デスマーチからはじまる異世界マン遊 (もっち~!)
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1章
デスマーチから始まる失恋


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眠い…

 

とても眠い…

 

完徹7日目…限界だと思います…

 

 

「どう?終わった?」

 

通称メタボ氏がやって来た。プログラマが二人も失踪って、どんだけブラックなんだ?俺はプログラマーとして入社はしていない。テスターとしての入社だ。出来上がったゲームをテストプレイして、バグや改善点を見つけ出すのが仕事なんだけど…

 

プログラムが多少できたせいで、失踪した二人の仕事が押し寄せて来た。通称後輩氏…かわいい子だったなぁ。通称佐藤さん…良き先輩だった。その二人が失踪って…ブラックすぎるでしょ?

 

「終わったはずです。2本ともテストも終わり…見落としが無ければ…」

 

俺の意識はそこまでだった…

 

--------

 

目の前に設問が浮かんでいる。

 

『最強のスキルは何?』

 

強奪だと思う…金、物、人などを奪い取る事が出来、所有権を自分に移せるから…

 

『最強の術は何?』

 

転移術…一度でも行ったことのある場所なら、どこへでも一瞬で行けるから…

 

『最強の魔法は?』

 

どこかの小説で見たウルティマウエポン…相手の弱点属性の魔法をフルバーストで撃ち込めるから…

 

『最強の武器は?』

 

これは難しい…何をもって最強とするかだが、聖剣エクスカリバーと魔剣ダークエクスカリバーの2本使いなら、大抵の敵に対処は出来ると思う…

 

『最強の防具は?』

 

矛盾ってやつだな。そうなると、総ての攻撃を透過出来るスルーアーマーかな。ソロの場合は。チーム戦だと仲間に被弾するので、フルカウンターアーマーとセットが効果的かと

 

『使い魔にするなら?』

 

まぁ、性欲を処理してくれる使い魔かな?性欲だけは、抑えきれない場合があるし…

 

『以上、設問は終わります。今後の参考にしますね♪』

 

俺はジェットコースターに乗せられたのか、一気に落下していく。ここはどこだ?口から胃袋が出そうだよ~。脳ミソが耳から流れ出しそうだよ~。

 

--------

 

ひんやりする風を感じる。床の上に寝ているようだ。7完徹はダメだって…栄養ゼリー食ばかりで、歯が退化していく気がしたもの。起き上がると、知らない場所にいた。あれ?ブラックな会社は?夜逃げしたのか?それにしては広いホールのような場所だ。食い物無いかな…

 

目覚めた場所を彷徨う。目の前に女性が寝ている。全裸だし…溜まっているんですが、そんな無防備な恰好で…いいんですか♪

 

近寄って見ると、後輩氏の面影がある女性。だけど、俺の知っている後輩氏より熟成されている年齢である。たしか大卒くらいだったはずだが、三十路前後って感じだ。

 

俺も全裸になり、肌を合わせた。彼女の肌はひんやりしていた。まるで死体…死んでいるのか…左胸に耳を当てる。耳の穴に乳首が入り、気持ちが良いが、心拍音は聞こえない。唇を重ねて見る。ここも冷たくて気持ちが良い。

 

彼女の中もひんやりしている。これって、屍姦になるのかな?まぁ、良い経験である。7完徹で俺は、どこか壊れたかもしれない。

 

-------

 

心地良い揺れが眠気を産み、うたた寝を繰り返す。遠くで誰かの声がする。

 

「…てよ…ねぇ~」

 

耳の穴に気持ちの良い物がある。人肌を感じ、眠気を誘う。

 

「後10分…」

 

仮眠室かな…後輩氏が起こしに来てくれたようだ。

 

「ねぇ、起きてよ。君は誰?ねぇ~!」

 

彼女の声が聞こえる。

 

「お願いだから…起きて…」

 

俺の舌に彼女の舌が触れた。彼女の口の中で絡み合う。俺の唾液が彼女の中へ…彼女の声は聞こえなくなった。

 

あっ!生理現象だ。目覚めの時に起きるアレ…まだ若いと実感できる現象である。

 

 

「もぅ~、ダメだよ。起きてって!」

 

彼女の声は半泣きだった。

 

「出ちゃうよ~くぅ…」

 

俺は寝ぼけている。現況にある切迫感がまるで分からない。

 

「出さないで…そこで…お願いだから…」

 

ドスン!

 

背中に衝撃を感じた。背中に、ひんやり感…床の上にいるようだ。意識が薄れていく。

 

------

 

暖かい何かで意識が覚醒していく。薄い緑色の光りに包まれていた。

 

「ゴメン…死なないで…」

 

後輩氏の声…俺…完徹7で死に直面しているのか。死ねば、安眠できるかな?

 

「あっ!意識が戻ったんだね。ねぇ、起きてよ~」

 

「後輩氏…後10分…」

 

いつものように声を捻りだす。仮眠室で寝ている俺を、よく起こしに来てくれた後輩氏。

 

「え?ボクを知っているの?その言い方は…アール先輩?」

 

あぁ、俺の名前は田中一郎である。某アニメキャラから、通称アールと呼ばれていた。

 

「後10分…仕事するから…」

 

「もう仕事はいいんだよ。そうか…ダブルでごめんなさい…」

 

俺の唇に柔らかな物が重なった。暖かな水滴が俺の顔に降ってきた。大粒の雨か?

 

-------

 

完全に目覚めた俺は、保存食をパクついていた。後輩氏に、何が起きて、ここはどこなのかを訊いた。どうも、過労死した者が転生する世界らしい。後輩氏も失踪では無く、徹夜続きの後、うたた寝したら、この世界にいたそうだ。

 

「じゃ、ここは異世界なの?」

 

頷く後輩氏。

 

「で、俺は君にケリ飛ばされて、頭をかち割って死にかけたの?」

 

物凄く申し訳無さそうに、頷く後輩氏。

 

う~ん…

 

「で、なんで、裸で寝ていたんだ?」

 

「ボクはこの世界で役目を終えて、イチロー兄ぃが来るのを待っていたんだよ。仮死状態でね」

 

イチロー兄ぃとは、俺ではなく、通称佐藤先輩のことだ。本名は鈴木一郎なんだけど、何故か、入社した時には通称佐藤さんと呼ばれていた。

 

「で、仕事はどうなったの?」

 

「後輩氏と佐藤さんの分は、バグ取り、テストプレイを終えて、メタボ氏に渡したよ…7完徹だった…」

 

「あぁ、過労死だね。それは…」

 

俺に手を合わせて拝む後輩氏。合掌されても…

 

「で、どうすればいいんだ?ここで、後輩氏と身体を合わせまくる生活?」

 

「え?ダメだって。ボクの身体はイチロー兄ぃの物だよ♪」

 

「えっ?そんな関係だったんだ…」

 

ショックである。彼女に好意を抱いていただけに…異世界に来てまでの失恋…ちょっと堪える。ヨロヨロと立ち上がり、服を着て、この場から去ろうとする俺。

 

「どこ行くんだよ?そんな恰好じゃ死んじゃうよ。ここ雪山だから…」

 

死んじゃう?それもいいや。もう…彼女の言葉をスルーして、出口を探す俺。

 

「ダメだって!」

 

背中に彼女の乳房の触感…気持ちいい。だけど、佐藤先輩の物だし。

 

「失恋したんだ…死んでもいいよ」

 

「えっ?失恋?って…ボクを?」

 

俺は彼女の言葉をスルーして、出口から出た。おっ!寒い。まぁ、心も寒いし、問題は無いなぁ。更に出口を目指す。

 

「行っちゃダメだよ。行かないで!」

 

ボクの正面から抱きつく後輩氏。

 

「全裸で寒いだろ?コレ着て、中に入って、佐藤先輩を待てよ」

 

着ていたシャツを脱いで、彼女に掛けて、彼女を先程の部屋へ、強制転移させた。あれ?なんで、転移術が使えるんだ?まぁ、いいか。

 

外へ出ると、一面の銀世界だった。身を切る冷たさ。凍死っていいよね。眠るように死ねるって話だよね。俺は、道無き道を進み、斜面から転がり落ちた。

 

-------

 

人肌を感じる…誰だっけ?ここはどこだ?俺を暖めようと、誰かが全裸で抱きついて居る。全身を使って、俺の身体をマッサージしているようだ。

 

「ごめんね…やっと会えたのに…ごめんなさい…」

 

誰かの謝る声が聞こえる。誰だっけ?遠い昔に聞いた覚えが有るような無いような…

 

「ボクで良ければ…ボクを愛してください。半端者ですが…だから、戻って来て!」

 

俺の身体の一部に変化が…それに気づいた彼女の身体がピクッと反応した。

 

「良かった…意識が戻って来たんだね。アール先輩、起きて!」

 

唇に柔らかい物が重なり、暖かい大粒の涙が落ちてきた。

 

「ここはどこ?」

 

「ここは神殿だよ。フジサン山麓にある神殿なんだよ」

 

神殿?

 

「君は女神?」

 

「違うよ~!記憶が混濁しているのかな~。ボクです。高杯光子です♪」

 

あぁ、後輩氏か…って、

 

「佐藤先輩の物なんだよね?」

 

「違います。ボクの片思いです。でも、ボクを愛してくれるなら、ボクもアール先輩を愛するように努力します。だから、ボクを愛して下さい」

 

彼女はこの世界に来て、既に数十年も経っているそうだ。俺的には失踪後6ヶ月位なのだけど…

 

「もう一人にしないでください。死のうとしないでください。お願いします。出来ることは何でもしますから」

 

こんな俺に奉仕をしてくれる後輩氏…ごっさんです♪

 

-------

 

この世界のことをレクチャーして貰った。この世界において、彼女は英雄らしい。シガ王国の王祖ヤマトで、ミト・ミツクニ公爵であるそうだ。色々突っ込みを入れたいが…それは、そっちに置いておこう。

 

「じゃ、ミトと呼べば良いのかな、後輩氏?」

 

「そうしてください、アール先輩♪」

 

で、能力、装備品、アイテムの使い方を学んだ。フルダイブ型のVRMMOのような操作らしい。

 

ストレージと呼ばれる無限な倉庫があり、ゲットした物はそこへ一度収納されるらしい。

 

「ストレージ内は空だ」

 

装備品などは、装備可能欄から選択っと…武器は聖剣と魔剣と聖魔剣がある。防具は、スルーアーマーとフルカウンターアーマーの2つ。どこかで聞いた名称だな。あれ?どこだっけ?

 

魔法、スキルはそれぞれの欄からの選択か、ネーム詠唱だけでオーケーらしい。持っているのは強奪、転移術、瞬動術、蘇生コンポ、二刀流、ウルティマウエポンのようだ。

 

レベルは1…ジョブは勇者…ジョブの欄をクリックすると、他には殺戮者って言うのがあったので、それに変更するとレベルが999となった。これってカンスト?

 

ミトに訊いてみた。

 

「え?勇者だとレベルが1で、殺戮者だとレベル999…う~ん、そういうタイプは初めてだなぁ。まぁ殺戮特化なんだろうね」

 

ちなみにミトはジョブが勇者だそうだ。勇者と殺戮者のコンビ?どうなんだ、これ?

 

「どこかの街に行く?」

 

「だな。ここだと死にたくなる」

 

「死んじゃダメだよ!いいわね?」

 

「努力はするよ」

 

--------

 

ミトと共に、シガ王国の王都にやって来た。暖かな日差しが心地良い。

 

「ここが、ミツクニ公爵のお屋敷だよ。あれ?鍵が変わっている。そうか、ボクの次に継承した者がいるようだ」

 

ここには住めないらしい。

 

「お金はあるから、どこかに家を買おう!って、いっても身分が怪しいけどね」

 

苦笑するミト。まぁ、王祖ってくらいだから、死んでいてもおかしくない年齢だろう。こんな30手前の小娘が王祖って、おかしいはずだ。

 

「アール先輩も身分が無いし…どうするかな…知り合いを頼るか…」

 

知り合いがいるのか?

 

 

竜の谷という場所を訪れた。ミトが竜神様と知り合いらしく、竜神様を訪ねたのだった。神様を頼って家が貰えるのかな?って、空気に緊張が漂い始めた。何かが来る。

 

「ミト!」

 

「えっ?上!空から何か降ってくるよ!」

 

アンゴルモア大王でも降ってくるのか?いや、流星群が降ってきた。竜達が危ない。瞬動術で龍達から、距離を置き、強奪で流星群の軌道を変えた。って、俺に向かって降り注ぐ流星群…咄嗟にスルーアーマーを装着した。俺の周囲が抉れていく。足場も崩れ、クレーターに吸い込まれて行く。いや蟻地獄に落ちていくような感覚か?

 

終わったから?いや、第二弾が降ってきた。これも強奪だ!ミトが危ない!豪快に俺に振り注ぐ流星群。これって、誰かがやっているんじゃないのか?終わった頃、術者を強奪した。15歳くらいの少年が現れた。

 

「てめぇ~か!あの流星群を振らせたバカは!」

 

「いや、悪気は無い」

 

「お前の行為で、俺の彼女と竜達が消えるところだったんだよ!」

 

「アールさん、大丈夫でしたか?」

 

ミトがやって来た。少年はミトを見て…唖然としている。

 

「アール?まさか…ヒカルか?」

 

「えっ?まさか、イチロー兄ぃ?」

 

頷く少年。泣き付くミト。元の鞘に戻ったようだ。俺は女性運は無いんだと思う。この場から静かに立ち去る俺。

 

-------

 

行く宛ても無くフラフラと…全マップ探索…今居るエリアにはミトはいない。って、赤い点が無数にある場所がある。赤い点は敵対者だとミトが言っていたようだ。そこへ向かった。

 

小高い丘から覗き込むと、リザード族と人間が戦っていた。人間の方は緑色の点で示されている。俺にとっては中立ってことのようだ。俺にとって知り合いとか仲間は青い点で表示されるらしい。どうするかな?殺戮者としての技量を試してみるか。フルカウンターアーマーを装着して、二刀流でリザード族に斬り込んでいく。

 

気持ちの良いくらいリザード族を狩れる。殲滅させるか。うん?マップ情報に負傷者が表示されていた。瀕死(女性)とある。助けて上げようっと♪殲滅作業を放り出し、女性の元へ瞬動していく。いや、待て。そうだ♪リザード族の心臓だけを強奪♪これで、殲滅かな?

 

瀕死の女性は、腹部を切られていた。蘇生コンポってなんだろうか?コレを使ってみる。

 

『蘇生必要無し…腹部を修復…造血…体力を回復…終了』

 

と表示された。

 

「ありがとうございます。あの私…ゼナ・マリエンテールと申します。あなたは?」

 

「アールです」

 

「何か、お礼を…」

 

「身分を明かす物を無くして困っています。どうにかなりますか?」

 

「あぁ、この戦乱だと、無くしますよね。わかりました。お役に立ちたいです♪」

 

「ゼナ!大丈夫か~?」

 

ゼナさんの仲間達が来たようだ。俺は静かにこの場を去った。一対一なら良いが、大勢の女性は苦手であるから…

 

 

 

 

 



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強奪から始まるパーティ編成

俺の目の前に怯えた顔の少女が3名…首に首輪を嵌められていたので、首輪を外して上げた。彼女達の身体は震えていた。顔は青ざめていた。俺は、そんなに凶悪な顔なのだろうか…

 

-------

 

何をすべきか歩いていると、馬車の荷台に首輪を嵌められた少女達が見えた。ふと、人肌が恋しくなっていた俺は、彼女達を『強奪』した。少女達が消えたことで、あたふたする荷台にいる男共。

 

俺は強奪した少女達を舐める様に見た。

 

そして、冒頭へ…

 

彼女達のステイタスを見ると

 

「蜥蜴 蜥蜴人族 所属:アール ジョブ:奴隷」

「犬 犬人族 所属;アール ジョブ:奴隷」

「猫 猫人族 所属:アール ジョブ:奴隷」

 

に、なっていた。奴隷なのか…ジョブを『強奪』するとどうなるんだ?

 

「蜥蜴 蜥蜴人族 所属:アール ジョブ:召使い」

「犬 犬人族 所属;アール ジョブ:召使い」

「猫 猫人族 所属:アール ジョブ:召使い」

 

と変化。こっちの方が人道的かな。未だに俺に怯えているし。

 

「お前達は自由だ。もう奴隷になるなよ」

 

手の平でバイバイして、その場を静かに去った。どうせ、俺には女運は無いのさ…って、更に自分を追い込む俺。どこかいい死に場所が無いかな?

 

「見つけた!」

 

見付かった…誰に?

 

声の主を見ると…ゼナだっけ?

 

「なんで、お礼をしようと思っているのに、立ち去るんですか?」

 

「大勢の女性は苦手なんだよ~」

 

「えっ?3名も女の子を連れているのに?」

 

「えっ?」

 

振り返ると、先程の少女達が、怯えた顔で俺に付いて来ていた。

 

「お前達は、もう自由だ。お前達は好きに生きろ!俺はどこかで死ぬ!」

 

その場を立ち去ろうとすると、ゼナに腕を掴まれた。

 

「何で、死んじゃうんですか?お礼をしたいのに…」

 

涙を目に溜め込んだゼナ。

 

「お礼はいいよ。もう、うんざりだよ。人生、うまく行かないなぁ」

 

「今度は私がアールさんの役に立ちます。だから、死なないでください」

 

「あの…ご主人様…私達も…一緒に…」

 

震える声で蜥蜴が、声を掛けてきた。

 

「俺が恐いんだろ?だから、付いて来ないで良い。好きに生きてくれ」

 

「そうもいきません。奴隷から解放してくれたのに…」

 

えっ!俺に抱きついて来た蜥蜴。犬と猫も抱きついて来た。

 

「こんな少女達を残して死ぬんですか!生きて下さい!できる限りの支援はしますから…お願いします」

 

って、ゼナの家へ連れて行かれた。

 

「ここで、お待ちください」

 

って、ゼナが部屋を出て行った。

 

「お前達に名前を付ける。蜥蜴はリザ、犬はポチ、猫はタマだ。いいな!」

 

怯えた顔だけど、何故か尻尾が嬉しそうに踊っている。なんでだ?あっ!ジョブが、殺戮者になっていた。これが原因か?他に何があるんだ?選択ウィンドウを開くと、なんか一杯ある。どれにするかな。一般人は無いのか?モブとかは?これも無い。空気は?無いなぁ…これでいいかな。浪人…

 

彼女達の表情が和らいだ気がする。これにして置こう。って、レベルは500有る。なんだかなぁ。テストに受からない自信が漲るレベルである。もっと、普通のは無いのか?戦士とか魔法使いと賢者とかの普通のジョブが無い。マニアックすぎる。調教士って言うのはテイマーかな?これにしてみるとレベルは300。これでいいかな。

 

って、少女達が正座をしている。そっちの調教か…。もっと、この子達とフレンドリーになりたいんだよ~!勇者レベル1を押してしまった。彼女達は、笑顔で俺を見て居る。なら、これでいいか。勇者ってタイプでは無いんだけど…

 

「お待たせしました…あれ?アールさん、雰囲気が変わりましたねぇ」

 

なるほど、ジョブによって、雰囲気が変わるのか。そうなると纏うオーラが変わるってことかな?

 

ゼナに案内されたのは、ベッドが4つ有る部屋だった。

 

「ここをお使いください。食事は…う~ん…一緒には無理ですが…」

 

悩むように、絞り出すような声でそう言われた。元奴隷が一緒だからかなって、自己納得した俺。

 

「寝る場所があればいいです。食事はどこかでします」

 

「あぁ、コレを渡さないと…」

 

身分証…『アール 人間 所属:マリエンテール士爵』となっている。

 

「所属が士爵になっていますが…」

 

「あぁ、形式上のものです。私の命の恩人って父に話したら、このような身分証を作ってくれました」

 

嬉しそうに話すゼナ。彼女が嬉しいならいいか。

 

「わかりました。頂きます」

 

-------

 

ゼナはセーリュー伯爵領軍の兵士だそうで、明後日までローテが入っているので、今日と明日は相手が出来ないと、申し訳無さそうに出て行った。仕事は大事だよ。過労死しない程度にはねぇ。

 

彼女達のベッドの上には、彼女達用の服があった。こんな物も用意してくれたのか…ゼナに感謝だ。3人に真新しい服に着替えて貰った、そして、

 

「で、リザ達は、何を食うんだ?」

 

「え…希望を言って良いのですか?」

 

「言ってくれないと、分からない」

 

「そうですよね…あの…肉が欲しいです…」

 

肉かぁ…リザード族の死体ならあるんだが…共食いだよな…う~ん…

 

「何の肉が良いんだ?」

 

たぶん、犬と猫もダメだろうな。

 

「いえ…あ…牛の肉…食べてみたいです」

 

牛の肉…高そうだな。金がいるな…リザ達を奴隷にした奴らを思い浮かべて、金を『強奪』した。ストレージを見ると、金種別に入っていた。アイツらの財布は捨てておくか。佐藤先輩が作ったクレーターへ強制転移させた。あそこを、ゴミ箱にするかな?リザード族の死体も強制転移だ。この先も食わないと思うから。

 

ストレージから、適当にお金を出し。

 

「これだけ有れば、買えるか?」

 

って、リザに訊いた。

 

「えぇ、買えます」

 

「じゃ、買い物に行くよ」

 

ゼナの家の勝手口から出た。まぁ、使用人みたいな者だし。両手にポチとタマが群がって、手を恐る恐る繋いできたので、掴み返してあげた。

 

「リザ、迷子になるなよ」

 

って、俺のシャツを掴んでいるリザ。まぁ、腕は2本だけだから…

 

屋台からの良い香りに彼女達の尻尾が踊り出した。彼女達の尻尾の振りが激しそうな屋台で4人分を買って、みんなで買い食いをした。

 

「食べていいんだ。冷めるとマズくなるぞ」

 

マズくなるって言葉に反応して、口に運ぶ少女達。嬉しそうだ。あった、肉屋だ。牛肉のブロックを3つ買い、

 

「リザ、これをどう食べるんだ?」

 

「生で食べたいです…」

 

物凄く恥ずかしそうに言うリザ。生で食うのか。街の外れの人気の無い場所で、3人に、ブロック肉をあげると、豪快に食べていく。これは人の目を気にする食べ方だな。想像はしていたから、人気の無い場所にして正解である。

 

「いたぁ~!」

 

背中に誰かが貼り付いた。この胸の感触は…ミトだ。振り返ると、隣に佐藤先輩もいた。

 

「ハネムーンか?」

 

「違います!」

 

「婚前旅行か?」

 

「違うって!」

 

「だって、想い人なんだろ?」

 

「えぇぇぇぇ~、なんで言うんだよ~!」

 

え?言っちゃマズかったのか?

 

「おい!ヒカル…そうなのか?俺は胸がこ~いうのが好きなんだよ~」

 

って、巨乳好きを説明している佐藤先輩。

 

「そう言うと思ったよ~。なんで言っちゃうんですかぁぁぁぁ~!警戒されるでしょ?」

 

なんかウザいカップルだな。二人を纏めて、ミトの神殿に強制転移した。これで、当分、来られないだろう。ミトには転移術が無いし♪

 

「残念♪兄ぃが転移術を持っています♪」

 

って、直ぐに戻って来たミト。くそっ!

 

「で、何の用だ?」

 

「なんで、立ち去っちゃったのよ~!」

 

「想い人が想い人に会ったんだよ。それは立ち去るだろ?」

 

「えっ!アール…お前…ヒカルのことを…」

 

佐藤先輩が驚いている。

 

「だって、かわいいじゃん♪」

 

絶句する佐藤先輩、真っ赤になるミト。リザ達が俺の背中に隠れている。警戒しているようだ。

 

「リザ、この二人は安全だ。警戒はしなくていいぞ」

 

「はい…」

 

「えっ!どうしたの?3人も…」

 

ミトと佐藤先輩にリザ達との経緯を話した。

 

「チートだな、アールは」

 

「私から言わせると、兄ぃの方がチートだよ!」

 

佐藤先輩のステイタス…レベル310でジョブは商人?トルネコのような商人か?

 

「で、どこに泊まっているの?」

 

ミトに訊かれたので、身分証を見せた。

 

「士爵家に住んでいるの?う~ん、出世したなぁ」

 

ゼナとのことを話し、

 

「使用人扱いだよ」

 

「違うわよ。その場合、所属は士爵家になるの」

 

「どう違うんだ?俺にはわからない」

 

「使用人では無く、士爵の配下若しくは家族ってことよ。いずれは、そのゼナって子と…そう考えているかもね」

 

「まぁ、それなら、それでいいけど」

 

ゼナもかわいいし♪

 

「私の立場は?」

 

「佐藤先輩の物なんだろ?ミトの身体は!」

 

「ちょっと待て!俺はヒカルに手なんか出したことは無いぞ!」

 

あれ?

 

「だから、予約って言うか…」

 

「予約すらしていないし」

 

「だから…願望だよ!」

 

「もう、纏まっちゃいえば?先輩とミトは幼なじみなんだし」

 

双方の親が認めた幼なじみらしい。

 

二人の楽しそうな痴話ゲンカを見て居ると、遠くで何かが爆発した。

 

「ミト!彼女達を頼む!」

 

俺は瞬動術で、現場へ急いだ。現場ではゼナ達領軍と、あの馬車の男共がいた。

 

「ここは俺達が貰う!」

 

リーダー格の男のステイタスがポップアップした。「憑依状態」のような。何が憑依しているのか?男の手から何かが放たれた。その先にはゼナがいた。俺は瞬動術でゼナの前に立ち、フルカウンターアーマーを装備し、それを突っ返した。

 

「うごっ!」

 

リーダー格の男の腹部に何かが刺さったようだ。

 

「アールさん…また助けてくれて…」

 

「礼は後でいい。警戒しろ。何か憑依しているようだぞ」

 

「えっ!わかりました」

 

何だろう?この威圧感。竜神に会った時には感じ無かったけど。聖剣エクスカリバーを手にして、斬り込んだ俺。

 

バキッ!

 

憑依していた物が現れて、ソイツの爪と聖剣がぶつかった。ソイツの爪が灰に成っていく。悪魔か…

 

「何?勇者か!こんな場所にいたのか!」

 

ジョブを殺戮者にチェンジして、悪魔に襲い掛かった俺。その瞬間、地面が抜けて、落ちていく。また、あのジェットコースター感覚が蘇る。胃袋が口から飛び出しそうだ。脳ミソが耳から溶け出しそうだ。気持ちわりぃ~!

 

-------

 

「ご主人様…目を覚ましてください。ワガママはもう言いませんから…」

 

誰の声だっけ?どこかで聞いたことがある声だ。

 

「アール先輩、この子達を残して死んじゃダメだよ~」

 

子供?俺に子供なんかいたか?誰との子供だ?あぁ、これは夢だな…そうだ夢だ。

 

「アール先輩!」

 

あぁ、後輩氏の声だ。

 

「後10分…」

 

「生きている?」

 

「生きているのです」

 

この子達は誰?

 

「う~ん…リザちゃん、ゴニョゴニョ…」

 

後輩氏が何かを誰かに伝えた。後半部分が聞き取れなかったのは、敗因だったかもしれない。

 

「えっ!ご主人様にですか?」

 

「何時までもこのままでいいの?」

 

「ダメです…」

 

唇に柔らかい物が当たった。誰の唇だ?瞼を開くと、リザがいた。

 

「ご主人様…お帰りなさい♪」

 

笑顔のリザがいた。

 

-------

 

3人をミトに任せたのだが、俺が悪魔と共に地面に落ちたと聞いて、俺目がけて、5人で転移したらしい。

 

「ここって、どこ?」

 

「地下迷宮だね。それも新しく出来たって感じだよ」

 

モンスターが出そうだぞ。

 

「まぁ、レベル310の兄ぃとレベル999のアール先輩がいれば、問題無いレベルかと」

 

「ミトも元勇者だろ?」

 

「まぁ、ねぇ♪」

 

「えぇぇぇぇ~!」

 

って、佐藤先輩の驚く声。

 

「兄ぃ、彼女達に、なんか武器は無いの?」

 

「あぁ、そうだな。君はこれをプレゼントだ」

 

佐藤先輩がリザに聖槍ロンギヌスを渡した。

 

「この子達はどうするかな…」

 

ミトによれば、商人の佐藤先輩は目利きが良いらしい。なので、最適な一品を出せるそうだ。って、創造能力か。それはチートである。

 

ポチには聖なるナイフを2振り、タマには聖なるブーメランがプレゼントされた。

 

「さて、地上を目指して行こうか。あの子達の経験値上げもするわよ」

 

って、ミトが指令塔のようだ。まぁ、元勇者だし♪

 

「アール先輩は殺戮者以外のジョブにしてください。ボスクラスには働いて貰いますけど…」

 

働くのか…

 

「マップ表示は中域でいいかな。全マップ探索は私がするから、道の指示は出します。先輩と兄ぃは罠に注意して」

 

なるほど役割分担か…

 

こうして6名パーティーとなった俺達は、地上へ向けて進軍を始めた。

 

 

 



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SS:戦場での出会い

ゼナ視点です。


今年は魔王の季節に当たる。66年周期で魔王が産まれる年に当たるのだ。そんな年なので、竜の谷方向に見えた「星降り」の調査の為、私達は現地に向かっていた。魔王が産まれたのであれば、命を捧げても倒さないといけない。

 

まだ恋をしたことが無い。なのに…これで死ぬかもしれない。魔王になんか勝てる訳無い。私は勇者では無いんだから。

 

同僚のリリオは彼氏がいた。恋を経験し、男性との経験も…あぁ~、それなのに私は…何を今まで、やっていたんだ。

 

 

天変地異的な「星降り」により、パニックに陥ったリザード族の大群に出くわした。大群の後方にはワイバーンがリザード族を捕食しているので、より一層、パニック状態のようだ。私達を見かけると、大群が襲ってきた。応戦する私達。

 

普段なら勝てる相手であったけど、パニック状態の彼らは強い。圧されている。魔法兵である私は、彼らに魔法を撃ち込んで行く。だけど…魔法を放つ瞬間に隙が出来、彼らの攻撃を腹部に受けた。

 

焼け付くような激痛が腹部に走る。装備も服もお腹も切れている…大量の出血。リリオ達は、ダメだと判断したのか、近寄って来ない…もうダメなんだ。恋…したかったなぁ。愛しい男性に、心を尽くしたかった。関係は持てなくてもいい…彼と呼べる存在の役に立ちたかった。もう、叶わぬ夢を思い浮かべた私。意識が遠くなっていく…

 

暖かな物に包まれる感覚…意識がゆっくりと覚醒していく。お腹の痛みは消えていく。天国に着いたのかな?ゆっくりと瞼を開くと、知らない男性に抱かれ、緑色の光に包まれていた。これは神聖魔法の回復術だと思う。この人は誰?

 

彼の纏うオーラからは、恐怖を感じる。だけど、彼の瞳からは暖かさを感じる。何、このアンバランスさは…

 

「ありがとうございます。あの私…ゼナ・マリエンテールと申します。あなたは?」

 

名前を訊いてみた。

 

「アールです」

 

彼の声…心に染み入っていく。命の恩人の声…

 

「何か、お礼を…」

 

彼にに尽くしたい…吊り橋効果かもしれない。だけど…彼に…

 

「身分を明かす物を無くして困っています。どうにかなりますか?」

 

「あぁ、この戦乱だと、無くしますよね。わかりました。お役に立ちたいです♪」

 

この願いなら、私に出来ると思う♪

 

「ゼナ!大丈夫か~?」

 

遠くからリリオ達がやって来た。彼からリリオ達に視線が動いてしまった。再び、彼を見ると、もう立ち去った後だった。一生の不覚か?

 

「あの怪我で生きているのか?って、怪我が無いじゃん」

 

防具と服には斬り痕が残り、血塗れであったが、傷跡は残っていなかった。

 

「助けてくれた人がいたの。アールって方だよ♪」

 

耳が何故か熱い…

 

「おい!お前、その男に惚れたのか?」

 

「うん♪」

 

素直に頷く私。

 

------

 

街に戻り、家に帰った私。一応、負傷兵扱いで、数日安静休養しろってことだ。この時間を利用して、彼の為に…

 

「マリエンテール士爵…お願いがあります」

 

父であるマリエンテール士爵にお願いをすることにした。

 

「どうしたんだ?改まって…」

 

怪訝な顔をする父は、私を見るなり、暖かい眼差しで見始めた。

 

「この度の戦地で、命の恩人に、命を救われました。その彼は、身分証を無くされたそうなんです。身分証を作ることって可能ですか?」

 

「う~ん、なるほどな♪ゼナ…その彼に惚れたのか?」

 

「えっ…」

 

なんでバレているんだ?リリオがチクったのか?

 

「まぁ、彼の意向もあるだろうけど、わかったよ。作って上げよう。彼の名前は?」

 

「アール様です。纏うオーラは殺戮者のような感じだったのですが、神聖魔法が使え、暖かい眼差しでした」

 

「戦場で武勲を上げる者は、たいていは殺戮者だよ。ある意味な♪そうか…ゼナがなぁ♪」

 

なんか嬉しそうに部屋を出ていかれた父上…どうして?

 

--------

 

父から彼の身分証を受け取った。

 

『アール 人間 所属:マリエンテール士爵』

 

と、ある…

 

「これは?」

 

この所属では、父の眷属若しくは身内ってことになるが…

 

「お前の想い人だろ?後々に期待を掛けてな♪」

 

まだ、片思いだよ…言い当てられて、耳が熱くなっていく。

 

「もし、嫌なら、文句を言うだろう。まぁ、踏み絵みたいな物だよ。ははは♪」

 

なんてことを…それも、嬉しそうに言うんだ。でも、彼には必要な物である。私が嫌で無いなら受け取ってくれるだろう♪

 

そして、彼を探す為に、街の近くを捜索し始めた。あそこから、この街が一番近いから、きっと立ち寄るはず♪

 

 



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SS:運命の第一関門


ゼナ視点です。


 

「見つけた!」

 

漸く見つけた…彼を…だけど、彼の後方には3名の奴隷と思しき少女達がいた。どこかで買ったのか?少女達を奴隷って…そんな人だったのか…

 

いや、何か理由があるのかもしれない。早合点は良く無い。

 

私の声で、私を見た彼。うん?私を覚えていないのか。あまり興味を示す顔では無い。

 

「なんで、お礼をしようと思っているのに、立ち去るんですか?」

 

私の言葉で、私を思い出したような彼…そんなに印象が薄いのかな?少し凹んだ私。

 

「大勢の女性は苦手なんだよ~」

 

妙なことを言う彼。じゃ、後の子達は何?

 

「えっ?3名も女の子を連れているのに?」

 

「えっ?」

 

驚いた顔で、後を振り向いた彼。彼の奴隷では無いのか…少し安心したわ。でも、あの少女達はアールさんの纏うオーラに怯えているようだけど、尻尾は嬉しそうに踊っていた。

 

「お前達は、もう自由だ。お前達は好きに生きろ!俺はどこかで死ぬ!」

 

えっ?死ぬ?なんでよ~!思わず彼の腕を掴んだ。

 

「何で、死んじゃうんですか?お礼をしたいのに…」

 

死ぬなら、彼氏になって欲しい。たくさん尽くしますから、死なないで…

 

「お礼はいいよ。もう、うんざりだよ。人生、うまく行かないなぁ」

 

何かに絶望している彼。彼の力になってあげたい。

 

「今度は私がアールさんの役に立ちます。だから、死なないでください」

 

必死に懇願する私。

 

「あの…ご主人様…私達も…一緒に…」

 

一番年長の少女が、震える声で彼に心を伝えた。

 

「俺が恐いんだろ?だから、付いて来ないで良い。好きに生きてくれ」

 

その纏うオーラは恐いよなぁ…私も恐いし…だけど…

 

「そうもいきません。奴隷から解放してくれたのに…」

 

えっ!彼に抱きついて少女達。私の抱きつくスペースは無い…出遅れた…

 

「こんな少女達を残して死ぬんですか!生きて下さい!できる限りの支援はしますから…お願いします」

 

凹んだ心を引き締めて、彼に言葉を掛けた。掴んだ彼の腕を引っ張って、家まで連れて行き、応接間に入ってもらった。

 

「ここで、お待ちください」

 

彼らの部屋を用意する。広めの客間にベッドを4つ設置して、少女達の服も用意する。奴隷ってわかる服装ではかわいそうである。彼は恐いけど、良い人なんだと思う。彼女達を奴隷から解放したって…解放した手段は…考えるのは止めよう。あのオーラだし…

 

私のお古の服で、新しめの服を3人分用意していく。サイズは、私の見た目で用意するしかない上、私の過去のサイズの物しか無いのが難点である。

 

で、用意し終わると、彼の元に戻ると、雰囲気がまるで違った。

 

「お待たせしました…あれ?アールさん、雰囲気が変わりましたねぇ」

 

戦場でのオーラがクールダウンしたのかな?これが本来の彼なんだろう♪

 

用意した部屋へ彼らを、お連れした、

 

「ここをお使いください。食事は…う~ん…一緒には無理ですが…」

 

この街は亜人への差別が有る。なので、彼の連れは…私は大丈夫だけど、使用人達の一部が、問題有る行動に出るかもしれない。

 

宿なんかでも、大金をいくら積んでも、亜人は部屋には泊めない、徹底ぶりである。我が家の使用人に注意しようものなら、働き手はいなくなるので、父も迂闊に注意が出来ないそうだ。

 

「寝る場所があればいいです。食事はどこかでします」

 

彼は、そんな差別が有るのを知っているのか、気にしていないようだ。良かった。減点対象になる気がしていたから。あっ!大切な事を忘れていた。何をしているんだ、私は…

 

「あぁ、コレを渡さないと…」

 

危ない、危ない。本題を忘れる処だった。

 

「所属が士爵になっていますが…」

 

身分証を見て、彼が指摘してきた。乗り切れるかな。この試練…

 

「あぁ、形式上のものです。私の命の恩人って父に話したら、このような身分証を作ってくれました」

 

受け取ってくれるかな?運命の第一関門である。内心ドキドキの私。

 

「わかりました。頂きます」

 

第一関門は突破できたようだ。あとは、徐々に心の距離を♪

 

 

 



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チーターな戦士達

芋虫のようなモンスターを仕留めた。すると、リザが近寄って来た。

 

「ご主人様…私にナイフを頂けないでしょうか?あの芋虫は美味しいんです…」

 

と、言う。芋虫を食うのか…佐藤先輩を見つめていると、

 

「あぁ、俺か…では、肉捌き用のナイフをプレゼントしよう♪」

 

リザとタマに肉捌き用として、アサシンナイフがプレゼントされた。ナイフを手にすると、リザ達が芋虫を解体し始めた。

 

「ご主人様、この魔核を地上で売ると、お金になります」

 

と、リザか芋虫から魔核を取り出して来てくれ、俺が受け取ると肉を捌きに戻った。

 

「ミト、これってどれ位の価値?」

 

「うん?牛肉一人分かな?」

 

「結構いい値段で売れるのか。先輩、買い取ってくれますか?」

 

「うん?俺か?う~ん…魔核の買い取りはしていないけど…」

 

って、佐藤先輩。使えない商人だな…

 

リザ達が肉を解体し終わると、火を起こして、焼き始めた。

 

「この肉は焼くと美味しいのです♪」

 

尻尾が嬉しそうに踊っているリザ。美味しいのだろう。タマとポチはそうでも無いけど。そして、みんなで芋虫で食事…うん…美味しいかな。原型を想い出さなければ…

 

その後も、倒したモンスターで、リザが食べられる肉の場合、解体をしている。食べられない場合は、魔核だけ穿って終わりである。

 

「あっ!ご主人様、何かおかしいのです」

 

って、ポチが何かに反応した。先輩が狭域マップに切り替え、探索をし始めた。

 

「罠があるな…」

 

足元に転がっている小石を拾い、先輩が指差した地点へ投げ込んでみた。

 

ドン!

 

壁が崩れ落ち…狼みたいなモンスターが飛び出して来た。瞬動術で目の前に飛び出し、ダークエクスカリバーで首を切断した。あれ?聖剣を出したつもりなのに…

 

「リザ、これは喰えるのか?」

 

「食べない方が良いですよ」

 

そうか…って、魔核を『強奪』すれば勝てるような…はて?次で試すか。

 

で、試してみた。先輩にチートだと言われたけど、成功のようだ。だけど、倒した感がまるで無い。う~ん、充実感は欲しいかな。ちゃんと倒そうっと♪

 

--------

 

「先輩!寝る時に、危険感知をオンにしてください!」

 

迷宮生活2日目の朝、ミトに言われた。どうも、寝ている所を、魔物達に襲撃されたらしいのだが、俺は爆睡中で目覚めなかったらしい。そのスキルがあると、目覚めるのかな?でも、

 

「そんなスキル無いけど…」

 

「えっ!無いの?」

 

頷く僕。佐藤先輩が、俺のスキルの探索をしてくれたが、無いようだった。

 

「死にたがりには、無いスキルなんだろ?」

 

「ご主人様…死なないでください」

 

リザが半泣きで迫ってきた。

 

「わかったから…努力はする」

 

涙をポロポロと流すリザ…

 

「私達で、ご主人様は護りますから…」

 

「わかった…一生懸命努力します!」

 

あんなかわいい笑顔の子を、泣かしたらダメだよなぁ。少し反省するが、無い物はしょうが無い。

 

迷宮生活3日目…目の前に蜘蛛がいる。ポチとタマが糸に絡まっている。迂闊に突っ込んだせいだ。リザが戦っているが、劣勢である。

 

「先輩、あの部屋の次にいるよ」

 

蜘蛛の先の部屋に、迷宮生活に招いてくれた悪魔がいるらしい。

 

「アール、モンスターハウスだぞ」

 

マップで探索をした。真っ赤である。出口付近に青い点1つと緑の点が…青い点をチェックするとゼナだった。まさか、俺を探しに?

 

「ミト!突っ込む、リザ達を頼む♪」

 

「行っておいで♪」

 

蜘蛛の目の前に瞬動術で近づき、ジョブを殺戮者にチェンジして、まず蜘蛛を屠り、モンスターハウスへ♪装備はスルーアーマーだ。

 

「お前…勇者では無いのか?」

 

俺を見つけた悪魔。あぁ、今は殺戮者だよ♪ダークエクスカリバーでみじん切りにしている。なるほど、聖剣だと灰になるが、魔剣だと普通に斬れるようだ。

 

「貴様…俺が斬れるのか?」

 

普通は斬れないのか?魔剣だから、魔なる物は斬れるのかな?はて?

 

「待て!ここの利権の半分をやる!」

 

斬り刻んでいく。コイツを倒せば、ここの利権は俺の物だ♪

 

で、目の前には、悪魔の挽肉の山が出来た。魔核も手に入ったし♪

 

「アールさん♪」

 

ゼナの声だ。振り返ると、青い顔で震えている。ゼナの近くにいる兵士達もだ。あれ?

 

『ジョブをチェンジしなさい!リザ達も怖がっているわよ』

 

って、ミトからメッセージが届いた。あぁ、なるほど…ジョブを勇者レベル1にしてみた。目の前の者達の表情が緩んでいく。

 

「ご主人様!大丈夫でしたか?」

 

リザが近寄れたようだ。

 

「大丈夫?」

 

タマも

 

「大丈夫なのですか?」

 

ポチも

 

「大丈夫だよ。この肉は食えるのか?」

 

リザに確認をした。

 

「悪魔の肉は食べません。呪われると嫌ですから…」

 

なるほど、聖剣に持ち替えて、目の前の山を灰にした。

 

--------

 

迷宮を制覇し、悪魔を倒した功績は先輩の物になったらしい。で、先輩は、ベルトン子爵家の当主を助けた功績も有り、子爵付きの士爵相当になったそうだ。

 

「兄ぃ!チートすぎるよ!先輩の手柄だよ」

 

ミトが抗議している。

 

「俺が決めた訳では無い。貰える物は貰っておくだけだ」

 

「先輩は、これでいいの?」

 

「俺はどうでもいいよ。宮遣いは遠慮するよ♪で、その二人は何?」

 

先輩が女の子を2名連れている。

 

「褒美に奴隷を貰ったんだよ。配下の者に奴隷がいて、主に奴隷がいないのは、おかしいって」

 

「配下?俺か?それは違うでしょ?」

 

「だから、俺が言った訳では無い」

 

困ったような顔の佐藤先輩。

 

「俺は先輩の配下にはなった覚えは無い。ミトの配下になろうとはしたが」

 

ミトはミツクニ公爵だし♪

 

「そうだね。良し♪じゃ、兄ぃは助さんで、先輩は格さんってことで♪」

 

越後のちりめん問屋か…おいおぃ…

 

「ねぇ、あなた達も日本人なの?」

 

紫髪の奴隷が話し掛けてきた。

 

「あなた達も?じゃ、あなたも転移者?」

 

「いえ、転生者です」

 

この世界には、この世界の元からの住民の他に、何故か日本から召喚された転移者と転生者が多数いるそうだ。ミトによると、前者は勇者候補で、後者は魔王候補らしい。どう違うんだ?

 

「転生者は、ユニークスキルを使いまくったり、感情が暴走すると、魔王になるらしいんだよ」

 

って…そういう物なのか…

 

「そうだ、アール。この子達の奴隷ステイタスは剥がせるか?」

 

佐藤先輩からの依頼。強奪してみたが…強奪出来ない。

 

「ダメみたいだ。貼り付いているみたいだ。剥がれない…」

 

「あぁ、これは強制って呪いの一種だわ」

 

ミトは物知りである。この世界が長いし、元勇者だし。

 

「どうすれば、剥がせるんだ?」

 

「無理に剥がすとダメだよ」

 

「アール、他になんかチートな能力で剥がせないか?」

 

チートな能力って言ってもなぁ…あと、有るのは瞬動と転移…あっ!強制転移…これって、強制を転移出来るとも読める。誰に転移するかだが、理不尽な子爵にするか♪

 

その結果、

 

「アリサ 人間 所属:アール ジョブ:元王女な召使い」

「ルル 人間 所属:アール ジョブ:苦労人な召使い」

 

になった。

 

「あっ!そうか、アールの術だから、所属がアールになるのか…」

 

頭を抱える先輩。

 

「アリサは先輩付きの召使い、ルルはミト付きの召使いを頼むよ」

 

「がってん、しょうちのすけ♪」

 

「わかりました♪」

 

アリサって子は、俺達より、年代が古く無いか?

 

--------

 

ミトと先輩達は、宿屋に宿泊し、俺達はゼナの家に厄介になっている。

 

「君の家のように使ってくれてかまわないが、侍従の者達に不便を掛けさせてしまう。すまない」

 

ゼナの父上にそう言われた。亜人差別が酷いらしい。リザ達をこの家の使用人と接触しないようにしないと、ゼナ達に迷惑を掛けてしまいそうだ。

 

「迷惑だなんて、思っていませんが、ごめんなさい」

 

って、ゼナ。あの子爵が悪いのか?

 

ミト達とは、屋台の並ぶ通りの人気の無い場所で、会っている。リザ達を護る為だ。人目に付く場所だと、石を投げつけられることもあったので…

 

「この街は、住みにくいなぁ。ゼナ親子には申し訳ないけど…」

 

「亜人差別が根強い街だからね…って、あれ?先輩…なんで、ジョブが子爵になっているの?」

 

はぁ?ステイタスをチェックした。確かに子爵になっている。佐藤先輩は士爵で、ミトは元公爵だし。あっ!強制を転移させたから…まさかなぁ…

 

ミトと先輩に、この前の件を話した。

 

「はぁ?強制を転移させた?ベルトン子爵に…」

 

絶句したミト…これは珍しい。

 

「勘違いしているみたいだけど、強制って、強制力じゃないのよ…」

 

えっ?違うの?ミトの顔から血の気が失せている。やらかしたようだ。

 

「言ったでしょ、呪いだって!本来はウリオン神が罪人を裁く為の呪いで、命令に逆らうと死亡するって、極めて悪質な物なの」

 

じゃ、ベルトン子爵から、欲しい物を、もぎ取れてしまったのか。欲しいというか、エラそうに出来ない地位に、落としたかっただけなのだけど…

 

「じゃ、彼の爵位が先輩に転移したんだね。身分証を出して♪」

 

ミトが呪文を唱えると、俺の身分証が更新された。

 

『アール 人間 所属:マリエンテール士爵 ジョブ:子爵』

 

「う~ん、バランス的におかしな身分ねぇ」

 

って、士爵より子爵の方が格が上らしい。

 

「立身出世したってことだな♪」

 

「じゃ、俺が、一番格が下なのか?」

 

先輩の身分証も更新すると、

 

『サトゥー 人間 所属;アール子爵 ジョブ:士爵』

 

に、なった。あれ?俺の配下?

 

「ははは♪兄ぃ、手柄を横取りなんかするから♪」

 

腹を抱えて笑っているミト。頭を抱える先輩。

 

リザ達の所属も確認し直すと、みな「所属:アール子爵」になっていた。

 

「スゴいです。ご主人様♪」

 

喜んでくれているリザ達。なら、いいか…

 

「ミトの配下になるには、どうするんだ?」

 

一応、訊いてみた。

 

「そうだね…私の爵位を復活して貰えば、可能だよ」

 

王様に認定して貰う必要があるらしい。が、現在の王様とは、面識が無いらしい。ダメじゃん…

 

------

 

談笑中に、空気がドンヨリした物になった。なんだ?これは?

 

「魔族が来たわ!先輩、兄ぃ、出動よ!」

 

「ミト!アリサ達とリザ達を頼む」

 

「わかったわ」

 

俺は瞬動術で、原因となる者達の元へ向かった。

 

---------

 

路地裏を走り回る小さな戦士。白い何かを抱き締めている。それを追う魔なる者達。ジョブチェンジだ♪殺戮者になる俺…聖剣を手にして、屠りまくる。屠られた魔なる者達は、灰塗れの魔核に変化していく。

 

先輩達が転移してきた。う~ん、なんの苦労も無く、俺の元へ転移って、チートだろ?

 

「リザ!、小さな戦士を護れ!」

 

「御意!」

 

俺と先輩とミトで、魔なる者を屠っていく。いや、聖なるブーメラン遣いが大活躍している。魔なる者に吸い寄せられていく…タマがスローイングした聖なるブーメラン。効率がいいなぁ。

 

「兄ぃ!回復薬有る?」

 

ステイタスチェックすると、小さな戦士は瀕死と表示された。

 

「俺がやる」

 

『蘇生コンポ』を発動した。緑色の光に包まれていく戦士。

 

「え?なんで?殺戮者が神聖魔法を使えるの?」

 

って、ミトが驚いている。って、言われてもなぁ…

 

「チートだから…」

 

としか、言えない。

 

「これで大丈夫だ」

 

「包みの中に女の子がいる。この子はエルフのようだわ」

 

先輩が街のマップで探索をしていく。この街にエルフの者がいないかどうか。

 

「いたぞ。何でも屋の主人がそうだ。あの人、エルフなのか…耳が長くないけど」

 

「あぁ、兄ぃ。この世界のエルフもハイエルフも、耳は長く無いのよ。耳が長いのは、耳長族っていう、エルフ系では無い種族だけよ」

 

なるほど、流石は亀の甲である。

 

意識を失った戦士とエルフの女の子を、何でも屋へ運び込んだ。

 

-------

 

お店に入ると、先輩好みの女性が、先輩に声を掛けてきた。ウィンドウに「ナディ」と表示された。これが名前かな?

 

「サトゥーさん、今日はどんな商いに来ましたか?」

 

「店長を頼む」

 

ナディさんが呼びに行ってくれ…

 

「ミーア?なんで、ここにいるんだ?」

 

ミトが経緯を話した。

 

「この戦士が、ミーアを大切に運んで来てくれたのか」

 

戦士は鼠人族のようだ。この近くに、集落があるらしい。

 

「あの集落の辺りに攫われたのか?」

 

本来、エルフの集落のあるボルエナンの森って場所に、いるはずだったそうだ。

 

「サトゥー、悪いが、ミーアをボルエナンまで、連れ帰ってくれないか?」

 

「俺がですか…」

 

渋る佐藤先輩。

 

「わかりました。そのクエストを受けます♪」

 

って、快く引き受けたミト。器の大きさの違いか?

 

「サトゥーはミトの尻に敷かれているんだな」

 

って、店長。

 

「違いますよ~。俺はナディさんの方がタイプです♪」

 

バキっ!

 

ミトの鉄拳制裁。言わないでも、わかるって…大きいものね。

 

「じゃ、俺はここで…」

 

いざこざに巻き込まれたくないので、退散しようとしたのだが、

 

「ちょっと、待ったぁ!先輩も行くんですよ~!」

 

「えっ?!」

 

寝耳に水…

 

「護衛で付いて来なさいよ~!か弱い私と、巨乳バカのコイツだけでは、不安だって!」

 

先輩が、巨乳バカ呼ばわりされている。まぁ、そう思うが…ミトの前で、そういう話題はダメだと学習しないのか?

 

「いや、でも…」

 

渋る俺。この二人の問題には、巻き込まれたく無い!

 

「でも?でも何!色々教えたよね!色々味わったよね!」

 

「うっ…わかりました」

 

失恋した瞬間の心の痛みを想い出し、心を折られた気がする。惚れた弱み的な…そんな感じも、ちらほらと…

 

「馬車はこっちで手配する。だけど…その人数だと1台じゃキツいかな?」

 

「大丈夫です。サトゥーに1台、買わせますわ♪ねぇ、あなた!」

 

この二人は、夫婦を装っているのか?ミトの願望の産物なのか…先輩は、頷いている。まぁ、元勇者と商人では、商人に勝ち目は無いだろうな。マジケンカしたら…

 

 



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いざ、旅路へ

 

ゼナが目の前にいる。俺の目をじっと見ている。

 

「ボルエナンの森へ行くって、どういう事ですか?」

 

ゼナの瞳は涙で濡れてきた。

 

「護衛の仕事が入って…終わったら、戻って来るよ」

 

「行って欲しくないです…」

 

俺の手を握るゼナ。

 

「一緒に行けると良いのだけど…無理だろ?」

 

ゼナが頷くと、涙が零れていく。

 

「今生の別れでは無いんだ。仕事が終われば、会えるって…」

 

「ですけど…どなたの依頼ですか?」

 

「何でも屋の主人だよ」

 

「そうなんだ…」

 

俺の手を握る力が強くなっていく。俺はゼナを引き寄せ、優しく抱き締めた。ゼナの胸の感触を覚えるかの如く…俺の頬に、ゼナの頬が重なる。

 

「無事に帰って来て下さいね」

 

「あぁ…」

 

「死なないでね」

 

「死ねないよ。ゼナもいるし、リザ達もいるし…」

 

「そうですよ。もう一人では無いんですから♪」

 

迂闊に死ねない…リザを泣かすことは避けたい。

 

「出発の日…非番なら、見送ります♪」

 

涙を浮かべ、笑顔のゼナ。良い表情だ…

 

-------

 

何でも屋に行くと、馬車が2台あった。

 

「馬車は用意できたわ。いつでも、出発はできるわよ」

 

って、ミト。旅に必要な物は、必要な度に、先輩が創造するらしい。チートだろ?その能力は…

 

「なぁ、ミト…あの悪魔が利権をくれるようなこと言っていたけど、迷宮の利権ってなんだ?」

 

「あっ!そうか。あの迷宮の所有者は、先輩ってことになりますね~。正式な登録をしに行きましょうよ♪」

 

登録?ミトによると、迷宮の一番深い部分に、ダンジョンコアって言う制御室のような部屋があるそうだ。二人であの迷宮へ転移した。

 

「えぇっと、あの時は殺戮者だったよね?」

 

ジョブを殺戮者にすると、知らない部屋に強制転移された。色々な計器や装置がある。周囲を興味深く観察する俺。ミトは何かを操作している。

 

「先輩!一番強いと思うモンスターって、なんですか?」

 

「それは、獣の数字、トライヘキサだろ?神を殺せるし」

 

「なるほど…」

 

『マスター、ようこそ。ここから出て行かないで欲しいです』

 

スピーカーから声が聞こえる。

 

「お前は誰だ?」

 

『このダンジョンのコアです』

 

人工知能のようだ。

 

「いや、用は終わったら、帰るよ」

 

『そこのマスターでは無い者よ!何をしているの?』

 

「マスター権限で、あれこれ設定を変えているのよ♪ふふふ、もう遅いわよ。彼はここを出られるの♪」

 

あぁ、さっきからソレをしていたのか…

 

『酷い!何の権限?』

 

「私はマスター代理として登録したの。だから、操作できるのよ♪」

 

勝ち誇ったような表情の元勇者様。

 

『一人はいやぁぁぁぁ~!』

 

泣いているらしい人工知能のコア。

 

「じゃ、探索用のホムンクルスを作って、そこにアナタの思考をコピーして、リンクしてみなさい」

 

コアがミトの言葉に従い、人造人間を作りだした。顔はまだ無い。

 

「顔とか体型は、先輩の好みに出来ますけど…」

 

そうなのか…では、

 

「ソード・オラリオのティオナ♪」

 

「はぁ?もっと胸のある子でもいいわよ」

 

そうなのか…

 

「じゃ、ソード・オラリオのリヴェリア♪」

 

「それはダメ。耳長族は避けた方がいいわ」

 

ダメなのか…

 

「う~ん…じゃ、DXDのアーシアは?」

 

「まぁ、いんじゃないの?」

 

装置を操作するミト。ホムンクルスが、DXDに出てくるアーシア・アルジェントに、なっていく。

 

「コア、この子の名前はアーシアだからね。で、この子を一緒に連れて行く。一人でじゃないでしょ?もし、このダンジョンに危機が迫ったら、私達が護りにくる。どうかな?」

 

『了解しました。サブマスター♪』

 

よく、わからないけど、ミト任せにして、3人で街に戻った。

 

-------

 

「うっ!アーシアそっくり…チートだろ?」

 

先輩には言われたく無い。

 

「どうせなら、リアスとか朱乃だろ?」

 

それは先輩の好みの爆乳娘では無いか…俺は物理的に有り得ない巨乳は、好きでは無い。

 

「まぁ、この子は使えるわよ。ダンジョンコアだから、ダンジョンでは有益よ♪」

 

一番チートなのはミトだと思う…

 

「ダンジョンを制覇していく旅もいいわね♪」

 

元勇者様、言う事がデカい。俺はそんなに戦闘に拘らない。リザ達と楽しく生活が出来れば良いと思う。ゼナも一緒に…

 

「じゃ、出発よ♪」

 

今日はゼナは非番では無い…じゃ、いいか…2台の馬車に乗り込み、いざボルエナンの森へ出発である。

 

でもアクシデントはすぐに起きた。関所でのこと…身分証を出したのだが…

 

「何…ミツクニ卿付きの子爵様だと…」

 

うん?俺はミツクニ卿付きの子爵になっていた。あれ?

 

「お忍びの旅ですか…いや、しかし、ここはこの地を治めるせーリュー伯爵とお会いになっていただけませんか?」

 

「申し訳ないが、急ぐ旅だから…」

 

って、門が閉ざされた。力尽くで出さないようだ。

 

「ミト、どうする?」

 

「先輩、街の外だと、どこに転移できますか?」

 

「竜の谷と、リザ達を手に入れた道だな」

 

「じゃ、馬車2台をそこへ転移して」

 

言われた通りに転移させた。現在位置をミトがチェック。

 

「なるほど…じゃ、あっちだわ。まず、鼠人族の集落へ行って、その戦士を送り届けるのよ」

 

って、指揮官ミトが声を上げた。

 

「で、いつ身分証が更新されたんだ?」

 

「あぁ、ダンジョンコアの処で、マスター登録、サブマスター登録したら、身分が更新されたみたい」

 

って、ミトが身分証を出した。

 

『ミト・ミツクニ 人間 所属:シガ王国 ジョブ:公爵 経歴:王祖ヤマト、元勇者』

 

って…俺のは、

 

『アール 人間 所属:ミツクニ公爵 ジョブ:子爵 経歴:勇者 源泉:竜の谷クレーター 迷宮:セーリュー市』

 

うん?源泉って?

 

「源泉って?」

 

「魔力の発生源よ。油田みたいな物で、権益があるのよ。あの流星雨から竜神を護ったから、あのクレーターの辺りを分けてくれたのよ」

 

なるほど…油田持ちなのか。

 

「迷宮も所有物になるの?」

 

「迷宮も源泉だからねぇ♪」

 

油田を2つ持っているのか…

 

------

 

食事休憩…リザ達が狩りへ向かう。肉を仕入れるようだ。ルルとアーシアは、野草を摘みに行っている。

 

「ねぇ、呼称が被っているんだけど、どうにかならない?」

 

って、アリサ。ミトが俺を呼ぶのに「先輩」で、俺が佐藤先輩を呼ぶのに「先輩」だからか…確かに、わかりにくい。

 

「じゃ、名前呼びにしましょう。私はミト、兄ぃはサトゥーで、先輩はアールで、どうかな」

 

まぁ、無難だな。

 

アリサの話を訊いた。俺達とは違う並行世界の日本から転生したらしい。

 

「あなた達の会話…懐かしさを感じるの」

 

って、小学生くらいの子に言われてもなぁ。先輩は中学生くらい、俺は高校生くらい、ミトはOLって感じである。

 

「ミト・ミツクニ卿かぁ…いっそ、格さん、助さんにしたら?」

 

ミトと同じようなことを…

 

「ご主人様、兎がとれました♪」

 

って、リザ。

 

「いのしし?」

 

って、タマ

 

「くまなのです♪」

 

って、ポチ…

 

「今から捌きます♪」

 

嬉しそうなリザ。

 

「食べられる野草を摘んできました」

 

ルル達も戻って来た。アーシアがデータベースを使って、食べられる物を判別したようだ。コアとリンクって便利…

 

-----

 

ボルエナンの森へ運んでいるミーア。本名は、ミサナリーア・ボルエナンというエルフである。確かに耳が長く無い。彼女を護り抜いた戦士は、ミゼという鼠人族、正式には灰鼠人族らしい。通称は赤兜という騎兵だそうだ。

 

彼らの集落の周辺で、森の立ち枯れ現象の調査をしていて、どこかから逃げてきたミーアを助けたらしい。彼の仲間の数名が、追っ手と交戦し、その後がわからないと、心配してた。

 

「立ち枯れかぁ…源泉を横取りしたヤツがいるかもなぁ」

 

って、ミト。エネルギー源を横取りされて、立ち枯れたかもしれないらしい。酷いことをするなぁ。って、考えていた時、空気がどんよりし出した。

 

「何か来たな!」

 

ミトが戦闘態勢を取ると、リザ達も警戒を強めていく。

 

『ここにいたのか…エルフの姫君よ!』

 

影のような物が現れた。

 

「影遣いか…厄介な。みんな自分の影に注意して!」

 

って、ミトの声…

 

「いやぁぁぁぁ~!」

 

ミーアがミーアの影に引き込まれて行く。俺は咄嗟に、ミーアの影に飛び込んだ…

 

そこは闇の世界…何も見えない、聞こえない。これで、誰からも何も言われずに死ねるのかな?心が安らかになっていく俺。闇の世界へゆっくりと沈んでいく。心地良い♪まるで揺り篭のようだ。

 

「やめてぇぇぇ~!」

 

静寂を斬り裂く誰かの叫び声。俺の安息地に何をするんだ!

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁ~!」

 

パリン!

 

闇の世界が粉々になっていく。俺の世界を…

 

「何…あそこから脱出だと!貴様、何者だ?ここへは正式な手順で来い!」

 

フードを被った男がそう言うと、床が抜けた。落下する俺。ジェットコースター感が半端無い。胃袋が口から飛び出しそうだ。脳ミソが耳から流れでそうだ。気持ち悪りぃぃぃぃ~!

 

ドボ~ン!

 

水の中に落ち、沈んでいく。息が出来ない。溺死は嫌だな…意識が遠くなっていく。

 

------

 

遠くで誰かの声がする。

 

「アーシア、生命維持装置を出して」

 

「了解です」

 

唇に柔らかい物が重なり、空気が送り込まれてきた。胸を押し込まれる。心臓マッサージ?じゃ、マウストゥマウスかな?

 

「ご主人様、目覚めて下さい」

 

柔らかい物が俺を抱き締めてくれている。

 

「このマスクを付けて、リザ」

 

「はい…」

 

「死んじゃダメ?」

 

「死んじゃダメなのです」

 

「う~ん、最後の手段だわ。ルルちゃん、ちょっと…ゴニョゴニョ」

 

後輩氏の声。誰かに耳打ちをしている。嫌な予感がするが、身体が動かない。

 

「えっ!それで、生き返るんですか?」

 

「もっと生きたいって思わせないとダメ。アールは死にたがりだから…」

 

うん?心臓マッサージをされている俺のズボンが脱がされていく。どういうことだ?少し間を置いて、生きてて良かったって刺激が俺を襲う。なんだ、これは…全身に力が漲っていくのがわかる。

 

「うっ…」

 

口から大量の水が流れ出ていく。

 

「ほらね♪」

 

「本当ですね…」

 

「アーシア、生命維持装置はそのままにして」

 

「了解です」

 

--------

 

ルルのお口での奉仕で、生き返った俺…

 

「生きる喜びが少ないんだよ、アールはさぁ」

 

そうかもしれない。こんな気持ち良いことって有るんだ…

 

「で、どうして、水没していたの?」

 

上での話をした。

 

「床が抜けたのか…罠を外さないとダメだねぇ」

 

考え込むミト。

 

「あっ!罠を強奪して、どこかへ強制転移とかは?」

 

どこか?迷宮にするか。早速実行した。迷宮の守護者の部屋の前に罠を設置…

 

「次に、私とアールで、そのフード男の前に転移よ!」

 

ミトと二人…いやアーシアも来たので、3人で転移した。

 

「何?貴様か…懲りずに…」

 

「マスター、迷宮のシステムを乗っ取りました。自爆シーケンスを解除しました」

 

転移してすぐに、アーシアが良い仕事をした。

 

「何?ダンジョンコアが帯同しているのか…お前、何者だ?」

 

「ミツクニ公爵配下の殺戮者だよ♪」

 

ジョブをチェンジして、聖剣と魔剣の二刀流で、フード男に襲い掛かった。ミトはミーアを助けている。

 

「ふざけるな…殺戮者の勇者だ?」

 

「暗黒面の勇者だよ~♪殺し合おうぜ♪」

 

フード男をみじん切りにして灰にしていく。

 

『なんだと』

 

『こいつ、危険すぎる…』

 

フード男から、しゃべる紫色の珠が2つ出て来た。

 

「逃がさない!」

 

「逃がさないのです!」

 

リザとポチが、その珠を斬り刻んだ。俺は、ジョブをチェンジした。仲間達に恐怖を振りまきそうだから。

 

「アーシア、ここは?」

 

コアの分身に訊いた。

 

「『トラザユーヤの揺り篭』という迷宮です。今、マスターを新しい所有者として、登録しています」

 

「ユーヤの?」

 

ミーアが呟いた。知り合いらしい。所有権が俺に移ったので、ダンジョン内をマスター権限で見学していく。

 

制御ルームの隣に小部屋が有り、迷宮の名前になったトラザユーヤの研究室のようだ。

 

「ホムンクルスの研究をしていたようね」

 

って、ミトが資料に目を通しながら呟いた。俺は本棚に目を移すと、日記のようなノートを見つけた。

 

「ミーア、日記みたいだ。君に渡しておく」

 

「うん」

 

日記を受け取り、涙を流しているミーア。知り合いなのは確定か。

 

「おっ!誰だ?!」

 

サトゥー先輩が声を上げた。ミーア似の巨乳のホムンクルスがいた。

 

「マスター、7号機です、よろしくお願いします」

 

って、俺に頭を下げた。7号機?

 

「攻略の褒美みたいよ♪6号機までは、迷宮でのモンスター扱いみたい」

 

って、ミトが資料を片手に説明してくれた。

 

「ナナって、名前にしよう。7号機じゃ味気が無い」

 

「わかりました。書き換えました」

 

アーシアが、ライバル心を持って見ているようだ。

 

「アーシア、仲良くしてあげてくれ。お姉さんなんだから」

 

「お姉さん?あぁ、そういうことですか、了解しました、マスター♪」

 

何かを誤解したアーシア。面倒ごとになりそうなので、スルーだな。

 

「ナナ、後、見所な場所はあるか?」

 

「ここ以外は、戦闘エリアになります、マスター」

 

「じゃ、ミト、攻略されないように、設定してくれる?」

 

「わかったわ。ここも守護者を獣の数字にしちゃおう♪」

 

で、出口から脱出。あっ!立ち枯れの原因は?

 

「ナナ、立ち枯れの原因って、わかるか?」

 

「源泉の乏しいこの地で、迷宮を起動したことによる、マナ不足です」

 

なるほど…

 

「アーシア。俺の源泉から、マナを供給出来るか?」

 

「竜の谷のクレーターですね…出来ます。設定を終えました。この迷宮が安定的に動けば、初期投資を回収は可能です」

 

「赤兜、そういうことだ。これでいいか?」

 

「助かる。すまんな。そうだ、これを持っていってくれ」

 

鈴を貰った。アイテム情報によれば、『ボルエナンの静鈴』という物らしい。

 

「友情の証だ」

 

「わかった。大切にするよ」

 

ミゼを無事に集落へ送り届けて、ボルエナンの森を目指す俺達。

 

 

 



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SS:ゼナの困惑 Part1

ゼナ視点です。

06/02 誤字を修正


うっ…突然の出発…私の非番では無い日に…もっと、お話をしたかった。もっと、一緒にいたかった。一緒に行きたかった。

 

「出て行ったのか♪」

 

仲間のリリオが、嬉しそうに言う。

 

「出て行ったのじゃないよ。旅立ったのよ~!」

 

「まぁ、いずれ戻って来るんだろ?マリエンテール卿の配下だし」

 

そうなんだけど…

 

今日は上層部の動きが慌ただしい。何かあったようだ。

 

「ベルトンが何かそそうをしたらしいぞ。爵位が剥奪されたそうだ」

 

この街を牛耳っていたベルトン子爵が?誰に?

 

「この街に、王家のミツクニ卿がお忍びで、見えていたそうだ。ミツクニ卿に剥奪されたのであろうな」

 

ミツクニ公爵が、お忍びで…それは、上層部は慌ただしいよね。情報をキャッチ出来ずに、接待もしていない訳だし。

 

「門番がさぁ、ミツクニ卿の配下の者の身分証の写しを、保存していたらしいんだけど…」

 

同僚のイオナが意味有りげに私を見た。何?

 

「ゼナの彼氏ってアールだよな?」

 

「彼が何かやらかしたの?」

 

心配だ。ミツクニ公爵に粗相をして、打ち首なんて結果は嫌だよ…

 

「まぁ、やらかしたと言えば、やらかしたんだけど…」

 

もったいぶった言い方のイオナ。

 

「もったいぶらずに言えよ!」

 

リリオがせかしてくれた。

 

「アールはミツクニ卿の配下の子爵だそうだ」

 

へ?

 

「お忍びで、この街の様子を調べていたらしい」

 

彼…子爵なの?

 

「子爵夫人♪なれるといいよな、ゼナ♪」

 

イオナに肩を叩かれた。彼は、公爵の配下…えぇぇぇぇ~!

 

「そんな素振りは見せていないよ…」

 

「悪魔を斬り刻むって、公爵の配下なら納得だよ」

 

その場にへたり込んだ私。私はなんて人と…

 

「おい!大丈夫か!ゼナ、しっかりしろ~!」

 

意識が遠くなっていく。

 

------

 

身体が揺り動かされた。

 

「おい!ゼナ、起きろ!」

 

リリオの声だ。

 

「どうしたの?」

 

「お前の彼氏、やってくれるなぁ♪」

 

私の彼氏?いないけど…

 

「あの星降りの現場を、調査しに行った部隊が戻って来たんだよ」

 

だから?

 

「大きなクレーターがあって、そこでヤマト石を置いて、情報を調べたんだそうだ」

 

ヤマト石とは、王祖ヤマト様が作った、真実を見抜く装置を、組み込んだ石である。

 

「そうしたら、源泉の所有者は、アール子爵だってよ」

 

え?それって…

 

「あの地を星降りから護った功績で、貰えたようだよ。竜神様から…」

 

そんなスゴい人だったなんて…

 

「あと、あの新しく出来た迷宮。あれもヤマト石で調べたそうだ。その結果、所有者がアール子爵で、副所有者がミツクニ公爵だそうだ」

 

最深部まで行ったんだ…彼は…

 

「玉の輿に乗れよ、ゼナ♪」

 

そんなことを言われても…

 

 

 

 



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世直し旅

 

ホムンクルス達の栄養補給はマナを与えることだそうで、心臓に近い部分に、手の平を当てて、魔力の元であるマナを与えれば良いそうだ。

 

俺はアーシアの背中に手の平を当てて与えている。サトゥー先輩は、ナナの左胸に手の平を当てて与えている。

 

「サトゥー、ぎるてぃよ!」

 

と、アリサ。

 

「ぎるてぃ!」

 

ミーアも追従している。

 

ギルティーとは有罪ってことだ。

 

「俺はナナに栄養をだ…」

 

「ご主人様のように背中から与えれば良いでしょ?巨乳フェチ!」

 

アリサの言葉にタジタジのサトゥー先輩。

 

「兄ぃは、どうして、子供達の前で、そんな下品なマネをするのかな?」

 

って、ミト。先輩は、渋々、背中から与え始めた。

 

「マスター、胸でも良いですよ」

 

「背中でいいんだよ、アーシア」

 

「了解です」

 

アーシアの頭を撫でて上げると、笑顔になるアーシア。

 

「そうだ、ミト!マップで空白地帯があるんだけど…」

 

「あぁ、それは結界で護られている地域だよ。この辺りだと、幻想の森の魔女かな」

 

「ミトは知り合いか?」

 

「うん♪寄っていく?」

 

「ご挨拶をしておこう」

 

馬車で幻想の森へと向かう。結界で護られているって言うが、すんなり入れたようだ。

 

「その鈴のおかげよ。ボルエナンの加護で結界を通過出来るのよ」

 

って、博識のミト。しかし、結界を許可無く入ると、トラブルの元である。目の前に魔物が出てきて、俺達を威嚇している。

 

ジョブチェンジで飛び出す俺。リザ達も追撃のようだ。だけど、見た目より弱い魔物達。

 

「もう、その辺にしてもらえますか?」

 

優しそうな老人が現れた。

 

「オババ、久しぶり♪」

 

ミトが声を掛けた。

 

「あれまぁ~、王祖様ですか。お久しぶりでございます」

 

老人がミトに深々と頭を下げた。

 

「大勢でおしかけて、ゴメンね♪」

 

「いえいえ、王祖様一行でしたら、いつでも歓迎ですよ」

 

って、魔物達は消え、泣きべそをかいている少女が現れた。

 

「この子の悪戯です。まさか、反撃に遭うとは思っていなかったようです」

 

なるほど、道理で弱い訳だ。

 

「この子は弟子のイネニマアナです。ほら、挨拶をしなさい!」

 

「うっ…イネニマアナです…もう虐めないでください。うぇぇぇぇ~ん…」

 

あぁ、泣いちゃった。

 

------

 

イネちゃんの相手をタマ、ポチ、ミーアに頼んだ。他の者は魔女様とミトのお話を聞いている。

 

「今まで、一番楽しそうなパーティーですね、王祖様」

 

「そう思うでしょ?私もそう思っているのよ」

 

ホムンクルスが2体いるし、チーターが3名いるし…あぁ後、転生者が1名か。

 

「この後は、どうされます?」

 

「この近くの集落だと、クハノウ伯爵領のセダム市かな。そこへ行きます」

 

「それなら、明日弟子が納品に行くので、一緒に行かれると良いです」

 

明日、イネちゃんと一緒に街に行くことになった。

 

 

朝一でイネちゃんは、魔女様の作った魔法薬の入った瓶を、馬車の荷台へ載せた。手伝おうとしたら、これも修行のうちと断られた。

 

そしてイネちゃんの馬車と共に、セダム市へと向かう…が、数回襲撃にあった。魔法薬狙いのようだ。

 

セダム市の門を潜り…両側から何かがイネちゃんの馬車に迫ってきた。

 

「先輩!」

 

「あぁ、護ってあげようぜ!」

 

俺とサトゥー先輩が場所から飛び出し、何か…手押し車を強制転移させた。転移先はクレーターである。あそこなら迷惑が掛からないし。

 

「リザ、ナナ!馬車をイネチャンの馬車の横に付けて護れ!」

 

御者台に乗っている二人に指示を飛ばした。頷く二人。

 

「ポチ、タマはイネちゃんの馬車に乗り、護ってあげて」

 

「了解?」

 

「了解なのです♪」

 

身軽に二人はイネちゃんの馬車に飛び乗った。街中でこんなマネして、市兵は動かないのか?

 

「罠かな?」

 

ミトが呟いた。ゴロツキっぽいのが、追い掛けて来た。俺はジョブチェンジをして、叩き殺していく♪

 

イネちゃんは無事に納品が出来たようで、後は太守補佐官のサインを貰えば、納品終了になるそうだ。だけど、太守補佐感がサインを拒んでいる。

 

「あぁ、そういう意味か…納期をイネちゃんに破らせて、契約破棄にして、あの森に手を出すのかな♪」

 

ミトが相手の心を看破したのか、ギクっとした太守補佐官。

 

「それなら、そうで、こっちも奥の手を使うまでだ。アール先輩、クハノウ伯爵を『強奪』してください」

 

え?奥の手って、俺か?まぁ、言われた通りにした。この場に強制転移してきたクハノウ伯爵。

 

「これはどういう状況かな?」

 

伯爵が訊いて来た。

 

「受領のサインをくれないんですよ。午前中から、もう夕方だと言うのにねぇ。クハノウ伯爵の入れ知恵ですか?魔女様の森を手に入れる為に♪」

 

「私は、そんなマネはしない。バーキンツ、どういうことだ?」

 

「もう契約は破棄ですよ。あの森に街を作り、税収をあげましょうよ!」

 

「じゃ、納品完了ってことで♪」

 

悪代官がセリフを言っている裏で、ミトが伯爵のサインを貰っていた。

 

「なんで、サインなんかしたんですか?」

 

ミトの持っていた受領書が燃えて灰に成っていく。

 

「エグいことするなぁ~!もう、怒ったわ。アール先輩、アイツらを迷宮へ飛ばして!」

 

迷宮?アーシアの迷宮にするか。悪代官達を迷宮へ強制転移させた。

 

「もう一度サインをお願いします」

 

予備の契約書にサインを貰うミト。さすが、商人の嫁だな♪

 

「この度は、部下が迷惑をお掛けした。すまない…で、君達は誰だい?」

 

「名乗る程の者では無いです」

 

って、ミト。だけど…

 

「ババ様が王祖様って呼ばれていました」

 

って、イネちゃんが正直に話してしまった。

 

「なんですって…王祖ヤマト様ですか…」

 

「いや、お忍びだから…内密にしてくれるかな?」

 

「世直し旅でしたよね。お噂は聞いておりました。まさか、我が領にいらっしゃってくれるとは…」

 

『撤収だよ。みんなを転移させて…魔女様の森まで』

 

って、ミトからメッセージが届いた。指示通り転移した。

 

-------

 

魔女様の家で食事会…蜥蜴の黒焼き…リザが固まっている。流石に無理だよなって、俺も無理です~

 

「この後は、どうされますか、王祖様」

 

「この先だとムーノ市かな」

 

「あの街もきな臭いようですよ」

 

「まぁ、どこも、きな臭いよ。魔王の季節だし…」

 

翌日、魔女様の森から旅立った。サトゥー先輩は、商人らしく、魔法薬を買い入れていた。俺は商人では無いので、買わなかった。

 

 

ムーノ領へ入った。ここで、3人でマップ探索をした。多少の誤差があるようだったので…

 

「魔族がいるねぇ」

 

「いるわね」

 

「殺していい?」

 

「大事にはしないでよ~」

 

近くにいる魔物を狩る。強いヤツはスカウトして、迷宮へ強制転移させる。

 

「エグいわね~。自分の迷宮の魔物を強化するなんて」

 

って、アリサ。まぁ、少し努力しないと、アーシアが泣くので。

 

「この先に盗賊の集団がいるけど」

 

先輩がマップを見て、報告をしてきた

 

「殺していい?」

 

ミトに確認をした。

 

「いいわよ。ただし、クズだけよ」

 

ジョブチェンジをして狩りを始めた。リザ、ポチ、タマが参戦している。

 

「たった4人だと?返り討ちにしろ!」

 

リーダー格みっけ♪瞬動術で接近して、命を狩った。ミト達が来る頃には、辺り一面が血の海だった。

 

「派手にやったねぇ~、ジョブを戻しておいて」

 

あぁ、最近はミトですら、恐怖を感じるようになってきた、ジョブ殺戮者。大丈夫か、このジョブは…

 

「勇者で戦えば?」

 

トルネコ先輩こと佐藤先輩に言われた。

 

「一般ジョブが欲しい…勇者か殺戮者か調教士って…ダメだと思う」

 

ジョブを子爵に戻した。

 

「先の駐屯地の兵はヤバいなぁ。殺人とか強姦とかの罰則持ちが多いぞ!」

 

じゃ、また、狩りの時間だね♪

 

--------

 

盗賊に腐った兵士…この辺りの領主は大丈夫か?盗賊は狩っても狩っても減らない。なんでだ?

 

狩りを終えて、残党探しで、森の中を捜索していると女性が倒れていた。佐藤先輩好みの女性である。息はしているようだ。先輩の馬車へ強制転移だな。メッセージを流してから。

 

馬車がやって来た。

 

「助けたのはアールなのに、サトゥーに助けられたって誤解しているぞ」

 

って、ミト。

 

「いいよ。爆乳は苦手だから、好きな人が相手すれば良い♪」

 

「うっ!そんな目で私を見ないで…」

 

涙目のミト…そそるなぁ。って、ジョブチェンジを忘れていた。濃厚な殺意の眼差しで見ていたようだ。子爵にチェンジだな。

 

「殺されるかと思ったわよ~。ジョブチェンジはしてね…って、戦蟷螂の大群が来るわよ」

 

マップを確認すると街方向へ真っ赤な波が押し寄せてきている。

 

「じゃ、ナナのダンジョンに強制転移させよう♪」

 

便利なスキルである。真っ赤な波は一瞬で消えた。

 

「揺り篭が、カマキリの巣窟になるんじゃないの?」

 

「カマキリの揺り篭でも良いかなって」

 

アーシアの迷宮へも半分は送った。モンスターの生成にマナが使われるので、外部から補充すると、マナの消費が抑えられるそうだ。

 

「で、皆殺しはしなかったの?」

 

若干生きている盗賊達。

 

「罰則の無い奴らは、殺さないよ。そこまで血に飢えていないから」

 

涙目のミト…あぁ、ジョブチェンジしないと…

 

「勇者で戦いなさいよ~」

 

あぁ、そうだね…次から、そうするよ…

 

「そうだ、事情聴取をしたら、盗賊の罰則の無い奴らは農民が殆どで、男爵の娘の輿入れの祝い金だって言って、徴税官が冬の蓄えを3割ほど持っていったのが原因だそうだ」

 

「その娘、馬車にいるけど…」

 

「あの爆乳?」

 

「そうそう…」

 

「輿入れされるのに、森で倒れているって、おかしくないか?」

 

「おかしいよね」

 

「で、輿入れ先が勇者だって…」

 

「はぁ?」

 

怪訝な顔をするミト。

 

「マップ探索しても勇者が出来てこないんだよ。元勇者はヒットするんだけど」

 

それはミトである。

 

「偽勇者が、荒稼ぎって構図かな?」

 

『彼女の姉が勇者の許嫁のようだ』

 

って、サトゥー先輩からメッセージが届いた。

 

「マスター、あの都市の都市核の契約者がいないようなので、マスターで登録を済ませました」

 

って、アーシア。

 

「はぁ?領主が契約をしていないの?おかしいわね。契約をしないと領主って名乗れないのに…って、アールが領主?おぃおぃ…」

 

アーシアはよかれと思ってしたのだろう。頭を撫でて上げる。

 

「まぁ、契約したんならしょうがないわね」

 

流石は元勇者、切り替えが早い。

 

「契約するとメリットってあるの?」

 

「都市の防衛などのメリットが有るけど…アールには無いかな?まぁ、税収が入るかな」

 

なるほど…

 

「アーシア、このコアのマナの供給は足りている?」

 

「契約者が居ない為、機能していません。なので、貯蓄があります」

 

「アーシア、魔族の流入を防御してくれ」

 

「了解です」

 

竜の谷の源泉の所有者の一人である俺と、最新のダンジョンコアのアーシアが組むと、他のコアに干渉できるそうだ。ミト大明神様によると…

 

「さっそく、防御か。でも、流入しているヤツはどうする?」

 

「決まっているだろ♪狩るだけだよ♪」

 

--------

 

勇者にジョブチェンジして、狩りをしている。殺戮は出来ないけど、魔物や悪魔狩りは出来るみたいだ。って、経験値がガバガバ入り、レベルも上がっていくし…

 

『ミト…後、どの辺りにいる?』

 

『城の中にいるわねぇ』

 

『了解』

 

メッセージを利用して、安全な場所にいるミトにマップ探査を頼み、俺だけ乗り込んで狩りをしている。いや、アーシアとナナも一緒だ。

 

『アール!勇者の名前はハウトだ』

 

サトゥー先輩からのメッセージ。あの爆乳娘から情報を訊き出してくれている。

 

『ミト!ハウトの居場所は?』

 

『城の中…』

 

城の中か…

 

「アーシア、城の中からハウトってヤツの居場所を探せるか?」

 

「了解です。マスター」

 

アーシアばかり使うので、ナナが拗ねている。何か依頼して、言いたいようだ。

 

「ナナは戦闘になったら、頼む」

 

「了解です。マイマスター♪」

 

ナナの方が感情が豊富のようだ。

 

「ソルナ・ムーノの部屋にいます」

 

婚約者の部屋か。そこへ忍び込む♪

 

------

 

男女の営みをしているところだったようだ。

 

「きゃあ~!」

 

女性の悲鳴。

 

「お前は何者だ?」

 

勇者ハウトが訊いて来た。

 

「名乗る程では無い。お前は何者だ?偽勇者君♪」

 

勇者の証の聖剣エクスカリバーを、手にして構えた。聖剣は青い光を帯びている。

 

「青い光…勇者様?じゃ、あなたは?」

 

ハウトから離れようとするソルナだが、膣痙攣したのか離れられない。

 

「偽勇者君、斬り落として上げようか♪」

 

「マスター部屋の外に、偽勇者の侍従がいます」

 

アーシアの報告。

 

「ナナ!しばいてきていいぞ」

 

「はい♪マイマスター♪」

 

嬉しそうに部屋の外で、暴れているナナ。

 

「助けは来ない。どうする?」

 

いや、ドタドタとヤッテ来る援軍。ナナだけじゃキツいか?

 

「ミトちゃん、参上♪」

 

って、ミトが転移してきた。ナナの傍に行き、一緒に暴れている。

 

「トルマって人を助けたら、情報をもらったわ。アール、魔族を探して!」

 

魔族?もしかして、城の人達って、術に嵌まっている?

 

 

 

 



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アールを襲う強敵

06/01 誤字を修正


「アーシア、魔族を探してくれ!」

 

「了解です、マスター」

 

偽勇者君のが萎えたようで、彼女は離れて震えていた。

 

「偽勇者君♪魔族はどこだ?」

 

「マスター、コアの探査を使っても良いでしょうか?」

 

あぁ、都市の機能にあるのか、強力そうだな。

 

「許可する」

 

「え!都市核と契約をしているの?」

 

ソルナに訊かれた。

 

「あぁ、そうだ」

 

「マスター、見つけました。玉間にいます」

 

「そこから出すな!」

 

「了解しました、マスター」

 

「アーシア、ナナ、ミト!玉間に行くぞ!」

 

-------

 

ソイツは玉座に座っていた。

 

「これはこれは、勇者殿ですか。ふふふ♪」

 

「ミト…チェンジしていいか?」

 

「勿論♪屠って良し」

 

俺は殺戮者にジョブチェンジした。手にしていた聖剣が紫色の光を帯びていく。ソレをみた魔族の顔が歪んでいく。

 

「有り得ない…聖魔の融合だと…」

 

あぁ、聖属性の青い光、魔属性の赤い光、混ざると紫ってことか。

 

「貴様、勇者では無いのか…」

 

「俺は単なる殺戮者だ」

 

瞬動術で魔族の懐に入った。魔族の長い爪が俺を襲うが、スルーアーマーを装着しているので、ノーダメージである。

 

「攻撃が効かないだと?有り得ない…」

 

先ず、左足大腿部を切断。羽を展開したようなので、根元から斬り落とす。そして、右手をみじん切りに…

 

「うごぉ…」

 

苦痛で床を転げ廻っている魔族。では最後は魔法で♪

 

『ウルティマウエポン』

 

魔族は灰に成って霧散していく。一丁上がりだ。あぁ、ジョブチェンジしないと…

 

「さぁ、帰ろう!リザ達が心配しているぞ」

 

って、ミト。そうだな。

 

------

 

馬車に戻ると、知らない夫婦者と赤子がいた。

 

「誰だ?」

 

「トルマ親子だ」

 

って、サトゥー先輩。あぁ、情報提供者か。

 

「なんで、俺の馬車に?」

 

寝たいんだけど…

 

「アッチの馬車は、カリナが使っているんだ」

 

あぁ、あの爆乳娘か…

 

「寝たいだけど…」

 

「済まないが、別の場所で寝てくれ…」

 

って、トルマっていうおっさん。

 

「俺の馬車なんですが…」

 

「だから、なんだ?こっちは赤子がいるんだ!」

 

なんだ、このエラそうなオッサンは…

 

「わかったよ。ナナ、アーシア、行くぞ!」

 

俺達は、イネちゃんの元へ転移した。

 

「どうしたんですか?」

 

「悪い、少し寝たいんだよ」

 

「えっ!私の部屋でですか…」

 

川の字になって寝る俺達。

 

--------

 

「ねぇ、起きて…やさぐれないでよ~!」

 

後輩氏の声…

 

「後10分…」

 

「またかよ~!う~ん、リザ…ごにょごにょ…」

 

「はい♪」

 

唇に柔らかい物が当たっている。瞼をゆっくり開けると、リザがいた。

 

「おはようございます、ご主人様♪」

 

「おはよう…あれ?ここって、どこ?」

 

「イネちゃんの部屋よ!何も、ここで寝ること無いでしょ?それなら、ゼナさんの家にしてあげなさいよ」

 

あぁ、そういう選択肢もあったねぇ。

 

「で、あれ?サトゥー先輩は?」

 

ミトは転移術が無いのだが。

 

「私とリザちゃんだけ、強制転移して貰ったのよ。兄ぃは、色々と忙しいみたいだから」

 

そうなのか。

 

「俺の馬車は?」

 

「トルマ親子が乗っていったの…」

 

はぁ?

 

「この先、どうするんだ?」

 

「どうしようね…」

 

「先輩の馬車は?」

 

「残りの子達を載せて、ムーノ市へ向かっているわ。あのカリナって子とトルマ夫婦が、兄ぃに助けられたって…褒美を取らせたいって…」

 

手柄の丸取りか…

 

「まぁ、いいや。馬車をどこかで買わないとだな」

 

「先立つものが無いよ…」

 

まぁ、財布代わりの先輩がいないんじゃ…

 

「マスター、都市核はこちらにあります。税収を期待しましょう」

 

って、アーシア。

 

「そうもいかん。どこかの街で、魔核を売れば、馬車買えないかな?あぁ、何でも屋で換金すれば良いのか。ちょっと行ってくるよ」

 

-------

 

今までに稼いだ魔核を店長とナディさんを通じて、売り払ってもらった。で、店長の口利きで割り引き価格で馬車をゲット出来た。前のよりも豪華で大きいし♪

 

「買ってきたよ」

 

ミト達の待つ、魔女様の家の前に転移した。

 

「わっ!豪華になったわねぇ♪」

 

乗り込んだミト達を載せて、先輩の元へ転移した。

 

「ご主人様?」

 

「ご主人様なのです♪」

 

タマとポチが抱きついて来た。二人を抱き締める。

 

「うっ!」

 

ミーアも抱き締める

 

「私は?」

 

アリサとルルも抱き締める。後、誰がいたっけ?

 

「これで全員ね」

 

「サトゥー君、彼は誰かな?」

 

知らないオッサンがいる。

 

「俺の後輩のアールです。アール、この方が、ムーノ男爵だ」

 

「なぜ、ポチ君、タマ君が彼の元にいるのかね?」

 

「アールの眷属ですから」

 

「なんだって?君はサトゥー君の後輩なんだろ?ならば、この二人は、先輩であるサトゥー君へ譲渡し給え!」

 

このオッサンは、先輩を可愛がっているのか。オッサンの情報がポップアップした。『ムーノ男爵』と表示されている。男爵なのか?

 

「タマ、ポチ、どうする?」

 

「置いて行く?」

 

「置いて行かないで欲しいのです」

 

俺に抱きつく二人。

 

「二人の意志を尊重します」

 

「君は甘いな。君ではダメだ。私が命じる。ポチ君とタマ君は、サトゥー君の眷属にする!いいね?」

 

なんだ、この男爵は?タマもポチも物では無い。勝手に主を変えて良いことでも無い。俺の中の何かのスイッチが入った、

 

「ふざけるなよ…アーシア、排除機能を発動、ムーノ男爵一家を街から追い出せ!」

 

「了解しました、マスター」

 

目の前からムーノ男爵は消えた。

 

「何をしたの?」

 

ミトが訊いて来た。

 

「都市核を使って、ジャマ者を排除しました♪」

 

「なるほど♪」

 

「そうなると、街の運営を、誰にまかせるかだな」

 

「あぁ、それなら、地下牢に幽閉されていた執政官がいるわ」

 

って、アリサ。仕事が早くて、いいねぇ。

 

「使えるのか?」

 

「えぇと、履歴書によると、「鉄血」の二つ名で知られた名誉子爵のようよ」

 

「その彼に会えるか?」

 

「女性だよ♪」

 

そうなのか…アリサと俺とミトで、その執政官に会いに行った。

 

「この街の執政官に就任したニナ・ロットルだ。君達は?」

 

俺とミトは彼女に身分証を見せた。

 

「え…なんですって…ミツクニ公爵様…って…あの…」

 

青ざめていくニナの顔色…

 

「ミトと呼びください。お忍びなんで、爵位では呼ばないでね♪」

 

「わかりました…で、そちらの方…この都市の領主…あなたが、そうなんですか。えっ…竜の谷の源泉…ダンジョンを2つも…さすが、ミト様の側近ですね」

 

俺達に好意を持ってくれたみたいなニナ。では、

 

「ニナに命じる。この街の領主代行をしてくれ。俺はミトと旅の途中だ。だから、大枠は俺が決めるが、運営を任したい。どうかな?」

 

「はい♪意に沿えるように、がんばります」

 

「で、魔族に支配されていたとは言え、圧政の上、高率な税の取り立てで、市民、特に農村部の住民は疲弊している。立て直しを優先事項にしたい。腐敗した役人は粛清し、新たなヤル気のある人材を登用して欲しいんだ。どうかな?」

 

「私も同じ考えです。光栄です♪」

 

ニナと今後の方針を話し合い、ニナにこの街を任せることにした。

 

「そうそう、都市核の機能の防御だけど、あれはそのままにしておく。マナ不足になったら、俺の持つ、他の源泉から供給するようにする」

 

「ありがとうございます」

 

「後、俺とミトの正体は…わかっているな?」

 

「はい!私の胸の奥にしまっておきます」

 

実のある会談は終わった。

 

「源泉とか都市核を持っていたの?」

 

アリサが驚いている。

 

「成り行きでね♪」

 

「ご主人様らしいなぁ。ここ一番にしか、使わないところとか♪」

 

アリサに褒められると、なんか嬉しいなぁ。

 

馬車へ戻っていくと、ムーノ男爵一家が集まっていた。今更なんだ?

 

「おい!お前!何をしたんだ?!」

 

男爵が怒っている。なんで?

 

「何の話ですか?」

 

「何の権利があって、私達を街から追い出したんだ?!」

 

「何の話ですか?」

 

あぁ、面倒くさいなぁ。えい♪目の前からムーノ男爵一家が消えた。

 

「今度は、何をやらかしたのかな?」

 

ミトが訊いて来た。

 

「セダム市へ強制転移だよ。当分、来られないでしょ?」

 

「なるほど…」

 

って、カリナという次女だけが残っていた。先輩と先輩の馬車にいたので、難を逃れたと言うか…

 

「次は、どこへ向かうのかな、ミト♪」

 

「次は、ボルエハルト自治領で補給かな」

 

-------

 

大きく豪華になった俺の馬車。だけど、先輩とカリナが使っている。俺達は、先輩のお古の馬車に押し込められている。いや、避難しているというか。カリナが先輩にベタ惚れしたようで、昼間から子供達に見せられないシーンを連発し…

 

「俺の金で買った馬車なのに…」

 

「ごめんね、兄ぃが…あの爆乳女が、あの馬車を気に入ったみたいで…」

 

「先輩の能力で作り出してもらおうよ」

 

苦笑いするミト。作れなかったのか…

 

「でね、都市核を得たから、アール先輩は男爵になったでしょ?」

 

都市核の契約に立ち会わなかったのだが、身分証は更新されていた。ニナに見せておいて、俺自身が驚いたのは秘密である。

 

「空位になった子爵を、兄ぃに渡したんだよ」

 

なるほど…

 

「で、家名もあった方がいいかなって、兄ぃにはペンドラゴン卿を名乗ってもらうことにしたんだ」

 

ペンドラゴンって、アーサー王の家名では無いのか。かっこえぇぇなぁ~

 

「アール先輩は、どうする?」

 

俺かぁ…アーシアと言えば、

 

「アルジェントでもいいかな?」

 

「わかったわ」

 

ミトが呪文を唱えると、俺の身分証が光輝いた。更新されたようだ。取り出して、確認をすると、

 

『アール・アルジェント 所属:ミツクニ公爵 ジョブ:男爵』

 

となった。

 

「ゼナは喜んでくれるかな…」

 

「出世して喜ばない彼女はいないよ♪」

 

「だと、いいなぁ…」

 

---------

 

ミトに声を掛けて、俺一人で、セーリュー市に転移してきた。ゼナはどこかな?マップ探索をした。おぉ、見回り中のようだ。ゼナの元へ向かった。

 

「ゼナ!」

 

彼女に声を掛けた。振り返る彼女…

 

「アールさん!」

 

俺に走り寄り、俺に抱きついた彼女。彼女の唇が俺の唇に重なってきた。

 

「ただいま♪って、言っても、まだ途中だけどね」

 

「え?どういう意味ですか?」

 

「転移術を持っているんだ。秘密だよ♪」

 

驚いているゼナ。そして、

 

「私で良いのですか?」

 

「どういう意味?」

 

「だって、アールさんって…隠密ですよね?」

 

「何の話?」

 

「あれ?違うんですか?」

 

ゼナの同僚達が、こっちを指差してごにょごにょ…ゼナと共に、ゼナの家へ転移した。

 

------

 

ゼナとゼナの父上に、現在の身分証をお見せした。ソレを見て固まる二人…喜んでくれないのか?

 

「男爵に成られたのですか…スゴい…それも、あのミツクニ公爵の配下って…」

 

ゼナの顔は笑顔では無く、恐怖に飲み込まれたような表情だ。

 

「源泉をお持ちに…それも、竜の谷って…えっ!都市核も…迷宮までも…」

 

ゼナの父上も恐怖に飲み込まれている、なんで?喜んでくれないの?

 

「私と私の娘が無礼なことを…」

 

なんで、謝るの…

 

「俺はゼナさんと結婚を」

 

「もったいないお言葉です。でも、分不相応です。私では…」

 

俺の言葉を遮り、ゼナが言葉を発した。なんで、哀しそうな顔になるんだよ。ただ俺は、ゼナに喜んで欲しかっただけなのに…なんでだよ~

 

「俺は…振られたんですね…真剣に告白をしようとしたのに…」

 

涙が出て来た。

 

「えっ!真剣だったんだ…でも、私は軍属だから…」

 

「わかりました。忘れます。ゼナさん、幸せになってください」

 

俺はその場から転移をした。ただ、転移した。どこへ転移したかは、神のみぞ知る…

 

--------

 

「ねぇ、起きてください。なんで、ここで寝ているの?」

 

柔らかい物が触れている。俺の上に誰かいるのか?

 

「何が遭ったの?こんなに目を腫らして…」

 

目の前の誰かの口を塞ぐように、唇を重ねた。俺に触れていた柔らかい物が、一瞬ビクっとして、固くなっていく。ここはどこだ?

 

「アーゼ様、アーゼ様、どこですか?呼んだら、返事をしてくださいね~」

 

って、先程とは違う人の声…いきなり訪れた静寂の時…

 

「何をしているんですか?アーゼ様!」

 

俺の上にいるのがアーゼって人なのか…アーゼは、俺の首に腕を絡めている。何度も、唇同士を触れさせている。

 

「アーゼ様、その行為の意味を分かっていますか?」

 

意味って、なんだ?

 

「うん♪わかっている♪結婚する、彼と♪」

 

へ?結婚?何で?どうして?

 

「私を迎えに来てくれたんだよ。私を待ちくたびれて、私のベッドで寝ていたんだ。こんなに目を腫らすまで泣いて…彼の気持ちに応えたいんだ♪」

 

なんか、誤解されている。だけど、言い出せない。アーゼという者のオーラ。なんだ?このオーラは…神々しいというか…

 

-------

 

俺が転移した先は、アイアリーゼ・ボルエナンっていうハイエルフのベッドだったらしい。問題なのは、エルフ族の場合、額にキスで婚約で、口にキスだと結婚だと言う…俺は、飛んでもないミスを犯したようだ。

 

「間違いでしたじゃすまないですよ!今更、何を言っているんですか?アーゼ様はその気ですからね!」

 

ルーアというアーゼに仕える巫女に説教を食らっている俺。

 

「わかりました。このまま、退散します…」

 

「ダメです。アーゼ様と話し合って、彼女には、ここに残るように説得してください!」

 

この地に残るハイエルフはアーゼだけなので、俺と一緒には旅が出来ないそうだ。

 

 

 

長い説教が終わり、アーゼと向き合う。

 

「なぁ、ここってボルエナンの森か?」

 

「うん?そうですけど…知らないで来たのですか?」

 

「気づいたら、アーゼのベッドにいたんだ。それは何かの縁かもしれないが、」

 

俺はミーアを強奪で、手元に呼び出した。

 

「えっ!ミーア!」

 

「アーゼ?どうして?」

 

「じゃ、返したよ」

 

俺は身代わりにミーアを置いて、この場から転移した逃げた…

 

-------

 

ミトの元に戻り、事情を話すと、長い説教を受けた。そして、ミトと二人でアーゼの元へ行き、今後の話し合いをした。

 

その結果、俺がたまにアーゼの元へ訪れるって、ことで決着をした。

 

「王祖ヤマト様の侍従でしたのですか。身元はしっかりとしているので、ヤマト様の案で良いです。いつか、一緒に旅が出来るといいなぁ♪」

 

って…

 

次の問題へ向き合う。ミーアの両親にこれまでの経緯を、ミトが話した。その結果、ミーアにエルフの里以外の街を見て廻る許可が出て、一緒に旅することになった。但し、俺がアーゼに会いに行くとき、一緒にエルフの里に連れ帰ることとなった。

 

「もう!やらかさないでよね。こういう外交問題になることは!ゼナさんの事は、私のアドバイスミスって認めるけど…」

 

こうして、ゼナに振られ、アーゼというガールフレンドを得た俺。

 

「でもハイエルフは、人間とは結婚出来ないから、実質3連敗ね。ご愁傷様でした♪」

 

って、嬉しそうな声のミト…ミトから始まり、対女心戦は3連敗だよ。魔族を狩る方が、楽なのは何故?

 

 



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連敗ストップ

ボルエナンの件が解決したので、行き先が変更になった。

 

「王都を目指すよ!」

 

って、ミト。ミツクニ卿として、王都にあるミツクニ邸を王様に強請りたいらしい。で、次の補給地点は、オーユゴック公爵領の公都だそうだ。そこに、古くからの知り合いがいるそうで、挨拶したいんだそうだ。

 

「その知り合いは生きているのか?」

 

ミトがどのくらい冬眠していたかは知らないけど、王祖なんだろ?それなりに年数は過ぎていると思うんだけど…女性に歳の話はダメだろうな。いくらミトでも…

 

「たぶん…名前はリリーっていう名の少女よ」

 

だから、少女である保障は無いと思うんだけど…

 

「それよりも、馬車をどうにかしてくれよ~!」

 

先輩のお古の馬車は、人数の割りに狭い。

 

「公都に着いたら、きっちりと請求するわよ!」

 

息巻いているミト。

 

そして、公都へ…

 

「ミト!俺達は、トルマの家に行くよ!」

 

って、先輩達は自由行動のようだ。

 

「逃げた…有り得ない…」

 

ミトが歯ぎしりしている。佐藤先輩はカリナという彼女が出来て、ミトに反抗するようになったようだ。幼なじみより彼女が優先なんだろうな。彼女が未だにいない俺にはよくわからない。

 

先輩達と別れ、ミトと共に、テニオン神殿という、神聖な場所に着いた。

 

「ここよ。ここにいるはずだわ」

 

入り口にいる門番に用件を伝えたミト。だけど、目的の人物はいないようだった。

 

「おかしいなぁ…死んじゃったのかな?」

 

涙目で天を仰ぐミト。

 

「まさか…ミト様ですか?」

 

突然、老女がミトに話し掛けてきた。この人では無いのか?探している少女って…

 

「え?まさか…リリー?」

 

「ミト様ですよね…お懐かしい。あの頃と変わらない姿って、奇跡ですね」

 

って、ミトに縋る老女リリー。

 

「リリーがこんな姿になるなんて…ちょっとショックだわ…ねぇ、リリアンは元気?」

 

「リリアンですか?今は、迷宮都市セリビーラの探索者ギルドで、ギルド長をしているはずです」

 

「リリーは?」

 

「私ですか?私はこの神殿で巫女長をしており、ユ・テニオンと名乗っております」

 

探し人の名前が、違っていたんじゃないか。それは見付からない訳だ。

 

「巫女長なんだ…ねぇ、可愛い女性を一人紹介してくれない?私の配下の者が、失恋3連敗中なのよ♪」

 

おい!俺の話を出すな!

 

「ミト様の配下の?うん?彼ですか?」

 

「そうよ。ほら、挨拶しなさい」

 

ミトに促され、

 

「ミツクニ卿配下の男爵で、アール・アルジェントと申します」

 

と、挨拶をした。

 

「ミト様、巫女は結婚出来ないんですよ…」

 

「そうなんだ…じゃ、この街にいる間だけでも、彼のガールフレンドになってくれる娘はいないかな?」

 

笑っている巫女長。そこまで、不自由はしていない。ミトが、お見合いを持ち込むオバサンのように見えるぞ!

 

「セーラ、ちょっとおいで」

 

「はい、巫女長様」

 

巫女長に呼ばれ、近づいて来た少女セーラ。萌葱色の瞳にプラチナブロンドの髪、胸の大きさはでかすぎず、小さすぎずだ。ストライクゾーンと言えば、言えなくもない。

 

「アルジェント男爵が、この街に滞在する間、お友達になってあげられる?」

 

「はい」

 

固い表情のセーラ。お友達の意味を誤解しているのか?

 

「この神殿で巫女をしています、セーラです」

 

「急で妙な申し出で申し訳ありません。アール・アルジェントです。アールとお呼びください、巫女様」

 

「私も名前で良いですよ、アール様」

 

俺を見つめる瞳は優しい視線である。

 

「あなたからは、悪意を感じません。隣にいても、安心していられそうです」

 

それは、やんわりと手を出すなってことですね…あぁ、4連敗確定か…ミトが笑っているし…くそっ!

 

「これからお祈りの時間なので、また、後ほど♪」

 

って、セーラと巫女長が神殿へと戻って行った。

 

「良かったじゃないか、かわいい娘を紹介してもらってさぁ♪」

 

って、笑顔のミト。

 

「なぁ、なんで、結婚できない相手を…」

 

「アーゼもそうだし、問題無いだろ?」

 

問題大有りだよ~!あぁ、4連敗確定だな…

 

「ご主人様、人生は谷有り谷間有りですよ」

 

って、アリサ…それだと、沈んだり潜ったりの人生になりそうだ。俺は浮かばれないのか…

 

うん?嫌な風が吹いている。ミトの顔も強張っていく。

 

「アーシア、この街の核とリンクして、魔物、魔族の探査をしてくれ」

 

俺は指示を出した、

 

「了解です」

 

「先輩…ヤバい敵かも…」

 

ミトが感じるヤバい敵って、ヤバすぎるのでは無いか?

 

「魔王が来そう…」

 

魔王か…ミトがいれば、どうにかなるのかな?

 

「ご主人様、この街の地下空間に、怪しい気配を感知しました」

 

アーシアが探査結果を報告してきた。

 

「ミト…どうする?」

 

「掃除をしよう♪魔王相手だと、相打ち覚悟だよ」

 

元勇者じゃダメか…ミトと心中か…それも悪く無いかな。

 

「先輩と心中する気はないけどね」

 

へ?そう言うことを言うのか…4連敗確定だな。もういいや、ここで終わりでも…

 

-------

 

アーシアには、地下への入り口と敵の分布情報を探査してもらっている。その間に準備をしていく。

 

「タマ、ポチ、リザはミトと共に、神殿を護れ。きっと魔王が狙うはずだ」

 

「ちょっと待ってよ!私も行くよ」

 

って、ミト。

 

「ミトはリリーの傍にいてやれ。アリサ、ルルはお留守番だ。馬達を頼む」

 

「ご主人様、私も一緒に参ります」

 

リザが一歩前に出た。

 

「リザには大切なことを頼みたい。とても辛い命令だ…もし、アリサが魔王になりそうになったら、アリサがアリサである内にアリサを殺してくれ」

 

皆、はっとした表情で固まった。でも転生者は、何かのきっかけで魔王になるらしい。だから、アリサにアリサのままでいて欲しい、俺のわがままだ。

 

「わかりました。ご命令、必ず果たします」

 

嗚咽を抑えてリザが答えた。

 

「ご主人様…ありがとう…私が私のまま…とても嬉しい判断ですぅ~」

 

気丈なアリサが、俺に泣いて縋って来た。後は…

 

「ナナ、お前はここにいる仲間の盾になれ」

 

「命令を受諾したと報告します、マイマスター」

 

「アーシアは一緒に来てくれ。迷子になると厄介だ」

 

「はい、マスター」

 

指示を一通りした時、神殿内で響めきがおきた。ミトと共に、中に入ると、リリーがオロオロしていた。

 

「どうしたの、リリー?」

 

ミトがリリーの肩を抱いて、訊いた。

 

「セーラが…炊き出しに行ったセーラが…消えました」

 

消えた?まだ、デートもしてないのに…

 

「炊き出しに一緒に行った者達と共に消えたそうです」

 

セーラの位置情報を探索すると、これから向かう地下に反応がある。

 

「まずい…生け贄だ…」

 

「えっ?魔王召喚の儀式だわ」

 

って、ミトが叫んだ。

 

「お願いです、セーラを助けてあげてください」

 

いや、頼まれないでも助けるつもりだ。デートをしたいし…

 

「ミト!行ってくるよ♪」

 

---------

 

目の前には魔王がいる。セーラの身体を突き破って魔王が産まれた。セーラの身体は、生前の面影もなく、ボロ布のようになっていた。

 

魔王の配下の魔族、悪魔、人間は皆殺しにした。だけど、殺戮者では魔王に勝て無いようだ。アーマーのお陰で、俺には怪我は無いが、マナ不足によるマインドロストが近いようだ。魔力が足り無い。どうすればいいんだ。

 

「アーシア、魔王をここから出すな!」

 

「了解です」

 

相打ちではダメだ。セーラを助ける分の魔力は残さないと…考えろ…考えろよ、俺…

 

ダメ元で勇者にチェンジした。それに伴い、魔剣が聖剣にチェンジした。勇者として、魔王に斬り掛かる…

 

壁に吹き飛ばされた…そうか、勇者だと、あのチートアーマーは装着出来ないのか…背骨が砕けたかな…くそっ!セーラはそこにいるのに…手が届かないなんて…

 

「アーシア…俺にマナを流し込め…」

 

「…」

 

俺の指示をスルーするアーシア。ダメなことなんだな。でも…

 

「アーシア…頼む…後2発、魔法が撃てれば、終われるんだよ」

 

「マスター…」

 

とても哀しそうなアーシアの声。それは、俺が俺でなくなる行為だと、言いたげである。でも…

 

「アーシア…頼むよ~!」

 

意を決したアーシア。次の瞬間、有り得ない激痛が俺を襲った。これが、核同士でやりとりするマナか…意識が…いや、俺自身が消えそうだ。消える前に撃たないと…

 

『ウルティマウエポン』

 

渾身の一発を魔王に放った。光輝き灰になっていく魔王。

 

『蘇生コンポ』

 

セーラに放った。セーラが緑色の仄かな光に包まれていく。ボロ布のようだった、セーラの身体は、本来のセーラの身体に戻り、セーラの鼓動が聞こえ、形の良い乳房が上下動し始めた。これでいいか…ここで終わっても悔いは無い…

 

俺の意識は途絶えた。

 

---------

 

柔らかな物に触れている。心地良い人肌…ここはどこだ…転生したのか…ブラックなアノ会社は嫌だぞ!

 

「大丈夫ですか…起きて下さい…私の為に…ごめんなさい…」

 

「ここは?君は誰?」

 

記憶が曖昧だ…ここは天国か?地獄か?

 

「おい!起きろよ!」

 

後輩氏の声…あぁ、またあの職場か…

 

「後10分…」

 

「しょうが無いなぁ…あのね…ゴニョゴニョ…」

 

後輩氏が誰かに耳打ちをしている。

 

「えっ!それは…」

 

「してあげなさい!彼のおかげで、セーラの命は助かったのですよ」

 

老女がセーラって子に、何かを言っている。しばしの沈黙の時…徐々に何かの刺激を感じている。なんの刺激かな?生きていて良かったって思える刺激である。生きている実感が下半身に芽生えてきた。

 

身体の一部が暖かな物に包まれていく。誰かの鼓動が、俺の身体を揺さぶる。俺の心を揺さぶる。もっと生きないとダメって、俺の心が、俺の魂が、俺に告げている。それよりも、ここはどこだ?

 

『殺戮者ジョブがリッチになりました』

 

リッチ?金持ちになったのか?

 

『勇者ジョブが魔神になりました』

 

マシン?俺は機械になってたのか?

 

『聖女を手に入れました』

 

性女?セフレかぁ…いいなぁ♪

 

『もっと、読解力、理解力をあげてくださいね♪』

 

真っ赤な文字が目の前に浮かんだ。誰かの怒りのメッセージのようだ。誰からの?

 

--------

 

目が覚めると、知らない部屋にいた。大きなベッド、フカフカの布団、柔らかな肢体…形の良い乳房…

 

「あ♪お目覚めですか。良かったです…」

 

彼女が俺に抱きついて来た。誰だっけ?

 

「今、お食事の用意をさせます」

 

彼女がベッドから降りて、バスローブを着込み、ドアの外にいる誰かに、何かを伝えた。

 

「さぁ、一緒にお風呂に入りましょう。汚れを落としましょ♪」

 

彼女に促されて、部屋に併設されているお風呂場へ行き、彼女に身体を隅々まで洗ってもらった。そして、真新しい服を着て、部屋を一緒に出た。

 

広間のような場所に長テーブルがあり、その上席に彼女と共に座った。中央には知らないオジサンがいる。俺の目の前には、ミト、リザ、タマ、ポチ、アリサ、ルル、ナナ、アーシアが座っていた。

 

「アール先輩♪おはようございます!」

 

「「おはようございます♪」」

 

ミトの言葉に、みんなが乗っかっている。状況がまるで見えない。

 

「その顔は、戸惑っているってことかな?どこまで記憶があるのかな?」

 

って、ミト。

 

「ここはどこで、これは、どんな状況?覚えているのは、死んだと思って、意識が飛んだ辺りだな」

 

感じた事の無い激痛…そして、意識が途絶えたはずだ。

 

「必死に戦うって、そういうことだよ。記憶すらも消し去るくらいにね」

 

元勇者様の経験談か?長そうだ…

 

「食っていいかな?」

 

「あぁ、食べてくれ給え」

 

エライ人の座る席にいる、立派な髭なオジサンに言われた。パンを手に取り、ちょっとずつ千切って口に運んだ。

 

「まず、その方は、次期オーユゴック公爵だ」

 

次期?

 

「で、先輩の隣にいる女性は、次期公爵の娘さんの、セーラ・オーユゴックさんだよ」

 

次期公爵の娘さん?

 

「先輩がデートしようした巫女のセーラだって♪」

 

巫女?あぁ、ボロ布のようにされた…

 

「魔法が効いたってことか…」

 

「ありがとうございました。魔王に蝕まれた私を、助けて下さって」

 

俺の隣で涙するセーラ。

 

「で、魔王はどうなったんだ?」

 

「先輩が命に替えて倒したよ…」

 

命に替えて?はぁ?

 

「俺…生きているけど…」

 

「それなんだけど…言いにくいなぁ…端的に言うよ。先輩は人間では無くなったんだよ。都市核からマナの供給を受けたでしょ?」

 

「あぁ、マナ不足で、セーラを助ける魔力が…」

 

「え…私の為に…」

 

セーラが震えている。俺はどうなったんだ?

 

「人間が都市核のマナを、直接受けるってことは…人間を辞めることだよ…」

 

そうなんだ…

 

「現在の先輩は、人間ではなくて、リッチだ。不死王とでも言えば良いか?」

 

リッチって金持ちでは無く、そっちのリッチか…あぁ、読解力が不足気味だ…

 

「娘の為、この都市の為に…すまない。君に感謝してもしきれない…」

 

次期公爵様が俺に頭を下げた。

 

「セーラを巫女籍から除籍させた。君の傍に置いてくれ。巫女では、不死な者と一緒にいられないからな」

 

俺の為に、巫女を辞めたのか…

 

「なんで?そんなことを?俺なんか、斬り捨ててくれていいのに…」

 

「ボロ布な様な私を護ってくれました。この身体を授けてくれました。一緒にいたいって、思ってはダメですか?」

 

あの救われない情景を見て居たのか?魂となって…

 

「いや、ダメでは無いが…ミト!どうすれば、いいんだ?」

 

「一緒にいてあげなよ。恋人が欲しいんだろ?」

 

「まぁ、5連敗中だし…」

 

「では、娘を頼むよ、アルジェント卿よ♪」

 

こんな俺に笑顔を向ける次期公爵様。ふと、セーラの称号を見ると、『神託の巫女』『聖女』『不死王の側室』と表示されていた。なんか、不思議な文字の並びである。

 

「今後の旅は、セーラも同行する。馬車も新しいのを用意してあるから♪」

 

って、ミト。佐藤先輩の財布を使ったのか?

 

 

 

 

 



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SS:ゼナの困惑 Part2

ゼナ視点です。


ゼナの困惑 Part2

 

 

私達ゼナ分隊全員が、この街の軍部指令に呼び出された。

 

「お前達に特別な指令だ。アール士爵を探し出し、このセーリュー市の迷宮の難易度を下げて貰うのだ」

 

はぁ?今更、アールさんに会えない…それに…

 

「アールさんは…士爵では無いです。男爵に昇進されています」

 

と、情報を訂正した。

 

「何?どうして、ゼナが知っているんだ?」

 

軍部指令のいかつい顔が、私に迫る。

 

「どうしてって…この前、アールさんの身分証を見ましたから」

 

「ほぉ~♪そうか、ゼナの知り合いであったか。ならば話は早いな。直ぐに設定を変えて貰ってこい!」

 

だから…会えないって…

 

「会えません!だって…私…彼からのプロポーズ…断ったから…」

 

軍部指令の前であったけど、涙が止まらない。

 

「おい…断ったのか?なんでだよ、ゼナ?相思相愛だっただろ?」

 

リリオが私を優しく抱き締めてくれた。

 

「うっ…だって、軍籍なんだよ、私。男爵様の妻にはなれないよ~」

 

リリオの胸に顔を埋めて、号泣した私。

 

「そうか、相思相愛か♪ならば、そのプロポーズを受けよ!そして、彼をこの街の名誉男爵に据えるのだ。いいな、ゼナ!」

 

「断ったんですよ~。今更、無理です!」

 

「無理って言葉は聞こえぬ。いいな、必ずや、この特別指令をこなせ!以上だ。そうか、相思相愛か、意外に早く決着するな。ははは♪」

 

ご満悦で、私達の前から去る軍部指令…

 

「酷い…」

 

イオナの呟き。

 

「無理だよ…私、彼の心を踏みにじったんだよ~」

 

リリオに訴える私。

 

「そうだな…でも、どうにかしないと…う~ん…そうだ。彼に頼むんだ、あの軍部指令をどうにかしてくれってさぁ♪」

 

「頼めないよ~」

 

「頼めるよ。男って単純だから、元カノの頼みは聞いてくれるものさ♪」

 

悪人顔のリリオ…大丈夫なのか?

 

-------

 

翌日、私達ゼナ分隊4名で、アールさんと出逢う旅へと旅立った。

 

「どこへ向かうの?」

 

リリオに訊いた。アールさんがどこにいるかがわからない。

 

「取り敢えず、セダム市だな。補給するとしたら、立ち寄っているはずだ」

 

「ね、身分証を見たなら、なにか手がかりを覚えていないの?」

 

ルゥに訊かれた。そうだ…源泉を持っていた。迷宮を2つ持っていた…ミツクニ公爵の配下だった…

 

「彼…ミツクニ公爵の配下だった…」

 

「はぁ?おい…隠密じゃないのか…それって…」

 

って、イオナ。隠密じゃ無いって言っていたけど…涙が込み上げてくる。あの時の嬉しさと怖さが入り交じった感情が甦ってきた。

 

「彼…迷宮を2つ持っていた…」

 

「完全制覇を2つも…化け物クラスだぞ…」

 

って、リリオ。今考えるとそうだよね。完全制覇しないと、マスターズルームっていう迷宮核がある場所に辿り着けない。彼は2箇所で、それをやり遂げたのだ。

 

「やっぱ…会えないよ~」

 

馬車の荷台の隅っこで丸まって、号泣する私。無理だよ。どのツラ下げて会えばいいのよ~あんな哀しそうな顔を彼にさせてしまった。私は悪い女である。

 

「ゼナ…お前は兵士なんだ。命令は絶対なんだぞ。お前は彼の隣よりも、軍籍を取ったんだ。わかるだろ?」

 

そうだ…軍籍を抜くことも出来たはずだ。彼の隣にいたいなら。でも、私は軍籍であることを理由にしてしまった。

 

「とにかく、会って、お前の本心を伝えろよ♪」

 

優しい眼差しで私を見つめてくれたリリオ…そうだね。伝えないと始まらないか…

 

 

 



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SS:セーラの決意

 

 

 

私はボロ布のようになっていた。私の体内に魔王が産まれ、私の存在を蹂躙しきって、私の身体から魔王が産まれた。今の私の身体は、魔王の抜け殻…皮膚という着ぐるみに、砕け、粉々になった骨や肉クズが入っているだけである。

 

そんな私を助けに…彼が来てくれた。もう私は魂でしか無いのに…身体が無いのに…彼は私とのデートを渇望していた。魂状態でデートなんか出来ない。甘い言葉の応酬も出来ない。そんな光景を私も夢見ていたけど。

 

神託を受ける能力のせいで、幼い時から神殿で巫女として奉仕していた。普通の女の子のするようなことを、夢見ていた。いつか、彼氏を作って、デートを…でも、もう出来ない…私は身体の無い魂である。

 

だけど、彼は、こんな私とのデートを渇望していた。ボロ布のようになった私の身体を護ろうして、戦ってくれている。魔族、悪魔、それらに加担した人間達を、躊躇なく殺していく。まるで殺戮者である。でも、私にとってはナイトに見えた。白馬に乗った王子様に見えた。

 

そんな彼も、魔王相手では分が悪いようだった。魔王の攻撃を真面に喰らい、壁に激突した彼。だけど、まだ立ち上がろうとしている。彼から、私を護ろうとする気持ちが、痛い程放たれていた。もう、戦わないでいいの!もう、デートなんか出来ないんだから…

 

私の魂の声は彼に届かなかった。彼は、何かをしたようだ。紫色の光りに包まれていく彼…あの魔王が為す術も無く灰へなっていく。そして、ボロ布のような私の身体は、緑色の淡い光に包まれて…生きていた頃の身体へと修復されていく。神聖魔法の身体修復である。こんな魔法を彼は使えるのか…私でも使えないのに…そして、私は私の身体に吸い込まれて行く。神聖魔法の入魂である。神聖魔法の招魂で呼び出した魂を、器となる身体へ入れる神聖魔法だ。彼は神なのか?

 

-----

 

誰かに身体を揺さぶられ、私の意識は覚醒していく。私は私に戻れたようだ。そうだ…彼はどうなったの?

 

彼は彼の仲間達によって、棺に納められていた。私を助ける為に…そんな…心が痛い。涙があふれ出していく。私だけ生き残っても…デート出来ないよ…

 

神殿に彼と共に帰還した。巫女長に私は迎えられた。だけど…もう、彼は帰って来ない。

 

「う~ん…これは…」

 

ミト様が唸っていた。

 

「どうされましたか?」

 

巫女長が訊いた。

 

「コイツ…こんな状態で、生きていやがる…」

 

「えっ?心臓は完全に停止していますよ…」

 

「不死者になってまで、セーラとのデートを望むとは…コイツ、女性に飢えすぎだろ…」

 

ミト様が苦笑いしている。

 

「あははは♪ご主人様らしいわ」

 

アリサって子が笑っている。彼は助かったのか?

 

「問題はどうやって、目覚めさせるかだ」

 

ミト様が私に耳打ちを…えっ?全裸で彼と添い寝しろって…

 

「セーラの身体の有り難みを実感出来れば、コイツは目覚めると思うんだよ♪」

 

私の身体の有り難み?まぁ、やるだけ、やってみるか。纏っている物を総て、脱ぎ去り、彼の作ってくれた身体で、彼と添い寝をする。彼の身体は、とても冷たい。まるで死体のようだ。だけど、腐敗臭はしない。まるで生きているような肌である。

 

「大丈夫ですか…起きて下さい…私の為に…ごめんなさい…」

 

彼に言葉を掛けた。

 

「ここは?君は誰?」

 

え…心臓の鼓動は無いのに、彼の口から言葉が出た…これは神の御業か?魔王の呪いか?

 

「おい!起きろよ!」

 

ミト様が彼に怒鳴った。

 

「後10分…」

 

彼の返答…

 

「しょうが無いなぁ…あのね…ゴニョゴニョ…」

 

ミト様が再び私に耳打ちを…はぁ?皆さんがいる前で、彼の…を口で…そんなことは…だけど、彼の仲間の皆さんの目は真剣であった。もし、断れば、ただでは済まない、そんな雰囲気である。

 

「えっ!それは…」

 

「してあげなさい!彼のおかげで、セーラの命は助かったのですよ」

 

巫女長の目も真剣だ…意を決して…先ず舌で…そして口に入れて…最後に私の体内へ彼を…

 

--------

 

何時の間にか意識が飛んだようだ。彼の胸の上にいる。彼の胸は上下にゆっくりと蠢いていた。

 

「成功だよ♪」

 

ミト様の嬉しそうな声…

 

 

だけど…汚れ無き乙女でないと、巫女にはなれない。私は、人命救助という名の下に、巫女の資格を失った。いや、魔王に陵辱された時点で、失ったらしいので、彼のせいでは無い。

 

巫女長様とミト様が、父と祖父へ、私に起きた事実を説明をされている。

 

「つまり、セーラは巫女籍から抜けると言うことですね」

 

「そうなります。本来ならば、魔王に陵辱された時点で、殉職になるのですが、セーラは彼の能力により、第2の人生を与えられました」

 

「う~、そうですか…セーラはどうしたいんだ?」

 

祖父から声が掛かった。

 

「私は…彼の傍にいたいです。私を助ける為に、この街を助ける為に、魔王を倒す為に、彼は人間では無くなりました。そんな彼の傍にいたいです。私に出来ることをしてあげたいです。残りの人生を彼に捧げたいです」

 

思いの丈を祖父に伝えた。今ここにいる私は、彼の導きでここにいるのだから。

 

「そうか…ミト様、セーラのことをお願いできますか?幼い時より神殿に仕え、世間では右も左も分からない未熟者ですけど…器量は良いと思います」

 

「うん♪受け入れるよ。アールの為にもセーラは必要な人材だ。ただ…側室扱いになるんだがいいかな?」

 

側室?どうして?だれか、婚約者が既にいたの?

 

「どなたが、正妻なのですか?」

 

父が訊いた。

 

「う~ん…正妻にはなれないんだけど…、正妻の座は空けておく約束なんだよ。相手はボルエナンの森のハイエルフ、アイアリーゼ・ボルエナンだ。そういう取り決めになっているんだ。すまないなぁ。外交問題になりかねないから、婚約の破棄は出来ない」

 

え…ハイエルフ様が正妻の座を予約?実際には結婚することは無いけど、婚約はされているそうだ。なんだ?それは?

 

「それは、彼が人間であった時の取り決めですよね。現在の彼だとどうなりますか?」

 

祖父が訊いた。

 

「どうなんだろう?リッチとハイエルフって結婚できるのかな?すまない、私の知識でもわからない。たぶん、ハイエルフに訊いても、わからないと思う難しい事象だよ」

 

って、ミト様。想定外の事象なんですね。

 

「セーラ、側室で良いのか?」

 

「はい、結婚はしなくても良いです。彼の傍にいて、彼の為に尽くすだけです」

 

「そうか…そういうことで、ミト様。ミト様におまかせします。セーラをよろしくお願いします」

 

こうして、私、セーラ・オーユゴックは、彼、アール・アルジェントと共に旅をすることにした。

 

 

 

 



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SS:ミトの怒り

ミト視点です。

96/08 誤字を修正


 

アール先輩の件は、どうにか落着した。正妻であるアーゼが旅に同行しないので、セーラが正妻代行って、ことで…セーラも納得してくれたので、問題は特に無い。

 

今回、リザに指示した件により、リザ、アリサ達からの信頼が厚くなったようだ。勿論アール先輩である。アリサをアリサのままで死なせて上げたいって言う、彼の想いは仲間達の絆をより強くしたと思う。普通は悪魔になったら殺せだと思うのだが、アール先輩らしさだろうな。

 

で、問題はもう一人の爵位持ちである。トルマの家に行って、全然連絡が無い。どうしてやるかな…ふふふ♪

 

--------

 

オーユゴック卿と私で、トルマ邸へと乗り込んだ。

 

何故か、料理人をしている兄ぃ…お前、何をしているんだ?

 

「ミト…これは…色々と…」

 

私を見るや狼狽える兄ぃ。

 

「なんだ?あぁ、ペンドラゴン卿の配下の小娘かっ!」

 

トルマが失礼な事を言う…私が兄ぃの配下だと…

 

「トルマ!お前、失礼では無いか?」

 

「あぁ、これはオーユゴック卿…お久しぶりです。ペンドラゴン卿の作ったテンプラって料理です、どうぞ」

 

「う~、旨い…」

 

「でしょ?連日、ペンドラゴン卿が、皆に料理を振る舞ってくれているんですよ」

 

それで、連絡が無いのか…

 

「これはこれだ。お前、ミツクニ卿に何を失礼なことを言ったんだ?!」

 

オーユゴック卿の言葉にキョトンとするトルマ。無自覚か…

 

「ミツクニ卿って、あのミツクニ卿ですか?お会いしたことは無いですよ」

 

「すみません、こいつ、無自覚なようです」

 

こういう空気読めないヤツっているよな。それよりも本題だ!

 

「私達の馬車2台を返せ!」

 

「馬車?あぁ、ペンドラゴン卿の古い馬車か?処分したよ。馬は良い部類なので、今、ペンドラゴン卿専用の4頭立ての馬車を作っているんだ」

 

はぁ?処分しただと…あれは、アール先輩の馬車だぞ…

 

「何、勝手に処分しているんだ?持ち逃げした挙げ句に…」

 

「お前、失礼だろ!ペンドラゴン卿のメイドのくせに!」

 

メイド扱いか…

 

「トルマ!お前の方が失礼だろ?ミツクニ卿になんてことを…」

 

オーユゴック卿の言葉にキョトンとするトルマ。

 

「はぁ?何を言っているんですか?その小娘に騙されているんですよ♪」

 

コイツ…許せない…

 

「この方は、小娘では無い。正真正銘のミツクニ卿だ。トルマ、頭が高いぞ!」

 

って、オーユゴック卿。

 

「え?何を言っているんですか?もう、やだな、そんなジョークを♪」

 

全然意に返さないトルマ。強心臓持ちか?

 

「ジョークでは無い。すみません、理解力が足り無く」

 

私に頭を下げるオーユゴック卿。

 

「え…まさかなぁ…ジョークとか、小芝居は止めてくださいよ…」

 

兄ぃの顔を見て固まるトルマ。先程から兄ぃへはメッセージで口撃していた。その顔は顔面蒼白で、腰が抜けたのか、尻餅をついている。

 

「ヒカル…落ち着け…」

 

「落ち着いていますわよ、ペンドラゴン卿♪あんまり、おいたがすぎると、アルジェント卿の仲間がキレると思いますけど。いいんですか♪」

 

「だから、待て…落ち着いて、話そう」

 

「私は落ち着いていますよ、ペンドラゴン卿。アーシア辺りがキレるとどうなるかな?」

 

「やめて…なぁ。俺に出来ることは何でもするから…」

 

「何を小娘風情に、そんなに怯えているんです?」

 

ふふふ、トルマの声が震えている。

 

「アーシアって、ダンジョンコアだぞ…」

 

「え?」

 

「アルジェント卿は、ダンジョンコアを持ち歩いているんだ…それも都市核とリンク出来る機能まで持っているし…」

 

兄ぃはアーシアの持つ絶大な能力を理解していた。たぶん、アール先輩よりも…

 

「そうだ…トルマよ。お前が敵に回したアルジェント卿だが、儂の孫娘の旦那になるんだよ。意味はわかるな」

 

オーユゴック卿も口撃を開始した。

 

「え?孫娘?セーラは神託の巫女で、リーンは勇者の従者でしょ?嫁がせる孫なんか、いないでしょ?」

 

怯えた顔のトルマ。

 

「セーラを巫女籍から外して、アルジェント卿へ嫁がせる♪」

 

「え…神託の巫女ですよ」

 

「だから、なんだ?セーラが望んだことだ。トルマに言われたくはない!」

 

「トルマ、馬車を返しなさいよ!王都へ向かうのに、馬車が必要なんだからね!」

 

「処分したって言っただろ?小娘!」

 

「兄ぃ!最後まで言わせないわよねぇ~♪」

 

「わかった。金は俺が持つ…馬は返す…だから、止めろ~」

 

どんなにチーターであろうと、真面に都市核とは戦え無い。もし勝てるとしたら、魔王を倒す為に、都市核と協力をしたアール先輩だけだと思う。

 

あれから、先輩自身も都市核とリンクできるようになったらしい。まぁ、リンクした為に人間を辞めたんだもの、そのくらいのメリットはあってもいいと思う。

 

「あと、ペンドラゴン卿、アナタの爵位を下げます。子爵ではなく、士爵ですよ。今からね」

 

私は身分を更新する呪文を唱えた。兄ぃの身分証が光輝いた。この呪文が使えるのは一人だけ…

 

「え…王祖ヤマト様…」

 

トルマがここで腰が抜けたようだ。そう、ヤマト石を作った王祖ヤマトは私だよ~♪

 

「トルマよ!失礼の数々を詫びろよ!」

 

オーユゴック卿の言葉を置き土産にして、この場を去る私達。

 

 

 

 



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そして王都へ

01/21 誤字を修正


馬車…真新しい馬車が2台有る。馬は俺の馬達だ。ポチとタマが、馬達の世話を始めた。馬達もポチタマコンビとの再会を喜んでいるようだ。

 

「1台は私、もう1台は先輩のだよ♪先輩の方はセーラを乗せて、残りのみんなは、分乗してもらうから」

 

俺の馬車は、疲労の度合いが少ない座席が設置されていた。セーラの為にだろう。荷台部分も広く、ベッドが装備されていた。え?なんで、ベッド?

 

「これが有れば、先輩、馬車で寝られるでしょ?眠くなる度に、イネちゃんのベッドへ転移では、イネちゃんがかわいそうですよ♪」

 

いや、イネちゃんのベッドは寝やすいんだよ。って、これ、イネちゃんのベッドと同じ仕様なのか…横になると、眠気が襲ってきた。

 

「おい!説明中に寝るなよ~」

 

後輩氏の声が心地良い。

 

「後10分…」

 

「またかよ~、セーラ、頼む♪」

 

「はい♪アール様、起きて下さい」

 

柔らかな刺激で目が醒めた。目の前には、笑顔のセーラがいた。笑顔のリザがいた。笑顔のみんながいた。

 

「あぁ、寝やすいなぁ♪」

 

「でしょ?イネちゃんのベッドをコピーさせたのよ」

 

あぁ、先輩の能力か。いいな、チートで…

 

「明後日くらいに、出発するわよ。食料をストレージに入れておいてね。藁とか肉を大量に。あぁ、支払はトルマへツケでいいらしいわ」

 

持ち逃げした分を回収か。じゃ、セーラと街を探索デートだ♪

 

セーラに街を案内して貰った。賑やかな場所、寂れた場所、色々な場所をだ。

 

「行きたい場所はありますか?」

 

セーラに訊かれた。

 

「セーラの好きな場所は?」

 

神殿の屋上から見る夕日だった…夕方しか見られないのが、難点である。

 

------

 

王都に向かって旅立った。先輩は後から追ってくるらしい。色々と忙しいそうだ。公都では『奇跡の料理人』として、料理の腕をふるっているそうで、食事会のスケジュールをこなせていないらしい。

 

「まったく、兄ぃは何をやっているんだか…あぁ、罰として、『エチゴヤ』っていう総合商社を作らせたわ。必要な物を手に入れやすくする為にね」

 

ちりめん問屋で無くて、総合商社なのか…ミトに訊いたら、この世界にちりめんが無いそうだった。一応は考えて居たらしいけど、挫折したらしい。無い物はしょうがないか。

 

 

前を走る馬車…後部ハッチが檻のようである。あれって、奴隷商人か?奴隷達は悪人では無い者もいる。

 

『ミト!』

 

『強奪出来る?』

 

ミトとメッセージで会話をして、悪人では無い奴隷を『強奪』した。あれ?鼠人が4人だ。どこだっけ?どこかで、聞いたような…

 

「おっ!その鈴は…お主、赤兜の知り合いか?」

 

「おぉ、姫様、無事でしたかぁ~」

 

あぁ、ミーアを護ってくれた鼠人の仲間か。話を訊くと、敵につかまり、奴隷商人に売られたそうで、王都で開かれる闇市に出店されることになったそうだ。

 

彼らを、赤兜がいる集落へ、強制転移させた。これで、恩は返せたかな?もっと返したいなぁ♪

 

しかし…良いことばかりでは無い。荷台が軽くなったことに気づいたのか、前の馬車が止まり…強面の輩が降りて来た。ソイツらは、僕達の馬車の通行を妨害して、止めた。

 

「ふふふ、貴族様の馬車に遭遇とは運が良い♪おい!女を渡せよ。金目の物を出せ!」

 

積み荷強奪がバレた訳ではなく、押し売り強盗のようだ。

 

「これから、皆殺しゲームを開始します。参加者は装備を身に着けてね♪」

 

俺の言葉よりも先に、リザ達は装備を身に着け、悪党を皆殺しにし始めた。

 

「ナナ、アーシア、逃がすなよ」

 

「「了解です」」

 

襲った相手が悪かった事に気づいた悪党共は逃げようとした。だけど、ナナとアーシアのコンビから逃げることは出来ない。

 

「おい、命の欲しい奴らは、金、金目の物を置いて行け。食料もだよ♪」

 

俺はリッチにチェンジしていた。俺の放つ死を匂わせるオーラにより、悪党共は全裸になり逃げていく。

 

「全裸のヤツは追わないでいい♪」

 

悪党がいなくなると、俺はジョブを男爵に戻した。

 

「リザ達を投入しなくても、先輩だけ出れば終わったんじゃないの?」

 

ミトに言われた。

 

「悪いヤツと悪く無いヤツの区別をする訓練だよ。ムーノ領の時みたいに、仕方なく盗賊って者は、悪く無いヤツって判断させる為のね」

 

リザ達も理解していた。相手の腹黒さ、悪意を感じ取る練習を、俺に内緒で、こっそりしているのを知っている。

 

「じゃ、遺留物を調べて」

 

持っていく物と要らない物と、犯罪の証拠に分けて分類をした。割り符のような物が出て来た。

 

「ミト、これは?」

 

「闇の奴隷市への入場券かな?王都も犯罪の巣窟か?まったく、今の王は何をしているんだか…」

 

奴隷として囚われている者が数名いたが、悪意持ちなので、その場に放置して、王都へ再出発をした。

 

--------

 

そして、王都へ…桜の花が咲き誇っている。

 

「ここでは桜は1年中、咲いているんだよ」

 

って、ミト。建国者である王祖であるミトは、王都について詳しいようだ。

 

「問題はどうやって、王様に会うかだな…」

 

「あっ、それなら、会うには会えますよ」

 

て、セーラ。話を聞くと、セーラは王様の孫でもあったそうだ。それって、次期公爵は、姫と結婚されたのか…

 

「そうか…セーラ♪お願い、会わせて♪」

 

「はい♪」

 

ミトの願いを快く引き受けたセーラ。

 

そして、王様と謁見…ミトを見るなり、王様と宰相がミトに跪いた。

 

「王祖ヤマト様ですよね」

 

って、王の間に飾られた、ミトの肖像画。見間違えることは無いだろう。

 

「ねぇ、シャロリック君は?」

 

言葉に詰まる王様。

 

「2代王であるシャロリック様は、既に…」

 

「そう…会えるを楽しみにしていたのに…また、からかえると思ったのに…あれから、長い年月が経っていたんだね」

 

ミトが涙を流していた。シャロリックとは、ミトの養子で、ミトがミツクニ卿となった時に、王位を継承したそうだ。で、ミトが勇者として役目を果たし終えた後、あのフジサン山麓で眠り着いた時、2代目ミツクニ卿として、諸国を漫遊して…

 

「死に目に会えないって、辛いよね…先輩…」

 

「あぁ…」

 

ミトは俺の胸で号泣した。王様も宰相も、言葉を掛けることはせずに、ミトのしたいようにさせている。そして、泣き疲れたミトが、王様に向き直った。

 

「ごめん、取り乱して…」

 

「いえ、シャロリック様に愛情を注いでいたと聞いておりましたから…」

 

「あのね…ミツクニ邸を、ボクにくれないかな?」

 

王様の前で、一人称が変わったミト。それが本来の一人称なのか?

 

「勿論です。お使いください。後、諸国の問題を解決してくださり、ありがとうございます。隅々まで目が届かないので…王祖様やシャロリック様のしていらした諸国漫遊の意味がわかりました」

 

諸国をお忍びで巡り、問題を炙り出していたのだろうか。

 

「あぁ、ここに来るまでの立役者は、彼、アルジェント卿のおかげだよ」

 

「我が孫であるセーラを救ってくださり、ありがとうございました」

 

えっ?王様が俺に頭を下げていた。あぁ、孫の命を救ったからか…

 

「後、孫と婚約してくださり、ありがとうございます」

 

「いや、それは、感謝されることでは…」

 

狼狽える俺。笑って見ているミトとセーラ。なんで?

 

「正妻問題を聞きました、アルジェント卿の問題も聞きました。セーラを大切に思ってくれ、感謝します」

 

いや、何か誤解していないか?俺の問題って何?

 

『セーラを助けて、リッチになった件』

 

って、ミトからメッセージが…コイツ、俺の心が読めるのか…

 

『ビンゴ♪今更、それ?ははは♪』

 

凹む俺…

 

-------

 

ミツクニ邸のリホームが終わるまで、城内の迎賓館で暮らす事になった俺達。リホームって何?

 

『2世帯住宅にするんだよ。私の世帯と、先輩の世帯だよ♪あぁ、兄ぃは離れに幽閉の予定だよ』

 

って、ミト。遠隔でも俺の心が見えるようだ。くそっ!

 

「アルジェント卿ですね。お手合わせをお願いします」

 

厳ついオッサンに勝負を挑まれた。相手は既に得物を手にいていた。う~ん、ジョブをリッチにチェンジし、魔剣を手にした俺。

 

「何?魔剣使いだと?」

 

オッサンの剣を受け流す。たまに被弾するが、リッチだと肉体再生が出来るので、便利。後、痛覚も無いらしく、痛みも無い。流石は不死王だ♪そもそも既に死んでいるので、もう死なないのが良い♪

 

「肉体再生術だって…何者だっ」

 

あっ!斬り殺しちゃった…マズい。『蘇生コンポ』で蘇生した。

 

「神聖魔法が使えるんですか…」

 

厳ついオッサンの連れが呟いた。

 

「えぇ、ご主人様は、私よりも上の階位の魔法が使えるんですよ♪」

 

って、セーラが説明している。俺には神聖魔法の知識が無いので、説明は彼女まかせである。

 

「神託の巫女様よりも上の階位なんですか…こんなにも禍々しいオーラなのに…」

 

まぁ、不死王だから、禍々しいよね。って、男爵にジョブチェンジした俺。

 

「突然のお手合わせに感謝です。私はシガ八剣筆頭のジュレバーグです。彼は同僚のヘイムです」

 

「そうですか。俺はあまり戦い向きでは無いです。仲間に護られる方ですから」

 

たぶん、人間相手に戦っちゃダメだと思う。

 

「ご謙遜を…この私を斬り殺すなんて、あなたくらいの者です。我らシガ八剣は、アルジェント卿と共にありたいです」

 

って、斬り殺した相手と共にいるって、どうなんだ?でも、シガ八剣の者達と知り合いになったおかげか、城内では良くして貰っている。まぁ、セーラが隣にいるせいかもしれないけど。

 

ジュレバーグさんに頼んで、リザ達の鍛錬メニューなども考えて貰っている。

 

「なかなか筋の良い眷属をお持ちですね」

 

「眷属って言い方は好きでは無いです。彼女達は俺の仲間ですよ、ジュレちゃん♪」

 

俺のちゃん呼びを叱責せずに容認しくれているジュレちゃん。その心の広さに感謝です。

 

 

 

 

 

 



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再会 Part1

ミトと共に王様に呼ばれた。

 

「あのですね…爵位の件なのですが…王祖様が勝手に授けるのはちょっと…」

 

それはそうだ。あぁ言う物は本来、王様が授ける物である。

 

「まぁ、暫定的な処置だよ♪」

 

ミトはどこ吹く風。王様の前でも強気である。

 

「ですので、私の方から、正式に授けたいと思うのですが…」

 

ミトの前では弱気な王様。

 

「うんうん、それで、どうなるのかな?」

 

王様の裁定をワクワクして待っているミト。

 

「王祖様は、ミツクニ公爵として、活動して構いませんが…アルジェント男爵は、何故ゆえ降格されたのですか?」

 

降格?出世街道では無いのか?

 

「あれ?爵位の順番を間違えたかな?」

 

ミトが苦笑いしている。

 

「子爵の方が男爵より上位なんですが…」

 

王様がミトに言いづらそうに伝えている。

 

「なるほど…そういうことだよ、アルジェント君♪」

 

まぁ、俺に実害は無いので、問題は無い。

 

「で、ですね…アルジェント卿は、ムーノ市の都市核と契約されていますよね?」

 

あっ、問題はそこか…

 

「返却すれば良いのかな?」

 

「いえいえ、そのままでかまいません。ニナ執務官からも、アルジェント卿を外さないでくれと懇願されております。そこでなんですが、都市核を持つと言うのは、領地を持つということで、その資格は伯爵以上に有ります。ですので、アルジェント卿が子爵とか男爵では問題が有るんです」

 

それは特進なのか?

 

「なので、アール・アルジェント卿は、ミツクニ公爵付きの侯爵とします。いかがですか、王祖様…」

 

あぁ、ミトへの最大限の譲歩って感じかな。王様も大変だな、自分よりエライ王祖が生きているって…

 

「良いんじゃないかな?アルジェント君が、困らないようにしてくれれば良い」

 

ミトは涼しい顔である。

 

「もう1名のペンドラゴン卿だが、あれは、ペナルティー中なんで、士爵のままで良い」

 

「御意!」

 

王様でも「御意」って言うんだ。いや、言わせてしまうミトがすげぇ♪

 

「後は、何か問題有るかな?」

 

「あぁ、私の方から良いですか?」

 

宰相が手を挙げて発言をした。

 

「うむ♪」

 

「で、ですね。現状、アノ辺りはムーノ男爵領と地図では表記されていますので、そのまま行政区もムーノ男爵領としますが、正式名称はアルジェント侯爵領となります」

 

「その辺りは、執務をされる者に任せるよ。ボクが口を挟むことでは無い」

 

「あぁ、ご理解、ありがとうございます」

 

王様と宰相がミトに頭を下げている。

 

「そうだ。ムーノ男爵はどうなるのかな?」

 

宰相に質問をした俺。

 

「完全なお飾りで権限は何もないです。まぁ、訪れた貴族達をもてなす程度の権限しか無いですね。執務官のニーナの方が爵位が上位ですから。まして、ニーナはアルジェント卿の言葉以外、耳を貸さないでしょうし」

 

鉄血って頑固ってことかな?

 

「じゃ、カリナは一般人?」

 

「う~ん…ペンドラゴン卿次第でしょうね。士爵夫人って線もあるでしょうから」

 

なるほど…

 

--------

 

ミーアとともにボルエナンの森へ…ミーアをエルフの里に置いて、俺はアーゼの元へ。

 

「聞きましたよ!なんて、無茶をするんですかぁぁぁぁ~!」

 

泣きながらタックルしてきたアーゼ。大きな胸が一瞬プロテクターに見えたのは内緒だ。

 

「でなんだけど…人間で無くなったらしいんだけど、婚約はどうなる?」

 

「うん?問題無いよ。寧ろ、好都合だよ♪人間は寿命が短いからねぇ~」

 

なるほど…

 

「リッチになったんだけど…」

 

「うん、ルールブックを調べたよ。でねぇ、不死者と結婚しちゃダメって書いてなかったよ♪そもそも神様も不死者だし」

 

あぁ、そうだね。簡単に自己蘇生するそうだ。この世界の神様は…

 

「だから、ノープロブレムだよ♪」

 

問題が無いらしい。次に問題になりそうな、セーラのことを話した。

 

「うん♪それも問題ないよ。むしろ嬉しいかな。ダーリンがもてるって、嬉しいよね♪」

 

そういうものなのか…

 

「1000人くらい子供を孕ませれば、神様と同格になるらしいから、一人3人産み落とすとして、300人くらいは問題ないよ」

 

産み落とす?卵を産む訳ではないのだが…

 

「300人は無理だろ…俺の記憶力では、名前は覚えきれない」

 

「うん♪そういうと思ったよ。でも、問題は無いから。私はダーリン一人だから♪」

 

こんな俺にベタ惚れ…有り得ない。連敗街道を歩んでいたんだし。

 

「困ったり、悩んだりしたら、気軽に来てね♪」

 

アーゼと一夜を共に過ごした。

 

---------

 

ミーアをアリサに預け、ニナの元へ向かった。

 

「侯爵就任、おめでとうございます。アルジェント卿の配下として嬉しいです」

 

って…えっ?配下?

 

「配下って?」

 

聞き間違えたのかと思い、聞き直した。

 

「今まで私より爵位が低かったでは無いですか。それでは、配下にされませんから♪これで、公式に表明できます」

 

って、俺の配下になったと言い張るニナ。

 

「まぁ、ニナにまかせるよ。そっち系は疎いから」

 

「まかせてください。執務系、事務系はプロですから♪」

 

いい笑顔を俺に向けるニナ。

 

「で、立て直し具合はどうかな?」

 

「ムーノ男爵がネックですね。公金を使い込む始末です」

 

今まで通りの税金では無い、緊縮財政なのが分からないらしい。

 

「勇者研究の一人者と称し、その手の資料を公金で購入して、勇者博物館なる物まで、建設するようです。住民達は反対なんですけどね」

 

反対だろうな。魔族に洗脳されていたとは言え、高額な税金を納めさせた悪代官だし。

 

「俺も反対だよ。勇者研究か…サガ帝国には現役の勇者がいるんだったよな?」

 

「えぇ、そうです」

 

「国外追放させるか…執務にジャマだし。宰相に相談してみるよ」

 

「お願いします」

 

「足り無い予算の予算資料を纏めておいてくれ。緊急性のある件は優先的に金の工面をするから」

 

「申し訳ありません」

 

「しょうがないよ、税収が少ないんだし、税率を低くって命じたのは俺だし」

 

「あなたが上司で良かったです。これからもがんばりますので、たまには見回りに着て下さいね♪」

 

「あぁ」

 

ニナと軽く口づけをして、次の目的地へ…なんか、働いている感が満載である。もう死ぬ事はないはずだけど…

 

-------

 

「先輩…ギブミー金♪」

 

サトゥー先輩の元へ…まだ、トルマの家にいた。

 

「あぁ、金で済むなら、金で解決するさ」

 

って、お金持ちの先輩。

 

「カリナの親の浪費のせいだからね。旦那としては出すのは当然だよね?」

 

「おい!旦那になった訳では無い」

 

「そうそう…カリナは一般人になったからな」

 

先輩の隣にいて、先輩に甘えている巨乳娘に伝えた。

 

「え?どういう意味だ?!」

 

「そういう意味だよ。お前の親父は名ばかりの男爵になった。権限は貴族をもてなすことだけだ」

 

「そんなはずは無い。太守だぞ!」

 

太守とは都市核の管理者のことである。

 

「悪いなぁ。太守は俺だ!」

 

「嘘を言うな!」

 

剣を抜き、俺に切っ先を向けてきた。

 

「じゃ、確認してみな♪」

 

俺は迎賓館へ転移した。

 

-------

 

疲れた…寝室へと向かう。ベッドに横になると、すぐに睡魔が迎えに来た…

 

 

「終わったか?」

 

メタボ氏の声…あぁ、寝てしまったようだ。どこまで報告書を書いたっけ?

 

「取り敢えず、ここまで書けました。で、佐藤先輩と後輩氏はその後、どうなりました?」

 

俺の手渡した報告書を見ながら、

 

「出社しないんだよ。二人共帰った形跡が無いらしいし…二人で駆け落ちかな?」

 

駆け落ちかぁ…いいなぁ…

 

「アール君は、その心配は無いので安心だよ♪」

 

まぁ、駆け落ちをする相手がいない。もう半年くらい家に帰った記憶が無い。たまには、帰るかな…

 

佐藤先輩のデスクに立ち寄った。デスクの下に仮眠ルームを作っていた先輩。そこをなにげ無く覗くとミイラ化した先輩がいた。ここにいたのか…誰も気づかなかったのか?俺がそのミイラを手に取っていたのに、誰も見ようとしない。いや、気づいていたんだ。だけど、見ない振りをしていただけだろう。タダでさえ忙しいのに、厄介ごとはゴメンって感じなんだろうな。

 

俺は先輩のミイラを、大切にキャリーバックに詰めて、会社を出た。以前、後輩氏に彼女の家の場所を聞いていた。その記憶を頼りに、彼女の家へ向かった。石段がつづら折りになって続いている小高い丘。途中には、赤い鳥居が立っている。キャリーバックを大切に持ち上げて、石段をゆっくりと昇っていく。鳥居を潜ると、平地になっていた。ベンチもある。そこに腰を下ろして、しばしの休憩。ふと、後を見ると、斬り断った崖だった。そして、ふと目に入ったのは、崖の底にある骨らしい物。

 

ここに座って、睡魔に襲われたら、崖に吸い込まれて行く…そんな笑えない情景が脳裏に浮かぶ。睡眠不足で眠ってしまった後輩氏…崖に吸い込まれて行く…俺は、崖を降りられる場所を探し、底へ向かっていく。そして、雨ざらしになって、色がはげている後輩氏のスマホを発見した。スマホを見て居て、寝落ちしたのか…その付近に散らばる骨の様な物を広い集めて、先程の平地を目指して昇っていく。

 

キャリーバックに後輩氏を詰めて、更に上に昇っていく。

 

「どうした?」

 

昇り切ると、知らない女の子が話し掛けてきた。

 

「知り合いを弔いに来たんだよ。どこか、静かな場所はあるかな?」

 

「うん♪こっちだよ~♪」

 

彼女に導かれて進むと、大きな石で出来た3連の鳥居があった。そこを潜ると森に出た。俺は、そこに穴を掘り、先輩と後輩氏の成れの果てを埋めた。

 

「お兄ちゃんは、どうするの?」

 

「帰って、二人の仕事を終わらせないと」

 

「そう…いつか…また来てくれる?」

 

「あぁ、機会が有ればな」

 

「約束だよ」

 

俺は笑顔で見送る少女を残して、鳥居を潜り、元の場所へ戻った。

 

-------

 

身体が揺すられる。地震かな?

 

「夕食ですよ~」

 

誰かの声…

 

「おい!昼寝が長すぎるぞ~」

 

後輩氏の声だ…仕事かぁ…

 

「後10分…」

 

「毎回、それかよ~。まったく…では、今日はサプライズゲストにして貰うかな♪」

 

サプライズゲスト?佐藤先輩はカンベンである。

 

柔らかな物が唇に…あれ?この感触、どこかで…恐る恐る瞼を開けると、ゼナがいた…

 

--------

 

夕食…サプライズゲストとして、ゼナ分隊4名もいる。

 

「心臓が止まるかと思ったよ~」

 

「はぁ?お前、起きてから30分くらいしないと、心臓が動かないだろ?」

 

って、ミトの指摘。確かにそうだ。死んだように眠るでは無く、俺の場合、死んで眠るであるから…

 

「なんで、ゼナがいるんだ?」

 

「えっ!それは…あの時、言えなかったことを言う為です」

 

涙目のゼナ。

 

「はっきりと言われたけど…」

 

「うん…自分の気持ちに嘘を吐いてしまいました。ごめんなさい…」

 

今更、謝られても…

 

「プライベートなことは、二人の時に話して貰えるか?頼みがあってきた」

 

イオナが軍指令から受けた理不尽な命令について話した。

 

「その軍指令をボコれば良いのか?」

 

「出来れば、解任かな…」

 

軍のことは軍に任せるか…

 

「後で、ジュレちゃんに頼んでみるよ」

 

「うん?ジュレちゃんって誰?」

 

イオナに聞かれた。

 

「えぇっと…本名は…」

 

「お前は、記憶力が無さ過ぎだよ。シガ八剣筆頭のジュレバーグの事だ」

 

って、ミトが補足を入れてくれた。

 

「ジュレバーグ殿をちゃん呼びて…」

 

ゼナ達が引いている。なんでだ?

 

「で、命令に逆らうんだ。お前達は戻れないだろ?なぁ、うちに来ないか?」

 

って、ミト…何を企てているんだ?

 

「うちとは?」

 

ゼナが恐る恐る訊いた。俺も恐る恐る聞き耳を立てた。

 

「ミツクニ公爵付きの兵になって欲しいんだよ。アルジェント卿は、仲間をいっぱい囲っているけど、私の直下は問題有りの爵位持ちが2名しかいない。だから、君達4名を雇いいれたい。この決定にはセーリュー伯爵の異論反論を認め無いとする。どうかな?」

 

「どうかなって…」

 

戸惑うゼナ。

 

「伯爵なら、アルジェント侯爵の方が爵位は上だ。困ったら、アールを頼れば?」

 

えっ!それは…

 

「じゃ、反論が無いので決定だ。今日からミツクニ卿配下の部隊だ。で、ゼナはアールの第3夫人候補だ。いいな!」

 

第3夫人…まさか、300人ほど、作る気なのか…

 

『協力はするよ♪』

 

心がミトに駄々漏れていた。

 

「今更…」

 

「今からだ。過去なんか、アールは覚えちゃいない。そうだろ♪」

 

頷いておく俺。

 

「そうなんですか…」

 

ゼナが俺の顔を見つめている。

 

「後、うちには軍籍は無い。だから、ややこしいことは抜きでいい」

 

ややこしいのが苦手なのは、ミトだと思うけど…

 

 

 

 



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SS:ゼナの困惑 Part3

06/04 誤字を修正


 

アールさんの行方がまるで掴めない。う~ん、転移魔法で移動しているのかな?そうなると、お手上げである。

 

そして、ムーノ男爵領のムーノ市に着いた。

 

「う~ん、ここの男爵はお飾りのようだ。勇者関連のこと以外、お断りだって…」

 

イオナがプンプンして、男爵の家から戻ってきた。

 

「お~い、ゼナ!ちょっと一緒に来てくれ~!」

 

リリオに呼ばれた。彼女に付いて行くと、この街の執務官の部屋へ連れて行かれた。

 

「彼女が、ゼナ・マリエンテールです」

 

リリオが、私を執務官に紹介した。

 

「そう…彼女がそうなの…初めまして、私はアルジェント侯爵配下のニナ・ロットルです」

 

アルジェント…アールさんの…え?侯爵って?

 

「この街の実質的な太守はアール・アルジェント卿です。私は、彼に太守代行を仰せつかっております」

 

アールさん…鳥肌が立っていく。どこまで出世するんだ。こんなに短期間に…彼に恐ろしさを感じた。

 

「彼のプロポーズの返事をしに行くとのことだが、本当ですか?」

 

リリオ…何てことを言っているんだ…

 

「ですが、あくまでプライベートなことなので…その…」

 

「そう…彼の好みは、あなたみたいな女性なのね♪」

 

何も言い返せない。実際問題、どうなんだろうか?

 

「アルジェント卿は今、王都の迎賓館に、住まわれています」

 

王都の迎賓館…VIP待遇なんだ…スゴい。

 

「彼に伝えると、会わないって選択肢を、迷わず取ると思います。ですから、彼の上司へは伝えておきます」

 

アールさんの上司って、ミツクニ卿…えぇぇぇぇ~!

 

「彼は今、難しい立場にいます。王都へ行く前に、オーユゴック公爵様の公都へお寄りすると良いでしょう。そこにあるテニオン神殿の巫女長を頼りなさい。彼の身に起きたことを話してくれると思います。私は現場にいなかったので、詳しいことはわからないんです」

 

と、巫女長宛てとミツクニ卿宛ての書簡を2通作ってくれた。

 

--------

 

そして、公都にあるテニオン神殿の巫女長様と面会をした。

 

「そう…あなたが…ごめんなさいね」

 

私に頭を下げる巫女長様。どうして?

 

「彼は私の大切な配下の者を救ってくれました。それこそ、命に替えて…」

 

涙する巫女長様。まさか、アールさんが…でも、迎賓館に住んでいるって…はて?

 

「あなたは、彼が人間で無くなっても、愛せますか?」

 

人間で無くなった?はぁ?

 

「ど、ど、どういう意味ですか?」

 

たまらず、リリオが質問をした。

 

「文字通りです。彼は神託の巫女を、全身全霊を保って救い、彼女に第2の人生をプレゼントしてくれました。神の御業か、魔王の呪いか…彼はその代償で、人間では無くなりましたけど…」

 

魔王の呪い…まさか、魔王と戦ったのか…アールさん…

 

「彼は勇者なんですか?」

 

思わず、私が訊いた。魔王と戦える者は、勇者だけであるから。

 

「アルジェント卿は、もう勇者にはなれません。だって、人間では無いんですから」

 

「彼は何になったのですか?」

 

「それは、ここで口に出す事の出来ない存在です♪皮肉ですよね。神託の巫女を救った代償が、神殿では口に出せない存在になるって…神は無慈悲で惨いことをしました」

 

それは魔なる存在になったってことか…でも、王都の迎賓館で暮らしているって…なんか、話が合わないんだけど…

 

「後は、ミト様にお訊きくださいね♪」

 

もったいぶらずに教えて欲しいです。彼は、何になったんだろうか?

 

--------

 

そして王都へ…

 

「そうか…君がアールを振った娘か♪」

 

ミツクニ卿の第一声はそれだった。振った…あぁ、確かに振ったかも…

 

「落ち込みようといったら、半端無かったよ。その挙げ句にアイツ、外交問題を引き起こしてくれてねぇ」

 

えっ…私に振られた腹いせに外交問題を…アールさん、何をしているんですか…

 

「まぁ、話し合いで解決はしたけど…そうか、君みたいな娘が好み…だよなぁ~」

 

彼の好みを知っている素振りのミツクニ卿。

 

「実は、ゼナが振る前に、私も振っているんだよ♪」

 

はぁ?あっ!そう言えば、ミツクニ卿と体型が似ている…私。つまりは、そういうこと?

 

「うん、そういうことだよ、ゼナさん」

 

あ…心が読まれている。

 

「うん。読めるよ♪しょっちゅう、アールの心を読んで、弄んでいるし♪」

 

なんてことを…傷口に塩を塗り込むなんて…

 

「で、私達の直面している問題なんですが…」

 

困惑する私を尻目に、リリオが本題を出していく。

 

「それは、アールに言ってよ。軍部はアールの方が仲が良いからね。そうそう、丁度良い♪今アイツは昼寝中だ。ゼナに1つ仕事をシテ貰おう♪」

 

ミツクニ卿が私を見る顔…悪人顔なんですが…何をさせるのだろうか…

 

 

 

 



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SS:時空を超えて

アルジェント君視点です。


「ねぇ、なんで…私のスマホが有るの?」

 

ミトに訊かれた。

 

「スマホ?どこかで拾ったような…」:

 

「どこで?ねぇ、想い出して…お願いだから!」

 

必死に訊いて来たミト。どこだっけかな?あぁ…そうだ…

 

「夢の中で拾ったんだ。だけど、なんで、有るんだ?」

 

「夢?どんな夢?」

 

う~ん…思い出して見るが、うっすら、断片的にしか想い出せない。

 

「あっ!そうだ…そうだった…兄ぃからのメールを読んでいて…気づいたら、この世界にいたんだ…ねぇ、私は見付かったの?!」

 

コイツ、俺の夢の断片も見えるのか…

 

「埋めた…後輩氏の神社の奥にある、石の鳥居が3つ連なった先にあった森にね」

 

「そんな鳥居は無いよ…」

 

無い?じゃ、夢だからか…

 

「赤い鳥居の先に踊り場みたいなのがあって、ベンチは無かったかな?」

 

「それはあった」

 

「じゃ、うちの神社だけど…あっ!まさか…ねぇ、転移して欲しい場所があるんだけど」

 

ミトから座標情報が送られてきたので、そこへ転移した。ここは…セーリュー市近くの街道の脇のようだ。

 

「あった…これ…だ」

 

ミトの見つけた物を調べると『壊れた転移門』とポップアップ表示された。肉眼で確認すると3つの石鳥居が3つ横倒しになっていた。あっ!これって…

 

すると、この先の森だ…俺とミトは、倒れた巨石の脇を通り、森に入った。確か…木々に囲まれて…場違いのチューリップが一輪咲いている場所を見つけた。ここだ…チューリップを大切に掘り起こし…穴を掘っていくと…『田中一郎』と書かれたキャリーバッグが出て来た。これだ…ゆっくりと、地上へと出し…チャックを開いた。

 

---------

 

目を真っ赤に腫らしたミトが巨石の上に座り、あの森を眺めていた。

 

「先輩…ありがとう…だけど、なんで、チューリップ?」

 

「家で育てようと思って買ったんだけど、半年ほど家に帰れなくなってねぇ」

 

「そうか…私と兄ぃがいなくなったから…」

 

夕日がきれいだ…隣にはミト…う~ん…恋人同士でないのが辛いところだ。

 

「先輩を召喚した者が、あの夢を見せてくれたんだろうね。私と兄ぃの退路を断つ為に…」

 

そうなると、俺はここに、以前来た事があるってことだ…あの時の少女が、俺を召喚したのか?何の為に…いや、違う。俺が約束したからか…たぶん、俺ももう…退路は断たれているんだろう。

 

「帰るか?」

 

「どこへ?」

 

あの日へ…帰れないけど…

 

「迎賓館だ。イネちゃんの部屋でもいいけど…」

 

「イネちゃんの部屋にするか♪」

 

では…

 

「また、ですか…私のベッドのコピーを何個も作りましたよねぇ~」

 

「イネちゃんを抱き枕にして…」

 

「えぇぇぇぇ~!そんなこと、今日が初めてじゃないですかぁぁぁぁぁ~!」

 

イネちゃんを押し倒して、上に載ると睡魔がお迎えに…

 

「重いです…退いて下さい…もっと大人になったら、お願いしますぅぅぅぅ~」

 

遠くでイネちゃんの声が…

 

--------

 

身体が揺さぶられている。

 

「お~い、起きろよ~」

 

後輩氏の声…仕事はしたく無いんだけど…

 

「後10分…」

 

「う~ん、イネちゃん♪」

 

「私はお子ちゃまですよ~」

 

「じゃ、ゼナちゃん、お願い…」

 

「え…えぇっと…」

 

ゼナの困ったような声だ…

 

「おい!ゼナを虐めるなよ!」

 

「おっ!起きた…奇跡だ…」

 

って、ミト。服を脱ごうとしているゼナ。

 

「お前…ゼナに何をさせようとしたんだ?」

 

「全裸で抱き締めれば、起きるって…」

 

「余計に安眠しそうなシチュエーションだぞ♪」

 

「試す?」

 

「いや、ゼナを困らせる訳にはいかない」

 

困ったって顔で俺を見るゼナ。どうして?

 

「私では力不足ですか…」

 

「そうじゃないんだよ、ゼナ…」

 

えぇぇぇ~!逆効果か…

 

「お前、本当にゼナちゃんが好きだな♪」

 

って、ミト。悪いか?

 

「悪くないよ。さて、帰るか。イネちゃん、ゴメンね」

 

「約束…護ってくださいね」

 

約束?何?

 

「イネちゃんが成人したら、アルジェント君が抱くんだよ~♪」

 

なんてことを約束したんだ?

 

「ほら!早く転移して♪食事の時間だ」

 

わがままなミト…腰にはスマホから外したストラップが付けられていた。

 

------

 

後日訪れたら、あの鳥居の残骸の石で、お墓が出来ていた。お墓の前には、あのチューチップが植えられており、墓石には、

 

『鈴木一郎 妻光子 ここに眠る』

 

と、シカ語と日本語で刻まれていた。

 

なんか、また振られた感がするんですが…

 

 

 



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SS:厄介な事実

サトゥー視点です。

09/21 誤字を修正


久しぶりにヒカルの元へ…久しく会わない間に、色々と変わっていた。

 

アールが侯爵となり、ムーノ男爵領の実質的な太守になっていた。更に、アールの婚約者は3名もいるらしい。う~ん、侯爵様にもなると、嫁に困らないようだ。

 

羨ましがっていた俺を、ヒカルは叱責した。

 

「兄ぃ…なんで、大事な時にいてくれなかったんだよ~。先輩は、もう人間では無いんだよ」

 

俺に泣き崩れるヒカル。俺がカリナやトルマ達と楽しく暮らしていた間に、アールは命を捧げて、一人の女性を魔王の手から救い出したそうだ。

 

「俺なら命をロストするようなドジは踏まないな」

 

「だったら、そういう時にいてよ!」

 

元勇者の拳骨を頬に受けた。痛い…痛すぎる…何故…殴る…

 

「後、これ…」

 

え?スマホを手渡して来たヒカル。この世界にスマホが有るのか?これ…俺のだ…仕事場で使っていたヤツ…記憶が甦って来た。机の下に潜り込み、スマホでヒカルからの最後のメールを見ていて…

 

「このスマホはどうしたんだ?」

 

「アール先輩からの贈り物だよ…先輩は私と兄ぃを弔ってくれていたんだ…」

 

弔った…それは、退路が無いってことでは…おい…

 

「先輩は。私達のやり残したことを、私達の代わりにしてくれていたんだよ」

 

そうなのか…仕事も…かっ…

 

「なのに、なんで、先輩がピンチの時に、傍にいないのよ~!」

 

怒りのポイントはそこか…そう言われてもなぁ。

 

「お前こそ、なんで、傍にいなかったんだ?」

 

「いたかったよ。でも、神殿を護れって…先輩に指示されて…」

 

「傍にいなかったヤツに言われたく無い。そもそも、俺に知らせたか?」

 

「あっ!知らせていなかった…」

 

「じゃ、俺を責めるのは筋違いだよ。結局、アイツが弱いから、人間を辞めただけだろ?」

 

「そうだよ…先輩の能力は全部で10個ないもん。私や兄ぃよりも遥かに少ないんだよ」

 

「俺に助けを求めない、アイツに非があるんだ」

 

無表情スキルで乗り越える。理責めなら勝てそうだ。だけど…俺は金で解決出来ないくらいの負い目を負った気がする。

 

「そうだよ。非が私と先輩にある。だけど…」

 

いきなり、ヒカルから座標情報が送られて来た。そこへ二人で転移した。森の中に、真新しい墓があった。チューリップが一輪植えられていた。墓石には…はぁ?なんだ?

 

『鈴木一郎 妻光子 ここに眠る』

 

と、シカ語と日本語で刻まれていた。

 

「これって、お前が建立か?」

 

「悪いか?」

 

涙目のヒカル。う~ん…

 

「俺の遺体が埋まっているのか?」

 

墓を調べると、『ミイラ一体、骨多数が埋葬』と表示さえれた。

 

「ミイラ化した兄ぃと、骨の欠片になった私が埋まっている」

 

探査情報と同じだ。じゃ…ここに俺が…

 

 

 

巨石に座り、森を眺めている。もう、あの過労死の世界へ戻らなくて良いようだ。だけど…

 

「兄ぃは料理人として活躍するんだね。じゃ、もう会わない方がいいかな」

 

「なんで、そうなるんだ?お前の専属料理人として、雇えよ♪」

 

「う~ん…先輩がいるよ」

 

「それはネックだな。俺とアールだったら、どっちを取る?」

 

「兄ぃに決まっているでしょ♪」

 

アールはいつだって、救われないなぁ…女性運の無さ、可哀想に。

 

「だって、先輩はもう人間では無いから…」

 

うん?選択基準はそこか?

 

「戻せないのか?」

 

「睡眠中は、心臓が止まっているよ…」

 

「ダメだな…もう…」

 

「だけど、不死王だから、どうやっても死ねないんだよ。って、既に死んでいるからだけどね」

 

未来永劫、そのままだな。聖属性だもんなアイツ…聖属性の不死王って…無敵じゃないのか?みんなが死んでも、アイツは生き残るんだろうな。ぼっちで生き残るって、どうなんだ?

 

「身体再生能力はあるし、痛点が無いらしいし…どうするんだ、先輩は…」

 

最悪では無いか…倒せないのか…倒せないなら、

 

「封印するか…」

 

「してみなさいよ。先輩の仲間がだまっていないと思うけどね」

 

それが厄介だ。そこそこ強いからな、アイツの仲間は…

 

「じゃ、今後の身の振り方を考えて置いてね…」

 

そうだな…恵まれているようで、救われないアールのアシストは必要かな…

 

 

 



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再会 Part2

ミトを訪ねて、ラムちゃん似のテンちゃんがやって来た。

 

「ミト…会いたかったよ~。目覚めたらいないんだもの…」

 

彼女の種族はホムンクルスだ。

 

「テンちゃん…ごめんごめん」

 

平謝りのミト。

 

「あれじゃ、テンちゃんっていうより、ラムちゃんですよね?」

 

って、アリサは俺と同意見のようだ。

 

「やはりテンちゃんは、ガッチャンみたいでないとなぁ」

 

「そうですよね~」

 

そんな会話をしている俺とアリサに、苦笑いを浮かべるミト。ミトも話に付いて来ているようだ。

 

「うん?何…何故、魔なる者がいるんだ?」

 

ラムちゃん似のテンちゃんが、俺の前に来た。

 

「そうか、ミトを拐かしにきたんだな。許さない!」

 

いきなりの鉄拳制裁…痛くは無いが、脳ミソが揺れる…あのジェットコースター感覚が蘇る。

 

『スキル:見えざる手を覚えました』

 

それは、脳ミソが揺れる怠惰な司教のスキルではないか…早速使い、テンちゃんの手足を拘束し、胸などを悪戯した。

 

「え…何をしているんだよ~。やめてよ~」

 

涙目になるテンちゃん。

 

(自主規制…)

 

5分後、全裸で体液塗れになって、床に転がるテンちゃん

 

「何したの…」

 

ミトが俺を見て居る。

 

「新たなスキルが手に入ったから、使ってみた♪」

 

「どんなスキル?」

 

「『見えざる手』だよ」

 

「まさか、脳ミソが揺れる怠惰な司教の?」

 

「あんな感じだよ」

 

これの意味がわかるミトとアリサが怯えている。まぁ、見えない手で手足を拘束されたら、恐いよね…

 

「イメージ的には千手観音かな…」

 

「え?千本も手があるの…」

 

何かを想像したのか、ミトの耳が朱い。

 

「で、そのラムちゃん似のテンちゃんは誰?」

 

「私の勇者時代の相棒で、天竜のテンちゃんの思念をコピーしたホムンクルスよ」

 

「えっ!それって、昔話にある、天竜に跨がった勇者が、魔王を倒したって話しに出てくる勇者?」

 

リリオが訊いた。

 

「あぁ、それって、私よ♪」

 

ミトが嬉しそうに答えた。

 

「一体何歳だ…」

 

頬がぴくつくリリオとイオナ…そんな昔の話なのか…まぁ、昔話レベルだしなぁ。

 

「はぁ~い、そこ♪女性に歳の話はダメよ~!」

 

そうだろうな…

 

意識が戻ったテンちゃんに、ミトが俺のことを説明した。

 

「お前、バカだろ?都市核のマナを直接受け取るって…」

 

呆れた表情で俺を見るテンちゃん。体液塗れての全裸の女性に言われてもなぁ…

 

-------

 

ミトが宰相に呼ばれ、ガードにゼナ隊がついて行った。俺は、暇なので、アーシアと共にお散歩である。リザ達はジュレちゃんに鍛錬をして貰っていて留守。セーラとルルは料理の腕を磨いているようだ。ナナとアリサには、ミーアの相手を頼んで有る。

 

お城の敷地にある桜の大木…巨木か?いや、老木かもしれない。まぁ、ちょっと気になり見に来たのだ。

 

幹の傍に、桜色の髪の毛の少女が佇んでいた。顔色は良くない。こういう場合、桜の精なんだろうな。

 

「元気無さそうじゃん」

 

驚いた表情で俺を見る少女。

 

「私が見えるの?」

 

「見えるから、話し掛けたんだが…」

 

「そうだよね…最近。根っこからマナの吸い上げ量が減っているんだよ。このままだと、立ち枯れかな…」

 

立ち枯れ?どこかで、似たような事を…あぁ、赤兜か。ダンジョンの起動にマナを横取りされていたんだっけ?よく覚えていないけど。そうなると、ここにもダンジョンが起動しているのか…

 

「アーシア、マナの横取りが無いかを調査してくれ。横取りを見つけたら、そのラインをシャットダウンだ」

 

「了解」

 

「え…どうして、ダンジョンコアが一緒にいるの…」

 

俺を怯えて見ている桜の妖精?

 

「まぁ、諸事情だよ。話すと長いが…」

 

「横取りを見つけました。お城の地下に地下迷宮を見つけました」

 

お城の地下にあるのか…

 

「入り口を見つけてくれ」

 

「了解です」

 

「もう1つ、あの桜の樹へマナの供給ラインを増設出来るか?」

 

「出来ます…出来ました」

 

桜の妖精の顔色が良くなっていく。

 

「貴族の屋敷に入り口があります」

 

不法侵入するか…って、兵士達に取り囲まれた。こいつら、何?

 

「おい!貴様!ここは、『聖桜樹』の禁域だぞ。許可無く入るとは怪しいやつめ!」

 

俺とアーシアに剣やヤリの切っ先を向けてきた。どうするかな?

 

「私は、シガ33杖の一人、『桜守り』のアテナだ!逃げられないぞ」

 

「おい!何事だ!」

 

あぁ、知り合いが来てくれた。

 

「ジュレちゃん、コイツが戦えって言うんだよ。殺していいかな?」

 

「あっ!アルジェント卿…おい!アテナ、お前、なんて人になんてことを…」

 

ジュレちゃんが、アテナって杖使いに、俺のことを説明している。

 

「えぇぇぇぇ~!ミツクニ公爵様の側近…ご無礼を…」

 

面倒だから、スルーだな。

 

「ジュレちゃん、お城の地下に迷宮があるみたいだけど、情報ってある?」

 

「あぁ、随分昔にあったらしいです。廃れた迷宮の上にお城を立てて、マナをお城に供給させたとか…」

 

それは効率がいいが…

 

「その迷宮なんだけど、再起動をしようとしているようだ。資料があったら、直ぐに用意してくれるかな?」

 

「はっ!アテナ、アルジェント卿の指示だ。直ぐに資料を探し、持ってこい!」

 

「はい!」

 

名誉挽回したいのか、張り切るアテナ。

 

「ジュレちゃん、シガ八剣と俺の仲間達に、武装の準備をさせてくれ」

 

「わかりました」

 

久しぶりに殺戮が出来そうだ♪

 

-------

 

迎賓館に戻ると、リザ達が武具を装備していた。

 

「ミト、城を護れ!ナナはミーア達の盾になれ。リザ、ポチ、タマは来てくれ!」

 

「今、兄ぃを呼んでいるよ」

 

って、ミト。

 

「奇跡の料理人は要らない。その代わり、テンちゃんを借りるよ」

 

「それはいいけど…弄ぶなよ!」

 

「あぁ、今夜はミトで千手観音プレイだ♪」

 

「はぁ?」

 

真っ赤な顔のミト、妄想しましたね。あんなこと、そんなこと、こんなことを…

 

アテナの持ち込んだ資料で、入り口を特定した。貴族の家に2つ、お城の地下に1つだ。

 

「じゃ、俺はお城の地下から攻める。ジュレちゃん達は、貴族の家を頼む」

 

「了解してました。おい!行くぞ!」

 

「俺達も行くよ♪」

 

アーシアに道案内をしてもらう。

 

「アーシア、迷宮核の元へ連れて行ってくれ。ここも貰う♪」

 

「了解です」

 

自分の制御下に置くのが、一番の安全策である。一緒に来たいって言われたら、アーシアみたいになって貰えばいいし。次はソーナ・シトリー似のホムンクルスがいいかな♪

 

お城の地下に着いた。どこから入るんだ?アーシアが、迷宮核と交信をして、秘密の入り口を開き、そこから侵入した。

 

アーシアによると、この迷宮は廃れていたので、所有者がいないらしい。なので、既に俺の名義で登録したそうだ。マスターズルームに行かないでもいいのか?

 

更に、今怪しいことをしている連中は、この迷宮の所有者になる魔王か悪魔を呼び出す儀式の準備をしているそうだ。

 

「アーシア、俺達を儀式会場へ転移させてくれ」

 

「了解です」

 

迷宮の所有者は、迷宮内なら、どこにでも転移する権限を持っているのだった。その為、俺達は儀式会場へ転移出来た。そこには、黒ずくめの人間がうようよいた。うん、血の臭いがする。会場の中央にある杯からするようだ。

 

「リザ、タマ、ポチ、テンちゃん♪コイツらを殲滅だ!」

 

「了解です」

 

「了解?」

 

「了解なのです♪」

 

「殲滅か?」

 

俺も殺戮者へチェンジ…あれ?出来ない…魔神レベル1になったようだ。まぁ、いいか…人間を屠りながら、杯に近寄っていく。で、手を伸ばして、杯を手にした。響めく黒ずくめの輩達。あれ?手にしちゃダメなのか?

 

杯の説明を見ようとすると、『聖杯』という文字がポップアップした。あぁ、これが聖杯なのか。中には旨そうな血が並々と入っていた。ソレをぐっと、一気飲み♪う~ん、旨い♪もう一杯って感じだよ。

 

「何!聖杯を手にして、中身を飲んだって…」

 

俺を恐怖の対象に見立てる黒ずくめの集団。お前らが用意したんだろ?

 

「近寄るな!」

 

はぁ?何で?黒ずくめのリーダー格を追い詰める。あれ?レベルが上がっている。なんでだ?

 

「聖杯の中身はなんだ?」

 

「汚れない乙女の血…」

 

セーラか?まさか…いや、セーラは汚れているか…魔王に蹂躙されたし。

 

「アルジェント卿!殺さないでください!」

 

ジュレちゃんの声がした。ジョブを侯爵へチェンジした。

 

「こいつがリーダー格のようだ」

 

「派手にやりましたねぇ…」

 

ジュレちゃんの顔は顔面蒼白であった。そんなに酷い死体は無いけど…ほとんど、燃えて灰になっているし。

 

「ご主人様、三名とも怪我はかすり傷程度です」

 

リザが戦果報告にきた。リザ達三人に回復術をし、傷を癒やした。次に蘇生コンポで、俺の飲んだ血の供給源を蘇生すると、5人ほどの巫女が現れた。

 

「ジュレちゃん、誘拐された巫女達だ。事情を訊いて、それぞれの神殿へ返還してくれるかな?」

 

「御意!」

 

リザ達を迎賓館へ転移させ、俺とアーシアはマスターズルームへ転移した。

 

------

 

迎賓館へ戻ると、セーラが泣き崩れていた。

 

「どうしたんだ、セーラ?ミトに虐められたのか?」

 

「虐めてないよ~」

 

って、ミト。

 

「じゃ、なんで、泣いているんだ?」

 

「お姉様が…戦死したそうです…」

 

「なんだ…セーラ、その程度のことなら、泣くな♪」

 

セーラの頭に手を載せ、セーラの記憶から、セーラの姉を蘇生した。

 

「チートだろ…お前…」

 

ミトが驚いている。いや、ゼナ達もだ…

 

「お姉様…目を開けて下さい」

 

セーラは驚いている暇は無いようだ。

 

「ここは…なんで、セーラがいるんだ?」

 

「お姉様…良かった。本当に良かった」

 

セーラは、全裸の姉に縋り付いて泣いている。俺の蘇生って、全裸でしか蘇生が出来ないらしい。

 

-------

 

「リーングランデ・オーユゴックです。この度は、私の事、妹の事…ありがとうございました。よろしければ、アルジェント卿の末席にお加えください」

 

セーラの姉、リーンが、俺の配下になりたいそうだ。まぁ、ストライクゾーンなので、許可した。セーラも姉といたいようだし、当のリーンは死んだことになっているし。いや、実際に死んだけどね。

 

「リーン、籍は俺の方でいいけど、ゼナ達とミトの護衛が、主な任務だ」

 

「わかりました」

 

「じゃ、一仕事終わったから、寝るよ…」

 

「セーラ、お願い」

 

ミトの声…セーラに支えられて、ベッドへイン♪

 

 

唇に柔らかい物が…

 

「おはようございます♪」

 

瞼を開くと笑顔のセーラがいた。

 

「おはよう…」

 

起きてから30分くらいは、誰かと一緒に朝の運動をして、血行を徐々に良くしていく。睡眠中に心臓が停止するって、不便である。この不死の身体になってから、起床後、1時間は殺戮以外では使い物にならないらしい。

 

リーンには、ミトから俺の扱い方の説明がなされたようだ。

 

「妹の為に…すみません」

 

俺に頭を下げているリーン。

 

「気にするな。セーラも俺も生きている。いや、俺は…とにかく、深く考えないようにしている。こうして、みんなと生活出来ているし♪」

 

「ありがとうございます」

 

恩義、忠義に厚そうな女性だな…

 

しかし…良いことをしたのに、窮地に追い込まれるのは、どうしてだ?

 

「リーングランデの葬儀はシガ王国、サガ帝国の共同で行われるのだ」

 

って、王様。セーラが王様の孫であるならば。リーンも同じである。そして、一般市民を含む大量の人の目の前で、リーンは魔王と対峙して死んだそうだ。そして、リーンはサガ帝国の勇者の従者と来ている。記念式典向きな死亡事案である。

 

「生きているのが、まずいのだよ。王祖様、どうすれば良いですか?」

 

「生き返りました。チャンチャンで、お終いじゃダメ?」

 

「私個人的な心情は、それで良いのですが…」

 

「じゃ、予定通り葬儀をすれば良いじゃん。リーングランデとリーンは別人にすれば良いんだし♪」

 

俺の提案に、みんなの目が点に…

 

「あぁ、さすがはアルジェント卿ですね。それでいきましょう♪」

 

って、宰相。ナイスアイデアだったのか?

 

「あと…アルジェント君、何か言うことがあるのでは?」

 

ミトが改まった言い方で俺に訊いて来た。

 

「何を?」

 

「やらかした件だよ」

 

やらした?あれかな?

 

「聖杯に並々と注がれた汚れ無き乙女の血を一気飲みした件?」

 

「お、お、お前…そんなことも、やらかしていたのか…」

 

物凄く驚いているミト…、王様と宰相も顔面蒼白である。

 

「でも飲んだお陰で、蘇生はしたよ。あの5名の巫女がそうだよ」

 

「なるほど…怪我の功名か…うん?聖杯?それはどうした?」

 

「汚れていたから、浄化して、俺の物にしたけど…」

 

ストレージから取り出した聖杯…青白い光を放っている。

 

「う~ん…それを素手で持てる、先輩はスゴいと思うよ」

 

「え?持てないの?」

 

「人間程度では、神々しさで身を焼かれるはずだ」

 

あぁ、だから、あのリーダーは俺を恐怖の対象として見ていたのか。聖杯をストレージへしまった。

 

「そうそう、聖杯を自分の物にしたら、蘇生コンポ時に魔力の低下がなくなったよ。スキルへ昇格したみたい」

 

「それは、聖杯の力だよ。そうか。あの蘇生コンポって、元々聖杯の機能だったんだ」

 

何かに納得しているミト。

 

「ソレくらいだよ。やらかしたのは…」

 

「はぁ?ちょっと、待て!ダンジョンコアの所有者になった件は?」

 

「あぁ…所有者無しだと、魔王の発生源になるだろ?だから…」

 

「契約したのか…先輩、3つ目だよ。全制覇でも狙っているの?」

 

「狙ってはいないよ。うん、偶然だよ♪」

 

「そういうことだ、王よ!」

 

「なるほど…安心しました。アルジェント卿なら、問題はありません」

 

なんの問題だ?

 

「変なヤツが契約すると、碌なことが起きないって事だ。アルジェント君は斜め上を行くから、問題は違う方向へ行くから、安全だってことだ」

 

斜め上…

 

「深く考えると、知恵熱でるぞ~♪」

 

って、嬉しそうなミト。

 

 



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サガ帝国の勇者 Part1

ミツクニ公爵のお屋敷のリホームが終わり、引っ越しをした。2世帯と言うが、同居と変わらない。それぞれの世帯ごとに区切られてはいないのだった。2世帯とわかるのは、それぞれに専用の応接間が有り、それぞれの執務室があることくらいだ。

 

「厨房が広すぎて、落ち着きません」

 

って、ルル。今までは備え付きのキッチンだったからな。

 

「いっぱい肉が入りそうですね」

 

って、業務用の冷蔵庫を見つめるリザ。

 

ちょっと大きめのママレンジっぽい物で、ミーアとアリサはホットケーキを作っている。

 

それぞれが新居を実感していた。だけど、平穏な時間は続かない。ミトの方へ客が来たようだ。

 

「先輩、何もやらかしていないですよね?」

 

客に応対に行く前に俺に確認したミト。

 

「してないよ~」

 

「それならいいけど…」

 

濡れ衣だって…やることも無いし、テンちゃんに奉仕をしてもらう。テンちゃんといかがわしいプレイをする。

 

「ズルい…テンちゃん…」

 

うん?ノックもせずにミトが入って来た。

 

「何かようか?」

 

「あぁ、ちょっと、服を着てから、来てくれるかな?」

 

服を着て、ミトの応接間に向かう。知らない男女がいる。誰だ?

 

「彼が、私の側近のアルジェント侯爵です。アルジェント君、彼がサガ帝国の勇者のハヤト・マサキ様、彼女は、サガ帝国のメリーエスト・サガ皇女よ」

 

先輩の好きそうな爆乳娘と、短髪の男…両方ともストライクゾーンには入らない。

 

「こいつからは、魔の臭いがプンプンしますが」

 

勇者は剣に手を掛けている。いつでも斬れるようにしていた。爆乳娘は杖を手にしている。

 

「えぇ、諸事情で呪いをうけていますから」

 

俺の魔の部分を呪いと表現したミト。

 

「諸事情といいますと?」

 

「諸事情です。今回の件とは関係無いですよ」

 

爆乳娘がミトに食い下がっている。

 

「いやっ!」

 

「貴様!メリーに何をした?」

 

勇者が剣を抜いた。

 

「何もしていませんよ。剣を納めて下さい。この爆乳が身体から無くなってもいいなら、かまいませんけど」

 

見えざる手で胸の感触を味わっている。

 

「貴様…」

 

「ダメ…そこは…」

 

爆乳娘が乱れていく。こういう刺激を感じた事が無いのか?

 

「くそっ!」

 

勇者は剣を鞘に収めて、床に置いた。

 

「で…お話は?」

 

爆乳娘は恍惚な表情で果てている。

 

「この地に魔王が来るらしい。なので、共闘して欲しい」

 

俺はミトを見る。

 

「わかりました。私の配下2名を、魔王との戦いの折に、参戦させます」

 

と、ミトが勇者に伝えた。

 

「強いのか?」

 

「二人共転移者でチーターですからね♪勇者ではありませんが」

 

二人共?俺と先輩か?

 

「そうか…わかった」

 

俺が分からないことがある。なので、質問した。

 

「待て!俺達は、リーングランデの穴埋め要員か?」

 

「そうだ…」

 

「リーングランデを見殺しにしたのか?」

 

「いや、犬死に近い…俺達の着いた時には、既に…」

 

「そうか…なぁ、殺し合おうぜ♪」

 

「ダメ!」

 

ミトが俺に抱きついた。

 

「ダメ…ねぇ、落ち着いて…」

 

落ち着けだと?リーンを犬死にさせたんだぞ!

 

『落ち着けよ!私だって、我慢しているんだからな!このクソ勇者に対して…』

 

ミトからメッセージが届いた。そう言えば、女は皆女優って、誰かが言っていたなぁ。

 

「お前、リーングランデの知り合いか?」

 

勇者に訊かれた。

 

「彼女の妹の婚約者だ」

 

「何?神託の巫女の婚約者だと?!有り得ない…」

 

「そうか?俺にしてみたら、仲間を助けられない勇者の方が有り得無いぞ!」

 

『ダメだって…』

 

ミト…スルーする。俺は不死王へジョブチェンジした。空気が一変していく。どこか冷たく重苦しい空気になっていく。

 

「貴様…やはり、魔なる者か?」

 

剣を手にして、鞘から抜き、俺に切っ先を向けた。

 

「なぁ、人質を取られていて、その態度…終わったと思わないか?」

 

皇女の方を振り向いた勇者。皇女は全裸で、大の字の体勢で宙に浮いている。

 

「真下からヤリで突くとどうなるかな?臍で曲がって、左胸から出てくるか?」

 

「止めろ…くそっ!」

 

剣を床に投げ捨てた。

 

「おい!リーングランデに詫びろ!」

 

「何…」

 

「お前の無力さを詫びろ!」

 

「…」

 

「おいおい…犠牲は憑き物なんて、月並みの言葉はいらないぞ!しょうがないなぁ…リザ!」

 

「はい…」

 

リザがヤリを手にして、入室してきた。

 

「あの女の股間を真っ直ぐ貫け」

 

「えっ…わかりました」

 

戸惑うリザ。

 

「止めろ…お前…」

 

勇者がリザに襲い掛かるが、見えざる手で、勇者をなぎ倒す。

 

「止めろ…おい!」

 

リザの手にした聖槍ロンギヌスの切っ先は青い光を纏っているが、リザが念を込めると魔刃状態となり紫色に染まっていく。

 

「やめてくれ…俺は皇女もリーングランデも護れない愚か者だ…くそっ!」

 

床を叩いて悔しがる勇者。

 

「リザ、下がっていいぞ」

 

「はい…」

 

どこかほっとしたようなリザ。

 

「じゃ、お帰りだな♪」

 

勇者と皇女を迎賓館へ強制転移させた。そしてジョブを侯爵に戻した。

 

「まったく…先輩、気持ちは分かるけど、やりすぎだよ~」

 

って、ミト。

 

「私の為に、悪役にならないでも…」

 

リーンが俺に抱きついてきた。

 

「ただ、許せなかったんだよ。仲間を護れないのに、猛者を手配するってことがさぁ」

 

「ご主人様らしいわねぇ♪」

 

ホットケーキの皿を持っているアリサに言われた。そう、俺らしくが俺のテーマだよ♪

 

-------

 

都市核を使って、防御態勢を整えていく。魔なる者の出入りは俺以外、出来ないようにしたのだが…魔は人間の悪意によって、産まれる者らしい…

 

 

 

ジュレちゃん達が、焼き肉パーティーを開くと言う。奇跡の料理人が、焼き肉のタレを持参して、来てくれるそうだ。奇跡の料理人って、先輩だよな?何やっているんだ?王都に来てからも、料理の腕を披露しているそうだ。貴族達の胃袋を掴み、人脈を広げているようだ。

 

『アール…警戒強化だ。パーティーに殺人鬼がいる』

 

焼き肉パーティーの開始時間後に、先輩からメッセージが届いた。殺人鬼だって?どうやって、関所を突破したんだ?

 

仲間達に武装をしてもらい、パトロールへ出た。俺は、ジュレちゃんの家の方角だ。そんな俺の前に、見慣れない見回りの兵士達が現れた。重装備に魔法使いが数名。パトロールとか見回りって装備では無い。これから戦って装備である。

 

「おい!お前達、どこの部隊の者だ?!」

 

「貴様こそ、どこの馬の骨だ?おい!やっちまえ~!」

 

ジョブをチェンジをすると、勝負は一瞬で着いた。リッチを舐めるなよ♪怪しい集団を見つけ次第、魂へと還元していく。そして、ジュレちゃんの家に到着した。シガ八剣の数名が、既に瀕死である。殺人鬼は先輩とヤリ合っている。取り敢えず、瀕死のシガ八剣を回復させて、ジュレちゃんを蘇生した。

 

「アルジェント卿…今宵はいつもより一層禍々しいですな…」

 

俺のオーラに飲まれ、顔面蒼白のジュレちゃん。

 

「あぁ、もう、こんなんで死ぬなよ~。ジュレちゃんを殺せるのは俺だけだよ、いいね!」

 

「はっ!努力したします」

 

そして、先輩の元へ。

 

「アール、漸く到着か?」

 

「先輩!空にいるのを頼めますか?」

 

ワイバーンに載って、爆撃している奴らがいた。

 

「わかったよ」

 

先輩の相手と対峙した俺。

 

「うん?貴様…何者だ?」

 

「俺?聖属性のリビングデッドだよ♪既に死んでいるので、死ぬ心配も無い。殺し合おうぜ♪」

 

-------

 

「化け物め~」

 

殺人鬼が逃げ惑っている。人間からの攻撃なんか、痛くも無い俺。

 

「飽きてきたよ。そろそろ終わりだ」

 

瞬動術で殺人鬼の懐に入り、心臓を握り潰した。絶命する殺人鬼。

 

殺人鬼を屠ると、空気が鳴動した感じがした。メインディッシュのお出ましだな♪って、都市核の防御をどう破るんだろうと見物していたら、ソイツは空間を破って出て来た。都市防御の意味がまるで無い。空間を破るってチートだろ?

 

先輩は銀色の仮面を付けて、戦っている。正体がバレないようにか?奇跡の料理人が、隠密同心では都合が悪いのかな?

 

って、ここで問題が発生した。リッチは空に浮かべないようだ。どうする?空中に敵がいるんだけど…ジョブリストと睨めっこをする。空に浮かべるジョブってなんだ?

 

先輩、ミト、サガの勇者が浮遊している。勇者なら浮かべるのか…確かあったな、探すけど見付からない。あれ?俺の勇者ジョブはどこへ消えたんだ?

 

ジョブ履歴を見る。あぁぁぁぁぁ~、上位ジョブに変化している。これって、どうなんだ?俺は、魔神へジョブチェンジした。

 

-------

 

空に浮かべるって、ジェットコースター感が満載であった。気持ちわりぃ~。乗り物酔いのような魔神酔い状態である。戦える気力が萎えていく。

 

『お兄ちゃん、一緒に戦おうか?』

 

脳裏に響く声。酔い止めの薬が欲しいかな。

 

『無いよ、そういう物は…』

 

そうか…無いのか。凹む俺。

 

『凹まないで…どうするかな…』

 

なぁ、3本鳥居の先にいた子だよな?

 

『うん♪お兄ちゃんがいてくれるから、もう寂しくないよ』

 

そうか…俺を殺してくれ!

 

『やだよ~♪今度こそ、お兄ちゃんと…』

 

そうだな、ずっと待っていたんだものな。そんな彼女からの贈り物を受け取った。それを、『ヘアーランス』を発動した。月から黒い物が魔王に向けて放たれていく、それは徐々に大きくなり、魔王の身体を貫いた。灰へとなっていく魔王。

 

「何…有り得ない…」

 

あれ手応えが違う?魔王では無いようだ。これって、魔族か?

 

「魔神が人間の味方だと…」

 

灰になったはずの魔族が復活した。厄介だな。いや、違う…コイツも空間を破って出て来た。別の固体か…魔王は一体だけど、魔族は集団ってことか。

 

『お兄ちゃん、月の光が導いてくれるよ♪』

 

『「月の女神の手鏡」を手に入れました』

 

これを使うのか?鏡を月に向け、角度を変えると、レーザービームのような物が出て行く。これをあの空間の割れ目にセットして。『ヘアーランス』を発動した。灰になっていく魔族。空間が破れ…破れた空間が爆裂していく。

 

空に浮かんでいる奴らが俺を見つめている。その内の一体が、俺に迫ってきた。

 

「魔王か?貴様、許さない!」

 

青い鎧を着たサガ帝国の勇者だった。

 

「《歌え》アロンダイト!」

 

聖剣が俺を襲うが、効果は無い。聖属性に聖剣って…意味無いだろうに。

 

『サガ帝国神皇流剣術』

 

技名を叫ばないと使えないのか?不便なヤツだな?俺も聖魔剣を手にした。そして、瞬動術で、クソ勇者の背中に貼り付き、首筋に刃を走らせた。吹き上がる血柱。月明かりに照らされている。

 

「あぁ、殺しちゃったのか?」

 

ミトが声を掛けてきた。

 

「だって、襲ってくるんだもの」

 

「お前、再生するんだろ?受け流せばいいじゃん」

 

って、テンちゃん。

 

「ウザいんだもの、コイツ」

 

「で、どうするの、これ?」

 

って、先輩。どうしようね…

 

-------

 

侯爵にジョブチェンジして、クソ勇者の遺体の傍らにて、善後策をみんなで考える。

 

「棺に入れて送り返すのは?」

 

「蘇生はしないとダメだよ~」

 

って、ミト。

 

「また、襲われる自信があるんですが…」

 

「そこが問題よね~」

 

「身ぐるみ剥いで、棺に入れて、強制転移でいいんじゃないの?」

 

って、先輩。あぁ、聖剣とか聖鎧と聖盾はボッシュートすれば、もう、戦え無いか。

 

「先輩の案にしますか」

 

『強奪』して、棺に入れてから、『蘇生』して、サガ帝国へ『強制転移』させた。これで終わったかな?

 

--------

 

翌朝…身体が揺すられる。眠すぎる…働き過ぎたな。反省しよう。

 

「おい!起きろよ~」

 

後輩氏の声…完徹明けのような、身体のだるさである。

 

「後10分…」

 

「またかよ~。じゃ、お前だ!やれ!」

 

後輩氏が誰か命令している。誰にだ?後輩氏より下っ端はいないはずだが…

 

下腹部に有り得ない刺激…なんだ、これは…プロの仕事か?暖かな室に収まる。血流量が上がっていく。

 

喘ぎ声…肉の叩き合う音…誰かが俺の上に倒れ込んできた。物凄く大きなクッションが間にあるんだが…ゆっくりと瞼を開くと、俺の上にメリーエスト皇女がいた。

 

「これ?どういう状況だ?」

 

「コイツを奴隷にした。首輪嵌めさせてあるよ」

 

嵌まっているねぇ。あっ!中に発射。ミトにバレないように無表情で押し切る。

 

「おい!無表情でも、心が丸見えだぞ」

 

そうだったね。忘れていたよ。

 

---------

 

皇女は全裸で首輪を嵌めていた。リーンを怯えた表情で見て居る。

 

「なんで、コイツ、全裸なんだ?」

 

「奴隷だもの♪」

 

って、ミト。俺が寝た後で、迎賓館に泊まっていた皇女を拘束し、奴隷にしたそうだ。

 

「二度と襲われないようにするには、これしか無いでしょ?」

 

いや、既に二度ほど襲われていますが…皇女はお口で奉仕してくれている。

 

「で、落としどころは?」

 

「あのクソ勇者の棺に投げ文してある。詫び状と詫びの品と皇女は交換って♪それよりも、昨夜のあれは何?」

 

「あれって?」

 

「月から黒い髪の毛のような物が伸びて来て、魔王を貫いたでしょ?あと、謎のレーザービームもさぁ」

 

「あれ、魔王じゃないぞ。たぶん魔族だ」

 

「そうなの?やたらに再生力があったじゃない」

 

あぁ再生では無いんだけど、メンドーなのでスルーだな。

 

「で、あれは月の女神様からの贈り物だよ♪」

 

「はぁ?女神?月の?どういう関係なの?」

 

「よくわからないんだ。記憶が曖昧で…ただ、あの石鳥居で、俺に会いに来たのは、彼女だよ」

 

「そうなのか…そうなると、アコンカグラが召喚術を教えた女神って、その子かもねぇ」

 

「難しい歴史の研究はミトに任せるよ。しかし、コイツ、プロのような仕事をしているんだが」

 

俺の溜まっている物を取り出してくれている皇女。

 

「勇者とそういう関係か?」

 

「あの勇者はロリコンだよ」

 

って、アリサ。

 

「だって、私のことを『マイ・ハニー』って呼ぶんだよ」

 

アリサが王女だった頃に一目ぼれしたが、アリサの国が敵に滅ぼされ、アリサが奴隷にされたのに、助けに来なかったらしい。それなのに、アリサへの愛は変わらないそうだ。

 

「アイツはサイテーのロリコンだよ!」

 

アリサもミト同様に、勇者に対して激怒していた。

 

 

 

 

 



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サガ帝国の勇者 Part2

06/05 誤字を修正


リーンの葬儀…あの勇者が詫び状と詫びの品を持ってやって来た。ミトが約束通り、皇女を返還した。

 

「あんた、元勇者だろ?なんで、あんな魔王に仕えているんだ?」

 

勇者が妙な事を言う。俺のジョブに魔王は無いんだけど。

 

「はぁ?サイテーのロリコン勇者には言われたく無い」

 

勇者と元勇者の間で、バトルが起きそうだ。

 

--------

 

リーンの葬儀…まぁ、茶番だけどね。だって、リーンは俺の隣にいるんだし。棺が運ばれて来て、両国の首脳陣が、棺の周囲に群がっている。司祭が祈りを捧げている。なんだかなぁ…

 

無事に式典は終わった。オーユゴック公爵の控え室へと向かった。

 

両親を前にして、涙するリーン。そんな娘を優しく労う彼女の両親。

 

「アルジェント卿、君には感謝しきれない恩を受けた。困ったら、いつでも頼ってくれ給え」

 

公爵様からお言葉を貰い、頭を下げる俺。

 

「セーラ、リーン…二人共死んでしまうとは…」

 

世間的に死んだことになっているので、もう、家族とは生きられない二人。

 

「毎日が楽しいです」

 

「セーラと暮らせて、幸せです」

 

笑顔を家族へ向ける二人。

 

「アルジェント卿、二人に、アルジェント姓を使わせてくれないか?」

 

「問題ないですよ。オーユゴック卿。俺にとっては二人は家族ですから」

 

「ありがとう…」

 

コンコン!

 

誰かがやって来た。応対するメイド…

 

「なんで、リーングランデが生きているんだ?!」

 

空気を読めないトルマだった。大声で驚いたせいで、ヤジ馬が押し寄せて来た。

 

「これはどういうことですかな、オーユゴック卿!」

 

空気を読まないムーノ男爵が声を荒げている。大事になりそうである。

 

「神の起こした御業のおかげですよ。トルマもムーノ卿も、神を信じていませんね」

 

動じずに、堂々としているオーユゴック卿。さすがだ。

 

「アルジェント卿、私を末席に加えて下さい」

 

今朝まで奴隷だったメリーが、俺に頭を下げた。これに響めくヤジ馬達。

 

「あなたの偉業…しかと目で見ました。お願いです…婚姻関係にならないでも良いです。末席に置いて下さい」

 

まぁ、婚姻関係はもう無理だし。正妻の座は変わらないし。たぶん、永久空席だけど。

 

「俺は偉業なんかしていないよ。あの勇者に付いて行けば良い」

 

「アリサさんから訊きました。彼は…でも、アルジェント卿は、アリサさんのことを考えてあげましたよね?」

 

あれかな?アリサがアリサの内に殺してあげてくれってヤツかな?

 

「凡人や、偽善者からは出ない言葉です。悪びれた奥の行い…私にも手伝わせてください」

 

ざわめくヤジ馬達。スポーツ紙の1面を、飾りそうなことを言う皇女メリー。

 

「俺は俺の基準で動く。それでも良いのか?」

 

たぶん、俺には人間としての理性は無いかもしれない。

 

「えぇ、覚悟の上です」

 

そうだ、この際だから…

 

「1つ条件をいいか?」

 

「なんなりとお申し付けください」

 

「英雄研究の第一人者だと自負しているムーノ卿を、サガ帝国で引き取ってくれないかな?」

 

「わかりました。喜んで♪」

 

ジャマ者が排除できそうだ。

 

「貴様!国外追放か?!」

 

「ムーノ市の予算では、研究費は出せません」

 

知り合いの衛兵達にムーノ卿を連れて行ってもらった♪

 

--------

 

「で、なんで、リーングランデとセーラが生きているんだ?!」

 

トルマが、オーユゴック卿に喰い付いている。

 

「神の御業だと言っただろ?」

 

「神?何を言っているんだ?セーラもリーングランデも葬儀をしたじゃないか。神に導かれて、魂は天へ昇ったはずだ」

 

ヤジ馬から「そうだそうだ」という声が聞こえる。

 

「俺が呼び戻した」

 

これ以上は我慢出来ない俺は、矛先を自分へ向けさせた。

 

「貴様かぁ…神を冒涜したのは」

 

「冒涜はしていない。彼女達と暮らしたいから、呼び戻しただけだ。それの何が悪いんだ?」

 

「天に召されたんだぞ!それを呼び戻すって…貴様は何の権利があるんだ?」

 

「トルマ…冷静に考えろ!俺にはそういう能力がある。それが権利がある証拠だろ?神への冒涜って騒ぐのは、能力が無いから、嫉みだろ?」

 

ぎくっとしたトルマ。ビンゴか…

 

「蘇生能力があるのに、目の前で愛する家族が殺されたのであれば、蘇生させるだろ?流石に俺も天寿を全うしたヤツを蘇生はしないよ」

 

「殺された?」

 

「なんだ、知らないのか?情報通のトルマでも、知らない事があるんだな」

 

「誰に殺されたんだ?」

 

「二人共魔王に殺されたんだ」

 

シーンと静まり返る室内、廊下…俺は、ジョブチェンジをして、恐怖心を煽った。

 

「トルマが妙なことを言うから、呼んだのでは無いのか?」

 

空気がドンヨリしていく。

 

「魔王が来た!」

 

ヤジ馬達が我先にと逃げていく。ジョブを侯爵に戻した。時間を掛けると、あのクソ勇者がやって来るとまずいから。

 

「アルジェント卿…すまない。我が家系の問題に巻き込んでしまって」

 

オーユゴック卿が俺に謝ってきた。

 

「何を言っているんです?義祖父さん♪」

 

うん?俺の両腕をセーラとリーンが抱き締めた。

 

「「ありがとうございます」」

 

ステレオで聞こえる姉妹の声。

 

--------

 

家に戻り、まったり…メリーが奉仕中である。自ら首輪を嵌め、リードを俺に渡してきた。俺のエム奴隷にでもなったのか?

 

「お城でパーティーだって」

 

ミトが入って来た。基本、俺の部屋は誰もノックをしない。って、言うかドアすらない。

 

「何のパーティー?」

 

「『奇跡の料理人』が腕を振るうらしいわよ」

 

「俺は行かないよ。食わないで生きていけるようだから」

 

「歯が退化するわよ」

 

「そうだな」

 

7完徹の時にもそう思ったし。毎食、栄養ゼリーだったものなぁ。

 

「食べたい物って無いの?」

 

「ミトのフルコース♪」

 

「私?ゼナとセーラでは無いの?」

 

「ミトの味が忘れられない」

 

真っ赤になるミト。

 

「お前…また、今度だな…」

 

え?食えるの?

 

「気が向いたら…」

 

「そうか…」

 

「早く支度をして!」

 

「ミトを食っていいの?」

 

「パーティーへ行くのよ!爵位持ちなんだから、参加決定よ!」

 

えぇぇぇぇ~!

 

---------

 

着慣れない正装…両手に華…片手にセーラ、もう片手にはアーゼ…食い物に釣られて参加したアーゼ。アーゼをエスコートする為に、俺の参加は決まったらしい。

 

「ダーリン♪元気ないわねぇ。食べている?」

 

「まぁ、そこそこ…」

 

目の前には色とりどりの料理が並ぶ。うちの肉食軍団は、唐揚げに群がっていた。うちの甘党軍団は、デザートに群がっている。アーゼもだよ…必然的に俺も甘味三昧である。

 

パーティーの主役は『奇跡の料理人』サトゥー・ペンドラゴン士爵である。群がる食通貴族達。

 

「おい!お前がアルジェント卿か?」

 

見た事の無い寅女に声を掛けられた。

 

「ルスス!何をしているの?」

 

メリーが声を上げた。そうなると、

 

「クソ勇者の奴隷か?」

 

「おい!マサキはクソ勇者では無い!私達は奴隷では無い!」

 

『強奪』で衣服を奪った。全裸になったことに気づかないルススって女。中々良いプロポーションですね♪先輩好みかも。

 

「ルスス…何で全裸?」

 

狼女が指摘した。

 

「何言っているんだ、フィフィ…いやぁぁぁぁぁ!」

 

フィフィって言うのか。狼女の衣服も『強奪』した。

 

「フィフィ…お前もだぞ!」

 

「なんでよ~!」

 

パニクる勇者の従者達。

 

「どうします?」

 

デッカい肉の塊を手にして、リザがやって来た。

 

「どうもしないよ。パーティーでいざこざはマズい」

 

「ご主人様らしいなぁ」

 

って、アリサ。そう俺らしく。それが大切だ♪

 

パーティーが終わり、まずアーゼを送ってから、会場から女体を2つテイクアウトしてきた。どうするかな?取り敢えず観賞かな?首輪を嵌めて、部屋の隅に固定した。

 

ベッドに横になり、2つの女体の生態観察をしていると、メリーが奉仕をしにやってきて、勝手に奉仕をしている。

 

「メリー様、何をなさっているんですか?」

 

フィフィの言葉をスルーしているメリー。まぁ、口に含んでいるんだ。しゃべれないと思う。

 

--------

 

翌朝になったのか。身体が揺さぶられている。寝落ちしたようだ。

 

「おい!朝だよ…起きろよ…」

 

後輩氏だ。

 

「後10分…」

 

「はぁ?寝落ちなんかするからだよ…たまには違う刺激にするか」

 

違う刺激?鞭で打つのか?蝋燭を垂らすのか?このドエス女は…

 

うん?両腕に柔らかい物が当たっている。なんだ、これは?指先には湿った物が触れている。これは確かに新しい刺激である。なんだ、これは?恐る恐る瞼の開くと、フィフィのルススだった…

 

「これ…どんな状況?」

 

「メリーに触発されて…二人も、先輩の方の末席にいれるからね」

 

なんか、仲間が増えていくような…

 

 

食事…朝から『奇跡の料理人』が腕を振るっている。漸く、離れに引っ越して来たそうだ。

 

「それで、今後の予定だけど、迷宮都市セリビーラを目指します」

 

あぁ、ミトの古い知り合い、たぶん老婆がいるんだったな。

 

「移動は馬車で移動で、各人の連携を鍛錬しながら、ゆったりと旅をしていきます」

 

転移で一発だろうに。

 

『馬車でないとダメだよ!』

 

ミトからメッセージ。相変わらず。俺の心は読んでいるミト。

 

 

旅の準備をする。馬車はミトが1台、先輩が1台、俺が3台の計5台で移動するそうだ。先輩の馬車はチートで、機械仕掛けの馬だそうで、御者がいらない仕様だそうだ。まぁ、先輩とカリナが乳繰り合っている馬車の御者のなり手はいないのが、現状のようだ。

 

「ミトのストレージに藁をいれてくれ」

 

「了解」

 

俺のストレージは肉が多い。肉の消費量は多いから。まぁ、現地調達でもいいんだけど。あと、ハチミツとか砂糖とかメイプルシロップとかの甘味料も多い。ミーアとアリサがいるから…

 

「俺様、参上!」

 

クソ勇者がやって来たが、誰も相手をしない。

 

「メリー、どういうことだ?」

 

メリーは黙々と作業を熟していた。

 

「フィフィ、ルスス…お前達まで、どうして?」

 

二人は、リザ達と一緒に、馬のケアをしてくれていた。

 

「リーングランデ…あのな…」

 

リーンはセーラと黙々と作業をする。

 

「おい!貴様!アリサを返せ!」

 

どうしてそうなるんだ?そこはリーンを返せだと思うが、アリサ大好きなクソ勇者は、アリサが目に入ると、脳がアリサ一色になるようだ。

 

「あのちっこいの二人も寄こせ!」

 

タマとポチのようだ。ミーアはいいのか?

 

「なぁ、ウザいんだけど…消えてくれないか?」

 

俺がキレ始めたと判断したのか、ミトとセーラが走り寄った。

 

「ダメですよ、アールさん」

 

だけど、ゼナが真っ先に抱きついて来た。俺は心をクールダウンさせていく。ゼナは巻き込みたく無いから。

 

「なぁ、頼むから消えてくれないか?」

 

リーンが俺の前に立ちはだかった。俺からクソ勇者が見えないようにだ。

 

「私達のご主人様にケンカを売るな!これ以上売るなら、私達が相手をするよ♪」

 

聖槍ロンギヌスを手にしたリザが、聖なるナイフを手にしたルル、ポチ、タマが…俺に抱きついて居るゼナ以外の仲間達が、得物を手にして、クソ勇者を取り囲んだようだ。

 

「ねぇ、これ以上、ジャマをすると、外交問題にするよ!」

 

ミトがキレている。苦笑いしている先輩。

 

「外交問題だと?何の権限があるんだ?元勇者のくせに!」

 

「ふん♪その程度の知識なんだ…ボク、この国の王祖なんだよ♪お前が、ケンカを売っているアルジェント君は、ボルエナンのハイエルフ様が正妻だよ。オツムの弱い君でも意味は分かるよね?ふふふ♪」

 

「え…アイツの正妻って…ハイエルフ様なのか…」

 

うん?アーゼが一番強力な切り札なのか?

 

「あと、アルジェント君は、公にはしていないけど、都市核を1つ、迷宮核を3つ持っているんだよ。意味分かるよね?」

 

「何…コアを4つも…」

 

「その気になれば、サガ帝国は消えるよ。クソ勇者君、君のせいでね♪」

 

えっ?コアって、そんな事も出来るのか?

 

『出来るよ。サガ帝国へ、マナが流れ込まないようにブロックすれば良いんだよ』

 

って、ミトからメッセージが届いた。キレた振りか?俺の心を読む、冷静さが残っているし。

 

「待て!国を滅ぼすのはルール違反だぞ!」

 

「何のルールかな?ケンカにルールは無いよ。まして、相手は勇者だ。なりふりは構わないと思わないか?」

 

「わかった。アリサだけ、返せ!」

 

クソ勇者の気配が消えた。

 

「アルジェント卿、どこへ強制転移させました?」

 

ミトにはバレていた。

 

「揺り篭の迷宮…あそこの守護者は勇者程度では勝て無いよ」

 

「何を配置したんですか?」

 

メリーに訊かれた。

 

「トライヘキサ…その前室にはマンティコア…後、勝てそうも無い魔物を、全部、ぶち込んで有る」

 

それらの魔物の存在を知っている者達の顔は、苦笑い気味である。

 

「ご主人様らしいわ。これで、あのクソ勇者も、改心してくれるといいわね」

 

って、アリサ。たぶん、アリサが一番キレていたんだろう。

 

 



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SS:新居のルール

ミト視点です。

06/07 誤字を修正


 

先輩が爆睡モードに移行した。心臓の鼓動を確認…停止している。これで、朝まで起きないはずだ。まず、先輩の部屋のドアを撤去した。

 

そして、先輩を除く全員を広間に集めた。

 

「アルジェント卿の部屋のドアは撤去した。いい?あの部屋の前を通る時は、部屋の中を確認して。何か異変があれば、ささいなことでも、私に報告して。私がいなかったら、セーラかゼナにね」

 

不死王となってしまった先輩…寝る時は心臓を止め、完全にリビングデッドとなって寝ている。先輩にとって、心臓を動かすことが、疲れの原因かもしれない。

 

「想定される異変は?」

 

リーンに訊かれた。

 

「魔王になることは無いけど、何かを呼び出すとか、姿が一変するとかかな。リッチに関して知識はあまり無いので、わからない点が多いのよ」

 

とても不安である。死にたがりの先輩は、死ねない事にストレスを感じているかもしれない。

 

「で、起こす時は、生け贄を最低一人は用意する」

 

コチラの世界へ呼び戻すには、先輩の女体への妄想を利用する。

 

「コチラの世界にいたくなるような、刺激を与えるのよ」

 

------

 

あのブラックな会社での生け贄は私だった。仮眠室で寝たら起きない先輩。

 

「後輩氏に、アール氏の起床係を任命する」

 

って、メタボ氏に指示された。だけど、これが難敵であった。揺すっても、大声で呼び掛けても、「後10分…」をリピートする。アール先輩は起きるまでに時間が掛かる問題児だったのだ。

 

ある時、アクシデントで唇同士が重なった。すると、アール先輩は今までも苦労が嘘のように、目覚めてくれた。まさか、ファーストキスの相手が兄ぃでは無いとは…青天の霹靂ではあった私。

 

その翌日から、耳を舐めたり、額を重ねたりと、刺激を与えると、目覚めが早くなった。先輩は、無意識のうちに、私を求めていたのかもしれない。

 

--------

 

「こちら側に戻せないと、どうなるの?」

 

アリサに訊かれた。

 

「アルジェント卿として、目覚めることは無い…そんな気がするの」

 

「もっと、生きたいと思わせれば良いんですね?」

 

って、セーラ。

 

「そういうことだよ。迷惑な話かもしれないが、アルジェント卿が起きないと困ることが多いのは、みんなにもわかると思う」

 

異論は出なかった。みんな、先輩にはいて欲しいんだと思う。セーラ、リーンは勿論、アリサ、ミーアに至る迄、先輩のおかげで新しい道が開けたんだと思う。私もそうだけど…

 

私も先輩に心が傾いている。口では兄ぃ命と言っているのは、先輩を虐めたい心の表れっていうか。まぁ、若気の至りである。その証拠に、離れていても、先輩の心をモニターしている。本当にマズい時に、助けにいけるように。

 

「生け贄は毎日同じだと、ダメだと思うんだよ。毎日、違う刺激を与えないと、効果が薄れるって言うか…あぁ、1つだけルールを作る。お子様は交わるな!これは大事なことだ。アルジェント卿を追い込み兼ねない。ミーア、アリサ、ポチ、タマ、リザは厳禁だ」

 

「えっ?私はダメなんですか…」

 

リザが落ち込んでいる。ポチとタマは交わるって行為が分からないのか、ぽっか~んとしている。まぁ、この3名は娘枠の気がする。

 

「私も?」

 

アリサも声を上げた。精神的には、私より歳上だと思うけど…物理的にむりに思える身体…たぶん、入らないと思う。

 

「そうよ。精神年齢が高くても、見た目、身体的にお子様はダメよ」

 

「う~ん…まぁ、身体的にはそうよね…でも、ちょっとショック」

 

こうして、この家のルールは決まった。

 

 

 

 

 



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SS:メリーエストと3つの物語


メリーエスト視点です

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いままでに感じたことの無い刺激…私を女として扱い、女として愚弄し、女として陵辱してくれたアルジェント卿。

 

女として…扱われて来なかった。皇女として、マナーやルールやしきたりなどの勉強に加え、戦術、武術の修練。ただの女ではなく貴族の女、王家の女として扱われ、躾られてきた。

 

なのに、彼は私を女として扱ってくれた。貴族でも無く、王家でも無く、ただ女として扱ってくれた。いや、メスとして扱ってくれているのか。

 

頭の中が真っ白になっていく。これがメスとしての悦びであり、メスしか体験出来ない世界なのか…

 

 

目が覚めると、首に首輪が…リードを持つミツクニ卿。

 

「お前、エムっけがあるだろ?お前の心の中を見させてもらったよ♪」

 

何か恥ずかしい物を、盗み見られた気がする。

 

「お前をアルジェント卿の奴隷にする。きっとメスとして扱ってくれるぞ」

 

メスとして…淫靡な響きである。メスとして為されることを想像するだけで、身体が疼く。

 

「え?言葉だけで、濡れちゃうの?どんだけ、欲しているんだ?このエム女は…」

 

初めての言葉責め…身体が何かを欲している。身体の中でドクドクと、得体の知れない物が湧き出ている。

 

-----

 

目の前で彼が寝ている。代わる代わる女性達が身体を重ねている。

 

「何をしているの…」

 

「彼に生きて欲しい。だから、アチラへ行かないように、おやすみのスキンシップをしているんだよ」

 

って、リーン。リーンから聞いた彼の受けた呪いのようなもの。彼女の妹を救うために、人間がしてはいけないことをした彼。その結果、呪いとして、不死王リッチになってしまったという。

 

「私に妹と暮らせる時間を与えてくれた。確かに私は犬死であった。魔王には私の攻撃は効かなかったからね。でも、彼は妹を魔王の手から取り戻してくれた。魔なる存在…たぶん、彼の勲章だろうと私は思いたい」

 

彼に優しげな視線を向けて、部屋を出て行ったリーングランデ。

 

-------

 

少女がやって来て、彼に口づけをしている。たしか、勇者マサキが愛している少女だ。

 

「明日も生きてね…私の為にも…」

 

彼に涙する少女。

 

「どういうこと?」

 

彼女に訊いた。

 

「ご主人様は、私を私として扱ってくれる大切な人よ。アンタのクソみたいな勇者と大違いだよ!」

 

「マサキが何かをしたの?」

 

「アイツは言葉だけで、何もしてくれなかった。私の国が攻められた時に助けに来てくれ無かった。私が奴隷になったのに、救いに来てくれなかった。何が勇者だよ。アイツは魔王としか戦わない、偽善者だよ!私を愛している?私を幸せにする?今更何をしてくれるんだ、アイツは!おい、どうなんだよ~!」

 

涙をポロポロ流しながら、アリサは私を睨んでいた。

 

「ご主人様は…私が私である内に殺すように仲間に指示をしてくれた。私は忌み嫌われている紫髪の人間だ。いつか魔王になるかもしれない。だから、私に異変が起きたら、私が私だと認識している間に、殺してやれって…私は嬉しかった。私として葬りたいご主人様の心に…あの偽善者はきっと、『俺が助ける。俺が救ってやる』って言うんだろうね。魔王になったら、もう私は私でないのに…」

 

泣きながら部屋を出て行ったアリサ。

 

-------

 

リーングランデの妹で、神託の巫女であるセーラが入って来た。

 

「アール様、明日も会えますように…」

 

魔なる存在である彼に、祈りを捧げている巫女セーラ。

 

「何故、魔なる存在に祈りを?」

 

「アール様は聖属性ですよ」

 

「えっ?!」

 

魔なる存在なのに聖属性って…なんで…

 

「神聖魔法をお使いになります。不死王リッチなのにね♪」

 

ソレは聖魔混合…した神…彼は魔神なのか?

 

「アール様は、私にとって白馬に乗った王子様なんですよ。ボロ布のようになった私を護ってくださり、私に第2の人生を開いて下さりました」

 

ボロ布…セーラによると、魔王に体内を陵辱され、皮膚という着ぐるみに肉骨片を詰めた姿にされたそうだ。そんな彼女の遺骸を、魔王達から傷つけられないように護った彼。彼女を完全蘇生して、今この場にセーラを生かしている彼…

 

「だから、魔なる存在になったとしても、私はアール様に仕えます。例え、私以外がみな敵になっても、私はアール様に仕えます」

 

そう言いきる彼女の顔は、幸せそうだ。

 

-----

 

目の前で死んだ様に眠る彼…彼と出逢う前に、抱いていたイメージとは違うようだ。成り上がり侯爵、得体の知れない人物…そうじゃない、血は通っていないけど、心が暖かい魔なる者なんだわ。彼の傍にいたい。どんなことをしてでも…そんな人物と超える死線の先が見たくなった。

 

 

 

 



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神託から始まる逃亡生活

神託の巫女セーラ…神からの言葉を受け取れる能力を持つ巫女である。神は何故、魔王の出現場所を予告出来るんだ?予告するだけで、倒してはくれないらしい。無責任だろうと思うんだが…

 

うがった見方かもしれないが、神は地上に生きる者達へ、試練として魔王を送り込んでいるのでは無いのか?だから、神と交信の出来る者に、魔王を送り込めるとしたら…

 

どう思う?俺は目の前に少女に訊いた。

 

『どう思うって…答えは自分で見つけないとダメだよ』

 

笑顔の少女。そうなのか…

 

-------

 

「起きて下さい!ご神託がありました。ねぇ、お願いです。起きて下さい」

 

セーラの緊迫した声で目覚めた。

 

「どうしたんだ?」

 

「公都に魔王が降臨します…」

 

また、公都か…迷宮は無かった筈。いや、セーラのいた地下空洞が迷宮の一部だとしたら…

 

俺は起きて、アーシアと共に公都の地下空間へ転移した。そこは様変わりしていた。地下室って感じだったのだが、地下迷宮って感じになっていた。

 

「マスターズルームに行けるか?」

 

「はい。まだ所有者の登録は未だのようなので、マスターを登録しました」

 

マスターズルームと呼ばれる、迷宮核のある部屋に転移した。アーシアに設定をしてもらっている。アーシアの迷宮と同じ設定にである。

 

「怪しい侵入者がいないか、探査をしてくれ」

 

「了解です」

 

結果、まだ侵入者はいないようだ。中層以下においては。上層部には侵入されていたので、飢えたハウンドドッグと肉食スライムを配置していく。

 

中層への入り口手前にはヒドラを3匹設置した。勇者以外には難しいだろうな♪

 

--------

 

アーシアと共に帰宅した。ミト達が右往左往していた。

 

「おい!どこへ行っていたのよ~!」

 

ご立腹のミト。

 

「現地視察だよ。迷宮が出来ていたので、迷宮核を手懐けてきたよ」

 

「はぁ?4つ目か?」

 

先輩が呆れている。

 

「で、どうだったの?」

 

「上層部に怪しい侵入者がいたから、魔物を設置してきた」

 

「そう…これから公都へ向かう。兄ぃと先輩の転移術で、全員を運んで!」

 

馬車移動では無いのか?

 

「緊急性のある事案は、転移術よ!」

 

ミトがキレていた。どうしたんだ?

 

-----

 

数回に分けて、全員を公都へ運んだ。ミト、セーラ、リーン、ゼナ達は神殿へ。先輩は貴族達の元へ行き、情報収集のようだ。俺達は、迷宮の入り口周辺をパトロールする。

 

『リリーが…』

 

ミトからメッセージが届いた。巫女長がどうしたんだ?アーシアと共に、ミトの元へ転移した。

 

「先輩…リリーが攫われたって…」

 

はぁ?まさか…老婆の身体に…

 

「アール様…ダメ!戻って来て…」

 

セーラの声…俺は何かにチェンジしたようだ。

 

「アール…ダメだよ。戻って来てくれ、セーラの為にも…」

 

悲痛なリーンの声。俺はどうなったんだ?俺は…アーシアと共に転移した。リリーの元へ…

 

--------

 

生きている者は誰もいない。一面血の海である。俺の前にはリリーから脱皮したばかりの魔王がいる。リリーはセーラと同じようにボロ布のようになり、部屋の片隅に脱ぎ捨てられていた。

 

「貴様、この前はやってくれたな…だが、復活を遂げたよ。ふふふ♪」

 

魔王からの攻撃…俺の身体を射貫く。だけど、痛くない。狼狽えている魔王。

 

「何…攻撃が効かないだと…貴様、何者だ…」

 

「アーシア、リリーを丁重に確保しろ。後、このヤローをここから出すな!」

 

「了解です!」

 

「はぁ?迷宮核が仲間だと…貴様、何をした?」

 

「俺は不死王リッチ…いや、魔神と言った方がわかるかな?」

 

「魔神だと…なんで、貴様が…なんで、人間の味方をしているんだ?」

 

「俺は魔王も神も許さない!」

 

聖魔剣を手にした。後ずさりする魔王。

 

「死んでアンデッド化なんかさせない。だって、俺は不死王だよ。アンデッドの王だ。その俺が認め無いんだよ。ふふふ♪」

 

「狂っている…貴様、狂っているぞ!」

 

魔王ほどの理性すら無い俺。狂っている?上等だよ♪

 

「リリーにした行為…セーラにした行為…許さない!」

 

爆裂魔法が俺を襲う。身体が爆ぜるが、再生をしていく。

 

「近寄るな!化け物め!」

 

魔王に化け物って言われるって、賞賛の言葉か?ありがたく受け取っておく。

 

「お前の能力って、物理ダメージ、魔法ダメージの99%のカットだっけ?」

 

アイツの魔眼から、即死効果や石化効果の攻撃を受けるが、不死王である俺には意味を為さない。

 

「おい!来るんじゃない!この化け物がぁぁぁぁぁ~!」

 

「後なんだっけ…お前の能力は…」

 

「頼む…見逃してくれ…」

 

泣き叫ぶ黄金の猪王。見逃す?何でよ~。殺し合おうぜ♪

 

「欲しい物はなんでもヤル」

 

「リリーを元に戻せ!」

 

「それは無理だ。俺にその能力は無い…なぁ、止めろよ…」

 

『お兄ちゃんを怒らせたの?馬鹿なイノシシだね。うふふふ』

 

俺の隣に現れたカグヤ。

 

「お前…月の女神…お前が化け物を召喚したのか…」

 

『お兄ちゃんは化け物じゃないわよ。うふふふ』

 

「うぉぉぉぉぉぉ~」

 

影に飲み込まれて行く魔王。なまじ倒すから復活するんだ。闇の牢獄に閉じ込めておけば、復活の心配は無い。

 

『お兄ちゃん…怒りに飲み込まれたお兄ちゃんは痛々しいわ。元に戻してあげる。また、夢の中で遊んでね♪』

 

もちろんだ。

 

---------

 

血の海で目覚めた。何が遭ったんだ?記憶が曖昧である。俺は俺で無くなった気がした。戦闘ログをチェックしてみたが、魔王黄金の猪王を倒したとしか、出ていない。倒すことは出来たようだ。まぁ、いいか…アーシアが、リリーの遺骸を護ってくれている。

 

「アーシア、ありがとう」

 

「いえ…命令ですから」

 

アーシアにお礼の口付けを…一瞬、嬉しそうな表情を見せたアーシア。俺はリリーの蘇生を始めた。このまま蘇生では老衰が近い上、芸が無い気がする。どうするか…そうだ!閃きの神様が降臨してくれた。聖杯の力で、若返らせるかな?

 

って、若返らせる加減を間違えて、幼子になってしまった。マズいかな?アリサくらいには見えるけど…これでは抱け無い…

 

『ドジ♪』

 

あの女の子の声がした。そうだな、ドジったよ。凹む俺。

 

「アーシア、リリーを抱いてくれ。帰るよ」

 

「了解です」

 

-------

 

みんなの元へ3人で転移した。

 

「先輩ですよね…」

 

ミトが恐る恐る訊いてきた。

 

「何を言っているんだ?俺が俺でなかったら、なんだと言うんだ?」

 

「その子は?」

 

アーシアの抱いている子を指差すミト。

 

「あぁ、聖杯で20代くらいにしようとして…失敗しちゃった…」

 

「まさか…リリー?」

 

明後日の方を見る俺。

 

「そう言えば、出逢った頃も、これくらいかな…」

 

アーシアがミトにリリーを渡した。

 

「どうするの?こんなに幼くしちゃって…」

 

「10年も経てば、喰えるかな?」

 

バキっ!

 

セーラに叩かれた。こんなことをする子ではないはずだ。

 

「私がいるのに、リリー様を抱くんですか?」

 

泣き笑い顔のセーラが、俺に抱きついて来た。

 

「う~ん…」

 

「で、魔王はどうしたの?」

 

ミトに訊かれた。

 

「黄金の猪王ってヤツを倒したよ」

 

「それ、ミトと一緒に倒したヤツじゃん」

 

って、テンちゃん。そうなのか?そうなるとミトは66年も寝ていたのか?

 

「おい!そこ!歳の計算をするなぁ~!」

 

俺を指差し警告を発したミト。

 

「あれを一人で倒したのか…」

 

「なぁ、俺は俺でなくなっていたのか?」

 

俺の中でくすぶる疑問を、訊いてみた。皆、一瞬であったが、顔が強張った気がした。

 

「き、き、気にするな。こうして、帰ってきたんだし」

 

ミトの動揺が激しい。コイツが動揺するって、大変なことが起きたのだろう。

 

「セーラ、本当の事を教えてくれ。俺は何になったんだ?」

 

「ソレは…」

 

俺から離れようとするセーラ。そんな存在になったのか…俺は…

 

「もう…一緒には住めないかな…」

 

「そんなことは無い!考えるなよ!」

 

リーンが遠くから言う。近寄れない程の存在になったのか…俺は…

 

「わかった。俺は去るよ!」

 

俺は転移をした。

 

-------

 

一人で転移をした筈だったが、リザ、タマ、ポチ、アリサ、ルル、ナナ、アーシアが一緒にいた。

 

「どうして?」

 

「ご主人様…私はいつまでも一緒にいます。そう決めています。奴隷から解放してくださった。あの時から」

 

リザ…

 

「私が私でいられるのは、ご主人様のお陰だよ」

 

アリサ…

 

「行く宛ては無いよ…」

 

「迷宮で暮らせます」

 

って、アーシア。あぁ、迷宮核があるもんな。迷宮内に部屋を作るなんて、造作も無いことか。

 

「じゃ、迷宮核を集めるか…」

 

「それもいいわねぇ♪」

 

って、アリサ。

 

-------

 

アリサが行きたい迷宮があるというので、そこへ向かっている。行ったことが無い場所なので、陸路で…馬車を手に入れ、てくてくと…

 

心配そうに俺を見るアリサ。

 

「大丈夫だよ。心配するな」

 

「でも…」

 

「俺を頼ってくれるヤツがいる限り、ソイツの為に出来る事はする」

 

アルジェント卿と名乗ると、ミト達に見付かるので、ムーン卿と名乗っている。ニナに便宜を図ってもらい、ムーン士爵という身分証を作ってもらったのだ。

 

「路銀の心配はしないでください。私が工面しますから」

 

って、ニナが応援してくれた。アーゼもこっそりと支援をしてくれている。二人共俺が何かをやらかして、ミトから逃げていると思っている。

 

「後少し…」

 

アリサとルルが遠くを見つめている。う~ん、ワイバーンの縄張りに入ったようだ。若い血の気の多いワイバーンが威嚇をしている。どうするかな?

 

「リザ、ワイバーンの肉は旨いのか?」

 

「どうでしょうね?ドラゴン系ですから、食べ応えはあると思います」

 

って、じゃ、一狩りするかな?俺とリザ、タマ、ポチ、ナナで狩りを始めた。狩ったワイバーンは、ルルとアーシアが食べられる部分を肉へと加工していく。

 

「大漁ですね♪」

 

ルルが嬉しそうだ。その夜は、ワイバーンパーティーだ。料理の一部をニナとアーゼへ贈り届けた。支援の見返りって感じである。

 

「これって、竜白石だわ。ご主人様、これ、高く売れますよ」

 

ワイバーンの糞が堆積して、長い年月を掛け変質して、石のような物に変異したようだ。では、ストレージに入るだけ…同じ物は999個まで入るようだ。

 

では、先を急ぐか。追っ手が来るとマズい。

 

-------

 

ようやく目的地であるヨウォーク王国に辿り着いた。ここは、アリサ、ルルの祖国を併合した国である。全マップ探査をしておく。アーシアには、都市核と迷宮核の探査をして貰っている。

 

「都市核が2こ有りますが、契約者がいます。迷宮核が1こありますが、契約者がいます」

 

なるほど、奪うには、契約者を殺さないとダメか。

 

「ねぇ、無益な殺しはダメだよ」

 

アリサがそう言ってきた。

 

「お前達姉妹の仇だろ?」

 

「でもダメ…ねぇ、お願い…」

 

アリサの頭を撫でる、肯定って意味だ。

 

「亜人がほとんどいません」

 

ナナが探査結果を報告してきた。そうなると、リザ達が迫害に遭うか?注意をしながら、ヨウォーク王国の迷宮がある旧クボォーク王城跡地を目指す。

 

「酷い…」

 

アリサ、ルルの目の前に、クボォーク王城だった物がある。酷い有様である。無傷の王城を知るアリサ、ルルで無くても、それは分かる。城本体は無くガレキが転がっている。城を取り込む壁は総て崩され、壁に隣接していた塔のうち3本は倒壊して、残る一本は根元が圧壊していた。人骨が方々に散らばっている。皆殺しに近かったのであろう。

 

「あいつら上級魔族をここへ派遣したのよ…」

 

アリサは涙を溜め込み、怒りに震えていた。敵は魔族と契約したのか…

 

「迷宮内に冒険者が多数。所属は『ヨウォーク王国迷宮局冒険者ギルド』です」

 

アーシアが迷宮核とリンクをして、情報を報告してきた。周囲を見回すと、王城跡に木造の小屋があった。情報を見ると「冒険者ギルド」のようだ。迷宮の入り口では、職員らしき者が身分証のような物をチェックしていた。

 

「観光名所化か…許せないなぁ」

 

「だから、ダメだよ。ねぇ、わかっているよね?」

 

アリサが確認してきた。頭を撫でる俺。俺がまだ俺である証明である。まず、ギルドで登録だな。俺とルルとで登録しに行く。

 

「おい!兄ちゃん、金を置いて行けよ!」

 

はぁ?ゴロツキが3名ほど寄って来た。だけど、ポチタマコンビが音も無く近づき、意識を狩っている。グッドジョブ♪

 

俺とルルは無事に、ギルドの建物に入り、登録をしようとすると、

 

「登録ですね? ではこちらの鑑定板に手を置いて名前を言ってください」

 

ヤマト石か?名前だけ登録ではダメなのか…

 

「あぁ、ソイツらはボクの連れだよ」

 

後から後輩氏の声…

 

「あぁ、ミツクニ卿…そうですか…では、登録の必要はございません」

 

何故、見付かったんだ…

 

-------

 

迷宮の前にテントを張り、その中でミトの長い説教が始まった。

 

「おい!寝るな!」

 

あぁ、長いから、寝ちゃったよ。

 

「なんで、バレたんだ?」

 

「ふふふ♪私の能力を忘れていないか?心が読めるんだよ」

 

あれ?俺の心だけで無いのか?

 

「フィルターを張っている兄ぃを除いて、誰のでも読めるんだよ♪」

 

チートすぎるだろ…その能力は…

 

「ニナの心を読みました♪」

 

くそぅ~!

 

「なんで、逃亡犯のようなことをするんですか?」

 

セーラが言い寄ってきた。

 

「だって…俺は…」

 

「そのことだけど、ミツクニ卿も含め、全員で反省をした。アルジェント卿は、何者になろうと、アルジェント卿であるってね」

 

リーンが悠然と語っている。

 

 

 

 



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想いを胸へ

06/05 誤字を修正



冒険者証にはFランクと描かれていた。最低のランクのようだけど…

 

「シガ王国の冒険者はレベルに関係なくFスタートだそうだよ」

 

って、ミト。

 

「ふん、Fランクか。一階のゴブリン程度で止めておけ。五階から下はゴブリンメイジやゴブリンライダーが出る。絶対に近寄るなよ、死ぬぞ?」

 

横柄な門番の忠告。

 

「ありがとうございます♪」

 

営業スマイルを振りまくミト。そして、迷宮へ足を踏み入れた。

 

「小鬼迷宮って、迷宮のようだよ」

 

って、ミト。

 

「魔物配置の探査が終わりました。」

 

って、アーシア。

 

「ここって、迷宮核が一度壊されたの。だから、遺跡扱いらしいわ」

 

って、アリサ。うん?じゃ、誰が契約者だ?迷宮核を復活させて、契約したってことだよな?

 

「マスターズルームに魔王を発見!」

 

おい、契約者は魔王か?厄介だな。

 

「魔王の傍に中級魔族を発見!」

 

更に厄介な情報だ。

 

「下級魔族を10階と30階の管理室で発見!」

 

ミト達はアーシアの報告に耳を傾けている。

 

「先輩は、マスターズルームをお願い。私達で、残りは倒す!」

 

「俺とアーシアだけでいいか?」

 

「人選は任せるよ♪」

 

じゃ、転移するか…

 

----------

 

俺達を見て、怯える魔王…

 

「勇者…来るなぁぁぁぁあ~!」

 

「俺は勇者じゃないよ♪」

 

「そうなのか?」

 

一瞬出来た隙、『強奪』で魂をむしり取った。どうだ?

 

「契約を更新しました。所有権はマスターに移りました」

 

「アーシア、迷宮核の修復って、出来るか?」

 

「やってみます。源泉のマナを使っても良いですか?」

 

「あぁ、枯渇しない程度にな」

 

「了解です」

 

アーシアが、マナの供給経路を作り始めた。

 

「ここは任せていいか?」

 

「受諾します」

 

俺は、アリサの元へ転移した。

 

「コイツは何者だ?!」

 

知らない老婆がいた。ミトの関係者か?スルーだな。

 

「アリサとルル、セーラ、一緒に来てくれ。準備は出来た」

 

「ありがとう…」

 

「ありがとうございます」

 

アリサとルルが泣きすがってきた。4人で目的地へ転移をした。そこはミイラ状態のリビングデッドが多数いるモンスターハウスだ。

 

「久しぶり…父さん、お兄ちゃん達、母さんもいるのかな…遅くなってごめんね…」

 

アリサがミイラ達に声を掛けた。ミイラ達はアリサの方へと振り向いた。

 

「セーラ、鎮魂をしてくれ…」

 

「はい♪」

 

セーラは神聖魔法である鎮魂を唱え始めた。ルルとアリサはミイラ達に跪き、祈りを捧げている。セーラが唱え終わると、部屋全体が青い光に包まれていき、ミイラ達が黄金色の砂となり崩れていく。

 

『アリサ…ルル…』

 

「「お父さん(様)」」

 

ミイラの最後の声だろうか…姉妹が同時に反応をした。アリサの回りを黄金色の珠が幾つも廻っている。ルルとアリサの周囲を大きめの珠が周回をして、光の粒子へと珠が霧散していく。

 

霧散した光の粒子はスクリーン状態となり、そこには生前の幸せだった頃の彼らの姿が映し出されていく。

 

アリサに似た王妃、王子達がアリサに手を振っている。アリサとルルに面影が似ている王様は透けていく手で、アリサの頭を撫で、ルルの頭も…

 

そして、「娘達を頼む」と俺に頭を下げて消えていった。

 

「成仏したかな?」

 

「したと思います…」

 

アリサの不安をルルが一掃した。俺とセーラで、二人を優しく見守る。

 

アリサとセーラをミトに預け、ルルと共に、共同墓地に転移した。ここに、ルルの母親が眠っているそうだ。アリサとルルは腹違いの姉妹である。ルルの母親は王家の者では無いので、共同墓地に埋葬されたそうだ、

 

共同墓地…小さめの石が置いてあるだけである。ここに死体を集めて埋めたそうだ。酷い事を…ルルが、道ばたで花を摘み、石に添えた。

 

「花束でなくていいのか?」

 

「そんな大きな物では、墓石が埋もれてしまいます…ダメですよ。お願いです、戻って来てください。私を一人にしないで…」

 

俺は俺で無くなって行く…マズい…ルルをアリサの元へ強制転移…

 

---------

 

ルルとアリサに地獄の切符を発券した奴らに躾をしている。躾をジャマする奴らは容赦なく血の海に沈めていく。

 

「なぁ、征服した国の城跡を、冒険者に踏み荒らさせるって、どんな気分だ?」

 

グシャ!

 

「あぁぁぁぁぁ~!」

 

あぁ、潰しちゃった。まぁ、まだ腕が一本、足が二本あるからいいかな?

 

「やめろ!この化け物め!」

 

大きなオノが俺を襲った。だけど効かない。フルカウンターで返す。真っ二つになり、血の海に沈む重騎士。

 

王子らしき者が逃げようとするが、

 

「逃がさないわよ。お兄ちゃんが許さないもん♪」

 

カグヤが王子を俺の前に投げた。

 

「なぁ、助けてくれ~!」

 

「お兄ちゃん、そいつがルルちゃんを陵辱したんだよ」

 

コイツがか。ぐしゃ…イチモツも潰してやると、白目を剥き、意識を飛ばしたようだ。

 

「飽きてきた。帰ろう…」

 

「うん、お兄ちゃん♪」

 

------

 

うぅぅぅ~

 

ここはどこだ…アーシアが添い寝をしている。って、ことはマスターズルームかな?

 

「アーシア、作業は終わったのか?」

 

「都市核との契約も終えました。今、迷宮核の復旧待ちです」

 

そうか…順調である。が、ルルと別れた後の記憶がまるで無い。ログを精査するが、何も表示されない。また、俺は俺で無くなったのか…

 

ゴンゴン!

 

重い扉をノックする音、扉を開けるとミト達がいた。

 

「おぉ、いらっしゃいませ♪」

 

「どう?」

 

「迷宮核の復旧待ちだよ。まだ、掛かるみたいだ。先に上がっていていいよ。俺はアーシアの傍にいるから」

 

スゴく哀しそうに俺を見るミト。俺は何をしたんだ。訊くのが恐い…でも、

 

「なぁ、俺は何をしたんだ?」

 

「先輩は気にしなくていいよ。うん…ルルの悔しさに触れただけだ。もし、ボクだったら、同じことをしたと思う…許せないもんね」

 

涙を浮かべた顔で、無理に笑顔を作ったミト。

 

「俺は、何かをやらかしたのか?」

 

「いや…問題無いよ。こうして、戻って来てくれた。それだけで良いんだ。じゃ、先にあがっているよ」

 

ミト達は地上へと戻っていく。

 

--------

 

3日後、迷宮核が修復出来て、迷宮の設定をしてから、地上へと戻った。だけど、潜る前と様子が変わっていた。

 

「ここは立ち入り禁止エリアにしたわ」

 

って、ミト。

 

「どうして?迷宮は機能しているぞ」

 

「ここを霊園にするのよ。今、手分けして作業をしているわ」

 

ミトによると、共同墓地に埋められた遺体を一体ずつ棺にいれて、ここへ埋葬するそうだ。

 

「どうしてって、訊かないでね。先輩の意志を先取りしたのよ。先輩だったら、こうしただろうなって…」

 

確かに…そう思ったけど…あの墓石では不憫すぎる。

 

「リーンが言ったでしょ?先輩が何者であろうと先輩だって。だから、深く考えるなよ~」

 

まぁ、深く考えても記憶は甦らないし…

 

「って、いうか、ミト。これって内政干渉じゃないのか?観光名所を霊園にってさぁ」

 

浮かんだ疑問をミトに突きつけた。

 

「あ…そうか…記憶が無いんだったなぁ…」

 

うん?記憶の無い時に、俺はやらかしたのか?

 

「俺は何をやらかしたんだ?」

 

「この国を乗っ取った…この国にある都市核、迷宮核を手にした。だから、ここはもう王国では無い。アルジェント侯爵領の一部だ」

 

それは、俺が王を手に掛けたってことか…

 

「王は生きている。王子もだ。都市核を差し出して、命は見逃してもらったらしい」

 

そうなのか…

 

「俺は悪党なんだな」

 

「違う!」

 

アリサが叫んだ。

 

「悪党じゃない!ご主人様は…私のナイトだよ♪」

 

「そうです。私達のナイトですよ」

 

って、ルルが便乗しているし。

 

「死者を冒涜する行為は許せません」

 

って、セーラ。

 

「それに、彼女達のお父様に言われたじゃないですか♪」

 

あぁ、よろしくされたような…

 

---------

 

霊園が完成して、公都へと戻った。

 

「おかえりなさい♪」

 

リリーが巫女見習いとして、俺達を出迎えてくれた。

 

「こんな若返らせてくれるなんて…感謝です」

 

俺に跪き祈りを捧げるリリー。すると、巫女達が全員、同じように俺に祈りを捧げ始めた。

 

「まるで、生き仏のような…」

 

「おいおい、神殿で仏様は無いでしょ?」

 

って、ミトからの突っ込み。

 

「今日はゆっくりしておいで♪」

 

ミトが俺を送り出した。どこに?セーラとリーンが同行し、公爵様の家に…

 

「君の家と思って、寛いでくれ」

 

って、言われても…

 

「じゃ、お風呂でリラックスしてください」

 

と、セーラ。お風呂場に入ると、全裸のセーラとリーンが入って来た。

 

「お身体を洗います」

 

「マッサージをしますよ」

 

って、至れり尽くせりのダブル奉仕…極楽だ♪

 

「もう…一人で無茶しないでください」

 

「そうだぞ。私達を置き去りにするな!」

 

って、言われても…記憶に無いんだよ~。

 

------

 

公都で武術大会って物が開催されるらしい。

 

「開会の挨拶の時、舞台に上がるんですよ」

 

「誰が?」

 

「アール様♪」

 

俺?

 

「なんで?」

 

「将来の孫達の婿殿ですぞ♪」

 

公爵様の素敵な笑顔…う~ん、結婚するのかな?不安になる俺。

 

そして、開会式。オーユゴック公爵一家として、俺も壇上にいる。いいの?場違いすぎる。

 

「レセプション会場では、奇跡の料理人であるペンドラゴン士爵が腕をふるっています。あぁ、我が家の新しい家族を紹介します。アルジェント侯爵です」

 

俺が立ち上がり、頭を下げた。リーンとセーラは死んだ事になっているので、俺の隣にいない。こんな状況で俺はここにいていいのか?

 

「彼に、私は多大な恩義を受けました。将来的に家督は息子に、都市核は彼に譲ろうとおもっています」

 

へ?聞いていないぞ。どうしてそうなる?

 

壇上を降りると、セーラとリーンが笑顔で迎えてくれた。

 

「あれ、どういうこと?」

 

「娘婿なんだもの。貰える物はもらってくださいね♪」

 

って、ことらしい。はて?

 

------

 

武術大会には、リザ、フィフィ、ルルスが出場した。ポチタマコンビは、アリサ、ミーアと共に、甘味コーナーに群がっていた。ルルは奇跡の料理人の助手として、調理している。

ミト、セーラ達は神殿にいる。俺はゼナと街を散策していた。

 

「なんか、デートみたい…」

 

「え?デートでは無いの?」

 

「あぁ、なんか…なんだろうなぁ…あの時はごめんなさい」

 

って、俺とゼナの間には、プロポーズの一件という、わだかまりがあるようだった。

 

「いや、突然のプロポーズで、すまなかった」

 

「本音を言うと嬉しかったんですよ。ただ、スピード出世していたアールさんに恐怖を感じたというか…今、一緒に行動していて、スピード出世の秘密を知って…心の整理が付いたら、私の方から…プロポーズ…します♪」

 

してくれるの?それは、俺の方からはしちゃダメってことかな?などと考えていたら、突然、空気が鳴動した。なんだ?空気はドンヨリしない。ってことは、あのバカが来たのか?競技場の方を見ると、空間の裂け目から巨大な飛行船が出て来た。

 

『俺様、参上♪』

 

あのバカ勇者が、とんでもない方法でやって来た。

 

『メリーエスト、リーングランデ、フィフィ、ルスス、タマ、ポチ、そして俺様のマイ・ハニーのアリサ姫を返せぇぇぇぇえぇ~!』

 

なんか、返還要求が拡大していないか?いつ、タマポチが、お前の陣営にいたんだ?

 

飛行船の後にいる飛行艇から、空挺部隊が落下してきた。武力行使か?おいおい…勇者でなくて、侵略者になるぞ!

 

ドン!

 

また空気が揺らいだ。今度は空気が変質した。魔族か悪魔と手を組んだのか?あのロリ好き勇者は?

 

「アレは?」

 

ゼナが指差す方向に、空を飛ぶ巨大な鯨が7匹もいる。なんてヤツを引き連れてきたんだ?

 

『なんだ?あれ?』

 

へ?勇者も驚いている。引き連れてきたんでは無いのか?呼び込んだのか?!

 

『先輩、兄ぃ!迎撃をして…』

 

ミトからメッセージが届いた。

 

「ゼナ、リリオ達と合流して、セーラを護れ!」

 

「わかりました」

 

神殿の方へ走っていくゼナ。

 

『アーシア、都市の防御レベルをあげろ。その後、合流してくれ』

 

アーシアへメッセージを送った。

 

尖塔の上に銀色の仮面の戦士が現れた。最近噂の勇者ナナシこと、先輩である。

 

「お~い!乗れよ~」

 

って、天竜が話し掛けてきた。

 

「知らないヤツは信用出来ない」

 

「テンちゃんの中の竜だよ~」

 

知っているよ。天竜の背中に載った俺。だけど、後悔した。ジェットコースター感覚であった。マズい、ドラゴン酔いだ…

 

『鯨はまかせろ♪』

 

先輩からメッセージ。さすが料理人だな。食材はまかせろとは…

 

「じゃ、バカ勇者か?」

 

「たぶん…リザが向かった気がする」

 

飛行船が地面に落下した。闘技場が破壊されて行く。その飛行船にリザの姿があった。聖槍の刃先は紫色の光を纏っている。

 

「じゃ、誰を相手に?」

 

「この高度を維持してくれ。来るぞ!」

 

空間が割れ始めた。何かが出てくる。月が出ていないので、アレは使えない。じゃ、これは?割れ目に向かって、俺はジャンプした。そして、ジョブチェンジ…

 

「なんなんデス?」

 

魔族のようだ。

 

「リッチだよ♪」

 

俺は空間の切れ目の中で魔族と交戦。これで、俺は消えることが出来る…切れ目が閉じていくのを見ながら、魔族をボコる。全力でボコる。

 

そして、魔族を屠った頃、俺は空間の裏側にいた。これで、迷惑を掛けずに済む…

 

 

 

 



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SS:光と闇そして神

メタボ氏へ書類を渡すと、俺の身体は重力に引き寄せられ、床へ…

 

「アール、どうした?えっ!おい!救急車を呼べ!早く…」

 

俺は駆けつけた救急隊に心臓マッサージを受けながら、担架に乗せられて、病院へ…病室のベッドの上に、頭部に白い布が置かれた俺が横たわっていた。

 

俺は7完徹の後、完成した書類を手渡して、この世から去った…

 

『お兄ちゃん…幸せだった?』

 

彼女が訊いて来た。

 

「まぁ、燃え尽きたって感じだ。幸せってなんだ?」

 

『そう…幸せってなんだろうね』

 

俺の葬儀は社葬だった。俺の写真の両脇には、先輩と後輩氏の遺影が並んでいた。あれ?これって夢か?先輩と後輩氏の死体はみつかっていないはず。

 

『並行世界の1つだよ。なにか歯車が1こだけズレるだけで、未来はこうも変わるんだよ』

 

そうなのか…

 

ゲーム売り場へ彼女と向かうと、『プログラマ鈴木一郎の遺作ゲーム』『プログラマ高杯光子の遺作ゲーム』と銘打って販売されていた。そこには俺の名前は無い…

 

『あんなに頑張ったのに、これだよ。人間はやることが惨いよね』

 

「死んで仕舞えば、ささいなことだよ。俺はこうして、君と会えたことが嬉しい」

 

『うん♪私も嬉しいよ。やっと、お兄ちゃんと過ごせるもの』

 

彼女と初めて会ったのはいつだろうか…竹子って名前だった気がする。

 

『光あれば、闇があるんだよ』

 

そうだな。

 

-------

 

目の前の空間が割れると、違う場面にいた。カグヤが天から来た軍勢に連れ攫われていく。俺は、それを見ていることしか出来ない。俺は空を飛べないから…

 

『お兄ちゃん…また、会えるよね?』

 

涙をポロポロ流しながら、カグヤが叫んでいる。

 

「あぁ、また、会おう…時空を超えて…おい!神かなんだか知らないが!俺はお前達を許さない!なんで、引き裂くんだ?姫だから?だったら、異世界に降ろすな!出逢っていなければ、こんな想いはしなかったはずだ!」

 

『お兄ちゃぁぁぁぁ~ん!』

 

カグヤの泣き叫ぶ声。何も出来無い俺…無力感が俺を変える…目の前に隔たりは無い!俺はカグヤの元へ飛び移った。

 

「貴様!」

 

天の軍勢のヤリが腹に刺さり、矢が胸を撃ち抜く。痛みは無い!まだ、出来る。一歩一歩確実にカグヤに近づいて行く。

 

「死ね!」

 

神の手にした剣が俺を引き裂く。命が無ければ、死なない♪俺は不死王へと変貌した。神の下僕である魔王、悪魔、魔物が次々に召喚された。だけど、俺には効かない。聖なる光は青、魔なる光は赤。だけど、俺の光は紫である。青も赤も紫の前では無力である。

 

「カグヤ…」

 

カグヤは光の姫。ならば、俺は闇の王となろう。光あるところには闇がある。カグヤがいる処に俺がいるように…俺はドンドンと変貌していく。愛する者といたいから、別れたく無いから…

 

『お兄ちゃん、ダメだよ。それ以上は…ねぇ、お兄ちゃん…』

 

-------

 

三本鳥居で、あの女の子がいつも待っていた。一緒に鳥居を潜り、森で戯れる。そんな、なんのことは無い時間が楽しい。彼女と一緒に時を刻めるのが嬉しかった。だけど…あの日、もう出来なくなった。

 

俺はベッドの上に横たわり、頭部に白い布が被せられている。

 

『おにいちゃん…』

 

俺を迎えに来てくれた彼女…

 

『これからは傍にいられる。だけど、一緒にはいられない…』

 

あぁ、おれはやりすぎたのだ。一線を越えてしまった。彼女のいるサイドとは裏側のサイドに踏み込んでしまった。彼女とは紙一重で存在している。だけど、紙がジャマで一緒にいられない。俺は彼女の息吹を感じ、彼女は俺の影を見ている。

 

「どうすればいいんだ…」

 

『私がお兄ちゃんをコチラ側に召喚する。だから、待っていて。必ず召喚するから』

 

それから、俺は何度も同じ場面に転生を繰り返し、カグヤの召喚を待った。俺が俺であるのは、転生した人生が終わって、新しい転生が始まる僅かな時間である。

 

だけど、神の意向に逆らった俺は、それなりのペナルティーが科せられていた。カグヤのタイミングに微妙な誤差率が生じているのだ。なので、後一歩が合わない。後一歩なのに、途轍もなく遠い距離に感じる。

 

---------

 

閉じた空間に俺だけがいる。ここで俺は一人封印されるのだ。それも良いと思う。もう、ゼナを巻き込みたくない、セーラに恐怖を与えたくない。ミトに哀しい想いはさせたくない。俺の目の前を様々な女性が走馬燈のように写しだされては消えていく。だけど、あの少女の姿は無い。どうして?なんで?

 

『お兄ちゃん…まだ出逢っていないんだよ』

 

哀しそうな少女の声…出逢っていない?何度もあったじゃないか。

 

『あれは幻影だよ。私では無い。お兄ちゃんに逢いたいだけなのに…』

 

真なるペナルティーは、会えないことなのか…くそっ!

 

『お兄ちゃん…忘れないで…私はいつでも傍にいるんだよ。一緒にはいられないけど…私を見つけて…お願い…お兄ちゃん!』

 

目の前の空間が破壊されて行く。ここを出れば、俺は俺でなくなり、田中一郎になってしまう。だけど、吸い込まれるようにして、あちら側へ吸い出されてしまった。

 

-------

 

目の前にテンちゃんがいる。俺は空中に放り出されて、落下していく。あのジェットコースター感覚が蘇る。

 

「お~い!大丈夫?!」

 

テンちゃんの暢気そうな声が聞こえる。口から胃袋が飛び出しそうで、声が出ない。耳からは溶けた脳ミソが流れ出しそうだ。

 

「先輩、大丈夫?」

 

ミトに抱き締められた。そうか、こいつも空中浮遊できたんだな。

 

「テンちゃん、ダメだよ~。先輩は飛べないんだからさぁ~」

 

「そうだっけ?」

 

おいおい、墜落死は嫌だよ。

 

「まぁ、不死王だし。墜落死も無いから、安心だけどね♪」

 

ミトの楽しそうな声。俺は、コイツの何なんだぁ~。

 

「玩具だよ♪」

 

凹む俺…地上ではホクホク顔の先輩。鯨の立田揚げを夢見ているそうだ。で、あのクソ勇者はリザに完敗らしい。聖なる装備が無かったらしい。あぁ、俺が強奪したんだっけ…

 

こうして、公都はサガ帝国から、多大な損害賠償を受けられることになった。競技場を破壊し、魔族を呼び込むきっかけを作ったからな♪

 

 

 



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SS:得た物、失った物

ミト視点です。

10/23 誤字を修正


公都に着くと、セーラ、リーン、ゼナ達と、テニオン神殿へ駆け込んだ。予感は的中してしまった。リリーが攫われたそうだ。

 

先輩と兄ぃへ

 

『リリーが…』

 

とだけメッセージを送った。兄ぃは「どうした?」って、メッセージを返してきたが、先輩はアーシアと共に、直ぐに転移してきてくれた。やはり頼れるのは、先輩の方か…

 

「先輩…リリーが攫われたって…」

 

私の言葉がキーになったのか、先輩は先輩で無くなって行く。

 

「アール様…ダメ!戻って来て…」

 

セーラが叫ぶ。なのに、私は何も出来無い。肉体が透けていく、血管、神経もだ…先輩は異形なる姿へと変貌していく。まるで、オーバーロードのアインズ様のようだ。同じリッチなら、このすばのウィズのようになれば良いのに…

 

「アール…ダメだよ。戻って来てくれ、セーラの為にも…」

 

リーンの悲痛な叫び声。先輩には届いているのだろうか?生きる骸骨へと変貌していく。私達の呼び掛けに反応しない。何かを探しているのか?アーシアだけが、先輩に寄り添い…どこかへと転移して行ってしまった。

 

先輩のいた場所には、何も無い。先輩のいた痕跡すら無い。みな、先輩のいた場所だけを見つめていた。

 

「ミト様…、アール様は、戻れるんですか?」

 

セーラに訊かれた。だけど、私は答えを持っていない。

 

「ミト様…アールはどこへ?」

 

リーンの問いかけ…これも答えを持っていない。だけど…

 

「たぶん、リリーの元へ向かったんだろう」

 

--------

 

セーラを救う為、公都を護る為、魔王を倒す為、先輩は肉体を失った。自分の命と引き換えに、人間であることを辞めてまでも、先輩は最後の賭けに出た。今の先輩は、その結果である。神の御業…そうかもしれない。あんな姿なのに優しい。魔王の呪い…そうかも知れない。優しいのに、あんな禍々しい姿に…

 

「迷宮に入れないぞ」

 

兄ぃが報告してきた。アーシアを使って、魔王を迷宮に閉じ込めたんだろう。

 

「アールの仕業か?」

 

頷く私。セーラ、リーン姉妹は啜り泣いている。

 

「また、アイツ…」

 

「うん…」

 

無表情スキルを使っているはずなのに、兄ぃの瞳は哀しそうだ。

 

「俺なら、ドジは踏まない」

 

そうだろう。チートの百貨店状態の兄ぃなら、リスク無しで倒せただろう。

 

-------

 

日が傾き掛けた頃、先輩達三人が戻って来た。うん?三人?

 

「先輩ですよね…」

 

本物か?恐る恐る訊いてみた。魔王が混ざっているかもしれない。だけど、リザ達は臨戦態勢を取っていない。本物の先輩だって、分かるのか?

 

「何を言っているんだ?俺が俺でなかったら、なんだと言うんだ?」

 

魔王の手先とか…アーシアの抱いている少女は誰だ?

 

「その子は?」

 

指を差して訊いてみた。

 

「あぁ、聖杯で20代くらいにしようとして…失敗しちゃった…」

 

はぁ?何をやらかしているんだ?まさかなぁ…

 

「まさか…リリー?」

 

先輩は、視線を逸らせた。ビンゴのようらしい…

 

「そう言えば、出逢った頃も、これくらいかな…」

 

昔のことを想い出す私。アーシアが眠っている少女を私に手渡してきた。

 

「どうするの?こんなに幼くしちゃって…」

 

記憶とか残っているのだろうか?

 

「10年も経てば、喰えるかな?」

 

先輩の答えは、斜め上を行くものだった。緊迫した局面で、何をしているんだ?先輩らしいと言えば、らしいのだけど。

 

バキっ!

 

先輩を心配していたセーラからの鉄拳制裁。まぁ、そうなるわな。

 

「私がいるのに、リリー様を抱くんですか?」

 

緊迫した状況から戻れたのか、泣き笑い顔で、先輩に抱きついた。しまった、出遅れた。ここは無表情スキルで乗り切るか。

 

「で、魔王はどうしたの?」

 

大事なことを訊いた。あの状態で出撃して、討ち漏らしは無いと思うけど。

 

「黄金の猪王ってヤツを倒したよ」

 

えっ!あいつを一人で?

 

「それ、ミトと一緒に倒したヤツじゃん」

 

って、テンちゃん。そうだよ。天竜に跨がって、私が戦って倒したんだよ、66年前に…うん?先輩は何かを考え込んでいる。

 

「おい!そこ!歳の計算をするなぁ~!」

 

お約束…突っ込みを入れて置く。

 

「あれを一人で倒したのか…」

 

私の質問をスルーした先輩。先輩の口からは、聞きたく無い言葉が飛び出した。

 

「なぁ、俺は俺でなくなっていたのか?」

 

 

「き、き、気にするな。こうして、帰ってきたんだし」

 

どう答えて良いのかわからない私は、お茶を濁そうとするが、

 

「セーラ、本当の事を教えてくれ。俺は何になったんだ?」

 

セーラに矛先を向けた。

 

「ソレは…」

 

セーラはあの姿を想い出したのか、先輩から離れようと藻掻いている。

 

「もう…一緒には住めないかな…」

 

みんなから顔を逸らすように俯き。一言呟いた。

 

「そんなことは無い!考えるなよ!」

 

リーンが離れた場所から叫ぶ。それは逆効果だよ。抱き締めて、耳元で囁かないと…だけど、そんなことは私でも出来無い。あの姿を見た後では…

 

「わかった。俺は去るよ!」

 

先輩はどこかへ転移してしまった。先輩と共に、リザ、タマ、ポチ、アリサ、ルル、ナナ、アーシアの姿も消えた。彼女達は、先輩に恐怖を抱いていなかったのだろう。いや、信頼しきっているのか。

 

先輩に恐怖を抱き、その結果、置いて行かれた。私、兄ぃ、セーラ、リーン、メリー、ルスス、フィフィ、ゼナ隊。

 

「私は…悪い女です…助けて貰ったのに…アール様を…」

 

顔を手で覆い、泣き始めたセーラ。リーンが傍により、一緒に泣いている。

 

「う~ん、ここはどこ?え?ミト様…どうして?」

 

リリーが目を覚ました。彼女へ顛末を話した。

 

「そうですか…セーラだけで無く、私まで…って、聖杯を使いこなせるとは…」

 

使いこなせないから、年齢の設定をミスったのだと思う。

 

「彼は何者です?魔王に何もさせずに、封印しましたよ」

 

リリーは魂の状態で、一部始終を見ていたそうだ。あの魔王に、何もさせなかった?最強の魔王の筈なんだけど…

 

「魔王の方が半狂乱状態になり、命乞いをしていました。彼は何者なのでしょね」

 

魔王が命乞い…有り得ない。あいつらは、いつだって傍若無人な振る舞いであった。

 

「あと、私には見えなかったのですが、もう1名、誰かがいたようです」

 

もう1名?

 

「彼を召喚した者のようです…」

 

先輩を召喚?あの石鳥居の少女か?少女に関しての記憶は、曖昧なようだ。記憶にフィルターが掛かっているのか。

 

『月の女神』

 

リリーの記憶から、読み取れたのは、そのワードだけだった。月の女神?先輩を召喚したのか?なんで?先輩は何者なんだ…

 

---------

 

若返って生還を果たしリリーは、神殿長の計らいで、公式には見習い巫女という立場になったが、豊富な知識、記憶は健在なので、影の巫女長という立場に特命職についたようだ。

 

神殿はお祭り騒ぎである。魔王が討伐されたから。リリーが生還したから、リリーが若返ったから、などなど…だけど、それらの偉業に関わった先輩は、もうここにはいない。

 

「なぁ、考えたんだけど、あいつの為に出来ることをしようぜ、ヒカル」

 

兄ぃが言い出した。

 

「アールを探し出して、アイツが何かをやらかす前に、俺達でやればいいじゃないか。それだけの能力を俺も、ヒカルも持っているはずだ」

 

たぶん…チートさで行くと、先輩は微々たる物である。

 

「セーラもリーンも、これからアイツを支えて行けばいいだろ?万が一、アイツが変貌しても、アイツなんだから、尻ぬぐいをすればいいじゃないか。やることは残虐だけど、アイツは間違ったことはしないよ」

 

そう、その残虐性は問題なのだ。リリーのいたと思われた場所は一面、血の海だった。どうすれば、ここまでの事態になるのか、見当も付かないくらい。

 

「だから、アイツがそうしない、世の中にすればいいんじゃないのか?ミツクニ卿、メリーエスト皇女様♪」

 

新しい勢力で、この世界を制圧か…そして、理不尽な世の中に終止符を。

 

「俺達が召喚されたのは、そういうことじゃ無いのかな?」

 

たまには、兄ぃも良いこと言うなぁ…

 

 

 



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奇跡の料理人VS邪道な料理人

06/07 誤字を修正


「お~い、起きろよ~!」

 

後輩氏の声…身体が重い…何か地縛霊に取り憑かれた気分だ…

 

「後10分…」

 

「相変わらずだな…どうするかな…」

 

今日はどんな手で来るんだ?ドキドキしてその時を待つ…あっ!心臓が起動したばかりでまだ、弱々しいけど…

 

耳に何か柔らかな刺激…背筋にむしずが走る。だけど、身体が重くて、起き上がれない…恐る恐る瞼を開くと、アリサが耳タブを舐めいた…そして、俺の上にはナナ、アーシア、リザ、タマ、ポチが乗っかっている。重い訳だな…

 

 

 

「これは、どういうことかな?」

 

目が醒めた俺に、ミトがゲームパッケージを2つ見せて来た。

 

「これは?この世界で売っていたのか?」

 

「君が持っていたんだよ…どういうことか説明して貰おうか?」

 

とある二人のプログラマの遺作ゲームが1本ずつ。あぁ♪

 

「買ったんだよ。ほら、レシートがあるよ」

 

ポケットから、レシートを出した俺。

 

「何時、買いに行ったんだ?」

 

う~ん…いつだろう?記憶に無い。買った記憶があるのに…

 

「すまん、記憶が無い…ミトと佐藤先輩にプレゼントだよ」

 

どこにも俺の名前は載っていないし…

 

「そうか、発売出来たんだ…」

 

ほっとしている佐藤先輩。ミトは大切そうに抱き締めていた。ゲームパッケージが羨ましい。出来れば、俺の事を大切そうに抱き締めて欲しい。もちろん、全裸で…

 

バコッ!

 

「お前!なんちゅう想像をしたんだ?」

 

あぁ、真面に俺の妄想を見たミトから、鉄拳制裁が飛んで来た。

 

-------

 

この後の予定を、ミトが説明している。

 

「公都を出て、今度こそ、迷宮都市セリビーラを目指す。途中、ボルエハルト自治領と、ボルエナンの森を経由する予定だ。各自、準備を頼む」

 

っと…準備って言ってもなぁ…肉を買い足すだけだな。リザ、セーラ、リーンと共に肉屋さんへ行く。リザが肉を選び、セーラが値段の交渉をしている。リーンはボディガードのようだ。

 

『言い忘れた。鯨の肉が大量にあるらしいよ』

 

って、ミトからメッセージ。この前の巨大鯨7匹分か…そうなると、生姜とかニンニクもあるといいかな。八百屋へ向かう。

 

『調味料は兄ぃが調達するから』

 

ミトから追加のメッセージが届いた。奇跡の料理人が一緒だと、便利だな♪って、見てはいけないものを見た気がする。高級娼館から先輩が出て来た。なるほど、そうやって処理をしていたのか…このエロ士爵め!

 

『ハーレム侯爵には言われたく無いよ♪』

 

って、佐藤先輩からメッセージ。う~ん、この人も、遠隔で俺の心が読めるのか…くそっ!

 

神殿の馬車置き場へ行くと、仲間達が、馬の世話をしていた。タマ、ポチがゼナとメリー達に世話の仕方を教えて居た。もうベテランの域だな♪

 

「あぁ~、ご主人様♪」

 

アリサが走り寄って来た。

 

「どうしたんだ?」

 

「ルルも愛人に入れてね♪私も後5年したら♪」

 

う~ん…セーラの前で言うことか?

 

「じゃ、4番目、5番目ですね♪」

 

って、セーラ。

 

「3番目は?」

 

アリサが訊いた。

 

「ゼナさんの予約が入っていますよ」

 

予約?

 

「あぁ、そうだった。そうだった。プロポーズする気でいたよね」

 

って…え?

 

「そうなの?」

 

リーンも含めて、笑顔で頷くアリサ達。俺の知らない処で、何を話しているんだ?女子トークが恐い…

 

-------

 

ミツクニ卿一行は馬車5台編成で、公都を旅立った。俺のいる馬車には、セーラ、アーシア、メリーエストが載っていた。御者はリザとナナである。

 

メリーエストが書類の束と格闘してくれていた。都市核と契約って、中々大変である。設定を怠ると、街が大変な事態になるから。アーシアがリンクをしてくれるお陰で、ほぼ、リアルタイムで、情報が取得できているので、大惨事には至らないと思う。あと、迷宮核の管理も重要らしい。下層は、ガチガチに固めていいけど、上層、中層は、冒険者が遊べる程度の難易度が良いと言う。観光資源として考えた場合だけど。

 

「概ね、どの核も良好です」

 

書類を分析して、結果をメリーが報告してくれた。メリーは情報分析官という職務に就いたのだ。情報収集官は、勿論アーシアであるけど。

 

「税収が少ないのが難点だろ?」

 

税率を抑え気味にしてあるから。

 

「でもニナさんが、工面とか工夫をされているので、余力は少しありますよ」

 

まぁ、赤字の場合、先輩とクソ勇者に補填をして貰うけど。

 

「アルジェント領って、結構広大ですよ♪」

 

う~ん、イメージが湧かない。

 

「旧ムーノ男爵領と旧ヨウォーク王国ですからね」

 

やはり、イメージが湧かない。

 

「どちらも、市民達の生活の向上が優先だよ」

 

「えぇ…心得ておりますわ」

 

なんか楽しそうメリー。内政に関われるのが嬉しいのだろうか。なら、丸投げでもいいかな?

 

って、平和な時間は続かないなぁ。山賊が出たそうだ。先頭の佐藤先輩の機械仕掛けの馬車が止められたようだ。

 

「アール様…」

 

心配そうに俺を見るセーラ。

 

「大丈夫だよ。この程度で、記憶は飛ばないはずだ♪」

 

馬車を降りると、既に、先輩、ミト、テンちゃん、リザ、ポチ、タマが派手に暴れていた。

 

「おい!女と金を渡せ!」

 

いきなり、オノで叩き切られた俺…だけど、フルカウンターアーマーを下車と同時に装着したいたので、オノを使った山賊は、真っ二つに裂けていた。

 

「血の海の原因って、それかぁ…」

 

って、リーン。

 

「まぁ、そういうことだよ。人間相手には戦わない方向だよ」

 

「それがいい。お前は指示を出せ♪」

 

って、リリオ。

 

「貴様らは何者だ?」

 

ボス登場か?

 

「しがない士爵のムーンだよ♪」

 

ボスの魂を強奪して、握り潰した。見た目、きれいな死体の出来上がりである。

 

「いま、やらかした?」

 

フィフィに訊かれた。

 

「少しだけ…」

 

苦笑いされた。手を出すなってことか…殲滅という名の掃除が終わり、馬車の隊列が動き始めた。

 

『手は出さないでいいんだよ。本当にヤバい敵だけでいいんだからね』

 

って、ミトからメッセージ。俺の記憶喪失事案を、みんなが気に掛けてくれているようだ。

 

そして、夕食…テントを張り、奇跡の料理人が鯨料理にチャレンジしていた。

 

「おぉぉぉぉ~!鯨の立田揚げだぁぁぁぁ~♪」

 

アリサが喜んでいる。ミトも…

 

「これだよね。ソウルフードだよ♪」

 

「旨い…」

 

リザは鯨のベーコンにやられたようだ。

 

「うん?これは?」

 

佐藤先輩が俺の作った芋餅を試食。

 

「う~ん、旨い。だけど、ソースがあった方がいいかな?」

 

「ふふふ♪塩を振りかけるんだよ。それも岩塩をねぇ♪」

 

完成後の試食をした先輩。

 

「これは…ポテチ…」

 

「青ノリが無いのが痛いかな」

 

この世界にノリは無いようだ。

 

「あっ!ズルいぃぃぃぃ~!」

 

見付かった。そんなに量がないので、こっそり食べようと思ったのに…一口食べたアリサが、総て強奪していった。そんなに旨かったのか?

 

「後は何か無いですか?」

 

ルルが興味深そうに、俺の調理を見ていた。後なぁ…あぁ、イカのキモのカラスミ風があったなぁ。それを一切れ、ルルの口へ…

 

「塩辛いけど…濃厚ですね」

 

「保存食だから、塩に漬け込んでおくんだよ。その分、塩辛くなるんだ」

 

「カラスミか?」

 

先輩が一口…

 

「旨い…」

 

奇跡の料理人に勝った瞬間であるが、俺は、大量に調理が出来ないので、負けても良いんだが…凹んでいる先輩…

 

「え?負けたのか?」

 

ルススが一口…

 

「これは…」

 

俺は、コレを死守する為に、ストレージにしまった。が…取り囲まれた。酔っ払いの女子軍団に…アルコール臭プンプンのブレスを吐いてきた。これはキツい…抱きついて、ベタベタしてきた。濃厚なスキンシップ攻撃か…こいつら、ストライクゾーンから微妙に外れているんだけど…

 

「さぁ、出しなさい♪」

 

目の前で仁王立ちしているミトが要求してきた。これは…最悪だ…

 

「好きなだけ妄想していいから、出しなさい!」

 

心の中のエロ願望が総て見られていた…彼女達の前に、カラスミもどきを出した。ミトの気迫に負けた俺…

 

「ねぇ、他には無いの?珍味系♪兄ぃは王道の料理人だからさぁ♪」

 

どうせ、俺は邪道な料理人だよ…チーズのぬか漬けを出した。

 

「旨い…」

 

そして、宴は明け方まで続いた…

 

--------

 

二日酔いのミト、ルスス、フィフィ、リーン、カリナ。どんだけ飲んだんだ、コイツらは…

 

「一晩で二樽だよ」

 

って、先輩。一斗樽を2つもか…今日の行程は距離を稼げそうも無い。馬車酔いで、途中休憩が増えそうだ。

 

 

二日酔い軍団が、断酒をしたおかげで、2日目以外は順調に距離を稼げたようだ。そして、ようやく1つ目の補給地点のボルエハルト自治領へ着いた。ミトはミツクニ卿として、ゼナ隊を護衛に付けて、この街の領主へ挨拶へ向かった。

 

先輩とカリナは、仕入れの為の買い物だそうだ。一応、商人であるから。俺は、宿のベッドで爆睡タイムだ♪

 

が、俺に客が来たらしい。誰だ?

 

「市長をしておりますドリアルと申します。昔、公都でニナ様にお世話になったので、ニナ様の主様であるアルジェント卿に恩返しをと、思っています」

 

ニナの古い知り合いのようだ。

 

「俺は、しがない士爵のムーンだよ。人違いじゃないのか?」

 

「ニナ様から聞いております。世を忍ぶ仮のお姿ってことをね♪」

 

ニナ…余計なことを…脳裏には、Vサインをしている嬉しそうなニナの姿が浮かんだ。

 

「で、アルジェント卿の領地は緊縮財政と聞いております。出来れば、援助をしたいと思っております」

 

まぁ、ありがたいお話である。

 

「この街は鍛冶が盛んな地であり、数名規模ですが、留学生の受け入れをしようと思います」

 

手に職…貴重な財産になる。金よりも貴重な申し出である。金ならば、大富豪の先輩と、負い目を負わせたクソ勇者がいるからな。

 

「そうですか。では、そのようにニナへ伝えます」

 

「もう、伝えてあります♪」

 

うっ…有能過ぎる執務官…再び脳裏には、Vサインをしている嬉しそうなニナの姿が浮かんだ。

 

「この後、食事会でもいかかですか?ニナ様より、正装を伴うパーティーは苦手とお聞きし、平服での食事会を計画しているんです」

 

う~ん…ポチ、タマの尻尾が踊っている。参加希望のようだ。

 

「わかりました。参加します。仲間も一緒ですが、良いですか?」

 

「もちろんです。では1時間後に♪」

 

「ご馳走?」

 

「ご馳走なのです」

 

嬉しそうなタマとポチ。リザは無言であるが、尻尾が踊っていた。

 

------

 

ミト達はパーティーに招待されたそうなので、俺、タマ、ポチ、リザ、アリサ、ミーア、ナナ、アーシアで食事会へ、残りの者達はパーティーへ参加になった。

 

立派な市役所の1階でパーティー、2階で食事会らしい。酔っ払い軍団が心配だな。

 

その心配は的中した。俺は、1階へと拉致された。酒のつまみを作れってことのようだ。

 

う~ん、用意された材料でメニューを考える。隣では奇跡の料理人である先輩と、その助手のルルが手際良く調理をしていた。

 

枝豆ぽい豆を塩ゆで…ピーナツっぽい豆を塩ゆで…それらと粒コーンと魔法の調味料であるマヨネーズで和えて、一品目。

 

「美味しいです♪」

 

ルルが笑顔で俺の顔を覗き込んだ。ルルを食べたい…

 

「おい!調理中にいかがわしいことをするなよ♪」

 

俺の妄想を見たらしい先輩から、警告が…心を覗かないでくれぇぇぇぇ~!

 

2品目…エビかな?手に取って調べると芋虫だった…う~ん、どうするかな?内臓を『強奪』して、エビチリ風に仕上げた。勿論、味見はチリソースのみで、完成品は抵抗が…

 

「美味しいです。これなんですか?ぷりっとしていますけど…」

 

ルルに訊かれたけど、スルーする。そう言う物だよ。

 

3品目…先輩がローストビーフを作っていたので、チャーシューで対抗した。

 

10品ほど作ると、解放された。だけど、食事会は終わっていた。くそっ!階段に座り込む俺。隣にアーシアが座り、逆サイドにナナが座った。二人共、俺の肩に頭を載せて、マナを補給タイムらしい。最近は心臓に近い部分でなくても良くなったらしい。それだけ、強力なマナが俺にはあるらしい。

 

「何、黄昏れているの?」

 

アリサとミーアが身体を預けてきた。タマ、ポチ、リザも…なんだかな絵面だ。

 

「うん?なんで…どういうことだ!」

 

知らない老ドワーフが声を上げて近づいて来た。俺の周囲にいた仲間達が、臨戦態勢に入った。

 

「貴様!何者だ!」

 

老ドワーフはハンマーを手にしている。あれは痛そうだ。

 

「お前こそ、何者だ?!」

 

「儂を知らないのか?どこから、湧いたんだ?!お前は、魔族か?!」

 

そんなチンケな存在では無いんだけど…

 

闘気を感知して、ミト達が駆けつけてきた。

 

「ダメ!ダメだよ~」

 

ミトが俺に近づこうとしたらが、老ドワーフが阻止をした。

 

「ミツクニ卿、下がっていて下さい。コイツは儂が仕留めます」

 

仕留める対象なのか?

 

『居場所が無いようだ。気分悪いから、帰るよ!』

 

ミトにメッセージを送り、周囲の仲間達とボルエナンのエルフの里へ転移した。急な来訪であったが、エルフ達は歓迎してくれた。俺は、アーゼの部屋へ…

 

「あれ?予定より早い到着だね~」

 

俺に抱きつき…(自己規制)したアーゼ。

 

「疲れたから寝たいんだけど」

 

「うん♪一緒に寝るよ。やることは、ダーリンと…くらいだから♪」

 

俺は久しぶりに、アーゼと…

 

 

 

 




聖属性ではあるけど、魔なる存在だから、誤解されやすいアール君。


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SS:ドハル老の思い違い

ミト視点です。

06/08 誤字を修正


 

 

先輩がマズい。咄嗟に先輩に抱きつこうとしたのだが、この街の領主であるドハルに、制止された。

 

「ミツクニ卿、下がっていて下さい。コイツは儂が仕留めます」

 

魔族と勘違いされている。マズいって…

 

『居場所が無いようだ。気分悪いから、帰るよ!』

 

先輩からメッセージが届いた。帰るって、どこに…

 

「ドハル老…何故、彼を追い込んだんですか?」

 

「どういうことだね?」

 

誤解を解かないと…

 

「彼は私の腹心のアルジェント卿です。なぜ、仕留めようとしたのですか?」

 

返答しだいでは、リーン、メリー、フィフィ、ルススがドハル老を仕留めると思うけど…

 

「何を言っているんだ?アイツは魔族だ!その証拠に…ホムンクルスを連れていた!」

 

テンちゃんがホムンクルスってバレていないのに、なんでナナとアーシアの正体がわかるんだ?

 

「ホムンクルスって断言されましたが、根拠はあるのですか?」

 

テンちゃんも、ドハル老に敵意を持ったようだ。

 

「あやつの傍にいたヤツは、トーヤの揺り篭にいたホムンクルスだぞ!あの迷宮は魔族が支配したと聞いている。故に、アイツは魔族であるんだ!ミツクニ卿、アンタは、アイツが魔族って知らなかったのか?」

 

「彼は魔族では無いです。彼は魔王の呪いを受けた私の腹心です。トーヤの揺り篭って、トラザユーヤの揺り篭のことですか?」

 

「知っているのか?」

 

「えぇ、彼がそこで魔族を倒して、迷宮核を手に入れています」

 

「なんだと…」

 

「現在、彼により、迷宮運営をしておりますが、何か問題でも有るんですか?あぁ、もし、ナナのことでしたら、初攻略のご褒美で貰ったホムンクルスです」

 

「何…あそこを攻略したのか?まさか…」

 

「ドハル老に言っておきます。彼の正妻は、ボルエナンの里のハイエルフ、アイアリーゼ・ボルエナンです。あなたは、どういう者に敵対したのか、わかりますか?」

 

「なんだって…ハイエルフが正妻だと…有り得ないだろ?ハイエルフは、未婚の神の為に作られたダッチワイフだぞ」

 

そうなのか…なんで、コイツ、そういう情報を知っているんだ?ドハル老の心の内を読んでみた。すると、ドハル老は昔、その迷宮の作成者である、賢者トラザユーヤの従者をしたらしい。

 

「あなたはトラザユーヤの末裔を敵に回しましたよ」

 

「どういうことだ?」

 

「先程、彼の周囲には、トラザユーヤの孫がいたんですよ」

 

「本当か?」

 

「えぇ、あの迷宮でトーヤの日記を読み、ボルエナンの里でお話も聞きましたから、確かです。あなたは、彼にどう償ってくれますか?魔王の呪いで、私と帯同するのに、難色を示してた彼を、私は連れ出したんです。これで、引きこもりになったら、どう責任をとってくださりますか?」

 

リーン達がドハル老にプレッシャーを掛けているが、あまり効果が無いようだ。私は言葉で彼を追い込んでいく。

 

「なんてことを…儂は…」

 

ドハル老の心が、へし折れたようだ。

 

 

 

 

 



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SS:記憶の向こう側

ミト視点です。

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先輩達に合流しないと…何かをやらかす前に…逸る気持ちを抑えて、確実に進む。割りとサクサク進軍出来ている。リザ達がやたらに強い。そこにフィフィ、ルスス、リーンの勇者の従者が加わり、ゼナ達もいるし。結構な火力があると言える。

 

更に、私と兄ぃのチーターコンビもいるし…

 

そして、48階層で、他のパーティーと遭遇した。相手のリーダーはレベル53の魔法剣士で、称号は「勇者の従者」と表示された。相手のリーダーは結構年季の入った女性であった。どこの勇者の従者だ?年齢的に、私の知り合いの予感がするんだけど…

 

そのパーティーは、デミオーガ軍団との戦闘中で、たった今重騎士が1名屠られたようだ。

 

「ザーナ、ジェフは後衛を守りつつ、撤退!」

 

「わかった!」

 

「ブルーメ婆さんも早く!」

 

「誰が婆さんだ!」

 

ブルーメ?はて?記憶を遡って想い出す。誰だっけ?

 

「トリンとシルジェはあたしと斧猿の相手だよ」

 

「マジかよ」

 

「貧乏くじだぜ」

 

「一匹倒すたびに金貨を一袋付けてやるから、気合を入れな!」

 

彼らは劣勢のようだ。

 

「取り敢えず、倒して来て」

 

と、仲間達に指示を出した。

 

「お前達、何者だ…え?瞬殺?」

 

私の仲間達の戦闘力に驚きの声を上げるブルーメ。マップで詳細情報を見た。シガ八剣筆頭のゼフ・ジュレバーグ氏の母親のブルーメ・ジュレバーグだ。あぁ…歳取ると、こんなになるんだ…彼女の老齢化にショックを受けた私。

 

「まさか…ミト様ですか…いや、王祖ヤマト様…」

 

「やぁ、相変わらず、元気そうだなブルーメ♪」

 

私に泣いて縋って来たブルーメ。

 

「ズルいですよ~、あの当時のままだなんて…」

 

チーターですから♪

 

「彼女達は、ミト様の眷属ですか?」

 

「いや、私の腹心の眷属だよ」

 

「あいつらを瞬殺って、どんだけ強い腹心なんですか?」

 

「魔王を瞬殺するくらいだよ」

 

唖然とするブルーメ。先輩の仲間達、ほぼ全員がドヤ顔だ。

 

「勇者ですか?」

 

「勇者では無い。だけど、敵にしちゃダメなレベルにいるよ」

 

「そんなに…その腹心の方は?」

 

「先遣隊として、魔王をボコりに行っているよ」

 

ボコるだけで済めば良いけど…

 

「ブルーメ婆さん、キールとゴッツはダメだった」

 

「そうかい……二人とも良い大盾使いだったんだけどねぇ」

 

死亡した仲間を確認して戻って来たブルーメの斥候の者。

 

「盾役がいないんじゃ、『迷宮の主』に挑むのは無理だ」

 

「そうだな、ブルーメ婆さんがいくら強くても――」

 

「ザーナ、『帰還転移』の巻物を使って皆を連れて戻れ」

 

賢明な判断をしている仲間達に、指示を出すブルーメ。

 

「ミト様の腹心の者が、魔王を倒しに行ったという。あたしは、ミト様に同行するからね」

 

え?付いて来るの?逢わせられる姿かな…先輩は…不安である。あの姿では、倒すと言いかねないブルーメ。

 

「あの頃より強くなりましたよ。剣はシガ八剣並み、雷魔法はセーリュー伯爵んトコの雷爺にだって負けない。おまけに神聖魔法だって中級まで使えるんですから」

 

「神聖魔法は、最上位まで使える者がいるから…」

 

「なんですって?」

 

ブルーメが驚いている。神聖魔法を使える者って、数が少ない上、上級以上は滅多にいないし。

 

「リリーの弟子のセーラよ」

 

セーラを紹介した。

 

「私は上級までです。最上級が使えるのは、私の主様です」

 

って、セーラが説明をした。

 

「ミト様の腹心って、聖職者ですか?」

 

笑って誤魔化す私。聖なる不死王だって、言えないよな…

 

「ご主人様は、ジュレバーク殿を2,3回殺しています」

 

自慢げにリザが言った。おい!ソイツの母親だぞ…

 

「何?私の息子を2,3回殺しただと…」

 

ブルーメが、ジュレバークの母親って事実に驚くみんな。

 

「え?ジュレちゃんのママ?」

 

タマが失礼な言い方を…

 

「ジュレちゃん?アイツ、そんな風に言われているのか?ばしっと躾けないとダメだわねぇ」

 

嘆いているブルーメ。

 

「ミト様、2、3回死んだってことは、腹心の方は、蘇生術が使えるのですか?」

 

「えぇ。でも彼への負担は大きいようですよ」

 

気軽に使われるとダメだと思うので、予防線は張っておく。

 

「私は魔王に殺されましたが、主様に蘇生して頂きました」

 

って、セーラ。固まるブルーメ。まぁ、レアケースであると思う。

 

「ミト様の腹心って、何者ですか?」

 

「仲間想いの優しい男だよ。キレると危険が一杯だけど…」

 

こんなところで、長話している暇は無い。先を急がないと…先輩が先輩であるうちに、合流はしたい。

 

先を急ぐと、先輩が先輩の姿で転移してきた。

 

「コイツは何者だ?!」

 

いきなりの転移で、ブルーメが驚いたが、先輩はスルーした。急ぎの用だな。

 

「アリサとルル、セーラ、一緒に来てくれ。準備は出来た」

 

「ありがとう…」

 

「ありがとうございます」

 

アリサとルルが、先輩に感謝の言葉を述べ、セーラを含む4人で転移していった。そうなると、迷宮核の契約更新は終わったのか。

 

この迷宮へ来た目的…アリサの家族と、アリサとルルの父親の鎮魂だと言う。ここの上にあった城は、アリサの家であったから。隣国が攻め込みほぼ全員が死に、捕らえたアリサとルルを、奴隷にして売り払ったそうだ。売り払う前に、敵の王子により、ルルは酷い目に遭ったらしい。お子ちゃま体型であったアリサは、難を逃れたようだけど。

 

しばらくすると、先輩達が転移してきて、セーラとアリサを置いて、またどこかへと転移していった。

 

「どうだった?」

 

アリサに訊いた。

 

「成仏してくれたと思います♪」

 

満足そうなアリサ。

 

 

 

だけど、事態は危険な香りを漂わせ始めた。突然、ルルだけが転移してきた。ルルは半狂乱だし。

 

「ごめんなさい…私が嫌なことを想い出したから…ご主人様が…ごめんなさい」

 

私に泣いて縋るルル。マズい事態だ。兄ぃが、転移した。様子を見に行ったようだ。

 

 

 

顔面蒼白で兄ぃが戻って来た。無表情スキルを使っているようだけど、物凄く切なそうな瞳である。涙か?瞳が潤んでいるように見える。

 

「どうだった?」

 

「アリサの国を襲った奴らは始末された。ルルに手を掛けたヤツは、二度と女を抱け無い身体にした。王は都市核と引き換えに、命を助けて貰ったそうだ」

 

端的な話だ。きっと、凄惨な現場なんだろう。ルルは泣き叫び、アリサは哀しそうな顔で固まっていた。

 

「我慢できなかったんだと思います。彼は優しいから…」

 

セーラが呟いた。そんなことは、みんな分かっている。だけど…

 

 

---------

 

で、ようやく、マスターズルームへ着いた。目の前に重そうな扉があった。扉をノックすると、扉が開き、先輩の顔が出て来た。戻れたようだな。一安心である。

 

「おぉ、いらっしゃいませ♪」

 

何事も無かったように、応対する先輩。きっと、記憶に無いんだろう。

 

「どう?」

 

「迷宮核の復旧待ちだよ。まだ、掛かるみたいだ。先に上がっていていいよ。俺はアーシアの傍にいるから」

 

普段と変わらない先輩。不憫に思えて来た。マズい、ここは無表情スキルを使おう。でも、表情筋がうまく機能しない。

 

「俺は、何かをやらかしたのか?」

 

私の不自然な表情で、記憶喪失時のことを訊いて来た。

 

「いや…問題無いよ。こうして、戻って来てくれた。それだけで良いんだ。じゃ、先にあがっているよ」

 

これ以上、先輩の前にいるとマズい。泣き崩れそうだよ。不憫過ぎる。セーラを助けただけなのに…なんで?…ルルのように泣き叫びたい気持ちを抑え、先輩に背を向け、地上を目指した。

 

-------

 

地上に戻りメリーに、この国をアルジェント侯爵領へ編入する手続きをしてもらった。都市核は契約更新済みなので、割りと簡単に変更できた。

 

次に、城跡を立ち入り禁止地域に指定して、ここへ霊園を作る事にした。ルルと共同墓地に行き、なんらかの理不尽さに爆発した先輩。それは、纏めて埋めて、あんなちっぽけな墓石1つで済ませた、王国への怒りだろうと推測出来る。だから、共同墓地に埋まってた死体を丁寧に掘り起こし、一体ずつ棺に納め、ここへ埋めていく作業を、兄ぃを中心に急ピッチで進めた。

 

今の私達に出来ることをしていく。先輩が地上へ戻ってくる日までに…これ以上、先輩を壊さない為に…

 

 

 



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迷宮都市

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アーゼと過ごし始めた数日後、ミト達がエルフの里についたそうだ。俺達の馬車は、先輩が転移させてくれたそうだ。

 

「ねぇ、迷宮都市へ一緒に行こうよ」

 

ミトが必死に懇願している。だけど…

 

「俺…魔物だから…アーゼといる方が、迷惑を掛けないと思うんだ」

 

「一緒に来て欲しいんだよ」

 

う~ん…緊迫した局面なのに、いらん妄想をしてしまう俺。

 

「う~ん…そんなことを、ボクとしたいのか?」

 

丸見えですよね…凹む俺。

 

「う~ん…わかったよ。させてあげる。だから、一緒に来てくれる?」

 

え?結構ハードな妄想をしたんですが…いいんですか…

 

「いいよ。させてあげるよ…主として、眷属にとても嫌な想いをさせたんだから…」

 

その日…ミトと…人に自慢出来ない行為をたっぷりとした…

 

翌日、出発の準備を始める。リザ達をエルフの猛者達に預けて、鍛錬させている関係で、出発は3日後になった。強くなる分には良いって、ミトが納得してくれたが、俺を見る目が、あの日以来おかしい。

 

「ねぇ…して、いいよ…」

 

ドエム属性に目覚めたのか…けっこうハードな責めだったはずですが…俺と二人っきりになると小動物のようなミト…こんなキャラだったか?

 

「毎日したい訳では無いよ。たまにね…ドエスな妄想が浮かぶんだよ」

 

「いつでもいいよ。二人っきりなら…」

 

誘うような視線。その視線に負けた俺は、性なる欲望をミトで晴らしていた…

 

--------

 

そして、迷宮都市へ旅立った。何もする事も無い車内。俺は、必要になるまで棺に納められた。棺の中…なんか落ち着くなぁ。リビングデッドだからかな?

 

 

が、何日か過ぎた頃、突然、起こされた。

 

「先輩、出番だよ!」

 

後輩氏の声。では♪遠慮無く、後輩氏に襲い掛かる俺。

 

「寝ぼけていないでください。敵はボクじゃないよ~」

 

あ!してくださいじゃ無いんだ。で、敵は?ミトが指差す先に、黒い竜がいた。テンちゃんが戦っている。天竜と互角かぁ~。邪龍か?

 

「小さき者よ、平伏せ。我、天空の王者なり」

 

って、俺に向かってきた。鼻先をぶん殴ってやると、吹き飛び、山肌と激突した。山は激突の衝撃で粉砕したようだ。

 

「おいおい、なんだ、その威力は」

 

先輩が驚いている。

 

「貴様!」

 

体勢を立て直して、再び俺に向かった来た。では、『ヘアーランス』で、尻尾を地面に接合した。その衝撃で腹から地面に叩き付けられた黒竜。ジタバタしても外れない。

 

「デカければいいってもんじゃない!デカければ、的が大きい分、狙われるんだ」

 

もう、大丈夫かな?棺に自ら戻って、睡眠タイムだ♪

 

-------

 

「アール様、そろそろ起きて下さい」

 

誰の声だっけ?はて?

 

「おい!起きろって!」

 

後輩氏の声だ。

 

「あと10分…」

 

両頬に柔らかな物が…後輩氏の胸って、ここまでは…ゆっくりと瞼を開けると、メリーだった。それもノーブラでだ…

 

「おはようございます♪」

 

「おはよう、メリー♪」

 

抱き起こされて、1時間ほど放置される。心臓が再起動して、血が全身に行き渡るには、それくらいかかる。この前のように戦闘の場合は、リビングデッドの方が強いので、心臓は止まったままなので、直ぐに動けるのだった。

 

「ここはどこ?」

 

「もう少しで、貿易都市タルトゥミナです」

 

ルルが教えてくれた。ゆっくりと立ち上がる。少しよろけるが、リーンが肩を貸してくれた。

 

「アーシア、あの街は亜人は大丈夫か?」

 

「偏見有りです」

 

「じゃ、パスだ」

 

「え?」

 

ミトが不満みたいだ。

 

「ミト達だけで行け。俺達は街の外に野営をする」

 

「それは…」

 

ダメなのか?

 

「じゃ、俺達はアーゼの元へ行く」

 

「ダメだよ~!一緒にいてくれるっていっただろ!」

 

「そうだっけ?すまない記憶が…」

 

「あぁ、そうだね、記憶が無いのか…」

 

俺の記憶を垣間見て、どこか寂しげなミト。

 

「じゃ、このまま、迷宮都市へ向かおう。それならどうだ?」

 

「うん♪そうする」

 

貿易都市には寄らずに、迷宮都市へと向かった。ミトは、貿易都市で買い物三昧を目論んでいたらしい…

 

-------

 

迷宮都市に着いた。街へ入る為の正門の両脇には、変身後の大魔神のような像が左右に1つずつ配置されていた。

 

「あれは、ゴーレムです」

 

と、アーシア。早速、都市核と迷宮核へのリンクを開始したようだ。

 

「うん?この街の都市核がおかしいです」

 

って、アーシア。おかしい?

 

「リンクが切断されました。防御モードに移行したようです」

 

「どういうこと?」

 

メリーが訊いた。

 

「再接続出来ません…迷宮核のリンクも切れました。契約者は同一人物のようです…契約者を見つけました。サトゥー・ペンドラゴン卿です」

 

はぁ?先輩だって?

 

『どういうこと?』

 

って、メッセージを送ると、先輩が転移してきた。

 

「こいつのせいだ」

 

先輩の手には大きな銀貨が載っていた。

 

「ボルエナンの森の東方に、トラザユーヤの館って言うのがあって、そこの老ブラウニーのギリルに貰ったんだよ。この街にある別荘の鍵って言われてね」

 

「たぶん、その別荘に都市核があるのだろうな」

 

「権限が移譲出来るなら、アールに引き継ぐよ。管理、運営が面倒そうだし」

 

あれ?ゴーレムが動き出した。

 

『マスター、ご帰還をお待ちしておりました』

 

『マスター、無事のご帰還を祝福いたします』

 

こっちへ来る。

 

「先輩、どうにかしてよ!」

 

「すまん、わからない」

 

ミーアがやって来て、銀貨を手にして、

 

『我は主人代行なり。汝らの挨拶を嬉しく思う。なれど、汝らの任務は重要なり、疾く職務に復帰せよ』

 

と語り掛けると、ゴーレム達は元の場所へと帰って行った。

 

「ミーア、助かったよ」

 

頭を撫でて上げると、嬉しそうな笑顔を向けて、

 

「ん。アーゼが教えてくれた」

 

なるほど…俺では、記憶に難があるからな…

 

--------

 

門の前には門番が…

 

「身分証をお見せください」

 

って…代表してミトが見せた。

 

「え?ミツクニ公爵様ですか…この街のギルド長がお会いしたいそうです」

 

「そう」

 

澄ました顔のミトが短く返事をした。そして、街の中へ入った。そのまま、探索者ギルドの裏手にある駐車場に馬車を止めた。

 

「とりあえず、アルジェント卿とペンドラゴン卿の3名で行ってきます」

 

って、ミト。みんな頷く。治安が悪そうだから。みんなの馬車を護る気がムンムンと伝わってきた。

 

中に入り、ミトが受付へ向かった。俺と先輩はガードだな。きっと。

 

「ミト・ミツクニだ。ギルド長に会いに来た。取り次いでくれ!」

 

命令口調のミト。ミツクニ卿の突然の来襲で、受付がパニックになる。

 

そして、上の階から迎えの者が来て、ギルド長の部屋へ向かう。ドアを開けると、いきなりヤリが飛び出して来た。ミトは華麗なステップで、ヤリの上に載っかった。アイツ、曲芸師か?

 

「相変わらずね、リリアン♪」

 

「あの当時のままとは、ズルいですよ、ミト様」

 

この老女がリリアンか…

 

「あぁ、ここではゾナと名乗っております」

 

何故?

 

「え?ミト様ですか…」

 

「あれ~、セベルケーアじゃない」

 

エルフの女性。ミトの旧知の知り合いのはずなのに、見た目は中学1年生のような容姿である。年齢は知りたくない…

 

「で、この者達は、ミト様の新しい眷属ですか?」

 

「紹介します。奇跡の料理人のサトゥー・ペンドラゴン士爵と、アール・アルジェント侯爵です」

 

「ぺ、ペンドラゴン士爵って、あの?」

 

セベルケーアが、先輩の手を握っている。まぁ、有名人だからな。

 

「じゃ、貴様が、聖杯使いか?」

 

リリアンに訊かれた。スルーする。

 

「私をスルーするのか?」

 

ヤリが俺に襲い掛かるが、スルーした。痛く無いし♪

 

「何?避けないだと…」

 

俺の行動に驚くリリアン。人間相手に何もしない約束だし。

 

「彼は対魔王の秘密兵器だから。あまり、刺激しないでね、リリアン」

 

「そうか…ブルーメの言っていたのは、お前か…」

 

たぶん、リリーとブルーメから便りでも来ているんだろう。俺が聖杯持ちって、秘密事項だし。

 

「セーア、彼らの身分証を作ってあげてくれ」

 

「了解です。こちらの名簿に名前を記入してください」

 

仲間の名前を記入していく。

 

「何?サガ帝国の皇女が眷属にいるのか?後、現勇者の従者が3名…貴様、何者だ!」

 

リリアンに問い詰められるが、スルーだな。ストライクゾーンにほど遠いし。

 

「スルーだと…まぁ、いい。そのうち、化けの皮を剥いでやる♪」

 

ミトはリリアン達と積もる話があるらしいので、先輩と馬車へと戻った。

 

「どこに滞在するんだ?」

 

寝る場所の確保…俺にとっては重要な課題である。

 

「別荘に行くか?都市核の委譲もしないといけないし」

 

別荘へと向かう馬車5台…ミト、置いてきちゃったなぁ。まぁ、いいか。

 

別荘の場所はミーアが知っているというか、見えるらしい。で、別荘は蔦の絡まる家だった。場所は北門の西側で、富裕層エリアの端の公園の中にあった。

 

「結界で囲われているな」

 

「なんか俺は入れない気がする」

 

魔除けの結界…存在が魔なる者である俺はダメっぽい。取り敢えず、先輩とミーアが入っていった。

 

先輩達が戻って来て、みんなは入っていくが、やはり俺だけ入れない。

 

「俺はここで待っているから」

 

みんなを送り出した俺。暇だ…。アーゼの元へ転移するか。

 

------

 

アーゼに蔦の絡まる家の情報をもらった。あの家にあるコアは偽核って言う物で、トーヤが作ったものらしい。偽核1つで迷宮核と都市核の両方の役目を果たしているそうだ。

 

「手懐け方?有るのかな?」

 

う~ん…

 

「アーゼは、設定できるか?」

 

「説明書があればねぇ」

 

トーヤの揺り篭の研究室へ転移して、偽核関係の資料を手にして、アーゼの元へ戻った。

 

「はい、これ」

 

「うん?う~ん…なんか久しぶりだな、本を読むのって…」

 

そういえば、アーゼの部屋に本棚って無いなぁ。

 

「じゃ、今度来るとき、本を買ってこようか?」

 

「うん♪お願いします」

 

そして、アーゼの能力を使い、遠隔で設定を変更していく。俺自体は魔なる存在であるが、俺の魔法は聖属性であり、あの結界に阻まれない。なので…ハッキングをしていく。一部機能停止になりそうになると、アーシアとナナを使って、他のコアをリンクして凌いでいく。

 

『契約更新が成功しました』

 

アーシアから、メッセージが届いた。では♪アーゼと共に転移をした。

 

------

 

この家の家妖精と言われるブラウニーがアーゼを見て腰を抜かした。

 

「ハイエルフ様…どうして?」

 

「うん?ダーリンと遊びに来ちゃった♪」

 

「おい!更新できたのか?」

 

先輩に訊かれた。

 

「アーゼのお陰で、ここのコアの所有者になれたよ♪」

 

「何?どうやったんだ、この人間風情が!」

 

ブラウニーが噛みついてきた。

 

「え?ダーリンは人間風情では無いわよ~」

 

って、アーゼ。

 

「ソイツは何者ですか?」

 

「私の婚約者だけど…何か問題でも?!」

 

珍しくアーゼが怒りを纏っている。

 

「滅相もございません…」

 

平謝りのブラウニー。

 

「アーゼ、怒った君も可愛いけど、笑顔の君の方が好きだよ」

 

と、アーゼの耳元で囁いた俺。

 

「えっ!そうですか…ごめんなさい。このブラウニー風情が、ダーリンを馬鹿にするから…」

 

徐々に怒りは霧散していくアーゼ。

 

-------

 

アーゼがブラウニーを調教してくれた後、アーゼを里へ送迎して、ミトを拾ってきた。

 

「ひどい…ボクを置いて行くんなんて…」

 

俺の胸でマジ泣きしているミト。心細かったらしい。長時間放置したからなぁ~。偽核を設定するのに時間が掛かったのが敗因だな。

 

「で、どうする、ここに住むのか?」

 

「防犯上の観点からだと、どこかダミーに家からの転移が、いいんじゃないかな?」

 

と、俺が提案した。正面から入れるか不安だから。

 

「そうなると、それぞれの家から転移にするか」

 

「待った!ボクを…先輩の家に置いてください…」

 

あぁ、転移術が無いもんな、ミトには…一緒にいないと、置いてけぼり確定になる。

 

「じゃ、2軒買えば良いな」

 

先輩とカリナ、ミトが転移していった。では、コアの最終調整をするか。俺とアーシア、ナナとで、コアの元へ転移した。

 

-------

 

富裕層エリアに隣あった2軒の屋敷を買って来た先輩。1軒はペンドラゴン邸で、もう1軒はミツクニ邸だそうだ。で、俺達はミツクニ邸に住むことになった。

 

俺の寝室にはイネちゃんのベッドをコピーした物を置いた。これで、安眠できるな♪

 

「まだ、寝るなよ!」

 

って、安眠タイムにストップが掛かった。なんでよ~。

 

色々な申請書類を準備する。メリーとセーラが書類を書き上げてくれ、最後に俺のサインを入れれば完成だそうだ。

 

「そうだ、これを渡さないと…」

 

ミトが、木札を配り始めた。これは?

 

「ここのダンジョンに入る際に必要な、身分証になる。クラスが上がると、潜れる階層が深くなるそうだ」

 

中に門番がいるのか?いないなら、気にせず潜れると思うが…

 

「そういうルールだそうだ」

 

「で、昇級条件は、一人100匹の討伐か、チームで階層主を討伐だそうだ」

 

後者の方が楽じゃないか?人数がいるんだし。

 

「後者でいいと思う。一つだけ言っておく!無茶や無理はするな!いいな、みんな♪」

 

頷くみんな。それは俺への配慮なのか?ミトは俺の疑問をスルーした。

 

 

 

 



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迷宮デビュー

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迷宮都市に着いた翌日、潜りに行こうとすると、止められた。

 

「今日はダメだよ。歓迎レセプションがあるんだから」

 

それは先輩の料理目当てでは無いのか?

 

「そうだよ。だけど…先輩もいてよね!」

 

涙目で俺を見るミト。しょうが無いなぁ…

 

「爵位家の令嬢達も、それなりに着飾ってね♪」

 

ゼナとセーラとリーンとメリー辺りか?いや、アリサもだ。ルルは先輩の助手として、もう、下準備に向かった。リザ、タマ、ポチは、尻尾が踊っている。ミーアも令嬢に仕立てるかな…アリサと一緒の方が、ミーアも安心だろう。

 

って、アーゼも参加らしい…令嬢では無いと思うが…

 

パーティー会場はこの街の太守の家で、行われるそうだ。えぇ~っとアシネン公爵だっけ?そして、慣れない正装をして、パーティー会場へ…リザ達にもそれなりのドレスを用意してくれた先輩。

 

「恥ずかしいです…」

 

リザが恥ずかしそうで、初々しい♪エスコートしようとすると、ミトにストップって言われた。

 

「アーゼをエスコートしなさい!正妻候補でしょ?もう片手は、メリーにしなさい」

 

え?セーラでは無いの?

 

「こういうのは、好きな順では無くて、格位順なの。わかった?」

 

ミトに念を押された。なんか、メンドーなんだけど…

 

馬車からミトが降り、続いて俺達が降りて、続く。なんか形式って、苦手である。先輩とルルはいいなぁ、いつも通りで…

 

『士爵の特権だよ、侯爵様♪』

 

って、先輩からメッセージ。おい!こんな時も心を読んでいるのか…

 

そして、来賓の席に座るミトと俺達。

 

「では。ミト・ミツクニ公爵様の来訪を記念して、懇親パーティーを開催したします。今日の料理は、ミツクニ公爵付きの士爵である、奇跡の料理人ペンドラゴン卿が担当してくださっています。どうぞ、舌で堪能してください」

 

って、司会の人。俺はいないくても、良いんじゃ無いの?有名人では無いし。

 

「ご歓談の途中ですが…ミツクニ公爵様の腹心である、アール・アルジェント侯爵をご紹介いたします」

 

って、いきなり俺が話題の中心に…なんでよ~。

 

「アルジェント侯爵は、あまり有名ではありませんが、ミツクニ公爵様の影の懐刀とも言われている、キレ者だそうです」

 

誰だ?そんな物騒な事を言うのは…

 

「その功績は、所有する都市核が4、迷宮核5、源泉1、討伐した魔王3だそうです」

 

響めく会場、俺を指差す貴族達。何の虐めだ?

 

「そんな彼の周囲を彩る者達を、ご紹介します。まず正妻ですが…えっ?これって本当?」

 

司会者が誰かに確認をしている。ちらっと、頷いているリリアンが見えた。ロクでもないことを言わせるんだろうな、あの老女は…

 

「あ、失礼しました。正妻として婚約をされているボルエナンの森のハイエルフ、アイアリーゼ・ボルエナン様」

 

アーゼが立ち上がり、会釈をして着席した。更に響めく会場。

 

「後の方々は側室として婚約を予定されている方々になります…」

 

また、確認をしている司会者。

 

「え~っと…サガ帝国第21皇女メリーエスト・サガ様」

 

21って、そんなに娘がいるのか?サガの帝王って…

 

「オーユゴック侯爵の娘であるセーラ・オーユゴック様、リーングランデ・オーユゴック様、マリエンテール士爵の娘であるゼナ・マリエンテール様、今は亡き故クボォーク国のアリサ元王女様…です…」

 

名前を呼ばれたアリサが戸惑いながら、立ち上がり会釈をして着席をした。ミーアは爵位持ちとは見なされなかったようだ。

 

で、俺の婚約者の紹介が有り、俺の元には誰も寄り付かなかった。いや、リリアンが寄り付いて、誰も近寄れなかったが正解かもしれない。

 

「どうやって、こんなに良家のお嬢様方を揃えたんだい?」

 

この老女、ヨッパのようだ。アルコール臭のブレス攻撃を食らっている俺。

 

「えぇ?どうなんだよ~!」

 

苦笑いしているミト。

 

「おぉ~!いたいた!」

 

うっ、また苦手なヤツが来た。ブルーメである。リリアンが呼んだのか?ジュレちゃん付きだよ…

 

「おい!お前!息子と勝負しなさい!」

 

また、無理なことを…ジュレちゃんが申し訳なさそうに俺を見ている。

 

「俺も見てみたいな」

 

って、コイツは誰だっけ?

 

『迷宮方面軍将軍でアルエトン・エルタール名誉伯爵よ』

 

って、ミトからメッセージが届いた。

 

ガチガチの軍人か…

 

「簡単にいうなよ、相手はシガ八剣筆頭のジュレちゃんだぞ!」

 

アルエトンが目を見開いて、ジュレちゃんを見た。

 

「これは、ジュレバーグ様…では、こちらのご婦人は?」

 

「ジュレちゃんの母親のブルーメだよ。あぁ、そこのヨッパのリリアンの友人だ」

 

「ジュレちゃん…お前、無礼だろう!その言い方は!」

 

アルエトンの怒声。みんなこっちへ振り向いている。

 

「あぁ、将軍、いいんだよ、彼は」

 

って、ジュレちゃん。

 

「もう何度も、負けているから…」

 

ジュレちゃんは苦笑いしている。

 

「ならば、私と勝負しなさい!」

 

って、ブルーメが息巻く。デコピン一発でくたばりそうですが…

 

「ご主人様、僭越ながら、私がお相手をします。許可をいただきたいです」

 

って、リザ。得物を既に手にしているし…

 

「何!聖槍ロンギヌスだと…」

 

アルエトンは目利きか?一目で見抜いたようだ。

 

「面白い、小娘が!来なよ!」

 

挑発するブルーメ。だけど、

 

「リザ!旨い物でも食って来い!」

 

「しかし、ご主人様!」

 

「二度言わせる気か?」

 

「いえ、すみませんでした」

 

俺に頭を下げて、後にさがるリザ。俺は立ち上がり、得物を手にした。

 

「なんだって…聖剣エクスカリバーだと…」

 

アルエトンに見抜かれたが、スルーだ。

 

「俺の仲間に何をやらせるんだ?」

 

聖剣の放つ光の色が、青から紫へと変化していく。

 

「まさか…聖魔剣か…そこまでエクスカリバーを昇華させたのか…」

 

装備類に詳しそうなアルエトン。今度、色々話を訊きたいなぁ。

 

「ブルーメ、来いよ!」

 

しかし、ブルーメは動けなかった。聖魔剣の放つ異様なオーラに、飲み込まれたようだ。聖魔剣の良い処、抜いただけで、相手を制圧出来る点である。対魔王兵器である。人間では、この剣のオーラにより、恐怖へ陥れることが可能なようだった。

 

で、こっそり、ブルーメの意識を『強奪』した。その場に崩れるようにして、倒れたブルーメ。俺は剣を鞘に戻し、ストレージに戻した。

 

「なんだ、あの剣…戦わずして勝てるのか…」

 

アルエトンが腰を抜かしている。ジュレちゃんは慣れているので、膝が笑う程度であったけど。

 

「おい!アルジェント卿へケンカを売るな!もし、売ったら、俺達シガ八剣が買い取る」

 

レイちゃんこと、レイラスも来ていた。聖盾使いの老騎士で人格者である。ナナに防御術を教えて貰っている。

 

「レイちゃんも来ていたのか?」

 

「えぇ、ジュレバーグ親子だけでは不安ですからね♪」

 

って、俺の前で跪いて、話さないでぇぇぇぇぇ~。

 

「良いか!アルジェント卿は、我らシガ八剣と懇意にしており、我らの恩人である」

 

レイちゃんが俺を持ち上げている。どこで落とすんだ?

 

『落とさないよ』

 

って、ミトからメッセージ。

 

こうして、波乱の祝賀会は幕を閉じた。

 

-------

 

翌日…なんか嫌な予感を感じつつ目が醒めた。なんだ、この感触は…

 

「おぉ♪今朝は、手間掛からず起きたようだねぇ~」

 

って、後輩氏の声…横を見て固まった俺…ブルーメとリリアンが添い寝をしていた。どうしてだぁ~!!

 

「火照った身体には、気持ち良いそうだよ」

 

まぁ、死体だからね…二人を起こさないように、ベッドを抜け出し、棺桶に入ろうとした俺。

 

「ダメだよ。起きたんだから、起きなさい!」

 

って、ミトのダメ出し…二度寝したい気分なんですけど…セーラとゼナに両腕を抱かれて、食卓へ補導されていく。

 

「今日は潜ってきていいから♪」

 

「二度寝は?」

 

「ダメだって、言ったでしょ?」

 

そんな…

 

「私とゼナ隊、ペンドラゴン卿とカリナは、残りますので、残りの者で行ってきてね」

 

って…え?ゼナは居残り?

 

『私のガードとして雇ったのよ』

 

って、ミトからメッセージ。そうだけど…

 

食後、各々が準備をしていく。そして、馬車に乗り、迷宮の入り口前にある、冒険者ギルドの支店のような建物の駐車場に着いた。ここは治安が良いので、馬車を置いても安全らしい。

 

いざ、迷宮へ…って、迷宮までが遠い…迷宮の入り口から長い廊下を進むと、冒険者の受付があり、さまざまな露天が並んでいる。う~ん、タマ、ポチが買い喰いに行きたいらしい。これは罠か?

 

メリーとリーンで受け付け作業を熟して貰い、ポチ、タマは抱き抱えて、迷宮への扉を開けた。

 

「魔物の配置を探査します」

 

アーシアが迷宮核とリンクしてくれた。これでイレギュラーにも対処できるだろう。

 

「上層、中層は探査を終えましたが、下層は遮断されました」

 

それは、下層に何かあるのか、偽核では下層までは制御出来ないかだ。行かないとダメだろうな。危険な物は排除しないと、仲間達が危険である。

 

「抜け駆けはダメですよ」

 

って、セーラが俺の腕を抱いている。これでは、転移出来ない。セーラを巻き込んでしまうから。

 

で、上層を進んでいく。順路通りに…

 

「敵がいませんね」

 

って、リザ。いや、魔核が拾えているので、敵と認識しないで、排除しているだけでは無いのか?タマのブーメランが飛んでいる虫を次々に屠っているし。

 

「トレインを検知しました前方300メートルです」

 

アーシアが警告を発した。

 

「どうします?」

 

メリーに訊かれた。

 

「このままの陣形で進む。平常心でいこう」

 

ダメなら、俺が出る♪

 

「あぁ、抜け駆けを考えましたね」

 

俺の腕を抱く力が増したセーラ。あれ?なんでバレたんだ…

 

「迷宮蟻(メイズ・アント)の大群を検知しました。総数は1000くらいです」

 

アーシアが情報を的確に伝えてきた。そうなると次の角を曲がると?

 

「お~い、逃げろ~!」

 

遠くから叫び声。無言で二人の男が逃げていく。

 

角を曲がると、左に大きくカーブしていて、先が見えない。

 

「助けて~!」

 

女性のか細い声だ。俺が飛び出ようとすると、セーラに止められ、俺の代わりに、リザ達が飛び出して行った。ズルい…

 

「ご主人様は、安全な場所で、どっしり構えてね♪」

 

て、アリサ。暫くすると、リーンとルススが女性を一人ずつ抱えて戻って来た。一人は足が食われて重症である。

 

「セーラ、そっちはまかせる」

 

「わかりました」

 

俺とセーラで、怪我人を回復術で治癒させていく。

 

「え?神聖魔法…それも二人も…」

 

怪我人のチームの者か?回復術使いが二人いることに驚いている。

 

「残り500です」

 

アーシアからの報告。もう半分も屠ったのか…俺の出番は?

 

『無いですよ』

 

って、アリサからメッセージ。あれ?じゃ、俺の心を読んだのは…

 

『転生者にも読まれるって、チーター失格ですよ♪』

 

って、アリサ…凹む俺は、聖杯の力で欠損部分の修復を始めた。

 

「修復魔法…あなた達は一体…」

 

「残り100です」

 

アーシアからの報告。出番…ダメだ…

 

『あははは♪』

 

アリサからのメッセージが、ダメ出しをしているようだ。

 

「彼女のカウントダウンは何?」

 

逃げてきたチームメンバーがあれこれと訊くが、みんなスルーをしている。

 

「回収作業を始めました」

 

終わったのか…おい…1000匹をそんな短時間で…って、こっちも終了だ。

 

「アリサ、回復薬を念の為に渡してくれ」

 

「了解です。ご主人様♪」

 

「お前が、このパーティーのリーダーか?」

 

20代前半そうな筋肉質でスレンダーな女性探索者に訊かれた。ストライクゾーンかな?

 

「そうだけど、何?」

 

「お前達は何者だ?私は、『麗しの翼』でリーダーをしているイルナだ」

 

「そうか。気を付けて帰れよ♪」

 

「おい!お前達は何者だ?」

 

「名乗れる程の猛者じゃない、気にするな」

 

俺達は、前衛部隊に向かって歩を進めた。だけど、イルナだけが付いて来た。

 

「なんだ?」

 

「お前達に興味がある。怪我人は仲間に託して地上へ向かっている。私だけ、付いて行くぞ」

 

ここの女性って強引だよな。リリアンにしても、ブルーメにしても…前衛部隊は、ドロップ品と魔核を回収していた。

 

「ドロップ品って何?」

 

「ハチミツ?」

 

「ハチミツなのです♪」

 

タマ、ポチが喜んでいる。ミーアが嬉しそうだ。回収してくれた物をストレージへ収納した。うん?999しか入らないので、ハチミツと魔核が1つずつ手元に…

 

「アリサ、頼む。俺の方は999しか入らない」

 

「了解♪」

 

「1000匹倒したの?じゃ、さっきのカウントダウンって…」

 

イルナがアーシアを驚愕な表情で見つめていた。これもみんなスルーである。

 

「アーシア、どこか広めの区画はないか?」

 

「後200メートルです。強敵はいないです」

 

「じゃ、前進してくれ。最初のペースで頼む」

 

頷くリザ達。

 

「どうして、ダンジョンの情報がわかるの?」

 

イルナの疑問に答える者はいない。そして、広めの区画に出た。

 

「じゃ、予定通りに呼び出すぞ♪って、何が出るのかな?」

 

って、イルナ以外が身構えた。俺は『強奪』で近くいる階層主を引き寄せた。マップ情報では『招雷牡鹿(ライトニング・エルダー・スタッグ)』と表示されている。

 

リザが一番槍を突き、ポチ、リーン、ルスス、フィフィが次々に襲い掛かっていく。獲物が逃げようとしたので、俺の『ヘアランス』で、この区画に釘付けにして、ボコっていく。

 

「格上の区画の主を…こんなに簡単に…」

 

イルナが腰を抜かしている。相手が弱いだけでは無いのか。5分程度で決着が着いた。

 

「じゃ、次を呼び出すぞ~♪」

 

「「おぉ~♪」」

 

俺達のパーティーが始まった♪

 

-------

 

まぁ、1日目だ。こんな物だろう。手に入れた魔核を出口の受付に渡した。ローカルルールで、ダンジョン内の魔核は全量買い取りらしい。

 

「ねぇ、次の札にアップされるかな?」

 

受付の女性に訊いた。顔面蒼白の女性…固まっているのか?

 

「お前達…何者だ?」

 

イルナが俺達を見て、怯えている。

 

「だから名乗る程の者では無いよ。木札だし♪」

 

「木札?有り得ない…なんだ、あの戦力は?」

 

「今日はデビュー戦だよ。ビギナーズラックだろ♪」

 

メリーが受け付けで、何かの書類にサインをしてくれた。では、帰るか。俺達は、馬車へ戻って行った。

 

 

 

 



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SS:酒場にて


イルナ視点です。


 

 

依頼を熟していた最中にトレインが発生した。依頼主はいち早く逃げたが、うちのパーティーのポーターが二人も怪我を負った。だが、化け物クラスのメンバーのいるパーティーに救われた。アイツら…何者なんだ?

 

「そんなにスゴい奴らなのか?」

 

赤鉄証持ちの探索者である「紅の貴公子」ジェリル準男爵に訊かれた。

 

「あぁ、スゴい奴らだ。神聖魔法師が2名いた。そのうちの1名がリーダーだそうだ」

 

「何?神聖魔法師が2名もいるのか…」

 

回復師のいるパーティーはたまに見かけるが、神聖魔法師なんて者は、魔王討伐隊ですらいないほど貴重ジョブである。それが2名もいるなんて…

 

「リーダーの男は、修復術を持っていた。無くなった足が修復されたんだよ」

 

驚愕しているジェリル。修復術って、最上位の神聖魔法であるから。ほとんど神の領域である。

 

「聖職者なのか…」

 

「戦士の奴らも異常なくらいに強かったよ」

 

「どのくらいです?」

 

ジェリルの連れの男に訊かれた。どこかの酒場で、息が合い、二人で呑み歩いているそうだ。この店は3軒目らしい。

 

「ライトニング・エルダー・スタッグが5分程度で屠られた…」

 

「おい!格上の区画主じゃないのか?」

 

「階層主が10分保たなかったぞ…」

 

「…」

 

ジェリルが絶句した。

 

「それも…初めてのダンジョンだって…」

 

「あぁ、アイツらか…」

 

ジェリルの連れが、アイツらの正体に気づいたようだ。

 

「知っているのか?」

 

「えぇ、知っております。彼らには関わらない方が良いですよ」

 

「アイツらは何者だ?」

 

「名乗らなかったでしょ?」

 

頷く私。

 

「そういう存在です」

 

そういう存在?

 

「おい!もったいぶらずに、教えてくれよ、クロ♪」

 

ジェリルが、連れの男に訊いた。

 

「たぶん…アールです」

 

「アール?何者だ?」

 

「アール・アルジェント侯爵です。この街の影の支配者ですよ♪」

 

影の支配者?アルジェント侯爵?聞いた事が無い名前だが…

 

「関われば、後悔しますよ」

 

「あっ!あの侯爵かぁぁぁぁぁ!ミツクニ卿の配下の…」

 

「そうです」

 

誰だ?

 

「ジェリル、ソイツは何者だ?」

 

「イルナ…関わるな…殺されるぞ…そういう存在だ」

 

ジェリルが震えている。それほど恐い存在なのか?

 

「あのシガ八剣のジュレバーグ殿が3回も負けた男だ。俺なんかじゃ、勝て無い」

 

おい…シガ八剣筆頭のジュレバーグ様が、3回も負けたのか…化け物クラスじゃないか。

 

「あぁ、ここの支払いはしておきます。そろそろ帰らないと。また、飲みましょうジェリル♪」

 

「おぉ、またな、クロ♪」

 

アイツら…マジか…シガ八剣よりも強いのか…

 

 

 



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迷賊退治

昨日のドロップ品を先輩へ引き渡した。ハチミツは除いて…先輩の商社で、加工して販売するそうだ。売上の一部をニナへ送金して貰っている。財政支援って感じだ。

 

「初日にしては、大量仕入れだな♪」

 

「上層はダメだよ。相手が10分保たないんだもの」

 

俺の出番が無い。いや、アリサやミーアの攻撃魔法陣が、戦う暇は無いと言うか…短期決戦過ぎた。

 

「まぁ、納入した魔核の数から行けば、赤札で中層へ行けるはずだよ」

 

って、先輩。ミトは、朝からリリアンに呼び出されていた。あの老女は、どんな無理難題をふっかけているんだ?

 

「じゃ、狩りへ行くかな」

 

駐車場に行くと、もう準備が出来て、俺が最後だった。では、迷宮探査へ行くか♪

 

-----

 

二日目…メリーが受付に行くと、札が代わっていた。

 

「中層まで行けるそうです」

 

って…じゃ行くか…

 

「ちょっと待て!私達も同行する」

 

って、イルナと知らない男性が一人。周囲の者達が響めいている。有名人か…

 

「俺はジェリルだ。『獅子の咆哮』の団長をしている。侯爵よ、お前達の実力をみせてもらうぞ♪」

 

はぁ?俺の出番は無いんだが…

 

「ジェリル!無礼なマネをするな!」

 

メリーがキレた。知り合いか?

 

「えっ!メリーエスト皇女様、どうして、このような場所に」

 

メリーに跪くジェリル。

 

「アイツ、マサキの知り合いだよ」

 

って、リーンが教えてくれた。あぁ、クソ勇者の知り合いか。

 

「何?リーングランデ、フィフィ、ルススもいるのか…マサキもいるのか?」

 

「クソ勇者はいないよ!」

 

「勇者ハヤトをクソ勇者だと!」

 

クソの知り合いが怒っている。

 

「クソをクソと言って何が悪いんだ?」

 

「貴様!無礼だな」

 

大衆の面前で剣を抜いたジェリル。

 

「侯爵様に対して、剣を抜くって、どういうことか分かっているのか?」

 

メリーが俺の前に立った。ジャマだよ~!

 

「どうして、あなたが、ソイツを庇うのですか?!」

 

「私達のご主人様は、私達眷属が護ります♪」

 

「おい!得物は抜くなよ!大衆の面前だ」

 

先に注意をしておく。人間相手の戦いはダメだから。

 

「御意♪私達は人間の盾になりましょう。さぁ、斬れますか、ジェリルよ!」

 

メリーの気迫に剣を鞘に収めたジェリル。衛兵が彼の身柄を押さえた。侯爵に剣を向けちゃダメだよね。

 

「じゃ、俺達だけで、潜るぞ」

 

「「おぉ~♪」」

 

だけど、今日も懲りずにイルナが付いて来た。気にせずに、サクサク中層を目指すことにした。

 

中層…食料になりそうな魔物が多い。リザが張り切っている。新鮮なお肉にありつけるから…

 

部屋一面に水の区画…魚とか海産物が取れるエリアだ。酒好きが珍味を求めて、スパートしている。戦闘欲と言うより、食欲で突き進む俺達一行。呆れるイルナ…

 

妙な区画に出た。マップ情報では麻薬畑と出た。

 

「その草は食うなよ!毒物だ」

 

「麻薬ですか…違法薬物工場があるんですかね」

 

って、メリー。可能性はある。ミトに確認すると、撲滅しべしと返答が来た。

 

「アリサ、燃やして♪」

 

「らじゃ~♪」

 

毒ガスが出るとマズいので、区画を密閉して、こっちに来ないようにした。すると、俺達と反対側の区画から苦しみ悶える男女が出て来た。関係者かな?マップ情報で確認して、ギルドの地下にある牢屋へと強制転移させていく。冒険者は、ギルドの医療ルームへ強制転移と思ったけど、冒険者はいなかった。

 

「アーシア、ここと同じ植物の群生、もしくは畑を検索だ」

 

「了解です、マスター」

 

「1つずつ、潰していく。今日は狩りは無しだ」

 

納得してくれたみんな。セーラはいつも以上に、俺の腕に強く抱きついて居る。俺が一番の危険な存在だものな…

 

『そんなことないよ』

 

て、ミト。

 

『考えすぎだ』

 

って、先輩。おい…四六時中、俺の心は監視対象か…

 

『そうだよ♪』

 

て、アリサ。彼女の方を見ると、Vサインを掲げていた。

 

--------

 

翌日…いつもと違う肉感を感じる。なんだ、この筋肉質な…まさか、男か…恐る恐る目を開くと、全裸のイルナが俺に抱きついて寝ていた。

 

「どう?たまには若い女は♪」

 

って、ミト。えぇ、リリアンでなくて良かったです。酒臭ぇ~ブレス攻撃は苦手です。

 

「なんで、イルナがいるんだ?」

 

「隠密同心に惚れたみたいで、情報屋になりたいそうよ」

 

かげろうのお銀枠か?もう少し、柔らかさは欲しいなぁ。

 

「うん?」

 

危ない…ふくよかな胸を妄想しようとして、鏡餅に切り替えた俺。朝からミトが激怒するとマズい。

 

「なるほど♪お気遣いに感謝だよ」

 

ミトのミトなりのふくよかな谷間に、俺の顔を埋めてくれた。

 

 

「一応、中層にある畑などは総て燃やしたけど…」

 

昨日の報告をミトにしている。

 

「送られて来た者の殆どは奴隷だったわ。首謀者を見つけないと、根絶出来ないわね」

 

「俺の方も情報網で探っている。分かり次第、報告をする」

 

って、先輩。この街にも『エチゴヤ』を設立したそうだ。

 

「じゃ、引き続き、先輩達は潜って。情報は私と兄ぃで集めてみるから。それから、くれぐれも一人でケリを付けないでね」

 

哀しそうな目で俺を見るミト。俺は俺でいればいい筈だ。俺は俺で無い時、何になっているんだ?俺の疑問に誰も答えてくれない。つまりは、そういう存在なのか…

 

「アール。考えすぎるな。お前はお前だ。俺もヒカルも分かっている。いいな」

 

その言葉は嬉しい。だけど…

 

「ダメ…先輩!」

 

ミトが俺を抱き締めた。俺の唇に自分の唇を重ねて来た。俺は俺で無くなるのか…

 

 

 

意識が戻ると、ミトが一緒にいてくれた。肌を合わせてくれている。ミトの体内の感触が俺に伝わってきた。つまり、そういう体勢か…

 

「良かった。先輩は先輩でいて欲しいんだよ。ねぇ…だから、自分で追い込まないでね」

 

俺の頬に自分の頬を重ねるミト。俺は…

 

「今日は、休養日にした。だから、このまま、寝ていいから。寝付く迄、一緒にいるから…だから…どこにも行かないでね」

 

そうだな…

 

--------

 

翌朝、目が醒めるとアーゼがいた。

 

「ダーリン、おはよう♪」

 

ミトが呼んでくれたようだ。

 

「心は落ち着いたかな?」

 

「うん♪」

 

アーゼを1ラウンドほど味わい、二人で食卓へ…

 

 

アーゼをアーゼの職場へ連れ帰り、戻って来た。迷宮探訪をしないと…迷宮の入り口まで行くと、アルちゃんこと、アルエトンがいた。

 

「あぁ、アール様、お待ちしていましたよ」

 

って、軍を引き連れている。何だろう?

 

「俺を逮捕?」

 

「なんでですか?しませんよ…」

 

「では、何?」

 

「迷宮に潜む賊、通称迷賊を一掃する為ですよ。お力をお貸し下さい」

 

「中層の階層主の出し方を教えてくれたら♪」

 

取引を持ちかけた。上層の方は、倒されたばかりだったので、『強奪』で引き寄せられた。だけど、中層のヤツは、まだ倒されていないので、『強奪』では無く、正規な手順が確実だと思ったのだ。

 

「それくらいなら、いいですよ」

 

取引は成立した。

 

 

迷宮の中層へ進軍。

 

「アーシアさんは何者ですか?」

 

アルちゃんに訊かれた。重箱の隅にいたる迄の的確な情報に疑いを持ったようだ。

 

「迷宮核だよ」

 

「えっ!」

 

「ホムンクルスに迷宮核の意識をリンクさせているんだ♪」

 

「だから、あんなに細かな情報が得られるのですか?」

 

「まぁ、そんな感じだ」

 

「敵にすると厄介ですね」

 

「敵になる予定があるの?」

 

「ある訳ないじゃないですか…」

 

では問題無しってことで…

 

「隠し区画を見つけました」

 

アーシアの報告で、隠し区画も殲滅♪で、ご褒美の階層主の出し方を伝授されて…正規な手順…区画の主の魔核を試練の祭壇に捧げれば出るらしい。

 

試練の祭壇に行き、まず区画の主を強奪で次々に引き寄せて、魔核をゲットしていく。

 

「なんですか…その能力は…」

 

区画の主キャッチャーと化した『強奪』に響めくアルちゃん以下、軍の人達。だいぶ、魔核が集まったし。

 

「じゃ、出すよ♪」

 

階層主を出して見た。何時ものように一番槍をリザが放ち、他の前衛陣が我先にと、攻撃を叩き込んで行く。俺は階層主が逃げないように、床に接ぎ止めた。

 

「なんか階層主がかわいそうに見えて来ました」

 

って、アルちゃん。後衛陣が魔法を叩き込んで行き、10分少々で、階層主を屠った。証人はアルちゃん以下、軍人さん達だ♪

 

「おい!アルジェント卿にケンカなんか売るなよ」

 

アルちゃんが配下の者達に声を掛けている。いや、売られたら買うだけだよ♪

 

うん?嫌な風が吹いた気がする。

 

「トレインがコチラに向かってきます」

 

って、アーシア。

 

「量は?」

 

「迷宮ゴキブリが1000体です」

 

厄介だな。低重心で装甲が厚い上に、すばしっこい上に飛び廻るし…

 

「トレインの原因は?」

 

「誰かが巣を壊したようです」

 

罠か?他の用途で壊すヤツはいない。得られる物があまりにも無いらしい。

 

「ミーア、冷気を流して」

 

「ん♪」

 

「テンちゃん、凍ったら、ファイアブレスで粉砕して」

 

「まかして♪」

 

「ブレスって…彼女は何者ですか?」

 

アルちゃんに訊かれた。

 

「天竜のテンちゃんだよ。勇者が乗っていた天竜だって」

 

「えぇぇ~!伝説級のドラゴンじゃないですかあぁぁぁあ~!」

 

アルちゃん以下、兵士の皆さんが驚いている。まぁ、歴史の生き証人だわな。で、ゴキブリ達は急激な寒暖差により、砕け散っていく。

 

「第2派が来ます。今度のトレインは、オイルスライムが1000です」

 

って、アーシア。それは珍しいなぁ。貰っちゃおう。トラザユーヤの揺り篭へ全量を強制転移させた。

 

「今度はどうされたのですか?」

 

アルちゃんに訊かれた。

 

「俺の持つ別の迷宮へ強制転移させた。モンスターを発生させるのに、マナが消費されるから、希少種はゲットだよ♪」

 

「ははは…まったく、常識では測れませんね。アール様は…」

 

まぁ、存在自体が常識の範囲外であるし。

 

「第3波準備中です」

 

『強奪』で、罠作成者を呼び出した。

 

「なに?貴様…スキル持ちか?」

 

マップの詳細情報によると、迷賊長と表示されている。

 

「貴様!!迷賊王ルダマンか!」

 

「ここで死ね♪」

 

ルダマンが何かを飲んだ。すると、中級魔族に変身した。そんな薬があるのか?瞬動術で懐に入り込み、心臓を握り潰してみた。中級魔族は苦しんでいるようだ。心臓があるって、不便だよね?

 

「貴様、何者だ…」

 

苦しそうな中級魔族に訊かれた。

 

「名乗る程の者じゃないよ♪」

 

闇の牢獄へ沈めていく。心臓に繋がる動脈と静脈を入れ替えておく。どうなるかの実験だ♪

 

「中級悪魔を素手で…アール様…強すぎですよ」

 

アルちゃんの言葉はこの際、スルーだ。

 

「アーシア、魔王はいるか探査してくれ。いたら、ここから出すな!」

 

「了解です…」

 

アーシアの探索中、誰も言葉を発しない。緊迫した局面である。

 

ズン!うん?何かが腹部に刺さった。

 

「死ね!ルダマン様の仇討ちだよ♪」

 

腹部にヤリが刺さっている。気配を感じなかったから、瞬動持ちかな?詳細情報を確認すると、。「槍」「瞬動」「反撃(カウンター)」持ちのようだ。

 

「ご主人様!」

 

リザが異変に気づき、ヤリで敵を差そうとした。にやりと笑った賊。カウンター狙いか…リザのヤリを左手で受け、賊に当たらない様にした。

 

「どうして?」

 

戸惑うリザ。

 

「コイツ、カウンター持ちだ。リザを傷つけたくない」

 

俺は俺で無くなって行く。マズい、アルちゃん達の前では、俺とリザと賊の3人で、別の場所へと転移した。

 

-------

 

「ここはどこだ?」

 

賊…情報によると、魔戦士カースと言うらしい。

 

「ここはトラザユーヤの揺り篭だ」

 

「お前…何者だ…」

 

恐怖で歪むカースの顔。

 

「俺は不死王リッチだ♪」

 

俺の腹部にっさっていたヤリを引き抜き、カースの頭からお尻の穴に向けて刺した。カウンターされるが、カウンター仕返した。カースのカウンターは千日手にならないように、同一攻撃時に、一度しか反応できないようで、串刺し状態になった。ここで、オブジェになってもらうか。

 

次にリザだな。俺を見て固まっているリザ。

 

「リザ!お前の目に俺はどう映っているんだ?」

 

「…」

 

「言えないのか?なら、言うまでいたぶるか?」

 

リザは自ら全裸になり、

 

「お好きにしてください。私はアナタの物ですから…」

 

何かに耐えるような目付きである。そんなに俺は惨い姿なのか…

 

「じゃ、好きにする。去れ!」

 

リザをミトの元へ強制転移させた。俺は、ここに住むかな…先ほど転移させたオイルスライム達が遠巻きで俺を見つめていた。魔物にすら恐れられる存在か…ここもダメなようだ。外へ出ると綺麗な満月が見えた。

 

『お兄ちゃん♪酷い姿だよ』

 

どんな姿だ?

 

『リビングスケルトンかな?』

 

それは、オーバーロードの主人公であるアインズ様のようなのか。なるほど、リッチだものな…

 

「アインズ様…あぁ、そういう感じだね」

 

カグヤが実体化して、俺の隣に現れた。

 

「俺はどこへ向かえばいいんだ?」

 

「みんなと一緒で良いんだよ。う~ん、その姿が問題だよね~」

 

「このすばのウィズのようになれないかな?見た目は人間って感じにさぁ」

 

「そうね。その方がお兄ちゃんらしいかな」

 

カグヤが呪文を唱えた。

 

「月の光に当たるとスケルトンに見えちゃうけど…」

 

「それは、パイレーツオブカリビアンの呪われた海賊たちでは無いか?」

 

「まぁ、そんな感じだよ。光が当たらなければ、人間の姿に見えるよ」

 

「食った物が砂になるのか?」

 

「お兄ちゃんは呪われた訳では無いんだよ。だから、問題は無いよ。ただ、月の光の下では真実を晒すだけなんだよ」

 

そうなのか…

 

「そんな寂しそうな顔をしないで。私はいつでも一緒にいるから。その為に、この世界に呼んだんだよ。だから…楽しく生きてね…お兄ちゃん♪」

 

カグヤが消えた。帰っていったようだ。

 

-------

 

「おい!起きろよ~」

 

後輩氏の声だ。

 

「後10分…」

 

「ご主人様…ごめんなさい」

 

えっ!リザが…全裸のリザが俺に乗っかっている。咄嗟に飛び起きる俺。

 

「そんなに、私が嫌いですか?」

 

リザがナイフを手に自決しようとする。マズい…リザからナイフを奪いとり…優しく抱き締めた。

 

「嫌いな訳無いだろ?」

 

「なんで…私を遠ざけたのですか?」

 

「娘とはしない主義なんだ」

 

「娘?」

 

「リザとタマとポチは、俺の娘だ。手に掛ける訳ないだろ?」

 

全裸で抱き締めている俺。説得力は無い。現にミトが笑っているし…

 

「私…ご主人様の娘なんですか?」

 

「ダメ?」

 

「ダメでは無いです」

 

ドンドンドンドン♪

 

床を使ってのドラミングかぁ?リザの尻尾が激しく踊っている。これは喜んでいるのか?

 

『当たり前でしょ♪』

 

『そうだよ』

 

って、アリサとミトからメッセージが届いた。

 

 

 



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SS:二人のイチロー

ミト視点です


 

私には妹がいた。一卵性双生児の妹…いわゆる双子の妹である。私にソックリの顔立ちであるが、妹の方が少しメリハリのある身体付きであった。子供時代、私はやんちゃで、妹は大人しかった。私はイチロー兄ぃというボーイフレンドを作る事が出来たが、妹は引きこもりがちで、私の事を羨ましいって…

 

だけど、いつしか、妹にもボーイフレンドが出来た。イチローお兄ちゃんって言うらしい。まさか、イチロー兄ぃは、美人姉妹を一人締めか?それとも妹に乗り換えるつもりなのか?疑心暗鬼になっていく私。妹の方が美人で器量があると思ったから。兄ぃを問い質す勇気は無かった。訊けずにいた。その分、妹に負けない位の愛情を兄ぃへと振り撒いていった。

 

 

13歳になった誕生日の夜。その日は満月の晩だった。まん丸とした綺麗な満月が、夜空に浮かび、地上を明るく照らしていた。その日、妹は突然いなくなった。

 

誕生日のお祝い会を終え、それぞれの部屋へ戻った直後、妹の叫ぶような声…

 

「お兄ちゃんと離れたくないよ~!」

 

異変を感じた私は、妹の部屋に行くと、妹の姿は既になかった。妹の声を聞いて、1分も経っていなかったのに、妹のいた痕跡が無くなっていた。私の後から、両親がやってきた。血の気の引いた顔で…私は、「どういうこと?」って、父さんに訊くと、

 

「神様が連れて行ってしまった。人間としての義務教育は終わったからって…」

 

と…寂しげに答える父さん。母さんは満月を恨むように睨んでいた。

 

私の家は神社であるけど、神社の娘として、父さんの言葉が理解できなかった。神様が連れ去るって何?妹は死んだってこと?だけど、妹の葬儀は行われなかった。事件、事故による行方不明とされたのだ。

 

-------

 

私は忘れていた。私に妹がいたことを…どうして、こんな大事なことを忘れていたのだ?満月の夜…先輩が失踪した日…全裸のリザが私の元に、突然、強制転移してきた。泣きじゃくるリザ。先輩は何かをやらかしたようだ。

 

いつものように、先輩の心をモニタリングした時に…私では無い私と会話する先輩が脳裏に見えた。私よりも胸が大きく、締まるところはしまっている。でも、顔立ちは私にソックリだった。

 

『お兄ちゃん♪酷い姿だよ』

 

先輩をお兄ちゃんと呼ぶ妹…先輩の本名は…たしか…田中…一郎…あぁぁぁぁぁ~!イチローお兄ちゃん…先輩が、妹のボーイフレンドだったのか…兄ぃ、疑ってごめん…

 

「どんな姿だ?」

 

『リビングスケルトンかな?』

 

先輩は妹に、ここへ呼ばれたのか?一緒にいたいって妹が願っていたから…

 

「それは、オーバーロードの主人公であるアインズ様のようなのか。なるほど、リッチだものな…」

 

「アインズ様…あぁ、そういう感じだね」

 

妹が突然アニメ好きになったのは、先輩のせいなのか?引っ込み思案で、興味を抱く事がないって嘆いていた妹が、お兄ちゃんが出来た頃から、アニメに嵌まっていった覚えがある。

 

楽しげに会話する先輩と妹…妹が呪文を唱えると、

 

「月の光に当たるとスケルトンに見えちゃうけど…」

 

「それは、パイレーツオブカリビアンの呪われた海賊たちでは無いか?」

 

「まぁ、そんな感じだよ。光が当たらなければ、人間の姿に見えるよ」

 

先輩の身体半分がスケルトン化していた。月の光が当たっている部分だけ…あっ!『月の女神』…あれって、妹なのか…

 

「カグヤが消えた。帰っていったようだ。」

 

そういうと、先輩の意識は砂嵐状態になった。寝落ちしたようだな。カグヤ?妹の名前は、竹子だよ…そう思った瞬間、涙が急に溢れてきた。脳裏に『竹取物語』という文字が浮かんだのだ…まさか、妹は…そうなると、父さんの言った言葉の意味もわかる。

 

『お姉ちゃん、お兄ちゃんを回収してね♪』

 

先輩の心にリンクしていたせいか、妹の声が聞こえた。

 

「竹子なの?」

 

『うん♪もうしばらくお兄ちゃんをお願いね、お姉ちゃん♪あぁ、お姉ちゃんに、これをあげる。無いと不便だからね』

 

『転移術をおぼえました』

 

と、ログ表示がポップアップした。次の瞬間、先輩が寝ている場所に転移していた。先輩を抱えて、先輩の部屋へ転移。

 

そうか…謎が少し解けたような…先輩は、私に妹の面影を、見ていたのかもしれない。だから、私に恋をしたのか…

 

 

 



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カグラとカグヤ


完結していない原作なので、独自解釈に基づくオリジナル設定です(^^;




 

「あの…さん…起きて下さい…」

 

今朝は誰だ?声が震えているので、誰かの判別が出来ない。俺の専任の後輩氏はどうした?

 

「お、お、お、お父様…あっはっ♪」

 

ドンドンドンドン!

 

道路工事のような振動音…どう考えても、この小刻みで力強いスタンピングは、リザだろう。朝から、どうした?

 

「あっ!お、お、お目覚めですね♪」

 

真っ赤な顔のリザ…尻尾は元気良く、床を叩いている。

 

「どうした?」

 

「いえ…わ、わ、私なんか…娘で…いいんですか?」

 

あぁ、その件で嬉しさ爆発か?朝からハイテンションだな~。羨ましい。

 

「言っただろ?リザとタマとポチは娘枠だって」

 

「お父さん?」

 

「お父さんなのです♪」

 

タマポチが天井近くまでジャンプして、俺に急降下してきた。こいつら、嬉しさの表現が過激だ…家が壊れないか心配である。

 

「起床係のミトはどうした?」

 

後輩氏のことが心配な俺。俺を起こすのは、入社以来、アイツの役目だろうに…

 

「部屋からまだ、出て来ないよ」

 

って、リーン。何か遭ったのか?ミトの部屋へ向かった。

 

------

 

ベッドにまだ寝ているミト。

 

「どうした?俺より寝坊って、この世の終わりか?」

 

「終わらないよ。これくらいじゃあね…」

 

どこか、元気の無いミト。

 

「何が遭ったんだ?」

 

「それは、こっちのセリフだよ。妹のボーイフレンドだなんて、知らなかったよ」

 

うん?

 

「ミトに妹っていたのか?」

 

「えっ!そこから、認識がズレていたのか…結構、顔は似ているんだけど…」

 

顔が似ている?はて…あれ?えぇぇぇぇ~?まさか…そう言えば、ミトの実家って…うげっ…

 

「理解してくれて、嬉しいよ。同じ家の娘だったら、普通は姉妹だとわかると思うけど」

 

「わからないって、オタケと出逢ったのは小学生の時だし、後輩氏と出会ったのは就職してからだぞ」

 

どんだけ、タイムラグがあると思っているんだ。

 

「えっ?知らないで、私を好きになったの?」

 

何が言いたいんだ?まぁ、肯定なので、頷く俺。

 

「おいおい…私の考えすぎかよ~。まったく、先輩ときたら…」

 

ブツブツと言っているミト。俺が悪いのか?朝から、何を言いたいのだ?

 

「で、何が言いたいんだ?」

 

俺の言葉に呆気に取られているミト。俺、何か変な事を言ったか?

 

「それすら、気づいていないのか…あぁ、私が愚かだったよ。そうだ、先輩は何時だって…」

 

顔が真っ赤になっていくミト。

 

「おい?変な物でも食ったのか?」

 

「あぁ、田中一郎っていうゲテモノをねぇ…はぁ~」

 

俺を食っても、美味しく無いと思うに一票だ。

 

「不死者なんか、食うなよ」

 

「あぁぁぁぁぁ~!そういうことじゃ無いんだよぉぉぉぉぉぉ~!まったく、先輩ときたら…うぅぅぅぅぅ~」

 

今度は泣いてしまった。どうしたんだ?こういう時は先輩を…『強奪』して呼び出した。

 

「おい!こんなシーンに呼び出されても困る」

 

呼び出した先輩に、泣き付くミト。アレの日か?

 

バキッ!

 

ミトの後回しけりで、なぎ倒された俺。なんで?

 

「今のは、アールが悪い」

 

って、先輩。そうなのか…今度は俺がブツブツ言いたくなった。

 

「ヒカルに妹って、初耳だぞ」

 

って、先輩。「えっ!」って表情のミト。

 

「妹がいたのか…どんな妹?」

 

「一卵双生児だよ」

 

「じゃ、会っても判断は難しいのか」

 

そう思う。

 

「それより、オタケに姉がいたことに驚きだよ」

 

「はぁ?」って表情のミト。二人一緒の時には会っていないはずだ。

 

「竹子がいなくなったのは、いつ知ったの?」

 

泣き止んだミトに訊かれた。

 

「満月の夜…いきなり神楽が聞こえてきて…月に向かう黒い点が見えたから…」

 

「あの日に…なんで、確かめに来なかったの?」

 

不思議そうな顔のミト。

 

「だって、あの日以降も会っていたし…」

 

「え?いなくなった後も?」

 

「うん、時間になると鳥居から出て来たんだよ。で、いつか、時が来たら、一緒に生きられるって、喜んでいたし」

 

正直に答えているのに、ミトの表情は冴えない。

 

「どうして、言ってくれなかったのよ~!」

 

千日手の予感。

 

「だから、ミトの存在は知らなかったし、オタケの居場所を、オジサンもオバサンも知っていたから」

 

「え…お父さんとお母さんは知っていたの?」

 

何を驚いているんだ?それは、家族の問題で有り、俺の問題では無い。

 

「知っていたよ。君にはあの子が見えるのって、訊かれたもの」

 

何かショックを受けているミト。

 

「だって、おかしいでしょ?私達は双子だよ。なのに、一人はカグヤって…」

 

「ミトは、カグラじゃないか。何を言っているんだ?」

 

ミトの目が点になったように、驚いている。

 

「今…なんて言った?」

 

「何を言っているんだ?」

 

「違うって!その前だよ~」

 

その前?なんだっけ?はて?…しばし考える…あぁぁ、そうだった。

 

「一人はカグヤで、もう一人はカグラだ。オバサンが言うには、二人が一つの篭に入っていて、名前が既についていたって。で、双生児の実子として戸籍を登録したって」

 

「初耳なんですけど…なんで、先輩が知っているの?私が知らないのに…」

 

そんなことを言われても…それこそ、家族の問題であって、俺の問題では無い。

 

「う~ん…そこだな、問題は。なんで、オジサン達はヒカルには言わなかったのかだ」

 

先輩が顎を撫でながら、問題を提起してきた。

 

「知られたくなかったんだろ?本人が知れば、神様が見つけちゃうから…オタケのように…」

 

顔から血の気が引いていくミト。今朝のミトは変幻自在だな♪

 

「私が…竜の伝説を知ったから…竜の姫と私を重ねたから、私はここに神様に連れて来られたのか…」

 

ミトが凹んでいく。

 

「それは知らない。そもそも、竜の伝説を俺が知らないからな」

 

「ごめん…兄ぃ…兄ぃを呼び込んだのは、私のせいかもしれない」

 

先輩に、再び泣きすがるミト。二人にしてやるのが、粋ってもんだと思い、部屋に先輩とミトだけを残して、部屋を出た。

 

--------

 

朝から一悶着があったので、今日は潜らずに、昨日の魔核をギルドへ売りに行った。転移したもんで、出口を通っていないし。まぁ、状況はアルちゃんが説明してくれたので、お咎めは無しだが…

 

「こんなに狩ったんですか?アルエトン将軍から、有り得ない狩りだったと聞いていましたが…」

 

買い取り担当官の顔色は悪い。まぁ、『強奪』で区画の主を呼べるだけ呼んで狩ったし…

 

「で、下層へ行ってもいい?」

 

「ギルド長と相談させてください。侯爵様は、乱獲しすぎですよ…」

 

担当官に耳打ちで、ここの迷宮核を所持していることを伝えると、さらに顔色は青白くなっていく。

 

「いつの間に…契約されたんですか?所有者が見付からずに、困っていたのに…」

 

元の所有者は賢者トーヤだった。死人だから、見付からないのは当然だ。で、偽核なので、所有者が死んでも、結界に護られて、設定通りに動いていただけである。

 

「まぁ、色々と…だから、その分のマナは源泉から供給するようにしているから、資源は目減りしないよ♪」

 

源泉はマナを発生、備蓄し、迷宮は多少のマナを発生し、マナを消費して、魔物を作りだしている。なので、乱獲すると、減った分の魔物を作る為のマナが不足となり、迷宮が枯れていくらしい。なので、アーシアに頼んで、乱獲分を自前で補填しているのだった。

 

--------

 

買い取り額査定は、後程ってことで家に戻り、昨日の獲物達を仲間総出で、喰える部分に解体し、珍味料理のテストをしていく。

 

「カツオの叩き…旨い」

 

って、リーンが、がっつり食っている。実際はカツオ似の魔物であるけど。

 

「ナマコの酢醤油和え…軟骨感があっていいなぁ」

 

って、ルスス…だが、そのナマコ似の魔物のエサを知ったら、食えなくなるに一票だ。冒険者の死体を食っていたんだが…これは内緒にしておくか…

 

意外だったのは、ミーアが迷宮蜂の子供のハチミツ漬けに、はまったことか。材料の正体を知ったアリサは引いていた。だけど、ポチ、タマは、ミーアと一緒に食っている。どうもミーアは肉はダメだが、昆虫系はセーフらしい。

 

「今日は料理教室か?」

 

って、先輩。ミトは立ち直ったようだ。先輩の隣に、目を腫らして立っている。衣服に乱れがまったく無いのが、不自然ではあるが。

 

『ヒカルに手は出さないよ』

 

って、先輩からメッセージ。

 

『弱り切った乙女に、手を出せないんだよ、兄ぃは!』

 

って、ミト。まぁ、俺だったら、ミトを押し倒すのに…

 

バキッ!

 

しまった!心が丸見えだった…ミトの鉄拳制裁が、俺に炸裂した。みんな、よくある風景ってことで、誰も動じていないし…とほほ…

 

「先輩!竹子と私、どっちが好きなんだよ~!」

 

殴っておいて、その質問って…卑怯だ…俺の目の前で、拳骨をちらつかしているし…

 

「身体はミト、心はオタケかな?」

 

バキッ!

 

正直な俺の答えは、ミトの拳骨で沈んだ…

 

「お前…私の身体目当てか?」

 

「はぁ?そもそも、オタケとはそういう関係に無い。そもそも、顔の見た目は同じ二人だし、どう優劣を付けろと?胸の大きさも、俺にとっては誤差の範囲のストライクゾーンだし。敢えて、答えを出すと、食ったことのあるミトは身体で、食ったことの無いオタケは心になるんだよ」

 

たぶん男として、最低な言い訳を熱弁する俺。なぜか熟れたトマトのように、真っ赤な顔になったミト。

 

「そうだね…先輩の言う通り…ゴメン…殴って…」

 

ミトをスルーして、先輩に、ここまでの成果を味見して貰った。

 

バキッ!

 

スルーした為に鉄拳が俺を襲う。まぁ、痛く無いし、スルーだな。

 

「材料を訊くのが恐いが…ハチミツ漬けと酢醤油和えは好きだよ」

 

そう言ってくれたのに、アリサが先輩の耳元でゴニョゴニョと…その結果、顔色が優れない先輩。

 

「おい!共食いになるだろ?」

 

ナマコ似の魔物の件のようだ。

 

「内臓は抜いてありますよ。だから、セーフかと…」

 

内臓は、ナマコ似が生息していた辺りに、強制転移で捨ててある。きっと未消化分は、食べてくれるはずだ。

 

カツオ似やマグロ似の魔物などは、先輩のストレージに移していく。珍味じゃなく、王道料理に使えるから。

 

そして最後に、問題ある食材を先輩と共に、研究する。見た目クラゲであるが、ホイミスライムにも見えなくも無い。

 

「これはスライムじゃないか?」

 

クラゲは食えるが、スライムは喰えない。ここが問題である。実験するにも、危険がある。ホイミ系ならば、軽傷程度で済むとは思うのだが、ベスとか緑のとかの別種だと危険である。

 

「お前が喰えば、死なないんだし」

 

って、先輩。

 

「いや、死なないから、毒性がわからないんですよ」

 

「なるほど…じゃ、持って帰って、化学分析してみるよ」

 

ってことで、決着はした。

 

海藻類も海苔以外は、似た魔物がいたので、採取はしてある。ワカメ、コンブの代用にはなりそうである。

 

「海苔かぁ…コケみたいなヤツを採取してきてくれ」

 

あぁ、コケで代用か…その手はあるなぁ。先輩の要望をメリーがメモに書いていく。ゼナとリーン、フィフィが、生息地のマップを書いている。注文の入った食材をいつでも狩りに行けるようにってことらしい。

 

「問題は迷宮ゴキブリだな。あれ、喰えないもんな…」

 

喰うところが無い。固いので、装備品の素材向きであるが、一つ一つのパーツが小さいので、作るのも大変である。100匹程度では、1つの装備すら出来ないだろうし。

 

「まぁ、トレインで出ない限り、スルーでいいんじゃないか?」

 

って、先輩。そうだけど…たまに間引かないとトレインされたら大惨事になると思える。あいつら、オリハルコンなどの伝説級素材以外、何でも食うし…

 

-----

 

ミトと共にリリアンに呼び出された。

 

「どういうことだ?」

 

どの件だ?やらかしたことが多すぎて、わからない。

 

「何の話でしょうか?」

 

ミトが訊いてくれた。

 

「迷宮核の件だ。そもそも、前所有者はどこにいたのだ?」

 

前所有者の行方が分からず、王都直轄領の迷宮都市でありながら、都市核、迷宮核共に、王都サイドに所有する者がいなかったが、それを隠蔽して今日まで来たらしい。

 

「都市核も契約したけど…」

 

「な、な、なんだと…貴様!」

 

杖を俺に向けたリリアン。しょうがないだろうに、まともに探さない方が悪いだろう。

 

「なので、ここは俺の領土だ♪」

 

「貴様…ここは王都直轄領だぞ!」

 

「だから?契約したのは俺だ。なんか問題でも?」

 

ミトは苦笑いして見ている。

 

「没収する」

 

「ならば、渡す前に、破壊する♪」

 

「貴様…どこまで、権力を手に入れるつもりだ?」

 

「権力?興味は無い。政治関係はミトに丸投げだよ」

 

そんなメンドーなものに興味は無い。

 

「前所有者はどこにいたんだ?」

 

「既に故人だよ」

 

「はぁ?なんで知っているんだ?」

 

「彼の作った人工迷宮とも契約をしている。俺の仲間には相続人がいる。なんか問題あるか?」

 

「何…くそっ!」

 

「税金の一部を、俺の領土に還元してくれ。それで、手を打つ♪」

 

緊縮財政から脱出出来るかもしれない。

 

「だから、ここは王都直轄領だと言っているだろ?」

 

「王都の地下迷宮の核も所有しているんだけど…」

 

「はぁ?貴様…国賊か…ミト様、どういうことですかぁぁぁぁぁ~!」

 

あぁ、そんなに興奮すると、血管がぷっちんするぞ♪

 

「聞いた通りですよ。所有者に所有権があるはずです♪」

 

「ミト様…」

 

「だから、今まで通りでいいんですよ。ただ、税収の1%は、アルジェント卿領へ、還元してください。アルジェント卿は、君臨はするけど統治はしませんから♪」

 

「なんてことを…王都で問題になりますよ!」

 

「なら、戦うか?」

 

リリアンの顔から血の気が引いていく。

 

「俺は構わない。どうする?」

 

「貴様…卑怯だぞ…武力で物事を決めるなんて…」

 

はぁ?リリアンがしようとしているのが、それでは無いのか?

 

「リリアン、あなたの負けよ♪」

 

ミトが涼しげな顔で、リリアンを見つめると、リリアンは凹んだようだ。

 

「良かったね~。ニナさんが喜びそうだわ♪」

 

ミトが喜んでいる。なら、いいか♪

 

 



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ゆく年くる年

06/13 誤字を修正


年末…この世界でも年末があるらしい。

 

年末年始休みって概念は無いようで、新年早々、王都で会議があるそうだ。重役クラス、要するに爵位持ちは参加だという。先輩のような、なんちゃって士爵は参加しなくても良いそうだが、俺は侯爵なので、ミトとともに参加になったそうだ。

 

「先輩、会議だと寝ちゃうよね」

 

企画会議…説明や口論が子守り唄に聞こえ、寝てしまう。俺に取ってのささやかな昼寝タイムのようなものだ。

 

「まぁ、ミトが起こしてよ」

 

「う~ん、そうなるのか…」

 

中層で食材を仕入れ、転移術で王都へと転移した。あれ?ミトも転移術を持っている。レベルアップで覚えたのか?

 

「竹子に貰ったんだよ。無いと不便だからって。どこかの誰かを回収するのに、必須でしょ?」

 

どこでも寝ちゃう俺のことか?

 

--------

 

ミツクニ邸で、年末年始の料理計画を立てた。

 

「新年の一日目から会議だよ。だから、年末にお節は作り終えてね、兄ぃ!」

 

ミトが先輩に希望を伝えた。

 

「どうにかなるかな。問題は年越しソバだな。そば粉が見付からない」

 

エチゴヤでそば粉を捜索しているが、見付からないようだ。

 

「うどんなら、作れるけど…」

 

この世界には小麦、米はある。なので、醤油、味噌、日本酒、みりんなどは作れるようだ。問題は良い麹菌がまだ見付かっていないらしい。

 

「お雑煮はどう?」

 

「もち米は見付かった。今、試作をしているところだ」

 

王都にあるエチゴヤの裏手に醸造所を作った先輩。

 

「料理は、俺とルル、リザ、アリサ、ゼナ、セーラで作る」

 

「じゃ、先輩は、珍味系をお願いしますね」

 

って、ミト…珍味か?う~ん…エチゴヤの食材倉庫へ向かった。全国各地の食材を集めて、置いて有るそうだ。先輩のチート能力で腐敗もせずに、保存出来ている。

 

おっ!がごめコンブがある…数の子無いかな?

 

「数の子は無いよ」

 

って、先輩。無いのか…

 

「アジは?」

 

「なめろうか?味噌がまだ完成していない」

 

そうなのか…一旦、屋敷に戻り、セーラ、リーンと共に、公都へ転移した。ここの市場で買い物をする為だ。商店街のような場所に連れて行って貰い、店の品揃えを確認していく。おっ、梅酢があるのか。ならば…梅干しをゲット。

 

「この朱いのはなんだ?」

 

リーンが試食。

 

「なんだ、これは…酸っぱい…」

 

食べ慣れない者にはつらい食い物であるが、アリサ、ミト辺りは感激するに違いない。うん?塩…塩が何種類もある。海塩、岩塩、人塩…へ?人塩ってなんだ?セーラに訊いた。

 

「あぁ、それは、神の裁きに遭い、塩化した人を原料にした塩です。共食いとも言えなくないですが、一番安い塩になります」

 

暗い表情のセーラ。

 

「炊き出しなんかで、使っていました」

 

と。そうなのか…この世界の神は裁きとして、塩化させるそうだ。なんで、塩なんだ?魔除けかな?

 

うん?「塩漬け魚卵」と書かれた物を発見。これって…数の子だ…塩漬けなのか…水抜きすれば、良いのかな?ここは1つ、大人買いをした。使い切れない分は、エチゴヤが引き取ってくれるらしい。

 

次に魚の市場へ…雑魚が一山…安い。これも大人買いした。

 

「そんな物、どうするんだ?」

 

リーンに訊かれた。

 

「食うんだよ。珍味担当だからね」

 

じゃこ天とかかまぼことか…そうなると石臼か、擂り鉢がいるな。道具屋さんを巡った。

 

-------

 

試しに、じゃこ天にチャレンジ。小さめの魚の内臓だけを取り、擂り鉢でする。そして、山芋を和えて、揚げる。

 

「これはなんだ?」

 

カリナが食った…

 

「なんだ、これ…うまい…」

 

「生姜か、ワサビを載せてみな」

 

言われた通りにするカリナ。

 

「旨い…はぁ?雑魚がこんなにうまいのか?」

 

カリナの声で、アリサ、ルルが味見をし、

 

「じゃこ天…懐かしい…」

 

って、アリサ。

 

「美味しいですね。どうやったんですか?」

 

ルルに製法を伝授した。問題はかまぼこである。雑魚ではダメだって気づいた。そうだ、白身の魚、鱈とかグチじゃないとダメだったよな…

 

「これはなんだ?」

 

リーンが松前漬けを食した。

 

「う~ん…」

 

イマイチだ。それはそうだよ。

 

「魚介の漬け物だ。熟成させないとダメだよ」

 

「なるほど…」

 

「なぁ、ナマコの酢醤油和えは無いのか?」

 

「あるけど…」

 

リーンにナマコ料理を出した。群がる、酒好き軍団。宴会になりそうだな。

 

---------

 

年末と言えば、クリスマスである。この世界にはそういう風習は無いようで、ミトに頼まれて、ケーキ造りを始めた。

 

スポンジを焼き、果物を敷き詰め、クリームでコーティング…

 

「おぉ~!ケーキだ…」

 

アリサの目が輝いている。ミトもか?

 

「先輩は何気に、甘味系は得意ですよね」

 

って、ミト。

 

「糖分は脳ミソの栄養だからな。徹夜仕事の時に、欲しくなるんだけど、店が開いていない時間だから、よく作って食べたよ」

 

ブラック企業の職場の想い出は、何故か消えない。消えて欲しいのに…

 

「アリサがサンタの衣装を作ったんだけど…」

 

ミトが困った顔だ。何か問題が有るのか?おぉぉぉ…これは…女性専用露出の多いサンタ衣装である。セーラ、ゼナ、ミトが着ている。あらぬ妄想が脳裏を駆け巡っていく。

 

バキ!

 

やはり…ミトの鉄拳が飛んできた。

 

「聖夜に何をしようと言うのかな?」

 

露出の多いサンタさんを白い袋に詰めて、袋の上からお触り…

 

「もっと、ロマンティックな妄想してくださいね、先輩♪」

 

バキ!

 

ですね…

 

ケーキは5ホール程作った。一つは王様に献上すると言う。最後にデコレーションを施していく。マジパンでサンタさん、トナカイを作り、上から、粉砂糖を篩う。

 

「う~ん…アールが、そんな物を作るとは…」

 

先輩が驚いている。ふふふ♪実は残り4ホールの中に、ロシアンルーレット的なホールを混ぜておいたのだ。

 

そして、クリスマス・パーティーインミツクニ邸の開幕である。ローストチキンなどが並び、ケーキのピースをサーブしていく。

 

「わぁ、綺麗…中が紅色んだ♪」

 

パクッ!

 

運悪くミトが一口食べた…震えているミト。

 

「なんだ…これって、梅干し…へぇ~隠し味なんだ♪」

 

あれ?喜ばれている上に、売れ行きが良い。失敗かぁ~。

 

「うっ!抹茶じゃなくて、ワサビか…」

 

先輩が爆弾を引いたらしい。

 

「だけど、悪く無い。そうか、こういうのも有りだな」

 

あ…また、不発のようで、売れ行きが良い。仕込んだ爆弾ケーキが最初に無くなった。こんなはずでは…

 

--------

 

大晦日…お節の製作が急ピッチで行われている。奇跡の料理人の先輩は、ソバ探しに出てしまった。おい!シェフは留守なのか…

 

白身魚が手に入り、かまぼこ製作を開始。紅白の2種類作らないと。アリサは、だし巻きと伊達巻きにチャレンジ、ミトはリーン、カリナと餅つきをしている。

 

「有ったぞ♪」

 

先輩がそば粉をゲットしてきた。喜ぶ転移組、転生組。そうなると、テンプラがいるんではないか。ルルと共に、テンプラを揚げていく。

 

ふと、窓の外を見ると、満月が見えた。そうだ、行かないと…

 

「ミト!ちょっと出掛ける」

 

「えっ?年越しソバは?」

 

「間に合えば、食べるけど…じゃな♪」

 

俺は、転移をした。待ち人の元へ…

 

----------

 

二人で、満月の月明かりに照らされて、会話を楽しんでいた。見た目はおかしなカップルだろうな。リビングスケルトンとお姫様であるから、美女と野獣よりも、おかしなカップルかもしれない。

 

「お兄ちゃん…」

 

「カグヤ…」

 

俺にとっても、カグヤにとっても、長い年月が経ったものだ。二人で肩を抱き合い、満月を見上げている。

 

「竹子…」

 

うん?ミトが転移してきた。

 

「あれ?お姉ちゃん…年越しソバは?」

 

「三人分、配達に来ました♪」

 

おかもちを手にしているミト。満月を見上げながら、三人で年越しソバを啜る。スケルトンがソバを啜るって、間抜けな絵面の気がするが…

 

「「気にしちゃダメ♪」」

 

って、ステレオの声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、竹子…私って、何者なの?」

 

ミトが訊いた。

 

「お姉ちゃんはカグラだよ。アコンカグラの依り代…彼女はドラゴンだから、愛しい彼に会う為の依り代がお姉ちゃんなんだよ」

 

天竜がテンちゃんになるようなことかな?

 

「竹子は?」

 

「私はカグヤ。満月の日にしか、地上に降りられない。でも、お兄ちゃんは忘れないでいてくれた。だから、とっても幸せだよ。まぁ、不憫なのはお兄ちゃんの方だよね♪」

 

えぇ、不憫です。不死王って何?

 

「でも、これで何時までも一緒にいられる。この世界がなくなったら、一緒に月で暮らせる。まぁ、この世界は無くならないけどね。お姉ちゃんがいる限り♪」

 

昔昔大昔、月とこの星は同じ星であった。だけど、地殻変動で、二つに分かれた。なので、二人は一卵性双生児なのである。カグヤもカグラも、月とこの星、その物であった。

 

空が明るくなっていく。もう夜明けが近いようだ。

 

「じゃ、お兄ちゃんまたね♪お姉ちゃん、不憫なお兄ちゃんをお願いね♪」

 

カグヤは月へと戻っていく。俺はミトを残し、正妻の元へと転移した。

 

-------

 

「待っていたわよ、ダーリン♪」

 

巫女姿のアーゼ。新年の神楽舞いによる祝いの奉納をするそうだ。アーゼの婚約者である俺は、アーゼの舞いを見ないといけないらしい。

 

「じゃ、そろそろ始めましょう♪」

 

舞台に上がり、舞いを披露するアーゼと巫女姿のエルフ達。そのバックの窓から、新年の光が届き始めていた。

 

一糸乱れぬ舞い…それは幻想的で有り、形式的であり、情熱的であった。呼吸の乱れは無く、呼吸を合わせて、エルフ達がハイエルフを中心に据えて、舞いを舞っている。光が徐々に強くなっていく。アーゼの姿が幻想的に霞んだり、輝いているように見え始めた。

 

そして、アーゼのバックに後光が差し、舞いは終わった。

 

「これで、一年間は幸せになれる…ダーリンと共に♪」

 

世界平和の祈願では無いのか?俺とアーゼの家内安全の祈願なのか?みんなの見て居る前で、唇を重ねるアーゼ。おい!いいのか…

 

「これで、夫婦だよ、ダーリン。きゃはっ♪」

 

え?婚礼の儀でもあったらしい…なんか負けた気分だ。嵌められた…凹む俺…

 

------

 

その後、アーゼと共に、王様の前に…アーゼが王様に、婚礼の儀が無事に終わったことを告げた。

 

「それは、めでたいですな~」

 

めでたくない…知らない間に結婚式があったとは…

 

「えぇ、これで、ダーリンとは夫婦です。ダーリンを虐めないでくださいね」

 

「えっ!虐めていませんが…」

 

「それなら良いですが…」

 

アーゼを職場へ送り、俺は爵位持ちの会議へ…お節料理は?お雑煮は?

 

議題は、俺の処遇だった。王都の迷宮核と、迷宮都市セリビーラの都市核と迷宮核を所持していることが問題だそうで…セリビーラの件は、偽核なのだけど…だけど、問題として問い詰める会議では無く、俺を公爵へする会議らしい。

 

「将来的にはオーユゴック公爵領も、アルジェント卿の領地になる訳だし。どうかな?」

 

って、王様。

 

「どうって…」

 

「セリビーラは王都直轄領であるが、アルジェント卿の領地でもかまわない。どうかな?アルジェント卿よ」

 

って言われても。

 

「では、アルジェント卿を公爵に任命する。私からの祝いじゃ」

 

って、俺に跪く王様。って、まさか結婚祝いか…ミト、義父さんが立ち上がり、拍手をしている。くそぅ~、謀られた。知らなかったのは、俺だけか…

 

そして、この日の会議は閉幕した。次の議題は明日らしい。

 

 

凹んで帰る俺。後からご満悦のミトが続く。

 

「みんな!アルジェント卿が、公爵に承認されたわよ~♪」

 

俺の目の前で鳴り響くクラッカー。まさに、俺だけが知らなかったようだ…

 

「そうなると、ミト様は、別居ですか?」

 

「うん?同居するわよ。いないと困るもの♪」

 

ミツクニ公爵付きというより、王祖付きの公爵らしい…

 

----------

 

「おい!会議に遅れるぞ~」

 

後輩氏の声…

 

「後10分…」

 

「そうか、一日遅れの雑煮は要らないんだな♪」

 

目が醒める俺…

 

「要る…って、俺、昨日は何も食っていない」

 

「大丈夫だよ、不死王様だから」

 

餓死しないらしい俺。だけど、食いたい…ミトを

 

バキ!

 

お年玉代わりに、拳骨始めを貰った…

 



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SS:興味のるつぼ

06/05 誤表記を修正

第6王女システィーナ視点です。


新年を迎えた。と、いっても何か新しいことが始まる訳では無い。淡々と日々が過ぎていくだけである。王女と言って六番目にもなると、やることが無いので、城の地下にある蔵書庫へ行き、読書したり、歴史を調べたりして、時間を潰す。

 

うん?新しい地図が…改訂したてのようで、裏面の紙の色は真っ白であった。昨日まであった地図とは、どう違うのか興味を持ち、眺めてみる。

 

「えっ!」

 

目を疑うような記述があった。ここ王都も、王都直轄地であるセリビーラも、ムーノ男爵領、オーユゴック公爵領、セーリュー伯爵領、クハノウ伯爵領、あとヨウォーク王国もだ…(アルジェント公爵領)と追記されていた。これは、一体?

 

膨大な領地である。アルジェント公爵という人物に興味を持った。どんな人物なのだろうか?他国まで領地にするって、武力を大量にお持ちなのだろうか?そして、王家に挑み、王都とセリビーラも領地にしてしまったのか?

 

爵位名簿を見てみると、アルジェント公爵は載っていなかった。まだ改訂されていないってことは、昨日の会議で公爵になられたのだろう。それは、王様が認めた者ってことだ。いや。武力で脅し取った可能性もある。

 

--------

 

誰から情報を貰えば良いかな?今日も会議が開かれている。参加されているのだろうか?お付きの者達と、貴族達の屋敷のある辺りを散策した。誰か、知り合いに会わないかな?

 

「あれ?システィーナじゃない?」

 

勇者マサキの従者であるリーングランデが声を掛けてきた。他国なのに、勇者も王都に来ているのか?リーングランデとは叔母と姪の関係であるが…待て…彼女は死んだはずでは…

 

「どうした?顔色が悪いぞ。セーラ、回復術を頼む」

 

「はい、お姉様」

 

彼女の妹…テニオン神殿で神託の巫女をしていたけど、殉職したはず…なんで、生きているの…あまりの恐怖で、意識が飛んだ私。

 

---------

 

意識が回復すると、ベッドの上にいた。ここはどこ?ベッドから起き上がり、ドアを開けて、様子を窺うと、賑やかな声が聞こえてきた。その声に釣られて…

 

「システィーナ、もう大丈夫か?」

 

赤ら顔のリーングランデ…とても、死人には見えない。酔っ払いのようだ…

 

「どうですか?新年会しているんです。一緒にいかがですか?」

 

セーラの顔も血色が良い。死んだと思えない顔である。

 

「あぁ、もしかして、オーユゴック姉妹にビビっているんじゃないの?死んだことになっているから」

 

え?あの人は…サガ帝国の王女のメリーエストじゃないの…なんで、ここに?

 

「あぁ、なるほど。そうでしたね。私達は死んだ事になっていましたね♪」

 

死んだ事?

 

「なんで、死んだ事に?」

 

「う~ん…部外秘なんで、ご主人様の許可が無いと、理由はお話できません」

 

ご主人様?結婚ってことか…

 

「セーラ!誤解しているぞ。アイツと結婚したって思い込んでいるようだ」

 

男性の声、顔を見ると…噂の奇跡の料理人であるペンドラゴン卿がリーングランデ達と杯を交わしていた。何…ここは何??

 

「結婚ではなくて、私達はご主人様の眷属ですよ」

 

眷属…サガ帝国の王女、神託の巫女、勇者の従者、そして、奇跡の料理人までも?誰の眷属なんだ?

 

「どなたの眷属なの?」

 

「アルジェント公爵様です♪」

 

とても嬉しそうに、主の名前を口にするセーラ。こんな子だっけ…って、アルジェント公爵って…私の探し人である。

 

「ここは、公爵様のお屋敷なの?」

 

「ここはミツクニ公爵のお屋敷なんですけど、同居しているんです」

 

ミツクニ公爵?爵位が空位になっていたはずだけど…

 

「これ、食ってみな♪」

 

リーングランデが、色々な料理の載った皿を手渡して来た。受け取って、食べてみた…美味しい…さすが、奇跡の料理人の料理だわ♪

 

「おいしいだろ?」

 

「うん♪」

 

「奇跡の料理人に負けていないと思うんだよ~」

 

えっ?ペンドラゴン卿の料理では無いの?でも、おいしいのは確かである。では、誰の?

 

「珍味は主様の右に出る者はいない♪」

 

知らない女性が声を上げた。主様?まさか、アルジェント卿の料理なの?武勲に長けた人物では無いのか?他国を占領するって…アルジェント卿のイメージが定まらない。一体、どんな人物なのであろうか?

 

「ただいま~♪」

 

「あっ、帰って来たのです♪」

 

女の子が、声のする方へ走っていく。

 

「ハンバーグ先生が欲しいのです♪」

 

「ハンバーグ?あぁ、ちょっと休んでからでいい?」

 

「はいなのです♪」

 

疲れ切った青年が現れた。先程の女の子を抱き抱えている。

 

「ミト…30分…」

 

「わかった。起こしに行くよ。誰か、希望はある?」

 

「ゼナかセーラで…」

 

「わかったわ」

 

奥へ女の子と下がる彼。寝るようだ。あっ、女の子だけ戻って来た。

 

「この子は誰?」

 

今日二度目の目を疑う光景…なんで…この女性は、王祖様の顔に似ているの?

 

「システィーナ王女です。私達の叔母になります」

 

って、セーラ。

 

「ほぉ~、王女が新年早々、遊び歩くとは、この国は平和になったもんだ」

 

「あの…王祖様ですか?」

 

「それは部外秘だ。私はミト・ミツクニ公爵と名乗っている」

 

え…女性なのに、公爵なのか…って、ミツクニ卿?それは、王が引退した場合の爵位であり、現在は空位になっているはずの物である。

 

「えぇぇぇ~!ナマコ酢は?」

 

「もう無いです…」

 

「そんな…アイツを起こして作らせないと!」

 

ミツクニ卿は彼の元へと去って行く。ここはなんだ?興味が尽きない秘密がベールで隠されているようだ。

 

 

 

 



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迷宮都市へ

06/14 誤字を修正


今日も会議だ…新年明けて7日目まで有り、8日目に国民に向けて、会議の結果を発表しつつ、王様からの新年を明けてのメッセージがあるそうだ。

 

「領地持ちの爵位が一同に集まるのは、新年だけなの。だから、会議漬けになるのよ~」

 

って、ミト…なんか会議をする度に、俺が追い込まれていくのは何でだ?領地が増えているし…税収が増えるのは良いけど…迷宮資源管理担当大臣って何?会議をする度に役職が増えていく俺…シガ王国親善大使って何?お~い…

 

誰も俺の疑問に答えてくれない…

 

そして、会議最終日…

 

「アルジェント卿よ、王女を一人貰ってくれぬか?」

 

王様が難題を切り出した。

 

「側室はもう間に合っています…」

 

「そう言わずに…名ばかりな物で良いから、貰ってくれぬか?」

 

えぇぇぇぇ~!無理…もう…ダメだって…

 

「ミト様、いかがですか?」

 

俺が難色を示すと、ミトにお伺いを立てる王様。

 

「そうですね。システィーナ王女はいかがですか?」

 

システィーナって、最近家に出入りをしているヤツか…先輩好みであり、俺のストライクゾーンからは外れる胸の大きさなんだが…

 

「そうか、システィーナを貰ってくれるか♪」

 

えっ?!俺の承諾はいらないのか…俺の好みは?

 

『形式的な物よ♪』

 

って、ミトからメッセージ…義父さんを見ると、笑顔で頷いているし…はぁ~?

 

--------

 

新年明けて8日目…王様が国民に向けて新年のお言葉を述べている。俺は王家の人々と一緒に王様の後に並んでいた。

 

「そして、最後に、わが娘であるシスティーナが、アルジェント公爵と婚約したことを、ここに宣言する♪」

 

国民達から歓声が上がる。システィーナは知らされてなかったのか、俺の方を驚きの眼差しで見ている。スルーだな。まったく…

 

 

新年のイベントが終わり、裏に下がると、

 

「どういうことですか?」

 

って、システィーナが訊いて来た。

 

「王様に訊け!俺は拒否したんだけど…」

 

「拒否…なんで、拒否なんですか?」

 

「俺には側室が一杯いる。だから、もう無理だって、言ったんだよ」

 

事実を話す俺。

 

「正妻の座はどうなんですか?」

 

「もういるよ。新年の1日目に婚礼の儀をされた」

 

「どなたですか?」

 

スルーして、家へ転移した。

 

-------

 

家に転移したはずが、アーゼの元に転移してしまって、1ラウンド愛し合い、そして睡眠を取ってから、帰宅した。あれ?家にはシスティーナがいた。なんで?

 

「なんで、システィーナがいるんだ?」

 

「どういうことですか?ボルエナンのハイエルフ様が正妻って!」

 

問題はそこなのか?まぁ、スルーだな。

 

「ミト、これでゆっくり出来るのか?」

 

「まぁ、領地の見回りして、予算組みかな。それをすれば、ルーティンでいいと思うよ」

 

赤字だよな…どうするかな…何か産業でもあればいいけど…執務室へ行くと、メリーとニナが作業をしてくれていた。

 

「やっぱり、赤字だよね?」

 

「すぐには黒字は無理ですね」

 

「何か、産業がいるよね」

 

「農業はどうかな?」

 

って、アリサ。そういえば、アリサは祖国で農業改革をしていたような…

 

「アリサ、頼めるか?出来た作物はエチゴヤで買い取ってもらう。そうだ、ソバとか、手に入りにくい作物を頼みたい」

 

「う~ん、ソバかぁ…ペンドラゴン卿と相談してみるよ。問題は働き手だよ。どうする?」

 

「奴隷…奴隷制度を無くしたい。犯罪者の奴隷堕ちは良いとして、種族偏見の奴隷制度は無くしたいんだ。どうかな、ニナ」

 

「そうですね。良いと思いますが…いきなり無くすのは…」

 

「徐々にだよ。心根の良い奴隷以外は働き手にしない」

 

「わかりました」

 

-------

 

翌日、先輩と奴隷市へ…

 

「あの二人はえん罪で犯罪奴隷堕ちしたみたいだな」

 

って、二人の女性を顎で指した。一人は銀髪の女性。もう一人はアホ毛持ちの赤毛の女性だ。

 

「赤毛の方は『生活魔法』持ちだ。銀髪の方は書記官をしていたようだ。二人ともセクハラを拒絶したせいで、主により犯罪奴隷堕ちのようだよ」

 

「たった、それで、奴隷堕ち?」

 

「あぁ、この世界では、些細なことが命取りになる」

 

二人とも、酷い火傷を負っているようだ。火あぶりにされたのか?許せない。

 

「おい!暴走するなよ」

 

そうですね…狙いを付けた二人を強制転移させた。そして、奴隷商人達の売上金を『強奪』する。新たな奴隷の買い付けを出来なくする為、領地の赤字補填に使う為…

 

二人を転移させたミツクニ邸の地下室へ、先輩と転移した。俺達を見て、ビビる二人。まず、二人を奴隷という立場から解放した。そして、二人の怪我を治癒させていく。

 

「えっ…神聖魔法ですか…まさか、はぐれ司祭様ですか?」

 

セーラによると、はぐれ司祭とは、神に反旗を翻した司祭らしい。

 

「違う。そんな神聖な職業では無いよ。お前達に仕事を与えたい。真摯に働いて貰えるだろうか?」

 

「私…ティファリーザといいます。レッセウ伯爵の書記官をしていました。助けていただいたお心に報いたいです。どうぞ、私に仕事をください」

 

「私はネルっす。私もがんばるっす」

 

「じゃ、二人にはエチゴヤで働いてもらう。働きを見て、配属先を決める。いいか?」

 

「はい」

 

「はいっす♪」

 

「じゃ、先輩頼みます」

 

「あぁ、任せろ」

 

「あの…ご主人様のお名前を教えて下さい」

 

ティファリーザに訊かれた。

 

「俺はアールだ。先輩はサトゥーで、エチゴヤではクロと名乗っている」

 

「わかります。アール様にお仕えします」

 

「しまっす♪」

 

-------

 

暇を見つけては先輩と奴隷市へ行ったりして、人材と資金を確保していった。

 

「ねぇ、セリビーラの子供達って、どうにかならないかな?」

 

って、ミト。

 

「学校でも創るか?」

 

「そうね…問題は資金か…」

 

アリサの祖国だった領地を農業地帯にする為に出資し、手持ちの資金はあまり無い。

 

「稼ぐ?」

 

そうだな…セリビーラの迷宮で稼ぐか…

 

次の日から王都の屋敷から、セリビーラの屋敷へ引っ越す準備を始めた。と、言っても転移術持ちが3名いるので、引っ越し自体は楽であるが、挨拶回りは大変な作業だった。手分けして、挨拶へ回る。

 

奇跡の料理人である先輩は、色々な貴族に引き留められ、王都に残ることを懇願されていた。それに比べれば、俺とミトは知り合いが少ないから、楽と言えば楽かもしれない。

 

 

「え?王都を離れるのですか?」

 

って、王様。

 

「セリビーラのストリートチルドレン対策をしようと思ってね」

 

って、ミトが説明をしてくれている。

 

「なるほど、問題になるほど、溢れているのですか。そんな報告は無かったので、知りませんでした」

 

リリアンにとっては日常の風景であって、珍しいことでは無いのだろう。

 

「ですので、また来ます♪」

 

「アルジェント卿…システィーナをお連れください。お願いします」

 

って、王様に懇願された俺。困るって…ストライクゾーンじゃ無いし…

 

-------

 

翌日、荷物を満載した馬車で、家にやって来たシスティーナ。こんなに荷物があるのか?

 

「おい、着替えと最小限の化粧道具だけにしろ。じゃないと、連れて行かないからな」

 

と、釘を刺す。引っ越し先に、そんなに荷物は持ち込めない。

 

「え?これでも私は王女ですよ!」

 

メリーが冷たい視線を送ると、

 

「あ…わかりました。調整してきます」

 

と素直になった。王女として、メリーの方が格が上なのか?

 

「メリーエストは、先輩の側室の座では無く、先輩の片腕狙いだから…気迫が違うのよ」

 

って、ミト。まぁ、元クソ勇者の従者でもあったしな。気迫はスゴいのだろう。俺には優しい眼差しなので、わからないけど…

 

そして、転移術で、少しずつ引っ越しをしていく。最後に残ったのは、荷物の選別が終わらないシスティーナだけになった。

 

「まだ、かかるのか?」

 

「えぇ、もう少し…」

 

「じゃ、先に行くよ♪」

 

システィーナを残して、転移をした。

 

---------

 

引っ越し作業を終えて、セリビーラの屋敷を機能させていく。封印、結界をして、盗難よけしていたエリアを解放していく。

 

「飯は、うちでもいいぞ」

 

って、先輩。カリナと二人暮らしの強みで、もう機能しているようだ。先輩の家の一階は大広間と厨房が大半であり、生活スペースは2階にあるそうだ。

 

一方、俺達に家は、二人分の執務室に、二人分の資料庫と、結構仕事関係の部屋が多く、盗難防止対策が厳重にされていたのだ。

 

で、先輩の家で食事と思ったら、付近の貴族達がこぞってやって来て、引っ越しパーティーのようになっていた。厨房では、先輩、俺の他、ルル、セーラ、ゼナ、アリサ、リザが腕を振るった。

 

ミトが寄付金を集めている。学校設立の為に…それを見たメリーや、リーンなどもミトと同じように寄付を集め始めた。ティファリーザもだ♪

 

宴が終わり、自分達の屋敷に戻ると、

 

「アール様は公爵様なのですか」

 

ティファリーザが声を掛けてきた。

 

「まぁ、そんな感じだよ。でも、ため口でいいよ。みんなともそうしているし。メリハリを大切にしろ。いいな♪弾けたい時は弾けていいんだよ。そんな難し考えるな」

 

彼女の頭を撫でて上げる。「えっ!」って表情の彼女。優しく抱き締め、額に口付けを…

 

「明日からも仕事を頼むよ、ティファリーザ♪」

 

「はい、ご主人様♪」

 

--------

 

ティファリーザは元書記官ってことで、書類仕事になれていた。経理作業もこなせるらしい。なので、エチゴヤでの仕事の傍ら、メリーの仕事のサポートも頼んだ。ニナは旧ムーノ男爵領の執務があるので、ここに長期滞在は出来ないから。

 

仕事の増えたティファリーザは嫌な顔をせず、むしろ嬉しそうに仕事をしてくれた。これはこれで良いのだが、ストリートチルドレン対策は、難航している。

 

子供に農作業は辛いよな。って、農作業の前の開墾作業だし…う~ん…

 

「簡単な仕事をしてもらって、報酬にお小遣いと、炊き出しという給食なんか、どうだ?」

 

って、先輩。エチゴヤで、仕分けや、発送準備などの仕事があるそうだ。セーラも炊き出しに賛成のようだし。まぁ、働かないヤツには食わせないってルールで、試験運用してみることにした。

 

俺と俺の仲間達で迷宮の中層を攻める。海産物を狩る為だ。狙いは、魔核よりも換金率が良い、マグロ似の魔物だ。ポチとリザが張り切っている。リーン、ルスス、フィフィもだな。戦えることに喜びを感じているようだ。水中戦の苦手なタマは俺と、ナマコ狩りである。死体の傍にゴロゴロいるし♪

 

--------

 

アーシアの調べで、中層には迷宮村なる集落があった。そこは、迷賊とは違い、迷宮で暮らす人々の集落である。住民の中には犯罪歴のある者もいるが、村のルールに従っているので、間引く対象にはしていない。

 

「地上で暮らすなら、仕事を斡旋するよ」

 

って、村長に訊いた。

 

「地上は住みにくい。ここが楽なんだよ。気持ちだけ貰っておくよ」

 

って…地上に出ることは拒否のようだけど、俺達とは交流してくれるようで、物々交換による取引などをしている。ここではお金は意味を為さないから…

 

「有能な奴隷か…それは割といるぞ。貴族共は気にいらないと、犯罪奴隷に堕としたがるからな。特に、女性に多いぞ」

 

って、村長。村長も犯罪奴隷だったらしいが、逃亡してここに住み着いたそうだ。

 

「なら、犯罪奴隷の女性に絞って、探した方が良いかな?」

 

交流を深めるに連れて、俺の相談相手になっていた村長。

 

「そうだな。その方が当たりは多いかな。だが、本当の犯罪奴隷もいる、注意しろよな」

 

そうだね。悪女はどこの世界でもいるよな。

 

------

 

地上に戻り、先輩と奴隷市を見て廻り、有望そうな奴隷を強奪して解放し、売上金を強奪で没収していく。

 

仕事を終えて、屋敷の戻ると、知らない女性がいた。プロポーションはスレンダー系で、胸の大きさはストライクゾーンではある。

 

「この方は?」

 

メリーに訊いた。

 

「あぁ、ニナさんの紹介で、メイドとして働きたいそうですよ」

 

ニナさんの紹介なら間違いは無いだろう。

 

「あの…アルジェント公爵様ですか?」

 

女性に尋ねられた。

 

「そうだけど…君の名前は?」

 

「申し遅れました。ミテルナと申します。ムーノ男爵領の執務官であるニナ様より、ご紹介をされました」

 

ティファリーザが、彼女の履歴書を手渡して来た。王都にある王立学院卒で、「礼儀作法」「奉仕」「交渉」「教育」のスキル持つ未亡人とある。未亡人か…

 

「お子さんはいるの?」

 

「いません」

 

子育ては無理か…まぁ、所持スキル的にメイド向きであるな。

 

「わかりました。雇います。ただ、ミツクニ公爵も主として接してくださいね。一応、俺の上司ですから」

 

『一応ってなんだ?!』

 

って、ミトから…相変わらず、モニターしているのか…暇だな~

 

『暇って言うなよ!』

 

今日のミトはお怒りモードか?ミトの部屋へ行くと…あの日だった…

 

「まさか、突然、月の物が舞い降りるとは…」

 

久しぶりだそうだ。

 

「子供が産めるのか?」

 

「え…たぶん、産みたくない」

 

なんだ、それは…

 

「だって、子供産んだら、先輩と旅が出来なくなるから…」

 

「佐藤先輩と暮らせば良いだろ?」

 

「いや…それは…」

 

俯いたミト。かわいいなぁ…妄想しまくる俺。

 

「あぁ、今日はダメだよ。うん、絶対にダメだからね」

 

涙目のミト。更にかわいい…更に妄想しまくる俺。

 

「だから、ダメなんだよ…月の物が無くなったら…私が襲う!」

 

はぁ?なんだって…拳骨をちらつかせているミト…危険が一杯である。そそくさに、部屋から退散した俺。

 

 

 



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波乱の食事会

翌月…システィーナが飛行艇でセリビーラへやって来た。あの大荷物と共に…そして、何かを勘違いして、隣の先輩の屋敷へ荷物を運び込んでいる。今の時間帯はカリナと共にエチゴヤへ出勤しているはずだ。

 

夕方、先輩が転移してきた。

 

「あれってどういうことだ?」

 

「あれって何?」

 

ミトが応対した。

 

「システィーナと大荷物の件だよ」

 

「兄ぃが気に入ったんじゃ無いの?システィーナの胸に視線が釘付けだったし!」

 

ミト的な問題はそこらしい。ミトの胸は先輩のストライクゾーンにほど遠いから。

 

「え?それで、俺なのか?いや、興味はあるが…あの荷物はなんだ?」

 

なんだろうね?

 

「アール、なんとかならないか?」

 

俺?ストライクゾーンでないけど…

 

「なんともならないですよ。興味なし」

 

でも、先輩の裏稼業に影響が出るとまずいよな…システィーナの膨大な荷物を、王様の部屋へ強制転移させた。で、システィーナを…

 

「荷物は退かしましたよ。彼女は先輩のベッドの上に、全裸で頭に黒い袋を被せて、手足を拘束して、転がして起きました」

 

「先輩、エロマンガの見過ぎでは?」

 

って、ミト。そうかもなぁ~。ミトにしてみたいな…

 

バキ!

 

「私に?う~ん…ダメ!絶対ダメよ!妄想もするなぁぁぁ~!」

 

バキ!

 

真っ赤な顔で、涙目で俺を見つめるミト。こいつは、何を想像したんだ?

 

バキ!

 

う~ん…ミトの心の内が見えない…不公平だ!って、先輩は、もういなかった。自分の屋敷に戻ったのかな?

 

---------

 

翌日…先輩は凹んでいた。王女を助けようと…王女の豊満な乳を前にして…野獣になったそうだ。

 

「兄ぃが野獣?想像できないなぁ。先輩は容易にできるけど」

 

まぁ、野獣以下ですから…

 

「おい、そこ!早速妄想するんじゃない!」

 

野獣がミトをヒィヒィ言わしている風景…迂闊にも妄想してしまった。

 

「で、責任は取るんだよね?」

 

力無く頷く先輩。俺達にも言えない行為をしたらしい。どんだけ変態プレイだったのやら…想像すると、ミトが恐いので、やめておく。

 

「まぁ、両手に巨乳で、さぞかし幸せなんでしょうね」

 

怒りに塗れたミトの言葉。巨乳は人類の敵なのか?

 

-------

 

領地の見回り点検の日…面倒だ…広すぎるだろ、領地がさぁ。

 

「うだうだ言わないの!」

 

心に思っただけで、文句が飛ぶ。こいつ、どんだけ俺の心を見ているんだ?そうか、俺のことを本当は…

 

バキ!

 

「先輩は先輩であって、兄ぃではない。そこを勘違いするなよ!」

 

拳骨をちらつかせるミト。はぁ~、そうなのか…凹む俺…

 

まず、旧ムーノ男爵領…ニナの元へ。

 

「問題は税収くらいですよ」

 

だよな…

 

「留学生はどう?」

 

「鍛冶場を作る資金が…」

 

そうか、スミスを養成しても、仕事場が無いのか…

 

「それは、どうにかする。それで、作るのは武具でなくて、農作業具にして欲しいんだよ」

 

「あぁ領内で使うんですね。その方針を伝えておきます。それでですね…たまにはご褒美を…」

 

俺の耳元でゴニョゴニョ言うニナ…かわいいなぁ…ニナの要望を叶える。彼女の部屋で2時間ほど…で、満足そうな顔のニナを部屋に置き、次の視察先へ…

 

オーユゴック公爵領…公都へ転移した。セーラとリーンを義父さんの元へ届け、残りの者でテニオン神殿へと向かった。

 

「アール様、いらっしゃいませ。ミト様、お元気ですか?」

 

巫女見習いとなったリリーが出迎えてくれた。俺以外の者達は神殿へと入っていく。俺は、魔なる存在なので、入らない。そんな俺を申し訳なさそうに見つめるリリー。

 

「気にするな。慣れているよ」

 

「でも…」

 

「お久しぶりです、アルジェント卿」

 

神殿の中から神殿長が出て来た。

 

「お久しぶり♪どう、問題はあるか?」

 

「炊き出しが…」

 

調理出来る者が不足しがちらしい。安全面から、炊き出し自体は、神殿前の広場で行うようにしているようだ。なので神殿内の厨房で調理は出来るらしい。

 

「専任の調理師が要るんだな…ペンドラゴン卿に相談して、調理師学校を設立できるか、検討してみるよ」

 

「ありがとうございます」

 

神殿からミト達が出て来た。お祈りをしてきたようだ。次は…クハノウ伯爵領か。

 

 

クハノウ伯爵と歓談。ここでも問題点を訊き出す。

 

「税収は少ないですよ。ここは都会では無いですから」

 

どこでも税収は不足しがちのようだ。まぁ、領民のことを考えると、高くは出来ないよな。ムーノ男爵のような高率には出来ない。

 

で、イネちゃんの処へ行き、イネちゃんの師匠である魔法使いと歓談して、今日の宿泊地であるセーリュー市に着いた。セーリュー伯爵とは明日、会う予定なので、宿泊予定のゼナの家へ行き、俺とアーシアだけ、迷宮核の調整へと出掛けた。

 

調整と言っても、特に問題は無いようだ。ゼナの家に戻り、夕食をご馳走になる。

 

「公爵就任おめでとうございます」

 

義父に祝って貰った。

 

「ゼナが幸せそうで、嬉しいですよ」

 

「もぉ、お父様ったら♪」

 

両親の前で、ゼナが饒舌である。気が休まる環境なんだろうな。この家は。

 

「で、この街の亜人差別は無くなりましたか?」

 

「根強いです。完全に無くすには、時間がかかるかと思います」

 

この街は、貴族だけでなく、街の人々も差別感情を持っているものな。公爵となっても、宿に泊まる際は、リザ達は馬小屋行きになるらしく、申し訳無いと思いつつ、ゼナの家に泊まらせてもらったのだ。

 

「差別が無くなれば、ここに家を持ちたいです」

 

「そうですか…なかなか、難しいですよ」

 

って、ゼナの父親のマリエンテール士爵。

 

--------

 

翌日、セーリュー伯爵と昼食会だ。セーリュー伯爵の城へ、俺、ミト、メリーエストの3名で出向いた。リザ達は、迷宮で狩りに励むらしい。

 

伯爵の侍従に案内された部屋には、すでに伯爵夫妻、キゴーリという騎士の夫婦、伯爵の家臣に当たるマリエンテール士爵、その娘のゼナ、あとパリオン神殿の神託の巫女が着席していた。

 

「遅くなって、すみません」

 

一声掛けてから、俺達も着席をした。

 

『巫女のオーナは伯爵の娘よ』

 

って、ミトから情報が届いた。なるほど…で、俺達は下座にいる。公爵って、伯爵より上だよな?まぁ、いいか。セーリュー伯爵はミトとメリーを値踏みするような目で見ている。こいつ、好き者かな?

 

特に会話らしい会話もなく淡々と、食事会が進んでいく。まずい、眠くなってきた。

 

『寝るなよ!』

 

ミトからメッセージ。はい、がんばります。

 

----------

 

デザートが出た後で、伯爵が本題を切り出してきた。

 

「――単刀直入に行こう。オーナを卿の嫁にやる。我が伯爵家の一員となって迷宮運営で差配を揮う気はないか?」

 

それは、俺の迷宮核狙いか?ミト、メリーは静観している。伯爵の本意が見えないから。って、サガ帝国の王女が一緒にいるのに、よく言えるな…

 

莫大な利権になりそうな迷宮運営で伯爵家に財を、だろうか?領地の赤字補填に使いたいんだけど…

 

「お断りします」

 

俺の即断に、呆気に取られる伯爵。しばらく間を置いて、深呼吸をして、再度アタックをしたのだが、この人、大きな勘違いをしているようだ。

 

「アール士爵よ。誤解があるかもしれぬが、伯爵家の一員とは単に伯爵家の者を娶るというだけではない。伯爵家の継承権も与えるという事だ」

 

「ぷっ!あははは♪」

 

堪えきれず、ミトが笑い出した。

 

「なるほどな。そういうことか。ボク達を誤解しているようだな、セーリュー伯爵よ!」

 

勝ち誇ったようなミトの表情。

 

「貴様、士爵の侍従のくせに、生意気だぞ!」

 

キゴーリという騎士が立ち上がり、ミトに圧力をかけ始めた。無駄な事を…

 

「誤解するなよ。俺の方がミトの侍従だよ♪」

 

「何?!」

 

キゴーリが俺とミトを見比べている。まぁ、ミトの方が華奢だよな。

 

「後、俺は士爵じゃ無いんだよ」

 

「何?貴様…何者だ?」

 

今度は伯爵が驚いている。今更、訊くなよ。食事会に招待しておきながら…

 

「ミト・ミツクニ公爵付きの公爵、アール・アルジェントだ。覚えておいてくれ。あと、そこの騎士が愚弄したのが、俺の主のミト・ミツクニ公爵だ。更に言うと、今日の連れは、俺の片腕であるサガ帝国王女、メリーエスト・サガである。伯爵よ、頭が高いんで無いか?って、ミツクニ公爵を下座の席に座らすって、どういう根性だ?!」

 

って、格さんを演じてみた。う~ん、三つ葉葵の印籠が無い…

 

「公爵だと…」

 

目を白黒させている伯爵。

 

「もしかして、テニオン神殿の…」

 

何かに気づいたオーナが、俺に跪いて祈りを捧げだした。

 

「オーナ…何をしているんだ?」

 

伯爵が娘に声を掛けた。

 

「アルジェント卿はテニオン神殿の名誉祭司です」

 

え?それは聞いていないぞ。

 

「なんだと…」

 

伯爵も聞いていないようだ。

 

『(^^)v』

 

っと、ミト。こいつ、知っていたのか…凹む俺。

 

「まぁ、貰える者は貰っておく。お前の娘を貰う事には異議は無い。だけど、公爵なのに、伯爵家を継げって、何を言っているんだ?メリー、どう思う?」

 

「はい、主様を愚弄しております。領地没収が良い…いや、ここは主様の領地ですよ。あの無礼な伯爵は、主様の配下となります。爵位を奪うのが良いかと思います」

 

的確そうなお答えを堂々と述べるメリーエスト。

 

「何…あの地図は誤植では無かったのか…」

 

地図?何の話だ?また、俺の知らないうちに、何かの重責が与えられたようだ。

 

「じゃ、セーリュー伯爵は士爵に格下げ、代わって、マリエンテール士爵を伯爵へ格上げする。ミツクニ卿、いかがですか?」

 

一応、上司の意見も訊く。

 

「良いんではないか。こんな無礼なやつがトップでは、ロクなもんじゃない!王へはボクから伝えておく!」

 

「おい!、アイツら、狂っている!生かして返すなよ!」

 

キゴーリが叫んだ。それでは、水戸黄門の印籠出し前のチャンバラ劇では…う~ん、印籠が無いのに…

 

騎士が多数出て来た。伯爵はまるで悪代官のように、護られるようにして、奥へと下がっていく。無駄なのになぁ。

 

「なんで…ここにいるんだ!」

 

驚きの声を上げた伯爵。

 

「はぁ?カミナリ小僧!お前、ミト様に無礼を働いたようだな!」

 

ジュレちゃんの母ちゃんが伯爵を追い立てている。セーリュー伯爵家へ行くって、ミトが言ったら、護衛について行くて言うジュレちゃんの母ちゃん。その後にはジュレちゃんもいるし…母親に逆らえないシガ八剣の筆頭戦士。

 

「ジュレバーグ殿、どうしてここへ…」

 

キゴーリが声を掛けた。さすが、ジュレちゃんは有名人だな♪

 

「私は、アルジェント卿を守護する者だ。無礼を働いたのは、どいつだ!」

 

母親には頭は上がらないが、それ以外の者へは堂々としているジュレちゃん。きっと、この親子は、親子としては最強だろうな。騎士達が武器を放棄していく。シガ八剣を敵に回すことはしないか…

 

「セーリュー伯よ、アルジェント卿の言葉は、王の言葉として、受けとめよ!」

 

って、ジュレちゃん。俺はそんなにエラく無いって…

 

こうして、波乱の昼食会は幕を閉じた。

 

--------

 

城を後にして外へ出た。

 

「あの…私を連れて行ってください」

 

誰だっけ、この子は?

 

『パリオン神殿の神託の巫女のオーナよ』

 

って、ミトからメッセージが飛んで来た。あぁ、そうだったねぇ~。

 

「お前は、自由に生きろ!じゃあなっ♪」

 

って、格好良く去ろうとした俺の服の裾を、握っているオーナ…はぁい?

 

「では、私をつれて行ってください。名誉祭司様の元で、修行をしたいです。お願いです。何でもします」

 

何でも…イカン、妄想はダメだ…ミトが笑ってる。しまった。一瞬妄想をしてしまった。汚れ無き巫女を汚す俺の場面…

 

「メリー、次はどこだっけ?」

 

気を取り直す俺。意外に切り替えは早い方である、

 

「揺り篭の調整です。それが終わったら、農地の視察になります」

 

まだ、先が遠いなぁ。

 

「視察が終わったら、迎えに行く。簡単な旅支度をしておいてくれ」

 

「はい♪」

 

俺達は、揺り篭へ転移した。あっ、アーシアとナナを回収しないと…ミーアもかな?

 

 

 

 

 

 



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SS:駒にされた巫女


セーリュー伯爵の娘、オーナの視点です。



 

 

 

パリオン神殿で、神託の巫女をしていた。オーユゴック公爵領の公都での魔王騒ぎの際には、生け贄として攫われたのだが、私は奇跡的に救われた。テニオン神殿の神託の巫女であるセーラは殉教したそうだ。

 

救われた後、父であるセーリュー伯爵に、巫女籍から外された。

 

「そんな魔王に狙われるような職はダメだ。家に戻ってこい!」

 

と…でも、私の身を案じた為ではなく、私をエサにある人物を懐柔しようとしていた。その人物は、父の支配している街にある迷宮の核を所持しているそうだ。士爵で爵位も低いが、迷宮核の所持は莫大な利権を生む。士爵でありながら、男爵、いや伯爵くらいの権力を持てるらしい。そのことを恐れているようだ。その人物が権力を持つ前に、セーリュー伯家に取り込む必要があるようで、私との縁組で、迷宮核を手に入れようとしているようだ。

 

「いいか、貴族の娘っていうのは、政局の駒なんだ」

 

と、言い切った父。私は駒なのか…私が贈られる人物は、アール士爵と言うらしい。マリエンテール家の縁者らしいのだが、マリエンテール士爵は父の配下であるから、どうにでも出来るそうだ。

 

-------

 

そして、アール士爵を食事会へ招待することが出来たそうだ。その席に、私、マリエンテール卿、その娘のゼナさんが参加決定になった。アール士爵はゼナさんと一緒になろうとしているようだが、私を正妻にして、ゼナさんを側室とする案でいくらしい。ひどい父である。配下の娘さんも、政局の駒にするなんて…

 

地獄ってものがあるなら、父はそこへ送られるのだろうか?

 

 

食事会当日、彼は二人の女性を連れて来た。二人共、どこか気高く良家のお嬢様に見える。私なんか相手にしないと思う。神託の巫女は神託を受けるだけしか能力が無いから…あの時、セーラさんの代わりに私が殉教すれば良かった。

 

デザートを食べ始めた頃、父が本題に入った。

 

「――単刀直入に行こう。オーナを卿の嫁にやる。我が伯爵家の一員となって迷宮運営で差配を揮う気はないか?」

 

きょっとんとしている彼。いきなり過ぎる話だ。だけど、彼は直ぐに返事を返して来た。

 

「お断りします」

 

唖然としている父。面目丸つぶれである。

 

「アール士爵よ。誤解があるかもしれぬが、伯爵家の一員とは単に伯爵家の者を娶るというだけではない。伯爵家の継承権も与えるという事だ」

 

「ぷっ!あははは♪」

 

彼の連れの女性が吹き出して、笑い出した。何かおかしな話ってあったっけ?

 

「なるほどな。そういうことか。ボク達を誤解しているようだな、セーリュー伯爵よ!」

 

彼女は力強いオーラを纏い、父に叩き付けるように言葉を吐き出した。

 

「貴様、士爵の侍従のくせに、生意気だぞ!」

 

父の配下の騎士で最強と言われているキゴーリが、彼の連れの女性を睨むように、言葉を浴びせた。

 

「誤解するなよ。俺の方がミトの侍従だよ♪」

 

彼からの言葉…彼女が彼の主である事実…

 

「何?!」

 

キゴーリも父も、予想だにしていない事態のようだ。

 

「後、俺は士爵じゃ無いんだよ」

 

「何?貴様…何者だ?」

 

父の見込みは違っていたようだ。

 

「ミト・ミツクニ公爵付きの公爵、アール・アルジェントだ。覚えておいてくれ。あと、そこの騎士が愚弄したのが、俺の主のミト・ミツクニ公爵だ。更に言うと、今日の連れは、俺の片腕であるサガ帝国王女、メリーエスト・サガである。伯爵よ、頭が高いんで無いか?って、ミツクニ公爵を下座の席に座らすって、どういう根性だ?!」

 

ミツクニ卿って…シガ王国の王が引退した際に得る爵位では無いか…いや、もう一人、その爵位を持つ人物を私は知っている。勇者である王祖ヤマト様だ…

 

もう一人の女性はサガ帝国の王女…なんて人脈なんだ…あっ!私を助けてくれた人…

 

「もしかして、テニオン神殿の…」

 

テニオン神殿で聞かされたんだ。アール様という名誉祭司様に、私達は救われたと…私は、彼に跪き、彼に祈りを捧げた。

 

「オーナ…何をしているんだ?」

 

父に訊かれた。祈りを捧げ終えると、説明をした。

 

「アルジェント卿はテニオン神殿の名誉祭司です」

 

「なんだと…」

 

父の集めた情報は、間違いが多かったようだ。

 

「まぁ、貰える者は貰っておく。お前の娘を貰う事には異議は無い。だけど、公爵なのに、伯爵家を継げって、何を言っているんだ?メリー、どう思う?」

 

「はい、主様を愚弄しております。領地没収が良い…いや、ここは主様の領地ですよ。あの無礼な伯爵は、主様の配下となります。爵位を奪うのが良いかと思います」

 

父に下された罰…

 

「何…あの地図は誤植では無かったのか…」

 

父が手に入れた新版の地図には『セーリュー伯爵領(アルジェント公爵領)』と記載されていた。

 

---------

 

彼は軍部に顔が利くのか、シガ八剣がガードに付いていたようだ。そして、この街の市兵が父をとりおさせた。ミツクニ卿暗殺容疑だそうだ。

 

何事も無かったように去ろうとしている彼。咄嗟に服を掴んだ私。

 

「では、私をつれて行ってください。名誉祭司様の元で、修行をしたいです。お願いです。何でもします」

 

「視察が終わったら、迎えに行く。簡単な旅支度をしておいてくれ」

 

彼は、彼の領地内の視察をしているんだそうだ。この後もまだ2,3箇所廻るらしい。

 

 

彼は約束通り、私を迎えに来てくれた。え?ゼナさんも一緒に行くみたいだ。馬車とかはどこだろうか?光に一瞬包まれて、光が霧散するとテニオン神殿の前にいた。転移術だ…最上級魔法師にしか使えない術だと聞いたことがある。

 

「あれ?オーナじゃない。どうして、ここに?」

 

声の主を見て、目を疑った。殉教したはずのセーラだったから…

 

「どうして…殉教したはずでは…」

 

「主様に、2回目の人生を頂いたの♪」

 

まさか、蘇生術…彼は使えるのか?最上級神聖魔法師にしか、使えないとされる術である。彼は何者なんだ…全身に鳥肌が立っていく。

 

「アール様、どうしてオーナがいるんですか?」

 

「貰ったんだよ。貰えるものは貰う主義だから」

 

「ご主人様らしいわね~」

 

紫髪の少女が、彼に言葉を発した。

 

「まぁ、俺は俺らしく生きる。それだけかな」

 

って、女性が多いのは何故…

 

---------

 

彼の屋敷に転移した。え…ハーレムって感じの家…彼は何者なんだ?

 

「オーナが慣れるまで、セーラが同室でいいかな?」

 

「はい♪」

 

セーラに部屋に案内された。

 

「ねぇ、彼って何者?」

 

セーラに訊いた。明るい笑顔だったセーラの表情が強張っていく。訊いてはダメな事だったのか。

 

「私を助ける為に、呪いを受けました。主様は、もう人間では無いんです」

 

人間では無い?呪いを受けた?神聖魔法の蘇生術って、呪いを受けるの?そのことがショックだった。

 

「蘇生術で呪いが掛かった訳では無いの。その前段…勇者で無いアール様が、魔王を倒す為にしたことが、呪いの原因…」

 

魔王を倒した…勇者にしか倒せないはずだけど…

 

「今、アール様は聖属性の不死王なの」

 

有り得ない…聖属性の魔なる者だなんて…

 

「有り得ない存在…私は彼に一生を捧げる。私を助ける為、魔王を倒す為に、彼は人間を辞めたんだから。それくらいしないと…」

 

「どうして、そこまで思えるの?」

 

「私…魔王に殺されたの…魂の状態で、彼と魔王の死闘を見届けた。彼は、ボロ布のようになった私の亡骸を大切に、護りながら戦ってくれたんだ。とっても、嬉しかった」

 

セーラの目からポロポロと涙が溢れ出ていた。

 

「あんな惨い死体は見た事が無い。それなのに、彼は大切に護ってくれた。これ以上汚れないように、これ以上破損しないように…これ以上…」

 

言葉に詰まり、泣き崩れたセーラ。彼女がここまで想える人物なら、私の選択は間違いでは無いだろう。

 

 

 



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魔王とチーター

視察を終えて、問題点を協議した。

 

「調理師学校は有りだな」

 

って、先輩。

 

「学校の炊き出しを調理実習として行えば、そんなに費用も掛からないと思う」

 

なるほど。

 

「ソバの栽培は、ご主人様が都市核を調整すれば、大丈夫そうよ」

 

って、アリサ。都市核は天候を操作できるそうだ。

 

「問題は農機具ねぇ」

 

「当面は、エチゴヤでなんとかする。問題になるのは、ニナさんの処に、鍛冶場を作る費用だな。作るのは、いいとして、問題は運営費かな」

 

建物や炉などの設備は、先輩の創造能力で作れそうだと言う。運営費は、人件費、材料費、光熱費などだ。

 

「あまり近代的な施設だと、神の怒りに触れるらしいから、熱源は炭だぞ」

 

この世界の神は理不尽らしい。文明開化の速度が早すぎると、天罰を与えるらしい。地上の者は神を超えてはいけないのだろうか。もし超えれば、俺みたいに不死者にされるかもなぁ…う~ん…炭かぁ…炭焼き設備と植林も必要か。

 

「あとは、税収だけど…迷宮を開放して稼ぐしか無いわねぇ」

 

って、ミト。入場料とゲットした魔核の全量買い取りのルール。迷宮都市と同じ運営方法だな。

 

「運営出来ているのはここだけよね?」

 

「まぁ、そうだね。旧セーリュー市の迷宮も運営は出来るよ」

 

今はマリエンテール市だ。ゼナの父が伯爵になったから♪

 

「後は公都と王都か」

 

「公都も運営は出来るが、王都はマナが足り無いかな」

 

桜を維持するのにマナが必要である。揺り篭も周囲の森の維持の為、運営は難しい。魔物と宝物の補充にマナが必要だから。

 

「じゃ、公都はオーユゴック卿に運営を依頼しましょう」

 

これで税収が上がるといいなぁ。

 

「あとは、学校かぁ。何の学校にするの?」

 

って、ミト。

 

「冒険者学校かな?後、職業訓練学校とか」

 

セリビーラに作るのであれば、冒険者学校がいいと思える。迷宮で稼いで、自立が出来るだろうから。

 

「誰が教えるんだ?」

 

「元冒険者を雇うとか」

 

リザ達は教師に向かないと思う。

 

「奴隷市で探すか、アール」

 

「ですね」

 

有能な元冒険者も、敵勢力に捕まれば、奴隷にされしまうらしい。

 

--------

 

カリナを通じて、旧ムーノ男爵に仕えていたメイド達を雇い入れた。護衛メイドが多い為、武具の扱いが出来るから。まぁ、教師候補である。普段は先輩の家のメイドをして貰う。

 

システィーナを通じて、引退したメイド達をスカウトしてもらう。冒険者向きでは無い者は、メイドや執事って選択も出来るようにしたいから。

 

メリーエストを通じて、引退した勇者の従者達をスカウトしてもらう。ただ強いだけの脳筋タイプは教師向きで無いから。

 

そして、先輩と共に奴隷市へと通う。夜になると、先輩は歓楽街へ消え、俺は家に帰る。プロのお姉様好きな先輩…ミトでも充分楽しめると思うんだけど。

 

バキ!

 

えっ?転移中の妄想も見えるんですね…

 

「おい!お前!今、何を妄想した?」

 

「いや…別に…」

 

バキ!

 

痛くは無いが、俺はエムでなく、どっちかと言えばエスなんだが…

 

バキ!

 

ミトからの折檻。誰も止めようとしない。よくある風景らしい。

 

「ご主人様、懲りないなぁ~。私で妄想しなさいよ~」

 

って、アリサ。後5年待ちかな…

 

「おい!妄想するなら、他にもいるだろ?セーラとかアーゼとか…」

 

ゼナの名前が出ないのは、同じ体型だからか?

 

バキ!

 

ビンゴらしい…

 

-------

 

翌朝、高級娼館の前で、先輩が出てくるのを待つ。

 

「おはよう♪」

 

すごくご機嫌な先輩。良いお姉様に出逢えたようだ。

 

「やはり、公都は質もレベルもお値段も高いなぁ~」

 

ぼったくられたのか?

 

「なら、先輩が娼館を経営すれば?」

 

「ダメだよ。商品に手を出してしまうよ」

 

苦笑いしている先輩。

 

「カリナもシスティーナも良いんだけど、テクニックがなぁ…」

 

無いんですね…って、空気が鳴動した。このタイミングで出たようだ。先輩も気づいたらしい。

 

「行くか」

 

「ですね」

 

二人で、発生源にへ転移した。

 

------

 

テニオン神殿が襲われていた。紳士姿の魔王に…なんで、紳士姿なんだ?

 

「アール、強制転移しろ!ここじゃダメだ!」

 

先輩の指示通り、魔王と先輩を強制転移させて、俺は後を追う様に転移した。転移した先では戦闘が、既に始まっていた。チート対チートの戦いだな。俺は観戦をする。

 

「お前達、ニンゲンのマネごととはどういうことだ?」

 

魔王が妙な事を言う。俺は正解だが、先輩はニンゲンのはずだ。いや、転移者はニンゲンの枠に入らないのか?ミトなんか化け物クラスの年齢だが、三十路手前の容姿を維持しているし…あっ、モニタされていたんだ。後が恐い…

 

「遊びは程々に。僕はこれから世界中の神殿を焼き払う大事な仕事が」

 

で、テニオン神殿を襲ったのか?リリーがいるのに…また、リリーを殺すのか?許せねぇ~よ。それは…俺は…俺は俺で無くなっていく。俺は…不死王だよ♪

 

魔王に渾身のストレートを叩き込む。

 

「ぐっ!」

 

苦しみ出す魔王。もっと苦しめよ。

 

「貴様…まさか…」

 

「俺は不死王リッチ♪神も魔王もクソくらえだ!」

 

魔王に馬乗りになって、パンチを叩き込んで行く。リリーをまた殺すのか…許せない!

 

「パンチなら、お前のユニークスキル『確率変動』は効果を為さないだろ?ふふふ♪」

 

「なんで、ニンゲンの味方をするのだ?あいつらは、神の木偶にすぎないのだぞ」

 

「俺は人間の味方をするつもりは無いが、俺の大切な者達を傷つけるヤツは、誰であろうと、苦しみを与えてから殺す♪」

 

魔王が耳元の毛を摘まむと、ふぅと一息吹きかけて毛を散らした。そして、

 

「――眷属よ」

 

と、唱えると、毛が紫色の狗となって、俺に「分解」のブレスを放ってきた。狗達の攻撃は俺を透過していく。

 

「何…透過能力か…貴様、どこまで進化するつもりだ!」

 

「仲間を守る為なら、際限なくだよ、魔王君♪」

 

『ドレイン』

 

魔王のHPとMPを食らう。

 

「貴様…」

 

炎で出来た巨人と竜巻で出来た巨人を召喚したようだ。俺を吹き飛ばす気か?

 

『ヘアーランス』

 

俺自身と魔王を串刺しにした。これで、俺から逃げられないよ♪

 

「貴様、狂っている…」

 

魔王の顔に恐怖の色が浸み出して来た。もっと、苦しめ♪

 

『神喰魔狼』

 

苦し紛れで、フェンリルになった魔王。だから、何?俺は神では無いんだよ♪俺に噛みつき、逆に内部から崩壊していく魔王。なんだよ、自殺か?

 

フェンリルは紫の珠7つに分解した。逃がさない♪『ヘアーランス』を解除して、聖魔剣を手に持ち、全ての珠を粉砕した。後は…うん?俺と先輩の間に、突然童女が現れた。

 

「去りなさい!ここはお前がいて良い世界では無い!」

 

童女のくせに命令してきた。

 

「私の勇者に手を出させない!」

 

先輩はコイツの勇者?そうなると、

 

「お前が召喚者だな♪」

 

童女に襲い掛かり、フルボッコにしていく。着ている物がボロボロになっていく童女。

 

「おい!アール。もう止めろ!」

 

止めない。コイツが元凶なんだと思う。先輩とミトを…この世界へ…

 

「止めて…お願い…」

 

漸く童女の身体にダメージが入り始めた。着ている物は防具だったのか。泣き叫ぶ童女。ふふふ♪

 

「おい!止めてあげろよ」

 

バキ!

 

えっ…激痛が走る。なんで?痛点が無いんじゃ…ミトが俺に拳骨を撃ち込んでくる。普段は痛くないのに…ミト…いや、カグラとカグヤだ。なんで、俺を…

 

「もう止めてよ~、お兄ちゃん!」

 

バキ!

 

痛すぎる…カグヤの拳骨…こんなに痛いのか…

 

「妄想大好きなエロ男でいいんだよ。戻れよ~!」

 

バキ!

 

カグラ、やめてくれ~!痛いって…

 

「パリオン!お兄ちゃんに謝れ!」

 

カグヤが童女をパリオンと呼び、叱責している。

 

「うっ…ごめんなさい…」

 

パリオンが泣きながら謝罪をしてきた。

 

「パリオン!罰として、お兄ちゃんの使い魔になりなさいよ!」

 

パリオンよりもカグヤの方が立場が上のようだ。

 

「えっ?!私…一応、神なんですけど…」

 

「神って名乗っているだけで、あんたらは侵略者でしょ!」

 

って、カグラ。

 

「そうかもしれない。あなた達姉妹から見れば…」

 

「この妄想好きを、こんなのにしたのも、あんたらでしょ?責任取りなさいよ!」

 

カグヤ、カグラ姉妹からのプレッシャーに、心が折れたのか、凹んでいるように見えるパリオン。

 

「私で良ければ…お使いください…魔神アール様…」

 

ソーナ・シトリー似のボディになったパリオン。

 

「うっ…」

 

「いい?次は無いからね。お兄ちゃんに害を与えたら、許さないから!」

 

カグラとカグヤが消えると、パリオンも消え、俺の意識も消えていく。ようやく、死ねるのかな…

 

---------

 

「お~い、起きろ~!」

 

後輩氏の声…

 

「あと10分…」

 

「懲りないなぁ…今日はどうするかな…」

 

左右から心地良い刺激…なんだろう?瞼をうっすらと開けると、セーラとオーナが全裸で抱きついて居た。聖女にサンドされるなんて…聖属性で良かったと思える瞬間である。

 

「起きたな。そこの二人撤収していいよ」

 

え…今日の刺激は良かったんですけど…未来永劫、このままでも良いくらいだ。

 

「リザ、コイツの上体を起こして、動けるまで、抱きついていいから」

 

「はい♪」

 

嬉しそうなリザの声…全裸のリザが俺に抱きついて来た。ダメだって…あぁぁぁぁ~!身体が動かない…血が通うまでの1時間は逃げられないようだ…ミトめ~!

 

嬉しそうにリザが、全身を使ってスキンシップをしている。1時間も…地獄だぁぁぁぁ~。娘枠にさせるなぁぁぁぁぁ~!

 

-------

 

食堂へ行くと、ミトはミトだった。どこから見てもミトだった。

 

「なんだよ?ガン見とは、どんなプレイなんだ?」

 

「いや、ミトはミトだよなって…」

 

「お前、大丈夫か?変な夢でも見たか?」

 

あれは夢だったのか?ミトがカグラだったのは…はて?

 

「あれ?先輩は?」

 

「今日は、ちょっと用事があるって」

 

そうか、今日は奴隷市巡りは出来ないなぁ。じゃ、違う仕事をしよう。ゼナとマリエンテール市へ転移した。そして義父さんと面会。

 

「伯爵仕事は慣れたでしょうか?」

 

ゼナの父親である新マリエンテール伯爵に声を掛けた。

 

「これは、アルジェント卿。えぇ、徐々にですが。で、本日はどのような件ですか?」

 

「ゼナと結婚したい!」

 

ペシ!

 

ゼナに叩かれた。

 

「まだ。プロポーズしていません。先走らないでください。私は逃げませんから♪」

 

あくまでもゼナのプロポーズ待ち状態のようだ。

 

「本題ですが、迷宮を運営してもらえませんか?」

 

「もちろんです。が、ノウハウがまるでありません」

 

「ゼナ達が今、セリビーラにいますので、彼女達に学んでもらい、将来的にはゼナを迷宮冒険者ギルド長として、運営を任せたいんです」

 

「へ?」

 

ゼナが驚いたようだ。

 

「私が…責任者?」

 

「うんうん♪」

 

頷く俺。

 

「どうでしょうか?マリエンテール卿。いや、義父さん♪」

 

「わかりました。お受けいたします。ゼナ、しっかりと学んで、アルジェント卿へ恩返ししなさい」

 

恩返しよりもプロポーズが先が良いんですが…連敗記録更新か?

 

-------

 

一人で奴隷市巡り…オーユゴック公爵領にも、ブラックマーケットは存在していた。いずれは無くしたいよな。って、一人の白虎人族の少女と目が会った。

 

買うことにした。お金を払い、所有権を移し、二人で家へ転移した。勿論、ブラックマーケットのその日の売上全てを『強奪』してから♪

 

家に着き、彼女に掛かっている『強制』を、前もってリストアップされていた極悪奴隷へ強制転移させた。これで彼女は奴隷では無い。

 

「俺はアール・アルジェントだ。もうお前は奴隷では無いが、出来れば働いて欲しい」

 

と、告げた。

 

「助けてくれたのですね…お金を払って…ありがとうございます。私は、ルーニャです。働かしてください」

 

こうして、我が家にメイドが増えた。後日わかったことだが、ルーニャは旧白虎王国の元王女だそうで、同じ元王女のアリサとは仲が良さそうだ。

 

 

 

 



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SS:高杯姉妹

サトゥー視点です。


 

アールがアールで無くなり、魔王に対してワンサイドゲームを繰り広げている。コイツ、こんなに無慈悲に強かったのか…チートの能力数は俺よりも遥かに少ない。アールには俺に出来ることの半分も出来ない。だけど、戦闘力はチートって言葉で片付かないくらいに、スゴい。

 

魔王がアイツを怯えて見て居る。出すスキル、出す能力がまるで効果が無い。絶望的なワンサイドゲームだ。最後、フェンリルに変身するも、アイツに噛みついた途端、苦しみだし、徐々に灰になっていった。それも内部から…

 

魔王を倒したアイツ。俺を見るや、にやついた。次は俺の番か?勝てる要素がまるで無い。逃げることも出来ないだろう。そんな窮地な俺の前に、知らない童女が現れた。

 

『私が護る♪』

 

って、脳裏に彼女の言葉を感じだ。何者だ?マップ情報には『unknown』と表示されている。

 

「去りなさい!ここはお前がいて良い世界では無い!」

 

威風堂々とアイツに命令する童女。アイツがいて良い世界ってあるのか?

 

「私の勇者に手を出させない!」

 

はぁ?俺はあの童女の勇者なのか?称号として勇者はあるが、ジョブとしての勇者は無い俺が?

 

「お前が召喚者だな♪」

 

アイツはそう言うと、瞬動術で童女に襲い掛かり、躊躇せずにフルボッコにしていく。あの童女が俺達を召喚したのか?

 

無慈悲なまでに、アイツは楽しそうに童女をボコボコにしていた。彼女の衣服はボロボロになり、全裸へとなっていく。それでもアイツは全裸の童女をフルボッコにしている。見て居られないほど冷徹に…

 

「おい!アール。もう止めろ!」

 

俺の声はアイツに届かないようだ。俺の言葉を気にも止めずに、ただ童女を破壊していく。何か、因縁でもあるか如く。

 

「止めて…お願い…」

 

ダメージが入り始めたのか、童女が泣き叫び始めた。なんていう防御力なんだ。アイツは、それを知っていて、躊躇無く破壊していたのか…

 

「おい!止めてあげろよ」

 

えっ?!ヒカルの声…

 

バキ!

 

アイツの顔面に、ヒカルの拳が突き刺さった。とても痛そうなアイツ…痛点が無いはずなのに、どうしてだ?

 

「もう止めてよ~、お兄ちゃん!」

 

バキ!

 

ヒカルより胸の大きなヒカル似の女性も、アイツの顔面に拳を突き刺していく。

 

「妄想大好きなエロ男でいいんだよ。戻れよ~!」

 

今度はアイツがヒカルコンビにボコられている。アイツをボコる?なんて、強さだよ…

 

「パリオン!お兄ちゃんに謝れ!」

 

胸の大きなヒカルが、童女をパリオンと呼んだ。まさか、あれがパリオン神なのか…

 

「うっ…ごめんなさい…」

 

パリオン神が、アイツに泣きながら謝っている。どういう関係なんだ?

 

「パリオン!罰として、お兄ちゃんの使い魔になりなさいよ!」

 

胸の大きなヒカルが、パリオン神へ命じている。神よりも強い立場って何だ?

 

「えっ?!私…一応、神なんですけど…」

 

「神って名乗っているだけで、あんたらは侵略者でしょ!」

 

はぁ?パリオン神達が侵略者?なにやら雲行きがおかしい。

 

「そうかもしれない。あなた達姉妹から見れば…」

 

姉妹?まさか、あの胸の大きいヒカルは、ヒカルの妹か?

 

「この妄想好きを、こんなのにしたのも、あんたらでしょ?責任取りなさいよ!」

 

「私で良ければ…お使いください…魔人アール様…」

 

パリオン神はアイツ好みのソーナ・シトリー似の女性に変身した。えっ?アールって、魔神でなく魔人なのか…

 

「いい?次は無いからね。お兄ちゃんに害を与えたら、許さないから!」

 

泣きながら消えていくパリオン神、意識が飛んでいくアール。

 

「さて、そこの転移者よ!」

 

「ヒカル…お前達は何者だ?」

 

「あなたの知っている高杯光子は、私の依り代なの」

 

ヒカルが答えた。依り代…

 

「私はカグラ…アコンカグラよ」

 

竜神様…

 

「そして、妹はプリンセス・カグヤ」

 

カグヤ姫?

 

「なぁ、パリオン神達が侵略者って、どういうことだ?」

 

一番の疑問点を訊いてみた。

 

「元々、この星には、私がいて、月にはカグヤが、そして今は無いけど衛星がもう1つあって、そこにソイツがいた。私達は、仲良く日々を過ごしていたの。だけど、この星を侵略しにロケットで神々が、地上へと降臨していった。運悪くロケットのうち1機が、ソイツに当たって、双方とも大破したの」

 

まさか、アイツって、元々星だったのか…

 

「彼は最後の力を振り絞って、そのロケットにいた瀕死の神と名乗る侵略者の身体と融合したのよ。生き残る為にね。私達も神々に対抗する為に、実体化をした。妹は月の女神に、私は竜神に…だけど、神々の能力により、私達の記憶は操作され、妹と彼は別の世界へと飛ばされたのよ」

 

聞いていた話とは違う…パリオン神が竜神から召喚術を習ったって…

 

「そう、教えたわよ。だって、記憶を書き換えられて、神々に言いように利用をされたのよ。そして、私はパリオンにより、逆召喚術で、異世界へと飛ばされた…」

 

依り代…高杯光子の身体へか…

 

「そういうことよ♪私達3人が揃うと、記憶が戻るらしく、記憶が戻った妹は、神々によって、私と彼の記憶が戻らないように、月へと封印された。だけど、悪運は尽きるもの。転生を繰り返し、勇者という自分の眷属を得たパリオンは、あなたに惚れた。妹は必死に、あなたの周囲に私と彼を配置出来る様に、努力したそうよ。そして、ついに、カードは揃った。だけど、彼はセーラを救うため、魔神では無く、魔人である不死王リッチになってしまった。その為、アールがアールでは無くなった時にだけ、彼に戻れるようになってしまった。彼が戻らないと、私達も戻れないのに…」

 

「この後、どうするつもりだ…」

 

「彼は意識を飛ばすと、アールに戻れる。だから、騒がしい日常に戻るだけ」

 

「俺は、どうすれば良い?」

 

「この世界で生きるしかないわ。だって、元の世界では、私達の身体はもう無いから」

 

ヒカルはアイツを抱き抱えた。

 

「先に帰るわ♪」

 

ヒカルはアールでは無いアールと共に転移をした。

 

「さて、あなたは、少し調教が必要かな?」

 

えっ?胸の大きなヒカルの目が妖しく輝いた。俺は、このまま帰れないのか?

 

----

 

2日後、漸く解放された。長い歴史の映像を、延々と脳裏で見せられていた。眠い…脳裏で見せられるって、寝ていても見えるものなんだ。全然、寝た気がしない…完徹2…久しぶりだ。あのブラック企業以来だな。

 

「イチローお兄ちゃんを虐めたら、許さないよ、イチロー兄ぃ♪」

 

胸の大きなヒカルに、心臓を舐められた感覚がある。背筋に冷たい物が蠢いた。殺される…

 

一瞬、目の前が真っ白になり、気づくと、俺のセリビーラの屋敷の前にいた。

 

 

 



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アシネン侯爵夫人の失態

 

先輩に呼び出された。ここはどこ?

 

「政治的な話なんだよ。アール、頼むよ」

 

って、先輩は俺を残して転移してしまった。

 

「あなたは誰?」

 

それは俺も訊きたい。ここはどこ?

 

「ペンドラゴン卿の同僚でアールと申します。御用件は?」

 

「奇跡の料理人であるペンドラゴン卿を、我がアシネン侯爵家の一門に加えます。そう、主に伝えなさい」

 

決定事項なんですか?

 

「それはどういう権限ですか?」

 

「権限?あなたは何も知らないのね…まったく、名ばかりの士爵なの?」

 

名ばかりの公爵ですが…

 

「アシネン侯爵家は、ここセリビーラの太守をしていますのよ。領地も無い名誉職のミツクニ公爵とは格が違うのよ。わかっている?」

 

太守?都市核と契約していないのに?

 

「名ばかりの太守に言われたく無いです」

 

「名ばかりですって?アシネン家を馬鹿にするの?有り得ないわ。あなたの爵位は没収します」

 

「なんの権限ですか?王様以外、権限が無いはずですが」

 

「あなた、何も知らないのね?士爵なんかは、王様の許可はいらないのよ。わかったら、出て行って、ペンドラゴン士爵はアシネン家の一門にいれる手続きをしておきます。あなたの主にそう伝えなさい!」

 

って、ミトが転移してきた。

 

「はぁ?なんの権限があるのですか?アシネン夫人!」

 

「小娘には用はないわ。出てお行き!衛兵よ!この方達を侮辱罪で牢へ入れてきなさい」

 

俺達に刃を向けてきたアシネン家の衛兵達。

 

「アルジェント公爵へ命じます。都市核でセリビーラの門を閉ざしなさい」

 

ミトの指示が出た。アーシアへメッセージで指示を転送した。

 

「アルジェント公爵へ命じます。迷宮への入り口を閉鎖しなさい」

 

これもアーシアに転送した。このおばさん、ミトを怒らせたようだ。

 

「アルジェント侯爵?この坊やが?何を言っているの?この戯言をいう偽公爵様達を牢へ入れなさい」

 

『ここは無抵抗で牢へ行くよ♪』

 

ミトからメッセージ。まぁ、都市機能は停止したも同然だからな。俺達は牢へ入れられた。暫く経つと、リリアンが駆け込んできた。

 

「ミト様…アールまでも…レーテルよ、何をしているのだ?」

 

リリアンが怒りを纏っている。尊敬するミトが牢へ入っているしなぁ。

 

「お二方をここから出し、謝罪しなさい!」

 

「何を言っているの?ゾナ、こいつらは侮辱罪なの。犯罪奴隷にして売ろうかしら」

 

犯罪奴隷堕ち?う~ん…

 

「そんなことをすれば、お前は反逆罪だ!いや、現時点でも反逆罪にしても良い」

 

軍部の方々が、犯罪人である俺達を引き取りに来たようだ。

 

「え?これは一体…」

 

将軍であるアルちゃんが俺を見て驚いている。

 

「そこのおばさんが侮辱罪で犯罪奴隷にして、売るって言うのだよ。アルちゃん、どうすればいい?」

 

顔から血の気が失せていくアルちゃん。

 

「アシネン夫人…なんてこと、彼に言ったんですか…これは反逆罪、いやクーデターと言っても良い行為ですぞ!」

 

アルちゃんも怒りを纏っている。

 

「どういうこと?偽公爵に騙されたの?」

 

笑い飛ばせる余裕のあるおばさん。強心臓だな。怒りを纏ったアルちゃんとリリアンを前にしても動じないなんて…

 

「ニセモノじゃない!本物の公爵様2名を奴隷にして売る?クーデターで無くて、何だと言うんです?アシネン公爵夫人!」

 

「ニセモノに決まっているでしょ?公爵が、こんなへんぴな場所に2名も居る訳ないわ。担がないでよ、エルタール将軍♪」

 

まだ、笑い飛ばせる余裕。すげぇ~!ここは格さんをするかな♪

 

「アルちゃん、そのおばさんを捕縛して、ミツクニ公爵と俺をここから出して」

 

「御意!おい!、アシネン侯爵夫人を捕縛しろ!」

 

部下達に命じたアルちゃん。ここへ来てオバサンの顔から血の気が失せていく。

 

「どういうことよ!私を誰だと思っているの!」

 

「お前は、単なる侯爵夫人じゃないか」

 

リリアンが、おばさんを睨み付けている。

 

「ゾナ!あんた、耄碌したの?」

 

あぁ、それは言っちゃダメだと思う。

 

「耄碌?しておらん!アルジェント卿は、私の上司に当たる迷宮資源管理大臣なんだよ!」

 

え?リリアンの上司?それはしらなかったぞ。

 

『私は知っていました♪』

 

って、ミトからメッセージ。う~ん、何故俺の事なのに、俺は何も知らんのだ?

 

「ゾナの上司…まさか…」

 

「ミト様は、私の尊敬する方じゃ!それを牢へ?奴隷にして売るだとぉぉぉぉぉ~。ふざけるなよ!思い上がるなよ、レーテル!」

 

リリアンのこめかみがピクピクしている。切れないか心配だ。

 

『切れたら、蘇生してあげてね♪』

 

って、ミト。おぃおぃ…で、おばさんは捕縛され、俺達は牢から出られた。

 

「リリアン、冷えちゃったよ~。帰っていい?」

 

って、ミト。

 

「えぇ、お帰りください。アルジェント卿は置いて行ってくださいね。都市機能が麻痺しておりますので」

 

「えぇ♪」

 

『後、よろしくね♪リリアンに頼まれたら、解除して上げてね』

 

って、ミト。俺を置いて、颯爽と帰って行く。えぇぇぇぇ~!

 

------

 

リリアンに頼まれて、はいはいと解除するほど、心が真っ直ぐではない。

 

「どうすれば、解除してくれるんだ?」

 

「謝罪、詫び、後は賠償金だな」

 

おばさんから謝罪が無い。詫びも無い。論外である。

 

「では1年間、アシネン家の収入の20%を天引きして、こちらへ入れてください」

 

メリーが、条件提示をした。

 

「わかった」

 

リリアンは条件を飲んだ。

 

「後、正式な謝罪と賠償は別に請求いたします。これらを受け取れるまで、迷宮上層へのマナの供給を20%カットします」

 

メリーは交渉上手だな。ティファリーザがメモに取り、交渉術を学んでいるようだ。

 

「それは…」

 

「早急に為されれば。被害は少ないと思います」

 

「わかった。被害はアシネン侯爵に丸投げする」

 

リリアンは条件を飲んだ。メリーはしっかり書面でリリアンの承認書を作っている。

 

「ご主人様、交渉は終わりましたので、条件に沿った設定にしてください」

 

俺はアーシアに丸投げだよ。

 

------

 

迷宮上層だけの制限なので、うちの狩りには影響は無かった。資金不足も解消しそうだ。アシネン侯爵家は収入が多いようだ。

 

「あと、相手は太守ですから、都市核、迷宮核の利用料も取れるはずです」

 

メリーがいて大助かりである。

 

「相手の払える範囲で請求をしよう」

 

「わかりました。じゃ、ティファリーザ、このメモの額で、請求書を送ってくれる?」

 

「はい♪」

 

書類作りはメリーよりティファの方が得意らしい。

 

執務室を出ると、ミトがいた。

 

「先輩、学校は開校したから。1週間に10名ずつ受け入れる。まずは文字の読み書きの勉強をさせている。それで、給食に出す食材を狩って来てくれる?」

 

なるほど、ソレは行かないとダメだな。

 

「大変だよ~!」

 

リリオが走り込んできた。迷宮の構造を見学しに行っていたはずだが…まさか…

 

「ゼナか?」

 

「そうだよ、ゼナが攫われた。トレインが発生して。護衛の軍部の者達と交戦してんだけど…ゼナがいなくなっていたんだよ…」

 

リリオが泣き崩れた。

 

「リザ!出撃の準備だ!」

 

「はい!」

 

「アーシア、迷宮内の探査をして、ゼナを探してくれ!」

 

「了解です!」

 

「リザ!準備が出来たら、上層から探せ。トレインは殲滅だ」

 

「わかりました」

 

「ミト、指揮を頼む!」

 

「おまかせ!」

 

「マスター…上層、中層にはおりません」

 

って、アーシア…まさか、下層へ連れ込まれたのか。

 

「アーシア、転移するぞ!」

 

「了解です!」

 

----------

 

下層への入り口前に転移した。下層へ突入しようとすると、

 

「待って!私も行きます…」

 

声の主を見ると、ソーナ・シトリー姿のパリオンがいた。

 

「あぁ、使い魔のソーナです。しくしく…」

 

そういや、性欲を処理する使い魔をくれるって、誰かに言われたっけ…

 

「性欲処理専門では無いです。ちゃんと戦いますから、惨いことしないでください」

 

あれこれしたい。きっと、妄想が見えているのだろう。頬がピクついている。

 

「何故、こんな緊迫した場面で、そんな妄想が出来るの?」

 

「なんでだろうな。じゃ、挿入…じゃなくて、突入だ!」

 

3人で下層へと降りていく。全マップ検索をしてみると、ゼナのマーカーが表示された。誰かの城にいるようだ。

 

城かぁ…戦闘は避けられないなぁ。不死王にジョブチェンジした。って、俺は不死王なんだけどな?ジョブチェンジに意味があるのか、ないのか…それは問題だ。

 

「意味は有るわ。ジョブチェンジでなら、アールとしての意識下で戦えるの」

 

って、ソーナ。なるほど♪それは便利である。

 

で、下層は8つの区画に分かれていて、ゼナがいる場所は一番大きい区画のようだ。で、ゼナの傍には赤い光点がいくつかある。情報を確認すると『吸血鬼』のようだ。

 

「ソーナ、吸血鬼対策って、何かある?」

 

「血が通っていない私達に対策って無いよ」

 

なるほど、ソーナは血も涙も無いエム女なんだな。

 

「えっ!涙はあるもん。しくしく…」

 

泣き虫な女神だな。

 

「だって、まだ童女だよ…それなのに、出来る年齢になっているんだよ。しくしく…」

 

まるで、俺が鬼のようでは無いか。

 

「違うの?」

 

「いや、鬼よりも残忍かもしれない。一気に転移するぞ!」

 

ゼナのマーカーの傍へ転移をした。

 

-------

 

「ゼナ!」

 

声を掛けたが、反応は無い。吸血鬼にされたのか?ゼナを含む数名の吸血鬼が俺達に襲い掛かってきた。

 

「ゼナ!」

 

ゼナは俺を俺と認識せず、首元に噛みついて来た。咄嗟に、ゼナを投げ飛ばす。俺に噛みつけば、あのフェンリルと同じ末路になるから。ゼナを…許せない!

 

「ダメ!」

 

ソーナが抱きついて来た。

 

「落ち着いて!」

 

でも…許せない。

 

「アーシア!ゼナを確保しておいてくれ!」

 

「了解です!」

 

許せない…

 

「だから、ダメだって…」

 

俺は俺で無くなって行く…唇に柔らかい物が重なった。心がクールダウンしていく。ソーナが口付けをしてくれたようだ。

 

「ごめんね。そんな不憫な身体にしてしまって…私に任せて♪」

 

ソーナが瞬動術で、吸血鬼のボスを圧倒して、捕縛した。一瞬の出来事である。

 

「おい!彼女を元へ戻せ!」

 

「瀕死だったので、我が眷属にしたのだよ。元へは戻らぬ。それが吸血鬼ってものだ。うん?お前は何者だ?なぜ、束縛されぬ?」

 

「私は彼の使い魔となったパリオン神♪彼は魔神よ。神のツートップ相手に勝てると思うの?」

 

俺って魔神なのか?そう言えば、ジョブに魔神ってあったな。ジョブチェンジをした。

 

「マジ…マジ、魔神になっているじゃない…」

 

ソーナが驚いている。

 

「おい!吸血鬼…名前はバンっていうのか…ふふふ♪」

 

「来るな!」

 

吸血鬼がビビる俺って、何?

 

「ゼナを元に戻せ!」

 

「だから戻らぬ!」

 

「じゃ、お前を灰にするか…」

 

「待て!話し合おうではないか…」

 

「話し合う?ゼナが元に戻らぬなら、話し合いの余地は無い」

 

あれ?ソーナもビビっているんだけど…なんで?

 

「マスター、ゼナの様子が…」

 

アーシアが状況を知らせてくれた。コイツと遊んでいる暇は無い!

 

「バン!また来る!首を洗って待っていろ!」

 

4人で、中層へ転移した。そして、迷宮村に借りている家へ転移した。

 

-------

 

「どうしたんだ?」

 

転移したことで、村長が慌ててきてくれた。転移で、村を訪れたことは無かったから。

 

「仲間が吸血鬼にされたんだ。村長、どうすれば、元に戻せる?」

 

「心臓を一突きにして、火葬してやれ。魂は天国へ行けるはずだ」

 

殺せば良いのか…

 

「ソーナ、アーシアとここにいてくれ」

 

「何…何をするの…彼女を殺すの?ねぇ、愛しているのに?」

 

「ソーナ、愛しているから、俺の手で殺すんだよ」

 

ゼナと二人で転移した。

 

転移した先はトーヤの揺り篭…ここなら、誰も来ない。誰も…

 

「ゼナ、元に戻してやる」

 

『ヘアーランス』で心臓を刺した。傷口から、血は流れ出さない。つまりは、既に人間では無いってことだ。次に、ヘアーランスを薪代わりにして、ゼナを火葬した。燃えるのでは無く、溶けていくゼナ…待っていろ!

 

金色の珠が浮かんできた。マップ情報では『ゼナの魂』と表示された。コレを蘇生すれば良いんだな。ジョブを公爵に戻し、『蘇生コンポ』をゼナの魂へ発動した。浮遊する金色の珠が、うっすら緑の霧に覆われて、静かに全裸のゼナの身体出来上がり、魂が吸い込まれて行く。徐々に形の良い乳房が上下動していく。

 

『お兄ちゃん、大丈夫?』

 

カグヤが隣に現れた。

 

「たぶん…」

 

『まったく、パリオンときたら、役立たないんだもの…』

 

「いいよ。ゼナが助かったから…眠い…」

 

『マインドロスト…』

 

「なるほど…」

 

ゼナを屋敷にいるメリーの元へ強制転移させ、俺は意識が遠くなっていった。

 

死んだら、カグヤ…後は頼む…

 

『おにいちゃぁぁぁぁぁ~ん!』

 

カグヤの声が遠くなっていく。

 

-------

 

「おい!起きろ!朝だぞ!」

 

後輩氏の声…俺は、まだ存在しているのか?

 

「後10分…」

 

「しょうがないなぁ~♪」

 

後輩氏の声が妙に嬉しそうだ。何を仕掛けるんだ?うっ!なんだ、この感触は…誰だ?う~ん…まさかなぁ…ゼナは無いよなぁ~

 

『先輩、ビンゴ♪』

 

「えっ!」

 

瞼を開くと、俺のアレを口に咥えている、笑顔のゼナと目があった。

 

 

 

 



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SS:神の呟き

パリオン神の視点です。



 

彼は何者になったんだ?何になろうとしている?どこに向かっているんだ?彼に平穏な日々は来るのだろうか…

 

-------

 

私達神々は…あの姉妹に言わせると私達侵略者は、とんでもない事故を起こした。侵略する為に多数のロケットで、あの星へ向かっている時、私達の侵略行為を止めようと、私達のロケットを追って来た魔神の乗るロケットが、侵略しようとしている衛星の1つと衝突した。

 

双方とも大破…私達は追っ手が消えたことに安堵し、地上へ降臨したのだ。私達は神として、地上の者達に崇められる存在となり、侵略行為は成功したかに見えた。だけど…

 

あの姉妹がやって来た。私達の前に…この星の意志であるカグラ、衛星である月の意志であるカグヤ…私達は手を組み、姉妹を亡き者にしようとしたのだが、

 

『愚か者共よ!私達がいなくなれば、私達の本来の器である星は消える。心中も悪く無いわ。彼がいない世界なんか消えて仕舞えばいい♪』

 

星の意志を抹殺するというのは、星の存在を消す行為だと、初めて知った私達。

 

『そんなことも知らずに、よく神と名乗れたわね』

 

と、彼女達はせせら笑う。

 

彼女達の心が荒めば、星は荒れていくってこともわかった。この星を侵略しつづけるには、彼女達には幸せでいてもらわないと、困るのだった。

 

私達のした愚かな行為。カグヤを異世界へ追放した。このことにより、月は荒れ果て、誰も住めない死の星となった。そうなると問題となるのは、カグラの処遇である。異世界へ捨てると、この星が死の星になってしまう。せっかく侵略したのに…

 

なので、カグラも神として生きて貰う事にした。記憶を操作し、竜神アコンカグラとして、ドラゴン達の神にさせて、ドラゴン達と幸せに暮らして貰う。

 

安泰になったと思った矢先、あの事故の後遺症が発生した。死んだはずの魔神が現れ、私達の信徒達を蹂躙し始めたのだ。魔神はあの星の意志と融合していた。魔神としての記憶は無く、あの星の記憶がうっすら残るだけのようで、カグラとカグヤを探しているようだった。この星の住民達が隠したと思っているのかもしれない。

 

この星の先住民に神の欠片という、ユニークスキルをギフトし、魔神に対抗したのだけど、魔神は強く、残忍だった。眷属である魔族を召喚して、戦わせたが効果は無い。そこで、魔族の力を先住民に与え、戦わせた。その結果、神の欠片持ちは魔王という存在に進化して強大な力を得ることに成功した。だけど、魔王を以てしても魔神は止められなかった。

 

その頃カグラは、異世界に飛ばされたカグヤを、呼び戻す方法を模索していた。私達は協力すると偽って、その秘法を奪い取り、異世界から強い生物を召喚し始めた。今で言う、転移者、転生者は、我々神々の最終兵器であったのだ。

 

閃きが、事態を動かした、召喚できるなら、魔神を逆召喚させて、放出出来るはずだと、悪魔の囁きが私達を揺り動かした。そして、彼は…

 

そんな中、私はある転移者に恋をした。彼が魔王を倒して、帰って行くと、別の並行世界から、彼を召喚していく。毎回、新しい心の彼と恋に堕ちていく私。

 

そんな私に、カグヤが気が付いた。

 

「お前だけ、幸せになるんて許せない。私の恋路をジャマして、お兄ちゃんから引き離して、あの死の星に封印したお前は、絶対に許さない♪」

 

カグヤは壊れていた。いずれ、カグラにも影響が及ぶかもしれない。私は、他の神とは違う路線へと向かう。恋する心を経験した私は、あの姉妹の気持ちが分かるようになってきたようだ。

 

だけど、魔神は呼び戻せない。苦悩する日々…何故か輝きを取り戻していく月。それはカグヤの封印が解けたということである。カグヤは、カグラをと接触し、あの秘法をものにしたようだ。そして、彼に会いに行っているらしい。

 

--------

 

運命の歯車が組み合ってしまった。ある並行世界で、私の恋する彼と、彼ら3名が同軸の時間軸上で出会い、縁を持ってしまったのだ。それが意味すること…私が彼を呼び出すと、彼らも便乗して、戻って来るってことができるのだ。カグラはこの星から出られない。だから、カグヤはカグラの依り代を持ち込んだようだ。

 

そして、私の勇者、カグヤ、カグラ、魔神が、この世界へ戻って来た。だけど、魔神は魔人であった。長い時間の流れにより、変質してしまったようだ。その能力は計り知れない。神々ですら畏怖すべきくらいだ。

 

彼が戻って来て、私は彼を見続けた。

 

恋する女性を助けるために、自己犠牲を怯むこと無く行った。その結果、彼は人では無くなってしまった。

 

愛する女性を助ける為に、自らの手で彼女を殺した。彼はどこか壊れているのか?私は勇者を助ける為に、勇者を殺すことは出来ない。

 

カグヤの私に対する怒りは尋常では無い。カグラは記憶の操作をした為、それ程ではないけど。彼は魔神だった記憶も、星の意志だった記憶も、残っていないようだ。それだけに、カグヤの怒りは増長していた。

 

『平和だったあの頃に戻しなさいよ、アンタは神なんだろ?!』

 

って…神じゃないよ。私は単なる侵略者の一人…そんな能力は無い。先住民達を畏怖させて、コントロールするくらいだよ、能力は…

 

『だったら、彼をサポートしなさいよ。それくらいなら、できるでしょ?!』

 

それくらいなら…

 

『あぁ、今回のアンタの勇者は巨乳好きみたいだよ。アンタみたいな童女は相手にしないらしい』

 

そんな…なんで…私に罰が下ったのか…童女姿の私。今までは、愛してくれていたのに…

 

地上に降りて、現状を目の当たりにすると、確かに私の勇者は巨乳の女性が大好きのようだ。むしろ、彼の方に童女系が群がっているし…

 

『乗り換えてもいいよ♪但し、死ぬ気でサポートしな!』

 

カグヤの怒りは私だけに向かっていた。

 

--------

 

独身の男神の為に、ここに送られたハイエルフ達。ボルエナンの担当は、事故死した魔神だったことは、もはや私しか覚えていないだろう。

 

 

 



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迷宮都市で蠢く闇 Part1

ナナが初めて欲しい物があると強請ってきた。ナナと一緒にお店に行くと、移動販売形式の奴隷販売店だった。

 

「マスター、この幼生体2体の救助を要請します」

 

店先に吊されている鳥かごに閉じ込められている翼人族の幼児達。性別は不明で、性器らしき物は無いようだ。

 

店長によると、翼人族のなかでもなかなか希少な種族だと言う。そういう希少な種族は奴隷にしちゃダメだと思うんだけど…

 

ナナは彼らに一目ぼれのようだ。値段は2体で金貨100枚。代金を支払った。

 

「ナナが面倒を見て上げろよ」

 

「マスターに感謝します」

 

二人を優しく抱き締めている。名前は黒い方がクロウで、白い方がシロにしてあげた。ナナは名付けることをしないから。

 

で、帰り際に、金貨100枚をこっそり『強奪』して、返してもらう。俺も金欠だから…

 

--------

 

揺り篭で失神していた俺を見つけてくれたのは、ナナだった。ここの迷宮核とナナがリンクされていて、俺の異常状態もミトへ知らせてくれたらしい。

 

なので、シロとクロウの救出は、ナナへのご褒美である。ナナは嬉しそうに、二人を抱き締めている。母性本能が目覚めたのか?

 

ゼナの回復経過は良好のようだ。魂になって、俺の行動を見ていたようだけど。俺は俺の手でゼナを殺した。状況はどうであれ、その事実は消えない。

 

「気にしないでください。アール様が、私に人生の第2幕を与えてくれたのですから」

 

って、笑顔で言われても…俺にはゼナを殺した感触が残っている。心臓を一突きにして、燃やしたのだ。

 

「ごめんね~、役立てないで~」

 

泣き虫ソーナが泣いている。って、なんで、コイツも同居しているんだ?

 

「あんなこと、そんなこと、こんなこと、していいか?」

 

「ダメ…無理です。身体は少女だけど、心は童女なんですよ~」

 

年齢は遥かに上だろうに…それこそ万単位な位…

 

「女性に歳の話はタブーですよ♪」

 

笑顔のミトが拳を見せつけている。そうだったね…タブーだね…って、ソーナに対しての妄想は、ミトにも見えているんだよな…

 

「私言ったよね?妄想は、セーラかアーゼでしてね♪」

 

ソーナ似ではなく、もう少し大きめになって貰おうかな…

 

--------

 

「アリサ!」

 

「はい♪今夜は私を相手に?」

 

「それは10年後だ。そうでなくて、クロウとシロの教育を頼む。養育はナナがするから」

 

「うん♪まっかせてよ♪」

 

「アニオタにはするなよ」

 

「大丈夫よ。この世界にはアニメが無いから」

 

アニオタは俺とアリサとミトで充分である。

 

「テンちゃん」

 

「何?今夜は陵辱三昧か♪」

 

そこまで気力が戻っていない。

 

「クロウとシロが空中散歩する際は、ガードしてやってな。ナナは飛べないから」

 

「おまかせ♪」

 

何故か、テンちゃんも同居している。はて?

 

---------

 

学校の敷地に、医療施設も併設した。生徒は無料で診断と治療は受けられる。貴族からは、それなりの料金を取って、運営費に回す事にした。医療スタッフは、セーラとオーナにした。神聖魔法の治癒が行使出来るから。

 

聖女がいる診療所って、珍しいらしく、流行っている。それも二人共、元神託の巫女だし…レアケースになるそうだ。

 

普段の俺はリザ達と給食の為の素材狩りをしに、中層で狩りをしている。たまに、ゼナ達と低層での見回りに付いて行くこともあるけど。

 

それなりに、楽しく平和な時間が過ごせていた。なのに…

 

「行方不明者の捜索?」

 

リリアンが、迷宮内で行方が分からなくなった者を、探して欲しいと頼みに来た。

 

「魔物にやられたんじゃ無いか?」

 

「そうだと思うが、せめて遺品だけでも回収して欲しいのだ」

 

さる国の王女らしい。

 

「ゼナが巻き込まれたトレインの原因は?」

 

「あぁ、あれか…貴族のガキ共だ。ろくに能力も無いのに、威勢だけで戦った結果のようだ」

 

「処罰は?」

 

「貴族のガキは対象外だ」

 

「なら、依頼は断る。理不尽だろ、それってさぁ?散々困らせて、困ったから助けろって」

 

「アールの言い分は分かる。だが、そういうルールなんだ。理解してくれ」

 

ミトを見るが無表情である。メッセージも来ない。あきらめろってことか…

 

『キレるなよ!』

 

キレる気力も無い。まだ、回復しきっていない。ソレが今の俺だよ。

 

「リリアン、どうすれば、ルールを是正出来るの?」

 

ミトが動いてくれた。

 

「それは…アシネン侯爵次第ですね。公式上は、この街の太守だから。だけど、トレインの原因はアシネン家太守の三男坊だから、無理です」

 

太守の息子なら、犯罪行為をしてもお咎めは無しか?トレインを発生して、報告しないで逃亡するのは、重罪だったはずだ。

 

「ギルド長権限でも罪に問えないの?トレインの発生原因なら、重罪のはずよ」

 

「正式な探索者ならばね…貴族権限での見回りと称した行為によるトレインは、ルール外の事故扱いです」

 

「おい!子供なのに見回りって、おかしいだろ?」

 

「太守の家族には権限があるのだよ」

 

う~ん…そうなると…

 

「ならば、俺が太守になる。核の正式な契約者だ。問題は無いだろ?」

 

「すぐには無理だ。アシネン家が抵抗をする」

 

皆殺しにすればいいのか?

 

『ダメだよ…ねぇ、先輩…』

 

ミトからメッセージ。ダメなのか…じゃ、どうすれば…

 

「じゃ、リリアンの依頼の報酬は、太守の交代でどうだ?」

 

「あぁ、それで良い。現状の責任者は太守であるアシネン家だ。どう責任を取るのか、見たかったのだ。ふふふ♪」

 

古狸…さすが、ミトの元眷属。闇が俺より深くないか…

 

--------

 

この街の権力はアルちゃん、リリアン、アシネン侯爵の三名が同等の権力を持って、この街を治めているそうだ。で、俺の案にアルちゃんとリリアンが乗った。過半数の意見ってことになる。

 

「そうは言われても、迷宮はゾナの管轄で、戦闘は将軍の管轄だ。職務怠慢として、王様へ報告するぞ。いいのか?」

 

って、反撃に出たらしい。で、ミトの依頼で、アーシアが捜索者の捜索をしたのだが、最悪な結果に…

 

「上層、中層におりません」

 

って、アーシア。下層に引き込まれたようだ。それは吸血鬼になったってことだ。

 

「ミト、どうする?」

 

「どうするって…先輩…ダメだよ。行かないでよ、ねぇ…」

 

俺に泣きすがるミト。助けるってことは、俺はその捜索者を手に掛けるってことだ。

 

「あれに関わらない方がいいよ…」

 

って、ソーナ。そうだけど…

 

「ミト、売りに出されていたよ」

 

って、先輩。捜索対象者である、ミーティア・ノロォークは、ノロォーク王国の第六王女で、彼女の装飾品が、ブラックマーケットに売られていないかを、先輩が捜査していて発見したそうだ。って、犯罪に巻き込まれたのだろうな。この街には迷賊以外にも犯罪集団がいるってことか…

 

「犯罪行為か…嵌めたヤツは、兄ぃの方で探し出して。彼女の方は、私と先輩で考えるわ。これ以上、最悪な方向へは行かないから」

 

「わかった」

 

先輩は転移をしていった。

 

-------

 

奴隷市にふらりとやって来た。所謂、目の保養である。ある檻の前で、見とれてしまった。その者、マップ情報によると、レベル29で近接系戦闘スキルに優れ、魔刃を使えるらしい。ストライクゾーンからは外れるが、教師役としてどうだろうか?店主と値段の交渉に入った。

 

「性奴隷で、ガタガタの中古ですが、調教は済んでおりますので、今夜から即戦力になりますよ♪」

 

要するに、捕虜か何かで奴隷に堕とされ、遊び飽きたので、売ったってことのようだ。で、購入した。隣の檻には、同時に仕入れたという女性がいた。マップ情報によると、自己犠牲というスキルがあるようだ。それも購入して、お約束の売上金を『強奪』してから帰宅した。

 

「セーラ、オーナ、彼女達の治癒を頼む」

 

「「はい」」

 

「リーン、治癒が終わったら、風呂に入れてくれ」

 

「了解!」

 

「おぉ…大当たりを拾ったなぁ♪」

 

って、ミト。はて?大当たりとは?

 

「彼女達は、ミーティア・ノロォークのガード役だよ。それが性奴隷堕ちってことはだ…」

 

嵌めたヤツが売ったってことか…ミトが先輩に売り主の特定を依頼した。

 

「先輩は恋愛運無いくせに、女性運は恵まれているよね♪」

 

って、ミトが痛い処に、塩を塗り込んできた。凹む俺…

 

「ご主人様には私がいるって♪」

 

って、アリサ…10年待ちだぞ…

 

--------

 

売り主は判明した。迷宮都市の太守代理のソーケル・ボナムだ。

 

「太守代理がねぇ…」

 

リリアンがミトからの報告を受けている。

 

「で、どうします?」

 

って、アルちゃん。

 

「そうね、太守の座を降ろすか。でも蜥蜴の尻尾切りになるかな?」

 

一瞬、リザが尻尾をチラ見した。

 

「そうなると、太守の懐刀のポプテマも絡んでいそうだね。ソーケルの監視役だったし」

 

「そもそも何故、王女はここに来たの?」

 

俺が質問をした。

 

「アシネン家の娘を治療する為だ。王女にはその能力があるから」

 

それは、診療所の戦力にしたいなぁ…

 

「そうなると、アシネン家も絡んでいそうね。どうするかな…証拠が足り無いわ」

 

って、ミト。

 

「ちょっと、王様と宰相に相談してくるわ。その結果で、動きましょう♪」

 

って、ミトが転移をしていった。

 

--------

 

イネちゃんのベッドのコピー…寝やすい…

 

「起きて下さい…」

 

後輩氏では無い声…誰だっけ?

 

「どうしよう…」

 

女性達のひそひそ声…俺の下半身に蕩けるような刺激…なんだ?プロの技か…感じたことの無い舌遣い…うちにはいないタイプである。

 

「えっ!」

 

起きてしまった俺…この女性はラヴナだっけ?性奴隷だった…久しぶりに大放出した…彼女の口の中に…

 

「溜まり過ぎな…で、助けてくれたそうだな。感謝する」

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「あぁ、私を性処理担当にしてくれ♪命の恩人になら、快く承るよ」

 

いい笑顔だ。良いテクニックだし♪

 

「メリー、ラヴナから事情を訊いて」

 

「はい♪」

 

「待って!私の新しいご主人様の名前を教えてくれ」

 

「俺は、アール・アルジェントだ」

 

「公爵様ですよ♪」

 

って、メリーが補足している。

 

「公爵様…あ…無礼な言葉遣い、申し訳ありません」

 

ラヴナが俺から離れ、土下座をしてきた。

 

「ため口でいいよ。そういう身分格差は嫌いだから♪メリー、彼女を頼む!」

 

「わかりました。さぁ、こちらへどうぞ」

 

メリーがラヴナを連れて出て行った。

 

「で、用件は?」

 

「ラヴナさんが、ご挨拶をしたいって…私じゃ、感じていなかった?」

 

って、ゼナ…あぁ、今回は大量に出たなぁ。

 

「ゼナも気持ち良かった。もう少し生きようかなって、思えたし」

 

「そうなんだ…良かった♪」

 

ゼナが抱きついて来た。そのまま、寝入る俺…眠すぎる…

 

-------

 

王都から戻って来たミト。捜査権と任命権を得てきたようだ。役職は隠密同心らしい…おいおい…

 

「で、任命書も貰って来たよ」

 

アシネン公爵は名ばかりの太守で、実質的な太守は俺になっている。王様と宰相のサイン入りだ。

 

「リリアンと将軍には見せてきた。二人は納得済みよ。さて、会議の場へ行くわよ、格さん♪」

 

「私はお銀枠希望♪」

 

って、アリサ。

 

「後10年したらね♪」

 

って、ミト。

 

 

ギルド内にある会議室に、アシネン公爵夫妻、リリアン、アルちゃん、俺、ミト、メリー、ティファがいる。

 

「これはどういう趣向です?」

 

って、レーテル・アシネン。旦那よりも権限があるのは、このおばさんらしい。

 

ミトがレーテルの前に、任命書を置いた。

 

「宰相、王様の署名入りの任命書です。意味はおわかりですね?」

 

レーテルは任命書を見て固まっている。

 

「後、これらが捜査資料です。捜査の結果、今回の王女行方不明事件は、アシネン家絡みと判断しました。主犯は、ソーケル・ボナムです」

 

「まさか…ソーケルが?」

 

「王女との婚姻の届けを出した翌日に、王女が行方不明になっていました。婚姻したと聞いていましたか?」

 

「いいえ…まさか…」

 

知らなかったようだ。顔面蒼白なレーテル。

 

「将軍、ソーケルとポプテマの身柄を押さえて、その上で彼らの家を捜索してください」

 

「御意!」

 

アルちゃんが、側近の者に指示を出し、側近の者が部屋を出て行った。

 

「さて、実質的な太守は、私の配下のアール・アルジェント公爵となります。異論、異議は認めません。もし有る場合、王様への反逆とします」

 

さすが水戸黄門様だ、締める処は締めるよね…って、いらん妄想をした俺。

 

『なんちゅう物を妄想したんだ、このボケ!』

 

って、ミト。すみません…

 

「問題は王女の奪還です。アール卿に探査をしてもらった処、下層のバンパイア城に引き込まれたようです。王女は既に吸血鬼にされているものと思われます」

 

「吸血鬼…」

 

レーテルが一言、言葉を漏らした。

 

「そう、吸血鬼です。先日、アール卿の眷属が、引き込まれ、救出しましたが、アール卿への負担が大きすぎました。なので、選択肢は二つです。1つは、諦める。もう1つはアール卿への負担を覚悟で、救出するかです。その場合、アール卿へのアフターフォローが必要になります。いかがしますか、レーテル」

 

あえて、名ばかりの太守に訊くミト。

 

「後者でしょ?太守なら、負担して当然よ!」

 

他人事のように言う、名ばかりの太守夫人のレーテル。

 

『だって、他人事だもの…許せない!名ばかりの太守だけど、公式な太守はアシネン侯爵なのにねぇ。後で吠え面をさせてやる♪』

 

ミトの怒りに反応したのか?空気が鳴動した。このタイミングでか?

 

「アルちゃん、何かが来たよ」

 

「え?」

 

俺の言葉で、窓から周囲を見回すアルちゃん。

 

「魔族…こんなにたくさん、どこから?」

 

「レーテル、都市防衛はどうしていたの?」

 

「していないわよ。都市核と契約していないし!」

 

おいおい、仕事しないで金をもらっていたのか?

 

「アルちゃん、侵入防止はさせていたから、内部にいたんだよ。俺が契約する前から」

 

契約して直ぐに防衛レベルを上げていた。なのに、この数は、元々潜んでいたとしか思えない。

 

『リザ達に出撃させろ!魔族が出た』

 

アーシアへメッセージを投げた。家の者達は、アーシアがホムンクルスであると知っているから、緊急時の放送代わりに使っても問題はない。

 

『指示を出しました。今、マスターの元へ向かいます』

 

俺の隣にアーシアとソーナが転移してきた。

 

「ソーナ、ボス格はどれ?」

 

「う~ん…あの緑色よ。魔族に洗脳されて、魔族になるアイテムを服用したようね」

 

変身アイテムがあるのか…それは。都市防御のレベル関係無く、入りこめちゃうね。

 

「ちょっと待って…あれ?レーテルの娘も魔族化しているけど…」

 

って、ミト。

 

「そんな…」

 

ミトの指差す先を見つめるレーテル。マップ情報には、『シーナ・アシネン(魔族化)』と表示されている。

 

「どうして…あぁ、ソーケルに貰った薬…」

 

それに、入っていたんだな。薬の成分って、強奪出来るかな?いや、強制転移…ソーケルにだな。早速実行した。だけど、魔族化は解けない。強制転移出来ない物は強奪も出来ないし、どうするかな…

 

「あぁ、数が多いなぁ。アール君、行くよ!」

 

って、ミト。俺達も迎撃へ向かった。

 

 

 

 



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迷宮都市で蠢く闇 Part2

 

魔族化したシーナ・アシネンの前で、どうするかを考えて居る。う~ん…相手からの攻撃はフルカウンターで返して行く。考える時間を稼ぐ為である。

 

身体の構成は魔族になっているようで、もう人間の身体には戻せないようだ。あくまで、俺の能力では。

 

「ソーナは戻せるのか?」

 

「ごめんなさい…無理です。この局面で、私を亀甲縛りにする妄想は、どうかと思いますよ」

 

「頭に休息を与えることも大事♪」

 

『アフォかぁぁぁ~!』

 

って、ミトからお叱りが…スルーする。どうするよ、これ…

 

「あっ!なぁ、ソーナ。魂は人間か?」

 

「魂までは変異出来ないはずです。そこまで、私達には権限が無い…まさか…ダメですよ。ねぇ、それはダメだって…」

 

俺の考えを理解してくれたソーナ。これしかないだろう。もう一人にもしないとダメだし。

 

「ソーナ、会えて嬉しかったよ♪アーシア、俺とこの魔族もどきの3名で、下層へ転移だ♪」

 

「…」

 

アーシアも拒否のようだ。

 

「アーシア…また、会おう…」

 

俺は、魔族もどきと、バンの元へ転移した。

 

--------

 

難色を示すバン。魔族を吸血鬼に出来る物なのかが、わからないと言う。

 

「なんだよ、出来ないのか?」

 

「う~ん…血がないから…」

 

問題はそこか…う~ん…

 

バンとの話し合いはスグに終わった。バンの要求は召使い出来る人材の確保だった。なので、犯罪奴隷をプレゼントすることで、攫った者は返してくれた。こちらとしても、犯罪奴隷が減ることは良いことだし。ウィンウィンの解決だと思う。

 

で、問題は、この魔族もどきである。

 

「なんか方法は無いのか?」

 

「このまま、殺すと魂は金色でなく紫色になるはず」

 

じゃ、ダメじゃん…って、いうか、ソーナの情報は間違っているんでは無いか。再会できたら、折檻決定だな。

 

いや、待てよ。核からマナを直接送り込めば、どうなる?

 

「バン、また来る♪」

 

「次回はお土産を期待しているぞ」

 

って、欲しい物リストを渡された。俺を含めた3名で、アーシアの迷宮へ向かった。二人を拘束して、マスターズルームへ向かい、装置を設定していく。

 

「マスター…命じて下さい」

 

アーシアがソーナと共に転移してきた。

 

「帰れよ!賛同できないんだろ?」

 

「出来ません。でも、マスターの傍にいたい…」

 

俺に抱きついて来たアーシア。こんなことは初めてだ。ナナが母性本能に目覚めたように、アーシアは恋愛に目覚めたのか?

 

「それはファザコンだと思うよ」

 

って、ミトも転移してきた。

 

「あっちは片付いたよ」

 

後はここだけか…

 

「アーシア、手順を丸投げした。後は頼む」

 

「頼まれました、マスター」

 

俺は、二人の元へ転移した。そして、魔族もどきに迷宮核からマナを流し込んだ。魔族成分が燃えていき、人間の魂となった処で、強奪して保護した。

 

次に吸血鬼になった王女を、俺の手で殺し、二つ目の人間の魂を手にした。そして、手に入れた魂2つに『蘇生コンポ』を発動した。淡い緑色の光が魂を覆っていく。それと共に、薄れていく俺の意識…生き返れ、俺の代わりに…

 

-------

 

パシッ!

 

「痛い…ごめんなさい…」

 

パシッ!

 

「痛いよ~ごめんなさい…」

 

パリオン神が、カグヤに鞭で打たれていた。

 

「ねぇ、どうして、役立てないの?ヤル気ないの?」

 

パシッ!

 

「痛いって…ごめんなさい」

 

パシッ!

 

--------

 

「お~い、起きろよ~」

 

後輩氏の声だ。

 

「今回はダメかな…」

 

後輩氏の声は哀しそうだ。声を掛けないと…

 

「後…10分…」

 

振り絞るように出した声…

 

「大丈夫なのか…そうか…良かった…」

 

有り得ない刺激…これって、ミトの身体…ミトが俺と…

 

「ミト…」

 

「しょうがないだろ…ここには私しかいないんだ」

 

吸い付くような肌…あの時以来かな…

 

「ここは?」

 

「パリオン神殿の祭壇にある棺の中だ」

 

だから、あんな夢を見たのか…

 

「ソーナの中の人が、ここへ連れて来てくれたんだよ。ここの元巫女のオーナが祈りを捧げてくれている。セーラも一緒にだ」

 

状況が見えないんだけど…

 

「魔に傾き過ぎた先輩の魔を和らげている処だよ。私は先輩を起こす係だ。入社以来ずっと…」

 

そうだった…

 

ゴトッ!

 

棺の蓋が開いてようだ。

 

「ごめんなさい…」

 

ソーナが声を掛けてきた。

 

「えっ!生き返ったのか…名誉祭司様は…」

 

それはテニオン神殿での二つ名では?

 

「私の主様を、この神殿の名誉祭司に認めて貰えますか?」

 

オーナの声が神殿中に響いている。

 

「勿論だよ、オーナよ」

 

知らない男性の声。

 

「神殿長様…」

 

「彼の御業は、テニオン神殿の神殿長を通じて聞いている。神の呪いを受けてもなお、奇跡を起こされるのであれば、彼に対する呪いの進行は、いつでも和らげて差し上げるから、いつでも頼りなさい、オーナよ」

 

何か俺の知らない俺の話をしているようだ。要約すると、手助けをしてくれるってことかな?

 

「女性運は良いよね、先輩♪」

 

そうなるのか…

 

---------

 

10日振りに家へ戻ると、みんな抱きついて来た。タマ、ポチクラスは良いのだが、リーン、ルススクラスは熱苦しいぞ~!

 

「で、結局どうなったの?」

 

マインドロストした後のことを訊いた。

 

「二人共人間に戻ったわ」

 

って、ミト。それは良かった。

 

「魔族化した者で人間に戻れたのは、シーナだけだったこともあって、アシネン夫人が、先輩に感謝の意をってことで、先輩の配下に入るってよ」

 

何かメリットあるのか?仕事が増えるのは、カンベンだよ。

 

「アシネン侯爵家は、アルジェント公爵の一門ってこと。例えば、先輩が営業部長なら、アシネン侯爵家は営業部の社員って感じで、アシネン侯爵は営業部の課長って感じになるの」

 

仕事が減りそうだね。ならいいか…

 

「後、王女の方は?」

 

「ラヴナが話をつけてくれて、アルジェント公爵の従者ってことになったわ。吸血鬼になったことで、継承権も無いしねぇ」

 

ソレは血が汚れたってことか?

 

「そういうこと。今は言葉遣いを矯正中よ、のじゃ言葉遣いの王女だったらしくて、もう王女で無いから、標準語に調教中よ♪」

 

ムチ打ちだろうか?

 

「ラヴナとリュラは教師枠を了承してくれている。ミーティアは診療所枠で了承させたわ」

 

まぁ、当分、俺は休養だな。ラヴナのテクニックで…

 

-------

 

アシネン侯爵家が、経済的な援助してくれ始めた。少し、財政が黒字へ向かうが、まだまだ赤字の俺の領内。

 

迷賊対策は進んだ。迷宮村と下層の吸血鬼城が、迷賊を見つけたら、吸血鬼の下僕にしていってくれている。こうして、極悪な犯罪者達は、バンに従順な不死者になっていった。ウィンウィンな関係を築けたおかげか、俺とバンと迷宮村とは、友好条約を締結してある。

 

当面の問題は税収アップとストリートチルドレンだ。奴隷市は当面黙認である。貴重な財源を産んでくれるから♪しかし、売上を強奪しまくっているのに、奴隷商人がまるで減らない。どういう仕組みなんだろうか?

 

リザ達が学校の講師に招かれた。マグロの手早い解体の仕方講座だそうだ。前日に大量に魚を狩って来ているので、生徒達総出で解体を学んでいる。迷宮の魔物達は、学校の給食で、貴重なタンパク源の1つであるから。

 

「リザ先生…早過ぎます…」

 

目にも止まらぬ早業で、マグロを解体していくリザ。彼女の尻尾は嬉しそうに踊っているし。コイツは講師向きでは無いなぁ。寧ろ、タマ、ポチが教え上手であった。二人はリザに鍛えられているので、習い上手である分、教え上手なのかも知れない。

 

「よぉ!アール。寒天が手に入ったぞ」

 

って、先輩。それは、アレが作れるでは無いですか…早速、作り始める俺。興味深そうに見つめる生徒達。

 

「ご主人様…これって、水ようかんですか?」

 

アリサが見抜いた。まぁ、寒天と餡子があれば…

 

「後、ミルクかんも作るよ」

 

「うぉぉぉぉ~♪」

 

喜ぶアリサ。生徒達はぽっか~んと、アリサを見て居る。この世界には無いのかな?

 

寒天が冷えて固まるまで、魔物の解体をする生徒と、仲間達。これだけ解体しても10日分程度にしかならない。養殖とか考えないとダメかな?

 

そして、お披露目…

 

「美味しいのです♪」

 

「あんこ?」

 

「う♪」

 

「これこれ♪」

 

リザを除く娘枠には好評である。リザは甘い物より、肉だからなぁ~。

 

-------

 

中層の広めの区画で、ナマコ似の魔物の養殖を始めた。こいつらは何でも食べて、糞の代わりに砂を出してくれる。エサは死体や残飯、解体後のゴミなど何でも好き嫌い無く食ってくれる。生きている生ゴミ処理場である。

 

大きめな固体を採取して、その場で捌いて、食えない上にグロい絵面の内臓は共食いさせていく。効率は良い。だけど、子供達のウケは良く無い。飲んべぇ~達には好評なのだけど…乾燥ナマコとして、エチゴヤで売りさばくか。

 

迷宮の厄介者である迷宮ゴキブリは、試行錯誤の結果、カマキリ似の魔物が食うことが判明した。カマキリの揺り篭へ、見つけ次第、強制転移させていく。カマキリの子供は、揚げると川海老ちっくな風合いで、これも飲んべぇ~向けに販売していく。カマキリは子だくさんなので、絶滅の心配も無いし…

 

--------

 

「先輩…お仕事よ♪」

 

って、ミト…

 

「なんの?」

 

「内偵よ。グルリアン市って街よ」

 

オーユゴック公爵領にある街のようだ。そうなると、領地視察だな…

 

「あぁ、そうだね。先輩の領地だね♪」

 

しまった…愚痴を心で漏らすと、ミトに筒抜けだった。凹む俺…

 

「例の魔族にするアイテムの流通が、確認されたみたいなの。ソレの調査よ」

 

あぁ、あれは厄介だよな。都市核の防御機能をすり抜けるし。

 

「馬車で入市するわ。公都までは転移でもいいけど」

 

「人員は?」

 

「兄ぃ達は先乗りしている。先輩は…」

 

そこまで言ってミトが固まった。俺の仲間達が、ミトに視線を送っている。人選から漏れないように…

 

「全員連れ歩くかな」

 

そうなりそうだ。現地では自由行動でもいいけど、迷宮都市に留守番は嫌なのだろう。そうなると、学校は補習だな。給食は生徒に自主運営、診療所は休診にしないと。

 

馬車は5台…大名行列か?一応、商人のキャラバンを装ってはいるけど…元勇者、不死王、女神、迷宮核2のパーティーにケンカ売るヤツっているのかが、問題ではあるが。

 

「規格外の上、想定外だよね」

 

って、アリサ。まぁ、他に同じようなパーティーがいたら、会いたくはない。通常火力も半端ない。勇者の従者が3人もいるし、魔法分隊、そしてリザ達シガ八剣クラスもいる。軍隊でもケンカを売らない火力だと思う。

 

「先輩、グルリアン銘菓のグルリアンが興味あるなぁ」

 

ってミト。観光案内とか旅のガイドなどを読み漁っていた。

 

「白い粒々で作った本体に、黒くて甘い粒々で作った皮が、ぐるりと巻いているのか?これってアレでは無いのか…」

 

日本人のソウルフードの1つだ。

 

「たぶん…」

 

「私は水ようかんの方が好き♪」

 

って、アリサ。まぁ、俺もこしあんの方が好きだし。

 

「でも、これが、想像通りの物であれば、今後の材料調達は楽になりそうだな」

 

領内の農地でソバ、ゴマの他、大豆、小豆も検討していた。あぁ、あとサトウキビだな。

 

「一個で大銅貨1枚って…高いなぁ」

 

って、リーン。確かに…この人数で食うには大金が必要だ。

 

「試しに1つ買って、自分で作るか…」

 

ミーアが頷いている。クロウとシロも…

 

 

街へ繋がる門の前には大行列…関所だな。設けるだけ無駄に思える。こんなに検査しても、禁制品が素通りしているし。システムを考え無いとダメだな。メリーに今後の課題として、メモしてもらう。

 

「グルリアン市を訪れた商人達よ! 我等は魔剣を欲している。我らに魔剣提供した者には将来、御用商人として引き立てる事を約束しよう!」

 

って、声が聞こえて来た。スルーだな。身分が明らかで無い物に渡せる物では無いから。

 

「これより、馬車を調べる。隠し立てはするな!」

 

強制調査?

 

「お前ら、何者だ?何の権利があるんだ?」

 

俺は馬車から降りた。

 

「商人風情が生意気だぞ!」

 

ドサ!

 

魔剣を手にして、首を斬り落としてやった。

 

「生意気だから何?やるんなら、お前ら、生きて帰れると思うなよ」

 

って、言い終わる前に、殲滅…俺一人でやろうと思ったのに…リーン、ルスス、フィフィが片付けてしまった。

 

「魔剣を扱えるほどの腕は無いようだな」

 

って、リーン。

 

「身の程知らずだ」

 

って、ルスス。

 

「じゃ、先を急ぐぞ!」

 

馬車に戻ったみんな。あぁ、死体は金品、アイテム類を強奪し、、ナマコのエサとして強制転移させた。

 

「どっちが追いはぎなんだかなぁ♪」

 

って、ミト。人間では無い俺に訊かないで欲しい。

 

貴族用の関所から街へ入った。ペンドラゴン卿配下の士爵ムーン一行として潜入した。奇跡の料理人の配下である。女性が多くても問題は無い。メイドとか調理助手とか、身分は幾らでも偽れる。

 

「どのような目的ですか?」

 

役人に簡単な質問をされた。

 

「食材の調査です。主様は、先に来られていると思います。今後の料理に使う食材の調査を依頼されました」

 

と、言って、何事も無く街の中へ…予め、先輩が用意してくれた賃貸契約の一軒家へ。

 

「どう?」

 

入ってすぐにミトが、先輩に塩梅を訊いた。

 

「うさんくさい連中が多い。今の所、侵入した魔族はいないようだ」

 

アーシアに都市核とリンクしてもらい、警戒をし始めた俺達。

 

 

 

 



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グルリアン市の晩餐会

06/19 誤字を訂正


銘菓グルリアンを買って来た。想像通りの物だった。ついでに、材料も買ってきて、エチゴヤ経由で手に入れている小豆、砂糖、餅米と比べてみた。

 

「遜色は無いかな?」

 

「砂糖が高いなぁ…う~ん、小豆の皮も固めかぁ」

 

テイストをしたが、甘みが少ない。砂糖が高いせいかな。

 

「砂糖の精製が荒いってことは?」

 

って、アリサ。それはあるかもしれない。ストレージから、水ようかんを作った時に余った餡子を取りだし、蒸した餅米を粗挽きにして、包んでみた。

 

「うん?美味しい…」

 

って、アリサ。原価計算をする俺。

 

「ここよりも安く売れるが…手間賃をどこまで圧縮するかだな」

 

蒸し上がったばかりの熱い餅米を、粗挽きにする手間、いや火傷のリスクが問題である。

 

「そうなると、ここのように、粗挽きにしないで、冷めてから丸めるかねぇ」

 

って、ミト。

 

「アール、水ようかんは作れるか?期間限定で、売り出してみようと思うんだ」

 

って、先輩。

 

「ルルとゼナとセーラが作れます。材料の手配をお願いします」

 

「わかった」

 

奇跡の料理人一行が来て、料理をしないと怪しまれるらしい。

 

「ナマコ酢とカマキリ揚げは?」

 

「収穫してきますよ。調理はルルができますから」

 

「じゃ、頼む」

 

--------

 

参加費銅貨30枚の大会があるようだ。何の大会なのかよくわからない。シガ八剣と遊ぶ機会がある俺達には関係ないことだが…

 

肉好き娘達と街のB級グルメを探訪した。焼き鳥、魚のすり身を棒に付けて焼いた練り物…これって、ちくわか?いや、すり身が手に入るのか。後、鶏肉か…果実水って言うのもある。食材は豊富のようだ。

 

そうか、港があるのか…海産物の市場へ足を運び、貿易関連のお店も廻る。そして、住処へ戻った。

 

「どうでした?」

 

アリサが真っ先に寄って来た。

 

「するめいか…」

 

「うっ♪ゴロ焼きですね~」

 

喜ぶアリサ。食材と共に厨房へと向かう。厨房にはルル、セーラ、ゼナがいて、水ようかんと、ナマコ酢を作っていた。カマキリ揚げは食べる直前に調理しないと、ベタしっとりしてしまう。

 

俺はスルメイカを捌き始めた。メリーとティファが俺の作業を見つめていた。

 

「いいか?キモを傷つけずに取り出すのがポイントだよ」

 

二人に説明しながら、実演していく。取り出したキモは塩に漬けて、余分な水分を抜いていく。そして、一番新鮮そうなイカを千切りにして、イカそうめんにして、二人の前に出した。

 

「食べてみな」

 

恐る恐る食べる二人。

 

「甘い…」

 

「噛むほどにおいしいです」

 

「醤油を付けて、ワサビを載せてみな」

 

「甘さが引き立つ…」

 

「美味しいです」

 

二人の声を聞き、ルル達やアリサ達も試食に来た。そんなに無いんだけど…

 

「時々、奇跡の料理人を超えますよね、ご主人様は♪」

 

って、ルル。俺は邪道な料理人でいいんだよ。

 

------

 

『先輩、魔物!』

 

ミトからメッセージ。俺は現場へ転移した。そこに魔物では無く魔族がいた。そして、カリナが戦っていた。あれ?先輩はどうした?

 

「カリナ、下がれ!」

 

俺を認識したカリナが下がってきた。カリナの撤退行動を、ミトが援護する。俺は、不死王にチェンジした。

 

「貴様!何者だ?」

 

魔族に訊かれた。

 

「名乗る程の者では無い!」

 

速効で『ウルティマウエポン』を発動、灰になっていく魔族。長引くと不利だから。公爵にチェンジした。小まめなチェンジもマナ不足の予防になるらしい。マナ不足によるマインドロストは、俺を熟睡という沼に沈めるらしく、起こすのが大変らしいのだ。なので、マインドロスト対策を徹底するように、ミトに言われていた。

 

魔核を探している最中に、灰の中から赤い角を見つけた。マップ情報によると、『短角:現地の知的生物を魔族に変換する』物らしい。侵略者サイドのアイテムか?

 

「大丈夫か、アール!」

 

先輩がやって来た。先輩は怪我人をガレキから救っていたらしい。しばらくすると、セーラ、オーナがやって来て、救命作業を開始してくれた。俺は、先輩とミトに拾った短角を見せた。

 

「これが原因か…そうなると、この世界に持ち込んだのは神々だなぁ…」

 

って、ミト。

 

魔族のバックには神々がいるって証拠である。そうなると魔族の王である魔王も、神々がバックだってことにもなる。何の為に?

 

「信仰心を煽るためだよ。人々の信仰心は神々の糧になり、エネルギーになるからね」

 

なるほど…碌な物では無いなぁ。

 

--------

 

パシッ!

 

「痛い…私はやっていないよ~」

 

カグラ、カグヤ姉妹に、ムチ打ちの刑をあたえられているパリオン神。

 

「誰がやったのかな?」

 

パシッ!

 

「痛いよ~、私以外だよ~」

 

泣いているパリオン神。

 

--------

 

「おい…いつまで寝ているんだ?」

 

後輩氏の声…戦闘の翌日はダルい…マナ不足か?ナナとアーシアへのマナ供給は自動化された。俺が都市核とリンクしたメリットらしく、都市からマナを供給されているらしい。なのに、俺には供給されないらしい。理由は、俺が俺でなくなる危険があるそうだから。

 

「う~ん…」

 

後輩氏のスキンシップか♪

 

「起きないとしないよ♪」

 

何?焦らし作戦か…こしゃくな…

 

「後、10分…」

 

「おい!お前がヤレ!」

 

え?誰に命じたんだ?ラヴナか♪ワクワクする俺。だけど…誰だ、これ?いつもと違う感触だ。懐かしいような、そうでもないような…

 

瞼を開けて確認した。はぁ?そこには、某ゴーストハンター系アニメの主人公である美神令子がいた。

 

「どう?ソーナ似ではなくて、美神令子似になってもらったのよ」

 

って、ミト…ストライクゾーンから外れている…そんな…萎えていくアレ…

 

「え?そんな…私のせい?」

 

口ではなく谷間で…いや、そうじゃないんだ…デカ過ぎるんだよ~!

 

「は?ねぇ、彼の好みじゃ無いみたいだよ」

 

頷く俺。

 

「じゃ、先輩!誰似がいいのかな?」

 

うっ!ストライクゾーンはダメだと思う。塔城 小猫とか、シャルロット・イゾアールとか…

 

「では、由良翼紗似で…」

 

美神令子似のパリオン神が光に包まれ、光が霧散すると…「つばさ」違いなんだけど…微妙にストライクゾーンな感じの羽川翼似のパリオン神がいた。

 

「由良ちゃんはダメだよ~」

 

って、ミト。え?大きいはずだ。

 

「はぁ?!誰と比べてだ?」

 

ミトの視線…恐い…逆らうなと、俺の心が叫んでいる。

 

「いえ、羽川で良いです」

 

『お兄ちゃん、ごめんね!ソーナだと虐めるのが可哀想だから…』

 

って、カグヤ。羽川なら、いいのか?

 

『うん♪』

 

そうなのか…こうして、パリオン神は羽川翼似姿になった。

 

--------

 

「市内を襲撃した魔族を倒した功を称え、グルリアン市の太守より、これらの勲章を授与するものである」

 

って、俺は勲章を貰った。若い太守の横に立つハゲ頭の文官が、目録を読み揚げている。ここは、グルリアン市の城にある謁見の間である。王城よりも当然ながら狭い。

 

謁見の間には、俺の他には、俺の片腕のメリーがいる。こういう場合のマナーを耳打ちしてくれていた。

 

「この度は大儀であった」

 

と、太守が口を開いた。う~ん、愛想が無いなぁ、左遷させるかな…

 

『ダメだって!』

 

って、ミト。そうなのか…

 

太守様との謁見が終わり、メイドさんに先程のハゲ頭の文官の部屋へ案内をされた。彼が、この街の執政官だそうだ。

 

「ムーン卿、此度の貴殿の助力には感謝の言葉もない。よくぞ加勢してくださった」

 

「私も末席とはいえ、シガ王家の一員ですから。義務を果たしたまでの事ですよ」

 

一応、システィーナの婚約者ってことに、なっているので、王家の一員と名乗った。だけど、執務官は聞き逃したのか、スルーした。ツッコミ所だと思うのだが。

 

オーユゴックの義父さん経由で、公都での出来事を耳にしていたようだ。

 

「あの魔族の狙いは、何だと思うかね?」

 

「なんでしょうね?自分のような身分の低い者にはわかりません」

 

「それでだ、君の主のペンドラゴン卿に、晩餐会の料理を依頼したいのだよ」

 

それが、本題か…

 

「一応、話はしておきます」

 

「頼むぞ!下がって良い」

 

う~ん…俺はパシリか?

 

--------

 

「はぁ?兄ぃに、料理を頼んでくれてって?勲章を授けた相手に?失礼な奴らだな」

 

ミトも怒りを纏っている。

 

「街を救った英雄に、依頼することでは無い!先輩の左遷案は検討しよう♪」

 

「俺は調理することには、抵抗は無い。ヒカル、どうする?」

 

「そうだね…晩餐会で暴れるのもいいなぁ♪」

 

暴れるのか?印籠を出して、相手を凹ませるのか?はぁ~、疲れそうだ。俺は眠いんだけど…

 

「晩餐会には爵位持ちの家系の者、王家の者は参加だからね。リザ達は悪いけど留守番だ。嫌な思いはさせたくない」

 

って、ミト。リザ達もその辺のことは、納得しているので頷いた。その代わり、晩餐会に負けないくらいの食事を強請られた。晩餐会直前まで、セーラ、ゼナ、ルルと共に調理する俺。

 

「太守の奥方がねぇ、『能力鑑定』スキル持ちなんだって♪」

 

って、嬉しそうなミト。太守は奥方経由で、俺達の正体を知ることになるんだな。

 

--------

 

太守の館の控え室で待つ俺達。先輩とルルは厨房である。ゼナ、セーラは来賓扱いなので、手伝えない。

 

そこに、俺に客が来たと、館のメイドが知らせて来た。はて?誰だろう?メイドに案内されてきたのは、桃色髪の少女だった。胸の大きさはストライクゾーンのCもしくはDだと思う。

 

「ムーン士爵の眷属の皆様に、この度は助けて頂き、感謝しています」

 

と、メネア・ルモォークという小国の王女が、謝意を伝えにきた。うちの回復チームに、怪我を治してもらったそうだ。

 

「困っている者を助けるのが、上に立つ者の務めです。気にしないでください」

 

一瞬、怪訝な顔をした王女。

 

「上に立つ者とは、どういうことですか?」

 

やらかしたのか…俺はペーペーの士爵ってことに、してあったんだな…しまった…

 

「そういうことですよ」

 

メリーが介入してくれた。

 

「あなたは?」

 

「メリーエスト・サガ。主様の情報分析担当をしております」

 

「え…まさか、サガ帝国の王女様ですか…」

 

「えぇ、そうですよ。主様の言葉の意味は、そういうことです」

 

「なんで、そんなエライ方が…」

 

「主様はエライ人なのじゃ」

 

今度は、のじゃ王女、ミーティア・ノロォークが介入した。

 

「ミーティア…ミーティアの主様なの?」

 

ミーティアの知り合いなのか?

 

「うむ。妾…じゃない、私の命の恩人なのじゃ」

 

「ムーン士爵様…あなたは一体…」

 

「さぁ、お帰りください」

 

正体を隠しておきたい意向を理解しているリーンが、メネアを退出させた。

 

「少し寝ていい?」

 

「ダメだよ。起こすのが大変だから」

 

って、ミト。

 

-------

 

そして、晩餐会…俺達を視界に捕らえた太守夫人の顔から、みるみる血の気が失せていく。俺達の正体に気づいたようだ。お忍びなのになぁ。

 

俺達は下流貴族達のフロアに案内されて…下品な下流貴族達が、お供の者達をナンパしまくっている。

 

ドン!

 

尻をなで回されたリーンがキレて、相手の男を突き倒した。

 

「私はそんな安い女では無い!主様以外、手を触れることは許さない」

 

「なんだと?士爵の愛人風情が、戯言を言うな!」

 

パシュ!

 

相手の男の首を刎ねた俺。

 

「俺の仲間に失礼なマネをするヤツは、生かしておかぬ」

 

聖剣を手にして、リーンの前に立つ俺。

 

「何…聖剣だと…人殺しの分際で…おい!聖剣を取り上げろ!」

 

リーダー格の下品な男が命じると、衛兵達が出て来た。

 

「ふん♪面白い。みんな、ヤルからには勝つよ!」

 

って、ミト。ミトも聖剣を取りだした。俺は仲間達に、得物を渡していく。

 

「もう、血の気が多いなぁ」

 

って、聖剣を手にした先輩も参戦している。

 

勝負にならない…聖剣使いのチーター3名に、分不相応な火力な仲間達…下流貴族のフロアは地獄絵図状態になっていく。

 

「何事だ…」

 

執政官がやって来た。聖剣を持つ3名のチーターを前にして、顔が歪む執政官。

 

「勇者様が3名も…まさか…」

 

「これは、どんな余興だ?パワハラ、セクハラが渦巻く晩餐会に招待って♪」

 

ミトは黄門様モードか?助さんと格さんもいるしなぁ。

 

「ペンドラゴン卿…どういうことですか…」

 

「あぁ、紹介がまだでしたね。彼女が俺の主のミト・ミツクニ公爵で、アッチが俺の同僚のアール・アルジェント公爵ですよ」

 

楽しそうな顔の先輩が、俺達を紹介した。

 

「なんと…ミツクニ卿とアルジェント卿ですって…あ…あぁぁぁ…ご無礼を…」

 

「で、セクハラの被害にあったのは、王様の外孫ですよ♪」

 

って、ミト。

 

執務官の顔に血の気は感じられない。死んだのか?

 

「なんて事を…」

 

「アルジェント卿が、即刻死刑に処しました。何か、問題でもありますか?王様の外孫のお尻を撫でるって、この街の貴族は命いらずですねぇ♪」

 

って、ミト。楽しそうだな。

 

「みんな、帰るよ♪」

 

ミトを先頭に引き上げる俺達。

 

--------

 

ティファがメリーの書いたメモを見ながら、今回の報告書を書き上げてくれている。迷宮都市の住処に戻って来た俺達。ここが一番落ち着くかな。

 

羽川が添い寝をしてくれている。まったりと過ごすのには良いかな。

 

「主様、お客様がおいでです」

 

って、メリー。身支度をして、執務室へと向かう。そこには桃色髪の少女がいた。

 

「あの時は失礼しました。有名なアール・アルジェント公爵とは知らず、無礼なことを…申し訳ありませんでした」

 

俺って有名なの?なんで、有名なのだろうか?

 

『ちぃぱい好き♪』

 

って、ミト。それは否定しない。って、それで有名なのか…

 

『うそぴょん♪』

 

脅かすなよ…

 

「で、用件は?」

 

「私も…眷属に加えて下さい。お願いします。私も困っている人を救う側に、なりたいんです」

 

彼女の産まれた国、ルモォーク王国は罪深いことをしたそうだ。異世界の日本から8名もの者を拉致したという。正規な手順での召喚では無く拉致なので、神の祝福が無い為、勇者が持つようなユニークスキルが与えられない上、元の世界へ戻ることも出来ないらしい。

 

彼女は、祖国の犯した罪を償い、困っている人に手を差し伸べたいようだ。だけども、彼女には後盾も無い上、祖国も強く無いと言う。そこで、俺の眷属になり、後盾として利用したいらしい。

 

「利用されるのはいやだ」

 

「利用だなんて…違います。主様の為に、私を捧げます。ですから、末席に加えて下さい」

 

ミトを見た俺。

 

「心意気を買ってあげたまえ、アール君」

 

って、ミトはオーケーらしい。

 

「俺の主の許可は出た。今日から、働いてもらうからな」

 

彼女の連れが、その拉致被害者の生き残りらしい。彼らも受け入れた。アオイ・ハルカという少年は『算術』スキル持ちなので、ユイ・アカサキという少女と共に、先輩に預け、メネアは教師枠で、採用した。

 

 

 

 



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プタの街での災難

06/19 誤字を修正

ブタの街だと思っていたら、プタの街だったorz


お仕事…迷宮都市の住処で寝ていたのだが、ミトからお仕事を頼まれた。最果ての街プタへ行って問題を解決して来いって…

 

で、治安は最悪なので、人選は注意と言われた。どうするかな。アーシアと羽川は必須で、後はメリー辺りか?そうなるとルススとフィフィもセットになるのか。

 

リザが来たがっていたが、亜人差別が激しいかもしれないと伝え、今回は諦めて貰った。ミトがいう治安が最悪って、きっと最悪なんだろうな。

 

一番近い拠点まで転移して、馬車でプタの街へと向かった。

 

門の前で揉めている男女5名。小銭を残して、残りを『強奪』した。そして、門番の前へといく。

 

先程の女性達は顔パスで門の中へ、少年は門番により排除された。

 

「入市税が払えないヤツは、ここを通せない」

 

「バイト料が入れば…今、アイツらとの会話を聞いていただろ?」

 

「魔狩人風情は、現金払いが鉄則だ!」

 

門番達にボコられる少年。メリーがメモに書いていく。

 

「やあ、プタの街にようこそ。見ない顔だが、行商人かい?」

 

「いや、旅の途中に寄っただけだよ」

 

身分証明書の銀製のプレートを門番に見せた。

 

「こいつは失礼しました。貴族様でしたか。失礼ついでに貴族様、旅の途中という事でしたが、ここは最果てのプタの町ですぜ? いったい何処への途中なんです?まさか山越えして翼竜の巣に卵取りですかい?」

 

下品な笑顔で、メリー達を値踏みするような目付きで見て居る。門番がこれでは、街の中は巣窟か?

 

「そうそう、守護のポトン准男爵のところには、頭のおかしい他国の貴族が逗留しているみたいだから近寄らない方がいいですぜ」

 

忠告はしてくれた。そこに、問題の源がいるんだな。この街でも街のトップが、闇に加担しているのか?

 

ミトに確認すると、守護とは執政官のことらしい。お代官様って感じなのだろうか?

 

マップ情報で確認すると、問題の人物は、ドォト・ダザレスで、マキワ王国の侯爵で、火魔法使いのようだ。ミトに、人物照会を依頼するメッセージを投げておく。賞罰欄に「放火」「殺人」とあったから。とんでも無いヤツとつるんでいるなぁ。この街のお代官様は…って、街に入れちゃダメだと思う。門番がいい加減なのか?お代官様が誘い込んだのか、捜査してみないとなぁ。

 

このプタの街は、今までの都市と違い、かなり狭い。1キロ四方あるかどうかって感じであり、この街の貴族は、ポトン准男爵一家とダザレス侯爵の関係者だけのようだ。ロクでもない上級社会だな。

 

「ルスス、フィフィ、メリーを護ってくれよ。けっこうヤバい街のようだ」

 

「まかせて!」

 

まぁ、メリーも勇者の従者だったから、タダではやられないだろう。

 

考え事をしていたら、馬車の馬達が誘導され、門前の宿屋へ引き込まれた。ここに泊まるとは決めていないのだが、馬車から馬を手早く外し、宿屋の者が勝手に馬車の扉を開いた。

 

「これはこれは若様、ちょうど良い部屋がございますです。さぁさぁ、こちらですよ」

 

「強引だな!」

 

「敷地に入った以上、1泊分の料金はいただきますよ。どうします?」

 

『問題は起こすな!我慢しろ!』

 

って、ミト。くそっ!強引に宿屋が決められてしまった。部屋に案内されたのだが、浴槽はあるものの、給水設備は無かった。水は有料でバケツ1杯、銅貨1枚だと言う。その水は下水のような臭いがするし…舐めて居るのか?!

 

夜中に盗賊が来るので、ガードマン代が別途請求だという。宿泊費と合わせて、1泊一人銀貨2枚らしい。ぼったくりもいいところだ。

 

「よお、貴族様が泊まってるのはここかい?」

 

って、山賊のような男が、入って来た。セキュリティーが甘々では無いのか?その男は、床一面に解体した鹿の肉を広げた。

 

「銀貨2枚だ♪」

 

って、肉の押し売りのようだ。なんて宿だ…新鮮な肉ってことでは無いし。虫が集っていて、腐敗臭がするんだけど…

 

部屋にはキッチンが無いので、宿屋のコックが引き取っていく。調理代は一人銀貨1枚らしい。一体、いくら請求されるんだ?

 

 

鹿肉料理が出来るまで、時間がかかるということで、観光へと出掛けた。歩いて10分くらいの場所に港があるそうだ。

 

「怪しい宿屋ですね」

 

って、メリー。

 

「まったくだよ。ぼったくりしすぎだよ。この街の再建計画を立てた方が良いな」

 

「わかりました。戻りましたら、検討いたします」

 

で、港…食い物屋や屋台、露店が出ていた。宿で食わないでもいいじゃん。新鮮で綺麗そうな食材だし。見て廻っていると、いきなり声を掛けられた。

 

「なぁ、貴族様か?」

 

チンピラか?

 

「そうだけど」

 

「回復薬があったら、恵んでくれ!」

 

チンピラ風の男が土下座をしてきた。

 

「何があったんだ?」

 

あの問題の男が、火弾を何軒かの亜人の家に投げ込んで、家を燃やしてしまったそうだ。その際、彼の姉が、亜人の子供を助けようとして、大やけどを負ってしまったんだと。

 

「お前の姉の元へ連れて行け!俺は回復魔法持ちだ」

 

「助けてくれるのか?」

 

「困っている者を助けるのは、上に立つ者の務めだ」

 

彼の姉の元へ行き、『回復コンポ』を発動した。彼女は淡い緑の光に包まれて、火傷が治っていく。彼女の症状は酷かった。右肩から顔の右半分にかけて焼け爛れていた。今は、たぶん火傷する前の状態になったはずだ。

 

「神聖魔法ですか…司祭様でしたか…」

 

俺に跪く男性。俺はそういう存在じゃないんだけど…

 

で、問題の男は、街の衛兵が手を出せないばかりか、衛兵が味方をしているらしい。お代官様の仲間なので、逆らえないのだろう。いや、衛兵のレベルが低いんだろうな。あの門番を見ればわかる。

 

「なぁ、まだ火傷を負った者がいるんだ。助けて下さい…」

 

「あぁ」

 

男性に案内された場所は、大規模は焼け跡であった。何人もの亜人達が、横たわっている。

 

「アーシア、マナを分けてくれ」

 

「えっ!」

 

「たぶん、足り無いと思う」

 

「ダメです…マスター…」

 

「じゃ、羽川…マナを寄こせ!」

 

「ダメだよ…ねぇ」

 

「じゃ、いいよ。自前で吸収する」

 

都市核とリンクして、マナを受け取りながら、『回復コンポ』を火傷を負った者達に掛けていく。痛点が無いので痛くは無いが、何かが消えていく気がする。

 

「ダメ…」

 

羽川の感触…

 

「マスター…」

 

アーシアの感触…まるで感じ無い…俺は、このまま、消えられるのかな…

 

--------

 

ここは…柔らかな者に包まれている。

 

「おはよう…」

 

アーゼの声。

 

「あぁ」

 

「よかった…目が醒めて…」

 

「俺はどうなった?」

 

「月の女神が器作って、私が魂を入れました」

 

羽川がいた。

 

「ごめんなさい…私達のせいで…」

 

羽川が謝罪している。なんで?

 

「俺は今、何者?」

 

「魔神と星霊テラの融合体だよ、お兄ちゃん♪」

 

カグヤもいるようだ。

 

「お兄ちゃんは最終形態になったんだよ。もう、大丈夫だよ。ほぼ無尽蔵のマナを持っているから♪」

 

ほぼ無尽蔵なマナ?

 

「そう…この星のマナはお兄ちゃんのマナと同意なんだよ。次にお兄ちゃんが果てる時は、この星も終わりってことだよ」

 

マズいじゃん…

 

「お兄ちゃんの関係者4名で相談した結果、そういうことにしたんだ」

 

関係者4名?

 

「星霊ルナである私カグヤ、星霊ガイアであるカグラ、魔神の彼女だったパリオン、魔神の愛人であるアーゼの4名だよ」

 

なんかうっすらと記憶が…

 

「お兄ちゃんと私は兄妹、カグラがお兄ちゃんの彼女だった。サトゥーさんは、アコンカグラを抹殺する為に送り込まれた殺戮者だよ」

 

まさか…あの星降りは…

 

「そう、本来であれば、あの流星雨でアコンカグラは死ぬはずだった。でも、お兄ちゃんが、それを阻止したんだよ」

 

じゃ、ミトは?

 

「アコンカグラの依り代…流星雨で死んだアコンカグラを封印する為の器だった。だけど、お兄ちゃんに護られて、封印はされなかった」

 

「ごめんね…神々の暴走で迷惑を掛けまくって…」

 

って、パリオン。

 

「やっぱり、ダーリンが待ち人だったんだ♪」

 

嬉しそうなアーゼ。

 

-------

 

俺は目の前の負傷者の治療を終えた。

 

「お帰り…なさい…」

 

羽川が俺を支えていた。アーシアからマナが俺に供給されているようだ。

 

「マスター…お帰りなさい♪」

 

アーシアの嬉しそうな声。

 

「アーシア、ロスタイムは?」

 

「90秒ほどです」

 

「羽川、力を貸してくれるか?」

 

「うん♪勿論だよ♪」

 

「ありがとうございます。聖者様…」

 

亜人達が俺に跪き、祈りを捧げている。なんでだ?

 

『深く考えちゃダメ!』

 

って、ミト…

 

「じゃ、悪い奴をボコりに行くぞ!」

 

俺とアーシアと羽川で、問題のヤツの元へ行こうとすると、馬に跨がって、向こうからやって来た。

 

「そこに居たか、呪われた獣どもが! ■■■ ■■」

 

俺の周囲にいた亜人達が、蜘蛛の子を蹴散らすように逃げていく。アイツの後には、衛兵達と、家臣達も馬に乗って付いて来ていた。

 

火弾が飛んで来た。ソレをお代官様のお屋敷へ強制転移させた。何発も撃ち込んでくるが、すべて強制転移させていく。

 

「貴様、何者だ?」

 

「ミト・ミツクニ公爵配下のアール・アルジェントだ」

 

「なんだと…おい、アイツを殺せ!」

 

衛兵達と家臣達が俺に襲い掛かって来た。だけど、

 

「させるか!フィフィ、ルスス、出番だよ!」

 

メリー達が討って出た。元勇者の従者達…ワンサイドである。あの問題男は、一人敗走していく。逃がさない。

 

「アーシア!この街から出すな!」

 

「了解です!」

 

暫くすると准男爵が大軍を率いてやって来た。

 

「おい、衛兵!そいつがダザレス侯に手を上げた下手人か!さっさと捕縛せんか」

 

メリー達にやられた衛兵達に命令する准男爵。

 

「ダザレス侯だと?我が国にそんな貴族はいなかったはずだ。まさか、街の守護として任ぜられた者が、他国の貴族の暴虐を見過ごすだけでなく援助までしていたわけではないだろうな?」

 

俺は准男爵に訊いてみた。

 

「貴様は何者だ?!」

 

「俺は、公爵のアール・アルジェントだ。ここも俺の領地だったはずだが、准男爵君、どうなんだ?」

 

一瞬怯む准男爵だが、

 

「ここはオーユゴック公爵様からお預かりしている領地だ。コイツらを反逆罪で殺せ!」

 

なるほど、そう来たか♪衛兵が我先にと迫ってきた。なので、衛兵全員をアーシアの迷宮へ強制転移させた。難易度は中くらいだし。問題は無いだろう。

 

「何…消えただと…」

 

「あぁ、俺の所持している迷宮の1つへ行ってもらったよ♪」

 

「貴様!覚えていろよ!」

 

って、一人で敗走する准男爵君。

 

------

 

准男爵のお屋敷に転移して、二人の動きを監視していた。

 

『准男爵の雇った魔狩人はリザ達が殲滅したよ』

 

って、ミト。援軍が来てくれたみたいだ。

 

『そっちはどう?』

 

目の前に、全身に炎を纏った中級魔族と、焼死体が1つある。

 

『待って!』

 

ミトと、アーシア、羽川が転移してきた。

 

「これは?」

 

「問題児が何かを使って、中級魔族に変身したんだよ」

 

「きっと長角だわ」

 

って、羽川。神々が与えた変身アイテムか?

 

「後は頼むよ」

 

マインドロストする自信が会ったので、先に言っておき、俺は『ウルティマウエポン』を発動して、中級魔族を灰にした。

 

--------

 

「起きて…」

 

遠くで誰かの声が聞こえる。

 

「お願い…」

 

誰の声だっけ?

 

「なんで、ここなの?」

 

あれ?なんでイネちゃんの声…

 

「ごめんね、コイツ、バカだから、マインドロストする直前に、ここへ転移したのよ」

 

って、後輩氏の声。

 

「私より、私のベッドが好きって…なんか哀しい…」

 

『強奪』でイネちゃんを引き寄せ、抱き締める。

 

「何?新しいパターンか…」

 

後輩氏の驚いたような声。

 

「え?私でいいの?」

 

イネちゃんの声は喜んでいる。

 

バキ!

 

「え!」

 

暴力的な起こし方に走ったミト…とっても痛い。痛点が無い筈なのに…

 

「こんなに心配しているのに、イネちゃんラブ?有り得ない」

 

バキ!

 

「痛いって…」

 

「はぁ?痛点が無いんだろ?」

 

ドスン!

 

天井近くまでジャンプしてのフライングチェストによる鉄拳制裁…重力加速により拳の威力が増大している。それが俺の腹部へ…痛すぎる。腹を抱えて、のたうち回る俺。

 

「今日は、これくらいにしてやる。おい!帰るぞ!」

 

ミトと共に迷宮都市の我が家に転移した俺。

 

---------

 

ベッドサイドで反省中のミト…

 

「忘れていたよ。そうだった。お前はもう不死王では無かったんだ…すまぬ」

 

なんで、そんな大事な情報を俺に教えないの?痛点が復活しているんじゃないか。痛い訳だ。

 

「記憶があると思ったんだよ…」

 

「今、俺は何?」

 

「…」

 

言えない存在なのか?不死王より、言えない存在って何?

 

「私と同類…に近い」

 

って、羽川。それって…嫌だよ~そんな存在は…みんなと一緒に過ごせなくなりそうだ。

 

「ごめんなさい」

 

羽川に抱きつかれた。ちょっと嬉しい俺。

 

「まぁ、先輩は先輩であるから、先輩でいてくれ!但し、エロ妄想は程々にな♪」

 

って、ミト…って、言われても、記憶に不安がいっぱいだよ。

 

 

 

 



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SS:都市伝説の男

メネア・ルモォークの視点です。


 

 

 

 

グルリアン市太守様主催の晩餐会。あの『奇跡の料理人』であるサトゥー・ペンドラゴン士爵が腕を振るうというので、大盛況であった。

 

だけど、太守夫妻の様子がおかしい。二人共顔面蒼白であった。

 

「なんだって…あのムーン士爵が…アルジェント卿だと…」

 

「えぇ…ペンドラゴン卿の主様のミツクニ公爵もいらしています」

 

「まずいだろ…アルジェント卿は、オーユゴック公爵の義理の息子って話だ。そんな人物に、勲章を授けてしまった…」

 

まさか、ムーン士爵の正体って、あのアルジェント卿なのか…私も無礼なことを…まずい。アルジェント卿と言えば、都市伝説クラスの公爵様である。都市核や迷宮核、源泉までも持っていると言われている。あくまでも都市伝説であるけど…

 

シガ王国の影の執務官だとも言われている。彼の手腕で数名の爵位持ちが左遷されたとも…身分を隠して、諸国を内偵しているとの噂も。いや、噂は本当だったようだ。

 

「大変です…」

 

執務官が駆け込んできた。

 

「貴族の子息達が、アルジェント卿の眷属に手を出して、即刻打ち首にされました」

 

執務官の声で、歓談していた貴族達が固まった。

 

「なんだと…どういうことだ」

 

「王様の外孫の女性に手を掛けた罪で…下流貴族のフロアは血の海です」

 

何名かの貴族の男性が、下流貴族のフロアへ向かうが、悲鳴が聞こえてきた。

 

「王様の外孫に手を…具体的にはどのような行為だ?!」

 

「無理やりスキンシップをしたようです」

 

「衛兵はどうした?衛兵は取り締まらなかったのか?!」

 

「それが、衛兵はアルジェント卿達に刃を…」

 

「おい!シガ八剣と同等の腕前だと聞いている相手にか…」

 

太守様が崩れるように座り込んだ。

 

「なんの騒ぎだ!」

 

オーユゴック公爵様が現れた。今宵の主賓だそうだ。

 

「あの…アルジェント卿が…」

 

事情を話した執務官。

 

「そういうことか…ふふふ♪私は彼を支持する。それは私の孫娘だよ。そうか、即刻手打ちに…実に彼らしいな♪」

 

「オーユゴック卿、お孫様は亡くなられたのでは?」

 

「あぁ、そうだよ。二人共命を落とした。だけど、彼の御業で生き返ったのだよ」

 

蘇生術…最上級神聖魔法である。彼は、司祭なのか?

 

「まさか…」

 

「彼の元には、彼に命を預ける覚悟で、彼の眷属になった者が多い。私の孫娘二人もそうだ。後、私の領地は、次代には彼に譲ることにしている」

 

「なんと…」

 

「既に、ムーノ男爵領、セーリュー伯爵領、セリビーラは彼の領地だよ」

 

え?セリビーラって王家直轄のはず…

 

「彼の功績は表には出ないが、素晴らしいものばかりだ。義理の孫に出来て、私は非常に嬉しい。で、私の孫に手を出した者の家系は、爵位を剥奪だな」

 

「はっはぁ~」

 

執務官がオーユゴック卿へ頭を下げた。

 

--------

 

翌日から、アルジェント卿について、調べてみた。だけど、手がかりが無い。表には出ない人物なのか…オーユゴック卿の公都へ向かった。ここでも、彼のことはわからない。噂レベルの話しか聞けない。

 

ふと、テニオン神殿に足が向いた。彼は聖職者の可能性があるから…そこで神殿に不釣り合いの彫像が目に入った。全身が骸骨の聖職者らしき人物の彫像であった。手には杯のような物を持っている。その人物は『名誉祭司アール』と表記されていた。これは?近くにいた巫女の少女に訊いてみた。

 

「人間が行使してはいけないレベルの魔法を使い、神の呪いを受けて、人間ではなくなったって話です」

 

人間が行使していはいけないレベル…それは蘇生術か?

 

「都市伝説ですよ♪」

 

と、嬉しそうに去って行く少女。まさか、事実を都市伝説として、伝えているのか?そう思った瞬間、全身に鳥肌が立っていく。

 

その像の隣には、見た事のある顔の少女の彫像があった。『聖女セーラ』と表記されていた。その聖女は、骸骨姿の祭司を見つめているような感じに見える。あっ!想い出した。あの時、私の怪我を癒やしてくれた少女の顔にソックリだ。

 

また、近くにいた巫女に訊いてみると、聖女セーラは神託の巫女であったが、魔王に身体を蹂躙され、殉教したそうだ。

 

何かの閃きが舞い降り、私は図書館で調べ物をした。オーユゴック公爵家の家系図である。あった。孫の欄に『セーラ・オーユゴック 巫女 殉教』『リーングランデ・オーユゴック 勇者の従者 殉職』と記されていた。この二人が蘇生されたとしたら…

 

私は彼が住んでいるセリビーラへ向かった。

 

旅のガイドブックには、探険者の街で、荒くれ共の街とあったのだけど、実際には違った。街の中では、ルールが根付いているようで、馬車同士のいざこざなどが無い。ゴミは道ばたに落ちていない。門番の兵士も丁寧で上から目線ではなかった。こんな街は初めてである。横柄な門番が多かった。馬車同士のいざこざが多く目に入った。それらは街の賑わいだと思っていた光景は、この街には無いのだ。

 

「何か、お困りの事はありますか?」

 

笑顔で訊いてきた少女。

 

「アール・アルジェント卿にお会いしに来ました」

 

「あぁ、校長先生の家ですか。乗り合い馬車の3番にお乗りください」

 

と、教えてくれた。彼は校長先生なのか?教わった乗り合い馬車に乗り、彼の家の前で下車した。大きなお屋敷である。表札には『ミト・ミツクニ公爵』と表記されている。

 

ここでいいのかな?彼なら私のしたことを叶えてくれるかな。期待を胸に、呼び鈴を押してみた。

 

 

 

 

 



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魔なる者故

10/28 誤字を修正


セリビーラの執務室で、領内の問題を、メリーと共に向き合っている。

 

 

プタの街、再建計画を建てていく。亜人だけの街も有りか?

 

ぼったくりの宿を閉鎖し、新たな宿を作っていく。まぁ、寝るだけの宿だ。食べ物は、港の店で食って貰う。問題は水だよな。上水が汚水はマズいだろうに。

 

「メリー、何かいい案ってある?」

 

「難しいですよね。船の物資補給がメインの街ですから」

 

観光名所は無いし。働く場所は港だ。他に産業か…

 

「太守代理はどうされます?」

 

「ルーニャに任せようと思う。元王女だし、亜人だけの街なら、安心して任せられるかなって」

 

元奴隷のルーニャ。元々は旧白虎王国の元王女である。プタの街の住民とも話し合いをしたら、俺の推薦する太守代理を受け入れてくれるそうだ。

 

「住民からは、神殿が欲しいって。火傷を治してくれた聖者様を、祀りたいそうですよ♪」

 

「俺は…そういう対象では無いよ。でも、そうだね、観光名所にはなるかな?」

 

「魔物対策は、冒険者学校の卒業生を向かわせるのは、どうでしょうか?」

 

「それもありだな。まぁ、問題は水だな…」

 

次の議題は、グルリアン市である。ここは、太守以外問題は無いか…産業はあるし。名物もあるし。問題が有るとすれば、砂糖が高い件だな。

 

「違う土地で砂糖を安定供給するしかないでしょう。港があるので、流通はしやすいと思います」

 

って、メリー。どこに作るかだな。当面はエチゴヤを頼るか。って、感じで、領内の問題をちょっとずつ片付けていく。

 

現状、浄化能力を持つのは、ナマコくらいか…中層のナマコの養殖場で、水の浄化実験をする。汚水にナマコ似の魔物を入れてみた。結果、水と砂にしてくれた。出来た水は見た目は綺麗だが…まだ、ちょっと微生物が気になる。エチゴヤ製の浄水器に通すと、飲める程度にはなった。これかな?ナマコの養殖も出来るし。

 

メネアの連れのアオイ・ハルカは発明家の素質があるらしく、次々に新製品を作りだしているらしい。浄水器もその1つだ。

 

さっそく、プタの街に、ナマコの養殖場兼浄水場を作った。

 

「おぉ、ナマコって言うか…旨いなぁ」

 

って、住民達には好評である。但し、ここでも飲んべぇに好評で、子供の受けは良くない。まぁ、大人向けの食い物と割りきれば問題は無いかな。

 

-------

 

新しい甘味の開発をアリサと先輩に頼まれた。エチゴヤの倉庫を見回る。何か無いかな…あぁ、微生物…材料を手にして、プタの街へ…そこで発酵をさせていく。良い微生物が見付かるかな。

 

で、お披露目…

 

「うっ!くず餅来たぁぁぁぁぁ~!」

 

アリサが喜んでいる。

 

「黒蜜の完成度が低い上、発酵日数が短いのが難点だよ」

 

「う~ん、こんな感じだよね。これ、保存食にもなるよね?」

 

「発酵食品だから、そうなるな」

 

「これはヨーグルトか?」

 

って、先輩。

 

「微生物が合わなかったようで、微妙だよ。穀物系の微生物だったから、甘酒は成功だよ」

 

米麹の甘酒を試飲してもらった。

 

「甘いしうまいな。良し、これをプタの街の名産で売るか」

 

「名産になるほどの量は無理かな」

 

現状、小さい作業場だし。

 

「エチゴヤで製造工場を作るよ」

 

商売熱心な先輩。

 

--------

 

「料理対決?」

 

う~ん、先輩と料理対決をと、ドハル爺が持ちかけてきた。

 

「奇跡の料理人VS邪道の料理人って、感じでどうだ?」

 

ドハル爺との間の誤解は解けたのだが、俺に詫びたいと色々な企画を持ち込んできた。その中の1つである。うちからの留学生達が、農耕具やら料理用品などを手がける物が多いこともあるが、販売促進企画らしい。

 

「大鍋料理でどうだ?」

 

って爺。う~ん…鍋かぁ…先輩はもうレシピを考え始めていた。勝て無いよな…って、俺の食いたい物を作れば良いのかな?

 

会場は、テニオン神殿の前の広場だと言う。炊き出しのイメージであるが、どうするかな。先輩の助手はルル。俺の助手はセーラになった。

 

「どうします?」

 

セーラに訊かれた。

 

「俺の食べたい物を作る。邪道な料理人だし」

 

「主様らしいわね」

 

って、アリサ。

 

「材料は?」

 

「餡子と水と米粉だな」

 

「はぁい?まさか…白玉入りの飲む汁粉?」

 

「ビンゴ!」

 

「鍋料理?」

 

「俺が食べたいだけ…」

 

「…」

 

さすがのアリサも呆れたようだ。ふふふ♪

 

--------

 

対決当日、奇跡の料理人見たさに、観客がスゴい。俺は、俺の食いたい物を作るだけさ。

 

材料から判断するに、先輩は肉じゃがか、カレーのようだ。俺は鍋に水と黒い塊と白い粉を入れ、火に掛けて、ゆっくりと混ぜ合わせていく。隣では、セーラはせっせと白玉を作っていく。沸騰する手前で火から下ろして、冷ましていく。

 

「アール、お前…巨大水ようかんか?」

 

先輩にバレた…固まる俺…

 

「あれって、鍋料理か?」

 

頷く俺…

 

先輩が俺の料理に興味を失ったようだ。チャンスタイム到来か。

 

もう一つの鍋を火に掛けて、白い液体を温めていく。アチラからは、巨大の鍋が壁になり、見えないはずだ。

 

そして、器に盛る…

 

「何…水ようかんで無いのか…」

 

「珈琲ゼリーですが何か?」

 

珈琲ゼリーに自家製コンデンスミルクを掛けて、特製白玉を添えた。先輩は予想通りカレーのようだ。

 

「うっ!白玉の中に水ようかんって…」

 

アリサがビックリしている。

 

「ほぉ~、苦みと香りと甘さが良いバランスじゃないか」

 

オーユゴック卿の舌にマッチしたようだ。で、審査だけど、先輩の信者さんが多いので、結果はみる必要は無いので、とっとと、住処に退散した。

 

「うまいよ、これ♪」

 

って、ミト。

 

「う~ん?」

 

「う~んなのです」

 

「う?」

 

子供達には苦すぎたようだ。飲んべぇ達には、カルアミルクをコンデンスミルクの上から掛けてあげた。

 

「うまい…」

 

って、リーン。

 

「うん?何を食べているんですか?」

 

しまった。メリーに見付かった。みんなと違う物を、一人でこっそりと食べていた俺。

 

「これは何?」

 

一口食べた。

 

「おいしいです。一人でズルいですよ!」

 

「あっ…フレンチトースト…掛かっているのは、兄ぃのカレーかな?」

 

って、ミト。バレた。フレンチトーストは掛ける物によって、デザートになったり、主食になったりする便利物である。

 

「ほら…これは鍋料理で無いから…」

 

「こっちの黒いのは、珈琲ソース?」

 

一口食べたミト。

 

「あまぁ~…濃縮させた黒蜜か…」

 

試作した珈琲ソースのも食べて貰った、

 

「うっ、これはこれで美味しいなぁ」

 

------

 

翌日、先輩、アリサ、ルル、セーラが住処に戻って来た。

 

「先に帰るなんて…ひどい…」

 

って、セーラ。

 

「なんで、帰っちゃうんですか?」

 

って、ルル。

 

「高評価だったよ」

 

って、アリサ。

 

「お前の勝ちだよ、アール♪」

 

って、先輩。あれ?何で?

 

「お前の方が色々な味の変化があったからだ。くそっ!水ようかんだと思ったのになぁ♪」

 

って、先輩。

 

「あれ?私達がいない間に、何を食べていたのかな?」

 

って、ルル。なんで、わかったの…

 

「あっ!うっすらと、バターの香り…」

 

って、セーラ。

 

「新作をこっそり食べてましたね!」

 

って、アリサ…いや、そのぅ~

 

「「「私達にも作ってください!」」」

 

「えっ…材料が…明日だな。時間がかかるから…」

 

「うん?それは計画的な逃亡ってことですか!」

 

セーラが怒っている。まずい…

 

「負けると決めつけて臨んだのですか?」

 

ルルも怒っている。

 

「作るまで寝かさないよ~♪」

 

って、アリサ…また、徹夜だ…

 

 

翌日の朝、三種のフレンチトーストを、三名を中心に全員に振る舞った。ダメ、もう寝る…

 

--------

 

先輩のお供で晩餐会へ…先輩が懇意にしているシーメン子爵の主催らしい。あのトルマの実兄らしいので身構える俺。ムーン男爵領の件やグルリアンの件、そして公都の件、全てを先輩の手柄として認識しているようだ。いや、先輩の正体がアルジェント卿だと思っているらしい。なんで、ムーン士爵として、参加である。

 

「はじめまして、ムーン士爵様。わたくし、王都と迷宮都市の間で商いをさせて戴いているオグーショと申します」

 

この晩餐会では、子爵の友人という幾人かの貴族と、お抱え商人を紹介された。だけど、商人は先輩だけで充分だし、貴族はあまり好きでは無い。

 

先輩のお付きとしての参加なので、挨拶を素直に受けていく。で、晩餐会が終わり、先輩と共に、シーメン子爵の応接間へ行く。

 

「本日は同僚と共に、ご招待ありがとうございます」

 

先輩が頭を下げているので、俺も下げた。

 

「ペンドラゴン卿は、この街の太守と面識はあるのかね?」

 

って、訊いて来た。

 

「それは…公式のですか?実際のですか?」

 

子爵の真意が分からない先輩は訊き直した。公式にはレーテルの旦那であるが、実際には俺だから。

 

「うん?どういう意味だ?」

 

「いえ。そうなるとアシネン侯爵ですか?」

 

「そうだよ。先程の意味はどういうことかね?」

 

「いえ、気になさらずに」

 

「そうもいかないよ。実際に牛耳っている者は違うってことか?それは、大問題だぞ。王様に報告しなければならない」

 

「王様は知っていますよ」

 

って、俺。

 

「何?貴様には訊いていない。コイツを追い出せ!ペンドラゴン卿の眷属には用は無い!」

 

「では、失礼します」

 

『おい!待て!』

 

って、先輩。だけど、俺は住処へと転移した。眠い…

 

 

 

翌日、執務室でメリーと会議…そこにティファがやって来た。

 

「ご主人様、お客様です」

 

「どなた?」

 

「シーメン子爵です」

 

「帰ってもらえ!」

 

「どうして?」

 

ってメリー。

 

「あのトルマの実兄だよ。関わりたくない」

 

メリー達にも、以前のトルマとの件は話してあった。

 

「あぁ、あの空気読めない、ペンドラゴン卿大好き一族の方ですか…」

 

って、ティファ。

 

「そうだよ」

 

「あぁ、帰ってもらった方がいいわね。私が応対します」

 

って、メリー。メリーとティファが部屋を出て行った。

 

暫くすると玄関が騒がしい。現場へ向かった。

 

「あぁ、ご主人様」

 

ってメリー。子爵が衛兵を連れている。

 

「貴様かぁ~!この街を牛耳り、アルジェント卿の名を騙る、不届き者は?おい!捕らえろ!」

 

衛兵が俺を拘束した。先輩の名前を騙ったことは無いんだけど…この男的には、俺が太守なのは許せないんだろうな。

 

「ふん!王都まで連れて行く。さぁ、来い!このニセモノ風情が…」

 

う~ん…メリー達が展開に唖然としている。ミトは王都だし。まぁ、いいか…

 

「ちょっと、行って来る」

 

俺は、犯罪人として、牢へ入れられて、王都へ輸送されていく。

 

------

 

俺の牢の前には『ペンドラゴン卿のニセモノ』という札が有り、道行く人達に石をぶつけられていく。ペンドラゴン卿は、この国の宝なんだな…俺は闇の部分だから、もういいや。終わりにしてくれよ~!

 

俺の腹部には何本もの剣が刺さっている。衛兵達が刺していった物だ。だけど、死ねない俺…いつしか牢の前の札は『魔物』→『魔族』→『魔王』と出世していった。

 

そして、オーユゴック侯爵領の公都で、さらし者にされる…沢山の見物人…だけど、皆顔面蒼白である。俺のことを知っているから。でも相手は子爵なので、助けられないでいた。

 

「アール様…なんで…」

 

そんな中、リリーが声を掛けてきた。

 

「俺を殺してくれ…リリー…」

 

「ダメですよ…今、助けます!」

 

神殿へ走って行くリリー。神殿長から義父さん経由でオーユゴック卿の耳に入り、俺は牢から解放された。やっと腹部から剣を抜いて貰えた。

 

「大丈夫か…アール君」

 

オーユゴック卿の声。一睡もしてないので、もう返事するのもつらい。

 

「シーメン子爵、これはどういうことだ?私に何の恨みがあるんだ?!」

 

「えっ!コイツは魔王です。王様の前で、首を斬り落とすのですよ」

 

「王様の命令か?」

 

「はっ!」

 

嘘吐き…

 

「アール君…」

 

うん?ミトが王様と宰相と共に転移してきた。

 

「アルジェント卿…これはどういうことだ!シーメン子爵!」

 

王様が叱責をしている。そんなことはいいから、俺を殺してくれ。

 

「コイツは魔王ですよ。今ここで、コイツの首を落としましょうぞ!」

 

「何を言っているんだ?彼は、システィーナ王女の婚約者だ。魔王では無い!」

 

ペンドラゴン卿に心酔しているシーメン子爵には、俺は魔王みたいな存在なのだろう。もう、どうでもいいけど。

 

「ご主人様…」

 

セーラが抱きついた。

 

「大丈夫だよ。良い経験が出来た。えん罪者って、こうやって作れられるんだな。魔王と誤認されたお陰で、犯罪奴隷落ちはしないで済んだよ♪」

 

「大丈夫か?」

 

声を掛けてくれたリーンの肩を借り、立ち上がった。

 

「王様、帰っていい?ベッドで寝たい…」

 

「あぁ、お帰りください。このバカには反省させて、詫びをさせます」

 

「ソイツの弟のトルマも頼むわ。じゃ」

 

セーラとリーンと共に家に転移して、久しぶりにベッドで爆睡♪

 

 

「お兄ちゃんが死ぬと、この星も死ぬから…死なないでね♪」

 

って、カグヤ。そうなのか…

 

 

 

 



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領地視察

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ナマコ養殖事業が軌道に乗ったようだ。ゴミ処理事業も軌道に乗り始めた。生ゴミはナマコ似に、生ゴミ以外はゴキブリ似の魔物のエサにして、養殖をしている。ゴキブリ似の魔物は、カマキリ似の魔物のエサになる。

 

が、まだ黒字にならない。もう少し事業を展開しないとダメか…

 

「しかし、迷宮の魔物を養殖するなんて、先輩くらいだよ」

 

って、ミト。

 

で、シーメン子爵の詫びは、俺で無くて先輩に対してだった。まぁ、先輩の信者だし、しょうがないなぁ。トルマを含めて。温厚な王様も匙を投げたとか…信仰の自由だしねぇ。

 

しかし、事態は新年度に動いた。爵位持ちの人物名鑑と領内の地図の新版の発刊、及び販売に伴ってだ。日本と同じく、この世界でも4月から新年度になるらしい。

 

その爵位持ちの人物名鑑に俺が載ったらしい。

 

『アール・アルジェント公爵 ミト・ミツクニ公爵一門

アルジェント卿一門

・オーユゴック公爵家

・アシネン侯爵家

・マリエンテール伯爵家

・クハノウ伯爵家

 

正妻 アイアリーゼ・ボルエナン

側室 セーラ・オーユゴック

   リーングランデ・オーユゴック

   ゼナ・マリエンテール

   アリサ・クボォーク

   メリーエスト・サガ

   メネア・ルモォーク

   ミーティア・ノロォーク

領地 セリビーラ

   旧ムーノ領

   旧ヨウォーク王国

   プタ

 

って…へ?なんで、ここまでプライベートを晒すの?いやいや、側室がおかしい。メネアとかミーティアは眼中に無いし。王族系の仲間を載せているだけで無いのか?アリサに至っては後10年は何も無いし。

 

『公爵なんだから、公人だよ♪所持している迷宮核が晒されないだけ、ましだよ』

 

って、ミト。まぁ、確かに…王様が指でVサインをしている姿が浮かぶ…う~ん、新手の虐めか?

 

まぁ、情報は晒されても、俺を訪ねる者は皆無である。ミト名義の屋敷に居候しているから、家が見付からないらしい。

 

 

だけど、訪れる者がいた。シーメン子爵である。だけど、ミトが応対して、会わせない方針を伝えたようだ。まぁ、あんな目に遭ったし、今更だよな。って、言うかミト的にはトルマを未だに許していない。

 

後、俺様参上がやって来た。アリサを側室にするなら、正妻に迎えたいと…アリサが拒否したが、外交問題にするって…これもミトが応対して、外交問題にして困るのはどっちって伝えたらしい。

 

あのクソ勇者、どうにかならないか?

 

「スルーが一番よ♪」

 

って、メリー。そうなのか…

 

-------

 

ある事実を知り、今研究中である。炭酸水コップ1杯で金貨1枚になるらしい。どうやれば、いいのか…先輩にラムネの瓶を10本ほど創造して貰い、テストを繰り返す。

 

空気から二酸化炭素を強奪して、水へ強制転移させる。これでいいはずなのだが、うまくいかない。

 

「水と二酸化炭素が細かく混じらないとダメなんじゃ?」

 

って、アリサ。なるほど、ここ迄の失敗の殆どは、湯船での屁こき状態で、原因はそのせいなのか。細かく混ぜる方法は…水にドライアイスを入れるか?いや、ドライアイスは二酸化炭素を冷やすはず。俺には能力は無い。さてどうする。

 

昔テレビで見た映像を想い出す。ラムネ工場の映像…パイプで入れていたような…で、逆さにして圧力でビー玉を栓として嵌めていたような。そうか、圧力を掛けて一気に入れるのか。試行錯誤の日々が続く…

 

そして…

 

「アリサ、飲んでみな」

 

ワクワクするアリサ、ビー玉を押し込むと、噴き出るラムネ…

 

「おぉ~♪これこれ♪いくら位で売るの?」

 

「2本で金貨1枚♪」

 

「儲けは?」

 

「3本で金貨1枚」

 

「ボロ儲け?」

 

「計算上はねぇ、俺がちょっとしんどいのが難点だよ」

 

早速エチゴヤで販売をしてもらう。すると、販売後すぐに完売状態に……

 

「って、言うかさぁ、どの事業も先輩が一人で製造していない?」

 

まぁ、俺の能力で作っているからなぁ…

 

「それじゃ、産業にならないよ~!」

 

って、ミト。まぁ、そうだけど。まずは赤字の補填が先だ。

 

-------

 

迷宮村の村長にラムネをプレゼント。

 

「え?いいのか、こんな高価な物を…」

 

「あぁ」

 

ビー玉を落とし、村長に手渡した。ソレを飲む村長。

 

「うめぇ~♪」

 

「で、何か良い、獲物の情報はあるか?」

 

「食い応えのあるヤツだよな?そうだな、カニなんかどうだ?」

 

カニか…飲んべぇ~向きか?いや、雑炊にすれば給食でも大丈夫かな?

 

村長に聞いたポイントでカニを狩る。って…なんだ、この大きさ…黒竜並の大きさだった。甲羅が硬い。魔王より防御力があるんじゃないのか?

 

鍛錬に使えそうかな?ナナへメッセージを送り、狩人を5分後に強制転移させる。

 

「なんですか、これ?聖魔の攻撃を受け付けませんが」

 

って、聖槍の刃面を魔刃にして攻撃するリザが楽しそうだ。カリナが水中に引き込まれながら、戦っている。リーン、フィフィ、ルススも楽しそうだ。ポチのナイフでもキレない。硬い上に滑るようだ。どうするよ、これ…心臓を強奪では芸が無いし。

 

ゼナの風魔法に怯まないカニ。そうだ♪

 

「カリナ、逆関節で曲げて」

 

「了解♪」

 

ペキ!

 

簡単に折れた。う~ん芸が無いなぁ。それも一番細い脚だし。ハサミのある腕の関節は、カリナでも折れないようだ。あれが旨いと思うんだけど…そうか、カニの旨さをしれば、もう少しヤル気がでるか。

 

心臓を強奪して、1匹仕留めて、参戦者にカニ三昧な料理を振る舞った。

 

「旨い…オーミィ牛より旨いです」

 

って、リザ。

 

「カニ味噌最強だ」

 

って、リーン。

 

「甲羅を器で酒を飲むのか…乙な上に旨い」

 

って、ルスス。がぜん、ヤル気になった皆さん。リザの一番槍で目玉を斬り落とし、リーンが腹側の柔らかい部分から、心臓を一刺し。

 

そして、3匹ほどお持ち帰りして、カニパーティー♪

 

「カニ鍋…この後の雑炊が絶品よね」

 

って、アリサ。概ね好評である。身が詰まっているので、1匹で5日分くらいは取れそうだが、鮮度命の食材なので、給食で使わない部分はエチゴヤ行きか、うちで消費だな。

 

「え?売るんですか?夕食で使いましょうよ」

 

って、ルル、セーラ。カニの味の虜になったような。カニの甲羅、爪、ハサミなど、喰えない部分は装備品への素材に使えるらしい。しかし、特産品にはならないようだ。

 

「だって、チート持ちがいないと、迷宮から持って帰れないよ、そんな大きな物は…」

 

って、ミト。そうか…地上に出る頃には腐るか…う~ん…チート無しの特産品って難しい。

 

-------

 

久しぶりに、ルーニャに会いに行った。プタの街の太守代理をして貰っている。

 

「どうだ?」

 

「住みやすいです。皆さん、優しいですし」

 

亜人を迫害する者は、ここでは罰するルールにしてある。亜人の街っていう感じである。当初1キロ四方だった街は2キロ四方くらいに広がった。

 

「ナマコの養殖はどうだ?」

 

「問題ないです。人間だとグロな内臓ですが、ここでは問題は無いです」

 

獣人系の者には抵抗がないらしいので、働き手はあるそうだ。

 

「早く、税率が上げられる街にしたいって、皆さんが♪」

 

まだ復興中なので、最低限の税率でヤリクリしてもらっている。

 

「予算は足り無いよな。すまない」

 

「いえいえ、皆この住環境が気にいっています。他の街では迫害や差別されますけど、ここなら、安心です」

 

周囲には魔物がいるので安全では無い。まぁ、魔狩人がいるので、街には入って来ないけど。

 

「そうだ、これ、プレゼント」

 

ストレージからラムネを1本取りだし、ルーニャに渡した。

 

「なんですか、これ?」

 

初体験なのか?

 

「うっ…スゴい、喉でシャワシャワします。もしかして、これが炭酸水ですか?」

 

「そうだよ。まぁ、甘みをいれてあるラムネって飲み物だ」

 

「コップ一杯で金貨1枚って、アレですか?」

 

ラムネの瓶を持つ手が震えている。ルーニャには衝撃的だったのかもしれない。

 

「まだ、製造方法が安定しないからダメだけど、いずれ、ここでも販売はしたい。値段をう~んと下げてね」

 

「はい、待っています♪」

 

ルーニャの笑顔はいいなぁ♪

 

-----

 

アリサと旧ヨウォーク領へ、農業の視察♪作物の生長具合を見ながら、都市核で天候を微調整する。

 

「う~ん、開墾が進まないなぁ。収穫はいいんだけど」

 

って、農業担当らしい発言のアリサ。

 

「収穫したソバは持ち帰って食べましょうね、ご主人様♪」

 

「そうだな。って、脱穀をここですれば、殻部分は堆肥に使えるんじゃ?」

 

「まだ、大規模は脱穀設備がいるほど収穫出来ないですよ」

 

「そうだけど…雇用は増やしたいなぁ」

 

安定した仕事を与え、生きる希望を持って欲しい。戦乱が続いたので、ここの領民は疲弊気味ではある。だけど、元王女のアリサの仕事ぶりを見て、ヤル気にはなってくれている。

将来的には、ここをアリサとルルに任せたいと思っている。

 

霊園へ向かうとルルが、霊園の掃除をしていた。セーラ、オーナがそれを手伝っている。掃除が終わると、みんなであの部屋へ向かい、鎮魂を祈り、花束を捧げた。

 

------

 

迷賊にこき使われていた奴隷の中に、薬剤師が数名いた。麻薬を製造していた訳だから、いてもおかしくは無いが。彼らに学校で回復系の製造の講師を頼んでみたら、快く引き受けてくれた。回復系はあればあるだけ、必要である。余れば、他の町へ売れば良いし。

 

 

レーテルから情報を貰った。先代の太守が都市外に実験農場を持っていたそうだ。それを譲渡してくれるって話だ。早速アリサと現場へ行く。

 

「おぉ、水源があるよ♪」

 

って、探索者崩れの盗賊達の巣窟になっていた。なので、全員をナマコ似の養殖場へ強制転移した。

 

「ねぇ、お宝が一杯あるよ」

 

って、アリサ。あぁ、盗賊達が盗んできた物のようだ。持ち主が分からないので、エチゴヤに引き取ってもらった。

 

失敗した農園の上、長年放置した結果なのか、土地はやせていた。

 

「やせた土地だと、トマトか豆類か?」

 

「ジャガイモもいいわねぇ♪」

 

トマトの種を取り寄せ、撒いていく俺。種芋を埋めていくアリサ。あぁ、後、授業で使う薬草系の種も蒔いておくか。

 

-------

 

「如何ですかな? 奴隷商館は王都に数あれど、これほどの品揃えを誇るのは、我がオリエルド商会のみでございます」

 

先輩と奴隷専門の商館に来ている。って言うか。王都には奴隷商館が数多くあるのに驚きである。後で、ごっそり『強奪』して帰るかな♪

 

商人の合図で部屋に入ってきたのは10人ほどの美女や美少女達だ。全員、丈の短い薄物を1枚羽織っているだけであるが、ほとんど全員が先輩の好みのようだ。ここの店主は先輩の好みをリサーチ済みか?

 

 

「オリエルド殿、我らは知的な奴隷を買いに来たといったはずだが?」

 

先輩は店主に声を掛けた。性的な奴隷では無いのだ。欲しい人材は。でも、目的の人物はこの中にいた。下げられるとマズい。

 

「ええ、もちろん、そうですとも。この娘達はいずれも、文字の読み書きができますし、それ以外のお努めも、しっかり教育してありまし、それなりの家柄の出身ですよ」

 

家柄は関係ないと思う。

 

延々と女性達のプロフィールと所持スキル、アピールポイントを説明してくれた。血筋が良いと金貨数百枚レベルだ。高いなぁ…

 

「この年齢的に高い子は、もう少し負けてくれないか?」

 

狙いを定めた子は先輩のストライクゾーンでは無いので、俺が訊いた。

 

「年増好きですか?」

 

「そういう訳では無いけど…」

 

「血筋的に、父親は男爵で、祖父は侯爵ですからね。金貨450枚でどうですか?」

 

「俺の知り合いなんだ。もう少し勉強して貰えないか?」

 

先輩が口を挟んだ。

 

「それでは350でどうですか?」

 

先輩から、メッセージで「買え」って…

 

「分かりました。それで、お願いします」

 

即金で支払、『契約』スキル持ちの担当者が、名義を変更してくれた。彼女を連れて宿へと戻る。

 

部屋に入ると着ている物を脱いだ。彼女の奴隷という称号を『強奪』して、犯罪奴隷の誰かに強制転移させた。彼女の称号は『アールのメイド』になった。

 

「クロ様、どのようなサービスをすれば良いですか?」

 

あれ?先輩が主なのか?まぁ、いいけど。

 

「お前の主は俺ではない。あっちだ!」

 

って、俺を指差す先輩。

 

「え?」

 

驚いている彼女。先輩に惚れたのか?

 

「クロ様では無いのですか…大店の旦那様の愛人では無いんですか…」

 

あぁ、エチゴヤの経営者として、あの商館に出入りしていたのか。

 

『まて!誤解だ!』

 

奴隷館が別宅かな?

 

『違うって…』

 

先輩から弁明のメッセージが多数届いた。

 

「コレを着てくれ」

 

彼女用の服を彼女の前に置いた。秘書のような服装である。

 

「こういうプレイが好きなの?」

 

「早く着ろ!着たら宿を引き払う」

 

「詐欺とかの片棒は嫌だよ!」

 

俺は詐欺師顔なのか?彼女が着替え終わると、宿を引き払い、追っ手がいないことを確認して、転移した。

 

-------

 

「ここが明日から、君に働いて貰う職場だ」

 

俺はエルテリーナ・ロンドンベールに告げた。彼女は老人の顔を見て固まっていた。彼女の瞳から一筋の涙が零れていく。

 

「エルテリーナ…元気そうだな。アルジェント卿、ありがとうございます」

 

彼女の祖父のケルテン侯爵が俺に頭を下げた。彼は、シガ王国の軍務大臣で、ジュレちゃんを介して知り合った。その彼に相談を受けた俺。敵対組織に誘拐された孫娘が奴隷として売られているらしいと。証拠も無しに踏み込めない上、もし踏み込んでも、彼女を隠されてしまう危険があった。なので、俺が買ってくることにしたのだ。売っている店は、先輩の知っている店だし♪

 

「金貨350枚だって…」

 

まぁ、『強奪』でその100倍以上は回収したけど…それは内緒だ。

 

「ありがとうございます。本当にありがとうございます」

 

「礼はいいよ。王様を護ってくれればさぁ♪」

 

「お祖父様…彼は何者ですか?」

 

エルテリーナが侯爵に訊いた。

 

「俺は…侯爵の知り合いだ。それ以上でも、それ以下でも無い。エルテリーナ、侯爵の秘書をしろ。それがお前に与える仕事だ♪」

 

俺と先輩は、迷宮都市の住処へと転移した。あぁ~眠い…

 

 

 



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SS:新たなる生活

エルテリーナ・ロンドンベールの視点です。

06/28 誤字を修正


 

お祖父様と再会できた。お祖父様を良く思わない連中に捕まり、奴隷として売られた私。もう、家族には会えないと思っていたのに。涙が止まらない。

 

「お祖父様…彼は何者ですか?」

 

先程は、彼の言葉で答えを訊けなかったので、再度訊いてみた。

 

「言わない約束だ。彼はそういう者だ。手柄を立てたい訳では無いのだよ」

 

正体が言えない人物?何者だ?金貨350枚を即金で払える人物。エチゴヤの大旦那様の知り合い…

 

翌日から、今まで忘れていた生活に戻った。お父様、お母様、お祖父様、お祖母様に囲まれた生活である。だけど、奴隷落ちした私には、貴族であって貴族では無い。外に出ると好奇な目で見られる。

 

家族には気にするなと言われるが…気にならない訳がない。私は性なる下僕になる為に調教された奴隷である…死にたい…

 

--------

 

戻って来てどれくらいかな?精神的にまいっている私。

 

「アルジェント卿…孫を頼めませんか?」

 

お祖父様の声…私の部屋の前から聞こえる。

 

「俺ですか?う~ん…彼女は太守代理を任せられる器ですか?」

 

はぁ?何をいきなり…太守代理って何…

 

「いきなりは無理です。アルジェント卿の元に置いてください。お願いします。王都では孫を、好奇な目から護り切れません」

 

「どこにいても、好奇な目にはさらされますよ」

 

「卿の元なら…お願いします」

 

「見返りは?」

 

見返り…腹黒いのか?コイツは…

 

「軍務担当ですよ、私は。税収の件ですよね?」

 

税収?彼は領主なのか?

 

「まぁ…赤字なんですよ~」

 

「う~ん、分かりました。軍部でも寄付金を募ってみます」

 

寄付金で賄っているのか、領地を…って、じゃぁ、あの金貨はなけなしのお金だったのか?一言言おうとドアを開けると、違う場所にいた。ここはどこ?

 

「ここは、セリビーラの私の屋敷よ」

 

って、知らない女性に言われた。知らない?いや、どこかで見かけたことのある女性だ。

 

「あの…彼の奥様ですか?」

 

「私は独身よ♪あいつは、私の片腕よ」

 

片腕?

 

「眠い…ミト、俺は寝るよ!」

 

「はぁ?まだ、昼間だよ~」

 

「ご主人様、カニを狩りに行きましょう♪」

 

「ラムネ?」

 

「ハンバーグ先生なのです♪」

 

「フレンチトースト」

 

「パンケーキ♪」

 

「えっ?!眠いんだけど…」

 

困った表情の彼に群がる少女達。ここは、彼のハーレムか?

 

「そうね、ハーレムかな。ご主人様は、そういうことを命じないけど」

 

また、違う女性…どこか貴賓がある…

 

「あれ?エルテリーナさん…どうしてここへ?」

 

私を知る人物がいるようだ。声の主を見ると…システィーナ王女だった。

 

「王女様こそ、どうして…」

 

「公式には、アイツの婚約者だから…」

 

って、彼を指差す王女。えぇぇぇぇ~!王女の婚約者?!

 

「彼は誰?」

 

「え?知らないで連れ込まれたの?」

 

頷く私。

 

「端的に言うと、バカ♪」

 

へ?なんだ、それは…

 

「でも、アイツのやることに間違いは少ない。アイツの肩は持ちたくないけど、賛同出来る」

 

よくわからない。

 

「あぁ、そこで寝ちゃダメ~!」

 

なんで…王様の外孫のセーラ…死んだはずなのに…

 

「しょうがないなぁ。セーラ、ソッチの肩を持てよ」

 

「はい、お姉様♪」

 

リーングランデ…彼女も死んだはずだ。ここはなんだ…

 

「新人さん?」

 

紫髪の少女に訊かれた。

 

「ここは何?」

 

「知らないで、来たの?命要らずねぇ~♪」

 

「命は…取らないで…」

 

「ここには、死神はいないから大丈夫よ♪」

 

死神はいない?何ならいるんだ?

 

--------

 

よくわからないまま、数日が過ぎた。食事はおいしい。素材がわからない物があるのが、不安なのだけど…

 

「そろそろ、ここの生活になれたかしら?」

 

初日に声を掛けてくれた貴賓のある女性に、再び声を掛けられた。

 

「なんとなくですが」

 

「そう。アナタには仕事を覚えて貰います。私は主様の情報分析担当のメリーエスト・サガです」

 

え…サガ帝国の王女様…まさか…

 

「あちらにいるのは、書記官のティファリーザです」

 

ティファリーザさんが頭を軽く下げたので、それに応じた私。

 

「私の仕事ってなんですか?」

 

「あなたには、将来的に太守代行をしてもらう予定です」

 

お祖父様が口にしていた職務だ。

 

「代行?」

 

「えぇ、太守は主様がなりますが、領地が飛び地状態の上、広大ですので、太守代行を置き、行政をスムーズに行う為です」

 

領地が広大?

 

「うん?全く何も知らずに来たのですか…困ったわねぇ」

 

メリーエストさんが爵位持ち人物名鑑を開いて見せてくれた。そこには…『アール・アルジェント公爵』について書かれていた。彼は公爵だったのか…あんなに若いのに…有能なんだ。お祖父様が頼るくらいだし。

 

「今後は私とティファリーザとあなたで、主様の執務を熟します。いいですね」

 

公爵様の秘書?でも…

 

「私は元奴隷です…」

 

「だから、何?ティファリーザもそうよ。主様の眷属には、元奴隷が沢山います。誰も、それを理由に職務を疎かにはしないわ」

 

だから、私は公爵様に預けられたのか…同じ環境だった者が多いから。元奴隷でも、それを感じさせない生活が出来る環境だから…

 

お祖父様、ありがとうございます。

 

 

 



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領地改良

06/04 誤字を修正


新たな産業…俺の能力無しで…う~ん…

 

プタの街に、みんなで訪れている。街の周囲の魔物が増えてきた為、食材探しを兼ねて、皆で狩りに来たのだ。その傍らで、新たな産業について、ミトとあれこれと考えて居る。

 

港はある。海がある。そうなると造船業か?周囲には森もあり、木材も確保し易い。

 

「動力はどうする?」

 

って、ミト。人力で漕ぐか、帆船が主流である。大型船はちょっと港の規模的に無理そうだし。ナマコは名産品になりつつある。住民達の間にも浸透したようだ。乾燥ナマコの戻し具合で、肉の食感が味わえることにきづいたようだった。

 

「まぁ、ナマコは、庶民の間で流行しているから、産業にはなるけど…」

 

エサが問題になる。領内で出たゴミを収集して来ているが、ゴミの街と言われているし。そのイメージは払拭したい。

 

「カニの養殖は?」

 

エサが問題である。イマイチ、エサが分からないのだった。迷宮内でしか取れない何かの可能性がある。

 

「考えたんだけど、塩はどうかな?」

 

「塩?」

 

「実験をしてみたんだ。濁った水にナマコを入れると、水と塩と砂にしてくれるんだよ」

 

なにげなく、水槽で飼っていたのだが、このナマコは綺麗な水だと生きられないようだった。むしろ汚れた水で無いと生きられないというか。そこで、排泄物を調べてみたら、塩は消化も吸収もせずに排泄されていた。他の成分は、金属類以外は消化、吸収されて、砂になっていた。

 

「取り出した砂を水で溶かして、上澄みを蒸発させると、純粋な塩が取れるんだよ」

 

「製塩業か…そうなるとボイラーよね。燃料はどうする?」

 

「炭かな?石炭があれば、石炭でもいいけど」

 

先輩にボイラーを創造してもらい、製塩設備を作っていく。住民達は興味深そうに、建設現場を見ていた。新しい働き場所、新しい物作り、新しい稼ぎ場所…色々な目で見ているのかもしれない。

 

海の水を巨大水槽に入れ、ナマコを数匹投入した。綺麗な水になるとナマコが逃げ始める。それが浄化出来た証である。ナマコ達は次の現場へ向かわせ、水槽の中身を攪拌して、水分だけを、製塩装置へ入れて、水分を飛ばしていく。その時に出来た水蒸気は冷やして、飲み水に回し、塩を取り出す。

 

「リサイクルと言えばリサイクルよね…」

 

って、ミト。新しい産業に喜ぶルーニャ。

 

-------

 

久しぶりにリリアンに呼び出された。

 

「何?」

 

「フロアボスを倒したそうだな」

 

「って、何時の話だ?」

 

「ジュレバーグの小僧から聞いたんだが…」

 

「随分前だな」

 

「祝賀祭をしようと思ってな」

 

「祭りの名目だろ?」

 

忌々しそうな顔のリリアン。

 

「やれば、いいじゃん。俺は忙しいからこれで…」

 

「お前、主役だぞ!」

 

「興味無いよ。財政の再建が俺にとっての一番の問題だ。その祭りの費用は、街からの持ち出しだろ?」

 

はっとして、俺が素っ気ない素振りの意味を理解したリリアン。

 

「そういうことか…」

 

「そうだよ。ここの黒字分で、他の赤字を埋めているんだよ。無駄は出費は控えないとダメだ」

 

「だが、しきたりだ」

 

「そうなのか…じゃ、ペンドラゴン卿と相談してくれ。ミツクニ卿の金庫番だから」

 

っと、先輩に振った俺。

 

------

 

だけど、火の粉は俺に降りかかる。

 

「料理フェスティバル?」

 

先輩が妙な企画を持ち出して来た。

 

「他の街から観光客を呼んで、祭りに掛かる費用を浮かせようと思うんだよ」

 

奇跡の料理人VS邪道の料理人第2幕らしい。前回のコンクールでは俺が勝ったらしいから…

 

「勿論、協力はするよな!太守だもんな♪」

 

結局、関わることになってしまった。プタの街の再開発が…

 

 

「で、どうするんですか?料理のテーマは?」

 

って、ルル。

 

「俺はシガの名産品で勝負する」

 

って、先輩。オーミィ牛か…

 

「俺は迷宮料理か…そうなると…」

 

魔物料理に走る俺。

 

「じゃ、王宮料理VS迷宮料理でいいかな?」

 

って、ミト。頷く俺達。その日から、迷宮での狩りを再開した。俺のストレージは水産物塗れになっていく。ウニ、カニ、マグロ、カツオ…に、似た魔物達…フロアボスとして出て来た大王イカ似の魔物とかも…フロアボスって、倒すと数年出ないはずだが、『強奪』で強制的に呼び出せた。

 

-------

 

そして、祭りの前日…街に入る門の前には行列が並ぶ。入市税が入る♪少し潤う財政…学校の生徒達、教師陣達をボランティアにして、お客様達のガイド役を頼んだ。

 

前回と同じで、ルルが先輩の助手、セーラが俺の助手となり、調理をし始めた。俺のメニューは、ナマコの酢和え、マグロの漬け、イカそうめん、カツオの叩き、生ウニのせのカニグラタン。この世界では邪道な料理である。全て迷宮で取った魔物だし…

 

先輩はオーミィ牛のステーキ…王道過ぎる…それ一品って…

 

うちの肉食娘達は全員、先輩に一票を入れたそうだ。って、いうかうちの者達全員が先輩に一票を投じた。やはり、オーミィ牛に勝る食材は無い。いや、俺の素材の出処を知っていることもあるが。

 

だけど、来客者には、産地は分からない。単純な料理対決のようだ。

 

で、結果は、俺の勝利…全然悔しがらない先輩…負ける気でやっていたのか…俺は全力で調理したのに~、凹む俺。

 

「いや~、発想力の勝利ですねぇ~、アルジェント卿」

 

って、笑顔で俺を讃える先輩…負けた気がするんですが…

 

その負けた気を引き摺って、フロアボス討伐を讃えた授与式…本来は太守が授ける物なのだが、副太守のアシネン卿が苦笑い気味で、太守の俺に授与してきた。まぁ、貰える物は貰っておく。副賞は色々読み上げているが、その分の資金はプタの街で使う。

 

「アルジェント卿、カニはどこで獲れるのだ」

 

って、オーユゴック卿。

 

「迷宮ですが…」

 

「迷宮?まさか…魔物なのか…」

 

力無く頷く俺。

 

「魔物って、うまいのか…」

 

「物によります。カニは旨い部類です」

 

「流通は出来ないか?」

 

気に入ってもらえたようだ。だけど…

 

「難しいです。巨大なので、解体して地上へ持ち出すのですが、日持ちがしませんから」

 

チート能力無しでは、持ち出せないのだ。

 

「そうか…」

 

残念そうなオーユゴック卿。

 

「お祖父様、また、食べに来て下さいね♪」

 

って、セーラ。

 

「ここの名物にしますから」

 

って、リーン。あぁ、その手があったか…予約制で、食べて貰えるようにすれば、ここの名物にはなりそうである。

 

「そうじゃな。セーラ、リーングランデ、お前達の元気な姿も見られるしな」

 

って、元気を取り戻してくれたオーユゴック卿。

 

-------

 

テンちゃんに跨がり、山々を探査している。炭鉱探しである。ボイラーの燃料を探していた。ミトが言うには、古い山の地下にあるというので、飛べない俺はテンちゃんに跨がり、ドラゴン酔いに耐えて、炭鉱を探していた。

 

そして日が暮れると、ミトのいた神殿で、夜明けを待つ。テンちゃんと、あんなこと、こんなことをしながら…そして、朝日が昇り始めると、探索を開始する。

 

「無いねぇ…」

 

「無いなぁ…」

 

もう1週間である。テンちゃんだけでは、飽きてきた。テンちゃんは悪くないんだけど…淡泊すぎる…神殿にはアレコレする道具も皆無だし…

 

「あれは?」

 

地層が黒っぽい。着地して貰って、確かめる。炭である。だけど、ここってどこ?マップ検索をしてみた。マップ表示されない。未開の地のようだ。なんか、ワサワサと魔物?現地人が湧き出て来た。ゴブリンだ…

 

「あれって、現地人かな、テンちゃん?」

 

「亜人でなくて、魔物だよ。どうする?」

 

殺さないように、倒していく。労働力になれば、使いたいから。でも、魔物である。異物である俺達を排除の方向のようで…俺とテンちゃんで、ゴブリンを殲滅した。

 

「ここから一番近い街ってどこ?」

 

「どこだろうね」

 

って、テンちゃんも、わからないらしい。そうだ、広域マップ検索してみた。う~ん…アーゼの森の奥の山を2つばかり超えた辺りのようだ。これって、道が無いのか…って、アーゼの森を突っ切る訳に行かないし。別ルートを探る。山を4つくらい越えれば海…海路でプタの街か?

 

「この辺りは魔物の巣窟が多いみたいだよ。開発向きでは無いかな」

 

開発向きでは無いから、手つかずの資源があるのでは無いか?

 

「チート持ちしか来られないよ」

 

そんな気がする。ミトからの指令は、チート能力無しでの産業の育成ではあるが…

 

「どうするかな?まぁ、ここはキープかな」

 

炭鉱辺りの土地をどう抑えればいいんだ?どこの領地でも無いし。

 

『大丈夫、そこはダーリンの土地にする』

 

って、アーゼの声。アーゼの森に隣接した未開の地は、アーゼの領域であるらしい。文明との緩衝エリアになるそうだ。そんな場所は開発出来ないじゃん。

 

『ダーリンなら、許可します♪』

 

って、アーゼ。うん?もしかして、俺の心をモニタ出来るのか?

 

『うん♪』

 

衝撃的なお返事である。ミト、先輩、カグヤに続いて、4人目の監視者がいた。はぁ、凹む俺…

 

『ダーリンのがんばりはいつも、見ているからね』

 

って、励まされた俺。

 

そして、テンちゃんと、もっと開発しやすい場所を探しに行く。

 

--------

 

プタの街に戻った。開発し易い場所に、無いようだった。いや、開発し易い場所は、既に開発されていた。

 

「買えばいいんじゃないの?」

 

って、アリサ。そうだけど、コストが上がってしまう。

 

「地道に炭焼きだな」

 

って、ミト。そうだな。伐採木の再利用だな。炭焼き小屋を先輩に創造して貰い、設置した。森での活動メインになるので、猿人族を多めに雇い入れて、炭焼きをスタートさせた。

 

副産物である木酢液は、エチゴヤが買い取ってくれるようだ。消毒薬、殺菌薬になるらしい。

 

この頃になると街は4キロ四方程度に広がっていた。迫害や差別から逃れてきた亜人達を受け入れていたから、住民数が増えていたのだ。まぁ、犯罪に走る輩も多いので、迷わず間引いていく。見せしめを兼ねて、犯罪奴隷…それでも改心出来無い者達は、ナマコのエサに…残酷であるが、見せしめ要素である。住民達も納得はしている。街が荒れるのを一番恐れているのは、彼らだからだ。

 

犯罪奴隷達には、あの炭鉱堀をさせている。道を作らせ、沿岸に近い炭鉱から開発をしていく。犯罪奴隷でも改心をした者は、普通の奴隷、そして労働者と、身分のステップアップをしていく。見せしめの逆側も示すことで、勤労意欲を持って貰う為である。

 

--------

 

プタの街の改善は少しずつであるが、為されていった。塩も『プタの塩』として、エチゴヤで販売できるようになった。これで『プタのナマコ』と合わせて産業は2つだ。

 

「で、農業はどうする?」

 

農業担当のアリサからお声が掛かった。だけど、農業はすぐに結果は出ない。米、麦、そば、豆はどうにか収獲できる。セリビーラの試験農園ではトマト、薬草も順調である。

 

「開墾手段だよな…」

 

「人手が足りない」

 

アリアの祖国は戦乱の果てに、荒れ地である。ペンペン草すら生えないし。一旦、掘り返して、土を活性化しないとダメだとアリサは言う。だけど、固い表面…リザ、カリナなど力自慢ですら、根をあげている。人力では無理だ。

 

「先輩、トラクターきぼんぬ」

 

「すまん。創造出来ないみたいだ」

 

神の怒りに触れそうな物は創造できないようだ。今夜、羽川は、あの姉妹にいたぶられそうだ。

 

「ゴーレムは作れますよね?」

 

「それは作れる。あぁ、ゴーレムで耕すのか?」

 

頷く俺。当面の戦力である。次の一手が見付かるまでの…あっ!もっといい戦力を想い出した♪テンちゃんと、とある場所に向かい、スカウトしてきた。黒竜である。コイツの爪で掻いて貰えば一撃の筈である。お代は、1日1回のお手合わせで良いらしい。戦闘狂の黒竜らしい申し出である。

 

あんなに苦労していた開墾が、1週間で終わった。黒竜は今後の予定地も開墾してくれた。俺と毎日戦いたい為だけに…

 

次の課題は、土の改良である。腐葉土、培養土を混ぜ込み、土の活性化である。土に保水性が乏しいので、その辺りも改良のポイントになる。

 

「肥料だよね。土中の微生物を活性化させる感じ」

 

アリサが、知恵を絞り出す。

 

「生ゴミはナマコのエサだしねぇ」

 

それ以外の肥料…排泄物…

 

「肥だめ?臭いはどうする?まぁ、この辺りは問題はないけど」

 

アリサの祖国は、あの霊園と迷宮、城跡以外を農園にする予定である。霊園へ来る人が不快に思うか。

 

「そうか…排泄物を食うヤツを見つけて、その排泄物を使えば、腸内発酵してくれそうだよね?」

 

「そうだけど、そんな都合の良い生物は…あっ!ミミズ…」

 

ミミズ…それに似た魔物は見かけていない。見かけていないなら、作れば良いのか?アーシア、ナナと共に、揺り篭の迷宮の迷宮の制御室へ。アーシアに訊きながら、魔物の創造に挑む。色々作り出すが目的のミミズ似の魔物が創造できない。うん?フンコロガシ似の魔物がいるなぁ。これはどうだ?

 

「効率は悪いけど、まぁ、処理には出来るわね」

 

アリサが苦い顔である。まぁ、取り敢えず、プランターを作り、処理をさせてみた。それと並行して、魔物創造をしていく。

 

先輩が地物のミミズを見つけてくれた。だけど、デカい…100メートルはあるのではないか?予定地に放牧してみたが、全身が土に潜る前に干物になっているし…日差し対策もいるのか…コレを入れるプランターってどんな大きさ?

 

「ミミズは二匹以上一緒にしないと産卵できないわよ」

 

アリサが更に無理なことを…100メーター級を2匹も飼う場所か…アリサが、図面を書き始めた。上から排泄物を投入して、排気の煙突を立てる。臭いは地面に降りる前に霧散する設計らしい。下の部分には、汚水層と、ミミズの糞である培養土を取り出す扉。汚水層にはナマコを入れて浄水させるそうだ。

 

この図面を見ながら、先輩が創造能力で、プランターを作り上げて、俺が、ミミズと排泄物を転移させていく。当面はチート能力有りきである。ミミズのサイズが問題であるから。

 

排泄物は領内から強制転移させていく。いずれ、ミミズの小型化をして、街の下水道の浄化に活用したい。

 

そんな領地の改善計画そしていた俺達だけど、年末が近づいて来た。王都での新年…憂鬱な季節到来である。人前に出るのは、苦痛であるから。

 

 

 

 



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新年のイベント

 

朝の日課…アリサとルルを彼女達の祖国へ連れて行く。夕方まで執務を二人で熟してくれる。アリサが太守代理で、ルルが太守補佐である。アリサは農地担当、ルルは霊園の担当でそれぞれを管理、運営してくれている。

 

まぁ、年の瀬でもその日課は変わらない。

 

「なぁ、ミト。新年を迎えるってことは、魔王の季節は終わるのか?」

 

66年周期で季節がヤッテ来るって言われたし。

 

「終わるかもしれないし、終わらないかもしれない。あくまでも、魔王の発生率が高くなる年ってことなのよ」

 

なるほど…魔王は一体では無いし、復活してくるヤツもいるし、確率の問題ってことか。

 

「魔王が出ても、先輩がいれば問題ないしねぇ♪」

 

期待されても困る。

 

新年に向けて、王都へ向かう準備をする。向かうと言っても転移術である。人数が多いため、効率的であり、旅費の節約にもなる。緊縮財政は変わらない。俺は貧乏領主であるのだ。

 

「貧乏?端から見たら、ハーレム生活を優雅に送っている公爵様に見えたり」

 

それは否定しない。何故、女性の仲間が増えていくんだ?

 

「先輩は一緒にいたいってタイプで無くて、一緒にいないとってタイプだからじゃない」

 

それは、一人にしておくと、危険ってことか?

 

『危険だよ♪』

 

って、カグヤ。そうなのか…

 

「悩むなよ。似合わないぞ」

 

ミトが笑って、言い放った。まぁ、そうかもな。俺が悩んでも何も変わらないか。

 

ゼナ、セーラ、ティファ、リーナを先に王都のミツクニ邸へ送り届けた。所謂、お掃除部隊である。メリーは執務があるので最後の組で、徐々に送り届けていく。

 

先輩達は既に王都のエチゴヤへ転移したようだ。

 

「アリサ達も年末年始も仕事?」

 

「そうだね。作物に休日は無いし、霊園は年末年始に訪れる人が多いらしいから」

 

ルーニャも休まず、仕事だそうだ。亜人には盆暮れ正月が無いらしい。ルーニャのような王族にはあるらしいが、今の仕事が楽しいので、休まずに営業だという。

 

あぁ、ニナを連れて行かないと…ニナを王都へ送り届ける。後、誰だっけ?

 

--------

 

王都に着いて、アーシアと共に、迷宮の制御室へ。異常な発生が無いか、変な異物が混入していないかをチェックしていく。ここを王家直轄の迷宮にしたいらしい。なので、賃貸契約を結ぶ事になっている。契約自体はニナとメリーにお任せしている。俺とアーシアがすることは。低層を初級者から中級者が楽しめる難易度にして。中層は上級者、下層は勇者クラスって感じである。テストはリザ達、うちのメンバーが担当することになっている。

 

「リザから肉の獲れる魔物をリクエストされています」

 

って、アーシア。肉かぁ~、牛さんかな?中層に置くか。兎さんも中層に…狩りは中層にするか。揺り篭から、カマキリ、ゴキブリを少しだけ上層に撒いておく。

 

「アーシア、瘴気が溜まり過ぎないように」

 

「了解です。設定値を超えた物は、セリビーラの迷宮へ流します」

 

瘴気が溜まり過ぎると良く無いらしい。魔物を作る際に必要であるが、ここのようにまだ営業前の迷宮では注意がいるようだ。アーシアの迷宮は、魔物創造しているので、規定値を超える事は無いそうだ。迷宮核の管理、運営って結構大変である。

 

設定を終えて、ミツクニ邸へ帰還した。新年を迎えると、無理難題が山積みされる爵位会議かぁ。気分はダークになっていく。

 

「そうだ。王様が新年の挨拶のあと、料理フェスティバルをしたいって」

 

ミトが嬉しそうに言う。俺には関係無いのでスルーだな。

 

「奇跡の料理人のリベンジなるか?ってサブタイトルらしいよ♪」

 

うん?それって、俺が調理するのか?

 

「うんうん♪」

 

嬉しそうに頷くミト。

 

『今度こそ、勝とうかな~』

 

って、先輩。勝つ気ないだろ…

 

「テーマは新年に相応しい物だって」

 

新年に相応しい?俺も持っている食材には無いぞ…どうする。

 

-------

 

暮れ…俺の代わりにみんなが手分けをして、挨拶回りをしてくれている。俺は、メニュー作り…

 

紅白だよな…すいとんにするかな…ニンジンを添えれば、紅白だし…小麦粉なら有るし。安直な俺。ニンジンもそこそこ収穫できていたはず。荒れた大地に根菜で挑んでみたのだが、地面が固いせいで、真っ直ぐに生育出来た物は少なかった。千切りにすれば、見てくれはクリアかな?

 

「どう?」

 

ミトがやって来て、俺のメニュー表を見て固まった。

 

「すいとん?」

 

「うん」

 

「夢が無いなぁ…って、王道過ぎるだろ?」

 

えっ!邪道だろ?すいとんだぞ。

 

「もっと、攻めた料理がいいなぁ~」

 

どう攻めろというんだ?後、手持ちの材料は米粉とそば粉か…エチゴヤの倉庫へ向かう。手持ちの材料だけでは無理な気がしたから。倉庫を見回して、目が合った食材…テングサかぁ。寒天…すいとんの用のグルテンを発酵させて、くず餅…米粉で白玉…そば粉だとガレットか…甘味に走るか…黒蜜を探し始めた俺。

 

-------

 

大晦日、俺はソバを2人前持って、月が見える場所へ…

 

「ありがとう…お兄ちゃん♪」

 

笑顔のカグヤが舞い降りて来た。二人で並んで、そばをすする。

 

「いつまでも一緒だよ、おにいちゃん」

 

ソバを完食するとカグヤは帰って行った。次の予定があることを知っているから。俺は、次の予定に場所、アーゼの部屋へ転移した。新年を祝う舞いが披露されるのだ。

 

アーゼ達の新年の舞いを見て、ミツクニ邸に戻った。お節料理を目に焼き付けて、俺はミトと共に会議の場へ…

 

領地の収支報告をして、王様に赤字補填を訴えた。

 

「う~む、そうじゃな。アルジェント卿のがんばりは知っている。少しずつだが、寄付金も集めている。今年からは、迷宮の使用料も払えると思う」

 

迷宮の入場料の10%と、魔核の買い取り価格から10%が、迷宮の収入となるらしい。メリーとニナが交渉したんだから、問題は無いはずだ。

 

「アルジェント卿には、周囲の国々の視察も頼みたい。いいですかな、ミツクニ卿」

 

「喜んで♪」

 

俺が頼まれたのに、なぜかミトの承認を得る王様。それを嬉しそうに受諾するミト。俺の仕事が増えた気がする。

 

「で、ですね。権限をもう少しもらえませんか?王様の代理とか…」

 

ミト…やめろ。俺の責任が増すではないか。

 

「そうですね。それで良いと思います。全て、ミツクニ卿へ委ねます」

 

王様よりエライミト。で、俺に丸投げするミト…こいつ、悪女系?

 

『魔性の女と呼んでくれ』

 

って、お返事が来た。マゾの間違えではないのか?

 

『おい!』

 

今夜は寝かさないからな~

 

『え?!』

 

俺を涙目で見るミト。嬉し泣きか?

 

「次の議題は…」

 

延々と会議は続いた。

 

 

夜、ヘロヘロになってからの帰宅。ミトが俺の代わりに、アリサ達を迎えに行ってくれた。そして、久しぶりな食事。お雑煮とお節を満喫…せずに、おかもちに二人分入れて、カグヤの元へ…そして、二人で満喫し、朝を迎えた。

 

俺が睡眠が出来たのは3日目の夜だった。

 

「お~い、起きろ~。会議に遅刻するぞ~」

 

後輩氏の声が遠い…疲れが溜まっているんだと思う。働き過ぎだな…

 

「しょうが無いなぁ…」

 

うん?懐かしい人肌…誰だっけ?相手の背中に腕を回し、抱き締めて、胸の感触を味わう。この胸は…ミト…だ。

 

「おい!満喫して、また寝るなよ~。もぉ!」

 

唇に誰かの唇…これはミトでは無い…誰だ?目を開く、笑顔のリザがいた…

 

「起きたようだな。さすがはリザだ」

 

「お父様…起きて下さい」

 

リザが俺の耳をハムハムしている。誰だ、こんなプレイを教えたのは…俺にVサインを送る全裸のミト…

 

会議は5日目で終わった。仲間が増えた分、友好都市が増えている。メリーのサガ帝国、

ルネアのルモォーク王国、のじゃ姫のノロォーク王国などだ。後、リーナの祖父であるケルテン侯爵が、俺の一門に入ったらしい。まぁ、一門の爵位持ちが後盾になってくれるので、楽と言えば楽にはなるのかな?

 

「では、明日は新年の挨拶をし、その後は料理フェスティバルなどなどじゃな」

 

そうだ。それがあったんだ。俺の気分はダークになっていく。

 

「アルジェント卿」

 

会議室を出ようとすると、ケルテン侯爵が声を掛けてきた。

 

「若い自身過剰な戦士達が、アルジェント卿と試合をしたいと、私に言って来ていましてね」

 

「俺は戦いませんよ」

 

「そこをなんとか…」

 

って、言っても…ミトを見ると、オーケーサイン…戦えと?

 

「では一人だけですよ」

 

「分かりました」

 

一人で終わらない予感…

 

--------

 

で、翌日…王様の長い新年の挨拶…俺はウトウト…システィが肘鉄で起こす。一応俺の婚約者ってことになっているシスティが隣にいる。セーラとリーン、アーゼは公の場に姿を出せない為の処置である。俺的にメリーでも良いのだが、他国の王女な為NGらしい。

 

で、長い挨拶が終わり、料理フェスティバルを盛り上げる発言をして、お開きになった。今日はアリサ達も休日にして、フェスティバルを楽しみにしているらしい。

 

料理開始…オープンキッチンで調理を始める先輩と俺。すいとんもくず餅も止めて、違う物を作り出す。カニの身を解して、カニ味噌と和えるだけ…

 

「何?そう来たのか…」

 

俺の予想外の品に、先輩が驚いていた。いやいや、もう一品作りますよ。グルテンにイチゴを入れて、茹でていく。米粉、餃子皮にもイチゴを入れる。そして、イチゴソースを掛けて出来上がり…紅白3種盛りである。

 

「さすが邪道だな~」

 

って、アリサ。デザートでは無く、カニ味噌をロックオンしているようだ。いや、ウチのメンバー全員がカニ狙いのようだ。

 

先輩はオーミィ牛のビーフシチューのようだ。あれは、高そうな料理である。オーミィ牛のフォンドボーで仕上げているし。さすが王道の料理人である。貴族的には先輩の料理に軍配だと思う。

 

料理を作ったし、みんなの目を掠めて、アーゼの元へ行き、二人で添い寝…

 

-------

 

ポカッ!

 

誰かに殴られて、起きた俺。ふと見ると、ミトがいた。

 

「先輩…また、審査前にトンズラですか?探しましたよ~」

 

ミトの目は真っ赤である。どうしたんだ?

 

「なんで、目が腫れているんだ?」

 

ポカッ!

 

また、殴られた。どうして?

 

「心配したんですよ~。どこ探してもいないし…」

 

あぁ、そういうことか。本気で心配してくれたようだ。ミトを優しく抱き締めた俺。アーゼが暖かい目で見つめてくれている。

 

「ミト様、ダーリンは勝ったんですよね。美味しかったもの」

 

アーゼ達に、デザート系をお土産で持ち込んでいた。

 

「もちろん♪」

 

ミトも嬉しいのか、いつも異常に胸を密着してくれている。うん?ノーブラか?

 

「さぁ、帰るわよ。アーゼ、またね」

 

「はい♪」

 

胸を密着されたまま、ミトに連行される俺。帰宅すると、皆口々に心配していたと言いながら、俺の勝利をたたえてくれた。

 

「勝因は?」

 

「カニの破壊力ですよ~」

 

って、アリサ。アレに勝る食い物はそうそう無いからな。

 

「手軽で美味しいって、良い料理だと思います」

 

って、ルル。カニファンのオーユゴック卿が、絶賛したのも勝因の1つらしい。

 

「王様が、カニを王都で販売して欲しいって」

 

ミトが俺を見つめている。難しい課題である。新鮮さ命のあの食材を王都でか?手は1つあるが…カニを王都へ強制転移させて、王都で捌いて貰うとか。捌くのが一仕事であるから。全身固いので、解体するのが大変なのだ。リザの聖槍でも切れない、刺さらない。カリナの逆関節固めで関節を割って、そこから解体していくのが、ベストである。

 

「アレを王都に強制転移?王都が壊滅しないか?」

 

って、先輩。シガ八剣と勇者ナナシの活躍に期待かな?明日の武道会に乱入させるかな?

 

「明日の?明日も食べられるのね♪」

 

ミトを始め、皆喜んでいる。

 

「じゃ、先輩シガ八剣にはそう伝えてください。武道会場に乱入させますから」

 

「あぁ、わかったよ。アレと戦うのか…楽しみだな」

 

先輩は乗る気である。剣で戦って勝ったことがないから。いや、剣で勝った者はいない。先輩も理力の見えざる手での力技、俺も見えざる手での力技でしか勝ったことが無い。いや、切ろうと思えば切れるんだが、喰えなくなるのだ。属性攻撃はダメな相手。単純に物理攻撃で仕留めないと、喰える状態で倒せない厄介な魔物である。

 

-------

 

翌日、武道会はパニック状態になっていた。巨大なカニを見つけたので、それを強制転移させたのだけど、ジュレちゃんの一撃が弾かれたとか…

 

魔法を撃ち込むバカが多数いて、苦労の割りに、喰える部分が少なくなっていた。まぁ、胸肉とカニ味噌は確保が出来たからいいけど。

 

「なんですか…あれ…」

 

若手の有望株の戦士達も、戦意喪失するくらいの鉄壁の防御力。最後、ウチのメンバー達が出て、仕留めたけど…強烈はカニパンチにより、折れた剣が多数…あのハサミは脅威だ。剣を当てちゃダメなレベルだよ。固い上に力が半端無いし。

 

「あんなの相手に鍛錬しているんですか?」

 

若手の戦士達に訊かれ、Vサインを返すカリナ。

 

 

 

 

 



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王立学院

07/03 辻褄の合わない箇所を修正


今後の方針を決める会議中だ。まぁ参加者は俺、先輩、ミト、メリー、ゼナ、リーン、アリサなので、寝たい時に寝られるので、苦痛ではない。新年の会議地獄…あれは、たぶん俺にとっての一番の苦痛であると思う。

 

「情報屋からの話なので、まぁ、信憑性は実際に見て確認だと思うが、パリオン神国と隣接する三国が連合して、パリオン神国に攻め入ったらしいのだけど、パリオン神国の『神の軍勢』という兵士達に蹂躙されて、追い返されたらしい」

 

全員羽川姿なのだろうか…それはそれで壮絶な絵面になりそうだ。

 

「攻め込んだ理由は、パリオン神国のザーザリス法皇が魔王だと主張したとか」

 

神はここにいるから、神無し国状態である。魔王がいたとしても可笑しくは無い。

 

「あと、サガ帝国との緩衝地帯にあるヨウォーク王国の迷宮内で魔族の目撃情報があったそうだが、国営の冒険者ギルドが情報を握り潰したらしい」

 

迷宮核の所有者として、こういう情報は握り潰して、速効で狩るのが一番である。

 

「でも、そこって、アリサが代行している領地だよね?」

 

既に迷宮核は俺の所有である。魔王も既に…

 

「あぁ、確かに」

 

って、ミトが俺を見て笑みを漏らす。

 

「あと、大陸東方のイタチ人族の帝国と、シガ王国の緩衝地帯にある小国群での噂ですが、イタチ人族の帝国に滅ぼされた虎人と蜥蜴人族の王国の残党が、流民となり、小国群を占領しているらしい」

 

占領するなら、プタの街に移民してくれれば良いのに…

 

「後は、ザイクーオン神の使徒と名乗る人物が、侵略者達を塩に変えたらしいぞ」

 

塩に変えてどうするんだ?魂はどうなるんだ?罰だから、魂にもそれなりにペナが無いと、安楽死に近いよな。

 

「まぁ、使徒は問題外ね。うちには神がいるし」

 

羽川似ですね。その羽川をいたぶる姉妹もいるし。問題無いでしょ。

 

『お前が言うな!』

 

って、ミト。あぁ、そうだった。俺は不死王だ。

 

「そうなると、魔王疑惑法皇の調査が先かな」

 

方針は決まったようだ。

 

-------

 

翌日、各々で新年を楽しむ。先輩は高級娼館経由で高級奴隷商館へ行くそうだ。趣味と実益を兼ねているらしく、楽しそうである。

 

俺は、メリー、ティファ、リーナ、アリサ、ミーア、タマ、ポチ、シロ、クロウと王立学院って学校へ。他の学校の見学である。アリサ以下は学生として体験で、俺達は視察になる。

 

「初めましてアルジェント公爵。私が王立学院の学院長リトゥーマイヤーです」

 

凜とした老女である。同じ老女でもリリアンより品がある。彼女が執務机の向こうから挨拶をしてきた。

 

「当学院に体験入学したいとの事ですが、後ろの子供達でしょうか?」

 

アリサ達の顔を一人ずつ見て、彼女はミーアを見て驚いたらしい。

 

「えっ!エルフ様…ま、まさかボルエナンの森のエルフ様ですか?」

 

「ん、ミーア」

 

名前を名乗って頷くミーア。

 

「ご主人様は、ボルエナンの森のハイエルフ様が、正妻なんですよ」

 

メリーが誇らしげに言う。

 

「ハイエルフ様が正妻…あなた!何者なの…」

 

メリーの言葉は逆効果であった。俺に恐怖を感じた学院長。

 

「しがない公爵ですが…何か?」

 

俺に恐怖を感じつつ、王様からの一筆を受け取り、体験入学オーケーにしてくれた。クラスはアリサ、ミーアが魔法学舎、ポチタマコンビは騎士学舎、シロクロウコンビは幼年学舎になったようだ。

 

「しっかり、勉強して来いよ」

 

「もちろんですわ、ご主人様♪」

 

学校に通えるのが嬉しそうなアリサ。ミーアは何時も通りで、残りの4名が楽しそうだ。

 

「へぇ~、領地経営や帝王学もあるんだ」

 

「興味がお有りですか?」

 

「興味はある。仲間に学ばせないとね」

 

「仲間に?領地経営をですか?」

 

鼻で笑った気がする学院長。

 

「今の態度、失礼では無いですか!」

 

あぁ、メリーが気づいちゃったよ。こういうマナーに、うるさいから。

 

「我々のご主人様は、私達眷属に、太守代行や太守補佐をまかせたいと思っているのですよ。それを鼻で笑うとは、失礼では無いですか」

 

「ご自分でせずに、任すのでしょ?それは、おかしいでしょ。太守が執務に専念するべきです」

 

まぁ、確かに…領地が1つならばね…

 

「一人では全ての領地に目を配らせることは難しいです」

 

「全ての領地?」

 

「えぇ、ご主人様、複数の領地をお持ちです。うち3箇所は代行が執務をしております」

 

「それは4箇所以上、お持ちってことですか?」

 

「王立学院のトップが、知らないとは…あなたこそ、勉強が必要では無いですか?」

 

メリーに口で勝てる者は少ないと思う。あのロリ勇者の下で従者をしていたくらいだから、根性は座っていると思う。

 

「アナタは何者ですか?失礼でしょ?その言い方は?仮にも私は王立学院の長なんですからね」

 

立ち位置勝負だと、メリーの右に出るのは難しいと思う。

 

「申し遅れました。アール・アルジェント公爵様の情報分析官をしております、メリーエスト・サガです」

 

メリーの名前を聞いて、顔から血の気が失せていく学院長。まさか、相手がサガ帝国の王女って…立ち位置はメリーの方が上である。

 

「サガ帝国の王女様ですか…どうして…」

 

どうして、正妻にならないのか、ってことか?

 

「どうして?ご主人様の正妻はボルエナンの森のハイエルフ様ですよ。一介の帝国の王女が、正妻に立候補なんか出来ませぬ。それに、私はご主人様の片腕として、働きたいのです。伴侶としてではなくね」

 

メリー…かっこいいなぁ。メリーの堂々として話し方をマジマジと見ているティファとリーナ。あぁ、なりたいんだろうな。

 

「ご無礼を…」

 

学院長は席を立ち、俺達に深々と頭を下げた。

 

その後、学院長計らいの下、メリー達に学校の運営方法を説明してくれた学院のスタッフ達。俺達の学校のシステムを紹介し、より良くすべきポイントのアドバイスを聞き入っていた。

 

-------

 

訓練場に向かう俺。一人の少年が、ポチ、タマにケンカを売っているようだ。

 

「さぁ、来い!二人一緒でも良いぞ」

 

ポチ、タマは困っていた。人間相手に戦ってはダメって言ってあるから。

 

「そのケンカ、俺が買う。俺の娘達に剣先を向けるって、どういうことだ?うん?教師は見てみない振りか?」

 

「ご主人様?」

 

「ご主人様なのです」

 

俺に飛びつく、娘枠達。

 

「なんだと?亜人が娘だと?お前、頭が可笑しいのか?」

 

鼻で笑う教師。教師が言って良い言葉では無い。

 

「ダメ?」

 

「ダメなのです」

 

俺の変異に二人が気づき、俺を制止しようとする。でも、ゴメン、俺はコイツが許せない。コイツらが許せない!教師に瞬動術で近寄ると、目の前に先輩とミトが転移してきた。

 

「ダメ!やめなさい。このクズ教師には、私から詫びをさせる」

 

ミトが俺に抱きつき止めた。

 

「俺のかわいい後輩を、キレさせた罪は重いぞ」

 

娼館若しくは商館から呼び出された先輩は、俺より怒りを纏っていた。

 

「なんだ、貴様ら~!おい、衛兵!」

 

教師は衛兵を呼び出した。俺達に剣を向ける衛兵。

 

「どうしたんだ!」

 

はぁ?ジュレちゃんがノシノシと近づいて来た。アイツなら殺していいかな?

 

「ダメだって!先輩、落ち着いて!」

 

「えっ!お前達…何していんだ…剣を降ろせ。殺されるぞ…」

 

顔面蒼白になっていくジュレちゃん。

 

「どうした、ジュレバーグ…」

 

レイラスがやって来て、俺と目が合い固まった。

 

「アルジェント卿…これは…お前ら、無礼なことをしたのかぁ!」

 

レイラスが俺の代わりに、怒りを爆発させた。普段、温厚な人格者である、彼の怒りは、より一層の恐怖心を煽っていく。

 

「レイラス様、あのイカレた奴は何者ですか?」

 

教師がレイラスに訊いた。

 

「アール・アルジェント卿だ。この国一番の猛者だ」

 

更に恐怖心を煽るレイラス。

 

「はぁ?シガ八剣よりもですか?」

 

「俺達じゃ、止められない…」

 

ジュレちゃんは、完全に戦意喪失状態だ。ミトがいなかったら、この場の人間全てを殲滅したかもしれない。それ程の怒りを俺は纏っていた。

 

「アルジェント卿、何を言われたのですか…」

 

レイラスに訊かれた。

 

「タマとポチは娘だと言ったら、頭がおかしいんだろうって…亜人を娘にしちゃダメなのか、この国は…それならば、こんな国は…」

 

アーシア、ナナ、テンちゃんがやって来て、俺の隣に立ち、俺同様にプレッシャをかけていく。

 

「愚かなことを…」

 

羽川がそう人間達に呟き、俺に抱きついて、ミトと共に俺の怒りをクールダウンさせようとしている。

 

「ご主人様…ダメだよ~」

 

背中にアリサが抱きついた。

 

「私をおいていかないで…私を看取ってください。最後の時まで…」

 

アリサの心が、俺の魂を鎮魂していく。それに伴い、俺の怒りはクールダウンしていく。

 

『さすが、最強の魔王♪』

 

カグヤの声…アリサってそうなのか…

 

「アルジェント卿…この国を代表して謝罪します。ですから、この場は我ら、シガ八剣に任せてもらえませんか?」

 

レイラスが俺の前で、頭を深々と下げた。

 

「わかった。レイちゃんとジュレちゃんに預ける」

 

「ありがとうございます。おい!お前!教師として失格だ。亜人差別は無くす方向だと、王様もおっしゃていただろうに!」

 

レイラスが烈火の如く、教師陣に斬り込んでいった。

 

------

 

ミツクニ邸に収容された俺。ミトと羽川が添い寝をして、俺の上に洋服を着たアリサが抱きついて居る。三人で俺のささくれた心をクールダウンさせてくれている。

 

「あの学院長もそうですが、プライドが高いのがネックですね。なので、どこの馬の骨かわからない者は、下に見てしまうのでしょう」

 

メリーが分析結果を口にした。セーラ、オーナが、俺の為に鎮魂の呪文を唱えている。魂が怒りに染まっているって、羽川が言ったからだ。まぁ。そうなんだろう。まだ、ブチ切れそうだ。

 

「魔神が人間を虐めたって伝承…魔神には魔神なりの理由があったのよ。私は彼をあれ以上傷つけたく無いから、竜神に召喚の秘術を習ったの。心を癒やす者を呼べれば良いと思ってね」

 

羽川が誰かに聞かせる為に、独り言を言っている。

 

「だけど、他の神は、そうじゃなかった。勇者に成りうる者、魔王に成り得る者達を呼び出して、この世界を混沌にしていったの。自作自演をする為の道具としてしてね」

 

羽川はアリサの頭を優しく撫でている。アリサの行く末が見えるのか。

 

「ご主人様、ケルテン卿がお見えです。いかがされますか?」

 

リーナが俺の返事を待っている。

 

「だいぶ、落ち着いた。今行く。応接室にお連れして…」

 

「わかりました」

 

俺は、皆にお礼を言い、身支度を済ませていく。そして、ミトとセーラの肩を借り、応接室にへと向かった。

 

「すまない…王立学院でのことを聞いた。本当にすまない…」

 

ケルテン卿が俺に頭を下げている。リーナは何かをいいたげであるが、黙ってメイドとして、秘書としての仕事を全うしている。

 

「もう、いいですよ。この街は、住みにくいってことです」

 

ミトは反論しなかった。俺の怒りの源に共感してくれているようだ。

 

「王の言葉は下々の者達へ届かないようだ。一度出来た枠は、壊れない。いや、壊さないようにしているのかもな」

 

亜人という枠は、この街では別枠なのだろう。いや、セーリュー市だって、そうだった。問題は、この国の根本なのかもしれない。

 

『ごめん…王祖として謝るよ、先輩』

 

ミトからのメッセージ。俺はミトを責めてはいない。

 

「エルテリーナが生き生きと生きている。その恩を仇で返してしまったようで…」

 

「お祖父様…」

 

リーナが職務放棄して、ケルテン卿に抱きついた。

 

「エルテリーナ…職務を全うしなさい。私は客人だ。主の許可無く、抱きつくな…」

 

そういいながらリーナを優しく抱くケルテン卿。

 

「リーナ、ケルテン卿を家までお送りしろ」

 

「えっ!」

 

俺の指示に驚くリーナ。

 

「リーン、ルスス、フィフィ、ガードで付いていってくれ」

 

「御意!」

 

三人が部屋に入って来て、俺に跪いた。

 

-------

 

翌日、学院にはアリサとミーアだけを送り出した。シロとクロウも差別対象なので、ナナに保育を頼んだ。その指示に喜ぶ、ナナ。

 

午後、アリサとミーアが小さい女の子をお持ち帰りした。誰?この子は?

 

「チーナ?」

 

リーナが声を掛けた。彼女の知り合いのようだ。

 

「エルテリーナおばさん?死んだのでは…」

 

奴隷堕ちした貴族は、死んだ事になるのか。

 

「誰?」

 

「ケルテン卿の曾孫です」

 

「で?」

 

「あぁ、あの…シロとクロウが学校に来なかったから…心配で…」

 

あの二人の友達なのか…。リーナにナナの元へ連れて行くように指示を出した。

 

-------

 

夜会に招待された。気分的に乗り気ではなかったけど、オーユゴック卿からの誘いは断る訳にいかない。セーラとリーンの祖父でもあるし、俺の祖父のような存在でもある。

 

大所帯での参加…オーユゴック卿は、イヤな顔をせずに、招き入れてくれた。両腕にはリーンとセーラが抱きついている。

 

「王立学院の件は聞いたよ。すまない、我が国の暗部を見せてしまったようで」

 

オーユゴック卿までも俺に頭を下げてきた。

 

「頭をお上げください。俺は大丈夫です。亜人を娘にしちゃダメなんですかね」

 

「私は問題無いと思います」

 

って、セーラ。

 

「差別の無い国作り、悪くないと思うよ」

 

って、リーン。

 

「孫達が応援しているのであれば、私も応援します」

 

今度、カニをプレゼントしないと…応援に見合うかな?

 

「なんで、死んだ者がこんなにいるんだ!」

 

大きな声…この空気の読めなさ…声の主を見ると、トルマだった。

 

「おじさん、なんでセーラもリーンも死んだはずでしょ?エルテリーナも死んだと聞いたが、どうしてだ?おい!ペテン師、この街で何をやらかすつもりだ!」

 

コイツ、キラい。俺の馬車を…あぁ、また怒りが再燃中…

 

「ダメっ!」

 

俺の変異に気づいたセーラが、谷間で腕を抱き締めて来た。その柔らかさの衝撃で、クールダウンしていく俺の怒りのレベル。

 

「おい!失礼だぞ、トルマ!」

 

「おじさん、騙されているんだ!このペテン師ヤローに!おい、衛兵、このペテン師をつまみ出せ!」

 

だけど、衛兵は動けなかった。夜会には、うちの全軍が参加していたから。

 

「ご主人様に刃だと!」

 

リザ、メリー、ルスス、フィフィが俺の前に立ちはだかった。

 

「おい!何をしている。ペテン師集団だぞ!」

 

「お前が消えろ!」

 

ズゴッ!

 

トルマの腹部に強烈な拳骨一発。ジュレちゃんだった。その場に倒れるトルマ。

 

「おい、コイツを牢に入れておけ。アルジェント卿は、我らシガ八剣のガード対象の者だ!」

 

「はっ!」

 

衛兵達が、トルマを片付けていく。

 

「だが、オーユゴック卿よ、孫二名の件は、この場で話して貰いますよ」

 

って、ジュレちゃん。まぁ、何時までも隠しては置けないよな。オーユゴック卿から語られた真実。俺は恥ずかしさの余り、逃走しようとするが、セーラとリーンに阻まれた。

 

「私達にもう一度、生の時間をくださったご主人様と、私達姉妹は添い遂げる覚悟です。ですから、ご主人様のことは悪く言わないでください」

 

リーナも自らの身に起きたことを話し、死亡疑惑を払拭させた。だけど…奴隷堕ちの過去は消えない。

 

「奴隷堕ちしましたが、私に生きる希望を与えてくださった、ご主人様に一生涯付いていく覚悟ですので、暖かい目で見守ってください」

 

と締めくくっていた。俺と一緒にいても良いことは無いよ。貧乏クジばかりだし…

 

 



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レッセウの血糊

旅に出るので、当分の間は行けないと思い、バンの元へ向かい、彼の好物である葡萄酒『レッセウの血潮』を届けた。

 

「いつも悪いなぁ」

 

「持ちつ持たれつだよ」

 

迷賊が発生した場合、刈り取って貰っている。そのお礼である。

 

「そうだ、まだユイカに会っていなかったな。ちょっと会ってやってくれ」

 

バンが言うユイカって者は、多重人格のゴブリンの姫だという。その正体はバンや俺達と同じ、神に拉致されて、この地に連れ攫われて来た日本人だそうだ。

 

地図を貰ったので、地図の通りに向かう。しかし、ここは広いよな。ここ自体が別世界ではないのか?だいぶ歩いて行くと花畑が現れた。地図にも『ユイカの花畑』と書かれている。この先にいるようだ。

 

で、紫の花で六芒星が描かれていて、その中心に立ち、ユイカを呼ぶって、書かれた通りの行動を取ってみた。

 

ユイカって呪文では無いのか?空間の揺らめきを感じ、六芒星を描く花々が光出し、6つの扉を発言させた。扉には日本語で、「はずれ」「地獄行き」「罠です」「入っちゃダメ」「DEATH」「うぇるかむ」と書かれている。一通り試して見たが、特に何も起きない。「うぇるかむ」以外の扉は俺が入ると壊れていった。いや、俺を入室拒否したというか…こしゃくな…って感じで、俺が5つの扉全て破壊してしまったのだ。で、「うぇるかむ」の扉に入ると、また6つの扉。「うぇるかむ」の扉以外の扉が震えているように思える。入室禁止かな♪

 

6つの扉の試練が9回行われれ、ようやく着いたようだ。目の前には、小さな畑と竹林が隣接する日本家屋があった。田舎の情景のようだ。縁側に面した中庭では鶏がエサとなる虫や雑草などをついばみ、軒にはタマネギや大根が吊され、干されていた。

 

「あなたは誰?タクワン食べる?」

 

障子が開き、座敷童のような女の子が家屋から出て来た。あれ?ゴブリンって座敷童だっけ?白く透き通る肌に、床まで届くくらい長いロングパープルヘア。ゴワゴワ感はなく、しなやかそうだ。ストライクゾーンにまだ届かない娘枠のような少女だ。

 

「いぶりがっこは無い?」

 

「渋いなぁ…ごめん、無いよ」

 

縁側に座り、タクワンを口にして、お茶をすする俺とユイカ。のどかな時間である。

 

「で、何者?」

 

和気藹々ムードなのに、今更、そこ?

 

「バンに君を紹介されたんだ。必要な物があれば、調達してくるよ」

 

「魔神…まさか…」

 

俺の称号が見えるらしい。まぁ、隠していないからな。

 

「不死王…何…私をどうするの?!『――無限連鎖』」

 

ユイカが呪文を唱えた。黒いツブツブが俺に撃ち込まれてきた。マップ情報によると、『マイクロブラックホール』らしい。なので、オールスルーした。

 

「透過能力…不死なのに…チートすぎる…」

 

ユイカの瞳が紫色に輝き出した。ピキッと音が聞こえた。

 

何の音だ?ピシッと異音がする。

 

何処からだ?パキン。

 

何かが壊れた音…宙に浮くユイカ…着ていた物が破壊され、ツルペタな裸体になっている。ポチとリザの中間辺りのボディかな?どっちにしても娘枠だけど。

 

「こんのスケベ野郎がぁぁぁぁぁ!!」

 

自分で脱いでおいて、ソレはないだろう?爆裂拳のように拳の連打が撃ち込まれてきたが、全てスルーする。これって、人格のスイッチかな?童女が露出狂になった気がする。いや、露出してもあまり大差が無いんだけど。脱いだらスゴいんです的なサプライズは無い。

 

「ククククク」

 

また、人格のスイッチか?漆黒に染まったゴスロリ風のドレスを着ている童女。宙に浮かんでいる為、真っ白なお子様パンツが丸見えである。

 

彼女の薄紫色だった瞳が、朱と蒼のオッドアイに変わっている。聖魔分離状態か?

 

「我れは虐げられし闇の末裔、天魔の巫女にして、鬼人族最後の王族。我が名はフォイルニス・ラ・ベル・フィーユ!人は私を畏れ敬い、こう呼んだ『漆黒の美姫ダーク・ラ・プランセス』と!」

 

最後にポーズを決めたユイカ。だから何だ?

 

「俺はアール・ウール・ゴーンだ」

 

アインズ様を模してみた。

 

「貴様、何者だ!」

 

何者って言われてもなぁ。あぁ、なんか、イライラしてきた。

 

「えっ…」

 

ユイカの表情が崩れていく。勝ち誇っていた表情は恐怖により歪んでいく。俺は、俺で無くなって行くようだ。ここには、俺を止めることの出来る奴はいない。ふふふ…

 

「わ、わ、我こそは、幾多の魔王と勇者を葬り去ってきた最強の魔法戦士ッ!世代交代で往年の半分ほどのレベルしかないが、レベル差が戦力の決定的な差では無いことを教えてやろう!」

 

「面白い。やってみろよ♪種族の違いを見せてやる。掛かってこいよ、ユイカ!」

 

「そ、それは世に秘めし真名!神々の呪いを受けし『唯一神』の名を口にしてはならぬ!我が名はフォイルニス・ラ・ベル・フィーユだ!」

 

神の名?神なんか、クソくらいだ!

 

「ま、ま、待て!問おう!汝の目的は何ぞや!」

 

「お前の友達になりに来たが、もういい。面倒だ!ここで消えろ。それとも無限に続く地獄がいいかな♪」

 

「ま、ま、待って下さい…我がスキルが貴様の言葉が事実だと告げている…」

 

言葉遣いが崩壊してきているよう。人格も崩壊しているのか?

 

「だから、何だ?」

 

ユイカは全裸になり、俺に奉仕をし出した。

 

--------

 

俺が俺に戻ったようだ。ユイカが添い寝をしていた。ツルペタな身体で健気に服従の意を行動で示していた。

 

「ここは?」

 

「私の家です。マインドロストで、倒れていましたよ」

 

また、やってしまったようだ。凹む俺。

 

「ごめんなさい。追い込んでしまって…」

 

彼女の透き通るようは白い肌には、ムチ打ちの跡が…鬼姉妹がしばいたようだ。

 

「何なりと、用を申しつけ下さい。ですから、もう虐めないでください」

 

相当、折檻を受けたようだ。彼女の心は完全に折れている。そして、和解して、俺の下僕になったそうだ。

 

「ここからは出ませんが、何なりと用を命じてください」

 

って、俺に土下座をしているユイカ。以前、「最強の魔王」を名乗っていたそうだ。で、魔王なのに魔王狩りをしていたとか。で、今回初めて敗北だそうな。相手が悪かったと思う。不死王である俺とカグヤとカグラでは…魔王程度では勝て無いだろうに。

 

--------

 

一緒に旅へ行く者の選別。ここまで仲間が増えていると、メンバーを絞らないと目立ってしまう。

 

「兄ぃ達は先発隊で転移で移動ね。問題は先輩の方だけど、馬車で移動よ」

 

まぁ、妥当な線だな。行ったことの無い場所へは転移は出来ないから。

 

「で、学校や執務のある者は除くわ。ここ一番な場面で招集はするけど」

 

アリサ、ルル、オーナ達は一緒には来られないようだ。

 

「で、馬車は2台。先輩と私が主として乗り込みます。私の方は、ゼナ隊とルススとフィフィかな。先輩の方は、アーシア、羽川、メリー、セーラ、リーン。御者はリザ、タマ、ポチ、ミーアとします。役割分担は臨機応変にします」

 

と、ミトから指示が出た。先ずはパリオン神国かな?

 

「そうだ♪レッセウの血糊の原料の葡萄畑も視察しよう」

 

葡萄の栽培に興味がある。

 

「そうね、レッセウ伯爵領の視察も出来るわね。許可します」

 

ミトが便乗するようだ。

 

そして、王都から目的地へ旅へと出た。勿論、勤務のある仲間は、勤務地に送り届けてから♪

 

-------

 

先乗り部隊の先輩からメッセージが届いた。

 

『レッセウの血糊の危機。葡萄畑に魔物の群れ有り。どうする?』

 

と…俺はアーシアと共に先輩の元へ転移した。

 

「どういうこと?レッセウ伯爵の領軍は?」

 

先輩に状況を訊いてみた。

 

「レッセウ伯爵の領軍は、鉱山や都市周辺の魔物駆除しかしていないそうだ」

 

「差別だよね。って、この辺りの農村は斬り捨て?」

 

「だな…どうする?レッセウの血糊の蔵元は、エチゴヤの傘下にしてあるが、原料が無いと無理だぞ」

 

俺の領地にすればいいのか?税収が少ないからって、斬り捨てるなんて…許せない。

 

『良く言ったわ♪ホセベド村とスイブド村を、アルジェント卿の領地として認めます』

 

って、ミト…しまった。また仕事が増える…そもそも言っていない。心で思っただけだ!

 

『ご愁傷様です』

 

って、先輩。

 

『がんばれ~♪』

 

って、アーゼ。凹む俺。だけど…

 

「くそうアリ共め!オレ達が精魂篭めて育てた葡萄畑を!」

 

「タグォーサ!やめろ!クワで立ち向かっても無駄死にだ!」

 

村人達の声…凹んでいる暇は無い。

 

「アーシア、この辺りの源泉は?」

 

「最近、湧き出た場所があります。魔物の異常発生の原因だと思われます」

 

「所有者は?」

 

「…今、所有者をアール・アルジェント公爵にしました」

 

アーシアの仕事は早い。

 

「魔物の発生を抑える為、魔物発生値を超えないように、他の源泉へ流してくれ」

 

「了解です」

 

これで、今いる奴らだけを処分すれば…揺り篭にいるカマキリ軍団をこの場に、強制転移させた。腹が減っているカマキリ達はアリさんの大群に襲い掛かっていく。アリさん達の死骸から、魔核を強奪して、残りはアーシアの迷宮のゴキ軍団の隔離エリアへ強制転移させていく。アリさんの死骸は固くて、ナマコの食いつきが悪いから。

 

「お前のチートさには負けるよ。どこまでも、リサイクルありきだな」

 

って、先輩が笑っている。いやいや、戦闘に関してのチートさは先輩に負けると思う。多彩な技と多彩な魔法を駆使できるし。

 

「先輩、俺のストレージに入り切らないかも…」

 

「俺のストレージへ転送していいぞ」

 

強奪した魔核は、オーバーフロー寸前で、先輩のストレージにギフトしていく。俺のストレージは1品目999個までしか入らない。それに対して、ミトと先輩のは無限大らしい。

 

「あ、あんた…魔物遣いなのか?」

 

「そうだ」

 

まぁ、見た目、カマキリ遣いだよな…カマキリ達は地上にいるアリさん達を殲滅すると、巣を掘り出して、幼虫と女王アリに狙いを定めたようだ。満腹そうなカマキリは揺り篭に戻し、腹ぺこそうな奴を呼び出していく。

 

先輩は俺がギフトした魔核を取り出して、中型犬サイズの石狼を30頭ほど生み出した。畑の周囲をパトロールにさせて、魔物を駆除させるようだ。俺は、その石狼達に、マナの供給を源泉から出来るように、アーシアに設定をして貰った。

 

「この石狼達を葡萄畑の守護に与える。魔物の駆除に役立てろ」

 

って、先輩が村人達に説明した。

 

「こ、このような高価な魔法の従者を、ですか?」

 

あれって、高価なのか…

 

「気にするな。我々の知り合いに、この村の葡萄から作る酒を愛飲する者がいてな。その者の為にした事だ」

 

と、畑を護る理由を説明している先輩。

 

「レ、レッセウ伯爵のご命令ではなかったのでしょうか?」

 

「レッセウ伯爵は与り知らぬ事だが、村を脅威から救って、文句を言うほど狭量ではあるまい。あぁ、そうそう、ホセベド村とスイブド村は、アルジェント卿の領地に編入される。領民が困っているのに、手を差し出さぬ領主では困るからな」

 

って、領主の鞍替えの件も話しているし…

 

「たぶん、レッセウ伯爵は、編入を快く思わぬかもしれない。だが、お前達が困っているのに見捨てるのは言語道断である。もし、レッセウ伯爵が文句を言ってくるようなら、その対応は、ミツクニ公爵家が行おう」

 

「こ、公爵家?!た、たしか伯爵様よりお偉い貴族様?」

 

先輩は石狼達に、ミツクニ卿の紋章と俺の紋章を刻み込んだ。ミツクニ公爵家の紋章はテニスのラケットを二つ交叉させた意匠になっており、俺の紋章は、杯に骸骨の頭部が載っている意匠になっている。

 

一つ目の村を救済した後、二つ目の村も同様に救済した俺と先輩。

 

-------

 

パリオン神国は遠い…いや、馬車では無理だったのでは?現在砂漠地帯に突入している。馬車の速度が落ちていく。馬の休憩間隔も短めである。タマとポチが馬の疲れ具合を察知して、休憩を申請してくれるので、馬達の負担は多少は軽いはずだけど…

 

「空路だったわね。う~ん、自前の飛行艇が無いから…」

 

って、ミト。確かに飛行艇は俺が酔う為、購入していない。

 

「検討するわ!」

 

『毎度!』

 

って、先輩からメッセージ。俺の心をモニタリングしているので、現在の状況下で必要な物…飛行艇を売る作戦らしい。だけど、ここで受け渡しは出来ない。パリオン神国へは陸路で向かわないとダメだ。

 

でも、先輩の商人魂はスゴい。今夜宿泊予定のオアシスに、飛行艇を持ち込んでいた。

 

「ヒカル、毎度おおきに♪」

 

「このエセ商人が…」

 

まぁ、支払はローンだな。ここから先輩達が合流し、飛行艇の操縦方法をミトに教えるそうだ。空中酔い酷い俺では無くて…

 

飛行艇は、馬車2台も収納出来る大型船のようだ。俺の部屋のベッドは、イネちゃんのベッドのコピー品が置かれていた。これで熟睡出来る

 

 

 

 



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パリオン神国 Part1

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暑さで宿でまったりと…そこに先輩が帰ってきて、仕入れた情報を話し出した。ここの住民は「過労」や「栄養失調」「病気」の者が妙に多いそうだ。それに対して、教区の神官達や聖都の民の大多数が健康なのと対照的であるという。貧富の差か?身分の差なのか?パリオン神の教えなのか?

 

「そんなこと…教えていない…」

 

羽川翼に模しているパリオン神が、呟いた。

 

畑も土もやせているそうだ。でもマナ不足では無いという。耕作下手なのか?

 

住民の服は質素で地味だそうだが、神官とその連れの女達は、派手な衣装らしい。神官こそ質素でいないと、いけないのでは?

 

後、戦争中なので。食料が高騰していると言う。

 

「麦の価格は、物価の高いシガ王国の王都の4倍近い。それも低品質で二割の不純物入りだって」

 

不純物入りの麦って何だ?

 

「神の軍勢も、中身は一般人のようだ。ただ、魔亀要塞という戦車もどきがいる。これの火力が高いんだろうな。運用コストが半端無く高いらしいし」

 

なるほど、神の国である。近代文明に近くなっても、神の逆鱗には触れないのか?

 

「私…鱗なんか…無いもん…」

 

羽川は顔を伏せてしまった。あまりの惨状に、心を痛めたか?

 

『そんなタマじゃないよ♪』

 

って、カグヤ。それならいいけど…

 

『羽川に同情しまくれば、美神令子似に戻すよ!』

 

って、ミト…そんな…酷い…凹む俺。

 

----------

 

翌日、先輩と二人でパリオン神殿に向かった。神官に悪がいそうだからだ。先輩は隠蔽スキルで、姿を消している。俺は、そんなチートなスキルは無いので、そのまま、入った。いや、羽川の恩恵で、魔と闇のオーラだけ隠蔽している。

 

『おい!都市核の間に魔王がいるぞ!』

 

って、先輩。おい、そんな場所に入ったのか?俺は、先輩の元へ転移をした。

 

「ふん、さすが我と同じレベル99。人の限界に到達した者だけはある。まさか、我が強制に抵抗するとはな……」

 

はぁ?先輩が敵の術で堕ちていた。『強制』を食らったのか…強奪して、強制転移をさせた。

 

『助かった♪』

 

「貴様!何者だ?」

 

俺も見付かった。まぁ、姿を消すスキルは無いし。俺に対しても『強制』を唱えてきた。だけど、スルーする。

 

「なんだと…透過能力だって…」

 

『マスター、変更しました』

 

都市核の所有者を、アーシアがハッキングして、書き換えた。羽川の許可は取って有る。

 

「魔王!こいつらからスキルとレベルを吸い出せるように眷属化しておけ!」

 

魔王?この子かな?かわいいから、つい…意識は別世界に旅立っている。

 

「貴様…勇者なのか?」

 

敵は都市核を操作して、何かをしようとするが、

 

『あなたは権限が無いです』

 

「何?貴様、何をした!」

 

「ここの都市核は俺の物だよ」

 

『お前、何個目だ?』

 

先輩の呆れたようなメッセージ。何個目?覚えていないよ。有りすぎて…凹み掛ける俺。

 

敵が何かをすると、全身が2倍近く大きく太くなっていく。

 

「魔王様のお出ましだ」

 

『アーシア、逃がすな!』

 

『了解です』

 

この部屋の結界を最高レベルまで引き上げてくれたアーシア。

 

「なぁ、結界を固くしたなら、お前、本気で行けるんじゃないのか?」

 

って、先輩。あぁ、それはそうだな。魔神にチェンジして、魔王を灰にしていくと、あの紫色の珠が脱走しようとするので、聖魔剣で粉砕した。そして、人間にチェンジした俺。マインドロストが恐いからね。

 

「今度は私が相手よ!」

 

かわいい女性が、俺達に対峙した。

 

「なぁ、彼女の強制解除した?」

 

え?彼女もなの?

 

「これは術者を殺しても消えないって言っていたわ…あれ?」

 

「解除したよ。今は俺の下僕になっているはずだ」

 

「アルジェント卿…の下僕…はて?」

 

戸惑っている女性。これで一件落着か?

 

「ねぇ、ご主人様、お願いがあります」

 

はて?下僕化してすぐに、お願いって?

 

「二つほどお願いがあるんだけどいいかな?」

 

「内容によるかな。まぁ、言ってみて」

 

「一つ目は、この国の法皇に与えた、ノリオ君のユニークスキルを、回収するのを手伝って欲しいの」

 

「ノリオ?誰?」

 

彼氏か?

 

「隣の国に転生した男の子……」

 

誘拐されてきた豹頭族のノリオ君(9才)のユニークスキルを、闇賢者に命令された彼女が「眷属化」と「譲渡」のユニークスキルを使って、ザーザリス法皇に与えたらしい。その後、用無しになったノリオ君は首を刎ねられたそうだ。酷い…

 

『落ち着けよ!』

 

先輩から…あぁ、落ち着かないと危ない。神殿内で暴走すると、危なそうだ。

 

彼女によると、他にも2名の転生者が同じ目に遭ったようだ。

 

『アーシア、通常モードにもどして、羽川と転移してくれ』

 

『了解です』

 

俺の近くにアーシアと羽川、何故かテンちゃんが転移してきた。これだけいれば、万が一の時、止めてくれるだろう。

 

「二つ目は、この城の地下に捨てられた人達を、弔ってあげたいの」

 

「さっきのノリオ君達かい?」

 

「他にも沢山……」

 

そうなのか…怒りが…ヒートアップしていく。

 

『ダメ?』

 

『ダメなのです』

 

娘達の声が脳裏に響く。カグヤの配慮か?

 

『置いて行かないで…ご主人様』

 

アリサの寂しそうな声…そうだな、約束はしたよ。

 

「判った。君の願いを叶えるよ」

 

「ありがとう……ご主人様…」

 

「アーシア、俺以外の補助管理者を除外しろ」

 

「了解です…解除しました」

 

「あっ、ご主人様、シズカとお呼びください」

 

彼女の名前って…そうだ、訊いていなかったんだ。

 

『そいつ魔王だぞ』

 

って、先輩。問題無いでしょ。一番の問題は俺だし♪

 

「マスター、規定値に戻すマナが足りません」

 

「他の源泉から回せるか?」

 

「了解しました。プール分を使います」

 

「彼女は、何者ですか?」

 

俺とアーシアの会話に疑問を持ったらしい魔王シズカ。

 

「俺の相棒のアーシアだ。迷宮核の意識を持ったホムンクルスだよ」

 

「迷宮核を持ち歩いているんですか…」

 

驚くシズカ。笑っている先輩。まぁ、イレギュラーだよ。きっと俺は♪

 

「アーシア、この部屋には、俺とアーシア、ミト以外入れないようにセキュリティーを組み込め」

 

「了解しました」

 

「じゃ、行こうか」

 

みんなで都市核の間から出ると、扉は消えて壁になった。今後は転移で行くから問題は無い。

 

---------

 

「おのれ、偽神の狂信者め!」

 

「な、なぜ『祝福の魔王』様が勇者の側についているんだ?」

 

都市核の間から出ると、知らない集団が待ち構えていた。

 

「自由の翼っていう集団だよ。聖杯の件、リリーの件、セーラの件に関わった組織だ」

 

あぁ、アイツらの仲間か。強制転移で、ナマコのエサ箱へ入って貰った。生き地獄を味わえよ!

 

「おいおい、どういう状況だぁ?」

 

「あの白仮面が犯人のようですね」

 

「あれ食べればいいの?お腹空いたー」

 

大物らしき三人の男女が現れた。だけど、俺達にケンカを売る?死に急ぐだけだ。テンちゃん、アーシア、羽川、俺が瞬殺へ導いた。

 

「何…あの人達…」

 

シズカが驚いている。魔王よりも残酷なメンバーかもしれない。

 

「デタラメの強さですよね」

 

う~ん…シズカはFカップらしい。まぁ、下僕だから、関係は無いけど、先輩は無表情スキルを使って、視線だけ谷間をロックオンしているし。

 

「デタラメ?まぁ、そうだな。中の人は天竜、迷宮核、パリオン神、不死王だし」

 

「それは…はぁ?パリオン神も仲間なの…って、不死王って何?魔王より強いの?」

 

絶句するシズカ。スルーする。長くなりそうだし。先輩はロックオン状態のままだ。

 

シズカを先頭に、地下墳墓への回廊を進む。途中の広間には、無数の拷問器具が置かれていた。それらを魅入る俺。

 

「これはダメだよ。痛そうだもの」

 

って、テンちゃん。ダメなのか…

 

「ふははは、侵入者達よ!このバゼフ様の仕事部屋に現れるとは運の無いヤツめ。これから貴様に真の痛みというものを…」

 

面倒なので、コイツもナマコのエサ箱へ強制転移させた。拷問用具はストレージに一時避難させておく。後で、考えようっと。

 

「ご主人様って…」

 

「そう、ド変態♪」

 

シズカの問いにテンちゃんが即答している。そして、俺達は、霊廟の奥にある縦穴の手前の祭壇に進んだ。

 

「霊の声が聞こえる…」

 

シズカが怯えている。セーラとオーナを呼び出して、鎮魂の祝詞を上げてもらった。

 

「え…神託の巫女が二人も…下僕なの…ご主人様って、デタラメすぎ…」

 

最後に、彷徨う魂達に、死ぬ権利を与えた俺。

 

「不死王って、そんな権限もあるの…」

 

シズカは驚きっぱなしである。鎮魂作業が終わったので、巫女二人をミトの元へ転移させた。

 

-------

 

「魔族め!この聖都のパリオン神の聖域に侵入するとは! ■ 天罰」

 

本人がいるのに、効くわけ無いだろに…

 

「パリオン神、お前がケリをつけろ」

 

「ありがとうございます」

 

ザーザリス法皇の手足が塩化する。

 

「まさか…パリオン神…様…」

 

「愚かなマネをしましたね。天罰を受けるのは、お前の方よ!」

 

シズカが「万能治癒」のユニークスキルを取り戻し、ザーザリス法皇は完全な塩像になった。その塩像にユニークスキルを戻した。ユニークスキルの使い過ぎは魔王化の元である。塩像であれば、もう使うこともあるまい。って、ユニークスキルが塩化していく気がする。

 

羽川も怒りを纏っていたようだ。自分を祀っていた国でのまさかの不祥事に。その後、街にいる神官達や奪ったユニークスキル持ち達も塩像にされていった。

 

-------

 

オーナをセリビーラへ送って戻ると、シズカはみんなと打ち解けていた。彼女は鬱病だったけど、俺の回復コンポで全快したようだった。

 

「彼女にも帯同してもらうわ」

 

って、ミト。元勇者と魔王のツーショット…自然と二人の胸元に視線が…う~ん…言わないでおこう。

 

『君、今、何を思ったのかな?!』

 

無感情で過ごす。嵐が過ぎ去るまで…

 

「で、次はどこへ向かうんだ?」

 

「南に無人島を見つけたんだが、開拓して、秘密基地にするとか…」

 

って、先輩。

 

「秘密基地…いい響きねぇ。乗った♪」

 

って、ミト。おい、視察旅行では無いのか…

 

『息抜きは大事よ』

 

だけど…今回、何もしていないし…ミトは…手に入れた拷問道具でミトを…妄想が広がっていく。

 

『お前はド変態か!』

 

です。開き直っている俺。

 

『朝、サービスしますから…』

 

それで手を打った俺。

 

シズカにも会話が見えるのか、笑ってみているし。なんで、俺だけ見られないんだ?

 

 

そして、飛行艇は南の島へ向かった。俺とリザ達、そしてシズカはジュラシックな狩り場へ…

 

「え?この人数で、あれを狩るんですか?」

 

って、言っている傍から、肉食娘達が、食いたい奴を優先的に仕留めている。

 

「えぇぇぇぇ~!一人一殺…眷属もデタラメな強さなんですね…」

 

ビビっているシズカ。

 

「ご主人様、兜焼きなのです♪」

 

トリケラトプスの尻尾を持って、引き摺ってきたポチ。マジに兜焼きにするのか?頭部を切断し、その残りの部位を精肉していく。頭部はあのまま、持って帰るようだ。

 

「キャンプファイヤーで焼くのです」

 

「ご主人様、包み焼き?」

 

タマは、首長竜を引き摺ってきた。どこをどう、包んで焼くんだ?リザは、Tレックスとタイマン勝負をしている。あれは、食わないだろうな。固そうだし。

 

5分程でリザがTレックスを引き摺ってきた。

 

「ステーキにしましょう♪」

 

とても嬉しそうなリザ。食うんかい…リザも精肉作業を始めた。食えない部分、再利用出来ない部位は、ナマコのエサ箱へ強制転移させていく。

 

で、島に到着って連絡が来たので、精肉途中の物もストレージにしまって、飛行艇に帰還した。

 

「これ…マジに?」

 

ミトもビビる、トリケラトプスの頭部…

 

「兜焼きなのです」

 

ポチは嬉しそうで、拒否は難しそうだ。タマの方は、どう包むかで悩んでいるので、スルーする。リザは豪快に肉を…もう焼き始めている。

 

「いつも、こんな感じなんですか?」

 

シズカが訊いてきた。

 

「こんな感じだよ。全員揃っていなくて、これだよ」

 

アリサがいないので、静かな方である。で、先輩は図面を引いていた。別宅の図面、いや、秘密基地の図面である。

 

「宮殿風にしようかなって。名称は孤島宮殿とか」

 

宮殿って、ハーレム臭がする…そんなイメージである。先輩らしいけど。

 

「魔物が多いんだけど…」

 

この島、やたらに多い気がする。

 

「食料にできるだろ?海洋系だし」

 

確かに…タマはタコ似と戦っている。猫人族だけに、肉より魚介類が好きなようだ。

 

「鍛錬にもなるか。ここにいる奴らに勝て無いと、ビーチでは遊べないとか」

 

ゼナ隊の面々も経験値を稼いでいた。シズカも…

 

「箱庭のようであれば、安全は確保出来るんだけどね」

 

って…箱庭?たしか…俺は、ユイカの処へ行き、或る物を作って貰い、南の孤島をまるまる強制転移させた。これで良し♪

 

そして、ユイカと共にみんなの元へ。

 

「みんなに紹介するよ。俺のガールフレンドで、魔王のユイカ。スキルは『箱庭創造』だよ」

 

はっとしたミト、先輩、シズカがマップ探索をしているようだ。

 

「お前…やらかしたのか…」

 

「孤島を丸ごと、箱庭世界へ強制転移させました。ここなら、ユイカが遊びに来られるし、秘密基地っぽいでしょ?異世界に別宅って」

 

先輩の驚いた表情を久しぶりに見た気がする。

 

「じゃ、魔物は?」

 

「食いたい奴だけ『強奪』すれば良いだろ。取り敢えず、島にいる奴らを全滅させたら、お好みのだけ、呼び出すよ」

 

って、ユイカとシズカ以外のみんなが、狩りへ行くようだ。あれを呼んで欲しいのだろう。

 

「あれって?」

 

ユイカに訊かれた。

 

「カニだよ」

 

「カニ…私も狩りに行ってくるね♪」

 

って、今、俺の心も読んでなかったか?凹む俺…負けた気分だ。

 

 

 



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SS:孤島宮殿にて

アリサ視点です。

07/05 誤字を修正


 

 

広がる青空、照りつける太陽、目の前には大海原…そこは、プライベートビーチで、私達しかいない。

 

週末に彼が迎えに来て、引っ越したからって。なんで、引っ越し?って思ったのだが、やらかしていた。箱庭空間に、孤島をまるまる強制転移って…斜め上な発想だ。普通は箱庭なら、1から作れば良いのに、自然をそのまま持って来ちゃう辺りが、彼らしいけど。

 

更に新メンバーにぶっ飛ぶ。魔王が二人…それも現役…最強の魔王と祝福の魔王って…狩らないで下僕にするって何…彼を常識という枠に、入れてはいけないのかもしれない。

 

問題は、エロ士爵である。Eカップ以上はビキニで、ソレ未満はスクール水着ってルールは何?

 

「目の保養…」

 

そこまで言うと、ミツクニ卿にしばかれていた。それはセクハラだしねぇ!まぁ、お子ちゃま体型の私はスクール水着でもいいけど。そもそも彼は、見た目で判断はしないし。

 

彼はビーチには出て来ず、執務室でメリー、ティファ、リーナと執務をしていた。新たに、2つの領地が増えたことに対する執務らしい。

 

予算配分の見直し、早急に必要な設備投資など、こんなにも一生懸命な領主がいただろうか?私は聞いた事が無い。赤字の領地が増えていく現状…私が太守代行している領地もそう。赤字である。雇用機会を増やしているけど、自然との折り合いで成り立つ農業主体では、一朝一夕には黒字化は無理である。

 

「アリサ、マンゴー食べるか?」

 

彼が、持って来てくれた♪

 

「これどうしたの?」

 

「先輩に仕入れて貰ったんだよ。あとスイカとか桃とか。ここ箱庭空間だから、腐らないみたいなんだよ。あぁ、漬け物をつくりたい時は、ユイカの家に行けば作れるよ」

 

魔王ユイカは、家でタクワンを漬けているそうだ。そんなユイカに、彼はいぶりがっこをリクエストしたらしい。

 

「なんで休みの日なのに、仕事なの?」

 

私達だけ休ませて、自分は仕事って…上に立つ者って、もっと楽しているイメージなんだけど。

 

「この世界は、俺のいた世界と時の流れが違うからだよ。ここでは、1ヶ月は30日、1年は10ヶ月で、週とか曜日の概念が無いから、1週間を5日にして、うちでは4勤1休にしているだろ?俺のいた世界では、5完徹2休って感じだからな」

 

ブラックな会社に勤めていたようだ。なんだ?その5完徹って…

 

「ここは1日は28時間で1時間は70分だろ?1日8時間勤務しても、20時間が睡眠に当てられる上、1時間につき10分のオマケが着くから、楽していると思っているんだ」

 

1日を仕事と睡眠だけに割り振る彼がスゴい…遊び時間は?食事時間は?

 

「食事はどうしていたの?」

 

「10秒チャージの栄養ゼリーを、飲みながら仕事をしていたよ。で、仮眠室で40時間ほど寝て、後輩氏に起こして貰って、また仕事って感じだったな」

 

仕事の鬼だったようだ。差額の8時間に、洗濯と風呂か?

 

「楽しみは無かったの?」

 

「起こして貰う時に、後輩氏があれこれ工夫していてね。それが楽しみかな」

 

ミトさんとの朝の攻防戦は、その時の名残か…

 

「好きな人はいなかったの?」

 

「いた…でも、遠くの世界へ行っちゃったから…」

 

彼は懐かしそうに、空を見上げていた。

 

 

 

 



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SS:レッセウ伯爵

宰相、レッセウ伯爵の視点です。

09/21 誤字を修正


 

 

 

---宰相---

 

新年の会議以来、レッセウ伯爵が毎日の様に、面会に来ている。

 

「どうか、復興の為に、魔核を…お願いします」

 

と。

 

「爵位会議で決まったことは、反故にはできぬ」

 

会議で、レッセウ伯爵への魔核の配分は無しになった。

 

「そこを何とか…」

 

復興に必要なのは金のはずなのに、魔核にこだわる伯爵。何を画策しているのは見え見えである。それが、配分無しの理由であった。

 

「そうそう、お前の領地のホセベド村とスイブド村なんだが、魔物に襲われているそうだが、何故領軍を出さぬ?」

 

「復興するために予算を削っている為です。ですから、魔核をお願いします」

 

「都市と鉱山の周辺には領軍を展開しているそうだが、おかしくないかね?」

 

「収入源を護るのは当然でしょ?魔核での支援をお願いします」

 

「収入の少ない集落は、消えても良いということかね?」

 

「支援をいただけたら、農村を無くして、税収の見込める都市にします」

 

農民は魔物に殺されても問題無しなのか…

 

「なので、ホセベド村とスイブド村は領主を変えた」

 

「はぁ?何をおっしゃっているんですか?私の領地を誰に?」

 

領民より、領地が大事か?やはり、彼にすべて託すかな。

 

「アルジェント公爵が、引き受けてくれた」

 

「あの新参者ですか?あんな、どこの馬の骨かわからない者に、私の領地を?認め無いです」

 

随分な言われ方だな。まぁ、新参者であるのは事実である。王祖ヤマト様と同じで、この地に舞い降りた方である。出生は私と王様だけの秘密である。だけど、彼の功績は大きい。公にはしていない為、このような偏見で見られてしまいがちではある。

 

「もう王様が決裁したことだ。異議があるなら、それなりの処置をする」

 

「王様に抗議させてください。私の有能さをお伝えします」

 

有能なら、こんな事態にならないだろうに…

 

「あの農村部は、アルジェント卿の領地に編入済みで、卿にはお話をしてある。なので、覆ることは無い!」

 

「アイツ、幾ら裏金を使ったんですか?」

 

はぁい?裏金とは?もしかして、裏金として魔核を使っていたのか?

 

「そんな物は使っていない。彼の領地は赤字だからな」

 

公式な書類上では、アルジェント卿の方が赤字である。彼の爪の垢でも飲ませないとダメか?

 

「そうか…あの村に資源があるんですね。それを狙って…」

 

何か悪そうな顔をして、出て行った伯爵。

 

 

 

---レッセウ伯爵---

 

新参者の侯爵の家へと向かう…が…家の住所が無い。家すら無い貧乏侯爵なのか。それで、資源の埋まっている村を俺から取り上げたのか。くそっ!

 

オーユゴック公爵様を訪ねて、窮状を訴えることにした。

 

「はぁ?領地を奪われた?誰にだ?」

 

「新参者のアルなんとかという侯爵にです」

 

「う~。そんな侯爵はいないが…新参者なのか。誰の一門なのだ?」

 

「あの名誉だけの公爵の一門です」

 

「ミツクニ公爵か…そうなるとアルジェント公爵のことかな?」

 

「そいつです。奪われた領地を取り戻したいんです。ご助力をお貸しください」

 

公爵様に頭を下げて、お願いした。しかし…

 

「彼は奪い取ることはしない。何かの間違いだな」

 

「何をおっしゃっているんですか?家すらない貧乏侯爵ですぞ。手荒なマネをしたんだと思います」

 

「貧乏…まぁ、赤字の領地が多いからな、彼は」

 

えっ?領地が多い?侯爵なのに?何故…

 

「家は…そうだな。彼の名義の家は無い」

 

「名義を偽装ですか?それは犯罪です。爵位を取り上げるべきです」

 

「偽装では無い。同居しているんだ。ミツクニ卿の屋敷にな」

 

そうなると公爵の名を騙り、悪事をしているのか…

 

「そんな品位の無い奴は、爵位を剥奪すべきです」

 

「彼の事を悪く言わないくれ。私の孫娘が世話になっているんだ」

 

公爵様の孫に手を出したのか…

 

「打ち首にすべきです!」

 

「私の孫のような者を打ち首にか?!」

 

公爵様が俺を睨んでいる。何か地雷を踏んだか?

 

「おい!コイツをつまみ出せ!」

 

衛兵達に囲まれて、屋敷から出された。そうか、名誉公爵の館にいるのか。

 

------

 

家臣を連れて、ミツクニ邸へ討ち入りをした。だが…なんで、コイツがいるんだ?犯罪奴隷に落としたはずのティファリーザが、秘書官のような服装で俺の前に出て来た。

 

「犯罪奴隷を扱っているのか。おい!犯罪者を連れ出せ!」

 

「はぁ!」

 

家臣達が、ティファリーザを捕らえて、連れだそうとした時、

 

「おい!人さらいか。堂々と家に入っての…」

 

声の主を見ると、奇跡の料理人として有名なペンドラゴン卿がいた。

 

「コイツは犯罪奴隷だ。公爵様の家に相応しくないので、捕縛して連行する」

 

「おい!僕の秘書に何をしているんだ?」

 

声の主の背後から、少女二人が飛び出して来て、ティファリーザが奪われた。

 

「ティファ、大丈夫か?」

 

「はい、ご主人様」

 

コイツが貧乏侯爵か…

 

「犯罪奴隷を使って何をするつもりだ?」

 

「誰が犯罪奴隷だ?この家には奴隷なんかいないぞ」

 

「はぁ?ソイツは俺が犯罪奴隷にしたんだ」

 

「そうか、お前がやったのか…セクハラ伯爵よ!」

 

なんだ…何かをされたようだ。誰にだ?

 

「お前を犯罪奴隷にした。罪は、俺の秘書を誘拐した罪だな。あと強制セクハラ罪だ!」

 

はったりだ。言葉だけで、奴隷堕ちにさせることは出来ない。何も知らぬのだな。この新参者は♪

 

「何の権限があるんだ?侯爵風情のくせに!」

 

アイツの後から、シガ八剣のジュレバーグ殿が現れた。

 

「レッセウ伯爵か…いい度胸だな。アルジェント卿の秘書を、屋敷に押し入って誘拐か…重罪決定だぞ。爵位も剥奪だな」

 

「何をおっしゃっているんですか?その貧乏侯爵が、犯罪奴隷を秘書にしているのが、おかしいでしょ?」

 

「貧乏侯爵?誰のことだ?」

 

レイラス殿が更に出て来た。なんだ、この家は…

 

「レイちゃん、俺のことだろうな。5つも赤字の領地が有るからさぁ」

 

シガ八剣のレイラス殿をちゃん呼びだと!

 

「貴様!無礼だろ?シガ八剣のレイラス殿に、腹を斬って謝罪をしろ!」

 

「なんでだ?」

 

って、レイラス殿が不思議そうな顔で、俺を見た。

 

「今、敬称をつけずに、ちゃん呼びですよ!」

 

「うん?いつもそうだぞ。公式な場でも…」

 

って、レイラス殿。何?どういう関係だ?俺は、ケンカを売ってはいけない相手に…

 

「なんか問題でも起きたのか?」

 

更に奥から王様が出て来た…はぁ?

 

「レッセウ伯爵では無いか。何用だ?」

 

「俺がレイちゃんに、腹を斬って詫びろって。意味がわからん」

 

貧乏侯爵が王様に直訴をした。

 

「どういう意味だ?アルジェント卿に分かる様に、説明をしろ」

 

王様まで…味方に付けたのか。コイツは策士か?

 

「黙りか…おい!衛兵よ、レッセウ伯爵を城まで連行しろ。せっかくの旅の報告会のジャマだ!」

 

王様の方から報告を訊きに来た?コイツは何様なんだ?俺達は衛兵達により、城へと連行されて行った。

 

 

 

 

 



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パリオン神国 Part2

レッセウ伯爵の乱心のせいで、また領地が増えてしまった。太守代行が出来る者を育てないとダメだな。

 

「ティファ、将来的に太守代行も視野に入れてくれるか?」

 

「私ですか…私は…」

 

「リーナも太守代行を任せたいし。俺の補佐は、メリーがいれば、大丈夫だと思うんだ」

 

俺程度の者に、3人も帯同する執務補佐官は要らない気がする。

 

「ティファ、ご主人様のご希望を叶えるのも、眷属の努めですよ」

 

って、メリーが援護射撃をしてくれた。

 

「はい…努力したします」

 

真っ赤な顔で俯いているティファ。

 

で、今後の方針…ミツクニ公爵サイドのね。

 

「カレーライス食べたい♪」

 

って、ミト。ここは孤島宮殿である。常夏の世界である。なのに、カレーなのか?

 

「カレーか?スパイスは揃っているが、カレー粉もカレールゥーも無いぞ」

 

先輩の説明。無いと俺には難しい。

 

「はちみつと林檎の奴!」

 

それは、更に難しい。この世界では売っていないと思う。

 

「福神漬けは私が作ります」

 

って、ユイカ。漬け物担当になりつつある。

 

「カレー、いいですね」

 

って、シズカ。まぁ、確かにそそるのだが…問題はカレー粉である。

 

「肉?」

 

「ハンバーグ先生なのです」

 

「Tレックスならまかせてください」

 

って、肉食娘達も乗り気になっているし。はぁ~。

 

「カニはカレーって言うのに入るのか?」

 

ってカリナ。カニは無理な気がする。あれ?先輩は?

 

『カレー粉の研究する。具を頼む』

 

だと言われても…どんな粉にするんだ?インド風?ヨーロピアン風?それとも和風かな?

 

「アリサ、ニンジンとジャガイモの生育は?」

 

「初物なら行けるかな?」

 

「問題はタマネギだな…」

 

アリサ農園では栽培していない。リザ、タマ、ポチ、シズカ、ゼナ隊を連れて、セリビーラの中層にある植物地帯を探す。タマネギ似の魔物って、見た気がする。鬼オンって奴だっけかな?

 

そして、ソレを見つけたのだが、催涙ガス攻撃持ちだった。これは、強敵な予感…斬る度にガスが発生していく。換気扇なんか無い迷宮内。リザが目を瞑り、気配を感知して、尻尾ではね飛ばしていく。たまに、ポチを誤爆してるけど…タマは先読み能力で避けられるのだが、ポチは動体視力を生かして避けるので、目を瞑ると避けられないのだった。

 

「痛いのです~」

 

「ごめん!」

 

奥の手…『強奪』で魔核を奪って、倒す。チートすぎる攻撃。無事?にタマネギを採取出来たので、ジェラシックエリアへ…肉の採取である。

 

リザはTレックス狙い、ポチはトリケラトプス狙い、タマは…首長竜を包めなかったことで、首の短い始祖鳥狙いのようだ。ゼナ達はTレックス、シズカは俺の肩に頭を載せて、昼寝中である。体力不足かな?

 

「兜焼きカレーなのです♪」

 

って、ポチ…結局、キャンプファイアーでの兜焼きはポチだけが満足そうに食べていた。兜焼きにすると見た目がグロすぎたのだった。それに兜焼きで無くても、旨い肉だったし。

 

狩りは精肉が終わらないと、次を狩りに行けないルールにしてある。大漁に狩らせない為である。人間には少し肉が固すぎると言うか…大量にあっても困るというか。

 

--------

 

翌日、アリサ農園で米の脱穀作業。都市核の調整。日本と違って、梅雨と台風が無いので、土の水分の量と相談して雨を降らせる日数を決める。

 

徐々に農民の数も増えてきたようだ。

 

「やり甲斐があるよ~。前回は大失敗して、国を混乱させたからね」

 

って、アリサ。

 

「姫様、そんな事無いですよ」

 

って、元国民の人。

 

隣国の茶々入れが失敗の原因らしい。でも、他人のせいにしないのが、アリサである。

 

「今回は、もっとがんばるよ~」

 

いい汗かいているなぁ。10年後が楽しみである。

 

宮殿に帰ると、先輩が試作品を試していた。

 

「う~ん…」

 

ミトは敗因を考えているようだ。失敗らしい。

 

「スープが合わないのかな?」

 

って、シズカ。先輩はオーミィ牛の骨で出汁を取ったようだ。上品すぎるのでは?カレーは庶民の食べ物だしねぇ。

 

俺は鬼オンを捌いていく。手足があるタマネギ…真っ二つに割ると、内臓が出てくるが骨は無い。内臓を除くと、食べられるのは、外側の3枚程度しか無い。これは効率が悪い。

 

翌日、セーラと公都の市場へ…市場でタマネギ探しだ。そして、漸く見つけた。八百屋では無く、花屋の球根売り場にあった。なるほど、見た目は大きな球根である。この世界では食わないのか?

 

大人買いして、孤島宮殿に持ち込み、セーラに微塵切りと、飴色になるまで炒めて欲しいと頼んだ。ルルは霊園の管理で週末しか帰って来ないのだった。

 

翌日、羽川とパリオン神国へ。砂漠地帯なので、カレーに似た食べ物が有るかなって、淡い期待を持ってきた。後、法皇を塩像にしたので、トップがいない為、暫定的に俺がトップにされていた。パリオン神の神託によって…

 

神殿の中は塩だらけである。羽川によると、塩像は徐々に結晶化していき、全身が結晶化すると、琥珀色になっていく場合があるそうだ。なので、結晶化するまで、その場に放置してある。

 

街中にあった神官達の塩像は、住民の手で破壊され、単なる塩となって、風に舞っていた。畑がダメなのって、これが原因では?塩分の多い土では、植物って育たないんだよな。

 

「そうなの?」

 

俺の心を読んだ羽川が聞いてきた。

 

「土中の塩分を抜かないと…」

 

「お願い…抜いて…」

 

強奪すればいいのかな?って、どこに転送するかな?海かな?人塩は安いので、売ってもなぁ。で、孤島のあった辺りに塩を廃棄していく。パリオン神国内の都市を巡り、都市核を調整していく。土から塩分を除去して、雨を適度に降らせ、土に活力を与えて行く。

 

その後に、当面の人事を決める。トップであった法皇は塩像である。いや、神様関係者がトップではダメなんだろう。シガ王国のように、宰相を置くことにした。

 

「パリオン、ホムンクルスを作れるか?」

 

頷いたパリオンが、ホムンクルスを創造した。見た目は何故か美神令子である。何故?

 

「これなら、ご主人様がかわいがらないでしょ?」

 

まぁ、爆乳系は苦手である。

 

「神に仕える巫女は、爆乳系がいいのよ。民衆の目を引くし」

 

なるほど…では、コイツを女王にして、思考回路はニナを参考にした。良い太守代行になるだろう。令子に宰相などをスカウトしてもらう。腹黒系、無計画な奴は除外してもらい、数名をスカウトしてもらった。その中から宰相、軍事担当、経済担当、厚生担当などを任命した。

 

「しばらくは、一般の民衆より少しだけ高い賃金になるけど、頼めるかな?」

 

「喜んでお引き受けします。この国が良くなるのでしたら」

 

って、言ってくれた。さすがニナのスカウト眼スキルだ。

 

で、俺は太守になろうとしたのだが、閣議により新生パリオン神国の国王にされてしまった。女王はパリオンという名前の美神令子似なホムンクルスである。で、俺の名前は、アール・アルジェントでは、マズいので、アール・ウール・ゴーンにしてもらった。アインズ様にあやかってみた。

 

戦争中なので、国境警備には手懐けたゴキブリ君達を配備した。固い上、何でも食べててくれるのが良い。そして、子だくさんであるし♪民兵達は徐々に後退させていく。

 

攻め込んできた国々へ赴き、停戦を要求もしないとな。売られたケンカは買う方針とも伝えないと。俺は黒竜ヘイロン、パリオンと共に、停戦交渉に向かった。

 

その為、交渉する相手国家は右へ左への大騒ぎになった。不死王と最強暴竜、そして神本人が訪問したのだから…交渉相手は大国であるシガ王国、サガ帝国へ応援を要請したようだけど、それぞれの王家には事情を話してあるので、応援要請を蹴ったもようだ。

 

「停戦条件は飲みます」

 

停戦条件は二度と攻め込まないこと、食料支援をすること、パリオン神に祈りを捧げることである。破れば、防戦ではなく占領戦に出るとした。戦力的には、訪れた3体しかいないんだけど、インパクトが有りすぎたのか、すんなりと折れてくれた。

 

そして、パリオン神国へ凱旋帰国。本来の目的に戻る。カレー粉探しだ。あぁ、黒竜ヘイロンはお駄賃として、いつものように手合わせをして帰っていった。俺との戦いが楽しいらしい。アイツ、マゾなのか?毎回、ボコられているんだけど…

 

「パリオン、カレー粉ってないのか?」

 

「う~ん…それがどういう物かがわかりません」

 

パリオンは羽川翼姿では無く、本来の幼女姿になっていた。でも、見る人が見れば、神だとわかるらしい。俺にはわからないんだけど…カレー粉の説明かぁ。食った事無い者には難しい気がする。

 

「色々な香辛料をブレンドした黄色い粉だよ」

 

「う~ん…」

 

やはり、分からないらしい。二人で民衆の食べ物屋を喰い歩き、似た食べ物を探す作戦に変えた。その結果、分かったことが…塩分濃度の濃い土から出来る作物は、塩分濃度が濃いようで、香辛料など使わないでも塩辛いのであった。これにカレーを掛けるバカはいないと思われる。

 

住民の殆どが病弱なのは、塩分の取り過ぎではないのか?血色の良かった神官達の食事が気になる。

 

「パリオン、神官達は何を食べていたんだ?」

 

「たぶん、輸入した物じゃないかな?」

 

輸入した物を貯蔵している蔵へ案内してもらった。パリオンは俺といるだけで嬉しいようだ。いつもは見せない笑顔である。今まで、こうして二人でいる機会って無かったからなぁ。

 

「なんか嬉しそうだな?」

 

「うん♪二人っきりで、一緒にいられる…それだけでいいんだよ」

 

それでいいなら良いか。ヘタに妄想をすると、ミトが飛んで来そうだし。

 

「悪いけど、もう飛んで来ているわよ!」

 

って、ミト…へ?

 

「帰りが遅いから来たわよ!」

 

「何もしていない…」

 

「やらかしたよね?メリーとシスティにお願いをしたよね?」

 

あぁ、停戦交渉の後盾の件か…

 

「ふ~ん、知らない間に、国王になっているなんて…どこまで、仕事を背負うんだ?」

 

背負うつもりはないが、仕事が寄ってくるんだ。パリオンはミトが恐いのか、俺に抱きついて、震えている。

 

「まぁ、先輩らしいけどね。で、カレー粉は見付かったの?」

 

この国の問題点をミトに話した。

 

「塩分濃度が濃いのか…それは、身体を壊すよな」

 

ふと、脳裏に疑問が湧いてきた。

 

「パリオン、砂の下には何があるんだ?」

 

「えっ?!なんだろうね」

 

分からないようだ。ふと脳裏に浮かんだのは、昔見た映画…『猿の惑星』だ。違う星に着いたと思ったら、未来の世界だったってお話。天から7つの大樹が降りて来たとしたら、ディープインパクト状態で、その時あった文明は全て破壊しただろう。着地時に発生した衝撃波で…

 

砂は無機物が風化した物である。広大な砂漠地帯…何らかの無機物が大量にあったはずである。そして、濃い塩分濃度、生き残った現地人を塩像にした名残りって、考えれば、なんとなく辻褄が合う。

 

「先輩…その妄想は危険だよ…」

 

ミトの顔から血の気が失せていく。パリオンは、固まっているようだ。そこまで、思い至らなかったのであろう。

 

俺はある物を脳裏に浮かべ、土の中から『強奪』した。俺を襲う衝撃的な事実…強奪出来てしまったのだった。それを見たミトは、力無くその場に崩れた。俺の手にはレトルトカレーのパックがあったから。

 

「ここって、未来の…」

 

だから、日本の文化が沢山残っているんだろう。ほんの一握りの転移者、転生者だけで、あんなにも文化は浸透しないだろう。

 

俺の心を読める者達が、先輩と共に転移してきた。

 

「アール…」

 

先輩にレトルトパックを手渡した。それを見つめて固まる先輩、ユイカ、シズカ、そしてアリサ…え?アリサにも見えていたのか…ショックだ。

 

「そんな…」

 

パリオンが一言呟いた。俺を抱き締める力が強くなったようだ。

 

「この下に…」

 

いつか発掘しよう…砂の量が膨大すぎる。下手に除去すると、この辺りの地形が変わりかねない危険がある。住民を護ることは、国王の使命だと思う。

 

「アール…そうだな。生きている者が優先だな」

 

先輩はストレージに砂を全て入れようとしていたが、俺の心を見て思いとどまってくれた。

 

「だけど、いつか、砂の下を捜索したいな」

 

頷く俺。

 

------

 

レトルトパックの発見により、試食出来る状況になり、カレー粉の捜索に役立った。似た料理…いや、レシピが残っていたのだった。ボルエナンの里に…ここを訪れた日本人の転移者が伝えたようだ。更に驚いたことに、ネーアという日本料理の研究家もいた。灯台下暗しだった。こんな身近に存在していたとは…エルフがカレーを食べているイメージが湧かなかった為、捜索から除外していたのだった。

 

「これで、再現できる。レシピの足り無い部分は、わかっているし」

 

奇跡の料理人がカレー粉を作り始めた。カレーパーティーはここと、孤島宮殿の2箇所で行うそうだ。エルフの里に、魔王は入れないそうなので、シズカ、ユイカの為の処置である。

 

肉は、煮込んで型崩れしないTレックスの肉が採用になった。トリケラトプスはハンバーグに、始祖鳥はチキンカツになる。

 

「これがハンバーグなんですね」

 

って、ネーアが俺の調理を見ていた。横ではヨダレが流れ出ているポチが貼り付いている。

 

「肉を挽き肉にするのか…」

 

挽き肉って手法を初めて知ったようだ。今までは、切り落としや、コマキレ肉で試作を繰り返したが、あのフワフワ感再現できなかったようだ。コマキレを固めたら、包み焼きに近いだろうな。

 

ルルが始祖鳥でチキンカツを上げている。リザ達戦士組は孤島の海でカニと戦闘中である。力技は禁止で、武器による攻撃で倒すルールにしたようだ。タマはそれに参加している。カニの後にタコを希望しているから。

 

今宵の夕食は賑やかになりそうだ。

 

 

 



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ガニーカ侯爵領

07/06 誤字を修正


会議中である。参加者は俺、ミト、メリー、アリサ、ティファ、リーナ、ニナ、ルーニャである。赤字領地の太守代行もしくは、その予定者達である。

 

「どうするかな…」

 

って、どうにも成らない。ティファには旧レッセウ伯爵領をまかせたいと思っている。元々はあそこの秘書官だったし。

 

「魔核を大量に売り出すのは?」

 

「暴落すると、他の領地に迷惑をかけるからなぁ」

 

ナマコの量産化で、魔核は定期的に大量に手に入っているが…

 

「新たな事業を考えないとなぁ~」

 

養殖業は安定化してきた。農業はまだまだである。鍛冶もまだまだ。さて、どうする。

 

「税率をあげますか?」

 

って、ニナ。

 

「1年か2年は据え置きにしたい。それだけの苦労は住民に掛けたのだからな」

 

「そうですが…」

 

裏の世界の金持ちから『強奪』した金だけでは、補填も難しい状況である。それに、入手不明金が多大だとマズいので、ちょっとずつ補填しているし。

 

「ねぇ、あの砂で何か作れないかな?」

 

って、ミト。あの砂とはパリオン神国周辺の砂漠地帯の砂だと思う。何か、ちょっとずつ利用して減らす作戦なんだろう。

 

「焼き固めて煉瓦か?製塩の際の排熱が利用できるか。ルーニャ、労働力に余力ってあるか?」

 

「う~ん…少しくらいなら。でも煉瓦作りって、素人で大丈夫ですか?」

 

難しいかな…いや、問題があるな。

 

「ミト、あの砂は、あのままでは無理だ。塩を除かないと」

 

「あぁ、そうか…塩が混ざっているのよね」

 

塩害被害が深刻である。まず、国内の塩の除去が先で、砂漠地帯まで手が出せない。その時、閃きが舞い降りて来た。そうか、塩を結晶化してブロックのようにすれば…熱でも溶けない頑強な素材になりそうだ。水に弱い難点があるが…

 

「その手があるわね。塩像がブロックになったと思えばいいのね」

 

って、ミトが俺の妄想に賛同してくれた。が、結晶化は面倒だ。熱水に塩を溶かして、徐々に結晶化させていかないとダメだ。どうするか…

 

「パリオン神国には、神の制裁は無いはずよ。だって、神がトップの街だし♪」

 

って、ミト。先輩に創造してもらうのか。結晶化装置と、ブロック作成装置を…確かに、神によってもたらされた被害だ。神に責任がある。文句があるなら、俺が戦えばいい。

 

『私も一緒に戦う!』

 

って、パリオンからメッセージ…こいつも俺の心が読めたのか…負けた気分だ。

 

『どんまい♪』

 

って、アーゼ。だな…

 

「じゃ、次回は新規事業が動いたらにしよう」

 

会議は終わり、みんなをそれぞれの仕事場、赴任先に送り届けた。

 

------

 

ガニーカ公爵領に来た。ミトの公務である隠密旅である。メンバーは、いつも通りの馬車2台である。ミトの偽りの身分は、エチゴヤ商会の新規出店候補地を、選定する調査官らしい。支店自体は既にあるらしいけど。俺はミトの補佐だそうだ。

 

ガニーカ公爵領は、王都とオーユゴック公爵領の間にあり、領地のほとんどが海に面した場所である。海に面しているせいか、海産物を扱うお店が多い。おぉ~、干物もあるのか…値段は王都の1/20程度である。ここは1つ大人買いをする。焼き魚定食狙いである。孤島宮殿において置けば、腐る心配もないから。

 

「干しアワビもある…これも買う」

 

「こんな買ってくれるの~。オマケしてあげる」

 

って、猫人族の女性。

 

「貝殻細工もあるけど、どう?」

 

「俺は、食い物担当なんで…」

 

「そうかい。じゃ、エチゴヤの支店に頼んでよね」

 

って、エチゴヤは有名らしい。俺の世界のドンキーとか7-11くらいに有名なんだろうな。

 

「わかりました。主に伝えておきます」

 

と、営業スマイルで答えておいた。

 

漁師らしい鰓人が、活きの良いサバのような青魚を持って来たので、それも大人買いして、孤島宮殿へ転移させておく。サバは足が速いから…

 

「タコ~?」

 

「ここのタコはちっちゃいのです」

 

魔物では無いからね…タマ、ポチは魔物の方を本物と思っているようだ。って、イイダコとホタルイカかぁ…これも大人買い。ミトが苦笑いして見ている。支払いは先輩持ちらしいので、大人買いでも安心である。

 

いきなりの転移は怪しまれるので、ポチとタマには魔法のカバンを持たせていて、それに入れると、孤島宮殿に転移するようにしてある。この世界の商人達も使う、容量が見た目とよりも遥かに多い魔具である。王都の商人は良く使っているが、ここの行商人は持っていないのか、珍しい物を見る目で見ている店員さん達。

 

「さすが、エチゴヤの先遣隊だね」

 

って…エチゴヤは有名過ぎるのか?

 

大人買いをしている最中、ボロを纏った猫人のお爺さんが現れ、

 

「聞け!皆の衆!この豊漁は深き海の底から海底人が襲ってくる予兆じゃ!今の内に海辺を捨てて山に逃げるのじゃ!」

 

と、告げた。神託の老人か?巫女には見えないし。お爺さんは、海を睨み付けながら演説をしている。だけど、ここの人達の目は険しい。

 

「ベムト爺さん、今はお客さんが来ているにゃ。寝言は家に帰って飼い犬にしてやる事にゃ」

 

猫人の店員が老人に声を掛けた。

 

「で、いくらになった?」

 

老人から俺に視線を移させた。

 

「皆で分けられるように、銅貨で払って貰えると助かるにゃ」

 

こんなに大人買いしたのに、銅貨100枚に届かない。物価が安すぎるだろ…

 

店を離れて、ミトにマップ探索をしてもらった。海底人っていうがいるのかのチェックである。深海豚鬼という知らない魔物がいたので、1頭を『強奪』で引き寄せた。手足がヒレになった豚のようだ。リザ、ポチ、タマが精肉にしていく。そして、肉を焼いて、みんなで試食をした。リザが捌いたってことは喰える肉だから。リザの能力なのか、喰えない肉は捌かないのだ。

 

「豚肉そのものね」

 

って、ミト。俺もそう思う。ポークカレー、生姜焼き…喰いたいメニューが脳裏に広がる。その途端「食べたい」ってメッセージが大量に送られてきた。みんなも、豚肉に飢えていたようだ。

 

で、海底人が気になるので、近くの宿屋にチェックインした。

 

-------

 

夕食…宿の料理の他、ユイカが鯖味噌煮をギフトしてきた。先輩からは生姜焼きである。うまい…ソウルフードだな。俺とミトがうまそうに食べていると、みんなも釣られて食べている。

 

「こんな料理あるんだ…」

 

セーラが驚いている。味噌自体が珍しいのだろう。更に味噌で魚を煮込んであるし。

 

「うっ!ハンバーグ先生のピンチなのです」

 

ポチが生姜焼きにやられたようだ。ハンバーグとは違う旨さであるから。

 

喰いながら、地図を見ている。ガニーカ侯爵領は、東西に長い領地で、全長1000キロ近い海岸線を有するようだ。豊かな漁場が多そうだな。海岸線には50キロごとくらいに、結界柱で護っている入り江が有り、そこの入港料が、主な収入源のようだ。ってことは、危険な海ってことか?ガニーカ侯爵領は赤字では無いし…

 

その晩は何ごとも起きなかったので、ガニーカ侯爵領の領都を目指した。領都に着くと、次期侯爵を筆頭に、領内の貴族達の出迎えがあった。隠密旅なのに、王様が事前に知らせたらしい。

 

「あの子らしいなぁ」

 

って、ミト。ミトが問題ないようなので、スルーだな。主賓のミトは晩餐会に招待されたので、俺達は自由に動けそうだ。

 

「あれ?先輩も行くんだよ。主君のガードしなさいね」

 

って、自由行動は出来ないようだ。

 

「俺の身分は?」

 

「ムーン士爵でもいいわよ」

 

俺一人では恰好が付かないらしく、メリー、フィフィ、ルススが同行してくれるらしい。だけど、俺より有名な元勇者の侍従達が目立っている。俺を勇者と勘違いする者もいる始末だった。

 

「ご主人様は勇者ではございません」

 

って、メリーの説明。そうすると、今度は勇者でなく、末端の士爵に仕えた訳を訊きたがる貴族達…メリーのことはフィフィとルススにまかせて、俺はその場から逃走した。有名では無い俺は、誰も気にしていないようだ。

 

中庭に出て、アーシアとパリオンへ連絡をした。二人には海岸線を監視してもらっていたのだ。

 

『問題ありません』

 

『こちらも大丈夫です』

 

今の所、大丈夫らしい。

 

「ここで何をしてらっしゃるのですか?」

 

少女に声を掛けられた。マップ情報を見ると、ガニーカ侯爵の姪にあたる伯爵令嬢で、ネーレイナと言うらしい。

 

「俺はミツクニ卿のガードだ。ここで、不審者や侵入者が無いかをチェックしているんだ」

 

「あなたのお名前は?」

 

「ムーンだ。爵位は士爵だよ」

 

「ムーン士爵様ですか…」

 

「これ、喰うか?」

 

フェイクの魔法カバンからプリンを取りだし、少女へ手渡した。いきなり転移や強奪だと驚かれてしまうので、フェイクでいいから魔法カバンから取り出したように見せろと、ミトに言われているのだった。

 

「おいしい…どこの料理ですか?」

 

「セリビーラだ」

 

俺の黒字の領地名を答えた。

 

「迷宮都市に、こんな料理があるんですか…あっ、私…ネーレイナと申します」

 

情報によると15歳とあるが、17歳くらいに見える。

 

「ネーレイナ、ねぇ、本当に海の向こうから海底人が攻めてくるのでしょうか?」

 

「姫様……それは私にも分かりません」

 

彼女に話しかけた女性は、マップ情報によると侯爵の長女だった。

 

「ですが、家臣達に調べさせたところ、漁師達が普段見かけないような遠海の魚や魔物を見かけたという話を、幾つも拾って参りました。更に、先月帰還するはずだったドンスデン男爵の船団も未だに戻りません」

 

「海の向こうで、何が起こっているのかしらね――」

 

ネーレイナは真剣に訴えているようだが、侯爵の長女は他人事のようだ。

 

『酒場で聞き込みをしてくる』

 

って、先輩。相変わらず、俺の心をモニタしているようだ。

 

『あぁ、システィに王都の禁書庫を調べさせている』

 

仕事の早い先輩。

 

『こっちでも聞き込みをしてみるわ』

 

って、ミト。

 

「うん?彼は?」

 

侯爵の長女が俺に気づいたようだ。

 

「ミツクニ卿のガードをされているムーン士爵様です」

 

「ムーンと申します。よろしくお願いします」

 

「そう」

 

俺に興味はないようだ。まぁ、名の売れていない士爵だものな。

 

「そうだ♪ミツクニ卿の眷属なら、奇跡の料理人は知っているわよね」

 

「まぁ、同僚ですから」

 

「彼の料理が食べたいの。頼んでくれる?」

 

「まぁ、会った時に話しておきます」

 

「お願いね。さぁ、ネーレイナ、行きましょう」

 

ネーレイナは俺に、軽く会釈をして、侯爵の長女の後を付いていった。

 

『料理かぁ…海産物メインで攻めるか。お前はどうする?』

 

俺は料理担当では無く、喰う担当である。

 

『喰うのは、食い物だけにしなさいね』

 

って、ミト。俺は先輩と違って、通っていないんだけど…

 

『俺も通ってはいないぞ。あれは聞き込みだ』

 

ミトに言い訳をする先輩…

 

-------

 

晩餐会が終わった後、男女別に別れて、サロンで歓談らしい。ミトはまだ、出て来ない。

 

『沖合でしか見かけない魚が近海で獲れたり、強めの魔物が沿岸で暴れる事件が多いらしい』

 

って、先輩。

 

『システィが本を見つけたようだから、禁書庫に行ってくる』

 

暫く待っていると、

 

『書かれている下りはこうだ。「天地開闢のような地揺れが続き、海が干上がり人々は手掴みで海の幸を得、地上で動けぬ海の魔物を倒して使い切れぬほどの魔核を手に入れた。その幸福も長くは続かず、干上がった海の彼方から、海底都市ネネリエの忌まわしき住民達が押し寄せてきた。住民達は海底人を名乗り、沿岸の漁村の人々を頭から囓り、喰らっていった。だが、海底人達の暴虐も長くは続かなかった。神より授けられた海王五叉矛を操るガニーカ王によって海底人達は陸上から追い払われ、双海竜長杖を携えた王妃の魔法で深淵の彼方へ押し戻された」とある』

 

追い払われて、押し戻されただけなのか…それって、まだ生きているってことか。

 

『前兆として、食い散らかされた深海豚鬼の死骸が、大量に海岸に打ち上げられる事件があったようだ』

 

あのおいしいブタは、海底人のエサなのか?

 

---------

 

翌日、海上に来ている。飛べない俺はテンちゃんの背中に載っていた。そして、マップでブタさんの多い場所を見つけて、ダイブした。テンちゃんは水中では無敵にならないらしい。そもそも、息をしないでも大丈夫なのは俺くらいなようだし。まぁ、何かあれば、チータが揃っているから、助けてくれるでしょ。

 

海の底に着き、全マップ探査をした。黒塗りのエリアを発見。そこへ移動する。黒塗り箇所は別のマップってことなので、黒塗り地点に着くと、全マップ探査を再度行ってみた。

すると、海溝の底に「海底都市ネネリエ」という表示が現れた。これかな?

 

その都市を訪れ、問答無用で襲って来た海底人を灰にしていく。で、話し合いの出来る者と、話し合いをした。パリオン神国の国王、アール・ウール・ゴーンとして…

 

俺の提示した条件は、食い物は確保する代わりに、俺の海軍になれっていうものだ。話の通じない奴、敵対視するやつ、食い物にしようとする奴は、問答無用で灰にしていく。魔物では無いようなので、魔核は無い…

 

ネネリエの太守は俺がなることになり、代行を一番理解してくれた者にした。これで、安心かな?エサを確保かぁ…手懐け失敗のゴキ君達でも大丈夫かな?

 

そして、地上へ戻った俺。

 

「海底人を配下って…」

 

ミトが苦笑いしている。

 

「お前らしいがな」

 

って、先輩。

 

-------

 

ミトがガニーカ侯爵に、海底都市を見つけ、海底人を配下にしたと伝えたようだ。驚くガニーカ侯爵。存在を信じていないようだったそうだ。

 

そして、戦勝記念パーティー。奇跡の料理人の料理が振る舞われるらしい。って、材料確保は俺達の仕事らしい。配下の海底人達にブタさんを確保してもらう。話した結果。俺達の喰わない部分、ホルモン系を食べるそうなので、棲み分けができそうだ。

 

ナマコの内臓を試しに食べて貰ったら、喜ばれたので、ナマコの加工場から、海底都市へ、転移する装置を先輩に創造してもらった。これで一件落着かな?

 

 



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SS:3本の矢

ネーレイナの視点です。



 

海底人は本当にいたそうだ。でも、ミツクニ卿の配下の者が暗躍をして、海底人と話を着けてくれたそうだ。

 

王祖様の世直し旅で有名なミツクニ公爵…王祖様であるはずなのに、まだ存命していて、王祖様であった時の姿のままである伝説級の公爵様だ。

 

そして、海底人との友好を結んだ記念のパーティー。あの奇跡の料理人が腕を振るってくれるそうだ。ムーン士爵様が話をしてくれたんだろう。パーティーは立食形式で、見た事のない料理が並んでいる。好きな物を好きなだけ食べて良いそうだ。

 

私は彼を探した。だけど、見付からない。ミツクニ卿も、ペンドラゴン卿もいるのに…彼だけがいない。

 

「お嬢様、これ、いかがですか?」

 

えっ?振り向くと、プリンを手にした彼がいた。

 

「頂きます♪」

 

おいしい…でも、これって、どこにあったんだ?

 

「海底人の情報を頂いたお礼ですよ、ネーレイナ様」

 

私だけに作ってくれたようだ。

 

「奇跡の料理人は、海産物料理で手一杯でね」

 

「お~い!紹介するから、こっちへ来いよ!ナンパしているんじゃないぞ!」

 

って、ミツクニ卿に呼ばれた彼。えっ?私をナンパ?まさか…

 

「また、後ほど…」

 

彼が動くと、数名の者達が距離を保ちながら、付いていく。彼の配下なのか?って、名もなき士爵なのに、配下がいるのか?

 

「私の眷属を紹介します。まず、『奇跡の料理人』って呼ばれるサトゥー・ペンドラゴン、爵位は士爵だ」

 

ミツクニ卿が紹介をし始めた。黄色い声援が飛び交う。人気者の士爵である。

 

「そして、今回の立役者で、私の片腕のアール・アルジェント、爵位は公爵」

 

彼が壇上にあがった。ムーン士爵ではなく、あのアルジェント公爵なのか…都市伝説級の公爵だと言われている。そんな方だったなんて…鳥肌が立つ感じである。

 

「立役者なんて、大げさな…俺は彼女の言葉を信じただけですよ」

 

私を見つめている彼。

 

「立役者がいるとすれば、それは、俺に情報をくれたネーレイナ様です」

 

私?情報を差し上げていない…皆が私に向かって拍手をしてくれている。どうして…

 

「うちの末娘を受け取ってくれませんか?」

 

ガニーカ侯爵が娘を差し出すようだ。

 

「あぁ、コイツにそういうのは不要ですので、気にしないでください」

 

ミツクニ卿が断った。

 

「そうね…今回の立役者のネーレイナさんを貰おうかな♪」

 

私を指名したミツクニ卿。

 

「えっ!ネーレイナですか?私の姪であって、伯爵の娘ですが…」

 

そう、身分が…

 

「問題無いです。そもそも、侯爵家ですら身分が合わないですから」

 

「はぁ?」

 

「コイツの横にいる女性は、サガ帝国の王女、メリーエスト・サガですよ。それに見合う女性なんて、いないですからね♪」

 

サガ帝国の王女様を隣に…それなのに、なんで私?

 

「彼女ですら、愛人にすらならない。うちのアルジェント卿を安く見積もらないで欲しいですね、侯爵様」

 

帝国の王女クラスでもまだ足り無いって…えっ?両脇を抱えられた。そして、壇上へ連れて行かれた私。

 

「ネーレイナよ、アルジェント卿の眷属になって貰えるかな?」

 

ミツクニ卿に訊かれた。頷く私。こんな名誉なことを断れない…

 

「じゃ、そういうことだ。侯爵様♪」

 

笑顔のミツクニ卿。

 

-------

 

パーティーが終わり、ミツクニ卿の部屋へ連れて行かれた。

 

「あなたには、将来的に太守代行を任せたい」

 

って…はぁ?そんな大役を?

 

「あなたの警鐘があったから、危機を未然に防げました。感謝しています」

 

「私には無理です」

 

「スグにでは無いです。アルジェント卿の傍で、太守としての仕事を見て覚えなさい」

 

彼は太守なのか…領地があるの…

 

「そこにいるティファ、リーナも太守代行の勉強中なのよ」

 

真っ赤な顔の女性達…

 

「3人の中から選ばれるのですか?」

 

普通、領地は1つである。代行候補は3名も要らないはずである。

 

「3人共よ。3人でも足り無いんだから…」

 

足り無い?それって、領地が複数有るのか…都市伝説級の公爵様…普通とは違うらしい。

 

「そ、そ、そんなに領地があるのですか…」

 

「まぁ、コイツ、二つの国で国王だから」

 

国王…はぁ?なんで、公爵なの?疑問だらけである。

 

「コイツは理解の範囲は超えた行動しているから。

 

「ミト…国王は言い過ぎだよ」

 

困った顔の彼…ミツクニ卿を名前で呼べる仲なのか…

 

「え?だって、パリオン神国の国王を受諾しただろ?」

 

「したけど…」

 

パリオン神国の国王…はぁい?

 

「民主主義の結果、そうなったけど、俺は国王の器では無いよ。精々、名の知れないムーン士爵程度で良いって…」

 

「あの…都市伝説で聞いたのですが…シガ八剣を倒したって…」

 

理解をしようと質問をしてみた。

 

「コイツの配下になっているよ」

 

え…王家直轄の部隊なのに…

 

「色々な神殿で奇跡を起こしたって言うのは?」

 

「本当だよ」

 

即答をするミツクニ卿。本当なんだ…なんて人の眷属にされてしまったんだ?

 

「後、コイツの眷属達に勝てる軍隊は無い。内訳は追々、教えてあ・げ・る♪」

 

「おい、それくらいにしてやれ。ビビっているぞ」

 

って、ペンドラゴン卿。彼も対等な話し方だ。

 

「そこか…そうだよ。私達は対等な立場なの。3本の矢って感じかな」

 

何か、飛んでも無い組織に入れられた気分である。

 

 

 



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SS:悪夢

ミトの視点です。


 

 

私が転移した場所は、修羅場であった。

 

勇者メイコが、魔王化しかけたアリサに斬り掛かり、リザが間に入り、アリサをガードしている。だけど、先輩の言葉『アリサがアリサのうちに殺してくれ』が甦ったのか、リザがアリサに気を取られた瞬間、勇者メイコに首を刎ねられた。リザの死に顔はくやしそうだ。先輩の願いも叶えられなくて…

 

大きな魔王が死に体であり、アリサが呪文を重ねている。だけど、アリサの狙いは黄色い巨人のようだ。あれは何だ?

 

リザを倒した勇者メイコが、魔王化しかけたアリサに迫る。私の身体は何故か動かない。止めないと…色々な事を…だけど、動けない。

 

間一髪、ポチが勇者メイコの剣を防いだ。そして、アリサから黄色い巨人に向けて強烈な一発が入ると、身体が点滅し始めた黄色い巨人。膝から崩れ落ちている。

 

その時、曇天を蹴散らし光の輪が現れ、輪の上には6つの珠が廻っていた。輪の中心から光の柱が舞い降り、黄色い巨人を回収するのか、引き寄せていた。

 

そこに先輩が転移してきた。

 

「リザ!」

 

リザの頭部を抱き締めた先輩。くやしそうだ。

 

「アリサ!」

 

魔人化が始まったアリサを抱き締めた。とても、哀しそうだ。

 

「ゴメン…二人共…ゴメンな…」

 

先輩の身体が変異していく。それに伴い空気が鳴動し、勇者メイコが粉砕された。衝撃波だ。大きな魔王の身体も粉砕され、黄色い巨人も例外にならず粉砕された。輪の上にいた1つの珠が先輩の元へ堕ちていき、先輩の身体に吸収されて行く。

 

「クソ神共よ!許さねぇ~!」

 

先輩は輪っかの真下に立ち、上下左右360度方向へ衝撃波を放った。輪っかも珠も粉砕され、先輩の周囲が円上に破壊されていく。ディープインパクト…脳裏に浮かぶ言葉。

 

衝撃波が収まると…ポチ、タマだけが平原に立っていた。先輩のいた場所には大きなクレーターが出来上がっていた。まさか、先輩自身も粉砕されたのか?

 

--------

 

「先輩…うっ!」

 

胸が押しつぶされる…何かに絞められている…腹部には何かが刺さっている…油断したのか、やられたようだ…

 

ゆっくりと瞼を開けると、暢気な顔で寝ている先輩がいた。

 

うん?まさか、あれは夢?先輩と抱き合っていて、お互いに寝落ちしたのか?その挙げ句、寝ぼけて私をベアハックしている先輩。ソレも刺したままって…有り得ないだろ?

 

「おい!起きろよ…痛いって!」

 

「そうか…一緒にいたいのか…」

 

寝ぼけていやがる…

 

「起きろって…」

 

耳タブをハムハムしてみた。

 

「後、10分…」

 

今朝はどうやって、起こすかな?

 

って、この状況では、私がどうにかしないとダメな気がする。

 

 

 

 



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ムーノ男爵領

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ガニーカ領での一件が終わり、ミト達と別れて行動する俺。ミト達はオーユゴック公爵領の公都を目指し、ボルエハルト自治領へ至り、ムーノ男爵領へ向かうのだが、俺は直接ムーノ男爵領へと向かう。オーユゴック公爵領の公都で、問題が起きていた。先乗りした先輩を、ムーノ男爵領の領主とするように、トルマが運動をしているようだ。勿論、俺のことは、相変わらずペテン師だと公言しているそうだ。

 

なので、俺が行くと収集が着かなくなるので、行くのを断念した。公爵様に会えないのは残念だが、ミトの公務のジャマは出来ない。

 

真っ直ぐニナの元へ向かった俺。ニナは笑顔で自分の部屋へ連れ込み、2時間ほど休憩をして、二人で公務へ戻った。ちなみに、ニナがムーノ男爵としての爵位を、ミトから貰っている。

 

「問題は起きていないか?」

 

「実は…」

 

問題は起きていた。太守を任せられる者が見付からないので、住民に任せたらしいのだが、

 

「領内には都市が4つ、街が7つあるのですが、都市1つと街2つしか支配していなくて、街3つが地元の豪族達、残りは魔物や蛮族に占拠されているんです」

 

それって、半分以上が占領されているのか…赤字の訳だ。人口推移は、ニナが領主代行、太守代行をしてから、市内の人口は5割増し、領内の人口が2割増しにっていて、領軍兵士の数も120人だけだったのが、今や2000人近くいるらしい。

 

「それは、早急に手を打たないとダメだな。ニナが支配していない地域は税も払っていないんだろ?」

 

「はい…」

 

ニナに任せっきりにした俺の責任だな。

 

「すまない…ニナ」

 

「やめてください。これは私が、もっと早く報告をすれば良かったんですから」

 

「いや、俺の責任だ。早急に手を打つよ」

 

俺は現在へ転移した。まず魔物達だな。シガ八剣と一緒に鍛錬していたリザ達をジュレちゃん達ごと連れて行った。

 

ヒュドラやキメラ達をまかえ、俺はアンデッド系を眷属にしていく。不死王に逆らうアンデッドはいないようだ。軍隊がまた増えた♪

 

で、都市2つ街2つを返して貰い、街を1つアンデッド達に自治区として、使うことの許可を出した。条件は兵役の義務と自治区から出るなの2点。それで納得してくれたようだ。

 

「アンデッド自治区ですか…発想が斜め上ですね」

 

レイちゃんが苦笑いしている。

 

「退かせば、別の場所に移るだけでしょ?ならば、自治区を設定して、他に迷惑を掛けないのが、上に立つ者の努めだと思うけど」

 

「ご主人様らしいです」

 

って、メリー。メリー達を借りたので、ミトにはゼナ達がガードに入ってくれている。

 

で、次は豪族退治。いや、退治では無くて下僕化だ。シズカの能力で下僕化し、蓄えを没収して、太守代行として雇う旨を徹底させた。反乱したら、アンデッド軍が襲うことも宣言しておいた。実際はゴキ軍団投入の方がインパクト有りそうだけど…

 

「戦力あまり使わずに、こんなにあっさりと?」

 

ジュレちゃんが呆気に取られている。まぁ、俺らしくがテーマだからね♪

 

ジュレちゃん達を送り届けて戻ると、ニナがまだ問題があると言うのだ。

 

「後は何かな?」

 

あぁ、豪族達の支配地は、税率は普通にしてある。前領主が税を取っていなかったらしいから。これで、ニナの管轄は黒字確定である。

 

「廃坑都市のコボルト達が、北東のクハノウ伯爵領にある銀山に手を出し始めているんです」

 

大きな区割りでは、どちらも俺の領地らしいが、地図上では…それはダメだな。現地調査をする為に転移をした。

 

まず鉱山手前の森の中から、近づいて行く。いきなり鉱山へ転移だと戦闘になりそうだし。森の中では、魔物が何かを追いかけていた。

 

「私が行ってくるよ♪」

 

テンちゃんが現れて、魔物達をフルボッコしている。俺も後から付いていくが、テンちゃんも俺の心が見えているのではって、疑惑が湧く。このタイミングで転移って…

 

テンちゃんが助けたのは、コボルドの族長の娘と従者である男女2名だった。この世界のコボルドは犬頭と言う帽子というか兜というか、まぁ、そんな物を被っている。ソレをはずせば、長めの犬歯と尖った耳以外は人間と同じ姿である。あとは、肌が青味がかっているくらいか。自治区を与えてもいいな。話が着けばだけど。

 

「……ん? キャンか?」

 

意識が戻った少女がそう言葉を発した。彼女はシガ国語を話している。話が出来そうで安心だ。

 

「――違う、誰だ?」

 

少女が警戒心をもって、俺達を見ている。

 

「くっ、拙の仲間はどこ――まさかっ」

 

助けた男女2名を指差した俺。従者2名は怪我をしていたので、治癒はしてある。

 

「俺はアール・アルジェント、ここの領主だ。彼女はテンちゃんだよ」

 

「せ、拙は今は亡きボルエフロスを祖とするコボルト、ピァーゼ・ボルエフロスと申します。アルジェント殿、拙と仲間達の助命を感謝いたします。そして、その恩を返す前に願い事をする非礼をお許し下さい」

 

少女が言うには、コボルト達の鉱山が枯れ、彼らの繁殖に必要な青晶と呼ばれる宝石が入手できなくなったので、その青晶を分けて欲しいとの事だった。青晶かぁ、そうなると…

 

「コボルト達がクハノウ伯爵領の銀山を、襲っているのは、その青晶の為か?」

 

「そうだ。旅の魔法使いが教えてくれたのだ」

 

旅の魔法使い?怪しい…

 

『ダーリン♪ミスリル鉱脈の深い所で採れたはず。太い竜脈沿いのミスリル鉱脈を捜せば見付かると思うわよ』

 

って、早速アーゼから情報が入った。

 

『黒竜ヘイロンの山にあるミスリル鉱脈に有るぞ』

 

って、先輩。みんな暇なのか?俺の心をモニタリングしすぎる。

 

『あ~、アーゼに負けたのか~。先輩、山岳地帯の街の地下1000メートル地点にあるわよ』

 

って、ミト。負けず嫌いだな、あいつ…

 

「そこには無いぞ。埋蔵場所の採掘権を与えても良いが、条件は出す。どうする?」

 

「あそこには無いの…」

 

「あぁ、それは罠だと思う。コボルトと人間を、戦わせる為のな」

 

「そんな…」

 

泣きそうな顔の少女。

 

-------

 

コボルト達が攻める銀山近くにある、クハノウ伯爵領の第二の都市セダムの太守に、面会をしに行った。

 

「この忙しいときに面会だと?!断れ!」

 

断るのか?待合室まで聞こえる太守の声。

 

「何?!ムーノ男爵の家臣か!この状況で恩着せがましい事を言いよったら、即刻、首を叩き斬ってくれるわ!」

 

う~ん…どうしたものかな?トルマ臭を感じる太守。家臣では無いのだが…思い込みは恐い。

 

しばらくすると兵士がやって来て、俺とテンちゃんを案内してくれた。武器類は持っていないので、会ってくれるらしい。

 

「キサマがムーノ男爵の家臣か?小姓に女性とは趣味が悪いな!」

 

家臣では無いのだが…

 

『いつでもいいぞ♪』

 

テンちゃんはバトルモードでスタンバイである。

 

「お初にお目に掛かります、太守様。クハノウ卿を困らせているコボルト達の事で、お話があります」

 

「ふん!キサマが鎧袖一触で始末するとでも、言うつもりか?」

 

殺すのが前提か?

 

「ご許可戴ければ、すぐにでも、退かしますよ」

 

話の流れに合わせる。

 

「半刻だけ時間をやろう。その間になんとかしてみせたなら、キサマらに感謝してやろう」

 

不可能だと思っているのか、殴りたいような下品な笑みを浮かべている。ここは抑えて、

 

「それはありがとうございます。テンちゃん、頼むよ」

 

テンちゃんは空を飛び、コボルト達の前に立ちはだかった。彼らを護る為だ。俺は、アーシアを経由して、彼女と共にいるコボルトの少女へ伝えてもらった。『撤収してくれ』と。コボルト達は撤収していった。事前にコボルトと、話は着けてあったのだ。

 

採掘権と自治権を与える代わりに、採掘技術、精錬技術の提供を求めると、コボルトの族長に伝え、快諾されていた。

 

太守が期限としていた半刻の期限を殆ど残して、制圧作業という名の脱出作戦が完了した。逃げる時に狙われ易いから。トルマ臭のする人間は要注意である。

 

ここの拷問部屋に捕虜のコボルトたちが数名いるらしい。強制転移で、森まで転移させている。戦場で動けないコボルト達もだ。

 

「太守様、終わりましたけど…」

 

「何…まさか…あんな短時間でか…」

 

目が点になっている太守。うちの領民は殺させないよ♪

 

-------

 

森から採掘権と自治権を与えた街に、コボルト達と転移してきた。ちょうど、魔物を掃除した後なので、未だ人間のいない街「ターゲンコウミィの街」にだ。

 

「ここの地下1000メートルに、あるらしいんだよ」

 

「どこの情報だ?」

 

「ボルエナンの里のハイエルフの情報だ。太い竜脈沿いのミスリル鉱脈を捜せば見付かるらしい。禁書庫の情報と竜脈の流れを調査すると、ここの地下に、ミスリル鉱脈があるらしいんだ」

 

ミトの情報だが、アーゼの情報にした。人間の情報は信じないだろうから。

 

「ハイエルフ様か…あんた、知り合いなのか?」

 

「この人、ハイエルフの旦那だよ♪」

 

って、テンちゃん。ばらすなよ~!

 

「えっ…まさか…ご、ご、ご無礼な事を…次期族長のケィージ・ボルエフロスと申します」

 

って、頭を下げて来た。

 

「そうか。俺はここの領主のアール・アルジェントだ。以後、よろしくな」

 

「はい!」

 

「採掘権と自治権は与えるが、欲張るなよ。見返りは族長に話したことだが、それとは別に、税金という物を収めてもらう。これは、領内の改善に使う為の費用だ。勿論、自治区で必要な物があれば、申請してくれれば、補助もする。扱いは、領民と同じだ。特別扱いはしない」

 

「わかりました。次期族長として、肝に銘じておきます」

 

「次に訪れるときを楽しみにしているよ。コボルトらしい街にしてくれ」

 

試削ならぬ『強奪』で手に入れた青晶を、彼に手渡した。喜ぶ次期族長君。これで一件落着かな?

 

--------

 

「アンデッド自治区とコボルト自治区ですか。ご主人様らしいですね」

 

って、ニナ。黒字化は確定だし。鍛冶に必要な技術もコボルトが伝授してくれるらしい。アンデッドの方は、戦闘時にがんばるって言っているし、心強いと思う。パリオン神国で守備をまかしてあるゴキ軍団と組み合わせれば、人間相手に負けることは無いだろうし。後、海底人の海軍もあるか…

 

「亜人の自治区を増やしていくんですね」

 

「その方がトラブルが少ないだろ?無理に共存で無くていんだよ」

 

あとは、アリサの処と葡萄村だな。ミト達が合流するまで、コボルト自治区で、執務を熟す。まだ、青晶のある位置まで到達しないので、必要な分の青晶をヘイロンのところから『強奪』して、手に入れる。そんなこんなで、信頼関係は出来ていった。って、いうか、コイツらは、掘るのが早い。炭鉱掘りを手伝ってくれるかと打診をすると、青晶に到達したらって言われた。まぁ、それはそうだな。

 

ミト達が来る前に、青晶の鉱脈に届いたらしい。今、坑道の強化を手伝っている。って、いうか、ミト達遅すぎないか?トラブル発生なのか?

 

-------

 

ミトに連絡をすると、トラブっていた。まだ、オーユゴック領の公都だと言う。で、トラブルの原因はトルマらしい。奇跡の料理人のディナーパーティーを半年分ほど企画し、ソールドアウトさせた為、先輩が動けないらしい。

 

はぁ?半年も…何しているんだ?

 

ミトはミトで、ムーノ領の件で、連日猛抗議を受けているらしい。行くしか無いか?俺達も公都へ転移した。

 

公都で見る久しぶりのミトは、やつれていた。

 

「あぁ、先輩…」

 

俺の胸に頭をもたげるミト。

 

「あぁ、先輩の臭い…」

 

俺の臭い?土を汗の臭いだと思うが…

 

「で、何だって言うの?」

 

「カリナの弟を領主にしろって…」

 

「はぁ?なんで?あいつらがムノーだから、税収が赤字だったんじゃないか!」

 

「あぁ、報告書は読んだよ。全部の都市と街を支配下に置けたんだよね?そう、あのムーノ一族の怠慢が原因なんだけど、トルマがロイド候、ホーエン伯を巻き込んで、大騒動にしてしまったんだ」

 

「領地を全て寄こせって?」

 

「そういうことだ。で、亜人の自治区は認め無いそうだ」

 

「じゃ、戦争かな♪」

 

「そうなるな、最後は…」

 

「この国から出ようかな」

 

「ダメだって…ねぇ、先輩!」

 

俺に縋るミト。

 

「国は2つある。この国の俺の領民を、受け入れる場所はあると思うんだよ」

 

「あるだろうけど…ねぇ、ちょっと待ってよ!お願いだよ、先輩…くそっ!あのトルマのヤロ~!」

 

あっ!ミトがキレたようだ!

 

「ちょっと、王都に行って来る」

 

って、転移して行ってしまった。

 

 

 



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VSトルマ

07/19 誤字を修正
07/08 辻褄に合わない部分を修正


ブチ切れたミトのおかげで、関係者が王都に集められた。

 

オーユゴック公爵、俺、ミト、先輩、トルマ、ロイド侯、ホーエン伯、シーメン子爵、オリオン・ムーノ、現ムーノ男爵ことニナ・ロットルだ。これに宰相、王様が加わる。

 

「どうしても認め無いと言うのか?」

 

王様がトルマに声を荒上げている。

 

「ペテン師風情が領主なんて、有り得ないでしょ?ここは、正当な後継者であるオリオンにすべきです。その後、ロイド侯、ホーエン伯に太守を務めてもらいます」

 

なるほど、揉めている原因はそこか、ホーエン、ロイドが権益狙いでバックアップか。

 

「何度も言うが、彼はペテン師では無いぞ!」

 

って、宰相。

 

「はぁ?騙されているんですよ。彼の行った功績はすべて、ペンドラゴン卿の物ですよ!」

 

それなら、それでいいよ。俺は会議が嫌いなんだ!

 

「あんたが間違っているのよ!」

 

って、ミト。

 

「だから、ペンドラゴン卿のメイドは黙っていろ!って、なんで参加しているんだ!」

 

この空気読め無さは、最強では無いか?

 

「もういいよ!俺が出ていけばいいんだろ!」

 

「ダメだって、出て行っちゃ。この国はボロボロになっちゃうよ」

 

て、ミト。俺を引き留めるから、問題が起きるんだぞ!

 

「出て行く?ふざけるな!国外追放だ!貴様なんか」

 

「どっちでもいいよ。王様、俺、会議嫌いんだよ~」

 

「分かっております。おい!トルマ、彼に謝れ!」

 

「はあ?ペテン師に?なんで?お前、本当はなんなんだ?ペテン師君♪」

 

「俺は、アール・ウール・ゴーンだよ♪なぁ、俺の国に帰っていいか?」

 

「お前の国?どうせ、弱小なんだろ♪帰って、二度とくるな!この田舎者がっ」

 

「今の侮辱的な言葉を受けて、宣戦布告と受けます♪いいですね」

 

「おもしろしい。シガ王国を舐めるな!」

 

って、ホーエン。

 

「我が国は2つ。1つはヨウォーク王国、もう1つはパリオン神国だ。連合軍として戦わせて貰う」

 

「へ?」

 

固まる反俺派の皆さん。

 

「トルマ、ロイド侯、ホーエン伯よ。お前達で責任を取れ!わが領軍は参戦しない」

 

オーユゴック公爵がキレたようだ。

 

「どうしてだ、オジサン。どうせ、ペテン師のいうことだ。パリオン神国の王様は有り得ないし。あそこは法皇なんだよ、ペテン師君♪」

 

「王様、俺の持つ都市核、迷宮核を全て使いますよ」

 

トルマはスルーすることにした。敵はシガ王国ってことで♪

 

「アーシア!」

 

アーシアが転移してきた。

 

「王都へ流れるマナを遮断しろ」

 

「了解しました」

 

空気が澱んでいく。水もだ。街の浄化能力は徐々に落ちていく。

 

「…何をされたんですか…」

 

王様に訊かれた。

 

「ここの都市核を停止させる」

 

「何を言っているんだ、このペテン師が…」

 

「マナの供給を断たれれば、都市核は活動を停止する。お祖父様…」

 

「あぁ、戦争となると、そういうことだな。お前達、責任をとれよ!うちの公都も潰される」

 

オーユゴック卿は目を軽く閉じて、腕を組んだ。覚悟はされているようだ。

 

「アーシア、公都へ流れるマナを遮断しろ」

 

「了解しました」

 

「次は旧セーリュー卿の領地へのマナを遮断」

 

「了解しました」

 

「もう、やめてください!」

 

王様が俺に土下座をしてきた。興味は無い。

 

「ダメだ!やめろって!」

 

ミトが涙目で俺を見て居る。スルーだな。

 

「次は」

 

「おい!トルマ!謝れ!」

 

先輩が動いた。

 

「何を言っているんだ?虚仮威しだ。ペテン師風情に出来る訳無いでしょ?」

 

「虚仮威しでは無い。アイツにはできるんだよ。マナの遮断が…アイツは複数の都市核、複数の迷宮核を持っている。それらをリンクさせて、あのホムンクルスで操作できるようにしているんだ」

 

「ホムンクルス…って…お前!人間では無く魔族かぁ!」

 

「アールは魔族では無い。だが、セーラを護る為に人間を辞めたんだ…」

 

「人間を辞めた?魂を魔王に売ったんだな!」

 

俺に斬り掛かるトルマ。剣が空気を斬る音に反応して、廊下で控えていたシガ八剣が、部屋に飛び込んで来た。そしてトルマの剣を、ジュレちゃんが止めた。

 

「彼を傷つける行為は、我らシガ八剣が許さない!」

 

シガ八剣が、俺を護るように、俺の周囲に立った。

 

「そうか…魔王なのか」

 

オリオン・ムーノが俺に斬り掛かるが、ニナに制圧された。

 

「我が主を傷つけることは許さない」

 

「アーシア、マナの遮断を全て解除」

 

「了解です」

 

「そうだ…もっといい方法がある。ふふふ♪パリオン!」

 

「はい」

 

羽川姿のパリオンが現れた。

 

「パリオン神…」

 

王様が呟くと、ジュレちゃん達も俺から離れていく。

 

「この王都に天罰を与えられるか」

 

「はい♪」

 

「ちょっと待て…天罰ってなんだ…なぁ、お芝居だよな?」

 

トルマが先輩に縋り付く。

 

「お前が責任を取れ」

 

「この城は除外しろ。トルマに、塩塗れの都市を見せたいからな」

 

「了解しました。都市の防御レベルを、下げてください」

 

「アーシア。この街の防御レベルを最低に設定してくれ」

 

「了解しました」

 

「アルジェント卿…考え直してください。トルマは、我らに任せて下さい」

 

って、ジュレちゃん。

 

「任せられるのか?俺の馬車すら戻って来ていないんだが」

 

「お願いします」

 

って、宰相。

 

「あぁ、空に光の珠が…」

 

ホーエンが狼狽えている。これからショウの始まりだよ♪

 

「ダメ!」

 

えっ!アーゼが転移してきた。そして、俺を抱き締めて来た。

 

「落ち着こうよ、ダーリン。ねぇ…ほら、深呼吸してね」

 

ハイエルフの登場でトルマ達の腰が抜けたようだ。

 

「え…なんで、ハイエルフ様が…」

 

「だから、言っただろ、アイツの正妻はハイエルフだって」

 

って、先輩。

 

「マジだったのか…」

 

「アーシアちゃん、パリオン様、あと、ダーリンを貰って行きますね♪」

 

って、俺達はアーゼに拉致をされた。アーゼの部屋に…

 

「ねぇねぇ、ここ触って♪」

 

アーゼが俺の手を取り、自分のお腹に当てた。マジか…動いている。なんで?

 

「ダーリンとの子供だよ♪だから…だから…破壊活動はしないで…お願いします」

 

アーゼが俺に抱きつき、涙している。

 

「なんで?」

 

「ハイエルフは伴侶のいない神の相手よ♪」

 

って、パリオン。それって…でも、俺は…不死王じゃないの?

 

「神でも無いけどね…」

 

パリオンが苦笑いしている。

 

「ここへのマナ供給を少し増やします」

 

って、アーシア。子供の分を増やすのか…

 

「みんなには未だ、内緒だよ♪」

 

アーゼが泣き笑い気味の声でそう囁いた。まぁ、大騒ぎになるよな…

 

『トルマが間違いを認めたよ!』

 

って、ミトからメッセージが届いた。

 

「ここはシールド内だから、ここなら心は見えないよ」

 

じゃ、妊娠の件は、バレていないんだな。

 

「うん」

 

そうなると、しばらくアーゼは抱け無いのか…

 

「も~、ダーリンのエッチ♪」

 

顔を真っ赤にしたアーゼ。

 

-------

 

俺達は、アーゼの部屋から、ターゲンコウミィの街に戻った。そこでは、メリー達が執務を熟してくれていた。

 

「どうでしたか?王都は?」

 

「いつも通りだよ。で、何が必要だ?」

 

「ミスリル鉱の生成装置ですね。ミスリル鉱のインゴットを輸出します」

 

「採算は?」

 

「1年で元は取れるようです」

 

「じゃ、エチゴヤへ発注して」

 

「了解です。ティファ、お願いね」

 

「はい」

 

「後は、近辺の魔物対策は?」

 

「コボルト族にも戦士はいるので、特に必要は無いそうです。ヤバそうな奴を見つけたら、連絡をくれるそうです」

 

なら、問題は無いか。

 

『ねぇ、怒っているの?』

 

ミトからだ。スルーする。すると、ミトがニナを連れて転移してきた。

 

「なんで、スルーするんだよ~」

 

「執務中だよ」

 

「ねぇ、出て行かないよね?」

 

俺に甘えるミト。執務中に甘えられても…

 

「ご主人様、休憩にしましょうか」

 

メリーは空気が読めるようだ。俺はミトを連れて、外へ出た。眼下には活気溢れるコボルトの街が…

 

「ここが自治領なんだ…」

 

「出て行かないよ。彼らを見捨てられない」

 

ルーニャの処もあるし。

 

「先輩…今夜はサービスしますよ♪」

 

有り難く受け取っておこうかな。

 

-------

 

ゴシップ誌に俺のことが出ていた。ネタ元は自称情報通のトルマだろうな。

 

『ハイエルフを射止めたA公爵』ってある。丸わかりでは無いのか?

 

『A公爵の裏の顔は、あの国家元首だった』って…民主主義の結果なんだが…う~ん

 

「賑わってますね」

 

ってニナ。あのゴシップ誌を手にしている。

 

「まぁ私達には、事実を隠さず話してくれているから、問題はないですよ」

 

う~ん…コボルト達がビビっているんですが…最近…おかしいなぁ、自治区に本屋は無いのに、ゴシップ誌が持ち込まれているんですが…

 

「私じゃないですよ~」

 

じゃ、誰?後、ここにいるのは、メリー…メリーエスト…はぁ?なんで?

 

「サガ帝国の王女と国家元首なら、釣り合いは取れそうですよね」

 

え…そういうこと?何も言われていないけど…

 

「女性は影で言うんですよ」

 

って、俺に抱きつき、お部屋にお持ち帰りにされる俺。

 

-------

 

2時間の休憩をして、衣服を着ていく。

 

「次の訪問先はキウォーク王国って言ってましたよ」

 

「それって、どこ?」

 

「飛行艇で、山脈を越えた辺りにある小国です」

 

飛行艇での移動か…きつそうだな。宮殿で待っているかな。

 

「あと、ミスリルのインゴットですが、今訪問されているボルエハルト自治領で買い取ってくれるそうです」

 

まぁ、あそこなら、ミスリル鉱を打てるからな。後打てるのは先輩くらいか。

 

コボルトの自治区へ行くと、リザ達が来ていた。ゼナ達は、マリエンテール市の迷宮の運営テストをするために、帰郷したらしい。

 

「タマ、ポチも穴掘りを手伝っています」

 

って、リザ。最近、子供っぽさが消えてきたな。って、俺の腕に抱きついて来た。ほんのりとした谷間にホールドされている。リザの体温が感じる。だけど、リザだと妄想できないよな…

 

「ジュレちゃん達との鍛錬はいいのか?」

 

「ミト様が、もうすぐ来られるそうなので、待機中です。無理に会話しなくても良いんです。私はこうしているだけ嬉しいですから」

 

わかっている。尻尾が踊っているし。ポチ、タマは気を利かせて、リザだけを置いていったのかもな。あの二人は肉が絡まなければ空気読めるし。

 

「何、二人でいい感じさせているの?」

 

って、アリサだ。あれ?執務は?

 

「新しい国に行くんですよね?ルルと一緒に付いて行きます」

 

って、ルルも来ている。

 

「仕事は?」

 

「領民の皆さんが、たまには息抜きも大事ですよって、送り出してくれました」

 

って、ルル。そうか、良い領民に恵まれたなぁ。遠くから飛行艇が近づいて来た。どこに着陸するつもりだ?

 

『着陸はしないよ、転移するから』

 

って、ミト達が転移してきた。転移してきたセーラが俺に抱きついて来た。どうした?

 

「すごく久しぶりで…ご主人様の臭い…」

 

なんか、臭いフェチが増えていないか?

 

「カビくさいか?」

 

「草原の臭い…」

 

草原?なんで?

 

「エライ人なんだから、土いじりなんか、しなくてもいいんだよ」

 

って、リーン。あぁ、土臭いのか。ミミズ探しをしていたから。

 

「私達のご主人様らしいです」

 

って、メリー。まぁ、俺は俺らしくだな。ネーレイナに出向前の準備事項を教えるティファ。堂々としてきたな。みんな少しずつ変わって成長していくのだろう。

 

そして、孤島宮殿に戻り、食事会。ゼナ達も呼んで、全員参加である。キャンプファイヤーにはヒュドラの頭部が数個くべられていた。あんなにポチが一人で兜焼き三昧なのか?

 

「ハンバーグ先生と兜焼きと…生姜焼きなのです♪」

 

その3つを喰うのか…

 

包み焼き好きのタマに、ワンタンスープを作ってあげた。

 

「包みスープ?」

 

スープは包んでいないけど…

 

「こんな場所に別荘とは…」

 

シガ八剣も呼んでみた。ムーノ領の魔物退治で、肉が大量に手に入ったから。

 

「焼き肉…旨い…薄い肉もありですね」

 

って、レイちゃん。リザに薦められて食べたTレックスステーキで、顎がやられたらしい。アレを喰えるのは、リザとカリナ程度だろうに。いや、ジュレちゃんもか?

 

「領内では無いですから、助けには行けませんが、お気を付けて行って来て下さい」

 

てジュレちゃん。

 

「あぁ、気を付けるよ。でも、ジュレちゃん達に鍛えられた娘達もいるし、火力は問題無いだろう」

 

「まぁ、そうですけど…」

 

うっ!ポチがヒュドラの兜焼きを串に刺して、豪快に喰っているし…トリケラトプスよりは見られる絵面かな?

 

 

 

 



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雪の王国 Part1

 ムーノ男爵領を越え、魔物の領域を抜け、山脈の向こうにある東方小国群のキウォーク王国に入ると吹雪だった…トンネルを抜けると的な感じではある。

 

「ユキ?」

 

「大変なのです!ユキなのです!」

 

妙にテンションが高いポチ。犬ゾリって雪の上だよな。ポチは雪の上を走り回りたいのかな?

 

飛行酔いの俺は、戦力外である。アーシアとパリオンに支えられている。ゲロゲロになりそうだ。先輩とミト達は甲板にかまくらを作り、コタツを入れて、ミカンを食べている。

 

「大丈夫ですか?」

 

リザが心配そうに訊いてきた。

 

「ダメだよ。孤島宮殿に行きたい…」

 

違う国に入国するので、入国時には飛行艇にいろって…ダメだよ。俺は空の上って…

 

ようやく飛行艇は雪原に着陸してくれた。真っ先に降りて、揺れない地面で安堵する。

 

「ユキ、ユキなのです♪」

 

テンションの高いポチが走り回る。それをアリサとタマが雪玉で狙う。

 

「これが雪ってものなんですね」

 

セーラは雪が初めてみたいだ。

 

「シロップを掛けて食べたいな」

 

って、カリナ。さっそく、器に盛ってシロップを掛けて、カリナに差し出すチートな先輩。

 

「うん♪おいしい」

 

それを見たポチ、タマ、アリサ、ルルなどが、先輩に群がる。

 

飛行艇の傍に大きなカマクラを作り、掘りごたつを置いた先輩。そして、新雪のかき氷をみなに振る舞っていく。俺は、パリオンの膝枕でしばしのお昼寝タイム。

 

寝返りを打つと、ぜんざいの香りがしてきた。かき氷の次はぜんざいか…女性の心を掴むのがうまい先輩。

 

腹を満たした少女組は雪だるま作成を始めた。女性組は、先輩の手ほどきでスキーや、ソリを楽しんでいるようだ。

 

「どう?体調は戻ったかな?」

 

ミトが様子を見に来た。

 

「どうにか、ゲロゲロ感は消えた。ただ、怠いだけ…」

 

「これ、飲みなさい」

 

命令形のミトが差し出してきたのは、甘酒のようだ。栄養補給にはいいなぁ。冷ましながら飲む。興味を持ったようなパリオンとアーシアにも一口づつ、お裾分け。

 

少女組は、雪だるま作りに飽きたのか、今度はソリ遊びをしている。平和な風景…いつまでも続くといいな…って、ポチがソリを引いている。犬の習性か?

 

「うん?リザ、狩りの準備だ」

 

「はい♪」

 

何かがいる。瞬動術で気配の方へ飛び出した俺、相手が雪の中から飛び出した。狼のようだ。群れだし。遅れて到着したリザ、メリー、ルスス、フィフィ、テンちゃんに屠られていく。

 

「リザ、これって喰えるのかな?」

 

「たぶん、鍋にすると良いかもしれません」

 

ステーキ向きでは無いのだな。群れを屠り終わると、リザ達は精肉していく。うちのチームのローカルルール…喰える物は、新鮮なうちに精肉しておく、ってことらしい。

 

この狼達は何をしていたんだ?群れのいた辺りにいくと、傷だらけの少女がいた。俺は回復コンポを掛けていく。救える者は救いたいから。

 

「先輩、どうしたの?」

 

神聖魔法の緑色のオーラに気づいたミトとセーラ、オーナが近づいて来た。

 

「狼にやられたようだ」

 

抱えた少女を見せた。

 

「近くに集落があるのかも」

 

ミトがマップ探索をし始めた。遊びに熱中して、まだマップを探索していなかったようだ。少女は栄養も足りていないのか、意識が朦朧としている。飛行艇に運び込み、栄養ドリンクを飲ませる。いわゆる甘酒ではあるが…

 

「……ここかぁ天国、かの?」

 

少女が言葉を発した。目の前に『>「東方諸国語」スキルを得た。』と表示された。あぁ、違う言語体系なのか…

 

「……あの?」

 

戸惑っている少女が俺達を見回した。彼女の服は狼達によりボロボロにされたので、先輩に服を創造して貰った。今は白い木綿のワンピースを着ている。

 

「ここは飛行艇の中だ。君は狼達に襲われていたんだよ」

 

「飛行艇?」

 

「そう…まだ、動かない方がいい。これでも食べて、のんびりしていな」

 

少女を食べていた狼達の肉を使った鍋料理を、丼に入れて、少女に振る舞った。

 

「おいしい…暖まる…」

 

味噌仕立てなので、暖まるだろう。酒粕も少し入れて有るし。肉は消化しにくいので、ミンチにして、生姜などと一緒につみれ状態で入れて有る。

 

「これを飲むと良い」

 

先輩がゆず茶を差し出した。これは柚子マーマレードをお湯に溶いただけであるが、柔らかい甘みで飲みやすい。

 

お腹が満たされて、落ち着いてきたのか、助けたお礼を言わた。

 

「ありがとうございます。私は雪崩村のピピネっていいます」

 

「俺はシガ王国のミツクニ公爵に仕えるアールだよ」

 

「アール様?」

 

「様はいらない。俺はそんなにエラくないから」

 

「アール?」

 

「それでいいよ、ピピネ」

 

---------

 

先輩がピピネの村を探りに行って、戻って来た。村の9割が飢餓状態のようだ。なんで?上に立つ者がムーノ一族みたいなのか?

 

「他の村も同じ感じだった。何かありそうだな」

 

「ピピネ、困っていることは有るか?」

 

助けた少女に訊いてみた。現地の人に訊くのが一番確かであるから。

 

「お願いします!村にはお金なんてないけど、私を含めて未婚の娘が9人います。シガ王国で奴隷として売り払ったお金で食料を売ってください」

 

奴隷は廃止したいからな…

 

「シガ王国は、奴隷を廃止する方向なの」

 

って、ミトが説明をした。

 

「食料の援助は、出来るだけするわ」

 

大きなカマクラを撤収して、飛行艇で雪崩村へ向かった。

 

-------

 

移動中に雪豹や、先程の狼の群れを見つけると、俺達狩人達が狩っていく。少しでも食料を増やしたいから。いや、先程の狼はオーミィ牛に少し劣る位の味だった為、ルスス、フィフィなどが欲していたからだ。

 

狩りをしながら、ようやく村に着いた。妙に男が少ない。ハーレム村か?立派な厩舎があるが、家畜は1匹もいない。エサが無いのか?

 

ピピネと共に村長の家を訪れた俺とミトとメリー。余り多いと、警戒されるとマズいから。

 

「ミツクニ卿、村人を代表してお礼申し上げます」

 

村長と村人達が俺達に土下座をしてきた。肉や野菜などを寄付したから…後、先輩が作った栄養補給魔法薬と流動食で、餓死の危機を避けられたからだ。

 

病人達は、ミーア、セーラ、オーナが治癒術を施している。

 

「これは些少ですが、村人達から集めた品です。是非ともお納め下さい」

 

村長が差し出して来た品は、様々な毛織物の衣装や小物、木彫りの置物や櫛、青銅製の剣や鏃などだった。

 

「じゃ、これは買い取ります。今、お付きの商人を呼びます」

 

すぐに商人として先輩がやって来て、品々を買い取っていった。

 

「買い取って頂けるのですか?」

 

「こいつ、エチゴヤの大旦那ですから、買い取らせます」

 

って、笑顔のミト。

 

「う~ん、素晴らしい織物ですね。ウチで働いて貰えませんか?」

 

「雇っていただけるのですか…」

 

「もちろんです。これなら、売れるレベルです」

 

っと、先輩と村長が新たな商談を始めた。

 

-------

 

商談が終わり、簡単な宴が始まり、村人達から、この国の問題点を訊き出していく。

 

「戦争?」

 

戦争貧乏なのか?

 

「ええ、冬が続くこの2年ほどはありませんが、それまでは毎年のように隣のコゲォーク王国との間で戦があるのです」

 

戦争の度に男性が徴兵されていき、女性ばかりの村になっていくと言う。う~ん…戦争と冬の2択なのか…そもそも、なんで戦争をしているんだ?

 

いや、冬が続くって…都市核が制御出来ていないのでは無いか?天候のコントロールは都市核で出来るんだし。

 

元々はヤクの乳で作るヨーグルトやヤク乳酒が、特産品だったらしいのだが、エサが無いので、ヤクを食料にしてしまったらしい。

 

冬が続く原因と戦争の原因を調べないとダメだな。

 

-------

 

キウォーク王国唯一の都市である王都キウォークの下町に、宿を取った俺とミト、先輩とカリナ。何が起きるかわからないので、後の者達は孤島宮殿で待機している。

 

この王都では隣接する湖に生息する食人藻という魔物の死骸を、食料にする事で飢餓から逃れていた。

 

王都の周辺の集落ではその恩恵を受けているそうだが、国全体をまかなうほどの収獲は無いようだ。更に言うと、それは旨く無いらしい上、収獲の際には命を落とす者が少なくないらしい。

 

食料なぁ…ナマコじゃ栄養にならないし…カマキリも栄養価はそうでも無いし…後、何があったっけ?

 

「先輩、救済案を考えて居るんですか?」

 

「あぁ、助けられる者は助けたいじゃないか」

 

「先輩らしいな」

 

俺は俺らしくがテーマで生きているんだよ。で、甘酒が一番良いかな?栄養価的には…暖まるし。後は、粕汁かな。問題は鍋の場合、具だよな…

 

って、言うか移民させるのが、早い解決策の気がする。働き手にはなるし…

 

-------

 

王都を旋回する飛行艇…俺はゲロゲロ状態である。パリオンとアーシアが俺を支え、セーラが回復魔法を掛けてくれている。

 

眼下の仮設飛行場となった広場には、沢山の貴族や使用人達が集まっている。王女であるシスティーナがいるからかな。主な輸出先がシガ王国らしいから。

 

孤島宮殿にいる諸国漫遊チームのメンバーを、飛行艇に転移させていく。こんなことなら、寸前まで孤島宮殿に、俺がいても良かったのでは?後の祭りではあるが…

 

迎えの人達を軽く見回すと、その中央に女王陛下がいた。キウォーク女王はアラフォーとは思えない爆乳美女で、胸元の主張が激しい立て襟の黒いドレスを着ている。既に、先輩の視線がロックオンしているし…

 

ミトと先輩が女王陛下の前へ進み出た。俺はゲロゲロ状態から抜け出せないので、後で控えている。

 

「ミツクニ卿って、あの小娘なのか」

 

「あれが奇跡の料理人のペンドラゴン卿ね」

 

ミトと先輩の噂話が飛び交っている。

 

「ミツクニ卿を怒らせるとマズいって。あの女の下僕のアルジェントって奴が危険らしい」

 

俺はそんなに危険では無いと思いたい。

 

「そんなに危険なのか?」

 

「シガ王家に謀反を起こしたらしいが、その戦力を武器に、不問にしたそうだ」

 

謀反?トルマが無い事無い事を触れ回っているのだろうな。

 

「だが、我が国には『冬の守り』がある。そんな奴が攻めてこようが問題は無い」

 

いや、攻めないよ。アーゼに禁止されているし。

 

「アルジェントを見くびるなよ。シガ八剣を配下にした実力者だぞ」

 

「なんだって、シガ八剣をか…化け物だな、ソイツは…」

 

まぁ、化け物ですよ。どうせ…

 

『どんまい♪』

 

アーゼから励ましのメッセージ。暇なのか…いいなぁ…

 

「シガ王国のミト・ミツクニです。女王陛下にお会い出来、恐縮です」

 

ミトが挨拶をしている。続いて先輩…

 

「ミツクニ卿に仕えるサトゥー・ペンドラゴンと申します」

 

ミトが俺に合図を送ってきた。俺は先輩の斜め後に進み出て、

 

「ミツクニ卿に仕えるアール・アルジェントと申します」

 

と、名乗った。響めく群衆。ラスボス登場って感じか?

 

「キウォーク女王ヘイタナじゃ。あなた方にはヘイタナと名前で呼ぶことを許そう」

 

「光栄です、ヘイタナ陛下」

 

主君であるミトが代表して、言葉を掛けた。

 

先輩が一歩前に出て、女王の白い手袋の上から口付けをした。この国の習慣で目下の者が行う習わしらしい。まぁ、代表して先輩だけが行った。

 

って言うか、ミトが俺はしなくても良いって。パリオン神国の国王がすんなよ!ってことらしい。

 

だが、俺がしきたりに沿わないことで、女王の視線がガン付きに近いのだが…

 

「ヘイタナ陛下、アルジェントは、一応国王を兼務していますので、そのような習わしはさせられません」

 

ミトがきっぱりと言った。

 

「ほぉ~、国王を下僕にしているのか、ミツクニ卿は…」

 

「いいえ。下僕ではありません。仲間です。仲間になってから、国王になりました。事実誤認はしないでいただきたい」

 

さすが王祖様、言うべきことは、きっちり言うんだな。

 

「では訊こう。この国よりも上の国の王なのか?」

 

ミトが進みでて、陛下の耳元でゴニョゴニョと…陛下の顔から血の気が失せていく。

 

「と、言うことです。なので、公では言えません」

 

してやったりのミト。

 

「そうなのか…」

 

陛下が進み出て、俺の手に口付けをした。響めく観衆…なんで?俺?

 

「すまぬことをした。攻め込まないでくれ」

 

いや、攻め込む気は無い。ミト…お前、何を言ったんだ?

 

その後、爵位ある随行員の紹介…シガ王国王女システィーナ。大歓声が彼女を包み込む。

サガ王国王女メリーエスト。静まり返る群衆。まさかの登場だったのか?神託の巫女であるセーラとオーナ、元勇者の従者であるリーンが紹介された。

 

戸惑う群衆。いや陛下も戸惑っている。VIP待遇は、システィーナだけだと思ったのだろうか。ましてシスティーナは俺の婚約者ってことになっていて、残りの者達は、俺の従属である事実。

 

「アルジェントって、征服者か…」

 

そんなことを言う群衆の一部…パリオン神が従属なんてバレたら、ラスボス決定では無いだろうか?

 

狼狽える陛下を先頭に、城内へと入っていく。ミトから陛下へと贈った品々が、城内に置かれている。エチゴヤのデッドストックからシスティーナとメリーがセレクトした物

である。それなりに価値の有る物ばかりらしい。

 

「表敬訪問で、これほどの品を贈るとは……さすがはミツクニ公爵である。ミツクニ公爵は太守の任にも就いておられるのかや?」

 

「そういうのは、アルジェントに任せております。私は外交、ペンドラゴン卿は経済、内政はアルジェントが担当しております」

 

「アルジェント卿の爵位は?」

 

「コイツですか?公爵ですよ」

 

笑顔で言い切るミト。陛下の表情は更に狼狽えているように見える。あんまり、脅すなよ~。

 

「領地はどれほどなのか?」

 

「シガ王国の大半かな?その他に国を2つほど持っているし♪」

 

陛下には、俺は征服者であるラスボスに見えているのか?怯えた目で俺を見ているんだが…

 

 

 



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雪の王国 Part2

07/23 誤字を修正


陛下の傍にいる者達は、既に俺に恐れを抱いているようだ。

 

「ムーノ男爵領は彼の領地です。ムーノ男爵は彼の従者でありますからね。後、セリビーラも彼の領地です」

 

「セリビーラって王家直轄では…」

 

「今は違います。アルジェントの領地ですよ」

 

自分のことの様に話すミト…

 

「彼は何者だ…」

 

「私の仲間であり、私の信頼できる執務官でございます」

 

執務官はメリーやニナである。俺だけでは無理だって。

 

「将来、シガ国王になられるのですか?」

 

この国の宰相が訊いてきた。

 

「興味ないでしょ?正妻は、王女では無いし」

 

「何?シガ王国の王女は正妻では無いのか?!」

 

陛下が驚いたのか、身を乗り出して訊いてきた。

 

「コイツの正妻は…言えません。申し訳ありません。そういう立場の者ですよ」

 

また、そんな脅すような言い方をして…

 

「王女より上の立場の者?まさか…」

 

誤認していないか…まぁ、誤認した相手は、ここにいるけど…そこに茶器の乗ったワゴンを押したメイド達が入ってきた。話題よ、変わってくれ…

 

「まあ、素敵な香り」

 

ミトが俺の心を読んだのか、話題を変えてくれた。

 

「ルモォーク産の青紅茶ですの。シガ王国のゼッツ伯爵領産と比べても遜色のない一級品ですのよ」

 

ミトの言葉に反応したのは、キウォークの第二王女のクリューだそうだ。童顔の巨乳美女で21歳、独身だと言う。勿論、先輩の視線はロックオンしていた。どんだけ、巨乳が好きなんだ、この人は…

 

 

「淡雪殿下はルモォーク贔屓ですな。他国の客人を歓迎するなら、自国の藻茶を出すべきではないか?」

 

「ガヌヌ将軍!」

 

筋肉質の赤毛将軍を宰相が窘めた。クリュー王女は淡雪姫と呼ばれているようだ。そのガヌヌの傍で、俺達を観察している無口な軍人がいる。万が一に備える。テンちゃんとパリオンがいるので、大抵の敵には対処できるとは思うが…

 

「この国のように、雪が続くと山村で暮らす民は、狩りどころか家畜の世話すら大変そうですね」

 

って、ミトが宰相に訊いた。

 

「わ、我が国の民は冬に慣れておりますから、ご安心下さい」

 

「噂では例年になく冬が続いていると伺いましたが…」

 

宰相の言い訳に、ミトが食いつく。

 

「ふふふ、ミツクニ卿はお優しい。冬が続いているのは、妾も承知しておる故、宰相に命じて税や賦役の全免除を通達してあるのじゃ」

 

都市核の制御が最優先課題では無いのか?おかしいぞ、この国の内政は…

 

「は、はい陛下。申し出のあった村には食料援助も行っております」

 

行っていないだろう!パリオンが俺の怒りのオーラを感じとり、宥めるように抱きついて来た。

 

『落ち着いて!』

 

ミトからもメッセージが飛んで来た。

 

「陛下も宰相殿も甘い!自助努力が足らぬのだ!税や賦役を免除していては、いつまで経っても、戦支度が整わぬ。兵力さえ揃えば、冬などに頼らずとも、忌々しいコゲォーク王国の蛮人など追い払ってみせる!」

 

「ガヌヌ将軍!」

 

戦闘意欲が漲っている軍人、それを咎める宰相。そうか、冬は人為的に続けているのか…防御の意味合いなのか?それにしても領民をなんだと思っているんだ、こいつらは!

 

『先輩、ダメ!』

 

セーラが抱きついて来た。怒りをクールダウンさせていく。

 

--------

 

女王達との会談後に、招かれた舞踏会で、先輩は貴族令嬢や姫君達から質問攻めに遭っていた。俺は仲間達と会場の隅にいた。ミトの指示で、俺は暴走しないように、付き添ってくれているのだった。

 

領民が餓死仕掛けているのに、この国の貴族達は裕福過ぎる。高価なドレスに立派な装飾品を身に付けている貴族の娘達。

 

「間違っている…」

 

「ダメですよ」

 

セーラが俺の腕を谷間にホールドして、俺の怒りをクールダウンさせていく。

 

「だって…」

 

「それは、この会場を見回せば、私達にもわかります。だけど、今は落ち着いてください」

 

俺をガードするように、リーン、ルスス、フィフィが立っている。メリーが周囲を警戒してくれている。が…

 

「こんな所におられたか、公爵殿!」

 

片刃の曲刀を手にした赤毛将軍が、俺に声を掛けてきた。身構えるメリー達…

 

「公爵殿は、幾つもの軍功を誇ると、聞き及びましたぞ!我が剣舞の相方として、その武勇をお見せ願いたい」

 

赤毛将軍の言葉により、舞踏会場が武闘会場に変化していく。やらないとダメなようだ。

 

「どうしました?武勲は偽りですか?」

 

俺は俺で無くなっていく。聖魔剣を手にした。俺の変化を感じ取った仲間達が、俺から離れていく。ふふふ♪剣舞?お前に舞う余裕があるのか?

 

楽団による勇壮な曲が始まると、殺意を纏った赤毛将軍。

 

「ゆくぞ、公爵よ!」

 

二刀流らしい…何刀流であろうと、お前の死は確定だ。こちらからは攻撃はしない。最後の一撃に全てを込める為に…相手の攻撃を受け流していく。

 

「貴様…」

 

受け流すことで、彼の殺意は増していく。もっと、殺意を纏え♪最後にフルカウンターしてやる。

 

そして、演奏が終わると同時に、赤毛将軍の首を刎ねた。

 

-------

 

目が覚めると、女王が俺と添い寝をしていた。

 

「お目覚めですか…将軍がおろかな事を…すまぬ…彼を生き返らせて貰えぬか?」

 

それくらいなら、彼の死体に近づき、回復コンポを掛けた。切断された首は繋がり、魂が器に吸い込まれて行く。

 

「もう1つお願いが…湖に封印された魔族を倒してください。見返りは…娘を差し出します…お願いします」

 

娘?先輩好みだよなぁ…う~ん…

 

「娘は要らない。その代わりに、この国を貰う。お前は女王のままで、いていいが、内政は俺に任せてもらう。どうだ?」

 

「なるほど…そうやって、属国を増やして…救済ですか…わかりました。お願いします♪」

 

なんか、自分から貧乏クジを引いた気分である。誰からもストップの声が掛からないってことは、正解を選択したのだろうか?

 

--------

 

湖に封印されている魔族は、中級にしては高めのレベル50だ。スキルは「灰化」「下僕召喚」などがあるそうだ。「下僕召喚」が気になる。

 

で、隣国が攻め込んできたらしい。コゲォーク王国はケンタウロスの国らしい。う~ん…

 

『先輩、村が襲われている』

 

って、ミト。俺は現場へ転移した。村に攻め入るケンタウロス。それを阻止しているミトとテンちゃん。ウチの狩人達を転移させた。転移するとすぐに、リザ、ポチ、タマが、迎撃に向かった。

 

第二陣はリーン、ルスス、フィフィの元勇者の従属達だ。メリーを指揮官として、迎撃で出て貰った。

 

「我こそはコゲォーク王国第三王子レタロミーなり!魔族よ!我が宝槍の錆となれ!」

 

リザ達は魔族では無いのだが…リザと互角のヤリ捌き…見事であるが、ポチのスライディングにより、足を滑らせ、バランスを崩し、リザに仕留められた。

 

「王子の仇を取れ!火炎獣前に!」

 

これはまずいだろう。俺が前に出る。アリクイのような魔物が八頭が前に出て来たが、瞬動術で近寄り、聖魔剣で次々と首を刎ねていった。

 

村に侵攻したケンタウロスは殲滅できた。さすがのリザも亜人系のケンタウロスは、精肉にはしないだろうと思っていたが、精肉作業をしていた。

 

「私は口にしませんが、この国の食料にしましょう」

 

だと言う。リザが喰えない物を…まぁ、背に腹は代えられないか。タマ、ポチも精肉作業を手伝っている。

 

-------

 

ケンタウロス達の侵攻の翌日、俺達は重武装の淡雪姫と一緒に、痩せた白熊のような乗用動物に乗って、湖の中央にある紫水晶の塔まで来ていた。この塔に魔族が封印されているそうだ。

 

淡雪姫の直属の部下である白百合隊という15人ほどの女性騎士が随行しているが、平均レベル8というお飾りに近い部隊である。

 

氷の下から魔物の叫び声が伝わってくる。

 

「あれが、そうですわ」

 

淡雪姫の指差す先には怪しげな祭壇があり、封印系の魔法陣が刻まれている。この祭壇は紫水晶の塔の周囲6ヶ所に設置されていた。

 

「≪砕け≫ 破城戦鎚!」

 

いきなりの封印解除…

 

「さぁ、一緒に戦ってくださいね♪」

 

なんか戦闘狂のような王女。苦手だ…塔が崩れていき、下半身がタコのような中級魔族が現れた。

 

「パリオン、行くぞ!」

 

「はい♪」

 

俺とパリオンの二人が、魔族に近づいて行く。

 

「えっ!パリオンって…パリオン神様?」

 

王女が驚きの声を上げていく。その横を、聖剣を手にした先輩とミトが、通り過ぎていく。空には天竜のテンちゃんと黒竜ヘイロンが、戦いの火ぶたが降りるのを待っていく。まったく、ドイツもコイツも戦闘狂だな…

 

中級魔族が一声吼えると、足下の氷にひびが入り、割れた氷の間から触手が現れた。それを聖剣で斬り裂いていく。

 

テンちゃんとヘイロンが上半身に攻撃を加えている。俺とパリオンは、中級魔族の本体へ天誅を加えた。塩化していく中級魔族。塩化した部位を粉々に砕いていく先輩達。

 

「アーシア!逃がすな!」

 

「了解です」

 

既に、女王からこの国の都市核を譲り受けているので、アーシアに防御レベルをあげてもらった。

 

棒立ち状態の王女を、メリー達の部隊がガードしてくれている。勇者の元従者達である。こんな中級魔族に遅れは取らない。

 

かくして、キウォーク王国に封印されていた中級魔族は塩となり、湖は塩湖になった…

 

----------

 

「ミト・ミツクニ卿、貴殿の功績を讃え、キウォーク青氷湖勲章を、授ける物とする」

 

「謹んでお受け致します」

 

授与式がつつがなく終了した。副賞は無しである。貧乏な国から貰う訳にいかない。いや、ミトなんかにあげる物なんか無い。

 

この国の実質の支配者になった俺。女王には代理執務官になって貰う約束である。

 

「今後も、この国のことをお願いします」

 

俺に跪く女王、宰相と将軍達。王女は、魔族の討伐の際に、俺達の戦力を見て、バトルジャンキーを止めたらしい。彼女にとっての、この世の終わりを見たらしい。まぁ、女神と不死王と、天竜、黒竜に勇者クラスが2名、勇者の元従者が4名、そこにアーシアである。規格外すぎる戦力を前にして、人間としての無力さを実感したらしい。

 

そして…塩化による天誅…この世界では最強最悪な攻撃方法だしなぁ。

 

アーシアと共に、都市核を再設定して、四季が来る様にした。ついでってことでは無いが、隣国であるコゲォーク王国を制服した。ゾンビ部隊、ゴキ部隊を投入して…

 

「鬼…なんだ、あの戦力は…」

 

ミトがゴキ部隊の実力に震えている。通常の兵器では死なない頑丈さ、高速で地面を移動出来、空も飛べる。最強の機動部隊である。そして、動作は速くないが、しぶとさはゴキ以上のゾンビ部隊。どんな敵にも怯ますに、確実に屠っていく。

 

「ケンタウロス部隊も編成しようかな♪」

 

これで戦争は起きないだろう。この二国間では…

 

「アール様がいなかったら、姫殿下も、白百合隊にいた私の婚約者も、無事では済まなかったはずです。感謝いたします」

 

と、冬将軍。

 

「今後は領民の為に、汗を流せ。いいな」

 

「はっ!」

 

この国の実権を握ったことで、この城の禁書庫の閲覧権をメリー、システィ、アリサ、ミト、先輩に与えて、必要な情報を探して貰う。

 

俺は宰相と、改革案を纏めていく。まず、贅沢な貴族達から財産の半分を没収。反発する貴族達。だけど、軍部も掌握している俺にとっては、痛くもない反発である。応じずに財産ごと逃げる貴族には、全財産の没収と、強制労働を課すことにした。労働内容は、炭鉱掘りだな。って、いうか逃げる場所が無い気がする。隣接するエリア全てが俺の領地もしくは協力関係にあるし。

 

逃げ場が無いことを伝えられた貴族達…渋々財産没収に応じていく。パーティーなどもなるべく自粛してもらう。飢えに苦しむ領民が、いなくなるまでの間だ。

 

「さすがです。名領主様です。飢えから領民が救えそうです」

 

と、宰相。産業を復興させないと、安心は出来ない。販路はエチゴヤの支店を置いて、そこから輸出をして、稼ぐようにする。ヤクのヨーグルト、ヤクの乳酒がメインだな。後、製氷した氷。これはシガ王国とイタチ帝国が、輸出先のメインらしい。

 

「まぁ、織物産業もあるし。ウィンウィンで商売が出来そうだよ」

 

って、先輩。

 

で、元バトルジャンキーな王女様は、諸国漫遊に付いて来たとダダを捏ねている。巨乳なので、先輩の判断に任せた。で、判断はパスらしい。カリナとシスティだけで手一杯だと言う。先輩曰く、今後の成長待ちと伝えたようだ。何の成長を待つのだ?

 

----------

 

飛行艇でも酔うのに、次元潜行ができる光船を貰ってしまった。今、アーゼの家にいるのだが…

 

「エルフのベリウナン氏族とブライナン氏族からの贈り物ですよ」

 

って、アーゼ。エルフ族の間では、アーゼの懐妊が知られてしまい、お祝いの品々が届いているそうだ。

 

「どこから、漏れたんだ?」

 

自分のお腹を指すアーゼ。そうか、見た目か…見るからに身重な姿である。神事の舞いは、出産が終わるまで、自粛するように各部族長の連名で嘆願書が届いた程だという。

 

みんなにバレるのは時間の問題か…

 

「ねぇねぇ、ダーリン。名前はどうする?」

 

って、アーゼ、エルフ流の名付け方があるだろうから、アーゼに任せたのだが、

 

「ダーリンが決めて下さいね」

 

って、頑固なアーゼ。

 

「考えて置くよ…」

 

で、光船…ミトと先輩に見せた。

 

「すげぇ~、最新鋭の奴じゃん」

 

って、ミト。勇者ハヤトの次元潜行船ジュールベルヌに引けを取らないらしい。スペック上では。

 

「で、船の名前は?」

 

って、先輩。

 

「アルカディアか、サウザンドサニーかで悩んでいるよ」

 

「じゃ、次元潜行船アルカディアにしましょう♪」

 

って、ミト。まぁ、ミト的にはそれだと思うが…

 

「ふ~ん、ハイエルフが懐妊すると、こんな物が貰えるんだ~」

 

って、耳を疑うミトの発言…なんで、知っているんだ…コイツ…

 

「みんな知っているわよ。ただ、口にすると先輩を追い込むから…ははは♪」

 

アーゼの元へ行くと、俺の心が見えなくなるので、不審に思ったそうで、俺の寝ている時に、記憶を読んだミト。そんなスキルがあるのかぁぁぁぁぁ~!で、みんなにバレたらしい。凹む俺…ミトの前では丸裸同然…

 

「うん、隠し事は無理だよ、アール君♪」

 

眩しいミトの笑顔が、俺を見つめていた。

 

 

 



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水桃の王国

 

次の訪問先はルモォーク王国。メネアの祖国である。空中酔いの激しい僕は、メネア、ナナ、ミトと共に転移をして、入国をした。ガードとして、メリー達が付いて来ている。正式訪問は明日で、着陸した飛行艇に転移して、載っていたことにする予定である。

 

「食芋が名産品なんですよ」

 

とメネア。まさに今、食芋フェスティバルが開催していた。食芋を使った料理の屋台が並んでいる。

 

「シガ王国には持ち込み禁止食材なんだよ」

 

と、ミト。腹保ちはいいが、カロリーがゼロで、嵌まると餓死するらしい。

 

「ダイエット食にはいいかもしれないけど、一般人には危険過ぎるんだ」

 

「ですか、うちの国でも、おやつ程度の料理がメインなんです」

 

カロリーゼロのポテチなんで夢のようでは無いか。あぁ、揚げ油分のカロリーがあるか…目に付いた屋台で食芋とベリーの包み焼きを人数分購入した。

 

が、

 

「あっちから肉の香ばしい香りがしますよ」

 

って、フィフィ。食芋より、そっちが気になるようだ。なので、そっちへ足を向けた。先輩とカリナは別行動で、街を視察中である。ポチ、タマ、アリサは屋台では買い食い魔王になるので、残り物と一緒に留守番を命じてある。

 

『ヒカリ、浮遊城って知っているか?』

 

先輩からメッセージが届いた。

 

『あぁ、あそこね。知っているは。攻略失敗したのよ!』

 

ミトに訊いたら、その浮遊城がこの国にあることが分かった。

 

「行くの?」

 

「リベンジ?」

 

「う~ん…」

 

ミト的には行きたく無いらしい。

 

「これが香りの原因かぁ」

 

フィフィの声。彼女の視線の先には、城虎の後脚が、炙られていた。並んでいる列に並ぶ、フィフィとルスス。ポチ、タマがいたら並んでいただろう。リザがいたら、狩りに行きたがっただろうな。つれて来ないで正解だと思った。お忍びでの視察である。目立つ行為は禁止であるのだが、肉大好き娘達は、本能を優先しまいがちである。

 

列にならんでいるフィフィに、留守番部隊の分も買って来るように依頼した。しばらくすると、肉串を大量に持って来るフィフィとルススが戻って来た。買ってきた2/3くらいを、飛行艇へ転移させた。

 

「う~ん、リザ向きの肉だな。旨いけど…」

 

それは固いってことか。固すぎたのか、途中で断念した二人。残った分も飛行艇へ転移させていく。

 

「おぉ~、麦芽水飴だ♪」

 

ミトが目を輝かして、水飴を購入して、これも自分の分以外は、飛行艇へ転移させていく。

 

「あぁ~、山車ですよ。主様」

 

メネアが懐かしそうに見つめる先には、「真っ黒なシルエット状のお城」「お城のバルコニーのような所に座る桃色の髪の王女様と黒髪の王子様」「侍女風の衣装の貴族少女達」の山車が見える。

 

黒髪の王子様?転移者かな?この国も転移者の国なのか?

 

フェスティバル会場を練り歩く。警戒心を緩めた訳では無いが、突然、横から飛び出した少女と接触した。

 

「きゃっ、ごめんなさい」

 

「こちらこそ、失礼。怪我はないかい?」

 

「うん、大丈夫」

 

そう言い残し、走り去って行く少女。

 

「ルミアだわ。何かあったのかしら」

 

メネアが呟いた。その呟きを切っ掛けに、彼女の後を追う。追う先では、小さな悲鳴と袋に何かを詰めるような音がした。

 

「ミト!メリー!」

 

「「了解!」」

 

細い路地に入ると、チンピラ風の二人組が、ズタ袋の口を縛りながら、こちらを睨み付けてきた。手ぶらの男は、山刀を手にして、僕達を威嚇している。ミト、メリー、ルスス、フィフィは臨戦態勢に、ナナはメネアをガードするように立っている。

 

「はぁ?あんだよ?お前ら…見世物では無いぞ」

 

刀を振り下ろして来た男。ミトが反応して刀をガードし、メリーが男を制圧した。ルスス。フィフィペアも制圧したようだ。ズタ袋は『強奪』で、僕の手に引き寄せ、メネアが袋の口を開けている。

 

「大丈夫?ねぇ、ルミア」

 

「う、うん。大丈夫――お姉様…」

 

救出を終えた後に、お付きの者の声が聞こえてきた。

 

「お姫様!」

 

護衛騎士達が剣を抜いて、僕達を牽制し、ルミアを保護している。

 

「剣を降ろして…お姉様よ」

 

「え?!これはメネア様…」

 

騎士達が剣を鞘に収め、メネアに跪いた。

 

「今日はお忍びだから、秘密にしてね」

 

って、ルミアに声を掛けたメネア。

 

「お姉様…この方が、アール様ですか?」

 

「うん♪」

 

メネアの頬が髪の毛の色に染まっていく。どうして?はて?

 

 

ルミア一行と別れて、フェスティバル会場に戻った。

 

「神の創りし浮遊城、桃色の髪をした美姫は神の花嫁なり――」

 

この国の建国譚の出だしらしい。ミトが口にした。

 

「神の伴侶って、ハイエルフだろ?この国の祖はハイエルフか?」

 

「人間なのよ。もしかすると、滅ぼされた神かもねぇ。墜落した浮遊城では、ピンク色の髪の王子と王女が助かり、神の花嫁である母親は助からなかったって」

 

まぁ、神だし。自分専用のダッチワイフを、作る事も可能だろうな。うん?その王子と王女は神と人間のハーフか?

 

「浮遊城の最奥の間を守る影絵の番兵が、強すぎて逃げ出しちゃったんだよ。だって、倒す傍から湧いてくるんだよ。根負けに近いよ」

 

無限増殖するのか…神はソイツらにやられたのか?ミトのように根負けをして…

 

フェスティバルを見終えたので、孤島宮殿へ転移した。先輩とカリナは、街中のホテルに宿泊だそう。

 

『事件が起きたぞ!ルミア王女が攫われたそうだ』

 

先輩からメッセージが届いた。これって、さっき、攫われそうになった子か。僕とミト、ナナ、リザが先輩の元へ転移した。

 

 

ミトの案内で、影城へ続く門の前で待ち伏せしていると、ルミアの桃色の髪が外れ、地毛である金髪になった。あれって、カツラだったのか。

 

「桃色髪でないと、王族の血が薄いってことだよ。もう初代から代数を重ねて、違う血が混ざっているからね」

 

って、ミト。お前の本当の年齢は幾つなんだ?

 

「――偽物だと?」

 

「ニセモノ、じゃ、ないもん」

 

ルミアが泣きながら否定している。まぁ、本物の王女で間違いはないと思う。姉であるメネアが妹だって、証言していたし。

 

「王族の髪の色じゃなきゃ、意味がねぇんだよ!このニセモノがっ」

 

人さらいが暴言を吐いた。『強奪』で王女を手元に引き寄せた。

 

「アール様」

 

僕に抱きつく王女。

 

「何?いつのまに…貴様らは何者だ?!」

 

僕達に気づいた人さらい集団。

 

「シガ王国公爵、ミト・ミツクニだ。お前らの悪事…見過ごせないなぁ」

 

って、ミト。まぁ、代表者だし。名乗ってよし!で、僕とナナで王女をガードし、本当に楽しそうに敵を倒していくミト、先輩、リザのバトルジャンキー達。

 

「ありがとうございます。アール様…お姉様のナイト様…」

 

うん?メネアのナイトになった覚えは無いのだが…

 

「終わったよ♪」

 

って、運動不足を解消したミトの声。だけど、終わって居ない。空からお客さんが来たようだ。数機の飛竜騎士が飛来してきたようだ。何かの音がすると、伸された人さらい集団が、別の生き物のようになっていく。僕の出番のようだな。ジョブをリッチにチェンジし、魔剣で、よく分からない生き物を成敗していく。

 

飛竜騎士の方はテンちゃんが来て、撲滅してくれていた。

 

「先輩、兄ぃ~!結界内に侵入したやつがいるよ!」

 

お宝狙いか?そいつを追う。『結界無効』スキルで結界に穴を開け、仲間達と共に結界内に侵入した。あぁ、ジョブチェンジしておこう。ルミアが僕を怖がっていたから。

 

目の前から影の番兵らしき黒い霧状の者が多数近づいて来た。大多数はミト狙いのようだ。ミトは敵認定されているのだろう。僕、ミト、先輩は聖剣を手にして、番兵達を消し去っている。ナナとテンちゃんでルミアをガードし、リザが倒し漏らし奴らを消し去っていく。

 

「ねぇねぇ、頼ってよ~」

 

パリオンが横に転移してきた。

 

「こんなつまらない敵で?」

 

「うん」

 

「頼っていい?」

 

「勿論♪『天罰!』」

 

番兵は塩化されて、それを聖剣で砕いて、道を作っていく。そして、最奥の間に到達した。ここには敵がいないようだ。どうして?

 

 

「うん?これは?」

 

ミトが玉座ぽい椅子の後ろで絵画を見つけた。黒髪の男性が桃色の髪の少女を抱き締めている絵である。転生者か?あれ?これって…

 

「先輩の絵ですよね?」

 

「俺の?」

 

「あぁ、ブラック企業にいたころの顔だし…」

 

どういうことだ?黒髪の王子が先輩?いや、始祖王…神ってことか…

 

「おいおい…この絵…嫌な予感がするんだが…」

 

「同感だよ~なんだ、これ…」

 

やばそうだ。

 

「ナナ!王女を頼む…」

 

「了承しました」

 

「パリオン…」

 

「隣で戦う。逃げないよ」

 

絵の隙間から、影が溢れてきた。まずそうだ。ジョブをリッチにチェンジしておく。最悪、僕が壁になり逃亡する時間を稼ぐか。

 

「テンちゃん、ミトと先輩達を頼む!」

 

僕とパリオン以外の仲間達を、孤島宮殿へ強制転移した。影は人型になっていく。そして…

 

『神の花嫁を奪う不届き者よ』

 

「人違いだ。あれはルモォーク王国の王女だぞ」

 

『小さき者よ、世迷い言は不要。花嫁の印たる桃色の髪を持つ娘を奪うつもりか』

 

うん?金髪だったぞ…こいつ、見えないのか?

 

「お前が神か?それならば、名を名乗れ!」

 

『我は神にあらず。神の留守を守る使徒なり』

 

使徒…う~ん。パリオンを見ても反応しないってことは、別の神格筋なのか?

 

『神の御名を尋ねるとは不遜なり。この世を治める主上の御名は尋ねるまでもなく、あまねく世界に知られておろう。至高の御方を崇め祈るが良い。しからば無痛の内に、この世を去り、あらたなる生へと廻るであろう』

 

それは無理である。女神と不死王相手に、何を言っているんだ?パリオンは苦笑いしているし。神の使徒が攻撃を仕掛けてきた。だけど、僕にもパリオンにも効果は無い。

 

「我が名はパリオン神…わが主様に攻撃をするとは、不届きな者よ『天誅!』」

 

神の使徒の身体が塩化していく。

 

『パリオンだと…馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁ!小さき者に、不可侵な神の眷属を、傷つけられるはずがない。貴様は、何者だ!』

 

「僕か?単なる不死王だよ」

 

完全に塩化した神の使徒を魔剣で粉々にした。そして、戦利品を孤島宮殿へ強制転移させていく。満身創痍で財宝を抱えていた冒険者達もだ。ミト達に処理を丸投げだな。

 

「パリオン…僕は何者だ?」

 

「主様は主様ですよ」

 

笑顔のパリオン。

 

 

影城から王女を助けた翌日、次元潜行船アルカディアで、正式に訪問した。空間を破って出る時の衝撃…酔いが加速する…ゲロゲロだよ。セーラとオーナが笑いながら回復をしてくれている。う~ん、この空間酔いは酷い…

 

王城でロイヤルファミリーへ挨拶。

 

「ミト・ミツクニ卿よ。ルミアの件、メネアの件、感謝である」

 

王様とミト、先輩が会話をしている。僕は後方のベンチでダウン中である。セーラとオーナが両隣に座り、回復術をしてくれている。

 

「次元潜行船はダメだ…酔わない船をエチゴヤに発注だな」

 

「背中でもダメだったし、無理でしょ?」

 

って、テンちゃん。それはそうなんだけど…オンブで酔うのも最悪である。

 

「昨日はありがとうございました」

 

金髪の女の子が僕に頭を下げて来た。あぁ、ルミアか…

 

「そういうのはミトに言ってくれる」

 

「でも…」

 

「そうだ…朝の散歩で拾ったんだ」

 

彼女へ紫色の髪の毛の束を渡した。

 

「これって…これをどこで…」

 

「半分はメネアに渡してある。それはお前が弔う分だよ。ペンドラゴン卿に訊いたら、裏マーケットで高値で取引されているらしい。奪われるなよ」

 

それは転生者の王の妹で、ユリコ・ルモォークというメネア達の叔母の遺品であった。異世界召喚師であった彼女は、上級魔族に襲われて、亡くなったそうだ。亡骸が拾えない位にミンチ状態にされたそうだ。

 

しかし、その髪でも魔具が作れるらしく、彼女の亡骸、遺品と名のつく物がブラックマーケットで売買されているそうだ。

 

「本当にありがとうございます」

 

僕に抱きつくルミア。ゲロゲロ状態なんですけど…苦笑い気味の元神託の巫女二名。

 

「また、逢えますよね?」

 

「新年には王都へ戻る」

 

彼女はシガ王国の王立学院幼年学舎へと留学が決まったそうだ。

 

「はい♪」

 

 

影城での宝物は先輩に丸投げした。そして、酔わない飛行艇を代わりにくれって頼んだ。

 

「お前が酔わない飛行艇…無理だよ。空中遊泳でも酔うんだろ?」

 

あぁ、テンちゃんと空のデートの件か?あぁ、ゲロゲロだったよ。ミトが上空で撒くなって、大変な事態になったし…

 

「じゃ、酔い止め薬の開発でいいな?」

 

なんか、要求がスケールダウンされたような…

 

 

 

 

 

 

 



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飛竜の王国

09/23 誤字を修正


「次の国は龍の国よ」

 

って、ミト。ドラゴンライダーがパトカーの様に巡回しているので、職質を受けても大丈夫なように、飛行艇にいることを義務付けられた。

 

「大丈夫よ。兄ぃが酔い止めの薬を完成させるそうだから」

 

不安だ…一度服薬して、ゲロゲロが加速したことがあったし…

 

「そうそう、先輩の部屋に嘔吐専用の水回り設備と、臭い消し設備を入れたから、耐えてね」

 

それは、ゲロゲロ対策ですよね?酔い止め効果は考慮してませんよね…

 

「気を紛らわせるのも手だから、セーラとオーナは常駐で、相手をしてもらっていいから」

 

行為中にゲロゲロになったらどうするんだ。トラウマになる自信があるぞ!

 

そして今、飛行艇の中でゲロゲロ状態である…

 

 

窓からワイバーンの群れが見える。東方諸国から飛竜の王国とも呼ばれるスィルガ王国の領空に入ったってことだ。ワイバーンの背には兵士が乗っている。この国の主戦力であるワイバーン・ライダーと呼ばれる飛竜騎士達である。

 

よく酔わずにいられるなぁ。さすが、プロだな。

 

『先輩は成れない職業ですね~』

 

って、ミト。その通りである。ゲロゲロ体質の僕を乗せてくれるドラゴンはテンちゃんとヘイロンくらいだよ。

 

『ポチとタマとリザがヨダレを垂らしてみているよ~』

 

って、アリサ。あぁ、ワイバーンの肉は、ドラゴン種では旨いものランキングで上位だとリザが言っていたし。

 

『狩りに行かせるなよ。外交問題になるから』

 

って、ミト。

 

「シガ王国の飛空艇!何用で我が国に訪れられたか!」

 

あぁ、大空での臨検のようだ。酔いそうだよ…いや、既にゲロゲロ状態である。

 

「シガ王国公爵であるミト・ミツクニだ。旅行に来た。後、スィルガ王城への表敬訪問を希望する」

 

ミトが代表として、返答している。

 

「陛下への表敬訪問の件は承った。先触れを出す」

 

飛行艇を囲む様にして飛行しているワイバーン。自由に航路は選べないのだろうか?誘導され、徐々に高度が降りていく。

 

ん、あれは?視界の彼方、雲の隙間に小さな影が見えた。乱気流の予感がする。

 

『ミト!乱気流が来る!』

 

悲鳴にも似たメッセージを出した。

 

『確認した。ノラのドラゴンが接近中よ』

 

ミトからのメッセージを読んでいる時に、乱気流に襲われた。これは確実に…嘔吐用の水回りに急ぐ。部屋の中でぶちまけたら、トラウマになりそうだ。

 

ダメだ…間に合わない。『強制転移』で、胃袋からの上昇物を下水タンクへ転移させていく。

 

「主様!」

 

セーラの声が遠くで聞こえる。床に崩れるようにして倒れた僕。僕が僕で無くなって行く感覚…

 

「きゃ~!」

 

オーナの悲鳴が聞こえた。乱気流の原因にもの申したい。それだけだ。甲板に上がっていく。

 

「え?先輩!キレましたか…」

 

僕を見たミトの顔から血の気が引いているようだ。下級竜は船の前方で翼を大きく広げて威嚇している。下級竜の咆哮により、船が揺れる。ふざけるな!お前のせいで…『精肉』

と唱えると、甲板には、部位ごとに下級竜が精肉されて、置かれている。これで、揺れないだろう…僕の意識は消えていく。

 

 

目覚めると、セーラとオーナが添い寝をしてくれていた。

 

「僕はどうなったんだ?」

 

『どんまい♪』

 

アーゼから励ましのメッセージ。記憶がない。僕が僕でなくなったってことか…

 

「ここは?」

 

「孤島宮殿の主様の部屋ですよ」

 

って、セーラ。3人で飛行艇へ転移した。そこは、丁度着陸を終えたばかりの飛行艇だった。

 

「もう大丈夫なの?」

 

ミトが心配そうに走り寄って来た。

 

「なんとか…怠い…」

 

「無理しないでいいからね」

 

ミトが妙に優しい。僕はどんな酷いことをしたんだ?飛行艇を降りると、歓迎式典は無いようようだ。妙な視線が多い。あぁ、リザをセックスシンボルとして見ているようだ。リザは有り得ない視線に晒されて、警戒心を強化しているし。蜥蜴人が多いの原因か。同系種族であるリザはピチピチなギャルに見えるのだろう。

 

この国の国王は血統による世襲ではなく、竜に選ばれた英雄がなるお国柄だそうだ。戦士優遇国家か。世襲で無い分、代代わりの際に、外交的な取り決めが反故にされることが多いらしい。

 

リザと街中を散策に出た。ミトが公式な行事は出ないでいいって。なんかやらかしたみたいだ。記憶にないけど…

 

「主様、大丈夫ですか?」

 

「怠い…」

 

「肩をお貸しします。辛くなったら申してください」

 

「あぁ」

 

屋台が出ているが、胃袋が受け付けない予感がする。

 

 

竜神殿という建物の前に来た。白いコンクリート造り風の神殿である。見た目が小さいけど…

 

『――竜よ!わ、我が名は、獅子人族のバル、バウト!いざ、尋常に、勝負しろ!』

 

神殿の方から声が漏れてきた。王様を決める大会か?声の主は神殿の裏にある陸上競技場くらいの広さの円形闘技場に立っていた。三方を崖で囲まれており、崖の上の方には下級竜達がまったりとしている。神殿の裏手と競技場の間には深い谷があり、1本の吊り橋で接続されていた。逃げ場が無い戦い場か。ドラゴンは上に逃げられるけど…

 

リザと神殿に入った。入ると直ぐに

 

「異国の貴人様、宜しければ喜捨をお願い致します」

 

と、寄付を求める巫女がお盆を持って寄って来た。その盆へ寄付を載せろと?シガ国銀貨を10枚ほど載せた。

 

「ありがとうございます」

 

この神殿は竜神を祀ったものでは無いようで、竜を信仰の対処にしているようだ。見るべき物が無いので帰ろうとした時、竜神殿の入り口の方から参拝者のざわめきと甲冑の音が聞こえてきた。

 

「おい、あれ――五鱗家の方じゃないか?」

 

「ああ、たぶん、『挑竜の儀』に挑まれるのだろう」

 

豪奢な鎧を身に帯びた大柄な蜥蜴人の戦士が入って来た。鎧の中身はマッチョなボディが入っている。鍛えてはいるようだ。

 

「――ほう?娘よ、我が妻となれ」

 

リザの前に来て、リザにプロポーズな命令をしている。

 

「お断りします。私は主様に仕える身。他の男性には興味がございません」

 

即答拒否のリザ。

 

「――ふははははは。面白い、この俺を振る女がいるとは思わなかったぞ。まぁ、いい。お前の方から妻になりたいと言わせてやる」

 

「おい!貴様、リザに近寄るな!」

 

リザとマッチョの間に入った僕。

 

「主様、ダメですよ!」

 

「はぁ?お前が主人か?ふん、弱々し人間では無いか」

 

「お前…殺そうか?」

 

「殺せるものなら殺して…」

 

望み通り殺してやった。その場で、崩れるマッチョ。

 

「リザ、帰るぞ!」

 

「え?はい!」

 

神殿を出るとすぐに孤島神殿へと転移した。

 

 

「はぁ?殺した?五鱗家の若様をか?」

 

ミトが驚きの声をあげている。

 

「あいつは、リザに対して失礼なマネをした。それに殺せるものなら殺してみろって、挑発をしてきた」

 

「う~ん…蘇生させてくれない?外交問題になるよ」

 

困った顔のミト。だけど、今回は折れる訳にいかない。リザに対して命令をした。初対面なのに…それが許せない。

 

「街はそのことで持ちきりだよ」

 

って、先輩。

 

「ミト…事情を話して、謝罪をさせろ。それが得策だ」

 

先輩がミトにアドバイスを送った。それが得策だ。

 

「拒否したら、どうするんだよ」

 

「ヘイロンとテンちゃんを引き連れて、パリオンと共に、この国を奪う」

 

「侵略者じゃん…う~ん。わかったよ。交渉してくるよ」

 

ミトが転移していった。

 

そして、戻って来た。

 

「武力を誇示するのであれば、ドラゴンを倒してみろって…はぁ~」

 

「わかった。明日闘技場で皆殺しにする。ふふふ♪」

 

「キレているよ…」

 

いや、キレていないつもりであるけど…

 

 

翌日、闘技場に降り立った僕。

 

「おい!一番強い奴!出て来いよ」

 

下級竜と上級竜が僕に向かってきた。罠だよ、前口上は♪『ドラゴンイーター』を唱えたリッチな僕。ドラゴンの魂を一気にむしり取っていく。僕の目の前に次々、ドラゴンが落下していく。

 

「おい!ミツクニ卿にドラゴンを全滅させろって言ったヤツ、出て来いよ。約束通り、全滅させたぞ。ここで謝罪しろ!」

 

誰も出て来ない。

 

「そうか。約束を反故にするんだな。ここにいる観客をドラゴンのエサにするぞ『甦れ<<死霊竜>>』」

 

目の前でスケルトンドラゴンとして甦った下級竜達。観客達をついばみ始めた。

 

「先輩…もう、これ以上はダメだよ!ねぇ、分かっている?」

 

「分かったよ。じゃ、帰るか」

 

ジョブを士爵に戻して、ミトと共に孤島宮殿へ帰った。

 

 

翌日、謁見に応じるとの連絡が、ホテルに宿泊中の先輩の元へ届いたそうだ。王城へ向かう準備をする。僕とミト。同行者は先輩、システィ、メリー、アーシアだ。まぁ、後は必要に応じて、召喚すればいいし。

 

王城に着くと、出向かいの執事が声を掛けてきた。

 

「ミト・ミツクニ卿、こちらです」

 

何故か、先輩に言葉を伝えている。

 

「ミツクニ卿は、彼女です。私は士爵のサトゥー・ペンドラゴンです」

 

「えっ!あの方がミツクニ卿ですか?侍女では無く…」

 

「えぇ、そうです」

 

ミトがヒートアップしている。まぁ、侍女に間違われることは度々だしなぁ。執事の案内で、謁見の間へ通される。

 

「シガ王国公爵、ミト・ミツクニ卿」

 

入り口付近にいる赤鱗族の騎士が大声で叫んだ。呼ばれた者だけが、謁見出来るらしい。

 

「同じく士爵、サトゥー・ペンドラゴン卿」

 

「同じく王女、システィーナ様」

 

ここで、扉は閉められた。僕達は護衛と思われたようだ。まぁ、いいけどね。

 

 

 

---ミト---

 

何?先輩が謁見を許されないって…有り得ない。

 

「さて、謝罪の件だが、謝罪の意を伝える。そっそく、蘇生をしてくれ」

 

って…。当事者の前しろよ!それにその謝罪では、先輩は受け付けないぞ!

 

「申し訳ございませんが、当事者がいない時に、謝罪をされても困ります」

 

「ミツクニ卿の下僕がしたんだろ?なら、主に謝罪が常識だ」

 

こいつ、脳筋系か?

 

「申し訳ございません。私の方が立場は下なもので…」

 

廊下で戦闘音がしている。私達から引き離してリンチか?知らないぞ…先輩はキレているし。

 

ズドーン!

 

王城が揺れた。先輩が完全にキレたようだ。いや既に、キレていたけど…

 

「どうした?!」

 

「あの男が暴れています。精鋭部隊が全滅です」

 

精鋭部隊でリンチか?先輩の戦力を見誤りすぎだ。切っ掛け待ちだった先輩。一応、私の立場を考えて、正当防衛待ちだったし…

 

「あぁ、もう謝罪程度では収まらないですよ。ペンドラゴン卿、私達もヤルよ!」

 

「あぁ、そうだな。コイツら失礼にも程があるよな。アイツで無くても、キレると思う程度だ」

 

私と兄ぃは聖剣を手にして、廊下へ向かっていく。だけど…扉の外は外だった。廊下から向こうをガレキの山にしていた。危うく墜落死になるところだった。

 

「あぁ、リッチになっているよ。制空権も奪ったようだ。テンちゃんとヘイロンがいるし」

 

兄ぃが状況を確認していた。

 

「あなた方は怒らしてはいけない者を怒らせました。その愚かさを身に刻むべきですね」

 

「おい!アイツは何者だ!」

 

「私達の仲間で、パリオン神国の王、アール・ウール・ゴーンです。パリオン神の天罰を受けるといいわ。ペンドラゴン卿、帰るわよ!巻き添えはゴメンだわ」

 

「待て!ミツクニ卿…アイツを止めてくれ…」

 

私に懇願されても…謝罪が先だと思う。だから、脳筋は…

 

「彼の求めに応じなさい。それしか止める手立ては無い」

 

「求めとは?」

 

それすら、わからないのか…ダメだな、コイツらは…やはり王は世襲制の方が、交渉しやすいな。

 

「心の籠もった謝罪よ。あんな言葉だけの謝罪を、受け入れる訳ないでしょ?」

 

うわぁぁぁぁ~!天罰が始まっていた。竜神殿が塩化して崩れていく。相当キレているようだ。

 

『ちょっと待って!』

 

メッセージを飛ばした。

 

『テンカウント?』

 

『はぁ?せめて、5分待って!』

 

先輩にメッセージを送ると、意外に冷静な返答が戻って来た。静かに怒りを爆発中のようだ。一番、危険なパターンだよ。

 

「天罰が始まっていますよ」

 

塩化して崩れていく建物を指差した。

 

「お願いだ。彼を止めてくれ…」

 

これでも、謝罪をしてこない国王…いや、謝罪の仕方すら知らないのかもしれない。謝罪を今までしたことが無いのかもしれない。

 

「彼から伝言です。代が代わっても、彼の領土には侵攻しないと書面で、提出してください。あと、彼の仲間に失礼な行為をした件のお詫びを書面に書きなさい」

 

それに従う国王。塩化を目の当たりにしたら、従うよな。あれって、この世界での最終兵器に近いもんなぁ~。

 

 

謝罪と誓約書とお詫びの件で、都市核を手に入れた先輩。蘇生できる者たちは蘇生した。上級竜とリザに命令した奴と観客の大半だ。スケルトンドラゴンになった下級竜は先輩が引き取り、パリオン神国でガーディアンにするらしい。

 

「なんか世直し旅では無くて、征服旅になっているような…」

 

「そうか?迷惑なら、ミト達と別れて、僕はパリオンとパリオン神国に住もうかな」

 

「うんうん♪」

 

嬉しそうなパリオン神。う~ん、なんか、それは許せない気がする。

 

「ダメだよ。付いて来てね、先輩」

 

「今夜、サービスしてくれる?」

 

「う~ん…わかった。サービスをしよう」

 

私の身体で契約出来るなら、安い買い物だ。

 

「そういや。破壊発動中にアーゼからメッセージが来なかったな。ちょっと、様子を見てくるよ」

 

先輩は転移していった。

 

 

 

---アール---

 

アーゼの部屋に転移した僕は固まった。赤子を二人抱き締めて、授乳作業をしているアーゼが目に入ったから。

 

「あぁ~ダーリン♪双子だよ」

 

嬉しそうなアーゼ。何?双子?名前を2つも考え無いといけないのか?

 

「息子と娘?」

 

「何を言っているの?ハイエルフは女性だけだよ」

 

娘二人…はぁ?咄嗟に思いついた一郎と光子ではダメではないか…

 

「名前は決めてくれたよね?」

 

笑顔で見つめるな…

 

「あぁ、そうだな…セーラとオーナでどうかな?」

 

身近な二人の名前を挙げた。

 

「それ、ダーリンの愛人の名前だよね…」

 

ダメなのか…

 

「じゃ、ムーンとアースは?」

 

月と地球であるが…

 

「う~ん…いいかな。それで…うん♪それにしようっと」

 

次の瞬間…

 

『おめでとう♪』

 

って、メッセージがミト、先輩、アリサ、シズカ、ユイカから送られて来た。しまった。心のフィルターを掛けていなかった…凹む僕。

 

『ふふふ、どんまい♪』

 

って、アーゼからメッセージ。目の前にいるんだぞ!声を掛けろよ。

 

『やっと、初めての爆睡を始めたの♪』

 

赤子がアーゼの乳首を咥えたまま、スヤスヤ状態だし…いいな…それ…俺もしたい…

 

 

 

 

 

 



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戦乱の王国

 

いきなり父親になってしまった。それも娘二人の…みんなの元に戻りづらい。フラフラと歩いていると関所に着いた。あれ?方向を間違えたかな?

 

関所の方から

 

「我々はぁ、関所の通過をぉ、要求するぅ」

 

「亜人共のぉ、横暴ぅおぉ、許すなぁあ」

 

「関所のぉ、門をぉ、速やかにぃ、開けろぉお」

 

と声が聞こえた。亜人の国に対して、それはおかしいだろう。門が開かない為、国境の壁をよじ登っている奴もいる。なぜ、コイツらは人族の国へ行かないのだ?

 

「――聞け、蛙食い共!」

 

お前らだって、牛喰いだろうに…壁から外へ出る僕。人族の男達が関所と国境を結ぶ橋上で剣を抜いていた。穏やかで無いなぁ。僕も聖剣を抜いた。彼らの剣の先には、縄で縛られた蜥蜴人が三人座らされている。

 

「こいつらの命が惜しければ関所を開けろ。この砂時計の砂が落ちきるたびに、こいつらから腕や足が一本ずつ無くなる」

 

瞬動術で、男達の元へ行き、武装している者達の首を刎ねていく。

 

「何?貴様!人族のくせに!」

 

「人質を取ってまで、関所破り?それは、犯罪だぞ」

 

蜥蜴人の縄を次々に斬り、解放していく。

 

「お前らへ問う!何故、亜人の国に入る?人族の国へ行けよ」

 

「五月蠅い!」

 

僕に斬り掛かってくる輩の首も刎ねていく。

 

「貴様、何者だ?」

 

「シガ王国士爵、ムーンだ」

 

「この下っ端貴族風情が…」

 

斬り掛かってきた戦士風の男。隣に転移してきたミトが首を刎ねた。

 

「帰りが遅いから…来てみれば…まったく、先輩は…」

 

「困っている奴を放って置けないのは病気だぞ」

 

逆サイドに先輩が転移してきた。病気なのか…

 

「ムーンの言う通りだ。なんで、人族の国へ向かわない!おかしいだろ?」

 

ミトが流民達に声を掛けた。

 

「本当の流民なら、人族の国に送ってやる」

 

「士族風情に何ができるんだ?」

 

「うん?彼、国王様だよ。士爵は偽の身分だし」

 

勝ち誇ったように言うミト。

 

『工作員が混じっているぞ』

 

先輩からのメッセージが届いた。そうだろうな。流民にしては良い武装を持っている。

 

「悪人だけ、間引くか…」

 

ジョブをリッチにチェンジした。これで、闇系の魔法も使える。聖剣が魔剣にチェンジしていく。

 

「貴様…」

 

「パリオン神国国王…アール・ウール・ゴーンだ。これより地獄への選別をしてやる。

『地獄への招待』」悪意を持つ奴だけを地獄へと送る魔法である。次々に倒れていく悪人達。

 

これで第1次審査は終わりだ。

 

「貴様か!わが国を征服したアールって奴は!」

 

はぁ?蘇生したマッチョ戦士が背後にいるし。その後には王子だよ。挟み討ちかよ…

 

「おい!待て!また、殺されるぞ!」

 

王子が警告をしてけど、

 

「殺される?記憶に無いなぁ。出来るものなら、やって…」

 

全身から煙を上げて倒れるマッチョ戦士。ウザい。

 

「――この人殺し!」

 

石を投げてきた流民達。

 

『工作員だな』

 

って、先輩。この辺に小石は無い。投石用に持って来たのか?目の前にフルカウンターの障壁を発現させて、投げた本人を消して行く。

 

『扇動系のスキルも使ったようだぞ』

 

障壁を消した。一般人に当たるとマズい。

 

「同胞のカタキだ!」

 

「蛙喰いどもを血祭りに上げろ!」

 

「血には血を!」

 

扇動された一般人も物を投げて来た。中にはナイフまであるし…ナイフはフルカウンターだな。ピンポイントで障壁を出してみる。ナイフを投げた者は、自分のナイフで命を絶った。キリが無い。

 

「受け入れの準備が出来たよ」

 

パリオンが転移してきた。じゃ、悪意の無い子連れから転移させるか。

 

『先輩、出番です』

 

先輩の個人情報探査を元に、称号に罰則の無い、悪意の無い親子を、パリオン神国へと転移させていく。が…

 

『待って!妊婦は後にして…体内に爆弾があるわ』

 

って、ミト。自爆テロ要員にしたのか?体内に…嘔吐防止薬と偽って…

 

『わかった。妊婦をはずず。アール、体内から爆弾を「強奪」してくれ』

 

1つ強奪して見ると爆発した。空気触れるとダメなタイプか…吹き飛んだ手首から先が再生されていく。強制転移だな。海の中へ…爆弾の類いを全て海のなかへ強制転移させていいく。

 

次に同じ条件で検索して女性だけをオーユゴック卿の公都へ転移させていく。最後に検索した男達を炭鉱へと転移させていく。そして、残ったのは、殺しても文句が言えない奴らの筈だ。

 

「――軍人が一般人を傷つけるのか」

 

軍人では無いんだけど…白い法衣を纏った神官姿の者が近寄って来た。なんか、ヤバそうだぞ。

 

『ミト、先輩!下がって!』

 

二人が僕達の後に下がった。

 

「シビリアンコントロールされない軍など、ただの暴力機関にすぎん」

 

「悪いけど、僕達は軍人では無い」

 

「では、ただの暴力集団など、ヤクザと同じ――」

 

やくざ?コイツ転生者か、転移者か?この世界にやくざって言葉は無い。

 

「我が『無限塩製』で塩となれ!」

 

「ふん!面白いことを言うな」

 

次の瞬間、神官もどきが塩像にされていた。発動スピードは現役の神であるパリオンの方が上である。

 

ドスン!

 

後で王子が腰を抜かしたのか、尻餅をついている。

 

「後の処理はお前らに任す」

 

僕達は転移をした。

 

 

孤島宮殿では何かのパーティーの用意がされていた。なんのだ?垂れ幕の文字を見て、固まる僕。そうだ、忘れていた。

 

『双子誕生おめでとうございます♪』

 

って…

 

「先輩がお父さんにねぇ。結婚していないのにねぇ」

 

ミトが笑っている。

 

「いいじゃない。愛人は沢山いるし」

 

って、先輩…

 

「主様…私も欲しいです」

 

って、セーラ。

 

逃げないと…あれ?逃げられない。

 

「逃がさないよ~♪」

 

って、アーゼが子供を連れて来ていた。子供達はタマ、ポチ、アリサ、ミーアにあやされているし。

 

「主様…いつか…お願いします」

 

って、ルル。そんなに性欲ないんですが…

 

 

流民発生の原因がわかった。イタチ帝国がマキワ王国へ攻め込んだようだ。まだ、流民が出そうだな。

 

「パリオン、まだ受け入れは出来るか?」

 

「まだ、大丈夫だよ」

 

「ミト、先輩…頼めるかな?」

 

「飛行艇で助けるのか?かまわない。物資はエチゴヤで買ってくれよ」

 

先輩は商人だなぁ…まぁ、乗り物酔いの激しい僕には無理だし。

 

「エチゴヤ所有の飛行艇も出す。選別は任せてくれるか」

 

「親子連れは、パリオン神国で、女性はオーユゴック領公都、男は炭鉱なら、仕事に困らない筈だよ」

 

「了解!」

 

「ねぇ、イタチ帝国は叩くの?」

 

「まだ、様子見だな。戦争するほど、資金が無いし…復興が先だな」

 

さてと、行くか…アーゼ達を孤島宮殿に残し、難民救済へと向かう。奴隷狩り集団が、難民を奴隷にしているらしい。奴隷商人よりも、まず奴隷ハンターを撲滅だな。

 

 

マキワ王国で想い出したことが…あの火遊び男はマキワ王国の貴族だったことだ。亜人差別を国ぐるみで行っていたのだろう。

 

占領軍の前に出た。難民を選別して、救う時間を稼ぐためだ。勿論、ジョブは魔神である。隣はパリオン、テンちゃん、ヘイロンが居並ぶ。

 

「撃て!」

 

戦車がこの世界に有ったとは…『フルカウンター3倍返し』の障壁を展開した。次々は破損していく近代兵器達。

 

あんな近代兵器を持ち込んで、鼬帝国には天罰は降りないのか?

 

『ザイクーオン神はまだ、生き返っていないから』

 

って、パリオン。神にも領土区別があるらしのだろうか。戦闘機らしき物が飛んで来たので、『ヘアランス』で串刺しにして破壊していく。

 

『あれは、痛そうだ。俺には使わないでくれ』

 

って、ヘイロン。魔神では戦わないよ。死んじゃうし。

 

全滅したかな?近代兵器軍は?しばらく待って、攻撃が来ないので、次の戦場へと向かった。

 

 

西へ向かっている。テンちゃんの背中でゲロゲロ状態になっている俺。西の方で逃げる難民を奴隷狩りが追っているとミトから連絡が入ったのだ。

 

ミトは決戦直前の王都近くで、スケルトンドラゴン隊と突入の機会を図っているようだ。難民救助は先輩とエチゴヤに丸投げである。

 

奴隷狩りのレベルをチェックして、仲間を転移させていく。リザ、ポチ、タマ、リーン、メリー、フィフィ、ルスス、ゼナ隊…

 

僕達は、後の方にいるエラそうな奴隷狩りに幹部達を屠っていく。アリサ、ルル、ミーアの後方支援隊はエチゴヤのガードに付いて、飛行艇から援護射撃をしている。

 

死体から装備を強奪し、次々にナマコのエサ箱へ強制転移させていく。腐敗すると不衛生だし。

 

『都市核を奪いました。これで鼬に奪われることは無いです』

 

って、アーシアからメッセージが届いた。そうか、都市核が手に入ったのか。

 

『アーシア!鼬所属の奴らをマキワから追い出し、再入国させるな』

 

『了解しました。設定変更をしたました』

 

だけど、奴隷狩りの人数に変動はあまりない。鼬の奴らでは無いようだ。じゃ、殺しても問題はないか。

 

「貴様!何者だ!」

 

一番エラそうな奴に訊かれた。

 

「パリオン神国、国王のアール・ウール・ゴーンだ。この戦争、買わして貰うよ」

 

「何?パリオン神国だと…なんで、ここに?隣接していないだろ?」

 

「戦火あるところ、参上いたす」

 

一番エラそうな奴は生きたまま、エサ箱へ強制転移させた。命令系統の頂点を失った狩人達は、迷走し始めた。一匹も逃さないよ。ふふふ♪

 

 

『囚われた流民達を救い出してくれ』

 

って、先輩から、座標が送られて来た。掃除が終わった後、仲間達とその座標へ転移した。そして、救出作戦を開始した。と、言っても実働部隊は、既にナマコのエサ箱に送ってあるので、リザ達で充分、事足りた。

 

だけど、亜人差別の国である。助けたリザ達に敵対心を持つ救助者。リザ達を飛行艇へ転移させていく。彼女達も状況を理解しているので、文句を言わずに、僕に笑顔を見せて転移をしていった。代わりに、セーラとオーナを呼び出し、人々のささくれた心をイヤしていく。

 

ヘイロンとテンちゃんには、王都攻防戦の方を頼んだ。ミトが応援を要請したからだ。

 

少し待つと、1艇の飛行艇が近づいて来た。先輩のいる飛行艇で、ここにいる流民達を収納する為である。

 

降り立った飛行艇から、先輩の知らない先輩好みの女性が現れた。赤いドレスを着て、赤い杖を持っている。あの火遊び貴族の関係者のようだ。

 

「この度はありがとうございました。私は、シェルミナ・ダザレス、ダザレス侯爵領の代官をしておりました」

 

「あの放火貴族の関係者か?」

 

「侯爵が…大変失礼なことを…」

 

僕がダザレス家に良い印象を持っていない理由を。予め先輩が話したようだ。

 

「あの謝罪をさせてください」

 

頭を下げる女性。だけど…僕は器が小さい方だ。

 

「次の現場がある。先輩、後は頼みます」

 

仲間達とミトのいる場所へ転移をした。

 

 

転移をした先はガレキの山であった。ミト達も参戦して、鼬を追い払ったのだけど、近代兵器を前にした場合、無力に近かったようだ。

 

「先輩…ダメだったよ~」

 

僕に泣きすがるミト。しばらく、好きにさせておく。掛ける言葉が浮かばないから。

 

戦後処理の話をしに寄ったマキワ王国の王城では、若い王様と側近が戦死者の報告を受けているところだった。僕達は、空気を読んで、しばらく登場を控えた。

 

沢山の死者が出たようで、被害は甚大だった。まぁ、戦争ってそういう物だよね。

 

「それで、あのスケルトンドラゴンは結局どこの勢力の物なのだ?」

 

「わかりません。敵なのか、味方なのか…」

 

僕達の話題になったようなので、話に加わるか。

 

「僕達の仲間の部隊だよ」

 

「貴様!何者だ?!」

 

「私はシガ王国公爵、ミト・ミツクニです。彼は、パリオン神国、国王アール・ウール・ゴーン。そして、彼女はサガ帝国皇女、メリーエスト・サガでございます」

 

と、代表者であるミトが答えた。

 

「シガ王国、パリオン神国、サガ帝国の連合軍だと…有り得ないだろ?」

 

王が驚いている。まぁ、驚くよな。手を組むとは思えない3国だし。

 

 

「此度の貴殿達の働き、まことに見事であった。国を救った大英雄に相応しい褒美はおいおい考えるとして…」

 

気落ちしている王の代わりに、腹黒そうな大臣が交渉に出て来た。

 

「褒美はいらない。流民は隣国への迷惑になるので、僕の領地で引き取る。後、お前達は都市核の使い方がなっていないので、都市核を全て貰った」

 

「何?都市核を?占領では無いか!」

 

大臣が文句を言って来た。

 

「シガ王国金貨100万枚で交換に応じる。以上だ。これには、シガ王国内で大罪を犯したダザレス侯爵への損害賠償金も含まれている」

 

亜人差別に対しては、約束させても、セーリュー市と同じで、民衆や貴族の意識の問題なので、この場では取引の材料にはしない。身を以て教え込むだけだ。

 

用も済んだので、孤島宮殿に転移した。

 

「まったく…また、占領したの?」

 

「だって、防衛機能の使い方がなっていないんだもの。使い込めれば、あんなに被害は出なかったはずだ」

 

せめて、近代兵器の侵入を拒否できれば…鼬に隣接する国の防御を、アーシアを通じて弄っていく。鉄の塊は入れないとか…ゴーレムも禁止とか。

 

「鼬の侵攻目的ってなんだ?」

 

「この杖らしいぞ」

 

と、先輩がやって来た。あぁ、あの赤い杖…

 

「この手の魔法の杖が4本有るが、3本が国外に持ち出しされている。たぶん、鼬帝国にだ」

 

何かの鍵なのか?

 

「『四本の宝珠を捧げれば、神代に海に沈んだ空中都市ネネリエを目覚めさせる』っておとぎ話があるそうだ」

 

あのガニーカ領沖に沈んでいる海底都市か?まさか…既に手中にあるけど…あれって、空跳ぶのかな?

 

『海底人が死んじゃうって』

 

って、ミト。確かに…

 

「まぁ、1本はこっち有る。だから、目覚めることは無いよ」

 

試しに『強奪』をすると、残り3本が手に入った。

 

「お前…何しているんだよ~」

 

って、ミト…3本の杖をミトに預けた。

 

「まったく…能力が少ないのに」

 

ブツブツ言っているミト…

 

 

パリオン神国の流民村へ転移した。ここの太守代行は、シェルミナである。マキワ王国の者が、トップの方がルール作りに良いと判断したのだ。

 

「いいか、亜人差別を無くすことが第一だ。これをクリア出来ないと、他の街へ出稼ぎに出せない」

 

「はい!アール様」

 

ここでは砂を水に混ぜて、上澄みだけ取りだし、蒸発させて塩を除去する作業をさせていた。女子供でも出来る作業である。ただ、労働単価は安い。なので、亜人差別さえなくなれば、違う仕事に出せるのだった。基本、僕の領内は亜人との共存地域が多いから。同様に、炭鉱掘りをしている男達にも、亜人差別が無くなれば、もっと良い職場に移すと約束している。オーユゴック領に丸投げした女性達は、オーユゴック卿に丸投げであるけど…

 

 

 



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イタチ帝国

11/30 誤字を修正


次の訪問先…シガ王国とスィルガ王国、そして黒竜山脈に挟まれる場所にあるトナォーク王国だ。

 

そして、俺はミトのガードとして、謁見の間に続く回廊を歩いている。この地の料理は珍しい物が多いらしく、奇跡の料理人はカリナとシスティを連れて、食い道楽中である。

 

国王に土産品を渡し、貴族達と談笑しているミト。そんなミトを口説こうとする独身貴族達。ミトの地位狙いか?身体狙いなら排除するが…

 

『おい!私の身体は、お前の物では無い。ナンパ貴族は排除しろよ!』

 

って、ミトからメッセージ。まぁ、それなりに対処していく。

 

 

謁見も無事に終わり、孤島宮殿に戻った俺達。既に先輩達は戻って来て居た。

 

「鼬の皇帝に逢えるかもしれないぞ」

 

って、先輩。喰うだけで無く、仕事もしてきたようだ。鼬の商人と知り合いになり、デジマ島で待ち合わせをしたそうだ。

 

「信じられるのか?」

 

「正式な契約書を作った。これを反故にしたら、商人としてやっていけないだろう」

 

まぁ、商人絡みは先輩に丸投げだな。

 

 

ハンター達が蟻の群れに襲い掛かる。ここはマキワ王国とイタチ帝国の間にある魔物の領域である。蟻の巣穴を見つけたので、うちのハンター達の経験値稼ぎに、出撃させたのだった。

 

既に女王蟻は『強奪』して、揺り篭に転移させてある。所謂、カマキリのエサを量産してもらう計画である。レベルの低い蟻達は、すでに転移させてある。

 

「しかし、多いなぁ」

 

って、ミト。確かに多い。間引きをたまにしないとダメだろう。マキワもイタチもお構いなしなのは、頂けないなぁ。まぁ、エサの確保にはなるなぁ。ゴキ軍団も投入して、食べてもらっているし。

 

「って言うか、先輩、ゴキ遣いになったんですか?」

 

まぁ、そんな感じである。うちの精鋭部隊だし。下手な近代兵器より優秀である。なんと言っても、レーダーに反応しないステレス性は、潜行部隊として重宝しているし。

 

「肉がいませんね」

 

ってリザ。確かに…蟻はゴキ達のご馳走のようだが、俺達のご馳走にはならない。っていうか、魔物を肉と言うリザをスゴいと思う。

 

って、先輩がいない。どこへ行ったんだ?何かを見つけたのか?

 

 

『ちょっと、来てくれ』

 

先輩に呼ばれたので、ゴキ軍団を駐屯地へ戻し、仲間達を孤島宮殿へ転移させ、残りの蟻達を揺り篭へ強制転移させ、ミトと二人で先輩の元へ向かった。

 

そこは血煙が漂う村であった。戦闘があったようで、怪我人が多数いる。

 

「怪我人を頼む」

 

と、先輩。セーラとオーナ、後ミーアを転移させて、怪我人の治療に当たって貰った。ミトと先輩は村長らしき者と会話している。

 

「おい!この村の者達を移民させられるか?」

 

先輩に訊かれた。たしか、まだ余裕はあるが…

 

「うちの国でいいか?」

 

「あぁ」

 

「なら可能だよ」

 

全員の治療を終えた後、パリオンを呼び出して、一緒に転移して貰った。

 

 

この村は、神への信仰を認め無い皇帝に見捨てられた、信仰を止めなかった者達の村だったそうだ。一種の流刑地である。

 

イタチ帝国自体、鎖国しているので、他国へ移民することを禁じられ、他国からのスパイ達に対して、人間の盾として利用されていたようだ。そもそも、他国へ通じる道は無いので、亡命も難しいらしい。

 

じゃ、あれって、どこかの国のスパイにやられたのか?

 

『違う。撃退に来たイタチの部隊の巻き添えを喰ったらしい』

 

と、先輩からメッセージが飛んで来た。

 

『イタチの部隊の第二陣が来るぞ。アイツらは、黒豹に載っている』

 

肉かぁ。うちのハンター部隊を呼び出して、迎撃した。

 

 

先輩と共に、教区と呼ばれる流刑地を訪問して、移民の意志がある犯罪歴の無い者達を転移させていった。

 

うん??病気持ちがいる。ある教区で伝染病が流行っていた。先輩が分析をして、セーラ達の回復魔法で治ることを突き止めたので、セーラとオーナを呼び出して、治療をして貰った後に、転移させていった。

 

「帝国中央の人々は、教区送りにした者達を、見殺しのようだ」

 

吐き捨てるように言う先輩。怒りを纏い始めている。

 

「皇帝の教えは『不合理な神への信仰を捨て、臣民に富と幸福を与えた皇帝を崇めろ』だそうだ」

 

まぁ、神への信仰は自由だろうな。俺は信仰しないけど。

 

「神にケンカを売りたいのかな?俺には理解できない」

 

俺にも理解出来ない。売られたら買うけど、こちらからは売らない。面倒なことは、関わりたくないし。

 

「問題は、どうして天罰が降りないのかだな」

 

「このエリアの神が死んでいるからでしょ?」

 

「ザイクーオンかぁ…」

 

そうなるな。死んでいるのは、その1柱だけだったし。

 

 

教区では無い村を視察してきて先輩。

 

「皇帝陛下万歳状態だ。教区の民とは大きな違いだったよ」

 

至れり尽くせりで、税金も安いらしい。どこから、収入を得ているんだ。資金があれば、俺も至れり尽くせり政策をしたいんだが…

 

「そうなんだよ。そこが問題だ。近代兵器を作り、大判ぶるまいの政策って、資金はどこから入っているのかだ」

 

そうなるよな。黒字にするのって大変なんだから。

 

 

その後も先輩は帝国内を視察していく。そんな或る日…

 

『おい!出番だぞ、アール♪』

 

先輩からお声が掛かった。俺は先輩の元へ転移した。そこでは戦闘中であった。相手は二刀流の耳長族の女性である。この程度なら、勝てるのではと先輩を見ると、少女を護りながら戦っていた。そういうことか。

 

「ここからは、俺が相手だ」

 

「貴様!何者!」

 

ジョブを魔神へチェンジした。短く悲鳴を上げた女性は、その場から数歩後じさり、足をもつれさせて尻餅をついた。

 

「名乗る程では無いよ。あれ?失禁か?それとも…」

 

「来るな!貴様…」

 

視線を逸らせた女性。

 

「ではご機嫌よう。この娘は責任を持って帝国外へと連れだそう」

 

と、先輩が言うや、俺達は転移して、その場から逃げた。あぁ、ジョブを戻さないと、恐怖を感じた女の子が泣いているし…で、この少女は『神託』持ちらしく、イタチ帝国内では死罪に当たるらしい。なので、リリーに預けてきた。彼女に託すのが一番安全だろう。

 

「さっきの女は誰?」

 

先輩に訊いた。

 

「宮殿騎士だそうだ」

 

帝国のエリート騎士かな?

 

「『神託』スキルは『災厄の芽』って呼ばれているらしい」

 

まぁ、神嫌いな皇帝なら、そうなるか。迂闊にセーラとオーナは連れて行けないな。

 

「あの少女の存在自体が罪だと、言っていたよ」

 

存在が罪か…皇帝は何様だ?

 

「占領するの?」

 

ミトに訊かれた。

 

「そんなことより、帝国の資金源を知りたいよ。どうやって、資金を得ているんだよ!」

 

占領なんかに興味は無い。領地の黒字化だな。俺の興味の先は…

 

 

 

 

 



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デジマ島

12/02 誤字を修正


ミト達は船でデジマ島を目指している。俺は孤島宮殿で、オーナ、セーラと待機中である。お空よりも船の中の方が酔いが酷いのだった。

 

デジマ島へ向かう目的は2つだ。1つは先輩がイタチの商人と待ち合わせをしている為で、もう1つはロリ勇者への表敬訪問である。アイツから預かっていた装備を、メリー経由で返せと言って来たのだ。なんでも、そこにある迷宮で魔王が発生したので、成敗してくるそうだ。

 

メリーの頼みでもあるので返却したのだが、感謝の言葉が無いので、表敬訪問をして、レンタル代という名の寄付を募ろうと思うのであった。

 

『着いたから、戻って来て』

 

って、ミトから念話が届いた。三人でお船に戻った。

 

「うっ…うげぇ~」

 

吐きそうだ。

 

「はぁ?航行してないのに?」

 

って、ミト。船酔いである。航行酔いでは無いんだよ。この波に翻弄されて、脳の揺れる感覚はダメだ。

 

そして、上陸…揺れていない地面。なんか安心するなぁ。

 

「じゃ、俺達は別行動で、商人の方を当たるよ」

 

って、先輩。カリナとシスティを連れて立ち去った。俺達はまず宿屋にチェックインだな。勇者一行が泊まっている宿屋を目指した。

 

 

宿にチェックインして、街を散策しに外へと出た。メンバーは俺とミトだ。他のメンバーは孤島宮殿で待機してもらう。必要に応じて呼び出すことにした。人数が多いと目立つからである。あと、美味しそうな香りに釣られて、迷子が出そうだし。

 

宿を出て直ぐに、美味しそうな香りがしているし。ポチタマコンビならば、ダッシュしたかもしれない。焼きイカ、焼き貝…おぉ~。大人買いして、俺とミトの分以外は、孤島宮殿へ転移させていく。

 

焼き串エリアを抜けると、迷宮での出土品を売る屋台が並んでいた。

 

「あっ!マジ…」

 

ミトがナニかを見つけて固まっていた。なんだろう?って、俺も欲しい物を見つけて固まった。なんで、これがここにあるんだ…

 

ミトが見つけたのは『テニ×勇』のヤマトのフィギュアである。王祖ヤマトの名前の由来になった、ミトの好きなアニメの主人公のフィギュアだ。そして、俺の方は国際救助隊の緻密基地の模型である。

 

「なぁ、これって、どこにあったんだ?」

 

露天商に訊いた。

 

「そりゃあ『夢幻迷宮』だろ。常連の冒険者から買ったヤツだ。たしか、迷宮内で灰色の岩が立ち並ぶ幻の街を歩いていて見つけたって言っていたぞ」

 

何?迷宮に行けば、まだあるのか…って、向こうの世界と繋がっているのか?

 

俺は迷わず、フィギュアと模型を買い取り、孤島宮殿に持ち込んで、ナナとアーシア、パリオンを引き連れ、『夢幻迷宮』の迷宮核の部屋を目指した。迷宮核があれば、捜索が楽になるからだ。

 

この迷宮だけは、どうしても手に入れたい。俺とミト、もしかするとアリサにとってのお宝が眠っているはずだからだ。

 

「マスター、名義を変更しました。リンクを確認しました」

 

これで、ここも俺の迷宮だな。

 

「じゃ、アーシア。灰色の岩の立ち並ぶ幻の街の位置を調べてくれ」

 

「了解しました」

 

 

 

---ミト---

 

まさか、ヤマト君と出逢えるとは…あの迷宮には何かあるようだ。って、先輩は迷宮核を奪いに行ったようだ。ジェットモグラとコンテナ搭載タイプの飛行機の模型が欲しいらしい。

 

「え!これでどうしたんだ…」

 

兄ぃが模型を見て固まっている。

 

「先輩が買ったんだから、開けちゃダメよ」

 

「未使用じゃないか…なんで、この世界に…」

 

って、既に箱を開けている兄ぃ。おい!

 

「アイツは?」

 

「この迷宮だけは、誰にも渡せないって…迷宮核を奪いに行ったわよ」

 

確かに、こんな物がある迷宮を誰にも渡せない。

 

「そうなのか…あぁ、このギミックってこうなっているんだ」

 

って、先輩の模型で遊んでいる兄ぃ…

 

 

 

---メリーエスト---

 

宿で留守番である。ルススとフィフィもいるので、話相手にはなるが…外が騒々しくなってきた。何かな?

 

「――イタチ帝国の飛空艇? それも快速の駆逐艦タイプのが三隻います」

 

フィフィが空を見上げ、声を上げた。イタチの飛行艇?ペンドラゴン卿に会いに来たのか?って、お忍びで会うはず。では、追っ手か?

 

ドタバタと階段を駆け上がる音が聞こえて、ノックも無しにサガ帝国の文官服を着た女性が部屋に飛び込んできた。勇者付き文官のノノだ。

 

「大変です。メリーエスト様」

 

「何事ですか?」

 

「は、はい!実は――」

 

彼女が答えるよりも速く、闖入者が姿を現した。

 

「お、お待ち下さい」

 

「邪魔よ、どきなさい」

 

闖入者を制止しようとしたノノがはね除けられた。フィフィとルススが臨戦態勢を取った。

 

「あなたがサガ帝国の勇者?初めまして、私は皇帝陛下直属の宮殿騎士団の一翼を担うリートディルトよ」

 

エラそうな女性騎士のようだ。

 

「初めまして、リートディルト様。私はサガ帝国のメリーエスト・サガと申します」

 

「何…皇女だと…」

 

私をあのロリ勇者と間違えるとは…彼女は間違いに気づき、表情が凍り付いている。

 

「宮殿騎士殿、勇者ハヤト様は魔王討伐の為に『夢幻迷宮』に出かけておられます。先触れの使者をいただけたら、宮殿騎士殿に無駄なお手間を取らせずに済んだはず…」

 

「そう、なら仕方ないわね」

 

って、部屋を出て行った。皇女である私への無礼は詫びないのか?まぁ、関わりたく無いから、別にいいけど。

 

「皇女様、リートディルト様の無礼にご立腹の事と思われますが、なにとぞご寛恕ください」

 

随伴騎士の筆頭らしき者が主人に代わって謝罪し、正式なお詫びは後日に必ずすると告げて去って行った。

 

彼がいなくて良かった。彼がいたら、私に対する無礼な行為で、彼女の首を刎ねていたかもしれない。もう、彼には血塗られて欲しくない。安らかに生きて欲しいもの。

 

 

 



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夢幻迷宮

01/20 誤字を修正


灰色の岩が立ち並ぶ幻の街に来た。周囲を濃い霧で囲まれていた。囲まれているエリアは、そんなに広くは無いが、岩を削ってビルやアスファルト風の地面が再現されていた。

 

街を探索すると、半分石になったマンガ本が沢山転がっていたり、出来損ないのフィギュアが山のように積み重なっている。

 

「これって、石を物質変換したみたい」

 

って、パリオン。物質変換の能力者が、作った産物なのか。産まれ育った世界を懐かしんで…

 

壁には筆で書き殴ったような文字が描かれていた。

 

『カエリタイ』

 

と…その後も探索したのだが、元の世界へと通じるゲートは、なかった。この能力者が欲しい…

 

「アーシア!探してくれ!」

 

「了解です」

 

ここの迷宮核ともリンク済みの彼女が、目的の人物を探査してくれている。

 

 

「エロい…」

 

先日遭遇した宮廷騎士の女性が目の前にいる。鎧や衣服が乱れた上に、白濁した粘液に塗れた女騎士は、18禁な世界の住人に見えてしまう。だけど、俺の触手は動かない。ナナの分析能力に寄り、白濁粘液の正体は、火魔法で加熱されて変質したスライムの残骸だからだ。彼女以外に生きていそうな者はいない。ほぼ閉鎖空間である場所で、スライムに火を放ったバカがいたようで、彼女以外の者は炭にになっていた。

 

「たぶん、スライムに取り込まれて助かったのかもね」

 

って、パリオン。回復コンポは掛けてあるので、メリーが留守番をしてくれている宿の部屋へ転移させた。

 

「で、見付からないのか?」

 

アーシアに訊いた。

 

「探索中です」

 

物質変換の能力者を探索中に、あの18禁の女体が発見されたのだった。

 

 

勇者一行の使っている中継基地に来た。吸血鬼の一団がポーター達を手に掛けていたのを、探索中に見つけてしまったのだった。見過ごすことは、出来ないよな。俺達は現場へ転移をして、吸血鬼達を血祭りに上げていく。

 

更に、「擬態」の種族固有能力を持つ擬態火蜥蜴と「光学迷彩」という種族固有能力を持つイリュージョニー・ゴーレム、レベル60の溶岩ゴーレムが潜んでいた。

 

魔神にジョブチェンジをした。横にパリオンがいて、ナナはアーシアを護る盾になった。

 

勝負は一瞬で着いた。パリオンの天罰と俺の天罰を喰らい、まだ見つけていないヤツも含めて、この場にいる魔物総てを塩に替えた。つまらない戦闘だな。

 

「パリオンって、攻撃って、それしか無いの?」

 

「うん…こんなものだよ、神って…」

 

あぁジョブを戻さないと。って、戻した処で、不死王になるだけだが。ジョブチェンジを終えると、新たな敵が襲い掛かって来た。今度は?だ。

 

「これは何?」

 

「ドッペルゲンガーです」

 

って、アーシア。魔物のようだ。魔剣を手にして、切り裂いて行く。斬り裂くとドロリとした乳白色の液体に変異して消えていく。

 

 

しばらくすると、ロリ勇者達が戻って来た。

 

「なんで、貴様がここに…」

 

「取り立てに来ました。装備のレンタル代を払え!」

 

「これは、元々、俺の物だ」

 

「メリーが交渉して、この迷宮でのお宝は俺の物にしたはずだ。おい、稼ぎを出せ!」

 

いきなり聖剣アロンダイトを振り抜き、『閃光延烈斬』を、俺に放ってきた。なんだ、コイツ!

 

その剣撃を拳で弾いたテンちゃん。あれ?いつの間に来たんだ?

 

「アルジェント卿、大丈夫か?」

 

ミトとリザ、リーンもいた。

 

「メリーから連絡があって、来てみたのよ」

 

あぁ、女騎士の件か…剣がぶつかり合う音がしている。勇者と先輩がヤリ合っていた。

 

「一人で、アレコレするな!心配をさせるなよ、先輩…」

 

ミトが俺に抱きついた。心配してくれたんだ。

 

「で、迷宮核は?」

 

「ゲットした。今、アーシアに探索して貰っているんだ。物質変異能力者をね」

 

「そんな能力者がいるの?わかった。みんな、アーシアをガードして」

 

「にん」

 

「にんにんなのです」

 

タマとポチも来ていた。

 

「何をしているんです!」

 

メリー達もミトが連れて来ていた。エロ勇者対策だな。

 

「メリーエスト様?いや、偽物だな!」

 

メリー達を襲うサガの黒騎士達。俺はメリー達を助けに入る。黒騎士達の首から血柱が上がっていく。

 

「アール様…ルスス、フィフィ、アール様にもう…背負わせないで!」

 

「「御意!」」

 

ルススとフィフィが黒騎士達に対峙した。

 

「主様、もう血塗れにならないでください」

 

メリーに抱きつかれた。あぁ、また殺戮をしそうだったな。

 

「ロレイヤ、何をしているのだ!」

 

「え…パリオン神様…どうして、ここへ…」

 

「私の主と共に来たのだが、どうして私達を攻撃するのだ?」

 

ロレイヤとは、エロ勇者の従属でパリオン神官な為、パリオンを認識できるらしい。

 

「ハヤト様、この方達は、本物です!」

 

その声で、剣戟の音が止んだ。

 

「セイナ…おい!大丈夫か?」

 

リーンが重体な女性に声をかけていた。彼女もロリ勇者の従属なのか?

 

「主様…」

 

リーンにお願いされた気がした。なので、回復コンポを掛けて上げた。淡い緑色の光に包まれ、光が霧散すると、軽傷程度になっていた。

 

「あぁ、リーングランデ様…ここは天国?」

 

あ、彼女達の記憶ではリーンは死んだことになっていたはず。

 

「生きているよ、セイナ!」

 

セイナに抱きついたリーン。

 

 

「何故、パリオン神様が一緒にいるんだ?」

 

「ロリ勇者は、パリオンに惚れたのか?」

 

現状のパリオンの姿は、ロリ勇者のストライクゾーンである。

 

「神様に?滅相も無い」

 

って、ロリ勇者はパリオンに見とれている。一方オッパイ聖人である先輩は、ゆるふわタイプの巨乳美女のロレイヤをロックオンしていた。

 

「で、ゲートはあったのか?」

 

って、ミトに訊かれた。

 

「無いよ」

 

見て来たことを話した。

 

「岩や石を削って作ったのか…」

 

「そうみたいだ。だから、それを作ったヤツを、アーシアに探索して貰っているんだ」

 

しかし、アーシアの探索でヒットしなかった。すでに死んでいるのか?

 

「サトゥー、頼みがある」

 

「なんでしょか?」

 

共闘の申し込みのようだ。俺にでなく、先輩にだ。

 

「じゃ、俺は俺のしたいようにする。また、みんなを呼ぶかもしれない」

 

「いつでもお呼びください」

 

と、リザ達が俺に跪いた。それを見たロリ勇者は、顔が引き攣っている。先輩の戦力は、先輩以外だと、カリナとシスティだけだし…

 

僕の仲間達は孤島宮殿へ転移していった。残ったのは、ミトとメリー、ルスス、フィフィ、リーンと、アーシア、ナナ、パリオンである。

 

「あれ…?サトゥー…お前の従属で無いのか…」

 

「俺は士爵ですよ。従属を大量に持てないけど」

 

宛てが外れたロリ勇者。まぁ、アッチはアッチでどうにかなるだろう。

 

「で、どうするの?」

 

ミトに訊かれた。

 

「魔王をロリ勇者よりも先に倒すか」

 

って、向こうは倒しに行く戦力がいない気がする。前衛はロリ勇者とカリナだけで、先輩はサポート系だろうし。

 

「メリーエスト、リーングランデ、フィフィ、ルスス…なぁ、戻って来てくれないか?」

 

ロリ勇者が、目の前でスカウトを始めた。

 

「お断りします。私達は、主様に不満がございませんから」

 

って、メリーがきっぱりと拒否した。

 

「そんなことを言うな。頼む」

 

って、メリーに土下座した勇者。頼む相手が違うだろうに。

 

「私に頼んでも、どうにもなりませんよ」

 

って、間違いを指摘するが、メリーに懇願するロリ勇者様。

 

「まぁ、いいや」

 

俺は裏方で…

 

「メリー、貸し賃をきっちり払わせろよ!」

 

そう言い残し、メリー達をロリ勇者の周辺に置いて行く。

 

 

そして、再び、迷宮核の部屋。迷宮の設定を弄る。あのドッペルゲンガーは、紛らわしいので、出さない方向に設定を変えていく。

 

「おぉ…」

 

出現可能モンスター欄に、冥界スライムがいた。これは…出現する方向にした。ドッペルゲンガーの代わりに…冥界スライムとは、女性の出す分泌物をエサとする魔物で、分泌を促す液体を注入して、布や糸の類いは溶かす粘液も持っているのだ。

 

「先輩、何をしているの…はぁ?冥界スライムって…あれだよね?別名エロスライム…」

 

「そうそう。男性には目をくれないので、男性は安全だと言える」

 

ちなみに、魔物のメスにも効果があるらしい。

 

「先輩…鬼でしょ?」

 

「女体の淫らな姿って、見たいからなぁ~」

 

男である証拠…いや、まだ人間臭さの残っている証拠だよ~。

 

ミトは溜息を吐いていた。

 

 

先輩に呼び出された。

 

「勇者達は、魔王退治に行ったんだ。俺たちは魔王の守護者を倒す事になったんだ」

 

って、先輩の周囲にはカリナとシスティしかいない。メリー達は勇者に付いていったそうだ。

 

「守護者って?」

 

「9体いるらしいんだが…」

 

「ふ~ん…」

 

「まさか…お前…」

 

「俺には便利な機能がないから…敵は速やかに消すだけですよ、先輩!」

 

守護者って表示は俺には出ないし。

 

「もういないようです」

 

って、アーシアの声。

 

「じゃ、残るは、勇者よりも先に、魔王退治だけかな?アーシア、魔王の位置を探査してくれ。見つけたら、そこから出すな」

 

「了解しました」

 

「お前…チートな狩りだなぁ~」

 

って、チートの総合商社に言われたく無い。

 

 

魔王…俺とミト、先輩、テンちゃん、アーシアにパリオンの前では、単なる魔物と代わらない。ほぼ瞬殺であった。

 

「反則に近いだろ?」

 

って、先輩。う~ん、チータが3名の時点で反則だと思うが、そこに天龍に女神に、迷宮核だろ?反則過ぎる気がする。

 

絶対防御?天罰による塩化は防げなかった。塩化した部分は、空かさず拳で粉砕していく俺。俺とパリオン以外だと、塩化現象が伝染するらしいので。

 

まさか、迷宮核の部屋の隣にある迷宮主の部屋に転移してくるとは。それも、鼠の魔王と、イタチの魔王が2体も。飛んで火に入るなんとやらだった。

 

そして、そのうちの一体から、とあるスキルを『強奪』しておいた。『物品召喚』…これがあれば、欲しい物を召喚出来るようだ。異世界で通販生活が出来るとは…

 

試しにミトの読みたいコミックを召喚すると、召喚できた。

 

「すげぇ~!」

 

って、先輩。先輩には、男性専用の筒型装置をギフトした。

 

「これって、使うと女性要らずになるヤツだろ?」

 

「娼館に行けない時に使ってください」

 

などと会話しながら、逆方向から勇者一行の元へと向かった。

 

 

ようやく合流出来た勇者一行はスライムの大群に襲われていた。

 

「あれって、冥界スライムだよね?」

 

って、ミト…メリーやリーン達女性陣の18禁的な裸体にロックオンする俺と先輩。既にロリ勇者を含む男性陣は、目の前で繰り広げられるAVさながらな事態に固まっていた。

 

「これをしたくて、設定したのね」

 

って、呆れているミト。

 

「いやいや…ここまでとは…以後、使用は控えます」

 

って、くらい、壮絶なことになっていた。俺ですら唖然とする事態であった。この世界の冥界スライムは危険だ。

 

で、ロリ勇者は魔王を倒すことも無く、まだまだ当分、この世界に居残り決定である。

 

「なるほど…取り立てが終わるまで、元の世界への帰還は許さないのね」

 

って、ミトが苦笑いしている。えぇ、今回のメリー達のレンタル代も貰わないとねぇ♪

 

 

 



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サガ帝国の勇者達

 

 

 

ロリ勇者が文句を述べている。要約すると「勇者の獲物を掠めるな」ってことらしい。誰が、魔王は勇者の獲物って決めたのだろうが。俺にとって、このロリ勇者は、借金塗れの男に過ぎないのだが。

 

「おい、武具と、メリー達のレンタル料を払え。払う気が無いなら、魔王は総て俺達が狩るからな」

 

「はぁ?お前らに、魔王を狩る権利は無いだろ?」

 

借金塗れだと、言う事も強欲に塗れているな。魔王なんか、誰が倒しても良いと思う。それこそ、早い者勝ちだと思う。

 

「メリー、並行線だよ」

 

なんか交渉するのも疲れて来た。メリーに丸投げかな?

 

「そうですね。どうしましょうね。借金の担保に何かを貰いますか?」

 

借金の担保か?って、コイツ、何か財産があるのか?武具、防具共に差し押さえていたはずだ。

 

「先輩、アロンダイトを預かるのは?」

 

ミトは勇者から武器を奪い取った。では、俺は防具一式を『強奪』し、返却してもらった。。

 

「おい!お前らは追いはぎか?」

 

そもそも追っていないし。

 

「借金の取り立てだよ。勇者なんだから、約束は護ろうぜ!」

 

「それが無いと、魔王が倒せないでは無いか…」

 

俺達を睨むロリ勇者。

 

「だから、こちらで魔王は処分しておきますよ。あぁ、魔王の処分代も、借金に上乗せしておきますね」

 

って、ミト。払えないのに、上乗せって…それも、どうかと思うが。

 

「何?払う義務は無いぞ…」

 

借金の払う義務が、勇者には無いのか?それは、人としてどうなんだ?既に人では無い俺が言うのもなんだけど…

 

「なら、塩になりますか?ロリ勇者一行様は」

 

身構えるロリ勇者。従属の者はロリ勇者から離れている。いや、メリーやリーンの傍にいるし。塩の像にして、閲覧料とか拝観料でも取るか?

 

『先輩!借金踏み倒し程度で、天罰は使わないでね』

 

って、ミトからメッセージが届いた。他に手立てがあるのか?ロリ勇者を置いて、宿へ転移した。身ぐるみ剥がれ、眷属に見放された勇者は、迷宮が無事に脱出出来るのだろうか?死亡保険があるなら、それで返却でもいいけど…

 

 

先輩達は、イタチ帝国の王弟のお目通り中である。現在、経過報告連絡待ちである。ここは孤島宮殿である。久しぶりに、のんびりとしている。

 

『デジマ島が、イタチ帝国から独立するそうだ。後盾になれるか?』

 

って、先輩からのメッセージが届いた。たぶん、ミト達、転生者にも届いたはずだ。

 

『メリットは?』

 

返信をした。赤字体質の領土ばかりである。メリットが無いとなぁ…

 

『イタチ帝国への密入出国の手引きだな。直近のメリットは…』

 

『迷宮運営の許可も欲しい』

 

『交渉してみるよ』

 

と、一旦メッセージが途切れた。デジマ島なぁ。貿易立国化するのも手だよなぁ。

 

 

1ヶ月後、先輩とミトを見届け人として、デジマ島の独立が承認され、パリオン神国との間に友好条約をが結ばれた。迷宮の運営権は手付けとして、俺に譲渡された。

 

「まさか、パリオン神国の王が、サトゥー殿の仲間にいるとは…」

 

イタチ帝国の王弟の顔から血の気が失せている。そんなにエラいのか?パリオン神国の王って…

 

『当たり前でしょ!』

 

って、ミトからメッセージが飛んで来た。そういえば、ロリ勇者がサガ帝国の王に泣き付き、メリーを通じて、借金を返してきた。で、メリーと今後のレンタル料について、交渉中らしい。迷宮から無事に戻れたようだ。

 

デジマ島との交渉が終わり、先輩、カリナ、システィはサガ帝国へ向かった。勇者の召喚陣の見学だと言う。俺は領内の見回りに戻った。問題点を聞き、改善をしていく。当面の予算は、サガ帝国からの取り立てが軍資金になる。

 

 

仕事の合間に、うたた寝をしていると、ミトと共にどこかに転移した。どこへ連れ出すのだ?疲れ切って、性欲すら無いぞ。

 

転移した先には、高飛車系の少女と困った顔の先輩、それを囲み神官達がいた。これは一体、どういう状況だ?

 

「え?ヒカル…アールを連れ出したのか?」

 

「えぇ、埒が明かないみたいだし。ちょっと、そこの女子!私の配下の者に敵対心を持っているのはどういう事かな?」

 

「お前は、この性欲魔人の主なのか?まさか、ビッチか?!」

 

ミトのこめかみに青筋がピクピク…ビッチって言っちゃダメだと思う。一応、先輩に一途なんだから…

 

「ビッチですって!何様のつもり?」

 

「私はサガ帝国の勇者、メイコよ!頭が高いぞ、平民よ!」

 

パコッ!

 

そのメイコの頭をメリーが叩いた。

 

「新人勇者のくせに、私の主様達を平民ですって…」

 

メリーのこめかみにも青筋が…あのメイコって、女性を怒らせる天才か?

 

「何するのよ、ババァ!」

 

メイコの取り巻きの神官の顔から、血の気が失せている。独身の皇女に向かって、ババァは無いだろうに…それも、お前の国の皇女だろうに。

 

「この新人勇者の監督責任者は誰よ!」

 

「何をエラそうなことを、勇者である私が一番エライのよ!」

 

って、剣を抜きやがった。俺は聖剣でその剣を受けとめた。

 

「おい!メリーに何をするんだ」

 

皇女に斬り掛かるって、有り得ないと思う。

 

「お前…魔王か?ここで会ったのが運の尽きね。殺してやる!」

 

殺す?既に死んでいるんだが…まぁいいか。

 

「塩になりたいか?」

 

「塩?アンタ、バカなの?」

 

まぁ、バカかも知れない。メイコの剣を塩にしてやった。

 

「えっ!どうして…」

 

神官達が俺を取り囲んだ…

 

「まさか…メリーエスト皇女様の…アール公爵様ですか…」

 

一番エラそうな神官が、一歩前に出て、俺を牽制いている。その瞳は尊敬では無く、畏怖なる色をしている。化け物認定か?一方、配下の者はメイコを取り押さえ、手足の動きを奪っている。

 

「だと、したら?」

 

「召喚されて間もないので…教育が行き届いていませんでした。この場を収めてくださいませんか?」

 

って、勇者メイコがイカンのだろうに。

 

「メリーに対して、剣を抜いたんだぞ。それって、皇女の暗殺未遂だよな?後、シガ王国のミト・ミツクニ公爵に対しての差別発言をした上で、平民呼ばわりしたし。俺をバカだと断定した。それで、どう収めろと言うんだ。あぁ、後、同僚のペンドラゴン卿に対して性欲魔人と発言もしたな。なぁ、天罰を喰らっておくか?」

 

俺の隣にパリオンとアーシアとテンちゃんが転移してきた。

 

「えっ!パリオン神様…」

 

あの神官って、パリオン神殿の神官なのか?

 

「わが主である、パリオン神国の王を怒らせたのは、ドイツだ?!」

 

「まさか、このお方が国王様ですか…」

 

神官達がパリオンにひれ伏せると、メイコが自由になった。何をしているんだ?場が混乱していく。

 

「コイツらは魔王だ。おい!この場で屠ってやる!」

 

って、違う剣を抜いた。

 

「パリオン、どうすればいい?」

 

勇者は流石に殺しちゃダメだよな。

 

「なんで、こんなバカを召喚したのでしょうね、この国は…」

 

パリオンにすら、バカと認識されているメイコ。

 

パーン!

 

天空からの稲光が、メイコの振り上げた剣に落雷した。カグヤすらキレたようだ。全身から煙を上げるメイコ。戦うまでも無いってことか?

 

「じゃ、先輩、俺達は帰るよ」

 

「あぁ、すまん。休み中のところ…」

 

孤島宮殿に転移した俺達。ロリ勇者といい、なんで、こんな奴らをサガ帝国は召喚しているんだ?

 

 

 

 

 



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SS:インターミッション

サトゥー視点です。



 

 

 

俺一人で、サガ帝国へやって来た。現在、メリーエスト皇女が、ロリ勇者との借金問題を話し合っていて、利子の一部として、この国にある勇者召喚の儀式場の見学権利を、もぎ取ってくれたのだ。その見学に俺を指名したヒカル。

 

「いい?できる限り解析をして、壊せる物なら壊せるか計画を立てて来てね」

 

って、俺にミッションを与えたのだ。俺もヒカルもアールも、もう退路は無い。ならば、これ以上召喚出来ないようにさせて、三人で魔王に対処すれば良いって、結論である。最近、勇者は1体も魔王を倒せていない。アールが仕留めているからだ。

 

「こちらです」

 

メリーエスト皇女の案内で、儀式場へと案内される。

 

「ミト様の指示は聞いております」

 

俺とメリーエスト皇女が載る馬車をガードするように、ルスス、フィフィ、リーングランデが馬に騎乗して一緒に移動している。万が一に備えて、ヒカルが俺をモニターしている。妄想は危険が一杯である。アールのように凹まされるかもしれないから。

 

勇者の召喚陣は帝都では無く、旧都にあると言う。

 

「どう?交渉の方は」

 

「事情は父に報告してありますので、払ってくれる方向です。父もアール様の手腕に惚れていますから」

 

アールの事を嬉しそうに話すメリーエスト皇女。彼女にとっても、アールは英雄なんだろうな。リーングランデ、セーラ姉妹に負けないくらい。

 

「あれが勇者の丘です」

 

見晴らしの良い丘の上にはギリシャ風の神殿が建っている。床、柱、天井だけの構造で壁は無いようだ。近くまで行き、場所から降りて、神殿を見て回る。

 

「メリーエスト殿下、この方があのペンドラゴン卿ですか?」

 

「えぇ、そうよ。私の主様の同僚の方ですから、粗相のないようにね」

 

渋い顔をした年配のパリオン神殿のエラそうな方に、メリーエスト皇女が事務的な口調でそう告げた。

 

俺とメリーエスト皇女に何か言いたげの神殿関係者。

 

「では、こちらへどうぞ」

 

儀式場への侵入を阻む結界を解除した神殿関係者に続いて、儀式場へと俺達も足を踏み入れた。

 

一見普通の神殿だが、魔力視を有効にすると、床の魔法陣だけじゃなく、天井や柱などにも、積層型の魔法陣が複雑に刻みつけられている。それぞれの魔法陣は相互に作用し合う形のようで、芸術的な魔法陣に思える。これを解析するのは困難だな。魔力視のレイヤーを何段かに分けて、記録していく。この場での解析は無理っぽいから、

 

エネルギーの流れに目を向けると、「勇者の丘」の地下全体が魔力を蓄積する巨大な魔法装置になっているようだった。これって、丘を破壊すれば機能しなくなるのでは?

 

『先輩、地脈からのエネルギーが都市核ではなく、その丘に吸い上げられているみたいだ』

 

って、アールからメッセージ。うん?アイツ、こっそりとここの都市核を奪ったのか?

 

『兄ぃ、違うよ。アーシアが解析したらしいわ』

 

ってヒカル。俺の心が読まれているのか。思ったことがダダ漏れなのか。

 

『お願いだから、妄想はしないでね』

 

って、ヒカル。アールは妄想しまくりだものな。

 

「そろそろ満足しましたか?」

 

神殿関係者は俺達を、早くここから出したいようだ。サガ帝国の秘密事項だものな。ここって…

 

「ええ、ありがとうございました。神秘的な雰囲気に恥ずかしながら我を忘れてしまいました」

 

詐称スキルで、この場を乗り切る。ここの魔法陣は、地下の隠し魔法装置も含めて完璧にトレースしたので、幾らでも複製ができると思う。

 

「神殿長! メイコ様が…」

 

「ら、来客中ですよ」

 

神殿を出ようとすると、神殿関係者の元へに、巫女が駆け込み、声を掛けた。この神殿関係者は神殿長だった。エラそうな訳だ。

 

メイコって、日本人ぽい名前だったので検索してみると、「メイコ・カナメ」という新しい勇者が旧都を散策しているようだ。ロリ勇者の次を召喚していたのか。そうなると、俺が来る前に、召喚を終えたのであろう。

 

「知っていましたか?」

 

メリーエスト皇女に訊いた。

 

「訊いていませんよ。今度の勇者は真面だと良いのですが…」

 

彼女のユニークすきるは4つもあるし。大丈夫か?「最強の刀」「無敵の機動」「無限武器庫」「先見の明」なんか、戦闘特化過ぎるスキルだな。問題はレベルである。召喚されたばかりなののに、レベル60もある。何でレベル上げをしたのだ?

 

二人で馬車まで戻った。リーングランデ達が、俺達に近づいて来た。

 

「なにか遭ったのですか?」

 

「あのバカがまだ入るのに、新たな勇者を召喚していたのよ」

 

「え?!」

 

リーングランデ達も訊いてなかったようだ。

 

「神殿長の暴走でしょうか?」

 

「マサキが魔王を討伐して、帰ると信じていたのでしょう」

 

まぁ、魔王を倒すことだけが勇者の仕事だしな。俺達と仕事の内容は違うし。

 

「ペンドラゴン卿、街をご案内します」

 

メリーエスト皇女に、旧都を案内してもらうことになった。

 

 

勇者達の御用達のお店が多い。ラーメン屋や和菓子店、甘味処もあるし。

 

「メリーエスト皇女、今度、アールを連れ歩くと良いと思いますよ」

 

「そうですか?」

 

今日一番の笑顔を見せたメリーエスト皇女。アイツ、ラーメン好きだものな。土産物屋には歴代勇者のフィギュアや勇者神殿の模型がある。

 

「もう!どうして、砂糖漬けみたいな甘ったるすぎるのか、和菓子しかないのよ!可愛いケーキやパフェはないの!」

 

振り返ると、勇者メイコがいた。見た目生意気そうな少女である。

 

「すみません、メイコ様。シガ王国には『ペンドラゴン卿のケーキ』というのがあるそうなのですが」

 

「へんどらこーん?けったいな名前ね。まあ、いいわ。直ぐに買って来なさい!」

 

「え?!」

 

「それを買ってきなさいって言っているの。二度も言わせないで。他国で買えないと言うなら、その国を占領して、属国にして貢がせなさいよ!」

 

アールが訊いたら、キレそうなことを言っている。ケーキの為に占領だと?!

 

俺達はスルーして立ち去ろうとすると、

 

「ちょっと!そこの黒髪!」

 

瞬動術で俺の目の前に立ちはだかった勇者メイコ。

 

「私ですか?」

 

「ええ、そうよ!あんた地元民でしょ?あたしは生クリームに飢えてんの!買ってきなさいよね!」

 

剣に手を掛けている。拒否すれば、即打ち首か?どうするよ、これ…

 

「ロレンス!メイコ様を神殿に戻せ!今日はあのペンドラゴン卿が来るから、外に出すなと言っただろう!」

 

そこにエラそうな神官風の銀髪男が飛び込んで来た。あのって、どの?

 

「ウ、ウォーレン様!」

 

しかし、俺と目が合った神官ウォーレンが、顔を青ざめさせた。俺の顔を知っているようだ。

 

「ペ、ペンドラゴン卿?!ま、魔王殺しが、どうしてメイコ様と一緒に?!」

 

魔王殺し?それはアールのことだと思うが。

 

「魔王殺し?一人で魔王を倒したっていうシガ王国の勇者?」

 

「私が勇者ですか?もしかして、同僚のアールとお間違えでは?」

 

間違った情報は訂正しておかないと。

 

「メイコ様、このペンドラゴン卿は…」

 

神官ウォーレンが小声、で勇者メイコに耳打ちする。

 

彼が話す内容は、概ね間違っていないが、その殆どは俺では無くアールのことである。

 

「よ、寄らないで!この性欲魔人!」

 

性欲魔人?娼館通いの趣味が…否定された気分だし。

 

「何かの誤解では…」

 

「十人以上の女性を侍らせて、小学生くらいの女の子から大人まで毎晩一緒に寝ているんでしょ!」

 

「それは、俺で無くて、同僚のアールですが、決して、私のことでは無い」

 

システィとカリナの二人としか寝ていないし。

 

「聞きたくない、聞きたくない!この女の敵め!成敗してくれるわ」

 

再び、剣に手を掛けた。その瞬間、更に状況がカオスになっていく。ヒカルとアールが転移してきた。見るからに、うたた寝をしていたようなアール。メリーエスト皇女とリーングランデが、アールの腕に抱きつき、スリープモードの心臓を再起動させていく。

 

「え?ヒカル…アールを連れ出したのか?」

 

「えぇ、埒が明かないみたいだし。ちょっと、そこの女子!私の配下の者に敵対心を持っているのはどういう事かな?」

 

「お前は、この性欲魔人の主なのか?まさか、ビッチか?!」

 

ヒカルのこめかみに青筋が…ブチ切れたか…元勇者様は…

 

「ビッチですって!何様のつもり?」

 

「私はサガ帝国の勇者メイコよ!頭が高いぞ、平民よ!」

 

パコッ!

 

そのメイコの頭をメリーエスト皇女が叩いた。

 

「新人勇者のくせに、私の主様達を平民ですって…」

 

メリーエスト皇女のこめかみにも青筋が…

 

「何するのよ、ババァ!」

 

メイコの取り巻きの神官の顔から、血の気が失せている。独身の皇女に向かって、ババァは無いだろうに…

 

「この新人勇者の監督責任者は誰よ!」

 

冷静沈着なメリーエスト皇女がキレたようだ。

 

「何をエラそうなことを、勇者である私が一番エライのよ!」

 

って、遂に剣を抜いた。そして、メリーエスト皇女に斬り掛かるが、アールが聖剣でその剣を受け止めた。

 

「おい!メリーに何をするんだ」

 

アールがキレている。どうなるんだ、この局面は…アールのストッパーであるヒカルとメリーエスト皇女は既にキレているし。

 

「お前…魔王か?ここで会ったのが運の尽きね。殺してやる!」

 

アールの本質を垣間見たのか?だけど、アールは魔王では無い、寧ろ魔神だぞ…

 

「塩になりたいか?」

 

天罰か?こんなバカに天罰って降りるのか?

 

「塩?アンタ、バカなの?」

 

メイコの剣だけが塩化した。バツ以前の問題なんだと思う。

 

「えっ!どうして…」

 

勇者メイコは塩化がどういう意味かをまだ知らないようだ。その御業を目にして、神官達がアールを取り囲んだ…

 

「まさか…メリーエスト皇女様の…アール公爵様ですか…」

 

一番エラそうな神官が、一歩前に出て、アール俺を牽制いている。その瞳は尊敬では無く、畏怖なる色をしている。アールは化け物で、敵という認識のようだ。

 

一方、配下の者はメイコを取り押さえ、手足の動きを奪っている。

 

「だと、したら?」

 

メリーエスト皇女の国である為か、割と冷静なアール。

 

「召喚されて間もないので…教育が行き届いていませんでした。この場を収めてくださいませんか?」

 

頭を下げずに、いつでも斬りかかれる体勢の神官。

 

「メリーに対して、剣を抜いたんだぞ。それって、皇女の暗殺未遂だよな?後、シガ王国のミト・ミツクニ公爵に対しての差別発言をした上で、平民呼ばわりしたし。俺をバカだと断定した。それで、どう収めろと言うんだ。あぁ、後、同僚のペンドラゴン卿に対して性欲魔人と発言もしたな。なぁ、天罰を喰らっておくか?」

 

アールの隣にパリオン神とアーシアとテンちゃんが転移してきた。アールを止めに来たっぽいなぁ。

 

「えっ!パリオン神様…」

 

あの神官って、パリオン神殿の神官なのか?パリオン神を認識出来ているようだ。 

 

「わが主である、パリオン神国の王を怒らせたのは、ドイツだ?!」

 

「まさか、このお方が国王様ですか…」

 

神官達がパリオン神にひれ伏せると、勇者メイコが自由になった。何をしているんだ?場が混乱していく。

 

「コイツらは魔王だ。おい!この場で屠ってやる!」

 

って、違う剣を抜いた。

 

「パリオン、どうすればいい?」

 

戸惑うアール。

 

「なんで、こんなバカを召喚したのでしょうね、この国は…」

 

呆れているパリオン神。神と魔神と天龍を魔王認定って…

 

パーン!

 

天空からの狙撃…稲光が勇者メイコの振り上げた剣に避雷した。全身から煙を上げて倒れる勇者メイコ。誰も、彼女を介抱しようとしない。違う天罰が舞い降りたようだ。

 

「じゃ、先輩、俺達は帰るよ」

 

「あぁ、すまん。休み中のところ…」

 

アール達異形なる者達だけ、孤島宮殿へ帰っていった。

 

「皇女として宣言をします。その新米勇者を、牢へ入れて反省と教育をさせなさい。我が国の恥です。表に出さないようにしないさい」

 

神官達は天空からの狙撃を目にして、皆腰を抜かし、メリーエスト皇女の指示に従う者は、誰もいなかった。

 

 

 



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イタチ帝国再び

先輩は二人の巨乳を連れて、イタチ帝国へと向かった。俺は、緊急事態に備えて、待機中である。

 

領土が増えているはずなのに、赤字がまるで減らない。困った。メリーと共に悩む。

 

「赤字幅は徐々に狭まっております。ここは耐えどころかと思いますよ」

 

情報を分析したメリーの答え。まぁ、迷宮が機能すれば、稼げるはずである。魔物のプールは、揺りかごにたんまりある。あれを魔物が不足した迷宮へ転移させれば、難関な迷宮が出来るはずだ。

 

「迷宮の運営者を増やさないとダメかもね」

 

って、ミト。管理は万全である。アーシアがいるし。イレギュラーが出ても、天ちゃんと俺で問題が無いし。運営者なぁ。ゼナを運営部門のトップにして、運営は丸投げしている俺。営業している迷宮は、ゼナの処と迷宮都市と、デジマの3カ所である。

 

「公都のは公爵様が運営しれくれるようだよ」

 

って、ミト。そうなると遊んでいるのは王都の迷宮か?先輩が運営してくれると…そうか!エチゴヤに丸投げすればいいのか~。

 

「その丸投げ体質はどうかと思うけど」

 

ミトとメリーが苦笑いしている。そんなこと言われてもなぁ。適材適所が一番効率が良いと思うのだ。

 

 

『レテ市のこの部屋に入ってから、イタチ帝国を出る間での記憶は、それまでのモノとは分別され、イタチ帝国を出た時点で失われます』

 

先輩から情報が送られてきた。記憶操作をされるようだ。って、イタチ帝国での調印は不可だな。記憶に残らないんじゃ、約束ごとは反故にされそうだ。

 

「情報統制をしているのね」

 

同じ情報を得たミトが俺に確認してきた。

 

「そうみたいだな。まぁ、先輩の隣にはいつでも転移できるし、問題は少ないだろう」

 

今回のイタチ帝国潜入に当たって、先輩の心のモニタだけではなく、耳から得た情報、目で捕らえた映像などを、アーシアの持つ地脈ネットワークを使い、揺り篭の迷宮核に転送し、バックアップを取っている。揺り篭内には、トラザユーヤの作った様々な機器があり、ナナ達にやりたいことを伝えると、こなしてくれていた。

 

『通信関係の魔法具の持ち込みは禁止のようだ』

 

先輩からメッセージが届いた。情報が国外に出ることを恐れているようだ。だが、イタチ帝国の皇帝との謁見の意味があるのか?国外に出た瞬間に、謁見した事実を記憶から抹消されるんだろ?はて?

 

「先輩、知恵熱出ますよ」

 

ミトがクスクス笑っている。まぁ、確かに、出そうだよ。って、言うか…おれに熱って言う物は無い気がするが…

 

『レテ市から飛行機で帝都へ移動するそうだ』

 

しばらくすると、先輩からメッセージが届いた。入国審査に時間が掛かったようだ。ちなみにカリナとシスティーナは身分を隠し、先輩の秘書兼メイドとして同行している。

 

その後、汽車に乗り換えて、漸く帝都に着いたようで、帝都のマップデータが送られて来た。結構広いし、人口も多く、奴隷がまるでいないって。裕福な国なのか?なんか、うらやましい。

 

「健康状態も良いみたいねぇ」

 

先輩から発信されるデータを読み解いていく俺達。赤字領主として、俺は裕福な秘密を知りたいと心で思うと、

 

『探れたら、探っておくよ』

 

って、先輩から速攻で返事が。あの人、俺の心をモニタする余裕があるのか!

 

「だって、先輩の心ってダダモレですよ~」

 

って、ミトがニコニコしている。う~ん、隠し事が出来無いのか。迂闊に妄想出来無いなぁ。

 

『これから、迎賓館へ入るぞ。謁見までの時間つぶしらしい』

 

先輩からメッセージだ。時間つぶし?皇帝は忙しいのだろうか?

 

『謁見は3日後だ。帝都散策には護衛という監視役が付きそうだ』

 

警戒されているはずだから、監視役はつくだろうな。

 

 

先輩達はパーティーに招待されたようだ。連れは貴族と王族の娘だから、マナーは問題無いだろう。

 

『軍師トウヤ、レベル55、スキル不明、種族不明、年齢不明…』

 

先輩から収集した情報がメッセージで送られて来た。

 

「種族と年齢が不明?それって、年齢詐称が出来る種族かな?」

 

ある種族が頭に浮かんだ俺。

 

「例えば?」

 

ミトに訊かれた。

 

「エルフ系だよ。見た目で年齢は分からないからねぇ。特にハイエルフには年齢が怖くて訊けないし」

 

「なるほど…」

 

納得顔のミト。

 

『私…若いですよ!

 

アーゼからのメッセージだ。おい、お前も、俺をモニタリングしているのか…

 

「迂闊に言葉に出せないわねぇ~」

 

って、アリサ。いや、心に思ってもアウトだと思う。

 

『地震発生…震度2くらいかな』

 

地震?

 

「あの辺りは断層は無いです」

 

アーシアがいち早く情報を検索して、教えてくれた。

 

「そうなると、地下で核実験か?」

 

「核弾頭を持っているってこと?」

 

俺のつぶやきにミトが反応した。

 

「可能性はあるな。塩害と共に使用を禁止にしたい物だな」

 

核を直撃したら俺はどうなるんだ?

 

『大丈夫。お兄ちゃんは私が護るからね』

 

カグヤからメッセージが届いた。お前まで、モニタリングしているのか?まさか、ミトで妄想したのも、駄々漏れか?

 

『うん。お姉ちゃんで妄想出来るって、猛者だよね』

 

脳裏にカグヤの楽しそうな声が響いた。そうか!逢えないだけで、会話は出来るのか。

 

 

翌日、先輩達は、『ぶれいんず』の本拠地を訪問した。

 

『日本からの転生者が多い。アレを送ってくれないか?』

 

アレ?あぁ、あれか。日本人のソウルフードであるレトルトのカレーだな。とりあえず、1箱ほど取り寄せて、先輩の元へ転移させた。

 

『サンキュー。みんな、涙物で喜んでいるよ』

 

それは良かった。って、転移させて大丈夫だったのか?通信方法を持っていない体だろうに。

 

『ストレージに入れていたって、体だから、大丈夫さ』

 

なるほど。さすが、策士のペンドラゴン卿である。

 

『おい!原潜に核マークの付いたSLBMが積んで有るようだぞ』

 

なんか、恐れていたような事態である。既に核兵器を持っていて、配備済みのようだ。

 

「パリオン、神に核攻撃って、有効なのか?」

 

「う~ん…アコンカグラがマズイかもね」

 

この星自体が危険かぁ。それは、神には効果が無いってことのようだ。

 

『ロケットの発射実験は、衛星軌道狙いのようだ』

 

衛星軌道?ハイエルフの間がヤバいだろうに…おいおい。大樹の枝だって茂っているはずだし。神の天罰よりも、俺の天罰を撃ち込みたいんだが。

 

『おい!自重しろよ、アール』

 

先輩からの制止するような言葉。わかっているよ。今はまだしない。

 

 

スラム街を見学して、迎賓館に戻った先輩であったが、

 

『これから、謁見だそうだ』

 

予定が前倒し?何か不測な事態でもあったのか?謁見へと向かう回廊で、先輩がザコに絡まれた。だけど、瞬殺だった。あれは、俺が出て行くのを防ぐ為か?

 

『あぁ。隠し球は最後に出す』

 

って。俺って隠し球?返球したと見せかけて、グローブに隠している野球ボールだったのか?

 

「おい、そこ!知恵熱出るから、考えるな!」

 

って、ミト。だから、俺には熱が無いんだけど…

 

『賢者トラザユーヤが現れたぞ』

 

はぁ?死んだんじゃないのか?って、イタチ帝国サイドにいたのか?さてと隠し球は、動くか。

 

「アーシア、ナナ!都市核をハッキングするぞ。揺り篭は危険だから、神国の都市核からハッキングしてくれ」

 

「了解です」

 

「命令を受諾しました」

 

「パリオン、二人を頼む」

 

「わかりました」

 

3名が転移し、俺も先輩の元へ転移をした。

 

 

俺の突然の登場に、賢者と皇帝が驚いている。

 

「軍師トウヤとイタチ皇帝か?」

 

「うむ。貴様は何者だ?どうやってここへ侵入したのだ?」

 

「侵入方法h、企業秘密だよ。俺はペンドラゴン士爵の同僚のムーンだ」

 

一応士爵としての爵位名を述べた。

 

「おい、皇帝の前だぞ。頭が高いだろ?」

 

先輩がニヤニヤして俺に忠告をしてくれた。

 

「それよりも、賢者トーヤは死んだのでは無いのか?あぁ、俺は揺り篭の後継者だ」

 

「何?あの揺り篭を踏破したのか?」

 

驚きを隠せない賢者。

 

「あぁ、迷宮核はいただいたいよ」

 

「そうか…エルフのトーヤは死んだ。ここにいるのは、イタチ帝国の軍師トウヤと理解してもらいたい。愚かな私が魔王化するところを、陛下に救われたのだ。そして、あの時に私のエルフとしての人生は終わったのだよ」

 

魔王化?賢者と呼ばれた男がか?目の前にいる軍師トウヤが、自嘲気味に昏い笑みを浮かべた。

 

「旧交を温めるのはその辺りにしておけ」

 

皇帝が口を挟んできた。

 

「トウヤ、神の禁忌について教えてやれ」

 

「神が禁忌として扱ったのは『転生者や転移者による集積回路技術の伝授』『恒常的な大量輸送手段』『都市間の簡易な通信手段』『工場の近代化による大量生産』『活版印刷』の五つだ」

 

なんで、神が集積回路と活版印刷を知っているのだ?神もまた転生者なのか?

 

「禁忌として『扱った』?」

 

先輩は、俺とは違う箇所に引っかかったようだ。

 

「そうだ。神は明確に『これが禁忌だ』とは言っていない。禁忌を起こした国に天罰を与え、その国が禁忌を犯したと神託の巫女を通して通達したに過ぎない」

 

皇帝がニヤリと凶悪な笑みを浮かべて、そう説明してきた。

 

「王弟から聞いた。神に対抗するような手段は『誰もが知るが故に、誰もそこに辿り着けぬ』のだと――」

 

先輩は賢者に訊いた。

 

「答えは宇宙だ」

 

あっさりと答える賢者。

 

「この世界の神の既知の範囲は地上から、せいぜい低軌道。地上から見えない月の裏側あたりにでも、科学技術を継承する施設を造れば、やつらには手が出せぬ」

 

う~ん、多分、カグヤが許さないと思う。そんなチンケの理由で、ゴミを置かせる訳が無い。

 

「トウヤ、キサマが欲しがっていた『賢者の石』と『闇晶珠』が手に入る目処がついたぞ」

 

皇帝は先輩を見つめながら、そう言うと、先輩がストレージから、そのブツ2つを取り出し、賢者に渡した。

 

『アールに任せるよ。宇宙空間の方はさぁ』

 

先輩から、丸投げされたようだ。まぁ、適材適所だな。

 

 

俺と先輩は、司書に連れられて、記録保管庫へ向かった。先ほどのブツは、入館料の類いらしい。

 

「こちらが無限書棚となります」

 

司書がカギを開けると、保管庫の扉が開いた。膨大な石版が保存されていた。その大量の石版を先輩は、ストレージに一旦保管をして、スキャニングをして、保存をしていく。俺と司書は、その驚くべき速読を見守るだけであった。

 

『おい、神の神託が降りて来たぞ』

 

ミトから緊急事態を知らせる赤い文字のメッセージが送られてきた。先輩は、休むことをせずに、スキャニングを続けている。

 

『ザイクーオン神の復活を確認したわ。たぶん、イタチ帝国への天罰っぽいなぁ』

 

ミトにしては声が強ばっている。マジにヤバい状況らしい。ミトで妄想したけど、突っ込みも入らない程に、ヤバいようだ。

 

「アール、終わったぞ」

 

先輩はスキャニングが終わったようだ。司書の人と共に、保管庫を脱出して、俺は先に孤島宮殿へと転移した。そして、指示を出していく。

 

「セーラは公都のテニオン神殿で、今回の信託を受けて来て

 

「わかりました」

 

「俺と、ミト、天ちゃんは、デジマ島で待機。アーシアとパリオン、ナナも合流させるが、天罰だとパリオンはどう行動するんだ?」

 

「神様サイドでしょうね」

 

って、ミト。敵対するのか?後で、カグヤ姉妹にボコられる可能性が大なのだが。そうこうしていると、先輩のお付きの巨乳二人組だけ転移してきた。先輩は、情報収集に向かったようだ。ミトはセーラと共に転移していった。

 

「メリー、ここの指揮を頼む。緊急時には呼び出すから、機動性の良い装備で待機させておいてくれ」

 

「わかりました」

 

「アリサとシズカはここに待機だ。理由は分かっているだろ?」

 

頷く二人。俺はアリサの凶変は見たく無いのだ。シズカが一緒なら、少しは安心だし。

 

「ポチ、タマ、リザもアリサの傍にいてくれ。もし…リザ、頼むぞ」

 

「わかりましました」

 

多くを言わないでも、理解してくれるリザに感謝である。

 

 

 



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混戦の末に

 

「さあ、往け! 月の魔神の封印を砕き、眠れる神を呼び起こせ」

 

イタチ皇帝が妙な事を言う。しかし、彼の目論みは外れ、発射台ではロケットが魔王により破壊されていた。魔王って、神の味方なのか?う~ん…

 

「うぬ?貴様…」

 

俺は不死王にチェンジした。

 

「神に復讐をしに来た」

 

「お前…何者だ?」

 

俺を見る皇帝の顔は歪んでいる。

 

「月に手を出させない。お前らにも、神にもなぁ」

 

俺を襲う皇帝の守護隊のヤツラは、フルカウンターの餌食になっていく。

 

「どうしたよ。人間共よ…」

 

「魔神?まさか…そんな…」

 

『マスター、都市核を奪いました』

 

アーシアから報告だ。

 

『至急防御レベルを最大にしろ!塩害に備えるんだ』

 

『了解です』

 

都市核はアーシアとナナに任せておけば大丈夫だろう。俺は月を護る。

 

『アール、お前の処は、まだ移民は受け入れ出来るか?』

 

先輩からだ。確か、この国の人口は30万だっけ?

 

『大丈夫です。塩混じりの砂丘に送ってください』

 

『わかった』

 

俺への回線が空くと次々に誰かが話しかけてきた。

 

『アール、動けるか?!』

 

ミトからだ。

 

『何が相手だ?』

 

『神の使徒13体と魔王1匹だ』

 

さっきのロケットを破壊してくれた功労者かぁ…

 

『わかった。今、転移する』

 

俺はミトの隣に転移をして、使徒達をフルカウンターの餌食にしていく。

 

『お~い!なんか、俺がザイクーオン神ってことにされているんだが…』

 

戸惑う声の先輩。

 

『無い無い。もしそうならな、パリオンがキックかましているよ』

 

って、ミト。パリオンの鬱憤を晴らすには最適だよな。同じ神ならばさぁ。

 

『おい!魔王を倒したのは俺ってことにされているんだけど…』

 

先輩が呆れたように言う。

 

『もう、今、忙しいから、手柄は丸投げする。それで、乗り切ってください』

 

そういうのがやっとだ。フルカウンターを警戒して、俺を囲むように飛んでいる使徒達。どうするよ、これ…ミトとテンちゃんで倒せるのかな?

 

『まかせて!使徒なら倒せる』

 

って、テンちゃん。ではお任せだな。俺は囮か?

 

『戦い好きのお馬鹿さんが現れたわよ』

 

パリオンの声。破壊されたロケットのある辺りに、黄色い光が巨大なヒトガタになっていく。まるで、光の巨人である。アレと戦えと?パンチを放つが、相手は光の為か、効いていないようだ。その代わり、黄色い光が脈動しているように見える。

 

<<<神罰>>>

 

脳に直接飛び込む言葉。むしろ、俺が与えてやりたい。俺の竹子を返せ!周囲が白く霞んでいく。塩化現象か?

 

『全員離脱しろ!塩化攻撃を開始したぞ!』

 

黄色いんだから、カレー粉でも出せば良いのに、なんで塩なんだよ?!ここは『フルカウンター3倍返し』だな。

 

遠くに見えるスラム街には何柱もの紫色の光柱が見える。魔王化現象も促進か?

 

『お兄ちゃん、塩化は定命の者にしか効かないの。不死王様には効果は無いんだけど、神様はどうかな?ふふふ』

 

あぁ、死ぬんだよな。生き返るけど。って、効果あるんじゃん。目の前の黄色い巨人は、氷像のようになっていく。

 

ドーン!

 

背後で何かが壊れるような爆発するような音が聞こえた。巨大な魔王が出現しているし。もう面倒だな。魔王狩りを始めた俺。そんな俺を攻撃するサガ帝国の空飛ぶ砲艦2隻。あのバカ女が乗っているようだ。ふざけんなよ!

 

魔王ってサガの手先か?サガ帝国の船2隻と交戦を始めた俺。巨大魔王は先輩に丸投げだな。砲撃をフルカウンターで返して行く。穴の開いた箇所へは塩を吹き付けていく。

 

『お~い!それはダメだよ!』

 

ミトからの警告か?

 

『あのバカ女が乗っているんだよ!』

 

甲板の上に、メイコが仁王立ちしている。

 

『あぁ、あのバカ女か。じゃ、あのバカ女だけ、恥ずかしい姿にしなさい』

 

面倒だよ~。バカ女ことメイコだけを『強奪』で引き寄せ、着ている物だけを塩化させて、ボロボロに崩して、全裸にして、大事な部分に茂る物だけ塩化にして、塩の砂丘に叩き付けてあげた。これで、攻撃出来ねぇだろうな。全裸にされたことにショックを受けているようなバカ女。放置で大丈夫かな?塩の山に沈んでいくけども…誰からも『助けろ』とは指示が出ないので、スルーだな。

 

『全員、避難させたぞ!』

 

先輩からの報告だ。あの巨大魔王の姿は無い。さすが先輩だぁ~。じゃ、俺も撤収しようっと。公爵にチェンジして、アーシアとナナを迎えに行き、孤島宮殿へ転移した。

 

 

孤島宮殿で、まったりしていると、

 

「先輩、急いで戻って!白光津波を撃ち込んで来たみたい」

 

ミトがパニックになっている。ヤバすぎる事態のようだ。イタチ帝国へ転移し、魔神へとチェンジ。

 

『お兄ちゃん!あのバカ達を倒すよ!』

 

カグヤもキレていた。上空には7つの玉が円周上に並び回転していた。そのうちの1つが、ぎこちない動きをし出した。パリオンのようだ。俺とカグヤの気配を感じ、動揺したのだろうか?

 

地面に白光津波が接触する前に、フルカウンターで返却をした。パリオン以外の玉が塩化していく。いや、塩化しながら逃げていく。そんな玉を上空から稲光が狙撃していく。塩化した部分がひび割れていき…異空間へと逃げ込んで行った。

パリオンもだ。まぁ、団体行動だからな。

 

『パリオンは後で、月の裏に呼び出して折檻だねぇ~』

 

って、カグヤ。ほどほどになぁ。これで、終わりか?メイコは塩に埋もれているので、あれ以上の塩化はしていないようだ。まぁ、放置だな。だけど、帰ろうとした時、空間が割れて、次元潜行船が出てきた。今更ながら、俺様参上か?

 

「俺様参上!貴様のした悪事に対して、天誅を下す!」

 

って、俺に襲い掛かって来たロリ勇者。えっ?!これ全部、俺のせいにする気か?

 

次元潜行船上では、ロリ勇者の従属達が、俺に頭を下げている。相手をしてくれって?そういえば、コイツのの装備って、借金のカタでは無かったか?

 

「おい!お前!借金を返せよ!」

 

「はぁ?お前…シガの強欲魔王だな。俺様が成敗致す」

 

だが、一般装備で、勝てる訳は無い。いや、勇者装備であっても、聖属性の俺に勝てる訳が無い。ロリ勇者が攻撃をする度に塩が舞い上がる。その舞い上がった塩は、次元潜行船の吸気口へ吸い込まれている。いいのか?あれって?錆るんでは無いのか?錆びる以前に塩化したり…

 

「おい!早く死ね!」

 

無茶なことを言うロリ勇者。借金を返して貰わないと、死ねないって。次元潜行船は俺の予感通り、機能停止をして、ゆっくりと降下し、塩の海に飲み込まれていく。艦にいる乗り組み員達を、デジマ島へ強制転移させていく俺。

 

「何?貴様!俺様の船をぉぉぉぉぉぉ~!」

 

いや、お前の立ち振る舞いのせいなんだが。

 

「なぁ、ロリ好き勇者よ。そこに埋もれ掛かっているメイコは、好みでは無いのか?」

 

「うん?ストライクゾーンから外れるわ!俺様のマイハニー達を返せぇぇぇぇぇぇ!」

 

達?アリサとポチとタマを同列にしているのか?ダメじゃ無いのか?アリサオンリーじゃ無いと。

 

『オンリーでも嫌!』

 

アリサからメッセージが飛んで来た。帰っていいのかな?

 

『デジマ島へ転移して』

 

って、ミト。俺はロリ勇者の前から姿をくらました。

 

 

デジマ島で、先輩から集めた情報を聞いた。先輩はあの軍師をマークして、情報を得たようだ。

 

「今回の黒幕はサガ帝国ぽいぞ」

 

神々の攻撃力を見極める為に、イタチ帝国を使ったのか?

 

「あと、マリエンテール市の迷宮に魔界へのゲートがあるそうだ」

 

有ったかな?アーシアに調べさせよう。

 

「軍師トウヤは、賢者トーヤの転生した人物のようだ」

 

まぁ、それはどうでもいいか。

 

「月に封印されている魔神が本当の黒幕の可能性もある」

 

それだったら、カグヤがしばいているのでは無いのだろうか?その情報は疑問の余地がある。

 

「後は、何かあるかな?」

 

「次元潜行船ジュールベルヌの乗り組み員は全員無事だよ」

 

なら、安心か。

 

「じゃ、帰るよ。疲れたよ」

 

俺は先輩の前から姿をくらました。

 

 

孤島宮殿へ転移したはずなのだが、荒涼とした土と岩だけ風景の中に立ち尽くしている。ここはどこだ?

 

「月だよ、お兄ちゃん」

 

カグヤが現れた。

 

「呼んだのか?」

 

「私じゃ無いよ。パリオンを傷つけなかったお礼に、お兄ちゃんと会わせてくれたんだよ」

 

カグヤの背後から黒髪の青年が現れた。ブラック企業時代の先輩に似ている。いや、影城の絵に描かれていた人物ぽいかな。

 

「誰?」

 

「君の一部だよ」

 

もしかして、ヘアーランスの髪って、コイツのか?

 

「そういうことだよ。あの鏡は、パリオンへのプレゼントだったし。まぁ、君の役に立てて良かった」

 

パリオンの関係者らしい。誰だ?

 

「転生を繰り返しで、君の記憶は消えている部分が多いようだね」

 

俺の記憶?記憶力には自信があまり無いけどな。

 

「弱った神々を捕らえたんだ。これで、元に戻れる。感謝するよ、田中一郎君」

 

先輩似の男性に言われた。なんだろうか、徐々に俺が俺で無くなっていく感じだ。

 

「ザイクーオンには逃げられたが、まぁ、アイツが居なくても問題は無い」

 

俺の目の前にもう1つの月が出現した。

 

「あれが、お兄ちゃんだよ」

 

カグヤが嬉しそうに言った。俺では無いのか?

 

「君の魂は私のだ。君の精神体は彼の物だよ。君は君の人格しかない」

 

俺は3分割されたようだ。魂と精神体と人格に…

 

「不死王である君には、魂も精神体も入らないだろ」

 

笑顔の魔神。そのために、俺は不死王にされたのか?

 

「何事にも必然性はあるのだよ」

 

コイツらの為に、俺は…俺の人生は…必然的に救われない人生だったのかぁ~?目の前では、パリオンと魔神が寄り添い、月と新星がランデブーしている。俺には誰もいないのか…多分、嫉妬と絶望から、

 

神様…もしいたら、コイツらに復讐を!俺には安らかな死を!

 

と、ロクでも無い神以外に願った俺。次の瞬間、俺だけ違う場所にいた。はて?

 




第1章終了です(^^;
次話から新章になり、クロスオーバーな世界になっていきます。


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2章
月からの帰還


ここはどこだ?森の中にいる俺。見た事の無い木々や植物がうっそうと生える森の中に、一人佇んでいる。探索スキルを使うと、パリオン神国と表示された。おかしい。あそこは塩塗れの砂漠地帯である。こんな鬱蒼とした森では無いのだが。

 

地面を調べて見ると、固い。一部ガラス質に変化している。高熱に晒されたのか?生えている木も調べるが、もの凄く固い木である。品種は不明と出た。これは一体?途方に暮れて佇んでいると、マップに青い点が3つ現れ、俺を目指して近づいて来た。赤い点は敵、黄色い点は注意人物、青は中立で、緑が仲間だと、ヒントが表示された。なので、近づいて来る物達は、敵では無いようだ。

 

接近してきたのは、犬を2匹連れて歩く男性だった。見た事の無い人物である。歳は俺より若そうに見えるのだが…

 

「君がアールだね?俺は大樹…代羽大樹っていいます。これは番犬のクロとユキです」

 

飼い犬と自分の名を名乗った男。種族はUNKNOWNと表示されている。つまりは神に近い者なのだろう。犬は、インフェルノウルフとコキュートスウルフと表示されている。番犬では無くて、狼のようだ。

 

「ここで立ち話はなんだから、俺の家においでよ」

 

家?この森に家があるのか?

 

「君の疑問に答えてあげるよ。大雑把に言えるのは、君がザイクーオンと戦ってから3000年ほど経っているんだよ」

 

え?あれから既に3000年も経っているのか?ちょっと月に行った感じなんだけど…俺は、色々知りたいので、大樹の後を付いていった。

 

 

鬱蒼とした森の中に、5階建てのログハウスが建っていた。家の前には犬小屋もあるし…家の中は、入って直ぐにテーブルがあり、そこの椅子に座った俺達。

 

「そうだ。君のシステムをアップデートしておこう」

 

大樹が俺の頭に手を翳すと、パリオン神国と表示されていた地名が、死の森と表示された。

 

「ここは、今、死の森を呼ばれている場所だ。四方八方を山々に囲まれているのさぁ。パリオン神国はザイクーオンにより、大きなクレーターにされたんだよ」

 

クレーターに?巨大隕石でもぶつけたのか?パリオンへの仕返しに?

 

「その通りだよ」

 

相変わらず、この世界でも、俺の心は読まれている。

 

「あの黄ばんだクソ神は、塩化攻撃で住民と建造物を塩像にした後、衛星軌道上にあったハイエルフの間などを、パリオン神国へたたき落としたのさ」

 

え…それじゃ…アーゼは?大樹は答えをためらっている。それって…

 

「君の娘二人は天寿を全うして、次世代へハイエルフの血をつなげている」

 

双子の娘達は、もういないのか。そんな…娘…そうだ、リザやポチ、タマ、アリサ…セーラ、リーン…仲間達の、いや家族に近い関係の者達の名前が浮かび上がっていく。

 

「無事だよ。孤島宮殿にいた為に、難を逃れている。だけど、すぐに再会は出来ない。あのクソ神が理をいくつも破壊した為に、他の異世界へ影響が出ているんだよ。なので、修復が終わるまで、この世界へ呼び出せない。少し待ってくれ」

 

大樹は、俺が最後に願いを託した神のサイドなのかもしれない。

 

「そうだよ。君の願いは俺の祖父ちゃんが受け付けた。最初の方だけね。君の安らかな死は認められないそうだ。だって、不死王だろ?君は死ねない。それを叶える近い方法は、存在をロストさせるだけだ」

 

俺の願い方が間違っていたようだ。そうか、安らかなロストをって、願えば良かったのか。

 

「クソ神のザイクーオンは始末した。パリオンと魔神には罰を与えた。連帯責任ではあるが、情状酌量を付与してあげた。カグヤ達は今も二つの月として存在している」

 

「カグラは?」

 

「始祖龍として天寿を全うして、この星の星霊に戻っているよ。彼ら星霊達は、星の生存を優先し、星の生存のことしか関与出来無い。地上での事には手を出せないんだ」

 

防げなかったのか。

 

「都市核と迷宮核は廃止になった。その代わりに、地上の魔素の管理を魔神が行っていたんだけど…ヘマをしてね。余剰魔素が地上に漏れて、魔獣や魔物を多数生み出してしまったんだ」

 

だから、知らない種族がいるのか。インフェルノウルフとコキュートスウルフって、居なかったもんなぁ。

 

「なので今、パリオンも魔神も堕ち神として、地上にいる。いずれ、出会えるはずだ」

 

「アーシアとかナナは?」

 

「ホムンクルムは不老不死だよ。ただ、供給魔素不足で、活動を停止しているかと思う」

 

無事なようで、無事では無いのか。

 

「アールが落ち着いて生活出来るまで、俺がナビゲーションピクシー代わりになる」

 

「そうだ!先輩とミトは?」

 

「夫婦として、諸国を漫遊しているはずだ。あの二人も、不老不死に近いし」

 

子供は?

 

「いない。だって、サトゥーの好みは巨乳だろ?」

 

相変わらず、娼館通いなのか。

 

「君の生存を知らせてあるので、いつか、ここに来るだろう」

 

大樹がコーヒーを淹れてくれ、マグカップを俺の前に置いた。懐かしい香りである。味わって飲み、お替わりを何倍もした。

 

 

大樹は屋根裏に家蜘蛛を大量に飼っていた。この辺りの虫は昆虫では無く魔物系で危険な為、家蜘蛛に護って貰っているそうだ。

 

「コイツらの親は座布団くらいの大きさで、ザブトンって名前なんだ。普段はこの裏の大きな木の上で暮らして居るんだよ」

 

って、俺にザブトンを紹介してくれた。その際、大樹からこの世界の初心者パックを貰い、彼らの言葉も習得した。このパックのパッチ当てで、ザブトン、クロ、ユキとも会話可能になったようだ。

 

「当面、クロ達と、この辺りの魔物を狩って、食料と戦闘技能を得て欲しい」

 

この世界でも、魔物も魔獣も食えるらしい。その上、高級食材であり、高値で売れるそうだ。

 

大樹に『精肉』スキルをもらった。獲物に、このスキルを掛けると、食える部分と食えない部分に解体出来る優れものなスキルであった。解体を任せていたリザ達がいない今、このスキル無しでは狩りは難しいのが現状である。

 

俺が狩りをしている間、大樹は付近を探索して、近場の街まで転移出来る様にしていた。食いきれない食材を売り、必要な物を買う金を工面する為である。腹黒いヤツからは、持ち金を『強奪』しているらしいけど。俺と似た思考なので、大樹と方針の衝突は少ない。ここより南の山を越え、鉄の森と呼ばれる森を越えると街があるそうだ。

 

「クマの毛皮を売ってきたよ。そのお金で奴隷でも買おうと思ったら、王都に行かないと奴隷屋が無いそうだ」

 

大樹はこの世界での奴隷の実態を調査しようとしていた。この世界でも奴隷は存在するそうだ。時代が変わっても、奴隷は無くならないようだ。

 

「性奴隷は要らないけど、家事をしてくれる奴隷は欲しいよね?生活に彩りと言うか」

 

幸い、俺も大樹も性欲は大人しい草食性ではあるが、時々人肌が恋しくなる時もある。性行為はしなくても、添い寝がしたいって感じである。

 

「あぁ、そうだ。賞金首の情報は得てきたよ。吸血鬼でルールーシーって女子だそうだ。貴族相手になんかやらかして、賞金が掛かっていたんだ」

 

大樹の目が怪しく輝いている。奴隷では無く、その賞金首を捕まえて、添い寝要員にするのか?

 

「吸血鬼なら、俺もアールも問題無いし」

 

不死王である俺は、血が流れているかも怪しい。一方大樹は、ニトロブラッドと呼ばれる血液持ちだそうで、吸血されると、吸血した相手が爆発するらしい。或る意味、存在がバンパイアキラーらしいのだ。

 

「一応、吸血鬼用のエサも用意してあるよ」

 

輸血用の血液パックの入った箱を、空間から取り出した大樹。箱に赤十字って書いてあるが、現代日本から持ち込んだのか?

 

「いや、この地下から強奪してみた」

 

あぁ、そういえば、レトルトカレーを強奪したこともあったなぁ。死の森って言うより、俺達『強奪』持ちにとっては、宝の森のように感じる。

 

 

冬になる少し前の明け方…外が騒がしい。少女の泣く声が聞こえる。俺と大樹で外に出ると、ザブトンの糸に縛られ、クロとユキにボロボロにされている少女がいた。種族は吸血鬼、名前はルールーシーって表示されていた。

 

「探しても見つからないのに、獲物から来てくれるってラッキーだな」

 

まぁ、冬を肉布団で迎えられるのか。それは、ラッキーである。

 

「お願い…助けて…」

 

完全に怯えている賞金首。

 

「なんで、デーモンスパイダーと、インフェルノウルフとコキュートスウルフが集団で狩りをしているのよ~!」

 

俺達にとっての常識は、吸血鬼にとって非常識のようだ。大樹は、クロとユキを褒めるように、頭を撫でている。俺もザブトンを撫でてあげていた。

 

「まさか…あなた達…飼っているの?」

 

恐怖で血の気が失せている吸血鬼。吸血鬼でも恐怖を感じるのか。

 

「なぁ、お前、ルールーシーだよな?俺達の抱き枕になってくれないか?」

 

糸を解きながら大樹が、ルールーシーに訊いた。

 

「因みに、拒否したら、どうなるの?」

 

「ペットのエサにするか、奴隷紋を刻んで性奴隷に堕とすのも有りかな」

 

「あなた達…何者?」

 

「俺は大樹、相棒はアールだ」

 

種族は答えられないってことかな。

 

「なんで、吸血鬼の私よりも恐怖を纏っているの?」

 

ルールーシーの声は震えていた。

 

「俺はニトロブラッド持ち、アールは不死王だからかな?」

 

「ニトロブラッド…お前、まさかあの最凶なる者か?」

 

「それは祖父ちゃんだよ。俺は温厚だよ。女性の敵では無いし」

 

大樹の祖父は女性の敵らしい。何をやらかしたんだ?怖くて訊けないけど。大樹にニトロブラッド持ちの特性を訊いたことがある。魔法攻撃は一斉効かない。寧ろ撃ち込まれた魔法の魔力をドレイン出来、好都合らしい。一方物理攻撃はダメージを受けるが、超再生能力で死ぬことは無いらしい。で、問題の大樹の祖父は鍛錬により、その上、透過能力を得た為、あらゆる攻撃が効かないバケモノらしい。

 

「で、どうする。エサになる?奴隷がいい?抱き枕かな?」

 

救いの無い3択を提示しているような。鬼のような大樹。因みに大樹の祖父は鬼のハーフなので、鬼の血を受け次いでおり、鬼って言われるのは、褒め言葉だと言う。

 

「抱き枕でお願いします」

 

「アール、風呂にいれてやれよ。アール好みだし」

 

あぁ、巨乳では無いのか。全裸のルールーシーを抱えて、風呂場に持ち込み、早速抱き枕にして…

 

 

ルールーシーはルーと呼んでくれと言う。で、留守番をしながら、家事をして貰い、この世界のことを訊き出していく。家の2階にコタツがあり、ミカンと緑茶を手にして、ルーの話を聞く俺達。因みに、ミカンと緑茶は、大樹の祖父の家から持ち込んだそうだ。この家の2階には、亜空間転移陣の描かれた部屋があり、必要な物が送られてくるそうだ。なので、この世界には無い、味噌、醤油、納豆などの発酵食品が常備されている。

 

「大戦の前の時代から来たの?」

 

俺達の事を話したら、ルーが驚いて居た。あのザイクーオンの乱は大戦として、歴史に刻まれているそうだ。

 

「そうか、この死の森が大戦の舞台だったのね」

 

地質学的に、この死の森だけ、地質がおかしいそうだ。異常に固い地表に、異常に固い木々が生えている上、死を感じる魔物が多く生息しているそうだ。なので、ルーは追っ手が来ないと思い、この森に逃げ込んできたそうだ。

 

異常に固い地表の下には、稀少価値の高い岩塩を含む地層があるそうだ。稀少性は、異常に固い地表を掘る困難さと、魔物の襲撃により、手に入れるのには命がけで、取れる量が少ない為だそうだ。その岩塩が人塩が熟成した物だと話すと、絶句したルー。

 

「あの塩って、元々、人間だったの…大戦前の神様は、恐ろしかったのね」

 

いや、ロクでも無いんだと思う。

 

「そうなると、ここで作物を育てるには、色々手を入れないとダメなのか」

 

頭を抱える大樹。この死の森を普通の森にすることも、大樹の役割の1つらしい。

 

「アールの養殖していたナマコがあれば、処理は可能か?」

 

何でも食べ、塩と砂だけを排出するから、分離できれば可能であるが、砂では作物は育てられない。ミミズも必要だな。ここでの俺の役割は、大樹の仕事のサポートらしい。大樹の祖父に見いだされ、大樹と共に送り込まれた感じもするし。まぁ、俺の仲間を助けてくれるらしいので、協力はする。いや、敵に回したらマズイんだと思う。そういう存在の予感がする大樹の祖父。

 

「この上に土を撒くと排水性に問題あるよな?」

 

「いや、水は吸い込むよ。排水は問題ないけど、根がはれない無いかもね」

 

唸る大樹。大樹のチート性でどうにかなるらしいが、地質改良はなるべく大樹のチート無しでと指示されているそうだ。

 

「取り敢えず、ボーリング調査でもするか。降雪する前に、出来る事はして、春からどうにかしたい」

 

協力はしたいが、俺の能力は数が少ないからな。

 

 

本格的な冬を前にして、ザブトンとクロ達が、今度は天使を捕まえてきた。ルーと同い年くらいに見える天使。その顔は恐怖で歪み、固まっているようだ。

 

「あっ!」

 

その天使を見て、ルーが声を上げた。知り合いらしい。

 

「殲滅天使のティアよ。一応…私の宿敵と言うか…」

 

殲滅天使?天使が殲滅戦をしていいのか、この世界は?

 

「じゃ、ルー。あの3択を伝えて、選ばせろ」

 

って、大樹。抱き枕が増えそうな予感…で、抱き枕になった天使のティア。ルーと1日おきで俺の抱き枕になっている。大樹はいいのか?

 

「俺は、拷問ではするけど、仲間には出来無い。万が一があると、母体が危険だからな」

 

ニトロブラッド持ちの子供は、ドラゴン、女神以外の種族が出産するときに、母子共に爆死することが多々有るそうだ。大樹の祖父が傍に居れば、受精卵を別腹に転移させることが出来るらしいが、大樹にはそのチートな能力が無く、胎児まで成長してしまうと臍の緒の問題で、転移すらさせられない為、堕胎の道しか無いそうだ。それは、大樹の信仰する宗教の教えに反するため、出産というバクチをしないとダメになるらしい。

 

「じゃ、大樹さんはドラゴンか女神としか出来無いの?」

 

心配そうにティアが訊いた。

 

「基本はそうなる。俺の場合、母の知らない内に祖父が、受精卵の俺を別腹に託してくれたおかげで、生まれることが出来たらしい。その代わり、実の両親に会えたのは、ついこの間だけど…まぁ、祖父が傍にいれば、問題は無いけど、違う問題が生じるでしょ?」

 

添い寝をしている時にティアから聞いた。大樹の祖父は、エロ賢者と言われる程の女体好きらしい。その性癖は破綻しまくり、ドS拷問プレイが好きらしい。蘇生能力持ちな為、一旦腹上死させ、屍姦した後に蘇生させたり…女の敵…わかるような気がする。

 

「まぁ、俺の祖父は、性癖以外は真面だよ。仲間になって、気に入られなければ、問題は少ないかな」

 

祖父の話になると苦笑いが多くなる大樹。

 

 

そして、本格的な冬。家の周囲には積雪がある。家の裏では、ルーの魔法で雪を融かし、大樹が地質の調査に乗り出していた。

 

「チートな能力よね?」

 

『強奪』スキル、『転移』スキルをチートな能力だと言うルー。俺もそう思う。あの固い表土が、好みの深さで抉れている。

 

「でも、このスキル無しで開拓しないとダメなんだよ。俺やアール以外でも、作業が出来無いと開拓にならない」

 

大樹の言葉に頷く俺達。だけど、これって、どうすれば開拓出来るんだ?仮に表土のガラス化した部分を取り除いても、次にいるのは岩塩化した人塩の地層だし。これらの層も取り除かないと、普通の植物は育たない。

 

「塩害に強い品種を植えるか、どうかだけど、岩塩だと、根が張れないと思うぞ」

 

「そうなんだ。これ、結構厚い層だな。まぁ高値で売れるから、売れるだけ売るか?そうなると製塩設備がいるよな。あぁ、頭が痛いなぁ」

 

『これを使え!』

 

脳裏に響く声。たぶん、大樹の祖父だろう。魔法具の開発をしているそうだし。

 

『豊穣のブレスレットを手に入れました』

 

と目の前に表示された。それを装備すると、右の手首にブレスレットが装備され、目の前に使い方が表示された。そのブレスレットは、念じたツールに変化するようだ。変化出来るツール一覧が表示され、豊穣の鍬を選択し、念じて見た。すると、ブレスレットが鍬に変化した。それで、異常に固い表土に挑んでみると、簡単にサクサク掘り起こすことが出来、掘り起こされた表土は土へと変化していく。

 

「これは、良い土だ」

 

大樹が土の臭いを嗅ぎ、口に入れて味わっている。

 

「これなら、普通の植物が育ちそうだな」

 

喜ぶ大樹は跪き、祈りを捧げている。大樹の信じる神は、アイツの祖父だそうだ。アイツの祖父は神であることを否定して生きているらしい。

 

「あっ!」

 

ティアの声で、みんなでティアを見ると、恍惚な表情を浮かべ、果てて居た。大樹の祖父が、代価を受け取ったようだ。頭を抱える大樹。

 

「すまん、ティア」

 

「いえ…私も楽しめましたし…この程度なら…」

 

大樹はティアを抱えて、家に入っていく。お風呂場に直行だな。

 

 

大樹の祖父からのギフトと、ルーの魔法により、家の周囲に畑を作っていく。岩塩層まで5メートルくらいあるので、問題無く植物が育つであろう。豊穣の鍬で、育てたい植物を念じなから耕すことで、その植物をタネ無しで育てることが出来るらしい。

 

「アール!そのブレスレットの正体が分かったぞ」

 

大樹が家から飛び出してきた。大樹の祖父の研究施設で、どういう仕組みかを確認したそうだ。

 

「豊穣の女神にしたパリオンを封じたこんだ神器だって…」

 

あっ、パリオン…ここにいたのか。

 

「祖父が許すまで、豊穣のブレスレットとして働かないと、実体化が出来無いそうだから、必死らしいぞ」

 

実体化出来無いと、触れ合えないなぁ。それは必死かもしれない。

 

「えっ!豊穣の女神って、魔素を管理する魔神と、神界の魔素倉庫で乳繰り合って、魔素を地上に流出させた女神だよ。そのせいで、地上に魔物や魔獣が生まれたって伝説があるのよ。それが上司の神にバレて、二人は地上に落とされたって…神話にあるわよ」

 

って、ルー。やらかしたんだね、パリオンと魔神が…その罰ってことだな。

 

「その上司の神って…たぶん祖父だと思う」

 

苦笑いしている大樹。固まるルーとティア。ザブトンが祈りを捧げているように見えるが…大樹の祖父は恐怖の対象か?

 

『僕は怖くないよ』

 

脳裏に声が響いた。大樹の祖父だな。って、下界をモニタリングしているのか?孫が心配で…ルーとティアに視線を戻すと、二人も跪き、祈りを捧げていた。

 

 

 

 



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SS:その時 ミト

悪夢の時とは違い、この場にアリサとリザがいないことに、心が少し軽くなっていた。だけど、目の前には、悪夢で見たのと同じ、黄色い光で輝く巨大な人らしき者がいた。

 

先輩のパンチがまるで効いていない。あれが神なのか?

 

<<<神罰>>>

 

と、脳裏に表示された気がする。

 

『全員離脱しろ!塩化攻撃を開始したぞ!』

 

先輩からの指示だ。先輩の方を見ると、この局面でサガ帝国の勇者の乗ったと思われる空飛ぶ戦艦が、背後から先輩に襲い掛かっていた。勇者達は、先輩を敵として認識しているようだ。先輩の近くまで塩化の波が迫っている。

 

先輩は砲撃をフルカウンターして、戦艦の腹部に穴を開け、そこに塩化の波を誘導しているようだ。

 

『お~い!それはダメだよ!』

 

咄嗟にメッセージを送った。それは被害がデカく成りすぎるし。勇者以外は、真面な神経の者達だと思いたいし。

 

『あのバカ女が乗っているんだよ!』

 

先輩の指差す先には、勇者メイコが仁王立ちして、先輩にガンを飛ばしていた。

 

『あぁ、あのバカ女か。じゃ、あのバカ女だけ、恥ずかしい姿にしなさい』

 

被害を最小にしたいので、そうメッセージを飛ばした。勇者メイコなら死んでも、後悔する者は少ないだろう。自国の皇女であるメリーに斬りつけたバカ勇者であるし。

 

『全員、避難させたぞ!』

 

イチロー兄ぃからメッセージが入った。この短時間に国内の総ての人達を避難させたのか。さすがは兄ぃである。

 

 

国境線辺りまで後退し、巨人の動向を見つめている。塩化の波はここまでは届いていないが、首都辺りは、塩塗れである。テンちゃんと先輩は孤島宮殿に戻り、まったりしているかな?兄ぃは情報収集で飛び廻っているのか。なんのメッセージも届かない。

 

事態は沈静化していくと思っていたのだが、いきなり上空に7つの玉が現れ、同一の円周上に並び回転し始めた。あれって、神全員による天罰か?これはマズイだろう。塩化では無く、白光津波のようだ。威力、速度共に、先ほどよりも強力である。これって、国境線を越える波になりそうだよ。急いで先輩と兄ぃへ連絡をした。

 

『先輩、急いで戻って!白光津波を撃ち込んで来たみたい』

 

先輩が転移してきて、魔神へとチェンジしたようだ。禍々しさというよりも、畏怖を感じるオーラに変質していたからだ。それに伴い、玉の1つの動きがぎこちなくなっていく。あれって、パリオンか?

 

白光津波が地面に触れるギリギリのタイミングで、先輩のフルカウンターが間に合ったようで、6つの玉が塩化していくようだ。更に、天空から稲光が落ち、パリオンらしき玉以外に撃ち込まれた。7つの玉は、空間の裂け目へと逃げ込んで行った。

 

これで終わりかと思った瞬間、空気が鳴動し、空間が割れ次元潜行船が現れた。また、サガの勇者か?

 

「俺様参上!貴様のした悪事に対して、天誅を下す!」

 

ロリ勇者が先輩に剣先を向けている。先輩は功労者だと思うのだが、サガ帝国は先輩がジャマなのか?次々に勇者を先輩に差し向けているし。

 

しかし、ロリ勇者は舌戦をし始めた。戦っても勝て無いことが分かっているようだ。

 

「ヒカル、アールをデジマ島へ呼んでくれ」

 

兄ぃから念話が届いた。それを先輩へ伝言すると、転移をしていった。さてと、私も帰るかな。後の処理は勇者がどうにかするだろうし。

 

 

兄ぃは戻って来たが、先輩は戻ってこなかった。先輩の心をモニタリングしようとするが、出来無い。アーゼの処か?あそこしかフィルタリング出来無いし。兄ぃが様子を見に行ってくれた。

 

しばらくすると、顔面蒼白になって兄ぃが戻って来た。

 

「どうしたの?」

 

兄ぃにしては、ショック状態のようだ。何が遭ったんだ?

 

「ねぇ、どうしたのよ~」

 

アリサが兄ぃに縋り付き、身体を揺すった。

 

「あぁ…衛星軌道上にあったハイエルフ達の設備が、パリオン神国に落下したみたいだよ」

 

孤島宮殿にいた者総てが、兄ぃを注目したと思う。まさか、先輩は巻き込まれたのか?

 

「パリオン神国は塩塗れの大きなクレーターになっていた」

 

それはパリオン神国にも天罰が下ったということだ。なんで…パリオンはどうしているの?先輩は?

 

 

いつの間にか意識を失っていたらしい。ベッドに横になっていた。ベッドサイドにはセーラとオーナが心配そうに、私を見守ってくれていた。

 

「大丈夫ですか?」

 

セーラに訊かれた。

 

「先輩は?」

 

私の問い掛けに首を横に振る二人。それは、まだ帰って来ていないってこと?

 

「ヒカル、目覚めたか?なぁ、二人でアールを探しに行こうぜ」

 

私の意識が戻ったことを知った兄ぃが、私にそう言った。兄ぃの顔色は良いみたいだ。

 

「そうだね。探しに行こう。アーシアとナナも探さないとね」

 

残りの者は、ここ、孤島宮殿に避難して無事である。

 

「アイツは不死王だ。死ねないんだよ。やらかす前に接触しないと、世界が終わっちゃいそうだ」

 

笑顔の兄ぃ。確かに…いや、アーゼを探しているのかもしれない。アーゼと一緒だといいなぁ。

 

「落下の原因は?」

 

「あの黄色の巨人…ザイクーオンが、何かをやらかしたのだろう」

 

天罰のレベルでは無い。ハイエルフを襲ったのか?

 

兄ぃとパリオン神国のあった場所に転移をした。そこは、周囲を山で囲まれた窪地の様に、成り変わっていた。砂漠だった面影はまったくない。

 

「イタチ帝国の国民全員を、ここへ退避させたのが、行けなかったのかな」

 

兄ぃがボソッとつぶやいた。その目は哀しみで満ちあふれているようだ。兄ぃを優しく抱きしめた私。

 

 

 

その日…その夜…私と兄ぃは初めて…結ばれた…

 

 

 

 

 



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SS:その時 アーゼ

 

娘達の世話をミーアの両親に任せ、ハイエルフの間で、黙々と神事の勉強をしていると、ソレはやってきた。

 

「いきなり来るのは、どういうことですか?」

 

抗議をしたルーアが、私の目の前で、問答無用に屠られた。

 

「我々の伴侶であるのに…あのような者との間に子供を作っただと!ふざけるなよ!抱き枕風情の分際で!!」

 

怒りを纏ったソレ…ザイクーオン神は、力任せで抱きつき、私を床に押しつけ、行為に及んだ。いきなりである。前戯も無く、甘い言葉を交わさずに、ただ行為を何度もこなしていく。ハイエルフである私には、神が望む行為を拒否出来無い為、拒否だけで無く、抵抗すら出来ず、ただ受け入れるだけである。

 

心も体も精神もボロボロになってきた頃、飽きたのか、私から離れ、何かを操作し始めた神。

 

「お前の伴侶は俺一人にする。今、理を書き換えたよ」

 

そんな…ダーリンだけなのに…私の愛する人は…

 

「うん?あぁ、お前の愛する者は俺一人だ。あのバケモノの記憶は消してやる。それから、お前を永久に浮気出来無いようにしてやるよ」

 

殺意の籠もった視線で私を見る神。ダーリンの、アール様の記憶を消してから、殺すようだ。神は、理を書き換えていく。記憶が薄れていく。嫌だ!忘れたくない!助けて、ダーリン!!

 

「はぁ?あのバケモノは助けに来られない。転移している最中に理を変えてやったよ。アイツは、遙か未来へ転移したぞ。お前も、お前の子供もいない世界へ、たった1匹でなぁ。はははは」

 

嬉しそうに笑う神。いや、こんなヤツが神な訳が無い。助けを呼ばないと…だけど、身体が動かない。

 

「理を書き換えて、お前の身体の機能を停止させた。ゆっくりと愉しめ。あの裏切り者の国へ向かわしてやる」

 

そう言い残し、神はどこかへ転移した。その途端、何かの爆発音がして、落下する感覚が芽生えた。窓から見える景色が動いている。地上へ向けて降下しているようだ。これが地上に落ちると、地上には災害が起きてしまう。

 

『逃げて!』

 

子供達へ念話を送る。今の私には、それしか出来無い。ダーリンは遙か未来へ飛ばされたのか。一緒に生きたいよ~。一緒に旅をする約束だったのに…そんな私の記憶は消えていく。段々とダーリンの顔が思い出せなくなっていく。記憶が消え始めたようだ。ダーリンの名前すら思い出せない。もう一度抱き締めて欲しかった。いや。一度と言わず、何度もだ。

 

後、どれくらい生きられるのだ?私は転生出来るのかな?ねぇ…誰か…

 

『汝の生きたい想いは受け取った』

 

耳元で、知らない誰かの声が聞こえ、目の前が真っ暗になっていく。

 

 

あれからどの位経ったのだろうか?身体の感覚は無い。たぶん、精神体になったのだろうか?空には月が2つ並んでいる。ここはどこだ?

 

近くで懐かしい者の気配を感じる。それが誰だかは思い出せない。そもそも、私は誰なんだろうか?

 

 

 

 



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アーゼ復活

久しぶりに晴れて、ティアが空を飛び、見回りに出た。クロとユキは俺と狩りへ、ルーは大樹と共に書庫で勉強しているようだ。久しぶりの狩り。戦いの感覚を取り戻していく。まぁ、危ないと思ったらフルカウンターで逃げる。しかし、クロとユキのおかげで、そうそう危険な局面にはならない。

 

「今日は少し多めに狩ろう。吹雪くと狩りに行けないからな」

 

クロとユキはうなずき、次の獲物を探してくれる。ユキのお腹は大きくなっている。身ごもっているようだが、狩りを一緒にしてくれていた。

 

「ユキ、お腹が大きいから、警戒だけしてくれればいいんだぞ」

 

「野生種である私達は動ける限り、家族と狩りをするんです。だから、本当にダメな時は参加しません」

 

楽しそうに狩りをしているユキ。本人が良いなら良いか。この世界のクマ、グラップラーベアは高値で売れる部位が多い。クロ達は内臓が好きなようだ。だけど、クセがあるため、味噌仕立ての鍋にして食べている俺達。

 

この世界には発酵食品が無いんか、ルーが味噌に興味を持ち、発酵食品の研究をし出したのだ。今、書庫で、醤油、味噌の製造方法を勉強している。一方大樹は、下水処理の勉強中だ。俺と大樹は食っても出ないが、ルーとティアはそうもいかない。喰えば、出る物は出る。それはクロもユキも同じである。それらをリサイクルして、土の栄養素にしたり、川を汚染しないような新たなスキルを考案するそうだ。

 

スキルが新たに作れるって、初めて知った。『術式プログラミング』ってスキルがあると、新たに作れるそうだ。因みに『精肉』は大樹が作ったそうだ。

 

クマを『精肉』で処理をして、アイテムボックスへ収納し、次はウサギ狙いに切り替えた。ウサギは食う場所が少ないが、クセが無く旨い。ゲートボアと呼ばれるイノシシも捨てがたいが、現在のユキの状態を考えると、遭遇はしたくない。お腹にドンされれば、お腹の中の子供達が危険であるからだ。ヤツの突進力は簡単に止められないからね。

 

「そろそろ、お昼だぞ」

 

クロが知らせてくれた。では、家に戻るか。家に戻ると、ハイエルフが7名いた。どうしたんだ?

 

 

ティアが見回り中に、移動中のハイエルフの群れを見つけ、ここに連れ込んだそうだ。リア、リース、リリ、リーフ、リコット、リゼ、リタが彼女達の名前だと言う。

 

「リーダーのリアです」

 

「アールだ。よろしくなぁ。で、ムーンとアースっていうハイエルフを知らないか?」

 

娘達の事を一応訊いておく。娘達の名前を訊いて、何か驚いているリア達。

 

「知っています。私達の始祖です」

 

始祖?始まりのハイエルフになったのか?そうなると、他のハイエルフは全滅したんだな。

 

「じゃ、アーゼって言うハイエルフは?」

 

更に動揺しているリア達。

 

「始祖様の母上様です。なんで、その名前を知っているんですか?ハイエルフ一族に伝わる伝承ですよ」

 

「俺の娘だからだ。アイツら双子だったろ?」

 

リアが頷いた。

 

「始祖様の父上様なんですか?どうして、生きて居られるのですか?」

 

俺は、俺に起こった事を話した。ティアとルーには少し話していたけど、今回は、アーゼ達のことを詳しく話した。

 

「過去から飛ばされたのですか…残念ながら、始祖様姉妹は、天寿を全うしました」

 

そうなのか…逢えないのか。成長した姿を見たかったけど…

 

「アーゼ様は、消息不明だと始祖様はおっしゃっていたそうです。私は始祖様達には、直接会ったことが無いんですけど」

 

「アール、アーゼを蘇らせたいか?」

 

大樹がルーと共に話を聞いていたようだ。

 

「出来るのか?」

 

「供物が目の前に、大量にあるじゃないか」

 

7名のハイエルフを供物にするのか?コイツ、さすがに鬼だな。

 

「祖父ちゃん!アールの願いを叶えてあげて!」

 

大樹が跪き、祈りを捧げていく。すると、ハイエルフ達が喘ぎだし、もだえ、恍惚な表情を浮かべて果てていく。そんな彼女達の前に緑の光に包まれた物体が現れ、徐々に人の形に変化していく。

 

『人体創造』『招魂』『入魂』『起動』

 

脳裏に響く声…目の前では、全裸のアーゼが横たわっており、胸が上下動し始めた。なんて、チートなスキルだ。じゃ、娘達もお願いします。

 

『理により、天寿を全うした者と自殺した者は蘇生出来無いんだよ。すまん』

 

娘達は無理なようだ。理を曲げてまで蘇生することはタブーであるそうだ。大樹にそう習った。輪廻転生という理…魂のリサイクルと呼ばれているそうが、その星における魂の絶対数は決まっており、新たな魂は、想いが残っていない魂を再生利用するそうで、天寿を全うした者は、やり遂げた感で想いが残っていないので、リサイクル向きらしい。自殺した魂は、想いが色濃く残るが、罰としてリサイクルへと回されるそうだ。

 

大樹の祖父、エロ賢者様は、元々魂を扱うネクロマンサーだった為、魂関連に詳しいらしい。

 

「あれ?ダーリン…どうして?」

 

アーゼが目覚めたようだ。彼女を起こして、優しく抱きしめる。

 

「ここは?ねぇ、アースとムーンは?」

 

アーゼに事実を告げられない俺。代わりにティアがアーゼに話してくれた。

 

 

同じハイエルフってことで、アーゼとリア達が打ち解けるのは早かった。まぁ、アーゼが始祖の母親であることも、親しみ易い理由かもしれない。

 

「そうか、あの子達は、始祖様って呼ばれているのか。なんか羨ましいなぁ」

 

アーゼは俺にべったりである。その事をとやかく言う者は、ここにいないのが救いか?

 

「大樹、他の仲間達は逢えないかな?」

 

ダメ元で訊いてみた。

 

「ダメでは無いけど、孤島宮殿にいる者達は、まだ無理だよ。あのクソ神の影響で、あの異世界とはコネクト出来無いんだよ。サトゥーとミトのコンビは漫遊中だから、その内、ここへ来るはずだよ。後、アーシアとナナだっけ?居場所が不明なので、連れ戻しに行けないし」

 

探しに行けば良いのか?

 

「一緒に探しに行ける仲間が揃うまで、ダメだよ。社会情勢が、以前とは違うんだからな」

 

この世界の魔王は、魔法使いの王ってことらしい。種族は魔族で、悪魔では無いそうだ。

 

「いつの時代でも、一番注意すべきは、人間の悪意だ。それに比べれば、魔王の方が優しいかもな」

 

大樹の基準は怪しい。エロ賢者様の影響が大だからなぁ。

 

「社会情勢が違うって、どの程度違うんだ?」

 

「ここは魔王の治める国なんだが、亜人、人間、魔族が平和に共存している。一方、人間の国は複数あるが、亜人虐待、魔族は敵視って感じだよ。」

 

以前と、そんなには違わない。人間には、亜人差別主義者が多かったもんな。そういう教育だった街もあったし。

 

「魔王の治める国って、税金とかあるのか?」

 

「有るだろうけど、収入が無いし、住民登録もしていないよ。払えって言われるまで、払わないよ」

 

まぁ、確かに。細々と暮らして居るだけだし。

 

「力尽くて来たら、戦うまでだ。負ける気はしないし」

 

不死王と存在しちゃいけない者だしなぁ。負ける要素は無いか。

 

「仮に負けそうだったとして、その場合、祖父ちゃんが嬉しそうに降臨するだけだよ」

 

戦闘狂なのか?英雄、色を好む系かもしれないなぁ。

 

「大樹の戦力ってどの位だ?」

 

俺はフルカウンター程度しか攻撃力無い気がする。

 

「案件をまかされる者は、最低一人で魔王を瞬殺出来るレベルなんだよ」

 

魔王を瞬殺出来るレベルなのか。ならば、負けは無いなぁ。

 

「それよりも、トイレ問題を早く解決しないと。住民が増えたしなぁ」

 

魔王をどうするかより、トイレの方が優先な大樹。やはり、大樹の基準は常人では無いようだ。

 

「それなら、スライムを使えば、手軽に浄化出来るわよ」

 

と、ティア。この世界のスライムは、あの世界のナマコ以上に浄化能力が高いようだ。不純物、汚物を食べて、純水を排出するそうだ。

 

「どこに、いるんだ?」

 

「汚物溜まりとか、トイレの中とか」

 

早速、大樹が動いた。スライムを捕獲しに行ったようだ。この家のトイレは、温水洗浄便座付きの水洗トイレである。この事に、この世界の住民から感動の声が上がっていた。更に、トイレットペーパーを装備しているし。この世界では、お尻を拭くのに草を使っているそうで、トイレットペーパーの拭き心地に感動していた。

 

こんな生活を体験すると、旅になんか行けないだろうな…

 

 

大樹が数匹のスライムを捕獲し、下水処理タンクへと入れた。引き続き、下水処理のスキルの研究はするようだけど。

 

「そうだ。この世界の人って、カニとウニを食わないんだな。捨て値で売られていたから、大人買いしてきたよ」

 

外に置かれたケースには大量のカニとウニが入っていた。

 

「これってダンジョンで取れるのか?」

 

「海産物だよ」

 

そうなると、ダンジョンにいたヤツラが、海に達して生き延び、繁殖か?

 

「ナマコは無かったよ。アールのいた世界と、地形も海岸線を変わっているから、漁場が違うのかもな」

 

「あの頃の面影のあるのは?」

 

「ここだよ。パリオン神国の国境線伝いに、山脈が連なっているからね」

 

なるほど…確かに地下にはお宝が埋まっていたしなぁ。

 

「シガ王国はどの辺りになるんだ?」

 

「たぶん、魔王領がそうなんじゃ無いのかな?地形変動があったから、一概には言え無いけどね」

 

じゃ、王都は王都のまま、残ったのか?うん?地形変動?そうなると、違う可能性もあるのか。

 

「確かな事は言え無いよ。文献が残っていないし」

 

「リア達の集落って、娘達がいた場所になるのか?」

 

リアに話を振った。

 

「元々の集落はそうだけど、人間達に追われて、転々としたそうですので、はっきりとした場所はわかりません」

 

その元々の場所がボルエナンの森ぽいなぁ。大樹の買い出しに行く街は、迷宮都市に当たるのかもしれないなあ。

 

「大樹の買い出しに行く街の名前って?」

 

「う~ん、たしか…シャシャートだったかな?」

 

う~ん…ダメだぁ。推理ミスかぁ~。困ったなぁ。

 

 

 

 

 

 



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賢者VS魔王

季節は春になったようだ。冬眠をしていたザブトンという蜘蛛が、目覚めの挨拶をしに来た。ザブトンを見て失神するハイエルフ達。インフェルノウルフよりも恐怖の対象で、イリーガルデーモンスパイダーという種族らしい。その情報を得ると、蜘蛛と表示されていた種族名がイリーガルデーモンスパイダーに置き換わった。耳で聞いた情報でもアップデートするようだ。

 

雪が自然に解けていく。そして、ユキは元気な子犬、いや子狼を4匹産んだ。名前を考えて居なかった大樹は、速攻でクロイチ、クロニ、クロサン、クロヨンと名付けた。因みにクロサンだけメスで、後はオスである。

 

俺とハイエルフ達で畑仕事をし、クロと大樹は狩りへと出かけた。ユキに新鮮な肉を食わせたいからだ。畑ではキャベツが順調に育っていた。ルーが言うには、キャベツは薬草扱いらしい。整腸作用に優れているそうだ。俺と大樹にとっては、生でよし、煮ても焼いても炒めも良しの万能野菜であるけど。

 

後は、トマトも良さそうだ。あれ?梅の木がある。こっちは桜か?大樹が植樹をしたのか?もしかして、エロ賢者様かな?水は近くの川から水路を作り、豊富に使える。トイレの水はリサイクルらしい。たまに足り無い時に、川の水を補給しているようだ。

 

「水路なんかのインフラは、祖父ちゃんが作ってくれたんだよ。創造能力を持っているからね」

 

大樹には無い能力らしい。うん?あのエロ賢者様は、創造神なのか?

 

「先代の創造神と維持神は、侵略者達に殺されたらしいよ」

 

俺の心を読んで、大樹が教えてくれた。ザイクーオン達は、この世界の神達を殺して、乗っ取ったのか。

 

『ごめんなさい』

 

パリオンの声が聞こえた気がした。この神器は話せるのか?

 

『うん。アールとだけなら会話出来る』

 

パリオンの懐かしい声が、脳裏に響く。そういや魔神はどうしたんだ?

 

『落ち神として、地上にいるはず。いつか逢えると思う』

 

そうなんだ。あっ!大樹がイノシシを持ち帰った。今夜はボタン鍋かな?

 

 

クロが高らかに吠えている。木の上ではザブトンが臨戦態勢を取っている。何かがやってきたようだ。

 

「上よ!」

 

ルーが声を上げた。空にはドラゴンが1匹、浮かんでいた。いや、ドラゴンほどの威厳さを感じ無い。あれって、ワイバーンかな?警戒を強める俺達を余所に、大樹が翼を展開して、ワイバーンへと向かっていく。アイツ、翼を持っていたのか。純白の翼…まるで天使のような。見ようによってはティアの翼より美しい。ティアは大樹の翼にうっといとしているし。

 

ワイバーンと大樹が交差した瞬間、何かが落ちて来た。それに伴い、ワイバーンも落下していく。地面にぶつかり、跳ねた何か。それは、ワイバーンの頭部であった。大樹は交差した瞬間に斬首したようだ。剣筋がまるで見えない早業であった。

 

「リア、ワイバーンって食えるのか?」

 

いつの間に着地していた大樹が、リアに訊いた。

 

「ワイバーンの肉は、美味と言われてます」

 

大樹は頭部をユキの元へ転移させた。

 

「アール、精肉を頼むよ。久しぶりに飛んだから背中が痛い。少し寝るよ」

 

大樹は家の中に戻っていった。

 

 

 

---ティア---

 

大樹の後を追う。あれは天使族の翼である。どうして、大樹が持っているんだろう。

 

「何か用か?」

 

大樹に訊かれた。

 

「その翼…」

 

「あぁ、これね。天使の血も入っているから。タダ飛ぶだけならドラゴンの羽を展開するけど、戦闘だと天使の翼の方が、戦い易いんだよ」

 

ドラゴンと天使のハーフなのか?

 

「う~ん、そんなに単純な話では無いんだよ」

 

大樹は、天使である私の心の中を読めるスキルを持っていた。

 

「祖父ちゃんは元々、鬼と天使のハーフなんだよ」

 

鬼?吸血鬼かな?鬼人かな?

 

「そうだな。鬼人に近いかもしれない。で、俺の母親は、女神と魔王のハーフに祖父ちゃんの遺伝子が入ったんだよ」

 

神と魔王のハーフ…おいおい…そこに鬼人と天使なのか。

 

「で、俺は、そこに魔人とドラゴンの遺伝子が入った感じだよ」

 

魔神とドラゴン…ほぼ、最強クラスの種族の集合体のようだ。

 

「だから、種族は不明なんだよ。訳分からないだろ?そこまで色々な遺伝子が混ざるとさぁ」

 

「で、ニトロブラッド持ちは、どの種族なの?」

 

大樹が子供を持てない理由の1つを訊いた。

 

「魔人だよ。魔法攻撃をドレインする特性だから、血液に魔力が漲っているのかもな」

 

吸血鬼殺しで有り、魔法使い殺しでもあるようだ。この世界では、最強クラスでは無いかな?

 

「祖父ちゃんの足下にも及ばない強さだよ。最強なんて言わないでな」

 

エロ賢者様の強さって、想像を絶するくらいなのかな?

 

「う~ん、知らない方が幸せな場合って、有るよねぇ~」

 

言葉を濁す大樹。想像を絶するんだな。

 

 

 

---アール---

 

ワイバーンを倒して以来、ルーだけで無く、ティアも大樹の傍に居ることが多くなった。あの純白の翼に惚れたのか?俺はアーゼで手一杯である。また、娘が欲しいって…ハイエルフ勢も俺に群がっているし。不死王って、子供作れるのかな?

 

桜の蕾がちらほらと見かける頃、ティアが遠出をすると言って出掛け、翌日に戻って来た。見るからにバルキリーのような女性を3名とリザードマン数名を連れてだ。

 

「私の部下のグランマリア、クーデル、コローネと、従者のリザードマンよ。よろしくね」

 

本格的に引っ越して来たようだ。リザードマン達の背中には、体格よりも大きなリュックがあったから。

 

「じゃ、グランマリア達は2階、従者達は3階の空き部屋を使ってくれ」

 

大樹が指示を出した。この家は見た目よりも広いのだった。次元の狭間と呼ばれる亜空間へ、家が拡張されていて、ほぼ無限な広がりを持っているそうだ。

 

「種族ごとの家が必要なら、リア達に伝えてくれ。建築も出来るそうだから」

 

家の建築を考え始めた大樹は、俺に『製材』というスキルをくれた。あの異常に固い木ですら製材出来るスキルだそうだ。俺は、そのスキルを使い、リア達の指示で建築材を作り出していく。リザードマン達が、種族だけの家を希望したのだ。従者が主と同じ家に住むのはなんとかで…

 

製材するのは良いことである。無駄に木を切り倒さないでも、開墾が出来るし。

 

翌日から、グランマリア達が空からの見回りを始めた。ザブトンとクロの危険察知能力では、方向がわからないからだそうだ。

 

 

桜の花が咲き始めた頃、お客さんが来た。夜、コウモリを従わせて…ルーの関係者の予感だ。グランマリア達は夜間飛行をしないので、玄関まで問題なく辿り着けたようだ。

 

「ふふふ。なかなか面白そうな所ね」

 

見た目20代後半、チューブトップドレスを身に纏っているので、ボディラインがくっきりと分かる。胸とお尻は小さ目であるが美形の部類に入りそうな感じではある。

 

って、言うか、誰も危険視していないのか、スルーしているような。

 

「ねぇ、注目してよ~!」

 

誰も相手にしていない。関係者だと思うルーが近づいて行った。

 

「フローラ、何をしに来たの?」

 

「お姉様の様子を見にですわ」

 

ルーの妹?

 

「フローラ・サクトゥです。お姉様の従姉妹に当たります」

 

自己紹介をするフローラ。だけど、相変わらずスルーをしている大樹達。俺はアーゼと乳繰り合っているので、話し掛けられない。

 

「戻って来ないから、あの腹黒天使にやられたのかと思って回収に来ました」

 

腹黒天使って、誰?ティアが率いる天使の皆さんが、フローラを囲み、ボコり始めた。

 

「誰が腹黒ですって!」

 

「えっ!なんで、いるの…殺される…」

 

「大丈夫よ。ここには蘇生持ちがいるからね」

 

5分後、俺の蘇生コンポにより、フローラが息を吹き返した。マジに殺しやがったよ、この天使達は…

 

ティア達に怯えるフローラ。ルーは大樹と共に発酵について勉強をしている。なので、フローラをスルーしているし。

 

「お姉様…」

 

這いつくばって、ルーの元へ向かうフローラ。ティア達は深追いはせず、警備計画を練り直し始めたようだ。

 

「ここって、何ですか?」

 

「私にとっては学びの杜かな?」

 

翌日、引っ越しの準備をすると言いフローラは帰って行った。本格的に移住するようだ。桜の花が散り始めた頃、鬼人族のメイド20名と、大量の荷物と共に戻って来た。

 

「主様。 末永く、よろしくお願いします」

 

俺に挨拶したメイド長のアン。

 

「アン、この家の主は大樹よ!」

 

ルーの怒りを纏った声が響いた。

 

「これは、失礼しました」

 

再度、大樹に挨拶をするアン。まぁ、俺の方が大樹より、歳上に見えるから、間違えるのも分かるな。

 

 

初夏…クロの子供達は伴侶捜しに森へ飛び出していった。この世界の狼の親離れは早いようだ。空には、ザブトンの子供達が風に流されて方々へと散っていく。ザブトンってメスだったと初めて知った俺と大樹。だけど、ルーから間違いを指摘された。ザブトンは雌雄同体であり、単独での繁殖が可能だという。そう言えば、ザブトンの伴侶って見た事が無いなぁ。

 

鬼人族の為の家も完成し、開拓面積が広がっていく。花畑を作ると、ミツバチ達が住み着き、巣箱を多数作り、設置をしていく。蜂蜜狙いである。甘味不足と言うか。サトウキビの栽培もしているが、砂糖にするまでに重労働が待っているらしい。そこで、蜂蜜に逃げた俺と大樹。だけど、重労働はアン達が背負ってくれるそうだ。この世界の鬼人は家事、料理に特化した種族らしい。

 

 

ある日、順調に毎日を過ごしている俺達の前に、恐れていた者が現れた。見るからに貴族ぽい立ち振る舞い。グランマリア達が警戒しながら、家に連れて来た紳士。人間ではなく魔族のようだ。

 

ティア、ルー、フローラが身構えている。クロ、ユキは指示待ちって感じか?皆、臨戦態勢でいる。それだけ、ヤバい相手のようだ。

 

「何の用ですか?」

 

応対したのはエロ賢者様だ。緊急事態につき、大樹が呼び出したようだ。エロ賢者様からは死を感じさせるオーラが漏れ出している。不死王の俺ですら死を感じるのだ。俺以外の者達には、危険な気配を増長させているだろう。

 

「私は魔王の使いです。この場の代表者にお会いしたい」

 

「僕だけど」

 

エロ賢者様が応対した。相手の紳士の膝が笑っているように見える。至近距離で、あのオーラはきついだろうな。

 

「貴殿がそうなのか?」

 

「って、言うか。まず自己紹介じゃないのか?この世界の魔王は横柄なのか?!」

 

一段上にギアが入ったようだ。この俺の膝が笑っている。不死王になって初めてじゃ無いかな。こんなにも恐怖を感じるのって…

 

「失礼。私の名はビーゼル。魔王の使いです」

 

「僕はシュウ・ヨハネ。この家の主、大樹・ヨハネの祖父だ」

 

ヨハネ?あの預言者の子孫なのか?それとも偶然か?エロ賢者様の名前を聞いて、激しく動揺しているビーゼル。エロ賢者様って有名人なのか?

 

「お、お、お近づきの印に」

 

ビーゼルは魔王の部下であることを証明する品を示し、手土産をエロ賢者様の隣にいる大樹に手渡した。

 

「そうか、すまんな。気を遣わして」

 

何故か、もう1段ギアが上がった気がする。アン以外の鬼人族、リア以外のハイエルフ族、ダガ以外のリザードマン族が意識を飛ばした。アーゼは大丈夫なようだが、震えている。存在自体が凶器なのか。なんか、スゴイ。

 

「で、魔王様は、なんだと言うんだ?」

 

エロ賢者様から向けられているのは、鋭い刃のような視線である。痛いだろうな、あれは…ビーゼルに同情する俺。

 

「この場所との関係について話し合いたいと」

 

震える声のビーゼル。

 

「関係?」

 

「い、いえ、ある程度の権限を頂いております。この場で、取り決めを交わすことも可能です」

 

魔王領において、この場所との関係性ってことか?

 

「出て行けとでも言うのか?」

 

「そんなことは申しておりません。ですが、ここは魔王領内ですので…」

 

ビーゼルが、おどおどしている。

 

「税金を払えと言うのか?こんなにも細々と暮らして居る者から搾取か?」

 

「…」

 

「おい!黙っていたら、わからんだろ?!」

 

エロ賢者様が一歩踏み出した。ビーゼルが腰砕けで、尻餅をつく格好になった。なんだ、あの威圧感は…俺達に対して感じさせたことが無いエロ賢者様の裏面なのだろうか?

 

「すみません…どうしたら、許してもらえますか?」

 

ビーゼルが命乞いを始めた。なんか、立場が逆転していないか?

 

「選ばしてやる。重税課すか?助成金を出すか?僕の騎士団と共に、魔王様に挨拶に行くか?」

 

「あっ…助成金を出します。それで、カンベンしてください」

 

税を払うどころか、助成金をもらえるのか?それよりも、エロ賢者様の騎士団ってなんだ?

 

「畑1面に付き、銀貨10枚でどうだ?」

 

「仰せのままに…」

 

「毎年、冬の間に来て、確認後に払ってくれ」

 

「しょ、承知しました。そのように取り計らいます」

 

ビーゼルが転移して、この場から逃げた。いや、帰った。

 

 

 

---魔王---

 

死の森からビーゼルが生還した。だが、見るからにボロボロである。何か遭ったのか?

 

「ビーゼル。どうだった?向こうは何を要求してきた?」

 

「助成金を要求されました。畑1面につき銀貨10枚を、毎年冬の間に訪れ、確認した後に払えと…」

 

ビーゼルの股間は濡れているようだ。目に涙を溜めているように見える。よほど怖い想いをしたのであろう。

 

「それで済んだのか…まぁ、結果オーライだな」

 

ワイバーンを倒すことの出来る勢力である。戦争は避けないと危険が一杯である。

 

「で、相手の戦力はどんな感じだった?」

 

今回の訪問で一番大事なことは、相手の戦力分析である。

 

「吸血姫と殲滅天使が居ました。皆殺し天使達が空を警戒して飛び回っていました。それだけじゃありません。インフェルノウルフ、コキュートスウルフ、それに加えて、ハイエルフが多数居ました。リザードマンや鬼人も……」

 

「まさか?信じられん」

 

我が国の正規軍よりも強いではないか。単体で国を殲滅出来る者が多数いると言うのか?

 

「私を案内したのは皆殺し天使の一人ですよ。生きた心地がしませんでした……」

 

ビーゼルの身体は震え、顔から血の気が失せていた。

 

「そうか…それは危険な相手だな」

 

「いや、むしろ、そいつらは先兵に過ぎないんですよ」

 

へ?先兵?何を言っているんだ?コイツらの一人だけでも、我が国は翻弄されるぞ!

 

「あの鬼畜が責任者でした」

 

「あの鬼畜?」

 

「先代の魔王と勇者達の戦いに飛び入り参加して、50名の勇者を瞬殺し、先代の魔王の心を折ったアイツですよ」

 

あぁ…あの鬼畜か…伝説では神すらも殲滅したとも言われる血も涙もない鬼畜。男は瞬殺、女子供は玩具にする為に連れ去ると言われているアイツか…

 

「騎士団を呼ぶ気満々でした」

 

アイツの騎士団の通った後には、ペンペン草すら生えないと言われている。そんなのが来たら、我が国はお終いである。

 

「敵対の意思はあったか?」

 

「こちらから仕掛けない限り大丈夫かと思います」

 

そうか…敵対はしないようにしないと…って、ビーゼルの背後に知らない男が転移してきた。

 

「おい!話している最中に逃げるって、どういう了見だ?」

 

「すみません!」

 

その男に土下座をするビーゼル。まさか、コイツが鬼畜か?

 

「そうだよ。僕が鬼畜と呼ばれている賢者だ。覚えておいてくれるかな?」

 

私の心が読めるようだ。ウソは吐けない。

 

「ウソ?吐いたら、毒針1000本を胃の中に転移させるよ」

 

死んじゃうって…いくら魔王でも…

 

「なら、ウソは吐かないことだ。で、魔王領は敵対するのか?」

 

「しません」

 

「そうか。なら、問題は無い。今後も優遇してくれると助かる。なんせ開拓中だからな」

 

「はい!善処したします」

 

「頼む。また、来るよ」

 

鬼畜は転移して、この場から消えた。あっ!股間が冷たい…

 

 

 

 

 

 



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様々な来客

魔王の使いが帰った翌日、リビングに各種族の代表が集まり、今後の方針を決める会議が開かれた。参加者は、俺、大樹、エロ賢者様、天使代表のティア、吸血鬼代表のルー、ハイエルフ代表のリア、鬼人代表のアン、リザードマン代表のダガである。アーゼ、ウルフ代表のクロ、スパイダー代表のザブトンは、会議向きでは無いので参加していない。

 

「家も数棟出来たし、村として運営をしたら、どうかな?」

 

魔族相手に恐怖を振りまいた人物と同一とは思えない、今日のエロ賢者様。穏やかである。

 

「村にするメリットは?」

 

大樹が質問をした。

 

「今回のように、合議制に出来ると思うんだよ。村でなく集落って感じだと、誰かの独裁に思われかねない。まぁ、対外対策だ」

 

「なるほど…で、村長は、祖父ちゃん?」

 

「僕は相談役とかだな。ここに常勤する訳にいかないからね」

 

そうなると大樹になるのか?異論は無いが。

 

「アールは種族的に裏方が良いと思う。そうなると大樹が村長で、ここを大樹の村ってするのが、スムーズだと思う」

 

不死王が村長はマズイよな。アンデッドの村に思われかねない。

 

「どうかな?異論、反論を受け付けるよ」

 

誰も口を挟まない。挟めば、村長にされてしまうだろうから。

 

「じゃ、大樹が村長だ。アールは補佐を頼む。戦闘になったら、大樹が攻撃、アールは後方支援および盾になってくれ」

 

まぁ、それも妥当だな。俺の最大火力はフルカウンターであり、それは盾になることで生かされる火力である。

 

「他のみんなも、そこそこ強いから、攻めるバカはいないと思う。もし死んだら、アールが蘇生出来るから、安心していいぞ」

 

安心せずに、死なないことが一番だと思う。

 

「あとは適材適所で運営すれば、問題は少ないだろう。まぁ、もう少しすれば、アールの仲間が合流できる。そうすれば、外交なんかを任せられる者や商いを任せられる者が出来る。それまでは、大人しく暮らせばいいと思う」

 

頷く一同。さすが賢者様の言葉は重い。

 

「黄ばんだバカ神のせいで、アールの縁の地の特定が難航しているが、大樹が買い出しに行っている街は、迷宮都市の可能性がある」

 

「迷宮が残っているんですか?」

 

「黄ばんだバカが、迷宮核、都市核の扱いを誤ってしまって、機能していない。だから、残っていない。今、龍の谷を探しているところだ。あそこの源泉で魔素溜まりを見つけて、それから、ナナとアーシアを再起動させようと思う」

 

「それは、二人の居場所がわかったってことですか?」

 

「あぁ、見つけたよ。既にサルベージはしてある。ただ、再起動する為のエネルギーが不足しているんだよ」

 

魔素の流れが分断されているのか。

 

「もう少し時間をくれ」

 

その後、細々としたことを決め、エロ賢者様が転移して帰った。

 

 

翌日、来客があった。1匹のドラゴンが村の門を作っている時に現れた。大樹、俺、ルー、ティアで向かうと、

 

「我が名はドライム。由緒正しきドラゴンである」

 

と、挨拶をしてきた。

 

由緒正しくないドラゴンっているのか?

 

『邪龍とか』

 

パリオンが教えてくれた。そうか、邪龍がそうなるのか。

 

「この村の村長の大樹だ」

 

大樹が挨拶を返した。そして、即座に相手に尋ねた。

 

「この村に、何の用かな?」

 

いつでも屠れる間合いに踏み込んだ大樹。その両腕には、得物であるナイフを仕込んだガントレットを装着している。

 

「これは手土産です。お納めください」

 

頭を下げたドライムの隣にいた執事姿の人物が、大きな箱を差し出してきた。

 

「ご丁寧にどうも」

 

大樹のお礼、俺が代わりに受け取り、中身を確認した。ワナなどはなく、高そうな装飾が施された剣が、鞘と一緒に入っていた。それを大樹に見せた。

 

「素晴らしい物を頂きまして、ありがとうございます」

 

「いえいえ、お近づきの印です」

 

と、ドライム。どうやら、フレンドリーなドラゴンのようだ。

 

「ところで、本日はどのようなご用件で?」

 

相手の目的を訊き出そうとする大樹。闘気を纏ってはいないが、間合いからは出ていない。相手の執事の膝が笑い始めている。ティアとルー、クロ達が闘気を纏っているからか?

 

「はい。我が主、ドライム様はここより南の方、ここからでも見えるあの山に巣を持っております」

 

「そうなの?」

 

「距離としてはあるかもしれませんが……近所と言えば近所。遅くなりましたがご近所として、挨拶に参った次第です」

 

近所と言えば近所であるが、村はまだ建設中である。何故、未完成の村に挨拶なんだ?ふと、エロ賢者様の顔が浮かんだ。なんか、やらかしたのか?俺以上に斜め上を行くらしいからなぁ。

 

「それはご丁寧に……えっと、その主が頭を下げっぱなしなのは?」

 

「ご主人様は初対面の方とのトークが苦手でして、下手なことを言うぐらいなら私が代理にと。ご気分を害されましたら謝罪いたします」

 

「で、その大きさだと村に入れませんが…」

 

「まったくですね。ご主人様。小さくなってください」

 

「うむ」

 

ドラゴンが返事をすると、目の前の巨体が煙を上げて小さくなり、背の高い気弱そうな貴族風の中年男性に変身した。変身能力か、いいなぁ…

 

 

その夜、大樹の家のリビングで宴会になった。お酒の類いを用意していなかったので、『強奪』で地下からワインやウィスキーを取り出し、振る舞った。つまみは、ウニとカニが、俺のストレージに保存してあったので、ツマミを調理して出していく。

 

「酒美味い、ツマミ美味い。俺、帰らない。ここに住むぞ」

 

ドラゴンのわがままに、大樹は動じない。幼い時に、ドラゴンに育児してもらったことがあるそうで、ドラゴンに恐怖も畏怖も感じないそうだ。

 

「駄目です。ちゃんと巣を守らないと、色々な方に怒られますよ」

 

執事の人が困っている。

 

「まぁ、いつでもおいでよ。その姿なら歓迎だよ」

 

大樹が言葉を掛けると、

 

「おぉ~友よ。うん、また来るよ。絶対にね」

 

「さぁ、帰りましょう。お土産に色々と包んでもらいましたから」

 

村で生産した野菜である。特に甘みの強いトマトを気に入ってくれたようだ。

 

「よし、わかった。帰ろう」

 

「はい。ああ~、ここで元のサイズに戻っちゃ駄目ですよ」

 

変身仕掛けたが、人のサイズに戻った。ここでドラゴンに変身すれば、家は崩壊するだろうな。

 

 

翌日、反省会を開いた。

 

「迎賓館みたいな、お客さんをもてなす施設はいるかな?」

 

「そうね。家に招くにしても、客間は無いですからね」

 

って、ルー。客が来る想定はしていなかった俺達。隣町まで、結構な距離があるそうだ。ドライムの住む山も小さく見えるし。こんな場所に客が来るって、誰が想定出来ただろうか?

 

「リア、図面は作るから、建築してくれるか?」

 

「はい、喜んで」

 

大樹は建築を担うハイエルフ代表のリアに発注をした。

 

「出迎えに出るのは、俺とルーとティア、それにアールだけにしよう。後の者は、見えないようにガードを頼む」

 

いや、ガードは要らないだろう。俺と大樹だけで、大抵の者は制圧出来ると思う。それに、俺達で対処出来無い場合、エロ賢者様が来てくれるはずだ。

 

「問題は目の前に現れるまで、来客に気づけないことだな」

 

通常の移動であれば、探索スキルで接近している者を察知出来るが、魔王の手下、今回のドラゴンのように、転移で近くまで来られると、察知は難しい。

 

『わかった。魔王と交渉をしてみるよ』

 

エロ賢者様から念話が届いた。

 

「祖父ちゃんが絡むと、スケール感が違うからなぁ~」

 

大樹が苦笑いしている。

 

 

数日後、また来客があった。今回は探索スキルで察知出来た。なので、村の入り口で待ち構えることが出来た。客は鎧を着込んだ獣人の一行だった。大きな荷物を背負っている。行商か?

 

「俺はガルフ。ここから東の山の中ほどにあるハウリン村からやってきた。この村と友好を結びたい」

 

一行はクーデルに案内されてきたようだ。一行の代表者が、目的を告げてきた。

 

「よく来られた。大樹の村は、貴殿らを歓迎しよう」

 

大樹では無く、ルーが代わりに答えた。そこには、大樹とティアの姿は無かった。

 

「感謝する」

 

「休める場所に案内しようと思うが……お主らは今居る数で全員か?」

 

「そうだが?」

 

「そうか。ならば、他は敵と見なすぞ」

 

森の中で、大樹とティアが二人の獣人を制圧して、来訪者の前にたたき出した。

 

「これはどういうことだ?」

 

大樹が殺意を纏っている。ティアもだ。

 

「……すまない。はぐれていた者が居たようだ」

 

はぐれた?明らかに、隠れていただろうに。

 

「それは危ないな。ここは死の森だ。命を粗末にするなよ。そうそう、村の中で勝手な行動は慎むように。私でも死を感じる相手が居るぞ」

 

「……わかった。勝手な行動はしない。約束しよう」

 

大樹は、相手の心を読んでいるはずだが、警戒を緩めてはいない。ルーを先頭に、獣人の一行が、建てたばかりの来客用の家に入った。その家は柵で囲まれている。その柵内なら、命の保証をするって感じである。迎賓館と言うより、収容所の感じか?まぁ、信用出来るか、分からない者達だからな。

 

「どう、思う?なぁ、ティア」

 

大樹がティアに意見を求めた。

 

「友好目的では無いかもしれませんね。魔王の使いも門番龍も手土産を持って来たでしょ?」

 

今回は無かった。

 

「警戒はした方がいいわね。まぁ、私一人でも殲滅出来ると思いますけど」

 

殺す気満々のティア。俺の中の天使のイメージが壊れていく。

 

 

その夜、収容所で宴会が開かれた。大樹、ルー、ティアが参加をする。そして、俺とアン達は裏方として参加をする。もてなす料理は、俺達が普段食べている物よりも質素な物を提供していく。

 

「貧相な食事で申し訳ない」

 

一応、『強奪』で手に入れたウィスキーやカクテルを食事と共に出した。一応客であるから、酒くらいは出す。いや、酔えば本音を漏らすかもしれない。

 

「自分の無知を晒すようで申し訳無いが、ハウリン村はどのような所かな?」

 

「ハウリン村はここより東の山の中ほどに、千年前に作られたと聞かされている。まあ、実際は半分の五百年ぐらい前だろう。年寄り連中は変な所に見栄を張るからな」

 

アルコールで口が軽くなるガルフ。彼によると、ハウリン村も魔王領で、人口は500人位。ほとんどが獣人で、その大半が犬系らしい。狩猟と採掘が中心の生活で、山向こうの人間の村との交易でこれまでやっていた。が、その村とトラブルになり、交易が滞っているそうだ。そこで、ここに目を付けたらしい。風の噂で、死の森に住んでいるヤツがいると聞いたそうだ。誰がリークしたんだ?魔王サイドか?まさか、エロ賢者様か?

 

あの隠れていた者達は、ガルフ達に何かあれば、村に戻って知らせる役目だったらしい。ガルフ達も、俺達を警戒していたようだ。そして、翌日の朝、ガルフ達が帰って行った。

 

手土産の用意が無かったのは、ハウリン村にそういった風習が無い上、用意出来無い程、貧乏だからだそうだ。友好を結びたいのは本当のようだ。

 

大樹は友好は了承したが、交易に関しては返事を保留した。交易出来る物が、この村には無いからである。基本、生活必需品しか生産していないからなぁ。そう考えると、ハウリン村よりも貧乏だと思うんだけど…更に問題があった。ハウリン村との交易は物々交換だと言う。ここもそうだが、ハウリン村も通貨が流通していないそうだ。

 

「鉱石と塗料は魅力だけど、何を対価にするかだよな?」

 

「塩は?」

 

悩む大樹に、ルーが提案をした。

 

「製塩出来るか?」

 

「やってみるけど…」

 

ルーは自信なさげに答えた。

 

「後、ガラス製造の技術も魅力だよな」

 

ガラスは地中から『強奪』で手に入るが、それをリサイクルする技術が、この村には無かった。一方、ハウリン村が希望する品は食べ物。特に野菜である。向こうの村は山の中腹にあり、作付け面積が少ないらしい。後、ワインが欲しいらしい。ワインは、村の宝だからなぁ。ブドウを栽培して、販売用に作るかどうかだな。作物を売るなら、畑を増やさないとダメだな。

 

「まぁ、直ぐには無理だけど。アール、頼めるか?米、ブドウ、小麦、大麦、トウモロコシ、ライム辺りをだ」

 

コロナビールでも作るのか?製法なんか知らないぞ!

 

「あぁ、後、ホップもいるんなぁ」

 

ビールは確定かぁ。

 

「って、ビールは無理だぞ。売る為の容器が無い」

 

「だよなぁ。やはり、ガラス製造の技術が欲しいなぁ」

 

 

本格的な夏を迎える前に、二毛作目を始めた。この世界の作物の生育は早いのか?豊穣の鍬のおかげか?

 

畑の作付け面積を増やし、ブドウ、米、小麦を中心に増やしていく。ビールは諦めたようだ。村の名産品は日本酒とワインで行くらしい。後、油狙いでアブラナ、ごまを、甘味狙いでサトウキビ、小豆を、そして大豆を忘れてはいけない。ソウルフードの元、味噌、醤油、納豆の原料であるからね。ついでに、胡椒、わさび、唐辛子、レモン、ゆずなども植えていく。

 

エロ賢者様から、麹と納豆と日本酒の為の蔵が寄付された。それぞれ、発酵の為の菌が培養された状態である。ルー、フローラに注意事項を伝え、製法を教えていくエロ賢者様。その姿からは、エロさの微塵も感じ無い。今度から賢者様と呼ぼうかな?

 

巫女職であったアーゼが俺と共に畑仕事をしている。大戦前には考えられなかったことだ。

 

「土を弄るって、なんかほっとしますね」

 

アーゼの笑顔は、あの時のままである。みんな、元気かな?

 

 

 



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SS:ヒカルの出産

兄ぃと先輩捜しの旅を続ける。ザイクーオン神が何かしたのか、あれ以来、孤島宮殿に戻る事が出来無くなっている。これには、チートの総合商社の兄ぃが困っていた。孤島宮殿に残っている仲間達の安否確認が出来無いからだ。

 

「まいったなぁ。アールにどう説明すれば…」

 

先輩にはダメダメな処を見せたくない兄ぃ。まぁ、私もだよ。先輩に弱っている処は見せたく無いし。兄ぃの転移術は、この世界においては有効な為、エチゴヤの本店、支店を見回りながら、情勢を調べつつ、先輩を捜していく。

 

パリオン神国で大量の人命が消えたことを受けて、サガ帝国では勇者を召喚しまくっていた。魂を浪費して勇者を呼び出すようだ。その数、3桁くらいだ。この世界を勇者だらけにしたいのか?

 

一方、シガ王国では、先輩の家臣達が混乱を治めようと尽力していた。王は、この機会に乗じて、亜人融和政策を進めていた。先輩の家臣って、亜人が多いし、亜人の自治区もあるから、彼らの働きを目にした者達は、追うように、その政策に乗っかっていく。

 

そして、パリオン神国…クレーターのようになっている。

 

「イタチ帝国の国民をここに移住させたから、狙われたのか?」

 

兄ぃの表情が優れない。イタチ帝国の皇帝も、この地に逃がしたらしい。その事実は、先輩には知らせずに…

 

「俺の行為で、アールの国が…」

 

「そんなことは無いさぁ」

 

突如、私達の背後から声が聞こえた。振り返る私と兄ぃ。

 

「君は誰だ?」

 

見た事のない人物である。種族はUNKNOWNと表示されている。神なのか?

 

「僕は僕が神であることを否定して生きている。だから、賢者程度に思ってくれ」

 

神であることを否定して生きている?それって、神ってことじゃ…兄ぃが一歩前に出て、私を背中に隠すようにして警戒をしてくれている。

 

「君には僕を殺せないよ。君はその資格が無いからね。それよりも、身重の女性と旅をするのって、どうなんだ?」

 

身重な女性?

 

「どういうことだ?」

 

兄ぃが相手に尋ねた。

 

「気づいていないのか?あぁ、初めての体験かぁ。その彼女、身籠もっているぞ。知らないと思うけど、妊婦には転移術は良く無いんだよ」

 

身籠もっている?私がかぁ?自覚は無いんだけど…

 

「受精して着床して1ヶ月か1ヶ月半ってところかな?」

 

1ヶ月くらい?それは兄ぃと…1発で大当たりしたのか?

 

「えっ!」

 

驚いて私の腹を見る兄ぃ。

 

「提案だけど、僕達のキャラバンで移動しないか?助産経験をした女性もいるんだよ。安心だろ?」

 

しかし、探査マップに、目の前の男は表示されていない。何者なんだ?

 

 

賢者を名乗る男性のキャラバンに同行する私と兄ぃ。彼らの正体がまるでわからない。皆、UNKNOWNと表示されているのだ。

 

「団長、この先に勇者の一団がいますが」

 

賢者様の親衛隊であるファルコンさんが、そう報告をした。

 

「殲滅しておいて。どうせ、死に戻るだけだ。気にせずに蹴散らせ。まったく、デッドアンドリロードって、ゲームの世界じゃないんだぞ、ここは…」

 

賢者様によれば、ザイクーオン神がこの世界の理であるシステムを書き換えたらしい。勇者というジョブの者は、召喚された場所に死に戻る定めらしい。アンデッドではないが、殺しても生き返るタチの悪さらしい。

 

「まったく、あの黄ばんだクソは、ロクなマネしていないよな。アールは3000年も飛ばされているし」

 

理を読み解き、先輩の居場所を見つけてくれた賢者様。だけど、先輩は3000年後に飛ばされたらしい。

 

「そうなると、君達も3000年後に連れて行かないとダメだな。う~ん…出産をして子供が乳離れしたら、連れて行ってあげるよ」

 

賢者様達の正体は、時空を飛び、神様達の悪事を止める騎士団らしい。本当の意味での神の御使いって感じらしい。

 

「ザイクーオン神達は神だったんですか?」

 

「異世界から来た侵略者だよ。本当の意味の神では無い。自分から神と名乗るヤツに神はいないよ」

 

神と名乗る異星人だったのか。

 

「なんで、日本人ばかり、召喚されているんですか?」

 

「未来の日本の技術により、彼らの侵略が失敗に終わったのさ。だから、過去に遡って、将来敵になりそうな若者を、異世界に収監したんだよ」

 

そんな理由で…

 

「後、魔王を倒して、元の世界に戻して、未来において自分たちの名前を出せば、神と信じてもらえると思ったようだ。だから、色々な別世界の日本人の少年、少女に的を絞ったんだよ」

 

記憶に名前を刻んでおいて、将来再会したときに、神だと証言してもらえるようにしたのか?

 

「まぁ、ロクでも無い行動だよ。あぁ、勇者と君達の違いなんだが、勇者は退路のあるヤツラで、君達は…わかっていると思うけど、退路が既に無いんだよ」

 

退路は無い。元の世界で私も兄ぃも先輩も死んでいるのは確定である。

 

「退路のあるヤツは、2,3日のロス程度で、元の生活に戻れる。だけど、黄ばんだバカのせいで、そのシステムも崩壊している。アイツらには死に戻りという退路はあるが、元の世界へと戻ることは出来無い。ゾンビ集団と何の変わりは無いんだよ」

 

片道召喚になったらしい。召喚数を優先するあまり、帰還の際に必要になる彼らの召喚元のデータを、保管しなくなっていたそうだ。

 

「あの黄ばんだヤツは、この世界の理というシステムをハッキングした挙げ句、別物に書き換えてしまったんだよ。今、修復中だけど、完全には元に戻らない」

 

遠くを見つめる賢者様。

 

「本来、システムの書き換え後にリセットをするんだよ。その時あった文明という古いバージョンのシステムを完全に消す為にね。君の生きた世界でも、アトランティス、ムーと言った伝説の大陸があっただろ?あれらはリセット時に消えたんだよ。だけど、この世界においてリセットは出来無いんだ。原因は未来という時間軸に飛ばされたアールの存在だよ。今、リセットをすれば、彼の存在は完全に消える。それは、この星や、あそこに見える2つの月に宿る星霊達が望むことでは無い。だから、リセットは出来無い」

 

賢者様によると、本来星は星霊と創造神、維持神、破壊神により、維持運営をしているそうだ。だけど、この星には星霊しかいない。新たなる創造神、維持神、破壊神が赴任すれば、本来の業務に戻るらしいが、戻って来てもリセットが出来無いように、ザイクーオン神は星霊に縁のある先輩を未来へと飛ばしたようだ。リセットすれば、先輩の存在は無かったことになるからだと言う。

 

「先輩は大丈夫なんですか?」

 

「僕の孫を傍においてある。だから、暴走することは無い。近々、パリオンとアーゼも傍に置くから、危険性は下がると思うよ」

 

「アーゼも飛ばされたんですか?」

 

「いや、アーゼは殺されたよ。あの黄ばんだクソにな」

 

殺された…

 

「だから、蘇生術で、未来の世界に於いて、生き返らせるんだよ。アーゼの魂は、招魂して確保済みだし」

 

そうなんだ。

 

 

そして…私は子供を産んだ。娘を二人…双子だった。生まれた娘達はネームドで、既に名前が付いていた。カグヤとカグラだった。何のいたずらだ?誰のいたずらだ?

 

二人からは何故か先輩を感じる。そのことが原因だろうか、兄ぃには似ていない。生まれて直ぐに断言は出来ないけど、直感的にそう感じた。

 

「ヒカル、おめでとう」

 

って、兄ぃの安堵した声。兄ぃも同じように直感したのだろう。この子達は、兄ぃの子供では無く、先輩の子供だと。

 

「そうだよ。彼女達はアールの子供だよ」

 

って、賢者様。

 

「散々、君の中で出しただろ?」

 

確かに、何度も中出しされた。だけど…あれ?なんで、賢者様が知っているんだ?

 

「サトゥーに聞いたんだよ」

 

兄ぃぃぃぃぃ~!何、逃げをうっているんだ!

 

「それにサトゥーとの子供では、3000年後に連れて行けない。人間の寿命はそこまで無いからね」

 

あぁ、そういうことか。だから、先輩の?あれ?

 

「じゃ、二人ともリッチ?」

 

「種族はそうなる。君とサトゥーは単なる不老不死者だけどね」

 

私と兄ぃはチートな人間って感じかな。なんか、トンビが鷹を産んだ気分ではある。そもそもリッチって後付けの種族では無いんか?

 

「聖属性のリッチであるアールは特殊な事例だよ」

 

賢者様がそう教えてくれた。先輩は特殊なんだ。なんか、納得出来てしまう。斜め上を行く先輩だもんな。そんな先輩の二人の娘達の成長速度は速い。賢者様の教えを学び、知識とスキルを身に着けていく。

 

 

 



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2度目の冬を前にして

本格的な夏になると、クロの子供達が伴侶を見つけ、戻って来た。何故かオス達は ボロボロになっている。ライバル達と戦い抜いたのか?って、そんなにインフェルノウルフって、森にいたか?遭遇したことが無いのだが…

 

頭を捻って、大樹が新しい住民達に名付けをした。クロイチのパートナーはアリス。クロニのパートナーはイリス。クロサンのパートナーはウノ。クロヨンのパートナーはエリス。ウノだけがオスである。

 

リア達が、犬小屋を増設している。子供を産むため、雨で濡れないようにだ。あぁ、犬小屋ではなく狼小屋だな。村には来客用の為の宿とか物産店も設置された。信用できる客は宿で、うさん臭い客は収容所という迎賓館に泊めるようにするそうだ。

 

大樹は狩りで得た食えない部位を街で売り、海産物を大人買いしてくる。昆布、わかめ、かに、うに、いか、タコに小魚など。この世界の住民には人気の無い食材を安く大量に仕入れ来るのだ。

 

「昆布とわかめは干して、イカはキモだけ抜いて干す。小魚はすり身にしよう」

 

大樹と俺で、アン達に下準備や加工方法を教え、必要な道具をリア達に発注していく。夏真っ盛りが終わる頃、2毛作目が終わり、収穫時期になった。冬までに3毛作目が可能のようだ。木材取得の為に切り倒した木々のエリアを農地にして、3毛作目の準備を始める俺。

 

「ワイン仕込み用の樽を持ってきたぞ」

 

賢者様が、樽を数個持って来た。ここに生える木では、ワイン用の仕込み樽に出来無いらしい。

 

「どうして、ここのはダメなんですか?」

 

製造責任者のリアが訊いた。

 

「熟成させるのに酵母菌っていう物が必要なんだよ。発酵の原理はルー達から説明があったと思うが、酒の種類によって、発酵に使う菌が違う。だから、酒蔵、醤油蔵、納豆蔵を道具一式でプレゼントしたのだが、ここの木は、菌が増殖出来無いみたいなんだよ」

 

確か、糖分をエサにする菌がアルコールを排泄するんだっけ。

 

「ここの木で樽を作ると、何年経ってもブドウジュースのままで、ワインにはならないと思う。試しに、1樽作って、1年置いてみな」

 

「はい。実験します」

 

アン達は収穫したブドウを足で踏み付け、潰していく。米は精米して麹付けをして酒樽へ、大豆は水に漬けてから蒸して、それぞれの蔵へと、ルーとフローラが執り行っていく。

 

ティア達天使族と大樹は、収穫した物の一部と共に、ハウリン村へ向かった。交易という名の食料支援をする為にだ。帰ってくると、25名くらいの若い獣人の女性達と共にいた。

 

「対価に女性をくれたよ…」

 

疲れた顔の大樹。食料の見返りに女性を?鉱石や塗料は?

 

「人減らしをしたいそうで、移住という名の人身売買って感じだよな。対価に差し出されたわけだから」

 

「みなさん、ごめんなさい。私はハウリン村村長の娘のセナです。奴隷として、この村に置いてください」

 

セナ以下全員が頭を下げた。奴隷としてって…みんな、大樹に視線を合わせていく。

 

「いや、奴隷としてで無く、住民として受け入れる。彼女達はガラス製造のノウハウがあるらしいので、ガラス関係を頼もうと思う。リア、セナから必要な設備、道具を訊き出し、製造してくれないか?」

 

「わかりました」

 

「ティア、彼女達を空き家へ案内してくれか」

 

「まかせて。さぁ、こちらに来てください」

 

畑を開拓するに当たり、切り倒した木々を使い、空き家を何棟か建てていた。それが利用出来る様だ。俺とアーゼは開拓作業に戻る。俺が耕し、アーゼは何の畑かを記録していく。アーゼの記録を元に、収穫量を予測しておくのだ。

 

 

その夜、俺の寝室にセナが来たらしい。俺は死体となって寝るので、寝ている最中の出来事はまるで分からない。なので、死体の俺に驚かないように、説明要員として訳知りのアーゼが、毎晩添い寝をしてくれているのだ。朝、目覚めると、上にセナがいて、隣にアーゼが寝ていた。それはそういうことだろう。

 

なんで、ここにセナが居るんだ?こういう場合は、村長の大樹の元では無いのか?脳ミソに血流が行き渡り、なんで俺かを理解した。そうだ、ニトロブラッドのせいだ。大樹は寝る時に、ルーとティアと添い寝している。それは、大樹の特性を知らずに、間違いを起こさない為である。世間一般の常識では、吸血姫ルーと殲滅天使ティアの危険度は有名らしいので、近寄る者はいないようだ。なので、補佐としての俺と関係を結んだセナ。相変わらず、アーゼは俺の愛人を300人まで容認するようだ。いや、300人なんて無理だと思うのだが。

 

翌日、賢者様が二人の男女を連れてやってきた。

 

「トライ先生、リリスさん…」

 

大樹が二人の元へ駆け寄っていく。

 

「しばらく、来られないから、用心棒と万が一の時の借り腹を置いて行くよ。大樹には受精卵のチェックスキルと、受精卵の転移スキルを与える。それらを使って、仲間を護れ。いいな」

 

「はい。祖父ちゃん、ありがとう」

 

って、ことは、女の方はドラゴンか。男の方もドラゴンなのか?

 

「彼らは何者ですか?」

 

ルーが質問した。

 

「トライ先生は獣の数字で、リリスさんは原書のドラゴンだよ」

 

大樹が答えた。ルーとティア達天使族、アーゼの顔から血の気が失せていく。なんか、ヤバい存在じゃないのか?

 

「ラスボスですか?」

 

ルーがつぶやく様に声を発した。

 

「祖父ちゃんが使役しているから、敵にはならないよ」

 

ラスボスって言う事を否定しない大樹。そんな存在を2体も、置いて行くようだ。

 

「大樹、りりしくなったなぁ」

 

「たいじゅぅぅぅぅぅ~!」

 

トライが大樹の頭を撫で、リリスが大樹を抱き締め、頬を重ねている。そうか!大樹の乳母だったドラゴンか、リリスは…

 

「じゃ、僕は、仕事に戻るよ。トライ、リリス、普段はオーラを抑えろよ。仲間をびびらすな」

 

「はっ!」

 

「お任せ!」

 

二人が賢者様に跪いた。それを見届けて、賢者様が転移して消えた。

 

 

大樹、ティア、ルーと共に、大樹が見つけた迷宮らしき場所に潜入した。

 

「どこの迷宮か、わかるか?」

 

鉄の森と大樹の良く行く港街の間辺りにある高い丘のような場所の麓に入り口があった。

 

鉄の森が大砂漠として、考えられるのは港街が迷宮都市で、その迷宮だろうか。カニやウニが近海で採れることを考えても、そんな結論になりそうだ。

 

「迷宮都市かな?」

 

「偽核の?」

 

「そうだ」

 

そうなると、迷宮核の部屋は、迷宮には無い。あの屋敷の中だ。だけど、屋敷はどこにいったんだ?地形が様変わりしすぎて、予想が出来無い。

 

そうだ!ヴァン達は生きているだろうか?迷宮内の探査は出来無い上、迷宮内のマップも変化しているようで、下層へ向かう通路が見つからない。長らく閉ざされていたのか、上層には魔物の気配は感じなかった。

 

「もう少し、探索メンバーがいれば、ここを踏破して貰いたいけど、現状だと無理だな」

 

って、大樹。俺一人でも行けると思うが、日没までに帰れない予感がする。ここって、結構広いからな。

 

「今日はここまでにしよう」

 

出口へと向かった。

 

 

丘の上は野っ原だった。

 

「ここに第二の村を作るのは有りだな。街に近いし」

 

馬車でなら街まで、1日くらいの距離らしい。

 

「現状は今の場所の開拓が先だけどな」

 

丘なので、景色が良い。遠くに港街が見え、海も見える。あの村は木々しか見えないもんなぁ。

 

そして、港街にある借りている家に転移した。買い込みの為の拠点として、家を借りたそうだ。大量の荷物を持って、街中で転移では怪しいので、家に運び込んでから、転移しているそうだ。

 

「ここを拠点に、この街で情報を得るのもいいけど、現状では、俺とアールしか転移出来無いのが問題だな」

 

トライとリリスはオーラが異質な為、街には来られないそうだ。

 

「来年になれば。転移出来る者も増えるらしいから、今後の課題だな」

 

転移出来る者が増える?それは、孤島宮殿の者達と再会出来るってことかな?少し期待しよう。

 

大樹だけが街に出て、大人買いをしているようだ。ティア、ルーは有名人過ぎるので、街には出られないらしい。俺は種族が問題なので、やっはり街に出ない方が良いらしい。

 

 

秋の訪れを感じ始めた頃、キノコ狩りに出掛けた。食べられるキノコかどうかをルーが判断してくれ、食べられるキノコを集めていく。この世界に、トリュフが存在していることに驚く俺と大樹。

 

「椎茸とか松茸は適した木々が無いから無理かぁ」

 

松茸は赤松だっけ?この森は表皮が異常に硬い木しか無いからなぁ。豊穣の鍬をふるい、赤松と椎の木をイメージして耕した。これで生えるか?

 

村に戻り、キノコ鍋の準備をするアン達。大樹は冬支度をしていく。コタツを各家へ配り、使用方法を説明していく。コタツは、地下から『強奪』したものだ。これを使う為に、夏の間に、太陽光発電システム一式を数台、地下から『強奪』してある。電子回路の塊である太陽光発電システムは、まだこの世界では製造出来無いようだった。電池という概念が無いし。なので、過去の魔法具と説明している大樹。発電する為に、各家の屋根には太陽光発電パネルが既に設置してある。

 

各部屋にはLED電球があり、夜でも部屋内を明るく照らしている。この世界に於いて、俺達のいた世界の技術は魔法具として認識されるようだ。電気という物が無いし。原理自体は研究熱心なルーとフローラのコンビだけが、理解できる程度のようだ。

 

「これらの魔法具は、この村からの持ち出しを禁止する」

 

と、大樹がルールを定めた。複製品すら作れない状況で、流通させるのには問題があると判断したのだ。これには、各種族の代表も了承した。この村は基本、合議制なので、緊急案件以外は、大樹の一声だけでは決まらないのだ。

 

そして、冬の訪れを感じ、今年最後の収穫を始めた。このタイミングで、ビーゼルが助成金を払いに、村へ来訪してきた。敵意は無いので、宿に案内し、もてなす。

 

「この魔法具は売ってもらえませんか?」

 

LED電球に目を付けたビーゼル。

 

「これはまだ開発中なので、ダメです」

 

拒否する大樹。

 

「開発中でも構いません。どうか、譲ってください」

 

粘るビーゼル。

 

「ダメです」

 

断固拒否の大樹。LED電球だけでは、機能しないからなぁ。

 

「では、何か珍しい物を譲ってください。例えば、トイレとか」

 

今度は温水洗浄便座に目を付けたビーゼル。この便座は、製造の目処が立っている。魔力を必要とする魔法具としてだ。ただ、下水処理システムと上水道が居るため、設置場所を選ぶのが難点であり、売るだけで使える物では無い。設置工事が必要で、売る場合は工事費込みの価格になり、高額になってしまう。

 

「単体では動かないので、ダメです」

 

「ならば、システム一式を売ってください」

 

ルーが販売用の資料をビーゼルに見せた。基本工事費込みの見積もり価格付きの資料である。

 

「うっ!こんなにするんですか?」

 

「専門の技術者が施工をしますから、人件費が高く付きます。後、それなりに土地や水源も必要です。それらは、買手が用意してください」

 

村であれば、手が空いた時に施工できるが、外部の街では、そうもいかない。拘束される日数が長い上、専用資材を運ぶ、運搬費などもかかる。

 

「う~ん…少し考えます。見積もりには納得ですが、高いですね」

 

唸るビーゼル。基本的に、この世界のトイレはボットン式だからなぁ。汚物はスライムが浄化していく感じで、バキュームカーのような回収はしないシステムであるけど。

 

「もうすこし手頃な価格の魔法具はありませんか?」

 

大樹はドライヤーと男性専用の筒を持ち出した。ドライヤーは実演し、男性専用の筒は、ビーゼルの耳元でゴニョゴニョと。

 

「この2つを買います」

 

説明を聞いて、お買い上げしてくれた。これらも魔力で作動する魔法具である。

 

 

 

---ビーゼル---

 

大樹の村から、自宅へ直接帰宅した。男性専用の筒の威力はスゴイ。宿で試したのだが、これは最終兵器では無いのか?思わず、30個ほど買い込んでしまった。こんな物を持って王城へは行けないので、自分の部屋に保管をして、妻へドライヤーをプレゼントした。

 

翌日、最終兵器を1つだけ持ち、王城へ向かった。

 

「ビーゼル、どうだった?」

 

魔王に訊かれた。

 

「えぇ、順調に村は大きくなっていました。あぁ、これはお土産です」

 

「これは?」

 

魔王の耳元でゴニョゴニョと。

 

「なんだと…で、威力は?」

 

「サイコーです。問題は、1回ごとに洗浄して、使用前には、この専用のローションを注がねばならないことです」

 

ローションは消耗品であり、なくなれば、村まで買い出しに行かないといけない。

 

「相当の技術力があるのだな」

 

温水洗浄便座やLED電球の話もした。

 

「そのような物があるのか。それらは譲ってもらえぬのか?」

 

「高額になりすぎます。一個人の買える物では無いようです」

 

下水システムというのは、数家で共用しないと場所を取ってジャマになるらしい。発電システムというのは、街単位で維持運営する方が効率的らしいし。

 

「国家予算をつぎ込んで、王城に設置してもらうか?」

 

「問題は、畑仕事の無い冬の間しか、工事してもらえないそうです」

 

工事期間が長くなるため、畑仕事のある冬以外の季節は、来てもらえないらしい。

 

「今では無いか!ビーゼルよ!今から発注をしてきてくれ」

 

今から?設置場所はどうするんだ?

 

「魔王様、設置場所や水源の位置などの図面や地図が無いと、施工してくれません。来年の冬が妥当では無いですか?」

 

「そこをなんとかしてくれ」

 

なんとか出来無い予感。彼らには彼らの生活があるのだ。

 

「無理を通すと、危険ですよ」

 

はっとした魔王。

 

「そうじゃったなぁ。それはそうと、新たな戦力はおったか?」

 

新たな戦力?見慣れない者達が数名いたが…

 

「前回の視察時と、あまり変わりません」

 

と、返事をしておいた。

 

 



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