インフィニットストラトス 皇族の懐剣(投稿休止 再開日未定) (のんびり日和)
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第1章家族
1話


突然凍結し更に新しく書き始めた事、この場を借りて謝罪いたします。
本当に申し訳ないです。


では、新しく始まる物語をどうぞお楽しみください。


日が暮れ、月が昇り始めた夜。黒塗りの乗用車は急ぐように走らされていた。そしてとある家の門の前へと着くと、後部座席の扉が勢い良く開けられる。降りてきたのは眼帯をした男性で、その顔は焦りを浮かべておりその腕の中には小学生くらいの子供が居た。だがその子供は体中が痣だらけで、腕や脚からは血が流れていた。車を運転していた者は男性の先を行き、扉を開ける。

扉が開いた先には何人もの従者が居たが、子供を抱えている男性を目にした瞬間誰もが驚いた表情を浮かべる。

 

「そ、颯馬様!? い、一体如何なされたのですか? そ、その子供は一体?」

 

「今は説明をしている暇はない! 急ぎ医者を呼ぶんだ!」

 

「ぎょ、御意‼」

 

玄関で出迎えていた一人はそう言い携帯を取り出し急ぎ医者に連絡を取る。その騒ぎを聞きつけたのか、奥から短髪の黒髪で白い着物を着た女性がやって来た。

 

「あなた、如何なされたのですか?」

 

「説明は後でする。今はこの子供に応急措置をせねばならん」

 

そう言い颯馬と呼ばれた男性は子供を急ぎ奥へと連れて行き、女性もその後に続く。

 

 

 

 

「――――これで、大丈夫です」

 

白衣を着た医者は道具を片付けながら、眠っている子供の隣にいた颯馬と女性にそう告げた。

 

「そうか。突然呼び立てて、済まなかったな」

 

「いえいえ、これも仕事ですから。……しかし何とも痛ましい事なんでしょうね。まだ小学生だと言うのにこれほどまで痛めつけられるとは…」

 

医者はそう言いながら湿布や包帯を巻かれた子供に悲観そうな顔を浮かべる。颯馬と女性も悲観と憤慨を含んだ顔を浮かべていた。

 

「そうですね。…あの先生、この怪我以外にもあったのですか?」

 

「えぇ。古いモノでしたが、叩かれた跡でした。しかも複数です。恐らく日常的に虐待を受けていた可能性があります」

 

そう言われ颯馬は組んでいた腕に力がこもる。

 

そして医者は帰って行き、部屋に残ったのは颯馬と女性、そして眠っている子供だけだった。

 

「それで、あなた。この子供は一体何処で見つけられたのですか?」

 

「あぁ、実は――」

 

 

―――数時間前

 

颯馬はある理由でとある廃工場に来ていた。颯馬は一人刀を腰に携えながら歩いて行き、奥へと行くと6人の男女が話し合っていた。

 

「それで、例の物は?」

 

「えぇ、これよ。それよりあの子供が――――」

 

「あぁ。暴れたからな。何か文句あるのか?」

 

そう聞かれた女性はフッと、笑みを浮かべる。

 

「別に。処理が楽になるだけよ」

 

そう言い持っていたアタッシュケースを男達に渡そうとした瞬間

 

「ほぉ、子供の命と引き換えにお前達は薬を貰う。全く反吐が出る様な物だな」

 

「だ、誰よ!?」

 

突然現れた颯馬に男女は驚き、男達は武器を出す。だが、

 

「あ、あれ?」

 

男達は引き金を引いているはずなのに銃声が響かない。それどころか自身の右手の感覚がない事に気付き、自身の右手を見ると其処にあるはずの右手は無く、地面には銃を握った右手が転がっていた。そして颯馬の手には何時の間にか握られた刀があり、刃には血がべったりと付いていた。

 

「あ、あ、ああぁぁぁぁぁぁ!???! お、俺の右手がっぁああぁぁ!!!?」

 

「い、っだいいいぃいぃ?!!?!?」

 

「た、たたたすけてくれぇえ!??!!」

 

男達は何時の間にか無くなった自身の右手から溢れる血を止めようとするも、血は勢いよく噴き出す。その光景を見た女性達は次は自分達だと思い逃げようとしたが、3人は視界が反転している錯覚に陥る。何故反転しているのか、分からなかったが自身の首から上が無い体を見た瞬間斬られたんだと分かり、視界が暗転した。

 

3人の女性を斬り捨てた颯馬は刀を鞘へと戻す。その背後には血を流し尽くし絶命した3人の男性が転がっていた。

 

「さて後処理は任せるとして、子供がどうこう言っていたが」

 

そう言い颯馬はハイエースの後部座席の扉を開けた瞬間血だらけで、息が今にも止まりそうな子供を見つけた。

 

それで颯馬は急ぎ子供を助けるべく家へと連れ帰ったのだ。

 

 

「そうだったのですね」

 

女性はそう言い子供の頭を撫でる。

 

「この子は、その、どうするのですか?」

 

「……この子が何者か分かった後、この子の家族に会いに行く。そして…」

 

颯馬はそう言いながら子供の手を握りしめる。

 

「この子を我が家で保護する事を伝える。もし断るような様子だったら、使える物全てを使ってこの子を保護する」

 

颯馬はそう宣言すると、女性も頷いた。




次回予告
子供を保護した翌日、少年は目を開け辺りを見渡す。そして起きた事に気付いた颯馬は昨日何があったのか聞こうとしたが、少年の口からは信じられない言葉が出た。

次回
無くした思い出~此処は何処?~


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2話

颯馬が子供を連れて帰ってきたその翌日、少年は襖から差し込む陽の光に目をうっすら開ける。そして上体を起こしあたりを見渡すと畳が敷かれた和室の真ん中に敷かれた布団に寝かされていたと気付く。すると前の方の襖が開き一人の男性が入室してきた。

 

「おぉ、目を覚ましたか」

 

そう男性は言いながら少年の元に行き座った。

 

「あの、此処は?」

 

「此処は私の家だ。おぉ名前をまだ名乗っていなかったね。私は天城颯馬と言う」

 

颯馬は朗らかな笑みを浮かべながら名乗った。

 

「ど、どうも」

 

「うむ、それで君の名前は何と言うのかね」

 

颯馬は少年の名前を聞くが、少年は口を開こうとしたが徐々に口が閉じていき、呆然とした表情を浮かべる。

 

「なまえ。ぼ、僕の名前は……」

 

そう呟きながら何か思い出そうとしている様子を醸し出した。

その光景に颯馬はまさか。と心の中で懸念し質問を替えた。

 

「それじゃあ、君のお家は何処か分かるかね? 此処は○○県の××市なんだが」

 

「お家……。あれ、何で思い出せないんだろ」

 

そう呟き少年は落ち込んだ表情を浮かべていると、突然顔を苦痛で歪め横腹を抑えだした。

 

「ムッ! どうした?」

 

「だ、大丈夫です。ちょっと痛くなって」

 

そう言われ颯馬は少年をそっと寝かせた。

 

「無理に体を起こそうとしたからだろう。もう暫く寝ていなさい。後でお粥などを持ってこさせるからな」

 

そう言い颯馬は安心させるような笑みを浮かべながら部屋を後にした。少年は颯馬のお言葉に甘える様に布団にもぐり寝息を立てて眠った。

 

部屋を出た颯馬はそのまま屋敷の台所へと足を向けた。台所に到着し中へと入ると着物を着た女性が台所に立って料理を作っていた。

 

「あら、あなた。おはようございます」

 

「あぁ、おはよう雪子」

 

そう言い颯馬は中へと入り襖を閉じた。

 

「それで、どうしたのです? あなたが台所に足を運ぶなんて」

 

「うむ、昨日の子供が目を覚ましたんでな、胃に優しいお粥などを作ってやってくれないか?」

 

そう言うと雪子は驚いた表情を浮かべ颯馬の方へに顔を向けた。

 

「目が覚めたのですね。分かりました、卵粥を作って持っていきます」

 

そう言い雪子は小さな土鍋を戸棚から取り出し準備を始めた。

 

 

「ん……。…どの位寝てたんだろう」

 

颯馬が部屋から出て行った後また眠りについていた少年は、目を覚ましもぞもぞと上体を起こし時間を確認しようとしたが、時計が無く今何時か分からなかった。

 

「…お腹空いたなぁ」

 

そう言いきゅ~。と鳴るお腹を少年は、先ほど来た颯馬を探そうと思い立ち上がろうとした瞬間襖が開かれ、お盆を持った一人の女性が入って来た。

 

「あら、今起きた所かしら?」

 

「えっと、はい。あの…」

 

「あ、私は天城雪子。颯馬の妻よ」

 

そう言い少年の傍に近寄り座りその隣にお盆を置く。お盆の上に置かれていた小さな土鍋からは美味しそうな匂いが漂っており、少年のお腹からまたきゅ~。と鳴った。

 

「あらあら、お腹の虫が鳴いてるみたいね」

 

そう言い雪子はお盆の上に載せていた土鍋の蓋を開け、卵粥をお茶碗によそう。そして蓮華でお粥をすくい息を吹きかけ冷ます。

 

「はい、口を開けて」

 

「えっと、いただきます」

 

そう言い少年は口を開く。雪子は蓮華を口へと運びご飯を食べさせた。

 

「どう?」

 

「はい、美味しいです」

 

そう言い少年は笑みを浮かべ、雪子はよかった。と優しい笑みを浮かべご飯を食べさせ続けた。




次回予告
日に日に少年の傷は癒えて行く。颯馬は部下達に少年についての報告を聞く。そんな中、雪子は少年と護衛と共に外に買い物に出掛けていた。

次回
過去を知る少女~お兄ちゃん?~


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3話

少年が天城家に保護されて幾日か過ぎたある日。颯馬は屋敷の奥の部屋で部下達から少年に関する報告を聞いていた。

 

「では、報告を頼む」

 

「はっ! では真島班から報告をさせていただきます。颯馬様があの少年を見つけられました廃工場に残っていたハイエースのナンバーからどの県から来たのか調べた所、此処から3つ程離れた県の高速道路のカメラに映っていました。ですのでその高速付近の入り口、更にスマートICなどで合致する車両を現在捜索中です」

 

「続いて狭間班です。警察データベースで行方不明に登録されている十代の男の子で検索しておりましたが、該当する少年は居ませんでした。本来であればとっくに届け出が出されているはずなんですが……」

 

狭間班班長の狭間源一は信じられないと言った表情を浮かべながら颯馬に報告すると、他の班長達も顔をしかめた。

 

「届け出が無い? やはり颯馬様の見解通り虐待を受けていたのか?」

 

「安易に憶測を言うモノではない。しかし、もはや憶測と言う可能性は低くなってきたな」

 

「だな。颯馬様、やはり早急にあの少年の保護者を見つけ出し、その者達の手から救うべきです。我々調査班だけではなく、隠密班の者達も駆り出すべきです!」

 

「待て! 隠密班たちは今、海外で諜報活動中だ。隠密班から人員を割くのは不味い」

 

「だがどうする? 隠密班以外だったら黒衣隊に頼むか?」

 

ある一人が黒衣隊と言う部隊名を口にすると、部屋に居た颯馬以外の班長は顔を大きくしかめた。

 

「黒衣隊の者達は主な任務は暗殺等だ。調査には向かんだろ」

 

班長の一人がそう零すと、他の班長達も同意するように頷く。

 

「敷島の言う通り黒衣隊の者達は暗殺を主な任務としている。それに、万が一あの少年の保護者がわかった瞬間何をしでかすか分からん。だから君達だけで、苦労を強いるが調査を続けてくれ」

 

颯馬はそう指示を出すと、隊長達は「御意!」と声を揃えて平伏する。

 

 

 

 

 

――商店街『浄苑商店街』

 

白い着物を着た雪子は護衛の浅間圭司と木島彩、そして少年と共に買い物に出掛けていた。

 

「さて、今日は何か食べたい物とかある?」

 

「えっと、僕はその、雪子さんの料理、凄く美味しいので何でもいいです」

 

少年ははにかみながらも、そう伝え雪子はあら、そう?と嬉しそうな顔で返しながら商店街を歩く。

 

「いらっしゃいませ、雪子様! 今日は新鮮な魚が入ったんですよ、如何です?」

 

「あら、確かに新鮮な鯛ね。これだけ新鮮だったら刺身とかがいいかしら?」

 

「確かにお刺身もいいですね。あとは煮つけとかもいいと思いますよ」

 

雪子は店員の提案にそれも良いわね。と談笑している中、少年は生きた魚が入っている水槽を眺めていた。

 

「お魚が好きなのかい?」

 

圭司は目線を少年と同じ高さに下げながら聞くと、少年はう~ん。と悩んだ声を出す。

 

「分かりません。けど、なんだか見ていると落ち着くと言うか、面白いとかそんな感じです」

 

そう言い水槽を眺める。圭司は少年と同じくらいの娘を持っており、この年で記憶を失い、更には虐待を受けていたかもしれないと思うと悲しい思い、そして一人の親として彼の保護者に対して怒りが沸き起こっていた。

その頃雪子は魚屋で鯛と何匹かの魚の切り身を買い、お会計を済ませているところだった。

 

「そう言えば、雪子様。あの少年は?」

 

魚屋の主人は今まで見たことが無い少年に首を傾げながら、雪子に聞く。雪子は少し悲しそうな表情を浮かべながら、話した。

 

「……主人が見つけて来られたの。見つけた時には体中酷いケガとかしててね。それにお医者様からは虐待を受けていたかもしれないって」

 

そう言うと魚屋の主人は驚いた表情を浮かべ、直ぐに悲しそうな表情を浮かべた。

 

「そ、そうですか…」

 

主人はそう呟くと、ふと何かを思いつき店の奥へと行き何かを持ってきた。

 

「これ、オマケとして持って行ってください」

 

そう言い差し出したのは甘エビの刺身だった。

 

「小さい子供とか好きだと思うんで、どうぞ」

 

「えっ! でも「いいから、いいから。あの子に食べさせてやってください」…分かりました。では頂いていきます」

 

雪子は店主から差し出された甘エビを買い物袋の中へと入れ礼を述べ、圭司達と共に次の店へと向かった。

 

色んな店へと足を運び食材など買い終えた雪子達は商店街から程近い公園で休憩をしていた。

 

「ふぅ~、今日は沢山買い物したわぁ」

 

「雪子様、買い物袋でしたら私が持ちますが」

 

「あら、これ位大丈夫よ」

 

そう言いベンチに座る雪子は隣に座っている少年に目を向ける。少年は公園の隣にあるグランドでサッカーをやっているグループを眺めていた。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、いえ。その、僕は記憶が無くなる前にお友達は居たんだろうかと思って……」

 

そう呟くと雪子は少し悲しそうな表情を浮かべ、圭司も同じ表情を浮かべた。彩は無表情ではあったが、少し拳を握りしめていた。

 

「あ、そうだ。圭司、私飲み物を買ってくるから、この子と一緒に居てあげて」

 

「分かりました」

 

「彩、一緒に」

 

「御意」

 

短く返事を返した彩は雪子の後ろを付いて行き自販機へと向かった。残った少年と圭司はベンチでジッと戻ってくるのを待った。すると

 

「……お兄ちゃん?」

 

そう呟く声が聞こえ、少年と圭司は声がした方へ顔を向けると其処には、女の子には似合わない男の子用の大きめのカバンを背負い、黒髪でちょっと鋭そうな目をした少女が涙目で立って居た。

少年は他の誰かと思い付近を見渡すが、居るのは自分と圭司のみだけだった。

 

「! もしかしてお嬢ちゃん、この子の事知ってるのかい?」

 

圭司は少女が少年の事をお兄ちゃんと呼んだという事は、妹もしくは従妹なのではと思い膝を曲げ少女と同じ目線に合わせながら聞く。少女は突然話しかけてきた圭司に、怯えながらも首を小さく縦に振った。

 

「そうか。「圭司、どうしたのです?」ッ! 雪子様、この子がこの少年の事を知っているそうなんです!」

 

ジュースを持った雪子と護衛の彩が戻ってくると圭司は興奮気味で報告すると雪子は驚いた表情を浮かべ、圭司の後ろに居た少女へと顔を向ける。少女はまた別の人が来たことに怯え、その場で震えていた。

雪子はそっと少女に近付き、膝を曲げ少女と同じ目線の高さに合わせる。

 

「こんにちは」

 

「こ、こんにちは」

 

雪子は優しい笑みを浮かべながら少女に挨拶すると、少女は怯えながらも雪子の顔をチラ見しては外すを繰り返しながら挨拶を返した。

 

「貴女のお名前を聞いてもいいかしら? 私は天城雪子って言うの」

 

「……真登香(まどか)、織斑真登香です」




次回
真登香と言う少女に出会い、少年が何者か話を聞く雪子。
そして少年と真登香の過去を聞いた雪子は2人を連れ家へと戻って来た。

次回
血の繋がった妹~あなた達は絶対、私が守ってあげるからね~


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4話

「それじゃあ、教えてくれないかしら。この子の名前と、ご家族の事とか」

 

真登香をベンチに座らせ、持っていたオレンジジュースの一つを真登香にあげる雪子。少年の隣に座らせられた真登香はチラチラと少年を見たりジュースを見たりと、心配そうな表情を浮かべていた。

少年は優しく笑みを浮かべながら、そっと声を掛けた。

 

「大丈夫だよ、雪子さんは優しい人だから」

 

そう言うと真登香は、暫し少年を見つめた後コクリと頷き口を開いた。

 

「私とお兄ちゃんの家族はお姉ちゃんと3人だけなんです」

 

「3人だけ? お父さんやお母さんは居ないのかい?」

 

圭司の問いに真登香は首を横に振った。

 

「小さい頃からお兄ちゃんと私とお姉ちゃんの3人だけだったんです」

 

そう言われ次に彩が口を開く。

 

「親戚とかは? ご両親がいないなら今までどうやって生活してきたの?」

 

「時々様子を見に来たりするけど、直ぐにお姉ちゃんが追い返してるんです」

 

真登香の口から出た言葉に圭司と彩は驚き、そして怒りが沸き起こった。

 

(まだ、こんな小さな子供が居ると言うのに親戚の援助を断っているだと? その姉、一度しっかり話した方が良いな)

 

(……その姉、ちょっと切り刻もうかしら)

 

2人がそんな事を考えている中、雪子はある事を真登香に聞く。

 

「あの真登香ちゃん。この子の腕に出来ている傷。これってもしかしてそのお姉さんがやったの?」

 

そう言いながら少年の袖を捲り、腕に出来た痣を見せる。それを見た真登香は小さく首を縦に振った。

 

「『強くなるためだ!』って言って、何時も竹刀とか持たせて、ちょっとでもミスすると叩いていたから、多分…」

 

真登香の返答に、「……そう」と小さく返す雪子。すると今度は真登香が質問を投げてきた。

 

「その、どうしてお兄ちゃんの名前を聞くの?」

 

そう真登香が聞くと、雪子達は辛そうな顔を浮かべ雪子は説明しようとした瞬間

 

「ごめんね、僕記憶が無くなったんだ」

 

隣に居た少年が先に話したのだ。それを聞いた真登香はえ?と信じられないと言った表情を浮かべ、涙も浮かべ出した。

 

「う、嘘だよね? 真登香を驚かそうと嘘を言ってるんだよね、お兄ちゃん?」

 

真登香は嘘を言っている。そう思い聞くが、少年は首を横に振った。

 

「そ、そんな、そんなのやだよぉ! 真登香の事忘れないでよぉ! 一人にしないでよぉ!」

 

真登香は涙声で泣きながら少年の胸にポカポカと叩いた。少年は反抗することなく、そっと真登香を抱きしめた。

 

「ごめんね。記憶無くしちゃって」

 

「うわぁーーん!!」

 

泣き出す真登香。悲痛な面持ちでそれを見守る雪子達。真登香が泣きながら少年にあやされる姿を見て、雪子はある決心をしそっと2人の顔が見える位置に移動する。

 

「真登香ちゃん、貴女が良ければ天城家(ウチ)に来ない?」

 

「え? どう言う事?」

 

涙を浮かべた目で、真登香は雪子に顔を向ける。

 

「実はね、この子(少年)の家族が判明したら家に保護しようと考えていたの。それで、貴女のお話を聞いた限りじゃあ、そのお姉さんにはあなた達2人を養うのは無理だと思える。だからあなた達を天城家で保護しようと思うの」

 

そう言われ真登香は困惑の表情を浮かべた。

 

「ほ、本当にお兄ちゃんと私を保護してくれるの?」

 

「えぇ、約束するわ」

 

そう言い雪子は曲げていた膝を伸ばし、立ち上がる。

 

「さて、そろそろお家に帰りましょう」

 

真登香は家に帰るという言葉に自分の家に送られると思った。だが

 

「真登香ちゃんって、お魚とか好き?」

 

「ふぇ? えっと好き、です」

 

「そう。それじゃあ今日は鯛のお刺身にしましょうか。煮つけだと、真登香ちゃん達食べづらいかもしれないからね」

 

そう言われ真登香は送り帰さないのかと疑問した表情を浮かべた。

 

「あの……「大丈夫、家に送り帰そうとか思ってないわよ。それに今から帰ったら夜遅くになるから危険だしね」あ、ありがとうございます」

 

真登香はお礼を述べベンチから立ち、雪子の傍に行く。少年も真登香が持っていたカバンを持ちながら傍に付いて行く。

すると雪子は思い出したように顔を真登香の方へと向ける。

 

「あ、そうだ。話が大分それたから聞いてなかったんだけど、この子の名前教えてくれないかしら?」

 

「えっと、お兄ちゃんの名前は、一夏って言います。一の夏と書いて一夏」

 

「そう、一夏って言う名前なのね」

 

そう言い、雪子は二人に手を差し出すと少年事一夏は照れながら手を握り返し、真登香も記憶を無くす前に一夏によくやって貰ったと思い握り返す。だが一つ違うと思ったのが、その手は一夏と手を握った感じとは違い、大きくて柔らかい手の平で暖かかった。

 

(まるで本当の親子の様に見えるな)

 

(……うん。雪子様本当に嬉しそう)

 

そんな光景を護衛しながら見守る圭司と彩。

 

 




次回予告
真登香を天城家へと連れ帰って数日後、颯馬と雪子は数人の護衛達と共に真登香、そして一夏の姉が住んでいる家へと訪れた。其処で2人は予想していた以上の光景を目撃し、改めて一夏、そして真登香を引き取る決心を固め2人の姉に対峙した。

次回
交渉~この様な状況にあの2人を過ごさせるわけにはいかん~


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5話

真登香を天城家へと保護して数日が経ったある日。奥の部屋で颯馬、そして雪子と部下達が話し合いを行っていた。

 

「では、真登香ちゃんが教えてくれた織斑家の現状を教えてちょうだい」

 

「はっ! 彼女に教えてもらった住所に行きましたら、確かに織斑と言う家がありました」

 

「周辺で聞き込みをしましたが、どうやら本人は2人を養うべくバイトを掛け持ちしながら生活していたようです。ですが…」

 

「なんだ。報告を続けろ」

 

「は、はい。周辺を更に聞き込んだ所、一度も彼女が近くの商店街で買い物をしに来た姿を見た事が無いと言っているんです。逆に幼い一夏君、そして真登香ちゃんの2人がいつも手を繋ぎながら買い物の来ていたとのことです」

 

部下の一人の報告にそれぞれ顰めた顔を浮かべた。

 

「おいおい、自分は金を稼いでおきながら買い物にも行かず一体何処行っているんだ?」

 

「まったくだ。おい、木島。その辺の調査も進んでいるのか?」

 

「はい。2人が買い物に行っている間、姉は家を空け近くにある篠ノ之道場と言う場所で剣道をしているようです」

 

「剣道をだと?」

 

「はい。聞いたところ2人を守る為だと言っているようです。ですがその教え方が酷いらしく、時折織斑家の近所で、部屋からでも聞こえる程鈍い音が響いてその後子供が泣いている声と女の怒声が聞こえていたそうです」

 

その報告を聞いた瞬間多くの部下達から殺気が零れた。

 

「颯馬様、やはりその女消すべきです!」

 

「狭間の言う通りです。あの2人を守る為にも!」

 

部下達は颯馬に暗殺の許可を!と迫るも、颯馬は手を挙げ落ち着かせる。

 

「その者を暗殺するのは容易だ。だがそうなると、我々があの子達を保護するべく何かしたのではと考える者が出るやもしれん」

 

「確かにそうかもしれませんが!」

 

「ならば、奴の暗殺ではなく言葉で説き伏せればいい。そうすれば二人を此方で保護できる上に、奴の動きを封じることもできる」

 

「動きを封じる? どう言う事ですか?」

 

一人の部下が颯馬の言葉に首を傾げていると、敷島が口を開く。

 

「つまり颯馬様。証拠などを奴に突き付けて反論させる前に説き伏せ、2人を保護する。そう言う訳ですか?」

 

「そうだ。今あの子達を保護できるだけの証拠はある。だが証拠を更に増やし奴に反論の余地を無くすべく情報を更に集めよ」

 

「「「御意‼」」」

 

部下達は頭を深々と下げた後足早に部屋から退出し、情報収集に向かった。

 

 

それから数日後、颯馬と雪子、そして数人の部下達が織斑家へとやって来た。颯馬と雪子が車から降り辺りを見渡すと、玄関前には分別がされていないと注意書きが張られたゴミ袋が幾つか転がっており生臭い臭いを出しており、更に庭は雑草で埋め尽くされていた。

 

「酷い感じですね」

 

「全くだな。これは絶対にあの二人を保護せねばな」

 

そう決意を固めた颯馬はインターホンを押した。家の中で音が鳴った後、暫くして扉が開くと其処にはよれよれのシャツにシワの付いたズボンをはいた女性が現れた。

 

「誰だ?」

 

「初めまして、私は天城颯馬と言う」

 

「妻の雪子です」

 

二人はそう名を名乗ると女性は鋭い目線を向け続けた。

 

「失礼だが、君が織斑千冬で良かったかね?」

 

「あぁ、私が織斑千冬だ。それで一体何の用だ?」

 

千冬は不機嫌顔で用件を言えと言いたげだった。

 

「君の弟さんと妹さんの事で話しに来た」

 

「っ!?」

 

颯馬が用件を言うと千冬の目が見開き驚愕の顔を浮かべ、颯馬に近寄ろうとした。すると颯馬の背後にいた部下達が懐に手を入れる。だが

 

「手を懐から出しなさい」

 

雪子の声に部下達は懐に伸ばそうとした手を止め、手を懐から出した。

 

「……貴様ら、一体何者だ?」

 

千冬は先程の近付こうとした瞬間に武器を取り出そうとした黒服の者達。そしてそれを制止した雪子。ただならぬ気配を感じ取り、千冬は警戒心むき出しで問う。

 

「我々は天城家と言う古くからある家の者だ」

 

そう言い颯馬は本題に移ろうと話を替えた。

 

「私達は君の弟さんと妹さんを保護しているんだ」

 

「……だったら何故ここに連れて来ない」

 

「それはこの家の状況を見て分かるはずだが?」

 

颯馬は薄眼でそう問うと、千冬は目元をピクリと動かした。

 

「……それとこれとは関係が「無いとは言わせませんよ。この家の状況は明らかに異常。あの幼い2人を世話をさせるには問題以外ありません」私にもやらなければいけないことがあるんだ! 掃除などする余裕など無い!」

 

「……なるほど、自分は忙しいから家事は全部あの2人に押し付けた、ねぇ」

 

千冬が自身が忙しいと言う理由で二人に家の家事のほとんどを押し付けている事に颯馬達は真顔を浮かべ、鋭い視線を送る。

 

「忙しくても少しは家事を手伝えばいいものを、貴様はそれを押し付けた。それに貴様はやってはならん事をしていたではないか」

 

「や、やってはいけない事だと? 私は何も悪い事などしておらん!」

 

「……本気で言っているのかしら、貴女?」

 

冷たい声が玄関で響き、千冬はその声の主である雪子の方へと向く。其処には殺意を秘めた目線で睨む雪子が居り、その手には何時の間にか短刀が握られていた。

 

「力をつける為だと言って、まだ幼いあの子達に手を挙げた事。どれほど許せないと思ったか」

 

そう言いながら千冬に近付く雪子。千冬は今まで浴びた事が無い殺気に呑まれ、後ろにたじろぎ尻もちをつく。

 

「今此処であの子達に受けた傷、貴女に味合わせる事だって「よさんか、雪子」……御免なさい、あなた」

 

雪子が暴走しそうとになったのを颯馬は寸でで止め、尻もちをついている千冬に片膝をつきながら目線を合わせる。

 

 

「雪子が言った通り、私達はお前があの子達に手を挙げている証拠を掴んでいる。一夏君の痣、そして真登香ちゃんの証言。他にもいくつか証拠を揃えている」

 

「……わ、わたしを脅迫する気か?」

 

「脅迫? そんなものをする為だけにこんなところに来たりしないわ。私達の目的はただ一つ、あの子達の保護だけよ」

 

そう宣言する雪子。颯馬は後ろに控えている部下から一枚の紙を受け取り、それを千冬の目の前に差し出す。

 

「あの子達を我々が保護する事を了承すれば、貴様があの子達に暴力を振るっていた事などは黙っていよう。だが、断ったらどうなるか、容易に分かるな?」

 

そう言われ千冬は、もはや脅迫の様な条件に悩まされた。承諾すれば一夏達とは離れ離れになる。逆に断れば自分は強くする為だと思いやって来た剣道の指導が世間から幼い弟達を暴行したと広められる。

 

しばしの沈黙が流れた後、千冬の口が開いた。

 

「……いけ」

 

「ん? なんだ?」

 

「連れて行けと言ったんだ! だが、約束を忘れるなよ!」

 

そう叫んだ後颯馬の手から紙をひったくり、自分の名を署名をして颯馬に押し付け扉を開け、荒々しく扉を閉めた。

 

 

「……目的は済んだ。さっさと帰るぞ」

 

「はい」

 

颯馬はそう言い雪子と部下達を連れ織斑家を後にした。

 

 

 

颯馬達が去って行った後、玄関先で佇む千冬は拳を握りしめ壁を殴っていた。

 

「クソォ、クソォ、クソォ!」

 

千冬は手の甲から血が流れるまで殴り続けた。

彼女は一夏が行方不明になったのは、親戚たちが結託して連れて行ったのだと思っていたからだ。何度も家に訪問して来ては、子供だけでは生活していくには厳しいと言ってきた親戚に千冬は、奪わせない。私の大切なモノに近付くなと言わんばかりに親戚たちを追い返していたのだ。

だが、暫く来なくなったと思え諦めたと思っていた所で一夏が行方不明となった。千冬は片っ端に親戚たちに電話を掛けるも、返ってくる言葉は知らないと言う言葉と

 

『一夏君が行方不明になった原因はお前にあるんじゃないのか?』

 

『どうしてちゃんと見ていなかったの!』

 

『お前が何処かに一夏君を置いてきたんじゃないのか?』

 

と、千冬を責める言葉やあらぬ疑いの言葉を投げられた。

それから暫くして今度は真登香が居なくなり、一夏の旅行用のカバンが無くなっており、自分が居ない隙に真登香を迎えに行き服などをそのかばんに入れて連れて行った。そう考え親戚たちにまた電話を掛けるも、一夏の時と同じ、知らない。お前がまた何処かに捨てたんじゃないのか?と言われ、千冬は知らないと白を切る親戚たちに直接問いただそうと家を出る支度をしていた所で颯馬達がやって来たのだ。

 

そして自分が2人を強くするためにやらせていた剣道の仕方が、虐待だと言いそして2人を保護すると言ってきた。勿論反論をしようとするも他にも証拠などはあると脅され、結果千冬は仕方なく2人を手放した。

 

 

「クソォ。私は、私はただ家族を守る為にやってきただけだと言うのに!」

 

そう呟き苦渋に満ちた顔を浮かべながら千冬は、ただ怨み言を吐き出す事しかできなかった。




次回予告
織斑家から保護された一夏と真登香。今後天城家で生活していくために新しい名前を考えようとする颯馬。そんな時2人の客人がやって来た。

次回
新しい家族


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6話

あれから数日が経ち、一夏と真登香は天城家の中庭が見える縁側に座りながらゲームをしていた。

 

「お兄ちゃん、罠仕掛けたよ」

 

「よし、それじゃあそっち誘導するぞ」

 

2人は仲良くゲームをしていると、3人の足音が一夏達の傍にやってきた。

 

「こっちだ。と、若様、それとお嬢様」

 

「あ、圭司さん。こんにちは」

 

「こんにちは」

 

3人組の一人がいつも身の回りの世話をしてくれる圭司だと気付いた2人はそう挨拶をして後ろにいる人物へと目を向けた。

 

「圭司さん、後ろにいる方々は?」

 

「あ、こちらは颯馬様のお客様ですよ」

 

そう言うと金髪の女性と栗色の髪をした女性がお辞儀をした。

 

「こんにちは、私は北条時雨というわ。それでこっちが」

 

「俺は六道秋だ。聞いてるぜ、颯馬様の息子達らしいな」

 

「は、はい。まだ、実感が湧いてないんですけどね」

 

一夏ははにかみながら、そう答えると真登香も同意するように頷いていた。

 

「フフフッ、そりゃ誰しもそうなるでしょう。と、そろそろ颯馬様をお待たせするわけにはいかなわね」

 

「そうだな。それじゃあまたな、2人とも」

 

「うん、また」

 

「…バイバイ」

 

圭司達がその場から離れて行くのを見送った一夏達はまたゲームを再開した。

2人から離れた圭司達は奥の部屋へと到着し襖越しから中にいる人物に声を掛けた。

 

「颯馬様、2人を連れてまいりました」

 

『うむ、入れ』

 

入室許可を貰い圭司は廊下で待ち秋と時雨は中へと入ると、習字紙が所狭しと落ちておりどれも名前の上にバツと書かれていた。

 

「よく来たな、秋。そして時雨よ」

 

「はっ! お久しぶりでございます、颯馬様」

 

「お久しぶりです。ところで、これ何なんです?」

 

「うむ、これらはあの子達の名前を考えておってな。なかなかいい名が浮かばなくてな」

 

そう言い机に置かれていたバツがされた習字紙を丸く丸めポイと捨てた。

 

「中々手こずられているようですね」

 

「だな」

 

「まぁ、これを考えるのは後で良いだろう。早速だが、報告を聞かせてくれ」

 

そう言われた2人は首を縦に振り、報告を始めた。

 

「国連事務総長直属極秘諜報部『亡国機業(ファントム・タスク)』に入ってからはあちこちで秘密裏に動く女性権利団体の監視などを行っております」

 

「これまでに日本以外、アメリカ、フランス、ベルギー、中東と幾つかの国が女尊男卑に染まっている事が分かりました」

 

「そうか。日本、そしてアメリカは容易に想像できたが欧州も既にくだらん風潮に染まっているのか」

 

「はい。イギリス、ドイツは国内での女尊男卑の風潮が広まらない様、法律強化などを行っているそうです」

 

スコールの報告を聞いた颯馬は険しい顔を浮かべながら、腕を組む。

 

「報告ごくろう。引き続き亡国で情報収集を頼む」

 

「「御意!」」

 

平伏し、2人は颯馬の部屋から退室して行く。颯馬はふぅ~と息を吐いた後再び習字紙を敷き、考えを巡らせた。

 

「うぅ~む。なかなかいい名が思いつかんなぁ」

 

頭を捻らせる颯馬は、息抜きでもするか。と呟きテレビの電源を入れた。画面には広い田園風景が写ったニュース映像だった。

 

『今年は気候が温暖で、米が豊作かもしれません!』

 

『なるほど、では張本さん。今年の米は豊穣かもしれませんね』

 

『そうですね。今年は気候に恵まれたので豊作かもしれません。これがこれからも続けていくには政府が農業に力をどれだけ入れるか。其処が問題です』

 

アナウンサーに振られそう解説したのは、農業に詳しい大学の教授だった。

 

「ほう、今年の米は豊穣か。それにしてもこの教授、よくテレビに出ておるな」

 

そう思いながらテレビを眺める颯馬は、よほど知識と見聞をやってきたんだろうなと思っているとそうか。と何かを閃き、習字紙に筆を走らせた。

 

そして書けた習字紙を横にどけ次の紙を乗せまた筆を走らせた。そして出来た漢字にうむ。と納得のいった顔を浮かべた。

 

 

その日の夜、颯馬に呼ばれ一夏、真登香、雪子は颯馬の仕事部屋へとやって来た。

 

「えっと、お父さん何か用?」

 

「うむ、漸くお前達の新しい名前が浮かんだんでな。それの発表だ」

 

にこやかな笑顔でそう告げた颯馬はふたつの紙を持ち上げた。

 

「一夏の新しい名は、『智哉』だ。これは多くの知識を習得するのと見聞を沢山してほしいと願って付けた。そして真登香の新しい名は『穂香』だ。こっちは太陽みたいに明るく穏やかな人生を歩んでほしいと願って付けた」

 

「これが僕の、新しい名前」

 

「うわぁ~、前よりいい名前だぁ」

 

2人は新しい名前を聞き嫌そうな顔を浮かべておらず、嬉しそうな顔を浮かべていた。雪子も二人の笑顔を見ていい名で良かったと笑み浮かべながら二人を見守っていた。




次回予告
2人が天城家の子供となって数日後、颯馬は2人が通っていた小学校から家から近い浄苑小学校へと通わせようと考えた。だがその前に以前通っていた小学校に友人が居ると思い2人を前に通っていた小学校に転校の挨拶をさせに送った。
次回
再会する記憶にない親友



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7話

二人が天城家の子供となって幾日が過ぎ、季節は春から夏へと移り変わり、庭先に生えている木にはセミが引っ付いてミーンミーンと一定のリズムで鳴いていた。

 

「あなた、あの子達の転入用の書類準備出来ましたよ」

 

雪子は仕事部屋で仕事をしていた颯馬にそう告げながら持ってきた書類を手渡す。

 

「おぉ、ありがとう。さて、あの子達の転入準備はこれでいいな」

 

雪子から受け取った書類をそれぞれ確認し、記入漏れなどが無い事を確認しファイルの中へと仕舞う。颯馬達が用意していた物は智哉達の新しい学校の転入届けだった。学校の名は浄苑小学校と呼ばれる場所で、地元にある学校の中では上級にある学校であった。しかし仕来りだとかそう言った堅苦しいものはなく、地元の人との交流会やお祭りなどに参加するなど地域と密着してのびのび学問を学ぶと言った校風の学校である。

 

「どうぞ、冷たい緑茶と水羊羹です」

 

そう言い雪子は書類と一緒に持ってきたお盆に乗せた緑茶と金魚が泳いでいる水羊羹を差し出す。

 

「ほぉ、これは見事な水羊羹だな」

 

「宝城堂の新作らしいですよ」

 

二人は冷たい水羊羹を舌鼓していると、雪子はふとある事に気付きそっと持っていた水羊羹の乗ったお皿を置く。

 

「そう言えばあの子達に前の学校にいるお友達にお別れの挨拶をさせてないわ」

 

「……確かにそうだな。しかし記憶を無くした智哉と再会させたら、智哉の友たちに悲しい思いをさせてしまうかもしれん」

 

「確かにそう…ですね」

 

智哉、そして記憶を無くす前の友人達に悲しい思いをさせる。颯馬の言葉に雪子は暗い雰囲気となった。

 

「――僕、行きたい」

 

突然背後からそう声が聞こえ、2人は驚いた表情を浮かべ顔を向けると其処には智哉と穂香が立っていた。

 

「聴いていたのか?」

 

「…うん。お父さん、僕会いたいんだ。記憶を無くす前の僕がどんな人物だったのか、その友達とかに会って直接聞きたい。それと、ちゃんと自分の今の事を言っておきたい」

 

「……本気なの? もしかしたら辛い思いをするかもしれないのよ?」

 

「そうだとしても、僕行きたい」

 

智哉の確固たる意志に二人は困惑の表情を浮かべる。するとずっと黙っていた穂香が口を開く。

 

「えっと、お兄ちゃんの友達に悪く言う人はいないと思う。一番傍に居た私がそれをよく知ってるから、その私もお願い」

 

「穂香まで…。あなた」

 

「本当に後悔とかしないんだな? お前に記憶が無くても相手にはお前と遊んできた記憶とかがある。つまり相手に辛い思いをさせるかもしれない。それでもいいんだな?」

 

「うん」

 

颯馬は、智哉の変わらない意思を尊重し、分かった。と返した。

 

 

 

それから数日後、とある学校の門前にその地域じゃ中々見られない2台の黒い車が停まっていた。車から降りてきたのは智哉と穂香そして雪子だった。後方の車両からは圭司と彩が降りすぐさま智哉達の警護に着く。

 

「それじゃあ智哉、穂香。お友達にちゃんとお別れの挨拶をする事。それと、悔いの無い様にね」

 

「うん」

 

「分かった」

 

二人の返答を聞いた雪子は不安な心を抱きつつも2人を職員室へと連れて行く。

職員室に着いた5人はまず二人のクラスの担任、そして校長先生と面談を行う事に。校長と二人の担任は何ヵ月も登校してこなかった2人が無事だったことに涙を零しながら安堵していた。

そして今日2人を連れて来た目的と転校の件を雪子が伝えると、教師と校長は突然の事で驚きの表情を浮かべるも了承の言葉を口にした。

 

「―――では、必要な書類を準備してまいりますので少々お待ちいただいても宜しいでしょうか?」

 

「はい。その間この子達をクラスの方に向かわせても?」

 

「勿論構いません。二人は今日は放課後までいる考えで居るのかい?」

 

「はい、最後の授業は受けてから帰りたいです」

 

「私もお兄ちゃんと一緒です」

 

そう言われ校長はそうか。と少し寂しそうな顔を浮かべ、教師の方に顔を向ける。

 

「では、松下先生。二人を教室に」

 

「分かりました。それじゃあ教室に行きましょうか」

 

「「はい」」

 

「彩、一緒に行ってあげて」

 

「畏まりました」

 

担任と智哉と穂香、そして彩は校長室を後にし残った圭司と雪子、そして校長は転校するのに必要な書類などの処理を行い始めた。

 

その頃、智哉達は自身のクラス『4年2組』と表札がぶら下がったクラスに到着し先に松下が中へと入って行った。

 

 

「皆さん、おはようございます!」

 

《おはようございます!》

 

「実は、今日は大事なお話があります。暫く学校を休んでいた真登香ちゃんと一夏君が今日久しぶりに学校に戻ってきました!」

 

教師の口から出た言葉に生徒達にどよめきが走る。

 

「せ、先生。本当に二人が来たんですか?」

 

「えぇ、今日久しぶりに来たわ。……けど、皆に報告しないといけないことがあるの」

 

最初に入って来た笑顔とは違う真剣な表情を浮かべる松下。突如表情を変えた担任に生徒達は若干不安な表情を浮かべる。

 

「実はね、2人とも今日を以って此処を転校することになったの」

 

「えぇ~!?」

 

「久しぶりに来たのに、転校って…」

 

「なんで?」

 

「みんな静かに。 2人が転校するのは諸事情で別の家の子供になったの。その為その家から此処までは遠いから新しい学校に移ることになったの」

 

松下の説明には生徒達はシンと静まり返った。

 

「先生、諸事情って?」

 

「御免なさい、そればっかりは先生も言えないの。それじゃあ2人に入って貰うわね。二人共入って来て」

 

そう言い松下は廊下に居る2人を呼ぶと、智哉と穂香が教室へと入って来た。二人を姿を見た生徒達は喜びを見せる者や、涙を浮かべる生徒達で溢れた。

 

「えっと、天城智哉です。その前は織斑一夏と言う名前でした」

 

「新しい名前になった天城穂香です」

 

そう自己紹介するが、全員一夏の名前を知っているのにまるで知らないから説明するような姿勢に皆首を傾げる。すると、松下がその訳を口にした。

 

「実は、もう一つ皆に伝えないといけない事があるの「あの、先生。それは僕が言います」……無理しなくてもいいのよ?」

 

「大丈夫です。自分の事は自分で言わないといけませんから」

 

そう言い智哉は一歩前に出て口を開く。

 

「実は僕、病気を患ってその所為で記憶を無くしちゃったんだ」

 

「「「……」」」

 

智哉の言葉にクラス中の生徒達は時が止まったような感覚に襲われた。

 

「記憶が無くなったって、それじゃあ俺達の名前とか全部…?」

 

「うん。現に僕はみんなそれぞれの顔を見ても名前とか思い出せてないんだ。……本当に、ごめん」

 

暗い表情を浮かべ、俯く智哉に生徒達はどんよりと暗い雰囲気となった。そんな生徒達の中に一人意を決したような顔を浮かべ

 

「みんな、そんな辛気臭い顔を浮かべんなよ! せっかくいち…じゃなかった、智哉が学校に来て元気な姿を見せに来てくれたんだぞ! 今日で最後でも笑顔で送ってやろうぜ」

 

そうバンダナをした少年は立ち上がってクラスの生徒達に言うと、それぞれそうだよね。笑顔で送らないとね。と気持ちを切り替えていく。

 

「そうだよ。智哉君が私達の事忘れても私達はちゃんと覚えているし、二度と会えないって訳じゃないからまた何処かで会って楽しい思いで作ればいいよね」

 

「うん、そうだよ。今日一日でいい思い出になる様にしよう!」

 

 

皆が暗い雰囲気から少しずつ明るい雰囲気へと変わっていく中、智哉は一人困惑の表情を浮かべていた。

 

「いいの? 僕もうみんなの事全然憶えてないんだよ?」

 

「大丈夫! 一夏君、じゃなかった智哉君が記憶を無くしても私達はちゃんと憶えるもん!」

 

「そうだよ! 記憶が無くなったからって友達じゃなくなるわけないじゃん!」

 

クラスの生徒達は智哉の中から自分達の記憶が無くなっても友達だ。その言葉に智哉は我慢できず、目に涙を溜めだす。

 

「グスッ。 あ、ありがとう!」

 

「おいぃ、何で泣くんだよ智哉!」

 

「弾、お前が久しぶりに良い事言った所為だぞぉ」

 

「俺の所為かよぉ!」

 

バンダナの少年、弾がそうツッコミを入れるとクラス中笑い声が上がり穂香、そして涙を流し出していた智哉も笑みが零れた。

教室の外でその姿を見ていた彩は良かったと少し安心した表情を浮かべながら見守っていると、

 

「良かった。あの子にはクラスの子達皆から慕われていたのね」

 

そう声が聞こえ、彩はそちらに体を向けると圭司と雪子がそっと扉の窓からクラスの中を覗いていた。

 

「雪子様、校長との話し合いは終わられたのですか?」

 

「えぇ、書類等全てね。それじゃあ私は先に家に戻るわね。帰りの時もう一人警護人を送るからそれまであの子達の事お願いね、彩」

 

「御意。この命に代えてでもあの御二人をお守りします」

 

彩の返答を聞いた雪子はお願いね。と言って圭司と共にその場を後にした。

 

 

その頃天城家では、颯馬は奥の応接室にて目の前に座っている女性と対峙していた。

 

「それで、一体何用でこの家に参られた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()博士」

 

そう言って目の前にいる人物、束に問いを投げる。




次回予告
突如天城家に現れた束。彼女の目的は、智哉が何故天城家に来たのか。そして何故記憶が無いのかだった。
逆に颯馬は束に何故智哉の事を聞く。束はそっとその訳を口にした。
次回
悲しみのウサギ~いっくんは、私とって大切な子です~


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8話

天城家に束が現れたのは突然の出来事だった。

時は数時間前まで遡る。

 

~数時間前~

 

颯馬は智哉達を見送った後部屋へと戻り仕事をしていた。

 

「颯馬様、先日調査しました組織の報告書を持って参りました」

 

「うむ、ご苦労。其処に置いておいて…何者かね?」

 

颯馬は部下の方に向かってそう問うと、部下は慌てて振り返った。だが其処には庭園しか広がっておらず人の姿は一切見受けられなかった。だが部下は注意深く辺りを見渡す。

 

「其処の松の影に隠れている者。もうバレておるぞ」

 

部屋から出てきた颯馬がそう言うと、庭園には生えている松の木の影からおとぎの話のような恰好をした女性が現れた。

 

「……何時気付いたのさ?」

 

「部下が襖を開けた際、部屋に入って来た風にほのかに香水の匂いが混じっていた。我が天城家は普段から香水は香りの少ないモノしかつけないよう言いつけておるからな」

 

颯馬がそう告げると、女性はふぅ~ん。と零した。

 

「何者だ貴様!」

 

部下はそう声を荒げ、懐から拳銃を取り出す。部下の声に続くように家から数人の部下達が現れ颯馬を守る様に前に立ち、そして拳銃を抜いて構えた。

 

「よさんか、お前達」

 

「し、しかし…」

 

「いいから銃を下ろせ」

 

颯馬に咎められ、部下達は渋々銃を懐に仕舞う。部下達が銃を仕舞ったのを確認した颯馬は次に女性の方に顔を向けた。

 

「取り合えず家に上がりたまえ。話は中で聞こう」

 

そう言って家に招くと、暫し颯馬を見つめ女性は家に上がった。

颯馬の部屋に案内された女性は互いに対面になるように座っていた。

 

「―――さて、名を名乗っておこうか。此処天城家の当主、天城颯馬だ。それで、君は?」

 

「……篠ノ之束」

 

彼女、束がそう名乗ると颯馬の目が若干鋭くなった。

 

(篠ノ之束? 確かISと言うパワードスーツを開発した博士だったか。何故彼女がこの家に…)

「そうか。して、一体何用でこの家に来た?」

 

「この家に最近引き取った養子が居るだろ? そのことで此処に来た」

 

颯馬の視線をものともせず、束も鋭い視線を颯馬へと向けていた。

 

「智哉達の事だと?」(確か、彼女は織斑千冬と仲が良いと言う情報があったな。だが、なぜ彼女が此処に来る。まさか、あやつに取り返してほしいと頼まれたのか?)

 

颯馬はそんな考えを浮かべながら、鋭い視線を絶えず送り続けた。

 

「此処に居る子、天城智哉と天城穂香。旧姓織斑一夏と織斑真登香。二人が何でこの家に来て、そしてなんでいっくんの記憶が無くなったのか、それを詳しく教えて」

 

「……わざわざ聞かなくても、君なら知っているんじゃないのか?」

 

「それ、本気で聞いてるの?」

 

束は颯馬の問いに苛立ちを隠さず睨み返す。颯馬は暫し沈黙を貫いていたが、智哉達がこの家に来た時の事を話した。

颯馬の話を束は質問など一切せず静かに聞いていた。

 

「――これが智哉達がこの家に来た経緯だ」

 

「そうなんだ。……いい気味だ

 

颯馬の話を聞いた束はそう小さく呟く。颯馬は束が小さく呟いた言葉に首を傾げた。

 

「何故いい気味だと言う? 君と織斑千冬は仲が良かったでは無かったのか?」

 

「仲が良い? そんなの周りがそう勝手に判断してるだけだ。私はアイツとは友人でも何でもない」

 

颯馬からの問いに束は殺気を込めた目で睨む。送られてくる視線に颯馬は千冬だけではない。他にも多くの憎悪が含まれていると感じ取った。

 

「……織斑千冬だけではない、他の者達に対してもそうとう恨んでいるようだな」

 

「なんでそう思うんだよ?」

 

「私はこれまで多くの者の目を見てきた。君の目は他者をあまり信用していない目だ」

 

そう言われ束は一瞬疑いの目を向けるも、直ぐに重い息を吐く。

 

「……そうだよ、私は信用なんかしていない。あの子達の事を考えないあの女の事も。そしてアイツの姉弟、姉妹だと言う理由でいっくん達に変な期待を送る周りの大人達全員信用なんかできるか!」

 

怒りの感情をむき出す束。颯馬は今までの会話で疑問に思った事を口にした。

 

「君があの子達の事をどれほど大切かは分かった。だが何故其処まであの子達の事を気に掛ける?」

 

「……」

 

しばしの沈黙が両者の間に流れた。そして

 

「……くれるからだよ」

 

「ん?」

 

「あの子達だけが、私を普通の年上のお姉さんとして見てくれるからだよ」

 

束は悲痛に満ちた顔でぽつりぽつりと語る。

 

「周りの連中は私が常識では考えれない事を考えたり、発明したりするのを気味悪がった。私自身その位なら平気だった。けど、気付いたら家族にまで気味悪がれていた。孤立していく私に織斑千冬が近付いてきた。当初はアイツも他とは違う為、友達が出来ずにいた。つまり私と同じ境遇だと感じ仲良くできると思った。けどアイツが、いっくん達に自分の我儘を押し付けていたのを偶然見たときに、私の考えが間違っていた。アイツは他の連中より質の悪い奴だ。そう思い距離を置こうと考えた。けど、いっくん達を見捨てることが出来なかった。あの二人は他の奴らとは違って私の事を気味悪がらなかった。それどころか、私を見つけると何時も『束お姉ちゃん、束お姉ちゃん』って、呼んでくれた。私はこの子達だけは守ろう。そう決意したんだ。けど……」

 

「ISか…」

 

「そう。最初は宇宙の事、そしてその先にあるモノが見たい。その為に開発したモノだった。けど、あいつらが、それを歪めた!」

 

「……やはり首謀者を知っていたか」

 

颯馬は束が真実を知っていた事にさほど驚いている様子はなくそう呟く。

 

数年前起きた事件、通称『白騎士事件』

数年前一機のISが日本に向け放たれた数十発の巡航ミサイルを墜とした事件。当初、この事件は篠ノ之束がISの実力を世に知らしめるために引き起こした事件として報道されているが、実際は違ったのだ。

束がISを発表した際、起動できるのが女性だけと知った当時はまだ名が広まっていなかった国際女性権利委員会の一部の過激派が動き、軍のミサイル基地をハッキングして日本に向け発射したのだ。自分の身が危険になれば博士はISを使う。たとえ使わなくても、日本の人口が幾らか減るだけ。自分達の権利獲得の為の致し方のない犠牲だと、自分勝手な思いで事件を引き起こしたのだ。

 

結果は成功だった。彼女達の思惑通りISが現れ巡航ミサイルを全て撃破した。だが、誤算だったのは束の報復だった。束は今回の事件が女権の過激派がやった事だと直ぐに突き止め、事件を引き起こした過激派の女権達全員を始末したのだ。

だが、世界中にISは兵器として最強だと見せつけてしまった為、束は各国にISのコアと簡単なISの設計図だけを渡し姿をくらましていたのだ。

 

「あの事件は君が望んで引きこ起こしたのではないのであろう? 全てはあの子達を守る為に行動した。違うか?」

 

「……そうだよ。ミサイルの着弾地点がいっくん達の家や友達が居る場所だった。私が守らなきゃ、いっくん達を死なせちゃいけない。その思いで私はISを使った」

 

束は智哉こと一夏、そして穂香こと真登香を守る為に夢を叶える為に造ったISでミサイル迎撃に出た。

 

「私はあの子達を守る為だったらなんだってやってやるつもりだ。お前も、他の奴ら同様にいっくん達に酷い目に合わせるようなことがあったら、2人を連れて行くからな」

 

鋭く真剣な目で颯馬に告げる束。その真剣なまなざしに颯馬は本気であの二人を守る為に自身の手を汚す事を厭わないと感じ取った。

颯馬は束の意思を尊重して了承の返事を返そうとした瞬間、襖が開き雪子が突如部屋へと入って来た。

 

「雪子、帰って来ていたのか」

 

「はい」

 

颯馬にそう返事しそのまま束の元に向かいその近くに座る。束は突然現れた雪子に警戒心を曝け出す。

 

「な、なんだよ?」

 

「‥‥」

 

暫し無言のまま見つめてくる雪子と束。そしてそっと雪子は手をあげ束の後ろ頭にまわし、そっと抱きしめた。

突然の雪子の行動に束は驚き体を強張らせる。

 

「もう、無理しなくてもいいのよ」

 

「な、何を根拠に言ってんだよ?」

 

「貴女の顔をよく見ればわかるわよ」

 

「顔?」と束は零すと、雪子がそっとその根拠を説明していく。

 

「化粧か何かで目の下に出来ている隈を隠そうとしたんじゃない? 薄っすらとだけど見えてるわ」

 

そう言われ束は若干肩を跳ね上がる。

 

「眠ることを惜しみながらあの子達を探し、そして此処に居ることを突き止めた。本当にあの子達の事を思っていなかったら出来ない行動よ」

「もう、無理しなくてもいいの。孤独だと感じるなら、私があなたの傍に居てあげる。親の愛を知らないなら私が貴女に教えてあげる」

 

雪子が優しい声で束にそう投げかけると、束は今まで感じた事が無い胸の暖かさを感じ取った。不快ではないそのぬくもりに束は直ぐに何なのか分かった。これが親の愛だと。

束自身何故かは分からないが目から涙が流れていた。そして涙と共にずっと我慢していた思いが濁流の様に流れ出る。

 

「……う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁん! 辛かっだぁ! だ、誰もが私の事を化け物みたいに見てきた! わ、私は只の普通の人間なのにぃ! いっぐんだちが居なくなっで、わだじほんどうに一人ぼっちになるかとおもっだぁ!!」

 

「…そぉう。大丈夫よ、もう貴女を一人ぼっちにはしないから」

 

雪子はそう優しく告げながら、束の背中を優しく摩り続けた。




次回予告
学校で最後の授業を受け、クラスの生徒達と改め友となり最後の別れをすまし智哉達は家へと帰って来た。そして家に帰ると二人を出迎える様に立つ颯馬と雪子。そして新たな家族も其処に居た。
次回
第1章最終回
新しい家族~これから宜しくね、二人共♪~


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9話

遅くなって申し訳ありません。

これにて第1章は終了になります。






「――起立! 礼!」

 

「「「ありがとうございましたぁ!」」」

 

生徒達は席から立ち教師に、礼をするとお昼だぁ!と叫ぶ声やせっせと机を引っ付ける生徒達で溢れた。

智哉も自分が使っていた机を引っ付けようと考えたが、何処に引っ付ければいいのか分からずその場で佇んでいると

 

「あ、お兄ちゃん。こっちに机を引っ付けて」

 

そう穂香に言われ智哉は机といすを持って穂香の隣に引っ付ける。

メンバーは穂香と最初に智哉の事を大事な友達だと宣言したバンダナの少年の五反田弾。そしてツインテールの茶髪の少女だった。

 

「なぁなぁ、智哉。給食が配られるまで話そうぜ。あ、その前に彼女の事も話しておかないとな」

 

そう言い弾はツインテールの少女の方に目を向ける。

 

「彼女は暫くして転入してきた鳳鈴音って言うんだ」

 

「は、初めましテ。鳳鈴音です。日本語、少し話せるくらいです」

 

片言な日本語な上はにかみながら話す鈴に、智哉と穂香は初めましてと笑顔でお辞儀する。

 

「鈴は両親が中国人で、仕事の関係で日本に来ているんだ」

 

「そうなんだ」

 

「へぇ~」

 

鈴の事を弾が説明するのを聞きながら、智哉達はご飯を食べられるようナフキンと箸を取り出し机に置く。

すると鈴がおずおずと手を挙げる。

 

「あの、智哉君と穂香ちゃんのご両親、どんな人なんですか?」

 

「え? 僕達のお父さん達?」

 

「それは俺も気になるな。あの人から2人を救い出した2人の両親ってどんな人なんだ?」

 

2人に智哉達のご両親について聞かれ、智哉達はうぅ~んと声を漏らしながら考える。

 

「火、みたいな人かな」

 

智哉はそう零すと弾と鈴は「「火?」」と首を傾げ、穂香も少し分からないと言った表情を浮かべていた。

 

「どう言う事だ、火って?」

 

「うん、火ってさ人に仄かな温かみを与えたり、時には火事となって何もかもを燃やし尽くす炎になるじゃん。お父さんは普段は暖かい火で見守るけど、いざと言う時は炎の様に熱い心を持って仕事をする時があったりするんだ。だから僕から見てお父さんは火みたいな人かな」

 

「あぁ、何となくわかるかも。そう言われるとお母さんは何だろう?」

 

「うぅ~ん、お母さんは風かな?」

 

「……風。うん、そうだと思う!」

 

「おぉ~い、2人で納得してないで俺と鈴にも分かる様に説明してくれぇ」

 

弾は智哉と穂香が納得し合っている中、置いてけぼりにするなと苦笑いで抗議すると二人はごめんごめんと苦笑いを浮かべる。

 

「えっとね、普段は穏やかな風を吹いてくれるけど、怒ると物凄い暴風になるから、風だと思ったんだ」

 

「へぇ~、なんか普段は物凄く優しいけど怒った時はめっぽう怖い人だって事は理解したわ」

 

「私も、です」

 

そんな話をしながら給食が配られ談笑し合い、そして昼休みに智哉はクラスメイト達に誘われサッカーをしたり遊んだり、穂香は鈴と一緒に他のクラスメイト達と共に縄跳びだったりバレーをしたりと楽しんだ。

だが、そんな楽しい時間もあっと言う間に過ぎ、放課後となった。クラスの生徒達はついに放課後になってしまったと悲しい表情を浮かべたりする生徒がチラホラといた。

その表情は教師の松下も痛く受け止めており、必死に笑顔を浮かべる。

 

「それじゃあ本日は以上で終わります。新垣さん、挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼! ありがとうございました」

 

「「「…ありがとうございました」」」

 

何処か元気のない礼、皆智哉と穂香と別れるのが寂しいのだと松下は直ぐに理解できた。だからこそせめてできることをしようと考えた結果

 

「はい、ありがとうございました。えっと、今日で智哉君と穂香ちゃんはお別れとなるけど、最後にみんなで集合写真を撮りましょうか」

 

そう言うと生徒達は困惑の顔を浮かべ松下の方に顔を向ける。

 

「この先智哉君と穂香ちゃんと会う数は非常に少なくなると思います。だからみんなの記憶から智哉君達の事を忘れないようにする為、そしてこのクラスの大切なお友達だという事を忘れないためにです」

 

そう言うとクラスの生徒達は、賛同する声が上がり出し始めた。松下は良かった。と自分の案に安堵し、生徒達に机をどかすよう指示を出しそれぞれ教卓の前に集合した。

 

「えっとそれじゃあタイマーをセットするから皆ちゃんと入っておくようにね」

 

「「「はぁ~い!」」」

 

松下は小型の三脚を取り付けたカメラを教室の後ろに集めた机の上に置きタイマーをセットし生徒達の元に加わる。

 

「それじゃあ皆、1+1は?」

 

「「「「2ぃ!!」」」」

 

とそう言いながら手をピースするとカメラのフラッシュが放つ。

 

「はい、それじゃあ皆机を戻して帰る準備をして校門前に集合ね」

 

「「「はぁい‼」」」

 

写真を撮り終え机を戻し、教科書などをカバンに詰め生徒達はぞろぞろと教室を出て校門前に集った。

校門前には黒塗りの車が停まっており、その傍には彩と応援だろう黒い羽衣来た男性が居た。

2人は智哉と穂香が来るのを確認すると、頭を下げ一礼する。

智哉と穂香は車の元まで来ると、後ろに居るクラスメイト達全員の顔を見渡す。

 

「えっと、今日は本当にありがとう。皆の事忘れてしまったのに、それでも優しくしてくれたみんなの事絶対に忘れないから」

 

「皆、また何処かで会ったら遊ぼうね」

 

そう別れの挨拶をする2人。クラスメイト達は涙を零したりしていた。

 

「智哉、穂香ちゃん。また、何処かでな!」

 

弾がそう声を上げると、他の生徒達もまたな!、何処であったら遊ぼうな!と声を掛ける。2人はその言葉に涙しながら頷く。

そして2人は車に乗り込み窓を開け、クラスメイト達の方に顔を向けた。

 

「それじゃあ皆、またね!」

 

「また何処かで会えたら、遊ぼうね!」

 

そう言うと生徒達は涙を零しながら頷く。

 

「発進させます」

 

彩がそう進言すると、智哉はお願いします。と返す。そして車が発進すると、遠ざかっていく車が見えなくなるまで生徒達が大きく手を挙げて振っていた。

 

「またな、智哉ぁ!」

 

「また一緒に遊ぼうね、穂香ちゃぁん!」

 

「元気でなぁ!」

 

そう大きなが声を聴きながら、智哉達は鼻をすすりながらコクリコクリと頷いていた。

そして暫くして車が家に到着し智哉達は家の中へと入った。

 

「「ただいまぁ~」」

 

そう言いながら玄関の扉を開けると、其処には颯馬と雪子が笑顔で立っていた。

 

「お帰り智哉、穂香」

 

「お帰りなさい。学校のお友達とちゃんとお話しできた?」

 

そう言うと智哉と穂香は笑顔でうん!と大きく頷いた。

その光景に颯馬と雪子は朗らかな笑みを浮かべた。

 

「そうか、それは良かった。と、そう言えば二人に言わないといけない事があるのだ」

 

颯馬が突然言わないといけないことがあると言われ、2人は首を傾げる。隣の雪子は優しい笑みを浮かべていた。

 

「実はお前達の他に、もう1人我が家の娘として迎え入れた者が居るのだ」

 

そう言われ2人は驚きの表情を浮かべた。

 

「も、もう1人って…。えっとそれって誰なの?」

 

智哉がそう聞くと雪子がほら、こっちに来たら?と廊下の奥に声を掛けると奥から青い着物を着た紫髪の女性が現れた。

その顔を見た穂香は心底驚いた表情を浮かべ、智哉は誰?といった表情で首を傾げていた。

 

「ま、まさかた、束お姉ちゃん?」

 

「うん? 束お姉ちゃんって、穂香の知り合い?」

 

そう言われ束と呼ばれた女性は少し悲しい表情を見せるもすぐに笑顔を浮かべる。

 

「えっと、改めて自己紹介するのは恥ずかしいけど、今日から2人のお姉ちゃんになった恵梨香って言うんだぁ。宜しくね、とも君、ほのちゃん」

 

そう自己紹介すると、智哉は少し茫然と言った表情を浮かべるとも、暫くして宜しくお願いします。とあいさつした。

 

「お姉ちゃん。本当に私達のお姉ちゃんになったの?」

 

穂香はそう聞くと、恵梨香は満面の笑みでうん。と力強く頷いた。

 

「其処に居るお父さん達に、養子として迎え入れてくれたの。だから今日から恵梨香さんは2人のお姉ちゃんだよ!」

 

そう言うと穂香は笑みを零し、恵梨香に抱き着く。

 

「よろしくね、お姉ちゃん!」

 

そう言うとよろしくね。と穂香の頭を優しく撫でる恵梨香。そして近くに居た智哉にも恵梨香は空いている手で頭を撫でると、智哉は頬を染めながら照れる。

 

3人のその光景に玄関に居た颯馬と雪子、そして彩達は優しい表情で見守っていた。




次回予告
新しい家族に引き取られ、そして新しい人生を歩み始めた智哉。新しい友達や出来事に智哉は楽しい日々を過ごし行く。

次回
新しい人生の日常


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第2章出会い
1話


今回から第2章です。暫くはISに触れない日常話が続きます。


智哉と穂香、そして恵梨香が天城家に来て月日が経ったある日の朝。

天城家の一室、智哉達3人の部屋ではそれぞれ布団に入って寝ていた。すると枕元に合った目覚し時計が鳴り響き、智哉は手探りで目覚し時計を探し止める。そして布団からもぞもぞと動きながら起き上がると、寝ぼけた目を擦りながら左右の二人に顔を向ける。

左に居る恵梨香は布団を抱き枕みたく抱き着きながら寝ており、右に居る穂香は布団の中に顔が埋もれ、足や手が色んな所から飛び出ていた。

 

「……おぉ~い、2人ともぉ。朝だよぉ」

 

智哉はそう言いながら恵梨香、そして穂香に呼びかける。だが二人は中々起きようとしなかった。

 

「……やっぱりお母さんが起こしに来ないと無理かな」

 

そう零していると、襖が開き割烹着を着た雪子が其処に居た。

 

「あら、智哉は相変わらず早起きね。えらいえらい」

 

そう言い智哉を褒める雪子。智哉はえへへへ。と照れた表情を浮かべながら立ち上がる。

 

「それじゃあ先に身支度してご飯食べに行ってらっしゃい。私はこの子達起こすから」

 

「うん、分かった」

 

智哉はそう言い部屋から退出していった。残った雪子はニンマリ笑顔を浮かべながらそっと穂香と恵梨香が寝ている布団を掴む。そして

 

「いつまで寝ているの! さっさと起きなさい!」

 

「「は、はい!」」

 

布団をひっぺり剥がされ、更に雪子の大声に驚き二人は飛び起きると目をぱちぱちしながら雪子の方に顔を向ける。

 

「起きたわね。もう智哉が先に行ってるから、早く居間に来るのよ」

 

そう言い雪子は引っぺがした布団を降ろし、部屋から退出していった。突然の大声に驚き固まる2人だったが、暫くして我に返り洗面台で身支度を済ませ居間に向かうと、既にご飯を食べている智哉と新聞を読む颯馬が居た。

 

「お父さん、おはよ」

 

「おはよぉ、お父さん」

 

「うむ、おはよう。2人はまた雪子に起こされたようだな」

 

眼帯で片方の目は見えないが、もう片方の目は優しい笑みを浮かべていた。

 

「あ、アハハ。起きようとは思ってるんだけど、なかなか起きれなくて」

 

「つ、つい夜更かししちゃった」

 

2人は苦笑いを浮かべ訳を話す。

 

「まったく、夜更かしはあまりよろしくないんですよ」

 

そう言いながら2人にご飯と味噌汁を配る雪子。

 

「「はぁ~い、ごめんなさぁい」」

 

「はっはっはっは。まぁその辺にしてやりなさい、雪子。ほら早く食わんと学校に遅れるぞ」

 

颯馬にそう言われ2人はご飯を食べ始めた。そして学校行く時間となり智哉と穂香は鞄を背負い、恵梨香も教科書などを入れたリュックサックを背負い玄関へと向かう。

すると玄関には颯馬や雪子、そして数人の使用人たちが居た。

 

「それじゃあ行ってきまぁす」

 

「行ってきます」

 

「行ってきまぁ~す」

 

「うむ、行ってらっしゃい」

 

「ちゃんと勉学に励むんですよ」

 

颯馬と雪子が3人を見送りの言葉を掛けると同時に、使用人達も行ってらっしゃいませ。と頭を下げ見送った。

智哉と穂香は家の門の前に停められていた黒い色の車へと乗り込む。運転席には彩、助手席には圭司が居た。

 

「お二人共シートベルトをお付けください」

 

「はい」

 

2人の指示に智哉達は従いシートベルトを締める。そして窓を開け自転車にまたがる恵梨香の方に顔を向ける。

 

「それじゃあお姉ちゃん、行ってきまぁす」

 

「行ってきまぁす」

 

「ほぉ~い、いってらっしゃ~い!」

 

車が出発したのを確認した恵梨香は自身も新たに転入した高校へと向け自転車をこぎ始めた。

 

暫くして智哉達が乗った車は二人が通う浄苑学校に到着した。

車から降り2人は学校に向かって歩き出す。

 

「あ、智哉君おはよぉ」

 

「穂香ちゃんおはよ!」

 

「お二人共おはようございます」

 

次々に智哉達に挨拶を交わす生徒達。浄苑小学校に通っている多くの生徒は天城家の事をよく知っており、そして天城家にお仕えしている家の子もこの学校に通っているのだ。

 

2人が昇降口まで着て上履きに履き替えていると

 

「あ、おはようございます。智哉さん、穂香さん」

 

「おはよう智哉、穂香」

 

そう声を掛けられ、2人が振り向くと薄紫色の長い髪をハーフアップでポニーの様に止めた女性と灰白色の髪色のポニーテールの女性が居た。

 

「あ、美哉さんに黒歌さん。おはようございます」

 

智哉は2人挨拶を行う。

 

「ご一緒に教室に向かいませんか?」

 

「うん、別に良いよ」

 

そう言い智哉達は美哉達と共に教室へと向かう。

そして教室へと到着後それぞれ机に着くと、カバンから教科書などを取り出し机へと仕舞う。そうこうしている内にチャイムが鳴り響き生徒達は席に着く。

 

それから時間は飛び放課後。それぞれ家路へと着く生徒達。無論智哉達も家へと帰るべく学校の門に向かって歩き出す。傍には穂香の他に美哉、そして黒歌が居た。

校門まで付くと黒塗りの車が1台止まって居た。その傍には圭司と黒衣の羽衣を着た男性が居た。

 

「お迎えに上がりました」

 

そう言われ智哉達は圭司達に近付く。

 

「父上、お勤めご苦労様です」

 

「お父さんご苦労様」

 

そう言い美哉は圭司に。そして黒歌は黒衣の男性に告げる。

 

「あぁ。俺はお二人を連れて車で帰るが、2人はどうする?」

 

「私は何時も通り歩きで。黒歌は?」

 

「いつも通り歩いて帰るよ」

 

「そう。それじゃあ智哉さん、穂香さん。また明日」

 

「またねぇ」

 

そう言い2人は歩いて帰り始める。

 

「またねぇ」

 

「ばいば~い」

 

智哉達も手を振りながらそれを見送った。そして車へと乗り込む。運転席には圭司、そして助手席には羽衣の男性。

 

「それでは発進します」

 

「お願いします」

 

そう言い車は走らされた。暫くして羽衣の男性はチラッと後部座席の方に目を向けると智哉達はスヤスヤと寝ていた。

 

「どうやらお疲れだったようだな」

 

「そうみたいだな。ところが鴉羽、お前娘の黒歌ちゃんに本当に跡を継がせる気か?」

 

圭司は横目で羽衣の男性、鴉羽にそう聞くと肩をすくめる鴉羽。

 

「まぁな。アイツが中学3年になった時には名を継がせる。そろそろ俺も歳的に限界だからな」

 

そう言いながら何処からともなく本を取り出す鴉羽。本にはカバーが付けられている為、タイトルは分からなかった。

 

「そうか。まぁ何れ美哉も俺の代わりに智哉様達の護衛に付く日が来るかもしれんしな」

 

「フッ、そうだな」

 

そして4人の車は家へと走り続けた。




次回予告
学校から帰って来た智哉達は恵梨香と共に勉強を行う。
夕飯時には颯馬達に学校であった事を楽しく会話しながら夕飯をとる。

次回
のんびり日和part2


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