君は小宇宙を感じたことがあるか?俺はない。 (高任斎)
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1:優しくない世界。

コミックスが、家のどこかにあるはずなんだ。
あるはず、なんだ……。(探すとは言ってない)


『化物は村から出ていけ!』

 

 

 2時間。

 いや、3時間は過ぎたか。

 気のせいだとはわかっていても、まだ耳の奥で鳴り響いている気がする。

 村を出てから、ずっと駆け足状態。

 もう、村は見えない。

 遠い彼方だ。

 

 ため息をつき、空を見上げる。

 

 真夏の太陽が、ギンギラギンに輝いている。

 

 いい天気ですね、チクショウ。

 

 お日様には悪いが、このぐらいの悪態は許して欲しい。

 村の人間が俺を追い出そうとした気持ちはわかる。

 ただ、追い出された本人としては、ちょっとばかり鬱屈した感情が芽生えるわけで。

 

 男一匹旅の空。

 人間、所詮死ぬときは独り……と強がってみてもなあ。

 

 どーすんだよ、これから。

 村から追い出されたところで、ほかにツテがあるわけでもなし。

 人生ノープラン。

 

 人生、のー、ぷらんぷらん……って分割したら、ものすごい不吉な感じ。

 ぷらんぷらんは拒否したい。

 わりと真摯な気持ちで。

 

 いやまあ、生きていくだけならどうにかなるかなとは思う。

 だって俺、転生チートだもん。

 というか、目覚めたばっかりだけどな。

 ついでに言うと、前世の記憶も取り戻したばかり。

 

 たぶん、チートと前世の記憶がセットだったんだろう。

 あの瞬間まで、俺はふつーに、村の子供をやってたからなあ。

 少なくとも、村の人間に『化物』と言われるような、驚異的な身体能力を発揮したことはなかった。 

 

 

 ……村に、盗賊がログイン。

 戦争があったって大人たちが噂してたから、元は逃亡兵だったのかもしれない。

 全部で20人ぐらいだったかな。

 

 村の大人が何人か殺されて、俺も殺されそうになって……。

 

 うん、もうちょっと早く目覚めてたらなあ……。

 ルチアーノのおっちゃんも、助けられたのに。

 おっちゃん、俺に『逃げろ』って……逃げきれなかったけど、あの時俺はまだふつーの村の子供だった。

 

 村の人間が何人か殺されたから、『めでたしめでたし』というわけにはいかなかったけど、チートのおかげで俺は村を救えた。

 そして。

 そのせいで、俺は村を追い出された。

 

 まあ、武装した盗賊を殴り殺していく5歳児は、化物だよな。

 腹パン1発で、盗賊の腹部が弾けたときは、俺もどうしようって思ったもん。

 でも、ぼんやりしてたら村の人間が危なかったわけで。

 当然、最初は手加減なんかできなかったわけで。

 そりゃ、村の人間からすれば、怖いって。

 

 化物ですが、なにか?

 

 なんて、開き直っても意味ないしなあ。

 集団というか、組織は延命のために異物を排除する。

 

 俺が出て行かなきゃ、家族がやばかった。

『俺がいたから村が襲われた』程度の認識に落ち着くのは目に見えてたし。

 理不尽とは思うが、人間はそうやって心の平穏を得る生き物だ。

 

 この世界でも、人って存在はそうは変わらない。

 

 俺が村を出たからといって、俺の家族が無事じゃないこともわかってる。

 事あるごとに『あの家は……』などと難癖つけられるだろうしな。

 村での立場は、はっきりと落ちるだろう。

 

 ただまあ、家族全員で村を飛び出すよりかは……俺ひとりを放り出したほうが、生存確率は高いと思う。

 

 だからまあ、仕方ない。

 うん。

 仕方ない。

 

 どうせなら、よかった探しをしよう。

 

 村を救えた。

 盗賊を全滅させて、新たな被害者が出るのを防いだ。

 家族の安全を、とりあえずは確保した。

 

 そして俺は、独りでも……なんとかなるさ。

 

 ため息をのみこみ、もう一度空を見上げた。

 

 あいかわらず、ギンギラギンですね。

 でもさあ。

 もっと、燃えてくれねえかな。

 

 地面の。

 涙のあとを……消してくれたら嬉しい。

 

 俺は。

 村を救った俺は。

 家族に捨てられた。

 

 うん、わかってるんだ。

 安全を確保するためには、家族が率先して俺にきつく当たらなきゃいけないってのは。

 俺とは無関係ですよって、アピールしなきゃいけなかった。

 それを見て、村人たちも安心する。

 

『家族が率先して追い出したんだから、俺たちのせいじゃないよね』って。

 

 まあ、儀式みたいなもの。

 生きるためだ。

 生きていくためだ。

 

 怒るようなことじゃない。

 ただ、悲しいだけだ。

 

 人が生きるということは、夜空のようなもの、だったか。

 星のきらめきに目を奪われるが、夜空を埋めているのは闇。

 わずかなきらめきに、人は喜び、癒され、幸福を覚えながら生きていく。

 

 今はちょっとだけ。

 星が見えないってだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……よし。

 

 悲劇の主人公ムーブは、このぐらいで勘弁しといたろ。

 

 頬を叩いて、気合を入れた。

 

 まあ、こういうこともあるさ。

 貯金はともかく、感情の貯金というか、貯蓄はよくない。

 悲しいときは、さっさと泣く。

 楽しい時は笑う。

 お金は腐らないが、人の気持ちってやつは腐るからな。

 そりゃそうさ。

 人は生きているからナマモノで、感情だってナマモノだ。

 水だって、淀めば腐る。

 特に負の感情は、溜めこむとろくなことがない。

 TPOはわきまえるべきだけど、自分の感情は適度に放出しておくべきだと思う。

 自分の中で消化できる分だけ、残しておけばいい。

 

 それに、チート付きで前世の記憶を取り戻した今となっては、村を追い出されたのは悪いことばかりじゃない。

 正直、あの村にいると、この世界のことがさっぱりわからない。

 たぶん、村の外に出る機会はほとんどないし、村の外の人間と触れ合う機会もほとんどない。

 

 異世界なんだろうと思う。

 明らかに、文明的に退化しているというか……金属類をあまり見かけない。

 包丁が、村で共用されてたもんなあ。

 石の包丁とかも、普通に使ってたし。

 

 なので、盗賊の死体からちょろまかしてきた2本のナイフ。

 質が良さそうで、わりと貴重品だと思う。

 あと、革袋とか、服とか、調理器具とか。

 

 前世の知識がそのままこの世界に流用できるかどうかはともかく、やっぱり知識ってのは役に立つと思う。

 知識の量と、思考訓練の賜物。

 合理的思考は、間違いなくスキルだ。

 村の人間の事を思うと、算数や数学は、物事を順序だてて考える訓練なんだとはっきりわかる。

 それをうまく使うためには、知識というか教育が必要になる、と。

 

 実際、村から追い出されるかもな……と思ったら、すぐに旅に必要なものはなんだろうって思考にたどりつけた。

 盗賊連中の死体をあさるのも、すぐに思いつけた。

 ナイフはともかく、武器はどうしようかなって思ったけど、やめた。

 

 なんせ、俺は子供だ。

 子供が立派な武器をぶら下げて旅に出るとか、どう考えても厄ネタだろう。

 正直、弓矢は欲しかったけど、身体のサイズがね。

 でもまあ、盗賊連中の武器は、村の人間が有効活用してくれるだろう。

 20人からの金属製の武器は、貴重だろうから。

 たぶん、農具や調理道具に生まれ変わって、村に恩恵をもたらすだろう。

 

 村に、鍛冶屋があった記憶がないけどな。(震え声)

 

 そこは、村の人間の知恵と勇気でなんとかしてもらいたい。

 

 

 うん、目から汗もかいたし、水分補給しよう。 

 革袋から水分補給……って、酒!? ワイン!?

 

 しばらくむせた。

 

 そういや、村の人間も水がわりに飲んでたわ。

 ワインは、身体にワイーンだから……なんてダジャレではなく、水が悪いというか、飲料となる水が乏しいことを意味するのかもしれないな。 

 

 前世日本人の感覚でいると危ないな。

 あの世界の、あの時代でさえ、日本人の常識は世界の非常識って部分は少なくなかった。

 異世界なんて言葉で一括りにしちゃいけない。

 俺が追い出されたあの村だって、ひとつの世界だ。

 

 世界は、小さな世界の集合体。

 郷に入っては郷に従え……だな。

 

 ……うん。

 もう一度だけ。

 村があるはずの方向を振り返る。

 

 俺が生まれ育った小さな世界に。(育ったとは言ってない)

 頭を下げ、心の中で、別れを告げた。

 

 

 でも、まずは野宿の準備か……。

 陽が沈む前に、最低でも、場所と、水場を確保しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 村から追い出されて1日。

 わりと爽やかな気分で朝を迎えられた。

 時期が良かったのもあるだろう。

 これが冬だったらどうなっていたことか。

 

 村の大人たちの話を思い出す。

 遥か北の方角には、一年中、雪と氷に閉ざされている国があるとかないとか。

 まあ、村の人間の大半は『雪』を知らなかったけど。

 

 つまりこのあたりは……気候が温暖な地域なんだろう。

 そして、北のほうが寒いってことは、この世界もまた丸い天体なのかと思う。

 いや、常識にとらわれてはいけない。

 世界はひらべったくて、海の彼方には、奈落が待ち構えている世界かもしれない。

 北には氷の精霊が、南には炎の精霊がいるかもしれないし。

 とりあえず、この世界で魔法を見たことはない。

 

 地球というか、大地が球状か……。

 天体観測とか、井戸への太陽光の進入角度とか計算すれば、証明できるんだっけ?

 古代ギリシャ人はそれを知ってたんだっけ。

 ははは。

 どうやったら証明できるのかわからないけどな。

 中国が漢だった頃、日食の時期を予言した学者もいたっけ。

 

 笑うしかないな。

 前世日本人の頭の程度なんて、所詮はこんなものよ。

 教育の偉大さがよくわかる。

 

 ああ、でも……何にもない水平線を眺めると、微妙に曲線に見えるんだったか。

 証明にはならんだろうけど。

 地平線でもいいのか。

 前世日本人だと、地平線ってイメージがわかないからな。

 北海道じゃないと、無理。

 

 

 さて、と。

 小石をいくつか拾って、手の中でゴリゴリします。

 小さく砕けた、でも砂粒までいかない小石。

 

 距離を詰めて。

 息を潜めて。

 ショットガン!

 

 まさに、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる方式。

 うん、投げた石ってまっすぐ飛ばないの。

 俺の身体能力もあって、空気抵抗が弾道を変化させてる感じ。

 同じ大きさで同じ形をした石をくり返し投げるなら話は別かもしれないけど。

 大物ならともかく、小物は狙いが定まらない。

 

 とりあえず、鳥(お肉)さん、ゲット。

 

 

 いやあ、前世で泣きながら鶏を絞めたことを思い出すなぁ。

 可愛がってた鶏を、『卵を産まなくなった』って理由で、目の前で鶏の首をこきゃっと父親にひねられた衝撃ときたらもう、なんて言えばいのか。

 

 そういや、あれも今と同じぐらい……小学校に上がる前だったなぁ。

 刃物を渡されて、血抜きして、羽をむしって……。

 

 命とか、食材に感謝とかなかったからね。

 当たり前のことを、当たり前にするっていう感じ。

 うん、だから俺も、それが当たり前なんだと思ってて。

 

 中学と高校で、クラスメイトにドン引きされたわ。(震え声)

 

 伯父(父の兄)さんは、うさぎのさばき方を教えてくれたなあ。

 うさぎは、肉も大事だが毛皮が一番大事で……毛皮といっても、利用できる部分は限られていて、部位によって利用方法も違うから、切ってはいけない場所があるんだと。

 同じ動物の毛皮でも、腹と背中では伸縮度合いが違う。

 お腹に刃を入れるのは最後で、背中を傷つけるのは言語道断、かあ。

 ありがとう、伯父さん。(某大手電機メーカー勤務)

 前世では意味がなかったけど、この世界では役に立つかもしれません。

 

 今思うと、幸運のアイテムと言われる『うさぎの足』って、そういうことだったんだなぁ。

 うん、前世の俺の故郷もまた、小さな世界だった。

 間違いない。(確信)

 

 

 肉、か。

 肉かぁ……。

 

 火をつけるのが、また大変でね。(震え声)

 

 盗賊の持ってた火打石は砕け散りました。

 こういう時こそ知識チートだと、棒に革紐を絡めて、回転摩擦熱……革紐を一本ダメにして、棒とか板が壊れちゃった。

 次に思い出したのが、前世の知人が持ってたファイアピストン。

 

 注射器みたいなものを連想すればいい。

 空気を圧縮すると熱が発生する。

 原理としては、木屑を入れて、ピストンすることで熱を発生させ、火種を作る。

 

 俺のチートって、目覚めたばっかりだから。

 細かい手作業って……力加減とか、ナイフを壊したくなかったから、諦めた。

 また今度チャレンジしようと思う。

 

 遠い目をしながら、昨日の奮闘を思い出す。

 

 脳筋ってさ、ある意味最強だったんだ。

 木の棒を2本用意して、折らないようにひたすらこすり合わせたら、火種ができました。

 

 自分が人間から猿へと後戻りした気分。

 なんだかすっごい敗北感。

 

 ウキー!(棒をこすり合わせる音)

 

 

 

 調理に取り掛かる前に、昨夜沸騰させた湯冷ましを革袋の中へ投入。

 煮沸消毒すれば万全なんてことはないけど、危険は減る。

 こっちがワインの袋で、こっちが水、と。

 水の方が早くダメになるから、間違えないようにしないとな。

 

 

 ……うん、やっぱり独りで全部やるって無理がある。

 できるだけ早く、何らかの集団に属しよう。

 俺というか、人に必要なのは、根拠地だ。

 

 最悪は、軍の兵士か。

 ああ、でも常備軍の兵士なんてのは、無理か。

 

 というか、早く村の人間以外の誰かに会いたい。

 そうしないと、この世界のことが本当にわからないというか……そもそも『国』という概念が存在するのかとか、統治システムとか、そのあたりを理解しないと、対策のたてようがない。

 

 道が欲しい。

 哲学的な意味じゃなく。

 物理的な道。

 

 人が恋しい。

 文明が恋しい。

 というか、情報が欲しい。

 

 大丈夫か俺。

 村を追い出されてたった一日だぞ。

 

 自分を励ましながら、煮えた肉をかじり、煮汁も飲む。

 すごく……肉々しいです。

 でも、記憶の中の村のご飯より美味しい気がする。

 暑い盛りだしなあ。

 半日保つのかなあ、この肉。

 

 

 なんとなく。

 母に会うために地球の裏側まで旅をした少年が主人公のオープニングソングを口ずさむ。

 

 うん。

 陽は昇ってしまったが、身体能力でカバーだ。

 道連れは、俺自身の影。

 

 逃げるように駆けてきた、道なき道。

 とりあえずは、このまま村から遠ざかる方向へ。

 駆けるのではなく、歩き出す。

 

 一歩。

 また一歩。

 

 別の小さな世界に出会うのか。

 それとも、大きな世界が待っているのか。

 

 これが若さか。

 ほんの少しだけ、ワクワクしてる俺がいた。

 




原作は、どこへ行ったのか……。(震え声)
なので、30分後に2話の投下を予約しておきます。

しかしこの1話、いろんな話のオープニングに使えそう。(ゲス顔)


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2:この世界って、優しくはないな、うん。

本日2話目。
人と獣の戦闘シーンは難しい。


 村から追い出されて落ち込んだりもしたけど、俺は元気です。

 

 うん、元気だったよ。

 夏が終わり、秋が来て。

 ああ、もうすぐ冬が来るんだなあ……なんて、空を見上げてたのが、ほんの30分ほど前のこと。

 

 今、わりと死にそう。(白目)

 

 致命傷を負ったわけじゃない。

 でも、このままなら、時間の問題かなって。

 

 息を、深く吸う。

 そして、ゆっくりと時間をかけてはく。

 もう一度。

 繰り返す。

 

「おい、ちょっとは油断とか、慢心とかしろよ」

 

 俺のボヤキに対して、特に反応は見せてくれない。

 ただ、その瞳がじっと俺を見つめている。

 こちらを観察するような、嫌な目つきだ。

 

 俺も、あらためて、そいつを見つめた。

 体長は、3.5~4メートルってとこか。

 あくまでも目測だ。

 大きさのイメージとしては、軽トラ以上、トラック未満だな。

 そして、姿は……まあ、犬っていうか、狼っていうか。

 むろん、姿がそれっぽいってだけで、こんな大きいのはちょっと違うだろって思う。

 銀色の毛並みは、惚れ惚れするほど綺麗で、一種の神々しささえ感じるんだがな。

 俺を見つめている真っ赤な瞳は、どこか禍々しい。

 

「というか、お前。俺の言葉を理解してるよな?俺、お前に襲われるような事したの?」

 

 ……。

 ……。

 やめて。

 ノーリアクションは、心に効くの。

 

 いや、相変わらず俺はチートだよ。

 身体は子供だけどね。

 あれから数ヶ月経って、自分の能力とかもある程度把握したし、使いこなせている……はず。

 山で遭遇した熊だって腹パン一発でおねんねだし、狼の群れを全滅させたこともあるし、虎も殺した。

 

 ただ単純に、コイツの方が俺より強いってだけのお話。

 しかも、俺が奇襲されてダメージもらったんだから、洒落になってない。

 

 チクショウ。

 やっぱ、異世界じゃねえかよ、ここ。

 

 

 村を追い出されてから、初めて人と出会ったのが数日後。

 残念ながら当然というか、俺は不審な目で見られたけど、とりあえず会話は成立した。

 そしてそれからも、サバイバルしながら色々と情報を集めて回ってたわけだよ。

 そうしたらさ。

 なんか、聞き覚えのある国の名前や地名が出てくるのよ。

 

 世界史を専攻してたわけじゃないからアレなんだけどさ。

 この世界、どうも前世の世界と似てるというか、時間軸が違うだけなのかなって。

 異世界というより、過去へタイムスリップなのかと考えていたところにこれだよ。

 

 俺の前世の世界には、こんな生き物はいません。(震え声)

 いや、歴史の闇の中に消えたとか言われると、否定はできないけど。

 

 

 はい、回想というか、後悔タイムはおしまい。

 切り替えなきゃね。

 

 しかし、こうやって対峙しているだけで、俺は消耗していく。

 やつのほうが、動きが速い。

 なので、やつのちょっとした動きにも反応というか、対応しなきゃならない。

 精神が削られる。

 体力が削られる。

 絵に描いたようなジリ貧だ。

 

 幸い、パワーはほぼ互角かな。

 ただ、体格の差のせいか、まともにぶつかると吹っ飛ばされる。

 というか、最初にいきなり吹っ飛ばされた。

 久しぶりの痛みと、怪我に、無様なぐらい動揺したところを、もう一撃、だ。

 

 まあ、足首の捻挫ですませたところは褒めてくれ。

 そのせいで俺の足というか、機動力が半分ほど殺されたけどな。

 

 さっき口にした、『油断と慢心』ってのは、まさしく俺のことを指す言葉だよ。

 奇襲ってのは、弱い方がするもんだぜ。

 

 

 さて、どうしよう。

 俺の攻撃は……少なくとも、こっちから仕掛ける攻撃では当たらないだろう。

 

 あの巨体で俺を押さえ込み、噛み付く。

 その瞬間に反撃……ぐらいしか、思いつかない。

 絞め技はサイズ的に無理だな。

 右前足、あるいは左前足を破壊する……首に噛み付かれたら終了か。

 

 やっぱり、死ぬか俺。

 

 当たり前のことをやってたら死ぬ。

 だからといって、バカをやれば死ぬ。

 当たり前じゃなくて、バカじゃないこと。

 

 

 低く、構えた。

 身体の小ささの利点。

 左拳を握りこむ。

 強く、強く。

 

 やつに、見られている。

 いいぜ、見てろよ。

 

「ああああっ!!」

 

 叫びながら。

 左拳を、地面に向かって突き込んだ。

 

 轟音とともに、やつに向かって飛んでいく、土くれ、石、岩。

 もちろん、こんなものが、あいつにダメージを与えられるなんて思っちゃいない。

 

 視界を一瞬だけ奪う。

 もしくは、そう思わせて、俺はやつに背中を向けた。

 

 そのまま一回転。

 

 ビンゴだ、おらぁっ!

 

 俺の背中めがけて跳びかかってきていたあいつの鼻先に、右拳を叩き込む。

 

『ギュァッ!』

 

 一瞬の怯み。

 顔を庇う前足とは別の前足。

 狙いは、関節!

 こんな体格の動物の骨なんかに、まともにダメージが通るかよ!

 手根骨を押さえて、真横から前腕骨に全力の蹴り。

 

 手応えアリ。

 そして、残った前足で吹っ飛ばされる俺。

 吹っ飛ばされただけだ、問題ない。

 いや、今ので足首が悪化したけどな。

 

 どうよ?

 

 ははは……あのやろう、左の前足をぷらんぷらんさせてやがる。

 折れたよな?

 折れたってことにするぞ。

 

 賭けに勝って、これでようやく五分……いや、俺が四分か?

 

「へい、そろそろ友情を確かめ合うタイミングじゃないか?」

『グルアァァァァァッ!!』

 

 断固拒否ですね、わかります。(白目)

 

 

 呼吸を整え、もう一度低く構える。

 うん、警戒してくれよ。

 ほうら、俺は足首を引きずっちゃってるよ……。

 ちゃんと見ろよ。

 

 野生(?)の動物相手に身体能力勝負とか、ありえん。

 人として、駆け引きの勝負に持ち込まねば。

 

 先と同じように、拳を地面に突き込む……と同時に、無事な方の脚を使って前に飛ぶ。

 そして、土煙の向こうに……。

 

 あかん。(白目)

 

 読まれたのか、それとも動けなかったのか。

 待ち構えてやがったよ、こいつ。

 これが、おもてなしの心か、チクショウ。

 

 でもな。

 俺が攻撃するのは、『折れた』前足だぞ。

 

『グゥルアアアアッ!!』

 

 勢いを回転に変えて起き上がる。

 くっそ、ぽんぽん吹っ飛ばしやがって。

 

 ……うわぁ。 

 

 ある人が言いました。

『血を流すなら殺せる』と。

 

 うん。

 前足の先がちぎれたのに、血が流れませんね。

 つまりこいつ、殺せないんじゃないでしょうか?(震え声)

 

 俺は、今の攻防で、左腕が折れました。

 あと、血も流してます。

 

 ははは、戦況は俺がニで、あいつが八だな、これ。

 そばじゃあるまいし。

 

「へい、マジでそろそろ友情を確かめ合わないか?」(懇願)

『ゴォアッ!!』

 

 チクショウ。

 愛は死んだ。

 

 そしてやつが跳んだ。

 

 ふ ざ け ん な !

 

『ガルァァァァ!!』

 

 

 ……吹き飛んだ。

 いや、俺じゃなく、あいつが。

 

 何が、起こった?

 

 

「すまんな、坊主!お前さんがあんまり頑張るもんだから、つい、見守っちまったよ」

 

 声とともに、背中が現れた。

 

 でかい。

 

 いや、俺が子供だからじゃなくて……でかい背中。

 

 ……っと、やべ!

 戦いの途中で、俺は何を……。

 

 

 ああ、これが、寝取られか……。

 

 あのやろう。

 さっきまで死闘(主観)を演じてた俺をほったらかして、新しい男に夢中かよ。

 ははっ、どうぞどう……ぞ?

 

「……って、アンタ見守ってたのかよ!?」

「坊主のくせにやるじゃないか、ははは」

 

 子供と軽トラのぶつかり合いを見守るって、おい。

 なんなの、この優しくない世界。

 いやまあ、助けに入ってくれただけで、有情なんだろうけど。

 

 はあ。

 見守ってたなら、俺からのアドバイスは必要ないよね。(にこり)

 

 ……まあ、本気で必要無さそうだけどな。

 

 今にも跳びかかろうとする獣に向かって、男がゆっくりと歩いていく。

 頼もしい、絶対強者ムーブだ。

 俺も、そんな風にしたかった。

 

 距離が近づくにつれて、獣が追い込まれていくのが分かる。

 あとは、弾けるだけだ。

 

『ガアァァァッ!!』

 

 一声叫び、獣が跳んだ。

 それを迎え撃ったのは、男の、無造作とも思える右腕の一閃。

 

 綺麗な放物線を描いて、頭から落下する獣。

 

 

 

 うわあ……実際にできるんだな、あれ。

 懐かしいなあ、『リングに〇けろ』や『風魔の〇次郎』。

 

 まさしく車〇落ち。

 

 前世の子供時代に、跳躍マット敷いた床に向けて、体育館の観覧席から『ぐああああっ!』とか叫びながら飛んだことを思い出す。

 時代劇ごっこも同じシチュエーションだったけどな。

 

「おう、大丈夫だったか、坊主」

 

 ようやく、男の顔が見れた。

 意外と若い。

 20以上というか、30手前って感じか。

 

「助かりました、ありがとうございます……でも、なぜ見守った?」

「いや、なに……」

 

 手のひらで顎を撫でながら、男が笑う。

 

「どっちが倒すべき邪悪なのか、見極めようと思ってな」

 

 まさかの邪悪扱い。

 俺の純真な子供心が傷ついたよ、チクショウ。

 いや、しかし……。

 

「……あの獣って、邪悪、なんですか?」

 

 俺の問い掛けに、男がちょっとだけ視線を泳がせた。

 

「邪悪に転じたもの、だな……元々は、神獣だったんだろう。封印されてる間に、使役する神がいなくなっちまったのかもな」

 

 ……神とか、神獣とかいう単語が普通に出てきたよ。

 なんだろう、神話が身近な世界なんだろうか。

 チートがあるとは言え、神の争いに巻き込まれるとか、ぞっとしないんだが。

 今回もそうだが、強い相手には負けるしな。 

 

「……っと、おっちゃん」

「ああ、わかってる」

 

 起き上がった獣……元神獣(?)を振り返り。

 男が、右手を天に向けてかざした。

 

 なんっ……だ?

 男に向かって、集まってくる何か。

 

『宇〇刑事』『魔〇少女』『戦〇ヒーロー』『仮面〇イダー』……俺の頭の中で、前世の記憶が無秩序に交錯する。

 いや待て。

 これは。

 あれは……聖衣、か?

 

「聖闘……士?」

「……またひとつ坊主に聞きたいことが増えたぞ」

 

 俺に背中を向けたまま、男が……いや、聖闘士が、拳を放つ。

 

『グルアァァァァァ!!』

 

 高く。

 高く舞い上がる獣。

 それが、落下していくのを見ながら俺は思った。

 

 聖闘士星矢の世界……?

 時代が、合わない……よな?

 少なくとも、『現代』じゃないぞ。

 

 原作以前?

 原作のコミックスは読んだけど、アニメはろくに見てない。

 でも、主題歌は大好きで、CDも買ったぜ。

 そういや、聖闘士星矢って、いろいろ派生作品があったな。

 オメガがどうとか冥王がどうとか……『サ〇レントナイト翔』は違うんだよな?

 

 あれ?

 俺のチートって、殺されそうになって……。

 

 もしかして、小宇宙(コスモ)に目覚めた?

 ひょっとして俺。

 明日の勇者になっちゃったか?

 

 

「さて、坊主」

 

 ひょいっと。

 猫の子供のように、首筋をつかまれた。

 

「お話、しようか?」

 

 え、何その雰囲気。

 お話って、お話(物理)なの?

 

 僕、悪い子供じゃないよ。(目逸らし)

 

「とりあえず、坊主。名前は?」

「……村では、アルって呼ばれてたよ。おっちゃんは?」

「俺か?俺は、テリオスだ」

「そっか。テリオス、助けてくれてありがとう……一応な」

 

 

 さて、なんで聖闘士の存在を知ってるとか、聞かれるんだろうな。

 村を追い出された経緯を、そのまま話すのは良いとして。

 

 まあ、なんとかごまかそう。(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さすがチートだ、怪我が治るのも早い。

 足首の捻挫と左腕の骨折は、1ヶ月もかからずに完治した。

 

 ギリシャの海ってきれいだなぁ。

 というか、『昔』の海だから綺麗なのか。

 

 基本的に、聖闘士星矢の世界って、前世の世界の歴史に準じてたはずだよな。

 ただ、聖闘士の存在とかが、一般には秘匿されてただけで。

 

 誰か、俺に世界史の知識をくれないかなあ……。

 ローマ帝国っぽいのにマケドニアって、いつの時代なんだろう。

 しかも、色々と呼び名が違うし、わけわからん。

 

 ああ、そうそう。

 俺のチートは、小宇宙(コスモ)に目覚めたわけじゃなかったよ。

 というか、人間の枠を超えた強さがあるのに、俺から小宇宙が感じられないのがおかしいんだと。

 この世界に生きとし生けるものすべてに、小宇宙は存在する……だったか。

 なるほどなあ。

 

 だから、俺のことを『邪悪』かもしれないって勘違いしたのね。

 

『化物は、村から出て行け』

 

 あの言葉を思い出しても、心に痛みはない。

 だってさ。

 俺って、『この世界の生きとし生けるもの』じゃないってことじゃねえの?

 前世の記憶があるから、納得しちゃいそうになるのよ。

 

 俺は、あの村だけじゃなく、この世界での『よそ者』なのかなって。

 

 

 

 もう一度いう。

 あの時の怪我は完治した。

 完治したんだけどさあ。

 

『小宇宙とは、生命の危機に反応して……まあ、とにかくなんだ。小宇宙を感じろ!』

 

 毎日毎日、聖闘士に吹っ飛ばされるだけの人生です。(白目)

 

 いや、下手にチートがあるからさあ、聖闘士候補の訓練なんかじゃ、生命の危機とか感じないのよ。

 なので、こうなった。

 

 もうすぐ6歳になるいたいけな子供を、聖闘士がひたすらぶっ飛ばす。

 これ、どっちが邪悪なんですかねえ……。(震え声)

 

 吹っ飛ばされて、海で魚を捕ったり、また吹っ飛ばされて、野山で獣を狩ったり……またまた吹っ飛ばされて、物々交換で麦を手に入れて……いや、雨風を凌ぐ家を与えてくれた。

 感謝しなきゃ、感謝すべきだよ。

 

 一般人のふりをして、集団に属することが目標だったじゃないか。

 目標は達成したぞ。

 喜べよ、俺。

 笑えよ、俺。

 

 それに、原作でも、星矢たち100人の孤児というか、ほかの聖闘士候補も含めて、これと似たような扱いを受けてたじゃないか。

 別に、俺が特別扱いってわけじゃない。

 

 よし、落ち着いた。

 

 しかし、時代が違うせいか、聖闘士候補の訓練も、あの原作ほど大規模じゃない感じ。

 一応、俺も聖闘士候補ってことになってるけど、大人数を競わせて、ひとつの聖衣を目指すってことでもないらしい。

 

 話を聞く感じでは、鍛えて鍛えて、小宇宙に目覚めた上でさらに鍛えて、ある水準を超えたと認められた者を集めて、聖衣にその中の誰かを選ばせる、みたいなイメージだ。

 

 うん、つまり俺は。

 いくら強くなっても、小宇宙が感じられない以上、聖衣には選ばれない。

 

 ……そして嫌なことに。

 俺をぶっ飛ばす聖闘士たちからも、小宇宙とやらを感じ取ることができないんだ。

 

 ほら、原作とかで『この小宇宙は!?』とか『やつの小宇宙が増大していく』とかあったじゃん。

 小宇宙に目覚め、せっせと燃やしているはずの聖闘士から、それを感じ取れないって、根本的にアウトじゃないのかと思わなくもない。

 小宇宙に目覚めない限り、他人の小宇宙も感じ取れないってことならいいんだが……。

 

 さて、飯も食ったし……行きますか。

 

 

 

 そしてまた。

 俺は空を飛ぶ。

 

 

 君は、小宇宙(コスモ)を感じたことはあるか?

 俺は、まだない。(白目)

 

 




ははは、新しいソラだ。(愉悦)


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3:こ、これが、小宇宙……。(違うよ)

途中、それっぽいこと書いてますけど、突っ込まないでください。


 ギリシャの空の蒼さが目にしみる。

 ギリシャの海の碧さには目を奪われる。

 

 俺は、今日もギリシャの空を飛んでいる。

 

 

 

 

 

「科学的、かつ合理的な特訓を要求する!」

 

 俺の心からの叫びに、テリオスのおっちゃんは首をかしげた。

 

 この半年で、俺は体が少し大きくなり……何よりも打たれ強くなった。

 その証拠に、俺をぶっ飛ばす聖闘士たちの表情が、マジだ。

 最初の頃の、『手加減って、こんな感じか?』という、手探り感が見えない。

『はあああ……』とか言いながら……たぶん、小宇宙を燃やしてるんだと思うけど、真顔で俺をぶっ飛ばすし、時には二人がかりでぶっ飛ばすこともある。

 

 うん、チートってすごいね。

 人間ってさ、どんな環境にもなれる生き物なんだよ……って、前世の上司が言ってたなあ。

 

 しかし、今のやり方を続けていても、俺が小宇宙(コスモ)に目覚めるとは思えない。

 

 うまくいかないなら、うまくいくまで続けるじゃなくて、別のやり方を探そうじゃないか。

 俺はそう提案したんだが。

 

「……いや、俺もちょっとなとは思ってるんだが、ほかのやり方とか知らないし」

 

 うわあ。

 身体を鍛えて、死ぬような目にあわせ続けるだけですか。

 小宇宙じゃなくて、別のものに目覚めませんか、それ。

 

 ドン引きしている俺には気づかず、テリオスが言葉を続ける。

 

「といっても、やりすぎると死んじまうからな……俺の師匠は『ギリギリの手加減がコツだ』と言ってたが、難しいぜ」

「ち、ちなみに……小宇宙に目覚めたあとは、どういう訓練を?」

「そうだな……まずは、瞑想で自分を見つめることによって、己の小宇宙と向かい合う」

 

 おう、まともだ。

 

「そして、小宇宙を高めるために、死ぬような目にあわせる」

 

 行くも地獄、戻るも地獄、か。(震え声)

 聖闘士って、過酷だなあ。

 

 俺は、後に生まれるであろう星矢たちに、そしてすべての時代の聖闘士候補たちのために涙を流した。

 

「というか、アル。そういうことを言い出すってことは、なんか考えでもあるのか?」

「あるといえばあるんだけど……まあ、ただ吹っ飛ばされるよりはマシかなって」

「はは、アルだけに、考えがあるってか?」

 

 ……。

 ……。

 ……。

 

 ちなみに、テリオスは『髪の毛座』の聖闘士だ。

 ははっ。

 

 ……吹っ飛ばされた。

 

 人の外見的特徴を、ネタにするのはよくない。

 名前だってそうだ。

 

 

 

 

 

 さて、一応は師匠ってことになってるテリオスから独自に特訓する許可を得たわけだが。

 ただ単に、ぶっ飛ばされるだけの毎日からの解放を願ってでまかせを言ったわけじゃない。

 

 世界が違えば、同じものでも名前が違うってことがあるだろう。

 生きとし生けるもの全てに存在するという小宇宙。

 そしてここは、ギリシャ。

 

 対して俺は、どうもイタリアの方の出身らしい。

 ただ、俺の知ってるイタリアとこの世界というか、この時代のイタリアは違うような気がする。

 俺の乏しい世界史の知識だと、イタリアが統一されたのが19世紀だった気が……それ以前に、イタリアって国があったってことか?

 

 まあ、細かいことはいい。

 身体はイタリア人かもしれないが、前世の記憶を持った俺の魂は日本人だ。

 

 それで、ピンときたわけだよ。

 生きとし生けるもの全てに存在する……ってところに。

 

 そう、『気』だ。

 

 俺としては、こっちのほうがまだイメージしやすい。

 イメージトレーニングは大事だからな。

 イメージのしやすさってのは、重要な要素だろう。

 

 

 自分を見つめる。

 自然と一体化する。

 命を思う。

 

 世界という大きな命の中の、個という小さな命。

 その中にまた、世界がある。

 フラクタル理論っぽいな。

 

 それに、小宇宙は、小さな宇宙と書くじゃないか。

 とりあえず、俺はこの路線で『小宇宙』を感じてみようと思う。

 

 野に、山に。

 川に、海に。

 

 俺は一旦ギリシャを離れ、風に吹かれるように、どこにでも現れ、どこにもいない存在を目指した。

 そこにいながらいない。

 そこにいないのにいる。

 哲学だ。

 

 自分を見つめるということは、同じ方向を向くことになるのかもしれない。

 

 

 

 

 1週間。

 

 森の中で座禅を組む俺の周囲に、命を感じた。

 

 樹は生きている。

 地面から吸い上げる水の音。

 空気の流れ。

 

 

 1ヶ月。

 

 地を這う虫。

 梢からそれを狙う鳥。

 その鳥を狙う獣。

 

 それを確認しようと目を開ける。

 その瞬間、すべてが儚く壊れる。

 

 未熟を知る。

 

 

 

 1年。

 

 小さな命と小さな命の境目が溶けて流れていく。

 つながる命。

 

 小宇宙は宇宙であり、小宇宙に還る。

 

 目を開けた。

 宇宙が、小宇宙に還る。

 世界が俺へと還る。

 

 個を感じながら、世界とつながる自分を感じる。

 

 その境界を強く思った瞬間、周囲から鳥が、動物が離れていった。

 俺が、世界とのつながりを絶ったからだ。

 

 

 微かに笑う。

 若造が、と言われるかもしれないが。

 俺の目が、心の目が開いたと思える。

 

 そうか、これが聖闘士たちが見ている景色、か。

 そりゃ、俺なんて、力は強くてもただの子供でしかないよな。

 もちろん、まだ俺の目は開いたばかりだ。

 まだ、山登りの2合目、3合目ってところだろう。

 道は険しい。

 

 立ち上がる。

 自分の中の命を感じる。

 自分の中の命を練り、全身へと巡らす。

 

 世界とつながり、世界を絶つ。

 

 今はまだ不思議な気分だが、そのうちに当たり前になっていくのだろう。

 身体が軽い。

 力がどんどん湧いてくる感覚。

 

 ああ、俺はまだ未熟だ。

 

 必要な時に、必要な分だけ。

 ところかまわず振るわれる力は、世界を無駄に傷つける。

 

 歩き出す……と、前方に微かなよどみを感じた。

 

 

 

 大樹。

 

 その幹は、何人もの大人が手を回してようやくという太さ。

 何百年、何千年の時を越え、育まれた命。

 その過程で、別の多くの命を育んでいたであろう、この森の中の、大きな命。

 その命に、よどみが感じられた。

 

 周囲は暗い。

 繁りすぎた枝が、葉が、日光を閉ざす。

 大樹の周囲から、命が離れていく。

 そしてもう、大樹自身の命も……。

 

 幹に、手を触れた。

 

 静かに、撫でるように……俺は、目の前の大樹……その役割を終えかけていた命を絶った。

 

 まだ、目には見えない。

 しかし、遅れて……幹が、滑るようにずれていく。

 ズシン、と地響きを残して、大樹は世界へと還っていった。

 

 暖かな光が、周囲を照らし始める。

 よどんだ気配も消え、ここはじきに小さな命に溢れるだろう。

 

 

 

 ぽっかりと開けた空を見上げながら、俺は思った。

 

 帰ろう、ギリシャへ。

 テリオス師匠が、待っている。

 

 不肖の弟子の成長を喜んでくれるだろうか。

 

 

 ……忘れられていたりしないよね。(震え声)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリシャの海。

 ギリシャの空。

 

 周囲に満ちる命を感じながら、俺はテリオス師匠を探した。

 

 俺は、間違っていなかった。

 テリオス師匠の命、それを感じる自分がいる。

 

「アル……お前、目が?」

 

 やはり、見える者には見えるということだ。

 俺は、『閉じていた』目を開き、笑った。

 

「ええ、1年もかかってしまいましたが、ようやく見えるようになりました」

「え、あ、う、うん?」

 

 どこか戸惑ったように、テリオス師匠がうなずく。

 

 師匠としては、おおっぴらに喜ぶわけにもいかないってことか。

 そして、慢心するな、と。

 

 油断と慢心で命を落としかけたのは……もう、1年以上も前になるのか。

 村を追い出されてからは、約2年。

 

「テリオス師匠、俺の気を……いや、俺の『小宇宙』を見てください」

 

 そう言って、あるかなきかの構えを取る。

 

 

 

 

 

 師匠の、拳をさばく。

 かわす、避ける。

 

 見える。

 身体が動く。

 

 ……師匠の動きは、こんなに遅かっただろうか。

 師匠の拳は、こんなものだっただろうか。

 

 俺は、強くなった自分を喜び、少し寂しく思った。

 

 

 師匠が俺から距離をとった。

 構えを取る。

 流れるように。

 踊るように。

 師匠の身体が動いていく。

 

 髪の毛座の聖闘士。

 師匠の拳の本質は、剛ではなく柔にある。

 一撃必殺ではなく連撃で翻弄し、ここぞという時に本命が急所を穿つ。

 

 珍しい名前の星座だと思って、前世で調べたことがある。

 

 獅子座、乙女座、牛飼い座に囲まれた、4等星以下の恒星で構成された星座。

 いわゆる、春の大三角形の内側に位置する、正直、目立たない星座と言えるだろう。

 

 しかし、黄道12星座が黄金聖闘士であるこの世界。

 髪の毛座を囲む、獅子座と乙女座は、もちろん黄金聖闘士であり、牛飼い座も、全天で21しか存在しない1等星を持つ星座の聖闘士だ。

 

 それに囲まれた星座の聖闘士……といえば、見方も変わると思う。

 

 髪の毛座の聖闘士であるテリオス師匠は、黄金聖闘士の近くに控えた……それを許される、聖闘士だ。 

 

 

 

「いくぞ……」

「いつでも」

 

 

『ファンタズム・ディアデム!!』

 

 俺の身体を包むように。

 逃げ道を塞ぐように。

 師匠の拳が、襲いかかる。

 

 避けるのではなく、迎え撃つ。

 弱ければ押し切られる。

 強ければ幻惑される。

 

 師匠の拳と同じ力で。

 俺の拳をぶつけていく。

 

 ぶつかり合う拳を通して、俺は師匠を知る。

 そしておそらくは、師匠もまた俺を知る。

 

 目に見える、師匠の拳が加速した。

 だが、本命はそこにはない。

 

 拳の幻影に紛れるようにして、俺のこめかみを穿とうとした師匠の指。

 それを受け止めながら、俺は思い出していた。

 

 そういえば、『ディアデム』は、『王冠』って言葉だったな、と。

 

 

 俺は師匠の指を離し、距離をとり、一礼した。

 微笑みを浮かべ。

 帰還を報告する。

 

「不肖の弟子のアル、ただ今戻りました」

「あ、ああ……よく、戻った」

 

 俺は子供のように、師匠に聞いた。

 

「それで、どうですか、俺の気……じゃなくて、小宇宙は?」

「あ、いや……以前と同じで、全然感じないぞ」

 

 あるぇぇぇぇ!?

 

「ただ、見違えるように、強くなったのは確かだ……というか、俺より……いや、これどうなってんだ?」

 

 い、いかん、冷静に、冷静に。

 そうだ、俺はこの1年間で、自分を見つめ、世界を知った。

 この程度のことで動揺してどうする。

 

 うん、こうやってる今も、師匠の命を感じる。

 師匠以外の命を感じる。

 世界は、命に満ちている。

 

 これは、小宇宙じゃ、ないの?

 

 あ、そういえば。

 さっきの手合わせの間、師匠の命は大きくも小さくもならなかったような。

 小宇宙って、燃やしたり、高まったりするんだったよな?

 

 

 

 師匠に、小宇宙を燃やしてもらった。

 うん、燃やしてもらってる。

 ぎゅいんぎゅいん、高まってるらしい。

 

 でも、俺が感じる師匠の命は、変化がなく……尊い暖かさを俺に感じさせるだけだ。

 

 そっか。

 違ったのか。

 

 うん。

 でも……この1年が、無駄だったとは思わない。

 

 なぜかというと。

 

 

 

 

 

 以前は俺をぶっ飛ばしまくってた聖闘士たちに、ぶっ飛ばされなくなったから。

 

 うん、強くはなったんだ。

 強くは。

 

 

 

 そんなある日。

 俺は師匠に連れられて、聖域へと赴いた。

 

 アテナの結界に囲まれ、一般人がその姿を目にすることはない。

 それが、聖域……サンクチュアリだ。

 

 さすがに、胸が躍るのを感じる。

 でも、ただの聖闘士候補の俺を連れてきてどうするんだろう?

 まあ、嬉しいといえば嬉しいけど。

 

「ところで師匠、今日は聖域に何の用があるんですか?」

「ん、ああ……お前が強くなったせいで、俺や仲間たちじゃ、お前に命の危機を与えられなくなったからな」

 

 ……はい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギリシャの空の蒼さが目にしみる。

 ギリシャの海の碧さには目を奪われる。

 

 俺は、今日もギリシャの空を飛んでいる。

 黄金聖闘士の手によって。

 

 

「考えるな、感じろ!」

 

 光。

 無数の光じゃなく。

 ただ、眩しい光が俺をぶっ飛ばす。

 

 上手に手加減しながら俺を吹っ飛ばしてくれるのは、獅子座の黄金聖闘士。

 原作だと、アイオリアだったっけ?

 とにかく、超イケメンキャラだった記憶がある。

 

 イケメンというか、ナイスミドルだけど、今の獅子座の黄金聖闘士の名前はシュルツ。

 そして。

 

「まだまだぁ! ファイアブロウ!!」

 

 

 俺は、全身を燃やされながら空を飛ぶ。

 

 うん、考えてる場合じゃない。

 ただひたすら熱くて、痛い。

 

 たぶん、海に落としてくれるのは優しさなんだろう。

 

 聖闘士の技ってさ。

 代々受け継がれていくものかなって思ってたんだ。

 でも、違うんだな。

 あれは、個人の鍛錬によって編み出した技だったんだ、きっと。

 

 

 海からあがって、一息つきたい。

 なので、話しかけた。

 

「お、黄金聖闘士は、12宮を守るのが役目だと聞いたのですが……いいんですか?」

「聖戦が終わって30年ほど、次の聖戦は遠い未来ではあるが、次代の聖闘士育成は重要だからな」

 

 なるほど……。

 ん?

 聖戦が終わって30年ほど?

 

「せ、聖戦って……数百年に1度ぐらいで起こるんでしたっけ?」

「む、よく知っているな。200年から300年に1度と言われているが……特に決まってはいないらしい。ただ、聖戦が近づくと、自然に聖衣に認められる聖闘士の数が増えていくと言われている」

「ちなみに、今は聖闘士って、何人ぐらいいます?」

「前の聖戦で、多くの聖闘士たちが、戦いの中で小宇宙を燃やし尽くして消えていったのだ……少しずつ増えてはいるが、確か20人を超え……それでも30人はいなかったと思う」

 

 うわあ、空席だらけ……って、俺をぶっ飛ばしてた聖闘士が師匠を含めて5人ほどいるぞ。

 暇なのか?

 

「我々黄金聖闘士にしても、今は4人……そのうち2人は、新しく黄金聖闘士に選ばれた者だ」

 

 そう言って、シュルツが遠い目をした。

 

 そうか……生き残ってしまった立場か。

 聖戦前に、何人の黄金聖闘士がいたかは知らないが、生き延びたのは2人だけなのか。

 過酷な戦いだったんだろうな。

 

 あれ、30年前の聖戦を生き延びたシュルツって何歳なの?

 若く見えるんだけど。

 

 その疑問を口にしようと顔を上げたら、シュルツが優しい目で俺を見ていた。

 

「アル、もしかするとお前が生きている間に聖戦は起こらないかもしれない。だが、恐ろしいのはその気のゆるみだ。明日にも、聖戦が起こるかもと思って、日々鍛錬を積んでいけ……いいな」

 

 その言葉に、確かな重みを感じて、俺は頷いた。

 

 シュルツが微笑む。

 

「我々黄金聖闘士が聖地を離れることは滅多にないが、聖戦はなくとも、時折現れる邪悪と戦うために聖闘士は己を律して日々を過ごすべきだ」

 

 邪悪というと……あの、元神獣みたいな存在か。

 そうか、神話で語られる神々の戦いの勝者が、アテナとすると……うん。

 聖闘士候補としてはどうかと思うが、一括りに『邪悪』とは決めつけたくないな。

 

「ははは、悩むのもいい。だが今は鍛錬だ……いくぞ、自分と向き合い、小宇宙を感じ取れ!」

 

 え、まだ心の準備が……。

 

「ファイアブロウ!!」

 

 熱ぅい!

 痛ぁい!

 空が綺麗で、海も綺麗。

 母なる海が、俺のやけどを優しく癒してくれる。

 

 

 君は、小宇宙を感じたことがあるか?

 俺も、早く感じたい。

 




さあ、暴走の始まりだ。


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4:これが、セブンセンシズ……。(違います)

イメージはシャカ。(笑)


 今日も、ギリシャの空と海が綺麗です。

 

 涙がこぼれるのは、眩しかったから。

 そう、光がまぶしいの。

 黄金聖闘士から放たれる、光の拳が眩しくってさ。

 

 

 まあ、最初は光しか感じなかったのが、今は光の拳がわかるようになった。

 

 うん、俺は成長している。

 成長しているんだけどさあ。

 わけのわからないまま吹っ飛ばされるのと、俺に向かって飛んでくる無数の光の筋を認識しながら、避けることもできずに吹っ飛ばされるのって、どっちが幸せだと思う?

 見えてても避けられないって、結構心にくるよ。

 

 

 全身を貫く痛みに耐えながら、海から這い上がる……と。

 

 

「ふふ……ついに、私の拳が見えるようになりましたか」

「イオニスよ、手加減しておいて何を言うか」

「それでもですよ、シュルツ」

 

 ナイスミドルの外見のシュルツと同年代らしいのだが、なぜか見た目は二十歳ぐらいにしか見えない乙女座の黄金聖闘士、イオニスが微笑みを浮かべて言った。

 

「若者が成長する姿はいいものですね……明るい未来を思い描けます」

 

 

 明るい未来を思い描きながら、7歳の子供を光の速さでぶっ飛ばすんですね、わかります。(白目)

 

「……そのためにも、小宇宙に目覚めてもらわねば。クリス・ピュア!!」

 

 眩しい光が、まんべんなく俺の全身に叩き込まれる。

 

 わぁ、綺麗な空。

 

 そして俺は、母なる海へと還っていく……深く、深く。

 

 

 ……死にそうになって、這い上がってくるけどね。

 

 俺のチートがすごいのか。

 それとも、人間の生存本能がすごいのか。

 あまり、検証したくはない。

 

 なので、話しかけよう。

 

「質問があるのですが、よろしいでしょうか?」

「どうした?」

「なんでしょう?」

 

 時間稼ぎとも言うが、この人たち、真面目な質問には、真面目に答えてくれるんだ。

 基本的には、いい人なんだと思う。

 

「黄金聖闘士が、聖闘士の最高峰なのは身体で理解してますが……なんというか、師匠たちに比べると、別格すぎる気がします。ただ単純に小宇宙に目覚めて……ではなく、その先があるのではないですか?」

 

 師匠の話では、鍛えた聖闘士候補が、聖衣に選ばれるという話だった。

 それはつまり、その時点で黄金聖衣に選ばれた聖闘士候補は……。

 

「ふむ、いいところに気がついたな」

 

 シュルツが笑い、イオニスを見た。

 

「私はもともと、黄金聖闘士ではなかったのですよ……邪悪と戦い、鍛錬を積み重ねていたある日、セブンセンシズに目覚めました」

 

 ああ……あったなあ、そんなの。

 口には出さず、頷くだけに留める。

 

「身にまとっていた聖衣が、私から離れて……ショックでしたよ。聖衣から見放されたのかと思いました」

「聖衣が、離れる……ですか?」

「ええ……そして、私を導くように……この、乙女座の黄金聖衣の前へと連れてきてくれました」

 

 なるほどなあ、そういうのもあるのか。

 

「生命の危機に直面すると、人の意識は自分自身へと集中するものです……死にたくない、生きたい、そんな本能が、人の命そのものといえる小宇宙を感じ取らせ、死から生に向かって、燃やすことを覚える」

 

 イオニスは、言葉を続ける。

 

「しかし、それだけでは黄金聖闘士には届かない……聖闘士の強さは、小宇宙に左右されます。自分を見つめ続けることは、小さく閉じこもることに似ています。己を見つめ、なおかつ、己の外に意識を向けること……大きな、宇宙を認識し、それとつながる……セブンセンシズに目覚めるということは、私にとってはそうでした」

 

 ……うん。

 俺の『気』と、どこが違うんだろう。

 セブンセンシズか。

 通常の五感と、その先にある気づきと呼ばれる第六感。

 そして、その先……ん?

 なんか、そういうの……あったよな?

 7、7だよ……7つ目の、なんだっけ?

 

「まあ、とりあえず今は……己を見つめることです。では、いきますよ」

 

 

 空を飛びながら、俺は思い出していた。

 

 そう、チャクラだ。

 6つのチャクラ。

 そして、7つ目のチャクラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テリオス師匠、相談があるのですが」

「……黄金聖闘士2人に稽古をつけてもらえるなんて、アルは幸せ者だなあ」

「師匠、俺の目を見て言ってください。俺の目を見ながらもう一度言ってみてくださいよ!」

 

 師匠の肩を掴んで、ガクガクと揺さぶる。

 弟子が師匠にやることじゃないと思うが、もっと大事なもののために敢えて目をつぶろうと思う。

 

「いや、しかしなあ……小宇宙にも目覚めていない、しかもまだ子供のお前がだ、あれだけの強さを見せたら……黄金聖闘士の2人も、後継者育成に目の色を変えるのも無理はないだろう」

 

 このままだと、俺の目の色が物理的に変わりそうなんですが……。

 

「というか、昨日あれだけボロボロにされたのに、今朝はもうピンピンしてるじゃねえか……結局、死の間際まで追い込めてないってことじゃないのか?」

「怖いこと言わないでくださいよ!今は回復してますけど、毎回毎回、本当に死ぬんじゃないかって思ってるんですからね!」

 

 あの2人がすごいのは……内臓を破壊するとか、骨を折るとかをせずに、ダメージだけを積み重ねられるところだろう。

 一撃で破壊できる力を持ちながら、全身をまんべんなく痛めつけることで……俺の身体と心を極限状態へと追い詰めてくるのだ。

 

 気を練り、全身へと巡らせて回復をはかる。

 これを一晩中、寝ている間も行うのは地味に大変なんだが、それをやらないと次の日にダメージを残すことになる。

 内臓損傷とか、骨が折れたりすれば、回復まで多少時間がかかるのに。

 

 まあ、黄金聖闘士のかわいがり(物理)を受け始めてから、俺の『気』はずいぶん強化された気がする。

 怪我の功名と言えなくもないのだろうが……小宇宙に目覚める気配は欠片もない。

 

 

 ……じゃなくて。

 チャクラだ。

 そのための修行の許可をもらいに来たんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 日本人は型から入る。

 なので、俺はインドに向かった。

 決して、黄金聖闘士が追いかけてこない場所へ、とか思ったわけじゃない。

 

 それと。

 俺の修行のために、シュルツとイオニスにぶっ飛ばされた、テリオス師匠には深く、深く感謝を。

 

 

 

 

 

 うん。

 インドだけど、当然インドなんて国はなかった。

 北部と南部が統一されてないのは予想してたけど、どうも、動乱期ってやつなのかな?

 なんか、20年か30年ぐらい前に、国がひとつ滅んだらしい。

 

 それ、聖戦と関係ないだろうな?

 俺、インドの神様だけは相手にしたくないんだけど。(震え声)

 

 しかし、バーラとか、ブラティーハーラとか言われても……いつの時代だろ。

 インドって言ったら、ホラムズとムガルぐらいしか知らないよ、俺。

 ゴールって国もインドだったか?いや、インドに侵入した、か?

 

 まあ、世界三大宗教の名前をそれぞれ聞くってことは……8~12世紀ぐらいの時代なんだろうな。

 それがわかったからといって、何がどうなるってわけでもないけど。

 

 

 さて、インドに来たからには。

 インドの山奥で修行だよな。

 

 まあ、それは冗談だが……チャクラと言っても、あんまり詳しくはない。

 正直、その言葉を知ったのは、漫画とエロゲがきっかけだったしな。(目逸らし)

 早い話、エネルギー炉だ。

 正中線というか、脊髄に沿って、存在する6つのチャクラ。

 日本で言う、丹田に力を込めて……ってのも、この流れ。

 7つ目のチャクラについては後回しだ。

 

 言葉ってのは、認識を共有することで意志を伝えるツールに過ぎない。

 認識を共有できない言葉は、ただの雑音になる。

 

 聖闘士たちが小宇宙についてうまく説明できないのも、そこに理由があるんだろう。

 でも、役に立たないってわけじゃない。

 雑音が混じっても、そこにはちゃんとヒントが隠されているはずだ。

 

 チャクラ。

 サンスクリッド語で、円とか、回転するものを示す。

 

 自分の中の『何か』を伝えようとして、『チャクラ』という言葉が選ばれた。

 少なくとも、そこには注目すべきだろう。

 

 詳しく調べれば色々とあるんだろうが、まずは自分が一番イメージしやすい理論で進めていこう。

 

 正中線。

 背骨。

 脊椎……神経、か。

 

 チャクラから……確か、プラーナだったか、それが流れていく。

 

 ああ、俺の『気』は血管の流れを意識したけど、そう考えると区別しやすいな。

 

 神経。

 つながるもの。

 そして、丸い……いや、回転するもの、か。

 

 回転の力。

 回転が生み出す力。

 風車。

 水車。

 巡り、戻ってくるもの。

 

 

 

 

 1週間。

 

 回転するもの。

 その場から動かず、身体を動かす力を送るもの。

 

 

 1ヶ月。

 

 気を練り、全身を巡らせる。

 命を感じ取る。

 そこにあるはずの何か。

 回転するもの。

 

 あぁ、もしかすると。

 うん。

 今は眠っている。

 

 

 3ヶ月。

 

 宇宙の中に、小宇宙を持つ個がある。

 それは。

 小宇宙の中にも、小さな宇宙がある。

 6つの、宇宙。

 

 目を覚ます。

 静かに、動き出す。

 回転する力を、感じる。

 

 閉じていた何かが、開かれていく。

 

 気とは違う。

 熱い。

 動き出そうとする力。

 

 これが、プラーナか。

 

 

 1年。

 

 自分の中の6つの宇宙。

 荒々しい力。

 それを、『気』の力と重ねていく。

 

 両輪をイメージする。

 偏らず、支えあうもの。

 

 命を感じる。

 命が燃える。

 

 混ざり合うもの。

 同質ではなく、しかし異質ではないもの。

 

 世界とつながる。

 7つ目の宇宙は。

 チャクラは。

 己を、世界へとつなげる門なのか。

 

 大きな世界と、小さな世界の境界。

 それを。

 無制限にではなく、限定してつなぐ。

 

 個を意識しつつ、全体となる。

 

 ならば、7つ目のチャクラは。

 自分の中にはない。

 頭頂部。

 世界との接触部分。

 

 今。

 門が開いた。

 

 

 

 

 

 俺は、山を降りた。

 

 すべての景色が違って見えた。

 美しいもの。

 命の暖かさ。

 

 今まで、目をそらしていたもの。

 世界は、綺麗なものだけではない。

 

 万能ではない。

 強さは弱さだ。

 

 出来ることをやる。

 出来ることしかできない。

 

 道に倒れた者。

 まだ、望みのあるものを抱き起こし、手を当てる。

 助かる命。

 助からない命。

 

 溢れる想い。

 与える想い。

 慈悲の心。

 

 遠く離れた聖域の、アテナを感じた気がした。

 

 

 

 帰ろう。

 ギリシャへ。

 

 

 ……あの、すがりつかれても、その、困るっていうか。

 ショウニン……って何?

 いや、違いますからね。

 俺、上人とか聖人とかじゃないですから、拝まないでください、お願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目をそらしていたものに、正面から向かい合う。

 綺麗なものだけではない世界。

 

 光が消え。

 拳が現れた。

 

 受け止めていく。

 必要な力で。

 

 自分の中の円を、外側へ広げる。

 

 拳を受け止めずに流し、支え、円の力を伝えた。

 

「ぬうっ!?」

 

 半ば自分の力で飛ばされたシュルツの背中を、掌で押す。

 

 地面に叩きつけたが、ダメージはないはずだ。

 それを証明するように、シュルツがはね起きた。

 

「ただ今、戻りました」

 

 一礼。

 

『気』を知った時とは違う。

 やり遂げたという感傷はない。

 もともとあったものを、知った。

 

 ただ、それを報告するだけのこと。

 

 

 シュルツが、イオニスが、そしてテリオス師匠が、俺を見る。

 

「「「なに、それ?」」」

 

 

 ……おや?

 

 穏やかな水面に小波がたった。

 

 

  

 

 

 

 美しいギリシャの海で捕まえたタコ。

 その命に感謝しながら、岩に何度も叩きつける。

 

 え、八つ当たりじゃないですよ。

 これは、タコのぬめりを取り、身を柔らかくする調理方法の一つです。

 この時代、塩は貴重ですからね。

 塩で揉んでぬめりを取るなんて、とてもとても。

 

 いや、ホントですよ。

 ギリシャの漁師が、岸壁にタコを叩きつけてた映像を、前世で見たことありますから。

 ははは。

 子供ですけど、心は大人ですからね。

 八つ当たりなんて、そんな。

 

 

 

「ほう、なかなかうまいな」

 

 俺のタコ料理に、テリオス師匠が舌鼓を打つ。

 

 まずタコを茹でてから、適当な大きさに切ったのを油で炒める。

 軽く焦げ目がついたぐらいで、玉ねぎとピーマンを。

 海藻を小さく刻んだものを入れたら蓋をして、水を足しつつ弱火でコトコトと。

 

 結構手間がかかるけど……まあ、心を落ち着かせる時間が必要だったんだ。

 

 ちなみに、シュルツはタコを見て逃げ出し、イオニスは眉をひそめた。

 そういやタコって、デビルフィッシュとか呼ばれてるんだっけ?

 

「このあたりじゃ、普通に食うけどな」

 

 そういうテリオス師匠は、ギリシャの生まれらしい。

 

 さて、俺も食べるか。

 ……ちょいと火加減をミスったか。

 しかしなあ。

 

「師匠……小宇宙ってなんですかね?」

「う、む……」

 

 師匠が困ったように後頭部を撫でる。

 体格といい、その仕草がどこかのプロデューサーを連想させた。

 

「お前のそれが小宇宙ではないのは確かだが……小宇宙とは別の、お前の言う『何か』があるんだろうな。でも、生きとし生けるものすべてに小宇宙はあるんだから、お前の中にもあるはずだ」

「生きとし生けるものすべて、ですか……」

 

 

『化物は村から出て行け』

 

 やはり。

 よそ者ということなのかな、俺は。

 

 痛みはない。

 それは、痛みの記憶だ。

 

 大人が、子供の頃のアルバムを見て、思い出す何か。

 思い出すことはできても、感じることのできなくなった何か。

 そういうもの。

 

 

 

 

 

 黄金聖闘士は強い。

 だが、こちらもむざむざとはぶっ飛ばされるつもりはない。

 と、いうか。

 

 

 こちらが、ぶっ飛ばしてしまっても構わんのだろう?

 

 気を練る。

 チャクラを全開放する。

 慣れるまではと安全運転を心がけていたが、そろそろスペックテストも必要だ。

 

「むうっ……」

 

 シュルツの表情が歪む。

 

「小宇宙の挙動が見えぬというのは、これほどに……」

 

 そのつぶやきに、なるほどと思う。

 相手の小宇宙を感じ取り、挙動を予測する弊害が現れたわけか。

 でもそれは。

 小宇宙を感じ取れない、俺も同じこと。

 

 シュルツをぶっ飛ばし。

 俺がぶっ飛ばされる。

 

 あの黄金聖闘士と、拳を重ねて、戦っている。

 心が高揚する。

 

 男は、少年の心を持ち続けている生き物か。

 

 お互いの拳が、地を裂き、海を割り。

 そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 教皇にめっちゃ怒られました。(白目)

 

 この教皇様、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士のひとりで、引退した前教皇に代わってその地位についたらしい。

 つまり、先の聖戦で生き残った黄金聖闘士は、シュルツにイオニス、そして教皇様の3人だったってことね。

 

「でも教皇様、聖闘士同士の私闘は禁止って……俺は、聖闘士じゃないですよ」

「そう、そうだアル。つまりこれは、私闘ではなく、稽古ですよ、教皇」

 

 

 

 

 キジも鳴かずは撃たれまい。

 知ってたはずなのになあ。

 

 

「……アル、生きてるか?」

 

 水の、中に、いる。

 

「おい、アル!?しっかりしろ、アル!?あと3日の辛抱だ、頑張れ!」

 

 自分も、大変なのに、いい人、だなあ、シュルツは。(息継ぎ)

 

 しかし、黄金聖闘士でも抜け出せないって、そういうことか。

 

 この岩牢、特殊な結界だ。

 

 聖闘士は小宇宙を封じられるか、大きく制限されるんだろう。

 そして俺は、気を上手く練ることができないし、チャクラが開かない。

 

 はは、チートだけが友達だ。 

 

 

 

 

 

 君は小宇宙を感じたことがあるか?

 俺はない。

 

 というか、今ひしひしと死の危険を感じている。

 スニオン岬の岩牢で。

 




まだだ、まだ止まらんよ。(白目)


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5:これが、ギャラクシアン・エクスプロージョン……。(震え声)

ギャラクシアンエクスプロージョンを使えるサガさんは、すごいなあ。(白目)



 俺ももう10歳か……。

 村を追い出されたのが5歳の夏で、テリオス師匠に拾われたのが6歳になるかならないかの頃だから……。

 ギリシャに来て、ちょうど4年ぐらいか。

 生まれはイタリアの方でも、ギリシャ育ちと言っていいんじゃないかな。

 途中、修行で2年ほどいなくなってるけど、気にしない。

 

 え?

 スニオン岬の岩牢はどうなったって?

 

 いやあ、最初はちょっと辛かったけどさ、もう慣れたよ。

 身長が伸びたのもあるけど、やっぱり人間ってさ、たいていの環境には適応できる生き物なんだね。

 ははは。

 というか、ついさっきまで岩牢にいたからね、俺。(目逸らし)

 

「……聞いているのかね、アル?」

「はい、聞いてます、教皇様」

 

 俺はまだ10歳。

 元気の良い返事で、いろんなものがごまかせる年齢だ。

 

「……慣れるほど、あの岩牢の常連になってもらっては困るぞ」

「お言葉を返すようですが教皇様、俺はむしろ被害者です」

 

 10歳が『お言葉を返すようですが』なんて言わない気もする。(白目)

 

「う、む……まあ、確かに」

 

 渋々だが、教皇様が俺の言い分を認めた。

 

 俺が度々あの岩牢に閉じ込められるのは、『聖闘士同士の私闘を禁ずる』という決まりを破るから。

 俺は一応聖闘士候補ってことで、拡大解釈の結果……そうなった。

 

 そして。

 俺に私闘を仕掛けてくるのが、シュルツとイオニスの2人。

 まあ、シュルツが9で、イオニスが1ってとこ。

 

『なんとしてもアルに小宇宙を目覚めさせる。これは黄金聖闘士としての義務だ』

 

 とか言ってるけど、シュルツは俺を相手に戦うのが楽しくて仕方ないって感じ。

 たぶん、バトルジャンキーの気があると思う。

 イオニスはまあ、俺が聖闘士になるのを楽しみにしてるのかな……うん。

 

 青銅聖闘士や白銀聖闘士は、世界各地へと赴くこともあるからあれだろうけど、黄金聖闘士って、普段は12宮というか、ずっと自分の受け持ちの場所を守っているだけだから、ストレスが溜まるんだろうね。

 聖闘士の最高の戦力でありながら、引きこもりを強要されるってことだ。

 しかも、聖戦でもなければ、その力を振るうこともない。

 

 そう思うとさ、俺は、シュルツを強く責める気にはなれないんだ……。

 

「その、なんだ……すまんな、アルよ」

「はい?」

「あの2人は、貴重な黄金聖闘士で……度が過ぎるといっても、お前を鍛えたいという気持ちは本物だと思うのだ。だから、あまりきつく罰を与えられないという感じでな……」

 

 ……まあ、教皇様の気持ちもわかる。

 

 ずいぶんとフランクだなと思うかもしれないが、俺が教皇様と言葉を交わす回数はわりと多い。

 まあ、普段から接してるのが、テリオス師匠と、シュルツと、イオニスの3人ぐらいしかいないしね。

 以前、俺を代わる代わる吹っ飛ばしてくれた聖闘士も、最近は全然顔を見ないし。

 

 だけど、教皇様もちょっとずれてきてる。

 一応、ツッコミは入れておこう。

 

「でも教皇様、本来はあの岩牢って、黄金聖闘士にとってもきつい罰だったはずなのでは……」

「う、うむ……慣れというのは、怖いな」(震え声)

 

 最初は疲労困憊だったくせに、今じゃシュルツは1週間程度じゃちょっとやつれる程度にしかならない。

 というか、あの岩牢でヒントをつかんだそうだ。

 

 シュルツ曰く、『飢えることで食物の大事さを知るように、あの岩牢で小宇宙を封じられると、小宇宙の真髄を知ることが出来る』んだとさ。

 たぶん、シュルツにとっては罰じゃなくて、修行の一環なんだろう。

 

 イオニスはというと、『ふむ、どうやら私にはもう伸び代がないのかもしれません』とのことだ。

 同じ黄金聖闘士とはいえ、やはり差は出てくるものらしい。

 

 まあ、俺の場合……どうしても原作世代の黄金聖闘士が頭をよぎるので、いわゆる基準というものがよくわからない。

 今4人いる黄金聖闘士では、シュルツが抜けていて、イオニスがその後……そして残り2人がはるか後ろってとこらしいが。

 ただ、小宇宙を使いこなすという意味では、『イオニスには負ける』ってシュルツが言ってた。

 小宇宙の大きさは重要だが、それだけでもないってことか。

 筋肉だけじゃ、一流のスポーツ選手になれないのと一緒なんだろう。

 

 一方、この2年ほど、俺は小宇宙を感じるきっかけすら掴めない状態だ。

 新たに特訓したいところではあるが、『気』と『チャクラ』というか『プラーナ』の他に、なにかそれっぽいものを思いつかない。

 もちろん、もともとのチートボディを含め、色々と成長はしている。

『気』にしても、『チャクラ』にしても、まだ山頂にたどり着いたとはとても言えない。

 というか……大事なのは小宇宙を感じることだからなあ。

 

 ああ、こういう時にあのセリフを使うのか。

 

 聖闘士候補としては、評価されない項目ですからね。(憂いの表情)

 

 

 冗談はさておき。

 このままだと、今の黄金聖闘士の実力トップ(シュルツ)と互角に戦える『無冠の帝王(雑兵)』という結末が待っている。

 いや、雑兵でも小宇宙に目覚めた人はいるみたいだから……それ以下か。

 

 

 

 ……何を言ってるんだ俺は?

 

 黄金聖闘士も、青銅聖闘士も……そして、雑兵のみなさんも、アテナを守る兵士という意味で、貴賎はないはずだ。

 志を同じくした仲間であって、強いか弱いかで語るのは、戦いの時だけでいい。

 

 聖闘士は戦うことでアテナの力になる。

 その一方で、農作業や漁業に携わることで、聖域に住む人の生活を支える者もいる。

 そこに、貴賎はない。

 

 村を追い出されたあの時から、確かに俺は強くなった。

 でも、今の俺は……胸を張れるような人間か?

 貴重な人間か?

 

 俺は、胸に手を当てて目を閉じた。

 あの森の、俺が命を絶った大樹を思い出す。

 インドで救った人を、救えなかった人を思い出す。

 

 焦り、なんだろう。

 あるいは、拭えない疎外感か。

 

 俺の、心を濁らせるもの。

 

『気』を練りながら『チャクラ』を開きながら、いつの間にか俺は、あの時の心を失いかけていたらしい。

 小宇宙ではなかったとはいえ、『気』も『チャクラ』も、あの時芽生えたチートと同じで、今では俺の大事な半身でもある。

 あのときの心を汚すということは、俺自身を汚すのと同じだ。

 

 心技体。

 

 精神主義のきらいはあるが、まず心を第一に置いた、あの教育が間違っているとは思わない。

 

「……心?」

 

 閃くものがあった。

 

 6つの『チャクラ』は、肉体のエネルギー回路のようなものだ。

 そして、『気』もまた、基本は肉体の生命力より発する力。

 

 その先に向かう、個でありながら全となす……その境地に至るためには、悟りとも言うべき『心』の穏やかさを必要とした。

 そう、穏やかさ。

 

 世界は、綺麗なものばかりではない。

 白と黒。

 

 世界がそうであるように、人もまた、その白と黒の間の灰色の道を生きていく。

 白と黒の間を、行ったり来たりする……それを、迷いと切り捨てて良いものか。

 

 それは、世界の綺麗なものばかりを見つめているとは言えないか。

 

 

 聖闘士の小宇宙。

 小宇宙を燃やす。

 

 そこには、『感情』が大きく関わっていないだろうか?

 澄み切った穏やかさとは真逆の、ある種の激しさ。

 

 穏やかさの中に答えがあるならば。

 激しさの中にもまた、別の答えが……。

 

 なんのために戦う?

 倒すため。

 守るため。

 

 戦うための、目的。

 想い。

 意志が、人を強くもするし、弱くもする。

 

 感情の、発露。

 感情の、爆発。

 

 しかしそれは……『気』や『チャクラ』を捨てることにつながりはしないか?

 

 いや、まだ浅いということかもしれない。

 

 感情を突き詰めるということは、究極まで自分を見つめるということ。

 穏やかさも、激しさも、自分の中にある。

 

 必要なのは、純粋さか。

 

 純粋な白。

 純粋な黒。

 

 純粋な穏やかさと、純粋な激しさ。

 どちらも、同じ心から発するもの。

 ならば、それは両立する。 

 

 ありのままの心を信じる。

 ありのままの、心の力を信じる。

 

 そうだな、シンプルに心の力。

 

 心力とでも呼ぶか。

 

 自分がイメージしやすいもの。

 それが一番大事だ。

 

 

 

 

 

「テリオス師匠、相談が……」

「はいはい、行ってらっしゃい。帰ってくるのは一年後か?」

 

 

 ……この、モヤモヤした気持ちを力に変えればいいんだよな。(震え声)

 

 

 

 

 

 ダイジェスト。

 

 1週間。

 1ヶ月。

 1年。

 

 

 

「テリオス師匠、シュルツ、イオニス……ようやく、見せられるよ」

 

 深い感謝を込め、3人に頭を下げた。

 

 顔を上げ、海に向かって拳を構える。

 俺の『心』だけを見てもらいたいから、『気』を抑え、『チャクラ』を絞り、最低限に。

 

 怒りを。

 悲しみを。

 喜びを。

 楽しさを。

 そしてなによりも、感謝の心を。

 

 すべてを、拳へと集めていく。

 

 この世界の、生きとし生けるものすべてに与えられた力。

 生きることによって得られる力。

 美味いものを食べる……また食べられるように頑張ろうと思う。

 悲しいことに出会う……同じ過ちを繰り返さないと思う、あるいは立ち上がろうと思う。

 そうした日々の営みの積み重ねが、心だ。

 

 村を襲ってきた盗賊への怒りも。

 村を追い出された悲しみも。

 

 人としての営みが、生きてきた証こそが……力となる。

 それこそが……。

 

 俺の拳が、淡い光に包まれ、どんどんと大きくなっていく。

 見てくれ。

 感じてくれ。

 

 これが、俺の小宇宙(コスモ)だ!

 

 

 海が割れ、一筋の道が彼方へと続いていく。

 

 5秒。

 10秒。

 1分。

 

 開かれた空間に、左右から押し寄せる海水が、大波となって荒れ狂った。

 

 大きく息を吐き、俺は3人へと振り返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、タコの下ごしらえをしなきゃ。

 いや、ぬめりを取るためだから。

 仕方ない仕方ない。

 

 言い訳しながら、俺はタコをびったんびったん叩きつける。

 

 命に感謝、感謝。

 砂で表面を揉み、海水で洗う。

 

 あー、今日は酢の物でも作ろうか。

 うん、強めに酢を効かせよう。

 

 なんだか、テリオス師匠、疲れた表情をしてたもんな。

 疲れた時は酢の物だよ。

 あれ、夏バテには、だったか?

 

 ……美味しければいいよね。

 

 

「テリオス師匠、ご飯できましたよ」

「……」

 

 俺は、ちょっと背筋を伸ばし、頭を下げた。

 

「お騒がせしてすみませんでした」

 

 

 

 海を無駄に騒がせたという理由で、教皇様に怒られた。

 

 岩牢、1週間の刑。(いつもの)

 

 もしかすると、海を荒らされたポセイドン様が激おこだったのかもしれない。

 その1週間、岩牢はずっと海水で満たされていた。(大潮)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……どうすりゃいいのかねえ。

 

 心の激しさを見つめることで得た『心力』によって、またひとつ強くなれたが、小宇宙を感じないのは相変わらずだ。

 ようやく見つけた手がかりをあっさりと否定され、さすがに落胆する。

 働けど働けど……って感じだ。

 

 前世の記憶から、転生チートものの物語を思い出す。

 

 転生チートっていったら、もっとイージーな人生が待ってるもんだよな。

 あるいは、ざまぁされるというか、難易度ルナティックとか。

 

 いや、俺の人生ってイージーといえばイージーだけど、別の意味でルナティックモードになってるか。

 ハイブリッドってやつだな。

 

 まあ、俺は転生チートにありがちな剣と魔法の世界じゃなくて、聖闘士星矢の世界なのに、原作のはるか昔なんてわけのわからない状況に転生したわけだし。

 

 剣と魔法の世界……か。

 

 なんとなく、自分の手を見た。

 魔力、ねえ。

 

 はは、まさかな。

 うん、ないない。

 ここは、聖闘士星矢の世界だってば。

 

 でも、小宇宙って、わりと魔法っぽい感じも……。

 

 ……。

 ……。

 

 ちょ、ちょっとだけ。

 ほら、ほかに手がかりもないし。

 気分転換もかねて、さきっちょだけ試してみよう。

 そう、さきっちょだけ。

 

 

 

 

 

 

 1週間。

 3ヶ月。

 1年。

 

 ……あるやん。(震え声)

 

 いや、『魔力』といっても、なんでも出来るって感じの力じゃない。

 純粋な、『力』。

 そこに、方向性を与えて、初めて『力』を行使できるって感じ。

 身体に巡らせて身体能力を強化するとか、力をぶつけるとか……まあ、『ファイアボール』とか口ずさんだのはお約束だけど、無理だった。

 万能な力はないってことだ、きっと。

 

 ただ、困ったことがひとつ。

 

『気』と『プラーナ』と『心力』はよくなじむ。

『気』と『プラーナ』と『魔力』もよくなじむ。

 

 なのに、『心力』と『魔力』がすっごい反発する。

 なので、魔力で身体能力を向上させると、『心力』が使えない。

 

『気』と『プラーナ』を両輪にみたてて重ねることができたのなら、この『心力』と『魔力』とでも出来ると思ったんだが。

 

 んー。

 だったら、別々に集めるとどうなる?

 協調ではなく、競い合わせるイメージ。

 ふむ、やってみよう。

 

 右手に心力、左手に魔力。

 

 うわ、どちらかに偏るといきなりダメになるぞ。

 ということは、両方を同時に、バランスをとりながら……難しいな。

 

 慣れてないってのもあるが……初めて気を練ることを覚えたときのように、まずは少しずつ、だな。

 

 俺の身体を巡り、満たしている『気』と『プラーナ』……そこに、『心力』と『魔力』を。

 別の道筋を通り、右手と、左手に、薄皮を重ねるように集めていく。

 

 慣れてくる。

 その感覚に、俺が、身体が、なじんでくる。

 

 トントントンっと、階段を駆け上がっていくのにも似た感覚。

 

 それが、ある水準を超えた瞬間……。

 

「あっ、あっ、あっ……やばい、これやばい!」

 

 コントロールが効かないっていうか、制御は出来るんだけど、出力が勝手に上がっていく。

 制御できてねえじゃんとツッコミたいが、俺が、コントロールしてるんだ。

 その『結末』にむけて。

 

 やがて。

 心力と魔力が共鳴を始めたかのように、『キュイーン』という甲高い音を発し始めて、俺は恐怖を覚えた。

 

 右手が。

 左手が。

 

 引き合う。

 

 頭に浮かんだのは、『メ〇ローア』。

 

 反発してたはずの、『心力』と『魔力』が、引き合って、ひとつになろうと……そうしている間も、それぞれの力は集まり続けている。

 

 チャクラを全開、気も全力。

 チートも全部のせで、それでも、二つが引き合うのを……耐えられない。

 

 右手と左手が重なった。

 

 爆発的な高まり。

 高まり続ける、『それ』。

 

「ああああああっ!!」

 

 叫ぶことで恐怖をねじ伏せ、俺は『それ』を夜空に向かって押し出した。

 

 

 

 光の帯。

 夜空を埋め尽くす、光の奔流。

 

 時の流れを永遠に感じる光景。

 

 実際、それがどのぐらい続いたのかはわからない。

 でも、遠ざかっていく光の帯を見た瞬間、ほっとした。

 

 すとん、と腰が落ちる。

 右手と、左手の無事を確かめ……どっと汗を流した。

 

 うん、これは封印しよう。

 やばすぎる。

 

 そう決意したとき。

 

 遠ざかっていた光の帯が、弾けた。

 夜空が、明るく輝く。

 真昼のように、光り輝く。

 

「うわぁ……」

 

 前世の記憶。

 口に出してはいけない単語がこぼれそうになって、慌てて口を手でふさいだ。

 

 そして。

 

「ギャ、ギャラクシアン・エクスプロージョンだよな……聖闘士星矢の世界では、何の問題もない、うん」

 

 ははは、俺もついに原作世代の最強枠に追いついたか。(白目)

 

 お、追いついただけだから。

 まだ、平気。

 全然、兵器……じゃなくて、平気。

 

 でも、封印。

 絶対封印。

 

 だって、あれ……途中で投げ出したから、まだ全力じゃなかった。

 あれを全力で放つと……。

 

 想像し、ごくりと唾を飲み込む。

 

 俺の身体が、耐えられない。

 

 うん、封印だ。

 深く深く、封印。

 ダメ、絶対。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 呼び出されたので、聖域に向かってます。

 

 な、なんの話か、見当もつかないや……。(目逸らし)

 

 地面には影が2つ。

 うん、昼間なのに明るく輝く星が見えるんだ。

 

 200年にひとつぐらいの割合で起こる、超新星爆発ってやつだな。

 一番古い記録は、2世紀の中国だったかな。

 

 そして、記録に残ってる超新星爆発の中で、最も明るいと推測されるのが、西暦1006年に観測されたものだったかな。

 うろ覚えだけど。

 

 いやあ、偶然って怖いよね。

 

 最初は俺のせいかと思っちゃったよ。

 ははは、ナイスタイミング。

 

 人間が、遠く離れた星を爆発させるなんて、出来るわけないじゃん。(震え声)

 光の速さで何百年とか、何万年とか、そういうレベルの距離だしね。

 自意識過剰も、いいところだぜまったく。

 ははは、12歳だけど、厨二病は卒業さ。

 

 絶対に、俺のせいじゃないって。

 

 

 

 

 教皇様が激おこだった。

 

 俺をじっと見つめ、何も言ってくれない。

 何も言ってくれないから、俺にはわからないなあ。(目逸らし)

 

「……スターヒルを知っているか?」

 

 スターヒル……?

 言葉通りに受け取れば、星の丘か。

 

「まあ、知らぬとも良い……ただ、昨夜お前がいた場所の南東の方角にあるとだけ教えておこうか」

 

 南東?

 南東って、海の……いや、ブラフだ。

 ポーカーフェイスで通そう、考える素振りもなしだ。

 

 教皇様が、笑った。

 俺の肩を掴んでぎりぎりと締め上げる。

 

「そこで、ちょうど夜空を見上げて星を見ていたのだ……ふふふ」

 

 やだ、教皇様が、怖い。

 

「……ちょっと目をやられてしまってな。ああ、心配はいらぬ……すぐに癒えるだろうよ。ふふ、命に比べればどうということもなかろう……」

 

 ぎりぎりと肩を締め上げたまま、教皇様が俺の身体を持ち上げた。

 

「……が、呼んでおられる、きなさい」

 

 え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュルツやイオニスを例に挙げるまでもなく、外見で年齢を判断するのは意味ないんだろうな。

 なので、ありのままを見ることにした。

 

 俺の前に、女神(アテナ)がいる。

 

 いや、正確には……人の世に、人の身体をもって降臨したこの時代のアテナの化身。

 

 

 

 君は、小宇宙を感じたことがあるか?

 この期に及んでも、俺はまだない。

 

 女神の化身の小宇宙ですら感じられない俺は、もうダメかもしれない。

 




ひとます、主人公の目に見えるチートは打ち止めです。(打ち止めとは言ってない)
そして、物語は少年期の終りへと向かいます。


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6:別れと出会い……少年期の終わり。

ちょいと真面目。
あと、スニオン岬の岩牢については、完全に独自設定です。

指摘があったので、修正入れました。
本格的な修正は後日にしますが、読みやすくなってたら幸いです。


 女神(アテナ)の化身。

 

 先の聖戦が30年以上前ってことを考えると、やはり……いや、よそう。

 女性の年齢について言及するのが危険なのは、いつの時代も、そしてどこの世界でも共通だと思う。

 見たままでいいんだよ、見たままで。

 

 美人!

 以上!

 

 うん、それよりも……だ。

 あらためて、アテナの化身を見る。

 その、命を見る。

 

 数ヶ月とかいう単位じゃないが、あと数年……10年は、もたない。

 

「小宇宙は感じ取れずとも、別のものは見えるのですね?」

「……」

「良いのです、見たままを」

「……身体の具合が良くないのでは、と」

「見たままを、と私は言いました」

 

 観念した。

 というか、自分でもわかってるくせに、わざわざ俺に言わせるのか。

 

「あと、数年かと……10年はもたないと思います」

 

 アテナの化身が笑う。

 どういう意味の笑いなのか、わからない。

 

「アテナが降臨するとき、聖戦あり……逆に、平和な時代には、アテナが不在であることも珍しくないのです」

「……先の聖戦のために、降臨された、と?」

 

 俺の質問には答えず、女神の化身は言葉を続けた。

 

「私の死後……また新たに降臨する時期が遅ければ、それだけ平和な日々が続くのかもしれませんね」

 

 ああ。

 人ならぬ笑顔。

 小宇宙は感じ取れずとも、その言葉は、微笑みは、女神の化身なのだと、納得することができた。

 

 ……うん。

 次の機会があるかわからないなら、今聞いておくべきか。

 

「スニオン岬の岩牢ですが……あの結界は、あなたが?」

「……」

 

 きょとんと、そして不思議そうに俺を見る。

 

「えっと……なにか?」

「いえ、『あなた』と呼びかけられたのは久しぶりだなと思って」

「名前を知らないのです。いまさらそれを聞くのも失礼かと思いまして」

 

 笑われた。

 めっちゃ笑われた。

 

 いや、だって。

 あくまでも、女神の化身でしょ?

 原作でも、ちゃんと沙織って名前があったじゃん。

 女神の化身であって、女神そのものじゃないってことじゃねえの?

 

 まあ、口にはしないけど。

 とりあえず、黙っておく。

 

「……怒ったのですか?」

「いえ、怒るべきことなどありませんでしたよ、我が女神よ」

「あの……」

「なんでしょうか、我が女神よ」

 

 人として対応しようとしたら笑われちゃったってことは、神様扱いしないとね。

 神様の名を呼ぶなんて恐れ多いことですよ。

 

 ……名乗られない限り、絶対に、アテナなんて呼んでやらねえ。

 

 

 

 

 

 紆余曲折を経て、岩牢の結界について話が戻った。

 

 あの場所の結界は、小宇宙を封じる……たとえ完全ではなくとも、大きく減衰させるんだろうと思う。

 

 原作では、冥王が250年ごとに封印から復活して聖戦を仕掛けてくるんだったか。

 あと、ポセイドンとか……。

 

 あれ?

『心力』で海を割った時の騒ぎって……宣戦布告と思われてたりしないよね?(震え声)

 神様ならそんな小さなことを気にしないと思いたいが、ギリシャ神話の神様はなあ……ろくなことをしないってイメージが。

 

 まあ、とにかく。

 もし、あの結界が……聖戦で使用されたら、小宇宙を封じられた聖闘士たちは、一方的にやられてしまうのでは?

 

 と、聞いてみたんだが。

 

「小宇宙を封じるということは、自らを封じることにもつながります……意味がありません」

「こちらの聖闘士の小宇宙だけを封じる、とどうなります?」

「小宇宙の力を用いて、小宇宙を封じる……ですか?」

 

 奥歯にものが挟まったような物言い。

 俺の推測、当たってたかなあ……。

 

「ならば、あの岩牢の結界は……誰が作ったものなのですか?」

「スニオン岬の岩牢は、私が作ったものではありません……もともとあったものを利用しているだけです」

 

 言いにくそうに、俺の質問に答えてくれた。

 

『私が作ったものではありません』か。

 

 うん、そうか。

 隠したいってことは、可能性は高いな。 

 

 俺は前世の記憶を持つ……どこかずれた、そしてすれた人間だ。

 

 冥王との聖戦も、ポセイドンとの戦いも……俺としては仲間内の『内戦』としか思えない。

 だって、みんな小宇宙の力で戦うじゃん。

 

 聖闘士の小宇宙だって、俺は感じ取ることができないけど、ひとりひとり違うもので、編み出した技もまた別のものだ。

 神の力だって、別々のものだって考えても不思議はないだろう?

 その神が、同じ小宇宙の力を行使するのなら……それは、同じグループであると俺は考える。

 

 テリオス師匠と出会ったあの時の、『元神獣』について、『小宇宙が感じられない』と師匠は言った。

 まあ、俺もまた『小宇宙が感じられない』から、邪悪な存在かどうか判断がつきかねたってオチがつくけどな。

 

 小宇宙を感じられないのに、力がある……それを邪悪な存在とみなす。

 前世の記憶で、そういうの、さんざん見てきたからな。

 

 討伐者。

 征服者。

 勝てば正義で、負けた方は、討ち滅ぼされて当然の存在だったと喧伝する。

 

 生きとし生けるものすべてに存在する小宇宙。

 それを持たないのに『力のある存在』を、邪悪とみなす。

 

 つまり……もともとは、いたんだろって話だ。

 神話の時代。

 古き神。

 小宇宙をもたない神々。

 

 それを邪悪とみなす側は……討伐者であり、征服者の側だ。

 

 もちろん、これは俺の推測。

 それを口にする。

 

「聖戦が始まるよりも、ずっと昔の……遥か遠い時代に、冥王やアテナを含む神々の集団が、この世界に存在していた、古の神とでもいうべき存在を打倒して、新たな神の座に収まったのではないですか?」

 

 女神の化身の命が激しく揺れたように見えた。

 

 静寂。

 耳が痛くなるほどの静寂。

 

 かすれた声。

 

「なぜ、それを……?」

「推測です。まあ、神の世界も、人の世界と似たようなものだと思いまして」

 

 そういう題材の漫画と小説とアニメを参考に……とは言えないよなあ。

 まあ、前世で世界各地の昔話と歴史の類似性とか、調べたことがあるし。

 王族の結婚相手が妖精とか出てきたら、かなりの確率で『表に出せない血筋』だよな。

 滅ぼした国の王家の血筋とか、そういうの。

 

 侵略者って肩書きを、ありがたがる存在はそう多くない。

 古の神との戦いとかの記録は残さないよね、普通。

 最初からここにいた神様ですよと主張するためにも。

 

 

 ……あれ?(冷や汗)

 俺、もしかして、触れちゃいけない歴史に触れた?

 

「……遠い、遠い、遥か昔のことです。滅ぼしたものもあれば、追い払ったものもいます……とはいえ、いまさらあれらがこの世界に舞い戻ってくるとも思えません」

 

 ……頷いとこ。(白目)

 フラグにしか聞こえないけど、今は素直に頷いておこう。

 

 女神の化身が、すっと、右手をあげた。

 一瞬身構えそうになったが、どうやら粛清とかそういうのではなかったらしい。

 

 聖衣が、いや聖衣の収められた箱……パンドラボックスだったっけ?クロスボックス?……が、次々にその場に並んでいく。

 たぶん、今の聖闘士がいない聖衣なんだろうけど。

 うん、壮観だな。

 

「なにか、感じる聖衣はありますか?」

「ははは」

 

 なんっにも、感じません。(白目)

 

 聖衣に選ばれる以前の問題ですよねー。

 

 あ、でも……これ、ペガサスの聖衣か?

 へえ、今は聖闘士不在なんだ。

 おお、こっちのは、あれか……おお、なんか本当に、聖闘士星矢の世界に生きてるって実感が湧くなあ。

 

 原作を思い出しつつ、子供のような気持ちで聖衣を見て回っていたのだが……気が付くと、女神の化身がじっと俺を見つめていた。

 

 優しい、優しすぎる目で。

 

 手招きされたので、近づいたら……ぎゅっとその胸に抱きしめられた。

 

「この世界に生を受けたあなたは、女神である私の子供たちの1人です……1人なのですよ。それを、忘れないで」

 

 そう、囁かれた。

 

 

 ああ、もしかして。

 俺が、小宇宙を感じられないように。

 我が女神様もまた、俺の中に小宇宙を感じ取ることができなかったのかな。

 

 俺は、よそ者か。

 それでも、自分の子供と言ってくれるのか。

 

 なんというか、その……。

 

 女神の化身のおっ〇いはやわらかかったです。

 12歳だからセーフ。

 

 

 

 

 

 教皇の間に戻ったら、捕まった。

 目が見えにくいんじゃなかったんですか。

 

「昨夜の話が終わっておらぬ」

 

 そもそも、遠く離れた場所の超新星爆発の光が届いたタイミングで、俺が運悪くあれをぶっぱなしだけの話ですよ。(目逸らし)

 

 だから、謝らない。

 

「岩牢、1ヶ月で」

「教皇様、その判断には私情が混ざっていませんか?」

「教皇の名にかけて誓おう。そんなことはない」

 

 俺は姿勢を正し、頭を下げた。

 

「昨夜は、眠りを妨げるようなことをしてすみませんでした」

「うむ、2週間でよい」

 

 この、流れるような会話ときたら。

 少し、笑ってしまう。

 

 

 我が女神様。

 小宇宙が感じられなくても。

 小宇宙がなくても。

 俺は、この世界でわりと楽しく生きているから……まあ、なんというか。

 

 

 俺みたいなよそ者に対して責任を感じなくても。

 

 ……ええんやで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スニオン岬の岩牢って、水牢でもいいと思うんだ。

 まあ、それはそれとして。

 

『気』がうまく練れない。

『チャクラ』がうまく開かない。

 どちらもまあ、現状で2割から3割の稼働率って感じか。

 

 うん、ここからだ。

 まず、本来の俺のチートボディは、なんの制限も受けない。

 右手に、『心力』を集める……これも問題ない。

 ここまでは、以前も確かめたことがある。

 なら、『魔力』はどうか。

 

『魔力』を集めてみる……これも、問題ない、か。

 

 いや、脱出しようと考えているわけじゃない(できないとは言ってない)し、昨夜のあれは、やっぱりただの超新星爆発だったことを証明したいってわけでもない。

 この結界が封じることのできない『力』があるってことが、前から気になってたんだ。

 

 その理由が、俺がよそ者だからだとしたら。

『心力』と『魔力』は、よそ者の力ってことなのか?

『気』と『チャクラ』は、この世界の『肉体』に依存している分、制限を受ける……とか?

 

 いや、なんかおかしいな。

 まあ、それについては後回しか。

 

 我が女神様の言葉を思い出す。

 

『スニオン岬の岩牢は、私が作ったものではありません……もともとあったものを利用しているだけです』

 

 俺としては、もともとこの世界にいた神……古の神が、この岩牢を作ったのではないかとしか思えない。

 神には通じなくとも、聖闘士には通じる。

 牢屋じゃん。

 小宇宙の力を封じるとか、どう考えても、小宇宙の力を持つ戦力を封じる牢屋じゃん。

 

 あんまり考えたくないが、聖域って、古の神にとっても聖域だったんじゃなかろうか?

 こう、パワースポット的な感じの。

 

 その拠点を奪い取ったら、ちょうど岩牢があって、それを使ってる、とかな。

 

 

 別に戦いを求めているわけじゃないんだが、聖戦以外の戦いの危険性とか考えないわけにはいかない。

 それは、古の神の、『アイルビーバック』だけじゃなく、異世界の神々の侵略も含めて。

 

 何はともあれ、この小宇宙を封じる結界だよなあ……。

 2週間か。

『気』と『チャクラ』をちゃんと使える訓練でもしてみるか……どうせ、ほかにやることもないし。

 

 

 

 

 2週間後。

 

 岩牢をでて、教皇様に報告に行ったら、シュルツとイオニス、そしてテリオス師匠がいた。

 あと、我が女神様も。

 

 そういや、シュルツと会うのも久しぶりか。

『心力』の修行に出てから、それを見せるときに会った……きりで。

 おい、なんだ……それ。

 その命……。

 

「……シュルツ」

 

 呼びかけの、声が震えた。

 

「ああ、お前は、『命』が見えると言っていたな……わかるか?」

「……」

「聖闘士は、死ぬ寸前まで全盛期を保てる……人にもよるが、そういうものだと思え」

 

 おい、そんな笑顔を見せるなよ。

 

 イオニスを見た。

 教皇様を見た。

 我が女神を見た。

 テリオス師匠を……そこは目を逸らさないでくれよ。

 

 アンタら、先の聖戦をシュルツと生き抜いた仲間だよな?

 俺に……。

 何を、させるつもりだ?

 

「アル」

「やだ」

「そう言うな……聖闘士として、俺を、戦いの中で小宇宙を燃やし尽くさせてくれ。聖衣に見放され、急激に老いた体で、余生を過ごすのはごめんだ」

「……そういう人生を否定したくはないな、俺は」

「では、獅子座の黄金聖闘士ではなく、ひとりの人間として、ただのシュルツとして、友に頼む」

 

 シュルツの命が揺れている。

 不自然な暖かさ。

 

 この、バトルジャンキーめ……何が友だ。

 俺は、12歳のガキだぞ……。

 アンタ、その外見で100歳超えてるそうじゃないかよ……前世の人生を足しても、アンタの方が年上だ。

 

 何が友だ。

 いいとこ、祖父と、孫だろ。

 だったら、わがままを言うのは……孫の方じゃねえのか。

 

「……お前にはまだ、見せてない技がある。興味はないか?」

 

 それ以上言わせたら……恨まれる、か。

 命は救えなくとも。

 その魂は、救える、か。

 

「へえ、見せてもらおうか」

 

 言いながら、チャクラを開く。

 気を重ねる。

 少し悩んで、心力を纏わせた。

 

 シュルツへの想いに応える力として、魔力よりもそれがふさわしいと思ったから。

 

「その、今にも消えそうな命の灯火、俺が全部受け止めてやる!!」

 

 

 教皇様が、イオニスが、そして我が女神様が、教皇の間を結界で包み込んでいく。

 テリオス師匠は、さっさと退避したか。

 

 

「ファイアブロウ!!」

 

 俺をさんざんぶっ飛ばしてくれた拳を、心力を纏った手で受ける。

 

「ったく、可愛げのないガキに育っちまったな!」

 

 シュルツの手が、両手が広がる。

 たぶん、小宇宙を……その拳に、火がともる。

 それが、俺には魔法のようにも見える。

 小宇宙によってなされた現象……その過程が、俺には感じ取れないからだ。

 シュルツの手が動くたびに、空間に灯る火の数が増えていく。

 

 はは、光の速さの拳を持つ黄金聖闘士が、そこまでして手数を増やすか。

 当たらなければ……とでも言いたいが、全部受け止めると決めている。

 

 空間が、炎で埋まり……来る。

 

「スコーピオン・インフェルノ!」

 

 少し、意表をつかれた。

 全方角からの、炎の追尾弾。

 いや。

 シュルツらしくない。

 

 炎の壁の中から、シュルツが飛び出してきた。

 

「バーン・デストラクション!!」

 

 これも、初見の技。

 受け流し、体勢を崩して反撃するのが、戦いとしては最善。

 でも、友への最善ではない。

 

 受け止める。

 攻撃の全てを。

 丁寧に受け止めていく。

 

 友の小宇宙を。

 小宇宙なんだろう?

 俺には、わからないけれど。

 

 

 

 ……世界は。

 綺麗なものばかりじゃない。

 時として。

 見たくないものまで、見えてしまう。

 

 命の火。

 

 シュルツの拳を受け止めた俺の手の心力が、悲しい色に光った。

 

 

「ん、む……届かぬか……」

「……時間切れだ、人生ってやつの」

 

 俺は、受け止めただけだ。

 攻撃していない。

 

 なのに、シュルツの口元から、紅いものが溢れる。

 

「すまんな……」

「謝るぐらいなら……」

「お前の小宇宙を目覚めさせることができなかった……」

 

 息が、詰まった。

 まさか。

 

「いや、それが無いとは言わないが、戦いたかっただけだ……強い相手と、己の小宇宙を燃やし尽くせる、強い相手と……この幸運に、感謝しながら、逝ける」

 

 シュルツが笑う。

 死を迎える前の老人の目。

 

「鍛えた力、磨いた技……アテナの聖闘士として、おおっぴらには言えんが、戦ってこそ、全力を尽くす戦いの中でこそ、聖闘士の小宇宙は、輝く……輝かせてやってくれ……戦いを知らず、朽ちていく聖闘士を……お前の手で……お前に、頼みたい……」

 

 シュルツの身体から、黄金聖衣が離れた。

 そして、主を見守るようにそばに。

 

 やがて、シュルツの口から、俺の知らない名前が、こぼれ出した。

 聖戦で、散っていた聖闘士か。

 あるいは。

 やがてイオニスの名が呼ばれ、そして最後に。

 

「アル」

 

 俺の名を読んだ。

 

「ありがとう……我が友よ」

 

 

 この日、前聖戦を知る、獅子座の黄金聖闘士がこの世を去った。

 

 

 ……冥界に行って、連れて帰ってくるとか野暮なことは言わない。

 

 ただ、静かに、眠れ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼間も輝く超新星。

 

 俺のせいじゃないとわかっているのに、何故か目を背けたくなる。

 あれって、半年ぐらい輝き続けるんだっけ?

 

 

 ん、この気配は……イオニスかな?

 連れが一人。

 

 ドアをノックするタイミングで、こっちからドアを開けてやる。

 

「イオニス、久しぶり」

「ええ、シュルツが逝って、それ以来ですね」

「それで……そっちの」

 

 イオニスが連れている、仮面をつけた少女を見る。

 ちょっとだけ感動したのは秘密だ。

 女性の聖闘士って、マジで仮面で顔を隠すのかって。

 

 いや、俺から見える彼女の命って、かなり大きいし、強く感じるから……まあ、候補ではないな、と。

 

「先日、新しく双子座の黄金聖衣に選ばれて黄金聖闘士となった……」

「アイリスよ」

「アルです」

 

 ほう、黄金聖闘士か。

 原作ではいなかった、女性の黄金聖闘士だな……いなかったよね?

 

「彼女は、順調に成長してくれれば、次代の教皇候補ですよ」

 

 イオニスの言葉に含みを感じた。

 つまり、成長しなければダメ、と。

 

 しかし、双子座で、次代の教皇候補……いや、原作とは関係ないんだけど。(笑)

 サガ枠?

 サガ枠なの、この子。

 深く深く封印したはずの、あの技を思い出して、心が疼いた。

 

「ところでイオニス……こんな、小宇宙の欠片も感じ取れないような虫けらに挨拶をする必要があるのかしら?」

 

 わかりやすぅいっ!(白目)

 うん、教皇は、実力はもちろん、その人柄も重要な項目らしいし。

 

 俺は、イオニスを見た。

 イオニスが、にこっと微笑む。

 

 ああ、そういうことね。

 

「なあ、アイリス」

「なぜ、聖闘士でもないあなたに呼び捨てされなければいけないの?それに、私のほうが年上だと思うのだけれど」

「俺は、12歳」

「私が、年上よ」

 

 プライドは高そうだけど、性格は悪くなさそう。

 

「じゃあ、アイリスさん」

「……なに?」

 

 眉をひそめながらも、返事をしてくれた。

 

「君は、小宇宙(コスモ)を感じたことがあるか?」

「黄金聖闘士に対して、愚問ね」

「俺は、ない」

「雑兵にも劣るのね、頑張りなさいな」

 

 そう、俺は小宇宙を感じない。

 

「黄金聖闘士と言われても、小宇宙を感じない俺からすれば、何がすごいのか、よくわからないんだ」

「へ、へえ……どのぐらい手加減すれば、実感してもらえるのかしら」

 

 うん、大丈夫。

 シュルツに、頼まれたからな。(慈しむ目)

 

 

 個が、世界とつながるように。

 人は人と、つながっていく。

 

 そうして、人の想い(かわいがり)もまた、受け継がれていくのだろう。

 

 

 

 

『どこからでもかかってきなさい』と言われたので、開幕ぶっぱなしで。

 

「きゃああああああっ!!」

 

 ギリシャの空を、黄金聖闘士のアイリスが飛ぶ。

 うん、空の蒼さと、海の碧さを味わってくれ。

 

 

 

 

「ふ、ふふ……今のは自信をつけさせてあげたのよ。でも、次は現実を知る番だから……ダブル・ストライク!!」

 

 うん?

 光の速さに届いてなくない?

 

 聖闘士は、死ぬような目にあわされて、小宇宙を高めていくらしい。(師匠談)

 

「きゃああああああっ!!」

 

 黄金の聖衣が、陽の光を受けて輝く。

 君の小宇宙は、輝いているか?

 

 アイリスとは、長い付き合いになりそうだ。

 

 サガ枠だからな。

 鍛えないと。

 この子、絶対双子の妹か姉がいるに違いない。(原作脳)

 

 

 

 

 君は、小宇宙を感じたことがあるか?

 俺はない。

 

 でも、女神の化身のおっ〇いを感じたことで、大人の階段をひとつのぼった。

 




あからさますぎる伏線。(白目)
というわけで、少年期の終わりです。

幕間『あいりすさん15歳(ぽんこつ味)』をはさみ、時間が飛んで本編再開です。


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幕間1:あいりすさん15歳。(ぽんこつ味)

ちょっと時間稼ぎ、じゃなくて、幕間を始めます。
ぽんこつヒロインって、いいよね。(ヒロインとは言ってない)


「じゃあ、また明日ね」

 

 あの子がそう言ったとき、正直絶望を感じた。

 

「いやいや、アル。あなたとは違うんです。1週間は休ませてあげてください」

 

 イオニス……いえ、イオニス様。

 生意気言ってすみませんでした、一生ついていきます。

 

「ただし……瞑想は続けるように」

 

 ……先の聖戦を生き抜いただけあって、甘くはない。

 

 でも。

 

「治療と回復なら、俺がお手伝いできますけど?」

 

 そう言って微笑む、この子ほどじゃない。

 聖闘士候補とか、小宇宙に目覚めてないとか、関係ないわ。

 

 この子……悪魔じゃないの?

 

 というか、治療と回復ってなんなのよ?

 そもそも、小宇宙に目覚めてないくせにどうやって……?

 

 すっ、と。

 あの子の手が、私の身体にかざされた。

 

 え。

 なに……。

 痛みと、疲労が……。

 

「こうやるんですよ」

 

 か、顔に出てたのかしら。

 で、でも……お礼は言うべき、よね。

 

「あ、ありがとう……」

「ええ。では、また明日」

 

 にこりと。

 悪魔が絶望を差し出してくる。

 

「大丈夫ですよ。俺も、シュルツやイオニスに、そうやって鍛えられましたから……回復はしてもらえなかったけど」

 

 え、嘘……でしょ。

 イオニス様を見たら、目を逸らされた。

 

 

 

 

 

「きゃああああああっ!!」

 

 空を飛ぶ。

 

 ええ、悲鳴が出るうちは大丈夫。(白目)

 昨日、それを学んだわ。

 

「黄金聖闘士の、それも、双子座の聖闘士の重みを背負っていれば、そんな簡単に飛べないはずだけど」

 

 黄金聖闘士の重みというか誇りは持ってるけど、この子、なんか双子座の聖闘士に思い入れでもあるの?

 先の聖戦で亡くなったって聞いたけど。

 この子、まだ生まれてないわよね?

 

 

「じゃあ、次は……見えるけど、ギリギリよけられないぐらいの攻撃でぶっ飛ばすから」

 

 このっ、悪魔ぁっ!!

 

 

 

 

 海から這い上がった。

 

「……これで13回。ちょっとペース上げるか」

 

 ぎゃ、逆よね。

 ペースは落とすものだと思うの……。(震え声)

 

 

 

「……………っ!!」(声が出ない)

 

 海に沈んでいく私を、あの子が抱えて引っ張り上げる。

 

 やめて。

 私の身体に、その『手』をあてないで。

 回復させないで。

 このままで、お願い。(心の声)

 

 

「きゃあああああああっ!!」

 

 空を飛びながら。

 

 聖闘士候補としての訓練の日々を思った。

 あれは、訓練じゃなかったって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……黄金聖闘士の仕事があると言って、1週間の安息を勝ち取った。

 イオニス様、フォローありがとうございます。

 ちゃんと、言われたとおり、瞑想は続けますから。

 

 私が、素質に恵まれていい気になっていたことは、深く深く理解した。

 鍛えるとは。

 磨くとは。

 まさしく、自分自身を削るような痛みの中にあるのだと。

 

 この、わずか2日間で。

 自分の、小宇宙の高まりを感じる。

 

 こんな簡単に……。

 

 簡、単……?(遠い目)

 

 た、たったの2日間で効果が出せるということは、これまでの訓練が甘かったと言えるはず。

 

 

 

 

 

 1週間、経ってしまったのね。

 

「おはようございます、アイリスさん」

「おはようございます」

 

 きちんと挨拶。

 

 嫌っていてもいいから、挨拶だけはきちんとするようにと、念を押された。

 うん。

 最初から、嫌ってはいないわ……馬鹿にはしてたかもしれないけど。

 

 ごめんなさい、怖いんです。

 今は、嫌いとか、そういう感情を持つ余裕がないです。

 

 

「きゃあああああっ!!」

 

 あ、空を飛んでいるとき、脱力するとちょっと楽かも。

 ぶっ飛ばされてるのに、余計な力を使う必要はないわ。

 ええ、落ちるときだけでいい。

 

 そんな風に、新しい発見がある。

 

 同じように、空を飛ばされるのでも……この子の攻撃が、色々と考えられているのが分かる。

 

 死角からの攻撃。

 反応できない攻撃。

 見えない攻撃。

 意識の外からの攻撃。

 

 致命的なダメージを受けないよう、全身まんべんなく……痛めつけてくれますわ、ホントに。

 

 

 声が出なくなり、海から這い上がれなくなると、回復させられる。

 

 これも、小宇宙による治療とは違う。

 小宇宙は感じない。

 なのに、効果がある。

 

 興味が、湧く。

 小宇宙じゃない力。

 いいえ、この子そのもの。

 

 

 今日もまた、別の仕事があるからと言って、1週間の安息を勝ち取った。

 ついでに、仕事のためにと偽って、回復させてもらった。

 

 敢えてお礼は言わない。

 もちろん、理由があります。

 

 

 

 服を着替える。

 髪型を変える。

 そして。

 仮面を外す。

 

 そうね、双子座の黄金聖闘士アイリスの付き人か、聖域の女官とでもしましょうか。

 んーと。

 違いすぎると反応できないかもしれないし。

 そうね、アリス。

 アリスと名乗りましょう。

 間違って反応した時も、聞き間違いってことでごまかせるものね。

 

 

 

 

 小宇宙を鎮める……小宇宙を感じ取れないとは言うけど、念のためよ。

 聖闘士ともなれば小宇宙の質だけで、個人を特定できてしまうもの。

 今の私は、双子座の黄金聖闘士アイリスではなく、従者のアリス。

 

 えっと。

 

 回復させてもらった礼を言うのを忘れていた。

 黄金聖闘士として、礼を失するわけには行かないが、仕事に取り掛からなければいけない。

 なので、従者のアリスを向かわせた。

 

 うん、完璧。

 そして、ちょっとした食べ物と、飲み物を手土産に。

 

 食事の世話をするって名目で、色々と観察させてもらうわ。

 

 

 

「聖闘士候補生のアル様でしょうか。私、双子座の黄金聖闘士アイリス様の従者をしているアリスと申します……アイリス様からの伝言と、お礼の品をお持ちしました」

 

 え、えっと……どうしたのかしら?

 そんなにまじまじと見つめられると、ちょっと恥ずかしいのだけれど。

 顔を見られても、今の私はアリスだから問題なし。

 

「……マジかよ、マジでいるじゃん双子の姉妹枠……やっぱ、双子は命までそっくりになるのか……これ、仲悪かったりしたら、やべーじゃん……黄金聖闘士とその従者とか、厄ネタとしか思えないんですけど……まてよ、どっちか片方しか双子ってことを知らないパターンか……」

 

 双子って……双子座の聖衣のこと?

 ……よくわからない独り言ですわね。

 

 聖闘士と聖衣は、深いつながりを持つ……ということかしら。

 

 

「……あ、すみません。ぼうっとしてました。その、ご丁寧にどうも。とりあえず、中に入ってください」

 

 

 食事の世話をするはずが、何故か一緒に食事をすることになった。

 しかも、あの子が作った料理。

 

 ……どうしよう、美味しい。

 味付けが違う?

 調理法?

 今まで訓練ばっかりで、食事にはそれほどこだわってこなかったから……。

 

「お口に合いますか?」

「あいます、すごくあいます!普段の食事よりっ……」

 

 慌てて、口を閉じた。

 恥ずかしい……。

 

 呆れた顔、されてる……。

 

「……その、従者の食事は、黄金聖闘士とは別だったりするのですか?」

「え、あ、そ、そうです……わ、アイリス様は、用意されたものを召し上がりますから」

「あ、というと……アイリスさんは、1人で食事を?」

「ええ、まあ……」

 

 な、何かしら……この、探り合うような会話は。

 この子も、私のことが……気になってるとか?

 

「……双子の姉妹なのに、この格差ぁ……厄ネタだろ。やべえよ……心の闇のカードが、場に伏せられまくりだろ、これ……」

 

 ひ、独り言の多い子ですわね。

 

 心の闇……とか。

 この子には、私には見えない何かが見えているということでしょうか。

 

 気が付くと、じっと見られていた。

 

「あ、あの……なにか?」

「いえ……その、アイリスさんも、その……アリスさんと同い年というか、同じぐらいの年齢だと思うんですが、なにか、思うこととかありますか?」

 

 探られてる?

 そ、そういえば……この子から私は、どう思われているのかしら?

 あれだけ生意気な態度を……。

 

 訓練を思い出す。

 思うところもあるけど、私のことを考えて訓練してくれていることだけはわかるもの。

 

 感謝……すべきよね。

 

「俺から言うことじゃないかもしれませんが」

「は、はいっ!?」

「アイリスさんが……その、黄金聖闘士であるまえに、1人の人間というか、女の子であるってことを忘れないでいてあげてください」

「……」

「まだ子供なのに、聖闘士の最高峰の黄金聖闘士になって、その重圧はもちろんだけど、周囲も彼女を、黄金聖闘士としてしか見ないと思うんで……その、近くに1人だけでも、女の子であることをわかってあげる存在がいたらいいなあと……思ったりするわけで」

 

 黄金聖闘士である前に、1人の……人間。

 

 私は、私たちは、アテナのもとに……あぁ。

 

「わ、わかります。そのとおりだと思います……聖闘士である前に、ひとりの人間……まさしく」

 

 その上で、聖闘士としての誇りを。

 双子座の黄金聖闘士としての重みを。

 

「黄金聖闘士は、自由に出歩くことも少ないから、わりと孤高の存在になりがちだと思うんで……その、アリスさんも、節度は守りつつ、家族のように接するのも悪くないと思いますよ」

 

 暖かさを感じる。

 小宇宙ではなく、人としての暖かさ。

 

 この子は。

 この人は。

 誰よりも人なんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、アルさん」

「おはようございます、アイリスさん」

 

 

 今日も、私は空を飛ぶ。

 

 痛いし、辛いし、苦しいけど。

 

 

 強く、なります。

 きっと。

 

 




黄金聖闘士だけに、光の速さで成長してくれるはず。

主人公のひとりごとがやたらピンポイントなのは、文章の形式上、仕方ないと諦めてください。(懇願)
主人公が、普段このレベルで独り言をたれながしているわけではありません。

あと、この世界(時代)に『悪魔』という概念かあるかどうかわかりませんが、ノリで流してください。


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7:女神の死、そして再誕……嵐の予感。

さあ、巻いていきます。(いつもの)

アテナの化身が、神殿に降臨するのではなく、世界のどこかで人として……という独自設定です。
わりと、独自ではなかった模様。(目逸らし)


「……これ以上は、苦痛を長引かせるだけだと思います」

「そう……そうね」

 

 ここ1年ほど、俺はほぼ毎日彼女の身体に『気』を送り続けていた。

 治療ではなく、延命だ。

 というか、女神の化身なのに、『気』とか流し込んでいいのだろうかと思ったのだが、本人に望まれたのだからいいんだろう。

 

 しかし、ただ自分の死を迎え入れる……そんなイメージを持っていたので、少々意外だった。

 死にたくないのか。

 それとも、死ねない理由があるのか。

 

 それももう、虚しい。

 

「迷惑を……かけたわ」

「他人に迷惑をかけずに生きていける人はいませんよ」

「……あなたって……本当に」

 

 どこか、痛々しさを覚える微笑み。

 

「……シュルツのこと、ごめんなさい。止められなかった……」

「あれは、俺が、友に望まれたことですよ」

 

 シュルツが逝って、5年。

 今年、俺は18歳になる。

 

「そう……少し羨ましいわ」

 

 人でありながら。

 女神の化身として覚醒、あるいは降臨。

 

 その境遇を思いやることはできても、理解はできない。 

 

「……アデリー」

「……?」

「聖域に連れてこられる前……そう呼ばれていた女の子がいたわ」

「……」

(アデリー)である自分と、女神の化身(アテナ)としての自分……1人ぐらいは、アデリーの死を悼んでくれる存在がいてもいいでしょう」

 

 そう言って、彼女は目を閉じた。

 

「ありがとう……それと、ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 聖域が深い悲しみに包まれたのは、その3日後だった。

 

 俺は1人、彼女との約束を守って、アデリーという女性の死を悼んだ。

 

 

 

 

 

 

 女神の化身が地上からいなくなろうとも、人の世の営みは続き、時は流れていく。

 

 

 

 

 

 

「アル」

「ああ、アイリス……昨日はすまなかったな」

「いえ、いいのよ」

 

 初めて会ったときは、ぽんこつ臭が漂っていた彼女だが、数年に渡る受け継がれる想い(かわいがり)が彼女を大きく成長させた。

 そして、女神の化身が地上を去ってから数年……彼女の精神的な成長が目覚しいように思う。

 落ち着きはもちろん、どこか風格を漂わせるようになった。

 黄金聖闘士といえば、真っ先に彼女の名を挙げられる現状、イオニスが言う『次代の教皇候補』という評価にふさわしい成長を遂げたとするべきだろう。

 

 サガ枠としては、少し不満なのだが……原作世代は別格と考えるべきか。

 

 ところで……ここ数年、従者のアリスを見かけないというか、会ってないんだけど。(震え声)

 もしかして、双子座の運命が、デスティニっちゃったのか?

 だとしたらもう、アリスは……。

 

 触れるのが怖いので、触れない。

 

 うん、人の心というのは、安易に触れるものじゃない。

 人は誰でも、心の中に聖域を持っている。

 そこに踏み込んでいいのは、それを許されたものだけだ。

 

 アイリスから邪な気配は感じないので、大丈夫なはず。

 たぶん、アリスは聖域からでて、幸せなキスをして、いい母親になったんだろう、きっと。

 

 い、いざという時は、俺がこの手で……その覚悟さえあれば、うん。(震え声)

 

 

 

 と、いかんいかん。

 今日の本題は……。

 

 視線を移す。

 新しく黄金聖闘士となった、ミケーネ、だったな。

 牡牛座の黄金聖闘士……うむ。

 

 原作のアルデバランを思わせる巨漢で、精悍な顔つきをしている。

 

 ……不憫枠などと思った俺は悪くない。

 強いと思うんだけどな、グレートホーン。

 

「アイリス様、何故黄金聖闘士たる私が、このような小宇宙の欠片も感じ取れぬ者に挨拶をせねばならぬのですか?」

 

 うん、アイリス。

 目を逸らさずに、ちゃんと見ろよ。

 かつての、お前の姿だぞ。

 

 

 

 受け継がれる、想い。(物理)

 

 

「ぐあああああああっ!!」

 

 空を飛ぶ、ミケーネ。

 

 うん、身体が大きいから迫力があるな。

 

 

「見込みはあると思うから、適度にやっちゃって」

 

 いい笑顔で、アイリス。

 そういえば、彼女を俺のところに連れてきたイオニスも笑ってたなあ。

 まあ、年の功というか、もっと慎ましやかな感じに隠してたけど。

 

 

 また、数年かけて……鍛え上げようか。

 

「アイリスも、久しぶりに飛ぶか?」

「……きょ、教皇様に仕事を命じられてるから」(目がバタフライ)

「相変わらず忙しそうだが、鍛錬を忘れるなよ。平和が壊れるのは一瞬だからな」

「ええ、最低でも瞑想は続けてるから……だから、その……また、食事でも一緒に……」

 

 お、海から這い上がってきたか。

 

「く、油断した……だが、今度はそうはいかぬ、くらえっ、我が小宇宙を!」

 

 おい、だからアイリス。

 目をそらすなって。

 いや、お前もあのまんまだったからな。

 

「この技を前に、よそ見などと!ピアッシング・クローッ!!」

 

 ……グレートホーンじゃなかったか。

 やっぱり、技って受け継がれるものじゃないんだなあ……。

 

 いや、黄金聖闘士を師匠にもち、その技を見て育てば……そうなるのか?

 技というのは、イメージが重要だろう。

 師匠の技のイメージに影響されるというのは十分にありえるか。

 

 しかし、アイリスって……あの時点でも、優秀だったんだな。

 

「ば、馬鹿な……この、小宇宙も感じられぬ男が、黄金聖闘士の攻撃を受け止めるだと!?」

 

 光に届かぬものが、黄金聖闘士を名乗るな。(おこ)

 

 

「ぐあああああああぁっ!!」

 

 いけね。

 いつもより余計に飛ばしちゃった。(汗)

 

 ただ、空を飛ぶ牡牛座の黄金聖闘士(ミケーネ)を見て思ったことがある。

 

 原作世代の黄金聖闘士が優秀なのは、周囲に優秀な人間が揃っていて、競い合ったせいじゃないかと。

 ぽつり、ぽつりと、誕生する聖闘士は……ライバルというか、好敵手に恵まれないのかもしれない。

 特に、黄金聖衣に選ばれるような存在は周囲からは浮くだろうし、師匠よりも上なんて状況になれば……子供なら有頂天になってもおかしくない、か。

 自己を見つめることは大切だが、競い合う相手もまた、大切だろう。

 

 あの原作みたいに大規模でやるのもどうかと思うけど、好敵手を得るためにはある程度の仲間の数が必要だろうか。

 生きるということが綺麗ごとだけではすまない以上、人の数に応じたものが必要になってくる。

 

 ああ、原作のあの財団って、そういう……。

 

 でも、金が絡むと、面倒事が増えるからなあ。

 そもそも、この時代、大航海時代ですら、遥か未来のことだし。

 

「……」

「アイリス?なんでさっきからずっと、そっぽ向いてるんだ?」

 

 昔の自分の姿を見るようで、恥ずかしいのか?

 それは、成長の証だと思うんだが。

 

 

 

 シュルツが逝ってから、10年。

 23歳の俺は、黄金聖闘士の小宇宙を輝かせる日々を生きている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時の流れは残酷で……。

 

 

「聖衣に、『もう休め』って言われちまったよ」

 

 この1年で急激に老いの道を歩み始めたテリオス師匠が、聖闘士を引退した。

 以前からちょっと疑問だったので、尋ねてみたのだが。

 

「俺が生まれた年に、前々回の聖戦が起きたって聞いたなあ……」

 

 まさかの長老格。(震え声)

 イオニスよりも、教皇様よりも、はるかに年上じゃないですか、やだー。

 聖闘士として、250年以上っすか……パネェ。

 どうりでいろいろ詳しいわけだわ。

 そういや、原作でも250歳とかいうレベルの黄金聖闘士がいたなあ……。

 

 まあ、シュルツみたいに燃え尽きたいとか言い出さなくてほっとした。

 ただ、師匠の命はしっかりして見えるから、そこそこ余生を過ごせるとは思う。

 

「……アテナがいなくなってから、平和すぎるんだよなあ」

「聖戦が迫ると、降臨する……と聞きましたが?」

 

 師匠が、俺を見る。

 

「聖戦はな……ただ、アテナが地上からいなくなると、わりと邪悪との戦いは激しくなる。世界のあちこちで、いろんなものが眠りから覚めたり……な」

 

 黄金聖闘士ではなく、世界各地を飛びまわる白銀聖闘士や青銅聖闘士なんかの視点だとそうなるのか。

 女神の化身が地上にいるかいないかで、そういう影響が出てくるのだとすると……。

 

「……そういえば、俺って邪悪扱いでしたね、師匠」

「最近、物忘れがひどくなってなあ……」

「……役に立てるかどうかわかりませんが、俺も世界を回ってみます」

「ああ、見たものを色々と教えてくれ」

 

 シュルツが逝って15年。

 師匠が、聖闘士を引退し、俺は世界を回り始めた。

 

 なお、師匠の言う『世界』と俺の考える『世界』は、広さが異なっていた模様。

 普通、聖闘士は空を走ることができないらしい……。

 

 

 

 ……優しくもある。

 

 

 やべえ、これってじゃがいもの原種だ。(震え声)

 歴史が変わるぞ、おい……。

 でも、悪くなる可能性も大いにある……か。

 短期的な有用性に目がくらんで爆発的に広がると、栽培知識の普及が追いつかなくなって……地獄の飢饉が起こるのは目に見えている。

 

 で、でも……これがあれば、聖闘士候補の数を確保できて、競い合うという場が。

 偽善かもしれないけど、親を亡くした子供たちを保護することも……全部ではないけど、支える力は確実に増える。

 

 せ、聖域周辺だけで……とにかく、連作だけは絶対にするなと戒めれば……いやでも、じゃがいも栽培と一番相性がいいのが農業革命後の方式なんだよなあ。

 でも、それをやるには時代が追いついていないというか、じゃがいもそのものが、厄ネタになりかねん。

 

 教皇様に頼んで、丸投げの方向で。

 そもそも気候風土の違う場所の植物だから、適した栽培法の確立まで最低でも10年、20年の時間が必要だろう。

 

 ひとりでなんでも背負うなんて、傲慢だよな、うん。(目逸らし)

 教皇様は、人を使うことに慣れてるし。

 適材適所ってやつだ、うん。

 

 

 

 師匠が聖闘士を引退した年、世界はじゃがいもの存在を知った。(白目)

 そして俺は、30代が近づいてきたが……ここ数年、外見の変化がなくなったような気がする。

 

 まあ、イオニスも100歳を軽く超えているのに、外見は20歳ぐらいにしか見えないから、外見はあんまりあてにはならない。

 あてにはならないのに、なぜかアイリスが気にしている。

 また、美味いメシでも作ってやろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 ある日。

 教皇様に呼び出されて、聖域へと赴いた。

 

 なんだろう、スニオン岬の岩牢に入れられるようなことは……多分、してないと思うが。

 正直、あそこはもう、罰にも訓練にもならないんだよなあ。

 

 何回かアイリスも閉じ込めてみたけど、イオニスと違って、効果はなかったし。

 ミケーネは、少しだけ小宇宙が成長したとか言ってたが、最初だけだった。

 

 そんなことを考えながら、教皇の間に。

 ……何があった?

 

 教皇様は当然だが、現在の黄金聖闘士が5人、勢揃いだ。

 イオニス、アイリス、そしてミケーネの3人。

 そして、先の聖戦が終わったあと、シュルツが存命中に黄金聖闘士に選ばれた2人。

 ちなみに、射手座のクラウスと、山羊座のニルス……正直、これが2回目なんだよなあ、顔を合わせるのって。

 俺とはほとんど関わりがない2人だが、シュルツとイオニスがかわいがった枠らしいので、黄金聖闘士として問題ないと思いたい。

 

 ただ……アイリスやミケーネの事を考えると、この時代の黄金聖闘士は聖衣に選ばれてからが本番なのかもしれない。

 

 聖戦というか、戦争は、勝った方も負けた方も、深い傷あとを残す。

 そして、この時代は、聖戦から50年ほど経ってようやく聖戦の傷あとが癒えてきた……そんな過渡期にあるわけだ。

 原作でも、聖戦を生き残った聖闘士は、教皇になったシオンと、老師の2人しかいなかったとか、そんな感じだったはず。

 それはつまり、聖戦が終わったあとは、そもそも聖闘士候補を育てる人材が払底して、育成システムとかがボロボロになってるってことだろう。

 聖戦直後の聖闘士候補と、次の聖戦間近の聖闘士候補では、当然差が生まれてくるはずだ。

 聖戦から250年近く経過した原作世代と、今の時代の状況が違う以上、あのドリームメンバーと一緒に考えてはいけないと思う。

 

 まあ、アイリスはサガ枠としてともかく、イイ線まで成長したと思うんだが。

 

 

「ふむ、みんな揃ったな」

 

 教皇様が口を開く。

 その内容は……。

 

 女神の化身が、地上に現れたというものだった。

 

「……星の動きと、かすかに感じる女神の気配から間違いはないと思う。だが、どこにおられるのかまではわからない」

 

 イオニスとアイリスは、緊張した表情、ミケーネと2人の黄金聖闘士は純粋に喜びの表情で、教皇の言葉を受け入れていたように思う。

『女神が降臨するとき、聖戦あり』ということを分かっていてなお、女神の化身が地上にあるということが心の支えとなる……その反応を責める気にはなれない。

 

 今代の女神も、覚醒するまでは人として生きていくことになるのだろうか。

 

「教皇、これは聖戦が近いということを示しているのか?」

「わからん。聖戦なき時代に降臨された例もあるが……」

 

 イオニスの問いに教皇様が答え、一旦言葉を切った。

 そして、なぜか俺を見る。

 

「聖闘士は、女神を守る戦士……女神が降臨するとき、聖衣に選ばれる聖闘士もまたその数が増えるはずだが……」

 

 黄金聖闘士はもちろん、青銅聖闘士、白銀聖闘士、ともにその数がいきなり増えるような気配はない。

 むろん、俺に聞くまでもなく、教皇様はそれを知っているはずだ。

 

「師匠……テリオスが言っていた。女神が地上からいなくなると、世界各地での邪悪との戦いが増えると」

 

 俺がそう言うと、興味深げな視線を寄せられた。

 

「ただ、女神が地上を去ってから……『平和すぎる』と」

「……ふむ、テリオスがそう言ったか」

 

 教皇様が考え込む。

 

 イレギュラーは、いつも人を惑わせるからなあ。

 こういう時は、悪い予想をすれば大抵外れない……たとえば『来るべき日に向けて、各地の邪悪が力を溜めている』とかな。(白目)

 

 ははは、その各地の邪悪を率いる親玉は一体誰なんだ。(棒)

 

 フラグ回収早すぎませんかね、我が女神様。

 永久を生きる神様なんだから、千年とか万年の単位で回収してくださいよ、マジで。

 あ、でも。

 古の神の侵略だったら、冥王や海皇もタッグを組んで、防衛に協力してくれるかも。(震え声)

 

 ……そんな甘くないだろうな。

 

 女神の化身は、未だ覚醒せず。

 聖闘士の数は、半分にみたず。

 挙句の果てに、小宇宙を封じられる戦いを強いられるんですね、わかります。(白目)

 

 そうか。

 俺は、このためにこの世界に生まれたんだなあ。(自己暗示中)

 

 よし。

 とりあえず、これより最悪な展開はいまのところ思いつかないわ。

 だが、現実ってやつはいつだって想像の斜め下をぶっ飛んでいくからな。

 

 覚悟だけは決めとかないと。

 

 

「女神の探索は行うとして……イオニスを除けば、みな聖戦を知らない黄金聖闘士ばかり。ここはひとつ、いざということを想定して、気を引き締めるべきか」

 

 そう言って、教皇様が俺を見た。

 その表情で分かってしまう。

 

 教皇様も、想いを受け継いで育ってきたんですね。(慈しむ目)

 

 

 

『いくらなんでも、4対1とは……我らを甘く見るにも程がある』

『シュルツ殿が認めていたとは言え、心外だな』

『……ミケーネ、あなた自分が10人いたとして、勝てると思う?』

『ははは、アイリス様。全力でぶつかって、ただ飛べばいいんです……ええ、それで終わりですよ』

 

 

 ……この温度差よ。(震え声)

 

 なぜだ。

 俺は、シュルツやイオニスがやったのと同じようにかわいがったはずだが、何故俺が面倒を見た2人と、シュルツとイオニスが面倒を見た2人とで、こんなに差が。

 

 ふと、前世で読んだスポーツ漫画を思い出した。

 先輩のかわいがりを、後輩へと引き継ぐ際に……手加減をしたつもりが、自分たちと同じぐらいでかわいがったはずが、なぜか少しレベルがあがっているというお話。

 それはつまり、かわいがられた後輩は……より心を込めて自分の後輩をかわいがってしまうということだろう。

 

 ……受け継がれていく想いに、自分たちの想いをのせて。

 こうして、想いは重みを増していくんだな。

 

 人の心というのは、尊く、美しい。(目逸らし)

 

 

 

 

 まあ、黄金聖闘士が連携を考えるというのは悪くないはずだ。

 しかし、4対1か。

 最初は不慣れだろうが……4人が連携になれれば、俺も、久しぶりにブレーキを解除できるかな。

 

「「アル」」

 

 教皇様と、イオニスに声をかけられた。

 

「「結界に負担を与えない程度に頼む」」

 

 あ、はい。

 

 仕方ない。

『魔力』はブレーキのまま、『身体能力弱化』で様子を見るか。

 

 時折緩めたりはするけど……シュルツが逝ってから、常に戦場に在り、の心構えで生きてきたつもりだ。

 

 そう思ったら、戦いを意識していちいちチャクラを開くとか、気を練るとかいうのは甘えだと気づいた。

 そしてたどり着いたのが、常に全力に近い形で維持して、それを魔力でブレーキをかけるというスタイル。

 これなら、最悪のケースでも、魔力を切ればトップギアに入れる。

『魔力』と『心力』がなじまない以上、その2つの切り替えは必須で……だとすると、『気』と『チャクラ』は常にスタンバイしておくのがベターだろう。

 そうして『気』と『チャクラ』に負荷をかけ続けて15年ほど。

 

 ……負荷をかけるって、大切だよね。(震え声)

 

 努力をきっちり受け止めてくれる俺のチートは、本気でチートだと思う。

 

 

 

 

 さて。

 わりと、無防備な姿を晒していたつもりだったんだが。

 

 ……不意打ちを仕掛けても来ないし、こっちからいくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アル、次は多少達成感を与えてやってくれ」

 

 あ、はい。

 さすが教皇様、注文が細かい。

 

 その前に、回復させないと。

 

 

「もう、何も怖くない……」

「まだだ、まだ飛べますよ……」

「「……」」

 

 うん、やっぱりアイリスとミケーネはまだ余裕があるな。

 俺は間違ってなかった。(確信)

 

 クラウスとニルスは……ちょっと、OHANASHIが必要かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嵐の予感を感じながら、数年の時が過ぎて……。

 

 女神の化身が、未だ覚醒しないまま発見され、聖域に保護された。

 

 

 

 女神の化身が聖域に入る……おそらくこれが、引き金になるんだろう。

 俺は、わけもなくそう思った。

 




女神の化身を保護って……誘拐を連想してしまう私。

そして、家のどこかにあるはずの原作コミックスを探してたら、モ〇モテ王国のコミックスが出てきた。
地味に、腹筋にダメージ。


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8:よそ者だもの……そして、強襲。

女神の化身ちゃん。(推定5歳)



 現実ってやつは、いつだって最悪の予想の斜め下をぶっ飛んでいく。

 

 それをわかっていたはずなのに。

 少し考えれば、予想できたことのはずなのに……。

 

 俺は自分の迂闊さを呪った。

 

 

 

 聖域に保護された女神の化身ちゃん(推定5歳)が、俺を見て泣き叫びます。(白目)

 近くに寄るだけで、めっちゃ怯えて、泣き叫びます。(白目)

 

 

 

 この世に生きとし生けるものにある小宇宙の存在っていうのは、女神アテナをはじめとした、神々の支配下というか、子供のようなものの証なんだろう。

 だからあの時、我が女神様は『子供の一人なのです、それを忘れないで』と言ってくれたわけだ……おそらく、だけどな。

 

 さて、ここであらためて俺という存在に注目だ。

 小宇宙が感じられず、そしてそれなりに力のある存在は、邪悪扱いなわけだ。

 

 基本、聖闘士って俺の強さを物理でしか感じられないみたいなんだが、女神の化身ともなると……その、邪悪の力みたいなものも感じられるのかなあと……まあ、結局は本人に確認しなけりゃわからないけど。

 ただ、俺が近づくだけで怯え、泣き叫ぶ幼児(俺の姿は目に入っていない)の姿を見ると……そういうものかなあと納得するしかない。

 

 その前提で考えると、女神の化身として覚醒していないただの幼児が、身近に邪神レベル(?)の存在を感じたらどうなるか?

 

 そら、泣き叫ぶわ。(白目)

 

 ははは、なんだ、この状況は。

 俺にどうしろというのだ。

 どうすればいいというのだ。

 

 マイゴッデスよ、寝ているのですか(神も仏もいないのか)!?

 

 寝ている(目覚めてない)んだよなあ、チクショウ!

 

 いや、子供は泣いて寝るのが仕事だ。

 大人として、子供の成長を妨げるような真似は慎むべきだ。

 

 さすがに、黄金聖闘士と違って、泣き叫ぶということは余裕がある証拠だな、なんて考えてはいない。

 

 

 ……一般人の子供や幼児は、俺を見ても平気よ、念のため。(震え声)

 

 

 

 

 まあ、邪悪云々はともかく。

 親しみのない『よくわからない大きな力』を感じるだけでも、子供としてはかなりのストレスだろう。

 本能的な恐怖とでも言えばいいのか……。

 

 ……というわけで。

 真実がどこにあるかわからないけど、俺が聖域に一歩でも足を踏みいれたら、今代の女神の化身ちゃん(推定5歳)が、火が付いたように泣き叫ぶんだ。

 

 はは、おまわりさん、私です。(白目)

 

 

 

 ……あれ?

 

 俺の存在が邪悪扱いだとしたら、聖域の結界って、俺に対して作用してないの?

 先代の、我が女神様が、どうにかしてくれたんだろうか?

 

 まあ、今はいいか。

 

 

 しかし、困ったな。

 聖域に近づけないとなると、いざという時に困った状況になる。

 

 

 

 

「アイリス。俺とお前の間で、意思をやり取りする手段を編み出したいんだが、協力してくれ」

「え……え、ええ!?」

「いや、聖闘士同士だと、小宇宙を用いて、遠距離での会話っぽいものができるだろ?でも、俺はそれができないわけだ……聖域を離れた俺と、聖域を守るお前との間で、情報をやり取りできる手段が欲しい」

 

 アイリスが、俺を見る。

 

「つまり、好きな時に会話ができる、と?」

「まあ、そういう感じ……この状況は想定してなかったから、後手に回った感は否めないが」

「教皇様でもなく、イオニス様でもなく、私と、なのね?」

「お、おう……」

 

 まあ、アイリスなら気軽に話せるというのもあるが、双子座の黄金聖闘士といえば、あの技。

 あれを利用すれば、という考えがあった。

 たぶん、いける。

 いけるはず。

 

 え、できないなら、覚えさせるよ。

 結界を作れるんだから、それを応用すればどうにかなるはず。

 

 

 説明中。

 

 

 飛行中。

 

 

 模索中。

 

 

 実験中。

 

 

 検証中。

 

 

 

『魔力』って便利、超便利。

 

 なんとなく、前世の記憶の都市伝説が頭をよぎったが気にしない。

 いつの間にか30歳超えてたけど気にしない。

 

 そしてアイリス。

 さすが双子座の黄金聖闘士。

 さすがサガ枠。

 

 簡単に原理を説明すると。

 アイリスが、なんちゃってアナザーディメンション(笑)で、2人の間に限定した極小の空間をつなぎます。

 そして俺が、『魔力』でその空間の維持を補助しつつ、空気の振動……つまり音を伝えます。

 

 ひどく贅沢な糸電話というか、小宇宙と魔力のゴリ押しともいうか。

 

 ただ、いざつなぐときはアイリスと俺がそばにいないとダメだし、俺からはつなげないため、常時つなぎっぱなしにせざるを得ないのが、ネックといえばネック。

 それを維持する俺の『魔力』の負担は、まあそれほどでもない。

 ただ、アイリスの方は……それなりの集中を強いられるらしく、その状態でいざ戦闘となると厳しいようだ。

 まあ、無理は言うまい。

 

 というか、アナザーディメンション(偽)ってものすごい便利ツールじゃないの?

 いざという時、女神の化身ちゃんの緊急避難とか、隔離とか……銀河を爆殺する技より、応用が利きそう。

 

 

 

 

 

 

 

 聖域を遠く離れて、俺は空を駆けている。

 

 黄金聖闘士は、基本ひきこもりだ。

 そして、青銅聖闘士や白銀聖闘士は、短距離ならともかく、太平洋や大西洋みたいな長距離は自力では越えられないっぽい。

 まあ、俺の考える『世界』と聖闘士たちの考える『世界』の認識に、誤差があったのはそのあたりが原因か。

 

 テリオス師匠。

 世界は、あんまり平和じゃなかったです。

 いや、女神の化身ちゃんが地上に現れてからの変化かもしれないけど。

 

 小宇宙を感じられない俺には、何が邪悪で、何が邪悪ではないのかわからない。

 とりあえず、人の生活を脅かす存在……という判断基準で、それらを排除して回っている。

 

『アル、今はどこで何をしてるの?』

『んー、に……じゃなくて、やまとの国っていうのかなあ?とにかく、すっごい東の、小さな島国で、鬼とか妖怪とか退治してます』

『鬼?妖怪?』

 

 ところでアイリス。

 ものすごい頻度で話しかけてくるのはやめてください。

 

 黄金聖闘士が孤独な状況なのはわかるから、強くは言えないが。

 

 でもまあ、俺もメールの使い方を覚えたとき、こんな感じになったなあ……と、思い直す。

 話し相手がいるのも、悪くはない。

 

 

 

 しかし……俺は、無力だな。

 

 鬼や妖怪を倒したところで、人の生活が良くなるってわけじゃない。

 助かる命を救うこともできる、が。

 でもそれは、苦しみを長引かせるだけになることもあるだろう。

 

 飢えて苦しむ人々に、俺ができることは……ない。

 それでも、こうして拝んでくれる人がいる。

 礼を言ってくれる人がいる。

 明日を信じる、人がいる。

 

 うん……ここ、水が出るな。

 水量も十分。

 井戸を掘る……俺に出来るのはこのぐらいだ。

 

 ただの自己満足。

 しかし、それでも……救われる人がいる。

 そう、信じたい。

 

 

 そして俺は、また空を駆けていく。

 

 あの……海の怪物って、ポセイドンの管轄じゃないんですか?

 まあ、世界観が違うけど。

 世界感(誤字にあらず)が違うけどな!

 

 俺を通せんぼしようとした海坊主を、『滅っ!』しておく。

 

 

 

 

 

『ねえ、アル……』

『南の方の大きな大陸で、なんというか、光る蛇をこらしめてるとこ』

 

 蛇とか龍って、水害の象徴だと思ってたが。

 こいつ、水を操って攻撃してくるよ。

 

 この世界は、不思議な生き物がいっぱいだな。(白目)

 

 しかし、こいつって倒していいのか?

 退治したら、あとでこの近辺が水不足に苦しむなんてことにならない?

 

 とりあえず、『滅っ!』ですませておく。

 討ち滅ぼすのではなく、封印処理される理由は、このあたりにあるのかもしれない。

 

 念のため、井戸を掘っておく。

 水は、命の象徴だ。

 

 

 空を、駆ける。

 駆けていく。

 

 アンデスの山脈では、人や動物を手当たり次第に食い殺す鳥の化物を退治した。

 

 ロッキーの山脈では、正気を失っているとしか思えないグリズリーの化物を退治した。

 

 大西洋の真ん中で、歌声を響かせる精霊を……いや、こんな場所で何をしてるのよ?

 え、聖闘士に地中海を追い出された?

 歌うのが好きなだけで、他意はない、と。

 

 ああ、うん。

 どうしよう。

 こういうのが一番困る。

 

 とりあえず、途中で見かけた海の真ん中の無人島を紹介しておいた。

 

 

 

 

 

 さて、次は欧州かアフリカを……っ!?

 

 全身の毛が逆立った気がした。

 汗が噴き出す。

 

 聖域にいるアイリスに向かって叫ぶ。

 

『アイリス!』

『え、えっ、なに?』

 

 馬鹿な、感じないのか?

 感じてないのか?

 

 いや、違う。

 

 俺は、小宇宙を感じない。

 そして、聖闘士は、俺を……俺の力を、感じない。

 

 その俺が、遠く離れていて、なお、感じてしまう、気配。

 それはつまり。

 考えろ、最悪のケースを。

 

『アイリス!女神のもとへ急げ!』

『……どういうこと?』

 

『俺が、全身に冷や汗をかくような気配が、突然、現れた。なんの前触れもなく、突然だ』

『でも……いえ、わかったわ』

 

 12宮を順番に登っていかないと、女神の化身ちゃんのところへはたどり着けない。

 それを盲信して裏切られたとき、最悪の事が起きかねない。

 

 俺はよそ者だ。

 ああ、俺はよそ者だ。

 だから、この世界の感覚とはずれている。

 

 今俺が感じたこの気配が、よそ者のものだとすれば。

 この世界にとってのよそ者が、この世界にどうやって訪れる?

 討ち滅ぼされるのではなく。

 この世界から追い払われたものは、この世界から別の場所へ行く手段を持っていたはずだ。

 それはきっと。

 

『戻ってくる』ことだってできるのではないのか。

 

 

 俺は、上空に向かって駆けた。

 速度を上げるために。

 低空で速度を上げると、影響が大きすぎることを懸念したから。

 

 遠回りの道こそが近道だと信じて。

 俺は。

 飛んだ。

 

 聖域の、女神の化身ちゃんのもとへ。

 

 

 

 

 ギリシャが近づく。

 聖域が近づく。

 聖域はまだだ。

 なのに。

 

 俺の耳に、アイリスとの回線を通じて……女神の化身ちゃんが泣き叫ぶ声が、聞こえてきた。

 

 頼む、アイリス。

 

 唇を噛み締めながら聖域へ。

 12宮を、駆け上がっていく。

 

 今は空席だらけの12宮。

 その2つめ、牡牛座のミケーネとすれ違う。

 

「えっ、アルさん!?」

「後だ!」

 

 地を強く蹴る……あっ。

 

「ちょっ、アルさ!?ああああっ!!」

 

 

 め、女神の化身ちゃんが泣いている。

 つまり、アイリスも無事ってことだよな。

 信じるぞ。

 

 なにか崩れたような音は聞こえなかった、いいね?

 

 

 

 イオニスは、何も聞かずに俺に遅れて付いてきた。

 さすがだ。

 

 

 クラウスとニルスの嘆きは聞こえない。

 女神の化身ちゃんの泣き叫ぶ声以外は聞こえない。

 聞こえないったら聞こえない。

 

 

 その、泣き叫ぶ声が途絶えた。

 それは。

 アイリスとの、回路が、消えた。

 

 心が締め付けられる。

 走る。

 駆け上がる。

 

 教皇の間に飛び込んだ。

 

 教皇様っ……息はある。

 簡単に、でも一気に気を流し込んで手当。

 あとはイオニスに任せよう。

 

 ……ついてきてるはず。

 

 

 気配が巨大すぎて距離感が不明だったが、さすがにもうわかる。

 この先にいる。

 すぐそこにいる。

 

 そして。

 俺の目に飛び込んできたのは……。

 

 

 巨大な気配を放つ、人の形をしながら、明らかに別なもの。

 

 そして、膝をつき、血を流すアイリスの姿。

 

「アイリスッ!」

 

 俺の声を聞くと……アイリスは、そのまま倒れこんだ。

 同時に、俺のそばに女の子が放り出されてくる。

 

 ああ、アナザーディメンションで隔離……してたのか。

 守って、くれたのか。

 

 女神の化身ちゃんを腕に抱いたまま、アイリスに駆け寄り、身体を掴んで後ろに跳ぶ。

 

 それは、動かない。

 巨大な気配を振りまきながら、こちらを見ることもなく、動かない。

 

 何が狙いか、目的か……見逃すというなら、治療させてもらおう。

 

 左手でアイリスを抱き、右手で、文字通り手当てを行う。

 治療を始めてすぐに、アイリスの目が開く。

 

「ごめんなさい、アル……あなたの言葉を疑った罰ね、これは……」

「いや……すまない」

 

 ハンデを背負わせたまま、戦わせてしまった。

 あれだけの、気配を放つものと。

 

 というか、死なないからな。

 死なせないからな。

 ひどいケガで、血も流れてるけど、大丈夫だからな。

 

 女神の化身ちゃんは、俺のそばに。

 泣き叫んだりせずに、じっと俺のやることを見ていた。

 ああ、初めてのコミュニケーションができそう。

 

「お嬢ちゃん、名前は?」

「……アテナ」

 

 首を振り、もう一度尋ねた。

 

「呼んで欲しい、名前はないのかな?」

 

 俺を見つめ、困ったようにつぶやく。

 

「……いいの?」

 

 ああ、やっぱりか。

 聖域で保護して、『アテナ様』の連呼か。

 

 そんなのは、実際に目覚めてからでいいじゃないか。

 子供なんだから。

 

 小さく頷いてやると、女神の化身ちゃんが……囁くように、言った。

 

「……アニエス」

「そうか……アニエス、よく頑張ったな」

 

 女神の化身ちゃんが……アニエスとして泣いた。

 うん。

 

 うん?

 アイリスが、グイグイ袖を引っ張ってアピールしてくるので褒めておく。

 

「アイリスも、よく頑張った……ありがとう。そして、すまなかった」

 

 仮面をつけていてなお、笑っているのが分かる。

 

 ……余裕あるじゃねえかよ。

 

 

 それで、だ。

 

 視線を、向けた。

 

 アイリスを傷つけ、アニエスを泣かせたな?(心の棚増築中)

 

 とりあえず、こちらを攻撃せず悠然と構えているそのラスボスムーブには感謝しておくけどな。

 いったい、何が目的だ?

 いきなりの聖域強襲とくれば、当然女神の化身というか、本命狙いだと思ったが。

 

 俺の身体にしがみつき、泣いているアニエスを見る。

 

 ……目覚めてないから気づかない、なんてことがあるのだろうか?

 なら、むしろ本命はアニエスではなく、この場所?

 

 聖域の中の、このアテナ神殿……?

 うん、まあ考えても意味はないか。

 

 情報不足の、推測まみれになるのがオチだな。

 

 

「もう、大丈夫よ……アル」

 

 アイリスの強がりを信じて、アニエスを任せる。

 

 ……アニエスを任せようとした。

 

 いや、アニエス?

 なんでいやいやするのかな?

 

 少し心が痛んだが、引き剥がすようにして、アニエスをアイリスに任せた。

 

 

 さて、あとはコイツを……どうにか、できるかなあ?

 こっちに興味がないっぽいけど、アイリスの治療を待ってくれたとも言えるし、いきなり攻撃するのはちょっと気がひける。 

 

 いや、アイリス。

 アニエスを連れてここから離れてくれないと、こいつとドンパチできないんだけど。

 

 そう言おうと思ったら イオニスが、教皇様が、やってきた。

 教皇様も、うん、大丈夫みたいだな。

 

 うん?

 アイリスも、教皇様も、致命傷ではなかった……。

 時間の余裕はあった、はずだ。

 

 やっぱり、この場所が目的か?

 

「アル……たぶん、相手にされてないと思う」

「というと?」

「邪魔だから追い払った……そんな認識よ、きっと」

 

 教皇様を見ると、頷かれた。

 

 しかし、これだけの気配を前に、みんな平然として……。

 あ、逆なのか。

 俺だけが、あの存在にプレッシャーを感じている。

 

 みんなは、何も感じていない。

 そういうことか。

 

 

 唐突に。

 こちらに視線を向けられた。

 

 人型の巨大な気配。

 密度が違う、そんなイメージが浮かぶ。

 

「死にたくなければ、去れ」

 

 淡々とした口調。

 警告とは思えなかった。

 

 

 ……うん?

 

 違和感。

 それが、広がっていく。

 包むように……。

 

 周囲を、妙な気配がゆっくりと包み込んで……。

 

「アイリスッ!」

 

 予感を信じて、アイリスを女神の化身ちゃんごと神殿の外に向かってぶん投げた。

 そして、イオニスと教皇様をぶん投げる。

 

 ……教皇様の姿が神殿の外に消えた瞬間、視界が一変した。

 

 懐かしい感覚だ。

 いや、少し違うか。

 慣れ親しんだ、スニオン岬の岩牢とは違う。

 それでも、同質の何かを感じた。

 

 世界から、切り離された……そんな感覚。

 

『気』と『プラーナ』を確かめた。

 世界とつながれない、それを前提にして……全てを、自分の中で完結させる。

 

 岩牢もそうだったが、これはより徹底されている感じがする。

 

 世界の中に、小さな世界が無数にあるように。

 世界の中に、理の異なる小さな世界を構築した……そんな感じか。

 イメージとしては、やはり結界が近い。

 

 同じ世界の中の、別の世界。

 世界とつながることを拒絶した、小さな世界。

 

 おそらくは、小宇宙(コスモ)の力というか、存在を理から排除した世界。

 

 ただ、これは……おい。

 小さな世界が……広がっていくのを感じる。

 

 前世の記憶を総動員。

 それっぽい知識を、かき集める。

 

 教皇様を殺すよりも、アイリスを殺すよりも、女神の化身をどうこうするよりも、優先する行為。

 むしろ、どうでもいい。

 この場所をおさえに来た。

 

 聖域。

 世界の中心、源。

 そこを、切り替える、穢す、支配する。

 

 聖域を。

 アテナの神域を。

 小宇宙の存在を理から排除した世界へとおいた。

 

 こんなとこか。

 

 もっと想像を。

 推測を。

 最悪を予想。

 

 たぶん、聖域が、神域が穢された。

 世界を、穢す行為。

 

 

 身体が震えた。 

 

 小宇宙を排除する理の世界が、広がっているってことは……。

 

 世界を作り変える準備。

 文字通りの侵略。

 もしかすると、神話の創世記にあたる瞬間。

 

 人型の、モノを見つめた。

 

 こいつを、どうにかする。

 そうすれば、なんとかなる。

 

 いや、なんとかしなければ……。

 

「……まだいたのか?去れといっても、いまさら遅いが……」

 

 推測とハッタリ、俺のひとりごと。

 反応するキーワードはあるか?

 

「侵略しに来たのか?それとも、取り戻しに来たのか?」

「……ここはもともと、我々の聖地であり、故郷」

 

 その言葉ににじみ出る、感情らしきもの。

 

「もっとも……忌々しい連中の侵略で、仲間は滅ぼされ、この故郷もおぞましく変貌させられたがな。あるべき姿に戻す、それだけだ……ただ、邪魔をさせぬように細工はしたがな」

 

 わりと理性的。

 でも、相容れない。

 

 それがはっきりとわかった。

 

「それで、貴様はなんだ?あの忌々しい連中に与する者とは毛色が違うようだが?」

「……俺は、よそ者だよ」

 

 そう言いつつ、胸に。

 

『子供の一人なのです、忘れないで』

 

 我が女神様の言葉を。

 

 

 

 無意識に。

 ある歌を口ずさみ始めていた。

 

 あの歌だ。

 あの主題歌だ。

 

 ははっ。

 燃えるぜ。

 

「よう」

 

 あらためて、問いかける。

 

「お前は、小宇宙を感じたことがあるか?」

「小宇宙だと……あの忌々しい奴らが使う力のことか?ふふっ、時間はかかるが、そんな力は消えてなくなる。我らの故郷が、我らのもとへと還るのだ」

 

「そうか……お前は、感じたことがあるのか」

 

 そうか。

 お前も、感じることはできるのか。

 

 笑う。

 笑うしかない。

 

「俺は、感じたことが、ない」

 

 だから、俺は歌を口ずさむ。

 

 小宇宙はなくても。

 少年の日は遠くなっても。

 

 あの時俺を、そして、村を助けてくれたチートボディ。

 世界を知った、教えてくれた『気』の力。

 人の身体を知った『チャクラ』から生み出される『プラーナ』の力。

 説明しづらい、『魔力』。(目逸らし)

 そして、この世界に生まれ、生きてきた証の、『心力』。(お休み中)

 

 これが、俺の聖衣。

 

 そして、これが俺の聖戦だ。

 

 さあ、やろうか……。

 ブレーキを、アクセルに切り替えて、な。

 




アル、30歳を超えて魔法使いに。(意味深)

主題歌は、みんなの心の中だけでお願いね。(震え声)


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9:感謝の気持ち。

さて、いきますか……いけるとこまで。(震え声)


 さっきまで、アテナの神殿だったところ。

 そんな名残は一切ない。

 

 何もない、世界。

 

 空も。

 大地も。

 

 しかし、俺はここに立っている。

 重みも感じる。

 ただ、目に見える光景は……全方位、星の見えない夜空、だ。

 

 

 こうしている間も、この『世界』が広がっていくのを感じる。

 

 グズグズはしていられない、か。

 

 

 

 ただ、俺がこうして圧力を感じているのに、あいつは涼しい顔だ。

 気にもとめないって感じで。

 

 分の悪い……もしかしたら、勝ち目のない勝負なのかもな。

 

 まあ、泣いている時間があったら……飛ぶ、か。

 泣くよか、ひっ飛べ……だったか。

 

 足元を確かめる。

 うん、しっかりしている。

 

 まあ、俺の『全力』を支えてくれるかどうかは、わからないが……な。

 

 

 跳ぶと殴るが同時。

 

 俺の右肘と肩に抜けてくる、受け止められた衝撃がどこか心地よい。

 

 硬い。

 重い。

 

 そして。

 

 驚いたような表情。

 

 おい。

 おいおい、まさか。

 

 お前、俺の気配を感じてないな?

 

「なんだ……?」

「なんだじゃねえよ!」

 

 左の拳を返す。

 

 ああ、ダメだ。

 

 俺の全力に、『感覚』が追いついてこない。

 身体全体が、ふわふわして、足が地についてない感じだ。

 ずっと力をセーブして、生きてきたからな。

 感情任せだと、さらに悪化する。

 

 仕切り直しに、一旦距離をとった。

 

 やつはというと、驚いた表情のまま、俺を見ている。

 

 

 地を裂き、海を割るのが黄金聖闘士。

 その黄金聖闘士が、聖域にひきこもることを余儀なくされる理由。

 力そのもの。

 

 友の、シュルツの顔が浮かんだ。

 楽しそうに、俺と殴り合う光景。

 

 いや、教皇様に怒られるシーンはカットで。(目逸らし)

 

 力を鍛え。

 技を磨き。

 戦うことなく、朽ちていく。

 

 平和を願いながら、心のどこかで聖戦を待ち望む。 

 黄金聖闘士の、悲しき宿命。

 

 俺も、そうか。

 

 さっき、俺の拳を受け止められた感触を思い出す。

 硬くて、重い、あの感触を。

 

 アイリスやミケーネをかわいがった時とは違う、本気の拳を受け止めて、こゆるぎもしなかった。

 分厚くて硬い、肉の塊。

 

 自分が笑っているのが分かる。

 そうだ。

 これは、俺の聖戦だ。

 

 待ち望んでいた、チャンスが来た。

 

 世界を見る。

 この何もない『世界』を見る。

 

 この『世界』なら、ぶっ壊れてしまっても構わないよな……俺は。

 

 荒々しい感情が騒ぐ。

 焦るな。

 遠回りを恐れるな。

 力をセーブして、徐々にギアを上げていく。

 

 俺の『全力』を、本当の『全力』としてぶつけるために。

 

 シュルツが俺を見たように。

 俺もまた、やつを見る。

 

 そこに、好敵手(とも)がいる。

 

 

 

 反応を、見る。

 弱い場所を、探す。

 

 上に、下に。

 左右に、拳を散らす。

 

「なんだ……なんだ、貴様は?」

「よそ者だって言ってるだろうが!」

「力を感じないのに、強い……なんなのだ、貴様は?」

「その精神攻撃、やめろ!」

 

 俺のよそ者っぷりがつらい。(震え声)

 今こそ、この悲しみを怒りに変えよう。

 

 しかし、戸惑いながらも、俺の攻撃は綺麗にさばかれていく。

 うん。

 俺も。

 かなり、ピントが合ってきた。

 

 戦いの中で、何を甘いことをと思うが、仕方ない。

 仕方ないから。

 

 また、ギアを上げていく。

 

「ぐっ……ぅ!」

 

 ようやく、ひとつもらってくれた。

 少なくとも、痛みは感じてる、か。

 

 さあ、集中しろ。

 俺がギアを上げれば、こいつも……。

 

「舐めるな!」

 

 

 くはっ。

 久しぶりに飛ばされた。

 

 ああ、これかぁ。

 シュルツ。

 バトルジャンキーなんて言って悪かった。

 

 楽しいわ、これ。

 

 起き上りざまに跳ぶ。

 足元もなにも関係ない。

 足元は自分で作る。

 

「ぬぅっ!?」

 

 やつの周りを跳び回り、かく乱する。

 楽しい、が。

 プロレス理論なら、俺が弱いってことになるな。

 弱者は、強者の周りを回る、だったか。

 

 うん。

 たぶん……それは間違ってない。

 

 俺のほうが、弱い。

 

 

 痛みは与えている。

 おそらくはダメージも与えている。

 

 俺の目に狂いがなければ。

 戦況は、互角だ。

 

 しかし、いずれ差が出てくるだろう。

 

 予感のようなものだが、たぶん、外れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間の感覚がない。

 

 一瞬だったような気もするし、永遠なのかもしれないとも思う。

 

 お互いに小細工を使ったりもしたが、結局はこの形に落ち着いた。

 

 殴り。

 殴られ。

 

 ぶつかり合い。

 離れる。

 

 お互いの存在をぶつけ合うことで、どちらが上かを競う。

 原始人の戦いだ。

 

 その中で、なんとなくわかってきた。

 

 戦いを楽しみながら。

 好敵手(とも)の存在を喜びながら。

 好敵手(とも)に感謝しながら。

 

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 

 理解する。

 

 好敵手(とも)の中の、孤独を。

 

 

 

 世界の中に、小さな世界がある。

 

 小さな世界は世界となり、小さな世界へ還る。

 

 俺は、『気』を学ぶことでそれを知った。

 しかし、こいつのしていることは。

 

 小さな世界を世界そのものとなす。

 

 たぶん、そういうことだ。

 世界とつながるのではなく、自らを世界とする。

 

 それはきっと、神と呼ぶべき存在に許された行為。

 

 俺には分からないが、聖域には、何かがあるのだろう。

 文明が、人の流れとともに広がっていくように。

 世界を広げていく何か。

 

 しかし。

 いま、広がり続けているこの世界は、きっと。

 俺と戦っている好敵手が望む、故郷ではない気がする。

 

 

 

 俺は、語りかけるように拳を振るった。

 

『なあ、天地創造ってのは……そんな悲しい行為なのか?』

 

 拳が返ってくる。

 何も語らない、拳が返ってくる。

 

 教皇様を、アイリスを、倒れたままにして……放置しておいたように。

 俺が邪魔だから、拳を振るう。

 

 戦っているようで、戦っていない。

 そんな気がした。

 

 閉じた世界。

 拒絶する世界。

 

 その心のあり様が、この広がる世界のあり様にも思える。

 

 殴っても殴っても。

 言葉が返ってこない。

 返ってくるのは拳だけ。

 

 

 夢を。

 希望を。

 未来を。

 

 そんなものを膨らませて、世界を作るものだと思っていた。

 

 

 好敵手の境遇を、勝手に想う。

 

 仲間を失い、故郷を追い出され、長き放浪の果て、か。

 自分の中にしか存在しない故郷。

 

 故郷を取り戻すと言いながら、お前の中に、喜びは見られない。

 

 拳を握りこむ。

 

『お前が作っているのは、墓場か?』

 

 

 

 

 

 

 差が見え始めた。

 好敵手についていくために無理をする。

 無理を重ねる。

 

 水のこぼれそうなコップ。

 ギリギリのバランス。

 

 壊れるときは、一瞬だと思っていたが、そうでもなかった。

 

 じりじりと。

 小さな穴から水が漏れていくように。

 結末へと向かっていく。

 

 

 

 

 

 

「……よくぞここまで戦い抜いた」

「まあ、チートですから……」

 

 俺は膝をつき、やつは立っている。

 まあ、やつも大概ぼろぼろだけどな。(震え声)

 

 つながる世界がないと辛いわ。

 何もない世界だしな、ここ。

 

 最後は、体力の差だ。

 

 仕方ない、な。

 

「そういや、アンタの仲間を倒したのって誰?やっぱり、アテナとかポセイドンとかハーデスとか、そのあたりなの?」

「……その名に、聞き覚えはないな」

 

 前世の、ギリシャ神話の知識を探った。

 そういや、原作ではどうなってんだろと思いつつ、口に出す。

 

「じゃ、ゼウス?」

「知らぬ」

「……マジで?」

 

 え、小宇宙を使う忌々しい連中で……侵略者で……。

 ギリシャ神話の、創世記って……あんまり覚えてないんだが。

 

「ウラヌス?ウラーノス?あ、ガイアとか?」

「……そんな名前だったかもしれんな」

 

 俺の言葉に眉をひそめ、吐き捨てるように言われた。(白目)

 

 すみません、あなたの仲間の仇、内ゲバでぼっこぼこですわ。

 親殺し、兄弟殺しは当たり前、自分の妻は殺すわ、息子は追放するわ、やりたい放題っすよ。

 

 俺の記憶のギリシャ神話が、そのままこの世界に当てはまるのかどうかはともかく。(目逸らし)

 

 まあ、ギリシャ神話に限らず、神話って基本的に血塗られてるからなあ。

 俺がアテナの立場なら、父親のゼウスは絶許だし。

 

 アテナの母親を性的に食ったあと、物理的に食うってなんだよ。

 まあ、暗喩的表現なんだろうけど。(震え声)

 暗喩的表現なんだろうけど!(強弁)

 

 

 ……うん。

 

 時間を稼いで、なんとか立て直した。

 

「すまんな」

「何を謝る?この戦いに、恥じるべきところはなかった。お前はあの忌々しい連中とは違う。誇り高き戦士だ、それを認めよう」

 

 言葉を交わしてくれる。

 感謝だ。

 無視されない程度には、認めてもらえたか。

 

「久しぶりに全力で戦えて、楽しかった。感謝するよ」

 

 感謝の言葉に、どこか戸惑ったような目で、好敵手が俺を見る。

 

 

 ああ。

 感謝する。

 感謝するしかない。

 

 

 

 感謝とは。

 

 謝りたいと感じる心、だったか。

 

 何故謝りたいのか?

 おろそかにしていたから。

 ないがしろにしていたから。

 

 謝りたい、理由があるからだ。

 

 

 

 謝らせてくれ、好敵手(とも)よ。

 

 

 

 

 我が女神の言葉を胸に。

 右手に心力を。

 左手に魔力を。

 

 ああ、この技にも、謝らなければいけないな。

 あの時は、途中で怖くなって投げ出してしまった。

 

 おろそかにしてきた。

 ないがしろにし続けてきた技だ。

 

 心力の扱いもそうだが、魔力にも不慣れだったあの頃。

 ぐずぐずと、時間をかけてしまった。

 

 今なら、すぐだ。

 

 甲高い音。

 引き合う。

 本来反発する力が、引かれあう。

 右手と左手を、引かれるままに重ねる。

 

「待て!それは……まさか、そんな」

 

 待たない。

 それに、もう遅い。

 

「それは……お前自身をも滅ぼす力だぞ……」

 

 俺は、ただ微笑む。

 

 すまないが、好敵手よ。

 お前は、ここで必ず殺す。

 この世界も、壊す。

 

 負けを認めたから。

 負けを認めたからこそ、これを使わせてもらう。

 

 俺の身体が耐えられないほどの威力。

 俺の力が上がった分、あの時よりもさらに上、そして、今度は……最後まで、いく。

 

 ……ん?

 

 なんで、これに限ってそんな反応をするんだ?

 俺の気配を感じないくせに、なんでこれにそんな反応をする?

 

 ギャラクシアン・エクスプロージョン(偽)って、神話の世界の住人でもメジャーな技なのか?

 まあ、ある種の……破滅の力ではあるだろうけど。

 

 好敵手が、一歩退き……肩を落とした。

 邪魔されるかと思ったが、いきなり諦めたか……油断はしないが。

 その姿を見てみたかったという思いと、そんな姿は見たくなかったという思いが、半々だな。

 少し、複雑だ。

 

 あの時投げ出したレベルをはるかに超えて……自分の成長を実感するのはいいけど。

 

 どこまで膨らむの、これ?(震え声)

 

 俺のツッコミに応えたわけでもなかろうが、力の、流れが変わったのを感じた。

 

 膨らもうとする流れ。

 そして。

 中心へと集まろうとする流れ。

 

 戸惑い、そしておぼろげに理解した。

 

 ……そうか。

 あれは、力を集めている途中で、中途半端に投げ出したものだったか。

 だから、破壊だけを生み出した。

 

 反発する2つの力。

 それが引き合い、織り成すもの。

 

 破壊と再生。

 そんな言葉が浮かんだ。

 

 破壊の先にあるもの。

 破壊の先に願うもの。

 

 中心へと集まろうとする流れが強くなり、大きく膨らんだ光が凝縮されていく。

 悲鳴をあげかけていた身体が、楽になった。

 

 ただじっと、その過程を見つめていた好敵手(とも)に、問いかけた。

 

「なあ、お前の名前を教えてくれ。俺は、俺の名は、アルだ」

 

 やつの視線が、俺に向けられた。

 そして、口を開く。

 

「……だ」

「え?」

「アラルだ……」

 

 神話の名前としては……聞き覚えはないな。

 まあ、俺もギリシャ神話ぐらいならともかく、詳しいわけじゃない。

 

 というか、紛らわしいな、おい。(目逸らし)

 

 まあ、俺の名前にしたって、村で『アル』と呼ばれていただけだからな。

 たぶん、愛称か、名前の一部なんだろう。

 

「……アル。人の子、アル。それは、いや……お前は何を願う?」

 

 ……死亡フラグ立てるのやめてください。

 でも、仕方ない。

 俺は、負けたんだ……これは、当然のペナルティ。

 

「願いか……そうだな」

 

 俺は、誇り高き戦士などと呼ばれなくてもいいな。

 ただ、守る者でありたい。

 

「人の笑顔……かな」

 

 全員なんて、口が裂けても言えないがな。

 

 できることだけを。

 やれることだけを。

 

 どうしても、こぼれていくものはある。

 それでもだ。

 

 もう一度、この何もない世界を見渡した。

 

 俺は、こんな何もない世界はごめんだ。

 

 テリオス師匠。

 シュルツ。

 イオニス。

 アイリス。

 ミケーネ。

 ……。

 ……あ、教皇様と、クラウスとニルスも。

 

 まあ、村の人間もか。

 ルチアーノのおっちゃんには感謝してるし。

 

 俺は、両手に集まる力に視線を向けた。

 

 待たせたな。

 いくぞ。

 

 破壊と再生。

 技の名前は……口にはださんとこ。(震え声)

 

『世界』は荷が重いが、侵食された分ぐらいは……どうにかなるだろう。

 

 強く、あの世界を想って……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が、溢れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、れ……なんで?

 

 生きて……る?

 

 闇の、中。

 いや。

 見えてない、だけか。

 

 どこだ、ここは……?

 あの世界じゃ、ない……あれは、壊したはずだ。

 

 でも、ここは……どこだ。

 寒い、ところ。

 

『気』と『チャクラ』に意識を。

 

 あ。

 

 弱々しく稼働していた『チャクラ』が、閉じた。

 俺を支える、両輪のひとつ。

 崩れる。

『気』が、迷走する。

『魔力』はガス欠。

『心力』は……心に燃えるものが感じられない。

 

 喜びも、悲しみも、通り過ぎたあと……。

 

 あぁ。

 終わるな……。

 

 遅れて、ずるりと。

 自分の半身が、もぎ取られるような感覚。

 

 俺が、俺であったもの。

 俺が俺であるために必要だったもの。

 

 でも。

 本来は俺のものじゃなかったもの。

 

 少し悩んで。

 俺は、別れを告げた。

 

 今までありがとうな……相棒(チート)

 

 

 

 

 冷えていく。

 身体が。

 そして心が、受け入れようとしている。

 

 なのに。

 それに抗うように。

 ポツリと小さく、灯るものを感じる。

 

 

「ははっ……」

 

 ああ、まだ声が出るのか。

 

 懐かしい。

 あのやりとり。

 最後に、もう一度、か。

 

 これ……小宇宙(コスモ)だろ?なあ、小宇宙だろ、なあ?

 

 そうしたら、テリオス師匠が、シュルツが、イオニスが……目をそらす。

 そうだよな。

 

 はいはい、ぬか喜び、ぬか喜び。

 

 いつもの、いつもの。

 

 

 

 

 

 ああ、でも。

 

『化物は、村から出て行け』

 

 これがもし、小宇宙だったら。

 

『この世界に生きとし生けるもの全てにあるのが小宇宙だ』

 

 いいな、うん。

 

『この世界に生を受けたあなたは、女神である私の子供たちの1人です……1人なのですよ。それを、忘れないで』

 

 我が女神様には、タコをぶつけよう。

 とれとれピチピチのタコを。

 

 チートの陰に隠れてわかりませんでした……とか言い訳しないでくれよ。

 

 

 

 ああ、いいな。

 悪くない。

 楽しい。

 

 でも、そのためには……生きて、戻らなきゃな。

 

 まあ、やってみるか。

 

 腕を、動かす。

 ああ、左腕は……肘から先の感覚が……ない。

 吹っ飛んじゃったのか?

 右腕は……ある。

 指先まで。

 

 まあ、死にかけてるという意味では、同じこと、か。

 

 腕があって、よかった。

 この幸運に、感謝を。

 

 自分の中に感じる、小さな灯火を。

 俺は、そっと抱きしめた……。

 

 熱く、燃えてくれ。

 俺の、小宇宙よ……。

 

 

 

 

 

 

 そして、奇跡を……。

 




次話予告、『残された者たち(アイリス視点)』。


アラルは、ギリシャ近辺の地域ということで、メソポタミア神話に源流を持つ、ヒッタイト系のクマルビ神話に登場する神様の名前です。
天国の王でしたが、『地球』へと追い出されたという逸話を持つことから、チョイスしただけで、深い意味はありません。

まあ、この神話も、下克上の連発ですけどね。(震え声)


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10:残された者たち。(アイリス視点)

さて、手首の柔軟運動はすませましたか。(震え声)


「アイリス!」

 

 アテナ様と一緒に、神殿の外に向かって投げ出された。

 少し遅れて、イオニス様と教皇様が転げ出てくる。

 

 いったい何を!

 

 立ち上がりかけた目の前で。

 神殿が。

 朧のように。

 消えていく。

 

 そして。

 黒いもや。

 足元の黒い染み。

 

「いかん、それに触れるな!」

 

 教皇様の叫びに、伸ばしかけていた手を引っ込めた。

 

 でも。

 黒いもやが。

 足元の黒い染みが。

 じわじわと、広がっていく。

 

 一歩。

 また一歩。

 退く。

 退いていく。

 

 教皇様も、イオニス様も。

 

 ぎゅうっと、アテナ様にしがみつかれて、少し冷静さを取り戻した。

 慌てて、距離を取る。

 わからない。

 でも、これは触れてはいけないもの。

 それが、わかる。

 

「……アル」

 

 触れてはいけないものの中に。

 今はない、神殿の中に。

 それでも、退いていくしかない。

 

 気が付けば、教皇の間へと。

 

「教皇様!」

 

 クラウスが、ニルスが。

 駆け込んできた。

 

「一体何が……なんだ?」

「触れるでない!」

 

 

 ああ、そうだ。

 アルとの会話に集中して、ほかの黄金聖闘士に情報を送るのを忘れていた。

 そういえば、ミケーネは……?

 

 ぞくりと、寒さを感じた。

 

 冷気。

 寒気。

 いや、違う。

 

 暖かみを失ったことによる、錯覚。

 

 聖域に満たされていた、アテナの気配とでもいうものを失った。

 聖域が、聖域ではなくなった。

 

 何とも言えない喪失感に、胸を締め付けられる。

 

 アテナは、ここにいる。

 ここにいるのに。

 

 一体何が……聖域に起こったの?

 

 

「む、う……」

「教皇、ここは……」

 

 見れば、イオニス様が、拳を構えていた。

 

「待て、イオニス」

「教皇の言うこともわかります。危険なことも」

 

 笑った……?

 

「しかし、触れてみなければ……対策もとれません。私が試してみます。離れていてください」

 

 小宇宙の高まりとともに、白い輝きを放つイオニス様の拳が、黒いもやに向かってうちこまれた。

 広がり続けていたもやが、微かに後退したように見えた。

 

 効果は……ある?

 

「イオニス!」

 

 教皇様の声に振り向いた。

 

 イオニス様が倒れている。

 

 一体何が起こったの?

 

 その、倒れたイオニス様の身体から、黄金聖衣が……離れた。

 戸惑い、気づく。

 

 嘘。

 これって……。

 

 イオニス様の、小宇宙が……感じられない。

 

 教皇様が抱き起こしたイオニス様の顔は……老人のそれ。

 

 ぶるりと、身体が震えた。

 

 この黒いもや。

 黒い染み。

 

 触れただけで、命を……。

 

「……退きましょう」

 

 しゃがれた、老人の声。

 

 それが、イオニス様の声であることに気づくまで少し時間がかかった。

 そして、それに気づいたことが、何よりも私を怯えさせた。

 

 死んだわけではなかった。

 なのに、小宇宙を感じない。

 

 この、黒い何かは……小宇宙を、殺す?

 

 

 教皇様が。

 クラウスが。

 ニルスが。

 

 老いたイオニス様を見て、じわじわと広がる黒いもやに目を向けた。

 みんなも気づいたのだろう。

 

 だからといって、新たに試す気にはなれない。

 

 イオニス様の姿を見るだけで、心が折れた。

 

 ダメだ。

 これは、ダメだ……。

 

 

「ここを、離れる……アイリスはアテナを。クラウスはイオニスを……頼むぞ」

 

 教皇様の声を助けに、私たちは動き出した。

 

 私はアテナを。

 クラウスがイオニス様を抱えて。

 

 走り出す。

 いえ。

 

 逃げ出した。

 

 アル。

 アル。

 

 あの時、私を……。

 あれがなければ。

 

 

 ……え?

 

 アルは。

 アルには……小宇宙がなくて。

 

 足を止めた。

 

 希望。

 いえ、祈りにも似た願い。

 

 生きている。

 生きていて。

 

 でも、と思う。

 

 邪魔な虫を追い払うように、私を押しのけたあの存在。

 そう、たぶん、押しのけただけ。

 

 小宇宙を感じない。

 それでいながら、底知れない力を持つ。

 

 アルの、あの時の言葉を思い出した。

 

『俺が、全身に冷や汗をかくような気配が、突然、現れた。なんの前触れもなく、突然だ』

 

 アルは言っていた。

 小宇宙を感じないせいか、私たち黄金聖闘士に何も感じない、と。

 

 そのアルが……そこまで言う存在。

 

 小宇宙の有無だけの、話であってほしい……けど。

 

 わからない。

 わからないことが怖い。

 

 ……私は強欲だ。

 

 アルの無事を祈りながら。

 アルが、あの存在を倒すことを願っている。

 

 生きて、戻ってきて欲しいと思っている……。

 

 

 気が付けば、アテナに見つめられていた。

 

 ああ、そうね。

 今は自分に出来ることを。

 

 私は、アテナを抱えて再び走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何してんの、ミケーネ。

 

 もしかすると、虫を見るような視線になっていたかもしれない。

 

 ボロボロに破壊された、金牛宮。

 それだけを見るなら、この場で激しい戦闘が行われたと思っただろう。

 

 まあ、わかってるのよ。

 

 アルが、ここを駆け抜けた際に、ちょっとばかりやりすぎたっていうのは。

 でもそれは、アテナを守るための、一瞬を争う状況だったから。

 誰にも文句は言わせない。

 クラウスも、ニルスも……文句は言わせない。

 

 でもね。

 

「ねえ、ミケーネ……」

 

 自分でもびっくりするほど、優しい声が出た。

 

「なぜ、アルの後を追いかけもせずに、後片付けしてるの?」

「あ、アイリス様、落ち着いてください……その、何かあったんですね?」

 

 ……人のことは言えないけど。

 誰も、連絡を交わさなかったのね。

 

「そ、そもそも……あのアルさんが行ったあと、私に何ができるって言うんですか?」

 

 正論だ。

 だからこそ、私の傷をえぐってくれた。

 

 口を閉じなさい。

 そして、飛びなさい。

 

 

 

 ミケーネの身体をニルスに抱えさせ、私たちはまた走り出した。

 

 私たちの間に、会話はない。

 みんな、不安なのだろう。

 

 

 あの、教皇様?

 クラウスも、ニルスも。

 なぜ、私から目をそらすの?

 

 そういえば、アテナも……あのとき、アルが私に任せようとしたら、いやいやって感じに首を振って。

 

 まあ、あの時は問答無用でアナザーディメンションぶちかましちゃったけど……あれは攻撃したわけじゃなくて、守るためだったのに。

 アテナとして目覚めてない子供だから、怖がられちゃったのかしら?

 

 

 

 

 白羊宮を抜けた。

 

 聖域を出た。

 多くの人を伴って、聖域から出てしまった。

 

 アテナ神殿へと続く12宮を守る黄金聖闘士の私が、聖域から……逃げ出した。

 

 アテナを、抱きしめる。

 ただ、アテナを抱きしめた。

 

 私は、私は……何のために、黄金聖闘士になった?

 

 自分の想いが、心をえぐっていく。

 

 そうね、あとで、ミケーネには謝らないと。

 あれは、八つ当たりだったわ。

 

 

「……っ!!」

 

 悲鳴。

 嘆き。

 聖域の方を指さす人。

 

 私は、肩ごしに振り返った。

 

 あぁ。

 

 私たちは、アテナを守る兵士。

 教皇の間で、それを肌で感じていた。

 

 今それを。

 この目で、確認させられた。

 残酷に、無慈悲に。

 目に見える形で。

 

 私たちは。

 聖域を失ったのだ……。

 

 

 聖域だった場所。

 広がり続ける、黒い何か。

 

 その上空の闇を見ていると、穢されたという言葉がしっくりくる。

 

 心の拠り所を、大事な場所を、踏みにじられ、荒らされる。

 おそらくは、それよりもおぞましい何か。

 言葉にならない不快感。

 

「……嘘だろ、おい……」 

 

 何かしら異変を感じたのか。

 駆けてきた青銅聖闘士の1人が……目の前の光景に、膝をついた。

 そして、白銀聖闘士が、うなだれる。

 

 聖闘士として、自分の存在意義を問われる光景だもの……無理もない。

 

 身体ではなく、心に攻撃を受けている。

 受け続けている。

 みんなが、下を向いていく。

 

 

「うろたえるな、小僧ども!」

 

 その、ハリのある叱責に、反射的に背筋が伸びた。

 

 誰?

 

 視線を巡らす。

 

 あれは、アルの師匠のテリオスさん。

 先の聖戦を生き延びた……数年前に聖闘士を引退したはず、だけど。

 

「……って、教皇様。こういうのは、教皇様がびしっとやらなきゃいかんことでしょう」

「テリオス……お前は、なぜここに」

「聖闘士は引退しましたがね……」

 

 ちらりと、私のそばのアテナを見て、続けた。

 

「アテナの兵士であることを引退した覚えはありません」

 

 教皇様は、しばしテリオスさんを見つめ、足元に視線を落とし……顔を上げた。

 敢然と。

 威厳をたたえ、指示を飛ばし始める。

 

 広がり続けている黒いモノに触れてはいけないことの徹底。

 そして、聖域周辺からの退避。

 私も、それを補佐する。

 

 動け。

 動き続けるの。

 今は、それでいい。

 やれることを。

 やれるだけ。

 

 そしてもし……余力があったなら。

 

 私は、聖域だった場所に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広がり続ける黒い世界。

 その速度は、蟻を思わせる。

 

 しかし、その歩みは止まらない。

 

 警戒はしていたが、中から何が出てくるというわけでもない。

 というか、黒いもやの中は見えない。

 

 1日、また1日と。

 心が削られていくような毎日が続いた。

 

 

 そして、1週間。

 

 不意に、アテナの様子が変わった。

 

 私を見る目に、はっと気づく。

 

 アテナの化身としての目覚め。

 

 一気に気配が大人びて、感じる小宇宙も跳ね上がった。

 そのアテナが、私の腕を掴んだ。

 

 そして、聖域だった場所を指さす。

 

「向かいますか?」

「ええ、お願い」

 

 

 

 

 

 聖域を超えて広がり続けていた黒い世界。

 その歩みが、止まった……?

 

 何が。

 

 人が、集まってくる。

 

 何かが。

 

 人が指さす。

 

 わけもなく。

 私の目から、涙がこぼれた。

 

 

 そして、黒い世界の中から。

 

 

 

 

 

 光が溢れた。

 

 

 

 

 

 目を開けていられない。

 

 でも。

 あの人だ。

 

 祈るような願いだと自覚しつつ。

 私は、涙を流し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 光の奔流の後に、聖域を感じた。

 

 喪失感を、埋めるモノ。

 

 あの黒い世界が幻だったかのように、聖域が、そこに姿を現していた。

 

 

「アイリス」

 

 アテナが、アテナとして私に命じる。

 アテナの兵士である、黄金聖闘士の私に。

 

「神殿に向かうのです、私を連れて」

 

 教皇様への報告も忘れて、私は駆け出していた。

 

 

 

 

 

 12宮を駆け上がる。

 黒い世界に飲み込まれる前の、12宮を。

 

 いえ、何かが足りない。

 

 でも、ここは聖域だ。

 聖域が戻ってきた。

 

 だったら、あの人もきっと。

 帰ってくる。

 そのはずだ。

 

 駆け上がっていく。

 上り階段を、下り階段のように駆け上がっていく。

 

 教皇の間。

 

 その奥。

 

 アテナ神殿。

 あの時のままの。

 

 アテナが、神殿に立った。

 

 満たされる。

 聖域が、アテナの暖かく優しい気配に満たされる。

 

 本当に。

 聖域が戻ってきた。

 

 じゃあ、アルは?

 神殿に、視線を巡らせる。

 

 小宇宙を持たないアルの気配を感じることはできないから、目で確かめるしかない。

 アルを探す。

 アルを。

 アル。

 

 

 ああ、そうだ。

 アテナは。

 アテナはあの人の気配を近くに感じると泣き叫んでいた。

 私が探すより、聞いたほうが早い。

 

 ちょっと不敬かもしれないけど。

 許されるはず。

 

 今日は。

 今は。

 祝うべき瞬間だもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……。

 ……。

 

 何も言わず、小宇宙を燃やす。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 開く。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 開き続ける。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 ドアを。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 あの人のいる場所へ。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 届け。

 

「アナザーディメンション!!」 

 

 つながれ。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 あの人の場所に。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 開く。

 

「アナザーディメンション!!」   

 

 開き続けていく。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 小宇宙の限り。

 

「アナザーディメンション!!」

「アナザーディメンション!!」

「アナザーディメンション!!」

「アナザーディメンション!!」

 

 ああ、でも。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 届いたとしても。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 私は、あの人の気配を。

 

「アナザーディメンション!!」 

 

 感じない。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 あれ?

 

「アナザーディメンション!!」 

 

 これって?

 

「アナザーディメンション!!」

 

 意味のない、こと?

 

「アナザーディメンション!!」 

「アナザーディメンション!!」

「アナザーディメンション!!」 

 

 ねえ。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 もしかすると、閉じた場所にいたんじゃないの?

 

「……っ!!」

 

 小宇宙が……。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 心が……。

 

「アナザーディメンション!!」

「アナザー……」

 

 

 

 私は、膝をついていた。

 

 あの人がそこにいて。

 私がつなげる。

 それを、あの人が支えて。

 

 好きな時に、話しかけられた。

 

 

 私は、なんで……。

 もっと。

 技を追求しなかったの?

 

 あの人がそばにいなくても。

 つなげられる。

 そこに至っていれば……。

 

『鍛錬は続けろよ。平和が崩れるのは一瞬だ』

 

 ええ、そうね。

 一瞬だった。

 

 一瞬で……失われるものだった。

 聖域がそうだったように。

 

 聖域は戻ってきたけど……。

 あなたは、いない。

 

 

 アテナが。

 教皇様が。

 ミケーネたちが。

 私を、見ていた。

 

 あぁ。

 今の私は。

 そんな目で見られるような、状態なんだ……。

 

 膝をついた状態から、腰が落ちる。

 

「ああぁ……」

 

 私の、声。

 悲鳴にも似た。

 泣き声。

 

「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 私は……泣いた。

 

 失った。

 奪われた。

 自分の中の。

 心の、柔らかい部分。

 

 それを、ごっそりと削り取られた。

 

 泣いて。

 泣いて。

 泣く。

 

 喪失感を、涙で埋め尽くすように。

 そうしないと、耐えられない。

 

 深い深い湖に、涙を注ぎ込む。

 

 それも、終わりが来る。

 

 そして、それを待っていたかのように、肩に、暖かい手が乗せられた。

 アテナの手。

 

 私の心を癒すはずのその暖かさが、すこし疎ましい。

 

 ああ、でも。

 立たなければ。

 

 私は、アテナを守る黄金聖闘士だもの。

 

 そう思って、力を入れた瞬間。

 

「えっ?」

 

 アテナの声。

 

 それがあんまり場違いというか、変だったから、私は自然に顔を上げていた。

 

 アテナが、どこか戸惑ったように、その視線を宙に彷徨わせている。

 

 アテナの表情が引き締まり、私を見た。

 ある方向を指さす。

 

 この技、方角は関係ないです……という言葉を飲み込み、立ち上がっていた。

 

 言葉など、説明などなくとも。

 燃えた。

 燃やすまでもなく、小宇宙が燃えていた。 

 

 

 とどけ。

 つながれ。

 あの人の場所に。

 

「アナザーディメンション!!」

 

 その瞬間。

 

 金色が、走った。

 開かれた次元に向かって飛び込んでいく。

 

 今のは……。

 

「……シュルツの小宇宙、か?」

 

 教皇様の言葉を聞いて思い当たった。

 

 そうだ、いまのは、獅子座の黄金聖衣。

 シュルツ様と言えば、アルとは親しい間柄と聞いたことがある。

 その、シュルツ様の小宇宙をまとった聖衣が……目指したもの。

 

 胸が、高鳴る。

 

 それに遅れて。

 微かな小宇宙を感じた。

 金の獅子がまとった小宇宙が向かう先。

 

 戸惑う。

 

 だって、アルは。

 あの人には、小宇宙を感じないから。

 

 別の誰か?

 

 今にも消えそうな小宇宙。

 

「閉じてはいけません」

 

 アテナの声。

 

 私は、開いた扉を維持する。

 維持し続ける。

 

 

 

 

 小宇宙が重なる。

 動き出す。

 

 

 

 近づいてくる。

 

 

 

 

 戻ってくる。

 

 

 

 

 ああ。

 帰ってくる。

 

 

 あの人の気配はわからないけれど。

 それがわかる。

 

 

 金の獅子が。

 あの人を乗せて。

 

 

 帰って……きたっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの人は。

 帰ってきた。

 帰ってきてくれた。

 

 ありがとう。

 本当にありがとう。

 

 生きて帰ってきてくれて、ありがとう。

 

 左手の肘から先を失った、あの人の身体を。

 私は泣きながら抱きしめた。

 

 微かでも。

 今にも消えそうでも。

 そこに小宇宙を感じ取れるなら。

 

 そこは、私の、私たちの領分。

 

 あなたは絶対に、死なない。

 死んだりなんか、しない。

 絶対に、死なせはしない。

 




まあ、ご都合主義ってやつでね。(震え声)

この話、2話分の予定だったんですが、冗漫になったんで1話でまとめました。
幕間入れようかと思いましたが、そのままの流れで次が最終話です。

そして、悪魔の囁き。

悪 魔:「最後に、主人公が身体だけ帰ってくるって、格好良くない?」
 私 :「……いい」
悪 魔:「消えそうな小宇宙が、途中でふっと」
 私 :「あ、あああ」
悪 魔:「アイリスが、それを抱きしめて号泣よ。ヒロイン力、爆上がりやでぇ」
 私 :「あっあっあっ(ビクンビクン)」

 この物語、わりと土壇場でやばかったことが結構あります。(震え声)


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11:君は小宇宙を感じたことがあるか?

最終話っていうより、エピローグ風味。
みなさんの思い描くエンディングとは違うかもしれませんが、そこはご容赦ください。
では、どうぞ。


 光。

 

 暖かさ。

 

 浮き上がる感覚。

 

 ああ。

 

 還る。

 

 個に還る時。

 

 目を開いた。

 

 個と世界の境界が溶け合った時のような曖昧な状態。

 その感覚を惜しみながら、個を意識する。

 

 ここは……。

 

 どこだと思うより先に、目に飛び込んできた光景がそのまま答えとなった。

 

 獅子座の、黄金聖衣。

 俺を見守るようにして、そこにいた。

 

 戻ってきた……か。

 帰って、これたんだなあ……。

 

「……シュルツ」

 

 友の名を呼び、手を伸ばす。

 正直、どうやって戻ってきたのかとか、わからないことだらけだが、心は穏やかだ。

 

「……あるぇぇぇぇ?」(穏やかさポイー)

 

 手を見る。

 握ったり開いたり。

 

 俺の左手って、肘から先が無くなってなかった?

 感覚がなかっただけ?

 

 義手……じゃないよな?

 

 また、開いたり閉じたり。

 右手で、左手の肘から先が外れたりしないか確かめたり。

 

 ……どうやら、宇宙海賊ルートではなさそうだ。

 

 と、すると……生えたの、これ?

 

 わりと、人間やめてるなーという自覚はあったんだが、手足がにょきにょき生えてくるのは、さすがに抵抗感がある。

 いやまあ、五体満足ってのはありがたいことなんだけど……。

 

 ふとした思いつき。

 

 もしかすると……俺、一度死んだか?

 

 ほら、破壊と再生。

 

 

 

 ……なんか、怖い考えになったからやめよう。(震え声)

 

 というか、自分の状態を確かめるか。

 

 ああ、これって……。

 本当に、俺の相棒(チート)……いなくなったんだな。

 

『気』もそうだけど、『チャクラ』もひどい。(なお、比較対象は、全盛期の自分)

 大人と子供どころじゃないな……1割未満か。

 

 まあ、修行をやり直すか……これも、俺の大事な相棒だ。

『心力』もまあ、お察しだな。

 でも……なんで『魔力』は、半減程度でおさまってるんですかねえ。(震え声)

 

 ……そういえば俺、魔法使いだったわ。(白目)

 

 ははは、チート転生者、しっかりしろよ、チート転生者。

 ははは。

 

 うん。

 まあ、な……。

 

 よそ者だったからな。

 

 この世の生きとし生けるものから外れた存在って認識がまあ……あったのは確かだ。

 チートがある俺はまだいいかもしれない。

 じゃあ、子供は……って考えるわ。

 

 この世界で、小宇宙を持たずに生まれてきたら……目覚めないんじゃなくて、最初から持ってないんだとすれば、厳しい気がする。

 

 この世界は、わりと神様の存在が身近だ。

 その神様に認められていない存在は、肩身が狭い思いをする羽目になると思う。

 

 

 なので。

 この胸の中の、小さな温もりの答え合わせをしたい。

 

 そして、海でタコを捕まえるんだ。

 1ダースは必要だな、きっと。(訓練された疑い深さ)

 

 

 ん?

 

 近づいてくる、アイリスの命を感じた。

 

 あぁ。

 そうか。

 アイリスは。

 アイリスの小宇宙は、こんなふうに感じるんだな。

 

 大きく、暖かい。

 優しく包み込むような……ちょっと窒息しそうな感じもあるが、情が深いってことにしとこう。

 

 ドアが、開く。

 

「なあ、アイリス。俺はどのぐらい寝てた……」

 

 ……結構寝てたんですね。

 その反応でわかります。

 

 俺の身体にすがりつき。

 仮面の下で、涙を流しているであろうアイリスの頭を撫でてやる。

 

 右手で優しく頭を撫でてやりながら、左手のポジションが落ち着かないことに気が付く。

 抱きしめるのは……違うよな。

 ふむ。

 彼女の背中を、優しく叩いてやる。

 とんとんと。

 安心させるように。

 とんとんと。

 落ち着かせるように。

 

 心臓の鼓動のリズムで、とんとんと。

 

 そして、問いかける。

 

「アイリス、俺の小宇宙を感じるか?」

 

 

 

 

 

 

 

「アルー!」

 

 てててっと走り寄ってきて、俺のお腹にぐりぐりと頭を擦り付けてくるアニエス。

 このぐらいの子供って、妙にこういうことをするよね。

 身長の差だけじゃ説明できない気がするけど。

 

 というか、都合のいい時だけ目覚めて、あとは知らんふりですか、女神様。

 

 アテナとして目覚めたという話をアイリスから聞いたせいで、少し色眼鏡で見てしまう。

 タコとかぶっつけたら、覚醒したりしないかな?

 

 ……アイリスの気配が、なんか怖い。

 

 俺が寝てる間に、双子座の暗黒面にとらわれたりしちゃったの?

 教皇様じゃなくて、女神様を狙っちゃうの?(震え声)

 

 さっき、『俺の小宇宙を感じるか?』って聞いてから、様子が少し変なんだよな。

 なんというか、こう……覚悟完了って感じの。

 

「アニエス、これからちょっと教皇様とお話があるから、また後でな」

「……はーい」

 

 素直だ。

『我慢してます』って印象を残すあたり、子供らしいあざとさも垣間見えてかわいい。

 

 左手で、頭を撫でてやる。

 

 うん。

 しかし、マジで左手は生えたのか。

 黄金聖闘士数人がかりで、死にかけてた俺に小宇宙を注入したら、生えたらしい。

 

 ……みんな、ドン引きだったそうだが。(震え声)

 

 俺の相棒(チート)、本当にいなくなったんだろうか。

 

 というか、あの時の俺って、どこの次元を漂っていたんだろう……マジで奇跡を起こしたとしか思えん。

 俺って、本気で一度死んでたんじゃないのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教皇様に報告。

 というか、情報のすり合わせ。

 

 俺が寝ていた間というより、アラルと戦っていた間に起こったことを聞いて青ざめた。

 

 マジか……イオニスが小宇宙を失って老人状態に……。

 

 結果論になるが、開幕ギャラクシアン・エクスプロージョン(偽)からの破壊と再生が最善だったってことか?

 あるいは、アイリスを確保したその瞬間に……。

 いきなり自分の死を前提に自爆技とか、覚悟がガンギマリすぎなんですが、それは……。

 

 いや、無理。

 イオニスには悪いけど、さすがに無理。

 

 というか、あの世界での時間の流れとか今ひとつ不明だけど、俺とアラルって、こっちの世界で1週間ぶっ続けで戦ってたわけか。

 その間、昼も夜もなくじわじわと迫り来る黒い世界とか、どんな絶望だよ。

 

 ……うん、よかった。

 アラルの立場に同情しないわけではないが、アレを、あの世界をぶっ壊せて本当に良かった。

 

 正直、色々と疑問もあるが……たぶん、知っていたとしてもアテナは話すつもりがないんだろうな。

 ただ、黒い世界が消えてすぐ、アテナが神殿に向かったことから考えても、聖域は……あの神殿の場所こそが本当の聖域なんだろう。

 

 ……触れてはいけないという意味での。

 

 そりゃ、12宮とか、黄金聖闘士の配置とか……さもありなんってことだな。

 

 

 さて、今度は俺が話す番か。

 とはいえ、前世の怪しげなギリシャ神話と、アラルとの少ない会話からの推測混じりというか、推測だらけになるんだが。

 

 

 

 俺の話を聞いて、教皇様もまあ……ショックだったんだろうな。

 

 冥王や海皇もいるし、聖戦の存在もあるから、ほかの神様の存在はもちろん、戦いそのものに関しては納得できるんだろう。

 ただ、自分たちの側が侵略者って認識は、受け入れがたい、か。

 

「まあ、無理に記録を残す必要はないと思う」

 

 教皇様が、俺を見る。

 

「人の心の拠り所を、貶める必要はない……守るのは、アテナの名誉ではなく、人の生活で、笑顔だ。たぶんそれは、アテナを守ることにつながる道でもあるだろう」

 

 今あるこの世界を。

 今この世界に住む人を。

 心安らかに、笑顔で生きていけるように。

 

 それを忘れない限り。

 

 それは、優しい嘘になるだろうから。

 

 

 目を閉じ、アラルを、好敵手(とも)を思う。

 

 あの時は、ただ単に、思いを口にしただけだが……俺の一方的なものかもしれないけど、あれは『約束』だったと思っている。

 本来の……あるいは、それ以前も侵略の歴史が積み重ねられてきたのかもしれないが……ここを故郷とする者への、約束。

 

 ここに住む、人の笑顔を……だ。

 

 

 

 

 先の聖戦から、50年余……。

 

 わずか……あえて、そういう表現を使うが、わずか1週間の、幻の『聖戦』。

 今を生きる者が死ねば忘れさられていくだけの、『聖戦』が……終わったのか。

 そして、アラルの名もまた……俺とともに消えていくだけか。

 

 たぶん、こんなふうに……記録に残らなかった聖戦が、遥か遠い時代から繰り返されてきたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラウスと会い、無事を喜んだ。

 ニルスとは、今後について語った。

 

 ミケーネは……その、あの時は正直すまんかった。

 なんか、綺麗に再生されたみたいだからいいよね?

 

 

 聖域を後にして、テリオス師匠とイオニスに会った。

 

 テリオス師匠とイオニスは……なんだろう。

 二人並んでいると、いい茶飲み友達って感じがして……小宇宙を失ったとか、老いたとかいう悲壮感が浮かんでこないのは、いいことなのか? 

 

 ふと、思いついて、イオニスの身体に手を当てた。

 

「……何か、感じるか?これが、俺の言ってた『気』ってやつなんだが?」

「いえ、特には……」

 

 そうか。

 小宇宙を失った代わりに……なんて単純な話でもないか。

 

「私よりもアル……あなたはどうなんです?1ヶ月近く、眠ったままだったようですが」

「まあ、元気……かな。ただ、もう一度あれをやれって言われても、絶対に無理」

 

 師匠が、口を挟んできた。

 

「アル。お前の小宇宙……今にも消えそうで、心配になるぞ」

「ええ、私も……小宇宙を失いましたが、他人のそれを感じることはできるので」

 

 はは、と苦笑いで返しておく。

 

 じわじわと、実感がわいてくる。

 

 俺の小宇宙。

 

 無意識に、胸に手を当てていた。

 我が女神の言葉。

 

 俺は、この世界で生まれ、生きていく。

 

 

 

『アル、話があるから戻ってきて』

 

 アイリスからのメール(笑)だ。

 

 魔力が半減程度でおさまって良かったなあ。(白目)

 そういや、教皇様との話……聞かせたほうがよかったのか。

 でも……次期教皇候補の候補が取れそうらしいし……聞かせても大丈夫だよな?

 

 双子座の暗黒面とか、黒幕の双子座とか、考えすぎだきっと。

 

 聖闘士星矢の世界だろうと、俺も、アイリスも、今を生きている。

 未来へと続く、可能性の中に生きているんだ。

 

 

 

 

 

 アイリスの所に戻ったら、開幕アリスさんで迎えられました。

 

 ははは、お久しぶりです、お変わりないようですが、お元気でしたか?(震え声)

 

 ……というか、アリスじゃなくて、アイリスじゃん。

 双子座の黄金聖闘士だからって、色眼鏡で見ててすみませんでした。

 

 感謝だ。

 これが、謝りたいと感じる心だ。(白目)

 

 ああ、うん。

 初めて出会った頃のアイリスのぽんこつ臭を思い出しながら、俺自身も相当ポンコツだったことを思い知った。

 めっちゃ、アプローチされてたんですね、俺って。

 聖闘士の掟とか、そういうのがどうでもよくなるぐらいに、あとからあとから、感謝の心が溢れてくるんですが。

 

「あぁ、えと……アイリス」

「……はい」

「俺、わりと弱くなったけど……それでもいいか?」(なお、比較対象は……)

 

 アイリスが、俺を見る。

 素顔のアイリスが、俺を見つめる。

 

「黄金聖闘士である前に、ひとりの女の子だって言ってくれた……同じように、私は、アルというひとりの人を見つめてきたつもりよ」

 

 

 

 はは。

 チートがあったとしても、勝てる気がしねえ。

 

 うん、じゃあ……よろしく。

 

 

 

 

 ……そういえば、子供の頃から聖闘士候補として訓練づくしで、黄金聖闘士として引きこもりの生活か。

 そりゃあ、ぽんこつにもなるよ。

 キスしたら『ふぇぇ……』とか、涙目で言われました。

 

 年齢に関しては考えない。(目逸らし)

 ちょっと、黄金聖闘士の未来というか、あり方が心配になったけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中で、気を練る。

 チャクラを回す。

 

 チートは偉大だ。

 

 あの感覚が残っているからこそ、じりじりと蟻のような歩みであっても、そこに向かって進んでいける。

 ただ、あのレベルには到達しないであろうこともわかってしまうが。

 

 まあ、その一方で。

 小宇宙を感じることはできるんだが、その、これって、どう使うの?

 

 こう、胸の小宇宙を抱きしめちゃったら、どうにかなるもんじゃなかったの?

 

 色々とやってはいるが、うまくいかない。

 俺の小宇宙は、今にも消えそうなままの状態が続いている。

 

 アイリスや、黄金聖闘士、そしてテリオス師匠つながりで顔見知りの聖闘士たちにもアドバイスをもらったが、どうにもこうにも。

 死にかけの俺に小宇宙を注入した時も、いくらでも注ぐだけ吸い込まれるような感じだったって、アイリスが言ってたな。

 なんか、関係あるんだろうか。

 

『おはよう、アル』

『おはよう、アイリス……でも、こっちは夜だからな』

 

 時差を理解してくれないヒキコモリに挨拶を返す。

 まあ、最近になってようやくアイリスのメールの頻度が減った。

 それを少し寂しいと思うあたり、俺も相当だなと思う。

 

 しかし、メールの数が減ったのは、慣れたのからなのか、それとも『新教皇』に就任して忙しくなったからなのかは不明だ。

 大丈夫、きっと大丈夫。

 ちゃんと、まめに聖域には戻るようにしてるし。

 

 アイリスが教皇となってから、俺は積極的に世界を回り始めた。

 修行の一環。

 そして、アラルとの約束。

 

 人の笑顔を守るために、手を伸ばす。

 精一杯に、手を伸ばす。

 

 個が世界とつながり、また個に還るように。

 人は、人とつながり、未来を紡いでいく。

 

 こぼれていくものがある。

 しかし、すくい上げた命が、新たな未来を紡いでいく。

 

 万能ではない。

 万能でなくてもいい。

 

 俺はただ、人の笑顔を護る者でありたい。

 

 

 うん、だからな。

 

 俺は、拳を握りこむ。

 

 お前は、『滅っ!』しておくぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なあ。

 君は、小宇宙を感じたことはあるか?

 俺は、ある。

 

 まあ、小宇宙を感じたとしても、聖衣に選ばれるとは限らないけどな。

 

 それでも俺は、世界を回る。

 セイントとして。

 

 自称だが、まあ、我が女神様もこのぐらいは許してくれるだろう。 

 

 俺は、小宇宙の有無で正邪の区別をしようとは思わない。

 なので、大体『滅っ!滅っ!滅っ!殺!』ぐらいの割合だな。

 

 それが正しいのかどうか。

 俺は、手探りで進んでいる。

 

 この世界を、手探りしながら生きていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~セイントについて~

 

 

 この世に邪悪がはびこるとき、必ずや現れるという希望の存在。

 

『その拳は海を割り、その蹴りは地を裂く。そして、その怒りは星を砕く』と言い伝えられる伝説の存在である。

 

 ただ、その伝承の多さはもちろん、世界中に散らばる逸話などから、民衆の間の救世主願望などが、こうした形をとって言い伝えられてきたのではないかと推測される。

 

 客観的に見れば、同一人物の手によるものとは考えられないほど、膨大な量の伝説が残されている。

 ざっと例を挙げるだけでも、日本における鬼退治、南米では人を食う巨鳥の討伐、オーストラリアでは虹蛇を殺したなど、民間の間に伝承が残されているのだが、地域的にも同一人物とは考えにくい。

 しかし、地域の言語体系から外れた『セイント』の名前は共通しており、そこは無視できない。

 

『セイント』の名前以外にも、人の怪我を癒し、井戸を掘ったあと、空を飛んで去っていくなどの共通性があり、この伝承が残された時期の、世界の人の移動、交流について興味深い研究対象であるとともに、混乱の原因などと言われている。

 

 研究者によると、伝説の原型が11世紀初頭から終わりにかけて集中しており、この時期に伝説の核となる存在がいたと推測されるが、それでも世界規模に広がるものであり、さらなる研究が待たれる。

 

 地域によって呼び名が多少違うケースもあるが、東アジアの漢字文化圏では『聖人』という文字を当てられていることが多い。

 おそらく、宗教人にからんだ逸話が伝説に吸収された名残であろう。

 むろん、これらも伝説を構成する膨大の量の一部に過ぎない。

 

 なお、伝説の『その怒りは星を砕く』から来たものであろうが、西暦1006年と1051年に記録が残っている超新星爆発が、このセイントによるものであるという言い伝えがあるが、11世紀に起こった現象という理由で、後世にこじつけられたものであろう。

 ただ、創作のネタとして使用されることは多い。

 

 




読んでくださった方、感想を下さった方、評価を頂いたみなさま、誤字の報告をしてくださった方、この作品に関わってくれた全ての人に、ありがとうございます。
まあ、『感謝(謝りたいと感じる心)』の部分もあるんですが。(震え声)

実験とか、思いつきとか、悪ノリとか、いろいろぶっこみましたが、書いてて楽しかったです。
これを読んだ皆さんが、楽しんでいただけたのなら、書き手としてこれに勝ることはありません。

また、全1巻のパターンですね、なんて声は聞こえない。(震え声)

明日からは、おまけ話を更新していきます。
あいりすさんのぽんこつ話と、小ネタ集が今の予定です。


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あいりすさんじゅうはっさいの回顧録。

ちょっとやりすぎたかもしれない。(震え声)


1:あいりすさん16歳。(ぽんこつ味)

 

 

 週に1~2回の頻度で、アルさんのもとに出向き、飛ばされ続けて早一年。

 

 階段を登るように成長したというわけではなく、ある日、いきなり壁を越えた感じがした。

 小宇宙が燃えるというか、自分そのものが広がったような感覚。

 もしかすると、これがイオニス様が言ってた、セブンセンシズってものかしら。

 

 私の拳が、光の速さに到達した。

 

 光の速さでアルさんを攻撃したら、光の速さでぶっ飛ばされた。

 いい気になりました、ごめんなさい。

 

 そしてアルさんが、微笑みながら言ってくれた。

 

『これでようやく、黄金聖闘士として最低水準に届いたかな』

 

 アルさんの、黄金聖闘士の基準がよくわからない……。

 

 教皇様にイオニス様。

 あの2人を基準にしているのかしら?

 

 私、褒めて欲しかったんだけどなあ。

 

 

 もやもやした気持ちを抱えながら、アリスとしてアルさんに会いにいく。

 

 アルさんの手料理と、私が持参した飲み物。

 ぶ、分担作業よね。

 そう、これは分担作業。

 飲食物っていうし。

 食べ物と飲み物で、負担は半分ずつ。

 

『人は、満足するとそこで成長を止めてしまうから。もし、アイリスさんが落ち込んでいるようなら、アリスさんは優しい声をかけてあげてください』

 

 んもー、アルさんったら。(手のひらぐるんぐるん)

 

 これからも、頑張ります。

 

 

 

2:あいりすさん17歳。(ぽんこつ味)

 

 

 アルさんの底が見えない。

 いまさら小宇宙の事を言い出すつもりはないけれど、この人はどこまで行けるのだろう?

 

 私は成長した。

 強くなった。

 

 でも、アルさんは……ずっと変わらず、私を飛ばす。

 多彩に、緩急をつけて、いろんな手段で私をぶっ飛ばす。

 

 ……あの、謎の治療とか、本当になんなのかしら?(震え声)

 

 ああ、でも。

 アルさんが、私のことを考えて、見てくれている。

 それが、嬉しい。

 

 

 そしてまた、私はアリスとしてアルさんに会いにいく。

 

 アルさんの料理、美味しい。

 アルさんが、優しい。

 

 でも。

 アリスに……優しいのよね?

 アリスだから、優しいの?(心の闇フラグ+1)

 

『アリスさん。最近、アイリスさんのことで気がついたこととかありませんか?』

 

 んもー、アルさんったら。(心の闇、ぱああぁぁぁ)

 

 毎日、楽しいです。

 

 

 

3:あいりすさん18歳。(乙女味)

 

 

 うん、間違いない。

 最近、アルさんが格好いい。

 背も伸びて、いつの間にか追い抜かれてしまった。

 

 

 最初に会った時から3年……アルさんも、15歳かぁ。

 

 え、3年?

 いつの間に?

 

 

 また私は、アリスとしてアルさんに……あ、あ、あ、アルに会いにいく。

 

『知り合って3年も経つのに、さん付けで呼ばれるって、他人っぽくていやね』

 

 アリスとして、アイリス様の近況を報告する。

 ふ、普通よね。

 従者だもの。

 

『じゃあ、アリスさんのことも、アリスとお呼びしたほうがいいですか?』

 

 へえ……。(心の闇フラグ+1)

 私じゃなく、アリスが先に、ねえ……同じ私だけど、気分悪いわ。(さらに+1)

 私のほうが先に出会ったのに……。(さらに+1)

 

『……ちょっと待っていてくださいね、アリスさん』

 

 アルが、席を立つ。

 

 え、今……アリス『さん』だった?(-1)

 そ、そうよね……アリスよりも、私のほうが優先よね。(-1)

 

 少し時間がかかったけど、アルが堅焼きクッキーを持ってきてくれた。

 

『これを、アイリスさんに渡してください。お口に合うといいんですが』

 

 あいますあいます、あわせます。(心の闇、ぱあぁぁ)

 あ、でも今アイリス『さん』だった。(+1)

 

 でも嬉しい。

 アルさんの手料理を、アイリスとして初めて食べられる。(混乱により、+1)

 アリスにはあげない。(+1)

 

 

 クッキー美味しい。(心の闇、ぱああぁ)

 

 

 

4:あいりすさん19歳。(乙女味)

 

 

『おはよう、アル』

『おはよう、アイリス』

 

 自然な挨拶。

 いい感じね。

 

 ふふん、アリスは未だにアリス『さん』だものね。(+1)

 

 さて、今日も元気に、頑張って飛ぶわ。

 

 

 

 アルに会いにいく。

 

 でも最近、ちょっとアルがアリスによそよそしい気がする。

 それでいいんだけど、嫌な感じ。(+1)

 

 ちょっと、聞いてみようかしら。

 

 

『最近、アイリス様と仲が良いようですが、私に対してよそよそしくありませんか?未だにさん付で呼ばれますし』(直球)

『……えっと、嫌だったのでは?』

『は?』(無意識の威圧)

『アリスとお呼びしたほうがいいですかと聞いたとき、ものすごく嫌そうな表情だったので……すみません』

 

 え、これって、喜べばいいの?

 アリスが私でアイリスで……混乱してきたわ。(+3)

 

『アイリスもアリスも、その、まずひとりの女の子として尊重したいなと思ってたので……その、すみません』

 

 女の子、女の子、ひとりの女の子。(混乱してるけど幸せ)

 

 

 帰り際に渡してくれたクッキーが美味しい。

 アルが、私のために作ってくれたクッキー。

 

 

 私の仮面。

 素顔を見せても、アリスは私の仮面だ。

 

 もう少し、正直になったほうがいいのかもしれない……。

 

 

 

5:あいりすさん20歳。(迷子味)

 

 

 アテナの身体の具合が良くない。

 

 身体を診るということで、アルさんが毎日聖域へとやってきてくれるのがちょっと嬉しい。

 なので、ちょっとだけアテナに懺悔。

 ただ、アテナご自身の口から、『もう長くない』と聞いているので、覚悟は決めているつもりだ。

 実際、治療といっても……延命に近いものらしい。

 

『がんばりなさい』

 

 戸惑う私に、アテナが微笑む。

 

『アルに付き添って、ほら、聖域を出るまで見送るとか……ここまで連れてくるとか、あるでしょ』

 

 アテナ……。(忠誠度天元突破)

 

 

 アリスとして、アルを迎えにいき、アイリスとしてアルを見送る日々。

 

 行きと帰り。

 アリスとアイリス。

 アルは、変わらない。

 それはつまり、アリスとアイリスも変わらないということで。

 

 アリスとアイリスは、アルにとって同価値だとすると……。

 

 私は、アルに2人分の視線と意識を向けられていることに……それって、普通の倍?

 アリスは、私にとって必要悪……。(フラグ)

 

 

 ……最近、アテナが、頭を抱えることが多くなった。

『違う、そうじゃないの』って、なんのことだろう?

 

 

6:あいりすさん21歳。(悟り味)

 

 

 アテナが、地上から去られた。

 覚悟を決めていたけど、この胸に去来する思いは……。

 

『がんばりなさい』

 

 その言葉を胸に、私は空を飛ぶ。

 なんかいつもより飛ばされた。

 飛ばされて治療されて、飛ばされて治療されて、自分が無に近づいていくのを感じた。

 

 そして、気づいた。

 

 アリスがいるからいけない。(フラグポキー)

 

 

 私は、アイリスとしてアルに会いにいく。

 

 なんか、ものすごく不審がられたけど……そのうち、慣れるわよね?

 

 

 アイリスとして、アルと一緒に食べる彼の手料理、美味しい。

 

 

7:あいりすさん22歳。(ホワイト味)

 

 

 イオニス様が満足そうに見ていた。

 

 小宇宙を高めてアルを攻撃し、飛ばされる私を。

 

 

 

 次の日、教皇様に補佐につくように命じられた。

 ええー。

 私、忙しいのに……。

 

 

 アルに会いにいく。

 

『そうか、教皇補佐に……うん、認められたってことだ。今まで、よく頑張ったな、アイリス。お疲れ様』

 

 アルが、褒めて……くれた。(浄化)

 

 

 ウキウキ気分で聖域に戻る。

 

 ……。

 待って!

 お疲れ様って、どういうこと?

 

 

 

8:あいりすさん23~26歳。(森の小道味)

 

 

 仕事を早く終わらせる。

 終わらせる。

 ただ、それを考えればいいのです……。

 

『アイリス、次はこれを頼む』

 

 はあい、よろこんでー。(謎ポイント+1)

 

 

 

 うう、アルと会う時間が……。

 

 アルも、なんか忙しいみたいだし……すれ違いの日々が続く。

 家を訪ねても、いない時があるし。

 

 

 

 

 はぁ。

 昨日は、時間をひねり出してアルに会いに行ったら、留守だった。

 

 そんな私の前に現れたのは……。

 

『黄金聖闘士として最低水準に……』

 

 アルの言葉を思い出し、彼を連れて行く。

 

 わぁい。

 アルに会える。

 

 

 

9:あいりすさんじゅっさい。(三十路味)

 

 

 鏡を見る。

 この10年ほど、外見の変化は見られない。

 

 おそらく、私はこのまま生きていくのだろう。

 聖戦が起これば、この姿のまま死ぬこともあるかも知れない。

 

 変わらない。

 変わらないはず。

 

 なのに、なんなのかしら、この気持ち。

 

 アルは27歳か、いいなぁ。

 

 今夜は、お酒飲んで寝る。

 

 

10:あいりすさんじゅういっさい。(四捨五入したら、みそじ味)

 

 

 アルの師匠のテリオスさんが、聖闘士を引退した。

 戦いの中で命を落とすことがほとんどなので、珍しいと言える。

 

『そうか、テリオスがなあ……』

 

 教皇様のつぶやきに反応したら、話してくれた。

 教皇様が聖闘士候補として訓練していた頃、テリオスさんはもう聖闘士として活動していたらしい。

 嘘か本当か、先の聖戦のその前の聖戦を知っているという。

 

 それって……300歳?

 

 あ、30歳(こっそりサバ読み)なんてちっちゃいちっちゃい。(浄化)

 

 うん、先は長いわ。

 焦る必要はないけど、頑張ろう。

 

 

『アイリス、この、アルが見つけてきた芋の栽培についてだが……』(震え声)

 

 やります!(+1)

 是非、私に!

 

 

 詳しいことは、アルに聞きますから。

 

 

 留守っ、圧倒的、留守ッ……!!

 

 なんだか、テリオスさんに、生暖かい目で見られたわ。

 

 

11:あいりすさんじゅうさんさい。(自覚味)

 

 

 アテナ降臨の気配。

 緊張する。

 聖戦の兆し。

 

 あぁ、そうか。

 聖闘士は、いつ死んでもおかしくない。

 

 アルを見る。

 

 私は……アルと一緒にいたい。

 

 すとんと、胸に落ちてくる、愛という言葉。

 

 そうか。

 あの時。

 

 胸が高鳴る。

 なのに、心は穏やか。

 

 

 

 

 あ、でも……アテナの搜索が最優先よね。

 うん、仕方ない。

 仕方ないわ。

 んもー、黄金聖闘士で、教皇の補佐ってつらいわー。(目逸らし)

 

 

12:あいりすさんじゅうはっさい。(ぽんこつ味)

 

 

 アルが目覚めない。

 怪我は治った。

 

 う、腕も生えたし。(震え声)

 

 そ、そう、あとは目覚めるだけ。

 

 

 今にも消えそうな小宇宙。

 不安になる。

 でも、アルだから。

 

 食事をとれないから、毎日、私が小宇宙を注入する。

 吸い込まれていくような手応え。

 

 不安。

 でも……毎日毎日、私の小宇宙を注入して、この消えそうな小宇宙。

 

 あ、アルの小宇宙は、私の小宇宙と言っても過言ではないのではないかしら?(お目目ぐるぐる)

 

 もうちょっとだけ、注入しちゃお。

 

 

 

 

 

『アイリス、俺の小宇宙を感じるか?』

 

 心が震えた。

 身体も震えた。

 つまり、アルは私のもの。(謎の理論)

 

 覚悟が決まった。

 

 

 ……アテナよ、私のアルに触れるな。

 

 

 

 アルを呼び戻して、仮面を外す。

 本当に。

 本当の意味で、仮面を外す。

 

 私は、アイリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふえぇぇぇ。

 え、なにこれ?

 嫌じゃないけど、嫌じゃないんだけど。

 恥ずかしくて、なんか……顔が熱い。

 

 

 じたばたしてたら、アルに、生暖かい目で見られた。

 

 

 

 今度誰かに聞いてみよう。

 教皇様おつきの女官とか……。

 




ぽんこつかわいい。

ちなみに、アイリスは3度ほど死亡フラグを回避しました。

お、俺の中に悪魔がいる。(震え声・厨二風味)
おまけとしてあとがきっぽい『悪魔の囁き集』とかいいかもしれない。

でも次は、おまけの小ネタ集を。


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おまけの小ネタ集。

いつもは本編書きながら、おまけ話も進めていくんですが。
なんか、いざまとめて書こうとすると思ったよりネタが浮かびませんでした。
なので、最後に『悪魔の囁き集』があります。(震え声)

何はともあれ、これでラストです。


 おまけ1:感謝の日々。(ネタです)

 

 

 生きている実感。

 この世界に戻ってこれたという喜び。

 全ては、ギャラクシアン・エクスプロージョンのおかげだ。

 さすが、原作最強枠のサガの技。

 さすサガ。

 

 今日、この時より。

 感謝を込めて。

 1日1万回の、ギャラクシアン・エクスプロージョンの行に挑もうと思う。

 

 

 最初は、1日1万回どころか、1回でへたり込んでしまう始末。

 力が足りないのではなく、感謝がたりないのか。

 たとえ発動しなくとも、力を振り絞るようにして続けていく。

 

 1回が、2回。

 2回が、4回になり、少しずつ増えていく。

 しかし、1万回には届かない。

 

 放つ、放ち続ける。

 疲れたら眠り、目が覚めたら空に向かって放つ。

 力が強くなるというより、全てが洗練されていくのを感じる。

 呼吸をするように、ギャラクシアン・エクスプロージョンを放つ。

 声に出さず、心の中で数を積み重ねていく。

 

 ついに、疲れきって眠りにつく前に1万回をこなすことに成功する。

 

 まだ明るい時間。

 明るい時間だ。

 

 そういえば……しばらく、夜というか暗さを感じた記憶がない。

 首をかしげながら、暗くなるのを待つ。

 待ち続けた。

 

 いつまでも。

 いつまでも。

 

 いつまでも、空は明るかった。(目逸らし)

 

 

 

 おまけ2:ある聖闘士候補生の改心。

 

 

 死にそうで死ねない訓練に耐え、小宇宙に目覚め。

 死にそうで死ねない特訓に耐え、小宇宙を高める。

 

 この日、師匠に認められた聖闘士候補生が3人、聖衣に選ばれる場に立った。

 

 1人目の候補生は、青銅聖衣に選ばれ、青銅聖闘士となった。

 

 3人の中で一番劣るとみられていただけに、ほかの2人はそれを喜び、同時に安堵した。

 あいつが大丈夫なら、自分も大丈夫だろうと。

 

 2人目の候補生も、青銅聖衣に選ばれ、青銅聖闘士となった。

 

 これもまた、ほかの2人は素直に喜んだ。

 3人が揃って聖闘士になれる。

 そう、疑わなかったのだ。

 

 

 

 

「なんで?なんで俺は選ばれないんだ?だって、あいつらより俺のほうが……」

 

 その言葉を、ほかの2人は咎めない。

 実際そうだと思っていたし、この状況ではかける言葉を見つからなかったから。

 

 そして、彼は荒れた。

 自分より弱いものが聖闘士になり、自分は聖闘士になれない。

 彼はまだ若い。

 そう思うのも無理はないのだが……。

 

「よう、なんかやんちゃしてる坊主がいるって聞いたが、お前か?」

 

 聖闘士になれない彼が、聖闘士から声をかけられて素直に聞けるかどうかは難しい。

 まあ、声をかけてきた聖闘士に首根っこを掴まれて引きずられていく羽目になった。

 

 

「なあ、坊主。お前、あれ見て同じこと言えるの?『俺の方が強いのになんで聖闘士になれないんだ』って、言えるの?」

「すみませんでした。俺が悪かったです」

 

 

 彼はその後訓練に励み、数年後に白銀聖闘士になったそうな。

 

 

 

 ……この時期、暗黒聖闘士の発生は確認されていません。(棒)

 

 

 

 おまけ3:ミケーネくんのかわいがり。

 

 

 このたび、新しい黄金聖闘士が生まれた。

 そうか、俺にもついに後輩が……。

 

 ギリシャの空と海を感じ続けた日々が懐かしく思える……ん?

 

 アルさんは、世界を駆けていて留守にしている。

 アイリス様は、教皇として忙しい毎日を送っている。

 

 うん。

 仕方ない、仕方ないんだ。

 

 おっと、いかん。

 口元を引き締めて、と。

 

 

 新入りの黄金聖闘士を前に、拳を放つ。

 

「……黄金聖衣に選ばれたからといって浮かれるな。黄金聖闘士としての最低水準が、光の速さの拳を放てることだと胸に刻め」

「ひ、光の速さが、最低水準……」

 

 おお、いい感じ。

 うむ、俺を鍛え上げてくれたアルさんに感謝だ。

 やはり、目に見える強さというか、わかりやすい格のようなものは必要だな。

 

 ただ、問答無用でぶっ飛ばすのは正直どうかと思う。

 

 恐れられるだけじゃなく、俺は慕われたい。

 

 そもそも、アルさんのやり方は、あの謎の治療術で高速回復させられるから出来るやり方だよな。

 

「光の速さに到達するまでは、苦しい日々が続くぞ……うまく説明できんが、ある日いきなり目の前が開けた感じになって……」

 

 順調に小宇宙が高まっていくのとはちょっと違うんだよな。

 こう、何かに閃くというか……。

 

 

 

「ミ、ミケーネさん!ほ、本当に黄金聖闘士はこんな特訓をするんですか?」

「ああ、本当だ。といっても、最近になって取り入れられたやリ方だがな」

 

 嘘じゃない。

 俺はここで、小宇宙の高まりを感じた。

 

 これは、必要なこと。

 俺も通った道。

 

 だから、お前も通れ。(本音)

 

 

(NEW!)スニオン岬の岩牢特訓が、かわいがりに追加されました。

 

 これ以後、かわいがりの通常メニューとなります。

 

 

 

 おまけ4:聖戦を知るもの。

 

 

 アルの言葉を思い返す。 

 

 記録に残らない聖戦。

 記録に残せない聖戦。

 

 先の、冥王との聖戦が終わって50年余……聖戦を生き残った聖闘士も、シュルツが逝き、テリオスが去り、イオニスもまた去った。

 

 70人を超えるアテナの聖闘士と、100人を超す冥闘士の戦い。

 冥闘士の中には、顔見知りだったかつての聖闘士もいた。

 

 戦い、傷つき、倒れていく。

 

 そこに、明確な正義などないと……理解していたつもりだったが。

 

 アルの言葉に傷ついたわけではない。

 疲れを、自覚した。

 

 シュルツを思う。

 小宇宙を燃やし尽くすといいながら、死してなお小宇宙を残し、友を救いに駆けた獅子座の黄金聖衣の姿を思う。

 若い。

 そして、自分は老いた。

 

 

 

「潮時か……」

 

 夜空を見上げ、目をつむった。

 

 今すぐに、という話ではないが……双子座の黄金聖闘士であるアイリスの教皇補佐から、徐々に補佐の文字を取り払っていく。

 

 時代が違えば、求められるものも違う。

 良い教皇となるだろう。

 

 

 

 

 ……なるだろう。(震え声)

 

 頼むぞ、アル。

 

 

 

 おまけ5:穏やかな日々。

 

 

 あの時、小宇宙を失った。

 しかし、私は生きている。

 

 身体も、外見相応に動く。

 見た目のわりに、健康と言えるだろう。

 本当なら、私はもうとっくに死んでいる年齢だというのに。

 

 孤児として拾われ、聖闘士候補として少年期を過ごし、聖衣に選ばれ、聖闘士となった。

 鍛錬と闘いの日々のなか、何かに目覚めた。

 聖衣に見放されたと思ったら、黄金聖衣のもとへと導かれた。

 乙女座の黄金聖闘士となり、私の目覚めたそれがセブンセンシズだと教えられた。

 

 それを教えてくれた双子座の黄金聖闘士も、先の聖戦で……。

 

 聖戦が終わり、その双子座の黄金聖衣に新たに選ばれた……あの少女が、今は教皇ですか。

 

 時の流れを意識し、少しおかしくなる。

 歳を取るというのは、こういうことなのかもしれない。

 

 視線を向けた先に、テリオスがいる。

 

 鼻歌交じりで、畑を耕す姿は……私なんかよりずっと元気そうで、長生きしそうです。

 

 あの人、本気で何歳なんですかね?

 アルは、『前の前の聖戦の年に生まれたって聞いた』と言ってましたが、怪しいものですよ。

 

 まあ、アルの師匠って感じがします。

 ええ、ぴったりですね。

 

 テリオスは師匠、シュルツは友。

 さて、私という存在は……彼にとって、どういう位置づけなんでしょうか。

 

 

「師匠ーっ、イオニスーっ、久しぶりー」

 

 はは、こういうのを、『噂をすれば影』というんでしたか。

 

 ……ん?

 んん?

 

「アル……その子は?」

 

 アルが連れた、幼い子供。

 身寄りのない子供でも拾ってきたのかと思ったけれど、目の輝きが違う。

 はっきりとした意思を、目的を感じさせる目をしていた。

 

「あぁ、なんというか……弟子にしてくれと」

「ほう」

 

 子供が、すっと両手を合わせて私を見上げてきた。

 

聖人(しょうにん)のお知り合いの方ですか?私は、聖人に命を助けられたクユと申します。この末法の世の中、私もまた聖人のようにありたいと思い……」

 

 アルに視線を向けた。

 

「……違うんや。ジャンルが違うんや……いくら説明しても、『さすが聖人様』などと感心されてしまうんや……」

 

 何やらアルの言葉遣いが怪しい。

 世界を巡っているせいだろうか。(言葉の違いはご都合主義で)

 

「クユ。信仰とか思想において、盲信は良くない。最初は真似でもいいけど、それを自分の言葉に変えていく過程が大事なんだ。同じ種を蒔いても、育てる枝葉は別のものにならなきゃダメなんだ」

「聖人のお言葉、しかと心に刻みます」

 

 ……利発そうな子供ですね。

 

「アル、責任を持って頑張りなさい」

 

 老人はただ消え去るのみです。

 

 テリオスと2人、夕焼けを眺めながら家へと向かいます。

 さて、あの子供。

 

 セイントになるのか、聖闘士になるのか。

 

「賭けませんか、テリオス?」

 

 私の提案に、テリオスは小さく笑った。

 

 それは、穏やかな日々……。

 

 

 

 

 

 

 おまけ6:君は、悪魔の囁きを聞いたことがあるか?(あとがき風味)

 

 注意:幻滅するかもしれません。(震え声)

 

 

 4話付近。

 

悪 魔:「なあ、このラストって『ヒロイン』の黄金聖衣に助けられて生還するんだよな?」

 私 :「そうだよ。『ヒロイン』と『友』の黄金聖衣のダブル聖衣で」

悪 魔:「……ガンダムの哀戦士って、良くない?格好良くない?」

 私 :「ははは、何を当たり前のことを。戦争は数だよ、キミぃ」

悪 魔:「主人公を助けに、もっと多くの黄金聖衣が……格好良くない?」

 私 :「……いい」

悪 魔:「自分をよそ者と思う主人公に向かって伸びる、友情の光の架け橋……多いほうがいいよね?」

 私 :「あ、あああ」

悪 魔:「もっと殺さなきゃ」

 私 :「え?」

悪 魔:「殺るんだよ、黄金聖闘士を!(某傾奇者風)」

 私 :「あっあっあっ……」

悪 魔:「師匠も殺そうぜ、なぁ?」

 

 

 私 :「つ、次々とキャラを殺していく欝展開は、ヘイトが集まるからダメ」(震え声)

悪 魔:「くくく、これで勝ったと思うなよ……俺は何度でも現れる」

 

 私 :「あ、ヘイトという意味では、短編で連続して殺すのはまずいか。とすると、死ぬのはイオニスの方がいいか……あ、戦いを求める聖闘士の最期を看取る役とかよくね?だったら、死ぬ役はシュルツに……」

 

悪 魔:「……この世で一番恐ろしいのは」(震え声)

 

 

シュルツ:「馬鹿な……」

アイリス:「生存フラグゲットぉっ!」

 

 

 なお、主人公の『魔力』ですが、感想欄で挙げた方もいましたが、最初は『理力(フォース)』の予定でした。

 

 うん、双子座でダークフォースとか……察して。(目逸らし)

 アイリスの登場シーンも、もう少し早い予定だったのです。

 

 

 5話。

 

悪 魔:「この描写、スターライトブ〇イカー……」

 私 :「うるさい黙れ。ピンク色じゃねーし」

悪 魔:「イデオ〇ファイヤー」

 私 :「お願い、黙って……」(震え声)

 

 

 6話。

 

悪 魔:「ヒロインが双子座の黄金聖闘士かぁ」

 私 :「これだけで、読み手の印象に残るからね」

悪 魔:「どうやって殺すの?」

 私 :「せ、生存フラグ立ったから……」

悪 魔:「修業中に仮面が……」

 私 :「取れません」

悪 魔:「……修行を通じ、恋心に気づいたヒロインは、自ら仮面を取って主人公のもとへ」

 私 :「……いい」

悪 魔:「受け入れた場合、教皇様が反対する」

 私 :「え?」

悪 魔:「教皇様に反対されても、主人公に受け入れなかった場合も、闇に落ちる」

 私 :「いや、そのルートはもう変更したから」

悪 魔:「正直になれよぉ……まだ、未練があるんだろぉ?」

 私 :「な、ないといえば嘘になるが……」

悪 魔:「その拳で、ヒロインを……」

 私 :「あ、あああ……」

悪 魔:「主人公の手にかかったヒロインがなぜか微笑んで……『お前に、呪いをかけてやる』と言いながら、キスの感触を残して死んでいく……」

 私 :「あっ、あっ、あっ……」

悪 魔:「ラストで、そのヒロインの聖衣が主人公のもとへ……」

 私 :「やめろぉぉぉぉ!!」

 

 

 私 :「クール系の予定だったけど、ぽんこつにしてやらぁぁっ!」(誘惑を断ち切るため)

 

 アイリスではなく、あいりすさん爆誕の瞬間である。(震え声)

 

あいりすさん:「えっ?」

 

 なお、幕間1のお話は、設定とキャラ固めのための時間稼ぎです。(白目)

 

 

 教訓:執筆は、時間の余裕をもって行いましょう。

 

 

 

 8話。

 

悪 魔:「死に時をのがせば、あとは見苦しく……」

 私 :「うるせえ!ぽんこつキャラは死なないようにできてんだよ!」

悪 魔:「アテナを守って死ぬ。ぽんこつキャラが主人公に最後の一言を残して……」

 私 :「何のためにシュルツを殺したんだって話になるからやめて」(震え声)

悪 魔:「ヒロインが死んで、ラストは主人公が聖域を去って放浪する……」

 私 :「おい、ばかやめろ」

悪 魔:「世界のどこか、命を救った女の子に、ヒロインの面影が……」

 私 :「バッドエンドやめろ、おい」

 

 

 私 :「それをやるなら、その前に設定を仕込まないとダメなんだよぉぉ!」

 

 

 9話。

 

 

悪 魔:「小宇宙の奇跡がさあ」

 私 :「……」

悪 魔:「ヒロインのもとに、声だけ届くって良くない?良いよねえ?」

 私 :「っ!(その手があったか)」

悪 魔:「ヒロインのアナザーディメンションが、主人公につながるとか……奇跡としては安っぽくない?」

 私 :「やめて、もうヒロインを生存させた以上、変更できないからやめて」

悪 魔:「最後に一言……『じゃあな』で」

 私 :「それ、『聖闘士星矢』じゃなくて『風魔の小次郎』になっちゃうからだめぇ!」

 

 

 10話。

 

悪 魔:「ヒロインの涙ってのは、どうしてこうも魅力的なんだろうな」

 私 :「お前、もうどっかいけよ」

 

 以下略。(笑)

 

 

 11(最終)話。

 

 

悪 魔:「主人公のチートは、全てラスボスとの戦いのためにあった」

 私 :「……」

悪 魔:「主人公に残ったのは、小さな小宇宙」

 私 :「……」

悪 魔:「老人になって、片腕ながら畑を耕し、平穏な日々……ただ生きていく」

 私 :「……」

悪 魔:「夕日が沈む、美しいギリシャの海……この世界を守ったという満足感を胸に」

 私 :「ヒロインどこいったんだよ?」

悪 魔:「死に時を逃すと……」

 私 :「いや、ほんともう、ここまで来たら無理だから」(震え声)

 

 

 

 君は、悪魔の囁きを聞いたことがあるか?

 私は、ある。(震え声)

 

 

 という感じに、あいりすさんじゃないアイリスは、最初死ぬ予定でした。(震え声)

 世界を巡り、人を救うラストにつながる要素の予定だったのです。

 なので、あのアナザーディメンションの嵐は、後で考えたものです。

 

 書いてて楽しかったのは本当なんですが、この物語、色々とやばかったと思います。

 いやもう、本当に。

 

 時間の余裕がないほど、悪魔はあなたの耳元に忍び寄ってきます。

 みなさんくれぐれもご注意を。

  




本編でわりとはっちゃけたので、今ひとつネタが。(苦笑)

というわけで……連載開始からおよそ2週間ですか。
お付き合いいただきありがとうございます。

最後は、いつもの言葉で締めさせていただきます。

高任先生の次回作にご期待下さい!
応援ありがとうございました。


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