある種彼女の気持ちを突き放す行為にも等しい。

 

「静音本人に訊くのも、今は、余りお勧めはしないよ」

「どうしてですか?」

 

 二人が一時的に表面上は納得できても、心の奥底では納得し切れぬ思いがしこりになってこびり付くことになりかねない懸念もあったので、もう少し、言葉を付け加えておこう。

 

「静音が私に話してくれたのは、過去から来た君たちと違って、私が平行世界(パラレルワールド)から神樹様に呼ばれた異邦人であることと、アメリカ人でもあることだ」

「それは……どういう?」

 

 水都は顔に疑問符を浮かべていつ一方、ひなたは今の私の言葉で理解できたようで。

 

「もしかして朱音さんがおっしゃりたいのは、〝言霊〟……ですか?」

「正解さ」

 

 今のひなたの返しに、肯定で応じた。

 私の世界でも、そしてこちらの世界でも同様に、日本と言う国には、そこに住む国民のほとんどが今でも無意識無自覚なまま〝信者〟となっている、この国の歴史古くから伝わる独自の宗教が存在している。

 その宗教の名は――〝神道〟。

 そしてこの宗教体系を構成する一部でもある信仰の一つが、ひなたが先程挙げた―――〝言霊〟である。

 

「水都も、言葉自体は聞いたことがあるだろう?」

「う、うん、一応……でもバーテックスが出てくるまで巫女なんてやったことなかったし、なってからも修行とかやってこれなかったから………いまいち意味は、よく分からないです」

 

 良い機会だから、この際水都にも、意味は知っているひなたにも改めて説明しておくか、それぐらいの時間はまだある。

 

「言霊と言うのはね――」

 

 この信仰を簡潔に表現してしまえば、胸の内に思っていること、考えていることを、実際に言葉として声に出したり、または文字に書き記したりすると、その事柄が現実に起きてしまう――と言う一種の霊的な力を指している。

 昔の日本人は、この言霊を本気で信じていた。

 

「二人とも昔にこんな経験はなかったか? 運動会前日に〝雨が降らないかな〟とクラスメイトの一人がそう言ったら、当日本当に雨が降って中止になり、周りから〝お前があんなこと言うならこうなった〟と発言した子が攻め立てられてた、なんてこと」

「あ、ありましたねそう言えば……私は運動苦手だったから、中止にはむしろ大喜びでしたけど」

 

 身近な一例を上げるなら、こういうこと。

 私も両親が存命の頃、日本の小学校で似たようなのを目にしたことはあったが、逆にアメリカのスクールでは、悪天候で予定されていたイベントが中止になっても、そうなったらいいなとぼやいた生徒が攻められる事態なんて、一切起きたためしがない。

 どうして口にしたことが実際に起きただけで、日本ではこうなるのか、これも言霊の影響によるもの。

 

「そう言えば……こっちに呼ばれる前に諏訪にいた頃は、勇者のうたのん相手はともかく、他の生き残った人たちとはバーテックスのことを話題にしないようにしてました………下手に口にすると本当に出て来てしまいそうで……あっ」

 

 ここまで言葉を繋いできた水都の顔に、はっきりと思い立った表情が現れた。

 

「そっか、言霊って……そういう意味なんだ」

「はい、今水都さんが思い至った通りです」

 

 さっきも言ったように、個人差は多少あってもほとんどの日本人は現在でも自覚がないまま、実際に言葉を声にして発した内容が実現してしまうと、意識しないまま知らぬ間の内に――〝信じてしまっている〟。

 その上――。

 

「それでも西暦二〇一五年までは、現代の日本人にこんなこと話しても、盛大に笑い飛ばされただろうけど」

「はい、あの日以来……私たちは思い知りましたからね―――かつて先人たちが信じ、畏敬を抱き崇めていた神々は、確かに〝実在〟していると」

 

 この時代の、正確にはバーテックスが初めて襲来した二〇一五年以降の日本人の一般市民は、人の世を守護してくれる神樹様そのものに対する信仰心こそ、表面上比較的緩い方ではあるが………深層意識ではむしろ、無自覚な言霊を含めた神道への心信が、強くなっている筈だ。

 何せ、神は本当に存在すると、証明されてしまったのだから。

 

「いわば私たち日本人は、エルフナインさんが言っていたところの、この国の気風そのものに備わっている〝哲学兵装〟の影響下にあり、神の実在でより強くなっていると言うことです」

「ああ、この国の人々ほど、ひなたの言う言葉の影響を大きく受けてしまう民族はそういない、二人も入れてね」

 

 この話の喩えにもってこいな表現を述べたひなたも、そして水都も、決して例外じゃない。

 おまけにだ。

 

「それに二人とも、さっきの疲れがまだ残っているだろう?」

 

 そんな状態で、彼女たちの本来いる時間からすれば人知では数えきれないほどの〝可能性〟が多くある未来の内の一つでしかないが、一方でこの時代では既に不変の過去となってしまっている………この先に待ち受ける運命ってやつを、迂闊かつ無遠慮に話してしまえば――。

 

「巫女の能力にも、何らかの支障が出てくるかもしれない……」

 

 日本独自の宗教事情も用いてまで、少々遠回しな表現で説明したのは、ある程度相手が自分から気づけるようそれとなく促した上で、主旨をはっきり伝えた方が記憶に残り易い、自分なりの伝達方法と言えるものだ。

 

「神託が私たちにとっての生命線の一つでもあるから、これ以上君たちの心を揺さぶらせたくはないんだ、だから今は、その気持ちをどうにか胸の内に秘めておいてくれないか?」

 

 シンフォギアと勇者システム同様に、巫女の力もまた、それを有し扱える人間の精神状態によって、キレにムラが出てしまう能力でもあり……最悪、神樹様が神託を送っているにも拘わらず、その意志を受け取れなくなる可能性だってある。

 だから、できるだけ他者の意志は尊重しようと心がけている私でも、二人がたとえ〝知る覚悟〟を決めていたとしても、自身の時代の、この世界の現在に繋がる〝その先〟を、静音含めたこの時代の人々より聞き出すことを、とても勧められはしなかった。

 これはひなたたちの巫女の能力に響きかねない懸念もあるが、ひなたたち自身にも勿論、案じているからこそである。

 

「私も東郷と同じく、一応神託を受けられる巫女ではあるけど、私一人の主観だけではどうしても限界がある、神樹様の意志をできるだけ正確にかつ詳細にみんなに伝えるには、二人の豊かな感性に、イマジネーションや表現力が欠かせないんだ」

「そ、そんな大袈裟ですよ! ひなたさんは分かりますけど………私なんて」

 

 お世辞にも自己評価が高いと言えない水都は、私からの賛辞で顔が急速に紅潮した。

 

「それだけ頼りにしてるってことだし、私たちがここまで戦い抜いてこられているのは、君のお陰でもあるんだよ、水都」

「そうです、私も同じ巫女として水都さんには助けられている身です、ありがたく受け取って下さい」

「はい……ありがとうございます」

 

 私と、いつもの微笑みを取り戻したひなたからの賛辞の言葉を、水都は照れがまだ少々残りつつも、受け取ってくれた。

 さて、当初は湿っぽさと暗さが少なからずあった場の空気が、大分さっきより和らいで温かくなってきたことだし。

 

「さあ、次なる神託をいつでもキャッチできるよう、食べて精をつけよう」

 

 一時止まっていた軽食の再開を、私は進めようとしつつ、人差し指と眼を天井の向こうの空へと向け。

 

「グランパは言っていった―――」

「きゅ、急になんです朱音さん?」

「『食の真なる語源は、〝料理の乗った皿に被さる蓋ではあるが、人が良くなると読めるのも確かである』とね」

「え、食べるの漢字ってそういう意味だったんですか?」

「そうなんですよ、元は――」

 

 我が祖父から送られた、数多くの格言の一つをきっかけに新たな話題を調味料に、トークを花開かせてサンドイッチを頬張る。

 それしても友里さんのコーヒーは、温くなっていても、格別だな。

 ほんと、グランパの言う通り〝食べる〟ことは人を良くしてくれるよ、確かに。

 

「すみません、ちょっと話題を戻すんですけど……朱音さんって、余り言霊に影響されなさそうですね」

 

 と、我が尊敬する祖父の言葉を噛みしめていると、水都からこんな質問を送られてきたので。

 

「私も言葉自体に〝力〟があるとは信じているさ」

 

 でなければ、自分でもなぜなのか分からないくらい、理屈抜きで〝歌〟と〝歌う〟ことを好きにならないわけないし、積極的に様々なジャンルの書物を読んで知識を吸収していったりはしない………んだけれども。

 

「さすがに思ったこと口にしたり、起きてほしくないことをただ口に出さなかったぐらいで、現実を改変できるのなら……世の中苦労はしないし、神樹様だって弱った身に鞭打ってまで私たちを―――」

 

 若葉たちのような過去の時代の勇者と、平行世界(パラレルワールド)の異邦人な自分を――。

 

「〝助っ人〟に呼んだりはしない」

 

 長いことアメリカ暮らしが長く、親日家にして趣味で日本文化の研究をアクション映画と俳優業に並んでライフワークとしてる祖父の影響を強く受けて育った日米双方のアイデンティティを持つ私は、言霊ひいては〝神道〟そのものに対し、きっぱりとばっさり言い切った。

 それともう一つ、自分の持論にして、日本外の常識とも言える事柄を言っておこう。

 

〝平和と安全は、ねだればタダで手に入る代物じゃない〟

 

 ――ってね。

 どうにかこの世界にいる間の内に、大赦の連中へと言っておかなきゃいけないな、と心に秘めて。

 

 

 

 

 

 こうしてひなたたちの心身は何とかできたんだけど………その後の諏訪奪還作戦決行の際に、勇者装者全メンバーの結束を揺らがしかねない、不協和音が、奏でられてしまった。

 この件を今詳しく述べるのは………よしておこう。

 それだけデリケートな件、ってことさ。

 

 

 

 

 

 

 決行時間がかの外道のせいで前倒しにされたことを、千景の子孫な現特機部司令より伝えられた直後から、数時間後。

 作戦はどうにか成功し、民間人も自衛隊員に特機部メンバー含め、負傷者こそ出してしまったが、幸い死者の方は一人も出ることなく、諏訪を取り戻すこと自体はできた………できたけど、歌野と水都の故郷でもあるかの地と、人々の生活そのものへの〝コラテラルダメージ〟自体は負傷者も込みで、残念ながら被らざるを、得なかった。

 

 

 戦闘後も、迎えが来るまでの間、ツーマンセルで班分けをして警戒任務に当たっていた私と風部長は、お迎えの陸自ヘリに乗り込み、作戦の一環で放たれた自衛隊の兵器の流れ弾による爪痕が残る諏訪の街を後にする。

 

「(ただいま)」

「おかえり」

 

 ヘリが垂直上昇から進行し始めた直後に、私からの〝頼みごと〟と、別エリアでの見回りで別行動を取っていたトトが、揺れる機内の宙に現れた。

 

「どうだった?」

「(案の定と言うか、例のおじいさん、作戦終わった途端通信入れて、千明と特機の人たちにネチネチ文句垂れてた)」

「案の定だな、『無様だな』とか言ってなかったか?」

「(うん、言ってた言ってた、それも含めて端末に送ってあるから)」

「Thanks♪」

 

 実は作戦中の間、トトにもう一度特機部と戦士隊の様子を窺ってくるよう頼んでいたのだ。

 今度は千明司令の手腕も含めて、直に見てきてほしいと付け加えてね。

 

「(でも……言い難いんだけどあの後僕……うっかりやっちゃって)」

 

 お陰で目当ての〝代物〟は手に入った一方、思わぬ誤算があったことをトトから聞かされる。

 

「感染呪術か……」

 

 なまじ勇者を輩出した家の者な上に、日々聖遺物に触れている職業柄の影響で分かり易く言えば〝霊感〟が研ぎ澄まされていた千明司令には、作戦開始直前からとっくに存在を感知され、鎌倉の外道爺からの通信の後に向こうからトトにコンタクトを取ってきたと言う。

 観念したトトは、私からの指示で視察していたことを正直に打ち明けたと言う。

 

「(『余り深入りすると痛い目に遭う、でないと先祖の千景みたいになる』って、釘も刺されちゃった……)」

「いいさ、むしろ嬉しい誤算だよ」

「(どうして?)」

「ご丁寧に忠告をしてくれるくらいには、あちらの司令も良心的な人柄の主だってこと、もしその気だったなら、わざわざトトに伝える必要もない」

 

〝氷の司令官〟。

 千明司令官が公安の管理官だった時代に付けられた揶揄とブラックユーモアたっぷりの異名は、彼女自身の人柄と言うお山の一角でしかないと教えてくれるには、その前の通信の最後の一言含めて充分な、ありがたい〝ご忠告〟である。

 これでこちらも蛇が出さずに藪を突いて情報を仕入れられる許容範囲もある程度見極められるし、今後の行動の進め方の参考にもなったし。

 何より、根っこには確かな〝良心〟や〝義理人情〟をお持ちな、信頼できるお方であることが、トトとのやり取りを想像するだけでもよく分かった。

 

「(確かに良い人だったね、実は他にも〝伝言〟を預かってて)」

「何だ?」

「ちょっとちょっとそこのお二人さん」

「「はい?(はい?)」」

 

 いきなりここで、向かいの席に座っていた風部長が、怪訝そうなお顔で私たちに呼びかけてきた。

 

「あんたたち、結界貼ってまで一体何ひそひそ話してんのよ? さっきから羨ましっ………じゃなくて気になるったらありゃしない」

 

 テレパシーで喋れるトトの存在で、自身の精霊(パートナー)である犬神たちとお喋りしたい願望が一瞬漏れたのは横に置いといて。

 私とトトのさっきまでの会話は、トトの防音結界とヘリの駆動音もあって当人以外は全然聞こえない仕様にはなっていたが、敢えて風部長に会話している模様は見える様にはしていたので、いずれ聞いてくるとは読んでいた。

 ある程度はこの勇者部初代部長にも話しておきたかったが、どこまで内容を伝えられるかチェックする時間は欲しかったので、わざとこういう仕様にしておいたのだ。

 そうだな………トトの眼(カメラ)がばっちり撮ったものくらいは見せても良いだろう。一時は大きくなったリーダーの静音に対する不信もより払われるだろうし。

 私はまず、密かにトトに特機部の視察の指示を出していた件を打ち明ける。

 

「朱音………ちょっと危ない橋渡ろうとしてない? トト君まで巻き込むの勘弁してよ」

 

 苦言(ツッコミ)を貰うのも、想定の範囲内。

 

「重々気を付けはしますよ、でも私がこうしているのは、昔の貴方たちのような目に遭ってほしくないからでもあります」

「っ………」

 

 私たちが独自にこうして調査を進めている理由の一つを述べると、部長の表情の苦味は増してそのまま押し黙ってしまう。

 私も眼(めせん)からでも、大赦の大人たち、神樹様、そして勇者システムに備わっていた機能――〝満開〟の隠された残酷なる代償と、勇者としてのお役目の狭間で苦しめられ、半ば〝消耗品〟扱いされた自身と愛する妹と仲間たちの記憶を追想しているのが見て取れた。

 

「そしてさっきも話しました〝いざという時〟の為にも、トトが撮ってきたこれを見て頂けますか?」

 

 私はシートベルトを外し、比較的機動が安定した機内を渡って風部長の隣に座り直す。

 

「トトも含めて、精霊には自分が見たものをパートナーの専用アプリに記録することもできるんです」

「え? そんな機能もあったの?」

「はい、トトから聞きました」

「はぁ~~ますます神樹様には犬神たちに喋らせてほしいわよ」

 

 全くの初耳だったようで、精霊と《NARUKO》の一機能に両目を点にさせている部長をよそに、端末を操作して例の映像を再生させる。

 画面に表示された特機部の司令室内に、立体モニターが現れ、一人の男の姿が映される。

 その姿は御簾のベールに遮られ、シルエットぐらいしかお目にかかれないが。

 

「まさか、こいつが……」

「はい、この男こそ――風鳴訃堂、翼や弦さんの肉親にして………この国の影の宰相ってやつですよ」

 

『諏訪の開放が鳴ったのだな、郡よ』

 

 映像内のモニターから、威厳こそあっても、おおよそ人の温かみが一切感じられない、地の底より這い出てくるような渋く低音な声が響いた。

 かつて翼は、〝感情無き剣〟に固執していた時期があった………その道を進んでしまった成れの果てが、こいつだと言えよう。

 

「ちょっと待って、今『こおり』って」

 

 私は、目線(カメラ)千明司令の横顔に移った時点で映像を一旦止める。

 

「『郡千明』、現特異災害対策機動部の司令で、公安時代の弦さんの元上司であり、千景の子孫ですよ」

「え、どえぇぇぇぇぇぇーーーーーー!」

 

 千明司令の大まかな身の上を話すと、予想はしてたけど、風部長は機内どころか外にまで響き渡りそうな驚愕の絶叫(リアクション)を上げた。

 トトが防音結界を貼ってくれなければ、操縦中なヘリのパイロットさんもびっくりして機内は大揺れだったかもしれない。

 しかし日頃自ら豪語するだけあって女子力は高いお人だけど、翼とはまた違った意味で天性のコメディアンの資質あるな、新○劇に出たら瞬く間に売れっ子街道を登りそうだ。

 

「ちょ、ちょちょちょ待って………頭がしっちゃかめっちゃかで、整理が全然追いつかないんですけど」

「無理もありません、私も今日知ったばかりで驚かされましたから、詳しくは後日静音辺りに改めてってことで」

「そうね……じゃあ続きを見せて」

「はい」

 

 画面中央の再生ボタンを押して、再開。

 

『はい、訃堂殿……』

『無様なモノよ……神樹なんぞの言いなりとなり、国土安全保障の要が何たるかを履き違えしモノどもの落とし子どもに救われるとは』

「かぁ~~~むかつく言い草ね………あんたのせいで私たちと諏訪の人たちはとんだ貧乏くじよ」

 

 何となく重要なことな気がして繰り返すが、自ら豪語するだけあって女子力は高い一方、血気盛んな面もあるこの風部長は、かの外道の傲岸そのものと言える威圧さで相手を屈服させんとする態度に、苛立ちを露骨に見せた。

 

『彼らの働きがあってこその、諏訪奪還にございます、そこは素直に賞賛すべきことでは?』

『果敢無きかな……よいか郡、此度の諏訪奪還において彼の者どもの勇者風情の力を借りるは大赦の者どもへ貸しを作るための砥糞にすぎぬ』

 

 やはり今回の作戦を皮切りに、この造反神との戦争の舵取りを乗っ取り、あわよくば直接指揮をも実質的に牛耳る気でいたな………。

 

「これ下手すると、今後もこの爺さんの無茶苦茶な指図受けてバーテックスと戦う羽目になってたって……ことよね?」

「その通りです」

「最悪……」

 

 ああ、全く以て同感………最悪だ。

 

『されど、まんまと櫛名田如きの子に、してやられるとはな』

 

 痴れ者めが、こちらとしては――ざまあみろだ。

 祖国の片割れたるこの日本は、地球内で存在する国々の中で最も戦争及び軍事面で酷い音痴な苦々しい負の一面も持つ国家だが、こいつは私の知る限りその中で最も極地にいる無知蒙昧な――You bastard!(クソヤロー)――だ。

 この爺にだけは、国防だの安全保障の何たるかだのを言われたくはないし、筋合いは一切ない。

 その点では、どうにか〝借り〟を外道に作らずにしてやった、仲間からの反発も、一般市民の犠牲すらも覚悟で奇襲作戦を敢行した静音の采配が、結果的に功を奏したわけだな。

 

『まぁよい、国土安全保障の要たる諏訪の奪還、大儀であった、されど貴様の家が我ら風鳴により救われたというその事実、忘れるな、郡よ』

『無論…………』

 

 最後に千明司令を通じて郡家そのものに釘を刺した外道は、言いたいことだけ一方的に彼女たちに付きつけ、通信を切った。

 映像自体も一時停止させる。

 

「朱音………最初に翼の爺さんの話聞いた時、『昔の大赦と一緒じゃない』って言ったわよね?」

「はい」

「あれ……撤回する、この憎たらしいジジイに比べたら静音の言う通り、大赦の方がまだ良心的だったわ………今とあの頃ひっくるめてね」

 

 大赦に対しては、勇者たちの中で最も悪感情を抱く風部長にまでこう言わせる。

 上には上がいる、と言うことだ。

 

「静音って、こんな連中と毎日付き合ってたのね………それも考えずにぶつくさ言ってたさっきの自分を叱ってやりたいわよ」

 

 そうだな……。

 この後も、最も苦労が待っているのは、何を隠そう………静音だ。

既にヘリは、いくつものライトが灯される松代基地の上空にいた。

 窓の向こうの地上を見下ろせば、先に到着してヘリから降りたばかりの静音の姿を目にする。

 私の眼には、確かに見えていた。

 夜天の下、灯りに照らされ毅然と歩を進める彼女の背中に、今回の〝戦い〟にて新たに加えられたものも含めて、背負っているものを。

 

 

 

 

 

 深夜の約三時間に渡っての戦闘でもあった為、松代基地に戻った装者勇者一向の〝ほとんど〟は、ほどなくこの一日で蓄積された疲れを癒す眠りに就いた。

 ただほとんどと記した通り、例外もいるのだが。

 SONG側の指令所内の一室では、静音がPC端末の前でデスクワークに勤しんでいた。無論次期大赦代表候補の多忙な職務の一環である。

 二重の五指に叩かれるキーボード。

 端末の駆動。

 静音自身の呼吸、慎ましく鼓動する心臓。

 多少なりとも〝音〟は存在しつつも、それでも静寂が室内を回り、流れゆく中、静音の背後から自動ドアが開かれた音が鳴り。

 作業を一度止めた静音は振り返る。

 

「Excuse me(失礼するよ)」

「あ、朱音、貴方も起きてたの?」

 

 訪問者――淡い緑のナイトウェアに同色のカーディガンを羽織った格好の朱音は流暢なネイティブのアメリカ英語で、部屋に入ってきた。

 

「次期代表候補殿は今夜も仕事が大量に残ってると思って、ちょっと軽い夜食をね、おにぎりとグリーンティースムージーだ」

 

 丸型のお盆の上には、海苔が丁寧に巻かれて丸み気味の三角形なおにぎりが、手にべとつかない為の配慮で竹の葉の上に乗せられた二つと、湯気沸き立つ、例のマリアたちが助けた農家のおばあさんからのおすそ分けな地元野菜の栄養もたっぷり混ざった緑茶が入った湯呑みが添えられており、それを机に置く。

 

「なぜ私が仕事中と?」

「薄々感づいてたけど、ヤタ君がトトに教えてくれてね」

「ヤタが?」

 

 それを聞いた静音は、懐から端末を手に取り、自分が勇者のお役目を務め始めてからの長い付き合いである相棒の精霊、ヤタこと八咫烏(やたがらす)を呼び出し。

 

「本当なの?」

 

 と問うと、猛禽類を連想させる、片方に歴戦の古傷の如き稲妻の模様が走る鋭い眼のまま八咫烏はこっくり頷いた。

 園子曰く他の勇者の精霊よりもワンランク上で、自らバーテックスに攻撃することも可能な八咫烏だが、〝喋れない〟点では他の精霊と同様で、ゆえにテレパシーで人間と直接会話できるトトを通じて、疲労が残る身体で仕事に励む主人を助けてほしいと朱音に頼んできたのだ。

 

「それはどうも、世話をかけたわね、ヤタも朱音も、ありがたく頂くわ」

 

 そろそろ小休止を考えていたところでもあったので、丁度いい助け船である。

 早速静音はまずおにぎり一個目を一口、柔らかさと弾力さのバランスが秀逸に取れ、米そのものの甘味を邪魔しない適度な塩加減と海苔の風味で合わさった旨味が広がった。

 

「さすがね」

「お味がよろしいようで光栄だ」

 

 さすが、東郷(すみ)に風に調やマリアに並ぶ卓越した料理の腕の持ち主だけあると噛み締めつつおにぎりを味わい、茶葉の苦さと野菜の風味が調和を持って混ざり合った緑茶スムージーで一服する。

 

「でも、わざわざこんな夜遅くに私のところへ来たのは、それだけじゃないでしょ?」

「ご名答、実はトトがあるお人から伝言を預かっていてね、早い内にお伝えしておこうと思って」

「伝言? 誰からなのその物好きは?」

「郡千明司令」

 

 ある種の天敵とも言える相手であるその名が朱音の声に乗って静音の耳に入った瞬間、熱いものには比較的強い身ながら、彼女は驚愕で咽て、咳き込んだ。

 

「あ……貴方のアメリカンジョークって………わけじゃないわよね?」

「いくら私でも時と場合と場所くらい選びます、証拠をご所望ならお見せしますよ」

 

 朱音は、自身のスマホの画面を見せる。

 トトの眼を通して記録された映像の一部を静止画したものだが。

 

「………」

 

 そこには、少なくとも自分の記憶では、よく見積もってもほとんど見た覚えがない………微笑みを浮かべて、勝利の歓びを仲間たちと共有し合う先祖の千景の姿が映し出されたスマホの画面をトトに見せている姿が、映っていた。

 

「トトによればこの写真を見せてくれた彼女は『私個人には上里家への恨みはない』と、それと奪還を成し遂げた静音と弦さんに『よくやってくれた』と、彼女なりの感謝も明かしてくれたそうだよ」

「そう……」

 

(私たちの前では、言われるのを嫌う癖して〝氷の管理官〟の仮面を碌に外してくれないと言うのに、あの人も大概………素直じゃないわ)

 

 静音は内心、幼馴染の奏芽や翼に奏に風辺りから――『お前がそれを言うか』―――と突っ込まれそうな独白を零す傍らで。

 

「言伝を伝えてくれたことと、この夜食には改めて感謝しておくわ、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 感謝を述べ立て、朱音は温かな笑顔で応じたのだった。

 

 

 

 

 

 

「とそれとさらにもう一つ―――またちょっと無茶なお願いがあるんだけど」

「いいわ、そのお願いが何なのか、まずは内容を教えてもらえる?」

 

 今日の……否、今日も含めた諏訪奪還に関する風鳴訃堂の理不尽な要求の数々を乗り越えた後なら、朱音のお願い程度、どんと来いの気持ちな静音に朱音は――。

 

「おそらく今回の諏訪奪還作戦と今後の方針の件で、大赦の幹部会が開かれるだろう、そこに私も傍聴役(オブザーバー)で、参加できないだろうか?」

「え……?」

 

 そう申し立ててきた。

 このさすがに無茶も無理もあり過ぎる〝お願い〟に対しては、どうしても呆気に取られ、一時的に何も言えなくなる状態にまでに陥られてしまう、我らが勇者たちのリーダー静音であった。

 



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13.5B - 神の使徒の脅威

終始SONG本部の潜水艦内の一室だけで続く話なのに一万字超えちゃいました(冷や汗
それももっぱら朱音の口から語られるバーテックスの恐ろしさと諏訪作戦関連がメイン、でも次の正式な奪還作戦までに遺恨は片付けておかないとね。
劇中引用した(psycho-pass見たことある方はご存知でしょうが)『戦場の摩擦』は『カール・フォン・クラウゼヴィッツ』で検索。


 諏訪奪還作戦から数日が過ぎ、リディアンの制服も夏から中間服に衣替えされたばかりのあくる日の土曜日。

 私はSONG本部の潜水艦内にいくつかある多目的室(レクリエーションルーム)にいた。今日はここで、クラスメイトの切歌たちと勉強会を行う予定になっている。

 なぜこの場所で? と言われれば、リディアン分校の図書室にも似たような自習室はあるが私語はご遠慮で当然飲食も禁止。

 寄宿舎の部屋でやる手もあったが、今日は自分たちで自主練(本部は軍港に停泊しているので、近くには特訓に使える施設設備は豊富だ)かつ、先日の戦闘の事情から、緊急招集があっても直ぐに司令室にかけつけられるようにと、ここをチョイスしたのである。

お役目も勉学も、学生にして災厄と戦う戦士である私たちにはどちらも大事だからね。

 で、私は集合時刻よりまだ遥か手前の時間で先にここに来て、行く途中で買ってきたお菓子も置かれたテーブルの前で寮部屋から学習道具一式と一緒に持ってきたノートPCで、先日静音から提出を求められた報告書(レポート)を書き、トトはと言えば今日も常時実体化してスマホから繋いだインターネットで、動画サイトより公式配信されているドラマを見ていたりする。

 トトの防音結界なら、スマホのスピーカーから発する音を一切遮断できるが、私は一部例外除き、あらゆる音を〝メロディ〟として捉えられる聴覚と脳と感性を持っている為、敢えて結界は使わせずに作業用BGM代わりとしている。

 

「(なにが津積(つづみ)だ、俺の鈴見(すずみ)と似たような名前しやがって! 俺じゃなかったのか!? 及川(およかわ)が好きな人は、俺じゃなかったのかッ!? 幼き時に芽生えたほのかな初恋を、今でもずっと胸に抱き続けているパターンカッ!)」

 

だからこうして見入ってるトトが勢いで劇中の登場人物の台詞を復唱していても作業に支障は一切出ないし(チラ見すると、主人公の『鈴見先生』を演じる俳優さんが端整な塩顔を物凄い形相にして、高速で独白し、同じくらい高速でキーボードを打ちまくっている、PC画面に映るのは意味不明の文字の羅列と化していた、これなら響のヒエログリフな文字の方がまだ解読できる)。

 

「トト先生、しっかりして! そんなところを人前で見せてはいけません、シークワーサージュースを一口どうぞ」

「(どうも♪)」

 

 劇中の展開同様にトトを宥めて作業がてら飲んでた紙パックジュースを差し入れるくらいは、ノリも良い方だと自負している。

 ちなみにさらりと関節キスだが、ガメラ同士お互い全然気にしてない。

 

〝~~~♪〟

 

 とこんな感じでちょっとした気晴らしにふざけ合っていた私たちの耳に、スマホのSNSメールの着信音が響いた。

『鈴見先生』の再生を止めてメールを確認すると――相手は歌野からだった。

 

〝ハローエブリワン♪〟

 

 出だしから、カタカナで入力された英語で『みなさんこんにちは』、日頃からジャパニーズイングリッシュを使う歌野らしい、勿論これは彼女の人となりを代え難い『個性』として褒めている。

 未来の生まれ故郷があんなことになったと言うのに、その前向きさを失わないメンタリティには、敬服するよ。

 

「(歌野から何の連絡が来たの?)」

「次の休日に、収穫作業を予定してるんだって」

 

 内容は、静音の根回しで大赦が提供してくれた土地で歌野が栽培している作物が、丁度食べごろを迎えたので、その収穫作業の手伝いを募集していると言うものだった。

 スマホ内のカレンダーで、当日までのスケジュールを確認してみる。

 特にその日には、具体的な予定はなかった。

 

「(どうするの? 僕はやってみたいんだけど)」

「勿論私も参加希望するさ、歌野が丹精込めて育てた野菜で料理を作ってみたいし、丁度今は〝実りの秋〟ってやつだろう?」

 

 他の西暦勇者同様、歌野もこちらでは讃州中学に在籍しているが、平日でも一日の大半は彼女のライフワークな農作業、水都も手伝いはするが学校にはちゃんと通っている為、成人男性でも重労働だと言うのにほとんど一人で自らが育てる作物の面倒を見ている……そんな楽しそうに勤しむ彼女の姿を、私も放課後よく目にしていた。

 その歌野が自ら助け船を求めて来たのだ、私もトトも応えない気は一切ない、せっかく実った作物を多くの人にも食べてもらいたい。

 

「それに勇者部の活動目的は――」

「(〝世の為、人の為になることをやっていくこと〟、だね♪)」

「だな♪ 実に気持ち良い響きだよ、友奈たちの気立ての良さがよく出てる」

 

 私は勇者部の活動と、いわゆる戦場にて災いに立ち向かう意味での〝勇者〟のお役目に対し、この両者はある程度棲み分けた方が良いと考えているし、今でも諏訪作戦の時、農作業で残っていたおばあさんには申し訳ないけど、収穫より避難を優先すべきだったと、今でもこの意見を変えるつもりはない。

 それにだ………特にかつての友奈たちの代の面々に間で起きた悲劇の数々は、大赦の過剰な事なかれと隠蔽主義も大きな要因の一つだが、他の勇者たちと違い、訓練に励む時間も覚悟を前もって決めておく間すら許されず実戦にいきなり放り出されたが為に、〝部活動の延長線上〟で命がけの戦いに挑む歪さを抱えてしまったことで………起きてしまったものでもある。

 もし私が風部長の立場だったら、相応の準備(くんれん)を行う為の時間と環境を提供し、バーテックスとの戦闘込みで部の顧問となってくれる大人の派遣と、勇者システムに関する性能の全ての開示を求め、それが受け容れられない場合であれば、断固拒否する姿勢を腰抜けの神官たちに見せていたに違いない。

 けど一方で、勇者部の活動方針と理念そのものには、私も大いに気に入っている。あの《勇者部五箇条》なんて、かの特撮巨大ヒーローの三作目の最終回に出た誓いそっくりでにやけちゃうくらいだし。

 それに………これを自分で言うのも何なのだが、私も結構世話焼きのお人よしで困っている人がいたら見過ごせないタイプであり、かの部の理念と波長が合うのだ。

 

「そうと決まれば」

 

 早速、収穫作業に参加表明する返信のメールを歌野に送る。

 

〝サンキューベリー~~マッチ♪〟

 

 ほどなく、歌野から感謝のメールが帰ってきた。

 さて、収穫当日に臨む為にも、改めて鍛え直さないとね、今日の午後の訓練含めてより気を引き締めていこう。

 と決めつつ、まず静音本人と弦さんらSONGの面々に提出する報告書を完成させ、次に銀たち小学生組にも読み易く分かり易い、〝同僚閲覧用のレポート〟の方に取り掛かった直後。

 

「おはようなのデ~ス♪」

「おはようあやちゃん」

「おはよう」

 

 切歌と調と英理歌の三人が入室してきて、我ら高一組はようやく揃った。

 

「あやちゃん、私たち先に来て何をしていたの?」

「あ、ちょっと静音からレポートの提出を求められてね、みんなが来るまでそれを書いてたんだ」

「デデデデース!? なんとお役目にも宿題があるなんて聞いてないですよ、私たちも出さなきゃならないんデスかッ!?」

「切歌、まずは君が落ち着いて」

 

 かなり前からこのルームに来ていたことを見抜いた調からの質問に答えると、切歌がとんだ早とちりをしてしまい、英理歌はいつもの抑揚が控えられたマイペースさでミニサイズのペッドボトル飲料を差し出した。

 

「心配ない、これはあくまで静音が私個人に課したものだから、君たちに提出義務はないよ」

「そうデスか……ほっとしたデ~~ス」

「でも、その静音さんからのレポートって?」

「あっ……」

 

 一瞬、報告書(レポート)の具体的な内容を伝えるかどうか、勉強会の直前なこともあって一瞬、逡巡が過ったが。

 

「この間の、諏訪奪還作戦に関することさ」

 

 正直に、レポートのお題を切歌たちに打ち明ける。

 今後もみんなとともに〝災い〟と戦う日々が続く以上、禍根は残しておけないし、早いところ手は打っておいた方がいいと判断したからだ。

 

「「………」」

 

 予想はできてたけど………静けさと一緒に室内の空気の重さと苦々しさが、一気に増幅かつ増量されたのを感じ取る。

 三人の様子を見ても、時々同い年として羨ましくなる、あどけなさの残る顔立ちが固く、明らかにやり切れない想いがこびりついていた。

 

 私からすれば〝戦略眼〟は皆無に等しい風鳴訃堂の不条理な要求から端を発し、神樹様の意向を完全無視して人類が独断専行(スタンプレー)に走ろうとした中、小手調べの先手も撃たれこちらの作戦を把握された挙句、決行の前倒しも迫られると言う、波乱尽くしだった諏訪奪還作戦。

 相手がバーテックスゆえに……作戦中止も撤退も許されず、またまともに猶予も残されていない中、静音が選び取り断行した作戦は――。

 

 まず特機部の部隊が、諏訪の地〝全域〟に砲撃し、相手の態勢を崩して混乱に至らせたところを、四組にチーム分けされた私たち勇者が要のバーテックス四体へ一気に畳み掛け、撃破する。

 

 ――と言うものだった。

 冗談も誇張も抜きで、諏訪の全地域に現代兵器の砲撃の驟雨が降り注いだのだ。

 非戦闘員たる諏訪市民を危険に陥れる、よりはっきり言えば民間人の犠牲を前提とした人道面で問題のあり過ぎるこのプランを前に――ここまでせずとも、自分たちが首尾よく取り戻せばいい――等、 当然ながら、決行前に作戦概要を聞いたみんなからは反対の意志が、嵐の如く巻き起こったが。

 

〝どう思おうがかまわないわ……私の作戦をね、でも今は私たちのやる事に集中しなさい、罵倒も何もかも、あとでいっぱい受けてあげるから……〟

 

 静音は過去の自分自身――鷲尾清美含め仲間たちから殺到する不満、反論、批判の言葉に宿る想いを理解し、真っ向から厳粛に受け止めつつもそれでもかのリーダーは方針を曲げることなく、作戦は断行された。

 

「まだ今でも不服か? あの時のリーダーの御采配には」

「うん………今さら静音さんにどうこう言いたくはないし、犠牲になった人がいなかったのは……良かったけど」

 

 ただあれほどの大規模で、バーテックスをも混乱させる砲撃に見舞われながらも、決行直前に特機部からの緊急避難勧告が市民たちに行き届いたことと、市内各所にシェルター設備が充実していたこともあってか、避難中の負傷した民間人がいくつかいたものの、犠牲者は一人たりとも出ず、私たちは作戦通りにバーテックスを撃破し、諏訪の地を取り戻すこと自体は成し遂げた。

 けどそれでも、諏訪の地が甚大な被害を被ったことにも変わりなく、私が風と警戒任務で見回った地区だけでも、流れ弾によって火の手が上がり、全壊も入れて倒壊してしまった建築物がいくつも見られ……諏訪の人々の日常(せいかつ)は奪い去られ、私たちもその片棒を担いでいる現実と、結果がどうあれ、私たちは守るべき人々を、勝利を得るための〝贄〟にしようとした事実に変わりないことも、突きつけられた。

 たとえこの結界(せかい)自体は神樹様が自ら本物そっくりに作り上げた幻でも、事情を知らないまま魂だけ連れてこられた人々にとっては、自分たちが今を生きている〝現実〟そのものである……奪ってなどいいわけがない。

 それに………神の使徒たるバーテックスには一切通じないだけで、現代兵器もまた恐ろしい破壊力を秘めた〝武器〟であることを、前世で何度も身を以て味わった私も改めて思い知らされもした。

 同時にこれらの兵器を〝守る為〟に取り扱い、伴う責任を背負う守護者同士、今は戦友たる方々への敬意もより増したし。

 

「やっぱり……他に方法はなかったのかなって……思うことはあるデス」

「私も……」

 

 数日過ぎた今でも、切歌たちのように胸中にしこりが大きく残ったままでいるメンバーも少なくない。

 私が諏訪奪還作戦に関するレポートを書いているのは、静音にある〝無茶なお願い〟を聞いてもらった代価として課せられたものでもあるが、私自身みんなへのせめてものフォローの為に自ら率先して行っていることでもある。

 

「あやちゃんもあの時言ってくれたじゃないですか……〝私たちのお役目の基本は、『危険に晒される命を守る』こと〟だって」

「なのに……勝てたけど……結局私たち、守ろうとしてる人たちを、巻き込んじゃった」

「yeah(ああ)」

 

 キーボードのタイピングを続けたまま答える。

 切歌が引用した、私が彼女たちに発破で掛けた言葉。

 長く戦いの暗闇の中で己を見失い、遠回りと迷走を繰り返し、挙句降り出しに戻ったその先に見い出した、守護者(ガメラ)としての自分の――〝信念〟の一角だ。

 

「私だって納得していない………できることなら、諏訪の人達を巻き込むことなく、どうにか無傷で、歌野の故郷(ふるさと)を取り戻したかった……」

「だったら……」

「でも――静音のあの決断の意味は、納得できなくても、理解しようと努めてはいるし、無策で奴らに勝てるほどこの戦争(たたかい)は甘くないとも思ってはいるよ」

 

 自分の発言の意図を読み取れきれず疑問符を浮かべる友たちをよそに。

 

「『モニターオン』」

 

 私の音声入力で、室内の壁の一角が展開され、このルームに設置されているスクリーンを現出させた。

 

「これはほとんど私の推理でしかないんだが―――恐らくあの日、造反神側はこちらの奪還作戦を逆手に取って、ここまで敗戦続きだった戦況を一気に逆転させようと画策していた可能性があるんだ」

「えっ…?」

 

 前置きはしたが、やはりの私の〝推理〟を前に、切歌たちは戸惑いで絶句して、言葉が出なくなる状態に陥ってしまった。

 

「いつ頃奴らがこちらの動きに感づいたかだが――」

 

 そんな彼女たちに、私はレポートの作成を通じて組み上げた〝諏訪作戦〟に関する自分の推理の、具体的な内容の説明を始める。

〝お役目〟に関係することもあり、PCの画面に微かに映る、私の翡翠(ひとみ)は守護者(ガメラ)の時の、刃な鋭利さになっていたが、話のお題がお題なゆえに、むしろ丁度よくさえあった。

 

「松代基地が準備で慌ただしくなり、住民の避難が始まった頃くらいには、造反神側も人間側(こちら)が〝攻める〟気であり、侵攻先が諏訪だとも見抜いていたと、私は考えている」

 

 ヘリから見下ろした基地は、臨戦態勢を進める模様が私の目でもありありと見えていた、なら奴らも看破していたとしても、何らおかしくはない。

 

「ならどうして、私たちが来るまで何の動きも見せなかったの?」

「待ってたからさ、人間、そして地の神々にとっての〝虎の子〟である私たちが来るのをね」

 

 戦力差で言えば、造反神側の方が遥かに上だ。

 単純な数だけでも、私たち勇者よりバーテックスの方が圧倒的に多いし、一時は戦わずして勝利を目前としていた、にも拘わらずギリギリのところでいざ本格衝突が始まってからは負け越して陣地を奪還され続けている以上、主戦力にして切り札たる勇者たちをどうにか撃破したいと言う思惑が向こうにあった筈、だから私たちが基地に付いた作戦決行日まで、大きな動きを見せなかった。抜かりなく偵察はしていただろうけど。

 

「あの最初の襲撃も、咄嗟の判断ではなく、連中の作戦の第一段階だったとしたら?」

 

 この第一段階こそ、敵側の威力偵察を目的としたあの襲撃だった。

 

「じゃあ、私たちの班を狙ったのも……」

「まだ避難し終えてなかった住民と一緒だったから、連中にしてみれば敵情把握には最も打ってつけだったろうね、でなければあのおばあさんが、今まで無事に農作業できていた説明がつかない」

 

 憎き人間を目の前にして、マリアたちが収穫作業の手伝いを始めるまで動かなかったのは、より敵側の事情を掴むのに好都合だったから。

 こうしてあの威力偵察で、連中は目論見通り以上の情報を確保してしまった。

 今回の侵攻は、前回と違って人間の独断で、神樹様の意志は一切介してないないこと。

 樹海がなければ。民間人一人安全を確保するのに手間取ると言うこと。

 そして――

 

「連中が予想していたよりも遥かに、まだ神樹様の力が弱まっているままだったと知られたわけさ」

「えっ?」

 

 三人はまた面食らった様子を見せた。

 

「切歌と調は戦闘中だったから無理ないけど、おかしくはなかったか? いつもなら敵襲の警報が鳴れば即座に起きる樹海化が、なぜあの時は起きなかった?」

「言われてみれば……はっ」

 

 ここで英理歌が気づいたらしく、はっとした表情を、見せる。

 

「ってことは、まだ神樹様は、樹海作るだけでも時間がかかるくらい、力が戻ってなくて無理してるってこと?」

「その通りだ英理歌、神々の根城の四国から離れた諏訪の地であったのも理由だろうけど、考えてもみろ」

 

 魔法少女事変が収束した時点で、既に神樹様はかなりのダメージを負っていた。

 その矢先に、弱り目に祟り目とばかり、地の神々の一角が造反神となってクーデターを起こし、それが成功する直前のところで踏ん張り。

 それが勝つ為に必要な手段だったとは言え、自らの内部に現実と寸分違わぬ仮想世界たる結界を生み出し、そこにほとんどの人間は魂だけを、勇者たちと、彼女らをサポートする面々は肉体ごと呼び寄せた。

 無論、現実の世界を〝天の神〟の業火より守護する結界も、維持したままで。

 

「弱った身体で、神樹様はこれだけの無茶をしているんだ、樹海一つ作るだけでも、相応の時間と準備が必要な状態で、今この瞬間にも、神樹様と造反神との間で、武力を伴わない心理戦(ポーカーゲーム)が行われているのさ、いざ戦闘が起きても、直ぐに樹海を形成して私たちが戦いやすい状況にできるようにね」

「あ、だから最初に、ひなたを呼び寄せたんだ」

 

 そう――この結界(せかい)を作って、その時は〝一人〟召喚するのが手一杯だった筈な中、他の時代からのアシスタントとして最初に呼び寄せたのが、勇者ではなく巫女のひなただった理由がそれ、神託を受けることができ、神々自らの意志を伝えられる巫女が、早急に必要だったのだ。

 私たちはバーテックスと戦う力こそ持っているが、敵が神様でこちらが人間な以上、相手の手の内を読む手段がほとんどない。

 逆に神樹様は、造反神と武力に依らぬ駆け引きと、私たちが戦い易い環境を提供することはできても、直接戦う術がない。

 

「だからこそ神託を通じての神樹様と緊密な連携を取って、少しずつ領土を奪還していくのが、最も確実な戦略方針だったんだが……とんだ〝摩擦〟の横槍に入られた」

「摩擦……デス?」

「あるドイツの軍事学者が見つけた戦争の概念の一つさ、彼はどれだけ緻密に作戦や計画を事前に立てても、実際の戦場(せんじょう)では様々な想定外のアクシデントで計画通りに事が進まない障害が発生すると提唱した、それが〝戦場の摩擦〟」

 

 で、この造反神との戦争で、今回の諏訪決戦の際に起きた大きな摩擦こそ。

 

「風鳴訃堂」

「翼さんのお爺さんで、司令のお父さん……」

「あやちゃん……あのおじいさんの話になった時、なんて言ってデスたかね……えーと、なんとか主義とかどうとか――」

「国枠主義………自国のシステムが維持できれば、外国とその国の人々がどうなろうが、国民すら多数犠牲しようが構わない……簡単に言えば、国家規模の〝自己中〟で、国自体を自滅させかねない危険なイデオロギーの塊な怪物だよ、奴は」

「なんか……寒気がしてきた」

 

 そんな亡国の末路も招き入れるイデオロギーに骨の髄にまで染まり切った外道の考える作戦だの計画だの戦略だの国家安全保障なんて………机上にすら置かれない、絵空事と断じるのも生ぬるいくらい、虚無を極め切った空論でしかない。

 

「悔しいがな………あの外道の要求を呑んでしまった時点で、私たちには市井の人々に代償を強いる選択肢しか残されていなかったんだ」

 

 静音もそれを重々誰より理解していたからこそ、限られた時間の中、即興で編み出した、人道面では問題のある上に仲間たちから強い反発を確実に齎す作戦(オペレーションプラン)を、毅然とした態度の裏で心中では断腸の思いで断行したのだ。

 

「あのまま私たちだけで攻めても、万全の防衛態勢で待ち構えていたバーテックスを前に、最悪全滅していたかもしれない」

「デエぇぇぇ~~それほど危ない状況だったんデスかあの時」

「そう考えた方が妥当だよ、もし私が造反神だったら……先の威力偵察で得た情報も活用して、敵の殲滅作戦を二つ、考案して実行していた」

 

 二つ指を立てた私は、先に用意していたモニターも活用して、自分の仮定を下にした造反神の作戦の第二段階と言う〝可能性〟の説明を始める。 ノートPCの画面をスクリーンに繋ぎ、レポートを構成する一頁、諏訪と松代の俯瞰図であるCGのマップを投影させた。

 

 まず一つ目――勇者たちが攻めてきた場合の作戦。

 諏訪を直接支配し、安曇野、松本、東御、佐久市にそれぞれ身を置いていた四体のバーテックスは、いずれも作戦開始直前には人口密集地の近くに点在していた。

 もしこっち先手たる諏訪全地域への砲撃をせず攻め込んでいれば、奴らは躊躇わず周辺に住む民間人たち全てを人質に取り、私たちが攻めあぐねている間、多数の星屑で退路を断ち、基地ともチーム間とも分断。

 その間に伏兵たちが、松代基地に奇襲、装者も勇者もいない、通常兵器しか持たない基地は、瞬く間に壊滅(千明司令でも対抗戦力がない以上どうしようもないし、弦さんでもバーテックス相手では自分の身を守るだけで精一杯だ)。

 完全に支援も補給も断たれ、四面楚歌となった私たちは、数の暴力の驟雨を前に全滅。

 

「次に二つ目――」

 

 勇者たちが攻めず、撤退を選択した場合。

 松代基地が退避準備の動向を見せたタイミングで、まず松代住民たちが集まる各避難所を奇襲。

 同時に、三方を山に囲まれた松代の地形を利用し、大量の星屑の群体で上空を覆い、シンフォギアならエクスドライブ、勇者システムなら満開でも使わない限り、メンバーの大半は長時間の飛行能力を持たないアキレス腱の一つを突く形で制空権を確保、勿論避難民の救出も妨害。

 民間人一人助けるだけでも苦労した私たちを嘲笑うが如く、バーテックスどもは私たちとの戦闘よりも特機部隊員たち及び避難民の襲撃に注力。

 私たちが一人助ける間に、百人を殺す勢いでこちらの戦意を、心身を消耗させていき、こちらも最終的に全滅。

 

「そんな……」

 

 これらをモニター内の俯瞰図と併用して説明を聞いた切歌たちは、すっかり戦慄して立ち尽くしていた。

 でも私は緩める気はない、今後戦闘がより激化するのは必至で、自分たちの信念を揺さぶろうとする事態や試練がいくつも押し寄せ、ギリギリ決断を何度も迫られることは避けられない以上、ここは敢えて強く忠告しておかないと。

 

「連中ならこれぐらい一切躊躇せず行うぞ、同じ対人類殲滅兵器であるギャオスとノイズと、バーテックスの間には、決定的な違いがある、それは残忍と狡猾さを併せ持った〝知性〟だ」

 

 最初にバーテックスと直に戦った時点で、奴らの恐ろしさはその数と、戦闘能力と、再生能力だけではなく、確かな〝知性〟も有していると私は察していた。

 

「そしてこの神の使徒どもには、憐れみも、良心の呵責も、慈愛も、何より〝心〟も存在しない、人類をこの手で殺し尽す本能のままに、奴らは手段を選ばず、絶対に諦めない………私たちが戦っている相手は人知を超えた〝殺戮兵器〟なんだ、それを忘れてはならない」

「はい、デス」

「「うん」」

 

 大分空気の重みがより増してしまった室内に。

 

「(おまたせ)」

 

 説明している間、一時退室していたトトが宙に現れ戻ってきた。

 

「(まずは座って、これでも飲んで落ち着こう)」

「あ、ありがと……」

「ありがとうデス」

 

 艦内にある自販機から、シークワーサージュースの紙パックを買ってきていたのだ(一本百円なので、百円玉三枚持って買いに行くくらいトトには造作もない)。

 トトのファインプレーに、私は相棒の頭と甲羅をなでなでして讃え。

 

「きゅ~ん♪」

 

 愛らしい肉声を上げた。

 ああ~~やはりトトの可愛らしさは一級品だな。

 

「すまないな、これから勉強会な時に重苦しい話をして」

「いいよ、まだ戦いもこれからだから、あやちゃんの話はためになったし」

「むしろお役目への気合いと覚悟はより引き締まったデスよ」

 

 良かった、もう少し休憩時間を設けた方が良いかなと思ったけど、この三人の様子なら問題ないな。

 

「なら早速、勉強会を始めましょうか」

「デッースッ!?」

 

 早速当初の予定通り、学生の本分たる勉強会を開こうとした矢先、切歌が奇声なリアクションを見せてくる。

 

「何の為に中間テストまでまだ猶予がある中で予定組んだと思ってる?」

 

 私たちは人類守護のお役目と二足の草鞋の身、今の内に学生ライフの試練であるテストに備えておかないと。

 

「それでテスト本番に赤点取ってみなさい、補習に追試でお役目の鍛錬もままならなくなるよ」

 

 命がけなのでSONGからは相応の高い報酬を貰ってはいるが、元は旧二課のシンフォギア装者候補選抜の為に創設されたリディアンの方はお役目で忙しくとも授業もテストも単位取得義務も免除してくれるほど甘くなく、そこは進学校だけある。

 

「でも午後の特訓まで体力が続くか心配なのデス」

「その心配は無用だよ切ちゃん」

「調……」

「「私たちが今日もとびきり美味しくて、気合いと根性と元気が漲るランチを作るから!」」(ビシッ!

 

 意気の勢いが衰えかけた切歌に、料理人たる私と調が見事に声をシンクロさせて、同時にサムズアップもしてエールを送ると。

 

「うひょひょ~い♪ それなら早いとこ始めるデスよ勉強会!」

 

 一転、勉強会を乗り越えればご馳走が待っていると知った切歌は、俄然やる気のエンジンの調子がトップギアになった。

 

「なんと現金な掌返し」

 

 これには英理歌も痛烈に突っ込みを入れたが、よく見れば無表情が板についてる口元は、少々ばかり綻んでいて、声音もいつもより熱が入ってて高め。

 室内のも空気は、今やすっかり柔らかで温かなものに様変わりしていた。

 

 

 

 

 こういう何気ない日常も、奴らに奪わせしない―――絶対にな。

 



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14.5 - 次なる戦場は

ガンダムNT公開直前に買った澤野弘之さんのサントラのBGM聞いてたら、一気二ブースト掛かって書き上げちゃいました(汗
我ながらなぜこのブーストを本編に生かせないのか(苦笑

それはともかく二重奏XDU本家の14話の裏で朱音が何をしていたのかの話です。
個人的に、このシリーズのオリ主たる静音の祖母な大赦前代表殿は、G3に出てくた、未公開シーンでちゃっかり生き残ってた守部家の刀自のばあさんをイメージして読んでました。


 もうかれこれ、諏訪奪還作戦からおよそ一か月の時が過ぎた。

 その間は造反神側からの敵襲も無ければ、神樹様からの新たな神託すら一つも下りてくることなく、戦況はいわば膠着状態にまで落ち着いていた。

 けど、中国独自の宗教――儒教の〝聖書〟とも言える経典――五経の内の一つ、易経にこのような一文がある。

 

〝天地否、それ滅びなん〟

 

 ――とね。

 とうの昔に、天と地、それぞれを司る神々は背き合い、今は地の神たちすら足並みを乱し、相争う……この世界の現状。

 一見、平穏に見えていていても、次なる危機、見えざる脅威は直ぐ目の前にあり、近づいている。

 人類のスタンドプレーにも敗北を喫した今、造反神は静かに戦略方針の大幅な見直しと、練り直しを行っていることだろうと、人間である私たちでも、漠然とながらも神である敵側の様子を想像するくらいはある程度できる。

 それを直接知る方法が、神樹様からの神託に依らなければならないことに変わりはないのだが。

 いずれにしても、この一瞬よりも短い時にて咲き誇る花のような、儚き〝夢幻の世界〟が、〝戦時下〟であることに変わりはない。

 むしろ、直接的な武力衝突がない、こういう嵐の前の穏やかな状況こそ、戦争において最も注意を怠ってはならない。

 翼が〝防人〟と並んでよく使う言葉――〝常在戦場〟ってやつさ。

 なので、この前の勉強会も含め、学業への取り組みも忘れずに、鍛錬も日々欠かさず行い修練を積み重ねつつ、時にはちゃんと息抜きに友にして仲間であるみんなと、娯楽を堪能したりしていた、この前の歌野の畑での収穫作業も、その一つだ。

 戦時下なのに? と疑問を持たれるかもしれないが―――戦時中だからこそ、平穏無事かつ喜びも楽しさも味わえる一日を過ごせる余裕も必要なのだと、私は私が経験してきた戦いと、二つの我が祖国たちの間で起きた悲劇の戦争から、学んでいる、

 

 

 さて、近況を述べるのもこの辺にして。

 

 

 今日の私は今、一人SONGの本部内にある仮眠室の一室にて、後で自主鍛錬を行う為にリディアンの体操着に着替え、室内に置かれているオフィスチェアに腰かけた。

 端末(スマートフォン)内のアプリを操作し進め、両耳にヘッドセットを、両目には眼鏡のように掛けられる特殊ゴーグルを装着。

 

「(もう直ぐ始まるけど、準備はいい?)」

「ああ」

 

 直後、ゴーグルの内側のモニターに映像が、私の瞳の間近で投影され。

 

「楽しさの欠片もない仮装パーティーだこと……」

 

 早速私は、言葉通りの眼前に広がる光景に毒づいた。

 勇者が使う《NARUKO》が搭載された端末には、トト含めた精霊が目にしたもの、耳にしたものを、受信、映像音声化して記録できる機能が備わっている。

 私が付けているヘッドセットとゴーグルは、その映像と音声をワイヤレスで、しかもVR方式に鑑賞でき、つまり、私は機器を通じてトトの、リアルタイムで捉えられた〝視界〟を、本当にその場にいるような臨場感で共有しているのだ。

 そしてトトが今、どこにいるのかと言うと、香川県某所にある―――大赦本庁の、会議室。

 

『では、これより緊急の幹部会を始めます』

 

 これからここで、次期代表の静音も含めた大赦の、組織のピラミッドの上位にいるいわゆる〝お偉いさん〟な神官たちの幹部会が開かれようとしていた。

 トトは、静音の隣で浮遊した状態で会議の模様を傍聴する実質オブザーバーである。

 なぜトトがこんなところにいて、私は相棒の目を通じてこの会議の中継を鑑賞しているのかと言うと―――それは諏訪奪還作戦の日、どうにか当初の予定通り諏訪を取り戻した直後に遡る。

 戦闘を終えて程なく、みんなが寝静まっている中、疲労が溜まった身で一人職務(デスクワーク)に追われていた静音に、せめてもの夜食を振る舞うがてら、私は自分でもこれは〝無理で無茶〟だと承知の上で、彼女にあるお願いをした。

 

〝次の大赦幹部会で、オブザーバーとして自分を出席させてほしい〟

 

 読み通り、その時静音は大和撫子然とした美貌を渋くして〝無理がある〟と苦言を呈した。

 かつて守護神ガメラ、神様の端くれだったとは言え今の私は〝元〟がつく人間の端くれである上に平行世界からの異邦人である。

 仮にも政府よりこの国への影響力(上には上がいることと、組織柄のせいで全然そう見えないけど)を持っている大赦の本庁に、足を踏み入れるだけでもままならない。

 そこで、我が精霊(あいぼう)のガメラで、元な私と違い現役の神様なトトの出番。

 神官たちにとって、神樹様の眷属である精霊もまた心服すべき存在、それを利用して、代わりにトトが静音に同伴する形で直接幹部会にオブザーバーとして参加し、相棒の瞳(カメラ)を通じた端末越しに私も傍聴する形で了解を得ることができた。現に幹部神官たちはトトが議場に堂々と尚且つしれっといることに、見えているにも拘わらず何の疑念すら抱いていない。

 こうして異邦人の身ながら幹部会中継を傍聴できる機会を得た代価の条件として、作戦の裏でトトに現特機部の視察を行い、千景の子孫である郡千明司令ともコンタクトを取って伝言まで貰い受けた件も込みで、諏訪奪還作戦に関する報告書(レポート)の提出を、ストレートに言えばペナルティを静音は私に課したのだ。

 それもやんわりと笑顔で、彼女がかの表情を浮かべるのは大抵〝怒っている〟時だったりする。しかし、笑みでペナルティをこちらに突きつけた瞬間、千明司令から送られてきたメールが受信されたタイミングは、ある意味で神がかっていたな。

 しかも内容が、要約すると。

 

〝草凪朱音とその精霊トト君、興味深く面白い部下たちを持つお前が羨ましい、彼女らが異世界からの来訪者じゃなければ是非ともスカウトしたいところだが、ここはお前に譲るよ、どうか丁重に取り扱ってくれ〟

 

 これが一体何を意味し、読んだ静音がどういう心境だったかは、敢えて明言しないっでおこう。

 さて、こうしてトトの視線越し議場を見渡せばまあ………静音も入れてこの場に参じた神官たちが揃いも揃って、真っ白い神事服を着こみ、あの人間味を吸い尽くしてしまうそうなのっぺらで不気味な仮面を被って集まる姿は、居るだけで息苦しくなりそうで、滑稽なのに全く笑えず、シュールどころかある種のチープさも付いてくるホラーと化していた………お化け屋敷としても、さっきも口にしたが仮装パーティーとしても全くセンスは感じられないけど。

 訓練に使いたいので実銃(それも西暦時代のアクション映画で使われた)を仕入れてほしいと言う無茶な要望(訓練以外の意図もあるけど)をした私が言うもあれだが、組織運営の予算内にこの仮面を神官全員分作る枠があり、それを着用する義務があるならさっさと廃止した方がいい、完全に無駄に金銭を喰うだけな上に、組織のイメージもより悪くするだけにしか見えない。

 こんなルールを議会政治でも採用してみろ、もれなくマスメディアから〝税金の無駄遣い〟と袋叩きを受けるの間違いなしである。

 

『内容は今後の造反神との戦に関してと、過日行われた諏訪奪還の件に関して――』

 

 さて、仮面越しでもそれを外して放り投げたい本音が見える静音が改めて議題を提示して、始まった幹部会は――。

 

『全くもって度し難いことだ! 我らが神樹様の命に従うことなく、あのような強引なふるまい――』

 

 早速盛大に、本題から脱線して――紛糾した。

 大赦には大まかに、二つの〝派閥〟に分かれている。

 静音とトトから見て右側の議席に座る顔ぶれは、神樹様への過剰な盲信と依存が特に強く、静音が代表候補になり改革が進められる以前は完全に組織を掌握していた〝上層部会〟。

 もう一方で左側の席に座している方々が、若葉の子孫で園子たちの親御である乃木家現当主を筆頭に、篠崎家や上里家らのメンバーで構成された〝常人幹部会〟。

 そして派閥同士の仲が犬猿並に険悪である組織のお決まりごとは、大赦とて例外ではなかった。

 

『――罰当たりにもほどがある!』

 

 机の上に立てられ、日本の国会でも見られるの同じ形をした名札には〝国土(こくど)〟とある上層部会の一人の女性神官は、ヒステリックに喚き散らし、この会議における本来の議題から、どんどんずれて遠のかせていく。

 

『神世紀となり三百有余年、我ら人類は神樹様の下で慎ましく生きる事こそが定めとなったのだ、だというのに国土安全保障だのなんだの、人の都合などを持ち出すとは何たる──』

 

 零れること自体は予測してたけど、それより早々に、私の口からは呆れの溜息が吐き出された。

 当時より少し先の〝未来の一つ〟で巫女の最高権威となったひなたが、組織改革の一環で、何の為に当時は大社だった名を〝大赦〟に改名したか、あの黒墨だらけの史料にも〝理由〟に〝意味〟がしっかり記載されていたと言うのに、その三百有余年の時間で多くの神官たちの間から綺麗に忘れ去られ、すっかり歴史認識が歪められ、実体より乖離してしまっている。

 

『国土! 少しは落ち着きなさい。今はそのようなことを討議する場ではない』

『篠崎、そもそもお前たち常任幹部会がアレを野放しにし続けたことこそが今回のようなことを招いたのであろうが!』

 

 常人幹部会側の一人で、同様に仮面を被っているが、名札の〝篠崎〟で奏芽の実母であることが窺えるショートヘアの神官が宥めようとするも、却って相手を煽る結果となってしまい……議場はさらなる混迷の一途を辿るばかり。

 トトが目線を変えて静音の様子を見せてくれたが、仮面が無意味なくらい大きくため息を彼女も零していた。ヘッドセットから、トトの聴覚が捉えた吐息さえくっきり聞こえてくる。

 私も正直、この辺は見るにも聞くにも堪えない、酷い有様だと思わざるを得ない。

 最早こいつは会議とは名ばかりの、ヘイトスピーチの練習中――と揶揄もしたくなる罵倒中傷の詰り合いな言葉の斬り合いへと、一時は化していたが。

 

『国土、そうは言うがな。あの風鳴訃堂相手にではどうやれば彼の御仁を止められたというのだ? 現に上層部会の言葉を奴は聞くに堪えぬと遮ったのであろう、今回の件で憤っているのは我らも同じこと、言い争うよりかは今後いかにこのようなことを起こさせぬようにするのか話し合うべきと思うが?』

 

 乃木家ご当主のお言葉で、大きく脱線して離れてばかりだった会議は、どうにかようやく本題の線路に戻された。

 だが、あの国枠主義の怪物――風鳴訃堂の蛮行を、今後どう食い止めるのかの対策もまともに浮かばない状況の中、一人の神官が静音に近づき、耳打ちで何かを伝えた。

 

「来た…」

 

 読んでいた通りだ、口元の端が、不敵に上がってほくそ笑む。

 ようやくお出ましときたか、待ちかねたよと――私は笑った。

 

『フェフェフェ……』

 

 静音も入れて議場内にいる神官たち全員が、驚愕でどよめいた。

 

『相変わらずも、陰険な場所じゃわい』

 

 その者は現れて早々、飄々さと老獪さが混ざり合った声音で、毒のあるお言葉を吐いた。

 もしかの無責任アンチヒーローなら今頃――〝D○ユニバースオタの集会かよ〟と辛辣に言い放っていたかもね。

 それぐらい議場は、流れゆく行き先がどこにもなく停滞し、陰湿でどんよりと重苦しい空気が充満していると、映像からでも伝わってくる。

 

『まさか……このような場に櫛名田様が……』

『これは驚きました。まさかこの場に来ていただけるとは』

 

 この議場に新たに現れた、仮面の付き人たちを引き連れし者達。

 

『ことの次第は、既に次期代表たる我が娘より聞かされております』

 

 内一人は静音の生家にして大赦創設御三家の筆頭である櫛名田の宗家現当主、櫛名田咲姫、勿論静音とは実の親子な血縁があり、彼女の面影が濃く垣間見える。

 そしてもう一人の御老体の女性こそ、櫛名田家前当主にして大赦の前代表であった―――櫛名田桔梗その人だ。

 周りの面々と違い、この二人はかの仮面を付けておらず、それが〝格の違い〟の何よりの証となっていた。

 実際、さっきまで威勢と癇癪具合だけは一丁前に常任幹部会の面々に対し喧嘩腰上等の姿勢だった上層部会の連中は、一転して極度に平身低頭して、静音の母と祖母にひれ伏している。

 

『しかし、こちらの言い分すら聞く耳もたんとは訃堂の馬鹿は、相も変わらずじゃったようだの、まぁ、それはそうと上層部会の連中のこの様はのぉ、フェフェフェ――流石に見ものじゃわい』

 

 そうだな、確かに先程の大人げなくて見てられなかった罵り合いに比べれば、まだ見物だよ。

 

『くっ! 櫛名田様、いくらなんでもそれは……』

『あんまりというのなら顔を上げんか貴様ら、そもそのような度胸すらないのであろうがな』

 

 御老体一人の話術を前に翻弄されるだけの上層部会たちの、なんとまあ哀れな道化たる様と、腰の据わりが微塵もないチキン振りよ。

 こんな者たちの為に………友奈たちは。

 

『全く桔梗様……幹部たちをからかうのも大概にしてくださいな……』

 

 さすがにここまで上層部会を翻弄する前当主に、現当主で娘の咲姫殿は諫言を投げかけた。

 

『さすがに遊びが過ぎたかのぉ、風鳴の件はこちらが一手に引き受けようぞ、あの馬鹿とは少なくない因縁もある故の。お前さん方よかは役に立つと自覚しておるが、どうかの?』

『そうであるならば、こちらにとっては願ってもないこと。おまかせできますかな桔梗様』

 

 予め静音と打ち合わせしていた常任幹部会の皆さんは、喜んで応じた一方。

 

『桔梗様自らがでありますか!?』

『な……なんと……』

 

 前代表が自ら、かの外道の愚行を抑止する為のネゴシエーター役を買って出る件が初耳だった上層部会は、仮面で覆われても筒抜けな戸惑いこそ見せたが。

 

『まさか断る気かえ?』

『い……いえ、滅相も……是非お願いいたします』

 

 見えているのか怪しいほどに閉ざされた瞼の隙間から、ほんの微かに、されどはっきりと相手を槍で突き刺すように放たれた前代表の眼光一つで、あっさりと引き下がった。

 

『まぁ、あの馬鹿も諏訪を取り戻したことでしばらくは無茶な願いはこちらに寄こさんだろうでの、まぁ、大船にでも乗ったつもりでおれ』

 

 と高らかに宣言した櫛名田桔梗は、要件を済ませると直ぐ様この議場を後にしようとした。

 

「もうお帰りですか?」

「乃木よ、いったい誰が好き好んでこのような仮面ばかりの議場にいたがると思うのかえ? 要件は当に告げて終わっておろうが、あたしゃこんなところにいつまでも長居などはしとうないでの、息が詰まるわ」

 

 その判断も物言いも正しい、トトの視界とVRゴーグルを隔てても、この仮面仮装大会はつまらなさと息苦しさしかない、用が済んだら毒気に当てられる前にとっととこんな場所から、おさらばするのが賢明だ。

 

「agree(同感だ)」

 

 私も目的を達成できたので、ゴーグルだけ外し、ヘッドセットは付けたまま、髪を簡易的なポニーテールに纏め、体操着の上にジャケットを羽織り、音声のみで会議の続きを聞き届けながら、仮眠室を後にしてキャットウォーク内を歩く。

 最新式のノイズキャンセラーに、呼びかけられると自動で音量を下げてくれるセンサー付きなので、周囲に聞き漏られる心配はない。

 

「(トト、もう暫くは静音に付き添ってあげて、会議が終わる頃には相当お疲れだろうから)」

「(分かった)」

 

 おっと、そう言えば話してはいなかったな。

 私がわざわざこうしてトトとテクノロジーの力をお借りしてまで、幹部会を傍聴している〝理由(ねらい)の一つ〟は、櫛名田桔梗と言う人物にお見えし、本当にかの人物があの外道と渡り合えるだけの傑物足りえるのか―――できるだけ直接、この目で確かめたかったからである。

 本当に静音の言っていた通りの大物なら、あの手の場に自ら足を運び、神官たちの前に立ち現れると私は読み、こうして当たりを引いたのだ。

 結果は上々、この傑物ならば、あの外道も余計な横槍をこれ以上は刺しに来ないと期待できるし、当分は事態の悪化にしか繋がりそうにない奴からの〝摩擦〟を気にせず造反神との戦いに専念できそうだ。

 戦いにおける〝摩擦〟を起こす存在が、何もあの外道だけとは限らないので、今後いくつも新たに起きるのは確実なので、油断大敵ではあるけど。

 さて、あの会議の模様だけでも、櫛名田桔梗前代表は、表向き常人には鳩もしくは猫と見せかけて、実体は巧妙に爪を隠す猛禽あるいは虎な、煮ても蒸しても焼いても食えない、組織内の権力闘争を勝ち抜いてきた女傑だと分かった。

 それほどの人物なら、神官たちが神々への畏敬の強さでスルーしていた精霊たるトトが、あの場に居座って傍聴していた理由くらい、造作もなく見抜いただろう。

 向こうがどう〝反応(リアクション)〟をこちらに見せてくるか………もう暫く待つとしよう――と、ジャケットの内ポケットに入れていたスマートフォンの《NARUKO》を落とし、代わりに音楽を流そうとプレーヤーを立ち上げようとした……直前だった。

 

「っ―――」

 

 脳内へ、濁流かはたまた荒波の如く、全身の神経が過敏に荒ぶるほどの高密度の情報が、流れ込み、咄嗟に艦内に壁へ背中をもたれこませる。

 

「はぁ………あぁ……ふぅ……」

 

 壁面に支えられた私は、肩で息をするくらい呼吸が乱れていた。

 

「朱音ちゃん!」

 

 丁度そこに、休憩中だったらしいこの世界のあおいさんが私を見つけ、手を貸そうと駆け寄ってくる。

 

「大丈夫!?」

「ええ、どうにか……」

 

 一人で立てるくらいには回復できたので、壁から離れた。

 でも鍛錬をするには、もう少し一休み必要だな。

 

「今回は紅茶で良いかしら?」

「お願いします」

 

 そのまま二人で、休憩室に向かう。

 いつもならあおいさんの〝あったかいもの〟はブラックコーヒーに限るが、今回は疲労回復を優先して紅茶をチョイスした。

 

「やっぱり、神樹様から、新しい神託が」

「はい……」

 

 淹れたての紅茶を受け取り、気品のある香りを吸いつつ一服しながら答える。

 

「いつも突然送りつけてくるので、困ったものですよ、地の神の方々には」

 

 毎度ながら、狙ったように不意を突いてくるな――わざとだろ――と言いたくもなる。

 しかも今回は、飛び切りヘビーなのを、叩き付けてきたな………神樹様めが。

 神々の真意は窺い知れなくとも、今までの流れを踏まえれば、次の開放場所がどの辺りになるかはある程度絞れる。

 神樹様としては、足場を固めて少しでも多く力を取り戻し、造反神の次なる手に対応したいのは確かだろうから、四国の、それも香川県内の未開放地区のどこかまでは予想していたし、事実今の神託で的中した。

 けど、よりにもよって………次なる戦場(せんじょう)が、静音たちには縁が深いどころではない……〝あの地〟とはね。

 

 

 

 

 

 

 それから……さらに数日が過ぎ。

 その日、静音から放課後、大事な話があるので寄宿舎の指定された部屋に来てほしいと言うメールを受け取った。詳細はそこで話すから、できるだけ早くとも。

 

「ここか」

 

 自室には寄らずに制服姿かつ鞄を下げたまま、指定された部屋のドアの前に着いた私がインターフォンを押すと、開かれたドアから静音が姿を見せて出迎えた。

 

「早いわね」

「できるだけ急いでほしいと言ったのは静音だろう?」

「そうだったわ、中に入って」

「おじゃまします」

 

 入室して奥へと進むと、中央のテーブルを囲む形で四つのソファーが置かれた、八人で会合をするには丁度いいインテリアな部屋には、静音の他に、もう一人いた。

 黒く艶めいた髪色も髪質も、アメジストの瞳も、大和撫子然とした顔立ちや均整の取れた背格好まで、静音と生き写しに瓜二つながら、纏う雰囲気や物腰が見事に好対照となった、それこそ〝合わせ鏡〟と表するに相応しい女子。

 

「こんにちは」

 

 私はそのもう一人に、まず深々と頭を下げる。

 

「初めましてですね――Ms.コトネ・クシワダ」

「はい、こちらこそはじめまして、草凪朱音さん」

 

 前から静音と奏芽から話に聞いてはいたけど、こうして顔を合わせるのは初めてなので、お互い改めて自己紹介をし合い、握手も交わした。

 櫛名田琴音――静音の双子の姉にして、櫛名田宗家の跡取りでもある、大赦専属の巫女の一人だ。

 

「いつも妹様には色々お世話を掛けてしまい、申し訳ありません」

 

 続けて私は、何かと静音に無理なお願いをしているのは事実なので、もう一度深くお辞儀をして、彼女の姉に詫びを入れると。

 

「いえいえ、こちらこそ色々と融通の利かない我が妹を日頃サポートして頂き、ありがとうございます」

 

 その姉より、何かと性格がお固い妹とは正反対の柔和さでお辞儀を返された。

 この調子で、琴音と、彼女の妹絡みも込みでトークを花開かせたいところだけど。

 

「ごほん!」

 

 静音が強めの声量で咳払いをしたので、今日は控えておこう。

 琴音も正式にSONGへ出向しているわけだし、またの機会はいつでもある。

 それに今は、若干恥ずかしそうに頬を赤く染めて、口元をぐぬぬと締めている静音の顔を拝めただけで充分だ。

 

「二人とも、なぜそんなニヤけた顔をしてるのかしら?」

「いや、別に」「いえ、別に」

 

 私と琴音の二人がなぜこんな表情(ニヤケ)を同時に静音へ向け、互いの声がぴったりハモッて答えたのかは、わざわざ語るまでもない。

 

「まあいいわ……朱音も神託を受けてもうご存知でしょうけど、今日ここに呼んだ理由が……〝これ〟よ」

 

 静音は、自ら作成したと思われる冊子を手渡した。

 表紙に書かれていた冊子の題名は――

 

《大橋市開放作戦計画書》

 

 ――大橋……その単語を目にすると、神樹様から送られた大量のビジョンが、また私の頭の中を、絶えず何度も駆け巡る。

 内一つを挙げるとすれば………真っ二つに両断され、まるで、手を広げ懇願しているように、嘆いて苦しんでいるように、叫びを轟かせているように、怨嗟に満ちた呪詛を吐き出しているように、災厄を齎す〝天〟に向かって仰ぎ見ているようにも見え、感じられた………空の真上の彼方へと無残に捻じ曲げられ、見る影もなく大破し、リビングデッドの如く朽ちていくのを待つしかない―――瀬戸大橋の亡骸。

 そしてこの地――大橋こそ、かつての静音――清美達や銀達ら、先代勇者たちの〝故郷〟であり、神樹様からのお告げより、次なる造反神の支配から開放する場所に選ばれたのだ。

 

「Storm coming(嵐が来るぞ)」

「承知の上よ」

 

 私は当事者本人……即ち静音から、口頭の形でとは言え、知っている。

 あの大橋の地にて、一体、何が起きたのかを。

 この〝夢幻の世界〟に呼び集められた勇者たちの間で、新たな波乱の〝摩擦〟が起き、不協和音が鳴り響くのは、確実だった。



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徳島のUMAを見た!?

『戦姫と勇者の二重奏XDU』の外伝も新作、本家ゆゆゆいのメインストーリーはフィナーレを迎えましたが、こちらはまだまだこれからです。
今回はわすゆ組がバブルマンを探しに山奥に向かうわ、大赦支給のクレカでお酒を買おうとするわ、また変態扱いされるジェミニだわ、ホラーの話をちょっと聞いただけで音も無く気絶しちゃう風先輩等が描かれてた『三人娘で徳島捜査』が元です。

子ども大好きですが、叱る時は鬼になるうちのガメラこと朱音でございます。



 造反神との次なる戦いの場であり、そして神樹様の力を取り戻す為の次なる土地の主な解放場所が―――〝徳島〟へと移ってから程なくしての、あくる日。

 

「いやっほ~い! 徳島来たぁぁぁぁぁーーー!」

 

 徳島県内のある公園にて、銀の大声が園内の隅々まで響き渡った。

 

「お~~ミノさんぐんぐん漲る張り切り具合ですな♪」

「お役目は今までと変わらないのに、どうして今日はいつもよりそんなに張り切ってるの?」

 

 この小学生勇者の神樹館三人組(トリオ)は今、一応………調査任務の一環で徳島某所を見回っている最中である。

 他のメンバーも、予め会議で決められた別地点から、未解放地区に進入しないよう細心の注意も払いながら調査の真っ最中だ。

 

「須美! よくぞ聞いてくれたぜッ!」

 

 銀はドヤ顔かつ胸を大きく張って、須美(とも)からの質問に応じ。

 

「この徳島には………いるんだよ―――UMAがッ!」

 

 自らが今回の徳島での調査に張り切っている理由、ひいては目的を高らかに宣言する勢いで表明した。

 

「ゆうま? それって高知の方じゃ?」

「それは『龍馬』だね~」

 

 勿論、今の須美と園子のやり取りで出てきた、この時代からはもう四百年以上昔な江戸時代末期に『日本を洗濯』すべく奔走し、初めて日本に会社を設立したかの高知県――土佐出身の維新志士ではなく。

 

「じゃあ勇者部にお二人いる」

「それは『友奈』だね~~」

「困ったわ……ネタが尽きちゃった……」

 

 お互い本来生きる時代が異なっていながら、外見も声も性格まで双子ばりに生き写しの域でそっくりな、結城と高嶋ら――通称『友奈ズ』でもない。

 生来、絵に描いた生真面目な性格の主である須美だが、この親友二人と、この結界(せかい)で巡り合った個性あふれる愉快な先輩たちとの日々の交流の影響もあり、今みたいにユーモアとノリの良さを見せることも多くなっていた。

 

「銀、その……『ゆうま』って何なの?」

「UMAってのはアレだよアレ!」

「〝アレ〟だけじゃ、何が何やら……」

「だからさ……え、えーっと………」

 

 いざ自身が探し求める『UMA』の意味を問われた銀が、一転歯切れを悪くした中。

 

「も……モビルオペレーションゴ○ラエキスパートロボットエアロタイプ?」

「それは『MOG○RA』だね」

「じゃあ……マッシブアンアイデンティファイドタレストリアルオルガニズム?」

「(それじゃ『M○TO(○ート)』になっちゃうよ)」

「銀、君が探しているUMAとは『Unidentified Mysterious Animal』の略で、『未確認神秘生物』のことさ、ちなみにUMAと通じるのは日本だけで、その手の生物のことを英語では『Cryptid(クリプテッド)』と呼ぶ」

「へ~~そうだったんですか~~勉強になりました――」

 

 三人の背後から、彼女たちの会話の輪に介入してきた声二つ。

 

「―――って……」

 

 振り返れば、銀の特撮に絡んだボケにもノリノリに応じつつ、流暢なネイティブアメリカン英語で『UMA』が『生物学では実在を証明できてない謎の生物たちの総称』を指し、その略語であることと日本語訳名、そして英語での正式名称を応えた者が――。

 

「ええッ!」

「「ひゃあ!(ひぃえ~!)」」

 

〝一人と一匹〟――いた。

 

「あ、あや姉さんとトトぉ!?い、いいいつからそこに!!?」

 

 当然、銀がノリツッコミ付きで今突っ込んだように、いつの間にか自分たちの後ろにいた、リディアン高等科制服姿である平行世界からの来訪者にして前世が怪獣であったシンフォギア装者――草凪朱音と、その精霊(あいぼう)――トトの〝ガメラコンビ〟に、神樹館三人組は大きな瞳をより大きく口と一緒に開かせて、驚愕のリアクションを見せた。

 

「銀が『いやっほ~い! 徳島来たぁぁぁぁぁーーー!』と言ってたところからここにいたよ」

「そんな前からっすか!?」

「またもや背後を取られていたなんて……迂闊でした」

「あやみー先輩今日も神出鬼没です~~」

 

 これには須美も、まだ小学生の頃とは言え、かの園子さえも驚嘆させられていた。

 

「それで♪」

 

 と、ここで朱音は、神樹館三人組にニコッと顔一杯に満開な笑顔を見せる。

 しかし、その眩い笑みから発せられる、強烈かつ有無を言わせぬ重々しい威圧感(プレッシャー)を前に、三人は同時に慌てて後退し、銀など須美と園子の背後に隠れた。

 見ればトトも、朱音のものと似たような威圧さを抱えたニッコリスマイルをしている。

 

「なんで三人だけで探索任務に回った上に、静音たちに黙ってUMAを見つけようなんてことしようと思ったのかな~~♪」

 

 ドンっ………ドンっ………ドンっ……ドンッ!。

 

「特に、言い出しっぺの銀く~ん♪ 隠れてないで出てきなさ~い♪」

 

 ゆっくりと、一歩一歩を大地へ踏みしめて、三人に近づく笑顔の朱音。

 気のせいか、気の迷いか聞き間違いか、その足音はどこか怪獣のものの如き轟音にも聞こえてくる………否、全身を震わせる彼女たちの耳には、確かに聞こえていた。

 巨大な怪獣が、大地を震撼させる足音(ねいろ)を。

 

「だ、だって………」

 

 親友の背中越しに、ひょっこり目だけは辛うじて朱音たちに向ける銀。

 

「言ったら………絶対怒られるじゃないですか?」

「「当たり前だッ!(当たり前でしょッ!)」」

 

 見た目は聖母の如き温かく柔らかな満面の笑顔から一変、間近からさらに詰め寄ってくる朱音とトトから発せられた、大音量の怒声に。

 

〝ガァァァァァオォォォォォ――――ンッ!〟

 

「「「きゃぁぁぁーーー!!!」」」

 

 かのガメラの、甲高く荒ぶる咆哮が脳内に浮かび、朱音とトトの背後に怪獣としての彼女たちの姿が見えてしまうくらい、三人組の顔色は一瞬で冷え切り蒼白となって悲鳴を、公園の端まで届くほどに大きく響かせた。

 無論、周囲はトトの結界によって完全防音が施されている為、三人の絶叫は……誰にも聞こえない。

 

 

 

 

 

「三人ともそこで正座、私が良いと言うまでそのままでいること、いいね!」

「「「はい……」」」

 

 それから暫く、三人組は公園の草原のど真ん中で正座させられ、腕を組んだ仁王立ちから、戦闘での敵を相手にする時よりは遥かに柔らかめだが、粛々と厳然とした翡翠色の瞳と物腰で見下ろす朱音から、お説教を受けられ、きつ~くお灸を据えられる羽目になった。

 元より身長は勇者及び装者の中では高い方に位置する朱音だが、身に纏った威圧さで座している銀たちからは一層大きく見えた。

 

「静音から聞いたぞ、私がこちらに召喚される前に、須美と園子ちゃんが誤って未開放地区に侵入して襲撃されたこと―――」

 

 実は朱音がこちらの世界にお呼ばれされる少し前、須美と園子はちょっとした事情――当時はまだ〝その後〟の運命を知らず、未来の自分たちがやたら銀に過保護で、未来の銀だけがいない―――等々で、造反神側の領土内にあった観音寺市内最大規模のショッピングモールにして、銀が自ら『マニア』と豪語するくらい愛し、三人が勇者のお役目を通じて友達となってから放課後の行きつけの場所となっていた『イネス』に代わるスポットを探していたところ、不用意にもその未開放地区に踏み入れてしまい、そのままバーテックスに襲われたことがあり、この件は当然リーダーの静音だけでなく、西暦末出身の巫女ひなたからも、かなり厳しめにお叱りを受けたことがあった。

 

「徳島のUMA泡男、またの名を〝バブルマン〟を探す以上、山の中を三人で散策する気だっただろうが、そんな軽装で山道を進んで迷子にでもなったらどうするつもりだった?」

 

 朱音は自他ともに認める〝子ども好き〟ではあり、まだ小学生な神樹館三人組も然りなのだが、だからこそ厳しさを求められる場合にはとことん厳しい態度で子どもたちに接することも厭わぬ一面も持ち合わせている。

 ましてや朱音は、この戦いを〝神々〟の内輪もめによる不条理な代理戦争とも認識し、せめて自身がこの世界にいる間は、ともに造反神と戦う仲間たちには誰一人として犠牲は出さないと心に決めているのもあり、俄然その厳しさが増すもの無理からぬ話であった。

 勿論、この厳しさは三人を心から案じ、慕い、想い、何より愛しているからこそでもある。

 

「下手をすれば迷い込んだ先が未開放地区で、また奴らに襲われる事態になったかもしれなかったんだぞ! 未知への好奇心と探究心は大いに結構、むしろ讃えたいところだが、せめて冒険は常に危険と隣り合わせなことぐらいは、頭と心にし――っかり刻んでおくことだな」

「はい、申し訳ありませんでした」

「ごめんなさ~い」

「本当に反省しております」

 

 一通り朱音の説教は終わり、三人は深々と朱音に頭を下げて謝意を表した。

 

「よろしい、もしここで駄々をこねるか、この場で逃げ出してバブルマン探索を強行でもしたら〝一か月うどん摂食禁止令〟を出していたところだが――」

 

 うどん――禁止。

 生粋のうどん県な香川県民の端くれでもある神樹館三人組がその言葉を耳にした瞬間、彼女らの身体が氷漬けにでもされたが如く、意識(こころ)ごと凝結して固まった。

 三人ともその顔は、涙さえ浮かべ、世界の終焉を間近で突きつけられたかのような絶望一色に歪み、染まり切っている。

 

「――ちゃんと反省しているみたいだから、禁止令は出しません」

「はぁ……よかった」

「お慈悲を頂き、ありがたき幸せです」

 

 そこまでの重罰はないと知った三人の意識と身体は再起動し、安堵の息を零す。

 

「けど申し訳ないが、バブルマンの探索は即刻中止させてもらうし、本来の任務には私とトトもご同行させてもらうよ、分かった?」

「「「はいっ……」」」

 

 三人の様子を見て、朱音は自らの物腰を軟化させたが、探索任務の傍ら行われようとしていたUMA探しは、残念ながら中止へと至った。

 

「ん? あれれ?」

「どうしたのそのっち?」

「あやみー先輩、どうしてミノさんが見つけたかったUMAが〝バブルマン〟だと分かったんですか?」

 

 ここで、園子はたった今気づいた疑問を口にする。

 

「あ、そう言えば……」

 

 銀はUMAを探す旨こそ親友二人には伝えていたが、それが〝バブルマン〟だとはまだ言っていなかった。

 なのに朱音の口から先程、そのバブルマンの一言が入っていた。

 

「それはね……」

 

 朱音は理由を説明しようとしたが、刹那、彼女の双眸(ひすい)は―――戦士(ガメラ)のものへと変わり、今日までともに戦ってきた経験上何度もそれを目にしていた三人の胸中に緊張が走る。

 

「悪いが後にしてくれ――~~Valdura~~♪」

 

 朱音は聖詠を唱え始めると同時に背後へ、上段からの回し蹴りを振るう。

 彼女の鉄槌と化した長い脚からのハイキックは、背後から自身に、常人の目では捉えられぬ高速で迫っていた小さな〝影〟にクリティカルヒットして蹴り飛ばす。

 聖詠の一単語目を素早く歌い終えた朱音は、〝右腕のみ〟にギアのアーマーが生成、装着され、拳を覆い包む形で手先のアーマーが砲身へと変形されると。

 

「伏せろ!」

 

 と、プラズマエネルギーが集束される右手の砲塔を前方に向けつつ銀達に指示を飛ばし、三人は咄嗟に大地にしゃがみ込んだ。

 

「~~~~♪」

 

《烈光弾――フォトンマグナム》

 

 朱音の歌声に乗って、通常の《プラズマ火球》よりも弾速と貫通力に優れた焔の弾丸が、重い轟音とともに二発発射、銀達の頭上を通り過ぎた弾丸は、二発とも同様の〝影〟を撃ち抜いた。

 

「(みんな! バリアを重ね着して!)」

 

 トトがテレパシーでそう発すると、三人組の精霊――銀の鈴鹿御前、須美の刑部狸、園子の鉄鼠がそれぞれ端末から実体化し、各々が形成した精霊バリアをトトからの指示通り重ね合わせ、さらなる三体の影たちの突進から防護しつつ、弾き飛ばし。

 

「(旋熱斬(バーナーカッタァッー!)」

 

 その隙を突き、回転ジェット形態となったトトが高速飛行より繰り出す、四肢の噴射口より放出された炎の鋸刃《旋熱斬――バーナーカッター》が三体を、諸共両断。

 

「あや姉さん! 上です!」

 

 朱音に一度蹴り飛ばされた一体が、上空から真下にいる彼女に先の報復とばかり再襲撃を仕掛けるも。

 

〝~~♪〟(甘いな)

 

《激突貫――ラッシングクロー》

 

 最小限の動きで奇襲を躱した朱音は、同時にアーマーを纏う右手を真上へと突き出して、電光石火の刺突をお見舞いさせた。

 刺し貫かれ、そのまま体内にプラズマエネルギーを注入された小型バーテックスの体組織は瞬く間に灰化し、朱音の手が引き抜かれると四散していった。

 

「朱音さん、今のは?」

「あの速さと大きさからして、おそらく双子座(ジェミニ)の亜種だ」

 

 須美からの問いに、朱音は襲撃者(バーテックス)の正体を言い当てる。

 ジェミニ・バーテックス、最大でも全高三メートルとバーテックスの中でも小型の個体だが、時速二五〇キロもののスピードと高い機動力を有している。

 名前の通り、基本二体一組で行動するバーテックスであり、朱音たちには三組がかりで襲い掛かってきたのだ。

 

「そんな……樹海化どころか警報も鳴ってなかったのに」

「小さくて速過ぎるから、神樹様でも簡単には感知できないんだよ」

「確か……この前千景さんの水着盗んだのも、あいつらだったんだよな」

 

 以前、このジェミニ・バーテックスの別固体は、自身にとっても図らずなものだったが、買ったばかりだった千景が使う新品の水着を盗む、仮にも神の使徒としてはいかがなものな、泥棒行為をやらかしたことがあった。

 当然、一緒に彼女の水着を選んでいた高嶋たちと千景本人からは、怒り心頭で討伐されたことは、詳細に説明するまでもない。

 

「あ、そういえばあや姉さん、いつから〝部分変身〟ができるように?」

「丁度今のような状況を想定して、鍛え直していたのさ」

 

 右腕のアーマーの実体化を維持させたまま朱音は答える。

 

「(僕も右に同じ、造反神側(むこう)に〝あいつ〟もいる以上、負けてられないからね)」

 

 徳島の解放戦線に至るまでの間、造反神との戦いはバーテックスらとは別の〝新たな敵〟たちの出現も相まって、激化の一途を辿っていた。

 なので朱音は、万が一今のような、聖詠を歌いきる暇も許さぬほどの奇襲を受けても応戦できるよう、詠唱速度を速めつつ詞の一部を歌うだけで身体の一部にギアを纏い、身体能力も強化できる様に鍛錬を積み上げていた。

 朱音のシンフォギア――ガメラが、翼たちが使う正規のギアとは別の経緯で生み出された〝異端〟ゆえにできた芸当とも言える。

 そしてトトの方もまた、防御などのサポートだけでなく自らも敵に攻撃を仕掛けられるよう修練を重ねていたのだ。

 

〝~~~♪〟

 

 ここでようやく、樹海化警報のメロディが端末から鳴り出した。

 程なく、朱音たちのいる公園の近辺に、樹海のドームが出現する。

 

「本隊が炙り出されたか、今の内に変身しておくぞ」

 

〝―――airluoues~~giaea~♪〟

 

 朱音は聖詠の続きを唱え、三人は端末のアプリをタッチして――変身。

 

「どうやら、連中の巣があるらしいな」

「これ、全部ジェミニですか?」

「みたいだね~~」

 

 端末の《NARUKO》の地図に表示されている敵(ジェミニ)の光点の数から、朱音はそう看破した。

 

「だが連中を一網打尽にするチャンスでもある、直ぐ増援も来るが、私たちは先に突入して奴らを叩く! 気を抜くなよ!」

「「「はい!」」」

 

 四人は急ぎ、樹海内部の戦場へと突入していった。

 

 

次回――『お姉ちゃんへの憧れ』に続く。

 



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秘密の夜の特訓Ⅰ:NEW ARMED GEAR

今回は朱音とトトのガメラコンビしか出てこないお風呂サービス回と+。

ちなみに劇中で言及された映画の元ネタは『インセプション』って映画です。


 大橋での激戦を勝ち抜いて、香川の地を完全に造反神から取り戻し、季節も秋から冬へとバトンタッチする兆候が表れ始めたあくる日の夜。

 朱音はこの世界にいる間の住まいである寄宿舎の、急ごしらえに建造されたものにしては、リディアン本校の寮ばりに学生一人が住むには破格の広さを有するバスルームにて。

 

「はぁ~~……」

 

 葡萄色がかった黒髪をオールバックのアップで纏め、筋肉質で引き締められながら魅惑的曲線と柔肌が沿う身体(プロポーション)にそぐう色香を纏った吐息を、赤く上気する両頬に挟まれた口元より零し、天井へ翡翠の瞳を見上げる形で湯船に浸かり、放課後の鍛錬に明け暮れた体をお湯でほぐして、全身の隅々まで癒していた。

 そして湯に浸かるのは、朱音の他にもいて。

 

「(極楽極楽~♪)」

 

 と、トトが精霊としての能力で形成した自分の大きさに合うミニタオルを頭に乗せて、人間で言うバタフライの要領で、湯の心地よさを味わいながら優雅に泳いでおり。

 

〝~~~♪〟

 

 気持ちよさを堪能するが余り、換気扇を入れても尚湿気が蒸気とセットで溜まって音がエコーする風呂場内にて、朱音とトトはデュエットで歌い始め、反響させるくらいだ。

 ちなみに今彼女たちが歌っているのは、土曜ドーでしょうの、青空の下のドライブにはぴったりな初代主題歌だった(これは番組スタッフたちが起こした権利ミスの問題で、歌詞は同じなのにメロディを全くの別物で作曲し直して二代目を出す事情があった為)

 

 

 

 

 

 ドーでしょうの主題歌をフルで歌い切って、彼女らは暫く沈黙でお湯の温もりを味わっていたが。

 

「(朱音、さすがに入浴中の出歯亀はしないみたい)」

「そうか」

 

 湯の熱でややとろけ気味だった朱音の美貌は、トトからのこの言葉を受けると、急に眉と目尻が上がって真剣味を帯びる。

 朱音たちは、全体の七割ほど心から入浴を堪能していたが、一方で内三割は胸の内にて〝警戒〟していた。

 例の、香川全域を奪還してから、主に静音、若葉、棗、そして朱音に向けられる〝何者〟かの視線に対してだ。

 その何者とは、当然――造反神との戦いの為、時間と次元の壁を越えこの結界(せかい)に神樹様の力で呼び集められた勇者と装者ら少女たちの〝敵〟に当る。

 

「トトはどう思う?」

「(僕も造反神が、過去か平行世界、もしかしたら両方から召喚した装者と勇者、どちらかだと思う、ちょっと前まで神樹様の一部だったんだから、同じ御業くらいできる筈だし……さすがに神々の集合体な神樹様のように、そう何十人も呼べそうにないけど)」

「そうなると、神といえども片手で数えられるくらいが精一杯か、だが向こうにはバーテックスもいる、連中も造反神(しゅじん)の命令とあらば協力するだろうから……」

「(厄介だよね……バーテックスだけでも強敵なのに、そこに人間の知恵と戦略と戦術が加わったら――)」

「double advantage(鬼に金棒)………今は様子見に徹しているが、香川が取り戻された以上、造反神が本格的に戦力投入するのは、時間の問題だな」

 

 右手の指を下顎に添えて、朱音は英語混じりに応えた。

 実際の〝物的証拠〟こそまだベールに包まれてはいたものの、朱音とトト――ガメラたちは敵の正体が、造反神が神樹様と同様の〝技〟で呼び寄せられた、対抗戦力(にんげん)の〝戦士〟であるとも、いずれ圧倒的物量と戦闘能力の脅威的な質を誇るバーテックスともども、本格的にその者たちと一戦以上交えることになるのが、そう遠くない未来で起きるとも、確信を得ていた。

 

「(しかも召喚された一人が、朱音の直感の通りなら)」

「〝柳星張〟―――奴の転生体で、間違いない」

 

 前世の〝宿敵〟と断言できる、災いの影――ギャオスの変異体にして、超古代文明が生み出した最悪の怪獣たるかの邪神の〝名〟を、苦々しい声色で口にした朱音は、首に掛ける〝勾玉〟を手に取る。

 

「私達〝ガメラ〟への……カウンターウェポンとしてね」

 

 朱音の世界の〝神〟に該当する〝地球(ほし)の意志〟は、彼女の前世(ガメラ)の能力を、シンフォギアと言う名の〝器〟で象る形でほぼ完全に再現できていた、なら――。

 

「(じゃあ、朱音と同様、柳星張の能力も)」

「造反神によって再現されている、そう見立てた方が良い、最後まで生きて勝ち抜く為にも、根拠のない楽観は禁物さ」

 

 柳星張の恐るべき能力の数々は直に痛いほど間に当たりにしてきただけに、朱音は一切楽観視していないし、ほとんど断定し切っていた。

 造反神の手で宿敵もまた、人のまま、前世の己の力を手にしていると………想定できる可能性の中で最悪のものだが、だからこそ〝あり得ない〟と一蹴するわけにもいかない。

 いっそ確実と断じた上で、〝その時〟にまでにできる限りの対策を練っておく必要があった。

 

「(ヒ○キさんが言ってたみたいに、〝鍛え足りないならもっと鍛え直すだけ〟、そうしたいけど……)」

 

 一方で、見過ごせない問題もあった―――柳星張の能力の一つ。

 二四時間オールタイムとまで行かなくても、今こちら側は向こうより戦力把握も兼ねたストーキングを受けている。

 こんな状況で迂闊に、武器装備のアップグレード、新たな戦術、技の追求や特訓を押し進めても、敵と実際に戦う前から手札の裏側を、相手に見せびらかすようなものである。

 その上に、柳星張の厄介極まる力の一端――〝コピースキル〟を使われでもしたら、せっかくの対策も裏目に帰してしまう。

 

「そのことで、トトに聞いておきたいんだけど」

「(何?)」

「この前見せた『エクストラクト』みたいなこと、テレパシーでできる?」

「(あっ! なるほど~~その手があったね)」

 

 朱音からの〝アイディア〟に合点がいったトトは、握り拳を掌の上に叩く。

 映画マニアの彼女が相棒に挙げた映画は、こちらの世界では西暦末期に公開され、ターゲットの人間が睡眠中に見ている夢の世界に入り込み、対象が夢――潜在意識にて所持している重要な機密情報(アイディア)を盗み取る産業スパイチームの活躍を描いたSFアクション映画である。

 朱音はその映画の設定を下にした特訓方法を、思いついていたのだ。

 

 

 

 

 

 よし、私が弦さんよろしく映画で思いついた、敵の監視網に悟られずにできる〝特訓法〟がトトのテレパシーで可能だと分かったので、早速実行に移す、善は急げってヤツだ。マスカット色のパジャマに着替え、明日の学業の準備をして、歯磨きでお口の中もすっきりさせ、夜用の肌のお手入れも忘れず施して、ベッドに直行。

 

「Light.,OFF」

 

 音声入力式の蛍光灯を消灯。

 トトも私の枕元に来て。

 

「Good night,My Buddy」

「(オヤスミ~~良い夢を)」

 

 私達は〝夢の世界〟へと入り行く為に眠り始めた。

 心は意識と言う名の、光り差す海原の海面(ひょうそう)から、海中へと沈んでいく。

 段々と周囲の水の色合いが暗くなっていくが、それは闇の暗黒と言うよりは、夜天の如き深くたおやかな紺色で、恐怖はないし……このまどろみに落ちていく静寂は、いつ味わっても穏やかになる。

 やがて心(わたし)は――意識の海と溶け合って……。

 

 

 

 

 

 一度潜在意識と交じり合った私の心は、直ぐに形を取り戻した。

 閉ざされていた瞼を、そっと開ける。

 瞳が光の加減と周囲とのピントが合わさり、眼前の光景を私に映し出す。

 高々と、広々と、果ての見えない海原の水平線と、雲一つない夏の蒼穹、目線を変えれば、緑豊かな山々の麓に築かれた港町。

 

「きゅうきゅう♪(やった♪ 成功)」

「Good Job♪ トト」

 

 ガメラ同士、サムズアップし合う。

 私とトトは今、トトのテレパスによって私の脳内で創造された、ルシッドドリーム――明晰夢、簡単に言えば『これは夢だと自覚して見る夢』を共有していた。

 前にトトに見せたSFアクション映画『エクストラクト』では、明晰夢の世界を人為的に設計して作り出し、複数の人間と共有できる機械があり、劇中では台詞で言及されているのみだが、主に軍隊の訓練で使われている設定。

 それをトトの力で、再現したのだ。

 

「(映画と同じく、現実の五分がここでは一時間になるよ)」

「ありがたい、これならたっぷり特訓に使える」

「(でも朱音が僕の設計した夢にいられるのは、レム睡眠の間だけだから)」

「分かった、休憩時間も必要だからね」

 

 眠りは、意識が浅いレム睡眠と深めのノンレム睡眠の交互で繰り返される。

 夢が見るのはレム睡眠なので、当然と言えば当然。

 それにノンレム睡眠時間を差し引いても、現実の二〇倍ものの時間があるので、これでも充分過ぎるくらい。

 

「それでだが……トト」

「(どうしたの?)」

「ここ、トトの主演映画の〝聖地〟だよね?」

 

 私が使った〝聖地〟とは、いわゆるサブカル用語で、映画やアニメなどの映像作品のロケ地に選ばれた街、場所、庭園、建物、自然地域などを指す。

 

「(あちゃ♪ バレちゃった?)」

「見え見えのバレバレ、この小島がトトの誕生地の『緋島』だってこともね、まあ夢の設計なんて初めてだから、馴染みある場所をチョイスしたのは分かるよ」

 

 ここから見える港町は、トトの映画『小さき勇者たち~ガメラ~』のロケ地の一つ、三重県志摩市大王町。

 けど、今私達が立つトトの誕生地たる鋭利な岸壁がそびえ立つ小島――『緋島』だけ、トトの次元(せかい)にしか存在しない島である(映画では他のロケ地の風景を合成して作られた)。

 

「(あ、それでだけど朱音)」

「何?」

「(特訓前に、自分の姿を確認しといた方が良いよ)」

 

 ん? どういうことだ?

 と、思ってふと両の手を見てみた私は、呆気に取られた。

 明らかに人間のものではない、鋭い爪の伸びた大きな爬虫類型の掌。

 その手で、胸部、腹部、背中、肩、顔、頭を触る………久しくも、はっきり覚えのある感触。

 思わず、目の前にあった岩肌の窪みにできた池で自分の今の姿を目にして、驚愕の余り両手を両頬に、パンっと音が鳴るくらいの勢いで当てていた。

 

「How Cowッ!(なんてこったッ!)」

 

 写っていたのは………ギャオス・ハイパーに柳星張と戦っていた頃の、戦闘への進化が急激に進んで、我ながら凶暴な顔つきとなった自分(ガメラ)、だったからだ。

 大きさこそ、映画で使われた着ぐるみくらいのサイズだが、それ以外は本物そのもの、実際かつてはこの肉体だったのだ、間違えようのない。

 

「ガァァァァァーーーオォォォォォォーーーン!」

 

 衝撃の余り、私は〝ガメラ〟の鳴き声を、トトの聖地中へ盛大に轟かせてしまった。

 だが、どうしてこうなった……かの理由は、すぐに見当ついた。

 翼がよく使う表現を用いるなら〝常在戦場〟の精神で、仲間たちとの日常は謳歌しつつも造反神との戦いの日々をおくっていた影響で、己の潜在意識が前世の姿にさせたのだと。

 確かにトトの言う通り、まずは草凪朱音(にんげん)の姿に戻らなければ……シンフォギアを纏って変身するどころか、特訓も満足に始められない。

 現実でこのガメラの姿になれるのならともかく、今の私はシンフォギア装者、人の身で鍛えなければ意味がないのだ。

 

 

 

 

 

「はぁ~~……どうにか」

 

 夢の世界での体感時間で一五分くらい、暗示を掛けるくらいの域で集中を極限にまで高めた上で自身に言い聞かせ、一度全身が光って治まったと思うと、どうにか私は前世から今代の人の姿(服装はリディアン制服)に戻ることができ、安堵の溜息を零した。

 ちゃんと首には勾玉(ペンダント)もある……これでやっと当初の目的である特訓を始められる。

 

「(少し休んどく?)」

「いや、まだ体力はたっぷりある、鍛えてますからね♪」

 

 装者と同じ〝音楽〟で魑魅魍魎と戦う鬼(せんし)なベテランヒーローみたく、顔の横で手をシュッとした私は。

 

「早速始めよう」

 

 改めて深呼吸をし、再び集中力を高め。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪〟

 

 聖詠を歌い、現実同様紅緋色のエネルギー球体が全身を包み込み、フォニックゲインから実体化したギアアーマーを装着され、球体(フィールド)が解除されて変身完了。

 

「(まず何を?)」

「まずは……新しいアームドギアを一つ、生成(ビルド)する」

 

 右手の掌を空に向けて腕を伸ばし、私は目を瞑ってイメージする。

 アームドギアの生成に必要なのは、相応のエネルギー=フォニックゲインとイマジネーション。

 そして、これも翼の言葉からの引用だけど――〝常在戦場の意志の体現にして、胸の覚悟を構える〟。

即ち、何よりも、戦いに臨む覚悟と、己が得物を具現化しようとする、強く確たる意志。

 この三つが揃えば――。

 

〝我が炎よ~迫る災いより~命を守る~新たな甲兵となれ!〟

 

 即興で編み出された超古代文明語の詩を奏で、掌のプラズマ噴射口より炎が放出。

 火は、私がイメージした姿、形へと変えていき、イメージした通りの武器(アームドギア)へと、固形化される。

 

 できたぞ―――私の新たなアームドギア。

 

 それを、瞳が開くと同時に、右手で掴み取り、左手も柄を握らせ、手始めに残像を起こすほどの速さで、舞い踊りながら振り回して、仁王構えで締めた。

 

「(おおぉ~~~♪)」

 

 私の披露した演武に拍手を送ったトトは、できたてのアームドギアの周りを飛び回って、まざまざと見つめた。

 

「(なんか、色々混ぜ込んだ武器になったね)」

「あら、多元複合武装、またの名をマルチウェポンもまた〝ロマン〟なのだよ♪ トト君」

「(怪獣で言うところの、人間の常識を超越した巨体と、熱線や光線みたいなもの)」

「That’s right♪(そのとーり)」

 

 ギアアーマーと同じ鮮やかな紅緋色の柄、その先端にプラズマ噴射口を携えたシャープな円錐状の穂先――槍、その下に武骨だが流麗で黒艶を帯びた半月刃の戦斧、反対側には同様の黒味と艶やかさを持つ逆台形状の分厚いハンマー、この二つに挟まれる形で、紅緋色に橙色のラインで刻んだ、トトの腹部の〝炎〟に見える模様を模したレリーフ、穂先の反対側の先には、斧とハンマーより大きさは小振りながら、出縁型戦棍(フランジメイス)も備えた、全長は私の身長の三分の二ほどの長さ、あくまで〝基本形態〟時だがな。

トトにも言った通り、紛うことなき――多元複合武装(マルチウェポン)。

 ぱっと見で把握できる以外にも、隠れた機能が盛り込んであるぞ。

 

「(ここまで凝ったデザインなんだから、この武器固有の名前でも付けない?)」

「お、それは良いアイディアだ、折角作ったわけだし」

 

 さてと………どんな名前にしようかな?

 そうだ、ローマ神話の火の神――ウゥルカーヌスと、リトアニア神話の雷神――ペルクナスが使っていたとされるハンマー――ミルナ、それと宇宙で最も激しい天体現象。

 神の名と神の武器の名をアレンジしつつ混ぜ合わせ、そして天体現象と組み合わせ。

 

「決めた、このアームドギアの名は――《ヴォルナブレーザー》」

 

 こうして、新しい愛機(アームドギア)の名を付けたことだし、これを現実のバーテックスどもと、いずれ現れる造反神側の戦士と相見える〝戦場〟でも寸分たがわず実体化し、扱えるよう。

 

「(早速実戦形式で行くけど、映画同様、痛覚をリアルに設定してるからね、攻撃が当たれば死ぬほど)」

「むしろありがたい、夢に甘えない為にも、それぐらいのスリルがないと張り合いがないからな」

「(じゃあ、行くよ)」

 

 夢の設計者たるトトの手で、水平線に、星屑たちと小型ノイズたちとの混成群体が出現した。

 私はヴォルナブレーザーを無業の位で携えて、敵に眼光を放ちつつ、相対し。

 

「Here~we~Go――ッ!!」

 

 胸部の勾玉から伴奏が鳴り始めると同時に、その一声で、駆け出した。

 さあ―――特訓を始めようかッ!



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秘密の夜の特訓Ⅱ:鍛える装者(ガメラ)

夢の世界で特訓回第二弾、いよいよ本格的に特訓開始です。


 朱音がSFアクション映画から着想を得て発案し、トトのテレパシー能力によって、トトの誕生の地を元に〝設計〟された、明晰夢の世界。

 そこで、次なる脅威に立ち向かう為、共に戦う仲間、友たちを守る為、新たなアームドギア――《ヴォルナブレーザー》を創造(ビルド)した朱音は、早速トトの手で再現された星屑(バーテックス)と両親の仇でもある特異災害ノイズの混成群体相手に、疾駆。

 海上へと跳び出すと、両腕に装着された黄色い球状の反揚力装置と足にスラスターで、ホバリング走行へ切り替え。

 

〝災禍は眼前~~今が馳せる時~~我は戦士~~駆け走れ!~~♪〟

 

 勾玉から流れる伴奏をバックに超古代文明語の詩を歌い始め、実質ほとんど実戦そのものな『模擬戦闘』に、生み出したばかりの得物を手に臨む。

 

(まずは軽い慣らし運転だ)

 

 まず、ブレーザーの穂先の槍を敵方に向けると。

 

《炎貫弾――スティングプラズマ》

 

 穂先を取り囲む形で添えられ噴射口より、槍刃状のプラズマレーザーがガトリング並みの連射力で連続発射され。

 貫通性では朱音の飛び道具の中でトップクラスなプラズマレーザーの真横から降り注ぐ驟雨は、先陣にいた星屑とノイズを続々と打ち貫き、灰化、もしくは消滅させる。

 

(舞い踊れ! 新たな愛機よッ!)

 

 スティングプラズマの乱れ撃ちに敵側の態勢が乱れている内に、すかさず朱音はヴォルナブレーザーの斧刃、ハンマー、槍、メイスに橙色の稲妻を纏わせながら右手で振り回し、左手の噴射口からライフルを生成し砲身にエネルギーチャージさせつつ、右腕を勢いたっぷりに振るい、ブレーザーを投擲。

 

《光輪斬閃――ローリングシャインサイクラー》

 

 鮮やかな電火を帯び、光輪を描いて回転飛行するブレーザーが群れに肉薄し、雷撃混じりの斧刃を前に切り刻まれ、刃の直撃を受けずとも広範囲に迸る雷たちに躱す暇も許されず撃破される。

 朱音は脳波コントロールで、攻撃していたブレーザーを、上空にまで飛ばし、砲身が伸長されたライフルを構え。

 

(穿てッ!)

 

《轟炎烈光波――ブレイズウェーブシュート》

 

 銃口から、海面が蒸気を立ち昇らせるほそのプラズマ火炎流を放射、横合いに薙ぎ払う。

 超放電現象の奔流を受けた敵たちは、盛大に爆発の花火を次々と上げ、半分以上が撃破された。

 残る敵も朱音は見逃すつもりはない――これは実戦形式の〝訓練〟なのだから。

 ホバリングしていた両足のスラスターの出力を上げ、飛翔し、上空に電化を纏わせたまま待機させていたヴォルナブレーザーをキャッチ、電火の輝きと激しさが増し、そのまま残存する群れの渦中へ、ハンマーを向けた得物を上段に回しながら振り上げ、落下。

 

「(トト! 海面にフィールドをッ!)」

「(了解ッ!)」

 

 トトは指示通り、海面スレスレに海を保護するように面上の防御フィールドを貼り。

 朱音はそこへ、上段から遠心力を乗せたハンマーを豪快に叩きつけた。

 

《玄翁轟雷――サンダーストロークタイタン》

 

 ハンマーとフィールドが衝突し、そこからドーム状に雷の衝撃波が放出し、周囲の星屑とノイズを呑み込む。

 今の広範囲攻撃でノイズは先に全滅した。残る星屑たちは集まりだし、バーテックス化しようとし始める。

 

(お前達の目論見は見切っている)

 

 しかし奴らとの初戦闘での洗礼を受けてから既にバーテックス戦を幾度も戦い抜いて来た朱音は、そう来ると看破しており。

 

〝天から降り立ち~~驕れる使徒よ~~味わうといい~~雷の鉄槌をッ!~♪〟

 

 ブレーザーを持つ右手を星屑どもへと突き出し、稲妻迸る穂先、斧刃、ハンマーから同時に。

 

《緋雷迅――》

 

「ライトニングーースマッァァァーーシュッ!」

 

 橙色の苛烈にして、猛々しい雷撃――《ライトニングスマッシュ》を打ち放った。

 融合途中で密集していた星屑たちの大半が、雷撃の直撃を諸に受け、反撃への一歩すら踏み出せぬまま、大爆発を起こした。

 それでも僅かに残った数体が、円形状で朱音を取り囲み、大口を開けて迫るも。

 

〝~~~♪〟

 

(甘いな)

 

 柄を伸長させて《ハルバードモード》となったブレーザーの斧刃を超振動させ赤熱化。

 バレエの如く舞い、横合いの軌道による激しくも美しい円月斬撃で、全て焼き払うのだった。

 朱音はその足で緋島の岩肌に飛び戻る。

 

「状況終了」

「(お見事♪)」

 

 トトは拍手を送る。

 何せトトが生み出したノイズも星屑も、現実に出現したものと寸分違わぬ戦闘力で〝設定〟していた。本物同然の〝災いの影〟たち相手に、それまでのアームドギアと使い分けつつもヴォルナブレーザーを使いこなし、様々な新技のお披露目までして撃破したのだから。

 実は朱音はブレーザーをイメージする際、それを使った技も同時に作り上げていた。

 そして雷撃生成制御能力は、この世界に来る以前より会得していたもの、今まで使わずにいたのは、雷撃による電子機器への影響に対する考慮と、プラズマの炎だけでも充分デリケートな運用が求められるほど強力なことと―――〝能ある鷹は爪隠す〟の精神によるものだった。

 

「Thanks♪ でもこれぐらい現実でも扱えるように、意識(むねのうた)に根っこまで覚え込ませるのが、目下の課題だな」

 

 朱音はトトの賛辞を気前よく受け取りつつも、ブレーザーを片手で素振りしながら当面の課題を己に言い聞かせた。

 

「次は暫く基礎訓練しておくから、トトは故郷巡りでもしておいで」

「(うん、ありがとう、じゃあ行ってきま~す)」

「行ってらっしゃ~い―――さてと」

 

 トトは自身と友にして育ての親である少年たちのふるさとな港町へと飛んで行った。

 まだ朱音の眠りはレム睡眠状態かつ時間も二〇倍化でまだたっぷりあるので、朱音は己が意識にブレーザーの使い勝手を芯まで覚えさせる為、基礎に立ち返ったトレーニングを始めるのであった。

 

 

 

 

 

 翌朝、午前五時、冬が近づいているので空は明るくなってはいるが、まだ太陽は上がっていないままの時に、朱音は意識が目覚めると同時に起き上がり。

 

「ん~~あぁ~~………」

 

 まずは両腕を天井へ伸ばして腰を振り子の様に左右に傾け、軽く身体を解した。

 

「Good morning♪ トト」

「(おはよう朱音♪ よく眠れた?)」

「すっきり爽快さ、大体三日間(three days)特訓に明け暮れてたとは思えないくらいにね」

 

 事実腕を回して腰を横に捻じる起きたての朱音の顔色は、見るからに良好以上であり、軽やかにベッドから跳び上がった。

 

「これなら肉体の方のトレーニングにも行けるな」

 

 そのままパジャマから予めハンガーラックに掛けて準備していたリディアンの体操服に着替えながらトトに聞く。

 

「相棒、ひとっ走り付き合える?」

 

 聞かれた相棒(トト)は。

 

「(もちのろん♪)」

 

 景気よく答え、ガメラたちは早速寄宿舎を飛び出して、行きつけの臨海公園で、陽が登り始めた中、朝のトレーニングの一環のジョギングに興じる。

 

〝~~!♪ ~~~――~~~ッ!♪〟

 

〝ひとっ走り〟の元ネタである特撮ヒーローの主題歌を、これはまた景気よく朱音もトトも二重奏で歌いながら、園内を駆け抜ける。

 歌いながら走るなど、常人ならあっと言う間に息切れだが、精霊であるトトはともかく、朱音であすら、もう園内を一〇周していると言うのに、走るスピードも、歌う喉も息もまだまだ揺るがない様子だった。

 

 

 

 

 

 当人たちの予想していた以上に、明晰夢内での特訓法は効果があったので、学業と仲間たちとの日常と、現実での特訓の傍ら、この《ドリームトレーニング》は引き続き、朱音のレム睡眠中にて行われることになった。

 最初の数日は、《ヴォルナブレーザー》の扱い方をより高めることに注力していた。

 次にトトが設計した明晰夢は、昭和の等身大特撮ヒーローたちには大変お世話になった採掘場の砂場である。

 そこで最初に行った特訓は――。

 

「北に三〇メートル――南南西に二五度五〇.九メートル――垂直に四〇.五七メートル――次、半径一〇メートル未満で、時計回り五回転なると巻きからの、反時計回り八回転、五回転まで円を重ねて、残りは星を描いて――」

 

 トトからランダムで出される指示通りに、ブレーザーを投げてはキャッチを繰り返し、より正確に投擲脳波操作できるようコントロール技術を高める為のものだった。

 それを一時間に一〇分の、五時間に三〇分と適度に休憩を入れつつも、その時間込みで計一〇時間ほど続けた次のメニューは。

 

「(次の特訓内容は?)」

「最初に鉄の壁二つ用意して」

「(分かった、そらよ)」

 

 トトは砂場の上に、厚い壁も同然な鉄板を指示通り二つ用意した。

 

「この二つを違う壊し方するから、私の後ろで見てて」

「(は~い)」

 

 自分の背後の位置に移って佇んでいるのを確認した朱音は、何のエネルギーも的ませていないブレーザーを手に横合いに構え。

 

「デリャ!」

 

 まず一枚目を、ハンマーで派手に叩き込む。

 甲高い金属同士の衝突音が騒がしくなると同時に、一瞬で壁面全体の至るところに亀裂が入り、鉄の壁は手で持てるくらい細かい無数の破片へと、粉々に崩れ落ちた。

 続いて、二枚目の鉄板の前に立って構えた朱音は、一呼吸を挟んで、ハンマーを叩き付ける。

 すると今度は、打突部分に丸状の風穴が開きつつも、二枚目は一枚目と打って変わって、比較的原形を止めたまま、仰向けにバタリと倒れ込んだ。

 同じハンマーによる打撃にも拘わらず、このくっきり現れた違い。

 

「(板に掛かる衝撃の範囲を、変化させたんだね)」

「そうさ」

 

 この〝からくり〟を、トトが端的に説明した。

 朱音はハンマーから繰り出す衝撃を、一枚目は広範囲に拡散させ、二枚目は逆に一点集中させて部分破壊に留めさせることで、異なる壊し方を見せたのだ。

 

「トト、今度は鉄板を………こんな感じで配置して」

「(はいよ~)」

 

 トトは朱音が砂上に指で描いた通りに、複数の鉄板を形成して配置した。

 ドミノ倒しの様に、鉄板たちが円状に、その内部にも板が十枚一直線で並べられている。

 これをどう破壊するのかと言うと、まずブレーザーを左側に投げ回して、反時計回りに円状の板たちを斧刃で両断して一旦キャッチ、間髪入れずにハンマーの一点集中型打撃で、十枚全て――。

 

「一枚も倒さずに、風穴だけ開ける」

「(これはまた難しいそう……)」

「でも弦さんの〝マジカル拳法〟とシネマトレーニングよりは、まだ控えめだよ」

「(それは言えてる、あれで〝ただの人間〟なのが、未だに僕は信じられない)」

 

 そう雑談を交わしつつ、一回目。

 朱音が投げたブレーザーの斧刃は綺麗な円を描いて円状に並ぶ板こそ全て切り裂いたものの。

 

「ヤアァ!」

 

 直線十枚の板相手への打撃は、五枚目まで立たせたまま風穴を開けたが、六枚目は倒れ、七枚目から最後まではバラバラになってしまった……つまり、失敗。

 

「(さすがに一回目で決まらないか)」

「だからこそ面白いんだよ、ハードルは高過ぎてもダメだが、低過ぎても張り合いがなくて困る」

 

 現実の二〇倍ある夢の世界の時間経過を生かし、さらに数時間、休憩もちゃんと取りながら、この特訓に明け暮れる。

 さしもの朱音も。円状の板こそ全て投げ切れるものの、直線の十枚には手を焼かされたが………本人には悲観も諦観もない。

 前世(ガメラ)の頃より、苦悩や迷走こそすれど、どんな苦難、逆境、ピンチを前にしても立ち向かうことを諦めない意志の持ち主だった上に、今や朱音は困難の高さに対し、逆に闘志が燃え上がる体育会系的気質も持ち合わせていた。

 そうして、かれこれこれで五百回目。

 

「(そろそろノンレムに入りそうだから、これで失敗しても成功しても一旦夢は閉じるよ)」

「OK」

 

朱音はブレーザーを投げる構えのまま、しばし微動だのせず、瞑目し、眼前の鉄の壁たちと対峙する。

 夢の中の実時間にして十秒、されど体感ではそれ以上に時が伸びて刻まれる中。

 十秒ジャスト。

 その瞬間、朱音は開眼と同時に投げつける。

 これまで同様、円状に配置された鉄壁(てつへき)は、むしろ一回目よりも正確かつ素早く両断され、ブレーザーをキャッチ、ここまでは良い。

 

「ハァァァァ――――」

 

 最大の関門たる、残る直線の十枚の一枚目の中央へ。

 

「オリャァァァァーーーーーッ!」

 

 ハンマーの一打を叩き込んだ。

 風穴は、一枚目、二枚目、三枚目―――五枚目を過ぎ―――九枚目も貫き、残る十枚目。

 トトが固唾を呑み……朱音が黙して動かず、自らが開けた穴越しに最後の一枚目を注視する中、十枚目も円形に、貫通。

 

 

 

 

 

 そして、真っ直ぐに群れる鉄壁は―――

 

 

 

 

 一枚たりとも、崩れず、倒れず………かの源氏の悲劇の武将の忠臣であった僧兵の最後の如く、立ち続けていた。

 朱音は残心として、姿勢を正して一礼し、しばし頭を下げたまま、採掘場に吹くそよ風を受ける。

 これに二十秒ほど時間を掛け、頭を上げ直すると………。

 

「ひゃほっほ~い♪ ヒャッホォォォ~~~♪ やったぁぁぁぁぁーーーーー!!」

 

 粛然としていた物腰と空気から、一八〇度一変。

 ぴょんぴょんと兎の様に軽快に飛び跳ねて、成功できた喜びを噛み締め、満面の笑顔でガッツポーズを取った。この辺、心身ともに大人びていようとも、彼女も年頃の女子であることが窺えよう。

 

「(わ~いわ~い!♪)」

 

 トトも喜びの気持ちを共有し、朱音の周囲をウキウキと旋回していた。

 

「「ハイタッチ♪(ハイタッチ♪)」」

 

 そうして二人は、喜色満面のまま、お互いの手をハイタッチし合う。

 また一つ朱音が、己が〝技術、技量〟の階段を多数登り上がった瞬間であった。

 

 

 

 

 

 この歓喜は目覚めてからの、早朝トレーニング中にも尾を引いて続き。

 

「今日はやけにご機嫌が良いわね?」

「そう? いつになく朝陽が綺麗で風も気持ちいいからかな~♪ ふふ~ん♪」

「私にはいつもと変わらない気がするけど、まあいいわ」

 

 ともに朝トレを日課とする静音とこんなやり取りを交わすくらいであり。

 

「うわ……早っ!?」

 

 静音が驚くくらい、いつも以上のスピードで臨海公園のジョギングコースを周りに廻るくらいだった。

 

「ヤタ、トトから何か聞いてない?」

 

 主からの問いに、八咫烏は首を振って否と返答した。

 

 尚、実はこの時も例の敵たちから監視されていたのだが、朱音は割と以上に日頃から日常は大いに謳歌する方だったので怪しまれなかった上に、当人はそれを感づいた上でいつもよりご機嫌に朝トレを励んでさえいた。

 中々に、煮ても焼いても食えない、元亀型怪獣である。

 

 

 

 

 

 明晰夢での柳星張対策も含めた特訓は、初日から一週間は《ヴォルナブレーザー》を実戦で遜色なく扱う為の鍛錬に費やしていたが、その夜は次のステップに至っていた。

 今回朱音からの依頼で、トトが設計した明晰夢の〝舞台の一つ〟は、讃州市の市立図書館の、多数の本棚が立ち並ぶフロア。

 そこに設置されているテーブルの一つに腰かけ、窓から注ぐ日光を主な灯りに、一言も零さず静かに真剣な表情を維持したままノートへ、鉛筆一本でひたすら〝絵〟を描き続ける。

 何ページにも渡って、あるもののデザインを描いては描き進め。

 

「できた」

 

 ようやく〝決定稿〟へと至る。

 今回〝新装備〟実体化する前に、デザインを描き下ろしていたのは、特に相手の遺伝子を吸い取り、技をコピーする能力込みで柳星張対策に力を入れていたが為だ。

 

「次に作るアームドギアってどれどれ」

 

 トトがノートに描かれた次なる新たな〝アームドギア〟のデザインを見た。

 

「今回は甲羅シールドの改良版なんだ」

「ああ、名前ももう決めてある―――〝シェルシールドⅡ(ツヴァイ)〟」

「わざわざ2がドイツ語なのも特撮からだよね」

「Of Course♪」

 

 朱音は、鉛筆一本ながら、複数かつ詳細に細かな新機能を備えた、甲羅型の盾の名前を、口にした。

 

「よし、早速特訓に入ろう!」

「(おぉーー!)」

 

 二人はそのままフロアを出て、一階まで階段を降り、図書館より外へ出た。

そこに広がっていたのは、見渡す限りの砂と巨大な岩場が広がるアメリカの荒野。

 今回はここが―――《ドリームトレーニング》の場(フィールド)なのだ。

 

 

次回、夜の秘密の特訓Ⅲ:Fly we to the beyondに続く。

 



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夜の秘密の特訓Ⅲ:Fly we to the Beyond

早くも特訓回第三弾、取り合えずこれで一息ですね。

サブタイ前々回はクウガ風、前回は響鬼さん風でしたが、今回は蒼穹のファフナーの主題歌風にしてみました。


〝Valdura~airluoues~giaea~~♪〟

 

 その夜のトトが設計した明晰夢内に建てられた讃州市立図書館から外へ――アメリカ西部劇映画でもお馴染みの荒野へ出た朱音は早速、館内で試行錯誤を経てデザインした次のアームドギアを含めたシンフォギアの〝機能、機構〟の新たなイメージを脳内にて明瞭に投影させながら、変身する。

 装着されたギアアーマーは、正面から一見すると、ルナアタック直後の頃に〝リビルド〟された(インナースーツに白いラインが増えた)ものと違いが見受け難いが、よくよく見れば大きな変更点がいくつもある。

 まず両腕、両足、腰など全身アーマーは、以前よりも鋭利さが増しながら、航空力学に基づいた空気抵抗をより緩和させて風とより一体になりやすい流線型な形状になり、腕部アーマーの肘部分には推進器が追加されていた。

 

「(腕に付いてるそれ、もしかしなくても、ロケットパンチ?)」

「まあね」

 

 トトの発言の通り、この推進器は《バニシングフィスト》込みで拳撃する瞬間噴射することで、威力をさらに上げる為に付けられたものだ。

 

「でもこれだけじゃないよ」

 

 朱音がそう言うと、関節部近くのアーマー表面にある、ガメラの甲羅模様がある円形パーツが飛び出して大型化したかと思うと、甲羅状の盾に様変わりした。

 

「これがシェルシールドⅡ(ツヴァイ)だ」

 

 以前の甲羅型シールドからの大きな変更点はと言うと、一つ目は今見せたように普段は腕部に小型化し収められ。

 二つ目はスラスターの出力が上がり、より空気力学に基づいた形状となり、投擲時の空気抵抗がより軽減され、速度面も安定面も向上されたこと。

 次に三つ目、朱音は近くにあった岩に盾を近づけると、側面から鋸状の刃が展開され。

 

「私の脳波に応じて、物体に近づくと自動でカッターが開く仕組みになっている」

 

 シェルカッターが、収納展開式となったことと、前は盾本体と一体であったがパーツが分割され、盾と刃がそれぞれ独立して同時に回転できるようにもなったが、これだけではない。

 まだまだ追加機能はある、むしろここからがメイン。

 

「ちょっと盾を軽く叩いてみてくれる」

「(うん)」

 

 トトは盾表面に、トントンとドアをノックする感じで軽く叩いてみた。

 

「(何だか前のより音が綺麗でよく響くようになった気がするけど……もしかして、あのアメコミヒーローが使う)」

「当たり、私のもう一つの祖国の国家理念を体現したヒーローのシンボルな、星条旗シールドに使われている特殊金属と同じ機能がある」

 

 この盾は、実体エネルギー問わず、攻撃を受けると、その際生じた衝撃を分散しつつ吸収し、エネルギーとして蓄積して強度がより増し。

 逆に攻撃する際、溜められたエネルギーを放出して、攻撃力をアップさせることもできるようになった。

 

「実はブレーザーにも、同様の機能が備わっているのさ」

 

 斧刃、ハンマー、穂先、メイスにもシールドと同様の機能があり、柄にも衝撃分散できる仕組みとなっていた。

 朱音が自らの得物(アームドギア)に求める、高い強度と柔軟性の両立を、より高めた格好だ。

 

「さすがに一度に溜めておけるエネルギーの量には、限度があるんだけどね」

 

 但し、都合よくメリットだらけなわけもなくデメリットも存在しており、その両方を正確に理解し、絶えず変化し続ける戦況の中で瞬時かつ的確な判断力と決断力を以てしての適切な運用が、当然ながら求められる代物となっていた。

 

「(朱音、もう一つ〝とっておき〟の機能があるでしょ)」

「あらバレた?」

「(顔に書いてあったもん)」

「これは一本取られたね、トト君の仰る通りだ、百聞は一見に如かずと言うわけで―――盾に火球を一発当ててもらえるかな? できれば君の主演映画の着ぐるみくらいの大きさになって」

「(了解、ちょっと待っててね)」

 

 トトは自身の全身を赤く光らせると、みるみる大きくなり、朱音からの注文の通り、自身の映画の撮影で使われたスーツぐらいの大きさとなった。

 両者は距離を取り。

 

「(準備は良い?)」

「いつでも」

 

 このやり取りを合図に、トトの腹部の『炎』の文字に似た模様が真紅に発光し、そこから発せられる熱で、周囲の大気が揺れ、陽炎を引き起こし。

 

「(トトインパクトッ!)」

 

 トトの口から火球が発射。

 対して朱音は、盾の表面に稲妻を迸らせると同時に回転させ、自身に迫り来る火球を受け止めた。

 すると火球は、稲妻と混ざり合って中和、拡散され、そのまま消失してしまった。

 トトはシェルシールドⅡが見せた技に驚きつつも、その機能の正体を突き止める。

 

「(これって、あのレギオンが使ってた〝電磁フィールド〟ッ!)」

「そうだ」

 

 そう、かつて朱音――ガメラのいる世界に襲来した宇宙怪獣――レギオンが使っていた、彼女のプラズマ火球すらも無効化する電磁波を用いた防御フィールド。

 それを朱音は、自身のギアのプラズマエネルギー操作能力を用いて、再現してみせたのだ。

 

「(敵の能力もちゃっかり拝借してるなんて、念入りに柳星張対策してるね)」

「それぐらいやっておかないといけない強敵だからな、しっぺ返しをくらわされた私にはともかく――」

 

 かの京都駅構内での激戦時、自身の武器で串刺しにしたガメラの右腕からDNAを蒐集した柳星張は、プラズマ火球をコピーして、それで止めを刺そうとした。

 しかしガメラは覚悟を持った決断で、突き刺された右手を自ら火球で破壊、隻腕となった右腕で柳星張の火球を受け止め、《爆熱拳――バニシングフィスト》を叩き込み、逆転の勝利をもぎとった。

 これは柳星張からしてみれば、因果応報な屈辱的敗北でもある。

 ゆえに次に再戦する時は、絶対に奴は自分の能力を二度とコピーしないと、朱音は確信していた。

 しかし……ともに造反神の猛威に立ち向かう戦友たちともなれば、話は違ってくる。

 

「もしも仲間たちの能力が奴にコピーされてみろ、例えば……クリスのイチイバルだったら」

 

 説明する朱音と、それを聞いているトトは、同時にそのシチュエーション―――樹海の至るところを大量のミサイルなどの重火器によって爆発が起きる様を想像し、二人とも鳥肌が立つくらいの戦慄を覚えて一瞬ながら、顔も青ざめられた。

 

「これらの機能はそうなった時、仲間と神樹様を守るのに必要な〝盾〟だ」

「(うん、その為にこうして夢の中でも鍛えているんだもんね)」

「Yeah(ああ)」

 

 散々自分を苦しめた強敵の能力までも彼女が会得したのは、一重に宿敵の脅威から、この結界(せかい)で巡り合えた、仲間――友を守り抜く、誰一人として死なせない、みんな生きてこの戦いを勝ち抜く為の、朱音の〝信念〟の一つでもあった。

 

「まあ、レギオンから拝借した技は、バリアだけじゃないんだな、これが」

「(お~~どれどれそれも見せて)」

 

 シェルシールドⅡを小型化し、左腕のアーマーに仕舞い直した朱音は、右腕のアーマーそのものを変形させる。

 握り拳を覆う形で砲塔が出現し、朱音の右腕そのものが砲身となった。

 

「《フォトンアームキャノン》、ライフルと違って、こっちは雷撃技をメインに使う飛び道具だよ」

「(ということは………今的を用意するから、一発撃ってみてくれる?)」

「分かった、私も試し打ちしたかったからね、九〇式で頼むよ」

「(オッーケー、あ………でもレギオンの技がモデルなんだから、万が一の為に痛覚の〝設定〟は変えておくよ)」

 

 朱音は頷いて応じる。

 トトはパートナーが立っている場所から一〇〇メートル向こうの地点に、陸自の九〇式戦車実物大を顕現させた。

 朱音は翡翠の瞳を戦車(ひょうてき)へ見据え、右腕(フォトンアームキャノン)の砲身を向け、さらにキャノンの形状を変形させる。

 ライフル同様、砲身が伸び、先端の砲口に三角を描いて囲む形で、肉食恐竜の三本爪にも見える三つの突起が添えられた。

 

「行くぞ」

 

 その一言を皮切りに、砲口に橙色の光が点り、三角の突起たちが回転し始め、同色のマイクロ波エネルギーを集束させる。

 砲塔の回転数と、稲妻迸るエネルギーの輝きと轟音が、機械音の大きさごと激しさを増してチャージは進んでいき。

 

「フォトンスパイラルシュート―――ファイアッ!」

 

〝荷電粒子砲〟となったアームキャノンから、橙色の光線が発射。

 ほんの僅かな刹那、九〇式戦車があった地点から、地上より五〇メートル近くもある爆発の大火が、爆音とともに舞い上がり、爆風は朱音たちにまで押し寄せた。

 戦車は光線が着弾すると一瞬で加熱、溶解された果てに、豪火に呑み込まれたのだ。

 

「(たった一発で戦車隊の五〇パーセントを壊滅させただけあるね……って朱音!)」

 

 暴風を身に受け、映画で見た『マイクロ波シェルでレギオンの巨体をも超える巨大な爆発』を思い返しもして、その破壊力に圧倒されていたトトは、一泊遅れて砂場に膝を付けて、肩で息をしている朱音に気づき、駆け寄った。

 

「(大丈夫!?)」

「まあなんとか……トトのお陰で腕も火傷も骨折もしていない」

「(みたいだね、でも熱は一応取っておくよ)」

「ありがとう」

 

トトが両手をキャノンに翳すと、赤熱化していた砲身から熱をみるみると吸い取って行き、オーバーヒートが治まったところで、朱音は変身を解き、久しぶりにシンフォギアの運用による披露で尻餅を付いた。

 

「はぁ……はぁ……うぅ………課題は山積みだな、歌ってもいないのにあの威力と反動と燃費の悪さに、砲身も一発でオーバーヒートと来た」

 

 この時改めて朱音は、かの宇宙怪獣(レギオン)の恐ろしさを改めて思い知らされた。

 今、浅黄たちがいて、宇宙では自身と自衛隊が立ち向かったレギオンの同族たちが星から星へと繁殖しているであろう、あの世界は大丈夫なのだろうか? と心配になるくらいに。

 とは言え、今の朱音にそれを確かめる術はなく、今でもあちらの地球も、人間含めた生命たちも健在であることを、願うしかなかった。

 勿論、この結界(せかい)での自身に課せられた使命も、忘れてはいない。

 

「(まだまだ、鍛え足りないってことだね)」

「だったら………鍛えに鍛えるだけさ」

「(朱音ならそう言うと思った)」

「諦めの悪さは、お互いさまだろう?」

「(言えてる)」

 

 疲労困憊でも尚、朱音の翡翠の瞳に宿る力強さは、一片も削がれてはいない。

 けれども、消耗しているのもまた事実なので。

 

「(でもそろそろ時間だし、一旦夢から出て、休んでおこう)」

「じゃあ、トトの厚意に甘えて今は休むよ、お休みなさい……」

「(お休み、続きはまた後で)」

 

 瞳を閉じた朱音の全身が光り出すと、段々とその輪郭(すがた)がぼやけて消えていく。そうしてトトは相棒の意識を、自身の夢から彼女の深い眠りへと、一度送り返して行った。

 

 

 

 

 

 一度、ノンレム睡眠の海の中で休息を取っていた朱音が、現実時間で一時間ほどして、トトの明晰夢の世界へと戻ってきた。

 ガメラたちは再び、夢の中の讃州市立図書館のフロアに入る。

 次の特訓前に彼女たちは、ノートに筆記しつつ、柳星張の転生体も含めた造反神側の少女(せんし)たちに関わる、二人だけの対策ミーティングを行っていた。

 全容どころか一部すらもベールに隠れた相手の戦力に対する、下手な断定は禁物だが、程よい具合に推測を思案しても、損はない。

 

「(始めのお題は柳星張だね)」

「ああ、私の推理では……造反神は奴に〝勇者システム〟の形で力を与えていると考えている」

 

 根拠は、この神樹様内部の仮想世界の特性と、シンフォギアシステムが抱える短所、そして勇者システムの開発経緯にあった。

 

「(歌いながら戦うシンフォギアに比べたら、まだ勇者システムの方が扱い易いもんね)」

 

 知っての通り、シンフォギアは担い手の心象風景(せんざいいしき)を元にギアが作詞作曲した歌を、半ば本能的とは言え装者自身が実際に〝歌い続ける〟ことで本領を発揮する特性ゆえに、ダメージを受けたりなどして歌唱が途切れば、戦闘能力は一気にダウンしてしまう〝泣き所〟を抱えた、扱いの難しい兵器である。

 それならば、地の神々の力を呪術面と科学面の双方で解析し開発された〝勇者システム〟を付与した方が得策な上に。

 

「それに元は、天の神側から地の神側に亡命してきた造反神由来の対バーテックス兵器だからな……」

 

 ゆえに造反神単体でも、システムを構築し柳星張転生体たちに分け与えるくらいは造作もないだろう、しかも。

 

「神樹様の仮想世界なら、〝満開〟もほとんどノーリスクで使える」

 

 朱音が召喚されたばかりの戦闘にて、静音が見せてくれた勇者システムの決戦機能――〝満開〟。

 本来なら使えば、能力が格段に強化されると引き換えに、多大にして残酷な代償を背負うこの機能は、神樹様の結界内に於いてはその代価を払うことなく発動できる。

 それは仲間たちの勇者だけでなく、造反神側の勇者も例外ではないだろう。

 同様に結界内であれば、シンフォギアの決戦機能にして、現実世界での使用時は装者に掛かる負担(バックファイア)も決して小さくはない〝絶唱〟も、ほぼノーリスクで使える筈だが、満開と違って発動には専用の〝歌詞〟を歌わなければならない短所もある。

 それ以上に限定解除――XD(エクスドライブ)に至っては論外だ。

 大量のフォニックゲインを以てようやく発動できる、奇跡と言う名の大博打を〝戦術〟には組み込めない。

 この世界の響たちのシンフォギアに後付けで搭載されている《イグナイトモジュール》も、使用時間が限定されている為……ノイズやバーテックス相手はともかく、柳星張相手では、雀の涙が良いところ。

 

「奴が勇者と仮定して、満開時にどれくらい能力が跳ね上がるか未知数だが……」

「(静音たちには申し訳ないけど、満開を使っても空中戦で柳星張に張り合える〝勇者〟は……いないと僕も思う)」

 

 このガメラたちは、強敵な怪獣ばかりを相手にした死線を潜り抜けてきた戦士である為に、戦場に関してはメンバー中リーダーの静音に並んで最も〝リアリスト〟な視点と思考で対応している。

 

「私もだ……」

 

 そんな彼女らが、『柳星張転生体が勇者として参戦』と仮定した場合、空中戦では仲間の勇者たちでは敵わないと、特に実際に空で戦った経験がある朱音は、はっきり結論付けていた。

 

「だからもし奴が飛行した時は、私が打って出るしかないか……やはり」

 

 満開やXDなどを除き、神樹様側メンバーで最も空中戦スキルが高いのは、何を隠そう――朱音である。

 だが朱音当人としては、例え相手が満開を発動し空中戦を仕掛けてきたとしても、絶唱に頼らずに対応したかった。

 

「(で、これが対抗も兼ねた装備なんだよね?)」

 

 トトは朱音が書いていたノート内のページを開き、新装備たる〝新推進機構〟のデザイン画を指差す。

 

「その通りだ」

 

 朱音は肯定した。ノートには、ギアを纏った彼女の後ろ姿と、腰部分に付けられた、中央下部に丸型の推進器が備えられた甲羅状のオブジェクトが装着されていた。

 

「よし、ミーティングはこの辺にして、《ブレージングウイングスラスター》の試運転に出るぞ」

 

 

 

 

 

 再び二人は図書館の正面出入り口から外に出る―――と同時に朱音は聖詠を歌い、再びシンフォギアを纏って変身、勿論腰の新装備も実体化されている。

 外の景色は、これはまた朱音からのリクエストで、アメリカ西部の荒野から一変している。

 今度は、天候こそ先の荒野と同様青空と太陽が拝める晴れではあるが――。

 

「(今度は昭和の先輩の聖地――)」

「であると同時に、最初の〝スーパーヒーロー〟の聖地でもある」

 

 地球の最北端、メタ的に言えば朱音とトトの先輩に当る〝昭和ガメラ〟が眠っていた地にして、朱音も言っていたアメコミ最初のスーパーヒーローの秘密基地の場所でもある――北極の真っただ中だった。

 全体の内数少ない陸地のある地域なものの、気温は当然氷点下の極寒の地、風に乗って、絶えず無数の雪の粒子が流れ飛んでいる。

 しかし朱音のギアはプラズマを扱うだけあって温暖機能はバッチリ、トトも神にして精霊だけあり、全く寒風に凍える様子を見せていない。

 

「(前に見せてくれたあのヒーローの映画、僕はあんま乗れなくて、あんな大都会のど真ん中で街を壊しながらのバトル……〝そういうのは怪獣映画でやれ〟だったよ、根っからの正義の味方には似合わなかった)」

「確かにね………でも彼がここで初めてスーツとマントを着て、思う存分に飛び回る姿は、名シーンに挙げても異論はないでしょ?」

「(うん、僕も解放感たっぷりだったあの場面は大好き、思い出すだけで今すぐ大空を飛び回りたくなるくらい凄かった♪)」

 

 実際、朱音もトトも涼しい顔で雑談を余裕に興じられるくらい、雪上を進んでいく。

 

「Wlell(さてと)……まずは動作チェックだな」

 

 朱音が《ブレージングウイングスラスター》と名付けた推進器のある背中へ目を向けると、機具の両端がシンメトリーに展開され、猛禽類と『ガメラ3――通称G3』の頃のガメラの飛行形態時の両腕の特徴が合わさった一対の〝翼〟へと変形し、両足外側の側面部からも小さな副翼が現れる。

 脳波で大小四つの翼を動かし、特に念入りにチェックしている主翼は、G3の頃以上の柔軟(フレキシブル)さを持った可動域の広さを実現していた。

 次に控えめの出力で、足裏、脹脛裏、腰側面、そして新たな主翼の風切部の噴射口を点火。

 浮いては降りを一〇回ループし、次に三メートルほど直立に浮かせた滞空状態で、前後左右に動かす。

 

「よし」

 

 雪原に降りて一旦主翼を畳んだ朱音は、今の準備体操が思った以上に手応えがあった様で、軽くガッツを取ってはにかんだ。

 

「じゃあトトの夢中を一曲分飛び踊り、〝歌ってくる〟よ」

「(行ってらっしゃ~い)」

「行ってきます」

 

 ここからが本番と、朱音は歩き出す。

 

「Music Start」

 

その一声で、《ブレージングウイングスラスター》は再び展開、胸部の中心に据えられた勾玉から、前奏が流れ出す。

 けれどもそれは朱音の戦闘曲のものではない、出だしはギターとオーロラのゆらめきの如きシンセが合わさったメロディ……それが段々とテンポが速まっていき、音色に合わせて朱音は歩行から走りへ、駆け行くスピードを上げていき――一気にスラスター全てを点火させて、急速飛翔。

 同時に曲は転調し、ユーロビートが利いたギターサウンドによる前奏二段目をバックに、雲より上の高度にまで急上昇。

 この曲は、朱音の好みの一曲にして、前世(ガメラ)と同じ、超古代文明を襲う猛威の数々から人類を守った〝光の巨人〟の主題歌である。

 

〝~~~♪〟

 

 朱音は凛として、どこか儚さを携えつつも……もっと高く、どこまでも高く……〝未来〟と称せる大空へ高く羽ばたき、舞い上がり、飛び進まんとする力強さも持った歌声で、歌い始める。

 伴奏と歌詞に合わせ、スラスターを巧みに制御しながら、即興で思い浮かべた振り付けで、空中と言う名の広大な〝舞台(ステージ)〟を、隅々にまで飛び回りながら、全身を一杯に、歌声も一杯に、踊り歌っていた。

 その様相は………まさに〝巫女の舞〟の如き、麗しささえも携え持つダンス。

 そして弦楽器を主体とした間奏に入ると、朱音はスラスターの火を消灯して主翼を閉じ、青空に仰向けたまま、地上へと降りて行く。

 

「(朱音……落ちながら踊ってる!?)」

 

 トトが驚嘆するのをよそに、間奏が盛り上がっていくと共に―――踊り続け。

 

〝―――ッ!〟

 

 そしてメインの主旋律に移り直ったと同時に。

 

(もっと――高く)

 

 曲名にもなっている――〝もっと、高みへ行こう〟――を意味する詩を歌い放って、歌の名に違わず垂直に飛び上がり、太陽を背に、大地の鼓動(マグマ)を連想させるプラズマの粒子を噴き上げた翼(ブレージングウイングスラスター)を、高らかに広げ上げ、羽ばたかせた。

 クライマックスのサビのパートに入り、一層舞踏も歌声も、先鋭に、鮮烈に、躍動的に、優美にして華美に……奏でられ……残る後奏の――FINE――まで〝演奏〟し終え、残心の身構えで締めくくった。

 

 

 

 

 

《ブレージングウイングススラスター》による高機動高速飛行の特訓も兼ねた、夢の世界の北極の地をステージとしたライブをやり切った朱音は雪原の地上へと戻って降り立つ。

 すると、感嘆の余りテレパシーでの声すら出てこないくらいの、トトからの拍手喝采を送られる。

 相棒からの称嘆に、朱音は、バレエの締めのお辞儀で応じた。

 

「(あ~~飛びたい飛びたい! 今度は僕も一緒に飛んでいい?)」

「勿論さ、どうせなら競争としゃれこもう、トト」

「(うん、だ~い賛~成♪ 負けないよ!)」

「私もさ!」

 

 公平を期すために、浮遊していたトトは地上に降り、朱音も右手の握り拳と右膝と左足を雪上に置く。

 トトの両足と朱音のスラスターが点火し、白煙と一緒に周囲の雪の結晶たちが華やかに舞い踊り出していく中―――ガメラたちは真下の雪氷を、派手に割って疾風怒濤に飛翔。

 大気を文字通り盛大に切り抜ける〝強風〟そのものとなって、北極の上空に佇む蒼穹(うみ)に飛行機雲を描き引いて、駆け巡って行くのであった。

 



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夜の秘密の特訓EXⅠ:UNISON

今回は朱音とエルフナインのおねショタ回にするつもりが、いつもの足し算方式のボリュームアップで前後編に(-_-;)



 私とトトが、まだ姿を現さない柳星張転生体含めた造反神側の戦士(しょうじょ)たちと共闘は必須なバーテックスらとの、激化は確実な戦いへの備えとして、映画が元による、トトのテレパシー能力で〝設計〟した明晰夢の世界での特訓を始めてから、最初の休日の、サタデーモーニング。

 昨夜も私達は夢の世界で特訓していた上に、起きてからも日課の早朝トレーニングをさっき終えたばかりだ。

 だが無理に無理を重ねた鍛錬で体調を崩して実戦に出られなくなっては本末転倒なので、常に最良のコンディションをキープする為しっかり心も身体も労り、学業も忘れず、休みの日は仲間(とも)たちとの娯楽などに興じて、自分たちが守る大切な存在の一つたる日常も喜び愉しみつつ両立させている。

 その証に、今朝の臨海公園から吹く潮風も、トレーニングで流した汗も、水分補給に飲んだ飲料水の味も、その後に身体を洗い流したシャワーの水とお湯も、いずれも気持ちいいものだった。

 

「いただきます」

「(いただきま~す♪)」

 

 トトと一緒に食べる朝食も然り。

 今日は、バジルソーセージとスクランブルエッグに、歌野が丹精込めて育てた秋トマトとレタスを挟んだホットサンド、大根ニンジンきのこのコンソメスープ、特製グリーンミルクスムージー、デザートに雀からこの前助けたお礼として送ってくれた愛媛みかんを添えた組み合わせ。

 

「(ふ~んふ~ん♪)」

 

 今宵もトトは頬を、焼いたチーズ並みにとろけさせるくらい美味しそうに食べ、私も我ながら某てぇ~んさい物理学者マスクドヒーローばりに『凄いでしょ? 最っ~高でしょ?』と言いそうになるくらい絶好の出来栄えを、笑顔で味わっていた。

〝生きるってことは、美味しいこと〟とは、家事と栽培と創作料理が趣味で自分の店(レストラン)も構えたヒーローの名言であるのだが、私もその通りだと思う。

 だって実際に〝生きてる〟って感覚を、こうして食事の美味と一緒に、味わっているのだから。

 

〝~~~♪〟

 

 二輪免許資格試験をパスすると同時に買ったバイク――ワルキューレF6Dと同様、装者として災いと戦うお役目でSONGから支給されたお給与で購入したコンポから流れるラジオ番組から、夜明けの光が世界を照らす爽やかな朝の空気にぴったりなクラシック音楽の音色を耳に取り込みつつ。

 

「(今日の予定はどうするの?)」

 

 トトからの質問にも、しっかり逃さず聞き取る。

 

「基地での特訓の傍ら、静音に『ドリームトレーニング』の報告書を書いて、エルフナインに、明晰夢を人工的可能とするテクノロジーがあるか聞いてみる、ってとこ」

「(ごめんね、僕の夢設計がもっと融通利いていれば……)」

 

 ここ数日で、造反神側の連中の威力偵察が行われていない時間帯の一つが、朝方だってことは把握してる。現に今朝からも何度か感覚を研ぎ澄ましてみたが〝視線〟は一切感じない。

 なので現実、正確には神樹様の模倣現実内でも、秘密の特訓に関する話題を上げることはできた。

 

「気に病むことはないよ」

 

 『ドリームトレーニング』の効果は予想以上だった。

 まだ一週間も経っていないと言うのに、私のギアーーガメラの《ヴォルナブレーザー》ら新武器(アームドギア)、新機能、新技を結構の数で編み出すことができた。

 中にはレギオンのマイクロ波シェルを元にした《螺旋熱光波――フォトンスパイラルシュート》など、まだ課題が残る(最初よりはマシになったが、まだ排熱面と発射時に生じる隙等の問題)ものも残っているが、〝現実の二〇倍ある夢での時間〟の恩恵もあって、大半は現実の実戦でお披露目できるくらいに鍛え上げることはできた。

 

「薄々、都合の良いものばかり利くものとは思ってなかったから」

 

 けど、良いことずくめばかりでもなかった。

 まずトトの夢の世界に入れる上に、かつそこを明晰夢だと認識、自覚できるのは、神樹様からの神託を受けられる巫女と資質保有者のみ。

 該当するのは、実際に巫女であるひなたと水都に、保有者の静音、奏芽、東郷、そして私の六人、戦闘員だけなら四人と、圧倒的に少ない。

 だから代用できる技術があるか、実現できるか、できたとしてメリットとデメリットがどんなものか、あの子に相談してみることにした。

 

「(でもどうしてエルフナインなの、あの子以外にも技術士兼錬金術師はいるでしょ?)」

「確かにね、でもキャロルたちの中で、一番〝脳領域〟の研究に熱心だから、それに――」

「(それに?)」

「仕事人間なあの子に、休み方のいろはを教えておこうと思ってね」

「(あ~そう言えば前に愚痴ってもいたね、キャロルもイクスも)」

 

 この前の休日に、SONG本部含めた軍港にて、その日もリディアン一回生組で訓練に励み、いつものように調理施設をお借りして調と二人で作った料理でみんなとランチを取ろうとした時、丁度食堂でキャロルとイクスの二人に鉢合わせ。

 

〝エルフナインはどうした?〟

 

 と聞いてみると、キャロルは盛大に溜息を吐き、イクスも苦笑い。

 

〝あいつなら今日も、研究室で絶賛引きこもり中だ〟

〝三度の飯よりなんたらってやつです〟

 

 寝ても覚めても、常日頃研究に没頭する同僚のことを話してくれた(キャロルの場合、クリス並みに粗暴な口調で愚痴もたっぷりに)。

 

〝それでお身体大丈夫なんデスか~~? 前にあわや仏様になりかけたのに〟

〝お菓子ばっかり食べてたドクターや、お肉ばっかりだったマムほどじゃないけど、それは少し不衛生だよ〟

 

 切歌たちからも心配の声が上がる中、私はと言うと―――なるほど、それらで大体分かった。

 

〝つまりエルフナインは、ワーカーホリックと言うよりは、『仕事以外を知らない』子なんだな〟

 

 そう言ってみると。

 

〝まあ……そうなるな、実際あいつには、オレの見てくれと錬金術と記憶以外には、『仕事』しか与えてこなかった………今はオレもこいつは不味いと思って『根を詰め過ぎるな』と度々言ってはいるんだが、強情なとこだけはオレに似ちまいやがって……はぁ……世話が焼ける〟

 

 溜息混じりにこう答えたキャロルの声音には、エルフナインを案じる確かな〝想い〟が垣間見えた。

 この技術部トリオの話、即ち『魔法少女事変』の話をし出すと、かなりの時間を要するので申し訳ないが、以下中略。

 

「ごちそうさまでした」

「(ごちそうさまでした)」

 

 なんてことを話題にしている内に、私達は同時に朝食を食べ終え、ハモる形で締めの合掌と一礼をした。

 

 

 

 

 

 

 朝早い内に軍港へと向かった私とトトは、まずSONG本部の潜水艦内のレクレーションルームの一室を借りて、静音に提出用のドリームトレーニングに関する報告書を纏める。

 実はまだこの特訓法は、静音にも弦さんにも話してはいなかった。やり始める時点では効果が未知数だったし、メリットとデメリットもある程度把握しておきたかったし、それともう一つ言ってしまえば―――〝敵を欺くにはまず味方〟から。

 向こうは自分達の〝出歯亀〟が私達(ガメラ)に悟られていることと、何かしらの対策を行ってると薄々感づいているだろう。

 けど具体的な手段までは、まだ測りかねているところな内に、口の堅さは誰より保証できる静音に伝えておく。

 潜水艦内の密室だが、念のためインターネットは一切遮断、画面は正面以外の角度からは見えない設定にし、トトに〝見張り役〟だと見抜かれないよう注意も払って見張ってもらいつつ、日本語の文章を筆記体表記のローマ字に、さらにアナグラムで英語文章に置き換えた。これをそのまま日本語訳しても『勇者か装者、あるいは両方と思われる造反神側の新戦力による威力偵察が度々見られる』としかならない様にして纏め、SDカードに保管する。静音の頭脳ならトリックを見抜いてくれると信じているゆえにできる措置だ。

 それを変にこっそり渡しては、逆に怪しまれかねないので。

 

「このSDカードに入っている近況報告書を静音に渡してもらえますか?」

「分かったわ朱音ちゃん」

 

 あえて堂々と、友里さんを経由して静音に送るようにしておいた。

 

 

 

 

 

 続いて、現実での肉体も込みも鍛錬の方に、無理はし過ぎない様、時間とメニューはきっちり決めておいた上で。

 最初は軍港内のフィットネスジム施設にて基礎的な体操と筋トレをこなす、基本は大事だからね。

 次に筋トレマシンを使い。

 その次に、音楽再生機能付きかつメロディに合わせてベルトコンベアの速度が変化する設定も備えたランニングマシンで、歌いながら一〇曲分ぶっ通しで走り続け、一旦休憩し水分補給(清涼飲料水と、たんぱく質補充の為生卵の一気飲み)して身体を癒し。

 再開後に行ったトレーニングと言うと、ボクシングルームでサンドバック相手に基本的だが単調にならない様、常にステップと異なる攻撃の組み合わせでの打ちこみ、縄跳び。

 続けて、動画サイトで偶然見たのを参考に、一〇キロはあるビーチバレーくらいの大きさな灰色ボールを三つ、アッパーパンチの打ち上げでジャグリングしながら、トトが同様のボールをヘディングでこっちに打ってきたところを蹴り返し、トトも打ち返して蹴り返し、打ち返して蹴り返しを繰り返す、集中力と打撃力と瞬発力とバランス等々を一度に鍛え、また休憩。

 その次は射撃場で、友里さんとも一緒に拳銃による射撃訓練して、また休みを取り。

 今度はダンスルームでの、様々な曲を歌唱兼舞踏。

 ツヴァイウイングやマリアの現代POPから、バレエ曲、神事の巫女舞、神世紀の時代でも連綿と歴史を絶やさず繋げてきた民族舞踊の数々もこなすことだってある。

 そうして時間内のメニューを一通りこなしたので終了、当然ながら汗だくではあるが、特訓直後の汗の感覚はいつも気持ちいい………でも放ってはおけないのでちゃんとシャワーを浴びて洗い直し、トレーニングウェアから私服に着替えて、再びSONGの潜水艦(ほんぶ)へ。

 

 

 

 

 

 艦内にはシンフォギア装者を抱えるSONGならではの施設として、レコーディングスタジオ(ブースとコントロールルームが分かれ、多数のマイクにミキシングコンソールや吸音材なども揃った本格仕様)があり、そこでは装者の歌声の録音だけでなくフォニックゲインをより子細に記録することもできるようになっている。

 『魔法少女事変』の際、響が精神的不調によって聖詠が歌えず変身不能になる事態が起き、また一度本部が敵の攻撃で大破したこともあっての修理が必要になった際、装者のメンタルチェック用に静音の手で増設された設備で、私も重宝させてもらっている施設だ。

 午前の予定の締めとして、今日はトトと一緒に歌い、藤尭さんに歌声とフォニックゲインを記録させてもらう。

 

「朱音ちゃん、準備は良い?」

「いつでも」

 

 ヘッドフォンを被り、大型録音マイクとの適切な距離に立って準備を終えた私は調整室にいる藤尭さんに万端だと伝え、録音が始まる。

 今回はアカペラで、この世界でも二〇一四年に公開されたかの怪獣王のハリウッド版映画の、バーテックスの襲来で幻となってしまった続編の重要な場面で流れる劇伴の、バビロニア語で書かれた歌詞を、一回目は私一人で。

 

〝~~~♪〟

 

 二回目はトトと一緒のデュエットで粛々と荘厳な調子で歌い、レコーディングは終了。

 窓越しに藤尭さんの様子を見ると、端整な顔立ちにかなり驚いた表情を形作らせて、ブースに入ってきた。

 

「どうしました?」

「いや~~見てよ、先日のと比べて朱音のフォニックゲインの数値が急上昇してるんだよ」

 

 

 藤尭さんは手に持ってたスマートパッドの画面に表示されたフォニックゲインの数値のグラフを見せてくる、確かに先日録ったものより、今日の方が高い数値を上げていた。

 

「ここ数日何があったの?」

「その辺に関しては静音にレポートを送ってあるので、そちらを参考に頂ければ」

「さすが手回しが早いね、それじゃあ、次にトト君と一緒に歌った二回目なんだけど」

 

 次に二回目の数値のグラフを見せてもらった。

 たたでさえ『ドリームトレーニング』の効果で高くなっていた一回目よりも、さらに高い数値でフォニックゲインが生成されているのが一目瞭然。

 

「もう何度か記録して解析してみないことにははっきり断定できないけど、これは君達ガメラ同士による〝ユニゾン〟だと思うね、トト君がテレパシーを使えるとは言え、人と精霊のデュエットでここまで叩き出せるなんて、大発見だよ」

 

 やり手中のやり手で優秀な一方、私の世界でもこちらの世界も共通して、藤尭さんは仕事時間が長くなるほどボヤキ癖が現れる性質なお人なのだが、今回のレコーディングの結果に、いつになくテンションが高かった。

 そんな彼が口にした〝ユニゾン〟とは、簡単に言えば装者同士が共に歌唱することでフォニックゲインの共振・共鳴による相乗効果で、ギアの出力と戦闘能力(バトルポテンシャル)を飛躍的に向上させるシンフォギア運用法の一つである。

 実際に私も、自分の世界にて翼とお互いのギアによって専用の戦闘曲を作成し協奏するほどのユニゾンを体験したことがあった。

 ドリームトレーニングの最中で、もしやと思って試してはみたが………これはまたなんて、福音(よきしらせ)。

 トトともユニゾンによる歌唱で戦闘能力を高められるとなれば、造反神側の柳星張ら勇者たちとバーテックス連合軍との領土を巡って一段と激しくなる攻防戦に対して有効な戦術の一つにもなる。

 

「一応もう一曲、ユニゾンで歌ってみる?」

「お願いします、次はユニゾンだけに………ハ〇パーエージェントのあの曲で」

 

 まだインターネットに馴染みなかった西暦九〇年代に時代を先見したネットの世界を舞台とした特撮ヒーローの続編アニメの(神世紀では三〇〇白年以上越しに近年制作された)主題歌で、日本語で『合体』を意味する主題歌を私はリクエストした。

 

「おお~特撮マニアな朱音ちゃんならそう来ると思って用意しておいたよ、この分もプライベート用に聞いてもイイよね?」

「Off Course♪(もちろんですとも♪)」

 

 この世界でも〝隠れファン〟な彼に私が満面の笑みで、了承のサインを送ると。

 

「よぉぉ~~し! それじゃあちょっと待っててね~♪」

「はい」

 

 いつのも仕事中からは考えられない分かり易く陽気な調子で、調整室に戻って行った。

 これで彼のボヤキ癖が少しでも解消されれば、時たまそれに困っている弦さんや友里さんにも福音になる。

 

「トト、二曲目の準備は?」

「(いつでも万端♪)」

 

 ヘッドフォンは付けてないトトだが、テレパシーで私の脳内にアクセスすることで、耳を通じて頭に流れている曲の伴奏を聞くことができるので、問題はない。

 私も準備を整え。

 

〝~~~~♪〟

 

 耳へ伝ってくる、ストレートにヒロイックで熱いギターメインのサウンドに乗って、私とトトはさっきと打って変わり、エモーショナルかつエネルギッシュに、かの電脳世界のスーパーヒーローの主題歌を歌い上げるのであった。

 

 

 

 

 

 

 今日はこんな感じで、午前のスケジュールを全て消化し終えて、午後からのメインの予定も進める為、私とトトは館内のエルフナインが使っている研究室の方へと向かった。

 オートスライドドアの横にあるインターフォンを押してみる……が、応答がない。

 一応、二回目も押してみる……やっぱり一切リアクションがない。

 

「(これってもしかして)」

「もしかすると、だね」

 

 ドア越しに研究室内でエルフナインがどうなっているか、大体事情を察した私達は。

 

「Excuse me(失礼します)」

 

 ドアの開閉ボタンを押して入室すると。

 

「やっぱりか」

 

 案の定、研究に没頭し過ぎて机の前で両腕を枕代わりにすやすやと眠るエルフナインがいた。

 私は起こさない様に、こっそり慎重に、エルフナインを研究室内に設置されているベッドの上にまで運ぶ、典型的な仕事疲れらしく、見たところそれ以外に体調に問題はなさそうだ。

 処方箋は、ランチのご馳走で決まりだな。

 

「トトはエルフナイン様子を見てて、今からランチを作ってくるから」

「(分かった)」

 

 今日の昼食(ランチ)を作るべく、本部内の食堂兼調理場の方へと向かう。

 メニューは何にしようか……そうだ、イタリアンンシチューのトリッパにしよう、キッチンにはいつも一通り食材は揃っているから、わざわざ買いに行かなくても作れる。

 そうと決まればと、私は調理する楽しみの余り、キャットウォークをスキップしながら調理場に向かって行った。

 

 

『夜の秘密の特訓EXⅡ:MOTHERFOOD』に続く



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夜の秘密の特訓EXⅡ:MOTHERHOOD

今回は朱音とエルフナインの『おねショタ回』となっております(コラ


 SONG本部内の調理室(キッチン)で、エルフナインも含めたみんなの昼食(ランチ)を作っている、髪をアップに纏めたエプロン姿の私。

 今回は最初に思いついたイタリアンシチューのトリッパと、鮭としめじのバター炊き込みライス、アボカドと枝豆入りシーザーサラダ、野菜が苦手でもごくごく飲めるビタミンたっぷり、雀からの恩返しに頂いた愛媛みかん入りフルーツ野菜ジュース。

 サラダとジュースはもう調理済みで冷蔵庫に保管中、ライスも炊飯器の中で炊き込みを待つだけ、後はメインのトリッパだけであり、ガスコンロ上の大き目の鍋の中でぐつぐつと蒸気が上がって煮込まれるスープを、丹念にお玉で混ぜ合わせている。

 本当は実際にトリッパのメイン食材たる牛のハチノスを使いたかったけど、生憎調理場の冷蔵庫にはなかった、残念……でも香川の風土とオリーブで育てられた讃岐牛の牛もつと、同様に香川県産の讃岐夢豚のロース肉はあった。

 なのでもつと、刻んだ豚ロース肉を代用し、ニンジンに玉ねぎにセロリなどの香味野菜をだしにトマトソースをバジルとセットでペーストし、具の一つにほうれん草も入れ、調味料の一つに米酢も用いているので、実質日伊折衷シチューだ。

 

「おさ~んどん♪ おさんどんおさんどん~♪ I’m a Osandon~♪」

 

 調理への意識は向けながらも(ちなみに今日切歌たちと一緒でないのは、クリスと夏凜ら現〝勇者部〟を仕切る面々をリーダーとした解放地域の見回り任務に駆り出されている為が理由、どうも私からの指示は素直に聞く状況にあのツンデレコンビは先輩として少々〝危機意識〟を持っているらしい、別にそこまで気負わなくてもいいのにな、三人とも大いに二人をリスペクトしてるんだから)、調譲りの『おさんどんの歌』を口ずさみながら、風味とともに赤味が鮮やかに色づいていくスープを茹で進めていると。

 

「今日も絶品に美味しそうなお料理を作ってるね、朱音ちゃん」

 

 ここの調理場と食堂の主であり、普段より友里さんらSONG職員たちのお腹を満たしている、かつて海上自衛隊所属の自衛官でもあったシェフのおばさんが、私の調理模様を覗いて来た。元海自だけあり、あの海軍カレーも勿論調理し、多くの同僚のお腹を満たしてきた腕前の持ち主である。

 

「いつもすみません、厨房(ここ)を使わせてもらって」

「気にせんで、おばさんとしても朱音ちゃんや調ちゃんの料理の腕には、日々勉強させてもらってるから」

「いえこちらこそ、おばさんの技量には大いに学ばされてもらってますよ、シチューに米酢を入れてるのもおばさん譲りですし」

「あらそうだったの? ありがと―――おや大分濃厚に煮上がってきたね♪」

「はい♪」

 

 おばさんと雑談を交わしながら、トマトと野菜とお肉が溶けあった香味を嗅ぐ。

 

「わたしは食材の買い出しに行ってくるから、今日本部に来てる勇者のお嬢ちゃん達のお昼は、頼むわね」

「任せて下さい」

 

 おばさんが材料の買い出しに食堂を出て、讃州市内にある業務用スーパーへと行ってから、二・三分ほど経つと―――食堂に向かって、うら若き女子たちの多様な声たちの積み重ねてでできた喧噪が、近づいてきた。

 厨房から見える食堂の出入り口から、若葉たち西暦勇者とひなた、過去の静音こと清美ら先代勇者中学生組が入ってきたところを目にしてほどなく―――二組の中から、料理の豊穣な香りに釣られて、笑顔で真っ先にこっちに向かって、訓練直後とは思えない元気さで走って来るメンバーが二人。

 

「大朗報だぞみんな~~! 今日のお昼は朱音の手料理だ! 見てるだけでもうタマら~ん♪」

 

 到着と同時にカウンター上を両手で立ったの一人目は、パーカー姿がよく似合うボーイッシュにしてやんちゃ坊主な容姿と口調とが特徴的な西暦メンバーの一人の球子。

 

「朱音さん! その鍋の中の料理って何ですか!?」

 

 歳相応より小柄な身体をぴょんぴょんと跳ねて鍋内のスープに釘付けになりつつ料理の詳細を聞いてきた二人目は、先代メンバーの奏芽ちゃんこと、中学生当時の奏芽である。

 

「トリッパって言うイタリアの牛もつトマトシチューだよ、後鮭としじみの炊き込みご飯にアボカド入りシーザーサラダと、愛媛みかんも混ぜたフルーツ野菜ジュースのラインナップ」

 

 私がメニューを一通り述べると、声にならない嬉しい悲鳴を上げる二人の双眸の潤いと輝きの度合いはさらにからの、よりさらに強くなった。見える――確かに二人の頭にワンコの耳、腰からは尻尾が確かにはっきり見えた。

 ここまでランチを楽しみにしてるとなれば、無論、口からは涎が出てしまっており……奏芽ちゃんなんて、現在の奏芽が見たら悶絶必至な、滝並みの量が口元から流れ落ちるくらい、中学生なのに一種の幼児退行現象まで起こしていた。

 

「あ~~もう!奏芽ったらはしたない!」

「はいティッシュ」

「ありがとうございます朱音さん」

「助かりました、ほら!タマっち先輩もお口吹いて、みっともないったらありゃしない」

「あはは~~これはすまなかったぞ杏」

 

 咄嗟に私は厨房内にあったティッシュボックスを、清美たちの前に置くと、球子と奏芽ちゃんの保護者たちが涎を吹き上げた。球子なんて杏より年上だと言うのに、戦闘時はともかく、日常の場では精神年齢が完全に逆転してる。

 

「全く……鍛錬の疲れで空腹なのは分かるが二人とも、勇者の身でもあるのだから、節度をしっかり持て!―――」

 

 中学生勇者組一同を代表して、球子と奏芽ちゃんに苦言を呈する若葉であったのだが――。

 

「ってひなた!? あ、朱音さんまでまた!? な……何ですかそのやけに生暖かい目線と笑顔は!?」

「「だって若葉君(ちゃん)」」

 

 私とひなたは、若葉本人曰く『生暖かい笑顔』な表情のまま彼女の顔に目を向け、各々自分の口元の端を人差し指一本でとんとんと指差し。

 

「ほらここ、君の凛々しい口(マウス)からも零れてるよ」

「はっ!」

 

 私は、一滴ほどだが零れている上に料理の匂いで顔も実は緩み気味だった若葉にダメ押しで、からかう気満々の我ながらニヤケた顔の一部な口から一言付け加えた。

 そこでやっと己が事態に気づいて顔を真っ赤にした若葉は、これは不味い状況だと神速でティッシュを一枚取り出し、大慌てで自分の涎を一吹きで拭いきろうとする。

 西暦勇者のリーダーにあるまじき醜態を、またひなたの〝被写体〟の枠に捉えられまいとした必死の行動だったが………パシャパシャパシャッ!

 

「無防備な若葉ちゃんのショット!連続ゲッ~~ト♪」

 

 若葉にとっては無常にも紙一重の差で、いつの間にか両手でスマホを構えていた幼馴染はシャッターをスマホカメラの機能で連写。ちゃっかりシャッターを切った分だけ若葉の年頃の女子な一面を写真にして画像保存してしまった。

 

「ひ~~な~~たぁぁぁぁーーーー! せめて今撮られた分だけでも消去させてもらうぞ! カメラを寄越せぇぇぇーー!」

「おっ~と――そうはいきません! ハイ! ソイヤ!」

 

 二人の間の恒例行事と言える、ひなたの〝若葉コレクション〟がたっぷり貯蔵された彼女のスマホを巡る攻防戦、それをある勇者は心弾んで観戦し、まだある勇者は苦笑いを浮かべ。

 

「〝全く〟と言いたいのはこっちね」

「その点に関しましては……同感です」

 

 さらにまたある勇者は、両腕を組んで心底呆れ気味の溜息を吐き、若葉を勇者としても剣士としても〝尊敬〟している者でさえほぼ似た視線で眺めていた。

 西暦勇者のリーダーと巫女による勝負の模様を見る限り、この様子じゃ今日も若葉の負け確定だな――と、早急に判断を下してスープの味見をした私は。

 

「はいはいその辺にして! 丁度今スープもできたから、みんな席で待っててね!スープおかわりもたんまりあるから」

 

 と、一同に声を掛けると、中学生勇者のメンバーほとんどが人それぞれ多少なり差異はありながらも景気よく応じた。

 うん………やっぱり私からの号令やら指示やらには、気前よく応じてくれるメンバーが結構多い気がするんだけど、なぜかな?―――とまた日々のお役目で時に浮かぶ疑問が再浮上してくるも、すぐにお腹を空かせるみんなにランチの提供を優先し直した。現に他のメンバーには聞こえなかったみたいだが、球子と奏芽ちゃんのお腹から、空腹の虫が鳴き出しているのを、ちゃっかり人一倍に鋭い五感の一つたる私の耳は拾っていた。

 

「は……はい」

 

 そんな中一人だけ、気恥ずかしそうに照れて、細々な声を発しそっと手を挙げたが。

 

「ほらほら郡ちゃんも♪ はぁ~~い!」

「た、高嶋さん!?」

 

 親友――高奈の手で、天井に向かってピンっと真っすぐ手を伸ばされてしまう。

 勿論その一人、千景の………時々……自分(ガメラ)とギャオスと柳星張によって運命を翻弄された〝彼女〟の面影が見えてしまう、他者を余り寄せ付けない雰囲気を醸し出しながらも、黒のストレートヘアが似合う大和撫子風の美貌は、さっきの若葉ばりに赤々と染め上がってしまい、翡翠の目で密かに捉えていた私は、配膳準備に紛れてこっそり口元を微笑ませる。

 さてと……これだけの大人数だから、トトも呼んだ方が良いかなと、勾玉を握りしめた。

 勾玉に触れれば、これを通じて私からの思念を送ることができる。滅多に使わないのは使い過ぎれば傍目から思念通話中だと筒抜けになる上に、敵に〝手札〟を悟られたくない事情があったからだが……〝便利〟に依存したくない心持ちも理由だった。でも使える時は、偶にでも使わないとね。

 

 

 

 

 

 一方、エルフナインの私室兼研究室の方では、トトが小さな身体で下手に起こさない様、ベッド上で器用に白衣だけを脱がせて、ショーツを体に被せて寝やすい体勢に寝かし直した。

 

「(このファイルはこの辺に置いても大丈夫かな?)」

 

 ついでにと、研究熱心が過ぎる主によって少々散らかった部屋(それでも翼の汚部屋に比べればか~な~りマシだが)を、本人が〝どこにどれがあるかあったか却って混乱〟させない様留意しながら、整理整頓を軽く行っていた。

 

「(ここまでにしておこう―――ん?)」

 

 と最後の片付けようとしたトトは、ファイル名が目に入り釘付けになる。

 

「(『ドクター・ウェルのデータチップ解析レポート』……)」

 

 ファイル名に明記されている『ドクター・ウェル』なる人物のことは、トトもSONGの記録書を通じて一応存じていた。

 文書越しに受けた印象としては、トトも朱音もほぼ共通して――『生化学者としては優秀極まるが、度を越した英雄願望に囚われたサイコパス、〝英雄〟になろうとしてやらかしたことはアメコミの〝宇宙全体の生命を半分にしようと本気で目論んだヴィラン〟となんら変わらぬ、畜生を極め切った下衆の外道』と、ヒーローを目指さずしてヒーローの精神を胸に宿し、人間(ヒト)を愛するガメラら彼女らでさえ辛辣に下すほどの――〝精神的怪物〟だと断じていた。

 そして二人とも、奴に直接関わった人間は誰も彼もが酷い目にあったと淡々に表記された記録書でも窺えたので、日常でも戦闘でも、話題どころか名前の一言すら口にせずにいた。

 

「(朱音なら、もしこいつと会ったらきっと―――)」

 

〝英雄って称号は結局のところ、人々から偉業と見なされた行為を果たした者に送られる豪華な〝おまけ〟でしかない、そんな英雄に手段選ばずなろうとしてる時点で、お前は英雄からほど遠い場所に奈落にいる、その自意識の魍魎な執着を捨てない限り暗い底辺からは出られないぞ……永遠にな、マッドドクター〟

 

「(なんて言うんだろうな)」

 

 などと想像する一方で、ふと過った〝直感〟から、もしかしたらと思いファイルを開いて読み始めた。

 神樹様から付与された知識で、日本語と英語の読み書きは普通にできるくらいの語学力を今のトトは身に着けている。

 何ページか捲り進めると。

 

「(多分、これがビンゴ)」

 

 そう確信したトトは捲るのを止め、これだと思ったページを読み進めていく。

 

「(ダイレクトフィードバックシステム………あれ? このギアを纏ってる装者って未来!?)」

 

 トトは〝神獣鏡〟のシンフォギアを纏わされた未来の写真に衝撃を受けつつも、さらにこのシステムの詳細を読み進め。

 

「ヴゥゥっ………(最悪中の最悪……)」

 

 ウェルが未来に対して行った非道の数々を思い知り、唸り声を上げるくらいに忌々しく吐き捨てるも。

 

「(でも運用次第じゃ、これで巫女以外の勇者(みんな)にも……)」

「(トト)」

 

〝ダイレクトフィードバックシステム〟と言うマッドサイエンティストが生み出した一種の悪魔の発明から〝光明〟を見い出したトトに、朱音より勾玉を通じたテレパシーが届いた。

 

「(なに?)」

「(ランチができたから、若葉たちの分を配るの手伝って)」

「(うん)」

 

 トトはファイルを閉じて机に置くとその場で霊体化、一気に食堂へと配膳の手伝いに向かった。

 

 

 

 

 

 若葉たちの昼食を配り終えた朱音は、自分とトトとエルフナインの分を乗せた配膳カートを押して、研究室に改めて向かい。

 

「「Excuse Me(Excuse Me)」」

 

 本日二度目の訪問をすると。

 

「ふぁ~~……」

 

 丁度良いタイミングで、エルフナインがあくびを上げて眠りから覚め始めた。

 起き上がって、重さが残る瞼をこすりながら。

 

「はぁ~……おはようございますです」

「お寝坊姫様、もう時計はお昼の一二時の鐘をとっくに鳴らし終えてしまってますよ」

 

 寝惚け気味のエルフナインに、朱音は二枚目の男性的な声音でユーモアを送った。

 

「はい?―――ええぇぇぇ~~! いけません!僕はなんて大ボカな大寝坊をッ!」

 

 今ので一気に意識が覚醒したエルフナインは大慌てでベッドから飛び起きそうになったが、その直前に朱音の両手がやんわりと彼女の両肩に触れ。

 

「ほらエルフナイン君……そこで慌てない……焦らない……」

 

 今度は小さな子どもをあやす様に、翡翠の瞳の瞼が丸みを帯び、穏やかで柔らかな声音によるささやき声と微笑みで、優しくエルフナインの肩をとんとんとしてから次に背中をゆっくりさすり、落ち着かせてあげた。

 

「ありがとうございます、でもどうして朱音さんとトトさんが僕の研究室に?」

「説明は後でするから、まずはランチを食べよう」

「ランチ? はぁ~~……♪」

 

 朱音越しに配膳カートの上に乗った料理たちを目にしたエルフナインの瞳は、煌びやかになり、脳の電気信号は食欲を促進させ。

 

〝~~~♪〟

 

 お腹にいる虫も鳴き出し、エルフナインは正直に空腹を訴える自身の体に苦笑した。

 

「です……ね、では朱音さんが作ってくれた昼食、ご馳走させて頂きます」

「そうだよ、良い子良い子」

 

 朱音はエルフナインのボリュームとウェーブ豊かな髪が乗る頭を撫でてあげた。

 

 

 

 

 

 朱音が配膳に使ったカートには、三人分の食事をじゅうぶん乗せられる即席テーブルに変形できる機能が付いている。

 キャスターを固定し、上部の板を広げて、研究室にあった椅子を料理の前に置き座った三人は同時に合いの手で。

 

「「「いただきます(いただきます)」」」

 

 日本お馴染みの食事の挨拶の礼をして、食し始めた。

 

「朱音さんの料理今日も絶品です! 特にホルモン、ネットでは食べにくいと聞いてたのに、このトマトシチューに入ってるのは柔らかくて食べやすいし、トマトの甘味と肉汁のジューシーさがこんなに合うなんて! 炊き込みご飯も、お米の味を消さずに鮭とバターの味が絡み合って食が進みます! 後々サラダも――」

 

 少々興奮気味に朱音の料理の美味具合を述べ立てるエルフナイン、あわや咽そうな様子だが、さっきの朱音のあやしの効果か、テンションは一定レベルを超える前にジュースをそっと一口飲むなどして対応する程には理性も働いていた。

 朱音とトトは、そんな彼女を微笑ましく眺め、お互いに笑顔を交し合って自分の分のランチを堪能する。

 

「実は僕とキャロルにとってシチューは、家族の……パパの味の一つなんです」

「君のダディって、料理ができたのかい?」

「いえいえ……錬金術による薬の調合は達人の域でしたが、逆に料理は全くのダメダメでした……お肉一つも満足に焼けなくて、カチンコチンの炭にしちゃうくらい」

 

 当時のキャロル曰く――〝不味いし苦いし美味しくないし、零点としか言いようがないし〟とドきつい評価を下しまくっては、自分が料理を作り直していたとのこと。

 

「シチューだって、どうやったらそうなるのは今でも分からないくらい、毒液染みた代物でしたし」

 

 朱音とトトは、フィクション――主にアニメや漫画に出てくるメシマズキャラが作る典型的不味そうな料理を想像した、多分これで合ってると断定して良い。

 

「(でも〝二人〟にとっては……大事な思い出の味だったんだね)」

「はい♪」

 

 ちょっとしたエルフナイン、そしてキャロルの思い出話も込みの雑談で場を華やかせて食事を進めていく内に。

 

「「ご馳走さまでした」」

「おそまつさまでした」

 

 皿に乗ってた料理はいずれも、ソースにスープの残滓を除けば綺麗に食べ尽くされ、食後の挨拶を経て、一旦朱音はお皿の片付けに退室。

 

「それじゃ改めてエルフナイン――」

 

 三度研究室に入り椅子に座ったところで。

 

「――君の研究室に訪問した理由だけど、実は――『かくかくしかじかで』」

 

 一応トトの結界で元から高い研究室の防音性をさらに高めてもらった中、朱音はここ数日自分とトトが行っていた〝秘密の特訓〟を一通り説明した。

 

「トトさんのテレパシーはそこまでの御業もできるんですか……」

「(まあね)」

 

 聞いたエルフナインは、案の定驚嘆の表情を見せる。

 

「藤尭さんから、今日録ったフォニックゲインのデータも端末に送られてる筈だよ」

「確認してみます」

 

 エルフナインが自分の腕に巻かれた端末(スマートウォッチ)を立ち上げて立体モニターを表示すると、確かに藤尭からのメールを受信しており。

 

「凄い!効果覿面ですね!」

 

 比較データを見て、感嘆の言葉と表情を表した。

 

「ああ、実際に想定してた以上の成果は出たんだけど」

「(実際にこの〝夢特訓〟を実施するのは、僕くらいのテレパシーと、神樹様の神託を受けられるだけの神通力が必要で……)」

「だから脳領域の研究に熱心な君に、代用できるものがないか、聞いておこうと思って」

「なるほど、確かに眠りながら夢でも訓練が可能になれば、響さんたちの学業への影響も減らせた上で技量も適合率も向上させられますからね………トトさん、PCの横に置いてあるファイルを持ってきてもらえますか?」

「(うん)」

 

 トトは、さっき自分も見ていた『ドクター・ウェルのデータチップ解析レポート』のページを開きながら持ってきて。

 

「ダイレクトフィードバックシステム?」

「(これのことだよね?)」

「はい」

「トト、どうしてそれだと―――ああ~~私が調理してる間に先に読んでたわけだね」

「(そう、とりあえず……怒りが湧くことも記述されてるから、慎重に読んで)」

「oh……Okey……(ああ……分かったよ)」

 

曰くありげなトトの言い方に思わず英語で応じて、その意味合いを訝しみつつも、朱音は『ダイレクトフィードバックシステム』の項目を読み始める。

 

「ふざけているのか……これは」

 

 朱音の美貌は、読み進めれば進めるほど瞳と眉が大きく吊り上がって眉間が皺寄せ影まででき、ファイルを手に取る両手は両腕ごと震えて肌に鳥肌が立ち、全身が怒りの色に染め上がって行き。

 

「最悪だ……今すぐ奴をあの世から蘇生させて、眼鏡ごと顔を殴りまくってから、神樹様の結界の外に放り込みたい気分だ………Son of a bich!(ドちくしょうが!)」

 

 と――反感、嫌悪感、不快感、不愉快さ、胸糞悪さ、吐き気、精神的アレルギー反応、地の底から湧き出てくる憤怒と言った悪感情の数々を、一切隠さずに全身からオーラは迸りそうなくらい表現して、心底忌々しげにブラックユーモアとスラング語交じりにはっきりと……吐き捨てた。

 しかし前世の経験で、怒りの感情を巧みに分散して受け流しコントロールする術を身に着けていた朱音は、深呼吸を三回ほどしただけで、平常心を取り戻した。

 

「とんだ醜態を見せてしまって、ごめん……」

「いえ、彼の生化学者としての優秀さはともかく、実際にウェル博士と会った方々の評判は、朱音さんの仰る通りの〝最悪〟に相応しい散々なものでした」

 

 実際、ウェルは洗脳する形で未来を神獣鏡の装者に仕立てあげただけでなく、予め用意した戦術プログラムを直接脳に送る専用のシステムヘッドギアを、彼女の頭に文字通りダイレクトに埋め込み、自身の傀儡としたのだ。

 まさに、英雄願望を拗らせ、歪ませ切った挙句、人の道を踏み外し過ぎた悪行所業以外の何ものでもない。

 

「朱音さんからは平行世界の未来さんとは言え、ご友人を兵器に仕立てられたわけですから………それぐらい怒るのも無理はないです」

 

 朱音の心中には察しつつも、通信機越しにやり取りを交わしたことはあっても実際に顔まで合わせたことのないエルフナインでさえフォローしない有様を見ても、本名――ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスの本性は、底知れないものがあった。

 これ以上かのマッドサイエンティストを話題にしていては、一向に本題が進まなくなるので、さっさと移行しよう。

 

「(でも、システム自体の有効性は把握できたでしょ?)」

「まあね、使い様によっては、人工的に設計した夢を複数の人間に見ることはできる」

「はい、対象者の脳内の電気信号を、予め用意した仮想空間に複写して脳構造を接続すれば、理論上はトトさんの能力同様に、明晰夢の生成と共有が可能となります」

 

 ただし、エルフナインが〝理論上〟と加えたことからも分かるように、ことは映画のようにそう簡単にはまた行かないもので。

 

「だがやはり、相応の危険性も高くつく……と……」

 

 少なからず、命にもかかわる重大な課題が存在していた。

 

「そうですね……人の脳内意識ほど複雑に絡み入り組んだ迷宮はございません、最悪の場合を想定しますと……」

「使用した人間同士の自分と他者の境界が崩れ、意識が溶け合い、精神崩壊の果てに植物人間となってしまう可能性も、高い確率であり得る―――ってことだな?」

 

 エルフナインは頷いて、朱音が提示したシステムの危険性を肯定する。

 

「すみません、錬金術を応用させてのシステムの再現に、日々努めてたのですが……前途は多難で」

「いや、君が謝ることじゃない、可能性が少しでもあることは分かっただけでも私たちにとっては貴重な収穫だよ」

 

 朱音は、力及ばずな自身への無力さに嘆きかけるエルフナインをフォローするとともに。

 

「それに――」

「それに?」

「また眠気が来ているんじゃないかい?」

 

 彼女の意識に、再び睡魔が忍び寄っていることも見抜いた。

 

「あっ………分かりますか?」

「分かるよ、明らかにさっきより瞼が細くなってるもん」

 

 ジェスチャー込みでそう応える朱音は、さっき食べた昼食の影響も少なからずあると踏んだ。

 

「だからもう少し休んでおいた方がいい」

「でも……」

「じゃあ私のグランパからの、ありがたいお言葉を送ろう」

「朱音さんのお祖父さんの、ですか?」

 

 朱音は、天井――の外の海中よりさらに向こうの〝天空〟を指差すかのポーズを取り。

 

「グランパは言っていた―――『休める時は徹底して休んで心と体のコンディションをキープする、それでこそ最良最高の仕事ができるもの』だってね」

「はぁ……確かに」

 

 格言を聞いたエルフナインは、睡眠欲が来る脳にも、心から合点が行ったようで感心を見せていた。

 

「午後の予定は特に立ててないから、暫くは私の膝枕を貸してあげる、だから自分をちゃんと休ませてあげて」

「っ………では、朱音さんの膝枕、お借りします」

「よろしい♪」

 

 また一層瞼が重くなって眠気が脳内に入り込んでくる中、エルフナインはご厚意に甘えて、ベッドに腰かけた朱音の膝を枕にして横たわる。

 それを朱音は、先程みたくまた、柔らかく包容力に満ちた笑みで迎い入れた。

 

「朱音さん……」

「何かしら?」

「あの………良かったら、歌を……歌ってもらえますか?」

「いいよ、お安い御用さ、選曲だけど………マリアとセレナの故郷に伝わる童歌でいいかな?」

「マリアさんたちの……では、それでお願いします」

「お願いされました♪」

 

 朱音は深呼吸して準備をすると、そっと口元から、かつて《フロンティア事変》での月の落下による地球存亡の危機から、世界を救うに至らせた童歌――《Apple》を歌い始める。

 

〝~~~~♪〟

 

 彼女の包み込むような温もりに満ちる、母性的な歌声に耳を澄ますエルフナインは、やがて再び、安眠の世界へと、寝入っていくのであった。

 

「Sweet dreams♪(良い夢を♪)」



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先生の想い、飛び出した小鳥

外伝の方も新作できました。二重奏シリーズのオリ主の静音と大きなわだかまりがあるこの世界線での防人部隊と巫女。

今回は『巫女』の方をクローズアップする前振り回でもあります。

これで心置きなく『ゴジラ キング オブ モンスターズ』に臨めるぞ!


 香川県、大橋市。

 東郷美森の過去の自分――鷲尾須美と、同じく過去の園子、そして銀ら神樹館学園初等部と。

 東郷の義姉にして我らがリーダー。風鳴静音の過去の自分――鷲尾清美ら中等部。

 友奈たちからは一代前に当る、先代勇者たちの故郷(ホームタウン)たる街を取り戻してから、まだ間もない休日。

 

 大束町。

 以前、未開放地区に入り込んでしまったところを、朱音が仲間らとともに助け出した加賀城雀も所属する戦士隊――防人の拠点にして、神世紀の時代でも尚、四国地方最長の建築物であるゴールドタワーの展望台にて、室内円柱の一つに背をもたれ、両腕を組みつつ外を眺めていた。

 ちなみに今日の朱音の服装は、白を基調に空色のラインがいくつも走る縦縞模様のVネックスキッパーシャツに、濃い紺色のショートデニムと黒パンストの組み合わせと、そのままファッション誌に掲載できそうな、彼女の年頃の女子な一面が窺える風体。

 無論、首には勾玉、朱音のシンフォギア――ガメラが掛けられている。

 無意識の癖として、朱音は両親の形見でもある勾玉を撫でながら、ガラス越しの香川の俯瞰風景を、鑑賞し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 一度空を見上げていた目を、ほぼ真下の地上に移す。

 ゴールドタワーに隣接する、防人部隊の訓練場、トトをわざわざあそこへ様子を見に行かせなくても、今日も隊員たちは鍛錬に追われている最中だろうし、雀はきっと泣き言をぼやいてリーダーの楠芽吹に扱かれている真っ最中だろうと容易にイメージできた。

 ここからじゃ、せいぜい〝ファ~イト〟と思念を送るぐらいしかできないな。

 しかし、それにしても――。

 

「千景殿(せんけいでん)、か……」

 

 ――香川の地を見回す私の口はふと、この世界のゴールドタワーの、大赦内で使われている〝もう一つ〟の名前を零した。

 展望室に限らず内部の四方はどの階も全てガラス張りであり、特に上階に位置するこの階では香川県内のあらゆる場所が、ほぼ一望できるようになっている。

 海の方を見れば、神託のビジョンでも見せられた、中学時代の静音こと清美達先代勇者とバーテックスとの決戦に巻き込まれ、私にはまるで天を呪って仰ぎ見る様に見える………無残に大破し何年もそのままな大橋と、瀬戸内海と神樹様の壁。

 陸の方を見れば、若葉たち西暦勇者たちの拠点だった丸亀城と、通称〝讃岐富士〟とも呼ばれる、讃岐平野にそびえ立つ飯野山も見えた。

 展望室からこれらの景色を眺められるゴールドタワーのアナザーネームーー《千景殿》の由来は――〝千々の景色を見られる塔〟――大赦の記録ではそうらしい。

 まあ確かにその通りではあるけど、命名したのがあのひなたの子孫である上里家な時点で、それが〝表向きの理由〟なのは明白だ。

 この世界に召喚された時点より少し先の未来のひなたが、事情あってのこととは言え、存在そのものを抹消した大切な友にして勇者の名を、子孫がこのタワーに名付ける………これだけどう言う意図でかの名を付けられたのか………簡単に把握できた。

 まあ、そんな大赦の組織事情の氷山の一角と、勇者を輩出してきた御家たちの〝御家事情〟はさて置き。

 

 今日も今日で―――私(こっち)を見ているな。

 

 傍からは展望台のガラス越しに風景を鑑賞している体の〝姿勢〟のまま、私は私に送られている、敵意混じりの、あのフィーネとはまた違った、蛇の様な……滑りとした感触を携えた触手が怪しく蛇行するが如き――〝目線〟を感じ取る。

 大橋奪還作戦決行日直前辺りからだ………何者かが、私を〝見ている〟。

 正確には私だけではなく、若葉や棗、静音にも、似たような目線を向けられている時が度々あるそうだ。

 それ自体に驚きはない。神樹様の人知では及びもつかぬ〝御業〟の数々は、かつてその一部であった造反神もできないことではないと、とうに分かっている。

 そして、〝私――ガメラ〟の身に起きたことが――〝奴〟の方にも起きないとは、限らないと言うことであり、この視線は何よりの証明だった。

 現状、向こうはまだ当分様子見に徹している様だが……いずれ、おそらくバーテックスをも従えて、真っ向から相見え、嵐の中の京都以来となる、決戦の日が確実に来る。

 その時までに、よりもっと鍛え直しておかなければな。

 自分と同じ装者か、または勇者か、そこまで断定はできないが………わざわざ造反神が呼び寄せたのだ。

〝邪神〟としての奴の能力は……ほとんど再現されていると見て良いだろう。

 

「っ……やっと、おいでなすったか」

 

 背後から、暫く利用者がいなくて暇を持て余していたエレベーターの駆動音が響く。

 誰が乗っているのかも、どの階で止まるのかも、把握できた。

 程なく、エレベーターのドアが開かれる。昇降機に乗ってこの展望室にまで来たのは、予想通り、大赦お抱えの時代からSONG所属の戦士隊となった現在までも尚、防人部隊の教官である――安芸先生そのひと。

 

「大変待たせてしまったわね、こちら呼んでおきながら申し訳ない」

 

 今日私をこのタワーに呼んだのも、何を隠そう、このお方だ。

 

「いえいえ、お陰で神世紀(このじだい)では中々お目に掛かれないこのタワーからの光景を拝ませて頂きましたし」

 

 確かにゴールドタワーに来てから、呼び出した張本人の安芸先生が来るまで、結構時間は掛かったが、防人部隊の教官としてのお役目込みな先生の日頃の多忙さを想像すれば、ここまでの待ち時間など、どうってことなかった。

 それに実際、この時代のゴールドタワーは防人の拠点、国連直轄のタスクフォース所有の施設となっている為、展望台からの香川の地のほぼ全域を高所より拝めるなんて、一般の香川県民どころか観光目的の県外の日本人、国外の観光客でさえその機会が全くないと言ってもいいから、貴重な体験をさせてもらった。

 

「それで、私をわざわざタワーにお呼びした理由(わけ)は、やはり」

「ええ、この前は私の教え子がとんだご迷惑をかけて、申し訳なかったわ………ごめんなさいね」

 

 予想してた通り、色々お忙しい中安芸先生がわざわざ私を呼んだのは、この前の防人部隊の一人にして先生の教え子の一人である加賀城雀が、こっそり造反神と戦う私達の様子を窺おうとして、うっかり未開放地区に足を踏み入れてバーテックスの襲撃に遭い、運よくそこからほど近い歌野の農園で収穫作業をしていた私達が救出した件だった。

 

「それと改めて、朱音さんにはお礼を伝えておきたくて、加賀城雀を助けて頂き、本当にありがとう」

 

 先生は厳格さを帯び、眼鏡がよく似合う知的な美貌に微笑を浮かべて感謝を伝えてきた。

 雀を助け出した功労者は、何も私一人だけではないのだが、そこは安芸先生のことだから銀たち他の救出メンバーにも、一人ずつ何かしらのお礼をするだろう。

 まずは実質、雀救出の指揮役を担った私から、と言うことだ。

 

「受け取っておきます、それと、私からも先生にお礼を言わせてもらいます」

 

 安芸先生に、お礼返しで頭を下げる。

 

「っ………なぜ?」

 

 さしもの安芸先生も、呆気に取られる様子を見せた。

 

「雀を助けられたのは、貴方が書いた防人の記録のお陰でもあるからです」

 

 勿論、神樹様からの神託のお陰でもあるが、私にとってはそれ以上に安芸先生のお陰だと思っている。

 先生が〝勇者〟と言う名の花が咲かなかった教え子たち自身と、勇者たちの活躍の影で必死に、けれど絶対に生きて帰るべく命がけのお役目を全うしていた活動も含めた日々の数々を、子細に、丁寧に書き記し、記録に取り纏めていたからこそ、それを拝見していた自分は、神託が防人部隊の一人であることを指していると気づけ、NARUKOで早急に居場所を発見、救出に向かい、実際に助け出すことができた。

 

「実質先生が、雀を助けたも同然ですよ」

「っ………ではそのお言葉、丁重にお受けしておくわね、朱音さん」

 

 安芸先生は、改めて私に頭を下げ返した。

 これは先生なりの照れ隠しでもある。ほんの一瞬、頬を赤らめた先生の表情(かお)を、なまじ動体も込みで視力の良い私の瞳がちゃっかり捉えていたのだ。言及しちゃうともっと赤くさせそうなので、自分の胸の内に締まっておくことにした。

 

 

 

 

 

 今のゴールドタワーの展望室には、神世紀からは大昔に当たる西暦の四国での観光施設の一つだった頃と同様、窓に接する形でカウンターテーブルとサークル型の椅子がいくつか据えられ、座りながらでも香川の〝千々の風景〟を眺められる。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 

 おまけに、カップ飲料を飲める自動販売機が、ジュースやお茶メインと、本格コーヒーが飲めるのとで二台置いてあり、安芸先生が持ってきたホットコーヒーの紙コップを受け取る、先生自身のチョイスはホットの緑茶だった。

 お互い、最初の一口目を飲む。

 本格的に豆を淹れた――を謳った自販機のコーヒーの幾つかを、飲んできたことはあるが、これはその中でも一番に旨味ある苦味で、香りも本格的だった。たださすがに友里さんの淹れたのに比べたら、分が悪いけど。

 これはもしや、コーヒー好きの静音の差し金かな?

 

「それで、〝お礼〟以外に私をこちらに呼んでお時間を設けた理由と言うのは?」

 

 なんて安芸先生がわざわざゴールドタワーへ自分を呼んだ、もう一つの理由を本題として切り出す。

 

「実は……」

 

 少し〝間〟が掛かるとも思ったが。

 

「朱音さん、単刀直入にお聞きするけど」

 

 私の予想より早く、安芸先生は。

 

「この先、防人の隊員たちが……造反神との戦いに駆り出される可能性は………貴方から見て、どれくらいかしら?」

 

 私が、先日先生から今日のことで連絡があった時点で、もしやと薄々察していた質問を、投げかけてきた。

 それを受けた私も。

 

「私の見立てでは、先生の今の教え子たちも、神樹様からの招集が、いずれ確実に掛かるでしょう」

 

 遠回しや、オブラートに包んだ表現を用いず、ストレートで先生に答えた。

 今後の造反神との戦いで、防人のメンバーも、その戦列に加わる可能性を。

 神樹様当人たちから、まだそのような神託は受けてはいない……けど私の直感(かん)は、ほとんど確実にそうなると、結論付けていた。

 

「朱音さんからは、ほとんど確定事項ってこと?」

「はい、実際私達同様、彼女たちも肉体ごと召喚されてますし、全員とまではいかないでしょうが、メンバーの内の数名かは、チームに加わることになる筈です」

 

 事実、雀も含めた防人のメンバーたちも、肉体ごと結界(このせかい)に呼び寄せられている。神樹様が今後さらなる造反神との〝戦争〟の激化を見越しての備えの一つなのは、ほぼ間違いない。

 さて、ここからどう安芸先生にフォローを入れるか………かつて須美、園子、そして銀を指導し、今でも気丈に、勇者たちの教官の役を全うしている先生だけど、その胸の内には今でも、銀たち先代勇者の死や、満開の代償に翻弄された須美――東郷たちに関しても、現在の教え子である防人部隊に対しても、ティーンエイジャーたちを戦場に送り出す立場な自分に、弦さんたちくらい〝負い目〟を感じ、背負っているだろうから。

 実際、表向き平常に見える安芸先生の、眼鏡の奥の瞳が……揺れている様を私が目にした、その時。

 

〝~~~♪〟

 

 安芸先生の懐から、彼女のスマートフォンのものらしき着信音が、突然響く。

 

「どうぞ、こちらはお気になさらず」

 

 私のことは遠慮せずと伝えると、先生はこちらに会釈して席を立ち、私から数歩ほど離れて、メロディが鳴る端末を取り出して電話に出た。

 相手といくつかやり取りを交わした先生の顔から、驚きの感情が、抑えようとして完全に抑え切れず、眼鏡がよく似合う生真面目で知的な美貌に表れる。

 それからさらに相手とやり取りを交わして通話を切った安芸先生は、落ち着こうと心がけつつも、焦燥そのものを払いきれない様子で。

 

「ごめんなさい、今急な用事が入ったものだから、失礼するわね、コップは一緒に片付けてもらえるかしら」

「はい」

 

 私に断りのお言葉を伝えて、急ぎエレベーターの下へ走ってボタンを押す。

 エレベーターが展望台の階に着いて開くと、すぐさま先生は乗り込んで扉が閉じ、内部のマシンは下へ下へと降りていく。

 残っていたコーヒーを飲み干した私は、先生が飲んでいたのと一緒に自販機の隣のダストボックスに入れつつ、さっきの通話中の先生の様子を思い返す。

 先生はできるだけ小声で電話相手と通話していたが、なまじ人並み以上に五感が鋭敏な私の聴覚は――。

 

「こくど……あや……」

 

 ――確かに、安芸先生を急用に駆り出させた張本人である〝巫女〟の名を、耳にしてしまっていた。

 どうしてその人物が巫女だと断定できるかと言えば、安芸先生の防人の記録に載っていたのだ。

 防人部隊のメンバーを、精神面でサポートする巫女を、名は――〝国土亜耶〟。

 私は端末を操作して、トトを呼び出し。

 

「トト、さっきの先生の電話聞いてた?」

「(うん、例の巫女の子の名前も込みで)」

「なら〝国土亜耶〟を、先にここに行って、探してきてもらえる? 大赦の神官たちに連れ戻される前に」

 

 端末の地図アプリで、ある地域を指差してトトに見せた。

 その地域とは、静音から聞いた大赦専属の巫女が住まう寄宿舎とも言える施設である。

 

「多分、まだこの地区からそう遠くない場所にいる筈だから」

「(分かった)」

「もし見つけたら、上手いこと私の方へ連れてきて、静音の大赦改革で、昔ほど信心深くはないと思うけど、手助けしてくれるとなれば聞いてくれると思うから」

「(りょ~かい、じゃあお先に)」

 

 トトは霊体化して、先にタワーを後にして、私が指定した地区に向かって行った。

 私もトトを後より追いかける形で、エレベーターに乗り込む。急ぎたくても、さすがに樹海化警報も鳴ってない上に神託のない中で変身して目的に飛んでいくわけにはいかない。

 幸い途中停車もなく、私を乗せたエレベーターは一気に一階まで着き、扉が開くと俊足でタワーを出て、急ぎ走り行く。。

 この時、私の心には、ある衝動が―――私自身に、囁いていたのだ。

 大赦の神官たちが見つけるよりも先に、彼女を……〝国土亜耶〟を、見つけ出せと。

 その想いに駆られるまま、私は駐車場に停車させていた愛用のバイク、ワルキューレウイングF6Dに乗り込み、アクセルを吹かせて走り出した。

 鳥籠から、自ら抜け出した――〝巫女〟の下へと。

 



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星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 前篇

どうも、今回は『先生の想い、飛び出した小鳥』の続きな前後編の前篇です。

二重奏世界でのオリ主『風鳴静音』と亜耶ちゃんの間に何があったのかは、『戦姫と勇者の二重奏 番外編 楠芽吹、陰に在りし防人たち』でのお話でご確認を。

ちなみに大赦の本拠地が象頭山なのはアウスさんとの相談で決めた二重奏オリジナル設定です、アニメ本編では具体的な地名ははっきりしておらず、ロケ地は徳島になってしまうので。
象頭山なのは、スタッフの発言で神樹様の中核を為す神様と明言されている『大国主命』が祀られている香川県内の神社が、象頭山に鎮座する『金刀比羅宮』だからです。


 フルフェイスのヘルメットを被ってライダーズジャケットを羽織り(真夏以外の季節では走行時に突き当たる風から身を守るのに必須なのだ)、愛用のバイク――ゴールドウインングF6Dを駆り、ゴールドタワーから安芸先生が電話の際口にした〝国土亜耶〟と言う名の巫女(しょうじょ)の下へ、私は向かう。

 行き先は、香川西部にある《象頭山》の周辺地区。

 そこは神樹様の中核を為す《大国主命》が祀られた神社――《金刀比羅宮》が鎮座しており、本庁含めた大赦の関連施設のほとんどは、象頭山周辺に設置されている。勿論、大赦専属の巫女たちが住まう専用の寄宿舎も含めてだ。

 

〝~~~♪〟

 

 トトからだな。

 大束町から西南部方面へ走らせていると、バイクのメーターより直ぐ下に備えられたタッチパネル式のコンソールから、自分の主演(ガメラ)映画の着信音(テーマメロデイ)が流れた。このコンソールは予め設定しておくことで走行中でも懐にしまっているスマホと同期して、端末の各機能が使え。

 

「Call」

 

ヘルメット越しでも認識できる音声入力でコンソールを扱うこともでき、電話の際はヘルメット内に搭載されたマイクロサイズのセンサー、スピーカー、マイクで応対を可能としている。

 

「(国土亜耶を見つけた、フードを被ってるけど、横髪に安芸先生の記録にあった写真と同じ髪留めを結んでいるから間違いない、象頭山よりちょっと北の街の中を、大赦の人間に見つからない様にきょろきょろしながら、裏通りを重点的に選んで走ってる)」

 

 端末によってテレパシーからデジタル音声変換されたトトの声が、ヘルメット内に響く。

 今トトは、空から彼女の様子を窺っている、

 

「北のどの辺の町だ? 彼女にいる地点から一番近い社の場所も頼む」

「(え~と、善灯寺町の五丁目と六丁目の境目辺り、そこから一番近い神社が……芦倉神社、今は参拝客も宮司さんもいないから到着場所には丁度いいよ)」

「分かった、〝カガミブネ〟で今そっちに向かうから、そこで落ち合おう」

「(うん)」

 

 国土亜耶の現在地周辺を相棒に洗い出してもらった私は、今走っている道路からより人気の少ない場所に移り。

 

「カガミブネ―――Start Preparation (起動準備)」

 

 香川の完全奪還で端末に追加された新機能――《カガミブネ》を立ち上げる。

 解放地域内、出発地点に巫女がいる等の条件が揃えば、一瞬で目的地にテレポートできる。戦闘外での無断使用になるから後で静音に始末書提出は確定だが、覚悟の上。

 

「Teleport――Start Up!」

 

私のかけ声をスイッチに、カガミブネは起動、ブレーキを掛けたバイクごとその場から消えた。

 

 

 

 

 

 私の視界は、次の瞬間には規模は小さめな神社の境内に移り変わり、バイクを停車、前もって連絡していた通り、トトが境内にいた。

 

「トト、空から私と国土亜耶を『こんな感じ』でコンタクトできるようナビゲートしてくれ」

 

 私は早速、指を全て立てた両腕を、片方は縦に、もう片方は横に真っ直ぐ伸ばし、横の方の指先を、下から上げた縦の手の掌に当てるジェスチャーで指示を出す。

 

「(分かった)」

 

指示内容を理解したトトは再び街を俯瞰できる上空へ飛び。

 

「鳥居も通らず訪問してしまい失礼しました」

 

 私は一度、芦倉神社に祀られる神に詫び入れてからエンジンを吹かし直し、社(やしろ)を後にしてバイクを走らせ出せた。さすがにカガミブネで突然出現しては事故を起こす恐れもあるので、バイクで向かう。

 

「(国土亜耶は今、自衛隊駐屯地の近くにいる、そこから朱音の指示通り接触できる最短ルートは――」

 

 閑静な住宅街の中を、住民に迷惑が掛からぬよう注意も怠らず、トトからのナビの通りに進み続け、右斜め方向のその駐屯地らしき施設が見える交差点に。

 

「(そこを右に曲がってから一つ目の角を左に曲がって、そのまま真っ直ぐ行けば三つ目の角で彼女に突き当たる)」

「ありがとう」

 

トトは、そのナビを最後にバイクの燃料タンク上に乗る。

 そして相棒のナビ通り、三つ目の角で止まると……フードを深々と被る小柄な少女がこちら側走って来て止まる。

 間違いない、写真で見た時より相応に成長はしているけど、国土亜耶だ。彼女はフードで覆われた頭を上げ、まさに天使の如き愛嬌がたっぷりな美貌を私とトトそれぞれに向けると、とても驚いた顔を浮かべる。

 まるで……今ここで自分と〝邂逅する〟とは思いもしなかった、とでも言いたげな具合に。

 

「(不味い、彼女を追いかけてた神官たちもこの辺に近づいて来てる)」

 

 詮索は後か……私はヘルメットバイザーを開いて自分の目を見せ。

 

「国土亜耶! 今ここで大赦に連れ戻されたくなければ乗れッ!」

 

 手を伸ばす。こちらの〝さすがに戸惑うだろう〟との予想に反して国土亜耶は頷いて即座に私の手を取り、バイクの後部席に座った。

 

「(安全対策として)」

 

 トトがバイクの周囲にドーム状に、カガミブネを使っても大赦の〝目〟からも逃れられるGPS対策機能付き人避けの結界を貼った。これで暫くは連中もこちらの行き先を特定するまで時間が掛かる。これでもトトは精霊の身として召喚されているとは言え、現役の神様だからね。

 

「しっかり掴まってろ! Teleport――Start Up!」

 

 前方から、大赦のものらしき黒塗りの車は迫る中、私はカガミブネを再起動、その場からテレポートして大赦からの追走を一時逃れた。

 

 

 

 

 

 私達の視界は、閑静な住宅街から、潮風がゆったりと流れる、砂浜とそこに面した瀬戸内海の海原へと変わる。

 もっと向こうを見渡せば四国本土の、香川県の東部側に当る街々が見えた。

 ここは小豆島、瀬戸内の播磨灘に浮かぶ、オリーブの産地で有名な香川の一角。

 本土側より反対側に目を移せば、まるで昭和の中頃の時代にタイムスリップしたかのような建物たちが立ち、その中に混じって、複数の鳥居が縦に並んだ神社がそびえていた。

 

「(ここって映画のロケ地?)」

「そうだ、怪獣王と農民の為に立ち上がった七人の武士たちのと、同じ年に公開された映画のオープンセットさ」

「(そんな大昔のものも残ってるなんて)」

 

 ヘルメットを外し、頭を振って髪を整え直してトトにここがどこなのかと簡易的に説明する。

第二次大戦当時のこの島を舞台に、次第に戦争の荒波に巻き込まれていく女性教師と生徒たちとの交流を描いた小説の最初の映像化作品たる映画のロケセットの映画村である。

 トトもびっくりした通り、この世界では西暦一九五四年に公開されてからもう三五〇年以上も経っているのに、まだこんなにも当時の面影(すがた)を残しているなんて、これも神樹様の〝御業〟の一つか。

 

「あの……」

 

 Oops(いけない)……己がシネママニアの血を騒がせ、魂をときめかせている場合ではなかった。

 

「おっとごめん、こんなところにまで連れてきておきながら放っておいてしまって……」

 

 まずはお詫び。

 暫くは、大赦が私らの行き先がここだと気づくのに時間が掛かるだろう。

 その間に、どうして国土亜耶が脱走なんて真似をしたのか、上手く本人から聞き出して静音に《NARUKO》のSNSメールで連絡するとして。

 

「いいえ、私の方こそお助け頂きありがとうございます、草凪朱音さんと……トトさん」

 

 ホイップクリームの如き、ふんわりと柔らかかつ甘い………聞く者の心を穏やかにさせる声で、国土亜耶はそれまで深く被っていたフードを下ろし、私達に育ちの良さが窺える品の良い一礼を見せた。

 か……かわいい……私と同い年の筈なのにこのキュートさは……一体どういうこと?

 実際に彼女の容貌をこの目で直に見せられると、掛け値なしに天使か、はたまたは妖精としか表する他ない愛くるしい彼女の可愛らしさに見惚れ………危うく心が奪われかけていた。初対面込みの状況が状況でなかったら、今頃思わずハグっと抱きしめて、そのきめ細やかに麗らかな髪を撫で味わっていたかもしれない………幸い己が理性は〝NO〟だと私に忠告してくれた。老若男女問わず、相手に性的不快感を与えれば、その時点で〝セクハラ〟である。

 

「こっちで手は打っておくから、とりあえず一服しよう、話はそれからってことで」

「はい、分かりました」

 

 ワルキューレウイングF6Dを駐車場に停め、二人分の料金を払って映画村内に亜耶を伴って入場し、施設内の休憩所に彼女を座らせる。

 静音には既にメールで〝後日始末書を提出するので、しばし私に任せてほしい、大赦たちの神官や静音相手よりは、まだ訳を聞きやすい筈だから〟と言う内容含めたメッセージを送信済み。静音と亜耶の間には、防人部隊の一時解散の際に一悶着あったと、安芸先生の記録にも記されていたからな。

 いかな天使そのものな容姿と雰囲気を持つ亜耶でも、静音に対するわだかまりは少なからず残っている筈だろう、彼女だって巫女以前に人の子だ。

 

「はい、アイスどうぞ」

「はい、アイスどうもです」

「トトも」

「(は~い♪)」

 

 同じく映画村内のお店の一つで買ってきた、イネスで醤油豆ジェラートを食べるのが日課な銀が大喜びで舌なめずりしそうな〝極上しょうゆソフト〟を、自分の含めた三人分買って、内二つをトトと亜耶に手渡し、私も休憩所のベンチに腰掛け、極めて白に近い薄めのキャラメル色がかったクリームを舐めてみると。

 

 

「「(美味しいっ……)」」

 

 思わず、お互いの声がシンクロしてしまうくらい、このしょうゆソフトのまさに極上な美味に、私達三人ともども圧倒される。

 醤油のイメージからは想像だにしなかったキャラメルと塩気が巧みに混ぜ合わさった風味が口一杯に広がって、頬全体をとろけさせようとしてくるくらいの圧倒的甘味に、舌がアイスを絡めとるのを止めてくれない。

 気がつくと、三人ともども、ほぼ同時にコーンまで無我夢中に食べ尽くしていた。

 大分一服できたし、そろそろだな。

 

「さてと、一息つけたところで、亜耶」

「は、はい?」

「聞きたいことがある、かくかくしかじかで――」

 

 私は本題に入る為に、安芸先生の電話から亜耶が大赦の専属巫女用寄宿舎から抜け出したこと、先生の記録から敬虔な神樹様の信者にして、ルールはとても破りそうにないイメージがあった彼女がなぜそんなことをしたか明らかに重大な〝理由(わけ)〟があると踏み、有無を言わさずに連れ戻そうとする大赦から助け出して、手もいくつか打ったのだ。

 

「話しづらかったら、無理に聞かないけど」

「いえ、とんだお世話をかけてしまった身ですので、ちゃんと理由をお話し致します」

 

 私は亜耶の返答に頷く。

 

「実は……」

「実は?」

 

 ほんの一泊の間をおいて。

 

「草凪さん………貴方に会う為です――」

 

 とまで口にした瞬間。

 

「「ッ―――!」」

 

 私と、亜耶の脳裏に神託のビジョンが突如届いてお互いの息が呑む。

 その上私の研磨された感覚が〝殺気〟を汲み取り。

 

〝Valdura~airluoues~giaea~~♪〟

 

 本能的に聖詠を唱えると同時に亜耶の身体を抱え上げ、その場から飛びのくと、高速で動く物体からギリギリのところで躱せた。

 遅れて樹海化警報が鳴ったところで変身できたところで。

 

〝~~~♪〟

 

『私から離れるな!』

 

 歌唱する私の口の代わりに、メロディを鳴らす胸部の勾玉(マイク)が私の言葉を亜耶に伝えると同時に、実体化させた拳銃形態(アームドギア)――《フォトンソリッドガン》を構えて連続発射。

 

「(トトインパクト!)」

 

 放たれたプラズマ製の実体弾たちが、トトの火球とともに襲撃者――ジェミニバーテックスにどうにか命中し、双子座のバーテックスは撃破される。

 しかし足の速い双子座に応戦しているその間に………亜耶ともども、私達は映画村から樹海内に飛ばされてしまった。

 

「Shit(しまった)……亜耶、念のため《羽衣》を装着しておいてくれ」

「はい」

 

 亜耶は自分が持っていた端末を操作すると、着ていたフード付きの衣服が、巫女装束へと変化する。

 これは防人部隊が大赦所属時代、〝国づくり〟の任務の一環で亜耶も結界外の灼熱の世界に同行する際に使われていた専用の装束――《羽衣》に改良を加えた防護服で、巫女自身の霊力が続く限り、精霊のバリア並みの防御力がある特殊フィールドをバーテックスからの攻撃を受ける直前に生成する機能を備えている。

 万が一戦闘能力のない巫女が、今みたいに樹海内に入ってしまった場合を想定して、静音が押し進めていた対策の一環だった。

 

「トト、亜耶のボディガードを頼む、彼女ほどの巫女でも、霊力には限りがあるからな」

「(了解、朱音の周りにもジャミングバリアを貼っておくね)」

「(Thanks)」

 

 胸部の勾玉に手を当てテレパスでトトに応じるとともに、亜耶の周りに相棒の精霊バリアが貼られた。

 

「(くれぐれも僕の結界から出ないようにね)」

「分かりましたトトさん」

 

 油断は禁物だが、これで亜耶にある程度の安全は確保できたので。

 

「早速おいでなすったな」

 

 私はこちら側に少しずつ近づいてくるバーテックスどもに向かって、亜耶から離れ過ぎず、しかし奴らに彼女近づけ過ぎさせない様、距離感の注意も念頭に入れ、各スラスターを点火し飛翔した。

 まずは三体………しかも、先代勇者であり清美の戦友だった舞彩と彩奈を殺し、銀が自身の命と引き換えに撃退し、私がこの世界に来て最初に相手をしてバーテックスの猛威の洗礼を受けさせられた……射手座(サジタリウス)、蟹座(キャンサー)、蠍座(スコーピオン)どもとはな、余程あの時仕留められなかったのを造反神は根に持っているらしい。

 造反神側の勇者との戦闘まで取っておきたい〝とっておき〟 (トトの対応があるとは言え、可能性はゼロではない)だったが、亜耶を守る為にも――出し惜しんでいられない。

 

〝~~~♪〟

 

 敢えて抑えていたフォニックゲインの出力を上げ、シンフォギア――ガメラの鎧を、ドリームトレーニングで会得した新形態へとリビルドアップする。

 私も――あの時の様には行かないぞ! バーテックスッ!

 亜耶には――指一本触れさせないッ!

 

 

 

 

 

 

 現実――正確には神樹様の結界での樹海内で初めて新たにリビルトされたギアアーマーを纏う朱音と、この世界に召喚ばかりの彼女を屠ろうとした三体のバーテックスは、対峙し合ったまま、悠然と浮遊するように距離を、少しずつ、また少しずつ……詰めていく。

 

〝災禍は眼前~~今が馳せる時~~我は戦士~~駆け走れ!~~♪〟

 

 一向に歌う以外は詩の内容に反して何もしてこない朱音に業を煮やしたのか、先に仕掛けたのは――バーテックス側の、最も遠方にいるサジタリウス。

 星屑の面影残る剥き出しの歯が立ち並ぶ大きな口を開け、自らの武器の一つ、金色の長い杭を朱音目がけ高速で発射、直撃すれば勇者装束でも致命傷は免れない先手の〝一矢〟を、朱音は僅かに横合いに身を逸らせ、紙一重に躱した。

 直後、極彩色の木々の幹が生い茂る大地より、スコーピオンの猛毒を帯びた尾の先の針が飛び出し、朱音を串刺しにしようと迫るが、それを朱音は周り舞って避け――。

 

《参連熱爪――ドライフォトンクロー》

 

 ――ながら、手甲部のアーマーの指間部に付いた円筒より伸びて赤熱化する三つの爪が、針を両断。

 その隙を狙わんとサジタリウスが今度は針状のビームの〝一射目〟を乱射。

 急上昇して逃れた朱音に第二射が、キャンサーの周囲に浮かぶ板たちの反射で背後に迫るも。

 

《旋甲盾弐版――シェルシールドⅡ(ツヴァイ)》

 

 腕のアーマーを砲身化しつつもう片方の腕のアーマーに装備されていた甲羅状の盾を大型化、展開、表面から円状に放出されたプラズマの盾(バリア)に阻ませ。

 同時に朱音は、《光波肢砲――フォトンアームキャノン》の砲身から。

 

《烈光弾――フォトンマグナム》

 

 回転する紅緋色な稲妻の銃弾を発射、キャンサーの反射板で逆手に利用して弾かせ、直撃を受けず油断していたキャンサーの堅牢な装甲を一撃で貫き、砂状となって蟹座は崩れ落とされた。

 そこへ先のダメージから回復したスコーピオンの針がまたしても地上から奇襲を仕掛けるも。

 

(そのパターンはもう知り尽くしたッ!)

 

 その前に朱音が急加速してスコーピオンの尾に肉薄。

 

《烈火刺刀――フォトンアームブレード》

 

 籠手より伸びる仕込み刀で突き刺し、今度は尾ごと切り裂いて。

 

《激突貫――ラッシングクロー》

 

 片手の刺突で残る尾を抉り刺し、右腕を五つの突起が砲塔を囲むアームキャノン化して砲身を回転させながら、そのままの状態でスコーピオンの巨体を持ち上げ―――そのままサジタリウスの矢を受け止めた。

 味方の強力な矢の直撃(フレンドリファイア)を受けたスコーピオンは、その場で爆発を起こした。

 刹那、スコーピオンの断末魔も当然な爆炎の奥から。

 

《雷光集束波――フォトンスパイラルシュート》

 

 朱音のアームキャノンより炎のベールを貫いて照射された、橙色のマイクロウェーブの奔流が、一度閉じたサジタリウスの口を歯ごと貫通し、射手座の肉体は一瞬で分子レベルにまで赤熱化して、傍目からは美さえ見い出せる粒子状に四散し、消滅させた。

 バーテックスとの初戦な舐めさせられた苦杯を、見事再戦にて返討(アベンジ)を成し遂げた朱音。

 

〝天から降り立ち~~驕れる使徒よ~~味わうといい~~雷の鉄槌をッ!~♪〟

 

 しかし、幾多の修羅場を潜り抜けた戦闘経験からそこで油断に陥らない彼女であり、多元複合武装(マルチウェポン)――《ヴォルナブレーザー》を生成して振る向きざま。

 

「きゃあ!」

「ライトニング――」

 

 上空から、地上にいる亜耶へ、せめてもと強襲しようとした星屑たちを。

 

「スマッァァァーーシュッ!!」

 

 ブレーザーの穂先から迸った荒ぶる橙色の雷撃――。

 

《緋雷迅――ライトニングスマッシュ》

 

 ――閃光を星屑どもに叩き付けながら群れに突撃し、大半を灰も残らず焼き尽くさせ、残る個体らも斧刃から繰り出される雷閃の数々で斬り裂き、狩り尽くされた。

 朱音は一旦、亜耶のいる下へ戻り。

 

「大丈夫か? どこにも怪我は?」

「いえ、草凪さんの奮闘のお陰で、五体満足で済んでます」

 

 とは言え、次なる新手による襲撃が来ないとは限らない。

 現に先人の勇者たちの中には、バーテックスたちのそんな悪辣さで命を落とした者も少なくないからだ。

 

〝~~~♪〟

 

(Well………You never know what will happen next……――〝さあ………次に出るのは、鬼か蛇か………〟)

 

 いつでも対応、迎撃できるよう歌唱も絶やさずに待ち構えていたが………朱音の懸念に反して、敵側の次なる襲撃の攻撃も起きることもなく、樹海内は無数の花びらたちが強風で吹き煽られて行き、樹海化は朱音たちの視界をホワイトアウトするほどの閃光によって、解除されていった。

 

 

 

 

 

 次に視界が戻った時には、私達は映画村兼神社境内の休憩所に戻っており。

 

「状況、終了」

 

 樹海が解かれると同時に変身を解除させていた私は、戦闘の締めの一言を発して、ようやく安堵の息を吐けた。

 どうにか前言通り、亜耶には指一本敵に触れさせず守り通せたな。

 懐からスマホを取り出して、自分らが無事であることを静音の端末にメッセージを早めに送っておいてと。

 

「申し訳ございません、草凪さん」

「ん?」

「私が寄宿舎から抜け出さなければ………もしかしたら、こんなことには」

 

 俯き気味にそう零す亜耶。

 やはり天使ばりの善良なお人柄と感性の持ち主ゆえなのか、亜耶は今回の事態に対し、罪悪感を人一倍覚えているようだった。

 

「亜耶、確かに大赦から無断外出したのは反省しなきゃいけないことだけど、今こうして生き残れたことは、むしろ喜ぶべきだよ」

「草凪さん……」

「それと、もう一つ」

 

 私は人さし指を一本立て。

 

「私のことは、遠慮なくファーストネームで、君の好きなように呼んで良いよ♪」

 

 と、伝える。

 私のこの言葉が、上手い具合に彼女の遠慮の壁を解けてくれたのか。

 

「あ、ありがとう………それじゃ、朱音……ちゃんで、よろっ――いいかな?」

「Sure(喜んで)、私も、君のことを―――〝亜耶ちゃん〟って、呼んでいいかな?」

「もちろん、歓迎致します♪」

 

 とりあえず、なぜ亜耶ちゃんが私に会う為に大赦の施設から脱走したその理由はさて置き、私達は同い年の友達(フレンド)と相成り。

 

「じゃあ、改めてよろしく、亜耶ちゃん」

「こちらこそです、朱音ちゃん、トトさんも」

「(うん)」

 

 同時に差し出したお互いの手で、握手し合った。

 

「あ、せっかくだし、ここの神社を通じて、神樹様に祝詞を軽く送っておく?」

「えっ……」

 

 神樹様に、少しでも力になるならと訊ねてみると、亜耶ちゃんは笑顔から一転戸惑いも含まれた、複雑に感情が入り混じる表情になって考え込んでしまい、私とトトはそんな彼女の訳有りなのが明白な様相に対して………心配しかけたが。

 

「そうだね、やっておきましょう」

 

 再び笑みを浮かべて、了承してくれた。

 そうと決まれば、私達三人は祈願と祝詞の奏上の為、映画村内の社へ複数並ぶ鳥居を通って向かう。

 

〝やっぱり静音との間にあった色々で………昔のように敬虔なる神樹様の信者とは……いかないみたいだね〟

 

 並んで歩く最中私は、心中密かにそう言い零したのであった。

 

後編に続く。

 



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星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 後編:MY WILL

後編なのですが、小説をきっかけにティガのBGMを作業用BGMにしてたら、アウスさん本人でも認める静音堅物さでアイデンティティーが揺らいでしまった亜耶ちゃんをヒビキさんよろしくエールを送る朱音の流れだけ、想像以上になっちゃいました(汗

イメージBGM:ウルトラマンダイナサントラより『光よ、ふたたび』※『遠き呼び声の彼方へ』のアレンジでダイゴとアスカの対面シーンで流れた曲。


星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 後編:MY WILL

 

 過去の静音――清美と銀たちの故郷である大橋市内の、某所に構えているとあるお花屋さん。

 

「ありがとうございます」

 

 そこにて〝献花〟する為の花々(ブリザードフラワー)、淡い菊に加え――純白の鳴子百合、鮮やかなオキザリス、紅紫の紫羅欄花、黄色の金糸梅、そして青紫の桔梗――らの花たちを買い、ラッピング+花びらにカバーシートが掛けられたものを受け取った私は、瀬戸内海方面の、ある場所へと向かい直す形で歩いて行く。

 行き先は、かつて〝瀬戸大橋記念公園〟と呼ばれていた地だ。

 潮風の香りが大きくなって、瀬戸内の海へと近づいていけばいくほどに、否が応にも私の翡翠の瞳は見上げてしまう。

 今は〝大橋決戦〟と呼ばれている……先代勇者たちとバーテックスどもとも熾烈かつ凄惨な死闘に巻き込まれ、痛ましく大破した――瀬戸大橋。

 今日もまた、私の瞳からは………この世界の今の形に至る元凶となった偏狭にして冷酷無惨極まる〝天の神〟へ、嘆きや恨みなどの籠った思念を送って空を仰ぎ見ている様に見えた。

 まだ行き先まで距離があるので、ワルキューレウイングF6Dを一時停めておいた有料駐車駐輪場に寄り、愛機後部のサイドに備えてあるロングツーリングシートバック(あるバイク用品メーカーが御社の最新技術で開発した、使わない時はバイクに付けたままコンパクトに折り畳めるので、タンデムの邪魔にならない優れもの)へ丁重に入れて、エンジンの音量もほどほどに、発進。

 安全運転を一層心がけて讃岐浜街道の道路上を走り、元瀬戸大橋記念公園敷地内だった雑草たちが生える平原に停めた。中の花束は………大丈夫、全て無事だ。

 花びらを覆っていたカバーを外し、私はそっと抱きしめる様に花束を両腕で持って、海鳥たちが泳ぐ空の下、かの場所に向かう。

 途中、大赦の手によるものが明白な『立ち入り禁止』と表記された大きな看板が掲げられた鉄条網と、本日二度目の相対をするが、構うものかと、さくっと日頃鍛えた身体能力で、月面で跳ねるが如くジャンプして飛び越えた。

 瞳が見据える、扇状に広がるドーム状の傘に覆われたそれは……かつてマリンドームと呼ばれた、休憩と展望とコンサート等のイベントに使われたホール、だった。

 じゃあ神世紀の今はと言うと………ドーム傘下の中央部の、元はイベントステージだった六つ分の階段の頂に聳える石碑の前に立つ。

 いくつもの結晶が大地から花びら状にそそり出た様な形状をした、ドーム内にある多数の石碑の中で一際大きく……《英霊之碑》と赤い血染みた色の文字で刻まれていたそれの前にある、勇者たちの姿が描かれた扇絵のレリーフ手前な祭壇石の上に、持ってきた花束を置き、二礼して音を鳴らさず手を二拍。

 もう一度一礼し、石碑に目を向けたまま二・三歩下がり、背後に振り返ると、ドーム内一面に、一つ一つに大赦の紋が付く多数の小さな石碑たちが、これはまた扇状になるよう立ち並んでいて、亜耶ちゃんは石碑たちの前で、私に背を向ける格好で、まだ立ち尽くし続けていた。

 この〝英霊之碑〟とは……若葉たち初代から、銀たち先代までの約三〇〇年、勇者と巫女のお役目を担った、たくさんの少女たちが祀られている、厳かで静謐な空気が流れる場所。

 石碑には〝英霊〟と呼ばれていたけど、私には絶望的な災禍に立ち向かった勇者として敬意と、哀悼の意を表せることはできても、その魂がせめて安らかに眠っていると願うことはできても……とても……少女たちを英霊などと小奇麗に装飾された言葉で呼ぶことはできそうにないな……と、心中呟いた。

 

 

 

 

 

 そもそもの話、さっきまでは小豆島にある昭和の名作映画のロケセットの観光村にいた私達が、どうして今は大橋の石碑(ここ)にいるのかと言うと。

 ちょっと遡って、バーテックスとの襲撃から亜耶ちゃんを守り抜けた後に、かの映画村に建っている神社にて、簡易的ながらも祝詞の奏上も兼ねたお参りをした直後。

 

〝朱音ちゃん、実は―――どうしても連れて行ってほしい場所があるんです、勇者の方々が祀られる、大橋の、《英霊之碑》に〟

 

 その時、強い意志を瞳に携えた亜耶ちゃんたっての切望で、この英霊之碑までカガミブネで移動(テレポート)し、折角の機会と言うことで、私は勇者たちへの献花する花々を買いに行っていたわけ。

 

「(亜耶ってば、ここに来てからもうずっとあんな感じ……)」

「そうか……」

 

 花を買ってきている間にもしもの事態が起きた際の対策で、亜耶ちゃんと付き添わせていたトトからここ数十分の近況を聞いた私は、足音をできるだけ立たせぬように粛然と……憂いを抱えた小さな背中を見せる彼女の下へと歩き、横並びになる場所で立ち止まった。

 お互い、トトも含めてそのまま何も発さずに黙した状態が続き、自分たちの髪をたおやかに靡かす空気の流れと、海鳥たちの歌声が、より明瞭に聞こえた。

 私はと言えば、石碑たちにそれぞれ刻まれた勇者たちの名を――。

 

 桐生静。

 霜月小梅。

 伊地崎麗奈。

 照背結乃。

 赤城みりあ

 千川ちひろ。

 臼沢塞。

 小瀬川白望。

 大和田佳奈。

 花木美佳。

 横手すず。

 千住はるか。

 早乙女哀美。

 烏丸久美子。

 十六夜爽。

 巽美智子。

 弥勒蓮華。

 赤嶺友奈。

 

 一人ずつ、この心に刻みつけていく想いで……胸の内より声にして呼び上げていく。

 中には、歯抜けの如く石碑ごと撤去されているのもあった。

 多分……一度死亡扱いされながら、多大な代償と引き換えに実は生き延びていた――鷲尾清美こと風鳴……本名《櫛名田静音》と《篠崎奏芽》の、二人だろう。

 ただ、静音たちの場合が数少ない例外であり、勿論、石碑のリストには。

 

 乃木若葉。

 上里ひなた。

 伊予島杏。

 土居球子。

 白鳥歌野。

 藤森水都。

 上城彩奈。

 雪野上舞彩。

 

 三ノ輪……銀。

 

 今こうして、ともに造反神と配下(バーテックス)、いずれ来るあちら側の勇者たちに立ち向かう戦友(なかま)たちの名前も、刻まれていた。

 たとえ否応でも、この石碑たちは………私に一つの揺るがぬ事実を突きつける。

 銀たちはもう、この結界の外の〝世界〟である、数ある次元の可能性(パラレル)の中で………もう生きてはいない存在なのだと。

 さらに、銀の碑の隣に、名前が刻まれていない石碑が二つ、立っていた。

 二つが誰のものかは……どちらもわざわざ問うまでも、問われるまでもない。

 一つ目は清美たち先代勇者の一人な剣士にして、勇者システムがアップグレードされるまでの間、自身の肉体と魂を蝕む諸刃の剣の力で、一人孤軍奮闘して散り、両親ら近親者たちが彼女の死と引き換えに位が上がった御家を大赦に利用されることを恐れ、密葬の形で静かに永眠に着いた。

 

〝篩梨花〟

 

 もう一つ、銀の隣に置かれている方は。

 

〝郡千景〟

 

 この世界の現特機二課の司令官――郡千明のご先祖にして、三〇〇年の勇者たちの歴史から存在を、仲間であったひなたに一度抹消された……西暦勇者。

 現在のゴールドタワーに、《千景殿》なんて二つ名を与えたのだから、もうここにも千景の名前を刻んであげても良いのに………今度次期代表(しずね)に、その件で上申するとしよう。

 そしてここの慰霊碑にはもう一人、石碑に刻まれていない西暦の初代勇者がいる。

 

〝高嶋友奈〟

 

 私が〝高奈〟と言うニックネームで呼び、西暦末の時代に生きた、もう一人にして、最初の〝友奈〟を持つ少女にして勇者。

 若葉とたった二人で臨んだ、西暦最後のバーテックスとの決戦にて………神樹様が自らの結界を強化するまでに、二人で最後まで戦い抜いたものの、行方不明になった。

 亡骸は一切発見されず………言葉通りの〝神隠し〟。

 最終決戦の功績で、彼女の勇者装束の武器――《天ノ逆手》にちなみ、逆手を取って生まれた女の子は〝友奈〟と名付けられるようになり、長い時で風習に変化して行ってからも、結城友奈の様に、現在もかの名を持つ少女が生きていると言うのに………石碑には千景と同様、その名がない理由。

 私の推理では、おそらくだが……満身創痍に陥りながら、生きて戦いを終えられたその瞬間、神樹様が――。

 

「朱音ちゃん………ちょっと、聞いて頂けますか?」

 

 亜耶ちゃんに……いや、この空気では亜耶と呼んだ方が良いか。

 

「ああ、いくらでも、聞き手になってあげるよ」

 

 亜耶に呼ばれた私は、目線と一緒に意識を、彼女へと傾ける。

 身長差で、私からは亜耶の顔は、口元ぐらいしか見えず、ほとんどが髪のベールに覆われてしまっていた。

 

「私は……今まで……神樹様の御意志には絶対であり、その御意志に背くことの無い様……信仰心を日々強く持ち続け………常いかなる時も地の神々から齎されるご加護とお恵みに対し感謝の思いを忘れず………神樹様に選ばれ御守りする勇者の皆様には最大限の敬意を表し、死してお役目を全うなさってからも、その犠牲を悲しみ哀悼の意を捧げつつも………それは〝英霊〟となった名誉でもあると………小さい頃から、教えられてきました」

「亜耶……」

 

 しゃがんで見上げれば、カミングアウトをする亜耶がどんな顔をしているのか分かる………けど、今の私にはそれを行おうとする気には、なれずにいた。

 だって―――声を聞くだけでも。

 

「ですが………」

 

 泣いていると………分かったから。

 愛嬌ある整った口元は咽びの皺で歪み、髪で隠れた瞳から、大粒の涙が、大きな筋となって頬を流れ、水玉となって一滴、また一滴と、大地に落ちていく。

 

「勇者となった皆さん………ごめんなさい………ごめんなさい……」

 

 見ている私の瞳まで、もらい泣きしてしまいそうなくらい、潤み始め………自分の脳裏には、三つの光景が浮かんできた。

 一つは、私(ガメラ)の記憶。

 

〝どうして、私を助けたの……〟

〝アヤナ! イリスは………死んだんか〟

 

 柳星張との死闘を終え……既に奴によって息を引き取っていた少女――アヤナと、その子の幼馴染だった少年――タツナリを、マナを使い蘇生させ。

 

〝ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……〟

 

 タツナリの腕の中で、自らの犯した過ちで罪悪感に苛まれるアヤナが、涙を流していた時のもの。

 

 もう一つは、神樹様から、大橋決戦の前に送られてきた、神託の記録(ビジョン)。

 

〝神様なら……神様ならなんで姉ちゃんを、守ってくれたなかったんだ!助けてくれなかったんだ!〟

 

 清美たちを戦闘不能にし、彩奈と舞彩を殺害したバーテックス三体を、たった一人で撃退したと引き換えに、最後まで生き残ることを諦めずにいながらも紙一重で及ばず、自らも命を落としてしまった銀たち三人のお葬式にて。

 

〝姉ちゃんは必死に頑張ってただろ!? それなのに―――なんで姉ちゃんを連れて行っちゃうんだよ! 連れてかないでくれよ! 生き返らせてくれよ! それもできない神樹なんか――神様なんかじゃないんだッ! 姉ちゃぁぁぁーーーん!!〟

 

 銀の二人いる弟の上の子で、当時まだ五歳だった三ノ輪鉄男君の、今まで我慢して耐えて抑え込んでいた行き場のない激情(かなしみ)が、一気にあふれ出し、姉の遺影に向かって慟哭し、式場を埋め尽くすほどの泣き声を上げていた……時のもの。

 

 そして……三つ目は、草凪朱音としての、ほんの少し前の思い出の一角。

 

〝なのに私………軽々しく一緒に戦いたいとか………〝奏さんの代わり〟になりたいだなんて…………酷いこと………翼さんに……〟

 

〝どうして………どうして響ばっかり! 苦しまなきゃいけないの!? 辛い目に遭わなきゃいけないの!? 辛い想いを背負わなきゃならないの!? 響が一体何をしたって言うの!?〟

 

 響が、未来が、私の友達が……それぞれ流した、落涙の記憶。

 思い出すだけで、胸が強く締め付けられる………いずれも、不条理な災禍が齎す過酷な運命に翻弄された子どもたちの、嘆きだったのだから。

 

「ごめんさない……ごめんなさい……」

 

 そんなかの四人人の涙と……亜耶の瞳から今流され落ちていく涙は。

 

「私………皆さんのことを………何も知らないで……」

 

 余りにも、よく似ていて……いや、そのものだった。

 

「都合のいいことばかり口にして………皆さんがどんな想いで………お役目に就いていたのかも知らずに、考えもせずに………酷いことを――」

「亜耶!」

 

 とうとう立っているだけの力すらも失われて、崩れ落ちようとした亜耶を、彼女の両手が地面に接触する直前で私はしゃがみ……抱き止めた。

 トトも、小さなその手で、亜耶の手に触れてあげる。

 だけど、亜耶の涙はまだ止まりそうになく、私の両手で肩を支えられた亜耶は、そのまま私の腕の中へとそっと飛び込んで………より輪を掛けた泣き声を、勇者たちが眠るこの地一杯に響かせて………よし一層の涙を、私の胸の中で、零し落としていった。

 私の瞳も、亜耶の嗚咽に暮れる姿を見続けるごとに潤んでいき………彼女を抱きしめる腕と手が強まって。

 

(ごめんね………誰も……ずっと………君のことを………助けてあげられなくて、ごめんね)

 

 私の瞼の端からも、閉じると同時に一筋の雫が滴れ流れ………貰い泣いた。

 ずっと。籠の中の鳥だった、巫女以前に……一人の少女であった亜耶が、己が涙を静まらせるまで、ずっと私は彼女の小さな体を、包み込むように抱きしめ続けるのであった。

 

 

 

 

 

 朱音と亜耶、二人の少女が涙を共有し合ってから、数十分後。

 英霊之碑のすぐ傍にある、瀬戸内海が眺められる、元瀬戸大橋記念公園の展望台に二人とトトは場所を移し、そこに複数ある大理石の立方体状で一人座り用のりベンチに、それぞれ腰掛けていた。

 

「はい」

「あ、ありがとう」

 

 朱音は懐からハンカチを取り出し、まだ目元が赤く腫れて濡れ気味な亜耶に手渡した。受け取った亜耶は、ハンカチを折り畳んだまま、瞳の周り涙を丁寧に拭き取っていき。

 

「ごめんなさい………」

 

 返す時の渡し方も含め、彼女の育ちの良さを窺わせた。

 

「朱音ちゃんにまで、貰い泣きさせるつもりなんて、無かったのに」

「気にしないで、これは私自身の涙脆さの問題だから、でもお互い、名前だけじゃなくて、涙腺が決壊し易いところも似てるよな」

「はい、そうですね」

 

 一見外見も属性も性格も真逆そうな二人は、巫女の資質保有者同士なことと一文字差で名前の呼びが似ていることの他に、互いの共通項をもう一つ見い出して、微笑み合い。

 

〝これじゃ奏さんみたいに翼を泣き虫と揶揄えないね、私も大概だから〟

 

 内心に留めたまま、朱音はこっそり自らの涙脆さに少々自虐して微笑した。

 

「(お待たせ~)」

「Thanks♪」

「ありがとうトトさん」

 

 朱音から渡された小銭で、ここから一番近い自販機で缶飲料を買ってきたトトは、朱音にブラックコーヒー、亜耶にはココアを手渡した。

 貰った缶の蓋を開け、二人とも一口ずつの慎ましさで飲みながら。

 

「あ、そう言えば………まだ朱音ちゃんに会いに来た詳しい理由を、まだ話していませんでした」

「そうだったね」

 

 と相槌を打つ朱音だが忘れてはおらず、敢えて亜耶の方から自ら切り出すのを待っていた次第。

 

「また長く込み入った話な上に、ちょっとした相談もあるのですが……」

「構わないよ、言っただろ? いくらでも聞き手になってあげるって、それにだ―――勇者部五箇条―――『悩んだら相談』だ」

「なんなのですか?そのお言葉?」

「今代の勇者たちが設立した――『Love & Peaceで世の為人の為になることを率先してやる』――ボランティア部活動の名前と、その部の五つあるモットーの一つさ」

 

 朱音が、現在自分も在籍する勇者部の簡単な活動内容と、謳い文句(Love & Peaceは朱音が勝手に付け加えたものだが)を説明すると。

 

「『勇者部、世の為人の為、Love & Peace』―――はぁ~~なんと素敵な響きでしょう♪」

「だろう♪ 亜耶ちゃんもそう思うだろう?」

「うんうん♪」

 

 簡易的な概要を聞いただけで、亜耶の瞳は興味津々に、太陽光を反射する瀬戸内海の海原よりも強い輝きを、瞳に宿らせ、朱音も生き生きと応じる。

 二人とも、なまじ神樹様に見初められるだけあり、友奈や響たちに負けず劣らずの愛他主義なフィーリングの持ち主だと言い切れた。

 

「勇者部のことは置いておいて、本題に入るとしよう」

「あ……はい、危うく逸れてしまうところでした」

「気にしないで、話しやすくする前置きだって必要なものさ」

 

 話題が、逸れる前に朱音がフォロー込みで軌道修正を掛け。

 

「では、お話致します」

「ああ」

 

 亜耶は、一転して真剣な顔つきとなり、聞き役の朱音も、同様の眼差しを有する姿勢に転じた。

 

 

 

 

 

 朱音の言い回しを借りるなら、幼い頃からのお家と大赦による英才教育によって〝敬虔な神樹様の熱烈な信者な巫女〟の一人であった彼女のアイデンティティーを揺らがす程の代物にして、まだ決して長くないその人生を一変させる転機の第一歩。

 

「三年前のことなのですが……」

「大赦の組織改革による、防人部隊一斉リストラ騒動の件……だね」

「その通りです」

 

 先代勇者たちの最後の戦いで、静音の名以外は、鷲尾清美としての自分も、櫛名田静音としての自分さえ、その記憶全てを失い。弦十郎の養子にして翼の義姉妹となり、当時に特機二課所属のシンフォギア装者兼ツヴァイウイングのマネージャーとなってとして、奏と翼と、友奈と義妹だった東郷たち勇者部とともにバーテックスとの次なる戦いで記憶を取り戻し、同時に大赦の次期代表となった彼女が執り行った、かの戦いを通じて腐敗の一途を辿っていたと痛感させられた大赦の、大規模な組織改革。

 突貫で始められた変革の一つが、当時の大赦が押し進めていた〝国造り〟の中止と、その施策準備の為、結界の外のバーテックスらが跋扈する灼熱地獄の中、数以外は正規の勇者システムよりスペックが劣る装束と武器で危険な任務の数々に従事していた防人部隊の、当人らからすれば理不尽この上ないお役目御免と、即時解散だった。

 当然、リーダーの楠芽吹筆頭にメンバーの大半が反発しただけでなく。

 

「芽吹先輩たちがいつも必死に訓練に勤しみ、命がけてお役目を全うしてきた姿を見て、いつも神樹様に無事を祈願していた〝あの頃の私〟も、突然下されたこの決定に納得がいかなくて………」

 

 部隊のサポーターを務めていた亜耶も、直接静音に直訴し、国造りの計画中止と防人部隊解散の撤回を強く求めたのだが……。

 

「全く相手にしてもらえず、一蹴されました……」

 

 一応その件を安芸先生の記録越しに存じてはいた朱音は、亜耶と静音が大赦の方針を巡って張り詰めた空気の中、口論している様を想像し。

 

「もしかしてだけど、その時静音(じきだいひょうどの)から、こう言われなかったか? 『一回一緒に戦場に出たくらいであの地獄を語るなとか、勇者たちがどんな想いで戦い、命を散らし、神樹様の壁を壊したか、彼女たちの苦しみも知らずして、知ったような口を聞くな』――とか………」

「大体、朱音ちゃんの、想像した通りです………おまけに国土家すらも散々に罵倒されました………今ならそう言われるくらい、神樹様に依存し過ぎてる惨めなお家だと、自分でも認識していますが」

 

 しかも、自身のお家まで罵られて泣きそうになっていた亜耶に、『二度とそのような無様な姿で私の前になど立つな!』と、泣きっ面に蜂の針を突き刺したらしい。

 

「はぁ~……静音ってば全く……」

 

(どうして彼女は、そうやって敵ばかり作って、清美(かこのじぶん)にさえ反発されるほどに汚れ役の泥を、必要以上に被ろうとするのだか……)

 

 いつもは静音が、よく言えば奔放、悪く言うと問題児とも言える個性の杭が出過ぎるメンバーの行動行為に対しよくやる溜息と、顔に手を当て、頭を抱える仕草の数々を、無意識にしてみせた。

 大赦がこの三〇〇年、組織としてどれだけ歪み、腐敗し、末期状態で早急に改革が必要だったかは、静音から聞かされた勇者たちが大赦より被った受難とそれが招いた悲劇の数々と、黒塗りだらけの記録の数々と、トトの視界越しながら、幹部会にて目の当たりにした国土家含めた上層部会の、〝大赦〟に改名した若葉たちが掲げた組織の理念と目的、目標を忘れ、過剰なる神樹様への盲信と、地の神々をバックボーンとした己が権威に耽溺し固執する有様を思い返せば、異邦人な朱音ですら否でも分かるし、亜耶もその頃はご両親同様神樹様に盲従し、大赦からの教えや与えられた役目に何の疑問も湧かなかっただろうし。

 もしも………大赦の初期の記録にも黒塗りされず記載されていた〝捧火祭〟に選ばれれば、当時の亜耶なら喜んで承諾し、共に寝食を過ごした防人たちをも悲哀と絶望と無情な奈落に突き落としたことだろう。

 ゆえの改革を断行したその頃の静音の決断と覚悟は、理解できる。

 だが………やり方、手段の数々に限度や、使い分けだってあるだろうにと、朱音は思わざるを得なかった。

 当時の亜耶は、先代勇者小学生組と同じ一二歳……朱音にとって愛すべき子どもに当る年代……もし自身があの世界の住人な装者または勇者だったら、静音と殺し合いすれすれの大喧嘩になっていたかもしれない。

 現在でも外見に負けず天使も同然な亜耶を見てると、その頃の亜耶から見た静音が悪魔の頭領サタンの化身か何かに見えなくもない……幸い会って早々、静音の人柄の本質を垣間見てきたので、実際に彼女の株まで堕ちずに済んだ―――がだ。

 

「前に加賀城雀にも言ったけど、ほんとごめんね………石頭どころか鉄の頭な頭でっかちの融通利かない我らがリーダーで………」

「いえいえそんな! 雀先輩も仰っていたそうなのですが、朱音ちゃんがお謝り必要はございません、今ならば次期代表殿の秘めた思いは少なからず存じてますし、お陰さまで私は―――目覚めることができましたから」

 

 それでも朱音は頭を深々と下げ、下げられた亜耶はあわあわと戸惑って両手を扇状に振り、冷や汗を飛び散らせた。

 

(あ~~亜耶ちゃんのエンジェルっ振りが眩し過ぎる……あんな境遇の中でよくぞここまで純真な子でいてくれた……その心の強さを讃えたい)

 

 亜耶の心の器の大きさに、心から朱音は感嘆しつつ。

 

「この三年、亜耶ちゃんなりに、神世紀の歴史を、研究し直してたってことなんだね?」

「はい、巫女としての修行とお役目の傍らにお調べして………如何に大赦(わたしたち)が愚かで、勇者の皆様たちに、三百年の長き代にも渡って、心身ともに多大な犠牲としてきたことを、思い知らされました………そして―――」

 

〝そして〟―――ここから先にて亜耶の口から紡がれる言葉こそ、自分に会いに来た理由だと推測し。

 

「―――今でも芽吹先輩たちのことはお慕いしているのですが………一方で、神樹様や、父と母ら大赦の方々を、信じることが、できなくなってしまって、この先………どうしたら良いのか、何を為すべきなのか……・分からなくなっちゃったんです……」

「それが……無断外出してまで、私に会おうとした理由なんだね?」

 

 亜耶は一時俯いて話していた顔を上げ、はっきりとこっくりと、頷き。

 

「雀先輩から、朱音ちゃんのことをお聞きして………虫が良い話なのも、悩みを解決してくれるヒントをくれるなんて贅沢だと承知の上で………朱音ちゃんに、窺ったんです」

 

 案の定、朱音が直前に見立てた予想は、当たっていた。

 無理もないことだ。

 以前の亜耶にとって、神樹様への強い信仰も、大赦からの教えも、巫女としての己に課せられたお役目も………〝国土亜耶〟と言う人間の姿形(アイデンティティー)を形作るアイデンティティーだったのも、また………確たる事実なのだから。

 

「でも、もういいんです………お話を聞いてくれただけでも、さっきみたいに涙を受け止めてくれただけでも、朱音ちゃんには、バーテックスから助けてくれたのも入れて、とても……とっても感謝しているんです、この三年……ずっと胸の中で消えなかったしこりが、やっと和らいでくれたので」

 

 自らの胸に手を当て、自分が切り出した話をお開きにしようとした矢先。

 

「待って」

 

 掌を突き出した朱音が、制止させた。

 

「お礼を述べるのは……まだ早いよ」

「え?」

「君の悩みを聞いた上で、私からも、伝えておきたいことがあるからさ」

 

 と言って、朱音はそれまで腰かけていた大理石のベンチから立ち上がり、海側へと歩き出した。亜耶も、朱音の背中を見つめながら、歩いて彼女の後を追う。

 

 

「正直に言うとね………」

 

 朱音は、亜耶に一時後ろ姿を向けたまま、打ち明け始める。

 

「私にも………亜耶ちゃんが抱えてる悩みを、直ぐに解決してあげる言葉なんて、持ってないんだ………ほんのちょっとなら思いを共有して、背中を押して、手伝ってあげることはできなくはないけど」

「………」

「お互いさまなんだ、人は誰だって、生きていく上で迷いに悩みを抱えちゃう、一つ乗り越えたと思ったら、もっと大きいのが来て、登って越えられず落ちて、転んで苦しんで、時にそんな自分の不甲斐なさを攻めることだってある……」

 

 背を向けたまま、朱音は空へと瞳と顔を上げた。

 

「私だって例外じゃない、むしろ怪獣で神様だった頃からつき合わされてきた………今度私の映画を見る機会があったら見てみて、特に三作目なんて、怪獣だから台詞なんて一切無いのに………悩んで、苦しんで、ブレまくって………たくさんの命を巻き添えにしてきた、落ちこぼれの神様だってことが、よーく分かるから」

 

 ここでようやく、朱音は背後に佇む形だった亜耶の方へと振り返り、瞳を地面に下ろし、今度は朱音が、勾玉が掛かる自身の胸に手を添える。

 

「今だって、決して少なくない悩みを、歌を生み出すこの胸の奥に、抱えてる」

 

 なぜガメラの記憶を持ったまま、人間に再び転生したのか?

 なぜ記憶が蘇ってしまったのか?

 なぜ自分の世界の神に当る〝地球の意志〟は、ガメラの力を宿したシンフォギアを、自分に託したのか?

 時に、果たして自分は、ガメラの記憶を持った人間なのか?

 それとも、先史時代の巫女フィーネの様に、ガメラの意志が、草凪朱音の人格を全て塗りつぶしてしまった存在なのか?

 ならば……一体自分は、何者なのか?

 

「誰でも良い………誰かに、意味や、答えを教えてもらいたかった……」

「朱音ちゃん………」

「けど――」

 

 ここまで亜耶へと打ち明けた朱音は、一転して凛と、決然とした瞳と表情を彼女に向け。

 

「これだけは、言える」

 

 確固たる意志が反映された立ち姿から、歩き出す。

 

「意味や答えなんてものは、探して見つけるものじゃない―――自分の手で創造するものなんだって」

 

 そうして朱音は、自分の手が亜耶に届くまでの距離で立ち止まり。

 

「自分が信じること、自分が心からやりたいこと、自分が今一生懸命にできること………最後には、自分自身の意志で生み出して、決めて、進んで行くしかないんだ」

 

 少しその場で屈み、彼女の肩に優しく触れつつ。

 

「その為にも、まずはもっと自分も含めてたくさんの命が生きているこの世界をもっと知って、自分ができることを為せるように、何より己自身を信じられるように、よりもっと―――〝心(ここ)〟を鍛えておかないとね、どんな困難にも………負けないように」

 

 自分の胸を指でトントンと叩いて最後にこう付け加え、自分が亜耶に伝えておきたい言葉(おもい)を―――送り切った。

 

「………」

 

 聞き入っていた亜耶は、朱音の言葉をしっかりと受け止め。

 

「はい!」

 

 芯に確かな強さの籠った声で、応じるのであった。

 

 

『星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女 EX編』に続く。

 



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星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女EX:国土亜耶の休日 その1

今回はタイトルの通り、亜耶ちゃんのローマなんたらな休日風EX回です。

冒頭朱音たちが歌っていたのはV6のトニセンの『always』がモデルで、映画の方は八甲田山のパロ(役名は変えており、高倉健さんが映画で演じたのは徳島大尉です)。



[chapter:星の姫巫女な装者と、籠の中の鳥な巫女EX:国土亜耶の休日 その1]

 

 

 

 愛機(バイク)のワルキューレウイングF6Dの後部席に亜耶ちゃんを乗せ。

 

「(安全の為にね)」

「トトさんありがとう、サイズもぴったりで助かります♪」

 

 トトが精霊の力の一つ――『自身がイメージした物体を実体化』する能力で亜耶ちゃんの頭に合わせたタンデム用ヘルメットを生成して被せてあげてから、相棒はファスナーを上げたライダーズジャケットの襟元内の、私の胸の膨らみを椅子代わりに座り。

 

「準備はいい?」

「はい」

「それじゃ――Here~we~go~♪」

「ゴー~~です♪」

 

 亜耶ちゃんの両腕と胴体がしっかり私の腰に回って密着していると確認すると、キーを回してエンジン始動。猛々しくも品のある野太いエンジン音が響き、私はグリップを操作してそよ風ばりの悠長さで安全発進。

 未成年な上に、こちらの世界で免許取ってから半年の経っていない私ではタンデムで高速道路を使うことはできないので、小豆島行きのフェリーが毎日運航されている浜松市から讃州市までの香川中部から西部まで縦断できる『讃岐浜街道』に入って、そこから讃州市にまで向かう。この幹線道路たちは、県道と市道と町道がごっちゃ混ぜになっていた為、西暦当時は香川全体の政治課題になるほど管理元がバラバラだったのだが、バーテックス襲来を機に、奴らの出現も含めた災害時に円滑な対応ができる様、香川県が街道上の道路全てを一元管理するに至った経緯がある。

 大橋からほど近い大束町に入り、亜耶ちゃんの大切な友人たち――防人部隊のいるゴールドタワーに近づき、もうじき横切りかける。

 

「友達に顔を合わせておく?」

「いえ、まだ訓練中の筈ですし、急に訪問しても芽吹先輩たちがびっくりされると思うので、予定通り明日の夕方に」

「All right(分かったよ)」

 

 亜耶ちゃんの意志を確認した私は、そのままタワーを通り過ぎた。

 

「道路状況確認」

 

 程なく懐のスマホと同期したバイクのコンソールで、讃州市までの街道内の交通状態を確認する。よし、これくらいらアプリが報告してくれるまで暫く流せるかな。

 空模様も、雲の数と大きさ、閑静さ具合込みで丁度良い蒼穹具合だし。

 

「トト、テレパススピーカーお願いできる」

「(は~い♪ 僕も丁度そんな気分だったんで喜んで、でも安全運転も忘れないでね?)」

「もちろんさ」

「(一曲目はどれにする?)」

「う~ん、じゃあ―――で」

「(あいよ~Music~Start on a drive~♪)」

 

 トトのテレパシー入力で、端末の音楽プレーヤーが起動。

 

「あれれ~? 音楽が頭の中で響いてきました」

「そう言う仕様なんだ」

 

 案の定起きた現状を前に驚いた亜耶ちゃんに、トトの音楽を直接脳に送って聞かせる《テレパススピーカー》の概要を簡単に説明してあげた。

 

「どんな曲なんですか?」

「これはね――」

 

 かの超古代の光の巨人の特撮ヒーロー主題歌も歌ったアイドルグループのカップリングにして、土曜ドーでしょうの主題歌を歌ったシンガーソングライターが、うっかり初代ヴァージョンのメロデイをそのまんまかのグループに曲提供してしまったお間抜けエピソード付きの、されど確かな隠れた名曲である。

 

「歌詞はちょっと切ないのに、ウキウキして元気も出てくる素敵なお歌ですね♪」

「でしょでしょ♪」

 

 締めまで、かの名曲が流れ終わった瞬間。

 

「トトさん、今の歌をもう一度流してもらえますか? 今度は伴奏だけで」

「(いいよ)」

「それじゃ、三重奏(トリオ)で行く?」

「もちろんです♪」

 

 再確認したら、さっきよりも交通網はより穏やかになっていたのも後押しになり。

 

「「「~~~♪」」」

 

 淡い秋の青空の下、街道は良いところで粒子状に煌めきゆらめく瀬戸内の海原沿いに移り、かの曲のボーカルを抜いたInstrumental-Verが流れる中、私ら三人で、三重の歌唱を流れる大気に響き渡らせるのであった。

 

 

 

 

 

 亜耶を連れて讃州市の寄宿舎の自室に帰宅兼彼女を招き入れ。

 朱音→亜耶の順番でシャワーを浴びる。

 先に浴びて上がった朱音は、黒のタンクトップにジーパン、首にバスタオルを掛けたラフな格好でベランダに出て。

 

「ごめんなさいね、今日もまた色々と手間かけさせて」

『もう気にしてないわよ、それに長い目で見て本を正せば………国土亜耶逃走の最大の原因は、私たち大赦にあるわけだし』

 

 スマートフォンでSONG本部内の自室で今日も多様な業務に追われる静音と連絡を取り合っていた。

 

「さっきのメールでも伝えたけど、明日の夕方まで亜耶ちゃんはこっちで面倒みるから」

『分かったわ、夕方にはゴールドタワーに彼女を送り届けてね、その後は神官たちが迎えに行くから』

「了解、亜耶ちゃんの一泊分の着替えの方もありがとう」

『造作もないことよ』

 

 電話のお題は、今日から明日までn二日間の亜耶の処遇に関する論議である。

 朱音が発した通り、次期代表な静音からの施しで、今晩亜耶は彼女の部屋に一泊することになっており、衣服インナーら着替えと歯ブラシ化粧品などの女子お泊りセット一式の入ったバックも寄宿舎に送られ、朱音が帰宅するまでそこの管理人役を担うSONG職員が丁重に預かってもらっていた。

 

『それで……』

 

 先程までてきぱきとテンポよく応対していた静音の口調が、転じて普段の物腰からはらしくない……歯切れの悪いものへと急に変わる。

 

「What's up?(どうした?)」

『個人的に、国土亜耶の今の様子はどうなのか? 気にはなったのよ』

 

(大体分かった)

 

 理由を聞いた朱音は、静音の素直じゃない性分から来る彼女の心境を読み取り、吐息も聞こえぬ様こっそりくすっとほくそ笑んだ。

 

「多分だけど、国造り計画中止と防人一時解散からのこの三年間の中で、一番心が澄んで絶好調だと思うよ」

 

 大橋公園跡地で勇者部の概要とモットーを話した時の輝かしい瞳、タンデムで寄宿舎へ帰宅地中に、バイクのバックミラー越しに見えた晴れ晴れしい笑顔で覚えたてのドライブ映えする音色の波の流れに乗り、覚えたての歌詞を自分とトトとともに陽気で唄い上げる………歌女(うため)な女の子の姿。

 

〝都合のいいことばかり口にして………皆さんがどんな想いで………お役目に就いていたのかも知らずに、考えもせずに………酷いことを――〟

 

 それより前に《英霊之碑》の中心で見せた大粒の涙を除き、彼女の三年間を安芸先生の記録越しにしか知らない朱音でも、今の亜耶の心の中の天気は、とても快調なものだと断言できた。

 

『そう……』

「聞きたいのはそれだけじゃないでしょ? 今でも静音は、勇者部の一員じゃないか」

『勇者部五箇条――悩んだら相談………そうね、今は時間に余裕があるから、ついでにもう一つ、聞いておくわ』

 

(〝ついでに〟か………〝そう言う人格(とこ)〟が、そういうとこだぞ、静音)

 

 我らがリーダーの有能優秀、卓越した手腕と信念の持ち主な一方で、融通利かずの堅物で一人汚れ役を担う………響や友奈と違う意味合いで歪な自己犠牲精神と、てんで素直じゃない人柄に、今度は複雑な色たちが混じった苦笑を浮かべた。

 とは言え、今のリーダーに、ご多忙な日々の中で打ち明けられる相手がいるのは、幸いでもあった。

 仕事中に、差し入れを持ってくるなどの朱音のフォローには、確かな効果があったわけだ。

 

「朱音……」

「yap(うん)……」

『貴方が大赦の記録で見た私の改革のことで……率直な意見を……聞かせてもらえるかしら?』

 

 次期大赦代表に静音が就いて間もなく、若葉たちの遺志と願いを無駄にしない為に断行した、静かに退廃の一途を辿り行く組織の大規模改革の件。

 

「日本人のイメージする〝率直〟とは比較にならないと、前置(ちゅうこく)しておくけど、それでも構わない」

『承知の上よ』

「分かった………それじゃお構いなく―――すぅぅ~~……――」

 

 むしろはっきりとことん物申して欲しい―――静音の言葉に宿る気持ちを汲み取り、深く深く、いつも歌を歌う直前の時より遥かに大きく息を吸い込んで。

 

「――In this stubborn basterd & Iron Head. You should know any more adjust! (この頑固ヤローの鋼鉄頭(アイアンヘッド)が、ちっとは加減を知りなさい!)」

 

 声音こそ平常をキープさせたままながら、だが最後辺りは語気やや荒めに――徹底した逡巡も遠慮も抜きのアメリカンな、これが下っ端の大赦神官に限らずお固い組織の下の人間なら解雇になってもおかしくない域の〝率直〟な辛辣度合で、己が意見(ボディブロー)を―――思いっきり静音(リーダー)へ痛烈に突きつけた。

 

『っ………』

 

 これには覚悟も決めていた静音も息をたまった唾ごと呑んで、閉口させられ。全身も一時固められる。

 静音にここまで物申せるのは、異世界からの異邦人な傭兵――装者にして、対等な戦友込みの〝友〟でもあるからだった。

 

 

 

 

 

 それから実時間にして、五分くらいかな?

 三年前の大赦組織改革に関する〝率直〟な感想を、主に義憤で激昂した静音が論戦の際に使っている討論法、通称《静音メソッド》を、テンションや語気は静音本人が使う時より五〇パーセントに抑えた塩梅を意識したまま私なりにこのメソッドをトレースして使い、かの改革の進め方と意志表現と言った運営の問題点を追及しまくる。

 内容を上げ出すと、長々と延々説明が続くので、詳細は中略。

 

「どうせ厳格なリーダーを目指すなら、私は八甲田山の鷹島(たかじま)大尉を参考に推すね」

 

 今挙げた名は、日露戦争より一〇年前の明治期の日本青森県を舞台に、雪中時の軍行対策のノウハウを培う為、〝白き地獄〟を呼ぶに相応しい真冬の八甲田山で、青森五連隊と弘前三一連隊二組に分かれて実行された雪中行軍にて、五連隊の方が遭難し、僅かな生存者を残して大半が凍死すると言う日本最大の軍事訓練事件をモデルとした小説の映画版の、メンバー少数による厳しい指揮系統と防寒対策の徹底で行軍を成功させた三一連隊指揮官の鷹島大尉殿(尚、実在した三一連隊指揮官とは名前が異なる)のこと。

 私が警察用人型作業マシンを有する特機部隊な某特○二課の、昼行燈の翼に切れ者な頭脳たる爪を隠した隊長さんと同等に、理想の上官――リーダーとして心から尊敬している架空の人物の一人である。

 

「じゃあ、今日に関する始末書は一週間以内に提出しますので、失礼致しします」

『ええ……必ず提出するように』

 

 薄々に《静音メソッド》を真似されてしおれている我らが指揮官に、改めて始末書の提出を確約し、私は通話を切り、首のバスタオルを洗濯籠に放り込んで、髪をトドライヤーで乾かす、手入れは一日たりとも怠らず付き合いの長い髪なので、ドレッサーの鏡を使わずともダメージを与えない乾かし方は身体が覚えている。

 今ならば、忠言できるお役として翼に風部長にマリアに、過去から召喚された奏さんもいるし、実際の組織運営でも、緩行及びストッパー役になってくれる幼馴染の奏芽と双子の姉の琴音が右腕となっているから、三年前当時ほど苛烈にならなくはなっているけど、諏訪の一件もあるからね………無闇に静音には、大切な友や仲間たちを想い過ぎる余り、これ以上汚れ役の泥に塗れさせたくない。

 誰だろうと、どんな形であろうと……天と地、どちらにしても、神々同士が起こす不条理厄災の為に……人が〝人柱〟になるなんて、実際に元神にして神同士の争いに明け暮れた身としては―――もう、御免。

 これも我がエゴだと分かっているけど、静音たちにも………そうなってほしくはないのだ。

 と――思い馳せながら、乾かした髪を櫛で丹念にまとめ上げ、感触で確認、うん――これでOKっと。

 

「シャワーありがとう朱音ちゃん、お陰ですっきりしました」

 

 また外出するので、その準備に上着を着替えていると、シャワー上がりたての亜耶ちゃんが顔を出してきた。

 服はシンプル過ぎるTシャツと短パンなのだが、そんな風体でさえ、亜耶ちゃんの天使の如き美貌は一切衰えず、同性異性問わずに見惚れさせそうだ。

 

「髪も私とトトで手入れしておこうか?」

「あ、是非、何分巫女にとって髪は大事なものなので」

 

 日本に限らず世界規模で、昔髪には〝霊力〟が宿るとされ、神道における巫女も、髪は神々と通じる為の重要なキーアイテム、ゆえに現在も大赦(の決まりで)専属の方々も含め、巫女はみだりに〝命〟そのものたる髪を切れず、せいぜい眉を越えて伸びすぎた前髪と、後ろ髪の先を整えるくらいが許容範囲。

 ドレッサー前に亜耶ちゃんを座らせ、鏡面と照らし合わせながら、私は端整に細くて肌触りがさらさらとした美髪に残る余分な水分を慎重に取り、トトも細心の注意で優しく研いていき、私たちの努力の甲斐あり、シャワー前よりも亜耶ちゃんの髪は整われ。

 

「こっちもありがとうね♪ あはは~~♪」

 

 本人も砕けた口調になるほど嬉しそうに両手でふんわりっと髪を靡かせ、その場でくるくると回る。

 そんな彼女を見た私とトトは、ハイタッチで互いの健闘を叩い合った。

 

「これから買い物なんだけど、亜耶ちゃんも一緒に行く?」

「もちろんです、市井の方々はどう食材を調達するのか、前から興味があったので」

 

 斜めに合いの手をした亜耶ちゃんは、顔も傾け喜んで了承してくれた。

 はぁ~~やっぱり亜耶ちゃん、君は人であり、天使である――だよ。

 

 

 

 

 

 もう外の景色は、夕陽に染まっている。

 そういうわけで、クーラー機能付きマイバックを肩に掛けた朱音と亜耶とトトらは、寄宿舎を後にし、徒歩にて買い物に出た。

 朱音は髪をポニーテールに、紺色と黒と白のチェック柄な三角襟のスウェットに、淡い色で彼女美脚にフィットしたスリムジーンズ。

 万が一の迷子対策にトトが頭上に乗っている亜耶の方は、腕に黄色いラインが円を描いている白い 長袖Tシャツの上に、デフォルメされた猫の刺しゅうが入ったピンクのサロペットデニムスカートの出で立ちだ。

 行き先は讃州市内にいくつかある商店街の一つ、西暦末期は市内のもあわやシャッター切りのつるべ打ちに遭って消滅の危機に瀕していたが、神世紀に間に行われた再開発事業が成功し、昭和の時代に負けず劣らずの賑わいを現在は取り戻していた。

 その一つが、寄宿舎から徒歩でも十五分ほどで行ける場所にあるアーケード――《観音商店街》であった。

 讃岐街道の始発にして終着な浜松市にある日本最大の長さを誇る浜松商店街に比べれば譲るものの、それでも地方都市の商店達が立ち並ぶ通りとしては、かなり大きめの方であり、昔ながらの八百屋、精肉店、焼き鳥やクレープなどの立ち食いからレストランまで多種な飲食店、雑貨店、服飾店、眼鏡店、靴屋、ドラッグストア、楽器店――等々の店舗たちが、アーケード街にて壮観に立ち並び、時間帯もあって多くの讃州市民が行き交っていた。

 

「はぁ~~……」

 

 知識としては知ってても、実際に目にするのは初めてな亜耶は、眼前の光景を前に、感嘆の思いで圧倒されていた。

 

「もし私とはぐれた時は、迎えに来るまでその場から動かないでね、トトが人避けの結界も貼ってくれるから」

「はい」

 

 朱音に手を繋がれ導かれる形で、商店街に初めて足を踏み入れた亜耶は、友の買い出し様にもまた驚かされた。

 店が多数並ぶ道の中、一切迷わず、今日のディナーの料理に必要な食材が置いてある各お店に足を運んでは、山積みされた目当ての食材たちをほんの数秒しただけで選び、店によっては一分も掛けずに買っていく。

 例えば八百屋では――。

 

「このキャベツとニンジンともやしをください」

「あいよ、ホワイトスワン農場で取れた一番生きが良いのを当てるなんて、今日も審美眼冴えてるね朱音ちゃん♪」

「食材確保は早いもの競争ですから、日々目利きの鍛錬も欠かせません♪」

 

 精肉店では――。

 

「鳥もつ○×グラムと砂肝▽◇グラム、それと豚バラ肉もいつもの量で」

「まいど~~♪ もしかして朱音嬢ちゃん、今日の晩飯って――」

「Sorry(ごめんなさい)、今日は野菜もたっぷり三原風広島焼きなんです」

 

 朱音が合いの手で、純然たる香川県特有のお好み焼き『きも玉焼き』ではないことを詫び入れ、地方独自のお好み焼きを掛け合わせたオリジナルであることを伝えた。

 

「そっちか~~嬢ちゃんのレパートリー、どれくらえぇあるんな?」

「随時更新中ですよ♪」

「これゆ~て驚いた! 驕らずに精進熱心やな」

「Take me higher(もっとたかく)の精神で精進してますよおじさん」

 

 店主と朱音がお互い自分の腕を叩き合った。

 買い物自体はさくさくっと終える一方で、各お店の店員さんらとは気前良くトークする姿を亜耶はまざまざと見つめる。

 

「もうすっかりこの商店街の常連さんですね、こちらの世界に来てから半年も経ってないのに」

「(朱音の〝進化力〟は、戦闘面だけじゃないんだな~これが)」

「ほう~」

 

 うんうんと繰り返し、この短期間で商店街の人々と打ち解けている朱音に感心して頷く亜耶だった(一応亜耶も安芸先生から、平成ガメラがシンフォギアのようにより戦闘に適した姿へと進化していく生態のことを聞いて存じている)。

 ここでの進化とは。創作で使われる強化の類ではなく、環境に〝適応〟する本来の意味の方だ。

 

 

 

 

 

 幸い、この辺の地理に慣れていない亜耶がはぐれる事態も起きることなく、今日の朱音の買い出しも滞りなくスムーズに終えられ、帰宅の途に付き、もう一角右へ曲がれば寄宿舎はもう直ぐなとこまで来て。

 

「デ~ス……」

「あ、あやちゃんおかえり……」

「こっちこそ、お疲れ様」

「うん、ほんと疲れた……」

 

 朱音たちからは左側の角の方から、切歌、調、英理歌の三人が、いかにも疲れ切った様子で現れ、こちらと鉢合わせた。

 切歌など、すっかり猫背である。

 三人とも、今日も気合いたっぷりな先輩装者と勇者に駆り出され、奪還地域の見回りの挙句、樹海での交戦に当てられた後だ。

 その為、高一メンバーで朱音と並ぶ料理人な調さえ、買い物に行く暇は無かったらしい。

 

「朱音……その子ってもしかして静音さんからも連絡あった」

「ああ、紹介するよ、巫女の国土亜耶ちゃんだ」

「はじめまして、国土亜耶です、よろしくお願いします」

 

 亜耶は気品よく姿勢正しく挨拶の一礼をした。

 

「切歌さん、調ささん、英理歌さんのことは、前から安芸先生と雀先輩からお聞きしておりました」

 

 亜耶が持つ、生来かつ天性の癒しオーラは――。

 

「なんと可愛い……」

「君は天使か何かなの?」

「デデデース!」

 

 ――三人が抱えていた疲労を一瞬で、吹き飛ばしてしまった。

 

(やっぱり亜耶ちゃんは、人であり、天使だな)

 

 内心こう思いながら。

 

「それじゃあ今夜のディナーの、三原風広島きも玉焼きができるまでもうちょっと待っててね♪」

「「「は~い♪」」」

 

 今日の献立を伝え、朱音以外のその場にいる全員が、意気良く手を上げて応じたのだった。

 

 

 

 

 

 それから夜の時間帯に移り、高一メンバー+亜耶が揃った朱音の部屋の中央のテーブルでは。

 

「さあ、いよいよだよ」

 

 ホットプレートで綺麗なまん丸で焼かれた普通のより大き目な薄力粉の生地の上に、先に痛めておいた焼麺、細かく刻んだキャベツ、ニンジンにもやしとニラ、天かすにとろろ昆布、鳥もつ砂肝に豚バラ肉の野菜もたっぷり焼きそばを見事にぴったり乗せ。

 さらに下のものとほぼ寸分違わぬ大きさで薄力粉の生地もう一枚を焼き、鳥もつ野菜焼きそばに乗せ。

 

「いよいよ卵デスね~♪」

「切ちゃんってばよだれよだれ!」

「もう少しの辛抱ですよ、切歌さん」

「うんうん」

 

 そして広島焼きと言えばこれな卵を、円状に、下も上もふんわりトロトロの絶妙なバランスで焼き。

 

「One more Egg♪」

「「「おおぉ~~!」」」

 

 その上に片手でさくっと割った卵もう一個の黄身が丁度真ん中に放り込み、一枚目と形を維持したまま混ぜ込み、その上に焼きそばと薄力粉のサンドを乗せてさらにもう一押し分焼き続け。

 そして――みんなが固唾を呑んで見守る中。

 

「3・2・1――GO!」

 

 パンッ!

 

 見事に合わさった生地が、プロの調理負けず劣らずの端整さでひっくり返され、一同から拍手喝采が送られた。

 

「まるでオムレツみたいなふわとろデ~ス!」

 

 そこに一番手で作り置きしていた。

・中農とオイスターとトマトソース。

・醤油、塩、胡椒。

・ハチミツ。

――これらを混ぜ込んだ特製ソースを表面の卵へとまんべんなく塗り、カロリー控えめのヘルシーマヨネーズをなみなみの網目模様でかけ、最後に青のりと鰹節をふりかけ。

 

「完成! MY HIROSHIMA焼きフュージョンスペシャル!」

 

 

 ドーン!(完成した太鼓音)

 高らかに宣言して完成したボリュームもたっぷりなお好み焼きに、二度目の拍手の嵐が巻き起こった。

 

「調、切り分け頼むね!」

「任せて!」

 

 ここに来て、今日のお役目から大分体力が回復した調がヘラを手に構え、キラーンと瞳に光を発したかと思うと。

 スパスパッ!

 僅か数秒の早業で、亜耶にトトら精霊たちの分も含めたの九等分へと、これまた見事な均等で切り分けられていた。通常より大きめのボリューミーなサイズなので、九分の一分でも、うら若き女子たちにはたっぷりに相当する量である。

 二人はそのまま、一枚ずつメンバーと精霊それぞれのお皿に盛りつけ。

 

「それと、私のスムージーと」

「あ、雀先輩からのおすそ分けですね」

「正解」

 

 冷蔵庫から朱音特製のグリーンスムージーと、デザートの愛媛みかんも人数分テーブルに置かれ。

 

〝いたたきます〟

 

 五人と四匹は、食事の合掌(あいさつ)を経て、今日のディナーを食し始める。

 朱音と調は箸で器用に切り。

 英理歌とトトはフォークでさらに切り分け。

 切歌は丸ごと箸で掴み上げて豪快に頬張り。

 亜耶はナイフとフォークで、高級レストランでステーキを食べる時のように丁寧に切って食しており、トト以外の精霊も食べ方は千差万別。食べる様相だけでも、それぞれ個性が出る何よりの証だった。

 一方で極上の美味を芯まで味わい尽くしている点では、調理した本人を含めて笑顔たっぷりに食べる全員、満場一致だったわけだが。

 

「その生きの良い食べっ振りを見ると、今日もクリスや夏凜たちに扱かれたみたいだね」

 

 朱音が安芸先生と会って、亜耶と行動をともにしている間、切歌たちはクリスと夏凜の先輩教官の特訓と、午後は奪還地域の見回りと、敵襲。

 それがどれほどの疲労を齎したのかは、夕刻にて帰宅途中の彼女たちを思い返せば十分だ。

 

「そうなんデスよ……気合い注入し過ぎデス、明日は休みで助かったデスよ」

「魔法少女事変で、先輩としての責任感に苛まれてた頃よりは、まだずっと良いんだけど………」

「そりゃ一部の年長者の指示には渋って、同い年の私の言葉には素直に聞くからだろ? また〝ベテランだから〟だのどうだのなんて言い訳は、却下」

 

 ギクッ!

 あながち間違ってなかったので、三人の胸の内から、そんな図星の音色が響く。

 実際前世にて、ガメラとして修羅場を潜り抜け、シンフォギア装者としてもルナアタックを戦い抜き、この造反神との戦いの日々で尚も磨かれ続けている戦闘能力、判断力、戦術眼は、切歌たちからは同い年の友としての友情とともに〝戦士〟として非常に尊敬の念も抱いていた。

 

「でも先輩たちの指導が厳しくなったの、あやちゃんも原因の一つなんデスよ」

「ここ最近の朱音……フォニックゲインが飛ぶ鳥も越す、鰻登り」

「司令さんの映画鑑賞トレーニング以外に、どんな秘密の特訓をしてるの一体?」

 

 ただ、クリスたちの後輩指導が一段を熱が入っているのは、最近フォニックゲインの数値が急上昇している朱音も、遠因だった。

 

「悪いがもう少しの間、ヒ~ミ~ツ、謎(ミステリー)は女子をより魅力的にするものだからさ♪」

 

 対して朱音は、人差し指を口に据え、年齢離れした妖しく蠱惑的で無自覚な魔性の笑みではぐらかしつつも(今は造反神側の監視の目を向けられていなかったが、用心の為)。

 

「どうしても早く知りたければ、敵の出歯亀には注意にしてエルフナインに訊くといいさ」

「エルフナインの研究に、関係してるってこと?」

「まあね」

「じゃあ今日は、その秘密はあえて聞かないでおくデス」

 

 勿論秘密とは、ドリームトレーニングと、ウェル博士の残したダイレクトフィードバックシステムに関することである。

 前者はトトのテレパシーと巫女の資質が必須であり、後者は切歌たちにとっては忌々しい、黒歴史と言い切れる〝嫌な思い出〟そのものである相手が開発したテクノロジーによるものの為、せっかくの良い空気な夕食を朱音は台無しにしたくはなく。

 また聞き手でいた亜耶の方も、神樹様に懐疑的になった現在でさえ鋭敏さは健在な巫女の直感から、下手に聞かない方が良い話題だと判断して、先の会話の輪には一切入ってこなかった。

 

(そう言えば……)

 

そこへ、先の会話で聞き覚えのある名前が切歌たちの口から出たのを思い出し。

 

「すみません、先程〝夏凜〟ってお名前を耳にしたのですが、もしかしなくても『三好夏凜』さんのことですか?」

「そうだよ亜耶」

 

 亜耶が質問してみると、まず英理歌が応じて。

 

「自称『完成型勇者』、デスがそう豪語できるくらい頼りになる先輩デ~ス♪」

 

 続いて切歌が、この中の面々では朱音の次に膨らんだ胸を張ったドヤ顔で、尊敬している自慢の我が先輩の一人を説明した。

 

「あ、やっぱり三好さんだったのですね」

「亜耶って、夏凜先輩と会ったことあるの?」

 

 手を合わせて合点のいった亜耶に、調が夏凜と面識があるのか訊ねる。

 

「いえ、当時の大赦は巫女と防人に対し、勇者との接触は一切禁じていたので、まだお会いしたことないのですが、防人の内で勇者選抜候補だった皆様から色々お話は聞いておりました」

「その頃の夏凜先輩って、どんな感じだったのデスか?」

「はい、先輩方からの話と、皆さんたちから窺える印象から踏まえると……おそらく今以上にストイックで孤高な姿勢で鍛錬に没頭し、馴れ合いはかなり好まないお人だったみたいですね」

 

 なるほどと思いつつ、いかに友奈たち勇者部によって今の『三好夏凜』になったか、今の亜耶の話からでも想像がついた。

 

「けどその頃から、世話焼きなところ、あったんじゃない?」

「朱音ちゃんの言う通りです、芽吹先輩――防人の隊長で選考に三好さんと最後まで残った先輩から聞いた話でも、訓練中も困っている他の候補者の方々が放っておけず、アドバイスしてあげたり、体調が悪い人には医務室まで連れて行ってあげたり」

「疲れに効くサプリをプレゼントしてあげたり……もデスか?」

「当たりです、芽吹先輩なんてクエン酸の小瓶を丸ごと貰い受けたそうですよ」

 

 そして勇者部に入る遥か昔から、表面上の言葉遣いと態度とは裏腹に、世話を焼いてしまう面倒見の良い夏凜の人柄はある意味で〝完成〟されていた事実に。

 

(ツンデレ、デ~ス)

(まさにツンデレだぁ~)

(ツン――デレ……)

 

 切歌、調、英理歌のトリオは心中呟き。

 

「なるほど、昔から夏凜は『ツンデレ系完成型勇者』だったわけだね~~♪」

「ええ、朱音ちゃんの言う通りかもしれませんね♪ 是非近い内にお会いしたいです」

 

 朱音と亜耶は、そんなツンデレ勇者の人柄ことで、微笑み合う。

 今頃当人は、風の噂のくしゃみを吐いてることだろう。

 

 

 

 

 

 それからも朱音たちは、食べながら話題を変えに替えては、同い年同士のガールズトークの花を、食べ終えるまで絶えず開かせ続けるのであったとさ。

 



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