憑依防空棲姫in ワンピ (ナガン)
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初っ端から天竜人ルートとはたまげたなぁ

2015年のことは今でも覚えてるからなTNKァ!
艦これのイベントで泣いたのあれが初めてだよゴラァ!
でも深海棲艦の中で一番好き


 防空棲姫

 

 艦隊これくしょん2015年夏イベで初登場、性格は一言で言えば、挑発的で傲岸不遜。圧倒的な防御力を誇り、艦娘の攻撃を跳ね返し続け、嘲笑と共に絶大な火力でこちらを痛めつける。

 

その姿に多くの提督は絶望の渦に叩き込まれた一方で、彼女を正面から打ち破った者には惜しみない称賛が送られている。

 

その提督達は皆須らく断言するだろう。今の彼の行動は自殺行為だ、と

 

「お前、私の妻になれ」

 

 ある男が、防空棲姫に対して臆面もなく目の前で求婚していた。病人のような白い肌、しかし体型はよく高身長であり、肉付きもよい彼女は容姿だけ見ればその希少さ故に我が物にしたいという欲求は沸くのだろう。だが、ただの人間が彼女に触れようものなら、即その存在は塵芥に変わるため、無謀であることに変わりはない。

 

しかし、周りの人々は、護衛でさえも彼を諌めない。むしろ彼に対して頭を垂れ目を合わせず、絶対服従で微動だにしない。

 

この求婚者もこの世界では絶対的な存在であった。

 

天竜人。

 

世界政府の創設者の末裔たる彼らの権力はまさしく神。逆らうことなど世界政府にさえ不可能であるのにどうして一市民が声を上げられようか。もし手を上げればたちまち海軍の大将がやってくる。

 

故に彼にとってこの言葉は単なる告白ではない。これは命令であり、決定事項であった。

 

しかし、それでも一撫ですれば彼の首を折れる彼女を前にして、皆その暴力に怯えず、権力だけに恐れおののくのはいないのは奇妙であった。

 

彼女は私達に力を振るわない。そういう確信があったわけではない。ただ知らないだけ。彼女が深海棲艦の長として絶対的な力を持っていると、この場にいる彼女以外、誰も知らないだけ。

 

ここはシャボンディ諸島。そして海は深海棲艦ではなく、数多の海賊たちが制している世界である。

 

「……」

「どうしたえ? 返答は」

 

この世界の異分子である彼女は求婚に対して無言を貫く。天竜人は返答を急かす。彼にしてみればどちらでもよかった。ただ、自発的にせよ強制的にせよ、この女が這いつくばる姿を見てみたいだけの気まぐれ。

 

両者の存在を知るものがいれば、こんなに過剰なストレスはないだろう。最早破局は時間の問題。防空棲姫が暴れれば周り一帯は焦土と化す。そのくせにげようとするものならば天竜人に見とがめられ、動くことすらできない。

 

いくばくかの沈黙の後、意外にも彼女は拳を上げるのではなく、口を開いた。

 

「……考えさせてくれませんか?」

 

提督が見たら唖然とするような弱弱しい口調で、否定でもなく肯定でもなく、彼女は強者らしからぬ引き延ばしを要求した。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

修論発表が終わり、大学院生活最後の春休みが始まろうとしていた。

 

長く苦しい戦いだった。研究と言うのは、ひらめきに満ち溢れた世界ではなかった。ひたすら比較し、分析し、物事の本質を見抜く。それらをいかに効率よく行うか。これを生業とする教授たちに畏怖を抱いた。

 

だが、それも今日で終わりだ。この最後の一か月間。最後の思い出づくりに励むぞ~~!

 

 

 

目を覚ましたら防空棲姫だったでござる。

 

しかもFGO直前までやってたはず何だが? うせやろ? 海のど真ん中からスタートとかどんな理不尽? なんだこれなんだこれなんだこれ

 

狼狽えて、ふざけるなと憤って、どうにもならくて、誰も来る気配がないから仕方なくその場を後にした。

航海術なんて知らないから数日漂流みたいな感じにあっちこっち行ったりきたりして、目が覚めた場所もわからなくなり、寂寥感やら理不尽さに涙を流した。

それでももうすぐ25歳になる身。努めて理性的に行動しようと心掛けて、まずこの体で何ができるのかといろいろと試した。その結果、海中でもある程度は息が続くこと、そして艤装の出し方(召喚式だった)を確認した。最後に漂流していた幽霊船から全身を隠せる適当なローブを拝借し、人の気配がガチめに恋しくなってきた頃にやっとついたのがシャボンディ諸島。

 

ここがワンピ世界だと言うのは海王類を見た時から察してはいた。ここに天竜人がいることも。それでも一人はもううんざりで、人型を見れるのがなによりもうれしかった。

 

ローブもあるから目立たなければ大丈夫と、そう思って上陸したのが甘かった。

 

隙間から目ざとく見られたのだろうか、目の前まで来させられてフードを取ったら求婚でBADENDルート確定とか、このリハクの目を以てしても見破れなんだ。

 

とか余裕ぶれるほど俺の精神は太くない。答えられない質問が来たらショートするこの頭が、どうしてまともに働けようか。

 

呼びかけられた時から顔面蒼白。原作内での天竜人の所業、そして海軍大将三人組の顔が頭の中を埋め尽くす。ここから回避できるルートを必死に考えているようで考えられない、視野狭窄状態。

 

銃を撃たせて普通に倒れて、死んだふり。これが思い浮かばない。というか、絶対失敗する、という強烈な先入観で万が一死んだらと思えば、死なないというイメージがどうしても浮かばなくなった。

 

目の前にいる奴隷を見てYESは絶対言う勇気が無かった。だから、考えさせてくれと言った。十中八九撃たれると思ったけど、もしかしたらと願って。

 

天竜人の懐から拳銃が出てきたときの反応だけは予想していただけに素早かった。人間の価値観で撃たれたくないと、弾けと体に命令して、その手を弾いた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「「は?」」

 

両者から困惑の声が聞こえた。一方は手の感覚がおかしくなったことに。一方は自分のしでかしてしまったことに。

に。

 

彼女は銃を弾き飛ばそうとしただけだ。ただ人間の頃の感覚に従って腕を動かした結果、銃どころか手も吹き飛ばしてしまっただけ。人間と深海棲艦とのずれを修正できなかった弊害が表面化してしまっただけ。

 

「あ、いや、これ、あの、だいj……「ぎゃああああ!!」」

 

違う、こんなことするつもりはなかった、手は傷口の状態は、相手の表情は、

 

やってしまった。手を吹き飛ばすという取り返しのつかないことをしてしまった。自分が侵してしまった罪の重さに彼女は完全に混乱し、逃げることすら忘れて、彼の手当てをしようとさえ考えた。その行為がどれだけ重い罪なのかも慮外にして。

 

「女が天竜人に逆らったぞおおおおおお!!」

「逃げろ! 大将が来るぞおおお!!」

 

市民の叫びで彼女は事の重大さをようやく理解する。天竜人に逆らった。すなわち、自分を捕らえに大将が来る。

 

何もかもを凍てつかせる青キジ

 

あらゆるものを溶岩で溶かす赤犬

 

文字通りの光速で移動する黄猿

 

―――逃げろ、逃げろ! 逃げろ!!

 

現実離れした事態に、実感がわかない。自分の命が危機にさらされていることを言い聞かせるように自覚してようやく、名残惜しむようにその場を走り出す。人ごみに紛れ、海に向かう。

 

何故、防空棲姫の力を確認しなかったのか。装甲を確認しなかったのか。死んだふりをしなかったのか。この数日間でできることは一杯あっただろう! 何でしてこなかったんだ。馬鹿だ、俺は。

 

「ああ違う。そんなことどうだっていい!」

 

自分にダメだししてなんになる? 何が変わる? 今この事実を受け止めて認識しろ!

 

今から来る対象は誰だ? どこにどうやって逃げる? 海に逃げればワンチャンある。

 

無理やりにも意識を塗り替えて、彼女は逃亡を成功させるために思考を巡らせた。

 

――――――――――――――――

 

俺がシャボンディ諸島の住人では無いことは聞き込みですぐにばれるだろう。ならば海軍は俺を海賊だと思うはず。ならば張り込むのは港であり、そこには行けない。ならば港以外から海に出ればいい。

 

ローブは邪魔だから捨てた。俺は全力で港の反対側を目指して走っていた。おおよそ人間には出せない脚力で以て。

 

だけどやはり、光速には及ばないらしい。

 

「やっとみつけたよォ。手間をかけさせてくれるねェ」

 

黄猿、大将、逃げられない。死ぬ

 

また、間違えた。 なりふり構わず海に出るべきだった。

もう、そこに海は見えているのに。海にさえ出れれば、逃げられるのに。

 

「命はとらないからさぁ、大人しくつかまってくれないかねぇ?」

「……もしかして、それってインペルダウンですか?」

「ありゃ? 知ってるのかぁ。まぁ、別嬪だからある程度は口添えしとくよぉ?」

「因みに刑期はどれぐらいですか?」

「君次第だねぇ」

「ここで投身自殺するって言ったら見逃してくれませんかね?」

「妙な気は起こさない方がいいと思うよぉ~~?」

「……裁判も無しに刑務所行きっすか」

「そういうのはつかまった後でいくらでも聞いてあげるよォ?」

 

やっぱり、だめだ。問答無用だ。

 

やるしか、ない。撃って逃げ切らなきゃ、一生インペルダウン行き。

 

海にさえ出れば、俺の勝ち。

 

今からしようとすることに吐き気を覚える。この世界は最後は暴力がものをいうとこは理解している。だけど日本では禁忌と教育されてきた、殺人への忌避感が嘔吐感として現れているのだ。

だがやらなければ、自由はない。相手は光。

 

 

だから、死なない

 

「おんやァ~~?」

 

やるしか、ない!!

 

艤装召喚。ノータイムで発砲。

 

八発の砲弾は黄猿を巻き込んで起爆。派手な土埃を巻き上げた。衝撃波にもんどりうちそうになるが気合で耐えた。多分常人だったら命は無かったかもしれない。

 

黄猿がどこ行ったか分からない、だけど走る!

 

この土埃に紛れて、海中に逃げる!

 

時間の感覚も忘れて、とにかく走った。隣にいませんようにとひたすら祈って。

そして祈りは勝利の女神に届いてくれた。

 

ふいに、浮遊感が体を包む、一秒強落ちると、そこは海の上だった。

 

はやる気持ちを抑えて、そのままの勢いで水中に隠れ、ゆっくりと海底を進み続ける。

 

これが最善だったと必死に言い聞かせて、最後の詰めを誤らないように。どこに行ったかを悟られないように、万が一がないように進む。

 

よし、逃げ切った  ……はず。

 

100メートル程泳いだところで俺は小さくガッツポーズをした。

 

 

ひとまず、俺は海軍の魔の手から逃れることができた。

 

ここから、俺の短い逃亡生活が始まった。

 

 




憑依の候補は他にもありました。

空母棲姫・・・ボーキサイトの概念がワンピ世界に無いので艦載機の補充が出来ない超絶ハードモードで途中から殴るだけの描写になりそう。後服装……


葛城or瑞鶴・・・あ^~いいっすね~。同上

榛名・・・AGPタイプの艤装は面白そうと思った。けど防空棲姫の方が好き。

戦艦棲姫・・・防空の方が好き


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バラティエでの決意

艤装召喚式と書いたが、艤装として扱っているのは背中の艤装、ニーソみたいな靴、太ももの錨の三つ。
艤装を召喚した時、その部分を服で覆っていた場合……ご想像にお任せします


シャボンディ諸島の事件から三週間後

 

「注文入ります!! 五番おすすめ六番エビチャーハン!!」

「1番料理あがったぞ!」

「持ってきます!!」

 

防空棲姫が給士をする。

 

どーも、知る人が見れば卒倒するであろう光景を作っている俺です。今、海上レストランバラティエで下っ端として無事に働いています。

 

 

太陽は東から上り西に沈む。これはワンピ時空でも変わらないようで。シャボンディ諸島から逃げた俺は大雑把にだがひたすら北に向かい続けることができた。

 

 

そしてぶち当たったのは、グランドラインの両端に存在するカームベルト(凪の帯)

 

そこは無風であり、ろくな準備も無しに立ち入ればたちまち巨大な海王類の腹の中に直行する危険地帯。

 

だがそれは、風を動力にしている帆船だからの話。最低でも20ノット以上は出せる内燃機関持ちで10センチクラスの砲があれば、一週間弱で突破は十分に可能であることを俺は証明した。

 

カームベルトを超え、その後も丸一日航海を続けていたが、短い休息は挟んでいたとはいえ、ろくに食べなかった空腹感、そしてそれ以上に航海中に蓄積された疲労からくる睡魔に逆らえずいつの間にか寝落ち。そして気が付いたら、バラティエの控室にいた。後から聞いた話では爆睡していたところを流されてきたと勘違いして拾われたらしい。

 

コック達は心配していたが、そこは防空棲姫クオリティ。特に体に衰弱など異常は見当たらず、いつも通りに動けたし、固形物の食事も滞りなくとれた。

 

「つまり、ここで働かせてくれと?」

「はい。最低限の接客は経験しています」

「……次の寄港まで下っ端としてこき使ってやる」

「はい! 頑張ります!」

 

その後、コック長のゼフとの話し合いをした結果、次の寄港までバラティエに置いてもらえることになった。

 

最早賞金首となって肩身の狭い思いをする羽目になるのは確実。なら情報が浸透していない今のうちに資金調達はできる限りしておきたい。なので期せずして一時的にだが働ける場所を確保できるのは大きかった。

バラティエ側から見ると、俺は見れば船も無く流れ着いた身寄りもない女性。見捨てられなかったのは男としてのプライド故かただのやさしさか。中身が男なので複雑な心境なのだが。

 

ようやく一息付ける場所を見つけて、あの時のことを心の隅に押しやって、精神も少しは冗談を言えるぐらいには安定してきて、慣れない接客業もだんだんと板についてきた。

 

だけど休みになれば、これは一時の平穏に過ぎないことという事実はのがれられない事実だって思い返してしまい、どうしても俺の心に影を落とす。

 

ここから離れた後、どうするか。

 

 逃亡生活を続けることはもう決めた。インペルダウンには絶対行きたくないし天竜人の下にしょっ引かれるのはもっといやだ。ニコ・ロビンのような苦しい生活と天秤にかけたがやっぱり、そのような地獄よりは百倍ましだろう。

 

 悩んでいるのは、もっと別のこと。

 

 「海賊、か……」

 

 原作の象徴である目の前のゴーイングメリー号を見て、つい先日、主人公がここに単身突っ込んできたことはまだ記憶に新しい。

 

 

原作に介入するか、否か。すなわち、麦わらの一味になるか、ならないか。

 

きっとそれは楽しいのだろう。漫画のように騒々しくて、自由で。

 

 

でもその裏には絶対、残酷、冷酷さがある。この手を血に濡らす覚悟がいる。そんなもの俺は持ち合わせちゃいない。

 

どこかで、押しつぶされる。絶対

 

だからと言って、孤独に逃げ続けるのもまた、辛さに負け破綻するのだろう。

 

「結局、なんも決められないな、俺……」

 

棲姫の体になる前からずっと、言われたとおりのことしかせずに、自分から動くことなんてほとんどしてこなかった。何かを成し遂げる気概も無く、ただ流されるだけ。こんなやつのどこに存在価値があるのだろうか?

 

「い、いや大丈夫。今の俺は防空棲姫だし、何かは絶対できる。多分」

 

悪い癖だ。とりあえず自分のことを卑下してしまうのは。とりあえずこうしておけば殊勝であると思われるから。そうしてるだけ。心からそう思ったことなんて、片手で足りる。けっこーテンプレな悩みだってこともわかってるが、実際問題悩んでるのだからしょうがない。

 

それよりも考えることはアレだ。ここが襲われる話の対処を考えるべきだ。

 

足は倉庫に向かう。掃除道具と一緒に乱雑におかれているのは、対賊用の武器類。

 

 

正直、あんまり覚えていない。

 

サンジが土下座してお別れ。ミホークとゾロが戦う。ミホークが船を三枚に下ろす。サンジがギンに殺されかける。ルフィがドン・何とかを倒して溺れかける。

 

これぐらいしか覚えてない。

 

でしゃばっていいのか? 原作を変えてしまったらまずいのでは? でも、優しくしてくれた、世話になったここの人たちが傷つくのは見たくない。

 

 

……また話がずれた。できることを考えよう。

 

まず、迎撃には参加するとして、俺には何ができる。怪力と装甲による制圧。そして砲撃による蹂躙。

 

だけど艤装は今使いたくない。燃料が逃走で底を突きかけている。弾薬も半分ほど消費した。一応燃料と弾薬はちゃんとした食料を摂取すれば、雀の涙ほどではあるが回復するらしいが、ここで使ってしまえば艤装はしばらく使えなくなるだろう。

 

 

サーベルを手に取り、刃を掌に載せて、少し引いてみる。

 

切れる気配はない。

 

もっと強く引く。

 

切れない。

 

―――大丈夫、怪我はしない

 

意を決して、思いっきり引く。

 

サーベルが使い物にならなくなった。対して、うっすらと、皮一枚が少しだけ切れていた。つーか、やっちまったやっべえ。

 

見つかりにくいように奥にしまって誰にも見られていないのを確認し、足早に倉庫から離れる。

 

この体は、指折りな防御力があるのははっきりした。尋常じゃない怪力もある。これらを駆使すれば、ある程度までは戦える、はず。

 

艤装が使えない時は肉弾戦による制圧しかない。だけど殴ったこともない俺にそれができるだろうか? 殴る直前でひるんでしまうようでは、それこそ足手まといにしかならないのではないか?

 

そうやってうじうじ長い間悩んで、原作も大事だが、やはりコックたちには恩があると、迎撃に参加することだけは決めておいた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

「ルフィさん、あなた一体何回やったら気が済むんですかねぇ……!!!」

 

主人公と会話できるのは確かに嬉しい。がしかしこういう規則を守らない奴が現実となり、会話するとなると、腹立たしくてしょうがない。やはり二次元は二次元であるべき(確信)。いや逆なんだけどさあ。三次元が二次元にちょっかい掛けてるんだけど。これは俺が慣れるしかないのか?

 

そんなことよりも何故下っ端の俺が同じ立場のこいつをしかれるのか、コレガワカラナイ。

 

 マジでこいつクビにしてくれゼフさん。その方が店回るから。

 

「セイキちゃん。ここは俺が厳しく言っておきますので、あなたはテーブルに行ってください」

「頼みました」

 

うしろからきこえるサンジの怒声を流しつつ注文を聞いていると、不意に窓の太陽光が遮られ巨大なガレオン船がバラティエの進路を遮った。

バラティエの進路を遮った。

 

直観で悟る。原作が始まったのだ。

 

 

 

ドンクリークが船を奪うと宣言し、コックのバティが食あたり砲弾を彼にぶち込んだ。それの報復にクリークは弾丸の雨を降らせた。

 

「大丈夫か? セイキちゃん」

「いや、大丈夫。だけど……」

 

原作の流れどおりなのだろう。この展開は。だが飛び散った血やコック達のうめき声は俺にとって紛れもなく現実だった。

 

「手当を……しないと」

 

死が、こんなに近くにある。

 

 ああ、恐ろしい

 

昨日俺が決めた決意は、あっけなく揺らいでしまった。

 

もし、俺がこの展開を知っていれば回避できていたと思案してみる。

 

 いやそもそも知らないんだから対処しようがない。バティの行動が突飛すぎた。対処は不可能だった。それに今はこんなことを考えている暇はない。手当を優先しないと。

 

客観的に見ても俺に止める術は無かった。そのはずなのに、謎の罪悪感が心を蝕んでいた。それが観測者の驕りみたいに思えてまた自己嫌悪に走ってしまう。

 

 なんとかできないかなあ、これ

 

 

――――――――――――

 

クリークの船がミホークに輪切りにされて、その彼にゾロが挑戦する。

 

誰もかれもが一方的な剣戟を見ている中、濁った心のまま俺はずっとルフィを見ていた。

 

ゾロの攻撃が全く通じない。仲間が激昂してもそれを抑え、勝負がつくまで堪えて、ずっと目を離さなかった。

最後までゾロの野望の邪魔をせず、見届けた彼の姿は正しく船長なのだろう。

 

言われたこともやらないほど自由人で、だからこそ仲間の自由を侵さない。

 

うらやましいな、と思った。やりたいことをすきにやらせる。これは案外難しいことなんだろう。ああゆう部分はずっと俺より優れているな、と素直に羨ましかった。

 

険しい道だというミホークの言に、アッカンベーで知るかと一蹴し、やりたいことを貫き通すその姿勢を見て、なんかいろいろ考えてた俺が馬鹿みたいに思えてきた。

 

 というか。いろいろ考えこむ思考自体が、この世界にはあってない。多分この考えでは生きていけない。

 

同時に、この鬱屈した思考も、彼といれば変えられるかもしれないとも思っていた。

 

ミホークの視線がこちらを捉えるまでは、そう楽観していた。

 

「三週間ほど前、シャボンディ諸島で天竜人が手首を吹き飛ばされた」

 

背中に冷たい棒が差し込まれるというのは比喩じゃないというのをどこか遠くで実感した。首元がいやにスースーする。

 

「その下手人はまるで幽鬼のような白い肌をしていたらしい。そしてその顔は……」

 

心臓がバクバクする。

 

「女。まさしくお前みたいなやつだったそうだ」

 

情報の伝達が、ついにここまで来てしまった。ミホークは俺が犯人だと思っている。

さっき立ち込めた血の臭い、そして死臭を今度は俺が出すんだ。

 あ、だめだ。また思考がまとまらない。あの時と同じだ。なんていえばいい? どうごまかす?

 

だめだ口が上手く動かない。おしまいだ。

 

「待て。シャボンディ諸島だと? あそこはグランドラインの中にある島だ。こいつは二週間前からここで働いている。どうしてそんな短時間でイーストブルーにたどり着ける?」

「そうだてめえ適当なこと言ってんじゃねえぞ!」

 

ゼフのあり得ないだろうという否定の意を込めた質問に、周りのコック達が同調して声を上げる。

 

ごめんなさいたどり着けました。と心の中で否定したが、このまま押し切ってくれと期待して黙って成り行きを見守る。

 このままミホークと戦うの俺? 無理無理無理だって(ベーイ)

 

「ふむ。確かにこの短時間でこのようなところまでたどり着くのは不可能だな。なら私の人違いなのだろう。手配書も似顔絵でしかないから多少人相が他と似通ってしまう時はある。忘れてくれ」

「……え、いや、はあ」

「お詫びの代わりとして、これをやろう」

 

ミホークは何かの紙を紙飛行機にして俺に飛ばした。

 

震える手の中に納まったこの紙飛行機を俺は開きたくなかった。だって予想が正しければ、これは……、

 

 

「これは……!?」

「……だよなあ」

 

これは俺の手配書なのだから。

 

 

 

改めて、俺の人生終わりました。

 

 

―――――――――――――

 

余りの狼狽えぶりに、コック達に室内に戻されてしばらく。

 

覚悟していたけど恐れていた事態。

もう、ここにはいられない。これから数多の理不尽との戦いだ。

 

 

日本の最低保証があるそれらに比べれば、底がないこっちの方がひどいのは明らかであるのはわかっていたが、何をしようが一生お尋ね者なのは変わらない。

 

行くところまで行き、落ちるところまで落ちた。手配書はその結晶。

 

 確かに天竜人の右手吹き飛ばしましたけど! ……インペルダウン行きはないだろ。くそ

 

追い詰められていた。世界に。権力に。

 

天竜人の時だって、ぎりぎりまで選択しなかったからこうなった

今もそう、自分がどうしたいかで決めなかったから、ずっとうろたえてばっかり。

 

 多分。これが最後だ。来るところまで来た。三度目の正直このまま座していれば、追い詰められて動くようじゃ、ほんとうに死んでしまう。

 

考えるだけでまあいいやではだめだ。自分から動かなければいけないんだ。

 

 逃げて逃げて、逃げ続けて、その先に何がある?

 

一生責め苦を与えてくるのなら、一生それらをはねのけるんだ。

 

 やってやる。やってやろうじゃないか。

 どうするべきかではなく。どうしたいかを決めよう。

 

その為に、今立ち上がる必要があるならば、やるんだ。自分から勝ち取りに。戦う覚悟を決めないといけないんだ。

 

「なんだお前……っ?! うわあああああ!!」

 

例えばそう、怪我もいとわず、自分たちの居場所を全力で守る目の前のコックたちのように。

 

 

 

バラティエの甲板上でのクリーク団との戦い。

 

コックと海賊が入り乱れ、飛び交う怒号。急に、男の悲鳴がドップラー効果付きでそこに混じった。

一回なら無視されるだろう。しかしそれが二回、三回と派手な水しぶきと一緒に響くそれらは否が応にも全員の耳に入り、視線をそちらに向ける。

 

白い手が海賊の服をつかみ上げ、そのまま無造作に上空に放り投げ、海面に叩き落す。しかもそれが女で片手だ。

海賊たちは若干ひるむも、報復に剣を構え一斉に切りかかるが、そのことごとくは彼女に傷一つつかず、逆にあわせられてつかまれた剣は握力だけで折られ、男たちはボーリングのピンのようにまとめて吹き飛ばされる。

 

「ば、化け物だああああ!!」

「おいおいおいなんだよそりゃあ!?」

「すっげ~~~~な!! あいつあんなに強かったのかよ?!」

 

 

海賊たちは恐慌状態に陥った。コックたちも棲姫の怪力具合に恐れおののきあんぐりと口を開いている。ルフィだけはいつもの調子ではしゃいでいた。

 

棲姫にとっては予想通り。しかしながら初めて体験する類の視線に若干気恥ずかしさを感じていたが。

 

海賊たちの士気は衰え、彼女を避けるように後ずさる。

 

しかしそれは許されないことだと、新たに甲板に上がってきた男が反撃とばかりにコックのバティとカルネ二人を殴り飛ばした。

 

「バティ! カルネ! 無事か!」

 

ゼフが叫ぶ。それをかき消すように、大男は大きな嘲笑を上げる。曰く、鉄壁。だから無敵だと。倒れた二人にコックたちが駆け寄る中、その言葉に彼女は反応した。

 

「……じゃあそれ、試していいか?」

「ああいいとも、俺は過去61回の死闘を全て無傷で勝ってきた男だ」

 

無敵とおだてれば、一発ぐらい殴らせてくれるかな、と軽い気持ちだったのだが、まさかの大当たりと彼女は思わず失笑する。

 

尚も鉄板男は自分の勝利を疑わず高らかに謳う。これまで血の一滴も流したことがないと。無傷こその強さの証だと。

 

「まあ、ちょっと手加減して……」

 

その鉄板男の目の前に棲姫はこれまた無造作に拳を振りかぶる。男を軽々と放り投げ、剣を握りつぶした彼女には確信があった。この程度の鉄板なら、ぶち抜けると。

 

ドン、と円盤が爆発した。鉄板は砕け、拳がそのまま腹に突き刺さる。与えた運動エネルギーはしっかりと内臓に到達し、鉄板男パールは膝から崩れ落ち悶絶。

 

「うわっ!?なんで鉄が砕けるんだよ!くそ!」

 

ただの鉄メッキだったのか、それとも不純物が多かったのか、現代の鉄板を想像していた彼女は円盤が砕け散るという発想が無かったらしく。細かな破片が目を襲い、涙と共に目をこすっている。

 

海賊たちは恐怖した。もはやこいつにかなう奴は誰一人いないのではないかと。そして周りの状況を危険とも思わないその態度がグランドラインのトラウマを思い起こさせる。

 

だがそれこそが隙だということに気付くものもいた。

 

「そこまでだ」

「あ、ギンてめえ!」

 

サンジが気が付いた時には、ゼフが人質に取られていた。ようやく目のごみが取れた棲姫も遅まきながら状況を理解する。

 

折れるどころか、粉砕された士気。だが首一枚でつながった。

 

 

海賊たちとの戦いはまだ続く。

 

 

―――――――――――――

 

 

「船を降りろ? やなこった」

 

別に、楽勝気分でいたわけではない。寧ろ焦っていた。目つぶしされるとは思っていなくて。運よくすぐに目のごみが取れたと思えばこの状況。

 

 どーみても戦犯ですハイ。マジすみません。

 

いや、あのほらあるじゃない? 自分以外が質問された時はすぐに答えわかるけど自分の番だと答えられないやつ。想像してもらうと今の心情はわかると思うんすよ、ハイ。具体的に言うと、やばいと分かってるけどテンパる程混乱してない。

 

というか、ギンって原作でもこんなことしたの? マジでどうしよう?

 

「ギン、その銃俺に向けろ」

「サンジさん、なんで」

 

サンジは頑なにギンの提案を蹴る。ギンはその意図がわからずただただ困惑する。

 

「そんなに死にたきゃ殺してやるよ、いぶし銀に」

 

そのやり取りを黙って聞いていたら、いつの間にか鉄板男が復活していた。

 

「やっべ流石に力抜きすぎた」

「動くなよ。店長の頭吹き飛ばされたくなかったらな」

 

 うわ、むっちゃゲスな笑い方してる。こいつ嬲る気満々だな。

 

原作でサンジがボロボロになっていた理由がこいつのせいだと理解した。

 

勝ち誇ったように、ゲスな笑顔で脅しの条文を追加する鉄板。ふざけるなとも思いつつも、ゼフさんが撃たれるのは何としてでも避けなければならない。

 

只の真珠の殴打なら、大丈夫なはず。多分

 

それでも思わず顔を歪めてしまった。

 

「待てよ。無抵抗の女を殴ろうなんざ男の風上にも置けねえ野郎だ。こいよ。俺が相手になってやる」

 

 

―――やった、殴られずに済む、と悪魔が囁いて、

 

―――いやダメだろ。と理性がそれを嗜めようとして、

 

数瞬、黙ってしまって、全然足が動かなくなってしまって

 

どっちつかずのままサンジに前を譲ってしまって、

 

―――いいじゃないか、彼がやってくれると言ったのだから

 

―――俺がやったことだ。俺が受けるべきだ。

 

「超天然! パールプレゼントォ!」

 

サンジが殴られるまで、ずっと黙ってみていた。

 

派手にふっとばされて、頭から、口から大量に血を流している。

 

それでも尚、ルフィには手を出すなと厳命して、何もせずにただ柵にもたれて座り込んでいて、

 

―――馬鹿か俺は! さっき自分で決めたことも守れない阿呆なのか!

 

ゼフさんに怒鳴っているサンジに鉄板男がゆっくりと近づく。

 

 行け! 行くんだ!! 行け!!!

 

「セイキちゃん?! 何してるんだ!?」

「パ~~ル、クロ~~~~~ズ!!!」

「ッ!」

 

 

 ああくそ、

 

 

 全っ然、痛くねえじゃねえか。

 

「な、何ィ?!」

 

まるで子供に殴られるように、軽い力で叩かれているような感触しかしなかった。

 

鉄板男はありえないとばかりに、再び殴り掛かってくる。なんども、なんども―――

 

だがその火力ではカスダメさえも入らない。こいつの攻撃では、この体に傷一つ入らない事を俺は確信し始めていた。

 

「うおおおおサービスパールいぶし銀プレゼントぉ!!!」

 

鉄板男は三メートルほど飛び上がって、頭の真珠を下にして落ちてくる。衝突の寸前、少し膝を伸ばした。

 

手の平で頭頂部を少し強くたたかれるぐらいの衝撃。伸びた膝はそれを吸収できず、だからこそそのままの衝撃が鉄板男に返跳ね返る。

 

前面は砕けたとはいえ、体には多数の重い鉄板を取り付けた状態でのダイビングに鉄板男の頭は耐えきれず、そのまま崩れ落ちた。

 

視線をギンに移す。引き金はまだ引かれてない。

 

 うん、ちょっと調子乗った。ゼフさん人質にとられてるの一瞬忘れた。ごめん。

 

「セイキちゃん。大丈夫なのか?」

「ちょっと視界揺れてるけど、大丈夫ですよ」

 

笑いかける俺と対照的に、クリーク団の視線は恐怖に彩られていた。パールが遮二無二殴ってなお無傷。最早自分たちでは逆立ちしても勝てない相手がいる。それでもまだ士気が崩壊していないのはギンが人質を取っているから。

 

「それ以上近づくなよ」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 ……下手に動けん

 

奇妙な悶着状態の中、俺は原作をなんとなく思い出していた

 

原作では、ボロボロのサンジとギンが一騎打ちをした後、ギンはサンジを殺せずクリークとルフィの一騎打ち。でルフィの勝利。

 

この状況を動かす案は思いついた。でもそれはとても自分勝手でなもので。自分からそれをしていいのかと躊躇してしまう。

 

サンジの過去は知っている。ルフィとクリークの力関係もわかっている。そして俺が異物であることも感じている。でもこれは逃げなのではないか。危険を二人に押し付けるだけなのではないか? その意識のせいでなかなか口に出せないでいた。

 

「セイキちゃん、後は俺らでカタつけます」

「え? でも……」

「これ以上レディに活躍されたら俺たちの立つ瀬がない。大丈夫ですよ。必ず勝ちます」

「そーだぞ! クリークは俺がぶっ飛ばす!」

「てめーは引っ込んでろ雑用!」

 

自分の悩みを見透かしたようにフォローを入れるサンジに背中を押されて、後から多分何もわかっていないだろうルフィに叩かれるように決意が固まった。心配するな、と満面の笑みで笑い、何の気負いもなく勝利を宣言したルフィに苦笑した。

 

「「後は任せとけ(してください)」」

「……了解。まかせました」

 

これは逃げなのかどうかわからない。でも、確実にゼフさんが救えるならば、やる価値はある。

 

「ゼフさんから離れるなら、俺はもう戦わない」

 

ギンの顔色が変わった。

 

意外にもコック達からヤジが飛ぶことはなかった。

 

そもそもとして、どうして俺がギンを攻撃できないか? それはゼフさんが人質にとられているから。じゃあどうしてギンはゼフを人質にとり続けるのか? それはそれ以外に勝ち筋が無いから。つまり俺を力づくで倒せる見込みが限りなく低いから、搦め手を使わざる得ない。

 

ならば、クリーク団に搦め手以外の勝ち筋を与えれば、状況は変わる。

 

「……いいぜ、乗ってやる」

「ドン!?」

「ギン。人質から離れろ」

 

ドンの命令により、解放されたゼフさんは何事もなくコック達によって室内に消えていった。

 

「じゃあ、バラティエは任せます」

「頭を上げてくださいセイキちゃん。元々これは俺らの領分。すぐに終わらせて飯にしましょう」

「おう、まかせろ!」

 

ゼフさんの後を追って、俺もレストランに入る。

 

原作は勝っていた。だから大丈夫、そう俺は思いこもうとした。でももし俺のせいで負けてしまったら? 不安で胸が張り裂けそうだ。

 

 そうなったとき、俺はこの人たちになんと詫びればいい?

 

本当にこれでよかったのだろうか。何か致命的な間違いを犯してしまったような気がして。今からでも加勢に戻った方がいいのではと思ってしまう。

 

「何辛気臭い顔してんだ阿呆」

 

最初、それが激励だと気付けなかった。

 

「ただの給士がこの店守ろうなんて思いあがるなよ。あのクソガキも言っただろう。ここを守るのは俺たち(コック)の仕事だ」

 

必死に噛み砕いて、ようやくそれがゼフさんなりの気遣いだと分かった。

少しだけ、心に平穏が戻ってきた。

 

 

戦いの結果は、原作と少し違って、

 

サンジvsギンとルフィvsクリークはどちらもこちらの勝利で終わった。

 

 

 

俺は勢いよく室内を飛び出し、サンジの後を追って海に落ちたルフィを助けに向かった。

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「この手配書はお前だと。そう言ったんだな。セイキ」

「はい。ゼフさん。今まで黙っててすみませんでした」

「……」

「その、もうここにはいられません。他の人達に迷惑がかかってしまいます」

「……」

「今までお世話になりました」

「これから、どうするつもりだ」

「何処かに逃げようと思いましたけど、サンジさん、いやルフィについて行こうと思います」

「そうか……給料だ。もってけ」

「え、……あ、ありがとうございます」

 

 

「サンジのこと、よろしく頼む」

「……、はい! 頑張ります!」

 

 

 

 



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ココヤシ村

自分なりに主人公有利になるよう屁理屈こねくり回した。




「一味に入れてください!」

「おう、いいぞ!」

「!?」

 

面接言ったら即採用。即決即断で俺の一味入りは決定した。

 

バラティエまで手配書が届いた今、俺がここにいるわけにはいかなかった。もう人生終わったも同然ならと開き直り、原作に参加できる喜びを享受しようとおもった次第で、一味入りを志願した。物語が進めば皆賞金首になるし、同じ立場の仲間がいるのも心強い。ぶっちゃけその場の勢いだ。

 

二週間のお礼を述べた後、ルフィ達と共にバラティエを後にする。

 

次の舞台は、ココヤシ村

 

 

 

 

バラティエを出てしばらくの海上、ルフィ一味では仲間のことを知ろうとサンジの料理に舌鼓を打ちつつ自己紹介なるものが始まった。

 

「改めて、サンジだ。言わなくてもいいと思うが、バラティエで副料理長をやっていた。モットーはレディファースト。女には絶対手を上げねえし、上げたやつは許さねえ」

「防空棲姫です。バラティエではセイキと呼ばれてました。料理は出来ませんが、怪力は自信があります。後水に浮けます」

「ヨサクって言いやす。賞金稼ぎですが故有ってルフィさんと共にしていやす」

「俺はルフィ。海賊王になる男だ。これからよろしくな。でセイキ、水に浮けるってどういうことだ?」

「え~と、文字通りの意味で、まあ実際に見てもらうとして……」

「敬語はいいぞ、もう仲間なんだし」

「……えーと、まあこんな感じに艤装が召喚できて、だな」

 

この一味の性格上、悪い意味でバケモノと呼ばれることはあり得ないと思うが、それでも自分が人外であるとアピールするのは棲姫の心理的に抵抗があった。だがそれをいつまでも隠すのは、仲間になるものとしては駄目だろうと勇気を出して告白する。

 

彼女は少し離れて。艤装を召喚した。駆逐イ級のような頭そこから角になぞらえた高角砲が伸びる。それが四基。そして足元の背後には移動用の生体パーツが垣間見えていた。

 

召喚の影響で船が揺れたが、それ以上にルフィ達の反応がすごかった。ヨサクは叫び声をあげて恐慌状態に陥り、サンジは呆然としていたが俺の感情の機微を感じ取ったのかすぐにヨサクを物理で落ち着け、ルフィは予想通り目を輝かせて、触ってきさえしてきた。

 

「予想通りの反応ありがとう。で、こんな感じに浮けますよ。ってことを言いまし……言った」

「うお~~~~! すっげ~~~! 見ろよ海の上に立ってるぞ! なあこいつら何か食えんのか?」

「……いや、知らないけど。多分食べれるんじゃないか、な?」

「ほらお前、これ食えよ! うめえぞ」

 

カームベルトを超える時、生き物の印象を艤装からは感じられなかった。撃てと命じれば撃ち、進めと命じれば進む。機械みたいなものであると。だが、今思い返してみるとどの命令も大雑把なもので具体性が無かった気がする。それなのに不満を一切感じなかったことから、自立思考はあるのかもしれない。

ルフィは棲姫の艤装に飛び乗り、船の料理を艤装に食わせようと押し付ける。それを見て、艤装に食べろと命じてみると、なんと皿を壊さず器用に料理を食べきってしまった。

 

「こいつらすっげ~賢いな! なあなあ他に何ができるんだ?!」

「ぐ、ぐいぐい来るなあ……。今は燃料が無いから動けないけど、このまま移動することもできる」

「燃料?」

「まあ、食べ……ものじゃなくて油だよ。ちょっとそれが足りないから無理」

 

食べ物を食べれば、燃料や弾薬が微量だが回復することは確認していた。しかしそれを今言えば間違いなくルフィに大量の食事を強要される。

 

「そっかー。じゃいいや」

 

できないと言っただけなのが功を奏し、ルフィはあっさりと引き下がった。

 

「セイキちゃん素敵~~~♡」

「ちょっとすいやせんセイキさん。海の上も移動できると言いやしたが、それはカームベルトを超えられやすか?」

「あはは……」

「もしかして鷹の目が言ってた女は人違いじゃなくて……?」

「あ~……はい、俺です」

 

ヨサクのひらめきを笑ってごまかしたことが証明だった。どうせばれるのだからと、彼女は肯定する。

 

「じゃあセイキさんの首には……」

「ま、まあ……」

「お前賞金首なのか!? いくらだ!?」

「5000万……」

「5000万!? これから行くアーロンよりも倍以上の額じゃないっすか!」

「だれだ? アーロンって」

「ナミが向かった先の相手っすよ!」

 

そう言ってヨサクはアーロンについて知りえる情報を話し始めた。

 

その横で、棲姫は自分の手配書を改めて見てみる。

 

懸賞金 5000万ベリー alive only

名前 不明

容姿 似顔絵(※写真取得失敗)

備考 身体的特徴:白い肌、白髪、赤目、頭部に二本角あり。

悪魔の実の能力者の可能性大。

 

 この似顔絵、角以外あんまり似てない……? 誤魔化せそう。

 

 

そう彼女は思った。

 

 

実際の所、海軍では今回の件は前代未聞だった。天竜人に手を上げたことではなく、情報が全くないことが。

 

すでに住民の聞き込みから、彼女がシャボンディ諸島の住人ではない事は明らかだった。残る選択肢は賞金稼ぎか海賊か、奴隷か、はたまた革命軍か。だが奴隷が一人で勝手に出歩くはずもない。ましてや天竜人に手を上げるなど。では海賊なのかと言われれば、海賊リストの中に彼女はいなかった。シャボンディ諸島に来るには数々の難所を潜り抜けなければならず、あの黄猿から逃げ切った以上多少なりともその名は噂となって耳に入るはずなのだ。それさえも全くない。ならば賞金稼ぎか、と言われても、名声の観点から海賊と同様あり得ない。残るは革命軍だが、今回の件でにわかに慌ただしくなっているのはあちらも同じようで、掴んだ情報から判断するにこの線も薄い。

そして一番不可解なのは、彼女がシャボンディ諸島にどうやって上陸したかがわからない点だった。持ち主不明の船は無く。そもそも港での目撃証言が全くないことが海軍の頭を悩ませた。気になる点として、事件の直前に海面を滑る影の目撃証言が数件上がったぐらいである。

 

 

「これだけの情報で懸賞金をかけるのは不可能です。冤罪を起こしかねません」

 

事件から一週間後、懸賞金会議にて棲姫の議題が上ることになるが、彼女の名前さえ出席者は誰も知らなかった。

 

 

「それに大将"黄猿"の話によれば、犯人の女は身投げしたそうじゃないか。もう死んでいると見るのが自然では?」

「それはあくまで可能性の話だ。事実我々は犯人の捕縛どころか死亡確認さえ出来ていない」

「それに手配書に載せる写真がない以上、似顔絵の作成になるわけだが、誰もが角のことしかろくに覚えていない」

「本人確認がこちらで出来ない以上、これは通すわけにはいきません」

「上からの命令だ。通すのは決定している」

 

上。それが天竜人からの圧力だと言うことを誰もが察した。

 

「ならば天竜人の召使いに似顔絵の為の聴取を行えば多少なりとも改善されるのでは?」

「今もなおわめき散らしているあのお方達にお伺いを立てろと?」

「……」

「今も上層部は手配書が出ないことに嫌味を言われている。せめて手配書がまっとうに機能するように予防策を考えよう」

 

結局、本人確認は直接対面した黄猿が責任を取る形で行うこととして、無駄な犠牲が少しでも減るようにとalive onlyが追加された。額についても、天竜人の機嫌を損ねずかつ詐欺が行われないような額として、5000万が設定された。

 

 

こうして手配書が出回り、イーストブルーにおいて件の渦中の人物は

 

「あ、角とれるんだ」

「「「知らなかったのかよ!!」」」

 

着々と容姿を変え始めていた。

 

―――――――――――――――――――――

 

アーロン編のストーリーなんて、ほとんど覚えてない。すまない、またなんだ。アーロンパークの頂上にナミの部屋があって、そこでルフィが大暴れしている場面しか記憶がない。

 

だからこそノジコから話を聞いて、そこに生きている人達を見て、聞いて、実感した。ココヤシ村の住人のナミの為の心意気とその覚悟を。

 

「行くぞ」

「「「「おう」」」」

 

そして知ってしまった以上、その覚悟を無視することはできなかった。彼らが無駄に命を散らすことの無いよう、頑張ろうと思った。

 

 

 

「足がはまって動けねえ」

「えぇ」

 

時は飛んで、アーロンパークの決戦。雑魚たちを蹴散らす為、顔が牛の巨大魚を振り回したルフィだったが、そのためにわざと地面をめり込ませた結果がこれですハイ。

俺は呆れ、ゾロはため息、サンジも呆れ、ウソップはやばいと顔に書いていた。命の取り合いの空気にウソップと二人で及び腰になりながらも、ルフィ救出に向けて動き出す。

 

「くそ、全然外れねえ!」

「ウソップ。右持つから左持って」

「駄目だ。全然抜ける気がしねえ」

「鼻くそほじってんじゃねえ!!」

 

 人がてめえ頑張ってる時によぉこの船長は!!

 

とっさに引っ張っていたウソップに手を貸したが、ルフィの足は本人が言う様に伸びるばかりで抜ける気配がしない。こうなるんだったら足場を破壊しておくんだった。

 

 

「殺す!」

「うわああああ!」

「おいコラ放すな!」

 

そうこうしているうちに、ふざけていると思ったたこ足の魚人が大岩を持ち上げてこっちに迫ってきた。

タコ魚人はゾロが引き付けてくれたものの、ウソップがビビって反射的に手を離してしまい、俺がルフィを引っ張る役目に自然と収まる。

 

これで手の空いている幹部は一人。こっちもウソップがたった今フリーになった。

 

正直に言います。まだ自分から戦いに行きたくはありません。遠慮します。そして、勝手に手を放して逃げようとした薄情者に思うところがないはずがない。

 

「よっしゃウソップ君。残りの幹部は君に任せた。副船長として期待しているぜ(サムズアップ)」

「え?! よよ~~し、任せろ! このキャプテンウソップの力! 括目しろ!」

「あ?」

「ひいいいいいいいい!!!」

「ちょ、ウソップまて! 逃げるなもどってこい!!」

 

怯えているのか演技なのか、ウソップは見事な身代わりを連続で披露しつつ、幹部の一人と共にアーロンパークから離れていった。ものすごいダッシュで。止めようと思った時にはもう遅く、幹部と共に見えなくなってしまった。

 

あの阿呆、フォローしようと思っていたのにできなくなってしまったじゃないか。

 

「つーかいつになったら抜けんだよまじで!!」

「セイキ。ウソップを追え!」

「え?」

「俺なら大丈夫だ。ゴムだからな!」

「いやゴムって、ものすごい心配なんすけど?」

「まかせろ!」

「……オーケイ。船長」

 

ルフィ、ゾロ、サンジとウソップ。戦力の偏りは明らかであり、俺がウソップの援護に行けば、バランスはある程度取れる。だがルフィのこの状況。どうにも嫌な予感がした。でもウソップも幹部に勝てるとも思えなかった。少し悩んだ後にルフィの命令に素直に従うことにして、手を離しウソップの後を追った。

 

―――――――――――――――――――

 

「ウソップハンマー! ウソップハンマー! ウソップハンマー! ウソップハンマー!」

「ウソップ。 ウソップさん! やりすぎィ!」

「せ、セイキ……。はっはっは! 遅かったな! 幹部はもう仕留めたぜ! 俺一人で!! 俺一人で!!!」

「お、おう……。あれだけ叩かれてまだ息があるのか。まあいいや、とにかく戻るぞ 皆まだ戦ってるだろうし」

 

意外なことか想定通りか、ともかく彼女が追いついたときにはウソップはアーロンの幹部を撃破していた。

 

 タワーになったたんこぶを頭に作らされた敵をしり目に、敵を倒してハイテンションで舞い上がるウソップをなだめて、棲姫は戻るようアーロンパークへと促す。

 

そうだな! あいつらにも自慢しなくちゃな! とウソップは足取り軽く戻って行く。棲姫も追いかける形でそれに続いた。

 

「というか、すっごいボロボロだな。大丈夫か?」

「へへ、これは死闘の証さ。大丈夫に決まってる!! 何せ俺はキャプテンウソップだからな!」

 

どうやって勝ったんだろう、と気になったが、臆病である彼が格上の相手に挑み勝利したことは名誉であることは間違いない。だから素直に褒めた。

 

「でもすごいことだよ。おめでとう」

「あ、いや……まあ、あいつらも命張ってるんだし、俺も命張らなきゃ釣り合わないというか……うわわなんでもない! 何でもないぞ!」

 

素直な称賛を送られたのが意外だったのか、彼はつい本音を漏らしてしまった。それに対して彼女も、本音を漏らす。

 

「いや、素直にすごいよ、それは」

 

 そうだよなあ、命をかけなきゃ、いけないんだよなあ

 

それを言われて初めて気づいた。バラティエの時は自分のことで一杯一杯で想像もしていなかっった。命をかけていると言う実感すらなかった。

海賊団は命を互いに預けられる者。それに俺は賛同したならば、それができるようにならなければならない。どんなに体のスペックが高かろうと、この心構えが無ければ一味ではない。

 

その点で言えば、ウソップは彼女の先を行っていると言えた。

 

死の実感を未だに感じていないから、戦場に立てるだけ。命を懸けて仲間を守る気概は未だに持ち合わせていなかった。

 

「そ、そうか。なんたって俺はキャプテンウソップだからな、ハッハッハッハ!!」

「でも、今走ってるのお前のせいだからな?」

 

気恥ずかしくなったウソップは走りながら高笑いするという器用なことをしてるが、棲姫の言うとおり、元はと言えば彼が原因。

 

「とにかく急ぐから、スピードあげるぞ」

「え、あ、ちょうわあああああああああ!!」

 

ウソップの手首をしっかりホールドすると、彼女は一気にスピードを上げる。彼は引きずり倒されないよう、必死に足を動かし続けた。

 

そしてボロ雑巾のように倒れるウソップをよそに棲姫は戦場に復帰する。ちょうどゾロとサンジが幹部を倒し、アーロンと対峙したところに乱入する形となったらしい。

 

「おえぇ……マジで死ぬ。もう死ぬ……」

「すこしは自分の逃げ足を鑑みろ」

 

グロッキー状態のウソップを端において、彼女はいなくなったルフィについて村人に問いかけると、彼らは地面ごと海に投げられたと答える。ノジコ達がひそかに助けに行っていることも。

 

 あ、俺これ助けに行くパターンですね。わかります。

 

「ゾロさんやい。なんかむっちゃふらふらしてるけど大丈夫?」

「なんだその喋り方は……別にどってことねえよ」

「セイキちゃん。ここは俺が食い止める。だからルフィを早く助けてやってくれ」

 

やべえアーロンさんこっち見てる。むっちゃこっち見てる。と、彼女は痛いぐらいの獰猛な視線から顔を反らす。睨み返すほどの胆力はまだないです(LV1)

 

「いやほんとに大丈夫?」

「女に心配されるほど落ちぶれちゃいねえよ。早く行け!」

 

結局、ゾロの気迫に押される形で棲姫は海に飛び込んだ。

 

多分、この体のスペックなら勝てるはず。だけど。そんな安易な思いつきで彼の信念を台無しにできるほど俺の神経は図太くない。多分、やれば何もかもを台無しにしてしまう、そんな確信を彼女を抱いた。

 

だからこれは、自己弁護ではない、はず。

 

ああくそ、もう悩んだってしょうがない。今はできるだけ早くルフィを助ける。そう思った彼女はその怪力で以てわずか二十秒足らずでルフィの足の大岩を破壊した。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「おつかれさま~~セイキちゃん!! ああ!濡れた体がせくすぃ~♡」

「さ、サンジさんもお疲れ様、です」

「水臭いじゃないですかセイキちゃん。バラティエを出てからは俺と君は同じ仲間。是非呼び捨てで呼んでください♡」

「アッハイ」

 

 

サンジはどこからか取り出したタオルを差し出してくる。ありがたく受け取るが、女になってまだ一か月たってないからこういう女性扱いは鳥肌が立つ。たたなくなったら男としての部分が本格的にやばいんだろうけど。

 

「アーロンは?」

「今ルフィと戦ってまぁす♡」

 

周りを見渡すと、ゾロが寝転がって休んでいるのが目に入ったのでそっちに向かった。

体の正面が血まみれの彼を見て、その鉄臭さに俺は盛大に顔引きつらせ、手で顔を覆う。明らかにやばい傷だ。早く手当てする必要がある。

 

「とりあえず、誰か呼んでくる」

「馬鹿かてめえ。敵が近くにいるんだぞ」

 

ゾロが指摘通り、アーロンパーク内ではルフィとアーロンの死闘が繰り広げられており、大変危険な状況だ。この場合、ゾロを村人の所に連れて行く方が正しい。

 

で、そうなるとどうやって運ぶかだ。ミリタリー系の動画で引きずり方を見た記憶はあるが、実際よくわからん。なので、まあこの傷に触らない運び方なんて一つしか思い浮かばないわけでして、

 

「おい、ちょっと待て」

「なんも言うな。な? 初めてなんだ。暴れると落ちるぞ」

「てめくそ剣士! うらやまし……セイキちゃんになんてことを!」

 

やっぱ言われると思った。定番だよね、お姫様抱っこ。見よう見まねだが、運べてるし良しとしよう。

 

「!? おいあぶねえ!」

「避けろセイキ!」

 

傍で行われていたルフィ対アーロン。それはアーロンが海中まで戦域を広げたところから一気に彼に優位が傾いていた。手も足も出ないルフィ、それを見たアーロンは余裕のつもりか、俺に標的を変えてきた。

 

ゾロが警告し、ルフィが回避を命令する。でも俺は彼らのような身のこなしはできない。だってついこの間までただの大学生だったんだ。咄嗟に体が最適解を出してくれるわけもない。

 

ただ、ゾロに当てるわけにはいかないとだけ思って、彼を守るようにその攻撃を背中に受けた。

 

ナミが村人たちが息を飲むのが感じられた。

 

冷たさが左の肩甲骨あたりから上にまっすぐ伸びていくのが感じられた。鋭い刃物で切られた時、痛みを感じないとよく言われるが、それなのだと思った。

 

2秒たち、5秒たって、異常に気付く。あれ、何か、そこまで痛くない……? いや痛いんだけど、悶絶するような痛みじゃなくて、むしろ間違えて指を紙で切った時のようなアレで。

 

「な、何なんだ貴様……。何故俺の鼻が通用しない!?」

 

 あ、この体チートやわ(再確信)

 

「シャークオンダーツ!!」

 

抱えていたゾロを地面において庇う様に立てば、返す刀で彼はまた飛び込んできた。

 

 これは、止められる。そう思って両手を前にかざして、攻撃に備える。

 

それはアーロンにとっては悪夢だったのだろう。下等種に半漁人の自身の攻撃がこんなにもあっけなく止められてしまう事が。

 

「二回攻撃したよな? ならこっちも二回殴る」

 

一度目は真面目に死を覚悟して、二度目は顔面を狙われた。それでいて怒らない程、俺は聖人君主ではない。ちょうどいいから、アーロンでフルスペックの力を試そう。

体重が乗っていない、力だけの素人の膝蹴り。それなのに彼の強靭な肉体は悲鳴を上げた。次に、右手を振りかぶる。流石にアーロンは反応して防御態勢とったが、なお余りある衝撃は顔まで貫通し、ライナーに彼を吹き飛ばした。

 

「……まじかよ」

「あーーーー! セイキお前何してんだよ! アーロンは俺が倒すんだからよ!」

「あはは……。サンジ、ゾロ運ぶの手伝って」

「はぁい。わかりました♡」

 

 防空棲姫、恐ろしあ。

 

「クソ。この下等種風情がァ!この俺になにをしたァ!」

「まじか、あれ食らって生きてるのか」

 

素人のパンチの威力など知れているということだろうか。アーロン血を流しながらも尚も立ち上がる。

その光景を見て、アーロンが続けて悪態を叫ぶ前に、俺がうんざりした顔をする前に、ルフィが動く。

 

彼が放ったゴムゴムのピストルは再びアーロンを壁に叩きつけた。

 

「俺が相手だ! 間違えてんじゃねえ!」

 

彼の突き出した拳に、無視されたのに侮られた悔しさは感じられなかった。俺がアーロンを軽々と吹き飛ばしたのを見たのに、その目に嫉妬の色はなかった。仲間の窮地を船長として助けるという気迫のみがあった。

一時の感情任せに手を出した俺が恥ずかしく感じられた。同時にルフィが倒さなければ、意味がないとも理解した。仲間を誰よりも大切にしているルフィがナミの為に倒して、初めてナミは救われる。サンジとゾロが手を出さないのは、それを理解していたから。

 

 あとで、ちょっかい出したことを謝ろう。今は、船長のサポートをしよう。

 

「いででで!? てめえ何しやがる!」

「運んでやるだけ感謝しやがれクソ剣士」

 

さしあたってはゾロの応急処置から。

 

 

まあそんなこんなで、無事ルフィはナミの呪縛を解き放つことができたとさ。

 

 




手配書と自己紹介部分は元は会話文だけで投稿する予定だったんやで。

お気に入り1000突破ありがとうございます。



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ローグタウンからグランドラインへ

今回は幕間集。グランドラインの方が本番だからここら辺は流していく

時系列はローグタウン編~グランドラインの時期です


 幕間①:レーダー

 

船の航海というのは、天気が穏やかな時は航海士以外は案外手持ち無沙汰になる。故に活発なルフィやウソップが暇をもてあそび、何かしらのバカをやって暇をつぶすのはよくあることだ。そして今日は右舷の海面に突き出した小さな岩を大砲で打つことを始めていた。

 

派手な砲撃音と二人があげる喝采はメリー号のどこにいても耳に入り、棲姫もそれにつられて二人の元にやってきた。

 

「よーし、大体の距離はつかんだ。次は絶対当ててやるぞ!」

「いけ~~ウソップ~~!」

 

体力が有り余っている17,18辺りの二人のテンションに、その山を越えてしまった25歳はなかなかついて行きづらい。彼女は大人しく横で静かに成り行きを見守ることにした。

 

視線を標的の岩に向けて、距離を概算していると、ふとレーダーをまだちゃんと使いこなせないことに思い至る。シャボンディ近海やカームベルトで周辺を索敵したぐらいでそのあとは全然使っていなかった。

ちょうどいいと、彼女はレーダーを使用するべく艤装を展開しようとして、また考え始める。

 

そもそも艤装を召喚する必要はあるのか? と。

 

レーダーの画面は艤装に取り付けられているわけではない。頭の中に視覚情報として直接伝達される。初めて使ったときはレーダー画面と視界が重なって気持ち悪くなったが、言い換えればレーダーは頭に内蔵されているとも考えられる。つまりわざわざ艤装を召喚しなくても起動できるのではと彼女は思った。

 

結果だけ言えば、できた。

 

目をつぶった彼女の頭の中で、あの円形のレーダー画面が見えている。距離も高さの数値表示も非常にわかりやすい。例えばあの岩までの距離は173メートル、頂点は海抜4メートルほど。確かにこれならばあのいかれた対空値にも納得がいくほどの高性能っぷりだった。

 

「距離は173メートル、船の速度は5ノット。風は西から東に弱い風」

 

が、それを人力であっさりやってしまう男もまた隣にいた。彼女はもう忘れているが、エニエスロビーで超長距離狙撃を一発どころか何発も撃って全て成功させる彼の事なのだ。今は無理でもその才の片麟はすでにこの時から現れていた。

 

さらりと一桁単位まで正確に距離を言い当てたウソップの放った弾はきれいに岩を粉砕した。ルフィは歓声を上げ、ウソップはそれにふんぞり返る。彼女もそれに拍手を送った

 

なんというか、技術的優位はワンピース世界じゃあてにならないのではと彼女はかなり不安になった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

幕間②:賞金額

 

ココヤシ村から出航して数日、ナミが購入した新聞からルフィの手配書がこぼれ出た。晴れてルフィは賞金首へとなったのである。だがそのルフィの様子がおかしく、ゾロは首をかしげていた。

 

「おいウソップ。ルフィは賞金首になったってことでいいんだよな?」

「賞金3000万ベリーだ。初めて付く額にしてはすげーぞ!」

「だが、ルフィはそこまで嬉しそうじゃねえぞ。どうなってやがる」

「確かに。ルフィなら飛び上がって喜ぶはず。サンジは何かしらねーのか?」

 

ウソップもそう言われれば確かにと、タバスコ星の作成を中止して一緒に首をひねり始める。通りすがったサンジに疑問をぶつければ、彼は素直に答えた。

 

「そりゃあ、船長が二番手に甘んじてるからに決まってるからだろ?」

「成程、一番じゃあなきゃあいつも喜べねえか……、て二番?! じゃあ一番は誰なんだ?!」

「セイキちゃんさ。言われてないのか?」

 

自己紹介の時に二人はいなかった。そしてココヤシ村でも忙しなく事態が動き続け、そして棲姫自身も賞金についてはあまり語らなかったので二人はいまだ揃ってこのことを把握してなかったのだ。が、言われてみればとウソップはアーロンパークでの彼女の堅牢さを思い返す。

 

「あ~、アーロンの攻撃全然効いてなかったしな。因みにいくらだ?」

「5000万ベリーだ」

「へぇ~5000万……5000万べりー!?」

「へぇ……」

 

倍近い額にウソップは開いた口がふさがらない。一方でゾロは不敵な笑みを浮かべた。

 

「成程……たしかにルフィも喜べはしないな」

「まあ、船長にはまだまだ名をあげてもらわねえとな」

 

 

さて、そんな話を一足早く聞いていたナミは能天気に談笑していた三人とは対照的にそれはもう切羽詰まっていた。何せルフィの3000万で海軍本部が動く額なのだ。ここに5000万が加われば、総額は一億近くまで跳ね上がる。そうなれば佐官ではなく、将官が出張ってくる。一言で言えば命がやばい。

 

なので現在、彼女は棲姫に対して本格的な変装をさせようという強烈な気迫で彼女を圧倒していた。

 

「やらないと、だめでしょうか……?」

「そんな白い肌一発でばれるに決まってるでしょ! いいからこっち来なさい! その髪の毛も染めてもらうから」

「ぐぬぬぬぬぬ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

幕間③:ローグタウン

 

 

「よし! これでばっちりね! 手配書とは似ても似つかない! ちゃんとやり方覚えてもらうから」

「うぐぅ……。背に腹は代えられないのか……」

 

何ということでしょう。匠の技により、死人のように白かった肌が血色ある肌色に様変わり、唇も薄く色が乗り、匠の粋な計らいがうかがえます。髪の毛は見事な栗毛色に染められ、どこからどう見ても陽気な町娘の様です。

 

イメージとしては成長した照月が一番近いだろう。ただ、諦めたような棲姫の顔が魅力を抑えているのはいただけない。そんなことは彼女にとってどうでもいいのだが。

確かにこれで人相は似ても似つかなくなった。賞金首とばれないのは大歓迎である。だが男として、この化粧をやると言うのはいかがなものか。その感性が微妙な表情を作り出していた。

 

「髪の長さも変えて欲しいところだけど、まさか切れないなんて。あんた一体どういう体してるのよ」

「いやあれは本当に予想外でして……というか自分でもよくわかってなくて……」

「ハァ……で、話変えるけどあなた服はそれしかないの?」

 

ここまでずっと、彼女はあの体正面に何もない公式絵の服装を着ていたわけではない。バラティエに転がり込んで以降、基本的に持ってきたバラティエの給士服に身を包んでいた。勿論一連のドタバタで買いに行く余裕なんてなかった。

 

「え、まあ……あるにはあるけど」

「あれは服とは言わせないわよ。なんだってあんな……。よく男どもに襲われなかったわね」

「俺だって好き好んで着てるわけじゃない!」

 

今思い返せば、シャボンディ諸島はローブが無かったら痴女としてしょっ引かれていた可能性があった。というか黄猿にばっちりみられてるじゃんと今更ながらに棲姫は赤面した。

 

「そう? なら次の島であなたの服見繕ってあげる」

「え、マジで!」

「ええマジよ。代金はあなた持ちだけど。足りなかったらいくらでも貸すわ」

「アッハイ」

 

こうして棲姫達はまず化粧品と服を買うためにローグタウンへ上陸した。

 

 

 

 

 

「よし、とりあえずはこれで大丈夫でしょ」

「化粧品って結構かさばるんすね……」

「当たり前でしょ。何言ってるの」

「ははは……後は財布買わないとなぁ」

 

化粧品。小物入れのポーチ。変装用の伊達メガネ。動きやすい服。その他もろもろ。買い物を終え、ドでかい袋にそれらを詰めてナミとセイキは歩く。因みに荷物は全て棲姫持ちである。利子はゾロより安くなった。

 

「セイキ、今のうちにローブ着ときなさい」

「なんで?」

「気圧がさがってる。もうすぐ雨が降るわ。化粧が取れたら一大事よ」

「りょー」

 

 

やがて二人が広場に差し掛かると、ちょうどサンジ、ゾロ、ウソップと鉢合わせた。が肝心のここに行くと言った筈の船長が見当たらない。自然と皆があたりを見まわし始める。

 

「ねえ! あそこ!」

 

そしてナミが指差した先は、ゴールド・ロジャーが処刑された死刑台。そのてっぺんでルフィがバギーに今まさに殺されそうになっていた。

 

「「「な、なんであいつが死刑台に!!?」」」

 

流石主人公、物語がありますなぁと、男どもが驚く横で棲姫は悟った目で処刑台を見上げていた。

 

「ゾロ、サンジ君。それとセイキ、何とかしなさい! ウソップは私と来て!」

 

購入品を担いで二人は船にダッシュで戻って行く一方で、棲姫達はルフィを救出するべく駆けだした。

 

血気盛んなゾロとサンジはそのままダッシュで行くが、バギーの手下どもに妨害を受け思うように進めない。

勿論彼女も一歩出遅れたが自分の船長を助けるべく行動を開始していた。普通に走るだけじゃ間に合わない、そう考えた彼女は次に砲撃を考えた。だがバギーとルフィの距離が近すぎる。直撃しなくても爆風と破片で死ぬ可能性があるし、広場をスプラッタ会場にして平気な価値観も持ち合わせていない。その時、ポケットに入れた小銭が音を出した。

 

棲姫は数枚のコインを重ねて握りこみ、死刑台に向かって投げつけた。拙いフォームながらも彼女の怪力により、時速200キロを優に超えた速度で死刑台に向かってコインは飛翔する。そのうちの一枚がバギーの胴体に直撃した。予想外の衝撃にバギーはよろける。だがバギーを死刑台から叩き落とすにはまだ足りない。ゾロとサンジもまだたどり着いてない。

 

ルフィはどう助かるのか? その前兆があったのかも彼女は皆目見当はつかなかった。もしかしたら原作と乖離してここで本当にルフィは死んでしまうのだろうか。そんな考えさえよぎってしまう。

 

ウソップがここにいればと投擲物を必死に探していたが、唐突にその最悪の考えは杞憂に消えた。

 

バギーが振りかぶった剣。それに雷が落ちたのだ。ルフィは絶縁体故に無傷だがバギーは感電して黒こげに。死刑台も熱で発火し、崩落した。炎の中からカラカラとルフィは元気そうに笑って現れる。

 

「おい、お前、神を信じるか?」

「馬鹿言ってねえでさっさとこの町出るぞ。もうひと騒動ありそうだ」

「……うん、行こう」

 

こっちの気も知らずに儲け儲けと無邪気に笑う船長に、棲姫は脱力した深い息を落とした。しかしすぐに切り替えてすでに海軍の包囲が始まっている中を三人と一緒に西に向かって爆走する。

 

「やべえ化粧があぁ!」

 

雨あられに降られ、化粧が崩れる中、棲姫は深くローブをかぶり、顔を隠しつつ海軍の追走を振り切っていた。途中たしぎを抑えるためにゾロが離脱。そして彼女たちの前方に先回りしたスモーカー大佐が待ち構えていた。

 

ルフィは道をこじ開けるべく突撃するがロギア系の彼に打撃は通じず、逆に彼の操る煙にまかれてあっさり捕らえられてしまう。

深海棲艦特有の不思議体質で悪魔の実無効とか、少しだけ期待して棲姫もルフィを解放すべく攻撃を仕掛けるが、彼女も同じく煙に巻かれて壁に叩き付けられる。

やはり自然現象に純粋な打撃が通じないように、肉弾戦では防空棲姫と言えどもロギア系の流動する体には攻撃を加えられない事を彼女はこの時初めて理解した。

 

打つ手なしかと思われたその時、謎の男がいきなり現れ、スモーカー大佐の行動を阻害した。そして直後に嵐による突風が吹き荒れ、その男以外は皆風に押し倒される。この混乱に乗じて何とか彼女達は包囲網を突破し、慌ただしくも麦わら一味はローグタウンから脱出した。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

島を脱出してから、メリー号は嵐に揺られ続ける。グランドラインに入るための入口、リバースマウンテンに向かって、一向は進んでいた。だがしかし、不意に嵐が止み、海も静かになった。船の後方はまだ嵐なのに今いる場所はとても静かで、風もない。

 

この奇妙な現象に棲姫とナミには心当たりがあった。

 

「あれ? 急に静かになったな。なんでだ?」

「しまった。カームベルトに入っちゃった! すぐに帆をたたんで! オール用意して!!」

「まった。俺が曳航する。ロープくれ! いや錨でなんとかする。ゾロ取り舵!」

 

左舷に取り付けられた錨を担ぎ彼女は艤装召喚しつつ海に降り立つ。ここの危険性は身を以て体験している。なので対応はとても素早い。

艤装に前進を命じると、その馬力は楽々とメリー号を動かし始める。風を受けていた時よりも速い速度で。

 

彼女の暴挙にナミは最初ひたすら混乱していたが、やがて彼女のしでかしたことを目の当たりにして今度は声を失った。

 

「はえーーーーーぞーーーー!」

「何よこれ。でたらめもいいところじゃない。ちょっとセイキ、なんでもっと早く言わなかったのよ!」

「あれ? 話してなかったっけ?」

「あのねえ。こんな速さを! 安定的に! 出せるのがでたらめって言ってるのよ! 風を読む必要が無いなんて、私いる必要ないじゃない!」

 

私もしかしていらないとナミはうずくまって自分の存在意義について悩み始める。しかし不意にあくどい気配に雰囲気が変わったのを棲姫は敏感に感じ取った。具体的にはこのままリバースマウンテンまで曳航させられそうな雰囲気を醸し出していた。

 

「いや、そんなことはないぞ! 航続距離も限りがあるからいつまでもはさすがに曳航できないから! つーかもう無理!」

「……一回あんたとはゆっくり話し合う必要があるみたいね」

「お、お手柔らかに」

 

 

こうして何事もなくカームベルトから脱出できた麦わら一味は、無事リバースマウンテンを越えて、グランドラインへと足を踏み入れる。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

幕間④ 覇気とは?

 

 

ある日のメリー号。ラウンジで調理の下ごしらえをしているサンジとセイキ、そしてルフィが雑談に興じていた。その流れで、スモーカー大佐の話が成り行きで交わされ始める。

 

「あの煙野郎てごわかったよな」

「あの海軍の野郎か。ありゃ絶対悪魔の実の能力者だ。しかもロギア系。打撃や斬撃は全部文字通り煙に巻かれちまう」

「そうなんだよな。俺やセイキのパンチもサンジの蹴りも全部煙になって避けられちまった。正直今のままじゃ打つ手がねえんだよなぁ。なぁ、お前ら何か対策とか知ってっか?」

「いや、知らねえな」

「知ってる」

 

困った表情で問いかけるルフィに何ともなしに棲姫は肯定した。何しろその知識はロギア系最強の地位を崩した印象深い要素なのだ。そう簡単に忘れるわけがない。

ルフィは身を乗り出して彼女に先を促す。

 

「本当か!?」

「あんまり詳しくないんだけど。覇気って呼ばれてて、気配とか気迫の強化バージョンみたいなもの。武装色と見聞色、覇王色の三種類があって、そのうちの武装色を習得することが確かロギア系の実体を捉えられて攻撃が入れられるようになる、はず。ごめんこれぐらいしか知らない」

「じゃあ、その武装色の覇気を覚えればあのケムリンに一発入れられるようになるのか! 」

「そういうこと」

「じゃあその、武装色の覇気ってやつを教えてくれ!!」

「いんや、知ってるだけで俺は使えない」

 

そういや俺も覇気は使えるようになるのだろうか? と棲姫は今更ながらに心配になってきた。深海棲艦だから覇気使えないとか言われたら、新世界では確実にやっていけない。その事実に彼女は少し身震いした。

 

「なんだ使えねーのか」

「すまんな」

 

興味を引かれていたからこそルフィはすぐにはモノにできないことを露骨にがっかりした。彼女は軽く謝罪する。

 

「大丈夫です。セイキさん。あなたの覇気で私の心はすでに虜です。どうぞ、本日のおやつです」

「どーも」

 

そこで話は一旦終わり、サンジが作った軽食にルフィが飛びつく。そんな感じに今日は珍しく穏やかな時が続いた。

 




ワンピース世界に艦娘、深海棲艦という概念は無い。


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リトルガーデンでBWと戯れる

最近のワンピ見てると真面目に棲姫ワンパンできそうでチートタグの存在意義ががが


グランドラインに入ってしばらく。海賊稼業にも慣れてきました今日この頃。俺たち麦わら一味はバロックワークスと呼ばれる暗殺者集団を蹴散らしながら、ビビさんを仲間に加えて、リトルガーデンという島につきました。バロックワークスとの因縁の始まりはよくわからずじまいです。

 

ウイスキーピークは住人達総出で歓迎会を行ってくれたけど、それが罠だったらしいです。俺はガチで寝落ちしてました、ハイ。そんでルフィに引き摺られる痛みで目を覚ましまして、あれよあれよと出航してましたまる

 

正直なところ、原作のここらへんは全く記憶にない。チョッパーの所とアラバスタの話しか大した印象が残っていないしその過程は全く抜け落ちていた。

 

話を戻して、ここリトルガーデンは、恐竜時代の環境がそのまま保全されている島だ。

冒険の臭いを嗅ぎつけたルフィは船を付けると、滾る冒険心に従うままサンジに早速弁当を作らせていた。

ここからが意外なのだが、気分転換にルフィの冒険にビビも付いて行くと言い出したのだ。ルフィというトラブルメーカーに王女が付いて行く。どう見てもフラグが乱立している状況を放っておくわけにもいかず、俺も付いて行くことにした。

生で見た恐竜には俺も少し感慨深かったが、その直後に現れた巨人の方がインパクトがあった。

なんとこの島は巨人族の二人が100年に渡って決闘を続けている場所であり、その決闘の様子と理由を聞いたルフィはその戦いぶりに感動してすっかり仲良くなっていた。あ、後恐竜の肉は意外においしかったです。いつまでもルフィが談笑している横でビビり続けるのもあほらしくなっていたから、つい。

 

で、決闘が終った日の夕方に事件は起こりました。俺とルフィとビビは巨人の一人、ドリーさんの所にいたんだが夕食の最中、彼が飲んだ酒が胃でいきなり爆発し、傍から見てわかる程の重傷を負った。ひとまずルフィがドリーさんを安静(物理)にしたが、下手人は消去法的にバロックワークス共の仕業だとルフィは言う。だがこの酒はメリー号の物だ。そうなってくると、メリー号にバロックワークスの魔の手がすでに及んでいるという可能性が浮上してくる。

 

「船が心配になってきた。戻って様子を見てきていいか?」

「わかった。おっさんとビビは俺が見とく」

 

ルフィとビビと別れ、俺は足早にメリー号に向かった。

 

しかしほどなくして決戦の合図である火山が噴火した。しばらくして遠くから剣戟の音が響きはじめ、最初で最後の仕組まれた八百長が始まってしまう。

 

 何で勝負が始まったのか。あの体で戦えるわけがないのにどうやって? ルフィ達はどうなった? 

 

向こうの様子も気になるが船の安否も気になる。ようやくメリー号にたどり着くと、一人で船番をしていたサンジと合流できた。

 

今までの経緯、バロックワークスの連中がこの島に潜伏してる状況を手短に伝えた後、サンジからも船の状況を教えてもらう。だがサンジも島でゾロとハンティング対決をしていたらしく、ナミとウソップの居所はわからないとのこと。

二人を探してくれとだけ伝えた時、ひときわ大きい地響きが起きた。

 

「とにかく一旦ルフィ達のところに戻る! サンジはナミとウソップ探しといて!」

 

決着がついたと直観した。ルフィ達の所に戻ると言い放ち、急いで踵を返し決戦場へと急ぐ。

 

 

目的地は途中から見えた。これ見よがしに見えるドでかい白い塔。ルフィの言った通り、やはりこの島には俺たち以外に誰かがいたのだ。そこに真犯人がいるはずと足を速める。

 

いた。木々の隙間から塔の前に立つ四人組。あいつらが下手人だ。

 

草木に隠れて様子を見る。一人記憶に心当たりがいる。あの蝋人間、インペルダウン編で再登場していたから覚えている。あいつはアラバスタでサンジが一回ボコボコにしたことがあるはず。なら打撃は通る。

 

塔の上のボウルがクルクル回って、その下にゾロ、ナミ、ビビ。なんか白いメッキみたいなものが三人にどんどん付着していっていく。

 

 成程、三人を蝋で固めて始末って寸法か。随分と手の込んだことやってんなオイ。

 

 砲撃……、ダメだな、どこ打っても衝撃波が三人を襲うし砕けた時の破片がやばい。ゾロはともかくビビとナミはなおさら。砲撃マジで使いにくいんだが、何とかできんかね?

 

 つまり、これまでのように肉弾戦だな。わかりやすい。

 

 なら敵を倒すか? 仲間が先か?

 

 仲間が先。相手は複数。遅滞戦術を取られた場合が怖い。手遅れになる可能性あり。仲間を助けることに集中しよう。

 

 ルフィ達を待つか? それとも一人で突っ込む?

 

 

 

 あれ? ゾロさん? いったいぜんたい何言ってるんですかね?

 

 

――――――――――――――――――

 

「だが、勝つつもりだ」

 

足を切り落として戦う。その言葉と共にゾロは刀を抜き放つ。彼の狂気の沙汰にバロックワークスの注意は皆そちらを向いていた。

 

防空棲姫は静かに飛び出し疾駆する。チャンスだと思ったのが半分、マジにやりかねないと判断したのが半分の決断であった。

 

「後ろだ!」

 

わずかな木々がゆれる音に振り返ったMr.5が叫ぶ。

 

雄たけびも威嚇も必要ない。必要なのは速度だけ。

 

人間の脚力では到底出せないスピードで彼女が向かう先は、Mr.3。諸悪の根源を討たんとその拳が迫る。

 

「きゃ、キャンドルウォール!!」

 

かろうじて、Mr.3の防御が間に合った。鋼鉄の強度を誇る蝋が防空棲姫の前に立ち上る。だが彼女の前ではまさしく蝋細工の壁であった。

 

「はっ!」

「ぐふぉえ!」

 

気合一閃。少しだけ洗練された動きで繰り出された拳は蝋の壁を簡単に砕き、そのままの勢いでMr.3の顔面を襲った。

 

さらに走る。数瞬でキャンドルタワーの足元へ。次の一歩で最下段の角に足を引っ掛け、一際力を込めて、防空棲姫は大空へとその身を跳ばす。

 

「しまった。タワーが!」

 

嘲りなど無駄、瞬殺は無茶、欲張りは不要。仲間の救出に向かって最速で突っ走る。

 

もう一つ掛け声を上げ、彼女は掌を回転するボウルへと叩き付ける。

 

跳ね上げられたボウルは九十度近くまで傾き、重力に惹かれて後ろ側へと落ちていく。

 

 

「セイキ~~~~~!!ありがとう!!」

「ゾロさんさあ、お前本気でやるつもりだったろ?」

「お前が来なかったらな。はやくこの足も何とかしてくれ」

 

森の中ではよく見えなかった仲間たちの足元を改めてみると、足首あたりまでが完全に蝋に埋まっており、全く動けない状態だった。蝋を乱暴に壊せば、その衝撃で足が砕ける可能性が大いにある。

 

鼻空想砲(ノーズファンシー・キャノン)!!」

「っ!」

 

その時、体勢を立て直したMr.5がゾロに向かって爆弾と化した鼻くそを飛ばす。棲姫は避けれないゾロを庇いその爆発をもろに受ける。

 

爆風にゾロは呻き、ナミとビビは悲鳴を上げる。

 

助けるには庇わなければならない味方、その中でも戦闘力が一番高いゾロに向かって打つのは極めて効果的であると言えた。彼の思惑通り棲姫は両手をかざしてかばったのだから。

 

だがそれは、普通の人間であればの話。

 

「っか~~~~!!!」

 

着用していた服の両腕ははじけ飛んだ。けど体の方は掌が僅かにやけどした程度。じんわりと掌に広がる強い痺れに思わず声を上げた。

 

「どうなってやがる!? 直撃したはずだ!」

 

いやグラム単位の爆薬でどうにかなる体ではないんで。と彼女は狼狽えるMr5に同情する。だがわざわざ口に出すほどの義理もない。

 

「ちょっとあいつら、殴ってくる」

 

無理に助けるのは悪手だと、棲姫は台から飛び降りバロックワークスと相対する。

 

――――1対4。対複数戦は初めてだ。だが今回も大丈夫だろう。持ち前の怪力と装甲で真正面から粉砕してやる。

 

そう彼女は意気込んで、地面を蹴る。狙うはMr.3。彼が再起不能にあればキャンドルサービスが解除され、三人とドリーが自由になれるかも、という一石二鳥が彼女の考え。

 

「キャンドルロック!」

 

Mr.3も今度はただでやられない。手を蝋に変え地面を走らせ、棲姫に襲い掛からせる。だが彼女が蝋の上を一足飛びに越えることで不発に終わった。

 

 

鼻空想二連砲(ノーズファンシー・ダブルキャノン)!!」

 

 

Mr.5が3の援護に回った。爆風のエネルギーで棲姫は横に吹き飛ばされる。単純計算で二倍の威力。それでも、彼女の装甲値には届かない。軽く煤が付きさえすれど血も出ず、すぐに体勢を立て直す。

 

間髪入れずに爆風で飛んだバレンタインが、一万キロギロチンを放つ。

だが、棲姫の目には落下軌道がはっきりと映っていた。勿論元々その空間把握能力があったわけではない。防空の名を冠する姫の体の恩恵で、彼女は対空に関しての感覚が非常に強化されているだけである。

 

咄嗟とはいえ、その感覚を受け入れた彼女はあっさりと攻撃をかわし、Mr.3に拳を振り上げた。最後の悪あがきに彼はせめて顔だけでもと両腕で守る。

 

まず一人と彼女はMr.3の敗北を確信していた。

 

―――このままこの赤いマーク(・・・・・)を殴れば、勝ちだ

 

そう思って、彼女の拳はそのまま赤いマークがついた地面を穿った。

 

「?!」

「カラーズトラップ。猛牛の赤」

 

 

何かがおかしいと棲姫は混乱した。あの男を倒す為にこの赤を殴った。なのになぜ倒れていない? 違う!?なんで赤を殴るんだ!? あいつを、いや赤を、ああもうなんなんだこれは!!?

 

「ちょっとどこ殴ってるのよ!」

「お前ふざけてんのか!?」

 

混乱によって反射的に彼女は目をつぶった。すると、先ほどまで混濁していた思考が嘘のようにクリアになる。ちゃんとMr.3を攻撃しなければならないと認識できるようになった。

 

思考がクリアになり、今まで棒立ちになっていた事実を思い出す。流石にやばいと棲姫はいったん距離を置いた。

 

視界が戻った途端、再びあの思考の混濁が起き始める。何かにつけて、あの赤いマークを攻撃しなければならないと思ってしまう。

 

何かをされた、と棲姫は思った。おそらく視覚から思考誘導が行われている。

 

とりあえず目を開いたらやばい。そう彼女は結論付けた。

 

対するMr.3は追撃をかけずに静かに頭を働かせる。

 

カラーズトラップ。ミス・ゴールデンウィークの絵の具による暗示を受け、彼女はごり押しせず、警戒して全員から距離を取った。普通ならば蝋による畳み掛けを行う所だが、彼はそうしない。なぜならばすでに一度蝋は真正面から砕かれており、無意味であると彼は考えていた。

 

しかし有利に事を運ぶためにこの状況を彼も逃さないわけにもいかないかった。

 

「見たダガネ? このマークを。ならばもう遅い。君は彼女の術中にはまったダガネ。君の精神はもはや彼女の絵の思うまま!」

 

罠にかかった相手をあざ笑う声を上げて、Mr.3はミス・ゴールデンウィークの能力をわざとぼかしで語った。

 

その言葉を聞いた棲姫は自分の仮説が正しかったと思い込んだ。故に彼女は目を開けなくなった。目を開いたら最後、彼女の絵から精神をコントロールされる恐れがある。最悪同士討ちを強要されるかも。

 

かくしてMr.3の目論見は成功した。後はじっくり料理するだけと彼はほくそ笑んだ。

 

だが次の瞬間、棲姫は再び駆けだした。しかも目を閉じたまま。

 

「何!?」

 

今度こそ完全に想定外だった。まるで見えているかのように一直線に彼女はMr.3に向かう。

 

「ひぃ!」

 

ことごとく予想の上を行く彼女に狼狽し、あろうことか彼は防御もせずたたらを踏んで尻餅をついてしまった。気が付けば、彼女は目の前。彼は前と同じように腕で顔を守った。だがこの男、悪運だけは強いらしい。

 

棲姫の拳は彼の顔があった所を通過し、彼女はMr.3に躓いて派手に転がった。

 

畜生、と彼女は顔を上げるが、バロックワークス達とは見当違いの方向を見ていた。

 

確かに目は使えない。だが彼女にはそれを補えるレーダーがあり、それでMr.3の居場所を把握していた。だが微妙な高さの変化までは体が追えなかった。だからこそ、こけたことで彼は拳を避けることができたのだ。

 

この時から、バロックワークスの中から数の優位、そして視界を奪ったことによる慢心は消え、彼女こそが一番の脅威であることを認識する。そして彼女が転倒によって分からなくなった敵を索敵する時間は致命的に遅かった。

 

「カラーズトラップ、笑いの黄色」

 

黄色の絵の具が付着した直後、棲姫の笑い声が一帯にこだまする。

 

黄色いマークを塗られた彼女は腹を抑えて笑い転げている。何もかもがおかしく思え、だが思考誘導を食らったと自覚しているのか眼だけはしっかりと覆っていた。

 

Mr.3に騙されたと認識した。しかしその意に反して体は笑いに阻害される。

 

「仕上げよ。和みの緑」

「あ~お茶が上手い」

「あんたホントに何してんのよ!!!」

 

高揚の色と憂鬱の色が合わさり、調和を生むことで停滞を愛する感情を生む。

大学生活でだらけきった生活をしていた彼女は、改善されたとはいえさぼり癖が付いていて。和みの緑との相互作用はばっちりであった。

 

こうして、彼女は無様に負けたのである。

 

 

――――――――――――――――――

 

「キャンドルサービス。再開ダガネ!」

「至福の時だ~~」

「死にかけてんのになに悠長にしてんのよ!!!」

「やめとけ。あいつらに何かされてんだ。言うだけ無駄だろ」

「で、どうすんのよ。このままじゃ私達死んじゃうわ」

「お茶がうまい」

「足切り落とすかねえだろ」

「あんたねえ。またそんなこと」

「しょうがねえだろ。もうこれしかねえんだ。唯一ここから脱出できる馬鹿力女は敵のせいでこんなだしな」

「あはは、なんか白くなってきたぞ~大福か~?」

「さっきも言っただろ。勝つつもりだ。安心しろ」

「なら、私も戦うわ!」

「ちょっと、ビビ」

「もう死んでもいいかな~」

「セイキ! あんたねえ!」

「本当に、死にたく、なる……」

 

暗示より戦闘意欲を失ったとしても、自責の念は残る。和やかな気持ちであっても、後悔は消えない。

何処かで奢っていた。体のチートスペックでごり押しすればいいと、まだ原作の序盤あたりだからそこまで強くないと、大将に狙われている身であると言うことも忘れて、たかをくくっていた。その結果がこれだ。

 

三人の仲間の命を背負っていたのに、この体たらく。全力で戦っていたならまだいい。だが、手加減していた。慢心していた。殺す気で行かなかったのは紛れもなく自分の怠慢。

 

仲間にどうしようもなく申し訳なかった。

 

その後悔と自責の念が、二筋の涙となって流れているのをナミは見た。

 

「……いくぞ」

「おお!!」

 

 

「「おりゃああああああああああああああああ!!!」」

 

 

怒りに身を任せたルフィ達の突進によって自分の足を切断する刀は寸前で止まった。

 

そして戦いは船長たちにゆだねられる。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

戦いは無事麦わら陣営が勝利し、リトルガーデンを無事出航しても棲姫の気持ちはあまりすぐれなかった。

 

 原因は勿論先の敗北。勝てたのだ。砲撃していれば、四人とも絶対に殺せた。だからこそ、負けてしまったことが皆に申し訳ない。

 

「……ハァ」

「おい。いい加減その辛気臭い面やめろ」

「え、ああ、ごめん……」

「まだ気にしてんのかてめえは。いい加減吹っ切れ」

 

 彼女がため息を吐いていると、背後から鉄アレイを持ったゾロがめんどくさそうに声をかける。彼女の煮え切らない態度に舌打ちした彼はそのまま素振りを始める。

自分でもわかっているのだ。バラティエでもこのままではダメだと思っていた。だから考えないようにしたが、逆に意識してしまう。死亡寸前まで行ってしまったのだから猶更その思いは強かった。

 

「うるせーわかってるよ。そんな簡単に吹っ切れる性格じゃないんだよこっちは」

「それで、何か変わるのか?」

 

少しの苛立ちに減らず口を叩けば、剣呑な雰囲気なゾロの視線が彼女を射抜いた。それにおっかなびっくりした彼女であるが、彼の言ってることは事実だった。実際ゾロはあの鋼鉄の蝋を切れるように鍛錬するべくここにきているのだから。

 

悩んでいるだけでは何も変わらない。それは当たりまえのことである。

 

「戦うのが嫌なら、別に無理に戦う必要なんてねえ。殺す必要もな」

「!? なんでそれを」

「見てりゃわかる」

 

自分の思考をゾロにぴしゃりと当てられてびっくりしたが、これまでの行動を振り返れば、それもそうかと棲姫は納得する。結局、バラティエから彼女はあんまり変わっていなかったのである。

 

「戦いたくなければそれでいい。ここはそういう一味だ」

「戦わない海賊って、もう海賊じゃないじゃん」

 

ゾロの声色はいつの間にか剣呑さが取れていた。彼女は気づかなかったが、むしろ悔いの色がにじみ出ていた。戦いに消極的なものを戦わせる羽目になった自分の力不足を彼は悔いていた。

一方で彼女はゾロの指摘通り、悩むのをやめた。というより、今から何ができるかに思考を割くことにしてみた。

 

 ルフィのような船長の器はない。ゾロのような剣術は使えない。ナミのような航海術も無ければ、ウソップのような空間把握能力も無い。サンジのような料理スキルもない。ただ一つ、使えるとすればこの体の固さと怪力だけ。

 

思考を逆転させる。殺す気が持てないなら、殺せない程度の全力で殴ればいい。殺さないで無力化する方法を覚えればいい。

 

 殺さない戦い方をまず覚えよう。丁度おあつらえ向きな相手が目の前にいる。

 

「ゾロ。剣士との戦い方、教えてください!」

「……いいぜ。ちょうど俺も相手が欲しかったとこだ」

 

こうしてゾロとの戦闘訓練で彼女は徐々に自分の戦い方を身に着けていった。

 




チートの癖して負ける姫の屑。


こ、こっから強くなるから……


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ドラム島でごそごそと

 ナミが倒れた。そんなビビの悲鳴でメリー号はにわかに騒がしくなった。彼女は速やかに部屋に運ばれ、頭を冷やしながら寝かされた。ビビが熱を計っているところで棲姫も合流する。

 

「この船に少しでも医学をかじっている人はいないの?」

 

ビビの問いかけにルフィ達は迷わずナミを指差した。それを見た棲姫は少し迷ったがおずおずと手を上げた。この三人に比べれば運転免許の応急手当講習等やネットから聞きつまんだ知識を持つ自分の方が詳しいことは事実だと考えたからだ。

 

「本当に触りだけなら。熱はどうなってる?」

「さっきからずっと上がり続けてるの。さっきは39.5度だったわ」

「……普通の風邪、なわけないよなぁ……。バロックワークスで目立った傷とか負ってたか? やけどとか」

「いえ、私と同じで全部軽い物ものだったはずよ。化膿するようなものは無かったわ。強いて言うなら腹の左側が少し腫れていると聞いたぐらいで」

 

ビビの指摘通り腹の左を見ると、そこは尋常じゃなく赤く腫れ、黒い斑点みたいなものができていた。

 

「……まあ、これだろうな」

「何とかできそう?」

「無理、お手上げ。虫かなんかに刺されて、細菌やウイルスが入り込んだぐらいしかわからない。とりあえず一刻も早く医者を見つけるべきだ」

「そんな……」

「……サンジ。スポーツドリンク、じゃわからんよな、清涼飲料水……でもない。あ~~~……普通の水より吸収が速い水って作れる?」

「んん? 心当たりがあるっちゃあるが……確か砂糖と塩を混ぜて作る水だよな?」

「そうそれ! それナミに作って」

 

ことの深刻さをいまいち理解していない男どもをしり目にビビと二人で話あった結果、対症療法さえおぼつかないことがわかってしまった。そして病状が悪化し続ける状態を鑑みると一刻も早く医者にかかる必要がある。しかし一方でアラバスタの情勢も刻一刻と悪化しているのも新聞で明らかになって、こちらも急を要した。

 結果としてはビビは建前上、ナミの天候を把握する天性の感覚が航海に必要だとし、ナミを治してからアラバスタに向かう決断をした。

 

本音であるアラバスタに行きたいと言う思いを押し殺して仲間を取ってくれたビビの心遣いに報いるべく、棲姫もひと肌脱いだ。

 

彼女が決めた最短経路を最高速度で突っ走るため、人が住む島を目指しメリー号を燃料の続く限り曳航し続ける。

 

「すごい……。風を受けて走るよりもずっと速い」

 

メリー号は棲姫の力でぐんぐん進む。やがて、気温が下がり空から雪が降り始めた。冬島の気候範囲内に近づいている証拠だ。この近くに、島があると皆は誰ともなく見張りを強化し始めた。

 

そんな中、レーダーに今日妙な点が映った。最初は岩かと思ったが、少しずつ移動している。彼女はそれを報告するとそちらに舵を向けた。

 

海上に男が立っていた。道化師みたいな格好をしたその男は唖然とした棲姫に気付くと同じく驚愕の表情を浮かべ、二人ともが硬直して、奇妙な静寂が訪れる。

 

「なあ、あの二人どうしたんだ?」

「さあ、テレパシーで会話してるんじゃねえのか?」

 

ルフィとウソップがひそひそと言いあっいると、男の足元からいきなり船が浮上してきた。男は海上に立っていたのではなく、木製の潜水艦の上に立っていただけなのだ。

 

そして続々と船上に兵士が飛び出てきて、あれよあれよという間にメリー号の甲板は占拠されてしまった。

 

海上にいる彼女にも遠くから銃口は向けられているが、それよりも甲板の様子が確認できないのが彼女にとって歯がゆかった。

 

撃っていいのか、その判断が全て彼女にゆだねられている。

 

砲口は相手側の船に向けており、戦いが始まればすぐに撃沈できる状態だ。

 

やがて少し時間がたってにわかに兵士たちの動きが慌ただしくなる。彼女はあずかり知らぬことだが、ワポルがいきなりメリー号を食べ始めたことにルフィが激昂したことで戦端が切って落とされていた。

 

照準を合わせる必要もない。そのまま撃てと命じれば、目の前の船が炎に呑まれるだろう。

 

そして多くの血が流れる。そしてこの極寒の海。漂流もできずに皆凍死だ。助かる見込みは絶無。そう思うと、指が全く動かなくなった。

 

だが、今仲間たちが攻撃されている。仲間を見殺しにすることこそ本末転倒。

 

あっちがやってきたのだから、向こうの責任だ。

 

 

 

彼女は引き金を引いた。照準はそのまま横にスライドして、何もない空間に、一発だけ。

 

100人単位のジェノサイド。その命を受け止める器を、彼女は持っていなかった。

 

それでも轟音と共に彼女を中心に海面は凹み、衝撃波によって互いの船の塗装が一部剥げた。海面に反射された電波を拾った砲弾は遠くで炸裂して、メリー号のマスト程の水柱を立てた。

こんなものが直撃すれば、あるいは掠っただけでも何も残らない。この場にいる全員が、そう思った。

 

「次は、当てるぞ?」

 

そう砲口を船に向ければ、多くの兵士が戦意を喪失した。ワポルも砲撃の威力に放心しており、その隙を突いたルフィによって、海上に吹き飛ばされていた。

 

最早勝ち目はないと、メリー号にいた兵士たちは一目散に船に逃げ帰り、ワポル救出に向かって行った。

 

「ウソップ~。後で船首の修理よろしく」

「いやお前さっきのなんなんだよ!!?」

 

 

努めてなんともない声を上げて彼女は再び曳航を始める。こうして、原作よりも早く麦わら一味はドラム島へと上陸を果たした。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「待て待て待て」

 

ドラム島には医者は一人しかいない。しかもその唯一の医者、ドクターくれはは標高5000メートルの円柱の形をした山に根城を構えていると言う。気まぐれに患者を直し、法外な報酬をかっさらって行く所業を恐れられ、人々からは魔女と呼ばれているらしい。

と、この島を取り仕切っているドルトンさんに教えてもらった。

しかし、医者は医者だ。ナミを治せる可能性があるのは彼女しかいない。そして麦わらの一味の船長は仲間の為ならどこまでだって頑張れる奴で。

 

ナミを連れて山を登ると言い出したのは当然の帰結だった。

 

しかしながらこっちは日本人だ。冬になれば、毎年ニュースで遭難事故が起きたことは放映され、定期的にSNSで山に登るときの注意事項が回ってくる。それでも遭難する程過酷なのが冬山なのだ。

 

ましてや登ろうとしているのは3000メートルどころの話じゃない。5000メートルの断崖絶壁だ。こんなのコート羽織ってさあ登ろうで行けるものでは到底ない……はず。

 

「ナミ、今から山登るぞ」

 

 

 ……ですよね~

 

一通り山の危険性を訴えてもそうかで済ますのがルフィの性格。

登りきったんだろうな原作ではと、遠くにそびえる断崖を見ながら俺は頭を抱えた。

 

うん無理。あの崖は俺には登れない。前代未聞のキロ単位の登攀。途中で精神が持たなくなって立ち往生するのが目に見えている。普通の人間の精神でできることじゃない。

 

結局、ルフィとサンジにナミは任せて、俺とウソップ、ビビは麓で待機することになった。せめてもと、クレバスの存在や雪崩の避難方法を同行するサンジに教えておいた。

 

 

だが、その三十分後、村人から隣の村にドクターくれはが来訪しているとの話が舞い込んできた。

 

 

俺たち三人は、元親衛隊隊長のドルトンさんと共にそりですぐに隣町に急行した。だが着いた時にはすでに彼女はさっきとは反対側の村に向かったとのこと。全くの入れ違いに俺たちは落胆を隠せない。

 

さらに間が悪いことに、海上で蹴散らしてきたワポルがドラム島に上陸したとの情報が入った。その報を受けて、ドルトンさんは止める間もなくその場所へと馬を走らせ、俺らと別れた。

 

一方で残された俺たちは医者くれはに山頂に戻ってもらうようお願いするため、件の村に向かっていたのだが、その道中で、そりが雪で立往生してしまった。

 

「おいまずいぞ、雪深くて止まっちまった」

「明らかに乗り上げちゃってるわね」

「とりあえずそり引っ張りだそうぜ」

 

そりを降り、後ろに回る。そしてそりを掴んだとき、そりが異常な程振動を始めた。やがてそれはビビ達にも伝わる程の地響きと化して、あたり一面に轟くようになった。

 

 

「ウソップさん、セイキさん。まさかこれって……」

「ははは……」

 

ビビが顔を引きつらせながら尋ねる。視線を上げれば、巨大な雪の塊がもうもうと立ち上ってこっちに迫ってきた。

 

「にに逃げるぞ。棲姫早く引っ張れ!」

「おおうそうだなししししっかりつかまれい」

 

強引にそりを雪から引っ張りだし、来た道を戻る。でも雪崩の方がずっと速い。

冷たい風が背中に吹き付けたと思ったら、あっという間に飲み込まれた。

 

正に大自然。命の危険すら忘れてそんな感想をぼんやりと思い浮かべていた。

 

抗いようのない力で全身をもみくちゃにされる。雪崩で生き埋めになったら速やかに呼吸できる空間をつくれとどこかに書いてあった気がする。だが、埋もれてみてわかる。これ常人だと死ぬなと。

 

雪は固まるのだ。動いているときならまだしも。停止する際の圧力によって、雪は固く圧縮される。それを身を以て体感している。姫の怪力でもって雪を掘り返せているが、常人では指先一つ動かせないだろう。そんな圧迫感があった。

 

艤装召喚で雪を押し出し、パンチとキックで上の雪を砕いて掘り進み、五分もしないうちに地上へと脱出できた。ウソップとビビは俺を探していたらしく必死にあたりを掘り返していて、心からの安堵の息をついていた。

 

三人とも無事であることが確認できたので、現在地と状況の把握を始める。とりあえず集落を見つけようと歩いていた所、同じく雪崩に呑みこまれていた半裸のゾロと偶然合流した。

 

寒中水泳していたところ、道に迷って雪崩に巻き込まれたとのこと。そして寒さで凍えるゾロはしきりにウソップに防寒着を要求していた。アホかな?

 

そんなこんなで何とか村にはたどり着いたのだが、そこではワポル親衛隊と村人達が武器を構えてにらみ合いを始めていた。しかも村は雪崩に半分以上が覆われていて。村人たちの苦渋の表情から生き埋めになった人たちがいることが読み取れた。

 

村人たちは当然救助に当たりたいのだろうが、練度の差は歴然。にらみ合いというよりも、親衛隊の方が侮っているだけ。この均衡が崩れれば、たちまち村人陣営が負けてしまう。

 

そんな所に、寒さに凍える猛獣が一匹迷い込んだ。そして親衛隊は敵と認識されていれば、奪わない理由はない。

 

「あいつら見覚えあるぞ。敵だな。敵でいいな?」

「ああうん、いってらっしゃい」

 

俺たちが集団の背後で村人から話を聞いている最中にも関わらず、ゾロは親衛隊を敵と断定しようとせかしてきた。その声の調子から奴らの防寒着が欲しいんだな、と察した俺は素直にゾロにゴーサインを出した。流石にあのままでいるのは辛すぎる。

彼は親衛隊の一人を殴り飛ばし、防寒着を強奪する。暖かさにいつもの調子が戻ってきたゾロは集団の中を突っ切りあっという間に剣を三本取り上げ、再び集団に突進していく。

 

ドルトンさんが生き埋めになっていると聞いて、少し遅れて俺も加勢した。近くの敵に掌底を放って周りもろとも吹き飛ばしてただけだが、親衛隊が全員倒れるまで30秒かからなかったと思う。

 

「なんだ張り合いのねえ奴らだ」

「よーし、よくやった! 全て俺の指示通りだ!」

 

そのウソップの言葉で、ようやく村人たちは親衛隊は全滅したと把握し、すぐに雪をかき分けはじめた。

 

結果から先に言うと、ドルトンさんは助かった。

 

掘り起こした時は低体温+心肺停止状態だった。心臓マッサージをしているところ、村人たちの背後から親衛隊の医者たちが彼の治療に名乗りをあげる。

 

村人たちは初めは疑っていたが、彼らの誠意ある言葉にだんだんと折れていく。もともと彼らの手にすがるしかなかったのだが、ともかく彼らによってドルトンさんは無事に息を吹き返した。

 

が、目を覚ました彼はろくに動かない体をおして、山頂のドラム城へと向かおうとする。

 

「この国の存亡がかかっている時なのだ! 今這い上がらなければこの国は永遠に腐ってしまうぞ!!」

 

村人たちは何とかなだめようとするが使命に燃えた彼は決して意志を曲げない。それに当てられてウソップ、そしてゾロまでもが手を貸し始める始末。

 

「……はぁ」

 

 ……覚悟決めるか

 

まあ、村人たちがロープウェイを修理してくれたおかげで登攀せずに済んだんですけどね。マジ村人グッジョブ。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「おい、あれは何だ!?」

「あれは」

「間違いなく」

「俺んとこの船長の仕業だな」

 

到着直前に何かが城から吹き飛ばされていたのが見えた。

十中八九戦闘が起きている。なので城前の広場をゾロとウソップが偵察しに行った。

 

「お前ら何やってんの?」

 

その後にビビと共に続けば、ルフィが加わって三人とも雪に埋もれていた。どうやらゾロの服装で敵と勘違いしたらしい。

 

戦いの気配は無く、ルフィもすでにワポルをぶっ飛ばしたと言った。確認をしたドルトンさんはルフィに、そして橋の森から怯えながら見ているチョッパーに深く感謝を告げていた。

 

「ちょ、ドルトンさん!? 大丈夫か?!」

「いや、大丈夫だ。気が抜けてしまってな。ちょっと休めばすぐ直る」

 

市民たちも続々と広場に集まってきたところで、無理に動いたせいでドルトンさんの傷が開き、その場にうずくまってしまう。本人は大丈夫と言うが、顔に流れる冷汗はどう見ても無理している証拠だった。

 

「ハッピーかい、ガキども。そこの病人連れて中に入んな」

「どどどDr.くれは!!?」

「てめえ! あん時のクソババア!!」

 

そこにさっそうと現れたDr.くれはは有無を言わせぬ口調で皆を城に入場させた。ゾロだけは、ババア呼びしたせいで拳骨くらって一撃でのされていたが。  マジョコワイ

 

「行かないのか?」

「誰が行くか」

 

ゾロは不機嫌そうに広場に座り込んだまま、動こうとしなかった。ウソップも雪で遊びたかったらしく、ビビと俺でナミの様子を見に行く。

彼女の症状はもう快方に向かっていて、熱もだいぶ引いていた。だけどあと二日は安静にしなければならないらしい。

勿論彼女はそんな悠長にしているつもりはないと、今すぐにでも逃げ出す気概だった。ビビの為、刻一刻と崩壊する国に一刻も早く出発しようと画策していた。

 

「でもまたぶり返したら辛いぞ?」

「そんなこと言ってる暇無いの! こんなの気合で治すわよ」

 

ナミの言に押し切られしぶしぶ首を縦に振った。ついでに泥棒猫は武器庫の鍵で退院の許可をかすめ取っていく。コート来てサンジを負ぶってルフィの声が響く外に行くと、ちょうどチョッパーが森から現れた場面に鉢合わせた。

 

チョッパーは行けないと叫ぶ。トナカイで人間でもない。角だって蹄だってある。鼻も青っ鼻。怪物だから、行けないと。

 

「うっせぇ!!!いこぉおおおおおおお!!!」

 

それらの言葉はルフィにとっては雑音でしかなかったらしい。合間合間に挟まれた海賊になりたいという思いだけがあれば、後は何も関係ない。屁理屈もいらない。うるさいだけだと。

 

説得ですらなかった。だがそれこそが"仲間"として迎え入れてやるという証明だった。一直線に差し延ばされた手をチョッパーは雄たけびと共に受け取った。

 

 まあ、俺みたいなこんな人間でも受け入れてくれるんだから、当たり前と言えば当たり前だ。

 

で、チョッパーが荷物をまとめるのを待っていたのだが、

 

 

 

「待ちなァ!!!」

「なんだあのババア!?」

「皆そりに乗って!」

 

何故かチョッパーはそりを引きずって駆けてきて。その後ろから般若の顔で迫るドクトリーヌの投げる包丁の嵐に襲われ、悲鳴を上げながら乗ったそりで、落ちれば確定で死ぬであろう紐の上の高速綱渡りをやる羽目になってしまった。

 

ドクトリーヌ超怖い。ドラム島の二番目の思い出はそれに尽きた。

 

 

 

もちろん一番目は、その後に彼女が咲かせた世界一大きな桜の木なのだが、壮絶な照れ隠しはやめて、もっと穏便な別れ方をしてくれと俺は桜に切に願った。

 

こうしてドラム島での医者探しは終わった。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

出航したメリー号では夜桜を背に宴会が行われていた。

 

「月も出てて桜が咲いたァ!」

「こんな時に宴会やんないなんて嘘だぜ!」

 

確かに、雰囲気的には宴会には最高のシチュエーションだ。男性陣は四人で船首を占拠し、ひたすら酒を煽っている。一方でビビ達は深刻な状況に置かれていた。

 

「カルー! あなたどうして川で凍っていたの!?」

 

そりで船に戻ってきたとき、カルーは船上にいなかった。かわりにすぐそばの海面にカチンコチンで浮いていたのだ。幸い変温動物だったのか、一命は取り留めたものの、ビビによる懸命な処置が行われていた。

 

男たちは生きていたからいいと、気にも止めていない。むしろゾロなんかはドジを踏んだんだろと若干馬鹿にしていた。その後チョッパーの会話から、ゾロが原因だと分かってナミに拳骨をもらっていた。

 

とりあえず、船番ぐらいはちゃんとしてくれ。

 

この後、ナミ以外チョッパーを医者だと認識していなかったことの方がもっと唖然としたが。特にルフィ。医者が欲しいと言っていたじゃないか。忘れるな。

 

「よーし! てめえら全員注目!」

 

まあ、純粋に仲間を歓迎する奴らという面では、この上なく上等だと思う。

 

「新しい仲間に、乾杯!」

「「「「乾杯!!」」」」

 

 

そして出発から4日目、食料の備蓄がつきた。

 




捕捉:今回主人公が砲撃しましたが、火力は大和型に匹敵+対空値を考慮して、威力極高+高性能近接信管としています。メリー号上で撃てば床が抜けるだけで済めばいい方です。

主人公はクレバスの危険性を訴えていますが、ドラム島の場合、常葉樹が生えているので木の根元が落とし穴になるツリーホールの方を注意しなければなりません。



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アラバスタで意識改革第二段1/3

いつまでたってもこの主人公何もしないから強引に意識改革させるわ

相変わらずフラフラしてるけど許して

総文字数24000字とかになったから3話分割投稿です。


「結局、あの轟音と水柱は何をしたんだよ?」

 

出航から二日目、寒波は弱まり、まるで春のような陽気な気候の中、ウソップが問いかけてきた。

ドラム島では急を要したため、説明する暇が全くなかった。ようやく穏やかな気候に入って余裕が出てきたところで彼は気になっていた謎を解消しに来ていた。

 

「ああ、あれ?あれは艤装で砲撃した結果」

 

神妙な顔つきで尋ねるウソップに、棲姫は首をかしげながらさも当然のようにさらりと即答する。

 

「結果ァ!? いやいやいやあれそこらへんの大砲より威力あったぞ! てかその艤装ってそんなこともできるのかよ!」

「言ってなかったからな、わるい。自分もあの時はどういえばいいかわからなくてさ。もっと言えば船がやれることは一通り何でもできる」

「ルフィがゴム人間なら、船人間って感じか?」

「うんそれ。正しくそれ。一番簡潔で分かりやすい」

 

自分のことをどう相手にわかりやすく伝えるか。それが何気にできてなかった彼女にとって、その単語は地味に天恵にも等しかった。自分のことはこれからそう一言で表そうと、喜びながら内心で決めていた。

 

「成程、お前のその馬鹿力も船が持つ力が現れてる、ってことなんだな」

「そうそうそう。ついでに固いのも馬鹿力なのもそれが理由」

 

そこで彼女はサンジに呼ばれ、鼻を鳴らしているウソップと別れた。だが彼女が去った後のウソップの表情は納得している表情ではなかった。

 

風を受けて進む船ならば、果たして船が出せる力とは一体何なのか。固いと言っても、所詮は木でできているのになぜあそこまで防御力が高いのか説明がつかなかった。

 

艦これ、ひいては現代の軍艦のイメージが根強くのこる棲姫は船は内熱機関が当たり前という先入観があり、そして大和を代表する強力な鋼鉄の戦艦があって、艦これの装甲計算式を知っているからこそ自身の防御力をすんなりと納得しているが、それらを知らないウソップがそういった疑念を持つのは当たり前だった。

 

 

このウソップが感じた違和感が解消されるのは、ウォーターセブンまで待つ必要がある。

 

 

 

そして四日目、ルフィのつまみ食いにより、食料が枯渇した。

 

原因としてはこの一味は健啖家が多いのが挙げられる。ルフィを筆頭として、男性陣は軒並みそれなりには食べる。そして自重しているが棲姫もその一人である。彼女やゾロは食べる量をコントロールするが、ルフィの食欲に底は無く、本人もそれを抑える様子はない。そしてそれを止めるセーフティは鍵なしの冷蔵庫に見張りという緩いものであり、ドラム島で補給ができ無かったにもかかわらず宴会をしてしまった結果が複合、そして最後の止めにルフィの銀蠅。以上により飢餓が発生したのである。

 

「はらへった〜〜〜〜」

「おめえがエサ食うからだろ!」

「お前も食ってたじゃねえか!」

 

ウソップとルフィはしぶしぶながら釣りを始める。が、早々に空腹に耐えかねて肝心のエサを二人して食ってしまった。もちろんそんな悪事は即バレ、容赦ないサンジの蹴りとナミの拳骨の後、何としても釣れと二人は無茶振りをかまされ、たんこぶをこさえたまま釣りにいそしんでいる。完全に二人の自業自得。しかし二人に任せっきりで動かないわけにもいかない。

棲姫はおもむろに甲板から下をのぞき込む。透き通る海中に汚染の気配はなく魚にとって良好な環境に見える。しかしながらいくら覗き込もうと魚群は見えず、ただただ二人時間は浪費されるばかりだろう。飢えの発生は確実で間違いなく一味壊滅の危機であった。

 

「時にビビ王女。国際法ではダイナマイト漁は禁止されてる?」

「ごめんなさい。ダイナマイト漁って何? 」

「爆発物を海中に投げてその衝撃で魚を殺して、漁を行うってやつ、知らない?」

「そんな方法があるの? 初耳だわ」

「ハマれば、あの二人よりはたくさんとれる。ともかく法律に違反してないなら大丈夫だな」

 

海賊なのに法律を守るなんて……、とビビが海賊らしからぬ行動を不思議そうに思っている横で、その棲姫は食料問題解決の為に動くことにした。彼女だって腹は減っていたし、ドラム島でほとんど何もしなかったことに何も感じなかったわけではない。ルフィの頑張りに少しは報いても罰は当たらないだろうと海上に降り立った。

残念ながら魚群を発見するのに使えるソナーは艤装に装備されていない。しかしながら爆雷は標準装備で備え付けられていた。なので索敵は原始的に水中に潜り、魚を目視で確認。そのあと艤装を召喚し、爆雷をダイナマイトがわりに使用して海中に衝撃波を拡散させる方法を用いた。これによって、なんとか複数の魚を釣果として船に戻ることに成功したのだった。

 

「よくやったわ! これで空腹から解放される!」

「よっしゃ飯だ飯だ~~~~!!」

 

この時ばかりは一味全員が彼女を英雄視するほどメリー号に喜びが満ちていた。

まあ、それも一日で全て平らげた阿呆どもの怒りに転化されたわけだが。

 

それをサンジから聞いた時、彼女はたいそう間抜けな声を漏らした。そしてすぐに首をそらした下手人に詰め寄った。

 

「おい。昨日の魚、どこやった? 怒るから、正直に、言え」

 

下手人であるルフィはそっぽを向き口笛で合唱する。

 

「艤装召k「すいませんでした」ええいなんで全部食うの!? 釣りのエサも作れねえじゃねえか!!」

 

棲姫、ガチギレ。少ない燃料を切り詰めた成果がこのような形で無くなるのは流石に我慢ならなかった。報い云々の分を軽く超えて、なお余りある罪状に彼女は怒り心頭で昨日のナミとサンジと同じことをルフィに言い渡した。

 

「ちょっと!! あなた達カルーになんてことしてるのよ!! 餌にしないで!」

「セイキちゃん。悪いけどもう一回、頼めないか?」

 

勿論それで釣れるわけがなく、遂にルフィとウソップはカルーを生贄に魚を召喚しようと画策を始める。その光景を背景にサンジは再び食料の確保を棲姫に頼んだ。だがその頼みに彼女の首が縦に振られるには少し時間がかかった。と言うのも、ドラム島に急行するために燃料を大量に使ったため、残り燃料が15%もない状況なのだ。もしこれで漁に手間取れば、砲撃どころかレーダーの使用もおぼつかなくなる。

 

だが、背に腹は代えられない。仕方なしに彼女は捕獲ネットを片手に再び海上に降り立った。

 

出来る限り、自分の足で海面を走り回って燃料の消費を抑える。少々の疲労感を覚えはじめる中、一味は海上から白い煙が立ち込めているのを発見した。

それは海底火山の活動によって蒸気が噴き出しているホットスポットと呼ばれるものであるとナミは語る。

 

「成程、火山のせいか。道理で硫黄臭いわけだ」

 

蒸気によって視界不良になるため突入直前にレーダーを一瞬だけ起動した。

煙の中には何もない、だがその外から一隻の小型船が猛スピードでこっちに突っ込んできているのを彼女は感知した。衝突の危機だ。

 

「11時の方向! 船が突っ込んでくる!」

 

焦る彼女はすぐにレーダー情報をメリー号に伝えるが、もう遅い。船の舵は効きが悪く、方向は変えられない。向こうの船が気付いてくれることを願うしかメリー号はないのだが、小型船の振る舞いから見てそれも望み薄だった。

 

幸いなことに、ギリギリの所で二隻は衝突しなかった。どちらの船員も衝突寸前だったとは夢にも思わなかっただろう。だが、本当にかするぐらいの距離まで接近したことにより、その小型船のちょうど船長席の位置につるされたカルーが重なり、そして棲姫の捕獲ネットに小型船の錨が絡まった。

 

こうして、突発的な交換留学は史上まれに見ない方法で行われることとなった。

 

「いででででで!!」

 

最悪なことに錨に引っかかった衝撃で手とネットが絡まってしまい、簡単には抜け出せなかった。棲姫は小型船に引きずられていき、みるみるメリー号と艤装との距離を離していく。ネットを壊すわけにもいかなかったので止むを得ず彼女は置いてきぼりになった艤装を送還し、混乱の渦中にあった小型船にしがみつく。

 

「船長がいないぞ!」

「ちょっと待て、錨に何か絡まっているぞ!?」

「女だ! 船長がとうとう本物の女になっちまった!!」

「あの船止めてもらっていいですか!? 助けて!」

 

煙で混乱に陥っていた小型船だったが、ようやく事態を飲み込み始めた船員たちによって彼女は錨から救出された。Mr.2がメリー号でお世話になっていたころ、彼女もまた、ボン・クレーの部下のお世話になっていた。彼女の手元には綺麗に折りたたまれた捕獲用ネットと、温かいスープが収まっていた。

 

「ありがとうございます。こんな大変な時にスープまでいただいちゃって」

「いいってことよ。こんな美人さんをつってしまったからには相応のもてなしをしないと海賊の名が泣く」

「それで、船長さんが俺……私と入れ違う形でいなくなってしまったとのことですよね?」

「ああ、船長は能力者でな。海に落ちたなら一刻も早く探さないといけねえ」

「……もしかしたらですけど、私が乗っている船に乗り込んだかもしれません」

「何!? そりゃあどういうことだ?」

「ネットが引っ掛かった時、お……私の悲鳴以外で声は聞こえませんでした。普通海に落ちたなら大声を上げるはずです。それがないと言うことは、多分……っていう感じですけど。でも、本当に海に落ちている可能性の方が高いのでそっちを優先した方がいいと思います」

「成程、希望は捨てちゃいかんとそう言っているんだな。……ありがとう」

「船長さん。早く見つかるといいですね」

 

棲姫は見知らぬ他人には基本的に敬語を使う。別にそれは男としても何も不自然なことではない。だが今の彼女をはたから見ると、どう見ても言葉遣いが令嬢のそれだった。何人かの男が生唾を飲み込んでいるが、海賊らしからぬ自制心で彼らが行動に移すことはなかった。幸か不幸か彼女は気付かなかった模様。

 

「いたぞ~~! 船長だ! ボン・クレー様だ! 船に乗っているぞ~~~~!」

 

その丁寧な物腰に彼らは続々と紳士の称号を手に入れ始めた頃、一人の船員が大声で叫んだ。指差す所を見れば、メリー号の甲板でルフィ、チョッパー、ウソップと肩を組んで陽気に踊る男がいた。

 

その男はボン・クレーと先ほどの船員は確かに言って、彼女はしっかりと聞いた。

 

 なるほどこの船はボン・クレーの船だったのか。そうなのか。

 

そこでようやく彼女は自分が敵中ど真ん中でくつろいでいたことを理解した。よく見ると皆体のどこかにB.W.のタトゥーが彫ってある。バロックワークスは荒くれものという印象が強かったため、こうしたもてなしをしてくれるとは思ってもみず、まさかと全く予想していなかった。

原作では、この時いち早く彼と遭遇することにより、あの有名なバツ印を左腕に刻むことになる。そのことを今更ながら思い出した。

 

「? どうかしたか?」

「あ、いやその……わ私も帰る船を見つけられたので……」

 

挙動不審になりながらも、メリー号が近づくまで何とか平静を保つ。思考はすでにここでMr.2を倒すか倒さないかの議論が始まっていた。

 

未来のことを考えるならば。このまま原作の流れに進むのが一番ベストだろう。インペルダウン編では彼の支援なくばルフィは脱出できなかったはずだ。一方でここで倒してしまっても、アラバスタ編では後の戦況が楽になるだろうことは明白。

 

未来を取るか、今を取るか。悩んでいるうちに、メリー号が目の前に来てしまった。結局、もらった温かいスープがおいしかったので、今は未来を選ぶことにした。

 

「スープ、ごちそうさまでした」

 

手を振る彼女の横では、一味たちが彼の正体に大いに慌てふためき、そこに乗船していた彼女をおおいに心配した。

が、スープの件を話すと、なんでお前だけと一転して恨めしい視線にさらされた。もちろんルフィ達は自業自得なのですぐに黙らせたが。

 

 

 

そして一行はいよいよアラバスタへ上陸する。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あの、マジでこれ着るんすか?」

 

反乱を阻止する中で、バロックワークスの邪魔は必ず入る。だがその妨害をできる限り抑える為に、俺たちが麦わらの一味とばれないように変装をする必要があった。まあそこまでは理解もしたし納得もした。だがしかし、サンジを買い出しに行かせたのが間違いだった。何故なら彼が買ってきたのは庶民の服ではなく、扇情的な踊り子の衣装。しかも、三人それぞれに最も似合うモノをこの短時間で選んできやがった。

 

「いいから着なさい。グダグダ言ってももう遅いわよ」

「……ふぁい」

「いいじゃないか。踊り子だって庶民さ~~~~♡ 要は王女と海賊ってばれなきゃいいんだろ?」

 

 やばい、これほんとにすごい恥ずかしい。男の時は上半身裸ぐらいは普通にできたのに(勿論進んでやりたくはないが)。視線にさらされてないのにすごい羞恥を感じる。靴がハイヒールみたいなものじゃないのがせめてもの救いか。ハイヒールだったらマジで走れない。

 

 

「うう……鼻が曲がりそうだ」

「そうかトニー君は鼻が効きすぎるのね。ナノハナは香水の町で有名なのよ。中には刺激がつよいものもあるから……」

「これとか?」

「ウオオ! やめろおまえぇ!」

 

チョッパーが鼻を押さえてナミから後ずさる横で、サンジは女性陣の踊り子姿にそれはそれはテンション爆上げで興奮していた。対照的に俺は羞恥でゾロと同じく冷め切っていたが。

 

「あほかあいつ」

「ローブが欲しい……」

 

気を取り直して、ビビは今後の方針を伝える。しかしその途中で、海軍がルフィを追いまわしているのを目撃してしまう。さらに不幸にもルフィもこっちを視認した。こっちにまで追手が差し向けられる羽目に陥る。しかもその先頭はあのスモーカー大佐。

 

「お前ら海軍だにげろ~~~~!!」

「馬鹿! こっちくんな! 一人でマいてこい!」

「全員荷物は持ったか!? 走るぞ!」

 

やっと手に入れた食料をここで手放すわけにはいかず、各自が近くにあった物資を手に取り走り出す。今の俺たちじゃスモーカーの実体を捉えることができない。捕まったらあっという間に囲まれてしまう。

背後のスモーカーはルフィの後ろから煙化した手を伸ばし、完全にとらえに来ていた。ルフィも死に物狂いで足を回転させるが、わずかに煙の方が速い。このままでは追い付かれるのも時間の問題だ。

 

 

だがその窮地を救ったのはルフィの兄エースだった。迫る煙の拳は炎にかき消され形を失う。ルフィは兄の登場にすこぶる驚いていたが二三言葉を交わした後、俺たちに再び走れと大声を上げた。エースは俺たちの前に火の壁を作る。海軍の視界は奪われスモーカーたちの足は完全に止められた。

このエースの助けによりメリー号と俺たちは慌ただしくも物資と共に無事に出航できた。

 

 

その兄と再びまみえたのはこのすぐ後の海上でのこと。弟とは対照的にしっかり礼儀をわきまえているのは知っていたが、一部でエース様と言われるほどのイケメンさをいかんなく発揮し、一味の皆を唖然とさせている。

 

だけど、彼は死ぬ。具体的な日付はわからないけど、あの頂上決戦で赤犬に殺される。そして彼女は彼に対して何もできない。

 

ちらりとルフィを見た。屈託なく兄貴と談笑する彼の笑顔が悲哀に満ちる。それは嫌だなと、棲姫は素直にそう思った。

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

麦わら一行はかつて緑でいっぱいだった港町エルマルに寄港し、反乱軍の拠点であるユバを目指し、砂漠を横断する。

 

彼女は一人考える。ビビにこの国の地理は一通り教えてもらった。街はエルマル、ユバ、レインベース、カトレア、そして首都アルバーナ。クロコダイルがいるのがレインベース。王様がいるのは首都。

 

クロコダイルとルフィが戦い、ルフィが勝つ。エージェントも仲間たちが全て倒す。そしてビビとの別れのシーン。アラバスタ編で覚えているのは本当に結果だけだ。その過程というのはどうしても抜け落ちやすい。もう十年以上前のことなんてほとんど覚えていない。だが、話を作ると言う観点からのメタ推理は出来た。

 

棲姫は、なんとなく反乱軍はユバにいないことを確信し始めていた。メタ的な推理ももちろんだが、今この状況もこの予想が正しいと拍車をかけている。

 

「ビビ、この道順はよく使われるのか?」

「ええ、わかりづらいけどここはよく使われるはずよ」

「なら、俺たち以外に人がいないのはおかしくないか?」

 

戦争をするには金が要る。物資がいる。人がいる。なのにその拠点に向かって物資の流れができてないのは不自然だ。

 

「ちょっと待って。それじゃあユバには反乱軍はもう」

「多分いない。でも拠点としては残っていると思う」

 

思えば、エルマルが廃れている時点で気づくべきだった。エルマル→ユバの流通ルートは地理的に首都の監視下から一番遠いルートである。そこを反乱軍が使わないはずがない。なのに使わないということは、もう使う必要が無いから。

 

「でもレインベースからのルートもあるわ。反乱軍がいないって決めつけるのは早計よ」

「確かに。でも海からの補給ルートを切る理由が無い」

「あんたね、ここグランドラインの中だってわかって言ってる? 安定した補給なんて出来るわけないわよ」

「あ、そっかぁ……」

「ともかく、ユバに行きましょ。なにかしらの反乱軍の動向はつかめるはずよ」

 

 

 その議論の対象となっている件のユバに着いた時、そこは今まさに砂嵐に襲われていた。そして、ボロボロになった街に反乱軍はいなかった。

 

ユバにいる唯一の人物はひたすらにオアシスを掘っていた。その光景に脳裏を刺激され、棲姫は一つ原作を思い出した。

この爺さんはユバのオアシスを復活させるために、どんなに砂嵐がこようともひたすら地面を掘り続けていたはずだ。

 

その男の名はトト。幸運にもかつてビビと親交があった人物であった。

彼は言った。反乱軍はナノハナの隣のオアシス、カトレアに拠点を移したと。

 

彼はビビに縋り付く。王様は決して国を裏切るような人ではないと、私は信じている。だから反乱を止めてくれと、そう言った。

 

「反乱はきっと止めるから」

 

その時の気丈な笑顔の裏には悲壮な覚悟が見え隠れしていた。

 

 

 三年前から、ユバは雨が降らなくなり、頻繁に砂嵐に見舞われるようになったらしい。オアシスが枯れたこの町に流通は無くなり、街は放棄された。廃屋に入れば、まだ生活感のある部屋がそのまま残されていた。また、いつでも元の生活に戻れるような清潔さがそこにはあった。

 

この部屋の主はどのような想いでここを去ったのか想像に難くなかった。

 

この想いを託されている彼女に、俺は何ができるだろうか。



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アラバスタで意識改革第二段2/3

三話分割投稿二話目です。


 

 海賊王に

 世界一の大剣豪に

 誰も書いたことのない海図を書くために 

 世界一偉大な男になるために

 

リバースマウンテンに入る前の決意表明で俺は何を言ったのか、思い出せない。確か、適当な出まかせを言ったはずだ。

 

だって、俺には旅の目的なんて、最初から持ってなかったのだから。ただ何となく、楽しいだろうと思った方を選んだけだから。

 

 

ユバを出てすぐ、ルフィは座り込んで動こうとしなかった。ビビの説得にも動じず、やがてそれは口論になり、激しい喧嘩へとヒートアップしていく。そして遂にルフィの拳がビビの頬を殴った。

 

 本気じゃない。手加減してる。止める必要はない

 

「おいルフィ! やり過ぎだ!」

「てめぇェルフィ!」

 

二人の殴り合いを皆が諌めようとする中、俺はそれを黙ってみていた。何故ならそれは、ビビにとって必要なことだということを知っていたから。

 

誰にも死んでほしくない。それがビビの思いだ。でもそれは甘いとルフィは断じた。国の滅亡はすでに秒読みに入っている。これを食い止めるにはもはや時間がかかる穏便な方法では間に合わず、全ての元凶であるクロコダイルを倒し、真実を白日の下に晒す必要がある。

 

それを言えば、仲間の為だとルフィは快く頷くだろうとビビは確信していた。だけど七武海の一人が相手では死人が間違いなく出てしまうということもわかっていた。自分の身勝手で仲間の命を懸ける事は、彼女にはできなかった。

 

だからこそ、次善の策として反乱軍の説得を試みて、時間稼ぎを図ろうとしていたわけだ。

 

「俺たちの命ぐらい一緒にかけて見ろ! 仲間だろうが!」

 

だが船長であるルフィがそれを許す筈がない。

 

彼にとっての仲間とは一蓮托生、そして対等。だからこそビビのその勝手な行動は認められない。

 

二人の殴り合いの結果はビビの本心を見抜いたルフィに軍配が上がった。これで麦わら一味の心は一つとなり、クロコダイル打倒へと舵を切っていく。

 

―――死にたくない

 

なのに、その時に俺は顔をしかめてしまった。

 

 

誰にも見られなくて本当によかったと思った。

 

バラティエで出た悪い癖がまた、もたげてしまった。

 

 

 

ゾロのふと見せる優しさを知った。

ウソップのここぞと言うときの男らしさを知った。

ナミの奥深くにある仲間への信頼を知った。

サンジの意外なタバコを始めた理由を知った。

チョッパーの医者の譲れない思いを知った。

ルフィの意外な聡明さを知った。

 

ビビの、王国への、国民への深い愛を知った。

 

全部、俺が読んで忘れてしまったもの、読んでも知らなかったものだ。

 

 

皆、全力で生きている。先の見えない未来をより良いものにしようと必死に、全身全霊で今にぶつかっていく。

それらを見て、感じてなお俺はまだ何も変わっていない。のらりくらりとかわし続けているだけだ。

 

ドラム島でもそうだった。自分からしたことは、何一つなかった。俺はまた、逃げてしまっている。後ろめたさをどこかで感じていた。俺が余計な茶々を入れなければ、物語はいい方向へ進む。その意識が行動を鈍らせていた。

 

俺が余計なことをしなければ、原作の流れに沿えば、ハッピーエンドは約束される。だが強いるのか? 仲間への理不尽を。敵の跳梁跋扈を。一般市民への圧政を。

 

ドルトンさんを見て思った。俺なら逃げ出すと。

トトさんを見て思った。俺なら発狂すると。

ビビの境遇を聞いて思った。俺なら諦めると。

 

それほどの苦痛を、仲間に容認させて掴むハッピーエンドは気持ちのいいものか?

 

少なくとも、目の前でボロボロのビビの為に何かしたいという気持ちはある。本心だ。

ただ、自分が痛い想いをするのが嫌だという思いがそれを上回っただけのこと。

 

多分俺はまだ、皆と距離をおいている。

 

リトルガーデンの俺の失態を皆気にしなかったし、気にし過ぎだとも怒られた。ゾロに下手くそに慰められて、でも本当にうれしかったから、もっと仲間のために頑張ろうって決めたはずなんだ。それもストーリーを何も知らずに全力で戦った結果だったから。だけどまだ、本当に心を許していない。

 

ビビの悔し涙が原作よりも些事なはずがない。

 

今、決意しなければ駄目だ。決めないとこのまま一生俺はなにも出来ない。

 

原作よりも人を、仲間を選ぶ。仲間のために命を張るんだ。

 

信じ頼ってくれる仲間と共に今を生きる。

 

 

 

―――ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をこの目で見るために

 

ふと、リバースマウンテンの前での決意表明で言ったことを思い出した。原作で、全く明らかになっていないワンピースは一体何か。黄金か、世界をひっくり返すほどの秘密か。形あるものか、ないものか。いずれにせよ、それが何かをこの目で見届ける。

 

でまかせにしては、我ながらいいところを突いた。

 

今から、これを俺の目標にしよう。全力で走って行こう。

 

―――――――――――――――――――――

 

 

  アラバスタ王国、レインベース、

 

「逃げろ~~~! 海軍だーー!!」

「「てめえらが連れてきたんだろうが!」」

 

砂漠の行軍を経て、まずは水の調達ということでウソップとルフィが買い出しに。しかし待ち伏せていた海軍と鉢合わせして追いかけっこが始まっていた。しかもケムリンまで交ざっている。そこでルフィの提案で自身はスモーカーを引き付けつつも、一味は一旦散り散りに逃げ、クロコダイルがいるカジノ"レインディナー"で落ち合う手筈となった。そして棲姫はビビ、ゾロとともに街を駆ける。

 

「オイセイキ。ビビを連れて先に行け。俺が食い止める」

「りょーかい」

 

途中で海軍を足止めするためゾロが囮となり、俺たち二人で逃避行を続ける。

 

「大丈夫かしら。Mr.ブシドー」

「スモーカーがいないから大丈夫だろ。それよりもこっちもそろそろやばいかもな」

 

海軍の視線を切る為に、可愛い悲鳴を上げるビビを抱えて全速力で曲がり角を曲がる。

 

正面に銃口が複数見えた。バロックワークス達の待ち伏せだ。

 

「うおっとぉ!」

 

彼女を強引に抱きかかえて姿勢をかがめた瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

背中に三発もらった。だけど怪我無し、傷無し!

 

雄たけびを上げながら、近くにおいていた石を反撃に投げつけてやると、見事中央の奴に命中。もんどりうって倒れこんだ。

 

「何だよ……けっこう当たんじゃねえか……へっ」

「大丈夫なの……?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

すでに一番いい体をもらっているので、希望の花もさきません。

 

改めてあたりを見渡せば、先ほどの三人をはじめとして建物の影から溢れるようにワラワラとならず者たちが姿を見せている。

 

「よし、逃げるぞ」

「ええ?! ちょっとまってったら!」

「逃げたぞ追え!」

 

基本的に俺はクロスレンジ一辺倒なんだ。飛び道具交じりの集団相手にビビを護りながら戦えるはずがない。

さっき来た角をそのまま戻ってそのまま走り抜け……ずにビビと壁際に張り付く。

 

聞こえてくる雄たけびでタイミングを合わせ、先頭の男に振り向きざまの腹パンを加えてやる。つぶれた虫のような悲鳴を上げるそいつに追撃で全力キックをお見舞いしてやれば十人単位でバロックワークスは吹っ飛び、沈黙。

だがいかんせん数が多く、取りこぼしというのはどうしても起きる。逆に言うとここまで近いならば、飛び道具の代わりにできる。

一人の足を無造作につかんでグルグルと振り回す。駆け寄ってきた奴らはそれに巻き込まれて吹き飛ばされ、適当に遠巻きに警戒している奴らにライナーで投げつけてやると、半数は沈黙した。

 

「よし、行くぞ!」

「ええ! 行きましょう!」

 

しかし、50メートルも進まない内にまたごろつき共が道を塞ぐ。クロコダイルへの道は一向に開かれない。

 

「どうなってんだこの町は。賞金稼ぎしかいないとか経済終わってんだろ」

 

悪態を突きながら、近くに生えていたヤシの木を蹴り倒す。

 

これを投げつけようそうしようと振りかぶると、今度は銃声が上空から鼓膜を叩いた。だが銃弾は俺たちを狙わずバロックワークス達を叩き、彼らを混乱の渦に叩き落としている。

 

「ペル!」

「少々お待ちを!今こやつらを片づけますので!」

 

ビビの声が弾む様子から見て、どうやらあれは味方らしい。

 

「ペルだと!? アラバスタ王国最強の戦士じゃねえか!」

 

そのバロックワークスの戦慄も長くは続かなかった。隼のように華麗な空中機動に全員翻弄され、すれ違いざまに

鋭い爪で肉を切り裂かれる。距離があっても銃で薙ぎ払われ、ものの三十秒程度で一帯のバロックワークスは全て倒れ伏した。

 

「ありがとう。ペル!」

 

最強の戦士の活躍によって、道が開かれた。上空を舞う彼に手を振って二人でその感謝を告げ、ビビはこれでクロコダイルの下へ行けると意気込んだ。

 

――――――クラッチ

 

 

礼に答えていたペルの姿勢が突如不自然に歪む。背中が尋常じゃなく曲がり、そのまま体勢を崩して落下を始めた。

 

あの高度は死ぬと、蒼白になるビビを尻目にすぐに落下地点まで走り、彼を抱き留める。確かに、無数の手が、彼の関節を極めていたのを見た。そんな芸当ができるのは一人しかいない。

 

 

「ミス・オールサンデー!」

「王国最強の戦士も大したことないわね」

 

 

いつの間に回り込んだのか、ニコ・ロビンは澄ました顔でビビの背後から現れた。まだ息があるペルを優しく地面に置いた後、俺は彼女と対峙する。

 

「さて、あなたの仲間達とボスが待っているから、行きましょうか」

 

 ……そう言えば原作でもルフィさん達つかまってましたね

 

 

どういった経緯かは知らないが、搦め手には弱い船長に知らず天を仰いだ。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

「クロコダイル!!」

 

ロビンに促されて入ったレインディナーの地下の社長室、クロコダイルを見るなりビビは怒声を上げた。

 

「ビビ! セイキ!」

 

ナミ達の声が部屋に響く中、彼女の言葉に対して不敵、不遜な笑みをクロコダイルは浮かべて、ビビの神経を逆なでする。

 

彼女は死ねと罵声を浴びせる。死ぬのはこのくだらない王国だと、彼は鼻で笑う。

 

「お前さえいなければこの王国は平和でいられたんだ!!」

「駄目だ!」

「放してよ!あいつを! あいつを殺す!」

「あいつ砂人間だぞ。効くはずない」

「そんなの関係ない!!」

 

我を忘れるほどのビビの殺気と怒りに呑まれそうになる。でもこの手を放せばビビは無謀な戦いに突っ込んでしまう。それはやってほしくなかったから、手は放さなかった。

 

「セイキ! ここを開けろ! 俺たちを出せ!!」

「まあ座りたまえよ。パーティーの時間だ。違うか? ミス・オールサンデー」

「ええ」

「……パーティーって?」

 

その言葉の意味はなんとなく察した。反乱軍が行動を開始したのだろう。ルフィ達の言葉をあえて無視して、クロコダイルに尋ねた。

 

そうして、ビビの前でクロコダイルの計画の最終段階の開始とその全貌が告げられる。

 

――――――――――――――――

 

Mr.2が化けた偽国王がナノハナを蹂躙する。そうなれば反乱軍は行動を開始せざるをえない。耄碌した王を止めるため、反乱軍は国家転覆を行うためにアルバーナへと攻め入る。その開始時刻が7時で、ちょうど俺たちがレインベースに着いた直後の話だ。

 

「泣かせるじゃねえか、国を想う気持ちが国を滅ぼすんだ」

「やめて!! なんてひどいことを……」

「一刻の猶予もないのか……」

 

クロコダイルは勝ち誇った顔でここまでの苦労話を語る。破壊工作、浸透工作、民衆扇動。綿密に組まれたプランは後半日もしないうちに成就するところまで来ていた。

 

「なぜ俺がここまでしてこの国を欲しがるかわかるか? ミス・ウェンズデー」

「あんたの腐った心なんかわかるもんか!」

「口の悪い王女様だ……。奴らの殺し合いが始まるまであと8時間、と言ったところか。反乱軍がアルバーナにたどり着くのは。そうなればもうだれも止められない。さてビビ元王女。ここで悠長に油を売るわけにはいかないよなァ?」

「まあ、もうグダグダ聞いてる暇はねえな」

 

ご高説を垂れてるクロコダイルの目の前で海楼石の格子に軽くノックしてみる。その音に、初めてクロコダイルは今まで空気としてしか扱ってなかったこっちを見た。

 

 確かにこれは固いな。相当丈夫だ。

 

「仲間を助けたいか?」

「それは……!」

 

クロコダイルはおもむろに懐から鍵を取り出し、放った。鍵は地面に落ちることなく、直前に図ったように穴が開き吸い込まれていった。

 

 そんな茶番に構っている暇はない。

 

クロコダイルの発言を無視して海楼石の格子を見渡していく。

 

「ナミ。こういう牢屋って扉が一番耐久性が低いのか?」

「……そうよ。遠慮なくやっちゃいなさい!」

 

泥棒の達人であるナミに問えば、俺の意図を理解したうえで太鼓判を押してくれた。その言葉に容赦なく扉に手をかけた。隙間に見えた細い棒きれにこの体に勝る耐久力があるとも思えなかった。

 

甲高い金属の悲鳴が聞こえたと思えば、すぐに鍵穴から放射状に罅が入った。クロコダイルの顔が凍りつく。

 

足を引っ掛けて格子を両手で思いきり引っ張れば、観念したかのように鍵部分が粉砕。ようやく扉が開かれた。

 

「何ィ……!?」

「よっしゃ~~~!!でられたぞ~~~!」

「セイキよくやったわ!」

「悪い、ちょっと心の整理を付けてた」

 

ナミとウソップはもろ手を上げて喜ぶ一方で、ルフィとゾロ、スモーカーは厳しい顔のまま出てきた。

 

「クロコダイル~~~!」

 

怒り心頭なルフィが叫ぶ。渋い顔のままの彼に右手を突き出し、お前を倒すと宣言した。その後ろで更なる手を打つべく俺はスモーカー大佐に話しかける。

 

「スモーカー大佐。よければ共闘しませんか? 私達の利害は一致しているはずですけど?」

「……断る。てめえら海賊となぞ手を組まん」

「……そこを何とか」

「断る」

 

机の上のワインの封を切りつつ、彼と手を組もうと画策するが、彼は首を縦に振ってくれない。

 

「じゃあ今この時だけは、お互い手は出さないってことではだめ?」

「断る」

「……」

 

 botかな?

 

ひたすらNOを言い続ける煙野郎に辟易しつつ、ルフィに他のワインを投げ渡す。しかしこいつしか勝ち目が薄いから食い下がるしかないわけで。

 

「何だ? 今酒なんて飲んでる暇ねえぞ?」

「こいつの弱点は水だ! 水気があれば切れるし殴れる!」

 

クロコダイルは驚愕に彩られた。ロビンさえも険しい顔をしている。ルフィたちにとって、それが何よりの証明だった。弱点をさらけ出したクロコダイルに向かって、ワインを両手にぶっかけながら俺は吶喊する。

 

勝ちの目が最もあるのは今だ。周りは水の地下。そして相手は動揺している今だからこそ畳み掛ける必要がある。

 

「二輪咲き(ドス・フルール)」

「ほげ!?」

 

だけどそれは彼女に止められた。ロビンに両足をつかまれ、顔面をしたたかに打ち付ける。

 

「このやろ……!」

「退くぞ」

 

逃げる。いくばくかの冷静さが戻ったとはいえクロコダイルの口からその言葉が出るとは思ってもみなかった。ここで逃げられてはこちらも困るどころの話ではない。だが急いで体勢を立て直す前にバナナワニが従順に俺たちの前に立ちふさがり、道を塞いだ。

 

「女ぁ……。お前は必ず殺す!」

「待ちやがれ!」

 

一連の行動で一気にヘイトを集めてしまったらしく、ルフィの叫びを無視し、通路の扉が閉まるまでクロコダイルはこっちをにらみ続けた。その形相と吹き上がる威圧感に思わず怯んでしまった。だがそんなことにかまけている暇もなく、扉が閉まると同時に、社長室は一気に崩壊を始めた。あちこちから浸水が発生し, あっというまに水かさが増してゆく。素直に俺以外命の危機である。

なんとか浸水しきる前にバナナワニをすべて倒し、溺れるルフィ達を抱えてレインディナーから脱出した。

 

レインディナーを囲う池から何とか全員這い上がった。目の前で壮大な陰謀を語られたスモーカー大佐に最早俺たちを逮捕する気はなかった。逃がす様に別れると、それと入れ替わる形でサンジ達と合流を果たした。本来ならチョッパーがクロコダイルの囮をし、その隙に救出という作戦とたてていたらしいがそれも俺の行為でご破算となったらしい。それについてチョッパーは心底安心していた。

 

「マツゲがちょうどいいやつを知ってるって」

 

話は反乱の阻止に移る。とにもかくにも首都に行かねば話にならない。その移動手段をどうするかだったが、チョッパーがラクダのマツゲの仲介で、ヒッコシクラブという大型のカニを手懐けてくれた。

 

だが、町の外れとはいえ、こんなものが人目に触れれば騒ぎになるのは当たり前だ。そして俺はこの後の展開に心あたりがあった。

 

「早く乗れ! クロコダイルだ!」

「何?!」

 

数少ない燃料を使い、レーダーで全周警戒を行えば、ジャミングを受けたようにある方角にノイズが広がる。空中を蠢く砂の塊、間違いなくクロコダイルだ。俺の言葉を受けて、ルフィは蟹から降りて俺の前に立つ。

 

「お前ら先行け! 俺一人でいい!」

「無理だ! 勝てない! 一緒に来い!」

「だめだ! ここであいつをぶっ飛ばす!」

「だめだじゃねえ! 勝てないって言ってるんだよ!」

 

いきなり視界が逆転した。ルフィが上、いや下にいる。

全身を包む浮遊感に腕を伸ばして投げられたとすぐに理解した。

俺がヒッコシクラブに乗ったのを確認して、ルフィは不敵な笑みを浮かべて叫んだ。

 

「ビビを宮殿までちゃんと送り届けろよ!」

「行け! チョッパー! アルバーナに!」

「駄目だ! 待て!」

「セイキ! 船長命令だ! 従え!」

「~~~~~~~~!!! くそッ!」

 

俺が今から戻っても、クロコダイルに蹂躙されるだけ。ならばここにいた方がいいという冷徹な思考が出した結論のせいで、ゾロの船長命令という言葉に従わざるを得なかった。

 

 



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アラバスタで意識改革第二段3/3

三話同時投稿三話目です。 

相変わらずのガバ文だから期待しないで



 少し、頭を冷やした。今、悔やんで何になる。時間は一秒たりとも無駄には出来ない。

原作では生き延びるんだ。こっちでもそう。そうであるはず。

 

 

「何ぃ! こいつ川を渡れねえのか!!?」

 

この蟹、泳げないらしい。確かに蟹が水面を泳いでいるのは見たことがないのでそう言われればそうなのだが、

 

「うん。ヒッコシクラブは水が苦手なのよ!」

「船は無いのか? 7人がのれる浮くものでもいい。それがあれば俺が曳航できる」

 

水上を高速で移動できるのは俺以外にはいない。そしてもともと艤装は一人乗りだ。そんなところに人間が7人+ラクダが乗れるはずがない。

 

「やべぇ! そう言ってる間に川が見えてきちまったぞ!」

 

ウソップの悲鳴に前を向けば確かに目の前に川が見えた。

 

この後ナミのエロパワーで20メートルは稼げた模様。尚幅は50キロの模様。

 

「ええい、こうなりゃビビ担いで先に行く! それでいいな!」

「仕方ねえ! 後から追いつく!」

「「置いてかないで~~~~!!」」

「ああもう! しっかりつかまれよ!」

 

船は見当たらない。艤装があるにしても全員運ぶのは無理。ならばビビだけでもかついで向こう岸にと思ったのだが、ナミとウソップに全力で縋り付かれた。しょうがないので艤装を召喚し、砲塔の上に座らせる。

 

そこに巨大な影が差した。ビビが言うにはサンドラマレナマズというらしく、俺たちを食おうと姿を現したらしい。このままでは皆食われて反乱を止めるどころの騒ぎではない。

 

 

「セイキ早く撃って!」

「逆にお前らミンチになるわ!」

 

ナミとウソップが狂乱して砲塔部分にしがみつくせいで砲撃が出来ない。まあ所詮は大きいだけのナマズなのでそのまま迫ってくるナマズの頭に強烈な拳を食らわせて昏倒させると。そいつは手ごろなボートに早変わりした。

 

「た、助かった……」

「はやくこれに乗って、曳航する」

 

嬉しいことに、この後エルマルでルフィが手懐けたクンフージュゴンが曳航の助力に参上し、一時間弱で川を渡りきることに成功した。そしてそこで待ち構えていたのはカルー率いる超カルガモ部隊。アラバスタ一の彼らの俊足により両軍の衝突の一時間前に俺たちは強行軍を完遂した。

 

 

 さあ、最後の決戦だ。

 

ここまで来たんだ。もう原作とか考えない。ただ俺ができることだけをやってやる。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

マツゲは置いてきた。この戦いには奴はついてこれない。まあただの定員オーバーなんですけどね。

 

で、馬鹿正直にアルバーナに行ったところで、ナンバーズに襲われるのは目に見えていた。そこで俺たちは一計を案じる。ビビとカルー以外が深いローブを羽織りカルガモ部隊でナンバーズを攪乱しようという作戦だ。

 

この作戦はかなりいい感じに決まった。ナンバーズたちは三方に分かれた俺たちを各個に追って来てくれたから。これでビビと反乱軍の間に邪魔するものは何もない。

 

後は俺たちがナンバーズを倒すだけだ。

 

「残念ハズレ」

「お前らは……あの時のォオ!」

「ギャー! ゴメーン!」

「おい離れろ顔を近づけるな」

 

抱き着くウソップを肘で牽制しつつ、自分の標的を改めて確認する。

 

「あの時以来だな オカマ野郎。部下さんたちにはすごくお世話になったよ」

「どうやらあちしは外れを引いちゃったみたいね……!」

「俺にとっちゃアタリだけどね」

「何おぉ! あんたたちを瞬殺すれば無問題よーーう!」

「ああそう」

 

ウソップに下がれと手で後ろに押しやり、ボンクレーに向かって走り出す。

 

原作だと、ここら辺で熱いバトルが繰り広げられるだろうが、そうはいかない。ここは俺にとってもはや現実だ。ならば、山もなく谷もなく、一瞬で終わらせる。

 

「"どうぞオカマいナックル"!!」

 

さっき言った通りボンクレーは俺にとってアタリだ。何故ならこいつは純粋な体術使いだから。その攻撃はよけれなくても純粋な運動エネルギーだから防御を貫けない。

鋭い正拳突きは付け焼刃ではよけられなかった。だがその左手をつかんで、返す刀で強めの腹パン。受けた左胸がじんわりと痛むが、そのまま腕をホールドして、悶絶する彼の股間に向かって足を蹴りあげた。

 

「お、鬼……」

「残念ハズレ、正解は姫だ」

 

急所にあたったボン・クレーは力尽きた。

 

本当に、あっさりと、一瞬で決着はついた。

 

「アッセイキサンオツカレサマデス」

「……止めさした方がいい?」

「ヒツヨウナイトオモイマス。ハイ」

 

 気持ちわかるけど、ちょっと引きすぎじゃない?

 

崩れ落ちたボンクレーを適当に縛り上げ、かなり引き気味になったウソップと共にビビの元に急いだ。

 

――――――――――――――――――――――――

 

反乱は止められなかった。

 

ビビの声は砲弾にかき消され、軍と反乱軍は乱戦へと突入する。それでもビビは諦めなかった。一時的にでも戦いを鎮静化出来れば、まだ間に合うと、そう考えた。その具体的な手段には俺にも度肝を抜かれたが。

 

「この王城を爆破するぅ!? おお前そんなことしたら」

「今戦っているアラバスタの人達こそが国よ! 大丈夫。数秒間だけでいいから、後は私が何とかする」

 

ビビは最高責任者のチャカを説き伏せ、爆破の準備にあたらせる。その間に俺はクロコダイルの襲撃に備えるため、樽、ワイン、瓶と種類を問わず水気を片っ端からかき集めていた。

 

「おいセイキ。お前ルフィのこと信じてねえのかよ」

「負けなくても、勝てない。砂嵐をゴムで防げると思うか? 保険はかけるべきだ」

 

ウソップは言葉に詰まった。

 

「あの男の主目的はこっちだ。いざとなりゃ尻尾巻いてこっちを絶対優先する」

「いい読みだな。だがちょっと違う」

 

多分この世界に来て、一番強い衝撃だった。背中から貫通するように、いや俺じゃなかったら確実に貫かれていただろう痛みに声が出る。だがその声は奴の左手でふさがれてくぐもったうめき声として響いた。

 

即座に左腕を握りつぶして距離をとる。相対したクロコダイルは興味深そうに自分の右腕を眺めていた。

 

「並の人間なら貫いてるはずだが、テメェ一体ナニモンだ?」

 

燃料の関係でレーダー切ってたのが災いした。全然気づけなかった。初手で枯らしに来られたら間違いなく負けてた。

クロコダイルが放つ濃厚な死の気配に、血の代わりに背中から冷や汗が吹き出た。

 

「ククク、敵には情報は渡さないか。なかなか有能じゃないか。始末したあの男に比べれば」

「ルフィが、負けた? 」

 

俺は原作で知っていたから動揺はしなかった。一方でウソップはクロコダイルの言うことが信じられなかった。というか信じたくないのだろう。ルフィが心の支えなんだから。

 

「嘘ついてんじゃねえ。ルフィが死ぬはずがねえ! 俺は信じねえぞ!!」

「だが俺はここにいる。それが真実だ」

「っ! ウソップ隠れろ!」

 

クロコダイルの気配が変わった。先手を取られたら負ける。

 

俺は手に持った大樽を正面に放り投げた。

 

艤装召喚! レーダー連動開始。目標、目の前の大樽。

 

 当たれ!

 

「何!?」

 

高速で飛翔した砲弾は樽を貫通し屋上に着弾。その一帯を爆破した。そして広範囲に飛び散った水は突然出てきた艤装に虚を突かれたクロコダイルを襲う。

 

室内だったことが味方した。この限られた空間で数多の水滴を避けきることは不可能に近い。

 

  今しかない。ここで殺し切らなきゃ後がない

 

俺は今度こそ照準をクロコダイルに向ける。

 

室内だったことが災いした。砲弾の威力が強すぎて天井が崩落を始めた。

 

 予想外だった。逃げた方がいいのではと、一瞬思って手が止まった。

 

その一瞬の判断ミスで勝利を逃す。クロコダイルはすでに窓を突き破り外に出ていて、俺も崩落から逃れるために後を追う形で外に出る。

 

外からでもわかる程、廊下はひどい有様で、修復にいくらかかるかわからない有り様となっていた。補修代に一瞬頭を痛めながらも、思考はクロコダイルに。時間がないと城の耐久性とか周りの被害も考えずに残り7発全てを叩き込む。

 

幸運にもアラバスタ城はその衝撃に耐え続けた。一体どういう耐久性をしているのか謎だったが、祈る思いで立ち上る爆風を見つめた。集めていた水は衝撃波でほぼダメになってしまった。今手持ちの水はワイン瓶と首に下げた小ダルしかない。

 

 

「セイキてめえ殺す気か!?」

 

そんな時に後ろからウソップに怒鳴られた。マジでびっくりして肩が跳ね上がる。一瞬クロコダイルかと思って振り返る。

 

「ちょっとだ「セイキ前だ!」」

 

ウソップの切羽詰まった声が聞こえる。

 

 いや、いるんだろうけど、一瞬だぞ、目を離したの、1秒もたってないのに。そんなに早く動けるのこいつは?

 

次の瞬間、視界いっぱいに掌が広がったと思えば、激しい頭痛に襲われる。

 

「~~~~!」

「おしかったな。後数瞬早ければ俺の命は無かったぞ」

 

我武者羅に腕を振り回す。だけど砂を掴む感触だけしか返ってこない。めまいがする。吐き気もする。明らかな脱水症状だ。

 

命の危機を感じ始めた時、ようやく胸にぶら下げた小ダルに意識が向いて、右手で叩き潰した。

 

樽の中の水が飛び散り、三度目の正直で拳はクロコダイルの胸を穿つ。そこでようやく、白く明滅している視界を取り戻した。

 

脱水症状の苦しみから逃れようと、瓶の封を切り中の水を体内に流し込む。全てを飲みきって、ようやく普通の視界が戻ってきた。

 

「ウソップ水は?」

「駄目だ。さっきので全部だめになっちまった」

「そうか……」

 

拳は当たったが、多分軽い。倒れてはいないだろう。

 

これで勝ちの目は無くなった。

 

「なあウソップ……」

 

 体内から水を奪われてた時、初めて死を覚悟した。脱水症状がひどくなっていって。何もかもが白く塗りつぶされて、何処かに意識が飛んでいく感覚。それがとても恐ろしくて。

 

自分から死地に飛び込めるほど、肝は据わっていなかった。

 

クロコダイルはあそこにいる。でもそれは、ルフィが死んだことの証明にはならない。それはわかっている。でも万が一、完全に止めを刺していたら。そうなれば、もう俺たちの行為は殺され、革命は成就する。

 

「ルフィは必ずここに来るよな?」

 

だから、この戦いに意義がある事を信じさせてくれ。逃げ出したいけれど、それじゃもう仲間じゃないのはわかってるんだ。あの時、命を駆けることを了承したことを曲げさせないでくれ。最後の一押しが欲しいんだ。

 

「当たり前だろ! ルフィは絶対来る!」

 

ありがとう、ウソップ。根拠のないその断言。今だけはあてにする。

 

「行くぞ!」

 

 

 もう少し利口な奴だと思ってた? 生憎だな。この海賊団は馬鹿にならなきゃやってられないんだよ。クロコダイル。愚かだと笑うなら笑えばいい。自覚はある。勝ち目がないのは百も承知。

 

 だけどさ。みんなはいつもそうなんだ。怪力も、防御力もない。仲間の為に命張ってきたんだ。

 

 なら俺も命張らなきゃフェアじゃないだろ。

 

「無駄なあがきを。船長が船長なら部下も似るのかテメエらは?」

 

それはお前が決めることじゃない。船長が決めることだ。この一秒一瞬は、ルフィのため。船長は必ず来る。せいぜい舌舐めずりでもしてろ。

 

水分を奪う手を躱し、捕まれれば怪力で握りつぶして拘束から逃れる。だがそれでも少しずつ体から水分が失われていく。

 

結局俺は未来を変えるほどの力は持っちゃいないんだろう。ああくそ、また先のことを考えた。未来なんてわからないんだ。今ここにいるのは俺とクロコダイルだけだ。

 

肺が張り付き、視界がうまく機能しなくなってきてもひたすら時間を稼ぎ続ける。

 

 ああ畜生。最強クラスの姫なのに、どうして俺は避けることしかできないのだろう。

 

三日月形砂丘(バルハン)

「ッアアアアアアア!!!!」

 

しなびれた左腕の痛覚神経が、乾燥で暴走している。脂汗が全身からにじみ出て、立ってられない。再び、死の足音が脳裏に響いた。

 

「まだまだぁ!!」

 

だけれども、まぶたの裏はビビの覚悟が映っていた。

 

「下らねェ面しやがって」

 

不快気な彼の言葉に、俺は不敵に笑ってやった。

 

 あと一つ。お前に言っておく。

 

「艤装、しょうかん」

 

 油でも砂は固まるだろ?

 

「ガッ!? この女ァ!!」

 

聞こえないよクソ野郎。何か蹴り砕いた感触はあったけど、頭が痛くてもう見えないし聞こえない。

 

 

 ここ、まで……かな……

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「気が付いたかセイキ!」

「……ウソップ?」

「ああそうだ! 大丈夫か?」

「もっと水飲ませて」

 

水を振りかけられる心地よさに目を覚ませば、ウソップが大慌てで樽をひっくり返していた。とりまウソップが持ってきた水をたらふく飲んだら、大分気分がよくなった。しかし起きたら全てが終わっていたわけではないらしく、むしろ事態は愉快ではない方向には進んでいた。彼によれば今から10分もないうちに町の半径5キロが砲弾で消し飛ぶとクロコダイルが宣告したらしい。すでにビビ達は件の大砲を探し回っているとも教えてくれた。

 

「俺らもはやく合流して砲弾を探さねえと」

「待った。今更我武者羅に探したって、意味がない。せめて目星はつけるべきだ」

「つけるったって、どうやって考えるんだよ? クロコダイルの気持ちにでもなれってか?」

 

未だ鈍痛が響く頭で必死に考える。クロコダイルの思考をたどるのもありかもしれないが、彼の人となりを知らないならあまり有効ではない。それにあまり時間も掛けられない。

 

「爆弾ではなくて、砲弾って言った?」

「ああ、クロコダイルがそう言ったのを聞いたんだ。それがどうしたんだ」

 

砲弾にした意図を考える。多分、ある程度はフレキシブルに爆発地点を変えたかったから?

 

そうだとすれば、その範囲は可能な限り広げたいはず。

つまりそこは、可能な限り高い場所。

 

この推測をウソップにそのまま伝えると、彼はそれに該当する場所をすんなりと口に出してくれた。すなわちそこは、時計塔。

 

 

目的地の時計台につく途中にビビ、チョッパー、ナミと合流したのは僥倖と言えるだろう。彼女達も時計塔を目指していたのだから。頂上の時計の裏は巨大な空洞になっているとくれば、確信をますます深めた。

 

 

残り五分を残して、時計台に到着。ビビの先導で時計の内側の空洞に突入し、そこにいたMr.7ペアを装甲に物言わせて速攻で鎮圧した。

 

砲撃は止められたと一安心しようとしたが、ビビが衝撃的な事実を告げる。砲弾は時限式であると。

 

期限まで、残り4分

 

 

「おいおいおいどうすんだよ。このままじゃ皆消し飛んじまう!」

 

爆発範囲は半径2.5キロ。余裕をもって三分半で町からそれだけ離れ無ければならない。必要速度分速1キロ弱。つまり60km/h。

 

俺なら走れるし、巻き込まれたとしても、耐えれる。

 

―――死ぬかも「俺が、運ぶ!」

 

皆の、そして自分の意思さえも有無を言わせずに砲弾を抜き取り、時計台から飛び降りる。着地の衝撃で起爆しないなら、ちょっと乱雑に扱っても問題ないだろう。

俺は艤装で砲弾を挟み全速力で足を回し始めた。

 

南から反乱軍、西にはマツゲ、北にはアラバスタ城、最も被害が出ないのは東。

 

本来艤装は海上を想定しているし、爆弾を引っ張って運ぶことなんてそれこそ想定の外の外だ。それでも艤装は必死に振動を抑えて、可能な限りのサポートをしてくれていた。

 

気分は馬娘。本日の会場は砂埃が立つ最悪を通り越した地獄のコンディション。2.5キロ離してのぶっちぎり一位が絶対条件のアラバスタダービーここに開幕。

 

1000m60秒は切りたい。57.4秒なんてもう最高。

 

一分過ぎたところで正面の道が無くなっているのが見えた。街の外側は崖であることをすっかり失念していた。これは不味い。このダービークソすぎワロエナイ。

 

着地の衝撃で信管が作動してしまう可能性があるから、爆弾抱えたまま飛び降りるなんてことはできなかった。必然的に大幅なロスが生じる。

 

階段を降りきった時、リミットはあと二周もなかった。

 

さっきよりも劣悪な足場を駆ける。姫級の体とは言え、もう体は悲鳴を上げ始めていた。

 

一周を切った。

 

 ダメだ止まるな止まるな。止まれば死ぬぞ。皆死ぬ。

 

ギリギリまで走って、その運動エネルギーをそのまま砲弾に移して投げ飛ばす。それを視認してから回れ右をして、何を言うでもなく艤装が自分の背後に回り、

 

 

激しい熱が全身を襲った。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 生きてた。(中破ストッパー)

 

艤装を盾にできたからか、生身部分はかなり軽いけがだけですんだ。装甲乱数上振り万歳。因みに、回収してくれたのはサンジらしいです。

 

但し、盾にした艤装はそうはいかなかった。砲身は爆風で歪み、装填機能や機関も破損が見受けられた。大破よりの中破、といったところ。

 

ここから完治にはどれぐらいかかるのか、もしかしてこのまま直せない……? と危機感を覚えたが、時間をおくと修復がはっきりと見て取れたので、一安心。

 

しかしながら、食事だけでは完治まで月単位の時間がかかるので、何かないかと争いの爪痕が残る市内を巡りそして見つける。集積された廃棄予定の剣や銃の類を。

 

燃料、弾薬、そして艤装の修復やメンテは全て自動で行われてきたが、その材料はどこから来たのかというのは日々の食事の鉄分や油分からきてるとある程度予想はしていた。

 

で、直接鉄や油を摂取すればどうなるのかと言うのは試していなかった。

 

すぐに係りの者と掛け合い、それらを全て譲り受けて艤装に食べさせた。ビビにも頼んで油も調達してもらった。それで艤装に呑ませてやると潤沢な鉄分と油を取れたのか、修復作業が明らかに早くなり、船に戻る時にはどうにか一門だけは砲撃を行える程度には修復が完了していた。

 

そう、ビビとの別れの時が近づいていた。

 

ルフィが起き上がり、王城全体を巻き込んだ宴会を楽しんで、風呂でナミが幸せバズーカを放ったその夜にアルバーナを発った。

 

電伝虫でMr.2がメリー号を押さえたと言われれば動かざるを得なかった。現場に向かうと彼は海軍の包囲網を突破するために協定を結ぶべくメリー号を隠してくれていたらしい。(トラウマを持たれたらしく、若干俺に距離を取っていた)、ルフィは協定に即座に同意した。翌日沖に出ると、すぐさま情報を掴んでいた海軍の船に取り囲まれた。ビビには今日の正午、東の港に船を寄せると言ってある。その為には、海軍の追撃を振り切る必要があった。

 

俺なら、たとえ一門しか砲が無くても鎧袖一触だろう。あの程度の大きさの船ならば、オーバーキルですらある。

それはすなわち、中の人を殺すことと同義。

 

だけど、俺は決めた。仲間と共に生きると。それを反故にするようなまねはできない。したくない。

 

 

 だから、俺は撃つ。

 

 

砲弾ではなく鉄槍を放ってきたときはビビったが、所詮はガレオン船だ。速度は出て10数ノット。偏差もいらない

距離で、こっちが負けるはずが無く、一発で上部構造はめちゃくちゃになる。ちょっと上に的を反らしたうえでもだ。これで負けるはずがない。

 

黒檻部隊は10分もたたないうちに全てがマストを叩き折られる羽目に会った。一部の船からは火の手も上がっていた。そしてどす黒く赤くなった木材も。

 

「っ……」

「アノ娘、一体何者なのよう……!?」

「仲間」

「馬鹿力」

「鉄より硬い」

「……聞こえてんぞ」

 

努めていつものように、ボケに突っ込んだ。

 

「おい、また新手だ。今度は数が多いぞ!」

 

 船の正面を見ると、水平線に重なる形で船影が10数隻見えた。

 

さっきと同じように、やればいいとは思えなかった。水兵の数がさっきとは桁が違う。その命を身勝手に奪うことはさすがに抵抗があった。

 

「船長。海軍と停戦交渉してきていい?」

「? おう、いいぞ」

 

―――――――――――――――――――――――

 

海上を滑り、海軍船の下へと向かう。海軍の発光信号を知らないのを船を降りてから気付いたが、しょうがないとして声の届く距離まで近づくことにする。機関に異常がみられるので最大戦速の半分の15ノット。だがこれでもこの時代にとっては十分高速。そして炸裂する砲弾ではなく、純粋な鉄槍を放つ奴らにこの小さな目標は当てづらいことこの上なく、あっさりと船首付近まで接近できた。

 

「スモーカー! 話がある! 出て来い!」

 

手の中の物を振り回して戦闘の意思はないことをアピールしつつ、スモーカーを呼び出す。 

 

「スモーカーはここにはいないわ。私はヒナ。スモーカーと同じ海軍大佐よ」

「あれ? スモーカーじゃないの? まあいいか」

 

予想外の人物が出てきて面食らったが、こちらの要求は変わらない。気を取り直して、大佐に停戦要求を提案する。

 

「さっき、八隻の船を大破させました。撃沈確実の船もあります。急がないと溺れる人が出るかもしれませんよ?」

「その程度で死ぬほどやわな鍛え方はしてないわ。ヒナ屈辱」

「砲撃で怪我をしてる人はどうするんです? 満足に泳げないのを見殺しにするんですか? 重ねて言いますけど、そちらが手を出さない限り私達は絶対に攻撃しません」

「海賊の言うことなんて信用できないわ」

 

取りつく島もなく、俺の放り投げる会話のボールはことごとく撃ち返される。言う資格は無いだろうが大破させた水兵の救助を行ってほしいのは間違いなく本心だ。

 

「そうですか……。交渉は決裂、と言うことでよろしいでしょうか?」

「交渉もなにもないわ。さっさと降参しなさい。この黒槍の陣で落とせなかった船は無かった。さあ、砲撃用意!」

「し、しかし本艦との距離が近すぎます。同士討ちになる可能性が……!」

 

ため息一つ吐いて、手の中のそれを眺める。

 

交渉は終わったと言わんばかりの態度で上でなにやら話し合っているが、そもそもとして近づいている最中に暴れられなかったことを省みるべきだった。そうとしか俺からは言えない。つーかそれで戦意喪失してくれよ。あるいは戦意が無いことを見抜いて強気に出ているだけなのか。

この世界では命は軽い。だからこそ仲間の命は、なによりも大事なんだ。殺人に忌避感があってもいい。それが正常。だけど仲間数人と見ず知らずの海兵数百人。俺は仲間を取る。大佐がそこまで突っ張るなら、いっそ見せつけてやろうじゃないか。自分のした決断の愚かさを。

 

「……ッ」

 

 いや、違うだろ。そんな二極化していい場面じゃないだろ。

 

落ち着け、威嚇でいいんだ。勝ち目がないと、全滅すると思わせればそれでいいんだ。一番効率がいいのは轟沈させることだけど、それをするほど切羽詰まってるわけじゃない。ルフィ達もそれは望んでいない。俺は殺人に動揺しているだけだ。

 

「全員物陰に隠れろォ!五秒後に爆破する!!」

 

あらん限りの大声を上げた。そしてきっかり五秒後に手の中にあった魚雷を甲板の上に行かないように心持ち低く何もない海面に放り投げる。そして樽の時と同じ要領で、俺はそれを砲弾で吹き飛ばした。

 

次の瞬間、魚雷は巨大な爆炎と共に、周囲の船を襲った。衝撃波は船の側面を叩き、浸水を発生させ、その閃光と熱戦は他の船の甲板にいた海兵たちの目を一時的につぶした。最後に、強烈な爆風と破片が多数の船のマストを破り航行能力に影響を及ぼした。もし直撃していたら……。そう思った水兵たちは多いだろう。

 

「もう一度言う。これは降伏勧告だ」

 

新たに魚雷を両手に四本構え、ヒナ大佐にもう一度話し合いの機会をあげた。

 

 

この後、麦わら一味は無事に東の港に船を停泊させた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ルフィ。海軍は追ってこないってさ」

「そうか。よ~し野郎ども。ビビを迎えに行くぞ!」

「……殺した方が、良かったりした?」

「ん? そんなわけないだろ。なんで殺すんだよ」

「……だよな!! すまん。変なこと聞いた! ビビを迎えに行こう!」

 

 

 

「大丈夫?」

「え?」

「あなたおかしくなってるわよ。海軍を追い払ってから」

「……はは、やっぱりわかる?」

「当たり前じゃない。多分皆気づいてるわよ」

「マジかぁ~。そっかぁ~」

「……あんた、初めて人を殺したんでしょ?」

「まあ、殺そうとして撃ったのは初めて」

「あのね、殺したくないなら、そう言えばいいじゃない。戦いたくないなら男どもに任せればいいじゃない。あなたがそこまでする必要はなかったじゃない」

「……ありがとう。でも、決めたんだ。俺の為に命張ってくれるなら、俺も命張って仲間を守るって」

「はぁ、やっぱりセイキと会話する時って男と会話してる気分になるわ」

「はは……、まあそう言うことだから。自分なりに気持ちの整理はつけるさ」

「……そう。じゃあいつでも何か言いたくなったら言いなさいな。相談、のってあげる」

「……じゃあ化粧以外で何かいい変装方法「無いわ」あ、ない……」

 

 




最後の会話文は力尽きました。

また気が向けば加筆修正します。

やっと自主的に行動してくれるようになったよこいつ


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