転生国防軍大佐 戦車道にて、斯く戦えり (33シーマ ・ホシー)
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第一話 大佐の転生と戦車乙女との邂逅

元々の一話が息抜きで書いた短編で文字数が少なかったため、既存の第二話と結い合わして投稿しなおしました。
また、本作での大洗学園は学園艦ではなく陸上にあるということにします。


世は、本物と見間違えてしまうほど本格的な造りの模造戦車でほぼサバイバルゲームのようなことを行う『戦車道』と呼ばれる競技が流行っていた。

戦車道は、乙女の嗜みと呼ばれていたが。戦車道の男子禁制解禁に伴い、大洗学園高等学校が一人の男子生徒を起用したことにより、その認識は変わりつつあった。

「僕は、乗り物……特に戦車が好きなんです。だから、女の子だらけの所に入ってきつくないのか?と訊かれても気になりませんよ。戦車に乗るという娯楽がありますから」

大洗学園高校の数少ない男子生徒……『弾間 英二』は、そう言う。

この物語の始まりは、彼の前世。つまり、『鬼塚 英二』が所謂(いわゆる)転生をする前に遡る。

 

 

西暦 20XX年

世界は、第三次世界大戦の渦中にあった。

ネオ・ファシズムが台頭したことによりドイツで復活したナチスとその余波を浴びてファシズム化したロシア連邦と東中国とその友好国とNATO諸国による新冷戦が激化し、遂にEU諸国や中東諸国、アジア諸国そして、アメリカ合衆国や日本に宣戦布告したことにより始まった第三次世界大戦は、熾烈を極めていた。

日本は、唐突な宣戦布告と混乱により、東中国に東シナ海の制空海権を奪われかけたものの、自国の海空国防軍と駆け付けたアメリカ海軍第七艦隊の活躍により、危機を乗り越えることに成功した。この攻防戦の後、制海権を確保した日本は西中国(中華民国)を救援すべく、陸海空国防軍を西中国に派遣した。

それから、日米西中三国軍は、南寧を舞台に壮絶な戦いを繰り広げた。

南寧での戦いは、第二次世界大戦におけるクルスクの戦いを現代に再現したような戦いだった。街の所々では火の手が上がり、三ヶ国の兵士や東中国兵達が銃撃戦を繰り広げていた。

「鬼塚大佐っ!十時の方向新たに敵戦車っ!!」

 

「分かった!頼んだぞ加茂軍曹っ!!」

 

戦車長の鬼塚は、砲手の加茂軍曹に指示を出す。その直後、鬼塚の乗る90式戦車改の120mm滑腔砲からHEAT-MP(成形炸薬弾)が放たれた。

HEAT-MPが放たれた一千二百メートル先には、中華連邦軍の17式戦車(T-14のライセンス生産品)が前進しながら西中国兵達を蹂躙していた。

戦車は、歩兵を蹂躙するのに夢中だったのか、敵からHEAT-MPが放たれたという事に気付かず。弾薬庫に誘爆して、葬り去られた。

「ナイスショット!柘植陸士長。前進して、西中兵達を支援するぞ」

弾間の前世は、日本国国防陸軍の戦車大隊の隊長『鬼塚 英二』大佐であった。

前進していると、ビルの影から五台の59式戦車と一台の17式戦車が這うようにして現れた。

敵戦車達は、鬼塚の戦車の数百メートル前にいた妊婦さんとその子供の親子に襲い掛かろうとしていた。

「あの野郎共っ!」

鬼塚の戦車は全速力で親子の前に出て盾の代わりになり、敵戦車を攻撃して行く。

59式戦車は砲塔を抉られ、瞬く間に撃破された。ある一台の17式戦車は鬼塚の戦い方を理解したのか、その隙に90式戦車改の弱点を蝕んでゆく。

 

「敵もやるじゃねえか。だが、ここで退いたら罪のない人達を死なしてしまう事になるんでな……」

 

すると、敵の攻撃が燃料槽に当たったのだろう。燃料が少しずつ溢れ出す。

 

「柘植陸士長。一旦、ビルに隠れてくれ」

 

操縦手の柘植陸士長は鬼塚の命令を疑問に思いつつ、戦車をビルの側に後退させる。

 

「あの親子をはじめとする非戦闘員も逃げることができただろう。それに、この戦車はもう長くない。加茂軍曹、柘植陸士長。最後の命令だ。二人とも私を置いて戦車から降りて逃げ遅れた人を見つけたら一緒に逃げろ」

 

「そんな……大隊長は、どうなさるつもりなんですかっ?!」

加茂軍曹が、意外な命令に驚いて声を張り上げる。柘植陸士長も同じように声を張り上げる。

「私はっ……!お前らを死なせたくないんだ。それに、二人ともまだ生まれたばかりの子供だっているし、まだ三十にもなってねぇだろ?だから、私の命令を聞いてくれっ!!」

 

「大佐だってまだ、十八歳になったばかりの娘さんと若い奥さんがいらっしゃるじゃないですかっ!」

 

「いいからいけっ!二人とも。おめぇら若いもんに一緒に死なれたら、ガダルカナルで死んだじいさんに申し訳ねぇんだよっ!分かったら自分の子供と嫁に次に会った時のために涙をとっとけや!」

 

鬼塚は無線でそう怒鳴りつけると、二人は黙り込んだ。そして、二人は涙声で鬼塚に感謝の言葉を告げながら戦車から降りた。

 

「二人には言い過ぎたかなぁ?さて、ひさびさに戦車砲を撃ってみるか。幹部候補生時代を思い出すなぁ」

 

鬼塚はそう言いながら車長席から砲手席に乗り移ると、主砲の発射トリガーに手を添える。

すると、17式戦車が主砲の砲口をこちらに向けながら突き当りから現れた。

 

「あばよっ……」

 

90式戦車改が火を吹いたのと同時に、17式戦車も火を吹く。

二台の戦車は、互いに爆煙をあげながら沈黙した。これは、相討ちだった。

 

「大隊長ーーーーーっ!!」

 

加茂軍曹と柘植陸士長は、泣き叫びながら燃え盛る90式戦車改を見つめていた。

 

 

2015年 四月 大洗学園高等学校ー普通科二年A組教室

ーたしか僕……いや、私は南寧の戦いにおいて部下を逃した後、敵戦車と相討ちになって死んだはず。だが、私が目覚めたのは時の流れを三十四年も遡った両親との旅行中であった。私は再び同じ人生を歩むのか?いや、違うなー

鬼塚は、自分の財布に入っていた高校入学前に取得した普通自動二輪の免許証を見て改めて別の人生を歩んでいるということに納得する。

ーこの弾間という姓は、母方の苗字だったはず。しかも、新しい自分の記憶を少しばかり探ってみたが、この時分からあった第三次世界大戦のきっかけになるイデオロギー対立や領土問題などといった国際問題そして、紛争やテロが存在しない。また、創作物に書いたようなユートピアともいえる世界であることが分かる。となると私は輪廻転生に基づき、現世に転生したのだなー

 

「へい少年っ!一緒にお昼でもどう?」

 

考え事に耽っていた弾間が不意に掛けられた声に振り向くと、そこにはクラスメイトの『武部 沙織』と『五十鈴 華』、新しく転校してきた『西住 みほ』の三人が囲むようにして立っていた。

 

「あぁ、いいよ。一緒に行こうか」

 

弾間は三人に優しく微笑みかけると、考え事を後にして食堂へと向かっていくのであった。

 

 

 

大洗学園高校の食堂は、全校生徒ほぼ全員が座れる分の席や広さ、定番の献立メニューから日替わりの定食やおかずなど様々な面において優秀であった。

しかし、十数年前に共学化されたにも関わらず。男子生徒が圧倒的に少なく。

多くても船舶科の男女比が七対三で女子が七割を占め、弾間が所属する普通科に至っては九対一の男女比であり、こちらも圧倒的に女子生徒の数が多かった。

そんな中、弾間はクラスメイトのみほや沙織、華の四人は食堂の片隅で食事を楽しんでいた。

 

「えへっ。二人もナンパしちゃった」

 

「私たち、一度西住さんや弾間くんとお話してみたかったんです」

 

「ふえっ、そうなんですか?」

 

「なんかいつもアワアワしてて面白いし、弾間くんは男の子と思えないほど可愛い顔してるし」

 

「ははぁ、武部さん。僕はそんないいものじゃないよ……」

 

みほと弾間の二人は、少し照れくさそうに返事をした。

 

「あっそうだ。私は……」

 

「武部沙織さん、六月二十二日生まれ。五十鈴華さん、十二月十六日生まれ。弾間英二くん、四月二日生まれだったよね?」

 

「へぇ。誕生日まで覚えててくれたんだ。嬉しいな」

 

沙織が、自己紹介をしようとするが。先にみほが早く答え、三人の名前などを言い当てたのであった。

三人は、みほが自分たちや他の生徒たちといつ友達になってもいいようにという理由で覚えてくれてことが嬉しい様子であった。

食事が進むにつれて四人の仲は良くなり、それぞれの出自や高校に来た理由について語ったりして食事をすませたのであった。

 

 

 

 

食事が済み、教室に戻った四人は相変わらずのテンションで話を続けていた。みほが自身の話を一通り終えると、今度は弾間の話になっていた。

彼は女の子が相手なんだから、変にマニアックな話は出来ないなんて考えながら三人と会話を楽しんでいた。

 

「なんでバイクに乗ろうと思ったかだって?そりゃあ、移動も楽だし乗ってて楽しいし。あとは改造とかしてかっこよくしたりかな?」

 

「でも、一回英二くんが乗ってきているところ見たことあるけど、英二くんのやつなんかいかついよね。怖い人達に絡まれたりしないの?」

 

「う、うん。そんなことないよ(暴走族と勘違いした族狩りのセ〇シオを撒くときに、うまいこと相手を状況が悪い道路に誘い込んで自滅させたなんて言えるわけないよな……)」

 

弾間が目を泳がせながら、沙織に答えるが。

彼女は「本当に?」などと言いながら彼に迫る。その傍らでみほや華がクスクス笑いながら弾間を見ている。

そんな和やかな雰囲気も束の間、どこか威厳のある雰囲気を身に纏った身長が高い二人の女子生徒と同じ雰囲気を身に纏った比較的低身長な女子生徒が四人が居る教室に入ってきたため、周囲がざわつき始めるのであった。

 

「やぁ、西住ちゃん!それに……」

 

どこか威厳のある雰囲気を身に纏った三人の女子生徒……生徒会長『角谷杏』、副会長『小山柚子』、生徒会広報『河嶋桃』はみほと弾間に近づくと、杏は二人の顔を覗き込みながら次のように言った。

 

「必須選択科目なんだけどさぁ、『戦車道』を取ってね。あと、そこのカワイ子ちゃんも元射撃部なんだし、気が向いたらよろしくねっ!」

 

「えぇっ?!この学校は戦車道はないと聞いて。転校してきたんです」

 

「今年から復活することになった。そして、男子禁制だったが。それも解禁され、男子の参加も可能となった。なので、そこの君も出来れば戦車道の選択をして欲しい」

 

杏が戦車道という言葉を聞いて困惑するみほにまとわりつくと、桃が凍てつくようなイントネーションでみほに今年から戦車道が復活したという趣旨の話をしながらさり気なく弾間も誘う。

 

「というわけでよろしくねっ!」

 

杏はその一言を残すと、二人を連れて教室から去っていき。その背中をみほは、どこか不安気に見つめているのであった。

弾間も容姿は周りの男と違い、女性寄りな容姿ではあるが。

一人の男なのでこの状況を見過ごすわけにいかなかったが、逆に今の彼女の心理状態で聞くのは、まずいと考え。あえて事情を聞くことを避けた。

 

 

 

放課後となり、各々の生徒は自宅への帰路についていた。そんな中、みほは弾間の運転するバイクの後ろに乗り、心地よい風や潮の香りを身に受けていた。

彼女は気持ちが落ち着いたのだろう。弾間の耳元で機嫌よく鼻歌を歌いながら海岸線から見える大洗の町を包み込まんとするほど広大に広がる海を見つめている。

 

「なんかもやもやすることがあった時は、ここの海岸線を走ると気持ちがいいんだよ。それに、ここよりもっといいとこがあるんだっ!」

 

「どんなところ?早く見てみたいなっ!」

 

弾間は、みほを怖がらせないようにゆっくりと加速した。みほはじわじわと強く弾間にしがみついた。

RPM-67Racing管の甲高い音が海岸線に轟き、すでに夕暮れ時であったため、テールランプの真っ赤な光の流れを追うようにして、鳥たちが木や電灯から飛び立つ。

しばらくして着いたところは、灯台から町の景色を一望できる場所であった。

人工物とはいえ、そこそこの高さがあるため大洗の町の景色を一望できる。彼女は、予想以上の景観に感動したのか、童心にかえって素直に夕暮れ時の大洗の町を楽しんでいる。

 

「どう、気に入ってくれた?僕がバイクに乗り始めたときに初めて来た場所もここなんだ。ここから見える景色を見ていると、なんだか全て受け入れてくれる気がするんだ」

 

「そうだね。弾間くん、いいところを教えてくれてありがとう。もやもやしてたけど別に戦車道を取らなかったからといって大事に至ることなんてないよね」

 

二人は傍にあったベンチに腰掛け、まぶしく輝く町のネオンや走る自動車などのライト、遠くの港にそびえる灯台の光を見つめながらそう言った。

「ここまで来て、こんな事を聞くのもなんだけど。よかったら今日辛そうにしていた理由を僕に話してくれないかい?」

みほは、しばらく何かを考えるようにして顔を伏せて途中で自身の身体を何度も震わせた。

弾間は、申し訳なく感じ、彼女に声を掛けようとした途端。彼女は、その答えをハキハキと切り出した。みほは、弾間に一通り話終えると、何かが身体から抜けていったような安らかな表情をしていた。

 

「あぁ、実は僕もなんだよね。あと、これは作り話だと思ってもらって構わないから」

 

また彼も前世であった出来事について語り始めた。弾間が話を終えた頃になると、元のお淑やかな雰囲気に戻って静かに笑っていた。

 

「そっか。弾間くんも前世で人助けをして、この世界に来たんだ」

 

「まぁ、お互い人の命を助けた者同士ってことだね。にしても、人を助けただけで破門だなんてひどいよね」

少しの沈黙の後、二人は静かに微笑み合った。

 

「そうだ。今日は両親が二人とも帰ってこないし、ついでにご飯もどう?いい店知ってるんだよね」

 

「そうなんだっ!じゃあ行こう!」

 

時間も夜の十九時を回ったため二人は灯台を後にし、再び違う目的地へと向かっていった。

 

 

 

翌日、みほは沙織と華の二人にも自身の思いを打ち明けたのであった。二人は彼女の気持ちや考え、彼女が持つトラウマをほじくることになると考えたのだろう。

二人は彼女が選択したものと同じ選択科目を選び直したのであった。一方で弾間は三人と合意し、彼自身がみほのポジションを引き継ぐ形で戦車道を選択したのであった。

しかし、ここで予想にしなかったことが起きた。

昼休みに四人が食堂で食事を取っていると、生徒会による校内放送が流れた。

『二年A組西住みほ及び、弾間英二は至急生徒会室に来ること』

生徒会広報の河嶋桃による放送と同時にモニターには、二人の氏名が映し出されていた。

「どうしよう……」

 

「大丈夫だよみほちゃん。僕もいるから」

 

「私たちもついていきます」

 

「落ち着いて、一人じゃないから」

 

三人は震えるみほの手に優しく手を重ねるのであった。

 

 

 

 

生徒会室に入るや否や昨日の威厳のある雰囲気とは打って変わって、ヤから始まる怖い人達のような威圧的な雰囲気を醸し出しており。

同じ高校生とは思えないドスの利いた声で河嶋桃が、戦車道を選択しなかったことについてみほを詰問し、その背後で会長の角谷杏がさらにドスの利いた声で「なんで選択しないかなぁ」とため息を交えてそう言う。

本当にヤの付く人の事務所に来たか、K監督のア〇トレ〇ジシリーズのワンシーンにあってもおかしくない状況であった。

 

「みほはやりたくないんですっ!」

 

「そうです。無理やりやらせるなんて……」

 

「戦車の操縦とか、撃ち方なんて戦車道を志望している僕がやりますよっ!」

 

「はぁ……そこの少年には西住ちゃんを説得してもらいたかったんだけどなぁ。とにかく……あんた達そんなこと言ってるとこの学校にいられなくなるわよ?」

 

逆に、杏はひるむどころか。冷酷な表情と凍てつくようなものの言い方で、沙織と華の二人に対して恫喝を加える。

この辺りで、そばに控えていた桃や柚子が言葉でカチコミをかけてくる。

その傍らで沙織や華、弾間の三人は負けない勢いで言い返したために紛糾が過熱していき、生徒会の二人と二年生の三人は互いの言い合いに油を注ぎ合っているのであった。

もう一段落ヒートアップしようとしたところで、みほが声を張り上げた。

 

「あのっ!私……戦車道を……やりますっ!!」

 

三人が「えっ」と声に出して驚いたのと同時に、生徒会の三人は「良かった」という一言を発してニッコリと微笑みを返した。

 

 

 

学校が終わり四人はアイスクリーム屋に集まり、今日の一連の流れについて会話をしていた。

「本当によかったんですの?」

 

「無理することなかったんだからね」

 

「いいの。私、嬉しかったの。三人が私のために一生懸命になってくれたことが嬉しかった。それに、私の気持ちをこうまでして守ってくれるなんて初めてなの。お母さんやお姉ちゃんも家元だから戦車道は当然なんて言ってたし、私なんて……」

 

「まぁまぁ。そんなどんよりモードはスイッチオフにしてアイス食べよ」

 

「うん、そうだね」

 

みほは、静かに笑うと手を付けていなかったアイスを三人と一緒に頬張るのであった。

 

 




ご覧いただきありがとうございました!
以下、オリ主の設定です↓
名前:弾間英二(だんまえいじ)
年齢:17歳
誕生日;4月2日
搭乗戦車:一式軽戦車・ケホ
チーム名:フェレットさんチーム

前世では日本国国防軍の大佐だったが、容姿や出生地が前世とは異なり、男の娘と呼ばれるほど体系も顔も女性寄りだが、見た目に反して怪力の持ち主である。
新しい人生を歩み始めてからも前世と同じようにバイクを乗り回しているほか、中学校時代はライフル射撃部に所属していたため、射撃の腕も長けている。




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第二話 新参者達

ご覧いただきありがとうございます。それでは、引き続きお楽しみください!


「それにしても、こんなメジャーな品物まで持っていたとは……」

弾間は、チームを組むことになった『久川麻理奈』と『富田彩音』、『久川佳奈』の三人は同じ戦車……『一式軽戦車・ケホ』の車体を掃除していた。

軽戦車という割には五十七粍戦車砲(甲型)を搭載し、軽快な加速性能と高い機動力を活かしての強襲や偵察などに向いている戦車だ。また、(あくまでもこの世界線の)日本が連合国と講和を結んだ一九四五年の二月から三月まで行われたガダルカナル島の戦いでは、前述のように低い車高と高い機動力を活かして強襲を敢行し、M4E8やM18駆逐戦車の後方に回り込んで肉薄攻撃をして撃破し、ついでに周りにいた歩兵などを蹂躙したそうだ。

 

「ねぇねぇ。私たちの方が早くこの子の掃除が終わりそうだから他のチームの掃除とか手伝わない?」

 

「そうだね彩音ちゃん。あとは、車内を徹底的に掃除した後は、エンジン系統と履帯系統をいけるところまで掃除して終わろうか」

 

「そうそう。エンジン系統の細かいところはあたしと佳奈の自動車部員に任せてねっ!最近うちのパパがア〇ストのエンジンを引き取って家に置いてるんだ。まだ使えそうだから使えそうな部品をこの子のエンジンに組み合わせるのもいいと思うの」

 

「この子は本物とほぼ一緒の造りをした模造品だから重量も本物に比べるとはるかに軽いし、何なら、車両重量やエンジンも一般的な自動車と同じだったりするし、ちゃんと整備してそのまま乗っけてもいいし、使えそうな部品を流用しても問題ないかも」

 

「名案だね。流石、自動車部の双子姉妹は二人揃って頭が切れるなぁ」

 

弾間は、三人と会話しつつ、砲身の中を丁寧に磨いている。久川姉妹と富田が、エンジンのギアを手動で回しながら異常の有無の確認などを行いつつオイル漏れで汚れた部分を拭きあげたのを最後にFチームの四人の作業は終わった。

 

「さすが、自動車部のお二人ですね。あの、よかったら私たちのⅣ号も見てもらっていいですか?」

 

「うん、いいわよ。ついでにあなたたちの掃除も手伝うわ。今は水抜きをしているんだっけ?倉庫に水抜き剤がいっぱいあるから取って来るね!」

 

久川姉妹は、みほと一緒のチームメンバーである『秋山優花里』に愛想よく返事すると部室の方に向かって走っていった。

 

「あの、弾間先輩。手伝って貰ってもいいですか?この戦車はなんか複雑な部分があるみたいなので……」

 

「分かったよ。『宇津木(優季)』ちゃん。僕は宇津木ちゃんと一緒に主砲の発射トリガーのべたつきと砲塔旋回装置のボルトを締め直すから、彩音ちゃんは履帯を磨いてる『丸山(沙希)』ちゃん達を手伝ってあげて」

 

二人は、先輩らしく一年生チームを手伝い始めた。

その傍らで、会長の杏が「いいねぇ」と言いながら38t戦車のパーツカタログを片手に桃や柚子に指示を出している。

こうして、他のチーム同士が協力していくことで初めて言葉を交わす者同士であっても。打ち解け合うことができ、放課後より早く作業を終えることが出来たのであった。

 

 

 

 

放課後のとあるマンションの一室では、二人の男女が話し合いをしていた。男の方は弾間であったが、少女……同じ学校の女子生徒の方は今にも眠りそうというか、脱力感丸出しの姿勢であった。

 

「ねぇ、麻子。迷ってないで戦車道を取りなよ。単位とか不味いんだからさ」

 

「英二に言われるとなんか現実を叩きつけられた気がするな。それで、私はベンチ扱いなのか?」

どこか脱力感を放出している彼女は、『冷泉麻子』であった。彼女は、一年生の時に彼と同じクラスであり、そこそこお互いに協力し合ってきたため、仲も良かった。

 

「いや、それが。西住みほちゃんという子のチームがあと一人足りないんだよ」

 

「まて、西住?……あっ。昨日その子のおかげでギリギリ遅刻を回避できたんだった。あと、西住さんのチームには誰がいるんだ?」

 

「お、そうなんだ。チームには武部沙織ちゃん、五十鈴華さん、秋山優花里ちゃんがいるんだ」

 

「そうか、沙織もいるのか……じゃあ、英二。こういう時は助け合いだ。私もそれを取ろう」

 

「ありがとう。麻子ならそう言ってくれると思ったよ」

 

「どういたしまして。けど、こちらも助けてもらいたいことがある」

 

「ん?どうしたの。僕たち友達なんだしなんでもいいなよ」

 

弾間は麻子の言おうとしている言葉を全て受け入れ気持ちでそう言うのであった。

 

 

 

 

翌日、チーム内での練習試合のために戦車道を履修登録した生徒たちが早くから倉庫前で試合を指導する教官と弾間の到着を待っていた。

 

「英二くんはどうしたんでしょうか?」

 

「始まるまであと五分なのに……」

 

華と沙織の二人が、スマホの時計を見ながらそう言ってると、甲高い排気音と共に後ろに誰かを乗せた弾間が黒色を基調とし、タンクからテールカウルまで金色のラインが入ったゼファーΧと共に現れた。

 

「すみません。この子も今日の試合に混ぜてくれませんか?」

 

「それで到着がギリギリになったのか。ところで弾間、その生徒は誰だ?」

「……私は冷泉麻子です。単位が危ういため、戦車道を取らせてもらうことにしました。それと西住さん、先日はどうも」

 

どこか冷徹な目つきと凛とした表情で彼女は、コクリと頷きながら桃と近くにいたみほに対して自己紹介をした。

 

「麻子も戦車道を取るんだっ!あたしたちのチームは一人乗員が足りないから。操縦手を担当してくれないかな?」

 

「うん、いいぞ。操縦指南書を貸してくれ沙織。実際に触ってみたいからな」

彼女は、沙織から受け取った指南書の中にある操縦のページを開くと、それを持ちながらⅣ号戦車の操縦席に乗り込み、エンジンの始動からの発進や方向転換やバックなどの操作をいとも簡単にやってのけたのである。

 

「す、すごいっ!憧れちゃうっ!」

 

一年生チームの一人である『大野あや』が素直に尊敬の声をあげている。他のメンバーも麻子の運転さばきに見惚れている。

彼女たちの歓声に応えるように麻子は、全員の方に車体の前部を向けるとさらに加速し、全員が退いたのを確認してからドリフトターンをして元の状態で停車して操縦席から麻子が今まで当たり前にやってきたかのような表情で操縦席から降りてくる。

全員が拍手をすると、彼女はまたコクリと頭を下げる。

 

「すごいよ麻子っ!あれだけでこんな運転をするなんて」

 

「一応、昨日英二にちょっとだけ教えて貰ったからな。というわけでよろしく。あと英二、これからもよろしく……専属ドライバー兼専属目覚ましとして」

 

その傍らで、弾間がポリポリと頭を掻きながら「しょうがないなぁ」と言葉を返す。

突然、空を裂くような爆音が上空から響く。それは、国防陸軍所属の73式輸送機が学校の駐車場に向かって高度下げながら後部ハッチを開き、そこから同じ陸軍の10式戦車をパラシュートと共に放出するというものであった。

戦車の下に敷いていたパレットとパラシュートを勢い良く切り離して駐車場に着地し、バックで方向を整えるが。

その際に近くにあった白色の四ドアセダン車を蹴飛ばすようにしてバックで突き飛ばして横転させたかと思えば、そのまま進んで踏みつぶしちゃったのである。

 

「き、教頭先生の車が……」

 

「わ、私のクレ……クレ……クレ〇タが……」

 

柚子と他の生徒たちの傍で生徒のために飲料水や救急用品などを運び込んだりして試合の準備をしていた教頭の『山田内ひろと』が自身の愛車が破壊されている様子を見て、言葉を詰まらせながら後ろに倒れこんでしまった。

間もなくしてその戦車が全員の前まで進んで立ち止まった。

砲塔にある車長室のハッチが開き、そこから麗しい外見とは裏腹に豪快かつアバウトな感じの女性下士官が専用のヘルメットを脱ぐと笑顔で全員の方を向くと挨拶の言葉を掛けた。

 

 

 

 

「こちらの方は本日特別講師としてお越しになった日本国国防軍国防陸軍機甲教導連隊所属の『蝶野亜美』大尉だ」

 

「戦車道は初めてという方が多いと聞いていますが一緒に頑張りましょう。あれ、あなたは……」

 

桃に紹介された蝶野は生徒を見渡しながらそう言ったが。目線をみほに合わせたまま止まると、そのまま彼女の方へ歩み寄っていった。

 

「やっぱり西住師範のお嬢様じゃないですか。師範には大変お世話になっております。お母様とお姉様は元気にされていますか?」

 

「あ、はい」

 

ここで周囲が「西住師範」という言葉を聞いてざわつき始めたため、蝶野は戦車道の流派の一つである『西住流』について簡単に説明した。

 

「あのっ!教官はやっぱりモテるんですか?」

 

「うん。そうね……モテるというより狙った的を外したことはないわ。撃破率は一二〇パーセントよっ!」

 

「教官っ!本日はどのような練習を行うのですか?」

 

「そうね。本格戦闘の練習試合。早速やってみましょう」

 

沙織と優花里の質問を一通り終えたところで唐突な一言を放ったため、周囲がまたざわつき始める。それに対してみほと弾間が動揺しなかったが、次に蝶野は弾間の方に目を向ける。

 

「あなた、いい目しているわね。さすが、男子禁制解禁後初めての男子生徒ね」

 

「は、はい。それはどうも」

 

ここで、彼女は自身の顎に親指と人差し指を添えると少し唸った後にこう言った。

 

「そうだわっ!弾間くん。あなた、今から私が乗ってきた10式戦車の車長になりなさい。大丈夫、何事も経験よ」

 

「えっ。ぼ、僕がですか…(まさかこうも早く前世でも世話になったヒトマルに乗ることになるとは……私の腕が訛っていないかここは一つ試してみるか)…はいっ喜んでっ!」

 

弾間いや、一瞬心の中で前世である鬼塚に戻った彼は元気よく返事すると、彼女からヘルメットを受け取り、それを被ると一気に車長室に乗り込む。

 

「こちら弾間です。操縦手さん、射撃手さん。聞こえますか?」

 

『はい。聞こえます』

 

「では、早速指示を出します。前へっ!」

 

彼が指示を出すと戦車は煙を巻き上げながら発進した。進んでいると、奥の方に先程の73式輸送機が投下したダミー戦車(T-72)が彼の戦車に向かって前進してきた。

 

『弾間くん聞こえるかしら?』

 

「はい、聞こえます」

 

『いまからそのダミー戦車を撃破してもらうわ。それは無人だから遠慮せずやってもいいわ』

 

「了解っ!では、いきます」

 

彼は蝶野との無線を切ると、操縦手と射撃手に対して前世のように思ったまま指示を出す。

弾間の指示を受けた隊員達は指示を理解し、スラローム射撃をしながら見事にダミーを撃破した。

撃破されたダミー戦車は車長室ハッチの付近から白旗を出して黒煙を上げていた。

『グレイトッ!よくやったわ』

 

「はいっ!ありがとうございます」

 

弾間の様子を見ていた蝶野と彼女の周りにいた仲間も称賛の声をあげている。

 

ーよかった。だが、まだまだこれからだな。みほちゃん、私は君のためそして皆のために戦うよー

 

彼は歓声の中、ひそかに瞑想をはじめ。戦車道遂行の決意と友を救う決意を胸に抱くのであった。

 

 




ありがとうございました!本作もオリジナルキャラクターを追加してみました。因みに、今回の(あくまでもこの世界の)という部分がありましたが。私自身が投稿している別作品の設定をそのまま本作にも活かすことにしました。
↓設定の元
https://syosetu.org/novel/141458/14.html


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第三話 勝者はいかに

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!


試合が始まり、全てのチームは順調に滑り出していた。弾間達Fチームはケホ車の車高の低さを利用して狙撃に徹する戦法を取ることにした。

試合が行われるこのフィールドは、二車線分の広さを持つ二つの山道と中間地点にある平野で一度道が合流し、そこから再び道が分岐して、さらに進んだ先にある二つの山道の合流地点には、四トンまでのトラック一台がやっと通れるくらいの幅と高さをもつ吊り橋が存在する簡単なつくりのハイキングコースのような場所であり、大洗学園高校の所有地であるため。運動部の生徒たちがよく利用する場所でもあった。

 

「まーちゃん、中間地点から少し進んだ分岐地点にある雑木林に隠れて。少し入ったところで車体の前面を分岐点に向けて旋回してからエンジンを停止して。彩音ちゃんも止まってから砲弾を装填しといて。佳奈ちゃんは右側の道に入って来る戦車をいつでも撃てるようにして照準を合わせといて。あと、余裕があれば左の道に入ってきた戦車も撃てるようにして」

 

『了解っ!』

 

弾間が他の三人に必要な指示を出す。彼がとる戦法の詳細な内容は雑木林の中に潜伏し、そこから何も知らずに進んできた他のチームを迎撃するというものであった。

久川姉妹がケホの整備を張り切ってくれたおかげで元の速度よりかなり速く走れるようになった上、発動機がMTからAT仕様に改造されていた。

また、おまけ程度に主砲付近には自動車用のクーラーまで取り付けてあるというものであった。

快適な居住性と運転性能の向上と安定化に注力してくれたことに弾間や富田は言葉と本心の両方で感謝をしていた。

それもあって誰より早く二個目の分岐点に到着し、余裕をもって迎撃の準備が出来たのであった。

時は満ちたというべきか、みほ達のⅣ号戦車が全速力で砂ぼこりを巻き上げて左の道へと入っていった。

 

「来たわっ!英二くん」

 

「いや、あれは速すぎるから別のチームを狙おうか」

 

それから一分が経過したころで生徒会チームの38tと一年生チームのM3Leeが並んで走ってきた。

 

「あれ、なんで撃ち合わないんだろう?」

 

「分かったわ。一時的に手を組んでいるのよっ!」

 

「弾間くん。私たちも西住さんと手を組むのはどう?」

 

「確かにそれもありだと思うけど、せっかく二台揃って来たんだ。意地悪するかもしれないけど、38tを撃った後にM3を撃って」

 

「うん」

 

その間に二台は土煙を巻き上げながら右側の道へと入ろうとしている。

 

「大丈夫だよ……まだ撃たないでね……」

 

小刻みに震わせながら発射トリガーに指を当てる佳奈を落ち着かせる。

弾間以外の三人はこれが初めてのため、緊張するのは当然のことだろう。

だが、彼女たち三人は運がいいことに前世で軍人としての記憶が明白に残っている男を車長に据えているのである。

緊張すらしていない弾間に彼女たち三人はどこか安心を覚えるのであった。

そして、38t戦車を先頭にして二台が右側の道へと入ってきた。

 

「今だっ!撃て!」

 

弾間が指示と共に射撃手である佳奈の肩をポンと叩いたため、彼女は勢いよく発射トリガーを引いて見事38tに砲弾を命中させ、戦闘不能にさせる。

一年生チームのM3は先導していた38tが急に撃破されたことで全速力で後退を始めるが、ギアをセカンドに入れていたため少し遅く。こちらもあっさりと撃破されてしまった。

 

「やったぁ!」

 

「みんなっ!ナイス!」

 

ケホの車内では四人がお互いハイタッチをしている。しかし、それも束の間。

次にバレー部チームの八九式中戦車と歴女チームのⅢ号突撃砲F型がやって来た。さすがに、うかつにどちらかに入っていくわけではなく。停車して周囲を警戒している。

Ⅲ号突撃砲からその車長を務める『エルヴィン(松本里子)』が自ら降りて持ってきた双眼鏡で周囲を見渡している。

 

「彩音ちゃん、さっきのペースを維持したまま弾を装填して。佳奈ちゃんは八九式を撃破したら三突を撃破して。まーちゃん。エルヴィンちゃんがこっちに気づいたら全速力で左側の道に出て速度を調節しながら進んで。そして佳奈ちゃんが八九式を撃破したら三突の背後に回り込んで」

 

『了解っ!』

 

弾間が三人に指示を出し終えると同時にエルヴィンがこちらの存在に気づき、二台に指示を出して彼らのケホに砲撃を浴びせる。

だが、その直前に弾間の指示を受けていた三人の方が早く。

麻里奈がハンドルを素早く左に切りつつアクセルを最大限まで踏み込み、緩やかな坂道を駆け抜けてゆく。

八九式中戦車が弾間達に向けて砲塔を旋回するが、ケホの車高の低さを利用して射程圏内に入らない車体前面に停車してゼロ距離射撃で撃破する。

Ⅲ号突撃砲の砲口があと少しで、ケホの側面に向こうとしていたが。ケホは勢いよく後退した上に、砲撃を回避してそのままバックで車輌の後部まで進み、エンジンルームと思われる部分に砲撃を浴びせる。Ⅲ号突撃砲は白旗を車輌の上部から出すと同時に車体後部から黒煙を上げた。

 

「いいねっ!みんな」

 

「そうねっ!あとは、西住さんだけだね」

 

弾間達は最後の相手である。みほ達に向かって再び緩やかな坂道を登り始めた。

 

 

 

 

その頃、最後の二人のうち一人となったみほ達は、警戒を強めながら他のチームが撃破された分岐点まで戻っている最中だった。

 

「麻子さん。弾間くんがどっちから来てもいいようにいつでも旋回できるようにしてください。華さんもいつでも撃てるようにしてください。優花里さん早めの装填を心掛けてください」

 

みほは沙織に代わって車長となり、チームメイトに指示を出していた。また彼女たちAチームも弾間と同じチームである久川姉妹と富田の三人が彼に安心感を覚えたように。

沙織と華や優花里、麻子たちもみほに対して安心と信頼を抱いてたのであった。

すると、みほ達から見て左側の道から勢いよく弾間達のケホが飛び出してきた。

 

「みなさんっ!今ですっ!」

 

『了解っ!』

 

みほが咄嗟に判断し、指示を出す。三人は、素早く行動に移して指示通りに動く。

ケホ車によるドリフトターンからの砲撃を浴びるが、運よくⅣ号戦車が正面に旋回した後だったため砲撃は弾かれ。

お返しといわんばかりに今度はⅣ号から放たれた砲弾がケホ車の正面に叩きつけられると、ケホ車は沈黙の後、砲塔上部から白旗を出した。

「私たち、勝てたんだ……」

 

「そうみたいです」

 

「すごい……西住殿のおかげですっ!……あっすみません」

 

優花里が喜びのあまり、キューポラから上半身を出していたみほについ抱きついてしまった。

 

「……勝ったというのも正しいが、漁夫の利を得たともいうべきだな」

 

「西住さんとそのチームのみんなもすごいわっ!今度、私たちにもコツとかあったら教えてくださいっ!」

 

「さすがみほちゃんっ!完敗しちゃったよ。ははっ」

 

撃破されたケホから富田と久川姉妹、弾間が飛び出してきてみほや他のメンバーにも称賛の声を掛けると同時に自身の技量向上のための糧と知恵を得るべくそう言うのであった。

 

 

 

「みんなグッジョブベリーナイスッ!初めてこれだけがんがん動かすことが出来れば上出来よっ!特にAチームとFチーム。よくやったわね」

 

他のチームのメンバーは尊敬の目をみほと弾間のチームへと向ける。二つのチームメンバーはお互いにハイタッチをして喜んでいる。

「あとは、日々走行訓練と砲撃訓練に励むように。分からないことがあったら気軽に相談してねっ!」

 

「一同、礼っ!」

 

『ありがとうございましたっ!』

 

全てのチームのメンバーが頭を下げると、蝶野は敬礼で返した。

かくして、みほをはじめとする他のメンバーは今日で戦車道というものに対して自信を持つと同時に勝利への道の軌道に乗り始めたのであった。

 

 




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第四話 咲き誇りし薔薇が如し、聖グロリアーナ女学院

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チーム内での練習試合が終わり、数日経過したある日。みほや弾間といった各戦車の車長を務める生徒たちが集まっていた。

それは、『聖グロリアーナ女学院』との学校対抗の練習試合が行われるため、隊長である桃の主導により、作戦会議を行っていた。

「いいか?相手の聖グロリアーナ女学院は、強固な装甲と連携力や機動力を活かした浸透強襲戦術を得意としている。とにかく相手の戦車は固い。主力のマチルダⅡに対して我々の方は百メートル以内でないと通用しないと思え。そこで一台が囮となってこちらが有利になるキルゾーンに敵を引きずり込み、高低差を利用して残りがこれを叩くっ!」

 

桃が立案した作戦に、一年生チームの『澤梓』、歴女チームの『カエサル(鈴木貴子)』、バレー部チームの『磯辺典子』、弾間に誘われて新しく参加することになった『ねこにゃー(猫田)』の四人は桃が立案した案に賛同の様子を見せたが。

みほと弾間の二人は何か物足りないと感じたのか、顔を伏せたままだった。

 

「西住ちゃん、英二ちゃん。どうかしたの?」

 

「あっ……いえ何も」

 

「あの、会長。それに河嶋さんちょっといいですか?」

 

「おっ。いいから言ってみ?」

 

杏が二人にそう言うと、彼女は思い切って口を開いた。

 

「聖グロリアーナは、こちらが囮を使って来ることは想定すると思います。裏をかかれて逆包囲される可能性があるので」

 

「次に僕からです。先程河嶋さんが言われたように、聖グロリアーナは強固な装甲と連携力、機動力を活かした浸透強襲を図ってくることから相手は強豪の名に恥じないプレースタイルを取るでしょう。また、一か所に戦車を配置するのではなく。今回のフィールドの一部である町にも戦車を配置するのはどうでしょうか?また、肝心の囮役は僕と澤ちゃん、河嶋さんがなればいいのでは?また、もう一つ案がありまして。その案は犠牲覚悟のものですが、崖の下にもう二台別のチームを配置して、ちょっとした包囲殲滅を図るのはどうでしょうか?」

 

二人の言ったことに、他のメンバーは桃が提案した作戦より強い関心を示した。

しかし、これに対して桃の癪に障ったのだろうたのだろう。思わず声を張り上げてしまった。

 

「確かに、犠牲覚悟の包囲殲滅はありだな……って弾間っ!私が隊長であることを忘れたのかっ!それに他のメンバーの関心を引き付けているんだから。西住か弾間のいずれかが隊長をやれっ!!」

 

「ふぇっ!?す、すみません」

 

「まぁまぁ、でも隊長は西住ちゃんの方がいいかもね」

 

「はい?」

 

「西住ちゃんがうちのチームの指揮執って。英二ちゃんはどう?そんままの勢いで副隊長やっちゃう?」

 

「いえ、会長。それなら僕は貴女方生徒会チームの補佐役という事でどうでしょうか?」

 

「じゃあ決まりねっ!」

 

杏がニッコリしながらそう言うと、他の車長メンバーもみほに対して信頼と期待を交えた拍手を彼女に対して送った。

 

「頑張ってよ。勝ったら素晴らしい賞品をあげるから」

 

「あの?何ですか」

 

「干し芋三日分っ!」

 

「因みに、負けた場合はどうなるんですか?」

 

「じゃあ、大納涼祭りであんこう踊りやってもらおうかな」

 

杏が椅子に腰かけ直しながらそう言うと、みほ以外の車長メンバーが追い詰められたような表情をした。特に弾間はこの一言でかなりショックを受けていた。

 

「中学生の時に清楚系でお淑やかな子があんな格好をして楽しそうに踊っていたのが今も頭から離れない……」

 

「そんなに恥ずかしい踊りなんだ」

 

弾間はその時の光景を思い出したのだろう。顔を机に深く埋めるのであった。

 

 

 

 

練習試合当日の大洗の町は、年に一度の祭りと同等かそれ以上の盛り上がり様であった。

それに加えて大半が地元住民の観客たちが集まり、町の半分がフィールドとなるため。交通規制から始まってフィールドへの立ち入り禁止が徹底されている。

また、大洗の港には聖グロリアーナ女学院の『学園艦』というものが停泊していた。

この艦の特徴を大雑把に説明するのであれば。空母の飛行甲板に相当する部分の上に町や学校の校舎があり、その学校に通学している生徒の家族も一緒に住んでいるということが特徴である。

その主たる聖グロリアーナ女学院の戦車道チームが隊列を組んで大洗学園高校戦車道チームの元へと向かってきた。

この学校はイギリスの仕来りに則って開校されたため、校内での生活様式や教育方針もイギリス式である。

そのため、戦車道において使用される戦車もイギリスで使用されてきたものを使用している。

この日、やって来たのはチャーチル歩兵戦車Mk.VII ×一両とマチルダII Mk.III/IV ×四両そして、巡航戦車クルセイダーMk.III ×二両である。

そのチームの隊長車と思われるチャーチルから降りてきた少女は日本人であるにもかかわらず同じ日本人とは異なった上品さを兼ね備えており、完全に向こうの人と言っても違和感がなかった。

 

「本日は急な申し込みにもかかわらず、試合を受けていただき感謝する」

 

「構いませんことよ。それにしても三台を除いて個性的な戦車ですわね。ですが、わたくしたちはどんな相手でも全力を尽くしますの。サンダースやプラウダ、菱王(ひしのう)みたいな下品な戦い方はいたしませんわ。騎士道精神でお互い頑張りましょう」

 

大洗側の戦車を見て揶揄うようなジョークを交えた言い回しをした後、我が校は他所とは違った気品があるの。というアピールも兼ねてその少女……『ダージリン』は桃に対してそう言う。

次に彼女は、弾間に目を向けた。

 

「ごきげんよう。戦車道初の男子生徒さん。貴方の噂は聞いていますわ。なんでも初日から国防軍の戦車を乗りこなしたそうね。貴方と戦うのを楽しみにしていましたの」

 

「は、はい。それは恐縮です」

 

弾間はまさか相手の大将から声を掛けられるとは思っておらず少し縮こまる。

 

「貴方、いい戦車に乗ってますわね。でも、聖グロリアーナ一の俊足たるわたくし、『ローズヒップ』がお相手致しますわっ!」

 

「はいっ!よろしくお願いします」

 

次に、自らをローズヒップと名乗る赤髪の少女が弾間に声を掛けると同時にハイテンションで武士のように名乗りを上げる。

ちょっとした自己紹介が済んだところで試合が開始されるのであった。

 

 

 

 

スタート地点のすぐそばにあった岩場で弾間チームのケホ車が偵察を行っており、早速聖グロリアーナ側の戦車を発見していた。

 

「マチルダ四両、クルセイダー二両、チャーチルが一両。みほちゃん、試しに一発撃ちこんでみるのはどう?」

 

『弾間くん。試しにマチルダに撃ち込んでみてください。相手が気づかないのであればそのまま狙撃を続けてください』

 

「了解っ!澤ちゃん。手前のマチルダを狙って!撃った後は、みんながいる方へ向かって。昨日の練習通りにやってくれればいいから」

 

みほの指示を受けた弾間が早速行動に移す。

ばれないようにゆっくりと別の場所へ移動して、最後尾から二番目を走っていたマチルダの後部装甲に砲弾を撃ち込むと、見事に撃破することが出来た。

また、弾間と一緒にいた一年生チームも最後尾で急停車したマチルダの側面に撃ち込むことに成功し、これも撃破した。

 

「やったぁ!弾間先輩のおかげですっ!」

 

「いや、この前みんなが工夫して努力したからだよ」

 

そのころ、チャーチル車内のダージリンは、持っていたマグカップをその手から落としそうになるほど、平常心を保ちながらもどこか熱くなろうとしていた。何せ、戦車道を始めたばかりのチームに奇襲を仕掛けられたからだった。

 

「やるわね。どうやら私たちは猫のしっぽではなく。眠れる獅子の尾を踏んでしまったみたいね……これは面白くなりそうですわ」

 

「ダージリンさま。いつもより熱くなっていますわね」

 

「そうですわ。ダージリンがここまで熱くなっているのを見るのは、いつぶりかしら」

 

同じ車内にいた『オレンジペコ』と『アッサム』が彼女の様子を見て物珍しさそうな表情で顔を合わせていた。その時、ローズヒップからの無線がチャーチルの車内に鳴り響いた。

 

『ダージリン様っ!ここはわたくしと『クランベリー』のクルセイダー小隊にお任せくださいっ!あのおチビさんを討ち取ってみせますわっ!』

 

「ええ、おまかせいたしますわ。さぁ、私を楽しませてごらんなさい」

 

ダージリンは無線を切ると同時に優雅に微笑んだ。

 

 

 

一方、みほ達はさらに奥に進んだ崖の上で迎撃の態勢を取っていた。みほ以外のメンバーは暇を持て余したのだろう。戦車の外に出てバレーボールやトランプ、携帯ゲーム機を持ち込んで遊んでいる者まで居るほどであった。

 

「みんな遊んじゃってるよね……」

 

「それにしても……英二くんと河嶋先輩は大丈夫なのでしょうか?」

「西住殿っ!ここは思い切って弾間殿と連絡を取るのはどうでしょうか」

 

「うん、そうだね」

 

みほが無線機に手を伸ばそうとした瞬間、先に弾間の方から無線が入った。

 

『クルセイダー二両がすぐそこまで来ているから、みほちゃん来てくれないかな?』

 

「はい、分かりました。みなさん、迎撃態勢を崩さないでください。私たちは行ってきます」

 

みほ達は待機していた他のチームに対してそう言うと、弾間達がいる方へと向かっていった。

この時弾間は、どういう状況であったかと言うと。ローズヒップが率いる二両のクルセイダーに追いかけ回されており、生徒会チームの38tと左右に交差しながら逃げていた。

 

「みんな、もう少しでみほちゃんが来るからそれまでに、練習したあれの準備をしておいて」

 

『了解っ!』

 

その間にも、二両のクルセイダーから執拗な攻撃が行われている。このフィールドの地形のせいもあり、クルセイダーはあまり速度が出せず。ちらほら見える段差などを避けながら進んでいるためか、それにイライラしながら執拗に攻撃を加えているといっても過言ではないだろう。

しかもその攻撃は、八つ当たりと言わんばかりに金色に塗装された生徒会チームの38tにばかり向けられている。

 

『くそっ!敵はなんで私たちばかり狙うんだっ!』

 

「金色に……塗装してるからじゃないですか?」

 

『弾間っ!それとこれは関係あると言いたいのか?!だったらもう少し私たちを援護してくれっ!』

 

味方である弾間の突っ込みにも動揺しつつ、桃は攻撃を浴びせ続けてくるクルセイダーに愚痴をこぼしていた。

しかし、道の状況が少しずつ安定してきているということもあり。相手の二台は徐々にスピードを上げてきている。

 

「これはまずいな。あと少しでみほちゃんと合流するとはいえ、このままだと側面を突かれるな……一か八かでやってみるか。みんなっ!練習したバックドロップ作戦をやるよっ!」

 

「みんなっ!掴まってっ!」

 

麻里奈がそう言った瞬間、ケホ車は急停車した後に後退を最高速度で始めた。

 

『気でも狂ったのかしら?楽にしてあげますわ』

 

ケホ車の左後ろにいたクランベリーのクルセイダーが後ろ向きに方向転換した途端、車体後部に衝撃と爆発音が響き、キューポラの隣から白旗が飛び出す。

 

「ヒーローは遅れてやって来るからかっこいいんだね……みほちゃん、待っていたよ!」

 

数百メートル先には、みほが乗るⅣ号戦車が仁王立ちのような感じで、停止していた。

 

『と、取り敢えずっ!猪口才な動きをする38tを撃破しなさいっ!』

 

ローズヒップは仲間が隣で撃破されたせいか。みほ達のⅣ号戦車に目もくれず、38tばかりを狙い続けた。

だが、それが災いして後方にいた弾間に気づかず、クランベリーがやられたように。ローズヒップのクルセイダーも後部に撃ち込まれて戦闘不能にされるのであった。

撃破された二両のクルセイダーを尻目に、弾間のケホ車は二両のクルセイダーの間を縫うようにして走り抜けていった。こうして、七対三という数的に有利な状況に持ち込んだのであった。

この状況を見て、聖グロリアーナ女学院戦車道チーム隊長、ダージリンは完全に熱くなっていた。

どれくらいかといえば、自動車やバイクのメーター針がレッドゾーンに入ってるくらいであった。

 

「おやりになりますわね。わたくしをここまで熱くさせるなんて……本場のイギリス人が戦争や恋では容赦がないということに則ってわたくしたちもひと暴れしてみましょうか。『ルクリリ』、貴女ももう一台のマチルダと一緒に来なさい。さぁ、ケホ乗りの騎士さん。もっとわたくしを楽しませてくださいな」

 

完全に本気モードに入った彼女に同調するように、二台のマチルダもチャーチルの両側面を囲むようにしてガードを固めている。

しばらくして道が開けると、その先には三台の戦車が崖の上で陣取っており。崖に繋がる左右の道にはそれぞれ一台ずつ戦車がダージリン達に砲口を向けていた。

 

 

 

作戦通り、敵戦車の数を減らしつつ。高低差を利用して車輌上部の薄い装甲を狙うという作戦は功を奏すように見えたが、守りを固めた残りの二台にはじき返されるばかりであった。

チャーチルの左側にいたマチルダこそ、ねこにゃー達が操縦する九八式中戦車チヌが履帯を切り、カエサル達が操縦するⅢ号突撃砲が撃破したものの、隙を突かれた二両は残っていたチャーチルとマチルダにそれぞれ撃破され、右側にいた梓たちのM3Leeもチャーチルによってあっさりと撃破された。

痺れを切らしたバレー部チームの八九式中戦車と38tが、M3が撃破された隙に左側から回り込んで背後を突こうとするが、二台の行動を察知していたマチルダが八九式を撃破した。

 

「後ろがガラ空きだっ!」

 

マチルダの後ろに回り込んだ桃がそう叫びながら砲弾を撃ち込んで見事に撃破するが、今度は逆に桃たちの38tがチャーチルによって撃破される。

 

「……残り二両ですわね。かかってきなさい」

 

噂をすればというやつだろうか、弾間とみほのケホとⅣ号が姿を現した。この二台は、大きな岩を盾替わりにしていた。

だが、この二台の主砲では、チャーチルの正面装甲を貫くのは難しく。一方的に弾かれ、履帯を切ろうにも。もう少し前に出たうえでの砲撃になるが百パーセント撃破されてしまう。ダージリンのチャーチルは徐々にその距離を詰めてくる。

 

「こうなったら私が囮になるしかないようだな。麻里奈ちゃん。バーンアウトで助走をつけてチャーチルの側面に回り込んで。佳奈ちゃんは履帯を切って!」

 

弾間が指示を出した途端、ケホ車はバーンアウトしながら勢いよく岩から飛び出した。

 

「待っていましたわ。騎士さん。撃てっ!」

 

ケホは、チャーチルによって履帯を撃たれるが、外れただけに留まり。今度は横滑りしながら履帯を撃ち、これを見事に切断する。しかもその時、弾間達が滑り落ちていく方向と同じようにチャーチルが坂の下の方へと滑り出してしまい、後ろがガラ空きになってしまった。

 

「しまったわ!」

 

ダージリンがそう言った瞬間、爆炎が巻き上がると同時にチャーチルの車体後部に強い衝撃が走り、砲塔の上から何かが飛び出したのであった。

 

 

 

 

煙とチャーチルの車体後部から上がっていた炎が収まって分かった光景は、ダージリンが乗っているチャーチルから白旗を出して停止しており。

その数メートル先では、同じように白旗を出したケホが側面を晒した状態で静かに停止していた。

みほ達のⅣ号戦車は傷一つなく。砲口からは、発射した後に出る煙が消えようとしていた。

 

「私たち……また勝ったんだ……」

 

「やったよ!みぽりん!」

 

「やりましたわ!みほさん」

 

「西住殿!それに他の皆さんも最高ですっ!」

 

「……英二それに、西住さんならやってくれると思った」

 

大洗学園高校の勝利を告げるアナウンスが流れる傍らで、大洗のメンバーが全員喜びに浸っていた。

対する相手チームの聖グロリアーナ女学院側も久しぶりに熱い戦いをして楽しかったのだろう。みほや弾間達をはじめとする大洗学園のメンバーに向けて拍手を送っている。

試合が終わり、帰りの支度をしていたみほ達のもとにダージリン達がやって来た。

 

「あなたが隊長さんですわね?」

 

「あっ、はい」

 

「あなた、お名前は?」

 

「……西住みほです」

 

「もしかして、西住流の?随分まほさんとは違うのね。それと……弾間くんだったかしら?今日は楽しませてもらったわ」

 

「弾間さま!次は公式戦でお会いしましょう。次こそは貴方を討ち取ってみせますわっ!」

 

「はい、僕も楽しみにしています」

 

ダージリン達が去ると、次に杏達がやって来た。

「いやぁ。勝っちゃったね。じゃあ、隊長は西住ちゃんにやってもらって。英二ちゃんは副隊長に格上げでどうかな?それと二人にこれ」

彼女の左にいた柚子がそれぞれにマグカップと紅茶、お菓子が入ったバスケットを手渡した。

 

「す、すごいっ!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶などを送らないんですっ!それに、弾間殿はローズヒップ殿個人から送られていますから……ということはっ!」

 

優花里が話の後半で少し顔を赤く染めた。弾間はこの辺りに至っては鈍感なのだろう。顔を傾げたままである。

 

「まぁ、絶対このままの調子で公式戦も頑張ろうっ!」

 

『おーっ!』

 

杏の一言と共に全員が声を上げた。神のいたずらというやつだろうか。強豪校をここまで本気にさせて勝利し、好敵手と認めさせたのである。

しかし、みほの脳裏では全国のライバルそして、越えなけらばならない存在である姉、『西住まほ』の像が浮かび上がったのである。

 

 




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第五話 作戦立案!もっとこそこそ作戦です!

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聖グロリアーナ女学院との練習試合が終わり、全国大会の対戦相手も決まった頃。

弾間はAチーム改め、あんこうチームのメンバーと共に戦車喫茶ルクレールに足を運んでおり。会話を楽しんでいた。

 

「いやぁ、練習試合の興奮は今でも忘れられませんっ!久川姉妹殿によるスリップ撃ちと五十鈴殿による一撃確殺の射撃!思い出すだけでも本当にっ!」

 

「ははっ、あの時は本当にひやひやしたよ。あのままゼロ距離射撃を食らってたらどうなっていたんだろうね」

 

優花里が興奮気味に語る傍らで、弾間も彼女の話に頷きながら試合の時の事を回想している。

しばらくして彼女がいつも通り戻ったかと思えば、今度は真剣な顔つきで次の対戦相手について語り始めた。

 

「でも、油断大敵です。次の相手である知波単学園は日本帝国時代の戦車を使用しているチームで、今の隊長に代替わりしてからは、この前の私たちのように囮を利用した上で相手を誘い込み、そこから狙撃役と突撃役に分かれての包囲殲滅を得意とする戦法を取ります。また、学校生活も由緒正しい生活様式が重んじられているそうです。そうですよね、西住殿っ!」

 

「はい。実は去年私が黒森峰にいた頃、準決勝でその学校と戦ったの。優花里さんが言ったように知波単学園は、狙撃役と突撃役に分かれて強固な装甲を誇る私たちの戦車を圧倒し、私とお姉ちゃんの二両のみが生き残って勝利を収めたの」

 

みほが知波単学園について改めて説明すると、弾間もかつて軍人であった勘や知恵を活かして考え事に耽り始めた。

彼としては、第二次世界大戦期におけるソ連軍による大量突撃の応用版ともいえる戦闘スタイルをとり、軽戦車や中戦車での大量突撃を図ったうえでの駆逐戦車による支援射撃を行う戦法を取ることが予想できたが、同時に彼なりの対抗手段が思い付いたのであった。

まだ戦車の保有台数が少ないこちら側に対して一斉に突撃を仕掛けてくるかもしれないということもあるだろう。

それを逆手に取り、ひたすら迎撃に徹する戦法であったが。いずれにせよ早期決着でなければならない。

 

「今度のフィールドはここ大洗町だったよね。街の設備をフル活用して持久戦に持ち込むのはどうかな?」

 

「確かに……では、『もっとこそこそ作戦』ということで作戦を練りましょう。そして今回は犠牲を減らすことを目標にしましょう」

 

『賛成っ!』

 

「副隊長?いえ……元でしたね」

 

全員が盛り上がろうとしていたところ、妙に威厳と落ち着きを加えた声がした。声がした方に顔を向けると、『黒森峰女学園』の制服を身に纏った二人の少女が立っていた。

その声の主であるベージュ色を少し混ぜた白髪の少女『逸見エリカ』と黒森峰女学園の戦車道チームの隊長であり、みほの姉である西住まほだった。

特に姉であるまほは妹のみほを睨みつけているのか再会して一安心したのかよく分からない表情であった。

 

「お姉ちゃん……」

「まだ戦車道をやっていたのね」

 

「お言葉ですが、あの試合でのみほさん判断は間違ってませんでした!」

 

「それに。彼女のおかげで僕たちは勝てたんですっ!」

 

「部外者は口を出さないでほしいわ。あなた達が強豪校に勝てたのもまぐれかもしれないに」

 

「行こう」

 

「はい、隊長」

 

「一回戦は知波単学園と当たるんでしょ?変な戦い方をしてこれ以上自分の姉と西住流に迷惑を掛けないようにしなさいね」

 

エリカは怯むどころか歯に衣着せぬような物言い方で受け流したうえ、みほに対しても同じように冷たいトーンで揶揄う言葉を浴びせる。

 

「何よその言い方?!」

 

「あまりにも失礼じゃ……」

 

「たかが一回勝っただけで舞い上がってるあなた達こそ戦車道に対して失礼じゃない?この大会は戦車道のイメージダウンになる学校は参加しないのが暗黙のルール」

 

「強豪校が有利になるように示し合わせて作ったルールとやらで負けたら恥ずかしいな」

 

「ふんっ、精進することね」

 

麻子にそう言われた直後、エリカはそう言いながらまほと共に何処かへと去っていった。

沙織は彼女が去るまでその背中をキッと睨み続けるのであった。

 

「あの、黒森峰は去年の準優勝校ですよ。それまでは九連覇してて……」

 

「えっ!そうなの?!」

 

「まぁまぁ。せっかく来たのでケーキ頼みましょうよ」

 

みほがどこか気まずそうにしているのを見た華と他の三人は、我に返って彼女のために話題を切り替えるのであった。

 

 

 

「優花里さん、わざわざそんな格好をしてまで知波単学園の学園艦に乗り込んでくれたんだ」

 

「これも他の皆さんや西住殿のためですっ!」

 

優花里はフ〇ミリーマートの従業員の制服を身に纏っており。彼女によれば、コンビニの定期便に乗り込んで学園艦に潜り込んだそうだ。

その苦労を示すかのように彼女は『実録・知波単学園』なる動画を撮ってきており、肝心のチーム編成やそのチームの隊長や構成員などについて詳しくまとめていたのであった。

 

「反則にはならないのか?」

 

「ご安心をっ!試合前の偵察行動は承認されています。西住殿、オフラインレベルの仮編集ですが、参考になさってください」

 

彼女はそう言うと、みほにUSBメモリーを手渡す。

 

「ありがとう。秋山さんのおかげでフラッグ車も分かったし、頑張って戦術立ててみるっ!」

 

「無事で良かったよゆかりん」

 

「怪我はないのか?」

 

「ドキドキしました」

 

「秋山大尉が無事に帰還できて、小官は嬉しく思いますっ!」

 

みほや他の四人は、彼女の労を労うと同時に感謝の言葉を口にするのであった。そんな五人に対して優花里も改めて感謝の言葉を口にする。

「心配してくれて恐縮です。わざわざ家まで来てもらって」

 

「いいえ。おかげで秋山さんの部屋も見れましたし……」

 

「あの……部屋に来てくれたのは、皆さんが初めてなんです。私、ずっと戦車が友達だったので」

 

優花里の部屋はそれを煌びやかにさせるかのように、戦車をはじめとしたミリタリーグッズで覆われており。本棚の書物といったものまで戦車一色であった。

また、彼女の思い出も戦車好きを物語るかのように戦車一色であった。

 

「それで、何でパンチパーマだったの?」

 

「くせ毛が嫌だったし、父がしているのを見てカッコいいと思ったからで、中学からはパーマ禁止だったんで」

 

「友達が出来なかったのはこの髪型のせいじゃ……」

 

「何にせよ一回戦を突破せねば……」

 

「頑張りましょう」

 

「一番頑張らなきゃいけないのは麻子でしょ?」

 

「何で?」

 

「明日から朝練はじまるよ」

 

「えっ。まぁ、そのための目覚まし役兼専属ドライバーがいるからな」

 

麻子はジト目で弾間の方を見つめながらそう言うのであった。

 

 

 

ある日の放課後、弾間を筆頭に各チームは自主練習に励んでいた。弾間や沙織といったチームメイトたちは彼女を労って先に帰らせた後、それぞれ自分のチームと他のチームと交流をしながら弱点を克服すべく練習をはじめた。

 

「こちらフェレット。アリクイさん、前の目標を撃破せよ!」

 

『了解』

 

Fチーム改め、弾間のチームは『フェレットさんチーム』という名前になり。ケホの車載機関銃の横には、大洗学園の校章が小さく描かれ、砲塔の左右にはニッコリと笑ったフェレットの顔が描かれていた。

弾間達が戦闘機でいうところのアグレッサー機の代わりを務めつつ各チームを指導しており、試合の時と同じように本気を出して練習に臨んでいた。本気を出すといってもビシバシと口でいいつつ身体で分からせるというやり方ではなく。

伸ばすべき個性は褒めながらその調子で続けさせ、そのチームが苦手とする操作などがあれば他のチームのやり方を教え込むか、彼自身が前世で国防軍の機甲教導連隊の隊長を務めていた頃の知恵も巡らせながらアドバイスをしつつ相手の気に障らないように褒めながら他のチームを指導していた。

それが功を奏してか、アリクイさんチームの面々は射撃や隠蔽に長けるようになったうえ、ちょこまかと動き回るケホを一発で仕留めることが出来るようになり。

苦手としていた戦車の運転まで他に劣らないくらい出来るようになっていた。

 

「お見事です!『ぴよたん』先輩。『ももがー』ちゃん、その調子だよっ!ねこにゃーちゃんもその調子で二人を引っ張っていってね!」

「ありがとうっ!弾間くんのおかげっちゃ」

 

「弾間先輩のおかげで操縦に慣れたももっ!」

 

「英二くんは教えるのが上手いのにゃー」

 

アリクイさんチームの三人がそう言いつつ、遠距離にある小さな的に弾を命中させる。しかもそれは、ちょうど真ん中を貫いているのであった。

この教え方が功を奏したというべきだろうか。他のチームもねこにゃー達アリクイさんチームと同じように上達の様子を見せつつあった。

 

「冷泉さん及び久川姉妹直伝っ!ドリフトターン撃ちっ!」

 

『そーれっ!』

 

典子の指示に合わせて、操縦手の『河西忍』と砲手の『佐々木あけび』、通信手である『近藤妙子』達が掛け声を上げると、彼女たちが操る八九式中戦車はドリフトターンを決め、最高速度で動き回っていたケホの前に割り込むと、砲撃を見事に命中させる。

 

「さすが、バレー部!そのチームプレーを大切にして本番もガンガンやっていこう!」

 

「はいっ!副隊長補佐いえ……弾間副隊長のアドバイスを大切にしますっ!」

 

典子はキューポラから身体を出しながら、弾間に対して敬礼をピシッと決める。

そろそろ、日が暮れようとしていたため。残っていたチームを集めて車庫の前まで戻ると、みほとあんこうチームのメンバーが話をしていた。彼女は戻って来た弾間と目が合うと優しく微笑んだ。

 

「英二くん……本当は私がみんなにこうすべきなのに」

 

「いや、みほちゃんは隊長もやって作戦も立てて、その作戦も他のチームからの意見も積極的に聞き入れているし。それに、僕も会長から副隊長を任されたから隊長の代わりを務めてこそ副隊長だもの」

 

「西住隊長っ!私たち、この前の試合で結局一台も撃破出来なかったのが悔しくて。こうして弾間副隊長に教えてもらっているんです」

 

「アヒルさんチームと同じように僕たちも弾間くんと西住さんのアドバイスを応用しながらゲームの世界だけじゃなくて、現実でもいっぱい撃破したいから練習してたんだ」

 

「そうそう。西住先輩達の動きがカッコよくて、試合の時からやられるのを減らすことをずっと目標にしていたんです!」

 

「同じく。我々もあの試合から隊長についていくと決めたんですっ!」

 

彼の後ろから、典子やねこにゃー、梓、カエサル達がみほに対して尊敬の意を交えてそう言う。

 

「ありがとう……みんなが頑張ってくれて嬉しいな。私ももっと頑張らなきゃ」

 

みほは改めてその場にいた全員に礼の言葉を口にし、また微笑むのであった。

この日から戦車道を選択した生徒たちは暇を見つけて練習に励み、他のチームメイト達と交流を重ね、また己の技に磨きをかけていくのであった。

 

 

 

 

いよいよ試合前日となった日の放課後、弾間はみほが借りてるマンションに誘われ、一緒に作戦の打ち合わせをしていた。前回の練習試合と同じように、フィールドは大洗町であった。今度は半分だけでなく、町全体がフィールドであった。

作戦としては、試合の規則違反にならないようにしつつ隠蔽による攻撃または狙撃を重点においたものである。

相手のチームは突撃を得意とし、その上火力においても圧倒的に有利である。一見すると相手側が有利に見えるのだが。

相手が運用する戦車は日本戦車であるためほとんど装甲が薄く、一撃で撃破出来る可能性が高いのである。

相手の編成としては九七式中戦車・チヘ×四両と試製中戦車・チハ×一両、九五式軽戦車・ハ号改(史実における四式軽戦車・ケヌ)×三両、九九式四七粍自走砲・ホル×二両の編成であった。

 

「うーん。日本戦車らしく車高が低いものばかりだね。特にホル車はちょこまかと動き回った上に一方的に突っ込んで来そうかも」

 

「じゃあ、みほちゃん。今回も僕が囮役になろうかな?大丈夫っ!上手いこと引き連れて来るし。他の皆を小路地にでも隠れさせて、そこに入って来た相手を一網打尽にするのはどうかな?」

 

「それ、いいかも。そうすれば犠牲も抑えることができるねっ!じゃあ、それで決まりでっ!」

 

作戦の内容に応用を加えて、明確に対知波単学園作戦を立案させたのであった。試合前夜での付け加えであるが、とても分かりやすくまとめられており。試合当日の準備中にでも説明すればすぐに理解できる内容であった。

 

「ありがとう。じゃあ、僕は帰るよ。おじゃまし……」

 

「待って。英二くん」

 

ここで、玄関へと向かう弾間をみほが引き留める。

 

「どうしたの?」

 

「……よかったら今晩はこのまま居てくれないかな?この前ご飯も連れて行ってくれたし。お返しと言ってはなんだけど。ご飯も作るよ……」

 

普段はあわあわして、恥ずかしがり屋さんもしくは引っ込み思案といった感じの彼女であるが。今の彼女は若干その感じを出しつつもはっきりと弾間に対してそう言うのだった。

彼はいつものように優しく微笑むと、「うん。いいよ」と返事をするのであった。

 

 




ありがとうございました!
皆さまのアドバイスや評価、ご感想などお待ちしておりますm(_ _)m
最後になりますが。劇中の試合の面で設定を変え、対決する高校を増やすことにしました。
知波単学園→???(ハンガリーモデルの学校を予定)→後は原作通りですが、ここでも改変予定あり。
因みに、この世界の日本での九七式中戦車は史実のチヘになります。なので、チハはチニのように試製戦車として作られたという事にします。


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第六話 初陣!突撃名手、知波単学園!

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!


試合当日、準備に勤しんでいた大洗学園戦車道チーム一行のもとへ知波単学園の制服を着た三人の少女達が挨拶にやって来た。

 

「はじめまして、角谷殿。私は知波単学園戦車道チーム隊長、『西絹代』でありますっ!」

 

「こちらこそはじめまして、西ちゃん。今日はよろしくね」

 

大和撫子という容姿が似合う彼女は杏に対して軽く頭を下げる。それに対して杏も愛想よく挨拶を返し、絹代と握手を交わすのであった。

もはや恒例行事化したというべきであろう。絹代は杏と握手を終えると、みほと弾間の方へと歩いて行った。

 

「西住殿っ!貴女の事は存じ上げておりますっ!今日はよろしくお願い申し上げます!」

 

「あ、はい。それはどうも。よろしくお願いいたします」

 

「弾間殿っ!貴方の事も聞いております。わたくしも国防軍の戦車に乗ったあなたの姿を見てみたいと思っていたのですが。今日お会いできて光栄でありますっ!」

 

「こちらこそ、本日はよろしくお願いします」

 

一通りの挨拶を終え、試合の準備に仕上げをかけていくのであった。戦車道において、試合前に相手と挨拶をする事は特に義務付けられているというわけではないのだが。対戦相手を先に知ることで、どのような相手かを知ることが出来ることはもちろん。こうした上で試合を経た後に友好校同士になる事がよくあるそうだ。

絹代もそれを兼ねてやってきたのだろう。それもあってか、みほ達大洗学園チームにとっては好印象が大きかったのである。

 

「今回の試合形式は殲滅戦とする。それでは、大洗学園と知波単学園の試合を開始する」

 

日本戦車道連盟から派遣された審査員の一人である『篠川香音』が試合開始の合図を告げると、再び杏と絹代は握手をするのであった。二人は別れてそれぞれのチームの元へ向かった。

 

 

 

試合が始まり、みほ達は早速作戦通りに動き出すのであった。囮役の弾間達フェレットさんチームは相手のスタート地点付近へと向かっていった。

今回のフィールドは町中ということもあり、周囲の建造物に気を使いながら走行している。相手に遭遇した際、間違っても普通車一台分の広さしかない路地に入ってはいけないということを念頭に置きながら普段から抜け道として使っている道を駆け抜ける。

 

「麻里奈ちゃん、そろそろ大通りに差し掛かるから減速しつつ大通りに進入していって」

 

「はいはーい」

 

弾間は指示を出しながら、キューポラから身体を乗り出したりしてさらに周囲への警戒を強める。

このまま安心して大通りに出られると思った瞬間、三両のハ号改が弾間達が出ようとしていた路地に入って来た。彼と同じようにキューポラから身体を乗り出して周囲の警戒に当たっていた丸眼鏡をかけたおさげ髪の低身長の選手……『福田』と目が合い、数秒間お互いに見つめ合ってしまった。

 

「……みんなっ!逃げるよ!」

 

弾間がそう言うと、麻里奈は慌ててケホをもと来た方向に旋回すると同時にアクセルをべた踏みして全速力で駆け抜けるのであった。

 

『西隊長!敵のケホ車を見つけました!場所は……』

 

福田は隊長である絹代に場所を明確に知らせつつ、もう一台のハ号改と共に弾間のケホを追いかけ始めた。やはり、こちらも軽戦車であるためか。持ち前の機動力と小回りを活かして一回り大きいケホに追い打ちをかける。しかし、加速し過ぎたせいか、福田の後ろを走っていたハ号改がカーブを曲がり切れず。斜め前にあった肴屋本店という店の入り口に派手に突っ込んで扉などを破壊してしまった。

 

『あぁ……やっちゃった。ごめんなさい!』

 

店に突っ込んでしまったハ号改の乗員は、言葉と内心で謝りながらその場を去っていったが。その店の主は怒っておらず、逆に喜んでおり。両方のチームを応援し始めたようだった。

 

「相手にとって不足はないっ!『玉田』、私についてこいっ!他の者は十分周囲に警戒しつつ住宅地に入れ」

 

『了解っ!』

 

絹代も玉田が乗るチヘを連れて、別の路地へ入っていく。それに合わせて他の車輌も幾つかの道に入って分かれていくのであった。

 

 

 

 

ある一台のチヘが走行中に、通り過ぎようとしていたマンションの駐車場のブザー音が鳴っているということに気づいたのか、後退して駐車場の方へ車体を旋回する。

このチヘの車長を務めている『細見』は、「無駄なことを」と呟きながらシャッターが開こうとしていた駐車場の前へとチヘを進める。

チヘを前に進めると同時にシャッターが開き始める。名倉はほくそ笑みながら下から空くシャッターを見つめている。

それと同時にチヘの背後から、何かがその背面装甲を覗き込むのである。

間もなくシャッターが開き終わると、そこには何も居らず。彼女は壁にある鏡を見ると、息を呑んだ。

 

「う、後ろに敵戦車がっ!」

 

しかし、時すでに遅し。隠れていたアヒルさんチームの八九式中戦車により、背後から攻撃を浴びせられると、ニュートラルに入れていたチヘは衝撃で前に進み、間隔を空けてもう一発撃ち込まれたため、チヘは前の屋内駐車場に叩き込まれた。

八九式より発展した九七式中戦車とは言えど、ゼロ距離射撃には耐えきれず。白旗を上げ、戦闘不能になってしまうのであった。

 

「こちらアヒルさんチーム、敵戦車の撃破を確認っ!初撃破ですっ!」

 

『こちらあんこう。すごいですっ!アヒルさん。引き続き周囲に警戒しつつ、次はカバさんと合流してください』

 

「了解っ!」

 

典子たちアヒルさんチームは、その場を離れてカバさんチームの元へ向かうのであった。

一方、弾間は工事中だった道の右側にあった路地に入り、二両のハ号改を誘い込んでいた。

この路地の出口にはカバさんチームのⅢ号突撃砲が待ち構えており、そこに入って来た三両の獲物がゴキブリホイホイに入って来たゴキブリや他の害虫よろしく、まんまと罠に掛かる方式であった。

それを知る由もなく入って来た二両のハ号改は、早速目の前に現れたⅢ号突撃砲を前に急停車し、後退しようとするが。

一両が三突の攻撃により、完全に撃破され。残ったもう一両が路地から出てもと来た道を辿って逃げようとするが、回り込んできたケホによってこちらも撃破されるのであった。

 

「こちらフェレットさんチーム、カバさんと共に二両撃破っ!一両は東へ逃走、引き続き周囲の警戒を継続してください。フェレットさんは再び偵察に出ますっ!」

 

『わかりました。こちらに来る際は、橋や路地といった所に注意してください』

 

弾間がみほと通信を終えると、カバさんチームや合流して来たアヒルさんチームの二チームに別れを告げ、みほ達あんこうチームの元へ向かうのであった。

 

 

 

 

知波単学園戦車道チームは一度別れたチーム同士が合流し、作戦会議をしていた。

何せ序盤で三両も撃破され、焦りを感じていたからだった。

相手の大洗学園は町の設備を活かしての強襲や、誘い込んだうえで待ち伏せさせていた高火力な自走砲や隙をついて回り込んできた軽戦車によって殲滅されたのだ。

 

「「西隊長、突撃の指示をっ!」」

 

「そうですっ!このまま仲間をおいて逃げ出したことが腑に落ちないので、突撃の指示をっ!」

 

「でもなぁ。ここは入り組んでいるし、むやみやたらに突撃して福田が率いていた二輌のハ号改を撃破した三突と遭遇したら面倒だろ?せめて、突撃をするにはあの大通りか少し広めの道でないと」

 

隊長である絹代は今にも全速力で走り出しそうなメンバーの要求を抑え付けるのに奔走しつつ、何か策は無いかと試行錯誤していた。このまま大通りをウロウロしていて相手に見つかればまずいことになりかねない。

何となく顔を上げたときに、九九式四七粍自走砲・ホルが彼女の視界に入る。そして、絹代は何かを思い付いた。

 

「よし、こうなれば私自身が囮になるしかないようだな。『堀川』、『谷岡』は私についてこい。他のメンバーは引き続き手分けして敵を探し出せっ!」

 

「しかし、隊長。いいのですか?隊長のチハと二両のホルだけで」

 

「問題ない。試作品であるチハとて立派な戦車だ。それに、この砲であっても我が知波単学園戦車道の本分である突撃を敢行すれば、さすがの相手も撃破出来るぞ」

 

「「おぉ!なるほど」」

 

「では、諸君の健闘を祈るっ!」

 

「「西隊長に敬礼っ!!」」

 

絹代が乗るチハが二輌のホルを引き連れてすぐそばの交差点を右折していくと、他のメンバーもそれぞれ別の道へと入っていった。

 

 

 

弾間は、ケホの低い車高を活かして住宅の角や路地に隠れたりしながら敵の位置を他のメンバーに知らせたりして安全な場所へと誘導しつつ、いつ相手の前に飛び出すかという機会をうかがっていた。

 

「必死になって探してるね。ほとんど二両でペアになってるし……」

 

「しかも、住宅地を全速力で走り回っているからいつでも突撃する気満々だわ……」

 

「こっちが速度面で勝っていてもこんな狭いところで走りでの勝負に出ても二輌一緒に居たら突撃された挙句、サンドイッチにされちゃうかも。どうする?英二くん」

 

「そうだね。じゃあ、次通った戦車の後をつけてみようか。このままだといつか僕たちも見つかるし、他のチームも相手に見つかっちゃうから」

 

富田、久川姉妹の三人と話をしていた弾間は現状がマズいと考えていたところ、ちょうど一両のホルがケホの前を通り過ぎていった。

ゆっくりと前へ出て周囲の安全を確認し、ホルの後を追い始める。

ホルは弾間達のケホが後をつけてきているということにまだ気づかないのだろう。そのままT字路を左に曲がる。そのまま、同じように左へ曲がろうとするが。カーブミラーを見ると、右側にもう一台のホルとチハが待ち伏せしているのが弾間の目に入った。

 

「ストップ!そこに敵がっ!」

 

操縦手の麻里奈が急ブレーキをかけると、ケホがT字路に入ろうとしていたところで止まり。右側から二発の砲声が響く。止まった距離もあと数センチずれていたら確実に撃破されていただろう。

彼女はケホを最高速度で後退させると、もと来た道の方へ車体を旋回させて前進する。数十メートル先の交差点を通り過ぎすると、今度は左右から合わせて四両の相手チームの戦車が出てくる。

 

「こちらフェレットさんチーム。敵七輌に見つかりました。これより大通りに出ますっ!」

 

『わかりました。全車両でそちらに向かいます』

 

弾間がみほと通信を行っている間も相手からの砲撃に加え、広くなりつつある道幅を利用して一両のチハが追い越しを掛けようとするが、間もなくして大通りに出るのであった。

 

 

 

みほは隠れていた各チームを呼び寄せて大通りに向かっていた。彼女は殲滅戦の特徴である全ての相手車輌撃破というものを活かして早期決戦に臨む姿勢を取っていた。

彼女としては幾つかの地点にチームを待機させ、弾間が相手を引き連れて出てきたところで包囲殲滅するという戦法である。

間もなくして弾間のケホが勢いよく一つの路地から飛び出すと左へ曲がり、みほ達あんこうチームと杏達のカメさんチームの方へ向かって来たのである。

 

「みんなっ!お客さんがたくさん来るよっ!」

 

「フェレットさんへ、分かりました。皆さん!これから迎撃するので……『ウェルカム作戦』ですっ!」

 

「「了解!!」」

 

みほが全員と無線を終えると同時に、弾間が出て来たのと同じ路地から絹代が乗るチハを先頭に七両の戦車が飛び出してきた。

 

「撃てっ!」

 

みほがそう言うと同時に全車両から砲弾が放たれる。しかし相手は全ての弾を避けきり、他の車輌に向かって突撃を開始するのであった。

相手は砲弾を巧みに避けながら走行し、徐々に距離を詰めていく。なので、双方が互いに攻撃を浴びせる頃にはほとんどが刺し違えるという形で双方ともに数を減らしているのであった。

一気にお互いの数が減り、残ったのはみほ達あんこうチームと弾間のフェレットさんチーム、杏のカメさんチームと相手がチハとハ号改、ホルの三両であった。

 

「みなさん、一気にケリをつけますっ!刺し違えるフリをして相手の側面に回り込みますっ!」

 

みほがそう言うと同時に三輌が前進し、絹代たちに向かっていく。その相手も全速力でまっすぐ進んできている。

 

「せーのっ!」

 

みほがそう合図すると同時に三輌は絹代たちを躱すと、ドリフトターンを決め、焦って旋回しようとしていた相手の三輌に対して攻撃を浴びせる。三輌に砲撃を浴びせたためか、黒煙が広がる。

まだ戦闘不能になっていない可能性があるため、それぞれの装填手が再び弾を装填する。

 

「もう少しで煙が晴れます」

 

「……やったか?」

 

「どうだろね」

 

みほや弾間、杏といった車長たちが様子をうかがっていると、煙が晴れる。それから分かった光景が三輌とも上部から白旗を上げて沈黙しているというものであった。

 

 

 

 

『知波単学園全車両戦闘不能っ!よって大洗学園高校の勝利っ!』

観客席では、歓声が上がり。みほ達がいる現場では他のチームが歓喜に満ちている声で溢れかえっているのであった。

彼女は勝ったという実感がわかないのだろう。Ⅳ号戦車の外に出て撃破された知波単学園の戦車を見つめていると、沙織が彼女に抱きつく。

 

「勝ったよみぽりんっ!」

 

「やりましたねっ!西住殿!」

 

「みほさん。勝てましたねっ!」

 

「う、うん。そうだね」

 

「「おーいっ!西住隊長」」

 

みほが声がした方を見ると、撃破された車輛から他のメンバーが彼女のもとに走ってきて喜びを分かち合っている。そのテンションは試合が終わっても続いているのであった。

 

「いやー西住ちゃん、勝っちゃったね。河嶋もそのままの調子で装填役やってねー。あと、英二ちゃんも囮役ご苦労さん。そして、みんなもよく頑張ったね」

 

杏がみほをはじめとするメンバーに労いの言葉を掛けていると、絹代がみほのもとへやって来た。

 

「西住殿っ!それに、弾間殿。今日は学ばせて頂きました。またいつか戦える日を楽しみにしていますっ!」

 

「いえ、こちらこそ西さんの勇猛果敢さがすごいと感じました」

「僕も西さんの巧妙な戦術に驚きました。あと、チームでの連携プレーが良かったなと感じました」

 

「ありがとうございますっ!二人の言葉を教訓に精進いたします。最後にもう一度お願いします」

 

絹代が右手を差し出すと、みほと弾間は彼女と握手を交わすのであった。

この試合の観戦に訪れていたダージリンやオレンジペコ、ローズヒップの三人は、この光景を静かに見守ると同時にどこか微笑ましさと和やかさを感じていた。

 

『……目が覚めたみたいね。次は上手くいくのかしら?』

 

ダージリン達と同じように、試合に訪れていたエリカはそう言いながら共に来ていたまほとその場を去っていくのであった。

 

 




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第七話 新しい仲間達と新たな戦車が見つかります!

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!



大洗学園高校の生徒会長室では、次の試合相手である『二重高校』に対抗するための作戦会議が行われていた。

二重高校の特徴は主にハンガリーの影響を受け、その仕来りに則った校風と教育方針、学校生活が行われている学校である。

また、ハンガリーだけでなく。少なからずではあるが、オーストリアと旧チェコスロバキアの影響も受けているのであった。

 

「次の対戦相手である二重高校は、黒森峰女学園の戦術を基にした戦術を繰り出してくる。相手の44Mタシュ、トゥラーンⅠ型、トルディⅢ型、38t戦車、ズリーニィⅡ突撃砲といったバランスの取れた編成だ。今回の会場は去年の第六十二回戦車道大会の決勝で使用されたステージのようだ。西住、この会場を覚えている限りでいいから説明してくれないか?」

 

「はい。……ええっと。峠道が多いフィールドで、登り切った先にある広い丘陵が特徴的です。でも、峠道は麓と頂上付近は道幅が広いのですが。中間地点に近づくにつれ、道幅は狭くなって来ます。なので、敵に遭遇した際は迎撃に徹するか突破しかありません。じゃないと、あそこは地盤がよくないので、砲弾が地面にばかり着弾すると……」

 

「なるほど。では、なるべく大人数で移動せず。少人数で移動し、こちらに誘導するという戦術を取るのはどうだ?」

 

桃にフィールドの特徴を聞かれたみほが自身の身に起きた出来事を交えながら丁寧に説明すると、彼女はみほの考えを察したのだろう。そういった事故を未然に防ぐための作戦をみほに提案した。

 

「それはいいと思います。でも、相手も似たような戦法を取ると想定されますし……それにタシュの正面装甲の硬さを利用して強引に突破するのではないのでしょうか?」

 

「そうだな。せめて強力な戦車が無いと……」

 

44Mタシュは二人の悩みの種となっていた。我慢を重ね、ひたすら迎撃に徹するかこちらから攻めるかでの戦略上において厄介な存在であった。

しかし、みほは二重高校が用いる戦術よりもこのフィールドの地形の事が心配であった。

彼女はかつて、決勝でこのフィールドの中腹部で自分のチームのⅢ号戦車が氾濫する川に転落した際に、自身が搭乗していた戦車から降りてⅢ号の搭乗員であった『赤星小梅』などを助け出したが。

自身が離れたために指揮系統はズタズタになり。

隙をついたプラウダ高校側の攻撃により、彼女が乗っていたフラッグ車が撃破されたのであった。

結果としてこれはみほの心に深いトラウマを残したうえ、自身の母である『西住しほ』から破門されたのだった。

 

「大丈夫みぽりん?気分悪そうだけど」

 

「いや、何でもないよ。それより相手がどう出るかを考えないと」

 

「まぁまぁ、もう少しでわかることだからリラックスだよ。それに、いい話がそろそろ上がって来るよ」

 

杏がそう言ったと同時に生徒会長室の扉が勢いよく開いた。みほ達が扉の方に目を向けると、そこにはフ〇ミリーマートの制服を着た優花里と自動車部の『ナカジマ』と久川姉妹が立っていた。

 

「秋山優花里、ただいま戻りましたーっ!」

 

「その格好は……」

 

「優花里さん、また行ってきたんだ」

 

「おぉ、ありがとう。秋山」

 

「秋山ちゃん偵察ご苦労さん。それに、ナカジマちゃん達。アレはもう復活しそうなの?」

 

「はい。アレこと、E-25ですが。今まで修理してきた戦車より状態がそれほどひどくなく。ちょっと不安な部分とかを綺麗にすれば普通に動きそうです。すぐに出来るのでしばしお待ちを」

 

因みに、E-25は教職員が使う駐車場の裏のかなり分かりにくいところに秘密兵器と言わんばかりにモスボール状態で保管されていたそうだ。

 

「い、E-25ですかっ?!あ、今はそれどころじゃなかった。これどうぞ」

 

優花里は早速戦車好きの姿をさらけ出すが、すぐに自制して本題に戻るべくポケットからUSBメモリを取り出したのであった。

間もなくして『潜入!今度は二重高校』というタイトルで編集された動画が生徒会長室に流れる。

今回も彼女は学校の特徴やチームの編成や隊長、その構成員などについて詳しくまとめていたのであった。

動画が流れている中でみほは、隊長の映像が流れた瞬間。思わず「あっ」と声を漏らした。

 

「西住殿、隊長の『ミクローシュ』さんと知り合いなんですか?」

 

「うん。みっちゃんいや、ミクローシュさんとは黒森峰の中等部で一緒だったからよく遊んだりしてたの」

 

みほは、そう言いながら動画に映る彼女の姿を見つめると同時にどこか懐かしい感覚に耽るのであった。

間も無くして動画が終わると、みほを始めとするメンバーは戦々恐々とした。

 

「だが、今度の試合も勝たねばならんな」

 

「そうだねー。あっそろそろあの子達が来る時間だね」

 

「はい。えーっと……たしか菱王(ひしのう)学院から転校してきた…」

 

柚子が誰かの名前を言おうとした途端、生徒会長室の扉にノック音が響く。

杏が「来たみたいだねー」と言いながら立ち上がって自ら扉を叩いた者達を迎い入れるのだった。

そして、ドアから入ってきたのは、三人とも一年生と思われる女子生徒であった。三人はみほと目が合うと、彼女に対して深く頭を下げるのであった。

 

「あなた達は、もしかして……」

 

「お久しぶりです。みほさん。今日からここでお世話になります」

 

「「お世話になりますっ!!」」

 

三人が頭を上げると同時にみほは嬉しそうに彼女達の前まで歩み寄った。

「『大友真美』さんに『水野志乃』さん。そして、『木村早苗』さん。また会えてよかったっ!けど、どうしてここに?」

 

「あたし達、菱王の戦車道のやり方に嫌気が差してここへ来たんです」

 

「姉貴と同じく、あたしも嫌気が差して来ました。でも、どうしても戦車道がやりたくて転校してきたんです。ここならまた変われる気がして」

 

「私も二人と同じ理由ですが。そんな時にみほさんがここに居ると聞き、いても立っても居られなくてこうしてやって来ました」

 

「そうなんだ。でも、三人が元気そうで良かった」

 

その傍で沙織と優花里、華や麻子といったメンバーのほか、杏などの生徒会メンバーもみほの人望の厚さに驚いていた。

 

「というわけでE-25に乗るメンバーも決まったねぇ。早速で悪いんだけど、E-25のところに来て欲しいんだよねー」

 

「はい、分かりました。志乃、早苗。行くわよ」

 

「「はいっ!」」

 

大友を始めとする三人は、杏の後について行き。みほ達もその後について行くのであった。

 

 

 

戦車道用のグラウンドでは、今日も他のチームが練習に励んでいた。

しかし、今日は弾間が一人の男子生徒を自身の戦車に乗せて個別指導していた。

 

「おっいいねぇ。そのままの調子で続けろよたかし」

 

「英二は相変わらず教え方が上手いなぁ。しかし、戦車砲というものはシュトリヒといった数値があるけど。ライフルと違った刺激というか、独特な楽しさがあるな」

 

弾間の横に座るのは、彼と同様数少ない男子生徒の一人である『安川たかし』であった。

彼は中学校から弾間と一緒であると同時に彼と同じくライフル射撃部に所属し、その界隈において二人で名を馳せた仲であった。

そんな彼が戦車道を始めた理由は、せっかく男子禁制が解かれたうえ。その友人が成果を叩き出し、自分もその成果を感じてみたい。というものと憧れた人物がこの学校の戦車道を履修していたからだった。

そう、あんこうチームの射撃手を務める五十鈴華の存在だった。憧れたといっても恋愛感情的な意味では無く、俗に言う友達以上恋人未満の仲になりたいからだった。

 

「さすが全国大会準優勝者っ!このままの調子でティーガーの正面装甲なんかぶち抜いてしまえっ!」

 

「いや、ケホでアレの正面装甲をぶち抜くのは無理だろ。ははっ」

 

たかしは弾間と談笑しながら目の前の的の真ん中をぶち抜いていく。こうして二人が練習に集中していたところ、みほや杏達が見慣れない三人の少女を連れて来た。

次に杏は弾間達が乗るケホに向かって手招きをしながら彼らを呼んでいるのであった。

 

「角谷会長が呼んでいるな。行こうか」

 

「そうだね。何の用だろう」

 

二人がケホから降りて彼女たちのもとへ向かっていくと、杏はニコニコしながらたかしに声を掛けた。

 

「やぁやぁ安川君。もう君が乗る戦車が決まったんだよねー。因みにアレね」

 

杏はE-25を指さしながらたかしにそう告げるのであった。

E-25は四人乗りであるため、彼と菱王学院から来た三人を合わせれば、ちょうど人数が合うのであった。

 

「西住ちゃん。なんかいいチーム名とか無いの?」

 

「E-25は、速くて隠蔽率が高いので……キツネさんチームということでどうですか?」

 

「はいっ!異論はありません」

 

「あっ。お名前は?僕は安川たかしといいます。二年生ですがよろしくお願いします」

 

「はい。菱王学院から転校してきた一年生の大友といいます。こちらこそよろしくお願いします」

 

こうして新しい仲間となった大友や水野、木村の三人と弾間の友人であるたかし達によってキツネさんチームが成立したのであった。

 

 

 

試合まであと四日という日に迫ったある日、生徒会メンバーやみほと華は一緒にかつて学園が保有してたとされる戦車に関する書類の整理をしていた。

資料はファイルやホッチキス止めした紙でまとめられており、保管されている場所などが明確に記されているのであった。

しかし、かつて保有していたとさされる戦車のほとんどは他校に売却されるか最終的に誰の手に渡ったのかよく分からない状態であった。

 

「残っているのはルノーB1bisとポルシェティーガーだね」

 

「両方とも重戦車ですね。今度の試合には間に合わなさそうですけど、二重高校戦後には何とか動きそうですね」

 

柚子と華の二人はそう言いながら二両の資料を杏に手渡す。

資料を手渡された彼女はじっくり眺めながらみほに声を掛ける。

 

「西住ちゃんのおかげでチームもいい感じにまとまって来たしホントにありがとう。これからもよろしくね」

 

「会長の言う通りです。西住、お前の人望の厚さには恐れ入った。この調子で指導を続けてくれ。そして、絶対に優勝するぞ」

 

「いえ。お礼を言いたいのは私の方で、最初はどうなるかと思いましたけど……でも、私。今までとは違う戦車道を知ることが出来ました。あと、これからが山場という時に新しい戦車がもう二両も見つかりそうなんてこともあり、なんだか自信が持てました」

 

「そうだな。というわけで四日後も絶対に勝つぞ」

 

「はいっ!」

 

この翌日。戦車の捜索が行われ、無事に二台の戦車を見つけることができたうえ、Ⅳ号戦車に搭載可能な長身砲まで発見できたのであった。

なお、見つかった長身砲は長らく放置されていたとはいえ。三日もあれば十分にレストアできる状態であったため、後の二重高校戦やその他の試合で活躍するのは言うまでもない。

 

 




ありがとうございました!皆さまのアドバイスや評価、ご感想などお待ちしておりますm(_ _)m


今回もオリジナルキャラクターとオリジナル校の名前を登場させてみました。
このオリジナル校ですが、後の展開(劇場版編)で絡ませてみようかなと思っています。
因みに、今回登場した『安川たかし』という登場人物ですが。原作でアリサが言っていたあのたかしくんということにします。


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第八話 一騎討ちです!二重高校戦!

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!


この日の準備中、みほはずっと"あの場所"のことが頭から離れずにいたが、特に不安という様子は見せず。

いつものようにリラックスしながら自身の作戦ノートを片手にどこか付け加える点が無いかを探っていた。

その傍らで各チームのメンバー達がじゃれ合いながらもスムーズに準備を終え、じゃれ合いの延長戦に夢中になっている。

 

「すっかりみんななじみ合ってるし、新しく転校してきた大友ちゃんや新しく始めたたかしとも打ち解け合ってるね」

 

「うん、そうだね。中学校の時に何度か黒森峰と菱王で合同練習をすることがあったんだけど、三人ともあの時とは全然違うもん」

 

弾間は、みほと他のメンバーを微笑ましく眺めているのであった。

二人の近くでは、優花里とフェレットさんチームの三人やカバさんチームの四人が盛り上がっていた。

 

「いやぁ、麻里奈殿と佳奈殿といった自動車部メンバーの皆さんには頭が上がりません」

 

「いえいえ、私たちも車とか単車を触るのが好きで入ったけど、戦車を触るのも好きになっちゃったからどんどん教えてね優花里ちゃん。いや、グデーリアンさん!」

 

「えへへ照れますよ」

 

「じゃあ。久川姉妹のソウルネームは何にするぜよ?」

 

「平賀源内はどうだ?でも、敢えて戦車関係で行くか」

 

『おりょう(野上 武子)』と『左衛門佐(杉山 清美)』は歴史好きである知識を活かして該当しそうな人物を探るが、中々見つからない。カエサルとエルヴィンも目を閉じて考え込んでいたが、ここで富田が何かを思いついた表情で語りかける。

 

「じゃあ、佳奈ちゃんがポルシェ博士でグンドラフ博士は麻里奈ちゃんでどう?」

 

「「それだっ!!」」

 

彼女たちの以外にも沙織とウサギさんチームが恋愛に関する話で盛り上がり、華とたかしが弓道や華道について語り合っており。

麻子がアリクイさんチームの三人や大友がE-25の上でうたた寝をし、水野と木村がアヒルさんチームに混ざってバレーボールを楽しんでいたり。二人の横では生徒会チームの三人がお茶を片手に干し芋を食べていた。

 

ー前世とは違い、戦車が競技に使われ。他の兵器も競技の一種として使われているとは何て平和な世界に来たんだ私は。私の容姿も出生地も前世とは異なるが、何不自由ない人生だったし。この世界は素晴らしいー

 

前世である鬼塚に戻った彼は、喧騒が止まないこの光景を見て一人で感慨深さに入り浸っていた。

すると、わき腹を誰かがつつくのであった。

 

「ひゃんっ?!ってみほちゃん、君そういうキャラだったの?」

 

「ふふっ。やっぱり英二くんはホントに女の子みたいでかわいいね」

 

「そりゃないよ……」

 

みほは、ころころと微笑みながら彼のわき腹をつついたのであった。プロボクサーのモハメド・アリが「蝶のように舞い蜂のように刺す」と公言したように、彼女は普段の言動と見かけによらずこうしたのだった。

すると、一台の四輪装甲車が大洗学園のキャンプに入って来た。

そこから髪形がミディアムショートで髪色が栗色で比較的低身長な少女……ミクローシュがみほに向かって手を振りながら降りて来たのであった。

 

「会いたかったよっ!みほちゃん」

 

「こちらこそ。みっちゃんも相変わらず元気で良かったっ!」

 

二人の旧友は再会の嬉しさに入り浸っていた。ミクローシュは黒森峰女学園の中等部でみほと一緒だったが。戦車道の面白さを求めて黒森峰から二重高校へ進学した人物である。

彼女は防御を自身の戦車道の要においており、これまでも防御力と統率力を頼りに二重高校の戦車道チームを率いて来たのだった。

 

「やぁやぁ。えーっと、副隊長の『フェレンツ』さんだったかな?今日はよろしくねー」

 

「存じ上げていただき光栄でございます。西住様の隣におられる方が我らの隊長ミクローシュになります」

 

「同じく。二重高校戦車道チーム副隊長補佐の『ヒンディ』と申します。先の知波単学園戦や聖グロリアーナ戦の武功は存じ上げております」

ミクローシュは彼女たち二人が自身に代わって杏と挨拶をしていることに気づくと、みほに別れを告げて二人のもとへ向かっていった。

 

「お待たせしました。角谷様っ!本日は正々堂々と勝負させていただきますっ!」

 

「うん。よろしくねー」

 

一通り挨拶を済ませた後、ミクローシュ達三人は自分達のキャンプに戻っていった。

こうして、大洗学園対二重高校の試合の幕が上がるのであった。

 

 

 

 

幸いにも今回は天候に恵まれ、空は快晴であった。みほは、あの場所ことを心配していたが、川の様子が普通であることに安心したのだろう。試合開始の合図を意味する花火が雲一つない空に打ち上げられると、「Panzer vor」の一言と共に彼女は他のチームを率いて前進する。

 

「ウサギさんとフェレットさんは右の林の中から浸透してください。カバさんとアリクイさん、アヒルさんは左の街道から進んでください。私たちはキツネさんと一緒にフラッグ車のカメさんを守りながら川沿いの道を進みます」

 

「こちらカバさん。隊長、左右に分かれた我々はスナイパー潰しというわけだな。余裕があれば街道から来た敵の背後を突きます」

 

「分かりました。あとはよろしくお願いします」

 

みほは、カバさんチームや他のチームに指示を出し終えると、どんどん狭まっていく峠道を進んでいくのであった。

一方、ウサギさんチームとタッグを組んだ弾間達フェレットさんチームは鬱蒼と草木が生い茂る林の中をゆっくりと進んでいた。草が生い茂っているとはいえ、高さも大したことがないため。順調に進むことが出来ている。

林の中はむしむしとした空気が漂っているため、早くここを出たかったが。下手に速度を上げ過ぎても敵に感づかれやすいため、飛ばすことが出来ずにいられる。

 

「先輩、ここすごくムシムシして気持ち悪いです……もう少し速度を上げていいですか?」

 

「こっちも速度を上げたいのはやまやまなんだけど、さっきから木の枝が多くなって周りによく響いているからこのままの速度を維持してね。じゃないと、偵察と包囲を兼ねた浸透が意味をなくしちゃうからね。それにあと一キロで相手のスタート地点に出るからそれまで我慢だよ」

 

弾間は同じようにして戦車から身体を乗り出していた梓と何気ない会話をしながら林の中を駆け抜けていると、結局一両も遭遇することなく相手のスタート地点に出てきた。

 

「あれ?結局敵に遭遇することなく出てきましたが……」

 

「そうだね……まさか……」

 

弾間が次の言葉を発する間もなく左側から浸透するはずのカバさんチームたちと合流してしまい、お互いにきょとんとした顔で見つめ合っていた。

 

「典子ちゃん、相手とすれ違わなかったの?」

 

「いえ、副隊長も相手と……」

 

この瞬間、彼の脳裏にどす黒い予感が這いずり始めたのである。

相手が捨て身前提で一極集中にしているか、他の道で待ち伏せをしているかの二択であった。そして、その嫌な予感が早速的中した。

 

「こちらあんこう。交戦開始しましたっ!至急応援をお願いしますっ!」

 

「了解。直ちに向かいます(やられたか……)」

 

「副隊長、このまま全員で川沿いの道を向かっていきますか?」

 

「いや、機動力がある戦車がもう一つの峠道からと高火力な戦車が川沿いからで頼むよ」

 

「「了解っ!!」」

 

川沿いの道からはカバさんチームやアリクイさんチーム、ウサギさんチームといった火力重視の面々が向かっていき、峠道にはフェレットさんチームとアヒルさんチームが向かっていくのであった。

 

 

 

二重高校は予想外の攻め方であったが、みほは大友のキツネさんチームとカメさんチームの三両でちょっとした防衛線を構築することで何とか持ちこたえていた。

みほが危惧していたあの場所も道幅がかなり広くなり、激しく撃ち合っても転落の心配が無いほどであった。

 

「あの事故からフィールドが改修されてたなんて……でも、障害物も多くなった分戦いやすくなったかも」

 

「まさか全員で突っ込んでくるとは……みほさん、後退しつつやらないとタシュとかズリィーニが突っ込んで来ますよ」

 

「いやぁ。相手は小回りが利く軽戦車を頼りにワ〇ワ〇パニックみたいに引っ込んだりしながら撃って来るから中々しぶといね」

 

彼女たちは聖グロリアーナとの練習試合の時のように岩を盾にしつつ、二重高校側による攻撃をしのいでいた。こちらから一気に出ようにも、鉄壁の装甲厚を誇る44Mタシュが出てきたら厄介である。

また、今みほ達と交戦しているのは、副隊長補佐のヒンディが乗るトゥラーンⅠ型×一輌とトルディⅢ型×二輌、これも予想にしなかったが38t戦車(Na型に改修かつ5cm砲搭載)×三輌の計六輌の編成だ。

トゥラーンはともかく。強力な5cm砲を搭載する38tに接近戦を挑むのは少々無茶があった。

キツネさんチームのE-25を先頭に突撃を敢行するにせよ、トルディといった軽戦車に回り込まれて撃破されかねない。

かといってフラッグ車であるカメさんチームを置いていくわけにもいかない。これがみほの頭を悩ましているのであった。だが、そんな膠着した状況が一気に変わろうとしていた。

 

「こちらフェレットさん。間もなくあんこうに合流します。到着次第、突撃の準備をします」

 

「こちらキツネさんチーム。フェレットさんが到着次第、私たちを先頭に突撃を開始します。あんこうチーム以下、四輌は我々が引き留めている隙にフラッグ車である44Mタシュの撃破に向かってください」

 

「わかりました。キツネさんチームの健闘を祈ります」

 

間もなくして三人が通信を終えると、ケホと八九式が合流してきた。

 

「それではみなさんっ!『かちこみ作戦』ですっ!」

 

みほの一言と共に、キツネさんチームのE-25を先頭に五輌は強行突破を試みるのであった。

相手は待っていましたと言わんばかりにE-25に攻撃を浴びせるが、強力な斜面装甲に阻まれ続けたうえ、後続の四輌にそれぞれ撃破され、残りの二輌も装填手の技量で圧倒的に勝るあんこうチームとキツネさんチームによって撃破されたのであった。

 

 

 

二重高校戦車道チーム、隊長ミクローシュは三輌のズリィーニⅡ突撃砲と共に後方の防衛に徹していたのであった。彼女たちの後方から回り込んできたのはⅢ号突撃砲と九八式中戦車・チヌ、M3Leeの三輌であった。

双方ともに岩場に隠れて撃ち合っていたが、ミクローシュは高火力なこの三輌がやって来ると、静かにほくそ笑んだ。

 

「思った通り相手は高火力な三輌で回り込んできたわ。このままかたを付けて前線の援護に行くわよフェレンツ」

 

「了解。後方から援護します」

 

ミクローシュはフェレンツに指示を出すと、彼女は自身が乗る44Mタシュともう一輌のズリィーニⅡと共に岩陰から飛び出し、カバさんが飛び出したズリィーニを撃破すると同時にミクローシュはⅢ号突撃砲に砲撃を浴びせ、これを撃破した。

この一発が利いたのだろう。アリクイさんチーム、ウサギさんチームが後退しながら砲撃を浴びせるが、全く歯が立たず。残りの二輌も他のズリィーニⅡに撃破される。

彼女達が残った二輌を撃破した瞬間、麓にいたヒンディからの無線が鳴り響いた。

 

「隊長っ!五両は強引に突破して隊長のもとに向かいましたっ!」

 

「何ですって?!そっちの残存車輌は何台なの?」

 

「申し訳ないのですが、全車撃破されました」

 

「気にしなくていいわ。それは災難ね。全車に告ぐ。これから一騎討ちよ」

 

「御意」

 

ミクローシュは副隊長のフェレンツ達を連れてみほ達と一騎討ちになる覚悟で峠道をくだりはじめた。

下り始めてしばらくすると、目の前に一輌のケホが飛び出してきた。

フェレンツ達突撃砲がタシュの盾代わりになるべく前に出るが、またしてもケホの後ろから来たⅣ号戦車や八九式中戦車、E-25によってそれぞれ撃破されていった。

 

「させないわっ!撃て!」

 

しかし、ケホもさすがに重戦車ながら高機動力かつ高火力なタシュの後ろに回り込むのは難しかったのだろう。回り込もうとした瞬間にその主砲によってねじ伏せられてしまった。

だが、タシュも正面に車体を戻そうとした瞬間にカメさんチームの38tにより、履帯を切られてその側面に数発の砲撃を受けるのであった。

 

 

 

後方に回り込んでミクローシュの44Mタシュやフェレンツ達のズリィーニを引き付けていたカバさんチームやアリクイさんチーム、ウサギさんチームのおかげでみほ達は副隊長補佐のヒンディが構築した陣形を突破することが出来たうえ、弾間達フェレットさんチームによる決死の切込みにより、突撃砲を翻弄して全員でこれを撃破したのであった。

タシュもフェレットさんチームによる突撃にあっけを取られている隙に残った四輌の砲撃を浴びせられ、撃破された。

そして今、大洗学園の面々は勝利の喜びに入り浸っているのであった。

 

「今回も勝てたねー。みんなこのままの調子で準々決勝も勝つよー」

 

杏が他のメンバーに対して労いの言葉を掛けていると、みほのもとにミクローシュがやって来た。

 

「……負けちゃったよ。みほちゃん。準々決勝も頑張ってね」

 

「みっちゃん……ありがとう」

 

彼女はミクローシュによる励まし言葉に頷きながら差し出された手をそっと握るのであった。

この二人は双方の再会を改めて喜ぶと同時に互いの健闘を称え合っていた。

ミクローシュはみほと手を握り終えると、カメさんチームの38tに目をやった。

 

「これからの戦いは、あの主砲じゃきつそうだし……うちの38t.na型改造キットを譲るよ。大丈夫。間違って一つ余分に注文したやつだから」

 

「そうなんだ……ありがとうみっちゃん」

 

みほが彼女に感謝の言葉を掛けると、ミクローシュは次に弾間の方へと向かって行くのであった。

 

「貴方があのケホの車長さんですね。あなたの猪突猛進のあの動き……是非参考にさせて頂きますっ!」

 

「こちらこそ、ミクローシュさん達の鉄壁のディフェンスには参りました。こちらも次の大会で参考に出来そうな陣形だと感じました」

 

弾間はミクローシュとも互いの健闘を称え合う。彼女は彼に対して小声で次のように言った。

 

「こんなことを言うのもなんですが。みほちゃんをこれからも支えてあげてください。彼女はこれから戦車道におけるキーマン的存在になりそうですから」

 

「みっちゃーん。英二くんと何を話してるの?」

 

「いや、何でもないよ。それでは、弾間さん。これにて失礼します。みほちゃん、またね」

 

ミクローシュは律義に頭を下げると、みほにも別れを告げての場を去っていくのであった。

みほは去っていく彼女の背中を見届けながら、その姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 




ありがとうございました!皆さまのアドバイスや評価、ご感想などお待ちしておりますm(_ _)m

次回以降から原作の通りの試合順になりますが、前々回も予告した通り。この辺りでも展開に改変を加えていきたいと思います!


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第九話 チームメンバーです!

ご覧いただきありがとうございます!引き続きお楽しみください!


二重高校との試合が終わり、次の大会まで十日と通常よりも三日長く次の大会までの時間が空くことになった。

次の相手は『サンダース大学付属高校』という学校であった。

この学校は、主にアメリカ合衆国の文化に影響を受けているため、戦車道のチームもアメリカ製の戦車を使用しているが、戦法までは不明だった。

そこで今回も優花里がフ〇ミリーマートの制服を身にまとい、コンビニの定期船に乗り込んでこの学校に潜伏したのであった。だが、今回から同行者を連れてきていた。

 

「ゆ、優花里ちゃん。さすがに僕が女装なんて……(私はそんな趣味ないぞ……まぁ、あの二人とこの子のおかげである意味助かったが)」

 

「いいえ、全然違和感ありませんよ。弾間殿の女装姿もかわいいです」

 

彼女は弾間を同行者に連れて来ていたのであった。彼女が彼に対してそう言うほど、女装が似合っており。ここまでくると女性と言われても何とも言えない容姿になっていた。

それにとどめを刺すように、出発前に訪れていた沙織の家に居合わせた華と沙織の二人によってファンデーションが施されたのであった。

彼は女装を嫌がってはいたものの、後々男ということがばれにくいというメリットに気付き。優花里や他の二人に内心で感謝しているのも事実である。

 

「しかし、車庫の戦車の量は半端なかったね」

 

「はい。サンダースはお金持ちなうえ、開校当初から戦車道に力を入れていましたからね」

 

「なるほどねぇ。優花里ちゃんは物知りでいいなぁ。だから潜り込む前とその後も情報をうまく活用するのか……さすが西住殿の副官でありますっ!グデーリアン閣下。小官も貴官の活躍に感謝いたしますっ!」

 

「そんなっ……以前もでしたが、弾間殿いや男の子に感謝されるなんて小学校以来なんです。中学からは別の県の中学校に行って、あまり周りの子と話しませんでしたから……」

 

「そうなんだ。これからもよろしくお願いしますっ!閣下」

「はいっ!」

 

弾間は優花里と何気ない会話を交わしながら試合前の全体ブリーフィングが行われる部屋に入っていくのであった。

そこには、大洗学園の戦車道チームの何倍もの人数が集っていた。

 

ーおいおい、こんなのちょっとした数の暴力じゃねぇか。確か三回戦からは十五輌までの出場が認められているうえ、第二次大戦後期の強力な戦車が二輌も配備してるし……試合の際にはフィアフライから先に叩いてその後にすたこらっさっさしてそれか少数になったところでこいつを叩いてフラッグ車に突撃してかたをつけるのもありだな。まぁ、この辺りはみほちゃんと打ち合わせるとしてー

 

「あれ?弾間殿、えらく畏まったというか何の考え事をしているのですか?」

 

「ああ、何でもないよ。そろそろ全体ブリーフィングが始まるみたいだよ」

 

二人が会話を終えると同時に、長い金髪が特徴的な高身長な少女『ケイ』とその後ろからアッシュ系の茶髪のベリーショートで目つきが鋭い少女『ナオミ』とアッシュピンク系の髪色でツインテールの青色のリュックサックを背負った少女『アリサ』が部屋に入って来たのであった。

それから、アリサが何かのリストを片手に試合で使用される戦車について語り始めた。

 

「では、三回戦出場車輌を発表する。M4E8一輌、シャーマンファイアフライ一輌、75mm砲搭載M4A2八輌、M5A1スチュアート五輌……」

 

「じゃあ、次はフラッグ車を決めるよっ!」

 

「いぇーいっ!!」

 

隊長であるケイがノリノリな感じでそう言うと、壇上の前に座る生徒達も愛想よく反応する。

 

「随分とノリがいいですね。弾間殿、そう思いませんか?こんなとこまでアメリカ式ですねっ!」

 

「こちら弾間。創始者がアメリカ人なだけあってこんなところまで熱心に教育しているんだなと感じました」

 

優花里がカメラを回しながらニュースキャスターのように振る舞い、それに対して彼は街頭インタビューに答える通行人のようにそう言う。

そういうやり取りをしているうちに周りの反応が一変し、甲高い歓声が上がる。

 

「フラッグ車が決まったみたいです」

 

「何か質問は?」

 

「はいっ!小隊編成はどうしますか?」

 

「おぉ。良い質問ね。今回は二個小隊を組めるからフラッグ車のイージーエイトの護衛にファイアフライと四輌のA2と二輌のスチュアートと残りのA2とスチュアートで小隊を組むつもりよ!」

 

「随分と本格的ですね!これなら相手のE-25やポルシェティーガー、三突対策になりますね!」

 

「でしょ?あそこは戦車道も復活して重戦車を使いだしたんだからそこは手を抜くわけにはいかないからね!」

 

彼女の質問に対してケイは自信満々に答える。ここで、優花里の言動を不審に思ったナオミとアリサの二人が怪訝な表情で優花里を見つめると同時に弾間の存在に気づいたのか、隣の弾間にもその目を向ける。

 

「ん?見慣れない顔ね……」

 

「そこの二名の女子生徒、所属と階級は?」

 

「へっ?!第六機甲師団オッドボール三等軍曹であります!」

 

「同じく、ノーマン・エリソン二等兵であります!」

 

「あの二人、偽物だっ!そこの二人止まりなさいっ!」

 

「ごめん遊ばせっ!!」

 

ナオミが二人に指さしながらそう叫ぶと同時に弾間はそう言いながら優花里を横抱きすると、周囲がざわつく中一目散に走り出した。

 

「有力な情報を手にしましたっ!これにてレポートは終了しますっ!」

 

しばらく走ったところで優花里がそう言いながらカメラを録画を停止する。

彼女を抱えて走っているうちに弾間は、学校の外に出たことに気づいた。ようやく一安心できるなと思いながら我に返ると、右手に妙に柔らかい感触が伝わってくることがわかる。

その先に目を向けると、優花里が顔を真っ赤にして彼に対してこう言った。

 

「大胆ですね……パンツァー・ハイです」

 

「あっ……」

 

弾間は何とも言えない表情で優花里をそっと降ろし、共に学園へ帰っていくのであった。

後日、弾間は動画に映った自身の容姿の事で他のチームメンバーに散々いじられたというのは言うまでもない。しかし、彼にとっての不幸中の幸い的な何かと言える動画外でのこのことは誰にも知られていないのであった。

 

 

 

 

「沙織先輩、肉じゃがっていうのはいつ食べても飽きないものですね。死んだお母さんがよく作ってくれたんで、あたしの好物なんですよ。志乃、早苗。二人もそうでしょ?」

 

「はい、姉貴と同じくあたしも好きですよ。週末に実家に帰った日には家族みんなで作りましたから」

 

「ええ、私も初めて一人で作った料理がこれなもので、思い入れが強かったりするんですね」

 

「へぇ。三人とも肉じゃがが好きなんだ。私もいつか理想の彼が出来たらそう言われたいな♪」

 

沙織は大友たち三人が借りているマンションに訪れ、一緒に夕飯を作り食べていた。

この三人は、練習中の間にもウサギさんチームに混ざって彼女と会話することが多く。彼女たち三人が特に慕っているみほの親友ということもあり、沙織に懐いていた。そんな経緯もあり、四人は夕飯を共にしているのであった。

 

「味まで私のお母さんのものに似てますよ……まさにおふくろの味というやつですね」

 

「そうなんだ。よかったぁっ!私ね、みぽりん達とも一緒にこの作り方でやったんだよね。まみりんにおふくろの味だなんて言われたら、モテ度ポイントが上昇したかもっ!」

 

沙織が目を輝かせながら、三人にそう語りかける。しかしこの時、その三人は彼女に背中を向けて何か話し合っている。

 

「あれ、どうかしたの三人とも?」

 

「そうだ。沙織先輩……三人の間で沙織姐さんと呼ばせてもらってもいいですか?」

 

「へっ?」

 

水野が彼女に対してかなり真剣な表情でそう語りかける。その後ろでは木村と大友が縦に首を振っている。

 

「やだもー。私がお姉さんなんてそんな大したことしてないのにー。でも、何か嬉しいかも」

 

沙織は照れくさそうにそう言いながら嬉しそうな素振りを見せる。間髪を入れずに三人は続けるようにして『沙織姐さんよろしくお願いいたします』と誠意をもって彼女に対してそう言う。

 

「何か、別の意味でのお姉ちゃんな気もするけどいっか」

 

「さぁ、姐さん。冷めないうちにみんなでどんどん食べましょうよ。そうだ、今度はあたしらキツネチームと姐さん達あんこうチームの皆さんもご一緒にどうですか?」

 

「そうだねっ!今度は九人でやるのもいいね」

 

四人はほくほくと湯気が上がる肉じゃがを頬張るのであった。こうしているうちに夜が更けていき、その後は一緒にテレビ番組などを四人で見て楽しんだりしたのだった。

 

 

 

 

暴れ狂う巨像にも比肩するほどの約一両の巨大な鉄の塊……ポルシェティーガーが轟音をあげて演習場を我が物顔で闊歩している。ポルシェティーガーの鼻先から突き出ている8.8cm砲はその場にいた全員を魅了していた。

何しろ、本格的な重戦車だったからだ。しかし、この戦車の難点をあげるとするならば。足回りが悪く、舗装されていない道では履帯が沈みやすく、そしてエンジンが過熱しやすいために破損しやすいことであった。

だが。良い点もあり、強力な8.8cm砲と速度を犠牲にした堅固な装甲の存在だ。

 

「あちゃーまたやっちゃった。ホシノ、早く消火して」

 

「戦車と呼びたくない戦車だね……」

 

「そんなことないですよっ!足回りが弱かったりしますが、8.8cm砲の威力は抜群なんですからっ!」

 

「もう他に戦車は無いのでしょうか?」

 

この戦車を見て杏と柚子が残念そうに言っている傍らで、優花里がポルシェティーガーを擁護する発言をしている。

場所を変え、戦車の車庫にやって来た杏達はしっかりと整備されたルノーB1bisを眺めていた。この戦車も重戦車らしくがっしりとした装甲を誇っており、武装である二つの戦車砲が特徴的だ。

次のサンダース戦において本車は車体上部の副砲で履帯を切り、車体前面に搭載されている主砲で相手を仕留めるといった戦法を取るのが好ましいだろう。

 

「ルノーの搭乗員は誰になるんですか?」

 

「それなら、私たち風紀委員が搭乗員よ」

 

みほが声がした方を向くと、風紀委員の『園みどり子(そど子)』と『後藤モヨ子(ゴモヨ)』、『金春希美(パゾ美)』の三人が立っていた。

 

「ん?そど子も戦車道をやるのか」

 

「だから、私の名前は園みどり子って名前があるんだから。ちゃんとそう言いなさいよ」

 

「はいはい」

 

「返事は一回で言いなさいっ!」

 

「はーい」

 

そど子が自身に付けられたあだ名で麻子に呼ばれたことで嫌な顔をしながらそう言う。しかし、相変わらず眠たそうな顔で麻子はそど子をからかうように二つ返事で応じる。

 

「というわけで隊長。チーム名は何にする?」

 

「B1はカモっぽいので……」

 

「じゃあ、カモに決定っ!」

 

「カ、カモですか?!」

 

杏の放った「カモ」の単語を別の意味で理解してしまったのだろう。そど子は驚きながら彼女に対して突っ込みを入れる。

 

「指導役に誰になってもらおうかしら?冷泉さんはどうかな。あっでも彼女一人じゃきつそうだから弾間くんも教えてあげてね」

 

「弾間くんはとにかく……私が冷泉さんにっ?!」

 

「わかった。小山先輩」

 

「成績が良いからっていい気にならないでね」

 

「じゃあ。自分で教本を見てやるしかないな。英二は副隊長もやっているからあまり迷惑をかけるんじゃないぞ」

 

「何無責任なこと言ってるの。懇切丁寧に教えなさいよっ!弾間くんも冷泉さんに何とか言ってあげて」

 

「まぁまぁ。園先輩、操縦は僕はもちろん麻子にも聞いてくださいね」

 

「弾間くんがそこまで言うなら……」

 

こうして二つのチームが新たに結成され、ナカジマ達自動車部が『レオポンさんチーム』としてポルシェティーガーを操縦することになり、そど子達風紀委員が『カモさんチーム』としてルノーB1bisの操縦を担当することになったのである。

 




ありがとうございました!次回は第十話を投稿する予定です。
皆さまのアドバイスや評価、ご感想などお待ちしておりますm(_ _)m

原作より早くナカジマさん達とそど子達が参戦することにしました。また、サンダースにM4E8を追加したのは、個人的にこの戦車が好きということとケイさんに似合いそうかな。と思って追加してみました。




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第十話 白熱、サンダース戦です!

皆さん、お久しぶりです!リアルの方で他の趣味に没頭したためあまり手をつけていませんでした。
引き続きお楽しみください!


試合が始まるまでの待機時間、サンダース大付属高校側が用意した出店で大洗学園一行は暇を持て余していた。美容室や様々なファストフード店といった出店だけでも一つの商店街ができるんじゃないかという勢いであった。

出店もアメリカの影響を受けたのだろう。ハンバーガーやフライドチキンといった食べ物も完全に向こうのサイズであった。

 

「救護車のほか小規模なシャワー店やヘアサロン店といったものまでありますよ」

 

「本当にリッチな学校なんですね」

 

「これだけで一つの商店街ができそうだね……」

 

弾間とあんこうチーム一行はサンダース側が出した店舗の量に圧倒されていた。すると、ケイがナオミとアリサを連れて大洗学園一行のもとへ向かって来た。

 

「へいっ!アンジー!」

 

「角谷杏だからアンジーなのね」

 

「何かなれなれしいな」

 

「やぁやぁ。ケイお招きどうも」

 

「何でも好きなもの食べていってね。OK?」

 

「OKだよ。おケイだけにっ!」

 

杏がサンダースの隊長であるケイと冗談を交えながら挨拶を交わしている。次にケイは優花里と弾間に目を向けた。

「へいっ!オットボール軍曹」

 

「あ、見つかっちゃった」

 

「この前は大丈夫だった?ケガはない?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「またいつだってうちに遊びに来て。うちはオープンだからねっ!それと、エリソン二等兵は?」

 

ケイは周りを見渡すが、それと思しき女子生徒は見つからなかったので弾間に声を掛ける。

「はーい英二っ!あなたの噂は聞いているわっ!って前にも会った気がするけど……」

 

「それなら気のせいだと思いますよケイさん。今日はよろしくお願いします」

 

「OK!よろしくねっ!」

 

弾間と彼女が挨拶を交わしている傍らで、華のもとへたかしがやって来た。すると、ケイの後ろで控えていたアリサはたかしと目が合うと真っ先に彼のもとへ駆け出して行き、周りの目も気にせず飛びつく。

 

「たかしっ!会いたかったわっ!」

 

「おぉっ!アリサ、元気でよかったよ」

 

彼はアリサの行動に驚きつつ、旧友との再会を喜んでいた。

 

「幼馴染っていいよね」

 

「なんていうか、先輩たち尊いですよ~」

 

「私もあんな彼が欲しいな……」

 

『山郷あゆみ』や優季、『坂口桂利奈』の三人がたかしとアリサに聞こえないように小声でそう呟くが、丸聞こえだったのだろう。彼は苦笑いをしながら聞こえないふりをして「どうして、あまり連絡を取ってくれないの」と言いながら顔を胸に擦りつけているアリサの頭を撫でている。

 

「ちょっと周りの目も気になるからそろそろやめてほしいな……」

 

「えーなんで?幼馴染なんだしいいでしょ?あっ……そろそろ時間だからそうするわ。じゃあね」

 

アリサはそう言いながら手を振ると、ケイの後を追うのだが。後ろを向こうとした際、華と目が合うと少しだけ彼女を睨みつけるのであった。

 

「あの……私は彼女に何かしてしまったのでしょうか」

 

「華さん気にしなくていいよ。あの子には言っておくから」

 

「あの目からして何かの予感がするかも」

 

どこか不安気になっている華に対して、たかしは申し訳なさそうにそう言いながら悲しそうな目でアリサの後姿を見送っており、その傍らでは沙織があながち間違いではない一言を呟いていた。

それからほどなくして試合が始まるのであった。

 

 

 

 

サンダース大付属高校二年生のアリサは大洗学園高校に通う同じく二年生の安川たかしに想いを寄せていた。彼とは、小学校まで一緒で家も近く。よく一緒に遊んでいたため、いわゆる幼馴染という間柄だった。

中学校からはお互いに違う学校に進学し、頻繁に連絡こそ取っていたもののたかしも他県に引っ越したために会う機会も少なくなり。

第六十三回戦車道大会が始まってからは彼からの連絡の頻度が少なくなり、気になったアリサは長年抱いていた想いの歯車を動かすべく。思い切ってたかしに連絡してみたところどうやら気になる人ができたことが分かったのであった。

彼女はさらに詳しく彼に事情を聞いたところ、同じく大洗学園高校に通う五十鈴華と仲良くなりたいという趣旨が書かれたメッセージが送信されてきたのだ。

 

『どうしてたかしは私じゃなくてあの子と』

 

アリサはたかしが言った仲良くなりたいの意味をはき違えたのだろう。これ以降彼との連絡はこの日まで取ることが無かった。

 

「(たかしが振り向てくれないなら。こうでもしなきゃ意味が無いわよね……)あんた達、あんこうのエンブレムが付いているⅣ号を容赦なく叩き潰しなさいっ!!」

 

「サー・イエスサーッ!!」

 

アリサが搭乗するM5A1の搭乗員とその周りにいた他のM5の搭乗員たちが勢いよく返事をする。

 

「さぁ、覚悟なさい。戦いが甘くないということを教えてあげるわ……」

 

彼女は無線を切ると、今度は無線傍受機を片手にどす黒い笑みを浮かべ、周波数を合わせ始めた。しばらくすると無線を傍受できたのか、こもった声がそこから聞こえ始める。

 

『……ウサギさんチーム及びフェレットさんチーム、キツネさんチームは右方向の偵察をお願いします。アヒルさんチームとアリクイさんチーム、カモさんチームは左方向を。カバさんとレオポンさん、我々あんこうはカメさんを守りつつ前進します』

 

「(そうねぇ。ポルシェティーガーは厄介だから早めに他の戦車を……まずは副隊長の弾間英二を叩こうかしら)隊長、森林帯に向かってください。おそらく向こうは機動性が高い戦車で突破を試みるはずです」

 

「OK!じゃあ、アリサたちは竹林帯に向かってね!」

 

「イエス!マム!」

 

アリサは内心でそう考えながら搭乗員達やケイに指示を出す。それに合わせて隊長車かつフラッグ車であるM4E8とこれを守るシャーマンファイアフライともう四輌のM4A2がV字隊形を組んで広大な森の中へと入っていった。

 

 

 

 

アリサが無線を盗聴し、包囲網を形成しつつあることを知る由が無い梓や弾間、大友が率いる三輌の戦車は間もなく森の中間地点に差し掛かろうとしていた。

ウサギさんチームを先頭にM3Lee、E-25、ケホが縦一列になって走行しながら周囲を見渡している。

 

「全然敵が見当たりませんね。相手は守り重視なのでしょうか?それとも全く違う道を進んでいるのでしょうか?」

 

「いや、どうだろう。相手は装甲や機動性といったところを重視したアメリカ戦車らしく数で押してくる戦法を取るだろうね」

 

「弾間の兄貴。いつでも逃げれるようにするのもいいかと思います。足が速いこの三輌とはいえ、囲まれると蜂の巣にされちゃいますよ」

 

「そうだね。そう言われると、会敵した際は位置を報告しつつ即座に撤収するの方がいいね」

 

三つのチームは相手と遭遇した際の対処法を話し合いつつ、走行していると丘がすぐそばにある地点までやって来た。ただ周りは風によって草木が左右に揺れ、椋鳥や栗鼠といった小動物が木々を飛び移ったり歩き回ったりしているであろう音が微かに響き渡っているだけである。

三人の車長は、戦車から身体を乗り出して音を慎重に聞き分けている。すると、丘の方から三輌ほどの戦車が三人の方に近づいて来たのだろう。エンジン音が聞こえて来た後、三輌のM4A2が姿を現した。

 

「こちら、B805S地点にてシャーマン三輌発見。これから誘き出しますっ!」

 

梓の一言と共に三輌の戦車が行動に移ろうとするが、後方に複数の砲弾が着弾する。突然の出来事に弾間と大友は取り乱しそうになり、ウサギさんチームの面々はパニックになった。

彼女が慌ててキューポラから身体を乗り出して砲弾が放たれた方に目を向けるとフラッグ車であるM4E8ともう二輌のM4A2が後ろからやって来た。

 

「六輌に包囲されましたっ!これよりフェレットさんとキツネさんと一緒に脱出しますっ!」

 

「こちらあんこう。そちらに向かいますっ!フェレットさんはあんこうに代わってカメさんを護衛してください」

 

「ありがとうございますっ!後で合流しましょうっ!」

 

ウサギさんチームのM3を守るようにケホが蛇行運転をしながら相手の射線を妨害し、E25は主砲を相手に向けて威嚇しながら数百メートル先の相手を除けて退路を確保する。

それでもなお、相手は史実のアメリカが物量と緻密な連携力を頼りに西部戦線でドイツ軍を圧倒したように退きつつも再び束になって執拗に攻撃を加えてくる。

 

「大友ちゃん、梓ちゃんを連れて先に逃げてくれないか?」

 

「了解しました。弾間の兄貴、気をつけてください」

 

「ありがとうございます。弾間先輩っ!」

 

弾間は先に大友と梓を逃がすと、単独で相手を引き離す行動に打って出た。相手も副隊長車が気でも狂ったと思ったのだろう。ケイが乗っているM4E8と二輌の計三輌がケホを追いかけ始めた。

 

「三輌は引きつけは成功か……ひとまずは追いかけっこか。麻里奈ちゃん、そのまま最高速度でまいてそのままレオポンさんとカメさんに合流して」

 

「はーい。リミッター解除入るねー」

 

彼女が待ってましたと言わんばかりにアクセルペダルをべた踏みすると、エンジンに後付けしたターボチャージャーが効果を発揮したのだろう。ケホは過給機特有の排気音をあげながら一気に相手を引き離していった。

 

「逃がさないわーっ!エイジッ!」

 

「逃げなかったら撃たれるので逃げまーすっ!」

 

キューポラから身体を乗り出していた弾間はケイとそんなやり取りをしながら計三輌の戦車から放たれてくる砲弾を躱しながら逃げ切ったのであった。

 

 

 

包囲網を脱出することに成功した梓と大友はみほ達と合流し、小さい雑木林の中で息を潜め。相手が急に現れた理由について考えていた。

 

「隊長、相手はまるで私たちの行動を見通していたかのようでした。あんなところで急に見つかる要素も無かったのに……」

 

「そうだね。どうしてなんだろう?」

 

梓とみほの二人は腕を組んで唸っていると、ウサギさんチームの装填手である沙希がみほのタンクジャケットの袖を引っ張りながら晴れ渡った空を指さす。

 

「……西住先輩、気球」

 

「気球?……あれはっ?!」

 

みほは双眼鏡を手に取って打ち上げられた気球を見つめるとあることに気づく。その気球は魚の形をしていたが、よく見ると、そこから三本のアンテナが立っていた。

 

「通信傍受機が打ち上げてある……」

 

「そ、そんなことをしちゃ?!」

 

彼女の言った一言に対して、ウサギさんチームの面々は思わず声をあげて驚いたが。大友達キツネさんチームはそれに対して声を荒げた。

 

「は?通信傍受……よくもそんなことぬけぬけとやりやがって。きっちりケジメをつけてもらおうかっ!!でも、あのケイさんがこんなことをするはずないから、いったい誰が」

 

「そうですね。怪しいとすれば、副隊長のアリサって人が率いる軽戦車小隊といったところかな。へへっ……あたしも姉貴も戦車道を侮辱することをやる輩は嫌いだから……どう落とし前つけてやりますか?みほさん」

 

「みほさん。とりあえず、通信傍受をしている奴を見つけ次第。集中砲火にしましょうよ」

 

「どんな競技でもスポーツマンシップに反すること駄目だからね。ここはぎゃふんと言わせないと。でも、あの子がそんなことをするはずは……」

 

「あ……えっとそうだね。怒るのは分かるけど、ここは次の打開策を考えないと……」

 

「おっと失礼しました。志乃、早苗、安川の兄貴。みほさんが作戦を考え始めたからあたしたちもなんかいい作戦がないか考えるわよ」

 

みほは今にも誰かに殴り掛かりそうな勢いで怒りを露わにする大友達を制止すると、打開策を考え始めた。こちら側の無線が傍受されている以上、そのまま下手に動き回るわけにはいかない。

前進して反撃に出るにしろ後退しつつ防御重視の戦法を取るにしてもすぐに相手が反撃をしてくるだろう。だが、ここでみほの脳裏に一か八かの思いつきが転がり込むのであった。

 

 

 

 

サンダース大付属高校戦車道チーム隊長。ケイは次の目標がいないかアリサの『女の勘』を聞きながら戦車を進めていた。

彼女は人望が厚く、寛仁大度な性格であり。また、フェアプレイといった正々堂々とした勝負を好むといった人物像である。なので、アリサやナオミといった副官の意見も積極的に取り入れる大雑把な言い方をすれば、理想の上司といったタイプである。

 

『囮を北上させて本隊はその左右から包囲させてください』

 

「OK!でも、何でそんなことが分かっちゃうわけ?」

 

『女の勘ですよ。隊長が先ほど言われたように、今日は冴えていますので……』

 

「それは頼もしいわっ!」

 

ケイは一度怪しんだものの、無線ではアリサの表情や声のトーンでどのようなことを考えているのかすら分からなかった。変に疑いをかけるのもどうかと思い。彼女はノリよくそれを快諾するのであった。

しかし、それが災いしたというべきだろうか。みほ達大洗学園側がアリサによる無線傍受を逆手に取り、罠を張り巡らしているということを知らないまま、三輌のM4A2が丘を越えて平原に出た途端。

待ち伏せしていたM3Lee、三突、Ⅳ号戦車によって各個撃破されたのであった。

 

『すみません、三輌撃破されてしまいましたっ!!』

 

「ホワイッ?!」

 

ケイは唐突な見方の撃破報告に動揺を隠せなかった。何せ、こちらの動きを手に取るようにして誘い込み、撃破したとしか思えなかったからだ。

しかし、すぐにいつもの調子を取り戻したが。この時の彼女はどこか熱くなり。テンションが高まりつつあった。

 

「Oh!相手もやるわね……これは面白くなりそうだわっ!」

 

彼女が乗るM4E8を先頭に残ったM4A2が続き、横隊隊形になって広大な緑の平野を進んでいくのであった。三輌の仲間が撃破されてもなお、サンダース大付属高校戦車道チームの隊列に乱れはなく。その姿は鉄の統制とも言うべきであろう。

 

 

 

アリサはまだ自身が行っている無線傍受が逆手に取られているということに気づいておらず。どこか焦燥感に駆られており、周波数を調整しながら相手の無線内容をあぶりだそうとしていた。

 

「いい気になるなよ……痛い目に遭わせてやるんだから」

 

彼女はそう呟きながら調節レバーを回していると、相手の無線内容が聞こえてきた。

 

『全車、一二八高地に集合してください。ファイアフライがいる限り相手のフラッグ車を狙うことは出来ません。一か八かですが。一二八高地に陣取り、そこから一気に方をつけます』

 

「くっくっく……捨て身の作戦に出たわねぇっ!!丘に上がったらいい標的になるだけよ……隊長、一二八高地に向かってください」

 

アリサはどす黒い笑みを浮かべて陰湿な感じの笑い方で静かに笑うと、隊長であるケイに次の指示を出すのであった。

 

「ちょっとアリサ、それ本当?どうして分かっちゃうわけ?」

 

「私の勘は冴えています。そして、それは的確ですっ!!」

 

「OK!全車、Go!Ahead!」

 

彼女が自信満々気に答えたため、ケイは少し驚いたが。それでも信頼できる後輩であり、自身の副官であるためにあまり疑いをかけず。アリサの指示を快諾するのであった。

しかし、その指示通りに一二八高地に向かってみると、敵戦車の姿はおろか人の気配すら無く。ただそこには緑のなだらかな丘とおまけ程度に生えた小さな木があるだけであった。

 

「何にもないよ~っ!!」

 

ケイが困惑する声がアリサが搭乗するM5A1の車内にこだまするのであった。

今度はうまくいくと考えたのだろう。彼女もまたしてやられるとまでは考えておらず同じように困惑し、慌てふためいていた。

それに止めを刺すかのように、アリサが率いる軽戦車小隊の傍にあった竹垣が突然倒れると、そこから八九式中戦車と一式軽戦車・ケホと九八式中戦車・チヌの日本戦車トリオがそこから現れたのであった。

 

 

 

 

弾間は、みほの指示を受けてアヒルさんチームとアリクイさんチームと共に竹林の中を前進し、通信傍受の元凶ともいえるアリサを探していた。

入ってしばらく進むと、彼女の予想通り相手の軽戦車小隊とその小隊長のアリサが無線傍受機の子機を片手に持ってM5A1戦車から身を乗り出していた。

会敵した瞬間、撃ち合いが始まるわけもなく。五秒間黙ってお互いを見つめ合ってしまった。

そして、弾間が声を張り上げる。

 

「撃てぇ!そのまま南進っ!!」

 

彼がそう言った途端、三輌の日本戦車から砲弾が放たれ、アリサのM5A1を守るようにして停まっていたもう三輌のM5を撃破し、二輌を残して弾間達はその場から去っていくのであった。

 

「きぃーっ!九八式や一式よりも古い八九式のくせにっ!!今すぐ後を追うわよっ!」

 

「で、でも。隊長に報告しなくていいのですか?」

 

「そんなこと二の次よっ!相手の三輌は装甲が薄いんだから装填の速さと37mmの砲があるんだから十分よっ!」

 

年式的に最も古い八九式中戦車に仲間の一輌が撃破されたことに腹が立ったのだろう。アリサの怒りのボルテージが暴発し、自らの手でこの三輌を葬らんともう一輌のM5と共に後を追い始めるのであった。

すぐに相手に追いつき、あてずっぽうに主砲を乱射し始めるが、走行しながらで当たるわけもなく。相手に距離を開けられるばかりである。

さらに、八九式中戦車に乗る典子から投げつけられた煙幕弾によって二輌の戦車は視界を遮られ、さらなるパニックに見舞われることになる。

 

「こちらフェレット、これよりアリクイさんとアヒルさんと共に”サイン会場”に誘導します。レオポンさん及びキツネさん、カモさんは準備してください」

 

『はいよー。こちらレオポン、取り締まりの準備はおっけーだよ』

 

『こちらカモさん、いつでもどうぞ』

 

『こちらキツネさん、獲物が待ちきれません』

 

二輌のM5A1を覆っていた煙幕はようやく晴れ、外の様子が分かろうとしていたアリサは外の違和感に気づくのであった。

 

「何よ?この嫌な予感は?」

 

彼女はキューポラから身体を乗り出して外を見ると、固唾をのみこんだ。数百メートル先には先程の日本戦車トリオとポルシェティーガーが主砲をこちらに向けて鎮座していたのであった。

 

「ポ、ポ、ポルシェティーガーが前方にいるわっ!!急いでそこの交差点を右折なさいっ!!」

 

二輌のM5には間髪を入れず、前方で陣取っていた四輌から砲撃が加えられる。高火力なチヌとポルシェティーガーはこの二輌の搭乗員を十分な恐怖に陥れる存在であった。

それが災いしてか左右の安全確認もせず右折して坂道を下ると、その先にはE-25とルノーB1bisが陣取っていた。

 

「ストップッ!ストップッ!ストーップッ!!」

 

前門の虎後門の狼というべきだろう。下って来た坂道の上にはポルシェティーガーと日本戦車トリオが主砲を向けて停車していた。前方に目を向けると大友がニヤニヤし、そど子が校則違反者を取り締まるときに見せる厳しい目をしてアリサを見つめていた。

 

「……あっ……あっ……」

 

「規則違反は許さないんだからっ!!」

 

「ドッヂボールやろっか」

 

大友がそう言ったと同時に前と後ろにいた六輌から砲弾が放たれ、避ける余地がなかったアリサたちは集中砲火に遭い、土煙が晴れて後には残った二輌とも白旗を上げて戦闘不能になっているというものであった。

 

『もしもし?!撃破ってどういうことよアリサッ!』

 

アリサは弾間達を追いかけるのに夢中で隊長からの無線に気づかず。撃破された今になってようやく気づいたのであった。彼女はここで己の行いをケイに打ち明けたのであった。

 

「すみません……無線傍受機を逆手に取られた上、強襲と相手の罠に遭遇しました……」

 

『バッカモーーンッ!!戦いはいつもフェアプレイとスポーツマンシップの精神を大事にっていつも言ってるでしょ?!……まぁ、いいわ。仇をとってあげるから』

 

ケイはこの一言を最後にアリサとの通信を終えるとファイアフライのナオミと合流し、どこかワクワクした表情で防御を固めて再び隊列を整えて緑の平野を進んで行くのであった。

 

 

 

大洗学園側は全車輌が合流し、突撃隊形を組んで平坦かつ障害物が無い道を進んでいると片方がかなり大きな起伏になっている場所にやって来た。ここで、みほは思いもよらない提案をチームに持ち掛けた。

 

「もうすぐサンダースはここにやって来るはずです。私たちあんこう、フェレットさん、ウサギさんは起伏の大きな丘から一気に下って相手と決着をつけます。他の皆さんはカメさんを守りながらここの稜線でいつでも撃てるようにしていてください。私たち三輌がやられても後の皆さんなら必ず勝てるはずです」

 

『『了解っ!!』』

 

「それでは、『びっくり作戦』発動ですっ!」

 

みほがこの『びっくり作戦』を短期で思いついたのには理由があった。

無線傍受を逆手にとって今まで行って来た隠れつつ相手を撃破するというやり方でやって来たが、ここは敢えてケイが戦車道で最も重視するフェアプレイに則って隊長である彼女自身と副隊長の弾間、無限の可能性を秘め、将来有望ともいえる梓たちの三輌で決戦に臨むことが理由であった。

 

「西住殿、何だか燃えて来たでありますっ!」

 

「みぽりんのそう言うところ好きだよっ!」

 

「私の腕の見せ所ですわ。みほさん、指示を待っていますよ」

 

「ちょっと無茶な運転をするぞ西住さん。今日の私は眼が冴えているからどんな運転もできそうだ」

 

『僕たちフェレットさんチームも燃えて来たよっ!さぁ、思いっきりやっちゃおうか』

 

『西住隊長、私達ウサギさんチーム一同は貴女の戦車道に対する情熱を見させていただきますっ!!』

 

「英二くん、澤さん……他の皆さんありがとうございますっ!」

 

あんこうチームのメンバーや二人の車長に励まし言葉を掛けられたみほは今、己の才能のリミッターが完全に外れ、それを開花させんとしていた。

そして、時は満ちたというべきだろう。丘の丁度上に差し掛かった瞬間、坂の下に八輌のサンダース戦車を視界に入れた。

 

「決着をつけますっ!麻子さん前へっ!!」

 

「ファイアフライを抑えるよ、前進っ!!」

 

「あゆみ、あや。M4A2の動きを封じてっ!!」

 

サンダース側は隊長車と副隊長車が自ら現れたことでパニックになりかけたが、チームワークの強さが勝ったのか、ケイとナオミを守るべく。

M4E8の後ろから来ていたM4A2が二輌の前へ出て盾になろうとするが、高低差を活かして稜線射撃を図ったM3Leeによって装甲が最も薄い後部装甲上部に撃ち込まれていき、次々と白旗を上げていく。

弾間は、ケホの軽快さを活かしてウサギさんチームのM3Leeを狙おうとしていたファイアフライの側部の回り込んで撃破しようとするが、ファイアフライもそれに気づいて主砲をケホに向けながら素早く車体を旋回しつつ回り込ませないようにする。

しかし、フラッグ車狙いであったと思い込んでいたⅣ号によって撃破されてしまう。その隙にケホは、Ⅳ号の装填時間を見計らって後部装甲に狙いを定めていたM4E8の注意を引く。

装填が完了したⅣ号は一気に加速し、ドリフトターンでE8の後部に回り込んで砲撃を浴びせた。この時、M4E8は主砲を後ろに回り込んだⅣ号に向けて照準を重ねた上で刺し違えようとしたため、同時に砲撃を放つ。

間もなく。この二輌を覆っていた土煙が晴れて分かった光景は、Ⅳ号戦車の砲塔側面装甲が大きくかすれた傷跡を残して堂々とした風格で主砲から煙を上げ、対するM4E8はエンジンから黒煙を上げて砲塔から白い旗を上げて鎮座していた。

 

 

 

無事に三回戦も大洗学園の勝利に終わり、大洗学園のメンバーはいつも以上に勝利の喜びに入り浸っていた。今回に関しては、全員生存といった結果で幕を閉じたからだった。

カバさんチームの面々は相変わらずのように戦いの様子を歴史上の出来事に例えて盛り上がっており、ウサギさんチームは車長の梓を胴上げして勝利の喜びに入り浸っていた。

そんな場面に、一緒にいたみほと弾間の二人に手を振りながら満足な顔をしたケイがどんよりと雰囲気をまとったアリサと同じく満足な顔をしたナオミを連れてやって来た。

 

「貴女がキャプテンとエイジが副キャプテンだったかしら?」

 

「えっと……そうです」

 

「そうですが。どうされました?」

 

ケイは二人に確認を終えると、ニコッとしながら二人を同時に抱きしめた。

 

「Exciting!こんな試合ができるなんて思わなかったわっ!」

 

「「こ、こちらこそ色々学ばせていただきました」」

 

「それと、盗聴なんてして悪かったわ」

 

「いいえ。こんなこともあるんだと良い経験になりました」

 

「でも、それを切り抜けて貴女たちは勝利したんだから」

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

ケイはそう言いながら自身の両手でみほの手を優しく握った。次に弾間に目を向けると、再び彼を抱きしめた。

 

「ケ、ケイさん?!」

 

「エイジ、貴方が自らの身を顧みずに後輩たちを逃がしたところカッコよかったわ。あと、エイジいやエリソン二等兵、また遊びにおいでね。今度はステーキでも食べながらゆっくりお話でもしましょ」

 

「は、はい」

 

彼女は最初から弾間を見抜いており、今日の試合のこともあるのだろう。要するに彼女のお気に入りとなった。いや、なっちゃったのだ。対する弾間は顔を真っ赤にしにて今にも白煙が上がって来そうな感じである。

それを煽るかのように周りのメンバーは羨望の目を弾間に向けていた。

そんな空気を引き裂くように、ケイの後ろの方で一人どんよりと雰囲気を纏ったアリサのもとへたかしが駆け寄るのであった。

 

「……たかし?私のことなんか嫌いになったよね……」

 

「アリサ…………こっちも君の気持に気づかなくてごめんね。確かにやったことはアレだけど。そうだ。今度はそっちに遊びにでも行っていいかな?今度は遊びながらゆっくり話そうよ」

 

「え?許してくれるの?こんなひどいことをしたのにっ?!」

 

「許すも何も、幼馴染なんだしこの辺りはお互いに理解し合わないとね」

 

「じゃあ。私の気持ちを分かってくれるの?」

 

「勿論さ。これからはその……幼馴染兼恋人としての関係で行こうよ。なんか、都合のいいことばっか言ってるけど」

 

「たかし……」

 

彼は自身の鈍感さを自嘲しながらアリサを本心から慰めるのであった。

そんなたかしの反省ぶりにアリサも心を打たれたのだろう。彼女もまた思わず彼に抱きつく。その傍らでは沙織と大友が納得のいく表情で頷いていた。

 

「アリサ」

 

「は、はいっ?!」

 

「反省会するから……と言いたかったけどタカシに免じて見逃してあげるわ。その代わり、二人でいつまでも仲良くしなさい」

 

「イエス!マム!」

 

アリサはケイの慈しみの深さに参ったのだろう。涙を流して喜んでいる。溢れる涙で濡れた彼女の両目をたかしは優しく拭うのであった。

こうして大洗学園対サンダース大付属高校との試合は幕を閉じたのであった。後にたかしとアリサのこのやり取りは今後の戦車道史に、戦車道は恋心をも育むと記載されるほどだったそうだ。

 




ありがとうございました!次回は第十一話を投稿する予定ですっ!
今回はたかしとアリサの恋愛要素を取り入れてみました。こういった描写を書くのは初めてだったのですが。これからもこういった物の研究を進めたいと思います。
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