【SAO+PSO2】ソードアートオンライン【パラレルダイヴファンタジア】 (ポメラニマン)
しおりを挟む

最終章 「待ち合わせ」

用語
Fo・魔法を使う事に長けたジョブ。
モノメイト・格安の回復薬。回復薬の中で一番低ランク。


※SAO本編、SAOオルタナティブから要所要所抜粋。wikiも参照。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「これは、ゲームであっても遊びではない」

 

 

かつて、ソードアートオンライン略称SAOのプログラマー茅場晶彦(かやばあきひこ)が残した言葉である。

 

 

2022年11月6日日曜日、〈ソードアートアートオンライン〉は正式サービスを開始した。

そこは魔法という概念が喪失し、己の剣のみで冒険するという大胆な世界を生き抜くネットワーク対応ゲームであった。

それも、ただ画面上のキャラクターを遠隔操作するだけの冒険ではない。

 

自分がキャラクターとなり、実体験ができるのだ。

 

VRMMORPG(仮装大規模オンラインロールプレイングゲーム)のこのゲームは、完全なる仮想現実(バーチャルリアリティ)対応ゲーム。

「走りたい」と思えば走れるし、いつも通りの無意識な会話さえ可能なのだった。

 

そんな、ゲーマーの理想の終着点すら可能にしたのは〈ナーヴギア〉という流動系のヘッドギア型ハードである。

前世代のハードを遥かに凌駕したそれは、被るだけでいいのだ。しかも、それ以外にインターフェースを必要としないというのだから、オーバーテクノロジーここに極まりである。

ユーザーは、ナーヴギアと脳を直接接続し情報を獲る。ナーヴギアは五感全てにアクセスできるのだ。

開発者は仮想空間への接続を

 

〈フルダイブ〉

 

と表現した。

これらの発表に世界中が注目していた。

 

天才プログラマー茅場晶彦。彼の悪意はそんな誰もが夢見る輝かしい世界を牢獄へと変えたのだ。

正式サービス開始日、ログインしていた一万人のプレイヤーはログアウト不能。外部からナーヴギアを無理やり外そうとすれば電波が脳を焼き切る。ゲーム内で死亡すれば現実世界の脳を電波が焼き切る。

異変を察知し始め世間は大騒ぎになったものの、解決の糸口には辿り着けず、日に日に死者の報告が報道されるのを指を咥えて見てる他ない状況が続きました。

 

二年後、サバイバルゲームからプレイヤーは解放されましたが、VRゲームは恐ろしいものという感情を世界中に植え付けたのでした。

 

その後、絶対安全の太鼓判を押されナーヴギアに代わるハード。〈アミュスフィア〉が発売されました。

面白いもので、あれだけ恐怖の権化とされたVR技術であるのに、今では医療や各ジャンルに様々な用途で使われるまでに発展しています。

仮想現実には、それまでの魅力があったのです。

 

発展したのは、ハードだけではありません。

 

〈ザシード〉

 

早い話が、「VRワールドを創りたい!」という人はそこそこの環境(回線、サーバー等)を用意し、パーケジングをダウンロードして、必要な3Dオブジェクトを設計、また既にあるものを配置しプログラムを走らせればそれだけで1つの仮想世界が誕生できるというもの。

誰が何のために広めたのか、広めたかったのか。

謎に包まれたまま、ザシードは世界中にネットワークの根を伸ばし続けている。

 

 

「ってところかな。」

 

「なるほどー、マスターの熱弁の甲斐もあって無知な私でも大体は理解できたよー。てことはさ、このゲームもその、ざっ…なんだっけ?」

 

「ザ・シー・ド!!!」

 

「そうそれ、それ使って作ったわけか!」

 

「正解!まあ、ポンちゃんは開発経緯とか歴史とか興味無さそうって雰囲気してたし、でもそれくらいは疎い人でも知ってるものだと思ってたよ。」

 

「拙者ぁー、長旅に出ていた身で候…」

 

「長旅かぁ、それはさぞかし素敵な所を転々としたんだろうなー、お土産もさぞ豪華なんだろうなー」

 

「うっ…」

 

「マスターに、お土産は?」

 

「もっ……モノメイト、いかが?」

 

「お姉さん職業Foだから回復薬には困ってないかなー」

 

「ボソッ……お兄さんでしょ」

 

「ポンちゃん…冥土の土産にもう1つ教えてあげる。チームマスターには色々な権利があって…」

 

「皆まで言うな、もうよい!!すんません、調子乗りました」

 

「はぁー、でもポンちゃん?知らなかったのはわかるけど、どうしてこんな事知りたいなんて思ったの?」

 

「それはもう時期わかるで候…」

 

「はいはい…あーなんだか話疲れちゃった。」

 

「あっ、きたきた!!おーい!!こっちー!!」

 

「ん?……あー、そういうことか。」

 

「もし質問されてわからないじゃ先輩として格好悪いじゃん?」

 

 

大手ゲーム会社SOGAが運営する歴史あるオンラインRPG、ファンタシースターシリーズ待望の新作ナンバリングタイトル。

〈ファンタシースターオンライン3〉、略称PSO3。

 

今日、僕は宇宙を旅する船団の一員となる。

 

 

「きたきた!そんじゃ、マスターに自己紹介からはじめよーかー」

 

 

今、僕は宇宙を旅する船団の一員となる。

 

 

「チームマスターの秋雨だ、呼び方は自由でいいぞ。秋って呼ぶやつもいるかな。まぁ、来て早々でアレだが…」

 

 

「ようこそ、オラクルへ」

 

 

 

今、冒険が始まる

 

 

 




SAO+PSO始まる!!!

ワンピースの作者さんは終わりから物語を考えたと、どこかで聞いたことがあります。
設定もストーリーも未定ですが、それを真似てこの物語はあえて終わり方を公開して展開していこうと考えています。

読んでいただき、感謝です!!!
宜しければ、感想などいただけたら今後の励みになりますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章「本田玲奈」

身震いする寒さに強引に叩き起こされた。

 

「っ!?………」

 

一瞬、身体が跳ねる様に痙攣し直後脱力感に身を委ねた。

寝ぼけ眼の彼女には何が起きたのかわからず真っ白い天井を見つめ、ただ放心していた。

そのうちに、部屋のどこからか漂う朝露の香りが微かに鼻孔をくすぐった。ゆっくりと、無意識に香りを追っていくとすぐに答えに辿り着いた。

 

ーーーー寒いわけだ、窓が開けっ放しだ。

 

今の季節、常人にとってはまだ然程寒さを感じる気温ではない。しかし彼女、〈本田玲奈〉にとっては約2年ぶりに感じる寒さという感覚なのだ。浦島太郎の感覚は、びっくりして過敏に反応してしまったのだろう。今の彼女にとってこの状況は、一瞬で見知らぬ地にワープしたかの様な気分だ。徐々に覚醒する脳も警戒心を強めていった。

 

ーーーーとりあえず窓を閉めないと。

 

立ち上がるだけのこと、幼児でもできそうな事なのになぜだろうか。

 

「あ…れ?から、だ……うご、けっ」

 

2年間で錆びてしまった関節をどうにか動かそうとジタバタする姿は、幼児でもしない。まるで乳幼児の様だ。

 

「なん、で…あ、あれ……ここ…どこだろう…」

 

そこは国の運営する最先端の病院の一室。個室でこれだけの広さを確保し、常に整えられたシーツやベッドマットからは洗いたての洗剤臭が香る。

ただ、この病院で変わってることをしいて挙げるならば〈ソードアートオンライン〉の被害者が複数人入院しているということくらいだろう。

 

現状の把握に追いつかなくパニック状態の彼女を畳み掛けるように、ノックも無しに自室の扉は開かれた。

身体を思う様に起こせないせいで姿を確認することができない。恐怖からか、玲奈は必死にジタバタもがく。

 

「あれっ!!……玲奈ちゃんっ!?」

 

驚いたのはこっちの方だというのに、女性の声は玲奈に負けじと驚いた様な声で距離を詰めてくる。

 

ーーーー真っ白な服にへんな帽子…ナース服だ。

 

年齢はまだ20代前半といったところか。目尻を上げ、ハッと口を半開きにして玲奈を見下ろしている。折角の美人も台無しである。しかし、この病院においてそれ程のことが起こっているのだから当然だ。

 

「せっ、先生っー!!!」

 

ナースの足音は不規則なリズムを奏でながら、ドタバタと遠ざかっていく。

意識は完全に目覚め、状況整理のパズルが徐々に埋まっていく。そして理解すると、玲奈は大きく目を見開き口を半開きにしてまた放心した。

 

「ここ、アインクラッド…じゃない」

 

刹那、玲奈は此の世の全てを憎むかの様な鬼の形相に変わる。発声も儘ならぬ声帯を振り絞り、金切り声を上げ叫び暴れ出した。

 

「ーーーッアアアアアアア!!!!」

 

16ビートを刻む足音が複数近づいているが、今の玲奈には全てどうでもよかった。

 

「ッ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅああ…元に戻せぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

肩で息を切らす白衣達が玲奈の病室になだれ込む。

 

「大変だっ!!!すぐ運んでっ!!!!」

 

 

「ッァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

笑う棺桶〈ラフィンコフィン〉

 

最凶最悪の殺人ギルド。通称「ラフコフ」。ゲームオーバーが現実の死となるSAOにおいて公然とPK(プレイヤーキル)を行う快楽殺人集団。次々に新しいPKの手口を開発し、100人を超えるプレイヤーを殺害した。

最前線で危険に挑む攻略組など有志50名の討伐隊が捕縛を試みるが、両者数十の死者を出す最悪の幕切れとなった。ラフコフのリーダーを除く生存者12人が捕縛されたことにより、事実上ラフコフは壊滅となった。

 

プレイヤー名poN

本田玲奈は、殺人ギルド〈ラフィンコフィン〉の元メンバーにして捕縛された生き残り12人の内の1人である。

現在進行形で折り紙つきのレッドプレイヤー、poNこと本田玲奈は現実世界に生還した。

 

 

 




ここが1話だぜー

読んでくださって感謝です!!!
1つ前の「最終章」を読んでから来てくれた方には更に感謝です!!!
皆さんなら、あの最終章から1話を作るとしたらどのような形にしましたか?きっと皆違う話になると思います。
俺なら〜私ならこう〜など、そんな意見もいつか聞けるように続けていきたいと思います。
感想など、いただけたら今後の励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章「スウィーツより黒の剣士系女子」

 

 

2025年12月。世界中から注目を浴びたデスゲーム、SAO事件から一年の月日が経とうとしていた。

 

あれだけの大事件にも関わらず、世間は安寧を取り戻し街並みはイルミネーションで冬支度を始める頃、せっかちな小鳥達は既に冬支度を済ませ日本から飛び立っていた。

そんな変わらぬ日常を噛み締めるべくか、はたまた別の何かが彼の足取りを急かしているのか。

全身を黒でコーディネートした青年は青のバイクに跨ると、早々に都内の高級店を去っていく。その2stエンジンの特徴的な排気音はこのエリアでは珍しく、彼がここから去って行ったことを店内にいる男にさえ、容易に知らせた。

 

「何も無ければいいが…」

 

店内の男は小さく「フゥ…」と、ため息まじりに眉間にしわを寄せる。

スーツ姿に縁有り眼鏡、分け目をしっかりと整えた髪型はその男の知的さをグッと押し上げている。

男の着くテーブルには空の皿が何枚か放置され、さっきまで誰かと食事をしていた事を伺わせた。

男の表情は考え事をしているのかどこか堅く、どうやらお気楽なティータイムではなかったらしい。

しかしながら、男が悩める時間は僅かなものだった。

 

ーーーータイミング的にはそろそろ来てて欲しいところだが。

次の来客者への布石は万全の状態で、その時は訪れた。

 

「クリスハイトさん、ご無沙汰してます」

 

透き通る黒髪をポニーテールでまとめ上げ、年齢より少し背伸びをした服装の来客者。その凛とした瞳にはリアルでゲーム仲間、それも歳上の男性と会うことに一片の曇りも無かった。

スーツの男、「クリスハイトこと菊岡誠二郎(きくおかせいじろう)」とはVRMMORPG、ALO内である事件をきっかけにちょっとした関係なのだ。

色恋沙汰ではないにしろ、この信頼は少女の姿勢から確かなものを感じさせた。

 

「あー、ごめんごめん。片付け終わってないけどよければ座って」

 

「それでは、失礼します」

 

何気なく目の前に腰掛けた少女の表情は少し硬い。少女はテーブルの惨状を確認するとすぐさま呟いた。

 

「嫌な予感がします」

 

「いやいや、今日はスウィーツをご馳走しようって。やましい事は何もないよ!ほら、何でも頼んで!」

 

「釣られるとでも?」

 

少女の疑いを込めた双眸は、菊岡を射抜く。

 

「信用ないなー、ただ少し気になることがあって僕の代わりに見て来てくれたら嬉しいなとかスウィーツのついでにお願いしてみようかなとは思ってたけど」

 

「はぁ…聞くだけなら」

 

「それじゃ僕も話すだけ。そういえば、さっきまでその席、誰が座ってたと思う?」

 

「………」

 

「君が憧れて止まない、SAOサバイバーの中でも一際周知される存在。二刀流、黒の剣士」

 

「からかわないでください、あり得ません」

 

「事実、僕の職業が総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員であり、SAOから生還した黒の剣士とは仕事上接点があることを君も知っているはずだろう?」

 

「それは勿論考慮の上です。でも黒の剣士がここにいたのなら、私に依頼するよりも彼に任せた方がよっぽど確実です。記録では断るような人柄にも思えません」

 

「そのつもりだったんだけどね…こっちよりも早急にあたらなければならないことができちゃってね。彼にはそっちを頼むことにしたよ。ついでに言っておくと、その件は彼以外には任せられない」

 

「……事情は何となくわかりました。けど私でなければならない理由が無いのであれば政府関係者に取り入った方が…」

 

遮る様に、菊岡は切り札をきった。

 

「黒の剣士に会わせてあげよう。それが本件の報酬だ。勿論危険な依頼では無いし、悪い話ではないと思ってる。それに、少しの危険程度なら問題無いと踏んでる。君もALO内では〈名刀秋雨〉を振るう剣士として、ちょっとした有名人じゃないか」

 

「からかわないでください…」

 

「それに僕は、友達は少ない方なんだ。こういう私情が先行するお願いともなれば、特にね」

 

「はぁ……依頼内容の説明、お願いします」

 

 

黒の剣士、報酬の件は勿論喜ばしい事なのだが今はまだその時ではない。そもそも達成してこその報酬なのだから。

だからこそ、抜けかけた気を再び引き締めた。

 

「近々、とあるVRMMORPGで個人主催運営全面協力の大規模なイベントが開催されてね。君にはそのイベントに参加して貰いたい」

 

「ゲームの…イベントですか」

 

「このイベントは運営全面的な協力もあってか、密かに話題になっていてね。でも、たかがゲームのイベントがここまで話題になっているのは訳があってね」

 

菊岡は眼鏡の位置を薬指でクイと掛け直し、本題へ切り込む。

 

「主催者は、自らをSAOサバイバーだと名乗っている。しかもイベントの内容はどうやらSAOに関するものになるらしい。ガセネタならそれでもいいんだけど、僕としてもSAOに関する情報なら見逃せなくてね」

 

 

 

 

 

ところ変わり、ビルの屋上

 

「アインクラッドが監獄?私にとってはこの世界が監獄だよ」

 

建物の屋上階。安全上非常にきわどい位置から少女は街並みを見下ろし立ち尽くす。

 

「どうせもう帰れないなら、いいよ」

 

徐々に、覇気の無い表情に邪悪な色が蘇る。

 

「ここでやろーっと、デスゲーム」

 

 

月明かりに出来た影は、嬉しそうにスキップした。

 

 




もはやpso関係なくなってきてる…
そして菊岡さんのキャラ読めなくてプチキャラ崩壊。

会話文の「」の文末は 。をつけないものだとラノベ読んでいて気がつきました。小説って難しい。

感想などいただけたら今後の励みになります。
でも観覧してくれるだけでも励みになります。
読んでいただき、ありがとうございますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3章「上映会」

 

 

ショップエリア中央の大画面。これまでの事の顛末が「SAOイベント」の告知ムービーとして上映されていた。

この上映内容はプレイヤーのみならず、ログインしていない者やアカウントを持ち合わせない者たちでさえも、プレイヤーズサイトから観覧することができた。現在、アカウントを持っているプレイヤーの殆どがこのショップエリアに密集してごった返しており、このイベントの期待値を体感させた。

 

小綺麗に整えられた木々は等間隔に配置され、隅に配置された小さな滝の様な物などを見るとここが船の中だということを忘れさせた。多種多様な商品をジャンル毎に販売し、店を分け売買するカウンターの並ぶショップエリア。その中央にある大画面は遠巻きにも上映内容を確認できる程の体格をしていた。船内にはモニターが複数箇所に設置されてはいるが、どれもこれ程の大きさはなく小さくまとまっていた。

大画面の真下は大きく円形に膨らんでおり、時折ステージライブなどが開かれていた。その為、重要な告知が上映される時プレイヤーは自然とここに集まる様になっていた。

 

〈オラクル〉

 

宇宙に広がる数多の惑星を調査目的で旅する船団。プレイヤーにとっては、この船内が故郷であり現実世界でいう地球にあたる土地だった。

地球、火星、木星、オラクル、の様に船でありながら惑星の仲間入りをしているのだから不思議なものだ。

なんの調査の為に旅を続けるのか、何があって出航したのか。その辺りの真実は上層部すら知り得ない情報なのだろうか、風の噂すら出ない話題であった。

しかし、ここで暮らす人々には使命感の様なものが染み付いており、宇宙の平和を守るための疑心は微塵も感じさせない。

プレイヤーが生活をする拠点、この巨大な船艦は〈アークスシップ〉と呼ばれていた。

 

 

「おい、バイク乗ってたのって黒の剣士じゃね?」

 

尖った耳が特徴的な男は興奮気味に問いかける。

 

「あり得ますね〜、しかも悪名高いラフコフまで関わるイベントとは穏やかで無さそうですね〜」

 

表情を伺えない光沢のあるメタリックボディは腕を組みそう応えた。

 

告知ムービーの上映が終わると話し始めたのは彼らだけではない。集まっていた群衆は、待ちきれないとばかりに各々そんな話を開始した。

群衆の容姿は様々で、獣の顔をした者もいればアニメに出てきそうなロボットもいた。

 

ザシードを利用するこのゲーム、〈ファンタシースターオンラインパラレル〉略称PSOPでは容姿や体格はランダムに決定されるものの、種族は個人で選択することができた。

一般的に周知されている人間の容姿に最も近い姿をした種族〈ヒューマン〉

 

ヒューマンと似た容姿、ただその尖った耳が別の種族であることを主張している種族〈ニューマン〉

 

皮膚を鋼鉄、心臓をコアに変えたロボットの容姿をした種族〈キャスト〉

 

獣毛が生え揃い、動物そのものな顔立ち。人の耳の位置ではあり得ない場所に獣の耳を生やした種族〈ビースト〉

 

まだ発見されていない種族もいるらしいが、主にこの四種族がオラクルにおける人種である。仮想現実を利用したゲームである為、人種は違えど言語は共通なので意思疎通に困ることはなかった。

オラクルに住まうプレイヤーはゲーム開始時、皆共通の職業に強制的に就職させられた。

 

「お、珍しいな。あれプラモさんじゃね?」

 

先程、静まる群衆の会話の火付け役となったニューマンが群衆の一画を指差す。

 

「そりゃあ、これだけのイベントに興味のないプレイヤーはいないでしょう」

 

「そりゃそうか」

 

彼らの話題に上がった人物。プレイヤー名「you」

キャストであるのに幼児の様な激レアな体格を引き当ててしまったことから

 

「プラモデルさん」通称「プラモさん」

 

そんなあだ名をつけられてしまったソロプレイヤー。共通クエスト以外では他者と関わらず、フレンドもいない身でありながらも、その特徴的な容姿でゲーム内ではちょっとした有名人であった。所謂(いわゆる)、いじられキャラであった。

 

 

彼ら彼女らは皆、共通の職業についている。

数多の惑星を調査、時には戦闘をしながらも平和を守るべく奮闘する船団。

 

名を〈アークス〉という。

 




予定変更して悩みに悩んでこうなりました。
現在最終章が完全に墓穴掘った状況で苦しんでますが、穴掘りシモンを見習って掘り進めてみようと思います。
でも突き抜ける前に転落死しそうです。
あと、これまで引用してきた設定など解釈がズレていましたら申し訳ないですm(_ _)m

読んでくださって感謝です!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4章「ここであって、ここではない」

 

 

〈SAOイベント〉の告知映像により盛り上がりを見せているVRMMORPG、〈ファンタシースターオンラインパラレル略称PSOP〉

このイベントは、〈PSOP〉をプレイしない人々からも密かに注目される程のものであった。

しかし、その認知度は知らぬ間にその次元さえも飛び越えていた。

ここは、先程の場所とよく似た並行世界。

〈プレイヤーが存在しないこと〉が選択された〈PSOP〉の世界であった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

360℃をぐるっと一周文字で埋め尽くした立体的な液晶大画面を、新しい文字の集合体が目まぐるしく走り抜ける。その真下には複数の立体モニターが展開されており、同じ様に秒速で「展開されては閉じ」を繰り返す。

〈アークスシップ〉の一画、艦橋のコントロールルームでは、ありとあらゆる情報達が大運動会を開いていた。

 

今ここでは「演算」が行われている。

 

数字で、ある集合の要素間に一定の法則を適用して、他の要素を作りだす操作を指している。

「観測した現在の状態に基づいた演算によって起こり得る未来を知る」

宇宙全体を観測する程の力は「彼」にはないものの、〈アークスシップ〉はこの演算能力によって維持している。

「彼」の死は、〈アークスシップ〉全機能停止をも意味しており、〈オラクル〉にとって「彼」は心臓だった。

 

青が知的な、今風のセミロングの前髪を指でチョンと視界から払いのけると、「彼」は「演算」を終えたのか、ふぅと一息つき座っている椅子の背もたれに全体重を投げ出した。

その容姿や仕草から、人間のそれを連想させるが「彼」は人ではない。かといって、感情のない演算機というわけでもない。素人が一口に「彼」、「シャオ」のことを理解できるはずもなく、その殆どが「感情を宿したオーバーテクノロジー」という見解に落ち着いている。

 

「これは、困ったな…」

 

背もたれにのし掛かり、今も記録を続ける情報の奔流を見上げ小さく弱音を吐いた。

これは、一般人が気まぐれに弱音を吐く程度の事では比べるのもおこがましい。

 

〈オラクル〉における心臓、「シャオ」のこの弱音は、この世界に危機が迫っていることを予言していた。

 

虚空を片手でサッと撫でると、電子色のコンソールが可視化され、シャオは通信司令部へと回線を繋げる。

 

「あっシャオだけど、うん…緊急の召集をお願いしたいんだ」

 

〈アークスシップ〉の心臓ともいえる重要な存在であるが、その態度や口調思考に奢りはなかった。

人でなくてもその言葉にはしっかりと感情がこもっており、その中性的な美声は「親しみやすさ」や「安心感」を感じさるものであった。

そんな「彼」だからこそ、〈オラクル〉に住まう人々は安心して今日を過ごせるのだ。

 

神妙な声色への変化は、事の重大さを表現するためにそれ以外を必要としない。

オペレーターもそれを察すると姿勢を正し、身構えた。

 

 

「〈六芒均衡〉メンバー全員を、すぐここに呼んで欲しい」

 

 




祝、設定が固まってきました!
かなり長くなりそうです!

読んでいただいて、感謝です!!!
また来ていただけると、とても励みになります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5章「六芒均衡」

 

 

【六芒均衡(ろくぼうきんこう)】

 

〈アークス〉の中でも「象徴」、「模範」とされる存在。一般的には、「特に生存能力が高い6人が着任することになっている」と周知されている。これは、言い換えれば「特に戦闘能力の高い6人」と捉えることもでき、その見解はどちらも正しかった。

通常ならば、子供が将来なりたい職業ランキング1位の殿堂入りを果たしてそうなものなのだが、その選出方法は一般のアークスには知らされておらず、血筋は関係あったり無かったり。突如として代替わりする事例もあったことから、

 

「目指してなれるものではない」と認識されていた。

 

この世界には、多種多様な武器が存在しており、性能に優れたものであろうと大量生産が可能だった。

ただ、全ての武器の基となった原初の武器「創世器」は複製不可能な例外である。量産性、耐久性を犠牲に「破格の性能」を誇ったその力を扱える個体。

それこそが、「六芒均衡」に選ばれる為の絶対条件であった。

その数少ない内の一つ、創世器〈破拳ワルフラーン〉待機状態を独自のコスチュームとして身に纏い、人混みを避けながら駆ける少年。この「簡易アーマー」の様な装飾は一点物であり、少年が六芒の〈六〉担当である事の証明であった。

 

「おう!ヒー坊、また寝坊かぁ?夜更かしすんなよー」

 

「違うって!急に呼ばれたんだよ!それと俺は朝は強いって、これ何度目だよっ!」

 

「ハッハッハッ」と、筋骨隆々な巌の様な男との走り間際の会話を聞きつけると「なんだなんだ?」とつられる様に、悪戯に飢えた人混みの視線は駆ける少年を「逃すまい」と追いかける。

 

「なんだぁ?ヒー坊また遅行かぁ?」

 

「ヒーちゃん、朝はちゃんと食べたのかい?」

 

「我が好敵手ヒートッ!!今日こそ決着をつけ……」

 

この対応には少年もいい加減慣れたもので、重なり合い、時には輪唱状態の全てに応える事は出来ないが、少年は手振り身振りで返答しその場を駆け抜ける。

 

アークス内で最強の6名に与えらる役職、六芒均衡。「ヒート」は16歳という若さで、その〈六〉を任されている。正義感に溢れ、活発な明るい性格は先代の〈六〉であり、師匠でもあるアークス譲りのものだろう。

燃える様に逆立った灼熱の頭髪に、瞳は綺麗に澄んだ蒼。まだ少し幼さを捨てきれぬ容姿に、年相応の身長。日頃の鍛錬の成果を隠す様に、謙虚に着痩せした体躯。

 

先代は彼の才能にいち早く気がつくと、早過ぎる段階にも関わらず自分の席を譲ることを即決した。器としてはまだまだ未熟、最強と呼ぶのはおこがましいという中途半端な身ではあったが、アークスや街の人々の助けもあり、何とかやっていけていた。

〈オラクル〉内の人々にとって今代の〈六〉は、「模範」「象徴」というよりは、「子供」であり「兄弟」であり同年代には「良きライバル」であった。

 

激動のショップエリアを抜けた先、〈ゲートエリア〉テレポーターの前で、その男は腕を組み仁王立ちしていた。

 

「遅いぞヒートッ!皆待ち兼ねてるぞっ!」

 

お互いの距離を考えると、少し大き過ぎるくらいの声量が「ヒート」の鼓膜を叩いた。しかしその声色は、誰かを叱る時のそれではなく、ヒーローが口上を述べる様な勇ましいものであった。

 

「すみません師匠、遅れながら参上致しました」

 

素早く一礼すると、男は「うむ」と腕を組み直し、師弟間の「お説教タイム」は瞬く間に終了した。

チクチクと伸びた青髪は綺麗に捉えられ、戦闘に邪魔だと言わんばかりにオールバックに纏め上げた頭髪。炎が灯そうな真っ直ぐな瞳に鍛え上げられたその肉体から、「熱血漢」という表現が一番しっくりくる。

男は「ヒート」の師匠であり、先代、六芒均衡の〈六〉。席を譲った現在も、「戦闘部・司令」として組織内を引っ張る存在。名を「ヒューイ」という。

 

「これ以上長居は不要だっ!さあ、いくぞ!」

 

まだ少し罪悪感が残っていたが、その勇ましい声に導かれ、師弟を乗せたテレポーターは艦橋にある〈コントロールルーム〉へと出発した。

 

テレポーターと言うだけあって、出発から到着までは一瞬の出来事であった。

 

「遅いぞヒー坊………私を待たせたのはこの頬っぺたかー!!」

 

「いたたたたっ!!!…いふぁいれふ」

 

余程怒らせてしまったのか。テレポーター前で待ち構えていた少女は、開口一番見るや否や「ヒート」の頬を抓った。

年齢はヒートと同い年くらいだろうか。真っ赤と言うよりはオレンジがかった繊細な毛髪は、テレポーターの淡い翠色に反射しその一本一本を輝かせる。手入れの行き届いたロングヘアーは肩甲骨を隠す様に二つに結ばれ垂れ下がっており、結び目には円形の装飾が利用されていた。容姿は「童顔」そのものだが、表情と姿勢から少しだけ大人びた雰囲気を感じさせる。

六芒均衡での、彼女の〈五〉という数字は役職の番号のみではなく、彼女「クラリスクレイス」が〈三英雄〉という位置に属することも意味していた。

 

「お説教も済んだことだし、そろそろ始めてもいいかな?」

 

迷子の子供に質問をする時の様な、優しい口調で召集の号令主「シャオ」は、集まった皆に話し合いの準備を促した。

 

コントロールパネルの椅子に腰掛ける「シャオ」を囲む様に整列し、各々集中しやすい体勢をとる。

「シャオ」は一同を静かに一瞥すると一呼吸置いたのち、その声色を変えた。

 

「この世界で、近々良くないことが起こる」

 

管理者は、六芒均衡+1人に不吉な演算結果を語り出した。

 

 




悲報、徹夜する。

しおり挟んでくれた方、ありがとうございます!
今後も読んで貰える様に頑張ります!

読んでくださって感謝です!
また来ていただけると励みになりますm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6章「次元干渉」

 

 

「この世界と強い繋がりを持つ別のどこかで異常が発生し、この世界は干渉を受けて巻き込まれる事になる」

 

それが、〈オラクル〉の管理者である「シャオ」の演算に突如として現れた事象。これから起こりうる可能性の一つであった。

 

「ここと強い繋がりを持つ、ここに干渉をもたらすその場所を、僕は〈特異点〉と呼んでいる」

 

「呼んでいる」と表現した事から、彼がその場所をある程度調べ上げたのだと一同は理解した。管理者が手を焼く程の事象を、人でしかない者たちが口を挟める筈もない。管理者から語られる「事の顛末」を聞き届ける事が、彼らに許された事件解決への最初の一歩であった。

 

「演算の結果、〈特異点〉の座標を捉える事に成功はしたんだけど、今回は今まで解決してきたそれとは全く異なるものになる。みんなには、これまでの経験を一旦捨てて僕の話を聞いて欲しい」

 

六芒達は各々思考する。つまりは「初体験」、或いは「未知」に、これから〈オラクル〉は挑むことになる。「初めて」というのは皆が一斉に同じ位置から始まる。この世界にその概念は無いが、「全員がレベル1」からスタートするのだ。つまりは「自力」が試される。その「自力」は、下手をすれば命取りになる危険性を秘めている。「自力最強」である「六芒均衡」は正に適任者であり、一般の〈アークス〉に知らされていない理由の一端に辿り着いた。

 

「言葉にして説明するより手っ取り早い方法を取らせてもらう。演算によって得た収穫の一つ。断片的な情報ではあるけど、現在〈特異点〉で何が起こっているのか。今からその映像をみんなに観てもらいたい」

 

「聞く」から「見る」に変わる程度の事。しかし、一般人が「得体の知れない危機」に晒されながらそれを瞬時にやれと言われれば、出来る者はおらず皆パニックを起こすだろう。そんな状況においても顔色一つ変えずに居られる「この者たち」の精神力は、歴戦によって培われたものであり、〈オラクル〉にとっては非常に頼もしい存在であった。

 

管理者が虚空をひと描きすると、コントロールパネル中央の大画面に、その映像は映し出された。

 

映像の舞台は、まさに「ここであって、ここでない」場所だった。何よりそれを物語っているのは、ここと瓜二つの〈ショップエリア〉の存在である。そこでは、「ここ」と全く同じ人種の者達が、中央に据えられた大画面を見据えごった返しており、何やら「上映会」でも開かれている様だった。

 

自分達は今、どっちの世界の映像を観せられているのか?

 

そんな錯覚に陥っていた。

初対面の者が、双子を見分けられる筈が無いのだから。

 

「上映内容」は、ぼんやりと影掛かっていて内容を確認するには至らなかったが、それを一頻り見終わると盛り上がりをみせる観衆の様子を見れば、何となく予想はついた。

「シャオ」が観て欲しいと映し出した映像は、画面上の歓声と共に終わりを告げた。

 

「状況はよくわからないけど、何やら催しがあると僕は思っている。そして、その催しが〈特異点〉の不確定要素であり、ここに干渉をもたらす元凶。この催しを知る事が、起こりうる未来の正解を導き出す鍵だと演算した」

 

管理者が〈六芒均衡〉に何を求めているのか。その答えに辿り着くと、六芒の〈五〉である童顔の少女の一声により、事実上の「話し合い」は幕を開けた。

 

「ふんっ…馬鹿らしい。場所がわかっているのならば、その会場ごと吹き飛ばしてしまえば良いではないか」

 

六芒均衡の〈五〉、三英雄の一角「クラリスクレイス」は管理者の返答を伺う様に「私ならばそうする」「悩むことも無かろう」と言わんばかりに、敢えて馬鹿正直に直球を投げかけた。

管理者の返答は予想出来ていたが、この場に着いて行けていない者の為にも「復習」をする必要があった。

その優しい「真意」を知ってか知らずか、管理者「シャオ」は丁寧に回答する。

 

「さっきも説明した通り、その〈特異点〉である世界は、僕達のいるこの世界と非常に強い繋がりがある」

 

管理者は一瞥し(いちべつ)、各自が理解していることを確認すると、一呼吸あけて再び語り出す。

 

「その〈特異点〉の変化が、僕たちのいるこの世界の危機に直結しているのだとすると、〈特異点〉で騒ぎを起こすのは得策とは言えない。その結果、こっちでどんな副作用が起こるのか…想像もつかない」

 

「シャオ」の説明が途切れてしまったので、言葉には出さないが「もう一押ししとこうぜ」と言わんばかりに頼り甲斐のある美声が補足する形で割り込んだ。

 

「ましてや会場ごと爆破なんてしちまった日にはー、向こうの世界で死人が出るのは間違えー無し。こっちでも死人が出るかもな」

 

短髪赤髪はサッパリと好印象だが、その頬に深く刻まれた切傷と筋肉質が無骨さという隠し味となり、「〜過ぎる」を「丁度良い」に押し上げる。

 

六芒の〈四〉「ゼノ」は補足を終了し引き下がった。

 

そうなると再び一同の視線は「シャオ」の元へと注がれる。

「彼」は再び一瞥し、現在の考察に異議を唱える者がいないかを確認するが、どうやら満場一致らしく「視線」は管理者はどうなの?と「シャオ」が語り出すまで沈黙は続いた。が、察した彼もすぐ様応じる。

 

「僕も、あり得ない話ではないと思う。寧ろ、起こりうる可能性の方が高いだろうね」

 

大人達の会話に「ヒート」は着いて行くのがやっとであった。先程の「初めて」は、捨てる経験もない彼にとっては致命打であり、頭半分パニックを堪えた状態であった。

本来彼らは多くを語らず、曖昧な言葉を一言交わすのみで意思疎通を済ませていた。

しかし、「ヒート」が理解出来ないということは、話し合いに関して「対等」では無い。

「六芒均衡」は言葉の通り、「均衡」していなければならない。

必死で着いていこうとする「ヒート」を時折目配りする面々を見れば、「均衡」を保つことが真の理由ではないことを伺わせた。

 

「〈特異点〉で何が催されるのか。君たちに探って来て欲しい」

 

自らの為すべき事は、とうに決心していたからか「いつでもどうぞ」と大人達の背中は物語っていた。

 

「といっても、ちょっとばかし交通手段に問題があってね」

 

「あはは…」と自身の後頭部を撫で回し、照れを隠す様な口調に一同は頭上に疑問符を浮かべた。

 

「惑星探索とは訳が違うらしくてね、アークスシップじゃ……行けないんだ」

 

一瞬眉をピクリと吊り上げた者もいれば、「はぁぁぁ!?」と如何にも文句有り気な者もいる。

 

「けど、方法もわからずにお願いした訳じゃないから、そこは安心して欲しい…」

 

「その方法に問題ある訳ですか?」

 

「ヒート」が先輩に習い補足すると「おぉー!」と一同はパチパチと拍手し小さな成長を祝福した。

 

「時空を渡る、次元超越レベルじゃないと行けないんだよね、困ったものだよ」

 

「時空を渡る」というワードは一同の脳内検索にヒットしたらしく、すぐ様「シャオ」と同じく「困ったものだ」「やれやれ」と大きく息を吐いた。

 

「それが可能な〈困ったちゃん〉に、1匹だけ心当たりがあるけどねぇー……」

 

忍び装束は鋼鉄を浴び輝く。その輝きはキャスト特有だが堪え忍んで生まれた色は年季の違いを思い知らせる。悟ってみろと口元を黒い布で覆い隠し、毛髪のみならず身に纏う装束さえ身体の一部のご意見番。

 

六芒の〈二〉、「マリア」は「どうしたものかね…」と呆れ気味に年季の入った溜め息をついた。

 

「状況の打開策を演算したところ、どうやらこれ以外に道は残されていないらしい」

 

「了解〜」と気怠げに、皆それぞれが態度で示した。

 

 

「〈超時空エネミー〉個体名称〈ニャウ〉、彼に協力を取り付け〈特異点〉へと飛ばしてもらう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ…」とニヤけ悪い顔をする半人半猫は、その一部始終を盗み聞きして企んだ。

 




祝ッ!!!簡易シナリオ進行が全て終わりました。

たまたま、矛盾無く終わりまで行けました。やったぜ!
シナリオ後半、あなたの予想を裏切りたい


読んで下さって感謝です!!!
読みにくい文章かもですが、また来て欲しいです!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7章「一つの事件と、一つの疑問」

 

 

現在、菊岡誠二郎(きくおかせいじろう)は「一つの事件」と「一つの疑問」に追われる身である。

 

片方は誰が見ても明確に「事件」である。「ガンゲイルオンライン」略称「GGO」

そのゲーム内では、「死者」が報告されている。彼は事件の調査を、「SAO開発者のお墨付き」を貰っていたであろう少年に、「依頼」という形で託している。

しかし、その事件はあまりにも「不可解」な事が多すぎるため、「彼」程の強さを誇っていても不測の事態が生じる事は想定しておかなければならない。

その為、現在菊岡は現実世界からできる手助けを欠かせない状況なのである。

 

 

一方、「疑問」について語るならば、その疑問の始まりは「自身をSAOサバイバー」と名乗る人物が主催するゲーム内イベント。

その「お遊び」にゲームの運営が全面的に協力している事だった。

このVRMMORPG「ファンタシースターオンラインパラレル」略称「PSOP」を運営する会社は、個人が趣味で立ち上げたものとは訳が違う。

株式会社SOGAは、ゲームを中心にして様々なジャンルで世界にまで周知されている「大手」である。

それに加えて頭文字の「PSO」は、シリーズタイトルであって関連するタイトルに派生し続けるBIGタイトル。

 

「個人程度」が構って貰えるはずもないのだ。

 

 

勿論、この疑問を「彼女に依頼する」にあたって菊岡自身も脚を動かしていた。

「PSOP」運営本部に直接出向き、プロデューサーである人物に話を伺ったところ、

 

「風の噂が広まったのではないでしょうか。運営がその様な広報を行なった形跡は一切ございません」

 

との事。菊岡が思い当たる情報も、実際に運営コンソールを操作して見せて貰ったが、見事に空振りした。

 

運営は起動に乗り始めた所らしく、「ユーザーのいざこざに一々構ってたらキリがない」と締めくくり、忙しそうに常務に戻って行った。

 

完全な「白」と判断するには情報が不足しすぎている。それに、まだイベントの全貌はその一端すらも明かされていない。

 

一先ず、運営は白としておく。

 

となると、「一個人」或いは「団体」が流した事になる。「総務省職員」の肩書きを使い、関連する情報の詮索に持てる力を尽くしたが、「風の噂」の出所は「総務省職員」の権限を持ってしても、掴むどころか辿る事さえ出来なかった。

 

同様に、「SAOサバイバー」と名乗っていることから、総務省が「SAO生還者」たちの証言を基に纏め上げた情報を利用することにした。

「SAO」というデスゲームは、世界ごと全プログラムを抹消し、既に消滅してしまっているため、その情報は「生還者たちの証言」でしか知ることは出来なかった。

 

まさに、死人に口なしである。

 

この証拠のない資料は「トップシークレット」ではあったが、誰に話したところで特に問題はないだろう。

そんなもので、探し物の手掛かりが見つかるはずもなかった。

 

つまり、本当に「SAOサバイバー」なのかは本人以外に誰にもわからず、イベント主催者は「一個人」或いは「団体」で有りながら、「大手ゲーム会社」と「総務省職員」を欺ける(あざむ)力を持っていることになる。

 

そんな強大な力を持つ者、或いは者たちはイベントを何のために開催するのか。

 

何故に、「SAOサバイバー」を名乗り出ているのか。

 

そう考えると、これもまた「不可解な事」が多過ぎると言えるかもしれない。

 

ただの「悪戯」にしては、力が強大すぎる。

 

 

現在、菊岡は出先のネットカフェにいる。

あくせく激動の一日であったが、「この時間」だけはどうしても空けておかなければならなかった。

 

菊岡は、自身の端末を選択することも出来たが、「不可解な事」に備え、ネットカフェから予定された「イベント予告」を観ることにした。

 

もしも、プレイヤーズサイトからその光景を観ることが出来れば、「運営全面協力」は真実になるだろう。

 

その瞬間、運営は黒に変わる。

 

全ては、この「イベント予告」の顛末を観ないことには始まらない。

ただ、「得られる情報」が一つでも確定していれば菊岡にとっては、それでいいのだ。

 

 

ーーーーー時間だ

 

 

現在をもって開戦された「この情報戦」において、止まる事など一刻の猶予も許されない。

 

ましてや、こちらは後手なのだ。

 

素早く既に開かれたプレイヤーズサイトの更新ボタンを叩く。選んだ部屋のPCは、この店で最先端な物を選んでいる。

瞬く間に、パッと一瞬点滅し全く同じ画面を映し出す。

「案内」が増設されるならこの場所だろうと、菊岡は予め目星を付けていた。

 

しかし彼の努力も虚しく無駄なものになる。

 

 

プレイヤーズサイトの画面上。

 

デスクトップクリーナーが掃除をするのと同じように、先程まで無かった「バナー」がゆっくり画面中を動き回っている。

 

 

先程まで涼しげだった彼に、追い打ちをかけるように寒気が到来し背筋が凍る。

 

 

サァー、と顔中の血の気が引くと脳みそが酸素を求めて息が荒くなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

画面中を、「笑う棺桶」が動き回っていた。

 

 

「ハッキングかっ!!!!!」

 

ガタッ、と椅子から飛び上がり店内である事も御構い無しに驚嘆する。

 

ーーーーーーくそ、やられた。

 

菊岡は一瞬で反省を終えると思考をフル回転させる。

自分がやるべきことの順序は一瞬の内に決定された。

 

飛び回る棺桶をクリックすると、画面上に新たに立ち上がる小型の空間。真っ黒い画面に「準備中」と真っ赤なフォントが不気味に浮かんでいた。

 

「菊岡です、株式会社SOGAに至急むかっ!?」

 

ハッ、と息詰まり言葉は終わりを訪れる前に遮られた。

画面を見据えながら緊急連絡の最中、突如映し出された「告知イベント」

 

 

クリスハイトさん、ご無沙汰しております

 

あー、ごめんごめん。片付け終わってないけどよければ座って

 

それでは、失礼します

 

 

そこに映し出されたマネキンは、「彼女に依頼」をした時と全く同じ言葉を発し、一挙一動寸分の狂いなく「再現VTR」の様に「あの光景」をなぞっていた。

 

 

「くっ……、何が起こっているんだ……」

 

 

菊岡は本件の警戒レベルを何段階も上げた。

 

 




菊岡さん頭良すぎて、再現は無理でした。
彼がどう動くのかは予想がつきません。
それと、タイトル名の変え方ようやく見つけまして変更しました!!

読んでくれて感謝です!!
また来てくれると、嬉しいです!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8章「時をかける猫」

 

 

「悪戯のあるところにその猫あり」

 

「ニャウ」のやんちゃっぷりには、「オラクル」に住まう者皆が手を焼いていた。

突然現れては落書きを残して姿を消したり、店先の商品を弄って(いじく)は壊したり。

しかし、子供達とは仲良く遊びまわっているのだから、怒るにも対応にも困る。

しかし人の適応力は凄いもので、そんな事にもいつしか慣れてしまっていた。

「ニャウ」は自然と「オラクル」の生活に溶け込んでいた。

 

 

「創世器」

量産性、耐久性を犠牲に「破格の性能」を誇る武器。

「この世界」で最強の武器である。

この世界では一点者で、かえが効かない。

 

「ニャウ」

殺める力、TPOを犠牲に「時空を渡れる」生き物。

「どの世界」でも自在に次元超越できる猫である。

どこの世界でも「彼」は一匹しかおらず、かえは存在しない。

 

この世界における「最強」と「悪戯猫」を見比べてみると、「彼」が如何に〈異質な存在〉であるかという事を理解して貰える事だろう。

 

それに加えて、その猫の公用語は「人間の言葉」である。

 

子供の様な無邪気な彼にとっては、「他国の公用語を学ぶ」という発想には至らなかったためか、「敵勢存在」を指す「エネミー」に分類されているのにも関わらず、彼は「エネミー」の言葉を理解出来ない。

 

「オラクル」に住まう者一人一人に、「その悪戯猫はいつ現れたの?」と質問してみると、面白い事が起こる。

老若男女千差万別問わず、「物心がつく頃にはいた」と皆一様に応えるのだ。

 

〈発見報告書〉には、こう記されている。

突如として現れた。「人の言葉」を発し理解しているにも関わらず、その身体は「半人半猫」であり、人ではない事が伺える。

その「半人半猫」は興味津々に声をかけてきた。

「武器」は持っておらず、「敵愾心」も無い。

まるで子供の様に純粋無垢な態度を見るに、エネミーでは無い事も伺える。

ただ、彼は「空間に穴」を開けその場から消え、数分後立ち尽くす私の前に「同様の手段」で突如現れた。

驚愕する私の反応が見たかったためか、「半人半猫」はそれを見ると満面の笑みを浮かべ、無邪気に飛び跳ね歓喜していた。

私は「半人半猫」に、「どこに消えていた」と尋ねると「君じゃない君も見てきたニャウ」と意味不明な証言をした。

その後、満足したのか私の前から姿を消し、以降頻繁に「半人半猫」は現れる様になった。

 

と〈発見報告書〉は締めくくった。

 

 

その後、虚空機関「ヴォイド」の研究や「管理者」の演算によって、「猫が開けた穴」が時空の裂け目である事がわかった。

人の言葉を発するが、その姿は人ではない。自由自在に時空を飛び回れる異様さから、「エネミー」と位置付けられた。

しかし、数多のエネミーの中でも同じ特徴を持ち合わせる生物は発見されておらず、「彼が最初の例」である事からその特徴を取って

 

「超時空エネミー」という項目が新たに誕生した。

 

そして、語尾に「ニャウ」と発する事から、個体正式名称は、「ニャウ」とされた。

 

「ニャウの対処」に、両者の意見は割れた。

虚空機関は「危険すぎる、今すぐ捕らえるべき。同様の生命体が発見された時の為にも調べるべきだ」

 

管理者の意見は、「演算の結果、彼は必要」ということを「縁者」を通して代わりに伝えられた。

 

両者は「オラクル」において、権力者ではあるが明確に違う点がある。

 

管理者は「起こりうる未来」を演算により知っている。

 

莫大に広がる可能性の中から掴み取られた選択により、「オラクル」は今この瞬間も平和なのだ。

 

その後、管理者により「ニャウ」が捕縛されたりその命を殺められることは禁止とされた。

それを破れば、未来はどうなるのかなんて事は、皆予想はついた。

 

 

 

 

〈オラクル〉アークスシップ艦橋にあるその一室で、話し合いは小一時間前に終わりを迎え、現在は管理者が一人「ニャウ」の出現予測地を演算しているのみである。

 

「ともあれ、ニャウの協力を得ない事には何も始まらない。彼の出現が観測されたら知らせるから、各自備えていて欲しい。出来れば、散らばって探していてくれると助かる」

 

話し合いはそう締めくくられ、現在は各自散らばって自らの成せることに取り組んでいた。

しかし、未だに「ニャウ」は見つからず、事態は停滞していた。

 

「どういうことだ……」

 

管理者は「ニャウ」の出現予測地の演算を終え、その結果に疑問を感じていた。

通信部に伝え予め繋いでおいた回線を介し、管理者は一同に召集をかけた。

 

「みんなお疲れ様、すぐここに戻ってきて欲しい」

 

一部「はあああ」やら不満の声が聞こえたが、一同はそれに応じ返事をした。

 

「ニャウの出現予測地として、最も可能性の高い場所はここ。艦橋のコントロールルームだ」

 

そう締めくくり、連絡回線は切られた。

 

 




PSO2とSAO知らない人が読んでもわかるように頑張ってみます。
演算の解釈は間違ってるかもですが、そんなものと目を瞑ってくれると助かります。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9章「大画面は訴える」

 

 

「SAOイベント」の告知、予告ムービーが終わり小一時間も経っているにも関わらず、観客達は帰るそぶりも見せずその場に留まり歓談に明け暮れていた。

未だ感動の余波が残っているのか、

 

「レベル上げとくのが得策じゃね?」

やら

「敵は弱点属性なんだろ?ラフコフなら闇っぽいし光武器作っとくか〜」

 

など、根拠のない考察交換に夢中である。

しかし、イベントを心待ちにするプレイヤー達にとっては、そんな意味の無い情報交換が「楽しい」のだ。

決して、確証を得たいが為に行なっているのではない。

対価もいらない、隠す必要などどこにある。

会場内は各々の情報がダダ漏れ状態で、一画に集中して耳を澄ませば会話の内容が聞き取れる程であった。

 

その場は、話せる友達のいない「彼」にとっては格好の餌場で、彼もまたイベントを心待ちにするプレイヤーの一人なのであった。

 

「なるほど、光弱点ね…ありえるな」

 

幼児程の大きさの「ちっちゃなキャスト」、プレイヤー名「you」は観客に混じり聞き耳を立てていた。

 

集団の中、何もせずに小一時間立ち尽くす者がいれば、普通であれば「不気味」であり、周りも警戒するだろう。

しかし、ここは「VRMMORPG」の中。不気味であろうが危害を加えらる心配のない世界。

付け加えると、彼は「キャスト」だ。「アミュスフィア」が脳波から表情を読み取ろうが、超合金ロボットの鉄仮面はその表情を写さない。

四方を観衆という大きな壁に囲まれているため目視も困難。約束された安全地帯なのである。

 

「おいっ、なんだあれ!!!!」

 

耳の尖ったプレイヤーは余程重要なことなのか、敢えて皆に情報を漏らす様に大声を上げて目的地を指した。

隣にいるプレイヤーからその隣にいるプレイヤーへ。

目的地の方を向く視線が発信源から観衆の最後尾を目指して波打つ様に広がっていく。

気がつけば、その場にいる者全員が先程まで告知ムービーを上映していた大画面の方を向いていた。

 

「なんだっ、どうしたんだ?何が起きたんだよ!?」

 

四方をプレイヤーという大きな壁に囲まれていることが裏目に出てしまい、状況がわからない。

 

「you」は告知ムービーを観ていた時と同じ様に、目の前のプレイヤーという大きな壁によじ登り、そこから一同が向いている方向へと自身も視線を向けた。

 

 

「行方不明のエネミーを探せ」

 

 

ただ一言だけ、大画面は訴えていた。

大画面がどういう意図を持ってその情報を伝えたかったのかなど、誰にもわかるはずがない。

しかし、告知ムービーが終わったこの時間帯においてそれは当てはまらない。

タイミングが良かったのか、「you」がそれを確認してから数秒と待たぬうちに文字は消え、大画面は感情を無くし無表情に戻っていった。

 

 

その後、「大画面の訴え」はゲーム内でプログラムされた正規のクエストでも無いのに関わらず、居合わせたプレイヤーの手によって瞬く間に広がっていくこととなる。

 

「イベントに関係がある」と判断されたそのクエストの情報を集めるべく、「PSOP」をプレイする者は思い思いに捜索を開始するのであった。

 

「you」も負けじと、情報を集めるべく「その場の皆」に習い、ショップエリアを去っていった。

 

 

これにて、イベント告知の「予告ムービー」は本当の意味で終わりを迎えた。

 

代わりに、先走ったプレイヤー達の勝手な妄想から「SAOイベント」は事実上、なんの根拠も無く開始されていた。

 

 

 

 




始まるよ!!!!!!!


読んでくれて感謝です!!!
また来てください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10章「全メニュー制覇系女子」

 

 

都内高級店の一画。再奥にある目立たない席に二人は以前と同じ様に対面していた。

 

以前と違うところを探してみるならば、役目を終え回収されるのを息を潜めて待つ「カラの皿」が無いことと、両者の間に生まれる圧倒的な「危機感」

「私情の頼み事」で来ていた菊岡が、「総務省職員」の菊岡誠二郎に変わっているくらいだろう。

 

橘皐月(たちばなさつき)には、この話し合いの開催宣言を任せられるには荷が重く、菊岡誠二郎のその第一声を静かに待つばかりだった。

しかし彼は、前かがみにテーブルに両ひじを乗せ、握られた両の手を顎に引っかけ俯き動かない。

 

しかしその眼差しは、見つめているテーブルクロスを引き裂いてしまうのではないかと思う程に切れ味が鋭い。

それは、彼が落胆して俯いている訳ではなく、「打開策」を模索しているのだろうということが伺えた。

「皐月」は、そこから漏れ出る切れ味に少しだけ「恐怖」を感じたが、この「話し合い」において彼は味方なのだと「心強さ」も感じていた。

 

彼がゆっくりと姿勢を正す様は、話し合いの開催宣言でもあった。

 

「皐月、あの映像は見たかい?」

 

唐突に始まったものだから、彼女の身体は一瞬ぶれる素振りを見せたが、すぐ立て直し彼と向き合った。

 

「はっ…はい、見ました」

 

「どこで見たんだい」

 

「自室のPCを使ってプレイヤーズサイトから観ました」

 

「あの〈バナー〉を、開いたのかい?」

 

「はい、SAOイベント告知の時間帯に、笑う棺桶が出て来たことで関連性を感じて」

 

「その映像は、どんなものだった?」

 

「素人が作った様な雑なCGで…マネキンが…その」

 

「今、そのPCに異常は見られるかい?」

 

「いえ、念の為スキャニングも掛けましたが」

 

「最後に」と、これまで以上に瞳の奥を覗く様に見据えられ、「皐月」は目を逸らしそうになったが、菊岡への信頼がそれを寸前のところで止めた。

 

「君は、あの映像の出ところは…どこだと思う?」

 

「私の気持ちは前と何も変わりません」

 

その速さは、まさに即答であった。

 

一見して何の脈絡も無い返答に菊岡は少しだけ目を丸くした。

二人の間柄においては「その一言」は、菊岡を納得させるには充分な力を誇っていた。

呆れる様に口元の緊張を少しだけほぐすと、「総務省菊岡」は「ただの菊岡」に戻っていた。

 

「そうだったね、良ければ話し合いの後スウィーツでも頼もうか」

 

「そうですね、それがいいです。疑われた分は覚悟して下さいね、クリスハイト」

 

先程までの緊迫感はどこえやら。

二人は言葉も姿勢も崩していない筈なのだが、両者とも瞳の奥の色は温かく塗り替えられていた。

 

「これから、総務省菊岡が得た情報を話すよ?」

 

小さく一度だけ頷くと、「皐月」は耳を傾けた。

 

 

告知ムービー終了後、菊岡はその足で運営のいる株式会社SOGAへ向かった。

運営も、ここに来た目的と同様のことに追われていたらしく何処もかしこもバタついていた。

聞いてみると、ゲーム内の一部とプレイヤーズサイトがハッキングされていたらしい。

入念に練られていたからか、その足取りは調べてはいるものの、望み薄であることが表情から伺えた。

プレイヤー間で騒がれている、「行方不明のエネミーを探せ」についても問いただしてみたが、結果わからずじまい。

それどころでは無いらしく対応に追われていたため、一先ず何の収穫も無く引き返した。

 

「アミュスフィア」や「ザシード」に纏わるものがハッキングされたとなると話は変わってくるのだが、ハッキングされたのはSOGAの作成したシステムであった。

ゲームやサイトが小規模にハッキングされるのは珍しいことでは無く、「お粗末なCG」と「幼稚さ」から捜査される程度の事件にはなっても、そこには鬼気迫るものは無かった。

 

だが菊岡は、その「お粗末なCG」によって自らの盗撮非害を主張することが出来なかった。

この店の防犯カメラも同様に密かにハッキングされた形跡があり、その日の映像は改ざんされていた。

 

鬼気迫る事件として見ている役員は、菊岡だけだった。

 

 

「というわけなのだが、正直やられたよ。上の人間も堅物でね、オマケに僕は別の依頼に追われてそれどころでは無い」

 

皐月はもう返事を決めていたが、この事件はどうやら彼の些細な「疑問」から、彼が重要視する「事件」に変わってしまっているらしい。

危険もつきまとう事から、その言葉は「菊岡」本人の口から聞きたかった。

 

「総務省菊岡誠二郎として、橘皐月に依頼を要請したい。あのVRMMORPG、〈PSOP〉内に潜入してSAOイベントに参加して貰いたい」

 

「勿論、当初の依頼内容と何も変わらないじゃないですか」

 

「感謝するよ」と菊岡は申し訳無さそう半分、悔しさ半分な表情で皐月に頭を下げた。

 

皐月はその「事件性」は恐いとは感じた。しかし潜入先はVRMMORPGの中、死ぬ事など無い。

「ペインアブソーバー」がある限り、痛覚もゲーム内のものだろう。

何より、菊岡の手助けになれるのならなりたいし、自分自身も放って置けないと結論付けている。

 

 

「それで、報酬の件なのだが」

 

「前のものがまだ生きています。変えたら怒りますよ」

 

「そうだったね、……何か異変を感じたら、すぐログアウトするように」

 

「はい、行って来ます」

 

その言葉を最後に、この「話し合い」は幕を閉じ、「出陣式」を兼ねたティータイムは始まった。

 

菊岡本人も「甘党」なため、気を許せる仲間との食事は嬉しいものであった。勿論、「緊迫感」も「危機感」も菊岡を掴んで離さず、菊岡自身も頭の片隅では様々な事に思考を巡らせている。

ただ、それはこの「出陣式」を中止する理由にはなることはなかった。

 

「何にするのかな?」

 

「順番に食べてメニュー制覇する予定なので、全部ですかね?」

 

「全部かいっ!?」

 

「付き合ってくれますよね?」

 

 

皐月は、菊岡の驚く姿を見たことが無かったので「珍しいものが見れた」と満足気に口元を綻ばせた。

 

 

 

 




SAOでは菊岡さん、PSO2ではヒューイが好きです。
どちらも温度の違う熱さを持っていて滅茶苦茶かっこいいです。

読んでくれて感謝です!!!
また来てください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11章「まるごし」

 

 

青々と生命力をたぎらせた大樹は、乱雑でいて統一感のある立ち位置。

日照りは良好、ただ生物の鳴き声が一切ないことから、ここもまた密かにエネミーの被害を受けていることを匂わせる。

そよぐ風が吹いたのならば、それはさぞ気持ちが良く感じたことだろう。

それを感じられないのは「VRMMORPG」に対する唯一の不満であると、惑星ナベリウス「森林エリア」に散歩を兼ねた捜索に来ている「you」は思いにふけっていた。

 

「アミュスフィア」は、実際そこまでの感覚をプレイヤーにもたらす力を持っているだろう。

しかし開発者は、現実世界との区別がつかなくなり混乱する者が現れると予測し、差別化を図るために感覚のパラメーターは低く設定されている。

「ザシード」内のシステムである「ペインアブソーバー」も相まって、プレイヤー達が困惑する事象は未だ報告がない。

 

だからこそ、エネミーの被害を受けているだろうこの惑星でも、「you」は大自然を満喫することができるのだ。

 

渦中の謎クエスト「行方不明のエネミーを探せ」は、確認された日にはゲーム内プレイヤーで知らない者はいないまでに広がりを見せ、日にちを跨いだ集会ロビーには「エネミー出現統計」を取るべく待ち構える一団が出来る程の活気を見せていた。

「you」も負けじと燃えていたのだが、そんな光景が羨ましく思ったのか、息苦しく感じたのか。

精神を休めるため、気晴らしの散歩も兼ねてこのエリアに足を運んでいた。

 

「行方不明……か」

 

エネミーであるのにアークスの渦中にある存在。

それに比べて自分はどうなのだろうかなどと、如何にも自分勝手な感情に浸る「you」であったが、プレイヤーの気配の無い場所を選んで来ているため見られる心配はない。

 

「見つけたら一発かましてやるか」

 

「you」は思い新たに深呼吸すると、腰掛けていた小高い岩石から滑り落ちるように落下し、満点の着地を決めて行き先を見据えた。

 

 

一方、見据えられた行き先の一画。

森はひらけ、小川の流れを両足で塞き止める様にして座り込む半人半猫がいた。

 

「なんか騒がしくて恐いニャウ」

 

都会の喧騒に疲れたのか、はたまた血走り情報を搔き集める〈特異点〉が恐かったのか。

彼は人目のつかない場所へと足を運んでいた。

 

半人半猫、「ニャウ」は日頃から「ヒート」によくちょっかいを出す間柄であった。

そんな彼がショップエリアから掛けられる声を後回しに駆ける姿を見るとニャウは

 

「何か面白そうだ」

 

と考察し、「ヒート」の後を密かに尾行していた。

 

気がつかれない様に、テレポーターでなく「自身の力」を使い潜入する程の入念さは、「子供心」「好奇心」がそうさせたのだろう。

 

その後、管理者達の話を盗み聞きしていると

〈特異点〉という「ここではない場所」のせいで危険に晒されるかも知れない。

そこでは悪者がいて、そいつのせいかも知れない。

そこに行けるのは、自分だけ。と解釈した。

 

「つまり僕は、選ばれし英雄ニャウ!」

 

その後、〈特異点〉へ単独潜入したニャウの計画はこうだった。

潜入先を観察し、それらしき人物を発見次第あの場所、「コントロールルーム」へと誘拐する。

もしも、誘拐した者が強かったとしてもあそこには管理者「シャオ」がいる。

事件をスマートに解決に導いた自分はかっこいい。

 

しかし、「シャオ」は演算能力は類を見ない存在ではあったが、戦闘能力は無い。

アークス最強「六芒均衡」が「シャオ」の言葉に従っている姿を見て、ニャウは「シャオ」が最強と結論付けていた。

 

来てみたはいいが、いざ来てみると心細い。

如何にも子供の様な感情にニャウは苛まれていた。

 

「ここのシャオは、僕の話を無視するニャウ」

 

この「VRMMORPG」内にも管理者シャオは存在していたが、魂の無いNPCとしてだったため、同じ言葉を繰り返すシャオに対して「無視されている」と感じていた。

 

本人すら気がついていない様々な不安を癒す様に、ニャウは走り疲れたその足を冷やしていた。

そこに、一歩一歩テクテクと行進する影が一つ。

しかしその表情には「悪意」はなく、まるで「無表情」

正真正銘の「鉄仮面」が何の気無しに歩みを進めていた。

 

とりあえず目に入ったから。

ニャウに近づく「you」の動機はそんなものでしか無かった。

しかし、歩みを進める内に段々といつもと違う点に気がつく。

 

この「PSOP」にも、敵キャラクターとしてニャウは存在している。

しかし、彼は希少な存在らしく「突発クエスト」内でしか出会えないレアエネミーであった。

しかし、いくら近づこうがそのクエスト発生予兆は表示されない。

おまけにニャウは「好戦的」で、構ってちゃんの子供の様に玩具の剣を振りわまし勝負を挑んでくる筈なのだが。

 

歩けど歩けど、ニャウはこちらの存在など見向きもしない。システムエラーでも起こっているのだろうか。

そんな疑問も、ニャウの真後ろまで辿り着いてしまった今では、中断せざるを得ない。

 

先手必勝は悪手だろう。ニャウは激弱だが、勝負に負けると大泣き直後次元の裂け目から過去作品の強敵などを呼び出し逃げ帰ってしまう。

バグなのだとしたら様子を見たい。それに、この「ニャウ」は自分の知りうるニャウと異なる点が余りに多い。

そしてそこに、「行方不明のエネミーを探せ」の存在。

 

「もしかして俺見つけちゃった?」などと内心思うのだが、であるならば尚更慎重に接触せねばならない。

第一声を「初撃」と「言葉」で決め兼ねていたが、言葉に応じるプログラムは個人主催には厳しいと判断し、両剣(ダブルセイバー)を今正に振りかぶろうと構える。

 

しかし、服も着ない特徴のないニャウを彩る象徴ともいえるものが見当たらない事に気がつき、思わず心の声が漏れ出た。

 

「あれ、なんでお前丸腰なの?」

 

誰かの返答が欲しくて発した言葉では無かったのだが、目の前の猫は「声を掛けられたから振り向いた」と言わんばかりに自然に振り向き、疑問に対して疑問で返してきた。

 

「まるごしってなんニャウ?」

 

直後、半猫は自らが今まさに斬られようとしている惨状を目の当たりにし、鳴き声を上げて飛び上がった。

 

 




その後二人は幸せに暮らしましたとさ。まさとし、まさとし。


読んでくれて感謝です!!!
また来てください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12章「タキサイキア現象」

 

 

ニャウは時空を渡るだけでは飽き足らず、この場を凍結させる力までも持っているのだろうか。

対面した「小さな半猫」と「小さなロボット」は現在互いに時を止め、石像の様に動く事はない。

その時間は正確に記録したならば、僅か数秒であったが二人にとっては永遠すら感じる程のものだった。

 

小さな半猫が危険を察知し、飛び上がろうと身体を震わせた瞬間、魔法を掛けられた様に二人の石化は解け、空間は止まっていた時間を取り戻すかの様に勢い良く動き出した。

 

 

「キャー!!返事返って来たあああああ」

「ニャー!!化け物オオオオオゥニャウ」

 

 

小さなロボット」は無意識の問いに返事があった事に対して驚愕し、「小さな半猫」は見たこともない小ささのキャストに恐怖し二人は勢い宜しく奇声を張り上げた。

 

パニックを引きを起こしているのか、互いにその場を右往左往、時折飛び跳ねながらも奇声は止むことはなく、ジタバタと数秒を過ごした。

 

その数秒は、「小さなロボット」が冷静になるには充分なもので、彼は目の前の半猫が自分の珍しい背丈を「化け物」と称した事に「心外だ」と怒りを込み上げ、見る見るうちにパニック状態は解かれるのであった。

 

「ってー、誰がバケモノじぁぁああああああ」

 

「you」は帯刀していた得物を握りしめ、我を忘れた様に刃を返した逆刃で「ニャウ」の身体を捉えようと大きく振りかぶる。

しかし、その打撃は詠唱が余りにも長過ぎた。

彼が腰を入れ回転させようとする頃には、「ニャウ」もまた先程のパニックを忘れ、新たな行動に移っていた。

 

「だれか、助けてニャウウウウウウ!!!」

 

命の危機を察したのか、ニャウは大声を上げ泣き出し、その者を少しでも自分の元から遠ざけようと咄嗟の反撃を見せた。

冷静でないパニック状態の彼の脳内は、「怪しい者がいた時の対応」と「怪しいロボットから身を守る対応」が混同してしまい、時を駆ける速さで「you」の足元に穴を開けた。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁ………」

 

打ち上がる花火が「ヒュー」っと徐々に音を消していく様に、「you」も同じ様に女々しい奇声をあげ、足元を貫き落っこちた。

 

「……………ゥニャウ」

 

渋く発せられたその鳴き声を、人の言葉に翻訳するならば「やってしまった」が相応しいだろう。

知らん顔すれば、「シャオ」にどんな罰を課せられるかなんて事を考えると身震いを起こし、自身も同じように目的地へと渡った。

 

事の顛末を嘲笑う様に、閑古鳥が小さく一度だけ鳴いた。

 

 

 

「来た!!!みんな、準備はいいかい?」

 

管理者の予告に、その場にいる者達は「虫取り網」やら「投げ縄」やら、各々が捕縛する為に準備したアイテムを構え、中には「麻酔銃」まで持ち出している者もいる事から、事の重大さが伺える。

 

「3…2…1…構えて!!!」

 

年輩の六芒達は「やれやれ」と呆れる様に首を振ったが、童顔の女性はどうやら乗り気らしく、一目散に麻酔銃を構え照準を合わせた。

 

「ぁぁぁぁああああああ」

 

地下鉄の電車が残響を置き去りに徐々に近づいてくる様に。

その女々しい奇声は、ご丁寧にも待ち構える者達に「落下地点」を晒し、それと同時に呆れていたメンバーは密かに足の裏を踏ん張った。

空間にぽっかりと穴が開いた瞬間、それとほぼ同時に。そこから僅かに何かがはみ出した。

 

 

「貴様は私の獲物だー!!!!!」

 

 

銃声を合図に、その場の全員が飛び出した。

フライング気味に放たれた麻酔銃が、「カキィン」と鋭い音を上げると、同時に「痛っ!!」という音が聞こえた気がした。

 

 

物体が落下する速度というのは、まさに一瞬の出来事である。

しかし、その一瞬をじっくりと眺める魔法の現象が存在するのだ。

 

その名を、「タキサイキア現象」という。

 

咄嗟の危険に脳が誤作動を起こし、見ている光景がスローモーションになるという現象である。

 

そして、その現象は「命の危機」を察した瞬間に起こりやすいのだ。

 

 

頭から徐々に「転移先」を目の当たりにする「you」

 

徐々に徐々に、見たことある様な無い様な場所に、一先ずの安堵を見せるが時は待ってくれない。

 

何かがすぐ近くにある。いやいる!!それも迫って来てる!!!しかも鬼の形相でいらっしゃる!!!!

 

しかし、この現象は「見たくも無い惨状」と「感じたくも無い恐怖」を、永遠の物に変え「you」を掴んで離さない。

 

ーーーーーああ、母さん。先立つ息子をお許しください

 

 

「とぅわぁぁぁぁすぅぅぅぅぅけぇぇぇぇぇとぅぅぇぇぇぇぇぇ」

 

モザイクをかけた声は、ゆっくりじっくりと艦橋に響き渡った。

 

 

アークス最強、六芒均衡が鬼の形相で来客を出迎えた。

 

 

 

 

 

 

 




タキサイキア現象、恐るべし。

読んでくれて感謝です!!!
また来てください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13章「観たことないイベント」

 

 

艦橋の中央に据えらた大画面は情報の海と化しており、文字達は「スイスイ」と気持ち良さげに泳ぎ回っていた。

しかし、「この騒ぎ」は彼らの泳ぐ海に大波を立ててしまったらしく、泳ぐと言うよりは駆け巡るになってしまっている。

その大波をもたらした者は、出現と同時に捕らえられ絶叫したことからか、画面上の情報達は「いい気味だ」と彼を見下ろし嘲笑っていた。

 

「おや、コイツ毛が抜けちまってるじゃないか。あんたどこで身ぐるみ剥がされて来たんだい?」

 

六芒の御意見番、「マリア」はこの争奪戦を勝ち抜いたらしく、その手には幼児程の大きさのロボットが逆さまに吊るされている。

彼女が逞しいせいか、その光景は狩人が獲物の両足を掴み持ち帰る様にも見えて、少し虚しさも感じさせた。

 

「おいおい、あねさんよぉ。そりゃどう見ても食べられる訳ないと思うんだが。早いとこ捨てちまった方がいいと思うぜ」

 

六芒の〈四〉、「ゼノ」はため息混じりに捕らえられた獲物をじっと見つめ、先輩に見解を仰ぐ。

 

「そうさねぇ、見たところ牙は抜けちまってるみたいだが……猛毒があるかもねぇ。そこの所どうなんだい、シャオ」

 

経験豊富な御意見番の見解によると、目視でわかり得る領域ではないと判断され、その対処は管理者である「シャオ」に託された。

先程まで捕縛に乗り気だった面々も、「マリア」の言葉を重く受け止めたらしく、些細な情報さえも与えまいと口を硬く閉ざしている。

 

「わからない、でも僕の演算が及ばないとなると事態は深刻だ。みんなも知ってる通り、僕は〈シオン〉と違って全宇宙を観測する程の力は持っていない。つまりその幼児のキャストは異世界から来た可能性が非常に高い!あぁー、こんな時に〈シオン〉がいてくれればっ!!」

 

管理者を名乗っていても、こういう姿を見ると彼もまだ子供なのだと感じさせる。

子供はこういう場面で親に助けを求めたくなるものだ。「シャオ」の親、「シオン」は先代の管理者であり全宇宙の観測者(アカシックレコード)なのである。

 

彼にとっての母親像は、まさに「絶対」なのだ。

 

助けを求めたくなる気持ちもわかるものだが、「シオン」はもう消滅してしまっている。

この世界に「シャオ」を超える演算能力を持つ者はいない。

自分でどうにかするしかないのだ。

 

一方、晒し吊るされているキャスト「you」は「鉄仮面」であり、オマケに微動だにしない。

ここにいる者は、「いつ情報を晒すか」と彼の一挙一動に目を凝らしていたが、彼は微動だにしない。

 

それが不気味であり、彼が「くせ者」なのだとこの場の者に良からぬ緊張を与えていた。

 

しかし、当の本人「you」は目の前で繰り広げられる光景に「感動」しているのだった。

 

「こんなエピソード見た事ない」やら、明らかにいちプレイヤーでしかない自分を話題にしている様が、ゲームであるのにその枠を飛び越えた「臨場感」を彼に与えていた。

 

今現在、彼は大人しく「ゲーム内イベント」を見ている真っ最中なのだ。

 

シャオが大慌てで演算に取り掛かると同時に、緊迫した空間を切り裂く様に、突如として「その穴」は再び開かれた。

この場にいる六芒均衡全てが自身の「創世器」発動を準備し、古参二名は「シャオ」の元へとつく。

 

拍子抜けな事に、「その穴」は来訪者の姿を見せる前に自己紹介をし出したのだった。

 

「ごめんなさいニャゥゥゥウウウ」

 

特徴のある語尾から「犯人」の情報は割れ、それは同時に「幼児のキャスト」は連れ去られたのだということを結論付けさせた。

しかし、問題はそこにはなかった。

彼には聞かなければならないことがある。

 

「こりゃあ、お仕置きはまたの機会だねぇ」

 

一同は一斉に警戒を解き、現れる猫の登場を待った。

 

「到着ニャウ、聞いてほしいニャウ。凄く怪しかったニャウ」

 

ニャウは到着と同時に弁明と言う名の「言い訳」に必死だが、「シャオ」にとっては「動機」は二の次であった。

 

「あっ、まるごしじゃん」

 

沈黙を破り発せらた「you」の脈絡の無い第一声の行く末を一同は監視する様に見つめると、何やらニャウは怒り出したが、そこに「恐怖心」は無い。

どうやら、「敵対関係」では無さそうだ。

 

「ニャウはニャウニャウ!!!」

 

「いや、そんなん知ってるよ。でもお前丸腰じゃん」

 

「ニャウは君を知らないニャウ!!やっぱり怪しいやつニャウ!!シャオ、怪しいやつを捕まえて来たニャウ!!」

 

一同は、なぜ彼が異世界から誰かを「捕まえて」来ようと行動したのかに心当たりがあり、皆一様に驚愕した。

管理者「シャオ」はその答えに辿り着いてしまい、誰よりも早く我慢の限界を迎えた。

 

「捕まえて来ただって!?」

 

「!?」

 

ニャウは今まで感情を剥き出しにした「シャオ」を見たことがなかったので、言葉に詰まり黙ってしまった。

それは、彼がただの「演算機」でない証明だ。決して悪気があった訳では無い。

しかし管理者の答えが正しければ、事態は最悪の結末を迎え兼ねない。

 

「ニャウ、君は彼をどこから連れ去って来たんだい?」

 

「シャオ達が、…話してた…場所ニャウ」

 

 

そのたった一言に、「アークス最強」と「〈オラクル〉の心臓」は青ざめた。

 

 

 

 

 




( ˘ω˘ ) スヤァ…しおり挟んでくれてありがとう


読んでくれて感謝です!!
また来て下さい!!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14章「有るはずの無い両眼」

 

 

やはりニャウは次元を超越し渡る力だけでは飽き足らず、その場を凍結させる力まで持ち合わせているのだろう。

たった一言で、この場の「最強」と「心臓」を凍結させてしまったのだから。

 

しかし、この手は一般人である「you」には幾らか効果を発揮しても、彼らに同様の効果時間を期待するのは難しい事だろう。

何故なら彼らは、「最強」であり「心臓」なのだから。

大人達の凍結の魔法は瞬く間に解け、子供達は少しばかり出遅れて時は再び動き出した。

 

 

「これは僕の失態だ。まさか先回りされて…しかも〈特異点〉の存在を連れて来ちゃうなんて」

 

今更悔いても仕方がないことだが、管理者がそうするまでに事態は深刻らしい。

 

「連れて来ちまったもんは仕方がないさねぇ。シャオ、わかってるね」

 

マリアはそう言ったが、実際はこうして管理者の回答を待つしか出来ないのだ。

何故なら事態は、「未知」の領域に大きくフライングして足を踏み入れてしまったのだから。

「全知」でない「シャオ」にそれを求めるのは酷だが、「最強」達は打開策を管理者に委ねた。

 

「大丈夫、わかってる。もうこうなってしまった以上、そこの彼とニャウには否応にも協力してもらうよ。拒否権はない」

 

二人の返事を待たずに、管理者は続ける。

 

「因みに、ニャウを使って過去を改変するのはなるべく避けたい。歴史改ざんした先の〈特異点〉の未来までは、僕の力では演算しきれない」

 

自分達さえ助かればいいという問題ではないのだ。それが、未来を知る者の責任であり、ずっと先まで終わりなく最善を掴み取る事にも繋がるのだから。

 

「ただ、一筋の希望はある。ニャウの存在を認めたのは、〈全知〉である〈シオン〉だ。彼女がそれを最善として掴み取ったのなら、僕たちは進むべきなんだ」

 

「そこの阿呆な猫に、過去の私らに伝言を頼むのもダメなのか?」

 

こういう役目は私だろうと、クラリスクレイスが割って入る。

 

「さっきも話した様に、改ざんした副作用は〈特異点〉を少なからず蝕むだろう。失敗したからといって、繰り返しを続けると…下手したら最善に辿り着けなくなる危険がある」

 

「それに」と、管理者は一呼吸置いてその場を鼓舞する一言を投げかけた。

 

「この結果が失敗だなんて、現状分かり得ないんだ。今も演算の結果は変わらない。彼がここに来た副作用が怖かろうとも、やるべきことは変わらない。寧ろ、幸運かも知れない」

 

疑問符を浮かべる様な事はしないが、一同は押し黙る。

 

「不運の結果、僕達は〈特異点〉を知る存在を手にしている。彼の情報は、世界を救う鍵にもなり得る」

 

一同の視線は、渦中の存在「you」の元へとそそがれる。

状況をよく分かっていないお気楽なキャストは、注目を浴びた事に「ストーリー上のプレイヤーの分岐選択」なのだと解釈し、躊躇なく自らの「選択」を述べた。

 

「えーと、よくわからんけど。困ってるなら手を貸しますが」

 

現状に置いては彼の意思など尊重する必要も無いのだが、彼が嘘を述べる可能性も捨てきれない。この短時間で見た「you」という人物像から、彼が本当に協力してくれるということを確認する必要があった。

 

「それより、ずっと気になってたんたんだけどさ」

 

自らの投げかけに返事が返ってくるとは期待していなかったが、この場の「臨場感」が彼にそうさせた。

 

「なんだい?何か気になる事があるのかな?」

 

鍵の言葉は現状どんな些細な事だろうが、喉から手が出る程欲している。

無下に扱うことは悪手、それに彼は協力者として「仲間」になる事を選択したのだから。

 

「うわっ、返事返って来ちゃった…まいっか。あんたら六芒均衡と管理者だろ?」

 

一同は少しだけ警戒を強める。何故彼が自分達を知っていて、自分達は彼を知らないのか。そんな事も見ず知らず、鍵はお気楽に語る。

 

「あんたらは知ってるんだがー、……そいつ誰?イベント見逃した覚えは無いんだけど」

 

指された極小の指の先、一同の視線は「ヒート」の元へとそそがれた。

 

「お、俺か!?俺はヒート、六芒の〈六〉を任されている」

 

まさか大人達を差し置いて自分に矛先が向くとは思っていなかったらしく、たじろいながらも「ヒート」は自己紹介をした。

 

「あれ?〈六〉はヒューイの筈だが。一番好きなキャラだから見逃すなんてあり得ないんだけどな?」

 

両者の会話から、〈特異点〉には自分達が存在している事と、ズレが生じている事を読み取る一同。

ここまで確認出来れば、後は鍵から直接聞く方が早いと判断し、管理者は質問を始めた。

 

「割り込んでごめんね、混乱すると思うけど、僕達は君を知らないんだ。良ければ名前を教えて貰えるかい?」

 

「えーと?初めまして?プレイヤー名,〈you〉です。得意クラスはファイターですが、基本何でも出来ます」

 

不可解な単語がポロポロと音を立てずに溢れ落ちる。

管理者は偽りなく自らの疑問を「仲間」に晒す。

 

「初めまして、〈you〉。知ってると思うけど、僕はシャオ、オラクルの管理者をしている。ここにいる人達は六芒均衡、それも知ってるよね」

 

勿論だと一つ頷き、〈you〉はイベントに没頭する作業に戻る。

 

「君はヒートの事を知らないのかい?それとも、見た事がないだけかい?」

 

言葉の意味が理解出来なかったらしく、少し考えた末「you」は自らの知り得る設定を語り出す。

 

「えっと、ゲーム内設定ではそんなキャラクター存在しないし、アクティブプレイヤーの俺が見逃すなんて事まずありえんしー?」

 

聞き捨てならぬ単語が飛び出した事により、管理者は無礼を承知で割って入る。

 

「ごめんね、〈ゲームナイセッテイ〉って言葉はどういう意味かな?僕の解釈だと、ゲームは〈遊び〉なんだけど」

 

なにを今更と、「you」も負けじと語る。

 

「ゲームはゲームっしょ?〈VRMMORPG〉ファンタシースターオンラインパラレル。〈PSOP〉はあんたらゲーム内キャラクターの居場所だろ?開発は何してんだよ、ちゃんとプログラムしとけよなっ!」

 

段々とパズルは組み上がり、完成間際にまで来ている。

早とちりでそれを壊さないように、管理者は慎重に確認を取る。

 

「君は僕達から返事が返って来るたびに驚いてたよね?その〈you〉達の〈遊びの世界〉で、僕達は人の呼びかけを無視する程に傲慢なのかな?」

 

何のことやらと、システムの綻びに再び設定を教え込む様に〈you〉は声のトーンを少し上げ応えた。

 

「だーかーらー!!お前らはゲーム内キャラクターであって生きちゃいない!!システムで作り上げられた情報の塊に意思なんてある訳ないっつの!!」

 

 

「生きていない」、「情報の塊」、「遊びの世界」、「意思を持つ存在かいる」、「ゲーム内設定」、「キャラクター」、「プレイヤー名,〈you〉」……………………………………………

 

 

 

 

「僕達は……〈you〉の遊びの世界では……遊びの中の登場人物として誰かに作られた情報の塊。そこで遊ぶ存在、プレイヤーが……〈you〉なのかい?」

 

そんな事考えた事もない。何故なら、彼らが立ち向かうこの事件は「未知」なのだから。

 

「ん、そうだけど?」

 

「you」の一言を持ってして、パズルは完成した。

しかし、「ヒート」がそこにいない理由がさっぱりわからない。しかし、彼に聞いたところで得られる情報は何も無いだろう。一先ずは、置いておく他ならない。

 

 

「ありがとう、〈you〉。おかげで君の事も〈特異点〉の事も大体わかったよ」

 

「そりゃよかったなー」と、〈you〉は曖昧な無礼者であるが、悪気などあり得ない。

彼も平等に、「未知」の体験者なのだから。

 

 

「それじゃあ、僕達もこの世界の事を君に教えてあげるね」

 

「シャオ」は、今までの細やかな御返しだとばかりに無邪気に微笑み語る。

 

「おっ!イベント進展!!」

 

これが、お気楽者「you」が発した最期の言葉だった。

 

 

「この世界には〈プレイヤー〉なんて存在しない。実は僕達、生きてるんだ」

 

 

細やかな御返しの威力は絶大で、有るはずも無い目玉が飛び出そうとしたからか、〈you〉のメインフレームは「ピシャッ」っと音を立てて割れた。

 

 

 

 

 

 




「がーん!!!」


数じゃ無い事はわかってますが、一人ずつ閲覧者が増えていくのはとても嬉しいです!
描写とか自分なりに工夫して頑張りますので、この先も気が向いたらでもいいので、どうぞお越しください!!!

読んでくれて感謝です!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15章「パートナーセレクト」

 

 

まさかニャウたけでは飽き足らず、「you」までもがその場を凍結させる力を持ち合わせていようとは。

 

メインフレームに小さく音を立て入った亀裂は、我慢の限界を迎え「パリィィン」と盛大に砕け散り、内部から配線やらが目視出来る程あらわになる。

彼なりの冗談のつもりであった悪戯返しは、笑いを取る為の行動であったが、結果その場の全てを凍りつかせた。

 

その光景は、命が一つしかないこの世界においては「大怪我」であって、「緊急事態」を意味していた。

 

「……たっ、大変だ!!直ぐに治療キットを!!!」

 

先程まで悪戯な笑みを浮かべていた「シャオ」は、どうしてこれ程までに血相をかいているのだろうか。

たかがメインフレームを割った程度、回復すれば時期に修復されるのに。

浅はかなキャストは、自らが「未知」に足を踏み入れていることにまだ慣れていないらしく、腕を組んで疑問を浮かべていた。

 

「いや、笑うとこなんだけど……」

 

「大人しくしてて!直ぐに治療しないと!」

 

無視しやがった。

 

「シャオ、話を聞いてくれ!俺は大丈夫なんだよ!回復すれば時期に修復され……あれ」

 

何だろう、目の周りが痛い気がする。

「ペインアブソーバー」どうなってるの。

バチバチと音を上げ、時折小さな閃光を放つ己の瞳に気がつくと、彼はゲーム内を飛び出している現状に気がつき、女々しい叫び声を張り上げた。

 

「キャァァァァァァ!!!シャオ、助けてっ!」

 

「だから今そうしているよ!お願いだから自分の置かれている立場を理解して」

 

「you」は小さく、「はい」と返事をするとその場で大人しく治療を受けた。

結果虚しく、異世界の情報の塊である「you」の身体は修復される事はなく、メインフレームを割ったままこの場を過ごす事になった。

 

「自決を選んだニャウね、信用ならないやつニャウ」

 

話について行けなかった猫は、さり気なく輪の中に入ろうとしたが、巻き込まれた「you」はその態度が癇に障ったらしく、猫の頭を小突いた。

 

「取り敢えずは大丈夫そうだから話を戻すけど、〈特異点〉では自傷行為は珍しく無いのかい?」

 

「シャオ」は彼が何の危機感も感じていなかった事を疑問に感じていた。

この情報は無下に出来ない。これから向かう先の重要な情報なのだから。

 

「えーと、自傷行為は無いけどしたとしても安心設計というか。俺たちプレイヤーはバーチャル空間のキャラクターを操作してるだけであって、本体は別にいるんだ」

 

「つまり、ゲーム世界の〈you〉が死亡しても、外の本体が死なない限り、また生き返るのかい?」

 

「ああ、その筈だったんだけど。ここじゃどうやらそうでも無いらしい」

 

痛い目を見たからか、彼は現状を把握してくれたらしい。

しかし、その中には非常に厄介な意味も含まれており、シャオは神妙な顔つきで問う。

 

「そうなると話は更に飛躍して厄介なものになる。それは〈特異点〉に繋がりを持つ世界がまだ存在する事を意味している。僕達はその両方に挑まなければならない」

 

〈特異点〉を操作しているのは現実世界のプレイヤー。

〈you〉にとっては当たり前だが、この場の者にその発想は有るはずも無いのだ。

 

「死者が出ない世界で異変が起きるとも考えにくい。恐らく、干渉をもたらす大元の原因は〈youの本体〉がいる世界で起こると予想される。でも、あの催しには〈干渉の原因〉に纏わる情報が詰まっている事には違いない」

 

事件はゲーム内で起こるが、干渉をもたらす大元の原因は現実世界で起こると管理者シャオは結論つける。

 

〈特異点〉の環境で生まれ育った〈you〉は、それが可能なことに気がつくと、閃いた勢いそのままに投げかけた。

 

「操ってる本体が死ねば、ゲーム内の俺たちも死んじまうんじゃねーかな。そうなりゃ、ゲーム内で死者が出るのと同じことだろうし」

 

あり得ない話では無かったが、それは干渉をもたらす程プレイヤーが死亡することを意味している。

つまり、〈本体のいる世界〉でプレイヤーが大量に死亡することを意味する。

 

「確かに、ゲーム内での死亡は頻繁だったのにも関わらず、この世界には干渉は無かった。あり得ない話では無いかもしれない。でも、干渉をもたらす程の殺人なんて可能なのかい?」

 

〈特異点〉のそのまた外にある世界の事情など、知り得ない。〈you〉の情報を待つしかない。

 

「そんなん、不可能かもな。例えゲームの管理者が俺たちの心臓?の〈アミュスフィア〉を破壊しようとしても、あれの操作は出来ない。それに、プレイヤー人口はここに住んでる人口程居ると思ってくれ。一度にそんな事不可能だ。それと、ゲームをぶっ壊そうが、安全装置が働いて死ぬことも無い」

 

どの道にしても、大量に死者が出る程の可能性が見つかってしまった以上、それを差し置いて別を優先するのは悪手。

シャオは〈you〉の提案した可能性に賭けることを決断する。

 

「そうなると、君たちを死に至らしめる者が存在することになる。そして、不自然にも同時期に開催される催しには、その犯人が関係している可能性が高い」

 

シャオは少し考え込むが、あの催しが重要な役割を果たしていることには変わりはなく、寧ろ強まっている。

あそこに行かないことには何も始まらない。

重要度を増して振り出しに戻ると、シャオは自らの計画を一同に伝える。

 

「みんな、これから僕の計画を話すよ。〈特異点〉に向かい催しに出るまでは前と変わらない。でも、不測の事態にこの世界も備えなければならない。だから、向こうに出せる六芒均衡は二人とする」

 

「それはわかったが」と六芒均衡は待ち構える。

 

「六芒均衡は均衡の立場。未知の地力なら誰が選出されても力は大体同じだとおもう。ねぇ、〈you〉は誰となら行動しやすいかな?」

 

突然話を振られたので少したじろぐ。

こんな重要な選択を彼は望んでいない。先程までのお気楽な〈you〉は、メインフレームと共に砕け散ってしまったのだから。

 

「俺なんかの意見で、いいのか?」

 

行った先で摩擦やシコリが生じる方が、寧ろ困るのだ。

シャオは〈you〉が怖がらない様に笑顔を浮かべているが、その気遣いが胸を締め付けた。

仲間なら、それに応えなければならない。

 

「それなら、俺は〈六〉が好きだ!歳も近いし何かとやりやすそうだし」

 

「ツワモノ揃いの中、何故そこを選ぶんだ」と予想外の「選択」に皆が驚愕し、「待ってくれ、〈六〉は俺だろう!」と飛び出し意義を唱えた者もいるが、その頃には〈you〉は〈六〉の目の前まで辿り着いていた。

 

「俺、〈you〉ってんだ。俺は、六芒の中で〈六〉が一番好きだ。重要な選択だからこそ、俺はお前に来て欲しい」

 

お気楽は死んでいた。転生した彼の瞳は砕け散って意志を伺えないが、真剣な姿勢がそれを補った。

 

「ああ。俺自信は正直役不足を感じてるが……俺は、選んでくれたお前に応えたい」

 

「俺はヒートだ」と屈んで握手を求めると、「よろ!」と小さな鉄腕がそれに応じた。

 

「二人とも、しっかりニャウを守るニャウよ」

 

ズケズケと入り込んだ猫は両者の握手に手を添える。

それに少し腹のたった「you」はニャウを小突くとやり返され、「カァァン」と甲高い音が響き渡った。

 

目の前で勝手に繰り広げられる決意に押され、意義を唱えた者は自らも彼に託すと決意をする。

シャオは残るもう一人を「you」が選択しない内に、誰よりも早く行動に出た。

 

「決まったみたいだね。因みに、あと一人は僕から選ばせて貰うよ。六芒均衡は均衡していなければならない。奇数番号の三英雄が暴走した時、止めらるのは偶数番号(イーブンナンバー)だけだからね」

 

〈you〉達は、「お任せします」と各々身体で意思表示をしその選択を待つが、その選択はシャオではない人物によって決定された。

 

「ヒー坊が行くのならば、三英雄からは私だな」

 

六芒の〈五〉、三英雄「クラリスクレイス」が名乗り出る。

彼女は〈you〉達の元へと向かい、歩き様に向けられる視線に視線で応える。

その意志交換を終え、視線の送り主達は「もう無理だよ」と呆れ様にシャオに訴えた。

 

「クラリスクレイスだ。貴様らに力を貸してやろう」

 

「うわー、ゲームのまんまなんだな。実際見てみるとあんま迫力ないな」

 

「貴様…」

 

〈you〉は殺気に震え、彼女が言い切る前に「ごめんなさい」とこれからの自分の立ち位置を訴えた。

シャオが最終確認として一瞥すると、残る彼らもそれに応じ視線を返した。

 

「誰が行くか、は決まったね」

 

奇妙な含みを残す言葉に一同はその続きを無言で要求する。

 

「まさか、君たちを無策に敵陣に送り込もうなんて思っていないよ。催しには催しで返したいと僕は考えている。相手はどうやらこの状況を楽しんでるみたいだし、乗ってくると考えてる」

 

向こうはまだこちらに気がついていない。

相手の異常な性格を利用した作戦。

 

 

「〈特異点〉で催しの前座と噂を広め、新たに催しを開いて欲しい。そこで、事態が動く前に犯人を釣り上げる。内容は何でも構わないけど、〈創世器〉の使用は禁止する。異世界から来たと晒す様なものだからね」

 

管理者の意志は尊重され、各自は出発の仕度を始めた。

 

 




説明は上手く書けているだろうか。

読んでくださって感謝です!!!
また来てください!!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16章「もう一人のサバイバー」

 

 

菊岡に指定された病院へ向かう途中、「橘皐月」(たちばなさつき)は「SAO」での体験を思い出していた。

 

危機感を感じる時、彼女は決まってあの場所が頭をよぎる。

しかし、それはあの場所で戦い抜いた経験を思い出す訳ではなく、自らの姿を悔いる様に見つめるひと時であった。

 

SAO生還者といえば、皆が命懸けで戦い抜いた訳では決して無い。

自分がその良い例であり、その約二年は未だに皐月を縛り付けている。

デスゲームが宣言された場所、「始まりの街」で彼女はクリアされるまでの約二年間を過ごした。

 

そして、「レベル1」の最弱プレイヤーは命を懸けて戦い抜いた者達、夢半ばに散っていった者達のお陰で現実世界へと何もせずに生還した。

 

 

クリアされてから一番最初に触れたのは暖かさだったけど、感じたのは絶望だった。

 

世界が真っ白に光った時、私はようやく死ぬんだなって悟った。

自分が死んじゃうっていうのに、嬉しさを感じていた自分が、今でも時々夢に出て来て気持ち悪くなる。

中でも、「始まりの街」であのゲームが宣言された時の事は一番良く覚えてる。

 

というより、その二つしか覚えてない。

 

 

いろんな人がいた。

 

突然走り出した人とか、友達を見つけるために大声出して探し回ってる人とか。中には大泣きしてる人もいた。

 

何かしなきゃって走り出そうと思ったら、私は自分が涙を流しながら崩れ落ちてるのに気がついた。

 

いつそうしたのかは、全く覚えてない。

 

 

気がついたら、手がすごくあったかかった。

身体が動かなかったから、それが誰の手だったかはその時まだわからなかったけど。

起きたばっかりだったけど、すごく眠くなったのを覚えてる。

手のひらは凄く柔らかくて、あったかくて。無意識に握ったかも知れない。

 

そしたら急に、私の顔を誰かが覗き込んできた。

最初は誰だかわからなかったけど、少ししたらそれがお母さんだって気がついた。

お母さんは凄く泣いてて、微かに聞こえる声は喜んでたと思う。

 

それを見て、心底泣いて喜ぶ顔って絶望した時の顔とそっくりなんだな、なんて瞳に映る自分を見て絶望した。

 

 

リハビリ生活中、事情聴取に来る人はいつも決まって同じ人だった。

最初の頃は、来たことも帰ったことすらも気がつけなかったかも知れないけど、日が経つ内に彼の会話が耳に入る様になってた。

 

たぶん何日も来てくれたんだと思う。

 

彼の話す内容は、とても怖かった。

 

デスゲームの中に閉じ込められ、それでも命を燃やして生き抜く様子。

ある事件では、酷い殺され方をした人もいた。

仲間の為に、自分の命を喜んで投げ出した人もいた。

夢半ばに散る事しか許されなかった人達がいた。

全てのプレイヤーを助けるために、命を託した人達がいた。

 

その物語が知ってる情報を全て話し終える頃、私はその人がどんな顔をしているのか確認できる様になってた。

でも彼は何も言わないし、その話以外は何も教えてくれなかった。

 

彼が最後に来た日聞かせてくれたのは一人の女性の話だった。

 

 

いいかい、この話を最後に僕はもうここに来る事はない。

 

SAOに幽閉された者達と、共に戦っていた内の一人の話。

彼女は命の危機に晒された寝たきりの我が子のため、自分もその現実と戦うことを決意した。

それからの毎日は不安が尽きる瞬間はなく、悪夢の様な時を過ごしたことだろう。

髪がベタつかない様に気を使い、心拍数が上がる事が無くとも毎日身体を拭いていた。

私が仕事で様子を見に来ると、娘の手を愛おしく握りながら微笑んでくれた彼女も、僕は無かった事にはさせない。

 

 

 

これは、君のお母さんの話だよ。

 

 

 

それからの毎日は、今となってはあっという間だった。

リハビリは足が千切れる程痛かったけど、その痛みが無かったら後悔で頭が可笑しくなりそうだった。

頭を可笑しくする時間なんて、私にはもう一秒だって無かった。

 

同時進行で勉強の遅れを取り戻すのは正直辛かったけど、何もしていない時間の方がもっと辛かった。

 

退院は予定より早かったみたいで、それからも止まる事なくいられたのは、お母さんが応援してくれてたからだと思う。

 

「アミュスフィア」を買ったのは、アルバイトにも慣れてきた頃だったと思う。

その頃には溜まっていた勉強もひと段落し始めた頃で、予習に入るくらいまで進んでた。

 

「アルヴヘイムオンライン」略称「ALO」を知ったその日、日を跨ぐことなくプレイした。

 

でも、フルダイブしたその日はその場から動けないままログアウトするだけだった。

 

動けないならと、勉強は「ALO」内でする事にした。

はじめのうちは、とても進みが悪かったけど段々それもなくなった。

 

気がつけば、趣味の全てを「ALO」に使うまでになったのは自分でもどうかと思うけど、代わりにVRへの拒否反応は無くなってた。

 

それから…………………………

 

 

 

 

「間も無く〜○○駅、お下りの際は〜」

 

 

「あ、いつの間に着いたんだ」

 

 

「プシュー」と深呼吸をし吐き出された蒸気は、力尽くで閉ざされた扉をこじ開けた。

 

 

 




読んでくださった方々、ありがとうございます。
また来ていただけると、とても励みになります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17章「ディメンションリンク」

 

 

先程まで未知の激流に流される様に加速していた情報達は、彼らの話し合いが終わるのを中央に据えられた大画面から眺めていた。

 

しかし、それが終わると先程までとは別の流れが到来し、今も忙しく駆け巡っている。

その真下、コントロールパネルの操作席に再び輪を作り集まる者達に、今度は何をするつもりかと不安げに期待を込めて眺めていた。

 

 

「いいかい、経験の少ない〈ヒート〉を良しとしたのには、ちゃんと理由がある。今から君たちに任せるのは、あくまで釣り上げるまでの偵察を兼ねた諜報だけだ。そして、ヒートは特異点には存在しない。今回はこれを利用させて貰う」

 

「シャオ」の勿体ぶる伝え方にはちゃんと意味がある。

管理者もまた未知の地力であるならば、仲間の異議や意見は割り込んででも来て欲しい。

 

「〈you〉が修復されなかった事から、僕たちも〈特異点〉のルールに従えるとは限らない。どちらにしても、命は一つと思って行動して欲しい。そして、催しを広めるには他のみんなだと目立ちすぎる。その役を、ヒートと〈you〉に任せたい。ヒートはプレイヤーを名乗って特異点に溶け込んで欲しい。僕達が向こうに向かうしかないのは変わりないし、その副作用も承知の上だ」

 

みんなはどう思う?と一瞥する。

シャオは、一種の賭けに一同から異議のなかった事を確認し続ける。

 

「催しを広めるのが無理だと判断したり、異変や不審を感じたらニャウを使って六芒二人は直ぐに戻って来て欲しい。対処が決定後、再び戻り特異点でそれを行う。〈you〉には最終的に、犯人を操作する本体を叩く役を請け負って貰う事になる」

 

自分達は死なない世界で一つの命を賭けるが、〈you〉には現実世界で危険を承知で対処して欲しい。

 

犯人の短時間大量殺人を前提とした以上、〈you〉はこうなることを予め予想していた。

イベントは開催間近で、始まってしまえばもう取り返しのつかない事が起こるだろう。

自分が嫌がっても、時間は待ってくれない。

それに、この考察が事実であったのならば、プレイヤーである〈you〉もひと事ではいられない。

 

 

「そうなんだろなって覚悟はしてた。専門の捜査機関があると思うから、念の為あっち帰ったらすぐログアウトして報告しとく。相手にして貰えるかはわかんねーけど」

 

辺りはシーンと静まり、視線を合わせる事ももう無い。

 

ここを出ればもう彼らと会う事は二度とないだろう。

〈you〉の視線など追える筈も無いのだが、シャオはそれに気がつくと数秒微笑み再び表情を硬くした。

 

 

 

 

消毒用エタノールが鼻をくすぐると、自分は病院に来たんだなということを再確認させられる。

 

指定された病院の一室は、何やら只事では無い装いを見せていた。

物音は一定感覚で鳴る電子音のみだが、この場に相応しくない機械やら電極やらの強すぎる主張がそう感じさせた。

「皐月」は〈アミュスフィア〉を装着し寝転ぶと、目を瞑り静かにその時を待った。

 

 

「皐月、イベントに参加して欲しいと言ったが、あくまで観衆として紛れ混んで欲しい。君に任せるのは、あくまで偵察だ。それ以外には何もしなくていい。何かあれば、僕に報告して欲しい」

 

 

 

「何かあったら、すぐログアウトする様に」

〈何かあれば、直ぐに戻って来て欲しい〉

 

 

 

「了解、んじゃ行きますか」

〈わかってます、行ってきます〉

 

 

 

「ニャウゥゥゥゥゥ!!!〉

〈リンクスタート!!!」

 

 




次が長そうなのできりよく切ったら短くなった。
この後、ヒートのぬるま湯問題をどうにかします。
ヒートなのにぬるま湯

お気に入りって欄に二人カウントされました!
本当に嬉しいです!ありがとうございます!
読んでくれて感謝です!
また来てください!

蛇足だと思って描写削ったけどどうだろうか。
水さしちゃいそうでそうしたけど、もしかしたら書き加えるかもです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18章「猫を被る」

 

 

如何にも電子空間とも言える紫色のライトに、時折不規則に走る閃光が眩しい。

観客は収容許容を超え、アークスシップ内部のモニターに人だかりができる程の盛り上がりを見せていた。

 

アークス訓練用プログラムが行われるVR空間、大歓迎に包まれながらこれから拳を交えるであろう二人は異なる意思を持って対峙していた。

 

その内の一人、普通であれば格上の相手をどう倒すかなどの戦略を思考する筈なのだが、彼にとって分かり切った勝敗など無駄な時間でしかなかった。

 

そんな中、対峙するもう一人を選んだ経緯を振り返る事で己の為すべき意志を固めていた。

 

 

 

「なあ、少しいいか」

 

そこに猛々しく勇ましい声色は無く、神妙な面持ちから「you」は呼び掛け主である「ヒューイ」が真剣な話を要求しているのだなと姿勢を正し、返事した。

 

「おー、ヒューイじゃん!やっぱり生身と知った後だと感動も倍増するってもんだな!んで、どしたの?」

 

かといってオフザケを止めるとその場の空気に飲まれてしまいそうだ。そんな気持ちを、ヒューイは尊重しつつも己の疑問を投げかけた。

 

「お前の世界での〈六〉は俺なんだろう?それなら何故ヒートを選んだんだ」

 

これを聞かれる事は初めからわかっていた。しかし、ヒートに聞かれることを避ける為にも、彼らの方から個人的にコンタクトを取ってもらう必要があったのだ。

 

「あー、やっぱおかしいよな。けど、みんなと話すあいつ見てたら…俺はどうしてもあいつに言ってやらなきゃ収まりがつかなくなっちまって」

 

重要な所がまだ話されていないが、話はまだ終わっていない。焦る必要もなかろう。

 

「なんだー?同族嫌悪ってやつかな。俺はあいつが被ってる猫の正体を知っている。問題はいつ言うかだけどな」

 

彼の思考は大体予想はついた。しかし、それを覚悟も無しに良しとすることは出来ない。

 

「それは、ヒートにとって大事な事なのか?それとも、お前にとって大事な事なのか?」

 

「んー」と小さな腕を組み考え込む様は、真剣な問いに対しては少々無礼とも思えるが、重要なのはそこではなく答えだ。それを答える声色には色々な物が詰まっており、ヒューイはそれを無下には出来なかった。

 

「両方かな」

 

そして、ヒートもまた同様の気持ちを持って〈you〉との握手を交わしていた。

 

 

 

「二人ともー、準備いーかー?」

 

司会であるクラリスクレイスに、二人は無言の構えで答える。見据える先は、これから戦う仲間。いっ時さえ視線は離さない。

 

「それじゃー、第一回戦!ヒートvs〈you〉…」

 

「何が出来るかわかんねーが、何かしてやんなきゃ収まりがつかねー。手ぇー抜くなよヒート」

 

「ああ、俺も〈you〉に言いたい事があった。良い機会だから、利用させて貰うことにする」

 

 

「はじめっ!!!」

 

 

 

 

時は遡り、現在。

〈特異点〉へと向かう一向は某アニメに出てきそうな四次元トンネルの中を、吸い寄せられる様に飛んでいた。

そこには断片的に切り取られた景色や、触ることも躊躇する何かが捻じ曲がりながら飛び交っており、一向が暇を潰す手段は会話しか残されていなかった。

 

「なー、まるごしー。まだ着かないの?」

 

着いてしまえば瞬間移動だが、それまでを一瞬にできる程に次元超越というものは簡単では無いらしい。

 

「もう少しニャウ。次まるごしって言ったら怒るニャウ」

 

「いや、俺から見たらその方が区別つけやすいんだって!見分けつかなくなったらどーすんだよ」

 

ニャウが丸腰と言う言葉の意味を理解しているのかは定かでは無いが、何かが癇に障ってしまっているらしい。

しかし、〈you〉にとっては見分けがつかなくなった時の手段として丁度良く、それを利用する事にしていた。

 

「なぁ〈you〉。特異点では、俺は本当に存在しないのか?少し不安なのだが」

 

彼の不安も最もだろう。

未知の領域には未知の恐怖がつきまとうもの。

その中で、自分だけが存在しないなんて不安材料を知ってしまったら、少しでも早く回答を求めたくもなるものだ。

 

「ああ、確かにヒートだけ存在してない。でもお前に関係してるやつは誰かしらいんじゃねーかな。影響受けんだったらいなきゃ可笑しいし」

 

「何にしても、先ずは到着してからだな」

 

クレイスクレイスが会話を終了に導く。

かといって、彼女は新しい話題を作る事もしなかったため〈you〉は残りの時間をニャウを弄る事で過ごす事にした。

 

「なあ、何でお前はこんな事できるんだ?」

 

ニャウは自分の事をお前と言われる事も嫌いなのか、少しそっぽを向く様に知りうる事実を述べる。

 

「わからないニャウ。ニャウは気がついたら生まれてて、これが出来ることも知ってたニャウ。次オマエって言ったら怒るニャウ」

 

「じゃあ何て呼べばいーんだよ」

 

「ニャウはニャウニャウ」

 

「だから、それじゃ困るんだって!」

 

「〈you〉はセンスないニャウ。もっとカッコイイのがいいニャウ」

 

「それじゃあー」と腕を組み考え込む。

フサフサは可愛い系だし、肉球も駄目だろう。

彼の持ちうるボキャブラリーを総動員し、悩みに悩んだ結果。

 

「まるごし」

 

一周まわって原点回帰が望ましいと結論付けて放たれた一言だったのだが、説明不足がニャウの拳を握らせた。

 

「ガシャン!」とニャウの腕が鉄を撃ち抜くと、ちゃんと真剣に考えたのにこの仕打ちは無いだろうと〈you〉も反撃の一手に出た。

 

「っ、痛いニャウ!!!」

 

極小の指先はニャウの尻尾の体毛を一本毟り取った。

割れたメインフレームがじっと無言で見つめているが、感情が全く読めない。

ニャウは馬鹿にされたと解釈し、再び仕返しを見舞う。

 

「スカァァン」と頭部をぶたれて鳴り響く音をゴングに、二人は子供の様に取っ組み合いを始めた。

 

「貴様ら、少し落ちつけ」

 

話も聞かずに分からず屋二人は喧嘩を止めようとしない。

 

「キン!」と一度甲高く鳴り響く魔法は、手加減のためか極小の火種を団子状態に飛ばす。

 

「ニャウウウウウウ!!!」

 

直ぐに火は消えたものの、火種に引火したニャウの頭部は縮れてアフロ状態。

それを可笑しく思った「you」の笑いの沸点は限界を迎え、余計な一言と共にこぼれ落ちた。

 

「あはははは。まるごし、出来たてのモジャモジャじゃん!」

 

「ニャウウウウウウ」

 

「やめろ、洒落になんねーよ!落ちるって!」

 

「こうなれば道連れニャウ!みんなまとめて落ちるニャウ!!!」

 

 

 

一方、「皐月」はログイン時の様々な選択をすっ飛ばし、唯一自分で選ばねばならない選択に悩まされていた。

 

アカウントや機材などは菊岡が用意してくれた物を使っているが、プレイヤーネームは自分で決めなければならない。

 

正直、名前など何でも良かったのだが「ALO」で自らが使い込んだ愛刀の名前を貰う事にした。

 

愛刀に誓って任務を遂行する。

 

彼女なりの決意の表れなのだろう。

名前を決定すると、再び決意も固まり敵地への恐怖心も薄まっていた。

 

選択コンソールが姿を消すと、宇宙を漂っていた空間は景色を変え、気がつけばスタート地点であるゲートエリアに立ち尽くしていた。

 

大きな窓ガラスから覗き込めば、吸い込まれてしまいそうな不思議な感覚をもたらす果てしない宇宙。

SF映画でよく見る近未来なデザインに、それに溶け込む様にデザインされた服装。

様々なカウンターには人が列をなし、待機用に設けられたスペースでは談笑するプレイヤー。

上を見上げれば、見たこともない内装を覗かせた穴が皐月を歓迎する様に見下ろしている。

 

「これ、変よね…」

 

穴の内部は、グニャグニャと捻じ曲がる何かや時折眩しい閃光で満ちている。

中から聞こえる微かな音は、徐々にこちらに近づいてくる。

 

「まあ、来たばかりだし…OPの演出かしら?」

 

そう結論付けると、皐月は無言で頭上の演出を待ち構える。

 

「ぅぅぅぅうあああああ」

 

恐らく人の声であろう音は、迫る新幹線の如く猛スピードで迫っている。

 

「ャウ!」

 

何だろう、頭に何か…フサフサしたものが乗っかった気がする。

 

触れて見ると暖かくて、生々しく鼓動する地肌からは血の巡りを感じさせる。

 

これは一体何だろう

 

 

四つの演出は皐月の登場を祝う様に盛大に降り注ぎ、皐月の悲鳴は情報に飢えたプレイヤー達の餌食となった。

 

 




会話描写難しい。説明文みたいになっちゃう…

読んでくれて感謝です!!
また来てください!!

お気に入りが三人になってる!
ありがとう、頑張るぞ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19章「予期せぬ宣言」

 

 

出発ゲート前は行きも帰りも同じため、「エネミー出現統計」を取るには最適な場所である。

ただ、素性を隠して潜入しようと思う者にとっては一番避けたい場所であるが、次元超越という超常現象を使うためには皮肉にも相応の対価が必要だったらしい。

気まぐれな猫によって、侵入者達は到着と同時に最悪の展開を迎えていた。

 

 

「っ、……ちょっと!…なに?」

 

賑わいを見せていたロビーの視線は、異次元の叫びに吸い寄せられる様に重なる五人の元へと集まっていた。

 

その気配を肌で感じ取った五人は、起き上がるまでの数秒間を「この状況をどう打破するか」に各々割いていた。

顔を互いの身体に埋め込む様にして、一同はヒソヒソと持ちうる情報の交換を始めていた。

 

 

「ちょっと、いきなり何なのよ!」

 

「死にたくなければ静かにしろ。貴様…見たのか?」

 

「はあ?見たって…あの穴のこと?」

 

その言葉が皐月から飛び出した事により、「最悪だ」とクラリスクレイスは幼稚な仲良し二人を睨みつけ、痛い程に突き刺さる視線の対処に思考を巡らせた。

 

「これ苦しいニャウ」

 

「ばか脱ぐな!黙ってそれ被ってじっとしてろ!」

 

特異点が故郷の「you」にとって、プレイヤーが最も密集するゲートエリアが視界に入ることは、最悪を通り越して恐怖すら感じる帰郷だった。

 

瞬間的にアイテムバックから禍々しいポンチョをニャウにすっぽり被せられたのは、密かな厨二病とニャウと同じ激レアな体型が起こした奇跡だろう。

 

「落ち着け!落下してから見られたのなら、ただの揉め事で片付く!ただ問題は姉さんをどうするかだ」

 

NPCとして存在するクラリスクレイスがこんな場所にいきなり表れるのは、まさに不自然な出来事だろう。

ロボットの〈you〉にとっては服など着る必要もなく、趣味のために持ち歩いていた唯一の一着は、ニャウに着せてしまっているためその手段も使えない。

ヒートはこれを「揉め事」にしようと提案しつつ、弱点の穴埋めを一同に求めた。

 

「おい、貴様。私も着られる服はないのか?」

 

「女性用は倫理コードが邪魔して着られない仕組みだ!持ってるわけないって!あーなにかあれば」

 

「あっ」と何か閃めく〈you〉に迫り来るタイムリミットを使うことを即断すると、クラリスクレイスは直ぐ様〈you〉を追い詰める様に迫った。

 

「貴様、何かあるのなら今直ぐ言え」

 

「いや、買えばある。着ぐるみならいけるかも」

 

「買うまでにはどれくらい時間がかかる?」

 

「専用カウンターはあちこちにあるから、でもそこまで走ったら不自然じゃない?」

 

「貴様はここじゃ死んでも死なないのだよな。決定だ」

 

何が決定したのかはわからないが、クラリスクレイスは何やら自分を見つめている。

よくわからなかったが、取り敢えず親指を立て笑顔でいることで彼女の不安を和らげようと考えた。

 

「よし、ヒー坊。〈you〉の口を押えろ」

 

「時間稼ぎは俺がするから、なるべく早く頼むぞ」

 

「娘、死にたくなければ私達の行動に合わせろ」

 

「……終わったら話を聞かせて貰うのが条件です」

 

「…止むを得ないか。わかった、貴様は足を押えろ」

 

今から自分は拷問でも受けるのだろうか。

テキパキと身体の自由を縛られていく。

 

幸いにも、真っ先に落下した小さな身体は埋もれて見えない。

これならば、問題なのは「声」だけだろう。

 

「これって……やだっ、何か生々しい!怖い!!」

 

「女々しい声を上げるな、これしかない!」

 

死に戻りを利用した唯一の望みであったが、思考する間にも時間は経過し、せっかちなタイムリミットは彼らの作戦を待ってはくれなかった。

 

「おい、お前ら……大丈夫か?」

 

突然の出来事に思考が停止していたプレイヤー達は、いち早く動いた一人によって目を覚まし、気がつけば周りを囲む様にプレイヤーの輪が出来ていた。

 

「ノーネーム?……みんな、こいつおかしいぞ!!」

 

その一言は静寂を切り裂き、真意に気がついた声は大波を起こし「you」の背筋をも震わせた。

 

「やばい…ネーム表記が無い!!」

 

「説明しろ!!!」

 

「見ればすぐに誰だかわかる様に名前が映る様になってんだよ。お前らにはそれがない!!」

 

人気の無い場所で諸々の確認を行うつもりでいたところに拍車をかけるようにして移動を見られた事により、「you」は肝心な事を取りこぼしてしまっていた。

 

「〈you〉、それはどれくらいマズイ事なんだ!」

 

「ああ、素性がバレたに等しい危機だ!普通じゃ無いって事は確実に勘付かれてる!!」

 

後戻りできないのなら、もうここで行動を起こすしかない。

時間の経過は在らぬ妄想を膨らませ、暴動を巻き起こしかねない。

 

クラリスクレイスは「合わせろ」と一同に囁くと、先陣を切って作戦を実行した。

 

 

 

「貴様ら、私が誰だかわかるな」

 

怪しげに俯きユラユラと立ち上がる姿は、ゲーム内において見たことも感じたことも無い殺気をロビー全体に放つ。

 

そこにある「死」を感じ取った脳は、「アミュスフィア」を通じてプレイヤー達を萎縮させ、その輪を一回り大きくさせた。

 

「クラリスクレイス!?何でだよ……まさか!!!」

 

先走って情報を漏らしたプレイヤーに合わせるように、クラリスクレイスは異質を放ちながら演じる。

 

「そのまさかだ。こいつを見ろ、見せしめに痛めつけてやったわ」

 

片足から宙吊りにされる小さなキャストのメインフレームは割れ、擦り傷まみれの身体からは生命を感じない。

 

「プラモさんじゃねーか!おい、お前何しやがった!」

 

「乗ってきた」と一息入れるにはまだ早い。

クラリスクレイスは一段と表情を黒く染め上げ、邪悪な笑みを浮かべながらだめ押しの一撃を見舞った。

 

「貴様ら、つまらん。こんな弱っちくては、あの人に合わせるには相応しくない。この場で皆殺しにしてやっても構わんのだが…」

 

一瞥した箇所は凹むように恐れおののき、一人虚しく散ったであろうキャストの仇を取るためと、観衆はイベントに感情移入し没頭する。

 

「貴様らにチャンスをくれてやろう。明日、戦技大会の決勝で私を倒すことが出来れば情報をくれてやる。私すら倒せぬ様ならば、貴様らに生きる価値など無い。その場で纏めて爆破する」

 

「何だって!?」と観衆の食い付きは好調。

焦らされたプレイヤーの感情移入はとどまることを知らず膨れ上がり、とどめの一撃を見舞う。

 

「こやつらは人質に貰っていく。逃げればどうなるか、わかっておるな」

 

死なない世界ならばと、安心して持ちうる殺気の全てを放たれた観衆はとどめを刺され、ついに怒号が飛び交うまでにロビーは表情を変えた。

 

「場所は明日、こやつらの一人を向かわせる。これを機に殺戮ショーは開催されることとなろう。私を止めねば、その前に貴様ら全員ゲームオーバーだ」

 

 

「今だ!」と〈you〉は一同をマイルームに転送し、プレイヤーの輪にはポッカリと穴が開かれた。

 

〈you〉は友達が一人もいないことと、普段からルームロックしていた自らの閉ざされた感情に、この時ばかりは感謝の念を送るばかりであった。

 

 

 

「……みんな、開催は間近だぞ!!!」

 

「うおー」と歓声がロビーのみならずオラクルを包む頃には情報は巡り巡り飛び回り、数時間も経たぬうちに各自は武器や装備の最終確認に勤しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「いけないんだー、人の邪魔する悪い子はだーれだ」

 

 

殺気をたぎらせた視線は、プレイヤー達を値踏みする様に舐め回す。

ケタケタと笑いながら、時折待ち切れずプレイヤーをつまみ食いでもする様に、嬉しそうになぶり殺す影が一つ。

 

 

日を跨ぐ事なく、数時間には掲示板に一通の書き込みが残されていた。

 

 

【「SAOイベント」主催者より皆様へ】

 

戦技大会終了後、ショプエリアにてイベントの開催を宣言します。

イベント共々、細やかな余興もお楽しみくださいませ。

 

 

個人主催者「ムサシ」より

 

 

 

 

 




お気に入りが4人になりました!ありがとう!
アカウント外から観覧の方もありがとう!

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20章「開かれた扉」

 

 

飛ばされた先は、一人暮らしするには丁度いい大きさの部屋だった。

近未来な自動ドアを開けてみれば、BBQも開けそうなスペースのバルコニー。

タイヤの無い車が道路の様に敷かれたレールを音も無く走り去る街並みは、忙しない筈なのにどこか虚しさも感じさせる。

見上げた空には雲は無く、空もない。

綺麗に円形に囲まれたこの世界を見つめていると、何故だか地球が無性に愛おしく、恋しく感じた。

 

「ニャ!」

「痛っ!」

 

転送早々にたんこぶを拵えた(こしら)二人は、到着からもう五分は怒られ続けている。

 

しかし、直立して動かないキャストは心ここに在らず。

目に映る光景は、確かにこの空っぽの一室の筈なのだが、〈you〉の脳は違った景色を見せていた。

 

ーーーーどうして逃げるの?

 

「……」

 

ーーーー卑怯者

 

「……」

 

ーーーー空気読めよな

 

「……」

 

〈you〉は、この部屋に閉じ込めて逃げ出した日のことを思い出していた。

 

あの日、俺は

 

 

「聞いてるのか貴様っ!!!」

 

「痛たっ!!!」

 

クラリスクレイスのサービス精神は旺盛な様で、追加料金を払わずとも〈you〉の頭に小さな雪だるまをプレゼントした。

 

「反省するニャウよ」

 

「お前もな」

 

 

開かれた室内は殺風景で、人が住み着いていたであろう匂いすら感じない。

〈you〉がこの部屋に戻るのは何日振りか何年振りか。

本人すら忘れてしまったこの部屋は、どこか寂しく息苦しさすら感じさせた。

 

「それより、約束しましたよね。私にわかる様に説明して下さい。嘘をつかれたと感じたら、外に出て人を呼びますからそのつもりで」

 

皐月こと、プレイヤー名「秋雨」は周囲のプレイヤーや彼らの焦る様子から、「この事件を知る者」と考察し入口の前に陣取りいつでも逃げられる体勢でいた。

 

「話すのは構わないが、聞いてしまったら後戻りは出来ないが…それでも構わないか?」

 

分かりきった質問だが、地面にあぐらをかき座り込むヒートはじっと、彼女の意見も尊重したいと意思を見せる。

 

「はぁ…どうせもう逃してもくれないんでしょ。悪い人じゃないのは大体わかったし。それに私も聞きたい事があるの。いいわ、話し合いをしましょ」

 

出入り口から離れ、敢えて窓際を陣取る事で彼女はそれを意思表示とした。

 

「そうこなくちゃニャウ!〈you〉は直ぐにお菓子と飲み物を用意するニャウ」

 

「んなもんねーよ!でもまあ…まるごしの言うことも一理あんな」

 

見渡す限りと言う言葉を台無しにする様な殺風景は、あまりに息苦しい。

 

〈you〉は室内のショップ端末を軽快に操作し出すと、カタカタと何やら楽しげな音が室内を包む。

刻まれるリズムは時折スキップし、口笛を吹いてる事からか、一同の緊張感も不思議と和らいだ。

 

「おけ!ちょっとみんなどいてて!」

 

円形の目に優しい緑のカーペットを一つと、それに相応しくない和風の座布団を五つ。

曲の終わりを飾る様に「タンッ」と弾かれたルーム端末は、一瞬の内にそれらを定位置に展開した。

 

「全く貴様は、センスの欠片も感じさせぬ組み合わせだな」

 

壁に寄りかかり、何処か訝しげ(いぶか)に腕を組んでいたクラリスクレイスは溜め息を一つつくと、誰よりも早く赤色の座布団に腰を落ち着かせた。

 

「あっ、姉さん!赤は俺も考えていた!こうなればやむ終えない」

 

ヒートの赤への拘りは良く分からないが、第二希望である青の座布団に腰掛ける頃、一人と一匹は白の座布団を巡り揉みくちゃになりながら争っていた。

 

「ふふ、貴方たち…子供みたい」

 

秋雨が黒の座布団に腰掛けると、時間が惜しいと白の座布団は焼き払われ、一人と一匹は仲良く地べたに腰を据えた。

 

「私は秋雨。貴方たち、イベントの事で何か知っている事はない?大事なことなの」

 

一同は、まず自分の名前を名乗るとクラリスクレイスが代表して回答役を名乗り出る。

 

「私達はその為にここに来ている。言っておくが、解決する側だぞ。その前に一つ聞きたい。貴様の言う大事な事とは一体何だ?」

 

イベントへの興味のベクトルが違うことに違和感を感じていた彼女は、これを聞いておかねばならない。

場合によれば、良い関係性を築けるかもしれない。

 

「ごめんなさい、気を許しても確証を得られなければ話せない事なの。でも、どうやら貴方たちは私と同じ目的なのはわかった。私も解決する側なの」

 

利用するか、協力して貰うか。

どの道、このまま平行線を辿っていても拉致があかない。

 

「あー、ちょっといいか。俺らの考察だと、殺人事件が起こる可能性が高いとみてる。あんた、もしかして捜査で来てる警察だったりしない?」

 

警察とは何かは分からないが、分からない事がある所に口を挟んでも逆効果だろうと、一同は見守る。

 

「貴方はどうなの?」

 

「ふつーのプレイヤーだけど」

 

「みんな楽しんでるよ?どうしてそんな物騒な話になっちゃったのかな?」

 

「いや、お前も気がついてんだろ。あの穴から俺以外はやって来た。俺はそれに巻き込まれて事情を知った。俺のメインフレームを見ろ。向こうでの怪我なんだが、帰って来ても治らねー」

 

「向こう…君たちって運営の人?」

 

「ちげーよ。説明難しいし、実際見てもらった方がはえーな。まるごし、穴開けてくんね?」

 

「嫌ニャウ」

 

どうやら未だに呼び名を嫌っているらしい。

しかし、出し惜しみされた疑問の一つが明かされるチャンスを皐月は逃しはしなかった。

 

「ニャウ君、お願い出来るかな?」

 

「了解ニャウ」

 

彼女もそれなりにこのゲームについて調べてきたつもりだ。

しかし、NPCであるクラリスクレイスは意思を持った様に対応していた。

オマケに腰の高さ程の高さに開けられた穴は、間違えなく超時空エネミーであるニャウの特性。

そのエネミーが、意思を持って喋りプレイヤーの命令を聞いてくれている。

 

「私は、このイベントを主催した人物を探してるの。ここの外で事件が起こる可能性が高い。貴方たちは……」

 

「ああ、こいつらは異世界からやって来た。信じられねーだろーが事実だ。このゲームはどうやら色々とおかしい」

 

 

 

 

 

 

 




長かったので一区切り。
続く…

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21章「灯された部屋」

 

 

「でもね、そう簡単に信じるわけにはいかないの。貴方たちが犯人って可能性もまだ捨てきれない。だから、私は貴方たちを監視させて貰う事にする。貴方たちが不審な動きを見せなければ、私からプレイヤーに情報を漏らすことはしないって約束する」

 

伝えるか迷っていたのか、秋雨は自身の最大の妥協ラインを隠す様にお願いをするが、引っかかる物言いにクラリスクレイスは食い下がった。

 

「プレイヤーだけじゃ困るな」

 

それでは困ると、秋雨も食い下がるが両者ここはどうしても譲る事は出来ない。

 

「あのさ、仕事で来てるってことは外で事件起きた時に何とか出来るだけの力はあんの?」

 

「………どうかな」

 

「それだけの力があるなら、寧ろ今のこの状況を説明して貰えると助かる。外の事は俺たちじゃどうしようも出来ない。ただ、下手すりゃ反感くらって怒られると俺は思う。だから、その上司に会わせてくれねーかな?」

 

「それは無理よ。報告は私からする」

 

「って事は、何かの重役とかー。国のお偉いさんだったりする?そしたら、ログアウトしたら今日の事全部報告しといて貰えると助かる。そんで、事件は明日起こる可能性が高いって事も念入りに伝えといて欲しい」

 

「確証はあるの?」

 

「いや、無い。ただ、あんたらもイベントが怪しいと見て来てんだろ?俺らに犯人が乗ってくれりゃ、明日イベントは開催されるだろーな。そうなりゃ、もうどうしたって明日は厳重注意する以外ねーだろ」

 

どの道、菊岡に報告する事は確定事項である。

しかし、ログアウトする間の彼らの行動を見逃す訳にもいかない。

 

「わかった、伝えさせて貰うことにする。でも、私は貴方たちから目を離す訳にもいかないから、一緒に行動させて貰うことにする」

 

「ああ、俺らもお前から目を離す訳にはいかねーし」

 

お互いは妥協点に落ち着いたらしく、その後取るべき行動を模索し始める。

 

「一度戻っても良いのだが、外とやらの世界を救える力があるのならば、後は釣り上げると同時に私達は戻り、貴様らは外とやらに戻り対処する。しかし、それ程の力があればの話だがな」

 

「上司にどうにか出来ない事なら、どの道他の誰にもどうすることは出来ない」

 

戻ってシャオに報告すべきか。

しかし、結局やるべき事は変わらず自分達はいつでも即座に帰ることが出来る。

見た所、この世界には何の脅威も感じない。

戦闘能力だけで考えれば、船ごと全員吹き飛ばす事も可能だろう。

ただ、自分達の命は恐らく一つしかない。

 

 

「明日、ヒー坊と〈you〉には真っ先に戦って貰う。それ以外に私達は参加しない。娘は外に情報を与え、外とココから監視。ニャウはヒー坊達の側にいろ。異常が見られなければ、すぐ様撤退する。釣り上げても即撤退だ」

 

ヒートは自分に向けられる視線に気がついていた。

しかし、闘争心や活気とは違う意味合いを含んだそれを直視する事は出来ず居留守をした。

 

「ニャウ、ピンポイントにこの場所へ戻る事は可能か?」

 

「当然ニャウ」

 

「であれば、私達は一度報告に戻る。娘はその光景をしっかりと見ておれ。直ぐに戻る」

 

「ログイン後のスタート地点がこの部屋じゃないこと考えっと、俺はここで待機しとく」

 

「私、それだと困るんだけど。報告とかしたいし」

 

「それじゃ、開催場所の報告は俺がしとく。集合時間に拾うから、遅刻すんなよ」

 

「出来れば帰還後の皆の情報もまとめたいところだな。今日中には戻ってきて欲しい」

 

 

 

 

各自は解散後、各々成せる事を行動しそれを持ち帰った。

情報整理と作戦会議、時折談笑する声は一日中鳴り止まず、「you」のマイルームに灯った明かりは消える事なくやんわりと暖かく輝き続けた。

 

 

 

 




ゴリ押し!!!

読んでくれてありがとう!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22章「競技者放棄」

 

 

湧き上がる歓声は鼓膜を叩きつけ、耳鳴りと頭痛が鳴り止まない。

味方と思っていた者達からの間接的な攻撃は、〈you〉の心拍数を無理矢理に盛り上げるべく騒ぎ立てる。

 

偽装された抽選を終え、画面に表示されるトーナメント表を眺める振りをする事で、〈you〉は体験した事のない緊張から自我を保っていた。

 

「〈you〉、緊張するのはわかるがそこに居ては邪魔だろう」

 

「あ、ああ。すまん、こーゆーの初めてなもんで」

 

一回戦第一試合を数分後に控える二人は、リングとなる一画の脇に小さく建てられた待機場で身を休めていた。

 

「それより、先程も話したが」

 

「ああ、わかってる」

 

両者が見据える先、漆黒のマントに同色のフード。

小柄ながらにも、じっと動かず殺気を漂わせるその姿からは異様なものを感じさせ周囲を寄せ付けない。

その人物、プレイヤー名「poN」はイベント参加者達の中では大本命とされ、「映像の人物」として注目を浴びていた。

 

「あいつは本当にこの世界の住人なのか?」

 

「ああ、間違いない。ネーム表記もヒットポイントゲージも表示されてる」

 

「緊張してるところすまないが、あいつは危険だ。かなりやばい」

 

お互い渦中の人物を見つめているため表情は読めないが、その声色と言葉から只事ではない事が伺える。

 

「姉さんの合図が出次第、勝負は打ち切りだからな」

 

「わかってんよ」

 

 

再びの静寂。

隣り合って座り込む二人からは出番前であるのに闘志は感じられず、競技者としては失格な面持ちを見せていた。

 

「なあ、みんなの期待を背負うってどんな感じなの?」

 

「どうもこうも、助けられてばかりだ。自覚はしているが、その対応に必死だ。〈you〉だって他のプレイヤーから慕われていたじゃないか」

 

「あれはそーゆーんじゃねーよ」

 

「…俺からしたら、そう見えたんだがな」

 

 

再びの静寂。

言い合いをするのでも無く、落ち着きのある問いかけに両者はどんな気持ちを持っているのか。

答えを要求したわけでも無く、かといって嘘をつくこともない。

であるならば、この質問合戦に果たして意味はあるのだろうか。

 

これから始まる試合で伝えればいい。

わかって貰えるまで立ち続ければいい。

 

 

「開始一分前、両者姿を見せい」

 

 

さて、と二人は汚れを払う仕草をし立ち上がると準備運動も忘れ歩き出す。

 

「お姉様がお呼びだし、いくかーヒート。」

 

「ああ」

 

少し先を歩く「you」は、そういえばと何か思い出したように振り向く。

会場の照明が眩しくて見えないが、何やら影が伸びて来る。

 

 

「っ!!」

 

 

跳躍した小さな鉄腕はヒートの頬を打ち抜き、呆気に取られる彼の前に仁王立ちする。

 

 

「なあヒート。俺の事好き?」

 

 

殴られた者は、腹の底から込み上がる笑いを堪え、滲み出て上がった口角からは楽しさを感じさせる。

 

 

言われるまでもないだろう

 

 

 

「ああ、大嫌いだ!」

 

 

ノーモーションから水平に放たれた蹴りは「you」の頭部を捉えるが、ふらつきながらもこれを堪える。

 

直後、飛び上がりぶつかった両者の頭部は「ガツン」と鈍い音を上げ激しくぶつかる。

 

 

「俺も」

 

 

 

照明は眩しく両者の表情を隠し、二人は並ぶようにして歩む。

 

 

「手ぇー抜くなよな」

 

「ああ、そのつもりも失せた」

 

「ばーか、殺すんじゃねーぞ」

 

「死なないなら良かろう」

 

「あ、そーだっけ」

 

 

 

ーーーーー選手入場!

 

 

 




殴り合うよ!

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23章「デッドヒート」

 

 

大歓声は、両者を急かすように迫り来る。

しかし開始から10秒も経つが、観衆は静まり両者は構えたまま動かない。

不思議な緊張感に気圧された会場はその口すらも抑えられ、時折苦しくなって喉を鳴らす。

 

競技者を放棄している二人にとって、試合開始の合図など最早どうでもよかった。

 

腕を組み立ち尽くすヒートはその時を無策に無心に待つ。

 

一方は、目の前の仲間をどう攻略するかにしばし思考を巡らせようと試みたが、面倒臭くなり拳を固める。

 

 

再び向かい合う両者の腰は、刻一刻と沈み込み戦闘開始が近いことを会場に知らしめる。

 

しばし睨み合う二人を見つめていると、突如大気が唸った。

 

 

「自惚れんじゃねえええ」

〈目ぇ覚ませやああああ〉

 

 

地を蹴り滑空する両者は目の前の部位しか見ておらず、その思考からは避けるという言葉が抹消している。

交差して打ち込まれる拳は同時に入ることで勢いを相殺し、両者の距離は零になる。

 

「ガチン」と甲高い音が試合開始を宣言するが如く鳴り響くと、押さえ込まれていた歓声は一気に吹き出し、会場中を揺らす様に鳴り響いた。

 

 

仰け反りつつも残された視線の先、水平に凪ぐように放たれる脚に「you」はいち早く身構える。

それはさっき見たとカウンターのダッキングブローの姿勢を作り身をかがめる。

スウェーした頭上を切り裂いた事を肌で感じ取ると、片足に乗った全体重を腰に乗せ回転させた。

渾身の一振りが目指すは膝の外側、外側靭帯。

 

ーーーあと少しで当たる

 

目の前の景色は焦らす様に結末を見せてはくれない。

あと少し、もう少しと吹き出しそうな殺気を抑え、拳の先が肌をかすめる。

 

ーーーとった

 

拳の先に触れる感触を撃ち抜く様に、全身全霊を込めた一撃に奥歯を噛みしめる。

 

徐々に拳は歩みを進め、遂に直撃した脚を僅かに宙に浮かばせる。

 

「その程度でっ!」

 

耳に入る頃、宙に浮く脚は振り抜いた拳に押し出される様に一回転し投げ出される。

着弾点をいなされた拳は大振りに空を切り、高速で回転する何かが頭上から降り注ぐ。

 

「うざったいんだよ!」

 

「ガチン」と音を置き去りに視線が移ろい、頬を撃ち抜かれた頭は衝撃に逆らえずそっぽを向く。

 

足の甲に着地した衝撃は外部パーツを散らし、プレスされる様に地面にへばりつく。

 

見据えた先、零距離にある拳は容赦を知らず覇気を飛ばす。

 

ーーーやべぇ、脚が

 

微かな痛みに視線を落とすと踏みつけられた足は抜け出すことが出来ず地面に挟まり埋もれている。

 

 

「○○○○○○っ!!!」

 

咄嗟に腕を折り曲げ正面を遮るが、襲い来る衝撃はとどまる事を知らず加速する。

連なる音の一つ一つは鉛の様な重さを残し、それを追い越す様に次の衝撃が迫り来る。

 

使い物にならなくなった鉄腕は重力に逆らえずダラリと垂れ下がり、その頭部があらわになると憎い者を見る様な視線に目を潰される。

 

「○○○○○○っー!!!!」

 

泣き声じみた怒号は鉄仮面を満遍なく撃ち抜く。

オート回復により急速に加減を繰り返すHPバーにより、大量に持ち込んでいた回復アイテムは遂に底をついた。

 

その頃には鉄仮面は剥がれ落ち、剥き出しの内装が姿を見せる。

 

 

ーーーやばい…しんだ

 

 

HP残量残り21、所持アイテム0

デッドラインに放たれる拳を「you」は不思議な気持ちで見つめていた。

 

 

ーーーあれ、手ぇ抜くなっていったのに

 

 

「死」を覚悟した「you」の世界は、誤作動を起こしたのかスローモーションが視界を包み込んでいる。

 

 

ーーー避けていーのかな

 

 

殺気剥き出しの視線からは容赦という言葉を一切感じられない。

 

俺は、何も足搔けず生き延びるくらいなら

 

 

「死んだ方がマシだああああ」

 

 

トドメの一撃は空を切り、驚愕したヒートの一瞬の隙を突き、システムアシストが燃え盛る裏拳を腹部に叩き込む。

 

 

「っ、……ばかな、避けたのか!?」

 

 

「ガシン」と鋭い裏拳は、直撃したヒートをエリア端まで吹き飛ばす。

 

目の前の小さなキャストは内装が剥き出しの満身創痍。

鉄仮面は剥がれ落ち、身体に纏う外装はもう殆ど残されておらずチグハグ状態の丸裸。

経験則から、トドメの一撃と「死」を覚悟した事も悟った。

 

しかし、なぜ彼は勝利に満ちた出で立ちをしているのだろうか。

 

一方的な展開を打破した事に、何が起きたと観衆はパニックを起こし黙り込む。

静寂の会場にポツンと立ち尽くす丸裸からは、闘志とも違う何か不気味さを感じる。

 

 

「なあ、ヒート。タキサイキア現象って知ってっか?」

 

 

静寂は不気味さの正体を探るべく、彼らの会話を一言一句逃すまいと黙り込む。

 

 

「言いたい事ってのは、そんな事か?」

 

「ああ、これも全部込みで俺の意志表示なんでね」

 

 

喋りながらも、自身のコアパーツに手を当て発動の構えをとる。

 

 

 

「リミットブレイクッ!!!!」

 

 

 

ファイター固有スキルにして最大の奥義は、「you」の命を1/4まで喰らい身体能力を飛躍的に爆発させる。

 

 

「効果時間90秒、俺は死ぬ覚悟を持ってお前にぶつかる!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




○○○の部分は自分の中ではあったのですが、なんか押し付けがましく感じて開けました。
セリフって難しい。


読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24章「自問自答の決着」

 

 

ー効果時間残り85秒ー

 

怒号一閃、命を燃料に全身は燃え盛り、擦れば死亡の死の淵を駆け抜ける小さな赤き閃光。

迎え撃つ雄叫びは野生の本能を四肢にたぎらせ、四足をバネにその牙は大気を貫く。

 

両者によって蹴り出された床はめくれ上り、破片は観客席を破壊し震え上がる。

被害を被った者達はそれでも目を逸らせず呼吸を忘れ見入る。

 

獅子の牙は大気を喰らい、本命の虎爪を隠す事なく晒し音を突き抜ける。

僅かに残された鋼鉄にぶつかる照明は屈折する事を忘れ滑り落ち、裂かれた空間は鉄を擦り鳴り響く。

 

ー効果時間残り84.5秒ー

 

「キィィィン」と鳴り響いた甲高い音に、耳を塞ぐ観客の呪縛は解け息を吸い込みゴクリと唾を飲み込む。

 

先を駆ける赤き閃光は目を瞑り、迫る恐怖を浴びる様に頭部を起点に突進する。

虎爪は五つに大気を裂き、別たれた風は竜巻を作り爆風を撒き散らし迫りくる。

 

 

ー効果時間残り84秒ー

 

 

「逃げたお前にぃぃぃぃ」

〈最低な俺じゃなきゃ〉

 

 

ー効果時間残り83.5秒ー

 

 

「俺は負けねぇぇぇぇ」

〈言ってやれねえんだよ〉

 

 

ー効果時間残り83.4秒ー

 

 

俺は名家に生まれ凡人ながらにも秀才を演じてた。

指はタコまみれで擦り傷からは血が滲んでた。

街を歩くとみんなは優しく声を掛けてくれた。

それに応えたいと表情は明るかったが、それは俺の知ってる俺じゃなかった。

 

いつしか、何をしたいのかわからなくなった。

やるべき事は何だと気合いを入れると、みんなの期待に応えたいと、一人納得して見過ごした。

ある日、街のオッチャンにやりたい事は見つかったのかいと、訪ねられた。

何を言ってるのかわからなかった。

 

自分への不信感も消えた頃、お婆ちゃんは俺の背中をさすりながら何か呟き泣いていた。

みんなの期待に応えたい以外に、やりたい事なんて何一つなかった。

 

鏡を見ているのかと、目を疑った。

後に出会った赤い髪の少年は、現実世界の俺と全く同じ顔をしていた。

お前の期待に応えたいと握手に応じたそいつは、どっかで見た事ある俺だった。

 

 

 

ー効果時間残

 

 

「お前に何がわかるんだぁぁぁぁ」

〈そうじゃねえんだよぉぉぉぉぉ〉

 

 

 

掌底を撃ち抜く様にぶつかる拳。

互いに勢いを相殺され、停滞してはいるが止まらない。

押し潰され行き場を無くした空間は全てを吹き飛ばし真空を生み出す。

 

背筋が凍りつく。

 

ーーー左腕がぶれた

 

連撃を予測すると、それをなぞる様に迎え撃つ。

真空で再びぶつかる衝撃からは音も無く暴風が漏れ出る。

 

連撃に次ぐ連撃。

 

音すらも殺して加速する衝撃に意識が遠のいた。

 

 

 

「期待に応えるための努力はしてきた」

〈知ってるよ、お前の夢だもんな〉

 

 

「お前は俺の覚悟を疑うのか?」

〈寧ろ俺に言える資格はねえよ〉

 

 

「俺は六芒の〈六〉として応える義務がある」

〈周りの奴らはそんな事望んでねーよ〉

 

 

「例え望まれなくとも、俺の意志は変わらない」

〈お前は何を成すために「六」になったんだ?〉

 

 

「みんなの期待に応えるためだ」

〈だから〉

 

 

〈それが気に食わねーって言ってんだよぉぉぉぉぉ〉

 

 

 

顎を捉えると両手は息を切らし睨み合う。

 

 

 

「逃げたお前にだけは言われたくない」

〈みんなはお前の努力を見ちまってるから、最低最悪な俺しか言ってやれねーんだよ〉

 

 

〈みんなが期待してんのは「六」なんて関係ねーんだよ〉

 

 

「そうなる事が誰を不幸にする?皆の幸せに繋がる」

〈てめぇが勝手に不幸になって、周りはそれに巻き込まれる〉

 

 

地を蹴る足からは先程までの力は無い。

振り絞った気力をぶつける様に再び交わる。

 

 

 

「俺は皆の望む〈六〉になるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

〈やりたい事も見つかってねえくせに居座ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ〉

 

 

衝撃は徐々に両者の命を蝕んでいく。

 

 

 

ー残りHP18ー

 

 

「俺は六だ」

〈違げえよ、お前はヒートだ〉

 

「わけがわからん」

〈ヒートは何がしたいんだ?〉

 

「皆を幸せにしたい」

〈お前が何をすればみんなを笑顔にできる?〉

 

「責務を全うする事だ」

〈それじゃ誰がやっても変わんねーよ〉

 

 

 

ヒートのやりたい事が〈六〉になって、みんなはそれを待ってるんじゃねーのか?

 

 

 

 

ー残りHP1ー

 

 

衝撃は収まり、真空は空気で満たされる。

 

防御を兼ねた音速の殴り合いの余韻は鼓膜を狂わせる。

観客は体験した事のない命の削り合いから解放され、静かに姿勢を崩した。

 

 

「だがな、俺はお前にだけは言われたくない」

 

「わかってんよ、叱ってくれてありがとな」

 

 

高く掲げた両者の片腕は、フラフラと左右を掻き白旗を振る。

 

 

「降参する〉

〈参りましたあー」

 

 

「ウワー」と、重なる観客の歓声は人から発せらた声だとは思えない音で会場中を埋め尽くす。

 

大歓声に背中を押され、向かい合う二人はゆっくりとその距離を縮める。

 

「〈you〉、お前照れているのか?気持ち悪いぞ」

 

「うっせーよ、ヒートのニヤケずらにくら…」

 

 

 

「あれー、なんで死んでないのぉー?」

 

 

 

刹那、友(とも)の首が宙を舞った。

 

またタチの悪い冗談だろうか。

「you」は空気の読めない奴だ、奴ならあり得る。

しかし何故だろうか…鋼鉄は消散の予兆を見せ、細かい光を放っている。

徐々に粒状に分解される友は、苦しそうに叫んでいる様にしか見えない。

 

 

「ねー、今殺し合いしてたよねぇ?私もまぜて欲しいなぁー」

 

 

この女は何をこんなにも嬉しそうなのか?

そんな事よりも、今は「you」を叱ってやらなければならない。

ようやく分かり合えた、初めての友達だ。

嫌がってでも、逃がしてやるものか。

 

それなのに、目の前で

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

友は……粉々に砕け散った

 

 

 

 

 

「ワルフラァァァァァァァン!!!!」

 

 

待機フェイズを解かれた「創世器」は瞬時に燃え盛る獅子を両の拳に宿す。

 

「破拳ワルフラーン」を瞬時に展開すると、ヒートの殺意を滾らせた瞳は目の前の標的を撃ち抜く。

漆黒のマントを放り投げた女は、嬉し気に楽し気に飛び跳ね応える

 

「やる気まんまんだぁー、うれしいなー」

 

「俺は……お前を、許さない!!!」

 




他人を作るって死ぬほど難しい。
こんな事言いたかったんだろなーって感じて貰えたら良いんだけど不安。

読んでくれて感謝です!
また来てください!

しおり挟んでくれて感謝です!

最後、シナリオ上迷ったのですが、許さないに変更しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25章「殺戮の子守唄」

前の章最後の台詞「お前を許さない」に変更しました。


 

 

「馬鹿者がっ、やってる場合ではなかろう!撤退だ!」

 

地を蹴る動作もなく、瞬時にリングへ移動したクラリスクレイスに会場は乱戦を予想し騒ぎ立てる。

 

「小娘!手筈通り貴様らは帰れ!ヒー坊、ニャウの元まで走るぞ」

 

その前に、と邪魔な人目を薙ぎ払うが如く創世の爆風が会場を撫でる。

 

「クラリッサ!!!」

 

不意をついた爆発は観客席を撫でる様に焼き払い、吹き飛ばされたプレイヤーは次々にリスポーン地点へと消えて行く。

最後に待機場に控えた参加者を吹き飛ばすと会場はもぬけの殻となり、リスポーン地点は生き返ったプレイヤーで溢れ、行く末を見逃さぬ為とゲートエリアへと押し寄せる。

 

「早くするニャウ!!」

 

待機場で参加者に紛れ潜伏していたニャウは被っていたポンチョを投げ捨てると少しでも距離を縮めようと駆け寄る。

 

「時間は稼ぐから、早く!!」

 

偵察を辞め、護衛に回る秋雨は身の丈程もあろう一振りを振りかざし、殺戮者の元へと駆け出す。

 

血走る瞳をなぎ払おうと、全身の全てを振り絞ろうとした時、会場の何処かで微かに笑い声が聞こえた気がした。

 

「ニャウゥゥゥゥゥゥ………」

 

異常を知らせる声に振り向くと、膨大な情報量は固く閉じ込められ、駆ける猫はその姿を石像に変え佇んだ。

 

「!?…ヒー坊、ニャウを守れ!」

 

言い切ると同時に放たれた火球は、詠唱すらも追い越し凄まじい速度で殺戮者へと走る。

到着と同時に真っ二つに分かれた火球は着弾点を見失い会場へと突き刺さる。

 

「猫ちゃん、死んじゃったね。かわいそー」

 

切り裂いた得物の残り火を振り払い、肩に掲げるその姿は創世器の火力に驚く様子も見られない。

見せびらかす様に、構えを解き高らかに笑う姿からは有り余る余力が滲み出す。

 

「リスポーン地点まで飛ばしてルームロックを掛ければ一時は凌げる!!!」

 

高笑いに飛び込んだ小さな身体は両刃の持ち手を軸に、身体ごと捻りを加えて飛び込んで行く。

 

「また来てくれたの?うれしーなぁー!!」

 

両刃の捻りは勢いを殺され火花を散らしながらも進む。

回転が止まる事を感じ取ると両者は得物を弾き飛ばす様にノックバックし距離を取る。

 

「〈you〉、お前生きていたのか!!」

 

「死なねーつっただろ!!エリアホストはテレポーターの前に飛ばされるだけだ!ルームロックはかけたが、こいつを追い出す必要がある!」

 

四人を嘲笑う様にユラユラと刃をチラつかせる殺戮者、

プレイヤー名「poN」は獲物の足掻く姿を見物する様なジットリとした視線を飛ばす。

 

「〈you〉、石化魔法なんてものあり得るのか!?」

 

「そんなものは存在しねぇ。ただ、この世界を作ってる奴らなら可能かもしれねーな」

 

仮説への意見を求め、秋雨へと視線を走らせる。

 

「確かに可能かもしれない。けど運営は全て調べつくしてるの。ハッキングも考えられる」

 

今すぐにでもログアウトし、外にいる者へ報告に行くのが得策だろう。

しかし、プレイヤーで無い二人には命は一つしか無いだろう。

オマケに、目の前の殺戮者は自分達を弄ぶ様な化け物。

 

「逃げちゃやだよ?逃げたら石にしちゃうからね」

 

石化の謎も解けない。

けれど、目の前の殺戮者はその答えを知った様に語る。

 

呼吸すらも感じない静寂の中、両陣営は視線を切らさずゆっくりと武器を手に取る。

構えを取ると徐々に腰は沈み、両足は跳躍を待機し地面をえぐる。

 

「なー、石化なんてどこで覚えたんだよ。俺にも教えてくんねーかな?」

 

「えー、どうしよっかなー」

 

教える気などさらさら無いと口角を上げ、見下ろす瞳は殺意を飛ばす。

 

それを合図に跳躍する四人は殺戮者を押しつぶす様に四方から襲いかかる。

 

「ねー、殺したい?そんなに私のこと殺したい?」

 

ゼロ距離で押し寄せる壁を避けることもせず受け止める。

刃は腹部を突き刺し、拳は骨を砕く様にめり込む。

にも関わらず彼女の狂気は鋭さを増し、狂った様に恍惚の表情を浮かべ立ち尽くす。

 

ねじ込む様に力を尽くす壁の一面は、標的の頭上を確認すると異様を察知し叫ぶ。

 

「こいつ、自動で回復してやがる!退け!」

 

後退する一面を、待っていたとばかりに殺戮者は飛び出す。

 

「どうしてやめちゃうのかなぁぁぁぁ」

 

「っ!」

 

仰け反るヒートを逃すまいと四方八方から繰り出される剣撃。

衝撃は大気を揺らし、カマイタチとなって獲物の身体をかすめ切り刻んでゆく。

 

「あれー?」

 

突如手を止めた狂刃の隙を突き、ヒートは自らを吹き飛ばす勢いでその場を離脱する。

 

「血…きみ、なんで血出てるのかなー?」

 

おかしいなーと、戯ける姿は如何にもわざとらしく、喜びを隠す様に演じるが、我慢の限界を迎え盛大に吹き出す。

 

「アハハハハハハ、血ぃ〜。あったかい!なんで〜どうして〜!!!」

 

ケタケタと笑う姿はおぞましさを増し、四人は一つにまとまり恐怖心を堪え構える。

蛇に睨まれたカエルの様に固まる一瞬、四人の中心に滑り込んだ殺意は一蹴りで全てを吹き飛ばし、飛ばされた一人の首元を締め上げ囁く。

 

「君のせいだよ、バレちゃったの。でも私ね、これでも感謝してるんだよ」

 

締め上げる両手を解こうと打撃を繰り返す。

無駄に足掻く瞳を覗き込む恍惚の瞳は、ウットリと静かに優しく囁く。

 

「でもね…私、短絡的な人嫌いなの。だから、貴方には最後に死んで貰うね。反省して絶望したら、殺してあげる」

 

「ぐっ!!!」

 

みぞおちに食い込む拳は徐々にヒートの意識を蝕む。

解放され崩れ落ちる低い視線は、徐々に離れて行く殺戮者を追いかけるが届かない。

 

「………」

 

抗えぬ昏睡の中、不気味な笑い声が子守唄を歌い始める頃、ヒートの意識は途絶え崩れ落ちた。

 

 

 




リゼロのスバル君みたいなどうしてそうしちゃう感を求めたのですが、力不足でした。
進めてみて納得いかなくなったら修正するかもです。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26章「日蝕と太陽」

 

 

先代の「六」は太陽の様な人だった。

 

助けを求める声を一つ残らず聞き逃さない耳。

嘘偽りの無い勇ましく猛々しい声。

見ているだけで勇気を分け与えてくれる背中。

理不尽や逆境をねじ伏せて行く拳。

 

側にいるだけで身体中を勇気で満たしてくれるあの人に近づきたい、側にいたい一心で修行に明け暮れた。

 

だけど、「六」を襲名してからの俺には太陽が側にいるのが当たり前になり、そんな大切な事も忘れてしまっていた。

 

ーーーーーーーー

 

「くっ…やるではないか、我が好敵手ヒートよ!これで戦績は458戦458分け…勝負は持ち越しだな!!!」

 

「お前な、どう見ても俺の勝ちだろう。いい加減諦めたらどうなんだ」

 

並ぶ様に背中から仰向けになってみると、頬を撫でる風や草原の土臭い香りが疲れた身体を包み込む。

船内を覆い尽くす空には太陽なんてものは無く、ただひたすらに広大な宇宙しかなかった。

 

「なあ、お前はどうして俺に挑んでくるんだ?今日だってそんなにボロボロになって」

 

「愚問だな!ヒートに勝ちたいからだ!!!」

 

手を抜いている訳ではないが、何度も立ち上がるコイツを俺は本気で殴りたくなかった。

力の差をわかっている筈なのに、コイツは何度も立ち上がる。

だけど、段々と強くなっていくコイツと戦う時間は俺にとっても張り合いがあった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「よぉヒー坊、なんだあ?ボロボロじゃねえか」

 

修行の帰り道、ショップエリアのオッチャンは大人気ない悪戯を終えると決まって果物を差し入れしてくれた。

 

「グルアアアアア……」

 

侵食され狂ってしまった原生生物を初めて殺めた時、返り血を浴びた拳に泣きながら誓った筈なのに。

 

 

初めて降り立った惑星はとても暖かかった。

暖かさの原因を師匠に尋ねてみると、どうやら太陽という惑星の仕業らしい。

横から見上げたその姿は眩しくてボヤけてたけど、その人には見上げた太陽と同じ気持ちを感じた。

 

オラクルの空には太陽なんて物はないから

 

俺はオラクルを包む太陽になりたいと思った

 

 

 

 

「………っ!!!」

 

どれ位気絶していたのだろうか。

現状を確認したいが、視界を何かに覆われて何も見えない。

 

「秋雨…」

 

自分に覆い被さるそいつは、「死なせない」と身体全体を固く掴み離さない。

 

「よかった、生きてる!!!」

 

彼女はこんなにも細い腕で、狂気から自分を守ってくれていたのか。

 

「あねさんっ!!キツイ!!援護頼む!!!」

 

「わかっておるわ!!!」

 

小さな鋼鉄は自らを盾とし、流血が絶えない姉さんの瞳は何一つ諦めちゃいない。

 

 

「何か知らんが胸糞悪いぞー!!!!」

 

次々になだれ込んでくるあれは何だろうか。

 

「おい貴様!!開けたのか!?」

 

「嬉しいチャットがうるせーから開けた!!!」

 

 

粒子を瞬時に再構成し、続々と姿を現わす人の波。

 

 

「プラモさんに続けぇぇぇぇ!!!」

 

「クラリスたん親衛隊、行くぞぉぉぉ!!!」

 

「除け者にすんじゃねぇやぁぁぁぁぁ!!!」

 

次々と召喚される様に現れるのは、先程の観客達だろうか。

 

「邪魔だぁぁぁぁ!!!」

 

吹き飛ばされ、命を散らしては舞い戻り押し寄せる。

ここにいる者の瞳は何一つも諦めちゃいない。

 

 

「おい、あいつ飛んだぞ!!!」

 

「レンジャー隊、撃ち落とせー!!!」

 

 

宙に浮く殺戮者へ走る弾丸は、いずれも着弾前に消散。

めんどくさいと見下ろす狂気は、掲げた片腕に宿りその姿を顕現する。

 

「あー、めんどくさいなぁぁぁぁぁ!!!」

 

掲げられた片腕に集う狂気は、徐々に憤怒の黒炎を宿し質量を増してゆく。

 

空間の光を喰らう様に巨大化する漆黒の太陽は、このオラクルに日蝕をもたらした。

 

「少し早いけど、もういーや。ちゃんと死んでね」

 

悔しげにも高笑いをする狂人は全ての光を喰らい終わるその時を楽しげに待つ。

 

「おい、照明が!!」

 

「構うな、撃ち落とせぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

徐々に光を失い瀕死のこの世界を

 

全てを喰らう日蝕を

 

お前は何もせず見ているだけか?

 

声に包まれると、不思議な場所にいた。

 

 

「お前は……誰なんだ?」

 

何もない円形の空間に、まるで水中にいる様な静けさ。

目の前に立ち尽くす影は、じっとこちらを見つめている気がする。

 

「………」

 

「迷惑をかけた。すまなかった」

 

 

「あの日の決意は、取り戻せたのか」

 

「ああ、もう絶対に離さない」

 

「ほぉ、ならば問おう。汝の決意とやらを」

 

「俺は、太陽になりたい。オラクルも惑星の生き物も全ての命を照らせる存在になりたい」

 

「なれるのか」

 

「その一歩を今踏み出す」

 

「ならばもう行け。力を貸そう」

 

「ありがとう、ワルフラーン」

 

 

 

瞼を開けると、空高くから見下ろす狂人。

薄暗く視界を覆う様に広がる闇に、未だに抗う銃声が鳴り響く。

 

苦虫を噛み潰したような表情で、ゆっくりと立ち上がる影が一つ。

 

 

ーーー命を燃やしてでも守り抜く

 

 

「我が決意は太陽」

 

 

突如目の前に出現する電子色の一粒の粒子。

光は素早く一筆書きに走り、六芒星を描き消散する。

今までは見られなかった創世器システム作動予兆。

 

拳に宿る獅子はその時を待ち兼ね大気を揺らす。

一瞥すると、その場の皆も頷き強く見つめ返す。

 

 

「今の俺の拳は、お前よりもオラクル二つ分重い!!!」

 

 

「グォォォ」と獅子の咆哮。

応える創世の獅子は主の決意を火種にし、爆発的に燃え上がる。

 

炎は身体を包み込み、天高く掲げられた片腕へと走る。

徐々に質量を増す火球は、闇を払う太陽を顕現する。

 

日蝕は吸いきれぬ光を目の当たりにし、遂にその殺意を振りかざす。

 

 

「いくぞ紛い物ぉぉぉぉぉ」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 

「太陽拳(プロメテウス)!!!!」

 

 

 




エースVS黒ヒゲ……
どうしても太陽使いたかったんだ…

読んでくれて感謝です!
また来てください!

お気に入りとしおりありがとうございます!
また来てくださいm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27章「決意の弾丸」

 

 

衝突は音を喰らい暴風を吐き出した。

 

瞬間的に襲い来る風の暴力を乗り切ると、はち切れんばかりの満腹は溜め込んだ音を盛大に吐き出し爆発音に飲まれる。

 

根性でやり過ごし見上げると、拮抗して押し合う異なる色の火球が二つ。

やや押され気味の暖色を雄叫びは必死に堪え押し返す。

 

 

ーーーまだ、足りないのか

 

 

徐々に暖色を飲み込む黒は、僅かな侵食を確認すると八重歯を剥き出し笑い狂う。

 

「やべぇ、押されてる!俺らも何か出来れば…」

 

考える時間など無い。

日没は刻一刻と迫っている。

見上げる一同は攻撃を続けるが、無駄な足掻きと知らしめる様に着弾を前に粉と化す。

 

「貴様ら、全員ヒートの後ろに集まれ!テクニック(魔法)が使える者は私の元へ集まれ!」

 

クラリスクレイスの号令は勝算を匂わせ皆に喝を入れる。

直ぐ様大移動をし終わる頃、火球は半分を飲み込まれようとしていた。

 

「今から私らでお前らを吹き飛ばす!着弾次第ヒートの背を押し出せ!着地次第再びそれを繰り返す!」

 

やれる事があるならばと、一同は雄叫びを上げるが一番槍を誰がやるかと視線は四方八方を彷徨くばかり。

 

「時間がねぇ!飛ばしてくれ!」

 

小さな鉄腕は両刃で背を覆い隠すと、上空の太陽を見つめ踏ん張り開始を促す。

 

「死ぬ気でぶつかれぇぇぇぇ」

 

両刃を激しい爆風が押し上げると、人間ロケットは凄まじい勢いでヒート目掛けて滑空する。

瞬く間に着弾点へと辿り着くと、鉄腕はヒートにしがみつき声を上げる。

 

 

「ここ目掛けて飛べぇぇぇぇ」

 

 

衝撃の緩衝材をかって出た小さな背中に、一同は奮い立ち次々に爆風に乗り飛び立つ。

 

 

「押せぇぇぇぇ!!!」

 

 

押しては落下しを繰り返すプレイヤーの弾丸は、徐々に太陽を押し込み狂気を震え上がらせる。

 

緩衝材の背中は徐々に剥き出し、生命線である体力も徐々にその値を下げ悲鳴を上げる。

鉄腕は焦りを晴らす様に、雄叫びを上げて全てを鼓舞する。

 

せめぎ合いの中、衝撃に耐え兼ねた黒炎は接する面からパラパラと音を立て剥がれ落ちて行く。

その光景に目を剝き出す狂人を、爆風は感じたことの無い不思議な空間に飛ばしていた。

 

 

ーーーあ、私死ぬんだ……

 

 

「押し切れぇぇぇぇ!!!」

 

 

限界を迎えた黒炎は、甲高い破裂音を吐き出し盛大に砕け散ると、勢いを殺されていた火球は解放され迫り来る。

 

 

ーーーなにこれ…こわい?こわい……怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!!

 

 

狂気により眠っていた感情は、死ぬ間際という荒治療によって留まることを知らず溢れ出す。

 

 

ーーー怖いよ、お母さん

 

ーーーお母さん……って誰だっけ

 

ーーーあれ?私って、誰だっけ

 

 

太陽が標的を撃ち抜こうとした瞬間、ヒートは見た。

 

混乱し、助けを求める声を

無表情の頬を伝う涙を

目の前の狂人は、もう人間じゃないか

 

 

「馬鹿野朗がぁぁぁぁぁ」

 

 

主の雄叫びに応える創世の獅子は太陽を破裂させ、光熱を盛大に撒き散らし世界に光が蘇る。

 

明るく照らされる世界を感じると、背を押していた者達は役目を果たしたと尻餅をつく様に崩れ落ちる。

 

見上げた空では、赤髪の獅子と元狂人は捨て身でぶつかり、揃って落下しているところだった。

 

 

戦いはまだ終わっていないと、気を張る俺たちを余所にヒートはゆっくりと歩みを進めた。

狂人はその狂気を失い、無気力にヘタレ混んでシクシクと泣いていた。

辿り着いたヒートを見上げ、「どうして?」と尋ねる質問の回答を聞くと、俺たちは戦いが終わった事を実感し、溜まっていた恐怖心を盛大に吐き出す様に勝ち鬨を上げた。

 

 

 

「どうして…殺さなかったの」

 

 

「俺の目指す太陽は、一つ足りとも取りこぼしはしなかった!」

 

 

 

差し伸べられた手を取ると少女は泣きじゃくり、泣く位ならするなよなと「六」は下手くそに照れを隠した。

 

 

 

 

 




前回のワンピースに続き、死ぬ気の弾丸と言えばリボーン。
学校で絵描いてる子とかいたな、懐かしい。
何か久々に観たくなってきた。

お気に入りしてくれた人ありがとうございます!
また来てくださいm(_ _)m

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28章「主催者挨拶」

 

 

何かを共に成し遂げたという感覚は、勝敗という概念すらも超越してしまうのだろうか。

 

大歓声の中、ハイタッチや談笑に明け暮れる人々を見てみると人間がいれば未来人もいて、獣人にロボット。

輪の中心を覗いてみれば、先程まで敵であった少女の姿まである。

 

操るプレイヤーの出身国は同じであろうが、この世界のこの光景は人種の壁をぶち抜いた清々しさを感じさせる。

勿論、それを成し遂げたのは他人任せでは無い。

ここにいるプレイヤー、モニター前から指示を飛ばした者、全ての参加者が自分自身で勝ち取った光景だろう。

 

 

 

「さあ、余興は終わりだ〜。貴様ら、さっさと移動しろ〜」

 

緊張から解放されたからか、クラリスクレイスの声は気怠げだがどこか嬉しさを含んでいる。

六芒という立場を感じさせない馬鹿者達の態度が嬉しかったのか、はたまた弟分の成長が眩しかったのか。

 

「だなー、けど本番これからって俺保つかなー」

 

「ばーか、ここまでやって不参加なんてぜってーやだわ」

 

 

わらわらとテレポーターから去って行くプレイヤー達は、開催宣言のあるショップエリアへと移動を始める。

 

手を伸ばしてみると、達成の余韻はまだ暖かく、同時に名残惜しさに胸を締め付けらた。

拒絶していた筈のものが、今となっては手放し難い。

 

「らしく無いな。辛気臭い顔してるぞ、ほら」

 

「っと」

 

ヒートに背を押され、つんのめる様に踏み出してみると諦めていた最初の一歩はすんなりと踏み出せた。

 

「なー、みんな!」

 

呼び掛けられた事に応える様に振り向くプレイヤー達。

誰もかれも一瞬驚きを見せたが、その表情は直ぐに緊張をほぐし、頬には微熱をしたためた。

 

「先行ってんぞー、プラモさん!」

「遅刻すんなよー」

「また後でなー!ちゃんとこいよー」

 

「だから俺はプラモじゃねーよ!ありがとな!」

 

飛び跳ねて反論する「you」をからかうプレイヤー達は楽しげに頬を緩め、からかわれた「you」も満更ではなく照れ隠しに勤しんだ。

 

 

 

静かな筈の空間に追いつけず、耳の奥ではまだ名残が鳴り響く。

プレイヤー達がいなくなったエリアに鍵を掛けると、残った者達は瞳の色を変え、次なる一手へ頭を切り替えた。

 

 

「さて、帰還する前に…貴様は何者だ?」

 

「姉さん、ニャウの石化が先じゃ…もう皆も居ないし怪しまれる心配は…」

 

「ダメだ、振り回してくれた反省には丁度良かろう」

 

童顔に似合わね鋭い視線は主犯であろう少女へと向けられる。

 

少女は自分に全ての視線が集まる事を感じ取ると、澄んだ瞳の奥をさらけ出す様に見つめ返し応える。

 

「拙者、ムサシと申す」

 

「貴様、馬鹿にしておるのか?」

 

先程までとは別人の様に振る舞う少女に警戒心は強まる一方だが、それに耐え兼ねた少女は割って入った。

 

「ムサシちゃん、貴女の知っている事…わかる範囲で聞かせてくれるかな?」

 

「それが、何が何やらサッパリで…」

 

どういう事なのかと、一同は顔を見合わせるがどうやら答えが出そうな雰囲気では無い。

異様な謎により一同の警戒心は極限を迎え、辺りはピンと張り詰める。

 

 

「まぁ、気も済んだだろうし…取り敢えず、あの石化した猫戻してよ。あいつ居ないと色々とまずいんだよね」

 

 

場を和ませようと割り込んだ小さな指は、猫の石像へと向けられる。

追いかける様に見つめる視線は、疑問を浮かべ声色を一つ落とした。

 

 

「不甲斐ない、拙者何もわからぬ。てっきりお主たっ!…」

 

 

ーーーグシュ

 

 

 

突然の出来事に、目を疑い凝視する。

 

少女の腹部には鋭い刃が生え、貫かれた身体は消散の予兆を見せ儚く輝き出す。

貫かれた本人は何が起こったのか未だに気がつけず、声を震わせ息を荒げる。

 

 

「いい余興だったよ…今、どんな気分だい?」

 

 

徐々に倒れ込む少女の影からじわじわとあらわになる黒い影。

ドシャと、音を立て崩れ落ちた少女は粒子となり崩壊を始める。

それを見つめる瞳は、感情を一切感じさせぬ「無」そのもの。

 

「初めまして。わたくし、主催者兼主犯ムサシ…又の名を村木智史(むらきさとし)と申します」

 

 

儚い輝きが散り尽くすのを見届けると、押し殺した感情はじわじわと殺戮者の目尻口角を不気味に押し上げた。

 

 

 

 

 




謎の男現る!
主人公は「you」と「皐月」です。

お気に入りありがとです!
良かったら最後までお付き合い下さい!

読んでくれて感謝です!
また来て下さい!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29章「殺戮のシナリオ」

 

 

幼少期のヒーローは、何故かどれも犯罪者だった。

 

情報機械修理販売店の一人息子として生まれた私にとっては、店内が遊び場であり商品の売れ残りが玩具だった。

徐々に仕組みがわかる様になる頃、きっかけは訪れた。

 

天才ハッカー、アイスマン。マックスバ○ラー氏の記事を見つけた時、目が釘付けになった。

その思考や人柄には全く興味は湧かなかったが、手段においては衝動的に胸が騒いだ。

生まれて初めて体感する「興味」に魅入られた私は、彼の悪行をなぞる様に学び始めた。

 

初めて試みた企業へのハッキングが何の苦もなく成功した時、自尊心が私に甘く囁いた。

 

ほら、君なら簡単じゃないかと。

 

生き甲斐を手に入れた私は自分を偽ることにした。

表向きの顔をゲームプログラマーとした私にとっても裏の目的の為にも、茅場晶彦(かやばあきひこ)の技術は必要不可欠だった。

 

ソードアートオンラインに潜り込んだ理由はそんなものでしかなかった。

 

閉じ込められたと知った時、私は独学で学んでいた催眠術や洗脳をプレイヤーにかけて暇を潰す事にした。

皆、面白い具合にかかる。

当然だ、そうでなければ私ではない。

 

自身を証明する様に無作為に明け暮れると、一人だけ効果の見られないプレイヤーに出会った。

初めに抱いた感情は度し難い怒りだった。

次第に彼への興味は増幅し耐え難いものとなり、私は彼を追いかけて殺人ギルドへの入団を決めた。

 

初めてのPK(プレイヤーキル)は、仲間の一人に教わった手段で行った。

しかし、感じるものは何もなく不快感さえ感じた。

 

自分に殺しは向いてないと、次を最後と定めると不思議と手段構想が捗り、胸に空いた穴を埋めてくれる気がした。

 

快感だった。

 

私の描いたシナリオは何と美しいんだ。

時折足掻き発生するイレギュラーに対処する至福。

散り際の瞳のなんたる美しさ。

誰かも私を称賛してくれている。

何と甘い囁きだろうか。

 

 

 

捕縛され牢獄の地べたを這った時、私は悟った。

これは私のシナリオではない。

私を上回る存在によるシナリオだと。

そして、エンディングは容易に想像できた。

 

このゲームは、いずれクリアされる…と。

 

ならば、証明しなくてはならない。

 

独房は個室になっており、時折やってくる看守を除けば邪魔をされる心配もない。

私は生還後、このシナリオを自身の世界によって上書きする事を決意した。

 

思考に明け暮れていると、独房の天井に穴が開いていた。

初めは幻覚の類いを疑ったが、しばらくすると瀕死の男が落ちてきた。

男は私の元へと這いつくばり、藁をもすがる様に腕にしがみつきながら訴えた。

 

「お前の予想通り、このゲームはクリアされる」

 

私にしか知り得ない情報に、私にしか持ち得ない声質。

その容姿は先程まで私が構想していた殺戮者。

気が狂った訳ではないが、無視をする理由も無くなった。

 

「せ、生還後…ラフコフや精神異常者には、監視がつく。そして…お前の殺戮は…総務省菊岡の派遣した黒の剣士によって失敗に、終わる!……」

 

一息に言い切ると、男は苦しそうに地に伏せ呼吸を整え始めた。

 

そうすると、穴からは後を追う様に猫の姿を模した妖魔が現れた。

暗がりに視界がボヤけ、初めは半信半疑だったが近づくにつれ確信へと変わった。

その猫は、私の勤めている会社のゲーム内歴代キャラクターそのものだった。

 

その猫は男の元へと辿り着くと、心配そうに背中を撫で瞳を潤ませていた。

 

「生還後SOGAはVRMMORPGを作る…全ては信じ難いが、これがその証明だ…このエネミーは、生きてい…」

 

気絶する様に男は崩れ、エネミーは涙を流しながら男を穴へと誘った。

その去り際に、目が合った。

 

楽しげに、笑いを必死に堪える瀕死の振りをした男と。

 

男は声を発さず口元で一言訴えた。

 

 

こ、の、ね、こ、を、こ、ろ、せ

 

 

穴が塞がり、全てを聞くと計画していた殺戮のピースは埋まった。

そして私は悟った。

私のシナリオは、まだ敗北した訳ではないと。

 

信じ難いが、やるべき事が変わる訳でもない。

監視がつくのも妥当だろう。

計画の最中、確証が得られればプランを変えればいい。

私はその不可思議を利用する事にし、現実世界生還後を見据え先手をうった。

 

独房の看守は頻繁に私の様子を見に訪れた。

その中でも一際頻繁に顔を出すプレイヤーに私は目をつけた。

 

プレイヤー名「ムサシ」という女性。

私は彼女を生還後の身代わり人形にすると決め、常人に成りすまし近づいた。

 

日常会話など、彼女好みの性格に成り済ますと、気がつけば頻繁に顔を出す様になった。

それから「SAO」クリアまでの数ヶ月、私は気がつかれない様に洗脳をかけ続けた。

 

脳に五感に、現実世界へ生還しても解けないほどにキツく念入りに染み込ませた。

 

生還後、私の欠員を人形は期待通りに埋めてくれた。

私の元にも聴取の役員が現れたが、怖がった振りで適当な嘘を並べたらその内に姿を見せなくなった。

 

世界ごと消滅してしまっては、まさに「死人に口なし」であった。

 

第一段階は成功し、私は監視の免罪符を手に入れた。

 

 

精力的を装い、リハビリを早々に済ませた私は自身のSAO生還者としての経験、それまで積み上げたキャリアを売りに進行していたプロジェクト「PSOP」プロデューサーの座を勝ち取った。

 

第二段階として、私は棺桶を手に入れた。

 

 

サービスが安定し始めると、各アカウントから個人情報を根こそぎかき集めた。

この世界を捨て棺桶の死神になる事を決めた私にとって、捕まった後の事などどうでも良かった。

 

 

同時に役者を揃えるべく行動を開始した。

「総務省菊岡」という男の足取りは掴めなかったが、現れる事を聞かされている私にとってはどうでも良かった。

「SAOイベント」の噂を広めると、ご丁寧にも向こうから挨拶に現れた。

姿を晒せば、追跡は容易だった。

 

黒の剣士もろとも派遣依頼の瞬間を抑え釣り上げる予定であったが、イレギュラーが起きた。

 

黒の剣士は別の事件を依頼された。

聞いた話と違うが、来ないのであれば好都合。

そして、この映像は予告ムービーには使わない事にした。

他人の殺しに水を差すのは、私の美学に反する行為であるのと同時に、私のシナリオに他人の殺しが入る余地は無い。

 

第三段階で役者を揃えた。

 

 

派遣される少女からは、黒の剣士の様な危機感を一切感じなかった。

戦意を彼女は持ち合わせていないと、SAOでの殺しの経験が訴えた。

役者としては文不相応だが、それはそれで良しとした。

 

 

第四段階として、用済みな身代わり人形の廃棄計画に取り掛かった。

 

獄中の日常会話から、彼女の所在地を洗い出し近辺の保護施設で「poN」さんに会いたいと訪ねて周ると僅かながら面会が許された。

 

「君はどう足掻いてもアインクラッドに戻る事は出来ない。でもね、もし君がアインクラッドで無くてもいいのなら……新たな殺戮の舞台を提供しよう。準備が出来次第迎えにくるよ」

 

 

彼女が乗らないはずがない。

何故なら彼女はpoNなのだから。

彼女を役者として廃棄する事は決まっていたから、予告ムービーは適当に作ったものを流した。

 

重要なのは、ラフコフとpoN。

それさえチラつかせれば良かった。

 

 

 

後はイベント当日

本田玲奈「ムサシ」を誘拐

用意した社内シークレットルームに監禁

自身のPCから繋いで用意したプログラム

システム作動後に死亡したプレイヤー

ハッキング済みの住居家電製品をオーバーヒート

ショートさせ火災を起こし火炙り

同日一斉火災を起こす

 

 

この世界を捨てた私は、捕まった後の事など恐れない。

全ては早い者勝ちだ。

 

しかし、唯一の心残りがあった。

 

あのねこをころせ

 

ここまで来てようやく意味を理解した。

成就間近でシナリオを邪魔されては困る。

 

しかし、プログラム中どこを探しても見つかる事はなかった。

だから私はプレイヤーを利用する事にした。

 

「行方不明のエネミーを探せ」

 

見つかってしまえば情報を凍結させてしまえばいい。

直ぐに見つかったが、泳がせておく事にした。

 

 

プレイヤー達はどう足掻くのか。

自分の作り上げた殺戮者はどんな演出を見せるのか。

あとは、当日楽しく観覧するだけだ。

 

 

 

【シナリオ】

 

イベント開始時、開催宣言に集まったイベント参加者が集まる広場にエネミーを一斉解放し大戦争を起こす。

 

ゲーム内で死亡したプレイヤー宅の家電製品をショート、放火し火炙りにする。

 

ゲーム内復活地点ショップエリアで事件を起こす事で苦しみログアウトする姿を周知させる。

 

イベントを焦らしに焦らされたプレイヤーは、「よく出来たイベントだ」に落ち着きのめり込む。

 

イベント参加者は真実を知らずにデスゲームを心の底から楽しみながら死んでいく。

 

PSOPという世界は、笑う棺桶になる。

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでくれてありがとうごさいます!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30章「魂の広報」

 

 

殺戮の主人公に浸る男は声高々にシナリオを読み上げた。

興奮がフィナーレを迎えると、立ち尽くす一同の視線を両手を広げ全身で浴びる様にして囁く。

 

「そしてこれがその作動装置だ」

 

目の前に展開したコンソールを自慢げに披露する。

愛おしく撫でられると電子色は一度警報を鳴らしその姿を粉々に砕いて見せた。

 

「これより先、ゲーム内で死亡する事があれば自動的にシステムは作動する。これはもう私ですら止める事は出来ない」

 

コンソールを開き、ログアウトを待機する二人に制止を促す様に殺戮の音色は告げる。

 

「今更足掻いたところで焦らされたプレイヤー達が君達の言葉を信じるのかな。この世界で私を殺す事は不可能!邪魔臭い猫も消え去った!君達は惨状を見守ることしか許されない」

 

 

返事など不要と、押し黙る四人の真ん中をに堂々と凱旋パレードでもするが如く歩む。

 

「今日限り神になれればそれで事足りる。これより私はデスゲームを宣言してくるよ。今殺してくれて構わないよ、寧ろ近道だ」

 

ゆっくりと一歩一歩を大袈裟に踏み締め去って行く主催者を一同はただ見てるだけしか出来なかった。

 

人が死ぬ

 

覚悟を持って挑んだ結果が、目の前で嘲笑しながら去って行く。

 

足が動かない

 

手のひらで踊らされていただけに過ぎない。

これじゃSAOでの二年間と結局何も変わらない。

テレポーターから主催者が消えると、聞き覚えのある声が空間に木霊した。

 

「ニャウのせいニャウ…」

 

「!?」

 

見回すがそこに声の主は存在しない。

それでもと、微かな希望を胸に一同は猫の石像へと走る。

ニャウという膨大な情報量は、未だ凍結を踏ん張りその額には微かな光を帯びていた。

 

「最期にみんなを連れて行くつもりで信じてずっと見てたニャウ。けど、あの人を見て思い出したニャウ」

 

微かな光はゆらゆらと輝きを小さくしていく。

 

「昔、僕は死んじゃいそうなあの人の最後の願いを聞いてあげたニャウ」

 

 

 

 

 

ーーーーーザシュ

 

「ログアウトした先で総務省菊岡がお前を待っている」

 

黒尽くめは背中に刀を帯刀すると、地に伏せる殺戮者に背を向け歩き出す。

 

「お、のれ…あと少しで…」

 

地面を鷲掴みする様に伏せる指は、憂さ晴らしを求め土塊を掴んで離さない。

そうしてるうちに膨れ上がる敗北感は徐々に重さを増し、踏ん張っていた腕をへし折り、全身から魂が抜けた様な倦怠感に襲われた。

 

そうしていると、頭上から声が聞こえた。

 

「どうしたニャウ?痛そうニャウ」

 

見上げると、そこには見覚えのあるエネミーが見下ろしていた。

瀕死を気遣う会話や表情、その姿は自身も携わったプログラムの範囲を明らかに逸脱していた。

 

「あり得ない…」

 

しかし、これが事実であるならばどうだろうか。

 

「私は…これから死んでしまう。最期に、おじさんの友人の元へと連れて行ってくれないかい?」

 

少しばかり悩む素振りを見せたが、大袈裟に咳き込む振りを見せつけると猫は私を誘った。

 

超越を成す風景を見て、確信に変わった。

この不可思議は何があっても過去の私に信じてもらわねばならない。

 

 

 

 

「あの人を見た時、僕のせいってわかったニャウ…」

 

額の輝きは陰りつつある。

一同に残された時間は僅か、打開策に思考を巡らせるが無情にも迫る時間は精神を擦り削る。

 

「いや、まだ…いけるかもしれない」

 

小さな鋼鉄は何を閃いたのか、徐々に声のボリュームを上げ皆を見つめる。

何かなくとも、もうそれに賭ける以外に道はない。

 

「…聞かせてもらおうか」

 

「ああ、あの快楽殺戮者の演説を聞いてたら一つ閃いた!」

 

微かに歓声が聞こえる。

もう時間は残されていない。

 

「目には目を、ニャウにはニャウをだ!」

 

それだけ言うと、「you」はニャウへ祈る様に確認を取る。

 

「ニャウ…飛ばせるか?」

 

「……今回だけ特別ニャウ」

 

石像の額は輝きを放ち、最期の力を振り絞る。

 

 

「秋雨を、全ての始まり…SAOクリア前まで飛ばせ!そんで、あのヘンテコ侍を救い出せ!」

 

 

額の輝きは宙を舞い、四人を覆い尽くすと砕け散り降り注ぐ様に煌めいた。

 

「you」を除く三人の身体は輝く粒子に分解され、風に乗って飛んで行く。

 

「えっ、これって私達どうなっちゃうの?」

 

「正直なところ、俺もわからん。二人は恐らくオマケであっちに戻れるんじゃねーかな」

 

 

猫の石像に目をやると、輝きを失い冷たく佇んでいる。

 

 

「ニャウのみぞ知るだが…行き先不明の片道通行になるかもだ」

 

三人は互いに見合う。

視線は次を見据えると訴える。

 

「私たちはそれでいい、残された〈you〉はどうするのよ」

 

「適材適所だと思うね。俺はSAOにもPSOにも何の関わりも持たない。異物が入るとどうなるか、シャオに教えて貰ったし」

 

三名は自分達がどこに飛ばされるのかわからない。

しかし、あれだけ振り回してくれたニャウならやってくれるんではなかろうか。

そこに恐怖はなく、これから己がやるべき事に頭を切り替えていた。

 

そうする間にも、半身は溶けその時は近づく。

 

四人は向き合い、手短に最期の別れを告げた。

 

「それに、俺にはまだやらなきゃいけない事が残ってる」

 

「…私にも、SAOでやらなきゃいけない事がある」

 

「…俺たちはお前らを信じて待つ」

 

「まあ、改変されるまでは凌いでみせよう」

 

 

ーーーまた会おう

 

 

 

光の粒子が風に溶けるまで、「you」は立ち尽くしていた。

最期の粒子がチラチラと左右にブレる様は、手を振っている様にも見えて瞳が潤んだ。

 

もう動く事の無い猫の石像をそっと撫でる。

 

 

「お疲れ様、俺も負けてられないよな」

 

 

皆に続く様に、小さなキャストも歩き出す。

テレポーターを最短で乗り継ぎ、一分も経たないうちに目的の場所へと辿り着いた。

 

ショップエリアに集う観衆の最後尾。

見据える先は最前列で今まさに開会の挨拶を始めようとしている。

 

呼吸を一つ整えると、喝采に沸くプレイヤーの群れに大声を張り上げ割って入る。

 

「お集まりの皆様ぁー!!ご注目下さいませぇー!!」

 

宣言を前に静まるこの場において、空気の読めない変人の登場により「何事か」と辺りはざわつく。

 

最後尾中央から観衆に無理矢理割って入ると、この場に相応しく無い異物が入ったとでも言わんばかりに群衆の塊は中央から裂けて行く。

 

小さな鋼鉄はモーゼが海を割った様に、プレイヤーの波を割って見せた。

 

ヒソヒソと耳に入る声に心が折れかける。

しかし、歩みを止めるわけにはいかない。

湿ったメインフレームは前を見据え歩みながら続ける。

 

「えー、皆様がこれから参加するイベントのー!1番槍をぉー!僭越ながら勤めさせていただきまーーす!」

 

ざわつきは徐々に罵声へと変わりつつある。

 

「初めましてぇー、俺のリアルネームは安藤優!世田谷区○〜△在住のソロプレイヤー!このイベントを荒らしに来た!てめぇら、滅茶苦茶にしてやるから覚悟しろよ!」

 

 

一瞬、何のことやらと観衆の上空に疑問符が浮かんだが、言葉の意味を理解すると罵声は波を打つ様に広がり、大波となって降り注いだ。

 

ふざけんな、特定厨はよ!など罵声まみれのトンネルを抜けると、最前列の小高い足場を睨みつけ対峙する。

 

「よー、さっきぶり!俺が死ねば真っ先に特定厨が現実世界の異変を知らせてくれる筈だぜ。まさに大スクープだろうな。あんたが楽しむ暇なく、ここは直ぐに大混乱ってわけだ」

 

「今更何をしに来た…ご退散願おうか」

 

「現在俺は人生初のパーティプレイの真っ最中でね。この観衆の中、俺はお前が無視しようがお構いなくお前を殺し続ける」

 

「狂ったか、失せろ」

 

「どうせお前は死なないだろうが、お前は俺を殺さずにはいられなくなる。お前が俺を殺さずとも、イベントを荒らされたこいつらが俺をタダで返してくれる筈もねぇ。」

 

 

これで俺はおしまいだ。

あとは任せたからな。

 

 

「どの道俺は真っ先に死ぬんだよ!いいのかぁ?俺はこのままじゃお前以外に殺されちまうぞーwww」

 

「此の期に及んで、余計な真似を!!!」

 

 

折角仲良くなれたのに、ごめんな

一人でも多く助かってくれよな

 

 

「もうソロプレイは辞めたんだ……俺だけ楽なんて出来るかよぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

「楽には殺さん、消し炭にしてくれるわ!!!」

 

 

武器を手に勢い良く襲いかかる「you」の姿に罵声は歓声へと変わる。

 

「安藤優」決死の自爆特攻による、命を犠牲にした広報活動が幕を開けた。

 

しばらくすると、小さな鉄腕は中指を立て悪戯に笑いながら散った。

 

 




ニャウと「you」が死亡しました。
託された者へと主人公が入れ替わります。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31章「Re:始まりの街」

 

 

手が暖かい気がする

 

 

 

薄っすらと目を開くと、見知らぬ女性が手を握っていた。

 

ここはどこだろうか。

古びたレンガに木製の家具。

 

「!?…みんな、目を覚ましたわよ!」

 

女性は皐月が意識を取り戻した事を確認すると、慌てて外へ飛び出していった。

少しすると、見覚えのない人々が皐月の伏せているベッドの元へとなだれ込んだ。

皆来ている服は立派とは言い難いもので、視界に表示される名前を見ると、自分がどこにいるのか理解した。

 

「ここ、アインクラッド?」

 

身を起こし座り込むと、集まったプレイヤー達はどこか心配に見つめその距離を縮める。

先程手を握っていた女性は駆け寄ってくると再び手を握り顔を近づける。

 

「あんた、大丈夫かい?広場で倒れてるの見つけてからずっと眠りっぱなしで」

 

アインクラッドにこの服装。

よく見てみれば今ならそれが初期装備だと理解できる。

 

「ここは、始まりの街なの?」

 

意識がはっきり戻った事を確認すると、村人達は嬉しげにベッドの周りを囲み喜ぶ。

 

 

ああ、守ってくれてたんだ

 

 

「まあ、喜ぶのはまだ早いけどよお。とりあえず意識戻ったのは良かったぜー」

 

歓談する人々のレベル表記は殆どが一桁。

しかし、この場にいるものに不安の色はなく手を取り合って暮らしている事が伺えた。

 

「そうだ!今ってゲーム開始からどれ位経つかわかる?」

 

村人は飛び起きる様に身体を起こし準備運動を始める皐月に驚きを見せたが、明るく振る舞う彼女に安堵し応えた。

 

「あ、ああ。詳しくは知らねーなあ」

 

お前どうよと、村人は顔を見合わせるが首を振るばかりで確証が得られそうもない。

 

「そっか、ありがと。私行かなきゃ」

 

「行かなきゃって…どこにだよ」

 

「アインクラッドで一番大きな牢獄がある場所、知ってる人いませんか?」

 

牢獄という言葉に皆驚愕したのか、身を乗り出す様にして制止を促す。

 

「危険だ、最近ラフコフの連中が捕縛されたばっかだってのに!命知らずにも程があるぞ嬢ちゃん!」

 

先程までとは一変し、恐怖を浮かべた村人達の壁は暑く皐月の進行を阻んだ。

 

「もう大丈夫なのかい?」

 

先程の女性はじっと静かに見つめている。

皐月が一度頷くと、ゆっくり歩み寄り両肩を抱き寄せる様に包み込んだ。

 

「守ってくれてありがとね、私行かなきゃ」

 

「気をつけて行くんだよ、何かあったら帰って来なさい」

 

数秒の抱擁を終えると、女性は逞しさを取り戻しうろたえる村人達に喝を入れた。

 

「ほら、あんた達!」

 

仕方がないとまだ不満げだが、数人は一度姿を消すと地図と細身な一振りを手にし再び現れた。

 

「ほんとに行くのかよ嬢ちゃん。終わったらすぐ戻って来いよ。主街区までは送ってやれるけど」

 

それを見つめる村人達の顔色はまだ優れない。

生還するまでの空白の二年間は、こんなにも暖かいものであったのか。

それを思うと、尚更進まなくてはならない。

 

「おい!いきなりどうしたよ!」

 

深々とお辞儀をし出した皐月の意図がわからず、村人達は困惑する。

数秒の後に顔を上げると、一同の視線に応える様に皐月は笑顔で感謝を述べた。

 

「守ってくれてありがとね。今度は私が誰かを守る番なの。だから…」

 

一間開け、言い切る前に村人達を確認すると、皆呆れる様に笑顔を見せた。

先程地図を持って来た代表は、手渡すと笑顔を見せ皐月の肩をガッシリと叩いた。

 

「牢獄は主街区中央にある黒鉄宮(こくてつきゅう)にある。すぐに帰ってこいよ」

 

すると、皆は手持ちの装備から回復薬やら投擲アイテムやら想い想いを皐月に手渡し密集した。

 

一頻り落ち着くと、近隣住人はみな掘っ建て小屋の前に集まっていた。

出発を送り出す表情はみな知らぬ顔の筈なのに、何年も慣れ親しんだ友人の様な気持ちを感じた。

 

 

「行ってきます」

 

手を振る恩人達に見守られ、皐月は牢獄のある主街区「黒鉄宮」へと数年越しの一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




捕縛エリア黒鉄宮で大丈夫だよね?
書いてなかったから想像で決めました。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32章「異なる黒」

 

 

黒鉄宮までの道のりは然程の時間を要さなかった。

道中行き交うプレイヤーを見てみると、装備やレベルは疎らなもので、分け隔てなく訪れている事が伺えた。

 

主街区中央にそびえる黒鉄宮へと近づくにつれ人の気配は薄れ、門の前まで辿り着く頃には不思議な緊張感が辺りを包み込んでいた。

 

「無理だ、中に通すことはできん!」

 

「どうして、お願い…少しだけでいいから」

 

門番の意志は非常に固く閉ざされており、会話を取り付ける事すらもままならなかった。

 

「無理だ、ここにはそれだけの悪人が収監されている!素性も知らぬ君を通すわけにはいかない!」

 

ラフィンコフィンを代表とする犯罪者達が収監されるこの宮殿はセキュリティが非常に高く、関係のあるプレイヤーでさえ中に入るのは難しい状況だった。

 

「そもそも、なんだ?お前まだレベル1じゃねぇか!そんなお前がどうして今更この牢獄に用がある?怪しすぎるんだよ、お前!!」

 

「いたっ…」

 

門番に軽く押された程度でこの有り様、甘かった。

命を懸けて戦う者達が、その命を犠牲にしてまで捕縛した殺戮者達がここには収監されている。

 

デスゲームから…「死」から目を背け続け何もしなかった不甲斐ない自分程度に面会が許される筈など無かった。

 

倒れた身体を起こし、踏み出さねばならない。

今の皐月は止まることを許さない。

ここで止まってしまったら、この「SAO」というデスゲームで生き残れても、いずれ訪れる新たなデスゲームを止める事が出来ない。

 

何より、あそこで命を懸けて戦った者達がいた。

 

「私だけ逃げるなんて…諦めるなんて……今の私は絶対に許さない」

 

 

無策に費やす時間などあってはならない。

皐月は考えることをやめ主街区へと走り出す。

 

「誰か、…だれかっ!」

 

肩で息を切らしながら、プレイヤーの密集する一画を我武者羅に、当てずっぽうに走りまわる。

 

「誰かっ!話だけでいいので、聞いてくれませんか!」

 

菊岡から聞かされた話によると、捕縛された数ヶ月後にこのゲームはクリアされる。

迫るタイムリミットに唸る心臓がうるさい。

始まりの街のみんなは黒鉄宮を恐れていた事から、頼るわけにはいかない。

 

周囲の人々は目をそらすばかり。

「レベル1」のプレイヤーが必死になるその姿はどこか不気味で、皆一様に居留守をしていた。

 

走り疲れ、叫び疲れ。

それでも時間は待ってなどくれやしない。

これといった打開策も無く迫る恐怖は身体の節々を痛めつけ、皐月はついに足を砕かれつまずいた。

周囲の視線は追い討ちをかける様に皐月の首へと襲い掛かり、ついには頷きヘタレ混んでしまった。

 

そうしてみると、無理矢理に蓋を閉じ押さえつけていた弱音が一斉に口から漏れ出し、えずく様に呟いた。

 

 

「誰かぁ…助けてよぉ…」

 

「わかった、助けるよ」

 

 

頭上から中性的な声がした。

 

恐る恐る見上げてみると、黒い髪の男の子。

覇気を仄かに放つ黒のレザーコートに同色のシャツとズボン。

その背には、「彼が世界最強だ」と言わんばかりに主への忠誠心を放つ二本の剣。

 

「立てるか?」

 

差し伸ばされた手は優しく暖かい筈なのに、哀愁や悲しみなどそれとは正反対のものも微かに感じた。

 

その手は、皐月が長年思い描いていた様な甘いものでは無く、歴戦を戦い抜いた剣士のものであった。

 

彼が何者であるか、言わずも悟った。

 

「あなたは…」

 

「俺はキリト、よければ力になるよ」

 

 

優しくも頼もしい美声に導かれる様に、皐月は差し伸ばされた手をとった。

 

 

 

 




キリト君どうしても出したかったんだ!!!
口調とかは読んだイメージです。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33章「次、目が覚めたなら」

 

 

黒鉄宮へと向かう間、皐月は自分の過ちを悔いていた。

 

攻略組の彼がこの牢獄に何を思うかなど、この世界の住人ならば皆知っている筈。

しかし彼は皐月の事を数秒観察すると、表情を変えず引き受ける事を決断した。

 

少しだけ前を歩く彼の背中に、皐月は後悔と謝罪で胸をいっぱいにした。

 

今しか謝る機会はない。

しかし、その事実を自分が知っているのは可笑しい事だろう。

 

「あの…」

 

呼び掛けに応じ振り向く彼は気を遣ってくれているのか、小さく笑顔を覗かせる。

自分の弱さをこの世界に閉じ込めるくらいならと、駄目元を覚悟し告げる。

 

「外に戻れたら…私、貴方に謝りたい事があります」

 

彼は少しだけ戸惑いを見せたが、のちに微笑み前を見据えた。

 

そうしていると、目的地の黒鉄宮にはあっという間に到着していた。

 

 

 

「中に入れてくれないか」

 

門番と彼は言葉を交わさなかった。

視線はどこか悲しげで、それでいて真っ直ぐ。

数秒ほどそうしていると、門番は無言で扉を開いてくれた。

 

中に入り少し進むと、目的地である牢獄エリアは直ぐに辿り着くことができた。

 

「ここまででいいの、もう大丈夫」

 

彼は少し不審がったが、すぐに皐月の意志を尊重した。

 

「悪さしたい訳じゃないの。看守のムサシって子に会いに来ただけなの」

 

「そっか…じゃあ俺はここで」

 

ここからは自分で成さねばならない。

ましてや、彼にはこれから成さねばならない事があることを皐月は知っている。

 

皐月は、少しずつ遠ざかる背中に戦う事を再び誓った。

 

通路を歩いていると、直ぐに見覚えのある顔の少女とすれ違った。

すれ違い間際に発せられた一言により、皐月の一世一代の大勝負が幕を開けた。

 

「初めまして、本田玲奈さん」

 

「んなっ!?」

 

勢いよく振り返る少女は驚愕し、口を開けて固まり少しばかりの時が費える。

 

「なぜ知っておる!何者だ貴様ー!!」

 

その反応は、想像していたものとは全くかけ離れていた。

自分の個人情報が割れているのにも関わらず、彼女はまるで遊んでいるかの様に楽しげに見えた。

 

「えーと、…驚かないの?」

 

「よくわからんがー……バレてしまっては仕方がない!拙者も武士の端くれ、潔く負けを認めよう」

 

よくわからない設定を自分に課しているのか、口調はわかりずらいが話は聞いて貰えそうな雰囲気に少しだけで胸を撫で下ろした。

 

「それでー、貴女は拙者を脅迫しにでも来たのかな?」

 

彼女以外にこの言葉を言われれば、緊張感は増大し冷や汗をかいたことだろう。

しかし、彼女の人柄なのか、はたまた牢獄が寂しいのか。

ワクワクと返事を待つ表情からは隠しきれず、にやけた八重歯が顔を覗かせていた。

 

「脅迫って、でも……その通り!私は貴女を脅迫しに来たのだ!」

 

よくよく考えれば、彼女は敵ではない。

彼女の下手くそなポーカーフェイスを見ていると、張り詰めていた自分が馬鹿馬鹿しく思え、ごっこ遊びを演じる雰囲気に合わせ自らもそう名乗ることで親交を深める事にした。

 

「私の名前は橘皐月、ここではない世界……あるいは未来からやって来たのだ!」

 

「わお、未来人!?そんなんまで現れるなんてこのデスゲーム滅茶苦茶だー」

 

 

ふざけているのか、演じているのか。

この姿を見ていると、そんな事すら悩むのが無駄だと思える。

 

小一時間談笑を続けた結果、彼女の人柄を疑う事を辞め、自らも真実を語る事にした。

 

「ムサシちゃん、私がこれから話すことは全て真実なの。聞いて貰えるかな」

 

彼女の瞳に訴える事でしか、あるいはそれでも信じて貰える可能性はゼロに近いだろう。

皐月は、これまで体験した精一杯の全てを玲奈の瞳に送った。

 

「……玲奈でいいよ、皐月ちゃん!武士は友を疑ったりしないのである」

 

ふざけているのか、ちゃんと言葉の重要性を理解出来ているのだろうか。

真っ直ぐ過ぎる彼女の瞳は毒だ。

皐月は疑心と良心を目まぐるしく彷徨い、結局信じてくれた彼女に自分も応える事にした。

 

…………………

 

「ってことは、この世界クリアされるんだ!やったぜ!」

 

「うん、でもその数年後に現実世界で新しいデスゲームが始まるの。その事件の鍵として、玲奈は利用されちゃうの」

 

ここに辿り着くまでの皐月が体験した世界、これから起こりうる未来の話を玲奈はどこか楽しげに、目を輝かせて聞き入った。

 

「あちゃ、拙者とした事が何たる失態。〈poN〉の野郎ぉー、あっちにいるけど処す?」

 

「物騒な事言わないの!それに、彼には死なれたら困るの」

 

「どうして?犯人居なくなったら万々歳、みんなハッピーエンドじゃないの?」

 

「彼が居なくなってしまうと、場合によっては〈PSOP〉というVRMMORPGは大きく変化してしまう。そうなると、消えちゃうかもしれない友達がいるの」

 

「なるほど?よくわからんけど、〈poN〉を殺さずに事件を解決しなきゃなのか」

 

「そうしたい。じゃなきゃ…あの場で戦ったみんなに申し訳が立たない。私は…彼らを消したくない」

 

皐月はしばしの沈黙を思考に費やしたが、ふと前を見ると玲奈は悪戯に八重歯を覗かせ、皐月が気がつくのを待ち構えていた。

 

「やられてばっかじゃ、拙者悔しいなー。どうせならさ、盛大に仕返ししてやらない?」

 

何を言い出すのやら。

それが出来れば誰も苦労しないし死ぬ事もない。

根拠の無いハッピーエンドを語られても納得がいかない。

 

 

「もしさ、もしもだよ!拙者が洗脳された振りをして現実世界に戻って、聞いた話の通りを演じたら」

 

「あっ!」

 

「そんでそんで…」

 

「いいかも!じゃあさ…」

 

それからソードアートオンラインがクリアされるまでの数ヶ月、二人は楽しげに念入りに未来の話を計画した。

 

 

 

 

「生きてますかー?poNさん」

 

「ああ、また来てくれたんだね」

 

頻繁に訪れる玲奈に、殺戮者は洗脳をかけ続けていた。

 

つもりであった。

 

 

ーーーじゅげむじゅげむごこうのイヤッフー!!!

 

 

玲奈は殺戮者の会話を聞く振りをして、訳のわからぬ呪文を唱えたり変な妄想に明け暮れていた。

 

玲奈は、彼の会話など一切聞いていなかった。

 

それからも念入りに出来事をまとめ上げ、二人は会話をすることで正気を保ち未来を見据えた。

 

 

「目には目を、ニャウにはニャウを…」

 

 

数ヶ月後、命を懸け戦い抜いた者達、散っていった者達により、ソードアートオンラインというデスゲームは幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 




本田玲奈って本名どこで知った問題発生。
どこかにさりげなく入れときますm(_ _)m
反撃が始まります。

読んでくれて感謝です!
また来てください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34章「未来視の成す一手」

 

殺風景な一室、四人と一匹は明日に迫る戦技大会の打ち合わせをしていた。

 

異世界をすんなりと受け入れた事は疑問であったが、語るに堕ちるということもあろう。

異世界人二人は彼女の話を聞くことで様子を伺うことにした。

 

「まず、特異点の主犯は〈poN〉ってプレイヤーじゃないの。黒幕はゲームプロデューサー〈村木〉。ムサシって名前でこのゲームにログインしてる」

 

「なぜ貴様がそれを知っている」

 

警戒されるのは初めから予想していた。

しかし、真実を話すことでしか誠意を伝えられない。

ここを間違えれば全てが台無しになりかねない。

 

秋雨こと、皐月は自分が旅した世界の話を一同に話した。

 

 

「なるほど、話の内容は理解できた。だが、もしも彼女が洗脳にかかっていたらどうするつもりだ?」

 

「ここに現れる彼女を見るまでは正直わからない。計画はそのままでいいの。でも、現れた彼女がウィンクしたら…その時は私を信じて欲しい」

 

疑心は強まる一方だが、ニャウという存在を使った自分達がそれを信じないのも可笑しな話ではある。

 

「出来すぎた話だな。貴様、知っている事を全て吐け」

 

一向に童顔の彼女の疑心は治ることはない。

どうすることで、信じて貰えるのだろうか。

 

「みんな仲良くするニャウ!〈you〉はお菓子と飲み物を用意するニャウ」

 

「んなもんねーよ!でも、まあ」

 

 

これだ

 

 

〈you〉が一頻り購入し終わるのを待つ。

しばらくすると、ルームコンソールへ向かう〈you〉を呼び止め視線を集める。

 

「待って!私が未来から来たこと、証明できる」

 

一言だけ告げると、自身のメモ書きコンソールを展開し、書き終えるとすぐに閉じた。

 

「呼び止めてごめんね、続けて」

 

「おけー!」

 

「全く貴様は、センスのかけらも…」

「あ、姉さん。赤は俺も…」

「白ニャウゥゥゥ」

「お前は床だぁぁぁ」

 

全員が着席するのを確認すると、先ほどのメモ書きを再び展開する。

 

「みて、これが証拠」

 

一同が覗きこんだメモ書きには、誰がどの色に着席するのかが事細かく記されていた。

 

 

1赤、真っ先にクラちゃん

2青、悔しげにヒート

白、喧嘩の後に燃やされる

床、youとニャウ

 

 

 

「イカサマだな!貴様はどうみる?」

 

「いや、後書きなんて不可能だ。メモ書きコンソールは可視化しなきゃ書き込めねーよ」

 

しばしの沈黙の中、皐月は更に付け加える事で誠意を示した。

 

「私は…ヒートが太陽を目指しているのを見た。〈you〉とヒートが互いにいがみ合って…仲直りしたのも知ってる。みんなを守るために、クラちゃんが少し我慢して気を張ってるのも見てきた!」

 

伝わらない

伝えなければ、あの世界の彼らは

 

「私はね、あそこで頑張ったみんなを無かった事にはしたくないの!お願い、話を聞いて」

 

頭を下げているため表情が確認できない。

静まる室内に秋雨の心拍数は騒ぎ出す。

 

「はぁ、見てられんぞ。ヒー坊!」

 

「ああ、そもそも俺たちという存在がいるのにそれを無いものにするのは可笑しな話だ。だが、確証も無しに良しとする訳にはいかなかった。許して欲しい」

 

「そんなことより、僕は石になりたくないニャウ!何とかして欲しいニャウ」

 

「それって…ありがとう」

 

多数決でいえば、この地点で決定事項なのだがまだ決意表明をしていない人物が一名。

戦士達の会話についていけず、知ったかぶりをする様に「うむ」と頷いていた。

 

「俺たちの意志は固まったが、〈you〉はどうするんだ?」

 

命懸けの戦いにおいて、異議を無下に決定とする訳にはいかない。

一同の視線は、「you」の元へと注がれた。

 

「よ、よくわからんが俺もそれで良いと思うぞ!」

 

決定ニャウーと飛び跳ねる猫を他所に、一同は「やれやれ」と親しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




pso2を知ったきっかけはバナー広告で、始めたきっかけはYouTubeで観たDFムラキでした。
バナーもムラキさんも作品にお借りしました。

読んでくれて感謝です!
また来てください!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第35章「没ネタ」

 

衝撃は収まり、真空は空気で満たされる。

 

防御を兼ねた音速の殴り合いの余韻は鼓膜を狂わせる。

観客は体験した事のない激闘から解放され、静かに姿勢を崩した。

 

 

「〈you〉、お前そんな隠し球を持っていたのか」

 

「この一直線馬鹿!死にかけてから気がついただけだ!お前は加減ってものを知らねーのか!死ぬかと思ったわ!」

 

 

そろそろ頃合いと、合図すると両者は打ち合わせ通りフラフラと左右を掻き白旗を振る。

 

 

「降参する〉

〈参りましたあー」

 

 

「ウワー」と、重なる観客の歓声は人から発せらた声だとは思えない音で会場中を埋め尽くす。

それに混じり、「貴様らやってる場合かー」と若々しくも年季を感じさせる怒鳴り声が聞こえるが二人は承知していた。

全ては打ち合わせの範疇の戦い。

 

 

 

大歓声に背中を押され、向かい合う二人はゆっくりとその距離を縮める。

四人と一匹は自然体を装うが、場になれない一匹は未経験の緊張のためか、ゴクリと静かに唾を飲み込んだ。

 

 

「〈you〉、わかっているな」

 

「ああ、こっからが本番だ」

 

 

 

「あれー、なんで殺さないのかな?」

 

 

ーーー来た

 

 

歓声と戦いの余韻に紛れ込む様に、〈you〉の背後にはいつの間にか黒いポンチョを着たプレイヤーがユラユラと立ち尽くす。

 

頭上表記、プレイヤー名「poN」

 

会場は予期せぬ乱入者に乱戦を期待し沸き上がる。

眼中に無いと、フードの隙間から怪しげに見つめる瞳と「you」は目が合った。

 

「誰だお前?部外者が口出すなよ。それとも何か?差し入れでも持って来てくれたとか?」

 

キャストの声色は鬱陶しさの中にも微かに怒りと挑発が感じられる。

乱入者は愉快にニヤケ声を漏らしつつ、フードに手をかけると徐々にその容姿があらわになる。

 

 

「〈冥土の土産〉なら持ってるけど、欲しいー?」

 

 

司会者はマイクを握り締め、一人と一匹は気がつけば姿を消していた。

じっくりと睨み合うと、その緊張感は会場に伝染し固唾を飲んで見守る。

 

 

「ああ、欲しい。食うのは俺じゃねーけどな」

 

 

小さな鉄腕が中指を立てると同時に、偽殺戮者はその場に座り込み気怠げに足を伸ばした。

 

どういう事かと、会場はざわつき始めるが御構い無しに二人も戦意を捨て座り込む。

 

 

ーーー何をしている、早く殺せ!

 

 

一向に代わり映えしないリング上に会場の空気は劣悪なものとなり、次第に罵声がちらつき始める。

一同の注目を浴び切ったのを確認すると、罵声を蹴散らす様に偽殺戮者は勢い良く立ち上がり怒号を響かせた。

 

「うるさいなー!!お前達は皆殺しだ!!今から見せしめに一人ずつ殺していく!」

 

地面を貫くが如く振り下ろされた拳は、ヴァーチャル空間を振動させ反発して逃げ出した圧力は暴風となり会場の隅まで駆け抜ける。

 

「一応言っておくが、このイベント運営に奴は関係ないぞ」

 

司会者は被害を被った事を伝える。

 

それに乗じ小さなキャストは目一杯声を張り上げ囃し立てた。

 

「プレイヤーがそれ言っちゃ駄目だろ!荒らしかよ!特定中はよ!俺とりあえずログアウトして運営呼んでくるわ!イベント間に合うかなーマジ勘弁!」

 

 

罵声が飛び交う会場の中央、キャストはコンソールを可視化する。

 

「空気よめやぁー!!」

「俺報告いってくるわ」

「痛い目見てからじゃおせーからなー!」

 

 

その光景をひときわ怒りを滲ませ睨む男は抑えきれぬ憤怒をひた隠し見据えていた。

 

 

皆殺しだと…奴ら以外に手出しなど私は命令した覚えはない!

それに、犯罪の証拠を目の前にログアウトなど…気が狂ったか!

しかし、プレイヤー総出の大惨事では警察は動かずとも運営が動く!

クソが……時間が惜しい!

 

 

徐々に会場の敵意はリングの少女の元へと集まり、畳み掛ける様に司会者は自らの特権を帰還した少女に受け渡し、マイクを片手に行使した。

 

 

「村木さん、貴方言いましたよね。早い者勝ちって」

 

 

荒らしに次ぐ荒らし。

会場は呆れてログアウトする者やコンソールを展開し外部に情報を拡散する者で溢れかえる。

 

遂に完璧主義者は我慢の限界を超え、自らのコンソールを展開し殺戮の装置を起動した。

 

「作動音はどうした…なぜ鳴らない!」

 

不測の事態に顔色を変える殺戮者であったが、こうなってしまえば邪魔で仕方の無かった猫が役に立つ。

一先ず、情報を凍結させ手中に収める事が先決。

その後すぐログアウトし原因解明すればまだ間に合う。

何よりも、猫が何か仕出かすのが一番厄介!

 

しかし、アナウンスは容赦なく襲いかかる。

 

「貴方が教えてくれたのよ。作動装置や諸々は個人端末から繋いでるって。そのお陰で捜査の目を免れたんですものね」

 

ーーー私が教えた?そんな馬鹿な話が

 

 

「辿り着いてしまえば一瞬、壊すのもね」

 

 

目まぐるしく移ろう会場の空気に戸惑う会場の中、その片隅から殺戮者は怒鳴り声を上げた。

 

「猫風情が余計な真似をぉぉぉ!!!」

 

突如怒鳴り散らしたプレイヤーに観衆の視線は集中し、付近にいたプレイヤーは彼の姿に気がつくと驚きを皆に伝染させる。

 

「ムサシって…おい、主催者来てるぞ!」

 

主催者という言葉に一同の感心は偽殺戮者から移ろいをみせる。

 

「今の貴方にはもうゲームマスターじみた能力もない。イベントの責任、取らなきゃね」

 

偽殺戮者は怒鳴り声を辞め、どさくさに紛れ気怠げに付け加えた。

 

「因みに拙者あの人に依頼されましたー」

 

直ぐに殺戮者は周囲を取り囲まれ、大波は主催者に見解を求め押し寄せる。

 

「余興にしては荒れすぎだろ!」

「もういいからイベント始めろよ!」

「一から説明しろ!」

 

ーーー私の完璧なシナリオに…

 

ーーーもう殺戮は残されていない…

 

「邪魔だぁあぁぁあ!!!」

 

周囲をデタラメに薙ぐ様に振り下ろされた妖刀は、斬撃を広範囲にまで飛ばし死体の山を築く。

 

「おい!あの武器って」

 

赤黒い刀身に吐血を思わせる不気味で奇形な斬撃。

レジェンダリーの中でも幻、都市伝説として囁かれていた一振り。

妖刀村正の刃先を地面に引きずりながら殺戮者は怒りを露わにする。

 

「貴様ら全員皆殺しにした後、猫を使い私のシナリオは再び蘇る!!!この武器はバランスを超越した性能を秘めている!貴様ら風情が太刀打ち出来るなどと思うな!」

 

軌道を乱雑にうねらせ迫る殺意はひと塊りを異なる軌道で斬り裂き突き抜ける。

その斬撃の走った後には、奇妙な切れ口に真っ二つになるプレイヤーが命を散らし仄かに光る。

 

視界が開けるとギョロギョロと彷徨う視線は一匹を探し回り瞳を血走らせる。

ビタッと吸い付いた視線はリング中央を突き刺す。

 

「よくもはばかってくれたなぁぁぁぁ」

 

一直線に飛び出した弾道は、中央に集う五人と一匹を切り裂かんと憎悪を吐き出し迫る。

 

飛び出した少女は激しく鍔迫り合いで迎え撃ち、薙いだ剣戟は煌めき憎悪を後退させる。

 

「馬鹿な、貴様風情が弾いたのか!」

 

「コンバートしたの。これで人並みには戦える」

 

「私の計画は完璧で無ければならない!間違えなどあってはならない!」

 

血走る瞳を仲間から遮る様に、少女は出で立つ。

 

「貴方は最初から全て間違えていた。人を殺すことなんて間違ってる」

 

腰に携えた一振りのグリップを握りしめ、剣技を発動するが如く邪気を払わんと身構える。

 

「貴方が知らない世界の剣技、冥土の土産に見せてあげる」

 

その行為は、別のゲームであるこの場においては、単なる真似事に過ぎない。

 

「ALO」内、名刀秋雨の使い手として人生二回分使い古した構え。

何もしなかった彼女が、唯一成し遂げた努力の剣戟。

その抜刀術には名前などない。

 

これから襲い来るであろう衝撃に殺戮者の身体は無意識に反応を見せる。

 

一瞬の強烈なまばたきを終えると、目の前にいた筈の少女の姿はなく、二つ程地面が擦れ細い煙を漂わせているのみでだった。

 

「仇はとったよ……みんな」

 

背後から聞こえる声に殺戮者は悟る。

直立の命令を無視し、徐々にズレ落ちていく視線に思いあたる節を弱々しく呟いた。

 

「私が死ぬのか…滑稽だ」

 

綺麗に斬られた断面をなぞる様に、殺戮者「村木」の上半身は真っ二つに滑り落ちた。

輝く電子の粒子に誘われ、ムサシの身体は砕け散った。

 

「…よくわからないが、やったぞぉぉぉぉぉ」

 

事情を知らない者達の歓声は好き勝手に湧き上がる。

彼らにとってはこれもゲーム内イベントの一環だったのだろうか。

これまでの惨劇も知らず、呑気にハイタッチなどして盛り上がっている。

 

 

歓声に包まれつつ、彼女は帰りを待つ者達の元へと歩みを進める。

この場所に辿り着くまでに、どれ程不安だったか。

どれだけ弱い自分を我慢したことか。

 

一歩一歩を噛み締めながら彼女はこれまでを振り返る。

その者達の元へ辿り着く頃、大粒の涙が頬を伝った。

 

「おかえり」

「おかえり」

「おかえり」

「おかえり」

「お帰りニャウ!」

 

綺麗に揃った労いの言葉に、秋雨と橘皐月は涙で溺れた視界を拭い去り応えた。

 

「ただいま」

 

 

「一先ずおつかれー!!!」

 

 

事情も知らず盛り上がる彼らに習い、五人と一匹はハイタッチした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第36章「歪んだ恋心」

 

「まだ確かめなきゃいけない事がある」

 

僅かばかりの労いを終えると、玲奈はいつものオフザケを捨て真剣な眼差しを送る。

 

「といっても、拙者このゲームの復活地点がどこかわからぬしまいで」

 

「あはは」と自身の後頭部を撫でまわしたのち、頼み事をする様に両手を合わせ訴える。

 

「いこっか、玲奈」

 

「かたじけない」

 

目的地は復活地点に設定されているショップエリア。

その道中、半端強引に繋がれた両手が離れる事はなかった。

 

目的地に到着すると、魂の抜けた男は仰向けに寝転び只々平和な空間の上空を見つめていた。

 

「貴方に一つ聞きたい事がある」

 

「全て知っているのだろう…私に応えられる事など何もあるまい」

 

「看守は私一人じゃなかった筈。なんで私を選んだの」

 

「操り人形を選ぶのに理由などあるまい…たまたまだ」

 

「私は!その気まぐれに選ばれたせいで…人を殺すかもしれなかったの!」

 

涙ぐみ怒りを露わに震える彼女をみて、腑抜けた村木の身体に一つの感情が憑依する。

 

「……楽しかったのだよ」

 

「楽しいって…そんな言葉じゃ何もわからない!!」

 

「君と話すのが、楽しく感じた」

 

 

「君を洗脳の標的に選ぶまでは偶然だった。

日番で代わる看守全員に洗脳をかけることも、私には可能だった。

だが、君と会話を続けていくうちに得体の知れない何かに苦しむ様になった。

しばらくすると、私は君と会話をする洗脳の時間を〈楽しい〉と感じている事に気がついた。

 

私は事件を起こし、成就される事となれば間違えなく捕まる。或いは、死刑を免れないだろう。

 

操り人形にも愛着は沸く者だ。

私は、自らのシナリオのフィナーレを好いた人と共に飾りたかった。

そのシナリオに君以外の看守は邪魔以外の何者でもなかった。」

 

 

「自分の好きな人に殺しをさせて、しかも殺しちゃうなんて…どうかしてる!!」

 

 

「今の君にはわかる筈が無かろう。君は本田玲奈であって、もう〈poN〉では無いのだから」

 

 

村木は、自分の歪んだ感情が他人に理解して思えるなんて思うほどには自惚れてはいなかった。

 

ただ、自分の好いた女性が「殺戮者poN」になる事でこの感情を理解して貰えるかもしれない、分かち合いたかった。

彼女が選ばれた理由の内には、そんな如何にも「殺戮者らしい恋心」があった。

 

「ログアウトしたら、貴方を待ってる人がいる。もう逃げられないよ」

 

「その必要はない」

 

座り込んでいた身体をゆっくりと起こし、玲奈ではないどこかを見据えながら呟いた。

 

「私は、殺人を後悔する私など大嫌いだ。もうこの世界に用はない」

 

弱々しく自虐すると、音は無言で「お迎え」が来る時を待った。

 

「最後に一つ、…謝っておく」

 

今更何を言い出すのだろうか。

村木は力無く彼女を見つめる。

 

「この世界の私に限っての事だけど…ちゃんと会話しなくてごめんね」

 

 

ーーーああ、何と無く……わかっていたさ

 

 

迎えの時は突如として訪れた。

殺戮者の姿は一瞬で消え去り、それは強制的にログアウトさせられた事を皆に伝えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おはようございます、村木智史さん」

 

黒のスーツをビシッと着こなす男が、村木の現実世界への目覚めを歓迎していた。

同様のスーツを着こなす連れが二人程いるが、彼らはこの目覚めを歓迎してはくれなかった。

 

「申し遅れました。私、総務省の菊岡誠二郎と申します。宜しければ、お話お聞かせ願えませんか?」

 

「……よかろう。よくきけ」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「私の名前は村木智史などではない!!殺人ギルドラフィンコフィン所属!!poNだああああ!!!」

 

彼は奇声混じりに怒鳴り上げると、自らの舌を噛みちぎる。

すぐ様小刻みに身体は震え、白目をむいて絶命した。

 

「な、何をするんだ!救急車の手配を!!」

 

傍に控えていた内の一人は、携帯端末を操作し出し会話を始める。

 

「くそ、脈が止まってる」

 

持っていたハンカチで傷口を押さえるが血は止まらない。

 

その後、病院から手術の灯りが消えるまで菊岡は人命救助を果たし続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第37章「また会えたなら」

 

 

「消えた!?逃げられちゃう!!」

 

「ううん、その心配はないよ。こんな変なタイミングで、それも強制的に外部からログアウトさせられる人物なんて早々いない」

 

「というと?」

 

「向こうの事は、私の依頼主が解決してくれる筈。犯行は見ていなくても逃げ出す素振りを見せればまず捕まるからね」

 

よくわからないと、未だに疑問が残る表情ではあったが、彼女の上司なのだからと玲奈は疑問を噛み砕いて飲み込んだ。

 

 

「あれ?ってことは?」

 

疑問を携え硬かった表情は徐々に緩み、求め続けた答えが発せらるその時を待ち構える。

 

「うん、全部終わった。みんな、お疲れ様!」

 

「これにて一件落着ニャウー!!!」

 

目の前に強引に飛び混んできた猫を抱き抱え、彼女らも事件解決を噛み締める。

 

「者共ぉー、あの猫に続けぇー!」

 

「ちょっと、あぶな!」

 

クラリスクレイスの号令を皮切りに、見守っていた戦友たちも後に続き輪の中に飛び込んだ。

 

「やったなヒー坊、こりゃ帰ったら出世だぞ」

「え?六芒が出世って、俺管理者とかやらされても絶対に無理ですよ!」

「言葉の綾ってやつだ。帰ったらヒー坊はその辺を学ばねばな」

「やったね玲奈!よかったら帰っても仲良くして欲しいな」

「勿論だよ皐月ちゃ…皐月殿にはご鞭撻のほどを〜」

「やったニャウ、ヒーローニャウ!シャオに自慢するニャウ」

「馬鹿か、まるごしは帰ったら説教だろうな」

 

揉みくちゃになり団子状態の中、皆がそれぞれ違う言葉を好き勝手に発してるせいか、中にいる者達もよく聞き取れない状態であった。

これまでの長い戦いを思えば、この光景はごく自然なものだろう。

 

この光景は、彼らだけのものではなく「ここに辿り着けなかった彼ら」の物でもある。

 

ショップエリアという目立つ場所ではあるが、立ち止まり見ようなどと思うものはおらず、通行人は皆通りすがる。

この光景を足を止めて見ている者がいるとすれば、それはきっと欠席している彼らだけだろう。

 

もう時期訪れる別れの時間まで、彼らは気がすむまで騒ぎ倒した。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「さて、そろそろだな」

 

ヒートの言葉に、皆は別れの時を自覚し様々な表情を浮かべる。

 

「ヒー坊が迷子にならないように、私も帰るとするかな」

そんなに信用ないですか、と驚く彼が可笑しくてその場の者は笑顔を取り戻す。

 

「ニャウはまだ、この世界でやるべき事があるニャウ…」

まだ帰りたくないのか、格好つけ駄々を捏ねる猫を飼ってなだめると、そのときは訪れた。

 

「世話になった」

 

戦友達は円を作り向き合う。

ヒートが握手を求めると、皆が一斉に応じた為か絆の円の中には六本の線が生まれた。

 

ここに辿り着けなかった彼らが悪戯にその線を組み替えると、そこには綺麗な「六芒星」が出来ていた事だろう。

 

「握手求めればこうなるよな」

 

予想外の出来事に面食らう姿が可笑しく、一頻り笑い終える頃には別れの決意は固まっていた。

 

「もう、会えないんだよな」

 

「you」の投げかけた質問の答えははっきりしていたが、後を引きずるくらいならと、この場で断ち切ってもらう事を選ぶ。

 

「顔を出せば次元干渉が起きることもあり得るだろう。私たちはもうここに来る事はないだろうな」

 

ヒートに言わせるのは酷だ、とクラリスクレイスは先手を打って応えた。

 

「だがな、うちの管理者いわく私達の世界とここはかなり繋がりが深いらしい」

 

誰一人言葉を発さなかったが、それだけで胸がいっぱいだった。

 

「ニャウ、頼むぞ」

 

「ニャウゥゥゥゥ……」

 

我慢しきれず泣き出した猫は、大泣きしながらもその役目を果たす。

突如として現れる穴もこれで見納め。

 

二人は泣きじゃくる猫を抱えて時空の彼方へと帰って行った。

 

「それじゃ、私も戻るね。依頼主に全てを話さなきゃいけないし」

 

皐月の言葉はこのパーティの解散を意味していた。

「じゃあ俺も」「拙者も」と残る二人も場の空気に合わせた。

 

「私達は、また会えるよね?」

 

「会えるだろーけど、プロデューサー捕まっちまったら社会的にこのゲームおしまいでしょ。望み薄かなー」

 

「じゃあさ、もしこのゲームが終了しちゃったらの話なんだけど。このゲームの続編が出たらそこを集合場所にしない?なんかロマンチックじゃない?」

 

その手も有りだな、と残る二人も「さんせー」と仲良く声を合わせた。

頭についた「PSO」はシリーズタイトル名を表し、大手ゲーム会社SOGAの代表の一角を担うタイトルである事を意味する。

「ファンタシースター」シリーズは、終了したところでそう遠くない未来に続編を出し復活するだろう。

 

「今日の出来事話せばわかるけど、向こうで声をかける目印としてここでプレイヤーネーム決めておかない?」

 

「俺は考えるのめんどいし、〈you〉のままかな」

 

「私も、秋雨を止めるわけにはいかない」

 

「拙者は…」

 

決めた!と表情に明るみを取り戻し、玲奈は宣言した。

 

「私は、ポン。書式がなければいずれかでポン」

 

予想外の名前に二人は大袈裟に驚愕する。

本当にそれでいいの?どうしてこうなった?と困惑するが、満足気な彼女をみるとどうやらそれが良いらしい。

 

「武士にとって、その身に刻まれた傷は勲章なのだよ……メイビー」

 

ビシッと親指を立て、玲奈は満面の笑みを浮かべた。

 

再開を約束し、「VRMMORPG」チームの送別会は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 




次回、最終話です。
SAOを知ったきっかけはアニメGGO編です。


読んでくれて感謝ですm(_ _)m


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第38章「エピソード零」

 

 

「ヒーローの凱旋ニャウー!!!」

「なんだ、もう到着したのか?」

「いきなり開けるな」

 

ニャウ以外の二人は虚空に開かれた円形の空間から受け身もなしに飛び出したら。

 

「君たち、無事で良かったけど、随分と派手な帰還だね」

 

落下した場所で最初に目に入ったのは、360°をグルッと一周を文字で埋め尽くす大画面。

その大画面の真下に設置された椅子に腰掛け驚愕する少年。

どうやら、ここは艦橋にあるコントロールルームのようだ。

 

「貴様…」

 

静かに怒りを滲み出すクラリスクレイスに目もくれず、ニャウは目の前の少年、管理者シャオの元へと走り出す。

 

「僕のお願いを聞いて欲しいニャウ!」

 

順序が違うだろうと、ヒートはニャウを抱き抱え皐月から聞かされた「事の顛末」に自らの体験談を交え管理者に説明した。

 

 

 

「なるほど、結果的にニャウの存在は必要不可欠だったけども、事件のきっかけも彼だったのか」

 

どう対処したものかと、しばし考え込む様子を見せる。

 

「君の対処はまた後にするとしても…」

 

「ごめんニャウ。もうしないニャウ」

 

俯く猫は処分されることを覚悟したのか、逃げ出す素振りも見せず審判の時を待った。

 

「正直危険極まりないけど…今回君がいなければ干渉を止められなかった事もまた事実だ。ありがとう、感謝する」

 

予想外の返答に一瞬だけ耳をピクリと動かす。

その言葉は彼の気を良くしたのか、すぐ様無邪気を取り戻した。

 

「シャオ、もしも特異点で起きた事件を止められなかったらこの世界はどうなっていたんだ?」

 

ヒートの質問は残る二人も同じことを疑問視していたのか、静かに管理者の回答を待った。

 

「〈you〉の睨んだ通り、特異点で死者が続出したのならこちらの世界も干渉を受けて似たような事象が起こっただろうね。因みに、どういう訳だか〈you〉のやって来た影響は未だ見られない」

 

その疑問は出発前から予想されていたことではあったが、ヒートは管理者の口から事実を聞く必要があった。

その回答は、「また会えるかな」という戦友の提案を「No」と決定づける力がある。

覚悟はしていたが、名残を消し去るためにも必要な事だった。

 

「ヒート!!」

 

艦橋の隅、テレポーターから突如姿を現した声色はいつもの勇ましさは無く、探し人を見つけ驚愕するようなものであった。

 

「師匠…」

 

言いたいことは決まっているのに言葉に詰まる。

第一声を発しようと試みるが遮るように息がつかえる。

頬を静かに伝った一滴の涙は意図しないもので、恥ずかしそうに慌てふためく。

 

「ヒートは泣き虫ニャウね」

 

不意を突かれ困惑している内に、空気の読めない猫は楽しそうにヒートの足元にちょっかいを出していた。

 

「アホか貴様は!」

 

童顔の少女は空気を一変させた無邪気さに半分感謝すると、軽めに拳骨を見舞った。

「ニャ!」っと渋い声で鳴いた猫の姿に小さな笑みを分けてもらうと、照れ臭くて躊躇った自らの信念を皆に打ち明けることを決意した。

 

「お前の言う通りだよニャウ。俺は泣き虫だが、それも今日で辞めだ」

 

その表情は、迷いを断ち切った晴れ晴れとしたものであった。

勢いのままに、六芒の「六」は高らかに向上を述べた。

 

「俺は六芒均衡の〈六〉!あの世界もこの世界も、全てのオラクルを照らし目印になる太陽になる!!」

 

そんな彼の決意表明を、一匹を除く一同は優しく見守り静かに微笑んだ。

一匹は、そんな「六」の姿を格好いいと感じたのか、彼に続いて自らも真似て向上を述べた。

 

「ヒートがそれになるなら、ニャウは〈アークス〉になるニャウ!!!」

 

突拍子も無いニャウの宣言にその場の空気は一変し、やれやれと呆れ気味にも微笑ましく見守った。

対処を決めかねていた管理者も、少しだけニャウの成長を嬉しく思うのであった。

 

「それは良い心意気だと思うけど、ちょっとばかし難しい事かな」

 

嬉しさを隠しつつ、シャオは管理者として事実を述べた。

管理者である彼の言葉の重みは「絶対」であって、それを理解しているニャウは食い下がる様に駄々を捏ねた。

 

「どうしてニャウ!ニャウは世界を救った英雄ニャウ!」

 

御褒美に聞き届けて貰えると思っていたらしく、戸惑いつつも引くわけにはいかない。

 

「この世界の僕がそれを許しても、君はあちこち飛び回るだろう?行く先々で、〈アークス〉を名乗っても信じる者は誰一人いないだろう」

 

あちこち飛び回ることについては否定出来なかったらしく、それでもニャウは諦めずに管理者を見つめる。

 

「だからこの世界の僕は、君をアークスとは認めないけど〈僕達の仲間〉である証明を君に贈ることにするよ」

 

シャオは虚空を描き、現れた電子色のコンソールをひと押しする。

すると、ニャウの目の前には「いかにも彼が好みそうな玩具の剣」が姿を構成し浮遊する。

 

なんだこれ!と目を輝かせ見つめる彼の姿を見ると、どうやら話に納得してくれたらしい。

 

「これは僕の特注品でね、簡易的に身を守る程度の力はあってもアークスを傷つけられる程の力は備わっていない。その代わり、荒っぽい君が壊してしまっても再構成するように作ってある。協力してくれてありがとう、感謝する」

 

待ちきれないとばかりに、ニャウはユラユラと宙を停滞する証明に恐る恐る手を伸ばす。

 

グリップを握ると玩具の剣は重力を取り戻し、突然の重みに慌てるが寸前で堪える。

その剣は彼専用の、それも管理者の創造した特注品なだけあり片手でも振り回せるほどにフィットしていた。

 

「今後、君の好奇心でまた同じ様な失敗が起こると困る。飛び回った先で、むやみに干渉しない事を約束出来るかな?」

 

優しい口調で問いただすと、失敗を反省した子供の様にニャウは一度だけ大きく頷いた。

 

ニャウは剣を掲げ、再び向上を述べる。

 

「全ての世界は僕がパトロールするニャウ!異変があったらすぐに知らせるニャウ!」

 

向上を述べ終えると、彼は贈呈された剣を早速使ってみたくなったらしい。

見守る一同を一瞥し、剣を頭上で二周グルングルンと振り回し挑発した。

 

「さぁー、僕と勝負するニャウ!!!」

 

 

 

その後、ニャウは時空をパトロールし飛び回り、時折寂しくなっては構って欲しくてアークス達に戦いを挑んだ。

 

この地点においては異変らしき干渉は見られなかったが、ここではないオラクルでそれは起こっていた。

 

「NPCに生命が存在しないこと」が選択された世界にヒート達が及ぼした干渉は時空を超え、のちに火を継ぐ少女らの手によって解決される事となる。

 

「プレイヤーが存在しないこと」が選択された世界において「you」というプレイヤーが入り込んでしまった影響も同じく時空を超えていた。

 

ここではないオラクル。

そこには一般アークスでありながら全宇宙の観測者に見染められた存在がいた。

素性は知れず、事件の渦中には必ずそな姿は存在し、数々の事象を正解に導き世界を救い続ける存在。

その功績を称え、いつしかその者には「守護輝士(ガーディアン)」という専用の役職が与えられた。

 

どんな理不尽も打ち破るその存在は、まさに【主人公】であった。

 

 

 

「立派な向上の後で悪いんだけど、ヒートにはその輝きを別の形で発揮して貰いたい」

 

「え、もしかして俺では力不足でしたか?」

 

「いや、ヒートの意志に均衡の立場はいずれ枷になると考えている。それに、やっぱりヒューイにはまだ現役でやってもらわなきゃならない事もある」

 

やんわりと突っ張った空気に先程まで騒いでいた者も静かに行く末を見守る。

管理者への返答として、ヒューイは視線を送り返すと腕を組み直し姿勢を正した。

 

「どんな立場であろうが俺の成すべき事は変わらん」

 

「ありがとうヒューイ。ヒート…君はどうだい?」

 

「俺も…〈六〉だからでは無く、自分自身でやると決めた事です。与えられた先、どこであっても俺の意志は変わりません」

 

「ありがとう。君にはこれから、その輝きで宇宙を守護して貰いたい。やって貰えるかな」

 

 

この世界を救ったヒートもまた、そうであったのかもしれない。

 

 

ーエピソード零ー(PSOサイド)

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

晴れ晴れとした日差しを浴びながら泳ぐ雲は、どうして眺めているだけでも気持ちが良いのだろうか。

 

登校時間よりも早く到着してしまったらしい。目を逸らし続けた過去に向き合う貯め、気を落ちつかせる為にも皐月は上空を眺めていた。

 

転入初日、皐月は18歳以下のSAOサバイバーが通う生還者学校の門前で過ちと向き合う覚悟を決める。

 

「さよなら、みんな。私、進むね!」

 

跨がれた門はゴールテープではない。

ほんのりと熱を込めた風は皐月の背中を流れ、晴れ晴れとスタートラインを駆け出した。

 

 

 

 

エンディングテーマ

http://mqube.net/play/20180616643343

 

 




まず、読んでくれてありがとうございました。
頭の中では、皐月が最後の言葉を発すると同時にエンディングスタートです。アニメごっこです。

タキサイキア拳法はアニメSAOでキリト君がスローでかわし続けるシーンを見て思いつきました。

PSOサイドはゲームのシナリオに繋がるようにしました。
世界を救うため奮闘したニャウはエネミーに愛されています。
救った先か、救われなかった世界からか。
ニャウの助けにエネミーは参上する様になりました。

悩んだ結果、ヒートを守護輝士にしました。しない方向で考えてたのですが、やっぱり〈六〉はヒューイ。
まだ頼りないヒートだから、数年後になるって方向もいいと思いました。
エピソード1〜3をヒートが主人公として達成したのち、なるのも考えました。
しかし、パーフェクト演算のシオンはシナリオ上いてもらっては困る存在でした。
この世界はシオン消滅後なので、その案もボツにしました。

他にも書きたい事まだまだありますが内に秘めておきます。

読んでくださった方、しおりお気に入りしてくれた方、たまたま通りすがりの方もみんなありがとう。

本当にありがとうございました。
またねヾ(・ω・`)



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

37.5章「長旅の戦果」

番外編になります


 

 

激動の長旅の凄まじさは一つ残らず雲を吹き飛ばし、晴れ晴れとした青一色の空が広がっていた。

 

予定よりも早く到着してしまったらしい。

待ち合わせの最中、橘皐月は上空を眺める事で暇をつぶす事にした。

 

駆け抜けた経験が未だに意識を刺激するが、兎にも角にもこの世界は平和であった。

 

都内高級店の店先、かつて彼女が依頼を受けた場所と同じ店が集合場所として選ばれていた。

 

「ピロン!……ピロン!」

 

少し感覚を開け鳴る「集合チャット」の着信音に、皐月は思考の世界から呼び戻された。

 

・「多分ついた、どこいんの?」

・「拙者も」

 

チャットの内容は簡素なものであったが、彼女達にとっては充分なものであった。

 

「おかしいな、着いたって…どこにいるのよ」

 

彼女達は「玲奈誘拐」の聴取を控え、個人間で連絡先を交換していた。

しかし、この瞬間にも「再開の約束」は生きており、それは別件として楽しみにしていた。

 

皐月は辺りを見渡すが、やはりそれらしい姿は見当たらない。

そろそろ諦めようと決断する直前、自分と同い年くらいであろう少年はギリギリで視界に滑り込んだ。

少年は遠巻きにも自分と目が合っている事から、皐月は彼がそうだと結論付けた。

距離が近づくにつれ、歩き方にぎこちなさが増す彼は見ていて少し微笑ましくも感じた。

 

「あの、秋雨さんでいらっしゃいまするでしょうか!!」

 

下手くそな敬語は、やはり彼が緊張している事を匂わせる。

それが如何にも彼らしく感じ、可笑しくなり吹き出した。

 

「っふ、はい。秋雨さんでいらっしゃいまするですよ」

 

少年は自らの人見知りが災いし恥をかいた事を自覚すると、顔を赤くし嘆き出した。

 

「治せるもんなら治してくれよぉぉぉぉぉ」

 

彼は心の叫びを留めておくことが出来ないのだろうか?

少し可哀想に思った皐月は、からかうことを止め謝罪した。

 

「からかってごめんね。何か〈you〉ってそのまんまで…可笑しくて」

 

ふふふ、と笑いを堪える少女は見たことない容姿であったが、どこか懐かしい雰囲気は「you」の緊張をほぐした。

 

「んで、俺たちは合流出来た訳だが…ポンの奴は着いてる筈だよな」

 

「その筈なんだけど、どこにも見当たらなくて」

 

もう一度注視して見渡してみると、綺麗に整えられた街の彩りに一役かう立派な樹木の木陰。

そこには、身を隠すようにこちらを覗き込んでいる人影が一つ。

 

皐月はそれが渦中の人物だと確信し、彼女の様に楽しげにスキップしながら近づいた。

木陰の正面まで到着すると、覗き込む様にはみ出した頭は勢いよく引っ込んだ。

 

「玲奈」

 

呼んでみたが無反応。

戦いで(そよ)揺れた枝が葉を擦り付け、「サァー」っと虚しい音を立てるのみであった。

 

「れいなさーん」

 

めげずに再び呼んでみる。

「プップー」とクラクションを鳴らした男の「危ねぇだろー」と激動する声が響くのみ。

 

「武士は潔い者だと思うよ…出ておいでよ」

 

三度目の正直に木陰からゆっくりと露わになる容姿。

 

「SAO」はナーヴギアを通じて脳波から全身をスキャニングし、「自分そのもの」な姿でゲーム内での生活を課せられる。

そのため、実質彼女らは初対面では無いはずなのだが、なぜ彼女はこんなにも緊張しているのだろうか。

 

「ササッ」っと木陰から飛び出すと、玲奈は無言で皐月の手を引っ張り少年と対峙していた。

 

「あの、ゆ、〈you〉さんでいらっしゃいまするでしょうか!!」

 

彼女は先程の〈you〉と全く同じ言葉を口にした。

彼女もまた、現実世界では人見知りであった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「そろそろ良い時間帯だし、中に入ろうか。依頼主だった人もう来てるから」

 

三人揃って少しばかりの時間歓談すると、互いの緊張は解れたらしく、丁度予定された集合時間が訪れていた。

 

早めに店内に入ることも出来たのだが、中に入る前にこの「人見知り」をどうにかしないとという危機感が半分あったため先延ばしにする事にしていた。

もう半分は、いわずもがなだろう。

 

上昇するエレベーターに乗っている最中に会話は無く、各々は瞬間的に様々な事を思い起こしていた。

彼女らはこの高級店に、「お気楽なパーティ」をしに来たわけではない。

このエレベーターが到着するまでに、各自覚悟を準備しておかねばならない。

 

「チィィン」と到着を知らせる鐘が鳴ると、目的地は彼女らを出迎えた。

皐月を先頭に店内を歩むと、最奥地に据えられた目立たない席に一人の男性の姿を確認すると、依頼主、菊岡誠二郎が腰を落ち着けていた。

 

「えと、どちらで呼んだらいいでしょうか?」

 

皐月は菊岡の職業が気軽に公にして良いものではない事を知っているため、戸惑いつつ確認をとった。

 

「その心配はしなくていいよ。初めまして、僕は総務省通信ネットワーク内仮想空間管理課職員、菊岡誠二郎というものなのだが…」

 

なんだけど?と菊岡が言葉を切った意味がわからず、かといってどう対応したらいいかもわからなかったので、一同は成り行きに任せ沈黙を保った。

 

「初対面で、それも仰々しい職業を名乗る大人が相手となると君たちも緊張してしまうことだろう。しかしこの肩書きはこれから行う公務においては名乗らねばならなくてね」

 

気を使ってくれた事に気がついた初対面の二人は、「いえいえ」と小刻みに首を振る素振りを見せた。

 

「僕のことは菊岡と呼んで貰って構わない。それで、僕は君たちをどっちで呼んだらいいかな?」

 

三人は見合い無言の相談をした結果、どちらでも構わないという結論に至ったことを皐月が代表して伝えた。

 

「それじゃあ、僕も名前で呼ばせて貰う事にするよ」

 

菊岡は一同の表情を注視していたが、嫌がる予兆を見せなかったため遠慮なく呼ばせて貰う事にした。

縁あり眼鏡をクイと中指で掛け直すと、菊岡は座り直し会話の準備を整えた。

 

「それじゃあ、まずは僕の持つ情報から君達に提示しよう」

 

高級店の一室、その片隅で密かにこの事件の「現実世界」と「仮想空間」の答え合わせが開始された。

 

ーーーーーーーーーー

 

「まず始めに、プロデューサー村木智史はログアウト直後自らを〈ラフィンコフィンの生き残りプレイヤーネームpoN〉と名乗ると舌を噛みちぎり絶命した」

 

「!?」

 

そんな馬鹿な、と各々違った驚愕の形を見せている。

菊岡は一人一人の表情を品定めするように見つめ、間髪を入れずに問いかける。

 

「村木には玲奈さん誘拐の容疑で話を聞くつもりだったが…玲奈さん、君を誘拐したのは彼かい?」

 

「はい、間違いありません」

 

「疑問なのだけど、君がSAO生還後に口にしたプレイヤーネームと同じなのは何故だい?」

 

痛いところをつかれたが、この人には嘘をつくだけ自分を追い詰める結果になる事だろう。

玲奈は真実を語ることにした。

 

「彼がSAO生還後に計画していた殺人を止めるためです」

 

彼女は真実は語ったが、余計な情報は語らなかった。

菊岡はそれを予想していたのか、玲奈を見据え続ける。

 

「SAO生還後の君の姿は、まさしく話に聞くレッドプレイヤーそのものだった。今は随分と落ち着いているようだね。まるで別人のようだ」

 

「SAOで彼は私を洗脳し入れ替わり生還する事を計画していました。その計画を逆手にとって殺人を止めようと考えていました」

 

「なるほど、質問を続けるよ。君はその殺人をどこで知ったんだい?」

 

「SAO内の監獄で知りました」

 

嘘はついていない

 

「それは、君も牢屋にいたということかな?」

 

「いいえ、私は看守をしていました」

 

「poNが村木だと気がついたのはいつだい?」

 

「誘拐の少し前です」

 

「PSOPはいつ始めたんだい?」

 

「誘拐された日です」

 

なるほど、と菊岡は「スーッ」と微かに息を吐き話に聞き入る少年を見つめた。

 

「〈you〉君、君はとても真っ直ぐだ。玲奈さんしか知り得ない情報にもまるで自分の事かの様に反応を見せてくれる。君は三人の中で唯一SAOサバイバーでは無い人物だ。もっと警戒しないと駄目だよ」

 

話の矛先が自分に向くとは思っていなかったのか、気を抜いていた少年は思わず息をのんだ。

 

「二人は玲奈さんの話す殺人計画を信じた。監獄内で洗脳された看守の少女を助けたと皐月からは聞いている。しかし〈you〉君、君は会ったばかりの者が話す殺人計画をどうしてそこまで信じる事が出来たんだい?」

 

菊岡の視線に威圧的なものは一切感じないが、それだけに嘘はつきたくない。

本当の事を話そうにも信じてもらえる様な事象ではない。

しかし、〈you〉の戸惑う素振りは菊岡にとっては重要な鍵となった。

そんな事も知る由もなく、〈you〉は神妙な面持ちで真実を語る事を決断した。

 

「信じてもらえるなんて思ってねーけど…嘘ついて騙すくらいなら、嘘つき呼ばわりされた方がマシだ」

 

もうそれしか説明する術は無いと二人に合図すると、小さく頷き可決される。

〈you〉は、これまで体験した全てを話した。

 

自らも体験した違う世界の事、縦軸横軸関係無しの次元超越、加えて皐月に教えて貰った話。

 

「なるほど、当日僕は誘拐犯の居場所しか聞いていないが…確かにそれだと僕に協力を取り付けるのは難しいと判断するだろう」

 

「騙すつもりはなかった…でもこんな話信じてもらえるなんて思えなかった」

 

菊岡の微動だにしなかった骨盤は背もたれに落ち着き、自身のPCを取り出すと〈決定的な証拠〉を一同に開示した。

 

「君の話は僕の持つ不可思議な証拠と一致するものがある。これを見て欲しい…これは君達だよね?」

 

その映像は、ショップエリアから村木ことムサシがログアウトした後のものだった。

 

「これって…」

 

ショップエリアに突如現れた穴と、三人が消えていく瞬間がバッチリと収められていた。

 

「自殺の動機解析のために押収したのはいいけれど、これについて私はお手上げでね。運営は重大なバグだと断定しさっそく改善に取り掛かっていたよ」

 

そう一言だけ言うと、供述が一致し過ぎている事から一時固定概念を捨て、落ち着く体制に座り直した。

 

「因みに、彼らが再びここを訪れる可能性はあるかい?」

 

「多分、もう二度と無いと思います」

 

それを聞くと、菊岡は押収したコピー映像を消去し捨て去った固定概念を元の位置に戻した。

 

「…答えてくれてありがとう。玲奈さんの精神鑑定の結果が出次第、彼女への監視も解くように話をつけよう」

 

そういうと、菊岡の目線はメニュー表へと流れ、一同の凝り固まった筋肉は解れ緩んだ。

 

「質問のお礼をさせて欲しい。なんでも好きな物を頼んで欲しい」

 

「そんじゃ遠慮なく」

 

三名が仲良くメニュー表と睨めっこを始める頃、菊岡はそれとは別件の報酬について語り出した。

 

「それと、皐月。報酬の件だが」

 

「いいんです……自分でやってみたいんです」

 

晴れ晴れとした皐月の表情には以前と異なる熱を感じ、菊岡はそれを尊重しそれ以上何も言わなかった。

 

「そうか…それじゃ、そろそろ注文は決まったかな?」

 

 

「全部!!!」

「全部!!!」

「全部!!!」

 

 

「ぜ、全部かい!?」

 

 

 

思考により脳が糖分を欲したからか、はたまた長旅の疲れに染みたのか。

 

美味しそうに味わう子供達の表情は、菊岡にとっての報酬であった。

 

四人に分配された二人分の人見知りは友情の熱に溶け、甘党達は笑顔でアイスクリームと共に平らげた。

 

 

 

 




木陰の人影がなぜ三度目の正直なのかとか、色々散りばめてみました。
一つ絶対に伝えたいのは、これは恋愛ではなく友情です。

読んでくれて感謝です!
多分これで終わりです!
またね(o^^o)ノシ


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。