ソードアート・オンライン〜真実を知る者〜 (夜明けを齎す竜)
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プロローグ

⚠︎初めに⚠︎
この作品は色々な作品の要素がチラホラ出てきますが、作者が設定を勘違いしているかもしれません。そこは見逃していただけたら幸いです(´;ω;`)






2022年11月5日

 

6:00

 

ジリリリリリと目覚まし時計が鳴り、いつもの朝が始まる。カーテンを開けて、洗面所で顔を洗う。朝食とり、歯を磨き、着替えて家を出る。なんら変わらぬ日常だ。

たが、「明日」からは違うのだと思うと少し悲しくなりそうな気もした。

 

これでも一応は研究者の端くれとして自分の研究室を持っているのだが、今日は違う。向かうのはゲーム会社「アーガス」だ。

 

「おはようございます。最終確認の為に参りました、夜明です。」とドアを開ける。

 

「おはようございます。」

そっけない挨拶したのは同業者の女性だった。

 

「あれ?凛子かよ…。朝からそんなテンションで大丈夫か?」

 

「あなたにそんな事を言われる筋合いはありません。あなたはそんな調子だから煙たがれるんですよ。」

 

「はいはい、分かってまーす。そんでアイツは?まだ来てない?」

 

「いえ、晶彦さんは昨夜からメインシステム本体の微調整をやっています。あなたの声が聞こえてるはずなのでもうそろそろコチラに来るのではと…。」

 

ウィーン。機械音と共にロックされたドアが開く。現れたのは中年の男性。いかにも科学者だと言わんばかりの白衣と渋い顔で登場したのは……

 

「やぁ、おはよう、竜。」

 

「おはよう、茅場。」

 

「お疲れ様です、晶彦さん。」

 

俺こと〈夜明 竜〉とこの〈茅場 晶彦〉と〈神代 凛子〉はゲーム「ソードアード・オンライン」の製作班のメンバーだ。俺と茅場は小学校から大学までを過ごした所謂、幼馴染だ。凛子は同じ東都工業大学の一年後輩で同じ重村ゼミの出身だ。なかなかに長い時間を一緒に歩んできた仲間たちと言える。

 

「今日、竜はナーブギアの最終動作確認の為に来たんだよな。早速だか取り掛からとしようか。」

 

「話が早くて助かる。なんせβテストをやってない俺はプレイしたくてウズウズしてんだぜ⤴︎」

 

「嫌味かい、それ?公平性を保つ為には君も抽選の方がいいと言っていたぞ。」

 

「ソフト開発には一切関わってないんだぞ!やったのはナーブギア開発だけじゃねぇか。確かに言いはしたけどさぁ…。」

 

「ぶつぶつ言ってないで仕事して下さい。」

 

凛子に咎められるまでがいつもの光景だ。いつもと同じ日常。変わらない毎日だ。

 

23:45

 

日付けが変わろうとする前に茅場に電話をした。

 

「もしもし?夜分遅くにすまない。明日からのことで確認をしたいのだが、今大丈夫か?」

 

「ああ、大丈夫。こっちもそうしようとしていたところだ。」

 

「凛子にはアレのこと言ってないんだよな?それでいいのか、お前。さすがにアレのことだけは言っておいた方が後々面倒にならないと思うんだが。」

 

「何度も言うようだが、そんなことはしなくいい。私たちの《夢》を彼女に背負わせるつもりはない。罪に問われるのは私たちだけと決めたろう?なら問題は無い。さぁ、明日からのことだが……………」

 

そうして現実での最後の夜が更けていった。

 

運命の11月6日

 

 

結果、寝ることは出来なかった。自称ゲーマーの血が騒ぐ故にか、茅場と凛子の間柄を気にすらからか分からないがそのまま朝を迎えた。諸々の準備を終え、時間になるのを待つのみだ。βテストはさせてくれなかったくせに、ゲームソフトをタダでくれたのは何故だろう?

 

「弁護士とかに連絡はしてあるし、万が一があっても大丈夫だろ。」

 

そんなことをふと口にした。

 

そして……。

 

13:00

 

「さて、ゲーム開始と行きますか!」

 

『リンクスタート』

 

 

 

 




プロローグなので短めです。読みにくいなどのご要望はコメ欄に書いてください。全て読ませていただきます。週1ペースでの更新を予定しているので、そこもおねがいです。


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1話 デスゲームの始まり

続けて投稿してます。ここから少しずつチートしていきますw
基本、心理描写が多目です。
追記1
ちょびっと追加あり


ログイン完了後

 

「おおww。これはこれはww。さすがの解像度だな、コリャw。」

 

真っ先に出た素直な感想だ。幼馴染には敵わないと認識させられるのは何度目だろう?というか量子力学が専門だよな?どうやって作ったんだよ。

 

「とりあえず、初期装備の確認だな。武器は小さめの片手剣。防具は革製の当て物か……。ま、そんなとこだよな。アイテムストレージは空だしな。」

 

「アバターはどうせ変わるし、こんなもんでいいかな?」

 

確認を済ませたあとは広場とフィールドの様子見をするかね

 

〜中央広場〜

 

商店街を抜けて広場へ来てはみたものの……

 

「なんだこれ?」

 

初期プロットは1万人のはずだか、さすがにごった返し過ぎている。パーティを組もうとする奴、ナンパしてる奴とか本当にゲーマーかと疑いたくなるプレイヤーばっかりって…

 

「ま、面倒くなる前にフィールドに出るか。」

 

ドンッ。後ろから誰かに押されてバランスを崩しそうになった。

 

「あぁ、スマンスマン。ちょっと興奮してて前見てなかったわ。」

 

どうやら赤髪の男が犯人らしい。その後ろから黒髪の短髪の男がやって来た。

 

「おいおい。いくら早く外に出たいからって人にぶつかるのはマナーに反するぞ。」

 

まったくだ。マナー違反はゲーマーとしてやってはいけない行為。それを破るやつはバトル中も危なっかしいと相場が決まってる。名前でも聞いて、少し注意を…

 

「別に大丈夫。それより、今からフィールドに出るんだよね?一緒に行ってもいいかな?βテストに落ちちゃって、戦闘の仕方がわからないんだよね。俺は『ルーキス』って名前なんだけど……。」

 

「それなら歓迎だぜ!俺は『クライン』、こいつは『キリト』だ。よろしく。」

 

「キリトだ。俺はβテスト経験者だからクラインに戦闘を教えるつもりだったんだ。よろしく。」

 

「それなら助かる。ありがとう。」

 

握手をしながら答えた。

そうか。これが「クライン」か。そんでこっちが「キリト」と。クラインはどこかのゲームで聞いたことがあるし、βテスト経験者の名簿を見ててキリトの名前があったのは強運だな。

 

〜はじまりの街 西〜

 

型を意識して、力を溜める。そして放つ。少々のズレがあるが何度か挑戦するうちに慣れてきた。

 

「はぁぁぁーー!!」

 

「な?ハマるだろ?」

 

なるほど。こういう事か。さっきの猪はもたついたが、なかなかに簡単だな。

 

「ありがとう。これでなんとかなりそうだ。この後、リアルでの友達と会う約束があるから街に戻るとするよ。この借りはいつか必ず返す。絶対だ。、」

 

 

クラインが、「おっと、その前にフレンド登録しようぜ。せっかくだしよ!」

 

「いいぜ!あれ?キリトはフレンドいいのか?」

 

「ああ…。俺は別に構わない。」

 

「そうか。ま、どっかでまた会えるだろうし、今はいいだろ。じゃあな。」

 

約束の時間より3分ほど遅れてるな。急がないと…。茅場のやつ、怒ってないといいんだが。それにしてもキリトがああいう奴だったとは意外だな。

 

〜はじまりの街 ある一軒の家〜

 

「ここでいいよな?特徴のある屋根作りってこいつだろ…。」

 

西洋風の街並みの中で明らかに瓦屋根の家が急に現れる。作りは他の建物の変わらない石造りなのになぜ?下手をすると俺以外の一般プレイヤーが訪ねる可能性もあるだろうに……。お茶目が過ぎてないか?これ

 

「おや、君が待ち合わせに遅れてくるとは珍しい。なにかあったのかい?」

 

「はぁ⁉︎お前誰やねんw面影なさすぎやろ。」

 

見たことのない銀髪の初老の男が目の前にいた。いくら身分を隠したいからって、やりすぎじゃね⁉︎腹筋が鍛えられてしまうわ!!

 

「そういう君こそ若すぎやしないかね?いつまでも若くいたいというのは世の大人なら考えることかもしれんが、些かにやりすぎなのでは?」

 

「お互いサマだよ!だいたいこの家の外観もやりすぎだろ‼︎とガミガミ言うのはやめて、本題に入りろう。」

 

「おや?いつになく飲み込みが早くて少し驚いたが…。まぁ、いいだろう…。現在の時刻は16:30。1時間後にプレイヤーを集め、このソードアート・オンラインの正式サービスの開始を宣言する。が、君はその場に呼ばない。君には特別な仕事をしてもらう。」

 

「で、その仕事は?」

 

「ーーーー暗殺だよ。」

 

へっ?暗殺?いやいやいや⁉︎いくら殺しが可能だからってそれを望んでやるお前じゃないだろ⁉︎と思いはしたものの

 

「はぁぁぁぁ……。大学卒業からこの研究するまでの『俺』を知った上での依頼と受け取っていいんだよな?お前と会ってない10数年で何が起きたのかを話したのはこのためじゃねんだぞ。分かってんのか お前は俺にもう一度、命の重さを忘れろと言ってんだぞ 」

 

強めの剣幕で言ってやった。この茅場 晶彦は友である俺に命を懸けて、命を殺せと言ったんだ。その覚悟と責任を聴かなければならないと思った。

 

「そのつもりだよ。私は君に殺しを頼んだ。それは事実だ。たが、生半可な決意をしていると思えば大間違いだ。私は私の夢を実現させるためにここまで来た。君も同じ光景を見たいのだろう?ならば、それの障害になるであろうモノは排除すべきだ。もちろん、君が失敗する事も考えているとも。そこまで考えて私は君を頼りにしているのだ。」

 

茅場は涼しげな顔でそう言い放った。

 

「わかった。納得はいかねぇが、その言葉は裏切れない。その分といってはなんだが、依頼以外の行動は自由にさせてもらう。お前は友だ。家族とも思ってる。だから、お前を信じよう。」

 

そうさ。俺はこいつを裏切らない。そう決めている。ガキの頃からずっと信じてきた。何があっても、何がなんでも。

 

「で、そのターゲットは誰だ?情報が無いと何もできん。」

 

「本当の名前は知らないが、ログイン時のアバター名なら知っている。現実世界のログイン場所も分かっているが、今はいらないだろう?」

 

「早く教えろ。なんて名前なんだソイツは?」

 

「『PoH』という男だ。」

 

「プー?なんだその可愛い名前はw。なんでそんな名前を付けるかねぇw。でも、相手がわかったんなら造作もない。やり遂げてみせようとも。」

 

「では話は終わりだ。今後もよろしく頼む。」

 

「わかっとるわい、そんなこと。じゃあな、茅場。」

 

話を終えたところで家を出ようした。そして、扉を閉めようとした最後に、

 

「『ヒースクリフ』。それが今の私の名前だ。次に会う時にはそう呼んでくれたまえ。」

 

バタン。

 

〜中央広場〜

 

茅場もといヒースクリフの正式サービスの開始を告げてから1時間後

 

20m先をターゲットが歩いている。顔は見えないが、身体の動きから只者ではないことは理解できる。むしろ、そうでなきゃ殺しの対象にならないとおかしいほどに出来すぎた話だ。『俺』への依頼は裏の世界じゃそういう扱いをされていたってんだ。目下の問題なのは相手が相応の実力者であること、こっちの装備はさっき買った短剣のみであること、そして、尾行に気づいているということ。どこへ行くでもなく、コチラを撒こうとしていると考えられる道を歩いているのは確かだ。

 

「さて、どうしようかね?尾行には気付かれてるがこちらの場所はわからないようだが…。」

 

人々がパニックになっている中、そこに二人の裏の住人。

互いにが誰かも知らず、殺意を向け合う黒い影。

人気のない路地に差し掛かった瞬間、相手が消えた‼︎暗い路地は邪魔が入らないが、思った以上に狭く、十分に動くのは難しい。

そう頭を情報がよぎった時だった。

 

「死ねぇぇーー!!」

 

頭上から人が落ちてきた。大きめのナイフのような得物を振りかざしながら

 

「んな訳にいくかよ!」

 

ナイフを持った手を左腕で振り払う。深い傷がつき、赤い光のエフェクトが出る。そして、自分のHPが削られた感覚が残った。痛みは無いが、その分自分自身の何が不可逆の変化をしたのだと強く感じた。

そのまま腕を掴み、一本背負い。しっかりと極め、相手の顔を見る。

 

知った顔だった。いや、知らないとは言えない奴だった。

 

「お前が『PoH』……⁉︎そうなのか……⁉︎」

 

アジア人の雰囲気を持つヒスパニック系の男。努力をしていたならモデルにもなれるのでは?と思うほどのイケメン野郎

アメリカはテキサス州のスラム街、テンダーロイン地区出身

 

「久しぶりだな、『先輩』。またアンタに会えるとは思ってなかったぜ。」

 

にやけた顔と黒光りする眼でこちらを舐めるように見てくるこいつは

 

「ヴァサゴ……。ヴァサゴ・カザルス。愛しき我が『後輩』。」

 

悪魔との再会だった。

 

 




なんとなくアニメ1話ごとのように更新するのか?と自問自答しながらと何とかオリジナルに(^ω^)
誤字、脱字はバンバン言ってください
追記1
ダメージ描写は2話にて説明あり


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オリ主の設定および今後の方針と展開(ネタバレ有り)

唐突に設定が湧き出したので書いておきたいと思います
ガッツリとネタバレしまーーすww



名前 『夜明 竜』

(由来はペンネームをもじっただけの安直なやつww)

 

年齢 茅場と同じ

(茅場本人の年齢がイマイチ分かっていないのでこ んな感じです。アラフィフかな?と自分は思ってます)

 

身長・体重 182cm、80kg

(今後のお話的にこのぐらいかな?と思った結果)

 

アバター名 『ルーキス/Lucis』

(ラテン語で光の意味)

 

見た目 普通のおじさん。アサシン版とランサー版の李書文の中間くらい。服はエツィオのやつ。

 

以下、ネタバレ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来歴

茅場と子供の頃からの幼馴染だが、大学卒業後にスウェーデンで研究をすることになり、日本を離れた時に茅場や神代との連絡をしなくなった。専攻はロボット学だが、それを用いた人工知能の分野にも手を出すようになる。が、論文を発表する2日前に研究所が何者かの襲撃を受る。建物の崩壊の下敷きになったときに脳にダメージを負い、記憶喪失になる。その後は襲撃者への復讐のためにトレーニングや殺しの技術を独学で学ぶ。5年後に復讐を果たすが、すでに裏の世界で名のある暗殺者であり、とある依頼により日本に行く。そこである組織にいたヴァサゴに出会い、多少の手ほどきをする。数回の「仕事」を共にするが、茅場の名前を仕事中に耳にしたことで記憶が戻る。それからは裏社会から足を洗い、10数年ぶりに茅場と出会うことになる。その後は東都工業大学で非常勤講師をしながら共同でVRマシン開発をする。

 

SAOにおける使用武器とその設定

初期(〜25階層) 短剣『スモールダガー』×4本 『盗人の短剣』(ダクソの短剣。)

中期(26〜50階層) 短剣『無銘・黒』×2本 (ただのつや消しを施した小さめ黒い短剣)

『アサシンブレード』×2本(ご存知、アサシンブレード。エツィオのやつ。フックあり)

刀 『物干し竿』(小次郎とかダクソのやつ。普段は装備をしていないが、中型エネミーとの戦闘時に使用。NPCイベントの戦利品)

後期(51〜75階層)

『千景(ちかげ)』(ご存知、千景。カインハーストの騎士たちの剣っすね。変化もしっかり使うのでお見逃しなくw)

全期 ナイフ(分類は短剣で。何本かは場合による。鍛冶屋のプレイヤーによって制作)

 

使用スキル

スニーキングを含めた暗殺特化スキル群(Fate的には気配遮断 A+ とか)、料理スキルMAX、バトルヒーリングも

 

使用ソードスキル

汎用及び短剣専用スキル全て、「燕返し」(多重次元屈折現象の魔剣っす)⚠︎刀系は無しの方向で……。

ユニークスキル「暗殺剣」(ホロウの上位スキルより)

 

今後のお話

とりあえずSAO編、ALO編、GGO編と続けるプロットはあるのでその辺りまではやります。キャリバー編はやりませんが、オリジナルのGGOを続けていきたいっす。OS編もエイジくんとか重村教授を絡めて進めるつもりです。UW編はまだ白紙の状態。

設定は編ごとに出します。

所々にダクソとブラボ要素を少し。Fateは主に技ぐらい

 





変更は度々あるかもしれません
矛盾や原作と違いは注意していただきたいです(^_^)


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2話 夢のカケラとその先

1話の続きです。誤字脱字、矛盾した設定などありましたら連絡よろしくお願いします。クソ短いっす。すいません


 

「んで、何でこんなとこにいんだよヴァサゴ」

 

ありえない。そうとしか思えない。コイツがゲームをやるようには見えないし、ましてVRMMOなんて……

 

「何でって……そりゃアンタ『仕事』に決まってるだろ?それ以外に何するってんだ?」

 

「『仕事』って……このゲームの中でか?」

 

「ああ、ゲームの中でターゲットを殺してくれって馬鹿みてぇな話を上が言ってきてよ、報酬が大きかったのはあるが…俺の立場上、断れないのは知ったんだろ?だからさ」

 

ーーゲーム内で殺せーーそれはこのSAO が本当の意味で人殺しが出来るって意味を知ってなきゃ言えないハズだ……どっから漏れた?これを知ってるのは俺と茅場ぐらいだが……

 

「アンタがいる事の方が驚いたぜ、俺は!『夜明 竜』さんよ?裏社会で名を馳せたアンタが急に足洗った日にはそりゃ、驚いたもんさ。俺にとっちゃ『先輩』であるアンタが辞めたおかげで『仕事』が倍増したんだ、辛かったよあの頃は」

 

「記憶が戻った話はしたろうが。元々は 技術者志望の学生だったんだぞ?」

 

「アンタのその説教めいた話し方どうにかならないのか?昔からそれだけは変わらないんだな………」

 

「そら、お前が『後輩』だからだよ、ヴァサゴ。大事な大事な後輩でいづれ裏で俺よりスゲェ殺し屋になれるいや、なるべき男って思ってるからだ。お前の今後を考慮してだなーーー」

 

「へいへい、分かりましたよ。ったくよ」

 

本当のことだよ、ヴァサゴ。お前は俺を越えていける男だ。その恨み、憎しみ、それら全てを俺は高く評価してるんだぜ。ペーペーの頃の俺はそうだったからな……

 

「そんな訳だ。俺はターゲットを探して、仕事を終わらせる。アンタとはまた会うかもしれないが、邪魔だけはしてくれるなよ」

 

「わかってるよ!じゃあな、ヴァサゴ!」

 

そうやって俺自身の標的が去っていった。フフッ…ハハッ

 

「失敗したのは俺の方かよ……茅場いや、ヒースクリフになんて説明しようか?」

 

ピロン!メールが届いたみたいだ。送り主は……⁉︎

 

「『ヒースクリフ』と。アイツはどっかから見てんのか?怖っ!」

 

文面には

『どうやら失敗したようだね?まぁ、予想通りの結果ではあったが、コチラとしては成果があったので良しとしよう。君は気づかなかったようだが本来、主街区内ではあらゆるダメージ要因は無効化されることになっている。が、君は先程ダメージを負った。これは私からの贈り物でね、君の半径2メートル以内での武器を用いた殺傷行為だけ主街区内でもダメージ計算を行うようにGM特権でアバターに付与したのだ。もちろん、投擲などでは無効となり衝撃と光になるから気をつけてたまえ。これからはこのような連絡は基本的に無くなる。あったとしてもヒースクリフとしてがほぼだろう。それと、メールと共に特別な防具も送ったので確認してくれ。では、またな竜。』

 

「ーーーえぇ……。なんちゅう自分勝手なことをしてくれるかな俺の幼馴染は?『どこでも殺傷行為が可能』ってさすがにチート過ぎやしないかね?まして、俺だぞ?」

 

グチグチ言っても仕方ないか……ゲーム好きとしては見過ごせないが、『暗殺者』としては願ったり叶ったりだ

 

「そうそう、防具もくれたんだよな。装備してみるか」

 

接待を受ける身にもなれってんだ!しかも子供の頃から知ってるやつにしてもらう身にな!

 

「これは……中々にいい…。防具というより服だな。多少の効果はあるが防御力な並以下と。イイねぇ!血湧き肉躍る感じがする!」

 

それはフードのついた全身を覆える黒を基調としたものだ。短剣や武器を仕込めるようになっているし、多くの道具を常に装備できるようだ。装備重量の増加、AGIとDEXとINTの補正、その他の戦闘系スキルの習得の短縮と盛り盛りチート装備だった

 

〜はじまりの街・西門〜

 

足りないアイテムと武器を買い、装備を整えた。ここからが俺の本当のゲームスタートだ

 

「ーー長かった。ここに辿り着くまでに沢山の道草をしてきた。茅場の夢見た世界を俺は見届けてたいと思ってやってきた。北欧での研究、記憶喪失、殺しの仕事、VR機器の開発、いろんな事があったが、それもイイ経験になった。」

 

これから先のまだ見ぬ世界が楽しみで仕方ない!年甲斐にもなく、カッコつけて始めようかね!

 

「血湧き肉躍り、骨鳴り魂震え、心滾ってこその人生だ!アイツは『これはゲームであっても、遊びではない』と言いやがった。じゃあ俺はこう言わせてもらおう『さぁ、始めよう。俺たちの夢を』」

 

門を出た。目指すはこの先の村。出遅れちまったが、ここからが俺のソードアート・オンラインだ!おじさん、ガンバるぜ!

 




投稿遅れて、すいません
書いてる途中で寝落ちしちゃいましたm(__)m
そのまま投稿したので出来は良くないと思いますが、編集する気にもなれない……
次は第1層ボスになります。お楽しみに(^ω^)


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3話 黒のビーターと冥いビーター

題名、ムズイ……
1話ごとの名前を考えるのって何でこんなに難しいんでしょうか?そんな訳ですが、本編いきまーす


〜ソードアート・オンライン正式サービス開始から約1ヶ月〜

 

2022年12月2日

 

正式サービス開始から1ヶ月ほど経つが、未だ第1層のボスは攻略されていない。1万人のプレイヤー中、2千人が死亡した。俺の予想よりも多い結果となり、内心驚いている。今日はボス攻略の会議の為に『トルバーナ』のコロッセオに集まることになっている。この会議の主催者はディアベルというプレイヤーで比較的高レベルのプレイヤーたちに声を掛けていたようだ。もちろん、俺も呼ばれていて何の因果かディアベルの横でお目付け役として立っている。声をかけられた時は茅場から貰った装備を着ていたが、印象が悪いとディアベルが言うので今は外している。

 

おいおい、そんな目で俺を見るな…。おっさんがゲームやってて悪いかよ……ほとんどが10代から20代くらいの男性だが、ガタイのいい黒人が1人、女性プレイヤーもチラホラ見える。

 

「それじゃ、5分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!」

 

そう言ってディアベルが会議を始めた。自己紹介を始めに、集まってくれた人への労いなどで場の空気を和ませる。上手い。多分、現実でも人気の上司なんじゃないか?そして、ディアベルは声のトーンを落としてこう言った。

 

「今日、俺たちのパーティが迷宮区の最前線でボス部屋を発見した。」

 

ザワザワ、どよどよ、とプレイヤーたちが蠢いた。

 

「1ヶ月…ここまで来るのに1ヶ月かかった。けれど、それでも俺たちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第2層に到達して、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、始まりの町で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが俺たちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」

 

いい演説だ。やっぱり、上に立つものはこうでなきゃイカン。ま、俺はテキトーに相槌を打つだけなんだが

 

「なぁ、ちょっとエエか?」

 

小柄な男が声を上げた。チクチクの栗みたい髪のやつだ。高圧的な声で、なんとなくめんどくさそうな感じがしたので、話は無視することにした。なんとなくβテスターへの文句を言っていたのはわかった。そこにさっきの黒人プレイヤーが反撃し、いいことを言ったのか他プレイヤーが騒つく。ほぼ立ったまま寝ていた俺は全く聞いてなかった。それに気づいたディアベルが俺を小突きながら

 

 

「それじゃあさっそくだけど、近くにいる人で6人パーティーを組んでくれ!」

 

と起こしやがった。因みに、立ったまま寝るのは殺し屋時代に身につけてたちょっとした特技で自慢ネタの1つだ

 

「おいおい、寝るのは困るよ。あなたはこの場で最も経験のある人なんだ。ゲーマーとしても人生てしてもね。だから、頼みますよ」

 

「すまんな。栗頭のやつの話がめんどくさそうな感じがしてな、許してくれ」

 

「怒ってはいません。ただ、年長者としての自覚を持ってください。会議はうまく進めるにはあなたみたいな人が私側の人間だという情報を与えた方が良いからです。」

 

こ、こいつ、予想以上にやり手だ!表情からは分からなかったが、リーダーとしての資質が飛び抜けてやがる!

 

「今言いましたが、6人ほどのパーティーを組んでくれと皆に伝えました。あなたはそうですね………奥にいる2人組に加わってください。その方が戦力の分散もでき、文句を言う人は出ないでしょう」

 

「了解した。じゃあ、明日の朝までのお別れだな。連携の確認とかおこたるなよ」

 

「あなたに言われなくてもやりますよ。皆んなの為にボスを攻略しましょう」

 

そうしてディアベルと俺は別れた。短い付き合いだが、あんなやつが北欧での研究チームにいたらどれだけ捗っていたことか

 

「おーい、お2人さん?俺もパーティーに入れてくないか?」

 

「あぁ、いいぜ!2人じゃ心許ないと思ってたところなんだ。俺は『キリト』。よろしく」

 

パーティー申請の許可のボタンを押す

ん?『キリト』だと⁈あの⁉︎

 

「キリトっ!お前が!意外に若い子だったんだなぁ」

 

「ん?どこかでお会いしたことが?」

 

「急に敬語なんてやめろよ。俺は『ルーキス』だよ。ソードスキルとか教えてくれたじゃん」

 

「ルーキスぅ!えっ!あんたおじさんだったのか⁈」

 

「まあな。お前の親父さんぐらいはあると思うぜ。改めてよろしくな、キリト!」

 

「よろしく、ルーキス!」

 

手を出してきたので握手をした。何となく、本当に何となくだが、コイツとの付き合いが長くなるような気がした

 

「そっちのフードの子は?」

 

「そいつはあまり喋りたがらないんだ。理由は分からないけど、詮索するのもマナー違反だから深くは聞いてないんだけど…」

 

名前は何て言うんだ?アバターの上部に視線を向けるとアバター名が浮かぶのだが……『Asuna』、アスナか……

 

「確かにお前の言う通りだ。そこはゲームマナーに従うのが正解だろうな。」

 

「パーティーは組めたか?では、今日はこのあたりで解散とする!明日のボス攻略に向けてパーティー内での連携の確認や、チームワークの向上に努めてくれ!集合は朝10時だ!」

 

ディアベルが攻略会議を閉じる宣言をした。集まったプレイヤーは全てパーティーを組めたようだ。元から一緒にいたやつら、俺たちみたいにこの場でパーティーを組んだやつらと色々な組がいた。

 

「早速で悪いが役割分担を先に決めたいんだが、パーティーのリーダーはキリトがやってくれ。見たところ、片手直剣がメイン武器なんだよな?なら、お前がメインで攻撃を担当してくれ。俺は短剣が主だが、曲刀も少しは使える。惹きつけ役は俺だ。」

 

「その線で行こう。フードの君もそれでいいか?」

 

うん、縦に首を振り答えた。シャイなのかは知らないが、RPGでのパーティーでこの態度はどうかと思うぞ?

 

夜になり辺りが暗くなってきた頃

 

「まぁ、明日にならなきゃ話は始まらん。とりあえず、腹が減ってきたんだが……なにか美味い食いもんの店知ってる?フィールドと宿と武具屋のローテーションしかしてなくて…」

 

「それなら、あのパンはどうだ?」

 

キリトが買ってきたのはパサパサの丸いパンだった。どこで食おうかと迷っていると

 

「それ、意外と美味しいよな?」

 

さっきのフードの子が同じものを食べていた。名前もそうだったが、この子は女の子だよな?食べ方がお上品な感じもするし

 

「本気で美味しいと思ってるの?」

 

「この街に来てから、1日1回は食べるようにしている。まぁ、工夫はするけど」

 

「え?キリト、お前料理できんの?」

 

「心外だな。ほら、そのパンに使ってみろよ」

 

小瓶をポケットから取り出して、差し出してきた。フードの子・アスナと俺は中のクリーム?らしきものを恐る恐るつけて食べみる

 

「それじゃあ、いただきます。」

 

ハムっ!モグモグ

 

「美味!ゲーム内で今まで食ったもん中で1番うめぇぞ!」

 

アスナも一瞬で平らげたみたいだ。

 

「1個前の村で受けられる『逆襲の雌牛』ってクエストの報酬。やるならコツを教えるよ。」

 

「是非!教えてくれ!あとから借りは返す!」

 

グイグイ迫り過ぎたか?だが、食欲に勝てないのが人ってやつだ。が、

 

「美味しいものを食べる為に私はこの街に来たんじゃない。」

 

「じゃあ、何のため?」

 

「私が私でいるため。最初の街の宿屋にこもって、ゆっくり腐っていくくらいなら、最後の瞬間まで自分のままでいたい。たとえ怪物に負けて死んでも、このゲーム、この世界には負けたく無い。どうしても……」

 

意思のこもった言葉だ。そうだよ、本当に死んじまうゲーム、世界なんだ。恐怖を感じて当たり前だ。それでもこの子は立ち向かおうとしている。いい子だ……

 

「パーティーメンバーには死なれたくないな。せめて、明日はやめてくれ」

 

「おい、キリトさんよ。そんなこと言うなよ。明日だろうが今日だろうがいつだろうが、死ぬのにいい日なんてもんは来ない。お前らに約束する、決して死なせはしない。必ず、生きてボスを倒す!未来ある若者を導くのも年寄りの仕事だからな」

 

それを聞いて勇気づけられたとキリトは言ってくれた。その後、今日はお開きになった。

 

〜次の日の朝〜

 

ボス部屋までの森の中

 

「確認するぞ。あぶれ組の俺たちの担当は『ルインコボルトセンチネル』っていうボスの取り巻きだ。」

 

「わかってる」

 

「了解」

 

「俺がやつらのポールアックスをソードスキルで跳ね上げさせるから、そこを空かさずスイッチして飛び込んでくれ」

 

「スイッチって?」

 

おいおい、ここにきてスイッチの説明かよ……

 

「も、もしかしてパーティー組むのこれが初めてなのか?」

 

「うん」

 

「マジか…」

 

つい口に出してしまった。キリトも驚きでうなだれている。不安だ……

 

そんなこんなでボス部屋の前に到着した

 

ディアベルが

「皆んな聞いてくれ。俺から言うことはたったひとつだ。勝とうぜ!」

 

場の空気が引き締まる。さすがのディアベルだ。

 

「行くぞ!」

 

扉に手をかけて、開いた

 

さぁ、始めてのボス戦だ!ゲーマーの血が騒いでしかない!バトルってのはこうでなきゃ!

 

奥の方に大きな影。ボスの『』のお出ましだ。

 

「ヴオーーー!」

 

大きな鳴き声を出して、走ってきやがった!ご丁寧に取り巻きたちを召喚しながら

 

「攻撃、開始ーー!」

 

ディアベルの号令で俺たちも走りだす!さぁ、開戦だ!

 

キィン、キィン、ガン、ガツン!

剣が擦れる音、鎧に当たる音、いろんな音が声と共に部屋に響きわたる。俺たち3人は順調に取り巻きたちを捌いていた。

 

ズオォォチ!

ボスが大きな剣を抜いた。

 

「ダメだ!!」

 

キリトが叫ぶ。

 

「全力で後ろに跳べ!」

 

ディアベルのやつ!あの大馬鹿野朗!もう、ソードスキルのモーション中だ。あのままじゃ避けられないぞ!クソ、このチビ共め!いい加減にしろよ

 

取り巻きたちの対処で反応が遅れた。ディアベルがまさにボスに突っ込んで行っている。キリトの焦りから大技の範囲にあいつがいるのは火を見るより明らかだ。

 

「グハッッッ!」

赤いダメージエフェクトが弾ける

 

 

天井から飛びかかったボスの攻撃がディアベルに当たる。手の届く距離までなんとか走ったが間に合わなかった

 

「ディアベルはん!」

 

栗頭が叫ぶ。だが、ボスはその栗頭の方にタゲを移した

 

「「ディアベル!」」

 

俺とキリトは倒れたディアベルの元に向かう。死ぬな、馬鹿たれ!リーダーのお前が死んでどうする!

 

「何故、1人で⁉︎」

 

ポーションを取り出しながらキリトが声をかける。だが、ディアベルはポーションを断った

 

「お前もβテストプレイヤーだったな……分かるだろ?」

 

「ハッ…!ラストアタックボーナスによるレアアイテム狙い…。お前もβ上がりだったのか?」

 

そうだ。ディアベルはβテスト経験者。俺はそれを知っていた。知っていた上でコイツに協力していた。そんな自分に反吐が出る

 

「ーー頼む……。ボスを…ポーションを倒してくれ…皆んなの為に!」

 

「おい、馬鹿!死ぬな!若いやつが年寄りより先に死ぬのがどれほどツラいかお前分かるか!」

 

久しぶりに、他人の前で泣いている。付き合いは短いがコイツは将来有望な先導者だ。それだけは分かってる。コイツが死んじまうのも……

 

「ありがとう…ございました……」

 

パリィィィン。ディアベルの身体が光のカケラになって散った。

コイツはβテスターながらに他のプレイヤーたちをまとめ上げ、ゲームをクリアしようと必死になって頑張った。

それを無かった事にしてたまるか!

 

短剣を強く握る。ボスのHPはまだ多い、ディアベルのために葬い合戦といこうか!

 

「私も」

 

「俺もやるぜ、キリト!あの馬鹿の為にもボスを倒す!」

 

「頼む!」

 

キリト、アスナ、俺で陣形を組んでボスに向かう!

 

「手順はセンチネルと同じだ」

 

「わかった」

 

「はいよ」

 

ボスが剣を構える。どうやら抜刀術系のスキルで走ってくる俺たちをぶっ飛ばしたいらしい

 

「ウォーー!」

 

キリトが飛び出た。ボスをすかさず攻撃すが、

 

ギィィィーーン

 

キリトが上手く弾いた

 

「スイッチ!」

 

俺とアスナが出る。俺はボスの身体を駆け上り、頭上からソードスキルを構える。ボスが剣を俺ではなく、目の前のアスナに振りかざす!

危ない!

 

「「アスナ!」」

 

キリトと俺の声が重なる。アスナは剣を避けるが、顔を覆っていたマントが壊れた

 

「こいつを食らえ!」

「ハァァァーー!」

 

俺は脳天に短剣を突き立て、アスナは腹に細剣で一撃を入れる!

 

「次、来るぞ!」

 

ボスのHPはまだ削りきれない。クソっ!強すぎだろ!キリトのやつはこの正面で数撃を受ける。俺は振り落とされそうにながらも身体にしがみつき、何度もソードスキルをブッ刺す!

 

「グハッッッ」

 

キリトが攻撃に耐えきれず、アスナと一緒に飛ばされた!

 

「この野朗!」

 

ボスから飛び降り、2人の前に立ち塞がる!低い姿勢を取り、構える。

 

「オラァァァァ!」

「クソッタレがぁぁぁ!」

 

俺と同時に後ろから攻撃があった。それはボスの一撃を吹き飛ばし、身体を仰け反らせるほどのパワーだった。それに続いて、みんながボスに向かっていった。振り向くと、

 

「回復するまで俺たちが支えるぜ!」

 

黒人プレイヤーだった!コイツ、漢たぜ!

 

「キリト!無事か⁉︎」

 

「なんとかな。あんたは?」

 

「無事に決まってんだろ!」

 

「「危ない!」」

 

返答したとこで黒人プレイヤーたちがボスの攻撃に晒されている瞬間だった

 

「届けぇぇ!」

「とぉぉりゃーー!」

 

俺とキリトが跳び、ボスへと斬りかかる!

 

ズバシュッッッ

 

空中のボスを下に叩きつける

 

「アスナ、ルーキス!最後の攻撃、一緒に頼む!」

 

「「了解!」」

 

3人でボスへと最後の攻撃をしかける!

 

「「「ハァァァァーー!」」」

 

バシュッ!ザクッ!ドスッ!

 

いくつもの斬撃を叩き込む!

 

「ハァァァァーーーーー!!!!!」

 

キリトが逆袈裟のようにボスを切り、最後のHPを消し飛ばす!

 

ボスは光り輝く粒子となって消えた

 

や、やったぞーー!

おおーー!

皆んなが勝利の雄叫びを上げる!肩を組む者、ガッツポーズをする者、様々だ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 

「大丈夫か、キリト?」

 

「お疲れ様」

 

「見事な剣技だった。Congratulations.この勝利はアンタのものだ。」

 

俺、アスナ、黒人の人が膝をついて息の上がったキリトに労いの言葉をかける。

 

「ーーいや…………」

 

そんな俺たちに続いて皆んながキリトに声をかけてくれた。満更でもない顔のキリト。疲れてはいるが、顔が暗いわけじゃない。これで初戦は終わりか……犠牲者はディアベルだけか………

 

「なんでや!」

 

栗頭が叫ぶ。

 

「なんで、なんでディアベルはんを見殺しにしたんや!」

 

「「見殺し?」」

 

「そうやろが!シブンらはボスの使う技、知っとたやないか!」

 

いや、俺は知らんぞ。キリトは知ってたが、俺は最速で反応しただけ。手が届かなかっただけ………

 

「最初っからあの情報伝えとったら、ディアベルはんは死なずにすんだんや!」

 

ザワザワ、ザワザワ

嫌な予感がする

 

誰かが、きっとアイツらβテストプレイヤーだと叫んだ

違うと名乗ることも出来たが、それではキリトだけが責められることになってしまう。それだけは絶対に容認できない!

 

視線が俺とキリトに集まる

 

「おい、お前!」

 

黒人さんとアスナが栗頭に注意をする

 

「フハハ!フハハ!」

「ハ。ハハハハ。クハハハハハハ!」

 

「元βテスターだって?俺をあんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな!」

 

「全くだ!この場にすら来はれない腰抜け共とは違う」

 

どうやらキリトは俺の意図を上手くとってくれたらしい

 

「な、なんやと!」

 

栗頭がほざく。いかにも小物が言いそうなセリフだwテンプレ過ぎて笑いそうになる

 

「SAO のβテストに当選した1000人の内のほとんどはレベリングのやり方も知らない初心者だった。」

 

「今のお前さんらの方がまだマシだ。」

 

「「だが、俺たちは違う。」」

 

「俺たちはまだ誰も到達できなかった層まで登った。」

 

「ボスの刀スキルを知っていたのは、ずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ。他にも色々知っているぜ、情報屋なんか比べ物にならないくらいにな!」

 

「な、なんやそれ⁉︎そんなん、βテストプレイヤーどころやないやんか!もう、チートやチーターやんそんなん!」

 

栗頭の言葉が他の連中にも伝染する。チートだとか、文句ばっか。βのチーターだから『ビーター』なんて言う奴もいた。

 

「ビーター…いい呼び名だな。そうだ、俺たちはビーターだ。元テスターごときと一緒にしないでくれ」

 

そう言いながらキリトはアイテムウィンドを触り、黒いマントを着る。

俺もウィンドから茅場からのプレゼントを選び、装備する。プレイヤーたちの間を抜けて出口まで歩く。だが、最後の階段に差し掛かった時、

 

「待って」

 

アスナが俺たちを呼び止めた。

 

「あなたたち、戦闘中に私の名前呼んだでしょ」

 

「ごめん、呼び捨てにしたりして。それとも呼び方違った?」

 

「どこで知ったのよ?」

 

へ?今?それ?こんなシリアスな雰囲気なのに?知らなかったのかアスナは……

 

俺は空中を指差して

「この辺に自分の以外のHPが見えないか?その下に何か書いてないかな?」

 

「キリト、ルーキス。これがあなたたちの名前?」

 

「そうだよ」

 

「フフっwなーんだ、こんなとこにずっと書いてあったのね」

 

アスナが笑った。控えめに言って可愛い。ま、俺の守備範囲ではないが……

 

「キミは強くなれる。だから、きっといつか信頼できる人にギルドに誘われたら断わるなよ。ソロプレイには絶対的な限界があるから」

 

「じゃあ、あなたたちは別々にやっていくの?」

 

「ああ」

 

キリトは喋らなかった。そうして、ウィンドのパーティー解散のボタンを押した。もちろん、俺も

 

ズゴゴ、ウィーン

 

扉が開いた。外は転移門があり、上層への道があるようだ。

 

「ありがとう、ルーキス」

 

「何がだ?βテスターだって嘘をついたことか?俺はお前が見捨てられなかった。それだけだ」

 

「心から感謝するよ。ありがとう」

 

「改まるな。俺は若モンのお前が堕ちていくのを止めたかっただけ。結局、一緒に堕ちちまったがなw」

 

「これからどうする?」

 

「ソロでやると言った手前、俺たちは別行動をとろう。お互い、死なない程度に頑張ろうぜ」

 

そして俺たちは別れた。キリトは街に戻り、俺は転移門のアクティベートをやって第2層に入った。

 

ここからが俺の本番だ

 




書きだめ第一号っす
皆々様、誤字・脱字がありました、コメントにてご連絡ください


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4話 秘宝の守り人

アサブレゲット回です。マスターアサシンが出ますが、この回だけのゲスト出演です。NPCですがその所、ご容赦ください


第1層ボス攻略から何ヶ月もの時間が過ぎた。この間、約50層ほどが開放され、その攻略時に主だって活躍した・貢献した者たちを『攻略組』と呼ばれ、畏怖するプレイヤーたちが現れた。俺は第1層以来ボス攻略には参加はしていないが、ボス部屋までの『迷宮区』という高難易度ダンジョンのマッピング及び出現モンスターの対象法を他の攻略組プレイヤーに売っていたが、のちに『血盟騎士団』というギルドからの個人依頼を受けていくようになってしまった。

そんな役回りを受けているのは言うまでもない、ヒースクリフのせいだ

 

ある日のこと、第50層がクリアされたばかりの頃。

 

「あの〜すみませんが、ルーキスさん…ですよね?」

 

街の武具屋で良いモノはないかと物色していた時に後ろから声をかけられた。振り向くと

 

「アスナ⁉︎アスナか!久しぶりだな、おい!」

 

アスナだった。初めて会ったときとは全然雰囲気が違う。装備が新調されているのもあるが、顔つきがまるで別人のように力が溢れている

 

「お久しぶりです、ルーキスさん。お元気そうでなによりです」

 

「おうよ!こちとら、まだまだ死ぬワケにはいかないからな。声をかけてくれたってことは何か用か?」

 

「はい。実は私は今、『血盟騎士団』というギルドに入ってましてーー」

 

「おお!ギルドに入ったのか!フードを被って、馴れ合いを避けていたあの頃とは違うなw」

 

「からかわないでください!今日はその『血盟騎士団』のヒースクリフ団長からあなたを探してきて欲しいと頼まれたからなんです!」

 

「ヒ、ヒースクリフが⁉︎本当か⁉︎」

 

茅場が俺を?何故だ?メールでもして呼び寄せればいいものを……はっ!初対面であると装いたいからか

 

「ええ。なんでもルーキスさんのお話を団長がお耳になさって興味を抱かれてたからだそうです。我々団員も何度もお名前を聞いていたので、私があなた探しに立候補しました。団長のことを知っているんですか?」

 

「知ってるが、それは一般プレイヤーとして名前を聞いたことがあるだけだ。まして、ギルドの団長様ってのは初めて聞いたよ。ーーー話はわかった。で、どこに行けばいいんだ?」

 

「ルーキスさんは私と一緒に第39層の主街区にある『血盟騎士団』の本部にきてもらいます。」

 

〜第39層『ノルフレト』〜

 

第39層は緑豊かな田舎町のような雰囲気のフロアだ。新鮮な空気、暖かい日差し、優しそうな住民たち……戦わずに生活するには申し分ない安全な場所だ。隠居するならここにコテージでも建てて、宿でもしてみたいね

 

「ここです。これが我々、『血盟騎士団』の現在の本部になります。最近では団員の数も増えてきたので、いづれ上層の大きな建物に移動するという話も出ていますが、当分はここに来ていただきます。」

 

大きな屋敷のような建物に着いた。いかにも本部って感じのレンガ造りで、中々に驚いた

 

「『来ていただきます』ってどういう意味だ、アスナ?予想と違う結果になりそうでおじさん不安なんだけど…」

 

「詳しい事は団長がお話しになるのでーーこちらです」

 

中に入り、3階の奥の部屋に案内された。金属製の大きな扉をアスナが開ける

 

「ヒースクリフ団長、ルーキスさんをお連れしました。」

 

「アスナくん、ありがとう。君にも『副団長』として話を聞いてほしい。私の横に来たまえ」

 

『副団長』⁉︎アスナが⁈もんげーー!

 

「『お初にお目にかかる』私がKOB、『血盟騎士団』団長のヒースクリフだ」

 

「『初めまして』ヒースクリフ団長。一介のプレイヤーたる私になんの御用でしょうか?」

 

皮肉たっぷりに言ってやった。こんな周りくどい手なんか使いやがって、コイツ!

 

「君…ではないな。あなたを呼んだのは他でもない、このギルドの団長としてあなたに依頼を頼みたい。」

 

「ほぅ…。依頼ですか?それは俺にしか出来ないことなんでしょうか?内容によってはお断りさせていただきますよ」

 

「ルーキスさんっ!団長にそんな態度!」

 

「いや、構わないよアスナ君。分かりました、それ相応の報酬を約束するとここに誓いましょう」

 

「報酬云々の次元ではないのですが……で、内容は?」

 

「2つあります。1つ目はあなたが今までに他のプレイヤーに行なってきたマッピングデータ及び出現モンスターの情報の譲渡。2つ目は今後も今まで同じように情報調査を行い、データをコチラに提供していただき、他の攻略組プレイヤーには『無料』で配布してもらいたい」

 

んな!なんだそりゃ⁉︎一方的過ぎやしないか?俺にメリットがないのはどういう了見だよ

 

「まず、アンタの依頼にはこちらのメリットが無い。いくら報酬があるからと言って、それでは俺の努力が報われないぞ?」

 

「努力が報われないですって!ルーキスさん、あなたは全てのプレイヤーの為にこのゲームをクリアしようと思わないんですか!」

 

「アスナは黙っていてくれ。これはヒースクリフと俺の会話だ。いくら君が副団長だろうと割り込むのとは別の話だ。」

 

「君の意見はもっともだ。さっきも伝えたが、報酬は君の望むものならなんでもくれてやろう。もちろん、我々に用意できる範疇ならだが……」

 

「ハッ!都合のいいにも限度があるぜ、ヒースクリフさんよ。これ以上俺をイラつかせてみろ、ここの団員ごとーーーーー『殺す』ぞ。今」

殺気を込めて言い放つ

 

アスナが細剣に手をかける。確かここに来るまでの道すがら他のプレイヤーに『《閃光》のアスナ』とか言われてたな

 

堪忍袋の緒が切れない俺でも耐えられなかった。茅場め、俺のイラつくポイントを的確に突いてきやがるかる

 

「ーーーー『エデンのかけら』。そのクエストは特殊でね、君のようなAGI特化型でしかクリアは不可能と言われている。名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかい?」

 

「ああ……。何名かのプレイヤーが挑んでだが未だクリア報告はあがらないって噂のやつだな。聞いたことがあるだけで、俺は挑むつもりはないぞ」

 

「では、これは聞いたことがあるかい?ーーこのクエストを受けるにはとあるNPCのご老人の話を聞かなければならないが、その老人の服装があなたの装備と瓜二つだということを……」

 

こ、こやつめ!俺がこれを着ていて、気に入っているのも計算の内か!ハナっからそのつもりで、『この場』で俺を『血盟騎士団』側の立場の人間だと他のプレイヤーに示すためにーー!

 

「ーーーフフフ。ハハハハハ!こいつは俺の負けだな、ヒースクリフ!了解した。その依頼、その『エデンのかけら』のクリア報酬と1万コルで手を打とう。」

 

「引き受けくれて感謝する。1万コルは早速用意させよう。」

 

「マッピングデータはお前にあげればいいのか?」

 

なんなの、この2人?と言いたげなアスナの顔。無理もない、俺らは昔からこんな感じなんだ。見透かしたように俺の手綱を握る茅場と、頭の固い茅場をなんとしても力づくで持ち上げる俺。喧嘩なんて互いにしたくないし、したとしても負けるのは自分だって考えてる、研究者と書いて『バカ』と呼ぶ人種が俺らーー

 

「ああ。渡してくれ給え。」

 

ヒースクリフが手を差し出す。それに応じてマッピング済みの地図を渡す瞬間、手が潰れるくらいの力で握られる

 

アスナに聞こえないように囁いた

「これで君は我々側だ」

 

「フッ。精々寝首を刈られないようにな」

 

手を離すヒースクリフ

 

「お二人とも、何を?」

 

「「いや、何も」」

 

「では、お金の用意をしている間にクエスト受注先のNPCに案内を……」

 

「アスナ、いい加減に敬語はよしてくれ。お前さんに敬語を使われるのは身体がムズムズしてくる。あと、金はクエストクリア後にここに寄るからその時にくれればそれでいい」

 

「そうしてくれると助かるよ。かのNPCはここから西の外れの小屋にいる。では、健闘を祈っている」

 

本部を出た俺はすぐに西に向かった。作られた脚本に文句はあったが、茅場のことだからと考えるのはやめた

 

その頃、血盟騎士団本部では

 

「驚きました。彼のことは第1層にいた頃にパーティーを組んでいたのである程度のことは覚えていますが、あれほどのレベルになっていたとは……」

 

「ここまでほぼ全ての階層における『迷宮区』の攻略において最も貢献しながらも、ボス戦には参加したこどな無い。言葉だけなら変人と呼ぶ者は多い。が、言うは易し、行うは難しだ。さすがは世に名高い『人狩り鴉』。殺気も一流といったところか?」

 

「盗み、傷害、殺人などのシステム上に設定されている犯罪行為を行った場合、プレイヤーの上に表示されるカーソルの色が本来は緑であるはずがオレンジに変わる。それ故、罪を犯したプレイヤーを『オレンジプレイヤー』と呼んでいますが、『人狩り鴉』はそのオレンジたちの多くを牢獄送り、もしくは殺害していると噂のプレイヤーの通り名。『狩り』と呼ばれるのは計算し尽くされた上で仕留めるからーーー本当に彼が『人狩り鴉』だと……?」

 

「そう確信しているよ。私の考える通りならば……ね。」

 

本部より西に少し

 

「ブヘッくしッッッ!!」

 

なんだ、なんだ?誰か俺の噂でもしてんのか?『人狩り鴉』なんて言ってんのか?呼びにくいっての!自分で噛んじまったこと何度あると思ってんだ!!

 

「しっかし、目的の小屋が見つからねぇぞ。だいぶ歩いてるんだが……あ!」

 

100メートルほど先に屋根が見える。想像してたのと違うな。小屋ってより、小さなレンガ調の家だな。老人が住んでるってんなら納得できる。ウンウン

近づいてみてもなんの変哲も無いただの家だ。木製の戸を叩きながら呼びかけてみる

 

「すいませ〜〜ん、誰かいらっしゃいませんか〜?」

 

トントン、トントン

 

「はいはい、どちら様かな?」

 

中から出てきたのは齢90もあるような白い髭を蓄えたご老人だった。確かに俺と同じ服装の白色をしているが、それだけではない。何か強い力を秘めた目をしていた

 

「おお、同胞だったか!さあ、中に入るがよい」

 

「お邪魔させていただきます」

 

家の中は質素な生活をしていることがわかる内装だ。テーブルと2つの椅子、少しの家具と台所、奥にはベットがあった

 

「同胞よ、此度は何の用があって儂に会いにきたのだ?」

 

「貴方が助けをこうているとの話を耳にしまして、参った次第です」

 

「ほう!なら、かの『秘宝』たちを集めてくれるというのか!」

 

「『秘宝』…ですか?」

 

「さよう。話をするのは山々だが、もうじき日も暮れる。夕餉の支度をしながらでもいいじゃろう。幸いにもこの近くに『奴ら』はいない。」

 

それから色々な話を聞いた。ご老人の名は『アルタイル・イブン・ラ・アハド』といった。古くから続く『アサシン 』と呼ばれる者の1人で、かつては彼らをまとめる長でもあったそうだ。その過程である強力なアーティファクトである『エデンのかけら』といったものを集め、秘匿してきたらしい。今回のこのクエストはその『エデンのかけら』の収集というわけだ。やけに設定が細かいなとは思ったが、気にしなかった。因みにアルタイルが夕食の準備をしようとしたが、覚束ない手先だったので代わりに俺がやった。料理スキルをMAXにしていたのが報われたみたいだ……

 

次の日の朝

 

「ここに我らがやっとの末に手に入れた6つの転移結晶がある。ルーキスどのにはこれらを使ってそれぞれのダンジョンにある秘宝を集めてきて欲しい」

 

「アルタイルさん…。いや、師と呼ばせていただきます。師よ、『どの』はいりません。呼び捨てにしてください。」

 

年上との付き合いが少ないからかな?年上に敬語を使われるのがどうにも慣れない。何故『師』を選んだのかはわからない

 

「ではルーキスよ、頼むぞ。」

 

「はい!」

 

俺はすぐに1つ目の転移結晶を使った。

 

シュビィィーーン

 

「跳んだのはいいが、ここは何層なんだ?」

 

跳んだ先は見たことのない遺跡群だった。見渡しても人影はおろか生物の姿も確認できない。目の前には蔦に覆われた扉らしき入り口だけ

 

「どう見ても開かないだろコレ。どっからか入る場所はないもんかね?………んお?」

 

ゴゴゴ、大きな音をたてて扉が動いた。壁面を覆っていた蔦は容易く千切れ、暗い闇のような空間への道が現れる

 

「おいおい、なんの前兆も無かったぞ。急に開くとか怪しすぎやしないか」

 

ーー進むがよい、鴉よーー

 

「え?誰だ!」

 

声が聞こえる。遠くからの呼んでいるのか真横で囁かれているのかわからない、そんな風に聞こえる

 

ーー鴉よ、選ばれし者よ。そなたには資格はあれど、力を手にするほどの器ではない。故に、試練を乗り越えてみせよーー

 

どうやらシステムかなんかの声らしい。あれだろ?声に従ってクリアしないってやつだろ?ゲームあるあるのやつじゃん。普通この手のタイプは挑戦中は無限コンテニューがあるんだけど、このデスゲームにそれはない。つまり、トラップで死んだらそのままあの世行き!

 

「ほいほい、行きますよ〜」

 

中に入ると扉は閉まり、壁や床、天井の模様たちが光り出した。模様というより壁画か?いかにも古代文明が発達してましたよって雰囲気だなw

 

キラン、キランと灯台に光る物が見えた。あれか目的のお宝か…。遠いな。単純に1kmはあるんじゃなかろうか。

しかも、奈落の底から伸びているかの如くな柱たちを跳んで行けみたいな構造してんぞ!

 

「うわぁー、悪趣味w」

 

ワクワクしてるのは俺だけか?AGI極振りマンかつアクロバット系スキルをフル習得した俺にとっちゃ朝飯前だっつの!

 

「ほいさっ!」

 

まずは目の前の柱に飛び移る。難なくクリア。それからジャンプだけで途中まで行けたものの、

 

「ーーー壁か」

 

「『壁走り』」

 

ウォールラン。その名の通り壁を走ることのできるスキル。攻略組のやつらの習得者でも約10mほどが限界だが、俺みたいなAGI寄りビルドだったり高レベル連中は2、3倍の距離を走ることができる。助走の距離にもよるけど……

 

「オリャァァァ!」

 

いつも壁走りは楽しい!現実では絶対できないし、なによりロマンがある!モンスターが出ないのは残念だけど、こういうアスレチックダンジョンも良いね!!

 

ビィィィーーン!!

 

「うわ!なんでビームが出てくるんだ⁉︎」

 

着地と同時にさっき走った壁の方から光線が放たれる!なんとか直撃は避けたものの右脚にかすったみたいだ。ダメージもちゃんとある。

 

ビィィィン、ビィィィーーン、ビィィィーーン!!!

 

「わーーー!!!」

 

何本もの光線が俺を狙う!ひぃぃ!あっぶな!ヤバい、ヤバい、ヤバい!!

 

お宝の姿がはっきり見えた。金属製の球体がいかにもな感じで奉納?されている。

 

「どこのトレジャーハンターなんだ、この状況は!」

 

光線が降り注ぎ、いつからか矢も飛んできている。命がいつくあっても足りやしない!!

最後の力を振り絞り、宝に向かって飛び込む!

 

「届けぇぇぇぇ!!!!」

 

指が光る球体に触れーーーーなかった

 

「ーーあ」

 

終わった……

 

「そんなわけに行くかぁァァァ!」

 

ガシッッッ!

 

滑り落ちる手で切り立った崖のへりを掴む!なんとか持ち堪えたが、今にも崩れそうだ

 

「『無銘』でどうだ!」

 

『無銘・黒』を岸壁に突き刺す。それを足場になんとかよじ登るっ!

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ」

 

息が上がってなんも考えられない。痛みがなくても精神的に疲れるのは生きてる証拠だろうか

 

「ふぅ……これでやっと1つ目かよ。予想以上にキッツいぜ…」

 

お宝に手を置くと

 

ーー鴉よ。よくぞ我らの試練に打ち勝った。至った貴様には『真実』を見せようーー

 

ガハっ!なんだこれ⁈頭ン中に知らない人が何人も⁉︎これは……プレイヤー?1万人全員か!

 

多くの人々がいた。あの日、デスゲームが始まって何人もの死人が出た。それら全ての『死』、負の感情、そしてβテストの風景、カーディナルの全てとその先に至る光景を

 

ーー鴉よ。汝は知った。『獣』は再び目覚めた。私の願いは貴様に託そうーー

 

「お前は誰だ⁉︎カーディナル自身なのか?」

 

ーー私はジュノー。人間は我々を「神」と呼ぶ。鴉よ、世界を救うのだ。私が導こうーー

 

ジュノー。確か、ローマ神話における神々の一柱。ギリシ神話のヘラと同一視される存在…

 

頭は痛いが、何故か思考が止まらない。むしろ、だんだんと早くなっていく。目が回るほどだ

 

「キッツいぜ……」

 

触れている球体の名前を見る。『エデンのリンゴ』…。かけらってクエスト名だからこの『リンゴ』を集めるのか、それとも他の『かけら』があるのか?さっきのジュノーの言ってたことも気になる…システムが自由にクエスト生成をするって言ってもやり過ぎやしないか?茅場手ずから作成したといてもここまで作り込む理由はなんだ?

 

「色々言いたいことが出来たな。全部集めてからの答え合わせが楽しみだ……。」

 

それから2日間かけて残り5つのアイテムを集めた、『杖』『布』『剣』『水晶髑髏』『アンク』。杖とリンゴは合体させることが出来たし、布は無制限の常時回復状態と全ステータスの上昇、剣はソードスキルこそ覚えてないから使えなかったが要求値の高さから相当の業物とわかった。髑髏だけは使い道がわからなかった。『リンゴ』以外にジュノーの声が聞こえることはなかったのが幸いなのだろう……

 

 

「ボロボロなんだけど……アルタイルの爺様は何て言うかな?」

 

トントン、トントン。ガチャ

 

「同胞よ、戻ったな。まずは身体を休めよ、それから君の見たモノの事を話してくれ」

 

え⁉︎この爺さん、知ってるのか?何かがあるってのを知ってたのか?

 

「私には一刻も早く行かなければならないところがある。アルタイル老、これらを」

 

「まだ君が持ってていてくれ。こっちだ」

 

ズズズ、ズズズ

 

アルタイルが壁の一部を押すと床が動いて、下へと続く階段が現れた

 

「付いて来なさい」

 

その言葉に従い下に降りると大きな扉が開いていた。その中には見たこともないほどの大量の本がまるで図書館みたいに保存されていた。

 

「よっこいしょと」

 

部屋の中心には椅子が置いてあり、アルタイルはそこに深く座る

 

「ルーキスよ、それら『秘宝』をそこの棺に入れなさい」

 

アルタイルの後ろには大きな棺があった。俺はそこに全ての『エデンのかけら』を入れ、蓋をした

 

「このような年老いた爺の話を聞いてくれてありがとう」

 

「そんなことなどありません、師よ。あなたはあの夜、私に多くを教えてくださった。それらに変わるものなど『秘宝』集めごときの感謝では届きませぬ。」

 

「いや、そうだとしても褒美を与えなければな…。そうだ、これをやろう。もう儂にはいらぬ代物だ」

 

アルタイルは腕に付けていた籠手?らしきものを外し、俺にくれた

 

「これは?」

 

「それは我ら『アサシン 』の武器、『アサシン ブレード』。会った時からお前さんが身につけていないのが気になっておったのだ。だからそれを授けよう」

 

カチャ

 

付けてわかる。これは強い。手首側に小型の刃物が仕込まれている。これで首を一刺しか

 

「元々はもう一つ用意しておったのだが、君なら2本使えるさ。片割れは表の家にある。」

 

「ありがとうございます。……師はこの後、どうなさるので?」

 

「儂はもう少しここで休むとするよ。もう別れになるが最後にーーー誓いを立てよ

 

一つ、『汝、己の剣を罪なき者に振ることなかれ』

二つ、『民衆に紛れ、同化し、彼らと一体になり行動すべし』

三つ、『兄弟を危険にさらすなかれ』

 

これが我ら教団の信条である

 

闇に生き、光に奉仕する。そは我らなり

 

真実は無く、許される事など無い

 

これを胸に生きよ」

 

「私ルーキスは、師と我が名に置いて誓います」

 

「では行くがよい。君のようなアサシンに会えたことを有り難く思うよ」

 

「さらばです、我が師よ」

 

最後の別れを告げて俺は帰る。振り返りはしなかった。恐らく、アルタイルはあそこで死を迎えたいのだろう…そうとしか考えられなかった

 

「遅かったね、ルーキス」

 

『血盟騎士団』の本部にある団長室に入ったそうそう、これである

 

「今日はアスナはいないのか?」

 

「次のボス戦に向けてのレベリングをしているよに団員たちに伝えたからね」

 

「じゃあ、遠慮なくさせてもらうぜ『茅場』。」

 

「ああ、『竜』」

 

目と声が変わった。

 

「あれは何だ!ジュノーとかいうわけわからん要素なんているか?いらんだろが!しかも、システムバグか知らんが色んな画像が見えたぞ!」

 

「ーーー何を言っているだ、竜?」

 

「お、おいおい、まさか知らないとは言わせんぞ。あれを看過するほど俺はお前に甘くは無い」

 

「すまない。君の性格は長い付き合いだ、承知しているとも。だが、本当に何を言っているのか分からない。私はただあとクエストで『アサシン』を登場させ、君にその『アサシン ブレード』をやろうとしただけだ。ジュノーなどという神など設定はしていない。断言しよう」

 

何?茅場手ずからではなく、カーディナル・システムが自ら考えたのか?あれを?そんな不可能だ……

 

「じゃあ、本当にバグなのか……。お前が嘘をついているようにも見えないし、怒るほうが損か」

 

「よく分からないが君が良しとするならそれでいいのだろう。ではルーキス、報酬だ」

 

「ありがとさん」

 

1万コルを受け取って俺は団長室を出た。解決してない疑問はあるが、なんとなく嫌な予感がしたから忘れるようにした

 

それからは頼まれていた依頼の迷宮区のマッピングとかをやりながら、悪質なオレンジたちを地獄に送りる日々が続いた




疲れたぁ……
誤字・脱字やその他おかしな点のご報告がありましたら連絡お願いします
テラリン、楽しすぎ


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5話 山中の月

わかる人にはわかる題名ですね。アイツでまーす。途中までアサクリっす。ヒロインって書きにくいですよね?好みをいかにして打ち込めるかのせめぎ合い。投稿が遅れて大変申し訳ございませんm(_ _)m


シュッ、シャッ、シュッ、シャッ

 

「う〜ん、中々に良いなぁ」

 

昨日手に入れた『アサシン ブレード』2本の試験運用とレベリングを兼ねて第35層の「迷いの森」に来てみた。ここの「ドランク エイプ」は集団戦を得意とする最強クラスの猿人モンスターで、ソロや軽い武器種を使うプレイヤーにとって地獄のような苦戦を強いられるーーーが、俺には関係ない。見つかる前に忍び寄り、群の端の個体から喉を搔き切り、即離脱。そんな単純な脳死ゲーをする以外に対策がない以上はそうするしか無かったのだが、コイツはどうだ?1体殺るとガードされない限り相手の体力に関係なく次も殺れる!タイミングの問題もあるが、猿ぐらいならほぼ確実に決められる!スゲェェww

 

だが、イマイチ対人には向かない気がする。パリィを取るのはなんとかなるかもしれんが、いかんせん加減が出来ない。ヒースクリフからの依頼や万が一のやむを得ない殺し、人型に近いモンスターとの戦うなら問題無いが……

 

「一応は短剣なんだろうけど、籠手から刀身を外さないとソードスキルが使えないのが一番の難点だな。別にそんなことしなくても他に武器あるからいいんだけど」

 

AGI極振りステータスの俺には合ってるかもしれんが、他のプレイヤーはこんなピーキーなもんを使えるのか?茅場のやつめ…

一帯の猿たちを撃破し、ひと段落したところで帰ることにした。途中、

 

「お〜い!」

 

「ん?誰だ?」

 

遠くに手を振るやつがいる。小柄で丈の長いマントを着ている。あいつは

 

「久しぶりだな、ルーキスの旦那!こんなとこで何してんダ?」

 

「久しぶり、アルゴ。な〜に、最近手に入れた武器を試しに来てただけだよ」

 

コイツは【鼠のアルゴ】。腕利きの情報屋で、裏取りもしっかりやる元βテスターだ。噂じゃ5分で100コルを持っていかれるとか言われちゃいるがちゃんと節操のある信用できる人物だと思ってる。手に入れた情報で攻略本を作って下層のプレイヤーたちに無料配布もしてるしな

 

「へ〜!どんな武器を手に入れたんダ?頼むから教えてくれヨ〜」

 

「わかった、わかった。そんなねだらなくても教えてやるよ」

 

かくかくしかじか。アレをこうやって、ここでーー

 

「ーー旦那。オイラから聞いといてなんだがもういいヨ。」

 

「遠慮すんなよ。別に教えて上げてもコッチは損はしないぜ?急にどうした?」

 

「『アサシン ブレード』だっけソレ?NPCクエストの報酬って言ってたけど、オイラはそんなクエストの事知らないゼ?そんな情報は聞いたことが無い。」

 

「クリアしたやつが俺以外に居ないだけじゃないか?そんなに難しいわけでもなかったから、クエスト発生の条件が厳しいのかな?」

 

「それならそれで良いんだけどナ……。オイラはこれで帰るヨ、また新しい情報があったら教えてくれよナ!」

 

そう言って去っていった。何か隠してる気がしたが、詮索はしなかった。聞いたらどれだけ金を持ってかれるかわかったもんじゃないし

 

「もうちょっとだけ試すか」

 

アルゴの態度から『アサシン ブレード』に何かあるかと思って数匹の猿人たちを刺した、気にするようなことは無かった

 

〜主街区『ミーシェ』〜

 

街まで戻ってきた。今のホームは第48層の『リンダース』にあるのだが、下層にやってきた時には宿に泊まることにしている。攻略組ほどの腕ではないにしろ、中層プレイヤーにもクリアを目指して頑張ってるやるはいる。そんなやつらへの匿名での資金援助や、多少の訓練をしてやっている。後者はあまり人気は無いのだが……ちなみに現在の最前線は第49層である

予約してある部屋に着いて今日の成果を見る

 

「今日で上がったレベルはどれだけかなっと………66か。1しか上がってねぇじゃん!猿ぐらいじゃもう上がらなくなったのか?はぁぁぁ」

 

当たり前の事実に思わず溜息が出る。そりゃ、1ぐらいしか上がらないだろうよ。レベル差どれだけあると思ってんだ俺よ……思わず自分自身をツッコんでしまった

「ん?なんだこのスキルは?【自由走り(フリーランニング)】?壁面や天井以外をどこでも走る事ができるぅぅ?うわぁぁぁw」

 

笑いが止まらないw。なんだこの凄いのか凄くないのか分からないどっちつかずなスキルは?障害物を避けたり、それを利用しながら走り続ける的なことだろうが、スキルにするほどのもんかね?実際、スキル無しでできるだろコレ

 

「お!まだあるな!【鷹飛び込み(イーグルダイブ)】と【鷹の目】か……どんなに高所からの飛び込みでも着地点になんらかのの衝撃を和らげるものさえあればノーダメージになる?万が一のときに使えるな!それに使用すると周囲の人物が光始め、その色によって敵が赤、味方は青、標的は金、一般市民は光らないというように分類することができるぅ?また、通常では見えない足跡や指紋、拭き取られた血痕なども見ることができる!【鷹の目】チートすぎww」

 

それ以外に新たに追加されていたスキルは無かった。そうじゃなきゃ逆に困る

 

 

「でも、『索敵』とダブるよな?ーーーーソードスキルの追加は………無いな」

 

アルゴと出会ったときにコレ言っておけばよかった……

 

「夜も遅いし、寝よ寝よ」

 

必要最低限の装備になって寝た。

 

これから先にある悪夢を知らずに……

 

〜次の日〜

 

昨夜の驚きからか、

 

「早速お試しに行きましょか!」

 

と、上の第43層に行くことにした。43層は和風テイストのフロアになっており、NPCや街並みは江戸時代後期の雰囲気がある。フィールドも和を感じさせる自然環境が再現されていて、日本人がほとんどであるプレイヤーの中にはココをホームとしてやっている人もいる。ま、RPGは西洋風のイメージが多いからそっちの方が圧倒的だが、

 

「諸々の手入れもしたいし、『ムラマサ』のとこ行くか!」

 

転移門のある主街区の一番端にある地区【村正】。この辺りはガラの悪いやつらがたむろしているエリアなんだが、俺にとっては依頼がよく来るお得意様が多い。オレンジプレイヤー間では俺の名前は何でも屋として広まっているらしく、ここに来れば金には困らないから定期的に来るようにしている。ここのオレンジたちは人助けの為にオレンジになったやつらばかりだ。そんなやつらを狩るつもりはさらさらない。【村正】の由来である『ムラマサ』はここにいるプレイヤー達の元締めであり、この辺り唯一のグリーンプレイヤーだ。ギルドではないのにグリーンのままここを治めているのには尊敬の念すら抱いてしまう

 

この辺りで一番大きな建物にムラマサはいる。建物というが地上にはハリボテ同然の木製の家で鍛冶場はここにある。だが地下には表とは比べ物にならない広さの空間があり、生活は専ら地下なのだろう

 

「お〜い、ムラマサ〜〜!!起きてっか〜〜!」

 

返答がない。いつものことだ。地下への階段を下り、もう一度

 

「起きんか、アホンダラぁぁぁ!!」

 

精一杯の大声で叫ぶ。すると明かりが付き、

 

「うるせ〜な〜!最初の声で起きたっつうのクソジジイ!」

 

奥から30代後半らしき黒髪の『女』が1人出てくる。着崩れた着物のまま……

 

「仕事を頼みたい。1日で仕上げて欲しい。」

 

「へいへ〜い、わかったよ」

 

「あのなぁ、毎回言ってるが服をちゃんと着ろ!俺じゃなかったらどうしてんだ?若い連中が嘆いてたぞ『親方がほとんど裸でいるから、目のやり場に困るんですよ〜』って」

 

「この身体は授かり物だ。恥ずかしくて見れないならアタシの前に出てくんなっての」

 

ここまではいつものテンプレだ。喋りながら仕事着に着替える。髪をまとめ、火の粉に耐えられる服を着る。作務衣に近いデザインだ。なんとなく火耐性の高い高級装備に見えなくもないし、ドラゴン系のブレスなら余裕なんじゃないだろうか?

 

地上の鍛冶場にて

 

「さ、見せてみな。」

 

「『無銘・黒』全てとダガー類、ナイフ系、そして『アサシン ブレード』だ。」

 

両手の籠手を外しながら、武器たちを渡す。

 

「なんだコリャ?『アサシン ブレード』?」

 

ムラマサも見たことがないモノだったらしい。驚きと歓喜を感じる顔をしやがる、子供が新しいオモチャを貰ったみてぇな良い目だ

 

「アンタも知ってるはずだが、自慢じゃねぇが、アタシは鑑定と鍛冶はスキルレベルがMAXなんだ。魔剣やら聖剣クラスぐらいなら素材次第で作れるし、実際にアンタはそれを見てる。それでいいよな?」

 

「そうだが…。」

 

「アンタの『アサシン ブレード』はアタシじゃ作れない。恐らく、このゲーム内で実装されてる武器の中で最もレア度の高い部類にコイツは入る。素材云々は関係ない。クエスト報酬でこれほどの業物が手に入るのか?一体、どんなクエやったんだ……?手入れに問題は無いがよ……」

 

「普通のクエなんだが…、NPCのお爺さんの依頼を順番にやるだけの簡単なお仕事だぜ?よく分からん金色の金属で出来てる球とか杖とかを集めるっていう」

 

「それだけ?マジで?」

 

「ああ、それだけだ。モンスターが出てこないダンジョンみたいなとこの一番奥に置いてあるだけだったよ。まぁ、罠とかはあったけど」

 

「ハハ、そんな簡単に手に入れたのかよwこいつは傑作だなw」

 

「その爺さんはそれをくれた後に、『汝、己の剣を罪なき者に振ることなかれ』『民衆に紛れ、同化し、彼らと一体になり行動すべし』『兄弟を危険にさらすなかれ』って言ってたな。それが我らの信条だって…」

 

「なんだ?何かの教えてなのか?」

 

「さぁ?しかも誓いをを立てろとか言われてな、『闇に生き、光に奉仕する。そは我らなり』とか『真実はなく、許されることなど無い』て誓いを立てたよ」

 

「それはそれは大層な事なこった」

 

キィィーーン、シャーー

その間にも段々と手入れは進んでいる。ムラマサ曰く、頭と身体の動きをバラバラにした方が集中しやすいらしいから、毎回談笑しながらその仕事ぶりを見ている。昔ながらの研ぎ方と砥石そのものを回転させたものに刃を当てて研ぐのを交互に繰り返しているのがいかにも鍛冶屋らしい

 

「フーーー、手入れは全部やったぜ。ついでに無銘の修復もやったよ。」

 

「毎度毎度ありがたい。攻略組専属の鍛冶屋ならこうはいかないな。アイツらは武器の耐久は気にされないのですか?とかこの武器はどうですか?とかいくら腕があるからって…依頼だけ聞いとけっての!」

 

「アイツらの愚痴を言うンじゃねぇよ。攻略組さま方の活躍はアイツらあってこそのモンだろぅw」

 

お互いに因縁があるからか、笑いが止まらなかった。ほんとにずっと笑っていられた。この時間が無限に続けばと年甲斐もなく思った。

 

「そうだ!お代の代わりっちゃなんだが、ある所に連れてって欲しいんだよ」

 

「ある所?武器とかの素材集めかなんかか?」

 

「いや、武器そのものだ」

 

「へ?」

 

ムラマサの話によるとこの階層にある『柳洞寺』という寺院のエリアの入り口にある侍がいるらしく、立ち寄った者を寺の中に入れないように門番をしているらしい。戦って勝った者はいないが、全員が生きて戻ってきているそうな。

 

「で、お前さんは倒せばその侍の武器が手に入ると考えていると…まぁ、その可能性はあるな。」

「だろ?しかも、その侍の武器が『物干し竿』らしいんだよ!鑑定スキルのあるやつが言ってた」

 

『物干し竿』って言えば、巌流島で宮本武蔵と戦った佐々木小次郎の愛刀だな。つまりは小次郎と戦うってわけか?

 

「ふむふむ、了解した。つまりアレだろ?お前と俺がそれぞれ戦って刀を手に入れるチャンスを増やしたいと」

 

「わかってるじゃん。さっすがアタシの惚れ込んだ男だねぇ」

「ふん、恥ずかしいこと言うなよ…」

 

思わず顔が赤くなる。

「あれ?気づいてなかった?意外と本気なんだよ。この見た目と喋り方じゃ分からないかもしれないけど…アッサリ過ぎ?」

 

ムラマサは何気なく言ったかに思ったが、ほんのり頬が温かい色に染まっていた

 

「マジか!これは参ったな。ハハハハハ!」

 

うーん、これはどうしたものか…男なら自分からが方針の俺には計算外過ぎるぞ。

 

「そうだ!指輪の代わりに『物干し竿』をとってきてやるよ。ムラマサは留守番でもしててくれ」

 

「えーー!生の『物干し竿』見たいーー!」

 

「告白はそっちからしたんだからさ、男がカッコつけられるのはここなの!ここしかないの!」

 

なんとか宥めて待っててもらうことにした。

 

「『物干し竿』を手に入れたら、引っ越しの手続きしてくるからな」

 

「早く帰ってこいよ」

 

あーあ、告白そっちのけで武器を弄りたいって顔してるし

 

「いってきます」

 

ーーー

 

『迷宮区』の手前の街での情報収集の結果、近くの寺がそうだとわかった

 

「ーーうわっ」

 

寺は山を登らないといけないと街の人が言っていたが、階段だった。めちゃくちゃ長い階段だった。

 

「何百段あるんだよ……登りきったらバトルがあるんだぜ?」

 

愚痴を誰にとも言わずに階段を登る

登る途中で夜空に満月が浮かんでいるのを見た

 

「今宵は良い月であるというのに女子の1人でもと思うのだが、貴殿はどうかな?」

 

上の方に背中に長刀を担いた長髪の侍の姿があった。なるほど『強い』。遥かに俺を凌ぐ剣の使い手らしい。にやける自分の顔を止められない!

 

「お前がここの門番か?」

 

「如何にも。拙者の名は佐々木小次郎。貴殿はなんという名か?」

 

「ルーキス。俺はルーキスだ。」

 

「るぅ〜きす…。良い名だ。果たし合いに来たようだか、今宵はよさぬか?せっかくの満月だ。些かに風流にかけるとは言えぬか?」

 

「ほぅ…、意外にもいい事をいうやつだ。わかった、今夜の月に免じてお前とヤるのは明日でもいいだろう。だが、必ず死合ってもおう。俺の女の為に」

 

「フフw自らの女の為に拙者と死合うとw話を聞かせてもらっても?」

 

「おう、いいぜ」

 

今所持してる全ての食料を小次郎と食べながら話をした。念のため酒を持ってたのが幸いにもよかったらしい。多くの事を話した。自分の過去を話したのは茅場以外にはいなかったのだが、小次郎はそれを親身に聴いてくれた。俺も小次郎の人生、作られた設定かもしれないが、それでも聴き入ってしまった。空が明るくなるまで飲みあかした

 

「既に日も高い。そろそろ」

 

「ああ。そろそろだな」

 

「貴殿と出会ってまだ1日も経ってはいないが、何故だろうな古い友との再会をしたかのような気分だ」

 

「俺もさ。ガキの頃からの幼馴染かと思うほどにな」

 

「「ハハハハハ!」」

 

運命とは皮肉なもんだ。たとえゲームの中であってもソレはやってくる。最愛の相手を得た次には最大の敵が現れるのだか。ましてそいつは己にとって最も理解あるやつなのだから

 

小次郎は『物干し竿』を抜く。俺も『無銘・黒』を握る。間合いも技量も劣っているのはこちら。だが、

 

「じゃあ、やろうぜ!」

 

「これでもう会うことは無かろう」

 

「「すなわちは!我ら二匹の剣の鬼!」」

「「魂震わす果たし合い!空前絶後、驚天動地、是れこそ我らが我らである証!これぞーーまことの真剣勝負!!」」

 

「ルーキスゥゥゥ!!」

 

「小次郎ぉぉぉ!!」

 

語った。剣のこと、己がこと。全てを。剣戟の中で

 

ーー否、時間と空間と存在と概念を超越せしめる両者の剣は対極にあるかの如くだったーー

 

ーー鴉が如き男が持つは命あるものを死に至らしめる終いの剣。それはいわば"ただ一つの終わり"へと到る道

幾千、幾万とある死の"選択肢"

それはすべてを検証し、潰し、無意味と押し止め。誰も彼もに待ち受ける"終わり"に辿り着く。いわば"終末"の剣である。

究極にまで、これ以上の続きはありえないというほどにその存在を否定して、その末に必ずある"何か"

それがルーキスの"終わり"たとえ神仏であろうと持ち合わせる"死"を齎す剣。

かたやーーー

 

「ーー秘剣 燕返し!」

 

「エターナル・サイクロン!」

 

ザシュュッッッ!

 

どれだけの時が過ぎただろう。俺は小次郎の心臓を刺し、その終わりを告げた

 

「………嗚呼。実に、満足のいく一時であった。」

 

「……小次郎。」

 

「なぜそのように悲しげな顔をする、ルーキス。貴殿に否はない。そうであろう?」

 

「殺しちまったことじゃない。お前の剣技を見れなくなることに泣きそうのんだよ」

 

「その言葉、女子にいって欲しいものだな……」

 

「最後まで、いい男だなお前は」

 

「さらばだ、友よ……」

 

パリィィィン

 

光の粒になって小次郎は消えた。残ったのは凡人には振るえぬ長刀『物干し竿』だけ

 

「"また"ダチをこの手で殺したのか、俺は」

 

ムラマサと所に戻ろう。それしか考えられなかった。

 

今にもHPがなくなりそうになるのも気にせずに歩く

バトルヒーリングスキルでHPは回復しても、気力が戻る訳ではない。男を動かしているのは『会いたい』という衝動のみ。愛する人、友、仲間、それら全てに向けた気持ち。

 

己が手で与え、刈り取る醜悪さを憎みながらも男の心は『命』の温かみを欲し、その魂は『血肉』での潤いを求めた。かつての復讐は男の『獣』を目覚めさせた。その結末がコレである

 

ムラマサの鍛冶場についた途端、意識が途絶えた。ムラマサや他のプレイヤーたちの声が聞こえた気がした。

 

夢を見た。復讐に駆られ、人を殺した。その後も乾きや飢えのために殺した。意味もなく、意義もなく。まるで息をするかのように無数に殺した。俺は『獣』だった。

 

「ーーい!お〜い!起きてくれよ…」

 

誰かの泣く声がした。

 

「………もう泣くな。」

 

目を開けるとぐしゃぐしゃの顔をしたムラマサがいた。目元は腫れて、涙で濡れていた。俺はその涙を手で拭ってやった

 

「泣くなって言ったって……心配したんだよ!そりゃ泣くよ!」

 

「心配かけてゴメンな。どれくらい気を失ってた?」

 

「2分くらい……」

 

長いな。カーディナルはそんなやわじゃないんだが…初日にも回線切断らしき消失もあったし、深く考えない方がいいか

 

「もうこんな無茶はしないって約束しろ。アタシはこれ以上は耐えられない。いつも武器の手入れをしてて思ってた、こんなにも短期間で耐久値を減らすなんてどれだけの無茶をやってるんだろって……。だから約束しろ!」

 

「口調がブレブレだぞ…。でも、わかった約束する。これからは絶対に無事でムラマサの元に帰ってくるよ。だがらさーーー結婚してくれ」

 

「………はい」

 

そういえば引っ越しの準備してないや

 

「親方!」「旦那!」

 

【村正】の他のプレイヤーたちが様子見に集まってきた。ーーそうだ!

 

「野郎ども!俺とムラマサは結婚する。」

 

えーー!マジっすか!嘘ーー!

言いたい放題にいってるが祝福してくれてるみたいだ

 

「だか、お前らを見捨てはしない。だから、俺はここにギルドを作る!俺たちの家として絶対に帰って来る場所を作る、それでいいかぁ?」

 

「「「わかりやした、親父!」」」

 

「調子のいい奴らだよ、まったく。」

 

親父か…。懐かしい響きだ

 

「明日にでも早速ギルド建設に取り掛かる!今日はしっかり休めよ!解散!」

 

散り散りに奴らは帰っていった

 

「すまないな、ムラマサ。急にあんなこと言って」

 

「いや、そんなことない。あいつらもそうしてくれて嬉しそうだったし」

 

何か言いたげな表情のまま黙ってしまった。どうしよ?なんか気の利いた言葉は出てこないものか……

 

「今夜は一緒に…いてくれるか?」

 

「ーー!!……うん」

 

小さな声で返事をしてくれた

 

二人で過ごした初めての夜は月が綺麗に見えた

 




ゴッチャゴッチャしてて自分でもワケワカメww


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6話 ギルド【燈し火の家】

ギルド名を考えるのに3時間ほど辞書とにらめっこ
テラリン、とりあえずトロコン
絆会話が辛かった……


 

「ルーキスの親父〜!準備OKだぜ!」

 

「わかったぜ『マサムネ』!」

 

マサムネは【村正】の実質的なNo.2の立場を任せているプレイヤーだ。ムラマサが社長なら、マサムネは子会社の社長みたいな?俺にとっては年の離れた弟みたいなもんだな

 

「一緒に引くぞ、せーのっ!」

 

ギルド建設の最後の仕上げ、ギルド名が書かれた看板を掲げる

 

「いや〜、親父が急にギルドを作る、なんて言ったもんだから俺らは上を下への大騒ぎだったんだぜ?」

 

「すまん、すまん。ムラマサと結婚するってんならお前らは俺の子も同然。現実でも同じようなことやってたし……」

 

現実の裏でも身寄りのない子供の援助の金や殺しじゃないアプローチで仕事の手伝いをしてもらってた。もちろん、社会に出ても普通の仕事をしていけるような実用性のある技能を教えてな?

 

「【燈し火の家】。絶対に帰って来られるように消えない灯火を掲げるとか、メンバーは家族なんだって思いを込めた名前にしたんだよ」

 

「それでこんな目立つ見た目なのか……」

 

屋根は燃え盛る業火のような赫色。造りは日本の古城が如く、壁は薄いクリーム色の漆喰壁。小さな庭があり、表には桜の木を植えている

 

「我ながら先鋭過ぎたデザインだなwそれでも目印になるならそれでいいさね」

 

「他のメンバー達は完成パーティー用の諸々の物の調達からはまだ帰らないと思うんだが、この後は?」

 

「うーん、そうだな〜……来てくれそうな連中に声かけでもしてくるか!」

 

「そんな急に来てくれる酔狂なやつっているのかなぁ…?親父の知り合いは基本、攻略組だろ?俺たちみたいなアウトローはちょっと…な……」

 

「大丈夫!キリトぐらいなら来てくれるさ……」

 

自分で言いながらも内心はズタボロだ

キリトぐらいしか思い当たらないという俺のコミュニティの狭さにつくづく落ち込んでしまう……

 

「そんじゃ任せた。ムラマサはまだ寝てるし、訪問者が来るわけでもないからな」

 

「任された!このマサムネにお任せあれ!」

 

妙にカッコつけたマサムネに笑ったw

 

 

主街区の中心に差し掛かったころ、

 

「おい、リーダー。もう見つからねぇよ。早く帰ろうぜ?」

 

「何言ってんだよ、お前。キリトのやつが『あいつ』はここにいるはずだって言ってたんだ。俺らはあいつに貸しがあるの知ってるだろ?」

 

「『貸し』って言ってもさ〜、あれは俺ら以外にもたくさんいるじゃんか。俺らだけがそんなことしなくても〜」

 

ーーーん?キリトを知ってるやつか?悪口じゃないところを見るとある程度の親交があるやつなのかな?話しかけてみるか

 

「あの〜すいません、先程キリトとおっしゃっていたのが聞こえたのですが、どのようなご用でいらっしゃったのですか?」

 

「あ、えっと〜。キリトに『ルーキス』はどこにいるんだ?と聞いて……」

 

「ハハハハ!ーーいや、失礼。それは俺だなw 俺がルーキスだよ」

 

「あんたがルーキスぅ⁉︎おじさんじゃん!久しぶりだな!」

 

「初対面で失礼な。お前さんも20後半って感じだけど?名前は?」

 

「すまん、すまん。俺は『クライン』。こいつらは俺がリーダーやってる『風林火山』のメンバーだ………なんて顔してんだよ」

 

ーーー空いた口が塞がらないとはまさにこのことか!久しぶりに顔が固まっちまった!!

 

「クライン⁈お前がクライン⁉︎サービス初日以来だな!ギルドのリーダー張ってるとは……かくいう俺もギルドを作ったばかりなんだけどな」

 

「へぇー!あんたもギルドをつくったのか!…って忘れるところだったぜ、俺たちはルーキス、あんたに恩返しがしく探してたんだ」

 

「恩返し?はてさて?何かしたことあるか?初日から今日まで会ったこと無いぜ?」

 

「いや、あるんだよ。返しても返しきれないほどのな」

 

「ふ〜ん……長話しもなんだから、俺のギルドまで来いよ。ちょっとした宴でもやろうかなってキリトとかを呼ぼうとしてたんだよな」

 

「え⁈また借りを作るのは………」

 

「まぁまぁ、それはそれでこれはこれだ。そこんところは数えなくていいよ」

 

「そうか?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「あ!ちょっと待った。キリトを呼びに行くとこだったんだ。今どこにいるか分かるか?」

 

「キリトなら第50層のエギルの店にいるはずだぜ、そこに向かう途中だったしな」

 

「エギルって誰だよ?知らんぞ、そいつ」

 

「えー!第1層ボス攻略の時に一緒に参加してたって言ってたぜ?ま、俺らが連れてくよ」

 

「すまんな、頼む」

 

道々に自己紹介を兼ねてメンバーたちの名前を教えてもらった。ねじり鉢巻の巨漢、カルー。逆立った茶髪の痩せ、オブトラ。黒髪に顎髭のアクト。バンダナと口髭のジャンウー。唯一和装ではないトーラス。クラインを含めたこの6人はSAO以前からの友人たちだそうだ。雰囲気から察するにバトルでもチームワークがある強い奴らだと分かる。そもそも、『風林火山』といえば攻略組の中でも新参かつ少人数ながらも優秀なチームと噂のやつらだ

 

〜エギルの店〜

 

「おーい、エギル!キリトはいるか?」

 

「「なんだクラインか…」」

 

「お前らなんなんだ!2人揃って」

 

「で、なんのようなんだ俺に」

 

「商売の邪魔になるから早くしてくれ」

 

「ーーっ!……今日はルーキスを連れて来たんだ。ルーキスがお前を自分のギルドのパーティーに呼びたいんだと」

 

「こんにちはー!ようキリト!そして、久しぶりだな『エギル』。第1層以来だな」

 

「え⁈俺をパーティーに招待?いや、俺は………」

 

「久しぶりだな、ルーキス。そのパーティーの準備は足りてるか?俺の品揃えはが豊富だぜ?」

 

「再開早々、商談を始めやがったよこいつw」

 

こいつ、商売上手だw

 

「キリトは連れてくぞ。お前のことを悪く言うやつは俺んとこにはいない。原因を辿れば、お前の悪口は俺の悪口でもあるしな」

 

渋い顔のキリト

 

「……わかった。これっきりだぞ……」

 

「おうよ。ありがとうな」

 

このくらいの面子なら盛り上がるだろ

 

〜【燈の家】〜

 

「ムラマサ〜、マサムネ〜?ただいままー」

 

「おかえりなさい、親父」

 

「おかえり、ルーキス」

 

ムラマサがまともな服を着ている!さすがに人を呼ぶならそうだよな。若女将……いや、極女将みたいなんだが…怖いが綺麗だ

 

「は、はじめまして、俺はクライン……。ムラマサ?さんはルーキスとはどんな関係でーーグハッッッ!」

 

無意識の内にクラインを殴ってしまった。

 

「ルーキスはアタシの旦那なんだ。フフw」

 

項垂れるクライン。お前にムラマサはやらねぇよ

 

「初めて。俺はキリト。まさかルーキスが結婚しているとは……おめでとうございます」

 

「こちらこそ。さぁ!人も集まったことだし、宴といこうじゃないか!マサムネ、他の連中は大丈夫かい?」

 

「はい!準備できてますよ姐御!」

 

ーーー

 

「え〜、それでは我らがギルド【燈の家】の設立とその建築を祝って、乾杯!」

 

「「「かんぱ〜〜い!!」」」

 

ギルドの中の一番大きい部屋とそこからつながる縁側と小さな庭でバーベキューとか色々な料理の飲み物を用意した。鍋奉行ならぬバーベキュー奉行は俺、他の料理は街で買ってきたものだ。うん、楽しいw

 

「わーーー!!」

 

「う、美味い…」

 

「ハッハー、どうだこの料理スキルMAXの腕前は!戦うだけが俺の得意分野じゃないのさ!まだまだ焼けるぞ!」

 

ジュー、ジュー

串、肉、野菜。その他全てを焼き続ける。S級とまでは言わんが、A級くらいの食材があればもっと美味いもんが作れるんだがなぁ

 

飲んで食べてのどんちゃん騒ぎを夜遅くまで続けた

 

「楽しかったね」

 

「楽しかったな」

 

キリトと一緒にクラインを除く『風林火山』のメンバーは帰っていた。クラインだけが悪酔いして今は客室で寝ている。「うー、俺も女の子プレイヤーと付き合いたいー」とかほざいてたので速攻で寝かせた。キリトは終始、気難しい顔だったが満更でもなさそうではあった。

俺とマサムネはムラマサたちに、明日片付けをするぞと伝え、家に帰した。

今はギルドの二階のせり出たテラスでまだ飲んでいるところだ

 

「……そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?」

 

「ん?なんのことだ、ムラマサ?」

 

「あんたが隠してること、あんたが誰なのか、あんたはこのデスゲームとどんな関わりがあるか……とかね」

 

「…俺はただのプレイヤーさ。まぁ、ビーターとか『人狩り』とか言われちゃいるがな」

 

焦った〜!急に何を言い出したかと思えば

 

「知ってるよ、そんなこと。アタシが聞いてるのはあんたがこのデスゲームの作り手側じゃないかってこと。あんたは知りすぎてる。何人かの運営サイドとして参加しているプレイヤーの人には会ったことがある。けれど、その人たちでもこのSAOがデスゲームになることなんて知らないまま始めたんだ。でも、あんたはーー違う」

 

言い返せなかった。否定することはいくらでも出来る。でも、聞かなければならないと思った

 

「初めて会った時もそうだった。あんたはアタシに武器の手入れを頼んできた。あんたの武器を見て直感した、こいつは人斬りだってね。レベルと武器が釣り合っちゃいなかったからね。それでガキどもに探らせたら、あんたの周辺でのPKの頻度が高すぎることがわかったんだ。しかも、そのほとんどが人気の少ない所での殺人ときた。問題なのはその量じゃなくて、やり口と対象さ。ゲームの進行の妨げになるオレンジだけを的確に狙った暗殺。明らかに手慣れている。アタシの考えは直ぐにまとまったよ」

 

「……つまり、俺がこのゲームの仕様を知らないと出来ないと?」

 

「そうさ、ルーキス。あんたじゃないとあれらは出来ない」

 

「…………で、どうする?俺を牢獄に入れるのか?それはよしてくれよ………」

 

「そんなのするわけないじゃないか!!アタシが惚れたのはその『人狩り鴉』のルーキスだよ!ガキたちもそれを知ってあんたを慕ってるんだ。だから、アタシたちだけには『真実』を言って欲しい」

 

「…………全部話すには時間がかかるが、いいだろうーーーーーー」

 

全部話した。茅場の目的、俺たちの抱いてきた夢、俺のこのゲームでのギフト、俺のこれまでの経歴、裏社会でやったこと、その全て

 

ムラマサは

「辛かったね、苦しかったね、怖かったね」

と言ってくれた

 

「マサムネたちには『裏』の話はしないでほしい。茅場との関係はあいつらも知っているなら話せるが……」

 

「わかった。あんたの全てを知っているのはアタシだけでいい」

 

「なぜそんなにも簡単に了承する?」

 

「何故って………アタシがあんたの嫁だからだよ。それ以外に理由なんていらないだろ?」

 

「ムラマサ……改めて惚れ直したよ」

 

「恥ずかしいこと言わないでおくれ、照れちゃうよ」

 

月明かりで照らされたムラマサの顔は紅くなっていた

 

ーーーー

 

「いつか現実に戻れたら、本当に結婚しよう」

 

「じゃあ、本名も言わなきゃね」

 

「俺は『夜明 竜』。いかにも中二病な名前だろ?」

 

「人の名前を馬鹿にする女に見えるのかい?アタシ……いや、私は『村井 雅代』。現実じゃ探偵してたんだ。信じられないかもしれないけど……アバター名なんて苗字と名前の頭の二文字をくっつけただけの安直なもんさ」

 

「ちょっと古臭いなww」

 

「「フフフフフww」」

 

そうして時間が過ぎた

いつのまにか明け方になっていたのには二人で驚いた

 

「おい、クラインさんよ。起きなさいな」

 

「は!ここは!」

 

飛び起きるクライン

 

「急に起きるな!ビックリするわ!」

 

「痛え!」

 

思わず、また叩いてしまった

 

「せっかくだ、朝飯も食ってけよ」

 

「感謝はするが、昨日から俺のこと殴り過ぎだろ⁈」

 

まあまあ、と宥める。なんだろう?無意識のうちにイジっている自分が不思議だ?

 

「ムラマサとクラインは食器の用意とかしててくれ。俺は飯担当だ」

 

俺は台所に消える。でも、クラインとムラマサが話しているらしかったので聞き耳スキル全開で調理し始める

 

「ムラマサさん?ルーキスっていつもご飯作り担当なんですか?」

 

「ああ。家事全般とか色んなことをやってもらってるんだ。アタシはギルドの実質的な運営、一応は副リーダーって肩書きだけどね」

 

「俺はルーキスのやつとは第1層でキリトにソードスキルとかの説明を教えてもらった頃に出会った以来、会ってなかったんです。それがいつのまにか『人狩り鴉』なんて物騒な二つ名で呼ばれるようになってスゲー心配してたんっす。ボス戦には参加しないけど、中層・下層プレイヤーに情報提供してるとかオレンジたちの退治とか色々聞いてたんです」

 

「それはそれは、気にしていただいてありがとうございます。」

 

「感謝なんて……俺はあいつのことが心配だっただけで……」

 

泣けるね、こりゃ。クラインがこんなに情に熱いやつだったとは分からなかったぜ

 

「はいはい、お喋りはそこまでにして朝ご飯できたぞ」

 

「美味そう!確か昨日、料理スキルを完全習得したって言ってたけど本当なのか?バーベキューは美味かったが」

 

「当たり前よ!俺は短剣とか戦闘系スキルと一緒に料理も上げ始めたからな、先にコンプしたまでさ。そんなことより手を合わせて……」

 

「「「いただきます」」」

 

「いつも飲んでるけどこれは現実の味噌汁と変わらない味がする」

 

「昨日のバーベキューのソースもそうだったけど、ゲーム内でどうやってこの味をだしてるんだ?」

 

「日々の研究以外には何も?」

 

「研究?」

 

「そう、研究。データを集め、仮説をを立てる。そして、検証を重ねて計算し、理論として確率させる。それだけさね」

 

「なんか本当に研究者みたいだな。現実でもそうだったんじゃないのか?」

 

「おいおい、ゲーム内でリアルの詮索はご法度だろ?自分から言うのは別だけど…」

 

「ほぼ自分で言ってるようなモンじゃねぇか」

 

そうなんだけどさ、俺の場合は問題ありありだろ

 

「二人とも朝ご飯くらいは静かに食べなさいな。」

 

「「はーい」」

 

朝飯を食べ終え、片付けが終わるころマサムネたちが集まってきた。それからは俺とマサムネたちで昨日の片付けをし始めたのだが、なぜかクラインはのんびりと過ごしてやがった

 

「なあ、ルーキスさんよ!」

 

「なんだ?」

 

「このギルドってさ、なんか旅館みたいじゃね?」

 

「旅館?」

 

「思うんだけどさ、このギルドをプレイヤー向けの旅館兼【燈の家】の本部としてやっていったらどうだ?」

 

「ほうほう!面白い話だな!おーい、マサムネ〜」

 

「なんですか親父?」

 

「それがなーーー」

 

カクカク、シカジカ、アレコレ

 

「ーーーという提案がクラインからあったんだけど、どう思う?」

 

「親父がいいんなら俺たちはやるだけだ。なぁ、皆んな!」

 

面白そうじゃん!俺たちが旅館かぁwとメンバー達がやる気に満ちる

 

「やる気たっぷりで何より!ムラマサはどうだ?」

 

「アタシも賛成するけど、あんたらの素行の悪さを何とかしないとね。クラインさん、こいつらの世間様の評価ってどんなだい?」

 

「まぁ、ルーキスは言わずもがなだな。他の【村正】のやつらの話はそれぞれ個人じゃなくて全体として少し悪くとられてる感はあるかなぁ」

 

「まぁ、そうだわな。俺はビーターの1人ってなってるし、『人狩り鴉』は物騒すぎる名前だし」

 

「俺たちはカルマ回復クエストをやってる最中で全員がグリーンではないし」

 

「てかもうそろそろ帰りたいんだけど……」

 

「いいぜ。イメージ回復の件はこちらの問題だからな、そこはお前に任せられるモンじゃない」

 

「それじゃあ、元気でな!また会おうぜ!」

 

「応よ!」

 

クラインには感謝しなきゃな。いつかまた会ったら旅館でおもてなしかなw

 

「さぁて、やりますか!」

 

今後の方針も決まったし、頑張っていきますかねぇ!!

 

あとは茅場からの連絡が無いこと祈るだけか……ヴァサゴめ、やらかし過ぎはやめてほしいものだ

 





和風+屋敷=旅館の方程式が頭にポンっと出てきたのをそのまま文章にしましたww
レースあまりできてないっす。今年こそ男性鯖に水着を!


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7話 "山の翁"


翁、最&高。異論は認めない。だいぶ前に書いたやつを修正して載せました。


 

〜65階層〜

 

俺は拠点にしている第43層の家を離れ65階層に来ていた。このフロアはほとんどが岩や砂ばかりの荒野でその周りを山脈で囲まれているという地形で、転移門から離れればモンスターがウヨウヨいるような場所だ。比較的視界が開けているためかある程度のパーティー人数があればそれほどの難易度でもないのもドロップアイテムやレベリングには向いていると攻略組に好かれている。まぁ、その攻略組はすでにこの階層のフロアボスを倒しているので今では人は少ない。

俺がここに来たのはある噂を耳にしたからだ。なんでも山間の村々では鐘の音が遠くから聞こえることがあり、現地では『暗殺教団』なる者たちもいるらしい。何かのクエストかと思い、情報屋のアルゴに話を聞けば

「何人かのプレイヤーが挑戦したんだが、まだクリアしたやつはいないんだよナ。ていうか戻ってきたってのも聞いたことが無くてナァ……。あんまりオススメはできねぇゾ。」

と……。

 

「そんな事聞いた余計に気になるじゃんか!暗殺と聞けば居ても立っても居られない!おじさん、ワクワクしてきたわぁ!」

 

そんな感じで街を出たのもつかの間、

 

「っっと!どうした?どうした?急に停まるなんて聞いてねぇぞ!」

ドサァァァーー!

 

不意に山の方から吹いてきた風に当たると町で借りた馬が急停止して、体が地面に吹っ飛ばされた。

 

「どうどう。大丈夫か?」

 

声をかけるが馬は一向に大人しくならない。まるで何かに怯えているようだ。仕方ないが、馬はココで降りることにしよう。不思議なことにまだモンスターに遭遇していないから消耗はしてないし、この分なら徒歩でもいけるだろう。馬には街に帰っててもらうか

 

「んじゃ、歩くとしますか。」

 

〜1時間半後〜

 

まだ村の影さえ見えない。道中、モンスターとの遭遇は何度かあったが難なく撃破。さすがの『アサシンブレード』だ。中型武器で捌き、ブレードで急所を刺す。シンプルだが殆どダメージを受けずに倒せるのは大きなアドバンテージだな。それにしても村はまだなのか?疲れた訳じゃないが、1人で歩き続けるのは色々と辛い…。

 

程なく、「お?煙が登ってる。人が住んでるっぽいな。」

 

ようやく村に着いたらしい。街ほどの活気は無いが、NPCたちの表情は明るかった。

 

「すいません、どこか宿はありませんか?街からきたのですが休みたくて…。」

 

「旅の方ですか?宿はありませんが、私の家ならお泊まりになってもいいですよ。」

 

「ありがとうございます。私の名前は『ルーキス』です。」

 

「こちらこそ。私は『サリア』と言います。ルーキス様は何の御用でこんな辺境の村にまで来られたのですか?」

 

さて、どう答えたらよいものか?下手なことを言えば村を追い出されかねない。彼女らにとって「暗殺教団」はどのような立ち位置なんだ?

そんな風に悩んでいると、

 

「無理におっしゃらなくてもいいですよ。喋りたくないこともあるでしょうし。さ、こちらへ。家にご案内します。」

 

どうやらいい方向に捉えてくれたらしい。好都合だ。早めにクエストクリアして、帰った方が良さそうな感じがするし。

 

「では、お言葉に甘えて泊まらせていただきます。明日の午後には村を出るつもりなのでそれまでよろしくお願いします。」

 

そんなこんなで夕飯までご馳走になってしまった。中東地域をモチーフにしているのか「仕事」時代に食べたことのある伝統料理が出てきた。ついでに、料理スキルMAXなのを生かして料理を教えてもらった!これは嬉しい誤算♫

 

〜翌日〜

 

早朝にサリアさん家を出た俺は早速、山奥へ進むことにした。

 

「風が冷ぇな。」

 

と独り言を言った瞬間、

 

「グワァァァ!!」

 

「ワイバーン!?なんで⁉︎」

 

突然にワイバーンが現れた。さすがに短剣形の武器じゃ太刀打ちできない。が、『アレ』を念のために装備しておいて良かったぁ。小次郎、ありがたくテメェの置き土産を使わせてもらうぜ!

 

「ワイバーンか。落とし甲斐のあるよ。」

 

『物干し竿』

 

決まったァァァ!一回、言ってみたかったんだよなこのセリフw

 

「グガァァァ!」

 

鋭利な爪での攻撃の嵐。だが、物干し竿の長い刀身はそれらを捌ききる。自分で言うのもなんだがバランスブレイカーすぎる防御だなww。要求ステータスもそれほど高くはないし、なにより速く振れるのは俺向きだ。

 

「とは言うものの、イマイチ決めてにかけるのはどうしたものか…。」

 

攻撃力そのものが高くないのがこの武器だ。現状、俺は曲刀および刀系のソードスキルを覚えてはいないし、まして『燕返し』を使える訳でもない。防戦一方だとジリ貧だ。

 

「早くしねぇとヤバイッッ!集まってきちまう!」

 

そう、ワイバーンは元来、群で行動が多く、目の前の個体のように1匹でいることは珍しい。つまりは、たまたま1匹なのであってコイツの群は別の場所にいるということ。

 

「「「「グギャーース!!」」」」

 

「あーあ…。来やがった……。」

 

その数、凡そ30匹。いくらなんでも多すぎる……。他に挑んだプレイヤーたちはコイツらにやられたんじゃないだろな⁉︎冗談じゃない!こんなアホみたいな死に方なんて出来るか!ヒースクリフにどんなに笑われるか!死んでたまるかよ!

 

「えぇい、クソが!」

 

次々と俺の周りにやってくれるワイバーンども。その牙が、爪が、俺の肉を切り裂く。血の代わりに赤いエフェクトが飛び散る。ポーションを使う暇すらくれないトカゲたち。

 

「死ぬのか…?ココで…?」

 

せめて、美味いメシを食ってから死にたかったぜ……

 

『汝もそこで終わりか?』

 

どこからか声が聞こえた。まるで『死』が語りかけてくるような深さと、恐ろしさを持った声だった。でも、不思議と力が湧いてくる。この声の主は誰だ?

 

「終わる訳にはいかない!自分の死に場所は自分で決める!おっさんを舐めるな、トカゲ野郎!」

 

『ならば立つが良い。その刀を貴様にくれてやった「侍」はその程度、燕が如く切り捨てるだろう。』

 

物干し竿を構える。小次郎はどんな風にやってた?あいつの技を思い出せ。あの目を、あの男がその一生で生み出した「たったひとつの全て」を!

 

「ーー秘剣 燕返し!」

 

ワイバーンの首が飛ぶ。どうやら三の太刀までは再現できなかったらしい。たが、それで十分!!コイツらの首さえ落とせれば問題は無い!!

 

それからどれだけの時間が経ったろう……。気付けばあと少しで太陽が地面に潜ろとする頃合いだった。

 

「『午後には出ます』って言ったもんなぁ。今から村に戻るのは恥ずかしいし、先に進むしか無いのかぁ。ま、さっきの声も気になるからそうする以外に道はないんだがっ…。」

 

HPは赤にまで落ちており、文字通りの死にかけだったが、ポーションを使って全開する。マジで死ぬのはログイン前から重々承知だったが、初めてそうなった今は中々に精神にこたえる。

短剣以外のソードスキルを修得しておけばよかったぜ。レベル76で短剣スキルとユニークの暗殺剣しかないのはダメなのかねぇ?

 

「ん?なんだあの建物は?」

 

谷の奥にうっすらと建物が見える。人が住むでいるような気配は感じないが、あれは寺院だろうか?

近づくにつれてこの寺院のヤバさがひしひしと伝わってくる。モンスターの気配だけじゃなく、普通の生物のものすらしない。出来れば今すぐ帰りたいと身体が震えてる…!

 

『ーー剣の徒よ。汝は何故にここに参った?』

『それがどの様なものであろうともーーー我が廟に踏み入る者は、悉く死なねばならない。』

『死者として戦い、生をもぎ取るべし。ーー解なりや。』

 

目の前の何もない空間に大きな影が現れた。身体全体に鎧を身につけて、顔に髑髏の面を付けた騎士。死神とも見間違うオーラを発している。正直、戦っても勝てる気がしない。魂がここから逃げたいと叫んでる!

 

「お前は……誰だ…?」

 

『我は"山の翁"、ハサン・サッバーハである。』

 

「山の翁……。なるほどな…。だから「暗殺教団」ってわけか。しかも、ハサンときたか。」

 

『剣の徒よ。汝は何を求め、ここに参った?返答次第ではその首を今すぐ貰い受けるが?』

 

「いやいやいや、別に悪さをしにきたんじゃない。噂でここに強いナニカがあるってのを耳にしただけだ。結果、アンタみたいな強い奴がいたって話だよ。」

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン。鐘の音だ。

 

『ーーほぅ。強さを求めに参ったというか。中々に肝の座ったやつよ。我の前に立ちながらその様な言葉を口にする余裕があろうとは…。』

『ならば、余計に逃すことは出来んな。元より生かして逃すつもりも無いが。』

 

髑髏の騎士、山の翁は手の中に剣を出現させる。キリトがよく使う片手直剣をより大きくしたような形だ。大剣にも見える。見た目からはギミックがあるとは考えられないが、むしろそっちの方が怖い。真っ向勝負で自分より大きな奴がバンバン、ソードスキルを使ってくる。リーチが短いコッチが圧倒的不利。長い物干し竿しかまともには張り合えないらしい。肝心の物干し竿も『燕返し』以外には使えないし、その『燕返し』ですら完成していない。とどのつまり、勝ち目はほぼゼロ……。

 

「なぁ、見逃してくれたりはしないのか?見なかったフリするからさ?」

 

『我がそれを赦すの思うのか?汝は我が霊廟に立ち入っただけでなく、己が「死ぬべき時」すら見失っている。晩鐘はすでに汝の名を指し示している。故に我は汝に天命を下すのだ。』

 

「死ぬべき時を見失っただと?ハハっ!死にかけたことはあっても死ななきゃいけなかったことは今まで無いぜ?俺はいつだって生き残ってきたんだからな?さっきのワイバーンの群からも生き残ったしな。」

 

『言の葉で繕おうとも意味は無い。』

 

「そうかよ。じゃあ、せいぜい死なない程度にヤらせてもらうぜ!」

 

山の翁の上に緑のHPバーが現れる。5本か……。恐らく、70階層相当のフロアボス級だろう。1人でフロアボスに挑むとかどこぞの黒の剣士かよ!

 

「早々に決着をつけたいねぇ!」

 

俺は『燕返し』の構えを取る。これだけで首が取れるとは思わないが、少しの隙が出来れば「アサシン ブレード」で殺れる。

 

『シャアッ!』

 

キィィン!ガキィン!刃が打ち合う音が辺りに響く。クソ!燕返しさえできねぇじゃねぇかよ!どんな設定にしてんだ、あいつは?

 

『思いのほかやるではないか。』

 

「そりゃ、どうも!お前も相当の使い手だよ!」

 

『首を出せぃ!』

 

「あっぶな!会話の途中に殺すのはマナー違反だ!喋り終わってからにしようや?」

 

『ーーフフっ。これは異な事を言う。汝こそ我が剣を捌き、今にもこの素っ首を落とそうとしておるではないか?』

 

「お互い様だよっ!」

 

 

長い間、打ち合った。一つ一つの剣圧が鋭い。防ぎきれない攻撃が確実にHPを削ってくる。たが、客観的に見てもあちらの方が数枚も上なのに大技の一つすら出してこない。それに、時々だが5本のHPバーが消えたり、本数が減ったり、減らしたはずのHPが元に戻ってたりすることがあった。そのせいで山の翁の攻撃が緩くなることは無かったが、おかしな事が起こるたびに翁の顔が歪み、苦しんでいるようにも思われた。

 

『グッッ!』

 

大振りの一閃。

 

「ここ!」

 

振り終わりの隙を狙って構える。

 

「秘剣 燕返し!」

 

翁の首を落とす為に『燕返し』を放つ。このまま倒せるとは思わないが、流れがコッチに来るようになれば!

 

『フンッ!』

 

ガッキィィィン!!

 

「た、盾ぇ⁉︎」

 

いつのまにか左手に大盾を持っている翁。どっから出てきたんだ、その盾!ガードしなかったらクリーンヒットしてただろうが!

 

『よき太刀筋だ。かの「侍」には一歩足りぬが、この短い期間によくぞここまでの武を修めた。』

 

「ズルいぞ!盾持ってるなんて話してないぞ!ガードすんな!ってかワイバーンとやってる時にも「侍」とか言ってたな?お前、小次郎を知ってるのか?どういうことだ?階層間のエネミー同士にそんな繋がりの設定があるのか?」

 

『ーーいや、知らぬ。我はかの「侍」を何故に我が知っているのかを知らぬ。だが、かの者と貴様が鎬を削りあったことはわかる…。』

 

どういう事だ?設定を与えられていないにも関わらず、知らない?システムの障害か?いや、茅場がそんなミスをするはずは無い…。ではわざとなのか?何らかの思惑があるとすればそいつは俺にだけ向けられた意思になる……。つまりーー

 

「ーーわかった。お前が何者なのか?いや、何なのか?それはこの戦いに決着をつけてからなら教えてやるよ。」

 

『我が誰かだと…。我は"山の翁"。ハサン・サッバーハ。ハサンの中のハサンであり、汝が首を断つ者である!』

 

ーーゴ〜ン、ゴ〜ン、ゴ〜ンーー

再び、鐘が霊廟から谷の全体に響き渡る。これがコイツのいう晩鐘ってやつの音だったのか。

 

『あの鐘の音が聞こえるか?今再び神託は下った。その首を断つ!』

 

「鐘ごときに命を決められてたまるか!」

 

空間に力が満ちる。翁は明らかに大技を出すつもりだ。コッチは『燕返し』しか無い…。だが、いけるのか?未だ「空」に至らないこの身であの技ができるのか?

 

「"Try not.Do or Do not.There is No try." ま、やるしかないなら、やるだけだ!」

 

「死」そのものとも言えるほどの、全ての攻撃が死をもたらす技量を持つ髑髏の騎士。かたやこの世界を創った男の友。目の前の騎士の技になどに及ばぬ殺しと長刀を振るだけの男。その果てに辿り着く結末はーー

 

『聴くが良い。晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽ーーー首を断つか、【死告天使】・・・!』

 

騎士が放つは絶死の剣。何と変哲もない大剣。この騎士が信じ続けてきた信仰が染み付いている。それが何者であろうとも即死効果を与える剣。

 

「秘剣 燕返し!」

 

ただの殺し屋が放つは「無限」の剣。かつて友と呼び、酒を酌み交わし、その果てに死合った男の置き土産。三つの太刀筋を"同時"に放つことで逃げられぬ牢獄をつくる剣。

 

永遠が如き刹那。その明けにあるのはーー

 

『ーー速いな…。』

 

「ダハァァーーー」

 

大きく息を吐く。どうやらコッチが勝ったらしい。翁の剣は肩を切り裂き、鎖骨のあたりまで届いている。HPは数ミリあるかないかの赤。翁の方は、

 

『その神域の剣、しかとこの目に焼き付けたり。よもや我が首に届く刃があろうとは。』

 

首に物干し竿で斬ったと思われる傷のみ。

 

「あぁーー!理不尽すぎんだろ!茅場の野郎、いつかとっちめてやるァァ!」

 

『あまり叫ぶと体力をさらに消耗するぞ。我が剣を受けながら未だ灯る命を散らすのか?』

 

ンな訳にいくか!ポーションで回復っと。結晶じゃなくてポーションでここまで全快するって他のゲームじゃそうそうあるもんじゃないが、回復のバランス間違ってるだろ

 

「生き延びたなら俺の勝ちだよな?」

 

『「生き延びた」というのは違うな。貴様は一瞬、死んでいた。が、生き返ったのだ。一度消えた火が再び灯るが如くな。』

 

「死んでた!?ホントか?HPが全損してたのか?」

 

『誠だ。死から蘇った。貴様…。いや、貴殿の「心」がなした結果だろう』

 

俺の心…?システムがそんなあやふやな存在を認識したのか?人の心が機械に勝った…?ある意味、俺の『理論』が正しかった事になるが……。

 

「ま、生きているのに越したことはない。…ってか『貴様』が『貴殿』になってるけど、どんな風の吹き回しなんだ?どゆこと?」

 

『貴殿がそう呼ぶに値すると思ったまで。何せ自らが誰なのかすら完全に理解できていない我なのだから…。』

 

自らを憐れんでいる顔をする翁。

 

「そんな顔をするな。お前はそれを学ぶ必要は無い。」

 

『「学ぶ」?なぜ?我は学びなどしておらぬ。』

 

「いや、お前は学んでいる。お前は……

 

俺の『理想』だ。」

 

『我は貴殿の「理想」だと?』

 

「そう。お前は俺の目指した『そうあれたのなら』として創ったAIのアーキタイプ。言ってしまえばそうなる。」

 

『我が貴殿に創られた存在だと……?』

 

そう、コイツは俺の血と汗と涙の結晶。北欧での研究の成果、簡単に言えば俺の子でもある。裏社会から復帰した後、東都工業大学で非常勤講師をしていたのだが、その話をつけてくれた重村教授に渡されたデータ群の中に入っていた。俺は定期的に研究データを日本の重村教授の元に送っていて、バックアップを依頼していた。別に教授が自らの研究に使ってもいいと言っておいたのだが、そのまま残しておいてくれたらしい。いい先生に出会えてよかったと思う。

 

「この世界の創造主に頼まれて、俺はお前のデータをコピーして渡しておいたのだが、まさかこういう使われ方をされていたとはなぁ……。」

 

『ーー我が貴殿に創られたもの…。何故か驚くことができぬ。むしろ貴殿に我が剣が届きながらも、首を断ち切れなかった事にも納得できよう。』

 

「俺はお前を切れないし、お前も俺を切れない。カーディナル・システムはこの状況をまだ『戦闘中』と認識しているっぽいが、このままだとお前がバグを起こしたとして初期化されるか消されるか……」

 

『我は闇に蠢く亡霊に過ぎぬ。個としての欲望はない。告死の剣、存分に使うがよい。―――願わくば、末永くな。』

 

「ハナっからそのつもりだ。お前を消させはしない。時間が無いのにシステムに干渉する手立てがないのが問題なのだが」

 

ピコーン

 

メールが届いた。誰からだろうか?

 

「ヒ、ヒースクリフ⁈なんでっ⁈」

 

メールを開くと、

【やぁ、ルーキス。突然のメールで驚いただろうか?このメールが読めているということは君は山の翁に勝ったのだろう。これは翁との戦闘が開始されてから一定時間経過後に自動的に君に届くよう、システムに組み込んでおいたものだ。カーディナル・システムは本来、人の手がいらないのようにプログラミングしてあるが、いくつかある君に与えた特権の一つがそれだ。特権というより借りていたものを返しただけだがね。君の成果たる「翁」をどうするかは君次第だ。霊廟の中にGM用のコンソールを設置しておいたので、それで対処するといい。では】

 

用意周到なことで……。先読みしすぎなんだよなぁ

霊廟に入り、GMコンソールを起動した。

 

「そんな訳だから、お前をカーディナルから引き剥がす。お前のデータは俺のナーブギアに保存するがいいよな?」

 

『承知した。暫しの別れとなるが我が主よ。また』

 

「『ルーキス』。それがこの身体の名前だ。またな!」

 

『我が名はもとより無名。拘りも、取り決めもない。好きに呼ぶが良い。我が救済の光よ』

 

黄金の光とともに翁は消えた。いつ会えるのか検討もつかないが、常に一緒にいるのは変わりようの無い事実だ。

 

「『光』ねぇ……上手いことを言うやつめ。我が影よ…」

 

影。俺の夢の残滓。今はまだ「俺たち」の夢を見ている途中だが、いつか俺だけの夢をもう一度見たいものだ

 

「これでクエスト クリアでいいのかな。疲れた、疲れた!ホームに戻って早く寝たい」

 

転移結晶をポーチから取り出して転移門までひとっ飛び!その後、ムラマサの元に戻った。また無茶したんじゃないだろな!と少し怒られた

余談だが後日、血盟騎士団の本拠地に半ば殴りこみのようにあの団長様に文句を言いに行ってやった

 




翁をユイちゃん枠にしたかっただけの回ですwwww
誤字・脱字の報告、よろしくお願いします


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8話 笑う内通者

PoHを嫌いになれないのは自分だけでしょうか?


 

ーー『笑う棺桶』ーー。通称、ラフコフはPKを主とした殺人ギルドだ。オレンジよりも上のレッドプレイヤーが多く所属しており、殺しの術を他プレイヤーにも教える糞野郎たちのことである。もちろん、その中の数人を屠ってはきたがのだがその幹部はおろかトップを殺したことは無かった。それは愛しき『後輩』、PoHがリーダーをしているからだ。

 

2024年8月某日

 

「で、なんで俺にアジトの場所をバラすんだ?PoH」

 

「そりゃそっちの方が面白いからに決まってるだろ」

 

第50層の主街区『リンダース』で俺とPoHは会っていた。PoHのやつがどんな手を使ったのか知らんが、人づてに連絡してきやがった。『血盟騎士団』や『聖龍連合』といった巨大ギルドの攻略組の選抜メンバーで近々ラフコフ討伐作戦があることが漏れてるのではと危惧した俺は単騎で突入したわけだ

 

「変わったな、お前」

 

「変わった?変わってなんなねぇよ俺はw」

 

「変わったってより、化けたとか剥がれたっていう方が合ってるか?お前の持ってる『憎しみ』はお前の残虐性を増長させたらしいな。特にこのデスゲームはそれを育てるには十分過ぎる苗床だったわけだ」

 

「ルーキスさんよぉ、細かい話は俺にはわかんねー。だから、俺に殺し合いをさせてくれよ。なぁなぁ」

 

「言われなくても、アジトの場所は皆んなに伝えるよ。でも、お前んとこの部下たちを潰すことになるが良いのか?」

 

「あんな奴らなんてただの猿だ。俺は猿たちの殺し合いが見てぇんだよ」

 

「ふん。お前『度し難い悪』そのものだなww。まぁ、俺はそこを高く買ってるんだけどな」

 

「それじゃ、俺は戻って作戦がある事をバカどもに伝える。あんたもよろしく頼むぜ!」

 

「はいよ」

 

 

〜ラフコフ討伐作戦会議〜

 

「ってわけで、ラフコフのアジトの場所がわかったぜ」

 

理由に嘘をついて選抜メンバーたちの会議で伝えた

 

「さすがの『人狩り鴉』だな!」

 

騒めく中で俺を呼んだのはクラインだ。こいつがギルドマスターをやってる『風林火山』も少人数ながら攻略組の中にいる以上は実力があるのは折り紙付きだ。再開した時はギルマスなんて信じられなかったが……

 

「『人狩り』なんて物騒な名前のせいで下層プレイヤーに怖がれるのは辛いんだぞ……」

 

作戦では強襲仕掛けることになっており、万が一に人殺しをしてもカルマ回復のクエストを準備しておくらしい

 

「では作戦実行は明後日。各自、入念な準備でもって挑んでくれたまえ」

 

ヒースクリフの声で会議は終わった。

 

「ルーキス!」

 

「なんだキリト?どうした?」

 

「話がしたい。場所を変えよう」

 

「お、おう」

 

キリトが急に話しかけてきたから返答が揺らいでしまった。なんだ話って?

 

会議をしていたのは第55層の『グランザム』の血盟騎士団の現本部、その大会議室だ。外にはバルコニーがついている

キリトは俺をバルコニーまで呼んで何を話したいんだろうか…

 

「ルーキス、あんたさ……この作戦に参加するのを止めろよ」

 

「ん⁉︎何故だ?自分で言うのもアレだが、俺はお前と一緒でソロプレイヤーとしてここまでやってきた。確かにこの前ギルドを作ったさ。でも、メンバーをこの作戦に参加させるつもりはないし、まして俺が死ぬなんて絶対に無い。…違うか?」

 

「そうだが……、俺は頼まれたたんだよ。あんたを作戦に参加させないようにしてくれって」

 

「誰だそれを言ったのは?他の攻略組か?ヒースクリフか?アスナか?誰だ!」

 

「ーーーームラマサさんだよ。」

 

「んな!!お前、ムラマサに会ったのか!どうして⁉︎」

 

「会ったっていうか、会いに来てくれたんだよ。あんたがエギルの店によく行くって聞いて何時間も粘っててくれたんだ…」

 

エギルってのは第1層のボス攻略のときにいた黒人のプレイヤーのことだ。今は第50層で商店を開いている

 

「ムラマサが……」

 

「会うなり土下座をして俺に『ルーキスを、旦那を、ラフコフ討伐から外して欲しい』なんて頼み込んできたんだ。わかった以外の言葉が出てこなかったよ」

 

ムラマサ………家じゃそんな顔一切見せないのに…俺は馬鹿だ、阿保だ。惚れた女に頭を下げさせるなんて……

 

「わかった、辞めるーーーと言いたいが、ヒースクリフは許可してくると思うか?」

 

「思わない。あの団長様はあんたの強さを高く買ってる。総合力じゃなくて対人戦においては一番強いのはルーキス、あんただ。俺もそう思ってる…だから、こうなってるんだよ!」

 

「俺自身で交渉してみるよ。すまんな、キリト。こんなもん背負わせちまって…」

 

キリトは喋らなかった。ただ首を振っただけだった

 

「ヒースクリフ団長!ヒースクリフ団長と話をさせてくれ!」

 

団長室の前で警備員役のプレイヤーに止められながら叫ぶ

 

「入りたまえ」

 

扉を吹き飛ばすくらいの力でこじ開ける

 

「ヒースクリフ団長、大事なお話があります!」

 

「作戦のこともある。簡潔に説明してくれ」

 

カクカク、シカジカ

 

「無理だ。すまないが、諦めてくれ」

 

それの一点張りだった。クソ…なんで…

 

 

【村正】に帰る。道々でギルメンが声をかけてくれたみたいだが、なんて返事をしたのか思い出せない。

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい」

 

ムラマサが玄関で待っていてくれた。俺の表情からわかったのだろうか、目を向けるととても哀しげな顔をしていた

 

「アタシの願いは通らなかったみたいだね………」

 

「ごめん、ごめん、ごめんーーー」

 

泣きながら謝った。謝りまくった。不甲斐ない夫ですまない、そんなことしか口に出来ない自分に腹がたった

 

「仕方ないよ、あんたは強い。それはアタシが誰より知ってる。SAO最強の団長がなんだってんだ!アタシの旦那の方が強いってんだ!」

 

俺の頭を撫でながらムラマサはそんなことを言ってくれた

 

「泣き虫でごめんな。強い強いと言われても俺はおっさんなんだ。今まで多くのものを失くして、泣かせてきた…。もう、俺は……」

 

「アタシにできるのは惚れた男を変わらず思い続けるだけさね」

 

そのまま朝になった

 

「今日は一日遊びに行かないか?」

 

「どうしたんだい、急に?」

 

「なに、気分転換だよ」

 

他のギルメンに鍛治場を任せて、俺とムラマサは出かけた

まずは第48層だ!

 

「すいませ〜ん、リズ?リズベットはいませんかぁ?」

 

「いらっしゃいませ……ってルーキスさん!お久しぶりです」

 

「畏まらなくていいよ。今日は前に言ってた嫁さんを連れてきたんだ」

 

「ここは?」

 

「リスベット武具店。アスナやキリトたちが贔屓の鍛冶屋だ。ムラマサなら花畑とかよりここのほうが喜ぶかなと思って……聞いてないか…」

 

ムラマサは展示されている武器たちをまじまじと見つめている。いつぞやの時の目と同じだ。キラキラしてて眩しいほどに

 

「リズ、ムラマサの相手をしてやってくれないか?」

 

「初対面よ、私⁉︎ムラマサさんも鍛治師っては聞いてたけど………う〜ん、わかったわ…わかったけど、夫のあんたが付き合ってやらなくていいの?」

 

「多分、今日一日中はここから離れないと思うからなぁ。昼食の調達をしてくるだけさ」

 

そうやって店を出たが、本音はとは少し違う

 

「キリトのとこ行ってくるか…」

 

〜エギルの店〜

 

「エギル〜、キリトいるか?」

 

「ルーキスか、キリトは今日はまだ来てないぞ」

 

「来るまで待ってていいか?用事があってな。ついでに買い物だよ」

 

「俺はついでかよ……」

 

なんて談笑しながら待ってると

 

「おーい、エギる……ってルーキス⁈」

 

「待ってたぞ、キリト」

 

「なんだよ、そんなニヤついた顔で…怖いぞ」

 

「ちょっと出かけないか?」

 

「は?」

 

エギルとの用を済まさせて、キリトを連れ出す

 

「ここは?」

 

「とっておきの特訓場さ」

 

リンダースの建物と建物の間に出来た広い空間。元は公園らしく、ベンチとかがあり、空間そのものが空に抜けた場所だ

 

「なぁ、デュエルしようぜ」

 

「え⁉︎連れてきて急にデュエルぅ⁈」

 

「明日の作戦の願掛けみたいなもんさ。頼むよ」

 

「あんまり乗り気じゃないんだけど、『人狩り鴉』の頼みじゃ断れないな」

 

「『黒の剣士』の名は伊達じゃないって見せてくれよ」

 

浮かんだ【初撃決着モード】のYesのボタンを押す。これは最初の一撃をクリーンヒットさせた方を勝者とするデュエルだ。デスゲームであるこのSAOではデュエルのほとんどがこのモードでやるのが通説になっている

 

なんだよ。乗り気じゃないって言ってるわりにはオーラが迸ってるぜ、キリト

 

3……2……1!

タイマーが鳴る

 

「ハァァァァ!」

 

「速いなキリトは!!その剣をこの速さで扱えるとは!」

 

「速いのはそっちの方だよ!そんなひ弱そうな短剣で捌ける人はあんただけだ!」

 

キリトの剣は【エリシュデータ】という魔剣だ。第50層のフロアボスへのラストアタックによるボーナスドロップらしく、それ相応の性能を持っている。

 

「キリトよ!今のお前のレベルってどれくらいだ?」

 

キィィン

 

「あぁ?80は超えてるってことは教えてやるよっ!」

 

ギィィィン!俺の『無銘・黒』が弾かれてかけた

 

「武器破壊か!でも、まだまだあるぜ!」

 

「知ってるよ!」

 

うはw憂さ晴らし程度と思ってたけど、これなら明日じゃなくてもキリトにぶつけてもいいよね?

 

あれ、PoHってこんな気持ちなのか?

 

「血の渇望!」

 

からの

 

「エグジスト・スペクター!」

 

赤黒い光とともに音がなる!

 

キリトの黒剣を抜け、懐にブチかました連撃はその身体を吹き飛ばす

 

「グハァァァ!!」

 

壁まで見事な飛び方をして、地面に落ちた

 

「大丈夫か、キリト⁉︎」

 

「お、おい!なん、なんなんだ今の!」

 

息切れと驚きで呂律が回らないキリトを見ると何故だか笑いがこみ上げた

 

「ーーーハハハハwどうだ?勝負あっただろう?」

 

「そうさ!俺の負けだよ!で、なんなんだアレ?短剣のソードスキルであんなのあったか?見たことも聞いたことも無いぞ」

 

「エクストラスキルだよ。俺にも出現条件は分からんがな!俗に言う、ユニークスキルってやつさ」

さらに驚いた顔をするキリト。が、すぐに表情が曇る。何か隠し事を言うべきか否かみたいだ……

 

「ルーキス………俺にもあるんだ、ユニークスキル……」

 

「へ⁈」

 

やっちまった!カッコよく決めた筈が!恥ずかしいぃぃ

 

「俺もどうやって出たのか分からないけどな」

 

「そ、そうか……なんていうスキルなんだ?」

 

「『二刀流』。今は使わなかったけど、ほとんどのスキルは習得してある」

 

「俺のは『暗殺剣』。俺はもう全部を習得しているが………、これでユニークスキル持ちは確認されている中で三人になるのか…。俺、キリト、そしてヒースクリフの『神聖剣』…か」

 

 

 

「見せてくれとか言わないのか?」

 

「使わなかったのは理由があるんだろ?それなら隠すのも分かるってもんさ」

 

「お前のソレを知ってるやつは他にいるのか?」

 

「ヒースクリフには見せたさ、互いに見せ合うのを条件にな」

 

キリトは喋らなくなった。数分後、

 

「うん、今日はすまなかった」

 

「おいおい、謝るな。誘ったのは俺だぜ?こっちが感謝する方なんだから」

 

「お前とのデュエルでのボロボロになった剣を直したいんだけど、一緒にリズの所に行かないか?」

 

「その言葉を待ってたんだよ」

 

〜リズベット武具店〜

 

「遅くなった!ランチタイムは過ぎたけど昼食と行こうぜ……?なんじゃこりゃぁぁ!」

 

「おーい、リズ居るか?うわっ!」

 

店の中は剣、防具、その他多くの装備品が散乱していた。元々販売していた商品たちは無事らしく見えるが、床に山がいくつも出来ていた

モゾモゾ、ゴソゴソ

 

「プハァっ!!」

 

山の一つが崩れて、中からリズベットが飛び出した

 

「あ!ルーキス、遅い!あれ?キリトはなんでいるの?」

 

「何があった⁉︎なんだこの状況⁈」

 

「あー、これはですね、ちょっとね……」

 

「まどろっこしいな、早く説明してくれよ」

 

「……奥の工房を覗くといいわ」

 

どういうこと?

キリトにリズベットと一緒に片付けをしてやってくれと言い、工房を覗く。まぁ、予想はなんとなくついてるんだが……そうで無いと信じたい……

 

キィィン、カンカン、ジュゥゥゥゥ

 

「やっぱりか……」

 

ムラマサが剣とか色んなモンをとんでもないスピードで制作していた。その全てが一級品だと素人目でもわかるほどの……俺が見慣れてるからわかるのもあるのか?

 

「おーい!おーい!ムラマサーー!!」

 

聞こえてないな、これ。喋る方が集中できるって言ってたのはどこの誰だよ、人の声なんて聞こえてないじゃん

 

しっかし、長いなぁ。飯の耐久がつきそうだぞ……

綺麗だなぁ。何人も寄せ付けない氣を纏って、その目には炎が灯る。初めて会ったときと変わらない、最初から惚れてたんだな、俺

 

「これで良し!」

 

「納得のいくのが出来たかい?」

 

「わ!ルーキス!」

 

「もう昼は過ぎてるぞ。というか夕日が落ちそうだ」

 

「そんなにやってたの、アタシは?こりゃリズに迷惑かけたかなぁ……」

 

「おや?初めて会って急接近だな」

 

「職人肌ってのが気の合う理由なのかも。アタシが『工房、貸してくれない?お金と材料はウチの旦那がもつからさ』って言ったらすぐ貸してくれたよ」

 

「へー!っておい!勝手に約束するんじゃない、払えないわけではないけどな………はぁ……」

 

ニシシシ!

そんな可愛い顔したら許すしか無くてなる……

 

「次に来るときにでも持ってこよ……ムラマサ、今夜はレストランを予約してるんだ。そこに行こう」

 

「いつの間に予約したんだい?」

 

「な・い・しょ」

 

「ルーキス?もう終わった?」

 

「すまんな、リズ。後日、金とか持ってくるよ。絶対に!」

 

「わかってるわよ、そんなこと。早く行ってちょうだい、キリトがボロボロにした私の剣を直さないといけないんだから」

 

それ、俺のせいだよってのは黙っておいたほうがよさそうだ

 

「キリト、また明日な」

 

「あ、あぁ……」

 

『明日』に露骨な反応をするキリト

ヴァサゴにはああ言ったが、こいつとあと数人には死んでほしくない。殺されないようにサポートしてやろうかな?

 

「で、どこに予約をしてあるの?」

 

「第56層さ」

 

〜第56層〜

 

正しくは予約ではなく、契約の条件の一つに盛り込んでおいたからである。ここには『聖竜連合』本部があり、その『聖竜連合』のメンバーたちには俺のお得意様が何人もいる。問題のあるやつらだが、ある意味では一番このゲームを楽しんでると言っても過言ではない。つまり、俺が好きなタイプの人種たちの集まりなわけだ

 

主街区を見下ろす高台に要塞のような建物がその本部である。そこの正門にて

 

「よう、リンド、シヴァタ、ヤマタ」

 

「おや、ルーキスさん。お久しぶりです」

 

リンド。亡きディアベルの意志を継いで皆んなの為にと攻略を続けるプレイヤーの1人。横のシヴァタ、ヤマタと3人での行動が多いこいつらは前身のDKB時代からのパーティーだ。

 

「今日はなんのご用件で?」

 

「条件の一つを果たしてもらおうってね」

 

「っ!では、こちらへ。至急、用意を」

 

周りのやつらが何処かに走っていった

 

「ルーキス、これは?」

 

「恩は売れば売るほどいいってことだな」

 

「して、そちらの女性は?」

 

「俺の嫁だよ」

 

「アタシはムラマサ。このルーキスの専属鍛治師兼奥さんをやってる。よろしく!」

 

ムラマサはリンドに握手を求める。スッとなんの躊躇もなく手を出すリンド

 

「お初にお目にかかります、わたくしはリンド。この『聖竜連合』に所属しているただのプレイヤーです」

 

「かしこまり過ぎだろ、リンド。お前が普通なわけあるかよ、攻略会議とか昨日の討伐作戦会議のときだって進行役してたじゃん」

 

「進行だけではダメなんです。『彼等』になんて任せてられなかっただけです」

 

「そうかい……」

 

負けたくないのは分かるけどな……

 

その後も最近の身の回りの話をしながら階段を上がり、最上階のテラスへと案内をされた

 

「ルーキスさん、ちょっと……」

 

テーブルまで案内しといてなんだよ?ディナーに問題でもあったのか?

 

「明日の件でご相談があります」

 

「話せ」

 

真剣な目のリンドにこっちも気を引き締める

 

「単刀直入に言います。明日のラフコフ討伐戦で出来るだけ多くのレッドプレイヤーを『殺し』てください」

 

「何故?捕まえて牢獄送りって算段のはずだ、俺に殺させるメリットは?なんの利益がある?」

 

何を言い出すかと思えば……舐めやがって!怒りが湧いてくるぜ

 

「いえ、正確には利益ではありません。あくまでも俺個人の考えです。今後、ラフコフのようなPKをするプレイヤーを出さない為には見せしめが必要という答えに辿り着きました。ディアベルさんならもっと良い作戦を考えるでしょが………俺には……」

 

「ディアベルの名前を出されて退くわけにはいかないな。……了解した。このツケは必ず払ってもらうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

テーブルに戻るとすでに料理たちが準備されていた

 

「遅っそいなぁ〜!ルーキス!座って!」

 

「ごめん、ごめん。さ、食べようか」

 

満天の星空、数少ないプロの腕前の料理人たちの皿、愛する人

他に必要なものなんていらなかった

 

〜ラフコフ討伐作戦当日〜

 

昨日はそのまま『聖竜連合』の客室に泊まらせてもらった。ギルドに帰ることもできたが、マサムネたちに旅館を任せるのもいいだろうと思い、そうした

 

「アタシはこのまま【燈し火の家】に帰るよ……」

 

悲しそうな顔するなよ、戦えなくなるだろ……ええい!ままよ!

 

「必ず帰る。ムラマサを1人なんてさせない」

 

ムラマサを引き寄せて、抱きしめる。その温かさを身体に忘れさせないように

 

「目、閉じろ」

 

スッ、目を閉じて顔を出すムラマサ

 

チュッ

 

「いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

ーーーー

 

「もうすぐアジト付近だ!気をを引き締めろ!!」

 

皆んなに声をかける。攻略組のオールスター連中の空気が変わる。張り詰めた緊張感は聞きしに勝るボス攻略戦のようだ

 

「……では、頼みます。ルーキス」

 

「ああ。わかってる、リンド」

 

生きて帰ることとこれからの殺しが楽しみなこと、殺させないやつらのこと、ヴァサゴのこと、全てが頭の中で渦巻く……

 

そしてーーー

 

ギィィィン、ガンッッッ

 

ウワァァァァ!ギャァァァ!

 

「オラァァァ!」

 

ブスッッ!!首を一突きし、殺す。小さくエフェクトが出て、HPが無くなる

 

「雑魚に興味は無い、死ね。」

 

PoHと俺の作戦は成功し、戦場は瞬く間に血の流れる地獄になった。助けをこう声、泣き叫ぶ声、殺して笑う声

これだ、これ!俺たちの見たかったのはまさにこれだ!ヴァサゴめ、これが見たかったのかよ!早く言ってくれれば話に乗ってやったのに

まぁ、キリトとかは死なせねぇけどな

 

「ハァァァ!!」

 

「張り切ってるのはいいが、やりすぎだキリト!」

 

「クソっ!」

 

聞こえちゃいないか……お前は死なせねぇ。背中は俺に任せろ

 

ヒュッ!

ナイフが俺の腹に擦りそうになりながら通り過ぎる。見えてないわけないだろが!

 

「これを避けるかよ⁉︎」

 

「毒ナイフとは感心しないなぁ!ジョニー!!」

 

「あんたが『人狩り鴉』、ルーキスだな」

 

「その面、お前はザザだな」

 

「Ha!さすがだな、ルーキス」

 

「PoH!」

 

ラフコフ幹部のお出ましかぁ!

 

「ヘッド!『黒の剣士』は俺がやるぜ!」

 

「やりすぎんなよ、ジョニー!」

 

キリトはジョニーと戦い、離れてしまった

 

「どうする?俺はもう何人か殺っちまったが、どっちから俺と殺り合う?」

 

目配せでPoHにザザを指名する意を伝える

が、

 

「俺は『閃光』をやる。こいつはリー

ダーが」

 

「Ha Ha!好きにやっちまえよ!」

 

「ハッ!いいのかPoH?加減は出来ねぇぞ?」

 

「知るかよ!さぁ、イッツ・ショウ・タイム!」

 

PoHが右手に持つのは『友切包丁』。一見、大型のダガーではあるが、PKをするほどにスペックが成長するという特性があるモンスタードロップの魔剣だ。

 

腕の腱を切るように何度も俺に刃を振るうPoH

 

「当たらんわ、そんなもん!」

 

友切包丁をパリィして、無銘で脇腹を切る!

 

「遅いぞ!こんなもんか?」

 

「楽しい時間を終わらせたくないだけだよ!」

 

笑って言うなwwこっちもニヤけちまうw

 

「ギルター・アーク!」

 

ガッギィィィン

 

「防ぐなよぉ!」

 

「んだ今の⁉︎見たことねぇぞ!そんなの」

 

「『暗殺剣』。俺のユニークスキルだ!まだまだ行くぞ!」

 

「まだ終わってたまるかよぉ!あんたを殺すまでなぁ!!」

 

ーーー

 

「フィニッシュ・ディス・ネグロイド!」

 

「ガハっ!」

 

吹き飛び、倒れこむPoH

ここか

 

PoHを押さえて小声で耳打つ

「まだ殺るか?」

 

「殺りたい、見たいと言いたいが……あんたがそれを言うのはいつも丁度の引き際だけだったな」

 

「変なこと覚えてるんじゃねぇ。俺がお前をズラからせる。笑って、殺して、それでもまだ足りないなら従え」

 

「はいよ」

 

PoHの拘束を解き、わざと飛ばされる

 

「さぁ、本気で殺ろうか」

 

魅せてやるよ、ここからが『人狩り鴉』の本領だ!

『アサシン ブレード』を摩り、覚悟を決める

 

何も知らないラフコフの構成員は俺を狙って突っ込んでくるが、関係ない

 

ブスッ!ブシュ!

 

「1人!2人!3人!4人!お前ら、俺がそんなに弱いと思ってんのか?足りねぇなぁ!」

 

首を一人づつ刺す。右、左と殺し続ける。単純な作業の殺しは好きじゃないが、これはこれで面白いw

作業は作業でも、駆け引きのある狙撃は好きなんだけどな!

 

「オラオラ、どうした?かかってこんかい!」

 

いい感じに殺すと、PoHは何処かに行ったようだった。これで逃げてるなら万々歳だ

 

それかも数人を殺した。いつの間にか戦闘は終わっていた。捕らえられたのはジョニー、ザザと数人のメンバーだけ。PoHの姿は無かった。何人かの被害者が出てしまったが、キリトやアスナは無事だった

 

「どうした?どうした?顔が暗いぞぉ?ラフコフは壊滅した、これからは攻略に専念できるだろ?」

 

なんとか励まそうとするが、効果は無い。テンションが上がって変なことを言った気がするが気にはしなかった。

死にたいないと思っていたが、別段それほどの死の危険は感じなかった。むしろ高揚感を覚える自分に驚いたくらいだ。暗殺してないのはこれいかに?

しかし、ムラマサには演技しなきゃいけないのは別の意味で辛いな

 

「……ありがとうございます」

 

「リンドよ、俺にはこれくらいしか出来ないだけだ。感謝はありがたいが、お前さんが気を落とすことはない」

 

「……では失礼します」

 

「ザザとジョニーの連行は俺がやる。皆んなはさっさと帰れよ」

 

ザザとジョニーの連行役から2人の身柄を受け取ると俺は転移結晶を使った

 

「お前らにはちょいと用がある。ぶち込んでやりたいのは山々だが、コッチが先だ」

 

パリィィン

 

「どこだ?ここは?」

 

「ヘッドは捕まってないんだろ?俺らに何しろってんだ」

 

「おい、連れてきたぞPoH」

 

「すまねぇな、ルーキス」

 

「ヘッド⁈」

 

「リーダー⁇」

 

ここは前もって作っておいた隠れ家。本来なら俺用としてそのままだったが、PoHの今後を鑑みて、くれてやった

 

「PoH、早くしろよ。こいつらの牢獄行きは変えられん。俺が疑われる」

 

「はいはい、わかってますよ〜だ。お前らに伝えとくことがある。ーーーーー」

 

カクカク、シカジカ

 

「もういいか?これ以上は危険だ。俺の身のな!」

 

「五月蝿えな〜!もう終わったよ」

 

「ヘッド!もう行くのかよ」

 

「どれくらいでクリアされるか分からねぇが、お前らとはこれでサヨナラだ。あばよ!」

 

「ほら、行くぞ!」

 

俺はまた結晶を使って転移した。転移の瞬間、ヴァサゴが、

いや、PoHが薄気味悪い笑みを浮かべていたのがやけに目に焼き付いた

 

〜【燈し火の家】〜

 

「ただいま〜」

 

「親父!」

 

「ルーキス!」

 

ムラマサとマサムネが玄関から飛び出してきた。

 

ガバッ!飛びつくムラマサ

 

「おかえりなさい」

 

「おう!ただいま」

 

「マサムネ、他のやつらは?」

 

「中の方に、呼びますか?」

 

「いや、後から1人づつ声をかけたいからいいよ」

 

「アタシに言うことは無いのかい?」

 

「愛してる」

 

「そんなのは知ってるよ」

 

ムギュゥゥ、ムラマサを抱きしめる

 

「口下手な俺にはこれくらいしか出来ないよ」

 

「……もうッ」

 

「あの〜?イチャイチャするのはせめて中でしてくれませんか?」

 

「「う、うん」」

 

マサムネが見たことないほどイライラしていたので俺とムラマサは自室に急ぐ

 

「泣いてないのは少し驚いた。よく泣くムラマサにしてはね」

 

「そんなに泣き虫じゃないの!泣き虫なのはルーキスだろ?」

 

「こりゃ一本取られたなww」

 

「これからはどうするの?」

 

「今まで通りさ。ボス戦には参加しない、下層の援助、このギルドの裏方としてやっていくさ。ま、半ば隠居したい気持ちもあるがね」

 

「フフw」

 

「どうした?おかしなこと言ったか?」

 

「いやw なんかキラキラした目で言ってる姿が子供みたいで可笑しくてw」

 

「中年オヤジなんだけどなぁ……」

 

この後、ギルドメンバー全員に声をかけて皆んなでワイワイして過ごした

 

キラキラってより、ギラギラがあってるかもな。久しぶりに『暗殺者』としての血が騒いで仕方がない!身体が火照るようで、抱くか殺すかじゃないと収まらない感覚は懐かしい

これからが楽しみだw

 




最後のとこがブライアン・ホークなのは書き終わってから気づきましたw


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9話 人狩り鴉と地獄の王子


千景ゲット回です。この後は74階話とクラディール?回、旅館話、とSAO最終と続ける予定です


〜ラフコフ討伐から約1カ月後〜

 

「早い!さすがに早いわ!」

 

「アンタから連絡したんだろうが!それに答えてここに来たのがそんなに悪いかよ!あ〜ん⁉︎」

 

「五月蝿いわ!こちとら『先輩』じゃ!」

 

「ンだとォ!」

 

PoHに連絡をし、第50層のある家に呼び出した。この間、討伐戦があったというのに油断しすぎではないのか?呼んだのは俺だからそれに怒るのは筋違いなわけだが……

 

「で、呼び出した理由はなんだ?」

 

「お前には俺とある場所に行くのにパーティーを組んでほしい。ボス戦も含めてな」

 

「は?」

 

理由はこうだ。現在、第70層まで攻略が進んでいるのだが、以前に第1層まで降りた時にあの『栗頭』ことキバオウと会話をする機会があった。昔と変わらず、イライラするやつではあったが中々に弄りがいのある憎めないやつというのがわかった。そこであるダンジョン『黒鉄宮』の情報を知った。どうやらこの第1層の地下にはダンジョンが存在していて、階層が攻略されるごとに新たに広がっていく特殊なダンジョンだそうだ。キバオウがそのダンジョンの攻略を依頼して来たからそれを受けただけなのだが、ムラマサとの約束を破ることになるのは容認できないし、受けた依頼はやり遂げるのが信条な俺はPoHと一緒に行って、せめてでも死なないようにしたくての行動である。

 

カクカク、シカジカ

 

「Ha Ha Ha!アンタが狂っているのは今更な話だが、もっと狂ってきたんじゃないか?俺と同類だなw」

 

「元々、俺とお前は同じだろ。ただの殺し屋だ。で、組んでくれるのかくれないのか、どっちだ?」

「組むよ。アンタの矛盾は俺とは少し違うかもしれないが、アンタといれば退屈しなさそうだ」

 

「意外にあっさりだな。もっとしぶると思っていたが……」

 

「『人狩り鴉』様といれば退屈はしないだろうし、殺しが認められるからな!Ha Ha Ha Ha !」

 

「……無駄な殺しは無しだぞ。他プレイヤーが襲って来たら、問答無用でブッ殺せ」

 

「へいへい」

 

〜第1層『黒蠍宮』〜

 

「では、武運を祈ります。」

 

「シンカーも大変だな。キバオウのせいでこんなやつの世話までしなきゃならないんだから」

 

「いえいえ、僕が力不足なだけですよ。それにあなたが悪い人ではないのは知っています」

 

こいつはシンカー。元々は小さなギルドのリーダーだったがのちに『アインクラッド解放軍』の長になったものの、その座は実質的にキバオウに取って代わられた不憫なやつ。たまに下に来た時に会う仲のいい?プレイヤーだ

 

「そちらの方に会うのは初めてですが、あなたは?」

 

「こいつは俺とパーティーを組んでもらってる俺のダチだ。現実でも仕事を一緒にしてたことがある。信用できる」

 

PoHが喋り出す前に手で退ける。余計なこと喋り出す前に止めなきゃどうなるか分かったものではない!前もって話しとけ!っていうもんではあるが

 

「それでは改めて、ご武運を」

 

しばらくしてーー

 

「ほとんど何にもいねぇじゃん!」

 

モンスターを切りながら叫ぶPoH

 

「モンスターはいるだろうが!むしろ、襲われないほうが都合よくていいんだよ!!」

 

俺も『アサシン ブレード』と『無銘・黒』でモンスターたちを刺していく

 

「人を殺せるからって付いて来たのに、なんなんだよ!」

 

「知るか!」

 

会話しながらもモンスターの群れを蹴散らしていく俺たち。PoHのやつめ、人殺し以外も上手いじゃねぇか。心配して損したぜ

 

「ここらへん一帯のモンスターは倒したな。ポップする前に進むぞ」

 

「チッ」

 

そのまま奥に進むがゴールらしきものや何かの宝物がある様子もなく、3時間が経過した

 

「なぁ、ルーキスさんよ。もう帰っていいんじゃねえか?飽きたんだが……」

 

「なんらかの証拠ぐらい持ち帰らないと報酬が貰えないだろうが!俺は昔から無駄な仕事はしないんだよ」

 

「はぁ……」

 

そんなこんなでモンスターを倒しながら数十分が過ぎて

 

「グァァ!」

 

「なんだこいつら⁈人型モンスターにしてはめちゃくちゃ人間味があるぞ⁉︎」

 

「プレイヤーじゃないのは不満だが、やっと殺せるZE!」

 

やけに人間の姿をしたモンスターたちが襲ってきた。ゾンビではないし、グール系でもない。なんだこいつら?まるで発狂した普通の人々って感じだが……?

 

「ん?なんだあの扉?」

 

襲ってきたやつらを殺しながら遠くに薄い光を放つ気味の悪い大きな扉があった

 

「は?どれだよ?どこに見えるんだ?」

 

「あぁ。これはスキルだ。【鷹の目】っていう索敵系のやつでな、この『アサシン ブレード』を手に入れた後に習得したやつさ」

 

「?よくわからねぇけど、こいつらはその扉の方から来てるのか?じゃあ、向こうにはもっとこいつらがいるんだな!」

 

「可能性としてはな!こいつらを蹴散らして、殺りにいくぞ!」

 

「Ha Ha !そのつもりだ!」

 

こうでも言わないとこいつはマジで帰るタイプのやつだからな。一緒に仕事してる時にはなかったが、このゲームで変わったら、いや、化けの皮が剥がれたらこうなるのは少し予想より外れた結果だったが……

 

「開けるぞ」

 

大きな扉に両手をかける。ギィィィと音をたてて開くとそこには

 

「なんだここは?」

 

「Ha Ha Ha Ha !面白そうじゃねえか」

 

そこは森だった。辺りは暗く、夜なのだろうか?よくわからないモニュメントが所々に立ち、人気はなく、恐ろしさを十二分に感じられる空気だった。

 

「あ!」

 

後ろを確認した途端、開いた扉は一瞬にして霞のように消えた。

 

「なんだか帰れなくなったみたいだなww」

 

「笑い事ではないと思うぞ。」

 

PoHめ、真面目にやらなきゃ帰れなくなるのはお前もだぞ。殺しさえできなくなると困るのはお前だ

 

「まずは探索だ。帰る方法を探しつつ、攻略ってとこだな」

 

「ーーなぁ、あれに乗るんじゃないのか?」

 

「え?」

 

PoHの指差した先には馬車があった。どうみても怪しさ満点で……

 

「半透明!幽霊かよw」

 

怖さよりも急展開な状況に笑いが込み上げた。茅場のやつめ、凝ってんなぁww

 

「馭者もいねぇし、そういう設定のモンだろ」

 

「え!……お前よく『ぎょしゃ』なんて言葉知ってんな!スゲぇw」

 

「あのな!俺は別にバカじゃねぇんだよ。」

 

「はいはい。じゃあ乗るぞ」

 

馬車に乗り込むの馬が鳴き、進み出した。窓の外は相変わらずの恐ろしげな風景が続いた

 

ガラガラガラガラ、ガチャン

 

「着いたみたいだな」

 

「これは……城?」

 

馬車から降りるとそこには大きな城が建っていた。見た目からはとても豪勢な作りに感じられたが、どうやら既に廃城となっているようだった

 

「おい、これどうやったら引き返せるんだ?」

 

「俺がしるかよ。アンタに着いて来ただけだぞ」

 

馬車の方を振り返るとそこには崩れ去った橋があるだけだ。この城は切り立った崖の上にあり、その周りを海?のような水で囲まれている。ついでに雪が降り積もっていて寒い

 

「『廃城 カインハースト』それがここの名前らしい」

 

「ご丁寧に書かれてるな」

 

「PoH、城ってことは宝物があるのがお決まりなわけだが……どうしたい?」

 

「そんなもん、邪魔な奴らは殺し尽くして奪うだけだろ?」

 

「分かってるじゃないか。そんじゃ、行くぞ。久方ぶりのツーマンセルだ、足引っぱるなよ」

 

「こっちのセリフだぜ」

 

早速、ぼんやりと浮かぶ灯りを辿り城内へ侵入する。

 

「キモッ!怖っ!」

 

「オッさんが何言ってんだ、気持ち悪いのはアンタだ!」

 

モンスターが襲ってくるのは予想通りだが、こいつら幽霊じゃん!『廃城の幽霊』なのに実体があるのってどうなんだ⁈

 

「首のないやつもいるし、なんなんだ!」

 

「文句ばっかり五月蝿ぇな!昔と何にも変わってねぇのはアンタじゃないのか?」

 

「ええぃ!PoH、20秒稼げ!」

 

「は?クソッ!」

 

PoHがヘイトをとってる間にウィンドを開いて、『アレ』を装備する。幸か不幸か、幽霊たちは人型モンスターだ。だったらコイツの方が良く効く

 

「スイッチ!!」

 

PoHの合図と同時に交代する。ふん、相変わらずの戦闘センスだこと

 

「ーー『秘剣 燕返し』!」

 

目の前の首なし幽霊を切り裂く。そのままの勢いで残りのやつらも切ってやった

 

「ふい〜〜。危ない、危ない」

 

「おい、その長い刀なんだ?どこで手に入れた?」

 

「どこでとは言わないけど、これは『物干し竿』。ある人型エネミーを倒したときにドロップした武器だ。お前の『友切包丁』と似てるな。コイツの場合、魔剣レベルではないんだけどな」

 

「じゃあ、今のソードスキルはなんなんだよ。明らかに対人戦を想定した動きだった。だが、ラフコフにもそんなスキルを使えるやつはいなかったぞ」

 

「そこは俺の知るところではないな。だが、よく対人用って分かったな。」

 

「速すぎてよく見えなかったが、三本の剣筋で相手を取り囲むようにするモンってのはわかる」

 

スゲぇ……この剣を読めたのかよ…天才的な目してるぜ

 

「『燕返し』。曰く、偶さか燕を切ろうと思い、その為に作られたって設定のソードスキルだ。一本では避けられる。だが、それが三本となれば話は別だ。逃れられないように囲んで切るのがこの剣技。」

 

「ふ〜〜ん、まだ聞きたりないが、先に進むのが優先だ。行くぞ」

 

「お、おう…」

 

急に真面目になりやがった。どうしたんだコイツ?俺を殺す算段でも考えてるんじゃないだろな

 

そのまま進むと銅像が乱立する場所に出た。これ、絶対動くぞ。俺ならそう作る

 

「ガァァ!」

 

「ほら、みたことか!そうくると思ってかよっ!」

 

動いた銅像、『ガーゴイル』を蹴り飛ばし、その隙に『物干し竿』を構える

 

「おい、PoH!シャキッとしろ、シャキッと!」

 

「予想してたんなら俺にも教えろ!この老害が!」

 

「誰が老害だ!お前よりはゲームは上手くやれるわ!」

 

「現実の『仕事』は俺の方が上さ」

 

「んだと?クソガキめ」

 

お互いを貶しながらもモンスターたちをボコボコにしていく。グギャァとけガオォやらとモンスターたちは叫ぶが俺たちには関係ない

 

ガーゴイルたちを倒し、2階に上がると図書室のような部屋に入ることができた

 

「ん?」

 

「どうした?何かあるのか?」

 

「お前は聞き耳スキルを鍛えてないのか?明らかにさっきの幽霊の声がするぞ。それに混じって違うやつもいるようだ。本棚の向こうに敵が見える」

 

「鍛えてないわけじゃねぇ。そんなに高くないだけだ。あんたが鍛え過ぎてるだけだよ。それに『見える』ってなんだよ?そんな透視できるスキルなんてあったか?」

 

「あるんだよ。【鷹の目】っていう索敵系のな。ーーー来るぞ!」

 

幽霊たちが襲ってきた。その中に『カインの召使い』とかいう面倒くささ満点のやつもいる

 

「なんでここのモンスターは人型が多いんだ?しかも、狂ったみたいに暴走してるし」

 

「あんまり人を殺してる感じがしねぇ。楽しみにしてたのにぃ!」

 

喋りながらでも相手がいる以上はやるしかない。たとえつまらなくてもな!

 

「あれだな。まるで『獣』みてぇだ。元人間ってとこなのか?」

 

『獣』か……ジュノーとかいうやつも俺を『獣』とか言ってたな。さすがに俺はコイツらみたいにはなってないと思うが…

 

あらかたの敵を倒し、図書室内を散策したがその先に進む道は見つからなかった。

 

「なぁ、もう行き止まりじゃね?もう帰っていいか?」

 

「んなワケに行くか!…………クソ、『外』しかないか。」

 

「『外』?」

 

ーーー

 

「なぁ、本当にこの道でいいのか?」

 

「行けるなら行く。それしか残ってないだろ」

 

俺たちは図書室の窓を出て、城壁にせり出た小さな縁を歩いている。下はそれほど高くないが、キモいモンスターが見えるのがデカい

 

「さっき、あんなやつらいたか?」

 

「いなかったと思うぜ。いたら俺らはここにいないだろ」

 

「それもそうだな。」

 

「それはそうと、さっきから気になってたんだけどよソレなんだ?なんでそんな伝い方なんだ?」

 

「質問が多いな…。これもスキルだ、ス・キ・ル!……スキルなんだが、俺的には何かの状態、若しくは常時発動型の能力って感じだ」

 

「???」

 

「よくわからないのは俺のほうだ。……それより、落ちるなよ」

 

「いちいち心配しなくてもわかってるわ!」

 

「ふぅ〜。ん?ここか?オラァ!」

 

バリィィィーン

 

壁の出っ張りを掴んだまま身体を振り子のようにし、別の窓を蹴り破る

 

「ホイっと。ここには何があるのかなぁ〜?……これかな?」

 

いかにも動きそうな棒が伸びていた。根元には歯車があったので何かの仕掛けのスイッチと思い、そいつを倒すと

 

ゴゴゴゴゴ

 

「どっか動いたみたいだな。引き返すのか?」

 

「それしかないだろうな。ここからは別の場所に行けるようだが、行き止まりだった図書室のほうがギミックありの可能性が高い。戻ろう」

 

再び壁の外を伝って図書室に戻る。そして動いたであろう場所を探すと、本棚が動き、上へのハシゴが現れていた

 

「もうそろそろボス戦あるだろえけど、アンタ、ここまでのマッピングはしてるのか?」

 

「してねぇよ。する気もない。二度と来るつもりもないし、他のプレイヤーが来れるとも思えない。そもそものここは第1層のダンジョンの奥だぞ。難易度から考えたら、最初の扉まで来ることのできるやつなんて数えるくらいしか知らねぇよ。そんな少数のために金にならない仕事なんてできるか!」

 

「やっぱり、オッさんだな。現金なやつめ」

 

ハシゴを登ると通路があり、その道を進むと屋根に出ることができた

 

「おい、宝物なんでどこにあるんだよ」

 

「まだないと決まってはない。ボス戦があるとしたら、その後だろう?あっちの屋根のとこが拓けている。あそこにボスが登場するのは可能性としてアリじゃないかね、PoH?」

 

「わかった、わかった。最後までついて行きますよ。これは貸しだからな。いつかツケとして返してもらう」

 

ちょっとイラついた顔のPoH。こんな顔のときが一番キレる手前ってのは昔からの経験でわかってる。『仕事』の最中にキレたときはターゲットの判別ができないくらいに暴れて、手がつけられなかった。俺の中ではあれは怖いを通り越してトラウマものだ。何が原因かはイマイチ不明だが、積もり積もった結果としたら納得がいく。このくらいで止しておこう……

 

屋根から塔、繋がった通路のようなもの、ハシゴと続けて進むと先程見えていた拓けた場所に辿り着いた

 

「不自然なまでのモンスターの少なさ、構造的におかしな場所にある奥の扉、攻略開始からの経過時間。ボス戦は間違いないな」

 

「現れないのはエリアの真ん中まで進んでないからって言うんだろ?それじゃ、遠慮なく……」

 

「PoH!上だ!」

 

歩き出した途端、上空から大きな影が降りてきた

 

人間より3回りほど大きな長躯、亡霊のようなマントを覆い、頭には冠を身につけた人型のモンスター。長い時を生きて死んでしまった求道者を思わせる佇まい。トドメにその身体と同じ大きな程の大鎌を携えた虚ろな老人が現れた。次々とその頭上に表示されるHPバーとその名前は……?

 

「HPは5本……。『殉教者 ローゲリウス』ね…フフ、俺好みの敵じゃねえか」

 

「あんたに好みもクソもないだろう。邪魔なやつは殺してでも排除するのが『人狩り鴉』なんだろ?」

 

「気合い入れてんの!お前の方こそ超近距離攻撃しか手段なんてないだろが。気合いでなんとかしろ、気合いで!」

 

グワァァァ!ブンッッ!

 

ローゲリウスが大鎌を振りながら突っ込んできた。降り積もる雪を撒き散らして視界を遮るコレはいいモーションと思いながら後ろに跳んで避ける

 

「危な!俺がタゲをとってる隙にどうにか腱でもなんでも切れ!」

 

「どんなオーダーだ、それ!!」

 

ブンッ、ブンッ、ブンッ!!

 

連続での振り回し攻撃。予想できる行動ではあるが、まだ様子見する必要があるな。どんなアルゴリズムで動いてんだ?

 

「脇が空いてるよ!」

 

ズバッッ

 

「Ha Ha Ha ! オラオラ、どしたどした!」

 

ザンッ、ザンッ!

 

鎌を振り上げたローゲリウスの脇腹を切り裂いて、後ろに抜ける。PoHも背後から脚を切りつける。ローゲリウスは怯みもしないが、そんなのは想定内だがそのまま鎌を振り下ろす姿には呆れてしまう……なんか反応ないのかね?小さな呻きぐらいじゃ、なんかなぁ

 

「Hey ルーキスよ!こいつノロマだぞ、簡単にイケるぜ!」

 

「調子乗ると足元掬われるぞ」

 

テンション上がってきたな。口調が『PoH』らしくなってきたなヴァサゴ…!

 

ザンッッ!

 

ローゲリウスが鎌を屋根に突き立てるる。赤黒いモヤモヤとしたオーラが身体に集まり始める

 

「大技っぽいのくるぞ!離れとけ!」

 

PoHはバク転でエリアの外側まで、俺はただのダッシュで数本ある柱の後ろに隠れる。だが、オーラは怨霊のようなものと形作られ、鎌を頭上に振り上げると俺たちの方に向かって飛んでくる

 

「遠距離攻撃もありかよ!しかも、追尾タイプときたもんだ!」

 

「Ha Ha !まだまだ楽しめそうだな」

 

凶悪な笑みを浮かべるPoH。退屈してないみたいで良かったが、実際、どう対処したものか………

 

ドォォン!

 

「爆発すんのかよ⁈いやらしいなぁ、オイ!」

 

怨霊攻撃を避けて、それが雪に着弾すると大きな爆発が起こった。あれか?発射された時にいた場所に飛んでくるタイプか?追尾じゃなくて座標か!

 

「オラオラァ!」

 

いつのまにかPoHは怨霊を避け、ローゲリウスの背後から切りつけようと『友切包丁』を振り下ろす。が……

 

「ガハッッッ」

 

グワッ

 

ローゲリウスば急にバックステップをかまし、PoHの方を振り返る。PoHはバックステップのせいで軽く吹き飛ばされる

 

ブワァァ!

 

ほとんどノーモーションでゼロ距離からの怨霊を放った!!そのまま食らってしまうPoH!

 

「この馬鹿!不用意に近づくんじゃねぇよ!!死ぬ気か!」

 

パリィィン

 

全力で駆け寄り、回復結晶を使う。ポーションを飲ませている暇はない、クソッ!

 

「あらら?やっちまったのは間違いだったかな?」

 

「まだ死なせはしねぇよ。お前はまだ殺したりてないんだろ?じゃあ、生きなきゃな!」

 

「ルーキス!後ろ!」

 

その声で後ろを見ると、またローゲリウスは怨霊を放つ溜めモーションをしていた

 

「さっきと少し違うな…。最大限に注意しとけ!」

 

ブワァァァン!!

 

飛ばした怨霊はローゲリウスを中心に扇型に広がっていく。柱の影に隠れようとするが……

 

「こっちが追尾型か!高度も低い、柱かエリアの端まで走れ!」

 

低く飛ぶが故に、屋根の上の斜めの地面が俺たちにとってはプラスになる

すると、ローゲリウスがトコトコと歩き始めた

 

「また近距離に移ったか?これくらいのバリエーションしかないなら、弱いなァ!!」

 

「あんたも調子出てきたじゃねぇか!オッさん!」

 

ケッ!若造がはしゃぎおってからに!フフ、楽しくなってきたねぇ!

 

ーーー

 

ローゲリウスの体力が7割をきったところで動きがあった。またまた溜めモーションをしているが、怨霊のオーラを全身を覆うように纏ったのだ。しかも、左手には剣を持って……

 

「Ha Ha Ha !ここからが本気ってかぁ? 」

 

「ラストスパートだろう、気ぃ引き締めろ!」

 

長いことやってる中でわかったのは、こいつの右側に入れば攻撃をする隙が生まれるってことだ。鎌を右手に持ってるから振り上げや振り下ろしのタイミングで空間があるのはありがたい

 

「遅いな」

 

ザンッ、バシュッ、ブシュッ!

 

「はぁっ!」

 

グサッ、バスッ、ズジャッ!

 

「おうおう!本気になってきたんじゃね?」

 

「当たり前だ!スイッチィィっ!」

 

PoHと入れ替わり、距離を取る。ふぅ、疲れるわい。ポーション飲んで……

 

「おい!気をつけろ!」

 

飲み終える瞬間、PoHが叫ぶ。ローゲリウスが地面に剣を突き立てる。すると、突き立てた場所には剣の残像が残り増え始めた

 

「増殖系トラップか!意外にトリッキーな技も持ちやがって!」

 

その間にもローゲリウスは鎌と剣の二刀流で襲いかかってくる。PoHはなんとか避けちゃいるが、なんか俺にヘイトが向いてねぇか⁈

 

「なんでおじさんばっか狙うんだよっ!」

 

ガンッ、キィン、キィィン

 

『物干し竿』で防いでも、二刀流の猛攻に隙は少ない……打ち合いだと身体デカいローゲリウスの方が上手だ。速度なら俺が上だが、膂力で負けちまうっ……!

 

ズジャッ!バシュッ!

防ぎきれない攻撃が俺の身体に当たる。赤い光のエフェクトが無数に飛び散る

 

「周りは剣の山、目の前は攻撃の嵐ときてる…………フ、フフフww。ハ、ハハハハwwーーーーー見せ所よなぁ!」

 

負けてたまるかよ。死んでたまるかよ。まだ終わらねぇ。終わるわけにはいかねぇ!

 

「システムに従うだけのプログラムが調子に乗ってんじゃねぇぞ?テメェより『翁』のほうが数段も強かった。『小次郎』の剣のほうが何倍も速かった…………俺の全てでテメェをぶっ殺してやるよ!勝負はこれからだ!」

 

「………久しぶりだな、『竜』さん……」

 

小さくPoHがそんなことを言ったようにも聞こえた気がしたが、どうでもよかった

 

ーーー『獣』よ。鴉の名を冠す者よ。その在り方を私は高く評価しよう。さぁ、その亡霊を倒し、『女王』の首を落とすのだーーー

 

久しぶりだな、ジュノー。心配するな

このクソ野郎は必ず倒すさ。いつのまにかPoHは周りの剣を壊してくれたらしい

 

「これでっ!」

 

右脚の蹴りでローゲリウスを仰け反らせる。呻き声とともにバックステップをして宙に浮かんだローゲリウス……

 

「これが最後か」

 

俺は『物干し竿』を構える。ローゲリウスも大鎌を両手で振りかざす

 

ガァァァァァ!!

 

「ーーー秘剣『燕返し』」

 

ドォォォォン!!

飛び込んできたローゲリウスに『燕返し』で迎え撃つ。辺りは積もった雪が舞い上がり視界が白くなる

 

「おい、オッさん!ルーキス!無事か!」

 

ヒューー

雪が風で飛ばされ、倒れた影と立っている影が現れる。勝者はもちろん……!

 

「………一念鬼神に通じる。人の身と侮ったな、ローゲリウス……」

 

ーーー人の身でその領域に踏み入るとは……。それは我らでさえ逃れられぬものであるというのにーーー

 

「うるさいぞ、ジュノー」

 

「あぁ?誰に話しかけてるんだ?」

 

「誰でもねぇよ。それよりPoH、どうだった?俺は」

 

「楽しそうでなによりだったぜ。」

 

「そうか。そうか………ん?これは?」

 

ローゲリウスが消えた跡に王冠らしきアイテムが落ちていた。あいつが頭につけていた物だろうか?

 

「なになに?【幻視の王冠】『ーーかつて幻を視るといわれた古い王の冠はまた秘密を隠す幻を破るカギでもあるーー』ほぅ!これで新たに何かが現れるってことか!」

 

「それこそあの奥の扉の向こう側がでるんだろうよ。さぁ、被れよ」

 

装備ウィンドから【幻視の王冠】を選択する。似合わないと思うんだけど、致し方なし

 

ブビョ〜〜〜

強い風が吹き、軽い吹雪となる。思わず目を閉じ、再び開けると

 

「デッケェな」

 

「BigってよりGorgeousだ」

 

これぞ宮殿であると言えるほどの大きな建物が其処にはあった

 

扉を通り、宮殿の中へと進む。

 

「こ、これは……」

 

「Wow ! こいつはスゲぇじゃねぇか!」

 

最も大きなその部屋は多くの像が立ち、宝が転がっていた。最奥に続く赤いカーペットの先には2席の玉座、その左に女王らしき人物がいた

 

「はっ!」

 

気づけば俺だけが部屋にいてPoHの姿は見えなかった。しかも、俺はその女王に跪いていた

 

「…貴公、訪問者…死の香りの狩人よ

私はアンナリーゼ。この城、カインハーストの女王

フフフ…

血族の長。すなわち教会の仇

しかし一族すべてを戮し、孤牢鉄面の虜としてなお

私に何用かな?」

 

「何用と申されましても、私めはただ好奇心でのみここまでやってまいりました。ある者からの依頼を受け、それに思わず首を振ってしまったのですが………まさか貴女のような高貴な方に謁見することになろうとは微塵も思っておりませでした。このご無礼を何卒、お許し下さい」

 

何つうプレッシャーだ……。恐怖ではなく、そのオーラだけで圧倒されてしまう……。これが本当にNPCなのか?戦闘にならない以上はそうなのだろうが……

 

「ほぅ。好奇心故にか。……フフフ、面白い男よな、貴公は。そうか頼まれ事に興味を抱いたからと申すなら、その証が必要なのではないかね?」

 

「証でございますか?……はい、頂けるのであればそれが何であろうとも受け取らせていただきます」

 

敬語ってこれでよかったっけ?

 

ーーー鴉よ、今です。その穢らわしき血族の女王を殺すのです。不死なるその女も『獣』のあなたならやれますーーー

 

「貴公。其方、憑かれているな?かの外なる者たちではなく、元来からこの大地にいる者に」

 

「ジュノーのことがわかるのですか⁉︎」

 

「姿は見えず、声も聞こえず、触れることさえ出来なくとも『見ている』のは分かる。やはり、貴公も『獣』か。だが、貴公は人として意思を保っている。狂信することもなくだ。」

 

ーーー穢らわしい女め。貴様などは人の世界にいらぬ存在。兎く失せよ。その身をその鴉に啄ままれるようにーーー

 

「貴公、証が欲しいと言ったな。ならば問おう。その神との繋がりを切り、我が穢れた血を啜り、血族となるか?」

 

「………ジュノー、お前は俺を勘違いしているみたいだ。俺は『獣』。血で喉を潤し、肉で満たされる『獣』だ。それは変わらない。が、俺はなにも『人類』が嫌だからそうしてるんじゃない。逆、まったくの逆だよ。俺は『人類』を好いている。愛しているんだよ。一個人も然り、俺はその全員を愛している。それがどんなに世界を滅ぼそうとしていても、繁栄させようとしていてもな。『しあわせ』になるための努力を怠るな、『しあわせ』になることを恐れるな。それが俺だよ」

 

ーーー鴉。貴様には失望した。世界の存亡よりも人類が世界を使い潰すしてでもその繁栄を願うか。やはり鴉より鷹に任せた方がよいか………。さらばだーーー

 

鷹ぁ?誰だそれ?そんな二つ名のプレイヤーなんていたか?

 

「ふむ、貴公には我が血を受け入れる覚悟があるとわかった。ならば、無為な夜にも倦んだというもの

貴公、我ら一族の呪いに列し、また異端として教会の仇となる

敢えてそれを望むのであれば

穢れた我が血を啜るがよい」

 

差し出されたその手を取る。細く白い蝋のような手だ。俺はその手に歯を突き立てる

 

ガブッ

 

「うむ

さあ、啜りたまえ

穢れた血だ。故に貴公に熱かろう

フフ…フフフフフ…

…これで、貴公は我が血族

今や私たち、たった2人ばかりだがな

貴公、また戻りたまえよ

カインハーストの名誉のあらんことを」

 

口に付いた血を拭う

 

「……….去る前に1つ申し出てよろしいでしょうか?」

 

「既に貴公は我が血族。なんとでも言うがよい」

 

「あの刀をいただけないでしょうか?」

 

部屋を守っていただろう騎士の死体を指差す。近衛兵なのか長い年月を経てはいるがその鎧は堅牢でその武器たる刀型のものは血生臭い色をしている

 

「『千景』か。貴公もその道を進むのか………決して呑まれぬというならばその剣、貴公に授けよう」

 

「ありがとうございます」

 

死体の刀をとる。薄く反ったその刀身には複雑な波紋が刻まれている。……これは血か?しかも人の……?

 

「その波紋に血を這わせることで、緋色の血刃を形作る。だがそれは、自らをも蝕む呪われた業である 」

 

「業……ですか…。そんなもの今更1つ増えたところで私にはなにも」

 

「であろうな。では貴公、またの帰還を私は望もう。……最後の血族よ、さらばだ」

 

その言葉を聞いたと思ったら、俺はいつのまにかローゲリウスと戦った屋根の上にいた

 

「遅かったじゃねぇか、女王サマと何話してたんだ?」

 

「………いや、こいつを貰ったんだよ」

 

『千景』をPoHに見せる。PoHめ、なんつーギラギラした目で見てるんだ。これはやらないぞ

 

「これはどうすんだ?」

 

「依頼主に渡すか、報酬としてそのまま俺のになるかだな。後者ならマッピングデータの要求は絶対あると思うぜ。…………なぁ、どのくらい俺はあの中に居たんだ?」

 

「あ?そうだな、俺が『もう宝ももらって帰ろうぜ』って言ってもあんたは無視しやがってから20分くらいは中にいたと思うぜ?それがどうしたんだ?」

 

「いや、なんでもない……」

 

「んじゃ、帰ろう。結晶はあるんだろ?早くしてくれ。……それとその王冠は似合わねぇよ」

 

「あ、ああ」

 

アイテムポーチから結晶を取り出し、王冠を外す。またワケの分からない現象が起きやがったな…システムの外を匂わせるような台詞がNPCの口から出るとは……?

 

「んじゃ」

 

パリィン

 

その後はシンカーとキバオウに帰還の報告をし、PoHを見送った。案の定、『千景』と引き換えにマッピングデータをキバオウにくれてやった。悪用だけはするなと忠告したが、どうなるか………

【燈し火の家】に帰ると皆んなは通常運転で少し悲しくなった。ムラマサだけは夜になると泣きついてきて、またやっちまったと後悔した。まぁ、翌日に『千景』を渡すと機嫌が良くなったので安心した。『終わり良ければ、全て良し』というやつだ

 

後日談だが、『アサシン ブレード』のときと同じく、ヒースクリフに問い詰めても『そんなのは知らない』の一点張りだったのは要らない話かな?

 





話ごとの締めくくりが一番しっくりこないのが悩み


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10話 青い悪魔は鴉に啄ままれる

二刀流と暗殺剣にしたいのに『千景』のほうが映えしまうという最も大きな問題点が作用するのはこの回なのでは?


〜2024年10月18日〜

 

今日も今日とて第74層の迷宮区マッピングのお仕事中である。クウォーターポイントを控え、各攻略組ギルドがレベリングと備えに力を注いでいるというに【燈し火の家】は通常営業である。俺が旅館に顔を出すのは少なく、食材の調達とその調理が専らの役目ではあるのだが………ヒースクリフの依頼をやらないと経営が危ういのは承知の事実である以上は目下、マッピングはやらないといけないのです。

 

「しっかし、このデータを有効活用しているのか微妙だよなぁ……」

 

報酬が貰えるのだからやらないワケにはならないのだが実際はどうなのだろう?

 

「ん?」

 

前方から他プレイヤーの戦闘音が聞こえる。息の合った二人組みなのだろう、連携をとる声がよく交わされている。……って俺は変態か!そんなことに聞き耳スキルを使ってしまう自身にツッコんでみたり

 

「あれ?キリトとアスナか?」

 

ついつい【鷹の目】とその他諸々のスキルを使ってその姿を見る。いや、絶対あの2人だろ。ついに付き合い始めたのか⁉︎あれらは⁈いや〜めでたい!おじさん、嬉しいよ

 

「お〜〜い、キリト!アスナ!」

 

「あ!ルーキス!」

 

「お久しぶりです、ルーキスさん」

 

駆け寄ってくる2人。うん、いい感じに成長してる感じがするな

 

「久しぶりだな2人とも。今日はどんな風の吹き回しでパーティーを組んでるんだ?おじさん、気になるんだけどww」

 

「何ニヤケてるんだよ。アスナが俺にパーティーを組まないか?って言ってきたからさ」

 

「ええ。キリトくんの危なっかしさが気になって一度それを叩き直してあげようと」

 

「ハハハハハ!そいつはいいことだ、この『黒の剣士』さんは頑固者だからなぁ!ハハハ」

 

「笑うなよ」

 

それからは3人で行動した。丁度よく昼時だったので昼食にした。アスナがサンドイッチを作ってきていたらしくキリトはそれを美味いと言ってよく食べていた。それを見てアスナは満更でもない顔をしていて色々と察した。俺は朝飯の残りだった…。

 

シュイィィィン

 

「誰だ?」

 

団体様が転移してきたようだ。ん!見たことあるやつじゃん!

 

「ようキリト、ルーキス!久しぶりだな!」

 

現れたのはクラインとそのギルド【風林火山】のメンバーだった

 

「おっす!元気にしてたか?」

 

「久しぶりだな、クライン」

 

「当たり前よ!……ルーキスにはムラマサさんがいるから分かるが、何でキリトが女連れなんだ?」

 

「いつもキリトくんがお世話になってます」

 

「く、クライン!2●歳、独身、グァァァァ……」

 

クラインが自己紹介をしているところにキリトの腹パンが入る!いやいや、ここフィールドだから!加減してるだろうけど、危ないわ!!

 

「「「あ、アスナさんじゃないですか!」」」

 

吹っ飛んだクラインを無視し、風林火山のメンバーは『閃光』のアスナに駆け寄る。おいおい、リーダーの心配くらいしてやれよ

 

「へっ!相変わらずだな」

 

「お前もな!」

 

「フフ、懐かしいじゃねぇか」

 

男3人で肩を組んで無事の再会の喜ぶ。何度か会っちゃいるが、3人だけでのこういうのはなかったな

 

「おい、そこの貴様ら!」

 

上から目線で声をかけてきたのはアインクラッド解放軍だった。おいおい、攻略組から脱落した第1層のやつらが何で74層まで来てんだよ?キバオウの仕業か?

 

「私はアインクラッド解放軍のコーバッツ中佐だ。君達、この先の攻略はしているのかね?」

 

「ああ、ボス部屋までな」

 

ほえ〜!俺より先にボスまで辿り着いたのかよ!

 

「そのマッピングデータを我々に渡しなさい」

 

「は?テメェ、何言ってんのか分かってるのか!」

 

クラインが吠える。そりゃそうだ。命懸けでゲームしてんだ、怒って当然だわな。ま、俺はそんなプライドは持ってないんだけど

 

幾らかの問答があり、キリトが『元々、データは無料で公開するつもりだった』とマッピングデータを提供したが俺はしない。するわけにはいかない

 

「まさかボスに挑戦するんじゃないだろな!やめておけ!あれはもっと大人数のレイドじゃないと……!」

 

昼飯の時の話によればヤギの顔を持った大型二足歩行モンスターだそうだ。その身体に見合う大剣を振り回すと予想できるとキリトは言っていたが、それが正しいならこの程度で挑めば全滅は免れないな

 

「俺からも止めろと進言させてもらおう。死ぬ覚悟があるなら俺の知ったところではないがね」

 

「我々には全てのプレイヤーの為にこのゲームを攻略する義務と責任がある。貴様は『人狩り鴉』だな……。貴様も皆のために犯罪者狩りを行っているではないか。なぜ我々の邪魔をする!」

 

「その意思の強さは認めるさ。だが、勇気と無謀は別物だぞ?お前は本当の意味での救済を求めるのだろう?ならば俺とは違うね。俺は自分に利益をもたらしてくれるだろう奴らを死なせないように、そいつらの幸福が俺にとっての愉悦になるから俺は戦ってるんだ。お前らとは違う」

 

「ならば!我々だけで進ませてもらう!全隊、進撃開始!!」

 

コーバッツは疲弊した部下に目もくれてやらずに先に行きやがった。馬鹿野郎どもめ、命を賭けるのは勝てると確信した時と相場が決まっておるだろうに……

 

「まさか本当にボスに挑む気じゃないよね?」

 

「いくらアイツらでもそれは……」

 

「……キリト、アスナ、【風林火山】の皆んな。どうする?あれらを様子見に行くか、行かないか……」

 

「…………万が一もある。様子を見に行こう」

 

キリトが少しの間の後にそう言ってこの場の全員に顔を向ける。いい男になったもんだ

 

ーーー

 

「グハァァァ!!」

 

野太い叫び声が聞こえてくる

 

「クソっ!」

 

キリトの声だけが俺の耳に刺さる。他のやつらは息を飲んだり、声にならない声を発する。このままボス戦突入か!あんまりこういうの思っちゃダメなんだが、ワクワクするねww

 

惨劇。地獄。そう例える以外にこれは言えんな。酷いもんだ。死にかけのプレイヤーたちと数人が死亡した痕跡と大きな悪魔がそこには居た

 

「結晶を使え!」

 

「それが出来ないんだ!何度もやろうとしたけど無理だった!!」

 

ほう、転移不可エリアか。そういえば聞いた事がある。なるほどね……って冷静に考えてる場合かよ!

 

「ッッッイヤ〜〜!」

 

「「アスナ!」」

 

アスナのやつ!飛び込んで行きやがった!ここまま死なせるかよ!

キリトと俺が同時に飛び出す

 

「こいよ、大悪魔。お前の侵入者を排除してやるっつ〜アルゴリズムと俺の友達を守りたいっていう半ば強迫観念となって決意……どっちが上か『殺り合』おうぜ!」

 

チャキ

 

『物干し竿』を構える。フフ、これがボスか!これが命懸けってやつか!……そして、これが俺の始まりだったな

ーーー

キィン、キィン、ギリィィィ

 

いくつもの火花が飛んだ。コーバッツは死に、俺たちは戦い続けた。終わりは見えず、疲弊するばかり……

 

だが、死ぬほどではないな!!!

 

「少し時間を稼いでくれ!」

 

キリトの声にクラインとアスナが応じる。ソロ過ぎるからかな?俺、全然声出ししてないぞ。それじゃあーー

 

「スイッチ!」

 

『千景』を腰から抜く。それをーー

 

グサッ、ズブッ

 

「ルーキス!何してんだ!」

 

「ッッッ!……意外に持ってかれるじゃねえか」

 

『千景』の固有能力はその刃に血を吸わせ攻撃力を上げるというもの。発動中は体力がスリップダメージで減り続けるというリスキーな代物ではあるが、俺好みでなによりさね!赤いダメージエフェクトが飛び散りまくるのも死の風情があってカッコいいじゃねぇか

 

「テメェのHPバー飛ばすにゃ、俺もそれ相応の手段でやらなきゃなぁ!!」

 

ズチャ、バスッ、グチャ

 

「オラオラ!そんなモンかよ、この大悪魔ちゃん!」

 

あれ?なんかハイになってきてるな俺。しかも、世界が遅く感じるぞ。なんだっけコレ?あれか『ゾーン』か。それとも死ぬ前の走馬灯的なやつ?まぁ、過去の振り返りはしてないんだけど……ん?俺、頭の回転が速くなってないか!

 

「ルーキス!スイッチ!」

 

「そらよ!」

 

バシュッ!

 

『千景』での居合で離脱の一撃をみまう。ソードスキルじゃなくて我流だからそれほどの速さじゃないが十分だろ!

 

「あれは!」

 

「………スターバーストストリーム!」

 

青白い16の光が悪魔を襲う。そうか、あれか『二刀流』か。フフフ、ハハハハハ、『物干し竿』でもあれを凌げるかな?切り合ってみたいものだ

 

「オラァァ」

 

「お、おい!」

 

キリトのやつ、HPが尽きかけてるぞ!必死すぎだ!お前に死んでもらうと困るんだよ!

 

バタッ

 

キリトが倒れた。HPは全損しちゃいないが気力がもたなかったか

 

グガァァァ!

 

「なんでこれでやられないんだよ、お前は!クソ悪魔が!!」

 

俺もやるしかないか………

 

「これで終いにしようや……。『フィニッシュ・ディス・ネクロイド』」

 

赤黒い12の剣閃が『死』を悪魔にもたらす。これが俺の辿り着いた剣だよ、青い悪魔……

 

「おやすみ」

 

「起きてキリトくん!起きてよ!」

 

おやすみからの馬鹿を起こすときたもんだ。う〜ん、自分が非人間すぎて泣けるわ

 

「起きろキリト!アスナを泣かせてるんだぞ!死ぬな!」

 

ベタだがこれくらいしか俺の語彙力はない。言葉より気持ちだけどな

 

「…………っんぁ」

 

「キリトくん!」

 

「起きたかキリト………ヒヤヒヤさせんなよ」

 

ゆっくりと目を覚ますキリト。どうやら意識はハッキリしているみたいだ

 

「どのくらい寝てた?」

 

「ほんの数秒よ……。」

 

「あんまり強く抱きしめてるとキリトのHPが消えちゃうぞ?」

 

アスナはそれを聞こえていないかのようにキリトを抱きしめる。まったくまったく、いいカップルなんじゃねぇか

 

「なぁ、さっきのは何だったんだよ2人とも!」

 

「さっきのはエクストラスキルだよ。『二刀流』と『暗殺剣』。」

 

「ッ!!出現条件は⁈」

 

「知ってたら公表してるっての。俺もキリトも理由は分かんねぇんだよ」

 

「それじゃお前ら独自の『ユニークスキル』じゃねぇか!」

 

「そうなるよな……」

 

そのあと疲れた身体を引きずってギルドに帰った。マサムネは何処からか情報を手に入れていららしく、ムラマサも一緒に俺の救出を『血盟騎士団』に頼み込みに行こうと他メンバーと問答をしていた。心配かけてすまないという気持ちて心がかけそうになる……。あ……ちょっとヤバいな……意識が飛ぶ……死にかけたわけじゃないんだけど

 

ーーーー

 

俺は誰だ?何者なんだ?分からない…思い出せない…

 

最初の数ヶ月は廃人同様の生活を送っていた。全てにおいて力が入らず、食事さえも取れずにいた。その後、『復讐』を決意した。こんな状況になった元凶の野放しにはできない。それらが生きていることを容認できないと……

 

数年で俺を襲ったやつらを皆殺しにした。一人ひとりと殺る内に段々と気持ちよくなっていく自分がいた。途中で気付くと既に俺は殺し屋になっていた。それからは殺しを楽しむ自分と復讐を果たしたのだから『昔の自分』を知りたい・戻りたいと思うようになった。そんな時に日本での仕事をすることになり、その過程で茅場を思い出した。そこからは早かった。ヴァサゴと出会い、自分を取り戻した。そして足を洗い、重村教授のツテで講師となった

 

……でも結局は変わらなかった。むしろ、殺しへの渇望は猛り、同類との出会いに恵まれてたことは俺の奥底で燻り続けた。そう、このゲームが始まるまでは

 

ーーー

 

目を開けるとそこはいつもの天井だった。手足に痺れが残るものの身体を起こすことはできた。右にはつかれて寝てしまっただろうムラマサがいた。

 

「身体じゃなくて心が死にかけてたのか……『獣』ねぇ……本能のままに復讐し、ただ己がために人を喰らった鴉ってか?」

 

ムラマサの頭を撫でながら思う。もう自分ではどうすることもできないところまで来ているらしい。無意識のうちに自分の終わりを定めているのか?いや、違う。違うと信じたいが……この有様ではな……

 

ガバっ!

 

「起きたのか!よかった……」

 

「謝っても遅いよな。俺は馬鹿野郎で自分の家族に心配かけまくる男だ……」

 

「……お願い、もう行かないで。もう戦わないで。私たちを置いていかないで。このギルドに居て。お願い……」

 

もう限界なんてとっくに過ぎていたんだ。ムラマサは俺を好いてくれているが故に俺の自由にさせてくれていたのだ。少しメンヘラ感があるけど、それでも……

 

「わかった。明日、ヒースクリフに頼んでみる。俺にもう構うな、俺を自由にしてくれって…。一緒に来てくれるか?俺だけじゃあいつに勝てそうにないし……」

 

「わかった。アタシが付いていく。ルーキスが言い出さなかったら引きずってでも連れていくつもりだったしね」

 

「ありがとう。愛してる」

 

「愛してる」

 

〜次の日〜

 

「ってわけだ。そろそろ俺を野放しにしてもいいんじゃねぇか?」

 

「アタシからもお願いします」

 

「良いだろう、了解した。ただ今、この時点をもって『人狩り鴉』ルーキスへの全依頼を取り消し、今後一切の関わりをしないと約束しよう」

 

「意外にもあっさりしてるな、ヒースクリフ」

 

「ああ。他ならぬキミ自身の嘆願だ、断らないわけにはいかないさ。それと少し……」

 

手招くヒースクリフ。俺はムラマサの顔を見る。行っていいらしい

 

小声で

「まさかとは思うが、まだ俺に何かさせるんじゃないだろな?」

 

「させないさ。私と君の間に嘘があったことなど無いだろ?今後も君とは友でありたいからね。………これは忠告だ『君の後輩には気をつけておいた方がいい』……」

 

「は?」

 

「これで話は終わりだ。早々に立ち去るがいい」

 

追い出される形で本部を出た。あいつなりの気遣いだろうか?もう少し優しくしても威厳は保たれると思うんだけど……

 

「これからどうするの?」

 

「【燈し火の家】の板長に専念しようと思う。食材調達もするけどマサムネたちとパーティーを組んでならいいよね?」

 

「仕方ないか。うん、アタシはそれでいいよ!一人で行ったら許さないけどね♪」

 

「ありがとう。ふぅ〜、やっと静かにできるな。」

「マサムネたちにも言わなきゃね。これからが楽しみ」

 

なんとか抑えてはいるが『獣』がいつ空腹になるかは俺にもわからない。鴉は賢い。人間の世界に寄生しながらも野生を失わず、人の予測を上回る力を発揮することもある。

 

さぁ、命尽きるまで『殺り合おう』ぜ?可愛い可愛い鴉さんよ

 

 




はい、今回はここまでです。
クラディールってPoHといつ会ってたんでしょうか?とにかく、ラフコフって良いですよね


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11話 裏切り者とやり過ぎた創造主

クラディールだけは許せないんですよ。なぜああしたのかの理由は分かりますし、それほどの思いであったと納得もしています。それでもあそこまで堕ちるかよ?って原作を読んでて思いました。アニメでの遊佐さんの名演技で更にそう思うようになりましたね

久しぶりのアサクリ要素w


昨日の今日で俺はマサムネと二人で食材調達に第57層に来ていた。主街区の『マーテン』は前々から気になっていた仕入れ関係の店が多く、観光目的の為に訪れるプレイヤーたちが少なくない。通称『圏内事件』というややこしいモンがあったが解決した後は以前の活気を取り戻していた。『アルゲート』のごちゃごちゃした雰囲気よりもこっちの方が過ごしやすいと思う。

 

「で、親父はどんな食材を仕入れにいくんで?」

 

「団体様の予約があったからな。いい肉探しだよ。専属の卸業者でもいたらいいんだけど、エギルじゃあな……」

 

「ハハw エギルさんが聞いたら怒りますよw」

 

「シー!喋ったら承知しねぇぞw」

 

「へいへい。………ん?あの人はKOBの……誰でしたっけ?」

 

「あれは……クラディールか?アスナの付き人だった気がするが、一人で何してんだ?」

 

クラディール。アスナの付き人であり、監視役としても働いているやつ。ちょいとばかし強引で『団長命令だから』とストーカー紛いの行為さえもする危ない男だが……なぜ一人で?

 

「ちょっと尾行してみるか?」

 

「いいんすか⁈そんなことしたとムラマサさんが知ったら『また危ないことして!』って怒られますよ!」

 

「追いかけるだけだよ。戦闘になったら全力で離脱する。俺たちは肉の為にこの階層に来たんだ。先方には一応、遅れるかもって連絡してあるしいいだろう?」

 

「俺は嫌っすよ。親方に怒られるならまだボス戦のほうがマシっす。そういうワケなんで俺は先に行って待ってます。」

 

「おう。よろしく」

 

マサムネは早速その店に向かっていった。俺は好奇心に勝てず、クラディールを尾行することにした。

 

「つっても、なんでこんな人気の少ないところを歩くかね?」

 

かつかつかつ

 

俺は路地を作っている建物の上から下の方を歩くクラディールを見下ろす。うん、こういうのが『アサシン』だよな。気配を消してタイミングを伺うことこそ暗殺の基礎ってね

 

「おっとっと」

 

建物の間にまたがる縄をつたる。少々バランスを崩しかけるが、気づかれるほどではない。危ない危ない

 

ガチャ

 

「ここか……」

 

クラディールはある一軒の家に入っていった。辺りの家々となんの変わりどころのない普通のやつだ。誰かと待ち合わせでもしていたのだろうか、中からクラディールと誰かの会話が聞こえる。ついこの前まで聞いていたような声なんだが、誰だ?

 

屋根にいたのでは誰なのかまでは判別出来ない。あいつらは1階にいるみたいだし、幸いにもこいつには2階があるようだ。侵入しますかねっと……

 

スッ

 

「不用心だぜ、まったく。窓を開けたままにしてたら『どうぞ入ってください』って言ってるようなもんだ。現役のころを思い出す……。『あの日』もこうやって入って殺したっけ…」

 

最後の復讐を成し遂げた日もこんな暢気なやつの家だったな

 

「はてさてクラディールくんは誰とお話してるのかなぁ?」

 

床に耳をつけて……

 

ーーー

 

「なぁ、クラディールさんよ。本当にやるか?」

 

「当たり前です。俺をコケにしたアイツらには後悔して死んでもらう。そのために俺はこのギルドに入ったんだ。」

 

「Ha Ha Ha !いい心意気だねぇ!俺はあんたのその思いを高く買うぜ?」

 

ーーー

 

なんちゅう物騒な話し合いだよ。しかもあの馬鹿たれが関わっているとは……これは多少の仕置きが必要かな?

 

「とりあえずは強襲するのが面白い気がするねぇ。煙幕かなんかなかったかな?」

 

アイテムポーチを探って目くらましになる物を見つけようとすると……

 

「お!これがあったか」

 

ニヤァ

 

「それじゃ、行きましょか」

 

ーーー

 

ピカッ!キィィン!

 

「What ⁈ なんだこりゃあ⁉︎」

 

「グワッ!」

 

強烈な閃光と音で一時的に平衡感覚を失わせるスタングレネード。それを結晶で再現したレアアイテム。本来ならちゃんとした依頼のときに使うつもりだったけど、もういいよな?

 

「お前風に言うなら『Well,well,well. 中々に面白そうなことしてんじゃねぇか!』ってとこか、PoH……。」

 

「……ッ!あんまし聞こえねぇけど、こんなことやらかしやがるのは1人だけだ。あんたか、ルーキス」

 

「ホイホイホイっと。クラディールは拘束させてもらうよ。大丈夫、すぐに解いてやる」

 

しばらくして

 

「さて、まずはクラディールに聞こうかな?お前が狙ってるのは誰だ?お前がラフコフのメンバーだってKOBの奴らは知ってるのか?」

 

「あんたにそれを言う義理はない。……ハッ!本当にあんたはコッチ側のプレイヤーだったのか。」

 

ブスッ

 

「ペナルティ1だ。今の立場は俺の方が上。質問に答えてないなら問いかけるごとにナイフ1本を刺していく。次はどこを刺すのか分からんぞ?」

 

「……なぜダメージが⁈」

 

「これは俺の特殊な仕様でね。たとえ圏内であっても俺の周りでは常にフィールドと同じ現象としてシステムが認識するようになっている。さぁ、答えろ。誰を狙っている?これを知っている者は他にいるのか?」

 

「……他に知っているやつはいない。俺とPoHさん、あんたの3人だけだ。」

 

「ほぅ!随分と綿密なことだな。で、ターゲットは誰だ?」

 

「…………あのビーター野郎だ。」

 

「………ちなみに万が一、それが俺に知れたとしてお前はどうするつもりだった?」

 

「KOBとは完全に縁を断ってラフコフとしてやっていくつもりだったさ。………クソッ、どうせ俺を殺すんだろ?なら、早くしろよ!ほらどうした!殺れよ!」

 

「勘違いしているようだから言うが、俺がお前を殺すつもりはない。今後もな。それに、お前がキリトを狙おうが俺はそれを阻止するつもりもない。」

 

「どうして?あんたとあのビーターには親交があるんだろ?なんであいつを殺そうとする俺を止めない?」

 

「確かにお前がキリトを殺そうとしていることに怒りを抱いているのは事実だ。だがな、仮にキリトが本当に殺されない限りは俺はこれを知らないままだった。ま、そのあとお前を殺すとは思うぜ?それに………」

 

「俺が関係してるからって言うんだろ?」

 

沈黙していたPoHが口を開く

 

「ああ。お前が『黒の剣士』をみすみす他人に殺されるような下手はしないだろうさ。今のお前にどんな目論見があるかは分からないがな。」

 

「では、俺を見逃すのか?」

 

「そうさ。お前は明日にでもあいつを殺しに行けばいい。まぁ、それで殺されるようなキリトではないがな」

 

シュルシュルシュル

 

「縄は解いた。さぁ、行きな。」

 

「ルーキス。あんたは狂ってる。目の前に友達を殺そうとしているやつがいるのにそれを止めないなんて。しかもあんたは『人狩り鴉』だろ?」

 

「もうその名はいらない。昨日で『人狩り鴉』は引退した。今の俺はただのルーキスだよ」

 

ガチャ

 

「…………今のは本当か?引退したって?」

 

「マジだよ。もうこのゲームで殺しはしない。そう決めた。」

 

「そうかよ。じゃあ…」

 

シュッ!

 

「当たる訳ないだろうが?殺さないからって殺されることにはならんだろう?」

 

「つまらねぇな。じゃあな」

 

「行くのか?あの隠れ家へ?」

 

「そんなのもうあんたには関係ない」

 

ーーー

 

「遅いっすよ、親父」

 

「すまん、すまん。クラディールに挨拶した後にちょっとした知り合いに会ってな、久しぶりで長くなった」

 

「もう肉の仕入れは終わりましたぜ?早く帰らないと夕食の仕込みが間に合わねぇ」

 

「はいはい」

 

ーーー

 

クラディールの裏切りの発覚から何日か経った後、アスナがKOBを抜けるという話を聞いた。先日のボス戦のあとに決めたらしいのだが………

 

「それで、なんでキリトとヒースクリフがバトることになるんだ?」

 

なんでもアスナの脱隊に関し、その是非をデュエルで決めるらしい。しかも大々的に宣伝し、デッカいコロッセオに観客を呼び込んでの開催と言っていた。

 

「知らないよ、そんなの。アタシはキリトくんの剣よりもヒースクリフさんの『神聖剣』の武器が見たいだけだし……」

 

「あいつの剣はそれほど魔剣クラスでもないぞ、多分。……しかし、特等席にご招待とは粋なもんだ。もう部外者なのに」

 

俺たち2人はその試合のが行われるコロッセオの野球場で言えば砂かぶり席みたいな場所へ招待されていた。マサムネたちは一般席のチケットを買って観戦するらしい

 

「お!ちゃんと来てくれたんかいなぁ〜、ルーキスさん」

 

「久しいな、ダイゼン。このデュエルも商売人のお前さんが仕掛けたことなんだろ」

 

「へへっ。お察しの通りで」

 

ダイゼン。関西訛りの恰幅のいい中年男。このギルドの物資管理を一手に引き受けており、前線の攻略に出ることはあまりないやつだが、こと商売に関してはエギルよりも上と思う

 

「しっかしこんなに客が来てくれるんなら月1でやってくれへんかなぁ。」

 

「さすがにそれはないだろうw……そうそう!お前は初めて会うよな?これが俺の嫁さんのムラマサだ」

 

「いつも旦那がお世話になっております。」

 

ペコ

 

「これはこれは、ご丁寧にありがとうございます。ルーキスさんとは今後ともよろしくさせていただきます。………ほな、ここで」

 

外回りの営業マンのように去っていったダイゼン

 

「内心、飛び跳ねたくて仕方ないんじゃないか?あれは相当うれしいはずだ」

 

「それはそうとして、もうそろそろだよ」

 

キリトとヒースクリフ。攻略組でも両極端な2人だが、あれらの事を思うとなんとも言えないなぁ。手数ではキリトの方に旗が上がるが、堅すぎるヒースクリフに一撃入れるのは俺でも難しいぞ

 

ピ、ピ、ピ、ピーン

 

ガッ!!!

 

「始まった!」

 

ーーー

 

キィン、ガン、ギリィィ!

 

うわっ!スゲェな。あの速さを防ぐのかよ。俺の方がAGIは上だが、キリトは二刀流だ。単純にHit数が2倍だぜ?大盾を持っててもあの技量で使えるかよ、普通⁈さすがは聖騎士さまだな…

作り手であることを除いてもあのプレイスキルには届かないだろうに

 

シュウィィィィン

 

「あれはボス戦のときの……!」

 

黒と翡翠の剣が青白く光る。確か、スターバーストストリームだったか?記憶では16連撃に見えたが、巷じゃ50連撃とか言われてたなw

 

ギリィィ!

 

「ま、ガードするしかないわな」

 

大盾でキリトの嵐の攻撃を防ぐヒースクリフ。技の終わりを狙っているのだろう。この距離でも目力がビシビシ伝わってくるぜ

 

ガンッッ!

 

キリトの野郎、弾きやがった!連撃の最後でヒースクリフを身体ごと仰け反らせるとは……。硬直時間を考えてもあれだけ飛ばせりゃキリトが一撃を入れられる!!

 

はずだった………

 

ズバッ!

 

「…………速すぎだ」

 

明らかに速い。反応しててもあのスピードでは動けないぞ。……システム補助を使ったのか?いや、いくらあいつでもそんなヘマをやらかすなんて……

 

キリトのHPが削られ、勝敗は決した。しかも負けたキリトはKoBに入ることになるというわけのわからない事態となった

 

それから更に数日が経ったある日

 

「クラディールが死んだか……」

 

「ええ。なんでもあのキリトを含めた3人でのパーティーで件のクラディールとゴドフリーって人が死んだらしいっす。クラディールがキリトとゴドフリーを襲って殺そうとしたのをアスナが助けてに来て、キリトがトドメをさしたって……」

 

ふん、そうなるわな。キリトがクラディールごときに殺されるはずなど無い。あれは宝石だ。まだ磨ききれていない宝石。PoHはその煌めきに魅せられてしまった。だからあれ程の執着を……

 

「ちょいとヒースクリフに会ってくるよ。ムラマサには早く戻ると伝えておいてくれ」

 

「分かりました。マジで早く帰って来てくれないと俺らがムラマサさんに怒られるんですからね⁈」

 

そうマサムネに告げ、KoB本部に急いだ。色々と聞きたいことが山ほどある。ヒースクリフとしてではなく、茅場としてのな……

 

ーーー

 

KoB本部の団長室の扉に手をかける。警備兵は俺の名前を出せば避けてくれた

 

ガチャ!

 

「ヒースクリフ!お前に話がある。他のやつらは合図するまで出ていてくれ!!」

 

「騒々しいな、ルーキス。もう来ないと言ったのは君だぞ?…………だが、どうやら緊急の用事みたいだね。いいだろう。他ならぬ君だ、他の者は部屋の外で待機していてくれ。聞き耳スキルは使わないように」

 

「俺の耳なら外の音くらい聞こえるぞ。下手にしてたら……分かるよな?」

 

サササササっと数名のプレイヤーが部屋を出る

 

「単刀直入に聞く。質問は3つ。1つ『アスナとキリトはどうなった?』2つ『キリトとの試合でお前はシステム的なブーストを使ったのか?』3つ『クラディールの件を前々から知っていたのか?』だ。」

 

「質問には答えるが、その順番はどうかと思うがね……。まずは1つ目、彼らはこのギルドを抜けることとなった。先の試合ではキリトくんの加入を決めるものであったが、今回のクラディールの件により、彼らの脱隊を認めたのだ。現在は第22層にて今後を過ごすと言っていたよ。」

 

「そうか、よかった……。2つ目は?」

 

「………あのデュエルの最後、私はシステムによるブーストを使用した。ついね。ああしてしまったのは私の過失だ。君以外には気づかれていないと私は考えているのだが…どうかな?」

 

「確信しているのは俺だけだろうさ。……ただ、キリト本人には何らかの違和感を覚えさせてしまった可能性はあるぜ。俺は以前、あいつとデュエルをしたことがあるが、あいつは別格だな。あれの戦闘センスは抜けている、反応スピードなら俺より速い」

 

「そうか……。では3つ目、私は彼の裏切りを知らなかったよ。但し、何かを企んでいるとは思っていた。アスナくんの付き人を辞めてからは単独行動が多く見られ始めたからね。多少の警戒はしていたつもりだったが、こうなるとは予想の範囲外であったよ」

 

「嘘を言っているようには見えないし、その言葉を信じよう。」

 

「それはよかった。………さて、これで終わりかな?できれば早々に立ち去ってくれると助かるのだが…」

 

「おう。邪魔者は消えるさ」

 

KoB本部を立ち去り、転移門へと向かう。しっかし、あれだな。俺は自分の欲求を止められないのをどうにかしないとダメだな……またやらかすことになる……行動力はあるって言われはするんだけどな……

 

『お前は飢えている。乾いている。望んでいる。歪んでいる。』

 

ふと、いつか誰かに言われた言葉を思い出した

 




書いてて納得のいかない所が多々あった回ですね。いっそのことクラディールを殺すのをオリ主にしてしまおうとも思いましたが、キリトとアスナのいい雰囲気のシーンを変えるのはいかがなものか?ということでこういう感じになりました


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12話 おもてなしと兆し

旅館回です。最初に謝罪を
ユイちゃんを出したかったんです。時系列的にはキリトたちがユイちゃんを見つけた後日くらいで
ごめんなさいm(_ _)m
オリジナル食材がアホみたいなネーミングセンスなんでそこもすいません
シリアスは少しだけなのでそこのところも宜しくお願いします


木製の扉の前にて

 

「ここであってるよな?」

 

トントントン、トントントン

 

「ごめんくださ〜い!」

 

「は〜い?どちら様でしょうか?」

 

ガチャ

 

「おっす!おはようさん、アスナ」

 

「わぁ!ルーキスさん!どうしたんですか?」

 

「今日はお前さんたちに結婚祝いのプレゼントを渡しに来たんだよ。俺んとこのギルドの【燈し火の家】の旅館の旅行券をな!」

 

「うわぁ〜!ありがとうございます!」

 

「それとキリトのやつはどうした?今のとこ姿が見えないんだが………?」

 

「もうそろそろ朝の散歩から帰ってくる頃かなと思いますけど…あ!お帰り、2人とも!」

 

「ん?2人?」

 

「ただいま、アスナ。ルーキスはどうしてここに?」

 

「ママ〜、おなかすいたよ〜」

 

振り返るとジャージっぽい服のキリトと謎の女の子。いや、幼いプレイヤーがいるのはもちろん知っているが…なぜ?それに、このモヤモヤ感は…

 

「この子は?」

 

「ユイって言うんだ。親と逸れていたところを俺たちが保護したんだ。まだ親御さんは見つかってないからそのまま…な」

 

「ほえ〜〜!そいつは驚いた!……ユイちゃんはこの2人といて楽しい?」

 

「楽しい!パパもママも優しくてユイは楽しい!」

 

「パパとママって……どゆこと?」

 

「ユイちゃんがそう呼んでくれているんです。親御さんが見つかるまでは私たちが代わりになってあげようって」

 

「…………そうだ!ユイちゃんも連れて来いよ!」

 

「何の話だ?」

 

カクカク、シカジカ

 

「それはいい!けど、ユイの親探しもしないと……」

 

「それについては俺のギルメンに任せるよ。幸いと言うべきかどうか、ここ数日は予約が無くてな……。少しなら人員を回せるぜ?」

 

「ありがとう、ルーキス!それじゃ、明後日に行かせてもらうぜ!」

 

「おう!【燈し火の家】のおもてなし、見せてやるよ」

 

ーそして当日ー

 

昼下がり、午後2時ほど

 

「こんにちは〜」

 

「いらっしゃいませ、失礼ですがお客様のお名前をお伺い出来ますか?」

 

「キリトです。こちらのルーキスさんからご招待していただいたんですけど…」

 

「はい、承っております。お荷物をどうぞ。受付までご案内します」

 

玄関番の手を差し出されたキリトは荷物を預ける

 

門をくぐり、小道を行く。木々や草花が美しく咲いている。

 

「すごいね、キリトくん…!」

 

「ママ!あのお花さんすごく綺麗!」

 

「前にも一度来たことがあるけど、こんな風じゃなかったぞ?短期間でここまでちゃんとしてるとは…」

 

「フフ、驚かれているみたいですね。キリト様が訪れて以降、この【燈し火の家】にご宿泊になられるお客様が増えておりまして、多数のご要望によりこのような庭を増設したのです」

 

「確かに、この付近の見た目は全然違ってたな。荒れるどころか見たこともないほど綺麗になってたし」

 

「お褒めの言葉、ありがとうございます。……そろそろ見えてきますよ。受付は玄関に入り、右手にございます」

 

ーーー

 

「「「わぁ〜〜!」」」

 

豪華ではあるが卑しさを感じない、まるで現実の京都の旅館を思わせる内装である

 

「「いらっしゃいませ」」

 

「ルーキス!ムラマサさん!」

 

「よく来たな!キリト、アスナ、ユイちゃん」

 

「お世話になります」

 

「よそよそしくするなよ。俺らの仲だろうが」

 

「私、温泉に入りた〜い!」

 

「ユイちゃん、その前にお部屋に案内するからね……マサムネ」

 

「キリト様いらっしゃいませ、ようこそ。お疲れのところ申し訳ありませんが、ご主人様には、お宿帳にご記入をお願い致します。」

 

「あ、はい」

 

カキカキ

 

「では、こちらに。お部屋までご案内します」

 

「部屋は2階の202号室、竹の間だ。窓からの景色が一番美しい部屋を選んでおいた。自分の家だと思って、存分にくつろいでくれ」

 

階段を登り、東向きの竹の間に案内されるキリトたち

 

「本日の担当、マサムネです。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さいませ。おつかれさまでした。」

 

「さっきユイが温泉に入りたいと言っていたんですけど……」

 

「はい。天然温泉は階段を降りて左手の方に進んでいただけるとございます。入浴時間は22:30までとなっておりますのでご注意下さい。このお部屋にも小さいですが檜風呂がございますのでそちらをご利用することもできます」

 

「夕食の時間はいつになりますか?」

 

「お客様のご要望になるべくそうように準備致しますが、早くて17:30以降となることをご了承ください」

 

「わかりました。じゃあ、この辺りの観光をしてくるので19時くらいに夕食をお願いします」

 

「わかりました、そのようにいたします。ではいってらっしゃいませ」

 

ーーー

 

「そんなわけで19時までには何が何でも最高の料理を準備するぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「マサムネ班はもう一度、温泉の点検を。ムラマサ班は大広間の準備を頼む」

 

「了解っす」

 

「わかった」

 

さぁ、見せてやろう!俺たちの全力をな!

 

ーーー

 

トントントン、グツグツ

 

色んな音が厨房内で飛び交う。人の声はほとんどなく、目配せと首振りだけで連携を取れているのは彼らの絆の強さ故か

 

チュ。小皿で味を確認する

 

「よし、これでいい。コイツは完成だな。他んとこはどうだ?」

 

「今のところ順調です。遅れもありませんし、無論、失敗も」

 

「あったらダメだろうが!俺らの信頼が地に落ちることだけはあっちゃならねぇ!」

 

「……はい!」

 

ドドドド

 

走ってくるのは受付係のメンバーだ

 

「飯作ってる途中で厨房に入ってくるなって何度か言ってるだろうが」

 

「す、すいません!でも……!」

 

「どうした?」

 

「キリト様御一行がご到着なさいました!」

 

「早っ!まだ1時間半はあるだろ!先に飯ってか!」

 

「はい、そうおっしゃっていて……どうしましょうか?」

 

「どうするっても…まだ完璧にできたわけじゃねぇし……」

 

「……あたしがどうにかするよ」

 

「ムラマサ!出来るのか?」

 

「出来る・出来ないじゃなくて、やるしかないんだから、やるだけさ」

 

「じゃあ、頼んだ。マサムネを使ってもいいぞ」

 

サササッ

ムラマサは素早く消えた。女将らしい顔のムラマサはカッコいいな。また惚れ直したぜ

 

「急ぐぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

ーーー

 

「ママ〜、お腹空いたよ〜」

 

「もう少し待っててね、ルーキスさんが美味しい料理を作ってくれてるからねぇ」

 

「ユイの食いしん坊は誰に似たんだろうw」

 

「それはキリトくんでしょう?」

 

カタッ

 

「失礼します。当館の女将、ムラマサです。」

 

「ムラマサさん、最初、出迎えの時には誰だか分からなかったですよ。とてもお綺麗です」

 

「隣にお嫁さんと娘さんがいるのにそれはどうなのでしょうか?フフw」

 

「こうしてちゃんとお会いするのは初めてですね。私の名前はアスナです」

 

「ご丁寧にありがとうございます。そちらの女の子がユイちゃんでしたね」

 

「は〜い!」

 

「ユイちゃんはとっても元気だね。さっきのおじちゃんが美味しいお料理を作ってる途中だから少し待ってて欲しいんだけど、ちょっとあたしとお散歩でもしようか?」

 

「するする!……でもユイたち、疲れちゃったんだけど……」

 

「さっき、庭を通ってきただろう?もっと綺麗なところがまだまだあそこにはあってね、滝とか池もあってお魚さんがたくさんいるよ?」

 

「見てみたいです!」

 

「そいつは良かった。それじゃ、行こうか」

 

「それほど時間もありませんよ?」

 

「大丈夫さ、どうせならあんたたちは部屋で休んいてもいいんだよ?」

 

「え!でも……」

 

「ユイは大丈夫!この人、いい人だもん」

 

「ほら、ユイちゃんもこう言ってることだし、あんたたちはここで待ってな。それか外の庭じゃなくて中庭もあるのがここ【燈し火の家】なんだ。そこでも見てみるといいさね……」

 

「行っちゃったね」

 

「ユイはムラマサさんに任せておいて大丈夫。この階層であの人を襲うなんてことをするやつはいないさ」

 

「そうかな……ユイちゃんの両親も見つかってないのに……ウウッ」

 

「泣くなよ、アスナ。ここの何人かのプレイヤーも今まさに捜索している最中じゃないか。……心配はするけど絶対に見つかるよ」

 

ーーー

 

「よっしゃ、出来たぜ!」

 

「ちょうどユイちゃんとムラマサさんも帰ってきましたし、キリトさんとアスナさんも大広間にてお待ちです。早速、お運びしましょう!」

 

その頃、大広間では

 

「こ、こんなに広いところじゃなくても…」

 

ソワソワ

 

「そ、そうだよなぁ…」

 

ソワソワ

 

「広〜〜い!」

 

ワクワク

 

「大変お待たせいたします〜。本日の夕食をお持ちいたしました〜」

 

俺と仲居2人でそれぞれの料理を運ぶ。あ、女性プレイヤーも片手ほどだが所属しているぞ

 

トン、トン、カチャ

 

「うわ〜〜!美味しそうです!」

 

「すごいな!ゲームの中でこれほどの料理が作れるのか…!」

 

「私もスキルだけならコンプしたけど、これほどのものはとても……」

 

「豪華絢爛とまでは言えないかもしれんが、リピーターの皆様は料理推しの人が多い。ここのおススメだよ」

蟹、海老、貝、魚など魚介はもちろん、肉、野菜が煌びやかに飾られている。まるで宝石箱や〜

 

「さぁ、おあがりよ」

 

「「「いただきます」」」

 

「まずはその金模様のお皿から食べていただけますか?そちら前菜の『マウンテンダックのロースト』でございます」

 

パクっ

 

「う、美味!」

 

「まるで霜降り和牛のような上質の脂が一瞬で溶ける!」

 

「とっても美味しいです!」

 

「ハハっ〜!そうだろ、そうだろ!まだこれだけじゃねえぞ。食え食え」

 

ーー完食後ーー

 

キリトたちは見事に完食してくてた。何度も見ちゃいるが、他人が自分の作ったメシを『美味しい』と言って食べてくれるのは嬉しいもんだ。特に子供が喜ぶ姿は何物よりも尊く感じるね

 

「子供はいいもんだなぁ……」

 

「……っ!!」

 

「どうした、ムラマサ?」

 

「な、何でもないよ。さ、口よりも手を動かさないと!」

 

ジャ〜、コスコス、フキフキ

 

皿洗いの途中に独り言を言ったつもりだったけど、どうしたんだムラマサは?

 

カチャ。

 

「よしっと、これで洗い終わったな。俺はこれから温泉に入るから何かあったら頼むぜ」

 

「さっきアスナとユイちゃんが先に温泉に入るって言ってたし、お客様と一緒に入るのはマズいからあたしはもう少し経ってから入ろうかな」

 

「俺はキリトに話したいことが出来たからな」

 

『あの違和感』がもしそうならば合点がいく。だけど、それが本当にそうなら原因は俺にある。『翁』についても然り、茅場にデータを提供したのは俺なんだから……

 

ーーー

 

カッポ〜ン

 

ジャバァ〜〜

 

「フゥ〜、露天風呂は気持ちいいなぁ〜」

 

「な!そうだろ?これを掘るのスゲェ苦労したんだぜ?」

 

「……それはそれとして、何でルーキスが一緒に入るんだよ」

 

「ん?そ、そうだな……」

 

そのまま伝えるのはキリト自身に多大な精神的ダメージを及ぼすだろうし、アスナにも同時に伝えたほうがいいのか?……クソッ。答えがまとまらねぇ

 

「ま、あれだ。男と男の友情の証みたいな?裸の付き合い的な?」

 

「なんか微妙な返事だなぁ」

 

「そんなことよりどうだ?前線から離れて家族を持つ身になっての気分は?」

 

「えっ!し、幸せだよ……。アスナと一緒にいられるし、ユイっていう子供もできたし……」

 

「幸せを口に出来るってのはいいことだ。俺には子供はいないけど、もしゲームクリアをして現実に戻れたら本当の意味でムラマサと結婚したいってのが俺の本音さ」

 

「なんか恥ずかしいな……。」

 

「おいおい、幸せであることを恥ずかしがってどうする?人間は生きて幸せになるために存在しているようなモンだぜ?それを否定しちまったらお終いだ」

 

「……それ、恥ずかしくはないのか?」

 

「そんなわけあるか!普段はおちゃらけたおっさんかもしれんが、俺はお前よりは長生きしてんだぜ?それなりの答えは持ち合わせているつもりだ。……経歴的には矛盾してるがな」

 

「経歴?」

 

「まあな……。今はまだ話せないよ、お前さんたちには。現実に戻って、それでも俺に会いたくなったならその時に教えてやってもいいけど………お前は俺を赦さないだろうさ。」

 

「???」

 

「まだまだ先の話だ。気にするなよ」

 

余計なこと言っちまったな。話を逸らすつもりが俺自身のことになってた。いかんいかん、さすがにそれはマズすぎる

 

「……多分、もう少しで第75層ボス攻略会議が始まると思う。それまではユイの親探しを手伝ってくれないか?」

 

「当たり前だ。お前の頼みを断る俺と思うのか?そんなわけあるかよ。ギルドの全力で探してやる」

 

「ありがとう。いつかこの借りは返すよ、精神的に」

 

ザバッ

 

「先に上がるのか、キリト?」

 

「これ以上はのぼせそうだ。体を洗って上がることにするよ」

 

「そうか」

 

一人で夜空を見上げる。ゲームの中であることを忘れてしまいそうなほどに煌びやかな星々。現実の東京に居たんじゃそうそう見られない空だが、何故だろう?美しさよりも畏ろしさを感じるのは……何かが覗き込んでいるかのような黒とその大きな顎が如き虚ろが上にある……フッ、ポエムすぎるかな?

 

「『獣』ってか『外なる神』のほうが近いかなぁ……」

 

ーーー

 

キリトたちは客室で既に寝ているであろう丑三つ時、俺は寝付けずにギルドの屋根で明かりと消えた街並みを見下ろしていた。

 

ササッ

 

誰かが屋根に登ってきた。見ればユイちゃんの親探しをさせていたメンバーだった

 

「親父、今日一日の調査の報告を」

 

「話せ」

 

「結論としては『見つかりませんでした』。すいません」

 

「謝ることはない。たった1日で見つかるとは思っていないさ。で、推測は?」

 

「はい。上層から下層まで捜索しましたが、それらしきプレイヤーはいませんでした。そうやって死亡した者もです。つまり……」

 

「『ユイちゃんだけがログインしている可能性が高い』だろ?」

 

「ええ。その可能性が非常に高いかと。『はじまりの街』の孤児院の例もあります。年齢制限を無視してこのゲームをしているプレイヤーは少なからず存在します。それに該当するのではないかというのが我らの見解です」

 

「ありがとう。ご苦労だった」

 

「では」

 

サッ

 

影すら残さず去る技術持つのは俺の直属部隊の奴らだけだ。マサムネは表向きのNo.2なら裏のNo.2は名も無き群たるあいつらだけ……。ムラマサやマサムネにも真の姿を見せず、汚れ仕事をやってくれる愛すべき馬鹿野朗たち……

 

「更に確信することになるとはね……」

もはや勘じゃなくて、予知だな。ユイちゃんは『翁』に近い存在なのだろう。恐らく、『翁』のデータを利用して作られたAIとしか考えられない……。元々、プレイヤーのサポートなどの役割を与えられるはずだった。が、デスゲームのなったこの世界を観測するにはそんな存在はいらない。茅場め、いやらしい事をする。システムは彼女の存在を必要としているものの、GMたる茅場は彼女の役目を奪った。つまり、ただ放置されていたのだ。それが何かの拍子にキリトとアスナの目の前に現れたことになる……

 

「どうしたものか……」

 

それを伝えるには俺の説明をしなくちゃならん。ってことは俺とヒースクリフたる茅場の立場が危うくなる。それは出来ない。俺たちの夢が途絶えることは断じて容認できない!!

 

「隠しておいたほうががいいんだろうなぁ」

 

夜は更ける。今夜は新月。星だけが世界を照らす明かりだ。こんな日は頭がよく冴える。さぁ、まだ太陽は登らない。思考に更けるのもいいだろうさ…

 

ーーー

 

次の日、キリトたちが帰る頃

 

「すまないな、キリトよ。ユイちゃんの親の情報は手に入れられなかった……」

 

「謝るなって、むしろ感謝したいくらいさ」

 

「でも……」

 

「パパ〜〜!早く〜〜!」

 

「じゃあ、行くぜ」

 

「……ああ!じゃあな、キリト、アスナ、ユイちゃん!また来いよ!」

 

「あんたも元気でな!」

 

キリトたちをギルメン全員で見送る。あの賑やかさを名残惜しく思うのは俺だけじゃないはずだ。

 

「行っちまったね…」

 

ムラマサがポツリと溢す

 

「別に二度と会えなくなる訳じゃない。また会えるさ」

 

「それもそうだ…。さぁ、あんたたち!次のお客様を迎える準備をするよ!」

 

「「「「はい、女将!」」」」

 

まだ終わらない。予約は無くても、いつでも迎えられなきゃ何がおもてなしか!

 

この時はまだ思いもよらなかった。このゲームがクリアされること……

 

 

かの『上位者』の降臨の兆しを見ていた事を

 




自分の中では中々にできた方の回でしたw
拙さはありますが、流れとしては良いのでは?


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13話 降臨者と世界の終わり

はい、SAO編の最終回です。前回の最後とか今回の副題からお察しの通り、上位者さんを出しちゃいます!ゲールマンは?血とかは?などあるかと思いますが、ゲールマンを出すのはちょっと難しい(銃ありますし)とかあるので無しの方向でお願いします。番外編を1話挟んでALO編やりますよ!


2024年11月7日

 

今日は第75層のボス戦が行われる。俺にもヒースクリフからの招集の要請があったが断った。参加しても俺にメリットはないし、ムラマサたちを放っておくのはできない。赤の他人のために命を賭けるほど俺はできた奴じゃないし、友達のためであってもメリットが無けりゃ動かない。そうやって生き延びてきた……

 

「そのツケが回ってきたのかなぁ……」

 

目の前には言葉では表現できない異形の存在。どのモンスターとも一致しないありえない姿。その強さがオーラで伝わってくる。触手のような植物のような体とその頭部に空いた虚ろ。背後には赤い月が浮かぶ。

 

「これが『上位者』様かよ……ハハッ!!勝てるとかそんな次元じゃないのは分かるけど…こいつは…」

 

ーーー!!

 

声にならない咆哮を上げる異形の怪物。HPは6本。名を『月の魔物 【青ざめた血】』

 

ガバァァァ!

 

その細くも大きな腕を振り上げて飛びかかってくる。

 

右手の『千景』を強く握り、構える

 

「こいよ、クソッタレ!死ぬのはお前だ!!」

 

なんでこうなったのかな……

 

ーーー

 

事の発端はその日の明け方まで遡る

 

「ふわぁ〜〜。よく寝た、よく寝た」

 

俺は朝が比較的得意な方だ。これはガキの頃からの習慣で、茅場の横に立ち続けるには朝から勉強三昧じゃないと無理だった

 

「ん?ムラマサが居ない……」

 

いつも俺より遅く起きるムラマサがいなかった。今日は朝から仕込みがあるわけでもないし、まさか朝ご飯を作るわけでもないだろうに

 

「とりあえず、着替えて下に行きますか…」

 

装備ウィンドから作務衣を選ぶ。ただの服なだけだからなんの効果もない。ま、『アサシン ブレード』は付けるんですけどね

 

「誰もいねぇ……」

 

下に降りても誰もいない。侵入者の可能性も考えたが荒らされた形跡も無ければ、外出の跡すらなかった。

 

「お〜い、ムラマサ〜!どこだ〜!マサムネ〜!野朗ども〜!」

 

返事がない。嫌な予感しかしなかった。

 

ドタッ!

 

ガシャ!

 

玄関先にもいない。庭を探すが誰もいない。おいおい、何が起こった!あいつは何処に行った?ムラマサ……

 

敷地を出てこの現状のヤバさを実感した

 

「まさか街ごと……!!」

 

誰もいなかった。まるで一斉に人が蒸発したみたいに…

 

「そうだ!フレンドリストの確認!」

 

フレンドリストを開くと生きていることが分かった。

 

「心配かけんなよ……でも何処に?」

 

「遅かったじゃねぇか、ルーキスさん?」

 

後ろから声がした。

 

腕を掴み、組み伏せる。喉に『アサシン ブレード』を突き立てて問う

 

「他のプレイヤーはどこだ!ムラマサは!」

 

「血が上って顔すら見えてないぜ?俺だよ」

 

「PoHか……って手緩めるわけないだろうが、ボケ!」

 

PoHだった。どうやらこいつはこの現状の情報を知っているらしい

 

「で、他の奴らは?お前らラフコフの残党の仕業か?」

 

「そんなわけあるかよ。プレイヤーな

らまだしも、NPCもいねぇだろうが」

 

「じゃあ、質問を変ようか。お前は何を知っている!」

 

「話すからこの刃を退けてくれよ。それと馬乗りも」

 

「……分かった」

 

スッ

 

「何処から聞きたい?」

 

「初めからに決まってるだろ」

 

PoHの語ったことは信じがたいことばかりだった。まだ空に星がある夜中、PoHは俺に会うためにこの階層に来た。その時はまだ俺は屋根にいたのだが、ちょうどPoHが敷地内に入るタイミングで俺は寝た。その後、ムラマサやマサムネ、その他のメンバーが一斉に起き、歩き出したらしい。PoHは自身の侵入を感知されたと考え、庭の木に登ってやり過ごそうとしたが、その時点でその現象が街全体で起きていると分かったらしい。ムラマサたちは夢遊病患者のようにある地点に向けて歩いていった。それは小次郎と果たし合った山。その奥に向かっていったらしい。しかも、空には赤い月が浮かんでいたと……

 

「そのあとはあんたに会いに行くのをやめて街の中の探索をしたわけだが……結果はご存知の通りさ」

 

「よく耐えたな」

 

「あんな催眠にかかったみたいなやつらを殺っても楽しくねぇよ。それよりあんなことをやらかした奴の方が面白そうだ」

 

こいつは大問題ぞ。主街区まるごとNPCすらまとめて一斉に同じ状態になるなんて……カーディナル・システムの維持そのものに直結するエラーだ。

 

「転移門は使えたのか?」

 

「いや、他の階層に跳ぶのは無理だった。恐らく、他の階層から来ることも無理だろうさ」

「助けを請おうにも攻略組はボス戦に向かってるだろうし、その他の知識人は頼りにならん」

 

「…なぁ、これを何だと思う?モンスターの仕業か?プレイヤーか?システムのエラーか?それとも、このゲームを作った茅場の思惑か?」

 

茅場……は違うな。これはいくらでもやりすぎている。他のプレイヤーにも難しい、NPCは動かせないしな。システムのエラーが可能性として高いかもしれんが、階層まるごと封鎖されるなんてことありえるのか?

 

「兎に角、そこに行ってみるか……。付いて来てくれるか?」

 

「他にやることもないし、それしかないだろうが」

 

「頼もしい『後輩』だな、PoH」

 

「まったく後輩扱いの荒い『先輩』だよ、ルーキスさん」

 

ーーー

 

ザク、ザク、ザク

 

小次郎と果たし合った階段を歩く。道中、何かの痕跡はないかと探しながら来たがなんの跡もない。時刻は昼になろうとしているが何故か薄暗く感じる……

 

「……っ!」

 

「Ho Ho Ho!こいつはスゲぇ」

 

死体の山が出来ていた。寺の境内は血溜まりがいくつもあり、まさに地獄と呼べるに相応しい光景だった

 

「これはNPCか……?プレイヤーなら消滅してるはずだ…。」

 

「ここにあんたの知ってる奴らはいないのか?俺はあんたの【燈し火の家】は知ってるが誰がいるのかまではわかんねぇからよ」

 

「……いねぇな。この階層を拠点にしてるプレイヤーの顔ぶれくらいは覚えてるが、そいつらもこの中にはいねぇ…」

 

「『現役』のころを思いだすだろ?」

 

「どっかの部隊を潰したときはこんなだったな。………先行くぞ」

 

寺の裏手には大きな洞窟がある。入ったことは無いが、噂では強力なモンスターが潜んでいるとかいないとか……

 

先に進むと洞窟内特有の霧が出てきた。ひんやりとした空気が嫌に肌を撫でる。

 

「嫌な冷たさだ……」

 

「あんたは気にしすぎなんだよ。こんなのは何処にでもあるだろうが」

 

「口悪りぃ奴」

 

「元からなのは知ってるだろ!」

 

へっ!……そんなところも似てるのかな?

 

「ん?あれは……」

 

「おいおい、ここは『あのダンジョン』じゃないぞ…?」

 

扉。大きな扉があった。俺たちはこの扉を知っている。

 

「開けるぞ」

 

「あの女王サマが犯人なら、殺っていいよな?」

 

「ああ。存分に殺っていい。仮にそうだったらな………」

 

ギィィィ

 

「貴公ら、久しいな。さて、此度の訪問は何用かな?」

 

やはりか。膝をつき、頭を下げる

 

「お久しぶりです。またお目にかかれて恐悦至極でございます、女王 アンナリーゼ」

 

「……そんな言葉使えるのかよ」

 

「PoH、お前も頭下げろ!」

 

「よい。貴公らの無礼を許そう」

 

「ありがとうございます。して、此度、我らが女王に御目通り願った理由はーー」

 

「分かっておる。赤い月が出たのだろう?数多の民草が消えたのだろう?」

 

俺の言葉を遮るように女王はそう言った

 

「何故、知っておられるのですか!……よもや、女王様の仕業なのですか!」

 

「そうであるなら私をどうするかね、鴉が如き狩人よ」

 

「なぁ、女王サマよ!あんたはそれくらい知ってるだろうが!」

 

「PoH!黙れ!………仮にそうであるのなら私、いや、俺はお前を殺して尽くす。俺がお前の血を受け入れた血族であっても、お前が不死たる存分であってもな」

 

「フフフ。やはり貴公は『獣』だな。そちらの男も人のまま狂気に堕ちた憐れな者だ。だが、よい。貴公らの全てを赦そう。フフフ、久方ぶりに面白いではないか」

 

「その口ぶりから察するに、あなたが原因ではないらしいですね」

 

「は?なんで今のでそんなの分かったことになるんだよ!!」

 

「フフフフ。貴公はやはり狩人だ。私が会話に混ぜた痕を手繰り寄せ、答えに辿り着くとは」

 

「お戯れを。貴女ならばそうできる力を持っていても不思議ではないと思ったまで……。なぜなら私は貴女の最後の血族ですから」

 

「………教えて欲しいか?誰が何故に月を染め、人を誑かしたのか」

 

「もちろん。そのために来たのですから」

 

「では……その方よ。貴公にはこの間から出ていてくれまいか?」

 

PoHを指さすアンナリーゼ

 

「お、俺?」

 

「頼む、PoH。俺からも」

 

「チっ……」

 

ギィィィと音を立てて外に出るPoH

意外に素直で少し驚く

 

「さぁ、貴公。話そうかーーー」

 

ーーー

 

「で、なんでそれが俺を置いてく理由になる?」

 

「お前には行かせられない。お前はまだ死ぬべきやつじゃねぇよ。これは俺の問題だ」

 

「じゃあ、話せよ!なんでだ!」

 

「っ!…………こうなったのは俺が原因なんだよ」

 

「は?」

 

ーーー

 

「強引にしすぎたかなぁ……」

 

なんとかこじつけでPoHを帰したもののあの感じじゃ納得なんてしてないだろう……。

 

「しかし、茅場のくれた特権がここに来て『暴走』するとは……」

 

女王が語った真実はシンプルなものだった。茅場がくれた俺を中心とした範囲内をフィールドと同じ扱いにするっていう特権の範囲が超拡大されただけだった。そんなことをシステムが許すはずがないとも思ったが、そのシステムの一部たる女王がそう言ったのだ。信じるしかあるまいよ。

 

「ムラマサ、みんな、待ってろよ」

 

女王曰く、俺の能力範囲内にあるモンスターが居て、そいつの能力が俺の能力範囲に及んできたとの事だ。そいつは『上位者』と呼ばれ、女王自身にも関係のある設定を持つ忌まわしき存在なのだそう。なぜそれを女王が知っているのかと問うと『貴公の写し身であり息子たる影から私は作られた』とのことだった。しかもユイちゃんのプロトタイプであり、モンスターとして設定された滅びゆく存在だと言っていた。俺と共に行かないかと問うたが、女王は残ってこのゲームと共に消えると言った……

 

あれ?スゲぇ頭回ってるな、俺。前にもあったぞコレ

 

ブワッ

 

洞窟を抜けるとそこは白い花々が咲く広い土地に出た。

 

「ムラマサ!」

 

花畑のいたるところにプレイヤーたちが寝ている。その中にムラマサを見つけた

 

「大丈夫か⁉︎起きてるか⁈」

 

ムラマサを抱き上げて声をかける。返事はないが息はある。他の奴らも寝ているだけだ

 

「『上位者』さまは何のためにこんなことを?」

 

怒りが込み上げる。もはや、血が上るのではなく、顔が青ざめていくのが分かる。ムラマサを下ろし、『千景』を装備する。『無銘』より『物干し竿』よりコレが一番今の俺に合っている。自身を犠牲にしなきゃ勝てないと本能が最大限の警報を鳴らしている

 

「待っててくれ、ムラマサ」

 

チュッ

 

ムラマサの額にキスをする。絶対に助けると誓って……

 

先に進むと月が異様に近くなってきた。ここが決戦の地らしい

 

「お出ましようだ……」

 

月なら降りてくる影。長い髪の人型モンスターかと見紛うシルエットではあるが……

 

ドサァァ

 

白い花びらが散る。

 

「ッ!!」

 

息を飲む。その姿を認識することを脳が拒絶しているみてぇだ。気持ち悪りぃ……

 

これにて冒頭に戻る

 

ーーー

 

ズバッ!

 

ーー!

 

「…血が赤い。こういうときは青とか緑とかが鉄板なんだけどなぁ!」

 

身体を回せ。限界を超えろ。こいつを殺すには力が足りないことなんて分かってる。ならば、意思の力で補うだけ。動け、俺の身体!こいつのHPを飛ばすまでぇ!

 

ーーォ!

 

バキバキッ

 

「ガハッ」

 

カウンターで俺の腹に拳がめり込む。ダメージエフェクトだけじゃねぇ。本物の『痛み』が身体を襲う。肋の何本か持ってかれたか……?

 

「ペインアブゾーバーはどうなってるんだよ…。クソ痛ぇじゃねぇか!離れろ!」

 

ドスッ

 

ーー!

 

『千景』を右肩に突き刺す。と同時に全力の蹴りで拘束を抜け出す。

 

「武器の一つ程度なんてくれてやるぁ!お前の命を狩るのにそいつだけなわけあるかよ!」

 

『無銘・黒』を両手で構える。右は順手、左は逆手。

 

「予想より耐久値は低いらしい……。あの拘束さえ避けられれば勝機はある!」

 

ザンッ、ザンッ!

 

ズサァァ

 

股下を走りながら切る。表皮もそんなに固いわけじゃない。まだイケる!

 

「ギルター・アーク!」

 

ザスッ!

 

「からの!」

 

「エグジスト・スペクター!」

 

ザンッ、ズバッ

 

ーーッ!!!

 

「ハッ、ハッ……キリトの真似してて良かったぜ……」

 

キリトの『二刀流』を短剣で再現できないものかと密かに試行錯誤した結果、片方を逆手にしての状態ならギリギリでモノマネ程度になっただけのことだがなぁ!

 

「名付けるなら『スキル・コネクト』ってとこかな……クッ…!」

 

強引にスキルの硬直を繋げてる分、次の技までの隙がデカいのがこれの弱点か……

 

ズズズ……

 

ーーーォォ!

 

痛がるような動作をしながら『魔物』は立ち上がる。弱そうなのにこの執念じみた行動だけは恐怖を覚える。モンスターではなく、まるで人間のような感情を持っているみたいだ……

 

「そうか……まだヤレるか!こいよ、クソッタレ!まだ踊れるよなぁぁ!」

 

守るためなのか愉しむためなのか、意識を保っていることすら出来ないほどの快感と虚脱感に飲まれそうになる……自分を捨て去ってただ殺し合いたいと願う『獣』の俺と、自分を捨て去ってでも愛する者たちを救うために戦う『人間』の俺。どちらも純粋で、どちらも間違っている。それらを否定することは誰にもできない……

 

 

 

地獄を見た。楽園を見た。平和を見た。戦争を見た。

それらは全て同じ世界にあって、同時にあった。

自分を忘れた俺も思い出し俺も、同じことを思った。

『これは面白い』と。

矛盾とはこのことだ。世界は両儀的に渾沌とし、全てを内包している。

では、

『始まり』と『終わり』はいつ現れた・訪れる?

俺はそれらを歓迎しよう。終わらぬ終わりを良しとしよう。始まりの始まりに歓喜しよう

 

さぁ、目覚めの時だ

 

 

 

「……はっ!」

 

ーー!

 

魔物の虚ろが眼前に迫る。何もない穴。存在を否定し、傀儡とするその意思がそこにはあった

 

「俺を喰うにはまだ足りんな!」

 

ガンッ!

 

ーーッ

 

頭突きで怯む魔物。少し浮いた身体をすり抜け、体勢を立て直す。身体のいたるところが軋む。変な音を立てて骨が折れる。頭を上げると血が目に垂れる

 

「おいおい……。血の演出は無いんじゃないのかよ……」

 

鉄臭い空気が漂う。辺りの花も俺たちの血で赤く染まっている

 

「……次で最後にしようや…」

 

残ったのは『物干し竿』だけ。血が流れていくにつれてHPは減っていく。魔物も同様にあと少しで消える分しか残ってはいない

 

「さぁ、こいよ……」

 

ーー!

 

魔物が俺の言葉に応えるように低くを構える。どうやらあっちも最後にするつもりみたいだ

 

『ガァーーー!!』

 

魔物は人間のような叫び声で飛び上がる。やっと聞き取れる声出しやがって…これでやっとこさ戦いらしくなるなぁ!!

 

心を落ち着かせ長刀を構える。腹は上を向け、右手は強く、左手は鮫肌に添えるように……

 

「その素っ首、切り落としてくれよう」

 

『グガァァ!』

 

キラッ

 

「ーー秘剣『燕返し』」

 

ボタ…………

 

 

「…………刀身に歪みなし。たとえ傷だらけであっても『あの男』の技に一切の汚点があってはいけない……」

 

落ちたのは魔物の首。断末魔さえ赦さぬ魔剣。人の身では辿り着けぬ領域に踏み入った剣技は『外なる者』すら避けることは出来ぬ。

 

バタッ

 

「おっと……。流石に立てないか……。」

 

魔物の消滅を見届けて俺は倒れる

やっと終わった。ムラマサはどうなった⁈マサムネたちは⁉︎他のプレイヤーは⁈ 意識が霞むッ…!耐えろ、俺ぇ……

 

 

「ルーキス!」

 

「親父!」

 

どれくらい目を瞑っていたのか。聞こえる声に目を開ける

 

「ムラマサ……。マサムネ……」

 

「ルーキス!起きた⁈」

 

「親父!またあんた死ぬ気かよ!」

 

「けッ…。俺は死なねぇよ。死んでたまるか……」

 

そう言ってみるものの俺のHPは減っていく。ポーションも回復結晶も咄嗟のことで持ってきてはいない……

 

「誰か!回復アイテムを持ってるやつはいないのか!あたしの旦那が死にそうなんだ!」

 

「他のメンバーはプレイヤーの脱出の先導をやらせてるし、ここに居たとしても持ってるか……」

 

どうやら手詰まりみたいだ……

 

「泣くなよ、ムラマサ…」

 

ムラマサの涙を拭う。でもそれ以上の涙が俺の顔に滴る

 

「君には泣かないでほしい。これ以上ないてしまったら、心が枯れてしまうよ……?」

 

「でも……グスッ…」

 

「マサムネ、最後のリーダー命令だ」

 

「……はい。」

 

「いい顔になったな……。よし『今後、我ら【燈し火の家】のメンバー全員のその死亡を固く禁ずる。』……………ベタたがそれくらいしか今の俺では考えられない……。」

 

「不肖、マサムネ。その言葉をしかと胸に刻み、精進していくと誓います。」

 

「もう行け。お前に任せる」

 

「……っ。長い間、お世話になりました。このご恩は一生、忘れません…。」

 

マサムネは振り返ることなく走り去った

 

「ムラマサ、もう……」

 

もう尽きる蝋燭の火をムラマサは見守る……

 

「最後に一つだけお願い……目を瞑って……」

 

「はいよ……」

 

そういつのは俺の方からやるのが常だったんだけどね…

 

チュッ

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

「…この鐘は…?」

 

キスと同時に鐘が鳴り響いた。晩鐘かと一瞬思ったが、それはないだろう

 

『11月7日 14時55分、ゲームはクリアされました』

 

「…ゲームクリア?」

 

「おやおや、一歩及ばなかったか……」

 

茅場め、ボロを出したか…あの馬鹿たれが

 

「ルーキス、あたしはっ……!!」

 

シュウィーン!

 

ムラマサの身体は何処かへと転移させられた

 

「ムラマサ!…………これで戻ったことになるのか……」

あと…少しだったのにな…

 

ジッーーー

 

俺のHPが尽きた。フッ、もっとスムーズに転移するように設計しとけっての……

 

ーーー

 

気がつくと俺はアインクラッドを見下ろしていた。辺りには何も無く、黄昏の空に浮かんでいる。

 

「これは……」

 

「やぁ、竜。」

 

「茅場……」

 

声の方を向くと茅場がいた。ヒースクリフとしての真紅の鎧を纏った姿ではなく、幾度となく見た白衣の研究者と姿で…

 

「終わっちまったな……」

 

「私たちの夢はもうすぐ崩れ去る。だが、彼らは無事に現実へと帰還したよ」

 

「彼らって?」

 

「キリトくん達さ……。フフ、彼らは私に人間の新たな可能性を見せてくれてた。夢は潰えるが、今後の課題も見つかった。それで良しとしよう……」

 

「……現実に戻ったらお前はどうする?2年間、無辜の民を監禁し続けたとかなんかで刑務所行きは確定だろうぜ?」

 

「その点においては対処してある。君が心配する必要は無い。…………竜、今までありがとう」

 

「改まるな。あっちで会う時に恥ずかしくなるわ!」

 

「フフ、君らしいな。……見ろ、あの鋼鉄の城を…」

 

ガラガラと崩れていくアインクラッド城。あぁ。さよならだ、俺たちの夢

城が完全に無くなるまで俺たちは無言で見続けた。語らずとも思いは同じだったのだろう……

 

「じゃあな、また会おうぜ」

 

「また…な……」

 

最後に笑って茅場は消えた。滅多に笑わないあいつの顔は俺に塵ほどの不安を覚えさせた……….

 

ーーーーー

 

「…………ッ」

 

目を開ける。白い天井。白い壁。カーテンから漏れる光。どうやらなんとか生きているらしい……

 

ムラマサは大丈夫だろうか?マサムネは?ん!ん!身体は動かせないか……。戻ってきたんだな、現実に……

 

 

人を愛する『獣』たる男は戻ってきた。

鴉は羽ばたいた。

『獣』は次なる変化と遂げる。

妖精たちの国

かつての友

世界の変革

 

さぁ、夢の続きを始めよう

 




SAO編、終了です。いたらぬ点はいくつありましたが、自分としては中々にいい方なのでは?と思っております
番外編を1話挟みますが、更新はお休みしません!
お楽しみにw


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番外編① 歌姫と騎士

はい、番外編です!
ユナちゃんとノーチラスくんは出さないといけないという義務がある以上は外せない回ですよね?
茅場を絡めてますし、オリ主設定としても……ね。3と4の間です。


ある昼下がり。俺は久しぶりのフリーの休日を過ごしていた。何もせずに過ごすのは今まであっただろうか……?休んでいてもなんやかんやで襲われることもあったし、助けを請われたなら手伝うしでフリーは無かったなぁ……

 

「ん?あれは………」

 

第35層の『ミーシェ』の喫茶店で人間観察をしているとある男女の二人組みが目についた。男のほうは白を基調とした鎧を装備し、女は青っぽい服で帽子を被っている。……どっかで見たことあるんだよなぁ……誰だ?

 

「あ」

 

見られた。誰だか思い出すために凝視しているのはやはりマズかったな。二人は俺の座っている椅子の付近まで歩いてくると、途中から小走りになった

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

「あ、あの……」

 

「おいおい、大丈夫かい?こんなおじさんに何か?見つめてたのは謝るよ」

 

「……まさか僕たちにお気付きにならないんですか?竜さん…」

 

ん?知り合い?このゲームで会った記憶は無いから現実で会ったことが……?……ッ!!

 

「……あ!悠那と鋭二か!」

 

「もう!なんで気づくかないの?」

 

「いや〜、すまんすまん」

 

「ユナ、そんなに怒らなくても」

 

こいつらは鋭二と悠那。鋭二は俺と同じく、重村教授の研究室の出で長い付き合いだ。悠那はその重村教授の娘さんで教授の家にお世話になることのあった俺は家族ぐるみでの付き合いがある。こいつらは幼馴染同士だ

 

「鋭二はKoB、『血盟騎士団』なのか?悠那は違うみたいだけど……?」

 

「はい、僕はKoBに所属しています……って僕は今『鋭二』じゃなくて『ノーチラス』です!悠那も『ユナ』ですって言わなくちゃ」

 

「いっけない!中々慣れないのよね、アバター名で呼ぶのって。まして竜さんだもの」

 

「今の俺は『ルーキス』。色々と仕事を請け負う、何でも屋だよ」

 

「うちのノーくんは『血盟騎士団』の中でも期待のルーキーで有名なんだよ!」

 

「そ、そんなことないよ…。いくらソードスキルをちょっと多く覚えてるからって実践で活躍できないとダメなんだよ……」

 

「相変わらずの引っ込み系だな、鋭二、いや、ノーチラスくんよ。お前さんにもうちっと覇気があればいい研究者になれるのになぁ」

 

「僕はそんな器じゃないですよ」

 

「そうかなぁ〜」

 

実際、こいつの研究者としての腕は確かだ。俺や茅場とは違った面でのアプローチには教えてもらうことも沢山ある。もう少しだけ自己主張が強かったら世界に立ち向かえるほどのデカい奴になれるんだけど

 

「ユナは見たところ戦闘系のジョブって感じじゃないけど、何やってるの?」

 

「私は『吟唱』っていうスキルを持ってるの。これは他のプレイヤーにバフをかけられる珍しいスキルなんだって!使い手がほとんどいないんだよ!」

 

「へ〜〜!すごいじゃないか!ってことは、巷で最近有名な『歌チャン』ってのはユナのことか」

 

歌のエンチャンターって意味かな?毎晩深夜にどこかの街の転移門で密かに歌声を披露している女性プレイヤーがいると噂には聞いていたが……

 

「今、ルーキスさんは何をしてたんですか?」

 

「今日は久しぶりの完全フリーの日だからな、この喫茶店で人間観察でもしようかなってね」

 

「ハハw 相変わらずの変な人がなのね。お父さんも『彼は私の知り合いの中でも異端児だからなぁ』って言ってたわ」

そりゃ、アンタの方だ!業界でも先鋭的すぎるとかなんとかで除け者にされてるクセに!……と口には出さずに言葉を飲み込む

 

「えぇ…そいつは凹むな…」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「そろそろ行くね。今夜、『はじまりの街』の孤児院で歌うことになってるんだけど、ルーキスさん来てみない?」

 

「あのメガネの人の孤児院だろ?もちろん、行かせてもらうよ。この頃、あの子たちにも会ってないしね」

 

「ふ〜ん、わかったわ。しゃあ、またね」

 

「では後ほど」

 

二人は転移門から他の階層へと跳んでいった。その背中には成長を感じさせてくれる力に溢れていた

 

先生。あなたの娘さんはこのゲームで大きく成長してますよ。その姿を必ず見てあげてくださいね

 

「……守るものが増えたな」

 

ーーー

 

その日の夜、俺は第1層の孤児院に行った。最近はお金や食糧を届けるだけで顔を出してはいなかった。

 

「こんばんわ〜」

 

「あ!ルーキスおじさんだ〜」

 

「オッス、ガキども!元気にしてたか〜?ヨイショっと」

 

孤児院に着くと俺の声を聞いた子供たちが集まってきた。俺は一人の男のの子を抱きかかえる。まったく、かわいい奴らだな

 

「ルーキスさん、いつもありがとうございます」

 

「サーシャ!」

 

サーシャはこの孤児院の運営をしている女性プレイヤーだ。元々は攻略組を目指していたが、R-13の制限を守らなかったこの子達を放っておけないと世話をしてくれている。子供を下ろして……

 

「チョットあっち行っててくれないか?おじさんはサーシャさんとお話があるからさ…………最近はどうだ?」

 

子供たちは素直に従ってくれた。不満そうな顔の子もいたが、後からたっぷり遊んであげればいいだろうさ

 

「ここ最近は目立った問題は起きてはいません。ですが、今後を鑑みると少しお金が心許ないとも思います」

 

「そうか……なら送金を増やすとしうよう。それはそうとして、ユナとノーチラスはどこに?」

 

「今は客室のほうにいらしてますよ。子供たちの為に無償で歌ってくださるのは大変嬉しいことです。子供たちを遊ばせておくのも多少の危険がありますし、子供たちを退屈にさせておくのもチョット……」

 

「そこんところはあいつらに感謝だな。で、いつからやるんだ?手伝えることなら何でもするぜ?」

 

「夕食の後に予定しています。なので早めの支度をしている最中なんですが……それをお願いします」

 

「おう任された」

 

子供たちのために腕によりをかけて料理を作った。みんな笑顔で完食してくれた。うん、現実で苦手な食べ物があった子も今では喜んで食べくれる

 

「さぁ、そろそろだよ」

 

少し部屋を薄暗くしてみんなを座らせる。みんなワクワクしててこっちがニヤケてくる。ノーチラスはいつの間にやら部屋の後ろで壁に寄りかかって立っている………

 

「〜〜〜♪♪」

 

「「「「うわ〜〜」」」」

 

「みんな今日は私の歌を聞いてくれるんだよね?」

 

登場したユナは手にギターに似た楽器を持っていた。ほ〜!弾き語りか!

 

「聞かせて〜」

 

ある女の子が言う。他の子たちも『聞きたい!』と口々に言いはじめる

 

「オッケー!じゃあ、行くよ〜」

 

〜♪〜 〜♫

 

それからユナは数曲を歌った。どれも彼女らしさに溢れていた。アップテンポな曲からバラード調の曲まであったが、子供たちはその全てをしっかりと聞いていた。あんまり子供受けしないんじゃないか?と思うところもあったが瑣末な事だったようだ

 

「大成功だったな」

 

「へへw 子供たちも喜んでくれたみたいでとっても嬉しい」

 

「ユナの歌でみんなが幸せになると僕も嬉しいよ」

 

「お?ノーチラスくん、それはどんな感情だい?」

 

ニヤニヤ

 

「茶化さないでくださいよ、先輩」

 

くっ…。先輩呼びは色々と応える。

 

「じゃあ、俺はホームに帰るとしようかね」

 

「サーシャさんは子供たちを寝かしつけるとおっしゃってましたし、これでお開きですね。」

 

「今日はありがとうね、ルーキスさん」

 

「俺は何もしてねぇよ。じゃあな!また会おうぜ」

 

俺は月明かり照らす夜道を歩く。良い気分だ。このゲームをしててこんな気持ちになることがあったんだなぁ……

 

ーーー

 

2023年10月16日

 

俺はこの日ほど自分を責めた日はない。

 

昨日、第40層のダンジョンでとあるパーティーが閉じ込めトラップにかかり全滅しかけるという事件が発生した。攻略組の最精鋭はフロアボス攻略戦の最中であり、ユナは攻略組二軍(エイジ及び風林火山メンバー2名)、及び攻略組志望の中層プレイヤー上位複数名と共に救出に向かった。俺にも召集がかかっていたものの別の依頼の最中で参加することはできなかった……

しかし攻略組最精鋭に比べダンジョン攻略の経験が足りなかった救出部隊は、自分たちもモンスターの大群に囲まれミイラ取りがミイラになりかけてしまう。

ユナは《吟唱》スキルでヘイトを集め囮となることで救出を成功させるが、自身は薄暗い牢獄ダンジョンの底で二十体以上の獄吏型モンスターのリンチに遭い凄惨な最期を遂げることになった………

 

「ノーチラス……」

 

あいつは目の前で愛する人を失った。もし自分が動けたのならユナは死ぬことはなかった、犠牲になることはなかったと前線から離れ、どこかに隠居したらしい

 

俺は何処へとなく雨の降る夜道を歩く。泣いているのか雨なのか自分でも分からないほどに濡れいる。あの声、あの笑顔、なによりあの子の夢をもう見ることが出来ないというのは辛い。

 

「先生……俺は……」

 

先生の娘さんというのもあるのだろうか……これは俺の責任だ

 

「ユナ……すまなかった……」

 

俺はこの後悔を決して忘れないだろう。あの夜の歌を忘れないだろう

 

決して、決して………

 




少し短いですが、ここまで
次回からALOやりま〜す


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14話 夢の残り香

ALO編スタートっす。といっても本格的なスタートは次回で、今回はアニメの写真のくだりまでです



2025年1月19日

 

通称『SAO事件』から2カ月ほどが過ぎた。俺はあれからリハビリをしながら教職に復帰している途中だ。目覚めた当初は検査の連続で気力がごっそり持ってかれていたが、今ではすっかり元どおりだ。国の役人から根掘り葉掘り諸々の事情聴取を受けた。あいつら俺の『過去』を調べたらしく、面倒くさくてたまらなかった。が、今は俺を後回しにしている。

 

今日はとある病院に来ている。経過診察と『ある人』の見舞いだ。まだ目覚めない眠り姫さまの……

 

「おはよう、『ムラマサ』」

 

ムラマサ。本名を『村井 雅代』。ゲーム内では俺の嫁さんだった。今でも愛してる人だ。あっちで言ってた通り、現実では探偵をしていたと役人様に聞いた。この病院に未だに眠っていると役人様から脅迫して聞き出した。国の方も俺が『対処に困る秘密』を知っていることを危惧しているらしく、強引ではあるがその情報を決して口外しないことと交換条件に聞いた

 

「今日の天気はいいぞ〜。天気予報でも冬なのに気温が高くなりますって言ってたから寒くなさそうだ。俺は寒がりだから助かるよ」

 

返事はない。眠ったままのムラマサからは目覚めの兆しすら感じない。喋りかけて1時間ほどがたった。

 

ガラガラガラ

 

「夜明さん、そろそろ」

 

看護師さんが俺を呼ぶ。

 

「ああ、すいません。検査が終わったらまた来るよ」

 

ムラマサの病室を出て、検査室へと入る。俺はSAO帰還者の中で唯一、脳の障害を持っている。役人には公表するなと念を押したから世間は知らないが、この病院の関係者だけがそれを許されている。障害というのは嗅覚及び味覚を感じる脳機能の7割と痛覚を感じる機能の半分が働かなくなったことだ。記憶障害は確認されなかったが問題なのはそれが起こったと思われる時間である。あの『魔物』との戦闘終了時、俺は数秒間だけ心停止をしていたらしい…

 

そう。ナーブギアによる脳細胞が焼かれたからではなく、心停止による脳細胞の死滅による症状なのだ

 

なぜナーブギアの機能が正常働かなかったのか?については未だに不明。実際、俺のナーブギアの機能そのものが故障していたわけはなく、まして外部からの信号で止まるようには設計していない。が、今は生きていることに感謝しよう。その分、五感の一つである聴覚が常人のそれの数倍の感度を持つようになった。この病院にいるのも辛いレベルに……

 

検査は終了し、結果は1週間後に出ると看護師は言っていたがまた同じ値だろうと自分で思う

 

カツン、カツン、カツン

 

ムラマサの病室に戻る道すがら、目の前から二人の男性が歩いて来た。初老の男性と30代くらいの男性である

 

「これはこれは。夜明さんじゃないですか!」

 

「こんなところで再開するとは夢にも思っておりませんでしたよ、結城さん」

 

この初老の男性は『結城彰三』。総合電子機器メーカー「レクト」のCEOを務める実業家。京都を中心に地方銀行を経営する名家の三男。 俺が研究業を再開したころに「レクト」で少し技術協力として所属していたことがある。それ以来の再会だ

 

「なぜ結城さんがこの病院へ?」

 

「私の娘がこの病院に入院していまして、そのお見舞いにと」

 

「それは失礼しました。僕もある人のお見舞いと脳の検査をしにきたんです。」

 

「あの…お話を中断して申し訳ないのですが……」

 

「何かね『須郷』くん?」

 

ん?須郷だと……?どっかで聞いたことのある名前だな…?

 

「あなた…夜明 竜…。竜先輩ですか?」

 

「その呼び方……お前、伸之か?重村ゼミの伸之か?」

 

「やっぱり!お久しぶりです、先輩」

 

「何年ぶりだよまったく!レクトさんにお世話になってるなら俺に会う機会もあったろうに」

 

「先輩がウチにいらしたときはまだ新米のペーペーだったもので……」

 

「おや!二人は知り合いだったのかね」

 

「ええ。大学時代の同じ研究室に所属していたんですよ。僕の方が先輩で、伸之は後輩なんです」

 

「いや〜、本当に懐かしい。積もる話もあるんですが、今はあとで……」

 

「そうだね…。」

 

「娘さんのお見舞いに行かれるんですよね?邪魔かもしれませんが、僕もついて行ってよろしいでしょうか?結城さんのご家族なら僕にとって大切な人も同然ですから」

 

「いいのてますか?あなたも誰かを見舞いに来たのでしょう?」

 

「お気遣い痛み入ります。でも、一度くらいは……」

 

そんなわけでムラマサの部屋に戻る前に結城氏の娘を見舞うことにした。返しきれない恩がある以上はそのご家族にも何かしないといけない気がする

 

ガラガラ

 

「おや?今日も来てくれたのかね、桐ヶ谷くん」

 

「失礼してます、結城さん」

 

その病室には一人の青年がいた。黒い服を着た黒髪のその子は16歳ほどだろうか?年の割に幼く見える顔立ちをしている……

うん、見たことあるなぁ!!知ってるやつじゃん!うわ、鳥肌と冷や汗が出てきやがった

 

「そちらのお二人は?」

 

「ああ、紹介しよう。こっちの眼鏡の青年は『レクト』フルダイブ技術研究部門の研究員で、ALO運営会社『レクト・プログレス』のスタッフをしている須郷 伸之くんだ。私の腹心の息子でね。」

 

「へぇ〜」

 

「その隣にいるのが夜明 竜さん。数年ほど前に『レクト』の研究部門に所属してくれていた人でね、今は東都工業大学の非常勤講師を勤めいらっしゃる」

 

「キミが『キリト』くんか!いや〜、会いたかったよ!」

 

伸之はキリトこと桐ヶ谷青年の手を握る。その態度にキリトはたじろいでいる

 

「キミの噂は色々と聞いているよ。この明日菜くんにも親切にしてくれていたってね」

 

んぬぐッ!喉から変な音が出た。おいい、今日は何て日だ!

 

「ゲホゲホッ」

 

「あ、あんた!大丈夫か?」

 

「大丈夫ですか、先輩?」

 

「き、気にすんな……。じゃあ、俺からも挨拶を。

はじめまして、桐ヶ谷くん。俺は夜明 竜。しがない研究者だ。………いや、『久しぶり』と言ったほうがいいかな?キリトよ」

 

「すみませんが、何処かでお会いしたことが?」

 

「おいおい、薄情なやつだな。2年来の付き合いだろ?この顔を忘れたとは言わせないぞ、『黒の剣士』さん?」

 

「……あ!あ、あんたルーキスか!その喋り、その表情、確かにルーキスだ……」

 

「せ、先輩がルーキス…。あの『人狩り鴉』の……」

 

「ビビるなよ、伸之。俺はお前の知ってるただの夜明だ。あのゲームのルーキスじゃない」

 

伸之は得体の知れない存在を見るかのような顔をする。大学のときもその顔をよくしていた。そして、あのときと変わらないギラギラした目をしてやがる。こいつの分からないところは表情筋と目が合ってないときの心だ。多少の訓練はしたつもりだが、今でも読めん

 

「そうだ。社長、『あの件』ですが、謹んでお受けします。」

 

「そ、そうかい。でも、君の将来を決めてしまっていいのかい……?」

 

なにやら面白そうな感じ。こういうのに首を突っ込んでるから厄介なことに巻き込まれるんだろうけど、やめられねぇなw

 

「明日菜のためにも僕がしっかりしないと…」

 

「そうかい。……そろそろ時間だ。私は先に車に行っているよ。桐ヶ谷くんと積もる話もあるだろう」

 

「じゃあ、僕も。キリト、またな」

 

「ああ…」

 

結城さんとアスナの病室を出る。

 

「では、結城さん。またいつかお会いしましょう」

 

「ええ。今日はありがとうございました」

 

「最後に一つ申し上げてもいいですか?」

 

「何か?」

 

「僕に敬語を使わなくててもいいですよ。結城さんもイマイチな感じしましたし……」

 

「ふふ。分かりました。では次からは」

 

少し微笑んで結城さんは去った。こっちとしても敬語を使われるのはむず痒くなるんだよなぁ

 

「さてさて、中ではどんな会話が……」

 

幸いにも今は看護師たちの巡回の時間ではない。部屋の外に立ってても怪しまれないだろうさ。今の俺なら壁に耳をつけなくてもこの距離くらい聞き取れる

 

………

 

忘れたつもりだった。二度としないと誓ったつもりだった。友達を傷つけるなんて外道のやることだと思っていた

 

たが、『コレ』だけは容認できない。認めてはならない。認めたのなら俺は俺自身を否定することになる。『愛』を捨てるのと同じだ

伸之はキリトに『アスナの命は僕が握っている・アスナは僕と結婚することになっている』なんてほざきやがった

キリトの心を知りながらもあいつはあのバカを嘲笑った。

 

「伸之よ…。それをやったらお終いだ。俺と同じになる。戻れなくなる」

 

ムラマサの病室で一人呟く。両手を組み、壁を見つめる。この気持ちは何だ?伸之への怒り?キリトへの同情?いや、そのどれでもない

 

『ムラマサが起きない理由もアスナと同じなのでは?』

 

そう思ってしまった

コレは俺自身の怒り。愛する人を傷つけられたことへの怒り。言い換えるなら『復讐』に近い。そう、『復讐』だ…

 

ーーー

 

病室を出て自宅に帰った。前の家ではなく、役人さまが用意してくれたものだ。あいつも中々に腹黒い。俺の扱い方を知ってやがる。上に俺を知る奴がいるのか?

 

プルルルル

 

「噂をすれば……もしもし?」

 

『もしもし、夜明さん?菊岡です。今、話せますか?』

 

菊岡 誠二郎。総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員。SAO事件でゲームクリアによるプレーヤーの開放時、俺の事情聴取を担当した役人だ

 

「さっき家についたところだ。で、そっちからかけてきたってことは何かあるんだろ?話せ」

 

『だいぶ高圧的ですね…。まぁ、いいです。今、そちらのパソコンに写真を添付したメールを送りました。それを見ていただきたくて』

 

いちいち胡散臭い奴だな。嘘ついてるわけじゃないのはわかるが、絶対に裏がある喋り方なのが気になる。

 

ツーー、カチカチッ

 

マウスでメールを開く。確かに菊岡からのメールが来ているな。通知音を消してるから分からなかったな。表示はボックス開くまで分からないし

 

「こ、これは……」

 

写っていたのは何かのゲームだろうか?一枚目には大きな木らしきものの奥に鳥籠が見える。二枚目はその鳥籠の拡大したものだが、これは……

 

『一枚目はネットの掲示板に貼られていたもの。二枚目はこちらで拡大させてあります。どちらも解像度を上げていますが………どうお考えですか?』

 

「考えるもなにも、この写ってるのは『アスナ』だろ……」

 

『やはり。そう言われると思ってました。』

 

「おい、こいつは何の画像だ!何かのゲームなのか?いつ撮られたもんだ!」

 

『それはALO。《アルヴヘイム・オンライン》というゲーム内で撮られた写真です。』

 

「アルヴヘイム・オンライン……。」

 

伸之の運営してるゲームか!なるほど、そういう事か……!

 

『そのゲームではSAOと違って空を飛ぶ事ができるのですが、プレイヤーの飛行時間は限られており、数人のプレイヤーが肩車の要領でロケットのように切り離して飛んだ時に撮られたのがそれです』

 

「なるほど。上手く考えた奴らだ。なぜそいつらはそこまでして飛ぼうと?」

 

『なんでもゲーム内にある世界樹の頂上に辿りつけたプレイヤーの種族は無限に飛べるようになるとか』

 

「種族?」

 

『ALOは妖精の国をモチーフに北欧神話を取り込んだコンセプトのゲームなんです。運営はPKを推奨とした種族間抗争をさせて競争心でプレイヤーを煽るような方針なんですよ』

 

PK推奨か……。SAOじゃ考えられないが、死なないのなら何でもアリだな

 

「情報提供ありがとう。また貸しができたな」

 

『こっちはそれが目的ですからね。上はあなたが何かやらかすんじゃないかってビクビクしてますよ』

 

「総務省よりも防衛省と外務省のほうがアタフタしてるだろうさ。あれらは厄介ごとをお前さんたちに押し付けたかったのだろう」

 

『ホントにそうみたいで洒落にならないですよ……』

 

「ハハハ」

 

『……まだ300人ものプレイヤーが昏睡状態です。その解決の糸口がこのゲームにあるのなら早急に調査しなければなりません。

 

頼めますか、【人狩り鴉】?』

 

「請け負った。これは俺の望んでいたことでもあるしな」

 

『ありがとうございます。ALOは《アミュスフィア》でのプレイを想定して作られています。恐らく、明日にでもそちらに届くはずです。』

 

「何から何まで用意してもらってすまん」

 

『いえいえ。それでは…』

 

プツッ

 

「あ……。切るときはもうちょっと何か言ってくれよ」

 

ALOねぇ…。目覚めてからこっちVRMMOなんてやってないんだよぁ

大丈夫だろうか……

 

「……『翁』」

 

『何用か、我が主よ』

 

パソコンの画面に髑髏が映る。その声には冷徹さと温厚さをどちらも感じさせてくれる力がある

『山の翁』。SAOにて再会した俺の全ての結晶。俺の影であり、息子とも呼べるAI。元々はAIのアーキタイプとして作ってあったが茅場に提供して現在のような姿になった

 

「さっきの会話は聞いてたよな?」

 

『ああ。妖精の国に出向くのだろう?汝の友を救う為、汝の愛する人を救う為に。』

 

「そうだ。俺はあの世界に戻る。再び、この手に剣をとる。何者が立ち塞がろうとも、かつての友が敵であっても……。我が影よ、付いてきてくれるか?愚かなる、お前の光の我儘を聞いてくれるか?」

 

『何を言うか。そなたの言葉を知っていながら我がそれを聞き入れないわけがないだろう。我も行くさ、妖精の国に』

 

「そうか、そうか……」

 

『すでに夜も更けている。疾く休息せよ』

 

俺はその言葉に従ってベッドに入る。すぐに眠気に襲われ、意識が途切れた

 

ーーー

 

現実に戻ってきて唯一、絶望したことがある

それは『茅場 晶彦』の死

菊岡からそれを聞かされたときには24時間ほど高熱にうなされたものだ

あの馬鹿はハナっから死ぬ気だったんだ

俺が止められた。俺が止められた。

あいつは自分の脳に高出力のスキャンをかけていた。ナーブギアによるマイクロ波ではなく、脳の情報をデータに変換するために

それは自らの意識、魂や心とも言える不安定な存在をネット世界にコピーすること

つまり、擬似的な不死となること

その研究は俺が北欧でやってたときに考えた案の一つだ。構想段階でほとんど夢物語だと同僚たちに否定されたが、どこか確信が俺にはあった。そいつらに気づかれないように研究所のスパコンでこっそり演算させていた。結果は1%にも満たないと出たが、その考えだけは文書にしていた

俺は茅場との再会時にそれを話していた。その時は笑い話と流してくれていたと思っていたが…こうなるとは

俺の面会が許可されたあと、一番最初に来たのは凛子だった。

その顔は窶れ、生きているのが不思議と思うほどに生気を感じられないほどに憔悴していた

あいつは怒らなかった。泣かなかった。謝罪を求めもしなかった

ただ、

 

『晶彦さんを返して』

 

そう言っただけだった。俺を殴れと貶せ、罵れとそうされたほうがいくらかマシだ

その一度以来、音信不通となった

知っていた。そうなることを。SAOを始める前からそうなるのは理解していた。

だけど、実際は違った

わかってなんかいなかったんだ……

 

『仕事』ときもそうだったのだろう。殺した相手に家族がいるなんてよくあることだった。それでもやった。それしかやることがなかった

『復讐』のときだってそうだ。あいつらを殺したことに後悔はない。憐れみなんてこれっぽっちもない。

でも、そうなのかもとは思う

 

ムラマサ……早く会いたいよ…

 

ーーー

 

翌日 2025年1月20日

 

ダンボールが届いた。これがALOとアミュスフィアか

 

「なぁ、翁。」

 

『何だ』

 

「俺はもう『人狩り鴉』じゃねぇ。今からは『簒奪者』。無辜の民を己がものとし、その意思を弄ぶ王からその座を奪う者。民のため、友のため、愛する者のため。俺はその座を奪う」

 

『我が主ながら大きく出たな。ならば、冠位など我には不要なれど、今この一刀に最強の証を宿さん』

 

カチャ

 

アミュスフィアをつけて、横になる。

 

「リンクスタート!」

 




こんな感じでいいですかね?翁はストレア的なあれにしたいので、ユイちゃん枠兼ストレア枠な方向で


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オリ主設定 ALO編 ネタバレあり

設定の前書きって何書けばいいの?


ステータス

AGI極振りは変わらず、STR系スキルで多少はカバー

 

アバター名など基本情報は一緒

 

使用武具(ロザリオ編も変わらず)

『物干し竿』(そのままっす)

『ヘラクレスの弓』(ヘラクレスよりアルケイデスの方が近い?)

『無銘・真』×2(黒より耐久性アップ。ロザリオから)

『アサシン ブレード』(ロザリオ編から)

名前のない短剣(武器屋で購入)

名前のない弓(同上)

『獅子の裘』(STR系、弓系スキルの追加&強化)

ジェネレート限定『マルミアドワーズ』

 

使用スキル

SAOとほぼ同じ

アサクリに準じたスキルたちは使用不可

ヘラクレス系スキルは本人の元々の実力

 

使用魔法

Ek skýt noun verb níu draca ör níu draca

エック・スキート・ノウン・ベーブ・ヌル・ドラカ・エール

私は射る。幻想滅ぼす9匹の竜の矢。

 

↑射殺す百頭(ナインライブズ)

 

使用ソードスキル

変わらず(暗殺剣はなし)

コネクトはしますよ(ロザリオのみ)

 

今後の展開

ALO編→GGO編(リリース初日からプレイしてる設定)→オリジナルGGO編→オルタナティブ編?(絶剣の前か後なのか、調べてもよく分からない………)→絶剣編(キャリバー編はなし)→OS編→UW編(プロットはまだ白紙。アニメの後かも?)

 

ーーー

 

ここからは雑談

 

SAOを投稿してるわけですが、裏でヒロアカとFateとフェアリーテイルのssも書いてます。それらは書き始めたばかりなのでまだまだ見せられるものではないので予告をば

 

ダクソのリマスターやらその他のバージョンをやってきましたが、1の公王たちが一番面倒くさいのは僕だけですかね?正直、アルトリウスはノーダメまでいけたんですけど公王のバァァーーンってなる紫の光とか深淵での距離感が未だに掴めない……対策とか教えてくださる方はいないんでしょうか

 

ーーー

 

ここから先は僕の好きなセリフ集です

 

そう、文字数稼ぎですww

 

ーーー

 

ハ。ハハハ。クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。

 

笑わせるな、廃棄の末に絶望すら忘れた魔神ども!貴様らの同類になぞ、その男/娘がなるとでも!

 

そうだ! この世の果てとも言うべき末世、祈るべき神さえいない事象の地平!確かに此処は、何人も希望を求めぬ流刑の地。

人々より忘れ去られた人理の外だ。だがーーー

 

俺を呼んだな!ならば俺は虎の如く時空を駆けるのみ!

我が名は復讐者、巌窟王エドモン・ダンテス!

恩讐の彼方より我が共犯者を笑いにきたぞ!

 

第1部終章 第9節 Xの座/廃棄孔アンドロマリウス

 

確かに、あらゆるものは永遠ではなく、最後には苦しみが待っている

だがそれは、断じて絶望なのではない

限られた生を持って死と断絶に立ち向かうもの

終わりを知りながら、別れと出会いを繰り返すもの

……輝かしい、星の瞬きのような刹那の旅路

これを、愛と希望の物語という

 

いのちとは終わるもの。生命とは苦しみを積み上げる巡礼だ。だが、それは決して、死と断絶の物語ではない。

 

 

ヤツは強い。あまりにも強い。まさしくあの英雄こそ天上天下に最強最後の敵だ。

なればこそ、なぜ征服王が挑まずにおれようか。アレを乗り越えたその先こそが世界の果てだ。

『彼方にこそ栄えあり』―――届かぬからこそ挑むのだ! 覇道を謳い! 覇道を示す! この背中を見守る臣下のために!

最果てになど至りようもないと、そんな弱気に駆られたこともあった。愚かな、征服王がなんたる失態か!

求めた果てが今 余の行く末に屹立している! ならば超える! あの敵の上を踏み渡り、最果てオケアノスへと至る!

何を喋っている? 聞こえない。風の音も、何もかも。だが耳に響くこの音は―?

なぜ今になるまで気付かなかったのか。この胸の高鳴りこそが最果ての海の潮騒だ!

夢に見た波打ち際、波飛沫の感触、そう――余は今海を夢見ている。

例えこの身が砕け、どれほど血に塗れようとも! この瞬間! この時に勝る至福があろうものか!

 

 

83名無し3/19 00:11ID:M5NTE2NTc(1/2)NG報告

「はあ!?馬鹿かおまえたちは!メディアはともかく、ヘクトール!おまえまで間が抜けているのか!?それでもトロイアの守護者か!」
「おまえも、メディアも――ヘラクレスの援護に回れ!!コイツが攻撃に集中できるよう、徹底的に露払いをこなすんだ!」

「それじゃ万に一つの勝ち目もなくなるんだよ間抜けが!いいか、コレは単純な算数の問題だ!1を10にするより、10を100にする方が強いに決まってるだろうが!
アルゴノーツを10にしたところで木端微塵だ!それならヘラクレスを100にしたほうが万倍マシだ!だろう、ヘラクレス!理性はなくとも戦闘の話だ、私の言いたいことはわかるだろう!?」

「それでこそだ!ヘラクレスを援護しろ、おまえたち!そして、私はここで待つ!面倒だが、帆(セイル)の上手い使い方を見せてやろう!」

ーー終局特異点 観測所 閉館 イアソンより

 

死なくして命はなく、死あってこそ生きるに能う。そなたの言う永劫とは歩みではなく眠りそのもの

 

幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った。

 

災害の獣、人類より生じた悪よ。回帰を望んだその慈愛こそ、汝を排斥した根底なり。」

「冠位など我には不要なれど、今この一刀に最強の証を宿さん。

 獣に堕ちた神と言えど、原初の母であれば名乗らねばなるまい。

 ―――幽谷の淵より、暗き死を馳走しに参った。

 山の翁、ハサン・サッバーハである。

 晩鐘は汝の名を指し示した。その翼、天命のもとに剥奪せん―――!」

 

「―――それは斬り甲斐がある。角一本を砕いただけでは、この剣も錆びるというもの。

 カルデアの魔術師よ。暗殺者の助けは必要か?」

「冠位の銘は原初の海への手向けとしたが、我が暗殺術に些かの衰えもなし。

 契約者よ。告死の剣、存分に使うがよい。―――願わくば、末永くな。」

 

The bird of Hermes is my name,

eating my wings to make me tame.

私はヘルメスの鳥。私は自らの羽根を喰らい、飼い慣らされる。

 

Laa shay'a waqi'un moutlaq bale koulon moumkine…

(ラーシェイア・ワキュン・ムトラクベイル・クルンムーキン)

闇に生き、光に奉仕する。祖は我らなり。

Nothing is true, everything is permitted

真実は無く、許されぬ事などない

 

「愛は求める心

そして恋は、夢見る心だ。」

「恋は現実の前に折れ、

現実は愛の前に歪み、

愛は、恋の前では無力になる。」

「それがまっとうな男女の関係だ

死ぬ間際だが、

それこそ心に刻んで反省しろ」

 

かつて求めた究極の一刀。

其は、肉を断ち骨を断ち命を絶つ鋼の刃(やいば)にあらず。

我が業(み)が求めるは怨恨の清算。

縁を切り、定めを切り、業を切る。

――――即ち。宿業からの解放なり。

 

……其に至るは数多の研鑽。

千の刀、万の刀の象(かたちど)り、築きに築いた刀塚。

此処に辿るはあらゆる収斂(しゅうれん)。

此処に示すはあらゆる宿願。

此処に積もるはあらゆる非業。

我が人生の全ては、この一振りに至るために。

 

剣の鼓動、此処にあり――――!

受けやがれ、これがオレの、都牟刈、村正だ――――!!!!

 

May the Force be with you

フォースと共にあらんことを。

 

Try not, Do or do not. There is no try.

“やってみる”ではない、“やる”か“やらぬ”かだ。試しなどいらぬ。

 

ここまでか……。いいや、ここからだ!

 

篝火に火を灯せ、祭壇に供物を捧げよ

魔術王の名の下にこの星の新生を寿ごう

 

見るがいいこの末路を

人類史そのものが行った足切り

敗れ去った歴史の悪意の果てがこれだ

だが嘆くことはない

何故と被害者ぶることもない

弱いモノを自然淘汰ではなく

自発的に排したのが人類の解答であったのなら

その役割が君たちに回ってきただけの話

 

我が名はソロモン

過去と未来を見渡す眼をもってこの結末を予期したもの

そして人類の最後の戦いを彼岸より見届ける者だ

 

空想の根は落ちた

宙からの信号は途絶え、地表は漂白され

この惑星は独りぼっちの星となった

 

濾過異聞史現象

侵略され白紙化した惑星

もはや正しい秩序はない

人理を守る英霊はいない

何一つ味方となる者はいない

この地ではお前たちこそが悪なのだから

 

だがこと生存において善悪による優劣はない

お前たちがまだ諦めないというのなら

あの時と同じく何もかも無に帰したこの状況でまだ生存を望むというのなら

 

愚かしくも力の限り叫ぶがいい

惜しげもなく過ちを重ねあらゆる負債を積み上げて尚

希望に満ちた人間の戦いはここからだと

 

 




来歴とかは書くのが面倒になりましたw
『千景』はOS編まで待っててください

それでは


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15話 簒奪者、妖精の国に降り立つ

サブタイに悩みまくった回。
どこまでやったらいいのか分からなかったのはこの回が一番決まらなかったっす


ログインをすると俺は暗い部屋にいた。部屋の中央には大きなデバイスが鎮座している

 

『アルヴヘイム・オンラインへようこそ!初めてプレイされる方は種族を選択してください!』

 

いきなりアナウンスなのな。もうちっと工夫はないのかよ。伸之め、せめてゲームとしての出来を求めた方がいいぞ?ま、その座から引きずり下ろすために俺はここに来たんだ。このくらいの修正はその後にでもやってやるよ…‼︎

 

「それで…どんな種族があるのかな?」

 

デバイスにカラフルな妖精たちが表示される

 

風妖精族 シルフ

特徴:飛行速度と聴力に長け、風属性魔法が得意

火妖精族 サラマンダー

特徴:武器の扱いと攻撃に長け、主に火属性魔法が得意

影妖精族 スプリガン

特徴:トレジャーハントと幻惑に長け、幻影魔法が得意

猫妖精族 ケットシー

特徴:俊敏性に長けて、モンスターの<テイミング>に長けた種族。また、9種族で最も視力が良い

水妖精族 ウンディーネ

特徴:回復魔法と水中活動に長け、水属性魔法が得意。水に適した種族

工匠妖精族 レプラコーン

特徴:武器生産及び各種細工を生産することに特化した種族

闇妖精族 インプ

特徴:暗視・暗中飛行に長けた種族

音楽妖精族 プーカ

特徴:歌唱、楽器演奏に長けた種族

 

 

「へ〜!このゲームにもテイミングがあるのかぁ。どんなやつらがいるのかね?」

 

つっても俺は選ばないんだけど

 

「せっかく空を飛べるゲームなんだから、これを選びたいね……」

 

全体的に緑を基調した色合いの『シルフ』のパネルをタッチする。飛行速度上昇はロマンがあって好きだし、聴力の強化は今の俺にとって良いものかもしれん

 

ポチッ

 

「これで決定っと。遠距離攻撃が少なかったかったSAOじゃ、魔法は夢物語だったからな。覚えてみたいものだ」

 

『それではアバターを生成し、種族ごとの領地に転移します。アルヴヘイム・オンラインをお楽しみくださいませ』

 

転移が始まった。しかし、アルヴヘイムねぇ……。北欧神話における9つの世界の一つ。光の妖精たる『エルフ』が住むとされ、ヴァン神族のフレイがその妖精たちの王とされる世界樹ユグドラシルの第一層にある世界。

 

エルフが住んでるって設定なのに種族の選択肢には入ってなかった……NPCとかがそうなのか?それとも別に存在するとか……?

 

そこまで考えてると、目の前が真っ白に光った

 

ーーー

 

〜シルフの領地『スイルベーン』〜

 

転移した先は自然と文明が両立した街、『スイルベーン』。行き交う人々は緑ばかりを着ている。ちょっと目が痛い……

 

「ん!ちょっとそこのお兄さん?君は新人くんかな?」

 

お兄さん?俺か?

目の前を横切った少女が後ろ歩きで俺を見る。少々小柄で大きな剣、両手剣だろうか?それを装備している。不釣り合いな武器を扱っているのがこの子のステータスがSTRに多く振っていると伝えてくれる

 

「俺のことですか?…はい。今ログインしたばかりの新人です。」

 

「そうか、そうか!いや〜、中々のイケメンくんじゃないか!痩せ型だけど大きいね、2mくらいあるんじゃない?」

 

グハッ!おじさんにそれはキツいぞ…。いくら褒め言葉でも刺さるものは刺さる。しかも、現実じゃもっと小さいんです…

 

「ハ、ハハハ……」

 

「それで新人くん?ここで何をしてたのかな?」

 

「初めてログインしたので、このゲームはどうやったらいいのか教えてくれそうな人を探していたんです。」

 

「お!それから私が教えてしんぜよう。少し暇してたところなんだよね」

 

「あ、ありがとうございます。俺は『ルーキス』。貴方は?」

 

「私は『フカ次郎』。よろしく」

 

互いにの手を握る。あれだな。俺は教えてもらうことに定評があるのか?スゲェ許可してくれるんだが……

 

フカ次郎が『この先にいい訓練場所と武器屋があるんだ。とりあえずは戦闘を教えてあげよう!』と俺を案内した。道中でその名前の由来を聞くと、飼っていた犬からとったと説明された。つい先日にその犬が亡くなったそうだ……あまり聞かないほうがよかったかな

 

武器屋で少々の調達をした。アイテム欄を見ずにそのまま買ったので、初期アイテムとかは分からなかった

 

「本当に『そいつら』でよかったのかい?このゲームはPK推奨なんだぜ?男なら大きい武器で戦いたいだろうに」

 

「いや、俺はこれでいいんです。この方が慣れてる」

 

握るのは名前も知らない短剣。どうせ使い捨てるレベルじゃないとしっくりこないし……

 

「まずこのゲームはレベル制ではなくてスキル制なんだ。経験値じゃなくてスキルの熟練度が重要になってくる。多少のステータスは上がるけどそれほど気になることはないよ」

 

なるほど。初心者にも楽しくってスタイルか。そこはいい点だな、伸之

 

「わかりました。それじゃあ、行きます!」

 

多分、この子は大学生くらいかな。言葉使いとか仕草が学生たちのそれと似ている。

 

「ハァァ!」

 

「ッと!中々に速いね、君。他にゲームの経験が?」

 

「ええ、まぁ。それなりには!」

 

脇腹。内股。肩甲骨。切りつけて、離脱の繰り返し。ふん、予想より強くないな。いや、一撃一撃は当たったらお終いな威力ではある。ただ、俺が速いだけか

 

「そりゃ」

 

「ガハッ‼︎」

 

大剣を振り終わりを狙い、腕を掴んで投げる。CQCだかCQBだか知らんが、SAOで再現できなかった体術もこの世界では可能らしい。先程からの立ち回りで何となくわかった。直勘だけど…

 

チャキ…

 

短剣を喉に突き立てる

 

「これでいいですよね?」

 

「つ、強すぎ……ハハハ……」

 

フカ次郎の体を起こして暫しの休憩

 

「強いね、ルーキスくんは」

 

「ただの経験ですよ。才能だけなら俺より上なんていくらでもいます」

 

「『経験』ね……」

 

余計なこと言っちまったかな

 

「うし!息も整ったところで飛行訓練でもしますか!」

 

「はい、先生!」

 

「先生じゃなくて、フカ次郎でいいよ」

 

「了解!フカ次郎」

 

それからは目玉の『飛行』を教えてもらった。左手で空中を握るとコントローラーが感じられ、それで飛ぶことが出来る。だが、これのデメリットとしてウィンドを開く際に左手が使えないために空中における戦闘で不利になるとの説明を受ける

 

「ここで必要になるのが『随意飛行』って言う方法なんだよね」

 

「随意飛行……?」

 

「背中の羽は肩甲骨の辺りからはえてるでしょ?そこに仮想の骨と筋肉を想像してそれを動かすと……ホラ!」

 

フカ次郎の体が宙に浮かぶ。なるほど、さすが妖精ってことか

 

「肩甲骨……ソイっと」

 

ブワァッ

 

「おお!ルーキスくんは筋がいいね!最初の随意でそんなに飛べる人なんてそうそういないよ?」

 

ビュン、ビュン

 

「こういうことね。うん、思ってたより簡単だ」

 

実は『仕事』のときにスカイダイビングやムササビスーツでの強襲が何度かあった。長いことやってなかったけど身体が覚えてるもんなんだな

 

その他、魔法などの戦い方も教えてもらった。フカ次郎本人はあまり魔法が得意ではないらしい。どちらかと言えば剣技で圧倒する派だそうだ

 

「これで大体のことは教えてあげたけど、他に何かあるかい?」

 

「聞きたいことはもうないよ。だから、お礼をさせてくれ。フカ次郎の知ってる美味しいレストランとかに連れて行ってくれたら奢るよ」

 

「え!そう?それじゃ、お言葉に甘えて……」

 

連れて行ってもらったのは『スイルベーン』で一番評判良い店だ。おススメはアクアパッツァだそうで、それを注文する

 

「「いただきます」」

 

味がしねぇ……。いや、しないわけじゃない。途轍もなく薄く感じるだけだ。クソッ……脳のダメージがこれほど嫌なことはないな。

 

「どう?美味しいでしょ?他の料理系ゲームとなんら遜色のないこの味!なんでも運営はそっち系の企業のデータをそのまま再現してるらしいよ」

 

伸之がそんなことするのかよ……娯楽に力入れすぎだろ

 

「美味しい。素直に美味しい」

 

ここは嘘をつくしかあるまい

 

「だよね!よかった、よかった」

 

それから料金を払った。案の定、所持金がそこを尽きた。武器を一個少なくしてたらなんとかなっていたかも……

 

「それじゃ、お別れだね。ルーキスはこれから何をしたいの?」

 

「あ!そう言えば人探しをするつもりだったんだ」

 

「人探し?」

 

「スイルベーンにいる可能性は低いけど、世界樹の麓まで行けば必ず会えるはず……」

 

キリトのことだ。アイツならあの写真くらい手に入れてるはず。そんでこのゲームをやるとこまでは読める。ただ、どの種族なのか?いつ世界樹に向かうのかは分からないが

 

「ここから世界樹かぁ……遠いなぁ」

 

「急がないといけないんでここで」

 

「世界樹に行きたいんなら、『塔』から飛ぶといいよ。あそこ!」

 

フカ次郎の指差した方角には大きな緑色の塔がある。気になってはいたがそれほど重要視してはいなかったら。不覚である

 

「さっきも説明したけど飛行時間はだいたい10分が限界なんだよね。だから遠くに行きたいなら高度を稼いでとばなきゃならない。そのための建物なんだよ。他にも主要な施設も一階にあるし」

 

「何から何までありがとう。」

 

「いいってことよ!」

 

「いつかこの借りは精神的に。じゃあ!」

 

フカ次郎は俺が見えなくなるまで手を振っていた。いい人だ。また会えそうな気がするね

 

ーーー

 

フューー!!

 

「風が強いな」

 

塔の上に来た。管理者の人曰く、今はあまり使うプレイヤーがいないから俺のような物好きは珍しいのだそう。では、この辺りでいいかな

 

「翁、結果は」

 

『シャァ』

 

翁が青黒い炎のと共に現れる。この骸骨の顔じゃ目立つから控えさせていた

 

『結論から述べるとこの世界はかのSAOの型落ちコピーだ。』

 

「ほう。」

 

『主のそのアバターもSAOの時と同じであると言ってよい。ただ、【暗殺剣】や【鷹の目】といった特殊なスキル群及びプレイヤーメイドの武器はデータ破損などで使用不可能。廃棄した方が良いな』

 

「そうか………」

 

ムラマサやマサムネたちとの思い出があるが、背に腹はかえられんな

 

ポチッ

 

「ん?これは……!」

 

『主も気づいたか。左様、その【長刀】だけが主の手に残ったものである』

 

おいおい、泣けてくるね。あの『侍』はまだ俺に懸けてくれてるのか

 

チャキ……

 

「小次郎め、まだ俺はそこに至っておないと?」

 

『物干し竿』。かの巌流の剣士が持った長刀。あの男がその一生をかけて『燕』を切ろうとした技を使える剣。

 

「これで準備は整ったな」

 

『物干し竿』を背中に下げ、羽を伸ばす

 

『主よ。我が光よ。貴方は友と己の為に【簒奪者】になると言った。なれば我はその影として天命を降そう』

 

「ありがとう、翁。さぁ、行きますか!最初っからフルスロットルでなぁ!」

 

俺たちは世界樹に向けて旅立つ。まだこのゲームに来て浅いが、ゴールは見えた。答えはいたってシンプル。伸之をぶっ倒して、ムラマサを助ける。キリトを援護する。アスナを助ける

 

伸之。貴様の積み上げた全て、俺が貰い受ける!精々、首を洗ってまってろよ

 




最後は急ぎ足で締めちゃいましたw
アリシゼーションが待ち遠しい


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16話 ネメアの獅子

FGO2部、楽しい。キリトたちは次回より登場します。ルグルーの橋の前に
弓ゲット回でーす



ブビョーーー!

風邪を切る音がうるさい。耳が良すぎるのも問題ありだな。頭痛もしてきた。SAO前だったらもっと痛いのか?

 

『主よ。少々飛ばしすぎではないか?働くことは良いが、多少の休息も必要である』

 

「そ、そうか。そんじゃ、ここらへんで降りよう」

 

お前は心でも読めるのか!まぁ、バイタルチェックはさせてるからそこから判断したのか?

 

スイルベーンを出発してから数時間。キリトらしき人物の姿は見えないし、翁の気配探知にも俺の耳にもそれっぽい反応はない

 

フワッ

 

「ふぅ……。意外に肩が凝るなぁ」

 

『本来、人間には存在しない仮想の筋骨を動かしているのだ。脳が疲労したと感知しているのだろう』

 

「お前は大丈夫なのか?」

 

『我は元より唯人ではない。そのようなことは起こらないと予想する』

 

「へいへい」

 

翁も大分慣れてきたのかな?プレイヤーがロールしてる感じが出てる

 

「なぁ、少し気になったんだけど」

 

『なんだ?』

 

「お前の種族って何なの?プレイヤーとして活動する以上はそれを擬装してるんだよな?」

 

『我の種族?妖精としてなら【インプ】。闇の妖精である』

 

翁が羽を出す。よく見ると紫がかった色をしている

 

「なるほど。お前らしいな。確かスプリガンは戦闘向きじゃないらしいし、お前の戦闘能力にそった選択をするならインプだな」

 

翁の速さは異常だ。単純なスピードは俺が上かもしれんが、気配を消して忍び寄る『死』を告げる剣は避けるのが難しい。つか無理。殺意が向けられた瞬間、トップスピードで反撃する以外には手段がない。実際、SAOで戦ったときはそうしていた

 

「武器は大盾と大剣だよな?」

 

『左様。主の友であり、主が我を預けた【ヒースクリフ】がそうさせた名残だ。』

 

茅場……。あいつは自らに似せた翁で意趣返しをしたかったのだろうさ。

 

「あいつも粋なことをしてくれたよ」

 

ーーー

 

〜エリア・古森〜

 

シルフ領のスイルベーンを出て、世界樹を目指すと最初にぶち当たる危険エリア。『危険』の理由はモンスターではなく、隣接したサラマンダー領との関係で戦闘が多発しているからだ。視界の悪い森の中での戦闘は非常に面倒くさい。が………

 

ズッバン!ズバン!

 

「ガハッ」

 

「ふん、弱いな。ただの弓でやられるんじゃねぇよ。せめて『物干し竿』を抜かせるほどの強さで挑んでこい」

 

サラマンダーのプレイヤーを倒す。残ったほの魂みたいなやつは少しの間だけこの場にプレイヤーの意識が残っている証なのだそう。エリアとかこのことも全部、翁から聞いたんだけどね……

 

『主よ。これで5人だ。それぞれ10秒ほどで片付けたとして約1分の時間が無駄になった』

 

「そんなこと言ってやるな。辛口なのは俺だけでいいの」

 

『うぅむ』

 

翁は『その命が終わるときを見失った奴』平たく言えば、死に際を見誤った奴しか殺さない。そう、晩鐘がその名を指し示した奴だけ。それまでは相手の足止めくらいしかしてくれない。

 

「俺がもう少し標準合わせを早くしたらいいだけなんだよなぁ」

 

『主はかの剣の世界で投擲スキルを修得したもののあまり使うことは無かったのだろう?ならば仕方ない。今から励めばよいだけだ』

 

「そうだな!それしかない!」

 

昔はもっと上手くやれたのに…『仕事』だって狙撃の次に弓が多かったんだぜ?ナイフよりも弓の方が殺した数も多かったはずだし………

 

キラキラ

 

羽に輝きが戻った。これで飛べるか

 

そのまま飛んでいると竜種系のモンスターが多いエリアに入った。ここは空中に大きな岩がいくつも浮かんでいる。その上には草木が生い茂り、そこにワイバーンが住んでいるようだ

 

「グギャーース!」

 

襲ってきたワイバーンを撃ち落とす。羽を広げたトカゲごときなど大きな的でしかない。速射・連射ならまだイケるぜ!

 

「そろそろ現実じゃ夕飯時だな」

 

『なればあの大岩の上はどうだろうか』

 

翁の指差した方には浮かぶ大岩の中でも小さめのものだ。うん、休息程度ならあれでいいだろうな

 

「よし。あそこで休もう」

 

スッ

 

「着陸も優しくできるようになってきたな」

 

『それは主の努力だ。我はそれを好む』

 

ピロロン

 

ログアウトボタンを開く。何気ない行動だがSAO初日以来、この光景を見たくてどれだけ夢見たことか

 

「じゃあ、俺の身体をよろしく。1時間くらい仮眠もしてくるよ」

 

『了解した。十二分に英気を養ってくるがよい』

 

ポチッ

 

ーーー

 

カシャ

 

「ゲームから現実に戻れることがこれほどありがたいなんて、昔は思わなかったよ」

 

さてと。メシ食って休むといきたいが、その前に確認だな

 

プルル、プルル、プルル

ピコン

 

『はい、もしもし?菊岡です』

 

「俺だ、夜明だ。夜分にすまんな。」

 

『夜明さん!どうしたんですか?』

 

「お前から貰ったALOである程度のとこまで進めたぞ。まだまだ道のりは長いがな。」

 

『そうですか!……で聞きたいこととは?』

 

「…話が早くて助かる。お前の裏を察する能力の高さには驚かされるよ。で、本題は『須郷 伸之の行動を知りたい』わけなんだが……できるよな?」

 

『できる……と思います。が、それは法律スレスレの調査になります。プライバシーの権利を犯すかもしれないので……』

 

「俺を名前を出してでも頼む。明日一日分だけでいい」

 

『分かりました。これは貸しですよ。いずれ何らかの形でお返ししていただきます』

 

「分かっとるわ!それじゃ、いい報告を期待する。じゃあな」

 

『ええ。それでは』

 

ボロン

 

「これで何とかなるかな」

 

さ、飯だ。食って休むぞぉ!

 

ーーー

 

「あ〜あ、やっちまった……」

 

飯を食い、休息と称して仮眠を取ったつもりだったが

 

「がっつり5時間寝てたわ……」

 

時計を見ると5時間が経過。しかも日付はすでに21日……

 

「翁、絶対怒ってるよ……カンカンだよ……」

 

おそるおそるログインすると

 

『主よ。その首、落とされる覚悟はあるか』

 

「わーーー!!」

 

黒い大剣が目の前にあった。『死』がすぐそこにあった

 

「まてまてまて!鐘鳴ってないじゃん!天命降ってないじゃん!」

 

『晩鐘が主の名を示すのを待っていた』

 

「おいぃぃぃ!」

 

そんなこんなで

 

「さて、再開しますかね」

 

『ォォォォ……』

 

翁とちょっと手合わせをした。鐘が鳴ってたら死んでた……

 

「あそこに聳える山々が『環状山脈』だな」

 

『飛行限界よりも高いあの山脈を越えることはできぬ。徒歩で谷か洞窟を進む必要がある』

 

「……どっちがいいと思う?」

 

『ふむ……。我は谷を進むほうがよいと進言する。洞窟内はオーグなどのモンスターが生息し、ほぼ一本道であるが故に万が一の場合の対処が遅れるやもしれん。それに暗闇ではこの羽は働かぬ。』

 

「多少の危険があっても外の方がいいか……」

 

『だが、洞窟の途中にはこの世界で最も栄えた都市、央都【アルン】に次ぐ大きさの鉱山都市がある。そこに寄るような道を歩むのが良い』

 

「つまりは、その都市への道を自力で探せってわけだ」

 

『左様』

 

「…よし。今後の方針は決まった。早速、行くぞ」

 

ドンッ!

 

飛び立つと同時に最速にする。この音は音速を超えたときに出る衝撃波か……?ソニックブームが出てるな

 

後に俺たちの姿を地上で見た奴が俺らを『凶星と妖星』なんて呼び、ALO内で都市伝説として語り継がれた

 

ーーー

 

ジャリ、ジャリ、ジャリ

 

地上に降り、谷を目指して歩く。山肌はほとんどが岩で多少の植物は生えているが、食用っぽくはない。

 

『止まれ』

 

翁が腕を掴んで俺を引き止めた

 

「なんだ敵襲か!」

 

『いや、違う。主よ、耳を澄ませてみろ』

 

シィィィーーーン

 

……グググルルルルル……

 

「これはモンスターの鳴き声か…?」

 

『恐らくは。しかも相当に腹を空かせているようだ。我らの気配を感じて気を荒だてている』

 

「俺たちの気を感じて腹を空かせていると?ハハハ」

 

『何を笑う?』

 

「いや、なんだ。やっとまともに戦えそうなモンスターに出会えると思うと嬉しくてな」

 

『…主らしい。実に我が光らしい』

 

「それじゃ、行こうか!」

 

『シャァァッ!』

 

ーーー

 

「デケェな」

 

モンスターがいたのは朽ちた神殿跡地。その真ん中で俺たちを待ち受けていた。その巨躯は俺たちの数倍、その毛皮は黄金のようで、その爪や牙は鋼のようだ

 

「なんつープレッシャーだよ……強さはあの『悪魔』くらいか?」

 

『弱音か?主らしくもない』

 

「弱音じゃなくて自分を鼓舞してるの」

 

『そうであるか』

 

翁の髑髏の面がニヤける。なんだよ、お前も楽しそうじゃねえか

 

〜ゴーン、ゴーン、ゴーン〜

 

翁が大獅子に向けて剣を向ける

 

『晩鐘は汝の名を指し示した。その素っ首、天命の下に切り落とさん!』

 

獅子が立ち上がる。表示されたHPは4本…。モンスターの名前は『ネメアの獅子』。なるほどね、【谷】だからこいつなのか。

 

「さぁ、神代の戦いってのを始めようぜぇ!」

 

ーーー

 

ガキィィィ

 

ギリ、ギリ

 

「その程度の攻撃で俺は殺れねぇぞ!」

 

『シャァ!』

 

獅子の爪を『物干し竿』で防いだところを翁が一太刀を浴びせる

 

「ガォ!」

 

『ほう。我の剣で傷一つ付かぬとは』

 

「感心してる場合か!」

 

「ガァァ!」

 

『ハァ!』

 

「ガラ空きだよ!」

 

翁の盾で噛みつきをガードと同時に俺が蹴りを入れる。獅子は怯み、後ろに下がった

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

『大丈夫か、主』

 

「痛みが薄いのがここに来て役立つとは」

 

『あまり無理をしてはならぬ。主は限りある命を持つ者。それに比べて、我は幽谷にて【死】と一つとなっている。我が犠牲にになってもバックアップがある……』

 

「テメェ、ふざけるなんじゃねぇ‼︎」

 

『主……』

 

「お前はデータかもしれない。死んでも大丈夫かもしれない。それでも、俺の影だ。俺の全てだ。俺の子だ。愛する友だ。それが目の前でやられるのを見過ごせって?俺がそれを決めろと?……できるわけないだろ。この俺が『家族』を見捨てるなんてこと」

『主は我を家族だと…』

 

「当たり前だ、このバカ息子が」

 

『我が息子…か……』

 

そうだ、お前は俺の子だ。その在り方は違えども、お前は俺の生き写しだよ…

 

「ガオォォォォン!」

 

「…っ!ここからが本気だぜってか?おい、翁!」

 

『ああ。良い旅だ。良い思い出だ。良い、実に良い──我が最期だ。この戦いの終わりに、今度こそ消えたいものだ、我が主よ』

 

「終わらせてたまるかよ、このバカたれ」

 

『フフフ』

 

満更でもない顔しやがって…

 

「来るぞ!」

 

「ガァァ!」

 

ギラギラした目が俺を見る。飢えた獣の目だ。本能のままに生存競争をする者だ

 

「ここで死ぬわけにはいかないんでねーーー秘剣『燕返し』」

 

シャキン

 

ズバ、ズバ、ズバ!

 

【無限】の剣で獅子を切る。アシストが無くても動けるようになったのは反復練習の賜物だ。リハビリなんて塵芥同然に思えるほどの積み重ねをしたんだよっ!

 

だが、

 

タラァ〜〜

 

「まじかよ…」

 

落とすどころか毛皮を切って、少し血が出るぐらいしかダメージが与えられないとは

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

『晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽、首を断つか【死告天使】‼︎』

 

ズジャァ

 

肉の切れる音がする。あの剣ならその首を断てるか……!

 

『何!』

 

「うわぁ……」

 

「ガオォォォ!」

 

肉を切れても、その奥の骨は断てなかった。獅子は首から赤いエフェクトを出しながらも、その堂々たる体に一切の衰える様子がない

 

「おいおい、どうやったら倒せるんだよ」

 

『主。我に考えがある』

 

「お!教えててくれ。今の俺じゃ思いつかないわ」

 

『こうするのだ………』

 

ゴニョゴニョ

 

ーーー

 

『こい、獅子よ!』

 

翁が盾と剣で構えをとる。獅子はその姿を挑発と捉えたのか、翁へと飛びかかる

 

「ガァァ」

 

『ふん、この程度であるか?』

 

獅子はその言葉に応じるように更に苛烈さを増していく

 

『主よ、今だ!』

 

「任せな!」

 

文明の利器で死なないのなら、伝承通りに……!!

 

「ガァァ?」

 

「そら、子猫ちゃん!」

 

獅子の首を落とせないのなら、この腕で絞め上げるのみ!

 

グワン、グワン、ブン、ブン!

 

「ガァァ、ガァァ!」

 

「おっとっと!降り落とさせねぇぞ!」

 

ギュゥゥ

 

STRが低い俺だが、この獅子の特殊な仕様なのか?首を絞めるだけで大量のHPが削れていく。さっきの剣戟だけのダメージなんて一瞬で上回るスピードだ

 

『動くな!』

 

俺は獅子の上半身に跨り、翁は脚を抑えるように覆い被さる

 

「このままイケぇ!!」

 

ゴギッ

 

「ガァァ……ガ…」

 

シュゥゥ

 

パリン

 

獅子のHPが尽きた。その体は光となって消える

 

ポトッ。カコン。

 

「やっと終わった〜〜!」

 

『我が光よ。その務め、我は高く評価する』

 

「ありがとうな。ちょっと上から目線なのは気になるけど……」

 

『それはドロップアイテムか?』

 

翁は獅子が消えた跡に残った二つの物を指した。一つは『弓』で、もう一つは『革製の布』だ

 

「なになに……『ヘラクレスの弓』と『獅子の裘』か。これは強いな」

 

『あの獅子からドロップしたのだ。それ相応の性能を持っているのは至極当然だろう。働きに応じた報酬を受け取るのも勤勉であるために必要なことである』

 

しっかし、『弓』は違う気がするけどね……神話曰く、ヘラクレスの使っていた弓はただの弓であった。その剛腕に見合った耐久を持ち、その後にヒュドラの毒を浴びたことで不死たるケイローンさえも死なせてしまった逸話がある

 

「多分、レジェンダリーウェポンに並ぶレア度なのだろうな。せっかくだ、装備させてもらおう」

 

緑の外套の上から右肩に毛皮を被せる形で装備した。弓は『物干し竿』と入れ替えて背中に背負う

 

『ふむ。まさにかのアルゴノートに乗船していた英雄のようだぞ、主』

 

「十二の試練を成し遂げ、その末に神の座へと登った半神半人か……『ヘラの栄光』という意味の名を持つあの男には程遠いだろうさ。今の俺はまだ人間だよ。『アルケイデス』の方が合ってる……」

 

『ヌゥゥ……』

 

まだまだだ。終わりはしない。愛する人のために俺は簒奪者であり続ける

 

「さ、まだまだ道のりは長い。先に進もう」

 

『う、うむ……』

 

ザク、ザク、ザク

 

荒地を歩き出す。地中の都市に辿り着く穴を探すために

キリトの野郎はどのあたりにいるんだろうか……?

 

この日はその洞窟の入り口は見つからなかった。他のプレイヤーの攻略情報はないかと思ったが、その情報も見つからない……

 

俺たちは山頂の手前にあった無人の小屋に泊まることにした。なんの設備も無い建物だが安全にログアウトできるようにはなっているらしい

 

「今回はここまでだな。次は今日の夜からにしよう。講義があるし」

 

『主はその勤めを果すがよい。我は情報収集に専念するとしよう』

 

「じゃ、ログアウトしたら家を出るわ」

 

プツッ

 

ーーー

 

「おや、夜明くん?今日は遅いね」

 

「『先生』!」

 

「『先生』はよしてくれたまえ。今はただの同僚ではないか」

 

「これは失礼。おはようございます、重村教授」

 

昼前に学内で出会ったのは俺や茅場、伸之の学生時代の先生である『重村 徹大』。俺たちはこの人のゼミをとっていた。つまり、この人あっての俺なわけだ

 

「君は朝早くに講義をしたら、そのまま直帰するはずだが……」

 

「そんなこと言わないでくださいよ。今日は午後に一講義あるんです」

 

「そうかね。では私はこれで……」

 

スタスタスタ

 

「重村教授!………鋭二くんとは今でも連絡をーーー」

 

「いや、彼との連絡は取れていない。あの『SAO事件』以降、彼とは話しても会ってもいないよ」

 

「そ、そうですか……」

 

「聞きたいことはそれだけかね?先を急ぐのでね」

 

重村教授は足早に去っていった。何かから逃げるように

 

「『先生』………」

 

ーーー

 

ブロロロロ

 

俺は通勤にバイクを使っている。元から乗っていたし、小回りが利くので便利だ

 

ピロロロン、ピロロロン

 

メット内蔵のスピーカーから着信音がする

 

「もしもし?翁か?」

 

『主よ、急げ。かの【黒の剣士】らしき人物を見つけた。我々とは別の道、洞窟の【ルグルー回廊】に入るところである』

 

「お!やっぱり、ログインしてたなぁ。了解した、急いで向かう!」

 

ブゥゥゥゥン!

 

アクセルを回して加速する。考えていたことが的中したときのこの高揚感はいつになってもやめられねぇなww

獲物の行動を読み、誘い、仕留める

こんなだから『人狩り鴉』なんて呼ばれるんだよな、多分……

 




これは中々良い出来になったのでは?
次回もお楽しみにw


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17話 黒と緑と髑髏と狩人

やっとまともにキリトさんとリーファさん出ますよ。オリ主たちはユイちゃんとどう絡むのか?



2025年1月22日

 

ダッ、ダッ!ドンッ!

 

「急げぇ!」

 

『オオオ……オオオ……』

 

「退け!雑魚ども!オラぁ!」

 

全力で走る。全力で雑魚の群れを捌く。なぜこんなことになるのかと言うと……

 

ーーー

 

「遅くなってすまんな、翁」

 

『遅れてはいないだろう、主よ』

 

「あいつは?キリトはもう中に入ったか?」

 

『確認した。ただ問題がある。あれを見よ』

 

「ん?なんだ……どれのことだ?」

 

『森に小さな光たちが見えないか?』

 

「あれか!」

 

山の前に広がる古森にいくつかの光源があった。それらが一つの塊になって漂っている

 

「あれ……こっちに来てないか?」

 

『あれらは恐らく、魔法であろう。我らはほとんどの魔法を知らぬ。たが、情報によればあれはテイミングしたモンスターを操る際に術師の杖から出る光に非常に近い。』

 

「よくあの距離にある小さいモンからそこまで予想できるな」

 

『これくらいの事、主でも情報さえ知っていれば出来る。謙遜するではない』

 

「で、何が問題なんだ?」

 

『ここまで言っても分からぬか?あれらは【黒の剣士】を追跡しているのだ。今は尾行させていた小型モンスターを呼び寄せている。あれらは【黒の剣士】を打倒するやもしれん。なれば……』

 

「はぁ……。キリトは厄介ごとを集める呪いにでもかかってるんじゃないのか?」

 

急がなきゃ倒されかねん。ここでやられたら勝算が低くなる。伸之から奪えるものも奪えなくなる

 

「急ぐぞ!早く鉱山都市行きの坑道を探して、あのバカに助力する!」

 

ーーー

 

というわけである。焦っているのは想像以上にオークたちの数が多いからだ

 

ズバババ!

 

数頭のオークの頭を射抜く。声も許さない瞬殺で

 

「段々と人間離れしてきたかな?弓の感覚を取り戻しつつあるね!」

 

ズバババ!

 

『それは良き行いだ。かつての主がどれほどの力を誇っていたのか、我にも興味が湧いてくるというものだ』

 

ザン!ザン!

 

「へへ。そうかよ!」

 

ブン、ブン!

 

射抜けないのなら近接で払うのみ。翁の野郎、俺の扱いが上手くなりすぎてないか?煽てられてる気しかしない…

 

「待ってろよ、キリト。急いでいるのはお前だけじゃないんだ。頼むから死んでいてくれるなよ」

 

ーーー

 

ゴォォ……

 

低い音が聞こえる。これは地響き?いや、炎か!

 

キラ!

 

「出た!あれが鉱山都市か!」

 

『街に架かる橋の上で戦闘が行われているようだ。』

 

「どうやらあの炎の前にいる黒っぽいのがキリトらしいな。後ろに緑の女?もいるようだ………」

 

あいつめ。どこに行っても女の子を呼び寄せるんだな

 

『視認できる敵は12。盾役3人と後方にメイジ複数。その中央にリーダーらしき人物あり。』

 

「ほんじゃ、まずは第一射!」

 

バスっっ!

 

「とぅ!翁、着地任せたぜ?」

 

『請け負った』

 

ーーー

 

「もういいよキリトくん!やられたらまた何時間か飛べば済むことじゃない!もう諦めようよ」

 

「ーー嫌だ。俺が生きている間ばパーティーメンバーを殺させはしない。それだけは絶対嫌だ!」

 

「っ!」

 

「ウオォォォァァ!」

 

ズガァァァン!

 

何かが盾役を貫き、吹き飛ばした

狼狽えるサラマンダーたち

 

「な、なんだ?」

 

トンッ……

 

「ーーーそうさ。その男は諦めが悪い。仲間のために命を持って救う今年から考えない。………まったく。いい奴だよ、お前は!」

 

「あ、あんたは!もしかして!」

 

現れるは二つの影。一つは黒い髑髏の騎士。もう一つは……

 

「俺は簒奪者。復讐のため、愛する人のため、何より……危機にある友のため!終わらぬ辺獄より貴様らに絶望を与えに参上つかまつった、『天つ風の簒奪者』ルーキス」

 

『同じく、我は影。幽谷の淵より、暗き死を馳走に参った。【山の翁】ハサン・サッバーハである。』

 

「ルーキス!」

 

「キリトくんの知り合い?」

 

「ああ。こういう時に一番強い人だ!」

 

「翁、お前はあの女の子を守れ!キリトはそのまま突っ込め!」

 

『うむ』

 

「了解!」

 

ズガァァァン

 

ズバ、スバ、ズバババ!

 

「あんたが剣じゃなくて弓を使うなんてなぁ!」

 

「無駄口よりも手を動かせ!」

 

ギギギィィィ

 

「クソッ…!」

 

「おいおい。そんなチビ助より俺を止めてみせな!」

 

キリトから俺にヘイトが集まることであいつの動きに余裕がでる。その隙に形成逆転の必殺技を!

 

「Þeír hræða nótt dýpt,auga brott svalr (セアー・ウラーザ・ノート・ディプト、アウガ ブロット スバール)」

 

キリトが詠唱を始めると、その周りに光る文字が現れる。ほう!これが魔法か!どっかの古い言語かな?短文形式みたいだ……聞いたことがあるような、無いような…?

 

「オラァァ!」

 

ズガァァァ

 

「っ!!あの弓使いを狙え!」

 

今の一矢で2人のメイジを撃破した。サラマンダーのリーダーは魔法を発動するキリトより俺に気を向けてくれた

 

「キリト!」

 

キリトの体は爆炎に包まれ、その中から大きな影が姿を見せる

 

「おいおい……そいつはないぜ……」

 

「ガァァァァ」

 

青と黒の毛。大きな角が生えたヤギの頭。鋭い爪と牙。こいつはあの!

 

「『青い悪魔』……」

 

キリトは自らをあの悪魔へと変貌させた。今でもあれはトラウマものだ。たが、この姿になってどうする気だ?攻撃力が上がるようには見えないし、リーチの確保つったってこれじゃなくても

 

ズガガガ

 

「ガハッ!」

 

「うへ〜」

 

サラマンダーたちが容易く蹴散らされていく。その巨躯と強さに恐れ、あいつらの陣形はメチャクチャだ。えげつねぇ

 

「クソッ!」

 

リーダーが橋の下の湖へと飛び降りた。が、

 

「ギャァァ」

 

「お?」

 

どうやら水中には大型のモンスターが棲息しているみたいだ。そいつに食われたのか。サラマンダーよりこっちとやり合いてぇな……ワクワク!

 

「くッ……離せぇ!」

 

悪魔ことキリトは一人だけ生き残らせたみたいだ。尋問でもするのかね?それなら俺がやりたいんだが…

 

「いや〜、暴れた暴れた。」

 

「お前はジジイか!俺より若いくせに」

 

「よ!ナイスファイト!」

 

キリトは唯一の生き残りに微笑みかける。悪巧みしてる顔だこと……ん?このシルフの肩にいるって

 

「いい作戦だったよ。俺一人だったらやられてたなぁ」

 

「ちょ、ちょっとキリトくん⁈」

 

「まぁまぁ。さてモノは相談なんだが君………」

 

ほらな。結局は賄賂だよ。

 

ーーー

 

サラマンダーとの取引を穏便に終え、俺らは街へと歩く

 

「しっかし、なんだ?お前、あの悪魔はないだろう?」

 

「それはこっちの台詞だ。剣よりも弓の方が強いなんて知らなかったぞ?」

 

「そら言ってないからな」

 

『主…』

 

「パパ!」

 

「キリトくん?この2人は?」

 

「この人は俺の知り合いのルーキスだ。リアルでも最近再会したんだ」

 

「よろしく、お嬢さん?俺はルーキス。このバカの友達さ。君の名前は?」

 

「私はリーファ。あなたと同じシルフだけど、あなたみたいなプレイヤーは知らないわよ?あれほどの強さなら噂になっててもおかしくないはずだけど……?それに……その骨のお面の人は?」

 

『我は【山の翁】ハサン・サッバーハ。我が主、ルーキスの影である』

 

「???」

 

「こいつは俺の相棒だよ。ゲームじゃロールプレイに徹するのが自分へのルールなんだと」

 

『信仰なき者に生きる価値なし。』

 

「へ、へぇ……」

 

考えておいた受け答えが実を結んでよかった。準備しててマジよかった

 

ーーー

 

「へーー!ここが『ルグルー』かぁ!」

 

なんだリーファが案内してるようにも見えたけど、初めてなのな

 

「さっきサラマンダーとやる前にメッセージが届いてなかった?」

 

「あ、忘れてた」

 

ビロロン

 

「なによレコン、寝ちゃったのかな?」

 

レコン?また新しい名前が出てきたぞ?

 

「一応、向こうで連絡とってみたら?」

 

「そっちの方が確実でいいと思うぜ?」

 

「ふぅん。じゃあ、ちょっとだけ落ちて確認してくるからキリトくんとルーキスさん?と翁さん?は待ってて。私の体、よろしくユイちゃん」

 

「はい?」

 

「パパたちがイタズラしないように監視しててね」

 

「了解です!」

 

「あのなぁ……」

 

「ハハw 随分と勝気な子だw」

 

『ォォォ……』

 

リーファはベンチに座ってログアウトした。

 

「キリト、単刀直入に聞く。お前、あの写真を見たのか?だからALOに?」

 

「……流石だな。じゃあ、あんたも?」

 

「お前と理由は同じさ。愛する人を救うため……だろ?」

 

「……っ!じゃあ、ムラマサさんも!」

 

「デカい声だすなよ。ま、そういうこった。」

 

キリトは驚愕の色を浮かべる。理由は同じだが、俺は一つじゃあないんだよ

 

「それはおいといて……。ユイちゃん、久しぶり」

 

「お久しぶりです、ルーキスおじさん!」

 

お、おじさん……

 

「なぁ、なんであんたはユイを見て驚かないんだ?あんたはユイの何を知ってる?」

 

「知ってるんじゃなくて、同じモンがいるからだよ。この翁がな」

 

『改めて名を名乗ろう。我は山の翁。故あってこの男を主とし、影として共にある者だ。そこのピクシー、元SAOのシステムの一部たるユイと同質の存在である。』

 

「ユイと同じくシステムから切り離されたAIだと⁈」

 

「こいつは元々、ユイちゃん並びにプレイヤーの心理バイタルをチェックするAIたちのそのアルゴリズムなどの原型、アーキタイプなんだ。」

 

「私と一緒…」

 

『そう。我と汝は同じだった。例えるなら我が兄で、汝は妹か』

 

「ブハw いい例えだな、翁。まぁ、そういうことだ」

 

「そ、そうなのか……」

 

お〜お〜!怪しんでる怪しんでる。嘘はついてないぜ? 本当を言ってないだけで

 

グゥゥゥ〜

 

「おいおい、腹減ってんのか?キリトくんよぉ?」

 

「仕方ないだろ?現実じゃ、夜なんだぜ?腹も減るさ。屋台で何か買おうかと思うんだが、ルーキスはいるか?」

 

「いや、いらねぇ」

 

腹は減ってるんだ。ただ、ここでも向こうでも、俺には味が分からねぇ。味のしないガムにしか感じられないんだよ……

 

ーーー

 

「あ〜〜ん……」

 

キリトが気色悪い紫の串焼きを口にしようとしたそのとき…

 

「いかなきゃ!」

 

「うわ!どうした急に?」

 

ログアウトしていたリーファが急に覚醒して、立ち上がる

 

「お帰り、リーファ」

 

「お帰りなさい」

 

『戻ったか』

 

「キリトくん、ごめんなさい」

 

「えぇ?」

 

「ん?事件か?」

 

声色から問題が発生したと予測。なにやら思わぬ展開になりそう。

 

「急いで行かなきゃいけない用事がてきちゃった…。説明してる時間もなさそうなの…。多分、ここにも帰ってこれないかもしれない」

 

ほら、来た!コレコレ!戦いか?闘いなのか?モンスターはなさそうだな。人か?プレイヤーならまだまだやりたいぞ?

 

「じゃ、移動しながら話を聞こう」

 

「手短かに頼むよ。その感じから時間も本当になさそうだし」

 

「えっ。」

 

「どっちにしてもここから足を使って出なきゃいけないんだろ?」

 

「…わかった」

 

ーーー

 

街を出て、走る最中

 

「ーーーそれで40分後に『蝶の谷』を抜けたところでシルフとケットシーの領主の会談が始まるの」

 

「ふむふむ」

 

「なるほど、いくつか聞いていいかな?」

 

「どうぞ」

 

「シルフとケットシーの領主を襲うことでサラマンダーにはどんなメリットがあるんだ?」

 

お。肝心要の質問だ

 

「まず、同盟を邪魔することによってシルフ側から漏れた情報で領主を討たれたらケットシー側は黙ってないでしょう」

 

「そりゃそうだわな。」

 

「下手したらシルフとケットシーで戦争になるかもしれない」

 

俺はそっち方が退屈せずに済むんだけど、それは伸之をぶちのめしてからだな

 

「あとは、領主を討つと領主館に蓄積されてる資金の3割を入手できて、10日間、街を占領して税金を自由にかけられる」

 

ブチ。あ〜あ、それはダメだ。許せないわ、俺

 

「そんなことが出来るのか」

 

「だからね、キリトくん。これはシルフ族の問題だからこれ以上君が付き合ってくれる理由はないよ。多分、会談場に行ったら生きて帰れないから、またスイルベーンから出直してだろうしね」

 

「だそうだぜ?キリト。これは俺たち側の問題らしい」

 

でも、お前はそうしない。なぜなら…

 

立ち止まるリーファ。キリトも俺も翁もそれに応じて走るのをやめた

 

「もっと言うなら、世界樹の上に行きたいなら君はサラマンダーに協力するのが最善かもしれない。サラマンダーがこの作戦に成功すれば、万全の体制で世界樹の攻略に挑むと思う。……スプリガンの君なら傭兵として雇ってくれるかも」

 

拳を強く握るリーファ。そうか、この子は責任を感じているのか。キリトの目的がアスナ救出ならばここでこちらを裏切っても仕方ない。我々はシルフ。義理よりも目的を果たすにはそうするべきと理解している

 

「今ここで私たちを切っても文句はないわ……」

 

「所詮、ゲームなんだからなんでもありだ。殺したければ殺すし、奪いたければ奪う。そんな風に言う奴には嫌ってほど出くわしたよ。一面ではそれも事実だ。俺も昔はそう思っていた………。でもそうじゃないんだ。仮想世界だからこそ守らなきゃならないことがある。俺はそれを大切な人に教わった」

 

「大切な人……ね……」

 

こいつにとってのアスナ。俺にとってのムラマサ。それはあの世界で得た『自分よりも大事な存在』だ。そいつのためなら何でもできる。何でもやってやるって気概でな

 

「この世界で欲望に身を任せれば、その代償はリアルの人格へと帰っていく。……プレイヤーとキャラクターは一体なんだ。俺、リーファのこと好きだよ。友達になりたいと思う」

 

それ。受け取りようにとっちゃ、勘違いしますからね⁈

 

「例えどんな理由があっても、自分の利益のためにそういう相手を切るようなことは、俺は絶対にしない。」

 

「……キリトくん…………ありがとう」

 

「ご、ごめん。偉そうなこと言って。悪い癖なんだ」

 

「ううん。嬉しかった」

 

これだよ!これがキリトさ!

 

「よく言った、キリト!そうさ、それがお前だ!それこそが俺の信じたキリトだ!お前はそうでなくちゃならん!ハハハハハ!…………おっと時間を無駄にしてしまったかな?」

 

「ルーキス、あんたそんなキャラだったか?」

 

『主、キリト、リーファ。急がなければ間に合わなくなるぞ』

 

「そ、そうだ。ユイ、ナビよろしく」

 

「翁、お前もだ。」

 

「ちょっとお手を拝借……」

 

キリトはリーファの手を掴んだ。何する気だ……?

 

「行くぞ!」

 

ドンっ!

 

「きゃあァァァァ!」

 

「あ!急に走るな!翁!俺たちも!」

 

『うむ』

 

【早さ】ならまだしも【速さ】なら負けねぇよ

 

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

リーファの声が洞窟に響く。キリトはモンスターの合間を抜けて走り続ける

 

「人一人を引っ張ってるのに、器用なことだ」

 

バサッ。スパッ!

 

弓でモンスターたちを払いのける

 

「俺はそこまでの器用さはない。だからぁ!」

 

ズバ!

 

「こうやるしかない」

 

まてコラぁ!

 

「ありゃ………出口か?」

 

キリトは光る外へと繋がる穴に向かって走った

 

まったく。変わらんなぁ、キリトよ……

 




オリ主感が薄い気もする


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18話 赤い蜥蜴たちは竜に喰われる

キリトはユージーンと。じゃあ、オリ主は?


「おお!デカいな」

 

洞窟を抜けると世界樹の全貌が見えた。まるで岩と岩が螺旋状に捻られたような感じだ

 

「で、領主会談の場所はどのあたりだなんだ?」

 

「そうね。北西のあの山の奥よ」

 

「残り時間は?」

 

「20分」

 

「間に合ってくれよ……」

 

「間に合わせるんだよ!飛ばすぜ!」

 

ギュゥゥゥーン

 

間に合う以外に選択肢は無ぇんだよ

 

ーーー

 

蝶の谷に差し掛かるとき

 

「サラマンダーたちより先に到着するか微妙だな」

 

「そうね。警告が間に合っても、領主だけでも逃がせるかどうか。若しくはは揃って討ち死にかだと思うよ」

 

「そん時は俺が殿になって時間を稼いでやる。心配すんな」

 

『主。前方に大集団68人を感知』

 

「これが恐らく、サラマンダーの強襲部隊です」

 

クソ!先越されてたか!

 

「さらにその先に14人。シルフおよびケットシーの会議出席者と予想します。双方が接触するまであと50秒です!」

 

「間に合わなかったね……ありがとうキリトくん。ここまででいいよ。君だけでも世界樹に行って。私『たち』はサクヤを助けに行くから。……短い間だったけど楽しかった!また会えるといいね!」

 

「だそうだぜ?キリトよ」

 

「ーーーここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」

 

「ーーそう言うと思ってたぜ!」

 

ーーー

 

スドォォン!

 

サラマンダーが会談を襲うその時である。二つの影が土煙を巻き上げて、降り立つ

 

「双方、剣を引いてもらおうか!」

 

誰だ?なんだ?と聞こえる。リーファ、領主たちに話をつけるの頼んだぞ

 

「指揮官に話がある!」

 

キリトの言葉で前に出てきたのは大柄でいかにも強そうな赤い鎧を纏い、大剣を背負った男だ

 

「スプリガンがこんなとこで何をしている?」

 

「…………」

 

おい、キリト。だんまりはダメだろ?

 

「どちらにせよ殺すには変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやろう」

 

「俺の名前はキリト。スプリガン・ウンディーネ同盟の大使だ。この場を襲うからには我々、4種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな」

 

うわぁ、ハッタリにしては中々に面白いねぇw あぁ、ワクワクするぜw ニヤニヤが止めらねぇw

 

「ウンディーネとスプリガンが同盟だと……?護衛の一人もいない貴様が大使だと言うのか?」

 

「ちょい待ち。護衛ならここにいるぜ?翁!」

 

「貴様らがこいつの護衛か?同盟者たるウンディーネではなく、シルフとインプだと?」

 

『その通りである。主と我はこやつに傭兵として雇われている護衛だ。この雇い主はシルフとケットシーとの貿易交渉に来ただけだ。だが、会談が襲われたとなればそれだけでは済むまい』

 

「こちらの4種族で同盟を結んで、サラマンダーと対抗することになるだろう。」

 

「たった3人で、たいした装備も持たない貴様らをにわかに信じるわけにはいかないな」

 

シュイィィィ

 

サラマンダーの男はその背の大剣を抜く。

 

「俺の攻撃を30秒耐えたら、貴様を大使として認めよう。傭兵2人は俺の精鋭の部下達とやってもらう」

 

「あら?随分と威勢がいいことだ。舐められたモンよな」

 

下でリーファと領主のサクヤらしき人物が会話をしている。なにやらこの男、大剣使いとしてはサラマンダーだけでなく全プレイヤー中最強らしい。その剣も『魔剣 グラム』とどこぞの選定の剣だとか。サラマンダーの領主の実の弟で、知と武のバランスが取れた統治をしているらしい。

 

ふむふむ。なるほど。

 

【壊しがい】がありそうでなによりだ

 

ヒューー

 

風が吹いてきた。雲の流れが速い

 

キラッ

 

「ハァァァ!」

 

「始まったか……」

 

ーーー

 

『シャッ!』

 

ガッキィィン

 

「翁!そのまま押さえてろ!オラァ!」

 

ズバ…

 

「ふぅ……。これで5人!」

 

『油断するな、主』

 

バンッ

 

「わかってるよ!」

 

ブシュッ

 

右手に『物干し竿』を。左手に名も無き短剣を。俺たちを取り囲むは幾人ものサラマンダー。それらの強さは並大抵のものではない。鍛錬に鍛錬を重ね、いくつもの戦場を駆けたのだろう。息の合い様、個々の武、仲間が殺されているにもかかわらず立ち向かってくる勇気。そのどれもが心からの賞賛に値する!

 

「期待通りでなによりだ!……もっとだ。もっと、もっと、もっと、もっとぉ!」

 

ズバ、ズバ!

滾る、昂ぶる、沸き上がる!

 

「俺を楽しませろォ!トカゲどもぉ!」

 

気持ちが止められない!いや、止めたくない!この感覚、この音!これだよ、これなんだよ!殺しはこうでなくちゃいけねぇ。圧倒的な数の暴力を、塵芥のように、喰い散らかすように、更なる力で跡形も残さず、潰してこその闘争だ!

 

「でも、アレだな。やっぱり、こいつらじゃダメだわ。」

 

『物干し竿』と短剣を蔵う。俺は背中の弓を手に取る

 

「新しいオモチャで遊びたくなるのは、いつまでたってもワクワクするもんさ!」

 

こっちは楽しいんだが、キリトはどうだ?

 

……ガギィ、ガンッ!……

 

ほぅ。あのサラマンダー、ユージーンだったか?あの剣、防御行動を無視するのか。一回こっきりだが、一撃が重い大剣ならその効果は大きかろう。まあ、キリトが勝つことに変わりはないが

 

「そろそろ、大技行っとくか!」

 

『主………』

 

翁が悲しそうな目で俺を見る。そうだよ。俺はお前の掲げる信仰からはかけ離れている。お前に求めたのは俺に無いものばかりだからな。始まりは似ていても、結末は違うさ

 

弓を正面に構えて、詠唱を始める

 

「Ek skýt noun verb níu draca ör (エック・スキート・ノウン・ベーブ・ヌル・ドラカ・エール)………」

 

グギギギ…

 

弦を引き絞る。これぞ、かの大英雄が数多の首を持つ竜を殺した武芸の一つ!かの不死たる毒の竜ほどでは無いが、お前たちのその強さへの賞賛と受け取れ……!

 

「射殺す百頭‼︎」

 

放たれしは九つの竜。射手の狙いし対象を喰らうまで地の果てまでを追い続ける。幻想を殺し尽くすための技術。弓を用いたのならば、こうなるものである

 

グワ〜!ギャア〜!

 

いくつもの断末魔が聞こえる。本来、人へ向けたものではない。これは十二の難行の怪物を倒す為に編み出されたものだ。それを人が受けたらばどうなるのかは必然だ

 

「MP全部持ってかれたぞ……。これで半数くらいは消し飛んだか?」

 

「オラァァ!」

 

スドォォン

 

爆炎が地面へと落ちていく。キリトの奴も終わったようだ

 

「あっぱれ!見事!見事!」

 

「すご〜い!ナイスファイトだよ!」

 

ウォーーーー

 

歓声が上がる。シルフやケットシーはもちろん、サラマンダーたちも完敗した、あっぱれって顔をしてる。ちらほら、しかめっ面が居るが……

 

『主……。』

「お疲れ様、翁」

 

『……主は楽しんでいた。戦いに悦を感じる者は少なからずいる。それでも、主のアレは別である。そうであろう?』

 

「……それについてはノーコメントで。今はまだ『狂人』で収まる程度だ。俺が『獣』になったら………そのときは頼む。お前しか俺を殺せないからな」

 

『我が主、我が光よ………』

 

ーーー

 

「見事な腕だったな。」

 

シルフ領主のサクヤが復活魔法でユージーンを蘇生させた。

 

「俺が今まで見た中で、最強のプレイヤーだ貴様は」

 

「おい?俺は?」

 

「そりゃ、どうも」

 

「貴様のような男がスプリガンにいたとは…。世界は広いということか」

 

「ちょっと⁉︎俺には何の言葉もないの?」

 

まぁまぁされても嬉しくないの!翁、頭撫でるのやめろ!

 

「俺の話、信じてくれるか?」

 

「ぬぅ……」

 

緊張が走る。ここでNOとなったらそれこそ全面戦争だ。さぁ、どうでる?

 

「ジンさん、ちょっといいか?」

 

「カゲムネか、なんだ。」

声の主はサラマンダーのランス使いだ。さっきの乱闘の中でもピカイチの強さを感じた奴だ。雰囲気からこの部隊のナンバー2だと思われる

 

「昨日、俺のパーティーが全滅させられたのは知ってると思う。その相手がまさにこのスプリガンなんだけど……確かに連れにウンディーネがいたよ」

 

「…っ」

リーファが妙な反応したな。なんだ?こいつら何かあったのか?

 

「そうか。そういうことにしておこう」

成る程ね。一回、やりあったのか。いや〜、俺、察し良すぎ

 

「確かに、現状ウンディーネやスプリガンとことを構えるつもりは俺にも領主にもない。この場は退こう。だが、貴様とはもう一度戦うぞ。」

 

「望むところだ。」

 

グッ

 

キリトとユージーンはグータッチをした

 

「貴様とも戦ってみたいものだ。我らの軍と1人で渡り合ったのだからな」

 

ユージーンは俺の顔を見てそう言った。ギラギラしたいい目だ。猛者って感じがビリビリ伝わってくるぜ

 

「……嬉しいね。俺が弓を使う時は対軍、刀を使う時は対人のつもりでやるからな。お前さんの好きな方で受けて立つさ。いつでも訪ねてきな」

 

「そうさせてもらおう」

 

ーーー

 

「行ったな」

 

ユージーン達、サラマンダー部隊は自らの領地へと飛んでいった。

 

「サラマンダーにも話のわかる奴がいるじゃないか」

 

「あんたらって本当に無茶苦茶だわ」

「よく言われるよ」

 

「むしろ誉め言葉だ」

 

「ンン!すまんが、状況を説明してもらえると助かる」

 

ーーー

 

「成る程な。シグルドの態度に苛立ちめいたものがあるのは私も感じていた」

 

「苛立ち?何に対して?」

 

「多分、彼には許せなかったんだろうな。勢力的にサラマンダーに後陣をはいしているこの状況が。」

 

あ、これ。めんどくさいやつだ。あんまり首を突っ込むのは好きじゃないんだよなぁ。政治はからっきしだし

 

「翁……」

 

小声で翁を寄せる

 

「すまんが、俺にはこの手の話は手に余る。お前が後から説明してほしいんだけど……」

 

『その怠慢、我はそのようなことを主に望まないのだが…………よかろう。請け負った。できぬことを強いるほど我は厳しくはない』

 

「ありがとう」

 

ーーー

 

「御礼ならこのキリトくんとルーキスさんにどうぞ」

 

「そうだ。君らは一体?」

 

「ねぇ、君。スプリガンとウンディーネの大使って本当なの?」

 

どうやらめんどくさいのは終わったらしいな。仲間割れしてたようにも見えたが、俺にはどうでもいい

 

「ん?もちろん、大嘘だ!ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション!」

 

「ブハw やっぱりお前さんは『キリト』だなw 俺の見込んだ通りの奴だよ」

 

「無茶な男だな。あの状況でそんな大ボラを吹くとは」

 

「手札が多い時はとりあえずレイズする主義なんだ」

 

スリスリスリ

 

「大嘘付きにしては随分強いね君。スプリガンの秘密兵器だったりするのかな?」

 

「あ!」

 

ケットシーの領主、アリシャだっけ?に擦り寄られるキリト。羨ましいとは思わずが、アスナが知ったらどうなることやら………。冷や汗が出てくるわ

 

「キリトくんだったかな?個人的興味もあるので、この後スイルベーンで酒でも……」

 

サクヤにも迫られる始末。こいつのハーレム属性は最早、呪いの領域に達しているのでは?畏怖すら覚えるぞ

 

「ダメです!キリトくんは私の!私の…………えっと私の……」

 

『この男、中々の器だな』

 

翁まで⁈ おいおい、どうなってやがる?俺も同じくらいの活躍してよね?まぁ、狂気じみた感はあったけどさ。なんかあってもいいだろ?言い寄られても靡くことは絶対にないんだけど。俺の沽券に関わってくる

 

「お言葉はありがたいんですが、すいません。俺は彼女に世界樹まで連れていってもらう約束をしてるんです」

 

「ほう?それは残念。アルンに行くのか、リーファ。物見遊山か?それとも………」

 

「領地を出る……つもりだったけどね。でも、いつになる分からないけど、きっとスイルベーンに帰るわ」

 

「そうか、ホッとしたよ。必ず戻って来てくれよ。彼も一緒にね」

 

「途中で内にも寄ってね!大歓迎するよ!」

 

「金欠の俺は何かないの?」

 

「そう……君だよ、君。あの戦い方、あの刀、あの弓。あれほどの強さを持つシルフなんで、領主の私でも聞いたことがないぞ?」

 

「このキリトくんの傭兵さんも世界樹に行くの?」

 

「ああ。行くぜ?この翁も一緒にな」

 

『我らは表裏一体。光と影。我が光たる主が黒き妖精とともに行くというのならば、我はそれに従うのみ』

 

警戒されてるな。当然か。あれほど暴れた奴を警戒しない方がおかしいわな。なんとかせねば………

 

ーーー

 

「今日は本当にありがとう、リーファ、キリトくん、ルーキス、翁。私たちが討たれていたらサラマンダーとの格差は決定的なものになっていたと思う。何か礼をしたいのだが……?」

 

「いや〜」

 

「そちらの都合もあるだろう。今すぐじゃなくてもいいだろうに」

 

「ねぇ、サクヤ、アリシャさん。今度の同盟って世界樹攻略の為なんでしょ」

 

「ああ。まぁ、究極的にはな」

 

「その攻略に私たちも同行させて欲しいの。それも、出来るだけ早く。」

 

顔を見合わせるサクヤとアリシャ

 

「同行は構わない。むしろこちらから頼みたいほどだよ。しかし、なぜそんなに急いでいる?」

 

「………」

 

チラッ

 

キリトを見るリーファ。ま、俺も同じなんだけどさ。『愛する人を救うため』。口にするには俺たちじゃ、まだまだ足りない

 

「俺がこの世界に来たのも世界樹の上に行きたいからなんだ。そこにいるかもしれない『ある人』に会うために……」

 

「俺はそんなこいつの心意気に賛同したからだ。…………ってのは建前で、俺は『ある馬鹿野郎』をブッ飛ばすために来たんだが」

 

「キリトくんが言っているのは『妖精王 オベイロン』のことか?」

 

「いや、違う。兎に角、リアルで連絡が取れないんだけど……どうしても合わなきゃいけないんだ。」

 

その意思。その決意。俺は高く評価するよ、キリト。それでこそ俺の惚れ込んだ男だよ

 

「でも、全員の攻略装備を揃えるのにしばらく時間がかかると思うんだよ?とても1日や2日じゃあ………」

 

「そっか………。そうだよな……。俺もとりあえず樹の根元まで行くのが目的だから、後はなんとかするよ。ーーーあ、そうだ。よかったら、コレ資金の足しにしてくれ」

 

キリトはウィンドから大きな袋を取り出した。中にはこの世界の貨幣が詰まっているように見えるが………欲しいと思ってしまった自分が恥ずかしい

 

「うわぁ!サ、サクヤちゃん、見て!」

 

「ん?」

 

袋を落としそうになるアリシャ。サクヤもそれを見て訝しんだ。そんなにあげたのか⁉︎ いいなぁぁぁぁ

 

「10万ユルドミスリル貨がこんなに!」

 

10万⁈ あれ全部が⁉︎ こ、こいつめ。どれだけ貯めてきたんだ?道中にそんなに敵倒してたのか?

 

「いいのか?一等地にちょっとした城が建つぞ?」

 

「構わない。俺にはもう必要ない」

 

「これだけあればかなり目標金額に近づけると思うよ!」

 

「大至急装備を揃えて、準備ができたら連絡させてもらう」

 

「よろしく頼む」

 

「あ。俺からも一つ……」

 

「なんだ?」

 

「人探しをやってほしいんだ。『ある奴ら』をね。ケットシーかシルフか、それとも他の種族か……そちらの2種族の中だけでいい。『あいつら』ならこの世界に来てるはずだからな」

 

「して、それは?」

 

「それはな……ゴニョゴニョゴニョ……」

 

ーーー

 

辺りはすっかり黄昏時になった。夕日が空を赤く染めている

 

「ありがとう!また会おうねー」

 

シルフとケットシーたちはそれぞれの領地へと帰っていった。

 

「なんだかさっきまでの出来事が嘘みたい」

 

「まったくもう!浮気はダメって言ったです、パパ!」

 

「うわ!」

 

ユイちゃんがキリトと胸ポケットから顔を出す。なんだか久しぶりの感じがしなくもない

 

「なんだよいきなり」

 

「領主さんたちにくっつかれた時、ドキドキしてました」

 

キリトの肩に乗って説教を始めるユイちゃん。フフ、親子ってのはままならないものだな。………子供かぁ。

 

「ね、ねぇ、ユイちゃん。私はいいの?」

 

え。それ聞いちゃう?危なくない?

 

「リーファさんは大丈夫みたいです。」

 

「な、なんで⁈」

 

「う〜〜ん……。リーファはあんまり女の子って感じしないんだよな」

 

「ちょ、それってどういう意味!」

 

チャキ。刀に手をかけるリーファ。ほら。な?こうなるだろ?

 

「し、親しみやすいっていうか……いい意味でだよ」

 

『キリトよ。それは些かに女子へかける言葉とは思えぬぞ』

 

「翁に言われるほどだぜ?ハハw」

 

「そ、そんなことよりアルンまで早く飛ぼうぜ?日が暮れちゃうよ!」

 

「誤魔化したな!飛ぶんじゃねえ!」

 

「あ!こら待ちなさい!」

 

いい仲間って感じがしてきたんじゃねぇか?うん、いいね!これこれ!

 

首を洗って待っておけよ、伸之。いや、オベイロン!その椅子から引きずり下ろしてやるぁ!




疲れた……

ナポレオン欲すぃ……

宝具5にしたい

あと4枚


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19話 偽りの真実

今回は短め。切り方をアニメ基準にするとこうなっちゃいますね



「うわぁ〜!」

 

「随分と栄えた街だな!」

 

夜空の星々の光よりも明るく輝いている。ここがこの世界の中心か

 

「世界樹……」

 

「うん。間違いない。ここがアルンだよ!アルヴヘイムの中心、世界最大の都市!」

 

「ああ。ようやく着いたな」

 

「私、こんな大きな街に来たの初めてです」

 

SAOでもこれくらい大きな街はなかったなぁ。始まりの街よりも大きいよな?

 

『人の営みに溢れている。よいものだ』

 

ヴォォォン

 

「「「ん?」」」

 

【本日、1月22日午前4時から午後3時まで全メンテナンスのためサーバーがクローズされます。プレイヤーの皆様は10分前にログアウトをお願いします。繰り返します………】

 

「ふぅ………」

 

「ふわぁぁ。今日はここまでだね。一応、宿屋でログアウトしよ」

 

「ああ……」

 

キリト……

 

「さぁ、宿屋を探そうぜ?俺もうスカンピンだからあんま豪華じゃないところがいいな」

 

「カッコつけてサクヤたちに全財産渡しちまったんだろ?宿代くらいは残しとけっての」

 

「へへへ」

 

「パパはああ言ってるけど、近くに安い宿屋はある?」

 

「う〜ん…あっちを降りたところに激安のがあるみたいです!」

 

「激安かぁ〜」

 

激安ねぇ……野宿するよりはマシだろうに。そこまで露骨な顔せんでも

 

「さぁ、行くぞ。」

 

「はいよ」

 

「ちょ、キリトく〜ん!ルーキスさ〜ん!」

 

ーーー

 

「なぁ、ムラマサ。今朝な、大学の学長に呼び出されたんだよ」

 

ALOがメンテナンス中である現在、俺はムラマサの病室に来ている。今朝、PCに大学の学長からのメールが来ていた。受信したのは昨晩とあったので、緊急の用事かと開くと『明日、早く来てくれ』という内容が書かれていた。そのあとにここに来ている

 

「それでさ、またその話がとんでもないモンでよ。まったく、いくらバリバリに働いてるからってありゃないぜ?」

 

話の内容はこうだ。『近々、SAO内に囚われていた10代の若者たちのための学校を作る。君にはそこの教師として着任してもらいたい』とのことだ。

 

はい?ドユコト?

 

学長曰く『君は知ってか知らずか、あの茅場に加担したという事実がある。それに君は教える立場としての力もある。それらの点より君にはそうしてもらうのがこちらとしても都合がいい』

 

結局、俺がもう邪魔になってきたってことでしょ?こちとら雇われの身ですから逆らえはしないですし、従いますよ?

 

というようなことがあった。

 

「人使いが荒いったらありゃしねぇ。いくらお世話になってる人でもちょっとイライラするぜ」

 

学長は俺が講師になる時に他のお偉いさんが拒否する中で、重村教授と共に俺を擁護してくれた恩人だ。SAOからの復帰後も、その席を2年もの空白の期間がありながらもキープしてくれていた。この数年で一番お世話になった人だ。

 

「確かにそんな感じの学校ができるとは聞いてたけど、まさか自分がその先生になるとは思いもしなかったよ。免許とかはどうなるのかね?ま、あの人なりのエールなのかな?………少し気にかかることはあるんだけどね………」

 

ーーー

 

「遅いじゃねぇか、キリト」

 

「わりぃわりぃ」

 

帰ってきてすぐにALOに入った。なんとなくだが、今日明日くらいで決着がつきそうな気がする

 

「うわぁ!すごい賑やかなだね!」

 

「さすがアルヴヘイムの中心…」

「色んな種族のプレイヤーがいるな。」

 

「ここには大陸全土の種族の妖精が集まってるみたいです」

 

『主よ』

 

「なんだ、翁?」

『我がこのような思いを抱くとは思えなんだが…………ここは良い。我はこのような世があり続けて欲しいと願う』

 

ガシッ

 

翁の肩を掴み寄せる

 

「ハハ……嬉しいこと言うじゃねぇか。泣けてくるね」

『何も泣くほどことではなかろう?』

 

「いや、泣けるね。少なくとも俺にとっては号泣ものさ」

 

息子の成長を感じる親の気分だよ……

 

ーーー

 

「これが世界樹……」

 

キリトが感嘆するのもわかる。これほど大きなものはSAOにはなかったからな。アインクラッド城よりも大きいよな、これ?

 

「とりあえず、根元まで行ってみよう」

 

「「了解」」

 

そのまま世界樹へと歩く。この旅もそろそろ終わりを迎えると思うと感慨深いものがある。短くも面白いことばかりだった。最初に出会ったのはフカ次郎、獅子との闘い、サラマンダーとのいざこざ。色々あったもんだ

 

「あのゲートをくぐれば世界の中心、アルン中央市街だよ。」

 

リーファが指差したのは大きな門だ。アラビアンテイストなデザインなのはいい。俺好みではある

 

「あ!」

 

「おい、ユイ。どうしたんだ?」

 

『主!これは……⁈』

 

「翁?お前も⁈」

 

ユイちゃんと翁が何かに反応した。二人とも空を見上げて指を差している

 

「ママ……」

 

「んな!」

 

「ママが……います……」

 

「ホントか?」

 

「間違いありません。このプレイヤーIDはママのものです!」

 

『我も感知した。ユイ殿の言葉通り、これは間違いなく【かの者】のものである。』

 

「座標はまっすぐこの上空です!」

 

ズバッッ

 

「あ、待て!キリト!」

 

「キリトくん!キリトく〜〜ん!」

 

ドンッッ

 

飛んだキリトを追う。待ちやがれ、キリト!そのまま飛んでも上には行けねぇぞ!

 

「アスナ………そこにいるのか?ムラマサ……君は………」

 

キリトめ。その危うさはお前の良い所でもあり悪い所でもある。俺はそれを高く評価するが………

 

踏み外すなよ、キリト

俺みたいにはなるな

俺みたいな『復讐の獣』には

『恩讐の化身』には

 

ーーー

 

むか〜しむかし

むかしといってもそれほどむかしではないむかし

あるおとこがいました

おとこはさむいあくるひにめがさめました

まわりにはむすうのがれきとおおくのひとのしたいがころがっておりました

おとこのからだもきずだらけでいまにもしんでしまいそうでした

そのあとおとこはたすけられました

ですがおとこにはあることがおきていました

じぶんがだれでどうしてあそこにいたのかがわかりませんでした

ただおとこには『夜明 竜』とかかれたうでわしかありませんでした

おとこはじぶんをこんなふうにしたやつに『復讐』をしてやろうとつよくおもいました

 

それからの男は形のない相手を一刻も早く見つけ、どれほど苦しませて殺すべきかだけを考えて生きていきました。その過程で数多の人間を殺しました。ようやく自らの恨みを晴らしたときには取り返しのつかないある事が男の身に起きていました。

 

『この渇きの潤せるのは人の血だけ、この飢えを満たせるのは人の肉だけだ』

 

としか思えなくなっていました。男は人を殺すか、女を抱くかでしかその衝動を止めることができなくなっていたのです

ですが、ある日のことです

男はある青年に出会いました。

その青年との出会いは男が変わるきっかけになったのですが……

 

それはまた別のお話

 




ベビーモスくん、そこまで強くないっすよね〜
FF15のカイザーのほうが強かった


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20話 グランド・クエスト

今回を含めてあと数回でALO編は終わっちゃいますね。う〜ん、GGO編の武器がまだ決まってないの、どうしよう……


ドゥンッッ

 

何もない空中に壁があるかのように衝撃が走る

 

「おい、キリト!」

 

「クソッ!何なんだよ!」

 

「それが高度制限ってやつだ!それ以上は上には行けねぇ!」

 

「キリトくん!無理だよ!それ以上は上に行けないんだよ!」

 

壁にぶつかろうとするキリトをリーファが必死に引いている

 

「ママ!私です、ママ〜!」

 

キラッ

 

『主!あれを!』

 

「なんだありゃ?」

 

上空から光る何かが落ちて来た

 

「これは?カード……リーファ、これなんだか分かる?」

 

「ううん……。そんなアイテム見たことないよ」

 

キリトがそのカードを受け止めてリーファに見せるが、ALOのアイテムではないらしい

 

「ユイちゃん、君なら分かるかい?」

 

「これ……これはシステム管理用のアクセスコードです!」

 

「んな!」

 

「じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか⁈」

 

「いいえ……。ゲーム内からシステムにアクセスするには対応するコンソールが必要です。私でもシステムメニューは呼び出せないんです…」

 

「そうか…………でもそんなものが理由も無く落ちてくる訳ないよな。これは多分……」

 

「…はい!これはママが私たちに気づいて落としたんだと思います!」

 

「翁、お前の感知範囲には反応が無いのか?」

 

『いいや、我にも感知はできぬ。ただ、その方角に何者かの存在はそのカードで確認された』

 

「………リーファ、教えてくれ。世界樹の中に通じてるっていうゲートはどこにある?」

 

「えっ!えっと…樹の根元にあるドームの中だけど…でも無理だよ!あそこはガーディアンに守られてて、今までどんな大軍でも突破できなかったんだよ!」

 

「それでも行かなきゃいけないんだ」

 

「『今まで』が無理だっただけだろ?『今なら』行けるかもしれねぇ。可能性がそこにあるなら挑むべきだ」

 

そっとリーファの手を握るキリト

 

「ここからは俺一人でいくよ」

 

「違うわ!俺も行くんだよ」

 

「……………!」

 

何か言いたげな顔のリーファ。これはあれだな、やっちまってるな

 

ビュンッ!

 

あ、キリトの奴!

 

ドンッ!

 

俺と翁はキリトを追って下に急ぐ

 

「翁!キリトはおそらくそのドームに向かうはずだ、それはどこにある?」

 

『前方の階段の上だ』

 

「飛ばすぞ!」

 

ーーー

 

「間に合ったか……ほぅ!これが最後の門ね」

 

十数メートルはあろうかという騎士が大きな扉の左右に立っている。

 

ザク、ザク、ザク

 

ゴゴゴ……

 

騎士の剣が門を守った

 

【未だ天の高みを知らぬ者よ。王の城へと至らんと欲するか?】

 

騎士の像が俺たちに語りかける。

 

ピコン

 

「これは最終確認か……」

 

グランド・クエストに挑むかどうかのウィンドが現れる

 

ポチ

 

「行くぞ、キリト、翁」

 

「ああ、絶対にクリアしてやる!」

 

『主が行く所、そこが我の戦場である』

 

ゴゴゴ………

 

【されば、そなたの背の双翼の天翔けるに足ることを示すがよい】

 

「行くぞ、ユイ。しっかり頭を引っ込めてろ」

 

「パパ、頑張って」

 

「翁、背中は任せた」

 

『請け負った。主が影として我が剣、存分に振るおう』

 

トン、トン、トン

 

ブォォォン

 

暗がりを歩き出すと、ドーム内に光が灯った。広いドームの壁にはいくつもの丸がある。上を見上げると遥か先にその上に続くであろう入り口が見える

 

「いっけぇぇぇぇぇ!」

 

「そのまま行け、キリト!翁と俺で援護する!」

 

頼むぜ『ヘラクレスの弓』お前が頼りだ

 

キラキラ

 

壁から剣を携えた騎士が出てくる

 

「そこを退けぇぇ!」

 

ドスッ

 

瞬殺するキリト

 

キラキラ、キラキラ、キラキラ

 

「おいおい、マジか…」

 

壁から瞬殺された騎士と同じ奴らが現れる

 

「こりゃあ、ヤッベぇなw」

 

『笑い事ではないぞ、主』

 

「いや何……これで本気になれるってもんよ」

これでいい!これこそが求めいた闘争!あの時と同じだ、ラフコフ討伐と!いや、あれ以上だぜ!

 

ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン

 

「晩鐘も鳴ったな……それじゃ、祝砲と行こうか!ーーーEk skýt noun verb níu draca ör níu draca ……

ーー射殺す百頭!」

 

『シャァ!』

 

ザク

 

チュドーーーン

 

開戦の火蓋は切って落とされた。さぁ、伸之。お前に会えるのもあと少しだぜ

 

ーーー

 

キラキラ、キラキラ、キラキラ

 

「また増援か⁈クソッ、数が多いなぁ!」

 

ドス、ドス

 

『いや、主!あれば違う!』

 

ドシュ

 

「弓兵部隊か!キリトぉ!」

 

「おおおお!」

 

さっきまでいた騎士たちは消え、辺りのエネミーは全てが弓兵になっていた

 

「翁ぁ!キリトを守れ!」

 

『しかし、主よ!』

 

「いいから行け!早く!」

 

ギギギ、ギギギ

 

弓兵たちの弓は引き絞られ今にも矢が放たれそうだ。弓じゃ間に合わん!『これ』で!

 

バシュ

 

バシュ、バシュ、バシュ

 

無数の矢が降りそそぐ。翁とキリトは矢の爆破で見えなくなった。これで死ぬタマじゃないと思うが……

 

サク、サク、サク、

 

キィン、キィン、キィン

 

「ハっ!テメぇらの矢ごときにやられる俺ではないぞ?この刀は受け流すことに長けている。この程度、『あの侍』には効くまい……」

 

ー『物干し竿』。無限の剣を身につけた男の愛刀

 

「落とし甲斐のありそうな首たちよな。貴様らの本気、このくらいだとは言わせぬぞ?」

 

ーーー

「ガハッ」

 

『主!キリトが!』

 

「ええい、クソッタレどもが!」

 

キリトが死にやがった。蘇生まで600秒の猶予があるが、その魔法を使えない俺たちにはどうすることもできん。この期間に対処しなければどこで復活できるのか?クソッ。どうにかならんのか!

 

ブン

 

「お前らの剣に当たるかよ!秘剣…『燕返し』」

 

ザン、ザン、ザン

 

後ろから剣を振りかざしてきた騎士の攻撃を避け、『燕返し』を叩き込む

 

『主!撤退を、撤退を進言する!このままでは……!』

 

「いくら一匹一匹が雑魚でも、この数はどうにもなんねぇ。だけどな!殿がいなきゃ逃げるものも逃げられるねぇ!あと一人…居れば……」

 

「キリトく〜〜〜ん!」

 

「リーファ‼︎」

 

リーファが来てくれた!

 

「リーファ!キリトを頼む!翁も一緒に行けぇ!」

 

「うん!」

 

翁はリーファにキリトの魂を渡し、門へと急ぐ

 

バシュ!

 

「危ねぇ!」

 

リーファへと矢が飛んでいった。あれじゃあ、避けられねぇ!

 

ザンッッ

 

『主が命に従い、この妖精には手を出させぬ!』

 

「さっすが〜〜」

 

ビュンッ

 

『主よ!早く!門が閉じるぞ!』

 

ゴゴゴ………

 

「そう言ってもなっ!」

 

ザンッ!

 

「まだ惹きつけられる!俺の速さならまだ大丈夫だ!」

 

『主……』

 

カッコつけてはみたものの、そろそろヤバい……!

 

「逃げるのは嫌なんだけど……これ以上はテメェらとはやり合えそうにないわ!」

 

ビュンッ

 

最高速度で突き抜ける。閉まるなよぉぉ!

 

ゴゴゴ…

 

「オリャァァァァァァ!」

 

ファ………

 

一瞬視界が白くなり、青い空が見えた

 

ゴゴゴ…バタン!

 

「ギリギリかよ……」

 

スッ

 

地上に降りるとリーファがキリトを蘇生させていた。どうやらアイテムを使用したようだ。魔法だったら覚えておきたかったけど………キリトと俺と翁だけじゃ無理だ。サクヤやアリシャたちの援軍が到着するまで待った方がいいのか?いや、この間にもムラマサは……

 

「ーーーーでも、もうあんな無茶はしないでくれ。俺は大丈夫だから。これ以上、迷惑をかけたくない」

 

「迷惑なんて!私……!」

 

「キリト!お前、その言葉はなんだ!」

 

ザク、ザク、ザク

 

キリトは再び門へと歩き出す

 

「おい、キリト!」

 

「待って!一人じゃ無理だよ!」

 

「でも行かなきゃ……」

 

バスッ

 

リーファがキリトに後ろから抱きつく。

 

「もう………もうやめて……。いつものキリトくんに戻ってよ…。私……キリトくんのこと……」

 

今それはダメだ!リーファ!

 

「リーファ……。あそこに行かないと何も終わらないし、何も始まらないんだ。合わなきゃいけないんだ、もう一度。……もう一度、『アスナ』に」

 

「えっ………。今、今なんて…」

 

「ああ……アスナ。俺の探してる人の名前だよ」

 

リーファ、君の恋心は叶わない。もうそいつには決めた相手がいるんだ。そいつはアスナの為ならば命だって捨てる奴だ。君の恋よりもアスナとの愛の方が強い

 

「でも………だって……」

 

リーファはキリトから手を離し、遠ざかる

 

ん?様子が変だ。好きな人にもう相手がいただけで、ああなるか?いや、俺は女ではないし、ムラマサなら分かるかもだけど……

 

「だって……その人は……………

 

 

『お兄ちゃん』

 

 

なの………?」

 

え…………???

えっ!!!

なんだとぉぉぉぉォォァ⁈???⁈!

 

「えっ…………スグ…『直葉』⁈」

 

くぁwせdrftgyふじこlp!!

待て待て待て待てぇぇぇぇぇい!

なんだこの展開は!ドッキリか?これは俺へのドッキリなのか⁈

そんなわけは無いとはわかってるけど………これは、修羅場の予感!

 

「ひどいよ…………こんなの………。あんまりだよ………」

 

「す、直葉……スグ!」

 

ポチ

 

ヒュゥゥン

 

リーファはログアウトしてしまった。呆然としてままのキリト

 

「おい、キリト!追いかけんかい!お前とリーファの関係は知らん。が、これだけは言える『お前はあの子と話すべきだ』」

 

「あ、ああ………!」

 

ポチ

 

「行ったか………」

 

『主よ、この後は如何する?』

 

「そうさな…………。色々あって頭がパンクしそうだ、ちょっと休憩でもしてようかね」

 

『了解した。ならば、その辺りにでも…………』

 

ちょっとこれは無理だ

兎に角はクールダウンしなくちゃ………

 




アニメ3期、廃人になるのはまだかなぁ……


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21話 最終局面

副題、難しい



「お〜い、ルーキスぅ?翁さぁん?」

 

「んにゃ……戻ってきたか、キリト」

 

んしょっと……

 

ビュゥン

 

「お帰り、キリト」

 

「ああ。さっきはすまなかった……」

 

「気にすんなよ。ちょっと驚いたが、あれくらいでチームワークを乱すほど弱いわけじゃねぇよ、俺は。」

 

「そっか……」

 

「で、肝心のリーファは戻ってくるのか?来ないのか?」

 

「分からない………あいつは………」

 

「みなまで言う必要はねぇよ。お前さんらのリアルに口出しはしない」

 

「…………ルーキス、ちょっとついて来てくれるか?」

 

「了解。翁も来いよ」

 

『うむ』

 

ーーー

 

ヒョーーー

 

「聞こえた……………そろそろ見えるぞ」

 

「分かった」

 

キリトはリーファの待ち合わせるのに町から離れた神殿跡を選んだようだ。ここて何しようってんだ?

 

「やぁ」

 

「おまたせ」

 

「スグ……」

 

ピシッ

 

「『お兄ちゃん』、試合しよ」

 

「ほぅ………」

 

やはり、本物の兄妹らしいな。運命とはままならないものだ。なんつう偶然か……これ以上は何があっても驚かない自信があるね

 

「あの日の続き……」

 

「ああ。今度は手加減無しだ」

 

シュィィン、チャキ

 

二人は剣を構える。リーファは太刀か……打刀の長さの太刀って感じか

キリトはそのまま大剣と……

「通りで様になってた訳だ……」

 

ん?リーファさん?その言葉……まぁ、いい

 

「それじゃ、この立ち会いは俺が仕切らせもらう。制限時間はなし、どちらかのHPが全損するか降参宣言をするまでだからな……それでは、始めぇぇ!」

 

ジャッ

 

「行くよ!!!」

 

リーファが開始と同時に仕掛ける。構えは『燕返し』に似てるが、平手突きなのは普通だな。筋はあるし、才能も感じるけど……

 

キィン!

 

「そうなるよな」

 

キリトはほんの少しの返しでリーファの突きを捌く。うん、経験値があれば……

 

ブンッ

 

ブワァッ

 

「速い!空中ならリーファが上か!」

 

リーファはキリトと剣を飛行で躱す。

 

「あ!コラ!遠くまで行くなよ!」

 

キリトたちは空中戦を選んだらしい。空中でならリーファの方が上手だが……キリトはどうする?

 

『主、我があれらを見ておこう。主は先程の門に行ってはくれぬか?何奴かは分からぬが、シルフの男が一人…』

 

「別に居てもおかしくないと思うんだが………お前の言葉だ。信じよう。あいつらを頼んだぞ」

 

ブゥゥ〜ン

 

翁からあんな言葉を聞くなんてなぁ……気になるし、さっさと向かうとしますか

 

ーーー

 

「…っと。ちょっと君〜?」

 

「あ、はい!」

 

そこにいたのはひ弱そうな男の子だった。

 

「シルフ族の君が一人でこんなところまで来たのはなんでだい?遠くから見えたんで声をかけようかなっと来たんだけど」

 

「え……えっと……僕は人を待ってて」

 

「ほぅ!それは同じシルフの女の子のことかい?」

 

「そうです!もしかしてリーファちゃんとお知り合いですか!僕は『レコン』というんですけどーー」

 

「まあまあ落ち着いて。俺はルーキス。リーファとは知り合いといえば知り合いだよ。もうすぐ帰ってきてもいい頃合いなんだけど………そら来たぜ」

 

キリトとリーファ、翁が飛んでくる姿が見えた

 

「っと。手間とらせてすまなかった、ルーキス」

 

「んな訳あるかい!お前さんの頼みだ。むしろ歓迎するよ」

 

「ふふw やっぱり仲がいいんだね」

 

「ええっと……。どうなってるの?」

 

「世界樹を攻略するのよ。この人とあんたとその人とあの人と私の5人で」

 

キリトや俺、翁を順に指差して宣言するリーファ

 

「……って。ええ〜〜〜!!」

 

急展開に驚きを隠せないレコン。そうそう、普通の人ならそうなるよね。周りが異常だと感覚が麻痺してきてイカん

 

「ユイ、いるか?」

 

キュゥゥン、ポンッ

 

光の中からユイちゃんが飛び出す

 

「どうしましたパパ?」

 

「あのガーディアンとの戦闘で何かわかったか?」

 

「ステータス的にはさほどの強さではありませんが、出現数が多すぎます。あれでは攻略不可能な難易度に設定されているとしか………」

 

「総体では絶対無敵の巨大ボスと同じってことか。」

 

「でも、パパとルーキスさんのスキル熟練度なら瞬間的な突破は可能かもしれません」

 

「うん…。皆んな済まない、もう一度だけ俺のわがままに付き合ってくれないか?なんだか時間が無い気がするんだ……」

 

「何を今更聞くんだよ。長い付き合いだ、最後の最後まで付いていくつもりだっつの!なぁ、翁?」

 

『主の言う通りだ。既に我らは友、そのようなことを聞くまでもなかろう』

 

「私にできることならなんでもする。それにこいつもね!」

 

「え〜〜。まぁ、リーファちゃんと僕は一心同体だし」

 

ボカッ

 

「調子のんな!」

 

「す、すみません〜」

 

これは……夫婦漫才……かな?ちょっと弄りがいがありそうでなにより

 

「頑張ってみよ!」

 

手を重ねるリーファとレコン

 

「ああ!リベンジと行こうや!」

 

俺と翁も手を重ねる

 

「うん」

 

キリトも手を重ね、ユイちゃんがその上に乗る

 

「ありがとう、皆んな。………ガーディアンは俺と翁で引き受ける。ルーキスは援護射撃を。後方からヒールするなら襲われる心配はないはずだ。」

 

『請け負った』

 

「了解した」

 

「「うん」」

 

顔から焦りが消えたな。いい表情になってるじゃねぇか、キリト……

 

「行くぞ!」

 

ーーー

 

ズババババッッ

 

「く〜〜!敵が多いったらありゃしねぇ!オラァァ!」

「ハァァァ!」

 

『シャァ!』

 

弓で撃墜させていくも、ガーディアンたちは無限に湧いてくる。晩鐘がならないから翁も直接的なダメージはほとんど与えられてない

 

「危ねぇ!」

 

バスッ

 

一体のガーディアンがリーファたちに向かっていきやがった

 

「クソッ!外のモンスターとはアルゴリズムが違うらしいなっ!」

 

ズバ!ズバババ!

 

『主、このままでは先程の二の舞になってしまうぞ!』

 

「そんなのは分かってるんだよ!何か大きな一撃さえあれば……射殺す百頭は詠唱の隙がデカい、放つには溜めがいる!」

 

『ぬ!レコン殿!』

 

なっ!レコンの野郎!一人で何する気だ?レコンは単身で敵の群れの中に突っ込んでいった。魔法でなにやらやるらしい。自らを覆うほどの火の玉でなにやるつもりだ!

 

ドゴォォォォォン!!

 

敵の群れに大きな風穴が開いた。

 

「じ、自爆しやがった!」

 

相当なペナルティを払って話じゃなかったのか⁈あいつ……出会ったばかりの俺らの為に……

 

「こりゃあ、余計に負けられなくなったな……。キリト!急げ!」

 

「オオォォォァ!」

 

キリトが大穴に向かって飛んでいく。だが、

 

ガッキィィィ!

 

「ガハッ」

 

「キリト!」

 

ガーディアンたちはそんなキリトの前に無情にも立ち塞がる

 

「翁、キリトを守れ!」

 

『おぉぉ』

ガン、ガン、ガン!

 

ガーディアンの剣戟をいくつも防ぐ翁。あの大盾はそれしきごときでは崩れぬ

 

「退けやぁぁ!」

 

ズババババ

 

数体のガーディアンを倒すも、無数に沸き続けるのには変わりない

 

「このままじゃジリ貧だ、詠唱の時間さえあればッ………」

 

ええい、どうにかならんのか!このままでは……

負けられん。負けられんのだ。伸之をぶっ飛ばすまでは!ムラマサに会うまでは!

 

「「「オオオオオオオオ!」」」

 

「この声は!」

 

「遅くなってすまない」

 

「ごめんね〜。装備を整えるのに時間がかかってさ〜」

 

「シルフとケットシーの増援か!」

 

大勢の妖精たちがドーム内に入ってくる。武装はもちろんのこと、ケットシーたちはドラゴンに乗ってガーディアンを攻撃してくれている

 

「ルーキス!頼まれていた奴らも来ているぞ!」

 

サクヤがそう言った。おいおい、つまり……!あの『バカ息子たち』が!

 

「お〜い、親父〜!」

 

親父!ルーキスの親父!と俺を呼ぶ声をが聞こえる。ああ……愛する我が子たち

 

「『マサムネ』!皆んな!」

 

「親父!助けに来たぜ!」

 

「ありがとう!久しぶりだな……といきたいところだがァァっ!」

 

スッッ

 

マサムネの後ろのガーディアンを射殺す

 

「あそこにいるキリトを援護してくれ。横の髑髏の騎士は味方だ、攻撃すんなよ」

 

「了解っす。テレビで顔見たときはビックリしたっすけど、俺たちの知ってる親父には変わらないようで良かったっす!」

 

「ふん!余計なことは言わんでよろしい!しっかりやれよ!」

 

「「「おう!」」」

 

「ルーキス、あれらは?」

 

「平たく言えば俺の部下だ。昔も今も変わらず、俺の子たちだよ」

 

「よく分からんが、あの者たちの力は我ら同盟軍の総力よりも上やもしれん。味方であるのは頼もしいよ」

 

「ありがとうな、サクヤ」

 

ーーー

 

マサムネたちと同盟群のおかげで勢力は拮抗した。ならば、

 

「マサムネと翁、数秒稼げ!他の奴らは射線開けろォォ!」

 

今こそ大英雄の力を示す時。神となったヘラクレスではなく、人であったアルケイデスが如く!

 

「Ek skýt noun verb níu draca ör níu draca……」

 

さぁ、ガーディアンども。覚悟は出来てるよな?

 

「『射殺す百頭』!!」

 

ドゥンッ!

 

ボボボォォォン

 

『さすがは我が主……その在り方は歪んでいれど、間違えてはいないか……』

 

「ルーキスの親父……剣よりも強ぇだろ…」

 

ガーディアンの軍団をアリのように蹴散らしていく矢。もはや空爆レベルだな

 

「キリト!急ぐぞ!」

 

「分かってるよ!」

 

あいつめ……まったくもってカッコいい小僧だよ、お前は

俺とキリトはガーディアンを抜けて天井へと飛んでいく

 

『主!我も!』

 

「翁は残れ!マサムネたちを守ってくれ!お前しかいない!………お前は俺だ。俺の影、俺の半身、俺そのものだ。あいつらは俺の愛する仲間だ。お前の兄弟と言ってもいい。頼む、あいつらと一緒に戦ってくれ」

 

『主……。請け負った。その願い、聞き入れた。無理だけはするではないぞ』

 

「分かっとるわい。じゃあ、キリトノとこに行くわ」

 

『我が光、我が主……』

 

グゥゥゥン!

 

「待たせたな、キリト」

 

「クッソ……どうなってるんだ?」

 

「どうした⁈」

 

ガッキィィィン

 

キリトが大剣をゲートの隙間に突き刺すも、それが開く気配はない

 

「開かないのか………」

 

「ユイ!」

 

「はい、パパ!………………パパ、この扉はクエストフラグによって管理されているのではありません。システム管理者権限によるものです」

 

「どうゆうことだ?」

 

「つまりこの扉はプレイヤーには絶対に開けられないということです!」

 

「そんな馬鹿な!」

 

シュン、シュン、シュン

 

こうしている間にもガーディアンたちは増え続けている

 

チャキ……

 

弓から『物干し竿』へと持ち替える。これ以上は近すぎる。この距離じゃ、弓は不利!

 

「おい!早く開けないと囲まれるぞ!」

 

「そんなこと言ったって………そうだ!」

 

キリトはポケットから例のカードを取り出した

 

「ユイ、これを使え!」

 

ユイちゃんがカードに触るとカードはオレンジ色に光を放つ

 

「コードを転写します!」

 

ユイちゃんが閉ざされた扉に触れると全体が光り、開き始めた

 

ゴゴゴゴゴゴ…………

 

「転送されます!パパ、ルーキスさん、手を!」

 

「さぁ、最終局面と行こうや!」

 




アニメ、とても良い


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