今日も元気にメゼポルタ広場からお届けします。 (沙希斗)
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朝ごはんはココット村で

全てはここから始まった――!

友人が書いてくれたこの短編が始まりでした(掲載許可済み)。
なので最初は友人節が炸裂しております(笑)
次からは私自身の書き方になりますので、雰囲気がガラッと変わる事をご了承下さい。


 あたしの名前はハナ。新米にして凄腕ハンター。ドンドルマの歴史においておそらく最速で上級ハンターになった、と思う。すごいでしょ?

 そもそも、ハンターになるつもりは全くなかったんだけど、ひと月前なんとなく「狩りに生きる」を手に取って読んでいたら、アイツがいたの!

 ココット村で取材って書いてあったから、アイツは、「カイ」は今ココット村にいるってことだわ。

 編集後記によると、「奇跡の少年を訪ねてココット村に向かった。ドンドルマで一番と言われた強運の持ち主は、ハンターになってパートナーと狩りをし、村を助けていたが、奇跡の少年の面影は見られず、はつらつとして、どこにでもいる若者のようだった」

 間違いない。奇跡の少年とは、カイのことよね。

 居てもたってもいられず、ココット村へ向かうため荷物をまとめて、その“門”へ向かったんだけど……。

 

「これはハナお嬢さん、いい天気だねえ」門番が声を掛けてくる。

「本当にいい天気~♪ じゃあ、行ってきます」

「ご冗談を(笑) この門は上級ハンターしか通しちゃいけない決まりは知っているでしょう。大長老様の許可なくして一般人を通すわけには行きませんので」

「おじいちゃんの許可はもらってるから。ココット村で極秘任務があって、そのために向かうんだもの。おじいちゃんに聞いてみてよ」

「はいはい、大長老様からは、誰であれ上級ハンター以外は通すなと言われております」

 

 むむむ~。さすがおじいちゃんが選んだ門番だけあって、どんなにうまく言ったつもりでも通してはくれなかった。

 

 そうそう、あたしのおじいちゃんは大長老。とは言っても、血のつながりはないんだけどね。

 その昔、ラオシャンロンとかいう、山のようなモンスターがドンドルマを襲ったことがあって。

 今でこそ、砦を作って街を守っているけれど、“その時”まで誰も山のようなモンスターを見たこともなければ戦ったこともなかったらしいの。その姿を見たことがある者は、これまでに1人いたとか、いなかったとか。

 そのラオシャンロンが初めて街にやってきて、あらゆるものを踏みつぶして消してしまった。

 逃げ惑う人々。戦い方を知らないハンターたち。どういう武器が有効なのか、弱点はあるのか……。

 そうしてラオシャンロンが通った跡は、かつて街だったことを感じさせないくらいに破壊されて、多くの人が亡くなった。

 

 その戦いで多くのハンターや一般人の人が亡くなったけれど、残された子供たちを引き取ってくれたのが、今の大長老。そして、そのラオシャンロンとの戦いで、唯一そこで生き残っていた3歳か4歳くらいの少年が「カイ」ってわけ。

 壊滅した街の瓦礫の中で唯一生き残った子供。そのうち、「カイ」は奇跡の少年と言われるようになってた。

 あの惨劇の中、どうして助かったのかは今でも謎なんだって。

 あとで聞いた話によると、カイもおじいちゃんに引き取られて、1年くらい一緒に暮らしたんだけど、「ここで暮らすのは酷じゃろう」って、おじいちゃんがどこかの街か村の知り合いに託したけれど、あたしにはどこに行ったのか教えてくれなかったのよね。

 あ、それからあたしはね、その時に引き取られたわけじゃなくて、赤ん坊のころ、おじいちゃんの家の前にそっと置かれていたらしいの。案外、本当に私のおじいちゃんとか、お父さんだったりしてね(笑)

 

 おっと、話がズレちゃった。それで、あたしはおじいちゃんに直訴したわけ。

「おじいちゃん! ココット村に行きたいの。いいでしょう?」

「ハナ、何度言ったらわかるかの。ここでは大長老と呼ぶのじゃ。それから街の掟は誰であれ守ること。これは変えられん。門を通る者は一流のハンターでなければならん」

「じゃあ、今日から一流ハンターになる。いいえ。なった! じゃあ、行ってくるね!」

「何度行っても門番は通してはくれぬがの。本物でなければならんのじゃ。門から先は過酷な道のりゆえ、ただのハンターではなく、上級ハンターの技量が問われる。お前が思うほど楽な道ではないのじゃよ」

「どうしてわかってくれないの? どうしても行きたいの。ちょっと見てくるだけなんだから。お願い!!!!!」

「むぅ。それならば、街一番の鬼教官を付けるが、それで良いな。しっかりと修行をして、その資格を得られれば、その時門番が通してくれよう」

 

 そんなやり取りがあって、なんとか上級ハンターにならないとココット村への道が開かないから、ハンターになりましたとさ。

 

 

 どこから説明したらいいかな。えっと、鬼教官の話もしなくちゃね。

 ハンターになりたてのころ、私に付けられた鬼教官と一緒に夜の沼地に行った時のこと。きれいな紫色の池があちこちにあって。所々水たまりがあるんだけど、そこも紫色。

 ん~、なんて綺麗な色なんだろう。見たこともない色だなぁ。ハンターになるとこんな処にも行けるんだ♪ なんて思ってその水をすくってみた。だって、本当に綺麗な色だったのよ。

 ちょうどその時、鬼教官が「そこら中にある紫色の水には近づくなよ、神経をやられる毒だからな」って言うのと同時だったけどっ……(涙)

「んっ……。気持ち悪い……。死にそうな気分……」

「おい、まじか。早すぎるだろ? なんで自分から触るんだよ!」

「ベナー、気持ち悪いよぉ。どうしたらいいの?」

「おい! その呼び方するなって言ってるだろ? 俺のイメージが崩れるだろっ!」

「ベナー、イメージとかどうだっていいでしょ? だいたい誰のイメージが崩れるのよ?」

「誰って、そりゃあ、ドクシャ(読者)だろ」

「毒者? あたしのこと? ベナは『近づくな危険』って看板付けたハンターってことは変わらないでしょ。それより早くなんとかしてよ。ほんとに死にそう。どうして猫たち運びにきてくれないんだろう……」

「ほぉ。それが人に助けを乞う者の言い方か。まぁ、いいだろ。初めてだしな。ポーチから解毒薬を出して飲んでみろ」

「げどぉくやくぅ? そんなのないけど……」

「ハナ、持ってきてないのか? 持って来いって言ったよな? 他には何が入ってんだ?」

「えーっと、トラップツール、砥石、蜘蛛の巣、いじょおぅ」

そこからは意識が遠のいてしまって、その後のことは覚えてないんだけど、無事に帰って来てるってことは鬼教官「ベナトール」がなんとか助けてくれたと思うの。

 

 

まぁ、そんなこんなでハンター修行を続けていったんだけど、その辺りの話はベナにお任せするとして。

 

 あ、そうそう、初めてベナトールを紹介された時ね、大きいし黒いし、とっつきにくそうだし怖そうだし、これはダメかもって思ったんだけど。それが名前を聞いたら「ベナトール」って言うじゃない。「ナイシトール」とかみないな薬の名前っぽくない? って見た目とのギャップに内心笑っちゃってて。

 そしたら不思議と怖くなくなったのよね。

 それに、口数少ないんだけど、みんなが思うような鬼教官でもなく。ほら、沼地でも知らない間に助けてくれてたし。

 あと、これは本当に内緒なんだけど。クエストを最短でクリアし続けられたのはベナが次々とモンスターを倒してくれてたんだわ。いいやつでしょ。

 きっとおじいちゃんは、その辺のこと知っててベナを付けてくれたんだと思うんだけど。

 そんなこんなで、最速で上級ハンターに仲間入り。

 聞けばベナは何度もココット村に行ったことがあるらしいのよね。道案内もしてもらおっと。

 

 

 

 よーし、いよいよココット村だわ。

 カイ、待っててね(^^)




ちなみに、「カイ」は「モンスターハンター2(ドス)」時代に友人が操作していたキャラ名、「ハナ」は友人が考えたオリジナルキャラ、「ベナトール」は私が「フロンティア」で操作していたキャラ名です。

今現在、友人はとうの昔に引退しており、私は「フロンティアZ」の、無料で出来るものだけを気が向いた時だけやっている状態です。


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朝ごはんはココット村で(ハンター編)

上位試験の話が出て来ますが、今現在では「シェンガオレン」の試験はフロンティアでは行われておりません。
今の試験は確か「アビオルグ」の狩猟に変わっているはず。
フロンティアに「ドンドルマ」があった頃の世界なので、試験内容も昔のものを採用しています。


 ある日の事。

 

 【大長老】から呼び出しがあったベナトールは、【大老殿】の謁見室で、畏まって話を聞いていた。

「――でじゃ、儂の孫娘が急に『ハンターになりたい』と言い出しおっての。そこでお主に【教官】として上位になるまで育ててもらいたいのじゃよ」

「俺に【教官】が務まりますかね……」

 自己流で生きて来た自分は【教官】として人に教える器ではないと思った彼は、自信なさげに言った。

「大丈夫じゃよ。多少痛い目に合わせた方が、あやつも目が覚めるじゃろうて」

 どうも口では『上位まで』と言いながら、【大長老】自身はそれほど孫娘をハンターにさせる気はないらしい。

「俺はお分かりのように不器用ですから、手加減など出来ませんよ? 本当に痛い目に合うかもしれませんが、それでもよろしいのですかい?」

「構わん構わん」

 【大長老】には楽し気に笑いながら、「孫娘には『街一番の鬼教官』という事にしておるからの。そういう事でよろしく」と付け加えられた。

 ベナトールは苦笑いしながら引き下がった。

 

 顔合わせの時間に【メゼポルタ広場】で待っていると、ひらひらの服を身に着けた十五、六ぐらいの年頃の、小さな女の子がやって来た。

(といってもベナトールは大男なので、大抵の者は男女問わずに【小さな】という表現になってしまうのだが)

 怖そうにおずおずと見上げる彼女に、「嬢ちゃん、【大長老】様の孫娘というのは、あんたかい?」と訊ねる。

「嬢ちゃんなんて呼ばないでよ! 私には【ハナ】っていう立派な名前があるんですからねっ」

 初対面でもいきなり噛み付くあたり、中々に気の強い性格のようだ。

 

【挿絵表示】

 

「【ハナ】ねぇ……」

「そういうオジサンはなんて名前なのよ?」

「俺か? 俺は【ベナトール】だよ。よろしくな」

 彼の名前を聞いた途端、彼女はケラケラと笑い出した。

「な、何が可笑しい!?」

 困惑して聞くと、「だって、だって、なんか【ナイシトール】みたいな薬の名前みたいじゃない」と腹を抱えて笑っている。

「うむぅ……」

「よし決めたっ! あたし【ベナ】って呼ぶねっ。よろしくベナ♪」

「勝手に縮めるな! 【ベナトール】というのは【ハンター】という立派な意味があってだな……!」 

「あんたはベナでいいの! ほらベナ行くよっ」

 親に『立派なハンターになるように』との願いを込めて付けられた、ハンターという意味の名前も彼女にかかれば形無しである。

「行くって、どこへ?」

「【クエスト】に決まってるでしょ? 私は上位ハンターになるんですからね。どんどん【クエスト】こなして下位なんてすっ飛ばしたいの」

「嬢ちゃん、そんなに簡単に【クエスト】がこなせるとは思わんこった」

「だからぁ、嬢ちゃんはやめてって言ってるでしょ。ちゃんとハナって名前で呼んで」

「じゃあハナ。本当に【クエスト】に行きたいなら、その恰好をどうにかせんとなぁ」

「なによ? 普段着で【クエスト】に行っちゃいけないの?」

「当たり前だろう!?  【素材】と【z(ゼニー)】は出してやるから、せめて【ザザミ】シリーズにでも着替えてくれんか?」

「え~~? ベナが【クエスト】中に全部やってくれるんじゃないのぉ?」

「そんな訳あるか! そのままだったら連れて行かんからな!」

 ベナトールはとうとうキレた。

 

 【武具工房】で【ザザミ】シリーズのカタログを見たハナは、「ダサい」と一言で突っぱねた。

 で、すったもんだの結果、ようやく【リオハート】シリーズで収めてくれた。

 

【挿絵表示】

 

 〈スキル〉がどうこう言っても分からないので、完全に見た目重視である。

 

  

 さて、取り敢えず初めての【クエスト】なら【採集クエスト】あたりかと考えていると、「この【沼地】っていうとこに行きたい」と。

「今は【夜】だから他のフィールドの方が……」

「え~~? ベナが付いてくれてんだから、どこでも良いじゃ~~ん」

「……へいへい、どこへでもお供します」

 もう溜め息を付くしかない。

 

「夜の沼地で気を付けにゃならんのは――」 

 フィールドに着いて説明していると、その端から「この水、綺麗~~♪」と手ですくっている。

「そこら中にある毒沼で、触れると神経をやられる」

 説明が終らぬ内に、「……気持ち悪い……」と言っている。

 目の端で毒沼に触れるのは見ていたが、これも経験だと放って置いたのだ。

「早くなんとかしてよ。ほんとに死にそう……」

「……ほぉ、それが人に助けを乞う者の言い方か?」

 こめかみに血管が浮いたベナトールだったが、「まぁいいだろ。初めてだしな。ポーチから【解毒薬】を出して飲んでみろ」と促す。

「げどぉくやくぅ? そんなのないけど……」

「ハナ、持って来てないのか? 持って来いって言ったよなぁ?」

 ますます血管が浮くベナトール。

「他には何が入ってんだ?」

「えーっと、トラップツール、砥石、蜘蛛の巣、いじょおぅ」

 それだけ言うと、彼女はパタンと地面に倒れ伏した。

 このまま毒が抜けるまで放って置こうかと思ったが、【大長老】様から引き受けた手前、何かあっては困るので、一応【クエストリタイア】して医務室に放り込んでやった。

 

 【z(ゼニー)】が足りるだろか……。

 

 【リタイア】すると金は返って来ないため、有り余る程持っているくせに、そんなケチ臭い事を考えたりした。

 

 

 随時こんな調子でちっとも前に進まないため、結局ベナトール自身が全部狩猟を引き受けねばならなくなってしまう。

 まあそれを見越して【大長老】様も自分に託されたのだろうと、諦めの境地で【クエスト】をこなした。

 が、下位なら彼女を自由にさせてやってもそれほど脅威にならないと思っていたはずが、やはり【古龍】ともなるとそうもいかず、全てこちらに攻撃を引き付けても彼女を護り切れない事もあった。

 

 これは、上位になるとハナを死なせてしまいかねんな……。

 

 下位だから【撃退】で許される【古龍クエスト】だが、上位になると【討伐】を成し遂げないといけないのだ。

 でもそれでもその頃になると、防御力やスキルの有難味が分かって来たとみえ、愛用の【リオハート】シリーズを強化したり、少しはスキルを考えたりしてくれるようにはなった。

 【アイテム】は相変わらずチンプンカンプンな物を持って来、何度言っても【古龍】相手に【罠】を仕掛けようとしたりする。

 だからもう、これも彼女の個性なのだと思う事にした。

 

 

 二年程経った頃。

 いよいよ上位になるための最終試験だというので、入念に準備したベナトール。

 最終関門は【ギルドマスター緊急依頼】として出題される、【シェンガオレン】の撃退である。

 つまりはこの【緊急依頼】に参加し、【シェンガオレン】を撃退出来るか否かで、上位の資格があるかどうかを試されるのだ。

「――良いか、今度の依頼は失敗は許されない。奴に【砦】を壊されたら、その先にある【街】や【村】は壊滅状態になる。こればかりは絶対に死守せねばならん。――分かるな?」 

「はい……!」

 彼女にしては珍しく、真剣な表情で頷いた。

 どうやら彼女には過去、まだ幼い頃に、【ラオシャンロン】に【街】を破壊された記憶があるらしい。

 それは二才ぐらいの記憶だという事だったが朧気ながら覚えているようで、それ故に【砦】を壊された後の惨状を知っているため、こればかりはおちゃらけてはいられないと思ったのだろう。

 

 ズシン……! ズシン……!

 

 やがて、【砦】全体を揺るがす程の地響きを立てながら、【奴】は現れた。

 【砦】の先端から見えて来たのは、【ラオシャンロン】の顔。

「――ラ、【ラオシャンロン】!?」

 彼女は驚愕したように口元を押さえた。

 因縁の記憶が蘇ったかのように、真っ青になってガクガクと震えている。

 が、やがてその【ラオシャンロン】が頭骨だけであり、霧の中に徐々に現れて来たのがそれを被った巨大な【甲殻種】だと分かると、今度は違う驚愕を見せて「な、何これぇ~~~!?」と絶叫した。

「まあ、初めて見た奴は誰でもそうなるわなぁ……」

 ベナトールは苦笑して言った。

「ななな何!?  どう闘えばいいの!?」

 わたわたしている彼女に、「まあ落ち着け」と返す。

 と、【シェンガオレン】が後ろを向き、頭骨を正面に向けるようにして静止した。

 そして、まるで【ラオシャンロン】が口を開けるかのように、上下の顎が開き――!

「――いかん! 離れろハナ!!」

 言うや否や、ベナトールは彼女を抱きかかえて(というよりは搔っ攫うようにして)その場から離れた。

 直後に巨大な黄色い塊を、【砦】にぶつける【シェンガオレン】。

 それは液体状になっているのだが、どうやらその衝撃で【砦】を壊そうと試みたらしい。

「な、何あれ何あれ!? なんであんなもの出すのよぉ」 

 地震が起きたかと思う程の揺れに耐えながら、彼女はベナトールのぶっとい腕にしがみ付いている。

「……まあとにかく、ここでは【剣士】は攻撃出来ねぇから、次のエリアまで歩かせよう」

 そう言いつつ、ベナトールは地図でいう《2》まで移動した。

(まだハナを脇に抱えたままだったので、途中で「おろしてよぉ」と暴れられた)

 ゆっくりゆっくり移動して来る【シェンガオレン】をじりじりしながら待ち、現れた脚に攻撃を仕掛ける。

 それは、一本一本が巨木のような太さである。

 ベナトールの真似をして攻撃しようと試みたハナだが、グラグラして立っていられない。

「これじゃ攻撃できないじゃない」

「なんだハナ。〈耐震+1〉のスキルは付けて来なかったのか?」

「そんなものがあるなら早く言ってよぉ」

「準備段階でとっくに伝えたはずなんだがなぁ?」

 兜で表情は見えないが、声色で彼のこめかみに血管が浮いているのを察した彼女は、「わわ、忘れたワケじゃないのよ。えっとほら、うん、〈スキルポイント〉が足りなくて付けられなかったの」と焦りながら誤魔化している。

「まったく……。なら前進する脚が止まった瞬間に攻撃するんだな」

「分かった。やってみる」

 相手の前進は非常にゆっくりなので、それでも一応攻撃出来るのだ。

 が、後ろから付いて行きながら攻撃していた彼女が、つい脚の前に回り込んでしまった事で悲劇が起きる。

 前進するために上げた足先に当たり、そのまま踏まれてしまったのだ。

「ハナ!!!」

 駆け寄ったベナトールは、目を閉じてぐったりしている彼女の、あまりの状態の酷さに言葉を失った。

 

 ……これは……! 内臓が破裂しているかもしれない……。

 

 【シェンガオレン】は、何事もなかったかのように進んで行く。

 すぐさま【秘薬】を飲ませたかったが、内臓がやられているなら飲み込めないだろう。

 ならばとまず持っている全ての【生命の粉塵】をかけ、内臓からによる酷い内出血が治まったのを確認してから上半身を起こしてやり、【秘薬】を飲ませた。

「……う……」

 効き目が表れた頃、少しして呻きつつも目を開けてくれた彼女を見て、ベナトールは安堵の溜息を吐いた。

「まだやれるか?」

 一応聞いてみる。

「うん。大丈夫……」

「怖かったら【キャンプ】で寝てても良いんだぞ?」

「ううん。前みたいに逃げたくないの」

 気丈にもそう言った彼女。

 わずか二才の頃だったというのに、その成す術も無く逃げ惑った記憶が焼き付いているらしい。

「そうか。――ならヘマはするなよ?」

「うん。ありがと助けてくれて」

 ベナトールは優しく笑って答えた。

(表情は兜で見えなかったが)

 

 《3》に移っていた【シェンガオレン】に、攻撃を加え続ける。

 《4》まで移動してしまったのを攻撃し続ける。

 が、いくら切っても足先が赤く染まるだけで、一向に前進は止まらない。

 その内【シェンガオレン】は、陸橋を攻撃しようと立ち上がった。

「た、高ぁい~~~!!」

 ハナは、そのあまりにもの高さに腰を抜かさんばかりに驚いている。

「あの中に入るぞ」

 言いつつ陸橋の梯子を上っていくベナトールに、「は、入るってどこによ!?」と、慌てて付いて行きながら答えるハナ。

 【シェンガオレン】は、先程【砦】の先端で行った、頭骨(ヤド)から黄色い液体を吐き出す攻撃を行うべく、両顎を開かせている。

「行くぞ、付いて来い!」

 そう言ったベナトールは陸橋から、なんとその中、つまり【ラオシャンロン】の頭骨の口の中に飛び下りた。

「ええぇ!?」

 当然のように、素っ頓狂な声を上げるハナ。

「何をしている。早く来い!」

 促されて涙目で飛び下りる彼女。

 すると、間髪入れずにベナトールは【対巨龍爆弾】を置いた。

「良いかハナ、これは時間差で爆発する強力な爆弾だ。【対巨龍】という名の通り、【ラオシャンロン】にも有効だから、覚えて置くように」

 言うや否や飛び下りるベナトール。

「ここ、こんな所で講義しないでよぉ」

 ハナは抗議しながら飛び下りた。

 直後に爆発した【対巨龍爆弾】にヤドの中を焼かれ、悲鳴を上げる【シェンガオレン】。

 が、それでも前進は止まらない。

 

 いくら攻撃を加えても【シェンガオレン】は移動し続け、とうとう最終門である《5》まで辿り着いてしまった。

 ここを破られればその先にある、【街】や【村】は全て潰されてしまう。

 二人はそれだけはさせまいと、死に物狂いで門を守っている【ガーディアンズ(守護兵団)】と共に、【大砲の弾】を運んで【シェンガオレン】にぶち当てたり、【大型固定弓(バリスタ)】を撃ったりした。

「【撃龍槍】の準備が出来たぞ~~!」

 やがて、誰かの声がかかる。

「よし! 俺が撃とう!」

 ベナトールは【撃龍槍】を作動させるための、大きなスイッチの前に陣取った。

「よく見てろハナ。今から作動のやり方を教えてやる」

 だがそう言っている間にも、【シェンガオレン】はどんどん近付いて来る。

「ベナ早く! 何やってんの!?  門が壊されちゃう!!」

 ハナはおろおろしながら【シェンガオレン】と彼とに慌ただしく視線を移している。

 とうとう相手は立ち上がり、門に密接する程近付くと、巨大な鋏を振り上げた。

「あぁっ! もうダメ!!」

 思わず彼女が両手で目を覆った、まさにその時――!

 

 ガシュンッ!!

 

機械的な音と同時に巨大な槍が数本、門から勢い良く飛び出した。

 【シェンガレオン】は見事に口元からヤドまでを貫かれ、青紫の血を滴らせながらピクピクと痙攣している。

「おぉ~~~!!」

 周りで息を飲んで見守っていた【守護兵団(ガーディアンズ)】がどよめいている。

 やがてキリキリと音を立てながら【撃龍槍】が引っ込むと、ガシャンと音を立てて【シェンガオレン】は崩れ落ちた。

 それでようやく観念したのか、相手はよろめきながら【砦】から去って行った。

 途端に周りから上がる歓声。

「お見事です! ベナトール殿!」

「いや~~! 流石ですね!」

 握手を求められたり肩を抱かれたりしている彼を見ながら、ちょっとだけ尊敬したハナであった。

 

 

 晴れて上位となったハナに、ベナトールは後日頼まれ事をされる事になる。

 その話は、また後程……。 

 

 




挿絵はフロンティアの自キャラで演出していますが、ゲーム画像がマズいという事でしたら削除し、挿絵無しで行こうと思っています。


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朝ごはんはココット村で(ベナトール一人語り編)

内容は「ハンター編」とまったく同じものですが、こちらはベナトールの口から直接話して貰った形になってます。
というのは、前回の「ハンター編」の文があまりにも友人が書いてくれたものと違っていたがために、私自身がなるべく友人の文に近付けようと思ったからなんです。

友人のものが「一人称」の形式で書かれていたので一人称にしたかったのですが、ベナトールでは一人称にならない(寡黙な性格なので自分からは語らない)ため、「誰か」が無理矢理話を聞き出しているようにしました。
そうでもしないと話してくれそうになかったので(笑)

前回と内容が同じなので載せなくても良いかとも思ったんですが、文の性格が違うので、こちらも載せる事にしました。
「ハンター編」を読まなくても分かりますが、そちらの方が詳しくなってしまったので、先に「ハンター編」を読んで置いた方が分かりやすいかもしれません。



 ――ん?

 ハナが【ドンドルマ】最速で、上位ハンターになった経緯(いきさつ)を聞きたいと?

 そんなもの話して何になる。第一そこまで珍しい事でもあるまいに。

 ……ああ、普通なら【上位最終試験】まで最低でも五年はかかるもんが、二年かそこらで合格した奴は、あいつぐらいだろうな。

 どうせあんたが全部やってやったんだろうって?

 まぁ、それは否定せんが……。

 ――あん? どうしても聞きたいってぇのか?

 仕方ねぇ。なら一度しか話さんから、よく記憶に留めて置くんだな。

 

 

 どこから話すか……。そうさなぁ、【大長老】様から呼ばれた所からにするか。

「孫娘がハンターになりたいと言い出したから、【教官】として上位まで育ててくれまいか?」

 そうおっしゃられたんだよ。

 最初俺は、自己流で生きて来たから【教官】の器じゃねぇと思ってな、断ろうとした。

 人に教える自信なんざ、なかったからな。

 が、「多少痛い目に合わせても良いから」とおっしゃられる。

 俺は「本当に痛い目に合うかもしれませんが、それでもよろしいんですかい?」と念を押した。

 だが「それでも構わん」という事だったから、引き受けたのさ。

 「【ドンドルマ】一の鬼教官という事にしている」と付け加えられたのには、苦笑いしちまったがね。

 

 で、顔合わせの時間に【メゼポルタ広場】で待ってたら、ひらひらな服着たちっこい嬢ちゃんがやって来たんだよ。

 ――ん? あんたから見たら誰でも小さく見えるだろうって?

 そりゃそうだな。

 確か「嬢ちゃんあんたが孫娘かい?」と言うような事を聞いたっけか。そうすっと「嬢ちゃんなんて呼ばないでよ!」と噛み付きやがった。

 初対面なのにだぜ!? こりゃ相当肝っ玉が据わってやがると思ったね。

 んで「ハナって名前で呼んで」と。「オジサンはなんて名前なの?」と聞くもんだから、「ベナトールだよ」と名乗ったら、途端にケラケラ笑いやがんだ!

 何事かと困惑したら、「だって、【ナイシトール】みたいな薬の名前みたいじゃない」と腹抱えて笑いやがる。薬はねぇと思わねぇか!?

 一応「【ハンター】という意味がある」と名前の由来を説明したんだが、「ベナって呼ぶから」と言われちまってな。俺の立派な名前も形無しだよ……。

 おい、お前まで笑うこたぁねぇだろ!?

 

 普段着のまま【クエスト】に行こうとすっから、こいつ馬鹿か? と思ったんだが、なんとか【z(ゼニー)】と【素材】を与えて【リオハート】シリーズに着替えさせた。

 始めに与えようとした【ザザミ】シリーズは、「ダサい」と突っぱねられたがな。

 初めての【クエスト】なら【採集クエスト】当たりかと思ってたらば、「【沼地】ってとこに行きたい」と言い出しやがった。夜にだぜ?

 一応反対したんだが、押し切られちまってよ。まあ毒沼に触れるのも経験の内かと受けたんだよ。

 

 

 【沼地】に着いて毒沼について説明してたら、それ聞く前に手を突っ込みやがった。しかも「綺麗~~♪」とか言って。

 

【挿絵表示】

 

 馬鹿だろ? 当然「気持ち悪い……」ってなるわな? 

 「死にそうだからどうにかしてよ」と言われたんだが、「ポーチから【解毒薬】を出して飲んでみろ」と促したら、「そんなものない」と抜かしやがった! 前もって言ってあったのに、だぜ!?

 他にはといえば【蜘蛛の巣】とか【トラップツール】とか、そういうもんしかポーチに入れて無かったんだと。その内毒が回ってパタンと倒れやがったから聞けなかったが、回復系が入ってたかどうかも疑わしかったよ。

 あまりに間抜けなもんだから、このまま放って置こうかと思ったんだがな。その内毒が抜けて勝手に帰って来るだろと。

 けどよ、【大長老】様に託されてる手前、何かあったら首が飛んじまうだろ? だから仕方ねぇから猫掴むみてぇに首根っこ捕まえて、【クエストリタイヤ】してぶら下げて帰って来てやったのよ。その後医務室に放り込んだがな。

 その後どんな【クエスト】に連れて行っても随時そんな感じでよ。ちっとも前に進まねぇもんだから、狩猟は全部俺が引き受けた。

 ――あ? それじゃ実力が付かねぇってか。

 そいつを言われると辛ぇんだが、まあそれを見込んで【大長老】様も俺を付けたんだろうと思うんだよな。だから諦めたよ。

 で、結局【上位最終試験】までに二年程経過したと。まあこういう訳だ。

 

 【最終試験】がどうなったかも聞きてぇのかよ? お前さんも物好きな奴だな。

 あんたも分かってる通り、上位になるための【最終試験】は【シェンガレオン】の撃退参加だ。

 だがこればっかりは、俺が全部やってやるわけにゃいかねぇ。

 俺だけでは【砦】を護り切れんからな。

 あいつも珍しく真面目になりやがってよ、「失敗は許されんぞ」と諭したら、しおらしく「はい」と頷いたのよ。

 なんでも、うんと幼い頃に、【ラオシャンロン】に【街】を潰された記憶があるらしいんだな。だから今度ばかりはおちゃらけてはいられねぇと思ったとみえる。

 だがいかんせん、〈耐震+1〉を付けてねぇと抜かしやがる程抜けてる奴だからよ、「前進中の止まった隙に攻撃しろ」と教えたら、つい脚の前に回り込みやがって踏まれちまったのよ。

 

【挿絵表示】

 

 あれには弱ったね。なんせ状態見たら内臓破裂してそうだったからな。

 慌てて【秘薬】を飲ませようとしたんだが、内臓やられてたら飲めねぇだろ? だからまず【生命の粉塵】を掛けて、内臓を回復させてから飲ませたよ。

 死んじまったらどうしようかと焦ったが、目を開けてくれたのには正直ホッとしたよ。

 もういっその事、無理してでも俺一人でやっちまって、【キャンプ】で寝ててもらおうかとも思ったんだがよ。健気にも「逃げたくない」と言いやがったからよ、そのまま参加してもらったよ。

 ヤドの中で【対巨龍爆弾】を置いて講義した時は、流石に文句言ってたがね。

 

 二人だと攻撃力が足りねぇのか、どんなに攻撃しまくろうが奴が止まってくれなくてよ。とうとう最終門である《5》まで辿り着いた日にゃ、流石に焦ったよ。

 だが【守護兵団(ガーディアンズ)】も頑張ってるし、そこを崩されたら終わりってんだから、諦めるわけにゃいかねぇ。

 死に物狂いで【砲弾】とか【大型固定弓(バリスタ)】なんかを使ってると、誰かが「【激龍槍】の準備が出来た」と声を掛けた。

 そこで「俺が撃とう」と、【撃龍槍】の前に陣取った。

 ハナに作動の仕方を教えてやろうと思ったんでな。

 そうしてる内に、奴はどんどん近付いて来る。

 ハナはそりゃあオロオロしてたさ。「早くしないと門が壊されちゃう~~」って泣きそうになってやがった。

 だが【撃龍槍】ってのは、うんと引き付けてからでないとキッチリ効かせられねぇだろ? だから奴が密着するまで引き付けた。そうすっとハナは「もうダメぇ!!」と目を覆いやがった。

 その瞬間に作動させたもんだから、せっかくの見せ場も見逃しちまったんだよな。しょうがねぇやつだよまったく。

 それで奴は観念してくれて【砦】から去って行ったんだが、正直【撃龍槍】が効かねぇとなったら、もう駄目かと思ったわ。 




ちなみにベナトールの鎧イメージは「アカムト」シリーズで、メイン武器は「ハンマー」です。

挿絵に二人いるのは他のプレイヤーではなく、フロンティアZではAIが操作して勝手に付いて来るキャラが作れるから。
これはその内の「パートナー」という制度を使ったものです。
自キャラは一人しか操作できませんが、これを利用して二人クエの再現は試みたいと思っております。
漫画的表現になっているのは、画像加工ソフトを使って私が漫画的な吹き出しを加えているためです。


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朝ごはんはココット村で(ココット村編)

ハンター御用達の雑誌、「月刊・狩りに生きる」は今はフロンティアでも廃刊してしまったようですが、私の世界では未だに現役なので、たまに登場します。


   

 

 

 

 ここは【大老殿】の【謁見室】。

 【大長老】はその椅子に座って、褐色の肌を持つ大男の報告を聞いていた。

「なるほど。――大儀であった。ベナトール」 

「――ははっ!」 

 ハナの上位最終試験を終えたベナトールは、その足で【大老殿】に向かったのだ。

「ここまでさぞや苦労したであろうの?」

 ほくそ笑みながら聞く【大長老】に、「とと、とんでもないっ!」と慌てる。

「そう隠さずとも良い。お主の奮闘ぶりが目に見えるようじゃよ」

 【大長老】はほっほっと笑った。

 彼女は今や、『ドンドルマ最速で上位になった』と専らの噂になっているのだ。

 

「時に、頼みたい事があるのじゃが……」

 【大長老】は、切り出した。

「――はっ。俺に出来る事であれば、なんなりと……」

「ハナをの、【ココット村】に連れて行ってはくれまいか?」

「【ココット村】ですかい?」

 ベナトールは少々驚いた。

 あんな片田舎に何の用事があるのかと思ったからである。

「お主、【奇跡の少年】の話を聞いた事は無いか?」

「……初めて【ラオシャンロン】が【街】を襲った時に、奇跡的に生き残った少年がいた。とかいう話の事ですかね?」

 唐突な話に多少混乱しながら答える。  

「そうじゃその話じゃ。――実はのベナトール。【ココット村】に、その少年がいるのじゃよ」

「ほぉ……!」

「まあ今はもう青年になっておろうがの。……ほれ【狩りに生きる】にこの前載っておったじゃろう?」

「あぁ、もしかして【カイ】の事ですかい?」

「なんじゃお主、あやつを知っておるのか?」

「ええ、まあ……」

「ならば話は早い。実はの、ほんの幼い時分に一時期あやつを引き取っておった事があったんじゃが、その頃にハナはようあやつと遊んでおってな」

「それで【狩りに生きる】で見付けたカイに、ハナが会いたがっていると?」

「そういう事じゃ。上位ハンターになろうとしたのは、上位でなければ通れぬ門を通過せねば、【ココット村】に行けないという理由があったからじゃからな」

()()()()()()()で、あいつはハンターになろうとしたんですかい?」

 【ハンター】という職業を、多少神聖化しているベナトールは、『それだけの理由』という所に怒気を込めた。

「まあまあベナトール。それを許してお主を【教官】として付けたのは儂なのじゃ。じゃから今回も黙って引き受けてはくれまいかのぉ?」

「……。了承いたします……」

 不満だったが、ベナトールは受けた。

 

 

 

「【ココット村】楽しみ~~♪ お願い聞いてくれて、ありがとベナ♪」

 いつものひらひらな服を身に着けたハナは、【ココット村】へ向かう竜車の中ではしゃいでいる。

 が、反対にベナトールはブスッとしてそっぽを向いている。

「何むくれてんのよぉ。――あ、もしかして私が上位ハンターになりたかった理由、バレちゃった?」

 窓の方を向いたまま、無言で答えるベナトール。

「ごめんねぇベナ。でもね。どうしても会いたかったの。カイに」

 まだ無言を貫こうとするベナトールに、「もぉ! いい加減に機嫌なおしてよぉっ」と両手で顔を挟んで自分に向けさせ、目の前でふくれっ面をしてみせた。

 それが可笑しくて顔を挟まれたままつい吹き出した彼に、にっこり笑う彼女。

「ベナはい~~~っつも仏頂面なんだから。たまには笑わないとシワになるよ?」

「うるせぇ。余計な世話だ」

 いつも怒ったような顔をして、【触るな危険】のオーラを出しているかのような無口な大男も、怖がらずに懐いているハナには多少饒舌になるようである。

 最も、傍から見たらどう見ても、猛獣を従えているお嬢さんというふうにしか見えないのだが……。

 

 【ココット村】に到着した二人は、まず【村長】に挨拶してからカイの行方を尋ねた。

「――ああ、カイならあそこにいるよ」

 指差す方向に勇んで走って行くと、そこでは黄色(おうしょく)の肌に茶色がかった金髪を持つ青年と、褐色の肌に鮮やかな青い髪を持つ青年が、二人で楽しそうに談笑していた。

 

【挿絵表示】

 

「カイ! あなたカイでしょ!? 会いたかった……!」

 【カイ】と呼ばれた茶金の髪の青年は、きょとんとした顔をしている。

「やだカイ、忘れたの? あたしよ。【ハナ】よ!」

 カイは困った顔をして、人差し指で頬をかいている。

「ほら【大老殿】の庭でよく遊んだじゃない。覚えてないの?」

 眉間にしわを寄せて考えていたふうの彼は、「――ああ!」と顔を明るくした。

 

「何だこのガキ? お前の知り合いか?」

 その時褐色の青年が割り込んだ。

「ガキってなによ! あたしはカイと一つか二つぐらいしか違わないんだからね!」

 早速噛み付くハナ。

「って事は十七、八ぐれぇかよお前! やっぱガキじゃねぇか」

 彼は馬鹿にしたように笑った。

「アレク、君はどんな奴にも態度変えないな~~。初対面なんだろ?」

 カイは苦笑いしている。

「こんなガキに敬意を表しろとでも?」

 【アレク】と呼ばれた青年は、ハナを指差して言った。

 

「よぉカイ。久しぶりだな!」

 その時、黒人の大男が割り込んだ。

 

【挿絵表示】

 

「ちょっとベナ! まだ話は終ってないんだからねっ!」

 彼はハナの言葉を無視し、「こいつがお前の新しい【パートナー】ってやつか? やはり黒い肌が好みなんだな? ん?」とカイの頬を触ろうとした。

「やめろよ」

 その手を叩いて振り払うカイ。

「随分とつれねぇじゃねぇか? カイよ。まさか【ユクモ村】での事を忘れた訳じゃねぇだろうな?」

「その話はするな!!」

「おいオッサン!!」

 カイの声と同様に、強い口調の声がかかる。

 声を荒げたのは【アレク】と呼ばれた青年だった。

「そいつは俺の事か? チビ助」

「……! 自分よりちっせぇからってチビ呼ばわりしてんじゃねぇぞ! このデカマッチョ!!」

 ベナトールは筋肉隆々の大男なので、デカマッチョと言われても仕方がない。

「チビにチビ助と言って何が悪い? お前も自分より低い者がいたら『チビ』と呼ぶんじゃねぇのか?」

「ぐぬ……!」

 言葉に詰まった彼だったが、「んな事じゃねぇ! こいつが嫌がってんだろうが!!」と踏ん張った。

「ほぉ。随分と愛されてるようだな? カイよ?」

「そんなんじゃねぇ!!! 気色悪い事ぬかすなデカマッチョ!!」

「俺には【デカマッチョ】じゃなくて、【ベナトール】という名前があるんだがな? チビ助」

「あぁそうかよ! 俺にだって【アレクトロ】っつう立派な名前があんだよ。デカマッチョ!」

 なぜか勢いで、思わず名前を紹介してしまった二人であった。

「ちょ、ちょっとあんたたち! 何いきなり喧嘩してんのよ」

「そうだよアレク落ち着けって!」

 二人に引き離されて取り敢えず収める。  

 

「――あ、そうだ♪」

 ハナは思い出したようにパンと手を叩き、「あたしねっ、カイに会ったら一緒に朝ごはん食べようと思って【ランチ】作って持って来たの。お代わりしてもいいように一杯作ったから、みんなで朝ごはん食べましょっ♪」と言った。

「それ良いねハナ♪ 丁度お腹すいたな~とか思ってたんだ♪」

「おいカイ、こんなガキが作った飯なんか食えんのか?」

「しっつれいね~~! こう見えてあたし、料理は得意なんだから!」

「ほぉ? そりゃ楽しみだな」

「後で腹壊さねぇように【漢方薬】用意しとくわ。俺」

「【火事場飯】をわざと食べてるアレクが何を言う? おいらにも食べさせたりするくせに~~」

「そりゃおめぇの反応が面白ぇからじゃねぇかよ」

「やだアレク、あんたそんな事してんの!? 趣味悪いわねぇ~~」

「チビ助。【火事場】が出来るのなら、今度俺と組んで【クエスト】に行かんか?」

「だからチビ呼ばわりすんなっつってんだろが! デカマッチョ!!」

「あ~も~うるさい! 黙って食べてよぉ」

 

 

 こうしてハナは、周りを巻き込みつつも、目的を果たせたのであった。 

 




これにて友人から始まった「朝ご飯はココット村で」の話は終わりです。
後は続いていたり、いなかったり、続いていないようで続いていたりしてます。

ベナトールのセリフ「【ユクモ村】での事を……」についてですが、ベナトールは一度、「ユクモ村」の温泉でカイを犯した事があるのです。
(それについても書いてはいますが、「やおいもの」になるので載せるのはやめておきます)
ので、それをきっかけに、カイはベナトールとなるべく二人きりにはならないようにしてます。

今回出て来た「アレクトロ」ですが、これは「2(ドス)」時代に私が操作していたキャラ名です。


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砂漠のデッドヒート

「朝ご飯はココット村で」とは別の話ですが、続きのようになってます。
この話は友人から「卵運び」のお題を貰って書いたものです。


 

 

「ねぇ【草食竜の卵】ってさぁ、どんな味か食べてみたいと思わない?」

 【ココット村】での朝食を終え、四人で談笑していると、ハナが言った。

「別に思わねぇな」

 腹さえ満たせば味にはそれほど拘らないタイプのアレクトロが、事も無げに言う。

「うんうん、一度食べてみたいよね♪」

 体型は細いくせに意外と食いしん坊であるカイが、その話に乗る。

「でしょでしょ? じゃあさ、みんなで取りに行かない?」

「みんなって……。まさか俺も入ってるんじゃあるまいな?」

 ベナトールが困惑したように言う。

「当たり前でしょ!? ベナは私の【教官】なんだから」

「それはもう卒業したんじゃ……」

「なんか言った?」

 迫られて、「むぅ……」と唸るベナトール。

「俺は行かねぇかんな!」

「なんだよアレク、行こうよぉ」

「そうよ、一人だけ行かないのはルール違反よ」

「そのルール誰が作ったんだよ……」

 四人でなんだかんだと言っていたが、結局揃って行くハメに。

 

 【砂漠】の【ゲネポス】を狩る【クエスト】を受けた四人は、取り敢えず【草食竜の卵】のある《10》に行ってみた。

 今は【繁殖期】なので、割と沢山の卵がある模様。

 が、この卵は【アプケロス】の卵なため、まず卵を護っている親をどうにかしなくてはならない。

「いっその事殺すか……」

 つぶやいたベナトールの声に、「可哀想よぉ」と答えるハナ。

「俺もそう思うんだが、邪魔なんだよなぁ」

 ぼやくアレクトロに、「んじゃ誰かが引き付けるか気付かれる前に運ぶ?」とカイ。

「まあなんとかなんだろ」

 巣に近付いたベナトールが、卵を抱えようとすると――。

 

 ぐしゃ

 

「もぉベナ! 腕力ありすぎ!」

 脆い卵はベナトールの腕力では、抱える前に潰してしまうようだ。

「ったく、ならオッサンは援護してろよ」

「いやすまんすまん」

 頭を掻くベナトールだが、援護も大切なのだ。

 

 《10》から【キャンプ地】まで運ぶルートは二通り。

 《5》の砂漠を通って《1》《2》とずっと砂漠を歩き続けるか、比較的涼しいために【クーラードリンク】のいらない《7》《3》を通り、《2》の砂漠へ出るか。

 距離的に《7》を通って行く方が近いため、こちらを選ぶ事にした四人。

 が、どちらにしても《2》の砂漠は避けられないので、運ぶ前に【クーラードリンク】を飲んでおかなければならない。

「よっこらしょ」

 年寄染みた言葉を発しながら、アレクトロが卵を抱える。

「うんとこしょ」

「どっこいしょ」

 まるで合いの手のような事を言いながら、ハナとカイも抱えた。

 当然のようにその親である怒った【アプケロス】が追い掛けて来るので、それを避けつつ進む。

 が、卵が重いのと中身が不安定に揺れてバランスが取り辛いせいで、かなりゆっくりしか走れない。

 ようやく《7》に出た一行は、そこにずらりと【ゲネポス】が待ち構えているのを見た。

「オッサン、頼んだ」

「おうよ!」

 たちまち鬼のごとく蹴散らすベナトールを尻目に、《3》へ向かおうとすると――。

 

 がっしゃんっ!

 

 卵が割れた音がしたと思って振り向くと、ハナが「あぁ~~、割れちゃったあぁ!」と情けない声を出している。

「おめぇ、スタミナ配分に気を付けろよ!」

 注意しつつ走っていると、背中に衝撃を受けて吹っ飛ばされた。

「ななっ!?」

 混乱して立ち上がろうとするも、痺れて動けない。

 ベナトールの強攻から逃れた【ゲネポス】の仕業である。

「くっそぉ~~!」

 《3》の入り口間近で飛び蹴りを食らったアレクトロは、麻痺から抜けるや否や、「てめぇ! よくもやりやがったな!!」と【ゲネポス】を一刀の元に両断した。

 飛び蹴りしたものとは別の個体だったのだが、卵が割れた腹いせだったので、そんな事はどうでも良かった。

「あぁっ!」

 《3》まで無事に通過していたカイの声が聞こえ、そこまで駆けて行くと、こちらは【ランゴスタ】に刺されて麻痺っていた。

 

  

 そんな事を二度ほど繰り返して失敗したアレクトロ。

「やってらんねぇ!!」

 割れた卵の一部を地面に叩き付け、彼は言葉を吐き出した。 

「俺も援護に回るわ。お前ら勝手に運んでろ」   

 捨て台詞を吐いて、さっさと《7》へ行くアレクトロ。

 そこにはベナトールがいるのが分かっているので、彼を無視して怒った顔のまま《3》へ行く。

 定期的に湧く【ランゴスタ】を、枯れるまで退治するつもりだったのだ。

 

 卵の中身を防具にひっかけて、ずんずんと怒った足取りで《3》へ向かう後ろ姿を目で負いながら、ベナトールは彼の心情を察して苦笑いした。

「しょうがないわねぇ、んじゃさっさと二人で運んじゃいましょ」

「そだね」

 ハナとカイは、二人でえっちらおっちら卵を運んで行った。

 

 

 そうやって、多少(?)苦労して取って帰ったは良いものの……。

「……これ、うめぇか?」

「う~~ん……。ハッキリいってイマイチねぇ」

「え? おいしいじゃんこれ♪」

「カイ、味音痴は黙ってろ」

「い、いやハナの作ったものなら、なんでもウマいからな、うん」

「オッサン無理しなくていいから」

「いやおいしいってば♪」

「だったらおめぇが全部食え」

「ホント!? やったぁ♪」

「ま、まあカイが喜んでくれてるんなら、いっか……」

 

 言い出しっぺのハナは少し後悔したのだが、喜んでがっついているカイを見て、苦笑いしつつも嬉しかったのであった。




なんか卵をそのまま食べたような書き方になってますが、ちゃんと料理しましたよ。ハナが(笑)


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逆襲競争

「朝ご飯はココット村で」でアレクトロが「火事場飯を食べる」という話をしたので、それを基に思い付いて書いたものです。
ただし、この話に出て来る「逆襲グラビモス」を始めとした通称「逆襲シリーズ」と呼ばれていたクエストは、今のフロンティアZでは廃止になっております。


 

 

 

 【メゼポルタ広場】に行き交うハンター達の往来を、何とはなしに眺めていたベナトールは、その中の一人が見覚えのある事に気が付き、近付いた。

 

 遠くから近付いて来た大男に気が付いたアレクトロは一応立ち止まったが、会いたくない奴に会ってしまったという顔をしている。

「よお、お前、【街】に来ていたのか?」

「なんだよオッサン、なんか用かよ?」

「そう嫌な顔をするな。【ココット村】での約束を、守ってもらおうと思ってな」

「俺は約束した覚えなんぞねぇ」

「ほら、【火事場】で【クエスト】を――」

「断る」

 アレクトロは、最後まで言わせずに突っぱねた。

「やはり【クエスト成功】させる自信が無いか?」

「なんだと?」

「いやな、少し見てみたかったんだよ。お前が【火事場】でどんな狩猟をするのかをな」

 

 〈火事場+2(体力40%以下で攻撃力が1.5倍になり、防御力も上昇する)〉のスキルを使いこなせるハンター自体が珍しく、ベナトールも失敗する事があるため、【ココット村】で『【火事場飯】を食う』と言っていたアレクトロに、少し興味があったのだ。

「人に見せられるようなもんじゃねぇよ。……それに、オッサンと行ったとして、あんたと一緒に巻き込まれて死ぬのはごめんだからな」

「ならこうしよう」

 ベナトールは提案した。

「ほれ、【沼地】に【グラビモス】が二頭同時に来る事があるだろう? その依頼があった時に、それぞれ一頭ずつを担当して狩る。というのはどうだ? それなら各自で集中出来るし、お互いの狩猟も見る機会が出来るのではないか?」

「面白ぇ。ならそいつを受けて、どっちが早く討伐出来るか競争しようじゃねぇか」

「おぉそりゃ良いな。受けて立とうじゃねぇか、チビ助」

「後で吠え面かくなよ? デカマッチョ」

 二人は拳を突き合わせてニッと笑った。

 

 

 【グラビモス】が二頭同時に現れる【クエスト】は、その脅威さ故に【グラビモスの逆襲】と呼ばれている。

 なぜなら上位【グラビモス】を一頭相手にするだけでもかなり難易度が高いのに、それが二頭同時に同じエリアで入り乱れる事があるからである。

 その【クエスト】を【火事場】でこなそうというのだから、この二人は尋常じゃない。

 人が聞けば、当然のように「死にに行くようなもんだ」と言うだろう。

 カイが聞こうものなら顔色を変えて反対されるのが分かり切っているので、アレクトロは彼には黙って置く事にした。

 

 さて。

 普段は【剣士】装備の二人だったが、珍しく【ガンナー】装備で落ち合った。

 なぜならこの【クエスト】では【グラビモス】が相手なため、【火事場】で狩猟するにしても【弓】の方がやりやすいからである。

 【火山】では相手が溶岩の中に入られたり地形が邪魔で近付けなかったりすると飛距離が足りずに使えなくなってしまう【弓】だが、【沼地】では溶岩や地形に阻まれずに【グラビモス】に近付けるため、本領を発揮出来るのだ。

 

 「どうせ同じ飯を食うなら」という事で、二人で並んで食事をする事にしたのだが……。

「うぐっ!」

「ぐえっ!」

 二人でそんな声を出しながら、大の男(といってもアレクトロは平均身長ぐらいなので大きくはないのだが)二人が同時に腹を押さえて悶絶しつつ倒れ込む。

 その様は、傍から見れば実にシュールだった。

 多少の腹の痛みは瘦せ我慢で乗り越えつつ、【クエスト受付】へ。

 ベナトールが受け、夜の【沼地】へ。

 上位クエなので到着がバラバラになり、《5》から始まったアレクトロは【強撃ビン】を付けつつ一頭がいる《4》のエリアへ。

 ベナトールは《8》から始まったので、そのまま【強撃ビン】を付けてそこにいる一頭へ。

 さあ戦闘開始である。

 

 

 二人は【グラビモス】が【水属性】に弱いのを知っているため、【オオバサミⅥ】を使っている。

 そのため【グラビモス】に矢が当たるたびに、バシャバシャと水滴が跳ね返っていた。

 突進を誘発させてしまうとその分時間の無駄になり、ブレスを避けにくくもなるのだが、アレクトロはどうしても突進させてしまっている。

 ベナトールは、突進は抑えてはいるものの、《8》に定期的に湧く【ガブラス】の群れに少々手を焼いていた。

 一方アレクトロの方も、一匹の【ガブラス】と、【ランゴスタ】に手を焼かされていた。

(もっともこちらの方は、一度倒すと現れなくはなるのだが) 

 それでも二人共に順調に攻撃を加えていき、まずアレクトロが、続いてベナトールが第一段階の腹破壊を終了する。

 五分程経った頃にアレクトロが第二段階の腹破壊を終了。と思った矢先、アレクトロのすぐ脇を、背後からグラビームが通過した。

「連れて来んじゃねぇよ! オッサン!!」

 振り返らずとも分かるので、彼は自分が担当している相手に集中したまま叫んだ。

「んな事言ってもよ、移動しちまうもんは仕方ねぇだろが!」

 背中を向けたまま攻撃を続けているアレクトロに、叫び返すベナトール。

 そう。なぜか五分ぐらい経つと移動して合流してまうのである。

 

【挿絵表示】

 

 ベナトールが完全腹破壊を済ませているのを目の端で確認したアレクトロは、「勝負は互角。いや向こうが先か……」とつぶやいた。

 なぜなら彼が完全破壊を成し遂げた直後に合流されたという事は、向こうは既に破壊が終っている事を証明しているからである。

 

 合流する少しの間だけ、お互いの闘いぶりを見る事が出来る。

 アレクトロは攻撃を続けながらチラチラとベナトールの攻撃を見て、「そうか。もっと胸側で良いのか」とつぶやいた。

 弱点攻撃をするなら【腹】に攻撃を集中させれば良いと思っていたのだが、それよりもむしろ【胸】辺りを狙って腹部に貫通させる感じで良いようなのだ。

 自分の攻撃を見て修正したアレクトロを見たベナトールは、密かに口の端を持ち上げた。

 お互いの攻撃を見れるのは良いのだが、二頭が狭いエリアを入り乱れる事になるため、短い時間だとしてもアレクトロにはかなりきつかった。

 案の定、背後から放たれた薙ぎ払いブレスを避け切れず――!

 

「お……! オッサン!?」

 振り返ったアレクトロが見たものは、丁度覆い被さるようにして立ち塞がっている、ベナトールの姿。

 当然、全身が黒焦げになっている。

 いかに打たれ強いハンターであるとしても、【ガンナー】用の防具は【剣士】よりも防御率が低いのだ。

 尚且つ今回はわざと【火事場飯】を食らい、自分の体力を40%以下にしている。

 そんな状態で上位【グラビモス】の、しかも怒り時のブレスをまともに食らったら、どうなるかアレクトロでも簡単に想像出来る。

「……無念……!」

 ベナトールは苦し気につぶやくと、ゆっくり倒れた。

「オッサン! おいオッサン!!」

 意識が無いと分かっていながら、アレクトロは呼びかける。

 が、二頭がまだいるのを思い出し、【閃光玉】を投げてから彼を担ぎ上げ、丁度隣のエリアだった【キャンプ地】まで逃げた。

 

 

「重てぇなオイ!」

 半ば投げ出すようにしてテント内の簡易ベッドに寝かせたアレクトロは、状態を見るべくベナトールの防具を引っぺがした。

 やはり覆い被さっていたからか、背中の火傷が一番酷く、肉まで焦げている。

 【生命の粉塵】をかけてみるも、僅かに皮膚が再生した程度。

 ならばと【秘薬】を混ぜてみると、これなら良さそうだったため、【生命の粉塵】やら【回復薬グレート】やらに混ぜて火傷全部にそれを掛け、布でぐるぐる巻きにした。

 火傷の範囲があまりにも広かったために、持って来ていた【秘薬】及び回復アイテムが全部無くなってしまったが、今回はもう飲む事はねぇしなとアレクトロは思い直した。

 

 【クエストリタイア】を選ぼうとしていると、ベナトールが呻いた。

 どうやらもう意識を取り戻したようである。

「よぉ、しぶといなオッサン」

 わざとそう言ってやる。

「……お前は、無事……なのか?」 

「あぁ、おかげ様でな」

「……そうか……」

「別に助けてくれなくても良かったんだぜ? そこまでの義理はねぇんだし」

「……が、悲しむ、んでな……」  

「誰が悲しむって?」

「……お前が……。お前に、何かあったら……、カイが、悲しむんでな……」

 【キャップ】から覗いたその目を見たアレクトロは、なぜか何も言えなくなった。

 

 

 お互いにもう少しで【クエストクリア】という段階ではあったが、アレクトロは【リタイア】を選んだ。

 ベナトールは不服そうだったが、一旦引き返して彼の回復を待ち、仕切り直す。

 今度は運が良かったのか、それとも二人の実力だったのか、合流寸前ぐらいに討伐する事に成功し、お互いに命を脅かされる事なく【クエストクリア】出来た。

 で、結果はというと――。

 

「お前の勝ちだ。アレクトロ」

「いやオッサンの方だろ? どう見ても」

「今回は勝ちを譲ってやるよ。俺はブレスを食らっちまったしな」

 わざと頭を掻いて見せるベナトールに、「ならそういう事にしといてやるよ」と、こちらもわざとふんぞり返って見せる。

 フッと笑ったベナトールに対し、アレクトロは照れ臭そうにした。

「楽しかったぜ、オッサン」

「こっちも楽しめたぜ、アレクトロ」

 アレクトロはいつの間にか自分を名前で呼んでくれているのに気が付いて、「アレクでいいよ」と言った。

「また、誘って良いか? アレク」

「あぁ。……でも今度は出来れば【火事場】無しで頼む」

 それを聞いて、愉快そうに笑うベナトール。

 それを見ていた周りの者は、「お、おい【ベナトール】が笑ってるぞ!?」「もももしかして、天変地異の前触れか!?」などと囁き合った。  




「火事場」状態で上位グラの薙ぎ払いブレスなんぞ浴びたら、普通は消し炭すら残らないと思うんですがね(笑)

挿絵のキャラ名が違うのは、フロンティアZで使っているキャラ名の中に「アレクトロ」がいないためです。
ですが顔パターンや髪などはアレクトロ型を使っているので、「パートナー」のベナトールと一緒に二人クエでの再現が出来ます。


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薄暗闇にほのかに浮かぶ白

これは友人から「フルフル」のお題を貰って書いたものです。
「フルフル」はホラー風が合うだろうと思って、それを目指したものです。 


   

 

 

「毒沼、気を付けろよ?」

「うん。分かってる」 

 【クエスト】依頼を夜の【沼地】で受けた二人は、陰気な雰囲気の湿地帯を、毒沼を避けながら駆けていた。

 昼と違って雨が降ってない代わりに、地面に至る所に生えている【毒テングダケ】の成分なのか、それとも毒を含んだ微生物のせいなのか、この辺りはあちこちから毒を含んだ水が湧き出して毒沼を形成している。

 昼には大抵ずっと降り続いている雨で流されるので、この辺りを走っていても毒に冒される事はまずないが、夜にうっかり踏み込むと毒が回ってしまうため、気を付けないといけない。

 雨がうっとうしいのが嫌で夜に依頼を受けたアレクトロは、こっちもこっちで嫌だなと思っていた。

 

 道々で【ゲネポス】とか【イーオス】とかを狩って素材を剥ぎ取りつつ、ついでに豊富に生えている【キノコ】類を採取しつつ、地図でいう《3》に入る。

 そこからは《9》《7》へと続く長い洞窟になっていて、昼でも体感気温がぐっと下がるエリアである。

「さっびぃ~~~!」

 アレクトロは入り口付近で震えながらポーチから【ホットドリンク】を出してあおった。

 【雪山】や夜の【砂漠】なんかでもそうなのだが、【ホットドリンク】が無いと寒さでスタミナがどんどん減っていくからだ。

「アレク、ごめん【ホットドリンク】忘れた……」

 すまなそうに言うカイ。

「ったくおめぇは! いっつもそれだな」

 アレクトロは苦笑いしながら自分の分の【ホットドリンク】を半分渡した。

 カイは〈忘れ物(特大)〉のスキルでも付いてるのではないかと思うほどしょっちゅう何かは忘れる奴なので、アレクトロは気にしていない。

 ゆっくり進みながら、見回したり耳を澄ませたりした二人は、「ここはいねぇみてぇだな」とか言いながら次のエリアに進む。

 目当てのモンスターは洞窟のどこかに潜んでいるはずなのだが……。

 

 《9》に入って少し進み、耳を澄ませていたアレクトロは、「アレク、あそこ……」と気味悪そうにカイが言うのを聞いた。

「――ん?」

 彼が指さす方向を見ると、薄暗闇の天井に張り付いて、蠢いているものがいた。

 そいつはぺたぺたと天井をこちらに這って来て、首だけ下げて匂いを嗅ぐ仕草をした。

 そして吸盤状の尻尾だけで逆さにぶら下がった後、ゆっくり落ちるように地面に降り立った。

 薄暗闇の洞窟内に、ほのかに浮かぶ白。

 ぬめぬめとした質感の体を持つ、どことなく雄の生殖器を連想させるような姿。

 そいつはまるで頭を切り落とされたかのような首を持ち上げると、その断面を見せるように、肉色の口を開けた。

 

 ヴォエェ~~~!!!

 

 なんとも表現し難い声を使って大音量で吠える相手に、〈高級耳栓〉スキルを付けてなかったカイが、隣で思い切り耳を塞いだのが見えた。

 用意周到にそのスキルを付けているアレクトロは、とっくに近接して【溜め】の姿勢に入っている。

「ったく、なんでこんな気色悪い【飛竜種】に、【フルフル】なんて可愛らしい名前を付けたんだろうな」

 最大溜めをお見舞いしてから、アレクトロがぼやいた。

 

 そう。今度の狩猟目標は【フルフル】という飛竜種モンスターなのだ。

 

 遅れを取ったカイはいつものように【麻痺属性】の【太刀】で攻撃していたが、麻痺時間があまりにも短いので少しばかり焦っている。

 当たり前のように弱点属性である【火属性】の【大剣】を持って来ていたアレクトロは、攻撃するたびにボンボンと派手に火の粉を撒き散らせている。

 

 と、怒った【フルフル】が尾先にある吸盤を広げ、地面に吸い付けるように広げた。

 そうして思い切り息を吸い込むような動作をしたと思ったら、次の瞬間電気ブレスを吐いた。

 それは地面を帯電しながら三方に分かれて伸びていく。

「危ねぇ!!」

 そのコースにカイがいたのが分かったアレクトロは、踏み込みながら切り上げ、彼をその場から浮っ飛ばした。

 当然代わりにブレスを食らった彼は、痺れて動けなくなってしまう。

 直後に彼が見たものは、やや離れた距離から姿勢を低くして後ろ足を踏ん張った【フルフル】の姿。

 

 まずい! 潰されちまう!!

 

そう思ってもがくのも空しく、痙攣する事しか出来なかった彼は、もろに飛び掛かられてしまった。

「アレク~~~!!!」

 カイの悲鳴が洞窟内に木霊する。

「うるせぇよ……」

 ぶよんと縮まった【フルフル】の脇で、多少ふら付きながらも立ち上がったアレクトロ。

 どうやら運良く弾き飛ばされ、まともに圧し潰される事は免れた様子。

 それを見て、カイはホッと胸を撫で下ろした。

 だが油断は出来ず、体全体に電気を纏わせる【フルフル】。

 今度はガードする余裕があったアレクトロは、放電中なのにも関わらず、その影響が及ばない位置で再び溜めた。

 

【挿絵表示】

 

 そうして放電終わりにタイミングを合わせ、最大溜めを叩きこむ。

 ソロでもそうやって狩って来ているアレクトロは、慣れたものだった。

 

 その内に体中に裂傷が刻み込まれた【フルフル】は、痛々しい姿になった。

 ぶよぶよの体は斬撃が通りにくく、尚且つ傷が塞がりやすい体質をしているのだが、二人で何度か切っている内に傷を付ける事に成功した。

 麻痺が短いといってもまったく効かないという訳ではないため、カイの麻痺も利用して溜め切りをお見舞いする。

 カイが足元を狙うと転ぶので、これも溜めチャンスにした。

 

【挿絵表示】

 

 堪らず天井に逃れた【フルフル】は、大慌てで隣のエリアに逃げた。

「待て~~!」

「待てこらぁ!!」

 【ガンナー】なら撃ち落とす事が出来るだろうが、二人とも【剣士】なので追いかけるしかない。

 【フルフル】が《7》に逃れたのを見て、アレクトロはチッと舌を鳴らした。

 あそこは入り組んでいるし、【イーオス】【ゲネポス】コンビの巣窟だからやっかいなのである。

 

 案の定二種の【鳥竜種】に出迎えられた二人は、それらに気を取られている間に眼前に【フルフル】が落ちて来たのを見て心底驚いた。

「このやろ! びっくりさせんなっ」

 切り掛かったカイをあざ笑うかのように、【フルフル】は横に首をぐいんと伸ばして刃を避けた。

 が、避けるためにそうしたのではないとアレクトロは知る。彼が見たものは横に伸びたはずがカイの背後に回り込んだ【フルフル】の首だったからである。

「危ね――!!」

 声を掛ける間も無く、伸びた首がそのままカイの背中を狙う。

「あああああ!!!!」

 カイは背中の肉をごっそり嚙み取られ、その場で転げ回った。

「畜生!!」

 アレクトロは踏み込むや否や、上段から切り下した。

 それはたまたま間にいた【ゲネポス】ごと切断するほどの力だった。

 それが止めとなったのか、それきり動かなくなる【フルフル】。

 生きていようがいまいがお構いなしというふうに踏み越えて、カイの傍に駆け寄るアレクトロ。

 彼はポーチを弄って【回復薬グレート】を取り出すや否や封を開け、背中にかけた。

 カイは暴れないように押さえ付けられたため、歯を食い縛りつつ呻くしかなかった。

 【イーオス】が毒を吐きかけて来たにも関わらず、平然としたように【回復薬グレート】をかけ続けるアレクトロ。

 傷が塞がってきたのを確認して、初めて押さえ付けていた手を緩めた。

「ごめん……。ありがと……」

 多少痛がりつつも立ち上がったカイは、今度はアレクトロが毒に冒されているのに気付いて【解毒薬】を渡した。

 後で【漢方薬】を飲むつもりだったアレクトロだったが、「サンキューな」と受け取ると、仕返しとばかりに【イーオス】を切り殺してから飲んだ。

 

 

 本当に動かないのを確認し、剥ぎ取りを終えた二人。

 後は帰るだけという段階になって、なんとなく嫌な予感がしたアレクトロは、【クエスト依頼書】を見てみた。

 その途端に落ち込む彼を見て、「どしたのアレク?」と聞いたカイは、渡された【クエスト依頼書】を見てこちらも落ち込んだ。

 そこにはこう書かれてあったからである。

 

()()()()する事!』

 




アレクのイメージ防具は「レウス」系なので、今回の挿絵は「シルバーソル」を着ています。
彼のメイン武器は「大剣」です。
カイのイメージ防具は決まっておりません。
カイは「太刀」がメイン武器です。

武器を使って切り上げたり打ち上げたりして助ける行為が私の話の中にはよく出て来ますが、ハンターの武器を人に向ける行為は固く禁止されており、下手をすれば違反者として「ギルドナイト」に処刑対象にされますので、この場合の切り上げ、打ち上げ行為は「防具を引っ掛けて飛ばす行為」だと思って置いて下さい。


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溶岩の狭間で

 

 

 

 はぁ、鎧脱ぎてぇ……。

 

 溶岩が固まって出来たエリアの真ん中で、膝に手をついて汗を滴らせながら、アレクトロは思った。

 いくら【クーラードリンク】を飲んでいても、この暑さには参ってしまう。

 それに、先程から汗が鎧の中を際限もなく流れていくのが気持ち悪い。

 もういっその事鎧を抜いじまった方が気持ち良いんじゃねぇかと思った彼だが、流石にそれは思い留まった。

 周りは固まった溶岩と固まり切らずに流れている溶岩という、二つの風景しかなかった。

 夜にも関わらず、流れている溶岩の光で周りの風景がうっすら見える程明るい。

 闇の中で紅く光る溶岩や、紅い薄暗闇で彩られた景色は綺麗だとさえ思うのだが、今はその風景をのんびり眺めている時間は無かった。

 

「ねぇ、まだ来ないの?」

 同じく汗をだらだら流しながら、隣でカイが聞いた。

「さっき《7》を横切ってたのを見掛けたから、たぶんもうちっと待てば来るはずなんだがなぁ……」

 と、その声が終るか終わらぬ内に、重々しい足音がゆっくりこちらに向かって来るのが聞こえた。

「ほら、おいでなすったぜ」

 アレクトロが促すと、やや離れた溶岩の中から、ゆっくりゆっくり【そいつ】は現れた。

 棘だらけの白っぽい花崗岩の塊を、乱雑にただ繋ぎ合わせただけのような外殻。

 まさに動く岩山といった風情の、重厚な姿。

 その見た目通りの分厚く、硬い外殻は、千度を超える程の温度がある文字通り溶けた岩である【溶岩】の中でも、ある程度生きられるように出来ているのだとか。

 

 【そいつ】の名は【グラビモス】。

 【飛竜種】一の体躯を誇る、硬くて手強い相手である。

「よぉ、デカブツ」

 こちらに気付いて咆哮した相手に、アレクトロは言った。

 

 突進で構えた時を見計らって、翼を狙う。

 〈切れ味+1〉のスキルを付けているので弾かれずに切り抜く事が出来るが、無ければ弾かれて、大きな隙を作ってしまう。

 だが腹部を壊した方がダメージが通るため、翼ばかりを狙ってはいられない。

 罠が得意だと豪語するカイが、早速【落とし穴】を仕掛ける。

 落ちたところに【大樽爆弾】を置き、起爆させるために離れようとすると、直後にカイが切り掛かって来た。

 当然のようにドカンという爆発音とともに浮っ飛ばされた二人。

「おっめぇは! ちゃんと見てろよ!!」

「アレクこそ置くなら置くでちゃんと言えよ!!」

 鎧を焦がしながら言い合っている間に抜け出した【グラビモス】は、特大に吠えた。

 怒らせてしまったが、どうやら第一段階の破壊は出来たようだ。

 

 怒り状態の【グラビモス】は、ブレスを多発する。

 それは体の中に溜まった熱を出すためと言われているが、直線に長く伸びる熱線で、まるでビームのようなので通称【グラビーム】などと言われている。

 見てる分には派手でカッコいいのだが、当たれば大火傷は免れない。

 ましてや怒り状態ならば、防御が薄い者は骨も残さずに焼き尽くされるかもしれない。

 

 いつもならば前にだけしか吐かないはずのグラビーム。

 だがこいつは顔を横に向け、薙ぎ払った。

「うわちゃちゃちゃ!!!」

 〈ガード性能〉のスキルも無いのに思わずガードしてしまったアレクトロは、吹っ飛んだ後、火達磨になりながら転げ回った。

 幸い彼の鎧の防御率は高いため、怒り時のブレスを受けても消し炭にされずに済んでいる。

 〈ガード性能+2〉ならばダメージを受けつつも踏ん張る事が出来るのだが、受け切れずに吹っ飛ばされてしまったのだ。

「大丈夫!?」

 上手く【緊急回避(スライディングジャンプ)】で避けたカイは、駆け寄って【生命の粉塵】をポーチから出してかけた。

「すまんサンキュー」

 ソロでも上位【グラビモス】の狩猟に出かける事があるアレクトロにとっては、火傷など慣れっこにすらなっている。

 だがブレスばかりを吐いている相手を見て、「……俺、【剣士】辞めていい?」と苦笑いして言った。

 

【挿絵表示】

 

 ブレス中の【グラビモス】ほど【ガンナー】の的になる奴はいないからである。

 まあとにかくも、直線ブレスの時を見計らって、足元に【落とし穴】を仕掛ける。

 爆弾を置くとまたカイに起爆されかねないので、今度は溜め切りをお見舞いした。

 部位破壊を狙いやすいと踏んだのか、【双剣】を持って来ているカイが腹部に陣取り、赤い闘気を足元から立ち上がらせながら目にも止まらぬ速さで切り刻んでいる。

 それは俗に【鬼人化乱舞】と言われている、【双剣】特有の攻撃である。

 ちゃっかり調合分の罠を持って来ていた様子のカイが、罠を掛けては何度か乱舞攻撃を繰り返すうち、第二段階の破壊が終了した。

 これで腹部の完全部位破壊が成功した事になる。

 相手は硬い外殻が腹部だけ完全に無くなり、そこの皮膚が赤剥けになった、なんとも痛々しい姿になった。

 

 【シビレ罠】で痺れて尻尾が下がっている時や、突進の構えを自分にではなくカイに向けている時などを狙って尻尾を縦切りしていると、こちらの切断にも成功した。

 が、切れた尻尾が飛んだ先を見て、アレクトロは絶望した。

 溶岩に半分浸かっていて、剥ぎ取れなくなっていたからである。

 夜の【火山】は昼よりマグマの活動が活発になっており、冷えた溶岩のエリアが少ないがためにこういう事故が多いのだ。

 カイは夜の火山【クエスト】に付いて来た事を、少し後悔した。

 なぜなら【グラビモス】の尻尾にしか無い、貴重な素材が剝げなくなってしまったからである。

 

【挿絵表示】

 

 

 冷えた溶岩エリアが少ないというのはつまり、【ハンター】が闘える場所も昼より限られている事を意味し、溶けた溶岩の中ですら自由自在に走り回る【グラビモス】と闘うには難易度が高いといえる。

 加えて溶岩に浸かった状態ですらグラビームを多発するので、【剣士】は手出しが出来ずにイライラしながら溶岩から出てくれるのを待つしかなかった。

「……【剣士】、辞めていい?」

 今度はカイが言った。

 

 

 そんな事で時間を食われている内に、狩猟時間が残り少なくなっていく。

 ダメ元で足元を切ると、アオッと情けない声を出して、【グラビモス】が無様に横転びした。

「お、グラころだ♪」

 これを「グラころ」と呼んで気に入っているアレクトロが、「♪グラころグラころグラころ~~♪」と妙な節を付けて歌いだす。

 どうやら岩山程もある巨体がころころ転がるのが可笑しくて仕方ないらしく、転がるたびに歌っている。

 

【挿絵表示】

 

「そんな事やってる場合じゃないだろっ!」

 狩猟時間を気にしてカイが怒った。

 だがアレクトロは、よく転ぶという事は弱っている証拠だというのを知っているため、気にするふうもなく攻撃を叩きこんだ。

 

 もうすぐ討伐成功する! という頃になって、その攻撃は来た。

 【グラビモス】が少し溜めたような仕草をし、白いガスのようなものを体内から噴出させた後、ブルブルと体全体を揺すったのだ。

 丁度腹下付近にいたアレクトロは、もろにそのガスを吸ってしまう。

 

 ……まずい……。

 

 結果が分かっている彼はそう思ったが、逃れる術もなく昏倒した。

 その直後、物凄い衝撃を背中に感じて激痛とともに無理やり覚醒させられた。

「ぐわあぁ~~!!」

 訳も分からず背骨が折れたかと思う程の痛みにもがいていると、【グラビモス】の足先が沈み込むのが見えたため、そのまま転がって逃れる。

 案の定真上にジャンプした相手が、下にいるものを潰すように、腹から落ちた。

 どうも先程の衝撃は、これを食らったらしい。

 転がったままポーチを弄って【回復薬グレート】を取り出し、一気にあおってから立ち上がる。

 カイはと見ると、なんと腹下にいる。

 どうやら彼も睡眠ガスを吸って昏倒したようなのだが、二度も圧し潰しを食らって転がって避ける力も無い様子。

 そこで隙を見て引きずり出し、少し離してから自分の分の【回復薬グレート】を押し付けて、彼の状態も見ずに【グラビモス】に切り掛かって行った。

 カイに向けてブレスを放とうと、深く息を吸い込んだ【グラビモス】の剝き出しの皮膚に、アレクトロの上段切りが炸裂する。

 体重を掛けて斜め下まで完全に切り抜いてから、血飛沫を浴びながら離れる。

 動きを止めた【グラビモス】は、ブレスの代わりに血を吐きながら崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 ブレスの仕草をするのとアレクトロが切り込むのがほぼ同時だったから、もし一瞬でも遅れていたらカイはブレスの餌食になっていただろう。

 いくら【剣士】の防具(【ガンナー】より頑丈)を身に着けている彼だとしても、至近距離でグラビームを受ければ命に係わるはず。

 だからいつもは状態を見るアレクトロであったが、それよりも攻撃を優先したのだった。

 

 改めてカイに駆け寄ると、彼は呻きつつも自分の分の【回復薬グレート】を飲んでおり、アレクトロが渡した物と一緒に空瓶が何本か転がっていた。

 内心ホッとしていると、「アレク、その血――」と言いかけたので、「あぁ、こりゃ奴のだよ」と顎でしゃくって見せた。

「良かったぁ……」

 動かなくなった【グラビモス】を見ながら安心したのを見届けて、「ほら、さっさと剥ぎ取りして帰るぞ」と促す。

「そだね……」

「あ。尻尾、すまんかったな」

「ううん、良いんだ。また二人で行けば済む事なんだし」

「今度はヘマすんなよ?」

「アレクだって、睡眠ガス思いっきり吸ってたじゃんか~~」

「ばれたか……」

 

 苦笑いして頭を搔くと、兜で見えないのに表情を読み取ったカイが、クスクス笑った。

 

  




うちのキャラはゲーム並みのタフさがあるので、爆弾喰らおうがブレス喰らおうがへっちゃらです。
ですがまぁ、怪我する時はします。

ご都合主義と言われればそれまでなんですが……。


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二人、【ガンナー】に挑戦す(弓編)

私は弓は苦手です。
【弓】という武器自体は好きなんですけどねぇ……。


 

 

 

「ねぇアレク。おいら【弓】に挑戦してみたいんだけど」

 ある麗らかな昼下がり、アレクトロが【メゼポルタ広場】にある椅子に座って、たまには【クエスト】に行かずにのんびり酒でもかっ食らって過ごそうかな~などと考えていると、そんな日に限ってカイがのたまった。

「【弓】だぁ!?」

「うん。【ガンナー】になるには【弓】か【ボウガン】を扱えなきゃいけないんだろ? 【ボウガン】って弾を考えなくちゃいけないから難しそうじゃん? だから【弓】にしようと思って」

「またなんで【ガンナー】になりたいなんぞ考えたんだよ?」

「だって、今まで【剣士】ばっかだったじゃん? だから【ガンナー】の方もやってみたいなって。 ねぇアレクもやろうよ」

「【弓】みてぇなクソ軽い武器なんざ、俺に合うかよ」

「んじゃアレクだけ【大剣】担いで来ればいいじゃない。おいらだけ【弓】の練習するからさ」

「あのなぁ、【弓】を触った事がねぇ奴の【クエスト】になんざ、危なっかしくて【剣士】で付き合えるかよ」

 

 【街】の中ではどんなに広場にスペースがあっても武器の使用は禁止されているため、武器の練習をするにも何某かの【クエスト】に出向かなければならないのだ。

「んじゃアレクが教えてよ。なんだかんだ言って、【弓】で【クエスト】行ってるの、おいら知ってんだからね?」

 そう。実はこっそり一人で【弓】の練習をしているのをカイは知っていたのだ。

 しかも何度か【クエスト成功】して帰って来ている姿も。

「おめぇにゃほんっと隠し事出来ねぇな!」

 呆れてしまうアレクトロ。

 まあ隠すつもりもなかったのだが、もう少し上手くなってからコイツを誘いたかったなと思う。

「分かったよ! 付き合えば良いんだろ付き合えば!」

「わ~~い。流石アレク♪」

 嬉しそうにはしゃぐカイをしょうがねぇ奴だと思いながら眺める。

 

 こういうガキみてぇなとこはちっとも変わらんな……。

 

 眺めつつ、苦笑したアレクトロであった。

 

 

 さて。

 【採集クエスト】などで肩慣らしをしても良かったのだが、どうせ【狩猟】に使うのだからと、適度に的になる【ドスファンゴ】の狩猟を受けてみる。

 だが初めて【弓】を触るカイを、いきなり【ドスファンゴ】の前に放り出すわけにはいかなかったので、まず【ベースキャンプ】の広場で空射ちして教える事にした。

 (まあいきなり放り出すのも面白いとアレクトロは思ってはいたのだが)

 

「ほれ、射てみな」

 アレクトロが促すと、案の定【溜め1】と呼ばれる、【弓】を引いてろくすっぽ溜めずに直後に放つやり方をしている。

「あぁ違う違う。こうやんだよ」

 アレクトロが【弓】を構え、最後の【溜め3】まで溜めてから放って見せる。

 カイも真似してはみるものの、最後まで溜め切る前に、どうしても放してしまう。

「相変わらず腕力ねぇなぁ」

 アレクトロは呆れて言った。

 

 何度か練習させてみて、「まぁこんなもんで良いだろ」と、【ドスファンゴ】の前へ。

 カイは「まだ早いんじゃないの?」と不安がっていたが、他の武器同様実戦で覚えた方が早いため、半ば無理やり放り出してやった。

 始めは引き絞ったまま走る事も出来なかった様子だったが、徐々に慣れてきている様子。

 【ドスファンゴ】の動きは早いので、やはりろくすっぽ溜める前に攻撃チャンスが来て放ってしまっている。

 

【挿絵表示】

 

 

 まあ、しゃあねっか。

 

 アレクトロは苦笑しながら溜息をついた。

 体力が低い相手なので一応討伐まで持っていかせ、次は【リオレイア】へ。

 的が大きい方が逆に当てやすいし、【リオレイア】ならばカイも闘い慣れているので実戦向きだと思ったからである。

 

【挿絵表示】

 

 

 苦戦しつつ闘っているカイを尻目に、アレクトロは尻尾に陣取って尾先を直に鏃で切っていた。

「さっきから何やってんの?」

 少しは手伝ってよと言いたげに、カイが言う。

「まあ見てな」

 何度かそれを繰り返すと、なんと尻尾が切断された。

「アレクすげぇな!!」

 カイは心底感心したように言った。

「まあ、慣れればこんな芸当も出来るんだよ」

 得意気に言って見せるが、実は先輩ハンターに教えてもらった事である。

「さて。尻尾も切れたし、そろそろ止めを刺そうかね」

 偉そうにつぶやいたアレクトロは、弓を構えて引き絞った。

 

 ビシュンッ!

 

 気持ちの良い音を立てて真っ直ぐに飛んで行った矢は、【弓】攻撃で弱点になる、尻尾の付け根付近に吸い込まれた。

 しかもそれだけに止まらず、貫通して背中辺りで抜けてしまった。

 腕力のあるアレクトロは、柔らかい相手である【リオレイア】を射れば、最大溜めだと貫通してしまう。

 が、アオゥと悲痛な声を出して怯みはしたものの、絶命には至っていない。

「やっぱ一発では無理か……」

 チッと舌を鳴らしながらつぶやく。

 なぜかというと、本当の弱点は尻尾の付け根の下辺りであるからだ。

 まだ完全に狙い切れていないアレクトロは、尻尾の付け根の上を射てしまったのだ。

「まだ練習が必要だな……」

 貫通して行った矢を唖然として見送っているカイを見ながら、アレクトロは独りごちた。

 

 

「やっぱ【大剣】担いでた方が俺の性に合ってるわ……」

 下位の【リオレイア】だったのもあって、危なげなく【クエスト成功】して帰って来た二人は、再び広場の椅子に座っていた。

「まぁそう言わないで。けっこう面白かったよ?」

「それは下位の【ドスファンゴ】と【リオレイア】だからだっつの! 上位になってみろ、とてもこんなもんじゃねぇぞ」

 アレクトロは上位で練習しては何度か【クエスト失敗】しているのだ。  

「じゃあ上位でやれるように頑張るから、一緒にやろう」

「断る」

「なんでだよ」

「おめぇだけに付き合ってられねぇの! やり方教えたんだから練習すんなら勝手に一人でやれ」

「なんだよケチ~~。一緒にやろうよぉ」

「金魚のフンかおめぇは! つうか【弓】で上位に付いて来てぇなら、条件クリアしやがれ」

「なに?」

 アレクトロは人差し指を、カイの鼻先に突き付けて言った。

「最後の【溜め3】まで、きっちり溜められるようにする事! じゃねぇと上位どころか下位クエにも行ってやんねぇかんな」

「分かったよ……」

 カイは渋々引き下がった。

 あんな状態では危なっかしくて、とても上位には連れて行けないとアレクトロは考えていた。

 それに、一人で納得するまで上位で練習したかったのだ。

 

 口では「【大剣】担いでた方が良い」と言いながら、【弓】も面白ぇかもなと思い始めたアレクトロであった。




腕力の違いを出すために、アレクが射ると貫通してしまうような書き方をしましたが、実際は「貫通弓」じゃないと貫通しません(笑)


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二人、【ガンナー】に挑戦す(ボウガン編)

「ガンナー」続きで「ボウガン編」。
ヘビィのリロードの仕草が、なんかカッコ良く好きです。

自分が使えるかどうかは別として(^^;;;)


 

 

「なぁカイ。【ボウガン】に挑戦してみねぇか?」

 珍しくそう声をかけたのは、アレクトロの方だった。

「へぇ、アレクから誘うなんて、【古龍迎撃】の招集が掛からなきゃいいけど」

「んな縁起の悪ぃ事ぬかすんじゃねぇ!」

「大丈夫なんじゃない? ここんとこ【街】の近くには来てないみたいだし」

「万が一っつう言葉があるだろが! ……まぁいいや。あのな、俺が【ボウガン】に挑戦する気になったのはな――」

 話を聞くと、どうやら以前上位【グラビモス】の狩猟をした時に、溶岩の中からグラビームを多発されたのが余程癪に触ったのだという事が分かった。

「それなら【弓】でも良いんじゃないの?」

「バーカ、飛距離が足りねぇっつの。おめぇは溶岩に入って攻撃してぇのかよ」

 という事で、【ボウガン】に挑戦する事になったのだが……。

 

 

「意外にも重いんだな」

 適当な【クエスト】を受けて、練習するべく【ベースキャンプ】で空撃ちしようと試みたアレクトロは、構えた【ヘビィボウガン】の重さに少し驚いた。

「やっぱアレクも【ライトボウガン】にしとけば良かったんじゃないの?」

「いやなんか、そっちは軽すぎる気がして」

 とはいえ、構えたままでは走れない程【ヘビィボウガン】が重いとは思わなかったアレクトロ。取り敢えず一発撃ってみると――。

「反動きっつ!?」

 元々が重いからなのか、【パワーバレル】を装着したからなのか、思った以上に反動がきつく、撃つたびに後ろに下がってしまう。

「こりゃ〈反動軽減+2〉は必須かもなぁ……」

 【ライトボウガン】を撃っているはずのカイは、当然のように、隣で撃つたびにひっくり返りそうになっている。

「うし、分かった。出直すぞ」

 そう言って一旦【クエストリタイア】し、改めて〈反動+2〉のスキルを付けて、【クエスト】を受け直した。

 

 【ライトボウガン】を構えたまま軽快に走るカイを尻目に、アレクトロは撃つたびにいちいち【ヘビィボウガン】を仕舞うか、転がって避けるかするしかなかった。

 が、それを煩わしく思いながらも、一発分の攻撃力の高さは気に入っていた。

「要はこの武器は、主に【固定砲台】みてぇに使うもんなんだろうな」

 独りごちながら、だが同じ弾でも【ライトボウガン】より飛距離が長いようなので、【グラビモス】ではよく使うであろう【貫通弾】をより遠くから撃ち込めるのではないかと考えていた。

 

 

 一人でも何度か練習し、他に必要だと思われる〈大量弾生産〉とか〈高級耳栓〉、〈回避+2〉などのスキルも揃えたアレクトロは、カイを誘って再び【グラビモス】クエストへ。

 といっても今回は、通称【黒グラ】と呼ばれる【グラビモス亜種】である。

 

【挿絵表示】

 

 【貫通弾】の威力を試すには、通常種よりより硬い亜種の方がいいだろうと考えたからなのだが――。

(あち)ぃなこの(アマ)!!!」 

 不慣れな武器な上に素早い移動が出来ないアレクトロは、早速薙ぎ払いのグラビームを避け切れずに、回復しながら悪態をついた。

だが、〈回避+2〉のスキルを付けている事を思い出し、薙ぎ払いブレスの回避を試みて、成功したりもした。

 カイが【麻痺弾】を撃ってくれたり【罠】を仕掛けたりしてくれたので、その短い隙を狙って【貫通弾】を撃っていく。

 溶岩の中でグラビームを連発する時などは、【スコープ】を覗く余裕すらあった。

 腹部の破壊のために【散弾】に切り替え、カイと二人でそれを中心に攻撃していると、時間はかかったが完全破壊に成功した。

(時折お互いに当ててしまって言い合いをする事もあったが) 

「ねぇ尻尾はどうすんの?」

 今更のようにカイが言ったが、二人とも【斬属性】の武器ではないのでそのままでは尻尾は切れない。

 

 そう。()()()()では。 

 

 アレクトロは武器を仕舞って尻尾に回り込むと、何やら一生懸命に投げ始めた。

 それは浅いVの字(もしくは【へ】の字)になっているような投擲武器で、投げるたびに手元に戻っている。

 つまり【ブーメラン】である。

 

【挿絵表示】

 

 時に失敗して明後日の方向に飛んで行ったり、壊れてしまったりしたが、何度か繰り返す内に尻尾の切断にも成功した。

「器用だな~~!」

 カイは感心した。

 

【挿絵表示】

 

 アレクトロは、切れた尻尾が溶岩に浸かっていないのを確認して、内心ホッとした。

 

 

 部位破壊を全て成功させ、後は討伐か捕獲のみ! という頃。

 だいぶ【ヘビィボウガン】の扱いに慣れて来たアレクトロは、【スコープ】を覗いて狙い撃っていた。

 と、薙ぎ払いブレスをするべく横を向きながら息を吸う、【グラビモス亜種】が照準線(レティクル)(スコープを覗いた時に見える十字線の事)の中に見えた。

 ブレスを吐かれる前に【貫通弾】を撃とうと引き金(トリガー)に指を掛けたその時、スコープ画面にカイが割り込んだ。

 ブレスの予備動作に気付かないのか、回避せずにそのまま構えようとしている。

 カイがブレスに巻き込まれる事を悟ったアレクトロは、「カイすまん!!」と叫ぶや否や、なんとカイごと撃ち抜いた。

 

「……な……んで……!?」

 

 いきなり背後から鎖骨の間を撃ち抜かれたカイは、混乱しながらその場に崩れ落ちた。

 カイが倒れた事で敵だけ見えるようになった画面を見据え、更にもう一発。

 それで正確に心臓を撃ち抜くとすぐに【スコープ】から目を離し、相手が死んだかとうかの確認もせずに、カイに駆け寄った。

「すまんかったな……」

 そう言いながら、傷口に【生命の粉塵】を掛けるアレクトロ。

 

「なんか酷くないか?」

 回復したカイは文句を言った。

「いやブレスに巻き込まれるよりはマシだと思ったんでな」

 悪びれもせずに言うアレクトロ。

「おいらが死んだらどうするつもりだったんだよっ」

「急所は外しただろが。……それにな。おめぇは死なせねぇよ」

 そして、その後「【モンスター】に殺されるぐれぇなら俺が殺してやんよ」と、多少凄みを持った口調で付け足した。

「――ま、殺す気なんかねぇけどなっ」

 

 

 明るく言ったアレクトロを見ながら、寝首をかかれないように気を付けようと、密かに思ったカイであった。 



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白き角、雷(いかづち)を纏いて

「古龍」の話は、なんとなく古風なタイトルを付けたくなるのです。


 

 

 

 その日アレクトロは、ベナトールと共に【塔】に来ていた。

 以前【火事場】で【グラビモス】二頭の討伐競争をして以来、なぜか気に入られてしまったのである。

 この大男もカイとは知り合いとの事だったのだが、カイの方は【クエスト】には誘おうとしない。

 理由を聞いたら「【モンスター】ではなくて【カイ】の方を襲いたくなるから」なんだそうな。

 それ故か、カイの方もベナトールとは一緒に【クエスト】には行きたがらない様子。

 なので、仕方なくアレクトロだけ付いて行くハメになったのである。

 

 【塔】で多く採れる【古代豆】や、たまに採れる【怪力の種】などを採取しつつ、ついでに【王族カナブン】やら【ドスヘラクレス】やらの虫も捕りつつ、上に進む。

 地図でいう《5》に入った時、【それ】はいた。

 周りで喧しく鳴き交わす、【白ランポス(ギアノスとも言われている)】共を従えるかのように、堂々と歩いている。

 その威厳に満ちた純白の体は、内側から光を放っているかのよう。

 【モンスター】としては決して大きくなく、それどころか【鳥竜種】より小さいのではないかと思われる程の体躯ながら、神々しささえ感じる美しい姿。

 アレクトロはその姿を見るたびに、まるで神の使いに遇ったかのように【それ】が狩りの対象である事を一瞬忘れて見惚れてしまうのだった。

 

「出やがったな? 【白ケルビ】め」

 隣で嬉しそうに、身も蓋もない事を言うベナトール。

「【キリン】だっつの!」

 突っ込みつつ、まあ殺され続けた【ケルビ】が、恨みで蘇った姿っつう噂もあるしなぁ。などと考えていた。

 最も、【ケルビ】が二本角なのに対し、こちらは一本角なのだが……。

 そう。今回の狩猟対象は【キリン】という、馬(もしくはケルビ)によく似た【古龍】なのである。

 

 ヒイィン!

 

 二人に気が付いた【キリン】は、嘶いて跳ねながら近寄って来た。

 そのステップは真っ直ぐではなくジグザグなので、相手の体が小さいのもあって、中々攻撃が当て辛い。

 このジグザグステップは【ケルビ】と同じなので、通称【ケルビステップ】と呼ばれている。

 相手が小さいのと、動きがちょこまかして速いのもあって翻弄されるため、アレクトロにとっては苦手な部類に入る【モンスター】だった。

 それ故少しでも攻撃を当てやすくしようと、いつもの【大剣】ではなく【双剣】を持って来ていた。

 ベナトールはと見ると、いつものように重い武器である【ハンマー】を携えている。

 この男程の筋肉量なら、むしろ軽い武器に入るのかもしれないが。

 

 【キリン】には特に弱点属性が無いと言われているのだが、それでも僅かに火が通るとの事なので、二人とも【火属性】の武器を使っている。

 そのために【キリン】に攻撃が当たるたびに派手に火の粉が飛び、輝く体が一瞬紅く照らされた。

 

【挿絵表示】

 

 

 ヒイィン!

 

 再び嘶いて首を反らした【キリン】の白い角が、輝きを増す。

 角を振り下ろす仕草をしたと同時に、前方に雷が落ちて来た。

「うぉっと!」

 正面から叩き付けようと近付いていたベナトールは、間一髪で横回避している。

 左右ずつの切り下しを試みようとして脇をすり抜けられたアレクトロは、慣れているなと思った。

 恐らくそうやっては一人でも狩っているのだろう。

 

 ヒイィン!

 

 嘶いて角が輝くたびに、前方、後方、あるいは周囲と雷が落ちる。

 それを避けつつ攻撃しなければならないのだが、よく観察してみると雷が落ちる場所に規則性があるらしく、それが当たらない安全地帯から近付けられるようだ。

 熟知している様子のベナトールは難なく回避しつつ攻撃しているようだが、翻弄されているアレクトロにとっては、それは苦行だった。

 二人は周りにいる【白ランポス】を無視し、【キリン】にだけ攻撃を集中させていたのだが、【彼ら】は双方の攻撃に巻き込まれては数を減らしていき、結局意識して攻撃を仕掛けなくとも全滅してしまった。 

 

 

 やがて、度重なる攻撃に怒ったのか、【キリン】の速度と攻撃力が増して来た。

 それどころか常にバチバチと全身に雷を纏わせており、脇をすり抜けられるだけでもビリっと電気を感じるようになった。

「うほっ♪ 効くねぇこりゃ」

 それすら楽しんでいる様子のベナトール。

「余裕がある奴は良いな!」

 アレクトロは吐き捨てつつ攻撃した。

 それでも振り向き様に叩き付けているベナトールに合わせ、後ろ脇辺りから【鬼人化乱舞】で切り込んだり出来るようにはなってきた。

 

 が、やはり落雷を受けて浮っ飛ばされてしまった。

 スキルポイントが足りなくて、〈麻痺無効〉ではなく〈麻痺軽減〉しか付けられなかったアレクトロは、通常よりは短い時間ではあるが麻痺ってしまう。

「お、おい大丈夫かよ!?」

「な、なんとか……」

 麻痺が抜けたアレクトロがよろ付きながら立ち上がった、まさにその時。駆け寄って来た【キリン】が頭を低くしたのを彼は見た。

「避けろアレ――!」

 声より先に体が勝手に駆け出したベナトールは、間に合わないと思った。

 アレクトロは自分に迫って来る角を見ながら、ガード出来ない【双剣】を持って来た事を後悔した。

 

 ドンッ!

 

 それでも避けようと試みたアレクトロの右胸辺りに、衝撃が走る。

 【キリン】の角は、重装備の鎧を易々と通り抜け、肺を穿った。

 相手は彼を串刺しにしたまま一旦首を持ち上げると、まるで角に付いたゴミを振り落とすがごとく、勢いよく横に首を振った。

 角が抜けた事で大出血したアレクトロは、血飛沫と共に地面に叩き付けられた。

「アレク!!」

 悲痛な呼びかけに答えようとした彼は、代わりに大量の血を吐いてしまう。

 傷付いた肺からせり上がって来た血が喉を塞ぎ、息が出来ない。

 胸を押さえて何度も喀血していたアレクトロは、やがてヒクヒクと必死で息を吸おうとする動作をした後、動かなくなった。

「アレク!! アレク!!!」

 【キリン】に攻撃しながら、ベナトールは呼びかけ続けた。

 

 状況から見て息が止まってしまったらしいと分かったが、【キリン】には【閃光玉】が効かないので、それを投げて目晦ましになっている内に逃げるという方法が行えない。

 それに隙が無い【モンスター】なので、このままでは担いで逃げる事を許してもらえないだろう。

 かといってこのまま討伐するまで闘うなどという悠長な事をしていると、その間に確実に死んでしまう。

 

 と、どこからか賑やかな猫の声が聞こえて来たと思ったら、倒れたアレクトロを担ぎ上げて【猫車】に乗せ、【アイルー】達が運び去って行った。

 これで追撃される心配はなくなったが、【救助アイルー】は【ベースキャンプ】まで運ぶのが仕事なので、手当まではしてくれないだろう。

 

 絶望の面持ちで闘っていたベナトール。

 だが自分が【眠り投げナイフ】を持っていた事を、今更ながら思い出した。

 それを使って眠らせ、最大溜めを当てるつもりで持って来ていたのである。

 希望が見えたベナトールは即行動に移すと、【キリン】が寝ている間に【ベースキャンプ】まで駆けた。

 

 死ぬなアレク! 死なんでくれ!

 

 そう心で強く呼び掛けながら。

 

 

 到着したベナトールが見たものは、テント前に転がされたままのアレクトロの姿。

 やはり彼奴等(きゃつら)は【猫車】から彼を放り出したまま、その場に放置して去って行ったようである。

「アレク!!」

 呼び掛けるが、やはり反応が無い。

 胸の起伏も無い、まだ息が止まったままなのだ。

 急いで胴鎧を引き剥がし、穴の空いた右胸の出血を止める。

 先にそれをやっておかないと、呼吸を確保してもまた血で塞がってしまうからだ。

 喉に詰まった血を吐き出させたいが、意識が無いので無理だろう。

 ならば取るべき方法は……。

 自分の兜と彼の兜を取ったベナトールは深く息を吐き出すと、彼の口を自分の口で覆って思い切り吸い込んだ。

 

 急に喉の中に空気が入り込んだ事を感じたアレクトロは目を覚まし、自分がどういう状況になっているのかを知るや否や、思い切りベナトールを突き飛ばした。

「おぉ目を覚ましたか!」

 吸い出した血を吐き出しつつ、嬉しそうにベナトールが言う。

「おえぇっ!」

 彼がしてくれた事は理解出来たが、えづいてしまうアレクトロ。

「ひでぇ奴だな。こうしなきゃ死ぬとこだったんだぜ? お前」

「分かって……おぇっ! それには有難いと思っ……おえぇ!」

「ちっとも有難いように見えんのだがな」

 ベナトールは苦笑いした。 

 

 

 【秘薬】を飲んで休憩したアレクトロは、再び【キリン】の前へ。

 ベナトールには「【リタイア】しても良いんだぞ?」と言われたが、【幻獣】と呼ばれる程数が少なく、また目撃例も少ないこの【古龍】の依頼を逃せばまたいつ狩れるかも分からないため、無理を承知で通したのだ。

 それに【キリン】相手に重症になるのは覚悟の上だったので、死にかけたといって【リタイア】する気など、ハナからアレクトロにはなかった。

 

 調合した【眠り投げナイフ】を再び当てたベナトールは、最大溜めを振り被り、寝ている【麒麟】の弱点である角に叩き付けた。

 その直後、【鬼人化乱舞】で切り刻むアレクトロ。

 【キリン】の皮膚はかなり硬いのだが、それでも幾筋かの裂傷が走る。

 純白に輝く体にいくつもの血の筋を付けられた【キリン】は、それでも抵抗を止めようとしない。

 が、やがてベナトールが当てた攻撃に吹っ飛ばされると、そのまま動かなくなった。

 

「……やったのか……?」

 肩で息をしながら、アレクトロが言う。

「あぁ。【クエスト成功】おめでとう」

 そう言われてその場にへたり込み、四つん這いで喘いだ。

「やはりまだ、上位【キリン】はキツかったか?」

 ほくそ笑みながらベナトールは言った。

「キツいなんてもんじゃねぇぞ! なんだよあの攻撃力!?」

 彼にしては珍しく、弱音を吐いた。

「まあ【慣れ】だな。どの【クエスト】にも言えるが、こればかりは数踏んで立ち回りを自分で覚えるしかねぇぞ」 

「んなこた分かってるよ」

「ま、その内お前の得意な【大剣】でも、翻弄されずに狩れるようになるだろうよ。慣れれば【裸】でも」

「オッサンよぉ、そんな状態で【キリン】狩ってんのかぁ!?」

「おう。電気刺激が気持ち良いからな♪」

「変態かよ……」

 

 ぼやきつつ、彼のように無駄な動きが無いハンターになりたいなと思ったアレクトロであった。

 

  

 




「フロンティア」が「2(ドス)」ベースだった頃(今よりも2に近かった頃)は、白い「ランポス」には「ギアノス」という名前がありませんでした。
なのでその頃のハンター達は「ランポス亜種」とか「白ランポス」などと呼んでいたんです。

あ、それから「猫タク」というのはPSPに「モンスターハンター」の世界が移行してからの言葉なので、「フロンティア」の世界には未だにその言葉はありません。
なので私は「猫車(ねこぐるま)」と呼んでおります。


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毒の狂走曲

下位ハンターあるある?(笑)

でも二人は自分からは積極的に狩りに行くタイプではないので、上位になっても意外に「モンスター」の生態を知らなかったりします。


 

 

 

 この日、夜の【沼地】はいつになく騒がしかった。

「あぁもぉ、速い! 追い付けないでしよぉっ!」

「うわわっ!? こっち来たっ」

「来たなら逃げないで攻撃してよぉっ」

「だって、毒に当たるんだよぉ」

 

 先程から大騒ぎしながら走り回る【ゲリョス】に翻弄されているのは、カイとハナである。

 ベナトールに用事が出来たとの事だったので、ハナはアレクトロに同行を願い出たのだが、「たかが【ゲリョス】に付き合ってられっかよ」と突っぱねられ、カイと【クエスト】に赴いたのだった。

 アレクトロと共に(というよりは半ばアレクトロに無理矢理付き合わされる形で)色んな【モンスター】の狩猟をこなしているカイなら、ある程度は安心出来ると考えたハナだったのだが……。

 

 べしゃっ

 

「ちょっとぉ! 早速毒吐かれてんじゃないわよっ!」

 正面で対峙した【ゲリョス】に、もろに顔面から毒を浴びせられたカイは、大慌てで【解毒薬】を飲もうとして追撃を食らい、吹っ飛ばされたりしている。

 そう言うハナも【片手剣】で切り掛かろうとしてビヨンと伸びた尻尾に(はた)かれたり、啄みを受けて、せっかく捕っていた【光蟲】を盗まれて憤慨したり。

 

 良い所のない二人だったが、更に追い打ちを掛けられた。

 なんだか【ゲリョス】がカツカツと鶏冠を打ち鳴らしているな~と眺めていると――。

 

 ピカーン!

 

 いきなり目の前が真っ白になって、二人はピヨピヨと目を回す。

 幸いこの時は相手が攻撃して来なかったのだが、それよりも連続で閃光を発したため、目がおかしくなるんじゃないかと思う程何度も目晦ましを食らわされた。

 啄みで覚醒させられるか、もしくは自力でなんとか目を覚ますかしたが、眩しくて仕方ない。

 閃光を防ぐには鶏冠を攻撃して砕くしかないのだが、意識しているつもりでも、中々鶏冠に攻撃が当たらなかった。

 〈気絶無効〉のスキルを付ければ閃光中はむしろ攻撃チャンスなのだが、そんな事を思い付く二人でもなかった。

 

 

「もぉ~~! 眩しいし毒吐くしやたら走り回るし。コイツ嫌い!」

「アレクは『可愛い』って言ってたけどね」

「こんなシャクレ顔の、どこが可愛いのよぉっ」

 そんなこんなで、それでも攻撃を続けていたら、ゆっくり倒れて動かなくなった。

「やった♪ 剥ぎ取りしよっと」

 無防備に近付くハナを見て、「ハナ、まだ死んだんじゃな――!」と言いかけたカイ。

 が、それも空しく、ハナが【ゲリョス】に触れたか触れないかぐらいの時に大暴れされた。

 完全に死んだと思っていたハナはもろに巻き込まれてしまい、吹っ飛ばされた後ぐったりとなった。

「ハナ! しっかり!」

 駆け寄ったカイだったが、彼女の状態を確かめる間も無く襲われたため、攻撃に集中するしかない。

 

 死んではないと思うんだけど、まさかね……。

 

 動かないままのハナをチラチラ見ながら、そう思いつつカイは攻撃を続けた。

 二度目の死んだふりの時にハナに近付いてみると、意識はあるものの全身打撲になっていて、痛くて動けない様子。

 そこで【回復薬グレート】を飲ませてみると、「こんなの聞いてないわよ……」と言いながら起き上がった。

「ごめん、言ってなかった」

 てへっと笑うカイに対し、「笑い事じゃないでしよぉっ!?」と思い切り突っ込むハナ。

「ごめんごめ――! ほら来るからっ!」

 連続で啄んで来る【ゲリョス】を、二人は寸での所で回避。

 二手に分かれて攻撃していると、再び倒れて動かなくなった。

「これは、死んでるの? フリなの? どっち?」

「う~~ん、どっちかなぁ……?」

 そこで【ペイントボール】をぶつけてみる。 

 ピクリとも動かない。

「死んでるみたいね……」

「そうみたい」

 

 顔を合わせた二人はガッツポーズした後ハイタッチを交わし、今度こそ剥ぎ取りに行ったのであった。  



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その身に纏うは、獄炎の……

   

 

 

 そこは、まさに【獄炎地獄】と呼ぶに相応しい場所だった。

 暗闇に光る紅い溶岩。

 草木も生えぬ、不毛の地。

 溶岩の熱と、暑さと、そして黒く冷えて固まった、溶岩の地があるだけの世界。

 そんな中で蠢くものといえば、鬼か魍魎の類いしかなさそうなものだが……。

 

 グワオオォ!!

 

天を向いて猛々しく吠えたのは、炎の化身かと見紛う程全身が紅い、【古龍】。

 獅子の頭に、後ろに反る形の先の長く曲がった角を生やし、その姿に皮膜状の翼が付いたような外見をしている。

 まるで獄炎の神から遣わされた獣であるかのように、恐ろしく、また雄々しい姿をしている。

 【彼】は、その世界全てを震撼させるように吠えたと同時に体の周りに火の粉を撒き散らせると、一瞬遅れてカチッと牙を打ち付け、火花を作った。

 

 ボボボン!!

 

たちまち【彼】の周囲が爆発する。

「うっひょ~~! 相変わらず派手だなぁオイ!」

 逃げながら、アレクトロが言う。

「がっはっはっ! 流石に上位【テオ】の粉塵爆発は、迫力あるなおい!」

 嬉しそうに、ベナトールが答える。

 彼らは【炎王龍】事【テオ=テスカトル】を狩りに来ているのである。

 

 ちなみに【彼】というように、この種類(テスカト科)の雄の個体を【テオ=テスカトル】と呼ぶのだが、雌の個体では【ナナ=テスカトリ】と呼ばれている。

 ハンターの間で通称【ナナ】と呼ぶこの雌は、雄が炎の化身のように紅いのに対し、揺らめく紫を秘めたような、不思議で美しい蒼色。その角も反ってはなく、冠を被っているかのような不思議な形をしている。

 ハンターの間ではこれをたった独りで狩る事が、ベテランの証とされている。

 

 

 楽しそうな二人とは対照的に、彼らに比べて存在感の無い男が一人。

 カイである。

 どうしても欲しい素材があって付いて来てはいたものの、圧倒的な上位【テオ】の迫力に臆しているのか、それとも他の理由があるのか、どことなく動きが悪い。

 

「カイよ。もしかして〈地形ダメージ軽減〉のスキルを付けていないのではないのか?」

 特に攻撃を受けていないにも関わらず、しょっちゅう【回復薬グレート】を飲んでいる彼に、目敏く気付いたベナトールが言う。

「〈地形ダメージ軽減(大)〉であれば、奴に近付いても【龍炎】をかなり軽減させられるはずなんだがな」

 発覚状態の【テスカト科】の【モンスター】は、【龍炎】と呼ばれる陽炎のような炎を常に纏っているために、近付くだけでも火傷してしまうのだ。

 だが〈地形ダメージ軽減(大)〉のスキルならば、その【龍炎】をかなり軽減させ、火傷を最小限に抑えて立ち回る事が可能なのである。

 

 元々このスキルは溶岩の熱を軽減するために開発されたものなのだが、【龍炎】にも効果がある事が分かり、【テスカト科】を狩るハンターには大変有り難いスキルになっている。

「あぁ無理無理。コイツにスキルのうんちく垂れても無駄だぜ。分かんねぇから」

「分かってるよスキルの事ぐらい。でも――」

「でもスキルの種類が多過ぎて、覚えられねんだろ? だから的確に【モンスター】に合わせたスキル構成を組めない」

 カイの言葉を酌んで付け足すアレクトロ。

「ならば、その都度【クエスト】に行く前に、教えとくべきだったかな」

「常にじゃねぇけどしょっちゅう教えてんだぜ? 俺も。だが例え教えてもその防具が作れなきゃな。コイツ素材ねぇからクエ行かな過ぎて」

 

 アレクトロ程熱心に【クエスト】には行かないカイは、いざという時になって素材が足りずに武具が作れないなんて事はしょっちゅうなのだ。

 だからいつも行き当たりばったりな恰好で【クエスト】をこなしている。

「でもまあ良いんじゃねぇの? その分俺がなんとかすりゃ済む話なんだし。クエ行ってなくても自分で食えてりゃそれで生活は出来るんだしな」

「まあそりゃそだな。食えてりゃ俺らみてぇに、わざわざ危険な状況に身を置いて、命を縮める必要もない」

「だな。だから安心しなカイ。スキルが無くてもいざとなったら俺が護ってやんよ」

「愛されてる奴は違うなぁ、カイよ。羨ましいぜ」

「仕舞いにゃ殴るぞ!? オッサン!」

 

 落ち着いて話しているように見えるが、攻撃しながら、回避しながらでの話しである。

 それに付いて行っているカイは、流石にアレクトロに連れ回されて、鍛えられているというべきか……。

 

「殴るんだったらこいつを殴れ。――ほら来るぞ!」

 予備動作無しの突進。

「馬鹿逃げたら逆に危ねぇっつの!」

 逃げようとするカイの前に立ちはだかって、ガード。

 【テスカト科】の突進はかなり速い上に先読みして自分に向かって来るため、逃げた方が逆に避け辛いのだ。

 

 振り返った【彼】は、大きく息を吸い込むや炎の息を吐き出した。

 【グラビモス】と違って右、左と首を振りながら薙ぎ払うため、回避するにしてもガードするにしても二回行わなければならない。

 ガード出来ない【ハンマー】を使っているベナトールだが、まるで縄跳びの縄を越えるかのように、ごろんごろんと横転がりして二回火炎放射を越えている。

「器用だな~オッサン!」

 ガードすると一回目の反動でガードを解かれて二回目を食らってしまうため、大きく回り込みつつアレクトロが言う。

「【ハンマー】は、回避して攻撃に転ずる方が多く攻撃出来るんでな」

 そう言うと、今度は粉塵爆発をも回避してみせた。

 彼は常に頭に張り付くようにして攻撃している。

 

 と、【テオ】が横倒しになり、もがいた。

 その目は焦点が合っていない。意識が朦朧となっているのだ。

 その隙に急いで近付いて、翼に最大溜めをかますアレクトロ。

 ただでさえ一振り一振りの攻撃力が高い【大剣】は、溜めるとかなりの脅威になる。

 起き上がった【テオ】の翼爪は折れてしまっていた。

 その間にカイはというと、尻尾に張り付いて【鬼人化乱舞】で切り込んでいる。

 一生懸命尻尾を切ろうとしているのは明白なのだが……。

「カイよ。今いくら攻撃しようが、尻尾は切れんぞ?」

 半ば呆れてベナトールが言う。

「そうなの?」

「そうなのってお前……。【古龍】の尾は体力が低くならんと切れん事を、知らなんだのか?」

 

 【古龍】の多くは自己再生能力があまりにも高いために、余程弱ってからでないと尾を切る事が出来ないのだ。

 だから逆をいえば、尾が切れたという事は余程弱っているという証拠になるのである。

「前にも教えてんだが、忘れたみてぇだな」

 呆れる二人にてへっと笑うカイ。

 これで許されるのが、彼の特権というべきか。

 まあもっとも、いくら言っても効果が無いので諦められているともいえるのだが。

 

 

 バオオォ~~~!!!

 

 再び横転してもがき、起き上がった【テオ】は、特大に吠えるや否や攻撃力と俊敏さが増した。

 口の端からはひっきりなしに黒煙と火の粉が漏れている。

 【彼】は息を吸い、火炎を吐き出した。

 横に回り込もうとしたカイは、規模を増したブレスに自分の足が追い付かず、巻き込まれて吹っ飛ばされた。

 この状態の【テオ】のブレスは、通常の倍になるのだ。 

 すかさず駆け寄ったアレクトロが、【生命の粉塵】を掛ける。

 ガード出来ない【双剣】を使っていたカイは回避するかブレスの範囲外まで大きく逃げるしかないのだが、どちらも間に合わないようだ。

 ベナトールはそんなブレスをものともせずに、なんとブレス中の顔の真横で攻撃したりしている。

 

 グルルルゥ!

 

 唸った【テオ】が、周りに塵粉を敷きはじめ――。

 

 まずい!

 

 切り込もうとしたカイを、アレクトロは切り上げで浮っ飛ばした。

 

 ボボボボン!!!

 

直後に大規模な爆発が起きる。

 アレクトロは巻き込まれ、その場に崩れ落ちた。

「アレク!!」

 カイの悲鳴に近い叫びに気付いたベナトールは、【閃光玉】を投げて彼を抱え上げた。

「【ベースキャンプ】に戻るぞ!」

 そう言い放って走る。

 カイも慌てて続く。

 

 到着してテント内の簡易ベッドに寝かせ、鎧を脱がせて状態を見たベナトールは、あまりの酷さに絶句した。

 全身の皮膚が焼け爛れ、肉まで黒焦げになっている。

 おまけに吹き飛んだ溶岩が熱で溶けてガラス質になっている物が、体中に刺さっている。

 簡易ベッドのシーツ(といっても薄汚れたボロ切れを敷いたようなもの)が、たちまちじくじくと染み出す体液と、刺さった個所から出る血で染まっていく。

 当然、彼の意識はない。

 

 これは、助からないかもしれない……!

 

 ベナトールはそう思った。

 怒り時の粉塵爆発をまともに食らったのだ。体の表面だけでなく、内臓までやられているかもしれない。

「アレク!! アレク!!!」

 カイは自分の兜を取って半狂乱になって彼の名前を呼び続けている。

 それでも泣きそうな顔でポーチから【生命の粉塵】を取り出し、必死で掛けている。

 が、そんな物で回復するかどうか……。

 だが、何もしないでこのまま死を待つなどという事はとても出来ないので、二人はあらゆる回復の手段を使った。

 

 

 幸い表面の火傷や傷はある程度回復したのだが、意識が戻らない。

 まさかと胸に耳を付けたカイは、愕然とした。

 

 心臓が、止まっている。

 

「アレク!! 死ぬなアレク!!!」

 必死で心臓マッサージを施すカイ。

「逝くなアレク!! 戻って来い!!!」 

 それを見たベナトールも事態に気付いて参加し、二人は交代で心臓マッサージを続けた。

 

 が、鼓動は蘇らない。

 

「アレク!! アレク!!!」

「帰って来いアレク!! おいチビ助!!!」

 と――。

「……チビ、呼ばわり、すんじゃ、ねぇ……!」

 目を閉じたままだが、彼は確かにそう言った。

 

 帰って来た……!

 帰って来てくれた……!

 

 二人はがっしりと手を組み、抱き合った。

 

 

 その後、【リタイア】をすすめるカイを押し切って【テオ】の前に出たアレクトロは、見事に止めを刺して【クエスト成功】させた。

 

「まったく、たいしたもんだぜチビ助よ!」

 ベナトールに思い切り背中を叩かれて、「いってぇな! てかチビ呼ばわりすんじゃねぇっつってるだろ!!」と食って掛かるアレクトロ。

「今度からアレクが死にかけたら、『チビ助』って呼ばなきゃね♪」

 いつもの彼の様子に心底嬉しそうなカイ。

「勘弁してくれよ……」

 

 嬉しさもあって、心の底から大笑いしたカイとベナトールであった。

  

 




体力が落ちないと尻尾が切れない「モンスター」はなにも「古龍」だけに限らず、「飛竜種」である「アカムトルム」なんかもそうです。
「フロンティア」の世界には他にもいたりするので、多分再生能力の高い個体は種類に限らずそういう体の構造になっているものと思われます。


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 沼地に響く遠吠え

この世界に「イヌ科」の動物って、存在するんですかね?
少なくともゲーム内ではその姿は見掛けないし、犬飼ってるとかそういう話も聞きませんよね。

でも、存在しないとこの話は成り立たない(犬や狼を見た事が無いなら「犬や狼に似ている」という表現自体を彼らがしない)ので、「イヌ科はいる」と無理矢理仮定して話を進める事にします。


  

 

 

 【沼地】で見たことも無い【モンスター】が発見されたので、調査して欲しい。

 【ハンターズギルド】から要請を受けたハンター達は、各自でそれぞれ【沼地】に散って行った。

 なんでもキノコを採りに来ていた食材屋が、遠くまで響く遠吠えを聞いたとの事。

 そしてその後見たことも無い【モンスター】に襲われて、命からがら逃げ帰って来たのだとか。

「気を付けとくれよ。奴らは連携して攻撃して来るんだ。もう恐ろしいったらなかったよ!」

 でっぷり太った食材屋のおばさんが、青い顔で言った。

 

 ――奴ら?

 

 という事は、複数いるのだろうか。

 とにかくも、カイとアレクトロは【沼地】に向かってみる事にした。

 

 

 着いたのは夜だったので、毒沼に気を付けながら進む。

 地図でいう《4》に来た時、【それ】はいた。

 遠目でも狼によく似ている【モンスター】だと分かる。

 という事は、【牙獣種】なんだろうか。

 二頭いるようで、一頭は漆黒の毛色に長い犬歯、もう一頭は純白の毛色に短い犬歯を持っている。

 夫婦なのか、それとも兄弟なのか、仲良く舐め合ったりして毛繕いしている。

 

【挿絵表示】

 

「随分と可愛い【モンスター】だね」

 犬好きのカイが言った。

 犬に問わず生物全般が好きなアレクトロは、手懐けてみたいと思った。

 と、二人の存在に気付いた二頭が威嚇の声を上げ、漆黒の一頭がどこかに去って行った。

 残った純白の一頭が、攻撃姿勢を取る。

 どうやら一頭だけで闘うつもりのようだ。

 いつもの調子で【閃光玉】を投げてみたアレクトロだったが――。

 

 フォ~~~ン!

 

 高い声で遠吠えをした相手は、毛先を赤く染めて素早くなった。

 

【挿絵表示】

 

 興奮している様子から、どうも怒らせてしまったようだ。

 目晦まし状態にならないという事は、【閃光玉】は効かないどころか怒らせるために逆に危険なようである。

 唸りながら前足をかき込むようにして、右、左と素早くパンチを繰り出す。

 と思ったら、噛み付きつつ体ごと二回振り回すような動作をする。

 こちらの攻撃を見切っているのか、二度、三度と横ステップして避けたりもする。

 見た目は狼そっくりだが、なんとブレスを吐いた。

 それは肺で圧縮した空気を一気に吐き出すもののようで、着弾するまで竜巻状の空気が一気に駆け抜けるという感じになる。

 

【挿絵表示】

 

 

 と、相手が高く飛び上がった。

「ど、どこ行った!?」

 慌てて首を巡らせた二人は、直後に上から落ちて来た相手に圧し掛かられた。

 これが一番の大技らしく、かなり食らってしまった。

 ふらふらと立ち上がると、相手は疲れたのか、その場で舌を出して喘いでいる。

 その隙に【回復薬グレート】を飲み、なんとか持ち直す。

 今までの攻撃でもそうだったのだが、どうも大きな攻撃をすると疲れてしまう様子。

 ならば上手く立ち回って大技を出させると、長い攻撃チャンスが訪れるという事なのだろう。

 怒りが収まった状態でも、けっこうトリッキーな動きをする様子から、どうもスピードタイプの【モンスター】なようだ。

 

【挿絵表示】

 

 素早い【モンスター】が苦手なアレクトロが、特に横ステップして避ける動きにいい様に翻弄され、相手の思う壺になってイラついている。

 どうも一つ一つの攻撃に小規模な風圧が発生するようで、カイがいちいち尻餅を付いている。

 

 フォ~~~ン!

 

 二度目の遠吠えの時に身を持って思い知らされたのは、この声に【モンスター】自身の周囲を取り囲むようにして発生する、吹っ飛ばし効果があるという事。

 

【挿絵表示】

 

 先程は遠い位置で【閃光玉】を投げたので、気が付かなかったのだ。

 丁度【鬼人化】を行う【双剣】使いのように、遠吠えと同時に赤い闘気が立ち上がり、敵を吹っ飛ばしつつ遠くまで響かせる。

 

 まるで、声で攻撃をしているかのように。

 

 翻弄されつつも討伐に成功した二人が早速剥ぎ取ろうと近寄ると、先程逃げた漆黒の毛の一頭が、いきなり飛び込んで来た。

 どうやら近くに潜んで様子を見守っていたようである。

 そいつは倒れた一頭の状態を見るように顔を近付けると、死んだと分かったのか、首を傾げてから天を向いて悲し気に吠えた。

 

【挿絵表示】

 

 

 オォ~~~ン!

 

 こちらは普通の狼によく似た低めの声。

 そしてその声は、たぶん死んだものに向けられた鎮魂歌。

 この声にも吹っ飛ばし効果があったようで、二人は浮っ飛ばされつつなんとなく相手の心情を察して、悲しくなったのであった。

 

 

 【街】に帰るとハンター達の間では、この【モンスター】の話題で持ち切りになっていた。

「オイ聞いたか? 【ハンターズギルド】ではこの【モンスター】を、【牙獣種】として分類する事にしたそうだ」

 声を掛けられたアレクトロは、やはりそうか、と思った。

「でよ、呼び名も決まったんだってよ」

「へぇ、どんな名前になったの?」

 カイが聞く。

「どうもあの二頭は(つがい)らしくてよ。漆黒の奴が雄で純白の奴が雌なんだと」

「あぁ、だからあんなに仲良さそうにしてたのか」

 アレクトロが納得する。

「そうみてぇだ。でよ、雄の方を【カム=オルガロン】、雌の方を【ノノ=オルガロン】と名付けたとさ」

「カムとノノか。可愛い名前だね」

 カイの言葉に相手は苦笑いしつつ続ける。

「今回オレは雄。つまりカムの方だな。と闘ったんだがよ。アイツかなり手強いぜ」

「へぇ、こっちはノノと闘ったんだよ。どんなだった?」

 アレクトロが聞く。

「パワー型、とでもいうのかな? とにかく力強い攻撃をする奴だったな」

「なるほど、雄はパワー型なのか……」

「雌の方はどうだった?」

「雌はスピード型だな。とにかくトリッキーな奴だった」

「ほぉ、そりゃ面白い組み合わせだな」

 相手が興味ありげに言う。

「たぶん獲物を狩る時に、スピード型の雌が追い回してパワー型の雄が止めを刺す役割をしてんじゃねぇのかな?」

 アレクトロが答える。

「なるほどぉ。んじゃ二頭で攻撃の仕方が違うのは、理にかなってる訳だ」 

 相手は感心して言った。

 

 

 次の日、アレクトロはベナトールを誘って【沼地】に赴いた。

 パワー型である、という【カム】の方と闘ってみたかったからである。

 恐らくこちらでも翻弄されるはずなので、頼りないカイより同じパワー型(笑)のベナトールと行った方が良いと考えたのだ。

 

 【ベースキャンプ】から道なりに進むと、【ノノ】と闘った時と同じ《4》に【彼】はいた。

 やはり番でいるようで、仲睦まじく毛繕いをし合っている。

 アレクトロは【ノノ】を倒した時の悲しい場面を思い出して闘いを挑む事に少し躊躇したが、俺は闘うために来たんだろ! と気を奮い立たせた。

 威嚇している二頭の内の、【カム】の頭に宣戦布告とばかりに【ハンマー】を叩き付けるベナトール。

 【ノノ】は「任せた」とばかりに何処かに逃げ去った。

 

 さあ狩猟の幕開けである。

 

 

【挿絵表示】

 

 【ノノ】がトリッキーに動き回るのに対し、【カム】は動き回るというよりは、じっくり相手を見据えて的確に攻撃して来るように見える。

 【ノノ】と同じく二回体を振り回す攻撃もあるのだが、その後で頭突きが加わる様子。

 その頭突きが自分でも攻撃力が高いのが分かっているのか、食らったらけっこう痛いのに、確実に敵に押し当てて来るために狙われたら非常に避けにくい。

 長い犬歯もよく利用するようで、噛み付き攻撃も多発する。

 食い付いたまま何度も振り回されると、五体が引き千切られるかと思うぐらい衝撃がある。

 幸い二人とも重装備なので、手足を捥がれる事だけは防げているようだ。

 

 オォ~~~ン!

 

 何度目かの攻撃の後、例の遠吠えで戦況が悪化する。

 ベナトールは前転して衝撃波を難無く回避したが、振り被っていたアレクトロは浮っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

 幸いベナトールが狙われている内に立て直したものの、自分が狙われるとけっこう食らう様子。

 とにかく怒り時の頭突きがかなり痛いのだ。

 

 【回復薬グレート】、足りるかな……。

 

 アレクトロがそんな事を考え始めた頃、その攻撃が来た。

 後ろを追い掛けて振り向き様に最大溜めを当てようとしたベナトールは、【カム】が振り返らずにそのまま地面を蹴りつつ大きく跳ね上がり、自分の体を回転させながら背中の棘を飛ばして来た事を知る。

 それはガガガガッ! と直線状に刺さりながら四方に散るもので、読みが外れた彼は横転して避けた。

 

【挿絵表示】

 

 それを見たアレクトロは、違和感を感じた。

 一瞬回避が遅れたような気がしたのだ。

 だがそのまま攻撃を続けたのを見て、気のせいだったかと思い直した。

 

 ついに相手が足を引きずり、逃げた。

 傷付いた体を回復させるために、寝るつもりなのだろう。

 【ペイントボール】の強い匂いは、【彼】が《2》に移動した事を物語った。

 すぐに追い掛けた二人。

 だが途中で、少し遅れて後ろを走っていたベナトールの膝が、がくりと折れた。

 異変を感じて振り返ったアレクトロは、彼が胸を押さえて蹲り、苦し気にあえいでいるのを見る。

 駆け寄ろうとした彼は、思わず立ち竦んでしまう。

 胸の中央辺りで出血しているようなのだが、その量が尋常じゃない。

「……オッサン、まさか……」

 アレクトロは狼狽し、声が震えている。

「……まさか、心臓を……?」

 やはり、あの時の違和感は当たっていたのだ。

 

 ならば、心臓に棘を食い込ませたまま今まで闘っていた、というのだろうか。

 

「……行け、アレク」

 呻くようなベナトールの声に、再び駆け寄ろうとした彼の足がビクッとなって止まる。

「んな事出来っかよ! 早く止血を――!」

「……時間が無い……。奴の……回復は、早い。……早く行って、止めを……」

「馬鹿野郎! てめぇの命とどっちが大事だよ!?」

「……復活……しちまうと、もう回復出来な……いのは、お前が一番、分かって……いる、はず……」  

 彼はアレクトロが回復系を使い果たしているのを、見抜いていたのだ。

「け、けど――!」

「良いから行け……。奴は、かなり弱っている……。今なら、お前一人の力……だけでも、止めを、刺せるだろう……」

 そして、「……後で必ず行くから……」と付け加えた。

「――。分かった。まだ死ぬなよ? オッサン!」

 アレクトロは、その言葉が嘘なのを知りつつも踵を返し、駆けた。

 ベナトールは霞む目で彼の後ろ姿を追い、エリアから消えたのを見届けると、静かに目を閉じ、動かなくなった。

 

 

 案の定《2》で寝ていた【カム】に近付いたアレクトロは、背から【大剣】を外し、振り被って溜めた。

 

【挿絵表示】

 

 全身の筋肉が鎧を弾け破らんばかりに膨らんだのを確認すると、その力全てを【大剣】に乗せ、横腹に切り下した。

 目を覚ました相手はもがき、それでも腸を引き摺りながら立ち上がった。

 そして最後の力を振り絞るようにして、噛み付いて来た。

 が、頸動脈に牙が掛かる寸前で力尽き、倒れてそれきり動かなくなった。

 彼はすぐに背を向けて駆け出し、元来た道を引き返す。

 

 夫の死を確認したであろう、【ノノ】の悲しい遠吠えを背中で聞きながら。

 

 

 ベナトールはその場所を動かずに、血溜まりの中で倒れていた。

「オッサン!」

 呼び掛けて助け起こす。

 当然のように意識は無いが、血がまだ止まっていない。 

 

 よし、まだ生きてるな。

 

 アレクトロは安堵した。

 血が止まっていないという事は、心臓がまだ動いている証拠だからである。

 鎧の外から見ても、脱がせても、刺さっているはずの棘が見当たらない。

 貫通したようには見えないので、心臓深くまで食い込んでいるのだろう。

 とすれば抜く事が出来ないので、完全に止血する事は難しい。

 だがまあとにかくも、彼のポーチを弄って【生命の粉塵】を見付けたアレクトロは、ポーチにあるだけの分を全部掛けた。

 呻きつつ意識が戻ったのを確認し、ポーチの隅に残っているのを見付けた、【秘薬】を飲ませる。

 それから大出血だけは免れるように、布できつく縛った。

 

「……すまんな……」

 ベナトールは擦れた声で言った。

「ったく、ヘマすっからだろ?」

「いや面目無い……。ちと不覚だったわ」

「剥ぎ取り、出来るか?」

「という事は、やはり討伐出来たんだな。良くやった……」

「あぁ。あんたがほぼ弱らせたようなもんだったがな」

「そんな事はあるまい。お前も攻撃出来ていたではないか」

「あんなもん、手数にゃ入ってねぇよ」

 

 なんとか立ち上がったベナトールの、体を支えてゆっくり歩いてやりながら、アレクトロはやっぱ数こなして慣れねぇとなと考えていた。




心臓やられても死なないって、どんだけ生命力あるんでしょうかねこの人は(笑)


寝ている「カム」に止めを刺すシーンは一人で行っているという設定なので、「パートナー」を外して撮影しています。
そうしないと違うエリアで死にかけているはずのオッサンが隣にちゃっかり立っていたりするので(笑)

【挿絵表示】

↑NGシーン(笑)

挿絵では攻撃途中に見えますが、しっかり溜めています。溜めオーラが撮れなかっただけです(^^;)

大剣を背負わずに横に構えて溜めているのは、使っているキャラがSRというランクで「嵐ノ型(らんのかた)」をギルドマスターから伝授されているためです。

なので「アレクトロ」はSRハンターという設定になってます。
(ついでに言うと「カイ」と「ハナ」はHR、「ベナトール」だけGRつまりG級です)

「フロンティア」では各ランクごとに新しい「型(攻撃モーション)」を伝授される事になっており、その「型」を使うと攻撃モーションが変わって強力な立ち回りをする事が出来るのです。
ちなみにHRで行える普通のモーションは「地ノ型(ちのかた)」と呼ばれています。
GRでは「極ノ型(ごくのかた)」というものがあります。


挿絵の名前や武具が違うのは、「パートナー」が1キャラにつき1人しか雇えないので、それぞれ違うキャラに仲間の「パートナー」を付けているためです。
ですが「アレクトロ」のイメージ防具は「レウス系」なので、それだけは守って撮影しています。
(カイといる時は「シルバーソル」ベナトールといる時は「レウス」を着ています)

ちょっとお知らせ。
「活動報告」にも書きましたが、「朝ごはんはココット村で(ココット村編)」にて「ベナトール」の挿絵を追加しました。


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ピンクのトリさんに会う

この話は、何を書こうか考えていた時に、何故かハナが「下りて来て」私に書かせたものです。
 
「ハナ」は友人が作ったキャラであり、従って「友人の人格」から生まれたもので、「私の人格」ではないと考えています。
それは「カイ」でも同じで、なので「彼らの人格」で(特に一人称の)小説は書けないと思っていました。


私の小説の書き方はふと思い付いたり夢で見たりした「あるシーン」をきっかけにして、そこに向けて書き始める事によって勝手にキャラが物語を進めてくれるのに任せて書くので、(大まかな流れはあるにしても)自分自身でもどんな発展になるかとかどんな終わり方になるかとか、長くなるか短くなるかも分からずに書き進めるんですよ。

なので書いている途中で「長くなるな」と思っても案外短く終わったり、その逆で「短い話になるのかな」と思っても長くなったりする。

でも、前記したように「私の人格(頭の中にあるキャラ)」は「ハナ」でも「カイ」でも無く自分で操作していたキャラである「アレクトロ」と「ベナトール」ですから、どうしても彼ら二人のどちらかの視点で書く事が中心になってくるのです。

だから「一人称」の形でハナが下りて来るとは思いもよらなかったわけです。


私の心の中は「アレクトロ」の口調で喋っておりますので、今見直しても「なんでこんな気色悪い口調の奴が下りて来たんだろ?」と不思議でなりません。   


 

 

 

 あれは【密林】ってとこで【採取クエスト】に行ってた時だったかなぁ?

 ベナがね、いろいろ素材が取れる場所を教えてくれてね、【ベースキャンプ】の上のツタを登ったとこあるでしょ? あそこで【ハチミツ】を採ってたの。

 

 あ~まい【ハチミツ】、あたし大好き♪

 

 こっそりなめたらベナにげんこつされたし、怒ったハチに刺されたりもしたんだけどっ。

 でね、ごそごそしてたらピンク色の、おっきなウロコを見付けたわけ。

「このおっきなウロコ、なに?」

 可愛らしく小首をかしげて聞いたあたしに、ベナはこう言ったの。

「あぁ、そいつは【怪鳥の鱗】だな」

「カイチョウ?」

「【怪しい鳥】と書く」

「トリさんなの?」

「【あれ】が鳥と言えるかどうか……。まあ【鳥竜種】ではあるがな」

 チョウリュウシュなんて難しいことは分かんなかったけど、きっとピンク色の可愛いトリさんなんだろうなと思ったのよね。

 だから「トリさんに会いたいっ」って言ったの。

「お前が会うのはまだキツいんじゃ――」

「いいのっ! ベナがなんとかしてくれるんでしょ?」

「……へいへい。何でもします」

 ため息を付かれたけど、ベナって【ドンドルマ一の鬼教官】なんて言われてる割には、あたしのワガママ聞いてくれるし、けっこう優しいんだよね~~。

 

 そりゃ最初に会った時は怖かったよ? おっきいし黒いし、なんか【さわるな危険】のオーラを出してるみたいでとっつきにくそうだったし。

 でも【ベナトール】っていう名前が、なんか【ナイシトール】みたいな薬の名前に思えて大笑いしちゃってさ。そしたら怖くなくなったんだよね。

 「ベナって呼ぶねっ」って言ったら「勝手に略すな!」って怒られたけど、ベナはベナだし(笑)

 

 

 次の日に、同じ【密林】にトリさんがいるって分かって、ベナが【クエスト】を受けてくれて連れて行ってくれた。

 またツタを登って、その先にある《5》って地図でなってる所に行くと、バサバサッておっきな羽音がしてトリさんが下りて来た。

 思った通りのピンク色だったんだけど、翼の膜のとこだけ水色だった。

 普通のトリさんとは違ってて、体に羽根が生えてないし、ウロコが生えてて尻尾がトカゲみたいに細くなってるのはちょっと気持ち悪いって思ったけど。

「へんな顔~~!」

 あたしは開口一番そう言ったの。だっておっきなクチバシがシャベルみたいになってたんだもん。

「【怪鳥】。正式名は【イャンクック】」

「ヤンクック?」

「イャンだ。発音がちと難しいが」

「イヤン……。もうクックでいいや」

 

 兜で顔は見えないけど、きっと苦笑いしてるんだろうな、ベナ。

 

 クックはあたしたちに気が付くと、顔の後ろの……、あれは耳なのかな? をパッて広げたの。扇みたいに。

 頭の上に扇を二つ立てたみたいになったもんだから、ますますへんな顔になって、笑っちゃった。

 そしたらクェ~~とか言いながら突っ込んで来るんだもん。ビックリしちゃったよ。

 きゃあきゃあ言いながら逃げ回ってたら、ベナが【ハンマー】でポカンッて小突いたんだよね。まるで頭にげんこつするみたいに。

 

【挿絵表示】

 

 そしたら駄々っ子みたいにバタバタ足を踏み鳴らして怒ったりして、可愛かったな。

 とりあえずあたしも攻撃してみようとしたんだけど、体を回転させて尻尾でペチッて叩かれて、飛ばされちゃった。

 もう痛くてさぁ、動けなくなってたら、ベナが「だからキツいと言ったろうが!」と怒りながら、【生命の粉塵】をかけてくれた。

「もう下がってろ!」

「はぁい……」

 

 でもそこに、火玉が飛んで来たわけ。

 アイツ、ブレス吐くのね。

 

 ベナはあたしを抱えて転がって、ブレスを避けてくれた。

「大丈夫か? 当たってねぇよな?」

「うん。ありがと」

 お礼を言ったら突き飛ばすようにして離れて、「気を付けねぇか!」だって。

 

 照れ屋さんだね、ベナって。

 

 あたしはブレスが怖かったから、うんと遠くでベナの邪魔をしないようにして見てた。

 そしたらベナってさ、クックの攻撃に当たらないのよ。すごいと思わない!?

【ハンマー】ってガード出来ないのに!

 でも頭ばっかり狙うから、クックが気絶したり耳がボロボロになっちゃったりしたのは可哀想って思った。

 ちょっとしたらボロボロの耳をたたんで、足を引きずった。

 あとで聞いたら耳をたたむのは、弱ってる合図なんだって。

 

【挿絵表示】

 

 ベナはあたしが可哀想だと思ってるって思ったのか、【討伐】じゃなくて【捕獲】にしてくれた。

 

 

「ほらよ」

 【クエスト】から帰って、少しした頃だったかな。

 ベナが何か渡してくれたの。

 それは【怪鳥の耳】で作った、小さなピアス。【クックイヤーカフス】っていう物なんだって。

 ベナが【武具工房】に入ってなんかしてるな~とは思ってたんだけど、まさかあたしへのプレゼントを作ってもらってただなんてっ。

 もしかして耳を壊してたのは、これを作るためだったのかな?

 

 ベナって、いいとこあるじゃない♪ 



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【山菜爺】の怪

なんかハナが暇を持て余していたらしいです。


 

 

 

「ねぇベナ、つまんないからお話して?」

「つまらんって……。俺はそんな暇じゃねぇんだがな」

「いいじゃんちょっとぐらい」

「あ、こら準備中のポーチを取り上げるんじゃねぇ!」

「お話してくれるまで、返してあげないっ」

「ったく餓鬼ってのは……!」 

「なんか言った?」

「あぁもう! 話しゃ良いんだろ話しゃ!!」

「わ~~いっ♪」

 

 

 あれは、俺がハンターになって間もない頃だったな。

 【雪山】の【採取クエスト】でよ、頂上辺りに【クシャルダオラ】の脱皮した抜け殻があるんだが、そこで【ピッケル】でもってカンカンやってたわけよ。

 あそこは凍り切ってっから、【ピッケル】使わねぇと【朽ちた龍鱗】や【鋼の龍鱗】は取れねぇからな。

 で、掘れた欠片の中を探ってたら、なんか噛み付いて来やがった。

 

【挿絵表示】

 

 そいつは噛み付くや否や体内に潜り込みやがってよ。そのまま体内を食ってやがる。

 悶え苦しんだがどうしようもなくて、とにかく【ベースキャンプ】まで帰ろうと、ふらふらと歩いてた。

 

 すると地図でいう《4》に、ちっこい爺さんがいたんだよな。

 

【挿絵表示】

 

 爺さんは俺を見るなり言った。

「おぉ、お主【フルフルベビー】を持っておるではないか♪」

 そして、嬉しそうに小刀を取り出すと俺に突き立て、切り開くように抉り切った。

「ぎゃあぁ~~~!!!」

「ホレじっとしておれ! 取り出せんではないか」

 暴れる俺を押さえて体内のものを引き摺り出した爺さんは、「よぉ我慢したの」と傷薬を塗ってくれた。

 それで助かったんだが、聞くと【フルフルベビー】ってのは【フルフル】の子供でよ、そいつは卵から生まれると、ある程度大きくなるまで他の生物に寄生して、体内を喰い破りながら生活するんだと。

 だからそのままにして置くと、内臓を喰い尽されて死んでしまうんだとよ。

 

 その【フルフルベビー】を氷漬けにした【フルベビアイス】ってのが高値で取引されてるらしくて、爺さんにしか作れないってんでかなり貴重品らしいんだが、「我慢した褒美に差し上げるとしようかの」と、壺を渡された。

 俺はそれを売った金で武器を強化出来たし、爺さんにとっても貴重な素材を俺が渡した事になったから、嬉しかったんだろうぜ。

 

 

「ベナぁ~~~」

「なんだよ?」

「そんな気持ち悪い話、女の子にしないでよぉ!」

「なんか話せと言ったのはお前だろうが。それに【モンスター】の生態を知る事も、ハンターにとってはだな――」

「もぉいいっ! ベナのバカっ!」

 

 ハナはベナトールのポーチを叩き付けると、憤慨して去って行った。

 




ベナトールが駆け出しの頃の話らしいので、挿絵は初期装備(レザーライトシリーズ)に着替えて撮影しました。
(ただし足だけは「グリーンジャージー」ではなく「ブルージャージー」です)

でもレザーの頭は嫌いなので、頭だけガンナー用の「ハンターキャップ」にしています。


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カイ、奮闘す(レウス編)

これは友人と「ハナが下りて来た」という話をしていた時に、「カイも下ろせないか」となって、「下ろす」努力をしてみたものです。

ですがカイは「下ろし」にくく、少しの間しか(私の頭の中に)留まってくれませんでした。
カイ視点でもう少し長い話を書いてみたかったんですが、残念です。


 

 

 

 おいらが一人で【クエスト】に行った話、聞きたい?

 

 あのね、いつもはアレクとしか行かないんだけどさ、あの時は一人だったんだよね。

 

 なんでかって?

 

 う~~ん、なんでだろ? 一人で挑戦したかったんだよね。相手は狩り慣れた【リオレウス】だったし。

 でもさぁ、狩り慣れたっていってもアレクと二人で行ってて慣れてたっていうだけでさ、一人でどうなるかっていうのは、正直言って分かんなかった。

 

 まあなんとかなるだろって思ったんだよ。

 

 

 場所は確か、【森丘】だった。

 あそこの風景、おいら好きだから、のんびり景色を眺めながら移動してたわけ。

 地図でいう《4》だったかな? 上に上がったら飛竜の巣がある場所。あそこに【レウス】が舞い降りたのが見えたから、【ペイントボール】をぶっつけた。

 おいらに気付いて威嚇の声を出した【レウス】に切り掛かろうとしたんだけど、〈耳栓〉のスキルが無かったもんだから、思いっ切り耳を塞いじゃってさぁ。

 

【挿絵表示】

 

 焦ってる内に突っ込んで来るんだもん。あれは痛かったなぁ。

 回復してもずっと突進ばっかしてて隙が無い。仕方ないから突進終わりのこけてる時に、一回切って逃げたりして。

 でもブレスもしたからその間に後ろに回り込んで、尻尾を切ったりしてた。

 

 二人でやってる時は、アレクを狙っている隙に攻撃出来たから割と尻尾を狙いやすかったんだけど、一人の時は狙いにくいもんだね。

 だって回り込んでる内に体を回転させて尻尾で叩こうとするんだもん。何度それに当たったか。

 まあ【麻痺太刀】だったからさ、少しは麻痺ってる時に攻撃出来るから、それで手数は稼げるんだけどさ。

 

 その内ガオーッ! て大きな声出して、怒り出した。

 耳を塞いでたおいらは、ブレスをお見舞いされて、吹っ飛んだ。

 

【挿絵表示】

 

 【レウス】のブレスってさ、【テオ】みたく火炎じゃなくて火玉じゃん? 溶岩の玉みたいなもんじゃん? あれ。

 だから当たったらそのままじくじくと、鎧や皮膚を溶かしながら燃えるわけ。

 水に飛び込みたいけどそんなとこ無いから、転がりながら【回復薬グレート】飲んで回復したよ。

 

 当然、【レウス】はそんなことで許してくんない。

 

 高く飛び上がってホバリングしながらこっちを向いた。

 ブレスを吐くのかと思ったらそのままおいらに飛び掛かって来て、おいらは足蹴りされた。

 必ず二回蹴るから意識が朦朧とするし、おまけに足爪には毒があるから毒るしで、そのまま死んじゃうかと思っちゃったよおいら。

 

【挿絵表示】

 

 でもアレクと何回も狩っててそういうのは想定の内だし、死ぬかと思ったけど、なんとかなったんだけどね。

 で、【解毒薬】とか飲んで回復もして、一生懸命切ってたら、足をひきずりだした。

 【討伐】しようか【捕獲】しようか迷ったんだけど、かなり弱ってたみたいだったから、【捕獲】しても助からないだろうと思って【討伐】にした。

 

【挿絵表示】

 

 

 剥ぎ取った素材はどうしたかって?

 そりゃもちろん武具に使ったさ。




「フロンティア」のキャラには「カイ」は(パートナーしか)いませんので、持ちキャラの一人に適当な防具を着せ、「太刀」を持たせて撮影しました。
 
一人で行った設定になっていますので、「パートナー」を外して撮影しています。


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幻覚の中での犯行

 

 

 

「ねぇアレク、【ニトロダケ】採りに行かない?」

 悲劇は、そんな会話から始まった。

「んなもん一人で勝手に採りに行きやがれ」

「だって、一人で行ったってつまんないんだもん。ねぇ付き合ってよぉ」

「だーもぉっ! 女かおめぇは!」

「え、確かにたまに女に間違えられるけど……」

「真剣に悩むな! 分かった付き合ってやるよ!」

「ホント!?  わ~~いっ♪」

 

 

 カイに付き合わされて【樹海】まで渋々付いて行ったアレクトロは、【ニトロダケ】のある《4》で、自分だけ【オオツノアゲハ】などを取っていた。

「アレク、【ドキドキノコ】を見付けたよ。食べてどうなるか試してみよっか」

「やめとけ、ろくな事にはならんぞ」

 【ドキドキノコ】というのは、食べるとランダムに体力二十回復、武器倍率+十、防御力+四十、スタミナの上限−二十五、スタミナ減少無効(三分間)&スタミナの上限+二十五、体力半減、体力とスタミナの上限百五十、声帯麻痺(声が出なくなる)、のいずれかの効果があるという物で、ギャンブル性を求めるハンターが面白がって食べたりするキノコである。

 

【挿絵表示】

 

 忠告を無視して食べたカイは、そのまま動きを止めた。

 そして、ぼーっと立っている。

 

 なんか様子がおかしい。

 

 そう気付いたアレクトロが声を掛けようとすると、【太刀】を構えて切り掛かって来た。

 

【挿絵表示】

 

「なんの真似だ?」

 避けつつ腕を掴む。

 が、振り払ってまた切り掛かって来る。

「お、オイ何やってんだ?」

 困惑して避け続けたアレクトロだったが、とうとうキレて「いいかげんにしやがれ!」と、切り上げて吹っ飛ばした。

 

【挿絵表示】

 

「急になんだってんだよ、ったく……!」

 と、ゆらりと起き上がったカイの口から、信じられない言葉が出る。

 

「……【モンスター】め……!」

 

「――なっ!?」

 再び切り掛かって来たカイの攻撃は、本気としか思えない激しさだった。

 何度か避けていたが、ついに避け切れずにガードしてしまうアレクトロ。

 カイごときの攻撃でまさかガードを使うとは思わなかった彼だったが、『ごとき』と馬鹿にしていた者が、意外にも強かったと思い知った。

 

 ガードしつつ、避けつつカイの攻撃をいなしながら、もしかしてコイツは幻覚を見ているんじゃないかと考えた彼。

 だが、【ドキドキノコ】で幻覚を見るという事は、聞いた事が無い。

 

 もしかして、なんか別のもんを食ったんじゃねぇのか?

 

 防戦しながらチラチラと、今までカイが採取していた箇所を見ていたアレクトロは、そこに【混沌茸】が生えているのに気が付いた。

 

【挿絵表示】

 

 【混沌茸】は、それを食べた【モンスター】をも幻覚を見るという、強力な幻覚作用のあるキノコである。

 

 まずいぞこれは……。

 

 恐らくカイは、【ドキドキノコ】と間違えてこれを食べてしまったのだろう。

 食べる前にキノコを見なかった事を、アレクトロは後悔した。

 巨大な体躯の【モンスター】が幻覚を見る程強力なのだ。それより小さなハンターなら、もしかしたら当分の間、その作用が抜けないかもしれない。

 それに、幻覚作用を消す薬も分からない。

「カイ! おいカイ! 目を覚ませ!!」

 アレクトロは声を掛けながら防戦したが、やはり分からない様子。

 

 このままでは、怪我をさせちまう。

 

 アレクトロは【本能】ともいえる、敵に対しての攻撃衝動を抑える事に、限界を感じ始めていた。

 手合わせの感覚でいようと思ったのに、本気で闘ってしまいそうだ。

 

 

 辺りに、剣戟(けんげき)の音だけが響く。

 主にカイのものだったが、その中にアレクトロが【大剣】で【太刀】を弾く音も、交じり始めていた。

 

【挿絵表示】

 

 そして思わず振り被ってしまった彼は、ハッとなって振り下ろす直前で動きを止めた。

 そうしないとカイを両断してしまうからである。

 その刹那、カイが突いて来た。

 

 ズドッ!

 

 肉体を貫く音が聞こえ、アレクトロの手から【大剣】が滑り落ちる。

 迷い無く彼の胸を捉えた【太刀】は、長々と背中から突き出している。

 二人は、そのまま動きを止めた。

 時が止まったかのような静寂が包む。

 

 ……コイツに殺されるんなら、死んでもいっか……。

 

 一瞬そう考えたアレクトロだったが、時が動き出したかのように周りの音と共に激痛が襲って来ると、その考えは消し飛んだ。

「ぐあぁ!!!」

 見悶えしつつ痛みに耐え、戦慄く(わななく)手を伸ばして、カイの兜を取る。

 

 やはり、目は虚ろなままだ。

 

「……カイ……。目を覚ませ……」

 言いつつ、両手で彼の頬を挟む。

 苦痛で力が入り、爪を立ててしまうが、カイの目に光は宿らない。

 そしてカイは、【太刀】を抉りながら抜いた。

 大量の血と共に、アレクトロがその場に崩れ落ちる。 

 カイは返り血を噴水のように浴びながら、【太刀】を斜め上段に構えた。

 逃げる力も無くなった事を悟ったアレクトロは、胸を押さえながらあえぎつつ、止めを刺されるのを静かに待った。

 

 だが、踏み込んだカイは、ハッとなったように動きを止めた。

 

 目に光が宿りはじめ、【太刀】が下がる。

 狼狽の表情が表れ、自分の手を見て血濡れになっているのに気が付き、その先にある【太刀】に視線を彷徨わせる。

 血が滴っているそれを愕然としたように見、そして血溜まりの中、あえぎながら静かに自分を見詰めているアレクトロに気付いて、ビクッとなって【太刀】を取り落とした。

「……お、おいら、何を……」

 片側の顔を隠すように、手で額を覆うカイ。

 そして力無く膝を付くと、「アレク……? おいらが、やったのか……?」と震える声で聞いた。

「……カイ、目が覚めたんだな。よかっ……」

 気が遠くなりかけたアレクトロ。

 だが激痛と、悲鳴に近いカイの呼びかけで無理矢理意識を戻された。

 体を反らして歯を食い縛り、苦痛に抗う。

 カイが泣きそうな顔で自分に呼びかけつつ、【生命の粉塵】を掛けているのが見える。

 が、やがて視界がぼやけ、アレクトロは目を閉じた。

 

 

「アレク!! アレク!!!」

 ぐったりとなって動かなくなってしまったアレクトロに、カイは必死で呼び掛けつつ、【生命の粉塵】を掛け続けた。

 ポーチにある分だけでなく、調合した物も掛け続けたが、彼の意識は戻らない。

「おいら……、おいらのせいだ……」

 

 気が付いたら目の前に、血塗れのアレクが倒れてた。

 訳が分からなかったが、自分が持っている【太刀】が、血で濡れていた。

 きっと、おいらが刺してしまったんだ。

 

 カイは、ハンターがどんな理由であれ、人に(やいば)を向ける行為を禁止されている事を知っている。    

 だから、【クエストリタイア】して【ハンターズギルド】に報告し、そのまま彼の前から去ろうと考えた。

 場合によっては殺人担当の【ギルドナイト】に殺されても、それで仕方がないと思った。

 

 【街】に戻ったカイは、アレクトロを医務室に預けると、その足で【ギルドマスター】の元へ向かった。

「おぉカイ。久しいの」

 にこやかに話しかけて来る【ギルドマスター】に、「折り入って、話があります」と告げる。

 その顔がただ事ではないと見た【ギルドマスター】は、「こっちへおいで」とカウンターの奥の部屋に連れて行った。

 

 

 目を開けたアレクトロは、自分がベッドに寝かされている事を知る。

 そこが【ベースキャンプ】のテントではなく、部屋の中だと気付いた彼は、起き上がって見回した。

 傍らにベナトールがいるのに気が付き、「オッサン、ここは?」と訊ねる。

「医務室だ。目が覚めたようだな」

「アイツは?」

「カイは今、【ギルドマスター】と話し合ってる」

 そう聞いた途端、アレクトロは勢いよくベッドから下りようとして苦痛に顔を歪めた。

「馬鹿者、まだ寝てろ!」

 無理矢理寝かせようとするベナトールに、「寝てられっかよ!!」と抗う。

「アイツが、アイツが危ないんだ。オッサン頼む。【マスター】の所へ連れてってくれ!」 

「アレクよ……」

 ベナトールは諭すように語りかけた。

「全ては【ギルドマスター】が決める事だ。例えカイがどうなっても、俺達はそれに従うしかないのだ。それが分からんお前ではあるまい?」

「てめぇはそれで良いのかよ!?」

 アレクトロは彼の襟首を引っ掴んだ。

 

 ベナトールは黙っている。

 

「……。そうかよ。ならもう頼まねぇや」

 転げ落ちるようにベッドを下り、壁や柱を伝ってそろそろと移動して行くアレクトロ。

 ベナトールは無言で見送っていたが、やがて立ち上がって彼を担ぎ上げた。

「てめぇ! 放しやがれ!!」

 もがくアレクトロを黙ったまま運び、【ギルドマスター】の部屋へ。

 肩から彼を下すや否や、首後ろを掴んでぶら提げて、部屋の中へ放り込んで去って行った。

 彼とてカイが殺されるかもしれない危機を、黙ってただ待つ事は出来なかったのだ。

 が、【ギルドマスター】の決定は絶対だと思っているので、せめてアレクトロの思いだけは叶えてやろうとしたのである。

 

 

 いきなり部屋に放り込まれた者を見て、二人は唖然としつつ同時に言った。

「アレク!?」

「アレクトロか!?」

 アレクトロは苦痛に顔を歪めつつ、「……やってくれるぜ、あのオッサン……!」と呟いた。

 駆け寄ったカイに支えられて【ギルドマスター】に向き直り、アレクトロは口を開く。

「【マスター】、お願いがあります」

「あぁその事じゃがの。もう話はついた」

「――! そう、ですか……」

 

 遅かった。これでもうカイは……!

 

 唇を嚙んで項垂れたアレクトロの耳に、【ギルドマスター】の声が届く。

「何を勘違いしとるか知らんが、カイは咎め無しじゃぞ」

「――え!?」

 驚いたように顔を上げたアレクトロ。

「で、ですが、コイツは俺を殺そうと――」

「意識して殺そうとした訳ではないのじゃ。罪に問える訳がなかろう」

「で、では――!」

「無論、今まで通りに働いてもらう。ハンターとしてな」

「良かった……!」

 そう言うと、アレクトロは全身の力が抜け、その場にだらしなく転がった。

「お、おいアレク!?」

 慌てて助け起こそうとしたカイの耳に、規則正しい寝息が届く。

「ち、ちょっとアレク? 【ギルドマスター】に失礼だろ!」

「よいよい、それだけ気を張り詰めていたんじゃろう。そのままにしておやり」

「ですが、せめて別の部屋で――」

 

「愛されておるな、カイよ」

 

 冗談ともつかぬ【ギルドマスター】のその言葉に、カイはそれでもこれ以上ないというくらいの笑顔を作り、「はい……!」と答えた。 

 




挿絵としてカイと闘っている風に撮影したかったんですが、「パートナー」が雇い主に武器を向ける事は(システム上)ありませんので、小型「モンスター」を攻撃している最中に、上手い具合に戦闘っぽくなるようにして撮影しました。

難しかった……(^^;)

それでも攻撃した「モンスター(モス)」が映ってしまっていますね。
 


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幻覚の中での犯行(もしも、カイに刑が執行されていたら)

この話は、前の話の「幻覚の中での犯行」で、もしカイが処刑されていたらどうなったかを書いたものです。
同じ話なのでいきなり途中から始まります。
話の流れが変わるため、こちらのベナトールは少し違う行動を取っています。

「もしも」の話で、言わば「パラレルワールド」的な位置付けでの話なので、実際(本編)では死んでません。

 
このように、死んでほしくないキャラが死ぬ話や、違う役回りを演じてもらうような事が出来たら「もしもの世界」と称して「パラレルワールド」の話を書く事がありますので、以後そのつもりでいて下さい。


 

 

 

「おいら……、おいらのせいだ……」

 気が付いたら目の前に、血塗れのアレクが倒れてた。

 訳が分からなかったが、自分が持っている【太刀】が、血で濡れていた。

 きっと、おいらが刺してしまったんだ。

 

 カイは、ハンターがどんな理由であれ、人に(やいば)を向ける行為を禁止されている事を知っている。    

 だから、【クエストリタイア】して【ハンターズギルド】に報告し、そのまま彼の前から去ろうと考えた。

 場合によっては殺人担当の【ギルドナイト】に殺されても、それで仕方がないと思った。

 

 【街】に戻ったカイは、アレクトロを医務室に預けると、その足で【ギルドマスター】の元へ向かった。

「おぉカイ。久しいの」

 にこやかに話しかけて来る【ギルドマスター】に、「折り入って、話があります」と告げる。

 その顔がただ事ではないと見た【ギルドマスター】は、「こっちへおいで」とカウンターの奥の部屋に連れて行った。

 

 

 目を開けたアレクトロは、自分がベッドに寝かされている事を知る。

 そこが【ベースキャンプ】のテントではなく、部屋の中だと気付いた彼は、起き上がって見回した。

 傍らにベナトールがいるのに気が付き、「オッサン、ここは?」と訊ねる。

「医務室だ。目が覚めたようだな」

「アイツは?」

「カイは今、【ギルドマスター】と話し合ってる」

 そう聞いた途端、アレクトロは勢いよくベッドから下りようとして苦痛に顔を歪めた。

「馬鹿者、まだ寝てろ!」

 無理矢理寝かせようとするベナトールに、「寝てられっかよ!!」と抗う。

「アイツが、アイツが危ないんだ。オッサン頼む。【マスター】の所へ連れてってくれ!」 

「アレクよ……」

 ベナトールは諭すように語りかけた。

「全ては【ギルドマスター】が決める事だ。例えカイがどうなっても、俺達はそれに従うしかないのだ。それが分からんお前ではあるまい?」

「てめぇはそれで良いのかよ!?」

 アレクトロは彼の襟首を引っ掴んだ。

 

 ベナトールは黙っている。

 

「……。そうかよ。ならもう頼まねぇや」

 転げ落ちるようにベッドを下り、壁や柱を伝ってそろそろと移動して行くアレクトロ。

 ベナトールは無言で見送った。

 

 

「――では、刺した事は間違いないのじゃな?」

「……はい。間違いありません」

 【ギルドマスター】の部屋で、カイは問答していた。

「ハンターは、どんな理由であれ人に(やいば)を向ける事は禁止されておる。それに例外は無いのは、分かっておるな?」

「分かっています」

「……では、罪を認め、刑罰を受けるのじゃな?」

「はい。覚悟しております」

「……良かろう」

 そう言った【ギルドマスター】は、スッと右手を上げた。

 気が付くと、壁を背にして男が一人立っていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 《黒》の【ギルドナイト】……!

 

 気配が全くないその男を見て、カイは一瞬たじろいだ。

 それは、殺人担当の【ギルドナイト】だった。  

 彼は無言のまま、ゆっくりとした動作で腰に帯びた【サーベル】を抜いた。

 【モンスター】が相手ならかなり心許ない武器ではあるが、人間が相手なので、こんな武器でも事足りるのだろう。

「遺言は、あるか?」

 【ギルドマスター】が聞く。

「アレクに、『すまない』と……」

「了解した。伝えよう」

「ありがとうございます」

 カイは【ギルドマスター】に一礼すると、自ら【ギルドナイト】の前に進み出た。

 【ギルドナイト】を真っ直ぐ見据え、頷く。

 彼も僅かに頷き返すと、無表情のまま踏み出し、正確にカイの心臓を突いた。

 

 

 カイが倒れた丁度その時、アレクトロは【ギルドマスター】の部屋へ辿り着いていた。

 胸の痛みは限界に達していたが、部屋に入るや否や倒れているカイを見付け、まろびながら駆け寄って顔の傍に座り込んだ。

「カイ……!」

 まだ僅かに息があったカイは、アレクトロを見止めると、何か言いたげに唇を動かし、彼特有の人懐こい笑顔を浮かべた後、目を閉じた。

「カイ……!!」

 もうその目が二度と開かれないのを分かりつつ、アレクトロは呼びかけた。

「なんて……こった……!」

 右手で顔の半分を覆い、左腕できつく自分を抱きながら、感情を押し殺すようにして泣いている。

 

 まるで、その場に誰もいないかのように。

 

 【ギルドナイト】は、相変わらず無表情で【サーベル】に付いた血を払い、鞘に戻している。

「……アレクトロ」

 【ギルドマスター】は静かに語りかけた。

「【掟】に例外は無い。そやつはお前を殺そうとした。それは死刑に相当する。じゃから――」

「分かってます!」

 彼は最後まで言わせずに言い放った。

「そんな事は分かってる! ――なら、ならせめて、俺が殺してやりたかった……!」

 アレクトロはそこで、感情を爆発させた。

「もう死刑しかないというのなら、俺がこの手で殺すべきだったんだ! ――あの時、あの時俺が動きを止めてなければ! 【本能】のまま躊躇せずに【大剣】を振り下ろしていれば! ――こんな、こんな奴なんかにコイツを殺されずに済んだんだ!!」

 アレクトロは感情の赴くままに、【ギルドナイト】に掴みかかって行った。

「たわけ」

 【ギルドマスター】はそう言うと、杖で後頭部を殴った。

 アレクトロは胸倉を掴んだ姿勢のまま、ずるずるとずり落ち、気絶した。

 

「ベナトールを、ここへ」

 合図して【ギルドナイト】を下がらせると、【ギルドマスター】はそう言った。

「――はっ」

 伝令の者が出て行く。

 

 

 もう帰って来ないかもしれないと思いつつ、ベナトールはアレクトロに宛がわれていたベッドの傍で、静かに目を閉じて待っていた。

 そこへ伝令の者がやって来た。

 

 【ギルドマスター】の部屋へ赴くと、まず目に飛び込んで来たのは血溜まりの中で仰向けに倒れている、カイの姿。

 一目見てすでに息絶えていると分かったが、その血はまだ鮮血の色をしていた。

 

 彼は、心なしか微笑んでいるように見える。

 

 ベナトールは目を閉じ、しばらくそうしてから【ギルドマスター】に向き直った。

 

 涙は、流していない。

 

 傍らにうつ伏せ状態で倒れているアレクトロに気付き、驚いて近付いたが、こちらの方は気絶しているだけだと分かって安堵の表情になった。

「ベナトール」

 【ギルドマスター】は静かな口調で話しかけた。

「――はっ」

 彼はその足元に片膝を付いた。

「お主を呼んだのは他でもない。見ての通り、こやつは自暴自棄になっておる」

 【ギルドマスター】はアレクトロを杖で小突きながら言った。

「無駄な命を散らせないように、陰で見守り、場合によっては支えてやって欲しい」

「もちろんでございます」

 彼は最初からその気でいたのだ。

「では頼んだぞ」

「――はっ。畏まりました」

 深々と頭を下げてから、「不躾(ぶしつけ)ながら……」と切り出した。 

「なんじゃ? 言うてみよ」

「カイを、弔わせては貰えませんでしょうか?」

「ならん」

 【ギルドマスター】は、一言で突っ撥ねた。

「こやつは【罪人】なのだ。気持ちは察するが、人目に晒して弔う事は許されん。こやつは【ギルド】内で()()する」

「そう、ですか……」

「下がって良いぞ」

「はっ」

 ベナトールはアレクトロを抱えると、引き下がった。

 

 

 それからというもの、アレクトロは、まったく狩りに身が入らなくなった。

 時には腑抜けのように、ボーッと広場の椅子に座って過ごす姿も見受けられた。

 たまにハナがちょっかいを出していたが、「うるせぇな! 放っといてくれよ!!」と突っ撥ねられるので、その内誰も近付かなくなった。

 ハナとてカイの死が悲しくない訳ではなかったが、彼ほどショックを受けている者は、他にいないと断言出来た。

 

 それでも、アレクトロは狩りに出かけていた。

 

 

 その日の相手は、上位の【リオレウス】だった。

 が、手慣れているこの【モンスター】に、彼は翻弄された。

 回転尻尾に跳ね飛ばされたアレクトロは、そのまま岩壁に叩き付けられた。

 いつもならば受け身を取るのに、まともに背中を打ち付け、一瞬息が止まる。

 弾んだ体が地面に叩き付けられると、気が遠くなった。

 

 アイツとよく狩ってた【リオレウス】、コイツに殺されるんなら、悪くねっか……。

 

 霞んだ目で見上げた視界の中に、ふと他の影が入り込んだ気がした。

「ったく! 世話が焼けるチビ助だぜ」

 無理に瞬いて視界をハッキリさせると、ゴツイ鎧に身を包んだ大男が立っていた。

「……何しに来やがった。デカマッチョ」

「ご挨拶だな。まあ悪態が付ける元気があるなら、まだやれるな」

「てめぇなんぞに助けてもらいたくねぇ。放っといてくれよ!」

「文句はこいつを倒してから言うんだな」

 ベナトールは、アレクトロが受けた【クエスト】を、後で参加表明してこっそり付いて来ていたのだ。

 

「……いつを倒して何になる……!」

 

「なに?」

「コイツを倒して何になるってんだ!!」

 アレクトロは立ち上がると、抑えていた感情を吐き出した。

「どんなに【モンスター】を倒しても、アイツはいない。アイツと死線を潜り抜け、時には助け合い、喜びを分かち合った日々は、もう二度と来なくなっちまった! ――そう思うと虚しくて、あれだけ命のやり取りが楽しかったコイツと闘ってても、抜け殻みてぇにちっとも心が動かねぇんだよ」

「乗り越えろ、アレク」

 ベナトールは静かに言った。

「乗り越えるしかねぇ。今は無理かもしれんがな」

「てめぇには感情がねぇのかよ!!」

 アレクトロが掴みかかろうとしたその時、【リオレウス】がブレスを吐いた。

 

「俺が、悲しんでいないとでも?」

 

 ベナトールはそのブレスを、まともに背中で受けた。

「オッサ――!?」

 ベナトールは微動だにしないが、ブスブスと音を立てて背中から煙が上がっている。

 肉の焼ける匂いが立ち昇る。恐らく背中は大火傷になっているはずだ。

「俺が、あいつをどう思っていたか、知らんとは言わせんぞ? アレクよ」

 

 彼の抑え切れぬ感情が、伝わって来る。

 

 そこへ、突進が来た。

「分かったから後ろ――!」

 身構えたアレクトロ。

「邪魔だ!!」

 ベナトールは言い放つや否や、振り向き様に【ハンマー】を振り上げた。

 正確に頭を打たれた【リオレウス】は、昏倒している。

「……すげぇ……!」

 思わず感慨の声を上げたアレクトロ。

「とにかく、こいつが先だ」

「分かった!」

 アレクトロは息の合う動きを取り戻し、【リオレウス】に立ち向かって行った。

 

 

「アレクよ、先程お前は『アイツはいない』と言ったが――」

 【クエスト】成功させ、一緒に【街】に帰りながら、ベナトールは話しかけた。

「カイはいるぞ、ここに」

 ベナトールは自分の胸に親指を突き付けた。

「そして、お前のここにもな」

 それから、アレクトロの胸に手を当てた。

「お前があいつを想う度に、あいつはお前の傍で生きている。そしてそう想う程、その息遣いが聞こえるはずだ」

 アレクトロは、胸に手を当てて目を閉じてみた。

 

 カイが、笑った気がした。 

 




「黒のギルドナイト」という事だったので、挿絵では黒っぽい制服(ギルドナイトシリーズ)を着せました。
帽子が紫なのは「SP防具」と呼ばれるHR100以上で生産出来る専用防具を作ったためです。

黒い制服(ガンナー用)の腰ベルトには「サーベル」ではなくて「銃」が装備されているため、仕方なく腰部分だけ剣士用にしてあります。
なので腰だけ赤い恰好になってしまいました(^^;)

お互いの立ち位置を調整するために、別々のキャラで撮影して合成しています。


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魚釣り(うおつり)パニック

これは「魚釣り」のお題を友人から貰って書いたものです。

魚釣りといえば、「あれ」ですよね(笑) 


 

 

 

「ねぇベナ、【サシミウオ】っておいしいの?」

「なんだ食った事ねぇのか? 生でも食えるから最高だぞ」

「生じゃなくて、ちゃんと焼いてよぉ」

「んな面倒臭ぇ事出来るかよ。(おとこ)は生だ生!」

「野蛮人……」

 

 という事で、今日は【サシミウオ】を釣りに来ている。

 

 【砂漠】の【ベースキャンプ】には古井戸があるのだが、そこに飛び込むと地図で言う《7》への最短距離になる。

 【ホットドリンク】が無いと少々寒いが、【ベースキャンプ】からすぐに行けるため、ベナトールはここでよく釣りをした。

 

 

 二人で仲良く並んで釣り糸を垂れていると、ベナトールの浮きがつんつんと動いた。

 が、合わせる事が苦手な彼は、完全に浮きが沈む前に竿を持ち上げては魚に逃げられている。

 反面、意外にもハナの合わせが上手く、初めてなのに次々と魚を釣り上げては「おもしろぉ~~い♪」などと言っている。

 

 もっとも、目的の【サシミウオ】を釣る事は忘れて、食い付いた魚を手当たり次第に釣り上げているだけではあるが。

 

「ベナぁ、エサが無くなった」

「あのなぁ、狙って釣らねぇからだろう?」

 呆れてそこらを探っていると、出て来たものは蛙。【釣り蛙】と呼ばれている。

「これでおっきな魚が釣れるかな?」

「まあ、釣れるにゃ釣れるが……」

 ベナトールは言葉を濁した。

「なによ? 釣れるんならいいじゃない」

 ハナは【釣り蛙】を付けてもらって水に投げ入れた。

 

 今んとこ、【奴】の影は見えねぇから良いかな。

 

 ベナトールは戯れに、ハナの釣り針に【釣り蛙】を付けてやったのだが……。

「ベナ~~! おっきいの釣れたよぉ~~~!」

 ハナが暴れ回る巨大な【魚】を、尻餅を付きつつ釣り上げたのだ。 

 

あちゃ、やはりいやがったか……。

 

 ベナトールは苦笑いした。

 ハナは陸上に打ち上げられ、ビッタンビッタン跳ねている【魚】を見て興奮し、「ねぇねぇ、これ世界記録じゃないの!? あたしすごい? ねぇすごい!?」などとはしゃいでいる。

「確かにすげぇが、これは【魚】じゃねぇぞ? ハナ」

 説明しようと口を開いたベナトールは、起き上がった【魚】が、息を吸い込んだのを見た。

 慌ててハナを掻っ攫って横転すると、相手はピシュウッ! と今ハナがいた辺りに水鉄砲のようなブレスを高速で吹き掛けた。

「えぇ!? なになに? 【魚】ってブレス吐くの!?」

 まだ理解していないハナが、素っ頓狂な声を上げている。

「これは【魚】じゃなくて【モンスター】なんだよハナ。【ガノトトス】といってな。【魚竜種】の仲間だ」

「え~~~? 【魚】じゃないのぉ!?」

「残念だったなハナ。世界記録はお預けだ」

 兜の中でニヤニヤ笑いながら、ハナの頭をポンポンと叩くベナトール。ハナは膨れている。

「という事で、危ないから高台に上がってな」

 【ガノトトス】を油断無く見据えながら、指示を出すベナトール。

 ハナは頷くと、後ろにある崖のツタに取り付いた。

 と、【ガノトトス】がそれを狙ってブレスを吐いた。

 ベナトールが立ち塞ぎ、我が身を盾にしてそれを防ぐ。

 

【挿絵表示】

 

 脇腹を貫通したブレスは勢いを殺され、ハナまでは届かない。

 ベナトールは脇腹をやられたぐらいではビクともしないが、例え心臓を貫通したとしても、避けるつもりはなかった。

 彼女が高台に上がったのを確認すると、ごろりと横に転がりつつ、回復する。

 高台ならもうブレスが届かないからである。

 

 誘うように頭付近をうろうろし、ブレスの時に最大溜め、あるいは【縦3】と言われる3連続の縦振りをお見舞いする。

 

【挿絵表示】

 

 その内相手は気絶したが、一度や二度の気絶ぐらいで参るような【モンスター】じゃない。

「がんばれ!!」

 ハナは高台で、定期的に湧く【ランゴスタ】一匹を「えいっえいっ」と勇敢にも(笑)切り付けながら、ベナトールを応援している。 特に危なげ無く討伐したベナトールは、【ガノトトス】の腹を裂いて言った。

「おぉハナ、丁度【サシミウオ】を食ってるようだぞ。どうだ取って帰るか?」

「やだ! そんなの食べられるわけないでしよぉ」

「なぜだ? 胃に入れば同じだろうが」

「ベナとはちがうのっ!!」

 

 相変わらず嚙み合わない二人であった。

  




「ガノトトス」は「一人でいる時のみ」釣れる「モンスター」なので、「パートナー」といても釣れません。
なので、釣り上げるシーンは撮影出来ませんでした。

話の中ではブレスを食らったベナトールが「ビクともしない」となっていますが、挿絵では(システム上)吹っ飛ばされてます。
なので、微動だにしていない姿を脳内再生しといて下さい(^^;)


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ムダ毛の多い女の子

「ハナが下りて来た」話、第二弾。

なぜか彼女は一度「下りた」ら「下ろし」易くなるみたいで、たまに「下りて」来るようになってしまいました。
 
カイはまったく「下りて」来ないのに、なぜだ……。
この口調、私自身は気持ち悪いと思っているというのに。


 

 

 

「ねぇベナぁ、【モンスター】にさ、女の子っているの?」

 ある日ね、ふと気になって、そう聞いてみたの。 

 だって【モンスター】ってさ、乱暴なイメージしかないじゃない? でも男の子ばっかりじゃないような気がしたのよね。

「そりゃ奴らだって子孫残して繁栄してるんだから、雄もいりゃあ雌もいるさ」

「女の子って、どんな姿してるの?」

「見た目にゃ殆ど変わらんが、【ハンターズギルド】が名前で区別している奴もいるんだよ。【リオレイア】とか【ナナ=テスカトリ】とかな」

「ふうん……」

「会ってみるか?」

「うん! 会ってみたいっ」

 それで、【樹海】に行く事になったの。

 

 

 地図でいう《1》、つまり【ベースキャンプ】から出てすぐの所に、【彼女】はいた。

 緑色の体の……。えっと、【リオレウス】っていう【モンスター】によく似てる女の子。

 

 女の子なんだけど……。

 

「なんか、ムダ毛が多くない?」

 開口一番口をついて出たのは、そんな言葉。 

 だって、背中がやたらと毛深いんだもん。

「あのなぁハナ。【モンスター】が毛の処理をする訳がないだろう」

 

 ベナは呆れてる。

 

 話が聞こえたのか、【彼女】はこっちを向いて吠えた。

 おっきな声! あたしは耳を塞いでしまった。

 そこに突進! でもベナがあたしを掻っ攫って、高台の上に放り投げてくれた。

 

【挿絵表示】

 

 当然ベナは轢かれたけど、へっちゃらな様子で立ち上がった。

 

 ベナって、ほんとタフよね。

 

 向かい合うと、【彼女】はブレスを吐いた。

 

【挿絵表示】

 

 ベナはころんって転がって、ブレスを避けた。

 そして近付いて、頭を【ハンマー】で殴ったの。

 【彼女】は頭をぶるんって振って、噛み付こうとした。

 振り上げを当てて怯ませて、その隙に縦二回。

 

 そうしたら、ひっくり返っちゃった。

 

【挿絵表示】

 

 それでも頭を殴り続けるベナ。なんか可愛そうなんだけど、【ハンマー】は頭を殴った方が、攻撃しやすいんだって。

 起き上がった【彼女】は、特大に吠えた。

 あたしは怖くなったんだけど、それでも見ようと思った。

 ベナだけ闘ってるのに、一人だけ【ベースキャンプ】で待つのもなんかイヤだし。

 怒った【彼女】は二、三歩下がると、足で地面を蹴ってくるんって後ろに回転して、尻尾をベナに叩き付けようとしたの。

 

【挿絵表示】

 

 【サマーソルト】っていわれる攻撃らしくて、尻尾の先っぽにある毒を、相手に叩き付けてるんだって。

 ベナは予備動作で見切って、簡単に避けてた。

 

 ビックリしたのはね、怒ると三連ブレスを吐く事!

 

 しかも同じ所じゃなくて、首をずらして三ヵ所別々に吐くのよね。だから避け辛いはずなんだけど、ベナは当たらないのよねぇ~~! こっちにもビックリだわ。

 頭ばっか狙うから、鱗が剥げて痛々しい姿になっちゃったわよ。【彼女】。

 

 女の子なのにぃ~~。

 

 

 捕獲して【クエストクリア】して帰ったら、ベナがなんか嬉しそうにしてた。

 何事かと思ったら、報酬で【雌火竜の紅玉】を貰ったんだって。

 

【挿絵表示】

 

 見せてもらったら、すっごく綺麗な紅色の玉。まるで中に炎があるみたいに揺らめいてるの!

 かなり貴重なものらしくて、流石に貰えなかったんだけど……。

 

 う、羨ましくなんて、ないんだからねっ! 




文中では「掻っ攫って放り投げた」となっていますが、ゲーム内ではそう言う事は出来ませんので挿絵では打ち上げで高台に飛ばしてます(笑)

「雌火竜の紅玉」も「紅色の玉」と書いていますが、実際のアイコンは緑色です。
捕獲報酬で紅玉が貰える事があるので、こういう書き方にしてみました。


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鉱石運んで、日が暮れて……

これは、「鉱石運びクエスト」のお題を友人から貰って書いたものです。


 

 

「アレク、【白水晶の原石】を運ぶ依頼を受けたんだけどさ。手伝ってくんない?」

「ったくおめぇは。んな面倒臭ぇもんを頼まれてんじゃねぇよ」

「だってさ、【宝石券】が貰えるんだもん」

 

【挿絵表示】

 

「んなもん何に使うんだよ?」

「えっとね。たぶん【双剣】の強化に必要だったはず……?」

「たぶんってお前なぁ……」

 相変わらずの適当発言に呆れながら、アレクトロはカイに付き合ってやる事にした。

 

 

 【沼地】の洞窟にある物なので、【ホットドリンク】を飲みつつその原石がありそうな箇所を【ピッケルグレート】で掘る。

 大きな塊がゴロンと出て来たので、「どっこいせ」と両腕に抱えて運び出す。

 

【挿絵表示】

 

 これを【ベースキャンプ】にある【納品ボックス】に収めれば、【クエストクリア】なわけなんだが……。

 

 クエェ~~!

 

 洞窟を出てえっちらおっちら運んでいると、そんな声を発しながら、突如突っ込んで来たものがいた。

 

【挿絵表示】

 

「だーもぉお前は! 嬉しそうに突っ込んで来んじゃねぇよ!」

 当然のように【白水晶の原石】を落っことし、割ってしまったアレクトロが、苦笑いして言う。

「【ゲリョス】は光り物が大好きだからねぇ……」

 まだ【原石】を落としてなかったカイが、仕方ないなと言いたげに答える。

 しょうがないので落としたついでに自分が引き付けて、その間にカイに運ばせる。

 だが一回納品したら終わりじゃなく、三回繰り返さなければならないため、何度も落とすハメになってしまった。

 

 初めこそ【ゲリョス】との追い駆けっこを楽しんでいたふうのアレクトロだったが、こう何度も落とされると流石にキレた様子。

「いい加減にしやがれてめぇ!」

 言うや否や戦闘モードに入り、運搬そっちのけで【ゲリョス】と格闘し始めた。

 

【挿絵表示】

 

「しょうがないなぁ、もぉ……」

 カイは苦笑しつつ、アレクトロを囮にして運搬した。

 

 それでも他の邪魔(【ランゴスタ】とか、【ブルファンゴ】とか)が入って落っことしたりして、中々納品が進まなかったのだが。

 

 

 カイが運搬を済ませた頃には【ゲリョス】の鶏冠は砕けてしまっていたのだが、無駄な殺生を嫌うアレクトロは、カイがクリア条件を満たしたと知るや、相手から背を向けて一緒に【街】に帰ったのだった。

 

 

 

 

 余談だが、【ゲリョス】の鶏冠は放って置けば再生するため、討伐さえしなければまた元通りになる。

 ので、始めから殺す気の無かったアレクトロは、【ゲリョス】を相手取る事は今回はお遊び程度にしか考えていなかった。   




「パートナー(及びクエに同行するAIキャラ)」は敵を倒す事でしか働かないので、運搬の手伝いはしてくれません。
(一応指示すれば罠をかけたり「生命の粉塵」や「回復笛」などで助けてくれはしますが)

ので、挿絵に映っているカイは手ぶらで付いて来てます(笑)


「光り物が好き」というカイの発言通り、「ゲリョス」は鉱石を運んでいると必ず同じエリアにやって来ようとします。
なので、どこにいるかが分からない場合、わざとそれを逆手に取って誘き寄せる事が出来ます。
(「フロンティア」だけかもしれませんが)


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《出会い》編(アレクトロとカイの場合)

この話はリアルの時系列から言えばずっと後に書いた話ではあるんですが、登場人物の身の上に関する内容なので、早目に出しておこうと思いました。

この先も四人のメンバーでの話が中心ですし、四人揃わなくても誰かは関与しておりますので。


という事で、今回は「アレクトロ」と「カイ」が出会った話です。


   

 

 

 

「ねぇねぇアレクぅ」

「なんだよ? 一人で俺の部屋来て変な声出してんじゃねぇよ。何かあったら知んねぇかんな?」

「相変わらず口悪いわね~~!」

「悪かったな!」

「何かあったらって、何かする気なの?」

「物の例えだよバーカ。てめぇなんぞに何かする気ある訳ねぇだろ。――で、なんか用かよ?」

「何よつまんない……。あのね、カイが【ココット村】でどう成長していったか知りたいの」

「んなもん聞いてどうすんだ? アイツの過去を知った所で何か変わるわけでもねぇだろうに」

「だって【奇跡の少年】がどう成長していったかって、なんか興味があるんだもん」

「何だその【奇跡の少年】ってのは!?」

「ヤダあなた知らないの? 【街】が初めて【ラオシャンロン】に襲われた時に、その区画に住んでた人の中で、たった一人だけ生き残った幼い少年がカイなのよ。【ドンドルマの奇跡】としてけっこう有名なのよ?」

「へぇ、アイツにそんな過去がねぇ。一言も言わなかったけどな、アイツは」

「きっと思い出すのも辛かったんじゃない? それに新しい生活に慣れるのも精一杯だったでしょうし」

「俺に付いて来るのもな」

「あんた、そんな小さい頃から連れ回してたの?」

「いや? 勝手にどこにでも付いて来るからそれに任せてただけだぜ?」

「きっと寂しかったのよ」

「そうだろか? 他にも同じくらいの歳のガキはいたんだぜ? なのに俺にばっか付いて来やがってさ。ほんっとガキの頃から【金魚のフン】みてぇだったよ」

 

 

 あれは俺がまだうんとちっせぇ頃、ハンターに憧れて、ハンターの真似事をして野山を駆け回ってた頃だった。

 ツタを降りてその先に行こうと思ったら、その今降りたツタの上で、ぎゃあぎゃあ泣いてんのがいたんだわ。

 見上げたらさ、生っ白い(なまっちろい)ガキがツタを降りれなくなって途中で泣いてやがんの。

 そのまま放っとこうと思ったんだが、もう今にも落ちそうになってたわけ。つまり握力が持たなくなって、上に登るにも下に降りるにも出来なくなってたんだな。

「オイ! 一旦上がれよ。そっちの方が近いだろ」

「ヤダ!」

「なんでだよ? 下降りたって、危ないだけだぜ?」

「ヤダ~~~!」

「ビービー泣いてたら、もっと体力使うよ? 落ちたら大けがしちゃうぜ? いいの?」

「ヤダぁ……」

「あぁもう! ほら支えてやるから。ゆっくり降りな」

 しょうがねぇから支えてやったら、こくんと頷いてゆっくり降りて来た。

「オマエさ、もしかしてオレに付いて来たワケ?」

 

 こくん。

 

「なんで付いて来んだよ?」

「…………」

「だまってちゃ、分かんないだろぉ!?」

 そう言うと、そいつはすすり上げ始めた。

「あぁもお! 勝手にしろよ!」

 後ろに構わずにずんずん進んで、飛び石伝いに川を越えた時だった。

 

 今度は泣き声じゃなくて悲鳴が聞こえてさ。振り向いたら向こう岸に【ランポス】がいたんだよな。

 

 幸いにもはぐれた奴だったのか一匹しかいなかったんだが、俺らはまだちっさかったもんだから、充分怖かった。

「オイ! 早くこっちに渡れよ!」

 声を掛けたが怖くて縮こまってんのか、それとも飛び石を伝うのが怖かったのか、後退りするだけで渡ろうとしない。

 その内川に落ちるか【ランポス】に食われるかのどっちかになりそうだったから、俺は一旦戻って無理やり手を引いて、半ば抱えるようにして川を渡り直した。

 【ランポス】は水が苦手だから、それ以上は追っては来なかった。

「ほら、危ないって言ったじゃんか! もう付いて来んなよ!」

 そうは言ったがこの先また何かあったらやっかいだしと、結局手を引いて歩いて行った。

 

 怒った顔で手ぇ取ったらさ。ニコッて笑いやがんのそいつ。

 よく見たら可愛い顔してやがってさ、なんか女みてぇだなと思ったよ。

 

 もう帰ろうと思ったんだが、そのまま同じ道を通ったら【ランポス】がいやがるから、うんと遠回りして帰ったわけよ。

 

 

 その日からよ、なんでかずっと、俺に付き纏うようになりやがったんだよな。

 

 うっとうしくて追い払おうとしても、仕舞にゃ泣き出すのがうるさくて、もう付いて来るのに任せる事にした。

 でよ、俺が成長して体力を付けて行ったのと同じに、アイツも(アイツなりに)体力が上がってったみてぇだ。

 その間、別に何をしてやった訳でもねぇんだが、気が付いたらいつもいるから何でも話すようになるだろ?

 

 だから俺がハンターになるつもりだって事も話したんだよ。

 

 そしたら案の定「アレクがハンターになるならおいらもなる!」と抜かしやがった。

 特別に誘ったつもりは無かったんだがな、俺としては。

 アイツは「アレクに誘われた」っつってるみてぇだけどな。

 

 

 

「――へぇ、カイって意外にねちっこい性格なのかもね」

「ストーカーみてぇに付いて来るとこがか?」

「うん。それか、一つの事に拘る傾向があるのかもよ? 好きな事とかをずっとやり続けるような」

「どうだかなぁ? 何も考えてねぇように見えるんだが?」

「案外、全部計算してたりして」

「計算して【金魚のフン】やってるってのか!? それって気持ち悪くねぇか?」

「やっぱり何も考えてないのかも……」

 

「――あれ? ハナ、いたんだ」

「よぉ来たか。【奇跡の少年】君!」

「なんだよそれ……」

「アレクにね、あんたの成長物語を聞かせてもらってたの♪」

「え~~~? どんな事を話したんだよ? アレク」

「そりゃあおめぇ、あんな事やこんな事や……。な? ハナ」

「うん、中々面白かった♪ ね、アレク」

「やだなぁ、二人してニヤニヤして……」

「まぁ良いじゃねぇか、おめぇはおめぇだし」

「だね。カイはカイだわやっぱり」

 

 

 

 




幼いカイが、「ヤダ」しか言ってない件について(笑)

カイのエピソード(「奇跡の少年」の話)は友人が考えた話(第一話参照)なので、それに基づいて書いてます。


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《出会い》編(カイとハナの場合)

出会い編第二弾。

という事で、今回は「カイ」と「ハナ」が出会った話です。


   

 

 

「よぉハナ、今日はオッサンと一緒じゃねぇのか?」

「どうしても連れて行けない仕事があるんだってさ。アレクこそカイはどうしたのよ?」

「たまにゃ一人の時もあるさ。アイツと四六時中一緒ってわけでもねぇしな」

「そっか」

「あのよハナ。アイツって【ドンドルマ】の出身なんだよな? ちっせぇ頃に、おめぇと一緒に暮らしてたんだろ?」

「うん。ちょっとの間だけなんだけどね」

「それが何で【ココット村】に来るようになったわけ?」

「知りたい?」

「別に特別に知りたいっつう程でもねぇけども……」

「あ、知りたいんだ♪」

 

 

 あれはね、あたしがまだ二歳か三歳くらいだった頃なんだけどね。そんなに幼かったのに、ハッキリ覚えてることがあるの。

 その日は何でもない普通の日で終わるはずだった。

 あたしはおじいちゃんが帰って来て、頭をポンポンされて、「お帰り♪」なんてやってたの。

 

 そこに地震が来た。

 

 ううん、最初はそう思ったんだけど、そうじゃなかったの。

 その地震はね、一回じゃなくてずっと続いてて、しかもだんだん大きくなってきたの。

 伝令が慌てふためいて入って来て、おじいちゃんに何か言ったんだよね。そしたらおじいちゃん、顔色が変わって、「すぐに行く!」って、一緒に出て行っちゃった。

 不安がるあたしをいつも遊んでくれるメイドが慰めてくれて、あたしは止まらない地震が怖くてメイドにしがみ付いてた。

 

 外が異様に騒がしくなって、その内家々が壊される音が交じって来た。

 あたしは怖くて仕方がなかったんだけど、どうなってるのかがどうしても知りたくて、バルコニーから外を見てみた。

 

 そこに見えたのは、沈み行く太陽に照らされた、とてつもなく大きな【モンスター】の顔。

 

 鼻先に角があるのが分かったんだけど、その角だけで巨木ぐらいあるんじゃないかと思った。

 【それ】がゆっくりこっちに向かって来る。

 そして、どうも【それ】が一歩前に出るたびに地震が起こるらしいと分かる。

 

 つまり、地震だと思ったのは、その【モンスター】が歩く振動だったわけ。

 

 【守護兵団(ガーディアンズ)】とか、その場にいたハンターとか、とにかく闘える者全員が、一丸となって向かって行っているのが見える。

 でもその【モンスター】は、攻撃するでもなく、ただひたすらに前に進んでいる、という感じだった。

 

 なのに、ただそれだけなのに、【それ】が進む先々で【街】が破壊されて行く。

 そしてその後は、瓦礫の山しかなかったの。

 

 

 一夜明けて見てみたら、【モンスター】が進んだ区画『だけ』が壊滅的な被害になってることが分かった。

 そしてその区画には、生きている者の気配がまったく無かったの。

 いいえ、「まったく無かった」と言えば嘘になるわね。

 

 そう思われたその場所で、無傷の【彼】が発見されたんだから。

 

 【彼】が見付かった知らせが届いた時、それはそれは大騒ぎでね。誰もが「奇跡だ!!」って叫んでた。

 だから【彼】は「奇跡の少年」って呼ばれるようになったわけ。

 

 そしてその話は【ドンドルマの奇跡】として、【街】で語り継がれるようになった。

 噂を聞き付けた王族や貴族の方々が、「是非会いたい!」って言って来てたみたいなんだけど、おじいちゃんは【彼】を匿って誰にも会わせようとしなかった。

 

 だから【彼】は、あたししか遊び相手が無かったの。

 

 でも周りがあまりにも騒ぐのが【彼】の精神的によくないというおじいちゃんの判断と、おじいちゃん自身も【彼】を匿い切れなくなったのとで、あたしにも内緒でどこかに連れて行っちゃったの。

 それを知った時、あたしとっても寂しかったっけ。

 

 だってあたし、女の子だと思ってたんだもん。

 

 同い年ぐらいの女の子が来たと思って、【彼】がいる間はずっと、おままごととか、お花摘んだりとかして遊んでたんだし。

 まあ何でドレス着ないのかな~とは思ってたんだけどね。

 だから後でおじいちゃんから「カイは男の子だよ」って聞いた時、ホントにびっくりしたの。

 

 

 

「――なるほどねぇ」

「どう? 面白かった?」

「まあな。ってか、アイツままごととかしてて嫌がんなかったのか?」

「ニコニコして嬉しそうにやってたよ? お花摘む時も、メイドが花冠作って被せてあげたらすんごく喜んでたし。しかも花の妖精みたいでよく似合ってたっけ」

「まあ、今でも確かに女みてぇだしな、アイツ」

「それは細いからじゃない? まあ自分でも『たまに間違えられる』って言ってたけど」 

「いつまでもなよっちぃからなぁ、筋肉付いてねぇし」

「そりゃあんたと比べたら付いてないでしょうよ。比べる人が間違ってるわよ」

「そうかぁ? ハンターだったらこんくらいの筋肉をだな――」

「アレク? 筋肉自慢はベナを超えてからにしなさいね?」

「ぐ……! 厳しいなぁ」

 

 




幼いハナが、異常に記憶力がある件について。
個人的に、最後にアレクトロがハナにやり込められるシーンが可愛くて好きです(笑)

「ベナトール」には「朝ごはんはココット村で」でメンバー全員が出会っているので、彼との「出会い編」は無しです。


ちなみに「カイ」が「ユクモ村」の温泉でベナトールに犯されたのは、彼らが時々「集会所」で狩りを行っていた仲だったからです。
カイはアレクトロに付き纏う奴なので、アレクトロも時々「ユクモ村」で狩りを行ってました。

でもその際にベナトールには会っていなく、里帰りしていた「ココット村」で初対面となったようです。


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香しい……匂い?

「ハナが下りて来た」話、第三弾。
「ババコンガ」のお題を友人から貰って書こうとしていたら、「下りて」来ました。

何故お前はそう簡単に「下りて」来るのだ……。


  

 

 

 

「ハナよ、ピンク色の猿に会いたくねぇか?」

 ある日、ベナがそう言ったの。

「おサルさん? ピンク色してるの!?」

「おうよ。お前の好きなピンク色の猿だ」

 なんかニヤニヤ笑ってるのが気になったんだけど、あたしは「会いたいっ」て言った。

 

 

 【密林】の、《10》ってとこだったかな~~? とにかく【昼】には行けるけど【夜】には行けない所。ベナがそこにいるって言うから走って行ったらさ、ピンクのおサルさんが一杯いたのよね。

「ヤダ可愛いっ♪」

 嬉しそうに近付いて来た一匹を抱き上げようとしたんだけど、引っ掛かれちゃった。

「いった~~いっ!」

 そうしたら、飛び付いてお腹で圧し潰そうとした。

「もぉ、なんなのよぉ!」

 気が付いたら、おサルさんみんながそうしてる。

 怖くなって逃げ回ってたら、なんか奥の方で吠えたのがいた。

 同じピンク色なんだけど、一番おっきなおサルさん。

 

 しかも、頭の毛がとんがってる!

 

 その子も同じようにフガフガ言いながら突進して来たんだけど、可愛いどころか逆に怖かったよ。

 

「【ババコンガ】の縄張りにようこそ♪」

 

「嬉しそうに言わないでよぉ! ベナのバカッ!」

 むくれて言ったら(兜で見えないけど)ニヤニヤ笑いのまま、こう言われた。

「という事で、【コンガ】を頼む」

 【コンガ】っていうのは、小さい方のおサルさんの事みたい。    

 

「こっちの方が、数が多いじゃないのよぉっ!」

「なら【ババコンガ】を相手にするか?」

「遠慮しときます……」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 とにかく、引っ掛かれたり、飛び付かれて尻餅を付いたりしながら、あたしは【コンガ】相手に闘った。

 一人で大騒ぎしながら頑張ってたら、ベナが「あ!」って間抜けな声を出したのよね。

 そうしたら、なんか茶色い塊が飛んで来た。

 

【挿絵表示】

 

 

 べしゃっ

 

 振り向こうとしたあたしに、それが当たった。

「……! くっさ~~~いっ!」

 

 鼻が曲がるかと思ったわよ!

 

 それを見て、ベナったらゲラゲラ笑ってるんだもん。ヒドイと思わない!?

「もぉっ! どうにかしてよぉ!」

 泣きそうな気分だったんだけど、ベナは【ババコンガ】との格闘に忙しいみたいで、なんにも助けてくれなかった。

 

【挿絵表示】

 

 回復したくても、あんまり臭くて吐き気がして、【回復薬グレート】が飲めなかった。

 その内ベナが【消臭玉】を掛けてくれたんだけど、(といっても自分も臭くなってたから、ついでに掛けてくれただけなんだけど)もう散々だったよ。

 

【挿絵表示】

 

 

 ベナがニヤニヤ笑ってる時は、要注意だって分かったわよ。まったく!  

 

 

 




ちなみにタイトルの「匂い」を「臭い」としなかったのは、わざとです。
「臭い」の方を使うとくさい臭いだとすぐにバレてしまうと思ったからです。


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見世物になるのも悪くない

これは、友人から「闘技場」のお題を貰って書いたものです。


 

 

 

「――では方々、準備はよろしいか?」

 アレクトロとベナトールは、他のハンター達と一緒に【控えの間】にいた。

 

 そこから出れば、もう後戻りは出来ない。

 

 そこにいる全員を見回すように言った闘技員の者に、二人は無言で頷いた。

 

 

 それより一週間程前、二人は【大衆酒場】で面白い話を聞いた。

「――でよ、そこではオレらは【見世物】になって、金持ちの連中らを楽しませるってぇ寸法らしい」

「なんでも、派手な立ち回りや、お互いの血が飛び散るような残酷な戦闘なんかで客を喜ばせる程、報酬は弾むんだとさ」

「あんな狭い所で【モンスター】と闘えっつうんだから、余程腕が立たなきゃ追い詰められて殺されちまうだろうな」

「その追い詰められ、恐怖に慄きながら殺される様を見るのも盛り上がるんだとよ」

「――ケッ! 俺らを何だと思ってやがんだろうな? あの連中」

 

 そんな話があちこちから聞こえて来たため、喧噪の中で聞くともなしに聞いていたアレクトロは、「よぉ、何の話だ?」と近くで話していたハンターに声を掛けた。

「おめぇ知らねぇのかよ? 【闘技場】の話だよ」

「【闘技場】、だと?」

 アレクトロが口を開く前に、ベナトールが怪訝そうに言った。

「おう。なんでも【訓練場】ぐらいの広さの場所でよ、【モンスター】とハンターが闘う様子を金持ち連中に見せる場なんだと」

「要するに、ハンターが見世物になるって事か?」

 アレクトロが言う。

「そうみてぇだ」

「それは、【ハンターズギルド】は公認してるのか?」

 ベナトールが聞く。

「【ギルド】としては公認しかねる、という事らしいんだが、金持ち連中、つまり貴族や王族の者が退屈凌ぎに始めてくれってやたら煩かったらしくて、【ギルド】の方も押し切られたらしい」

「ふむ……」

 

 ベナトールは腕を組み、顎に手を当てて考えている。

 

「よぉオッサン、一度どんなもんか参加してみねぇか?」

 アレクトロは言った。

 【見世物】になる、というのはいささか気に食わなかったが、自分の実力が試せるのではないかと思ったのである。

 【フィールド】では【モンスター】が逃げ回るのもあって回復の機会を与えてしまい、効率良くダメージを蓄積させた狩りが出来ないと思ったのだ。

「そんな退屈凌ぎに付き合って、命を無駄にする事はない」

 ベナトールは始め反対したが、彼一人で突っ走らせると本当に死にかねないため、付き合う事にした。

 

 そんな心配をよそに、アレクトロは張り切っている。

 

 

 【控えの間】にいたハンター達は、各自で組んで、それぞれに割り当てられた【闘技場】に散って行った。

 

 二人も入り口から中へ踏み込む。

 途端に歓声が沸き上がった。

 

「――ケッ! 暇な連中どもだぜ」

 上から降って来る怒涛のような歓声を見回しながら、アレクトロはぼやいた。

 【闘技場】の周りは先を尖らせた丸太で囲われており、中に入ったものは出られないようになっている。

「さあ、どうせなら存分に楽しませてやろうぜ!」

 ベナトールが力強く言う。

「だな!」

 相手はと見ると――!

 

「【ラージャン】かよ……」

 

【挿絵表示】

 

 

「ククッ、まさに【闘技】に相応しい【モンスター】じゃねぇか? なぁアレク」

「同感だ」

 その途端に突っ込んで来た【黒き獅子】を、二手に分かれて交わす。

 突進終わりを追い掛けて、振り向き様に【ハンマー】を叩き付けるベナトール。

 アレクトロはブレス時に溜め、横腹や尻尾などを切っている。

 基本はその闘い方なのだが、相手が転んだり気絶したりすると、その隙にアレクトロは溜めたりもした。

 何度目かの攻撃の後、相手が特大に吠えた。

 それと同時に背中や頭の毛が逆立ち、黒一色だった体に見事な金毛が交じる。

 

【挿絵表示】

 

 それ故に、畏怖を込めて【金獅子】と呼ばれるようになったとか。

 

 この状態の【ラージャン】は、もはや手が付けられないのではないかと思う程暴れ回る。

 ただでさえ狭い【闘技場】で縦横無尽に暴れられるため、攻撃や回避がままならない程忙しくなった。

 

 と、アレクトロが角に引っ掛けられて吹っ飛ばされた。

 

 横腹を破られたようで、血飛沫が上がる。

 途端に歓声が上から降って来る。

 転がりながら立ち、【回復薬グレート】を飲むと、今度はブーイングが降って来た。

「人の命をなんだと思ってやがんだ、まったく……!」

 アレクトロはぼやいたが、承知の上で参加しているので、ならもっと楽しませてやろうじゃねぇかと思った。

 だがベナトールの方はあまりその気はないらしく、まあ上手いのもあってかヒョイヒョイと攻撃を避けてはいつものように攻撃している。

 が、こちらの方を見るのも燃えるらしく、彼が間一髪で避けるたびに歓声が沸き起こっている。

 

 ベナトールは意図せずに注目されている事に、兜の中で苦笑いしていた。

 

 

 【ラージャン】は、例え角を捥がれても、尻尾を切り落とされても一向に怯まずに向かって来る。

 

【挿絵表示】

 

 もうすでに体は傷だらけだというのに、出血さえ厭わぬ様子。

 

 その様は、まるで闘いしか知らぬ、戦闘のためだけに作られた獣のよう。

 

「もういい、休め……!」

 息も絶え絶えになっているのになおも闘おうとする【ラージャン】に、アレクトロは声を掛ける。

 暴れる事で出血が増し、血飛沫が辺りを覆うたびに、上から歓声が降って来る。

 だんだん倒れる時間が長くなっているにも関わらず、【ラージャン】は闘うのをやめようとしない。

 

【挿絵表示】

 

 攻撃するのを躊躇する程痛々しいが、ベナトールはそんな感情など微塵も無いかのように、容赦なく攻撃を続けている。

「休めっつってんだろうがぁ!!」

 最後の力を振り絞るようにして吠え、金毛を逆立てた【ラージャン】に、アレクトロは叫びながら上段から切り付けた。

 血を吐きつつも太い腕を振り回し、彼を浮っ飛ばした相手は、その勢いのまま転がった。

 

 そしてそのまま立ち上がる事無く、動かなくなった。

 

 

 歓声とブーイングが入り混じったようなものが、頭上から降り注ぐ。

 ベナトールは苦々し気にそれを仰いでから、アレクトロを助け起こした。

「帰るぞ」

 声を掛けて、ふら付く彼を支えながら歩き出すベナトール。

 

 その背中に、二人の健闘を称える拍手が降り注いだ。  

 




わざわざ「闘技場」で挿絵用のものを撮影したにもかかわらず、「砂漠」の光景とそれ程変わらない件について(^^;)

でも「フロンティア」の「ラージャン」は、砂漠には生息してないみたいだから、いっか。


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もしも、ベナトールとアレクトロが闘ったら

「闘技場」の話で思い付いた、「もしもの世界」第二弾。
ベナトールとアレクトロが闘ったらどうなるか見たかったんです。


 

 

 

 

 最近二人は、ある噂を耳にする事が多くなった。

 それは必ずヒソヒソ話の中で打ち明けられるもので、しかも、人目を忍んで行われていた。

 

 なぜそのような噂を耳に出来るかというと、二人がなぜか、そういう者に敏感に反応出来たからである。

 

 今日も人目を気にしながら路地裏に入って行く者を見付けたアレクトロは、気付かれないようにこっそり彼らの後を付いて行き、話し声が聞こえる場所に隠れて聞き耳を立てた。

「――でよ、あの【闘技場】で、なんとハンター同士を闘わせるんだとよ」

「【モンスター】じゃなくて、人間が相手だっつぅのか!?」

「そうらしい」

「そ、それってつまり――!」

「あぁ、もちろん犯罪だ。【ハンターズギルド】に見付かれば、問答無用で【死刑】だろうよ」

「そんな危険を冒してまで、なんでそんな試合が行われてんだよ?」

「燃えるからだろうぜ。ハンターほど戦闘能力の高い連中はいねぇだろ? 奴らが闘う様は、それこそ血沸き肉躍るからな」

「なら、何も人間同士で闘わせずとも――」

「大方、【モンスター】と闘わせるのに飽きた連中が始めた事なんだろうぜ。それに、禁止されている人間に堂々と(やいば)を向けられるハンター達も、逆に楽しんでるって話だ」  

 

 アレクトロは、素直にオッサンと闘ってみたいと思った。

 が、一度でも彼に闘いを挑んだら、【手合わせ】などという生温い闘い方などしてもらえないだろう。

 それに、【ハンターズギルド】に見付かれば、どっちにしても死が待っている。

 

 ならば、死を承知で挑んでみたいと思った。

 

 

「アレクよ、なぜお前はそう危ない橋ばかり渡ろうとする?」

 ベナトールの部屋で耳打ちしたアレクトロに、彼は言った。

「なぜそう死を急ぐような事ばかりするのだ。今回は特に、確実に死ぬかもしれんのだぞ?」

「燃えるからな」

 アレクトロは答えた。

「常に死と背中合わせの状態に身を置いていたいんだ。一歩間違えれば死。首の皮一枚で繋がっている。そんな世界で俺は生きていたい。そしてそんな世界で死にたい」

「なぜ生きようとせん?」

「【生】への執着はハナからねぇよ。それはオッサンも同じだろう?」

 上位【古龍】に【火事場】で挑んだりして、死に急ぐような生き方をしているのは彼も同じなのだ。

 

 そういう点では、二人共同じ世界でしか生きられない者同士と言える。

 

「死にたいのか? アレク」

「別にそういう訳でもねぇが、生きたいとも思わねぇしな」

「……。【ハンターズギルド】に見付からずとも、俺はお前を殺してしまうだろう。それでも良いのか?」

「承知の上だ。そして、その言葉をそのまま返すぜオッサン」

 厳しい顔をして無言でアレクトロを見詰めていた彼は、やがて溜息のように言葉を吐き出した。

「……良かろう。ならば俺を失望させるなよ?」

「お互いにな」

 

 二人は握手を交わした。

 

 

 【闘技場】といっても名ばかりの、隠し部屋の一角にそれはあった。

 昔は【拷問部屋】として使われていたとの事で、周りに声が漏れないようになっていた。

 集団で使われていたのか中は意外に広く、数十人ほどの観客が、金網で囲われた戦闘舞台を取り囲んでいる。

 すでに他の試合が行われており、熱狂が渦巻いている。

 

 その歓声が微かに聞こえる隣の控室に、二人はいた。

 

 二人は試合に出る他の者と同じように、革で作られ、急所を金属で補強しただけのような軽装な鎧を身に着けていた。

 兜も無く、代わりに一部が金属板で作られた鉢巻のような物を額に巻いている。

 人間同士だから【モンスター】用は禁止という事で、闘技員から宛がわれた物だった。

 そして、武器も【モンスター】用ではなく、人間用に作られた剣になっていた。

 【モンスター】用と比べるとかなり薄く、ハンターの筋力で力任せに切り結んだら折れてしまいそうな程頼りないように見える。

 盾の方はそこそこ頑丈に出来ているようだが、どちらにしても重い武器を好む二人には、あまりにも軽過ぎる武器だった。

「よぉ、なんかすっぽ抜けそうだよな」

「同感だ。これなら素手で殴り合った方がまだ闘い甲斐がありそうなもんだぜ」

「言えてる」

 もうすぐ殺し合うとは思えない程、二人は楽し気に談笑している。

 

 それは単に、二人共に【生】に執着していないからなのか、それとも、すでに死を受け入れているからなのか……。

 

「――次の者、前へ」

 少しして、声が掛かった。

 順番が回って来たという事は、誰かが死んだという事でもある。

 なぜなら例え死なずに戦闘不能に陥った者がいたとしても、その場で処刑されるからだ。

 どちらにしても一度切り結んだ者は【ハンターズギルド】に見付かれば処刑されるため、わざわざ殺人担当の【ギルドナイト】の手を煩わせずとも良い、という事なのだろう。

「いよいよだな。アレク」

「だな。オッサン」

「【闘技場】に入れば、もう容赦は出来ない。覚悟は良いな?」

「あぁ。――今まで、世話になったな」

 

 アレクトロは、彼を抱いた。

 そして、このままでいたいとさえ思った。

 

 彼の腕に力が籠って行くのを感じて、ベナトールは口元を緩めた。

 

 が、それを打ち消すように引き剥がし、「行くぞ」と言った。

 アレクトロは無言で頷くと、彼の後を付いて控室を出て行った。

 

 

 地鳴りのような歓声が、二人を包み込んだ。 

 【モンスター】と闘うための【闘技場】と違い、こちらは観客が戦闘舞台を取り囲むようになっているため、非常に観客との距離が近い。 

 中には参加者しか入れないようになっているが、興奮した客が金網をよじ登ったり金網を揺らしたりしている。

 

「――始め!」

 

 二人が離れて向き合うと、闘技員の声が掛かった。 

 二人はじりじりと間合いを取りながら、お互いの様子を見ている。

 

 最初に動いたのはアレクトロの方だった。

 

「でやっ!」 

 気合の声と共に踏み込みつつ突く。

 ベナトールは躱している。

 その動きに合わせるように横に薙いだが、それも僅かな動きで躱された。

 対峙して切り下し、直後に刃を返して切り上げるが、難無く躱されてしまう。

 非常に軽い武器なので、彼の動きも【大剣】を使っている時よりかなり速度が増しているはずなのだが、その刃は一度もベナトールを捉えられない。

「どうしたアレク。そんな動きでは俺に掠り傷一つ付けられんぞ?」

「く、くそぉ……!」

 ベナトールはガードすら使わずに、全てを躱し続けている。

 

 彼にとっては盾すら不要であるかのように。

 

「躱してばっかいやがらねぇで、闘いやがれ臆病者!」

 悔し紛れに悪態を付くと、彼は口の端を持ち上げ、踏み込んだ。

 

 ガキッ!

 

 思わずガードしてしまったアレクトロは、その速さと衝撃に驚いた。

 それからはガード一方になってしまった。

 避ける事はおろか、(やいば)を交える事すら許してもらえない。

 ただひたすらに盾をかざし、彼の攻撃を防ぐ事に集中するのが精一杯なのだ。

 

 こんな、こんなにも力の差があったとは……! 

 

 だが今更後悔しても、もう遅い。

 辛うじて盾で攻撃を跳ね返したアレクトロは、一旦離れた。

「……。『失望させるな』と、言ったはずだがな?」

「く――!」

 ブーイングを浴びながら、アレクトロは歯軋りした。

 

 恐らく次踏み込まれたら、確実に仕留められるだろう。

 ならば、ならばせめて――!

 

 アレクトロは切り下しつつ飛び込んだ。

 案の定躱したベナトールは、僅かな動きで向き直り、アレクトロの心臓を突いた。

「……すまん、アレク」

 そう言うと、手首を捻って抉った。

 アレクトロの剣を持つ右手が、ゆっくりと下がる。

 が、彼の口から意外な言葉が出た。

 

「……捕まえた」

 

「なに!?」

 そして一閃! ベナトールの喉を切り裂いた。

 ベナトールが驚愕の面持ちで血を吐く。

 それを顔に浴びながら、ニヤリと笑ってさえ見せる。

 

 彼は待っていたのだ。

 自分を仕留めるために、彼の動きが止まるその時を。

 攻撃で彼を捉えられないならば、せめて死ぬ間際に一太刀報いようと考えたのである。

 

 ……なんて……奴だ……!

 

 声の出なくなったベナトールは、心で言った。

 

 見事だ。アレクトロ。

 

 敬意を表してフルネームで呼び掛けたベナトールは破顔し、最後の力で剣を引き抜くと、そのまま仰向けに倒れて目を反転させた。

 大量の血を噴き上げながら数歩後ろによろけたアレクトロは、勝利宣言するかのように剣を突き上げ、そのまま崩れ落ちた。

 

 二人の死体に、これ以上ないほど興奮した観客の歓声が降り注ぎ、しばらく反響していた。 




書いてみて分かった事なんですが、実力差があり過ぎました。
もう少しアレクトロが頑張ってくれると思ったんですが、まったく歯が立ちませんでした。

ベナトールのGRは3ぐらいで、G級としては初期段階に等しいんですが、それでもSRのアレクトロとここまで差があるとは思いませんでした。

でも、パラレルワールドとはいえ彼らが闘っている姿が見れて書いてて楽しかったです。
結局どっちも死んでしまいましたが(笑)


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ハナ、基本を学ぶ

これは「ベナトールが【教官】らしくハナに教えている所を見たい」と友人に言われて書いたものです。
友人にお題を貰ったり、自分が急に思い付いたりしたものを脈絡もなく書いたりしているため、彼らの時系列がバラバラになっている事がよくあります(^^;)


実際は二つの作品なんですが、最初の話が短かった(千文字にならなかった)ため、二つの話をくっ付けて一つにしました。
なので、今回は本文の中にタイトルが二つあります。


《ハナ、【肉焼き】を学ぶ》

 

 

 

 これは、ハナがハンターになって間もない頃の話。

 フィールドで【肉焼きセット】を置き、鼻歌交じりに肉を焼いているベナトールを見て、ハナはよだれを垂らさんばかりに焼かれていく骨付き肉を見詰めていた。

 

【挿絵表示】

 

 当たり前のようにベナトールが焼く係になっていたのだが、そろそろ興味が湧いて来た様子で、肉だけでなく彼の手元も見るようになった。

 その様子を察したベナトール。

 

「焼いてみるか?」

 

「いいの!?」

「お前もハンターなら覚えにゃならん事だからな」

 まずベナトールが見本を見せる。

「良いか、このタイミングで上げるんだ」

 彼はハンターなら肉を焼く時に誰もが口ずさむ、【肉焼きソング】と呼ばれる歌を歌い出した。

 といっても特定の歌詞があるわけでもなく、いつから歌われて来て誰が作ったのかも定かではない。

 とにかく肉を焼く時のタイミングを計るために、「あ~」だの「う~」だのそれぞれの節回しを用い、ハンターの間で歌い継がれて来た歌らしい。

 

「♪タッタラ~ラララタッタラ~ラララタララッタララッタララッタララッタタタタタンッ♪」

 

 歌い終わった彼は三秒数えてから肉を上げ、「上手に焼けましたっ♪」と言った。

「へんなのぉ~~」

 ハナは笑ったが、これが一番タイミングが計りやすいのだという。 

 交代してもらって【肉焼きセット】に付いている椅子に座るハナ。

 すぐには【肉焼きソング】は覚えられないだろうと、ベナトールは横で歌って拍子を取っている。

 が、上げるタイミングが早すぎて【生焼け肉】になってしまったり、逆に遅すぎて【コゲ肉】になってしまったりしている。

「意外にむずかしいのね……」

 ハナは呟きながら、肉焼きを続けた。

 

 

 ベナトールから「上手に焼けましたっ♪」と言われた頃には、周りは【生焼け肉】と【コゲ肉】の山が積み上がっていた。

「どうすんだ? これ」

 ベナトールが呆れ顔で言う。

「責任持って食べるんでしょ? ベナが」

 ハナはニヤニヤ笑っている。

「失敗したのはお前だろうが!」

「教えたのはベナでしょお!」

 言い合ってはいたが、結局二人で分けて食べたのであった。

 

 もちろん、ベナトールの分の方が(特に【コゲ肉】の量が)断然多かったのだが。

  

 

 

*********************************

《ハナ、【調合】を学ぶ》

 

 

 

「――さて問題です。【アオキノコ】と【薬草】を交ぜると、何になるでしょう?」

 おどけた口調でベナトールが言う。

 

 今日は【調合】をハナに学ばせているのだ。

 

「う~~~ん、【回復薬】?」

「ほぉ、正解だ。なら【アオキノコ】と【太陽草】では?」

「えぇ? そんな調合あったっけ?」

「あるんだなこれが。答えはどっちも【回復薬】だ」

「そんなの、片一方だけ覚えとけばいいじゃ~~ん」

「そういう訳にはいかんぞ。【薬草】は意外にも採れる場所が限られていてな。今採れる報告があるのは【森丘】と【塔】だけなんだわ。だから他の場所で現地調合しようと思ったら、【太陽草】を採る必要がある」

「でも、この前【密林】で採ろうと思ったら、【落陽草】っていうのしか採れなかったよ?」

「それは【夜】だからだろう? 【太陽草】は【昼】に行かんと採れんぞ?」

「じゃあ【夜】に現地調合しようと思ったら、どうすればいいの?」

「諦めるか、もし【回復薬】を持っているのなら、【回復薬グレート】にしちまうか、だな。調合素材は分かるか?」

「うん。あたし大好きだから分かるよ♪ 【ハチミツ】でしょ」

「正解だ。まあこの前も採取中にこっそり舐めてたもんな」

 

 ハナはげんこつされた事を思い出して、頭を押さえながらペロッと舌を出した。

 

「【大食いマグロ】や【ドス大食いマグロ】を釣って【秘薬】が胃に残っているのを期待する、という手もあるにはあるが、現実的とは言えんからなぁ」

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

「でもあのお魚、いろんなもの食べてるよね」

「まあ【大食い】という名前が付いちゃあいるが、あれじゃ【暴食】だわな」

「そうかも」

 

 ハナは可笑しそうに笑った。

 

「体力回復だけじゃなくて、スタミナ回復もせにゃならん。その調合があるのは知ってるか?」

「え? 【こんがり肉】じゃダメなの?」

「まあ大抵はそれで解決するんだが、俺の場合はいちいち焼くのが面倒臭ぇもんだから、【元気ドリンコ】を持参してるんだよ。その調合にさっき言った【落陽草】が必要になるんだ。ちなみにもう一つの調合素材は【ハチミツ】な」

「なによぉ、【ハチミツ】一杯いるじゃないのよぉ」

「そうだぞ? だからこっそり舐めてる場合じゃねぇぞ?」

 

 ハナは苦笑いした。

 

「回復系は多く持てる【回復薬】と【回復薬グレート】を持って行けば大抵は事足りるが、いざという時にはちと物足りん回復量でな。そのために【秘薬】をポーチに忍ばせておいた方が心強い。あの薬は体力が満タンになるからな」

「【秘薬】って、二個しか持てないよね?」

「貴重だからな。だから調合素材も手に入り辛い。まず【太陽草】【落陽草】【アオキノコ】を三種調合するか、もしくは【アオキノコ】と【不死虫】を二種調合して【栄養剤】を作るだろ。そいつに【ハチミツ】を交ぜるか【ハチミツ】【アオキノコ】【不死虫】と三種調合するかして【栄養剤グレート】を作る。そんでもって、それに貴重なキノコである【マンドラゴラ】を交ぜて初めて【秘薬】になる。ちなみに他の調合では【栄養剤】【ハチミツ】【マンドラゴラ】の三種調合と、【ラオシャンロン】から剥げる【龍薬石】に【回復薬】【回復薬グレート】を交ぜる、ってな方法もあるぞ」

 

「なんか頭痛くなってきちゃった……」

 

「調合っつうのは【二種調合】と【三種調合】ってぇのがあるからな。全部覚えようとするとけっこう大変なんだわ」

「ベナは全部覚えてるの?」

「あたぼぉよ! と言いてぇとこだが膨大なもんでな。調合が成功した物は全部メモしてるんだよ」

 見せてもらうと回復系はもちろんの事、中には【弾】やら【ビン】やらという類いもあった。

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

「ねぇベナ、あんたが【ボウガン】や【弓】を使ってるとこ見た事ないんだけど、こんな調合して役に立つの?」

「知ってると知らねぇとは大違いだぞハナ。特に【状態異常】を起こすものや、よく使われる【貫通弾】【通常弾】【散弾】【拡散弾】なんかの調合を覚えとかねぇと、いざ使う時になって役に立たねぇぞ」

「その『いざ』っていつ来るのよ?」

「お前は知らんだろうが、必要に応じて使う事もあるんだよ。こう見えてな」

「ほんとぉ!?」

 

 【ガンナー】は【火事場】でやる事が多いため、とてもそんな【クエスト】にはハナは連れて行けないのだ。

 

「まあ【ハンマー】担いでた方が、俺には性に合ってるよ」

 これ以上深入りすると「連れて行け」と言われかねないので、早々に【ガンナー】の話は切り上げた。

「そうでしょおねぇ……!」

 

 彼女が深く詮索しない性格で良かったと、ベナトールは思った。

  




この調合は、あくまでも「フロンティア」で使われている調合のやり方なので、他のモンスターハンターシリーズでは素材が違う調合になっているかもしれません。
ので、もし「素材が違うよ」と思われたとしてもスルーして下さい。

なお、文中では「森丘と塔しか薬草は採れない」となっていますが、今現在の「フロンティアZ」では「樹海」「潮島」「高地」でも採る事が出来ます。
この頃はまだそれらのフィールドが狩場として開発提供されてなかったんです(苦しい言い訳)。


「肉焼き」の話が出たついでに「肉焼き機(肉焼きセット)」の豆知識をひとつ。
この「肉焼き機」、水の上だろうが崖の端など足場の不安定な所だろうがどんな場所でも焼けるように工夫されているのですが、そんな不安定な所で水平に保つようにかそんな場所では「つっかえ棒」が出て来るんですよ。
(他のシリーズでは分かりませんが)

【挿絵表示】

で、「密林」のキャンプ背後の崖を登ってその縁ギリギリで焼こうとすると「肉焼き機」が崖からはみ出る形になるんですが、その時だけ普段の「つっかえ棒」より長い「ロングつっかえ棒」が出て来るんですよ。

【挿絵表示】

これは「フロンティア」の元になった「モンスターハンター2(ドス)」の頃からそうなっていて、「良く出来てるな~~!」と感心したギミックの一つなんです。


こういうのを見ると、いかに細部までこの世界が設定されて創造されたか分かりますよね。


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暴君の虎

これを読んだ時、友人は「ほのぼの師弟関係」と言ってました(笑)


 

 

 

 そろそろ、ハナを本格的な狩りに連れて行く頃合いかもしれんな……。

 

 ベナトールはそう考えていた。

 が、なるべく危険な橋は渡らせたくないとも考えた。

 

 ちと過保護だろうか……?

 

 広場の椅子に座ってそんなふうに考えを巡らせていると、いきなり後ろからどつかれた。

「なにボーっとしてんのよっ」

 

 ハナである。

 

 ベナトールは苦笑いして返す。

「ねえねえ、【砂漠】の夜ってさ、月とか星とかが綺麗なんでしょ?」

「まあ昼と違って空気が澄んでるから、景色はハッキリしてるがな」

「行きたいっ!」

「お前はいつも急だな。今は昼だろうが」

「う……」

「いくら俺でも時間は進められんぞ? 夜まで我慢するこったな」

「はぁい……」

 渋々部屋に戻って行く彼女を苦笑して見送りながら、それでも途中で「おいハナよ。夜までに【ハチミツ】でも採りに行くか?」と誘って採取したりしていた。 

 

 

日が落ちる頃に出発し、夜の砂漠へ。

「綺麗~~~!」

 【ベースキャンプ】から古井戸へ飛び込み、地図でいう《5》に入った途端、ハナが感慨の声を漏らす。

 青白い月が夜空に浮かび、星々の間を時々流星が流れる様は、なんとも神秘的である。

「けど、寒いね」

 息が白くなっているのを見て、そうも言った。

「ほらよ」

 ベナトールは自分のポーチから【ホットドリンク】を出してハナに差し出した。

「ありがと」

 ハナはお礼を言って飲む。

 ハナに前もって言って置いてもどうせ忘れてしまうので、もう自然な流れになってしまっている。

 

 少し進んだ二人は、砂煙で霞んだ遠くの方に、何やら動きがあるのに気が付いた。

 その大きなシルエットは明らかに【モンスター】だと分かるものだったが、砂漠にもよく来る【リオレイア】とは形が違う。

 ゆっくりとした動作でこちらに向かって来ていた【それ】の、徐々に現れた姿を見て、ベナトールは戦慄した。

 

「――【ティガレックス】!?」

 

 黄褐色に青味がかった縞の入る、独特の体色。

 力強い筋肉が付く巨大な前脚や顎とは正反対の、貧弱そうな後ろ脚。

 頭でっかちで上半身の方が発達しているため、アンバランスに見えるその姿は、一見滑稽にも見えるのだが……。

 

「でっか~~~い!」

 

 油断なく身構えているベナトールの隣で、緊張の欠片も無い声を上げるハナ。

 その声が大きかったのもあってこちらを向いた【ティガレックス】は、飛び退りながら体勢を正面に向け、威嚇した。

 

 直後に真っ直ぐに突っ込んで来る。

 

 ガシガシと地面を掴むような突進の仕方に脅威を感じたか、そのまま凍り付くハナ。

 それを掻っ攫って横に避けるベナトール。

 相手の突進は止まらずに、途中で急激に方向転換して再び向かって来る。

 ハナを放り出したベナトールは力を溜めつつその正面に陣取ると、馬鹿でかい口が彼に到達する前に【ハンマー】を叩き付けた。

 悲鳴を上げて怯む相手に振り上げからの叩き付け。

 巨大な前脚を振りかざして吹っ飛ばそうとするのを横転して避け、向き直る。

 巨大な顎をがばりと開け、噛み付こうとした【ティガレックス】だったが、その前に下顎に【ハンマー】を叩き付けられて昏倒した。

 

 身を竦ませて見ていたハナは、ここぞとばかりに近付いて、「えいえいっ」と前足の先を切り付けている。

 

【挿絵表示】

 

 倒れたり昏倒したりする大きな隙にしか攻撃出来ていなかったが、【麻痺属性】の片手剣である【デスパライズ】の威力が発揮され、【ティガレックス】は麻痺った。

「でかした、ハナ!」

 珍しく褒められて、彼女は嬉しそうだ。

 

 ゴアアアア!!!

 

麻痺の解けた【ティガレックス】は、飛び退りつつ特大に吠えた。

 興奮して血流が上がり、足先や目元などが赤くなっている。

 近付き過ぎていたハナは、咆哮の衝撃で吹っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

 【バインドボイス】というもので、あまりにも咆哮の音圧が高いために、音自体に衝撃波が加わるのだ。

 遠くに転がって行ったハナに、【ティガレックス】は片前足をヒョイと上げ、まるで人の子がボールを投げるかのように砂の塊を放り投げた。

 

【挿絵表示】

 

 予測していたベナトールは四つん這いになって彼女を覆い、それを背中で受ける。

 ドガガガッ! と砕けた砂が背を打ったが、彼はビクともしない。

「痛くないの!?」

 驚いて聞くハナに、ベナトールは「何がだ?」と言った。

 

 起き上がって対峙した彼は、もう一度砂塊を投げられる前に【閃光玉】を投げた。

 目が見えなくなった【ティガレックス】は、その場で吠えながら闇雲に噛み付いたり体を回転させたりして暴れている。

 頭に陣取って攻撃するベナトールと、足先に陣取って切り付けるハナ。

 それぞれに部位破壊を成功させ、尚且つ昏倒、転倒、麻痺など、ベナトールだけでなくハナも意外に有利に立ち回っている。

 が、怒りが収まったと思ってもすぐにまた怒り出してしまうため、ハナは追い掛けられる度にきゃあきゃあ言いながらバタバタと逃げ回っていた。

  

 

 突進を誘発させると(ハナが)うるさいのと、怒り時はスピードが増して危険なので、ベナトールは【閃光玉】で動きを封じつつ攻撃している。

 その間にハナも攻撃機会が増え、麻痺も多くかかるようになっていた。

 やがて一度攻撃したくらいで怒り状態に入るようになったため、ベナトールは瀕死になったとみて足元に罠を掛け、【捕獲用麻酔玉】を投げた。

 大鼾をかいて眠り始めた【ティガレックス】を見て、ハナはホッとした表情をしている。

 

 そんなハナを見て、ベナトールは意外にも成長していたのだなと思った。




ハナを庇って砂塊を受けた時、痛いのに痩せ我慢してたのは内緒(笑)

「落ち込む」のアクションを使えば本文のように「四つん這いで覆う」という恰好が出来るのですが、「パートナー」にアクションを指定する事は(システム上)不可能なため、挿絵では中途半端な撮影になっております。


ちなみにタイトルの「暴君の虎」ですが、これは「ティガレックス」をそのまま日本語に訳したものです。


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キケンな女の子

区別を付ける目的で便宜上「亜種」となっているだけで、実は雌なんだそうです。
なんでも卵を持っている時期だけに色を変える「婚姻色」、または気が立っている事を相手に知らせる「警戒色」の役割があるのだとか。

これは「グラビモス亜種」でも同じなんだそうです。


こういう「生物らしい設定」も、私が「モンスターハンター」というゲームを好きな理由だったりします。


 

 

 

「アレク、この素材って、【ディアブロス】のだよね?」

 【武具工房】で必要素材をメモって来たらしいカイが、広場にいたアレクトロに聞いた。

「あぁ、【ディア】だな」

 

「でも【黒巻き角】って……」

 

「【黒ディア】のやつだな」

「【黒ディア】って、要は【ディアブロス亜種】の事だよね?」

「だな」

「その角がいるらしいんだけど……」

 

「頑張れ」

 ニカッと笑うアレクトロ。

 

「いやいや手伝ってよ! 【黒ディア】がいかに手強いか知ってるだろぉ!?」

 アレクトロの両肩を掴んで揺するカイ。

「ったくしょうがねぇなぁ! おめぇもやっかいな素材が必要になったもんだな」

「そんな事言ったって、必要になったもんは仕方ないだろぉ」

 

「けど、ちと二人じゃ心許ねぇな……」

 

 そう呟いたアレクトロは、「オッサンも誘うか」と言った。

 

 

 二人でベナトールを見付けたら、そこにハナもいた。

 彼に事情を話すと快諾してくれたものの、「物は相談なんだが……」と持ち掛けられる。

 

「断る」

 アレクトロは、話も聞かずに答えた。

 

「アレク、断るの早すぎぃ」

「そうだよ。話ぐらいは聞こうよ」

 カイとハナの抗議を聞きながら、「どうせ『ハナも連れて行け』とか、そんなようなこったろ」とアレクトロは言った。

「よく分かったな」

「バレバレだっつの」

 そこでアレクトロは、「でもよ」とハナに背を向け、ベナトールの肩を抱いてこちらもハナに背を向けさせると、「あんな手強いのに連れてって大丈夫かよ?」とヒソヒソ声で言った。

 

「そこなんだが……」

 

 ベナトールもヒソヒソ声になると、「この前二人で【ティガレックス】に挑んだんだがよ、意外にも割と良い動きをしてたんだわ」と言う。

「へぇ……」

「だからよ、今回も体験させる良い機会だと思うんだよな。お前らも行くんなら俺だけだと護り切れんという事はねぇだろうし」

「連れてくのは構わねぇが、万が一護れなくても、俺は責任取らんからな」

「そこまでお前に責任押し付ける気はねぇよ」

 

 二人が自分に背中を向けて、何やらヒソヒソと話し合っているのが気に入らないハナは、「ちょっと、のけ者にしないでくれるぅ?」とすねている。

 

「いやなに、こっちの話だよ」

 誤魔化し笑いをしたベナトールは、「ハナよ、今日は【音爆弾】の使い方を教えてやろう」と切り出した。

「【音爆弾】? なにそれ?」

 

「投げると大きな音が出る爆弾? でいいのかな?」

 いまいち自信が無さそうなカイ。

 

「しかもな、相手は雌の【モンスター】だ」

「女の子なの?」

「だな。しかも()()()()()()()()()()やつだぜ?」

 アレクトロがニヤニヤ笑いながら言う。

「へぇ~~、楽しみっ♪」

 喜ぶハナを見て、カイは苦笑いした。

 

 

 一行が【砂漠】に着いたのは、夜だった。

 【ベースキャンプ】から古井戸に飛び下り、地図でいう《7》へ。

 【ディアブロス亜種】は必ず最初にここにいるはずなので、急いで行くと間に合うはずなのだが――。

「おいらが投げるよ」

 そう宣言し、最初に【音爆弾】を投げたのはカイだった。

 

 キィン!

 

 甲高い金属音のような音が辺りに響き渡る。

 【ガレオス】【ドスガレオス】【(亜種も含めた)ディアブロス】【(亜種も含めた)モノブロス】などの砂地に潜る習性のある【モンスター】にとって、この音程耳障りなものは無いようで、これを投げると一発でたまらずに飛び出て来るのだ。

 

 だが、そのはずなのに、シーンと静まり返った。

 

「……オイ」

「えっと……」

「もしかして、失敗した?」

「ちいっとばかし、遅く着いちまったようだな」

 カイは「あは、あははは……」と引き攣った笑い方をした。

 

 次に移動する場所は分かっているので、追い掛けて《5》へ。

 広い砂漠地帯に移動してしまったため、【音爆弾】を投げる前に見付かってしまった。

「まっくろ……」

 ハナは【ディアブロス亜種】を見てそう言っている。

 

 恐らく、もっと可愛らしい姿を想像していたのだろう。

 

「な、魅力的だろ?」

 アレクトロがニヤニヤした。 

 相手は頭を低くして構えると、そんなハナを見透かすように真っ直ぐ向かって行った。

 案の定きゃあきゃあ言っている彼女を、ごく自然な流れで掻っ攫って避けるベナトール。

「うるせぇよおめぇは!」

 ハナに対して叫びながら、【ディアブロス亜種】に切り付けるアレクトロ。

 潜った相手に対し、今度こそ【音爆弾】を投げつけるカイ。

 

 【ディアブロス亜種】がたまらずに上半身だけ出したところを一斉に攻撃すると、麻痺った。

 

「でかしたハナ!」

「いやカイも麻痺太刀だし」

 皮肉めいた笑いで突っ込むアレクトロ。

 頭を叩いていたベナトールは、まずは一本目の角を折り取った。

 麻痺から覚めた【ディアブロス亜種】は、直後に昏倒した。

 ここまでは順調な流れで優位な攻撃を続けられている。

 

 が、砂から飛び出した相手が唸り、口から黒々とした煙を吐くようになってからは戦況が悪化した。

 

 即座に潜った【ディアブロス亜種】の、あまりの速さに【音爆弾】が間に合わない。

 そもそも怒り時は【音爆弾】が効かなくなるので投げても無駄である。

 

 そしてとうとう、ハナが突き上げを食らって遠くに飛ばされた。

 

「ハナ!?」

「ハナ!!」

 カイとベナトールが同時に叫ぶ。

 砂から出た【ディアブロス亜種】は、まだ起き上がれないでいるハナに真っ直ぐに向かって行く。

 ベナトールは彼女の前に立ちはだかり、体を硬くした。

 顔を上げたハナは、彼がまだ残っていた角の一本で串刺しにされる姿を想像してギュッと目を閉じた。

 

 ガキィン!!

 

だが聞こえて来たのは体を貫く音ではなく、硬い物同士がぶつかり合うような音だった。

 

「馬鹿かてめぇは?」

 

 アレクトロがベナトールの前にいる。

 ガード姿勢で角を防いでいる。

 

 彼はギチギチと音を立てて相手と力比べをしながら、「ガード出来ねぇ武器だからって、てめぇを犠牲にしてどうすんだっつの」と言った。

「いくらてめぇの防具が頑丈だからってなぁ、コイツの突進受けりゃ貫通するっつの。自分を犠牲にしてまで護りたいってのは見上げた根性だが、そのためにてめぇが死んだら、次誰がソイツを護んだよ? 言っとくが俺は願い下げだぜ」

 力比べに負けて一旦退いた【ディアブロス亜種】は、悔し気に吠えた。

 

 ギオォオオ~~~ン!!

 

巨体の割にはやたらと甲高い声である。

 この大音量のために鼓膜を破られたハンターもいるという噂だが、アレクトロは意に介さずに真っ直ぐに立ち向かって行った。

 その後ろ姿を見ながらハナを回復させたベナトールは、心の中だけで感謝の意を示した。

 カイははらはらしながらアレクトロの言動を気にしていたが、無事に闘いに戻ったのを見てホッと息を吐いた。

 

 

 二本とも角を折り取る事に成功し、尻尾も切るなど全部位破壊を成立した四人。

 【ディアブロス亜種】の素材は貴重なので、ついでに討伐して剥げるだけ剥ぎ、【街】に戻って行った。

 

 が、カイが落ち込んでいるので何事かと思ったら――。

 

「……報酬でね、【上質なねじれた角】しか貰えなかった」

「……ドンマイ」

 ニヤニヤ笑いながら肩を叩くアレクトロ。

 

 実は彼には貰えていたのだ。

 

「また手伝ってやるからそう落ち込むなカイよ。俺はもう【黒巻き角】はいらんがな」

 ベナトールも貰えている様子。

 

「私は【上等なねじれた角】の方が欲しかったなぁ……」

 よく分りもしないのに、【上等な】という言葉の響きだけで羨ましがるハナ。 

 

「もしかして貰えてないのおいらだけかよ!?」

「【物欲センサー】って奴か?」

「みてぇだな」

 

 ハナにまで「ドンマイ」と言われたカイは、「みんなしてなんだよぉ!」と叫んで余計に笑いを買っていた。    




「物欲センサー」って、やっかいですよね(笑)
私も随分これに悩まされました。


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誰が【死神】に好かれたのか

リアルの時系列では間に何作品か書いているんですが、「キケンな女の子」の続きのような話になったのもあって、先にこちらを「次話投稿」いたします。


 

 

 

「アレク、相談があるんだけど……」

 ある昼下がり、珍しく神妙な顔をして、カイが言った。

「なんだよ改まって? らしくねぇな」

「あのね、この前【黒巻き角】を取りに行って結局おいらだけ貰えなかったでしょ? でね、もしかしたら一頭クエより二頭クエの方で角を折った方が、貰える確率が上がるんじゃないかって思ったんだよね」

「考え方は悪くねぇが……」

「やっぱ、キツイよね……」

 

 上位【ディアブロス亜種】が二頭出る【クエスト】は、その過酷さ故に【死神】と呼ばれている。

 

 顔を曇らせるカイに対し、アレクトロも神妙に考えてから、口を開いた。

 

「ま、なんとかなんだろ」

 

「そうかなぁ……」

 そこで、再びベナトールの元へと二人で赴く。

やはりというか、ハナもいた。

 

「ふむ……」

 

 ベナトールも腕組みして考えてから、「なんとかなんだろ」と言った。

「あたしも行く!」

「てめぇ、空気読みやがれ!」 

 ハナの発言に突っ込んだのはアレクトロである。

「ハッキリ言っとくがな、おめぇは足手纏いなんだよ。今回は特に、おめぇが行く事でオッサンの負担が増える事に気付きやがれ」

「でもっ! でも一人だけ残るのはヤダもん。じゃあせめて【回復係】でもいいからっ! 行かせてお願いっ!」

「気絶させて部屋にぶち込むぞてめぇ!」

 ハナの胸倉を掴もうとするアレクトロを、無言で制するベナトール。

「オッサンも黙ってねぇで止めやがれ!」

 

「ハナよ……」

 

 ベナトールはハナに静かに語りかけた。

「ならば約束してくれ。常に安全な所にいる、と」

「それじゃあ闘えないじゃないっ」

「ハナよ。今回は前のように、一頭だけではないのだ。時にはあの手強い【ディアブロス亜種】が、二頭同時に同じ場所で入り乱れる事もあるだろう。そんな中でお前に参加されては、俺は護り切れる自信が無いし、集中して闘えん」

「オッサンよ、何で参加限定で考えてんだよ? 止めりゃあ良い話だろうが」

「【大長老】様に、『多少痛い目に合わせても構わん』と言われているのでな」

 

 ニヤリと笑うベナトール。

 

「いやいや多少どころか死ぬっつの!」

「分かった。無茶しないで大人しくしてる。それでいいんでしょ?」

 ベナトールは優しく笑って、いつものようにポンポンと彼女の頭を軽く叩いた。

「いやおめぇも諦めろよ!」

 アレクトロは抗議したが、結局みんなで行く事に決まってしまった。

 

 

 彼女を工房に連れて行ったベナトールは、元々〈広域化+1〉が付いている【リオハートシリーズ】のスキルを【装飾品】で工夫して〈広域化+2〉にし、ついでに〈耐震+1〉も付けさせた。

 

 これには彼の意図があった。

 

 スキル構成を説明して彼女に「何かあったら回復してくれ」と頼み、【調合書】やら調合用の回復系などを持てるだけ持たせて夜の【砂漠】へ。

 まず【彼女】らが最初にいる《5》へ向かい、二頭に【ペイントボール】をぶつけてから、他のエリアへ。

 それぞれが分かれて別の場所に移ったのを確認してから、アレクトロとカイ、ベナトールとハナで組んで分かれ、一頭ずつを相手にする。

 

 

 《3》に移動した一頭を担当する事になったベナトールは、まずハナを高台に上がらせた。

「そこから動くんじゃねぇぞ」

 そう念を押し、相手をわざと突進させた。

 高台に向かって真っ直ぐ突進して行った【ディアブロス亜種】は、高台の縁に角が突き刺さり、しばらく身動きが取れなくなった。

「今だハナ!」

 そう声をかけてハナに攻撃させる。

「こうすれば、少しは戦闘に参加出来るだろ」

 

 彼はこれを見越して彼女に〈耐震+1〉のスキルを付けさせたのだった。

 なぜなら壁に角が刺さった振動を、スキルが抑えるからである。

 

「ありがとベナ♪」

 彼女は戦闘に参加出来て嬉しそうだ。

「くれぐれも、そこから降りてくれるなよ?」

「分かった」

 

 

 一方、《7》に移動した一頭を担当する事になったアレクトロとカイは、【音爆弾】を駆使して地面に潜った相手を引き摺り出しつつ闘っていた。

 相手が【音爆弾】の呪縛から解けて地面から出るタイミングを見計らい、攻撃の手数を減らしたアレクトロ。

 【彼女】の前に移動すると、飛び上がった瞬間に【閃光玉】を投げた。

 即座に落ちる【彼女】。

「上手いっ!」

 カイは感心している。

「感心してねぇでおめぇもタイミング覚えやがれ!」

 アレクトロは文句を言っている。

 その内【彼女】が麻痺ったので、頭に最大溜めをかましたりしている。

 カイは麻痺って下がった尻尾に切り掛かっていた。

 

 

 【彼女】が怒り出したのを察したベナトールは、高台まで誘導するのをやめた。

 例え相手がいくら攻撃しようが高台には届かないのだが、個体の大きさによっては振り回した角や尻尾がハナに当たる可能性があったからである。

 が、《3》は狭いため、潜られると避けにくい場合があった。

「ベナ! 頑張れっ!」

 ハナは応援しながら回復させている。

 ベナトールは親指を立てて答えた。

 

 と、距離感を誤ったか、壁際まで追い詰められた。

 横に避けようとした彼に、それを読んだかのように【彼女】が踏み込んだ。

 

 ドシュッ!

 

 体を貫く音が聞こえ、ベナトールは【彼女】の片方の角に捉えられてしまった。

 

 不覚……!

 

 角は、彼の腹を貫通している。

「ゴボアァ!!」

 ベナトールは血を吐きながらも吠えると、そのまま【ハンマー】を振り回し、なんと角を叩き折った。 

 相手が悲鳴を上げて退いた隙に転がって脱出。

 が、腹を押さえつつ地面に片手を付いて呻いた。

「ベナ!!」

「来るなハナ!!!」

 言い付けを忘れて思わず駆け寄ろうとしたハナは、ビクッとなって止まった。

「……そこから降りるなと言ったろう」

「でもっ! でもっ!」

「一歩でもそこから降りてみろ、気絶させて【キャンプ】送りにするからな」

 

 ハナは泣きながら留まった。

 

 せめて少しでも回復させようと、〈広域化+2〉で回復範囲が広くなった【生命の粉塵】を投げる。

「……ありがとよ……」

 ベナトールは荒い息を吐きつつ言った。

 

 

 怒った【彼女】に翻弄されていたカイは、突進終わりに後ろから切り掛かった際、左右に振る尻尾に跳ね飛ばされてしまった。

「カイ!!」

 呼び掛けたアレクトロは、起き上がろうとしたカイが脇の下あたりを押さえて呻いているのを見る。

 

 しまった、アバラを折られたか――!?

 

駆け寄った彼だが【彼女】が潜った事による勢いで、少し怯んでしまう。

 その隙に突き上げを食らって更に吹っ飛ぶカイ。

 幸いにもというのか、角は二本とも既に折っていたため、角で刺される事はなかったようである。

 地面に仰向け状態で叩き付けられた彼は、動かなくなった。

 攻撃して注意を逸らしている間に【アイルー】たちがやって来て、カイは【猫車】で運ばれて行った。

 そのタイミングで、アレクトロ達が担当していた一頭が移動した。

 

 

 《2》に移動した事が分かったので《3》を経由しようと入ると、そこではベナトールがもう一頭と闘っていた。

 

 まず見えたのは、ベナトールの腹に、折り取られた角の一本が刺さっている事。

 刺さったまま闘っているのは抜くと大出血をするからだろうが、血を滴らせながら闘っている様は、なんとも痛々しい。

 

「おいオッサン、大丈夫かよ!?」

 

 もう少しだろうから先にこっちを討伐しようと決めたアレクトロは、ベナトールと共に闘いながら声をかけた。

「なんとか……。ちとキツイがな」

 荒い息を吐きながら答えるベナトール。

 近付いて分かったが、兜の口あたりにも結構な量の血が付いている。

 

 恐らく何度か吐血もしているのだろう。

 

 アレクトロは、自分が参戦しなければ危なかったのだと思い知った。

 とっくに気絶していてもおかしくない状態で闘えるのは、彼の精神力の強さなのか、ハナを護ろうとする意志なのか、それともただの戦闘本能なのか――。

 

 その時、【生命の粉塵】が飛んで来た。

 

「ハナはあそこか。上手い事考えやがったなオッサン」

 高台にいるハナに、感謝の合図を送りながらアレクトロは言った。

「まあな……。カイは、どうした?」

「気絶して【ベースキャンプ】まで運ばれてったよ」

「そうか……」

「死んでねぇだろうけど、あっちはあっちで心配だから、さっさとケリ付けようぜ!」

「……だな!」

 

 屈強な【剣士】が二人に増えた事で、途端に【彼女】は分が悪くなった。

 

 念のために残しておいたもう一本の角を、もう必要ないので折り取るベナトール。

 既に一度攻撃しただけでも怒り状態に入るようになっていたため、アレクトロはなるべくベナトールを動かさないように【閃光玉】を使ったり、足元を切って転ばせたりして突進や潜行を止めた。 

 彼のために調合も含めた【閃光玉】を、ここで使い切るつもりでいたアレクトロ。

 だがもうかなり【彼女】は弱っていたようで、彼が参戦して間もなく、倒れ伏して動かなくなった。

 

 それを確認するや否や、膝から崩れるベナトール。

 

「ベナ! ベナ!!」

 泣きじゃくりながら、ハナが駆け寄った。

「ハナ。回復助かったぜ……」

 彼女の頭をポンポンと叩いた後、刺さっていたままの角を掴むと、自ら一気に引き抜いた。

「うぐっ!!!」

 呻きはしたが、叫び声は上げない。

(代わりにハナが悲鳴を上げたが) 

 壮絶な痛みのはずなのに、なんて精神力だとアレクトロは思った。

 

 今まで抑えられていた分の出血が一気に噴き出したように、血飛沫が上がる。

 

「ガボッ!!!」

 何度目かの血を吐いたベナトールは、それでも自分でポーチを弄って、【秘薬】を飲み下した。

 

「……。ふ~~~っ」

 

 【秘薬】が効いてきたベナトールは、大きく息を付いた。

「本当に大丈夫かよ?」

 アレクトロは半ば呆れている。

「あぁ、もうこの通りよ!」

 ベナトールは口元の血を拭いつつ、回復系を飲んだ時のようなガッツポーズをして見せた。

 

「……良かった……」

 ハナはへなへなと座り込んだ。

 

「心配かけてすまなかったなハナ。それから、参戦してくれて助かったわアレク。ありがとよ」

「オッサンがヘマこいてるとは思わなかったがな」

「俺は完璧な人間じゃねぇぞ? ヘマもするさ」

「――に、してもすげぇ精神力だなあんた。俺ならとっくに気絶してるぜ」

「……。今まで独りで狩ってたからな。これぐらいの事で気絶しちまったら逆にやられちまう」

()()()()()()()ねぇ……」 

 

 と、その時地響きがしたと思ったら、勢いよく地面から飛び出したものがいた。

 

「こっちに来たようだな」

 アレクトロとカイが担当していた一頭である。

「丁度良いや。ここで討伐しちまおうぜオッサン!」

「おうよ!」

 二手に分かれて構えるベナトールとアレクトロ。

 ハナも一応構える素振りを見せたが、二人に睨まれて(といっても兜で表情は分からないので雰囲気を察して)高台へと走って行く。

 

 それを追うように【彼女】が突進した。

 

「ハナ!!」

 ベナトールは駆け寄ったが彼女から離れていたため、間に合わなかった。

「チイッ!」

 アレクトロの方が近かったので、切り上げて高台に放り上げる。

「恩に着るぜアレク!」

 ベナトールは礼を言ったが、アレクトロは「ケッ!」とむくれたようにして【彼女】に向かって行った。

「いった~~い!」

 高台に落ちたハナは、「ひどぉい!」と文句を言っている。

 

 その内、回復したらしいカイも戻って来たので三人で一斉に攻撃し、もう一頭も討伐した。

 

 

 【クエスト成功】して【街】に帰った一行は、まずカイの発言を待った。

 

「貰えたよ! しかも二本も♪」

 

 顔を輝かせる彼に、「良かったな。貰えてなかったらブチ殺すとこだったぜ」とアレクトロ。

「殺されなくて良かったね♪」

 違う事で喜んでいるハナに、「う、うん……」と苦笑いするカイ。

「そうだぜ? これで【黒巻き角】が無かった日にゃ、死んだオッサンも浮かばれねぇっつの」

「おいコラ、勝手に殺すな!」

 そう言いながら、アレクトロの首をわざとホールドするベナトール。

「ばっ! 痛ぇって! マジで首折れるっつの!!」

 もがくアレクトロを笑って見ながら、「でもホントに危なかったんだよ? カイ。あんたは見てないだろうけど」と、ハナはカイに説明した。

「そっかぁ……。危ない目に合わせてごめんなさい」

 シュンとなったカイを見て、「おめぇは本当に可愛い奴だなぁ!」と豪快に笑うベナトール。

 

 滅多に笑わないベナトールが大笑いしているのを見て周囲がざわつくのが面白くて、残りの三人もそれぞれの笑い方で笑った。




この時悩みがあった友人は、四人が仲良くしている様を見て元気を貰い、悩みが吹き飛んだそうな。

オッサンが死にかけたというのに、変わった奴だ(笑)


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砂まみれで痺れる

これは「二頭クエ」のお題を友人から貰って書いたものです。
ですが、今読み返すと「キケンな女の子」の続きのような内容になっているので、「キケンな女の子」の続きとして載せても良かったかもしれませんね。


 

 

「ハナよ。【音爆弾】の使い方は、もう分かったか?」

 【ディアブロス亜種】を狩った次の日、ベナトールはそう聞いた。

「ん~~~、よく分かんなかった」

 

 てへっと笑うハナ。

 

「なら復習に行くか」

「もうあの子に会うのヤダ。女の子なのにすんごく乱暴なんだもん」

「ならば【ドスガレオス】あたりで練習するか」

「なにその【モンスター】?」

「【ガノトトス】を狩った事を覚えているか? 奴と同じ【魚竜種】でな。水ではなくて砂を泳ぐんだよ」

「砂の中を泳ぐの!? へんなの~~」

 

 

 昼に【砂漠】に着いた二人は、今日は【ベースキャンプ】の古井戸からは入らずに、そのまま道なりに《2》へ出た。

「あっついぃ~~!」

 文句を言うハナに【クーラードリンク】を渡したベナトールは、自分も飲みつつ数歩進んだ。

 

 そこでは【ガレオス】が数頭、グルグルと周回しながら泳いでいる。

 

 まず【ガレオス】に対して【音爆弾】を投げて見せたベナトールは、「ほれやってみろ」とハナを促した。

 だが、案の定タイミングが合わずに、とっくに相手が通り過ぎたあたりで投げてしまっている。

 ベナトールは苦笑いしながら、「もっと練習が必要だなぁ」と言った。

 

 と、砂色の背ビレの中に、異様に大きく黒味がかった背ビレがあるのに彼は気付いた。

 しかも偶然にもタイミングが合ったハナが、そのでかい背ビレの主を砂から引き摺り出した。

 

「またまっくろじゃん!」

 ハナはビチビチと砂地を跳ねる相手を見て、そんな事を言っている。

「まあこいつは雌じゃねぇがな」

 ベナトールは苦笑して言った。

 慌てて砂の中に潜ろうとする【ドスガレオス】に【ハンマー】を叩き付け、阻止するベナトール。

 ハナは大き過ぎて他の部位に届かないので、足元で一生懸命に切っている。

 だがたまにタックルされて、吹っ飛ばされたりしていた。

 

 

 それは、戦闘開始からそれ程経っていないと思われる頃だった。

 頭を狙って叩き付けようと最大溜めを振り被ったベナトールは、いきなり真横から飛び蹴りを食らって吹っ飛ばされた。

 

「――!?」

 

 次の瞬間痺れて動けなくなる。

 そんな彼を馬鹿にするかのように、吠えたものがいた。

 

 ギャウッギャウッ!

 

 【ドスゲネポス】か……。

 

 【ゲネポス】よりもドスの効いた声が耳に入ったベナトールは、苦々し気に心で呟いた。

 目だけを動かして周りを見た彼は、【ゲネポス】を引き連れていないのを知る。

 

 恐らく成長して、群れから離れたばかりの若い雄なのだろう。

 

「ベナ? どしたの大丈夫!?」

 急に倒れて痙攣している彼を見て、心配そうに言うハナ。

 

 が、悲劇はそれだけでは終わらなかった。

 今までよくもやってくれたなとばかりに、【ドスガレオス】が圧縮した砂のブレスを彼めがけて吹きかけたのである。

 

「ぐおっ!?」

 更に吹っ飛ばされるベナトール。

 だがこれで麻痺は解けたため、再び【ドスガレオス】に対峙しようとすると――。

 

 ガブッ!

 

「邪魔なんじゃコラ~~~!!!」

 ベナトールはとうとうキレた。

 

【挿絵表示】

 

 だが【ドスガレオス】そっちのけで【ドスゲネポス】を追い掛けるとハナから離れてしまうので、どちらも相手をしなければならない。

 幸い足元に陣取っているからなのか、ハナには【ドスゲネポス】の攻撃は届いていないようなのだが、そのせいで二頭ともに自分に攻撃を集中され、忙しいったらない。

 

【挿絵表示】

 

 それでもどうにか先に攻撃を加えていた【ドスガレオス】の方が弱ったようで、部位破壊されてギザギザになった背ビレを畳んで移動した。

 これ幸いと、残った【ドスゲネポス】を二人で倒すと、寝ていると思われる《7》へ向かった。

 

「なんか、可愛いね」

 立ったままスヤスヤと寝ている【ドスガレオス】を見て、ハナが言う。

 

【挿絵表示】

 

 ベナトールは無言で足元に【シビレ罠】を仕掛け、捕獲した。

 そのままにしておいてやろうかとも思ったのだが、それだと【クエスト失敗】になってしまうので、討伐にはしないでやったのだ。

 

「結局、よく分かんなかった。【音爆弾】のタイミング」

 

 そう呟いたハナに対し、ベナトールは久しぶりに、こめかみに血管を浮かせて引き攣り笑いをしたのだった。   




「ドスゲネポス」の飛び蹴りをわざと食らってベナトールが痺れるのを再現しようと思ったんですが、上手くいきませんでした。
闘っているシーンは二頭いる間に撮影しないといけなかったので、結構難しかったです。

ベナトールは基本的に自分の感情を抑える性格なんですが、この時ばかりはキレたようです(笑)


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【訓練所】編(ベナトールの場合)

これは「訓練所時代の彼らが見たい」という友人の要望に応じて書いたものです。
なので三話構成です。

ハナはベナトールが教官として付いているので、訓練所には入ってません。
なので、彼女だけ本物の「教官」から訓練を受けていません。


※今回は血飛沫の多い挿絵になってしまいましたので、グロ注意です。


   

 

 

 

「今日から【訓練所】に来る事になった、【ベナトール】と言うのは、お前か?」

 【訓練所】で【教官】を待っていた若き日のベナトールは、そう聞かれてビシッと気を付けをし、直角にお辞儀をした。

「はい、よろしくお願いします!」

 

「デカいなお前……!」 

 【教官】は少し驚きながら見上げている。

 大男な上に褐色の肌をしているので、威圧感があった。

 

「はぁ、すんません……」

 恐縮して頭を掻くベナトール。

「まあいい、かなりガタイが良いようだが、今まで何かやってたのか?」

「はい。独自で狩りの勉強を……」

「ほぉ、それは一人でか?」

「いえ、物心付く頃から親父に付いてました」

「親父さんもハンターなのか?」

「はい。代々ハンターの家系だそうで」

「なるほど。だから名前が【ベナトール】というのだな」

「はい。『立派なハンターになるように』と、【ハンター】という意味の名前を付けたそうです」

「立派な名前じゃないか。名前負けしないように、いずれ【上位】でも活躍出来るように祈ってるぞ!」

「はい! 頑張ります!」

 

 既にハンターに付いて勉強していたというので、【ハンターの基本】などの項目はすっ飛ばし、武器種ごとの訓練をする事に。

 【片手剣】を持たされたベナトールは、物足りなさそうにしている。

 

【挿絵表示】

 

「お前、何を普段使っておるのだ?」

「【ハンマー】とか、【大剣】とかですかね……」

「重い武器が好みか。まあそれに比べて攻撃力が無い【片手剣】は物足りないだろうが、軽い分手数を多く稼げるし、【状態異常】を効かせるには持って来いだぞ。武器を出したまま【アイテム】も使えるしな」

「心得ております」

「ハンターを目指す者に、最初に与えられる武器が【片手剣】だものな。こんな説明もいらなかったか」

 まあともかくも、狩りの腕前を見る事にした。

 

 今回の狩猟対象は【ドスファンゴ】。フィールドは【密林】である。

 普通に狩猟すると【ドスファンゴ】など取るに足らない【モンスター】だと思われがちなのだが、【狩猟訓練】ではポーチを空にした状態で一から【アイテム】を調達したり、武具も【教官】が独断で決めた物を装備して挑まなければならないため、意外にも難しい。

 

 ベナトールは各エリアごとにある、採取出来る箇所に向かっては【回復薬】の元になる【太陽草】やら【アオキノコ】やらを採っている。

 中には【教官】が隠して置いた【アイテム】も交じっていたため、あり得ない所から【トラップツール】やら【ピッケル】やらが出て来て驚いたり苦笑したりしていた。

 

 【教官】が言うには「【モンスター】からその素材が剥げるとは限らない」との事。

 そこで【ブルファンゴ】を倒して剥いでみると、皮下や腸の中などに【回復薬グレート】が入っていて、心底驚かされた。

 ちなみに「どうやって入れたかは秘密」なのだそうだ。

 

 地図で言う《7》で【ランポス】の攻撃を避けながら採取を行っていたベナトールは、ふと違う気配を感じて振り向いた。

 が、一瞬遅く、背後からぶち当たったものに吹っ飛ばされた。

 

 ブゴッブゴッ!

 

 慌てて起き上がると、相手は鼻息荒く前足で地面を掻いている。

「出たな! 【ドスファンゴ】め」

 ベナトールは呟くと、直後に来た突進を避けて追い掛けた。

 だが、うっかり【ハンマー】の攻撃タイミングで振り向き様に切り付けたために、再び吹っ飛ばされた。

 

 【教官】は、狩りの影響が及ばない範囲の距離で紙に【赤ペン】を走らせている。

 

 攻撃修正したベナトールは振り向き様ではなく、突進終わりに止まったタイミングで二度ほど切り付けて、回避している。

 

【挿絵表示】

 

 そんな事を繰り返していると、【ドスファンゴ】の鼻息がますます荒くなった。

 突進後の振り向きが速くなり、止まる時間も短くなったため、手数がどうしても減ってしまう。

 焦って控えるべきタイミングで攻撃してしまったベナトールは、その場で振り回された牙に引っ掛けられた。

 

【挿絵表示】

 

「うがっ!!」

 放り投げられた際に脇腹を破られた彼は、地面に転がって呻いた。

 起き上がる前に突進が来る。

 

 ……やられる……!

 

 歯を食い縛ったその時、視界に別の影が入った。

 

 ガキィン!

 

 直後に硬い者同士がぶつかり合う音が聞こえる。

「焦るなベナトール。もう少し攻撃タイミングを考えろ」

 【教官】がガードして防いでくれたのだ。

「……すいませ……! うぐっ!!」

 痛みで悶えるベナトールは、ポーチに手を伸ばす事も出来ないでいる。

 

 【教官】は、しょうがねぇなと言う顔でガードしたまま【生命の粉塵】を投げた。

 

「さっさと立て! まだ訓練は終わってないぞ」

「はい……」

 よろよろと立ち上がるベナトール。

「これぐらいの事でやられていては、親父さんが泣くぞ?」

「はい。すいません……」

「ほれ続きだ! 最後まで自分で狩ってみろ!」 

 【教官】は【ドスファンゴ】から離れた。

「はいっ!」

 勢いよく返事をしたベナトールは、手数に気を付けながら、今度は慎重に攻撃していった。

 

【挿絵表示】

 

 まあそれでも跳ね飛ばされる事はあったのだが、重症を負うまでには至らなかった様子で、後は【教官】の手を煩わせる事無く討伐まで持って行けた。

 

「おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「普段使わない武器だから仕方ない面はあったとしても、もう少し相手を見る目を養う事だな。ベナトールよ」

「はい」

「そうすればお前の得意な【ハンマー】でも、もう少し優位に、尚且つ安全に立ち回る事が出来るはずだ」

「はい」

「見ていて気付いたのだが、お前、もしかしたら【ハンマー】の攻撃力に頼って、力任せに相手を怯ませるような攻撃をしているのではないのか?」

「…………」

「確かに【ハンマー】は攻撃力が高い。時にはそれを生かした戦法を取る事もあるだろう。だがな、基本的な立ち回りはどの武器種も『如何に安全に攻撃するか』なのだ。『肉を切らせて骨を断つ』というような立ち回りをしていては、いずれ死を招く事を忘れるな」

「分かりました」

「――さて。今日の訓練は終わりだ。明日は【ランス】を使ってもらう」

 

「【ランス】、ですか……」

 ベナトールは浮かない顔をしている。

 

「どうした? 苦手な武器だからといって、吾輩は容赦はせぬぞ」

「……。実は実戦で使った事が無いのです」

「それは意外だな。親父さんには習わなかったのか?」

「一応教わったのですが、使いこなす前に諦めてしまって……」

「ははぁ、練習段階で諦めたのか。ならば明日は少しでも使えるようにせねばな」

「はい。お願いします」

 

 

 次の日は【狩猟訓練】ではなくて【闘技訓練】だったため、まず【控え地】で【ランス】の使い方を見てみる事に。

 基本的な動きは分かっていそうだったので、訓練用の【闘技場】で、実戦させてみる事にした。

 

 相手は【リオレイア】である。

 

 まず武器出しで咆哮をガード。

 耳を塞ぐかと思ったが、やはりこれぐらいは知っているようである。

 そのまま頭を上突き。二回突いて噛み付き攻撃をバックステップで躱し、正面突きをしながら踏み込んで上突き。

 ここまでは調子が良かったようだが、回転尻尾に合わせるガード方向を間違えて、吹っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

 立て直している間に突進されたが、辛うじてガードが間に合ったのは、流石に武器種一のガード性能を誇る【ランス】といえる。

 だが武器を構えたままでは移動もままならないこの武器に弄ばれ、突進を追い掛けられないでいる。

 そうこうしている内にブレスが来た。

 武器を仕舞っている最中だったので慌てたが、ギリギリで緊急回避。

 起き上がりを狙ったかのように突進が来たのを、なんとかガードしてやり過ごす。

 そのままでは追い掛けられないベナトールは、ならばとこちらも突進して【リオレイア】に近付いた。

 

 武器に翻弄されつつも果敢に闘っていたベナトールだったが、相手が怒りだしてからは、攻撃を食らう回数が多くなった。

 特に回転尻尾のガード方向をいまいち把握しておらず、ガードするつもりが逆に吹っ飛ばされる。

 頭では分かっているつもりなのだが、体が付いて行かないようだ。

 

 【教官】はその度に苦笑いしていた。

 

 尻尾を切り落としたかったベナトールは、ブレスの最中などに狙いはするのだが、ピンポイントでしか攻撃出来ないために細い尻尾に当たらずに、空を突いてばかりいた。

 苛ついて踏み込み過ぎて、【彼女】が二歩程下がった事に、気付くのが遅れた。

 

 バシッ!

 

 途端に【サマーソルト】の餌食になってしまうベナトール。

 

【挿絵表示】

 

 起き上がろうとしたが、傷の痛みと毒の苦しさで気絶してしまう。

 

【挿絵表示】

 

 【教官】は【閃光玉】を投げると、彼を抱えて一旦【控え地】まで戻った。

 

「生きてるな?」

 目を開けた彼に声を掛けながら、【教官】は治療している。

「……すいません。また、やっちまいました……」

「まったく。だいたいお前は突っ込みすぎなのだ。もう少し手数を考えろ」

「はい……」

「連続で攻撃したいのは分かるがな、相手も攻撃して来るのだ。それを見極めにゃならん」

「はい……」

「それと、何のために貴様は【ランス】を使っている? この武器が【ガード】を駆使して闘う武器だという事を忘れるな。そのための【盾】だろうが」

「はい……」

「構えたままでは動きがままならないのが不満なようだが、それは貴様が突進を誘発するなどの、無駄な動きをしているからだ。【ランス】は常に、【モンスター】に張り付いて攻撃する武器だと心得ろ」

「分かりました」

「良いかベナトール。【モンスター】をコントロールするのも腕の内なのだぞ。今は難しいかもしれんが、次に来る動きを予測し、どう自分が動けば自分の立ち回りが優位になるように【モンスター】を動かせるか、というのも考えられるようにしておけ」

「はい」

「言って置くが、これは武器種によっても違うからな。よく考えて行動するように」

「はい」

 

 回復したベナトールは、再び【リオレイア】の前へ。

 先程言われた事を口の中で反芻しているのか、ぶつぶつ言いながら攻撃している。

 

 ほぉ、だいぶ動きが良くなったな。

 

 【教官】は、飲み込みの早さに少し感心した。

 そんなふうにして、色々な武器種で【狩猟訓練】や【闘技訓練】で励んだベナトールだったが、卒業してある程度全武器が使えるようになった今でも、やはり【ハンマー】が一番自分に合っていると思っている。 

 

 




未熟なベナトールを書くのと、「教官」をそれらしく喋らせるのが難しかったです。
「フロンティアZ」の「訓練場」は「2(ドス)」ベースで、その中の「狩猟演習」が本編の「狩猟訓練」にあたります。
「闘技訓練」は「闘技演習」です。

ですが、実際にそれをやろうとしたら無料コース(トライアルコース)では出来なかったため、それに近い無料クエストで再現撮影いたしました。
挿絵撮影のためだけに有料コース(ハンターライフコース)に入るのは気が引けましたので。


今現在「フロンティアZ」の「教官」はHR1の間だけしか付いて来てくれませんし、もし彼を付けたとしても本編のように遠く離れて見守るどころか(システム上)積極的に攻撃しようとしてしまいますので、彼が見ているという設定で一人でクエに出掛けて撮影しました。

ただし「教官が独自で判断した武具を与えている」という設定なので、いつものベナトールイメージの武具(アカムトシリーズ&パラライズインパクト)ではなく、適当に下位らしい武具にして撮影しています。


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【訓練所】編(アレクトロの場合)

「訓練所」編第二話アレクトロの項。

彼はハンターに付いて学んだ訳ではありませんが、小さい頃からハンターに憧れては野山を駆け回ってハンターの真似事をして成長しており、その過程で「片手剣」を使っていたため、ハンターについて一から学ぶという事にはならなかったようです。
なので、ベナトールと同じ訓練内容をこなす事になりました。

※今回の挿絵も血飛沫多めなんでグロ注意です。


   

 

 

 

「今日から【訓練所】に来る事になった【アレクトロ】というのは、お前か?」

「そうだけどよぉ、何でハンター全員が【訓練所】なんかに通わにゃならんわけ? 独自で訓練すりゃ良い話なんじゃねぇのか?」

 

 褐色の肌に鮮やかな青い髪を持つ少年は、むくれたように言った。

 

「何だその態度は? これは【ハンターズギルド】の決まりなのだ。独自で訓練したらどうしても武器種が偏ってくるだろう? だから満遍なく全ての武器種をだな――」

「んなもん自分で得意な武器を見付けて、それだけ極めりゃ良いじゃんか。何も無理して下手な武器を使わなくても――」

「馬鹿者!」

 

 【教官】は彼の頭にげんこつを食らわせた。

 

「武器にはそれぞれの利点があるのだ。それを知らずに一つの武器ばかり使っていては、引いてはその武器ですら有利に立ち回る事が出来なくなるのだぞ? それに誰かと組む時に武器指定をされたらどうするつもりなのだ? 時には【剣士】ばかりではなく【ガンナー】で行く事もあるかもしれん。そんな狩りに参加出来ずとも良いのか?」

 

「いってぇなてめぇ!!」

 アレクトロはうんちくよりげんこつされた事に腹を立て、殴りかかった。

 

【挿絵表示】

 

 それを腕組みしたまま簡単に避ける【教官】。

 

 彼がムキになって殴ろうとすればするほど、口の端を持ち上げたままヒョイヒョイと避けている。

 

 しかも、その場から一歩も動いていない。

 

「どうした小僧。人間相手でさえこんな動きしか出来ないのなら、狩りの腕も知れているなぁ」

「くそぉ……!」

「元気があるのは良い事だが、その元気は吾輩ではなくて【モンスター】に向けてくれんか?」

 

【挿絵表示】

 

「……チッ!」

 いくら殴ってもかなわないと知ったアレクトロは、舌打ちしてやめた。

 

「で、その得意な武器とやらは何だ?」

「【片手剣】だけど……」

「ならば今日は【大剣】を使ってもらおうか」

「あんなクッソ重てぇの使えるかよ」

「何だ重たいのが分かっているなら、使った事があるではないか」

「一度だけな。あれは【アイアンソード】だったかな? けど、あまりにも重てぇのと、切れ味が悪くて【アプトノス】すら殺せずに逃げられたのとで、その日だけ使ってやめたんだよな」

「切れ味が悪いのは、それは【初期武器】だからだぞ? そのまま鍛えれば良い武器になるのだがな」

「それまで使い続けてられっかよ」

「せっかちな奴だ」

 【教官】は苦笑いし、「とにかく使ってみろ!」と、鍛えて切れ味と攻撃力が増した【大剣】を渡した。

 アレクトロはまだぶつぶつ文句を言っていたが、取り敢えず背に負う。

 ズシリとその重みが掛ったが、動けない程ではなかった。  

 

 【密林】で【ドスファンゴ】を狩る【狩猟訓練】をするとの事なので、(貸与防具とポーチを空にして一から採集しなければならない決まりに文句を言いつつ)各エリアを駆け回っては採取していたアレクトロ。

 地図で言う《1》に群れていた【アプトノス】に、【生肉】でも取ろうと何気なく武器出し攻撃で上段から切り下してみた。

 

 ズバンッ!

 

 気持ちの良い音がして、一発で沈む【アプトノス】。

 

【挿絵表示】

 

 こ、攻撃力高ぇ!!

 

まさかたった一撃で死ぬとは思っていなかったアレクトロは、鍛えられた【大剣】の攻撃力の高さに目を見張り、目から鱗が落ちた。

「【教官】っ!!」

 首を巡らせて【教官】を見付けたアレクトロは、勢いよく走り寄って次のように言った。

 

「俺、【大剣】使いてぇっ!」

 

 まるで今までずっと欲しがっていた新しい玩具を得たかのように、キラキラと輝かせている目を見た【教官】は、「そうか。ならば使いこなせるようになるまで、うんと練習しないとな」と優しく笑った。

「うん! 俺頑張るよ!!」

 アレクトロは嬉しそうに答えた。

  

《7》に移動したアレクトロは、そこに【ランポス】が群れているのを見た。

 【片手剣】だと囲まれたら脅威になるこの【モンスター】に、【大剣】ではどれだけ太刀打ち出来るのかと挑んでみる。

 まず一番手前にいた一頭に切り掛かってみると、丁度飛び掛かって来たタイミングに刃が食い込んだからなのか、なんと真っ二つに切断されてしまった。

 続いて向かって来た三頭を、横薙ぎでまとめて切り払う。

【挿絵表示】

 

「すげぇ……!」

 アレクトロは楽しくて仕方がないという顔をしている。

 まるで【ランポス】相手に遊ぶかのように、次々と切り倒していたアレクトロは、調子に乗るなとでも言うように吹っ飛ばされた。

【挿絵表示】

 

「いってぇな!!」

 

 起き上がると、白く巨大なイノシシが、鼻息荒く前足で地面を掻いている。

 

「【ドスファンゴ】てめぇ! いてぇじゃねぇか!!」

 正面から切り掛かったもんだから、まともに突進の餌食になった。

「くっそおぉ……!」

 次の突進を避ける余裕があったアレクトロは、追い掛けて後ろから切り付けた。

【挿絵表示】

 

 そのまま切り上げてもう一度攻撃しようとしたら、突進で吹っ飛ばされる。

 ならばとまず突進を追い掛け、武器出しで切り下し、切り上げで止めて武器を仕舞おうとしたが、間に合わずに突進を食らってしまった。

「ぐぬうぅ!」

 重い【大剣】は武器を出したままではまともに動く事も出来ないため、まず仕舞ってから行動を起こさないといけないのだが、攻撃してから仕舞うまでのタイミングを掴みかね、アレクトロは浮っ飛ばされてばかりいる。

 

「まったく、何をやっておるのだお前は」

 【教官】は呆れている。

 

「【大剣】はその重さを生かしたからこその攻撃力なのだぞ? 動作が遅くなる分、【片手剣】よりも遥かに少ない手数でダメージを稼ぐ事が出来るのだ。だから欲張って食らうよりは一度切って逃げるぐらいで良い。ヒット&アウェイを意識しろ」

「分かってるようるせぇな!」

 アレクトロは傷だらけの体で答えた。

 

 一応自分だけの力で討伐に成功したにはしたものの、その頃にはぜぇぜぇと息を切らす程になっていた。

【挿絵表示】

 

「まだ鍛え方が足らんなぁアレクトロよ。【大剣】を我が体の一部のように扱えるようになるには、もう少し筋力を付けんとなぁ」

 【教官】がニヤニヤ笑うのが悔しくて、アレクトロは唇を噛んだ。

 

 

 翌日は同じ【大剣】で【闘技訓練】をするとの事。

 他の武器種を学ばせるのは後にして、まず【大剣】をマスターさせようという【教官】の愛情(?)である。

「昨日言いそびれていたのだがな。【大剣】には【溜め】があるのを知っているか?」

「【溜め】?」

「そうだ。こう振り被って力を溜め、その力全てを刃に乗せて切り下す、【大剣】特有の大技だ」

 

 【控え地】でまず【教官】が手本を見せる。

 

 それを見たアレクトロは、「これって、隙が大き過ぎなんじゃねぇの?」と言った。

「まあそこが難点だがな。でもキッチリ決まればかなりのダメージになるぞ」

「こんな長い隙を晒す【モンスター】なんかいんのか?」

「それが意外にも溜める時間はあるのだよ。使いこなせれば、の話だがな」

「へぇ……」

 

 アレクトロが試してみる事に。

 背中に【大剣】を背負うようにして振り被り、そのままの姿勢で力を溜めていく。

【挿絵表示】

 

 己の筋肉が最大まで膨らんだのを確認すると、その全ての力を刃に乗せるようにして振り下ろす。

 勢い余って地面に食い込んだ刃は、周りに土塊(つちくれ)を跳ね飛ばす程に勢いがあった。

【挿絵表示】

 

 

「なるほど、確かにすげぇ攻撃力にはなりそうだけど……」

「『成功しなけりゃ意味がない』ってか? まあそうなるように練習するんだな」

 

 練習用の【闘技場】の中に入って行ったアレクトロが見たものは、威嚇している【リオレイア】だった。

「でぇ!? 【リオレイア】かよ!?」

 素っ頓狂な声を上げる彼に、「まあせいぜい頑張りな」と離れる【教官】。

「こんな奴に溜める時間なんてあんのかよ!?」

 文句を言いながらも対峙したアレクトロは、まず頭に一発お見舞いした。

 ブルンと頭を振った【リオレイア】は、噛み付こうと巨大な(あぎと)を開けた。

 大剣の腹でガードし、そのまま横薙ぎ。

 武器を仕舞う動作を少しでも早くするために、転がって回避しつつ仕舞う。

 回転尻尾を落ち着いて範囲外でやり過ごし、翼に一発。

 悲鳴を上げて怯んだので、切り上げ、切り下し、横薙ぎと加え、回避して納刀。

 突進を避けて追い掛け、尻尾に一発。

 が、欲張って攻撃しようとして轢かれた。

「いってぇなこのアマ!!」

 起き上がるとブレスが来たため、慌てて緊急回避。

 

 そこで彼は気付いた。

 ブレスの時ってゆっくり向き直ってから吐くよな? ならその間に溜めれるんじゃ……。

 

「うし、試してみるか」

 呟いたアレクトロは、近くで待機しつつブレスを待って、ゆっくり向き直る間に溜めてみた。

【挿絵表示】

 

 

 ドゴンッ!

 

 見事に最大溜めが【彼女】の頭を直撃したのを見た【教官】は、「でかした!」と声を上げた。

 アレクトロは満面の笑みで親指を立てる。

 だがその隙に吹っ飛ばされて、無様にゴロゴロと転がって行った。

 

 こうして、彼は【大剣使い】になったのである。

 




彼は今でも結構打たれ強い奴なんですが、ガキの頃から打たれ強かったんだなとこれを書く時思ってました(笑)

武具は「教官」に貸与されている設定なので、アレクイメージの「レウス系」ではなく、適当な下位武具を「フロンティアZ」のキャラに装備させて撮影しています。

ちなみに彼が「大剣使い」になった経緯は、実際に私が「モンスターハンターG」(PS2で初めて「モンスターハンター」として発売された頃の二番目のタイトル)の「訓練所」で、「教官」に無理矢理「大剣」を使わされて彼と同じように攻撃力の強さに驚愕し、それ以来「大剣」を使うようになった事に由来しています。
それまで私はアレクトロと同じように「片手剣」しか使った事がありませんでした。

なので実話です。


「ベースキャンプ」に「教官」といるのは、本来HR1でしか付いてくれない「教官」を、HR1になって彼が付き、初めてのクエストに連れて行ってくれる所のみ再現出来るシステムがあるからです。


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【訓練所】編(カイの場合)

「訓練所」編第三話カイの項。

挿絵では一応アレクトロ役とは違うキャラでカイ役を演じています。
ただし私のキャラは全員黒人なんで、黄色人種のカイとは肌の色が違います。
なので黄色人種として脳内再生して下さい(^^;)

※今回も血飛沫多めなんでグロ注意です。


 

 

「今日から【訓練場】に来る事になった、【カイ】というのは、お前か?」

 【教官】は、目の前でニコニコしている少年に尋ねた。

「はいっ! よろしくお願いしますっ!」

 彼は元気よく答えて勢いよく頭を下げた。

「元気が良いな」

「はいっ! おいら元気だけが取り柄なんでっ!」

「見たところえらく体の線が細いようだが、お前、ハンターの経験はあるのか?」

「ありませんっ!」

「そんなに元気良く否定せんでも……」

 【教官】は苦笑いした。

 

 端整な顔立ち。くせ毛の多い、柔らかそうな茶色がかった金髪。

華奢な体にはとても筋肉があるようには見えず、これは女の子に間違えられても仕方がないだろうなと、彼を見ながら【教官】は思った。

 

 笑うと特有の人懐っこさが表れ、可愛らしいとさえ思ってしまう。

 

 とにかくも、まず【ハンターの基本】から教えようと、【肉焼き機】を手渡して言った。

「【生肉】を取って、【こんがり肉】を作るように」

「分かりましたっ!」

 元気よく【密林】へ飛び出して行った彼は、だがふと途中で立ち止まって振り返り、「狩りはしないんですか?」と言った。

「【生肉】を取る事も狩りの一つだぞ? 【アプトノス】を狩らん限りは肉は手に入らんからな」

 彼はニコッと笑って頷き、再び元気よく駆け出して行った。

 

 地図で言う《1》に【アプトノス】が群れているのを見付けた彼は、早速その内の一頭に狙いを付け、飛び掛かりつつ切り掛かった。

 

【挿絵表示】

 

 が、【ハンターナイフ】の切れ味が悪いせいなのか、それとも攻撃力が無いためなのか、

一向にダメージを与えているようには見えない。

 

 その内、うるさいハエが纏わりついているのを嫌がるかのように【アプトノス】が尻尾でカイを叩くと、カイはあっけなくペタンと尻餅を付いた。

 

 すぐに起き上がったが走って逃げて行く【アプトノス】に付いて行けず、とうとうエリア外まで逃げられてしまった。

 

【挿絵表示】

 

 しょぼんとした顔で戻って来たが、【教官】が手伝ってくれないと分かると何度も挑戦した。

 

 それでも倒すまでには至らなかった。

 

 スタミナが減って来たカイは、「おなかすいた……」などと言っている。

「一度でもフィールドに出れば誰も助けてはくれんぞ? カイ。飢えたくなければ自分で食料を確保するんだな」

「だって、狩るには力がいるじゃないですかぁ。おなかすいたら力も出ないじゃないですかぁ……」

「ぼやくな。どうしても我慢出来んのなら【携帯食料】がある。それでどうにか食い繋げ」

 

【挿絵表示】

 

 

 カイはポーチから【携帯食料】を出して口に入れてみた。

 

「おいしくないです……」

 眉を寄せてそう言いながらも、もそもそと食べている。

 

 【携帯食料】は確かに不味く、ハンターの間でも不評ではあるのだが、軽く、長く日持ちがし、取り敢えずの飢えを満足させるので万が一の時のために【支給品】の中に入っているのを持って行くハンターは多い。

 特に下位ハンターには大変助かる物として重宝されているため、ハンターならば誰もが一度は必ず口にしている食糧である。

 

 めげずに何度も何度も挑戦していたカイは、とうとう一頭だけではあるが、【アプトノス】を狩る事に成功した。

 

「よし頑張ったな。倒せたなら、そこから【生肉】を剥ぎ取るんだ」

 【教官】に言われて剥ぎ取り用のナイフを腰から抜いたカイは、おっかなびっくり【アプトノス】に突き立てた。

 が、そこが下腹部だったがために切り裂いた途端に腸が溢れ、「うえぇ……」と気持ち悪そうにしている。

「馬鹿者もうちょっと上を裂かんか。肉が臭くなってしまうぞ?」

 【教官】は苦笑している。

 

【挿絵表示】

 

 どうにか【生肉】を剥ぎ取ったカイは、【肉焼き機】にセットした。

 

「良いかカイ。肉焼きにはリズムとタイミングが大事なのだ。早過ぎても遅過ぎても失敗してしまうぞ」

「そんなの、どうやって計るんですか?」

 そこで【教官】は、カイに【肉焼きソング】を教えた。

「この歌が終って三秒後が、だいたい【こんがり肉】が作れる目安だな」

「へぇ~~」

 言われた通りにやってみたが、やはりタイミングが合わずに【生焼け肉】やら【焦げ肉】やらになってしまう。

 

【挿絵表示】

 

【挿絵表示】

 

 とうとう一頭分の【生肉】が無駄になってしまった。

「またやり直しだな」

 【教官】に苦笑され、カイはうんざりした顔をした。

 

 

 そんなふうにして一からハンター生活を教わったカイは、ようやく本格的な狩りを学ぶ事になった。

 まだ武器種を指定すると危ないため、彼に選ばせる。

 一応一通りの武器を触らせたのだが、筋力の無い彼はやはり重い武器より軽い武器を好むようで、今回は【太刀】を使うとの事。

 

 相手は【ドスファンゴ】である。

 

 【密林】を駆け回って、今までに教わって来た採取場所で採取しながら、相手を探す。

 

 《7》に入ると、【ランポス】が群れていた。

 

 狩り自体に慣れていないカイは、囲まれると餌食にされかねないので恐怖を覚え、腰が引けている。

「一頭ずつ引き付けて闘うんだ。囲まれたら終わりと思え」

「分かりました」

 だが狡猾な【ランポス】は連携し、数に物を言わせて次々と襲って来る。

 

【挿絵表示】

 

 とうとう横から飛び蹴りをされて吹っ飛んだ。

 

「さっさと立て! 動き続けなければ餌食にされてしまうぞ!」

 【ランポス】は素早いが、幸い【太刀】の攻撃範囲が広いためか、不利ではあっても一斉に集中攻撃を仕掛けられる事だけは防げているようである。

 

【挿絵表示】

 

 と、そんな中で突っ込んで来たものがいた。

 

 カイはまともに吹っ飛ばされ、ゴロゴロと何度も転がってから起きた。

 

【挿絵表示】

 

 なんとか立ち上がった彼が見たものは、白く巨大なイノシシ。

 鼻息荒く前足で地面を掻いている様は、口の端から大きく突き出している目立つ牙も相まって、【ランポス】の比じゃない程恐ろしく感じた。

 

 相手はそのままカイに向かって来る。

 

 だが恐怖で凍り付いてしまった彼は、動く事が出来ないでいた。

「何をやってる! 避けろ!!」

 【教官】の声で我に返ったが、すでに遅かった。

 

 が、牙が彼に掛かる寸前、横から飛び蹴りをしたものがいた。

 

 偶然にも【ランポス】が飛び掛かった事で、まともに突進を食らう事を免れたようである。

「良くやった! 【ランポス】」

 【教官】は【ランポス】に礼を言っている。

「ほれさっさと攻撃しろ!」

 【教官】に言われて向き直ったものの、突進ばかりするので一向に攻撃出来ない。

 

【挿絵表示】

 

「突進を追い掛けて攻撃するのだ。分かったらさっさとやれ!」

 やってはみるものの、一、二度切れればいいという具合にしかならない。

 

【挿絵表示】

 

 焦って手数を多くしようとすると、吹っ飛ばされる。

 

「カイ、焦っても自分が痛い目に合うだけだぞ? こ奴は手数を稼げない【モンスター】ではあるが、辛抱して何度も攻撃するしかない」

 そうは言っても一、二度しか攻撃出来ないのがもどかしいため、つい攻撃を重ねようとしては吹っ飛ばされた。

 

 【罠】を仕掛ける練習をするとかで【捕獲】で【クエスト成功】したカイだったが、もう二度と【クエスト】には行きたくないと思った。

 しかし強制的に【教官】に鍛えられて全部機種を習ったり、アレクトロに無理やり付き合わされては【クエスト】に出向く内に、特定の【モンスター】だけではあったが自分一人でも【クエスト成功】出来るようにはなった。

 

 まあ未だに女に間違えられたり、アレクトロには【金魚のフン】扱いされたりしているようだが……。 




大型モンスターと闘っていて、「ランポス」にピンチを救われた経験ってありませんか?
私は「リオレイア」のブレスを代わりに受けてくれたり、瀕死になった目標モンスターが死に物狂いで私を殺そうとした時なんかに止めを刺してくれて助かったりした事があります。


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【森丘】で大騒ぎ!

これは、「違う武器種で闘っている四人が見たい」という友人の要望に応えたものです。



   

 

 

 

「ねぇハナ、【森丘】っていうとこ、行ってみたくない?」

「どんなとこなの?」

「文字通り【森】と【丘】で成り立っているフィールドでね、景色がすんごく綺麗なんだ♪」

「へぇ~~! 行ってみたい♪」

「……。まあ確かに見晴らしが良くて気持ちは良いが、【森】の部分は鬱蒼として見えにくい。そんな中に【モンスター】が入られたら、結構やっかいだぞ」

「茶々入れないのっ。ベナが付いて来てくれるんならどこでもいいじゃん」

「お前さぁ、そのおんぶに抱っこの関係っつうの、いい加減どうにかなんねぇのかよ?」

「いいのっ。だってベナはあたしの【教官】だもんっ」

「【教官】というよりは、むしろ爺と孫の関係のような……」

「誰が爺だコラ! 俺はまだそんな歳じゃねぇ!」

「ばっ! 痛ぇって! わ、分かったから頭抱えてぐりぐりすんのやめろ!!」

「当然、アレクも行くんだよねぇ?」

「だよねぇ? アレク」

「何で俺まで……」

「えいこのっ! あたしもやっちゃうからねっ! ぐりぐり~~!!」

「……。ハナ、お前胸意外とあんだな」

「えっちいぃ!」

「ってぇな! ビンタすんなよやったのお前だろうが!」

「……!」

「おいオッサンよ、黙って殺気出さねぇでくれるか? 今の俺のせいじゃねぇし」 

「案外羨ましかったりして?」

「そうなの? ベナ」

「んな訳あるかっ! ほれさっさと行くぞ!」

「つまんないの……」

 

 という訳で、【上位クエスト】の受付カウンターに赴いた一行だったのだが……。

 

「カイさん、その装備ではこの【クエスト】は受けられませんよ?」

「へ? どゆこと?」

「この【クエスト】は【武器指定クエスト】となっております。従って【太刀】では受けられません」

「じゃあ、どの武器だったら受けられるの? 禁止武器は何?」

「【太刀】【ハンマー】【大剣】【双剣】が禁止となっております」

「でぇ!?  得意武器全滅じゃねぇか!!」

「【片手剣】は禁止されてないじゃん、良かった♪」

「んじゃおいらも【片手剣】で行こぉっと」

「オッサンどうする? 俺今更【片手剣】なんてクソ軽い武器使うのやだぜ?」

「そうだな……。【ランス】、いや【ガンランス】にするか」

「じゃあ俺はしょうがねぇから【ランス】の方にするわ」

 一応【ガンナー】にするという選択肢もあるのだが、この四人は考えていないらしい。

 ちなみに狩猟対象は【リオレウス】である。

 

 

「うわぁ~~~! 気持ちいい~~~♪」

 【ベースキャンプ】から出た途端に広がる光景に、ハナは感慨の声を漏らした。

 そよ風に吹かれながら伸びをする様は、なんとも気持ち良さげである。

「ね、来て良かったでしょ?」

 そう聞くカイに、「うんっ♪」と嬉し気に答える。

「のんびり出来るのはここぐらいなもんだけどな」

「まあな。ここが一番平和を感じる所だよな」

 平和そのものというように草を食む【アプトノス】の群れを眺めながら、アレクトロとベナトールが言った。

 

 その言葉通り、地図で言う《2》に入った途端、状況が一変した。

 

 景色自体はのんびりしているのだが、そこにいる【モンスター】が、【ランポス】の群れに変わっていたのだ。

「ケッ、面倒臭ぇ。まとめて片付けてやらぁ!」

 こちらに気付いて賑やかに鳴き交わしている【ランポス】共に言い放ち、【ランス】を構えたアレクトロ。

 そのまま盾を前にして重心を低くするや否や、突進で次のエリアまで駆け抜けた。

 たちまち進行先にいた【ランポス】全てが吹き飛んでいく。

「やれやれ、せっかちな奴だ……」

 ベナトールが呆れて言ったが、取り敢えず進行上の脅威が省かれたので、残った三人はゆっくり次のエリアまで走って行った。

 

 《3》を経由して《4》に向かうと、奥にゆっくりと舞い降りたものがいた。

 

「よぉ、来たな」

 まるで友人にでも声を掛けるような口調でアレクトロが言うと、【リオレウス】はこちらを向いて吠えた。

 申し合わせた訳ではなかったが二人ずつで両側に分かれ、攻撃を開始する。

 弱点を突きたかったアレクトロは、頭に陣取りたかったのだが、そこには同じ考えのベナトールがいた。

 

 彼は切り上げや突き上げの合間に砲撃している。

 

 しょうがないので反対側から上突きしていたが、お互いに当たってしまうようなので、なるべく翼を狙うようにした。

 

 両側から足元に攻撃していたカイとハナだったが、ハナが尻尾を狙おうとして移動し、「届かな~~い」などと言っている。

 ベナトールより尻尾寄りにいるアレクトロは、それが見えて苦笑した。

 

「馬鹿かおめぇは、リーチの短い【片手剣】で尻尾が狙えるわきゃねぇだろ」

「だったらあんたが狙いなさいよ!」

「【ランス】では狙いにくいんだっつの。麻痺るまで待ちやがれ!」

「頑張って転ばそうハナ。それだったら【片手剣】でも届くだろ」

「うん分かった」

 

 だが、尻尾を振り回されてハナが吹っ飛んだ。

 

「いった~~~い! もぉアレク、あんたの方がベナより近いんだから、ちゃんとガードしてよぉ」

「そっちまで届くわきゃねぇだろが! 【片手剣】でもガード出来んだから、自分でしやがれ!」

「なによぉ! ベナならガード出来なくても護ってくれるのにぃ」

「おいオッサン! このギャンギャンうるせぇのどうにかしろよ! 耳痛ぇ」

「〈高級耳栓〉付けてるのに?」

「カイ、それとこれとはまったく聞こえ方が違うんだが?」

 

 闘いつつもそんな言い合いをしていると、ベナトールの持つ【ガンランス】の砲身の先が、赤く輝いたのが見えた。

 何か嫌な予感がする、とアレクトロは思った。

 

 案の定、直後にまるで竜がブレスを吐くかのように、【ガンランス】から火炎放射が放たれた。

 【竜撃砲】という、【ガンランス】特有にして最大の技である。

 続いて起こった爆発に、当然のように彼以外の全員が同時に吹っ飛ばされた。

 

「ちょ! オッサンよ!?」

 アレクトロが苦情を言おうとすると、「あ、すまん」と言われた。

「すまんじゃねぇ!!」

 突っ込んだら「いやつい、集中して周り見えなんだわ」と苦笑いしている。

「絶対わざとだろてめぇっ!」

「まあまあ、ほれまだ来るぞ! 集中しろ」

 突進して来たのをガードでやり過ごしつつ、「ったく……!」とぶつぶつ言うアレクトロ。

「ベナ集中しすぎっ!」

「びっくりしたぁ~~~!」

 

 何だかんだ言いつつ、仲良く(?)討伐した四人であった。 




「ガンランス」の竜撃砲は優秀ですが、気を付けないと近くにいる者が吹っ飛ばされてしまいます。
それが場合によっては一人ではなくなるため、野良PTでは迷惑になります。

まあ身内でやってる分には逆に楽しかったりするんですけどね(笑)


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孤高の狼鳥(実験小説)

これは、「実験小説」となっております。
会話文と音声文だけでお楽しみ下さい。


 

 

 

「オッサンよ、【峡谷】で何人もの人が、毒に冒されたり体を抉られたりして死んでるってのは、本当か?」

「ああ、本当らしい。何でも生き残った連中が言うには、『【イャンクック】に似た黒い【モンスター】に襲われた』んだとさ」

「【イャンクック】の亜種って、確か青っぽかったよな? んじゃ亜種でもねぇのかな?」

「もし亜種だったにしても、毒持ってねぇしなぁ、あの連中」

「だよなぁ。まさか新種とか言うんじゃねぇだろな?」

「どうだろな……?」

 

「ねぇねぇ! 二人でなに話してんのぉ?」

「てっ! どつくなよお前は」

「だって真剣な顔してる時ってさ、呼んだぐらいじゃ聞いてくれそうにないんだもん」

「真剣に話してる時って、普通そっとしとかねぇか?」

「だって、その間待ってるのつまんないじゃん」

「はぁ……。いつもこうなのか? こいつは」

「まあ、そうだな」

「苦労すんなぁ、オッサン」

「……。お前も、似たようなもんじゃねぇのか? ほれあっちもつまんなそうにしてるぞ」

「アイツは放っといても良いんだよ。どうせ俺がどこに行こうが【金魚のフン】みてぇに付いて来んだから」

 

「ひどいなぁ、アレク」

「そうよ、カイに謝んなさいよ。可哀想でしょお!?」

「うるせぇぞ【金魚のフン二号】」

「あ、ひっどぉい!」

「お前らまとめて【金魚のフンズ】で充分だ。どこに行くにも付いて来やがって」

「おいコラ! それはちと酷過ぎやせんか?」

「なぜオッサンが怒る? ……まあいいや。【峡谷】に行くぞお前ら」

「偉そうに……! そこに何があるのよ?」

「分からん」

「『分からん』って、どういう事だよ?」

「分からんが、どうも由々しき事態のようだ。【ハンターズギルド】の方でも要請が出てる。『毒を持つ謎の【モンスター】を調べて来い』とさ」

「毒って、それ【ゲリョス】とか【イーオス】とかじゃないの?」

「おめぇの数少ねぇ知識で判断したら、まあそんくらいになるわな」

「なによぉ、あんたが狩り過ぎなだけじゃないっ」

「俺が狩り過ぎならオッサンはどうなるよ?」

「ベナはいいのっ。特別だから」

「どういう基準の判断だよ、ったく……」

 

 

「……。【峡谷】ってさ、けっこう日の光強いのね」

「まあ、【クーラードリンク】がいる程でもねぇがな」

「おいオッサン! あれ……!」

「……助け……っ」

 

 ドサッ!

 

「しっかりしろ!」

「毒に冒されてる!」

「おいら【解毒薬】出すよ!」

「いや【漢方薬】の方が良い。俺持ってるから!」

 

「……っ! ふう……」

「はい、【回復薬グレート】」

「ありがとう……」

「話せるようになったら話してくれ。何があった?」

「オレ達、【峡谷】にしか無い珍しい鉱石があるってんで、掘りに来てたんだ。そしたら、見た事も無い黒紫の【モンスター】に襲われた」

「今『オレ達』と言ったな? 他にも仲間がいるのか?」

「後二人……。だが、逃げる途中でやられちまった」

「……そうか……」

「とにかく恐ろしい奴なんだ。姿は【イャンクック】によく似てるんだが、奴らとは比べ物にならないくらい速く、獰猛だった」

「亜種よりもか?」

「ああ、【イャンクック】に似てるからって絶対舐めないでくれ。あんな恐ろしい奴見た事ないよ」

「オッサン、どう思う?」

「ふむ……。外見から察するに【鳥竜種】なんだろうが……」

「そんな【鳥竜種】、見た事ねぇぞ?」

「新種かな? アレク」

「どうだろな? 単に俺らが狩った事のねぇ【モンスター】だっつう事も考えられるしな」

「誰も見た事ない【モンスター】って、なんかワクワクしない?」

「おめぇは呑気で良いなぁ……」

 

 

「……。おいあれ、アイツが言ってた逃げ遅れた仲間じゃねぇのか?」

「ひっ!」

「酷いな。胸を抉られてる……!」

「この傷は、クチバシかな?」

「そうかもな。爪にしちゃ傷が大き過ぎる」

「【イャンクック】のクチバシなら絶対こうはならねぇから、かなり鋭いぜこれ」

「こっちは……。棘のようなもので引っ掛かれた後で、毒で死んだのか……」

「どうするよ? 一旦死体を回収して出直すか?」

「いや、【古龍観測隊】の気球が見える。合図からしてこっちの状況が分かっているようだ。連絡が行ったから、後は【ハンターズギルド】が回収してくれるだろう」

「了解。ならこっちはそのまま調査を続けようぜ」

「分かった」

「オーケー」

 

「【峡谷】って、なんかいろんなとこで風が吹き抜けてるのねぇ」

「飛ばされんように気を付けろよ、ハナ」

「はぁい」

「ここの割れ目に立ってみ、面白ぇから」

「なになに?」

 

 ビュウゥ~~~!

 

「きゃははは! 風が吹き上げてくれるんだ。面白ぉいっ♪」

 

 クエェ!

 

「きゃあっ! いた! いたよ!!」

「こいつがそうか……!」

「耳が片方無いのか? これは」

「すでに傷だらけみたいだけど……?」

「いや喧嘩して古傷になってるだけだろう」

「確かに【イャンクック】に似てるね」

「色とクチバシと鬣が違うがな」

「尻尾の形も違うくない?」

「だな。全体的にも棘が多い気がする」

 

 ボコンッ!

 

「ブレスは同じか」

「いや規模がデカくなってねぇか?」

「そうかも」

「おいら【落とし穴】仕掛けてみるよ」

 

 ザザッ!

 

「効かない!? 」

「落ちる前にバックステップしながら壊してやがんだ! 器用な事すんな~~!」

「感心している場合か!」

 

 クワオォ~~~ン! 

 

「きゃっ!」

「【バインドボイス】か!?」

「おいおい、【鳥竜種】のくせに規格外だろう」

「突進来るぞ!」

「――っ! 速い!?」

「振り向いてから突進に移るまでがやたら速ぇんだな。ブレスの時もあるようだが……」

  

 バシッ!

 

「おい、【サマーソルト】もすんのかよコイツ!?  【レイア】並みじゃねぇかよ!」

「……ベナ、……くるし……!」

「尻尾だ!」

「え?」

「尻尾の棘に毒があるんだ! 早く解毒を――」

「おしカイ! 尻尾切るぞ」

「了解っ!」

「あ、あたしも……!」

「おめぇはさっさと解毒して回復しやがれ!」

 

 ジタジタ……!

 

「まずいな。怒らせちまった」 

「ガードしろアレク! 連続で啄んで来るぞ!」

 

 ガッガッガッ!

 

「――う……!」

 

 ドサッ!

 

「きゃあっ!」

「アレク!?」

「しまった最後にガードを捲られたか!?」

「意識がない……!」

「一旦【キャンプ】に引くぞ二人共!」

「了解!」

「了解!」

 

 

「アレク! アレクしっかりしろ!!」

「抉られ方が大きい。あの死体と同じだ。とにかく胴鎧を――!?」

「……これは……!」

「ベナ。どうしよう……。心臓が、アレクの心臓が無いよ……!?」

「ガードを崩された時に、啄まれたんだ……」

「……そんな……!」

「よし二人共! アレクの体を支えといてくれ」

「何をする気なんだ?」

「……! ……」 

「べ、ベナ!? 自分の胸を切り開いて何やってるの!?」

「すまんが、アレクを近付けてくれんか? そうもう少し近く。――よし、そのままキープしてろ」

 

「……。もしかして、血管を繋いでるのか!?」

「そうだ。帰るまで、俺がこいつの心臓になるんだ」

「そんな大胆な……」

「こいつが死ぬよりゃマシだ。それとも、助からねぇのを指をくわえて見ときたかったのか? カイよ」

「とんでもない!」

「でも大丈夫? ベナ。なんか具合が悪そうだけど……」

「問題無い。それより、【クエストリタイア】を……」

「了解」

 

 

「カイよ、頼みがある」

「なに?」

「俺の代わりに、【ギルドマスター】に報告に行って欲しい」

「分かった」

「あたしも行く!」

「じゃあ一緒に行こうハナ」

「うんっ」

「ハナ……」

「――ん?」

 

 ポンポン

 

「じゃ、頼んだぞ、二人共」

「はいっ!」

「うんっ!」

 

 

「……。医療係、ベッドの空きはあるか?」

「ございますが、ベナトールさん、その恰好は、まさか――!」  

「おうよ。こいつと血管を繋ぎ合わせて心臓代わりにしているのよ」

「またなんと大胆な……。二人分の血流を賄うには、かなり心臓の負担が大きいでしょうに」

「そうしねぇと、こいつが死んでしまうのでな」

「そうまでして生かしたいのですか? 余程大切な方なのですね」

「まあ、そういう事だ……。だから共倒れになる前に、こいつに新しい心臓を頼む」

「畏まりました」

「…………」

「アレクよ、もう少しの辛抱だ。今は苦しかろうが、新しい心臓になったら意識も戻るだろう。――それまで、もう少しこのまま待っていてくれ」

 

 

「――そうか。ご苦労じゃった」

「ははっ!」

「【ハンターズギルド】ではの、実はあやつの事は【イャンクック】の亜種として扱うておった。――が、それは目撃情報が少なくてあの【鳥竜種】と同じ仲間に入れておっただけの事。今回の調査を照らし合わせるに、どうも似て非なる【モンスター】のようじゃな」

「はい。攻撃方法は似てましたが、違う所も多かったです」

「じゃから、ギルドでは違う【モンスター】として扱う事とし、【イャンガルルガ】という名を与える事にした」

「イャン……ガルルガ?」

「そうじゃ。別名【黒狼鳥】。恐らく【鳥竜種】の中では最強クラスの【モンスター】になるじゃろうて」

 

 

「ベナトールさん、新しい心臓が提供されました」

「……そうか……」

「直ちに移植しますので、切り離します。よろしいですね?」

「……ああ……。ただし、くれぐれも失敗だけはしないでくれよ?」

「お任せ下さい」

「…………」

「お疲れ様でした。後はごゆっくりお休み下さい」

「……頼んだぞ……」

 

「――もう入ってもいいの?」

「はい。よろしいですよ、お二方」

「ベナ、寝てるの?」

「はい。お休みになっていらっしゃいます」

「すぐに起きる?」

「いえ、かなり心臓に負担が掛かっていましたので、意識が戻るにはもう少し時間がかかるかと……」

「まさか、このまま戻らないなんて事は、ないよね?」

「必ず戻ります。その点はご安心下さい」

「そっか……! なら良かった」

「焦らずに待とうハナ。疲れもあったんだよきっと」

「そうよね」

 

 

 

「――あ、目を開けた! 目を開けたよっ♪ ハナっ」

「ベナ、ベナあたしよ! 分かるっ?」

「…………」

 

 ポンポン

 

「良かったあぁ! 本当に心配したんだからねっ!?」

「……すまんかったな……」

「聞いたぜオッサン。俺を救うためにてめぇの心臓に繋いだんだって? まったくすげぇ事するよなあんたは。驚いたぜ」

「よぉアレク。もう意識が戻ったのか?」

「おかげ様でな。けど代わりにオッサンにかなりの負担がかかっちまったみてぇだな。悪かったよ」

「新しい心臓の具合はどうだ?」

「今んとこ違和感はまったくねぇよ。自分の心臓で、実は移植されてねぇんじゃ? と思うくらいだぜ」

「そいつは良かったな」  

「あぁ……。感謝してるよ、ありがとなオッサン」

「やけに素直じゃねぇか、チビ助よ」

「茶化すなよ。こういう時ぐらいお礼言わせやがれ、デカマッチョ!」

 

「ふっ。まだまだ死ねんなぁ、アレクよ」

「お互いにな!」




「ドンドルマ」の医療技術は世界一いぃっ!!!

嘘です、私の都合の良い独自解釈です。


前回の「【森丘】で大騒ぎ!」の冒頭会話が書いていてあまりにも楽しかったので、全部会話文にしてみたらどうなるかを書いてみました。

他人と血管を繋いだり、心臓を移植したりという事が出て来ますが、私的に「モンスターハンター」の世界は地球上の出来事ではないと考えていますので、この世界に暮らす「ハンター」には「血液型」の概念がありません。

これも私の勝手な独自解釈ですが。


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アレクトロの、ハナへの一方的な思いやりによる罪と罰について

アレクトロが優しいばっかりに、こんな事になってしまいました。

今回はちょっと長いです。
しかも厨二要素がふんだんに入ってイタイかもしれません。


   

 

 

 その日ベナトールとハナは、【ドスイーオス】を狩りに行っていた。

そしてもうすぐ討伐という時に、異変が起こった。

 

 それは、こんな事から始まった。

 

 ハナが毒を吐きかけられたのに気が付いたベナトールは、相手を【ハンマー】で殴り殺してから【解毒薬】を渡した。

 が、傷になっていた所に毒が付いていたので、少しでも早く解毒をしようと吸い出してやった。

 それは彼にとっては些細な事で、彼女と狩りをする上での日常的な行為のはずだった。

 血を吐き出す際に少し飲んでしまった彼は、体内にいつもとは違う違和感を感じて「うっ」と一瞬固まったのだ。

「どしたのベナ?」

「いや、なんでもない」

 多分、少し毒を飲んでしまったのだろうと、彼は思った。

 だが、一応自分も【解毒薬】を飲んでみても、その違和感は消えなかった。

 

 

 【街】に帰って来たベナトールは、体内を蝕むような違和感が、段々と強くなっていくのを感じていた。

 ハナには覚られないようにはしていたが、彼女と別れて自分の部屋に戻ると、荒い息を吐き始めた。

「旦那様? 大丈夫ですかにゃ?」

 彼が苦しむ事などまずないので、【召使アイルー】が心配そうにしている。

 

 何かおかしい……。

 

 ベナトールは、呻き声まで出しながら、体内の違和感と闘っていた。

 

 なんだ? これは?

 

 【モンスター】の毒ならさっき飲んだ【解毒薬】で解消しているはず。

 それに、こんな違和感は初めてだ。毒の感じでもなさそうだし……。

 まるで、体内を蝕みつつ精神をも変えていくような、この攻撃的な感覚はなんだ?

 抑えないと、誰彼構わず襲い掛かって食い殺したくなるような……!

 

「……旦那様?」

 【召使アイルー】が彼に触れた途端、彼は豹変した。

「俺に触れるなぁ!!」

 その、まるで獣が牙を向くかのような表情に、彼女は怯えて縮こまり、食われるのを待つしかない獲物のように、耳を伏せてガタガタと震え出した。

「……すまん……」

 ハッとなったベナトールは、そう言って謝った。

 

 

 一晩寝たら回復したものの、それからハナと【クエスト】に行く度に、異変が起きた。

 それは必ず、彼女の血が皮膚に付いたりだとか、彼女の血を口に含んだりだとかした時に起きたために、どうもハナの【血】に関係するものではないかと思われた。

 そこで、ベナトールは【大長老】に伺いを立ててみた。

 

「ついに、表れたか……!」

 

 話を聞いた【大長老】は、苦々し気に言った。

「と、言いますと?」

「あやつにはの、ベナトール。【竜人族】の血が入っておるのじゃよ」

「やはり、噂は本当でしたか……」

「左様。だから恐らくは、成長に伴ってその血が濃く出始めたのじゃろう」

 

 【竜人族】の血は、彼らにとっては肉体を癒し、皮膚を頑丈にするなどそれ故に何百年をも生き続ける命の糧となりうるものなのだが、【人間族】に対しては、猛毒にも値する程の脅威になりうるのだ。

 その血を浴びれば肉体も精神も蝕まれ、その変化に耐えられずに攻撃的になり、やがては発狂して死ぬか、獣のごとく誰彼構わず襲っては食らうようになる。

 まれにそれに耐えて克服し、【竜人】へと変化して彼らのような長寿と頑丈な肉体を手に入れる者もいたが、(そしてそれを手に入れるために、わざと竜人を狩る輩もいるが)大抵は竜の出来損ないのように成り果てて、【モンスター】としてハンターに狩られるか、その前に殺人担当の【ギルドナイト】に狩られるかの運命が待っている。

 

 だから何かあった時のために、【大長老】に仕える大臣や、身の回りの世話係などは全員【竜人族】なのである。

 

 

「ベナトールよ。お主の【教官】の任務を解く」

 

 【大長老】は考えた後、彼にそう言った。

「お断り致します」

「儂はお主を失いとうない。お主が苦しむ様もな」

「例えどんなに苦しみ悶えようとも、俺は最期のその日まで、務めを果たす所存にございます。もしその時に意識が残っていたならば、自分の胸を突いて死ぬ覚悟です」

「意識が無かったらどうするつもりなのじゃ? ハナを襲ってしまったら?」

「その時は、どうぞ【モンスター】として俺を狩って下さい」

「……。なぜそこまでしてハナに付こうとする? 初めは断ろうとしていたのであろうが?」

「……。一度就いた任務を、放棄する気はありません」

「それだけではあるまい?」

 

 彼は黙っている。

 

「――まあ良かろう。そこまで覚悟が出来ているなら任せよう」

「ありがとうございます」

 彼は深々と頭を下げて、帰って行った。

「惜しいのぉ……」

 その背中を見送りながら、【大長老】は言った。

 

 

 

 そんなある日、【クエスト】から帰って来た二人を見たアレクトロは、ベナトールの異変を感じ取った。

 ハナには隠している様子だったが、何か違和感があった。

 そこで、一人で部屋に帰って行くベナトールの後を付いて行き、こっそり部屋を覗いてみた。

 

 ドアの隙間から見えたものは、ベナトールが苦し気に呻いている姿。

 

 どうやら【召使アイルー】でもどうしようもないのだと分かった彼は、中に踏み込んだ。

「オッサン? どうしたんだよ?」

「……アレクか……?」

「あぁ、大丈夫か?」

「……すまんが、放って置いてくれ……」

「んな訳いくかよ。何か回復でも――」

「俺に……触れるな……!」

 

 ベナトールは荒い息を吐きつつ、自分の体を抑え込もうとするように両腕で抱いている。

 

「……。オッサン?」

 明らかに様子がおかしい彼に、戸惑いを隠せないアレクトロ。

「……すまん。じきに治まるから。見るのは辛かろうが、放っといてくれ……っ!」

「……発作、なのか?」

 苦し気に呻き、悶えている彼を、アレクトロは【召使アイルー】と共に見守るしかなかった。

 

 

「すまなんだな……」

 ようやく苦しみが治まった様子の彼が、深い息を吐きつつ言った。

「いったい何があったってんだよ? オッサンがこんなに苦しむなんて……」

 重症を負っても平然と闘う程の忍耐強いベナトールが、ここまで苦しむ様子を彼は見た事がないのだ。

 

「言うまいと思ったのだが……」

 

 ベナトールはそう前置きし、ハナの【血】についてアレクトロに説明した。

「そんな……! じゃあオッサンは、その内【モンスター】になっちまうってのか!?」

「そうならんように願いたいがな。まあ当分は大丈夫だろう」

「当分は……って、その間ずっとそんなふうに、一人で苦しみ続けるつもりなのかよ?」

「それに耐える体力と精神力があるからこそ、変化を抑えていけるのだよ。お前ならとうに発狂しているかもしれんがな」

 

 ベナトールはニヤリと笑った。

 

「笑ってる場合かよ! それを救う手立ては無ぇのかよ!? ハナの【血】を消す手段とか――」

「あるかもしれんが、俺には分からん。それに、ハナがそう生まれたからといって、俺らが勝手にその【血】を変える事などおこがましいと思わんか? あいつは俺ら【人間族】より長生きするかもしれんのだぞ? その命を【人間族】から見た一方的な理由で、わざわざ縮める理由がどこにある?」

「そうかもしんねぇけど……。でもそのためにオッサンが苦しむ理由が理解出来ねぇよ。なら、なんでそこまでして傍にいようとすんだよ?」

「さてな……」

 

 なぜか彼は、寂しそうに笑った。

 

 

 彼の部屋から出る時に、「くれぐれも誰にも、特にハナには言わんでくれよ」と念を押されたアレクトロは、それからハナと【クエスト】に行く時にもいつも通りに接していた。

 

 ただ、なるべくハナに怪我を負わさないように立ち回った。

 

 それはハナのためというよりは、ベナトールの苦しむ姿を見たくないという理由からだった。

 そんな事を知らないハナに「アレク、なんか最近あんた、あたしの【騎士(ナイト)】みたいね」とからかわれたり、カイにも「最近、おいらを放っぽらかしてハナを優先して護ってるみたいだよね」などと言われたりしていたが、自分としては逆にベナトールを護るつもりになっていた。

 

 そんな彼を、ベナトールは複雑そうな目で見ていた。

 

 

 

 そんな中だった。

 ハナが不安そうな顔をして、アレクトロの部屋に一人で入って来たのは。

 

「アレク、相談があるの」

 

 彼女は深刻そうな顔をして、そう切り出した。

「あのね、ベナがね、なんかここんとこ、なんとなく具合が悪そうなの」

 アレクトロは、彼女に気取(けど)られる程抑えきれなくなってしまったかと、少しショックを受けた。

「それでね、おじいちゃんに相談してみたの。そしたらあたしの【血】の影響かもしれないって言うの」

 

 あのクソジジイ、いらん事を……!

 

 声には出さなかったが、心で悪態を付く。

「あたしの【血】って、もしかして【人間】には悪い影響になるの?」

 アレクトロは、真実を話すべきかどうか迷った。

「あたしの【血】のせいで、ベナは具合悪くなっちゃってるの? あたしのせいで、ベナは……。ベナはもしかしたら死んじゃうかもしんないのっ!? そんなの、そんなのヤダよぉ……!」

 ハナは話している途中で感情が爆発し、泣き出してしまった。

 

「……大丈夫だ……」

 

 アレクトロは、自分に言い聞かせるように声を絞り出した。

「大丈夫だハナ。そんな事にはならない。俺が絶対そんな事にしてやんねぇ!」

 彼も途中で感情が爆発したように叫んだ。

「ホントに……?」

 ハナはしゃくり上げながら、彼を見て言った。

「あぁ本当だ! 約束する!」

 アレクトロは力強く言って、彼女を抱き締めた。

 

 その腕に力を込めながら、どっちももう二度と苦しめるもんか! と強く心に誓った。

 

 

 ハナが部屋を出てすぐに、彼は【王立図書館】の中にいた。

 ベナトールが何と言おうと、ハナの【血】を消すつもりでいたのだった。

 お互いに苦しまないようにするには、ハナを完全な【人間族】にするしか方法がないと考えたのだ。

 例えハナの寿命が縮もうとも、そしてそれが【人間族】から見た一方的で身勝手な考えだったとしても、【人間族】であるベナトールを苦しませずに済むのなら、ハナもそれを望むだろうと思った。

 なぜならベナトールを【竜人族】に変化させる選択肢は、あまりにも危険だったからだ。

 

 【奇病を治す方法について】とか、【竜人族について】とか、色々調べていたアレクトロは、一つの記述に希望を見出した。

 そこにはこう書かれてあったのだ。

 

『竜人の【血】、つまり竜人の能力を消すには、消したい対象を瀕死にした上で別の竜人族の【血】を体内に入れる事。ただし、純粋な【血】を入れなくてはならない』

 

 彼は、罪を犯すつもりでいた。

 

 

 

 その日彼は、【大老殿】の【謁見室】にいた。

「何事じゃ? アレクトロ。深刻な顔をして」

「【大長老】様。折り入って話したい事があるのです。どうか、人払いを……」

 只事ではない彼の様子を見た【大長老】は、「良かろう……」と呟いてスッと手を上げた。

 二人きりになった【謁見室】で、彼はこう切り出した。

 

「俺は……。罪を犯しに来ました」

 

「――罪、とは?」

「俺は、ハナの(くびき)を解いてやりたいのです!」

 言うなり、アレクトロは剥ぎ取り用のナイフを抜いて走り寄り、【大長老】の向う脛あたりを突いた。

 顔をしかめた【大長老】は、「なるほど……」と呟いた。

 本当なら脇腹あたりを突きたかったのだが、【大長老】があまりにも大きいがために脚を狙ったのだった。

「ハナの、【血】を消すつもりなのじゃな?」

「はい……」

「それは、ハナが望んだ事か?」

「いいえ、直接には聞いてません。けど、『このままではベナが死んでしまうのではないか』と悩んでおりました。そして、何より俺が、オッサンの苦しむ姿を見たくなかったんです」

「そのために罪を犯すと? 自分が処刑される覚悟をすると言うのか?」

「はい。俺は、このままこのナイフで、ハナを刺しに行きます。どちらにしろあなた様のような純粋な【竜人の血】を浴びる事になる俺は、長くは持たんでしょう」

「――なぜ、己の命を懸けてまで、二人を護ろうとするのじゃ?」

「あの二人を、引き離したくないんです。そして、二人共にこれ以上、苦しめたくなかった」

 

 アレクトロは俯いている。

 

「顔を上げて儂を見よ、アレクトロよ」

 アレクトロは逡巡した後、見上げた。

 泣きそうな顔をしているな。と【大長老】は思った。

「アレクトロ、お前は、優しい子じゃの」

 静かに掛けられたその言葉に、彼は戸惑った表情を見せてから、寂しそうに笑った。

 

 彼は決意したように、ナイフを抜いた。

 飛び散った【血】が彼にかかる。

 

 【血】が付いたままのナイフを鞘に戻したアレクトロは数歩下がり、無言で深々と礼をしてから踵を返し、駆けて行った。

「惜しいのぉ……」

 その背中を見送りながら、【大長老】は呟いた。

 

 

「ハナ、いるか?」

 アレクトロはその足で、ハナの部屋に入って行った。

「いきなりどしたの!? その血は何?」

 戸惑うハナに、彼はこう言った。

 

「ハナ、俺は別れを言いに来たんだ」

 

「どういう事!?」

「お前の(くびき)を解いてやるよ。俺の命と引き換えにな!」 

 言うや否や踏み込んだアレクトロは、先程【大長老】を刺したナイフでハナの脇腹を突いた。

「……アレ、ク……!?」

 ハナは驚愕の面持ちで固まった。

 アレクトロは、ハナを引き寄せ、きつく抱き締めている。

「ハナ……。俺は、ハッキリ言ってお前が嫌いだった。……だが、今まで一緒に過ごした日々は、楽しかったぜ……」 

 そして「あばよハナ!」と叫ぶや否や、ナイフを抉り、抜いた。

 

 彼女は崩れ落ち、目を閉じた。

 血はなぜか、それ程出なかった。

 

 

 丁度その時、ベナトールが入って来た。

 彼は倒れたハナを見、血の付いたナイフを持っているアレクトロを見るや否や、「貴様……!」と全身から殺気を湧き出させた。

 それはたちまち黒い嵐となって、アレクトロを吹き飛ばそうとした。

 圧倒的な威圧感はただでさえ大きなベナトールを何倍にも大きく見せ、【アカムト】シリーズを着ているのも相まって、まるで猛る【アカムトルム】がその場にいるかのように見えた。

 もしその場所に誰かがいたならば、恐怖で凍り付きつつ次のように思った事だろう。

 

 指一本でも動かせば殺される! と。

 

 彼は何もせずにただ立っているだけだったのだが、心臓の弱い者ならそのまま止まってしまいそうな程の迫力があった。

 そんな中でもアレクトロは臆せずに口を開き、「死んでねぇよ、オッサン」と言った。

「――何?」

 

 ベナトールの殺気は治まっていない。

 

「ハナは死んでねぇ。今は死んだように見えるけどな」

「……どういう事だ?」

 怒りを抑えるように、彼は言った。

「ハナは、生まれ変わる……んだ……っ!」

 今まで抑えていた苦しみに耐えられなくなったアレクトロは、苦し気に言いつつ自分を抱くようにして、その場に蹲った。

「アレク!?」

 思わず近寄ろうとしたベナトールは、「来るなオッサン!!」と叫ばれて留まった。

「俺は、【竜人の血】を浴びてるんだ……。それも飛び切り上等のな……!」

「なんだと!?」

 そう言いつつハッとなり、「お前、まさか――!」と言いかけた。

 

 そこへ伝令がやって来て、ドアの向こうで「ベナトール様、【ギルドマスター】がお呼びでございます」と告げた。

 

「……行けよ、オッサン……」

 逡巡しているベナトールに、アレクトロは言った。

「俺は自分の部屋で待ってる……。なるべく、早く()()()()()()()()よな……」

 ベナトールが出て行くと、彼はふら付きながら立ち上がり、時々壁に手を添えながら、自分の部屋へと帰って行った。

 

 

 ドアを開けてあえぎながら帰って来た主人を見た【召使アイルー】は、「何事ですかにゃ!?」と狼狽した。

 彼は部屋の中央あたりで蹲っている。

 ベナトールは呻いたぐらいだったが、アレクトロは耐えられず、「うあぁっ!!!」と叫び声まで上げてしまう。

 

 ……こんな、こんな苦しみに、オッサンは今まで呻くだけで耐えていたのか……?

 

 アレクトロは時折叫びながら悶えつつ、そう思った。

「旦那さん、毒ですかにゃ!? ならば【解毒薬】を――」

「……フィリップ。残念ながら、こいつは【解毒アイテム】では消せねんだ……」

「旦那さん、もしかして、……もしかして、【竜人の血】を!?」

「あぁ……。だから、死ななきゃ治らねぇ……っ!」

「……見てられませんにゃ! ならせめて、ボクが止めを――!」

 【フィリップ(召使アイルー)】は涙を浮かべつつ身構え、爪を出した。

「ありがとう……。だがなフィリップ、もうすぐここに【ギルドナイト】が()()()()()()()()。……だから、だからそれまでは、生きとかねぇとな……」

「【ギルドナイト】って……。旦那さんまさか――!」

「……あぁ。俺は、罪を犯したんだ……」

 

 そして、ドアが開いた。

 

 『クエスト中』の札が掛かっているドアを、開ける者は【ギルドナイト】しかいない。

 アレクトロはよろよろと立ち上がった。

 そこには、《黒》の【ギルドナイト】が立っている。

「……。その恰好になってるという事は、話は着いたんだな。()()()()

 目深に被った幅広の羽根付き帽子で顔が見えないにもかかわらず、アレクトロはそう声を掛けた。

「――ああ。アレクトロ、【ギルドマスター】の命により、貴様を処刑する」

 彼はゆっくりとした動作で、腰に帯びた【サーベル】を抜いた。

 アレクトロは、止めを刺しやすいように両腕を広げ、目を閉じて静かに待った。

 

 が、彼は踏み込んでは来なかった。

 

「どうしたオッサン。今更躊躇したとか、そんなのは無しだぜ?」

「……。その前に聞きたい事がある。いつから俺が【黒のギルドナイト】だと気付いていた?」

「――二人で【クエスト】に行き始めた頃から、だな。あんたの身のこなしは、只者じゃねぇとすぐに思ったよ。最初は〈回避+2〉のスキルのせいかと思ったが、オッサン、それ付けてねぇだろ。しかも〈高級耳栓〉とか、自分が有利になるスキルが一切無くても簡単に回避して攻撃してやがったしな」

「…………」

「それに、あのタフさや苦痛に対する耐久力は、ただ独りで【クエスト】をこなす期間が長かったというだけの理由じゃ説明出来ねぇと思った。常に感情を抑える性格もな。だがそれらはただ一つの、あんたの【欠点】とも言える、その身に纏うものに対する理由の説明を補うに過ぎないんだぜオッサン。何か分かるか?」

 

「……。【殺気】、か?」

 

「そうだ。あんたの【殺気】は並みのものじゃねぇ。特に人に向けられる【それ】はな」

「……。今までに気付かれた事はない。貴様が初めてなだけだ」

「……そうか、なら、俺のハンターとしての感覚も……、捨てたもんじゃ……ねぇ、な……!」

 再び苦しみに襲われたアレクトロは、「ぐあぁ!!!」と両腕で我が身を抱いた。

 純粋な【竜人の血】を浴びたせいなのか、ベナトールより体の変化が早く、その両腕には鱗が生え始め、爪が鋭い鉤爪になってしまっている。

「オッサ……! は、早く止めを……! 俺が、俺が【人】である内に……っ!」

「……。アレク、貴様の罪は重い。そのままにして、死ぬまで苦しませるという手もあるのだがな?」

「……頼むよオッサン、俺は……っ! オッサンを襲いたく、ねんだ……!」

「この期に及んでまだ人の心配をする気か? お前はどこまで自分を犠牲にすれば気が済むのだ?」

「――うるせぇ……! さっさと止め刺せっつってんだろうが!!」

 アレクトロは、爪で引き裂こうとするかのようにベナトールに向かって行った。

 

 ズドッ!

 

 体を貫く音が聞こえ、彼の動きが止まる。

「……感謝、するぜ……」

 アレクトロは自ら【サーベル】の刃を掴み、更に深く、自分の体内に押し込んだ。

「……ハナに、よろしくな。……それからカイに、『すまない』と……」

「分かった。伝えよう」

「……今まで、楽しかったぜオッサン。……あばよ!」

 言うや否や、アレクトロは自ら【サーベル】を引き抜き、崩れ落ちた。

 

「俺も、楽しかったぜ……」

 

 ベナトールは、もう動かなくなったアレクトロに、そう声をかけた。

 

 

 

 

「――おい起きろアレク! チビ助!!」

 そう呼びかけられたアレクトロは、薄らと目を開けた。

「――。オッサン……?」

「そうだ。分かるか?」

 頷いた彼は、「なんで、俺生きてんだ……?」と言った。

 

「ほぉ、成功したようじゃの」

 

 嬉しそうな皺枯れ声が聞こえ、そちらに顔を向けたアレクトロは、そこに【ギルドマスター】がいるのを見付けた。

「【マスター】、なぜここに? ていうか、そもそもここは……?」

 まだ現実を掴み兼ねている彼が見回していると、「ここは【ギルドナイト】専用の医務室じゃよ」と言われた。

「大変じゃったのじゃぞ? お主を生かすために、どれだけの血がいったか……!」

「大袈裟ですぜ【マスター】、主に俺の血だったじゃないですか」

「たわけ、お主だけの血を全部使っておったら、今度はお主が死んでしまうわいっ!」

「ちょ、ちょっと待って下さい、いったいどういう……?」

 混乱するアレクトロに、【ギルドマスター】はこう言った。

「お主を救うためにの、お主の血を全て入れ替えたのじゃよ」

「そのためにな、一度『処刑』する必要があったのだよ」

 

 二人の説明によると、【竜人の血】を抜くためには、一旦心臓を止める必要があったらしい。

 

 【人間族】に【竜人の血】が入った場合、その変化に体が耐えきれずに細胞が破壊されてしまうため、一旦『死ぬ』必要があるのだとの事。

 完全に死んだ状態に一度しておいて、細胞の活動が停止してから【人間族】の他の血を入れつつ、途中で心臓を蘇らせながら徐々に入れ替えていく必要があるのだそうだ。

「『死なせる』のは簡単なんだが、『生き返らせる』のがなぁ。大体俺の専門は『殺す』事だしなぁ」

「それを抑えてわざと急所を外してくれて、感謝しておるよ」

「それでもギリギリでしたがね。だからお前が【サーベル】の刃を掴んで自分で押し込んだ時、抉らなくて良かったと思ってたんだぜ」

「あまり心臓を傷付け過ぎたら、二度と動かなくなってしまうからのぉ」

「本当は前みたいに、俺の血管を繋いで直接血液を送り込みたかったんだが、それだと混ざった【竜人の血】が俺に入って、消えないままお前に戻る可能性があったからな。やめたんだよな」

「それもあるが、完全に入れ替えるまでにはお主の負担が大き過ぎたからの」

「いくら負担が大きいからといって、俺が死ぬ事はなかったでしょうに」

「万が一という事があるじゃろが。『くれぐれもどちらも失わせぬように』との【大長老】様直々の御達しじゃったからの。お主も死なせるわけにはいかんかったのじゃよ」

 

「――そうだ! なぜ俺は『処刑』される身なのに、生かされてるんですか?」

 アレクトロは、今更のようにハッとなって言った。

 

「お主は罪を犯していないからじゃよ」

「しかし俺は【大長老】様をこの手で――」

「何の話じゃ? ――あれは【賊】の仕業じゃろうが? そして、お主は身を挺して御護りし、惜しくも逃がしたのじゃろう? その際に【大長老】様の【血】を浴びたと聞いておるぞ」

「話し合いの末にな、そういう事になったのだ。感謝するんだな」

「【大長老】様からの伝言じゃ。『大儀であった。これからもハナをよろしく頼むぞ』だそうじゃ」

 

 

 その時、勢いよくドアが開いた。

 

「アレクうぅ~~~!!!」

 入って来たハナは、アレクトロの目が覚めたのを見止めるや否や、泣きながら抱き付いて来た。

「ちょ、ハナ!? 何やって――」

 引き剥がそうともがいたが、ますますくっ付いて来る。

「心配したんだからねっ!? 『命と引き換えに』とかカッコいい事言っちゃって、ホントに死んだらあたしが生き残った意味がないじゃないのよっ! バカぁっ!!」

「わわ、分かったっ! 分かったから離れろ! お前【ギルドマスター】の前だって分かってんのか!?」

 アレクトロは慌てている。

「ほっほっほっ、若いのぉ……」

 【ギルドマスター】はニコニコ笑っている。

 

 そう言われて、なぜか真っ赤になるアレクトロ。

 

 ようやく離れてくれたハナに、「ご、ゴホン! もう【血】は消えたんだよな? ハナ?」と誤魔化そうとしたが、「当たり前でしょ!? 消えなきゃなんのためにあんたは命を懸けたのよ!?」と突っ込まれた。

「あたしが『生きて』ここにいるのが、何よりの証拠でしょ!? それに言っときますけどねアレク、あたしもあんたの血を入れ替えるために協力したんですからね!?」

「んじゃ、おめぇの血も入れたのか!?」

「そうよ? 感謝しなさいよねっ」

「……。どうしてもと聞かなくてな。まあ大した量ではなかったがな」

 

「一応、おいらも入れたんだけど……」

 

 所在なさげに、カイが言った。

「おめぇ、いたのかよ?」

「『いたのかよ』じゃないよぉ、おいらだって随分心配したんだぞ! 酷くないか!?」

「まあ最近、影薄いもんねぇ、カイ」

「ハナまで言うなよぉ!」

「大丈夫だカイ。影が薄くても、お前の事は忘れてねぇぞ?」

「あ、あんたにポンポンされても嬉しくないっ!」

「そうか、なら抱いてやろうか? ん?」

「余計にいやだ!!!」

「おいオッサンよ。カイが嫌がってるんだが?」

「あらヤダ。もしかして三角関係!?」

「んな訳ねぇだろっ!!!」

 

「元気じゃのぉ、若いもんは……」

 

 【ギルドマスター】は四人の言い合いにも似たやり取りを、いつまでも飽きずに眺めていた。

  

 

 

 

 




ベナトールの正体が、とうとうバレてしまいました。

ベナトールが「ギルドナイト」だというのは始めから決まっていなく、言わば後付けのようなものなのですが、友人と会話している時に「どうもギルドナイトなのではないか?」となりまして、それを採用いたしました。

今思えば、以前ハナに「どうしても連れて行けない仕事がある」と言っていたのは「ギルドナイト」としての仕事(恐らくは暗殺)だったのでしょうね。
その頃はハッキリと「ギルドナイト」としての設定はしていなかったんですが……。

この話で「ギルドナイト」だという事がハッキリしましたので、これ以降ベナトールの「仕事」についての話がたまに出て来るようになります。
そしてベナトール、もしくは彼についての会話の中で「仕事」という話が出て来たら、それは暗殺任務の事だという事になります。

「ギルドナイト」の仕事は何も暗殺だけに限った事ではないのですが、「黒のギルドナイト」という事なので、どうも彼は暗殺専門の任務を受け持っているようです。

 

ハナが竜人族の血を引いているという話は友人から聞いていたんですが、その設定を今までに出す機会がありませんでした。
ですが、「竜人族の血」が「人間族」に害を及ぼすという設定は、私の勝手な独自設定です。

彼らが「人間族」より遥かに長生きなのは体内の仕組みが違うのだろうと考えたら、「血」も特別なものなのだろうと独自解釈いたしました。
なので公式にはそんな設定はありません。



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チビを侮るなかれ

これは、「チャチャブー」のお題を友人から貰って書いたものです。


   

 

「ねぇアレクぅ、【星鉄】っていう物が必要になったんだけど……」

「なぜ俺に言う!? 目の前に守護者がいるだろうがっ!」

「だって、あんた私の【騎士(ナイト)】じゃない」

「ニヤニヤ笑いながら言うな! それはもう終わっただろ!? てか、別におめぇを護ってた訳じゃねぇし」

「照れ屋さんね~~」

「変な勘違いしてんじゃねぇっ!!」

 ハナはケラケラ笑った。

「……で? 【星鉄】が何だって?」

 むくれたように言うアレクトロ。

「なんだ結局付き合ってくれるんじゃない。あのね、【片手剣】の強化に【星鉄】っていう物がいるんだって」

「【星鉄】っつったら、確か【樹海】で取れるヤツだよな? オッサン」

「だな。採掘で取れる物だから、【ピッケル】の類いは必須だぞハナ」

 

「でもなぁ、場所がなぁ……」

 アレクトロは、顔を曇らせた。

「だよな……」

 ベナトールも同じようにしている。

 

「なになに? 二人してどうしたのよ!?」

「……。まあ、どっちみち掘れるのあそこっきゃねぇしな。仕方ねっか」

「二人で護りゃ、なんとかなんだろ」

「だな」

「ちょっと、勝手に二人で話進めて決めないでよっ!」

「まあ行きゃ分かるさハナ」

「その代わり、ちいっとばかしキツイかもしれんがな」

「どういう事よぉ」

 

 

 という訳で、今回は三人で【樹海】に来ている。

 道なりに採取しつつ《1》《2》と進み、《2》にある細い通路を伝って《8》へ。

 そこは巨木の根で出来た洞窟のようになっており、そこだけ開けた狭い空間になっている。

 

 入ってすぐにハナが見たものは、まるでカボチャのような奇妙な被り物をした、小さな生き物だった。

 

 それは人間のような姿はしていたが人間よりはるかに小さく、裸に葉っぱを腰に巻いただけ、といういで立ちのその肌は、緑がかった褐色というおおよそ人間とはかけ離れた肌色をしている。

「きぃきぃ!」

 その奇妙な生き物は、耳障りな甲高い声を発しながら、ハナに近付いて来た。

 見ようによっては可愛く見えなくもないので、ハナは「可愛い♪」などと言いながら、抱き上げようとした。

「そいつに触れるな!」

 ベナトールは一喝しつつ、ハナの手を遮った。

 

 ザクッ!

 

 直後に彼の腕が切り裂かれ、血が舞った。

 よく見ると相手は、ハンターや他の者が使えなくなって捨てたと思われる、折れた刃物を持っている。

「べ、ベナ!?」

 ハナは狼狽した。

 なぜならたったその一太刀で、彼の腕に骨まで見える程の切り傷が出来ていたからである。

 ベナトールはそんな事は構わずに【ハンマー】を振り上げ、相手に叩き付けた。

 頭を叩かれて朦朧となっている相手に、もう一発。

「ぎいぃ~~~!!」

 耳を覆いたくなるような高周波音を発しながら相手は地面に潜って逃げていき、被っていた奇面だけを残した。

 

「きぃ~~!」

「きぃきぃ!」

 それを合図にするかのように、いつの間にか周りに集まっていた同じ生き物が、耳障りな高音を発しながら向かって来る。

 よく見ると全部がそれぞれに、折れたり欠けたりした刃物を持っている。

 

「集まっていたか……」

「こいつはやっかいだな……!」

「ベナ、怖いよぉ」

 

 そこでアレクトロは、【閃光玉】を投げた。

 

「今の内に一匹ずつ狩るぞ」

「了解」

 ベナトールとアレクトロは二手に分かれ、視界を奪われて闇雲に刃物を振り回している相手を、一匹ずつ仕留めていった。

 ハナも一匹ずつならと協力して、倒していっている。

 

 と、閃光を見ていない者がいたのか、その内の一匹がアレクトロに向かって来た。

 

「このっ!」

 上段から振り下ろした【大剣】は、相手が高くジャンプした事によって空しく何もない地面を切り裂いた。

 

 ザシュッ!

 

 直後に刃が振り下ろされ、アレクトロの体から血が噴き出す。 

「がはっ!!」

 血を吐くアレクトロ。 

 丁度低い姿勢になっていた彼は、肩から胸辺りを切り裂かれたのだ。

 

 ……コイツ、()()()()やがる……!  

 

 もう少し彼の姿勢が低ければ、頸動脈を切り裂かれるところだった。つまり相手は急所を狙う事を知っているのだ。

「くそっ!!」

 アレクトロは歯を食い縛り、切り上げて相手を吹っ飛ばした。

 追い掛け、起き上がる前にもう一太刀。

 悲鳴と共に相手が潜ったのを確かめると胸を押さえ、【大剣】を支えにしながらがくりと片膝を付いた。

「おい! 大丈夫か!?」

 ベナトールが助け起こす。

 

 出血が酷い。アレクトロは苦し気にあえいでいる。

 だが自分でポーチを弄り、【秘薬】を飲んで一息付いた。

 

「はぁ……。やっぱ攻撃力高ぇなこいつらは」

 苦笑いするアレクトロ。

「舐めるとこんなふうに酷ぇ事になる。分かったか? ハナ」

「う、うん……」

 

「こいつらは【チャチャブー】といってな、我々【人間】とは異なる種族の生き物だ。独自の文化があるようで、常に奇妙な面を被っているために【奇面族】などと呼ばれている。人間の生活などに入り込む事はまずないんだが、こんなふうに人間が捨てた刃物などを加工して、自分で使いやすいようにする知恵もあるようだ。その小ささに似合わずかなりの怪力でな、その力でもって攻撃されると、今みたいにかなりのダメージを負わされるのさ」

 

 全部倒した(正確には追い返した)後で、ベナトールはハナに説明した。

「ここは、たぶん【チャチャブー】の巣なんだと思うぜ。大抵ここに来るといるし」

「そうだろうな。地面や壁にもちっこい穴が開いてるしな。ここで生活してるのかもしれん」

「そんなとこに連れて来ないでよぉ」

ハナは半泣きで抗議した。

「仕方ねぇだろが、ここでしか【星鉄】は取れねんだっつの」

「だな。だからまた帰って来る前に、さっさと掘るこった」

 

 そう言われ、ハナは慌てて採掘場所で【ピッケル】を振るったのであった。




「モンスターハンター3(トライ)」あたりでは「チャチャブー」の子供「チャチャ」がハンターの仲間になっているようですね。
私はやった事はありませんが。

ですが「フロンティア」及びそのベースになっている「モンスターハンター2(ドス)」、それ以前の「モンスターハンター」シリーズでは「チャチャブー」の存在は脅威の対象でしかありません。
私は舐めてて何度も殺されました(笑)



余談ですが、かつてのゲーム仲間(リアル男)がいくら「チャチャブーだよ」と教えても、何故か頑なに「チャチャぷー」としか言わなかったのを思い出します。
確かに可愛くなりますけどねぇ、「チャチャぷー」。


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ベナトール物語

これは、「キャラがどう生まれ育ったか知りたい」という友人の要望に応えたものです。

ですが私の中には「ベナトール」と「アレクトロ」しか人格がいませんので、友人の人格である「カイ」と「ハナ」の話は書けません。
二人の話は友人頼みという事になるのですが、友人は物書きには興味が無く、散々せっついてようやく重い腰を上げる程に無理矢理書かせないといけない人物なので、第一話が奇跡と言っても過言ではないのです。

話自体は面白いものを書くので、私は好きなんですがねぇ。残念です。


という訳で、今回は「ベナトール編」になります。
(少し長いかも)


 

 

 あるハンター一家の家に、褐色の肌を持つ元気な男の子が生まれた。

「でかしたシャサール! この子には【ベナトール】という名を与えよう!」

「ベナトール……。【ハンター】という意味ね? カサドール」

「そうだ。うちは代々ハンターの家系だからな。これ程相応しい名は無いだろう?」

「本当に良い名だこと。立派なハンターになると良いわね」

「もちろん、俺がそうなるように鍛えてみせるさ」

 

 ベナトールは幼子になるまで、【竜骨】やら【カラ骨】やらを玩具に育った。

 中でも一番のお気に入りは、【カラ骨(大)】の中に【石ころ】を入れて作ったガラガラだったという。

 

 歩き始めたベナトールは、両親(取り分け父親であるカサドール)に見守られながら、【密林】で【アプトノス】を相手に遊ぶようになった。

 子供の【アプトノス】と相撲を取るのが好きで、そのために時々親に尻尾で叩かれたりしていたが、それによって自然とこの【モンスター】がどうやったら怒るかとか、その際にはどうやったら避けられるかなどを覚えていったようである。

 好奇心のままに【ケルビ】にちょっかいを出して角でどつかれて大泣きしたり、殻の中で丸まった【ヤオザミ】を抱えて遊んでいて、殻から出た【ヤオザミ】に挟まれたりしていたが、こちらも遊んでいる内に(特に【ヤオザミ】の)避け方を学んだようだ。

 

 成長していくに従って当然行動範囲も広くなり、カサドールが与えた小さなナイフで木の実を採ってみたり、【ヤオザミ】から【ザザミソ】を取り出して食べてみたりするようになった。

 その頃からすでに他の子供より大きく、力もあったので、野山を駆け回る際にはガキ大将として頼りにされていたようだ。

 

 初めて【ハンターナイフ】を与えられたのは十二ぐらいの頃。

 それでいきなり【コンガ】に挑んでその爪を叩き折ったのには、流石の両親も驚かされた。

 (まあその直後に飛び掛かられて泣きながら帰って来たのだが)

 【ランポス】に挑んだ時は【ハンターナイフ】を使うよりも力比べをした方が早いと考えたらしく、噛み付かれる前に組み付いて、締め上げつつ放り投げたりしていた。

 そこでこんなに力があるのならと【ハンマー】を与えてみると、気に入ったらしくてそれ以降は主に【ハンマー】ばかりを使うようになった。

 まだ小型【モンスター】しか狩らせてもらえなかったが、相手が気絶するのが面白くてたまらないらしく、特に【ブルファンゴ】の突進を溜めスタンプで止めつつ気絶させるのが得意になっていた。

 そうやって【ハンマー】独自の溜めを使いこなしている内に、自然と筋肉も付いていったようである。

(余談だが【ランス使い】として有名だった父親カサドールが【ランス】の訓練もさせてみたものの、こちらの方はものにならず、練習段階ですぐに諦めてしまった)

 

 

 十五歳になった頃、そろそろ大型【モンスター】にも挑ませてみようと両親が話し合い、【ドスランポス】を狩らせてみる事にした。

 それまでにハンターとしての基礎知識は教えたり遊びの中で知ったりして身に付いていたため、【アイテム】なども自分で選んで持って行っていた。

 ただ【閃光玉】だけは、使い方と調合を教えてカサドールが持たせてやった。

 【密林】の《7》で【ランポス】が群れているのを見付けた彼は、【ドスランポス】の探索そっちのけで【ランポス】共を気絶させる事に興じ始めた。

 カサドールが叱ろうとすると、《5》に通じる道の辺りから、ひと際大きな個体が入って来たのが見えた。

 

 オウッオウッ!

 

 ドスの効いた低い声で気が付いたベナトールは、【ランポス】よりも二回りほど大きく、目立つ鶏冠や赤く染まった爪などを持つその個体に少し驚いたものの、【ハンマー】を構え直してすぐに向かって行った。

 が、【ドスランポス】が来た事により【ランポス】共が連携攻撃を始め、振り被っても叩き付ける前に横から飛び蹴りされて吹っ飛んだりして、思うように攻撃が出来なくなった。

 

 苛ついた彼に、カサドールから「馬鹿者【閃光玉】を使わんか!」と声が飛ぶ。

 

 そこでポーチを弄るものの、【ランポス】に邪魔されて投げる事も出来ていない。

 ようやく投げられたと思っても、目の前で炸裂させられずに失敗し、とうとう【ドスランポス】に逃げられてしまった。

「くそぉ! この邪魔者らがぁ!!」

 ベナトールは怒りを【ランポス】の群れに向けたのだが、「それよりさっさと追わんか馬鹿者がぁ!!」とカサドールに叱り付けられて、舌打ちしながら追い掛けた。

 

 《5》に移動したのを追い掛けたら、そこには【ブルファンゴ】の群れがいた。

 

 一匹ずつなら突進中ですら簡単に気絶させられる自信があるこの【モンスター】だったが、群れでいるがためにあちこちから突進を受けては吹っ飛ばされた。

 ましてや【ドスランポス】もいるため、攻撃に集中出来なかった。

 どちらを先に片付けようかと迷った彼は、とにかく突進がやっかいな【ブルファンゴ】から片付ける事に決めた。

 翻弄されつつも一匹ずつ仕留めていると、突然背後から飛び掛かられた。

 【ブルファンゴ】に集中しすぎて【ドスランポス】の様子を見るのが疎かになっていたのだ。

 

 彼はうつ伏せ状態で倒され、呻いた。

 【ドスランポス】は彼に圧し掛かっている。

 【ランポス】よりも発達した足の鉤爪を背中に突き立て、まるで勝利宣言をするかのように、天を向いて吠えた。

 

「しまった! まだ早かったか!?」

 カサドールは慌てて助太刀しようとした。

「……。調子に、乗ってんじゃ、ねぇ……っ!」

 父親が走り寄る前に、そう言いつつがばりと起き上がった彼は、その勢いでひっくり返った【ドスランポス】目掛けて【ハンマー】を思い切り叩き付けた。 

 見事に頭を捉え、気絶させる事に成功する。

「いってぇんだよこの野郎!!」

 怒りのままに何度も叩き付けている。その勢いがあまりにも凄まじいので、まだ生き残っていた【ブルファンゴ】までが突進中に巻き込まれて絶命した。

 カサドールは、初めて息子が大型【モンスター】を討伐した事の喜びよりも、その怒りの凄まじさに圧倒され、恐ろしささえ感じていた。

 

 それから何度か大型【モンスター】を狩らせてみたのだが、どうも我が息子は怒りに火が付くととんでもない【殺気】を秘めるようだと感じた父親は、その怒りをコントール出来るようにと【訓練場】に通わせる事にした。

 【教官】に付いて一通りの武器をマスターしたベナトールだったが、怒りのコントロールは出来ても【殺気】を抑える事は出来かねていた。

 

 

 そんな中、【街】に【古龍】が襲って来た。

 直ちに【迎撃召集】がかけられ、上位ハンターであるカサドールは出掛けて行った。

 母親と家を守るべく帰って来ていたベナトールは、母親であるシャサールからこんな話を聞く。

 

「今回の【古龍迎撃】はねベナトール。【砦】を護るものじゃないんだよ」

 

「どういう事だ?」

「相手は定期的に【砦】に巡回して来る【ラオシャンロン】や【シェンガオレン】じゃないのさ。――ほら聞こえないかい? 【街】のすぐ傍で戦闘が始まっているのが」

 耳を澄ませると、【街】の外、門や外壁の辺りで戦闘の音が響いているのが分かった。

「直接【街】に来ているって事か!?」

「どうもそうみたいだね。だから門や外壁が破られれば、直接【街】の中に【古龍】が入って来るよ」

「母さん、俺も参加して来る!」

「おやめ! とてもお前が歯が立つ相手じゃないよ。第一、まだ上位にすらなってないじゃないか。参加資格は上位ハンターだけなんだよ?」

「う……。くそぉ!」

「父さんに言われた事を忘れたのかい? 『家と母さんを頼む』と言い残して出掛けたんだよあの人は。だからここがお前の【持ち場】なんだ」

「――分かった!」

「良い子だベナトール。頼んだよ?」

 サシャールは、出掛けにカサドールが彼にしてくれたように、優しく笑って頭をポンポンとしてくれた。

 

 

 それから間もなく、「門が破られたぞぉ!!」と言う声を聞く。

「父さん!!」 

 母親の制止を振り払い、門まで駆けて行ったベナトールは、破壊された門の前で身構える【古龍】の姿を見た。

 

 それは、全身がまるで錆びたかのように赤茶けた、【クシャルダオラ】だった。

 

【挿絵表示】

 

 上位ハンターや【守護兵団(ガーディアンズ)】らが一丸となって攻撃しているのが見える。

 と、相手は前方付近にいた者らに対して反動を付けつつ半回転しながら、前足で引っ掻くような動作をした。

 たったそれだけで数名が吹っ飛ばされ、地面に叩き付けられた者は皆、深く抉れた裂傷を負っていた。

 【クシャルダオラ】の周囲には風が生まれ、それを鎧のように纏う事によって容易に近付けないようになっている。

 

 【龍風圧】と呼ばれるものである。

 

 この状態では〈龍風圧無効〉のスキルが無い者は煽られ、【弾】や【矢】も弾き返されるため、まずその風の鎧を無くさなければならない。

 この鎧は一時的だが毒によって消せる。それを知っている上位ハンター達は【毒弾】や【毒矢】を使っているようなのだが、【街】の中に入り込んでしまった相手を極力【街】の被害を抑えるように立ち回っているせいなのか、中々成果が挙げられていない様子。

 

 それでも角を折った者がいて、風の鎧が消えた。

 

「今だ!!」

 一斉に掛かって行った戦闘員は、舞い上がった【クシャルダオラ】の風に煽られた。

 その隙に風のブレスを吐かれ、また数名が吹っ飛ばされた。

 このブレスはかなり強力なものなので、まともに当たった者らが飛んで行った先の地面に叩き付けられる前に絶命した。

 脇を掠めた者らも煽られるか吹き飛ばされたりしている。

 

 【クシャルダオラ】が羽搏く度に、キシキシと金属同士を擦り合わせるような耳障りな音がしている。

 

「父さん!!」

 そんな中、父親を見付けたベナトールは、叫びつつ駆け寄ろうとした。

「来るんじゃない!!!」

 彼は脇腹辺りを切り裂かれている。そのせいか滑空して来た【クシャルダオラ】を避けるのが少し遅れた。

 【クシャルダオラ】は父親の眼前で空中停止すると、息を吸い込んだ。

 が、ブレスを吐く直前に【閃光玉】を投げられて落ち、もがいた。

 

【挿絵表示】

 

「父さん、今の内に回復を!」

「でかした息子よ!」

 カサドールが回復している間に頭に陣取り、【ハンマー】を叩き付ける。

 が、もがいて頭を振るために、上手く頭に当たらない。

 起き上がった【クシャルダオラ】は闇雲に前足を振り回し、ベナトールはそれに引っ掛けられた。

「ぐはっ!!」

 仰向け状態で地面に叩き付けられ、それでもすぐに起き上がったものの、脇から胸辺りに掛けて裂傷が出来ている。

 

 そこに吐かれたブレスが偶然直撃した。

 

【挿絵表示】

 

 防御の低い下位ハンターの防具では耐えられるはずもなく、彼は即死するはずだった。

 が、そうはならなかった。

 カサドールが盾で防いだからである。

 彼は得意武器である【ランス】を使っていた。

 そのおかげで彼は護られたのだ。

 

 だが、受けたカサドールはかなりのダメージを負っていた。

 なのにお互いに回復する暇もなく、閃光から覚めた相手が追撃するかのように、今度は正確にブレスを吐いて来た。

 耐えられなくなったカサドールがガードを捲られつつ吹き飛ばされ、煽りを食ってベナトールも吹き飛ばされた。

 父親が前に立ちはだかっていたおかげでまともにブレスが当たらず、彼は吹き飛ばされただけで死なずに済んだ。

 しかし飛ばされた先で壁に叩き付けられ、気絶した。

 

 

 

 それからどれぐらい経ったのか、目を開けたベナトールは【クシャルダオラ】がいないのに気が付いた。

 周りを見回すと、瓦礫と共にあちこちに戦闘員の死体が転がっているのが見えた。

「……。父さん?」

 今まで護ってくれていた父親がいないのに気が付いた彼は、呻きながら起き上がって、ふら付きながら辺りを歩いてみた。

 

 少し離れた場所で、彼は父親を見付けた。

 【ランス】の盾が粉々に砕かれ、それどころか上位素材の頑丈な鎧さえも、引き千切られたように吹き飛ばされている。

 彼の息は、既に無かった。  

 

「……さん、父さん、父さん!!」

 彼は跪き、何度も呼んだ。

 それが無駄だと分かっていても、止められなかった。

「父さん、父さん……っ! わあぁ~~~!!」

 

 彼が泣き叫んだその時、【街】の中で破壊音がした。

「うおぉ~~~!!!」

 その場所をキッと睨み、怒りのままに走って行く。

 今まさにブレスを吐こうとした【クシャルダオラ】の頭を、そのままの勢いで横から武器出し攻撃で叩き上げた。

 不意を突かれた相手がもんどり打って倒れる。

 その頭を目掛けて何度も叩き付ける。

 

【挿絵表示】

 

 昏倒した相手に他の戦闘員も加わって、一斉に攻撃する。

 が、それでも討伐には至らない。

 

「ベナトール!」

 呼ばれた声で振り向いた彼は、そこに母親が立っているのを見た。

「母さん!!」

 そして、そこに尻尾が唸りを上げて迫って行くのを見る。

「危ないっ!!」

 飛び付いて抱きかかえた直後、鞭のようにしなった尻尾に打ち据えられ、二人は吹っ飛んだ。

 瓦礫に叩き付けられ、ゴロゴロと転がって止まる。

 呻いて目を開けた彼は彼女が驚愕の表情のまま、固まっているのを見た。

 

 間に合わなかったのだ。

 

「そ……んな……っ! かあさ……!」

 彼も重傷を負っている。

 そして、その光景を見たのを最後に目の前が暗転し、何も分からなくなった。

 【クシャルダオラ】はその時点でかなり傷付いていたため、悔しそうに一声吠えると舞い上がり、ふらふらと飛び去って行った。

 

 

 

 次に目を開けた時、彼は見慣れぬ部屋に寝かされていた。

 

 ――。()()()()()()、のか……?

 

 瞬きしつつ目だけで見回していると、自分を覗く皺くちゃな竜人族が目に入った。

「目が、覚めたようじゃな?」

「……【ギルドマスター】。俺は、生きているのですか……?」

「そうじゃ。運が良かったの」

「……母さんは、やはり……?」

「うむ。残念ながら、助からんかった」

「そう、ですか……」

 

 彼は片手で顔半分を覆うと、声を殺して泣いた。

 

「ベナトールよ。その悔しさを、【ギルドナイト】として【モンスター】にぶつけてみる気はないか?」

「…………」

「お主はまだ下位ハンターながら、上位【古龍】と渡り合いおった。しかも【鋼龍(こうりゅう)】という別名を持つ程の、かの(はがね)のような硬い堅殻をものともせずに叩き付けるその力は、既に上位ハンター並み、いやそれ以上じゃと儂は思うておる」

「……。上位ハンターである父に護られたあげく、その父を見殺しにした俺に、その力があるとでも……?」

「あれは当然の行為じゃろうが。親子関係なく、下位ハンターを護るのは上位の努めじゃ。それで死んだからといって、誰にも責める謂れはない。むしろカサドールは、息子を護れて満足して死んだであろうよ」

「…………」

「ベナトールよ。その悲しさ、悔しさは自分で乗り越えるしかないのじゃぞ? 今は無理かもしれんがな」

「……。少し、考えさせて下さい……」

 

 

 その後、彼は上位ハンターの試験を受け、【ギルドナイト】の任務を正式に受諾した。

 腕を上げていった彼はしかし、ハンターとしての仕事でさえも、PTでは行きたがらなかった。

 それは、もう二度と目の前で人が死ぬのを見たくないという理由と、仲間内でさえも恐れる【殺気】のせいだった。

 

 ある仲間はこう証言した。

「彼の【殺気】は上位【古龍】、いや【黒龍】以上に恐ろしい」

 

 怒りによる【殺気】を向けられたものは、それが例え百戦錬磨の死線を駆け抜けた【ギルドナイト】であっても凍り付く程のものだったのだ。

 更に元々無口な性格な上に、心の傷が深いせいなのか感情を表に出す事もなくなったために、大男なのも相まって、ますます近寄りがたい雰囲気を纏うようになった。

 必然として独りで任務や【クエスト】をこなす事になるため、彼の体には更に筋肉が付いていき、褐色の肌色をしているので、まるで鋼の鎧のように見えていた。

 それで陰では「【鋼龍クシャルダオラ】と同等なのではないか?」とまで囁く輩もいたそうな。

 

 長年【ギルドナイト】を務めるようになった彼は、自分の個人的な感情抜きでどんな命令にも忠実に従う程になっていき、ある日とうとう【殺人命令】が下された。

 

 

 それは、月明かりの美しい夜だった。

 

 気配を消して、建物の影から影へと渡り歩きながら処刑対象を探していた彼は、ある路地裏で十代半ばぐらいの少女を見掛ける。

 彼女は貴族の子供らしく、今いる場所にはそぐわないような立派な服装をしていた。

 

 なぜこんな所に、しかも夜中に一人で?  

 

 訝しんだ彼は、気付かれないようにしながら彼女の後を付いて行った。

 彼女はやがて建物の一角の少し開けた場所で立ち止まり、周りを気にし始めた。

 

 そこへ、処刑対象の男がやって来た。

 

 彼女は男と何やら密談すると、男から何か渡された。

「わあっ、綺麗っ♪ これが【雌火竜の紅玉】なのね……!」

 感動した様子で月明かりに、その素材を透かして見る少女。

「そうだろう? かなりの上物だぜ。それ取るまでに何十頭も上位【リオレイア】を狩ったがな」

 男も嬉しそうにしている。

 

「……ほぉ、無許可で【リオレイア】を狩り続けていたのはそのためか?」

 

「だ、誰だ!?」

 狼狽える二人。 

 ベナトールは男の背後から近付き、【サーベル】を突き付けつつ「動くな」と言った。

「黙って消すつもりだったが、相手がいたとはな。――嬢ちゃん、その素材は貴重でな。【ハンターズギルド】管轄の素材なのだ。悪いが渡してもらおうか」

「い……嫌よ!」

 少女は後退っている。

「逆らえば嬢ちゃんまで消さねばならなくなる。その歳で死にたくはあるまい?」

「に、逃げろハナ!!」

 彼女はそう言われてビクッとなったが、逡巡している。

「オレは殺されてもいい。だが君だけはせめて……!」

「そんなの嫌っ!」

 少女はなんと、短剣を抜いて向かって来た。

 そしてベナトールの首に突き付ける。

「彼を放しなさい! でないと――!」

「やってみろ嬢ちゃん、それが出来るならな」

 

 次の瞬間ベナトールは、まず男の方をそのまま背後から串刺しにし、【サーベル】を抜いた。

 血飛沫と共に崩れ落ちる彼を見て悲鳴を上げる少女に向き直り、正確に心臓を突く。

 二人の返り血を浴びたまま、彼女の死体から【雌火竜の紅玉】を取り、黙って去って行った。

 

 初めての殺人任務だったにもかかわらず、あまりにも鮮やかな手口だったため、以降彼は殺人専門、つまり【黒のギルドナイト】として暗躍する事を求められた。

 彼は命令通りに平然と殺人を繰り返しているように見えた。

 が、寝る時には時折初めての殺人光景を夢に見てはうなされていた。

 そして表には一切出さなかったが少女を殺してしまった事を、彼はいつまでも後悔していた。

 

 

 

 そんな折、【大長老】から「孫娘の【教官】に就いて欲しい」と頼まれた。

 断るつもりだった彼だが、どんな命令でも忠実に任務をこなすような妙に真面目な部分があったため、「多少痛い目に合わせても良い」という事であるならと受諾した。

 そして、あの時殺した同じ【ハナ】という名前の、しかも貴族の少女に付く事になる。

 だから彼は、償いの代わりにこの子だけは命に代えても死なせまいと思っている。

 

 この子だけは、最期の瞬間まで護ろうと。

 




これを書いた時、「彼がハナに拘る理由はこれだったんだ!」とようやく得心いたしました。
と言いますのも私は話を作る時に大まかな流れを考えるだけで、後は登場人物に任せて書き進むやり方をしているからです。
(まぁあまりに自由行動し過ぎて流れから外れてしまうような時は、「ちょっと待てお前らそっちじゃない」と慌てて流れに戻したりはしてますけども)
なので実際に書いてみないとどうなるか分からず、どんな終り方をするかも作者である私自身が分からないのです。
(なので「これ今の流れで終わるのか?」とか思う事もあります。無理矢理その流れになるようにして終わらせてますけど)

この時は処刑対象者が「ハナ!」と呼んだのを(脳内で)聞いて「え、ハナ!?」とビックリしたぐらいです(笑)

ちなみに両親の名前「カサドール」も「サシャール」も、どちらもベナトールと同じく「ハンター(狩人)」という意味を持っています。
ハンター一家の家系という事なので、名前の意味にも拘ってみました。


挿絵は「パートナー」を外し、ベナトールが一人で「錆びクシャ」に向かっているつもりの演技で撮影いたしました。
この頃は下位ハンターなので、下位武具を適当に選んで装備しております。


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アレクトロ物語

キャラ誕生物語第二弾。
といっても前回の「ベナトール物語」で述べた通り私の中には「ベナトール」と「アレクトロ」しかいませんので、これでこの話は終わりになります。
 
という事で「アレクトロ物語」をお楽しみください。



   

 

 

 

【ココット村】のある家庭に、褐色の肌と鮮やかな青い髪を持つ男の子が生まれた。

 

 彼は幼少期まで、なんと【リオレイア】に育てられたという。

 

 なぜなら母親が病弱で乳の出が悪く、不憫に思った父親が、身籠った【リオレイア】を捕獲したからである。

 以降母親と【リオレイア】との半保育で育った彼は、一緒に育った【リオス科】の幼体との遊びを通じ、【モンスター】(取り分け【飛竜種】)の扱いを学んだようだ。

 【リオレイア】は、同じ巣にいる弱々しいものを護ろうとする性質があるようで、従って【彼女】にとっては異形のものである彼に、危害を加える事はなかった。

 

 その【リオレイア】は、彼の足取りがしっかりしてきて野山を一人で走り回れるようになるまでは【モンスター闘技大会】に出すペット扱いになっていたのだが、ある日敵と見なした父親を噛み殺してしまった。

 

 それは【彼女】にとっては彼を護ろうとした行為なのだが、【ハンターズギルド】はそれを許さず、【彼女】は処分されてしまう。

 残った【リオス科】の幼体には罪は無いとの事で野に放たれたが、成長した彼らも、やがてハンター達に狩られてしまう。

 

 彼ははじめ【モンスター】を狩猟の対象とは見なしてなかったようなのだが、ハンターに憧れるようになってからは、【モンスター】は生活のために狩るものだと思うようになったらしい。

 ただそれは、彼にとってはあくまでも生きる糧を得るためだけの行為であって、それ以上の無駄な殺生は必要ないと今でも考えているようだ。

 

 

 少年期の前半に、それまで病弱な体を酷使して彼を育てていた母親が死んでしまう。

 死ぬ間際にお守りとして渡された、彼女がいつもしていた羽根の髪飾りを形見とし、以降彼はそれを手放さずに自分の髪に付けるようになったため、彼の左のもみあげには常にその羽根飾りが揺れるようになった。

 

【挿絵表示】

 

 彼は半分【モンスター】に育てられたという特殊な環境のせいなのか、【人間】に対してあまり興味を示さず、幼少期でも一人で野山を駆け回る事が多かった。

 一応同じ年の子供らに求められれば一緒に遊んだりはしたのだが、自分からその遊びの輪の中に加わる事はしない子供だった。

 村の大人達はまだ幼い彼を不憫に思って色々尽くしてはくれたのだが、彼自身はそれら全てを煩わしいと思っており、独りで生活する事を良しとしていたため、いつしか彼は【アレクトロ(独り者)】と呼ばれるようになった。

 

 それまでは本名があったはずで、その本名で呼ばれていたはずなのだが、自分自身も忘れてしまったらしく、従って、彼の本名は誰も知らない。

 

 幼年期後半あたりでカイと出会い、以降なぜかカイがどこにでも付いて来るようになったのがうっとうしくて堪らなかった彼なのだが、放っといて付いて来るに任せる内に、カイにだけは普段話さないような事も話すようになったようである。

 

 

 正式にハンターになるためには【訓練場】に通う必要があるとの事で嫌々ながら通っていたが、その中で無理矢理【大剣】を使わされた事で【大剣】を使う事に目覚め、それ以降は【大剣使い】として名を馳せるようになった。

 

 成人した彼は主に【街(ドンドルマ)】に拠点を移し、基本的にはソロ活動をしていたが、同じ頃にハンターになったカイが【金魚のフン】のように付いて来るので二人で狩る事も多くなった。

 彼は難しい【クエスト】を好むために必然的にカイと死線を潜り抜ける事になり、そのために独りでは死んでいた状況でも、カイによって助けられた事が何度もあるようだ。

 

 

 

 そんな中、たまたま里帰りしていた【ココット村】にやって来た、奇妙な組み合わせの二人組と出会う。

 

 それは傍目から見ればどう見ても【獰猛な野獣を従えたお嬢さん】という風にしか見えず、その【お嬢さん】の方がカイの知り合いとの事だったので(ガキ扱いして)からかっていたのだが、【野獣】の方がカイにちょっかいをかけてカイが嫌がっていたのを見て食って掛かったのを機にそっちの方とも付き合うようになり、以降、求められるままに、あるいは自分からも誘ったりして彼らと行動を共にするようになった。

 




この話を書いて初めて「アレクトロ」が実は本名ではない事を知りました(笑)

本編で分かる通りに彼は特殊な育ち方をしております。
「リオレイア」が子育てをする際に顎の器官が授乳器の役割をするという事を知っており、それを思い出して彼の話に取り入れました。
一般的にあの気管は「幼体の歯が生えそろっていない時期に咀嚼した肉を与えるため」と考えられているのですが、【彼女(リオス科)】の歯の構造的に細かく噛み砕くという事は出来ない(ほぼ丸呑みに近い食べ方をするはず)と考えていますので、私の勝手な自己解釈として狼のように一度胃に入れた未消化のものを吐き戻して与えているのではと考えています。

しかしそれでも孵化間もない時期は液体に近いようなドロドロの「ミルク」のようなものを与えていると考え、それを授乳期のアレクトロには与えていたと考えました。


アレクトロの髪飾りは装備ではなく、あの髪型にすると勝手に着けるようになるのです。
なので肌身離さず着けているなら形見なのだろうと思いました。
ただの羽根に見えますけども、「テオ・テスカトル」の上位ブレスですら燃えないので特殊な素材なのかもしれません(笑)


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死へ至る眠り

私も連続で寝かされました。


   

 

 

 

「アレク、その羽根何の羽根? すっごく綺麗っ♪」

 たまたま【睡眠属性】の【大剣】である、【ナルコレプター改】を担いでいたアレクトロは、そうハナに言われた。

「――ん? あぁ、こりゃ【ヒプノック】の羽根だよ」

「いいなぁ~~、その羽根欲しい~~」

「【ヒプノック】の羽根って、綺麗だもんねぇ♪」

一緒にいたカイも賛同する。

「まあ装飾のための羽根を取る依頼が来るぐれぇだから、綺麗だろうな」

「ハナ、【片手剣】もあるから欲しけりゃ作ってみるか?」

 同じく同行していたベナトールにそう言われ、「うんっ! 作りたいっ!」と目を輝かせるハナ。

「今の時期はまだ繁殖には入ってねぇから、たぶん普通の羽根色だな」

「え? 違う羽根もあるの?」

「雄限定だけどな。あいつらが繁殖期に入ったら、雄の羽根色がオレンジから青っぽく変わるんだよ。興奮してっから攻撃力が高くなるけど、そっちもけっこう綺麗だぜ」

「へぇ~~! そっちの羽根も見てみたいなぁ……」

「じゃあ【ヒプノック】が繁殖期に入ったらまた行こうよハナ」

「うんっ♪」

 

 【ヒプノック】は、非常に臆病な【鳥竜種】である。

 従って、鬱蒼とした木々が生い茂る【樹海】の奥で生活している事が多い。

 だがその派手なオレンジの尾羽根は装飾品としても人気が高く、主に貴婦人や派手好きのハンターなどが、ドレスや鎧にあしらっては自慢していたりする。

 繁殖期にのみ取れる雄の尾羽は貴重なので、特に重宝されている。

 

 

 【樹海】に着いた一行は、臆病なはずの【ヒプノック】が、《5》の巨木の影で堂々と立ったまま寝ているのを見付けて呆気に取られた。

 しかも、周りで【ランポス】共がやかましく鳴き交わしているのに、である。

「【眠鳥】という別名があるとはいえ、よく寝とるなこりゃ」

「なんか起こすのが可哀想になってくるね、ここまでよく寝てると」

「欲しいのは羽根だけだし、こっそり羽根だけ抜いて帰っちゃおうか?」

「バーカ、抜いた時点で起きるっつの」

 茂みに隠れた四人がそんな事をコソコソ話していると、いきなり後ろからどつかれて浮飛ばされた。

「いったいわねぇ! いきなり何よ!?」

「【ブルファンゴ】てっめ! わざわざ隠れてるとこ狙ってんじゃねぇよ!」

 当然【ヒプノック】が目を覚ました訳だが、まだ寝惚けているのかキョロキョロと辺りを見回している。

 その隙にカイが【ペイントボール】を投げ、ベナトールが頭側に回って【ハンマー】を叩き付けた。

 

 ピイィ~~~!

 

 ビックリした様子の【ヒプノック】は、ビクッと飛び上がって鳥のような高い鳴き声を出すと、なんと大慌てでスタコラと逃げ出した。

「あ、オイ待てコラ!」

 追い掛けるも、飛んで行ってしまう。

「ほんっと、臆病な鳥なのねぇ……」

 ハナは呆れて見送っている。

「ボケっと立ってる場合か。追うぞ」

「ういす」

「了解」

 【ペイントボール】の強い匂いを頼りに追い掛けると、《4》に移動した事が分かった。

 丁度舞い降りる所だったので、ベナトールが頭側、アレクトロが翼側に陣取って、溜め攻撃。

 それが終るとほぼ同時にカイとハナが切り掛かった。

 脚を切られてこけた【ヒプノック】は、もがいている間に頭を叩かれて昏倒。

 その間に麻痺が蓄積したのか、気絶から覚めて立ち上がったかと思ったら麻痺った。

 

 ピュイィ~~~!

 

 麻痺の解けた【ヒプノック】は、特大に鳴いて口の端から白い煙のようなものを吐き出すようになった。

 【ヒプノック】は向き直るや否や、【ゲリョス】に似た動作で左右に首を振りながら、白い液体を吐き出しつつ走り回り始めた。

 

 その一つにハナが当たり、当たったと思ったらパタンと倒れて眠り始めた。

 

「あーあ、寝ちまったよ」

 アレクトロは半分面白がっている。

 臆病な【ヒプノック】は、基本は寝たものは起こさないので、そのままにして攻撃に向かおうと思ったら――。

 

「……チビ助……」

 

 そんな寝言が聞こえたもんだから、問答無用で蹴り起こした。

「痛い……?」

「オラ! 寝惚けてんじゃねぇ! さっさと起きやがれ!」

 次に切り上げで吹っ飛ばすアレクトロ。

「ひどぉい。こんな起こし方しなくてもいいでしょお」

 アレクトロは「フンッ」と言いながら攻撃に参加した。

  

 次に犠牲になったのはカイだった。

 彼の場合は少し離れた時にペッと液体を吐かれたのであるが、寝かされたと思ったら連続で吐かれて、着弾した液体の衝撃で起こされた瞬間に次の液体を吐かれてまた眠る、という事を繰り返している。

 

 それがあまりにも可笑しくてゲラゲラ笑っていたアレクトロは、自分も液体に当たって間抜けにも寝てしまった。

 お返しにハナが起こそうとしたら、怒っていた【ヒプノック】がアレクトロを見逃さずに連続蹴りをお見舞いし、彼は起きた瞬間に気絶した。

 相手はそれだけじゃ飽き足らず、鋭いクチバシで噛み付いた。

「な、なんで俺ばっか……! 馬鹿死ぬって!!」

 打たれ強いアレクトロだが、連続で食らうのは流石にダメージが大きいので、慌ててガードしたり逃げたりしている。

 他の者の攻撃は続いていたのでそんな事をしている内に相手が弱り、目立つ尾の飾り羽がペタンと下がった。

「よし弱ったぞ。捕獲するか?」

「うん。欲しいのは羽根だから。捕獲でお願い」

 二人の会話を聞いて、アレクトロがすかさず【閃光玉】を投げ、カイが罠を仕掛けた。

 

 

 後日、みんなで繁殖期の【ヒプノック】を狩りに行ったハナは、帰って来て変な踊りを始めた。

「何だそりゃ?」

 アレクトロが呆れるのも無理はない。彼女は繁殖期の雄がする、求愛ダンスを真似ていたのだ。

「わぁ、上手い上手い♪」

 苦笑いする二人を他所に、カイは無邪気に手を叩いて喜んでいる。

 その内広場にいる他のハンターの注目を集め、「ええぞねぇちゃん!」などと言われてハナは得意気になっている。

 

 男二人は首を振ったり頭を抱えたりするしかなかった。

 




いかに臆病な「ヒプノック」でも、クエスト中に敵前逃亡はいたしません。
ですが、臆病さを表すために逃げるように設定して書きました。

今現在の「フロンティアZ」では「眠り」のシステムが変わり、睡眠の状態異常になったハンターはふらふらと移動し続けてから限界が来たようにパタンと倒れて眠るようになっていますが、昔の「フロンティア」では移動せずにその場でパタンと倒れて眠っていたのです。
ので、「ヒプノックあるある」として連続で睡眠ブレスを吐かれて起きては眠るという状態に陥る事があり、特に仲間に起こしてもらえないソロではずっと寝かされ続けてイライラする事がありました。


余談ですが、私の従弟(当時高校生)が最初この「モンスター」の事を「ピプノック」と言っており、「ヒプノックだよ」と教えると、何故か「ヒプノップ」と言い始めた事がありました。
どうも従弟的には「ヒプノック」の発音が難しかったようです。


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ハートをあげる

このタイトルを見た友人は、お色気話かと思ったそうな(笑)


 

 

「ん~~~っ、今日も良い天気ね~~~!」

 【密林】に着いたハナは、水辺で思いっ切り伸びをした。

 夜はいつも雨が降っているために鬱陶しいが、昼間の【密林】は気持ちが良いほどの天気である。

「そんな余裕かましてる場合かよ、前見ろ前!」

 アレクトロの言葉で気が付くと、前方の奥の方に【モノブロス】の顔が見えた。

 【顔】はこちらに気付いた様子で突進して向かって来る。

「もうなの!?」

 横に避けながらハナが言う。

 上位の依頼は道中も危険性が増すために【ベースキャンプ】まで届けてもらえず、着いた所がいきなり狩場になる事も珍しくない。

 

 今回は地図でいう《10》に船が到着したのだが、着いて早々その場所に【モンスター】がいたらしい。

 

 【モノブロス】の顔は突進をやめると後ろを向いた。

 が、【後ろ】と思われる場所には【モノブロス】の体は無く、代わりに赤く巨大な鋏を持つ【甲殻種】がくっ付いていた。

 

 【ダイミョウザザミ】である。

 

 相手は巨大な鋏を振り上げて威嚇すると、そのままの勢いで鋏を振り下ろして来た。

 当たり前のようにベナトールがハナを掻っ攫って避ける。

 右、左と連撃して来るので、反対側にいたアレクトロが【大剣】でガードした。

「脚を狙えハナ!」

「了解っ!」

 ベナトールに言われて脚を切るハナ。

 【甲殻種】は脚が弱いため、連続で脚を狙われると簡単にこけた。

 もがいている間にアレクトロは殻(つまり【モノブロス】の顔)に溜め切りをし、ベナトールは前方に回って頭(というよりは口辺り)に溜めスタンプ。

 カイはハナとは反対側の脚を切っている。

 

 まず一回目の麻痺を取った二人に、ベナトールは「でかしたハナ!」と声をかけ、アレクトロは「カイ!」と呼び掛けて親指を立てた。

 

 二人の溜め攻撃がもう一度炸裂すると、先にアレクトロが一段階目の殻破壊に成功したらしく、【ダイミョウザザミ】が勢いよく滑りながら一回転した。

 たまらずに鋏を前にかざした相手は、ピッタリと殻の入り口を塞ぐように、鋏だけ前に出して体を縮込めた。

「硬い!?」

 それに気付かずに切り付けてしまったハナは、攻撃を弾かれている。

 【盾蟹】と呼ばれているように、殻に籠るこの姿勢を取られると、巨大な鋏が文字通り【盾】の役割をして全ての攻撃を跳ね返してしまうのだ。

 

 それを見越したように、カイが【音爆弾】を投げる。

 途端にだらしなく殻から出てもがく【ダイミョウザザミ】。

 周りが見えなくなる代わりに音で状況判断をする殻籠りには、大きな音が有効なのだ。

 

「ナイス♪ カイ!」

 ハナに言われて親指を立てるカイ。

 この男は【ホットドリンク】などの環境に応じたアイテムはしょっちゅう忘れるくせに、【罠】や【生命の粉塵】などのサポートアイテムは調合分までしっかり持って来る。

 

 まあそのおかげで、特に二人で組んで行く事の多いアレクトロは命を助けられてはいるのだが。

 

 もがく【ダイミョウザザミ】を切り付けていると、起き上がった相手が大きく鋏を振り上げて威嚇し、口から泡を吐き出すようになった。

 途端に動きが速くなり、攻撃力も増す。

 ふいに脚全部を縮めた【ダイミョウザザミ】は、それをバネにして真上に飛び上がった。

 密着して切っていたカイとハナが跳ね飛ばされる。

 その内の一人を目掛けて上から押し潰すように、【ダイミョウザザミ】が降って来る。

 

 犠牲になったのはカイだった。

 彼は呻いて地面に手をついたが、起き上がれずにいる。

 

「カイ、しっかり!」

 ハナは近付いて【生命の粉塵】を掛けた。

「ごめん、ありがと……」

 ふら付きながらもゆっくり起き上がった彼を見て、ハナはホッと息を吐いた。

 後は自分で回復しつつ、カイは攻撃に戻った。

 

 

 ベナトールの攻撃によって昏倒した相手に溜めたアレクトロは、二段階目の殻破壊に成功。これで殻の全破壊は終了した。

 そこで前に回り、今度は鋏破壊に集中する。

 

 と、相手が潜った。

 

「散れ!」

 ベナトールの一声で、一斉にばらける。

 固まっていては集中攻撃されるからである。

 地響きの感じでハナに向かっているらしいと分かったアレクトロは、「まずい!」とハナを切り上げた。

 ベナトールも向かっていたのだが、彼の方が一足速かったようだ。

 

 ドーン!

 

 そこに突き上げが来た。

 まともに吹っ飛ばされたアレクトロだったが、「いってぇな!!」とすぐに起き上がった。

 相手はすぐには地面から出ず、何度も突き上げて来る。

 次に犠牲になったのはベナトールだったが、彼は既にその軌道を読んでおり、突き上げが来る前に避けている。

 カイは【音爆弾】を持っていたためか、うっかり投げてしまって皆から失笑を買っていた。

 

 

 討伐して【街】に帰って来た一行は、ハナの言葉に唖然となった。

 

「ねえ、破壊報酬で【モノブロスハート】っていうのが貰えたんだけど……」

 

「マジかよ!? ギルドも大盤振る舞いだな」

「……。まあ、どっちみち独りじゃ狩れねぇだろうしな」

「どゆこと? ベナ」

「その素材は【モノブロス】という飛竜の心臓なんだが、その【モンスター】は独りで狩る事が条件になっているのだよ」

「そ、そんなの絶対無理っ!!」

「言うと思った。いいなぁハナは。おいら苦労して何十頭も狩って手に入れたのにぃ」

「へ? お前【モノブロス】狩れるわけ?」

「やだなぁ、【モノブロス】ぐらい狩れるよ」

「何回気絶したんだよ?」

「いいだろそんな事はっ!」

 

 二人の言い合いを見ながら、なんだか和むハナであった。          




「上位」に上がって間もない頃は、「上位クエスト」でキャンプ以外の場所から出発し、「ここどこ!?」と思う間も無くいきなり目の前に「モンスター」がいて腰を抜かしそうになったもんです。

ちなみに上位「ダイミョウザザミ」の部位破壊報酬で「モノブロスハート」の出る確率は8%だそうな。
この素材が出やすいとされる「モノブロス亜種」の捕獲報酬は10%(本体剥ぎ取りでは8%)。
「物欲センサー」に引っ掛かって狩りまくったのは良い思い出です。


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死の抱擁

読み返したら最後の方でようやくモンスターの名前が出て来るような書き方になってましたが、すぐに分かると思います。


 

 

 

 夜風は、臭気を含んでいた。

 それは、ボコボコと泡立つ毒沼と、切り裂かれる肉体の、血の臭い。

 

 四人の荒い息遣いが聞こえる。

 そして、剣戟の音も。

 

 彼らは青い甲殻を持つ【甲殻種】と闘っていた。

 そして一名を除いて、三名は体のどこかに切り傷を付けられていた。

 普段畳まれている腕を伸ばした相手は、鎌状になっているそれを思うままに振り回している。

 

「くそ、好き放題やりやがって……!」

「文句言ってる暇があるなら攻撃するんだな」 

 苦戦しているアレクトロとは正反対に、余裕さえ見せているベナトール。

 だが疲れているのは隠せていない。

「意外にタフだよね……」

「ここまで手強いとは思わなかったわよぉ」

 泣き言を言うカイとハナ。

 それでも相手の体力は、かなり削られてはいるのだが……。

 

 彼らは、ハンターランクが百以上になって初めて狩猟を許される、【変種】と呼ばれる【モンスター】と闘っていた。

 【変種】は通常の【モンスター】とは肉質がまったく違い、弱点属性も大幅に変わる。

 中には部位によって違う弱点属性になるものもいて、従って「属性武器よりもむしろ無属性武器の方が有利かもしれない」と言われている程である。

 【変種】用に開発された【SP武具】というものもあり、それらは通常の武具より防御や攻撃力が(特に【変種】に対峙する時は)高くなっていたりする。

 だが有利に立ち回れるはずのSP武具を持っているのはベナトールとアレクトロの二名だけだし、ベナトールに至ってはどの【モンスター】に対してもスキル関係なく立ち回るので、SPではなく好みのゴツイ武具で固めているに過ぎなかったりする。

 

 だから完全に対【変種】用の武具で挑んでいるのはアレクトロぐらいだった。

   

 

 殻を壊そうとして振り被ったアレクトロは、相手が背後を狙って一回転したのを、分かっていて避けられなかった。

 

 直後に彼の体から血が噴き出る。

 彼は胸を一文字に切り裂かれていた。

 

「ぐあっ!!」

 胸を押さえ、倒れそうになるのを堪える。

 SP防具でなければ両断されていただろう。

 避けつつ隙を見て回復し、向き直ると、相手が両腕を目一杯広げたのが見えた。

「まずい!」

 そのまま突進していく先にカイとハナがいたが、カイを切り上げて軌道を逸らせるのが精一杯だった。

 相手はハナに向けて突進して行き、まるで愛おしい者を抱き締めるかのように、両腕の鎌を交差させつつ彼女の背中に振り下ろした。

 

 ハンター達が【死の抱擁】と呼ぶ攻撃である。

 

 アレクトロは、ハナが串刺しになる事を覚悟した。

 が、その直前にベナトールが体当たりして彼女を突き飛ばした。

 

 ドシュドシュッ!

 

 二連続の突き立て音。だが貫通はしていない。

 この日初めて傷を負ったのがハナを庇った事によるものというのが、彼らしいといえば彼らしい。

「今だお前ら、ダウンさせろ!!」

 泣きそうな顔で彼を見るハナには構わず、まるでその身で鎌を封印したかのように、ベナトールが叫ぶ。

 

 体を硬くして抜けないようにしているらしく、明らかに相手が困惑しているのが分かる。

 

 三人は一斉に脚を狙ってこかせた。

 その間にベナトールは【ハンマー】を振り回し、鎌を折り取った。

 だが鎌が破壊されると、その怒りで我を忘れるのか常時怒り状態になってしまう。

 もう誰も切り裂かれる事はなくなったが、危険な事には変わりはない。

 

 それでも相手の方が身の危険を感じたのか、潜って逃げた。

 

「追うぞ!」

「その前に背中の鎌をどうにかしろ」

 アレクトロは苦笑して言った。

「抜いてあげようか?」

「あぁ……。頼む」

 だが深く食い込んでいるせいか、ハナの力では抜けない。

「ったく、しゃあねぇなぁ」

 アレクトロは背中の鎌に手を掛けた。

 が、そのままでは抜けず、結局カイの力も借りて、一本ずつ背中を踏みながら抜くしかなかった。

 

 噛み殺しているのか、呻き声すら立てない。

 彼は平然としている(ように見える)が、出血が重症であると物語っている。

 

 ハナが慌てて【生命の粉塵】を掛けた。

「すまんな」

 一応礼を言うベナトール。

 こういう精神力の強さには尊敬の念すら覚えるアレクトロだが、そこまで我慢する必要もないのにとも思ってしまう。

 兜で見えないのを利用して表情を隠しているようだが、少しは苦痛で歪めたりしているのだろうか?

 

 

 逃げた相手は《7》にいた。

 弱った体力を回復しようとしているのか、食事をしている。

 こっそり背後から近付いて最大溜めをお見舞いしたアレクトロは、殻破壊をする事に成功した。

 

 慌てた相手は一旦潜り、再び別の場所に移動して新しい殻を被った。

 

 この殻の破壊も成功。もう殻を被る事はなくなるので、剥き出しの体に攻撃を続ける。

 殻を被っている時よりダメージが通るので、アレクトロは回復よりも攻撃を優先している。

 それを見かねて、カイが【生命の粉塵】を投げたりしている。

 こかせた時にベナトールの溜めスタンプが決まり、それが止めになったのか、相手はとうとう動かなくなった。

 

 

「ふえぇ~~、意外ときつかったな」

 大きく息を吐きつつ言うアレクトロ。

「まあ【変種】だし、【ショウグンギザミ】だしねぇ……」

「もう二度と【変種】なんて行かないっ!」

「なんだよ、『ハンターランク百になったから【変種】に行きたい』っつったのおめぇだろうよ」

 言い出しっぺのハナの文句に呆れて答えるアレクトロ。

「……。まあ、行かねぇよりは勉強になっただろうよ」

「オッサンよ。そんなんで良いのか?」

「何がだ?」

「ちと甘やかせ過ぎじゃねぇのか?」

「……。そう、かもな」

 

 アレクトロは、彼が少し遠くを見るような表情になったのを、雰囲気で感じた。

 

  




ベナトールはハナの事になると、少々過保護になるのかもしれません。
ただの「教官」じゃなく、もしかしたら「親父」の気分なのかもしれませんね。


話の中に出て来る「SP防具」にはスキルポイントが一切無く、「SP装飾品」と呼ばれる一つでスキルが完成する特別な装飾品をハメ込む事でスキルを決められるという、他の防具とは違う特徴があります。
なので、工夫すれば五ヶ所で一つずつの合計五つのスキルが付けられるわけです。
(ただしどちらも「変種」の素材を何種類か使うため、手強いからといって一種類だけ狩って他のものを謙遜していては何も作れなくなるのですが)

そしてもう一つの特徴として、「凄腕」と呼ばれるHR100で行ける狩場でしか採れない「センショク草」と呼ばれるアイテムを使って既定の防具とは違う色に染められる。という特徴があります。
自分の好きな色には染められず、予め決められている何通りかの決まった色の中でしか選べませんが、既定の防具と同じ形のもの(例えば「シルバーソルシリーズ」とか)を違う色に染めたり出来るため、いつもの防具を違う気分で着る事が出来て面白いです。


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グルグル回る

これは「ヤマツカミ」のお題を友人に貰って書いたものです。
タイトルは「塔」にある螺旋階段と、「ヤマツカミ」が行う回転攻撃(通称ヤマコプター)から付けました。


   

 

 

「ねぇねぇベナ! この前【塔】が遠くに見える所で何気に【塔】を眺めてたらね、なんかでっかくて気球に脚が生えたみたいなのが飛んでったの! あれ何!?」

「そりゃ多分、【浮岳龍】って奴だな」

「フ、ガクリュウ?」

「【浮岳龍ヤマツカミ】。【古龍】の一種だよ」

「山を掴むの?」

「まあ、それぐらいデカいってこった」

「ふぅん……」

「丁度今その依頼が来てるんだが、行ってみるか?」

「うんっ♪ カイとアレクも連れてっていい?」

「好きにしな」

 

 

 【塔】に着いた一行は、【ベースキャンプ】でいきなり【浮岳龍】に出くわした。

「でっか~~~い!」

 上空をフワフワと漂うように飛んで行く【浮岳龍】を眺めながら、ハナが口をあんぐりと開けている。

 どっちみち空に浮かんでいる時には攻撃のしようがないので、四人はそのまま見送った。

 

「あれ、ベナ、今日は【ハンマー】じゃないの?」

 彼にしてはかなり珍しく、いつもの【ハンマー】ではなくて極長リーチの【ランス】を担いでいる。

 この【ランス】には【氷属性】が付いており、【浮岳龍】の弱点属性であるという意味と、もう一つ担いで来た意味があった。

 

「あれ、アレクも【大剣】じゃないんだね?」

 カイも珍し気に相棒を見る。

 アレクトロもいつもの【大剣】ではなく、長リーチの【双剣】を担いでいたのだ。

 こっちの【双剣】にも【氷属性】が付いており、彼がこれを担いで来たのももう一つの意味があった。

 

 とにかくも、【浮岳龍】が飛んで行った先の【塔】の上を目指して駆けて行く。

 そして螺旋階段に差し掛かった頃、相手も丁度螺旋階段が取り囲む、吹き抜け部分にやって来た。

 少し登った所でベナトールが【ランス】を構え、アレクトロが【狂走薬グレート】を飲んで【鬼人化】する。

 

 どうやらここで闘うらしい。

 

「届かないぃ」

 螺旋階段の縁ギリギリに陣取って、触腕や膜を攻撃している男二人を尻目にハナが必死で攻撃しようとしているが、普通リーチの【片手剣】では到底届きそうにない。

 カイは、【浮岳龍】が螺旋階段の縁まで体を寄せた時に限り、辛うじて【太刀】の先端が届くか届かないかという所。

 まあどっちみち【特殊リーチ】組も螺旋階段から相手の体が離れてしまったら攻撃が届かないので、ここでの攻撃はどうしても限られてしまう。

 

 と、【浮岳龍】がビタン! と螺旋階段目掛けて腕を叩き付けた。

 

「いった~~~い!」

 それに掠められたハナが吹っ飛んだが、限られた攻撃チャンスを無駄にしたくないと思ったのか、回復役をカイに任せてベナトールは攻撃の手をやめないでいる。

 動きの緩慢な【浮岳龍】は、叩き付けてもすぐには触腕を引っ込めないため、攻撃を躱せれば逆にこちらの貴重な攻撃チャンスになるのだ。

 

 嫌がって腕を引っ込めた【浮岳龍】は、仕返しとばかりに馬鹿でかい口を開け、そこから【大雷光虫】を吐き出した。

 これは別に大きな【雷光虫】という訳じゃなく、小さな【雷光虫】が何百匹も集まったものなのだが、それ故に体当たりのダメージや麻痺の蓄積も侮れない程ある。

 

「ぎゃっ!?」

 案の定というか、よりによってというのか、アレクトロが麻痺ってしまった。

 

 ベナトールは当然のように横ステップでヒョイヒョイと避けながら闘っているのであるが、【大雷光虫】はなぜか麻痺っているものに対して反応するようで、アレクトロは何度も体当たりを食らった挙句に自爆されて吹っ飛んだ。

「ぐぬぬ……!」

 苛ついて起きた所に触腕を叩き付けられ、「あぶねっ!?」と横転している。

 ハナを除いた三人で攻撃している内に、膨らんでいた【浮岳龍】の体が心成しか萎んでいったように見え、とうとう落ちた。

 

 これを見越して二人は、特殊リーチの【ランス】と【双剣】を担いで来たのだ。

 

「おし! 今の内に乗るぞ」

「えぇ!?」

 素っ頓狂なハナの声を無視して背中に飛び乗る男三人。ハナも慌てて続く。

 落ちたといっても完全に下まで落ちた訳じゃなく、螺旋階段の縁を触腕で掴んで必死で途中で引っ掛かっている。

 この状態で背中(正確には頭?)に飛び下りる事に成功すると、長年を経て背中に生えるようになった、【龍苔】やら【龍木】やらが剥げるのだ。

「全員剥いだか?」

 そう聞いて返事を確認したベナトールは、「おし、もうここでは用はねぇから頂上に行くぞ」と背中から飛び降り、サッサと階段を登り始めた。

「待ってよぉ」

 ハナが慌てて付いて行く。

 

 と、元に戻った【浮岳龍】が、口を開けたのをアレクトロは見た。

 

「オッサン!!」

 注意を促したが間に合わず、ベナトールが吸い込まれて行く。

 アレクトロは自分も吸い込まれそうになりつつ螺旋階段の縁を掴んでなんとか体を固定し、彼の手首を掴んだ。

 ビキッと音がし、関節が外れたかと思う程の衝撃が腕に走る。

「ぐうっ!!」

 呻いたが手は離さない。

「放せ馬鹿者! 一緒に吸い込まれてぇのか!?」

「そうなりたくねぇから掴んでんじゃねぇかよ! ちったぁ分かりやがれ!!」

 

 だが、片手で掴んだままでいるのは意外にきつく、徐々に引き込まれて行く。

 

「う、腕が抜ける! てめぇら手伝え!!」

 アレクトロはカイとハナにも手伝わせて、自分をそれ以上引き込まれないようにした。

 幸いにも全員が引き込まれる前に吸い込みをやめてくれたので、アレクトロはベナトールを階段の上に引き上げつつ自分も上がり、大きく息を吐いた。

「すまなんだな」

 腕をさすっている彼に気が付いて、【生命の粉塵】を掛けるベナトール。

「んな大袈裟な、自分で回復するっつの」

 そう言いつつも嬉しかった。

 

 攻撃を躱しつつ螺旋階段を登り、頂上へ。

 ここはまるで円筒闘技場の舞台のように広い石畳が広がっている所である。

 縁まで行って覗き込めば、遥か下の景色は霞んで見えない程高く、柵すら無いのでうっかり滑ってでもしてここから落ちればひとたまりもないだろう。

 だが端にさえ行かなければ、ここが【塔】、つまり建物の頂上とはとても思えない程広いので、四人でも充分に立ち回れる。

 【ヤマツカミ】という名前の通りに山を掴む程巨大な今回の狩猟相手でも、さほど狭さを感じさせずに闘える程の場所だった。

 

 

 

「……に、してもおっそいわねぇ」

 頂上で待つ事にしてから、随分時間が経っている。

「これ、時間間に合うの?」

 ハナは少々不安気味に聞いた。

「……ま、一応はな」

 ギルドから与えられた狩猟時間は、もう残り少ない。

「おし出来たっ♪」

 ちゃっかり【マカ漬けの壺】を持って来ていたらしいカイが、煙が紫になったのを確認して壺を掘り出し、【狂走薬グレート】を作ったりしている。

 暇を持て余して【鬼人化乱舞】を繰り返して体を鍛えているアレクトロは、「おいおい、討伐前に疲れるなよ?」とベナトールに失笑されている。

 

 と、前方の空に気球に脚が生えたようなシルエットが浮かび、それが徐々に近付いて来た。

 

「ようやく来なすったか」

「ったく、待ちくたびれたっつの」

 【浮岳龍】はゆっくりゆっくり【塔】に近付くと、朽ち落ちた壁の前辺りに浮かんだまま低空静止した。

 外側から攻撃すると触腕に叩かれて危ないので、浮かんだ体の下に陣取って、それぞれで一本ずつ内側から触腕を攻撃していく。

 が、相手もじっとしてはいず、腕を振り回すので中々攻撃が当たりにくい。

 こういう場合もリーチの長い武器は有利である。

 

 腕の届く地面ギリギリに浮かんで攻撃していた【浮岳龍】は、攻められるのがうっとうしかったのか一旦高く浮かんだ。

 

 こうなってしまうと例え極長リーチでも届かないため、下りて来るまで様子を見る。

 上空で大口を開けた(らしい)【浮岳龍】は、またもや【大雷光虫】を吐き出した。

 四方から体当たりをして来て攻撃が当たりにくい【大雷光虫】を、翻弄されつつも切り付けていたアレクトロは、【浮岳龍】の影が誰かを狙うかのようにゆっくり移動していくのを見た。

 

 圧し潰しが来る!

 

 慌てて武器を仕舞ってタイミングを見計らい、相手が腹から落ちる寸前で緊急回避。

 この攻撃は触腕を目一杯伸ばしたまま落ちて来るため、自分が狙われていなくてもけっこう巻き添えを食らうのだ。

 狙われているのが誰か確かめる暇が無かったアレクトロは、見回して愕然とした。

 

 カイが、倒れている。

 

 いやむしろ、カイは触腕の巻き添えを食らったようだった。

 

 次に目に入ったのは、ガード姿勢のベナトールの姿。

 ハナはと見ると、その足元で倒れている。

 いかにガード性能の良い【ランス】でも、本体の重量は受け止め切れなかったのだ。

 

 彼は次の瞬間、力を出し切ったかのように膝から崩れた。

 

「オッサン!!」

 慌てて駆け寄って支える。

 やはり、かなりのダメージになっているらしい。

「……お前は、無事、なのか?」

「ああ、緊急回避が上手くいったからな。だがカイがやられた」

「……ハナ、は……?」

「生きてるよ。それよりてめぇの心配しろ!」

 

 【猫車】で運ばれて行く二人を尻目に、アレクトロはありったけの【生命の粉塵】を彼に掛けた。

 

「結局、護り切れなかったか……」

 悔しそうなベナトール。

「いや護れてるじゃねぇかよ、オッサンがガードしなきゃ今頃ペッタンコだぜあいつ」

「だったら良いんだがな……」

 

 兜の中で寂しそうに笑ったのが、雰囲気で分かる。

 

「それより時間がねぇんだ。残った二人でカタ付けるぜ!」

「おうよ!」

 二人が戻って来る間に攻撃を仕掛け、戻った頃には山のようなその巨体は、地に伏せていた。

「これ、二人で倒したのぉ!?」

 ハナは呆気に取られている。

「いや、その前にお前らの蓄積があったからな」

「嘘だ、おいら殆ど攻撃出来なかったのに」

「はぁ……。やっぱ実力が違い過ぎよねぇ」

 

 喜ぶどころか逆に落ち込んでいる二人を見て、討伐した二人は苦笑いするしかなかった。  




他の「モンスターハンター」シリーズには無いかもしれませんが、「フロンティア」には「特殊リーチ」と呼ばれる通常より極端に長かったり短かったり、攻撃判定が先端しか無かったりするような特殊な武器があるのです。
ので、「極短」「短」「中」「長」「極長」というリーチ武器が存在しています。
ちなみに通常リーチの武器は「中」にあたります。


文中に出て来る「マカ漬けの壺」についてですが、これはその壺の中に何某かのアイテムを入れて埋め、一定の時間が経てば他のアイテムに変わるという不思議な壺で、「2(ドス)」の頃から存在しているアイテムです。
狩場で拾う事も出来るし店売りで買う事も出来ます。

時間経過で煙の色が変わり、今回カイが作っていた「狂走薬グレート」は「回復薬グレート」を入れて時計の針が一つ動いた頃に出来るものです。
「ヤマツカミ」が塔の頂上に来るのは時計が後25分という頃なので、それまでに暇を持て余したハンターが「ヤマツカミあるある」として「狂走薬グレート」を作るために持って行っていました。


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ミスの先に見えたもの

アレクトロが、ベナトールの想いに気付いたようです。


   

 

 

 

「アレクぅ、【ねじれた角】が必要なの。手伝って♪」

「あのなぁ、俺は便利屋じゃねぇぞ。オッサンはどうしたよ?」

「どうしても連れて行けない仕事があるんだって。カイは?」

「あいつは【モノブロス】狩りだ。【一角竜の背甲】が必要なんだと」

「へぇ、じゃあ二人で行く事になるね♪」

「誰が行くっつったよ」

「下位の【ディアブロス】なんだからいいじゃ~~ん。あ、もしかして狩る自信無いんでしょ」

「おめぇが足手纏いになるのが嫌なんだっつの! んなもんオッサンが帰って来るまで待ちゃあ良い話だろうが!」

「だって、いつ帰って来るか分かんないんだもん。……じゃあ一人で行くよ」

「だ~もぉっ! 行きゃあ良いんだろ行きゃあ!!」

 いかに下位であったとしても、【ディアブロス】となれば手強いので、一人で行かせる訳にはいかないのだ。

 

 

 案の定、(主にハナが)苦戦した。

 【ディアブロス】の甲殻は硬く、中々攻撃が通らないからである。

 それでも麻痺や【音爆弾】などの束縛によって、(アレクトロが)一本目の角を折る事に成功する。

 尻尾が切れ、二本目の角に差し掛かった頃、相手が怒った。

 

 ギオォ~~~ン!

 

 甲高い咆哮に硬直し、思い切り耳を塞ぐハナ。

 その硬直が解けるか解けないかぐらいの時に、体当たりされた。

「きゃあっ!!」

 ハナはギリギリでガードしたものの、そのまま吹っ飛ばされた。

 

 起き上がる前に突進が来る。

 駆け寄るアレクトロは、間に合わないと思った。

 

「ハナあぁ~~~!!!」

 アレクトロの絶叫と、彼女の肉体を貫く音が同時に聞こえた。

 

【挿絵表示】

 

「くそがあぁ~~~!!!」

 彼は叫びつつ怒りを込め、相手の頭を思い切り横から切り付けた。

 悲鳴を上げながら頭を振った相手は、その勢いでハナを振り落とした。

 角が抜かれた事で大出血したハナは、血飛沫と共に遠くに転がって行く。

 

 そこで気付いた。

 気付いてしまった。

 

 ベナトールが、過保護な程に身を挺して彼女を護ろうとしていた訳を。

 

 そして、ハナと離れたがらない訳を。

 

 彼女の代わりに彼が受ける事で、彼女を死なせないようにしていたのだ。

 彼女では死んでしまうような傷さえも、彼ならば耐えられると分かっていてあえて受けていたのだ。

 いや、むしろ自分は死んでも良いと思っているのだ。彼女を護れるならば。

 

 全てはハナを護るため。

 ハナを死なせないようにするため。

 

 その一つの理由だけで、ベナトールはハナに付いているのだ。

 それはもう、【教官】だからという言い訳を超えたものなのだろう。

 

 ただハナを護りたい。

 それだけの理由なのだろう。

 

 だから彼はきっと、最期の瞬間までハナを護ろうとするだろう。

「ハナ!!」

 【閃光玉】で相手が怯んだ隙に、ハナを抱き上げる。

 尋常じゃない出血。ハナはぐったりとして喘いでいる。

 

死なせるわけにはいかない!

 

 アレクトロは強く思った。

 ハナのためではない。オッサンのために、死なせるわけにはいかない! と。

 

 【ベースキャンプ】まで運び、【生命の粉塵】やら【秘薬】やら、とにかくあらゆる方法で回復手段を行いながら、「ハナ! 頑張れ!!」と呼び続ける。

 【クエストリタイア】を選択し、帰るまでの道中も、【竜車】の幌の中で意識の無いハナを抱き、励まし続けた。

 

 

「……すまない……!」

 【街】に着くや否や医務室にハナを放り込み、その足でベナトールの部屋に行ったアレクトロは、いきさつを話して彼の前で土下座をし、苦し気に声を絞り出した。

 

【挿絵表示】

 

 

 ベナトールは、黙っている。

 

「間に合わなかった、というのは言い訳に過ぎない。俺が受けるべきだった」

 

「……。ミスは、誰にでもある……」

 呻くように絞り出す声。

 

「なぜだ、なぜそうまでして感情を押し殺す!? 俺を殴れよオッサン! なんなら殺してくれたっていい。あの恐ろしい程の【殺気】はどこに行ったよ!?」

「……。ハナは、死んでない。それに、お前の責任でもない。防ぎ切れなかったあいつが悪い」   

「いいや! オッサンなら間に合っていた。ハナを護れなかった俺が悪い。俺は――!?」

 

 最後まで言わせず、右腕を回して彼はアレクトロを抱き寄せた。

 

【挿絵表示】

 

「辛い思いをさせて、すまんかったな」

「……っ」

 それだけで、彼の感情が痛い程伝わって来る。

 

 それに耐え切れず、アレクトロは彼に抱かれたまま声を殺して泣いた。 




私のプレイキャラの中には「ハナ」はいませんので、女キャラにハナイメージの「リオハートシリーズ&デスパライズ」を装備させて挿絵を撮影しました。
丁度このキャラの「パートナー」が「アレクトロ」だったので、この二人のクエストを再現出来ました。
挿絵では「ディアブロス」が止まって見えますが、突進中なんです。
なので上手い位置で調節して撮るのが難しかったです。

ベナトールとのシーンは「ベナトール」を「パートナー」にしているキャラで撮影しています。
抱き寄せるシーンではシステム上同じ背丈になっていますが、実際のベナトールのイメージはハンターの平均170cmを遥かに上回って200近い体躯をしています。
ので、平均身長のアレクトロと並ぶと飛び抜けています。
ガタイも筋肉量ももっと大きいはずなので、そのつもりで脳内再生して下さい(^^;)



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パラライズパニック

この二人がクエストに行くと、どうも喧嘩みたいになるようです(笑)


   

 

 

 

「ねぇアレクぅ、【麻痺袋】が欲しいんだけど……」

「断る」

「なんでよぉっ」

「おめぇに何かあったら、オッサンに顔向け出来ねぇ。前回で懲りた」

「あの時は悪かったわよ。余計な負担かけちゃってさ」

「はぁ、やっぱオッサンは優秀だよな。俺だと護り切れねぇわ」

「そう落ち込まないでよね。ガードし切れなかった私も悪いんだから」

「そう思うんならちったぁ踏み堪えられるように鍛えてくれよな? オッサンに頼ってばっかだからああなんだぜ?」

「そうね。頑張る」

「オッサン何も言わねぇけど、おめぇのせいでいっつも重症負わされてんの知ってんだろうが? 言っとくがおめぇ庇うためにわざわざ自分で食らってんだからな? あれ。タフだから出来る事だが、仕舞にゃ死んでも知らんからな?」

「そんなのやだぁ……」

「だろ? ならもうちっと負担しねぇような立ち回りも考えるんだな」

「うん。そうする」

 ハナは泣きべそをかきながら頷いた。

 

「――で? オッサンはまた【仕事】なのか?」

「そうみたい。部屋に行ったらいなかったの」

「そんなに違反者増えてんのかな……?」

 思わず呟いてしまった言葉に怪訝な顔をされ、「いやこっちの話だ」と誤魔化すアレクトロ。

 

「しゃあねぇ、【ドスゲネポス】ならなんとかなんだろ」

「ありがとアレク。大好きっ♪」

「心にもねぇ事ぬかしてねぇで、さっさと準備しやがれ!」

「つまんないのぉ」

 

 

 【麻痺袋】を効率良く取るなら、上位で捕獲した方が報酬で貰える確率が高い。

 上位といっても【ドスゲネポス】ならそれ程攻撃力は高くないので、アレクトロは上位で受ける事にした。

 だが下位では【ベースキャンプ】に届けてもらえるのを利用して、必ず最初にいる《6》に古井戸からすぐに飛び下りれば間に合うのだが、どの場所に着くか分からない上位では、運良く同じエリアで遭遇しない限りは探し回らなければならない。

 

「二手に分かれるぞ」

「え~ヤダ~~。【大型モンスター】が襲って来たらどうすんのよ?」

「んなもんいねぇって!」

「そうとは限らないじゃないっ」

「はぁ。分かったよ、んじゃずっと付いてろよ【金魚のフン二号】」

「ほんっとに口悪いんだから……!」

「うるせぇ、文句あんなら置いてくからな」

「分かったわよっ!」

 

 

 【ドスゲネポス】は《4》にいた。

 ここは比較的狭いため、ピョンピョン跳ねて【大剣】では翻弄されやすい【ドスゲネポス】でも攻撃が当たりやすい。

 麻痺らされたハナは、「えいっ、麻痺返しよっ!」と【デスパライズ】で逆に麻痺らせたりしていた。

 

 その麻痺攻撃の最中に、チャンスとばかりに溜めていたアレクトロは横蹴りを食らって吹っ飛んだ。

「――!?」

 途端に体が痺れて動かなくなったのに面食らい、取り敢えず目だけを動かして周りを探ったアレクトロは、そこに元気に跳ねている黄色い【鳥竜種】を見付ける。

 

【挿絵表示】

 

「も、もう一匹いたのかよ!?」

 【ドスゲネポス】が二頭いたのだ。

 

「きゃあっ、ちょっとアレクなんとかしてよぉっ!」

 そろそろ弱るだろうと、最初の一頭に【シビレ罠】を仕掛けようとして飛び蹴りされたハナが文句を言っている。

「んな事言ったってなぁ、もう一頭いるなんて聞いてねぇっつの」

「そういうのは依頼書に書いてあるはずよ? 見てないあんたが悪いんでしょ!?」

「へいへい、すんませんでしたね」

「悪いと思ってんならなんとかしなさいよぉ!」

「希望したのはてめぇだろうが! てめぇでなんとかしやがれ!」

「二頭いっぺんに相手出来るわけないでしょお!?」

「うるせぇな! んなこた知るかよ!」

 とか言いつつも、しっかりもう一頭を引き付けてやるアレクトロ。

 

 

 無事に二頭とも捕獲し、【街】に帰った二人。

 

【挿絵表示】

 

「貰えたよ【麻痺袋】! しかも二個もっ♪」

「あ~そりゃ良かったな」

「なによ、もっと嬉しそうにしなさいよ」

「俺はち~~っとも嬉しくねぇからな。【麻痺袋】なんざ有り余ってるし」

「そりゃあんたとは狩猟数が違うでしょうよ。一般人とは比べないでよね」

「あのなぁ、【ハンター】である時点で一般人とは既に違うんだっつの」

「んじゃ一般ハンター?」

「どうでも良いわっ!」

 

 突っ込みつつ、ハナが無事でいてくれた事に、内心安堵したアレクトロであった。

 




「違反者が増えているのか」と思わず口走ってしまったアレクトロが誤魔化すシーンがありますが、ベナトールが「仕事」と言う時はハンター業務ではなく「ギルドナイト」としての仕事(つまり暗殺任務)なので、ベナトールが「ギルドナイト(暗殺者)」である事を知っているアレクトロは仲間、取り分けハナには知られたくないと思っているのです。

何故なら「ギルドナイト(及びその組織であるギルドナイツ)」はその名前こそ有名ですが実在すら噂に過ぎない程の都市伝説級の存在で、「ハンターズギルド」でも直属の組織でありながら公けにはしていないからです。
というか、少なくとも私の中ではそういう存在であるので、私の話では機密組織として徹底的に隠す方に働いています。

ので、今の所ベナトールの正体を知っているのはアレクトロだけなんです。


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踊るごとくに

「ランス」の上手い人って、「モンスター」相手に踊っているように見えませんか?


 

 

 

「――アン、ドゥ、トロワ。アン、ドゥ、ステップ。アン、ステップ、ステップ……」 

「さっきから何をブツブツ言ってんだよ?」

「ベナの闘い方。なんか【モンスター】相手に踊ってるみたいじゃない?」

「確かにね。珍しく【ランス】担いで来てさ、『苦手だからあまり使いたくない』とか言ってたくせに、こうやって見てると見惚れちゃうよね」

「器用だよなぁ、俺も【訓練場】で全武器種は習ったけどよ、とてもじゃねぇけどあそこまで動けねぇや」

「おいらも習ったけど、あんなの無理」

 

 ベナトールは他に攻撃する者が誰もいないのを知ってか知らずか、華麗ともいえる足さばきで相手の攻撃を全て躱しつつ、あるいはガードしつつ、的確に【ランス】で突いている。

 相手は変種の【グラビモス】。重厚なこの【モンスター】は動きが速くないとはいえ、あそこまで張り付いたままで攻撃し続けられるというのは、三人にとっては驚き以外の何物でもなかった。

 エリアに入って相手を見付け、一斉に攻撃しようと思ったのだが、その前に真っ先に相手に張り付いて攻撃し始めたベナトールの、その動きのあまりにもの見事さに、三人は見入ってしまっているのである。

 と、【グラビモス変種】が深く息を吸い込んだのが見えた。

 

 グラビームが来る!

 

 慌てて回避の準備をしようとした三人は、彼が今まさに吐かれようとしている相手の口の前に立ちはだかったのを見る。

「まさか――!」

 

 ベナトールはなんと、強烈な熱線である相手のブレスを易々と盾で防いで見せたのだ!

 

「こ、攻撃全てを防ぎ通す気かよ!?」

 しかもその場に踏み止まり、まったく微動だにしていない。

「〈ガード性能+2〉だろうか?」

「分からん、普通はそうだが、オッサンの事だから自分の力だけで止まっているのかもしれん」

「だとしたら筋力あり過ぎじゃないのよぉ」

「まぁあの筋肉だしなぁ」

「【デカマッチョ】っていうアレクが付けたあだ名も、あながち嘘じゃないもんねぇ」

 もし〈ガード性能+2〉のスキルを付けていたとしても、【グラビモス】のブレスは強力なのでかなりのダメージになっているはず。

 ならばとハナは、【生命の粉塵】を投げた。

 彼女の愛用【リオハート】シリーズには〈広域化+2〉のスキルを付けているので、遠くから投げても効果があるのである。

 

 ベナトールはその時だけ一瞬こちらを向いて、親指を立てた。

 

 なんとなく邪魔してはいけないような気がして見ていた三人だったが、彼だけに任せるのはやはり気が引けるので、攻撃に参加する。

 彼は集中しているのか、それとも分かっていてあえて黙っているのか、三人が参加しようがしまいが変わらずに黙々と攻撃を続けている。

 彼の蓄積があったために簡単に腹が壊れたが、流石に尻尾にまでは手が回らなかったようで、こっちの方は無傷で残っていたのでアレクトロが担当して切り落とした。

 (といっても後で、【ランス】では尻尾が切り辛いので単に放って置いただけ、という事が分かったのだが)

 討伐前に睡眠ガスやら火炎ガスやらを撒き散らされたが、ベナトールのガードによって、ハナは無傷だった。

 

 まあその代わりに、男二人は当然のように食らった訳だが。

 

 

 【クエスト成功】して【街】に帰ってから、アレクトロは「あそこまで動けるんなら【ランス使い】に転職した方が良いんじゃねぇの?」と言ってみた。

 ガード出来る武器の中でガード性能が一番高い【ランス】ならば、ハナを護る彼の負担もかなり軽減出来ると思ったからである。

「いや、やはり【ランス】は気に食わん」

「なんでだよ? 【ランス】だったらオッサンも無傷で済む事が多いんじゃねぇのか?」

「【ランス】では気絶させられん」

 そう言ってニッと笑うベナトール。

「そっちかよっ!!!」

 

 それを聞くや否や同時に突っ込んだ三人であった。




これを読んだ友人にも「ランス使いになった方が良いんじゃないの?」と言われたんですが、ベナトール自身はガードを取るよりスタンを取る方が楽しいらしいです。

なんでも彼の父親カワードが有名な「ランス使い」だったらしく、どうやらかなり厳しく「ランス」の指導をされたらしいので、その反発からか苦手意識を持つようになったようです。


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【始まりの唄】を求めて

「2(ドス)」時代に「森丘」に行くには「キングチャチャブー」が持っているという「始まりの唄(剥ぎ取り率12%)」を取り、「アリーナ」にいる「歌姫」に歌ってもらうしかありませんでした。
「2(ドス)」ベースの「フロンティア」にもそれは受け継がれており、「ドンドルマ」の中に「メゼポルタ広場」がある時代にはこの方法で「始まりの唄」を取り、「歌姫」に歌ってもらう事で初めて「森丘」への道が開ける仕組みになっておりました。

「キングチャチャブー」の出現条件は季節やフィールドごとに違っており、今回の話では「寒冷期」の「密林」での「無限湧き」出現方法で書いています。
ゲームシステムでの方法を用いておりますので、ただでさえ現実味の無い私の小説なのに更に現実では有り得ない話になっております。



 

 

 

 【歌姫】。それは歌を歌う事にその身と生活を全て捧げ、歌と共に生きるという、希少民族の末裔。

 【彼女】の歌には魂を鼓舞する力があり、魂を癒す力がある。

 それは夜ごとに行われる、祈りにも似た神聖な儀式のようにも思えた。

 

 ――生命は生まれ、生命は尽きる

 生命は芽生え、生命は枯れる

 陽は昇り、陽は沈む

 潮は満ち、潮は引く

 生きるという事が、死ぬという事

 死ぬという事が、生きるという事

 死の意味を知り、生の意味を知る

 食うモノと食われるモノ

 火と水、空と大地

 世界の広がりは、己の意志の中に

 全てに意味があり、全てに意味はない

 世界は廻り、世界に還る

 全てに宿る、大いなる意志へ――

 

「素敵よねぇ……」

 ハナは歌姫の歌う〈魂を宿す歌〉を聞きながら、うっとりと息を吐いた。

「だよなぁ……。俺【彼女】の歌を聞くとさ、ハンターで良かったって思えるんだよな」

「あら珍しい。あんたがしんみり聞くなんて」

「俺だってたまにゃこういう事もあるさ」

「まあ【歌姫】の歌には特別な力があるからねぇ」

 

そんな事を三人で話していると、いきなり背後から声がした。

「――その【歌姫】の歌だが……」

「オッサンいたのかよ!?」

「いい、いきなり後ろから話しかけないでよね!?」

「び、びっくりしたぁ!」  

「気配殺すのやめろよなぁ、少なくとも【今】は」

「いやすまん」

「――で? 歌がどうしたって?」

「あぁ、その歌なんだがな。【始まりの地】と言われる【森丘】への道を開く歌があるそうな」

「へぇ、どんな歌なんだろ?」

「その歌をな、なんと【キングチャチャブー】が持っているんだと」

「マジか!?」

「【キング】かぁ……」

 

 話を聞いて途端に浮かない顔をする男二人を見て、「なに? どしたの!?」と少々驚くハナ。

 

「歌聞きたいけど、【キング】じゃなぁ……」

「そんなに手強いの?」

「手強いのはもちろんなんだが、出現条件がやっかいなんだよなぁ」

「その条件満たしても、出ない時あるしねぇ」

「【無限湧き】に期待するっきゃねぇか……」

「なによ? ちゃんと分かるように説明してよ」

「どうせ説明しても分かんねぇよ」

 一応ベナトールが説明してみせたが、やはりイマイチ分かってなさそうだった。

 

 

 とにかくも、一番【無限湧き】が期待出来そうな【密林】で試す事に。

 まず地図で言う《1》で、キノコに擬態している【チャチャブー】を探す。

 いない場合があるので出て来るまで一旦【キャンプ】に引き返しては入る、を繰り返して、出たら一匹倒す。

 終ったら《9》に行き、そこで擬態している【チャチャブー】を倒す。

 これもいない場合は出るまでエリア移動を繰り返す。

 その後《7》に行き、そこで擬態している【チャチャブー】を出るまでエリアの出入りを繰り返して倒す。

 

 倒したら一旦そこを出、再び入ると――。

 

「な、なんか頭に【肉焼き機】を乗っけた【チャチャブー】がいるんですけどぉ!?」

「あれが【キングチャチャブー】だ。条件が満たせたようだな」

「うし、さっさと倒して歌取るぜ!」

「了解!」

「了解!」

 

 数分後――。

「【ホピ酒】かよ……。お前ら何だった?」

「おいらも【ホピ酒】」

「こっちは【黄金芋酒】だな」

「おなじくぅ」

「――しゃあねぇ、入り直すぞ」

 

 だが、そこには何もいなかった。

 

「【無限湧き】じゃなかったみたいだね」

「……チッ! リタだな」

 【クエストリタイア】してやり直す。

 今度は【キングチャチャブー】を倒した後、入り直した時に二匹目の【キングチャチャブー】が出現していた。

「【無限湧き】達成か?」

「分からん、数回で枯れる場合もあるからな」

「まあとにかく【始まりの唄】が出るまで続けるしかねぇな」

 

 数分後――。

「また【ホピ酒】かよ……」

「こっちも【ホピ酒】だな」

「おいらも」

「あたしもぉ」

「この酔っ払いがぁ!!」

「【肉焼き機】を蹴っ飛ばさないでくれる?  火事になったらどうすんのよ」

「知るかよっ!」

 

 更に数分後――。

「……。出た! 出たよっ! 【始まりの唄】♪」

「ホントぉ!?」

「うんっ♪ これでしょ?」

「おぉ、間違いねぇ!」

「はぁ、これでようやく酒浸りから解放されるぜ……」

「アレク、もしかして今まで取ったお酒、全部飲んでたのか!?」

「んな訳ねぇだろぉ? だいたいなぁ? 【きんぐちゃちゃぶー】が酒ばっか持ってんのが悪いんだからなぁ!?」

「うわっ! 酒くさっ!? 絡まないでよもぉっ」

「オラおめぇも飲め!」

「――ばっ!?  やめゴクゴクッ」

「ちょ、ちょっと! カイにまで飲ませないでよぉっ」

 

「…………」

「――カイ? 大丈夫?」

 

「こるぁアレク!! オレに酒なんか飲ますんじゃねぇっ!!」

「――あ? なんだとコルァ、それが俺様に対する態度かぁ!?」

「うるっせぇぞこのチビ助、いつまでも【金魚のフン】呼ばわりしやがってからにぃ」

「なんだとてめぇ? 【きんぎょのふん】は【きんぎょのふん】だろぉがぁ!?」

「あ~もぉっ! 二人で酔っ払わないでよぉ」

 

「……。カイを飲ませると態度が変わるのは面白いな」

「ベナぁ、面白がってないでなんとかしてよぉっ」

「取り敢えず、二人共気絶させるか……」

「ち、ちょっと【ハンマー】構えるのやめて、勢い余って死んじゃったらどうすんの!?」

「な~に、ちっとばかし【あの世】に行くだけの事だ」

「恐ろしい事を言わないでよおっ!」

 

 そんなこんなで、どうにか【街】に帰って来た一行だったが、酔っ払い二人が大鼾をかきながらが寝てしまったので、歌を聞くのは明日にする事にした。

  

 

 次の日。

「頭痛ぇ……」

「仕方ありませんにゃ、夕べ酔っ払って帰って来て、すぐに寝てしまわれましたからにゃ」

「フィリップ、酔い覚ましの薬って、あるんかな……?」

「さあどうでしょうにゃ? 毒消しという意味では【解毒薬】あたりではいかがですかにゃ?」

「じゃあ、それ頼む……」

「かしこまりましたにゃ」

 

「カイ、大丈夫?」

「……気持ち悪い……」

「【解毒薬】でも飲んどく?」

「何もいら――おえぇっ!!」

「もおっ、アレクのバカっ」

 

 

 二人共がそれぞれで二日酔いの苦しみを味わった後、夜になってだいぶ治まったので、【歌姫】のいる【アリーナ】に集まった。

 【お世話猫】に昨日取った【始まりの唄】を渡し、【歌姫】にリクエストする。

 【歌姫】は、まるで幼子に聞かせる子守歌のように、優しく、語り掛けるように【始まりの唄】を歌った。

 

 ――大地の鼓動、大地の恵み

 土に根を下ろし、世界の調和を知る

 生命の息吹、たましいの風

 吹き抜ける風の匂いが美を創り出す

 我は大地の一部

 我は空の一部

 世界は己と共にあり、世界は己の中にある

 我から意志は発ち、意志は我に還る

 天の怒り、天の恵み

 大いなる意志が世界の均衡を保つ

 我は大地の一部

 我は空の一部

 世界は己と共にあり、世界は己の中にある

 我から意志は発ち、意志は我に還る――

 

 苦労して取ったからなのか、それとも故郷へ帰るかのような懐かしい響きをこの歌が持っているからなのか、図らずも泣きそうになったアレクトロ。

 誤魔化そうと見回すと、聞いているハンター連中が皆、目頭を押さえたり口元を押さえて嗚咽を堪えたりしているのであった。




「今まで取った酒を全部飲んでいるのか」と聞かれたアレクトロが急に酔っ払い始めたのが、ちとわざとらしいかなと思ったり(^^;)

「歌姫」の歌う歌は、全部公式で発表されている歌詞です。
苦労して「キングチャチャブー」を倒して「始まりの唄」を取り、初めて「歌姫」に歌ってもらった時は、私はリアルで泣きそうになりました。
言葉は分かりませんでしたが、しみじみと心に響く懐かしさを感じる歌でした。

アレクトロが「今は気配を殺すな」と言うシーンがありますが、彼だけがベナトールが「ギルドナイト」であると知っており、暗殺のために気配を殺し、処刑対象に背後から近付くなどという行為を得意としているという事を分かっているために、「今は」という言葉を掛けたのです。


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猛る【一角竜】(カイ編)

タイトルに「カイ編」と付いてますが、特に続きはありません。
友人の人格であるカイが超珍しく自分から「下りて」来たので分かりやすいようにタイトルにも入れました。
と言っても「ハナ」と違って一人称として「下りる」事は無い様で、なのでカイの視点を「神(私)」の視点で俯瞰して見たような書き方になりました。

※挿絵のグロ注意です。


 

 

 

 ギオォ~~~ン!

 

 巨体の割にはやたら甲高い咆哮が、【砂漠】の《7》に響き渡った。

 それを終戦の合図にするかのように、身構え、突進する傷だらけの【モノブロス】。

 

【挿絵表示】

 

「来いよ! 決着を付けてやる!!」

 カイは半分折れた【太刀】を構え、避けつつ切り掛かった。

 

 

 

 話は五時間前程に遡る。

 【武具工房】で強化素材を見ていたカイは、そのリストの中に【真紅の角】を見付けたのだ。

 

【挿絵表示】

 

「親方、この素材って――」

「そいつぁ【モノブロス】の角だな」

「やっぱり、そうか……」

「不安げだな、だがこればっかりは仲間を頼れねぇぞ?」

「分かってるよ」

 

 【モノブロス】は、猛々しい【飛竜】であるにもかかわらず、独りで狩る事を求められる【モンスター】である。

 なぜなら同じ系統種である【ディアブロス】と違って非常に警戒心が強く、滅多に表れない上に数人で行くと逃げてしまうため、気配を最小限に抑えつつ狩れる独りで挑むのが一番望ましいからである。

 

 もちろんカイも初めての相手ではなく、今までに必要に応じて何度も狩ってはいるのだが、手強いのは変わりがないので彼としては極力相手をしたくはなかったのだ。

 

 とにかく、準備は万端にしよう。

 

 彼はそう思って、【クーラードリンク】やら【音爆弾】やら、とにかく【砂漠】で必要な物や回復アイテム、【罠】などを吟味し、ありったけの持てる分を持って行く事にした。

 長期戦になる事を覚悟していたので、とにかく調合分も忘れないようにした。

 

 

 【砂漠】に着くと、まず一番に【クーラードリンク】を飲んだ。

 が、見付けたのは《3》だったので「意味なかったな」と苦笑した。

 

 まず目的の角を折ろうと、麻痺を期待して切り刻む。

 

 手数の多い【片手剣】よりは遅れを取ったが、何度か切っている内に麻痺ってくれた。

 【太刀】には溜め攻撃が無いが、切っている内に【錬気】が溜まって行くので、それを消費して強力な攻撃を当てた。

 潜ったらすかさず【音爆弾】を投げ、上半身だけ飛び出させてもがいている間に切り刻む。

 頭が高いと当てにくいので、麻痺っている間になるべく頭を狙う。

 

 それを何度か繰り返し、角破壊に成功。

「よし、あとは尻尾だな……」

 だが、その頃には相手の口元から黒い息が出るようになっていた。

 

 怒ったまま移動してしまったので、【ペイントボール】の匂いを頼りに探す。

 相手は《5》に移動した事が分かったため、一旦【モドリ玉】で【キャンプ】に戻り、古井戸から《5》へ。

 走って移動するよりその方が早いからである。

 効果が切れていたのもあって改めて【クーラードリンク】を飲もうとしたが、既に補足されていたのかエリアに入るなり突進して来たので、回避してから隙を見て飲んだ。

 

 だが、飲んでいる間に潜られた。

 

 どちらにしても怒り時に【音爆弾】は効果がないので、なるべくその場に止まらないようにして出て来るのを待つ。

 が、その努力も空しくカイは突き上げられ、思い切り吹っ飛んだ。

 

【挿絵表示】

 

 幸い角が折れていたために串刺しは免れたが、怒り時のダメージはけっこうきつく、すぐに起き上がれない。

 

 そこに突進が来た。

 

「うぐあっ!!」

 起き上がった直後だったために、ガード出来ないのに思わず【太刀】をかざしてしまったカイは、衝撃と共に再び吹っ飛ばされた。

 熱い砂の上に仰向け状態で叩き付けられ、 一回バウンドして止まる。

 

 ギオォ~~~ン!

 

 勝利宣言のように吠える【モノブロス】の声を聞きながら、彼の意識は遠のいた。

 

 

 次に目を開けた時、カイはテントの前に転がされていた。

 どうやら【猫車】で【ベースキャンプ】まで運ばれたらしい。

 起き上がろうとしたが、体中が痛い。

 寝ころんだまま呻きつつポーチを探って【回復薬グレート】を飲み、上半身を起こせるまでになってから、何本か呷って一息ついた。

 

 その段階になってようやく、なんとなく背中が軽いのに気が付いた。

 

 最初【太刀】を無くしてしまったかと思って慌てて背中に手を回したが、【太刀】は鞘にちゃんと収まっている。

 そこで鞘から抜いてみたカイは、愕然とした。

 【太刀】が中程から完全に折れてしまっていたからである。

 

「あの時に折れてしまったか……」

 恐らく、突進を【太刀】で受けてしまったがために、その衝撃に耐えられなかったのだろう。

「これじゃ【片手剣】だな」

 カイは苦笑いした。

 【クエストリタイア】の選択が頭を過ったが、まだ刃の部分は残っていると思い直した。

 

 切っ先が無いから突く事は出来なくても、切る事はまだ出来る。

 きっともうすぐ討伐出来るはずだ。ここで諦めてはいけない。

 そう思って、そのまま再び【モノブロス】の前に立ちはだかった。

 

 

 突進を避けたカイは、直後に振り回される尻尾に気を付けつつ、尻尾の動きが止まったと同時に踏み込んだ。

 

【挿絵表示】

 

 切り上げ、切り下がりを当てて様子を見ながら納刀。

 横に回って脚を切り付け、こけた所を連続切り。

 怒って潜られたが、今度は突き上げを食らわずに済んだ。

 様子を見つつ【シビレ罠】を仕掛け、下がった尻尾に錬気切り。

 それで尻尾が切れたので、後はなるべく弱点を狙うように切り刻んだ。

 タックルされて吹っ飛んだが、これは大したダメージじゃなかったのでそのまま攻撃を続ける。

 痺れた所を気刃斬りで最後まで錬気を出し切ったのが止めとなり、【モノブロス】はとうとう断末魔の声と共に、その巨体を沈めた。

 

「ふ~~~っ!」

 長く息をつくカイ。

 やはり、苦戦してしまった。

 剥ぎ取りつつ、やっぱり独りで狩るよりは仲間との狩りの方がいいな、と彼は思った。   

  

 




例によって、自キャラをカイ役として適当な装備をさせて挿絵撮影しています。
「太刀が折れた」という設定なので、短リーチの太刀を使いました。

この話は友人との会話から「武器が折れる話もあるんじゃない?」という事で書いてみたものです。
「モドリ玉」の話も出て、私的には小説としてはこのアイテムは無しなんじゃないかと思っていたので今まで出してはいなかったんですが、「実際に(ゲーム内で)使われている物なんだから」と友人に言われたので「それもそうだな」と採用いたしました。

ので、この話以降は「モドリ玉」を使うようになっております。


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二頭の【覇竜】

ベナトールのソロプレイ編。
挿絵は「パートナー」を外して撮影しています。


 

 

 

 溶岩の狭間で、二頭の【覇竜】が死闘を繰り広げている。

 一頭は【飛竜種】の【アカムトルム】。

 そしてもう一頭は、【アカムト】シリーズに身を固めた【人間族】のベナトールである。

 彼は、この【飛竜種】と独りで闘う事が、どの【モンスター】を独りで相手にするよりも好きだった。

 

 巨大な肢体から繰り出される重々しい攻撃。

 巨体の肺活量に相応しい、音速を超えるブレス、通称【ソニックブラスト】。

 その躍動は大地を裂き、その咆哮は溶岩をも噴出させ、その潜行は地を轟かせる。

 彼にとっては【好敵手】とも言える存在だと思っている。

 だから独りで狩りたくなった時は、こうして【決戦場】と呼ばれている溶岩の奥地へ赴くのであった。

 

 PT戦では仲間の被弾を考えて【閃光玉】などのアイテムを使う彼だったが、命を懸けた勝負の方が燃えるので、一対一で闘う時には極力束縛アイテムなどは使わない。

 なので被弾すれば即命に関わりかねないのだが、その刹那の闘いすらも、彼にとっては楽しいものだった。

 

 キャガオォ~~~!

 

 頭に高い周波数が付く独特の咆哮。

 それに呼応するように、前方に溶岩が吹き上がる。

 それを避けつつ咆哮終わりに最大溜めを叩き付ける。

 噛み付きを避け、牙に縦攻撃二回。

 再度叩き付けようとして振り被ろうとしたら潜られたので、潜る際の衝撃を避けるために後転し、潜行に伴う吹き出す溶岩を避けながら、地響きを追うように追い掛けた。

 

 出て来るタイミングを見計らって溜め、出切った所に溜めスタンプ。

 怯んだのでそのまま縦三と言われる三連続の縦振りを当てると、相手は昏倒した。

 

【挿絵表示】

 

 最大溜めの溜めスタンプを二回程当て、起き上がりに合わせて振り上げ一回。

 怒って潜られたが、潜行先が遠かった。

 

 飛び出した【アカムトルム】は、ベナトールが追い付くまでに馬鹿でかい口を開け、ブレスを吐いた。

 音速を超える黒い竜巻が正面付近に広がったが、横に回り込みつつ近付いて、隙だらけの横顔に叩き付ける。

 怯んだ相手は苦し紛れに頭を振り上げた。

 それを予測していなかったベナトールは、下顎に生えている巨大な牙に引っ掛けられた。

 

【挿絵表示】

 

 牙といっても顎からはみ出るぐらい馬鹿でかく、二本の角に見える程長く大きく発達しているものなので、それに振り上げられたら派手に吹っ飛ばされるしかない。

 それでも受け身を取ったベナトールは、すぐに起き上がったがボタボタと血を滴らせた。

 

 左脇腹から右肩にかけて、大きく切り裂かれたようになっている。

 大量の血を滴らせながら立っている彼を見た【アカムトルム】は、勝利を確信したかのように大きく吠えた。

 

「……。これで、勝ったつもりか?」

 次の瞬間、ベナトールの全身から殺気が沸き上がった。

 

 それを感じた【アカムトルム】は怖気付き、たじたじと引き下がった。

 が、その恐怖を打ち消すかのようにして吠え、突進して来た。

 彼は回復もせずに溜めると、正面で迎え撃って、再び牙が彼に届く寸前で叩き付けた。

 動きを止めた【アカムトルム】は、そのまま昏倒。

 

 その大きな隙に、ベナトールは回復しようともしていない。

 

 大きく切り裂かれた傷は深く、常人ならば吹っ飛ばされた時点で気絶していてもおかしくはない。

 なのにビシャビシャと音を立てる程黒い溶岩に鮮血を滴らせながら、何事も無かったかのように攻撃を続けている。

 

 そう。まるで【狂戦士】そのもののように。

 

 それに戦慄を感じているのか、相手も死に物狂いで向かって来るようになった。

 が、攻撃も、避ける動作も少しも鈍っていない。

 それどころか血によって覚醒したかのように、ますます攻撃が激しくなっている。

「がはぁっ!!」

 途中で何度も血を吐き、荒い息遣いなのにも関わらず、その口元は楽し気に歪んでいる。

 結局相手が倒れ伏し、二度と動かなくなるまで一度も回復しなかった。

 

【挿絵表示】

 

 

「……はぁ、はぁ……!」

 討伐を確認したベナトールは、荒い息を吐きながらポーチを探り、【秘薬】を口の中に放り込んだ。

 効き目が表れた頃に大きく息をつき、もう息の無い【アカムトルム】に近付いて、彼の攻撃によって折れた二本の牙の内の一本を愛おしそうに撫でた。

 

「また楽しませてくれよ? 相棒」

 その牙は、彼に傷を負わせた方の牙だった。     




「覇竜」を怯ませる程の殺気って((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

アカムもアカムトシリーズも黒っぽい上に「決戦場」の風景も暗いため、挿絵撮影では特にベナトールが何をやっているか分からなくなってしまいました(^^;)
牙に引っ掛けられるシーンでは放り上げられるような吹っ飛ばされ方にしたかったんですが、「アカムトルム」の吹っ飛ばしではそうはならないようです。


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【覇竜】の実力

これは、前回の「二頭の覇竜」にアレクトロを参加させ、彼の視点で書いたものです。
話の内容はまったく前回のものと同じですが、他の視点ではどう見えるのかを知りたかったので書いてみました。

クエスト自体がキツイので、カイとハナには参加してもらえませんでした(笑)


 

 

 

 溶岩の狭間で、二頭の【覇竜】が死闘を繰り広げていた。

 というよりは、まさに「二頭の【覇竜】が闘っている」と言える程の光景だった。

「これが、オッサンの実力なのか……!」

 アレクトロは、この光景を見られる事に、そして自分が同じ場所で闘っている事に、感動すら覚えていた。

 

 

 

 話は数日程前に遡る。

「オッサンよ、あんたが独りでクエやってる時にな、どんな依頼を受ける事が多いんだ?」

「どんな、とは?」

「いや依頼こなすのに内容は関係ねぇのは分かってるけどよ、一応こっちにも『選ぶ権利』っつうものがある訳だろ? だから独りで闘いやすい【モンスター】とか、実力を出しやすい相手とかがあって、それを優先して選んでんじゃねぇのかなと思ったんだよな」

「……。俺が独りで相手をするのに相応しい、と思って受けている依頼があるとすれば、【覇竜】の依頼だな」

「【アカムトルム】かよ!?」

「うむ。あやつは戦友だと思っているのだよ。俺としてはな」

「まあ愛着してんのが【アカムト】シリーズだもんなぁ。そりゃ狩り慣れてるわなぁ」

 

「お前は狩った事はあるのか?」

「独りでか?」

「うむ」

「あるにゃああるが、何度も気絶しては【リタイア】してやり直したりして、【クエスト時間】ギリギリでやっとこさ倒せたぐれぇだったな。【クーラードリンク】の調合分まで持ち込んで、それでも足りるかどうかっつう感じだったよ」

「そうか……」

 

「なぁオッサンよ、一片見ても良いか?」

「何をだ?」

「あんたが【覇竜】と闘うとこをだよ。あのクソ手強い【モンスター】を、【ハンマー】一本で闘ってんだろ? ガード出来ねぇのにどうやって闘ってんのか見てぇんだよ」

「やめとけ、巻き込まれて死ぬのが落ちだ」

「そんな過酷な闘いしてんのか!?」

「俺の場合、ソロだと【閃光玉】などの縛りは一切せんからな。まさに生死を懸けた死闘となる」

「面白ぇじゃねぇか。それこそ俺が求めてる、命と命のやり取りっつうやつだぜ」

「……。集中したら、助けてやれんかもしれん。それでも良いのか?」

「上等だぜ。元より助けて欲しいなんざハナから思ってねぇよ」

「……。自分の命は自分で護れよ?」

「了解」

  

 【受付カウンター】の前で落ち合うと、彼は「出発前に言って置きたい事がある」と言った。

「例え俺がどうなっても、一切構うな。助けようなどとしなくても良い。それが出来んのなら、この依頼は破棄だ」

「承知した」

「くれぐれも頼むぞ?」

 ベナトールは念を押した。

 

 

 【決戦場】と呼ばれている場所は【火山】の奥地にあるらしく、かなり過酷な場所なためなのか【ベースキャンプ】が無い。

 気絶するなどして力尽きれば一応安全な場所に【猫車】が運んではくれるのだが、もしそこまで逃げ帰ったとしても簡易ベッドが設けられてないために、寝て回復する事は不可能。更に、【支給品ボックス】も備えられてないので、【支給品】を受け取る事も不可能なのだ。

 とすれば、持ち込みや調合分の回復系だけでしのぐしかない。

 無論、他のアイテムも然り。

 そんな生半可な環境じゃない狩場に好き好んで行くようなハンターは、恐らくベナトールぐらいなものだろう。

 

「さて、始めようか」

 自分を見付けて吠えた【覇竜】に、ベナトールは呼びかけた。

 吹き出す溶岩に気を付けながら溜めつつ近付き、咆哮終わりに合わせて最大溜めのスタンプ。

 普通なら発覚直後(必ず吠える)に合わせて【閃光玉】を投げ、攻撃しつつ【閃光玉】で動きを封じながら闘う方が楽なのだが、彼はそういうやり方は好まないらしく、始めから自らの手で攻撃している。

 まあそれは初めから言われて分かっていたので、アレクトロは頭部をベナトールに任せ、後ろ脚付近に回り込んで腹側などを中心に攻撃する事にした。

 その辺りが一番体の動きが少ないため、一つ一つの振りが遅い【大剣】では闘いやすいからである。

 

 【覇竜】の咆哮はバインドボイスなので、例え〈高級耳栓〉を付けて耳を保護していたとしても発せられる衝撃波でダメージを受けて吹っ飛ばされてしまう。

 なので、咆哮に合わせてガードしつつ闘える、【大剣】は都合が良かった。

 だからガード出来ない【ハンマー】を使っているベナトールはどう闘っているんだろうと闘いながらチラチラ見ていると、ダメージを受ける寸前に、どうやら転がって避けているようである。

「相変わらず器用な事すんな~~!」

 アレクトロは感心した。

 

 動きに合わせて隙を見て切り付けつつ、咆哮はガードしてすぐに溜める。

 そのタイミングで咆哮終わりに最大溜めが決まるので、時には悲鳴を上げて怯んだりした。

 ベナトールが時々スタンさせてくれるため、溜める隙はけっこうあった。

 

【挿絵表示】

 

 と、ふいに【覇竜】の黒々とした体が赤黒くなり、最大に吠えた。

 怒りによって血流が上がり、甲殻の表面が赤く見えるようになったのだ。

 

 例え怒ってもこちらの立ち回りが変わる訳ではないのだが、咆哮のダメージや動きそのものに速度と衝撃度が増し、ただ足を踏み出すだけの動作でも意外に痛い。

 【覇竜】に呼応するかのように吹き出す溶岩の範囲も増えたりし、時には巻き込まれたりした。

 それに腹下付近にいると突進開始が分かりにくく、どうしても轢かれてしまう。

 「自分の身は自分で」と言われているため、というかハナから自分もそのつもりでいるために自分で回復していたアレクトロは、食らう事が多くなった分調合分でも足りないかもしれないと思い始めていた。

 だから無傷で闘っているように見える、ベナトールが羨ましかった。

 

 そう思っていた矢先、彼に悲劇が訪れた。

 攻撃を受けた【覇竜】が苦し気に頭を振り上げた際、下顎に生えている巨大な牙に引っ掛けられたのである。

 

【挿絵表示】

 

「オッサン!!」

 派手に吹っ飛ばされた彼に思わず駆け寄ろうとしたアレクトロだったが、ぐっと堪えた。

 「一切構うな」と言われているからである。

 

 彼が言うのだから本当にそう思っているはずで、あれほど念を押すのだから、本当にそうして欲しいはずなのだ。だからそれを破ったとあらば、二度と【クエスト】に同行して貰えない可能性だってある。

 二言は無い。彼はそういう人物なのだから。

 

 それでも気になって闘いながらチラチラと見ていたアレクトロは、立ち上がった彼の状態が、あまりに酷いのが分かって愕然とした。

 左脇腹から右肩にかけて、斜めに切り裂かれたようになっていたからである。

 しかし、大量の血を滴らせながらも、彼は回復しようともしていない。

 

 回復系なら充分に余裕があるはずだ。今までほぼ無傷で闘っていたんだから。

 てか、俺なら吹っ飛ばされた時点でとっくに気絶してるだろう。なのになぜ立っていられる!?

 アレクトロがそう思っていると、勝ち誇ったように【覇竜】が吠えた。

 

 まずい! オッサンがやられちまう!!

慌てて攻撃を加えようとすると――。

 

「……。これで、勝ったつもりか?」

 ベナトールの低く、静かに放たれた声が聞こえ、次の瞬間がらりと空気が変わった。

 

 

 彼の体全体が威圧感を増し、何倍も大きくなったように見える。

 まるで、猛る【覇竜】がもう一頭現れたかのような、圧倒的な迫力が迫って来る。

 彼は何もせずにただ立っているだけなのに、体全体から禍々しい闇が湧き上がり、それが【覇竜】を覆い、そのまま呑んでしまいそうな雰囲気がある。

 

 つまり、彼は【殺気】を【覇竜】に向けて放ったのだ。

 

 その迫力に怖気付いたのか、こちらの【覇竜】がたじたじと下がった。

 が、それを打ち消すように吠え、真っ直ぐに向かって行った。

「オッサ――!!」

 声を掛けようとしたアレクトロは、彼が避けずにそのまま溜めたのを見て無茶だと思った。

 だが彼が再び牙に掛かる寸前で叩き付けると、相手が昏倒した。

「す、すげぇ……!」

 感慨の声を漏らすアレクトロ。あんな状態でも突進を止める力があるのかよと戦慄さえ覚える。

 しかも、その大きな隙に回復もせずに攻撃を続けているのだ。死ぬ気かよと彼は思った。

 何度も血を吐いている様を見て、気が気でないアレクトロ。しかし「構うな」と言われている以上、代わりに回復してやる事も出来ない。

 というか、それを許して貰えない雰囲気がある。

 

 傷が深いのかおびただしい出血が続いており、黒い溶岩の地にビシャビシャと音を立てる程鮮血が吹き出し、流れていく。

 苦しそうな荒い息遣いが、先程からずっと続いている。

 なのに、回復しないのに弱るどころかその動きは少しも鈍っていなく、まるで血によって覚醒したかのように、更に激しい攻撃になってすらいる。

 

 ――狂戦士――。

 

 アレクトロは、その言葉を思い浮かべた。

 その闘いぶりは常軌を逸しており、本当に二頭の【覇竜】が血みどろの闘いを繰り広げているようにしか見えなかった。

「これか、オッサンの実力なのか……!」

 アレクトロは、感動すら覚えながらそう言った。

 

 

 結局、相手が倒れ伏すまで彼は一度も回復しなかった。

 が、やはりきつかったと見えて、喘ぎつつ【秘薬】を飲んでいる。 

 

「……。大丈夫だったか?」

 少しして深く息を付いたベナトールは、そう聞いた。

「まあなんとかな。――とか言ってる場合じゃねぇよ! 死ぬ気かよオッサン!!」

 思い切り突っ込むアレクトロに、「はは、ちと不覚だったが、楽しかったよ」と彼は言った。

 

「……。これ程常軌を逸してるとは思わんかったぜ……」

「……。俺が、怖くなったか?」

「いいや、もう慣れたよ。あんたの【殺気】の凄まじさはもう知ってるしな。むしろ感動した」

「こんなもんで感動してくれちゃ困るぞ、真似なんぞしてくれるなよ?」

「あんなもん、真似したくても到底出来やしねぇよ」

「なら安心だな」

 それを聞いて吹き出すアレクトロ。それから次のように言った。

 

「なぁオッサン、言い付け守ったんだから、これからも同行してくれよな?」

 

 今度はその可愛さにベナトールが吹き出して、「無論だ。俺からも頼むぜ」と言った。

 

 ハナにやるように頭をポンポンされたアレクトロは、真っ赤になって「やめろよ!」と手を払いのけた。

「褒美だよ」

 兜の下で真っ赤になっているのを知っているベナトールは、そう言って優しく笑った。

 その雰囲気を察したアレクトロは、彼が分かると知りつつ照れ隠しにむくれて見せた。  

 

【挿絵表示】

 




これを書きながら、私はアレクトロの可愛さに図らずも萌えました。
てか、これ程素直に最後まで「言い付けを守る」とは思わなかったです。
アレク可愛いよアレク(爆)

挿絵撮影では「ベナトール(パートナー)」がずっと頭に張り付いて攻撃してくれなかったので、中々スタンさせてくれなくて困りました。
もうちょっとしっかりしろよAI(-"-)

彼が吹っ飛ばされるシーンは、「アカムトルム」の唾液が付いて鎧から煙が上がっております。
重酸性なので、鎧が溶けて(防御力が下がって)しまったようです。


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【月刊・狩りに生きる】インタビュー(カイ編)

これは、友人と「カイが中々下りない」というような話をしていた時に、「カイにインタビューしてみたらどうだろう?」という流れになり、超珍しく友人から書いてくれたものです。
普段は散々せっつかなければ書こうともしてくれないのに、この時は「インタビューして来たよ~~」と向こうから送ってくれました。

今回はそれを投稿にあたって読みやすいように(タイトルも含め冒頭に【狩りに生きる】がインタビューして来たようにしたのと、行間を空けたり段落を加えたりして)ほんの少しだけ手を加えました。
ですがほぼ友人の書いた原文のままです。


 

 

 ある日【月刊・狩りに生きる】のインタビュアーがやって来て、カイにインタビューを取り付けた。

 なんでも《ハンターの素顔を知りたい》という特集記事を書くためなのだという。

 

 

 カイ「なんか、インタビューするとか聞いたんだけどさ、聞きたいことがあるならアレクのほうが詳しいんじゃないかな? 今一人で狩りに行ってるみたいだけどさ」

 私「ちょっと教えて。アレクさんとカイくんは、いつからの付き合い?」

 カイ「おいら、いや、オレとアレクとはココット村で物心ついたころから一緒なんだ。だから兄弟みたいな感じかな。だからお互い言いたいこと言ってる♪」

 私「ちょっと詳しく知りたいから質問するね」

 カイ「なんで知りたいの? いよいよ有名になってきたか(^^) いいよ」

 

 私「カイくんの特技とか、どうしてハンターになったのかとか教えて」

 カイ「えっと、ハンターになったのは、アレクがハンターになったからに決まってるだろ? アレクがさ、村も救えるし、面白いこともたくさんあるから、興味あるならお前もどうだって言ったんだ。おいら、いや、オレは迷わなかったね、アレクが面白いって言うんだからさ。でも、アレクと違っておいらは一人で狩りに出かけてどうこうしたいとかないんだよな~。アレクが行くっていうなら一緒に行くけどさ、それほど真面目じゃないというか。だからどんどんたくましくなっていくアレクをすげえなあとは思うけど、そこまでトレーニングしないから、防具着てフィールドに出たら、姉ちゃんと間違われることがあんだよ。全く、どこ見てんだよって言いたいね。そのくらいイカした顔してるってことだな、きっと。うん」

 

 私「えっと(;^ω^)、特技は?」

 カイ「あ、おいら、いや、オレの特技? 罠の仕掛けかな。あと武器は太刀か双剣だなあ。アレクはさ、おいらに忘れ物のスキル付けたのか? なんて言うんだ。確かに少しは忘れるけどさ、ちゃんと必要なものを厳選して運んでるんだから、そこを見てもらいたいね。何度アレクをそれで助けたかわからないくらいだよ」

 

 私「まぁ、そこはお互い様ってことだよね?」

 カイ「ん? まぁ、そうとも言うかな。そろそろメシの用意する時間だからさ、また今度アレクにでも聞いてよ。今日は夜から狩りに行く約束してるし、おいら、いや、オレの当番だから忙しいんだよ。スタミナ付けろだの、色々注文あってさー。あ、姉ちゃんも食う? 味より、結果重視だけどな(笑) アレクなんてさ、お腹壊すような食べ物出すときあるんだからなぁ、まったくよぉ」

 

 私「じゃあ、今度アレクさんにも話聞こうかな。食事はまた今度ね。ありがとね」




カイ君フラれるの巻(笑)

普段自分の事を「おいら」と言う彼がやたら「オレ」を意識しているのは、友人曰く「インタビューされた事で格好付けている」のだそうな。

「フィールドで姉ちゃんと間違えられる」と言うシーンを見て、「防具の外見で分かるんだから女に間違えられるわけないだろ」と突っ込んだんですが、「それを踏まえて間違えられるぐらいカイが女らしく見えるんだと思う」と言われました。
私自身も女顔で華奢なイメージを描いていたんですが、友人から見てもなよっとしているのかもしれません(笑)


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【月刊・狩りに生きる】インタビュー(アレク編)

友人が書いてくれたカイへのインタビューで思い付いた、アレクトロへのインタビュー。
インタビュアー(友人)が行った質問と、まったく同じ質問にしております。

アレクトロが同じ質問にどう答えるかが知りたかったんで。


   

 

 

(コンコン)「アレク~、いる~~?」

「いるぜ~~?」

(カチャリ)「入っていい?」

「おぅカイ。どした?」

「あのねアレク。この前《狩りに生きる》から取材があったんだけど……」

「へ? あの【ハンター】大人気の月刊誌からか!?」

「うんそう。おいら人気者だから♪」

「マジで!?」

「うんマジで(笑)」

「嘘こけ! おめぇに聞く事なんてあんのかよwww」

「あったから取材が来たんだろっ(怒) なんでも『ハンターの素顔を知りたい』っていう特集を今度組むらしくて、色々ハンターにインタビューして回ってるらしいよ。――で、君にもインタビューしたいって言うから今外で待たせてるんだけど、どうする?」

「まままマジかよ!? ――てか、お前、変な入れ知恵したんじゃねぇだろな?」

「いや『聞きたい事があるならアレクの方が詳しい』って言っただけ(笑)」

「思いっきし俺に丸投げしてんじゃねぇかっ!!!」

「え?(笑) でも一応質問には答えたよ? 『ハンターになったきっかけ』とか『特技』とか……」

「あそ。で、なんて答えたんだよ?」

「それは秘密♪ ほらあんまり長く待たせちゃ悪いから呼ぶよ?」

「あ、ちょ、おま、待てオイ!?」

「んじゃ頑張ってね~~」(パタンッ)

 

 

「え~コホン。まずはインタビューを受けていただいてありがとうございます」

「あ、ハイ。アレクトロと申します。以後お見知り置きを……」

「まあそう畏まらずに(苦笑) 普段のアレクトロさんを知りたいんですから」

「良いんですかい? 俺普段は相当口悪いっすよ?w」

「かまいませんよ? 緊張されるよりは、こちらもその方が聞きやすいですし(笑)」

「え~~? そんなもんなんスか?w」

「はい。そんなもんなんス(笑)」

「wwwwww」

 

「ではお聞きします。ハンターになったきっかけは?」

「成り行きでw」

「え?(笑)」

「というのは嘘で、――う~~ん、なんつうのかなぁ。【ココット村】の連中は、ガキの頃から大抵自然の中で遊びながら育つんですよ。それが当たり前みたいな感じで。 で、親からも【狩猟】の仕方を教わったりして。んでそうやってく内に自然に【ハンター】として生きていけるようになるっつうか……」

「なるほど。では【ハンター】になるのは当たり前の事だったと?」

「う~~ん。でもならない奴はならなかったっすよ。ガキの頃にいくら自然と触れ合ってても、大人になったらまったく関係無い仕事に就いてたり、【街】の方で商売やってたり」

「じゃあそんな中でアレクトロさんが【ハンター】を選んだのはどうして? 他の仕事を選ぶ選択肢もあったわけでしょ?」

「俺は自然の中で生活する方が合ってるんですよ。〈人と触れ合う〉っつうか、〈慣れ合う〉っつうか、そういうの好きじゃねぇし、自然界での生物同士の営みを、観察してんのも好きだし。もちろん【狩猟】も」

「それでよく一人で狩りに行く事が多いわけね?」

「まぁそんなとこっす。というか、俺の場合単に一対一でやった方が、命のやり取りをしてるみたいで好きだってだけですけどね」

「なんかカッコいいわね(笑)」

「(苦笑)」

 

「特技は?」

「これと言っては……。あ、強いて言うならPT戦で、〈ヘイト〉が自分に向いてねぇのに切り掛かっては避けられて、スカる事かな?w」

「それは【特技】とは言わないのでは……(苦笑)」

「『お前空気切んなよwww』ってよく笑われてるよ俺。で、付いたあだ名が【エアスライサー】ってねwwwwww」

 

(笑い事で済ませていい問題だろうか……)

「なんか言ったっすか?」

「いえ何も(^^;) では得意な武器は?」

「【大剣】だな。【ハンマー】も使うっちゃ使うけど、ほぼ【大剣】しか担いでねぇしな」

「へぇ、その点ではカイさんとは逆ですね」

「カイはなんつってたんですかい?」

「【双剣】とか【太刀】なんかを使うと」

「んな軽い武器ばっか使ってっから筋肉付いてねんだよアイツは! ハンターには筋力が必要だってのに。見て下さいよこの筋肉! ハンターはこんくらい筋肉量がなきゃですね……」

「わわ、分かりましたからっ! 何も胸筋まで脱いで見せなくても(^^;;;)」

「なんなら大腿筋も……」

「良いというのにっ!!!」

「そうっすかぁ?(不満気)」

 

「(はぁはぁ)……。カイさんとは幼馴染だそうですね?」

「だな。いわゆる【腐れ縁】ってヤツ?w アイツちっせぇ頃から弱っちくて、自然の中に連れ回して【狩猟】の真似事をしてた頃もピーピー泣いてたわ。まぁそれが面白くてこっちも連れ回すんだけど」

「それは可哀想なのでは……(苦笑)」

「だってよ、いくら泣こうが俺の行くとこ全部付いて来ようとすんだもんよ。【ハンター】になったのも、どうせ俺がこの仕事選んだからに決まってるし」

「そんな事を言ってました」

「だろ? だったら俺がある程度は護ってやんなきゃしゃあねぇでしょが。あの野郎、弱っちい癖に俺がどんなに難しい【クエスト】に出向いても付いてくんですよ。で、ヘマこいてはピンチに陥りやがる。もう命がいくつあっても足りねぇっすよ。俺の!w」

「でもカイさんは『何度アレクを助けたか分からない』って言ってましたよ?(笑)」

「そうなんすよ! 俺がピンチになったらどんな無茶をしてでも護ろうとしやがる」

「じゃあお互い様じゃないですか」

「まぁそうとも言うけどよ……」

 

 

「――大体分かりました。これでインタビューは終了です。本日はありがとうございました」

 




アレクトロがこんなに筋肉自慢をして来るとは思わなかったです(笑)
この時、本当に「大腿筋」まで見せようとしてズボン脱いだら問答無用で後頭部を殴ってやろうかと思ってました。

ちなみに攻撃をスカって「エアスライサー」というあだ名を付けられていたのは私です。
私がPT戦でよくやらかしていて、何故か溜め中はじっとしていた相手が分かっているかのように最大溜めを振り下ろす瞬間に(他の者にヘイトが移って)避けやがる事がありまして、その度に仲間内で大笑いされた思い出を基に書きました。

なので実話です(笑)


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【月刊・狩りに生きる】インタビュー(ベナトール編)

「狩りに生きる」インタビュー、ベナトール編。
質問内容はまったく同じにしております。

「アレク編」は友人が「カイ編」を書いて送ってくれたものを読んでからすぐに思い付いて書いたんですが、この「ベナトール編」は、実はかなり日にちが経ってから書いたものです。

と言いますのも彼の性格上「インタビュー」を受けてもらえそうもなく、インタビュアーが来たとしても邪険に追い返すだけだろうと思っていましたもので。
なので書く事を考えてもいなかったんですが、五か月程経った頃にふと「アレクトロの紹介としてなら受けてくれるのではないか?」と思い付きまして、それで書いたのです。
 


   

 

 

「オッサン、ちょっと良いか?」

「?」

「あのよ、俺前に《狩りに生きる》からインタビューを受けたんだが……」

「ほぉ」

「なんでも今度『ハンターの素顔を知りたい』っつう特集を組むんだと。んで、あちこちでいろんなハンターにインタビューして回ってるらしいんだわ。――でよ、オッサンにもインタビューしてみたいっつって裏に来てるんだけどよ」

「断ってくれ」

「即断すんなよ。俺からの紹介って事になってんだからよ、俺の顔立ててくんねぇかな?」

「……。なぜ俺を紹介した?」

「『ベテランハンターの声を聞きたい』とか言われたもんでな。俺他に知ってる奴いねぇしよ」

「……。俺はベテランではない」

「謙遜すんな。少なくとも俺ら三人より抜きん出てんだからよ。尊敬してんだぜ? 普段言わねぇけどよ」

「……フン」

「とにかくよ、待たせてあるから受けてくれよ。んじゃなっ!」

「…………」

 

 

「まずはインタビューを受けて頂いて有難うございます」

「……。ベナトールだ」(腕を組んだままムスッとしている)

「どど、どうも(^^;;;)」

「…………」

「おお、お聞きしてもよろしいでしょうか?」(若干ビビっている)

「……。構わん」

(覚悟を決めたように)「で、ではお聞きします。ハンターになったきっかけは?」

「成り行きだ」

「はい!?」(ちゃんとした理由があると思っていたので素っ頓狂な声になる)

「……。親がどちらもハンターだったものでな。ハンターの家系だというのもある」

「な、なるほど……」

「物心付いた頃から、親父からハンターになるべく育てられた。だからハンターになる事は当たり前だと思っていた」

「では否応なく、という感じでしょうか?」

「そうかもな。親父の訓練はかなり厳しかったが、取り分けハンターという職業が嫌だと思った事は無かったよ」

「それは今でも?」

「そうだな……。他に生き方を知らんからなぁ。恐らく俺は、自分で引退を決める前に、フィールドで力尽きるタイプだろうよ」

「羨ましいような、そうでないような……」

(ベナトールは複雑そうに口の端を持ち上げている)

 

「特技はありますか?」

「痩せ我慢だな」(ニヤリ)

「それは特技とは言わないのでは……(^^;)」

「まあ忍耐力には自信がある」

「タフそうですもんね。筋肉もかなりあるし」

「……。特に意識して鍛えた訳ではないがな。勝手に付いただけだ」

 

「これ程の筋肉が付くとなると、さぞや武器も重い物を扱ってらっしゃるんでしょうね。得意な武器は何ですか?」

「【ハンマー】だな……」

「ではかなり長い間使ってらっしゃるのでは?」

「だな。ガキの頃に誰もがそこから始めるように、親父に【片手剣】を持たされたんだがな、それを振るうより先に体を使った力技に持ち込む方が早くてな、それで【片手剣】をマスターする前に【ハンマー】を持たされたんだわ。それ以来ずっと【ハンマー】を使ってるんだが、その頃から相手がスタンするのがたまらなく面白くてなぁ。他の武器も使えん事はねぇんだが、やはりこの武器が俺にとっては一番馴染むようだ」

 

「なるほど……。大体分かりました。これでインタビューは終了です。本日は有難うございました」

「ふむ」

 

 

 

「これはあくまでも個人的な質問なんですが……」

「まだ、何かあるのか?」

「あなたは【ギルドナイツ】の一人ではないかという噂があるのですが、それは本当でしょうか?」

「…………」(鋭い目で睨んでいる)

「ごご、ごめんなさいっ! 殺さないで下さいっ!!」(チビりそうになっている)

「……。どこから聞いて来たか知らんが、貴様【ギルドナイツ】という存在が、どういうものだか分かっているのか?」(呆れたような顔をしている)

「あ、あくまで噂ですが、【ハンターズギルド】直属の、国などの交渉や密猟者の取り締まり、未知の【モンスター】を調査する人物の集まりだと……」

「そう、噂だ。その【噂】でしか知り得ないような朧げな存在なのだよ。まさに都市伝説級のな。そんな輩が身近にいる訳がなかろう? ――しかも俺がその人物の一人だと? 片腹痛いわ」(機嫌悪そう)

「では、噂はデタラメだと?」

「当たり前だろう。むしろそんな噂を信じて質問する方が間違っている。そんな噂は早々に忘れる事だ」

 

「そうですか……。失礼いたしました」

「……フン」




無口なベナトールが武器の質問の時だけ急に饒舌になるのが可愛いと思いました(まる)

いくらアレクトロの紹介だとしても無視するか無言を貫くかもと思ったんですが、ちゃんと仲間の顔は立ててくれるようです。

彼が「ギルトナイツ」の一人だという噂を聞き付けるあたり、流石マスコミだと言わざるを得ませんね。
恐ろしや……。



友人の人格である「ハナ」へのインタビューは友人にしか書けないので友人待ちなんですが、いくらせっついても書いてくれないので彼女へのインタビューはありません。
友人的に、何故か「カイ」に対してだけ筆が進んだようです。

でもハナがハンターになったエピソードはサブタイトルの「朝ごはんはココット村で(特に一話参照)」で書いていますので、それを参考にしてもらうしかないようです。


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銀色の飛竜

「フロンティア」の「塔クエスト」ではいつもの地図ルートで行けるものではなく、通称「秘境」と呼ばれている場所に飛び下りなければそこにいる「モンスター」が狩れない場合があります。
「彼ら」はその場所から移動しないため、「秘境」に下りる事を知らないハンターは永遠に地図ルートだけを堂々巡りしながら「モンスター」を探し求める事に成り兼ねません。

かく言う私も「2(ドス)」時代に「秘境」の存在を知らないままそこにしかいないはずの「モンスター」を探して通常ルートを彷徨い続け、ようやく下りる場所を自力で見付けた時には既に時間切れギリギリとなっていて失敗した経験がありました。

この話は、それを思い出して書いたものです。


 

 

 

「っかしぃなぁ、【塔】にいる事は間違いないはずなんだがなぁ……」

 依頼を受けたアレクトロは、先程から【塔】のあちこちを駆けずり回って狩猟目標を探している。

 が、移動先ごとに相手が先に移動してしまっているのか、一向に見付からない。

 

 ここまで探し回っても見付からねぇなら、もう【塔】からいなくなっちまってんじゃねぇのか?

 

 そう思いつつ、《5》の細い場所を通り直していたアレクトロは、ふと遺跡の壁の一部が壊れて通れるようになっているのに気が付いた。

 

 ここはたしか、前までは壊れてなかったはず……?

 

 不審に思った彼は、その縁まで行って下を覗き込んでみた。

 高いのか、それとも単に霧が深いだけなのか、下の方がどうなっているのかは分からない。

 

 と、ふいに足元が崩れた。

 

「うわわっ!?」

 落ちてしまったが、幸いにもそれ程高くは無かったようで石畳にしこたま体をぶつけたものの、たいした怪我はせずに済んだ。

 見回すと、だだっ広い石畳が広がっているだけの場所だと分かる。

 

 少し頂上の風景に似てるな。

 

 そう思った矢先、濃い霧の中で、大きな影が佇んでいるのが見えた。

 そのシルエットは多分【リオレウス】のもの。

 背中の【大剣】に手をかけながら、油断無く身構えていると、風が霧を払って姿が見えた。

 

【挿絵表示】

 

 へぇ、綺麗だな。

 

 アレクトロは初めて見たにも関わらず、驚きよりも先にそう思った。

 

 その【リオレウス】は、銀色をしていた。

 金属質の派手な銀ではなく、沈んだような銀。

 

 依頼内容の『銀色の飛竜を見た』っつうのは本当だったんだな。

 

 そう思いつつ、こちらに気付いて威嚇して来た相手に立ち向かう。

 

 

 いぶし銀の交じる甲殻は見た感じかなり硬そうだが、〈切れ味+1〉のスキルで切れ味ゲージが伸びているので、なんとかなるだろう。

 切っている内に頭よりも翼の方が怯むのを見抜いた彼は、こいつは(少なくとも今使っている斬属性の武器では)翼の方が弱点なんだなと思った。

 が、動き回る相手をいちいち横に回り込んで切る事になるため、意外にも難しかった。

 

 このレウスの特徴は、バックブレスを多用する事のようだ。

 

【挿絵表示】

 

 だから突進直後を狙って後ろから切り掛かろうとすると、巻き込まれた。

 どうもホバリングしての攻撃も好んで使うようで、これは〈風圧無効(大)〉のスキルがねぇ奴はしょっちゅう煽られるだろうなと彼は思った。

 

 ホバリングを利用してタイミング良く溜め、下りたところに最大溜めを叩きこむ。

 

【挿絵表示】

 

 これは普通の【リオレウス】でもやる事なので、彼は溜め時間を多く確保出来るこのレウスの方が多く溜め攻撃が出来ていた。

 だが、怒った時のホバリングに時間差が出来、下り切る前に溜め切ってしまって失敗した。

 

 どうも空中で止まったまま連続ブレスを吐いた後、下りずにもう一度、今度は止まり切れずに前に進みながら二度目の連続ブレスを吐く事があるようなのである。

 いつものレウス戦のように、影下あたりで溜めつつ待ち構えていたアレクトロは、影が前に移動したのでタイミングが合わなかったのだ。

 といっても、一度の(三連続の)ブレスを吐いただけでそのまま降りる事もあるため、よく分からないままで取り敢えずいつものタイミングで溜め始め、降りずに影が移動するのを見て解除して再び溜めるという戦法を取るしかなかった。

 

 

 その内尻尾が切れ、翼爪も折れたが、頭が他の部位より硬いのか、頭の破壊が中々出来ない。

 苛ついてうっかり前に回り込み過ぎたアレクトロは、至近距離でブレスに巻き込まれた。

 

【挿絵表示】

 

 ……しまった……!

 

 火達磨になりつつ吹っ飛ばされたアレクトロ。

 ゴロゴロと転がって火を消していると、滑空しつつ鷲掴んで来た。

 

【挿絵表示】

 

 巨大な爪が鎧に食い込む。

 体重が胸に掛かり、息が出来ない。

 

 相手は彼を片足で押さえ込んだ状態のまま、しかしそれ以上は攻撃せずに、ジッと見詰めている。

 

 まるで、警告しているかのように。

 

 アレクトロは見詰め返したまま、目の前が暗転した。

 

 

 次に目を開けると、彼は【ベースキャンプ】にいた。

 どうやら【猫車】で運ばれたらしい。

 ふら付きながらどうにかベッドに辿り着き、寝る。

 目を覚ましたら動けるまでには回復していたので、少し休んで再び出発した。

 あの諭すような目を見たら心苦しくはあったのだが、依頼を引き受けた以上【クエストリタイア】を選ぶ気にはなれなかった。

 

 再び目の前に立ったアレクトロに、【銀レウス】は忌々し気に唸った。

 

「すまんな、俺はハンターなんでな」

『警告したはずだ』

「分かってる。だが、ここで引き下がる訳にはいかねぇんだよ」

『ならば、殺されても文句を言うなよ?』

「望むところだぜ!!」

 そういう会話をしたかのように声を掛けたアレクトロは、吠えた相手に向かって行った。

 

 再び死闘が繰り広げられる。

 が、相手が弱っているのは分かっているので、弱点の翼をなるべく狙いつつ、正面には回り込まないように頭を切った。

 

 切り上げた【大剣】が胸を切り裂く。

 血を吐きつつ吠えた相手は顎を開き、横ざまに頭を振って噛み付いて来た。

 しかし、それがアレクトロの頸動脈に届く前に、倒れ伏した。

 虫の息の相手の頸動脈に、逆にアレクトロが【大剣】を添わせる。

 相手の目を見詰めつつ、そのまま切り裂いた。

 【彼】から目の光が消えたのを確認し、深く息をつく。

 

 それから剥ぎ取りをし、帰って行った。  

 

【挿絵表示】

 




挿絵の「銀レウス」が鷲掴んで来るシーンは、通称「ワールドツアー」と呼ばれている突如舞い上がり、そのエリア全体を何周か旋回した後に襲って来る「リオレウス」の仲間特有の攻撃方法で襲って来た瞬間を撮ったものです。

毒蹴りでも似たような構図になるかもしれないんですが毒蹴りでは毒になった上に必ずピヨリますので、鷲掴みシーンを狙っている最中にたまたま「ワールドツアー」をしてくれたのをチャンスにしてわざと襲われました(笑)


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ゴージャス夫婦

「フロンティアZ」が「2(ドス)」の影響を強く残していた頃には、「月と太陽」というクエスト名で希少種夫婦の同時狩猟が出来ていました。
今は廃止されていますのでこの二頭の素材が欲しければ別々に依頼が出ている一頭クエで狩るしかありませんが。

これは、廃止前に依頼があった頃の話です。
前回の話が「銀レウス」の話だったので、「希少種繋がり」で今回はその話を続けて投稿します。
(実際は間に他の話を書いてました)


 

 

 

「ようハナ。お前にピッタリの依頼を見付けたんだが、受けてみるか?」

「あんたがそんな事を言うのなんて、怪しくて受けられないわよ」

「別に行かなくても良いんだぜ? 俺はオッサンを誘うつもりで来たんだし。どうせおめぇがもれなく付いて来るだろうと思ってついでに言ったまでだ」

「……。何の依頼だ?」

「【リオス科】の【希少種】だな。なんでも番でいるらしくて、危険だからどうにかしてくれとさ」

「キショウシュって、何?」

「まあ行きゃ分かるさ」

「アレクはいっつもそれだなぁ。おいらの時も、行って初めてどんな【モンスター】か分かるような言い方するし」

「どうせ会うならうんちく垂れるより、実際に見る方が早ぇからな」 

「もっともだな」

「ちょっとベナぁ、納得しないでよぉ」

「事実だしな」

「だよな」

「もぉ……。分かったわよ。行くわよ」

 

 

 【塔】の一角。遺跡の壁の一部が壊れた所の縁に、アレクトロはハナを立たせた。

「ここから飛び降りてみ」

「えぇ!? やぁよぉ」

 そう聞くや否や、彼は蹴り落した。

「きゃあぁ~~~!!」

 彼女の悲鳴が下の方に吸い込まれて行く。

「ひどいなアレク」

 カイが苦笑している。

「さてと……」

 おもむろに、カイを切り上げて落とす。

「うわあぁ~~~!?」

 一応悲鳴を上げたカイだがよくやられている事なので、石畳で体を打つ前に受け身を取った。

「あぁ~~! ちくしょおぉ~~~!!」

 ベナトールを切り上げようとして逆に打ち上げられたアレクトロが、そんな声を上げながら落ちて来た。

 最後にベナトールが飛び下りて、【秘境】と言われている所に降り立つ。

「ちょっとっ! レディーを蹴り落すなんてどういう事よっ!」

 

 アレクトロに詰め寄ろうとしたハナは、その後ろを見て止まった。

 

「な、何この【レイア】!?」

 金色の【リオレイア】を見て素っ頓狂な声を上げるハナに、「こっちも見てみな」と顎をしゃくるアレクトロ。

 

 そこにいた銀色の【リオレウス】を見て、更にハナは声を上げた。

 

「な、ゴージャスなお前にピッタリだろ?」

 彼は兜の下でニヤニヤと笑っている。

「って、これもしかして二頭同時に相手しなくちゃなんないのぉ!?」

「まあ、そういう事だな」

「落ち着いて言わないでよぉっ!」

「二人で組んで一頭ずつ担当するぞ。混戦はやむを得んからなるべく避けるように」

「そういう事だ。行くぞカイ。こっちは【銀レウス】を引き受ける」

「了解っ!」

「ならこっちは【金レイア】だな。さっさと来いハナ!」

「は、ハイっ!」

 

 

 突進やホバリング、ブレスなどの時に声掛けをしながら、なるべくお互いに【閃光玉】などで動きを止めつつ闘う。

 それでも特に【銀レウス】の方が滑空を多発するし、【金レイア】も突進が多いので、お互いがお互いに巻き込まれたりした。

 

「そっち行ったぞ!」

「わわっ!? こっち来んな!」

 とか、

「うは!? ブレスかよ!」

「いった!? 蹴られたっ!」

 

 などという会話が頻繁に聞かれ、ベナトール以外は必ず誰かが被弾していた。

 が、ヒィヒィ言っているハナを除いて、特にアレクトロは被弾する事さえ楽しんでいるようである。   

 討伐と捕獲で【クエスト成功】させたはいいが、お互いに切った尻尾が本体から遠くに転がっており、剥ぎ取りに行く時間が迎えが来た時間ギリギリで焦った。

 

 

 【街】に帰ったその足で【武具工房】に向かったハナは、【金レイア】の防具である【ゴールドルナ】を作ってもらい、「じゃ~~~んっ!」と得意げに見せに来た。

 

「……。おいハナ。それ着て【クエスト】に行くなよ?」

「なんでよぉっ!」

「眩しくってしょうがねぇ。それ着て行く気なら、俺もう二度とおめぇとクエ行かねぇかんな」

「なによぉっ! 誘ったのあんたじゃないっ。なのに防具はダメってどういう事よぉっ!」

「……。ハナよ。すまんが、せめて【ロビー装備】だけにしてくれんか?」

「うん。おいらも【クエスト】に着て行くのは反対だな……」

「みんなして何よぉ。着てみたら割と良いじゃんと思って気に入ったのにぃ……」

 

 文句を垂れるハナに対して、他の者は全員首を振るアクションをしたのであった。




武器が当たると放り上げられるようなアクションになる物を使って仲間同士で飛ばしっこした経験はありませんか?
私はこれでこの話のように高い崖から落とされたり、高台に放り上げられたりしてはしゃいでました(笑)

なのでアレクトロがベナトールを切り上げで落とそうとして逆にやり返されるシーンが、なんか微笑ましくて個人的に好きです。


「ゴールドルナ」は、実際に着ている人を見るとかなり眩しいと思うんですよ。
友人とも「これ着てる人とクエ行きたくないよね」と言うような話をした事があったんですが、ハナ役として自キャラの女ハンターに着せてみると、こうなりました。

【挿絵表示】

【挿絵表示】

【挿絵表示】

目が痛かったです(+Д+;)

うちの自キャラは全員黒人なので黄色人種(だと思われる)ハナとは肌の色が違いますが、雰囲気は伝わると思います。


話に出て来た「ロビー装備」について。
これは多分「フロンティア」だけのシステムなんだろうと思うのですが、「クエスト」に着て行く(通常のハンターの姿として表示される)「クエスト装備」というものと、「メゼポルタ広場」などで寛ぐ時などに着替えられる(見た目だけ変えられる)「ロビー装備」というものがあるのです。
あくまでも見た目だけなのでクエストに出発すると狩場では自動的に「クエスト装備」としてちゃんとしたスキルが付いた物に切り替わるんですが、「普段着感覚で広場では過ごしたい」というハンターの要望で実現されたものらしいです。


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怖い顔の女の子

新人のハンターで「モノブロス」などの一人でしか狩れない「モンスター」がいる事を知らない者が、「モノブロス手伝ってください!」「ナナ狩り募集!」などと(その場チャットなどで)声高に叫んでいる事が(特に初期段階のフロンティアでは)あったそうです。
(私はそれに居合わせた事がなかったのですが)

大抵は無視されるか失笑されているかだったらしいのですが、こうやって親切に教えて下さるハンターもいたそうです。



 

 

 

 ある日【武具工房】にいたハナは、入って来た女ハンターが親方に差し出した、素材の一つにくぎ付けになった。

 【モンスター】の甲殻のようなのだが、青く輝く中に紫を秘めたような、不思議な色をしていたからである。

「わぁ綺麗っ♪」

 思わずそう言ったハナに気が付いた女ハンターは、にこやかに微笑むと次のように言った。

 

「これは【炎妃龍の甲殻】ですわ」

 

「エンキリュウ?」

「【ナナ=テスカトリ】。雄である【テオ=テスカトル】のお嫁さんにあたる【古龍】になるのかな?」

「女の子なの?」

「そうなりますね」

「ありがとう。後でベナと狩りに行こっと♪」

 

 それを聞いて、彼女は苦笑した。

 

「【炎妃龍】は、独りでないと狩れませんよ?」

「えぇっ!? そうなのぉ!?」

「はい。ギルドではそう指定されています。なんでも雄と比べて数が少なく、【モノブロス】のように警戒心が強いからなんだとか」

「そうなんだぁ……」

 

 彼女が出て行った後も工房で一人悩んでいるハナを見て、親方は苦笑しつつ、「どうしても素材が欲しけりゃ頑張るんだな」と言った。

「そうよねぇ、頑張るしかないか!」

 ハナは、【炎妃龍】に挑む事を決意した。

 

 ベナトールに話してもどうしようもないし、変に心配されても困るので、彼が仕事に出かけている間に挑戦してみる事に。

 親方が言うには「〈地形ダメージ減(大)〉のスキルがあった方が良い」との事だったのだがそんなスキルの付いた防具があるはずもなく、とにかく回復系の調合分をたっぷり持って行けばなんとかなるだろうと思った。

 

 

 【塔】にいるとの事だったのでその依頼を受け、探してみる。

 【彼女】は《5》にいた。

 素材と同じ、青に紫が入ったような、不思議な体色。

 獅子によく似た体付きに皮膜のある翼を生やしたような姿。

 だが頭には冠のような、変わった形の角がある。

 

 というか――。

 

「あんた女の子でしょお!?  顔が怖過ぎぃっ!」

 そのしかめつらしい顔は、なんとも強面なのである。

 それを気にしてか、言われた途端にこちらを向いて【彼女】は吠えた。

 

「――っ!?」

 予備動作無しの突進。

 

 どうにかガードでやり過ごし、隙を見て横から飛び掛かりつつ切り込み、回避。

 が、近付くと熱風が身を炙る。

「あっついわねぇ!」

 これが【龍炎】なのだなとハナは思った。

 徐々に体力が消耗していくため、他の【モンスター】と闘う時よりどうしても回復系の消費が多くなる。

 独りで闘う分被弾も多く、出来れば温存したかったのだが、どうしようもなかった。

 

 麻痺っている間になるべく手数を多くし、ダメージを稼ぐ。

 角を折ろうと頭を中心に攻撃していると、倒れてもがいた。

 横になったら【片手剣】でも翼に届く事に気が付いたハナは、倒れた時は翼を狙うようにした。

 

 やっかいなのは粉塵爆発で、遠くを囲むように爆発する分には密着していると当たらなかったのだが、至近距離で爆発する事もあるため、それが怖かった。

 これは、実は周囲に撒く際の粉塵の色で爆発の範囲が分かるのだが、そんな知恵はハナには無いので粉塵が見えたらとにかく急いで武器を仕舞って、遠くに逃げるか緊急回避で爆発を避けた。

 

 

 何度かやっている内に怒り出す。

 そうすると攻撃力もスピードも格段に増える。

 突進の予備動作が無いのもあって、巻き込まれては遠くに飛ばされたりした。

 

 【彼女】から遠のくと、遠くまで届くブレスが来る。

 だがそれよりもしっかりと追尾して来る突進の方が怖かった。

 逃げようと離れれば離れる程、逆に追尾されるようなのである。

 

 ならばと恐怖を無理矢理抑え込み、ハナは【彼女】から離れて突進が来た場合は、逃げるのではなく近付くようにして避けた。

 被弾して遠くに飛ばされない限りは、逆に近くにいる方が(かなり怖いけど)安全だと分かった。

 

 が、問題はいつ回復するか、である。

 近くにいるという事はそれだけ攻撃を誘うという事であるので、その分回復する隙が少なくなる。

 だが離れてしまうと追尾突進や飛び掛かりが怖いため、やはり近付いておいた方が良い。

 

 なので、本来なら攻撃チャンスであるはずの、ブレスの最中、遠くの粉塵爆発などに回復するしかない。

 しかし粉塵爆発はハナの場合は全部逃げているため、ブレスの時か、あるいは涙を呑んで頭を攻撃して倒れている最中などに回復するしかなかった。

 

 

「多分もう少しのはず……」

 少しも弱った素振りを見せない【彼女】に、焦りの色を隠せないハナ。

 【龍炎】のせいで余分に回復せざるを得ないので、回復系が底をつきはじめている。

「お願い、早く倒れて……」

 息が上がり、的確な攻撃が出来にくくなった。

 

 そんな中、やけっぱちで切り付けた回転切りが横腹に当たり、【彼女】は苦し気に吠えた。

 

「いけるかも!」

 もう一押し! と同じ所を更に深く切り付けると血を吐き、堪らずに倒れてもがいた。

 苦し気な様子に今更のように躊躇したが、心を鬼にして連続で切り付ける。

 

 【彼女】はよろよろと立ち上がるとこちらに向き直り、四肢を踏ん張って威厳を示すかのように吠えた。

 思わず怖気付くハナ。

 そんな彼女を荒い息遣いで静かに見詰めてから、ゆっくりと倒れて動かなくなった。

 

「やった、のね……?」

 ハナはぜぇぜぇと息を切らせながら座り込んだ。

 

 【彼女】の見開いたままの目には、もう光が宿っていない。

 

 ハナは剥ぎ取ると、返り血を全身に浴びた状態のまま、ふらふらと帰って行った。

 独りで【クエスト成功】させた喜びよりも、悲しみの方が深かった。

 

 




ハナちゃん一人で出来るもんっ! の巻(笑)

彼女は上位ハンターでありながら、基本的に下位か「誰か」としかクエに行きませんのでこうやって独りで狩る事は超珍しいのです。


今回挿絵を撮影しようとログインしたんですが、今のクエストは何故か無料枠には「塔」でのナナクエがありませんでしたので、仕方なく挿絵無しにいたしました。
狩場だけ他のフィールドに書き換えようかとも思ったんですが、個人的に「ナナ」と言えば「塔」にいるイメージが強いため、文中の狩場も変えない事にしました。


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とんでもない誕生日

これは、「乱入クエ」のお題を友人から貰った時に、丁度自分の誕生日だったのもあってそれに合わせて書いたものです。
(今年の話ではありませんが)



 

 

 

 その日は、普通に【リオレウス】を狩猟して帰るはずだった。

 上位とはいえ何度も狩っているので、それほど苦戦せずに(といっても誰かはブレスを食らったり毒爪キックを食らったりはしたのだが)【クエスト成功】し、やれやれ帰るぞという段階になって、アレクトロは周りの雰囲気が妙におかしいのに気が付いた。

 

「――オッサン、気付いてるか?」

「――あぁ、何か違う気配がするな」

「なになに!?」

「ん? 二人共身構えてどうしたの?」

「――しっ、鈍い奴は黙ってろ」

 

 油断無く身構えて周りの気配を感じている二人に対し、対照的にまったく緊張感の無い二人は、ただ不思議そうな顔をしている。

 

 と、それ程遠くない所で咆哮が響いた。

 

「い、今のなに!?」

「他の【モンスター】がいるのか!?」

 今更のように慌てる二人に、「まあそういう事だ、鈍チン」とアレクトロが答える。

「あの鳴き声は……!」

「オッサン、聞いた事あんのか?」

「多分あいつだろうが、確信が持てん」

「確かめるか? まだ回復系の余裕あるし。ギルドから指定されてる【クエスト時間】もまだ充分にある」

「だが、依頼内容以外の行動になりはすまいか?」

「真面目だなぁ、異変を調べるのもハンターの仕事じゃなかったのかよ?」

 

 そして彼にだけに聞こえるように、「特に【ギルドナイト】はそういう仕事は得意だろ?」とアレクトロは言った。

 

「そんなの怖いよぉ」

「ならおめぇだけ残ってろ。心配ならカイ、お前付いとけ」

 そんなやり取りをしている内に、重々しい足音がこちらに向かって来るのを聞いた。 

「……。どうやら、向こうから来なすったようだな」

「というよりは、目的は【こいつ】なんだろうぜ」

 アレクトロは、今討伐したばかりの【リオレウス】の死体に顎をしゃくった。

 

 同じエリアに入って来た【それ】は、今までに見て来た【モンスター】とは明らかに違う外見をしていた。

 一見【ランポス】などの小型【鳥竜種】をやたらデカくしたような外見なのだが、後ろ脚が異様に発達しており、それに比べて非常に前脚は貧弱に見える。

 長い尻尾には太い筋肉が付いており、馬鹿でかい頭と同じくらいの太さに見える。

 その頭にあるでっかい顎下には、やたらと棘が生えている。

 緑褐色の体色のその【モンスター】は、【リオレウス】の死体を見るなり突進して来て、嬉しそうにバクバクと貪り始めた。

 

 まるで、自分達にはまったく眼中に無いかのような素振りである。

 

「やはり、こいつだったか……」

「な、なに? この恐ろし気な【モンスター】」

「そういえば、おいら見たよコイツ。うんと遠くからだけど」

「そなの!?」

「うん。【ユクモ村】でね」

「確か【獣竜種】って奴だよな?」

「そう。【恐暴竜イビルジョー】。【獣竜種】の一種なんだが、【ドンドルマ】指定の狩場では、今まで見掛けなかったんだが……」

「生息域を広げやがったか?」

「分からん、単にはぐれた奴がたまたま近くに来ただけかもしれん。詳しくは帰ってから調べる必要があるだろう」

「――で、そのままにしとく気はねぇよな? オッサンよ」

「まあ、大型【モンスター】を前にして、狩らずにいられるハンターは、まずいねぇわな」

 

 当然のように、二人は武器を構えた。

 

「そういうとこはほんっと意気投合するのが早いよねぇ」

「ちょ、ちょっと! こんなの狩る気!? あたし見た事ないのに!?」

 呆れて武器を構えるカイと、わたわたしつつも構えるハナ。

 

 その雰囲気を察したのか、それとも食い終わって満足したのか、相手が向き直って吠えた。

 咆哮と共に生臭い息と血が四人にかかる。

 

 

 まず相手が行ったのは、大きく右に左にと体を振りながら前進する攻撃。

 尻尾も含めて体全体に攻撃判定があるので、非常に攻撃範囲が広く、避けにくい。

 四方に散った四人はそれでも巻き込まれそうになり、ある者は前転回避、ある者は緊急回避でしのいだ。

 けっこうそれを繰り返されたり、体全体を使って広く体当たりをして来たりして、攻撃のタイミングが掴みづらい。

 足元が比較的当たり辛いようなので足元に潜り込むと、今度は大きく片足を上げ、踏み下ろして衝撃を与えて来た。

 

 離れると、赤黒いブレスを放って来る。

 これも左右に薙ぎ払うので攻撃範囲が広く、上手く回避出来なければ大きく回り込もうとしても巻き込まれてしまう。 

 

 自身の巨体を生かした範囲の広い攻撃が多いようで、狭いエリアだと非常に避けにくい。

 闘いなれていないPTなので、攻撃よりもむしろ回避に専念するしかなかった。

 

 頼りは麻痺か、罠で束縛出来るわずかな隙を狙うか、ベナトールによるスタンの間か、もしくはこけている間か。

 とにかくわずかな攻撃チャンスに少しでも多く、的確な攻撃を当てなければならない。

 

 

 怒ると全身の筋肉が盛り上がる。

 そのせいで体のあちこちにある古傷や、今までの攻撃によって付けられた傷が開くようで、見た目の痛々しさ同様に痛みによって怒り狂う様子。

 巻き込まれて死んだ小型の【モンスター】を、戦闘中にも関わらず食らう様子からして、かなり貪欲な性質らしい。

 

 と、その捕食対象にアレクトロが選ばれてしまった。

 

「うわ!? ちょっ――! ぐわあぁ~~~!!!」

 片足で抑え込まれ、もがきながら餌食になるアレクトロ。

「いかん! 早く残り全員で攻撃するんだ!!」

 一斉に頭に攻撃を集中するも、中々彼を放してくれない。

 

 ようやく諦めさせる事に成功した頃には、彼はもうビクビクと痙攣していた。

 

「まずい! 一旦退くぞ!!」

 【モドリ玉】で【ベースキャンプ】に帰った一行は、大きく肉を食い千切られたアレクトロを治療し、なんとか命を繋ぎ止めた。

 

 

 意識が戻った彼は呻きつつ【秘薬】を飲み、「ひでぇ目にあったぜ!」とぼやいた。

 

「ねぇ、まだ続ける気? あたし食べられるのやぁよ?」

「おいらも嫌だ。てか、アレクが食べられるのを見るのももっと嫌だ!」

「大丈夫、今度はオッサンが食われるさ。多分」

「そんな問題じゃないわよっ! てか、そんな冗談言ってる場合じゃないでしょお!?」

「……。狩り慣れてないからといって、早々に【リタイア】を選ぶのは、あまり得策ではないのだが……」

「でも、このまま続けたら、また誰かが餌食にされちゃうよ?」

「まあそうかもしれんがなぁ……」

「お願いベナ。今回は【リタイア】して。今日はアレクの誕生日で、帰ったらみんなでお祝いしようって言ったじゃない。そのアレクが食べられちゃったんだよ!? あのまま胃に入ってたら、もうお祝い出来なかったんだよっ!? そんな誕生日なんて、悲し過ぎじゃない」

 

「誕生日に食われて死んだってのも、まあ洒落にはならんけどな」

 自身が食われたにも関わらず、それでも冗談めかすアレクトロ。

 

「この日がずっと泣く日になるなんて、おいら嫌だからな!?」  

「……。分かった。【リタイア】しよう」

「いいのか? オッサン。俺は続けたって構わねぇんだぜ?」

「あぁ構わんよ。どっちみち、ギルドへの報告も兼ねて詳しく調査する必要があるからな」

 それを聞いて素直に従うアレクトロ。

 

 どちらにしろ、始めから二人は様子見でちょっかいをかけ、相手の闘い方を見つつあわよくば捕獲もしくは討伐に持って行こうという魂胆だったのでそこまで無理強いする気は無かったのだ。

 

「ありがとベナ。大好きっ♪」

 ベナトールは、抱き付いたハナの頭をポンポンしてから【クエストリタイア】を選択した。

 依頼自体は達成していたものの、証拠のための素材を剥ぎ取る前に【イビルジョー】に食われてしまったため、成功報告が出来ないと判断したためだった。

 だが後で調査に向かったギルド職員が、『ギルドに依頼のあった【リオレウス】と思われる死骸が目撃報告のあった狩場に散乱しており、食い散らかされて酷い有様だったもののハンターによる攻撃の後も見られた』という報告をしてくれ、四人は成功扱いとなって晴れて報酬素材や報奨金を手に入れた。

 

 

「♪はぁっぴばぁっすでいトゥーユー♪♪」

 帰って来た夜に、【大衆酒場】でハナに歌われて照れ隠しにムスッとしていたアレクトロは、騒ぎで気付かれたついでにその場にいたハンターみんなに祝われて、真っ赤になりながら酒を飲み干した。

 あとはやけくそになって、飲み食いして騒いでいる内に酔いが回り、特別に用意された料理に突っ伏して寝てしまった。

 苦笑いしながらカイが起こそうとすると抱き付いて押し倒し、上に乗っかったままガーガー鼾をかきだした。

 ハナが引き剥がそうとしたが、離れない。

 仕方ないのでベナトールが後ろ首を掴んでぶら下げ、部屋まで放り込みに行った。

 

 次の日、彼が二日酔いで動けなかったのは言うまでもない。

 

 

 

 後の調査によると、【ユクモ村】などに生息していた【獣竜種】の類いがこちらに生息域を広げる際に、こちらの【モンスター】に対抗するために更に強くなって適応したもののようだと分かった。

 【ドンドルマギルト】が管轄している狩場に棲息している【モンスター】には手強いものが多く、同じものでもHR100以上の【凄腕】と呼ばれているランクでしか狩れない【変種】や、SRでしか狩れない【特異個体】などがいるからである。

 なので、ハンターランクでは狩れず、G級ランクの上の方でしか狩猟許可が下りなくなった。

 

 今のところ四人の中でGRの資格を持っているのは、ベナトールのみ。

 

 だが彼でさえも、今のランクではまだ許可が下りないとの事だった。 

 つまり、あのままこのメンバーで狩りを続けていたならば、確実に誰かもしくは全員が死んでいたという事なのである。

 

 

 知らなかったとはいえ、かなり無謀な挑戦だったのだ。

   




「捕食」されるハンターってサイズ的に丸呑みされてもおかしくないはずなんですけど、例え「アカムトルム」のような馬鹿デッカイ「モンスター」でもご丁寧に押さえ付けて細かく食い千切るようにして食べてますよね(笑)
まあそれでも手足を捥がれたり内臓をごっそり持って行かれたりしてもおかしくない程なんですが、そうなるとアレクトロが引退に追い込まれて二度と狩りが出来なくなるので肉を食い千切られただけにしました。

ちなみに「フロンティアZ」では通常の「モンスター」で捕食して来るものはいないため、捕食シーンを見たいならば「辿異種(てんいしゅ)」と呼ばれているGR200以上で狩れるものを相手にしないといけないそうです。
私(ベナトール)のGRは42ぐらいなので、とてもじゃないけど無理っす。

しかもこのランク、ランク制度が変わってHR3からが「上位」扱いになり、「SR制度」が廃止になってからのランクなので、それまではGR3ぐらいでした。
なので、未だに短編の中のベナトールは「下位」扱いのままです。


私の書く短編は世界観も含め(ランクの幅を持たせるために)ランク制度の変わる前のシステムを使っていますので、今現在HR5からになった「凄腕ランク」もHR100からの扱いにし、廃止になったSRも採用しております。
従って現在のHR1(下位)→HR3(上位)→HR5(凄腕)→HR7(G級)ではなく、HR30まで(下位)→HR31(上位)→HR100(凄腕)→HR999(SR1)→SR999(GR1)という扱いになってます。
(上位に上がる前とG級になる前に昇格試験があります)

ランクを上げる、またはHRより上のランクを目指すには途方もなく遠い道程だという事にしておきたかったのです。


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克服するために

ハナが因縁の対決をするようです。
※血飛沫多めなので挿絵を見る人はグロ注意です。


 

 

 

「ベナ、【街】が騒がしいけど【古龍】が来たの!?」

「あぁ、【ラオシャンロン】だ。今から行って来る」

「――あたしも行く!」

決意した表情でそう言うハナに、ベナトールは諭すように言った。

「お前は残ってろ。踏まれて死にたくなければな」

 だがハナは「いいえ!」と激しく首を振った。 

「幼い時みたいに、ただ何も出来ずに恐怖に打ちひしがれてるだけでいるのは嫌なの! あの時の【ラオシャンロン】とは違うかもしれないけど、あたしの手で撃退させてやるんだからっ!」

「……。それが【復讐】ならばやめておけ」

「【復讐】じゃないわ。ただあたしの存在を思い知らせてやりたいの。『あたしは生きてるんだから』って」

 少しの間黙ったままじっと見下ろしていたベナトールは、踵を返しながらぼそりと言った。

「……。〈風圧(大)〉だ」

「――え?」

「〈風圧(大)無効〉。そのスキルを付けとけ」

「分かった。ありがとベナ!」

 既に歩き出していたその背中に、ハナはお礼の言葉を投げた。

 

 

 【砦】の《1》に近付いて来た【ラオシャンロン】に、ハナはありったけの声をぶつけた。

 

【挿絵表示】

 

「あ、あんたになんか、あんたになんか、もう負けないんだからっ!!」

 だが【剣士】では攻撃が届かない安全な高台の上からだし、完全に腰が引けているのでまったく説得力がない。

 その証拠に相手が立ち上がるや否や、傍にいたベナトールの脚にしがみ付いた。

 

【挿絵表示】

 

 ベナトールは兜の中で苦笑いした。

 

 それでもベナトールが《2》に移動すると、付いて来た。

 少し待ってやって来た【ラオシャンロン】の頭(正確には顎下)を叩いているベナトールと並んで、おずおずとではあるが切り付けるハナ。

 

【挿絵表示】

 

「このままこいつの歩みに合わせて、移動しながら頭を攻撃してろ。嫌がって頭を振る事はあっても噛み付く事は絶対無い。俺は腹に回る」

「り、了解」

 

 頭を攻撃し続けるのが、実は一番安全な攻撃方法なのだ。

 なぜなら腹下は、攻撃が通りやすいかわりに怯んだ時に圧し潰されるからである。

 

 陸橋に差し掛かった時にそこから背中に飛び移って【対巨龍爆弾】を置いて来たベナトールは、ついでに剥ぎ取って来た【龍薬石】をハナに渡して言った。

「前に言ったの覚えてるか? これを【回復薬】【回復薬グレート】で三種調合すれば【秘薬】になる。何かあったら使え」

「分かった。ありがとう」

 彼女がポーチに仕舞うのを確認して、再びベナトールは腹下に潜った。

 

【挿絵表示】

 

 

 《3》まで攻撃を進めて行った二人だったが、そこで悲劇が起きる。

 エリアの端に設けられていたバリケードを【ラオシャンロン】が体当たりして破った際、ハナが巻き込まれて体の下に入ってしまったのだ。

「おい、早く脱出しろ!」

 ハナを促したベナトールは、彼女が尻尾側に逃げて行ったのを見てまずいと思った。

 直ちに武器を仕舞って追い掛けるベナトール。

 

 ()()()()()()()()()の【ラオシャンロン】の尻尾が、ハナに襲い掛かる。

 

 ベナトールはハナを掻っ攫い、尻尾の動く範囲外に放り出した。

 直後に全身の骨が折れたかと思う程の衝撃が、彼に走る。

 相手の体側後方に飛ばされた彼は、起き上がる前にもう一度尻尾に巻き込まれた。

 

 逃れ切れずに何度も尻尾を食らう。

 

【挿絵表示】

 

 迎撃召集で参加した者が、エリアの境目で離脱に失敗してこれで殺されるのを、ベナトールは何度も見て来ている。

 事故を防ぐために【モドリ玉】を調合分まで持って行くのが【剣士】としては無難なのだが、今回は使う余裕が無かったのだ。

 

 【ラオシャンロン】が通り過ぎ、隣のエリアに消えた時、彼は俯せで倒れたままになっていた。

 

【挿絵表示】

 

「ベナ! ベナ!!」

 ハナは泣きそうな顔でオロオロしている。

 それでも必死で先程渡された【龍薬石】を三種調合し、【秘薬】を作って彼の手に握らせた。

 

 が、ベナトールは黙って押し返すと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……それは、何かあった時にお前が使うんだ」

「でもっ! でもっ!!」

「寝れば治る……。それより、これであいつの尻尾がどんなに危険か分かっただろう」

「う、うん。ごめんなさい……」

 

 ベナトールはハナの頭をポンポンしてから、ゆっくりと【砦】内に設けられた簡易ベッドまで歩いて行った。

 その道程は今の彼にとっては長く感じられたのだが、途中で他の【モンスター】はいないと分かっているため、回復系を飲む必要がなかったのである。

 

 【砦】内でも地震のように、【ラオシャンロン】の歩く地響きが常に伝わって来る。

 

 簡易ベッドにその振動を吸収出来るはずもなく、横になっても傷に響いて全身が疼いたが、目を閉じている内にいつの間にか微睡んでいた。

 

【挿絵表示】

 

 泣きそうな顔で見守っていたハナは、彼が少し経ってからいつものように起き上がり、そんな彼女を見付けて頭をポンポンしてくれたので、安心して泣き笑いした。

 

 

 攻撃し続けても歩みが止まらない【ラオシャンロン】は、《4》でも食い止められず、とうとう最終門である《5》まで来てしまった。

「絶対に止めてみせるんだからっ!!」

 ハナは門を護る【守護兵団(ガーディアンズ)】と共に、必死で【大型固定弓(バリスタ)】を撃っている。

 その時、「【撃龍槍】の準備が出来たぞぉ~~!」と声が掛った。

 

「ハナ。お前が止めを刺してやれ」

 ベナトールは、彼女の肩に手を置いて言った。

 ハナは力強く頷き、「私がやるわ!」と宣言した。

 

 だが段々と近付いて来る【ラオシャンロン】に怖気付き、馬鹿でかいスイッチの前でたじろいでいる。

「まだだハナ。早まるなよ」

 恐怖のあまりに今にもスイッチを作動させそうなハナに、ベナトールは声を掛ける。

「まだだ。もう少し引き付けろ」

 ハナはガクガクと震えながらも、スイッチの前から動かないでいる。

 

 【ラオシャンロン】は立ち上がり、吠えた。

 

「――ひっ!」

 ハナは耳を塞いでビクッとなった。

「堪えろハナ。もう少しだ」

 相手は立ち上がったまま、ゆっくりゆっくり近付いて来る。

 そして、とうとう密着する程にまでなった。

 【ラオシャンロン】は、ハナを見下ろしている。

 ハナは見竦められ、泣きそうな顔になっている。

 

【挿絵表示】

 

「よし今だハナ!」

 

 硬直していたハナはベナトールの声にハッとなり、付属の槌で思い切りスイッチをぶっ叩いた。

 

 ガシュン!

 

 直後に機械的な音と共に、今いる高台の下の壁から巨大な槍が数本飛び出した。

 

【挿絵表示】

 

 それは【ラオシャンロン】の体を貫通し、相手は悲鳴を上げて仰け反った。

 やがてキリキリと音を立てて【撃龍槍】が引っ込むと、【ラオシャンロン】は滝のように大量の血を迸らせながら数歩下がったところで力尽き、大震動と共にその場に崩れ落ちた。

 

 つまり、撃退するつもりが討伐してしまったのだ。

 

「よくやった! でかしたぞハナ」

 周りで沸き上がる歓声を背に、ベナトールは(兜で見えなかったが)満面の笑みでしゃがみ込みつつ彼女の頭をポンポンし、右腕を回して優しく抱いた。

「こ、怖かったあぁ……」

 力が抜けそうになるのを、彼に抱き付く事で支えるハナ。

 

 そんな彼女を高い高いするように持ち上げてから、彼は肩に乗せて歓声の中に入って行くのであった。  

 




「ハナ」と「ラオシャンロン」の因縁は、友人の書いてくれた一番最初の短編から始まっております。
ちなみに「カイ」もその時に巻き込まれているため、ハナとカイは幼児期から「ラオシャンロン」によって出会うように運命付けられたと言えるのかもしれません。


「パートナー(もしくは戦闘参加型NPC)」のAIは、どうも弱点もしくは脚を狙って転ばせるなどのようなサポートを行うために闘うように出来ているらしく、せっかくベナトールが「頭を狙うように」と教えているのに脚付近に回って攻撃し始めるので、一緒に頭を狙っているというような挿絵撮影をするのが難しかったです。

あと「尻尾で叩かれる」のが上手い具合に吹っ飛んだ格好で撮影出来ず、何度もやり直しました。
それでもどんな格好になっているのか分かりませんよね(^^;)


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哀しい親子反応

HR100(現在ではHR5)以上の【凄腕】と呼ばれるランクになって初めて狩る事を許される【変種】と呼ばれる【モンスター】は、科が違うにもかかわらず【飛竜種】【魚竜種】などで括られた種類全体で定義された【汎用素材】と呼ばれる素材に変わります。

それは今までの【モンスター】で剥げていた、その科だけしか剥げない【火竜の〇×】【雌火竜の〇×】などのような細かく分けられた素材ではなく、【飛竜種の〇×】【魚竜種の〇×】のような種類別だけの名前別けがされています。
恐らくこれは【変種】として区分けされた【モンスター】全体の肉質に関係しているものと思われるのですが、よく分かっておりません。

ですが素材名が変わったり、【モンスター】の肉質が変わる事によって武器の持つ属性にあまり意味が無くなったり、狩場で採取出来るものにも今までのものとは違うものが採れたりするようになるため、ハンターの間では「【凄腕】になると世界が変わる」と言われています。


 

 

 

「ねぇアレク、汎用素材の【飛竜種の翼】ってさ、【飛竜種】の【変種】だったらどれでも良いんでしょ?」

「そうでもねぇぞ。同じ翼を持つ連中でも【ディアブロス変種】なんかの【ブロス科】は出ねぇし、同じ【グラビモス科】でも幼体の【バサルモス変種】には出るが成体の【グラビモス変種】には出なかったりするし」

「ふぅん……」

「狩りやすさで言えば【リオス科】か【バサルモス】あたりじゃねぇの。……って、何で俺に聞くよ?」

「何となく。カイだと生態に詳しくなさそうだし」

「いやオッサンの方が詳しいだろうがよ」

「だって部屋にいなかったんだもん」

「仕事か?」

「分かんない。でもあたし、知りたい時にすぐに聞かないと気が済まないから」

「まあ分からんでもねぇがなぁ……」

 

 その時ノックの音がしたので返事をすると、「ハナはここにいるか?」と聞かれた。

 

「ほれガードが心配してるぜ、さっさと行ってやれよ」

「うんありがとアレク。【リオレイア】の【変種】にする。カイにもそう言っといて」

 

「【リオレイア変種】か……」

 

 出て行く彼女を目だけで見送りながら、アレクトロは呟いた。

 その言葉には、なぜか寂しげな響きが混じっているように思われた。

 

 

 いつものように四人で集結し、【密林】へ。

 それぞれが別の所に到着したのを利用してバラバラで散策し、見付けた者が【ペイントボール】を投げて合図した。

 他の者は、匂いを頼りに急いでその場に駆け付ける。

 一番先に遭遇する事になったのはカイだった。

 着いた者から先に攻撃を仕掛け、全員が揃う頃に一回目の麻痺を達成。

 そこでアレクトロは尻尾に回り込み、溜めた。

 

 ズバンッ!

 

 気持ちの良い音がして、尻尾が飛ぶ。

 相手は勢い余って一回転し、痛そうに吠えた。

 ベナトールが構わずに頭を攻撃し続け、昏倒させる。

 アレクトロは、今度は横に回り込んで溜めた。

 起き上がる前にもう一度溜め、相手が次の行動に移る直前に、翼に一撃。

 怯んだのでもう一太刀加え、離脱。

 ハナは主に足元で、カイは体の側面で切り付けている。

 

 ギャオォ~~~!!!

 

 怒りに移る特大の吠え声に、ハナは「きゃっ!」と言って耳を塞いだ。

「おいおい、〈耳栓〉ぐらいは付けろよなぁ」

 アレクトロは呆れている。

 硬直が解けない内に回転尻尾が来たが、その尻尾が彼女に届く前に、ベナトールが掻っ攫った。

 彼女にそのスキルが無いのが当然であるかのような、ごく自然な動作だった。

 

 【リオレイア変種】が次に狙いを定めたのは、アレクトロだった。

 

 回転尻尾を避けるために少し離れていたのが災いしてか、突進して来る。

 避けて追い掛けたがすぐに体を反転させ、連続で突進。

 二度目の突進を避けた彼は、相手が勢い余ってつんのめったのを見て、その背後で溜めた。

 が、溜めが完了する前に相手が振り向いた。

 そして、彼が切り下す寸前に踏み込んだ。

 

「アレク~~~!!!」

 悲鳴に近いカイとハナの叫び声。

 

 アレクトロは振り被った姿勢のまま動きを止め、手から【大剣】を滑り落した。

 雌の火竜特有の、発達した下顎の突起に、彼は串刺しにされていた。

 

 ……クソ……、やっちまったぜ……。

 

 アレクトロは歯を食い縛りつつそう思った。

 突起は彼の、胸の中央付近を刺し貫いている。

 卵から生まれた幼体に、ドロドロになったミルク状のものや消化途中の肉などを吐き戻して与えるために発達したものなのだが、人間と違って乳房のように柔らかくはなく、棘のように硬いものであるため、いくら頑丈な防具といえども通り抜けてしまったのだ。

 

 急激に血圧が下がっていくのを、アレクトロは感じた。

 徐々に目が霞んでいく。

 意識が朦朧となった中で、彼は無意識に次のように言った。

 

「……母さん……」

 

「――何!?」

「今、今なんて――!?」

 ベナトールとハナが驚愕したように聞き返す。

 アレクトロは【彼女】の顎を抱きかかえるようにすると、そのままぐったりとなった。

 危険な状態であると判断したベナトールが、直ちに引き剥がそうとアレクトロの体に手を掛けると、【彼女】はなぜか唸った。

 

 まるで、我が子に抱き付かれた母親であるかのように。

 

 そのままじっとしているところを見ると、もしかしたら本当に母性を感じているのかもしれない。

 だが、このままにしておくとアレクトロは死んでしまうかもしれないのだ。

 

 そこで、ベナトールは【彼女】に交渉した。

 

「レイアよ、よく聞け。このままではアレクは死ぬかもしれんのだ」

 分かるはずもないと思いつつも、彼は諭すように言葉を続けた。

「我が子を引き剥がされるのは辛かろうが、このままにしておく訳にはいかんのだ。分かってくれ」

 

 【彼女】は黙って聞いているように思えた。

 

 その間にもどんどん血が流れ、《4》の白い砂浜にボタボタと落ちて赤い染みを作っている。

 地面に落ちていた【大剣】を拾い、もう一度アレクトロの体に手を掛ける。

 

 【彼女】は、今度は大人しくしている。

 

 突起から彼の体を引き抜いた途端、大量の血が迸った。

 【彼女】に掛かってぴくりと反応したが、それでも大人しくしてくれている。

 

「ありがとな……」

 礼を言ったベナトールは、ポーチから【モドリ玉】を出して地面に叩き付けた。

 他の者も急いで続く。

 

 

 【ベースキャンプ】のベッドにアレクトロを横たえ、胴鎧を剥がす。

 穴の開いた胸から吹き出し続けている血を止め、布できつく巻いた。

 彼は意識の無いまま不規則な呼吸を続けていたが、血が止まった事で血圧が多少なりとも元に戻りつつあるのか、兜の中で薄らと目を開けた。

 

「……母さんは……?」

 不安げに目を彷徨わせ、彼はそう言った。

 まだ朦朧としているのだろうか?

 

「――アレク? 何言ってるの?」

 ハナは狼狽して聞いた。

「どうしたんだアレク!? しっかりしてくれ!」

 泣きそうなカイの声に気が付いたようになり、彼は「そうか……。もういないんだ……」と寂しげに言った。

 

 それから再び目を閉じると、すうすうと寝始めた。

 衰弱して疲れていたのだろう。

 

 その寝息を聞いて、三人は揃って安堵の息を吐いた。 

 

 

 少し経って目を覚ましたアレクトロは、もう起き上がれるようになっていた。

「すまんみんな。しくじっちまった」

 バツが悪そうに頭を掻く。

 

 きっと、兜の中では苦笑いをしている事だろう。

 

「どういう事か、説明してくれない?」

 そんな彼に、ハナは言った。

「何をよ?」

「覚えてないの? あんた【リオレイア変種】に向かって『母さん』って言ったのよ?」

「俺、そんな事口走っちまったのか……」

 

 寂しそうに笑うアレクトロ。三人は少し彼が俯いた事で、兜で見えない表情を察した。

 

「アレク、もしかして小さい頃の記憶が、あのレイアと重なったのか?」

「そうなのかも、な」

「ちゃんと説明して。どういう事なの?」

「……。過去の事だ。もう母さんはいねぇ」

「それじゃ分かんないでしょお」

「……。ハナよ。話したがらん事を無理に聞くもんじゃねぇぞ」

 

「良いさ、別に隠すつもりもねぇし」

 そう前置きして、アレクトロは「母さん」と呼んでいた【リオレイア】が殺されるまで、【彼女】に育てられていた事を説明した。

 

「えぇ!? そんな過去があったのぉ!?」

 ハナは素っ頓狂な声を上げた。

「……成程。それで合点がいったわ」

 ベナトールは、先程の【リオレイア変種】の、まるで我が子を護るかのような行動をアレクトロに話した。

 

「あいつ、俺にそんな事をしてくれたのか……!」

 心成しか、アレクトロは感動しているようである。

 

「そうかぁ、だから大人しかったのか。【彼女】」

「カイは知ってたの?」

「うん。過去に話してくれた事があったからね」

「けど、アレクの母さんはとっくの昔に殺されたんでしょう? それなのにまったく別の個体がアレクを護ろうとするなんて、不思議よねぇ」

「恐らく、過去に伝えられたのだろうな」

「アレクのエピソードを、って事?」

 ハナにそう聞かれて、ベナトールは頷きながら続けた。

「確信は持てん。が、テレパシーのようなもので過去に伝わっていたその記憶が、火竜の雌だけに連綿と受け継がれて来たとしても不思議はない」

「じゃあなんで、今まで攻撃されてたの? 今までに狩って来たどの【リオレイア】も、アレクを護ろうとはしなかったよ?」

「血の記憶、ってやつかもな」

 アレクトロが割り込み、引き継いだ。

「チノキオク? 何それ?」

「あいつにまともに掛かった俺の血の、その匂いが過去の記憶を呼び覚まさせたのかもしれん」

「アレク、【彼女】を抱き締めてたもんな。だから余計に護ろうと思ったのかもな」

「俺無意識にそんな事までやってたんかよ!?」

 

「……。さて――」

 ベナトールは頃合だとばかりに話を切った。

 

「過去にどんな事があろうが、依頼は達成せねばならん。分かるな?」

「んなこた(はな)から分かってるよ。それに、多分もうあいつは俺を護っちゃくれねぇだろうぜ。――てか、例えまた護ろうとしてくれたとしても、容赦なんぞするつもりはねぇよ」

 

 アレクトロはそう言って胴鎧を着こみ、ベッドの傍らに立て掛けてあった【大剣】を背に負った。

 

「なんか可哀想ねぇ……」

「あのなぁ、【リオレイア変種】にするっつったのおめぇだろうが」

「だって、アレクの過去知らなかったんだもんっ」

「だからっつって、【リタイア】するなんぞ抜かすなよ?」

「うんしない。これはこれだし」

「上等だ。なら行くぜおめぇら!」

「了解っ!」

 二人が声を揃えたのを背中で聞きながら、アレクトロはもう駆けている。

 ベナトールは兜の中でフッと笑って付いて行った。

 

 

 再び目の前に立ったアレクトロに、【彼女】は吠えた。

 その響きが心成しか嬉しそうに聞こえるのは、アレクの過去を知った者らの気持ちが変わったせいだろう。

 そして彼に向って真っ直ぐに突進して来たのも、けして嬉しかった訳ではないはず。

 

 が、それが分かっているかのように、アレクトロは受け止めた。

 ただし、まともに受けると先程の二の舞になるので、【大剣】をかざしたのであるが。

 

 突進が止められたと知るや、【彼女】はがばりと口を開け、横様に首を振った。

 巨大な牙が頸動脈に届く前に、近付いていたベナトールがアレクトロを打ち上げる。

 

 そしてそのまま打ち下ろした。

 

 悲鳴を上げて怯んだのを見越して、もう一発。

 ベナトールに狙いを変えて再び噛み付こうとしたが、彼は寸での所で躱している。

 僅かな動作で近付き、縦二発。

 鬱陶しそうに体を回転させようとしたが、その前にハナに脚を切り付けられて、堪らずにこけた。

 

 戻って来たアレクトロが溜めている間に麻痺組が切り刻み、溜め攻撃が完了した直後に麻痺らせる。

 頭を叩き続けているベナトールによって、麻痺が解けた直後に【彼女】は昏倒した。

 アレクトロが溜め切りをお見舞いする。

 起き上がったタイミングに合わせ、ハナがすかさず【閃光玉】を投げる。

 

 【彼女】が視界を奪われている間に一斉攻撃すると、脚を引きずり始めた。

 

「よし畳みかけるぞ!」

「おうっ!」

 が、逃げる【モンスター】は弱っているにもかかわらず意外にも速いので、止めを刺す前に逃げられてしまった。

「惜しいな。もうちょいだったんだがな」

「行先は分かっている。《7》で寝るつもりなのだろう」  

「んじゃま、ゆっくり行きますか」

「あんまりゆっくり行ってたら、回復しちゃうんじゃないのぉ?」

「それどんだけゆっくり行く気だよ!?」

 突っ込みながら走るアレクトロ。

 

 案の定《7》で寝ていた【リオレイア変種】に近接し、二人は溜めた。

 が、溜めている間に相手が【罠】にはまり、攻撃が完了する直前に捕獲された。

 

 犯人はハナである。

 

 討伐する気満々だったアレクトロだったが、兜の中でまあいっかという顔をした。

 そして、少しだけ嬉しそうに、「命拾いしたな、()()()」と言った。

 

 




アレクトロのエピソードは「アレクトロ物語(第41話)」を参照してください。


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いないいない……

サブタイトルが何故この題なのかというのは、読む内に分かると思います。
多分。


   

 

 

 そこは【火山】の土の中。

 砂礫の交ざったその中で、

 かの【幼子】は待つという。

 戯れ者を、待つという。

 

 

 それは、アレクトロがハンターになって間もない頃。

 正確には、ようやく【火山】へ行くのを許されるようになった頃だった。

 

 ある日【村】で、「見えない【飛竜】を見た」という噂が立った。

 

 見えないのに「見た」と言う者がいるのも不思議なのだが、なんでも「見えないのにいきなり目の前に現れた」という事だった。

 狩猟と同じくらいに生態観察が好きなアレクトロは、【村長】に「調査させて下さい!」と願い出た。

 その好奇心一杯のキラキラした目を見た【村長】は、半ば呆れながら次のように言った。

「アレクトロよ。探検に行くのとは違うのだぞ? 相手は【飛竜】だという。しかも見えないという噂じゃ。そのような正体も分からぬような【モンスター】に、おいそれとお主のような駆け出しを向かわせる訳にはいかん。【飛竜】の恐ろしさを知らぬお主ではあるまい?」

 

 その頃の彼は【飛竜】というと【リオレイア】ぐらいしか狩った事がなかったのだが、それでも彼を育てた【彼女】と違って殺意剥き出しで襲って来る方の野生の【彼女】の恐ろしさは、【飛竜種】の本性を戦慄と共にその身に叩き付けるには充分過ぎる程だった。

 

「それは身に染みて分かってます。分かってますが【村長】、『見えない』といってもまったく見えない訳ではないみたいじゃないですか? 噂では『いきなり目の前に現れた』と。そんな面白い【飛竜】がいるなら見てみたいんですっ!」

「いきなり現れて、いきなり食われたらどうするつもりなのじゃ?」

「う……、それは困りますけど、けど【大剣】ならガード出来ますし! 前まで使ってた【片手剣】でもっ! だからお願いしますっ! 俺そいつを見てみたいんですっ!」

 

 アレクトロは、【村長】に詰め寄らんばかりである。

 

「……。まあ、最終的には自己責任ではあるがのぉ……」

「ですよねっ!? なら俺行って来ますっ!」

 アレクトロは、勢いよく頭を下げて踵を返し、嬉しそうに準備をするべく自分の部屋まで駆けて行った。

「元気じゃのぉ、あの子は……」

 その後ろ姿を見送りながら、【村長】は呟いた。

 

 実は彼は、その【見えない飛竜】の正体を知っていた。

 なので、いくら駆け出しでもアレクトロの実力ならば、なんとかなるだろうと思っていた。

 渋って見せたのはわざとで、一応危険を伴う【飛竜種】である事を、少しでも知らしめたかっただけである。

 

 

 一人で行くつもりだったが案の定付いて来たカイと共に、【火山】へ。

 各エリアを散々走り回ったが【イーオス】や【ランゴスタ】がうじゃうじゃいるだけで、【飛竜種】と見られる【モンスター】は、未だに見付からない。

 一応別れて散策もしてみたが、それでも見付かる気配が無い。

 

「おいらもう疲れたよぉ」

 《2》に合流した時、カイがぼやいた。

 

「どんだけ体力ねぇんだよお前は!」

「アレクがあり過ぎるのっ! ねぇ休もうよぉ……」

「ったくしょうがねぇなぁ。ならあの岩にでももたれてろ」

 アレクトロは、手頃な岩の塊を指差した。

 

【挿絵表示】

 

 やれやれというふうに、カイが背中をもたせる。

 

 と、その時その【岩の塊】が動いた。

 

「ええぇ!?」

 素っ頓狂な声と共に、カイが弾き飛ばされる。

「なな、なんだぁ!?」

 アレクトロも素っ頓狂な声を上げている。

 

 下から砂礫を巻き上げながら現れたのは、岩の塊のような【モンスター】だった。

 

【挿絵表示】

 

「もしかしてこいつかぁ!?」

 よく見ると、前脚に当たる部分が小さめの翼になっている。

「今まで隠れてたって事!?」

「みたいだな。だから見付からなかったんだな」

 

 間違いなく【飛竜種】であると判断したアレクトロは、背中の【大剣】の束に手を掛けつつ、じりじりと間合いを計り始めた。

 

「ちょ、ちょっと! コイツ狩る気なのか? どんな攻撃して来るかも分かんないのに!?」 

「分かんねぇから狩るんじゃねぇかバーカ。ハンターなら狩りの中で、その【モンスター】との闘い方を覚えるもんだぜ」

 

 彼の目は、好奇心と未知の【モンスター】と戦闘出来る嬉しさで、キラキラと輝いている。

 

「大怪我しても知らないからねっ!」

 そう言いつつも【双剣】を構えたカイだが、腰は引けている。

「てか、なんかこいつちっさくねぇか?」

 【飛竜種】にしては小さ目の体躯に、アレクトロはなんとなく拍子抜けしている。

「確かにね。体もなんだか丸っこいよね」

「顔もどことなく幼いような……? もしかして幼体か?」

「子供なの?」

「多分。【リオス科】の幼体に、顔の幼さ加減が似てる」

「そんなのよく分かるねぇ。おいらちっとも大人か子供か分かんないや」

「まあ身近に【幼い飛竜種】がいたからな。毎日一緒にじゃれてりゃ嫌でも観察出来る」

「ある意味恵まれた環境だったんだね」

「まあ、そうかもな」

 取り敢えず、試しにぽてっとした腹に切り付けてみる。

 

 ガキンッ!

 

 火花が散り、【大剣】が弾かれた。

「かってぇ!?」

 まるで、岩そのものを切っているような感覚である。

「こいつ本当に岩なんじゃねぇのか!?」

「これじゃ攻撃出来ないじゃんかぁ」

 だが、切れ味が高い段階ならば、翼の端あたりはなんとか弾かれずに最後まで振り抜ける事が分かった。

 

 でもそれでは本体に攻撃出来ない。

 一応翼に攻撃し続ければいずれは弱るだろうが、時間がかかって仕方が無いだろう。

 そんな事では時間内に間に合わないかもしれない。

 

「どうする? ダメ元で弾かれつつ攻撃していくか? それでも一応まったくダメージが無い訳じゃないし」

「それじゃすぐに刃が欠けちゃうよ。一応【鬼人化乱舞】すれば弾かれないのが分かったけど、すぐに刃がボロボロになっちゃったし」

「んじゃ時間切れを覚悟して、翼に攻撃し続けるしか――」

「ふっふっふっ」

 カイは急に得意気に笑い出すと、「じゃ~~~んっ!」と言って、【大タル爆弾】を出した。

「うぉ、いつの間に!?」

「へっへ~~ん、密かに持って来てたんだもんね~~」

「お前、そういうのは用意いいのな。【クーラードリンク】はしっかり忘れるくせに」

「う、うるさいっ!」

「――で? それをどうやって仕掛けるわけ?」

「【落とし穴】に落とすに決まってるだろお」

「用意周到な事で」

「偉い?」

「ハイハイ、偉い偉い」

「もっと感情込めろよぉ」

「うるせぇさっさと仕掛けろよ」

 

 カイはぶつぶつ言いながら仕掛けた。

 

 落ちて暴れている間にカイが置いていると、まだそれ程離れていない内にアレクトロが【ペイントボール】を投げた。  

 当然のように【大タル爆弾】が爆発し、カイは巻き込まれて吹っ飛んだ。

 

【挿絵表示】

 

「あ、悪い」

「悪いじゃないだろおぉ!?」

 ブスブスと煙を上げながら、カイは思いっ切り突っ込んだ。

 

 だが、そのおかげで腹の甲殻が剥がれたようである。

 

「うわっ、剥き出しになっちゃった。痛そう……」

「おっし、これで切り刻めるぜ」

「ちょっとアレク!? そんな可哀想な事すんの!?」

「あのなぁ、そのために仕掛けたんだろぉ!?」

 

 そんな言い合いに合いの手を入れるかのように、相手がブレスを吐いて来た。

 

【挿絵表示】

 

「うわっ!?」

「あぶねっ!?」

 左右に避けた二人の丁度真ん中あたりに落ちたそれは、溶けた溶岩を投げ付けたかのようなものだった。

「【クック】のと同じブレス吐くのな、こいつ」

「でもこっちの方が塊大きいよ?」

「そりゃこいつの方がデッカイからな」

 

 アレクトロは、後で【村長】に報告出来るように、頭の中でまとめながら闘った。

 

 剥き出しになった腹の皮膚ばかりを狙われるもんだから、相手は腹の肉だけ血だらけになっている。

 堪らずに少し溜めるような仕草をすると、バフンッ! と体内から紫色のガスを出した。

 

【挿絵表示】

 

「う……、気持ち悪い……」

 それをまともに吸い込んだカイが、ふらふらと相手から遠ざかった。

 

 離れたために突進を誘発したようで、彼に向って相手が前傾姿勢になる。

 

「カイ!!」

 叫んで切り上げ、代わりに自分が轢かれる。

 

【挿絵表示】

 

「いってぇな!!」

 叫んで起き上がると、カイは飛ばされた先でぐったりとなっている。

「まさか毒か――!?」

 ガスに当たったであろう【ランゴスタ】が、断末魔の声と共に次々に死んでいくのを見て、間違いないとアレクトロは思った。

 

 だが、あいにく【解毒薬】などの毒消しの薬は持って来ていない。

 そして、【生命の粉塵】などという、特殊な調合を要する薬も持ち合わせていない。

 

 まずいな……。

 

 幸いにも相手は動きの緩慢な【飛竜】のようである。

 だから抱えて逃げられるんじゃないかとアレクトロは考えた。

 

 カイを抱え、背を向けて走る。

 

 当然のように追い掛けて来るかと思いきや、相手はブレスを吐いた。

「やべっ!?」

 なんとかギリギリで受けずにすんだが、危なかった。

 自分の動きがのろいため、ブレスの方が早いと思ったようである。

 隣のエリア(《1》)まで走ると【ベースキャンプ】に入る小道があるので、一気に駆け抜ける。

 今の状況でカイを助けるには、とにかくベッドで毒が抜けるまで寝かせる事しか他にない。

 恐らく命を奪う程のものではないとは思うのだが、用心に越した事はないので、アレクトロはカイをベッドに横たえて、毒が抜けるまで見守った。

 

 しばらく経つと、苦し気なカイの顔が、少しだけ穏やかになった。

 

「大丈夫か?」

 声を掛けると、目を閉じたまま頷いた。

 もう少し休ませようと、自分も横になる。

 

 

「アレク! おい起きろアレク!!」

 アレクトロは揺り動かされ、目を開けた。

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたようである。

「もう大丈夫なのか?」

 起き上がって自分を揺さぶっているカイに、そう声を掛ける。

「うん。もう苦しくないよ」

 

 カイは、彼特有の人懐こい顔で笑った。

「そか。なら良かった」

 アレクトロも笑みを返す。

 

「ねぇアイツ、また隠れちゃったのかな?」

「だろうな」

「また見付けられるかな?」

「さあなぁ? でも、岩の形を覚えたから、多分今度は前よりかは見付けやすいと思うぞ」 

「岩の形?」

「あぁ。あいつ、どうも岩に擬態してるみたいだ。背中に独特の岩の形があってな。そこだけ地面から外に出して、後は潜って隠れてるみたいなんだよ」

「へぇ、器用だね」

「『見えないのにいきなり現れた』っていうのは、岩に紛れて始めは見えてないけど、岩だと思ってたものが実は【飛竜】だったために、そいつが地面から飛び出した時にいきなり現れたように見えただけだったんだな」  

「なるほどねぇ」

「という事で、いけるか?」

「うん。もう大丈夫」

「よし、なら出発だ」

「オーケー♪」

 揃って走りながら、だけど残り時間は大丈夫かな? とアレクトロは思った。

 

 

 次に擬態岩が地面から顔を出していたのは、《7》だった。

 

【挿絵表示】

 

「おいおい、随分暑いとこでも擬態すんだな」

 アレクトロは呆れている。

「お腹散々切っちゃったんだけど、熱くないのかな?」

 ここは溶けた溶岩の川があったりするので、地面の中もけっこう熱いはずなのだ。

「プライドってやつじゃね?」

「それって痩せ我慢っていうんじゃないの?」

 

 そんな事を言っていると、相手が飛び出した。

 

【挿絵表示】

 

 彼らの話を聞いていたのか、はたまた地面の下の熱さに耐えかねたのかは分からない。

 取り敢えず【ペイントボール】を付け、再び戦闘開始。

 が、今度はアレクトロが毒ガスに巻き込まれた。

 

 やべっ、吸い込んじまった……。

 

【挿絵表示】

 

 肺が侵され、息が苦しくなる。

 が、まったく出来ない訳ではなかったため、大きくあえぎつつも攻撃は続けられた。

 肺が大きく膨らませる事を常に要求してくるようになったので、どうしても大袈裟な呼吸になる。

 溶岩の熱風をも取り込んでしまって、肺の中が焼けるように熱い。

 

 早く決着を付けないと、こっちが参ってしまうな……。

 

 そう思いながら攻撃していると、カイが苦し気な呼吸になっているアレクトロに気付いて、「一旦戻ろうか?」と聞いた。

「……。いや、もう少しだから……」

 そして、これが最後とばかりに溜めた。

 

 ズバンッ!

 

 最大溜めが見事に決まり、相手が崩れ落ちる。

 それと同時にアレクトロも地面に崩れ、伏せたままあえいだ。

「アレク大丈夫!?」

 心配げに聞くカイに、答える気力も無くなっていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 【クエスト成功】させて帰って来た二人に、【村長】は種明しをして「実は【バサルモス】という【グラビモス】の幼体じゃよ」と言った。

「【村長】!? それはあんまりなのでは?」

「おいらたち苦しい思いをして頑張ったのにぃ」

「ふぉっふぉっふぉっ! 悪かったのぉ。じゃが、分からぬ方が面白かったじゃろう? アレクトロよ」

「俺をからかってたんですかぁ?」

「いやの、あまりにもお主の目がキラキラしておったからの」

 そして少し間を作り、「どうじゃった? 【見えない飛竜】は」と聞いた。

 

 アレクトロは、これ以上ないという程の目の輝きと笑顔を作り、「面白かったですっ!!」と答えた。

 




HR駆け出しの頃の話なので、「ココット村」での話になります。
なので二人共まだ十代です。
この頃のアレクトロは好奇心旺盛で元気一杯な少年でした。
(ただし「モンスター」に限る)

駆け出しの設定なので、二人共下位の最初の方で作れる武具を身に着けて撮影しています。
(「レザーシリーズ」とか「バブルシザー」とか)
製作途中という事にして、兜は着けてません。


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堅物親子

前回は「ココット村」での、言わば「過去編」に当たるような話でしたが、今回は「街(ドンドルマ)」での現在での話です。


 

 

 

「ねぇねぇ、アレクがね、【リオレイア】に育てられてた時、【兄妹】はいたの?」 

「【兄妹】?」

「うん。子供の【リオレウス】とか」

「あぁそういう事か。おう、いたぜ」

「どんなだったの?」

「どんなだったと言われてもなぁ……。まあ可愛かったよ」

「その可愛さが分かんないでしょ。てか、どんなふうに成長していくの?」

「説明しろってのか?」

「うん」

「面倒臭ぇなぁ……」

「あ、それおいらも知りたい!」

「あれ、お前に説明した事なかったっけか?」

「詳しくは聞いてなかったような……?」

「そだっけか? まぁいいや」

 

 そう言うと、アレクトロは少々長い説明を始めた。

 

「成体と違って甲殻の棘があんま無くってな、うんとちっせぇ時はその棘もほぼ無くてかなり柔らけぇらしいんだが、卵から生まれたばっかの時は、俺もまだギャーギャー泣いてた頃だから分かんねぇ。覚えてんのは一緒にじゃれ始めた頃からだし。――で、その時期はまだ雄雌の区別が付かなくて、色も紫がかった茶色みてぇな感じで分かれてない。今思えば少しずつ雌雄の色が出始めたのはそれから数ヶ月しか経ってなかったんじゃねぇかと思うから、成長は人間より早かったはずだ。んで、それにつれて甲殻も硬く頑丈になってくるんだよ。だが雌に特徴的な、乳をやるための顎の突起は成長し切ってから発達するらしくて、俺といた頃はどっちも同じで突起がほぼ無かったな。顔はそんなに変わらなくって、成体みてぇな精悍な顔付きになるにはまだまだ先みてぇな感じだった。だから、青い光彩に囲まれた特徴的な縦長の瞳がいつまでも大きくて、それが常に間近で見れたのは恵まれてるなと思ったよ。すげぇ綺麗なんだもんよ」

 

「へぇ、よくそんなに覚えてるね~~!」

 二人は感心している。

 

「まあ記憶力は良い方なんでな」

「あんたが【モンスター】の生態に詳しいのは、その影響なのかな?」

「そうかもな。俺今でも生き物好きだし」

「いっその事、【王立生態観測隊】とか【古龍観測隊】とかに転職した方が良いんじゃないの?」

「ハンターを引退したらそれも悪くねぇかと思ってるよ」

「なんで今じゃないの?」

「お前知らねぇのかよ。あそこってな、かなり【モンスター】や【古龍】の生態に詳しくねぇと入れねんだぜ?」

「そなの?」

「あぁ。だからハンターの中なら余程生態観察の得意な者じゃねぇと選ばれねぇ。そういう意味で、主に引退者が就く者が多いんだ。もしくは端からそういう研究してる奴とかな」

「へぇ~~、意外にも狭き門だったのねぇ」

「なんでまた急に【モンスター】の幼体なんぞに興味持ったんだ?」

「え? ――ああ、幼体を扱う依頼って、無いじゃない? だから幼体見た事ないな~~って」

 

 

「……幼体の依頼なら、一つだけあるぞ」

 

 急に背後から声が聞こえ、三人は同時にビクッとなった。

「オッサンよぉ、ビビるから気配殺すのやめろっつってるだろぉ」

「嘘つけ、けっこう前から薄々気付いとったろうが」

「気付いてても、後ろからいきなり声掛けられりゃ誰でもビビるんだっつの! 正面から来い正面から」

「正面からだと気配殺す必要ねぇだろが」

「いや端から気配殺す必要ねぇだろが。もしかして俺らがビビるの楽しんでねぇか?」

 

 三人は、ベナトールが僅かに口の端を持ち上げたのを見逃さなかった。

 

「あ、絶対そうだ!」

「ベナひどぉい、それやられるたんびに心臓止まるかと思うんだからねっ!?」

「いやすまん、ついな」

「ぜんっぜん反省してないよね!?」

「罰として、今晩の飯オッサンの奢りな。しかも一番高いやつで」

「お、いいねそれ♪ よしっ、一杯頼んじゃうぞ~~♪」

「カイ、頼むのは良いけど食材全部無くなるまで食べないでね?」

「……。金足りるだろか……?」

「てめぇが言うなてめぇが! 俺よりずっと持ってるだろうが!」

「ほんっとベナって、必要以上のものに対しては急にケチ臭くなるわよねぇ」

 

 図星を突かれて苦笑いするベナトール。

 

「まぁでもハンターってそんなもんじゃねぇの? 武具代って馬鹿にならんし、上のランクに行けば行くほど作製、強化に膨大な金がかかるし。オッサンが特別なだけで、大抵の奴はカツカツなはずだぜ」

「おいらなんか、依頼受けるお金も無かったりする事あるよ」

 

 カイはさもそうなる事が当たり前であるかのように言った。

 

「おめぇは単に、クエ行かなさすぎなんだっつの」

「アレクが行きすぎなだけだろぉ」

「馬鹿かおめぇは? ハンターはクエ受けてなんぼだろうが」

 

そう言われて思い出したように、「そういやさ、さっきベナ、『幼体の依頼が一つだけある』って言ってたよね?」とハナが言った。

 

「あぁそれか、それはな――」

「【バサルモス】だろ」

 ベナトールに最後まで言わせずに、答えを言うアレクトロ。

 

「よく分かるわね~~!」

「今んとこ幼体で依頼が来るっつったら【バサルモス】以外ねぇからな」

 

「でもそれって、何でなんだろうね?」

 カイが疑問をぶつける。

 

「そういやそうよね。【モンスター】の幼体なら他にもいるでしょうに」

「単にデカいからじゃねぇの?」

「でっかいと、何で依頼が来るようになるのよ?」

 

「あいつ岩に化けてっだろ? だからよく変なとこで擬態しては【火山】に採掘に行く一般人とか、そこを通る行商人とかを通せんぼして迷惑かけてんだわ。それに放っといて【グラビモス】に成長しちまうと、もっと大変な事になっちまうだろ? だから生息場所によっては幼体の内に叩いといた方が良いっつう判断なんだろうぜ。討伐が嫌なら捕獲すりゃ、他の生息場所に移せるしな」

 

「なるほどねぇ」

「でもなんか可哀想じゃない? 他の幼体は良くて【グラビモス】の幼体だけはダメだなんて」

 

「【バサルモス】だからっつって、なにも見付け次第に片っ端から狩るように要請されてる訳じゃねぇんだぜ? それやっちまうと生態系に影響及ぼすからな。ただ鉱石が豊富な【火山】はそれ目当てに行く連中が多くて奴とかち合う場合が多いのと、他の幼体は成体になってから生息地域を広げたり繁殖行動のために凶暴化したりして迷惑かけはじめて、そのせいで依頼が舞い込む事が多いからな。多分その違いなんだろうぜ」

 

「そっかぁ」

「今来ている依頼もな、採掘してた一般人がかち合って、死ぬ思いして逃げ帰って来たから何とかして欲しいというものなんだわ。――まぁ大した依頼ではないと言えばそれまでなんだが、かと言ってそのままにも出来んからな。どうだ受けてみるか?」

 

「んなもん他のハンターに――」

 

 言いかけたアレクトロの言葉を即遮って、「うん行くっ!」と元気よく答えた二人。

 分かっていた事ではあるが、舌を鳴らしたアレクトロであった。

 

 

 

 飛び切り上等な食材でたらふくタダ食いして満足した三人は、渋い表情のベナトールと共に一旦別れて準備をし、【クエスト受付カウンター】へ。

 

 依頼は上位のものであるという。

 

「あれオッサン、【ハンマー】じゃねぇのかよ?」

 彼はいつもの【ハンマー】ではなく、珍しく【ランス】を担いでいる。

「【グラビモス科】に対しては、こいつの方が相性が良いからな」

 

 そう言う彼だが、何か引っかかるアレクトロ。

 

 でもまぁいいやと考え直し、自分は装備を変えずに【火山】へ出発した。

 

 

 バラバラに到着するのを利用してお互いに散策したら、相手は《7》にいたので合図をしつつ先に着いた者から攻撃開始。

 最初に遭遇したのはハナだった。

 

 過去に【バサルモス】と対峙した経験から〈切れ味+1〉のスキルを付けているアレクトロは、最初から弾かれる事なくスムーズに腹を切っている。

 動きが緩慢なので、溜めを中心にした攻撃をする余裕まであった。

 カイは【双剣】なので、【鬼人化乱舞】で切り刻めばそれ程弾かれる事を苦にしなくても良いものの、その分どうしても【砥石】の消費が増えていた。

 ハナは弾かれる部分が多いものの、元々【片手剣】は甲殻の繋ぎ目などの柔らかい部分を狙いやすく、従って上手くいけば弾かれる事が少ない攻撃が出来るため、(下手ながらも)一応役には立っていた。

 ベナトールは言うに及ばないほど軽やかなステップで、的確に弱点を突いている。

 

 それは、腹部の甲殻破壊を成功した頃だった。

 ふいに背後から強烈な殺気を感じたアレクトロは、横っ飛びに飛んだ。

 直後にまるでビームのような熱線が、今彼がいた場所を通り抜ける。

 そして咆哮!

 

「やはり、おいでなすったな……?」

 どことなく嬉しそうなベナトール。

 二人は見なくとも分かっているが、カイとハナはその方向を向いて愕然としているようである。

「――なるほど、それで【ランス】かよ」

「確信は無かったがな。だが【子】がいるという事は、【親】がいる可能性も充分に考えられたからな」

 

 そう。【バサルモス】の成体である【グラビモス】が、幼体の危機を感じてやって来たのだ。

 

「ちょちょちょっと! どうすんのよこれ!?  【バサルモス】だけでもけっこう手強いのに!?」

 下位ならば数分とかからずに狩猟出来る【バサルモス】だが、上位ともなると体力、攻撃力共に跳ね上がるために下位に比べて時間がかかるのだ。

 

 寝る前の軽い腹ごなしのつもりでいた三人だったが、もうそれどころじゃない。

 

「構わん、こいつは俺が引き受ける。お前らはそのまま【バサルモス】を攻撃していろ!」

 言うや否や【グラビモス】に立ち向かって行くベナトール。

 彼の実力は以前に見て知っているので、一人で任せても大丈夫だとは思うのだが……。

 

 と、ベナトールが相手に張り付く前に、彼に向けてグラビームが放たれた。

 

「あぶな――!!」

 ハナは言いかけたが、そのビームを盾で易々と受けるベナトール。

 それを見込んで【ランス】を装備しているので、彼にとっては熱線を受ける事によるダメージも、恐らく想定内なのだろう。

 一旦張り付いてしまえばブレスや突進はほぼしなくなる事も彼は知っているので、全ては彼の策略通りになっている。

 

 それでも心配そうにチラチラと見ているハナに、「おい! あっちは大丈夫だから集中しろ!」とアレクトロは注意した。

 

 だが、向こうは大丈夫でもこっちが大丈夫ではない場合があった。

 三人で攻撃しているという事は、その分ヘイトがばらけるという事でもあるので、張り付いたままでいられないのもあって突進を誘発させてしまったりした。

 

 そして、前傾姿勢になったその先に、ベナトールがいた。

 

「離れろオッサン!」

 注意をしたアレクトロは、ベナトールが取った行動を見て「すげぇ……!」と感慨の声を漏らす。

 後ろも見ずにそのまま攻撃を続けつつ、突進を食らう直前にサイドステップして避けたからである。

 

 しかも、何事も無かったかのように、僅かな動作で再び張り付いて攻撃を始めたのだ。

 

「うっわ~~、まったく真似出来ないわ……」

「流石と言えばいいのか、見事と言えばいいのか……」

 二人は驚き過ぎて、逆に呆れてしまった様子。

 

 だがブレスの速度には攻撃中だったからか対応出来なかったようで、盾ではなくて背中で受けてしまったのを見て「ごめんなさいっ!」とハナが【生命の粉塵】を投げた。

 

 

 (主にベナトールの活躍で)大した被害もなく、【クエスト成功】して【街】に帰った四人。

「相変わらず群を抜いてるよなオッサンは。桁違いだぜまったくよ」

「何がだ?」

「何がだじゃねぇよ、あんな闘い方、とてもじゃねぇが真似出来ねぇって言ってんだよ」

「【ランス】だからな」

「どゆこと?」

「要は【ハンマー】じゃあの闘い方は出来ねぇってこった」

 頭の上で?マークを一杯浮かべてそうな顔をしている二人を見て、「おいちゃんと説明してやれよ」と溜息交じりにアレクトロは言った。

 

「……。【ランス】というのはな、その武器特有の【ステップ】というものがあるのだよ」

 

「あ、それは分かるよ」

「まあ聞けカイ。お前も知っている通り、【ランス】は構えると、その鉾と盾の重量でまともに歩く事さえ出来なくなる。だから構えたままでの移動手段として【突進】がある訳だが――」

 

「うん。あれカッコいいよね」

「カイもそう思う?」

「うん♪」

 

「あれはあくまでも移動手段の一つや、遠くにいる相手もしくは突進されるなどして狩猟対象から離れた際に使う場合が多い。【ランス】での攻撃は主に対象に張り付いて、極端な機動力の低さを補うために相手の動きを封じつつ行う場合が多いのだ。だが相手も馬鹿じゃねぇから攻撃して来る訳だ」

 

「まあそれを避けるために編み出されたのが【ステップ】ってやつだな」

 

「そう。盾で防ぎ切れねぇ攻撃を【ステップ】で避ける事で、僅かな動きで避けつつ攻撃出来る事が【ランス】の強みなのだ。つまり逆を言えば、それが出来ねぇ奴は【ランス】は使いこなせねぇとも言える」

 

「それが難しいんだよなぁ……」

「うん。おいら無理」

「あたしもぉ~~」

 

「俺も前から言っているように、【ランス】は苦手なのだよ。死んだ親父は有名な【ランス】使いだったんだがなぁ……」   

 

()()で『苦手』なんぞと言われた日にゃ、俺は到底使えねぇわ」

 アレクトロは首を振る仕草をした。

 

「まあ苦手だから【グラビモス科】に限定して使ってるんだがな。あいつらだったら動きが遅いし、ブレスやガスなんかも予備動作が分かりやすいから簡単にガードしたり避けたり出来るもんでな」

 

 それと、きっとハナを庇う際に、グラビームをまともに受ける事を避けるためだろうとアレクトロは思った。

 




上位クエストでは、こんなふうに親子のクエストが期間限定の依頼として出される事があるのです。
(今はイベントクエぐらいしか期間限定のものが無いようですので、このクエはもう廃止されたようなのですが)


ゲーム中では何頭いようが同じエリアにいる者全員に「モンスター」のヘイトが移るシステムになっていますので、本来ならばこの「グラビモス」はベナトールそっちのけで三人に向かって行ってもおかしくないのですが、自己解釈で集中的に注意を向けている者のみにしかヘイトが向かない事にいたしました。

ゲーム中でもヘイトが向きにくい行動は出来ますし、それによって戦闘中にもかかわらず自分だけあまり狙われないという経験も私はあるのです。
(まあそれだけ「パートナー」が積極的にヘイトを稼いでいる証拠なんだろうと思うのですが)


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キラークイーン

これは、「クイーンランゴスタ」のお題を友人から貰って書いたものです。
※「彼女」は「フロンティア」の世界にはいませんので、これはPSPでの狩猟になります。


 

 

 

 三人は、【密林】に来ていた。

 一人だったハナが【ランゴスタ】の素材が欲しいというので、まずカイが誘われ、当然のようにアレクトロが巻き込まれたのだ。

 

 丁度昆虫が大発生する時期だったので、どのエリアに行っても大抵は囁くような、【ランゴスタ】の羽音が聞こえている。

 それはいいが、攻撃するたびにあちこちから刺され、時には麻痺させられたりしてうっとうしいったらない。

 

 おまけに……。

 

「おいハナ! 俺が手加減して攻撃した奴を追撃するんじゃねぇ! 死体がばらけるだろうが!」

「なによ! 誰が攻撃したかなんて分かる訳ないでしょお!」

 

 【ランゴスタ】の素材を得るには死体を残して剥ぎ取らねばならないのだが、もろい外殻の【モンスター】なので、すぐにバラバラになってしまって残したまま殺すのは至難の業なのだ。

 

「クソ、やっぱ端からこいつを使っときゃ良かったぜ」

 そう言うと、アレクトロはポーチから【毒煙玉】を出して地面に叩き付けた。

 彼の周囲に紫色の煙が立ち上がったのを見て、「なによ、持ってるんなら初めから使いなさいよ!」と強い口調で言うハナ。

「うるせぇな! もっと引き付けてから何匹かまとめて使いたかったんだよ!」

 

 【毒煙玉】は効果時間が短い上に、調合分も含めてそれ程持って行けないために、なるべく多く巻き込んで使いたかったのだ。

 

「あ~もぉ、喧嘩しないでくれよぉ」

 間に挟まれたカイは、ぼやきつつ【ランゴスタ】と闘っていた。

 

 

 エリアを移動しつつ何匹か狩り、《6》で狩っていた時の事。

 ふいに、【ランゴスタ】の囁くような羽音とは別の、それよりは低く唸るような羽音がしたのにアレクトロは気が付いた。

 その方向を見上げた彼は驚愕した。

 そこに、通常のものより数倍大きな【ランゴスタ】が浮かんでいたからである。

 いや大きさだけじゃない。腹部が異様に肥大化しており、なんとも悍ましい姿をしている。

 

「お前らあれ見ろ!」

 アレクトロが指差す方向を見上げた二人は、驚愕どころか恐怖で固まった。

「あ、あ、あれ何!?」

「で、でっかいぃ……!」

「馬鹿固まるな! 周り見ろ周り!」

 

 見ると、ほぼ殲滅させていたはずのエリア内の【ランゴスタ】が、再び数を増している。

 それどころかどんどん増えていく。

 まるで、数倍大きな【ランゴスタ】に、呼ばれて従うかのように。

 

「こいつはクイーンだ! 気を付けろ、今までのようにはいかねぇぞ!」

 アレクトロの注意した通りに、見る間に統率の取れた攻撃を始めた【ランゴスタ】の群れ。

 

 彼の【大剣】やカイの【太刀】ならばある程度はまとめて薙ぎ払う事が出来るが、それでも四方八方から刺されてしまう。

 一匹一匹の攻撃自体は大した事はないのだが、こうも狙って連続で攻撃されると、麻痺らされるのもあって中々きつい。

 おまけに【クイーンランゴスタ】の攻撃力が高い上、こっちはただ刺すだけでなく、防御率が低くなる酸性の腐食液を尻針から吹き付けてきたりするので、【ランゴスタ】に気を取られていると危なくて仕方がない。

 

「チッ! 一旦退くぞ!」

 そう言って地面に【モドリ玉】を叩き付けたアレクトロ。

 だが、緑の煙が消えた時、彼はそのままそこにいた。

 【モドリ玉】の効果が表れる前に、攻撃を受けてしまったのだ。

 

「クッソォ! 邪魔すんなてめぇらあぁ~~~!!!」

 アレクトロはキレて見境なく【大剣】を振り回している。

 そんな彼を嘲笑うかのように、【ランゴスタ】はあちこちから刺して来る。

 同じく退却に失敗したカイと、【モドリ玉】をポーチから出す暇もなかったハナも、それぞれに大苦戦を強いられている。

 

 そんな彼らの背後から、ゆっくり近付く【彼女】。

 

「やめろおぉ~~~!!!」 

 突然カイが叫び、闇雲に【太刀】を振り回しながら逃げ始めた。

「カイ馬鹿野郎! 背を向けたら逆に危ねぇって!!」

 

 だが、聞く耳を持っていない様子。

 

「落ち着け! やられてぇのか!?」

 引き戻そうとしたが、物凄い力で振り払われた。

 

 非力な彼がアレクトロの腕力に勝っている。

 つまり通常の状態ではないのだ。

 

「うわあぁ~~~!!!」

 カイは発狂したように叫んでいる。

 恐らく、パニックを起こしているのだろう。

 

「きゃあぁっ!!」

 その時、ハナの悲鳴がアレクトロの耳に届いた。

 

「ハナ!?」

 見ると、【ランゴスタ】に連続攻撃されて尻餅を付いた彼女の眼前に、【クイーンランゴスタ】がいる。

 相手は巨大な腹を彼女から引くようにして曲げ、ピタリと尻針を向けた。

 

「チイィッ!!!」

 アレクトロはハナに飛び付いて抱いたまま転がった。

 直後にその脇を、腐食液が着弾する。

 

「ぐうぅっ!!」

 ハナを庇うようにしていたアレクトロは、背中に焼けるような痛みを感じて呻いた。

 飛び散った腐食液が掛かってしまったのだ。

 

「アレク!? 大丈夫!?」

 背中からシュウシュウと煙を上げている彼を見て、ハナは狼狽した。

「……。おめぇには、かかって、ねぇよな……?」

 苦し気に、彼は聞いた。

「う、うん、大丈夫……」

「……なら、いいや……」

 ハナの返事を聞いて、よろよろと立ち上がるアレクトロ。

 腐食液は、彼の鎧と肉体を溶かし続けている。

 そのままにしておくと、骨まで溶かしてしまうだろう。

 

 ……クソ、まずいぜ……。

 

 取り敢えず【回復薬グレート】を飲んだものの、液が付いている間は溶かされ続ける事になるため、しばらく彼は白い煙を背中から上げながら時折回復せねばならなかった。

 が、その間も【ランゴスタ】の群れや【クイーンランゴスタ】が容赦するはずがない。

 防具が溶けて防御率が低くなった所を狙われると、今までそんなに脅威じゃなかった【ランゴスタ】の一刺し一刺しが、けっこうなダメージになった。

 

 ……。気絶、するわけにはいかねぇ……。

 

 時折朦朧となりながらも、彼はハナから離れようとはしなかった。

 ベナトールがいない今、自分が彼女を護るしかないと思ったからである。

 というよりはむしろ、なるべく無傷でベナトールの元に届けたいと思っているのだ。

 

 自分のせいでアレクトロが重症を負ったと分かっているハナは、それでも離れようとはしない彼に、せめて少しでも回復させようと【生命の粉塵】を投げ続けた。

 その甲斐あって腐食液が消えるまで、アレクトロはなんとか気絶だけはせずに済んだ。

 腐食液が消えれば回復も早いので、「助かったぜハナ。ありがとな」と礼を言った。

 

 朦朧となっている間も、本能で無意識に攻撃していた彼は、意識がハッキリした今は正確に【クイーンランゴスタ】の腹部に攻撃を当て続けている。

 そういやカイは? とチラチラ視線を彷徨わせたアレクトロは、彼の姿が見えないのに気が付いた。

 

 無事に逃げたのか、それとも気絶して【ベースキャンプ】に運ばれたか……。

 

 いずれにせよ、あの精神状態ではしばらくは攻撃に参加出来ないだろう。

 

 なら、二人でなんとかするっきゃねぇか……。

 

 そう考えたアレクトロは、次のように言った。

「よしハナ、二人でやっつけるぞ!」

「――えぇ!?」

「素っ頓狂な声出してる暇あったらちったぁ攻撃しやがれ!!」

「わ、分かったわよっ!」

 意外に精神力の強さを見せるハナ。

 アレクトロは最悪一人でやらねばならないかと思っていたので、少し安心した。

 

 それでもなるべく【彼女】は自分が引き受けるように闘って、ハナにヘイトが向かないような立ち回りをした。

 当然腐食液を掛けられるのは主に自分だったのだが、今度はガードする余裕があった。

 

 

 護衛と思われる通常より強い個体を殲滅させた頃、立ち直ったと見られるカイが戻って来た。

 それでも【彼女】のうねる腹部を見てたじろいだが、【太刀】を構えて参加して来た。

 二人が頑張っているのに一人だけ逃げる訳にはいかないと考えたのだろう。

 

 が、その息遣いは明らかに怯えている。

 

「カイ、怖いなら無理すんな」

 一応声を掛けたアレクトロだが、カイは激しく首を横に振った。

 カイの頑張りのおかげで三人になったので、もう護衛のいない【彼女】は集中攻撃を受けてついに落ち、動けなくなった。

 

 それでもヒクヒクと細い脚を痙攣させ続けている【彼女】を見て、三人は剥ぎ取りすら躊躇したのであった。   




「クイーンランゴスタ」の気持ち悪さは群を抜いていると思います。
羽の色は綺麗なんですけどねぇ……。

「クイーンランゴスタ」に限らず「腐食液」を出す「モンスター」には「ウチケシの実」が有効なんですが、この時アレクトロは持って来ていませんでした。
もしかしたら他の二人は持って来ていたかもしれないんですが、渡す余裕が無かったようです。


ちなみに余談ですが、これを読んだ友人には「もうハナは庇わなくても良いと思うよ」と言われました。
私的にはまだまだ彼女は弱っちく、誰かに護ってもらいながら攻撃するようなイメージなんですが、友人的には独り立ちしているイメージだったようです。


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見え猿

何だかんだ言いつつも付き合ってやるあたり、こいつは意外にも世話好きなのかもしれません(笑)


 

 

 

「寒い寒い寒い! 死んじゃうよぉ」

「うるせぇなさっきから! 【ホットドリンク】飲んでるだろうが!」

「飲んでても寒いものは寒いのっ!」

「【七色たんぽぽ】が欲しいっつったのおめぇだろうが! ちったぁ我慢しやがれ!」

「だってぇ、【雪山】にあるなんて思わなかったんだもん~~」

「【火山】の方が良かったか?」

「ヤダ。あっち【グラビモス】いるし」

「いや別に必ずいるとは――」

「汗だくになるじゃん」

「なったら鎧を脱げば――うごっ!?」

 

 肘鉄を食らわせるハナ。

 

「何考えてんのよっ、えっちぃ!」

「馬鹿かおめぇは! 誰も全部脱げとは言ってねぇだろうがっ!」

「今変な想像したでしょ!?」

「してねぇよっ!!」

 

 アレクトロは、やっぱ付き合ってやるんじゃなかったぜと少し後悔した。

 一人でいる時にハナに捕まったアレクトロは、【七色たんぽぽ】が採れる場所の案内を無理矢理頼まれたのだった。

 

 

 《8》の採取場所を案内していた時の事。

 ハナが採取しているのをやや離れた場所で暇そうに見ていたアレクトロは、ふいに何かの気配がしたのに気付いて身構えた。

 

 その途端、足元の凍り付いた地面が割れ、彼を吹っ飛ばしつつ飛び出したものがいた。

 初めから彼を狙っていたらしく、そのまま放り出されたアレクトロに襲い掛かる。

 

「くうっ!!」

 彼は上半身を起こしつつ背から【大剣】を外し、左手を添えながらそのまま刀身を横にした。

 ギリギリでガードが間に合ったが、物凄い衝撃でビリビリと手が痺れる。

 

 目の前には白い毛の壁があった。

 相手は飛び退って対峙し、唸る。

 筋肉質の白い体と、頬に派手な色彩の入る赤ら顔。

 発達した長い犬歯を持つ猿である。

 

 あちゃ、こいつの縄張りに入っちまったか……。

 

 吠える相手を見ながら、アレクトロは苦々しく思った。

 【雪獅子】と呼ばれる【牙獣種】、【ドドブランゴ】である。

「何コイツ!? いきなり出て来て吠えてんじゃないわよぉっ!」

 

 驚いたハナが素っ頓狂な声を上げている。

 当然のように気付かれて、顔を向けられる。

 

「きゃあっ!? こっち見ないでよぉっ!」

 そう言ったが通じる相手ではない。

 離れていたせいなのか、相手はいきなり地面に手を突っ込むと、大きな凍った塊を引き剥がしてハナに放り投げて来た。

「ちょ!? ちょっと! やめてよねっ!」

 慌てつつも緊急回避したハナ。

 

 相手はそれを追い掛けるように飛び付いて行き――!

 

 が、ハナには届かなかった。

 アレクトロが切り付けたからである。

 裂傷から火の粉が爆ぜ、悲鳴と共に転がる。

 【雪山】の【モンスター】が【火属性】に弱いものが多い事を知っている彼は、【煌剣リオレウス】を装備していたのだ。  

 

【挿絵表示】

 

 忌々しそうに唸りながらアレクトロに向き直る。

 発達した犬歯を見せ付けるように剥き出すと、次の瞬間飛び掛かって来た。

 

 既の所で躱すアレクトロ。

 勢い余ってつんのめった相手に追い打ちをかけようとしたが、その場で短く飛んで体勢を整え、バックジャンプされた事で尻で吹っ飛ばされた。

「いってぇな! ケツで飛ばすんじゃねぇよ!」

 隙を見てハナは【ペイントボール】を付けた。

 裂傷と共に火傷を負わされるのが堪らなくなったのか、相手が体を拭うような仕草を見せた後、逃げた。

 

 【ペイントの実】の匂いを嗅いで探そうとしたが、その匂いがしない。

 

「あれ? さっき【ペイントボール】を付けたばかりなのに?」

 ハナが首をかしげている。

「効果を消されちまったみてぇだな……」

 舌打ちしつつ言うアレクトロ。

「どゆこと?」

 

「【ドドブランゴ】っつうのはな、意外に頭が良くて、【ペイントボール】の効果を知ってる節があるんだわ。――で、その効果を毛繕いする事で消しやがる事があんだよな」

「じゃあ、もうどこに行ったか分かんなくなっちゃったって事?」

「まあ少なくとも、【ペイントの実】の匂いを嗅ぐ事での追跡は出来なくなっちまったって事だ」

 

「そうなのぉ~~!?」

「ま、そんなに遠くには行ってねぇはずだから、その内見付かるんじゃね?」

「そんな悠長な事でいいのぉ?」

「大体目的はあいつじゃなくて【七色たんぽぽ】だろうが。採れたんだろ?」

「まあ、採れたけど……」

「なら無理に狩る必要もねぇ。帰るぞ」

 

 その言葉を聞いたハナは、キョトンとした顔をした。

 

「え? 【モンスター】前にして狩らずに帰るの!?」

「そうだが?」

「あんた、変わってるわね」

「そうか? 多分オッサンでもそうすると思うぜ?」

「何で分かんのよ?」

「生態系を大切にしてるのが分かるからさ。そういう奴は、やたら滅多に目的も無く乱獲したりはしねぇもんだ」

「へぇ、あんたたち意外に優しいとこあるのね」

「ハンターらしくねぇってか?」

「うん」

「むしろ俺らの方がハンターらしいと言えるんだぜ? 自然の仕組みと共に生きてるっつう意味ではな」

 

 だからこそ、それに反した輩を(ただ)すために、オッサンのような【ギルドナイト】が暗躍してるんだからな。

 

 アレクトロは心の中だけでそう言った。

 

  




友人が、「【ドドブランゴ】が良い。ほらオナラしたりしてやたらクサい奴」とお題を出そうとしたので、「それは【ババコンガ】やがなっ!」と思い切り突っ込んでおきました(笑)

ハナ役のキャラにアレクトロを「パートナー」として付けているため、挿絵では彼が攻撃している時に撮影しています。
本当は火属性のエフェクトが出ている瞬間を狙いたかったんですが、上手くいきませんでした。

「煌剣リオレウス」の最終強化は「蒼煌剣リオレウス」で、ここまで強化すれば攻撃力も火属性ももっと上がるのですが、最終強化には「祖龍の堅殻」が必要になるので「煌剣リオレウス」までで止めました。
禁忌の「モンスター」ですし、「彼ら」は御伽話の世界にしか存在しないと思われているためです。


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桜舞う砂漠

「砂漠」に桜なんて存在しませんが、もしそんな過酷な環境でも生息出来る植物だったならば、特に満月の夜などの桜吹雪はさぞや幻想的な雰囲気になるのでしょうね。


 

 

 

 容赦なく照り付ける【砂漠】の太陽が、広大な砂地を照り返して眩しくて仕方がない。

 それが暑さを一層引き出すように思え、【クーラードリンク】を飲んでいても喘ぎたくなる。

 が、そんな中でもまだ【火山】よりは、いくらかマシだとハナは思った。

 

 眩しさに目を眇めていたら、視界の端にちらりと桜色が映ったような気がした。

 その方向を向くと、ゆっくりとこちらに向かって来る、大きな桜色のシルエットが見えた。

 

 【桜レイア】とも呼ばれる、【リオレイア亜種】である。

 

 まだ遠くだったからか陽炎のように揺らめいているそれは、近付くにつれてハッキリして来、それと同時に自分も含めて周りが戦闘態勢に入ったのが分かる。

 それに答えるように威嚇の声を上げた相手に、【閃光玉】を投げたのはアレクトロである。

 視界を奪われた相手に、それぞれが転回しながら攻撃開始。

 

 尻尾を切ろうと思ったらしいアレクトロが尻尾付近で溜めていたが、側面であったがためか回転尻尾に巻き込まれて吹っ飛ばされた。

 戻って来た時には麻痺っていたので、今度は安全に溜め攻撃が出来たようである。

 麻痺が解けたと同時にベナトールがスタンさせたので、もう一度溜めるアレクトロ。

 

 それで尻尾の切断に成功した。

 

 痛そうに吠える相手に再び【閃光玉】が投げられたので、ハナは脚を狙って切り刻み、こかせた。

 カイと二人で側面から翼を狙い、翼爪の破壊に成功。

 起き上がるまでにアレクトロの溜めが決まる。

 ずっと頭を狙い続けているベナトールが頭の甲殻を破壊する事に成功して、これで全ての部位破壊を達成出来た。

 ここまでは順調だったが、相手が怒り出したために多少戦況が乱れる。

 

 最初に犠牲になったのはハナのはずだった。

 

 足元で切っていて指先に当たって尻餅を付いた時、相手が二歩程下がったのを見て戦慄。そして、そのままサマーソルトの餌食になるはずだった。

 

 が、飛び付いて抱き留めつつ、一緒に放り投げられた者がいた。

 熱い砂地に叩き付けられて何度か転がって止まり、まだ抱き締めたままでいる者をハナは見る。

 

 やはりベナトールである。

 

 もう『やはり』と言うしかない程、この男はハナを執拗に護ろうとするのだ。

「……。当たってないな?」

「うん。大丈夫……」

 そう答えると彼は抱いている力を緩め、立ち上がった。

 

 その背からは幾筋か血が流れている。

 

 まるで、そうするのが当たり前であるかのように、彼女の代わりに尾の棘を受けたのだ。

 

 ならば、毒にも冒されているはず。

 

 尾で叩かれただけでもけっこうなダメージになる上に毒まで付いて来るサマーソルトは、そのまま気絶してもおかしくない程の勢いを持っている。

 ましてや怒り時に受けたのならば尚更だろう。

 

 なのに、彼は平然と戦闘に参加して行く。

 

 ハナは、彼のために【回復薬】を投げて掛け、続けて【解毒薬】も投げた。

 〈広域化+2〉のスキルがあるので、自分で使うのと同等にそれらの薬を他人にも施せるようになるのだ。

 

 一瞬振り向いたベナトールが彼女に向かって親指を立てる。

 

 彼は回復役がいるのが当たり前だと言わんばかりに、回復しようとすらしていない。

 戦闘好き、と言うのかどうか分からないが、この男は回復よりもむしろ戦闘に集中する傾向がある。

 

 重傷を負ってもそうしようとするのは、彼がそれ程タフなのか、それとも自分の肉体を酷使するのが好きなのか……。

 

 

 少し経った頃、回転尻尾に巻き込まれたカイが吹っ飛ばされた。

 打たれ強いベナトールと違い、カイはすぐには起き上がれずに呻いている。

 離れた事で突進が誘発され、相手は真っ直ぐに彼の元へ向かって行った。

 

 が、カイの前に立ちはだかった者がいた。

 

 彼はベナトールのように飛び付いて護ろうとはせず、まともに突進を受けている。

 ただしカイの代わりに犠牲になった訳ではなく、【大剣】でガードしたのだ。

 

 アレクトロである。

 

 長年の付き合いから自然にそうなっているのであるが、彼の場合、例え初めて組んだ者であったとしても、自分より弱いと判断した奴を護るのは当然だと思っている。

 が、その思いを果たせずに護り切れない場合も多く、悔しい思いをしていた。

 彼ら以外とはPTを組みたがらない理由もそれなのだろう。

 

 続いて放たれたブレスを【大剣】の腹で受けている間にカイが立ち直ったようなので、カイの礼の言葉を背中で聞きながら黙って戦闘に参加した。

 

 カイは、この不愛想な男をなぜか気に入っており、幼い頃から付き回っては【金魚のフン】呼ばわりされている。

 なので、アレクトロの傍には大抵彼がいた。

 だが護ってもらうだけでなく、時にはアレクトロの命を救ったりしてもいるため、お互い様だと思っている。

 

 

 さて戦況だが、桜色の甲殻のあちこちに傷を付けられた【リオレイア亜種】は、とうとう脚を引きずった。

 それを見てハナが躊躇したが、巣に逃げ切る前に【閃光玉】を投げられたのを見て、覚悟を決めたように再び切り始めた。

 止めの一撃はアレクトロの溜めであったのか、それともベナトールの溜めであったのか、とにかく溜め攻撃が決まった事によって、相手は最初にいたエリアから移動する間も与えられずに砂地に倒れ伏した。

  




「広域化」というスキルは自分に使うにもかかわらず同じエリアにいる他人に特定アイテムの効果をもたらすというスキルなんですが、ただ「飲む」だけで他人に効果が表れるなんて小説で書いたら魔法みたいになってしまうので、そのアイテムを「投げ掛ける」事で効果を得るようにいたしました。


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青い空に浮かぶ蒼

前回の話が「リオレイア亜種」だったので、今回は「リオレウス亜種」の話にしました。


   

 

 

 

 【森丘】は、相変わらず良い天気だった。

 のんびりとピクニックでもしたいような景色が広がるその中で、能天気な青い空に浮かぶ、蒼い影。

 

 【蒼火竜】と呼ばれる、【リオレウス亜種】である。

 

 それが段々と近付いて来るにつれて、呑気な景色とはまったく不釣り合いな、緊迫した空気にがらりと変わる。

 アレクトロは着地点に近付き、影に陣取って、降りて来るタイミングに合わせて溜めた。

 〈風圧無効(大)〉のスキルのおかげで舞い降りる際の風圧に煽られずに溜め続け、着地と同時に最大溜めが見事に決まる。

 同じように頭付近で溜めていたベナトールの溜めスタンプも頭にジャストヒットし、二人の溜め攻撃で戦闘が開始された。

 隙を見てカイが【ペイントボール】でマーキングすると、同じく隙を見たであろうハナが【閃光玉】を投げた。

 相手が視界を奪われている間に麻痺が決まり、麻痺っている間にアレクトロの溜め攻撃が炸裂する。

 麻痺が解けたと同時にベナトールが昏倒させ、どうやら(特に【リオス科】においては)この流れがパターン化してきている様子。

 

 ただしそれぞれのタイミングが合えば、の話のようだが。

 

 舞い上がった相手がホバリングしたままブレスを吐いているので、そういう時は二人は溜め、それが出来ない二人はブレスに当たらないように逃げるか、風圧の影響が無い所で待機するしかない。

 ホバリングブレスの時は待機していればブレスにさえ当たらなければ安全である風圧外だが、毒蹴りの時はいきなり来るので風圧外では危険な場合がある。

 

 案の定次に舞い上がった時、ブレスかと思って待機していたカイが毒蹴りされた。

 

 火竜の雄は足の爪に毒があり、それを利用して二連続で蹴って来るため、空中からの勢いもあって、必ずぴよってしまう。

 けっこうなダメージな上に毒りながらぴよるので、蹴られた場所が悪ければ、そのまま気絶してしまう事も。

 しかも、ぴよっている間に更に追撃されたりするのでタチが悪い。

 カイが慌てて意識をハッキリさせようとしているのに気付いたハナは、〈広域化+2〉を利用して解毒、回復させた。

 

「ありがとっ」

 お礼の声を聞いてカイに笑顔を向けるハナ。

 

 女性用の【リオハート】シリーズには顔全面を覆うような兜が無いので、可愛らしい笑顔が見えて、カイも笑顔で親指を立てた。

 カイの兜では顔が見えないので表情は分からない。なのでそれを補って親指を立てたのであるが、ハナには表情が分かっているようで笑って頷いた。

 

 二人が無邪気な(笑)やり取りをしている間に、真面目な二人は溜めを中心とした攻撃を、確実に弱点もしくは部位破壊箇所に叩き込んでいる。

 が、簡単に攻撃を避けているベナトールと違い、アレクトロは避け切れずに回転尻尾などに巻き込まれたりしていた。

 

「おいアレクよ、最大まで溜めようとするな。それで巻き込まれるぐらいなら、溜め途中か溜めずに攻撃した方がずっと良い」

「そうなんだけどよ、やっぱ最大まで溜めたくならねぇ?」

「気持ちは分かるがそれを抑えるのも立ち回りの一つだぞ? 敢えて溜めずにとか、二段階の溜めの状態でわざと攻撃する方が都合上 良いという場合もある。溜めていたがために避けられない事もあるしな」

「そこがオッサンとの違いなんだよなぁ……」

「……。次に来る攻撃を、見極める目を養わなければ食らい損になるだけだ。――まあ最も、それを知るまでに俺は何度も死にかけたがな」

「オッサンが死にかけたんなら、俺はどんだけ命あっても足りねぇや」

「安心しろ、お前は死なんよ。お前程しぶてぇ奴は、俺は見た事ねぇからな」

「俺はゾンビかよ……」

 

 お前は死なせんよ、アレク。

 無論、他の奴らもな。

 

 ぼやくアレクトロを見ながら、心の中だけで語り掛けるベナトールであった。 

 




これを読んだ友人は、「なんだかベナトールがみんなの教官みたいだね」と言ってました(笑)


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その霞、毒を孕みて

こいつと対峙した時は、「見えないのにどうやって攻撃するんだ?」とか思ったもんです。
特に部位破壊に苦労してます今も。


   

 

 

 

 その日は、のんびり採取でもして帰るつもりだった。

 夜だから【光蟲】でも捕れるかな~などと思いながら【沼地】の《8》で【虫網グレート】を振るっていたカイを暇そうに見ていたアレクトロは、何かの気配に気が付いた。

 

 が、周りを見回しても、何もいない。

 

 いや【ランゴスタ】がうるさく飛び交っていたので「何もいない」というのは嘘になるのだが、感じられた気配は間違いなく大型【モンスター】のものだったので、アレクトロにとっては「何もいない」と感じられたという訳である。

 

「――カイ」

「なに?」

「何かいる。気を付けろ」

 

 注意を促されたカイは不安げに周りを見回したが、「(ランゴスタ以外は)何もいないよ?」と不思議そうに言った。

「いや、ぜってぇ何かいる。見えねぇがな」

 油断無く身構えて見回しているアレクトロを見て、「変なの?」と首を傾げるカイ。

 

 クルル……。

 

 その時、微かに何かの声がした。

 そう思うや否や、アレクトロがいきなり吹っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

 カイから見れば、何も無い所で見えない何かに吹っ飛ばされたように見え、アレクトロから見れば、いきなり何も無い所で衝撃を受けて吹っ飛ばされたように感じた。

「うがっ!? な、なんだ!?」

 背の高い枯草から這い出るように立ち上がったアレクトロ。

 

 が、やはり何も見えない。

 見えないが、確かに何かの声と、息遣いが聞こえる。

 

 こいつ、もしかして……。

 

 そう考えながらそいつがいると思われる方向を攻撃してみたアレクトロは、確かな手応えと悲鳴と共に血飛沫が上がった事で確信した。

「【オオナズチ】だ!」

「えぇ!? 見えないじゃん」

「見えねぇから【オオナズチ】なんだよ馬鹿。こうなりゃ気配だけで攻撃するしかねぇ」

 

 そう言われて取り敢えず、アレクトロが攻撃した方向に切り付けてみたカイだが、切れたのは空気だけだった。

 

「見て切ろうとすんな、どうせ見えねんだから。感じて切れ!」

「そんな無茶苦茶なぁ……」

「んな事言っても見えねんだからそうするしかねぇだろが!」

 アレクトロも空気を切り裂きつつ、なるべくその方向を攻撃しようとしていた。

 

 一瞬、伸びる舌が見えたと思ったら、叩き飛ばされたと同時に【秘薬】が無くなった。

 

【挿絵表示】

 

「ちと待てやオイ! よりによって【秘薬】盗むこたねぇだろ!?」

 アレクトロは焦った。

 

 【オオナズチ】はなぜか、回復系を好んで盗もうとする性質があるのだ。

 

 だが、一瞬だが舌が見えた事である程度場所が分かったので、その場所を中心に攻撃していく。

 

 と、今度は一瞬姿全体が見えたと思ったと同時にその場で飛び上がったのが見え、真下に向けて紫色のガスを出したのが分かった。

 近接している二人は、当然のように吸い込んでしまう。

 

【挿絵表示】

 

「……は……っ、カイ……。は……やく、解毒……しろ……っ」

 苦しみながら、アレクトロはまず、自分よりカイの方を心配した。

 

 【オオナズチ】の毒は猛毒なのだ。

 

 喘ぎつつ隙を見て【漢方薬】を飲んだアレクトロは、カイが同じように回復した様子を目の端で見てホッと息を吐いた。

 

 が、相手はそれだけでは許してくれず、近付いていると何度も毒ガスを出して来る。

 かと言って離れていては攻撃出来ないので、 毒に冒される事を覚悟して攻撃を続けるしかなかった。

 だが見えないがために、相手がその場から移動したのが分からずに攻撃を続けようとして、離れた所から舌で叩かれて回復系を盗まれたりした。

 

 いや、()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 確かにダメージと共に回復系が無くなるのはやっかいなのだが、もっとえげつないのはブレスの方なのである。

 痰を出すかのように黄色味がかった液体を吐き掛けるものと、文字通り息のように黄色味がかったガス状のものを吐き掛けるものがあるのだが、そのどちらも同じ効果を持つ。

 

 つまり――。

 

「……っ!? ……!!」

 その犠牲になったアレクトロは、ごっそりスタミナを削られた挙句、ものが言えなくなった。

 

【挿絵表示】

 

 スタミナの方は【こんがり肉】やら【元気ドリンコ】やらの、スタミナ回復系アイテムを摂取すればその場で回復出来るのだが、【声帯麻痺毒】と言われるこの【古龍】特有の毒ブレスは、しばらくの間声帯をやられて何も言えなくなる効果がある。

 〈声帯麻痺毒無効〉という特殊なスキルを身に付ければそれを無効化する事が可能だが、今の所この毒を使うのはこの【オオナズチ】のみだし、当たらなければ冒される事もないため、他の貴重なスキル枠を削ってまでわざわざ付けるハンターはそれ程いないだろう。

 

「……!」

「アレク? 苦しいのか?」

 アレクトロが喉を押さえているのに気が付いたカイは、心配そうに聞いた。

 

 が、返事が無い彼を見て、余計に心配になった。

 

「一旦戻ろうか?」

「……!!」

聞こうとしたカイは、黙ったまま押し退けられたと同時にガードしようとして吹っ飛ばされた彼を見て、慌てて駆け寄った。

 

「……がはっ!!」

 起き上がろうとして血を吐くアレクトロ。

 肺かどこかをやられたらしい。

 

 が、【モドリ玉】を出そうとするカイを押し止め、【回復薬グレート】を飲んだ。

「一旦戻った方が良いんじゃないのか?」

 

 もう一度聞いたが、彼は黙ったまま。

 苦しそうなのは明らかなのだが、答えない。

 

「何か言ってくれよ! 分かんないだろおっ!?」

 思わず叫んでしまったが、それでも彼は答えてくれなかった。

 それによってなおも不安が高まったカイだったが、何も言ってくれない以上こちらとしてもどうしようもないので、様子を見つつ攻撃に参加する。

 立ち回りはそれ程変わっていないように見えるのだが、荒い息遣いだけがずっと続き、一言も声を発さないのが余計に不安を煽る。

 もしかして口も利きたくない程嫌われてしまったのだろうかと、そちらの方の絶望感に苛まれた頃、彼はようやく口を開いた。

 

「いってぇんだよクソがあぁ!!!」

 

 その前に攻撃を食らっていたのか、第一発声がこれである。

「てめぇ! よくも声帯冒しやがったな畜生! 麻痺して声出なかっただろうがぁっ!!」

 今まで声が出なかった分をぶつけるかのように、叫びつつ攻撃をし続けている。

 

 それでようやく今まで何も答えてくれなかった事を理解したカイは、内心で心から安堵しつつ、「アレク、叫び過ぎたら喉潰れるよ?」と笑った。

 

「お、そりゃ困るな」

 そう言うと叫ぶのを止め、「カイすまんかったな。答えられなくてよ」と言ってくれた。

 

 良かった。いつものアレクだ……。

 

 戦闘中なので抱き付きたくなるのを堪えたカイは、討伐成功してから思い切り抱き付いて、即引き剥がされたのであった。

      




「2(ドス)」時代に知り合ったゲーム仲間と共に「スカイプ」で喋りながら「オオナズチ」を狩っていた時、「ブレス食らったら声出すの禁止」という決まりを設けて遊んでました。

その時に食らった仲間の一人の、声帯が復活した第一声が「いってぇなクソが」だったのです(笑)
憎しみを込めたような低い声がヘッドセットの耳元で聞こえたもんだから、「第一声がそれかいっwww」と大笑いしましたよ。

今覚えば私にとって、「2(ドス)」時代が一番楽しかった気がするなぁ……(遠い目)
「フロンティア」も楽しいっちゃ楽しいんですがね。


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ハナ、【ココット村】にて奮闘す

これは、「ココット村に刺さっていた剣の話が読みたい」と言う友人の要望を受けて書いたものです。

今回は長めです。


 

 

 

「あのねベナ。あたしね、【ココット村】に行く事にしたの」

「ん? カイが帰郷しているのか?」

「違うの。あのね、【ココット村】にね、【伝説の剣】が眠ってるっていう話を聞いたのね。だからそれを見てみたいなって」

「あぁ、【ヒーローブレイド】とやらの事だな」

「ベナ知ってるの?」

「うむ。なんでも、あの村の【村長】が昔使ってた【片手剣】だとかなんとか……」

「【片手剣】なの!? なら手に入れたいっ!」

「ハナよ、【伝説の剣】と言われている以上、そう簡単に手に入る訳では――」

「そんなの行ってみないと分かんないじゃないっ。【村長】のものだったんなら交渉すれば譲って貰えるかもしれないし」

「……。そう上手く行くとは思えんが……」

 

 と、いう訳で、今二人は【ココット村】に来ている。

 

 【村長】に伺いを立てると、「あぁ、それはここにあるのじゃよ」と、あっさり案内された。

 それは奥まった所にあり、木々で隠されたようになった、静かな場所で眠っていた。

 いや「眠っていた」という表現は正しくないかもしれない。硬い岩盤に刺さっていたからである。

 

「これはの、この剣を振るうに相応しい者が現れるまで、ここでこうして眠っておるのじゃよ」

「相応しい者が現れたら?」

「その時はその者に仕えるように、抜けるであろうな」 

「ふぅん……」

 

 ハナは試しとばかりに剣の束に手を掛けてみた。

 

「えいっ! えいっ!」

 しかしありったけの力でいくら抜こうとしても、ビクともしない。

「ほっほっほっ、今までも数々のハンターが挑戦しておったがな、一人として抜けた試しがないわい」

「抜けないぃ~~。ねぇベナやってみてよ」

 

 一応ベナトールも形だけやってはみたが、「やめておこう」とすぐに引き下がった。

 

「なんでよぉ」

「俺の力でこれ以上やると、抜ける前に折れちまいそうだ」

 見た感じ華奢な作りをしているので、大事な剣を折る訳にはいかないと考えたのだ。

「ほっほっ、それ程弱くはないであろうがの」

 笑っている【村長】に、苦笑いを返すベナトール。

「ねぇ【村長】、この剣に認められるにはどうしたらいいの?」

「さてのぉ……」

 

 【村長】は顎に手を当てて考えてから、「やはりハンターとしてこの【村】で活躍する事を、この剣は望んでおるのではないかな?」と言った。

 

「あたし頑張るっ!」

「待てハナよ。まさかこの【村】でしばらく暮らすつもりか!?」

「当然でしょ? 【ヒーローブレイド】が出に入るまで、絶対に帰ってやんないんだからっ」

「【村長】、良いんですかい?」

「儂は歓迎するが……」 

 

 二人は、複雑そうな表情で顔を見合わせている。

 彼が【ギルドナイト】だからである。

 

「ほらっ、【村長】もそう言ってるんだし。決まりねっ♪」

「……。ハナよ。すまんが、俺は残ってやれんぞ」

「えぇっ!? どうしてぇ!?」

「【仕事】があるのでな。【街】からは離れられんのだ」

「そんなの、そんなのあたしがいる間休めばいいじゃないっ」

「そう言う訳にはいかんのだ。いつ【依頼】が来るか分からんのでな」

「そんなのやだぁ……」

「そう泣きそうな顔をするな。どうしても残りたいと言うのなら、時々は見に来てやるから」

「ハナ。ベナトールはの、こう見えて【街】で大事な任務を任せられておるのじゃよ。じゃから聞分けておくれ」

 

「……。見に来た時は、手伝ってね?」

 

「良い子じゃハナ」

 ハナは【村長】に頭を撫でられた後、しゃがんだベナトールに頭をポンポンされて照れ臭そうにした。

 穏やかな笑みさえ浮かべて静かにハナを見詰めるベナトールを見ながら、【村長】は次のように思った。

 

 随分と優し気な表情をするようになったものよの。と。

 

 

 ベナトールが帰ってから、ハナは【村長】から村人たちに紹介され、彼女のための【マイハウス】を宛がわれた。

 たった一人で依頼をこなすのは、特に大型【モンスター】の狩猟ともなると不安で仕方が無かったのだが、自分で残ると決めた以上やるしかないと覚悟を決めて、まずは小型【モンスター】から徐々に難易度を上げて狩って行った。

 【村長】がいきなり強い【モンスター】が出る依頼を回さなかったのもあって、段階を経て難易度が上がる仕組みになっていた。

 【街】と比べて【村】の【モンスター】はハンターの目に触れる事が少なく、従って手負いになったりして手強くなるものがいないためか、ハナの腕でもなんとか一人で狩れるようである。

 とはいっても、やはり大型になって来ると彼女の腕ではきつく、何度も気絶しては泣く泣く【リタイア】を選ぶ事もあった。

 ベナトールが様子を見に来てくれる時は一緒に手伝ってもらったりはしたのだが、【街】での任務が忙しいのかそう再々は来てくれなかったため、殆どの依頼を一人でこなすしかなかった。

 

 村人は皆優しく、【村】付きのハンターではない彼女でも甲斐々しく世話をしてくれ、ハナが【クエスト】に失敗したり傷だらけで息も絶え絶えに帰って来た時などは、それこそ村人総出といっても良いくらいの勢いで一丸となって回復させようともしてくれた。

 だから寝かされたベッドで目を開けた時、

大勢の心配そうな顔が囲んで覗き込んでいて、思わず苦笑した事もあった。

 

 

 そんな中、いよいよ【リオレウス】を狩猟する事となった。

 

 いかに【街】と比べて手強くないといえど、【飛竜種】の代表格である【彼】を狩るにはかなり危険を伴うであろう。

 

 が、こんな時に限ってベナトールは来てくれてはいなかった。

 

 彼に頼れない以上一人で狩るしかないのだが、ハナは不安で不安で仕方がない。

 だが、いつまでも彼に頼りっきりになる訳にもいかないと考えていた。

 彼がいない今こそ、逆に成長の証を手に入れられるんじゃないか?

 そう思ったが、死ぬかもしれないとも思った。

 

 一人で死んだら、きっとベナは悲しむというよりは悔しがるんだろうな……。

 

 彼の性格から考えて、ハナはそう思った。

 あんなに、何度も何度も自分の身を犠牲にしてまであたしを護ろうとしてくれるんだもん。それが護れなかったとなったら、きっと悔やんでも悔み切れない程責任を感じるんだろうな。

 

 だが、そう思いつつも、この依頼は一人で受けようと決めていた。

 

 【伝説の剣】とまで言われている【ヒーローブレイド】に認めてもらうには、誰かに頼らずに自分の力だけで狩猟をしないといけない気がしたからだ。

 自分だけの力で認めさせてこそ、あの剣は自分に従うと思ったのである。

 

 

 入念に準備を済ませ、【村長】の元へ。

 

「――いよいよじゃな」

「――はい」

「怖ければ、ベナトールが来るまで待っても良いのじゃぞ?」

「いいえ、あの剣に自分の力を認めさせたいんです。そのためにあたしはここに残ると決めたんですから」

「ほぉ、中々良い面構えになっておる。成功を祈っておるぞ」

「ありがとうございます」

 

 

 【森丘】に着いたハナは、のんびりした景色とは裏腹に、緊張しまくっていた。

 だが固まった身ではまともに闘えないと、無理にでも深呼吸したりストレッチしたりして体をほぐす。

 

 手始めに【ランポス】や【ブルファンゴ】などを狩っていると、どうやらスムーズに動けるまでには緊張がほぐれたようだ。

 

 《3》を経由して《4》《9》と探してみるも、目的の【リオレウス】の姿は無い。

 【飛竜】の名の通りによく飛び回る【モンスター】なので、見付けるのもけっこうやっかいなのだ。

 《10》に入ったハナは、木々の暗がりの奥の水場で佇む、赤茶色の巨大な影を見付けた。

 

 ――いた――!

 

 途端に体が硬くなり、手が汗ばむ。

 無理矢理深呼吸をして心を落ち着かせ、茂みに隠れつつそろりと近寄る。

 【ペイントボール】をぶつけると、まだ気付いていないのか、キョロキョロと長い首をゆっくり回している。

 その隙に逃げ出そうとするも背後で咆哮が響き、ビクッと固まった。

 悲鳴を上げたいのを堪え、一目散に《3》へ。

 この場所は狭く、木々が生い茂っていて暗いので、闘うのは得策ではないからである。

 

 移動するのを待っていると、よりによって更に狭い《9》に向かったのが分かった。

 

 ベナトールならばどこに行こうが構わず突っ込むだろうが、とてもじゃないがハナにはそんな真似は出来ないので、イライラしながら他に移動してくれるのを待つ。

 

 幸いにも《4》に移動してくれたため、そちらに向かう。

 

 ここも比較的狭いのは狭いのだが、木々が茂っていないのが幸いして明るく開けているため、意外にも闘いやすいのだ。

 

 自分を見付けて吠えている【リオレウス】に、もう一度【ペイントボール】を付ける。

 とにかく飛び回る【モンスター】なので、見失うと大変だからである。

 

 突っ込んで来るのを回避し、つんのめったのを見て二、三度切って回避。

 振り向きが速いと突進が来るので避け、ゆっくり振り向くブレスを狙い、足元を切り刻む。

 

 上手くこけてくれれば手数が増えるのだが、早々上手くはいかない。

 

 だが【麻痺属性】の【片手剣】は全武器種一の状態異常を与えられるため、麻痺を利用して更に手数を稼ぐ事が出来た。

 

 めげずに足元を切っているとこけたので、一番体勢が低くなる事を利用して尻尾を狙う。

 それを繰り返して尻尾の切断に成功した。

 抜刀したままアイテムが使える事を利用して、痛そうに吠える相手に【閃光玉】を投げる。

 

 視界を奪われている間に連続攻撃をしていると、回転尻尾で跳ね飛ばされた。

 

「~~~っ!」

 涙が滲むのを堪えつつ、隙を見て回復。

 攻撃を受けても誰も助けてはくれないため、当たり前だが自分で全て立ち直らなければならない。

 

 舞い上がったのでブレスを警戒しつつ、影に【落とし穴】を仕掛ける。

 下りたと同時に落ちた相手を切り刻み、落とした状態のままで麻痺させる。

 抜けるまでにかなりの手数を稼げたが、抜けた途端に怒ってしまった。

 

「きゃっ!?」

 怒り時に移る特大の咆哮に、ビクッとなりつつ耳を塞ぐハナ。

 〈風圧無効(大)〉は付けられても、〈耳栓〉までは付けられなかったのだ。

 

 相手は、よくも今までやってくれたなと言うように、ゆっくりと振り向いてピタリとハナに狙いを定めた。

 まだ硬直から立ち直れない彼女に、ブレスが迫る。

 当然のようにまともに食らったハナは、火達磨になって吹っ飛ばされた。

 

【挿絵表示】

 

「きゃあぁ~~~!!!」

 あまりの熱さに転がり回っていると、相手は飛び上がりつつ低滑空して鷲掴んで来た。

 

【挿絵表示】

 

 鋭く、巨大な爪が鎧に食い込む。

 

 顎先の尖った馬鹿でかい顔が、眼前にあった。

 その恐ろしさと胸に体重を掛けられた苦しさで、彼女は意識を失った。

 

 

 目を開けたら、そこは【ベースキャンプ】だった。

 

 あたし、生きてるのよね……?

 

 疑いながらも起き上がろうとしたら、引き攣ったような火傷の痛みを感じて呻きつつ蹲った。

 呻きながらもどうにか体を動かし、簡易ベッドに這い上がる。

 

 ……ベナ……、痛いよ……。

 ハナは泣きながら眠りについた。

 

 それでも、目が覚めた頃には起き上がれるまでになっていた。

 簡易ベッドの端に腰を掛けて、考える。

 正直怖い。もう二度とあの顔を見たくないと思う。

 

「でもっ!」

 ハナは決意を固めるように、声を出した。

 

「でも、でもやらなきゃ! 成功させなきゃっ! 【ヒーローブレイド】に認めさせるんでしょっ!?」

 気合を入れるように大きく声を出したハナは、意を決したように駆け出した。

 

 

 幸いにも寝ている間に【ペイントボール】の効力が消えていなかったので、今度は《2》にいる【リオレウス】の前へ。

 咆哮に怖気付こうとする身を叱咤し、わざと相手を睨む。

 

 ブレスを躱して近付き、斜めから飛び込みつつ切り込んで足元へ。

 離れて隙を見て【ペイントボール】をぶつけ、回転尻尾をガード。

 腹下に潜り込み、尻尾を避けつつ脚を切ってこかせ、手数を稼いでいる間に麻痺らせる。

 麻痺っている間に(恐怖を抑えつつ)弱点である頭を集中攻撃し、甲殻を破壊。

 

【挿絵表示】

 

 頭に寄ったついでに少し前に出て【閃光玉】を投げ、回転尻尾や噛み付きに注意しながら攻撃。

 

 それを繰り返していると怒ったが、今度は音の衝撃波をガード出来たので、耳を塞がずに済んだ。

 

 攻撃力、素早さ共に増す怒り時は、無理をせずに逃げる事を意識して攻撃していく。

 が、舞い上がったのでホバリングブレスが来ると思って影下に近付こうとすると、想定外の速さで相手が降って来て、蹴られた。

 

【挿絵表示】

 

 二連続の蹴りが意識を奪い、目の前に星がチラつく。

 その衝撃と毒の苦しさで、視界が暗転していく。

 

 ……ベナごめん。あたし死ぬかも……。

 そう思いながら、ハナは再び気絶した。

 

 が、目を開けたら【ベースキャンプ】だった事で、幸いにも致命傷には至らなかった事を知る。

 ホッとしつつも、次に気絶したら【クエスト失敗】になる事実に、暗澹した気分になる。

 

 このまま【リタイア】しようか。

 

 そう考えたハナだったが、それより悔しさが先に立ち、失敗してもやるだけやろう! と気を奮い立たせて【リオレウス】の前に立ちはだかった。

 相手はまだ怒ったままだったが、それまでにかなり攻撃を加えているはずなので、今度は慎重に、なるべく【閃光玉】や【罠】などを駆使して縛りつつ、攻撃を加えて行った。

 そして、とうとう相手が脚を引き摺りだした。

 

 よし! もう少し……。

 

 無理をせずに巣のある《5》まで逃がして寝かせ、【支給品ボックス】に入っていた【支給用大樽爆弾】を頭付近に置く。

 離れた位置で起爆させると起きつつ吠えたが、次の瞬間、ゆっくりと倒れ伏した。

 

 ……。やった、のよね……?

 

 【リオレウス】は、もう立ち上がらない。

 

 本当に、成功したのよね?

 

 あれだけ生き生きと躍動していた体にはまったく生気がなく、だらしなく開いた口の、鋭い牙の間から垂れている舌さえも、もはやピクリとも動かない。

 

【挿絵表示】

 

 当然、呼吸音も聞こえない。

 

 そして、見開かれたままの目には、もう光は宿っていない。

 

「……。やった……!」

 ハナは全身の力が抜けて、へなへなとその場にへたり込んだ。

 それでも「やった……! やった……!」と、まるで熱にうかされたかのように、倒れたままの【リオレウス】を見詰めながらその言葉を繰り返した。

 

 

 【村】に帰るともう知らせが届いていたのか、【村長】だけではなくて村人たちが待ち構えていた。

「ようやったなハナ! おめでとう!!」

 興奮した様子の【村長】が握手を求め、背中を(といっても彼は小さいので腰辺りを)抱き締めてくれた。

 興奮冷めやらぬ村人たちに担ぎ上げられ、胴上げされて歓声が上がる。

 

「これであの剣も認めるじゃろうて。抜いてみよ」

 

 その言葉で村人たちはピタリと静まり、ハナを下ろしてぞろぞろと後ろを付いて行った。

「おぉ、間に合ったか」

 嬉しそうに【村長】が声を掛けた先に、ベナトールがいた。

 

「ベナぁ~~~!!!」

 ハナはベナトールを見止めるや否や、まるで幼子のように駆け寄って、「怖かったよぉっ!」と泣きそうな顔で抱き付いた。

 

 思わず苦笑いするベナトール。

 

「すっごく怖かったし痛かったの! でもね、でもね、あたし頑張ったんだよっ!!」

「分かった分かった、でかしたから離れろ。お前どれだけの人に見られているか分かっているのか?」

 

 そう言われてハッとなって周りを見回して、恥ずかしそうに彼の後ろに隠れるハナ。

 それを見て、村人たちは大笑いした。

 

 ベナトールに連れられて、改めて【ヒーローブレイド】の前へ。

 深く息を吐いて、ハナは束に手を掛ける。

 

 すると、あれ程どんなに力を入れて抜こうとしてもビクともしなかった剣が、一切抵抗無くするりと抜けた。

 

「おぉ! 抜けたのぉ」

「抜けたようだな」

 

 勝利宣言する剣闘士のようにハナが頭上に剣を突き上げると、周りがどよめき、それから歓声が上がった。

 

【挿絵表示】

 

 いつまでも鳴り止まない歓声と拍手に包まれながら、ハナは呆けたように我が物となった【ヒーローブレイド】を見詰めるのだった。  

   




挿絵は「パートナー」を切った状態でハナ役のキャラで撮影しております。

ハナの推定年齢は十代後半もしくは成人前なんですが、元々精神年齢が低い上にベナトールの前では幼子のような態度になるようです。
なのでもはやベナトールが父親代わりのようになってしまっています(笑)

「ヒーローブレイド」のエピソードは、「2(ドス)」もしくはそれ以前の無印やGでの「ココット村」で「リオレウス」を倒す事で発生するイベントなのですが、「フロンティア」からでは「ココット村」には行けませんので、「森丘」のクエストで狩りの再現をいたしました。
当然「ヒーローブレイド」を引き抜くシーンもありませんので、適当な狩場でそれらしい攻撃モーションになった瞬間を狙って撮影しております。


※「フロンティアZ」は9月26日現在でアップデートし、ZZ(ダブルゼット)というナンバリングタイトルに変わりました。


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内緒話からの・・・

これは、どうしても友人の書いた小説を読みたくて、散々せっつき回してようやく重い腰を上げさせて書かせたものです。
無理矢理書かせたようなものなのですが、やはり良い味を出しております(笑)

読みやすいように行間のスペースを空けたり、小説での表現に相応しくない「・・・」を「……」に直したり「」の中の文に「。」が入っていたのを消したりはしましたが、内容は原文のままです。


 

 

「カイっ! アレク~っ!」

 悲鳴のようなハナの声がこだましている。

 

 そもそも、こうなったのは4時間前に遡る。

 

 

 カランカラ~ン

 

「アイスティーって美味しいよね♪ ねえ、カイさっきから黙っちゃってどうしたの?」

「あのね、ハナ。おいら、このままじゃダメだと思うんだ」

「何が、ダメなの?」

「ベナトールだよ。ハナもランク100を超えるハンターになったわけじゃない?」

「そうだけど? その事とベナとが関係あるの?」

「だから、そこだよ! 最近4人で出かけるから甘えてたけど、ベナにだって本来の仕事もあるだろうし、いつまでも依存しちゃいけない時期に来てるんじゃないかって思うんだ」

「そうかもしれないけど、ベナだってそれが嫌ならイヤだって言うんじゃない? 案外楽しいのかもよ?」と微笑んで見せる。

「……。本当にそう思ってるなら、おいらはもうハナと一緒にクエスト行かないよ……」

「何よそれ! じゃあいいわよ、ベナとアレクと行くから」

 

「俺も行かねえぞハナ」

 

「あれっ? アレクどうしてここにいるの? せっかくハナと2人で話そうと思ってたのに」

「おまえなあ、朝からショボくれた顔して話しかけても反応鈍いし、何かあるなってわかるだろ? まるで話聞いてくださいって言ってるようなもんだろうが。わかりやすいんだよ、お前は。そんな状態でほっとけるかよ、どうせハナタレの事だろうとは思ったけどな」

「ちょ、ちょっとアレク! ハナタレってどういうことよっ!」

「ハナタレはハナタレだろうが。ハンターランク100になっても教官に依存してるヤツはガキと変わらねえだろ?」

 

 2人から思いがけない仕打ちを受けて、ハナはすでに泣き出しそうになっている。

 

「ちょ、ちょっとアレク、ハナが泣きそうになってるじゃん!」

「なんだよ、お前の話の流れでこうなってるんだぜ? それで、おっさんに頼るなって話は急にどうしたってんだ? それを伝えるためだけにあんなに朝から塞ぎこんでたわけじゃねえだろ?」

 

「しっ! こ、声が大きいよ!」

 決心したのか、カイは大きく息を吸って、アイスティーを一気に流し込んだ。

 

「これはね、本当に内緒の話で、伝説にもなってることなんだけど……」

「もったいぶってないで早く話してよ!」

「だから、声が大きいって!」

「カイ、頼むから早く話せよ。お前の声が一番大きいぜ」

「う、うん。本当はハナには伝えるつもりなかったんだけどね、ハナはいつもベナトールに守ってもらってるじゃん。ずっとこのままじゃいけないと思うんだ。だって、ベナトールにも都合が、いや、仕事があるじゃない?」

「カイ~。何が言いたいのか、さっぱり伝わってこないんだけど」

「あ~、もういいよ、はっきり言うよ。ベナトールはギルドの密命を受けて陰で働いてるんだよ。アレクは感がするどいから、わかってるんじゃないの?」

「あー、その話か。一緒に狩りに行ってりゃあ、只者じゃないってわかるだろ。その話をカイから聞くほうが驚きだけどな」

「それってすごい事なの? おじいちゃんからも、そんな話聞いたことないんだけど」

「そりゃそうだろ。あれは伝説だと思わせてるが、暗躍してるんだぜ、おっさんみたいにな」

 

「でも、暗躍って……」

 

「ハ、ハナ、たとえ話だよ。だから、内緒にしてる話だから絶対に誰かに話しちゃいけないんだよ。こんな話が伝わったら、どんな罰があるかわからないんだから」

「お前、それで朝から塞ぎこんでたのか。だけど正しいかもな。伝説を守るために口外する奴は密かに消されるって聞いたことないか?」

 

 アレクトロはそう言って、カイのグラスに残ったアイスティーを勝手に飲み干しながら、本気なのか、冗談なのかわからないような顔でニヤリと微笑んだ。

 

「だから一緒にいちゃいけないの? ベナは、そんなこと一度も言ったことないのに」

「カイじゃ言いにくいだろうから言ってやる。よく聞けよハナ。話によると今までおっさんは独りで狩りをしてきたらしいぜ。それが今や4人で出掛けるようになって、まるで前からそうだったようなチームになってるだろ。そのせいで、本来おっさんが挑むような上級の亜種や古龍に全く行けてないんだよ。恐らくそれはどういう訳なのか、ハナを連れて狩りに行こうとしてるからだと俺は思ってる。男3人なら、俺たちを過酷な狩りに連れて行くはずだろ? おっさんは狩りをする者に対してそこまで優しいとは思えないからな」

 

「だから私が抜ければいいって話なの?」

 

「あのなぁ、話は最後まで聞けよ。ハナの悪い癖だな、それ」

「だからね、ハナ、おいら達は狩りを学べるし、守ってもらっていいことばかりだけど、その間に、古龍とか、亜種とか、本来優先して狩りをするハンターが1人不足するってことになるんじゃないかな。だからこそ、もっとちゃんと学んで、全員で古龍や亜種に挑めるようになれば、ベナトールも本来のハンターに戻れるじゃない」

 

「アレク、そういうことなのね?」

「ん? あ、まぁ、そんなところだ」

 

「なあんだ、そんな事だったんだ。びっくりしたぁ。カイがもっとすごい話をしてくるのかと思ったけど、要するに私が本物の上級ハンターになれば、ベナもみんなもこれまで通りってわけね♪ カイ、大丈夫よ。私ベナに今の話しないから。そんなに心配しなくても誰にも言わないであげるから」

「あ、う、うん。そういうことだよハナ」

 

「じゃあ、2人とも私の練習に付き合ってくれるってことでしょ」

 

「俺は面倒くせー。言い出しっぺなんだからカイが付き合えよ」

「アレク、おじいちゃんにベナのことアレクから聞いたって言うからね」

「おまえ、性格悪くないか? この前助けてやっただろ!」

「そんなこと言ったってしょうがないじゃない。ベナを練習に付き合わせたら優秀なハンターが不足することになるんでしょ。そしたら2人しかいないじゃな~い」

 

「おいらはいいよ。何から練習しよっか」

 もうすっかり先ほどの緊張から解放されたのか、いつもの明るい表情に戻っている。

 

「うーん、そうねえ。この前サシミウオ取り損ねたから、まずは魚釣りからマスターしようかなぁ」

「くっだらねえな。それなら一人で行けるだろ?」

「アレク知らないの? この前、大きな緑色の魚さんが襲ってきたんだからね! レディをそういう所に一人で行かせるわけ? 一流ハンターさん?」

「ねえ、アレク、一緒に行こうよ。キレアジとかさ、収穫できるじゃん。黄金魚釣ったらお小遣いも増えそうだし」

「言っとくが、自分の命は自分で守るための練習だからな!」

「決まり~♪ 3人で魚釣りね!」

「トラップツールまだあったかなぁ」

「なんだよ先が思いやられるな……。なんでそんなもん持ってくんだよ」

 

 ギルドナイトについてもっと深い話をするのかと思いきや、ギルドの密命を帯びて上級クエストを受けているだけと思っているようで、更には、それを話す事が重罪に当たると思っているあたり、カイらしいなとホッとしながら、つい呟いた。

 

「アレク、今なんか言ってた?」

「いーや。用意できたらすぐ行くぞ」

「はーい♪」

「うん♪」

 

 そうして3人で密林にやってきたというわけである。

 

 

「カイっ! アレク~っ!」

 ハナの悲鳴に近い声が響く。

「ハナタレっ! いい加減に自分で針外せよっ。練習したいって言ったの忘れんな!」

「だって、ビチビチ言ってるのよ? でっかいのよ? 無理~」

 ハナタレと呼ばれたことも気にしないくらいの集中力を見せる。

 「ごめんアレク、おいらも今魚来てるから外してあげてよ」

「これじゃまるで子守りと遠足じゃねえかよっ!」

「とにかく早くお願い~~~」

 

 こういう場面ではビキナーズラックと言うべきか、一番魚を釣り上げるのはハナで、それを外すお役目は一番魚が釣れないアレクトロという予想通りの展開となったのは言うまでもない。 




「凄腕ランク(HR100)」にもなって、まず魚釣りから練習するハナってどんだけだよ(笑)

友人は「上位」の事を何故か「上級」と言う(書く)んですよ。まぁGランクを「G級」と言うくらいですからあながち間違いでは無いんでしょうが、なんかモヤモヤします。

「中途半端な終わり方で続きがある様なのが惜しい」と言うと、「もちろん続きを書くつもりで書いた」とは言われたんですが、それからいくらせっついても書いてくれそうにないので無理だと思われます。
(これは去年の六月に書いてもらった話なので)
「続きが書きたいなら書いても良いよ」とも言われましたが、丸投げされた「朝ごはんはココット村で」で懲りたので、私もこの続きを書くつもりはありません。

てか、「この流れ」というか「この雰囲気」は友人独自のものなので、私が書いて雰囲気を壊したくないんですよね。


「アレクトロ」というキャラは友人の中には無い(私の人格なので友人の人格では本当には形成出来ない)ので喋り方などに「違和感があるんじゃないか」と懸念したんですよ。
「朝ごはんはココット村で」のベナトールの喋り方が私的にはかなり違和感があったので(第一話参照)。
ですが、それ程気にならない程度に違和感なく仕上げてくれたので感謝しております。

ちなみにハナの「おじいちゃんに言うよ」は、彼女の「伝家の宝刀」だったりします(笑)


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疑惑を持つなかれ

これは「ハナ、【ココット村】にて奮闘す」を書いた後で思い付いたものなんですが、前回の「内緒話からの・・・」の要素もほんの少しだけ取り入れてますのでこの配置で投稿する事にしました。

今回は狩りに行っていない上に狩りとはまったく関係の無い話になっております。


   

 

 

 

 最近、ベナトールは【仕事】と称して出掛ける事が多くなった。

 ハナは、そういう時はどんなに我儘を言っても一切連れて行って貰えないのもあって、本当は何をしているのか気になっていた。

 

 【ココット村】の【村長】が『大事な任務を任されている』と言ってたけど、【教官】としてあたしに付く以外に、どんな重要な役割があるんだろう?

 

 気になった事はすぐに知らないと満足しない性格のハナは、だけど本人に聞く事は一切しなかった。

 聞いても教えてくれない雰囲気があったからである。

 カイは、どうやら【古龍種】などの手強い【モンスター】を、【ハンターズギルド】の密命を受けて密かに狩っていると思っているようだ。

 だが、どうもアレクトロはそうは思っていないらしい。

 だけど、彼に聞いても躱すような発言をするばかり。

 

 そうだ、おじいちゃんに聞いてみよう。

 

 そう思って聞いてはみたものの、こちらもアレクトロ同様、何か引っ掛るような誤魔化され方をするだけだった。

 

 なんとかして自分で確かめる方法はないかしら? 

 

 そう考えていたら、ベナトールが一人でどこかに行くのを見掛けた。

 何気なさを装っているが、普段とは違うオーラを纏っているように感じたハナは、声を掛けられる雰囲気ではないなと思って彼の姿が見えるギリギリの距離を保ちながら、こっそり付いて行った。

 

 入った先は【ギルドマスター】の部屋だった。

 近付こうとしたハナを、護衛の者が呼び止める。

 

「どいてよ。こっそり覗くだけなんだから」

「なりません。『話を漏らすな』と言い付けられておりますので」

「何の話をしているの?」

「それを知る権利は我々にはありません。そして、中の二人以外にも」

「お帰り下さいませお嬢様。我々にも立場がありますので」

「――。私を脅す気?」

「……。近付く者は、誰であれ容赦をするなと言われておりますので……」

 

 お互いが身構えたその時、ドアの向こうで大袈裟な溜息が聞こえた。

 続いて、つかつかと歩み寄る音。

 ドアが開けられ、ベナトールの顔が見えたと思ったら、ハナは首を掴んで持ち上げられた。

 

「……。始めから分かってたよハナ。だが、やはりこうするべきだったようだな」

 護衛の者がざわついている。

 

 ベナトールの、いつもの眼差しはそこにない。

 彼がいつも自分に向けてくれる、あの優し気な眼差しは一切消え失せ、あるのは捕食者が獲物を見据えるかのような、鋭く、冷たいもののみ。

 

 狩られる――!

 ハナは本気でそう思った。

 

 ベナトールは、【殺気】をまったく出してはいなかった。

 それを出すと、その時点で周りの者の心臓が止まるのを知っているからである。

 この場にいる【ギルドナイト】は、自分一人のみ。

 だから同僚をも怯えさせる彼の【殺気】に、【ギルドナイト】でない彼らの心臓が耐えられるはずがない事を知っていて、わざわざ抑えているのだ。

 にも関わらず、その目を見たハナのみならず、護衛もガクガクと震え出した。

 

「……。立ち聞きとは、悪いお嬢様だ」

 おどけているつもりなのだろう。

 だが、更に恐怖が深まっただけである。

 

「そんなお嬢様には、罰を与えねぇとなぁ?」

 ベナトールは片手でハナの首を掴んで持ち上げた姿勢のまま、まるで獲物を弄ぶかのような、楽し気な表情を浮かべている。

 

 これが、本当のベナなんだろうか……?

 ハナは恐怖に慄きながら、そう思っていた。

 

「ここまで知ろうとした行動に敬意を評して、このまま一思いに首の骨を折ってやろう」

 

 彼の指先に、僅かに力が入った。

 

 ハナはぶら下げられたまま、ポロポロと涙をこぼしている。

 今まで長い間同行してくれていた優しい彼は、もういない。

 いるのは獲物を嬲り殺すのを楽しむかのような、絶対的な捕食者。

 今の彼はきっと、彼女を殺す事に微塵の躊躇もないのだろう。

 

 

「やめよ」

 その時、部屋の奥から諫めるような声が掛った。

 

「自分が今何をしようとしているのか、分かっておるのだろうな? ベナトールよ」

「分かってますよ【マスター】。そして、殺すつもりはありません」

 ベナトールはそう言ってハナに向き直ると、諭すような厳しい顔をして「二度とこんな真似はするな。本当に折られたくなかったらな」と言った。

 

 ゆっくりハナが頷くと、ベナトールはようやく彼女を開放した。

 護衛がほ~~~っと長い溜息を付いてへたり込む。

 

「ハナよ。ちと刺激が強過ぎただろうが、知る権利の無い者が知ろうとするという事が、どういう事か分かっただろう? 俺とてお前を殺したくはない。だからわざと脅して見せたのだ。分かってくれ」

 

 ハナはすすり泣きながら、もう一度頷いた。

 

 いつもの表情に戻ったベナトールはしゃがみ込み、穏やかにハナを見詰めながら、「怖い思いをさせて、すまんかったな」と言った。

 

 ハナは首を横に振った。

 

「帰るが良いハナ。お主にいつまでも付き合ってはやれんのじゃ」

「悪いが付き添ってはやれん。一人で帰れるな?」

 

 ハナは黙ったままこくんと頷いた。

 

 ベナトールはいつものように、優しく笑いながら彼女の頭をポンポンすると、立ち上がって踵を返し、部屋の中に入って行った。

 

 ドアが閉められる音がした途端、ハナは無性に悲しくなって、大声で泣きながら自分の部屋まで帰って行った。

 頭ではそうではないと分かっているのだが、もう今までのベナトールではないと拒絶されたような気がしたからだ。

 

 ベナトールも、遠ざかって行く泣き声を聞きながら、もう今までのようにただ無邪気に接してくれる事はあるまいな、と悲しい気持ちになっていた。

 

「……。いっその事、打ち明けてみてはどうじゃろう?」

 そんな彼の表情を汲み取って、【ギルドマスター】が言った。

 

「俺が【ギルドナイト】で、しかも殺人専門だと?」

「んむ……」

「それで、あいつが怯えないとでも? そして今までのように変わらず、【クエスト】に同行出来るとでも?」

「ああ見えて【大長老】様の孫娘じゃ。肝が据わっておるのはお主も認めておろう。じゃから案外納得するかもしれんぞ」

「……。いくら肝が据わろうが、【殺人者】が常に隣にいるという事実を受け入れてまで同行出来る心境になるとは、とても思えません。そして、俺自身がそういう思いをハナにして欲しくないと思っております」

 

「……。いつまで、隠せるじゃろうの?」

「……。いずれは話す事になりましょうが、今は、その時期ではないと考えております」

「左様か……」

「……はい……」

「ならば、こちらも黙って置くとしよう」

「感謝致します」

 ベナトールは、深々と頭を下げた。

「さて、先程の件じゃが――」

 

 

 

 話を終えて帰って来たベナトールがハナの部屋を覗くと、ハナは泣き疲れて眠っていた。

「……。すまん、かったな」

 ベナトールは呟いてベッドの傍らにしゃがみ込み、優しくハナの頭を撫でた。

 そうしながら、出来れば二度と、悲しい思いをさせたくないと思った。

 

 最期の一瞬まで、護ってやりたい。

 その想いは今も変わっていない。

 

 ならば、その身を自分に預ける彼女には、一欠けらの怯えもあってはならないと思った。

 

 護る上は、全てを委ねて欲しい。

 疑惑を抱いた以上疑うなと言うのは無理かもしれんが、俺を信用して欲しい。

 

 ゆっくりと頭を撫でながらそう心で呼び掛けていると、ふとハナが目を覚ました。

 ベナトールを見止めると、一瞬怯えたような表情になった。

 

 ……。やはり、無理か……。

 

 彼が撫でている手を止めると、表情を読み取ったのか「……ごめんなさい……」と再び泣き始めた。

 

 が、離れようとした彼に、ハナは両腕を差し上げた。

 

 いつもの自然な流れで無意識に体を寄せてしまったベナトールに、ハナはぎゅっと抱き付いた。

 (といってもベナトールは大きいので背中まで手が回らず、いつも大木を抱くような格好になるのだが)

 そして、「ごめんなさい……。【仕事】に疑いを持ってごめんなさい……。こっそり付いて行ってごめんなさい……。立ち聞きしてごめんなさい……。あたしのせいで、辛い思いさせてごめんなさい……。もうしない、もうしないから、あたしを嫌いにならないでぇ……っ」と泣きじゃくった。

 

 ハナは、彼に感じた恐怖よりも、彼に嫌われる事の方が怖かったのだ。

 

「……。俺が、怖くはないのか?」

「怖いぃ。怖いけどぉ……。嫌われるのはもっとヤダぁ……」

 

 ハナはますますくっ付いた。

 

「お願いぃ……。もうしないからぁ、もうしないから離れないでぇ……」

 

 まるで幼子のようにわんわんと泣く彼女に戸惑いすら覚えつつも、やはり言うべきではないという思いを固くした。

 恐怖を植え付けて二度と疑念を抱かせないようにしようとしたのは事実だが、あの程度ですら怖がるのなら、とても真実を告げる事には耐えられないだろう。

 そうなれば、とてもじゃないが身を預けるような事はしてくれまい。

 拒絶されたせいで死なせるような事は一切あってはならないし、俺もそうされてまで護りたくない。

 

「……。本当に、もう二度と俺の【仕事】に疑惑を持たんと誓うか?」

「……誓うぅ……」

「ならば、俺を信用してくれるな?」

「信用するぅ……」

「今までのように、護る際に身を委ねて、俺に預けてくれるのだな?」

 

 ハナはしゃくり上げながら、答えの代わりに抱く力を強くした。

 そっと抱き返してみたベナトールは、それに対する怯えや身を固くするというような行為が一切無いのを確認し、内心ホッとしながらそのままにしてやった。

 

「……。嫌ったり、しない?」

「……。俺は最初から、そう思うとりゃせんよ」

「離れたり、しない?」

「お前が、離れない限りはな」

「良かった……」

 

 ハナはようやくベナトールを開放すると、涙でぐしゃぐしゃになった顔でにっこり笑った。

 




これを読んだ友人には「ハナが幼過ぎる」と言われました。
ハナの推定年齢(十代後半もしくは成人前)と比べると、確かに幼くはあるんですよ。
でも私のハナのイメージってこんな感じなんですよね。特にベナトールの前では。

捨て子もしくは被災児として赤子の時に「大長老」に拾われて育てられた彼女の生い立ち(友人曰く『赤ちゃんの時に大老殿の前で泣いていたのを大長老が拾って育てたという設定』らしい)からして、「両親に愛情をたっぷりと注がれて育った」という経験が一切無いがために「心行くまで甘えられた」という事が無いままに育ったんだと思うんですよ。
一応「大長老」には目に入れても痛くない程に愛情を注がれましたが、彼は「ドンドルマの顔」として常に「大老殿」から動けない立場ですし、その代わりとして沢山のメイドには囲まれてましたが同い年の子供と遊んだ経験がカイぐらいしか無いんです。

だからもし友人にそういうイメージが無かったとしても、どこかで「愛情に飢えている」事を出してしまうんだと思います。
例え無意識にそれを彼女が抑え込んでいたとしても。
そして今の所、彼女的に唯一それが出来るのがどうもベナトールのようなのです。
なので本当に「父親」であるかのように、彼女は彼にだけは幼子のように甘えた面を出してしまうのだと私は思っています。

ちなみに友人の頭の中のハナのイメージは、始めはかなり頼りなくてもすぐに頭角を現し、自立してバリバリ狩猟をこなすような立派なハンターになれる予定だったらしいんですがね(笑)


あ、それから「ハナに正体をバラしても良いんじゃないか」とも言われましたが、これもベナトールの性格的に当分話さないのではないかと思っています。

まぁハナは薄々勘付いているとは思うんですがねぇ……。


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密猟団を駆逐せよ!(1)

これは前回の「疑惑を持つなかれ」の続きとして書いたものです。
本文が長いので分けたため、今回はハナ視点だった「疑惑を持つなかれ」をベナトール視点として書いたものになり、まったく内容が同じになってます。


   

 

 

 

 ある日伝令を受けたベナトールは、【ギルドマスター】の部屋へと赴いた。

 途中でハナがこっそり付いて来ているのを知っていたが、良い機会だから少し懲らしめてやろうと、わざと気付かないふりをして部屋に入る。

 

「お呼びでしょうか【マスター】」

「んむ。今回の件じゃが――」

 話し始めた【ギルドマスター】だったが、外の気配を察したのか、口を噤んだ。

「気が付かれましたか?」

「……。わざと、付けさせたのか?」

「御心配には及びません、あいつは――」

 

 説明しようとしたが、一触即発の雰囲気になっているのを感じて、大袈裟に溜息を付く。

 部屋の外を護る護衛には「近付く者は誰であれ容赦はするな」と命じているので、ハナに万が一の事があっては困るからである。

 

 つかつかとドアに近付き、開けると同時に片手でハナの首を掴んで持ち上げる。

「……。始めから分かってたよハナ。だが、やはりこうするべきだったようだな」

 護衛の者がざわついているが、構わずに続ける。

 【殺気】は一切出していないはずなのだが、ハナだけでなくて護衛の者もガクガクと震えている。

 

 腰抜けめらが。

 

 目の端でそれを捉え、心の中で呟きながら、彼らを無視してこう言った。

「……。立ち聞きとは、悪いお嬢様だ」

 おどけたつもりだったが、更に恐怖を深めたようだ。

「そんなお嬢様には、罰を与えねぇとなぁ?」

 恐怖が深まったついでに獲物を弄ぶかのような表情をしてみせる。

 

 ハナが恐れ慄いているのを見て心が痛んだが、この機会に恐怖を植え付けて二度と疑念を抱かせないようにしようと、更に言葉を繋ぐ。

「ここまで知ろうとした行動に敬意を評して、このまま一思いに首の骨を折ってやろう」

 そして、僅かではあるが指に力を入れさえしてみせる。

 

 ハナは、ポロポロと涙をこぼしていた。

 

 ちとやり過ぎたなと思っていると、部屋の奥から「やめよ」という声が掛った。

「自分が今何をしようとしているのか、分かっておるのだろうな? ベナトールよ」

「分かってますよ【マスター】。そして、殺すつもりはありません」

 ベナトールはそう言ってハナに向き直ると、諭すような厳しい顔をして、「二度とこんな真似はするな。本当に折られたくなかったらな」と言った。

 

 ハナがゆっくり頷いたので、彼女を開放してやる。

 それと同時に護衛がほ~~~っと長い溜息を付いてへたり込むのが見えた。

 そこで護衛にも言い聞かせるつもりで、言葉を紡ぐ。

 

「ハナよ。ちと刺激が強過ぎただろうが、知る権利の無い者が知ろうとするという事が、どういう事か分かっただろう? 俺とてお前を殺したくはない。だからわざと脅して見せたのだ。分かってくれ」

 

 ハナはすすり泣きながら、もう一度頷いた。

 護衛はと見ると、腰を抜かしたまま無言で何度も頷いている。

 

 ベナトールはいつもの表情に戻ってしゃがみ込み、穏やかにハナを見詰めながら、「怖い思いをさせて、すまんかったな」と言った。

 ハナは首を横に振った。

 

 頃合だというように、【ギルドマスター】が口を開く。

 

「帰るが良いハナ。お主にいつまでも付き合ってはやれんのじゃ」

「悪いが付き添ってはやれん。一人で帰れるな?」

 そう言うと、ハナは黙ったままこくんと頷いた。

 ベナトールはいつものように、優しく笑いながら彼女の頭をポンポンし、立ち上がって踵を返すと、部屋の中に入って行った。

 

 ドアを閉めた途端、外でハナの泣き声が響いた。

 そのまま遠ざかって行くのを聞きながら、もう今までのように、ただ無邪気に接してくれる事はあるまいなと悲しくなった。

 

「……。いっその事、打ち明けてみてはどうじゃろう?」

 彼の表情を汲み取ったのか、【ギルドマスター】が言った。

「俺が【ギルドナイト】で、しかも殺人専門だと?」

「んむ……」

「それで、あいつが怯えないとでも? そして今までのように変わらず、【クエスト】に同行出来るとでも?」

「ああ見えて【大長老】様の孫娘じゃ。肝が据わっておるのはお主も認めておろう。じゃから案外納得するかもしれんぞ」

「……。いくら肝が据わろうが、【殺人者】が常に隣にいるという事実を受け入れてまで同行出来る心境になるとは、とても思えません。そして、俺自身がそういう思いをハナにして欲しくないと思っております」

「……。いつまで、隠せるじゃろうの?」

「……。いずれは話す事になりましょうが、今は、その時期ではないと考えております」

「左様か……」

「……はい……」

「ならば、こちらも黙って置くとしよう」

「感謝致します」

 ベナトールは、深々と頭を下げた。

 

 

「さて、先程の件じゃが――」

 【ギルドマスター】は、気を取り直したように話し始めた。

 

「【街】の外れでの、密猟団が見付かったのじゃよ」

「密猟団、ですかい?」

「んむ。表向きは行商団のように装っておったので、ちと報告が上がるのが遅れたようなのじゃがの。それを利用して、各地で密猟を働いているらしい」

「行商団を装うというのは、密猟した貴重な素材を売り捌きやすいからでは?」

「そうじゃろうの。移動しても怪しまれないじゃろうしの」

「なぜ行商団と違うと分かったんですかい?」

「扱う品がの、とても一般的な物とは思えん物じゃったそうじゃ。報告によると、【麒麟の蒼角】【古龍の血】【神龍苔】【老山龍の紅玉】【炎龍の塵粉】――」

 

 ベナトールは思わず「うげぇ!」と変な声を出した。

 

「【古龍種】のレア素材ばかりではないですか!」

「左様。……最も、そういう素材を売り付けるのは、相手がハンターの時のみらしいんじゃがの。それでも【下位】の者でも金さえ積めば【上位】素材を売るそうじゃから、タチが悪いわな」

 

 ベナトールは唸った。

 

「……。アジトは?」

「なんじゃと?」

「アジトは判明してますか?」

「お主、まさか直接本部を襲撃するつもりではあるまいな?」

「……。各地に散らばっているであろう団員を潰して行ったとしても、飛竜の尻尾と同じですぐに再生してしまうでしょう。ならば、直接頭を潰した方が、一番手っ取り早い」

 

 【ギルドマスター】は呆れた。

 

「ベナトールよ、いかにも【ハンマー】使いらしい発言じゃがの、【モンスター】とは違うのじゃぞ? しかも相手は【人間】とはいえ集団じゃ。団員を潰すならば少人数で済むじゃろうが、本部を直接叩くとなると、どれ程の人数がおるかも分からん」

 

「……。【ギルドナイト】数名でやれば、あるいは……」

 

「待て待て、お主同僚を何じゃと思うておる。いかに精鋭部隊に匹敵する腕の持ち主でも、いやじゃからこそ、捨て駒扱いして失うような事になったら大損失になるのじゃぞ?」

「その精鋭部隊が捨て駒のように簡単に死ぬとでも?」

「そうは言うとらんが……。とにかくそうならそうで詳しい人数とか、アジトの縮図が手に入るとか、全体的な事が分かって対策が練られてから声を掛ける。それまで待機しておくように」

「了解致しました」

 

 

 話を終えて帰って来たベナトールがハナの部屋を覗くと、ハナは泣き疲れて眠っていた。

 自分でわざとそうしたにも関わらず、ここまで悲しませてしまった事を彼は後悔した。

「……。すまん、かったな」

 ベナトールは呟いてベッドの傍らにしゃがみ込み、優しくハナの頭を撫でた。

 そうしながら、出来れば二度と、悲しい思いをさせたくないと思った。

 

 最期の一瞬まで、護ってやりたい。

 その想いは今も変わっていない。

 

 ならば、その身を自分に預ける彼女には、一欠けらの怯えもあってはならないと思った。

 

 護る上は、全てを委ねて欲しい。

 疑惑を抱いた以上疑うなと言うのは無理かもしれんが、俺を信用して欲しい。

 

 ゆっくりと頭を撫でながらそう心で呼び掛けていると、ふとハナが目を覚ました。

 ベナトールを見止めると、一瞬怯えたような表情になった。

 

 ……。やはり、無理か……。

 

 彼が撫でている手を止めると、表情を読み取ったのか、「……ごめんなさい……」と再び泣き始めた。

 が、離れようとした彼に、ハナは両腕を差し上げた。

 

 いつもの自然な流れで無意識に体を寄せてしまったベナトールに、ハナはぎゅっと抱き付いた。

 (といってもベナトールは大きいので背中まで手が回らず、いつも大木を抱くような格好になるのだが)

 そして、「ごめんなさい……。【仕事】に疑いを持ってごめんなさい……。こっそり付いて行ってごめんなさい……。立ち聞きしてごめんなさい……。あたしのせいで、辛い思いさせてごめんなさい……。もうしない、もうしないから、あたしを嫌いにならないでぇ……っ」と泣きじゃくった。

 

 今まで怖くて、怯えで泣いていたのではないのか?

 

「……。俺が、怖くはないのか?」

「怖いぃ。怖いけどぉ……。嫌われるのはもっとヤダぁ……」

 ハナはますますくっ付いた。

「お願いぃ……。もうしないからぁ、もうしないから離れないでぇ……」

 

 まるで幼子のようにわんわんと泣く彼女に戸惑う。

 ここまで慕ってくれるのは嬉しいのだが、ちと依存し過ぎな気もするな。

 

 俺が今まで【モンスター】ではなく、幾人もの【人間】を屠った【殺人者】だと知った時、こいつはどんな反応をするのだろうか。

 【ギルドナイト】としての任務であると、割り切ってくれるのだろうか?

 

 いや、やはり言うべきではないと思いを固くする。

 

 恐怖を植え付けて二度と疑念を抱かせないようにしようとしたのは事実だが、あの程度ですら怖がるのなら、とても真実を告げる事には耐えられないだろう。

 そうなれば、とてもじゃないが身を預けるような事はしてくれまい。

 拒絶されたせいで死なせるような事は一切あってはならないし、俺もそうされてまで護りたくない。

 

「……。本当に、もう二度と俺の【仕事】に疑惑を持たんと誓うか?」

「……誓うぅ……」

「ならば、俺を信用してくれるな?」

「信用するぅ……」

「今までのように、護る際に身を委ねて、俺に預けてくれるのだな?」

 

 ハナはしゃくり上げながら、答えの代わりに抱く力を強くした。

 そっと抱き返してみたベナトールは、それに対する怯えや身を固くするというような行為が一切無いのを確認し、内心ホッとしながらそのままにしてやった。

 

「……。嫌ったり、しない?」

「……。俺は最初から、そう思うとりゃせんよ」

「離れたり、しない?」

「お前が、離れない限りはな」

「良かった……」

 ようやくベナトールを開放してくれたハナは、涙でぐしゃぐしゃになった顔でにっこり笑った。

 

 ……。依存してるのは、俺の方かもしれんな。

 

 そんなハナを見詰めながら、心の中だけで呟く。

 穏やかに笑い返してみせたが、内心は複雑だった。




この話で初めてベナトールの「仕事」を書いた事になります。
今まで書かなかったのは友人がグロ系ホラー系を極端に嫌うせいで、極力血生臭い話を避けて書くようにしていたからです。
私自身はそういうものが好きで、戦闘描写も大好きなのですが。

なので徐々に「慣れさせて」から書きました(笑)

ていうか、私自身が一から考えて書くと血生臭い方向に持って行きがちなんですが、友人からお題を貰うと(私が考えない話になるためか)ほのぼの系になったりするようなんですよ。
なので友人としても血生臭いものがずっと続かなくて助かっているようですし、私自身も考えも付かないような話が書けて勉強になったり気休めになったりして楽しんでます。

実は今までの話でも、友人に読ませる前には「今回のは血生臭いから覚悟して読んでね」と必ず前置きしてから渡していたんですよ。
戦闘シーンというか、とにかく血や内臓などの表現が出るような話は極力避けるようにしてきたんです。


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密猟団を駆逐せよ!(2)

今回は会話だけで終わってます。


 

 

 

 

 それから数日後、彼は再び伝令に呼び出された。

「アジトの場所が分かったぞ。【街】から【火山】に至るまでの、【北エルデ地方】にある使われなくなった坑道の一つじゃそうじゃ。どうやらそこを中心として、今の所は主に【火山】の【モンスター】を密猟しているとの事じゃ」

 

「……。今の所という事は、移動拠点なんですよね?」

 

「んむ。彼奴等(きゃつら)はどうも、移動拠点を置いて一所に留まらずに、ある程度経ったら拠点も移動させながら悪行を働いているらしいの」

「なるほど、行商団を装うというのも、理に適っているという訳ですな」

「素材を売るためだけに装っている訳じゃなさそうじゃな」

 

「ならば、たまたま今は【街】のある【ドンドルマ】の近くにアジトがあるために判明した。という訳ですかな?」

「そのようじゃな」

「今まで、他の【村】などでの報告は無かったんですかい?」

「【ハンターズギルド】の創設が間もない大昔ならいざ知らず、今現在は余程の事が無い限りは【村】に【ギルドナイト】を派遣する事はないからのぉ。【ギルドナイト】が所属する【ギルドナイツ】の施設も、【街】にしか無いしの。じゃから仮に密猟団が現れていたとしても、こやつらのような巧妙な集団は情報不足だったようじゃ」

 

「――で、人数は?」

 

「入れ替わりが激しいようじゃから、概ね二十五人という所かの。じゃがお主の言う【頭】を潰したいなら、リーダーとその取り巻きを征伐するだけで良い。後は烏合の衆に等しい連中じゃそうじゃ」

「……。それで、その烏合の衆とやらが再び結成しませんかね?」

「その可能性は薄かろう。統率の取れているのが取り巻きの五人だけじゃそうじゃから」

「リーダーの特徴は?」

 

「それがの……」

 【ギルドマスター】は、何故か言い淀んだ。

「お主、グリードという名前を聞いた事はないか?」

 

「……。同僚に同名の者がいたのは知っております。重症を負った後遺症が元で引退した、と聞きましたが――?」

 

「そやつがの、リーダーらしいのじゃよ」

 【ギルドマスター】は、苦虫を噛み潰したように言った。

 

「――。なんですと?」

「つまりの、敵のリーダーは、元【ギルドナイト】なのじゃ」

 

 二人の間に、沈黙が下りる。

 

「……。【古龍種】のレア素材を売る程揃えられるのなら、かなり詳しく生態を知っている者がいるだろうとは思ってましたが……」

「【ギルドナイト】だった頃の知識を利用して、儲けていようとはの……」

「【古龍】を狩るのは、取り巻きなんでしょうかね?」

「まあ烏合の衆に指示を出すのはそいつらじゃろうな。直接手を下す事もあるのじゃろうて」

 

「そいつらが【ギルドナイト】の可能性は?」

 

「それは無いじゃろう。元々【ギルドナイト】の数自体が少ないのじゃ。この【街】も含め、各地で登録されているメンバーにも変動が無い事を考えると、ありえんじゃろうな。登録を抹消されずにそこにいられる可能性もなかろう。違反者が出れば即処刑出来るように、メンバー同士で見張っているのはお主も知っていようが? ただし、かなり手練れの【上位】ハンターじゃという事は間違いなかろうて」

 

「……。分かりました。そいつらを含め、グリードは、俺が直接引導を渡します」

「良かろう。では、三人を援護に付ける」

 

「いりません」

 

「なんじゃと!?」

「必要ありません。俺一人で充分です」

「馬鹿な事を申すな。この前は『数名で行く』と言うておったではないか」 

「それはもっと大規模な人数がいるものだと思ったからです。高々二十五人、しかも全滅させる気が無いというならば、わざわざ貴重な精鋭を裂く必要もないでしょう」

 

「せめて援護として一人は付けたらどうかの?」

「……。俺の性格はお判りでしょう。同僚を巻き添えで殺したくはありません。なにより、集中力を削がれて自分が死ぬのは嫌です」

 

「烏合の衆といえど、【上位】ハンターの集まりなのじゃぞ? しかも、【古龍種】を乱獲出来る程の腕前じゃ。そんな輩共に、一人で対抗するというのか?」

「【モンスター】狩りを専門とするハンターは、【人間】に対する戦闘には慣れておりません。対して俺はご存知のように、暗殺を専門とする【ギルドナイト】です。対人戦においては俺の方が上でしょう」

「……。失敗は許されん。が、死ぬ事も許さん。分かっておろうな?」

 

「――肝に銘じておきます」

 




「ギルドナイツ」に入れるのは、各ギルドにつき12人までだそうです。
ですが必ずしも12人揃えなければならないという訳では無いようで、例えば「ハンターズギルド」の発祥地である「ミナガルデギルド」に配属されている「ギルドナイツ」は全員入れても9人なんだそうです。


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密猟団を駆逐せよ!(3)

今回から戦闘シーンが入ります。
まず雑魚戦から。


 

 

 

 アジトまでの地図と縮図を渡されたベナトールは、夜の闇に紛れて【北エルデ地方】への道を【ケルビ】に乗って駆けていた。

 一般的には【アプトノス】の引く荷車が使われているし、【クエスト】もこれで行くものなのだが、それより速く、小回りの利く【ケルビ】を飼い馴らして使う事も多い。

 荷馬車を引くには非力だが、個人の移動手段としては最適だからである。

 

 なお、ジグザグに跳ねながら移動する事でハンターの間で【ケルビステップ】と呼ばれている独特のステップは、敵を攪乱させるために行うものなので通常は真っ直ぐ走る。

 

 彼は闇に溶け込むように、黒い制服を身に付けていた。

 

 布地に見えるがハンターが着られるレプリカと違って、【黒龍の翼膜】を使うなどした見た目よりもかなり丈夫な作りをしており、性能もかなり良い。

 それだけではなくて各関節や四肢などは金属で補強された特別仕様になっている(俗に【ギルドガード】シリーズと言われるもの)ので、そのまま狩りに行っても支障が無い程頑丈な作りの制服なのだ。

 

 腰には通常使う【サーベル】の他に、【ギルドナイトセイバー】という【ギルドナイト】専用の【双剣】。そして対人専用に作られた特別仕様の【銃】という武器を携えている。

 

 これは【ライトボウガン】を小型化して片手で扱えるようにしたもので、【モンスター】には通用しないが【人間】は、上手く行けば貫通出来る程の威力のある弾を発射出来る。

 

 これも対人戦を行う【ギルドナイト】だけが使う事を許された武器なのだろう。

 

 【双剣】以外が【モンスター】用の武器じゃないのは対人に特化するためで、長剣などの大型の武器じゃないのは、その分素早く動いて敵より多く致命傷を叩き込めるからである。

 道の途中で【モンスター】に遭遇する可能性は充分にあったのだが、彼は【モンスター】よりも主に【人間】にシフトした武器を選んだのだ。

 

 

 現場近くに着いた彼は、鞍などを外して【ケルビ】を開放した。

 野生のものと見分けが付かないようにするためである。

 外した鞍を見付からないような所に隠すと、【双眼鏡】を覗いてアジトを見た。

 周りは闇夜だが、アジト付近は火が焚かれていて見えるからである。

 

 坑道の入り口はそれ程広くなく、人三人が並んで入れる程度。

 その入り口で見張っている者は、二人。

 重装備で槍を持っているが、【モンスター】用の【ランス】ではなさそうだ。

 使われなくなっているとはいえ、坑道付近には【モンスター】はあまり出没しないのだろう。

 

 しばらく見ていたが出入りが無いのを確認した彼は、音も無く近付きつつ【サーベル】を抜き放ち、二人の首を切り裂く。

 相手は敵に気付く間もなく無言のまま絶命した。

 気絶させても良かったのだが、重装備の者二人を一瞬で気絶させる事は難しく、その分騒がれて中の者に知られてはやっかいなので、殺したのだ。

 

 倒れる音がしないように支えつつ横たえ、すぐには見付からないような場所に死体を隠し、そろりと中へ。

 

 真っ直ぐに穿たれた坑道を少し進むと、地下に降りる梯子がある。

 梯子は人一人が通れるぐらいの穴に掛けられているため、これに取り付いて降りるしかない。

 降りた先には立って歩ける程の通路があるのは分かっているのだが、そこまで到達するまでけっこう深い。

 

「誰だ!」 

 

 後数メートル、という所で、下から鋭い声が聞こえた。

 内心舌打ちして見下ろすと、三名程が見えた。

 

 その内の二人はクロスボウを構えている。このままでは的になるようなものである。

 

 そこでベナトールは梯子から手を放し、幅広の羽根付き帽子が飛ばないように片手で押さえながら、飛び下りた。

 一応撃っては来たのだが、落下しているからか当たらない。

 というよりは、数メートルを残して飛び下りた相手に驚愕している。

 【密林】などで高い崖から飛び降りる事の多いハンターには造作もない事なのだが、これでうろたえる程驚愕するとは、こいつらはハンターではないのだろうか?

 

 見た所、全員若造のようだが……。

 

 戦意喪失している様子の一人の首を掴み、持ち上げる。

「は、放せえぇ!」

 勇敢にも切り掛かって来た者を僅かな動作で避け、首を掴んだ者をそいつに向けて放り投げる。

 

 二人は折り重なったまま気絶した。

 

 残った一人は知らせるために駆けて行ったので、案内を兼ねて後を追う。

 息せき切って大きなドアに辿り着き、「カシラ! 奇襲です!」とドアを開けたところで「案内ご苦労」と手刀を打ち込み、気絶させた。

 

 中は広くて吹き抜けになっており、数十名のハンター用装備の連中が集っていた。 

 ざわついている彼らに手を上げて静止させたのは、一段上に上がった場所の、中央部に設えた大き目の椅子に腰かけた男。面を被っていて顔は見えないが、その様子から見るに、この男がリーダーであるグリードと見て間違いないだろう。

 

 臆するどころか堂々と中央付近まで進んだベナトールを眺めながら、男は「――一人か?」と聞いた。

 

「いかにも」

「見た所ギルドナイトのようだが、目的は?」

「……。ここで雇ってもらおうとして来た、とでも言うと思ったか?」

 

 馬鹿にしたような口調で言う彼に、周囲が殺気立つ。

 

「目的は貴様の処刑だよ、グリード。そして、お前らのな」

 グリードと思われる男に顎をしゃくり、一段上がった同じ場所で椅子に並ぶように立っている、取り巻き連中を見回す。

 

 それを聞いて全員が下卑た笑いを響かせた。

 

「たった一人で乗り込んで、この人数に勝てるとでも思っているのか!」

「頭おかしいんじゃねぇのかこいつ!」

「面白れぇ! 嬲り殺してやろうぜ!」 

 

 ぎゃはぎゃは笑っているその中で、ベナトールは口を開けた。

「良かろう、やるならばいつでも良いぞ」

 

 それを聞くや否や一斉に襲い掛かって来た配下の者を、まず相手にする。

 狩りに行く前だったのか全員が【モンスター】用の武器で攻撃して来るが、当たらなければどうという事はない。

 

 ただし一度でも掠れば重傷は必至である。

 

 そのくらい【人間】に対する威力があるがためにハンターは人に武器を向けてはならない掟があり、それを犯せば即抹殺されるのだが、ここではそんな掟などどこ吹く風とばかりに躊躇なく【モンスター】用の武器を振り回して来る。

 が、【モンスター】に対して有効なこの武器は【人間】相手に振るには遅く、彼には簡単に避けられる。

 

 

 目深に被った幅広の帽子で顔が見えないが、口元だけ覗いているこの男が、不敵な笑みを浮かべたまま全て避けて行くのが腹立たしくて仕方がない。

 

 だがどんなに懸命に攻撃しようが僅かな動きだけで避けられるので、配下のハンターたちは次第に息が上がって来た。

 中には【ボウガン】や【弓】などで攻撃して来る者もいたのだが、撃つ前に軌道を読まれるために、掠り弾すら当てられない。

 しかも背後から撃っても背中に目があるかのように避けられるので、当てるどころか避けられた事によって仲間に当てる失態を犯す者もいた。

 

「……。どうした、ここまでか?」

 全員動きが鈍くなって、戦闘どころではなくなった頃、彼は動いた。

 

 彼らの傍を動き回りつつ、気絶させていく。

 気絶した端から、部屋の隅やら壁際やらに放り投げて行く。

 次に来る取り巻き連中との闘いのために、場所を確保するためである。

 戦闘中なので気絶した者をそのままにして置く方が簡単なのだが、それだとあちこちに気絶した者が転がるので闘いにくいのだ。

 なお、彼にとっては殺す方が逆に簡単なのだが殺さないのは、「全滅させる事はない」と【ギルドマスター】に言われたからである。

 

 最も、【モンスター】用の武器で攻撃して来た事実があるため、命令が下れば全員処刑されるのだろうが。

 

 

「――さて」

 戦闘に加わった者を全員気絶させたベナトールは、手をパンパンと払いながら言った。

 

「纏めて片付けるのと、一人ひとりを相手にするのと、どちらが良いかね?」

 




「モンスターハンター」の世界にも一応「馬」がいるようなのですが、未確認生物のカテゴリーに入っている程なので一般人どころか各フィールドを駆け回って様々な生物を目にして来ているはずのハンターでさえまず見る機会が無いと考えても良いようなものらしいです。

なのでもしこの「馬」なる生物を扱える者がいるとすれば王族の類いぐらいなものなので、私独自の解釈として「ケルビ」を馬同様に扱っているという事にいたしました。


ちなみに、ハンター達をすぐに気絶させずに相手が疲れて鈍るまで闘わせたのは、ベナトールが気絶させやすいように疲れるまで待ったからではなく、単に彼が戦闘を楽しんでいたからです。
始めから気絶させるつもりでいた彼ですが、動きが鈍くなってつまらなくなったので動いただけです。


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密猟団を駆逐せよ!(4)

雑魚戦では「じゃれていた」ベナトールですが、流石にグリードの相手は少しだけ本気になったようです。


 

 

 

「……。貴様、何者だ?」

「知る必要はない。それとも、冥土の土産に顔でも見て置くか?」

 

 彼は、そこで初めて帽子を取った。

 

「……ベナトール!?」

「覚えてくれていたとはな。久しぶりだなグリード」

「あぁ覚えているともよ。貴様のせいでオレは……っ!」

 彼は、怒りに体を震わせるようにしてから、顔の面を取った。

 

 斜めに三本、大型【モンスター】の爪を受けたと思われる傷があり、特に右目の下あたりが大きく抉れていた。

 抉れた箇所は火傷のようなケロイド状になっている。

 

「貴様の! 貴様のせいで【炎王龍】にこんな傷を負わされたのだぞ! そのせいで視力が落ち、【ギルドナイト】の仕事どころかハンターとしての生活が出来なくなったのだ!」

 

「……。それは逆恨みと言う奴ではないのか?」

「――なんだと?」 

 

「【テオ=テスカトル】の生態調査でヘマをしたのは貴様だろうが。俺は最初から忠告したはずだ。『上位種は下位とは比べ物にならんくらい強い』とな。通常種とは違う動きをするかなり手強い個体だったとはいえ、分かっていながら舐めて食らった貴様が悪い。俺が恨まれる筋合いは無い」

 

「な――っ!」

 

「引退したのがそんな理由だったとはな。――それで? そう考えれば【古龍種】のレア素材を売り捌いているのは儲かるためじゃなくて【古龍】そのものに恨みがあるためか? 勝手にヘマして傷付いておいて、逆恨みで乱獲されるとは【古龍種】も堪ったものではないな。それで復讐しているつもりならば、片腹痛いわ」

 

「貴様あぁ!!」

 

「しかもよりによって【ハンターズギルド】の掟を骨身に染みて分かっているはずの【ギルドナイト】がここまでの罪を犯すとは。貴様はどこまで落ちたのだ? 誇りを捨てた末路がこれとは、元同僚として情けないぜ」

 

「掟の事はよぉ~~く分かってたさ。だからいずれ【黒のギルドナイト】が仕向けられる事もな。そして、それを受けるのが貴様だろうという事も!」

 

「――ほぉ、ならばわざと俺に来るように仕向けたと? 俺への恨みを晴らすために?」

「そうともよ。先程驚いたのはまさか本当に読みが当たるとは思わなかったからだ。だが直後にやはりなと思った。最も、【古龍】も屠る【上位】ハンターがこれ程役に立たんとは思わなかったがな。所詮は烏合の衆に過ぎんという事か……」

「貴様はどこまで馬鹿なのだ。【モンスター】用の武器で【人間】を相手に戦闘出来る訳がなかろう。人間用の武器で闘えたのなら、こいつらももっとマシな動きが出来ただろうに。見た所狩りに行く前だったようだから、それが災いした。ただそれだけの事ではないか」

「それで、命拾いをしたとでも?」

 

「――俺を、()()()()()()()()殺せるとでも思ったのか?」

 次の瞬間、ベナトールは全身から【殺気】を湧き出させた。

 

「舐められたもんだなグリードよ。もう何も聞く耳は持たん。纏めて掛かって来い!」

 一瞬躊躇した取り巻きは、腰の長剣を抜き放ち、一斉に掛かって来た。

 流石にこちらの方は人間用を持っていたようで、動きも素早く、手強そうである。

 

 が、彼はまず一番前にいた一人に向けて身を沈め、踏み込むと同時に【サーベル】を抜いて抜き胴。鎧ごと切断した。

 即振り下ろされた長剣を躱し、二人目に向き直って切り上げ、脇腹から肩までを斜めに切り裂いたと同時に刃を返して振り向き、三人目を袈裟切りにした。

 そのまま【サーベル】を引きつつ躱し、四人目の胴を串刺し。抜くと同時に、そのために遅れて五人目の攻撃を受けそうなのを四人目の体を盾にして防ぎ、その隙に脇から突いて肺を抉り、抜いた。

 

 あっという間の出来事で、気が付くと選りすぐりの精鋭であるはずの五人の取り巻きは、全員死体になっていた。

 

「……。全員で掛かって来いと言ったつもりなのだが、貴様は入っていないとでも思ったか? 俺としては貴様のためのハンデとしたつもりだったのだがな」

 

 ベナトールは、息一つ乱していない。

 

「後は貴様だけだグリード。命乞いは聞かんが、遺言があるなら聞くぞ?」

 

「……。ふざけやがって!!」

 彼はようやく立ち上がり、背面から【ギルドナイトセイバー】を引き抜いて構えた。

 

「ほぉ、まだ大事に持っていたと見える。――良かろう。一対一(サシ)での勝負といこうじゃねぇか」

 ベナトールは【サーベル】を捨てると、同じように【ギルドナイトセイバー】を抜いて構えた。

 どっちみちグリードを仕留めるためにこれを使うつもりで持って来たものだったし、先程の連撃で鎧ごと切ったせいで【サーベル】の刃がボロボロになっていたため、丁度良かったのだ。

 

 ちなみに、先程の戦闘の間に気絶していたハンターの何人かは気が付いていたのだが、彼の【殺気】の恐ろしさと電光石火の如き動きを見て腰を抜かし、戦闘に参加する気すら失せていた。

 

 

 段上から飛び降りつつ切り掛かって来たグリードを、死体を飛び越えつつ飛び退って避け、その場から移動する。

 足元に五人の死体が転がっていて戦闘の邪魔だからである。

 

 追い掛けて背後から切り付けようとしたのを躱し、向き直るや否や右手で切り上げ。

 躱されて突かれたのを半身で避け、向き直りつつ左手で薙ぐ。

 飛び退ったのを踏み込みつつ右手で突き、躱されたのを追い掛けるようにして左手で薙ぐ。

 刃を合わせて防がれたと同時に片方の手は切り上げて来たので、こちらも刃を合わせて防ぐ。

 

「腕落ちてなさそうじゃねぇか。視力が落ちたというのは嘘なんじゃねぇのか?」

「遠目が落ちただけだ。普段の生活には支障はない」

「成程、ならハンデを作ってやる必要は無かったという事か?」

「舐めるなよベナトール。オレはそこまで落ちちゃいねぇ。少なくとも戦闘においてはな!」

「嬉しいねぇ。物足りないまま終わると思ってたんだが、楽しませてくれそうだ」

「相変わらずふざけた野郎だ」

「ふざけてるのはどっちだコラ、貴様処刑されようとしているのが分かっているのか?」

「立場は分かっているさ。そのために貴様をよこすように仕向けたのだからな。だが、ただ殺されるつもりはない。貴様を道連れにしてやる!」

「――良かろう。それが出来るようにせいぜい抗うんだな!」

 

 その時横から気配がしたのに気付いたベナトールは、合わせた刃を押し退けつつ後ろに飛び退った。

 直後に乾いた破裂音が響き、二人の間を弾が抜けた。

「カシラ! 援護いたします!!」

 そこには【ライトボウガン】を構えたハンターが立っていた。

 

「やめておけ、こいつを巻き込むのが落ちだ。自分の大事なリーダーに当たっても良いのか?」

 逡巡している者の他にも【ガンナー】がそれぞれの武器を構えてあちこちから狙ってはいたのだが、そう言われると攻撃をためらう。

 現に先程の戦闘でいくら撃とうが簡単に避けられて太刀打ち出来ず、挙句の果てに気絶させられているので、避けられた事によって自分達の大事なカシラに当たる恐れがあるのは分かっていた。

 が、それでも戦闘中に撃って来た不届き者がいて、案の定ベナトールに避けられて、グリードは微かにではあるが二の腕を掠められた。

 

「だから言ったのだ」

 呆れたように首を振るベナトール。

 【ガンナー】達は、悔し気に武器を下ろした。

 




まだ戦闘は続きます。

二人で調査したと思われる「上位テオ=テスカトル」についてですが、「通常種とは違う動きをするかなり手強い個体だった」という事ですので、恐らく「特異個体」もしくは「剛種特異個体」だと思われます。


あ、グリードの推定年齢はベナトールよりも若く、多分二十代後半もしくは三十代だと思います。
私はどのキャラに関しても明確な年齢設定はしていませんが、ベナトール(オッサン呼ばわりされているので四十代ぐらいだと思われ)よりは遥かに年下です。


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密猟団を駆逐せよ!(5)

この回で戦闘シーンは終わりです。


 

 

 

 

 刃が交わる音と二連撃の空気を切り裂く音が、先程から続いている。

 二人の【ギルドナイト】の対決はハンターの動きをも遥かに凌駕しており、二人共【双剣】を使っているのもあって舞うように美しくさえ見え、ハンター達は手も足も出ないのもあって、二人の闘いに魅了されていた。

 そのいつ決着がつくとも知れぬ勝負は、まるでアリーナで剣闘士の闘いを見ているかのような見応えがあるため、むしろハンター達は、内心では終わって欲しくないと思う程興奮していた。

 

 自分達のリーダーが処刑されようとしているのに、である。

 

 戦闘が長引くに従ってお互いの息も荒くなっていったが、主にその息遣いが目立つのはグリードの方だった。

「……。相変わらずタフだな貴様は……」

「それだけが取り柄なもんでな」

 

 と言っても、単に体力を消耗しないような立ち回りをしているに過ぎないのだが。

 

 しかしこれだけ長く闘っていると無傷ではいられず、深手ではないにせよ、お互いに体のあちこちに切り傷や刺し傷が付いている。

 舞うように闘う度に汗と共に血も落ちるようになって来、勝負はどちらが先に致命傷を与えるかというよりは、体力を削った方が勝ち、というような様子になって来ている。

 

 と、その時グリードが僅かに足をふら付かせた。

 

 その隙を見逃さず突いたベナトールだったが、刹那で躱される。

 飛び退ったグリードは、最後の勝負とばかりに頭上で【双剣】を交差させた。

  

 ジャリーーーン!

 

 刃が合わさる音がした途端、彼の足元から紅い闘気が立ち上った。

 たちまち今までの動きとはまるで違う速さに変わり、鬼の如くに攻撃していく。

 

 俗に言う【鬼人化】というものである。

 

「ようやく本気になったか?」

「うるせぇ! その余裕がいつまで続くか試してやる!!」

 息もつかせぬ連撃に、流石の彼も押され気味になった。

「どうした、なんなら貴様も【鬼人化】しても良いんだぜ?」

「馬鹿者が、ますます体力が落ちるのが分からんのか貴様は。それが解けた直後を貴様の最期にしてやる」

「それまでに決着をつけてやるわ!!!」

 

 と、ベナトールが下がった先に死体から出た血溜まりがあり、うかつにも滑ってしまった。

 

「もらったあぁ!!!」

 バランスを崩した彼に向け、切り下しと突きが同時に来る。

 切り下しの方は辛うじて防げたが、突きの方は防げずに、そのまま受けてしまった。

 

 脇腹から血が溢れて行く。

 

 だが、頑丈な制服の下に筋肉の鎧を身に付けているような彼は、貫通する程の衝撃を筋肉が吸収して貫通を許さず、致命傷に至っていない。

 

 二人は動きを止めている。

 

「……そ……んな……」

 刺されたのはベナトールのはずなのに、グリードの方が驚愕の面持ちで苦し気に声を出した。

「……。残念、だったな」

 

 反対側から見ていたハンター達は、大きく目を見開いたままガクガクと震えている。

 グリードの背中の中央辺り、丁度心臓があると思われる場所から、【双剣】の一つが突き出していたからである。

 彼はバランスを崩しつつも、心臓ががら空きになる瞬間を見逃さなかったのだ。

 

「遺言は、あるか?」

「……く……そ……。き、貴様に……。オレは貴様に……、勝ちた、かった……」

 そう言って、脇腹に突き入れた一本を掴んだままの手に力を入れたが、その震える手でそれ以上、押し込む力は残って無かった。

 

「すまんが、叶えてやる事は出来ん。さらばだグリードよ」

 ベナトールはそう言うや否や心臓を抉り、抜いた。

 

 噴水のような返り血を浴びつつ、脇腹に刺さった物を抜く。

 体に力を入れて出血を抑えているので、血が吹き出さない。

 崩れ落ちたグリードに跪き、力無く持っているもう一本を取ると、それを証拠とするために二本とも回収した。

 

 深く息を付いて踵を返し、部屋を出て行く。

 何人かのハンターが身構えようとしたが、彼が睨むと、そのまま大人しくなった。

 




「双剣」同士の闘いって、見応えあると思うんですよね。
ましてや「ギルドナイト」同士ですから、さぞや乱舞も綺麗だったろうと思います。


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密猟団を駆逐せよ!(6)

やはりただでは帰してくれなかったようです。


 

 

 

 

 アジトから少し離れた所で乗って来た【ケルビ】を呼び、鞍を付けて身を押し上げる。

 が、いざ駈け出そうとしたまさにその時、背後に殺気を感じて腰の【銃】を抜いた。

 そのまま振り向かずに脇の下から後ろに銃口を向け、撃つ。

 

 パパンッ!

 

 乾いた破裂音が二つ、ほぼ同時に聞こえた。

 腰の後ろに焼けるような痛みが走る。

 その直後、その場所が爆発するように弾けた。

 

「うがっ!!」

 あまりの衝撃に声を出すベナトール。

 

 落ちそうになるのを堪え、そのまま駆けた。

 相手の呻き声と倒れた音は聞いたのだが、死んだのかどうか確かめる余裕はない。

 

 なぜなら、【徹甲榴弾】を撃ち込まれたのを知ったからである。

 

 弾が貫通しなかったのは己の筋肉がそうしたのかと思っていたが、わざと貫通させないようにしてあった事を理解した。

 着弾後に爆発して致命傷を与えるこの弾は、貫通してしまうと役に立たないからである。

 

 アジトから少し離れたこの場所は、アジトからの焚火が届かず暗闇なのだ。

 しかも今宵は新月で、頼れるとすれば星明りのみ。

 にも関わらず、相手は【ケルビ】に乗った事によりほぼ固定される腰を、避けられないと分かって正確に撃って来た。

 そして、一発でも充分に致命傷を与えうる、【徹甲榴弾】を使って来た。

 これはかなり夜目が利き、尚且つ手練れたハンターの仕業に違いない。

 

 ベナトールは激痛に上半身を折り曲げて耐えつつ、とにかく落ちないようにしながら【街】を目指した。

 傷の状態は触らなくても分かる。大きく抉れて肉が爆ぜ、穴が開いているはずだ。

 下手をすれば腎臓の一つくらいは無くなっているかもしれない。

 

 【秘薬】も持って来るべきだったな……。

 

 時々【回復薬グレート】を呷りつつ、彼はそう思った。

 

 

 

 あともう少しで【街】に辿り着くという直前で、ベナトールは力が抜けて【ケルビ】から落ちてしまった。

 ここはハンター達が使う【マイハウス】の辺りだろうか? それとも食材屋などが使う倉庫の辺りだろうか。

 とにかく街門からは外れた奥まった所の草の上に、ベナトールは俯せに倒れていた。

 心配そうに【ケルビ】が寄って来たが、もうその背に這い上がる力は無い。

 

 そこで、合図を送った。

 

 【ケルビ】は躊躇したが、意を決したように【街】へ駆けて行った。

 【ギルドナイツ】の施設内にある、騎乗用【ケルビ】の飼育場へ帰すためである。

 おそらく鞍には大量の血が付いているはずなので、飼育係の者が気が付けば【ギルドマスター】に知らせるだろうと思ったのだ。

 鞍には彼の物ではない【ギルドナイトセイバー】が括り付けられてある。それには個人の名前が記されているはずで、それでグリードが死んだ事も明らかになるだろう。

 

 なぜなら【ギルドナイト】の誇りとも言える【ギルドナイトセイバー】を手放す事は、彼らにとっては死を意味するからだ。

 

 そういう意味でグリードが手放さなかったのは、誇りを捨て切れなかったとも言えるのである。

 最も、肌身離さずという訳にはいかないベナトールのような暗躍者は、代わりにセイバーを斜め交差させた形の名前入り護符を持っていたりするのだが。

 

 

 少し、眠ろう。

 

 喘ぎつつ、ベナトールはそう思った。

 ハンターの驚異的な回復力は、寝ただけでもかなり改善するからである。

 幸いここはまだ【街】の明かりが届いていないため、一般人や他のハンターらに見付かる可能性は低い。

 かなり血圧が下がっているのはずっと前から分かっている。このまま意識を手放せば、もしかしたら死んでしまうかもしれない。

 

 が、死ぬつもりはまだなかった。

 

 【ケルビ】を先に帰したのは、少しでも早く【ギルドマスター】に知らせたかっただけだ。

 だが、自分が報告出来るようになるまで持つだろうかとも考えていた。

 

 意識は徐々に低下している。

 それに委ねたい気持ち良さに、彼は抗っていた。

 




脇腹を突かれたくらいではビクともしない彼ですが、これは堪えたようです。

弾にはレベルがありますが、ここではレベル1を使ったと思って置いて下さい。


「ギルドナイトセイバー」には「フロンティア」では強化先があるのですが、強化すると「ギルドナイト」の名前が無くなってしまうため、あえて「ツインドクレスソード」や「マスターセイバー」にはしておりません。


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密猟団を駆逐せよ!(7)

これがこの話の最終話になります。


 

 

 その頃、【マイハウス】で目を覚ました者がいた。

 もうとうに深夜になっている。起きている者はほぼいないだろう。

 

 なのに、微かに血の臭いがしたからだ。

 

 部屋を出て広場に出てみる。新月の夜だからか、星が降るように綺麗だった。

 

 確かに血の臭いがする。

 

 彼はそう思いながら、その場所に行ってみる事にした。

 なぜなら、それは【モンスター】ではなくて【人間】の血の臭いだったからである。

 

 誰かが怪我をしている。

 彼はそう思ったのだ。

 

 臭いは【街】の外から漂っている。だから行き倒れだろうかと始めは思った。

 

 

 

 ベナトールが抗え切れなくなって意識を手放そうとしたまさにその時、遠くから草を踏む音が聞こえた。

 しかも、少しずつ近付いて来ているようだ。

 

 ……見付かってはまずい……。

 

 彼は喘ぎつつも腰の【銃】に手を伸ばし、ピタリと足音の主がいる辺りに向けた。

 が、引き金を引く直前に、覚えのある声を聞く。

 

「……。オッサン?」

 ……アレク……。

 

 アレクトロならば自分を【ギルドナイト】だと知っているから殺すことは無い。

 が、出来れば見付かりたくは無かった。

 

「そこにいるんだよな?」

 

 まだ正確に場所を把握していないのだろう。そのまま歩いて来た彼は、倒れているベナトールに足を引っ掛けて転んだ。

「いって!? すまん大丈夫か?」

 圧し掛かってしまったのを慌てて起き上がり、偶然傷のある箇所に触れて、愕然とする。

 

 べったりとした血の感触があったからである。

 

「おいオッサン!? 何があった!?」

 とにかく助け起こそうとするが、相手の力が入らない。これには狼狽した。

 重症を負っても平然としている程のベナトールがぐったりしているという事は、致命傷になっていると考えても良いからだ。

 

「とにかく医務室へ――!」

 が、運ぼうとする彼の肩を、ベナトールは押し止めた。

「……。医務室はまずい……」

「なぜだ!? 運ばねぇと死んじまうだろうが!」 

「【仕事】の、途中なのだ……。そこに運べばバレてしまう……」

 

 ハンター専用とはいえ通常の医務室では、彼が正体を隠している事がバレてしまう。

 それに、カイやハナの目にも入るだろう。

 

「……運ぶなら、【ギルドナイト】専用にしてくれ……」

「んなもん場所分かるかよ!?」

 【ギルドナイツ】の施設内にあるのは分かっているのだが、その組織自体が機密事項なので、【ギルドナイツ】のメンバーではないアレクトロが知っているはずがないのだ。

 

「…………」

 

「お、おいオッサン!!」

 ベナトールは、とうとう意識を手放してしまった。

 

 まずい、どうにかしねぇと!

 

 アレクトロは重いベナトールを無理矢理担ぎ上げ、【街】の中には入らずに、外周を進んでベナトールの【マイハウス】までよたよたと歩いて行くと、外に面した窓から入ってベッドに半ば放り投げた。

 堂々と街中を歩いたりすれば誰に見付かるか分かったものじゃないし、血の跡で騒がれても困るからである。

 

 召使アイルーに指示して【ライトクリスタル】の入った大型のランプを持って来させ、彼の状態を見る。

 夜の狩猟で慣れているアレクトロでも、詳しく見るには明るくしたいからである。

 「【仕事】」と言っていたので【ギルドナイト】の制服を着ている事は分かっていたが、黒の制服は初めて見る。

 

 今夜は新月なので、闇仕様なのだろう。

 

 深手ではないものの上半身のあちこちに切り傷やら刺し傷やらがあり、高くつくであろう制服がボロボロになっている。

 脇腹に深めの刺し傷を見付けたが、致命傷という訳でもない。

 このくらいの傷ならオッサンは平然としているはずで、そう考えると意識を失う程の傷は、少なくとも体の前面には見当たらない。

 ならば裏か? とひっくり返してみたアレクトロは、途端に思考停止する程ショックを受けた。

 

 腰の後ろ側が大きく抉れ、穴が開いていたからである。

 

「こいつは……。ひでぇ……!」

 肉が爆ぜて筋肉組織がぐちゃぐちゃになっている。

 それどころか肋骨の一部や内臓の一部が顔を出している。

 回復系アイテムを飲んだのか既に回復の兆しは表れていたが、それにしてもあまりにも酷い。

「徹甲……榴弾に、当たったんだよな……?」

 

 でもなぜだ? オッサンなら撃たれる前に軌道を読んで避ける事など容易いはず。   

 

「とにかく、回復させねぇと!」

 主人のあまりの惨状を見て、泣きながらオロオロしている召使アイルーに【アイテムボックス】から回復系を持って来させるように指示していると、ドアがノックされた。

 

「ベナトール殿、帰っておられますか?」

 恐らく伝令の者だろう。

 

「帰って来てるがそれどこじゃねぇんだ。ちと手伝ってくれよ!」

 アレクトロが声を掛けると、こんな時間に違う者がいるのに警戒しつつ、伝令が入って来た。

 

「――これは――!」

 伝令は、ベナトールの状態を一目見るなり絶句した。

 

「な、ひでぇだろ!? だから早く回復させねぇと!」

「――分かりました。後はこちらにお任せ下さい」

 

 言いつつ、彼は短剣を抜いて身構えた。

「介抱して下さったのは感謝いたします。ですが、我々は秘密を守らねばなりません」

 

「ちょ! ちょっとタンマ!!」

 刺して来るのを躱しつつ、アレクトロは言った。

「俺はオッサンの正体を知ってるんだ! そして、オッサンもそれを認めてる!」

 

「――。なんですと?」

 

「オッサンは【街】の外に倒れてた。だが、ここに運ぶまでにまだ意識があったんだ。そして、俺が近付くまでに弱々しいが【殺気】を出してた。その【殺気】の特徴でオッサンと分かったんだが、んなこたどうでも良い。とにかく俺だと分かるとそれを消し、俺に身を任せてくれたんだ。嘘だと思うならオッサンの意識が戻ったら本人に聞いてみれば良い。今はとにかく治療が先だ!!」

 

「……。分かりました」

 伝令はそう言うと、その場で簡易治療だけしてベナトールの血を止め、運んで行った。

 

 

 次の日、アレクトロの証言通りに【街】の外れの草むらに大量の血痕が見付かった。

 そして血の跡がベナトールの【マイハウス】まで続いていた事から、その血が彼のものであるという証拠であると同時に、アレクトロが運んだ事も証明された。

 ベナトールの意識はまだ戻っていなかったが、【ギルドマスター】自体が二人の関係を認めていたため、アレクトロの処刑は免れた。

 

 

 

 後日、長い話が出来る状態まで回復したベナトールから詳しい報告を受けた【ギルドマスター】は、残党狩りとも言える作戦で団員ハンター達を探し出し、全て処刑させた。

 ベナトールのために「全滅させなくても良い」と言ったようなものだったし、【モンスター】用武器を使ったという事実がある以上、見逃す訳にはいかなかったのだ。

 

 アジトは封鎖され、元々使われなくなっていたのもあって、その坑道跡は爆破された。

 そのために訪れていた【ギルドナイト】の一人が、アジトから少し離れた場所で腐乱した、【ガンナー】と見られる死体の残骸を見たという。  




話の中の、切りの良い部分で分けて投稿したんですが、まさか七話まで続くとは思いませんでした。
しかも、それでも一話が長くなる場合もありましたしね。

あ、今更なんですが「ギルドガードスーツ」シリーズの色は「フロンティア」では紅と蒼の二種類しか無く、従って黒い制服は存在しません。
(「ギルドガードベスト紅」シリーズは黒いんですが、こちらを着ると「サーベル」を装備しなくなるのでベナトールは「スーツ」シリーズを着用している事になります)
ですが、闇仕様という事ですし、恐らく「ギルドナイト」自身で用途に応じて好きな色を着れるんだと自己解釈いたしました。

「禁忌モンスター」である「黒龍」の素材が使われていますが、制服と「ギルドナイトセイバー」は支給されるものだと私は考えていますので、彼が狩ったわけではありません。
なので、多分ベナトール自身も「ミラボレアス」は見た事もないのではないでしょうか。


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食モス連鎖

前回までは血生臭い話でしたが、今回の話は真逆で、血の表現など全く無い平和そのもののような話です。


 

 

 

 【モス】っつう【モンスター】ってのは、【火山】とか【雪山】みてぇな過酷な環境じゃねぇ限りは大抵どこにでもいるもんなんだが、特に【密林】とか【樹海】とか、やっぱ緑が多い環境を好むみてぇなんだよな。

 

 なんでかって?

 そりゃあいつらの主食がキノコ類だからさ。

 

 俺もハンターの真似事やってたちっせぇ頃、【アオキノコ】なんかを採る時なんかに、よくあいつらの世話になったもんだ。

 ほらあいつらってキノコの場所を匂いで感知してそこまで行って食いやがるだろ? だからあいつらの後を付いてったらキノコが生えてる場所が分かるってぇ寸法なわけだよ。

 

 ――あん?

 

 なんで俺が語ってるかって?

 そりゃおめぇ、こんな面白れぇ事があったからだよ。

 

 

 

 ある日俺は、いつものように無理矢理ハナに付き合わされて、キノコ狩りに付いて行かされてた。

 クッソ面倒臭ぇから行く気なんざ更々無かったんだがよ、オッサンが【仕事】だっつうし、カイが「行こう」っつってしつけぇし、まあ俺も丁度暇だったから「しゃあねぇか」ってなもんで、【密林】まで行ったわけよ。

 

 で、あれは確か《5》だったか? に【モス】がよく群れてるとこあんだろ? そこだとキノコの場所を教えてもらいやすいってんで、そこでキノコ採取してたわけ。

 おめぇ、もしかしたら知らねぇかもしんねぇけどよ、あそこ、地面にただ生えてる分かりやすいとこだけじゃなくて、まるで取られまいとするみてぇに、背丈が低くて丸っこい葉っぱのシダ類の下に隠れて生えてるキノコがあってな、そいつを見付けると、なんだかキノコが秘密にしてる取って置きのやつを見付けたみてぇな感じがして、ほくそ笑みたくなんだよ。

 

 ま、んなこたどうでもいっか。

 

 とにかくだ、そこでカイとハナは楽しそうに話しながら、【アオキノコ】やら【特産キノコ】やらを採ってて、暇な俺は適当にその辺を見回しながら、【モス】の観察とかしてたわけよ。

 丁度季節は【繁殖期】で、【モス】の数も多かった。

 でよ、その内の一匹が、いつものように旨そうに【アオキノコ】をむしゃむしゃやってんのを見るともなしに見てたんだが、その後ろにもう一頭がやって来て、そいつのケツに付きやがった。

 

 なにやってんのかなと思ってたら、そのまま前の奴の、ケツの辺りに生えてるキノコをむしゃむしゃやり始めたんだわ。

 

 【モス】ってのは普段動きが鈍いからか、それともカムフラージュのためなのか、体毛に苔やらキノコやらが生えてっだろ?

 だからあいつらを狩って剥ぎ取ると、たまに【アオキノコ】が取れたりするんだが、つまりはケツに付いてた一匹が、前の奴の体毛に生えてた【アオキノコ】を食い始めたってこったな。

 こいつらキノコでさえあれば仲間に生えてるやつだろうがお構いなしかよ? とか思って見てたらば、その後ろにまたもう一匹が付いて、同じように前の奴のキノコを食い始めた。

 

 面白れぇなと思って見てたら、そんなふうにしてどんどん繋がりやがった。

 

 たまたまそういう形になったのか、それとも普段でも【繁殖期】にはそんな列が出来るのか、五、六匹ぐれぇが繋がったまんま前の奴のキノコをむしゃむしゃやってんのがおっかしくてな、ゲラゲラ笑ってたわけ。

 一番先頭にいたのが地面に生えてるキノコを食い終わって移動し始めたら、他の奴らはまだ食い足りなかったみてぇで、食いながら繋がったまんま移動しやがんの。

 曲がったら曲がったまんまになるもんだから、たまたま俺が中心になって囲まれたようになって、それが更に可笑しかったよ。

 

 あんまり俺が笑ってるもんだから二人が顔を上げたんだが、その光景見て「可愛いぃ~~」とか言いながら、笑い出して。

 奴らの鎖が自然に離れるまで三人で笑ってた。

 危険な【モンスター】が潜むフィールドでありながら、こんな平和な光景もあるんだなと思ったよ。

 




口調や内容で分かると思うんですが、語っているのは「アレクトロ」です。
彼はこんなふうに率先して自分から語るような性格では無いんですが、今回は余程面白かったようです。


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狩猟だけが能じゃない

アレクトロの特殊能力が便利な件について(笑)


 

 

 

「おね~さんっ、依頼、何か来てるぅ?」

「はい。【ドスランポス】変種の討伐依頼が来ておりますよ、お嬢様」

「【ドスランポス】変種かぁ……」

「行ってらっしゃい♪」

「ちょっとアレク! なに満面の笑みで手を振ってるわけぇ!?」

「んなもん一人で行けるだろうが」

「あのねぇ、下位じゃないのよ!? 変種よ変種! 一人で狩れるわけないじゃないっ!」

「そうだよアレク。ハナ一人で行かせるのは可哀想だよ」

「おめぇらみてぇにいつもいつも【お手々繋いで】なんかやってられねぇっつの! そう言うなら二人で行きやがれ」

「……。上位でも苦戦するおいらに、そういう事言う?」

「二人でならなんとか……。なんねぇか」

「よくお分かりで♪」

「いや俺が来るのが当たり前みてぇな目で見られてもだな」

「来るんでしょ?」

「でしょ?」

「ま、チームならば当然だわな」

「ちと待てオッサン、なんであんたまで行く気になってんだよ、ちったぁ自立させようとか考えろよ」

「だってベナはあたしの【教官】だから、来るの当たり前だし♪」

「いやその考えおかしいから!」

「結束力乱すのはんた~~い」

「んな結束力元からねぇよ!」

「……。ハナに捕まって、逃げられるとでも?」

「オイそこ、威圧するとこかよオッサン」

「あたしのバックを舐めんなよっ?」

「なよっ?」

「いやおめぇらに威圧されてもちっとも怖くねぇから」

「いい加減諦めろアレク。声が掛った時点でもう決まっているのは分かっているだろう」

「……。ケッ」

「ほんっとに素直じゃないんだからぁ」

「うっせぇよ!」

 

 

 という訳で、【密林】に来ている。

 目的は【ドスランポス】の変種討伐らしいので、「ちゃっちゃと済ませようぜ」と散策。

 

 だが、見付ける前に、空から何かが下りて来た。

 

 緑に溶け込むかのような深緑の体色。

 【飛竜】といえば真っ先に思い浮かべるような、翼の発達したプロポーション。

 しかし、むしろ飛ぶよりも歩き回る方が多いため、【陸の女王】などと呼ばれている。

 

 【雌火竜リオレイア】である。

 

 

「……。なんでこいつがいるワケ?」

「まあ同じ生息地だしな。縄張り内に入る事があってもおかしくはなかろう」

「この子も変種、なんだよね?」

「まあ変種が出るHR100以上でしか許されない狩場に来てんだから、そうだろうな」

「混戦になったらちとやっかいだが……。どうする先に狩っちまうか?」

 

「いや待て、俺に考えがある」

 アレクトロは【彼女】に見付かる前に、全員を茂みの中に隠れさせた。

 そして、なんと手甲と兜を脱いだ。

 

「お、おい、何考えてんだアレク?」

「そんな事をして噛まれたら、腕と頭が無くなっちゃうんだよ!?  分かってんの!?」

 

「良いから俺の言う事を聞け」

 アレクトロは、ヒソヒソ声で注意している二人と、兜の中で厳しい顔になっているであろうベナトールに言った。

 

「このままおめぇらはここで隠れてろ。いや()しんば見付かったとしても、ぜってぇ手を出すな。俺に何かあってもだ」

「アレク何する気!?」

「良いから黙って見てな。――良いかぜってぇ手ぇ出すなよ?」 

 

念を押したアレクトロは、一人で【リオレイア】の前へ進み出た。

 彼を見止めた相手は、威嚇をしようと息を吸い込んだ。

 

「クルル……」

 

 その時掛った()()()に、【彼女】は叫ぶ寸前で止め、『グァ?』と首を傾げた。

「クルル、ギャウッギャウッ」

『グルル……』

 そうしてアレクトロがそっと差し出す両手を、近付いてクンクンと嗅いだ。

 アレクトロは臆せずに、静かにされるがままにしている。

 

 と、【彼女】がその手に顎を擦り付けた。

 

「クゥ、クルル。クゥックゥッ……」

『グゥッ、グルル……』

 アレクトロは、その顎をしっかりと抱き締めた。

 

 

「――なんか、会話してないか?」

「してるな」

「驚いた。【モンスター】と会話出来る人間なんて、初めて見た」

 驚いて見ている三人を余所に、アレクトロと【リオレイア】は、どう見ても会話にしか思えないようなやり取りをしている。

 そしてしばしのやり取りの後、相手は翼を広げ、どこかに飛び立って行った。

 

「もう出て来ても良いぞ」

 アレクトロは、そう言って三人を手招きした。

 

「たまげたな。どうやって退けた?」