東方時哀録 (シェイン)
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第1章 ビギニング・タイム
第1話 ~開戦~


皆様初めまして。シェインと申します!
どれだけの作品が作れるか分かりませんが、読んで下さった方の心に残る作品になるように頑張って行きたいと思いますので、これからよろしくお願いします!



果てにある宇宙なんて見えない程に広く、湖の水の青を薄めたような美しく、儚い、青に染まっている空。上を見上げればいつでもそこにあり、「不変」と思ってしまうもの。

 

 

しかし、それは有り得ない事だ。

 

宇宙も、湖も、空も、そして...人も。

「不変」ということは起こり得ない。世界に時間が流れる限り、変わり続ける。

 

 

この穏やかで当たり前な空にもほら、大きな変化が訪れる...

 

 

 

 

   

乱れ一つ無い水面に、波を作り出す水滴のように、空気と雲の、完璧な調和を保つ空を乱す存在があった。

 

その存在を一言で表すなら...白。

 

膝元あたりまではあるであろう純白のマントを身に纏い、中には白のシャツ、下は白い七分丈のズボンと、白で統一された装いの中で、少し短い金髪が一際輝き、目立っている。白い存在の少年は、そんな見た目をしていた。

 

その少年は、空気を切り裂くようにして下へ、下へと仰向けで落ちていく。抵抗する素振りも見せず、自分の辿った軌道を虚ろな瞳で見つめているだけ。

 

やがて少年は一つの行動を取った。

 

手を伸ばしたのだ。

 

自分が下へ、下へと落ちていく中、その手は上へ、上へと伸ばす。

 

まるで何かを求めるかのように。救いではなく、もっと大切なものを求めて、少年は必死で手を伸ばす。

 

しかし、重力は誰にでもまとわりつき、情など持ち合わせてはいない。望みを込めた腕の繋がる胴体を、大地へと引き寄せる。

   

とうとう少年の背に、無数の瓦の張り付く多くの屋根や、乾いた地面が見えてきた。しかし少年が気づく訳も無く、変わらず手を伸ばし続けている。

 

残り100m...手を伸ばす。

 

残り50m...手のひらを閉じる。

 

残り10m...伸ばし続けてきた手を力無く下ろす。

 

残り5m...虚ろな瞳を隠すように、瞼を閉じる。

 

残り1m...そして、言い残すように一言呟く....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「..........嘘つき...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷、そこは忘れられた者達がたどり着く楽園だと言われている。

 

己たちを喰らおうとする者もいるこの楽園で生き抜く人間、多種多様な姿と特異な能力を備えた者たち妖怪、自然から生まれ出た永遠の幼子である妖精、そして神までもが生きる、幻の楽園。

 

そんな楽園が迎える満月の夜、輝く星の光を遮る、球体のような暗闇が空をふらふらと泳いでいる。その暗闇の中、外部からは見えることはない1人の少女がいた。

 

「あぁ~、お腹へったのだぁ~...」

 

月の如き輝きを放つ金髪に赤いリボンを付け、両手を広げたままという独特のフォルムで闇を纏う少女は、誰にともなく嘆く。このセリフが普通の少女のものなら飴の一つでもあげたくなるが、彼女の場合は物騒なセリフへと早変わりする。

 

彼女の名は、ルーミア。闇を操る()()()妖怪である。

 

お腹をすかせて空をよろつくルーミアは、自分の獲物を求めて闇から視線を飛ばす。その視界に、一つの灯りが映る。灯りの近くには、青く生い茂る森とささやかに流れる小川があり、どうやら灯りは、その傍らで焚き火をしている男のもののようだ。

 

「ふふっ♪美味しそ~う♪」

 

ルーミアはにやりと笑うと、自らに纏っていた闇を取り払い、空気を蹴り出すようにして急降下を始めた。重力に従い加速していくルーミアの先には、獲物である人間の姿。風を切る音に混じらせ、彼女は告げた。

 

「いただきま~す♪」

 

その言葉の通り、数秒後には地上の男は美味しく召し上がられる事になるはずだった。だが、男は瞬時に後ろに飛び退き、ルーミアの飛びかかりをかわして見せた。男の回避に気を取られたルーミアは勢いを殺すのが遅れ...

 

「ふぎゃぁっ!?」

 

男の腰掛けていた大きめの石に、思い切り頭を打ち付けた。そのまま意識の薄れ行くルーミアの最後の視界には、さっきの男の顔が映っていた。

 

 

 

「うぅん...」

 

頭に伝わる心地よい冷気がルーミアの意識を覚ます。先程打ち付けたおでこには氷の入った袋が乗っており、じんじんと痛む患部を癒してくれる。その冷たさに、ルーミアが友達の氷精を思い出したのはまた別の話。他にも、横たわる体の下には厚手の寝巻きが敷いてあり、上には柔らかな毛布もかけられている。ここまで手厚い処置を施したのは...

 

「あっ、目が覚めた?頭ぶつけちゃった見たいだけど、大丈夫?」

 

自らを喰らおうとした相手に非常に穏やかな表情で気をかける、先程の男だった。ルーミアは氷の袋を手で下ろしつつ、体を起こして返事をする。

 

「う~ん...まだ少し痛いけど、大丈夫なのだ~。」

 

男は20代後半位の見た目で、動きやすそうなシャツやズボンを着ている。雰囲気は爽やかかつ穏やか。見ただけで分かる好青年である。男の側には焚き火の他に、近くの小川で捕らえたと思われる魚を木の棒に刺したものが石を支えに立っており、程よい焦げの芳ばしい香りが、ただでさえ不満を唱えていた腹の虫を刺激してしまう。

 

「...お腹、空いてるんでしょ?一緒に食べよう。」

「えっ!?いいの?」

「もちろん。そのために多めに釣っといたんだもの。」

 

男は眩しいほどの笑顔を向けながら、ルーミアにサムズアップを示した。自分が食べようとしていた相手に、ここまでしてもらうことに少し後ろ髪を引かれつつも、やはり空腹に打ち勝つなどルーミアには不可能で、若干苦い顔をしながら布団から抜け出し、男の隣にちょこんと座ると、改めて男が向けた笑顔にさっきから感じていた気まずさは、光が闇を払うかのようにすっきりと消え去った。

 

「俺は五代(ごだい)雄介(ゆうすけ)。君の名前は?」

「わたし、ルーミア!闇の妖怪なのだ~!」

 

ルーミアは両腕を広げるお決まりのポーズを取ると、雄介の笑顔に引けを取らないほどの満面の笑みで、自分の名前と種族を告げた。

 

 

 

 

「へぇ~妖怪か。本物を見るのは始めてだな。」

「そーなのかー。」

 

パリッと焼き上がった魚を食べる雄介は、告げられたルーミアの正体に関して実に飄々と答えて見せた。本来であれば、妖怪は人間から恐れられる存在なのだが、今、無邪気に焼き魚にかぶりつくルーミアの方には恐怖を与える意図は無く、シンプルに自己紹介をしただけなので、結果的には良かったと言える。

 

「ごちそうさまでした!それにしても、妖怪を見たことないなんて、雄介は変わった奴なのだ~。」

 

焼き魚をぺろんと平らげたルーミアは心底幸せそうな顔で口のまわりを一舐めすると、雄介をまじまじと眺めながら呟く。

 

「そうなの?普通は見たことないと思うけど。」

「この幻想郷では、普通に見たことあると思うんだけどなぁ。」

 

食後に交わされる、旅の青年と妖怪の少女という少し変わった組み合わせでの会話。変わっていると言えど、そのやり取りは笑顔に溢れるもので、彼らの側で揺れる焚き火のような暖かさがあった。だがその姿を、森の闇に紛れて睨み付ける影が一つ。2つの眼光とその手に握られた得物が、冷たく輝く。

 

「幻想きょ...?」

 

“幻想郷”という自分の知らないワードについて問いかけようとしていた雄介の言葉が途切れ、出会ってからずっと穏やかだった表情が急激に強ばる。明らかに様子のおかしい雄介に、ルーミアは心配そうにその顔を覗き込む。

 

「雄介...?どうかした?」

「まずいっ!!」

「ふぇっ!?」

 

雄介は森の方向に目をやると、大きく目を見開いて叫び、呆然とするルーミアを抱き抱えて大きく横へと踏み込んだ。その次の瞬間、二人の背後で火にくべられていた薪が、金属音と共に弾けとんだ。

 

「嘘...あれって槍!?わたしたち、誰かに狙われて...?」

 

ルーミアは雄介の肩の上から顔を覗かせ、自分たちの置かれた状況を確認する。焚き火のあった場所には、三ツ又になっている金色の槍が突き刺さっており、周囲にあったものは散乱していた。そんな物騒な物が間違って飛んでいってしまうなんて事は、いくら常識の通じない幻想郷と言えどあり得ない。つまりこの槍は、明確な殺意を持って放たれたものという事だ。

 

「うん...しかも、この雰囲気...」

「動かなければ苦しまずに殺してやったものをなぁ...」

 

雄介は抱えているルーミアを下ろしながら、研ぎ澄まされた殺意を探る。すると森の中から、少し気だるさを感じさせる哀れみの声がかけられ、声の主もまた、ぶらりと森の中から姿を現した。

 

「ばっ、化け物...!?」

 

ルーミアがぽつりと呟く。彼女の言う通りその姿は異形であり、主な体色は緑、丸い指先には吸盤、非常に大きな瞳。特徴としてはヤモリに近しいものがあれど、その姿は人の形をしている。そして、腰には所々鋭利な形状の金色のバックルがついていた。

 

「グロンギ...?」

「久しいなぁ、クウガ。オレの事、忘れちゃねぇだろうな?」

 

グロンギ。雄介にとって忘れることなど出来ない、その名。本来であれば、忘れてしまってもよかった存在。雄介はそのグロンギ、“ズ・ジャモル・レ”から意識を離さずに思考を巡らせる。

 

「(そんな...グロンギはあの戦いで全滅したはず...しかもこいつは、俺が確かに...!)」

 

目の前の現実を必死で否定する雄介の頭の中に、強く悲しい記憶が甦る。

 

顔を殴る、足を蹴る、腹を突き破る、喉元を射抜く、肉を断ち切る。その脳みそが焼ききれそうになる感覚と、多くの血にまみれた記憶。その記憶が、彼の心の青空を嵐へ変えていく。

 

「さぁて、一発で殺られてくれればよかったが、せっかく生き延びたんだ。ちょっくら遊びに...いや、“ゲゲル”に付き合って貰おうか?」

「(やるしか...ないのかッ!!)」

 

ジャモルは、地面に突き刺さったままの槍を引き抜くと、その鋭利な先端を長い舌で舐め回しながら挑発を行う。その中で発した“ゲゲル”と言う言葉が、雄介の心に雷を落とした。雄介は拳を強く握りしめ、覚悟を決める。これ以上、誰かの涙を見ないために。

 

「ルーミアちゃん、今すぐ逃げて。ここから、出来るだけ遠くに。」

「雄介...?」

 

雄介はそれだけを告げると、未だグロンギの存在に動揺し不安そうに声をかけるルーミアの方に振り向く事もなく、ジャモルに向かって数歩直進した。彼は川辺の砂利を踏みしめつつ、両手の親指を人差し指から離し、他の四本の指は揃えて、手の甲を正面に向けるように腰に構える。その両手は、何かを囲むかのように空白を挟んでいた。

 

「え...?」

 

しかし、その空白には何も現れない。普通ならば当然の事だが、雄介にとってそれは異常な現象だった。1年以上、“現れるはずのそれ”と共に死線をくぐり抜けて来た。彼にとって、自分の体の一部のような物。否、本当に自分の体の一部である物だったはずなのだ。だからこそ彼にとって異常な現象なのだ。

 

「お~い、クウガ。何やってんだよぉ?さっさと来ねぇとこっちから殺りにいくぞッ!?」

「雄介っ!!」

 

雄介はミスの起こったロボットのように、何度も同じ動作を繰り返す。そんな彼に痺れを切らしたようで、ジャモルは槍を振り回しながら雄介に突撃する。それに気付いたルーミアは、危険を雄介に伝えようと叫ぶ。しかし雄介は気付かない程に混乱してるようで、彼女の声も届いていない。

 

「っ!!【月符】ムーンライト・レイ!」

 

雄介に声が届かないと悟ったルーミアは、ポケットから絵と文字の書かれた札“スペルカード”を取りだし、その札を数多の小さな魔法弾と大きめの魔力の塊に変換させた。ルーミアは、その内の小さな魔法弾を雄介とジャモルの足元にばらまく。

 

「うわっ!?ルーミアちゃん!?」

「チッ!何だあのガキィ!!」

 

雄介は、魔法弾が地面に着弾した際の音と爆風でようやく我に帰り、その場からルーミアの方に飛び退く。一方ジャモルは、着弾で立ち登った煙幕で視界が悪くなり、足を止めた。

 

「ごめんね!助かったよ。」

「うん!じぁあ、ヤモリさんは美味しくないから、焼き消してあげるッ!!」

 

雄介が煙の中から飛び退いた事を視認したルーミアは、煙幕の中にある影を、魔力の塊から発生させた二本のレーザーで挟み込むようにして狙い射つ。徐々に二本のレーザーの間隔は狭まり、影の位置で交差して魔法弾の爆発より更に大規模な爆発が起きる。

 

「やった!!」

「いいや...駄目だよ。」

 

爆風で揺れるショートボブの金髪を抑えながらルーミアは笑顔を浮かべるも、険しい顔をする雄介にはその結果が分かりきっていた。

 

「うそでしょ...完璧に決まったのに...」

「ちぃ...ガキがゲゲルを邪魔しやがってぇっ!...手始めにお前を殺ってやるっ!!」

 

爆煙の中から少し前と変わらない姿のジャモルが、槍をプロペラのように回転させて爆煙を吹き飛ばし、二人の前に現れる。口調も気だるさを感じさせるものから、苛立ちを滲ませるものへと変え、荒々しく槍を振り回す。その槍をピタリと止めると、切っ先

をルーミアに向けた。

 

「ルーミアちゃんッ!!」

 

ジャモルの手の動きでルーミアを狙っている事を察した雄介は、彼女を救うために砂利を蹴って駆け出した。だが無情にも槍は勢い良く投げ放たれた。その速度は雄介の走力を凌いでおり、今度はルーミアを抱えて回避する事が出来るものには到底思えなかった。それが出来ない以上、彼女を救うのならばその術は雄介にとってたった一つだった。

 

ルーミアに向かって、3つの鋭利な切っ先が真っ直ぐ向かって来る。スペルカードが一切効かなかった事実が、ルーミアの意識を縛り付けている中で彼女の視界に、こちらに駆けてくる雄介の姿が映る。雄介の向かう速度と、槍の向かってくる速度。その差から、雄介が何をしようとしているのか直感で理解した。出会ったばかりの怪しい少女に手厚い処置を施し、ご飯まで用意してくれた今までの行動が、その直感を裏付けていた。

 

そして、その直感は現実のものとなってしまった。雄介は槍とルーミアの間に割り込み、立ち塞がったのだ。その体を盾にルーミアを守るために。

 

「だめっ!雄介っ!」

 

ルーミアは無意識に駆け出していた。逃れるためではなく、雄介を救うために、自分を狙い空気を切って迫る凶器の方に駆け出したのだ。きっと自分が飛びついたとしても、雄介を伏せさせることは出来ない。このまま行けば二人共槍に貫かれて共倒れになるかも知れない。彼女も頭では分かりきっていた。それでも、どうしてか足は止まらなかった。どうしようもない感情と、まるで止まったように思える時の中、ルーミアは思う。

 

「(もし、雄介をこの瞬間だけ消せたなら...!!)」

 

起こり得ない奇跡を願いながら、ルーミアは雄介を目指して飛び立つ。ルーミアと槍がほぼ同時に雄介に迫る。ルーミアの方が少しだけ早くたどり着き、彼女は力の限りに雄介に抱きついた。

 

「えっ!?」

「うぉっ!?」

 

その瞬間、赤い閃光が辺り一帯に迸った。力強い熱さ、優しい温もりを感じる、赤き輝き。その輝きが落ち着いてきた頃に、雄介がルーミアを救った直後に轟いた音と同じ音が鳴り響く。地面に突き刺さる槍の先には、何も貫かれてはいなかった。そして、雄介が立ち塞がっていたその場所に彼の姿はなく、そこの少し上の空に、光を放つ存在一つが浮遊している。

 

「な、何なんだ?()()()()()()()()()、光はっ!?」

 

少し背丈の伸びたルーミアは、体の力を抜き、目も閉じたまま胸元の辺りから赤い光を放ちながら、静かに地面に降り立つ。それと同時に胸元の光は完全に収まり、彼女はゆっくりと目を開けた。

 

「助かった...の?」

 

ルーミアは自らの背後に突き刺さっている槍を見つけ、胸を撫で下ろしたが、周りにいたのはジャモルだけであり、雄介の姿はない。しかし、不思議と不安や焦りを感じることはなかった。その訳を彼女は直後に知ることとなる。

 

「ルーミアちゃん...これは一体...?」

 

体の内から雄介の困惑する声が響き、彼の言葉に合わせて胸元が僅かに赤く輝く。まるで、雄介が光となってルーミアと一体化したかのように。

 

「雄介!?雄介なの!?よかった、無事だったんだ!」

「これが無事なのか良く分からないけど、多分君のおかげだよ。ありがとう!」

 

姿は見えないていないが、ルーミアにはサムズアップする雄介が簡単にイメージ出来てしまい、クスッと笑ってしまう。いや、ただのイメージとは言い切れないかも知れない。ルーミアの中に、ぼんやりとではあるが雄介の姿、意識が伝わってくる感覚があるのだ。その感覚の中、一瞬のフラッシュが彼女の意識を染め上げた。

 

 

 

 

「(っ!?)」

 

ルーミアの意識の内に映るのは、燃え盛る木造の建物の中で先程と同じポーズを取る雄介。しかし先程との明確な違いは、このポーズが次のステップへと進んだことだ。先程は何も現れなかった両手の間に、中心に灰色の石の埋め込まれた銀のベルトが現れる。

 

「(...あれは、アークル?でもわたし、何で名前が分かるの...?)」

 

混乱するルーミアの意識の中、雄介は動きを続ける。左手をアークルの上部に添え、右手は左側に向けて真っ直ぐ伸ばす。そして伸ばした右手の人差し指と中指を伸ばして揃える。更に、左手をアークルの曲線に沿ってスライドさせて、ベルトの左側についているスイッチの上に乗せ、右手は左手の動きとは逆方向にスライドさせる。そこでピタリと動きが止まった。雄介は、目の前にいるコウモリの意匠がある化け物を強い眼差しで見据えると、静止させていた右手を握り拳へ変え、スイッチに乗せていた左手に重ねて下に押すことで、そのスイッチを押し込んだ。中心の石が赤に変わったアークルから一気に両手を離すと、固く握りしめた右手の拳を、コウモリの化け物にぶつける。すると、その右手は赤い装甲を纏う。続けて左の拳。こちらも赤い装甲を纏う。更に右足を振り上げ、蹴りを見舞うと、右足は黒く変化した。その三ヶ所の変化が引き金となり、全身が変化していく。左足は右足と同じく黒く変わり、胴体には大きめの赤い装甲が備わり、顔はクワガタのような金の角のついた、大きな赤い複眼を持つ仮面へと変わっていった。

 

「(あの赤いのは、クウガ...。もしかして、これは雄介の記憶...?だから、ベルトやあの赤いやつの名前が分かるのかな...?)」

 

その考察に至った所で、記憶のビジョンが少しずつ薄れていく。再び意識が白く染まる直前、雄介の声が聞こえた。

 

「これ以上っ!誰かの涙は見たくないんですっ!だから、見てて下さいっ!俺のッ、“変身”ッ!!」

「(雄介...)」

 

 

 

 

ルーミアは記憶のビジョンから意識が戻って来ると、雄介に問いかけた。

 

「ねぇ、雄介。あいつを放って置いたら、誰かを傷つけるの?」

「うん...あいつらは、ゲームとして人殺しをする種族、グロンギだ。クウガの力か、神経断裂弾でしか倒せない。でも、アークルは出てこないし...どうすれば...!」

 

雄介の答えを聞いて、ルーミアは、少し長くなった足で迷わずに一歩踏み出した。

 

「だったらやるよ、わたし。」

「ルーミアちゃん...!?止めるんだ!君の魔法も効いていなかったんだよ!?」

 

今までとは逆に、止めようとする雄介の声を聞きながら、ルーミアは少し自嘲気味に思う。

 

「(おかしな話...今まで人間なんていっぱい食べて来てるのに、何で守りたい、守らないとって思うのかな?ふふっ...当たり前かも。こんなに優しくて、暖かい心に触れたら...ね。)」

「ああああっ!!もう、考えるのも面倒だぁっ!!死ねよ、テメェらぁ!!」

 

目の前で発生する超常現象に、考える事を放棄したジャモルが前傾姿勢をとって突撃して来る。それを見たルーミアは、自分の胸元に手を当て、雄介にゆっくりと声をかける。

 

「大丈夫...。だから、見ててね。私の、“変身”!」

「変身...?」

 

記憶のビジョンで聞いた雄介の言葉を借りつつ、ルーミアは記憶のビジョンの雄介の動きを真似ていく。両手で腰の辺りを囲むと、腰から浮き出るかのように本来現れないはずのアークルが現れる。

 

「アークルが...ルーミアちゃんに...!?」

「雄介と一つになった時から、わたしの体の中に不思議な力を感じたの。雄介の記憶でこれを見た時、同じ雰囲気だったからもしかしたらって思ってね。」

 

ルーミアは雄介に説明をしつつ左手をアークルに添え、右手を雄介と同じ形に構える。そこから両手をスライドさせて、雄介がピタリと動きを止めた時と同じポーズを取ると、目の前に迫るジャモルをしっかりと見据え、ベルトの左側についているスイッチを、両手を重ねて押し込んだ。それと同時にアークルの中心の石、“霊石アマダム”は赤く光り輝き、ルーミアの身体に古代の力を流れ込ませた。ルーミアの下にたどり着いたジャモルは彼女に向かって拳を振るうが、ルーミアは体を少し捻ってそれを避けて、逆にジャモルの腹部に右の拳を打ち付ける。すると、右肘から手首にかけて赤い服、右の手首には金色のブレスレットが出現した。次に左の拳でジャモルの顔を殴り付けると、右腕と同じく赤い服と金色のブレスレットが出現する。

 

「(これって...雄介の記憶で見たやつでは装甲だった部分が赤い服に置き換わってる?)」

 

肘から手首までの服を見て、知り合いの紅白巫女を思いだしつつ、少し距離の空いたジャモルを右足を突きだして蹴り付けると、右の足首に金色のアンクレットが出現した。それで初動のエネルギーは事足りたようで、ルーミアの姿の変化は加速していく。左の足首にも、同じ金色のアンクレットが現れ、黒のジャケットは赤く変わり、白かったシャツは黒に変わる。更に胸元のリボンとシャツの襟は金色に染まり、幾何学的な古代文字が刻まれる。最後に額の辺りに、クワガタの顎を模した金色の角が備わり、ショートボブの金髪は黒髪に変わる。そこで服装の変化は終わり、ルーミアの赤い瞳が輝いた。

 

「ク...クウガ?」

「これって、赤のクウガ...なのか?」

「わたしが雄介の記憶で見た姿とは違う...」

 

「それはあなたがクウガの力に順応した姿よ。ルーミア。その力は五代雄介が変身した姿と完全に同じ。さぁ、そこのグロンギで試してみるといいわ。それじゃ、頑張ってね~。」

 

クウガを模した服装に変わったルーミアに困惑する一同に、どこからともなく凛とした声が聞こえる。その声はルーミアの姿について一方的に伝えると、閃光の如く止んでしまった。突然に訪れた謎の声に、一同は混乱を通り越して静寂に包まれるが、ストレスが限界を超えたジャモルがそれを崩した。

 

「あぁ~っ!!ったく次から次に何なんだ!その上、俺で試してみろだとぉ!?なめやがって!姿を表せぇ!!」

「そうだね。命は試しで奪っていいものじゃない。だから...わたしは本気であなたを倒す!!」

「そいつはどぉもっ!!」

 

明確な覚悟を持ってジャモルと対峙するルーミアは、ジャモルの繰り出す攻撃を防御し、カウンターで着実にダメージを重ねていく。服が変わったり、増えたりしただけなのにも関わらず、不思議とルーミアに通るダメージは明らかに少なくなっていた。これに関しても、謎の声に教えて欲しかったなと思いながらルーミアは拳を振るう。

 

「ちっ...ならこれはどうだ?」

 

劣勢になり始めたジャモルは森の中へと飛び込み、戦闘の地理条件を変えようと試みる。それに対してルーミアもジャモルを追いかけ、森に誘い込まれる。だが、入り込んだ森にジャモルの姿はなかった。

 

「(ルーミアちゃん、あいつはヤモリの能力を持っていると思う。だから...)」

 

雄介はルーミアの意識の中に自分の意識を伝えて、ジャモルの能力がヤモリのものであることを伝える。そしてその能力を使っての狙いは、雄介が伝えるより先に現実に起きた。

 

「うらぁっ!」

「頭上注意ってことだよねっ!!」

 

指先の吸盤を使って木を登り、高所からの不意討ちを狙っていたジャモルは片耳に残っていた耳飾りを槍に変化させ、ルーミアの背後から飛びかかったが、雄介が伝えた内容でジャモルの狙いを見極めたルーミアは、正面にダッシュして回避すると同時に木を蹴ってジャンプし、飛び降りて来たジャモルの顔面に回し蹴りを叩き込む。

 

「うぐぉっ!!?」

「今だ!行くよ、ルーミアちゃん!」

「うんっ!」

 

横回転を殺しつつ着地したルーミアは、雄介が送り込むイメージのビジョンと同じ動きを取る。両腕を開き、腰を落として右足を後ろに引く構えを取ると、右足にエネルギーが集束されていく。右足が熱を帯びる程度のエネルギーが蓄積されたタイミングで、未だ怯んでいるジャモルに向かって一気に駆け出す。

 

1歩、勢いよく地を蹴り出す。

 

2歩、大きく加速を掛ける。

 

3歩目に踏み出した右足で飛び上がり、空中で一回転すると右足を思い切り伸ばし、速度と重量、そして蓄積されたエネルギーを乗せた蹴りを放った。

 

「はあぁっ!」「うおぉりゃあっ!」

 

ルーミアと雄介は声を揃えて叫び、二人分の気迫をも乗せたキックはジャモルの右胸を捉え、一瞬の内に蓄積されたエネルギーを流し込む。

 

「うぐおぁっ!!」

 

ルーミアは、キックの反動で再び空中に舞い上がり、膝立ちの形を取って安全に着地した。一方、キックの衝撃を受けたジャモルは後方へと吹き飛ばされ、勢いそのままぬ大木に背を打ち付けた。それで勢いは殺され、ジャモルは地に落ちる。

 

「ぐぅ...ははっ、完敗かよぉ...」

 

ジャモルはうめき声を上げつつ、上半身を持ち上げて自身の敗北を笑った。上半身が上がったことで、右胸に打ち込まれた封印の紋章が見える。その紋章から、封印エネルギーは腰のバックルへと近付いて行き、数秒後にはバックルにたどり着いた。

 

「最期に這うのは...木じゃなく、地かよ...畜生が...」

 

その言葉を最後に、ジャモルのバックルは2つに割れ、ジャモルの肉体は封印エネルギーに耐えきれずに大爆発を起こした。

 

「ふぅ...勝ったんだね...」

「ああっ!?大変だ、ルーミアちゃんっ!!」

「・・・あっ!!」

 

勝利の余韻に浸る暇もなく、雄介が慌てる理由は森にある。ルーミアも気づいたが、先ほどのジャモルの大爆発によって、近くの草木に火がついてしまい、山火事の火種を作ってしまったのだ。死して火種を残す、ジャモル恐るべし。

 

「どっ、どうしよう雄介!?」

「さっきの小川から水を...あれ?」

「うん...?」

 

始まってしまった山火事の対応に追われる二人の足元に、大地はなかった。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。その大地の裂け目には、無数の目がこちらを覗く、暗い紫の空間が広がっていた。これに落ちないよう、ルーミアは自身に少量の魔力を込めて浮遊しようとするが、なぜか魔力を操ることが出来ず...

 

「なんでぇっ!?」「うわっ!!」

 

ルーミアたちはその裂け目の中に引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

暗い部屋に置かれた玉座に座る、白と金を基調とした洋服を着る少年は一秒に1回の間隔で指を鳴らす。その音に紛れて、もう一つの音が指の音2回につき1回部屋に響いていた。

 

「ふふっ...嬉しいなぁ。」

 

時計の秒針が時を刻む音だ。だが少年は間違いなく、一秒に1回指を鳴らしていたのだ。少年が指を止めると、秒針は先程までの倍速で時を刻み始める。

 

少年は立ち上がり、両腕を空へ掲げると静かに呟いた。

 

「さぁ...始まりの時間(とき)だよ...八雲(やくも)...(ゆかり)。」

 

誰にも伝わらない、宣戦布告を。

 

 

 

 ~次回予告~

 

「あら、意外と早いお目覚めね。五代雄介君?」

 

「“異怪の大乱”...?」

 

「あの大乱で、この世界に生きる多くの命が奪われた。」

 

「私たちは...タイム・トラベラーズ(時の旅人)。」

 

第2話 ~白き閃光は突然に~

 

 

ここからはキャラクター、アイテム等の紹介コーナーです!二次創作設定がもりもりなので、読んで頂けると本編の理解がより深まるかもしれません!(私に本編内に自然に入れられる文章力がないばかりに...すみません!)

 

~ルーミア~

 

幻想郷に生きる辺境の妖怪。森にある廃屋を寝床にしている。性格はお気楽、能天気でいろんなことをすぐに忘れるが、意外と勘は鋭い。雄介と出会い、クウガの力を得たことによって、大きな戦いに巻き込まれていくことになる。

 

~五代雄介~

 

自由奔放に世界を旅する冒険野郎。どんな相手にも優しく接するお人好しであり、特に争いは好まない性格。以前、仮面ライダークウガに変身してグロンギと戦っていた。突然幻想郷に現れ、戸惑う中でルーミアと出会い、再びその身を戦いに投じることになる。

 

~クウガ(ルーミア) マイティフォーム~

 

「仮面ライダークウガ マイティフォーム」を模したルーミアの赤い姿。全身のカラーリングが変化。ブレスレット、アンクレット、一部に赤い服が追加されている。格闘を主体とした姿で、パンチ力、キック力、ジャンプ力、どれも平均的で癖のない能力をしているため、正にオールマイティに戦いをこなす。スペック的には本来のマイティフォームと変わらないが、ルーミアの持つ特殊能力、魔力も使用不可能になってしまっている。

 




第1話、楽しんで頂けましたでしょうか?
1話からながったらしく書いてしまってすみません...!
更新は不定期になると思いますが、次の更新を楽しみにして頂ける作品に出来るように頑張ります!

第2話では、この世界で過去に起きた大事件が明らかに...!

それでは!チャオ~!(1話のあとがきからマスターのネタぶちこんで大丈夫かな...?)


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第2話 ~白き閃光は突然に~

皆さんは、お気づきになりましたか?

実は、第1話から設定ミスをやらかしていました!クウガファンの方なら、気がついていらっしゃるかもしれませんね。

まぁ、それは後書きで改めて答え合わせをします。第2話の後書きを読む前に、第1話を見直してみて下さいね。(修正を入れたら、この文章は消します。)

長々と失礼しました。それでは、楽しみに待っていてくれた方も、それほどでも無かった方も、初めて見たらもう投稿されてた方も、第2話、どうぞ!


「うぅん...」「ヴッ!?」

 

和風の木造住宅の居間に金髪で黒い洋服の少女と、黒髪の爽やかな青年が並んで横になっている。幸せそうに寝転がる少女がごろんと寝返りをうつと、その手が青年の腹部にめり込み、青年は苦しそうなうめき声と共に爽やかではない目覚めを味わう。

 

「あら、意外に早いお目覚めね。五代雄介君?」

「うぉあ...え...?」

 

腹部に走った激痛によって目覚めた雄介の眼前に居座るのは、上品なロングの金髪に清楚なドレスを纏い、格の違う雰囲気と気品を漂わせる女性。彼女は左手に持つ扇子で口元を隠しながら、まだ頭の冴えきらない雄介に声を掛けた。

 

「あら、寝ぼけてるの?あなたの隣でまだ寝息をかいている子と、自分が何を為したかよく思いだしないさいな。」

「隣...ルーミアちゃん!?大丈夫!?しっかりして!!」

 

隣で転がるルーミアを扇子で指し示す女性。その扇子の方向に目を従わせた雄介は、隣で寝込むルーミアの存在に気づき、彼女が傷でも負ったのかと、慌ててその身を揺さぶる。

 

「うぅ...ん?あれぇ...ゆうすけぇ?あさごはぁん...?」

 

眠りから覚めた暗闇の少女は、目の前の男に寝ぼけた瞳を向けつつ気の抜けた笑みを浮かべる。...おそらく用意されていない朝食に思いを馳せているのだろう。ちなみに、未だ空には煌々と月が輝いている。彼女の思いが果たされるのは、半日近く後になりそうだ。雄介は能天気な目覚めを果たしたルーミアに、小さな笑い声を漏らすと、良かった、と繰り返し呟く。女性の方は興味が無いのか、自分の扇子の模様を暇そうに眺めていた。そしてその扇子を、突然ピシャリと閉じる。

 

「全く...相変わらずね、ルーミア。今はまだ夕飯の時間よ?」

「うん...?」

 

若干呆れながらため息をつくと、女性は寝起きのルーミアに声を掛ける。ルーミアは目を擦りながら体を起こし、女性の姿を捉えた。ルーミアは目を見開き、静かに口を開く。

 

「誰なのだ~?」

「・・・」

 

完全にルーミアの記憶の闇に葬られていた女性は、明らかに不機嫌な表情を浮かべる。彼女はそのまま押し黙ると重い空気を作り出す。当のルーミアは人差し指を顎に当てながらう~んと考え込んでいるが、思い出すことは不可能であろう事を察した雄介は、女性に向けて救いを求める苦笑を投げ掛ける。その苦笑に、仕方がないといった様子で女性はため息をつきながら立ち上がると、床に付きそうなロングスカートの端を持ち上げつつ、慎ましやかに挨拶を行う。

 

「妖怪の賢者にして...」

「この幻想郷の創造主、八雲(やくも)(ゆかり)様です。」

 

女性の言葉を遮るようにもう一つの声が部屋に響く。その声は雄介とルーミアの背後から流れており、二人はばっと振り向く。そこには特徴的な文字の書かれた赤い魔方陣のようなものが浮いており、その魔方陣の円周には等間隔に焔が揺れていた。その魔方陣から、金髪の上に柔らかい帽子を被り、腰の背面からふかふかの尻尾を9つ伸ばした女性が進み出てくる。

 

「あら...お帰りなさい、(らん)。」

 

紫は九尾の女性を藍と呼び、迎えの言葉を掛ける。魔方陣から抜け出た女性は紫の従者のようで、それに対して恐れ多いといった態度で一礼すると、紫の眼前に片膝を着いて頭を下げる。その間に彼女の現れた魔方陣は消滅し、赤いお札が魔方陣の中央の位置に残った。しかしそのお札も、炎を纏い自然と焼消した。

 

「河童の長に対応の要請、次いで守矢の巫女に協力の依頼、完了致しました。どちらも既に行動を開始しているかと。」

「そう、ご苦労様。あなた達の件は対応が終わったそうよ?」

 

藍からの報告を受けた紫は彼女に労いの言葉をかけつつ、雄介とルーミアに悪戯な笑みを向ける。あなた達の件という言葉で、紫が何を言いたいのか理解した雄介は、「あっ...」と声を漏らす。一方隣のルーミアは、相変わらず顎に指を当ててポカーンとしているのだった。

 

「すみません...俺たちの起こした、山火事の件ですよね...。」

「はっ、そうだった!こいつ、八雲紫だ~!って、山火事?...あっ。」

 

紫が対応を行ってくれていた事に畏縮する雄介。その隣でワンテンポ遅れた話題から一気に抜け出したルーミアも、ようやく今の話に追い付く。二人の態度を見て満足そうに笑う紫は、一転険しい表情をして二人を問い詰める。

 

「さて、お代を頂こうかしら?あなた達が戦った化け物...そして、ルーミアの()()姿()について、知っている事を全て話しなさい。」

 

紫の語尾が命令形であることが表すように、彼女の瞳は強い思いを宿していた。溢れる威圧感にルーミアの眠気も完全に消えたようで、彼女もしっかりと紫に向き合う。それを見届けた雄介は、自分が一番理解している事から説明を始めた。

 

「あの化け物は...グロンギです。古代に存在した戦闘民族で、他の部族に対して殺戮を行っていたという記録があります。グロンギはその時代に、同じく古代民族のリントという部族が作り出したアークル、その力を扱うリントの戦士、クウガによって封印されました。」

「封印された?じゃあ、なんでいるの?」

 

雄介の話に聞き入っていたルーミアは、封印というワードに対して雄介に質問をするが、紫が閉じた扇子を額に投げつけ、話の腰を折るルーミアにお灸を据える。相当痛かったようで、ルーミアは目に涙を浮かべつつ大人しくなった。紫は雄介に、話を続けるよう促す。

 

「長い年月を経て封印が行われた場所は遺跡となりました。そして現代、遺跡を訪れた調査団の手によって、封印は解かれてしまいました...。封印が解かれた事によりグロンギたちは目覚め、規則性を持つ殺戮を始めました。まるで...ゲームやギャンブルをするかのようにっ...!」

 

話を進めるうちに固く握られる雄介の拳。しかし、その表情には憎しみや怒りはなく、ただただ悲しみを漂わせるだけだった。紫は無表情のまま雄介の話を聞いていたが、その傍らに控える藍は思う所があるようで、死を弔うように目を閉じる。

 

「でも、抗う術はありました。遺跡にはグロンギだけでなく、リントの戦士と共にアークルも封印されていたんです。そして俺は、みんなの笑顔を守るために戦うことを決めました。アークルを身に付け、クウガに変身して戦う中で、俺は多くのグロンギを殺しました...この手で。そして最後のグロンギを倒し、グロンギは全滅した...。これが、俺の知っているグロンギの全てです。」

 

自らの戦いを簡潔に伝えた雄介は、心を落ち着かせるように大きく深呼吸をする。最後まで話を聞き終えた紫は、納得のいっていない様子で、間髪入れずに雄介に質問を続ける。

 

「で?その全滅したグロンギが、何故この幻想郷に現れたのかしら?」

「それは、俺にも分かりません...でもあいつらを放って置けば、また誰かが犠牲者になるかもしれない...。それは、止めないと。」

「あなた自慢の、2000の技とやらで?」

 

雄介の返答を聞いた紫は期待外れといった感じで彼を見ると、一枚の紙を取り出して眺める。その紙には「2000の技を持つ男 五代雄介」と書かれている。雄介が初対面の相手に渡している名刺だった。見ず知らずの場所に来て動揺していたのもあり、渡していなかったが、ルーミアは文字を読めないので、渡した所でただの蛇足になってしまっていただろう。最も紫も、雄介から受け取った訳ではなく、彼の荷物から落ちた物を拾っただけだが。

 

「あの、俺からも一ついいですか?」

「えぇ。何かしら?」

「幻想郷って何ですか?国の名前...じゃないですよね。」

「そういえば、あいつに襲われる前にも、幻想郷について聞こうとしてたね。」

 

紫は、雄介からの質問で彼がこの世界に訪れたばかりであることを思い出す。聞いてばかりでなくこちらの事も教えるべきだと考えた紫は、この幻想郷について語り始める。

 

「ここは、忘れられた者たちが生きる楽園。妖怪や妖精、八百万の神が現存している世界よ。因みに、私も藍も、そこにいるルーミアも妖怪ね。そして、あなたがこの世界に現れたという事は、あなたは全てから忘れられたという事。例外として、私が招き入れることがあるけど、あなたに関しては、私は何もしていないわ。」

「えっ...忘れられた?俺が、みんなに?」

 

この世界の驚愕のメカニズムを伝えられた雄介はまだ信じられないようで、乾いた笑い声を挟みながら紫に聞き返す。それに対して、紫は黙り込んで答えない。それこそが残酷な事実は、真実であることを無言で告げていた。明らかに憔悴していく雄介を見かねたルーミアは、小さな手で雄介の手を握り、雄介の虚ろな瞳を見つめる。

 

「大丈夫だよ...わたし、傍に居てあげるから。」

「ルーミアちゃん...うん、ありがとう。」

 

ルーミアの言葉が雄介の気持ちを引き戻したようで、少しだけ彼に笑顔が戻る。そんな雄介を見て、ほっとしたルーミアもうっすらと微笑む。二人の様子を見守っていた紫は一段落ついたと判断し、優しく声を掛ける。

 

「少しは落ち着いた?」

「はい...。まだ、受け入れることは出来ないけど...大丈夫です。続けて下さい。」

「そう。なら、次はあなたに直接関係はない話をしましょうか。あなたが戦った、グロンギに関わる話を。」

「えっ...?」

 

紫は覚悟を決め、その光景を記憶から呼び起こす。その惨劇の光景を。

 

「“異怪の大乱”と呼ばれる事件よ...。」

「“異怪の大乱”...?」

「ええ...あの大乱で多くの命が奪われた。」

 

雄介は初めて聞き及ぶその名を、反射的に呟く。それに対して、紫は静かな頷きを返すと、その事件の内容を彼に伝え始めた。

 

「今から6年前、この世界に大量の化け物が現れた。文字通り、至るところにね。その化け物の中には、あなたが教えてくれたグロンギもいたわ。突然現れた奴らは、この世界の生命を狩り始めた。人間、妖怪。見境なく襲われる彼らは、この異形に恐れ退きながら殺害された。悔しいけれど、私の力も奴らには通用しなかった上、有効な対策も見つけられずに、被害は幻想郷の総人口の4割に及んだわ。」

「よ...4割!?そんな...」

 

身を乗り出して驚く雄介の手に強い圧がかかる。ルーミアが手を握る力を強めたのだ。その手は小さく震えており、顔もうつむき加減で表情は暗い。彼女の消えやすい記憶の内にもその蹂躙は微かに残っており、そこから来る恐怖がルーミアに影を落としていた。そんなルーミアに声もかけられない内に、紫の話は続く。

 

「そんな中、この世界にも抗う力を持った者が現れた。その者は黒と灰色を基調とした姿で灰色の布を身に纏い、同じ配色の仮面を着けた戦士だったと言われているわ。その戦士は実体のない弾丸を打ち出す銃を操り、化け物たちを次々に排除していった。やがて化け物たちは衰退していき、遂に大乱は終わりを告げたわ。多くの犠牲が出たとはいえ、大乱を沈めた戦士を、人々は“仮面の英雄”と呼び称えた。正体を調べて特別な地位に迎えようとする動きもあったけれど、その戦士の正体が分かることは無かった...これが、異怪の大乱の顛末よ。」

「この世界で...そんなことが...。」

 

紫の口から伝えられる大乱の惨劇。雄介の頭の中には、大乱で失われたであろう多くの笑顔が浮かぶ。それを思い、彼の胸は締め付けられる。しかし、それ以上に強く、長く苦しみを味わっている者が雄介の前にいる。自らが創り上げ、管理する世界での殺戮を許してしまった過失。そして起きた蹂躙に何も出来ずにそれを野放しにしてしまった後悔。その2つの罪に板挟みにされてしまい、押し潰されそうな心に境界線を引いている。そんな、妖怪の賢者が。その心の内を知る藍は、物思いにふける紫に代わり、話を進める。

 

「雄介、ルーミア。あの時の姿についても説明して貰えるか?」

「あの時の姿って、赤い服装の時の事?あれ?そう言えばわたしたち、いつの間にか元に戻ってる!」

「あっ...確かに...!」

 

藍に改めて問い掛けられ、話し込んでいたために気付かなかった自分達の姿の回帰に自分の体を見回す雄介とルーミア。それに気付いた紫は、思い出したように二人を招き入れた時の状況を語り始めた。

 

「あぁ...それなら、私があなた達を連れてきた時には、まだ赤い服のままだったわよ。で、落ちたときの衝撃で気を失ったでルーミアから、赤い光と共に雄介が出てきて、それに合わせてルーミアの姿もいつもの服装に戻ったわね。」

「連れてきた...?」

 

紫の発言に雄介が首を傾げると、彼女は一度困惑した後に納得した様子で実演を始める。

 

「あぁ、まだ話して無かったわね。丁度良いわ、あなたの荷物も預かったままだったし...」

 

紫が小さな動作で指を鳴らすと、雄介の隣の空中に裂け目が入る。裂け目は大きく広がっていき、やがてその間には無数の目玉が覗く暗い紫の空間が現れる。そう、少し前に雄介とルーミアを呑み込んだ空間である。やがて、床に向かって開いたその空間から、中身の詰まったリュックが落ちてきた。

 

「これ、俺の荷物!あそこに置いてきちゃったのに...!」

「確かにお返ししたわよ?これが私の能力(ちから)、“境界を操る程度の能力”よ。今みたいに空間と空間を繋いだり、対象に世界との境界を作って現世との繋がりを絶つことも出来るわ。」

 

しれっと恐ろしい事を言いながら説明と実演を終えた紫は、自分の荷物をなめ回すように見る雄介と、驚きできょとんとしているルーミアを会話に引き戻しすために、「さて」と仕切り直す。

 

「これで納得して頂けたかしら?改めて、赤い姿のルーミアについて教えて頂戴。」

「教えて頂戴と言われても...俺達も無我夢中で、何が何だか分かってないのが正直な所ですね...」

 

「ふふっ、安心しなさい!それも含めての色々は、私が教えてあげるわ!」

 

再び答えを求める紫、互いに顔を見合わせ紫に気まずそうな表情を向ける雄介とルーミア、そんな彼らの間に透き通った声が響く。その声に目を見開く雄介とルーミア。二人はこの声に聞き覚えがあった。戦いの中でルーミアの力について伝えた、あの声だ。次の瞬間、屋敷の庭に眩い閃光が走った。強烈な閃光は、雄介たちの居る障子の開け放たれた部屋にも激流の如く流れ込み、全員が思わず目を瞑る。やがて閃光は収まり、その光源には白い少女の姿があった。少女は肩の辺りまで伸ばした金髪、その髪に付けられた赤いリボン、純白のポンチョが目立っている。ポンチョには金の光柄が刺繍されており、正に光の少女といった出で立ちをしている。

 

「貴女...何者?私の屋敷に入り込むなんて、只者ではないでしょうけど。」

 

光源に佇む少女を、威嚇するように睨み付ける紫。その目線に気付いた少女は挑発的な笑みを浮かべつつ、大袈裟に怯えるような仕草をする。少女はその場でくるりと一回転すると紫たちに向き直り、自分の胸元に手を当てた。

 

「私は“白の輝光子”、シェイン。あなた達で言う所の、“光を操る程度の能力”を持つ者よ。以後、お見知り置きを。」

 

シェインは自己紹介を終えると、胸元に添えていた手を真っ直ぐ伸ばし、手のひらを紫たちに翳す。その動作に危険を感じた紫は、雄介とルーミアの足元にノーアクションで境界の空間、スキマを開く。重力に従ってスキマに落下する二人。二人が落ちていったスキマが閉じるのと同じタイミングで、部屋には無数の光線が張り巡らされた。壁に当たる箇所では角度を変えて、まるで壁を鏡としたかのような光の軌跡。それを見届けたシェインはゆっくり手を下ろし、楽しそうに笑う。

 

「レーザーライト・クローズ。鳥籠に閉じ込められる鳥の気分はいかがかしら?」

「貴様、紫様を侮辱するとは...!覚悟...」

「止めなさい、藍。屈辱的だけど、今の私たちには何も出来ないわ...。」

「...はい。紫様...。」

 

おちょくるように語り掛けるシェインに、藍は声を荒げ、紫は唇を噛む。主を馬鹿にされ憤る藍は、光線を気にせずシェインに向かって駆け出そうとするが、紫は落ち着いた口調で彼女を静止する。この判断は正解だった。光の束である光線は、人間、妖怪の肉体を焼き切るには十分な温度を備えている。触ればその部位が体からおさらばする事になるだろう。その証拠に、周囲には妖怪一人が歩ける程度のスペースもなく、複雑に入り組んだ光線の配置になっている。シェインの言う通り、鳥籠に閉じ込められる鳥の如き状況になってしまっていた。紫はスキマを作って移動することも考えたが、それも無駄だろう。いくらスキマと言えど、光を遮断する訳ではない。シェインの言った能力が本当なら、光が入る場所であれば全て彼女のテリトリーである。

 

「(なら...最終手段ね...!)」

 

紫は、観賞するようにこちらを眺めるシェインに意識を集中させる。そして、彼女の体に沿って境界線を引くイメージを固める。

シェインと現世の繋がりを絶とうとしたのだ。これは紫にとって奥の手の技。これが通じなかったのは、紫の生きてきた時間の中でも一つの種族だけ。異怪の大乱で現れた、あの化け物たちだけである。だがその記録は、今日を持って塗り替えられる事になってしまった。

 

「そんな...馬鹿な!?」

「ふふっ、残念で~したっ!私にその力は通用しないよ?諦めて大人しく話を聞いたら?と~りさん。」

 

容姿の通り子供っぽい言動で紫をからかうシェインは、屈辱に悔しさを滲ませる二人を眺めるのに満足したのか、部屋の外にある縁側に腰掛ける。敵に背を向けた形になったシェインは、ぶらぶらと足を揺らしながら紫たちの知らない情報を話し始める。

 

「じゃあまずは、どうやってここに来たのか、からね。簡単な事よ、月明かりに乗っかって来ただけ。これからはあなたの結界に、光の遮断機能も付けないとね~♪」

 

あえて重要でない事から話すシェイン。その内容は常識的には到底簡単ではないものだが、いつか守矢の巫女が「この世界では常識に囚われてはいけない」と言った通り、この世界では簡単と言えるのかも知れない。そんな簡単な話を聞かされても、どうすることも出来ない二人は、静かに固唾を飲んで彼女の話に聞き入る。

 

「お次は、赤い姿のルーミアについて、ね。あれは外の世界で、“仮面ライダー”と呼ばれる者達の一人、“仮面ライダークウガ”の力よ。」

「仮面...ライダー?」

「あなた達に身近な言い方で言うなら、仮面の英雄ね。」

 

仮面ライダー、仮面の英雄が同一の存在だと知らされた紫は、すぐさま一つの推論を導き出した。その推論は、異怪の大乱で現れた化け物たちに対抗出来る力は仮面ライダーの力であり、化け物たちには魔力、妖力、程度の能力の類いは意味を成さないというものだ。そして目の前にいる白の輝光子にも、自らの力は通用しなかった。それから導き出された答えを、紫は彼女に突き付けた。

 

「...もしかして、あなたはグロンギなんじゃないかしら?白の輝光子さん?」

「う~ん...それはまだ秘密かな。まぁ、いずれ分かるよ。星の光が何億光年も経った後に私たちに届くのと同じ。焦っちゃだめだめ。」

 

顎に人差し指を当てながら少しの間考える仕草をしたシェインは、顔を紫たちに向けて、人差し指を唇に当てて無邪気に笑う。紫はその笑顔に追及の気が削がれる。子供らしい悪戯な笑顔と、真っ直ぐで無邪気な笑顔。二つの笑顔に翻弄される紫をよそに、シェインは話の流れを元に戻す。

 

「少し話が逸れちゃったかな。元々クウガに変身して戦っていたのは五代雄介。でも彼はこの世界を訪れた時に、クウガに変身する能力を無くしてしまった。その代わり、自分と共鳴する唯一の相手と“融合(シンクロ)する程度の能力”を得たわ。雄介とルーミアが一つになった理由がこれ。雄介と融合(シンクロ)したルーミアは、一時的にクウガに変身することが出来るようになった。そしてクウガの力を、ルーミアが自分に適応させた姿が、赤い姿のルーミアって訳。」

 

一通り説明を終えたシェインは、「ふぅっ」と息をつく。得た情報から推測を開始している紫と藍に構わず、シェインは伸びをしながら立ち上がった。その後、自分の懐から一冊の冊子を取りだし、縁側にそっと置いた。

 

「じゃあ、これであなた達に伝えることはないね。これは、私たちからのプレゼントだよ。」

「っ!待ちなさい!!」

 

役目は終わったと言わんばかりに立ち去ろうとするシェインに、紫はとうとう怒りを露にする。だがその声も聞こえているのか、いないのか、全く意に介さずルンルンと踊りながら庭の中心に舞い戻る。足を止めたシェインは再び無邪気な笑顔を向け、紫に告げる。

 

 

 

「最後に1つ。私たちは...タイム・トラベラーズ(時の旅人)、この世界の時間の終焉を望む者。まだまだ楽しい時間はこれからだよ...八雲紫さん。」

 

 

 

シェインは意味深な言葉を残し、淡い光となって消え去った。それと同時に能力も解除したらしく、紫たちを囲っていた光の檻も粒子となって消え去りようやく自由の身となる二人。藍は自らの不甲斐なさにその肩を小刻みに震わせる。紫は頭の中で1つの言葉をぐるぐると回しながら、縁側に残された冊子を手に取る。表紙には「仮面ライダーについて」とだけ書かれており、それに気を引かれた紫はページを一枚めくる。そこには雄介の写真と名前、性格、クウガの力、グロンギについて書かれており、もう一枚ページをめくると、“津上翔一”と言う名の男の写真、性格、アギトという戦士の力、大乱で現れた化け物の内の一種について書かれていた。それが合計で20ページ近くの枚数重ねられている。

 

「(あの子...シェインは最後に私を名指しにした...一体何を企んでいるのかしら...タイム・トラベラーズ(時の旅人)とやらは...!)」

 

紫の心に絡み付く不安は、長く思えてしまうこの夜に煌々と輝く満月に向けられた。彼女は一瞬、月の光に白の輝光子の無邪気な笑顔を見た気がしたらしい。

 

幻想郷とタイム・トラベラーズ(時の旅人)の戦いの時は、ゆっくりと動き出した。

 

 

 

~次回予告~

 

「俺は天空寺タケル。君は?」

 

「オレの槍で串刺しにしてやろう、感謝しろよ?」

 

「フフッ、あなた方が無様に散る。それが美しいエンディングです...。」

 

「天空寺タケルッ!!彼女と融合(シンクロ)しなさい!あなたにはその力がある!」

 

「「変身っ!!」」

 

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

「命、燃やすぜ!!」「命、燃やします!!」

 

第3話 ~共鳴!元幽霊と奇跡の巫女~

 

 

 

ここからはキャラクター、アイテム等の紹介コーナーです!二次創作設定がもりもりなので、読んで頂けると本編の理解がより深まるかもしれません!(私に本編内に自然に入れられる文章力がないばかりに...すみません!)

 

 

~八雲紫~

 

幻想郷を創成した妖怪の賢者にして、幻想郷を統べる最強の妖怪。基本的に落ち着いた性格で、腹の内が読めない。頭脳明晰、眉目秀麗であり、数多の二つ名に恥じない実力、頭脳を持つが、自分が表立って活動することは少ない上、戦いに赴いたとしても相手の力量を測るように戦うため、その全力は未知数である。

 

幻想郷に訪れたばかりの雄介にこの世界の情報を提供し、グロンギ、仮面ライダーの存在について知る。それからは、シェインの残した資料を利用し、仮面ライダーの力を得た者達のサポートを陰ながら行っている。

 

~八雲藍~

 

紫に仕える式神であり、最強の妖獣と呼ばれる九尾の狐を依り代としている。主である紫と同じく落ち着いた性格だが、自身の式神には甘い一面もある。基本的に紫の使徒として幻想郷の各地を訪れ、その意思を伝える役割を担い、その他にも家事の諸々は彼女が行っている。

 

~シェイン~

 

謎の組織、タイム・トラベラーズ(時の旅人)の一員。自らを“白の輝光子”と名乗る、身体中に光のデザインのある白い服装の少女。容姿は12歳程度。自らの能力を操り、紫と藍を封じ込むことに成功した。二人の元から去る際に意味深な言葉を残しており、紫に疑問を抱かせている。

 




第2話、いかがでしたか?

早速説明回になってしまって、スピード感がない気がしますけど、色々と工夫してみたつもりです!ちなみに、シェインと同じ名前をペンネームにしている理由は、初めて考えたオリキャラが彼女で、思い入れがあるからなんです。(興味ないですよね...)

キャラクター・アイテム紹介は、第1話の方にも追加しました。ルーミア、雄介、ルーミアバージョンのクウガについて書いています。気が向いたら読んでみて下さい。

ではでは、前書きの答え合わせといきましょう!

正解は、「グロンギのズ集団はモーフィングパワーが使えない」です!本編で装飾品を武器に変えるモーフィングパワーを使っていたのは、ゴ集団からでしたね。

設定だけなのを良いことに、二次設定を盛り込んで出したズ・ジャモル・レは設定ミスの生け贄になりました...(違和感のない文章を思い付いたら、修正致します。)

起こらないように注意は払いますが、恐らくこれからも、仮面ライダー、東方問わず設定ミスが発生してしまう思います。そういったものに気がついた方は、メッセージ等で教えて頂ければ非常に嬉しいです。大筋のストーリーに影響の出ない範囲で、修正させて頂きます。

第3話に登場するのは、今話にも少しだけ出ていた人ですよ!

それでは、チャオ~!(もうネタ切れ。)


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第3話 ~共鳴!元幽霊と奇跡の巫女~

皆さん、1ヶ月も間隔が開いてしまってすみません!!第2話の時点で100以上の閲覧、お気に入りまで頂けたのに本当にごめんなさい!

前書きにだらしなく言い訳を書いても仕方が無いので、とりあえず第3話をご覧ください!


時刻は午前9時。

 

幻想郷が迎える、清々しい朝。幻想郷は外の世界ほど機械技術が発達していないが故に、空気は自然体のまま体と心に染み込んでくる。だが、ここの空気は一層清々しいものである。その理由は場所。幻想郷で一番の大きさを誇る、妖怪の山の頂上なのだ。とはいえ、妖怪の山は特殊な形状をしている。連なる山脈が円形を築き、それによって生まれたクレーターのような空間に、妖怪の里等が点在しているのだ。その大きさ、範囲が最大なのであり、頂上と言えど雲を越えるようなものではない。だからこそ、このように清々しい環境なのだ。そんな心地よい朝をもたらす妖怪の山の頂には、荘厳かつ大きな神社が構えている。その境内を、朝から綺麗に掃き清める少女がいた。

 

「よしっ!これで境内の掃除は終わりですね。」

 

少女は落ち葉1つなくなった境内を見渡して、満足そうに笑う。そんな誠実な彼女の名前は東風谷(こちや)早苗(さなえ)。この神社に仕える巫女であり、風祝、現人神と呼ばれる、若くして神格化された奇跡の子。整った顔立ちに、脇を大きく出した巫女装束、新緑の長髪に蛙の髪飾りを付けている。そんな麗しい彼女の姿に、神社に祭られる二柱の神への信仰関係なしに神社訪れる男たちもいるという。

 

「さて、次は...本殿の掃除ですね。」

「早苗~!」

 

一つの仕事を終えた早苗は境内に背を向け、自らの仕える神の社...守矢神社の本殿に向き直る。木造でありながらも揺るぎない力強さを醸し出す神社から、やや高い声が聞こえた。どうやら早苗の仕える二人の神の片方がお呼びのようだ。

 

「は~い!どうされました、諏訪子様?」

 

大きな声で呼び掛けに答える早苗。そこへ、二つの目玉をつけた高い帽子を被る少女が近寄る。服装は青と白を主にしており、身長はやや低めで、髪は美しい金髪。そんな幼い容姿の少女は他でもない、早苗の仕える土着の祟り神、洩矢諏訪子である。諏訪子は早苗のいる縁側までたどり着くと、少し屈んで縁側の下にいる早苗と目線を合わせる。そのまま称賛を送るように笑うと、自分の手にある新聞を早苗に向けて差し出した。

 

「さすが現人神だね~。昨日の山火事は被害を最小限に抑えることが出来たとさ。」

「そうですか!無事に鎮火して何よりです...ん、これは何でしょう...?」

「なになに?」

 

「文々。新聞」と題されるその新聞の見出しには、昨晩起きた突然の山火事について書かれており、河童たちの協力と局地的な豪雨により速やかに鎮火されたそうだ。その脇に写真も載っていたが、その写真はブレが多く、正確な状況を窺い知ることは不可能だが、二つの存在が争っていることは何とか理解出来た。写真の隣には「二つの謎の存在!彼らが山火事の原因か!?」と書かれており、早苗は写真を指で示しつつ諏訪子にも意見を求める。

 

「さぁ...何だろうねこれ。まぁ、あのブン屋のことだし、またでっち上げなんじゃない?」

「やっぱりそうですかね...?」

「何だ、二人してやけに夢中じゃないか。どれ、私にも見せてくれ。」

 

二人してこの場にいない鴉天狗を疑う中、もう一人の神も興味をそそられ現れる。大きなしめ縄を背負い、胸元に鏡を備え付けるという独特な装飾品の彼女は、紫と赤を主とした服装の女性で、身長は三人の中で一番高い。少し大人な雰囲気の強い彼女は早苗が仕えるもう一人の相手、八坂の神である八坂神奈子だ。神奈子は新聞を覗きこむと、呆れたようにため息をついて縁側にどっしりと腰かける。

 

「全くあの鴉天狗は...新聞に精を出すのはいいが、虚実をばらまくのは迷惑だな。」

「神奈子様...虚実は言い過ぎですよ。良いじゃないですか、何もないよりはワクワクしますよ!」

 

渋い顔をする二人は、やれやれといった仕草でちゃぶ台のある居間へと戻って行く。神奈子は、その際にふと気付いた様子で早苗に告げる。

 

「何もないと言えば...早苗、冷蔵庫の中、ほとんど何もなかったんじゃなかったか?」

「あっ!?忘れてました...!あぁ、ど、どうしましょう!」

「...掃除はまだ大丈夫だろうから、買い出しに行って来てくれるか?」

 

急に思い出したはずみで竹箒を取り落とし、それを拾うのに苦労する程に慌てる早苗に、神奈子は父親のように落ち着いた口調と寛大さで買い出しを促した。ぱっと顔を輝かせた早苗は、明朗な声で「はいっ!」と返事をする。それは諏訪子の耳にも届いたらしく、壁にかけられていた手提げ袋を手に取り、神奈子に向けて投げ渡す。それを片手で掴み取った神奈子は、掲げるようにして早苗に差し出す。

 

「じゃあ、頼んだぞ。」

「はいっ!もし小腹が空いたら林檎を食べてて下さい!前に買ったのが、残っちゃってますので。」

「あぁ、分かった。」

「それでは、行って参ります!」

 

袋を受け取った早苗はしれっと残り物の処理を頼みつつ、軽快に駆け出して守矢神社の鳥居を潜って行った。その背中を見送った神奈子は、早苗が落としたまま放置して行った竹箒を拾い上げながら笑う。

 

「ここに来てもう4年か...あいつも19才になるのに、相変わらず落ち着かないな。」

「まっ、あーいう元気さとか全力さが早苗のいいとこなんだけどね~。」

 

境内の逆側にある溜め池を眺めていた諏訪子は、神奈子の独り言に背を向けたまま答える。それに対して神奈子は小さく笑うと、竹箒をくるりと一回転させて柱に立て掛けた。一方の諏訪子は溜め池を泳ぎ回る鯉の間に、異質なものを見つけて声を上げた。

 

「おっ!何だろこれ?」

「ん?今度はなんだ、隕石の写真か?」

 

神奈子が皮肉を言いながら溜め池に向かう間、諏訪子は池に手を入れてそれをつまみ上げる。手をスナップさせて水滴を払うと、それの見た目が明らかになる。

 

「「...目玉?」」

 

思わず声が揃う二人。それは目玉を模した機械のような物で、元の色であっただろう水色が所々に残っているが、一部水色が抜け落ちて薄い灰色になっていた。左右には対になる形でスイッチがついているその機械の目玉、二人はしばらくの間、茫然とその目玉と見つめ合っていた。

 

 

 

早苗は軽快な足取りで石段を下りていく。心地よい風を感じながら歩む早苗がふと空を見上げると、空は透き通った青で、雲は欠片一つない。ただ一つ空にあるのは、大きな黒い流れ星のようなものである...そう、午前9時に流れ星だ。

 

「あっ、流れ星!珍しいこともあるものですね~!お願いごとをしないと...」

 

能天気に喜ぶ早苗は両手を合わせて、「守矢神社が安泰でありますように...」と三度繰り返す。願いの内容は極めて模範的なものであるが、この現象への対応は極めて異常である。願いを終えた早苗は両手をほどき、嬉しそうに再び歩き出した。だが、急に流れ星に視線を集め、目を細める。

 

「流れ星ならば発火による光がある、黒く見えることなんてないはず...」

 

自分の科学知識から違和感を感じた早苗は必死に目を凝らし、その正体を捉えた。

 

「人間...!?」

 

早苗が目を丸くして呟いた通り、一人の人間が空中でもがいていたのだ。その体は今も重力に引かれ、幻想郷の大地に向かって落下し続けている。この危険な状況を理解した彼女は、再度両手を合わせて願いの構えを取る。そして小さな声で呪文のようなものを呟き始めた。

 

「天を司りし神々よ...我、汝の祝福を願いし者なり。汝に我等の幸吉を願いし思いが存ずるならば、汝の操りし神風を以て汝の祈願を我等に届け賜え...」

 

神々に願いを捧げる途中から、早苗の緑髪を小さく揺らす追い風が吹き始める。その風は願いを続ける間、徐々に強くなっていく。この風は早苗の周囲だけで起きている訳では無く、落下し続ける人間を中心にして集まるように各所でも吹き荒んでいた。収束していく風は、落下の予測地点で踊るように回り、勢い良く小規模な竜巻に進化していく。

 

「...“風祝(かぜはふり)”!!」

 

早苗は呪文の最後に叫ぶ。その叫びに合わせて竜巻に変化が起きる。収束していた風が空高くへ一気に巻き上がり、激しい上昇気流を発生させたのだ。上昇気流は、落下する人間の勢いを殺しながら自らの勢いも弱めていく。やがて人間の姿が地面に接近する頃には、竜巻の如き風は人間を優しく浮遊させる程度に収まっていた。

 

これらは偶然に起こったのだ。()()()()人間を助けるような風が吹いただけである。これが早苗の能力。“奇跡を起こす程度の能力”である。奇跡の風に救われた人間が舞い降りた位置を確認した早苗は、緊迫した面持ちで駆け出した。

 

 

「た、助かった~...」

 

気が抜けたように草葉に横たわる青年。そう、彼こそが奇跡の風に救われた人間だ。彼は落ち着いた黒髪で、パーカーの上に着物風のジャケットを着ているが、強風に晒された影響で大きく乱れた服装になってしまっていた。服装の乱れを気にすることなく、青年は生きていたことに安堵していた。清んだ空気の中、深呼吸をした青年はゆっくり立ち上がり、土を払ったりして服装を整えた。それから少しして髪を揺らしながら走る早苗が、大声を出しながら駆けつけた。

 

「あの~!大丈夫ですか~!?」

「うん、大丈夫。俺は天空寺タケル!君は?」

「私は東風谷早苗と申します。守矢神社の風祝...まぁ、いわゆる巫女をやってます。ご存じないですか?」

 

お互いに自己紹介を終えた早苗とタケル。彼は守矢神社という場所に聞き覚えがないらしく、困った顔をしながら首をかしげている。その様子を気にすることなく、早苗は目を輝かせてタケルに質問を浴びせる。

 

「それはともかく、どうして空から落ちてきたんですか!?どうやってあんな上空まで行ったんですか!?もう興味が尽きません!!」

「ちょ、ちょっと待って!俺も気付いたらあんな所に放り出されてて、ここがどこかもわからないんだ...空から見た景色も随分と古風に見えたし、一体ここはどこなんだ?」

 

物凄い勢いで身を寄せてくる早苗に静止をかけつつ、自分の現状を説明するタケル。彼の説明を聞いた早苗は落ち着きを取り戻し、古風という表現と、洋風も混ざっている服装から、タケルが幻想郷に訪れて間もないことを理解する。そして、タケルにこの世界の概要を説明した。忘れられたもの達が訪れること。妖怪、妖精などが生きる世界であること。そして、彼が忘れられた可能性が高いことを。

 

「そんな...俺、みんなに忘れられたのか...?」

 

タケルは寂しそうな口調で呟きながら、自分の体を見回す。きっと多くの友人、仲間、かけがえのない家族がいたのだろう。そんな彼を励まそうと早苗は他の可能性を示唆する。

 

「で、でも、まだ決まった訳じゃないですよ!現に私も、自らの意思でこの世界にやって来ましたからね。もしかしたら誰かに連れて来られたのかも...一人、心当たりもありますし。」

「心当たり...?」

 

タケルは早苗の発言に疑問を抱いて、思考を前に向ける。彼は立ち止まってなどいられない。どんな時でも前を向き、未来に向かって走り続ける。過去に生きた英雄の思いを知り、その思いを今に繋ぐ。それが偉大な父、そして大切な仲間たちとの誓いだから。心の内に秘めた魂を呼び覚ましたタケルは、鋭く研ぎ澄まされた感覚を取り戻し、ある気配に気づく。

 

「誰だ!?隠れても無駄だ!」

 

今までの能天気な雰囲気から一転、威厳を感じさせる表情と声になったタケルは大きな木の陰に怒号を飛ばす。タケルの大声にびくっと体を震えさせた早苗は、タケルに身を隠しつつ覗きこむようにして木の陰を見た。

 

「えっ!!?」

「...お前にも姿が見えるのか小娘?全く、面倒な体だぜ...」

 

早苗が目にしたのは、黒づくめの姿に槍を携えた青い炎のような目をした存在。人でも妖怪の類いでもないのは早苗の目にも明らかだった。首をゴキゴキと鳴らしながら二人の前に姿を現す化け物。その化け物は槍を構え直し、その切っ先を二人に向ける。その異形の存在に向けて、タケルは何故か哀愁を漂わせながら声をかける。

 

「眼魔...どうして君が...?」

 

明らかに動揺した様子のタケルに、化け物は首をかしげる。タケルはその化け物、“眼魔”をよく知っているが、目の前の"槍眼魔"の側には一切の認識がないようで、迷いのない殺気がひしひしと伝わってくる。早苗は、この噛み合わない二人の間にタケルを庇うような形で割って入り、眼魔に対して堂々と神串を突きつけ、名乗りを上げた。

 

「あなたが何者でどんな存在なのか非常に気になりますけど、そういう状況でもなさそうですし...あなたを退治してからゆっくりと話を聞かせて貰いましょう!」

「ダメだ、早苗!」

 

切羽詰まった様子で必死に腕にしがみついたタケルに、早苗は大きく困惑する。というのも、これが早苗の使命であり、為すべきことなのだ。守ろうとしている相手からそれを止められるという経験は、早苗にとって初めてだったのだ。この時、彼女は気づけなかった。目を丸くしてタケルを眺める間、背後にもう一つの殺気が現れていたことを。小鳥の乗ったシルクハットを被り、肩には開いた状態の本を備えた眼魔、"ブック眼魔"は表情の読めない無機質な顔にも関わらず、その不敵な笑い声を小さく漏らす。そのまま手のひらに紫の光弾を作り上げ、それを二人の背に向けて放った。風を切り裂き迫る光弾に、揉み合う早苗とタケルが気づくことはない。

 

「ぐっ...!!」

「何だっ!?」

 

しかし、光弾が二人の体を撃つことは無かった。それどころか槍眼魔の胸部の鎧に命中し、彼は予想外に襲われた痛みに苦悶の声を漏らす。一方のブック眼魔も、目の前で起きた現象に驚嘆する。そんな彼らの眼前にはそれぞれ一つずつ、無数の目の覗く裂け目..."スキマ"が開かれていた。

 

そう、早苗の言っていた"心当たり"。

 

八雲紫、その人だった。

 

「あら、案外間抜けね...眼魔さん?」

「紫さん!?」

 

上空から降り注ぐ紫の声は眼魔たちを挑発するような言葉をかけるが、その態度も同様。扇子で口元を隠しながらクスクスと挑発的に笑っていた。光弾が炸裂した音でようやく落ち着いた早苗は、状況を認識する中で紫の姿を捉え、思わず声を上げる。それと同時に理解した。

 

彼女が手を出すと言うことは、今まで携わってきた数々の異変とは規模、脅威共に格がが違うことを。

 

紫はスキマを閉じながら、ふわりと早苗たちの側に降り立つと穏やかに告げた。

 

「戦いなさい。東風谷早苗、天空寺タケル。」

「で、でも...」

 

紫に戦いを促された早苗は、戸惑いながらタケルに目を向ける。拳を固めながら震えるその表情は曇り、唇を噛み締めている。彼は戦おうとする早苗をを必死で止めていた。もしかしたら眼魔たちはタケルの知り合いなのかも知れないと考えた早苗は、この化け物たちを倒す踏ん切りがつかずにいた。だが早苗は、タケルが決意と共に拳を握りしめていたことに気付いていなかった。

 

「大丈夫...俺、戦うよ。眼魔のみんなを傷つけるのは辛いけど...命が奪われるのを見過ごす訳にはいかないんだ!」

 

そう呟きながら力強く前に踏み出すタケル。自分の傍にいる二人の少女を庇うように仁王立ちすると、両手で何かを囲むようにして腰の辺りにかざした...

 

「「「「・・・?」」」」

 

が、何も起こらなかった。タケル、早苗、槍眼魔、ブック眼魔が呆然とする中、紫が忘れてたと言わんばかりに言う。

 

「あ、タケル君。あなた、変身出来なくなってるわよ。」

「...えぇ~~~~!!?」

 

紫により非常にあっさりと伝えられた事実に急に恥らいが込み上げてくるタケル。それも当然、大見得を切ったにも関わらず、塵が風に飛ばされるように自分の行動は無意味でしたと教えられたのだから。そんなタケルに対し、眼魔の二人は口元を押さえて笑い声を堪えていた。

 

「ハハッ!ダッセェなぁ~!」

「くくっ...傑作ですね~!」

「う、うるさい!!」

 

口々にタケルを貶す眼魔たちに対して半ばヤケクソ気味に声を荒げるタケルだったが、早苗はそんな彼に駆け寄り、真っ直ぐに笑顔を見せた。

 

「大丈夫ですよ!変身っていうのが何かは分かりませんけど、私はタケル君が私たちを護ろうとしてくれたことが嬉しかった。すごく、格好良かったですよ?」

「早苗...!」

 

早苗は優しく語りかけながらタケルの隣に並び立ち、気合いをいれるように神串を横に一振りして続けた。

 

「今は事情があるのでしょう?今度は私の番です。君を護らせて下さい!」

 

タケルに代わり戦意を露わにする早苗。彼女の新緑の髪を爽やかな追い風が駆け抜けて行った。そんな早苗を嘲笑うように槍眼魔とブック眼魔は並び立ち、挑発的なセリフを言い放つ。

 

「ほぉ...そっちの金髪ならともかく、ただの人間が俺らの相手するってか?おもしれぇ、オレの槍で串刺しにしてやろう、感謝しろよ?」

「どんなストーリーを辿っても、あなたの勝利という結末は訪れない。フフッ、あなた方が無様に散る。それが美しいエンディングです...」

 

言いたいことを言い切った二人の眼魔は、各々に早苗たちを殺しにかかる。いち早く行動を起こしたのはブック眼魔。先ほど放ったものより小さな光弾を複数撒き散らし、地面への着弾によって発生した土ぼこりで早苗たちの視界を悪化させる。続いて槍眼魔は発生した土ぼこりに紛れ、二人の背後に回り込む。そのまま第一の獲物を選ぶように、槍の切っ先を左右に振る。言うなれば死のメトロノーム。一定間隔で揺れていた切っ先は、ピタリと止まった。その切っ先、死の宣告を向けられていたのは緑髪の少女。槍眼魔は心の底で狂気に満ちた笑みを浮かべ、獣の如く早苗に飛びかかった。

 

戦うことを促して以降、傍観を決め込んでいた紫は一つの確信を得ていた。タケルと一つになれる相手は早苗しかいない、と。

 

だからこそ、タケルに向けて叫んだ。今度は強い願いと想いを乗せて。

 

「天空寺タケルッ!!彼女と融合(シンクロ)しなさい!あなたにはその力がある!」

「えっ!?」

 

視界の悪い中、自分の知り得ない情報を伝えられて困惑するタケル。声の主である紫の姿を探す内に、タケルは土ぼこりの中で蠢く影を捉えた。その影が持つ長物の先が冷たく煌めいた瞬間、タケルの体は無意識に動いていた。狂槍に狙われる早苗を護るため、必死で地を駆けるタケル。例え力を失っても、彼の魂は、命の火は失われなかったのだ。

 

早苗の細く柔らかな肉体が、血を求める槍に貫かれる直前、両腕を広げたタケルは倒れ込むような勢いで彼女に飛び込んだ。タケルがその勢いのまま早苗を抱きしめた瞬間、辺りに橙色の閃光が走る。その眩しさに早苗や眼魔が怯む中、紫は静かに口角を上げる。

 

「(これで二人目ね...)」

 

閃光が収まった頃、早苗は辺りにタケルが居ないことに気がつく。眼魔もそのことに気がついたようで、自分達の周辺を見渡して状況を探っていた。その時、早苗の胸元から先ほどと同じ橙色の光が溢れ、かなり慌てた声が流れた。

 

「なんだこれ!?俺、どうなっちゃったんだ!?」

「タケル君!?」

「それが融合(シンクロ)よ!さぁ早苗、変身しなさい!」

 

早苗は、今まで理解の出来なかった変身というキーワードに対して、一気に燃え上がる炎のようにイメージが湧き始めた。早苗はそのイメージに従って身体を導いていく。

 

両腕で空間を囲むようにして腰に手を翳す。すると橙の炎が腰の周りに舞い、火の粉が弾ける。その炎が消えた頃には、単眼が特徴的な機械仕掛けの上に水色で半透明のカバーが被っているベルト、”ゴーストドライバー”が早苗の腰に装着されていた。

 

「なんでゴーストドライバーを...!?」

「タケル君!君の魂、貸してもらいますね!」

 

驚愕するタケルをよそに、早苗はステップを進める。ドライバーの上部に備えられたスイッチを押し込みカバーを前方に展開させると、掌の上に橙の炎を燃やす。やがてその炎は、黒と白を基調とした目玉のようなアイテムに変化した。タケルは見慣れたそのアイテムの名を叫んだ。

 

眼魂(アイコン)!しかも、”オレ”の!」

 

早苗の手に握られた眼魂(アイコン)と呼ばれるアイテム。中でもこの眼魂(アイコン)は、オレゴーストアイコンと呼ばれるものだ。その由来は単純明快、心優しき英雄、天空寺タケルの魂が込められていたからだ。

 

「タケル君!君の魂を貸してください!」

「...分かった!一緒に行こう、早苗!」

 

タケルと魂を重ね合わせた早苗は、アイコンを右手の人差し指と中指で上から、同じく右手の親指で下から挟み込み正面に構える。そのまま静止させたアイコンのスイッチを左手の掌で押し込むと、アイコンの黒目に当たる部分の柄が変化した。黒いシャッターのような絵柄から、大きく「G」とかかれた絵柄に変化し、一瞬その絵柄が浮き出た。早苗は絵柄の変わったアイコンを、開いたカバーの間からスロットに装填し、左手で勢い良くカバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナ~!バッチリミナ~!』

 

カバーを閉じた瞬間、ドライバーの単眼部分に橙色の渦が発生し、独特なラップ調のメロディーと共に、黒にオレンジのラインの入った、自立浮遊をするパーカー、オレパーカーゴーストが現れた。オレパーカーゴーストは橙のつり目で睨みつけながら眼魔たちに接近し、リズムに乗りながら腕のような部分で眼魔たちに打撃を加えていく。眼魔たちが妨害を受けている間、早苗は右手でドライバーの右側のトリガーを外側に引き出した。するとドライバーの単眼部分のまぶたが閉じられ、オレゴーストアイコンの絵柄が見えなくなる。早苗はそのまま流れるような動きで両腕を前方に伸ばし、人差し指と中指を伸ばした両手を重ねる。そこで一呼吸置いてから、一気に両腕を回転して右腕を天に向けて伸ばし、それにより開いた脇に左手を被せる。そして伸ばした右腕を肘を曲げつつゆっくりと下ろし、顔の正面で止める。そして全ての準備が整った二人は、声を揃えて叫ぶ。

 

「「変身っ!!」」

 

早苗は気迫のこもった叫びと同時に、引き出されていたドライバーのトリガーを右手で叩くようにして押し込む。その瞬間、閉ざされていたドライバーの瞳が開かれた。

 

『カイガン!オレ!』

 

ドライバーから流れた音声の通り、開眼したその瞳には、オレンジをベースに大きな黒い複眼が描かれていた。その瞳が開かれた瞬間、早苗の周囲の空間に水色の粒子が出現し、彼女の全身に纏われていく。少しして粒子が集結すると、早苗の姿に変化が起きた。前髪は銀、そして後ろ髪になるにつれ黒になっていくグラデーションの髪の毛。特徴的な巫女装束は、黒い下地の上に骨を表現したようなオレンジのラインが走り、胸の谷間の辺りには瞳の燃え上がる単眼のマークが刻まれていた。早苗の変化を察知したオレパーカーゴーストは、眼魔たちにより重い一撃を与えて帰還した。そのまま早苗の周囲を一周すると、彼女に被さるべく自身を伸ばして早苗に向かう。早苗もそれを受け入れるため、腕を大きく回しながら上に伸ばす。そのタイミングは完璧に重なり、早苗はオレパーカーゴーストを羽織ると腕を下ろした。

 

『レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

再びドライバーから音声が鳴り響くと、早苗の付けていた蛙の髪飾りが瞳に描かれていた仮面と同じデザインに変わり、前髪は明るめのオレンジに変化した。早苗は多くの過程を経て、ついに変身を完了させた。

 

「何だ...!?その姿は!?」

「まさか...ゴースト!?」

「私にもよく分かりませんけど、1つ教えてあげましょう。幻想郷では、常識に捕らわれてはいけないんです!行きますよ、タケル君!」

「じょ、常識に...?まぁいっか、分かった!」

 

早苗は代名詞とでも言うべきセリフを言い放ちながらフードを外し、タケルと息を合わせる。タケルは早苗の発言に困惑していたが、戦闘に意識を集中させていく。そんな中、槍眼魔はとうとう痺れを切らしたようで、怒りの叫びを上げた。

 

「あああぁっ!!姿が変わったから何だ!所詮はただの人間だろーが!!ぶっ殺してやるっ!!」

「ま、待て!槍眼魔(ランス)!」

 

ブック眼魔からの静止も聞かず、早苗に槍を向けて突っ込む槍眼魔。加速を付けて地を駆ける槍眼魔はは、自分の攻撃範囲に早苗が入った瞬間にブレーキをかけ、早苗の喉元に狙いを定めて、速度と怒りを乗せた槍を突き出した。しかし早苗はその槍を左手で弾き軌道を逸らすと、腰の捻りの効いた右手の拳を槍眼魔の胸部に叩き込む。その衝撃に後ずさる槍眼魔は少しでもダメージを抑えるため、ブック眼魔のいる辺りまで飛び退いた。

 

「チッ...お前の言う通り、姿は違えどゴーストって訳か...」

「だから言っただろう!本気でやらなくては、私たちがやられるぞ!」

 

「ふぅ、弾幕ごっこで鍛えた反射神経が役に立ちました。とは言え、これを繰り返すのもキツいですね...」

「だったら良いものがあるよ!武器が出るように念じてみて!」

「分かりました...!」

 

タケルの指示通りに早苗が念じると、ドライバーの瞳を中心に魔法陣が形成され、そこから一本の大剣が飛び出した。その名もガンガンセイバー。今のガンガンセイバーは多くの物を切り裂く大剣、ブレードモードだ。ガンガンセイバーは橙の炎を纏いながら浮遊し、自動で早苗の右手に柄を乗せた。早苗はそれを握ると、目を輝かせて眺める。

 

「おぉ!凄く機械的な武器ですね~!私の科学心がそそられます!」

「それは後で!今は戦いに集中しないと!」

「おっと、そうですね。私としたことが...あれ?」

 

自分の欲求を抑え込んだ早苗は眼魔たちのほうに視線を戻すが、そこに眼魔たちの姿は無くなっていた。逃げたのかなと考える早苗に対し、タケルはこの行動の意図が分かっていた。棒立ちで思考にふける早苗の背後では、狂気の槍が再び狙いを澄ましていた。

 

「(今度は外さねえ...一撃で殺して、名前の通り幽霊(ゴースト)にしてやる...)」

 

「(少し危険だけど、大丈夫?)」

「(オッケーです...何とかやってみます。)」

 

シンクロする意識の内で、タケルと早苗が何かについて話し合っていたことなど知らず、槍眼魔は突撃を開始。無音で茂みから抜け出して早苗に接近、三度目の正直と言わんばかりに槍を突き出した。しかし、妖怪の山に響いたのは悲鳴では無く金属音。瞬間的に振り向いた早苗が、縦に構えたガンガンセイバーの面を使って槍を止めていたのだ。

 

「仏の顔も三度までです!覚悟して下さい!」

「フン...調子に乗ってると痛い目見るぜ!」

 

言葉と武器、二つの要素で同時にせめぎ合う早苗と槍眼魔。時にお互いの得物から火花の飛び散る戦いの中、唐突に橙色の輝きを強めてタケルが叫ぶ。

 

「今だッ!!」

 

その叫びを聞いた早苗は、今まで堪えていた槍を一気に押し上げて槍眼魔の体勢を大きく崩す。早苗はがら空きになった槍眼魔の腹部に、両手で構えたガンガンセイバーの刃を押し当てながら、右足を軸にして回転する。勢い良く振り抜かれたガンガンセイバーは火花を散らしながら槍眼魔の肉体を斬りつけ、回転して振り向いたことにより、早苗の背中に迫っていた紫の光弾さえも横一閃に切り裂いた。

 

「ぐおっ...」

「馬鹿な!?私たちの連携を...!?」

「凄いですね!タケル君の読み通りでしたよ!」

「早苗の命もかかってるんだ、絶対に外さない!」

 

先程の打撃よりも絶大なダメージを被った槍眼魔は腹部を押さえてうずくまり、自分の策を破られたブック眼魔は驚愕した様子で木陰から飛び出す。少し前に早苗は、タケルからシンクロする意識の中で眼魔たちの作戦の予想と、その対策を伝えられていたのだ。早苗から賞賛を受けたタケルは、今までよりも強い口調で返していた。

 

「決めよう、早苗!」

「ええ!任せて下さい!」

 

早苗は地面にガンガンセイバーを突き刺すと、姿を表したブック眼魔の方を向いて変身の時と同じようにドライバーのトリガーを引き出した。再びドライバーの瞳が閉じ、絵柄が見えなくなる。それと同時に、早苗の背後に橙色の炎から成る紋章が浮かび上がる。早苗は紋章が形成される間に両手で印を結ぶ。早苗たちの力にうろたえ、逃げることさえままならないブック眼魔に対し、戦いの最中に背を向けられた屈辱感に身を焦がす槍眼魔。その怒りは頂点を迎え、怒号を上げながら早苗に特攻を仕掛けた。

早苗はそんなことは意に介さず、紋章が完成したタイミングでトリガーを押し込んだ。

 

「ウオォラァァァ!!」

「命、燃やすぜ!!」「命、燃やします!!」

『ダイカイガン!オレ!オメガドライブ!!』

 

 

ドライバーの瞳の絵柄が勢いに乗った足の絵柄へと変化、ドライバーから音声流れると、紋章が橙色の炎になって分離、早苗の右足に集束していく。全ての炎が早苗の右足に集束した頃、彼女の近くにたどり着いた槍眼魔は怒りと憎しみを存分に込めた槍を袈裟に振りかぶる。しかし、早苗は軽く地面を蹴ってゆったりとジャンプし、その槍を回避。そのままバック宙の要領で槍眼魔の背後に回り込んだ。そう、早苗が狙っていたのは正面にいたブック眼魔では無く、背後にいた槍眼魔だったのだ。自分が嵌められたことに気づいた槍眼魔は慌てて振り向くが、時既に遅し。そこには、今まさに蹴りを放つ直前の構えを取る早苗の姿があった。

 

「「はあぁぁっ!!」」

「ぐぁぁっっ!!」

 

早苗が放ったゴーストのライダーキック、”オメガドライブ”は槍眼魔の喉元を捉え、その威力に耐えられなかった槍眼魔は苦悶の叫びを上げながら爆発した。彼は皮肉にも、自分が狙っていた喉元への攻撃で散ったのだ。敵を一人撃破することに成功した早苗はゆっくりと大地に降り立ち、もう一人の相手に目を向ける。自らの同胞を倒した相手にロックオンされたブック眼魔は既に逃げ腰になっており、とうとう早苗に背を向け、山の上の方に逃げ出してしまった。

 

「う、うわぁぁっ!」

「あっ!ちょっと待って!早苗、追いかけよう!」

「はっ、はい!」

 

追撃すると言った雰囲気ではないタケルに、早苗は困惑しながらも同意。ガンガンセイバーを地面から引き抜き、走り出す。その背中を見届けた紫は、満足そうに笑顔を浮かべてスキマの中に消えていった。

 

 

「どこ行っちゃったんだ...?」

「確かにこっちの方に行ったはずですけど...あっ、いた!」

 

木々の間にブック眼魔を探す早苗とタケル。木陰にブック眼魔の背中とシルクハットを見つけた早苗はガンガンセイバーを構えて攻撃を仕掛けようとするが、タケルがそれを止める。

 

「早苗、ちょっと待って!俺に任せてくれないかな?」

「えっ?は、はい...」

 

早苗はタケルからの頼みを受け、戸惑いながらもブック眼魔の近くで足を止める。タケルは橙色の光を放ちながら、背を向けたままのブック眼魔に優しく語りかける。

 

「俺たちが戦う理由なんて、もう無いはずでしょ...?俺は、これ以上君たちを傷付けたくない...だから、もうやめてくれ...!」

「タケル君...」

 

自分たちを殺そうとした相手に歩み寄り、手を取ろうとするタケルの姿に感銘を受ける早苗だったが、同時に一つの危惧がよぎった。しかしその危惧を見つめ直すより先に、早苗の意識を弾けるような痛みが支配した。

 

「きゃあっ!」「うわぁっ!」

 

思わず悲鳴を上げる二人。その衝撃で早苗の身体は吹き飛ばされ、いくつかの木に衝突しながら減速していき、地面に落ちてからも少しの間転がってしまう。歯を食いしばって痛みを堪える早苗の耳に、聞き慣れた二つの声が届く。

 

「さっきの轟音といい、何事だ!?」

「そんなの分かんないよ!あれ...?早苗ッ!!?」

「何ッ!!?」

 

早苗に駆け寄ってくる二つの足音。早苗の目に映ったその正体は、自らの仕える二柱の神。八坂神奈子と洩矢諏訪子だった。

 

「ハァ...ハァ...神奈子様!?諏訪子様!?」

「うっ...だ、誰?」

 

早苗が慌てて辺りを見渡すと、そこには今朝も自分が掃き清めた境内が広がっていた。何者かに吹き飛ばされたことによって、守矢神社のある妖怪の山の山頂まで戻って来てしまっていたのだ。早苗は再び来るであろう謎の敵から二人を守るため、ガンガンセイバーを支えにして立ち上がった。

 

「来ないで下さいっ!!敵がいます!!」

「その通りです。近くにいたら怪我をしてしまいますよ?」

「まっ、そいつを倒したらどっちみち始末するけどね~♪」

「ブック眼魔...!?」

 

大きな声で止められた神奈子と諏訪子は、戸惑いながらもそこで立ち止まる。落ち着いた口調で早苗に賛同しながら山林の中から出て来たのはブック眼魔だったが、一体ではない。ほとんど同じ姿をしたハイテンションな眼魔がもう一体現れたのだ。容姿の違いは一つ。ハイテンションな方にはシルクハットの上に鳥が乗っていないのだ。そして、タケルが声をかけていたブック眼魔のシルクハットには、鳥は乗っていなかった。これらの状況から、早苗とタケルは全てを理解した。

 

「騙したのか...?」

「許せない...!タケル君の心を踏みにじって...!」

「騙される方が悪いんだよ、バ~カ!」

「...神奈子様たちは離れていて下さい...こいつらは私が倒します!!」

 

早苗に今までに見たことのない気迫で避難を促された神奈子と諏訪子は、動揺しながらも神社の裏側へと飛び立って行った。それを見届けた早苗はガンガンセイバーの柄を握り締め、怒りに身を任せてブック眼魔二人に立ち向かった。並び立つ二人を狙い横に大きく振りかぶるが、それぞれ身を反らしたり、屈伸したりで回避されてしまいカウンターで二つの光弾を受け、再び吹き飛ばされる。今度は神社の柱に身体を打ち付け、その身体はゆっくりと地面に落ちる。しかし、これが戦局を変えるなど、誰一人として思っていなかった。

 

早苗が柱に激突した衝撃で神社全体も振動し、居間にある家具なども少しだけ浮き上がった。それによって棚の上に置かれていた籠も浮き上がり、そこに入っていた林檎が一つ外に飛び出した。空中に放り出された林檎は重力に引かれて床へと迫っていき、やがて床にたどり着くと二、三回バウンドして静止した。そんな誰もが当たり前に考えている事象を、机上に残されたくすんだ目玉は見つめていた。

 

そして、アイザック・ニュートンは覚醒した。

 

諏訪子が溜め池で見つけたニュートンゴーストアイコンは鮮やかな水色を取り戻し、空中を浮遊して早苗の下に訪れた。

 

「これって...!?」

「ニュートンさんっ!!助けてくれるんですか!」

 

突然現れたニュートンアイコンに警戒態勢に入る早苗に対し、タケルはシンクロ越しにでも伝わる程に嬉々としていた。ニュートンアイコンはタケルの質問に対して頷くような仕草を見せると浮遊能力を解除し、落下を始めた。早苗は慌てて両手で受け皿を作りニュートンアイコンを手にすると、それを見つめた。

 

「土壇場ですが...やるしかないですね!」

「ああっ!サポートは任せて!」

「ほう...?」

「なになに~?何してもムダだけどね~♪」

 

早苗はニュートンアイコンのスイッチを押し込み、瞳の絵柄を黒いシャッターの絵柄から大きく「04」と描かれた絵柄へと変える。続けてドライバーのカバーを開きオレゴーストアイコンをスロットから外すと、オレパーカーゴーストが粒子になって消滅した。トランジェント状態になった早苗は、ニュートンアイコンをスロットに装填、流れるようにしてカバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナ~!バッチリミナ~!』

 

するとオレパーカーゴーストと同じようにして、両手に水色の球体の付いたダウンジャケット風の”ニュートンパーカーゴースト”が出現して浮遊する。早苗はそこから間を置かずにトリガーを操作、一気に引き出して押し込んだ。

 

『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか~!』

 

瞬きを経たドライバーの瞳はナンバリングから、リンゴと矢印の描かれた絵柄へと変化。それと同時に早苗はニュートンパーカーゴーストを羽織り、髪飾りはドライバーの瞳と同じものに変化する。早苗は万有引力の力を操る姿、”ニュートン魂”へと変身した。

 

「って、なんですか!?この球体は!?」

「それで力を操るんだ。右手が斥力で、左手が引力ね!」

 

早苗が両手の球体に驚愕していると、この姿の力を熟知しているタケルが解説を行った。一方のブック眼魔たちはうろたえる様子もなく、余裕の態度を見せつける。

 

「斥力やら引力やらが何ですか?武器にもならないじゃないですか。」

「そんなので戦おうなんて、正真正銘のバカだね~!」

「英雄の力を馬鹿になんてさせない...!」

「物理の偉大さ、思い知らせてあげましょう!!」

 

ブック眼魔たちは早苗やタケルだけに留まらず、英雄の力をも侮辱してしまった。それはタケルの琴線に触れる行為だったのだ。一方、早苗にとっても大好きな物理や科学を侮辱されるのは許し難い行為だった。ブック眼魔たちは再び早苗を吹き飛ばすべく、同時に光弾を放つ。螺旋を描いて迫り来る光弾に対して、魂の燃え上がっている早苗は力強く右腕を伸ばした。すると斥力を持つ赤い波動が球体を発信源にして放たれ、徐々に光弾の勢いを止めた。しかもそれだけに留まらず、光弾をブック眼魔たちに向けて押し返していったのだ。ブック眼魔たちは予想外の挙動に為す術も無く、自分たちの放った光弾を胴体に受ける。それぞれの胴体に光弾は炸裂し、落ち着いた口調の方は傷を押さえて片膝を付き、もう一人の方は大袈裟に倒れ込んだ。

 

「うっ...!?」

「いった~!何なんだよ、それぇ!!」

 

地面に倒れ込んだハイテンションな方のブック眼魔が子供のようにわめき散らすが、起き上がった視線の先に早苗はいない。その代わり、そこでは先程と同じ赤い波動が天から降り注いでいた。ブック眼魔たちがその波動を目で辿ると、斥力を使って遥か上空に浮き上がった早苗の姿が確認できた。しかし、それと同時に早苗は、斥力と引力を器用に使い分けてドライバーのトリガーを操作した。

 

『ダイカイガン!ニュートン!オメガドライブ!』

 

瞳の絵柄が勢いよく落下するリンゴに変わると、早苗の正面に水色の紋章が形成される。今度は紋章の炎を纏うことなく、目の前の紋章に向かって左手を伸ばす。すると紋章が拡声器のような役割を果たし、左手の球体から放たれた青い波動の影響範囲を広げる。左手の球体が操る引力に引かれて、二人のブック眼魔は宙に浮き上がり、紋章の方へどんどん手繰り寄せられていく。

 

「うおっ!?」

「うわああああっ!?」

 

ブック眼魔たちは引き寄せられる間も光弾を放って抵抗するが、光弾は紋章に阻まれて弾ける。結局悪あがきも意味を成さず、ブック眼魔たちは紋章の目の前まで引き寄せられる。

 

「さぁ、とどめですっ!」

「ひいっ!?」「いやだぁぁぁっ!」

 

右腕を目一杯引いて構える早苗にブック眼魔たちは怯えるが、早苗はそんなブック眼魔たちをしっかりと見据え、右腕を紋章に叩きつけた。

 

「「うぎゃあぁぁぁぁ!!」」

 

紋章から放たれた斥力で一気に吹き飛び、痛烈に地面へと叩きつけられたブック眼魔たちは、なんとも情けない断末魔を上げながら爆発した。その最期を見届けた早苗はゆっくりと地面へ降り立つと、引力でカバーを開き、同じく引力でニュートンゴーストアイコンをドライバーから取り外し、最後に斥力でカバーを閉じた。

 

『オヤスミー!』

 

カバーを閉じるとニュートンパーカーゴーストは粒子になって消滅、早苗の姿も元の頭髪、服装に戻る。早苗が戦いの終わりに安堵して深呼吸をしていると、早苗の身体から橙色の光が抜け出して人型に集結し、その光はタケルの姿になって融合(シンクロ)が解除された。

 

「タケル君!」

「も、戻れた!そうだ早苗、怪我は大丈夫?」

「えぇ、これくらいなら大丈夫ですよ!タケル君も大丈夫ですか?」

 

戦いを終えてお互いの無事を確認する早苗とタケル。そこに、隠れていた神奈子と諏訪子が謎だらけといった表情で合流する。

 

「早苗から男が出て来た...!?それにさっきの格好は!?あの変なのは!?」

「お、落ち着け諏訪子!!そんなに矢継ぎ早に聞いていたら答えられないだろ!」

 

ピョンピョンと跳ねながら質問を続ける諏訪子に、神奈子は落ち着くように言い聞かせる。その光景が日常のままで、戦いで気の張り詰めていた早苗はほっとする。タケルもその光景ののどかさに、思わず笑顔になっていた。そんな中、居間からさっきも聞いた女性の声が聞こえた。

 

「そうね、お茶でも飲んで落ち着くといいわ。」

 

一同が居間に目を向けると、そこには他人の神社で優雅にティータイムを嗜む紫と、全員分の湯呑みに急須でお茶を注ぐ藍の姿があった。

 

「おいコラ紫!私たちの神社で勝手に茶を飲むな!」

「あら...そんな口利いていいのかしら?せっかく情報提供をしてあげようとしてるのに。」

 

自分たちの神社でくつろぐ妖怪の賢者に、怒りのツッコミを入れる神奈子。それを紫は飄々と受け流して緑茶をすする。そんな主人を見かねた藍は、話を進めるため会話に割って入る。

 

「まぁ、少し紫様の話を聞いて下さいませんか?これは、幻想郷全体に関わる話なんです。」

「「幻想郷全体に...!?」」

 

藍の言葉で事の重大さを理解した神奈子と諏訪子、紫が現れた時点で理解していた早苗はもちろん、部外者であるタケルも紫に促され、全員が居間で紫の話に耳を傾けた...

 

 

 

「なるほど...事情は理解した。」

「まさか、幻想郷でそんな事件が起こってたとはね...」

 

紫の話が一通り終わった頃、神奈子と諏訪子は神妙な面持ちで呟いた。幻想郷のこと、妖怪や妖精のこと、異怪の大乱のこと、暗躍するタイム・トラベラーズ(時の旅人)のこと、そして活動を再開したグロンギや眼魔のような化け物たちのこと。一気に多くのことを知ったタケルは、混乱して声も出ない様子だったが、一つの決意は固めていた。そして、その決意を固めていたのはタケルだけではない。

 

「これで仮面ライダーの力を得たのは、ルーミアに続いて二人目。早苗、タケル、この幻想郷を守るために、ゴーストの力を貸してくれないかしら?」

「「もちろんです!」」

 

早苗とタケルは即答かつ声を揃えて叫んだ。彼らが固めていた決意、それは”この世界に生きる命を守るために戦う”という決意だったのだ。その返答を聞いた紫は心底嬉しそうに笑い、両手を二人に差し出した。

 

「ありがとう。頼むわね、早苗!タケル!」

「えぇ!任せて下さい!」

「この世界を未来に繋いでみせます!」

 

二人は差し出されたその手を握り、固い握手を交わした。こうして二人目の仮面ライダーの力を宿す少女の戦いが始まった。

 

 

「ところでタケル。お前、行く宛もないんだろ?だったらこの神社に住め。」

「えっ!?いいんですか?」

 

紫と藍が立ち去った後、神奈子はタケルに神社に居候を提案する。驚いた様子で恐縮するタケルに、神奈子は力強く頷き、諏訪子は満面の笑顔で歓迎した。

 

「こんな状況になったんだ。早苗のそばに居て貰わないとな!」

「ふつつか者だけど、よろしくね~!」

「諏訪子さん...それは本人が言うセリフですよ。」

「あぁっっ!!」

 

三人の笑い声が響く守矢神社の居間に、台所で湯呑みを洗っていた早苗の叫び声が響く。タケルが驚いて台所のほうを覗くと早苗がダッシュで台所から飛び出してきて、危うく衝突しそうになる。

 

「結局買い出しに行ってませんでした!今すぐに行って来ます!!」

「ちょっ、ちょっと待って!!俺も行くよ!!」

 

神社さえも突風の如く飛び出していった早苗を追いかけて、タケルも神社を飛び出していく。そんな二人にやれやれと言った仕草を取る諏訪子。二人の背中を見届けた神奈子は、どこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。こうして守矢神社に、落ち着かない居候が一人増えたのだった。

 

 

~次回予告~

 

「たくっ!一体ここはどこなんだよォォッ!?」

 

「駄目だ...地球(ほし)の本棚にアクセス出来ない...」

 

「あの怪物は...!」

 

「とにかく今はやるしかねぇ!!」

 

『サイクロン!』

 

『ジョーカー!』

 

「「「「変身!!」」」」

 

第4話 ~吹き込みしW/地底の姉妹と探偵コンビ~

 

これで決まりだ!

 

 

 

ここからは恒例(まだ3回目)のキャラクター、アイテム等の紹介コーナーです!

 

~東風谷早苗~

 

守矢神社に仕える心優しい巫女。奇跡を起こす程度の能力の持ち主。基本的に口調、物腰ともに丁寧で、嫌われることは少ない善人。ある日タケルと出会い、眼魔と交戦。タケルとのシンクロを果たしてゴーストの姿に変身、眼魔たちの撃破に成功する。それからは居候となったタケルと共に、幻想郷を守るために戦うことを決めた。

 

~天空寺タケル~

 

勇敢で正義感の強い青年。外の世界では仮面ライダーゴーストとして戦っていた。常に相手のことを思いやって接するが、優しすぎる接し方はウザいと評されることもしばしば。そんな罵倒にもめげずに正論を貫くメンタルの強さを持つ。守矢神社に居候し始めてからは、少しでも早苗の負担を無くそうと家事を手伝っている。

 

~ゴースト(早苗) オレ魂~

 

「仮面ライダーゴースト オレ魂」を模した早苗の姿。オレパーカーゴーストはそのままに、全身の巫女装束にゴーストのアンダースーツを再現したデザインがされている。いわゆる基本フォームであり特徴は少ないが、タケルの魂であるために彼の感情の昂りでスペックが上昇する性質がある。基本装備はガンガンセイバーのブレードモード。状況に応じてナギナタモード、ガンモードを操る。

 

~ゴースト(早苗) ニュートン魂~

 

「仮面ライダーゴースト ニュートン魂」を模した早苗の姿。ニュートンパーカーゴーストの両手に付いている球体で引力と斥力を操る。今回では、早苗が地面に斥力を放って空中に跳ね上がるという応用を見せた。




いかがでしたか?

少なくとも1ヶ月のクオリティではないですね...少し言い訳をさせて貰いますと、私生活が忙しくてこっちに手が回りませんでした。内海さんに「あの世で詫びろォ!!」と言われてしまいそうです。

実を言うと、原因はもう一つあります。ゲーム好きの私にとって一年に一度のビッグイベント、E3があったことです。(スマブラ楽しみです!)

こんな感じで、他の趣味にも手を出しながらやらせて頂いている東方時哀録、これからも気長に付き合って頂けると嬉しいです。

それでは、チャオ!


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第4話 ~吹き込みしW/地底の姉妹と探偵コンビ~

今回出てきたので、あらかじめ。
(「」)の表示は、過去の発言を思い出したときの描写ですよ。

それでは第4話、どうぞ!


木製のテーブルに乗ったティーカップに、紫がかった髪の少女がトクトクと紅茶を注ぐ。10歳程度の見た目にはそぐわず、少女は慣れた手つきでもう一つのティーカップに紅茶を注ぐと、片方のティーカップを丁重に差し出した。そのティーカップを上品に微笑みながら受け取るのは、妖怪の賢者である八雲紫。少女は来客である紫に紅茶を入れていたというわけだ。少女は自分のティーカップを手に取ると椅子に座り、目の前で紅茶の香りを楽しむ紫に話を切り出した。

 

「それで紫さん、この度はどのようなご用件でこんな所までいらしたのですか?」

「あら、相変わらずストレートね?」

「その紅茶を気に入って下さったのは嬉しいですが、話が進まなそうでしたので。」

 

紫の発言を冷静に受け流した少女は、ゆっくりと両目を閉じて紅茶を一口すする。しかしその間も、おどけた表情で肩をすくめる紫を見つめる瞳があった。少女の身に纏う、フリル付きの洋服から伸びる赤いチューブが繋がる第三の目、サードアイだ。ティーカップから口を離し、ふぅと息を漏らすこの少女は、心を見る妖怪「覚」であり、二人の談話するこの地霊殿の主、古明地さとりである。先程のかみ合わない会話も、さとりの心を読む力ゆえだ。さとりと共に紅茶で喉を潤した紫は、仕方ないといった様子で話を始めた。

 

「まぁ、今日は私も忙しいから、さっさと本題に進もうかしら。六年前、まだ地上と繋がる前の地底でも異怪の大乱の現象が起きたのよね?」

 

紫の言葉に、さとりの眉がピクリと動いた。さとりの脳裏にその時の惨状が蘇る。地底で当たり前の日常を送っていた者たちが襲われ、化け物たちにささやかな幸せの全てを奪われた。血の気の多い者も数多といる地底では襲われる者を守るため、化け物たちに立ち向かった者もいたが、そんな勇敢な者たちも皆殺しにされた。血と悲鳴と恐怖に塗り尽くされた地底は、正真正銘の地獄と化していたのだ。その光景を思い出して気分の悪くなってしまったさとりは、紅茶を飲み干す事でその気分を誤魔化し、紫に言葉を返した。

 

「はい...しかし、何故今更そんなことを...!?」

「私の心を読んだようね...そう、あの化け物たちが再び活動を始めたの。」

 

紫の心理を読み取ったさとりは、驚愕した様子で小さく開いていた双瞳を大きく見開いた。その表情でさとりの心中を察した紫は、その事実を改めて口にすることで肯定する。さとりはそれに対して渋い顔を浮かべる。

 

「そんな...!?」

「だけど、まだ希望は残ってる。仮面の英雄、仮面ライダーよ。」

「仮面の英雄...仮面ライダー?」

 

仮面ライダーという未知のワードに首をかしげるさとりだったが、仮面の英雄という単語には覚えがあった。地獄絵図と化した地底の街に単身殴り込み、怒号を上げながら化け物たちを蹴散らした黄金の戦士。その戦士が知らず知らずの内にそう呼ばれていたのだ。その戦士を仮面ライダーと呼ぶことを理解したさとりは、紫に事情を問う。

 

「仮面ライダーが希望?仮面の英雄が戻って来てくれるのを期待している...訳ではないみたいですね。」

 

自分の推測を口にする間に、紫の心を読むことで答えを得たさとりは一方的に話を進める。それに紫が気を悪くすることを配慮したさとりは、静かにサードアイを閉じた。さとりの配慮を汲み取った紫は、優しく微笑みながら話を進める。

 

「えぇ。化け物たちの活動の再開に合わせて、外の世界で仮面ライダーと呼ばれていた者たちが幻想郷に現れているの。彼らは幻想郷の中でたった一人の相手と融合(シンクロ)する能力を持っていて、融合(シンクロ)を果たした幻想郷の者はその仮面ライダーの力を扱うことが出来るようになるの。仮面ライダーの力を使えば、化け物たちに対抗出来る。だから、彼らが希望なのよ。」

 

長々と語り終えた紫は、残っていた紅茶に口を付ける。それを静かに飲み干すとふぅと溜め息をついて、耳を澄ましていたさとりに目を向ける。彼女は落ち着いた様子でサードアイのまぶたを開き、再び紫の心を探る。それに気づいた紫は、さっきの配慮の返礼としてさとりの探っているであろう情報を心に浮かべる。

 

「(あら...?気を使って下さったのですね...)」

 

さとりは紫の気遣いに感謝しつつ、彼女の心を読み取っていく。十分に融合(シンクロ)の詳細を知ったさとりは、紫に感謝を伝える目配せをした。そのタイミングで紫の心中に現れた願望に、さとりは思わず吹き出してしまった。

 

「ふふっ...そういう魂胆ですか、構いませんよ。少し待っていて下さい。」

「あら、悪いわね。」

 

わざとらしく笑う紫に背を向け、タンスの中から「サルビアティー」と表記された小袋を取り出して席に戻ると、笑みを浮かべて紫に差し出した。先程の紫の願望は、この紅茶を譲って欲しいというものだったのだ。

 

「ありがとう、嬉しいわ。ところで、このサルビアって何かしら?」

「花の名前ですよ。その花の葉っぱと花びらを使っているんです。いい香りだったでしょう?」

「それで花の香りがしたのね...良いものを貰ったわ。」

 

嬉しそうに笑顔を浮かべる紫。その笑顔が心の底からであることは、さとりの第三の瞳にはっきりと映っていた。小袋をスキマにしまった紫は、そらしてしまった話題を自ら矯正する。

 

「さて、それで本題。あなたには地底に現れた仮面ライダーのシンクロをサポートして欲しいの。今のところ、彼らは初めて会った幻想郷の住人とシンクロしている。そして、必ずベルトやドライバーを所持しているわ。」

「分かりました。あの悲劇は、もう二度と繰り返させない...!」

 

さとりは、終始丁寧だった語尾を少し強めて呟いた。紫はさとりの頼もしい言葉に、真剣な表情で頷きを返した。

 

「それじゃ、頼んだわ。」

 

用件の済んだ紫は、ひらひらと手を振りながら展開したスキマに入って行った。それを見送ったさとりは、気を使っていたことによる疲労感から大きな溜め息をつく。実際の所、心読める彼女にとってそんな気苦労は日常茶飯事なのだが、時々こうして疲れてしまうこともあるのだ。

 

「(...サルビアティー、買ってこようかな。)」

 

紫に渡した分で切れてしまったお気に入りの紅茶を飲むため、さとりはゆっくりと外出の支度を始めた。

 

 

 

 

俺は左翔太郎。風の吹き止まぬ街、風都で私立探偵をやっているハードボイルドな男さ。あの街では大きな不幸も、小さな幸せも、全て風が運んでくる。その風に自慢の帽子が飛ばされぬよう、俺は帽子をグッと被り直す。

 

「風、吹いてねぇよなぁ...」

 

微塵も揺れることのない自分の前髪が視界に入り、否が応にも整理のつかない現実を直視させらせる。全く、現実は小説よりも奇なりとはよく言ったもんだ、こんなのどんなハードボイルド小説でも読んだことねぇよ...。気持ちの落ち着かない俺は、無駄に大声で叫んだ。

 

「たくっ!一体ここはどこなんだよォォッ!?」

 

空を覆うごつごつとした岩肌、地面から発せられる熱気、遠くに見える古風な町並み、どれも俺の庭では見覚えの無い景色。勝手も分からねえどこかに放り込まれた俺の唯一の救いは、地球規模の図書館のような最高の相棒が傍らにいることだ。

 

「落ち着きたまえ、翔太郎。アクセスに集中出来ない。」

「...すまねぇ、フィリップ。」

 

前言撤回、こいつは冷たい相棒でしたよ。俺の目の前で両手を広げる相棒、フィリップに心の中で悪態をつきつつ、その姿を見守る。だがその様子に俺は違和感を感じた。いや端から見るとこのポーズ自体違和感だろうが、まぁそこは置いておこう。いつもなら色々と呟きながらこのポーズを取るんだが、今日はただ首をかしげたり、険しい表情をしたりを繰り返すだけだ。そんなことを思いながら、俺は傍観を決め込んだ。また怒られるのはお断りだからな。フィリップはしばらくして大きな溜め息をつくと、ゆっくりと両眼を開いた。

 

「どうだった?何か芳しくない表情してるが。」

「駄目だ...地球(ほし)の本棚にアクセス出来ない...」

「冗談だろ...」

 

俺はフィリップの言葉に耳を疑った。どうやらここの風はとことん俺たちに向かい風らしい。こんな日に限って、相棒の図書館は臨時休業だ。一応言ってみたが、フィリップが冗談を言うような奴じゃないのはよく分かっている。途方にくれる俺は受け入れられない現実から目を背けるように、呆けて遠くの町並みを眺める。だが、フィリップはその程度の時間もくれずに話を続けた。

 

「冗談ではないさ。地球(ほし)の本棚にアクセスしようとしても、ノイズが入って弾かれてしまうんだ。地球のデータベースとの繋がりが不安定になっているのかもしれない...」

「なんだそりゃ。()()()()()()()()()()のに、不安定になるのかよ?」

 

不思慮な相棒の疑問に、呆けていた俺は適当な返事をした。俺は何も考えずに応えたんだが、そこにキーワードがあったらしい。フィリップは俺の気分とはかけ離れたテンションで、また突拍子もない推論を立て始めた。

 

「もしかしたら、ここは風都が存在する地球とは違う地球なのかもしれない!」

「はぁっ!!?」

 

フィリップのぶっ飛んだ推論を聞いた俺の叫びと同時に、付近に爆音が響き渡った。俺たちが慌てて音源を探ると、俺の眺めていた町並みの上に立ち上る黒煙が目に入る。それに気づいた瞬間、俺の体は勝手に走り出していた。フィリップも推論の興奮を一気に冷まし、俺に続いて駆け出した。

 

俺たちは吹き抜ける二陣の風のように町を目指す...

 

 

 

「あら、さとりさん!いらっしゃい!」

「こんにちは、花名(かな)さん。」

 

地底の里の一角にある、花香茶と書かれたのれんをくぐったさとりに、元気な挨拶と花のような笑顔を贈った長髪の女性。さとりは彼女の名前を呼んで控え目に挨拶を返した。この紅茶店はさとりの行き着けで、先ほどのサルビアティーもここで買ったものだ。

 

「う~ん、その顔はサルビアですね。待っていて下さい、取ってきますから。」

「...相変わらず凄いですね。覚でもないのに相手の顔を見ただけで気分が分かるなんて。」

「まぁ、こんなことぐらいしか出来ないんですけどね!」

 

あはは、と朗らかに笑いながら店の奥の棚を漁る花名。彼女は隠し事をしない、厳密に言えば出来ない直情的な性格で、思ったことはすぐ口に出すので、さとりにとっては気を使わなくていい相手なのだ。それが、常連である理由でもある。さとりは店に漂う花畑のような香りで待ち時間を楽しむ。

 

「あったあった!あ痛っ!」

「ふふっ...大丈夫ですか?」

 

棚の中からサルビアティーの袋を取り出した花名は、勢い良く振り返ろうとして小指を棚の角にぶつけたらしく、小さく飛び跳ねながら袋を持ってない方の手で足をさすっていた。その可愛らしい光景に、さとりは笑みをこぼす。目に涙を浮かべる花名は片足で飛び跳ねながらさとりに近づいた。

 

「いたた...はい!サルビアです!」

「ありがとうございます...!?」

「きゃっ!?」

 

さとりが差し出された袋を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、この和やかな空気を引き裂く爆音が辺り一帯に轟いた。花名は悲鳴を上げて体をすくめたが、さとりは音の大きさと振動から里の中で爆発が起こったことを察する。喧嘩っ早い者も多いこの里だが、大勢を巻き込んでまでの暴動など今まで一度も起こったことは無かった。さとりの脳裏に紫の言葉がよぎる。

 

(「あの化け物たちが再び活動を始めたの。」)

 

「まさか!?花名さん、ここから離れてて下さい!!」

「えっ?さとりさん!?」

 

愕然とする花名とセルビアティーの袋を残して、さとりは嫌な予感を胸に花香茶を飛び出した。店外の道には激流の如く人が走っておりその全員が恐怖の表情や切羽詰まった表情を浮かべている。小さな体でこの流れに逆らうのは不可能だと考えたさとりは、少量の妖力をその身に込めて浮遊する。里を見渡せる程度の高度まで上昇したさとりは、立ち上る黒煙の源を探す。やがて発見した源は、里の中心寄りにある広場。店も多く構える広場で起きた災厄にさとりは焦りを募らせ、そこに向かって急降下する。

 

「ウガァァァッ!!」

「あの怪物は...!」

 

降りていくさとりの視界に、人間でも妖怪でもない化け物が映る。さとりの嫌な予感は的中、その化け物の雰囲気は異怪の大乱で確認された異形たちに似ているものだった。その化け物は恐竜の頭蓋骨を模した頭部、全身は黒をベースに各部位の骨の意匠がある。シルエットは人型といえど、姿は怪物と言っていいだろう。その怪物は狂ったように咆哮し、近くにいるものに手当たり次第に食らいつこうと骨の顎を震わせている。逃げ惑う人々の姿を目にしたさとりは速度を上げて地上に降り立ち、怪物に向けて叫んだ。

 

「やめなさいっ!!」

「グゥル...?」

 

背後からの声に気を引かれた怪物は鈍い動きで振り返り、穴の空いた目でさとりの姿を捉える。目の前で堂々と睨みつけてくるさとりにターゲットを切り替えた怪物は、うなり声を上げるとさとりの小さな体を目指して突っ込んでくる。

 

「ウガァッ!!」

「(速いッ!?)」

 

その速度はさとりの予想を裏切るもので、先ほどまでの鈍い動作が嘘のような速さで駆けてくる。予想はすれど警戒は怠らなかったさとりは即座に横に飛び出して突進を回避、怪物は勢い余ってその先の店に突っ込んだ。木造の店が音を立てて崩壊する中、2つの音がさとりの耳に届く。一つは崩れた木材の破片を怪物が噛み砕く音。そしてもう一つは...

 

「うわぁっ!!」

 

少年の悲鳴だ。運の悪いことにあの店に隠れていたらしい。崩壊に巻き込まれなかったのは不幸中の幸いだが、目の前の怪物に思わず声を上げてしまった。その声に気付いた怪物は木材を貪る口を止め、生きる食料に狙いを変えた。さとりは口早に挑発を繰り返すが、怪物は目の前の獲物に夢中で気にとめない。怪物の牙はゆっくりと少年に迫っていく。そんな時、少年の手に柔らかく暖かい感触が伝わる。

 

「こっち!」

「う、うん!」

 

少年は耳元の優しい声に導かれて立ち上がり、手を引かれるままに店から抜け出した。怪物は少年がいなくなったことに気づかずにその口を閉じ、再び木材を味わう羽目になる。

 

「早く逃げて!」

「うん、ありがとう!」

 

店から少年を連れ出し、笑顔で送り出した少女。こんな状況にも関わらず、走り去る少年に手を振るその少女を見たさとりは、反射的にその名前を叫んだ。他でもない、たった一人の妹の名前を。

 

「こいしっ!?」

「あ、お姉ちゃん!元気~?」

 

薄い緑の髪に黒いドーム形状の帽子を被り、まぶたの閉じた青いサードアイを持つさとりの妹、古明地こいし。彼女は姉であるさとりに呑気に手を振りながら、今日のコンディションを確認してくる。妹の相変わらずなマイペースっぷりに苦笑いしつつ、さとりは小さく手を振り返す。だが、それで気が抜けてしまった。怪物が木材の山から抜け出し、自分に向かって猛進していたことにさとりは気がつけなかった。彼女が怪物の接近に気付いた時には、既に眼前で顎が開かれていた。さとりの体に怪物の牙が鋭く突き刺さる直前...

 

「うおぉらぁぁぁっ!!」

 

黒き突風が怪物に突っ込んだ。

 

脇腹にタックルをくらった怪物はなかなかの勢いで吹き飛び、土煙を立てながら地面を転がる。一方タックルをかました黒い帽子に黒い服装の男、翔太郎は一度帽子を外して汚れを払ってから被り直すと、背を向けたままさとりに声をかける。さとりが心を読めることを知らずに...

 

「...大丈夫かい?綺麗なお嬢さん。」

「やせ我慢しながらカッコつけるのは止めた方がいいですよ?体に悪いですから。」

「えっ!?何で分かんの!?って言われたら痛くなってきた!あぁ~!いった!」

 

翔太郎のキザな振る舞いは、さとりの気遣いの言葉で一瞬にして崩壊した。怪物に叩きつけた右肩の痛みに耐えながら、翔太郎はさとりの前に立つ。ゆらゆらと起き上がる怪物を見据える翔太郎の耳に、相棒の声が聞こえた。

 

「あの容姿...ドーパントだね。恐らく小型の恐竜、ヴェロキラプトルだろう。」

「ドーパントってなぁに?」

 

ぱたぱたと走ってさとりの傍に来たこいしが、翔太郎と同じ方から現れた少年に疑問を投げかける。短めの緑髪をいくつかのクリップで留め、小脇に一冊の本を抱えた少年、フィリップは淡々と歩みを進めつつ質問に答える。

 

「人間があるものを使って変身する超人のことさ。見た目はほとんど化け物だけどね。さぁ、君たちは逃げたまえ。ここは僕たちが引き受けよう。」

「あなたたちは一体...?」

 

さとりは一つの予感の確証を得るために、肩を並べた二人にその正体を問いかける。それに対して彼らは口々に答え始めた。

 

「俺たちは探偵で...」「僕たちは相棒で...」

 

二人で声を返す、その答えはたった一つ。

 

「「二人で一人の、仮面ライダーだ!!」」

 

この言葉でさとりは一つの確証を得た。それは彼らが仮面ライダーであること。そして彼らがシンクロする相手は自分たち姉妹である可能性に気付いた。そんなさとりに気付かず、翔太郎はジャケットから赤を基調とした機械のバックル、ダブルドライバーを取り出した。それを腹部に押し当てると、ドライバーから射出された銀のベルトが翔太郎の腰に巻き付く。それから少し時間が経つと、フィリップの腰にもダブルドライバーが出現した。ドライバーを装着した二人は、それぞれ若葉色と黒色の長方体の小箱を取り出して構える。フィリップが持つ若葉色の方には吹き荒れる風のエフェクトで「C」、翔太郎が持つ黒色の方には刺々しいデザインで「J」と描かれていた。

 

『サイクロン!』『ジョーカー!』

 

彼らが小箱のスイッチを押すと、疾風と切り札を意味する音声が鳴り響く。フィリップは自分の持つ小箱を、ドライバーに二つあるスロットの内の右側に差し込んだ。何が起こるのか、目を輝かせて二人の動作を見つめるこいし。だが、二人の動作はそこで止まってしまった。これを見たさとりは、更にもう一つ、紫が言った通り彼ら二人も変身が出来なくなっているという確証を得た。

 

「...ん?おいフィリップ!メモリ来ねぇぞ?」

「なぜだ?こんなこと、今まで一度も...」

「ウガァッ!!」

「やべっ!」

 

起き上がったヴェロキラプトルドーパントは、しばらくの間翔太郎とフィリップの動きを目で追っていたが、二人の動きが止まったことで再び獲物に向けて駆け出した。それに気付いた翔太郎とフィリップは、さとりとこいしをそれぞれに抱えてヴェロキラプトルドーパントの軌道上から外れる。再三突撃に失敗したヴェロキラプトルドーパントだが、何も学習しない訳ではない。回避された少し先でブレーキをかけ、頭蓋骨を大きく回して振り返る。このままではらちがあかないと判断したさとりは、翔太郎とフィリップに緊迫した声で語りかける。

 

「探偵さんたち、私とこいしに力を貸して下さい!この里を守りたいんです!」

「力を貸すって、どうやって!?」

「簡単です、私たちと一つになるイメージをして飛び込んで来て下さい!」

 

もちろんさとりは真剣に言っているのだが、シンクロの現象を知らない者が聞いたら、幼い少女が三十路の男を誘っているような状況である。さとりに発言に困惑を隠せないフィリップに、こいしは彼の腕の中で抱きついた。連続して動揺するフィリップに対し、さとりを下ろした翔太郎は最早やけくそ気味な口調で言う。

 

「とにかく今はやるしかねぇ!!そうだろ!相棒!」

「翔太郎...君の言う通りだ。こいしと言ったね?君は悪魔と相乗りする勇気、あるかい?」

 

相棒の言葉で自分に今出来ることを見つめ直したフィリップは、かつて自分が翔太郎にかけた言葉を、腕の中の純粋無垢な少女にも問いかけた。こいしは澄んだ笑顔を浮かべて、フィリップに向けて頷いた。こんな質問に笑顔で答えるこいしの明るさに小さく笑い声を漏らすと、フィリップはこいしと一つなる漠然としたイメージを胸に、こいしを優しく抱きしめた。

 

「え~っと...」

「古明地さとりです。行きますよ、翔太郎さん!」

「さとりか...いい名前だな。うっし!」

 

今更ながらにさとりの名前を知った翔太郎はさとりと一つになるイメージを固め、さとりに向かって駆け出した。やがてさとりと翔太郎の体は重なりそうな程に近い距離になる。その瞬間、恐怖に塗りつぶされた地底の里に緑と紫の閃光が走った。光が収まった頃、胸元を緑に輝かせるこいしはふわっと地面に降り、腰に巻きついているダブルドライバーから若葉色の小箱を抜き取って眺める。一方、胸元を紫に輝かせるさとりは右手に握られた黒い小箱を見つめ直す。

 

「これは...?」

「何だろ?」

「なんじゃこりゃ~!?本当に一つになっちまった!!」

「おぉ...これがシンクロというものか!実に興味深い!ゾクゾクするねぇ!」

「グルゥッ...ガアアアァッ!!」

 

姉妹の疑問をそっちのけで騒ぎまくる探偵コンビに、喝を入れるかのように咆哮するヴェロキラプトルドーパント。その咆哮で自分たちが戦っていた相手を再認識した翔太郎とフィリップは、それぞれのシンクロ相手に手順を解説する。

 

「いいかい、こいし。これはガイアメモリといって地球の記憶を内包した小箱で、それぞれに一つ地球の物質、事象、概念などの記憶が込められており...」

「さっきここのスイッチ押してたよね?」

 

『サイクロン!』

 

「さとり!メモリのスイッチ押せ!」

「これですね...」

 

『ジョーカー!』

 

二本のガイアメモリのスイッチの起動に合わせて地球の囁き、ガイアウィスパーが流れ、その内部に秘められた記憶のタイトルを告げる。フィリップの細かすぎる解説を無意識にスルーしたこいしは、さとりの右隣に並び、サイクロンメモリを握る左手をV字に構える。隣に並ぶこいしを優しく見たさとりは、ジョーカーメモリを握る右手をV字に構える。二人の構えた腕が描くのは、W。それを果たした二人...否、四人は、声と心を合わせて叫ぶ。

 

「「「「変身!!」」」」

 

どこか嬉しそうな笑みを浮かべるこいしは、サイクロンメモリをダブルドライバーの右スロットに差し込む。その数秒後、サイクロンメモリが緑の光となってスロットから消失した。それと同時に、こいしの身体が傾き始める。

 

「こいし!?」

 

倒れるこいしを反射的に受け止めたさとりは、心配そうにその顔を覗き込む。表情は安らかな寝顔で、少し久しぶりに見る妹の寝顔にさとりは微笑する。さとりはゆっくりとこいしを地面に寝かせると、自分のドライバーの右スロットに目を向ける。その瞬間、先程と同じ緑の光が溢れ、サイクロンメモリがスロットに差し込みきらない状態で出現した。さとりはサイクロンメモリを左手で押し込こんで挿入し、続けて右手に握るジョーカーメモリを左スロットに挿入した。その直後、さとりはダブルドライバーの両方のスロットを外側へと弾く。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

スロットの小窓から覗くシンボルがホログラムで空中に拡大表示され、二つのシンボルがぶつかり合う。その瞬間シンボルは砕け散り、ステンドグラスのようなエフェクトと旋風がさとりを取り巻く。やがて、足元から頭にかけてステンドグラスで全身が纏われていく。右半身の服装や頭髪は光沢のある黄緑色に変化し、対する左半身はマットな黒色に変化。胸元、手首、足首には左右で違うの柄の装飾が出現した。首には銀のマフラーが巻かれ、最後に瞳が赤く染まり、強く輝く。さとりは、二人で一人で二色の戦士、「仮面ライダーW」を模した姿に変身を果たしたのだ。

 

「おぉ~!変わったね、お姉ちゃん!」

「Wを再現した服装になったのか...実に興味深い。」

「結構出来いいじゃねえか!」

「それはともかく、今はあの怪物...ドーパントとやらの対処に集中しますよ。」

 

右目やら胸元やらがカラフルに点滅するさとりは、自分の心の内でテンションを上げるこいしたちを冷静になだめる。さとりの変身に気をとられていたヴェロキラプトルドーパントは、変化を終えたさとりを目指して突進を開始、その大口を開けてさとりに襲いかかった。さとりはその噛みつきをしゃがんで回避、その姿勢から風を纏う右足でヴェロキラプトルドーパントの足を払う。バランスを崩したヴェロキラプトルドーパントはその身に風を受け、空中に浮き上がる。右回転しながら立ち上がったさとりは、その勢いのまま紫の炎を纏う左足でヴェロキラプトルドーパントの胴体に回し蹴りを叩き込んだ。

 

「ウガッ...!」

「すごいね、お姉ちゃん!こんなに運動できたっけ?」

「なんだか体が軽いの。思い通りに動かせるわ。」

「ジョーカーには身体能力とかを強化する力があるからな。」

「ヴェロキラプトルはすばしっこい相手だ。サイクロンジョーカーのままで行こう。」

 

さとりが一人で会話する中、地面に倒れたヴェロキラプトルドーパントはうなり声を上げて立ち上がる。ヴェロキラプトルドーパントは空洞の目でさとりを睨み付けると、右に向けて駆け出す。獣の如く荒々しく駆けるヴェロキラプトルドーパントは、さとりを中心に周回し始めた。

 

「撹乱作戦のようだね。気をつけるんだ、さとり。」

「えぇ...」

 

フィリップに注意を促されたさとりは、素早く動き回るヴェロキラプトルドーパントを目で追う。その動きは意外にも戦略的で、時にブレーキをかけて方向転換、時に足の回転を緩めて減速するなど、速さに緩急をつけて翻弄してくる。その走りで注意を乱されるさとりの死角から、ヴェロキラプトルドーパントは鋭い爪をさとりに突き立てる。

 

「きゃっ...!フィリップさんの言うとおり、すばしっこいですね...」

「お姉ちゃんっ!」

「大丈夫だよ、こいし。どうやらこの姿は、Wの装甲と同程度の守備力を持つようだからね。」

「けどよフィリップ、こっちの攻撃が当たらなけりゃ、いずれは倒されちまうぞ?」

 

爪の当たった二の腕で火花が弾け、さとりは短い悲鳴を上げる。確かにダメージはあるが、攻撃を受けた部分からは少しの煙が上がるだけ。この現象から、フィリップはさとりの服がアーマーとして機能していると分析する。これの繰り返しでやがて倒されることを危惧する翔太郎の言葉に、さとりたちは焦燥にかられ始めた。その焦りに乗じて、ヴェロキラプトルドーパントは的確に攻撃を仕掛ける。二発、三発と繰り返し突き立てられる爪。さとりは引き裂かれる痛みに耐えつつ、打開策を探る。そんなさとりの心の中に、翔太郎の叫びが響いた。

 

「(左後ろか!!)」

「...はあっ!」

「グギャアアアッ!」

 

翔太郎の叫びに従い、左足を目一杯左後方に突き出すさとり。さとりの左足はヴェロキラプトルドーパントの頭部を捉え、その骨格にひびを入れる程の衝撃を与える。その衝撃を受けきれなかったヴェロキラプトルドーパントは、大きな悲鳴を上げながら倒壊した家屋に突っ込む。

 

「今ださとり!ジョーカーメモリを右腰のスロットに入れろ!」

 

このチャンスを逃すまいと翔太郎がさとりに指示を出す。さとりはドライバーの左スロットからジョーカーメモリを抜き取り、右腰にマウントされた黒いスロット、マキシマムスロットにジョーカーメモリを差し込んだ。

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

その瞬間、さとりの足下から風が巻き上がり、徐々にその勢いを増していく。やがて風が小さな竜巻に成長した頃、両腕を広げたさとりの体はその竜巻に乗って上昇を始め、空中に浮き上がる。

 

「さとり、こいし!この技の名前は、ジョーカーエクストリームだ!技を出す時に一緒に叫べ!」

「なんかかっこいいね!その名前!」

「私たちも言うんですか?」

「メモリブレイクには、変身している全員の心を一つにしなければならないんだ。さぁ、これで決めよう!」

 

フィリップの説明に納得したさとりは、倒壊した家屋から這い出てきたヴェロキラプトルドーパントに狙いを定めると、紫の炎を纏う左足での飛び蹴りの姿勢をとる。そしてマキシマムスロットのスイッチを叩くと、浮遊していた体に強烈な追い風が吹いて一気に加速する。

 

「「「「ジョーカーエクストリーム!!」」」」

 

追い風を受けたさとりの左足はヴェロキラプトルドーパントの胸部に勢い良く突き刺さる。胸部を焦がす紫の炎に苦悶の声を漏らすヴェロキラプトルドーパント。さとりは胸部から左足を離して、連続して風を纏った右足での飛び蹴りを胸部に見舞う。さとりの右足が当たった瞬間、足の裏に突風が発生して、ヴェロキラプトルドーパントは後方にのけぞり、さとりはバック宙を挟んで着地した。一瞬、二人の動きが止まり...

 

「グギャアアアッッッッッ!!」

 

ヴェロキラプトルドーパントは、獣のような断末魔と共に爆発した。左腕で爆風から顔を隠すさとりは、爆煙の中から飛び出したガイアメモリに気づく。そのメモリにはジョーカーメモリなどとは明らかにデザインが異なり、骨のような意匠がある本体に、口を開けた恐竜の顔で「V」を表しているシンボルがある。さとりがそのメモリを見つめていると、シンボル部分の表面が割れて、文字通りのメモリブレイクが行われた。

 

「あれは...?」

「ガイアメモリの一種さ。あれを生物の体に差すと、ドーパントになる。」

「メモリの使用者への負担を減らすために、体内のメモリだけを破壊する。それがメモリブレイクさ。」

 

翔太郎たちと話している間に爆煙が晴れ、ヴェロキラプトルドーパントの正体が明らかになってくる。

 

静真(せいま)くん!?」

 

「花香茶」で働いている、優しくて少し気弱な青年だ。さとりとは面識があり、人柄もよく知っているが、先程のヴェロキラプトルドーパントの凶暴さは、彼のものとは到底思えなかった。動揺して彼に駆け寄るさとり。だが、彼に近づく者はもう一人いた。その目的は、知り合いへの心配ではなく、獲物の捕獲だ。

 

「「なっ!?」」

 

思わず驚愕の声を漏らす、さとりと翔太郎。ヴェロキラプトルドーパントの頭部より巨大な恐竜の頭蓋骨が、地面から飛び出してきたのだ。頭蓋骨はその顎で土、木片、家屋すらも噛み砕き、一直線に進む。その先にあるのは、倒れている静真の体。

 

「やべぇっ!!」

 

全てを貪る頭蓋骨が、疑惑を抱えた優しき青年に迫る...

 

 

~次回予告~

 

「風都に戻れないってどうゆうことだよ!!」

 

「目の前で泣いてる相手がいれば、その涙を拭わずには居られないのが左翔太郎だろう?」

 

「お前はどうして戦うんだ?」

 

「ふふっ...いただきまぁす♪」

 

『ティーレックス!』

 

「「「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」」」

 

第5話 ~吹き込みしW/この世界(まち)を守る者~

 

これで決まりだ!

 

 

人物・アイテム紹介コーナー!

 

~古明地さとり~

 

地底に存在する地霊殿の主であり、地底周辺の管理者。心を読む程度の能力の持ち主。能力のせいもあって気を使いすぎる苦労人。時に気の使い方を間違える。地位的には相当高いが、前述の能力で嫌われていたり、地底には地位を気にする者が少なかったり、自分も引きこもりがちだったりであまり目立たない。翔太郎たちと出会い、仮面ライダーWの力を得た。

 

~左翔太郎~

 

自称ハードボイルドの私立探偵。義理人情に篤い性格で正義感が強く、理屈より感情で動く男。ハードボイルドに憧れているが冷酷になれず優しいので、仲間たちからはハーフボイルドといじられる。風都で仲間たちと私立探偵を営んでいたが、突然幻想郷に訪れる。

 

~さとり(W) サイクロンジョーカー~

 

「仮面ライダーW サイクロンジョーカー」を模したさとりの姿。全身のカラーリングが変化しており、装飾品も一部増えている。サイクロンのスピード、ジョーカーの体術を活かした接近戦でのラッシュが特徴。必殺技はそれぞれの力を宿した両足を左、右と連続で叩きつけるジョーカーエクストリーム。




みなさん、いかがでしたか?

Wに関してはまだ展開があるので、次回予告の通り二話続きで書きます!(あれ?ビルドまで出すつもりなのに、一章は何話まで続くんだろう...)

ここでアンケート!一回やってみたかったんです!

第6話はキバとファイズ、どっちが良いですか?

返答はメッセージにお願いします。締め切りは次回の完成までです!一通も来なかったら私の独断と偏見で決めよう!

次回は熱い展開のW回!にしたいです。

それでは、チャオ!


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第5話 ~吹き込みしW/この世界(まち)を守る者~

こんにちは、シェインです!お久しぶりですね。活躍報告を読んで下さっている方は、お久しぶりでもないでしょうか?

さぁ、長らくお待たせしました!1ヶ月の出す出す詐欺を経て完成した第5話、どうぞ!


頭蓋骨の牙が静真に迫る中、さとりの右腕が本人の意思なく動き、懐から黄色のガイアメモリを取り出して起動する。

 

『ルナ!』

 

十字の閃光の走る三日月の描かれたルナメモリは、月の女神の名を告げた。無意識に動き続ける右腕は、ドライバーのスロットを内側に閉じてサイクロンメモリとルナメモリを入れ替える。マキシマムスロットに入っていたジョーカーメモリも左スロットに戻すと、スロットを再び外側に展開する。

 

『ルナ!ジョーカー!』

 

さとりの服装の中心に走るシルバーラインから、右半身のカラーと装飾品が煌めく金色に変化していく。変化した金色のハーフボディは、幻想や神秘の力を秘めたルナメモリの力だ。

 

「えっ!?勝手に変わった!?」

「えいっ!」

 

勝手に変身した自分に驚愕するさとりをよそに、こいしは声を上げてさとりの右腕を操り、静真に向けて伸ばす。それは自体は普通なのだが、その伸びっぷりが異常だった。なんと数メートル先で倒れている静真の近くまで伸びていたのだ。右腕は触手のような動きで静真に巻き付くと、縮んでその身を引き寄せる。気絶している静真をなんとか抱えたさとりは、彼を足下に横たわらせて、メインディッシュを失った頭蓋骨を見据える。

 

「あら、せっかく味わってあげようと思ってたのに...」

「しゃ、喋った!?」

「本来ならメモリの使用者は意識を保ったままだ。ある意味こっちの方が自然さ。」

「言ってることは尋常じゃなく不自然だけどな!」

「人間って美味しいのかなぁ?」

 

ドーパントが言語を発したことに驚くさとり。それに対して冷静に答えるフィリップ。頭蓋骨の異常な発言に突っ込みを入れる翔太郎。そして的外れな疑問を持つこいし。一人で四人分喋るさとりを眺める頭蓋骨は、その可笑しな光景に笑い声を上げて言う。

 

「ふふっ!可愛いわね、あなた。その可愛さに免じて、静真君は諦めてあげるわ。でも、今度邪魔したら...あなたを食べちゃうわよ?」

「まっ、待ちなさい!」

 

再び地面の中に潜って行く頭蓋骨。さとりは右腕を伸ばして捕らえようとしたが、咆哮による衝撃波で弾かれてしまった。弾かれた右腕を縮めたさとりは、ドライバーのスロットを閉じて変身を解除する。小規模な竜巻が起きてステンドグラスが剥がれると、さとりの服装は元に戻り、翔太郎とのシンクロも解除された。

 

「逃がしてしまいましたね...こいしも元に戻ったのかしら?」

 

妹を気遣うさとりは、こいしの倒れていた場所に目を向ける。だが、そこにこいしの姿は無く、さとりは辺りを見回す。探していたこいしは、フィリップ、そして花香茶の店長である花名と共に、建物の陰から手を振りながら現れた。

 

「お姉ちゃ~ん!」

「こいし!フィリップさん!それに花名さんまで!」

「ごめんなさい、さとりさん。ついつい様子を見に来ちゃいました。」

 

避難を促した花名までこの場にいることに驚くさとり。少し申し訳なさそうに両手を合わせる花名は、さとりの足下で横たわる従業員の姿を見つけて目を見開いた。

 

「静真くん!?一体どうしたんですか!?」

「...お姉さん、心配は要らねぇよ。化け物に襲われて、気絶しちまっただけだ。」

「そうですか...良かった。」

 

静真に寄り添う花名は翔太郎の言葉に胸をなで下ろす。翔太郎はそんな花名を見て、帽子を目深に被る。さとりには、その時の翔太郎の曇った表情が見えていた。そんな彼らの隣を通り抜け、フィリップは一直線に破壊されたヴェロキラプトルメモリの調査に赴く。まだ熱の残るメモリを手に取ると、表面が破壊されたことによって剥き出しになった基盤を覗き込んだ。

 

「これは...?」

 

その基盤の中にある物を見つけたフィリップは、その存在に疑問を持つ。

 

「翔太郎さん、フィリップさん。とりあえず、私の屋敷に来て下さい。落ち着いて話がしたいので。こいしも一緒に来てね。」

「はーい。」

「お前の屋敷!?子どもなのに屋敷あんのかよ!?まぁいいか、おいフィリップ!行くぞ!」

「あぁ...分かった。」

 

さとりはガイアメモリのことを含めた諸々の話をするために、翔太郎とフィリップを地霊殿に招き、こいしにも帰宅するように伝える。翔太郎は見た目からは想像のつかない事実に驚愕し、フィリップは壊れたヴェロキラプトルメモリをポケットにしまって皆に合流した。

 

「花名さん。静真くんのこと、お願いしても良いですか?」

「は、はい。分かりました。」

 

さとりは花名に静真の処置を依頼してから、広場を後にする。その後ろを歩く翔太郎の耳には、ドーパントのいなくなった広場に集まる野次馬たちの声が聞こえていた...

 

 

俺は正直、胸くそが悪かった。

 

ここがどこで何が起こっているか分からないのもあると思うが、それ以上に耳の木霊する野次馬たちのたちの声が腹立たしくて仕方がねぇ。ドーパントメモリの使用者を庇うような嘘をついたり、勝手なことを言う野次馬に怒りがこみ上げたり、こんなんじゃハードボイルドには程遠いな...。そんな事を思いながら、俺はさとりの後ろに付いていく。広場から離れた辺りにはドーパントの被害はなかったらしく、健常な状態の建物が並ぶ大通りを抜けると、巨大な洋館が俺の目に映る。その洋館の上品な外観に、俺は今は無き相棒の実家を思い出した。

 

「マジでお屋敷じゃねぇか...」

「すごいね...」

 

どうやらフィリップも同じらしい。少し寂しそうな表情を浮かべながら立派な洋館に賞賛を贈っていた。そこから急に表情を明るくしたフィリップは、こいしにやや興奮気味な口調で問いかける。フィリップ、幼女にその勢いで絡むのは宜しくないと思う。

 

「そうだ、こいし!!君はなぜルナメモリを使用したんだい?彼を助けるには非常に適切な判断だったよ!ルナの特性も伝えた訳ではないのに、なぜ!?」

 

すれ違う人々の、化け物の次はロリコンか!?みたいな目に気付かない相棒に頭を抱えるが、それについては俺も気になっていた。静真とか言うあの青年が襲われた時、右腕がこいしに操られてルナジョーカーに変身。体を伸縮できるルナジョーカーの能力を利用して彼を助けた。まるでWの戦い方を熟知しているかのように。ガイアメモリと関わったことがあるのかと考えた俺は、息をのんでこいしの答えを待つ。

 

「う~ん、分かんない!」

「「・・・えっ?」」

 

あどけない笑顔を見せるこいしに、俺たちは唖然とする。分かんないってどういうこったい!?あんぐりと口を開けたままの俺たちに、振り返ったさとりはうっすら笑いながら衝撃の事実を告げた。

 

「仕方ありませんよ。こいしは無意識に行動してますから。」

「無意識...?」

「一体どういうことだい?」

「まぁ、それについてもお話ししますから、中にどうぞ。」

 

話しながら歩いている間に門についたらしい。目の前に俺の身長よりも少し大きい、黒い金属製の門がいつの間にかそびえ立っていた。どっちかって言うと柵っぽいけど。さとりがその門に手を翳すと、地響きを起こしながらゆっくりと開いた。俺は、魔法かよ!?と思いながら、屋敷の敷地内に踏み込むさとりに付いていく。広い庭の右側には美しく咲き誇るバラ園と色とりどりの花が植えられた花壇、左側には噴水やベンチなどが設置されている。

 

「まるでお洒落な公園だな...」

「ペットたちの遊び場でもありますからね。」

 

さとりの言葉通り、ベンチや花壇でくつろぐ猫や小鳥が見受けられる。少し不本意だがペット探しが生業のような生活をしてた俺は、動物の表情からその気持ちを理解することが出来る。庭にいる動物たちはみんな安らかな表情をしていて、いかにさとりがペットから信頼されているかが垣間見えた。さとりは玄関までたどり着くと、その扉を両手で開く。すると、猫耳の可愛い従者が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい!さとり様!」

「えぇ、ただいまお隣。」

「ただいま~!」

「あっ!こいし様も帰られたんですね!お帰りなさい!」

 

質素かつ広大なエントランスに控える、深紅の髪を両サイドで三つ編みにしたゴスロリっぽい服装の少女は、さとりとこいしの姿を見て明るく笑った。ところで、猫耳はカチューシャかなんかかな?ゴスロリファッションと言い、コスプレっぽいな。

 

「ん?そっちの人間は...?」

 

どうやら俺たちの存在に気づいたらしく、ゴスロリガールは怪しそうにこちらを伺ってくる。そんな彼女に、さとりは俺たちを手で示して紹介する。

 

「黒い服の人が左翔太郎さん、緑の髪の人がフィリップさん。少し話があるから、応接室に案内しておいてちょうだい。」

 

そう言ってさとりはエントランスの正面に伸びる廊下に向かっていった。取り残された俺は、ゴスロリガール改めて自己紹介をする。

 

「改めて、俺の名は左翔太郎。ハードボイルドな探偵さ。で、こっちはロリコン少年のフィリップくん。」

「翔太郎...ロリコンとは一体なんだい!?非常に興味深い!」

 

やばい、こいつにはお灸にもならなかったらしい。興味を無駄に焚き付けちまった...お、俺は知らねぇ!俺は悪くねぇぞ!ゴスロリガールは、若干怪訝そうな視線を向けながらも自己紹介をしてくれた。

 

「あたいは火焔猫(かえんびょう)(りん)。まぁ、気軽にお燐と呼んでよ!よろしくね、翔太郎!フィリップ!」

「あぁ!よろしくな、お燐。」

「よろしく頼むよ。」

 

どうやら彼女は陽気な性格らしい。ゴスロリガール改め、お燐は怪訝そうな視線をすぐに笑みに変えて、愛称で呼ぶように誘ってくれる。その明るい自己紹介に俺たちも好意的な印象を受けて、気さくに挨拶を交わした。互いに自己紹介の済んだ俺たちを、お燐は「じゃ、ついてきて。」と言って先導してくれる。エントランスの右手にある階段を登る俺は、ずっと気になっていたお燐の格好について聞いてみた。

 

「なぁお燐、お前の猫耳ってカチューシャか?」

「あははっ、違うよ。正真正銘、猫の耳さ。ほれ!」

 

耳をピクピクと動かして見せるお燐。俺はねこだましを受けたみたいな顔をしてんだろうなぁ。隣でフィリップが吹き出しそうな顔をしてんのが何よりの証拠だ。こんのロリコン野郎がぁ!!

 

「あたいはさとり様のペットでね、この下の灼熱地獄ってとこを任されてるのさ。」

「地獄!?」

「猫なのに人型なのかい!?ここに来てからと言うもの、ゾクゾクが尽きないよ!!」

 

フィリップの言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが冷めていくのを感じた。俺の冷たい表情をフィリップやお燐に悟られないよう、俺は帽子を深く被りなおす。きっと、「ここに来てから」という部分が引っかかったんだろう。ここは風都じゃないって現実を、改めて感じちまった。そんな暗い気分のまま廊下を進み、突き当たりの部屋へと案内される。

 

「じゃあ、ここで待ってておくれ。あたいは仕事に戻るよ。」

「あぁ...ありがとな。」

 

役目を終えて立ち去るお燐に、俺は少し無愛想な礼を言う。扉を閉めて廊下を戻るお燐は、ふと親友の様子が気になり呟く。

 

「そういえば、お空は何してるのかな?またサボってないといいけど...」

 

案内された部屋には長机と六つの椅子、タンスや棚の収納家具、さらには小さめのキッチンまで完備されており、下手なアパートより快適な部屋だろうと俺は思いながら椅子の一つに腰掛けた。部屋を見回したフィリップもまた、俺の隣に腰を下ろす。しばらくの間、俺たちは黙り込んでいた。時間と俺の醸し出す雰囲気が、重苦しい静寂を作り出してしまう。その居心地の悪い静寂を先に破ったのはフィリップだ。

 

「翔太郎...風都のこと、気になるかい?」

「当たり前だ。お前だってそうだろ。」

 

あまりに分かりきったことを聞いてくるフィリップに腹立たしさを感じた俺は、ぶっきらぼうに即答した。フィリップは、俺の言葉に対して「あぁ...勿論だ。」と答える割に表情は暗い。やがて、フィリップはゆっくりと話しだした。

 

「さっきの話...ここは風都のある地球とは別の地球かもしれないという話だが、僕は可能性が高いと思ってる。」

 

嫌な予感はしてた...だから俺はいつも通りなふりをして、必死で目を背けていたのかもしれない。

 

魔法のように開く門、猫耳の少女、ガイアメモリを使った者の罪。風都に全く無かったものと、風都にあった一番醜い部分、その全てから。

 

そんな俺に強い眼差しを向けながら、フィリップは続ける

 

「ロードのような例もある。何らかの力で構築された世界なら、その力の根源を排除すれば脱出が可能かもしれない。だが、もしも本当にパラレルワールドだったとしたら...」

「もう止めろッ!!」

 

フィリップの口から淡々と語られる想像通りの可能性に、俺は声を荒げて机に拳を叩きつけ、また目を背けてしまった。だがフィリップは動じることなく、無言で俺に強い眼差しを向ける。その時、扉がガチャリと鳴った。

 

「どうしたんですか...?」

 

部屋に入って来たさとりは、心配そうな視線を俺たちに向けてくれる。きっと俺の声が廊下まで漏れていたんだろう。フィリップは爽やかに「何でもないよ。」と言ったが、さとりにはお見通しだったらしい。正に覚った表情をしてキッチンの冷蔵庫に向かう。

 

「そうですか...少し待ってて下さい。お茶、用意しますから。」

 

さとりは冷蔵庫から冷茶ポットを取り出し、三つの透明なティーカップに注いでいく。お盆に乗せたティーカップを俺とフィリップの前に置きつつ、さとりは言う。

 

「恐らく、パラレルワールドではないと思います。この幻想郷は独立した世界なので外とは文化や歴史が大きく違いますが、あくまでここは日本国土です。」

「本当か!!」

 

俺は思わず立ち上がり、前のめりになってさとりに顔を近づける。俺の顔を見たさとりはその目を逸らし、心苦しそうに口を開いた。

 

 

「ただ...外の世界に、風都に戻ることは出来ないと思います...」

 

 

 

俺にはさとりの言葉が理解出来なかった。

 

どういうことだ?

 

何言ってんだよ?

 

戻れない?

 

愛するあの街に?

 

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!

 

 

 

風都への愛、帰れない悲しみ、怒り、絶望。俺の中で感情がぐちゃぐちゃに混ざって、心っていう器から溢れるのを感じた。俺は溢れ出る醜い感情に身を任せ、目の前のさとりにみっともなく怒鳴り散らす。

 

「風都に戻れないってどうゆうことだよ!!ふざけんな、俺たちを風都に帰らせろ!!」

「翔太郎ッ!!落ち着くんだ!!」

 

自分より幼い子供に対して喚く俺を情けなく思ったのか、フィリップは大声で俺をなだめる。フィリップの声で行き場をなくした感情を押さえ込んだ俺は、粗暴な態度で椅子に座り直し、お茶に口をつけた。その瞬間に鼻を抜ける優しい香りに、俺の記憶はフラッシュバックする。

 

 

(「あなたは私を満たしてくれる人?」)

 

(「ホント可愛いね、あんた。不器用すぎてよく死にそうになったりしない?」)

 

(「私...あんたの探偵助手になる。」)

 

(「好きよ、半熟の卵。」)

 

(「一人じゃ...きっと、」)

 

(「罪を数えられないから......」)

 

 

風都に残してきた愛する魔女の声とハナミズキの香りは、感情的になっている俺のストッパーを破壊するには──

 

 

 

 

 

十分過ぎるものだった。

 

 

 

「翔太郎さん、大丈夫でしょうか...」

「心配いらないさ。それよりも、翔太郎が悪いことをしたね。すまなかった。」

 

ハナミズキのお茶を飲んだ途端、部屋を飛び出して行った翔太郎を心配するさとりにフィリップは頭を下げた。対するさとりは恐縮した様子で座り、フィリップに頭を上げるように促す。

 

「私も配慮が足りませんでしたし、頭を上げて下さい。」

「...ありがとう。翔太郎は決して悪い奴じゃないんだが、良くも悪くもハーフボイルドなんだ。」

 

さとりの言葉に礼を言いつつ顔を上げたフィリップは、風都から離されて冷静さを失っている相棒のフォローをした。フィリップの行動に彼らの信頼関係を垣間見たさとりは、心で繋がっている二人の関係を少しばかり羨ましく思う。

 

「じゃあ翔太郎はいないけど、この世界...幻想郷について教えてくれるかい?」

「分かりました。まず...」

 

フィリップから頼まれたさとりは、翔太郎が居ない中、幻想郷の説明を始めた。幻想郷に訪れる仕組みや、妖怪や妖精の存在。更に自分たち姉妹も「覚」という妖怪であること、自分が扱う心を読む能力のことに加えて、シンクロについてを余す所なくフィリップに伝えた。話に聞き入るフィリップは、話の要所要所で様々な反応を示す。どうやら幻想郷はフィリップの知的好奇心を強く刺激するようだ。

 

「...といった所ですね。幻想郷がどのような場所か分かって頂けましたか?」

「凄いよ!この世界は考えても見なかった事象に溢れている!ゾクゾクする!ゾクゾクするねぇ!!」

 

興奮が抑えられないフィリップは、顎に手を添えて楽しそうな表情を浮かべる。そこで、いつも自分を止めてくれる相棒がいないことを思い出したフィリップは、興奮を自制して咳払い。どこか優しい笑みを向けるさとりに向き直る。

 

「こほん...それじゃあ、次はこちらの番だね。」

 

フィリップはガイアメモリ、仮面ライダーW、ドーパントについて解説していく。その説明は尋常ではない長さで、正に激流の如き熱弁っぷりだ。ガイアメモリだけでも一時間程度かかりそうだったので、さとりはフィリップを静止した。

 

「...ガイアメモリとは地球のあらゆる物質、事象を研究して分析されたデータを基に精製されるUSBメモリ形状のデバイスで...」

「フィリップさん...あなたの心を読んで概要は理解したので、もう大丈夫です。」

「...そうかい?残念だな。」

 

少し不満そうに口をつぐんだフィリップは、部屋を見渡して小さな違和感を感じた。まるで、何かが欠けているような違和感を。そこでフィリップは、初めてこいしの姿が無いことに気づいた。

 

「そうだ、こいしはどこに行ったんだい?」

「私が部屋に入って来た時から居ませんでしたよ。あの子ったら、また無意識にいなくなっちゃうんだから...」

 

ため息をついて窓の外を見るさとり。その心中は、自由奔放な妹の身を案じていた。

 

 

 

僕の耳に小さな吐息がかかり、少しばかりムズムズとする。その感覚で僕は目を覚ました。ゆっくり目を開くと見慣れた木目の天井。鼻には優しい香木の香りが届く。間違いない、僕の大好きな花香茶の匂いだ。安心して起き上がった僕は、自分の目を疑った。

 

「あっ!お兄さんおはよー!」

「へっ...?あっ、おはよう。」

 

僕の手に手を重ね、目覚めの挨拶をしてくる緑髪の少女。見知らぬ少女がベッドのそばにいたことに衝撃を受けつつ、とりあえず挨拶を返す。

 

「あ、えっと...君は?」

「わたし、こいしだよ!お兄さんに聞きたいことがあってきたの!」

「聞きたいこと?」

 

こいしちゃんの言葉に僕は首を傾げる。気弱な僕が知ってることなんて大したことないし、こいしちゃんは何者なんだろう?体も妙に重いし、一体何が起こってるんだろう...?起きて早々に目が回りそうな僕に、こいしちゃんは質問を続ける。

 

「そう!お兄さん、昨日の夜何してたの?」

「昨日の夜は...知り合いの人と飲みに行ってたよ。我牙(わが)久羽(くう)さんって人。あんまりお酒は得意じゃないんだけど、断れなくて飲み過ぎちゃった...。そのせいか頭も痛いし、体も重いしで、情けないね。」

 

僕は自嘲気味に笑い、視線を落とした。それを見たこいしちゃんは、僕の頭にその小さな手を伸ばして撫でる。小さい子どもに頭を撫でられる僕は、戸惑いながらこいしちゃんに聞いた。

 

「え~っと、なんで僕の頭を撫でてるの?」

 

こいしちゃんは優しく微笑み、答えてくれた。

 

「分からない。でも、前に誰かがわたしにこうしてくれたの。その手はとっても優しくて、わたしはすごく温かい気持ちになったんだ。だから、お兄さんにもって。」

 

「ダメだった?」と聞いてくるこいしちゃんに対して、僕は静かに首を振って否定した。こいしちゃんは「良かった!」と元気に飛び跳ね、手を振りながら部屋を出て行った。

 

「なんか...不思議な子だなぁ。」

 

僕は撫でられた髪を弄りながら、こいしちゃんの手の温もりを思い出す。彼女との出会いが、僕──未先静真を変えていく全てのきっかけだった。

 

 

 

部屋から飛び出した俺は、がむしゃらに走った。廊下を駆け抜け、階段を飛び降り、エントランスの扉を開け放って屋敷からも飛び出す。理屈はよく分からねえけど、体が止まらなかった。感情のままに走った俺は、たどり着いた屋敷の庭のベンチに座った。頭上に広がる鉱石の天井を見上げた俺は、帽子を顔に被せて視界を塞ぐ。そのまま考える事を止めて呆けていた俺の耳に、いつもと変わらない相棒の声が聞こえる。

 

「何をやってるんだい、翔太郎?」

 

心の内に迷いがあった俺は、フィリップの問い掛けに答えられなかった。無言の俺を気にもせずフィリップは隣に座り、言葉を続ける。

 

「僕もあの街は大好きさ。帰れないなんて今でも信じたくないよ。でもね、この世界にも蔓延しているガイアメモリは、風都から吹く風に乗ってきた大きな不幸だ。それによって、また誰かの涙が流れようとしている。」

 

俺は、フィリップの言葉で感情が整理されていくのを感じた。同時に、熱い想いが燃え上がってくるのもな。フィリップは俺の肩に手を置き、強く言う。

 

「だったら、僕らのすべきことは一つだ。例え風都じゃなくても、彼女を傷つけない為に嘘をついた...ハーフボイルドな君なら、この世界の為にも戦える。目の前で泣いてる相手がいれば、その涙を拭わずには居られないのが左翔太郎だろう?僕は信じてるよ、相棒。」

「...俺は、ハードボイルドだっつうの。」

 

俺は帽子を顔から離し、フィリップに笑顔を向けて軽口を返した。それを見たフィリップは、分かっていたと言わんばかりに口角を上げる。

 

「いつもの調子が戻ってきたみたいだね。じゃあ伝えておこう。君が嘘をついたのは、選択ミスではないかもしれないよ。」

「...どういうことだ?メモリの使用者を庇うのが選択ミスじゃねぇって...」

 

フィリップはポケットから破損したヴェロキラプトルガイアメモリを取り出し、俺に見せつけながら告げた。

 

「今回は違うのさ。戦いの舞台も、ガイアメモリもね。」

 

 

翔太郎と別れた僕は地霊殿のエントランスに戻り、右側の階段の裏を覗く。そこには、さとりの言う通り地下へ階段が伸びており、僕はその階段に足を踏み入れる。その理由は、ヴェロキラプトルメモリを詳しく調査する為。さとりに、そういったことが出来る場所が無いか?と聞いたところ、この階段の先の地下を紹介されたのだ。普段は、極度の人見知りなペットがいるそうだが、今は散歩に出ているらしい。妖怪ならどんな容姿をしているか、非常に興味深かったが仕方ない。またの機会に対面させて貰おうか。そんなことを考えながら、僕は金属製の階段を下っていく。二十段程度下りた所で階段は終わり、たどり着いたのはガレージのような場所。そこに鎮座していた戦車のような巨大車両に、僕は声を上げた。

 

「リボルギャリー!!」

「ひっ...!?」

 

Wとしての戦いを支えてくれるビークルの一つ、リボルギャリー。僕や翔太郎の持つサポートメカ、メモリガジェットの一つであるスタッグフォンからの信号を受け取ることで自律稼動も可能なマシン。さらに、その内部にWが乗るバイク、ハードボイルダーの換装ユニットを格納している。見慣れたマシンがあったことに歓喜していた僕とは反対に、怯えるような悲鳴がガレージに響く。その声の方に目を向けると、ガレージの隅で震える少年の背中があった。

 

「もしかして、ここにいるっていうさとりのペットかい?」

「...て...ないで...」

 

僕がその背中に近づいていくと小さく呟く声が聞こえたが、その声は所々途切れている。更に接近していくと、その声ははっきりと聞こえた。

 

「...やめて...殺さないで...!」

「!?君、大丈夫かい!?」

 

殺さないでと懇願する言葉を聞いた僕は、思わずその肩に手を触れてしまった。それが過ちだったことを、僕は次の瞬間思い知らされた。

 

「ぅぁ...」

「えっ!?き、君!大丈夫かい!?」

 

彼は声にならない悲鳴を上げて倒れ込んでしまったのだ。完全に気を失ってしまったようで、呼びかけても反応が得られない。とりあえず近くのソファに寝かせるため、僕はその体を抱えた。その途中で彼の観察を行う。見た目の年齢は少年と言った所だろうか、フードを被った顔はまだ幼いものに思える。上品な金と黒を基調とした大きめのロングパーカーを羽織っているが、そのデザインはまるで賢者のローブのようで、どこか神聖さを感じさせるものだ。それ以外にも全身を観察したが、妖怪らしい特徴は見受けられなかった。観察を終えた僕は少年をソファに寝かせ、作業台らしき場所を拝借した。ドライバーでヴェロキラプトルメモリの基盤を覆うカバーを分解する中、僕は少年の言葉を思い出す。

 

「(殺さないで...か。この子の人見知りには、裏がありそうだね。)」

 

メモリのカバーを分解した僕は、内部の基盤に取り付けられた小型チップをピンセットで引っ張る。やはり後付けされた部品らしい、見慣れないチップは簡単に外れた。僕は分析の為、双眼鏡型のメモリガジェット、デンデンセンサーを懐から取り出した。デンデンセンサーの赤いレンズを通してチップを見ると、レンズ上にチップのプログラムが表示されていく。その内容を理解した僕は、小さく笑った。

 

「なるほど...メモリ使用者の自我を押さえ込み、暴走させるプログラムか。どうりで静真が理性を失っていたわけだ。しかも、持っているだけでメモリを使用するように特殊な超音波を放つとは。対応するコネクタがない相手には影響がないみたいだが、ハイドープの能力に近しいものだ...こんな危険なチップを一体誰が...?」

 

次々と疑問は浮かぶが、今するべきことは他にある。翔太郎の為、この世界の為、僕も調子を取り戻さなければいけない、僕の能力の調子を。

 

 

フィリップと別れた俺はさとりに謝るため、応接室に向かった。いい大人が、幼い少女に対して八つ当たりして怒鳴り散らしたんだ。恥ずかしいことこの上ないが、謝るのが俺の付けるべきけじめだ。だが、待てよ。フィリップによるとさとりもこいしも妖怪なんだよな。じゃあ俺より年上って可能性もあるのか!?さとりはなんか態度が大人びてるなぁ、とか思ってたけど、それが理由か!?でも、そうだとしたら年齢なんて聞けねぇよな...。応接室の前にたどり着いた俺は、さとりとの接し方に悩みつつ深呼吸。覚悟を決めてドアを開けた。

 

「あ...翔太郎さん。」

「さとり...その...」

 

窓の外を眺めながら紅茶を嗜んでいたさとりは、ドアの開く音に気づいて俺の方に顔を向ける。その顔は気まずそうで、多分俺も似たようなもんだろう。俺とさとりの間に、何とも言えない時間が流れる。

 

「さっきはごめんなさい。」「すまねぇ、悪かった。」

 

一瞬ぽかんとした俺たちは、つい吹き出してしまった。同じタイミングで同じことを言うのは何だか気恥ずかしいが、どこか嬉しさもあった。さとりもそれを感じているのか、出会ってから一番いい笑顔を浮かべていた。

 

「ふふっ、やっぱりシンクロするみたいですね、私たち。」

「ああ、全くだ。」

 

俺はさとりの意見に賛同しつつ、飲みかけのティーカップの前に座った。ハナミズキの香りがする紅茶を改めて口に付けると、今度は不思議と心が落ち着いた。確かに...いい匂いだな。

 

───ときめ。

 

そう心の中で呼び掛けた俺は、自分の行いを鼻で笑った。そんな俺に、さとりは言う。

 

「翔太郎さんは、仮面ライダーは、幻想郷の希望。外の世界と幻想郷を繋ぐことが出来る唯一の人が、そう言っていました。」

「その人がみすみす俺たち、希望を帰す訳がないってことか。」

「その通りです...さすがは探偵さんですね。」

 

風都に戻れない理由を察した俺は、さとりの言葉を遮って呟く。感心したように微笑むさとりに、俺は一つ質問をする。さっきからずっと、俺の心に引っかかっているものを解消するために。

 

「なぁ、さとり。さっき、この里を守りたいって言ったろ?お前はどうして戦うんだ?」

 

質問を終えた俺の頭の中に、広場の野次馬たちの声が蘇る。

 

(「なんだなんだ?」)

(「まさか異怪の大乱の時の化け物が蘇るなんて...」)

(「おい見ろよ。あれ、地霊殿の覚妖怪だよな。」)

(「本当だ。普段屋敷にこもってんのに、気味悪いな。」)

(「その上、心を読んでくるんだろ?俺、関わりたくねぇわ。」)

(「もしかして、あの怪物もあの娘の仕業なんじゃない?」)

(「だとしたら悪魔ね...あんなのが地底の管理者とか、有り得ないわよ。」)

 

騒ぎを気にする男、ドーパントを恐れる女、まるでさとりを化け物のように指差す男、そして嫌煙する男。挙げ句の果てにさとりの仕業だ、悪魔だと罵る女たち。何も知らない、知ろうともしない連中の罵声が、命を懸けて戦ったさとりに向けらていた。

 

俺には、戦う理由が分からなかった。俺たちは風都を守り、風都のみんなは俺たちのことを街を守るヒーロー、「仮面ライダー」と呼んでくれた。当然、称えられる為に戦ってた訳じゃない。街のみんなが好きだったから戦ってたんだ。

 

俺は...あいつらの為に戦えるのか?

 

心の中で自問自答していた俺に、しばらく黙っていたさとりは突然立ち上がって告げた。

 

「翔太郎さん、ついてきて下さい。見せたいものがあるんです。」

「見せたいもの?」

 

扉を開けて部屋を出て行くさとりに、俺は戸惑いながらついていく。さとりはエントランスの階段を下り、階段の裏にある地下への階段を下りていく。俺は探偵事務所の秘密ガレージを思い出しながら、さとりの後に続く。そうそう正にこんな感じだ。ガレージのど真ん中にリボルギャリーがあって...ん?

 

「ってえリボルギャリー!?なんでここにあんの!?」

「あら、なんでしょう?あの子が拾って来たのかしら?」

「拾うって、マジかよ...」

 

驚愕する俺を気にせず、さとりは心配そうにガレージを見回している。作業台に向かっていたフィリップは、俺の声に気づいて体ごと振り返った。フィリップは少し苦い顔をしてさとりに話しかける。

 

「すまない、さとり。彼に話しかけたら、突然気を失ってしまって...」

「やっぱり帰って来てたんですね...!青龍(せいりゅう)...」

 

フィリップの言葉を聞いて一層青ざめたさとりは、ソファで横になる少年に駆け寄り、ゆっくりとその青い髪を撫でる。まるで子供を寝かしつけるように、優しく、柔らかに。やがてさとりは、静かに口を開いた。

 

「この子は青龍...川辺で倒れていた所を、偶然通りかかった私が助けたんです。この子は酷い人見知りですから、フィリップさんに驚いて気絶してしまったんですね...」

「本当に、それだけかい?」

 

フィリップの鋭い声に、さとりの肩が小さく動いた。フィリップも探偵だ、きっと何かあるっていう勘が働いたんだろう。

 

「青龍は、倒れる前に怯えながら繰り返していたよ。やめて、殺さないで、とね。ただの人見知りなら、初対面の相手に殺されるとまでは考えないよね?」

 

前言撤回、再び。こいつは頭脳派の探偵でした。ま、だからこそ二人で一人の探偵なんだけどな。フィリップの言葉を聞いたさとりは、少しだけ悲しい顔をして青龍の全てを話してくれた。失われてからの全てを...な。

 

「この子は...記憶喪失なんです。残っている記憶は、薄暗い場所で拘束されて様々な事の実験台にされた時のことだけ。それ以外の事は思い出せないみたいです。名前も、家族も、何もかも。」

「家族のことも...か。」

 

さとりの話を聞いたフィリップは、青龍と過去の自分を重ねているのか、暗い表情を浮かべていた。以前フィリップは、家族の記憶を失っていた時期があった。その頃は自分の名前も分からなくて、ハードボイルド小説に出てくるフィリップ・マーロウから、フィリップって呼んだんだったな。

 

「妖怪でも、家族ってやっぱ大切なんだな。」

 

ぼそっと呟いた俺に、さとりは悲しそうな笑顔を浮かべて言う。

 

「当然ですよ。私やこいしにも...いましたから。」

 

さとりはそれだけ言うと、再び青龍を撫で始めた。さっきよりも優しく、柔らかく、欠けた何かを埋めるように。そこには、寂しそうな優しさが漂っていた。

 

「うぅん...さとり様...?」

「気がついたのね、青龍...大丈夫?」

 

さとりの話で静まり返っていたガレージに、青龍のうめき声はよく響いた。青龍はその蒼眼をゆっくり開けて、そばで心配しているさとりを見た。目覚めた青龍に、さとりは優しく問いかけた。

 

「はい...知らない人がここに入って来て...ひっ...!」

 

なるほど、確かにただの人見知りじゃねぇな。青龍は俺とフィリップに気づくや否や、それこそドーパントを見たかのように怯え、さとりの陰に隠れてしまった。そんな青龍の手を握り、さとりは静かに声をかける。

 

「大丈夫、大丈夫よ。この人たちは私の知り合いなの。とってもいい人たちだから、安心して。」

「さ、さとり様の...」

「俺は左翔太郎、ハードボイルドな探偵さ。よろしくな。」

「さっきはすまなかったね。僕はフィリップだ。よろしくね、青龍。」

「...は、はい...」

 

あまり恐怖心をかきたてないよう、俺たちは軽く挨拶をした。それに対して青龍は、さとりに隠れながらではあるが応えてくれた。

 

「青龍、フィリップさんと一緒に居られる?」

「はい...大丈夫だと思います...」

 

自身なさげに頷いた青龍に微笑んださとりは、俺の方を向いて立ち上がった。

 

「さて、行きましょうか。翔太郎さん。」

「行くって、どこに?このガレージにはドアなんて見当たらねぇけど...」

 

ガレージを見回す俺を先導し、さとりはリボルギャリーの脇を通り過ぎて行く。リボルギャリーの先にある壁まで辿り着くと、俺はその壁に細い分割線があることに気がついた。さとりが壁の前に立つと、その直後、ウィーンと軽い音を立てて壁が二つに分かれ、円形の部屋が俺の前に広がった。

 

「自動ドアかよ!?」

 

俺のツッコミを完璧にスルーしたさとりは円形の部屋を手で示し、入るように促してくれた。それに応じて部屋に入った俺は、部屋の観察を始めた。この部屋は円柱状らしく、上にはどこまでも闇が広がっており、円の中心には操作用の電子パネルが備えられている。さとりがパネルの上矢印に触れると、電子パネルが自動で床に格納され、扉は再び軽い音を立てて閉じた。その動作が完了した直後、床は静かに上昇を始めた。

 

「これは、私が地上に行きやすいようにと、青龍が作ってくれた物なんです。」

「このエレベーターを作った!?あのひ弱そうな坊やが!?」

「えぇ。機械が好きみたいで、色々拾って来ては弄ってますね。あと、あの子は龍の妖怪ですから、見た目にそぐわず力も強いですよ。」

 

そんなことを話している間に、エレベーターに変化が起きた。いつの間にか迫っていた天井が二つに割れ、太陽の光が俺の目に飛び込んで来る。俺が眩しさに目を瞑っている間、エレベーターは天井と同じ位置で上昇を止めた。

 

「何か、久しぶりに太陽を見た気分だぜ...」

「地底には陽光石しかありませんからね。私も日の光を浴びるのは久しぶりです。」

 

さとりが「う~ん」と背伸びをする中、俺は辺りを見回す。俺とさとりがエレベーターから降りてから少しすると、エレベーターは自動で下降を始め、開いていた天井の扉も自動で閉じた。地続きになった扉は巧妙なカモフラージュが施されており、周りの地面と見分けがつかない程だ。周囲は林になっており、その中で木の生えていない広場の中心にエレベーターは造られていたようだ。林から心地よい小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 

「で、どこに行くんだ?」

「...あそこです。」

 

さとりが指差したのは、ゆっくりと揺れる木の葉の間から見える、切り立った高い崖だった。

 

 

翔太郎たちがエレベーターに乗った後、残された僕は愛用の本を手に立ち上がり、両手を広げた。事件の真相を知るために...

 

「さぁ、検索を始めよう...」

「検索...?」

 

青龍は急に立ち上がった僕に驚きつつ、首を傾げた。ゆっくりと目を閉じ、記憶の泉に意識を深く沈めていく。その数刻の後、意識の中に白い空間が広がった。その空間に無数の本棚が陳列されていく。この空間は地球(ほし)の本棚と称される空間で、地球のあらゆる記憶や知識が本として具現化され、詰め込まれている。それは一生をかけても読みきれない程の冊数で、知りたい本を探すには絞り込みが必要不可欠となる。その行為を検索と呼ぶのだ。

 

「どうやら馴染んだようだね。」

 

ノイズに弾かれることなく地球(ほし)の本棚にアクセスできたことに安堵しつつ、知りたい項目を宣言する。

 

「知りたい項目は...ティーレックス。」

 

これで検索対象の定義が完了した。次は絞り込みだ。

 

「キーワードは...」

 

僕の言葉はそこで止まってしまった。よく考えれば、今回の事件は捜査をしていない。本来であれば、翔太郎が調べてきた情報を元に関係者の中の誰がドーパントか探る。だが今回は事情が違う。幻想郷に訪れたばかりで勝手が分からない上に、翔太郎は調査が出来る状態じゃない。何かキーワードになるものはないか、僕は記憶を探る。その最中、こいしの声が聞こえた。

 

「キーワードは、子どもへの愛情!」

「えっ?」

 

こいしが告げた子どもへの愛情というキーワードが入った瞬間、本棚が移動を始めた。その多くが白い空間の遠方へと消え去る中、二つの本棚だけが僕の前に並ぶ。動揺する僕を放置し、こいしは言葉を続ける。

 

「地底の先生。最後は...『食べちゃいたいぐらい可愛いっ!』!」

 

次々とキーワードが入れられ、本棚と本は絶え間なく移動する。やがて残った一冊が僕の前に差し出された。僕はその本を手に取りつつ、背表紙のタイトルを読み上げる。

 

「我牙...久羽...?」

「そう、多分その人がメモリを使った人。前は地底の寺子屋で教師をやってたけど、異怪の大乱で寺子屋が損壊しちゃって退職。それからは、地極酒っていう居酒屋さんで働きながら里の子どもたちの面倒を見てたみたい。子どもたちからも久羽姉ちゃんって呼ばれてて、人気だったよ。そんな久羽さんの口癖が、『食べちゃいたいぐらい可愛いっ!』。」

「確かに、彼女はティーレックスに体質が合っている。その珍しい口癖は、いい決め手になったよ。」

 

意識を現実に戻した僕は、愛用の本に写し出された文字に素早く目を通す。それと平行して、こいしの能力について考えを巡らせる。彼女が持つ無意識を操る程度の能力は、自分の存在や行動に向けられる意識をコントロール出来るものだと、さとりから伝えられていた。実際、僕はこいしがガレージに訪れたことに、声が聞こえるまで気づかなかった。自分の知らない領域の片鱗を見た僕は、その深奥に期待を膨らませていた。

 

「でも、何でこいし様はその人のこと知ってたんですか...?」

「ん?お兄さんとか、里のみんなとお話して聞いただけだよ。」

「...お兄さんというは、静真という青年のことかい?」

「うん。昨日の夜、その人と飲みに行ってからの記憶が無いんだって。」

 

こいしの言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中で一つのシナリオが組み上がっていった。僕の仮説が本当に正しいとしたら、一刻も早く彼女を止めなくてはならない。これ以上、被害者を増やさないため。そして──

 

 

 

生徒を愛する彼女を、加害者にしないために。

 

 

 

「頑張って下さい、翔太郎さん。あと少しですよ。」

「お、おう...!」

 

近くを浮遊するさとりが、優しく励ましてくる。こんな事になるなら、ハードタービュラーを持ってくりゃ良かったと、岩を掴む力を強めながら俺は後悔した。スタッグフォンで呼び出そうとも考えたが、あの屋内で起動したら事故待ったなしだろうからなぁ...

 

「やっぱ登るしかねぇか...」

 

何度目かの諦めを経て上を見上げると、頂上がしっかりと捉えることが出来た。安堵した俺は、右手を岩から離して頂上を狙う。

 

「アンカー!」

 

狙いを定めた俺は、右手首に巻いている電子腕時計「スパイダーショック」からアンカーを射出した。伸びていったアンカーが岩に刺さった感触を得た俺は、アンカーを巻き取って上昇力を付ける。この作業ももう十数回目だが、これで最後だ。俺はしっかりと岩を踏みしめて、頂上へと登っていく。

 

「よっしゃぁ!!あぁ、疲れた!!」

「お疲れ様です。大変な思いをさせて、すみません。」

 

崖の頂にたどり着いた俺は、柔らかい草原の上に寝転び、澄み渡った青空に叫んだ。崖の頂上には緑豊かな草原、色とりどりの花畑、その先には下と同じように森林が広がっている。浮遊していたさとりは俺に声をかけると、ふわっと着地して崖の先端へと歩いて行く。

 

「これが、私の見せたかったもの。私の...戦う理由です。」

 

さとりの言葉を聞いた俺は、まだ少し怠い体に力を込めて起き上がる。そして、ベルトに留めていた帽子を外して被り直し、さとりの下に向かった。

 

「...すげぇ...」

 

そこから見えた景色に、俺は感嘆の声を漏らした。一面に広がる自然の雄大さ、いくつもの家屋が集まる人里、力強く根付く大きな山。風都とはまるで違う世界。だけど、その所々に人影があった。

 

あれが人間か妖怪か、はたまた妖精か神様か。そんなのはどうでもいい。この世界は、風都と何も変わらねぇ。風都のみんなと同じように、喜んで、怒って、哀しんで、楽しんで、時には悩んで、そして笑って。そうやって生きているんだ。

 

それに気づいた瞬間、爽やかな一陣の風が吹き抜けていった。

 

「私は、この場所が好きなんです。この素晴らしい世界を眺めることが出来る、この場所が。例え嫌われ者だとしても、私はこの景色を守りたい。だから...」

「おっと、そこまででいいぜ。」

 

俺はさとりを手で制止し、ニヤリと笑って見せる。

 

「お前の依頼、受けるさ。俺は...探偵だからな。」

「依頼...?」

 

俺の言葉にさとりが疑問を浮かべた直後、下の林で数本の木が宙に浮いた。その光景に、俺とさとりは目を見開くと同時に何が起こっているかを理解した。

 

「...どうやら、俺たちの出番っていう、風向きらしいぜ。」

「えぇ、行きましょう!」

 

俺と目を合わせて頷いたさとりは、軽い助走をつけて飛び出して飛行した。ってオイ!さとりさん、俺は飛べませんよ!?あ、いや待てよ。飛べはしないが、滑空なら出来るんじゃねぇか?

 

「男の仕事の8割は決断だ!やってやらぁ!!」

 

『スタッグ!』『バット!』

 

俺は一つの策を実行するべく、朱色と紺色のギジメモリを取り出す。朱色のスタッグメモリをスタッグフォンの下部に差し込み、紺色のバットメモリはデジタルカメラ型のメモリガジェット、バットショットの側部に差し込んだ。スタッグフォンはクワガタ型のライブモード、バットショットはコウモリ型のライブモードに変形して崖の少し先に浮遊する。

 

「あら...可愛いですね。」

「よし、頼むぜお前ら!」

 

俺はスタッグフォンの底部に向けて、スパイダーショックから粘着性の糸を発射。糸がスタッグフォンに接着した事を確認した俺は、右腕を上げて崖から飛び出した。

 

「おりゃぁぁぁ!!」

 

俺の落下する重量に耐えかねたスタッグフォンはバランスを崩したが、すかさずバットショットがサポートに入る。俺がぶら下がったスタッグフォンを、バットショットが抱えるような形で滑空していく。この姿が滅茶苦茶カッコ悪いことに気づいたのは、さとりの苦笑を見た瞬間だ。

 

妖怪少女とドローン宅配されてる探偵は、空を渡って事件現場に向かう...

 

 

~数分前~

 

「彼女が...」

「うん、間違いないよ。あの人が久羽さん。」

 

こいしは女性の後ろ姿を見ながら頷く。僕たちが樹の幹に隠れながら行動を観察している女性、我牙久羽は黒い長髪に獣の耳が生えており、本棚で読んだ通り狼の妖怪らしい。狼なのに先生とは...一匹狼は妖怪には当てはまらないようだね。僕がそんなことを考えている内に、こいしは久羽との接触を始めていた。

 

「ねぇお姉さん。あなたが恐竜のドーナッツでしょ?」

「ドーナッツ?ふふっ、面白いこと言うのね。食べちゃいたいくらい可愛いわ。」

 

おかしな間違いをするこいしに対して、笑顔で話す久羽。もう少し観察してから対応を決めたかったが、こうなった以上仕方がないと考えた僕も、彼女との接触を図る。

 

「こいし、ドーナッツじゃなくてドーパントだよ。そうだろう?我牙久羽。」

 

僕の言葉を聞いた久羽は穏やかな視線で僕に向けたが、その瞳の奥には牙が輝いているかのような鋭い眼光があった。それに臆することなく、僕は言葉を続ける。

 

「君がティーレックスの魔人、そして静真をドーパントにした犯人だ。」

「...へぇ、そこまで知ってるのね。」

「君は昨夜、静真と酒場で飲み交わした。その時、酒に睡眠薬でも入れておいたんだろう?そして眠りに落ちた静真に、生体コネクタの施術を行った。後は静真を自宅に戻して、この催眠効果のあるドーパントメモリを側に置いておくだけだ。」

 

僕は壊れたヴェロキラプトルメモリを示して見せる。それを見た瞬間、久羽は狂ったように笑い出した。

 

「アハハハハッ!!全部正解!模範解答よ!でも、よく私を見つけられたわね!」

「今日も誰かと飲みに行く予定だったんだろう?だったら同じメモリを持ってるだろうと思って、このメモリから発せられる超音波と同じものを探って来たのさ。」

「なるほどね...フフッ!!」

 

相も変わらず、笑いながら木にもたれかかる久羽。そんな彼女に僕は叫ぶ。今は心の風が止まってしまっている、半熟玉子(ハーフボイルド)な相棒の代わりに。

 

「君は生徒や子供を愛する教師だったはずだ!今ならまだ間に合う!メモリを渡してくれ...!!」

「私は今もみんなの事が大好きよ!だから、食ってあげるのよ...フフッ!アハハッ!!」

 

『ティーレックス!』

 

久羽は大口を開けた恐竜の頭蓋骨で「T」を象ったシンボルのあるティーレックスメモリを取り出し、起動。それに応じて鎖骨に生体コネクタが出現した。臨戦体制に入った久羽に対して、僕は警戒を強め、こいしを庇うように立つ。

 

「ふふっ...いただきまぁす♪」

 

久羽が生体コネクタにティーレックスメモリの端子を押し付けると、体内にメモリが吸い込まれていく。その全てが体内に収まった瞬間、久羽の肉体は超人へと変わった。その際に発せられた衝撃波は、僕とこいしはもちろん、周辺の樹木すら吹き飛ばした。こいしは浮遊して堪え、僕はなんとか受け身を取って久羽の姿を確認した。ヴェロキラプトルドーパントより一回り大きな頭蓋骨、そこから四肢が生え、背中からは骨で出来た尻尾が伸びている。それがティーレックスの記憶をその身に宿した異形、ティーレックスドーパントの姿だ。

 

「フィリップ、変身しよ!」

「翔太郎たちに連絡を入れないと無理だよ!ダブルドライバーの本体は、翔太郎しか持っていないんだ!」

「機械は美味しくないから邪魔ね。」

 

僕はスタッグフォンで翔太郎との通話を試みたが、その途中でティーレックスドーパントの尻尾にスタッグフォンを弾き飛ばされてしまった。その衝撃で僕は地面に倒れてしまった。

 

「くっ...!」

「じゃ、頭のいい坊やから食べてあげる...」

 

『スタッグ!』

 

そこに迫るティーレックスドーパント。僕の目の前に無数の牙が並んだが、そこにライブモードのスタッグフォンが二本の角を突き立て、妨害。ティーレックスは周りを飛び回るスタッグフォンを追い払おうともがいている。その隙にティーレックスから離れた僕がスタッグフォンの飛来した方向を見ると、そこにはこいしの姿があった。どうやら倒れた時にギジメモリも飛び出たらしい。こいしは無意識にスタッグフォンとギジメモリを組み合わせ、ライブモードを起動したのだ。だが、そんな抵抗はすぐに払われた。スタッグフォンは振り回された頭蓋骨に弾かれてしまい、ティーレックスはこいしに狙いを切り替える。

 

「食事の邪魔をするなんて...悪い子ねッ!!」

「止めろぉっ!」

 

ティーレックスは子供を叱るような口調で話すと、こいしに向かって駆け出した。口調は先生のようであれど、そこにあるのは愛ではなく狂気。こいしに牙が届く数秒前、僕は思う。

 

「(翔太郎...僕では君の代わりは務まらなかったみたいだ...まだ止められたはずの人を救うことも、目の前の小さな女の子を守ることも、僕には......)」

 

 

 

 

 

 

 

「させるかぁぁぁ!!」

 

空から降ってきた黒い蹴りがティーレックスの巨大な頭蓋骨に叩き込まれ、その巨体を吹き飛ばした。華麗に着地したその黒い影は...誰より甘く、誰より情に流されやすく、誰より僕を理解してくれる、僕の最高の相棒。

 

誰かのために戦い続ける風都のヒーロー、仮面ライダー(左翔太郎)だった。

 

「無事ですか!こいし!フィリップさん!」

「あ、お姉ちゃん!」

 

次いでさとりも到着し、こいしと翔太郎の隣に降り立った。だが、それには目もくれず、僕は嬉々として相棒の名を呼んだ。

 

「翔太郎!」

「すまねぇな、フィリップ。俺のせいで迷惑かけちまって。」

 

僕に背を向けたまま謝罪する翔太郎に、僕は笑みを浮かべて言う。

 

「その顔...迷いは晴れたようだね。」

「あぁ!俺は...この世界(まち)を守る仮面ライダーだ!」

「それを言うなら俺”たち”は...だよね?」

「おっと、そうだな。半分力貸せよ、相棒。」

 

高らかに叫んだ翔太郎の右肩に手を置き、お決まりのやりとりとした僕たちは、お互いに信頼を示す笑みを浮かべた。

 

「それを言うなら4分の1ですよ。これからは私たちもいるんですから。」

「わたしたちは、四人で一人の~仮面ライダーだ~!」

 

翔太郎の左に並んださとりは僕になぞらえて翔太郎に言葉を返し、こいしは僕の右に並んで、弾けるような笑顔でゆるく名乗りを上げた。四人で一人の仮面ライダーか...ゾクゾクするねぇ。僕と翔太郎はそれぞれのパートナーにガイアメモリとドライバーを預けると、それぞれ光球となってさとり、こいしとシンクロを果たす。さとりはダブルドライバーを腰に押しつけると、射出された銀のベルトが自動で巻きついてドライバーの装着が完了。こいしの腰にもダブルドライバーが浮き上がるように出現する。

 

『サイクロン!』『ジョーカー!』

 

僕たちから受け取ったメモリをそれぞれ起動したさとりとこいしは、腕をWに構えてポーズを決める。シンクロする僕とこいし、ダブルドライバーで意識の繋がっているこいしとさとり、さとりとシンクロしている翔太郎。心を一つにした僕たちは、声を合わせて叫ぶ。

 

「「「「変身!」」」」

 

こいしが差し込んだサイクロンメモリが、さとりのドライバーのソウルスロットに転送され、魂の抜けたこいしの体はゆっくりと倒れ込む。それを抱き止めたさとりは、こいしの体を優しく地面に寝かせ、転送されてきたサイクロンメモリをスロットに押し込む。続いて右手に握るジョーカーメモリをボディスロットに差し込み、弾くようにドライバーを展開した。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

樹林に突風が吹き荒れ、木の葉を揺らす。風に運ばれるステンドグラスを纏ったさとりは、Wの姿"サイクロンジョーカー"に変身した。

 

 

「くっ...あの男!よくも邪魔を!」

 

翔太郎に吹き飛ばされたティーレックスドーパントは彼への怒りで身を震わせ、サイクロンジョーカーに変身したさとりを睨みつける。

 

「あなたたち...約束通り食ってあげるわッ!!」

「お断りします。あなたは、私たちが止めてみせる!」

 

ティーレックスドーパントの言葉を一蹴したさとりは、決意を宿した赤い瞳で彼女を見据えた。そんなさとりに、翔太郎は紫の輝きを放って問いかける。

 

「さとり、こいし、決め台詞は分かってるよな?」

「えぇ。街を泣かせる者たちに、二人が投げかけ続けたあの言葉...」

「いくよっ!せーの!」

 

確信を露わにしたさとりは右手をスナップし、左手の人差し指をティーレックスドーパントに向けた。

 

「「「「さぁ、お前の罪を数えろ!」」」

「馬鹿にしないでちょうだい!数学は得意教科よ!!」

 

翔太郎の師匠の代から受け継がれてきた台詞を言い放ったさとりたちに、ティーレックスドーパントは到底的外れな反論と共に咆哮し、衝撃波を放つ。対するさとりは風に乗って衝撃波を回避、後続の衝撃波もステップやジャンプを駆使し、ティーレックスドーパントとの距離を着実に詰めて行く。

 

「はあぁっ!!」

 

ある程度の距離になった所でさとりは飛び上がり、ティーレックスドーパントの頭蓋骨に格闘能力の向上している左足での跳び蹴りを浴びせる。それをまともに受けたティーレックスドーパントは大きく吹き飛び、林の開けた場所まで転がって行った。同じ場所まで追いかけてきたさとりの前に、鋼鉄で構成された5体の兵士が躍り出た。

 

「なんだこいつら!?」

「どうやら鋼鉄製の兵士のようだね。」

「へぇ~!青龍に見せてあげたいな~!」

「残念だけど、そうも言ってられなさそうね...」

 

こいしたちが鋼鉄製の兵士”メタルソルジャー”に反応する中、メタルソルジャーは右腕に備えられた二本のブレードを構え、さとりに迫っていく。さとりはブレードを捌きつつ攻撃を加えていくが、サイクロンの出せる火力では、鋼鉄の身体にまともなダメージを与えることは出来なかった。そこで、さとりが大きく飛び退いて距離を取りながら、こいしはさとりの右腕を操って炎のように赤いメモリを取り出した。

 

「お姉ちゃん!わたしの側、変えるよ!」

「えぇ!お熱いの、かましてあげましょう!」

 

『ヒート!』

 

『ヒート!ジョーカー!』

 

さとりは「高熱」の記憶を宿すヒートメモリを起動してドライバーを閉じ、サイクロンメモリとヒートメモリを入れ替えて再び展開すると、シルバーラインから右半身が輝く真紅に染まっていき、さとりは”ヒートジョーカー”へとハーフチェンジした。

 

「足りない火力をヒートで補う...いい判断だね。」

「さとり!一気にぶっ飛ばせ!」

「ずいぶんアバウトな助言ですね...」

 

翔太郎からの激励を受けたさとりは、ヒートの力を最大限に引き出して拳に炎を纏わせる。さとりは機械的に襲い来るメタルソルジャーの内一体に、ブレードをかわして懐に炎の拳を叩き込む。その威力と高熱で吹き飛んだメタルソルジャーは、後方にいた別個体を巻き込んで爆砕。その後にはいくつかの鉄材が散らばった。続いてさとりは、背後に回り込んでいた二体のメタルソルジャーに炎の回し蹴りを喰らわせ、同時に撃破する。上空から突き刺しを狙う最後の一体は、ブレードを振り下ろす直前で手首を左手で掴んで、炎の拳を二発打ち込み、よろけた所で手首を離して、左足の蹴りでとどめを刺した。メタルソルジャーを一掃したさとりは、いつの間にか姿を消していたティーレックスドーパントの行方を探る。

 

「どこ行きやがった!?」

「...地中です!!」

 

ティーレックスドーパントがいた辺りの地面に大きめの穴が空いていたことに気づいたさとりだったが、時既に遅し。地面から飛び出してきたティーレックスドーパントの牙がさとりの華奢な体に突き刺さり、ティーレックスドーパントの牙は鮮血に塗れていく。

 

「大正解!!ご褒美に痛めつけてあげる!」

「くっ...あぁぁぁ!」

「ぐおっ!さ、さとり!しっかりしろ!」

「お姉ちゃん!こんの...!」

 

か細い悲鳴を上げるさとりを救うべく、こいしは右半身のヒートハーフボディから高熱を放射。その高熱に、ティーレックスドーパントは思わず口を放す。こいしはそれを逃さず、左半身を引きずるようにしながらも、右腕でのラッシュをかましていく。二発のジャブから炎のフック、最後に全力のアッパーをティーレックスドーパントの頭蓋骨に叩き込み、ティーレックスドーパントは鉄材の山に突っ込んで行った。

 

「お姉ちゃん、大丈夫!?」

「くっ...!大丈夫よ、こいし。ありがとう。」

 

慌てて心配するこいしに、さとりは痛みに耐えながら笑顔を作ってみせた。鉄材の山で起き上がったティーレックスドーパントは、今までよりも大きく咆哮した。

 

「これは...!?」

 

メタルソルジャーが遺した鉄材が咆哮したティーレックスドーパントに向かって集結していく。鉄材がティーレックスドーパントの胴体に纏わりつく中、その光景を見たフィリップは静かに呟く。

 

「...こいし。一つ頼まれてくれるかい?」

「ん?...うん、分かった!」

 

こいしは、空中を飛び回る鉄材を防御しているさとりの右腕を借りてスタッグフォンのナンバーキーを入力していく。全ての入力を終えてエンターキーを押した瞬間、地底のガレージで漆黒の装甲車が赤いライトを輝かせた。磁力を操って鉄材を全て纏ったティーレックスドーパントの姿は、まさに機械仕掛けのティラノサウルス。幾多の鉄材で巨体が構成されたビック・ティーレックスドーパントへと形態変化を遂げていたのだ。

 

「この為の鉄材だったのか!?ったく!誰だか知らねえが、迷惑なもん送りつけやがって!」

「文句言っても仕方ないですよ!やるしかないです!」

 

『メタル!』

 

翔太郎を諭したさとりは、「鋼鉄」の記憶を秘めたメタルメモリを起動し、ドライバーを閉じてジョーカーメモリと入れ替える。そして、再度ドライバーを展開した。

 

『ヒート!メタル!』

 

ガイアウィスパーと共に左半身が光り輝く銀に染まり、格闘能力を特化させたジョーカーから、鋼鉄の防御力を誇るメタルへとハーフチェンジ。火力と守備力を併せ持つ形態"ヒートメタル"へと変身した。さとりが、メタルハーフボディの背中に備え付けられた棒状の武具"メタルシャフト"を握ると、シャフトの両端が飛び出して全長が伸びる。身の丈程あるメタルシャフトを一回転させて構えたさとりは、ビック・ティーレックスドーパントの噛みつきをかいくぐり、その足下に駆け込んだ。

 

「これでも喰らいなさいっ!」

 

足下に潜り込んださとりは、遠心力を利用してメタルシャフトでの攻撃を放つ。火炎を纏った一撃は右足の鉄材をいくつか剥ぎ取り、それに手応えを感じたさとりは振り向きざまにもう一撃叩き込み、足下から尻尾の方へと前転で脱出した。しかし暴れまわる巨体をいつまでもよけ続けることは出来ず、さとりは尻尾での薙ぎ払いを受ける。大きく吹き飛ばされたさとりだったが、硬化させたメタル側で尻尾を受け止めており、空中で体勢を立て直して綺麗に着地した。

 

「...鉄材を剥ぎ取っていたらきりがないですね。」

「ちょこまかと...さっさと私に食われなさい!!」

 

怒りに任せてさとりに突進を開始したビック・ティーレックスドーパント。だが、彼女の突進がさとりに届くことはなかった。

 

「うぐっ!!」

 

森林の中から飛び出してきたリボルギャリーが重量を活かしてビック・ティーレックスドーパントに突撃し、その巨体を吹き飛ばしたのだ。

 

「リボルギャリーじゃねぇか!?」

「こいしに呼んで貰ったのさ。青龍にリボルギャリーが起動したら地上まで持って来くるよう、伝えておいて正解だったよ。」

 

光を放って会話するフィリップは、リボルギャリーが地霊殿のガレージから発進出来た理由を翔太郎に説明してみせた。リボルギャリーを使うことを見越していた相棒の用意周到さと、リボルギャリーを持って来た青龍の怪力に、ダブルで驚愕する翔太郎であった。

 

「うぅ...こうなれば、人里ごと人妖を食い散らかしてやる!!」

 

起き上がったビック・ティーレックスドーパントは、もはや冷静な判断力も残っていないらしく、人里を襲撃すると宣言して森林に踏み込んだ。樹木をなぎ倒しながら人里に向かうビック・ティーレックスドーパントの姿に、さとりは焦りを見せる。

 

「そんなことさせません!絶対に止める!!」

「ちょうどいい!さとり!バイク使え、バイク!」

「バ、バイク!?分かりました、とにかくやってみます!」

 

少し前までバイクのバの字も知らなかったさとりだが、背に腹は代えられない。決意を固めたさとりは、赤い二つ目のある前面のハッチが二つに分かれて開放されたリボルギャリーのデッキに上り、そこに搭載されていた黒と緑のツートンカラーが目立つバイク、ハードボイルダーに跨がる。

 

「エンジンはかかってる!彼女を止めてくれ、さとり!」

「はいっ!!」

 

フィリップの願いを聞き届けたさとりは、勢いよくハンドルのグリップを捻りハードボイルダーを発進させた。さとりはリボルギャリーのデッキから飛び出した直後、ハードボイルダーの後部に接続された緑のブースターユニットで爆発的な加速を開始。倒れた樹木をかいくぐり、ビック・ティーレックスドーパントを追いかけていく。その道中でも倒れる木々や荒ぶる尻尾がさとりに襲い来るが、さとりはまるで手足のようにハードボイルダーを駆り、それらをスムーズに回避して見せる。

 

「わはぁ~!はやーい!!」

「すげぇな...俺が運転してるのと大差ないぜ。」

「シンクロは経験や運動能力も反映されるみたいですね!体が走り方を理解してます!」

 

迷いなく走るさとりは、ビック・ティーレックスドーパントと平行に倒れていく木の幹に飛び乗り、その上で目一杯にハンドルを捻り、加速。空中へと飛び出したさとりは、ハードボイルダーのシートの上に立ち上がり、メタルシャフトを構える。

 

「そこまでですっ!」

「しつこいわねぇ!!いい加減に食われろォォォォッ!!」

 

ハードボイルダーを踏み台にジャンプしたさとりは、振り返って大口を開けたビック・ティーレックスドーパントの鼻筋の辺りにメタルシャフトの先端を叩きつけ、その反動を利用してより高くへと飛び上がった。そこでドライバーからメタルメモリを抜き取り、メタルシャフトの中央に備わっているマキシマムスロットにメタルメモリを差し込む。

 

『メタル!マキシマムドライブ!』

 

メタルシャフトの両端に炎が燃え上がり、それを両手に握ったさとりはビック・ティーレックスドーパントから目を離さずに腰を捻り、その巨大な頭蓋骨を目掛けてうつ伏せに落下していく。限界まで捻った腰を使って一回転しながら、さとりと翔太郎たちは叫ぶ。悪魔の小箱に惑わされた、優しき一人の女性の心を呼び覚ますように、強く、高らかに。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

「「「「メタルブランディング!!」」」」

 

空中での横一回転による遠心力、落下によって加わった重力、そして何よりも強い四人の想いを乗せたメタルシャフトの炎撃はビック・ティーレックスドーパントの頭蓋骨を捉え、一つの大きなひびを入れた。そして、膝立ちの姿勢を取って着地したさとりの頭上で、ビック・ティーレックスドーパントの堅牢な頭蓋骨は──

 

「アァァァッ!!」

 

─爆音を合図に砕け散った。

 

さとりはその轟音を気にせず、膝立ちの姿勢を保ったまま、元の姿に戻って落ちてきた久羽の体を受け止めた。ぐったりとした彼女のコネクタからティーレックスメモリが排出され、メモリのシンボルとして描かれていた頭蓋骨もまた、粉々に砕け散る。

 

メモリブレイク。世界(まち)を守る者としての彼女たちの初陣は、花々しい勝利を飾ったのだった。

 

 

 

「勝ったか。」

 

森林を見渡せる小高い丘の上で佇む、青いメッシュの入った髪の男は森林で起こった爆発を確認して、静かに呟いた。彼の後ろに並ぶ、共通の黒いジャケットを着た四人の男女の内、赤いインナーを着た女性が青いメッシュの男に問いかける。

 

「冷たい言い方だね。興味もないって感じ?」

「いや、そうじゃない。」

 

男は横顔だけを女性に見せて、小さく笑みを浮かべた。

 

「あいつらなら勝って当然と思っただけだ。あの程度のドーパントに負けてるようじゃ、この世界を守るには程遠いからな。」

「そうよねぇ...!その横顔!イケメン!イケメンよ!!いよっ、男前!」

「うるせぇよ!!一人で勝手に盛り上がるなよ!!」

 

青いメッシュの男をハイテンションで持ち上げるオカマ口調の男に、それにツッコミを入れる筋肉質な男。いつも通りの茶番を繰り広げる二人に、女性と無表情な男が冷たい視線を向ける。その変わらない光景に青いメッシュの男は明るい笑い声を漏らした。

 

「さぁ、用事は済んだ。帰ろう、俺たちの家族の下に。」

「あぁ...」

「なによ!どこからどう見てもイケメンでしょ!イケメンをイケメンと言って何が悪いんじゃ!!」

「だ~か~ら!うるせぇって!!」

「ちょっとオッサン!黙らないと夕飯抜きにするよ!!」

「はいっ!黙ります!!」

 

タイム・トラベラーズ(時の旅人)戦闘部隊、「Re:NEVER」のメンバーたちは和気あいあいと騒ぎながら姿を消した。彼らとさとりたちが対峙するのは、まだ先のこと。だが、それは永遠の未来ではない。いつか必ずやってくる。

 

ガイアメモリや融合(シンクロ)の相手と、運命で結ばれているのと同じように。

 

 

 

──こうして俺たちは、幻想郷で初めての事件を解決した。幻想郷に警察みたいな機関がない以上、久羽さんは目を覚ますまで地霊殿で面倒を見ることになった。フィリップの調査によると、彼女が使っていたティーレックスメモリにも効果の弱いチップが入っていたそうだ。彼女は、「食べちゃいたいくらい可愛い」という子どもたちへの愛情を暴走させられ、教え子を狙ったのだろう。幸いにも彼女の殺人は未遂に終わり、新たに暴走ガイアメモリを渡すことも防げた。しかし、数えなければいけない罪はある。静真をドーパントになるように仕向け、地底の里を恐怖に陥れた罪だ。だが、彼女は必ず罪を償える。

 

彼女の周りには、支えてくれる教え子や子どもたちがいるのだから。

 

「ふぅ。あんなにボロボロだったのに、完璧に動いてる...青龍の奴、底知れないな。」

 

テーブルに置かれた新品同然のタイプライターを打つ手を休め、手に取ったハナミズキティーの優しい香りを楽しむ。ティーレックスとの戦いから三日後、俺はさとりが貸してくれた地霊殿の一室にいた。俺たちを地霊殿に招いた後、俺たちに貸す部屋の鍵を取りに行ってくれていたらしい。その直後に俺は怒鳴り散らしちまった訳だが、許してくれたさとりの包容力に感謝だな。

 

「どうやらこの世界にも、理不尽に涙を流している人がいるらしい。俺は左翔太郎だからな、その涙を拭ってみせる。四人で一人の仮面ライダーとして、風都のみんなの想いを背負ってな。」

 

見ててくれよ...ときめ。おやっさん。

 

例え風都から離れても、風都のみんなが仮面ライダーの名前に込めた「みんなを助けてほしい」という願いを背負い、戦うことを決めた俺は、帽子を被り直し、ハナミズキティーを飲み干して再びタイプライターに向き合った。

 

「さて、次は...」

「翔太郎さん、入りますよ。」

 

三回のノックの後に入って来たさとりは、その手にティーポットを持っていた。心が読めることに関わらず、さとりの気の利きようには脱帽する。どこかの女子学生所長とは大違いだな...。そんなことを考えながら、俺は紅茶を注ぐさとりに要件を尋ねた。

 

「どうかしたのか、さとり?」

「いえ、翔太郎さんの言っていた"依頼"というのが気になって。私、依頼なんてしましたっけ?」

 

崖の上で言った言葉について尋ねてくるさとり。紅茶を注ぎ終わって席についたさとりに、俺は自然に答えた。

 

「最初に会った時に言っただろ?"力を貸して下さい"って。俺は、探偵としてその依頼を受けただけだ。」

 

この返答を聞いた時、さとりは一瞬ぽかんとしていたが、すぐに小さく微笑んで俺を見つめる。そこからパンと両手を合わせて、さとりは驚くべき提案をしてきた。

 

「決めました。探偵事務所を開きましょう!」

「えっ!?」

 

俺は突然なさとりの提案に動揺したが、それ以上に心の底から溢れてくる喜びを感じていた。探偵は俺の生きがい、一生を賭けて付き合っていく覚悟の仕事だからな。

 

「場所は応接室を使って、翔太郎さんとフィリップさんの探偵業を再開させるんです。翔太郎さんの心に探偵を続けたいという願いが見えたからなんですが...どうします?」

「お前にゃ隠し事は出来ねぇな...もちろん大歓迎だ!ありがとな、さとり!」

 

俺は嬉々として頷き、さとりに感謝の意を述べた。これをきっかけに、古明地探偵事務所は始まりを迎えた。この時の俺は、さとりと分かり合えた気がしていた。心を読むことも出来ないくせに、分かった気をして驕り高ぶっていた。

 

さとりが背負う罪も、戦う本当の理由も知らなかったというのに。

 

地底に吹き込んだ新しい風は、いずれ訪れる嵐の前兆であったことを、俺たちはまだ知らなかった。

 

~次回予告~

 

「美しい音色ね。」

 

「奴らはファンガイア...人間のライフエナジーを喰らう怪物です!」

 

「行くわよ!渡!キバット!!」

 

「いよっしゃぁ!何だかよく分かんねぇけど、キバって行くぜ!」

 

『ガブッ!』

 

「「変身...!」」

 

第6話 ~出逢いの音楽(メロディー)・紅い月下のヴァンパイア~

 

ウェイクアップ!運命(さだめ)の鎖を解き放て!

 

 

人物・アイテム紹介コーナー!

 

~古明地こいし~

 

ほんわかとした不思議な雰囲気の少女。さとりの妹であり、無意識を操る程度の能力を持つ。いつもふらっと居なくなる為、姉であるさとりは常にその身を案じている。だが、無意識な行動の中に事件を解決するきっかけを作ったりと、予想外な活躍を見せる。基本的に天然ボケ。フィリップとシンクロを果たし、さとりの半身として戦いに身を投じた。

 

~フィリップ~

 

翔太郎の相棒である好奇心旺盛な青年。地球の本棚にアクセスする能力を持ち、地球の記憶から必要な情報を検索することが出来る。気になった事は知り尽くさないと気が済まない、翔太郎曰わく検索バカで、日々検索と探求を繰り返している。ガイアメモリの開発に携わった過去があり、普段は見せないがガイアメモリで傷付く人々を無くすという決意を秘めている。

 

~青龍~

 

地霊殿の地下ガレージに住む妖怪の少年。特に能力は持っていないが、妖怪の中でも上位に属する龍であるため、その強さは計り知れない。しかし、謎の実験施設で薬物などのモルモットにされていた過去のせいで、極端な人見知りになっている。その実験施設でのショックで記憶を失っているらしく、過去のことは何も思い出せない。機械いじりが趣味で、翔太郎に頼まれたタイプライターの修理もあっという間に仕上げてみせた。




いかがでしたか?

今回は翔太郎とフィリップの風都に向ける想いを考えて書きました。風都に戻れなかったらこうなるかなと。風都探偵を読まれていない方は「誰だお前?」ってなったと思いますけど、回想でときめさんが出演しました。彼女が登場する風都探偵、ぜひ読んでみて下さい。

結局アンケートが返って来なかった...!まぁ、そんな訳で第6話はキバ編になりました。私は絶望なんてしない!いつかリベンジしますよ!

私事ですが、活躍報告で「シェインのライダー感想録」を毎週投稿してますので、良ければ見にきて下さい!

それでは、チャオ!


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第6話 ~出逢いの音楽(メロディー)・紅い月下のヴァンパイア~

どうも、シェインです!
思った以上に早く完成しましたよ!待ってる人はいるか分からないけど!

兎に角にも第6話、どうぞ!


私たちは縛られている。

 

運命、宿命、血筋、種族、歴史。自らが望んだ訳でも、受け入れた訳でもない鎖に縛られて生きている。顔も知らない者たちが、通りすがりに巻きつけていった鎖に縛られて生きている。気づいた時にはがんじがらめで、逃げるなんて考えも起きない。ほとんどの者は、その鎖を見てみぬふりをして、そうあるものと決めつけて生きている。

 

どう生まれるかは選べない。でも、どう生きるか、どう死ぬかは選べるはずだ。

 

だから、鎖を壊せ。

 

生きる道を選ぶため、死ぬ場所を選ぶため。全ての生き物が心に持つ命という音楽は、究極の即興曲だ。それを奏でるやつが縛られているなんて馬鹿馬鹿しい──

 

 

 

 

 

──そうだろう?

 

 

 

 

 

霧の湖と呼ばれる湖の孤島に鎮座する、目が痛くなるほど真っ赤な洋館、紅魔館。そこには、かつてこの世界を赤い霧で覆った異変の主犯たちが住んでいる。強力な力を持つ妖怪の住処であるため、滅多なことがない限り、多くの者は近寄らない。そんな紅魔館の一室で紅茶を嗜む、青みがかった銀髪の少女は、通称でっちあげ新聞の文々。新聞に目を通していた。

 

「人里で連続切り裂き事件ねぇ...」

 

外装とは大分印象の違う、落ち着いた内装の部屋で呟く少女はパタパタと背の黒翼をはためかせる。その翼は鋭く尖った形状で、コウモリのそれに近い。少女の名はレミリア・スカーレット。吸血鬼の血を継ぐ、この紅魔館の主だ。レミリアは、手に持っているのが面倒になった新聞をテーブルに広げ、ペラペラとめっくていく。そこには、あちこちで異形の目撃情報!とか、博霊の巫女が苦戦!?とか、連続行方不明事件!とか、物騒な記事がつらつらと並んでいる。

 

「あの鴉天狗のことだから、どこまで本当か分からないけど...幻想郷の運命も大きく変わっているのかしらね。」

 

レミリアは幻想郷の運命を案じながら、完璧で淑女なメイド長の入れていた紅茶をすする。流石は仕えて十年以上のベテランメイド。レミリアの好みを絶妙に捉えた味わいを、寸分違わずに出している。最高の紅茶を飲むレミリアの耳に、美しいバイオリンの音色が聞こえてきた。その音色は深い優しさや愛情を感じさせるが、その中に儚い悲しみや苦しみを抱えている。知らず知らずの内に、レミリアはその演奏に聞き入っていた。忌み嫌っていた楽器のはずなのに、耳を傾けずには居られなかった。理由も分からぬまま、レミリアは演奏に魅入られていた。

 

 

 

 

「最近さぁ、お嬢様体調悪そうだよね~。」

「そうだね~。まっ、吸血鬼なんだし大丈夫でしょ?」

 

窓拭きをしながら主人の体調を気遣う...というより、主人の体調を話題におしゃべりしてるだけの妖精メイドたちは、後ろでモップがけをする青髪の妖精メイドに同意を求める。

 

「ねっ、シルフィ?」

「そうね、確かに生命力は強そう。でも、妖精だって生命力をたっぷり持ってるでしょう?」

 

話を振られた青髪の妖精メイド、シルフィは同意の後に不可解な質問をする。それはまるで、この2つの野菜の栄養価はほとんど同じでしょうと聞いているかのようだ。そんなおかしな質問に動揺しつつ妖精メイドたちは応える。

 

「えっ?まぁ、そうだね。」

「ウチらは自然の生命力の塊みたいなもんだしね。」

 

それが最後の言葉となるなど、露にも思わずに。

 

「そうよね...なら、お腹いっぱいにしてちょうだいね?」

 

そう告げたシルフィの頬には、鮮やかな刺々しい柄が浮かび上がっていた。その顔を見た彼女たちが驚愕するより前に、首筋に鋭い痛みが走った。その痛みの根源を見ると、そこにはそれぞれ二本の半透明な牙が突き刺さっている。互いに顔を見合わせ、得体の知れない恐怖に震える二人の体は徐々に透明になっていく。やがて全身が透明になった二人は───

 

 

 

 

 

 

───粉々に砕け散った。

 

彼女たちの生命力、ライフエナジーを吸い取ったシルフィは、満足そうに舌なめずりをする。

 

「さて、まだ足りないわ...次はお嬢様ね。」

 

遺されたメイド服を踏みつけて、シルフィは次の獲物の下へと向かうのだった。

 

 

 

 

最後に弦を弾く音が響きわたり、演奏はフィナーレを迎えた。はっとしたレミリアは慌てて立ち上がり、テラスから奏者を探す。そこには、茶髪の青年がバイオリンとバイオリンの弓を持って辺りを見回していた。彼に間違いないと確信したレミリアは、手近にあった黒い日傘を手にテラスから飛び降りた。

 

「美しい音色ね。」

「君は...?」

 

日傘を開いてフワフワと落下してくるレミリアを見て、青年は動じることなく問いかける。

 

「相手に何かを問いかけるより先に、自分が名乗るのが礼儀ではなくって?でも、まぁいいわ。あなたの演奏に免じて答えてあげる。私はこの屋敷の主、永遠の紅い月ことレミリア・スカーレットよ。」

「あっ...ごめんなさい。僕は紅渡、しがないバイオリン職人です。」

 

ぺこりとお辞儀をした渡。今の彼を見て、人見知りの引っ込み思案で、お化け太郎なんて呼ばれた時期があったなんて、そう簡単には信じてもらえないだろう。そんな渡を見た瞬間、レミリアの脳内にぼんやりとしたビジョンがよぎった。

 

そこに映っていたのは渡と自分が光を放って一つになる運命。レミリアの持つ能力、運命を操る程度の能力が見せたビジョンだ。

 

「(これは...!なるほど、これが紫の言っていた...)」

 

「レミリアさん、危ないっ!」

 

渡の声で現実に引き戻されたレミリアは、空気を切る音がする方を見る。そこには2つの半透明な牙、吸命牙が高速で飛行しており、その切っ先はレミリアに向いている。吸命牙を認識したレミリアは、一枚のカードを取り出した。

 

「神槍【スピア・ザ・グングニル】!」

 

カードを赤色のエネルギーに変換して槍状に形成したレミリアは、グングニルと称される魔力の槍を軽く振り払い、吸命牙を砕いた。レミリアが牙が飛来してきた方を見ると、そこには頬に模様を刻んだシルフィが、くすくすと笑っていた。

 

「うーん、やっぱり一筋縄ではいかないかー。」

「いい度胸ね。妖精メイド如きが私に逆らうつもり?」

「そ。吸血鬼だもの、ライフエナジーをたっぷり持ってるでしょ?それを吸わせて貰いたいの。」

 

シルフィは笑みを絶やすことなく、吸命牙を生成、射出していく。対するレミリアは、それを必要最低限の動きで回避する。彼女には吸命牙の運命が見えているのだ。当たる前に辿る運命、すなわち、軌道が見えてしまえば回避は容易であるということだ。吸命牙を易々とかわしつつ、グングニルを放り投げたレミリアは新たにカードを取り出した。

 

「へぇ、下克上ということね。いいわよ、カリスマとの格の違いを見せてあげるわ!紅符【スカーレット・シュート】!」

 

余裕の態度を取るレミリアは、背丈と同じ位のサイズの紅いエネルギー弾を放ち、数本の吸命牙を包み込んで消滅させる。そのまま突貫していくエネルギー弾はシルフィに迫るが、当たる直前で跳躍してシルフィは回避した。着地したシルフィだったが、スカーレット・シュートが前座であることには気づいていなかった。

 

「さぁ、紅い花を咲かせなさい!」

 

空中に浮かび上がって放り投げたグングニルをキャッチしたレミリアは、シルフィの喉元に狙いを定めてグングニルを投射した。

 

「フフッ、流石はお嬢様。やってくれますね。」

 

紅の槍に狙われたシルフィは不敵に笑うと、その正体を露わにした。ステンドグラスのような柄が全身に張り巡らされており、四枚の羽を持つ化け物、フェアリーファンガイアへと姿を変えたのだ。フェアリーファンガイアに変身したシルフィは、羽をはためかせて強風を起こし、グングニルを構成する魔力をかき消した。着地したレミリアは、シルフィの奇怪な姿に目を細める。

 

「あの姿は...?」

「奴らはファンガイア...人間のライフエナジーを喰らう怪物です!」

 

レミリアのかわした吸命牙を全てよけた渡は、はっきりと告げた。近くの木にバイオリンを立てかけた渡はレミリアの隣に並び、フェアリーファンガイアを威厳ある眼差しで睨みつける。

 

「ライフエナジーとかいうのが何か知らないけど、私は吸血鬼よ?」

「ファンガイア以外の生命体なら、なんでもいいのかもしれませんね。」

 

レミリアに言葉を返した渡は、化け物を目の前にしたとは思えないほど堂々とした足取りで、フェアリーファンガイアに向かって歩みを進める。フェアリーファンガイアは、鋭い眼光を向けながら近づいてくる渡にうろたえる。

 

「なっ、なに!?人間のくせに、こんな威圧感を放つなんて...!」

 

うろたえながらも吸命牙を放つフェアリーファンガイア。それに対し、渡は小さな相棒の名を力強く呼んだ。

 

「キバット!」

「待ってたぜ~渡!!」

 

意気揚々と現れた金と黒の機械的なコウモリ、キバットバット三世は、翼で吸命牙を弾き飛ばして渡の周りを飛び回る。

 

「気づいたら変な屋敷の前にいるわ、寝ぼけてる門番に殴られるわ、ナイフがあっちこっちから飛んでくるわで大変だったんだぜ!」

「そっか、無事で良かったよ。」

 

今までの受難を語るキバット。その受難の内、寝ぼけてる門番と襲い来る無数のナイフに心当たりがあったレミリアは、後ろで目をそらしていた。それに気づいていない渡たちは、互いの無事を確認してフェアリーファンガイアに向き直る。

 

「行くよキバット!あいつを倒す!」

「よっしゃ!任せろ渡!」

「(今ね!)」

 

このタイミングを好機と見たレミリアは渡の下へと向かうと、同じ想いを胸に宿してその背中に手を触れた。その瞬間、渡は紅い光となってレミリアの身体に取り込まれる。光を放って佇むレミリアの身長は少し伸び、渡と同じ威圧感を放っていた。

 

「ふぅ、運命どおりね。これがシンクロ...なんだか不思議な感じね。」

「こ、これは一体!?」

「なんだ、なんだ!?渡が光になって消えちまった!?コウモリの嬢ちゃん!お前、渡に何したんだ!?」

 

少しばかり成長した自分の身体の感覚を確認していくレミリアに、流石に動揺する渡、大騒ぎするキバット。すっかり置いてけぼりをくらっているフェアリーファンガイアは、そんな光景を眺めることしか出来なかった。

 

「お前とは失礼ね!私は高貴なる吸血鬼、レミリア・スカーレットよ!よく覚えときなさい、このチビコウモリ!」

「誰がチビコウモリだ!俺様は偉大なるキバット族の末裔なんだぞ!このクソガキめ!」

「言ったわね!カリスマたるこの私に対してケンカをふっかけるとはいい度胸じゃない!」

 

「チービ!」「ガキ!」といった調子で不毛な争いを始めたレミリアとキバットのお陰で冷静さを取り戻した渡は、レミリアの中から二人の仲裁に入る。

 

「ちょっと落ち着いて!ケンカしてる場合じゃないでしょ?」

「おっと、そうだ。ファンガイアがいるんだった。」

「うー☆...あの不届き者をぶちのめしてから、けちょんけちょんにしてやるんだから!!」

 

気配を空気にして眺める存在を思い出したレミリアとキバットは、一時休戦を果たして反逆者たるフェアリーファンガイアを見据える。これから戦うというのに、ステンドグラスの裏でシルフィは大歓喜していたとかいないとか。

 

「行くわよ!渡!キバット!!」

 

掛け声をかけるレミリアは、手の甲を上にして指を指すような形で右腕を差し出す。

 

「いよっしゃぁ!何だかよく分かんねぇけど、キバって行くぜ!」

 

その気迫に感化されたキバットも、レミリアに応えるべく気合いを入れる。準備運動がてらレミリアの周りを旋回したキバットは、差し出された右手の掌に二本の牙を突き立てる。

 

『ガブッ!』

 

キバットに蓄えられたエネルギー、魔皇力が牙を介してレミリアの身体に流れ込む。それに従ってレミリアの頬に刺々しい柄が刻まれていく。同時に、腰に数本の鉄の鎖が巻かれ、それが赤いベルト、キバットベルトへと変化する。掌から離れたキバットを右手で掴んだレミリアは、正面にキバットを示すように突き出した。そして、渡と声を合わせて呟く。

 

「「変身...!」」

 

レミリアは止まり木に見立てたキバットベルトにキバットを装着。するとキバットから赤い波動が放出され、レミリアの全身が銀の膜に覆われていく。膜に覆われたレミリアの身体の形状が変化し、やがて銀の膜はガラスのように砕け散った。

 

「その姿は...!?」

 

レミリアの姿は大きく変化していた。特徴的な帽子には黄色の小さめな角が生え、真ん中には翠玉がはめ込まれた赤い装飾が追加。胴体の服は赤く染まり、黒い筋が入っている。さらにその上から、正面の開いた銀の鎧を纏っている。両肩と右足のふくらはぎには、銀の鎖"カテナ"が巻きついた鎧が現れていた。その姿は、ファンガイアの王に献上するべく作られたキバの鎧を、レミリアが身に纏った姿、"キバフォーム"の姿である。変身したレミリアは、試着した服を確認するように自分の身体を見回す。

 

「ふ~ん...意外といいじゃない。気に入ったわ。」

 

ご機嫌に笑ったレミリアは、改めてフェアリーファンガイアと対峙する。

 

「こんなに月が紅いから...今夜は楽しい夜になりそうね!」

「月も出てないし、真昼ですけど...」

「うっさい!」

 

勢いで言ってしまった恥ずかしさを拭うように叫んだレミリアは、フェアリーファンガイアへと迫る。片手に日傘を携えたまま戦うレミリアが初撃として繰り出したのは、左足での中段蹴り。それを防御したフェアリーファンガイアは、手甲の形状を刃物のように変化させて反撃を行う。連続して振るわれる手甲を右手で弾きながら、レミリアは後退していく。それをしばらく繰り返した後、レミリアはフェアリーファンガイアの腹部に蹴りを入れ、その反動を利用して大きく飛び退いた。

 

「ふぅ...驚いた。手甲がブレードになるなんてね。」

「器用なんですね。日傘を差したまま戦うなんて...」

「ハァッ!!」

 

少しよろめいたフェアリーファンガイアだったが、すぐに体勢を立て直して四枚の羽をはためかせる。羽によって巻き起こされた風が、刃のように練り上げられていく。あっという間に完成した五本の風の刃を、フェアリーファンガイアはレミリアに向けて発射した。まず牽制的に放たれた一本は、レミリアの軽いサイドステップにてかわされる。続く二本は横向きで平行に放たれるが、レミリアは飛び上がって回避。最後の二本は挟み込むように放たれ──

 

 

着地したレミリアの日傘を一閃した。

 

「しまっ...!」

 

はじきの部分から切断された日傘は空へと吹き飛ばされ、レミリアの全身に陽の光が照りつける。吸血鬼であるレミリアとって、陽の光は最大の天敵。当たれば肉体は燃え上がり、やがて炭と化す。フェアリーファンガイアはレミリアの吸血鬼としての特性を逆手に取って、日傘に狙いを定めていたのだ。愕然とするレミリアに対し、太陽は容赦なく光を放つ。そして───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...あれ?」

 

───レミリアはなんともなく中庭に立っていた。身体が燃え上がることも、当然、炭になることなく立っていた。

 

「そんな馬鹿な!?」

 

驚愕して声を上げるフェアリーファンガイア。計算が狂い、思考が停止した瞬間を見逃さなかったキバットは、レミリアに指示を出す。

 

「今がチャンスだ!決めろ!レミリア!」

「えっ?あ、うん!」

 

レミリア自身も無事だったことに大きく動揺していたが、キバットの声で正気を取り戻し、ベルトの両脇に備えられたフエッスルホルダーに手を伸ばす。レミリアは収納されている三本のフエッスルの中から、赤いコウモリような形状の物を選び出した。そのフエッスルの名は、ウェイクアップフエッスル。その名の通り、キバの力を最大まで覚醒させることが出来るものだ。レミリアはウェイクアップフエッスルを大きく開いたキバットの口に差し込み、その口を閉じる。

 

『ウェイクアップ!』

 

ウェイクアップフエッスルを吹き鳴らしたキバット。紅魔館に、キバットの叫びと高音の音色が響き渡る。そのフエッスルが奏でられる中、明るく澄み渡っていた空は黒い霧に支配され、その中には紅い満月が煌々と輝く。紅い月下に佇むレミリアは、両腕を胸の前でクロスさせて吐息を漏らす。

 

「はぁぁぁ...!」

 

感覚を最大まで研ぎ澄ましたレミリアは、キッと目を見開いて目一杯に右足を振り上げる。フエッスルを吹き終えたキバットはベルトから飛び立ち、右足の鎧に巻かれたカテナを砕く。締め付けていた鎖を失った鎧は左右に展開し、その中のヘルズゲートを覗かせる。紅に染まるヘルズゲートには、大きな魔皇石が等間隔に三つ埋め込まれていた。左足の屈伸でそこから跳躍したレミリアは、空中でとんぼ返りして姿勢を変える。体勢を整えたレミリアは、紅の満月をバックにヘルズゲートの力を纏うキック、ダークネスムーンブレイクを放つ。

 

「ハアッ!!」

「くっ...はぁぁぁ!!」

 

相対するフェアリーファンガイアは、迫り来るレミリアに向けて強風を放って勢いを相殺せんとする。せめぎ合う疾風とダークネスムーンブレイク。吹き荒ぶ風は真空刃に変わってレミリアに迫るが、ヘルズゲートから溢れる魔皇力にかき消されていく。真空刃を消し飛ばして突き進むレミリアの右足は、フェアリーファンガイアの胸元に突き刺さった。そこから踏みつけるようにして、レミリアはフェアリーファンガイアを押し倒す。ひびの入ったその身体が横たわった瞬間、地面には大きなキバの紋章が刻まれた。

 

「眠りなさい。それがあなたの運命...」

 

死の宣告を終えたレミリアは、右足により一層力を込めてフェアリーファンガイアを踏みつけた。ヘルズゲートの魔皇石を輝かせながら魔皇力がフェアリーファンガイアに流れ込み───

 

その身体は粉々に砕け散った。

 

レミリアが目の前に浮かぶ光球、フェアリーファンガイアの魂を見つめる中、足元に散らばったシルフィの亡骸は淡い光を放って消えた。そして、浮遊していた魂はやがて天へと昇っていく。シルフィの最期を見届けたレミリアは、変身とシンクロをゆっくりと解除した。

 

「運命通り...ね。」

 

そう呟いたレミリアの表情は、朧気な悲しみを纏っていた。

 

そんな彼女に、渡は声をかける。

 

「あの、レミリアさん...大丈夫ですか?」

「怪我はないわ。この私に心配は無用よ。」

「いえ、そうじゃなくて...日光が、当たってますよ?」

 

「・・・あ。」

 

渡の言葉で気がついたレミリアは、早くも燃え始めた翼を唖然として眺める。そして───

 

 

 

「ぎゃーーーー!!?燃えてるーーーー!!?咲夜ーー!!咲夜ぁーーーーー!!!」

 

このあと、突然現れた銀髪のメイドのおかげで事なきを得ましたとさ。

 

 

 

「し、死ぬかと思った...」

 

自分の部屋に戻った私は、勢い良くテーブルに突っ伏した。戦闘で意識を研ぎ澄ませていた疲れもあるが、何より焦げ付いた翼がまだじんじんと痛む。

 

「お嬢様、大丈夫ですか?」

「うん。」

 

私は、隣で心配そうな表情を浮かべる銀髪のメイド長、咲夜の言葉に気丈に応える。もう十数年の長い付き合いと言えど、私は主で彼女は従者。一屋敷の主人として、威厳を失う訳にはいかないのだ。私は咲夜に向けていた視線を正面に戻し、テーブルを挟んだ向こうに座る渡と、その周りを飛び回るキバットに向き合う。

 

「なぁ渡、本当になんともないのか?」

「うん。少しびっくりしたけどね。」

「さて、改めて紹介するわね。彼女はこの屋敷の従者を束ねるメイド長...」

「十六夜咲夜よ。」

 

私は咲夜を手で示し、渡たちに紹介する。私に促された咲夜は名を名乗ったが、その口調は妙にぶっきらぼうで、渡に向ける目はまるで仇敵を睨むかのように攻撃的に見えたが、その直後にはいつも通りに慎ましい表情を浮かべていた。

 

「(気のせいかな...?)」

 

少しばかり引っかかりを感じながらも、私はそこまで気に留めずに話を進める。

 

「そうだ、渡に提案があるんだけど...うちに住み込みで働かない?これから先も戦いがある以上、出来るだけ近くにいた方がいいでしょうし、あなたは咲夜の補佐ってことで。」

 

私の提案を聞いた瞬間、咲夜の表情が見たこともないものに変わった。

 

「お嬢様!!?本気ですか!?こんな素性も分からない人間を屋敷に住まわせるなんて!」

 

早口でまくし立ててくる咲夜。その瞳孔は大きく開き、小さく充血している。明らかに態度のおかしい咲夜に、私は震える彼女の手を握って語りかける。

 

「落ち着いて、咲夜。渡たちの素性についてはこれから聞くつもりだし、何より運命がそう告げているの。だから、安心して。」

「...はい、お嬢様。」

 

咲夜は苦い顔をしながらも、小さく頷いてくれた。実際の所、運命が告げているというのは嘘で、最近は運命の見通しが悪い。見えた運命も大きく変わることが珍しく無くなってきている。

 

なにかが変わり始めていることは間違いない。

 

「ありがとうございます!これからどうするか当てがなかったので、すごく助かります!」

「俺様の寝床は...改めて渡に作ってもらうか。」

 

そう、私自身も例外ではない。こうして目の前の青年が現れ、戦いの道を踏み出している。今思えば、渡が奏でた出逢いのメロディーは、運命のプレリュード(前奏曲)だったのかもしれない。

 

 

さぁ、ここからは第一楽章。命という究極の即興曲は、どんな旋律を奏でるだろうか?

 

それは、まだ誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで?

 

 

なんであんな男が...!?

 

 

私の補佐...!?

 

 

だめ。だめよ。ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ!!

 

お嬢様の御側にいるのは私だけでいい!!あんな奴は要らない!!

 

私がお守りするんだ...危険は全て排除する。

 

あいつはお嬢様を危険に晒した危険な存在。

 

 

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ユルサナイ。

 

『タイム!』

 

誰もいない紅の廊下に、地球の囁きが小さく響いた。

 

 

 

~次回予告~

 

Open Your Eyes For The Next Φ's

 

「君もこっちに来なよ...」

 

「私の生徒に...手は出させないッ!」

 

「あの子の"夢"を守ってやりたいからな。」

 

「「変身っ!!」」

 

『Complete』

 

第7話 ~Code555・夢の守り人~

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~レミリア・スカーレット~

 

紅魔館の主である吸血鬼の少女。幼い容姿に見合わず、その年齢は500を超える。運命を操る程度の能力の持ち主。生粋の自信家であり、常に余裕のある態度を取っているつもりだが、大抵の行動は子供が見栄を張っているようにしか見えない。自称カリスマで、吸血鬼としてのプライドは非常に高い。紅魔館の主人としての偉そうな振る舞いが目立つが、本当は心優しい少女。自らとシンクロした渡を紅魔館に迎え入れ、戦いの運命に身を投じる。

 

~紅渡~

 

ファンガイアと人間、両方の血を継ぐ青年。普段は物静かで控えめな性格だが、心の底には熱い信念と深い優しさを秘めており、時には相手を怯ませる程の威圧感を放つ。父の作り上げたバイオリン、ブラッディローズを手に幻想郷に訪れ、レミリアとシンクロを果たした。その後は紅魔館に住み込みで働きながら、バイオリン作りに精を出している。

 

~キバットバット三世~

 

コウモリ型モンスター、キバット族の末裔。その身に魔皇力を宿しており、魔皇力を注入した相手をキバに変身させる能力を持っている。性格はお調子者で気分屋。レミリアとの口げんかは日常茶飯事だが、戦闘の際は的確なサポートを行う。

 

~キバ(レミリア) キバフォーム~

 

レミリアが変身する、「仮面ライダーキバ キバフォーム」を模した姿。体の各所に鎧を纏い、それぞれに銀の鎖、カテナが巻かれている。コウモリをモチーフとしているため、天井からぶら下がっての戦闘が可能。アクロバティックな動きを得意としており、意表を突いた動きで相手を翻弄する。必殺技は、右足のヘルズゲートを解放して放つ「ダークネスムーンブレイク」。




いかがでしたか?

最後の部分をあんなに強調しましたけど、紅魔館の物語の続きは少し先になります。次回はファイズ回です!もうしばらくすると、各所での事件が少しずつ絡んできますのでお楽しみに!

最後に、たっくんと草加さん、ジオウに本人出演おめでとうございます!

それでは、チャオ!



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第7話 ~Code555・夢の守り人~

どうも、シェインです!
アーツのジオウとゲイツを買いたいなぁって、切に思う今日この頃。

挨拶も済んだことですし、第7話どうぞ!


幻想郷の中心にそびえる妖怪の山の東に位置する大きな人里。青龍の里と呼ばれるその人里の外れには、子供たちの学び舎である寺子屋がある。そこでは人妖関係なしに、一つ屋根の下で子供たちが勉学に励んでいる。そんな寺子屋の廊下を、銀髪の美しい女性が険しい表情で歩いていた。胸元の大きく開いた青い服を着て歩みを進める彼女は、上白沢慧音。この寺子屋で教師を務めている者だ。

 

「また行方不明事件...これで何件目だ...!!」

 

慧音は、昼下がりの廊下で小さく怒りを零した。最近、青龍の里で立て続けに起こっている行方不明事件。先程、新たに行方不明者が出たとの知らせが彼女に届いた。この事件は里の自警団に所属する慧音にとっては無視出来ない問題だったのだが、これといった対策をすることも出来ずに次の犯行を許してしまった。慧音は自らの無力に唇を噛み締めながら、生徒たちの待つ教室の引き戸を開けた。

 

「あっ!慧音先生!」

「慧音先生、どうしたんですか?」

 

教室に入るなり、二人の生徒が慧音を囲む。慧音は可愛い生徒たちの顔を見て思わず顔が緩んでしまうが、今だけは気を引き締めなければ、と自らを律する。慧音は二人に席に座るように促し、教卓に向かった。

 

「みんな、聞いてくれ。最近起きている行方不明事件は知っているだろう?その事件がまた発生した。」

 

その言葉を聞いた瞬間、教室がどっとざわめいた。慧音は「静かに!」と生徒たちを一喝し、話を続ける。

 

「そのため今日の授業はこれで終了とし、君たちは速やかに帰宅。人里に帰る者たちの帰路には、先生が付き添うことになった。」

「えっ!じゃあ、先生と一緒に帰れるの!?」

 

他の生徒が不安そうな表情を浮かべている中、一人の女子生徒は顔をぱっと明るくしていた。だが、他にも浮いている雰囲気の生徒は居た。その女子生徒は薄い水色の髪を生やし、背中には六つの氷翼を備えている。

 

「よし分かった!サイキョーなアタイが、犯人をぶっ飛ばしてやるわ!」

 

足を椅子と机に乗せ、昼間の太陽を指差して無謀な宣言をした女子生徒は、自称サイキョーの氷の妖精"チルノ"。自信の塊のようなチルノに、慧音が一言「座ってなさい。」と言って済ませる光景も、この学級では日常の一部である。無鉄砲なチルノの言葉で和んだ生徒たちは、いつも通りに下校の準備を始めるのだった。

 

 

「全員揃ったな?」

「「「「「はーい!」」」」」

 

寺子屋の前に集合した生徒たちの返事を受けた私は、別の場所で集まっている妖怪や妖精の生徒たちの下に向かう。和気あいあいと騒ぐ生徒の内の一人、白いシャツに青い服を着用し、背中に一対の羽を持つ少女──大妖精に声をかけた。

 

「大妖精、すまないが妖怪のみんなを頼めるか?あの子たちは無茶が過ぎる。」

「はい、任せて下さい!チルノちゃんのおかげで、無茶な友達には慣れてますからね。」

 

短い緑髪を揺らして笑う大妖精に、私はどことなく安心する。彼女も他の子とそう変わらないというのに、非常に頼もしいものだ。それはきっと、彼女が背負う()()の影響だろう。そんなことを考えている内に、大妖精の背後から生徒の一人であるルーミアが近づいてきた。

 

「安心して大ちゃん!わたしが居るから、大丈夫なのだー!」

 

なにやら不思議なことを言って笑うルーミア。なんとも言えない不安を感じた私と大妖精は苦笑をこぼした。

 

「じゃあルーミア、大妖精、みんなのことを頼んだぞ!」

「はーい!」

「はい!先生もお気をつけて!」

 

妖怪の生徒たちを二人に任せ、私は他の生徒たちを連れて青龍の人里に向けて出発した。その道中、皆は沢山の話を聞かせてくれる。友達の話、家族の話、私の授業が難しいという話も聞かせてくれた。もう少し、噛み砕いて教えられるよう努めなくてはな。共に歩く生徒たちと会話を楽しむ内に、里までの道は無事に終わりを告げた。

 

「慧音さん!お疲れ様です!今の所、怪しい人物は見かけていません!」

「そうか...引き続き、門の見張りを頼む。」

「はいっ!!」

 

門番を務めてくれている自警団員に声をかけ、青龍の里に入る。最近の事件に伴い、こうした警備を強化しているにも関わらず事件が止まる気配はない。

 

「考えたくは無いが、もしかしたら...」

「ねぇ、慧音先生!」

「ん?どうした、美良?」

 

嫌な想像をしてしまっていた私は、さっき教室で表情を明るくしていた少女──美良の声で我に返った。美良の方に顔を向けると、彼女はスケッチブックを片手にこれ以上無いような笑顔を浮かべていた。

 

「ふふっ、やけにご機嫌だな。」

「うん!これ見て!」

 

美良は大きく頷くと、スケッチブックを開いて見せる。そこには、まだ10才の少女が書いたとは思えない程に美麗な景色が、水彩を駆使して描かれていた。ささやかに流れる小川に、生い茂る森林、そこで生活を送る人々。ごく当たり前で、何よりも大切な日常。それが、描かれていた。

 

「上手いな...」

「でしょ!私、いつか画家になりたいの!そして、私の絵を見たみんなに幸せな気持ちになって貰うのが"夢"なんだ!」

 

楽しそうに夢を語る美良と隣り合って歩く中、私たち一行は十字路にさしかかる。その瞬間、美良の笑顔は消えた。当然だろう...

 

彼女がスケッチブックに描いたような日常が、現実で踏みにじられていたのだから。

 

「あーあ、君もハズレだったねー。残念でしたー。」

 

通りの角から出てきた妖怪とも似つかない全身灰色の化け物は、首を掴んでいた男性を壊れたオモチャを捨てるかのように片手で放り投げた。地面に転がった男は既に亡くなっていたようで、力無く倒れ込むと──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その全身は灰と化して崩れ去った。

 

「きゃああああっ!!」

 

化け物の行った凶行を目の前ににした美良は甲高い悲鳴を上げた。その悲鳴で化け物の存在に気づいた人々は散り散りに逃げていき、後続の生徒たちも皆それぞれに逃げていく。そんな中、恐怖で足が動かなくなった美良はスケッチブックを取り落とし、後ずさりするも尻餅をついてしまう。そんな彼女が化け物の視界に入ってしまった。

 

「んー?君、逃げ遅れちゃったのー?」

「あっ...あ...!」

「君もこっちに来なよ...」

 

気の抜けた声で、化け物は美良に迫る。可愛い生徒に化け物が迫る様を見て、私は我が身を奮い立たせて化け物と美良の間に割って入った。

 

「け、慧音先生!!」

「私の生徒に...手は出させないッ!」

 

美良を庇うように立ち、化け物に相手に啖呵を切った私は奴の観察を行う。顔の口のような部分は極端に細長く、尻尾は地面に着く程の長さ。両腕には小さな針のようなものが備えられている。その特徴はさしずめ、アリクイと言った所だ。実際に遭遇したことはないが、外界から来た図鑑に載っていた情報と通じるものがある。

 

「うーん、いいよー。じゃ、君からおいでー。」

 

標的を私に変更した化け物は、口から先端の鋭く尖った舌を射出した。それを半回転しながら回避した私は、伸びた舌を脇に固く抱え込んで美良に叫ぶ。

 

「逃げるんだ!こいつは先生がなんとかする!」

「う、うん!」

 

震えながらも頷いた美良は両手をついて立ち上がり、里の遠方へと駆け出した。それを見届けた私は、暴れる舌を抱える腕と両足にぐっと力を込め、その場で回転する。そこそこの距離を伸びていた舌は大きな遠心力を生み出し、一般男性より上の重量を持つアリクイの化け物の身体を宙へと誘う。

 

「うぉぉぉぉらぁっ!!」

 

十分な勢いを付けたところで私は手を緩め、化け物をつなぎ止めていた舌を離す。勢いはそのままに放り投げられたアリクイの化け物は、数回バウンドしながら十字路を転がった。土埃が舞い、化け物の姿は見えなくなったが、私は土埃に浮かぶシルエットを頼りに動向を探る。しばらく観察を続けていると、その不気味なシルエットはゆらりと立ち上がった。

 

「...邪魔すんなよ。」

 

怒りを滲ませる低い声が私の耳に届いた瞬間、アリクイの化け物は私の眼前に現れた。

 

「ッ!?」

「オラァッ!」

 

投げ飛ばした距離を一瞬にして詰めてきた化け物に驚愕する間もなく、私は化け物の猛攻を受ける。両腕から繰り出される攻撃は凄まじい破壊力を誇り、体にぶつかる度に砕けそうな痛みに襲われる。私はなんとか攻撃を凌いでいたが、その痛みに耐えきれずに怯んでしまった。その瞬間に生まれた隙を、化け物は見逃してくれなかった。

 

「あっ、がぁっ...!」

 

腹部に腕を叩きつけられ、私の体は簡単に吹き飛んだ。回転しながら地面に落ちた私は、風穴が空いたかのような腹部の痛みに悶える。そんな私をあざ笑うように化け物が迫ってくる中、細く開けた私の目に美良の"絵"が描かれたスケッチブックが映った。地に落ちたスケッチブックは化け物が歩む軌道の上にあり、やがて踏みにじられるのは容易に想像出来た。

 

「うぅ...あぁぁぁ!」

 

私は痛みを振り払って駆け出すと、スケッチブックを覆うように倒れ込む。全身全霊という言葉通り、この身全てをかけて美良の"絵"を守るために。私の傍までたどり着いた化け物は、私の背中を踏みつけて笑い声を上げた。

 

「あははっ、その絵がそんなに大事なの?」

「くっ...当たり前だ...!」

 

体の痛む私の苦しみながらの返答を聞いた化け物は、踏みつけていた足をぐりぐりと背中に押し付けながら、より一層高笑いする。

 

「なんでさ?その絵を守る理由はなに?」

 

含み笑いをしたまま問いかけてくる化け物をキッと睨み付け、私は叫ぶ。

 

「この"絵"は、美良の"夢"なんだ!私は、子どもたちの夢を守りたい!私は..."守らなくちゃならない"んだッ!!」

 

私の叫びを聞いた化け物の顔に、優しそうな男性の顔が少し揺らいで見えた。揺らいだ顔は驚愕の表情をしていたが、その瞳には底知れない程の悲しみが見えたような気がした。だが、その表情は一瞬で憤怒に塗りつぶされ、男性の顔は化け物の顔に戻ってしまった。

 

「...なんだよそれ。夢だとか未来だとか、そんな下らない言葉を僕の前で言うなぁぁぁ!!」

 

気の抜けた口調から荒い口調に変わった化け物は、私の背中を何度も踏みつける。彼は相当気が動転しているようで、当初の飄々とした態度は面影もない。

 

「け、慧音先生から離れて!」

 

夢中になって足を動かす化け物に、一人の少女が叫んだ。声の方に顔を向けると、そこには逃げたはずの美良が一本の瓶を両手で握り締めて立っていた。

 

「美良...!?なんで戻って来た!!」

「だ、だって先生が心配で...!」

「あぁぁぁ!!お前ら鬱陶しいんだよ!!まずガキから消えろッ!!」

 

髪の毛をかきむしるような仕草をした化け物は、美良に狙いを定めて先端を鋭く尖らせた舌を伸ばす。私は回避出来たから良かったが、もしあの舌が命中すれば美良の小さな身体は貫かれてしまうだろう。それが分かっているのに、踏みつけられた私の体は動かない。笑われる程の苦し紛れに、私は手を伸ばした。

 

──きっと、また失ってから気付くのだろう。何も出来なかった自分の力、覚悟の出来ない自分の心に。

 

誰か、助けてくれ──そう、心から願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、風を切って飛んできた一つのボストンバッグが化け物の舌に衝突した。地に落ちたボストンバッグからは、派手な色のパンツが顔を覗かせている。真っ直ぐ伸びていた舌の軌道が歪んだ隙に、一人の男が颯爽と美良を抱えて建物の陰へと駆け込んだ。

 

「先生は俺が助ける。だから、君はここに隠れてるんだ。いいな?」

「う、うん。」

 

降ろした美良に優しく微笑みかけた男は、彼女の頭を撫でると通りに戻ってきた。男が化け物を見る眼光はまるで狼のように鋭く、その眼光に化け物も少し怯む。

 

「お、お前...誰だ!?」

「うるせぇ。子どもに手を上げるような奴に名乗る名前なんて持ち合わせてねぇよ。」

「ふ、ふざけんな!死ね!」

 

ぶっきらぼうな返答に逆上した化け物は、ゆっくりと歩いてくる男に対して舌を伸ばす。しかし、男は必要最低限の動きでそれを回避し、着実に距離を詰めてくる。その威圧感に押された化け物は、一歩後ずさる。それによって体の自由を取り戻した私は、立ち上がりざまに化け物の腹に蹴りを入れ、立ち上がってから胸部に渾身の頭突きをお見舞いする。スケッチブックを拾い上げ、バッグステップで化け物と距離を開けた私の隣に、先ほどの男が並んだ。

 

「助かったが、普通の人間がここにいるのは危険だ。美良を連れて逃げてくれ!」

「断る。」

 

私の頼みを冷淡に拒否した男は、小さな声で言う。

 

「俺も、あの子の"夢"を守ってやりたいからな。」

「グラァァァァッ!!」

 

男の言葉が終わった瞬間、理性ある人の言葉とは思えない咆哮と共に、化け物の舌がこれまで以上のスピードかつ鞭のような動きで放たれた。私たちは前転を編み込んだ動きで後退しつつ、それを回避していく。

 

「それに、俺は普通の人間じゃない!お前たちの言う、"仮面ライダー"とやらだ!」

「お前が...!?」

 

男は前転の途中で自分のボストンバッグをひっつかみ、その中から『スマートブレイン』というロゴの入った銀のアタッシュケースを取り出すと、男はそれを私に投げ渡した。アタッシュケースを受け取った私が手早くそれを開くと、そこにはバックルに空洞のある銀のベルトと、黄色い複眼を持つ仮面があしらわれたプレートの差し込まれた携帯電話、そしてそれらのサブデバイスが一式揃っていた。

 

「これは...?」

「そいつは"ファイズギア"だ!それを使えば、ファイズの力を扱える!」

 

化け物は届かない舌での攻撃に業を煮やしたようで、長く伸ばした舌をシュルシュルと引き戻していく。舌を戻しきるまでの間に、男は私と合流を果たす。

 

「守ろうぜ、俺たちの守りたいものを、俺たちの力で!」

 

男はその言葉と共に私の肩に手を置いた。その瞬間、彼の全身は赤い光となって私に吸収されていく。シンクロを果たした私と男──「乾巧」はお互いに名前を理解し、声をかけ合う。

 

「これがシンクロ...不思議な気分だな。」

「へぇ、さっき読んだ新聞通りだな。確かに、心が一つになってるぜ。」

 

シンクロによって巧の記憶の一部を読み解き、ファイズギアの使い方を理解した私は銀のベルト、「ファイズドライバー」の左右にサブデバイスをマウントし、腰に装着した。少し空洞のあったアタッシュケースに美良のスケッチブックをしまい、私は仮面のあしらわれたプレートの差し込まれた携帯電話、「ファイズフォン」を握る。

 

「行くぞ、巧!」

「あぁ...!」

 

大きく叫んだ私はファイズフォンを手首のスナップで開くと、表れたキーを使って「555(ファイズ)」のコードを入力し、続けざまに「Enter」を入力する。

 

『Standing by』

 

準備が出来たことを告げるファイズフォンを左手で折り畳み、私は晴れ渡る青空に向けて真っ直ぐ右腕を伸ばした。

 

「「変身っ!!」」

 

私は空に掲げたファイズフォンをファイズドライバーの空洞の右端に勢い良く突き立て、流れるような動きで左側に倒した。仮面のあしらわれたプレート、「ミッションメモリー」の仮面が正面に来るように、綺麗に空洞にはまったファイズフォンは、赤い輝きと共に全ての変身工程が完了したことを告げる。

 

『Complete』

 

クールな電子音声を合図に、ファイズドライバーの両サイドから全身に赤い血管のようなライン、赤の「フォトンストリーム」が広がっていく。全身にフォトンストリームが張り巡らされた瞬間、フォトンストリームがより一層強く輝き、赤い閃光が私の全身を包んだ。

 

「ウッ!?」

 

アリクイの化け物、「バーミリンガオルフェノク」はその輝きに声を上げ、目を覆う。やがて閃光が穏やかになった頃、私は変身を終えた。銀の髪は黒く染まり、瞳は煌々と輝く黄色。服のベースカラーは青から黒に変わり、その上からフォトンストリームが走っている。胸部には銀のアーマーが備えられたジャケットを纏い、ジャケットのアーマーは肩にも装着されている。ファイズの力を纏った私は、小さく手首をスナップさせ、バーミリンガオルフェノクに宣言する。

 

「さぁ、お仕置きだ。覚悟しろ!」

 

バーミリンガオルフェノクを目指し、私は地面を蹴って駆け出した。理解の追いつかない状況に動揺していたバーミリンガオルフェノクの間合いまで一気に侵入し、固く握った拳を振るう。初撃を見舞われたことで、バーミリンガオルフェノクもその衝撃で戦闘に回帰する。目の前の私が数刻前とは別のものであると認識したバーミリンガオルフェノクは、手甲に収納されていた針のような武器を伸ばし、応戦の構えを取る。睨み合う私とバーミリンガオルフェノク。刹那、互いの拳が胸部に炸裂した。

 

「くっ...!」

「うあっ...!」

 

胸部アーマーから火花が上がるが、肉体へのダメージはほとんど感じない。その確かな性能に微笑みつつ、私はアーマーに残る煙を手で払う。対するバーミリンガオルフェノクは相応のダメージを負ったようで、よろめきながらも体勢を整えていた。これを好機と見極め、私は攻勢へ転じる。

 

「ハッ!セイッ!」

 

軽く飛びかかりながらのパンチを皮切りに、交互に両腕でバーミリンガオルフェノクの面長な顔を殴りつける。それを二回程繰り返したタイミングで、バーミリンガオルフェノクは右の拳を突き出して抵抗を見せるが、私は身を翻してそれを回避。その勢いを利用して、バーミリンガオルフェノクに肘うちを叩き込む。その衝撃に仰け反り、後退したバーミリンガオルフェノクは大きな隙を見せる。その瞬間に、私は連続して正面蹴りを放った。

 

「はぁっっ!!」

「うぐあぁっ!!」

 

大きく吹き飛ばされたバーミリンガオルフェノクは勢い良く地面を転がるが、手甲の針を地面に突き立てて勢いを殺し、舌での反撃を試みてきた。辺り一帯を凪払うようにして迫り来る舌を右手で弾くと、私はベルトの右側にマウントされているデジタルトーチライト、「ファイズポインター」を手に取る。ファイズフォンの前面に差し込まれていたプレート、「ミッションメモリー」を抜き取り、ファイズポインターのレーンに差し込む。

 

『Ready』

 

電子音声と共にファイズポインターの先端部分が少し伸び、ポインターモードに移行する。変形したファイズポインターを右脚のふくらはぎに巻き付けられたホルスターにセットし、直角の向きから九十度回転させてロックする。ファイズポインターのライトが下に向くようにセットした私は、ファイズフォンを開いて「Enter」のキーを押した。

 

『Excced charge』

 

電子音声を合図にファイズドライバーの右側にあるサイドランプが点滅し、オルフェノクに特攻性を持つエネルギー毒素、「フォトンブラッド」が充填。右脚のフォトンストリームを辿って、ファイズポインターに流れ込んでいく。ファイズフォンを畳んだ私は、フォトンブラッドのチャージが完了するまでの間、肩の力を抜いて曲げた膝の上に腕を乗せて待機する。

 

「はぁぁ...」

 

肩の力を抜いて待っている内に、ファイズポインターのシリンダーにフォトンブラッドが満ちる。それが光となって私に知らされた時、バーミリンガオルフェノクは再び舌での凪払いを行う。バーミリンガオルフェノクの攻撃を見切った私は一気に駆け出し、その勢いのまま跳躍して舌を回避する。それを見たバーミリンガオルフェノクは往復するように舌を操り、空中の私を狙う。しかし、私は舌を右脚で蹴り弾き、同時に蓄積されたフォトンブラッドをファイズポインターの先端から撃ち出した。直線状で発射されたフォトンブラッドは、舌に振られて体勢を崩したバーミリンガオルフェノクに高速で迫り、その眼前で円錐形に広がった。円錐形に広がったフォトンブラッドは、空気中に放射される余剰フォトンブラッドでバーミリンガオルフェノクの行動を抑止する。私は空中で跳び蹴りの姿勢を整え、円錐形のフォトンブラッドの中心に向けて真っ直ぐに飛び込んでいく。

 

「「せぇりぁぁぁ!!」」

 

熱く叫びを上げた私たちが円錐形のフォトンブラッドに触れた瞬間、私の身体はフォトンブラッドへと変換され、円錐形のフォトンブラッドはバーミリンガオルフェノクの体に突き刺さり、同時に体内を貫いていく。体内に入り込んでくる多量の毒素と、私の放った跳び蹴りの衝撃に襲われるバーミリンガオルフェノクは、声にならない程の苦痛に悶絶する。やがてバーミリンガオルフェノクの身体を突き抜けた私は、フォトンブラッドから元の身体に再構築され、両足でしっかりと着地した。振り返ることもしない私の耳に、消え入りそうな声が届く。

 

「なん..で...僕は...生き..たかった...だけ....なのに...!」

 

少しばかり嗚咽を混じらせたその声を聞いて、私は慌てて振り返る。だが、そこには──

 

 

 

 

 

 

──浮かび上がるファイズの印(死の証)と、青い炎を上げる灰の小山(儚い命の亡骸)があるだけだった。だが、遺された灰すらも風に乗って消えていく。呆然として立ち尽くす私の髪を、灰を乗せた風が掠めた。

 

「おい、どうかしたか?」

「...いや、何でもない。」

 

気だるそうな巧の声で我に返った私は、ファイズドライバーから抜き取ったファイズフォンを開き、クリアキーを押して変身を解除した。同時にシンクロも解き、巧は赤い光となって私の身体から抜け出す。

 

「改めて名乗らせて貰おう。私は上白沢慧音。この里を守る者として、協力に感謝する。」

「乾巧だ。」

 

互いに軽い自己紹介を済ませ、私はアタッシュケースを、巧は自分のボストンバッグをそれぞれ拾い上げて美良の下に向かう。通りに出てきた美良の顔は明るく、さっきまで死線をさまよっていたとは思えないものだった。そんな彼女の表情につられて、私も小さく微笑んだ。

 

「やれやれ、子供は無邪気だな。」

「まぁな。だが──」

 

 

 

自己紹介でも無愛想な表情だった巧が、小さく微笑みながら告げた。

 

 

 

「──守って良かったろ?」

「...あぁ。」

「慧音先生ー!お兄さーん!」

 

その言葉に頷いた私は、駆け寄ってきた美良をこの手で抱き留める。顔は笑顔でありながらも瞳はうっすらと充血しており、少し前まで涙を流して恐怖に震えていたことを告げている。本当は逃げ出したかっただろうに、必死で勇気を振り絞り、私を救いだそうとしてくれたのだ。自然と抱きしめる力が強くなる。

 

「怖い思いをさせてしまって、すまない...私は先生失格だな...」

「そんなことねぇだろ...馬鹿だな。」

「...え?」

 

美良の頭を撫でながら呟いた自虐の言葉を、巧はすぐさま否定した。そのきっぱりとした言い方に私は戸惑い、巧の顔を見上げる。

 

「その子は、お前が大好きだから助けたかったんだろ。お前が、その子を守ろうとしたのと同じようにな。」

「巧...」

「それだけ生徒から愛されてる。教師に、それ以上の資格がいると思うか?」

 

ぶっきらぼうな言い方だが、巧のその言葉は私の迷いを真っ白に洗い流してくれた。

 

「お兄さんの言うとおりだよ!だって先生は、私の夢を守ろうとしてくれもん!」

「夢...そうだ。」

 

私の顔を見上げて頷く美良の言葉で、私はアタッシュケースの中身を思い出す。アタッシュケースを開いて、その中に大切にしまい込んだ美良のスケッチブックを差し出す。

 

「ほら、もう落としちゃ駄目だぞ!」

「先生...!ありがとう!いつか夢が叶ったら、先生たちのことを描いてあげる!約束だよ!」

 

スケッチブックを大事そうに抱きかかえた美良は、満面の笑みで小指を差し出す。私はその小指に、自分の小指を絡ませ──

 

「あぁ、楽しみにしてるよ...約束だ。」

 

──約束を結んだ。私との指切りを終えた美良は、先生たちのもう一人に小指を差し出した。

 

「まさか...俺か!?」

「うん!」

 

自分が約束を催促されたことに明らかに動揺している巧。出会ってから少しの間だが、今まで冷静沈着な態度を貫いてきた巧がしどろもどろになっている様子は、少しばかり面白く思えてしまう。巧は助け船を求めて私に視線を送るが、私はわざと気づかないふりをする。ふふっ、少し意地が悪かったかな。

 

「いや、俺は...」

「あっ...嫌だったらいいの、ごめんなさい...」

 

なんとか断ろうとした巧だったが、どうやらしゅんとしてしまった美良を見て断り切れなくなったらしい。ウェーブのかかった茶髪をかきむしりながらしゃがみこみ、美良の小指に、一回りも二周りも大きい、自分の小指を絡ませた。

 

「分かったよ...ほら、約束だ。その代わり、絶対に夢、叶えろよ?」

「うん!」

 

優しく笑う巧の横顔を見て、私は確信した。きっと彼は酷く無愛想で、非常に不器用で、ただただ言葉足らずなだけで、本当は優しい男なんだろうと。

 

 

奇遇な話だ...()()()によく似ているよ。

 

 

そんな事を考えていた私は、巧の言葉に気づくのが一拍遅れてしまった。

 

「ほら、お前のご両親も心配してんだろうから、早く帰ってやれ。」

「あ......うん...」

 

その瞬間、手遅れだと分かっていながらも自分の配慮不足に唇を噛み締めた。そして、巧に告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巧、美良の両親は...もう居ないんだ。」

 

この世界には、理不尽な涙が溢れていることを。

 

 

 

 

 

 

「そうか...美良の両親は化け物に...」

 

親を失った子供たちを保護することを目的とした場所、簡単に言えば青龍の里の児童養護施設「ひかり」に美良を送り届けた俺は、ボソッと呟いた。並んで歩く慧音が、小さく頷く。

 

「あぁ..."異怪の大乱"で現れた化け物たちに襲われ、命を落としたそうだ。」

「悪いことを言っちまったな...」

 

美良は「大丈夫...気にしないでね。」と笑っていたが、その目尻は少しだけ濡れていた。考え込むのはらしくないが、こういうのは心が痛むな...。思わず視線が下に向いていく俺に、慧音は優しい声で語りかけてくる。

 

「まぁ、仕方ないさ...あまり気に病むな、巧。」

「...あぁ。」

 

その短い返答を最後に、しばらく俺たちの間に会話はなかった。無言で歩いていく俺たちが向かう先は、慧音の自宅。俺にこの世界、幻想郷のことを詳しく教える為、とりあえず自分の家にということらしい。里の外れに建っている木造の小さな一軒家にたどり着いた俺は、慧音に中へと案内された。外観は和風のそれだが、内装も同様。まるで、本当にタイムスリップでもしたかのようだな。まぁ、椅子とかテーブルとか、多少洋風のものも混じってるが。

 

「さて、私は茶を持って来る。適当に座っていてくれ。」

「あぁ...」

 

短く返事を返した俺は、テーブルを挟んで二個づつ並んだ椅子の一つに腰掛ける。そして、自分の置かれている現状を自分なりに考察しようとした、その瞬間だった。

 

「慧音!!無事だったか!?」

「...お前、入ってくるなら玄関だろ...」

 

白いシャツに赤いもんぺ姿の銀髪少女が、凄い勢いで窓から突っ込んで来たのだ。少女は俺の呆れた声を聞くと、顔をしかめて俺の顔をまじまじと見つめた。そして──

 

「泥棒か、この野郎!!?」

「いや、窓から突っ込んできたお前が言うか!!?」

 

鬼のような形相で有らぬ疑いをかけられた。その上、片手には準備万端と言わんばかりに炎を纏わせている。お前、泥棒追っ払うのに家焼き払ったら被害拡大してんじゃねぇか。

 

「妹紅!?よせ、その男は私の知り合いだ!」

「へっ...知り合い?泥棒じゃなくて?」

 

慧音の言葉を聞いた少女──藤原妹紅は、ポカンとした顔で片手の炎を収める。戻ってきた慧音が止めてくれたから良かったが、下手をすると丸焼きにされてたかも知れねぇな。全く...そんな終わり方、俺はまっぴらだな。落ち着いた妹紅を加え、俺たちは情報交換を始める。昼過ぎから始まったそれは、日が傾くまで続いた...

 

 

 

「...巧。もし良ければ、ここに住まないか?」

「ん...?あぁ、そういや今日どうすっかも決めてねぇな。」

「オルフェノクや化け物たちが活動を再開している以上、私もいつ動くことになるか分からない。できる限り、巧と距離を取るべきではないと思うんだ。」

「...分かった。ただし──」

 

慧音の提案を承諾した俺は、一つだけ条件を提示する。

 

「──飯は熱くないので頼む。」

「...?あぁ、猫舌なのか!」

「さっき、お茶飲むのにずーっとふーふーしてたもんなぁ。」

「ちっ...悪いかよ!!」

 

こうして、慧音との共同生活が幕を開けた。だが同時にそれは、終わりの始まりだったんだろう。俺たちの歩く道は──

 

 

 

 

 

 

──フォトンブラッドが照らし出す。

 

 

~次回予告~

 

「アイツの気配も無いし、奴の声も聞こえない...一体どうなっているんだ...?」

 

「わたしがアイツを引きつける!その隙に、二人は逃げて!」

 

「まったく...しょうがないわね。」

 

「私と戦えることを光栄に思いなさい!」

 

「変身。」「変身ッ!」

 

『Trun up』

 

第8話 ~永遠の切り札~

 

 

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~上白沢慧音~

 

青龍の里にある寺子屋で教師を務める女性。歴史を食らう程度の能力の持ち主。里の自警団に属しており、正義感が強い。自身が人間と妖怪のハーフであるが故に、人間も妖怪も分け隔てなく接している。基本的に冷静な彼女だが、夢にはどこかこだわりを持っており、感情的になることもある。

 

~乾巧~

 

無口で、無愛想で、不器用な性格の男。外の世界ではクリーニング店に住み込みで働いていた。突然訪れた幻想郷で独自に情報を集め、慧音とのシンクロにすぐさま対応した。ぶっきらぼうな態度が目立つが、本当は友情に厚かったり、正義感が強かったりする。慧音とシンクロを果たし、戦いに身を投じる。

 

~ファイズ(慧音)~

 

巧とシンクロした慧音が、ファイズフォンとファイズドライバーを使って変身した姿。仮面ライダーファイズを模した服装をしている。戦闘時に手首をスナップさせる動作は、巧の癖が反映されたもの。フォトンストリームの中では低出力の赤いフォトンストリームを使用しているが、そのコントロールの容易性から多彩な拡張デバイスを持ち、手数の多さが特徴的である。必殺技は、ファイズポインターを使ってフォトンブラッドを射出、相手を拘束して蹴りを入れる「クリムゾンスマッシュ」。




第7話、いかがでしたか?本当は、ジオウのファイズ回に合わせたかったんですけどね。間に合いませんでした...

さぁ、次回はブレイド編です!剣崎のパートナーとなるのは誰なのか?楽しみにお待ちください!

それでは、チャオ!


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第8話 ~永遠の切り札~

どうも、シェインです!

いやぁ、ご無沙汰してしまいまして...ごめんなさい!まだまだ始まったばかりですからね!立ち止まってはいられない!!

今回は、物語の重要な部分が見え隠れ...?それでは第8話、どうぞ!!


「また行方不明事件かぁ...怪物たちの事といい、最近は物騒だね。」

 

慧音と巧が青龍の人里で戦いを繰り広げていた頃、寺子屋から下校中の少女たちの一人が、隣りで歩く大妖精に溜め息混じりに呟いた。不安そうな表情を浮かべる彼女は、妖蟲の妖怪であるリグル・ナイトバグ。だが"妖蟲"というのはかなりアバウトな認識で、実際の所、彼女は妖蟲の中でも蛍に属する種族だ。彼女の近くには4人の少女たちが居り、その中にはルーミアとチルノも含まれている。大妖精は、リグルの言葉に小さく頷く。

 

「そうだね。リグルちゃんも気をつけてね?」

「うん...最近は蛍狩りも減って、安心できるかと思ったんだけどなぁ...」

 

再び溜め息をつくリグル。彼女が口にした「蛍狩り」というのは、金目当ての人間が蛍に属する妖怪を狙って襲撃するというものだ。これは蛍に限ったことではなく、その他の妖怪たちが狙われた事例も多々ある。妖怪特有の羽や毛皮は貴重な素材として裏で取り引きされたり、人間よりも強力な妖怪を奴隷として利用しようとする権力者たちの参加する、闇オークションが開かれることさえあるという噂だ。だが、ここ最近は怪物たちが暴れ出した影響で妖怪狩りも減ってきている。

 

「みすちーも、屋台はしばらくお休みにしたら?」

 

リグルに"みすちー"という愛称で呼ばれる桃色の髪の少女は、ミスティア・ローレライ。彼女は背中に一対の翼を持ち、禍々しい衣装に身を包んでいる。夜雀の妖怪であり、八目鰻を主とした飲み屋台を経営している。他にも、妖怪の友人とバンド活動を行うなど多方面で活躍している。そのため妖怪であるにも関わらず、人里の中でも小さな人気者となっている少女だ。リグルの気遣う言葉を聞いたミスティアは、少しばかり渋い顔をする。

 

「やっぱりその方がいいかなぁ?怪物のせいでお客さんも減ってきてるし。せっかく軌道に乗って来たのになぁ...」

「うんうん!そういうことなら、心配は要らない!幻想郷サイキョーであるこのアタイが、友を守ってあげよう!」

 

腕組みをしながらドヤ顔を披露するチルノに、ミスティアたちは苦笑い。自称サイキョーであるチルノだが、その力量は辺境の妖怪相応だ。それに対して怪物たちは、幻想郷の中でも相当な実力を持つ"博霊の巫女"でさえ痛手を負う厄介な存在。一妖精であるチルノが太刀打ちできる相手ではないことは、火を見るより明らかだ。しかし、どんな相手にも変わらないチルノの前のめりな態度は、怪物たちの脅威を恐れる友を確かに励ましている。良くも悪くもムードメーカーなチルノの言葉で笑いに包まれた少女たち。そんなささやかな笑顔さえ──

 

「いやいや!行方不明事件の犯人ならともかく、怪物は無茶だよ~!」

「チルノは何も考えないで突っ込んじゃうしね~。」

「フッ、分かってないねぇ!言っておくが、アタイは全力の20割も出してないよ!」

「チルノちゃん、それを言うなら20%でしょ?」

 

──ヤツらは残酷に踏みにじる。

 

「キシャァァァァッ!!」

 

身の毛もよだつような謎の奇声を聞きつけたチルノたち5人は警戒態勢に入り、周辺を見回すがそれらしい者の姿はない。気のせいかと皆が思った瞬間、ミスティアは空に浮かぶ影に気づいた。その影の動きを捉えたミスティアは、咄嗟に叫ぶ。

 

「リグル、よけて!!」

「えっ!?」

 

ミスティアの叫びを聞いたリグルは、動揺しながらも素早くその場を離れる。その刹那、リグルの立っていた場所に一匹の化け物が高速で飛び込んできた。黒いイナゴのような姿をしたその化け物は首をくるりと回し、自らの手から逃れたリグルを小さな緑の瞳で睨みつける。その視線には、憎しみなどない純粋な殺意が宿っていた。そんな殺気を向けられたリグルは、わなわなと震えながら声を漏らす。

 

「な...なに!?」

「へへん!みすみすアタイの前に姿を表すなんて、正に飛んで凍える冬の虫!覚悟しろー!氷剣【ブリザード・エッジ】!」

 

化け物を恐れるリグルとは対称的に、恐れも知らず大見得を切るチルノは自らの能力で氷の大剣を作り出す。その大剣を握ったチルノは、素振りをするかのように一振り。すると大剣の軌跡から強力な冷気が放たれ、瞬間的に足下の草が凍りついた。

 

「それを言うなら飛んで火に入る夏の虫...ってチルノちゃん!!?」

「オリャァァッ!」

 

大妖精の訂正も聞かず、チルノは氷の妖精という称号には程遠い熱い怒号と共に駆け出した。化け物はリグル以外には興味もないらしく、チルノの怒号にも動じずリグルを睨みつけている。それをチャンスと見たチルノは、すれ違いざまに大剣を振り抜いた。

 

「・・・あれ?」

 

だが、手応えは帰ってこない。その代わりにチルノが目にしたのは、目の前で屈む化け物の姿。そして次の瞬間、チルノの腹部に化け物の膝が思い切りめり込む。曲げていた脚で地面を蹴り出した化け物が高速で飛び上がり、チルノの腹に膝蹴りを叩き込んだのだ。

 

「チルノちゃん!」

「「「チルノ!」」」

「ぅぁ...」

 

小さくうめき声を上げたチルノは勢い良く吹き飛ばされ、かなり距離がある林の方向に姿を消す。その途中でチルノの手からは大剣が離れ、空中で回転して少し離れた場所に突き刺さった。荒々しく着地した化け物は、不気味なうなり声を上げながら再度リグルに向き直る。

 

「チルノちゃんッ!!」

 

チルノの名を叫んだ大妖精は背中の羽をはためかせ、林に消えたチルノを追いかける。大妖精が自分の攻撃圏内から外れたことなど気にもとめず、化け物はリグルを狙って駆け出す。

 

「ひぃっ...!」

 

仮にも最強を謳うチルノが、あんなにも簡単に倒された。圧倒的な化け物の力を見せ付けられたらリグルは、ふるふると震えながら腰を抜かした。リグルは尻餅をつきながらも、足をばたつかせて後ずさりする。惨めにも思えるような抵抗をするリグルをあざ笑うかのように、奇妙な鳴き声を上げる化け物。そんな化け物の背で、小さな氷塊が弾けた。

 

「キィッ...!!?」

 

前のめりな姿勢になった化け物の背後にいたのは、鋭い眼光で氷の大剣を振り抜いたミスティア。二度目の妨害に憤慨した化け物は、ミスティアを排除するべく振り向きざまに腕を振り回すが、ミスティアは翼で突風を起こしながら素早く後退してそれを回避した。着地したミスティアは、溶け出した水滴で大剣を滑り落とさぬように両手で握り直すと、怒りともどかしさでその身を奮わせる化け物に声を張り上げる。

 

「フンッ...悔しかったら、私を倒してみせなよ!」

「...シャァッ!」

 

ミスティアの挑発に乗ってきた化け物は、たまらずその場から駆け出す。その瞬間、ミスティアは大きな声で叫んだ。

 

「ルーミアッ!お願いッ!!」

「...そういうことね!りょーかいッ!!」

 

ミスティアの意図を読み取ったルーミアは小さく笑い、自身の能力で化け物を闇で包み込む。視界を奪われた化け物が闇の中でもがいている隙に、ルーミアとミスティアはリグルの下に駆けつける。

 

「リグル、逃げるよ!」

「う、うん!」

 

リグルの手を取ったルーミアは化け物から離れるように駆け出し、ミスティアもそれに続く。ルーミアが離れたことで包まれていた闇が消滅した化け物は逃げるリグルたちの背を探し出し、彼女たちを追いかける。

 

「ねぇルーミア!逃げるったって、どこに逃げるの?」

「"迷いの竹林"!あそこなら、あの化け物を振り切れるかもしれない!」

「アイツ...もう追って来てる!急いで!」

 

背後を確認したミスティアの言葉を聞いたルーミアたちは、迷いの竹林へと向けて速度を上げる。命懸けの逃走劇が、始まりを告げた。

 

 

「チルノちゃん!」

「う...あぁ...」

 

化け物に吹き飛ばされたチルノは、腹部に走る激痛に林の中で呻く。大妖精は涙目になりながら駆けつけるも、チルノの身体からは澄んだ氷のような水色の粒子が放出され始めた。自分の身体から発せられる粒子を見たチルノは、悔しそうな面持ちで大妖精の顔を見る。

 

「くっそ...ごめん、大ちゃん...アタイ、まだサイキョーになれないみたいだ...」

「...やだぁ...消えないで...いやっ...!」

 

途切れ途切れに紡がれるチルノの言葉に、大妖精は錯乱した様子で首を横に振りながら、ボロボロと涙を零してチルノの冷たい手を両手で包み込むように握る。チルノは大妖精の手の温もりを感じながら、気丈に笑って見せる。

 

「大丈夫...!アタイは...妖精は、自然がある限り蘇るって...大ちゃんも分かってるでしょ...?アタイより...頭、いいんだし...」

「でも...でもっ...!"ラミア"は...帰って来なかった...」

 

ラミアという名前を聞いたチルノの顔が一瞬曇ったが、すぐに笑顔を取り戻して大妖精に小指を差し出す。

 

「じゃ...約束する...!ぜっっったい...アタイは帰ってくる...!だから、待ってて...」

「ひっく...うん...」

 

大妖精は涙を流しながらチルノの指に小指を絡ませ、約束を結ぶ。指切りを果たしたチルノは満足そうに笑い──

 

 

 

 

 

──無数の粒子となって消えた。

 

「...あっ...あぁ...」

 

(「苦しいよ...大ちゃん...やだ...消えたくないよ!ねぇ...助けて、お願い!」)

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

遺された大妖精の空気を裂くような悲鳴が、澄み渡った青空に消えていく。虚ろな目で力無く座り込んだ大妖精を、"チルノと同じ姿をした存在"が眺めていたことは、まだ誰にも知り得ない事実である...

 

 

 

「うぅ...ん?」

 

俺は、静かな竹林の中で目を覚ました。笹の葉のこすれる心地よい音が、俺の耳を優しく包む。ゆっくりと立ち上がり、俺は寝ぼけ眼で辺りを見回した。倒れていた所のすぐそばには、俺の愛車であるバイク、"ブルースペイダー"が停められており、長い間連れ添ったマシンが手元にあることに安心感を覚える。周辺には無数の竹が高くまで伸びており、濃い霧が立ち込めている。その代わり映えのない景色は、どこも同じように見えてしまう。こんな場所に迷い込んだら、簡単には出られないだろう...ん?

 

「俺、出れるのか...?」

 

ふと不安がよぎったが、俺には時間がたっぷりある。それこそ、永遠とも言えるほどに。そのことを思い出し、冷静な心持ちになった俺はいくつかの違和感に気づいた。その違和感を確かめるため、精神を極限まで静めて、ゆっくりと両目を閉じた。

 

「アイツの気配も無いし、奴の声も聞こえない...一体どうなっているんだ...?」

 

目を開けた俺は、小さな声で呟いた。

 

あの瞬間からどんな時でも感じていた"アイツ"の気配は、消えている。

 

「(...お前は、人間たちの中で生き続けろ。)」

 

あの瞬間から耳に響き続けていた戦いを求める声は、聞こえなくなっている。

 

「(俺は運命と戦う...そして、勝ってみせる。)」

 

さっきとは違う不安が、俺の頭の中をよぎる。もしも、"最悪の事態"だったとしたら。なんとも言えない焦燥感に駆られる俺の耳に、パチンと指を鳴らす音が一つ聞こえた。乾いた音が静寂を保っていた竹林に響き渡る。霧の中で木霊する音は、少し不気味に聞こえてくる。やがて、音が聞こえなくなった瞬間──

 

 

 

 

 

 

 

 

──誰かが俺の肩を、二度叩いた。

 

 

 

「うわっ!?」

 

俺は驚嘆の声を上げ、肩に乗せられたら手を払いのけながら振り返った。そこにいた人物を一言で表せば、白い少年。金色のラインが入った白いズボンと白いシャツを着用し、厚地のケープを羽織っている。髪は美しい金色で、上品な白をベースに金の差し色が扱われたファッションをしている。

 

「あっ、驚かせてごめんね!」

 

白い少年は両手をひらひらと振りながら笑顔を見せる。ホラーチックな登場とは裏腹に、無邪気で眩しい笑顔を見せる少年に拍子抜けした俺は、できるだけ優しい声で問いかける。

 

「いや、気にしないでくれ。君は...迷子か?」

「現に迷ってる君が言う?」

「...うるさい。」

 

生意気な返しをしてきた白い少年に、俺は目を細めながら返事をする。そんな俺を見た少年はクスッと笑い、ブルースペイダーのシートに座った。

 

「僕はしがない旅人だよ。今日は君に伝えたいことがあって会いに来たんだ。」

「伝えたいこと...?」

 

俺の怪訝そうな表情も気にせず、白い少年は小さく頷く。彼が指を一つ鳴らすと、その指の間に一枚の写真が現れた。俺には裏側しか見えていなかった写真をくるりと反転させて、白い少年は写真を俺に見せる。そこに写っていたのは、艶やかな黒髪の少女。まるで、童話のかぐや姫のような少女だった。

 

「この子の名前は、蓬莱山輝夜。君の運命の相手さ。」

「なんだ?結婚占いならお断りだ!」

「ふふっ、そうじゃないよ。融合(シンクロ)のパートナーってこと。」

 

白い少年は肩をすくめて笑うと、懐から一枚の紙を取り出して俺に差し出す。その紙を受け取った俺は、書かれていた文章に目を通す。その内容は融合(シンクロ)という現象についての詳細で、俺が変身出来なくなっている事や、一つになることをイメージしながら相手に触れると融合することが可能であるという事や、融合を果たした相手にライダーの力を授けることが出来るという事が書かれている。普通の人間であれば戯れ言と一蹴しそうな内容だが、非現実的な戦いに身をおいていた俺にとっては、そこまで驚くことでは無い。俺は紙から目を上げ、白の少年に確認する。

 

「で、その相手っていうのが、写真の女の子だって言いたいんだな。」

「イエス!そーゆーこと!」

「こんな場所まで訪ねてきて生憎だが、俺はもう...」

「ウワァァァァァァ!!」

 

俺の言葉を遮るかのように、竹林に叫び声が響いた。その声は恐怖を滲ませており、確かに助けを求めている。

 

「あまり話している暇はなさそうだね...これを。」

 

その声を聞いた白い少年は大きく声色を変え、ブルースペイダーから降りつつ懐から取り出したある物を俺に差し出す。その手にあったのは、銀を基調とした正方体の機械"ブレイバックル"に、トランプのようなデザインの"ラウズカード"。どちらも、俺の仮面ライダーとしての戦いと共にあった物だ。

 

「お前、なんで...!?」

「それを知ったとしても、君が戦う理由は変わらない。そうでしょ?"剣崎一真"さん。」

「...あぁ!!」

 

白い少年の言葉で目の前の疑問を振り切った俺は、彼の両手からブレイバックルとラウズカードを引ったくり、ブルースペイダーに飛び乗る。素早くエンジンをかけ、スタンドを上げて発進する直前、俺は白い少年に声をかけた。

 

「誰だか知らないが、礼を言うよ。ありがとう!」

 

そう告げた俺は、白い少年の返事を待たずにブルースペイダーを急発進させる。霧のかかる竹林はバイクで走るには少しコンディションが悪いが、そんなことは関係ない。熱く燃える想いをたぎらせ、俺はブルースペイダーを全力で走らせた...

 

 

~数分前~

 

「キシャァァッ!」

「あぁもう!しつこいなぁ!」

 

迷いの竹林の中を走るルーミアは、背後から聞こえてくる奇声に愚痴をこぼした。霧の中を迷いなく進むルーミアの後ろには、死に物狂いな表情のリグルと、化け物の様子を伺いながら足を動かすミスティアが続く。執拗にリグルを狙う化け物は、背中の羽を鳴らし、飛びながら彼女たちを追いかけている。この逃走劇が始まって十分が経過した。妖怪と言えども、持久力に限界はある。化け物から全力で逃げ続けているルーミアたちの体力は、徐々に底をつき始めていた。

 

「ハァ...ハァ...なんでここまでして...!わたしを...!?」

「さぁね!でも...このままじゃらちがあかない!ハアッ!」

 

走りながら振り返ったミスティアは、化け物の羽めがけて氷の短剣をナイフ投げの要領で放つ。しかし化け物は、抵抗は無駄だといわんばかりに拳で短剣を叩く。すでにほとんどが溶けていた短剣は、パキッという音と共にあっさり砕け散ってしまった。

 

「チッ...!」

 

短剣を砕かれたミスティアは、小さく舌打ちをして前に向き直る。その瞬間、ルーミアが急に立ち止まった。その脇を駆け抜けてしまったミスティアとリグルは立ち止まり、ルーミアの背を見つめる。

 

「わたしがアイツを引きつける!その隙に、二人は逃げて!」

 

ルーミアは友の視線に振り返ることなく二人に告げると、猛然と化け物に向けて飛びかかった。霧の中で化け物につかみかかり、化け物の胸部に拳を打ち込む。だが化け物に大したダメージはなく、少し怯む程度。ルーミアに勝ち目がないことは、誰が見ても分かることだった。

 

「そんな...!一緒に逃げよう!ルーミア!」

 

ルーミアの捨て身な行動に、リグルは悲痛な叫びを上げる。だが、その叫びをルーミアが聞くことはなく、何度も攻撃を繰り返す。そんな中、余裕を示すかのようにルーミアの繰り出す攻撃を受けていた化け物が腕を振るい、弾かれたルーミアは地面に叩きつけられた。それでも立ち上がり、化け物に対して毅然と相対するルーミアは、ミスティアに小さく呟く。

 

「...みすちー、お願い。」

「...分かった。」

 

ルーミアの思惑を察したミスティアは静かに頷き、その場で動けなくなってしまったリグルの手を引いて逃走を再開する。ミスティアたちを後目で見届けたルーミアは派手な装飾の付いた御札、言霊札(ことだまふだ)を取り出すと、それに向けて小さく囁く。

 

「雄介...!聞こえる...?」

「うん、聞こえるよ。どうしたの?」

 

すると、返事が返ってくるかのように言霊札から雄介の声が流れ、声のタイミングに合わせて言霊札の文字が赤く発光する。

 

「怪物だよ!でも、グロンギじゃないみたい...とにかく、こっちに来て!ぶら下がってる装飾が示す方に、わたしがいるはずだから!」

「分かった!」

 

言霊札の発光は雄介の声を最後に収まり、通話を終えたルーミアは言霊札をしまう。その時、化け物はミスティアとリグルの背中に向かって猛進した。

 

「(攻撃が通じなくても、わたしはアークルのおかげで打たれ強くなってる。雄介が来るまで、わたし一人で耐え抜いてみせる!)」

 

そう心の内で覚悟を決めると、空中からミスティアたちを襲撃せんとしている化け物の足に飛びかかる。バランスを崩した化け物は鬱陶しそうにルーミアを睨みつけるが、それに対してルーミアはニヤリと笑う。

 

「キィ...!」

 

化け物がルーミアを振り払おうと腕を振るうと、足にしがみついていたルーミアは近くの竹に飛び移る。そのまま竹にぶら下がり、地面に足が着くか着かないかという辺りまで竹をしならせると、ルーミアは竹から手を離す。しなった竹が勢い良く放たれ、バランスを取り直していた化け物に直撃。反動がたっぷり付いた竹に空中で叩かれ、化け物は地面に叩きつけられる。土煙が上がる中、着地したルーミアはガッツポーズを決める。

 

「よしっ!上手くいったのだ~!」

「...キシャァァァッ!!」

 

ルーミアの歓喜も束の間、化け物は再び立ち上がり身体を奮わせる。堪忍袋の緒が切れた、ということだろうか。今まで以上に狂った奇声を上げ、殺意に満ち溢れた瞳の焦点はルーミアに合っている。しかし、化け物はリグルをターゲットから除外した訳ではなかった。次の瞬間、それをルーミアは思い知ることになる。

 

「ギィィィィィィッ!」

「えっ!?」

 

雄叫びを上げた化け物の身体から黒い霧のようなものが放出され、無数のイナゴへと変貌する。予想の範疇を超える光景に硬直してしまっていたルーミアの左右を、二つのイナゴの集団が通り抜けて行く。それに気を取られ、ルーミアは背後に振り向く。みすみすと、敵に背をさらしてしまったのだ。

 

「うっ...!」

 

ルーミアは化け物に蹴り飛ばされ、鈍い痛みと共にミシミシという嫌な音が背中から響く。吹き飛んだルーミアはイナゴの集団を追い越し、逃げていたリグルたちの近くの竹に引っかかって落下した。

 

「う...あぁ...!」

「ルーミア!?」

「大丈夫!?しっかりして!」

 

ルーミアが飛んできたことに気づいたリグルは、いち早くルーミアのそばに駆けつける。しかし、苦しそうに呻き声を上げるルーミアを介抱するリグルとミスティアに、イナゴの集団がそれぞれ襲いかかった。

 

「うわぁぁぁ!な、なにこれっ!?」

「くっ...リグル落ち着いて!これって、さっきの化け物の手下...?」

 

パニック状態に陥ってしまったリグルは、じたばたとイナゴの中でもがく。イナゴの集団を払いのけながらも、リグルを落ち着かせようとするミスティアだったが彼女の背後に化け物が降り立つ。

 

「ッ!」

「キシャァッ!!」

「きゃっ...!」

 

化け物の着地した音を聞いて振り返ったミスティアだったが、化け物に頬を殴りつけられ地面に倒れ込んでしまう。地に伏した二人の姿を見たリグルは、声さえ上げられず腰を抜かす。リグルを守っていたルーミアとミスティアを退けた化け物は、イナゴの集団を自らの肉体に帰化させ、リグルの反応を楽しむかのように一歩一歩、ゆっくりと迫っていく。

 

「ぁ...ぁ...ウワァァァァァァ!!」

 

絞り出したようなリグルの悲鳴を聞き、化け物はケタケタと奇妙な笑い声を上げながら彼女の首に手を伸ばす。リグルの首を片手で締め上げた化け物は、そのままリグルを自分の頭上に掲げる。

 

「かっ......うぁ...あぁっ...!」

 

リグルのもがく姿をしばらく眺めた化け物は、リグルの首をより一層強く締め上げていく。もはや声を上げることさえままならなくなったリグルの瞳に、傷ついてなお自分を救おうと手を伸ばすルーミアの姿が映る。近くに横たわるミスティアは気を失い、ルーミアも満身創痍。自らのために化け物に抗った二人が傷つき、自分は何も出来ずに怯えるだけ。自分の無力を目の当たりにしたリグルの頬に、恐怖と悲しみで涙が伝う。

 

「(ルーミア...みすちー...。守ろうとしてくれたのに...ごめんね...)」

 

その瞬間、竹林の間を縫って一つの光弾が飛来し、リグルを締め上げていた化け物の腕に炸裂。それと同時に光弾は眩い閃光を放ち、それに怯んだ化け物はリグルの首を離す。リグルが地面に倒れ込む中、竹林に上品な声が響き渡った。

 

「ちょっと暇だから散歩してたんだけど...なんだか面白いことになってるじゃない?」

 

竹林の霧から現れた少女は、楽しそうな笑みを扇子で隠しながらリグルたちの下に歩いてくる。少女はピンクを基調とした和風のドレスと赤いスカートを纏い、艶やかな黒髪を腰下辺りまで伸ばしている。化け物は彼女を認識するや否や、素早く跳躍して飛びかかるが、踊るように身を翻した少女にあっさりと回避される。閉じた扇子で化け物の背を叩きつけ、リグルのそばまでたどり着いた少女は静かに手を差し伸べる。

 

「立てる?」

「けほっ...けほっ...は、はい。あなたは確か...」

「"蓬莱山輝夜"。月のお姫様ってとこかしら。」

 

咳き込みながらもその手を握って立ち上がったリグルに、輝夜は柔和な笑みを浮かべながら自己紹介を済ませる。一方、輝夜にいなされた化け物は怒り狂い、辺りの竹を爪で切りつけながら立ち上がると、もはや聞き慣れた奇声を上げる。

 

「キイィィッッッッ!!」

「あらあら...ずいぶんお怒りね。あなた、友だちを連れて早く逃げなさい。」

「でっ、でも輝夜さんは...?」

 

輝夜はリグルを庇うように立つと、ルーミアとミスティアを連れて逃げるように手で示すが、化け物の蹂躙を見てきたリグルは輝夜の身を案じる。だが輝夜の表情からは余裕が滲み出ており、不敵な笑みを浮かべている。

 

「私なら大丈夫...命を粗末にしちゃだめよ。さぁ、逃げなさい。」

「キシャァッ!」

「っ!」

 

再びリグルに避難を促す輝夜を狙うべく、化け物は脚を人間に近いものからバッタやイナゴの形状に変化させる。一つ増えた関節を思い切り曲げ、通常よりも高めた跳躍力を活かして化け物は輝夜に飛びかかる。輝夜がリグルの盾になるようにしながら受け身の構えを取った瞬間──

 

「はぁぁ...ウェイッ!」

 

──竹林から飛び出してきたブルースペイダーが、化け物の脇腹に激突した。充分なスピードを持っていたブルースペイダーに弾き飛ばされた化け物は、体勢を崩しながら離れた場所に転がる。着地した一真は急ブレーキをかけて停車し、颯爽とブルースペイダーから降りると輝夜たちの下に向かう。

 

「怪我はないか?ここは危険だ、早く...ってあんたは!」

「...?」

 

一真は輝夜を見るやいなや写真の少女であることに気づき、少年が言っていた運命の相手というのも、あながち間違いではなかったのだなと納得する。一方の輝夜はいきなり声を上げた一真を静かに眺め、記憶の中を探る中で、一真と同じ顔を探し当てる。

 

「...どこかで見た顔だと思ったら、あなた"仮面ライダー"とやらの内の一人ね。名前は...剣崎一真だったかしら?」

「あぁ...あんたは、蓬莱山輝夜だよな?」

 

リグルは変動する状況について行けずにおどおどし、ルーミアは仮面ライダーというワードに反応し、はっと二人のことを見上げる。しばらく向き合っていた輝夜と一真だったが、化け物が転がっていった方からガサガサという音が聞こえ、同時にそこへ顔を向ける。

 

「...剣崎、その子たちを連れて逃げて。あの化け物は私が相手をするわ。」

 

しばらく音の方を注視していた輝夜は、一真の前に進み出ながら静かに呟いた。輝夜の無謀な言葉を聞いた一真は、彼女に詰め寄りながら声を上げた。

 

「なっ...!"アンデット"を相手に戦うなんて、本気で言ってるのか!?」

「ふ~ん...あれ、アンデットって言うのね。まぁ何であれ、"不老不死"の蓬莱人に心配は無用よ。さっさと行きなさい。」

 

化け物のアンデットという俗称に反応しつつ、輝夜は一真に催促するかのように扇子で払う仕草をする。だがそれを送られた張本人である一真は、まるで輝夜の仕草に気づかず呆けていた。

 

「...不老不死...?」

 

目を見開きながら輝夜の言葉を繰り返した一真は、どこか嬉しそうに小さく微笑んだ。その瞬間、竹林からイナゴの特性を持つアンデット──ローカストアンデットが立ち上がり、緑の双眼で一真と輝夜を睨みつける。その眼光に怯むことなく輝夜の隣に並んだ一真は、高らかに宣言した。

 

「断る!例えあんたが不老不死だとしても、誰かが傷つくのは見たくない!あんたが本気で戦うのなら、俺があんたの切り札になる!!」

 

一真の唐突な叫びに輝夜はしばらく目を丸くしていたが、やがてクスッと笑いながら自分より少し背の高い一真を見上げる。その目には、月のような優しい輝きが宿っていた。

 

「まったく...しょうがないわね。私の永遠について来れるかしら?」

「あぁ!任せろ!!」

 

輝夜に力強く頷き返した一真は、大きく深呼吸をする。たっぷりと息を吐き出すと、一真の身体は蒼い光球に変化し、輝夜の胸元に吸い込まれていった。シンクロを果たした輝夜は、全身から放出される淡い輝きをヴェールのように纏いながら、ブレイバックルを手にした。

 

「おぉっ!こ、これがシンクロか!本当に出来た...!」

「さぁ、始めましょう...」

 

蒼い光を放ちながら騒ぐ一真をよそに不敵な笑みを浮かべた輝夜は、ヘラクレスオオカブトの描かれたスペードのカテゴリーAに属する"チェンジビートル"のラウズカードを取り出し、ブレイバックル正面のラウズリーダーに差し込んで腰に据える。すると、ラウズカードを読み取ったブレイバックルの右サイドから、連なったトランプが射出される。そのトランプの帯は輝夜の腰を一周してバックルの左サイドに接続され、一瞬の内に赤いベルトへと変化した。ブレイバックルから待機音が鳴り響く中、輝夜は腰の左右に両手を構える。そして手の甲を外側へと向けて人差し指を伸ばした右手を、ゆっくりと斜めに伸ばしていく。

 

「変身。」「変身ッ!」

 

輝夜は伸ばした右手を返すと勢い良くブレイバックルのハンドルを引き、腰に添えていた左手を目の前で円を描くように動かす。ハンドルと連動してラウズリーダーが反転し、赤のベースの内に金色のスペードマークがあしらわれた面が露わになる。

 

『Trun up』

 

電子音声と共にラウズリーダーに青白い光が満ちていき、オリハルコンエレメントと呼ばれる青い光のゲートとなって輝夜の眼前に放出された。ゆっくりと迫ってくるオリハルコンエレメントに対し、輝夜も一歩ずつ歩み寄る。やがてオリハルコンエレメントを抜けた輝夜の身体は、大きく装いを変えていた。黒髪と洋服は紫紺に染まり、胸部と肩、そしてすねに対応するスカートの部位に銀のアーマーが装着されていた。瞳は赤く染まり、頭にはヘラクレスオオカブトの角を象った銀の兜飾りが付いている。輝夜は、運命を覆した切り札の戦士「仮面ライダーブレイド」を模した姿に変身したのだ。それと同時に、再び足の形状を変化させたローカストアンデットは輝夜に向けて飛び出す。

 

「キィッッ!」

「はぁっ!」

 

飛びかかって来たローカストアンデットに、輝夜はベルトの左側のホルスターから引き抜いた特殊な形状の剣、"醒剣ブレイラウザー"で斬撃を見舞う。胸部にブレイラウザーを受けたローカストアンデットは体勢を大きく崩し、飛び出した辺りに回転しながら墜落した。輝夜は右手に握ったブレイラウザーの切っ先をローカストアンデットに向け、気高く告げる。

 

「私と戦えることを光栄に思いなさい!」

「まずはお前を倒す!色々考えるのはそれからだ!!」

 

一真も戦う意志を固め、より一層輝きを強めた。それを挑発と捉え、憤慨したローカストアンデットは再び跳躍し、輝夜に向けて跳び蹴りを放つ。輝夜はバックステップで跳び蹴りを回避しつつ、背後のリグルを抱えて後方に下がる。

 

「剣崎さんが消えて...か、輝夜さんが...変身した...」

 

輝夜はそこでリグルを下ろすが彼女は完全にフリーズしており、白目を向いて口をパクパクと動かしながら直立していた。そんなリグルの後頭部に、先ほどまでダウンしていたルーミアの鋭いチョップが炸裂し、女子としては黒歴史な顔から正気に戻る。

 

「うぅ...痛い...!」

「もう!しっかりして、リグル!」

 

リグルを叱咤したルーミアは、ライダーに選ばれた者として、変身を果たした輝夜と向き合った。

 

「助かったのだ!わたしもクウガの力を持ってるんだけど、雄介と合流が間に合わなかったの。」

「そう...じゃあ貴方がルーミアなのね。」

「クウガ?そんなライダーシステム、聞いたことないぞ?」

 

輝夜はクウガという名前を聞き、ルーミアという妖怪が雄介の協力でクウガの力を得た、と紫から伝えられていた事を思い出し、一真はクウガという名前に対して首を傾げる。そんな時、背後から飛びかかったきたローカストアンデットを、輝夜は振り向きざまにブレイラウザーで切り払う。

 

「その化け物...え~っと、そう!アンデットは任せるね!わたしはリグルとみすちーを竹林の外に連れてく!」

「分かったわ。竹林の中で迷子にならないようにね?」

「うん!」

 

輝夜の冗談混じりの言葉に元気よく返事をしたルーミアは、リグルと共にミスティアに肩を貸して霧の中へと進んで行った。それを見届けた輝夜は優しく微笑んだが、ローカストアンデットに向き直った瞬間、その笑顔は戦慄を禁じ得ない戦姫の微笑へと変わった。

 

「ふふっ...もう手加減はなしよ。切り刻んであげる...!」

 

輝夜は静かに口角を上げるとローカストアンデットに急接近し、舞うようにブレイラウザーで斬撃を加えていく。右から左、左から右へと二度斬りつけ、ローカストアンデットの背後に回るべく軽く駆け出す。すれ違いざまに腹部を右薙ぎで斬りつけ、流れるようにして背中に袈裟切りを見舞う。翻弄されながらも標的を捉えようと振り返ったローカストアンデットの胸部に向けて、輝夜は一連の締めくくりとして突きを放つ。それを受けて火花を放ちながら吹き飛んだローカストアンデットの傷から、緑色の液体が飛び散った。

 

「ギッ...キィッ!」

「これは...アンデットの血液かしら?」

 

輝夜が頬にかかった緑色の血液を拭っている隙を突き、ローカストアンデットは背中の羽を開いて低空飛行を開始。そのまま輝夜のアーマーをひっつかんで上空へと引き上げていき、開いた片手で輝夜の顔を殴りつけようと腕を引く。

 

「ふふっ...無駄よ。」

「ギィシャァッ!!?」

 

輝夜は静かに囁くと、目にも留まらぬ早業でローカストアンデットの両羽を切り落とす。竹林に墜落したローカストアンデットは地面の上でもがき、輝夜は着地と共に前転をしながら落下の衝撃を緩和する。そしてブレイラウザーを素早く逆手に持ち替え、グリップの上部に備えられた十二枚のラウズカードトレイを扇状に展開した。ずらっと並んだ十二枚のラウズカードから二枚を選んだ輝夜は、それらをトレイから引き抜く。一枚は尾に鋭利な刃を持つトカゲの描かれた、スペードのカテゴリー2に属するラウズカード。もう一枚は巨大な角から雷を放出しているシカの描かれた、スペードのカテゴリー6に属するラウズカード。そして、シカの描かれた方のラウズカードをブレイラウザーの刀身に備えられたスリット──スラッシュ・リーダーに合わせ、切っ先の方に向けてスライドする。

 

『THUNDER』

 

ラウズカードがスラッシュ・リーダーを抜けた瞬間、ブレイラウザーがスキャンされたラウズカードを認識して電子音声を流す。輝夜は読み込ませたラウズカードを放り投げ、トカゲが描かれたもう一枚のラウズカードもブレイラウザーにスキャンする。

 

『SLASH』

 

再び輝夜がスキャンしたラウズカードを放り投げると、浮遊していた二枚のラウズカードが十倍程度の大きさに拡大して背後に静止する。すると巨大化したラウズカードのトカゲとシカ、「リザードアンデット」と「ディアーアンデット」の絵が青い光となってブレイラウザーに吸収された。

 

『LIGHTNING SLASH』

 

ブレイラウザーから追加音声が流れ、刀身が青白い輝きと雷電を纏ったブレイラウザーを順手に持ち直した輝夜は静かに構える。対するローカストアンデットも満身創痍ながらに立ち上がり、腰を落として荒々しく構える。睨み合う双方の間に静寂が流れ、次の瞬間、輝夜とローカストアンデットは同時に駆け出した。二人がすれ違う瞬間、輝夜の首をめがけてローカストアンデットが横薙ぎに腕を振り回す。輝夜はその腕ををブレイラウザーで弾き、流れるようにローカストアンデットの腹部に雷電を纏った刀身で深く切りつけた。

 

「はあっ!」「ウェェェイッ!!」

「キィィィッ!!」

 

輝夜は小さな叫びと共にブレイラウザーを振り抜き、"ライトニングスラッシュ"を受けたローカストアンデットは腹部から放電しながら踊るようにフラフラと回る。そんなダンスが長く続くはずもなく、ローカストアンデットは蓄積されたダメージに耐えかね、背中から地面に倒れ込む。その数刻後、ローカストアンデットの腰に巻かれていたベルトのバックルが中央から二つに裂け、隠れていた5というナンバーが露わになった。

 

「あら...そこまで大したことなかったわね。この程度なら妹紅の方が骨があるわ。」

「油断しない方がいいぞ。アンデットもあんたと同じく死なない。今は疲弊しているが、少ししたらすぐに復活する。バックルが開いている内に、何もかかれてないラウズカードを奴に投げろ!」

 

輝夜は一真の言葉に従ってブレイラウザーのトレイを展開し、何も描かれていないラウズカード──コモンブランクを抜き取ると、ローカストアンデットに向けて素早く投げる。空気を切って飛んで行ったコモンブランクがローカストアンデットの肉体に突き刺さると、その身体が緑の光になってコモンブランクに吸収されていく。やがてローカストアンデットの身体を完全に吸収したコモンブランクにはローカストアンデットの絵柄と、左上と右下の角にスペードマークと5という数字、左上のマークの下にKICKの文字が刻まれた。ローカストアンデットを封印したことにより、コモンブランクはスペードのカテゴリー5に属する"キックローカスト"のラウズカードへと変化して、輝夜の手に帰っていく。戻ってきたラウズカードをキャッチした輝夜は、再度ブレイバックルのハンドルを引いた。するとラウズリーダーが反転し、ラウズカードを挿入した面に戻ると同時にオリハルコンエレメントが放出される。輝夜がそれをくぐり抜けると変身が解除され、彼女は元の姿に戻り、一真も輝夜の身体から抜け出した。

 

「ふぅ...戻れた。怪我はないか?」

「不老不死の相手に対してそんな心配するなんて...変わってるわね。」

「あぁ、よく言われるよ。」

 

戦いを共に切り抜けた一真と輝夜は互いに小さく笑い合う。まだ出会って間もないが、それでも共に戦いを越えるという過程は、人の絆を強くさせるのには打ってつけのようだ。

 

「さて、とりあえず永遠亭に来なさい。そこで色々と話を聞かせて頂戴。」

「永遠亭?」

「私の家みたいなものよ。いくつか同居人もいるから、後で紹介してあげるわ。さぁ、行きましょう。」

「あぁ...分かった。」

 

軽く返事をした一真は、ブルースペイダーを押しながら先導する輝夜の後ろについて行く。そうして帰路についた輝夜たちは、永遠亭へと向かった。その数時間後、迷いの竹林に「迷子なのだぁぁぁ!!」という声が響いたのは、また別の話である。

 

 

 

そんな輝夜たちの戦いを、白の少年は霧の中から見届けていた。彼の手には黒い懐中時計のようなデバイスが握られている。やがてその前面の上に時計の針が現れ、時計回りに回転する。一周した瞬間、デバイスが強い輝きを放ち、ベースは紫紺に、前面のパーツと天面のボタンは銀に染まった。

 

『ブレイド』

 

変貌したデバイスから発せられた音声を聞いた白の少年は満足げに微笑むと、目の前に手をかざす。すると白い少年の正面に青い時計盤のようなものが現れ、その枠を縁取りとしたゲートが形成される。白い少年はスキップ交じりにゲートに入り、漆黒の中に水色の幾何学的な模様が浮かぶ謎の空間に進んでいく。それと同時に謎の空間に続くゲートは消滅し、辺りは何の変哲もない竹林に戻ったのだった...

 

 

~次回予告~

 

「力を失ったアイコンは近しい人物に惹かれるのかもしれませんね!」

 

「ひぃっ...!オ、オバケッ!!?」

 

「お前のアイコンを寄越せ。それが"あの方"の望みなのでな...!」

 

「人の想いに限界なんて無い!諦めない限り、どこまでだっていけるんだ!!」

 

『決闘!ズバッと!超剣豪!!』

 

第9話 ~研鑽!双剣の想い~

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~蓬莱山輝夜~

 

迷いの竹林にある永遠亭に住む、上品な立ち振る舞いと黒髪が特徴的な月のお姫様。永遠と須臾を操る程度の能力の持ち主。以前は月にある都に住んでいたが、蓬莱の薬を呑んで不老不死になったことにより地上への流刑を受けた過去を持つ。普段は姫の肩書きに相応しい気品だが、戦闘の際に楽しそうな笑みを浮かべるなど、少し危険な一面もある。

 

~剣崎一真~

 

人を疑うことができない性格のお人好しな青年。仮面ライダーブレイドとして、アンデットと戦っていた。相棒であるブルースペイダーと共に幻想郷に訪れ、輝夜との出会いの後に彼女の切り札、そしてパートナーとなる決意を決めてシンクロを果たした。他のライダーたちと同様、輝夜からの提案で永遠亭に居候することになる。

 

~ブレイド(輝夜)~

 

一真とシンクロを果たした輝夜が、ブレイバックルと"チェンジビートル"のラウズカードを使用して変身した姿。ブレイラウザーを使用した近接戦闘を主とし、アンデットを封印したラウズカードを使うことで様々な特殊能力を発揮する。ラウズカードを二枚以上組み合わせて発動する必殺技はコンボと呼ばれ、雷電を纏う斬撃を放つ「ライトニングスラッシュ」などがある。

 

~言霊札~

 

藍が作製した妖魔道具であり、妖力や神力、霊力などを蓄積させておくことで、一枚につき固定された一人の相手と交信が可能になる。また、下部からぶら下がっている装飾は所持者の念やオーラのようなものを感じ取り、交信可能な言霊札のある場所を指し示す能力がある。今回出てきたのは、藍がルーミアと雄介に臨時の連絡のためにと譲渡したもの。




第8話、楽しんで頂けましたでしょうか?

1話での描写が少なかったので、念のため補足しておきますと、1話のラストシーンに登場した少年と今回の白い少年は同一人物です。彼の持っていたデバイスとは...皆さんもうお分かりですね?

その答えは1章のラストまで引っ張ることに致しまして、次回はまさかのゴースト編2回目です!実は1章のゴースト編は次回を含めてあと三回ある予定なんですが、意外な役割を果たすかも...?なので、ゴーストだけ多いわ!っていうツッコミは、どうか胸の内にしまってお許しください!

それでは、チャオ!


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第9話 ~研鑽!双剣の想い~

こんにちは、シェインです!お久しぶりですね!2ヶ月以上も期間を開けてしまって...申し訳ない!

今回は、ユーモアセンスのない私なりに色々とやってみました!少しでも笑って頂けたら、私は爆発するぐらい喜びます!

それでは第9話、どうぞ!


〈私は東風谷早苗。守矢神社の風祝、そして現人神として神奈子様と諏訪子様に仕えています。ある日、天空寺タケル君と出会い仮面ライダーゴーストの力を受け継いだ私は、襲撃してきた眼魔と呼ばれる化け物たちを、アイザック・ニュートンさんの力を借りて撃破。こうして、私とタケル君の幻想郷を守るための戦いが始まった...〉

 

昼下がりの守矢神社。私とタケル君は縁側に腰掛けて、柔らかい日差しを浴びながらのんびりとお茶をすすっていた。昼食の片付けも終えたこの時間は、私にとって比較的ゆっくりと寛げる時間だ。特に最近はタケル君が色々と手伝ってくれるおかげで、こういった時間も多く取れる。

 

「いい天気ですね~。お昼寝日和です。」

「そうだね。こういう平和な時間が、俺は一番好きだな...」

「ふふっ、そうですね。今みたいな平和を守るため、私たちも頑張りましょう!」

 

私はエイエイオーと気合いを入れたが、何を頑張ればいいのかと思い直す。何かが起こればそれに対して頑張るのは当然だけど、何もないときは何を頑張ればいいのやら...そんな私の心情を知っていたかのように、タケル君はボソッと呟いた。

 

「そのためにも、英雄アイコンを早く見つけないと...」

「英雄アイコン?」

 

首を傾げた私に対して、タケル君は「例えば...」と居間の机に置いてあったニュートンアイコンを持ってくると、それを私に示しながら続ける。

 

「これは万有引力を発見したアイザック・ニュートンさんの魂が宿ってるアイコン。ニュートンさんと同じように命を燃やしきった英雄の魂が宿っているのが、英雄アイコンだ!」

 

楽しそうな表情で語りきったタケル君だったが、突如としてその顔が複雑な表情に変わる。お腹でも痛くなったかなと心配になった私は、「どうしたんですか?」と言いながらタケル君の顔を覗き込んだ。タケル君は少し頭を掻くと、申し訳なさそうに話し始めた。

 

「実は幻想郷に来てからいろんな人に話を聞いて探してるんだけど、ほとんど収穫がなくてね...どうしようかと思ってたんだ。」

 

タケル君の打ち明け話を聞いた私は、彼が参拝に来た方々となにやら話し込んでいたことを思い出す。タケル君は人当たりがいいから、世間話でもしてるんだろうとばかり思っていた自分の浅はかさに、少し恥ずかしくなった。

 

「そうだったんですか...困ってたんなら、相談してくれれば良かったのに。」

「ごめん。早苗は風祝としての仕事で忙しいだろうし、迷惑をかけたくなくて...」

 

私はタケル君が英雄アイコンのことを黙っていた理由を聞いて、その底無しの優しさと責任感に暖かい気持ちが湧き上がってくるが、それと同時になにも言ってくれなかったことに対するモヤモヤした不満も湧き上がった。

 

「もう!私たちは一緒に戦うパートナーなんですから、困ったことがあったらお互い様です!一緒に幻想郷を守るって決めたんだから、私だって英雄アイコンを探すの手伝いますよ!」

「早苗...ありがとう!」

 

意地でも手伝うくらいの意気を込めた私の言葉を聞いたタケル君は、私の手を取って太陽のような笑顔を浮かべる。その過程でタケル君の持っていたニュートンアイコンが私の目に入り、私の中にふと一つの疑問が浮かび上がった。

 

「あれ?そういえば、どうしてこの神社にニュートンアイコンがあったんでしょう?」

 

英雄アイコンの話を聞いた私は、分身したブック眼魔たちとの戦いの際にニュートンアイコンが守矢神社から飛び出してきたことを思い出した。なぜニュートンアイコンが守矢神社にあったのかが分かれば、残る英雄アイコンを探す手がかりになるかもしれない。そう思って呟いた私の言葉に、居間でゴロゴロしていた諏訪子様が応えてくれた。

 

「そのアイコンなら、うちの池に沈んでたのを拾ったよ~。最初は所々色が抜けてたけどね。」

「最初は所々色が抜けてた...?どういうことだ...?」

 

諏訪子様の言葉を聞いたタケル君は、顔をしかめて考え込む。タケル君の疑問に対して、私はふと思いついた仮説を話してみた。

 

「本来の力を失っていた、とかじゃないですか?ほら、昔のものが風化するのと同じように。」

「なるほど!さすが早苗、頭の回転が早いね!」

「いえいえ、それ程でもないですよ~!」

 

タケル君は私の答えが腑に落ちたらしく、私のことを誉めてくれる。ついつい調子に乗った私は、もう一つの思いつきを口走った。

 

「もしかしたら、力を失ったアイコンは近しい人物に惹かれるのかもしれませんね!私、化学や物理が大好きなんです!神奈子様と諏訪子様も幻想郷の技術革新を推し進めている第一人者ですし、それでニュートンさんがこの神社に...なんて、あるわけないですよね~!」

 

言ってる途中で非科学的な自分の論理が恥ずかしくなってしまい、私はおどけて誤魔化そうとしたが、タケル君は予想外なことに私の論理に食いついてきた。

 

「いや、可能性は十分にあるよ!それに、自分たちの目で見るまで真実は分からないでしょ?それが分かるまでは、心の眼で見たものに賭けてみてもいいんじゃないかな。」

 

タケル君はそう言って笑うと、懐から一冊の分厚い本を取り出してペラペラとページをめくっていく。私がしばらくそれを見守っていると、タケル君はページをめくる手を止めて私にその本を差し出す。私が本を受け取って開かれたページを見ると、そこには二本の刀を構えた男性の肖像画が描かれていた。

 

「これは...お侍さん?」

「伝説の剣豪、宮本武蔵!二刀流の剣術を得意とした剣豪で、佐々木小次郎との巌流島の決闘が有名だけど...聞いたことない?」

 

タケル君はキョトンとした顔でこちらを見てくるが、私には全くと言っていいほど聞き覚えがない。少し恥ずかしさを感じながら、私は首を傾げる。

 

「むさし...?い、いやぁ...私、どうにも歴史とか日本史が苦手で、偉人とかもあんまり知らないんです...科学とか物理は得意なんですけどね。」

「あぁ...そっか。」

 

タケル君は静かに呟いたが、その表情はどこか懐かしそうな笑顔を浮かべていた。その笑顔に疑問を持ちつつも、話の流れでこの人物がなにを示すかを察した私は話題を本筋に戻す。

 

「つ、つまり!この武蔵さんも英雄アイコンの一つで、彼に近しい人物を探してみようってことですよね!」

「そういうこと!早苗、誰か心当たりはないかな?」

 

タケル君に尋ねられた私は、即座に一人の...いや、()()()少女を思い浮かべた。

 

「武蔵さんは二刀流の剣豪なんですよね?だったら、知り合いに二刀流の剣士がいます!」

「本当に!?その人は、どこにいるの?」

 

少女の居場所を聞かれた私は、人差し指を伸ばした手をゆっくりと上げていく。やがて、腕が天に向けてまっすぐ伸びたところで、私は手を止めた。

 

「まさか...空!?」

「いいえ...空をも越えた向こう側、幽霊の彷徨う"冥界"ですよ...!」

 

もったいぶったのに、タケル君はゴーストハンターやってたからかあまりビックリしませんでした...タケル君の驚いた顔も見てみたかったので、ちょっと残念です。

 

 

 

それから早苗はタケルを連れて守矢神社を出て、守矢神社よりも少し標高の高い丘に移動した。そこには木々も茂っておらず、空に浮かぶ太陽の輝きが遮られることなく送られてくる。つまるところ、空が一望できる場所だ。

 

「でも早苗、冥界ってどうやって行くの?」

 

冥界を目指すことしか聞かされていないタケルは、立ち止まった早苗に問いかける。すると早苗は、タケルに見えないように悪戯な笑みを浮かべて言い放つ。

 

「ふふふっ...もちろん、"飛んでいく"んですよ!」

「えっ!?ご、ごめん早苗...俺、飛べないんだけど...」

 

わたわたと慌てるタケルを眺め、早苗はニヤリとほくそ笑む。驚いた顔を見てみたいという想いは、僅か数分後に達成されることになった。慌てタケルをひと通り楽しんだ早苗は、胸の前で両手を組んで奇跡の準備に取りかかる。呪文の詠唱で神への願いを捧げた早苗は、ばっとタケルに手をかざして叫ぶ。

 

「"飛翔"!」

「わっ...!」

 

早苗がパル○ナの鏡の女神さまのように奇跡をかけると、タケルの身体は宙に浮き上がり、まるで空中を泳いでいるかのような状態になる。ふわふわと浮遊するタケルは、感心を示しながら早苗に笑いかけた。

 

「これが早苗の力...すごいね!まるで俺がゴーストだったころみたいだ!」

「ふふっ、お褒めに預かり光栄です♪ただ、その奇跡で自由に空を飛べるのは五分間ですから、優雅に空の旅ってわけには行きませんけどね。」

 

早苗は冗談混じりに笑うと、身体に霊力を込めて自分も空中に浮き上がる。

 

「さて、それじゃ行きましょうか...冥界に!!」

「あぁ!!」

 

タケルは力強く頷き、早苗と共に空気を蹴って空高くへと昇っていく。それからしばらく上空を目指して飛行していくと、タケルはその途中で雲の輪っかのようなものを見つけた。不自然なまでに整った形の雲に疑問を持ったタケルは、風の音に負けないよう、大声で早苗に話しかける。

 

「早苗っ!あれは?」

「目ざといですね、タケル君!あれが冥界の入り口です!あの輪っかの中をくぐり抜けますよ!」

「冥界へのゲートってことか...分かった!」

 

早苗と並んで飛ぶタケルは、早くも奇跡による浮遊に慣れた様子で上昇していく。呑み込みの早いタケルに早苗は微笑み、その後に続く。雲の輪をくぐり抜けた瞬間、タケルの目に写る景色は青空から一変した。灯籠を両端にもつ石畳の道に、広がる鬱蒼とした森林。その中に、大きな和風の屋敷が佇んでいた。圧巻と言える冥界の光景に呆然としていたタケルだったが、浮遊していた身体が急に重力に引かれ、石畳の道に顔面からダイブする羽目になった。

 

「あ...五分経って"飛翔"が切れたんですね。タケル君、大丈夫ですか?」

「いてて...うん、大丈夫。」

 

少し遅れて冥界に着いた早苗は、大の字で石畳に寝そべるタケルに手を差し伸べる。その手を借りて立ち上がったタケルは、改めて冥界を見回した。着いた瞬間には気づかなかったが、冥界の空中には半透明で尻尾がピョロンとした幽霊が至る所にいる。そんな幽霊たちを目にしたタケルは、思わず微笑む。

 

「へぇ...ここが冥界か。なんか、幽霊って思ってたより可愛いね。」

「ですよね~!一匹連れて帰ってペットにしようかな?」

「えっ!?いや、それは止めといた方がいいんじゃないかな...?」

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

突拍子もないことを言い出し、目を輝かせる早苗に驚愕しながら彼女を制止するタケル。そんな彼ら耳に、冥界の少し冷たい空気を切り裂くような悲鳴が届いた。その悲鳴を聞いた二人は顔を見合わせ、悲鳴の聞こえた方へ一気に駆け出した。

 

 

「ひぃっ...!オ、オバケッ!!?」

 

白銀の髪に黒をリボンを付け、緑のジャケットを着た少女は、目の前で右腕と一体化している刀を構える化け物を"オバケ"と呼びながら尻餅をついた。二本の刀を背負うその少女の周りには、一匹の白い幽霊が漂っている。

 

「オ、オバケだと...?まぁいい、お前のアイコンを寄越せ。それが"あの方"の望みなのでな...!」

 

そんな彼女に迫る化け物──刀眼魔は可愛らしい呼称に動揺しながらも刀の切っ先を少女に向け、威圧的に要求を行う。対する少女はパニックに陥っている様子で、今にも泣き出しそうな顔で「悪霊退散...!悪霊退散...!」と繰り返し呟きながら両手をこすりあわせていた。そこに駆けつけた早苗は、少女の姿を見るなり大声で叫ぶ。

 

「"妖夢"っ!!」

「眼魔...!」

「タケル君、行きますよ!」

「む?貴様らは...!」

 

橙の光となったタケルが早苗と一体化し、シンクロした早苗は走りながらゴーストドライバーを出現させ、オレゴーストアイコンを起動。続けてドライバーのカバーを展開し、オレアイコンを装填してカバーを閉じる。するとドライバーから飛び出したオレパーカーゴーストが左右の腕で刀眼魔に攻撃を仕掛け、少女から引き離していく。

 

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』

「くっ、むうっ!」

「「変身!!」」

『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!』

 

タケルと声をあわせて叫んだ早苗はドライバーのトリガーを操作し、粒子を身にまとってトランジェント態に変身。戻ってきたオレパーカーゴーストを着込み、オレ魂に変身して刀眼魔に突撃する。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

早苗は疾走してきた勢いを乗せた拳を、オレパーカーゴーストの攻撃に怯んでいた刀眼魔に浴びせて吹き飛ばす。刀眼魔が草の上を転がる中、早苗はドライバーからブレードモードのガンガンセイバーを召還して装備する。右腕の刀を支えに立ち上がった刀眼魔と早苗が、互いの得物を手ににらみ合う...その光景を、状況について行けない少女はぼんやりと眺めていた。

 

「ぬうっ...そうか、お前がゴーストの力を継承した小娘か...!」

「まぁ、そんなとこです。お近づきの印に、どうして妖夢を狙ってるのか教えてもらいましょうか?」

「フンッ...断るっ!」

「でしょうねっ!」

 

早苗と刀眼魔は同時に駆け出し、ガンガンセイバーのと右腕の刃をぶつけ合う。激しく鍔迫り合う早苗は火花を散らすガンガンセイバーに力を込めて刀眼魔を押し返し、刀眼魔はそれに合わせて飛び退く。そして着地と同時に鋭く突きを放つが、それを見切った早苗は身を翻して回避するとともにガンガンセイバーでの斬撃を見舞った。

 

「くっ...なかなかやるな。」

「それはどうも。と言っても、見切ったのはタケル君ですけどね。」

 

一定の間合いを保ったまま会話する早苗と刀眼魔。そして、再び剣戟が始まろうとしたその時──

 

「ガルルルッ!」

「えっ!?きゃぁっ!!」

「早苗っ!」

 

──疾風の如き"黄金の豹"が早苗に襲いかかった。赤いマフラーを巻き、人型の豹のような姿をしたその化け物が森林の中から現れ、鋭く尖った爪で早苗の右肩を切りつけたのだ。

 

「なんですか!?豹!?」

「眼魔...じゃないよね。」

 

傷を負った右肩を押さえながら、早苗は四つん這いでこちらを睨んでくる豹の化け物を見据える。痛みをこらえ、早苗がガンガンセイバーを握り直した時、豹の化け物が小さく呟いた。

 

「ア...ギト...?」

「「えっ?」」

 

早苗とタケルが豹の化け物の言葉に疑問を抱いた瞬間、豹の化け物は瞬く間に間合いを詰め、素早い格闘術で早苗に攻撃を仕掛ける。早苗はとっさに腕をクロスさせて防御しようとするが、豹の化け物はその腕を弾き、ガンガンセイバーの柄を握る右手首に手刀を叩き込む。それによってガンガンセイバーを手放してしまった早苗を、豹の化け物は容赦なく攻め立てる。突然現れた豹の化け物に苦戦を余儀なくされる早苗に対し、邪魔者がいなくなった刀眼魔は再び獲物に刀を向ける。

 

「...さぁ、貴様のアイコンを出せ。さもなくば、命はない!」

「ひっ...ア、アイコンってなんですか!?わっ、私はなにも知りませんっ!!」

 

威圧感のある催促の声で我に帰った少女は、迫り来る刀眼魔に背を向けて逃げ出す。がむしゃらに逃げる少女に対し、刀眼魔は散歩でもするかのようにゆっくりと彼女を追う。そして、歩みはそのままに右腕を素早く振り抜いた。すると刀の軌跡に真空刃が生成され、少女に向けて射出される。

 

「きゃっ...!」

 

空気を切って飛んでいった真空刃は逃げる少女のふくらはぎを掠め、足がもつれた少女はその場で転ぶ。そして、体を打ちつけた拍子に彼女のジャケットの内ポケットの中から、綺麗に磨かれた鉄製の刀の鍔が飛び出し、ころころと地面を転がっていく。やがて足下に転がってきた刀の鍔を、刀眼魔は左手でつまみ上げた。

 

「これは...?」

「っ...あっ!返して!!それは、おじい様の...」

 

刀眼魔の手中にそれを見た少女は、目を見開いて必死に手を伸ばす。一方、豹の化け物に押されていた早苗の目に、地面に伏して追い詰められた少女の姿が写る。

 

「くぅっ...!妖夢っ!!」

「早苗、ニュートンだ!」

「はいっ!」

 

その身を震わせ、渾身の力を込めて豹の化け物を振り払った早苗は、ニュートンアイコンを起動してドライバーに装填し、カバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナー!』

 

ドライバーから出現したニュートンパーカーゴーストが体当たりで豹の化け物を阻害している隙に、早苗はトリガーを操作する。

 

『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか~!』

 

ニュートンパーカーゴーストを羽織った早苗はニュートン魂に変身。再び飛びかかってきた豹の化け物に右手の球体を突き出し、斥力波で遠方に吹き飛ばす。豹の化け物と距離を取った早苗は刀眼魔に向けて左手の球体を突き出し、引力を利用して自分の近くに引き寄せていく。

 

「ぬおっ...!?」

「はあっ!」

 

そして、早苗は接近して来た刀眼魔に斥力を纏った右手でパンチを叩き込み、豹の化け物と同じ方向へと吹き飛ばした。地面を転がる刀眼魔だったが、すぐさま立ち上がり早苗を睨みつける。

 

「くっ、面倒な...!まぁいい、ここは退くとしよう...」

「グルゥ...」

 

刀眼魔は悪態を吐きながらも退却を開始し、豹の化け物も小さなうなり声を上げると、あっという間に森林の中へと消えて行った。

 

「ま、待てっ...ッ!」

「早苗!今は、あの子と君の手当てが先だ。」

「...はい。」

『オヤスミー』

 

早苗はすぐさま追いかけようとしたが、右肩の痛みで座り込んでしまう。タケルの言葉を聞き入れた早苗は、顔を歪ませながら変身とシンクロを解除した。早苗から出てきたタケルは、早苗の表情を見て声をかける。

 

「早苗、大丈夫?ごめん、君のこと守れなくて...」

「気にしないで、タケル君。このくらい、大したことないですよ!私のことより、妖夢を!」

「あ...うん。」

 

早苗は曇っていた表情を一瞬の内に笑顔に変えて立ち上がると、右肩を押さえながら少女の下へ向かう。その表情にどこか引っかかりを感じながらも、タケルはその後に続いた。少女の下にたどり着いた早苗は、口も半開きでぼんやりと森林を見つめている少女に声をかける。

 

「妖夢、大丈夫?」

「・・・」

 

早苗が優しい口調で問いかけるが、少女は心ここに有らずといった様相でまるで反応がない。タケルと顔を見合わせ、早苗は大きな声で少女に声をかける。

 

「ねぇ、妖夢!妖夢ったら!!」

「...みょん!?さ、早苗...おどかさないで下さいよぉ...」

 

世にも珍しい驚き声を上げた少女はビクッと女の子らしく跳ね上がるが、早苗の顔を見てホッと胸をなで下ろす。優しく微笑んだ早苗は少女に手を差し伸べ、その手を取った少女はゆっくりと立ち上がった。

 

「いやぁ、あんまり呆けているものだから...心配になっちゃって。」

「あ、そうだったんですか...ごめんなさい。気が動転してしまって...」

 

丁寧な口調で話す少女は、気恥ずかしそうに頬をかく。ジャケットとスカートの土を払い、身嗜みを整えた少女は、深々と頭を下げた。

 

「ともかく、助けくれてありがとうございました!早苗に、え~っと...あなたは?」

「俺は天空寺タケル。ゴーストハンター...だったけど、今は早苗の助手みたいな感じかな。」

「そうですか...タケルさん、ありがとうございました!私は"魂魄妖夢(こんぱくようむ)"、この冥界の管理者である西行寺幽々子(さいぎょうじゆゆこ)様に仕える者です。」

 

妖夢とタケルが互いに自己紹介を終えたところで、早苗はタケルに告げる。

 

「そして妖夢こそが、さっき話した"知り合いの剣士"なんです!」

「えっ、この可愛い子が!?」

「ふぇ!?か、可愛い...!?えっと...と、と、とりあえず!白玉楼(はくぎょくろう)にご案内しますので、ついて来て下さい!」

 

顔を真っ赤にした妖夢に連れられ、早苗とタケルは白玉楼と呼ばれる冥界唯一にして最大のお屋敷に向かうのだった...

 

 

「そう...妖夢がお世話になったのね。ありがとう、タケルくん。」

 

タケルの正面に座るふんわりとした雰囲気で、桃色の髪と淡い水色の服装の女性はそう言って微笑んだ。彼女は冥界を彷徨う幽霊たちの管理者であり、妖夢の主人にあたる西行寺幽々子。幽々子と妖夢の家にあたる屋敷──白玉楼に招かれたタケルは幽々子に居間に来るように促され、ここに至るまでの経緯を彼女に説明していたのだ。ちなみに、早苗と妖夢は別の部屋に傷の手当てをしに行っている。

 

「いえ...」

 

だが、感謝されたタケルの返事は暗い。幽々子はその態度を不思議に思いながら木製の皿から醤油せんべいをつまみ、茶を啜る。マイペースな幽々子を尻目に、タケルは小さな声で呟いた。

 

「妖夢に怪我させちゃってますし、一緒に戦ってくれてる早苗にまで...俺は、これから早苗のことを守っていけるのか...?」

「ねぇ、タケルくん。あなた、仮面ライダーってやつだったのよね?」

「えっ...?あぁ、はい。」

 

タケルの独白が聞こえていなかったのか、幽々子は唐突な質問をタケルに投げかける。いきなりな質問にタケルは一瞬たじろいだが、すぐに答えを返す。

 

「何故、あなたは戦っていたの?傷つくことだってあったでしょうに、それでも戦っていた理由は、なに?」

 

いきなり真剣味を帯びた声になった幽々子の質問で、タケルは気が引き締まる感覚に包まれる。そしてその答えを探したタケルは、少し間を置いて答える。

 

「それは...俺の命を、みんなの命を、未来に繋ぐためです。」

「そう...それはきっと、早苗も同じよ。」

 

まるで答えが分かっていたかのように幽々子は言葉を返し、2枚目の醤油せんべいに手を伸ばす。

 

「あなたが命を燃やして、みんなを守るために戦っていたように、早苗も誰かを守るために戦うことを望んでるなら...」

 

途中で言葉を切った幽々子は手にした醤油せんべいを綺麗な二等分に割り、その片割れをタケルに差し出しながら告げる。

 

「あなたがやるべきことは"守ること"じゃなく、それを"助けること"なんじゃないかしら?」

(「もう!私たちは一緒に戦うパートナーなんですから、困ったことがあったらお互い様です!」)

 

その言葉を聞いたタケルは、はっとした表情でうつむき加減だった顔を上げた。そして、幽々子からせんべいの片割れを受け取り、まろやかな醤油の味わいを口の中で楽しむ。しばらくしてそれを飲み込んだタケルは、いつもと同じ眩しいほどの笑顔を浮かべ、スッと立ち上がった。

 

「俺、早苗と話してきます!幽々子さん、ありがとうございました!」

「ふふっ...私は、おやつを食べてただけよ?」

 

茶目っ気のある幽々子の返事を聞いたタケルは小さく微笑み、廊下に出て突き当たりの部屋に向かう。そして、二人の談笑が聞こえたことで部屋の中に早苗がいることを確信したタケルは、目の前の襖を迷いなく開けた。

 

「早苗~!少し話したいことが...ってあぁっ!!?」

 

そこには、上半身の服をほとんどはだけさせた姿の早苗が座っていた。更に、その隣にはスカートをかなり捲って生足を晒す妖夢も座っていた。そう、俗に言うラッキースケベである。慌てて背を向けたタケルだったが、時すでに遅し。皆さんご存知の通り、こういった事態に居合わせた者の末路は...

 

「ふぇっ!!?ちょっ、タケル君!!?」

「きゃぁぁぁっ!!?変態っ!!けだものっ!!覗き魔っ!!」

「ちょっ、ちょっと待って!妖夢!いたっ、痛いって!!」

 

とりあえず手近にあるものを投げつけられる、というお約束の餌食になったタケルは、妖夢から様々なものを投げつけられながら居間に逃げ帰る羽目になる。その最中、投げつけられたものの中の一つがタケルの足下に転がった。

 

「(これ...もしかして!)」

 

物の弾幕をかいくぐりながらそれを拾い上げたタケルは、ホームベースに滑り込む野球選手さながらの飛び込みで居間に帰還する。コブを作って倒れ込むタケルを、幽々子は穏やかな笑みで眺めていた。もちろん、醤油せんべいを片手に。

 

 

「はぁ...はぁ...!ビ、ビックリしたぁ...!」

「妖夢、大丈夫?タケル君、別に悪気はないんでしょうけど...女子が着替え中の部屋をノックもなく開けるのは、流石に宜しくないですね。」

 

覗き魔の汚名を着せられたタケルを撃退した妖夢は、息を上げながら胸に手を当てる。パニック状態でやったらめったら物をぶんなげた妖夢に対し、早苗は比較的落ち着いた様子で服装を正して立ちあがる。

 

「早苗は落ち着いてますね...先に居間に戻ってて下さい。私は片付けてから行きますから。」

 

妖夢の言葉に「分かりました。」と返した早苗は、包帯を巻いた肩の調子を確認しながら廊下を戻っていく。部屋に残った妖夢はふくらはぎに巻いた包帯を指でなぞり、強く唇を噛み締めた。

 

「(おじいさま...幽々子様...私...私は...!)」

 

そんな時、妖夢の隣の畳に一本の矢が撃ち込まれた。妖夢は即座に警戒を強めるが、その中で矢にくくりつけられたら紙に気づく。

 

「これは...矢文?一体誰が...?」

 

その矢文を取り外した妖夢は、その上に綴られた文字を読み進めていく。そして、その文章を読み終えた妖夢は周りを漂う幽霊──"自らの半身たる霊"を、静かに見上げた...

 

 

「ふぎゃ!?」

「幽々子さ~ん、タケル君はどこに?」

「あら、あなたの下にいるわよ~。」

「あ、ほんとだ!」

 

居間に戻った早苗は、倒れていたタケルを踏んづけているのに気づかないという漫才みたいな展開を披露する。事故ではあるが、これも女子の着替えを覗いてしまった天罰なのかもしれない...そんなことを、早苗の足に敷かれたタケルはひしひしと感じるのだった。

 

「あぁ...大丈夫ですか、タケル君?」

「だ、大丈夫...」

 

タケルの上から降りた早苗は彼に手を貸し、タケルはその手を取って立ち上がる。そんな彼らの背後から、妖夢がぴょこっと顔を覗かせた。

 

「あれ?妖夢、どうしたんです?なんだか顔色が悪いような...?」

「う、うんと...えっと...わ、わたし!お茶、つくって、くる!」

「えっ?あっ、はい。」

 

ふと早苗が尋ねると、妖夢は慌てた様子で机の上の急須を手に取り、覚束ない足取りでそそくさと台所の方へと向かっていった。訝しげな表情で顔を見合わせる早苗とタケルだったが、幽々子は変わらぬ調子で「あなたもおせんべい食べる?」と早苗に醤油せんべいを差し出す。

 

「あ、はい!頂きます!」

 

せんべいを受け取りながら座った早苗に合わせ、タケルもその隣に座る。そして、懐からところどころ色の抜け落ちたアイコンを取り出した。そのアイコンの色が抜け落ちていない部分には、うっすらと赤色が残っている。

 

「んっ!ほれっれらいろんれすあ?」

「うん、早苗。ひとまず食べてから喋ろうか。」

「MGMG...では、改めて。えっ!それってアイコンですか?」

 

せんべいを食べ終えた早苗の質問に、タケルは頷きで答える。

 

「多分、ムサシアイコン...さっき、妖夢から投げつけられた物の中に混じってたんだ。」

「じゃあ、やっぱりムサシアイコンは妖夢が持ってたんですね。」

「きゃうっ!!?」

 

ムサシアイコンについて話し合っていたタケルたちの背後で、お茶を運んできた妖夢が躓き、悲鳴を上げた。「ん?」と振り向いたタケルの顔面に、妖夢が手放してしまった急須から熱々入れ立てのお茶がぶっかかる。そして、タケルがうめき声を上げるより先に急須が額に激突した。ちなみに、隣で座っていた早苗には一滴もお茶はかからなかった。まさに、奇跡。

 

「あっつぅぅぅぅぅ!?」

「はわわ..ごめん、なさい!タケ...ル!」

「(...タケル?それに...!)」

 

妖夢は床の上でゴロゴロと悶えるタケルに駆け寄り、片言な喋り方で必死に謝罪する。妖夢が座り込んだ際に見えたふくらはぎに、早苗は違和感を覚えた。その時、お茶を一口飲んだ幽々子が話を切り出した。

 

「さて、妖夢。あなたの本体はどこにいるのかしら?」

「えっ・・・!?わ、わたしが、妖、夢です!」

「ふふっ...ごまかしても無駄よ。私はあなたが小さいころから見てるんだから、ね。」

「顔色が悪いのも、霊体だからですよね?ふくらはぎの包帯がないですし、妖夢はタケル君のことを"タケルさん"って呼んでましたからね。」

 

幽々子と早苗に諭された妖夢──いや、彼女の"半霊"が扮した妖夢は少しの間うなだれる。だが、急にバッと顔を上げると、震えた声で話し始めた。

 

「ごめん、なさい...わたしに、たの、まれた。けっとう、だから、って...!」

「け、決闘だって!?まさか...!」

 

決闘という単語を聞いて、床に突っ伏していたタケルは飛び起きた。まさかという彼の言葉に、半霊の妖夢は小さく頷く。

 

「うん...!さっき、のかいぶつ、おじいさま、の、刀の鍔、取ってった...!とりかえし、たければ、ひとり、で来い、って...!」

「じゃあ、妖夢は刀眼魔のところに行ったんですね?決闘の場所は?」

 

本来の妖夢よりも気が弱い半霊の妖夢に、早苗は幼い子どもに尋ねるごとく優しく話を聞き出していく。

 

「おっきな、さくら、の木...たぶん、さいぎょう、あやかし。おねがい...わたし、をたす、けて!ほんとは、こわいけど、おじいさまの...」

 

早苗は、必死で声を絞り出す半霊の妖夢の頭を優しく撫でる。そして、穏やかな笑顔を見せながら「大丈夫、大丈夫。わかってるよ。」と繰り返した。すると半霊の妖夢は落ち着いたらしく、早苗の顔を見て頷いた。

 

西行妖(さいぎょうあやかし)ですね...幽々子さん、妖夢の半霊をお願いします!タケル君、行きましょう!」

「えぇ、分かったわ。」

「ちょっ、ちょっと待って!早苗~!」

 

半霊の妖夢を幽々子に任せた早苗はタケルに声をかけつつ、床でか転がっていたムサシアイコンをかっさらって白玉楼を飛び出した。タケルはヒリヒリした顔の痛みを気にしながら早苗を追いかける。端正に整えられた白玉楼の庭園にさしかかった辺りで、タケルは早苗の背に叫んだ。

 

「早苗っ!早苗はどうして戦うの?」

「どうしてって...ここに来る前、話したとおりです!」

 

早苗は振り向かず、真っ直ぐに走りながら答える。

 

「私は、みんなが当たり前に笑っていられる時間を!幸せを!護りたいんです!!」

「じゃあ、さっきの戦いの後に暗い顔だった理由は...」

「妖夢に怪我させちゃいましたから...だけど、絶対に死なせません!」

 

早苗は一層力強く叫んで更にスピードを上げたが、タケルもそれに負けはしない。加速する想いを乗せて、二人は庭園を駆け抜けた...

 

 

冥界にある小高い丘に、ただ一本根付く桜の木。永久に花咲くことはないと言われている西行妖を咲かせようと、幽々子が幻想郷中の春を集めたことで、冬が終わらない「春雪異変」と呼ばれる事件が起こったこともあった。そんな西行妖の下で、刀眼魔は静かに決闘の時を待ち構えていた。

 

「...来たか。」

 

小さく呟いた刀眼魔の前に、妖夢は堂々と姿を現した。冷たく、どこか淋しい冥界の風が、彼女の銀髪を小刻みに揺らす。刀眼魔は妖夢に示すかのように刀の鍔を掲げた。

 

「おじいさまの鍔...返してもらいます。」

 

刀の鍔を見た妖夢は、背中に背負った二本の刀を鞘から抜き出す。右手には長剣"楼観剣"を、左手には魂魄家に受け継がれてきた"白楼剣"を装備した妖夢は、刀眼魔に向かって駆け出した。

 

「かかって来るがいい!アイコンは、貴様を殺してからゆっくりと探すとしよう...!」

「はあっ!」

 

妖夢は溢れんばかりの気迫と共に切りかかるが、それを刀眼魔は左手で軽々と払いのけた。それからも、刀眼魔は妖夢の攻撃を防いだりいなしたりするだけ。敢えて攻撃はせずに、必死で攻める妖夢を弄ぶのだ。

 

「どうした?さっきから掠めてもいないぞ?」

「くっ...!嘗めた真似を...!」

「妖夢っ!」

 

刀眼魔の分かりやすい挑発を受けた妖夢が悔しさに顔を歪ませるなか、彼女を追ってきた早苗とタケルも西行妖に到着する。早苗の声を聞いた妖夢は、戦闘中にも関わらず視線をそちらに向けてしまった。

 

「早苗!?どうして...うっ!」

「邪魔はさせん...!」

 

隙を見せた妖夢を左手で殴りつけ、刀眼魔は懐から尻尾のようなデザインのあるアイコン──眼魔アイコンをいくつも取り出す。それを刀眼魔が早苗たちの前にばらまくと、眼魔アイコンがそれぞれ黒い霧のようなものに覆われ、のっぺらぼうな人型の怪物に変化した。

 

「ウゥ...アァ...!」

「えっ!?アイコンが怪物に...!」

「眼魔アサルトだ!そこまで強くないけど、数が多いから気をつけて!()()()、早苗!」

 

初めてタケルから行くよと言われた早苗はその言葉に少しだけ微笑み、力強い頷きと共に、いつもより大きな声で「はいっ!」と返した...

 

幻想郷のすべての命、すべての幸せの為に、共に戦う"相棒"として。

 

タケルと背中を合わせてシンクロした早苗は、即座にオレアイコンを起動してゴーストドライバーに装填し、カバーを閉じてトリガーを操作する。

 

『アーイ!バッチリミナー!』

「「変身っ!」」

『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

オレ魂に変身した早苗はガンガンセイバーを召喚し、ゾンビのような動きで周りを取り囲む眼魔アサルトたちと対峙する。ナイフ形状の武器を振り回す眼魔アサルトを早苗が切り裂いていくと、黒い墨のようなものを撒き散らしながら眼魔アサルトたちは消滅していく。あっさりと散っていく眼魔アサルトだが、その数だけは相当なもので、早苗の周りにはまだ50体もの眼魔アサルトが蠢いていた。

 

「あぁっ、もう!早く片付けないと、妖夢が...!」

「早苗、こういう時は...」

「...了解!」

 

早苗はブレードモードのガンガンセイバーの片刃を取り外し、柄の端に刃の根元がくるように取り付ける。早苗は、集団戦に適するナギナタモードに切り替えたガンガンセイバーをくるっと一回転させて、再び眼魔アサルトたちを蹴散らしていく。

 

「くっ...おじいさまの鍔を、返せぇぇぇぇっ!」

「お呼びでない客も来たことだ、お遊びはここまでにしよう...!」

 

刀を手放して地面に倒れ込んでいた妖夢は、手近にあった楼観剣を杖代わりにして立ち上がり、感情的な叫びとともに刀眼魔に突撃する。間合いに入ったところで真正面から切りかかるが、刀眼魔は右腕を素早く振り上げ、鋭い金属音を響かせながら楼観剣をはじきあげた。

 

「きゃっ...!」

 

刀がぶつかり合った衝撃で妖夢は尻餅をつき、地面に転がっている白楼剣の隣に楼観剣が突き刺さる。得物を失った妖夢に勝利を確信した刀眼魔は、彼女にゆっくりと迫りながら言う。

 

「お前の実力など、所詮はその程度だ...」

「私は...おじいさまに、幽々子様に誓ったんです...もっと強くなるって...!」

「その誓いがあって、弱い。なんとも愚かしいな...」

 

刀眼魔の容赦ない言葉に唇をかみしめ、涙を浮かべる妖夢に──

 

「なにが..."道"を駆けてる人間の!なにがッ!」

 

命を燃やす英雄(タケル)の──

 

「愚かしいんだ!!」

 

叫びが届いた。

 

「人の想いに限界なんて無い!諦めない限り、どこまでだっていけるんだ!!」

 

タケルが戦いの合間を縫って妖夢に激励を送る。それを鼻で笑いとばした刀眼魔は、妖夢の首めがけて右腕の刀を勢い良く振り下ろした。

 

「死ねっ!」

「・・・お断りです。私は...足掻く。」

 

小さく、だが確かに呟いた妖夢は尻餅をついた姿勢から刀眼魔の腹部に蹴りを入れ、白楼剣と楼観剣のもとに向かう。楼観剣を引き抜き、白楼剣を拾い上げてそれぞれ鞘に収める。柄から両手を離して両目を瞑り、大きく深呼吸をした妖夢の脳裏に、幼い頃の祖父の声が蘇った。

 

「(よいか、妖夢。生きるとは...足掻くこと。儂も、お前も、その権化のような存在だ。だからこそ、どんな時でも諦めることだけはするな。逆境でこそ、お前は真の力を引き出せるだろう...)」

「くっ!小娘がっ...!」

 

とどめを刺す寸前で妖夢に反撃を許してしまった刀眼魔は、すかさず追撃をするべく妖夢に向けて駆け出す。

 

「魂魄流...」

 

その瞬間、妖夢の姿が揺らいだ。ぼんやりとした蜃気楼に包まれ、妖夢の視認が困難になっていくのだ。攻撃対象の姿が消え始めたことに動揺した刀眼魔が、走る速度を遅めたその時だった。

 

「..."幻双斬"ッ!」

 

刀眼魔の背後から、妖夢の声とシャリンという2つの金属音が流れたのだ。それと同時に──

 

「ぐおっ!!?」

 

刀眼魔の全身に激痛が走り、切り裂かれた部位から墨を噴きだす。白楼剣には霊を成仏させる力があり、それは霊体である眼魔にも有効だったらしい。片膝をついた刀眼魔は、荒い息のまま妖夢に怒号を上げる。

 

「な...なにをしたっ!?」

「存在感を限界まで薄めて、お前に姿を隠しながら切り捨てたまで。半人である私の..."私たち"だけの、剣術です!」

「なにぃ...!ふざけるなッ!!」

 

刀眼魔は傷ついた身体に鞭を打って立ち上がり、妖夢に切りかかる。一方、早苗はガンガンセイバーの柄の付け根にある瞳のマーク──エナジーアイクレストを、ドライバーの瞳にかざして"アイコンタクト"を行う。

 

『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』

 

早苗の背後に橙炎の紋章が展開され、その炎がナギナタモードのガンガンセイバーの両刃に宿る。

 

『オメガストリーム!』

「はあぁっ!」

 

早苗はガンガンセイバーを振り回して、橙炎の旋風で10体もの眼魔アサルトを一掃する。それでも、彼女の周りにはまだ25体の眼魔アサルトが残っている。息もつけぬ状況で戦う早苗の懐から、赤い閃光が走った。

 

「うわっ!?」

 

早苗の懐から自ずと飛び出たムサシアイコンは、赤い光に包まれながら浮遊して妖夢のもとに飛んでいく。その途中で赤い霧に包まれたムサシアイコンは、ノースリーブの赤いパーカーゴースト──ムサシパーカーゴーストに変化。右腕を振り上げた刀眼魔のがら空きの腹部に、腕のブレードで回転切りを叩き込んだ。

 

「うおっ...!!」

「きゃぁぁぁぁ!オ、オバケッ!?」

 

刀眼魔が斬撃に怯んだ隙に、ムサシパーカーゴーストは赤い霧を発生させながら妖夢の周りを旋回。霧で妖夢を包み込み、その霧を従えて早苗から少し離れた場所まで移動した。そこで霧を晴らして妖夢を解放すると、ムサシパーカーゴーストは舞うような動きで眼魔アサルトを斬りつけながら、早苗の前に躍り出る。

 

「武蔵さんっ!!」

 

ムサシパーカーゴーストはタケルの嬉々とした声に頷くと、再び赤い霧を纏ってムサシアイコンに戻る。重力に従って落下するムサシアイコンを、早苗は見事にキャッチしてみせた。

 

「色が戻った...!あとは任せて下さい、妖夢!」

「うん...!」

「力を貸して下さい...ムサシさん!」

 

早苗はムサシアイコンに強く念じ、スイッチを押した。黒いシャッター風の瞳が「01」という数字に切り替わったムサシアイコンを、早苗はドライバーのオレアイコンと入れ替えてカバーを閉じる。

 

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』

 

ラップ調の待機音と共にドライバーから飛び出したムサシパーカーゴーストは、その腕のブレードで手近な眼魔アサルトを軽く斬りつける。それに合わせて、早苗はいつものようにトリガーを操作した。

 

『カイガン!ムサシ!』

『決闘!ズバッと!超剣豪!!』

 

ドライバーの瞳が交差する二本の刀の絵柄に変わり、早苗は粒子なって消滅したオレパーカーゴーストと入れ替わりにムサシパーカーゴーストを羽織る。すると、早苗の髪飾りがドライバーの瞳と同じデザインに変わり、早苗はムサシ魂へと変身を遂げた。

 

「おぉ...!よぉし~!」

 

歓声を上げた早苗はガンガンセイバーをナギナタモードにした際のパーツを取り外し、収納されていたグリップを引き出して小刀形状に変形させる。

 

「天下無双!かかって来なさい!!」

 

二刀流モードに切り替えた二本のガンガンセイバーを構えて大見得を切った早苗は、襲い来る20体もの眼魔アサルトたちを多彩な剣術で切り捨てていく。一文字斬り、袈裟斬り、交差斬り、回転斬り。次々と繰り出される華麗な技に眼魔アサルトたちは手も足も出ずに倒れ、一体残らず霧散した。

 

「さぁ、あなたが最後ですよ!刀眼魔っ!!」

「使えん雑魚どもめ...!いいだろう、刀の錆にしてくれるッ!!」

 

消えた眼魔アサルトたちに汚い言葉を吐き捨てた刀眼魔は、早苗目掛けて荒々しく右腕を振り抜く。早苗はそれを片方のガンガンセイバーで受け止め、小刀のガンガンセイバーで刀眼魔の胴を横一閃に切りつけた。

 

「くっ...!」

「まだまだっ!」

 

火花を散らしながら後退する刀眼魔に、早苗は舞うような剣術で怒涛の追撃を行い、連撃の締めに二本同時の突きを繰り出す。刀眼魔は派手に吹き飛ばされ、西行妖に打ちつけられる。

 

「ぐっ...おぉ...!」

「終わりですっ!」

 

早苗は、パラパラと木屑を散らしながら着地した刀眼魔に力強く宣言し、エナジーアイクレストをドライバーの瞳にかざしてアイコンタクトを行う。

 

『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』

 

背後に赤い炎の紋章が形成され、そのエネルギーが早苗の握る二本のガンガンセイバーの刃に蓄積されていく。赤い光に包まれたガンガンセイバーを頭上と脇にそれぞれ構え、受けの姿勢を整えた早苗は、刀眼魔を待ち受ける。

 

「くっ...ウォォォォ!」

 

全身全霊の叫びと共に突撃した刀眼魔は、早苗の頭上から唐竹割りを放つ。だが、早苗は頭上に構えたガンガンセイバーで刀眼魔の腕を受け止め、がら空きになった刀眼魔の腹部をすれ違いざまに斬りつける。刀眼魔は苦し紛れに右腕を振り抜こうとしたが、その腕を早苗はガンガンセイバーで弾きあげる。そのまま頭上に持ち上げたガンガンセイバーを真っ直ぐ静止させ──

 

「命、燃やすぜ!」「命、燃やします!」

『オメガスラッシュ!』

 

──素早く振り下ろした。刀眼魔は二つの赤い刃に切り裂かれ、身体中から墨を吹き出しながら倒れ込む。

 

「かはっ...申し訳ありません..."ジャクス様"...!」

 

その言葉を最後に、刀眼魔は爆散した。

 

『オヤスミー』

 

刀眼魔の最期を見届けた早苗は変身とシンクロを解除し、タケルも彼女の中から抜け出す。戦いを終えた二人の下に、妖夢はぱたぱたと駆けてくる。

 

その笑顔を見た早苗は、どこか誇らしげに優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

「はい妖夢、あーん。」

「あむ...んっ!おいしいです、幽々さま~♪」

「あらあら、抱きついちゃって...可愛いわっ♪」

 

「「「いや、どうしてこうなった!?」」」

 

白玉楼に帰り着いた早苗たちは、早々にツッコミを余儀無くされた。幽々子の膝の上に()()()姿()()()()がちょこんと座って、おせんべいをあーんされているのだ。妖夢は顔を真っ赤にさせ、タケルは口をあんぐりと開け、早苗は驚きながらもその光景に微笑む。

 

「ゆ、幽々子様!?それってまさか...!?」

「そのま・さ・か。あなたの半霊よ♪本体と離れすぎて幼児化しちゃったのね~。」

「へぇ~!妖夢の小さい頃ですか!可愛いですね~!」

「あっ、さなえ!わたし、助けてくれて、ありがとう!」

 

早苗に駆け寄って、ぺこりとお辞儀をした幼い妖夢を早苗はよしよしと撫でる。もう既に蒸発寸前のような状態の妖夢だが、盛り上がる幽々子と早苗は止まらない。

 

「そうでしょ~?この頃は幽々さまなんて呼ばれてたんだけどね。今でも呼んでくれていいのよ、妖夢?」

「い、いえ...!主である幽々子様に、そんなご無礼は...!」

「幼い妖夢だから...妖夢じゃなくて、"幼夢"ですねっ!」

「早苗っ!茶化さないで下さいっ!!」

「そうそう、他にも可愛い話が五万とあってね...」

「ぜひ!ぜひ!聞かせて下さいっ!!」

 

「タケルも、ありがとう!」

「ううん、妖夢が無事で良かったね。」

 

「も、もうやめてくださぁぁぁいっ!!」

 

幼夢がタケルにも撫でられ、恥ずかしさが限界点に達した妖夢の叫びと、穏やかな笑い声が冥界に響き渡った。早苗の"道"は、まだ始まったばかり...

 

 

 

「あっ、そうだ早苗。」

 

守矢神社への帰り道、冥界の出口へ向かう石畳の途中で、タケルがふと早苗に声をかけた。少し前を歩いていた早苗は、半身だけ振り向いてタケルを見る。

 

「ん?なんですか?」

「色々、ありがとう。あと...」

 

言葉を切ったタケルは、少し照れくさそうに頬を掻いて続けた。

 

「改めて、よろしく。パートナーとして...ね!」

 

その言葉を聞いた早苗の笑顔を、冥界の出口から差し込む夕焼けが艶やかに照らした。早苗たちが取り戻した英雄アイコンは、2つ...

 

 

 

「ねぇ~ミツ!お腹すいた!おやつないの?」

「ばっか、喋るな!バレるだろうがっ!!」

 

冥界から立ち去る早苗とタケルを、木の上で観察している二つの影があった。お腹がすいたとだだをこねている幼い方は、白の輝光子ことシェイン。ミツと呼ばれたもう一人の黒い革ジャンスタイルの青年──闇月影光(やみづきかげみつ)は、口元に人差し指を立ててシェインを叱りつける。

 

「むぅ~!なによ、こっちをわたしに押し付けてどっか行ってたくせに!ご褒美のおやつくらいあっていいじゃん!」

「うっ...ったく、ほらよ。」

 

小さくため息をついた影光は、革ジャンのポケットからクッキーの入った小袋を取り出し、シェインに投げ渡す。それをキャッチしたシェインはにんまりと笑ってクッキーを頬張る。

 

「んん~♪...んっ!」

 

ご機嫌なシェインだったが、急に籠もった叫び声を上げると、光に変化して一瞬の内に影光に肩に移動する。

 

「うおっ!?見えない!前が見えない!!」

「んんっ!んんっ!」

 

肩車の状態でシェインの手によって視界を塞がれた影光は、不安定な足場の上でぐらぐらと揺れる。クッキーの入った口で何か伝えようとするシェインの手をなんとかどかし、影光は視界を開く。その目前には、自分の十倍以上もの大きさを誇る幽霊が浮遊していた。

 

「「ギャァァァァァッ!?」」

 

幽霊たちの暇潰しにまんまと引っかかったシェインと影光は、木の上からひっくり返り、冥界の地面で目を回しながらのびることとなった。それを見た巨大幽霊は十体の幽霊に分裂し、満足そうに解散していくのだった...

 

 

「...早苗、なんか聞こえなかった?」

「う~ん、気のせいじゃないですか?」

 

 

~次回予告~

 

「あれ...?なんで...俺、死んだはずじゃ...?」

 

「おいっ!諏訪子っ!諏訪子ッ!!」

 

「こうなったら...やるっきゃない!」

 

「「変身っ!!」」

 

「っしゃあ!」

 

第10話 ~無双龍、神の如く~

 

戦わなければ、生き残れない!

 

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~魂魄妖夢~

 

白玉楼の庭師兼、幽々子の剣術指南役の半人半霊な少女。とはいえ、これは祖父である妖忌の肩書きを継いでいるだけであり、前者は天性の才能を見せているが、後者はまだ幽々子に及ばない。"剣術を扱う程度の能力"の持ち主。性格は生真面目で、個性の強い者が多い幻想郷でなにかと苦労している。

 

~西行寺幽々子~

 

ふんわりした雰囲気の、白玉楼のお嬢様。"死を操る程度の能力"の持ち主。妖夢の主という立場ではあるが、彼女が幼い頃から面倒を見てきた本人としては、どこか母親のような感情も抱いている。幽霊なのだが食欲旺盛で、食べても食べても限界はない無限の胃袋を持つ。

 

~ゴースト(早苗) ムサシ魂~

 

タケルとシンクロした早苗が、ムサシアイコンを使って変身した姿。ガンガンセイバー二刀流モードを扱い、手数で敵を圧倒する。




いかがだったでしょうか?

実はこの東方時哀録、まだすごく序盤なんですよ。多分200話くらいはゆうに超えると思われます。なのに、更新ペースが遅すぎるっ!私の作品には...速さが足りない!ちょっと本気で更新ペースを上げないとですね...頑張ります。

それでは、チャオ~!


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第10話 ~無双龍、神の如く~

こんにちは、シェインです!東方時哀録もようやく10話!今回は少し短めです!

それでは第10話、どうぞ!!


ムサシアイコンを手に入れるため、タケルと早苗が冥界を目指して守矢神社を出た頃、幻想郷の技術家たる河童たちへの指導を終えた神奈子は、守矢神社に戻るべく妖怪の山の上空を浮遊していた。結界で外界と隔てられた幻想郷では、外の世界の発達した技術を知っている神奈子のような人物は貴重なのである。

 

「にしても、携帯電話ねぇ...ついに幻想郷もここまで来たか。」

 

神奈子は腕組みをしながら満足そうに笑みを浮かべたが、今日進捗を報告してくれた河童の気がかりな言葉を思い出す。

 

(「でも...最近、にとり姉の様子がおかしいんですよねぇ...自分のラボに籠もりっきりで。それ自体は珍しくないんですけど、僕がラボを覗きに行ってみたら、なんか目がヤバそうな感じで...」)

 

河城にとり...手先の器用な種族である河童の中でも、特にその才覚を発揮する技術者のリーダー的存在。面倒見もよく、後輩たちからはにとり姉と呼ばれて慕われている。幻想郷の技術発展に対する貢献も多大なものがあり、それ故に、神奈子も気をかけずにはいられないのだ。

 

「まぁ...とりあえず、帰って考えるかね...」

 

こんな上空で考えてても仕方がない、と神奈子は帰宅を最優先にして飛行速度を上げる。予想以上に長い間考え込んでいたようで、すぐに守矢神社の鳥居が見えてきた。ふわっと境内に降り立った神奈子は、風で乱れた髪を適当に直し、諏訪子に声をかけつつ居間に上がる。

 

「おーい、帰ったぞ。」

「おっ!おかえりー!どうだった、河童の方は?」

 

まだ居間でゴロゴロしていた諏訪子は、神奈子の声を聞きつけて目を爛々とさせながら河童の状況を尋ねる。彼女も新しいものに目がない性格で、河童の技術革新には興味津々なのだ。神奈子は同居人、もとい同居神の楽しげな顔に微笑む。

 

「次は携帯電話だってさ。もうシステムの構築は完了目前らしいぞ。妖力とかを溜め込んで、選択した対象の携帯に念力の類いを飛ばせるようにするんだとさ。ま、技術化されたテレパシーみたいなもんだね。」

「ほへ~!相変わらず河童たちの考えは斬新だね~!」

 

携帯電話の話に足をパタパタさせて楽しむ諏訪子。それを横目に部屋を見渡した神奈子は、早苗たちの姿がないことに気づく。

 

「ん...?早苗とタケルは、出かけたのか?」

「そーだよ。アイコンを探しに行ってくるってさ。」

 

神奈子の問いに答えた諏訪子は、頬杖をつきながらにんまりと笑顔を浮かべ、言葉を続けた。

 

「神奈子や、神奈子や。帰ってきたついでに、お茶とお煎餅を持ってきておくれ。早苗がいないと、頼む人が居なくてねぇ。」

「なんで婆さん口調なんだ...容姿との不釣り合いが過ぎるぞ?少し待ってな、用意してやるから。」

 

諏訪子に謎な口調で頼まれた神奈子は、やれやれといった仕草をしながら台所へ向かう。その時、居間の隅に置かれた今は意味を持たないテレビの画面の奥で蠢いていた蜘蛛に、彼女たちは気づいていなかった...

 

 

 

 

 

「城戸...おい、城戸っ!城戸ぉーーーーーーっ!」

 

モンスターに貫かれた背中からはとめどなく血が流れ、もう目が開く気もしないし、蓮の叫び声もほとんど聞こえない。

 

死ぬ。そう確信した俺は、沈んでいく意識に身をゆだねる。それから少しして、聞き覚えのない2つの声が聞こえてきた。

 

「ど...治...う?」

「もち...じゃ。わら...かか...」

 

朦朧とした意識の中ではろくに聞き取ることも出来ず、俺の意識は深い暗闇の中に落ちていった...こうして俺──城戸真司は死んだ。死んだはずだったんだ。だけど...

 

 

 

 

「おーい、城戸!城戸真司!起きろ!」

「ん...うぅん...」

 

闇に沈んで消えていくはずだった俺の意識は、誰かの声によって呼び覚まされた。目覚めた俺はゆっくりと立ち上がり、まだはっきりしない意識のまま、辺りを見渡す。どうやらここは山間のようで、緩やかな傾斜地に樹木が青々と生えている。気絶する前の都心部とは、似ても似つかない光景だった。

 

「あれ...?なんで...俺、死んだはずじゃ...?もしかして...俺、夢でも見てたのかな...?」

 

放心状態で呟いた俺は、慌ててポケットを探る。だが、内側の布を引っ張り出してもくしゃくしゃになったコンビニのレシートくらいしか出てこない。

 

「ない...俺の...」

「"カードデッキ"、だろ?」

「えっ!?」

 

俺の言葉を遮り、探し物の名前を見事言い当てた声の主は、近くの木の上から飛び降りてきた。スタッと華麗に着地した革ジャンスタイルの青年は、ポケットから薄い黒箱のようなものを取り出して、突然俺に向かって放り投げる。

 

「ほれっ!」

「うわっ...と!これって...!」

 

それをなんとかキャッチした俺は、裏表逆になっていた黒箱を裏返した。そこには──

 

 

 

 

 

 

 

──"これからよろしくな!"という直筆のメッセージが入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・はぁ!?

 

 

 

 

 

「お近づきの印だ。俺の特製チョコレートだぜ?」

「いやチョコレートかよッ!?」

 

俺の鋭いツッコミを聞いて、革ジャンスタイルの青年は「ははっ!目は覚めたみたいだな!」と朗らかに笑う。そして、再びポケットに手を突っ込むと、さっきと同じように薄い黒箱を取り出し、俺に放り投げた。今度こそ、俺は箱を危なげなくキャッチし、また逆さになっていた箱を裏返すと、そこには龍の顔を象った金のエンブレムが刻まれていた。

 

「カードデッキ...!」

 

嬉々として呟いた俺の耳で、キィィィィンという鋭い耳鳴りが起こる。それは、戦いの合図だ。俺を駆り立てる音が聞こえる方、救うべき人が居る場所へと俺は咄嗟に駆け出すが、ふと青年に振り返る。

 

「っと、あんた名前は?」

「俺は闇月影光だ。またな、城戸!」

「あぁ!」

 

影光と名乗った青年は、気さくに手を振って別れの挨拶をくれた。俺も手を振り返して再び駆け出したが、そこで影光が俺の名前を知っていたことが引っかかり、もう一度振り返る。だが、そこには穏やかに揺れる木の葉の影が広がっているだけだった...

 

 

 

淹れたての緑茶が注がれた二人分の湯呑みと、青龍の里で名のある老舗のせんべい屋の醤油せんべいを乗せた木製のお盆を持って居間に戻った神奈子は、自分の目を疑った。居間の角に置かれたテレビの画面から、一本の手が伸びていたのだ。助けを求めるかのように小刻みに震える腕は、少しずつ画面の中に引きずり込まれていく。何度も目を凝らした神奈子が見たのは、画面の奥でもがく諏訪子の顔だった。

 

「諏訪子ッ!!」

 

知己の友が苦しむ顔を見た神奈子はお盆を取り落とし、足下に零れる緑茶を気にもとめずに駆け出す。神奈子は、テレビから伸びる一回り小さな手に必死で手を伸ばすが、その指先が掠めた瞬間、諏訪子の腕は一気に画面の中に引きずり込まれ、画面は何の変哲もない漆黒に戻ってしまった。

 

「おいっ!諏訪子っ!諏訪子ッ!!」

 

動揺を隠せない神奈子はテレビを揺さぶりながら諏訪子の名を繰り返して呼ぶが、彼女の声が帰ってくることはない。焦燥に駆られる神奈子は、届かなかった自分の手を握りしめ、拳を思い切り画面に叩きつけようとする。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

その拳が液晶に激突する寸前、守矢神社に駆け込んできた真司が神奈子の手首を掴んだ。怒りの矛先を失った神奈子はいきなり現れた真司を怪訝な顔で見るが、そんな神奈子の目を気に留めず、真司は言葉を続ける。

 

「あんた、誰かがこの中に吸い込まれたのを見たのか!?」

「あぁ!?お前、なんで知ってるんだ!!」

 

逆ギレ気味に返す神奈子をよそに、真司は「なら、間違いないな。」と呟くと、神奈子の手首から手を放した。水色のダウンジャケットのポケットから、影光から受け取ったカードデッキを左手で取り出し、難を逃れたテレビの画面に向けて突き出す。

 

「ん...?あれ!?ベルトは!?なんで何も起きないんだよ!?」

「ベルトだって...?まさか...!!」

 

ペシペシとカードデッキを叩き、もしもーしと声をかける真司の肩を勢いよく掴み、神奈子はテレビと同じように彼を揺さぶる。

 

「お前、仮面ライダーか!?」

「ええっ!?あんた、なんで知ってんだ!?」

 

さっきの神奈子と同じような反応を示す真司の肩を放し、神奈子はゆっくりとテレビの画面に向き直る。暗闇の広がる画面に、引きずり込まれる諏訪子の顔を浮かべた神奈子は、ぎゅっと拳を固めて呟く。

 

「なら、間違いないな...お前、名前は?」

「えっ...城戸真司だけど?」

「真司か。真司、私はこの中に引きずり込まれた諏訪子を助けたい...お前なら、それが出来るのか?」

 

荘厳な雰囲気を醸し出し、真剣な眼差しで問いかける神奈子の言葉に真司は息を呑み、コクリと頷いて言葉を紡いだ。

 

「あぁ...!俺はそのために...人を守るためにライダーになったんだからな!!」

「なら、力を貸してくれ!」

「えっ!?」

 

ニヤリと笑って叫んだ神奈子は、豪快に真司の肩に腕を回し、肩組みのような体勢から真司を自分の体に押し付ける。その際、神奈子の豊かな胸元に顔を埋める形になり、真司は「ふぼふぁ!?」という変な声を上げながら頬を真っ赤に染める。それが反映されたかのような赤い閃光が守矢神社一帯に走り、光と化した真司は神奈子と一体となる。

 

「おっ...!お、おっ...!おっぱ...!ってうぉぁぁぁ!?なんだこりゃぁぁぁっ!!?」

「動揺してる暇はない!さぁ、行くぞ!真司!!」

「あぁ、もう!こうなったら...やるっきゃない!!」

 

シンクロを果たした真司の気合いを入れる声に合わせ、胸元を赤く輝かせる神奈子は、先の真司に倣ってカードデッキをテレビ画面に向けて突き出す。すると、画面に写った神奈子の腰に、バックル部分にスペースのある銀のベルトが浮き上がり、反転して現実世界の神奈子の腰に装着される。そして、神奈子は右手を左斜め上へとまっすぐ伸ばす。

 

「「変身っ!!」」

 

自分の内の真司と共に叫んだ神奈子は、龍のエムブレムが正面にくるような形で、ベルトの空きスペースに左から勢いよくカードデッキを押し込む。すると神奈子の両脇と正面に虚像が出現し、回転しながら神奈子に迫る。三つの虚像が神奈子に重なった瞬間、神奈子は言葉通り変身を果たした。胸元にあしらわれた黒い鏡を中心に四本の細い注連縄が斜めに出現し、それぞれ首筋と腰で結ばれる。それによって四つに区切られた神奈子の服は、首回りと腰回りが赤、左右が銀と黒に変化し、肩と腕、すねに相当する部分のスカートに黒いアーマーが装着される。そして、セミロングの髪は黒くなり、横に切れ込みの入った銀の兜を被った神奈子の瞳は赤く染まる。

 

背負った大きな注連縄を赤い龍のデザインに変えた神奈子は、戦いを終わられるために戦い続けた龍の騎士、仮面ライダー龍騎を模した姿に変身したのだった。

 

「っしゃあ!」

「ん、なんだそれ?まぁ、今はそれどころじゃないか...はぁっ!!」

 

真司の気勢に首を傾げつつ、神奈子は自分を映すテレビ画面の中へと飛び込んだ。神奈子が降り立ったのは、無数の鏡が並ぶ異次元空間、ディメンションホール。そこで、運転席を覆う大きなスクリーンが特徴の三輪車両、"ライドシューター"に乗り込み、起動する。

 

「絶対助ける...!堪えてなよ、諏訪子ッ!!」

 

ディメンションホールに響いた神奈子の叫びは、爆走を開始したライドシューターのエンジン音でかき消された。神奈子が目指すのは、ディメンションホールを抜けた先の、すべてが反転した鏡の世界──

 

 

 

 

 

──怪物と欲望が渦巻く、"ミラーワールド"。

 

 

 

 

 

「くっ...!なんなの、コイツ...!!」

「キシィ...!!」

 

一方、ミラーワールドに引きずり込まれた諏訪子は、すべてが反転した守矢神社の境内で、首や手首、その小さな身体の至る所に粘性の糸を巻きつけられていた。その糸の主は5mを超える巨体を誇り、機械的なデザインが特徴の蜘蛛の化け物、"ディスパイダー"。その巨体に見合う口から伸びる何本もの糸が、諏訪子の身体を拘束し、徐々に引き寄せている。

 

「(まさかコイツ...わたしを食糧にする気か!?しかも、よりによって蜘蛛だなんて、冗談じゃない...!)」

 

自らがディスパイダーの口に向かわされていることに気づいた諏訪子は、身体をよじらせて糸から抜け出そうと試みる。だが、その手応えを感じたディスパイダーは更に五本の糸を吐き出し、諏訪子の首に二本、頭部に三本を巻きつける。ディスパイダーに背を向けた状態で首に糸を巻きつけられ、諏訪子はきつく首を絞められる。

 

「...うぁ...かはっ...死ねる...か...!」

 

諏訪子が抵抗すれども、少しずつその時は近づいてくる。そして、口元に諏訪子を迎えたディスパイダーは、その大口を目一杯に開く。諏訪子が自らの末路に唇をかみしめた、その時──

 

「だぁぁぁっ!」「させるかっ!」

 

──テレビ画面から飛び出してきたライドシューターが、ちゃぶ台を吹き飛ばしながら居間でドリフトし、境内のディスパイダーに向けて突撃を開始したのだ。居間から飛び出したライドシューターの前輪がディスパイダーの頬に相当する部位に激突し、ディスパイダーは火花を散らしながら後退する。

 

「キィィィ...!」

「今だっ!!」

 

ダメージを受けたディスパイダーが牙をかみしめたことにより、諏訪子を捕らえていた糸が切れる。それを好機とみた神奈子は、着陸したライドシューターのスクリーンを開け放ち、残った糸のせいで動けずにいる諏訪子のもとに向かう。

 

「大丈夫か、諏訪子?」

「神奈子...!その姿、まさか...!」

「話はあとだ!早くその子をミラーワールドから出さないと!」

「あぁ、分かってる!」

 

真司の言葉に頷いた神奈子は、諏訪子をお姫様だっこして居間のテレビへ向かう。だが、それに気付いたディスパイダーは獲物を逃がすものかと、神奈子の背に向けて糸を鋭く練り上げた針を口から無数に発射する。それを察知した神奈子は、その場で回し蹴りを放って針を弾き飛ばした。

 

「チッ...!自分の巣にかかった獲物は逃がさないってか...!」

「え~っと、神奈子さん...だったか?ひとまず、"アイツ"に任せよう!」

「なるほど、"アイツ"ね。」

 

そう言ってニヤリと笑った神奈子は、諏訪子を背後に下ろし、ベルトに収められたカードデッキに手を伸ばす。そして、デッキの表面の切れ込みから、背中の注連縄の龍と瓜二つの龍が描かれた一枚のカードを抜きだした。"ADVENT"と書かれたそのカードを、神奈子は左腕に装備している龍の頭部を象った手甲、"ドラグバイザー"のカバーをスライドして表れたスロットに挿入し、カバーを元に戻す。

 

『ADVENT』

 

神奈子が一連の動作をしている間に、ディスパイダーは再度針を発射したが、ドラグバイザーの電子音声を合図に飛来した紅の龍──"無双龍ドラグレッダー"によって、その針は弾かれる。神奈子の周りを旋回したドラグレッダーは猛々しく咆哮し、ディスパイダーに突撃。諏訪子を脱出させるため、妨害行動を開始した。この場をドラグレッダーに任せた神奈子は、再び諏訪子を抱きかかえて、テレビ画面に飛び込んだ。

 

「わわっ!あれ、糸が...?」

 

ディメンションホールを抜け、神奈子たちがミラーワールドから帰還した途端、諏訪子の体にまとわりついていたディスパイダーの糸は粒子となって消滅した。諏訪子を居間の座布団に座らせ、神奈子はしみじみと呟く。

 

「消えた...遅かったら、諏訪子もこうなってたかも知れないのか...」

「あぁ...でも、この子はここに居る。救えたのは、あんたのおかげだ。ありがとう、神奈子さん。」

 

自分一人では変身すら出来ず、救えなかったはずの諏訪子を救えた事実に、真司は静かに感謝を述べる。その言葉を聞いた神奈子は、フッと優しく微笑んだ。

 

「まったく...そういうのは、ヤツを片付けてからだ。行くぞ、真司!」

「へへっ、そうだよな!」

「神奈子!あの怪物へのお仕置き、頼んだよ?」

「あぁ、任せときな。百万倍で返してきてあげるよ!」

 

「「っしゃぁ!」」

 

もう一度、今度は二人で気合いを入れた神奈子と真司は、再びテレビ画面に飛び込んだ。神奈子がミラーワールドの守矢神社に戻ると、境内ではドラグレッダーとディスパイダーの戦闘が繰り広げられていた。ディスパイダーの放った針を、ドラグレッダーは口から放つ火炎で相殺。急接近したディスパイダーの振り下ろされた鋭利な足を小さく旋回して弾き飛ばしたドラグレッダーは、体勢の崩れたディスパイダーの腹部に突進をかまし、戻ってきた契約者の下に帰還した。

 

「待たせたね、化け物蜘蛛!」

「覚悟しろよぉっ!」

 

名乗りを上げた神奈子は、緩く湾曲した剣の描かれたカードをデッキから抜き出し、ドラグレッダーのカードと同じ手順でドラグバイザーに挿入し、ドラグバイザーのカバーを元に戻す。

 

『SWORDVENT』

 

電子音声を合図にドラグレッダーの尻尾だけがコピーされ、ソードベントのカードに描かれていた剣──"ドラグセイバー"が神奈子の手元に召喚される。神奈子はドラグセイバーを軽く一振りし、ライドシューターのスクリーンを踏み台にして高く跳躍。急降下しながらディスパイダーに切りかかるが、ドラグセイバーの刃は強固な外郭に弾かれ

てしまう。

 

「蜘蛛のくせに硬いな...なら!」

 

体勢を整え、元の場所に着地した神奈子は、ディスパイダーの放った針をドラグセイバーで切り捨てていく。だが、針の一本が右手を掠め、神奈子はドラグセイバーを取り落としてしまった。それを見たディスパイダーは、神奈子に無数の針を放つべく、大口を目一杯に開く。

 

「今だッ!」

 

だが、それこそが神奈子の狙いだった。空中のドラグセイバーの柄を旋風脚で蹴り飛ばし、ディスパイダーの口の中に投じたのだ。ドラグセイバーは柔らかい口内に深々と突き刺さり、ディスパイダーは声にならない悲鳴を上げる。ディスパイダーの隙を作った神奈子は、勝負を決するべく、デッキと龍の同じ紋章が描かれたカードをデッキからを引き抜き、ドラグバイザーに挿入してカバーを戻す。

 

『FINALVENT』

 

ドラグレッダーが周囲を旋回する中、神奈子は両腕を前に突き出して腰を深く落とす。その両腕を右に移し、息を吐いて気を溜めた神奈子は、ドラグレッダーと共に上空に飛び上がる。幾度となくその身を捻り、神奈子が跳び蹴りの姿勢を取った瞬間、ドラグレッダーは彼女の背に猛炎を放った。炎によって爆発的な推進力を得た神奈子は、真司と共に雄叫びを上げる。

 

「どぉりゃぁぁっ!!」「はぁぁぁっ!!」

 

ドラグレッダーの炎を纏ったキック──"ドラゴンライダーキック"を受けたディスパイダーは全身を発火させ、木々をなぎ倒しながら山林に突っ込み、爆散した。着地した神奈子は、燃え上がる山林を背に──

 

諏訪子の怒り(ミジャグジの祟り)百万倍には、少々軽すぎたかねぇ?」

 

──悪戯な笑みを浮かべた。

 

 

 

ディメンションホールを抜けて神奈子がテレビから現実世界に帰還すると、「おっ、お帰り~!」と諏訪子が出迎える。さっきまで死線を彷徨っていたとは思えないほど気の抜けた声で笑う諏訪子に、神奈子は呆れ半分、安心半分で微笑み、ベルトからデッキを抜いて変身とシンクロを解除する。

 

「うおっ!?戻れた!ってぎゃぁ!!」

 

神奈子の中から抜け出した真司は、その勢いで足をもつらせて顔面からすっころぶ。会って早々にドジを踏む真司を見て、諏訪子は楽しげに笑い声を上げ、神奈子はやれやれといった仕草で、彼に手を差し伸べる。

 

「ほら、立てるか?」

「いてて...ありがと、神奈子さん。」

 

真司の手を握って立ち上がらせた神奈子は、彼から名前を呼ばれたことで、まだ自己紹介をしていなかったことを思い出した。

 

「そういえば、まだちゃんと名乗ってなかったね。私は八坂神奈子。まぁ、ざっくり言えばこの神社に祭られてる神様だね。ちなみに、そこの諏訪子も神様だ。」

「そーだよー!」

「うえっ!?神様!?嘘だろ!?神様が目の前にいるってことは...まさか、ここは天国ぅ!?」

「落ち着け、真司。お前のことも、私たちのことも、話は座ってからだ。」

 

神奈子の一声に従った神奈子と諏訪子、真司の三人は居間の机を囲んで座り、それぞれの情報を共有した...

 

 

木の陰からその光景を窺っていた影光は、フッと静かに微笑む。その背後に青い光で縁取られた穴が開き、そこから黒い時計のようなデバイスと水の入ったペットボトル持った白の少年が姿を表した。

 

「さすがは神様、まさしく無双の戦いぶりだな。」

「お疲れ様、影光。ごめんね、真司のこと任せちゃって。」

「いいって、気にするなよ。デッキ預かってたのは俺だったんだしさ。」

 

白の少年が労いの言葉と共に差し出したペットボトルを受け取り、影光は一口、水を飲む。その間に、白の少年が持つデバイスが変貌を遂げる。

 

『龍騎』

 

ベースが赤、前面の円形パーツが銀に染まったデバイスは、龍騎の名を告げた。変化したデバイスを眺める白の少年は、楽しそうに呟く。

 

「始まったね...彼らの時間が。」

「あぁ。戦いは、まだまだこれからだ...!」

 

不敵な笑みを浮かべた影光は、ポケットから一つのカードデッキを取り出す。その薄黒く染まったデッキの正面には、禍々しいデザインをした黒龍のエムブレムが刻まれていた...

 

 

 

その夜、ミラーワールドの焦げ付いた山林で粉々になったディスパイダーの欠片が結集し、ディスパイダーの上部から異形な人間型の上半身が生えた怪物──ディスパイダー・リボーンとなって再生を果たした。自らを討ち果たした神奈子への復讐に燃え、憎しみのこもった咆哮をミラーワールドに響かせるディスパイダー。だが、その瞬間──

 

『FINALVENT』

 

──空からまっすぐに急降下してきた黒いドリルのようなものに脳天から貫かれ、再生したディスパイダーは一分も経たずに粉塵へと帰化することになった。ディスパイダーと入れ替わりに山林で佇む少女は、ディスパイダーの亡骸から浮き出た光の球を見つめる。徐々に天へ昇っていく光の球を、少女の背に垂れるマントが変化したコウモリのようなモンスターがその身に取り込み、そのまま夜空に飛び去っていく。その姿を見送った少女は、テレビ画面に映る現実世界の神奈子に目をやる。

 

「まさか、守矢の神がライダーになるとは...」

 

ボソッと呟いた少女だったが、即座に小さく首を振り、拳を強く握りしめる。

 

「それでも、戦わなければ...!」

 

今度は決意のこもった声で呟いた少女は、神奈子をキッと睨みつけ、闇夜に姿を消した。

 

 

~次回予告~

 

「俺は葛葉紘汰!アーマードライダー"鎧武"だ!」

 

「あぁ、もう!なんで変身できねぇんだよぉ!?」

 

「紘汰さんっ!私に、力を貸して下さい!!」

 

「「変身っ!!」」

 

『オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』

 

「ここからは私たちのステージです!」「ここからは俺たちのステージだ!」

 

第11話 ~冥界!オンステージ!?~

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~八坂神奈子~

 

守矢神社に祭られている神の二柱が一人で、"乾を創造する程度の能力"の持ち主。乾とは八卦で天を意味し、天候などを自由に操ることが出来る。基本的にフランクかつ豪快な性格で、早苗を父親のような立場で見守っている。ミラーワールドに連れ去られた諏訪子を救うべく、真司とシンクロして龍騎の力を得た。

 

~城戸真司~

 

仮面ライダー龍騎として戦っていた青年。外の世界ではOREジャーナルという会社で記者をやっていた。バカを地でいくタイプで、良くも悪くも真っ直ぐな性格。OREジャーナルの編集長である大久保大介曰わく、「祭りの取材に行って、気づいたら神輿担いでるタイプ」。また、何にでも首突っ込まないと気が済まないらしく、その情熱が人を動かすことも多い。

 

~龍騎(神奈子)~

 

真司とシンクロした神奈子が、龍騎のカードデッキを使って変身した姿。契約モンスターは「無双龍ドラグレッダー」。神奈子と真司の性格ゆえに、ワイルドな戦い方が目立つ。また、背中の注連縄がドラグレッダー風になっているのが特徴。多種多様なアドベントカードを駆使し、状況に応じた戦法を取れる。必殺技は、ファイナルベントのカードをベントインして発動するドラゴンライダーキック。




第10話、いかがでしたでしょうか?これで遂に7人目ですね!少しずつ見えてきたライダーの影...ディスパイダーを葬った少女の正体は!?

ところで、幻想郷での年号って西暦でもいいんでしょうか?幻想郷自体に暦があるのかな...?活動報告の方に意見BOXを作成しますので、上記の質問の回答や、ご要望などを頂けると嬉しいです!ただし、ご要望を全て反映するのは難しいと思いますので、あらかじめご了承頂きたい...!

それでは、チャオ!


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第11話 ~冥界!オンステージ!?~

こんにちは、シェインです!最近、操作ミスで活動報告が吹っ飛んで、執筆中にされてる自動保存のありがたみを感じました。本編であれが起きたら地獄ですからね...

そんな余談はさておき、第11話、どうぞ!


昼下がりの白玉楼。豪華絢爛な日本庭園で、妖夢は庭師としての仕事に勤しんでいた。冥界であれど日夜の概念はあり、地上ほどではないにしろ、射し込んでくる柔らかな日の光を浴びながらの作業を、妖夢は気に入っている。作業を終えた妖夢は満足そうな顔でうぅ~んと伸びをし、美しく整えた犬拓植を眺める。

 

「うんっ!綺麗になりましたね!」

「よぉ~む...」

 

一仕事終えた妖夢の耳に、気の抜けた幽々子の声が届く。妖夢が返事をしながら振り向くと、幽々子は眠そうに目をこすりながら言葉を続ける。

 

「私、お昼寝してくるわ...ご飯食べたら、眠くなっちゃった。」

「分かりました。ごゆっくり、お休みになって下さい。」

「ありがとね、妖夢。おやすみ...」

 

小さく手を振って寝室に向かった幽々子を見送った妖夢は、庭仕事用の枝きりばさみや脚立などをまとめて、普段庭仕事用具をしまっている倉庫へ向かう。その道中、妖夢は昨日の戦いを思い出す。最終的には刀眼魔に反撃することが出来たとはいえ、それまでは完全に相手のペースに呑まれていた上、相手に読まれやすい感情的な太刀筋で戦ってしまった。

 

「剣士たるもの、いつ何時も冷静でなければならないというのに...」

 

深くため息をついた妖夢だったが、考え事をしながら歩いていたせいで道を外れていたらしく、庭園の樹の幹に頭を打ち付ける。それに驚いた妖夢は、抱えていた脚立を手放してしまった。

 

「いっ...たぁ...!」

 

落下した脚立でつま先を挟んだ妖夢は、ぶつけたおでこをさすりながらしゃがみこむ。幽々子の眠りを妨げぬよう声を必死で抑えたのは、彼女の従者としての意地だろう。涙目でさっきより更に深いため息をついた妖夢は、少し暗い冥界の空を見上げると、ゆっくりと立ち上がって再び歩き始めた。

 

「(私は...早く一人前の大人にならなくちゃいけない。おじいさまがいなくなって、幼い私がそのお役目を継いでから、幽々子様は従者であるにも関わらず、私の面倒を見てきて下さった。だけど、もう幽々子様に迷惑はかけられない。なのに、私は...)」

 

不甲斐ない自分に唇を噛みしめた妖夢は、駆け足で倉庫に向かった。倉庫にしている外れの小屋に着いた妖夢は、脚立と庭仕事用具をしまい、その足で西行妖に向かう。冥界を漂う霊たちの様子を確認しながら、鬱蒼と茂る木々の間を進んでいく。冥界に住む霊たちは幽々子の管理下にあるのだが、なにぶん幽々子は放任主義で、基本的に霊たちの自由にさせている。だからこそ、妖夢は霊や冥界の見回りも行っているのだ。見回りも兼ねて森林を抜け、西行妖のある丘にたどり着いた妖夢は、真っ直ぐに西行妖の下に向かう。

 

「すぅ...よぉっし!!」

 

西行妖の下で準備運動を終えた妖夢は、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込み、気を引き締めて、昨日の刀眼魔との戦いを頭の中で再生する。昨日の戦いの再現がしやすいように、妖夢は西行妖の丘に来ていたのだ。攻撃をいなされていた場面の再生を終え、妖夢が楼観剣に手をかけた瞬間──彼女の眼前の林がガサリ、と音を立てた。

 

「...ッ!?」

 

その音に小さく震えた妖夢は、ゴクリと唾を呑み、楼観剣の柄をしっかりと握る。化け物に襲われた昨日の今日だ。妖夢は冷や汗を垂らしながら、静かに林を睨みつける。やがて、さっきよりも音を立てて林が大きく揺れた。そこから這い出でくる影を確かに確認した妖夢は、一気に駆け出して楼観剣を抜刀。から竹割りの構えで影に突撃をかける。しかし、その影の正体は妖夢の予想を大きく外れていた。

 

「はぁぁぁっ!」

「うぅ...ぁ...」

「えっ!?に、人間っ!!」

 

自分の目の前で倒れ込んだボロボロの青年を見て、楼観剣を止めるとともに妖夢は急ブレーキをかけた。しかし、無理に止まろうとしたせいで足下の小石に躓き、妖夢は「うへぇ...」という間抜けな声を上げながら、美しいフォームで林に突っ込んだ。

 

「あっ、ちょ、枝が引っかかって...よし、取れた!だ、大丈夫ですか!?」

 

少々苦戦しながらも林から抜け出した妖夢は、地に伏した青年に駆け寄る。青年の体には無数の切り傷がついており、ところどころ内出血も見られる。妖夢は膝をつき、血まみれな彼の体を小さく揺さぶる。声をかけながら2、3度体を揺さぶったところで、青年はゆっくりとまぶたを開けた。

 

「うぅ...?」

「あっ!良かった...気がつきましたか?」

 

片手で頭を抑えながら起き上がった青年を見て、妖夢はホッと胸をなで下ろす。一方、少しボーッとしていた青年は、急に何かを思い出したかのように目を見開いて、妖夢を質問攻めにし始めた。

 

「そうだ...!なぁ、あんた!ここはどこなんだ!?沢芽市は、今どうなってるんだよ!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!」

 

矢継ぎ早に質問する青年を落ち着かせようと、妖夢は慌てて声をかける。妖夢に制されて少し冷静になった青年は、ふと彼女の近くを浮遊する半霊に気がつき、尻餅をつく。

 

「うわっ!?ゆ、幽霊っ!?ま、まさか...ここ、あの世だったりする...?」

「まぁ、そんなところですね。」

 

妖夢は、恐る恐る尋ねた青年の言葉に小さく頷き、言葉を続ける。

 

「ここは"冥界"...死者の住まう場所です。」

「嘘だろ...俺、死んじゃったのか...?」

 

自分が冥界に居ることを知った青年は力なくうなだれ、傷だらけな自分の両手を見つめる。そして、その手を強く、固く握り、唇をキュッと噛み締めた。

 

「ごめん...みんな...!俺、守れなかった...ッ!」

「あ、あのぉ...」

 

頬を涙で濡らし、悔しさと悲しみで顔を歪ませる青年に、妖夢は気まずそうに声をかける。

 

「多分、あなたは死んでないと思いますよ...?」

「...え?」

 

唐突に自分の考えを否定された青年は、ポカンとした表情で妖夢を見上げた。妖夢は頬をかきながら、気の抜けた青年の問いに応える。

 

「え~っと...死んでしまった場合、まず閻魔様のところに送られるはずなんです。本当に死んだなら、そこで死を自覚しますから、冥界で死んだことを自覚することは、まずありません。」

「閻魔様って...あの地獄とか天国とか決めるやつ?」

「そうです。それに...」

 

突然言葉を切った妖夢は、青年の顔にずいっと近づき──

 

「えいっ!」

 

──頬を両手でつまんで引っ張った。

 

「いでででででで!!?」

「ふふっ...ほらね?」

 

くすっと微笑み、青年の頬を放した妖夢は、予想外な展開にポカンとしている青年を諭すように語りかける。

 

「幽霊は頬をつねられたって痛くありません。肉体がないから怪我もしませんし、血も流れません。あなたは、間違いなく生きてます。」

「あっ...そっか、そうだよな!いやぁ、焦ったぁ~!」

 

自分が生きていることを知らしめられた青年は、朗らかに笑う。その笑顔を見た妖夢もまた、優しい笑みを零す。青年は痛む身体を起こし、立ち上がった。

 

「ありがとな、おかげでちょっと落ち着いた。俺は葛葉紘汰!アーマードライダー"鎧武"だ!...って言っても、冥界の人は分かんないか。」

「アーマード..."ライダー"...?」

 

青年──紘汰が名乗ったアーマードライダーの"ライダー"の部分に引っかかった妖夢の中で、半信半疑な一つの疑問が生まれたが、妖夢はまさか、と自分の中で振り払う。そんな彼女に、紘汰は気さくな態度で問いかける。

 

「なぁ、あんた名前は?」

「私は魂魄妖夢です。とりあえず、紘汰さんの怪我の手当てをしましょうか...近くに私の主のお屋敷がありますから、そこに行きましょう。そこまで遠くないですけど、歩けますか?」

「あぁ、大丈夫だ!」

 

自分が平常であることをサムズアップで示そうとした紘汰だったが、腕を上げた途端に肩に痛みが走り、思わず「いてっ!」と声を上げる。それを見た妖夢は「無理しないでくださいね?」と微笑み、紘汰は恥ずかしそうにはにかんだ。それから数分後、紘汰を先導して森林を歩む妖夢は、ついさっきまでは感じなかった違和感に苛まれていた。

 

「(紫の...実?)」

 

遠目に見える植物の中に、鮮やかな"紫色の木の実"が紛れているのだ。妖夢は白玉楼の庭師。冥界全域とまではいかないが、屋敷周辺の植物であれば把握している。そんな彼女の記憶に、紫の実を持つ植物などありはしないのだ。

 

「紘汰さん、ちょっと待っててもらえますか...?」

「ん?どうしたんだ?」

 

何ともいえない違和感に突き動かされた妖夢は、紘汰に返事もせず、駆け足で果実に向かう。果実の近くに到着した妖夢は周辺に蔓延る異様なツタを払いのけて、そこに実る二つの果実をまじまじと見つめる。その瞬間、妖夢の内で言葉にならないほどの衝動が弾けた。

 

「(なんで...こんな、美味しそうに見えるんでしょう...?)」

 

艶やかなグラデーションの皮に包まれたその果実の片方をもぎ取り、妖夢は甘美な誘惑に誘われるまま皮を剥ぐと、そのみずみずしい球形の果実を口に近づけていく。

 

「妖夢ッ!?やめろ!!」

 

妖夢が果実に口をつけようとしたその時、紘汰は鬼気迫る怒号を上げて妖夢の手を強く掴んだ。戸惑う妖夢から果実を奪い取ると、紘汰は刀を模したパーツが付いたバックル──"戦極ドライバー"を懐から取り出し、腰に据える。すると、黄色い蛍光色のベルトが紘汰の腰に出現し、彼の手に握られた果実がオレンジを象った南京錠──"オレンジロックシード"に変化した。

 

「えっ...!?果実が...錠前に...?」

「ふぅ、危ないとこだったな...」

 

息を吐いた紘汰は、目を丸くする妖夢にオレンジロックシードを示した。

 

「こいつは"ロックシード"。この"戦極ドライバー"を着けてその果実..."ヘルヘイムの実"を手にすると、今みたいにロックシードになるんだ。」

「へぇ...奇怪な物ですね...」

 

ヘルヘイムの実の奇妙な性質に感嘆した妖夢は、戦極ドライバーとロックシードを交互に眺める。その興味深々な目を見た紘汰は、妖夢にオレンジロックシードを手渡す。紘汰からオレンジロックシードを受け取った妖夢は、「幽々子様は、これも食べるのかな...?」などと思いながら、近くで観察する。

 

「で、もし...ヘルヘイムの実を食べちまったやつは...」

(「なんで...なんで俺には無いんだ...?あいつ等と同じ力が...ッ!」)

 

力を求め、禁断の果実に運命を狂わされた男を想い、拳を握りしめた紘汰がゆっくりと言葉を紡ぎ出した瞬間──

 

「キィィィィッ!!」

「っ!?」

 

ツタの間から飛び出して来た緑色の化け物が、その鋭い爪を紘汰に向けて振り下ろした。殺気を察知した紘汰はその場からすぐさま飛び退き、前転で体勢を立て直す。

 

「きゃっ...!?また怪物...!?」

「"インベス"!やっぱ近くに"クラック"が...!妖夢、逃げろ!」

 

妖夢に逃げるように促した紘汰は、特殊な紋様が入った表皮と、大きな爪が特徴的な緑色の化け物──"ビャッコインベス"に迷うことなく突撃する。ビャッコインベスの間合いに入った紘汰は軽く蹴りを入れ、反撃として放たれたビャッコインベスの大振りな爪をかがんで回避。

 

「はぁっ!!」

 

力強く叫んだ紘汰は、立ち上がると同時にビャッコインベスの顔に鋭い回し蹴りを叩き込んだ。その蹴りはビャッコインベスを怯ませ、後退させたが、紘汰の全身の傷にも大きな影響を及ぼす。痛みに表情を歪ませながらも、紘汰は腰のカラビナに下げてあったオレンジロックシードを手に取り、胸の辺りに構える。

 

「くっ...!俺は、こんなところで負けられないっ!変身ッ!!」

『オレンジ!』

 

紘汰がオレンジロックシードの横にあるスイッチを倒すと、ロックシードの掛け金が開錠され、内包された力の名を告げる。紘汰はオレンジロックシードを左から右に半回転させ、続けて天に向けて掲げると、戦極ドライバーのくぼみにはめ込む。そして、紘汰は戦極ドライバーにセットされたオレンジロックシードの掛け金を押し込み、刀を模したパーツ──"カッティングブレード"を勢い良く倒した...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あ、あれ?」

 

しかし、カッティングブレードがオレンジロックシードを叩き切ることはなかった。目を点にしてオレンジロックシードに止められたカッティングブレードを見つめる紘汰に、体勢を立て直したビャッコインベスは容赦なく襲いかかる。ビャッコインベスが振るった爪に当たる寸前で気づいた紘汰は、咄嗟に腕をクロスさせてビャッコインベスの攻撃を阻止。組み合うビャッコインベスを突き飛ばし、何度もカッティングブレードを操作する。

 

「あぁ、もう!なんで変身できねぇんだよぉ!?」

 

しかし、紘汰が叩いても、揺さぶっても、戦極ドライバーは延々と沈黙を続ける。

 

「くっそ...!なら!!」

 

痺れを切らした紘汰はビャッコインベスの攻撃をかわすと、オレンジロックシードを戦極ドライバーから取り外し、改めて開錠する。すると、紘汰の頭上に妖しげな森が覗くチャック──"クラック"が開き、そこから背中と頭部に鹿のような立派な角を生やした化け物──シカインベスが現れると、ビャッコインベスに攻撃を仕掛けた。

 

「グルルルッ...!」

「ウガァァッ!!」

「よしっ!インベスゲームの方はいける...!」

 

オレンジロックシードをコントローラーとしてシカインベスを指揮する紘汰は、不意を突かれたビャッコインベスをシカインベスに攻め立てさせる。しかし、シカインベスと組み合ったビャッコインベスは、表皮の紋様から緑色の光線を周辺に放射した。

 

「やっべ...!!」

 

その一部は紘汰の近辺にも着弾し、紘汰は二発の爆発をバック宙で回避するが、着地したタイミングで足下に炸裂した光線の爆風を受ける。それで体勢を崩した紘汰は、その勢いでオレンジロックシードを手放してしまい、オレンジロックシードは茂みの中へと入り込んでしまった。

 

「グラァァ...」

 

コントロールを失ったシカインベスはユラリと振り向き、ビャッコインベスとともに紘汰へ突撃を始める。慌てて立ち上がった紘汰だったが、ビャッコインベスの鋭利な爪と、シカインベスの巨大な角の波状攻撃を回避するのは至難の業。それに加えて、紘汰は手負いの状態。必然的に、紘汰はどんどん追い詰められていく...

 

「(くっそ...せっかく生きてたってのに、ここで死んでたまるかよッ!)」

 

 

 

 

 

 

 

「えっ...?な、なんですか...これ...!?」

 

一方、紘汰の言葉に従って逃げ出した妖夢は、がむしゃらに駆け抜けた先で驚くべき光景を目の当たりにしていた。ぽっかりと口を開けた空間の裂け目──クラックから覗く鬱蒼とした樹海。その樹海特有の植物と、蔓延るツタ、そして丸々と実ったヘルヘイムの実が、クラックを通じて"冥界を浸食していた"のだ。

 

「じゃあ、さっきのヘルヘイムの実はこの森から...!?」

 

冥界にはなかったヘルヘイムの実の出所を察した妖夢は、息を呑んでクラックを覗き込む。顔を突き出して樹海を確認しようとしたその時、えもいわれぬ悪寒に襲われた妖夢は、急いで首を引っ込めた。その直後、妖夢の頭があった場所に灰色の腕が振り下ろされた。その腕の主は、丸っこい胴体を持つ灰色の怪物──"初級インベス"だ。

 

「きゃっ...!?ここにも怪物が...!!」

 

初級インベスの存在を認知した妖夢は後ずさりするが、初級インベスは樹海の中から次々と現れ、総勢五体になってクラックから這い出る。妖夢は小さく震えながら、初級インベスと睨み合う。

 

「私だって...やれるんだ!はぁぁっ!!」

 

妖夢は脳裏にへばりつく恐怖を押し殺して楼観剣を抜くと、先頭の初級インベスに大きく袈裟切りを放った──

 

 

 

 

 

 

 

 

「キィ?」

「...えっ?」

 

──だが、楼観剣の美しく研かれた刀身が、初級インベスの身体を断つことはなかった。一瞬、戸惑った様子を見せた初級インベスだったが、空気の震えるような雄叫びをあげると、身体に押し付けられた楼観剣を押し返す。先頭の初級インベスの咆哮に感化された初級インベスたちは、よろけた妖夢に向かって突撃を開始する。

 

「そ、そんな...」

 

自分の力がまるで通用しなかった恐怖に肩を震わせ、妖夢は迫り来る初級インベスに背を向けて駆け出した。脇目も振らず、必死で走りつづける妖夢の目に涙が溢れ出す。その涙で視界が悪くなったせいだろう。妖夢は足下に蔓延っていたツタに足を取られ、勢い良く転倒してしまった。妖夢は打ちつけた身体を、なんとか半身だけ起こす。だが、追いついた初級インベスたちは半円を描くような形で妖夢を囲んだ。

 

「うおぁぁぁっ!!」

「紘汰さん!?」

 

絶体絶命な妖夢の背後に、同じく追い詰められたら紘汰が爆発で吹き飛ばされてくる。紘汰が飛んできた方向からはビャッコインベスとシカインベスが現れ、正に四面楚歌な状態。背中合わせで座る妖夢に、紘汰は苦笑いしながら声をかけた。

 

「ははっ...お互いに、万事休すってやつか?」

「私、私は...!」

 

妖夢は消え入りそうなほど小さく、震えた声で涙を零す。しかし紘汰は、状況に見合わないほど絶望を感じさせない表情をしていた。その瞳には不安や恐怖どころか、希望と勇気が満ち溢れている。さっきよりもボロボロになった身体を奮い立たせ、立ち上がった紘汰はインベスたちと睨み合う。

 

「でもな、俺はこんなところで終われないんだ。俺がみんなを守る...俺はぜってぇ"諦めねぇっ"!」

 

紘汰の言葉を聞いた途端、妖夢の脳裏にタケルの声がフラッシュバックする。

 

(「人の想いに限界なんて無い!諦めない限り、どこまでだっていけるんだ!!」)

「ふふっ...そうですよね...」

 

小さく笑った妖夢は涙を拭うと楼観剣を支えに立ち上がり、再び紘汰と背中合わせに楼観剣を構える。その瞳には、紘汰と同じ光が宿っていた。

 

「私も諦めませんっ!この程度で足掻くのを止めたら、おじいさまに合わせる顔がありませんからね!!」

「へへっ、だよなぁッ!!」

 

インベスたち相手に高らかに宣言した妖夢は、紘汰の言っていた"アーマードライダー"という言葉を思い出し、楼観剣を地面に突き刺して紘汰の方に振り向く。

 

「紘汰さんっ!私に、力を貸して下さい!!二人なら、"変われる"かもしれません!」

「えっ!?いいけど、力を貸すって...どうやって?」

「それは...え~っと...」

 

戸惑いながらも了解した紘汰に方法を問われた妖夢は、頬を赤くして少しばかり口を紡ぐ。しかし、その間にしびれを切らしたインベスたちは、口々に奇声を上げながら紘汰と妖夢に襲いかかる。一刻の猶予もないことを察した妖夢は、感情を振り切るかのように叫ぶ。

 

「んあぁぁっ!ごめんなさい、紘汰さんっ!!失礼しますっ!!」

「えっ...?」

 

地面に頭を打ち付けるかのような勢いで深々と礼をした妖夢は、自分より少し背の高い紘汰に抱きついた。動揺する暇もない間に、紘汰は鮮やかな橙色の光に変わり、妖夢の中に融け込んでいく。その輝きはインベスたちの目を眩ませ、足を止めさせた。

 

「「「「「キィィィ...!!」」」」」

「えぇぇぇぇぇっ!?なにこれ、どゆこと!?」

「よし、上手くいきましたね!」

 

シンクロを果たして動揺する紘汰をよそに、妖夢は戦極ドライバーを装着する。腰に黄色のベルトが巻きつくと、妖夢は先ほど紘汰から受け取っていたオレンジロックシードを取り出し、胸の前に構える。

 

「行きますよ、紘汰さんっ!」

「あぁ、もうっ!男は度胸だっ!やってやる!!」

 

土壇場で覚悟を決めた紘汰と共鳴した妖夢は、二人で声を合わせて叫ぶと同時にオレンジロックシードの掛け金を開錠する。

 

「「変身っ!!」」

『オレンジ!』

 

妖夢は、先の紘汰の動きになぞらえてオレンジロックシードを戦極ドライバーにセットし、掛け金を閉じる。

 

『Lock On!』

 

すると、陽気な法螺貝の音楽が流れ出すと同時に、妖夢の頭上に円形のクラックが開かれ、そこからオレンジを象った球形の鎧がゆっくりと下降してくる。そして、妖夢はカッティングブレードを素早く倒す。

 

『ソイヤッ!』

 

すると、小気味良いかけ声と共にカッティングブレードがオレンジロックシードの表面を展開した。それと同時に鎧の落下が加速し、勢いよく妖夢の頭部に被さると、妖夢の服が金の柄が入った紺色に変わり、金の手甲とすねあてが装備される。

 

『オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』

 

そして、特徴的な電子音声が流れると同時に鎧が四方向に展開され、胸部、左右の肩、そして背部に装着される。鎧に隠れていた妖夢の頭には、鎧と同じくオレンジを象った兜と金色の兜飾りが装着されている。最後に妖夢の髪が紺色、瞳が橙色に染まり、妖夢は"仮面ライダー鎧武 オレンジアームズ"を模した姿に変身したのだった。

 

「オ、オレンジって...!?これが、私の...私たちの"変身"...!?」

「あぁ...行こうぜ!妖夢!」

「はいっ!」

 

「ここからは私たちのステージです!」「ここからは俺たちのステージだ!」

 

辺りにみずみずしい果汁の降る中、紘汰と共に力強く叫んだ妖夢は、変身と同時に左手にに握っていた、刀身にオレンジの断面をデザインした奇抜な刀──"大橙丸"を軽く一振りする。目眩ましを受けていたインベスたちは、姿の変わった妖夢に一瞬戸惑っていたが、すぐさま臨戦態勢に切り替える。

 

「キシャァッ!」

「来ましたね...ふっ!」

 

まず先頭を切ったシカインベスは自慢の角を突き出して突進するが、妖夢はそれを華麗なステップで回避し、シカインベスの背中を斬りつける。続けて襲いかかってきたビャッコインベスの爪を大橙丸で防ぐと、ベルトに提げられていた片刃の黒い銃剣──"無双セイバー"を右手で握り、ビャッコインベスのがら空きの胴体を横一文字に斬り裂く。

 

「ギィィッ!!」

「さて、お次は...」

 

妖夢は無双セイバーの鍔に備えられたレバー──バレットスライドを引いてエネルギーをチャージすると、振り向きざまに無双セイバーの鍔の銃口からエネルギー弾を連射。放たれた計五発のエネルギー弾は、背後から迫っていた初級インベス五体に命中する。

 

「銃、ですか...あまり手慣れないですが、使えますね!」

「あ、弾切れには気をつけろよ!」

「はいっ!」

 

無双セイバーの使い勝手を確認した妖夢は、火花を散らして地面に倒れた初級インベスに追撃をかける。舞うようにして四体の初級インベスを斬りつけ、残りの一体には交叉斬りを見舞う。交叉斬りを受けた初級インベスは爆散し、妖夢は大橙丸と無双セイバーを構え直すと、残る初級インベスたちに向かって駆け出す。すれ違いざまに高速の太刀を浴びせられた初級インベスたちは、橙色と白銀の傷を受けて一人残らず爆散した。

 

「すっげぇ...」

「ふふっ、お褒め頂き光栄です。さて、残りのインベスは...?」

 

初級インベスを片付けた妖夢はビャッコインベスとシカインベスを探すが、その姿は見えない。警戒を強めた妖夢は、茂みから飛び出してきたシカインベスと、木の上から飛びかかってきたビャッコインベスを直感的に察知し、華麗な前転で彼らの奇襲を回避する。膝立ちの態勢で構えた妖夢は、バレットスライドを手早く引いてエネルギーをチャージすると、ビャッコインベスに狙いを定めて、五連続でトリガーを引く。五発ものエネルギー弾が胸部に炸裂したビャッコインベスは、火花を散らして吹き飛んでいった。

 

「さて、まずはこちらの一体...決めましょう!紘汰さんっ!!」

「よっしゃぁ!行っくぜぇ、妖夢ッ!!」

 

紘汰と共に気合いを入れた妖夢はすっと立ち上がり、無双セイバーの柄を器用に扱って戦極ドライバーのカッティングブレードを倒す。

 

『オレンジスカッシュ!』

 

すると、オレンジロックシードの断面が鮮やかな橙色の光を放ち、それと同じ光を無双セイバーと大橙丸の刃が放ち始める。一方、妖夢と対峙するシカインベスは、彼女が最後の一撃を放たんとしていることを理解しているかのように全身を震わせ、頭部の枝角に燃え盛る炎を纏わせる。互いに大技を狙い、睨み合う妖夢とシカインベス。一つ、大きく息を吸った妖夢は一直線に駆け出し、シカインベスは角に纏わせた炎をここぞとばかりに放射する。

 

「はぁぁっ!」

 

シカインベスに突撃をしかける妖夢は、自分を包むほどの大きさを誇る火球を交叉斬りで叩き斬ると、ぐっと屈んで高く跳躍する。切り裂かれた火球が林に着弾し、大きく巻き上がる炎の中、妖夢は大橙丸と無双セイバーを構え直すと、シカインベスめがけて降下する。妖夢は降下の勢いそのままに大橙丸を振り抜き、シカインベスを袈裟に斬りつける。着地した妖夢は、その勢いを利用して、半回転しながら無双セイバーを横一文字に振り抜いた。

 

「ギシャァァッ...!!?」

 

美しく技を決めた妖夢が刀の露を払うかのように得物をふるうと、橙色の輝きを帯びた大橙丸と無双セイバーの連斬を受けたシカインベスは傷痕に残った輝きを強め、爆散した。その黒煙を、妖夢が後ろ目に確認した時、いつの間にか立ち上がっていたビャッコインベスが紋様から光線を撒き散らした。

 

「っ...!?くっ...!!」

 

妖夢は大橙丸と無双セイバーで弾こうとするが、乱雑に放たれた光線は捌ききれず、懐に潜り込んできた光線を胸部の鎧に受けてしまう。妖夢は大きく吹き飛ばされるが、頑丈な鎧のお陰でダメージはほとんど無く、空中で無双セイバーを逆手に持ち替えて地面に突き立てることで勢いを殺す。

 

「妖夢!"それ"、くっつくぜ!!」

「えっ...?"それ"って、まさか...」

 

紘汰の言葉を受けた妖夢は、半信半疑で無双セイバーの柄と大橙丸の柄を合わせる。すると、二本の刀が連結され、無双セイバーが"ナギナタモード"に変化した。

 

「わぁ~!くっついたぁ~!!」

「おっし!ぶんまわせ、妖夢ッ!」

 

妖夢は、ナギナタと化した無双セイバーにキラキラと感動の眼差しを向け終えると、それを器用に振り回して光線を切り捨てていく。やがてエネルギーが底を尽きたのか、ビャッコインベスの光線が止み始めた。その隙を突き、妖夢はドライバーのオレンジロックシードを取り外し、無双セイバーの柄部分に備えられた窪みにはめると、掛け金を閉じる。

 

『Lock On!』

 

先ほどと同じようにオレンジロックシードが橙色の光を放ち、エネルギーが無双セイバーと大橙丸に蓄積されていく。それに気づいたビャッコインベスは妨害を狙い、余力すべてを込めて複数の光線を放つ。しかし、ビャッコインベスの抵抗むなしく、妖夢は流麗な薙刀さばきで光線をすべて切り裂いた。

 

『一・十・百!オレンジチャージ!』

 

その間にチャージが完了した二つの刃は橙色に輝き、妖夢は無双セイバーの刃を使って左右から切り上げる。それに合わせて放たれた橙色の光刃はビャッコインベスに命中し、その身体をオレンジを模したエナジーネットに拘束する。妖夢は無双セイバーをくるりと半回転させ、大橙丸の刃を突き出して駆け出した。

 

「はぁぁぁっ...!」「セイッハァァァッ!!」

 

高らかに気勢を上げた妖夢たちは、すれ違いざまにビャッコインベスを一閃する。大橙丸の刃を受けたビャッコインベスは、エナジーネットごと上下真っ二つに切り裂かれ──

 

「ウガァァァッ!!」

 

──大きな爆煙を伴って爆散した。

 

「勝った...私も、勝てた...!」

「よっしゃぁ!どうなることかと思ったけど、なんとかなったな!サンキュー、妖夢!」

「いえ...こちらこそ、ありがとうございました!」

 

少し誇らしげに笑顔を浮かべた妖夢は、無双セイバーからオレンジロックシードを取り外し、展開されていたプレートと掛け金を閉じた。すると、変身とシンクロが解除され、紘汰も元の姿で戻ってくる。紘汰と祝勝の笑顔を交わし、妖夢は地面に突き刺したままだった楼観剣に歩み寄る。柄を握った妖夢は、ぐっと力を込めて楼観剣を引き抜くと、鏡面のように磨かれた刀身を見つめる。少しの間、妖夢はどこか懐かしむように微笑むと、楼観剣を背中の鞘に収めた。爽やかに振り向いた妖夢は、少し遠目に紘汰を見ると、慌てて声を上げた。

 

「紘汰さん、怪我の具合は悪化してませんか!?」

「あぁ...そういえば、全身が焼けるように...痛いよう...な...」

「紘汰さぁぁぁぁん!?しっかりしてください!ここで死んだら楼観剣で切り捨てますからね!?」

「それ...もっと酷いことに...なりそう...」

 

妖夢は力尽きたようにふらっと倒れてしまった紘汰に急いで駆け寄り、介抱する。焦りからめちゃくちゃな発言で紘汰を激励する妖夢と、その言葉に小さく微笑む紘汰。そんな二人を、白衣の男が遠く離れた茂みから観察していた。

 

「ふぅ~ん...まさか、戦極ドライバーのライダーインジケータの制約まで無効化するとは。シンクロとやらは、私の想定よりも面倒なものらしいね...」

 

その手に持ったファイルをペンで叩きつつ、男は淡白な口調で呟いた。そんな怪しげな男の背後に、"戦極ドライバーを身につけた"女性が現れると、男は振り向きもせずに声をかける。

 

「ご苦労、クラックの処理は終わったようだね。」

「えぇ...」

「さて、それじゃあ私は戻るよ...君も、早く帰ったほうがいいんじゃないかな?」

 

ひらひらと手を振りながら、どこかへ立ち去っていく男。物憂げな表情を浮かべる女性の手には、麗しき"メロンのロックシード"が握られていた。

 

開かれてしまった運命の鍵....動き始めた運命は止められない。これが、未来に待ち受ける苦難の始まりであることを、まだ青い果実のように無垢な妖夢は知らなかった。

 

彼らは運命に抗えない...だが、世界は彼らに託される。

 

 

~次回予告~

 

「妖怪が、化け物に...?」

 

「大丈夫か、少年?」

 

「さぁ~て、張り切って行きますか!」

 

「「はぁぁぁ...たぁっ!!」」

 

「「音撃打・火炎連打の型!!」」

 

第十二之巻 ~共鳴(ひび)く鬼たち~

 

乞う御期待!!

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

〜葛葉紘汰〜

 

計画開発都市、沢芽市で活動するダンスチーム「鎧武」のOBである青年。とある事件をきっかけに戦極ドライバーを手にし、沢芽市に潜んでいた闇に近づいていくことになる。冥界で倒れていたところを妖夢に助けられ、彼女を襲ったインベスと戦う中で妖夢とシンクロを果たし、初陣を飾った。その後は妖夢から傷の処置を受け、彼女の提案、幽々子の了承を受けて白玉楼に居候することになる。

 

~鎧武 オレンジアームズ(妖夢)~

 

紘汰とシンクロした妖夢が、戦極ドライバーとオレンジロックシードを使って変身した姿。オレンジアームズのアームズウェポンである大橙丸と、基本装備である無双セイバーを巧みに操る。妖夢持ち前の剣術を応用し、高い戦闘力を発揮する。必殺技は、大橙丸で斬撃を行う"大橙一刀"や、ナギナタモードの無双セイバーから放った斬撃波で敵を拘束し、身動きを封じられた相手を切り裂く"ナギナタ無双スライサー"など。

 

~戦極ドライバー~

 

鎧武を始めとしたアーマードライダーたちの変身に使用される、黒を基調としたバックル。中央にはロックシードをはめ込むためのくぼみがあり、右側にはロックシードを展開するためのカッティングブレードが備えられている。また、左側には変身するライダーの横顔──ライダーインジケータがあり、そこに登録されている最初の装着者しか装着することは出来ない。だが、登録者とシンクロを介せば変身は可能。




第11話、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

白衣の男...察しのいい方は分かるでしょうか?暗躍する影もありますが、ボロボロな紘汰は一体...?この先の展開を楽しみにして頂ければと思います!ちなみに、12話改め一二之巻ですが、この漢数字は響鬼編で使う予定ですが、統一感に欠けると判断した場合英数字に戻させて頂きます。あらかじめ、ご了承ください。

それでは、チャオ!


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第十二之巻 ~共鳴(ひび)く鬼たち~

こんにちは、シェインです!令和ライダー第一号、仮面ライダーゼロワンが発表されました!なんというか、シンプルでスタイリッシュですよね!最近のライダーたちに見慣れていたせいで、少しデザインが寂しくも感じますけど、きっと動けばカッコイイ!

それでは第十二之巻、どうぞ!


「私はお前を絶対超えるぞ。いつか、必ずな!」

 

柔らかな月明かりの下、木の幹に寄りかかる、額から赤い一本角を生やした少女が叫んだ。少女の全身にはあちらこちらに傷が付いているが、その顔は満足そうな笑顔だ。隣の木に寄りかかる、黒い一本角の青年が少女の言葉に応える。

 

「ははっ、そう言って何年経ったんだ?今日も俺の勝ち...これで2005勝目だったか?」

「うっ...ま、いつかの話だ。もしかしたら、次にはお前を負かすかもしれないぞ?」

 

青年は静かに笑いながら、その手に持った黒い杯に酒を注いでいく。やがて酒を注ぎ終えた青年は、隣の少女に酒瓶を投げ渡すと、綺麗な満月を眺めながら言葉を紡ぐ。

 

「そうだな、人生はなにが起こるか分からない。いつ何時も気を締めておかねばな。」

「だからさ、私がお前に勝つその日まで...」

 

青年のものとは対照的な赤い杯に酒を注いだ少女は、酒が零れそうなほどの杯を青年に突き出して、好戦的にニッと笑う。

 

「どこにも、逃げるなよ?」

 

少女の明るく、真っ直ぐな顔を見つめていた青年は、優しい微笑みと一緒に冗談で返す。

 

「...さぁな。お前が勝つより先に寿命で死ぬかもしれないだろ?」

「そんときゃ、地獄まで追いかけてぶちのめしてやるよ!」

「まったく、これは間違っても死ねないな...」

 

呆れたように、だが、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべて、青年は突き出された杯に自らの杯をそっと当てた。

 

「「今日の戦に、乾杯。」」

 

杯を傾けて一気に酒を飲み干した少女の名は、星熊(ほしぐま)勇儀(ゆうぎ)。後に"力の勇儀"と恐れられる、「鬼の四天王」の一人である。そして、彼女と酒を飲み交わす青年もまた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪が、化け物に...?」

 

地霊館二階、突き当たりの部屋。翔太郎さんたちの探偵事務所代わりになる予定の部屋だが、まだ準備中であり、今日は翔太郎さんの淹れたコーヒーを飲むために訪れていた。その部屋でこいしの話を聞いたとき、私──古明地さとりは愕然とした。それは向かいに座っている翔太郎さんも同じだったらしく、淹れたてのコーヒーが少しコーヒーカップから零れて膝にかかっていた。

 

「あ、あちっ!?熱っ!!」

「はい、翔太郎。」

 

ハーフボイルドに騒ぎ出す翔太郎さんに、隣に座るフィリップさんが即座にハンカチを差し出す。その速度たるや、まさに阿吽の呼吸と言うに忍びないものだった。

 

「うぉ、サンキュ。流石は相棒、対応が早いな。」

「まぁね...君がコーヒーを飲むと、零したり、吹き出したりはしょっちゅうだから、ハンカチは2枚常備しているさ。」

「あ、はーい...まったく、相変わらずお前はオカンかよ...」

 

フィリップさんに皮肉られた翔太郎さんは、小声で愚痴をこぼしながら受け取ったハンカチでズボンを拭く。そんな翔太郎さんを優しく眺めるフィリップさんは、こいしに視線を向けて真偽を確かめる。

 

「こいし、それは本当かい?」

「うん!最近、旧都のみんなはその噂で持ちきりだよ?なんか、急に苦しみだしたり、凶暴になって怪物になっちゃうんだって〜。」

「まさか、ガイアメモリか...?」

 

手を顎に添え、真剣な剣幕で考え始めたフィリップさんに、こいしは目を丸くしながら首を傾げる。

 

「ねぇねぇ、フィリップ!ガイアメモリを使ってるなら、急に怪物にはならないんじゃないの?怪物になるのを直接見たっていう人もいたけど、メモリの話はしてなかったけどなぁ。」

「ん、そうなのかい?なら、ドーパントの可能性は低いね...ありがとう、こいし。」

「あ、ココアー!わーい♪」

 

足をパタパタさせながら笑顔で語ったこいしは、フィリップさんがコーヒーの代わりに差し出したココアを受け取り、嬉しそうにすする。こいしの話を聞き終えた私は、少しホッとして自分のコーヒーカップに手を伸ばす。

 

「なんだ..."ただの噂話"なのね。ビックリさせないでよ、こいし。」

「い~や、"ただの噂話"じゃねぇさ。」

 

コーヒーを拭き終えた翔太郎さんは、フィリップさんにハンカチを返しながら、少し気取った表情で私の言葉を否定した。私はコーヒーカップから視線を上げて、次の翔太郎さんの言葉を待つ。

 

「噂話ってのは、人の心が生み出した言葉のそよ風みてぇなもんだ。そういう風から、本当のSOSを見つけてやるのが、俺たち"探偵"の仕事だからな...噂話は、大事な情報源って訳だ。」

「なるほど...で、それも荘吉さんからの受け売りと。」

「うっ...な、なんの話かなー?」

 

図星を突かれて、ギクッといった顔をしてこちらを見る翔太郎さん。彼はああいう気取った顔をすると、師匠である"鳴海荘吉"さんの受け売りを自慢気に語る、というのは、心読まずとも分かるようになりましたね。翔太郎さんのの分かりやすい反応を見たフィリップさんとこいしは、思わず笑い出す。

 

「ふふっ、さとりも翔太郎の扱いが分かってきたねぇ?」

「あははっ!さっすが、お姉ちゃん!」

「あぁ...俺のハードボイルドが乱れるぅ...」

 

ソファーの背もたれに顔を突っ伏して嘆いた翔太郎さんは、少ししてから顔を起こすと、帽子をかぶり直して、一割ほど中身が減ったコーヒーカップに手をかける。グイッとコーヒーを飲み干した翔太郎さんは、「よっしっ!」と気合いを入れて立ち上がった。

 

「とにかく行って来るぜ。一体なにが起きてんのか、調べなきゃな。」

「私も行きますよ。」

 

私も立ち上がって翔太郎さんに続くと、出口の扉へと向かっていた彼は振り向き、少し意外そうな顔をして言葉を続けた。

 

「いいのか?空振りに終わるかもしれねぇ調査だぞ?」

「分かってます。でも、"空振りじゃなかった時のため"の調査ですよね?そして、もしそうじゃなかったら、だったら私たちが揃っていなくちゃ...でしょう?」

 

私は翔太郎さんにずいっと近づき、柔らかに口角を上げる。それに釣られた翔太郎さんも小さく笑顔を浮かべ、私たちは調査のために仮の左探偵事務所を出た。

 

 

 

さとりたちが外出したのとほぼ同時刻、旧都の少し外れに建てられている日本家屋の中庭で、一人の男が立て台に乗せた和太鼓を叩いていた。紫の道着に身を包んだ三十代くらいの男は、両手に握る素朴な木製のバチを鋭く操り、腹に響くように力強い音色を奏でる。二本のバチで同時に面を叩き、演奏の締めとした男は「ふぅ...」と息をつき、右手のバチをくるりと回した。

 

「今日もいい音だな、"ヒビキ"。」

 

屋敷の縁側に現れた体操服のような格好の女性が、演奏を終えた男に声をかけた。手首に鎖の千切れた手枷を着け、額から特徴的な赤い一本角を生やしたその女性──星熊勇儀は縁側からひょいと飛び降り、男の近くに向かう。

 

「ハハッ、そりゃどうも。まっ、鍛えてますから。」

 

勇儀に誉められた男──ヒビキは気さくな笑みを浮かべると、右手のバチを左手に移し、右手の薬指と小指を若干曲げた状態で、手首のスナップを利かせて一回まわしたあと前に軽く振る。それを見た勇儀はニヤリと笑うが、それはすぐに真剣な表情に変わり、目の前のヒビキをしっかりと見据える。

 

「さぁて、稽古の直後で悪いが...出れるか?知り合いの様子がおかしい、って話を小耳に挟んでな。茜鷹(アカネタカ)に探らせたが、恐らく"当たり"だ。」

「てことは、もう"変化"が近いのか...まずいな。よし、すぐ行こうか。」

 

勇儀の話を聞いたヒビキは、気さくな表情から一転、勇儀と同じような真剣な表情に変わり、彼女の言葉に応える。その言葉に、勇儀は静かな頷きだけを返した。ヒビキはバチを立て台の傍に置き、勇儀とともに駆け出す。だが、二人の疾走する先には外と庭園を仕切る、1.5メートル程度の高さの竹製の柵が立てられている。二人は柵に激突する直前に軽く膝を曲げて跳び上がると、優々と柵を越えて、文字通り屋敷を飛び出した。

 

 

 

「ふ~ん♪ふふ~ん♪」

 

勇儀やさとりが動き出す中、色とりどりの花で一杯な手提げの籠を持った少年──未先静真は、旧都の広場を鼻歌を歌いながら呑気に歩く。彼は、少し前にティーレックスドーパント──我牙久羽の企みでドーパントにさせられていたが、さとりたちにメモリブレイクして貰った後は正気を取り戻し、ドーパントになっていた間のことはすっかり忘れて日常に戻っていた。今も花香茶で管理している地上の花畑から、販売用の花を摘んできた帰り道なのだ。

 

「ふふっ、花名さん喜ぶかなぁ...」

 

喜ぶ店長の顔を想像し、にやにやと籠を覗きながら歩いていた静真は、向かい側から歩いて来ていた少女に気づかず、肩がぶつかってしまった。よろけながらも籠から花が落ちないように絶妙なバランスを取った静真は、ふらふらとバランスを崩して地面に手を付いてしまった少女に、慌てて声をかける。

 

「ハァ...ハァ...ッ!」

「す、すみません!大丈夫ですか...って、ヤマメさん!?」

 

ぶつかった相手の顔を見た静真は、すぐに彼女の名前を呼ぶ。ふっくらした上着の上にこげ茶色のジャンパースカートを纏い、肩で息をする金髪の少女の名は"黒谷ヤマメ"。明るく元気な地底のアイドル的存在で、その性格上、花名と馬が合うらしく、度々花香茶に訪れて一緒にお茶をする仲だ。そこの従業員である静真が顔見知りでない訳はなく、彼の引っ込み思案な性格を見かねて、なにかと世話を焼いて貰っている間柄だ。だが、振り向いたヤマメの表情は、いつもの明るい笑顔ではなかった。

 

「ハァッ...うっ、あぁ...!」

「どうしたんですか、ヤマメさん!?しっかり!!」

 

手で胸を抑え、苦しそうに荒い息を吐くヤマメの顔は赤く染まり、潤んだ茶色の瞳には涙が浮かんでいる。ヤマメの様子がおかしいことを理解した静真は、籠を道端に置いて、彼女を介抱しようと駆け寄る。歩いていた少女が突然倒れ込み、その娘が地底のアイドルとなれば、通行人が騒ぎ出さない訳もない。広場を行き交う者たちは、その足を止めて事の成り行きを眺めていた。ふらりふらりと体を揺らしながらも、なんとか立ち上がったヤマメは、駆け寄って来た静真の肩を掴む。

 

「静...真ぁ...!苦...しいよ...!たすけ...て...!」

「えっ...!?」

 

命乞いをするかのようなヤマメの雰囲気に気圧された静真は、動揺で固まってしまった。その瞬間、ヤマメはより一層苦しみだし、両手で頭を抱えて辺りを徘徊し始める。

 

「うぁ...!があっ...!ウァッ...!ああッ!?ウゥガァァァァァァァッ!!」

 

やがて力尽きたかのように膝をついたヤマメは、理性を失った獣のように咆哮を上げる。空気を切り裂くようなその叫びを合図にヤマメの身体が赤黒い炎に包まれ、全身から黒い霧を放出する。黒い霧は放射状に広がり、広場の半分を包み込むかといったところで止まった。黒い霧から逃れた静真は、かなりの大きさに成長した霧を見上げる。その時、霧の中に六つの赤い光が走った。

 

「な、なに...これ...」

 

やがて霧から這い出てきたのは、この世のものとは思えないような化け物だった。広場の半分を覆い尽くすような巨体に虎柄が張り巡らされ、八本の長く鋭い足が広場の床を突き刺している。その顔に六つの赤い眼球を並べた、魔化網と呼ばれる化け物の一種──"ツチグモ"だ。通行人たちは、広場に突如として現れたツチグモを唖然と見つめる。だが、そんな通行人たちを獲物と見なしたツチグモは、口から高い粘性を持つ糸を放った。

 

「うわぁぁぁっ!?」

「ば、化け物だっ!逃げろっ!」

 

ツチグモの雰囲気から、自分たちが食糧と見られていることを感じ取った通行人たちは、口々に悲鳴を上げて逃げ出す。だが、最も近くにいた静真だけは逃げ出すのが遅れてしまった。お世話になっていた相手が目の前でツチグモに変貌してしまった現実に混乱し、静真は尻餅をついてしまう。体を震えさせる恐怖を抑え、花の籠を抱えてなんとか逃げ出そうとする静真だったが、手近な獲物ほど狙いやすい。そんな整然とした理屈に従い、ツチグモは静真の足めがけて糸を吐き出した。

 

「うっ...!?」

 

粘性の糸に足を絡め取られた静真は、籠をひっくり返しながら倒れてしまう。捕獲した静真にゆっくりと迫り来るツチグモ。ひっくり返した花が宙を舞う中、静真は2メートル程度の距離に迫ったツチグモを見上げて、自分の死を悟った。

 

「(ははっ...なんか、手向け花みたいだなぁ...でも、最期に花に囲まれてて良かったかも...)」

 

周りに降り注ぐ花たちが献花のように見えた静真は心の中で静かに笑い、数刻後には訪れるであろう激痛に恐怖を感じながら、目をつむった。静真のその予想通り、ツチグモは捕らえた静真を貪り喰らうべく、大口を開いて静真の眼前に迫る。だが、静真の予想をなぞったのはそこまでだった。

 

「ヒビキッ!あいつを頼む!」

「おう、了解!」

 

広場に駆けつけたヒビキと勇儀は短いやり取りで意志の疎通を行い、勇儀はツチグモを越える高さまで跳躍。それまで以上の加速でダッシュしたヒビキは、そのスピードのまますれ違いざまに静真を抱える。腕力と速度を利用し、絡みつく糸から静真を引き離したヒビキは、素早くツチグモの前を駆け抜ける。

 

「オラァッ!!」

 

その瞬間、宙で待機していた勇儀が気勢を上げ、高速な縦回転を合わせた踵落としをツチグモの背に見舞った。激しく地面に打ちつけられたツチグモは、苦悶の叫びを漏らす。ツチグモを蹴った反動で跳ね上がった勇儀は、静真を救い出したヒビキの傍に着地する。勇儀の姿を確認したヒビキは、ツチグモが地面に激突した衝撃で慌てて目を開けた静真に声をかける。

 

「大丈夫か、少年?」

「え...?あ、はい...」

「よし、じゃあ離れてな。」

 

ぽかんとした様子で返事をした静真を無事と判断したヒビキは、彼を優しく地面に下ろすと、逃げるように促す。静真は動揺しながらも小さく頷くと、広場に続く道に逃げ込んでいく。だが、ヤマメの安否を気にかけていた静真は、ヒビキの言葉に反してとっさに通路にある建物の一つに隠れ、勇儀とヒビキの背中を息を呑んで見つめ始めた。静真が見ていることには気づかず、ヒビキと勇儀は威風堂々とツチグモの前に並び立つ。

 

「さぁ~て、張り切って行きますか!」

「あぁ、ヤマメを必ず救い出す!行くぞ...ヒビキ!」

 

勇儀の声に力強く頷いたヒビキは、明鏡止水の心で目を閉じる。次の瞬間、ヒビキの身体は紫の光に変化し、勇儀の中に吸い込まれていった。ヒビキとシンクロを果たした勇儀は、腰に提げている二本角の鬼の顔を模した音叉──"変身音叉・音角"を手に取る。そして、折り畳まれていた音角を手首のスナップを効かせて素早く展開し、角の部分を左手の指で軽く弾く。心が洗われるように清らかな音が響く中、勇儀は自分の額のちょうど角の付け根辺りに音角を翳す。八本の足を突き立て、その大きな肢体を持ち上げたツチグモは、目の前で仁王立ちする勇儀に向けてがむしゃらに糸を吐き出す。だがその時、勇儀の身体が紫の炎で燃え上がり、近づく糸を焼き払っていく。

 

「「はぁぁぁ...たぁっ!!」」

 

勇儀はヒビキと息の合った掛け声と同時に腕を横に振り抜き、全身に纏った炎を振り払う。幻のように消えた紫炎の中から現れた勇儀は、炎に包まれる前とは別人のような姿になっていた。体操服のような服は、肩と胸をはだけさせたグラデーションのかかる紫色の和服へと変わり、その上に両肩から胸部に繋がる銀の装備を装着している。腰には革製のベルトと、金の三つ巴の印がある太鼓の面を模したバックル──"音撃鼓"が装着されている。勇儀の特徴的な赤い一本角は消え、その代わりに二本の銀の角が額に伸びており、煌びやかな金髪は、服と同様にグラデーションのかかった紫に変わっていた。瞳も紫に染め上げた勇儀は、鬼の戦士"響鬼"の力を受け継いだ姿に変身したのだった。

 

「さぁ~て、楽しませてくれよ?」

 

ニヤリと好戦的な笑みを浮かべた勇儀は、ベルトの背面に収められている一対の赤いバチ──"音撃棒・烈火"を手に取って構える。勇儀の変貌を目の当たりにしたツチグモは少し竦んだものの、結局は獲物と判断したらしく、勇儀に牙を剥いて噛みつこうとする。だが、真上に飛び上がって噛みつきを回避した勇儀は、落下の速度を活かしてツチグモの頭に力強く音撃棒を叩きつける。ダメージに身悶え、暴れるツチグモに振り落とされた勇儀は、ツチグモの後ろに飛び降りた。

 

「ツチグモか、相変わらずデカいなぁ...あんまり時間かけると、被害が大きくなるな。」

「あぁ、分かってる。無駄に暴れられる前にさっさと終わらせるぞ!」

 

ヒビキの助言を受けて威勢良く叫んだ勇儀が、再びツチグモに飛びかかろうとした瞬間、ツチグモは体から黒い霧を放出した。予想していなかった光景を見た勇儀は、急停止して思わず立ち止まる。勇儀が隙を見せたその瞬間、ツチグモと同じ糸が()()()()()射出された。

 

「なっ...!?」

 

一瞬の内に勇儀の右手の音撃棒が撃ち抜かれ、糸に巻き込まれた音撃棒は、糸とともに着弾した地面に張り付いてしまう。武器の片割れを失った勇儀だったが、連続して撃ち出された二発目の糸はタッチダウンライズで回避する。着地した勇儀が左手の音撃棒を腰のホルダーに収めると──

 

「ガァッ!」「シャァッ!」

 

──霧の中から現れた二体の黒い人型の化け物が、勇儀に飛びかかった。不測の事態に少しだけ怯んだ勇儀だったが、先陣を切ってきた男らしい顔つきの化け物──"ツチグモの怪童子"を反射的に回避する。勇儀は怪童子の背中に裏拳を打ち込むが、後から飛び込んできた怪童子とは対照的に女らしい化け物──"ツチグモの妖姫"に組み付かれてしまう。

 

「あぁ!?なんだコイツら!?今までこんなの居なかったろ!」

「まさか、童子と姫か...!」

「オラァッ!」

 

ヒビキが化け物たちの正体を察する中、勇儀は組み合っていた妖姫を投げ飛ばす。だが、怪童子の隣に着陸した妖姫と怪童子は、勇儀を煽るかのように両手を叩き始めた。

 

「お~にさんこちら...」

「てぇ~のなるほうへ...」

「ほぉ、挑発か?この力の勇儀が、舐められたもんだねぇ...!」

 

ギリリと拳を握った勇儀は、待ち構える怪童子と妖姫に突撃する。対する怪童子たちは、突っ込んでくる勇儀に糸を吐き出して妨害を試みる。だが、勇儀は前転で糸を回避すると、グッと脚に力を込めて妖姫の懐に一気に飛び込んだ。急に距離を詰められた妖姫は明らかに動揺し、それを見た勇儀は、意趣返しと言わんばかりに挑発的な笑みを浮かべた。

 

「よぉ、来てやった...ぜっ!!」

「ウッ...!」

 

皮肉と共に腹部に正拳突きを見舞われた妖姫は、よろめきながら大きく後退する。一方その頃、静真が隠れている建物がある道に、ツチグモの騒ぎを嗅ぎつけたさとりと翔太郎が駆けつけた。

 

「なんだありゃ!?ドーパント...なのか?」

「これは...調査はお預けですね。行きますよ、翔太郎さん!」

「あぁ!」

 

話し声でさとりたちに気づいた静真は、勇儀から目を離してさとりたちに視線を向ける。

 

「(あれは...さとりさん?どうしてこんな危険な場所に...?)」

 

彼に見られている事などつゆ知らず、翔太郎とシンクロを果たしたさとりは、ダブルドライバーを装着して走り出す。それに対応し、事務所室でココアを味わっていたこいしの腰にもドライバーが出現した。

 

「あれ?」

「ドライバー...どうやら出番のようだね。行こうか、こいし?」

「うん!ココアパワーでがんばろー!」

 

無邪気な笑顔で両手を突き上げたこいしはフィリップとシンクロし、サイクロンメモリを手に取る。一方のさとりも、走りながらジョーカーメモリを取り出す。そして、意識の繋がったさとりとこいしは同時にメモリを起動する。

 

『サイクロン!』

『ジョーカー!』

「「「「変身!」」」」

 

場所は違えど、さとりと心を一つにしたこいしは、サイクロンメモリをドライバーに装填。サイクロンメモリがさとりのドライバーに転送されると同時に意識を失ったこいしは、ゆっくりとソファーに倒れ込んだ。通路を駆け抜けるさとりは、転送されてきたサイクロンメモリとジョーカーメモリをドライバーに装填し、素早く展開した。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

「えっ!?さとりさんも変身した...!?」

 

疾風に包まれ、サイクロンジョーカーに変身したさとりに目を疑う静真。そんな彼の横を駆け抜けたさとりは、魑魅魍魎の戦場と化した広場に突入し、勇儀の背後から攻撃を仕掛けようとしている怪童子の顔面に、風を纏った旋風脚を叩き込んだ。少し吹き飛ばされた怪童子は、その容姿に見合わない甲高い声で驚きを露わにする。

 

「うっ...!?鬼では、ない...!?」

「意外なのはお互い様さ...やはりドーパントではなさそうだね。」

 

さとりの胸で緑の輝きを放ち、冷静に怪童子の正体を探るフィリップ。彼の声を聞いて振り返った勇儀は、静かに怪童子を見据えるさとりの後ろ姿を見て、目を見開いた。

 

「...お前、さとりか!?」

「えっ...?まさか、勇儀さんですか!?」

 

勇儀に釣られて振り返ったさとりもまた、普段と大きく異なる姿をした勇儀に目を見開く。そして、少し困惑したような顔をすると、小さな声で勇儀に尋ねる。

 

「えっ~と...鬼の角って、増えるんですか...?」

「へっ...?あぁ、ちいと酒を呑みすぎちまってね...二日酔いになると、鬼の角は増えるんだよ?」

「「ええっ!?」」

 

勇儀の予想外な答えを受けたさとりは、ハトが豆鉄砲をくらったような顔をして、翔太郎と一緒に驚きの声を上げる。さとりの可愛らしい反応を見た勇儀とヒビキは、豪快に笑い声を上げた。

 

「はははっ!お嬢さんと、中の青年!息ぴったりだね...まさに阿吽の呼吸ってやつかな?」

「あははっ...!さとりのそんな顔、初めて見たよ!私の冗談に気づけないってことは、さとりも能力は使えないみたいだな。」

「冗談だったんですか!?もぅ...」

 

勇儀にからかわれたことを知ったさとりは、恥ずかしそうに赤らめた頬を膨らます。実はこの時、さとりの内で翔太郎も赤面しており、それを察したこいしとフィリップは必死で笑いを堪えていた。戦闘中であるにも関わらず、敵に背を向けて談笑する二人の隙を狙い、怪童子はさとりに、妖姫は勇儀に飛びかかった。

 

「さてと...」

「おしゃべりは...」

 

互いの背中から迫る敵を認識し、顔を見合わせて頷き合った二人は──

 

「ここまでだな!」「ここまでですね!」

 

──ぶつからないように綺麗に回転すると、さとりは妖姫に右足で旋風脚をお見舞いし、勇儀は回転の遠心力を活かして怪童子を力強く殴りつけた。再び吹き飛ばされた怪童子と妖姫に、さとりと勇儀は背を合わせて対峙する。だが、怪童子と妖姫が時間稼ぎをしている間に立ち直ったツチグモが、勇儀たち以外の餌を探し始める。その毒牙は、逃げ遅れ、広場の店に隠れていた女性へと向けられた。

 

「あっ...」

 

ツチグモの赤い瞳に睨まれた女性は、小さく声を漏らす。その声を聞き取った勇儀は、いち早くツチグモの再起に気づいた。

 

「まだ誰か残ってたのか...!」

 

逃げ遅れた者がいたことを知って焦燥に駆られる勇儀に、怪童子は右腕を蜘蛛の足を模した爪に変えて飛びかかる。だが、それを見切っていた勇儀は屈んで爪を回避すると、グッと拳に力を込める。すると、拳から腕にかけて紫の炎が広がり、勇儀は紫炎に包まれた拳を振るう。

 

「鬼闘術・炎獄拳ッ!」

 

腹部に勇儀の拳を撃ち込まれた怪童子は、気味の悪い悲鳴を上げながら通路に吹き飛んでいく。50メートル近くある通路の半分に差し掛かったところで、怪童子は木っ端微塵に爆ぜ散った。怪童子の最期を確認した勇儀は、ツチグモの方に振り返る。獲物を捉えたツチグモは、恐怖で固まってしまい、動けない女性を狙って糸を吐き出す。

 

「いっ、いやぁっ...!」

 

全身に巻きつけられた糸に絡め取られた女性は、糸を手繰り寄せるツチグモにズルズルと引きずられていく。彼女の窮地を目の当たりにした勇儀は、背後で妖姫と交戦するさとりに叫ぶ。

 

「さとり!そいつは任せる!」

「分かりました!勇儀さんは、早くあの方を!!」

「あぁ!」

 

さとりの返答に応じた勇儀は、地面にへばりついた音撃棒の一本を力付くで回収し、左手で腰の音撃棒を握ると、ツチグモの方に猛進する。勇儀に妖姫を任されたさとりは、怪童子と同じように腕を変化させた妖姫の攻撃をバク転で回避し、紫のエネルギーを纏った左足の正面蹴りで妖姫を吹き飛ばした。

 

「うっ...」

 

うめき声を上げながら着地した妖姫は、さとりに向けて口から糸を連射した。糸の弾幕に襲われたさとりは、アクロバティックな動きで糸をよけながら妖姫と距離を取る。地面や壁に張り付いた糸を見たフィリップは、淡々と分析を語り始めた。

 

「どうやらあの糸は、高い粘着性を持つようだね...命中すれば自由が利かなくなる。」

「動きが制限されるのは厄介ですね...」

 

妖姫の糸に対策をするべく、冷静に思考を回転させようとするさとりだったが、その時、こいしが唐突に口を開いた。

 

「ネバネバでくっついちゃうってこと?じゃあ、敵をそのネバネバにくっつけちゃお~♪」

「えっ!?ちょっ、こいし!?」

『メタル!』

 

いつものように自由な発想で突発的に行動を開始したこいしは、さとりの右半身を勝手に操ると、メタルメモリを取り出して起動した。ドライバーを閉じたこいしは、ジョーカーメモリとメタルメモリを入れ替え、右手でドライバーを展開する。

 

『サイクロン!メタル!』

「サイクロンメタルになったのは良いが...どうする気だ、こいし?」

「ふっふ~ん♪」

 

サイクロンメタルに変身し、翔太郎に作戦を聞かれたこいしは、自信満々に胸を張ると、メタルシャフトをくるくると回して両手で構える。妖姫はさとりの姿が変わったことに動揺し、さとりに向けてマシンガンのように糸を連射する。だが、さとりの身体を操るこいしは糸に構わず妖姫に突撃し、メタルシャフトで糸を防いでいく。何度も命中した糸が、メタルシャフトにねっとりと絡みつく。それでも止まらずに妖姫に接近したこいしは、その粘質の糸が絡みついたメタルシャフトを妖姫の腹部に叩きつけた。

 

「えっへへ~!いっくよぉ~!」

 

メタルシャフトにへばりついた糸の粘着性を逆手に取り、妖姫をメタルシャフトにくっつけたこいしは悪戯な笑みを浮かべ、メタルシャフトを振り回し始めた。メタルシャフトに粘着させられた妖姫は、それに合わせてぶんぶんと振り回される。やがて、メタルシャフトに遠心力を付けたこいしは、妖姫の着いたメタルシャフトを勢いよく地面に振り下ろす。

 

「はぁぁっ!」

 

こいしの気勢と共に地面に叩きつけられ、その衝撃を一身に受けた妖姫は、蚊の鳴くような断末魔を上げると、怪童子と同じように爆ぜ散った。

 

「やったぁ!ねぇねぇ、お姉ちゃん!すごいでしょ!」

「ほんとにすごい...我が妹ながら、よくこんなこと思いつくね...うわぁ...」

 

アイディアの勝利にぴょんぴょんと跳ねるこいしに対し、さとりは粘液でベチャベチャになってしまったメタルシャフトを、複雑な表情で眺めていた。一方の勇儀は、炎を纏わせた音撃棒を振るい、ツチグモと女性の間に繋がる糸を焼き切ると、ツチグモの前に立ちはだかる。

 

「童子と姫を造って時間稼ぎとは...意外に頭も切れるのか。ほんと、幻想郷の魔化網には驚かされるな。」

「感心してる場合じゃないだろ?行くぞ、ヒビキ!」

 

身体に絡みつく糸のせいで動けない女性を背にする勇儀は、音撃棒に意識を集中して火炎を纏わせる。さらに、その炎を音撃棒の先端の石──音撃を増幅させる役割を持つ"鬼石"へと集束させ、火炎弾を練り上げると、ツチグモの顔面めがけてそれを放った。

 

「ギリィィィッ!?」

 

火炎弾の炎に顔を焼かれ、奇怪なうめき声を上げたツチグモは、乱雑に足を動かして悶える。いくら狙いが付けられていないとはいえ、ツチグモの巨大で鋭利な足が見境無く振り下ろされれば、巻き込まれる危険性は否定できない。そう判断した勇儀は女性が繋がれたままの糸を掴むと、飛び退いてさとりたちの傍に撤退する。

 

「よっ...と!」

「うぎゃっ!?」

 

飛び退いた勇儀に引っ張られた女性は勢いにつられて振り回され、着地とともに地面に打ちつけられた。背後で完全にのびている女性に気づかず、その糸を手離した勇儀は、複雑な表情のさとりの横に並ぶ。それに気づいたさとりは、気まずそうに勇儀の肩をつついた。

 

「ん?どうした?」

「あの、勇儀さん...これ、どうにか出来ませんか...?」

 

苦い顔を浮かべながら勇儀に頼み込んださとりは、糸でベチャベチャなメタルシャフトを指差す。それで全てを察した勇儀は、哀れむような表情で音撃棒に炎を纏わせると、その炎をメタルシャフトに絡みつく糸にかざし、高熱で糸を溶かしていく。やがて糸が溶けきり、白い液体になったことで綺麗になったメタルシャフトを見回したさとりは、ほっとしたように笑顔を浮かべた。

 

「ありがとうございます...あれは、ちょっと気持ち悪かったので...」

「気にするな、お安いご用さ。その代わりと言っちゃなんだが、奴の動きを止められないか?トドメを刺す時、暴れられたら被害が大きくなるからな...」

「なるほど...分かりました、やってみます。」

 

勇儀の頼みを請けて、翔太郎やフィリップたちと策を巡らせたさとりは、一つの術を胸に力強く頷いた。一方、炎を振り払ったツチグモは食事を邪魔した勇儀たちを睨みつける。勇儀たちへの憤怒が限界に達していたツチグモは、獣じみた咆哮を上げながら猛進を開始した。

 

「さとり、来るぞ!」

「はいっ!」

『ルナ!』

 

ルナメモリを取り出して起動したさとりは、ドライバーを閉じてジョーカーメモリと入れ替えると、ドライバーを再展開する。

 

『ルナ!メタル!』

 

右半身に幻想のルナ、左半身に鋼鉄のメタルを揃えた黄色と銀のW──"ルナメタル"にハーフチェンジしたさとりはメタルシャフトを構え直し、ツチグモを迎撃する態勢を取る。さとりとツチグモの間に躍り出た勇儀は、先ほどと同じように火炎弾を放つ技──"鬼棒術・烈火弾"を繰り出した。だが、ヒビキの言ったとおり、ツチグモも学習しない訳ではない。勇儀の準備動作で烈火弾を繰り出すことを見切ったツチグモは、空中に飛び上がってそれを回避した。

 

「逃がさないよ~!」

 

だが、遊ぶかのように楽しそうなこいしの言葉通り、ツチグモに逃げ場はなかった。さとりの振るったメタルシャフトが鞭のように伸び、ツチグモの胴体を絡め取ったのだ。ツチグモを捕まえたさとりはメタルシャフトを真っ直ぐ振り下ろし、地面にひびが入る程の勢いでツチグモを叩きつける。さとりはメタルシャフトを元の状態に戻し、ドライバーのメタルメモリをメタルシャフトのスロットに挿入した。

 

『メタル!マキシマムドライブ!』

「はぁぁっ!」

 

さとりは幻想的な光を纏ったメタルシャフトをしならせながら振り回し、周囲に光のリングを生成していく。6つのリングを宙に並べたさとりは、メタルシャフトを横一文字に振り抜いた。

 

「「「「メタルイリュージョン!!」」」」

 

さとりたち四人の叫びに合わせ、光のリングが一斉に放射される。不規則な軌道を描いて飛行するリングは、勇儀をよけてツチグモに迫り、立ち上がりかけていたツチグモの八本の足の関節を切り裂いた。支えを失ったツチグモの巨体は、土煙を上げながら地に落ちる。

 

「ギィィィッ!?」

「今です、勇儀さん!」

「あぁ!決めるぞ、ヒビキ!!」

「おう、一気に行こうか!」

 

ヒビキと共に気勢を上げた勇儀はさとりの作った大きな隙を突き、足をもがれたツチグモの上に飛び乗る。そして、ベルトにはめられた音撃鼓を取り外し、ツチグモの背にしっかりと押し付けると、音撃鼓が回転しながら巨大化した。音撃鼓の上に跨がる勇儀とヒビキは、二本の音撃棒を天に掲げて高らかに叫ぶ。

 

「「音撃打・火炎連打の型!!」」

 

勇儀が二本の音撃棒を同時に振り下ろして音撃鼓を叩くと、悶えていたツチグモの内に清めの音が響き渡り、ツチグモの動きが小さくなる。それを見た勇儀はリズミカルに音撃鼓を連打し、ツチグモに清めの音を叩き込んでいく。重厚で腹に響く、和太鼓特有の音色が旧都の広場を支配する。音撃を二十回程度打ち込んだ勇儀は、音撃棒をもう一度掲げて打ち鳴らし──

 

「「はぁぁぁぁぁ...たぁっ!!」」

 

──力強く音撃鼓を叩いた。数刻後、ツチグモの全身は漆黒に染まって霧散した。その光景に呆気にとられた静真は、無意識の内に通路から広場に踏み出す。徐々に晴れていく闇の中から現れたのは、気を失っているヤマメを抱きかかえた勇儀だった。静かに寝息を立てるヤマメを見た勇儀は優しく微笑み、呟く。

 

「ふぅ...無事に助け出せたな。」

「上手く行きましたね、勇儀さん!」

 

さとりは戦いを終えた勇儀に駆け寄り、作戦の成功に笑顔を浮かべると、ドライバーを閉じて変身を解除する。勇儀もそれに合わせ、眩い光に包まれて変身を解除した。さらに、勇儀たちはシンクロも解き、光になって抜け出したヒビキと翔太郎は元に戻る。

 

「ヒビキの言葉を借りるなら...まっ、鍛えてますから!ってとこだな!」

「ちょっとちょっと!俺のセリフ、取らないでくれる?」

 

元の体操着のような服に戻った勇儀は冗談交じりに言葉を返し、ヒビキもその冗談に乗ってツッコミを入れる。それに対し、勇儀は豪快に「ははっ!わりぃわりぃ!」と返した。阿吽の呼吸の如く、息の合った会話をする二人を見たさとりと翔太郎は、顔を見合わせて微笑む。その頃、広場に出てきていた静真の足元で、糸でグルグル巻きにされた上にのびていた女性が目を覚ました。

 

「うぅん...いたた、ひどい目にあった...って、グルグル巻きのまま!?なんかネチョネチョして気持ち悪いよぉ~!?」

「あれ...?もしかして、ノア?」

 

足元で騒ぎ出した女性に気づいた静真は、自由の利かない体でじたばたと暴れる女性の名前を呼んだ。その声に反応した赤髪の女性──ノアは静真の顔を見て、困り果てた表情からパァッと明るい表情に変わる。

 

「あっ、ちょうど良かった~!静真くん、この糸なんとかしてくれない?お願い!」

「えっ!?わ、分かったよ...」

 

勇儀たちとツチグモの戦いを見ていたおかげで糸の粘着性を承知していた静真は少しだけ渋るが、すぐに膝をついてノアの糸を取り外し始めた。会話の声で彼らに気づいたヒビキは、慎重に糸を摘まんでは投げ捨てる静真に声をかける。

 

「ん...?なんだ少年、逃げてなかったのか?」

「あっ...ご、ごめんなさい...」

「あぁ、いやいや!謝んなくていいよ。まぁ、無事で良かった。」

 

責められたと思い込んで小さくなってしまった静真に気さくに笑いかけると、ヒビキはなにも言わずにノアの糸に手を伸ばし、一緒に取り外し始めた。ヒビキに続いて静真に歩み寄るさとりは、以前ガイアメモリを使用した後遺症を危惧し、優しく問いかける。

 

「静真くん...体調は大丈夫ですか?」

「さとりさん!体調って...二日酔いの件ですか?今はすっかり元気ですよ。ご心配おかけしてごめんなさい...」

「あぁ、先生と飲みにきた日か!あの時は浴びるように飲んでたもんね~♪」

「ちょっと、ノア。また、そうやって話を盛らないでくれる?」

 

酒豪のように語られた静真は怪訝そうな顔でノアに文句を言うが、当の本人は面白そうに悪戯な笑みを浮かべる。親密さの滲み出るそのやり取りを後ろで聞いていた翔太郎は、小さく笑顔を浮かべながらスタッグフォンにギジメモリを差し込んでライブモードを起動する。

 

『スタッグ!』

「さとり、静真、あとヒビキさん。ちょっと離れてな...ノアちゃん、少しだけ動かないようにしてくれよ。」

 

翔太郎の指示に従った一同はノアの傍から離れ、ノア自身もぎゅっと身体を固める。それを確認した翔太郎はクワガタ形状に変形したスタッグフォンを放ち、その角でノアの糸を切断させた。自由の身になったノアはすっと立ち上がり、スカートの汚れを払うとぺこりとお辞儀をする。

 

「ふぅ、助かりました!皆さん、ありがとうございます!」

「いやぁ、お礼を言われるほどの事はしてないよ。むしろ、巻き込んじゃってごめんね。」

 

感謝を述べられたヒビキは謙遜し、危険な目に合わせてしまったことをノアに謝罪する。ツチグモ騒動に関わった全員を無事に助け出せた現状を眺め、勇儀は大きく声を上げた。

 

「よぉし!せっかくの戦勝だし、祝杯でも上げるか!さとり、あと翔太郎とやら!お前らも来いよ!」

「あ、だったらうちの酒場にいらしてください!今回のお礼として、私の奢りにしときますから!」

 

大人数が居る場所を苦手とするさとりは少し躊躇していたが、勇儀たちとの情報交換の場として了承し、単純な翔太郎は可愛い女の子に誘われた時点で即刻了承していた。彼の心を読んでいたさとりは、その余りの単純直情さにクスクスと笑ってしまう。勇儀の提案に始まりとんとん拍子で進んでいく話だったが、渋い顔のヒビキが勇儀の肩をつつき、彼女の抱きかかえるヤマメを指差して話しかけた。

 

「ちょっとちょっと、この娘はどうするの?どっかでちゃんと休ませてあげないとでしょ?」

「あぁ!そういうことなら、店の二階に私のベッドがあるんで、そこにどうぞ!こんな騒ぎがあった後で、どうせそんなにお客も来ないでしょうから、今日は貸し切りにしときますよ!」

「あ、本当に?なんかごめんね、いろいろ気を使わせちゃって...」

「いいんですって!命の恩人の待遇は、スペシャルじゃないといけませんからね!それじゃ、ついて来て下さい!」

 

ヤマメの処遇も決定し、ノアの案内で酒場へ移動を始める勇儀たちの中、立ち尽くしたままついて行こうとしない静真に気づいた勇儀は、振り返って声をかける。

 

「お~い、お前!なにしてんだ?早くついて来なよ!」

「えっ...?僕も行っていいんですか?」

 

勇儀の予想だにしない言葉を聞いた静真は、戸惑い、困惑した表情で聞き返す。だが、その言葉にニッと笑った勇儀は、さっきよりも更に大きく、力強い声で答えた。

 

「当たり前だろ?お前やノアと会ったのも何かの縁だ!この広い世界で数奇に繋がった縁は、大切にするに越したことはないからな!」

「勇儀さん...!」

「分かったらウジウジしてないで、早く来い!あんまり遅いと置いてくぞ?」

「ええっ!?さっきついて来いって言ったばかりじゃないですか!?ちょっと、勇儀さ~んっ!」

 

勇儀に茶化された静真は慌てて駆け出し、彼女たちの背中を追いかける。広場を走る静真を送り出すように吹いた一陣の風が、地面に散らばっていた花びらを巻き上げる。踊るように舞い落ちる花びらの中を進む静真は、胸の内で沸き立つ熱い思いをうっすらと、だが確かに感じていた。

 

響きあう心は、なにを変えていくのか?それはまだ、"明日なる夢"の話である...

 

ちなみに、祝勝会に参加した静真は勇儀に進められた酒を飲み続けた結果、前回よりも酷い二日酔いに苛まれたそうだ。他にもベロンベロンになって帰った翔太郎がフィリップに三時間の説教を頂戴したり、お酒の回ったヒビキがカエルの歌の替え歌を延々と披露したりと色々あったが、静真にとって忘れられない思い出になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇儀たちが広場で話していたころ、ツチグモと共に霧散したはずの黒い霧が旧都の裏路地に集束し、"ツチグモの怪童子"へと変化した。清め切れなかった闇が集まり、復活した怪童子は不気味にうなり声を上げたその時、指を鳴らした音が旧都に響いた。

 

「悪いけど、逃がさないよ!」

『響鬼!ギリギリスラッシュ!』

 

一瞬で怪童子の眼前に現れた白い少年は、ピンクの文字で「ケン」と刻まれた機械的な剣を握っており、その刀身は煌々と紫炎を纏っていた。白い少年は、出現してから間髪入れずに剣を袈裟に振り抜いて怪童子を斬りつける。白い少年はダメージに後ずさりした怪童子に向かって駆け出し、すれ違いざまに斬りつけて追撃を行った。傷から広がる紫の炎に焼き尽くされた怪童子は黒い霧に回帰し、今後こそ微塵も残らずに消滅した。

 

「ふぅ...」

「さすが、お見事な剣捌きですね。」

「えへへっ!ありがと、ルーナ!」

 

白い少年の背後に現れたメイド服の少女──"ルーナ・ファンタジア"は、柔和な笑顔と共に少年に賛辞を贈る。彼女の言葉を聞いた白い少年は、少し恥ずかしそうにしながらも無邪気な笑みを返した。その笑顔を見たルーナは優しく微笑むと、言葉を続ける。

 

「1つ、ご報告があるんです...紅魔館に、"イレギュラー"が来訪しました。」

「そっか...!」

 

ルーナの報告を聞いた白い少年は目を爛々と輝かせ、楽しそうに笑うと、誰に聞かせるわけでもない小さく声で呟いた。

 

「幻想郷へようこそ..."世界の破壊者"さん。」

 

白い少年がイレギュラーに向けて投げかけた歓迎の言葉は、旧都の喧騒の中に消えていったのだった...

 

~次回予告~

 

「次はどんな世界なんでしょうか?」

 

「俺は、門矢(かどや)(つかさ)。」

 

「私が、護るッ!!」

 

「わたしが、壊すッ!!」

 

「「変身っ!!」」

 

『カメンライド...』

『ディケイド!』

 

第13話 ~破壊者(ディケイド)破壊者(フランドール)

 

全てを破壊し、全てを繫げ!

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~星熊勇儀~

 

地底の旧都に住まう鬼で、"力の勇儀"と称される女性。"怪力乱神を持つ程度の能力"の持ち主。赤い一本角が特徴的で、性格・言動ともに豪快奔放。また、かなりの酒豪で、いつも赤い杯を持ち歩いている。旧都の設立にも携わった人物で、その姉御肌な人柄も相まって彼女を慕う者は多い。旧都に迷い込んでいたヒビキと協力し、響鬼の力を使って魔化網退治を行っている。

 

~ヒビキ~

 

肉体を極限まで鍛え上げ、魔化網から現世を護るために闘う"鬼"の一人である30代前半の男性。本名は日高仁志。物腰は柔らかく、誰にでも分け隔てなく接する気さくな性格。だが、年長者としての落ち着きもあり、頼れる大人の一面もある。趣味は鍛えることであり、基本的な筋トレはもちろん、太鼓を利用した音撃のトレーニングも欠かさない。旧都に迷い込んでからは、勇儀のもとで暮らしている。

 

~響鬼(勇儀)~

 

ヒビキとシンクロした勇儀が、"変身音叉・音角"を使用して変身した姿。本来、響鬼への変身は服が燃え尽きる弊害を伴うが、勇儀の妖術で服をコーティングすることで対策している。一対の打撃武器、"音撃棒・烈火"を主力装備としており、鍛え上げられた肉体による機敏な動きと、強烈な近接攻撃が特長。また、妖術を応用した技も臨機応変に使用し、火炎弾を放出する"鬼棒術・烈火弾"や、紫炎を纏った拳を振るう"鬼闘術・炎獄拳"などがある。必殺技は、巨大化した音撃鼓を音撃棒で叩いて相手に音撃を叩き込む"音撃打"各種。




第十二之巻、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

今回は、少々特殊な展開!勇儀とヒビキが初めて出会うシーンではなく、いくつか場数を踏んだ後の戦いを描いてみました!これは、響鬼本編の最初のヒビキさんの戦いが洗練されていた印象が強かったからです!響鬼さんがおどおどしながら闘うって、あんまり想像つきませんからね...そして次回!幻想郷に現れるライダーもついに10人目!10人目といえば...読んでる皆さんは、"だいたい分かって"ますよね?

それでは、チャオ!


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第13話 ~破壊者(ディケイド)破壊者(フランドール)

こんにちは、シェインです!
さぁ、とうとう10人目!ようやく1章の折り返しです!
それでは、どうぞ!


どうして、わたしは生きているのか...ふと疑問に思うことがある。

 

ずっとずっと暗闇の中、時間の流れも分からない小さな部屋で一人ぼっち。太陽も、月も、星も見えない部屋の中にあるのは、わたしの憎しみと、疑念と、このまま死んでいく恐怖だけ。この狭い世界で、わたしが生きている意味なんて本当にあるのだろうか?そんなことを考え始めると、頭の中が狂気と苦しみでいっぱいになる。それが、小さい心の中でグルグルと渦巻いて、わたしの心を粉々に壊す...

 

わたしは、世界(すべて)に嫌われている。だってわたしは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──悪魔だから。

 

 

 

 

 

「う~ん...40点ってとこかしら。」

 

昼下がり、紅魔館の自室。紅茶を口にし、ティーカップを置いたレミリアは、苦笑いを浮かべながら評価を述べた。その評価を向けた相手は、着慣れないタキシードに身を包んだ渡。紅魔館に住み込みで働くことになって三日目、渡は咲夜の指導を受けながら執事として活動している。先ほどレミリアの飲んだ紅茶は渡が淹れたもので、それ故に評価が半分を下回っているのだ。微妙な点数を賜った渡は、やっぱりといったような顔でため息をつく。

 

「やっぱり、そうですよね...ごめんなさい...」

「あっ、別に謝らなくていいわよ?私が無理に頼んだんだし、三日でこの味なら申し分ない。むしろ、ここまでの味が出せたのは賞賛に値するわ。やっぱり、ちゃんと咲夜から指導は受けてるのね...」

 

少し気落ちした渡の反応を見たレミリアは、すぐさまフォローを入れる。レミリアの言葉を受けて気を取り直し、うなだれていた顔を上げた渡は、彼女の少し憂いを帯びた表情を見て疑問に思ったことを尋ねた。

 

「あの、もしかして...咲夜さん、何かあったんですか?」

「ん?まぁ、ね...あなたが来てからなんだけど、様子が変なのよ。渡のことを聞くと、変にはぐらかして答えないし...」

 

渡に咲夜のことを尋ねられたレミリアは、気掛かりそうな表情で咲夜の近況を答えた。咲夜の近況を聞かされた渡だが、自分が来たことによる変化など本人に分かる由もない。咲夜に迷惑をかけているのか、不安と心配を感じた渡の心境を汲み取ったレミリアは、優しく言葉を続ける。

 

「まっ、きっと環境が変わって戸惑ってるだけね。新しい相手との付き合いが始まって、何も変わらない人間なんていないし...渡は気にしなくていいよ。」

「そうですか...でも、僕も咲夜さんに気を配ってみます!」

 

渡の言葉を聞いたレミリアは、自分の忠臣を気遣ってくれる渡の優しさに微笑み、感謝を述べる。

 

「ありがとう、お願いするわ。昼休みだったのに、時間取ってごめんね。」

「ううん、気にしないで。それじゃ、僕は行きますね!」

 

明るい笑顔で部屋を出て行った渡の背中を見つめるレミリアは、クスリと笑う。

 

「ふふっ...言葉遣いは、まだ勉強中みたいね。」

 

その言葉に呆れや憤りのような感情は含まれておらず、どこか喜びさえ感じさせる口調だった。一人残った部屋でティーカップに手を伸ばし、少し渋い紅茶を飲み干したレミリアは、「たまには、こういうのも良いわね。」と笑顔を浮かべると、今日届けられた文々。新聞に目を通し始める。「姿無き通り魔!?白虎の里の連続切り裂き事件!」という記事に添付されていた写真には、ある衝撃の事実が隠れていた...

 

 

 

 

一方、レミリアの部屋を出た渡は、午後の予定であるエントランスの清掃を行うために廊下を進んでいた。渡が廊下のT字路にさしかかった所で、左の廊下から渦中の人物──十六夜咲夜がユラリと現れ、渡の行く手を塞いだ。忽然と現れた彼女に一瞬驚いた渡だったが、すぐに咲夜に声をかける。

 

「あっ、咲夜さん!レミリアさんが心配してましたよ?」

「...お嬢様の名を...気安く呼ぶなッ...!」

 

渡の声を聞いた咲夜は、突然、ギロリと渡を睨みつける。その眼差しには憎しみと怨みが渦巻いており、なにより強く輝いていたのは、迷いのない殺意だった。仇敵にむけるような眼差しを向けられて動揺する渡をよそに、目の下にくまがある咲夜は、渡を追い込むように言葉を並べる。

 

「さっ、咲夜さん...?」

「あなた、お嬢様に不味い茶を飲ませたわね...!その上、お嬢様に向かって無礼な物言いを...!下賎な人間が...お前がここに来て三日、お嬢様の言いつけもあって堪えていたけど...もう我慢の限界...!お前は、お嬢様を危険に晒す邪な存在...私が、排除する...!!」

 

一方的に恨み言を言い放った咲夜は、懐からドーパントタイプのガイアメモリを取り出すと、スイッチを押して起動する。そのガイアメモリには、右に向いた長針、左を向いた短針、下を向いた秒針で構成された「T」のシンボルが刻まれていた。

 

『タイム!』

 

"タイムメモリ"から流れたガイアウィスパーに反応し、左手の手のひらに浮き出てきた生体コネクタを見せつけた咲夜は猟奇的な笑みを浮かべ、タイムメモリの銅色端子を生体コネクタに押し付けた。タイムメモリを吸収した咲夜の身体は金色の光に包まれ、金の懐中時計を象った怪人──"タイムドーパント"へと変貌を遂げる。両腕に備えられている長針と短針を模したブレードをこすりあわせて研いだタイムドーパントは、渡の首を狙ってブレードを振るった。

 

「うわっ...!」

 

咲夜の凶刃に襲われた渡は、なんとか逃れるため咄嗟に窓に飛び込み、ガラスを割りながら紅魔館の中庭に落下した。だが、急遽飛び出したせいで体勢が整わなかった渡は、背中から地面に落ちていく。

 

「渡っ!」

 

飛び出した廊下は紅魔館の二階であり、地上までは約10メートル。落下の激痛を覚悟した渡だったが、渡の危機に飛来したキバットがタキシードの胸ぐらを咥え、その勢いを押し殺した。キバットのおかげで安全に地面に降りることが出来た渡は、キバットに礼を言って急いで立ち上がるが、渡を付け狙う咲夜もまた、中庭に飛び降りてくる。

 

「大丈夫か、渡?咲夜のやつをこっそり尾行してて正解だったぜ...」

「ありがとう、キバット...助かったよ。」

「紅渡...お前は血と肉すべてをお嬢様のディナーにしてあげる。キバットは、粉々に切り刻んで花の肥料にでもしてあげようかしら?まぁどちらにせよ、死してお嬢様に尽くせることを光栄に思いなさい...」

 

タイムドーパントに変化してなお、殺意に満ちた言葉を淡々と並べる咲夜は、自分が端正に手入れした中庭を踏みしめて渡とキバットに迫る...

 

 

 

 

「次はどんな世界なんでしょうか?」

 

テーブルに乱雑に並べられた写真を眺めていた女性──"光夏海"は、何気なく呟いた。彼女が眺めていた写真はどれも歪なものばかりで、心霊写真のように他の人の顔が浮き出ているものや、破滅的にピンボケしているものまで揃っている。唐突な夏海の呟きに、隣に座っている青年が反応した。

 

「そうだなぁ...ビルドの世界は兵器のライダーだったし、若手社長のライダーとか?」

「まさか~!ユウスケ、流石にないんじゃないですか?」

「いやいや、ブレイドの世界にも居たじゃない!社長のライダー!まぁ、悪いやつだったけどさ。」

 

明朗な青年──"小野寺ユウスケ"はそう言うと、微妙な表情を浮かべて夏海に笑いかける。苦い思い出に二人が苦笑する中、ピンクの二眼トイカメラを首から下げた茶髪の男がテーブルに歩み寄ってきた。

 

「社長だろうが王様だろうが、どうせ俺には及ばない。なんてったって俺、門矢(かどや)(つかさ)は全ての世界の頂点に君臨する男だからな!」

 

非常に偉そうに振る舞いながらテーブルを囲む椅子の一つに座った男──門矢士は、勝ち誇るように指を天に向けた。3人がいるのは「光写真館」というレトロチックな写真館の、撮影スタジオ兼リビングだ。撮影スタジオであるため、部屋には巨大な背景ロールがかけられており、現在の絵には幾何学模様の刻まれた巨大な石壁を貫通する白い立体数式が描かれている。二人の前でふんぞり返っている士を、夏海は呆れたような目で見つめる。

 

「はいはい、士君はすごいですねー。社長よりも凄いなら現像代とフィルム代、あと家賃もちゃんと払って下さいよ!」

「現像代とフィルム代はともかく、家賃まで払わせる気かよ!?」

「あっ、そうだ士!お金が要るなら、お前の写真をまとめた写真集でも売り出したらどうだ?もの珍しさで売れるかも知れないぞ?」

「ほぉ...ユウスケ、それは挑発ってことでいいんだよなぁ...?」

 

そんな冗談を交わした士はユウスケの背後に回り込み、「ほぉ~ら、頭の破壊者様が、お前の万年お花畑な頭を破壊してやるよ!」とユウスケの両こめかみをグリグリと押しこむ。この中学生の昼休みのような光景からすると一般人に見える三人だが、彼らの正体は"世界の旅人"。いくつもの可能性が分岐した平行世界──俗に言うパラレルワールドを渡り歩く旅人たちであり、彼らの旅宿こそがこの光写真館だ。

 

「い、痛い痛い!ごめん、ごめんって士ぁ!」

「まったく、しょうがねぇなぁ...じゃ、許してやる代わり、俺の家賃を払ってもらおうか?」

「えっ!?いや、ちょっと馬鹿にした慰謝料にしては高額すぎるでしょ!?」

「夏海、みんなと居ると毎日賑やかでいいね!」

 

士とユウスケの下らないじゃれ合いを眺めていた夏海に、リビングと繋がっているダイニングルームから顔を覗かせた老人が笑顔を浮かべる。穏やかな笑みが柔らかい印象を与えるその老人は、夏海の祖父である"光栄次郎"。彼の肩に乗っていた小さな純白のコウモリ──"キバーラ"が飛び立ち、煙を上げているこめかみを撫でるユウスケの前に降り立った。

 

「ねぇねぇ、士!ユウスケの吸血権も追加してちょうだい!最近ご無沙汰だったし、いいでしょぉ?」

「ははっ、そりゃいいサービスだな!そういうオマケは大歓迎だ!」

「やった~♪じゃ、早速ぅ...」

 

無邪気な声をしたキバーラの提案を、椅子に腰掛けた士はニヒルな笑みを浮かべながら快諾する。不正な脅迫主と提携したキバーラは、小さな翼をはためかせてユウスケの首筋に飛びかかろうとする。

 

「うわっ!?止めろってキバーラ!来んな、来んなぁ!」

 

キバーラから逃れようとしたユウスケは、椅子から転げ落ちて逃げ回る。その最中、慌てたユウスケはバックロールの隣の柱にぶつかり、勢いそのままに柱にかかっている鎖を引っ張ってしまった。新たなバックロールが垂れ下がり、前の絵を覆い隠す。光写真館におけるバックロールの切り替わりは、次の世界に移動した合図。次なる世界にたどり着いた旅人ご一行はバックロールの前に集合し、その絵を見つめる。そこに描かれていたのは──

 

「"女の子"、でしょうか...?」

 

──うつむき加減で座り込む少女の姿だった。漆黒の闇の中でうずくまり、その小さな体には鎖が巻き付いており、まるで囚われた重罪人のような扱いを受けている。あまりに惨い光景が描かれたバックロールを眺めていたユウスケは、重苦しい声で小さく呟く。

 

「なんか、嫌な雰囲気の絵だなぁ...拷問みたい。まさか、独裁国家の世界とかじゃないよな...?」

「さぁな...まぁ、適当にふらついてれば分かるだろ。」

 

いつも通り気だるそうな声でそう言った士は、暗い雰囲気のバックロールの前を早々に離れ、リビングから廊下へと出て行く。彼がこの世界の内情を探りに行こうとしていることを察したユウスケは、「あっ、士!俺も行く!」と言って士の後に続いた。だが、廊下に出た士たちの前に現れたのは──

 

「なんだ、このドア?」

 

──見覚えのないドアだった。光写真館一階のドアといえば、スタジオに繋がるドアと、現像室に繋がるドア、あとはトイレくらいのものである。それにも関わらず、スタジオの扉の真向かいに設置された謎のドアは、異質というより他にない。

 

「おいおい、いつの間に増築してたんだよ?」

「いや、そんな様子なかっただろ!でも、昨日までドアなんてなかったよなぁ...」

「ま、開けてみりゃ分かるだろ。」

 

士の皮肉にすぐさまツッコミを入れたユウスケも、世にも奇妙なドアの出現に首を傾げる。だが、そんな摩訶不思議な出来事が起ころうと、変わらぬ余裕と度胸が据わっているのが門矢士という男なのだ。怖じ気付くことなく、まっすぐドアノブに手を伸ばし、扉を開ける。その先には、端正な作りの廊下が広がっていた。

 

「廊下と廊下を扉で繋げるなんて、ずいぶん前衛的な間取りじゃないか。」

「あっ!おい、士!また勝手に...!他人様の家だったらどうするんだよ!」

「俺の家の扉と繋がってるんだから、俺の家だろ。さて、どこから行くかな...」

 

ユウスケとは対照的に傍若無人な士は、まるで公園を散歩するかのように廊下をぶらりと歩き出す。置いて行かれかけたユウスケも慌てて士に続き、二人はこの屋敷──紅魔館の散策を開始した...

 

 

 

 

「はぁ...はぁ...!」

「フフッ...どうしたのかしらァ?もう虫の息じゃない?」

 

タイムドーパントとしての姿を曝した咲夜は、金色のエネルギーナイフの雨を降らせ、渡を着々と追い詰めていた。だが、そのナイフは急所を狙うものではなく、渡が回避した後、腕やふくらはぎに掠めるように計算されている。まるで、逃げ場を失ったネズミをなぶり殺しにするかのように。怪物としての表皮に覆われた咲夜の表情は察せないが、その顔が狂気に歪んでいることは明らかだった。

 

「お前は楽には殺してあげないわ...苦しみ抜いた果てに、無惨に殺してア・ゲ・ル♪」

 

冷静沈着、完璧で瀟洒ないつもの態度からは想像出来ないようなセリフを述べた咲夜は、空中に金色のエネルギーナイフを6本並べ、全身にかすり傷を負った渡に放つ。その光刃が渡の眼前に迫った瞬間──

 

「神槍【スピア・ザ・グングニル】!!」

 

──二階の廊下に駆けつけたレミリアの投射したグングニルが、ナイフを粉々に粉砕した。渡の窮地を救ったレミリアは、日笠をさして中庭へと降り立つ。異形の化け物と化してしまった臣従を冷たい目で見つめる彼女の手には、一冊の新聞が握られていた。

 

「あなた...咲夜ね?」

「流石はお嬢様。この姿になろうとも、私のことを理解して下さるのですね...♪」

「えぇ...あなたの事なら、なんでも分かってるつもりだった。知らなかったのは、あなたが"猟奇的な殺人未遂犯だった"ってことかしら...」

 

負傷した渡を庇うように立ち、少しだけ表情を曇らせたレミリアは、その手に握った新聞を咲夜に突きつけた。レミリアの言葉に耳を疑った渡は、その新聞を覗き込む。そこに書いてあったのは、白虎の里で頻繁している切り裂き事件に関する情報だった。

 

「ここ一週間で五件、人里で突然に人が切りつけられる事件が起きた。その被害者たちは、直近で私が関わりを持った人間ばかりだった...事件現場の写真の全てに、騒ぎを聞きつけた野次馬の中に紛れたあなたが写っていたわ。それに、姿も見せずに人を切りつけるなんて芸当、可能な者は限られる...そうじゃなくって?」

「それって、つまり...」

「そう、この連続切りつけ事件の犯人は...咲夜、あなたよ。」

 

レミリアは新聞を投げ捨て、まっすぐとタイムドーパントを指差した。毅然とした虚勢を張るレミリアの頭に、渡を迎え入れたときの光景が蘇る。

 

(「お嬢様!!?本気ですか!?こんな素性も分からない人間を屋敷に住まわせるなんて!」)

「(もっと早く気づいてあげるべきだった...あの時、既に咲夜は...!)」

 

渡を送り出した後、新聞を開いたレミリアは気づいてしまったのだ。写真に写っている自分の従者が、凶行に走ってしまっていたことに。そして、その"動機"もほとんど察しがついた...だからこそ、屋敷の敷地内から聞こえた騒音が何を意味しているか理解し、反射的に駆けつけたのだ。なにも言わず、化け物の仮面をかぶり続ける咲夜に、レミリアは小さな声で問いかける。

 

「私のため...?」

「もちろんですわ。私の心身の全ては、お嬢様のためだけにございます。そして、私はお嬢様に近づく害獣を駆除しているだけ...その2匹もすぐに駆除致しますので、そこをおどき下さいませ...」

「そう...なら、今すぐに駆除を止めなさい!私はそんな事を頼んだ覚えはないわよ?」

 

威圧感を放ちながら咲夜に命令を下すレミリア。だが、咲夜は首を縦には振らなかった。

 

「申し訳ありませんが、出来ません。一時、主に不興を買おうとも、その危険と障害を排斥するのが従者である私の務め。それに、これは命令ではなく"約束"なんです...」

「もう、話してどうにかなる状態じゃないみたいね...渡!キバット!咲夜を止めるわ!力を貸して!」

「はいっ!」

「おう!キバって参りますぜ~!」

 

『ガブッ!』

「「変身...!」」

 

もう命令を聞き入れない怪物と化した咲夜に唇をかみしめ、渡とシンクロしたレミリアは右手に握ったキバットを左手に噛みつかせると、キバットベルトに装着してキバフォームに変身する。タイムドーパントと対峙したレミリアは、まっすぐと咲夜を見据えながら自嘲した。

 

「(大事な存在を守るための力だと思ってたのに、その力で咲夜と戦うことになるなんて...お母様に見られたら、叱られちゃうな...)」

「残念ですわ、お嬢様...少々手荒な真似をさせて頂きますが、ご容赦くださいね?」

「構わないわ、それはお互い様だもの。私に逆らった罰、その身に刻み込んであげる...」

 

主人と戦闘することを覚悟した咲夜は、長針のブレードに金色のエネルギーを纏わせ、巨大化させて振り下ろすが、レミリアはバック宙で回避し、流れるように壁を蹴った勢いをで咲夜に飛びかかる。ブレードが中庭を穿つ轟音を合図に、主従対決が幕を開けた...

 

 

 

一方、紅魔館の散策を開始した士は、廊下、図書館らしき空間、各個室などをぶらぶらと歩き回るうちに地下の薄気味悪い回廊を歩いていた。ちなみに、同伴者のユウスケは図書館のあたりで姿が見えなくなったのだが、士は友人が消えた程度を気にする性格ではない。当然、ユウスケへの信頼ゆえではあるのだが。

 

「ずいぶんと薄汚い場所だな。まっ、いわゆる牢獄ってやつか...」

 

そんな風に呟きながら、士はカメラのシャッターを切った。彼の言うとおり、地下の回廊は左右に鉄格子に囲まれた牢屋が並んでおり、少しばかり乾いた血の匂いが漂ってくる。だが、明らかに老朽化が進んでおり、近頃使用された形跡もなければ、牢屋の中も錆び付いた拘束具が垂れているだけだった。

 

「こりゃ海東の奴が放り込まれてたら、正にお似合いだな!」

 

もう一人の旅仲間...というより、腐れ縁のライバルが捕らわれていることを想像して爆笑する士。間違いなく劣悪で、大抵の人間は恐怖で背筋が凍るこの空間で、彼は高らかに笑う。だが、そんな常軌を逸した存在が、"もう一人"この地下空間にいた。

 

「アッハハ♪こんな所に人間さんだ!もしかして、フランと遊びに来てくれたの?」

 

士の前に現れた金髪の美少女は、到底普通といえる姿ではなかった。枝から七色の宝石が垂れ下がった異様な翼。無邪気な笑顔から覗く鋭利な牙。目の前の少女が人間でないことは、火を見るより明らかだ。だが士は、その少女の持ち合わせているどんなに異質な特徴よりも、彼女の"瞳"に引きつけられていた。そんな士を心情を知る由もなく、天真爛漫な少女は言葉を続ける。

 

「わたしは、"フランドール・スカーレット"!フランって呼んでね!おにーさんは?」

「俺は、門矢士。通りすがりの仮面ライダーだ。」

「そっか、よろしくね、士!」

「おにーさんっつってたのに、いきなり呼び捨てかよ!?」

 

士の気だるそうな突っ込みを貰ったフランは悪戯に微笑むと、顎に人差し指を当てて質問を続けた。

 

「ねぇねぇ、士!"かめんらいだー"...って、なぁに?渡のキバと似たようなもの?」

「渡に、キバだと?まさか、紅渡のことか?」

「うん!もしかして、友だちなの?すごい奇遇だね!」

「あぁ。まぁ、知り合いではあるな...まさか、"アイツ"もこの世界に...?」

 

士が旅の始まりを与えた男のことを回想したその時、轟音とともに地下全体が揺すられるように振動した。足場が不安定になった士は膝をつき、フランはふわっと空中に浮かんで振動を無効化する。古びた石材の粉塵がパラパラと落ちる中、二人の目線は天井に集まった。

 

「わわっ!なんの音かなぁ?」

「さぁな...隕石でも落ちたんじゃないか?」

「なんか面白そう!よぉ~し、行ってみよ~♪」

 

瞳からキラキラと輝きをこぼし、フランは地下回廊を猛スピードで飛んでいく。土地勘もなく、迷わずに地上に出られるかも分からない士は、ため息をつきながらフランの背中を追いかける。不本意ながら、好奇心に満ちたフランに振り回される形になった士だが、不思議と悪い気はしなかった。地下回廊を抜け、石階段を上り、一階の端正な廊下を通り抜け、扉を開け放って中庭に飛び出す。そこでは、キバフォームに変身したレミリアと、タイムドーパントに変化した咲夜による激戦が繰り広げられていた。

 

「あっ、お姉様!って、わわっ!あちっ!あちち!」

「お、おい、フラン!なんで燃えてんだよ!?」

 

フランが中庭に飛び出した瞬間、彼女の羽から煙が上がり始め、フランは自分の羽をひっつかんでふーふーする。中庭に出た途端に羽が燃え始めたことから、その原因が外にあると察しをつけた士は、フランの手を引いて屋敷の中へと引き戻す。その騒ぎのおかげで、戦闘中だった二人はフランと士の存在に気がつくことになった。

 

「フ、フラン!?危ないから、下がってなさい!」

「え~!?お姉様だけ楽しそうなことしてズルい!フランも交ぜて~!!」

 

フランに気づいたレミリアは、戦いに巻き込まないために近づかないように言い聞かせるが、駄々をこねるフランは懲りもせずに参戦しようとする。もっとも、士が洋服の襟を掴んでいるため、外に出ることは敵わないが。

 

「お嬢様ァ...よそ見をしている場合では、ありませんよッ!!」

 

だが、もはや渡を殺すこと以外は頭にない咲夜にとって、フランを気遣うレミリアの姿は絶好のターゲットとなってしまった。短針のブレードにエネルギーを纏わせ、槍のように伸びたブレードを、後ろを振り向いたレミリアの後頭部に目掛けて突き出す。

 

「っ!?」

 

その殺気を寸前で察知したレミリアは、反射的に屈んでブレードを回避した。だが、それによって引き起こされる二次災害までは予測出来なかった。伸びたブレードがフランと士のいる廊下の上階を破壊し、崩れた瓦礫がフランたちに降り注ぐ。天井の崩落を理解した士は、とっさにフランの盾になるように覆い被さった。

 

「(チッ...くそっ!)」

 

その時、護っているはずのフランが、好戦的に笑っていることなど知らずに...

 

「きゅっとして...」

 

崩れ落ちる天井を仰いだフランは、思いっきり開いた手を上に伸ばす。そして──

 

「...ドカーン!」

 

──きゅっと手を閉じた。すると、瓦礫は爆発四散するかのように粉々になり、白い粉塵だけが士の肩に舞い落ちる。これこそが、レミリアの妹である吸血鬼──フランドール・スカーレットの持ちあわせる禁呪の力..."ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"。

 

紙を握りつぶすかのように瓦礫を砕いたフランは、吹き抜けと化した上を見上げる粉まみれな士の肩に小さな手を乗せて、無事なことを示すように笑ってみせた。その瞬間──

 

「静域【タイム・エリア】...」

 

──フランたちとその周辺以外、すべての時間が止まった。正確に言えば、フランたちの周りにドーム状のエネルギーが張られており、その外側のすべてが制止していたのだ。

 

「いやぁ~、流石だねフラン!僕が助けに入ろうかと思ったのに、自力で何とかするなんて!」

 

唯一時が流れるその空間に現れたのは、幻想郷の各地で神出鬼没な白の少年だった。崩れた二階に腰掛け、フランたちを見下ろしていた彼は、にこやかに微笑みながら士とフランの前に飛び降りてくる。明らかに怪しげな少年に、士は疑いの目を向けながら質問する。

 

「お前...何者だ?」

「僕?そうだなぁ、"通りすがりの仮面ライダー"...なんてね♪」

「えっ!?あなたも士の"通りすがり友達"なの?」

 

士の質問を飄々とはぐらかした白の少年はコホンと咳払いし、二人のことをまっすぐに見つめると、言葉を続けた。

 

「悪いけど、僕のことより大事なことがあるんだよ。単刀直入に言うけど...士、君はこの世界に置ける"イレギュラー"なんだ。」

 

彼の"イレギュラー"という言葉に、「時間を止めて、急に現れたお前の方がよっぽどイレギュラーだろ」と内心思うフランと士だったが、話の骨を折るとツッコミどころが増えそうなので華麗にスルーする。姉の見栄っ張りなカリスマトークのおかげで、フランのスルースキルは日夜鍛えられているのだ。

 

「基本的に、この世界を訪れた仮面ライダーは変身能力を失い、それぞれ共鳴する少女とシンクロすることで変身資格を与えることが出来るようになる...でも、士は例外なんだ。平行世界を渡り歩いてきた影響なのか、君のディケイドの力は失われていない。」

 

ここで、白の少年は人差し指を立てて「しかーし!」と強調した。

 

「君は他のライダーたちと同じように、共鳴するパートナーと共に闘っていくことも出来る。だけど、そうした場合、君一人で変身することは出来なくなると思う。そして、君のパートナー足り得るのは...」

 

士をイレギュラーと呼ぶ理由を明かした白の少年は、立てていた人差し指をゆっくりと下げる。やがてその指が示したのは、士の隣に並ぶフランだった。

 

「えっ、わたし...?」

 

士と共に戦えるパートナーであると知らされたフランは、流石に今までの明るさを忘れて動揺する。無理もないだろう。さっき出会ったばかりの正体もわからない人間と、一心同体になって戦える...そんなことを突然伝えられても、そう簡単に納得行くものではないはずだ。士の選択を待つフランは、彼の端正な横顔を赤い瞳で見上げる。

 

「なるほど...だいたい分かった。つまり、俺だけで戦うのか、フランと一緒に戦うのか決めろ...そういう事だな?」

「そうなるね。それで士、君の答えは?」

 

にこやかな表情のまま、白の少年は士に改めて問いかけた。「一人で戦いを続けるのか、まだ幼い少女を戦いに巻き込むか」。まともな常人であれば、後者を選ぶことはないだろう。決断を迫られた士の脳裏に、フランの瞳の奥に感じた深い影がよぎった。

 

「(この世界で、俺のするべきことは...!)」

 

決断を下した士は、言葉の代わりに白いデジタルカメラのようなバックル──"ディケイドライバー"を取り出し、フランの前に差し出す。ハッとした顔で見上げてくるフランの目をまっすぐに見つめ、士はゆっくりと口を開いた。

 

「フラン、俺はお前と戦ってもいい...そう思ってる。もし、お前が"答え"を探したいなら、このバックルを受け取れ。俺たちと旅をすれば、なにか答えが見つかるかもな。」

「士...」

 

士の言葉を受け止めたフランは、じっとディケイドライバーを見つめる。綺麗な純白のボディに写り込んだ自分の顔をしばらく見つめたフランは、そっとディケイドライバーを手に取った。

 

「わたし、色んな世界を、色んな人たちを見てみたい!士と一緒だと、なんだか楽しそうだし!」

「それが、君たちの選んだ道なんだね...ここからが、君たちの時間だよ!頑張ってね!」

 

明るく笑顔を見せたフランに釣られて、士も柔らかく口角を上げる。微笑み合う二人を見て、満足そうに笑った白の少年は、指を鳴らした音を残して姿を消した。それと同時に周囲の時も動き出し、止まっていた鈍い音が中庭に響き出す。

 

「決まりだな!まずは、俺たちを瓦礫の下敷きにしようとしたアイツを片付ける!行くぞ、フラン!」

「うん!あっという間に、ドカーンってしてあげるよ~!」

 

そう気勢を上げた時、二人は大事なことに気がついたのだった。

 

「「(しまった...あの少年にシンクロの仕方教えて貰ってない!!)」」

 

同じように心の中で叫んだ瞬間、士はマゼンタの光に変換されてフランと解け合った。フランがレミリアから聞いていたシンクロの方法を思い浮かべたのと、士の奇跡的なまでの直感の賜物である。

 

「あっ、こういうことなんだ!」

 

士とシンクロを果たし、少し背丈が伸びたフランは、士の温もりを感じながらディケイドライバーを腰に押し付ける。すると、銀のベルトが腰に巻きついてディケイドライバーが装着された。ドライバーの左右にあるサイドハンドルを引き、バックルを90度回転させたフランは、ベルトの左側に提げられている白色のバインダー──"ライドブッカー"から、バーコードのような仮面が特徴の戦士、"仮面ライダーディケイド"が描かれたマゼンタが基調のカードを抜き出し、正面に構える。

 

「「変身っ!!」」

 

フランはかけ声に合わせてカードを捲り、裏面のバーコードのようなマークを正面にしてディケイドライバーに装填する。

 

『カメンライド...』

 

ディケイドライバーのレンズからマーク──ライダーズクレストが覗き、「KAMEN RIDE」の文字がホログラム表示される中、フランはサイドハンドルを押し込んだ。

 

『ディケイド!』

 

すると、元の形状に戻ったバックルのレンズの前に、ディケイドのライダーズクレストがホログラムで拡大表示され、レンズから九枚のプレートが射出される。それと同時にフランの周りに六つの幻影が展開され、それがフランの体に重なると、少し変わったモノクロの姿に変化した。そして、射出されたプレートがフランの帽子に突き刺さり、それによって洋服がマゼンタに色づいた。マゼンタのロングコートの上に、肩掛けな十字のデザインが施され、赤かった瞳が緑色に染まる。

 

仮面ライダーディケイド──世界の破壊者たるライダーの力を、フランが継承した姿だ。

 

「だいたい分かった...イマジンみたいなもんか。」

「さぁて、優しい優しい妹様が、お姉様の助太刀をしてあげようかな?」

 

ディケイドの姿に変身したフランは腰のライドブッカーを手に取り、グリップを浅く展開することでガンモードに変形させると、レミリアと交戦するタイムドーパントに向けてエネルギー弾を発射した。予想外の方向から攻撃を受けたタイムドーパントは、防ぐことが出来ずにじわりと後ずさりする。

 

「苦戦してるみたいだね?スーパーカリスマお姉様?」

「フ、フラン!無事だったのね、良かった...しかも、そのピンクの格好は...?っていうか、サラッとバカにするな!」

「ピンクじゃない...マ・ゼ・ン・タだ!」

 

ライドブッカーを構えて隣に並び立ち、息をするかのようにレミリアをディスったフランに、レミリアは安心半分、ノリツッコミ半分で声をかける。煙を上げる胸部を手で払ったタイムドーパントは、「ハァ...」と深くため息をついた。

 

「妹様ァ...貴方も邪魔するつもりですか...?なぜ、誰も彼も私の邪魔をするの...!?私は、貴方たちを護りたいだけなのに...ッ!!他のすべてを犠牲にしようとも...お嬢様たちは...私が、護るッ!」

 

憤慨して身体を震わせるタイムドーパントを指差し、フランはレミリアたちに問いかける。

 

「妹様って...もしかして、あれ咲夜?」

「はい...」

 

渡たちから、咲夜がここで暴れている成り行きと、今までに行ってきた犯行の説明を手短に受けた士は、フランの胸元をマゼンタに輝かせながら推論を語る。

 

「容姿を見る限り、なんかのドーパントか...ガイアメモリの副作用で思考が暴走してる可能性が高いな。」

「じゃあ、さっさと倒してメモリブレイクしてあげよっか。咲夜の暴走した想いは...わたしが、壊すッ!!」

 

ライドブッカーのグリップを大きく展開し、格納されていた刃の展開されたソードモードに切り替えたフランは、刃を撫でて咲夜に宣戦布告する。レミリアとフランが咲夜を正気に戻そうとする中、紅魔館の屋根の上でメイド服のフリルをなびかせながら、それを眺める少女がいた。

 

「さて、世界の破壊者とすべての破壊者...あなた方のお手並み拝見といきましょうか。」

 

白の少年に士の来訪を伝えたメイド──ルーナは静かに呟くと、懐から"黒いディケイドライバー"のバックルを取り出す。さらに、異形の怪物の顔が収められている水色を基調としたカードを複数枚手に取り、バックルに装填した。

 

『イリュージョンライド...』

「さぁ、いってらっしゃい...」

 

『ズ・グムン・バ!レイドラグーン!シカインベス!マシンガン眼魔!』

 

ルーナが小さく囁くと、輝く水色の粒子がバックルのレンズから放出され、フランとレミリアの前に複数の人型を作る。そして、輝きが収まった粒子たちはそれぞれ怪人へと姿を変えた。

 

蜘蛛の能力を持つグロンギ──ズ・グムン・バ。

トンボの特徴を持つミラーモンスター──レイドラグーン。

先日、鎧武の力を得た妖夢が葬ったインベス──シカインベス。

テンガロンハットと右手のガトリング砲が特徴の眼魔──マシンガン眼魔。

 

それぞれがフランたちに立ちふさがるように咲夜の前に並び、10体のレイドラグーンは怪人たちの頭上で四枚の羽で浮遊する。

 

「なに、こいつら!?」

「う~ん、倒してみれば分かるんじゃない?お姉様、上のトンボみたいなのお願いね~!」

「ちょっ!一番手間かかるやつを押し付けるな!」

 

フランとレミリアは小競り合いをしながらも、眼前の怪人の群れに突っ込んでいく。フランはグムンとシカインベスに切りかかり、レミリアはマシンガン眼魔の頭を踏み台にしてレイドラグーンに飛びかかった。

 

「チッ...!醜悪な化け物が...!」

 

想定外の援軍を得た咲夜だったが、レミリアたちを殺しかねない怪人たちは邪魔者と判断し、怪人を蹴散らしながらレミリアたちを狙う戦法に切り替える。紅魔館の中庭は、咲夜を止めんとするレミリアとフラン、彼女たちに差し向けられた怪人たち、レミリアたちを標的にする咲夜という三つ巴の戦場と化した。

 

「よっ!はぁっ!」

 

初めて手にしたライドブッカーを手足のように操り、フランはグムンとシカインベスを圧倒していく。止めどない攻勢によろめいたグムンが吐き出した糸を切り捨てると、フランは"仮面ライダークウガ"の描かれたライダーカードを取り出し、回転させたディケイドライバーに装填してサイドハンドルを押し込む。

 

『カメンライド...クウガ!』

 

すると、クウガへの変身と同じ流れでフランの全身が変化し、"クウガの姿に変身したルーミア"と、完全に同じ姿に変身した。違う点といえば、ベルトがディケイドライバーであるだけだ。クウガのマイティフォームのスタイルに合わせ、徒手空拳に切り替えたフランは、突進を仕掛けてきたシカインベスの角を掴むと、レイドラグーンを相手取るレミリアに銃口を向けていたマシンガン眼魔に投げつける。

 

「さて、まずは一匹片づけよっか...!」

 

グムンと1対1の状況に持ち込んだフランは、一気に駆け出してグムンの顔面に膝蹴りをかます。ふわりと空中に浮き上がったグムンは、回りながら地面に落ちていく。右足に炎を纏わせたフランは、その背中に正面蹴りを打ち込み、派手に吹き飛んだグムンは空中で爆発した。グムンを始末したフランは、ライドブッカーから颯爽と"仮面ライダー鎧武"の描かれたカードを取り出し、さっきと同じ手順でドライバーに装填、サイドハンドルを押し込む。

 

『カメンライド...鎧武!オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』

 

フランは頭上に開いたクラックから降下してきたオレンジアームズをバックステップでかわすと、サッカーボールのように蹴り飛ばす。オレンジアームズはフランを狙ったマシンガン眼魔の銃弾を防ぐ盾となり、懲りもせずに突撃を敢行していたシカインベスに激突する。フランは跳ね返ってきたオレンジアームズを頭からかぶり、アームズが展開されると、"鎧武の姿に変身した妖夢"と全く同じ姿に変身した。

 

「ここからは、わたしたちのステージだよ!」

 

左手に装備された大橙丸を構えたフランは、怯んでいたシカインベスに向かって突撃し、素早く間合いに入って横一文字に大橙丸を振り抜いた。後退したシカインベスに対し、フランはライドブッカーも加えた二刀流で攻め立てる。

 

「鹿肉のオレンジ切りといこうか?」

「う、う~ん...よくわかんないけど、オッケー!」

 

苦笑いで頷いたフランは、橙色の光を纏わせた大橙丸と、マゼンタの光を纏わせたライドブッカーを舞うようにして振るう。二振りの剣に滅多切りにされたシカインベスは、耳をつんざくような奇声とともに爆発した。シカインベスを葬ったフランは、マシンガン眼魔が連射した銃弾をライドブッカーのバインダー部分でガードすると、大橙丸を投げ捨てて"仮面ライダーゴースト"が描かれたカードをドライバーに装填し、サイドハンドルを押し込む。

 

『カメンライド...ゴースト!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!』

 

クウガ、鎧武と来て、次は"ゴーストの姿に変身した早苗"と全く同じ姿に変身したフランは、一瞬で身体を霧散させてマシンガン眼魔の銃撃を回避し、懐に入り込んで拳を叩き込む。腹部に正拳突きを受け、マシンガン眼魔が後ずさりした隙に、フランはドライバーからブレードモードのガンガンセイバーを召還し、霊力を利用してガンガンセイバーを空中でコントロールする。

 

「こんなことも出来るんだ!幽霊ってすごいね~!おりゃおりゃ~!」

 

ウキウキでガンガンセイバーを操るフランは、ガンガンセイバーをプロペラのように回転させてマシンガン眼魔の銃弾を防御し、銃撃が止むや否や蒼炎を纏わせたガンガンセイバーを猛進させる。猛スピードで突っ込んできたガンガンセイバーに胸部を貫かれたマシンガン眼魔は、がっくりと膝をついて爆散した。地上の怪人の一掃を終えたフランは、レイドラグーンの上を器用に渡り歩きながら戦っているレミリアに声をかける。

 

「さてと...お姉様~!まだ終わんないの~?」

「うっさいわ!って、誰ぇ!?」

「あぁ、この姿だから分かんないのか。ま、いいけどね~♪」

 

レミリアのカリスマ皆無なツッコミに呆れつつ、フランはライドブッカーとガンガンセイバーのガンモードの二丁拳銃でレイドラグーンを撃ち落としていく。それはもう楽しそうにエネルギー弾を乱射するフランは、狂気すら滲ませる威勢でレイドラグーンを蹂躙する。そんな彼女の背に、何の前触れもなく、切り裂かれるような痛みが走った。

 

「うっ...!なっ、なに!?」

「油断は禁物...というのですよ、妹様?」

 

一瞬のうちに現れた咲夜は背後からフランを斬りつけ、怪物の仮面の下で歪んだ笑みを浮かべる。そして、腰に装備されている懐中時計の竜頭を押し込むと、全身の懐中時計の針が高速回転し、今度は一瞬のうちに姿を消して見せる。次の瞬間、フランが目にしたのは、視界すべてを覆い尽くすほどに膨大な数のエネルギーナイフだった。

 

「そして、一度のミスで雌雄は決するもの。妹様、チェックメイトです...」

 

フランをエネルギーナイフで覆い尽くした咲夜は、高らかに勝利宣言を行うと、パチンと指を鳴らした。それを合図にエネルギーナイフが一斉に動き出し、フランの肢体の至る所に降り注いだ。狙いから外れたエネルギーナイフは地面で炸裂し、おびただしい砂埃を立てる。フランを再起不能と判断した咲夜は、レイドラグーンの最後の一匹を踵落としで始末したレミリアに、諭すような口調で語りかける。

 

「さて、お嬢様...呪われた力を持つ妹様でさえ、この力を得た私には敵わないのです。もう時間の無駄だと分かったでしょう?中の男を明け渡して下さい...あなたを傷つけたくはない...」

 

力に溺れる咲夜の並べた高慢な言葉を聞き届けたレミリアは、やれやれといった様子で首を横に振り、ため息をついて語り出した。

 

「咲夜、あなたは大事なことが分かってないわ...あの子は、その力さえも破壊する!」

 

レミリアが、破壊の運命を宣言した瞬間──

 

「そういうこと!」

『アタックライド...マグネット!』

 

──変わらぬフランの意気と共に、土煙から白い斬撃波が咲夜を目掛けて射出された。すっかりフランを倒したと思っていた咲夜は、虚をついた攻撃に冷静さを欠いてしまうが、反射的に斬撃波を斬りつける。真ん中から真っ二つにされた斬撃波は、白い粒子に分散して消滅した。奇襲を回避した咲夜は、土煙から現れた影に、睨みを効かせて問いかけた。

 

「まさか、あれをまともに喰らって、立って居られるとは思いませんでしたわ、妹様...!」

「フフッ...まぁ、状況を打開する策はいくらでもあるでしょ?そういうの、油断禁物って言うんだったよねぇ?」

 

 

~咲夜の攻撃直前~

 

無数の光刃を目の当たりにしたフランは、手早く二枚のカードを取り出し、"仮面ライダーブレイド"の描かれたカードを装填すると、サイドハンドルを押し込む。

 

『カメンライド...ブレイド!Trun up』

 

"輝夜のブレイドの姿"に変身したフランは、鋼鉄化したブレイドが描かれたもう一枚のカードを手早く装填し、サイドハンドルを押し込んだ。

 

『アタックライド...メタル!』

 

エネルギーナイフが動き出す寸前で全身が鋼鉄化したフランは、一斉放射された無数のエネルギーナイフを免れていたのだ。

 

 

再び咲夜の前に立ちはだかったフランは、どこか怪しげな笑顔とともに咲夜を挑発する。

 

「悔しかったらかかって来なよ...ご自慢の時間停止と瞬間移動でさ。それとも、その力は逃げるのにしか役立たないのかな?」

「なら、望みどおりにして()るッ!!」

 

もはや、彼女のアイデンティティであったはずの忠誠心も壊れ、フランへの雪辱を果たさんとする咲夜は、腰の懐中時計の竜頭を押し込み、時間停止能力を発動しようとする。だが、全身の懐中時計の針は異様な動きで誤作動を起こした。完璧に掌握していたはずの自分の能力の異常に気づいた咲夜は、同じ場所を往復したり、急に逆回転を開始する時計の針に動揺を露わにする。

 

「な、なぜ...!?一体なにが起こって...!?」

「さっきの斬撃波、切り捨てる反射神経は流石だけど...あれ、磁波の塊なんだよね。時計は強力な磁気に晒されると、正確に時間を刻めなくなる...一度のミスで雌雄は決するんだよね、咲夜?」

 

マゼンタのモザイクに包まれ、本来のディケイドの姿に戻ったフランは、腰に戻したライドブッカーからディケイドのライダーズクレストが大きく描かれた黄色のカードを取り出し、咲夜に誇示するように突き出すと、カードを裏返してドライバーに装填する。

 

『ファイナルアタックライド...』

「じゃ、覚悟はいいよね?」

「その偉そうな態度も、まとめて破壊してやるよ!」

『...ディ・ディ・ディ・ディケイド!!』

 

フランがサイドハンドルを押し込むと、フランと咲夜の間に十枚のファイナルアタックライドのホログラムカードが出現し、整列した。そして、フランが高く跳躍するのに合わせ、カードも階段状に並びを変える。跳び蹴りの構えを取ったフランは、ニヤリと悪戯な笑みを浮かべた。

 

「チェックメイト♪」

 

その言葉を合図に、フランは跳び蹴りの姿勢のまま突撃を開始。自分の思い描く盤面がめちゃくちゃに破壊され、思考回路がショートした咲夜を目掛けて、フランはホログラムカードの中央を貫通しながら放つ蹴り技──"ディメンションキック"を放つ。それに気づいた咲夜はエネルギーナイフで阻害しようと試みるが、放たれたエネルギーナイフの全てを粉々に砕きながら、フランは咲夜の眼前まで迫り来る。そして──

 

「はぁぁぁぁっ!!」「どぉりゃぁぁ!!」

「ウァ...アァァァァァ!!」

 

──ディメンションキックを喉元に受けた咲夜は、獣のような叫び声と共に爆発した。爆煙の中から飛び出したフランは、膝を立てて華麗に着地する。その手には、自壊寸前のタイムメモリが握られていた。タイムメモリをじっと見つめたフランは、それを軽く上に投げると、固く握った拳で叩き壊した。粉々に破壊されたメモリの残骸を見下ろすフランの表情には、どこか影がかかっていた。

 

「フラン...あなたも、ライダーの力を継承したのね...」

「ま、そんなところかな?それより、咲夜はどうするの?すっかり伸びちゃってるけど...」

「そうだ!さ、咲夜~!」

 

戦闘を終えたレミリアとフランは変身とシンクロを解除し、レミリアは気絶した咲夜に駆け寄る。初戦で華々しい無双の活躍を見せた士とフランは、なにも言わず微笑み合った。ちなみにその頃、盗人と勘違いされて大図書館の主に捕まったユウスケは、魔法に脅されながらの釈明に必死だったそうだ。

 

それから、咲夜はガイアメモリの副作用でしばらく意識が戻らなかった。数日後、目を覚ました咲夜はドーパントになっていた期間の記憶をほとんど失っていた。覚えていたのは、渡が紅魔館の住人として迎えられたこと程度。奇妙な事件が起こるなど幻想郷では日常の一部、というレミリアの独断により、咲夜は以前と同じ生活を送ることになった...

 

すべての破壊者、フランドール・スカーレット。

世界の破壊者と旅路を共にし、その紅き瞳は何を見る?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハァ...こいつは都合がいい!まさか、"ゲート"が化け物になっちまうとは。現場も抑えた事だし、こりゃ使えるスクープだな。さっさと"絶望"させてやるよ...!」

 

戦勝に湧く紅魔館の面々は、空中の遠方から紅魔館を覗いていた鴉天狗が、一眼レフカメラを手に歪んだ笑みを浮かべていたことは、誰一人として気づいていなかった。やがて、その鋭爪が彼女の心を抉りにくることなど知らずに...

 

 

~次回予告~

 

「なんとも奇怪な噂ですね...」

 

「お前の望みを言え...どんな願いも叶えてやろう。お前が払う代償は、たった1つ...」

 

「ほぉら、早くビビって泣き喚けよ...それとも、痛いのが欲しいのかぁ?」

 

「でも、とにかくやらなきゃ...!」

 

「「変身!」」

 

「なぜ...!?か、身体が...上手く...!?」

 

第14話 ~寺・イン・ライナー~

 

 

キャラクター・アイテム紹介コーナー!

 

~フランドール・スカーレット~

 

495年もの間、地下室に幽閉されていたレミリアの妹。"ありとあらゆるものを破壊する程度の能力"の持ち主。普段は無邪気で無垢な少女だが、その身に孕んだ狂気と力は計り知れない。外界と隔絶されて生きてきたため好奇心旺盛で、新しいことや楽しいことが大好き。士と出会い、彼とシンクロすることでディケイドの力を継承した。

 

~門矢士~

 

世界の破壊者として、数多の世界を渡り歩く旅人。常に首からトイカメラを提げており、巡る世界のすべてを写したいと言っている。基本的にとても偉そうな言動が目立つが、本当は友情や仲間、思い出などを大切にする情に篤い人間。また、世界を繋ぐオーロラカーテンを自在に操ることが出来る。フランと出会い、彼女に力を貸すことを決めた。

 

~ディケイド(フラン)~

 

士とシンクロしたフランが、ディケイドライバーとディケイドのカメンライドカードを使って変身した姿。ライドブッカーを変形させたソードモードやガンモードを操り、インビジブルやイリュージョンなどのアッタクライドを使った、変幻自在な戦闘スタイルが特長。また、他のライダーのカメンライドカードを使うことで、他のライダーに変身することができる。必殺技は、ファイナルアタックライドカードで発動する"ディメンションキック"。




第13話、ご覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

今回はディケイドの初回を意識して、連続カメンライドの無双を描いてみました。最後が少し雑に感じるかも知れませんが、士たちのその後は数話後のウィザード編でしっかり補完しますので、しばらくお待ちください!

それでは、チャオ~!


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第14話 ~寺・イン・ライナー~

こんにちは、シェインです!実は、今回から台本形式に移行することにしました。途中で書き方を変えてしまい申し訳ありませんが、こちらの方がより良いものを書けると思いましたので、何卒ご了承下さい!

それでは、どうぞ!


「なんとも奇怪な噂ですね...」

 

ぼそりと呟いた長髪の女性──"(ひじり)白蓮"(びゃくれん)は、手にした湯呑みの緑茶で喉を潤した。柔らかな日差しにもたらされ、白蓮が平穏を享受しているこの場所は、彼女が住職を務める寺──命蓮寺の縁側。青龍の里の外れに居を構え、立場の弱い妖怪たちのために開かれている寺院だ。

 

「そうですよね!?里から夜な夜な人が居なくなるなんて、きっとなにかの異変ですよ!」

 

ピョンピョンと跳ねながら白蓮に噂を語る犬耳の少女──山びこの妖怪である幽谷(かそだに)響子(きょうこ)は、爛々と瞳を輝かせた。聖は、自らの教えの信者である響子のハイテンンションな様子に困った笑顔を浮かべる。そんな聖の背後から、水兵服を纏ったショートヘアの少女──舟幽霊である"村沙(むらさ)水蜜(みなみつ)"が姿を見せた。

 

村沙「そんなに大層なことかな?里の人間が居なくなるなんて、妖怪に食われたり、襲われたりで日常茶飯事な気がするけど...」

響子「まぁ、そうだけど...夜中に真っ黒なコウモリ男が現れて、人を攫ってる...なんて噂もあるんだよ!?」

 

山びこらしい大きな声量で、噂を語る響子。聖と村沙は顔を見合わせ、噂の正体が異変と信じて止まない彼女に困った顔をする。そんな中、ゴシックスピーカーと化した響子の声に誘われ、命蓮寺の面々が聖の下に集まりだした。

 

星「コウモリ男、コウモリねぇ...パッと思いつくのは、あの目に悪い洋館の吸血鬼だけど、とても男には見えないか...?」

 

虎を想起させる金と黒の髪、頭に乗せた花のような飾りが印象的な少女──毘沙門天の化身である寅丸(とらまる)(しょう)

 

ナズーリン「あのねぇ、ご主人...西方に位置する紅魔館の連中が、わざわざ青龍の里まで出てきて人攫いする必要がありますか?」

星「あっ、確かに!さすがは私のナズ!いい子!」

ナズーリン「まったくご主人は...抱きつかない!スリスリしない!!」

 

星を"ご主人"と呼び、その主人になでなでされているネズミ妖怪の少女──二本のダウジングロッドを用いた、ダウジングを得意とするナズーリン。主人が従者に叱られる光景も、彼女たちの主従関係では平時のことである。

 

一輪「う~ん...やっぱり、近頃出没している怪物騒ぎの一端なのかしらね...」

雲山「一輪...なにがあろうと儂が守るけぇ、安心せい。」

一輪「...恐れている訳ではないのですが、その時は頼りにしますね、雲山(うんざん)。」

 

幻想郷に漂い出した不穏な気配を憂い、不安げな表情を見せる尼のような格好の少女──"入道使い"という稀有な妖怪である雲居(くもい)一輪(いちりん)。そんな一輪の傍らに控える、厳つい顔と拳だけで浮遊する見越入道──雲山。集った村沙たちを見渡し、噂話に花を咲かせる彼女たちに聖は言葉をかける。

 

聖「皆、それぞれ考えはあるでしょうが、里の人々が行方知れずなのは事実。捨て置くことは出来ません。少々気がかりな話もあることですし、私たちで少し探りを入れて...」

 

聖が今後の方針を伝えていた時、突如として、空にぽっかりと"穴"が開いた。渦巻くようなその"穴"に目を奪われた聖の視線につられ、周囲の面々も一同に空を見上げる。皆の視線が空の穴の一点に集まった瞬間、穴から鉄製のレールが流れ出した。しかし、空を走るそのレールはどこか歪んでいたり、欠けていたりと欠損が多く、まともな状態とはとても言えないものだった。

 

聖「あら、何事でしょう...?」

 

聖が奇異な現象に首を傾げる中、穴から延びたレールに従い、白を基調とした"列車"が現れた。歪なレールを走る列車は、車体をがたつかせなが空をぐるぐると泳ぎ始める。次から次と起こる異常事態にざわめく境内だったが、怒涛の展開はまだ終わりではなかった。

 

制御を失ったレールが捻れながら地面へと伸び始めたのだ。敷かれたレールに従う列車は、ぐるぐると回転しながら真っ逆さまに降下し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──この幻想郷の大地へと墜落した。凄まじい轟音が響き、土煙が空に立ち上る。縁側に腰掛けていた聖は咄嗟に立ち上がり、状況を確認するために列車の墜落した方向へ視線を向けた。だが、妙蓮寺からら墜落現場まではそこそこに距離があり、とても視認は不可能だった。

 

星「あ、あれは一体...!?」

聖「星...百聞は一見に如かず、という言葉もあります。ここで思惑を巡らせていても仕方がありません。とにかく、現場を見に行くことにしましょう。」

 

突然な異物の到来に、驚愕を隠せずにいた星を諭した聖は、皆を先導して列車の墜落現場へと向かう。軽く助走をつけてふわりと浮き上がり、列車が墜落した位置を特定するべく上空から辺境を見渡す。

 

聖「ひとまず、墜落による火災は起きていないようですね...」

 

列車の所在と周辺状況を把握した聖は、そこに向けて真っ直ぐ飛行する。所々焦げ付き、煙を上げながらも着地した列車にたどり着いた聖たちは、ゆっくりと着陸した。列車を近くでじっくりと観察すると、先頭車は真ん中から割れた赤い桃のようで、窓は横に長い六角形という珍しいデザインが施されている。

 

一輪「これは...随分と奇抜な乗り物ですね...」

村沙「そう?空飛ぶ列車なんて、悪くないじゃん!いいセンスしてるよ!」

星「乗り物ということは、誰か乗っているのでしょうか?」

響子「聞けばすぐ分かりますよ~!お~い!おはよ~ございま~す!!」

 

星の言葉を聞いた響子は、列車に向かって大声で挨拶する。これは響子のアイデンティティのようなもので、彼女が掃除している石階段は彼女の元気な挨拶がいつも響いている。だが、響子の隣に並んでいたナズーリンは、彼女をキッと睨み付けた。

 

ナズーリン「アンタはまた考えなしに...!外界からの侵略者だったらどうするつもり!」

響子「えっ...う、うそ!?ま、まさかね...?」

雲山「じゃが、これが儂らにとって異物であるのは間違いねぇぞ...得体の知れねぇ敵やも知れん...!」

 

拳を固めた雲山の渋く重苦しい声に、一同の空気は一気に張り詰めた。しかし、聖だけはゆったりと穏やかな笑みを称え、列車の扉を見つめていた。その時、プシューという排気音を立てながら、扉がゆっくりと口を開き──

 

「おいお~い!どこだよここ~!」

「"デンライナー"もすっかり壊れちゃったし、あの坊やに手痛くやられちゃったねぇ...」

「これは...泣けるでぇ!」

「あぁ~!ねぇ熊ちゃん、見て見て~!わんちゃんとネズミさんがいる~!」

 

──四体の怪人が列車から降りてきた。それぞれ、赤い鬼、青い亀、金の熊、紫の龍のような彼らの姿を目の当たりにした響子は、今までで最も声を張り上げて叫ぶ。

 

響子「お、おぉ...鬼だぁぁぁぁ!!?」

モモタロス「誰が鬼だ!俺は鬼じゃねぇ、"モ・モ・タ・ロ・ス"だ!てめぇ、喧嘩売ってんのか!?」

響子「ひぃぃぃぃっ!?」

 

鬼と呼ばれたことに過剰な反応を示した赤い鬼──"モモタロス"に凄まれた響子は、聖の背に隠れる。モモタロスはずいと響子に詰め寄ろうとするが、彼の肩を青い亀──"ウラタロス"が掴み、それを阻止した。

 

ウラタロス「ちょっとセンパイ...その娘が怖がってるじゃない。そんな乱暴だから女の子にモテないんだよ?」

モモタロス「んだと、このスケベ亀!お前と違って、俺はそんなことばっかり考えて生きてねぇんだよ!」

ウラタロス「いやいや、ご冗談を...センパイはいつも何も考えてないでしょ?」

モモタロス「ほぉ...上等じゃねぇか!ちょうどいい、お前の軟派な甲羅でストレス発散させて貰おうか!」

キンタロス「おい、モモの字!デンライナーちゃんと調べんと、ハナに...zzz」

リュウタロス「わ~い!ケンカだ、ケンカだ!やれやれ~♪」

 

いがみ合いを始めたモモタロスとウラタロス。それを止めるかと思いきや、立ったまま居眠りを始めた金の熊──"キンタロス"。そして、小突き合いに発展した二人を外野から煽る紫の龍──"リュウタロス"。現れて早々にドンパチ騒ぎを始めた異形の四人組に、妙蓮寺の面々は警戒を更に強める。緊迫した状況下、列車から更に人影が現れた。

 

「モモタロス、ウラタロス...やめなよ、こんな時に...」

モモタロス「良太郎、邪魔すんな!この亀をいっぺんひねりつぶしてやる!」

ウラタロス「やめときなよ、センパイ。せっかく女の子たちがお出迎えしてくれてるのに、みっともないじゃない。」

モモタロス「みっともねぇだと!?」

 

列車から降りてきた見るからに気弱そうな青年──野上(のがみ)良太郎(りょうたろう)は、そのままモモタロスとウラタロスに割って入り、小競り合いの仲裁にかかる。その最中でふと顔を上げた良太郎は、この喧騒を静かに見守っていた聖と目が合うと、申しわけなさそうに小さく微笑んだ。彼の微笑みに合わせ、聖も女神のような笑顔を浮かべる。

 

聖「ふふ、こんにちは。とんだ災難に見舞われたようですね...怪我はありませんか?」

良太郎「へ...?あ、ありがとうございます。僕は大丈夫です...慣れてるというか、なんというか...」

 

戸惑いながらも良太郎が返事をしたとき、列車の落下によって幹が脆くなっていた木の一本が、傾いた自重で真っ二つに折れた。倒れ始めた木は良太郎の頭に向かって速度を上げていくが、不運にも木の折れる音は騒ぎに紛れ、モモタロスたちは気づくことが出来なかった。

 

聖「はぁっ!」

 

しかし、木が良太郎の脳天に直撃する寸前、察知していた聖の咄嗟なムーンサルトキックによって倒木は天高く蹴り飛ばされた。華麗に着地した聖は乱れた髪を整えると、良太郎に向き直る。だが、彼女の人間離れした動きを見た良太郎たちは、ポカーンと口を開けたまま沈黙してしまう。そんな彼らに、聖はなんということも無く話を続けた。

 

聖「...それで、あなた達の身に一体何があったのですか?よろしければ、教えて頂けませんか、良太郎さん?」

良太郎「あ、あぁ~、はい...じゃあ、立ち話もなんですから、"デンライナー"で...」

モモタロス「おい、良太郎...こいつ、ハナクソ女みてぇなことすんな...」

聖「どうかしましたか?え~っと、モモオニさん?」

モモタロス「だ~か~ら、俺は鬼じゃねぇっ!!」

 

そうして妙蓮寺一行は、突如幻想郷に墜落した列車に乗車することになった。

 

過去か未来か...時間を超越する時の列車、"デンライナー"に...

 

 

 

「うぅ~ん...いたた、ひどい目にあったなぁ~...」

 

聖たちがデンライナーに案内された頃、少し離れた山間で一人の少女が起き上がった。不気味な紫の傘を携えた赤と水色のオッドアイの少女の名は、多々良(たたら)小傘(こがさ)。巡り合わせの悪いことに、普通に歩いていたところにデンライナーが墜落し、盛大に吹き飛ばされてしまったのだ。さらに追い打ちをかけるように、聖が蹴り飛ばした倒木が起き上がった小傘の後頭部に激突する。

 

小傘「うぎゃっあ!?な、なんで...木が飛んでくるのぉ...!?」

 

せっかく立ち上がろうとしたにも関わらず、出鼻を挫かれてしまった小傘は、頭に出来たたんこぶをさすりながら地面に突っ伏す。小傘が自らの非運に撃沈した時、彼女の頭上に金色に輝く球体がふわふわと現れた。球体は少しの間小傘の周囲を旋回すると──

 

 

 

 

 

──彼女の背に飛び込んだ。

 

小傘「でも、この不運も...天罰なのかなぁ...」

「お前の望みを言え...どんな願いも叶えてやろう。お前が払う代償は、たった1つ...」

小傘「え...?」

 

どこからともなく聞こえてきた妖しげな声に、小傘は慌てて顔を上げる。しかし、いくら辺りを見回そうとも声の主は見つからない。その代わりに、地につけた両手に違和感を感じた。

 

小傘「す、砂...!?」

 

小傘の足下に、大量の砂が広がっていたのだ。砂は小傘の身体からとめどなく溢れ出て、その面積を広げていく。小傘がその奇怪な光景に唖然としていると、砂が寄り集まって人の上半身のような形を固め始めた。やがて人型を完成させた砂の塊は、怯える小傘に囁いた。

 

小傘「なっ、なにこれ...!?」

「もう一度言うぞ...お前の望みを言え...どんな願いも叶えてやろう。お前が払う代償は、たった1つ...」

小傘「どんな...願いも...?」

 

声を震わせ、砂をぎゅっと握りしめた小傘は、ふと顔を上げる。そして、砂の塊──"イマジン"の悪魔の囁きに応えてしまったのだった...

 

 

 

 

聖「そうですか...では、あなた達は時の運行を守るために戦っているのですね。」

良太郎「はい。見た目はあんなですけど、モモタロスたちも僕の仲間なんです。」

聖「見た目など、些細なことですよ。最も大切なのは、その者が宿す心なのですから...」

 

デンライナーの食堂車に案内され、そこで良太郎から話を聞いた聖は、彼に優しい笑顔を向けた。聖が聞いた内容は、良太郎たちが時間を乱そうと目論む輩から時の運行を守っていることや、モモタロスたちが人のイメージを借りて姿を得るイマジンという存在であること。そして、このデンライナーが時を超える列車であるということだ。

 

モモタロス「ほぉーら、わんころ!鬼が来たぞー!がおー!」

響子「ひぃぃぃぃ!!」

 

一方、モモタロスは怯える響子を脅かし、追いかけ回していた。モモタロスから逃げ回っていた響子はとうとう耐えられなくなり、デンライナーから飛び出していってしまった。大人気などまるで持ち合わせぬモモタロスは、デンライナーの外まで追いかけようとしたが、その前に白い服を纏った少女──"ハナ"が立ちふさがった。

 

ハナ「やめなさい、このバカモモ!」

モモタロス「うごぉっ!?」

 

ハナはモモタロスの腹部に正義の鉄拳制裁を加え、モモタロスはたちまちダウンする。いつも通りモモタロスを成敗したハナは、申し訳なさそうに聖を見た。

 

ハナ「うちのバカがすみません...響子ちゃんの様子、見てきますね。」

聖「あら...じゃあ、よろしくお願いしますね。」

モモタロス「うぅ...犬に勝てたと、思ったのに...がくっ...」

 

食堂車から出て行ったハナの背中を見届けた聖は、母性に満ちた笑顔でしみじみと呟く。

 

聖「なんとも気立ての良い子ですね。まだ幼いというのに、毅然としていて立派です。」

良太郎「ハナさんのことも、話せば長くなる事情があるんですけど...聞きますか?」

聖「はい、ぜひ!この齢になっても、知るということは楽しいものですからね!」

 

穏やかな聖と良太郎が話に花を咲かせる中、命蓮寺の他の面々はイマジンたちと交流していた。

 

ウラタロス「いやぁ~、すっごく美人だよね、水蜜さん。僕とお茶でも、どうかな?」

村沙「お断りします。お茶の相手は他の人で間に合ってるの。」

ウラタロス「あらら、釣れないねぇ...でも、そんな君も魅力的だよ。」

村沙「はぁ...あんまりしつこいと沈めますよ?」

ウラタロス「それも良いかもね。2人で海のように深い夜に沈んでいこうか...」

村沙「はぁっ!?」

 

キンタロス「ほぉ、あんた毘沙門天なんか。詳しくは知らんが、たいそう強い神様だったらしいな。」

星「えぇ!えぇ!そうでしょう!そうでしょう!代理とはいえ、私はその毘沙門天に見初められた実力者で、宝搭を無くしてばかりの間抜けなどでは...って、聞いてます?」

キンタロス「zzz...」

 

リュウタロス「うわぁ~!ねぇねぇネズミさん!これなに?杖?」

ナズーリン「あっ、こら!わたしのダウジングロッド!いつの間に...!返しなさい!」

リュウタロス「えへへ~!やだ~!」

 

皆がそれぞれに団欒を囲む中、食堂車の中で取り残された高貴な白色のイマジン──"ジーク"が一人呟く。

 

ジーク「う~む...なぜ私には誰も話しかけないのだ?」

 

デンライナーでイマジンたちと出会い、誰もが騒がしく過ごしていたその時...

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

耳をつんざくような、ハイトーンの悲鳴がデンライナーにほとばしった。その腹に響いてくるほどの声量は、響子のものに違いないと直感した聖は、口を開くより早く立ち上がる。それと同時に、伏せっていたモモタロスも起き上がった。

 

モモタロス「...良太郎!イマジンの臭いだ!クソッ、デンライナーの焦げ付いた臭いのせいで気づけなかった!」

良太郎「...っ!モモタロス、行くよ!!」

モモタロス「おうっ!!」

聖「私も行きます!」

 

悲鳴を聞きつけた聖たちは、連れ立ってデンライナーを飛び出す。地面に降り立った三人は、モモタロス先導のもと一心不乱に駆け出した...

 

 

「ほぉら、早くビビって泣き喚けよ...それとも、痛いのが欲しいのかぁ?」

 

怯える響子を庇うようにして立つハナは、じりじりと迫り来る、紫の身体と胸部の一つ目が特徴的な化け物──"アンブレライマジン"を気丈に睨みつける。その反抗的な視線を受けたアンブレライマジンは、けらけらと笑い声を上げた。

 

アンブレラ「ケハハッァ!いいねぇ、その強情さ!お前みたいなガキほど、なぶり殺しにする甲斐があるってもんだぜぇ!」

ハナ「なんでイマジンが...あんた、何が目的!」

 

鬼のような剣幕のハナに問われたアンブレライマジンは、大げさな仕草とともに語りだす。

 

アンブレラ「そりゃもちろん、気の向くままに楽しく殺しをすること...なんだがな。残念ながら、契約は単純な殺しじゃないんだよなぁ...まっ、俺は拷問もウェルカムだ!まずは、お前らで楽しませて貰うか~ッ!!」

 

そう狂気的に言い放ったアンブレライマジンは、胸部の眼球の下から巨大な舌を伸ばし、ハナたちを絡め取ろうとする。人智を超える化け物に襲われた響子は死を覚悟したが...

 

モモタロス「させるかよッ!!」

 

駆けつけたモモタロスがアンブレライマジンの前に躍り出ると、黒い模様の入った赤い剣──モモタロスウォードで舌を弾いた。ハナたちを横目に確認したモモタロスは、モモタロスウォードをアンブレライマジンに向ける。

 

モモタロス「この野郎、子どもを狙いやがって!ハナ、わんころ!さっさと逃げろ!!」

響子「う、うん...あ、ありがと...!」

 

モモタロスに逃げるよう促された響子は小さくお礼を告げて、ハナと共に走り出す。モモタロスに追いついた良太郎と聖は、彼の左右に並び立った。聖は変わらず穏やかな表情を浮かべているように見えるが、その瞳の優しい光には陰りが見えている。

 

聖「あなた...なぜ響子を狙うのですか?」

アンブレラ「なぜ、か...妬ましいんだよ、のうのうと生きてる奴らが!だから、殺す。一匹残らず...なァ!!」

聖「そんな...そんな身勝手な理由で尊い命を奪おうなど、決して赦されることではありません!!」

 

アンブレライマジンの自己中心的な言葉を聞いた聖は、声を荒げてアンブレライマジンを叱責する。だが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりに、アンブレライマジンはため息をついた。

 

アンブレラ「ハァ...いい人ぶったお説教は結構だ!さっさと殺ろうぜ!!」

モモタロス「上等じゃねぇか!俺は最初からクライマックスだ!行くぜ、行くぜ、行くぜ~!!」

 

アンブレライマジンが痺れを切らし、舌を鞭ようにしならせて放った縦方向の攻撃を左右に分かれて回避する聖と良太郎。舌を前転でかわしたモモタロスは、モモタロスウォードを振りかざしてアンブレライマジンに突撃する。モモタロスの太刀を両腕で防いだアンブレライマジンは、モモタロスとぶつかり合いながら林の奥へと入っていく。

 

良太郎「あっ、モモタロス!」

聖「な、なんて野蛮な...」

 

果敢に攻め込むモモタロスを見た良太郎は、黒色のパスケースのようなもの──"ライダーパス"と銀を基調としたベルト──"デンオウベルト"を懐から取り出し、腰に巻きつけた。そして、ライダーパスを構えて呟く。

 

良太郎「変身...!」

聖「えっ?」

 

はっとした聖の視線に気づくことはなく、良太郎はデンオウベルトの特徴的なバックルにライダーパスをセタッチする。しかし、何も起こることはなく、良太郎は慌ててデンオウベルトをゆする。

 

良太郎「あれ...!?な、なんで...!?」

聖「良太郎さん!突然で申し訳ありませんが、落ち着いて聞いて下さい!」

良太郎「ひゃ、ひゃい...」

 

心当たりを覚えた聖は良太郎の両肩をガッと掴み、良太郎の目を見つめた。

 

聖「この世界、幻想郷に訪れた仮面の戦士...仮面ライダーと呼ばれる存在は、戦士としての力を失うそうです。その代わり、運命で結ばれた幻想郷の者に力を授けることが出来る...その相手は、きっと...」

良太郎「聖さん、ですか...?」

聖「...はい。おこがましいかも知れませんが、あなたは私に新しい始まりをもたらしてくれる人...そんな気がするのです。」

 

聖は、なんの根拠も有りはしない自分の言葉に少し恥ずかしそうに、しかし慎ましく微笑んだ。その顔を見た良太郎は釣られるように笑うと、小さく頷く。

 

良太郎「たとえ何も分からなくても、それは何もしない言い訳にはならない...だから、僕は聖さんを信じます。聖さんの言う、"運命"を。」

聖「良太郎さん...ありがとうございます!必ずや、あの異形の凶行を止めましょう!」

良太郎「はいっ!」

 

互いに意志を固め、心を通じ合わせた良太郎と聖は、手のひらを重ね合う。すると、良太郎は白い輝きに変化し、聖の中に融け合っていった。良太郎の輝きを纏った聖は、シンクロとともにその右手に移ったデンオウベルトを腰に巻きつける。

 

良太郎「え...!?な、なにこれ...!?でも、とにかくやらなきゃ...!」

聖「えぇ、参りましょう!」

 

志気を高めた聖は、左手に握られたライダーパスを構え、大きく息を吸う。そして、良太郎と心を合わせ、一つの言葉とともに一挙に吐き出した。

 

聖・良太郎「「変身!」」

 

聖がデンオウベルトのバックルにライダーパスをセタッチすると、バックルのサークルから半透明なエネルギーが放出される。そのエネルギーが聖の全身を包み込むと、聖の装いが変化した。ウェーブがかった髪は黒く染まり、額には金色で縦長のアクセサリーが装着され、インナーは銀に。足には銀のブーツを履き、髪と同様に瞳は黒く染まっている。

 

時の番人たる戦士、仮面ライダー電王。その中でも"プラットフォーム"と呼ばれる形態を模した姿に、聖は変身したのだった。

 

聖「あら...!上手く変われたようですね!では、モモノスケさんの助太刀に向かいましょう!」

良太郎「あの...モモタロスです。」

 

良太郎の控えめな訂正を貰いながら、聖はモモタロスの後を追って駆け出した...

 

 

一方、アンブレライマジンと林にもつれ込んだモモタロスは、閉じた傘のようなデザインのブレードとモモタロスォードをぶつけ合い、激しい剣戟を繰り広げていた。距離を取ったアンブレライマジンは、狂気的な笑い声を上げる。

 

アンブレラ「ケハハッ!いいねぇ、()りがいのあるヤツじゃねぇか!お前も俺と同じ...殺戮や蹂躙に逸楽を見いだしてんだろ?」

モモタロス「うるせぇ!お前なんかと一緒にすんな!俺は、かっこよく戦うことが好きなだけだ!お前みたいに弱いやつを襲って勝ってもな、ちっともかっこよくなんてねぇんだよ!!」

聖「ハァッ!」

 

アンブレライマジンへの憤りを露わにしたモモタロスが勢いよく駆け出した瞬間、彼の背後から気勢とともに飛び込んできた聖が、アンブレライマジンの顔面に膝蹴りを打ち込んだ。

 

アンブレラ「ぐおっ!?」

 

虚を突いた攻撃でアンブレライマジンを大きく吹き飛ばし、着地した聖。彼女の腰に装着されたデンオウベルトを目の当たりにしたモモタロスは、驚きの声を上げた。

 

モモタロス「んなっ!?おい、なんでお前がベルト着けてんだよ!?良太郎はどうした!」

良太郎「モ、モモタロス!落ち着いて!僕は大丈夫だから!」

モモタロス「ぎゃー!?女から良太郎の声がー!!ま、まさかお前...良太郎を喰っちまったのか!?」

 

どこぞの童話のような想像をしてモモタロスが戦慄する中、地面に転がっていたアンブレライマジンが立ち上がる。それを見た聖は、モモタロスを放置してアンブレライマジンと向き合った。

 

聖「動揺するのも分かりますが...ひとまず、あの異形を下しますよ。」

モモタロス「はぁ!?俺に命令すんじゃねぇよ!」

アンブレラ「おい、女ァ!いいところに割りこんで来るんじゃねぇ!殺されてぇのか!!」

 

戦いを邪魔されたことに怒り心頭なアンブレライマジンは、舌を横凪に振りかざして聖を襲う。しかし、聖はジャンプして舌を避けると、それを足場にしてアンブレライマジンに突撃。懐に潜り込み、腹部に肘うちを打ち込む。

 

アンブレラ「うごっ...!」

聖「まだまだ序の口ですよ!さぁ、覚悟なさい!」

 

あまり表情には出さなかったが、響子を襲ったことに憤怒していた聖は、肘うちに怯んだアンブレライマジンに怒涛の連撃を見舞う。顎に掌底を打ち込み、姿勢を低くして足払いをかける。浮き上がったアンブレライマジンの腹にムーンサルトを叩き込んで上空に打ち上げると、自らも木の幹を蹴って追撃。空中で何度もアンブレライマジンに足技を見舞った後、聖は踵落としでアンブレライマジンを撃ち落とした。地面にひびが入るほどの衝撃で叩きつけられたアンブレライマジンは、フラフラしながらも立ち上がる。

 

アンブレラ「ぐうっ...!?なんて強さだ、この女...!」

モモタロス「すげぇ...」

 

モモタロスたちが感嘆の声を上げる中、地面に降り立った聖はアンブレライマジンにゆっくりと歩み寄ると、優しく語りかける。

 

聖「これに懲りたら、あのような悪事はもう止めるのです。私は、あなたを殺めるつもりはありません。私たちは皆、等しく生きる者同士ではありませんか...」

アンブレラ「等しく生きる者...か。あぁ、あんたの言うとおりかも知れねぇ...俺が間違ってたぜ...」

 

聖の言葉に心を打たれたのか、アンブレライマジンはがっくりとうなだれる。それを見た聖は、膝をついたアンブレライマジンに手を差し伸べた。

 

聖「大丈夫...過ちは償えば良いのです。さぁ、あなたも手を取り合い...」

アンブレラ「...なぁんてな!」

 

聖の言葉に絆されたふりをして、不意打ちを狙っていたアンブレライマジンは、ブレードの間合いに入った聖に鋭い突きを放つ。しかし、聖は冷たい表情で瞬発的にブレードを受け流し、アンブレライマジンの腕を抱え込む。

 

聖「やはり、妄言でしたか...残念でなりませんね。」

アンブレラ「チッ...!なら、奥の手だ!!」

 

その言葉とともに、アンブレライマジンの胸部の瞳が輝き出す。やがて瞳から光線が発射され、近接していた聖に直撃した。衝撃でモモタロスの近くまで吹き飛ばされた聖は、激しく地面を転がる。

 

聖「くっ...油断しました...!まさか、あんな技を持っているとは...!」

モモタロス「おい、大丈夫か!?クソッ...卑怯なことばっかしやがって!!」

アンブレラ「ケッハァッ、いいザマだなぁ!安心しろよ!あんたの望み通り、み~んな平等にぶっ殺してやるからよぉ!!」

聖「外道とは、まさにあなたのような者を言うのでしょうね...!」

 

怒りを露わに立ち上がった聖は、アンブレライマジンを目指して駆け出した。だがその直後、聖は足がもつれて転んでしまった。その瞬間、地面に伏せった聖は気づいた。自分の身体が、"異常なほどの疲労"を感じていることに。足や腕に力を込めて立ち上がろうとしても、どうにも力が入らないのだ。

 

聖「なぜ...!?か、身体が...上手く...!?」

良太郎「はぁ...はぁ...ひ、聖さん...ちょっと...待って...」

聖「(まさか、良太郎さんの体が私の動きに耐えられずに...!?)」

 

良太郎の激しい息切れに気づいた聖は、自分の平常を逸した動きが良太郎の体に大きな負担を与えていたことを理解する。今まで激しく動き回っていたにも関わらず急に転倒した聖に、モモタロスは駆け寄った。

 

モモタロス「無理すんな、馬鹿野郎!俺を呼べ!お前の中に良太郎がいるなら、なんとかなる筈だ!!」

聖「で、ですが...!」

モモタロス「うだうだ言ってる場合じゃねぇだろうが!さっさとやれ!!」

 

良太郎を介してモモタロスを憑依させる方法を理解した聖は、デンオウベルトのバックルに備えられた四色のスイッチの内、赤いスイッチに手を添える。だが、そこで動きを止めてしまった。

 

モモタロス「おいっ!なにやってんだ!?」

アンブレラ「おいお~い、仲間割れかぁ?それじゃあ、あの世で仲直りするこったなぁ!!」

モモタロス「チッ...やべぇ!!」

 

隙を見たアンブレライマジンは胸部の瞳に多量のエネルギーを蓄積させ、一気に放出する。無数の光線が無差別に撒き散らされ、辺りは一挙に爆煙に包まれたのだった...

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ!?何があった!?」

 

良太郎たちがデンライナーを飛び出して行った直後、騒ぎを聞きつけた青年──"野上(のがみ)幸太郎(こうたろう)"と紺色の鬼のようなイマジン──"テディ"が、慌てた様子で運転室の方から現れた。

 

テディ「なにやら悲鳴のようなものが聞こえましたが!?」

キンタロス「幸太郎!良太郎たちはもう出て行ってしもうた!俺らも追いかけるで!」

幸太郎「分かった!」

 

すぐさまウラタロス、キンタロス、リュウタロス、テディを先導してデンライナーを出ようする幸太郎だったが、その足は食堂車の片隅に座っていた一輪の言葉に引き止められた。

 

一輪「お待ち下さい!私たちも参ります!聖様を追いかけなくては!」

幸太郎「えっと...誰だか知らないけど、止めといた方がいいと思うよ?俺たちが相手にするのは、あんたより強いイマジンかもしれないから、さ。」

一輪「それでも行きます!魑魅魍魎の化け物など、恐るるに足りません!行きましょう、雲山!」

雲山「承知!」

幸太郎「あっ、ちょっと!」

 

幸太郎の忠告を完全に振り切った一輪は、雲山を引き連れてデンライナーを飛び出していく。それに追随するように他の妙蓮寺の面々も立ち上がり、一輪を追いかけていく。

 

星「さすがは一輪ですね!私たちも行きますよ、ナズ!」

ナズーリン「はいはい、分かりましたよ...しょうがないなぁ、ご主人は。」

村沙「ストレスも溜まってたし、丁度いいか!少し体を動かしたかったんだ!」

幸太郎「...なんなんだよ、あの人たち。」

ウラタロス「聞く耳持たず、って感じだね...放っておく訳にもいかないし、僕たちも行こうか。」

 

ウラタロスの言葉に頷いた幸太郎は、彼女たちを追ってデンライナーを降車する。悲鳴の聞こえた方角を頼りに駆け出した一輪たち、幸太郎たちの前に立ちふさがるように、海賊のような格好をした金髪の少女が木の陰から躍り出た。

 

「おっと...悪いけど、お前らを行かせる訳にはいかないんだよね。大人しく帰れば、無事に帰してあげるけど...」

一輪「何者ですか...?我々の道を邪魔するのなら、容赦はしませんよ!」

 

勇ましく告げる一輪の言葉に、金髪の少女は一つ溜め息をついた。

 

シーラ「ま、そうなるよね。オレ...ボクの名は"シーラ"!お前ら、喰われなきゃ分からないらしいね!」

リュウタロス「あっ!あのベルト!!」

 

名乗りを上げたシーラは、黒いデンオウベルトのようなベルト──"ガオウベルト"を取り出し、腰に巻きつける。その特徴的なバックルに備えられた銀のスイッチをシーラが押すと、パイプオルガンのような音楽が荘厳に響き渡る。摘まむようにライダーパスを取り出したシーラは、力強く声を上げながらライダーパスをバックルにセタッチした。

 

シーラ「変身ッ!!」

『GA-O FORM』

 

バックルから橙のフリーエネルギーが放出され、シーラの全身を包み込む。服が漆黒に染まると、周囲に牙のデザインが目立つ銅色の鎧が形成され、肩と胸部に装着される。さらに、二つの顎が繋がったような複雑な形状の兜が額に装着された。時間を喰らう"仮面ライダーガオウ"の力を纏ったシーラは、ベルトに提げられている4つのツール──"ガオウガッシャー"の二本線、三本線の記された二つを上下に接続し、その両端に一本線、四本線の記された二つを接続する。鋸のような橙の刃が伸びたガオウガッシャーのソードモードを軽く振りかざし、獲物を前にしたシーラはニヤリと笑う。

 

シーラ「さぁて、お前らの歯応えはどんなもんかな?ボクはハードが好みだからね、楽しませてくれよ?」

 

 

 

~次回予告~

 

「あなたは、私が護ります...!」

 

「あの時、なんで俺を呼ばなかった!?」

 

「情けないですね...」

 

「ケッハハァ!そろそろ仕上げといくかぁっ!!」

 

「行きますよ、モモタロス!」

 

『SWORD FORM』

 

「俺、参上ッ!!」

 

第15話 ~ガンガン・クライマックス~

 

 

 

アイテム・キャラクター紹介コーナー!

 

~聖白蓮~

 

命蓮寺の住職を務める温厚な女性で、誰にでも慈悲深く、すべての絶対平等を理想に掲げている。"魔法を使う程度の能力"の持ち主。元は人間だったものの、弟の死をきっかけに死を極端に恐れるようになり、不老長寿を得るために魔法使いになる道を選んだ。しかし、魔力を得るために妖怪を助けるうちに、不当な迫害を受ける妖怪を守りたいと考えるようになり、それが原因で人間から魔界に封じられた過去を持つ。皆を母親のように優しく見守っているが、どこか天然で抜けている部分があり、たまに周囲を振り回すことも。

 

~野上良太郎~

 

驚くほどの不幸体質を持ち合わせる青年。自分が不幸に見舞われまくっているため、他人の不幸や悲しみには敏感な、優しい性格の持ち主。基本的には気弱だが、決して譲らない頑固な一面もあり、クセの強い仲間のイマジンたちをまとめ上げている。ある事件によって、デンライナーごと幻想郷に送り込まれた。優しくておっとりしている聖には、姉である愛理の姿を重ねていたりする。

 

~電王 プラットフォーム(聖)~

 

電王のベースとなる、戦闘力の低いフォーム。しかし、聖の卓越した格闘能力によって爆発的な強さを見せていたが、良太郎の身体がついていかなくなってしまったために窮地に陥ってしまう。




第14話、閲覧頂きありがとうございました!いかがでしたでしょうか?

遂に、主役以外のライダー(の力)が本格登場しました!1章も後半に入りましたので、少しづつ盛り上げて行きますよ~!次回、絶対絶命の聖たちの運命や如何に...!?そして、小傘の願いとは!?

また、投稿頻度を上げるため、次回からいくつかにパート分けして投稿することになると思います。重ね重ね変更してしまって申し訳ありませんが、ご了承下さい!

それでは、チャオ~!


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第15話 ~ガンガン・クライマックス~(1)

こんにちは、シェインです!活動報告や前回の後書きで宣言しました通り、今回からはパート制を導入します!今回は、シーラの強襲を受けた一輪や幸太郎たちの抗戦です!


変身を果たしたシーラの姿、そしてガオウベルトを目の当たりにしたウラタロスたちイマジンは戦慄する。以前に戦った仮面ライダーガオウ...その強さは彼らの記憶に鮮明に刻まれているのだ。

 

ウラタロス「嘘でしょ...!まさか、牙王の力...!?」

キンタロス「これは不味いな...アンタら!はよ逃げるんや!」

リュウタロス「行っくよぉ~!!」

 

ウラタロスたちは一輪たちに逃げるよう薦めると、それぞれの得物を手にシーラを三方向から囲んだ。初手として、リュウタロスが紫の大型銃──"リュウリボルバー"から紫のエネルギー弾を放つ。それに続き、ウラタロスは両端に六角形の刃を備えた棒状武器──"ウラタロッド"で、キンタロスは無骨な大斧──"キンタロアックス"で切りかかった。しかし、エネルギー弾を切り裂いたシーラはウラタロッドを左手で掴み取り、キンタロアックスをガオウガッシャーで防ぐと、ウラタロッドを奪い取ってウラタロスとキンタロスを凪払う。さらに、ウラタロッドを的確に投げつけて、リュウタロスを吹き飛ばした。

 

ウラタロス「やっぱり、冗談じゃない強さみたいだね...!」

シーラ「この程度で終わりじゃないよね?それに、あんたはいつまで突っ立ってるつもり?NEW電王、野上幸太郎!」

幸太郎「なっ!?なんで、俺が電王だってこと...!とにかく、俺も...!」

 

シーラの的を得た言葉に幸太郎が動揺している間、キンタロスの忠告を無視した村沙はこっそりと上空まで飛び上がり、一枚のスペルカードを取り出す。それと並行に、幸太郎も金色のデンオウベルト──"NEWデンオウベルト"を取り出した。

 

村沙「私たちいること、忘れないでよねっ!転覆【道連れアンカー】!」

星「我こそは毘沙門天!いざ!宝塔【レイディアントトレジャー】!」

ナズーリン「他はともかく、ネズミを喰らうのはよして貰おうか!棒符【ビジーロッド】!」

 

上を取った村沙は巨大な錨型エネルギーを投げ飛ばし、星は左手に持った宝塔から巨大なレーザーを放ち、ナズーリンは魔力を込めたダウジングロッドをブーメランのように投げつける。逃げ出す隙のない、3人の連携による高密度の弾幕。大きく土煙が上がったタイミングを見計らい、一輪は指示を飛ばした。

 

一輪「今です、雲山!」

雲山「おうよっ!儂の鉄拳、とくと味わえっ!!」

 

雲山は土煙に向け、その巨大な拳を突き出したが、その拳は土煙にのめり込むことはなかった。一切傷ついていないシーラに、しっかりと受け止められていたのだ。雲山を投げ飛ばしたシーラは、ライダーパスを取り出すと、再度バックルにセタッチする。

 

シーラ「はぁ...小煩いヤツらだなぁっ!!」

『FULL CHARGE』

 

ガオウベルトから電子音が流れ、バックルからガオウガッシャーの刃へとフリーエネルギーが注ぎ込まれていく。それに気づいた幸太郎は急ぎベルトを腰に巻いたが、時既に遅し。刀身が雷を纏い、ガオウガッシャーを離れたその刹那、シーラはガオウガッシャーを横一線に薙いだ。

 

シーラ「まとめて吹き飛べっ!!」

 

ガオウガッシャーから離れた刃を操り、敵を薙ぎ倒す技──"タイラントクラッシュ"によって、辺りは雷撃と炎に包まれる。誰のものかも分からないほど雑多な悲鳴の後、爆煙が晴れたそこには、村沙たちを庇って攻撃を一身に受けたウラタロスたちがいた。

 

村沙「うぅん...あっ、あんた...どうしてこんなことを...!?」

ウラタロス「クッ...可愛い女の子の顔に傷を付けさせるわけにはいかないでしょ...?」

 

キンタロス「だ、大丈夫か、星...」

星「キンさん...!あなたこそ、こんなに傷を...!」

キンタロス「心配いらん...この程度、掠り傷っ...ぐぅ!」

 

リュウタロス「ネズミさんをいじめる奴、嫌い...!お前、倒すけどいいよね...?答えは、聞いてない...」

ナズーリン「っ...!この、ばかリュウ...!」

 

テディ「こ、幸太郎...無事か...?」

幸太郎「そんな...テディ!」

 

一輪「ん...はっ!う、雲山っ!!」

雲山「グッ、ガアッ...!儂は大丈夫じゃけぇ...早く、逃げろ...!」

一輪「そ、そんなこと...出来るわけないでしょう!」

 

イマジンでないにも関わらず、その身と命を賭して一輪を庇った雲山の顔はいつも以上にしかめっ面で、煙のような身体が所々消えかかっている。彼が満身創痍であることは、誰の目にも明らかだ。一輪の隣に転がるテディを始めとしたイマジンたちもかなりのダメージを負っており、立ち上がることすらままならない状況だった。

 

シーラ「へぇ...イマジンでもないのに、あの攻撃を耐えたか...いい根性してるね、入道妖怪。」

雲山「ハッ...!こんな程度で...儂に勝った気か...?じゃとしたら、てめぇの強さも...底が知れてるな...?」

シーラ「ふ~ん、挑発する余裕もある、か...じゃ、お前と、ついでに紺色のイマジンも始末しようかな...」

 

雲山の気丈さに感心を示したシーラは不敵な笑みを浮かべながら、ガオウガッシャーを手に雲山たちに迫る。雲山が狙われていることを察した一輪は、彼を背に庇ってシーラを睨みつけた。

 

シーラ「...お前、死にしたいの?せっかくそいつが護ってくれたのにさ。」

雲山「一輪ッ!!なにをしとるッ!?早く逃げんかいッ!!」

一輪「嫌ですっ!」

 

シーラに呆れられた一輪は、少し涙ぐんだ声で叫ぶ。長い間ともに生きてきた雲山を見捨て、自分一人逃げ出すことなど、誠実な一輪には出来なかった。決して振り向くことはなく、一輪は続ける。

 

一輪「あなたは、これまで何度も私を護ってくれた...今は、私の番。あなたは、私が護ります...!」

シーラ「そう...そりゃ素晴らしいね。命賭けで、好きなだけ護りなよっ!」

 

心の籠もっていない賞賛を贈ったシーラは、非情にもガオウガッシャーを大きく振り上げる。死を覚悟した一輪は静かに目を閉じ、後ろで悲痛な叫びを上げる雲山に思いを馳せる。

 

 

──雲山がこんなにボロボロな姿は初めて見ましたね...あなたを失いそうになって、初めて私の中でのあなたの大きさを知った気がします...普段はまるで話さないし、笑わないし、無愛想なあなただけど、いつも私を励まして、支えてくれた...一緒に居られて、本当に、楽しかった。だから──

 

 

一輪「ありがとう、雲山。」

 

そう言って、一輪は微笑んだ。彼女の笑顔に刃が突き刺さる寸前──

 

幸太郎「らぁっ!」

シーラ「くっ...!」

 

──幸太郎が、渾身のタックルでシーラを吹き飛ばす。それによってガオウガッシャーも軌道を外れ、一輪は九死に一生を得た。一輪の窮地を救った幸太郎は、彼女の顔を見て微笑むと、優しく言葉を紡いだ。

 

幸太郎「俺も、前に"大事な相手"を失いかけて、その大きさに気づいた。当たり前のような時間が、本当は何より大切なんだ...そうだろ?」

一輪「...はいっ!」

 

命だけじゃなく、もう一つ大切なものを手にした一輪は、太陽のように明るく笑った。それを傍観していたシーラは、幸太郎に皮肉を飛ばす。

 

シーラ「ハハッ...柱ごっこは、もうお終いかな?」

幸太郎「当たり前でしょ。それどころか、もうカウントも終わってるよ...こっからが本当の戦いだ!変身!」

 

シーラの皮肉を一蹴した幸太郎は、その手のNEWデンオウベルトを腰に巻き付けると、取り出したライダーパスをバックルにセタッチした。しかし、良太郎と同様にNEWデンオウベルトはまるで反応しない。動揺する幸太郎を、シーラは笑い飛ばした。

 

シーラ「アッハハ!残念だけど、あんたはもう変身できないよ?」

幸太郎「なっ...!?どうして...!?」

シーラ「聞いても無駄でしょ?これから切り刻まれるんだからさぁ!」

 

好戦的な笑みを浮かべたシーラはガオウガッシャーを構え、幸太郎に猛進を開始した。変身が出来ないことを告げられた幸太郎は、背後にいる負傷したままのテディと雲山を流し見る。

 

幸太郎「(ここで避ければ、テディたちが...!でも、あれを生身で受ければ、きっと...!)」

 

苦渋の選択を強いられ、幸太郎の額を冷や汗が伝う。しかし、躊躇う時間さえ残されてはいない。その時、幸太郎の隣に進み出た一輪が、表情の強張る幸太郎の腕にそっと触れた。

 

一輪「"大事な相手"を失いたくない。そして、これからも共に生きていきたい。そう願うから、私は、生きて、護る!選択肢は、それだけですよねっ!!」

幸太郎「...そうだよな。俺も、生きて、護る!!」

 

二人の思いが重なった瞬間、幸太郎が眩く青い輝きを放った。それに目を眩まされたシーラは、歩みを止める。一輪は青い光に変わった幸太郎と一つになり、彼とシンクロを果たしたのだった。

 

一輪「ん...?あ、あれっ!?」

幸太郎「う、嘘でしょ!?な、なにこれ!?」

テディ「んなっ!?こ、幸太郎が消えてしまったぁぁぁぁ!?」

 

辺りが騒然とする中、自分の身体を見回していた一輪は、シンクロと同時に装着されていたNEWデンオウベルトと、懐に入っていたライダーパスに気づく。そして、幸太郎の記憶から"変身"が何か読み取った一輪は、ライダーパスを構える。

 

一輪「ええと、幸太郎さん...でしたね?なにやら異様な状況になってしまいましたが、共に護りましょう...私たちの大切なものを!」

幸太郎「...だな!やってやろう、一輪!」

 

一輪・幸太郎「「変身っ!」」

『STRIKE FORM』

 

一輪がバックルにライダーパスをセタッチすると、バックルのサークルから藍色な半透明のエネルギーが放出され、一輪の身体を包み込む。すると服と髪が藍色に染まり、一輪の周囲を線路を模した鎧がくるくると回ると、胸部にターンテーブル風の鎧が装着され、波打つレールの鎧は肩に装着される。そして、赤く鋭利な2つのパーツが特徴的な兜が装着され、一輪の瞳は立体と同じ赤に染まった。

 

未来の時間を護る戦士、"仮面ライダーNEW電王"。その中で、"ストライクフォーム"と呼ばれる形態を模した姿に、一輪は変身を果たしたのだった。

 

一輪「これが...!今から私が、電王です!」

幸太郎「そういうこと!今度はこっちの番だ、覚悟しなよ?」

シーラ「へぇ...!少しは楽しめそうだねッ!!」

 

変身した一輪の姿を見たシーラはニヤリと笑い、ガオウガッシャーの刃を手で撫でると、身を屈めて猛進を始める。弾丸のように突っ込んでくるシーラを迎え撃つ一輪は、幸太郎の代わりに二度指を短く鳴らした。

 

幸太郎「テディ!力を貸してくれ!」

テディ「くっ...ああ!幸太郎以外の相手に握られるのは少々不本意だが、やむを得まい!はあっ!」

 

多少葛藤しながらもテディは飛び上がり、柄にテディの顔が造型された藍色の大型銃剣──"マチェーテディ"に変化すると、一輪の手に滑り込む。マチェーテディを両手で握り締め、一輪はシーラと相対した。

 

シーラ「せらぁっ!」

一輪「はぁっ!」

 

ガオウガッシャーとマチェーテディを打ち合い、シーラと激突する一輪。しかし、嵐のようなシーラの猛攻は凄まじく、一輪は防御に掛かりきりになってしまう。近接では分が悪いと判断した一輪は、バックステップで飛び退くと同時に、マチェーテディの切っ先からエネルギー弾を撃ち出すが、シーラは片手間のようにガオウガッシャーで切り裂く。

 

シーラ「いいねぇ...!ひさびさに海賊の血が騒ぐッ!!」

一輪「くっ、なんて力...分が悪いですね...!」

ナズーリン「一輪!」

 

荒々しいシーラの戦い方に苦戦する一輪の背に、ナズーリンの声がぶつかる。振り向いた一輪の目には、未だ動けないウラタロスたちの武器を借りた仲間たちの姿があった。

 

村沙「私たちで援護する!その隙に、あなたが一撃を打ち込んで!」

星「頼みますよ、一輪!」

一輪「皆...!えぇ、必ず!」

 

村沙たちの声援を受けた一輪は、汗で滑りそうなマチェーテディをぐっと握り直す。その熱い思いを感じ取ったテディは、決着までのカウントを一輪たちに尋ねる。

 

テディ「一輪、幸太郎、カウントは?」

一輪・幸太郎「...10!」

 

高らかに宣言した一輪は、エネルギー弾を連射してシーラを牽制しつつ、一気に距離を詰める。シーラはすべてのエネルギー弾を切り捨ると、間合いに入った一輪を狙ってガオウガッシャーを横一線に振り抜いた。しかし、一輪は捻りを効かせながら飛び上がることで回避し、シーラの背後に回り込む。

 

テディ「10...9...」

 

シーラ「チッ!ちょこまかと...!」

ナズーリン「鼠を前に、よそ見は厳禁だよ!」

シーラ「なにっ!?」

 

身の丈と近しい大きさのリュウリボルバーを、木の幹にもたれかかりながら構えたナズーリンは、一輪に誘導されて振り返ったシーラの背を狙って引き金を引く。ナズーリンは負担の大きい反動を木の幹で抑制し、リュウリボルバーから放たれたエネルギー弾はシーラの肩に炸裂した。それによって生まれた一瞬の隙に、一輪はすれ違いざまにマチェーテディを振り抜く。

 

テディ「8...7...」

 

一輪「まだまだっ!」

星「ハードが好みだというのなら...これでも、喰らうがいい!」

 

さらに、シーラにソバットキックを叩き込んだ一輪の肩を借り、キンタロアックスを手にした星が高く飛び上がる。頂点でキンタロアックスを大きく振りかぶると、落下速度を利用して力強くシーラに振り下ろした。シーラは咄嗟にガオウガッシャーで防御するが、その破壊力と勢いにガードを崩され、小さく後ずさる。

 

テディ「6...5...」

 

シーラ「ぐっ...!こんのっ!!」

村沙「残念だけど、喰われるのはあなたの方よッ!」

 

徐々に追い込まれるシーラは、着地した星に向けてガオウガッシャーを振り下ろすが、星は素早く退避して事なきを得た。さらに、振り下ろしたシーラの腕と肩を足場に一輪が飛び上がると同時に、一輪の背後で待機していた村沙が、シーラに向けてウラタロッドを投げつけた。ウラタロッドが命中したシーラは、水色な六角形のエネルギーネットによって動きを封じ込められる。

 

テディ「4...3...」

 

村沙「今だ、一輪っ!」

一輪「これで決めますっ!!」

『FULL CHARGE』

 

村沙の声に後押しされ、高く飛び上がった一輪はライダーパスを再度バックルにセタッチした。加速増幅されたマゼンタカラーのフリーエネルギーをマチェーテディの刃に宿し、一輪はシーラめがけてまっすぐに降下する。

 

シーラ「ぐっ...うらぁっ!!」

『FULL CHARGE』

 

一方、シーラは力尽くでエネルギーネットを撃ち砕くと、手早くライダーパスをバックルにセタッチし、フリーエネルギーを蓄積したガオウガッシャーを構える。

 

テディ「2...1...」

 

村沙・幸太郎「「はぁぁぁぁぁ!!」」

シーラ「おらぁぁっ!!」

 

一輪の振り下ろしたマチェーテディと、シーラの構えたガオウガッシャーの刃が激しくぶつかり合い、大きな火花を散らす。そして──

 

テディ「...0!」

 

──テディのカウントの終わりと共に、せめぎ合ったフリーエネルギーが爆発を起こした。吹き飛ばされた一輪は、警戒は解かずに態勢を立て直すと、爆煙の向こう目を凝らす。

 

幸太郎「や、やったか...?」

一輪「いえ...倒しきった手応えはありませんでした...まだです。」

 

その一輪の言葉通り、煙の中でゆらりと立ち上がったシーラは未だ健在だった。ガオウガッシャーで煙を振り払って進み出たシーラに、一輪は警戒を強めてマチェーテディを握り直す。だが、シーラは満足げに微笑むと、ガオウベルトを外して変身を解除した。

 

シーラ「オレ...いや、ボクとここまで戦り合えるなんて思わなかったな...けっこう楽しかったよ!」

一輪「どういうつもりですか...?」

幸太郎「楽しかっただと...!?みんなを殺そうとしておいて、ふざけるな!!」

シーラ「ボクがそいつらを殺そうとしたら、あんた達は本気で護るでしょ?それが、理由。」

 

幸太郎に非難されたシーラは、飄々とした態度で帽子を被り直すとその場を後にしようとする。一輪はシーラを止めようと駆け出すが、シーラは腰に提げられていたサーベル──"ネプチューン"を引き抜いて、蒼海のような青の刀身の、波のように湾曲した切っ先を向ける。

 

シーラ「まだ戦り足りないの?もしそうなら付き合うけど、ボロボロの入道妖怪を放っておくことになるよ?その内、気化しちゃうんじゃない?」

一輪「...」

シーラ「ふふっ...賢明だね。一輪、あんたの名は覚えておくよ。それじゃ、またねっ!」

 

シーラの言葉に従って動きを止めた一輪を讃えると、シーラはネプチューンを振りかぶる。すると、刀身の軌跡に滝のように水が溢れ出し、水の幕がシーラを包み込む。水が引いたころには、波にさらわれたかのように、シーラの姿は跡形もなく消えていた。脅威が去ったと知った一輪は一瞬だけ安堵の表情を浮かべると、NEWデンオウベルトを外して変身とシンクロを解除する。それと共にマチェーテディを手放し、テディは元の姿に戻って幸太郎の隣に降り立った。

 

一輪「なんとか、なりましたね...」

幸太郎「ま、ちょっと驚いたけどね。大丈夫か、テディ?」

テディ「あぁ。まだ少し足元が覚束ないが、大丈夫だ。」

 

少しフラつきながらも無事を伝えたテディに優しく微笑んだ一輪は、急いで雲山のもとに駆け寄っていく。

 

一輪「雲山!大丈夫ですか!?」

雲山「ふんっ、無茶しおって...この阿呆が!自分が死んだらどうするつもりじゃ!」

一輪「あ、阿呆ですって!?命を張って助けたというのに、なんて言い草ですかこの堅物じじい!見た目と性格が合致してないんですよ!雲みたいな入道らしく、もっと柔軟になったらどうなんです!?」

雲山「おぉん!?儂のどこが堅物だと言うんじゃ!いい機会じゃけぇ!前々から言おうと思っとったが、お前は時折感情的になりすぎる!少しは先の事を考えて...」

 

テディ「どうやら、口論になってしまったようだな...」

幸太郎「まぁ、お互いに大切だからだろ?それに、口には出さないけど、すごく嬉しそうだしな。」

 

どこか楽しそうにいがみ合う一輪と雲山の姿に、幸太郎は優しく笑った。その後、一輪たちの痴話喧嘩を仲裁した幸太郎は、村沙たちと協力して負傷したウラタロスたちをデンライナーの食堂車に運び込むのだった...

 

【To Be Continued...】

 

 

アイテム・キャラクター紹介コーナー!

 

~雲居一輪~

 

"入道使い"と呼ばれる珍しいタイプの妖怪。"入道を使う程度の能力"の持ち主。真面目で機転も利き、要領も良いしっかり者で、命蓮寺のお姉さんポジション。寺で精神修行を積んでいる故「感情的になることはない」と豪語しているが、1000年近い付き合いである雲山の前では、素が出ることもしばしば。「大切なパートナーを護りたい」という願いが共鳴し、幸太郎とのシンクロを果たした。

 

~野上幸太郎~

 

50年後の未来からやってきた、良太郎の孫。モモタロスたちと出会った当初は高慢で自信家な性格だったが、敗北や仲間との絆を経験したことで、心身共に成長した。良太郎の不幸体質は孫の代まで受け継がれているようで、彼もしっかり不幸に見舞われている。

 

~NEW電王(一輪) ストライクフォーム~

 

幸太郎とシンクロした一輪が、仮面ライダーNEW電王の力を受け継いだ姿。テディの変化した大型銃剣、マチェーテディを主な武器としており、近距離から中距離の闘いを得意とする。必殺技は、フリーエネルギーを纏わせたマチェーテディで繰り出す"カウンタースラッシュ"と、同じくフリーエネルギーを纏わせた右足で蹴りを放つ"ストライクスパート"。




第15話Part1の閲覧、ありがとうございました!

次回は、アンブレライマジンの猛攻を受けた聖サイドのお話です!ピンチの聖たちの前に現れるのは...?

それでは、チャオ~!


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第15話 ~ガンガン・クライマックス~(2)

こんにちは、シェインです!結構なスランプに陥ってましたが、なんとか復活!投稿ペースが上がるわけではないと思いますが、気長に、そして自由にやっていきます。みなさんも、ゆっくりお付き合い下さい。

今回は、未だ謎に包まれている白の少年にも動きが...!それでは、どうぞ!


アンブレライマジンが乱射した光線の雨に晒された聖とモモタロスは、黒こげになった林の中で倒れ込んだ。二人とも全身の至る所が傷付いており、本来であればまだ余力がある聖も、良太郎の肉体が疲弊した影響で立ち上がることすらままならない。

 

聖「ぐっ...!」

モモタロス「うぅっ...クソッ...」

アンブレラ「トドメを刺してやるよ。どっちにするかなァ...?身体を切り裂いて内臓をえぐり出すか...四肢をもいで苦しみの中で死を迎えさせるか...よし、内臓えぐり出しだァ!」

 

二人に接近したアンブレライマジンはブレードを構えると、狂ったように猟奇的な笑い声を上げながら、聖に向けてブレードを振り下ろした。その刃が聖の胴を切り裂こうとした瞬間──

 

白の少年「...させないよ。この人たちの時間を、ここで終わらせるわけにはいかないんだ。」

 

──突如、アンブレライマジンの前に立ちふさがるように、白の少年が出現した。彼がブレードに手のひらを翳すと、ブレードに青い光が取り憑いて動きを封じ込める。動揺するアンブレライマジンを青い波動で吹き飛ばした白の少年は、聖を見つめて呟いた。

 

白の少年「...君は、まだ信じられないのかな...」

聖「えっ...?」

 

少し悲しそうに微笑むと、白の少年は聖たちの下に青い光の縁取る穴を生み出す。その穴に吸い込まれた聖は、淡く青い輝きは支配する空間の中で堪えがたい疲労と眠気に襲われ、気絶するようにして眠りに落ちたのだった...

 

 

 

アンブレラ「チッ、あの野郎...!よくも俺の逸楽の邪魔を...!」

 

白の少年の介入によって聖たちを取り逃してしまったアンブレライマジンは地団駄を踏み、めちゃくちゃにブレードを振り回しながら奇声を上げる。

 

「興が過ぎますよ...」

アンブレラ「ッ!!」

 

狂気を全開にして荒れ狂うアンブレライマジンの前に、黒の下地に紫炎が描かれた、どこか不気味なローブを被った女が現れた。女は目深にフードを被っており、口だけが細く覗いている。表情の読み取れない彼女は、アンブレラにゆっくりと歩み寄っていく。

 

ローブの女「あなたの使命は、無意味な過去を消し去り、すべての命を葬ることでしょう...自らの享楽に溺れ、あまつさえあの女を殺そうとするとは...我らが"主"に牙を剥こうというのですか?」

アンブレラ「い、いや...ま、待ってくれ!すまねぇ、ほんの出来心なんだよ...だ、だから...」

 

ローブの女は弁解するアンブレライマジンの首を片手で掴み、そのまま軽く持ち上げた。アンブレライマジンの首を強く絞めたローブの女は、静かに囁く。

 

ローブの女「言葉は要りません...行動で示しなさい。ですが、決して忘れないことです。我らが主は、"終焉の支配者"であること...あなたごとき、吹けば消える塵に等しいことを...ね。」

アンブレラ「わ、わかった...」

 

従順な返答を受けたローブの女は、乱雑にアンブレライマジンを投げ捨てると、冷たい微笑を残してその場から立ち去る。粗暴な扱いを受けたアンブレライマジンはゆっくりと起き上がると、フラフラとどこかへ向かっていった...

 

 

 

聖「...ここは...?」

 

しばらくして目が覚めた聖は、元の姿で穏やかな陽光が差す庭園に寝そべっていた。柔らかな芝生に手をついて起き上がると、色とりどりな花に埋め尽くされる美麗な庭園の全貌が明らかになる。どの花も幻のように思えるほど端正に整えられており、この庭園の主がどれほどの想いを込めて世話をしているかは想像に難くなかった。

 

聖「綺麗な場所...」

白の少年「ふふっ、気に入って貰えたかな?」

 

聖が思わず庭園に見とれていると、植え込みから顔を覗かせた白の少年が無邪気に笑う。白の少年に手で招かれた聖は、戸惑いながらもそれに従った。植え込みの向こうには、白を基調とした上品なテーブルと四つの椅子。そのテーブルの上には銀のティーセットと、お湯の入ったティーカップが用意されていた。

 

白の少年「さ、座って?」

聖「あら、ありがとうございます。」

 

白の少年のエスコートを受け、聖は片方の椅子に腰掛ける。白の少年も向かいの椅子に座ったとたん、ティーポッドとマグカップを携えたルーナが気配もなく現れると、淡々とお茶の用意を始めた。

 

白の少年「あ、ルーナ!ありがとね!」

ルーナ「ふふっ、いいんですよ。私は、あなたの嬉しそうな顔が一番好きですから。」

 

白の少年の真っ直ぐな笑顔を受けて心底幸せそうに笑ったルーナは、ティーカップに入っていたお湯をマグカップに移すと、空になったティーカップに紅茶を注いでいく。白の少年と聖の紅茶を注ぎ終えたルーナは、聖に柔らかな笑みを向けた。

 

ルーナ「お客様も、どうぞごゆるりと...もし、"蒼くん"に危害を加えようとした際は容赦致しませんので、そのつもりでお願いします。」

聖「は、はぁ...」

 

ルーナの言葉、特に後半の警告のプレッシャーに困惑した聖は、思わず答えが濁ってしまう。はっきりしない答えを受けたルーナは、少し疑念を抱きながらも白の少年の隣の椅子に腰掛けると、もう一つ紅茶の用意を始める。紅茶を一口飲んだ白の少年はゆっくりと口を開く。

 

蒼「さて、一緒にお茶を飲む相手に名前を名乗らないのは失礼だよね。僕は、時幻(じげん) (そう)。時の旅人、みたいな感じかな?」

聖「時の旅人...ですか?」

 

首を傾げる聖をよそに、白の少年──蒼はにこやかに話を続ける。

 

蒼「うん!よろしくね、聖!早速で悪いんだけど、本題に入ってもいいかな?せっかくルーナが育ててる庭園を気に入ってくれたみたいだし、ゆっくりしていって貰いたいところなんだけど...そういう訳にも行かなくてね。」

聖「はい、構いませんよ。私としても、先ほど通った空間は何なのか、ここは一体どこなのか...他にも色々と、聞きたいので。」

 

聖は紅茶を少し流し込むと、紅茶の絶品さに目を丸くするのを耐えて、鋭い眼光で蒼を見つめ直した。彼女の疑いの視線に気づいているのか、いないのか、蒼はあどけない笑顔を振りまきながら話を続ける。

 

蒼「じゃ、まず君の質問に答えよっか。さっきの空間は、"タイムホール"って場所でね。僕の能力(ちから)で時空と時空を繋いでるんだ。」

聖「時空と時空を繋ぐ...?」

ルーナ「あなたたちの世界とは、流れる時が違う世界...ということですよ。蒼くん、お砂糖は入れますか?」

蒼「ううん、大丈夫!ルーナが淹れてくれたままが、一番美味しいからね!」

ルーナ「ふふ、嬉しい...ありがとうございます。」

 

紅茶の砂糖の話題で、蒼とルーナは聖の前で仲睦まじい姿を見せる。明らかに話の逸れたことに気づいた蒼は、慌てて話の本題に戻る。

 

蒼「え~と、僕の能力の話は置いといて...今度は僕の伝えたかったこと。イマジンを殺める気はないって言ってたけど...君たちの戦っていたイマジンは、生きているわけじゃない。モモタロスたち以外のイマジンは、容赦なく倒すべきだよ。」

聖「生きていない...とは?」

蒼「あれは、死者の魂が生者に宿り、その宿主のイメージを借りて実態を象っているにすぎないんだ。しかも厄介なことに、"悪意"に支配されている...他の存在を傷つけ、苦しめることしか考えてないだろうね。」

聖「そんな...」

 

イマジンの正体は、悪意に染まった死者の霊魂。蒼から新たな情報を得た聖は、沈んだ表情で呟いた。話した蒼自身、あまりいい気分にはならないらしく、初めて暗い顔を見せる。しかし、その手にルーナがそっと手を重ねると、蒼は柔らかな笑顔を取り戻し、聖に向き直った。

 

蒼「この忠告が、君の役に立つことを祈ってるよ!君たちは、僕の希望だからね!」

聖「えっ?」

モモタロス「あっ!てめぇ!!」

 

蒼の"希望"という言葉に、聖は怪訝な表情を浮かべる。その時、良太郎と共に現れたモモタロスは、蒼を指差して声を荒げた。

 

モモタロス「よくもデンライナーをぶっ壊してくれたな!」

良太郎「君、一体なんなの?」

蒼「あっ、二人も目が覚めたんだ。悪いけど、詳しいことは聖から聞いてね?」

 

警戒する二人にそう苦笑した蒼は、パチンと指を鳴らす。その瞬間、蒼の力に包まれた聖たち三人は、気を失うようにして眠りについた。寝息を立てる彼らに手をかざし、時空の歪みを通して三人を幻想郷に送り返した蒼は、澄み渡る異世界の青空と庭園の花々を眺めながら、ルーナとのティータイムを過ごしたのだった。

 

 

 

響子「...様!...聖様!」

 

深い眠りについていた聖は、響子の切羽詰まった声で呼び覚まされた。聖が目を開けたのを見た響子は、涙ぐんだ顔で聖に抱きつく。

 

響子「よがっだぁ~!聖様が、わだじのぜいでじんじゃっだがど...ひっく!えっぐ!」

聖「響子...ここは...?」

良太郎「聖さん!」

 

号泣しながら聖の胸に顔を埋める響子。そんな彼女を慰めながら、聖は状況を把握するべく辺りを見回すと、そこにハナ、良太郎、モモタロスが合流する。

 

ハナ「良かった、聖さんも無事だったんですね...大きな爆発があったから、響子ちゃんと一緒に探してたんです。」

良太郎「色々と話さなきゃいけないこともありますけど...怪我の手当てもありますし、デンライナーに戻りましょうか。」

聖「はい、そうですね...」

 

響子をなんとか落ち着かせた聖は、良太郎の言葉に小さく頷く。良太郎の提案に従ってデンライナーへと戻る道中、聖は良太郎に声をかけた。

 

聖「先ほどの少年..."蒼"という名だそうです。彼がデンライナーを破壊したのですか?」

良太郎「破壊した、というより...乗り込んできた、って感じですね。突然、穴が空くように消えた時間の調査に行く途中だったんです。イマジンの仕業かも知れないから、乗客の人はキングライナー...駅で降ろして、僕たちだけで。その時──」

 

 

 

蒼「──やあ、こんにちは!」

 

調査に向かうデンライナーの食堂車に、朝の散歩で会うかのように自然な挨拶を披露し、蒼は現れた。時空を歪め、突如として出現した爽やかな少年に、良太郎たちは警戒態勢に入る。

 

モモタロス「てめぇ...どっから入って来やがった!」

蒼「どこからって、時空から。」

モモタロス「なるほど!どういう意味だ?」

良太郎「君は...?」

 

何者か問われた蒼は、無邪気に、そして朗らかに笑いながら答える。

 

蒼「僕は、ハイジャック犯だよ!ってことで、揺れるから気をつけてね!」

 

そう一方的に宣言した蒼は指を鳴らし、デンライナーの下にタイムホールを展開する。そのタイムホールに引きずり込まれたデンライナーは幻想郷に雪崩れ込み、派手に墜落することになったのだった──

 

 

 

良太郎「──そして、墜落した後には蒼くんの姿は忽然と消えていたんです。」

聖「そうだったんですか...あの子は、一体何が目的なんでしょう...?」

良太郎「わかりません...でも、悪いことをしようとしているとしたら、止めなくちゃ。」

 

そんな話をしている内にデンライナーへとたどり着いた聖たちは、炎やら火花やらがようやく治まったデンライナーに乗り込む。聖たちの戻った食堂車では、傷だらけのウラタロスたちが、村沙たちの手当てを受けていた。その光景を見た聖は、愕然とする。

 

聖「な、なにがあったのですか...!?」

村沙「聖様!無事だったんですね!実は、聖様を追いかけようとした私たちの前に、シーラと名乗る少女が現れて...変身して襲いかかって来たシーラの攻撃から、ウラタロスたちが庇ってくれたんです...」

聖「そう、ですか...彼らが...」

 

村沙から事の顛末を聞いた聖は、複雑な表情を浮かべて俯いた。良太郎は違和感の残る聖の反応に疑問を持ったが、それを口に出すより前に、道中ずっと無口だったモモタロスが口を開いた。

 

モモタロス「おい、お前...あの時、なんで俺を呼ばなかった!?あんな奴を野放しにして、また誰かが襲われたらどうするつもりだ!!」

聖「それは...」

 

モモタロスに険しい剣幕で迫られた聖は、目を逸らして答えようとしない。重い沈黙を貫く聖に、モモタロスはため息と共に悪態をついた。

 

モモタロス「フン...お前みてぇに言いたいことも言えねぇ奴と、一緒に戦うなんてお断りだ。」

 

呆れたように吐き捨てたモモタロスは、食堂車の席の一つに頬杖をついてどっしりと腰掛ける。空虚な瞳で俯いた聖は、緩く拳を固めた。モモタロスと聖の張り詰めた空気に支配された食堂車は、一気に重苦しい場所に変わってしまった。

 

良太郎「あの、聖さん。少し外で話しませんか?あのイマジンの事とか、これからの事とか。」

聖「あ...わかりました...でしたら、命蓮寺で話しましょう。」

 

俯いていた聖は頷くと、良太郎と連れ立ってデンライナーから降車した。だが、山道を進む彼女の足取りはどこか重々しい。とぼとぼと良太郎の前を歩む聖を気遣い、良太郎はあえて明るい口調で話しかけた。

 

良太郎「でも、聖さんが住職だったなんて、ちょっと意外です。住職って荘厳なイメージがあったから、聖さんみたいに優しそうな人が住職だなんて思えなくって。」

聖「...私は、優しくなんてありませんよ...」

良太郎「えっ...?」

 

しかし、良太郎の気遣いとは裏腹に、ピタリと歩みを止めた聖は自嘲するように呟いた。その悲壮感のにじみ出る背中に、良太郎は思わず首を傾げてしまう。短い沈黙の後、聖は一人語りを始めた。

 

聖「...モモタロスさんに憑依させろと言われた時、私は迷ってしまった。粗暴で野蛮な言動が目立つ彼を、私は信じることが出来なかったんです...その上、面妖な姿をしたウラタロスさんたちのことも、大して信用してはいなかった...でも、ウラタロスさんたちは体を張って皆を護ってくれていました。なのに私は...善良なイマジンたちを疑うばかりか、そのせいであの怪物を逃がしてしまった...!情けないですね...他人1人を信じられないくらい...私は優しくもなければ、弱いんです。」

 

最後に「ふふっ...」と鼻で笑うと、聖は静かに空を仰いだ。彼女の独白を聞き届けた良太郎は、一瞬だけ考え込むような仕草をした後、聖の横に歩み寄ると、彼女の顔を覗き込んで包み込むような優しい眼差しを向ける。

 

良太郎「そんなことないですよ。最初から優しい人も、強い人もいないですから。僕だって、最初はみんなのことを信じられなかったですよ?それどころか、モモタロスと初めて会ったときは気絶しちゃったくらいで...」

聖「あら...そうだったんですか?」

 

良太郎の言葉に、暗く沈んでいた聖は小さく笑う。その微笑に安堵した良太郎は、積み上げるように言葉を紡いでいく。

 

良太郎「でも、みんなと一緒に戦って、泣いて、笑って。そういう時間を重ねる内に、信じ合える仲間になっていったんです。まぁ、モモタロスは乱暴ですぐケンカするし、ウラタロスは女好きで遊んでばっかりだし、キンタロスは所構わずに眠るし、リュウタロスはたまにわがままになるし...みんな、良いところばかりってわけじゃないですけど、誰だって完璧なわけじゃない。だから、僕はみんなと一緒に時間を守って来たんです。」

聖「誰だって完璧じゃない...」

 

良太郎の話に耳を傾けていた聖は、その言葉を噛みしめるように繰り返した。

 

良太郎「だから、ちょっとずつでいいんですよ。それに...」

紫「は〜い、お取り込み中のところ失礼。」

聖「あら...紫さん。こちらに出向くなんて、珍しいですね?」

 

良太郎の言葉を遮るようにして、突如スキマから現れた紫は2人の前に舞い降りる。不気味なスキマから現れた美女に、良太郎は声も上げられずに硬直してしまうが、顔見知りの聖は少し驚いただけで穏やかに微笑みかける。

 

紫「野上良太郎ね...ちょっと頼りなく見えるけど、まぁいいわ。白蓮、さっきの化け物が青龍の里に現れて、里の人間を喰らったそうよ。」

聖「っ...!!なぜ、イマジンの事を...いえ、愚問ですね。あなたはこの世界で起こることはすべて観ていますから...」

紫「そういうこと。お人好しな貴女のことだから、必要ないでしょうけど、一応言っておくわ...あの化け物たちと戦いなさい。じゃ、任せたわよ。」

 

自分の言いたいことを一方的に伝えた紫は、そそくさとスキマに帰っていった。良太郎は狐に化かされたかのように呆けていたが、聖は山の麓の方角──青龍の里の方を静かに見据える。その瞳には、強い想いが揺れていた。

 

聖「...行きましょう。青龍の里はそこまで遠くありません...良太郎さん?」

良太郎「...あっ、はい。」

 

良太郎を正気に引き戻した聖は、足早に山道を下りていく。その行動の早さを目の当たりにした良太郎は、小さく口元を緩ませた。

 

良太郎「(ね、モモタロス...やっぱり優しい人なんだよ。ていうか、いきなり憑依させろなんて言われて、応じる人の方が少ないでしょ...)」

 

人間と契約したイマジンは、契約者とある程度の情報を共有できる。自分を通じて一部始終を見聞きしていたモモタロスに、良太郎は声をかけた。

 

モモタロス「(う...た、確かに言い過ぎだったかも、知れねぇけどよ...)」

良太郎「(じゃあ、モモタロスも青龍の里ってところに来て。その場にいた方が、イマジンも見つけやすいでしょ?)」

モモタロス「(...ったくしょーがねぇな!わかったよ!)」

 

聖の独白に心を打たれていたモモタロスを、なだめるように説き伏せた良太郎は、聖のあとを追って山道を駆け下りるのだった...

 

【To Be Continued...】




第15話(2)を読んでいただき、ありがとうございました!

今回は、アイテム・キャラクター紹介はお休みです。というか、自分でも誰について書いて、誰が書いてないのか分からなくなってきました...(絵に描いたような企画倒れ)

次回は、電王系以外の既出ライダーも2人活躍する予定!電王編の中でどう絡んで来るのか、お楽しみに!

それでは、チャオ~!


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第15話 ~ガンガン・クライマックス~(3)

こんにちは、シェインです!オリジンヒストリアだけじゃなく、こっちも頑張って行きますよ~!いつまでもクライマックスが訪れないガンガン・クライマックス(3)、どうぞ!


モモタロス「さて...」

ナオミ「あれっ?モモちゃん、どこか行くんですか?」

モモタロス「お、おい、ナオミ!しっー!」

 

良太郎に諭されて席を立ったモモタロスに、デンライナーの食堂車乗務員である"ナオミ"が声をかける。傷ついている皆を気遣ってこっそり出ようとしていたモモタロスは、慌ててナオミを制止するが、モモタロスの動きは、あっという間に食堂車の面々に知れ渡った。

 

幸太郎「モモタロス...さては、イマジンの手がかりが掴めたんだな?」

一輪「例のイマジンの話は、響子から聞きました。外道を粛正するべく、私も協力しますよ。」

響子「わ、わたしも行くっ!あの怪物...なんだか見たことあるような気がして...」

モモタロス「ったく、しょーがねぇな...いくぜ!お供たち!」

幸太郎・一輪・響子「「「誰がお供だっ!!」」」

 

極悪非道のアンブレライマジンを討伐するため、モモタロスは響子、幸太郎、一輪をお供に加え、青龍の里を目指すのだった。

 

...この後、モモタロスの言動で一輪たちに迷惑がかかることを危惧したハナがお目付役として同行すると言い出し、ならばと急に存在感を出してきたジークが勝手に着いてくることを、桃太郎気取りのモモタロスはまだ知らない。

 

 

妖夢「あれっ?なんで、人っ子一人いないんでしょう...?」

紘汰「それに、なんか静か過ぎないか...?」

 

青龍の里に夕飯の買い出しのために訪れた二人は、その異様な雰囲気に顔を見合わせた。いつもは人通りが多く、賑やかな通りも、祭事などでよく使われる大やぐらの周辺も、誰一人として人の姿が見えないのだ。困惑する二人の耳に、鬼気迫る怒号が届いた。

 

慧音「おいっ、お前たち!!」

妖夢「ひゃいっ!?...って、慧音さんじゃないですか...」

 

二人の前に駆けつけた慧音と巧は、それぞれに険しい顔をしている。声をかけた相手が妖夢だったと分かった慧音は、少しだけ安堵したような表情を浮かべた。

 

慧音「あぁ、妖夢だったか...驚かせてすまない。」

妖夢「いえいえ、お気になさらず!それより、この里の様子...なにがあったんです?」

 

妖夢に問いかけられた慧音は、暗く沈んだ表情で俯いてしまう。そんな慧音の肩に手を置くと、巧は彼女の代わって青龍の里で起きたことを説明し始めた。

 

巧「少し前に、里が化け物に襲われてな...里の子供を無差別に捕食したらしい。その被害者の中には、慧音の教えてる奴もいた。」

紘汰「なんだって...!?」

 

慧音の教え子を含む、多くの子どもたちが襲われたことを知った二人は、凄惨な事件に対する驚きと、化け物の非道な行いに対する怒りで表情を歪ませる。

 

慧音「...また奴が襲ってきた時のために、里長の泰翁(たいおう)殿の指示で里の者たちの外出を禁じているのだ。お前の剣の腕は知っているが、化け物共の力は計り知れん。早く冥界に戻ったほうが...」

アンブレラ「ケッハハハァッ!」

慧音「ッ...!!」

 

慧音が妖夢たちに警告する最中、アンブレライマジンの笑い声が青龍の里に響き渡った。その声に孕まれた狂気を感じ取った四人は、背中を合わせて円陣を組む。警戒心を強める彼らの前に、高速回転しながら飛行するアンブレライマジンが降り立った。

 

アンブレラ「なんだ、ガキが一人も居ねえじゃねぇか!仕方ねぇ、片っ端から家を襲って...」

慧音「お前が...お前が子どもたちを喰い殺した化け物かッ!!」

アンブレラ「あぁん...?」

巧「おい、お前ら!さっさと逃げろ!」

 

更なる悲劇をもたらさんとするアンブレライマジンに、憤怒を露わにした慧音は怒号を飛ばす。巧は慧音の隣に並び立ち、妖夢たちに声をかける。だが、妖夢は静かに首を横に振ると、紘汰と共に二人に並び立った。

 

妖夢「ふっ...心配は無用です。行きますよ、紘汰さんっ!」

紘汰「おうっ!」

 

慧音「よくも皆を...巧ッ!」

巧「...あぁ。」

 

それぞれのパートナーとシンクロした妖夢と慧音は、互いにライダーの力を受け継いだ者であることを理解すると、アンブレライマジンに向き直る。慧音はファイズドライバーを装着してファイズフォンを操作し、妖夢は戦極ドライバーを装着してオレンジロックシードを展開、セットする。

 

『Standing by...』

『オレンジ!Lock On!』

 

「「「「変身ッ!」」」」

 

『Complete』

『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』

 

妖夢・紘汰「ここからは私たちのステージです!」「ここからは俺たちのステージだ!」

巧「...なんだそりゃ?とにかく行くぞ!」

 

ファイズの姿と鎧武の姿にそれぞれ変身した慧音と妖夢は、アンブレライマジンに突撃する。二人を敵と認識したアンブレライマジンは、愉しそうな笑い声を上げて二振りのブレードを構え、二人を迎え撃つ。

 

アンブレラ「ハハァッ!俺と遊んでくれるのかァ!ちょーどストレス発散したかったとこだぜェ!!」

慧音「ふざけたことをッ!」

 

慧音は怒りを込めて拳を振るうが、それをひょいとかわしたアンブレライマジンは慧音の背を切り裂く。妖夢は大橙丸を大きく振りかぶり、慧音に気を取られているアンブレライマジンに斬りかかるが、アンブレライマジンは片足を軸に回転して妖夢を弾き飛ばした。

 

慧音「くっ...!」

妖夢「ならっ!」

 

『Singl mode』

 

体勢を立て直した慧音は、ドライバーから取り外したファイズフォンに「103」と入力し、銃形状の"フォンブラスター"へと変形すると、アンブレライマジンに照準を定める。同時に、妖夢は無双セイバーを引き抜いてエネルギー弾をチャージし、双方からアンブレライマジンに狙いを定めた。慧音と妖夢はアイコンタクトでタイミングを合わせ、アンブレライマジンに一斉射撃を敢行する。

 

アンブレラ「ぐおぁッ!?...チィッ!」

 

銃弾の雨に曝されたアンブレライマジンは膝をつくが、すぐさま立ち上がり、腕を目一杯横に伸ばして高速回転を開始する。高速回転する刃が傘を象り、殺人傘へと変貌したアンブレライマジンは、飛行しながら慧音と妖夢を何度も斬りつけていく。

 

慧音「ぐっ...妙な技を...!」

妖夢「うぅ...もう、まどろっこしい!一気に叩きますよ〜!」

 

アンブレライマジンの連撃に、妖夢はLSー05と刻まれた金色のロックシード──"パインロックシード"を手に取り、解錠すると共に、オレンジロックシードをドライバーから外す。

 

『パイン!』

 

妖夢の頭上に開いたクラックから、パイナップルを象った鎧が降下してくる。妖夢は流れるような動きでパインロックシードをドライバーにセットし、素早くカッティングブレードを倒した。

 

『ソイヤッ!パインアームズ!粉砕!デストロイ!!』

 

パイナップルを象った鎧が妖夢の頭に落下し、展開されると、妖夢は"パインアームズ"へと変身した。

 

妖夢「さぁ!覚悟なさい!」

 

妖夢は、変身と同時に装備したパイナップルを象ったモーニングスター──"パインアイアン"を振り回し、十分な遠心力をつけてから、アンブレライマジンに投げつけた。

 

妖夢「てぇりゃぁぁぁ!!」

アンブレラ「ハッ!そんなノロマな武器じゃあ、当たらねぇよ!」

 

アンブレライマジンは機敏な動きでパインアイアンを回避するが、攻撃を避けられた妖夢は何故かニヤリと笑う。

 

紘汰「そうとも限らないぜ?」

妖夢「武器も、食材も、使い方次第で可能性は無限に広がるんですよ!こんな風にね!」

紘汰「...え、食材?」

 

そう言い放った妖夢は、パインアイアンを思いっきり横に振り抜く。すると、鉄球に引っ張られた鎖が高速回転していたアンブレライマジンに絡みつき、動きを制限した。

 

アンブレラ「グォ!?」

妖夢「はぁぁっ!」

 

妖夢は気勢と共にパインアイアンを振り下ろし、アンブレライマジンを地面に叩きつける。強い激突の衝撃に、アンブレライマジンは大きく怯んだ。

 

妖夢「慧音さん!今です!」

慧音「あぁ!!」

 

『Ready...』

 

妖夢の声に力強く応えた慧音は、ベルトのサイドにマウントされたデジタルカメラ型のデバイス──"ファイズショット"にミッションメモリーを差し込み、ロックの解錠されたグリップを右手に握る。そして、ドライバーに戻したファイズフォンを開き、エンターキーを押す。

 

『Excced Charge』

 

慧音・巧「「はぁぁぁっ!!」」

 

ドライバーから流れ出すフォトンブラッドが、フォトンストリームを辿ってファイズショットに蓄積される。腰を低く構えた慧音は一気に駆け出し、ファイズショットを用いた紅い拳撃──"グランインパクト"を、アンブレライマジン目掛けて放った。だが、その瞬間──

 

慧音「うぐぅっ...!?」

 

──慧音の肩に青いエネルギー弾が炸裂し、慧音は火花を散らしながら地面を転がった。

 

妖夢「けっ、慧音さんっ!きゃっ...!」

 

続いて妖夢の胸部にも同じエネルギー弾が炸裂し、パインアイアンを手放してしまう。その隙に、アンブレライマジンは鎖を振り払って拘束を解いてしまった。

 

妖夢「しまった...!」

慧音「いったい、誰が!?」

ルーナ「2対1だなんて、卑怯ではありませんか...それに、あなた方の過干渉は迷惑です。お引き取り願いますわ。」

 

予測外の攻撃に襲われた慧音と妖夢の前に、メイド服のフリルをふわりとなびかせたルーナが降り立つ。その手には、黒のベースカラーに水色のラインが入ったライドブッカー──"リュードブッカー"が握られており、ルーナが二人を銃撃したのは明らかだった。

 

巧「お前...何者だ!?」

ルーナ「私の名は、ルーナ・ファンタジア。"時の王者"を主導者とするタイム・トラベラーズ...そこに仕えるメイドです。以後、お見知りおきを...」

 

スカートの裾をつまみ上げて深々とお辞儀をしたルーナは、穏やかな笑顔のまま、漆黒のディケイドライバー──"ディリュードライバー"を取り出し、腰に添える。すると、銀のサイドバックルとベルトが出現し、ルーナの腰に装着された。サイドバックルを引いてドライバーを回転させたルーナは、リュードブッカーをベルトに提げると、そこから一枚のライダーカードを取り出す。そのカードには、形こそディケイドに近いが、ベースは灰色、複眼は水色に染まっているライダーのマスクが描かれていた。

 

ルーナ「変身。」

 

『カメンライド...』

 

静かに囁いたルーナはライダーカードをドライバーへと差し込み、胸の前で両腕を交差させると、ゆっくりと外側に回して流れるようにサイドバックルを押し込んだ。

 

『ディリュード!』

 

すると、両腕を広げるような姿勢になったルーナの周囲に青いホログラムが出現し、それが彼女に重なると同時にルーナの姿が変化する。胸部から両肩にかけてV字のラインが入ったロングドレスを纏ったルーナのヘッドセットに、ドライバーのレンズから射出されたプレートが突き刺さり、ティアラのように変化する。それと同時にロングドレスが水色に色付き、彼女の瞳は水色に強く光輝く。

 

ルーナは、幻の戦士──"仮面ライダーディリュード"の力を行使した姿へと変貌を遂げたのだった。

 

紘汰「変身...しやがった...!」

 

ルーナは首元に飾られたブローチを撫でるように触れると、リュードブッカーを長槍形状の"ランスモード"へと変形させて、その切っ先を二人に向ける。

 

ルーナ「さぁ、最上級のもてなしをして差し上げます。揺らめく幻想に惑いなさい...」

アンブレラ「な、なんなんだ、てめぇ...!」

ルーナ「黙りなさい、(けだもの)が...さっさと消え失せなさい。」

 

狼狽えるアンブレライマジンを冷たく横目で流したルーナは、二人に向けて颯爽と駆け出した。慧音と妖夢は慌てて体勢を立て直し、迎撃の構えを取る。手早くパインアイアンを拾い上げた妖夢は、迫り来るルーナに向けてパインアイアンを放った。だが、新体操のように美麗な動きで飛び上がり、それ回避したルーナは、着地すると同時にパインアイアンの鎖を握る。そして、軽く鎖を引くことで妖夢を引き寄せた。

 

妖夢「うわわっ!?」

ルーナ「はぁっ!」

 

咄嗟にパインアイアンから手を離したものの、前のめりの体勢になってしまった妖夢に急接近したルーナは、妖夢の腹部を斬り払う。

 

妖夢「ぐあっ...!」

ルーナ「隙だらけですよ?その体たらくで『お爺さまを超える』なんて不相応な夢を持つとは...愚の骨頂ですね。」

慧音「黙れ...!お前に他人の夢を嗤う資格はないッ!!」

 

倒れた妖夢を見下したルーナの言葉に憤慨した慧音は、彼女にファイズショットを振るうが、ルーナは軽く身を引くだけでそれをかわしながら、嘲るように笑う。

 

ルーナ「ふぅん...よく言いますね。今までいくつもの夢を踏みにじってきたくせに...今の言葉を聞いたら、"妹さん"もさぞお怒りになるでしょうね。」

慧音「な...!?お前は...なにを...!!」

巧「おい!どうしたんだよ、慧音!慧音っ!!」

 

ルーナの言葉を聞いた慧音は、目を丸くして唖然とする。慧音が手を止めた瞬間、ルーナはリュードブッカーから一枚のカードを取り出すと、ドライバーに挿入してバックルを回転させる。

 

『アタックライド...スティング!』

 

ドライバーの音声が流れると同時に、リュードブッカーの刃が淡い輝きを纏う。光刃のリュードブッカーを構えたルーナは、呆けたままの慧音の胸部に一突きを放った。慧音に攻撃が当たった瞬間、光刃の周囲に5つの幻影の刃が出現し、慧音の胸部を連続で刺突する。

 

慧音「うぐあぁっっ!!」

 

雷雨のように襲いくる痛みに絶叫する慧音は大きく後ろに吹き飛び、力なく倒れ込む。その慧音と入れ替わりになるように、無双セイバーを支えに立ち上がった妖夢は、ルーナに特攻する。

 

妖夢「慧音さんっ...!はぁぁぁっ!!」

ルーナ「未熟者が振るう名刀は、達人の振るうなまくらにも劣る。冥界の庭師に甘んじているようでは、貴女の伸びしろも底が知れていますね...」

 

妖夢が振り抜いた無双セイバーをかわしたルーナは、エネルギーの残留していたリュードブッカーでその背を斬りつける。前のめりに倒れた妖夢を見下し、余裕をひけらかすルーナは鼻で笑う。息を荒くしながらも立ち上がった二人は、それぞれ真っ直ぐにルーナを見つめる。

 

妖夢「ぐぅっ...!なら、見せてあげます...私の全力っ!!」

慧音「お前には聞きたいことができた...合わせるぞ、妖夢!」

妖夢「はいっ!」

 

『ソイヤッ!パインスカッシュ!』

『Excced Charge』

 

それぞれカッティングブレードとファイズフォンを操作した二人は、息を合わせてルーナに向かう。勢いよい飛び上がった妖夢は"無頼キック"を放ち、拳を固めた慧音は再び"グランインパクト"を放つ。二人に挟撃されるようになったルーナは、一枚のカードをドライバーに差し込んで操作した。

 

『アタックライド...クロックアップ!』

 

サイドバックルが押し込まれたディリュードライバーの前に、"ZECT"というロゴの入ったシンボルが表示された瞬間、ルーナの姿が忽然と消える。一瞬の内に目標を見失った二人は愕然とするが、その刹那──

 

妖夢・慧音「「...ぐぁぁぁっ!?」」

 

──荒れ狂った嵐に飲み込まれたかのように、怒涛の斬撃が二人の全身を襲った。ほんの数秒の内に数え切れないほどの攻撃を受けた二人は、自らの意志とは関係なく変身が解除され、大きく吹き飛ばされてしまった...

 

 

 

アンブレラ「はぁっ...はぁっ...!なんなんだ、いったい...」

 

一方、ルーナが慧音と妖夢を攻め立てている隙に逃げ出したアンブレライマジンは、息を上げながら青龍の里をふらふらと歩く。そんなアンブレライマジンの前に、駆けつけた聖と良太郎が立ちふさがった。

 

聖「見つけましたよ、イマジンッ!」

良太郎「君には悪いけど、逃がさないから。」

アンブレラ「あぁん!?」

 

毅然と言い放った良太郎とシンクロした聖は、デンオウベルトを巻いてライダーパスを構える。

 

聖・良太郎「「変身。」」

 

重なり合う声と共にパスをセタッチした聖はプラットフォームへと変身し、アンブレライマジンに突撃する。猛進の勢いが乗った拳撃に見舞われたアンブレライマジンは、大きくよろめきながらもブレードを構えて応戦しようとするが、妖夢と慧音との戦闘で消耗していたアンブレライマジンは、一方的に聖に追い込まれる。吹き飛ばされたアンブレライマジンは、悔しそうに地面を殴りつけた。

 

アンブレラ「うぅ...ちくしょうっ...!」

聖「これで終わりです...っ!?」

 

聖がトドメを刺そうと脚を上げた瞬間、ルーナに吹き飛ばされた二人が、近くに転がった。聖がそれに気を取られた瞬間、聖の眼前に現れたルーナがリュードブッカーで聖を幾度となく切り裂いた。

 

聖「なっ...!?きゃあぁぁぁっ!!」

 

攻撃面は聖のポテンシャルでカバー出来ても、防御力はそうもいかない。プラットフォームの軟い防御力でルーナの攻撃を受けてしまった聖は、妖夢たちと同じように吹き飛ばされ、変身が解除されてしまった。シンクロも解除されて倒れ込む聖たち6人を、冷ややかに眺めるルーナは、一つため息をついた。

 

ルーナ「弱い...この程度では、蒼くんの望みを叶えることが出来ない...!」

聖「貴女...!そのイマジンを庇うつもりですか!?貴女たちの目的は、一体何なんです!?」

ルーナ「あなた如きに教える必要はありませんよ。さぁ、早く行きなさい...」

 

ルーナに急かされたアンブレライマジンは、困惑しながらも飛びさろうとしたが、その目の端に一つの小さな影が映る。妖夢が吹き飛ばされた際にぶつかったことで崩れてしまった物陰に、赤い縁の眼鏡をかけた少年が隠れていたのだ。

 

アンブレラ「ろくな目に合わなかったが...手ぶらじゃあなくなったなァ!」

少年「ひっ...!?」

 

アンブレライマジンに目を付けられてしまった少年は、強張った表情で後ずさりする。ニタリと猟奇的に笑ったアンブレライマジンは、胸部の一つ目の下を大きく開け、その中に忍ばせていた長い舌を露わにすると、少年を目掛けて伸ばした。

 

妖夢「あ、危ないっ!!」

 

その近くに居合わせた妖夢は傷ついた身体を引きずり起こし、自分を盾にして少年を庇う。アンブレライマジンの長い舌は、締め付けるように妖夢を絡め取り、生暖かい唾液にまみれた舌に全身を包まれた妖夢は、顔を真っ青にして身体を強ばらせた。

 

妖夢「ふひゅぅっ...!?」

 

おかしなな悲鳴を上げた妖夢は舌に引っ張られて空にうち上がり、大きく開いたアンブレライマジンの第二の口に手繰り寄せられていく。

 

妖夢「ひぃぃぃぃ!?無理っ!無理ぃぃぃぃ!いぃぃぃやぁぁぁぁぁ...」

 

咄嗟に少年を庇ったものの、お化けや不気味なものが苦手な妖夢はジタバタと暴れて抵抗しようとしたが、それも虚しく妖夢は頭から丸呑みにされてしまったのだった。

 

アンブレラ「チッ!なんでコイツが...まぁ、"エサ"としては申し分ないか...!さっさと帰らせてもらうぞ!」

紘汰「妖夢...妖夢っ!」

 

妖夢を捕食したアンブレライマジンは、不満をたれながらも高速回転して飛行を開始すると、妖怪の山の方角へと飛び去って行く。そこに一足遅く到着したモモタロスたちは、その姿を見て地団駄を踏んだ。

 

モモタロス「あーっ!あの傘野郎、逃げやがった!おい、待ちやがれ~!!」

幸太郎「くそっ、テディが居れば撃ち落とせるのに...!」

ルーナ「あの獣め、余計な真似を...まぁ、いいでしょう。」

 

ため息をついたルーナは、ディリュードライバーを操作して変身を解除し、メイド服についた砂ぼこりを払う。身嗜みを整えたルーナは穏やかな笑顔に戻り、足早に踵を返す。

 

ルーナ「さ~て、帰ったら晩ご飯の仕度をしなくっちゃ♪」

 

ご機嫌にステップを踏みながら立ち去るルーナは、青い光を放ってその場から姿を消した。傷を負ったまま倒れている聖に気づいたハナたちは、慌ててそばに駆け寄る。

 

ハナ「聖さん!大丈夫ですか!?」

聖「私は、大丈夫です...他のみなさんを助けてあげて下さい。一輪たちも、手を貸してあげて下さいね。」

 

少しよろめきながらも立ち上がった聖は、腕の切り傷から流れる血を手で抑え、ハナに続いて駆け寄って来た一輪たちに微笑みかける。

 

一輪「は、はい、わかりました!」

響子「う~ん...」

一輪「響子?」

 

一輪は一瞬心配そうな顔をしたものの、聖の思いに返事をして頷いた。だが、響子は腕を組んでうなり声を上げながら固まっている。一輪がその顔を覗き込もうとした時、「ああっ!!」という響子の絶叫が里にこだました。

 

一輪「ひゃあっ!?きゅ、急に大きな声を出さないで下さい、響子!何事ですか!?」

響子「思い出したの、あの怪物の姿!"小傘"の傘にそっくりなんだ!」

 

響子の言葉を聞いた聖と一輪は、ハッとした表情を浮かべる。だが、誰のことを言っているのか分からないハナは、響子に小傘という人物について尋ねる。

 

ハナ「ねぇ響子ちゃん、その小傘ちゃんってどんな人なの?」

響子「う~んと...驚かせるのが下手な、唐傘お化けだよ。その小傘が持ってる傘に、あの怪物はそっくりなんだ!」

一輪「ほら、響子!皆さんを助けに行きますよ!」

響子「はーい!」

 

急かされた響子は、一輪に連れ立って慧音たちの元へ駆けていった。響子の話を真剣な眼差しで聴いていたハナは、少しの間考え込むような仕草を見せた後、ゆっくりと聖に向き直った。

 

ハナ「聖さんはもう知ってると思いますけど、イマジンは取り憑いた相手のイメージを借りて実体化します。取り憑いた相手が人間だった時は、童話や昔話がイメージの元になってましたけど...その相手が妖怪だったとしたら、自分自身がイメージの元になることも有り得るかも...」

聖「なるほど...あのイマジンの契約者は、小傘だと考えていいかも知れませんね。でも、肝心の小傘は一体どこに...?」

 

二人は小傘の居場所まで探ろうと思案するが、如何せん情報が少なく、そこで話が詰まってしまった。聖はうつむき加減な顔を上げ、ハナに困ったような笑顔を向けて話しかける。

 

聖「仕方がありませんね...どのみち、この惨状を放置する訳にもいきませんし、私たちも皆さんをお手伝いしましょう。」

ハナ「そうですね...じゃあ、後でみんなも集めて、改めて話しましょうか。」

 

聖と彼女に同意したハナは、それぞれに負傷者の元に向かうのだった。

 

【To Be Continued...】




第15話(3)、読んでいただきありがとうございます!丸飲みにされた妖夢の運命や如何に...!?ちなみに、妖夢が庇った少年は次回も登場しますよ!適当なモブではありませんので、お楽しみに!次回、遂にモモタロスと聖が...!の、予定。

それでは、チャオ~!


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第15話 ~ガンガン・クライマックス~(4)

こんにちは、シェインです!最近、ひさびさにやったファイアーエムブレム覚醒にハマってます。以前、全キャラのステータスをカンストさせるまでやっていたゲームなので、思い入れが深いんですよねぇ(笑)

それでは、第15話のパート4、どうぞ!


ハナと解散した聖は、傷だらけで倒れている慧音のそばに駆け寄る。聖の顔を見上げた慧音は、怪訝そうな表情浮かべた。命蓮寺は基本的に中立の立場ではあるが、どちらかといえば妖怪側に属する勢力で、それ故に人里に降りることは滅多にない。慧音が怪訝な表情をするのは必然という事だ。

 

慧音「あなたは、命蓮寺の...なぜ、人里に...?」

聖「先程の異形がこの里に現れたという噂を聞きつけ、追ってきたのですが...あの少女の介入で、取り逃してしまいましたね...」

慧音「そうか...面目ない。本来、この里を守るのは私の役目だというのに...」

 

そう言って唇を噛んだ慧音は、深々と頭を下げる。巧たちも幸太郎たちの肩を借りて立ち上がった頃、一行の佇む通りの近くに気の優しそうな青年が現れた。

 

青年「おーい!流麗!聞こえたら、返事して!」

少年「あ...光来さん...」

 

大きな声で呼びかける青年──氷戸羽(ひとば)光来(みつき)の声に、道端で縮こまっていた赤い眼鏡の少年──皇主(おうず)流麗(るれい)が小さく反応する。慌てた様子の光来の姿を見た慧音は、驚愕の声を上げた。

 

慧音「光来殿...!なぜここに...?」

光来「け、慧音先生!ど、どうしたんですか、その怪我っ!?というか、いい加減に"殿"って呼ぶのやめてくださいよ...僕は先生の教え子なんですから。」

 

恥ずかしそうに微笑した光来に見覚えのない聖は、慧音に彼の素性を尋ねる。

 

聖「え~っと、こちらの方は...?」

慧音「あぁ...青龍の里の長である泰翁殿のご子息が一人...氷戸羽光来殿。祭事や行事など、里興しのために尽力してくれている方だ。」

光来「むっ、またよそよそしく...!まぁ、いいです。」

 

少しふてくされたようにため息をついた光来は、きょろきょろと辺りを見渡して流麗を見つけると、小さくなっている彼に歩み寄った。

 

光来「流麗、無事だったんだね...良かった。だめじゃないか、こんな危ないことしたら!」

流麗「で、でも...僕を庇ったせいで、紅蓮が...!」

 

目尻に涙をいっぱいに溜めて、流麗は必死に訴えかける。今にも泣き出しそうなその表情には、友人を犠牲にした悲しみ、化け物に襲われた恐怖、無力な自分への悔しさが滲み出ていた。そんな光来を目の当たりにした聖は、穏やかな瞳を静かに揺らす。その時、紘汰の叫び声が聖たちの元に聞こえてきた。

 

紘汰「おい、離せ!離せよっ!アイツを追わなきゃ...ぐぅっ!」

響子「ちょっ、落ち着きなよ!追うったって、その怪我じゃ無茶でしょ...!」

紘汰「無茶でもなんでも、じっとしてられないんだよ!このまま諦めたら、妖夢にも、幽々子さんにも、顔向け出来ないッ...!!」

 

怪我をおしてアンブレライマジンを追いかけようとする紘汰を介抱していた響子は、彼を必死で引き止めるが、パートナーを目の前で喰われてしまった紘汰は響子を振り払おうともがいている。その想いを感じ取った聖は、皆に向けて告げた。

 

聖「...イマジンを追いましょう。今すぐに。」

響子「聖様、本気なの...!?聖様だって、怪我してるのに...しかも、あのイマジンがどこに行ったか分からないんでしょ...?」

 

聖の言葉を聞き、心配そうに問いかける響子に、聖はゆっくりと首を横に振った。

 

聖「それでも、やらなければならない。それだけは、はっきりと分かりました。」

モモタロス「お前...へへっ、おかしなとこだけ良太郎に似てやがるな...」

 

迷いなど微塵もない聖の決意を目の当たりにしたモモタロスは、どこか嬉しそうに笑い、小さな声で呟いた。しかし、アンブレライマジンの足跡が分からないのは紛れもない事実。その場の全員が思案し始めた時、空を仰いだ紘汰が口を開いた。

 

紘汰「どうやら、道は開けたみたいだぜ...!」

 

 

 

 

 

 

妖夢「きゃぁっ...!?」

 

妖怪の山の中、小傘が住処としている廃屋に降り立ったアンブレライマジンは、その腹の口から妖夢を吐き出した。軋む床の上に打ち付けられた妖夢は、粘つく唾液に塗れて思うように動くことが出来ない。廃屋の中には、先に攫われた子どもたちが同じように拘束されている。

 

アンブレラ「ケッハハァ!そろそろ仕上げといくかぁっ!!」

小傘「もう止めて!わちき、こんなこと望んでないよ...!」

 

ブレードを舌でなめ、狂った歓声を上げたアンブレライマジンに、皆と同じように拘束されている小傘は声を荒げる。

 

アンブレラ「あぁ?てめぇが、"子供を脅かしたい"っていうから、俺が代わりにビビらせてやってんだろぉ?今から、たぁ〜っぷりガキ共の悲鳴を聞かせてやるから、静かに待ってろや!ケハハッ!」

小傘「そ、そんな...」

アンブレラ「さて、誰から殺してやろうかな〜?」

 

悲壮な面持ちでうなだれる小傘を尻目に、アンブレライマジンは子供たちの首にブレードの切っ先を向けて、怯える悲鳴に愉しそうに笑う。他の子どもが震え上がる中、燃え上がる炎のような赤髪の少年が声を上げた。

 

少年「おい、やめろ!このバケモノっ!」

アンブレラ「あぁん!?またてめぇか!その反抗的な態度...気に入らねぇんだよ!よし決めた、お前から黙らしてやる...死ねぇっ!!」

 

刃を向けられようとも、怯えずに噛み付いてくる少年に腹を立てたアンブレライマジンは、彼に向けて思い切りブレードを振り下ろす。その瞬間──

 

モモタロス「黙るのはてめぇの方だ!」

アンブレラ「なにぃ...!?ま、まさか...!」

 

──モモタロスの怒号と共に、キィーンという金属音が響いた。その音に気を取られたアンブレライマジンは、ブレードが少年に触れる寸前で手を止める。

 

モモタロス「あ、あれっ...?やべっ、刺さっちまった!抜けねぇ、抜けねぇ!?」

聖「もうっ、何やってるんですか!はぁっ!!」

 

もたつくモモタロスに痺れを切らした聖が廃屋の壁を蹴破り、廃屋の中へと乗り込む。勢いよく飛び込んだモモタロスが、足元の唾液に足を取られてすっ転んでいる間に、聖はアンブレライマジンを睨みつけた。

 

アンブレラ「な、なんでこの場所が分かった!?」

紘汰「妖夢が...いや、"幼夢"が案内してくれたんだ!喰った相手が悪かったな、バケガサ野郎ッ!」

妖夢「紘汰さぁ〜ん...!」

 

最後の足掻きで放った半霊に気づいてくれた紘汰に、妖夢は涙目になって感激する。しかし、隠れ家を特定されたアンブレライマジンは、明らかな動揺を見せる。

 

アンブレラ「チッ!本当にしつこい奴らだなぁ...!これ以上、付き合ってられるか...!もう充分に悲鳴は聞かせた!契約完了だ!!」

小傘「う、あっ...!?」

 

追い詰められたアンブレライマジンは、契約者である小傘に手をかざし、小傘の身体に緑の裂け目を開く。アンブレライマジンは、逃げ込むようにその裂け目へと飛び込んだ。すると、すぐに裂け目は閉じ、アンブレライマジンに入り込まれた小傘は虚ろな瞳でうなだれる。

 

モモタロス「あの野郎!過去へ飛びやがった!!」

聖「過去に...?」

良太郎「イマジンは、契約者の願いを叶える代わりに、契約者の記憶を辿って過去に行くんです...早く追わないと!」

 

そう告げた良太郎は、取り出した一枚のチケットを小傘にかざすと、チケットの表面にアンブレライマジンの姿と、2012.09.02という日付が浮かび上がる。しゃがんで小傘の目線に合わせた良太郎は、チケットを小傘に示した。

 

良太郎「6年前の9月2日...この日付に記憶は?」

 

その問いを聞いた小傘は、ぼぉっと遠くを見つめながら、途切れ途切れに語り始めた。

 

小傘「忘れられないよ...その頃わちきは、人里の男の子と...よく遊んでた。す~ごく怖がりな子でね...その子だけは、わちきにビックリしてくれたんだ...その日も、少し脅かしちゃおうって、わちきが草むらから飛び出して...驚いたその子は、逃げた先で、怪物に...殺されたんだよ...!それ以来、誰かを脅かそうとする度にその光景が頭をよぎって、わちきは上手く脅かすことが出来なくなった...わちきが...わちきがあの子を殺したんだ...」

良太郎「...行こう、聖さん。」

 

脳裏に焼き付く記憶に涙を流す小傘を見つめた良太郎は、揺るぎない想いを胸に立ち上がると、チケットを聖に差し出す。同じ想いを燃やした聖は、小さく頷いてチケットを手にする。

 

聖「紘汰さん、子どもたちと妖夢をお願いします。」

紘汰「あぁ!あんたたちは、アイツを追ってくれ!流麗の分、ガツンとぶつけてきてくれよ!」

妖夢「私の分もお願いします...本当に気持ち悪くて、今日は眠れる気がしませんもん...!」

モモタロス「へっ!言われるまでもねぇ!俺たちのクライマックスはここからだぜ!」

 

紘汰と妖夢の激励を受け取り、聖、良太郎、モモタロス、一輪、幸太郎、ハナ、ジークの7人は廃屋から飛び出した。廃屋の前でライダーパスを取り出して開いた聖は、その中にチケットを滑り込ませる。しかし、そこで良太郎は一つの問題に気づいた。

 

良太郎「あっ...!まずい...デンライナー、壊れたままじゃ...!?」

モモタロス「あぁ!そうだった!?やっべぇ、どうすんだよ!?」

 

時を超える唯一の手段、デンライナーが墜落の衝撃で壊れたままなのだ。デンライナーが動かない以上、イマジンを追いかけることは出来ない。モモタロスが慌てて騒ぎ出す中、良太郎の脳内にキザな声が響いた。

 

ウラタロス「(心配いらないよ、良太郎!)」

キンタロス「(俺らが何もせんで、寝てると思ったか?)」

リュウタロス「(えー!?熊ちゃんは寝てたでしょー!カッパちゃんのお陰で、デンライナーはバッチリ直ってるよ、良太郎!)」

良太郎「カッパちゃん...?」

 

リュウタロスの声を聞いた良太郎が、カッパちゃんという耳慣れない言葉に首を傾げた時、明朗な声が妖怪の森に響き渡った。

 

「悪いが、アンタらはここで足止めだ!」

「あなた達を、過去には行かせません...」

 

その声に気を取られた聖たちの前に、アンブレライマジンに反抗した少年と似た、燃え盛る炎のような赤髪を持つ男と、漆黒の双翼を持つ少女が立ちふさがる。

 

聖「あなた方は...!?」

紅蓮「俺は、攻城(こうじょう)紅蓮(ぐれん)!タイム・トラベラーズの特攻隊長!兼サブリーダーだ!」

一輪「タイム・トラベラーズ...!つまり、敵ということですね...!」

 

紅蓮が熱く名乗りを上げたことで、二人がタイムトラベラーズの一員だと知った聖たちは、咄嗟にそれぞれのベルトを取り出して装着する。臨戦態勢に入った聖と一輪を前に、紅蓮は不敵な笑みを浮かべた。

 

紅蓮「ま、そうなるよなぁ...いいぜ、相手してやる!行こうぜ、"ミライ"!」

ミライ「うん。あんまり戦いたくはないけど...仕方ないね。」

 

顔を見合わせた紅蓮とミライは、それぞれ腕時計のような"ジクウドライバー"と、スピードメーターを模した"ドライブドライバー"を取り出し、腰に装着する。そして、紅蓮は腕のホルダーから懐中時計のような見た目のデバイス──"ゲイツライドウォッチ"を手に取って起動し、ミライは木の間を縫って飛来したミニカー──"シフトネクストスピード"をキャッチして変形する。

 

『ゲイツ!』

 

紅蓮は起動したゲイツライドウォッチをドライバーの右側に装填し、ドライバーの天面スイッチを押してロックを解除すると、両腕を大きく回してドライバーの両側を掴む。ミライはドライバーのイグニッションキーを捻り、レバー形状にしたシフトネクストスピードを、腕に巻いた"シフトブレス"のレーンに装填する。

 

紅蓮・ミライ「変身っ!」

 

『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』

『Drive!Type NEXT SPEEDE!』

 

紅蓮がジクウドライバーを勢いよく回転させると、背後に出現したオブジェクトから鋭い「らいだー」の文字が射出され、赤い服に黄色のラインが入った服装に変身した紅蓮の額に装着される。ミライがシフトブレスに入ったシフトネクストスピードを傾けると、身体の一部にポリゴン形状の黒い鎧が装着され、服には水色のラインが走る。最後に、どこからともなく飛んできた"ネクストスピードタイヤ"が肩掛けにはまり、紅蓮とミライは"ゲイツ"と"ダークドライブ"の力を受け継いだ姿に変身した。

 

紅蓮「紅蓮の炎...止めてみなッ!」

ミライ「Start our mission...!」

 

変身を果たした紅蓮とミライは、「おの」と刻まれた斧状の武器──"ジカンザックス"と、黒い銃剣──"ガンナーブレード"をそれぞれ構える。ゆっくりとベルトの赤いスイッチに手を添えた聖は、モモタロスに目を向けた。

 

聖「モモタロスさん...力を貸して下さい。」

モモタロス「...しゃーねぇな!だが、"さん"って付けるの止めろ!なんか、こう、ムズムズすんだよ!」

聖「ふふっ...分かりました。行きますよ、モモタロス!良太郎さん!」

モモタロス「おうっ!」

良太郎「うん...!」

 

聖が赤いスイッチを押すと同時に、良太郎は聖にシンクロし、モモタロスは聖に憑依する。それによって瞳が赤く染まった聖は、独特なメロディーと共にパスを構える。幸太郎とシンクロを果たした一輪も同じくパスを構え、二人は肩を並べて叫ぶ。

 

聖・一輪「「変身っ!」」

 

『SWORD FORM』

『STRIKE FROM』

 

ライダーパスをバックルにセタッチした聖は、プラットフォームの姿に変身し、その上から赤いオーラアーマーを装着する。額のレールを辿って流れてきた桃の装飾が2つに分かれ、兜のように変化した聖は、"ソードフォー厶"へと変身を果たした。

 

モモタロス「俺、参上ッ!!...くぅ~!ようやく決まったぜぇっ!!」

聖「(えっ...?それ、なんですか...?)」

良太郎「(モモタロス流の挨拶...みたいな感じです。)」

 

一輪「ひ、聖様...?」

幸太郎「あぁ...それ、中身モモタロスだから、気にしない方がいいよ。」

一輪「は、はぁ...」

 

聖の体の主導権を譲り受けたモモタロスは、全力で左手を前に出して右手を伸ばす決めポーズと、十八番の決め台詞を披露し、満足げにガッツポーズをかましているが、一輪は大きく変貌した聖にやりづらさを隠せないでいる。そんな中、修復されたデンライナーが空中にレールを走らせ、廃屋の近くに姿を表した。

 

テディ「幸太郎~っ!」

幸太郎「テ、テディ!?」

 

マチェーテディに変形したテディはデンライナーから飛び降り、紅蓮を目掛けて回転しながら降下するが、紅蓮はジカンザックスで軽々と弾き飛ばす。飛ばされたテディを上手くキャッチした一輪は、エネルギー弾を地面に向けて撃ち出し、土煙を起こすことで目くらましをする。

 

紅蓮「うおっ!?」

一輪「今です、聖様!イマジンを追って下さい!」

幸太郎「こいつらは、俺たちが引き受ける!」

モモタロス「...分かった、頼んだぜ!」

 

一輪と幸太郎に紅蓮たちを任せたM聖は、デンライナーの先頭車両のコックピットに飛び乗る。デンライナーの操縦席であるバイク──"マシンデンバード"に跨がったM聖は、ハンドルの中心に備えられたソケットに、ライダーパスを差し込む。すると、デンライナーがチケットから日付を読み取り、モモタロスはマシンデンバードのスロットルを捻って、タイムホールへと飛び込んでいった。

 

幸太郎「残念だけど、じいちゃんたちの邪魔はさせないよ。」

一輪「私たちが、お相手しましょう。」

紅蓮「へぇ、随分な自信だな!なら、お手並み拝見と行こうか?」

 

それぞれの武器で土煙を振り払った紅蓮とミライは、マチェーテディを構えて迎撃の態勢を取る一輪に迫る...

 

 

 

 

〜2012年 9月2日〜

 

小傘「...ばぁ〜っ!!」

少年「うっ、うぎゃぁ〜っ!?」

 

空のすべてが厚い雲に覆われていた日。その手に持った傘を広げ、草かげから飛び出して来た小傘に驚いた少年は、勢いよく尻もちをつくや否や、一目散に逃げ出す。

 

小傘「えっへへ〜!大成功〜!おーい、待って〜...うっ!?」

 

イタズラが成功して満足げだった小傘の満面の笑みは、一瞬で消え去った。全身から砂が吹き出し、こぼれ落ちた砂がアンブレライマジンへと姿を変えると同時に、小傘は魂が抜けたように気を失い、倒れ込む。

 

アンブレラ「へへっ...!ようやく過去にたどり着いたぜぇ...!なにもかも、ぶち殺してやるッ!!」

 

実体化したアンブレライマジンは歓声を上げると、逃げた少年を追って走り出す。やがて、息を切らして立ち止まった少年に追いついたアンブレライマジンは、気が狂ったように嗤った。

 

少年「ひぃっ...!?ば、バケモノ...!?」

アンブレラ「ギャハハハッ!今まで、散々邪魔されたからなぁ...お楽しみはここからだぜぇっ!!」

少年「うっ、うわぁぁぁっ!?」

 

突如現れた異形に怯え、また尻もちをついてしまった少年は、自身に振り下ろされるブレードの恐怖に叫び声を上げる。その瞬間、この時間にたどり着いたデンライナーからマシンデンバードごと飛び出したM聖が、その車体でアンブレライマジンを引き飛ばした。

 

モモタロス「させるか、この野郎!」

アンブレラ「てめぇ...!追って来やがったのか!?ここからがお楽しみだってぇのにィ!!」

モモタロス「ハッ!ちげぇな!」

 

マシンデンバードを止め、怒り狂うアンブレライマジンと対峙したM聖は、両腰に提げている4つのパーツ──"デンガッシャー"を組み合わせ、赤い刃を持つソードモードへと変形させる。

 

モモタロス「いいか?俺は最初っからクライマックスなんだ!てめぇの悪趣味なお楽しみなんて、出る幕ねぇんだよ!」

アンブレラ「黙れぇッ!もういい加減にうんざりだ...決着をつけてやる!!」

 

とうとう怒りを堪えきれなくなったアンブレライマジンは、2本のブレードをめちゃくちゃに振り回してM聖に襲いかかる。しかし、M聖はデンガッシャーでブレードを防ぎ、アンブレライマジンが反動でよろけた隙を起点に猛攻を開始する。荒々しい太刀筋でデンガッシャーを振るい、頭突きや蹴りを織り交ぜたモモタロス特有のファイトスタイルに、アンブレライマジンは徐々に追い詰められていく。

 

モモタロス「どうした、口ほどにもねぇな!」

アンブレラ「...チィッ、これでどうだっ!!」

モモタロス「バーカ、同じ手に何度もかかるかよ!」

 

劣性に陥ったアンブレライマジンは胸部の瞳からビームを乱射するが、既にその技を見切っていたM聖は、大きく移動しながらビームを躱し、止めて置いたマシンデンバードに飛び乗る。間髪を入れずにマシンデンバードを急発進させたM聖は、手早くライダーパスをバックルにセタッチした。

 

『FULL CHARGE』

 

モモタロス「必殺!俺の必殺技...」

 

バックルから放出されたフリーエネルギーが、デンガッシャーの刃に蓄積され、赤く眩い光を放つ。フリーエネルギーがフルチャージされたデンガッシャーを手に、M聖はマシンデンバードを巧みに操り、アンブレライマジンに向かって加速する。

 

モモタロス「...ライディングバージョンッ!!」

アンブレラ「グォアァァァッ...!?」

 

力強く叫んだM聖はすれ違いざまにデンガッシャーを振り抜き、アンブレライマジンの腹部を鋭く一閃する。横一文字の残光を腹部に残したアンブレライマジンは、うめき声を上げながらゆっくりと倒れ込み──

 

アンブレラ「ガァァァッ!!」

 

──壮絶な断末魔を伴って爆散した。ブレーキをかけてマシンデンバードを停めたM聖は、ニヤリと口角を上げる。

 

モモタロス「へへっ、決まったぜ...!」

聖「モモタロス、お見事ですね...なかなか、かっこよかったですよ?」

モモタロス「おぉっ...だよなぁ!俺、かっこいいよなぁ!?いやぁ、お前、けっこう話の分かるやつじゃねぇか!」

 

聖にかっこいいと持ち上げられ、モモタロスはあからさまにご機嫌になる。浮かれ気分でマシンデンバードを降りたM聖は、怯えたまま腰を抜かしている少年に歩み寄った。

 

モモタロス「おい、大丈夫かボウズ?」

少年「は、はい...!あの、お姉さんは...?」

聖「...ッ!?」

 

差し伸べられたM聖の手を握り、少年が立ち上がった瞬間、彼の背後でアンブレライマジンとまた別の異形が蠢いた。その異形の存在に唯一気がついた聖は、"自分自身の意志"で少年を庇うように覆いかぶさる。

 

バット「はっ!!」

聖「ぐぅっ...!」

 

襲いかかってきた異形──"バットイマジン"の鉤爪を背中で受け止めた聖は、バックルにライダーパスをセタッチして右の掌にフリーエネルギーを纏わせる。

 

バット「な、なにっ!?」

聖「聖拳奥義...壱の型ッ!」

 

左腕で鉤爪を振り払った聖は、フリーエネルギーを纏った掌底をバットイマジンに打ちこみ、腹部に大技を叩き込まれたバットイマジンは、空中で爆砕した。急襲を凌いでホッとため息をついた聖は、自らの意志で動く身体に違和感を覚える。

 

聖「あら...?この姿のまま、私が闘うことも出来るんですね...」

モモタロス「おいっ、主役は俺だろうが!?さっさと返せ!」

良太郎「(モモタロス...聖さんの身体は聖さんのでしょ?)」

少年「(この人...こ、怖い!)」

 

急に口調が変わった聖に、ただでさえ怖がりな少年はガタガタとあごを鳴らす。そんなことはつゆ知らず、聖は一人、思考を巡らせる。

 

聖「なぜ、もう一体イマジンが...?まさか、この時間は...!?」

小傘(「驚いたその子は、逃げた先で、"怪物"に...殺されたんだよ...!」)

 

小傘の記憶の6年前には、アンブレライマジンは居ない。ならば、少年を殺した怪物は他にいたということになる。それが、先程のバットイマジンだったとしたら...幻想郷に怪人が現れたのは、歴史上でたったの一度。そのことに気づいた聖は、静かに呟く。

 

聖「"異怪の大乱"...!」

 

その瞬間、目をくらませるほどの落雷が起こり、バケツをひっくり返したかのような、土砂降りの雨になる。激しい雨に濡れながら愕然とする聖の左肩に、ピンクのエネルギー弾が炸裂した。

 

聖「きゃあっ!?」

少年「おっ、お姉さんっ!!」

 

肩アーマーから火花を散らして倒れる聖に少年は駆け寄るが、言葉では言い表せない悪寒を感じた聖は、彼の手を振り払って立ち上がる。

 

聖「ここから逃げて、安全な場所に隠れなさい!早くっ!!」

少年「えっ...う、うんっ!」

 

第一に少年を逃した聖は、銃弾が飛来した方向を冷たく睨みつける。そこに姿を表したのは──

 

蒼「ふぅん...シンクロと憑依が同時に行われている影響で、聖とモモタロスの意識が混濁してるみたいだね。」

 

──ジュウモードのジカンギレードの銃口を聖に向けながら、穏やかに笑う蒼だった。彼らの行動に翻弄された聖は、張り付いたような笑顔を崩さない蒼に、その真意を問う。

 

聖「どういうつもりですか...?私たちを助けたり、デンライナーをジャックしたり、イマジンを倒す妨害をしたり...あなたたちタイム・トラベラーズは、いったい何が目的なんですか!?」

 

雷雨の中、聖の叫びが響く。数刻の沈黙の後、蒼は「ふふっ...」と静かに笑い声を上げ、高らかに告げた。

 

蒼「...僕たちは、この世界の終焉を望む者。この幻想郷を打ち壊す者さ!」

聖「幻想郷を...!?」

 

ピシャリと落ちた雷光に、蒼の笑顔が照らし出される。蒼の野望に動揺する聖は、その変わらぬ笑顔に戦慄すら覚えた。聖の前で仁王立ちする蒼は、懐から紅蓮と同じ"ジクウドライバー"を取り出し、腰に装着する。

 

蒼「そして、僕はタイム・トラベラーズのリーダーであり..."時の王者"だ。」

 

そう宣言した蒼は、取り出したジオウライドウォッチのカバーを回転させ、天面のスイッチを押す。

 

『ジオウ!』

 

起動したジオウウォッチをドライバーの右側に滑り込ませた蒼は、ドライバーのロックを解除して両腕を大きく横に回す。顔の横に持ってきた左手を素早くスナップさせた蒼は、高らかに叫ぶ。

 

「変身ッ!」

 

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

 

蒼が左手でドライバーを回転させると、白を基調としていた服装が黒へと反転して所々にピンクのラインが走り、首から下に銀色のバンドが装着される。背後に発生したオブジェクトから放たれた、ピンク色の「ライダー」の文字を額に受けた蒼は、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者──その名も"仮面ライダージオウ"の力を受け継いだ姿へと変身したのだった。

 

蒼「さ〜て、始めよっか?」

 

過去と現在。2つの時間の中で、タイム・トラベラーズの実力者たちとの戦いが始まった...

 

【To Be Continued...】




15話パート4の閲覧、ありがとうございます!

ついに動き出したタイム・トラベラーズ!ジオウの力を我が物とする蒼の実力や如何に!?さらに、オリジン・ヒストリアの主人公である紅蓮が、なぜタイム・トラベラーズの一員となっているのか!?本編、外伝、両方から楽しんで頂ければと思います!

それでは、チャオ~!


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第15話 ~ガンガン・クライマックス~(5)

はい、大変ご無沙汰しておりました!最近は忙しくて全然筆をとれないのですが、なんとか完成しました...ついに電王編が完結です!それでは、どうぞ!


〜2012年 9月2日〜

 

ジオウの姿に変身した蒼は、数発の威嚇射撃を行ってからジカンギレードの銃身を回転させる。

 

『ケン!』

 

ジカンギレードを時計の針を模した"ケンモード"に切り替え、斬りかかってきた蒼に対し、聖もデンガッシャーで応戦する。激しい鍔迫り合いの中、蒼は静かに囁く。

 

蒼「君たちがこの時間にいると、何かと都合が悪いんだ...だから、消えてもらうよ。」

聖「この時間...!?あなたたちは、異怪の大乱に関係しているんですか!?」

蒼「さぁ、どうだろうね?ちょっとベタだけど、僕に勝ったら教えてあげるよ、っと!」

聖「きゃっ!」

 

飄々と聖を押しのけた蒼は、腕に巻き付いている"ライドウォッチホルダー"から、"電王ライドウォッチ"を取り外して起動する。

 

蒼「まっ、今の君たちじゃあ、無理だけどね。」

 

『電王!』

 

良太郎「(電王...!?)」

 

不敵に笑う蒼は、起動した電王ライドウォッチをドライバーの左側に滑り込ませ、ドライバーのロックを解除すると、素早くドライバーを回転させる。

 

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!アーマータイム!《SWORD FORM》電王!』

 

すると、ドライバーのディスプレイからピンク色の「デンオウ」の文字が射出され、蒼の前に電王を象った鎧が形成される。その鎧に蒼が触れると、鎧はいくつかのパーツに分かれて弾け飛び、蒼の身体に装着されていく。そして、「ライダー」の文字と入れ替わるように、「デンオウ」の文字が額に装着される。デンライナー型の肩アーマーが特徴的な"電王アーマー"に変身を遂げた蒼は、モモタロスの決めポーズを真似てみせる。

 

蒼「僕、参上っ!なんてね!」

 

 

〜2018年 4月20日、現在〜

 

一輪「きゃぁっ!?」

 

一方、紅蓮とミライを一手に引き受けた一輪は、圧倒的な劣勢を強いられていた。大きく吹き飛ばされ、坂道を転がった一輪は、マチェーテディを杖代わりにして立ち上がる。

 

一輪「くっ...!」

幸太郎「あいつらの強さ...紛れもなく本物だな...!」

 

苦言を呈する二人の前に、一輪を追ってきた紅蓮とミライが降り立つ。紅蓮はジカンザックスを肩に掛け、余裕を見せつけながら挑発する。

 

紅蓮「おいおい、もうギブアップか?」

ミライ「諦めて逃げるのなら、見逃しますよ...?」

 

どこか悲しげな雰囲気を漂わせるミライは、一輪たちを諭すように語りかけるが、そんな言葉で逃げ出すような一輪たちではない。

 

幸太郎「冗談でしょ!終わってからが本当の戦いなんだ、諦めたりしない!」

一輪「えぇ...!どんな状況でも、諦めなければ未来は変えられるんです!」

 

その身を奮い立たせた一輪たちは、マチェーテディを構え直し、まっすぐな瞳で、あくまで抗い続けるという意志を体現する。その目を見た紅蓮は嬉しそうな笑みを浮かべ、ライドウォッチホルダーに手を伸ばす。

 

紅蓮「いいねぇ...!俺も燃えてきたぜ!」

 

雄叫びを上げた紅蓮は、ホルダーから"ゴーストライドウォッチ"を取り外して起動する。

 

『ゴースト!』

 

起動したゴーストウォッチをドライバーの左側に滑り込ませた紅蓮は、ドライバーのロックを解除して回転させる。

 

『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!アーマータイム!《カイガン!》ゴースト!』

 

すると、ドライバーのディスプレイから黄色い「ごーすと」の文字が射出され、紅蓮の前にゴーストを模した鎧が形成される。紅蓮がその鎧に拳を叩きつけると、鎧はいくつかのパーツに分かれて弾け飛び、紅蓮の身体に装着されていく。そして、「らいだー」の文字と入れ替わるように、「ごーすと」の文字が額に装着される。紅蓮は、アイコンを模した肩アーマーが特徴的な"ゴーストアーマー"へと変身したのだった。

 

紅蓮「命、燃やし尽くすぜっ!!」

ミライ「えっ...!?紅蓮、し、死んじゃうの...?」

紅蓮「えっ、いや、死なない!死なないから!そんな泣きそうな顔するな!」

ミライ「ほ、ほんとに...?」

 

勢いで言った口上にミライはうっすらと涙を浮かべて心配し、紅蓮は慌てて訂正しながらなだめる。急に和やかな雰囲気を醸し出してきた二人に、一輪は困惑しながら戦闘態勢を保つ。少し気まずそうな顔をした紅蓮は、一つ咳払いをした。

 

紅蓮「さ、さて...改めまして!行くぜっ!」

 

微妙な空気を振り払うように進撃を始めた紅蓮は、肩のアイコンから喚びだしたオレ、ムサシ、ニュートンのパーカーゴーストと共に襲いかかる。次々と繰り出されるパーカーゴーストの攻撃を捌こうとした一輪だったが、その猛攻にガードが崩れ、間合いを詰めた紅蓮のジカンザックスに切り裂かれる。

 

一輪「ぐぅっ...!!」

ミライ「はぁっ...!」

 

『NEXT!SP・SP・SPEEDE!』

 

さらに、シフトアップして瞬間移動したミライが怯んだ一輪に接近し、高速斬撃を浴びせる。息の合ったコンビネーションアタックに圧倒され、吹き飛ばされた一輪は、木の幹に身体を打ち付ける。

 

一輪「うぅっ...!!」

紅蓮「まだまだ!あんたらの限界はそんな所じゃない筈だ!」

 

『You・Me!』

 

ジカンザックスを"ゆみモード"に変形させた紅蓮は、倒れ込んだ一輪に向けてレバーを引き絞る。発射口に赤い閃光が渦を巻き、紅蓮がレバーを離そうとした瞬間──

 

妖夢・紘汰「「うぉりゃぁっ!」」

紅蓮「うぉっ!?」

 

──妖夢と紘汰の飛び蹴りが、紅蓮の背を直撃した。それによってバランスを崩した紅蓮は、前のめりに倒れそうになるが、素早く前転して体勢を整える。着地した妖夢たちは、颯爽と一輪の側に駆けつけた。

 

妖夢「お待たせしました!魂魄妖夢、推参っ!」

紘汰「子どもたちの拘束は解いて、避難はハナちゃんに任せてきた!こっからは、俺たちみんなのステージだ!」

 

妖夢・紘汰「「変身っ!」」

 

『ソイヤッ!オレンジアームズ!花道!オンステージ!!』

 

紘汰とシンクロした妖夢はオレンジアームズへと変身し、一輪に手を差し伸べる。その手を取って立ち上がった一輪は、大橙丸を構える妖夢と並び立つ。一方、紅蓮に駆け寄ったミライは、心配そうに紅蓮を見つめる。

 

ミライ「紅蓮、大丈夫?」

紅蓮「あぁ、問題ないさ。ミライ、NEW電王の方は任せる。頼めるよな?」

ミライ「うん...!任せて!」

 

『NEXT!SP・SP・SPEEDE!』

 

紅蓮の頼みに頷いたミライは、シフトアップして高速移動で一輪に迫り、反射的にマチェーテディを構えた一輪を、鍔迫り合いの中で前進して妖夢と引き離す。

 

妖夢「一輪さんっ!」

紅蓮「おっと、あんたの相手はこの俺だ!」

 

一輪に加勢しようとした妖夢だったが、紅蓮はジカンザックスから放ったエネルギー矢でそれを妨害し、交戦を開始した。

 

 

〜2012年 9月2日〜

 

モモタロス「てめぇ、俺と同じようなカッコしてんじゃねぇ!被るだろうが!おいっ、代われ!」

聖「えっ、ちょっ、モモタロス!?」

モモタロス「行くぜ、行くぜ、行くぜぇ〜!!」

 

聖から強引に身体の主導権を奪取したモモタロスは、怒りのままに蒼に特攻する。だが、余裕の笑みを崩さない蒼は、その荒々しいデンガッシャーの軌道を先読みし、軽々と躱す。しばらくの間、攻撃をあえて躱し続けていた蒼は、デンガッシャーの刃を人さし指と中指で挟むだけで止めてみせた。

 

蒼「君の剣は力強くて、勢いがある...でも、その反面に技がない。どれだけ強い攻撃でも、当てられなければ意味がないよ?」

モモタロス「うるせぇ!てめぇに指図される覚えはねぇよ!!」

 

蒼の言葉に逆上したM聖は彼を蹴り飛ばそうとするが、蒼は小さくバックステップして後退した。蒼からデンガッシャーを奪い返したM聖は、猪突猛進、再び蒼に立ち向かう。

 

蒼「しょうがない...思い知らせてあげるよ。今の君たちが、どれだけ弱いか...」

 

今までとは違う、怪しげな笑みを浮かべた蒼は、まるでワープしたかのように、一瞬の内にM聖の背後に移動して、その背を斬りつけた。さらに、蒼は瞬間移動を繰り返して、一切の隙を与えずに何度も斬りつける。大きく横一文字に切り裂かれたM聖は、アーマーから火花を散らして膝から崩れ落ちた。

 

モモタロス「ぐおぉ...!」

良太郎「(モモタロスっ!)」

聖「くっ...あの瞬間移動は、いったい...!?」

 

苦しみながらも起き上がるM聖の眼前に出現した蒼は、ドライバーに装填された2つのライドウォッチのスイッチを押して、素早くドライバーを1回転させる。

 

『フィニッシュタイム!』『電王!』

 

蒼「必殺!僕の必殺技...」

 

『俺の!タイムブレーク!』

 

すると、デンライナー型の肩アーマーが時空から後続車両を伴って空中を走り出し、オリジナルのデンライナーと同じ要領でM聖を砲撃。2つのショルダーデンライナーは、小さいながらも射撃数でM聖を怯ませ、走行した軌跡に走るレールを巻きつけてM聖を束縛する。蒼は、電王ウォッチから放出されたフリーエネルギーを蓄積したジカンギレードを構えて走り出し、すれ違いざまにM聖を一閃した。

 

蒼「パート100!」

 

聖「きゃっ...!」

良太郎「うわぁっ!」

モモタロス「うぉっ...!?」

 

爆発と共に吹き飛ばされた聖は、強制的に変身とシンクロが解除され、良太郎とモモタロスも憑依が途切れて分離してしまった。地面に倒れ込んだ3人を見下ろす蒼は、電王ウォッチを外してジオウの姿に戻る。

 

蒼「クライマックスのあとには、ピリオドを打つものだよね...」

 

『ジュウ!』

 

ジカンギレードをジュウモードに変形させた蒼は、ライドウォッチスロットの上のスイッチを押す。エネルギーチャージを開始したジカンギレードの銃口を、蒼はゆっくりと3人に向けた。

 

『タイムチャージ!ゴー・ヨン・サン・ニー・イチ...ゼロタイム!』

 

モモタロス「やべぇっ...!」

 

カウントダウンが終わりを告げ、蒼は笑顔のままでジカンギレードのトリガーを引く。ジカンギレードの銃口から放たれた、高出力なピンク色のエネルギー弾が3人へと迫ったとき──

 

蒼「うわっ!」

 

──蒼と聖たちの間に割り込んだデンライナーがエネルギー弾を遮り、倒れた聖たちを救出して時空の中へと走り去っていった。取り残された蒼は、ドライバーからジオウウォッチを外して変身を解除する。

 

蒼「君たちは弱い...今はまだ、ね。」

 

一人で呟いた蒼は、降りしきる雨の中で嵐の空を見上げる。その顔には、今まで崩さなかった笑顔が消え、どこか悲壮さを感じさせる。

 

蒼「僕は、世界を破滅させる...魔王だ。」

 

その頬を伝った水滴は、彼の髪を濡らす雨の滴だったのだろうか──

 

 

〜2018年 4月20日〜

 

一輪「はぁッ!」

ミライ「やぁっ!」

 

刃を打ち付け合った一輪とミライは、衝撃を吸収しながら互いに距離を取る。イグニッションキーを回したミライは、腰のシフトカーホルダーに停まっていた蒼い炎のようなシフトカー──"シフトマックスブレイズ"を手に取り、レバーに変形してシフトブレスに装填すると、それを素早く傾ける。

 

『タイヤコウカン!マックスブレイズ!』

 

幸太郎「た、タイヤコウカン?」

 

すると、ミライの肩にかかっていたネクストスピードタイヤが自動的に排出され、代わりに蒼炎の燃え盛るタイヤ──マックスブレイズタイヤが装着される。"タイプネクストスピード・ブレイズ"にチェンジしたミライは、早々にシフトアップを行う。

 

『BLA・BLA・BLAZE!』

 

ミライ「蒼炎のイリュージョン、見せてあげます!」

 

シフトアップに伴い、燃え上がったマックスブレイズタイヤの蒼炎を自在に操るミライは、空中に無数の蒼炎を散らす。人魂のごとく空中で揺らめく蒼炎は、ミライが一輪に掌を翳すと、一輪にめがけて不規則に襲いかかる。

 

一輪「くっ...!?数が多過ぎて、捌ききれ...きゃぁっ!」

 

蒼炎にその身を焼かれ、爆発で吹き飛んだ一輪は地面を転がっていく。倒れ込んでしまった一輪は、再び立ち上がろうとするが、足に力を込めることが出来ない。それも必然だ。シーラルとの戦闘から始まり、アンブレライマジンの追跡、さらには紅蓮とミライを同時に相手取って戦っていた一輪の肉体は、限界を示していたのだ。

 

一輪「くっぅぁ...」

幸太郎「そんな...一輪っ!」

テディ「大丈夫か!?しっかりするんだ!」

 

ハナ「一輪さんっ!」

 

そんな中、子どもたちの避難を終えたハナとジークが一輪たちの近くに駆けつけた。地に付したままの一輪を見たハナは、隣に並ぶジークに怒号を飛ばす。

 

ハナ「ちょっと、ジーク!あんた、お高い所から眺めてないで助けに行きなさいよ!!」

ジーク「しかし、姫よ...パスがあれど、変身出来なくなってしまったのだろう?ならば、私に出来る最大の手助けは見守ること...家臣たちよ!お前たちの勇姿、私が見届けて...」

ハナ「つべこべ言ってないで、さっさと行きなさいっ!!」

 

痺れを切らしたハナに突き飛ばされたジークは、その勢いのまま一輪に憑依してしまう。一輪を追ってきたミライは、ガンナーブレードの刀身から蒼炎の斬波を繰り出した。

 

『WING FORM』

 

しかし、幸太郎が持つ特殊体質によって、憑依したジークが純白の翼──"ジークウィング"へと変換され、一輪を包み込むようにして、蒼炎から彼女を護った。

 

一輪「これは...?」

ジーク「美しいであろう?忠実な家臣を護るのも、主の務めだ。思う存分、戦うがよい!」

一輪「はぁ...ありがとうございます。」

 

ミライ「はぁっ!」

 

斬波を防がれたミライはガンナーブレードで直接斬りかかるが、一輪はジークウィングで軽く羽ばたき、辺りを自由自在に飛び回って撹乱する。ミライは再び蒼炎を散らして撃ち落とそうとするが、ほとんどの蒼炎は一輪たちが回避する。しかし、ミライが一斉に放った蒼炎がついに着弾し、空中で爆発を起こしたが──

 

『FULL CHARGE』

 

──ジークウィングで難を逃れた一輪は、爆煙の中から飛び出しながらライダーパスをバックルにセタッチし、マチェーテディにフリーエネルギーをチャージする。

 

ミライ「っ!?」

 

『ヒッサーツ!フルスロットル!ブレイズ!』

 

急接近してくる一輪に危険を感じたミライは、ガンナーブレードのレーンにシフトマックスブレイズをセットし、刀身を蒼炎で包み込む。

 

一輪・幸太郎「「はぁぁっ!!」」

ミライ「せりゃぁっ!」

 

互いにエネルギーが蓄積された刃がぶつかり合い、一輪とミライを包み込むほどの爆発が起こった...

 

 

 

妖夢「うわぁっ!?こっち来ないで!」

 

一方、一輪たちと離れて闘う妖夢は、紅蓮の操るパーカーゴーストの攻撃に手を焼いていた。大橙丸と無双セイバーでパーカーゴーストたちを振り払おうとするが、縦横無尽に動き回るパーカーゴーストたちを捉えることが出来ず、妖夢は連撃に見舞われる。

 

紅蓮「せいっ!」

妖夢「きゃぁっ!」

 

隙を見せてしまった妖夢は、紅蓮が振るったジカンザックスに大きく吹き飛ばされた。パーカーゴーストを帰還させた紅蓮は、ふと思い出したように尋ねる。

 

紅蓮「そういや、慧音先せ...ファイズはどうした?」

紘汰「あの人は、万が一に備えて里に残ってるけど...それがなんだ!?」

紅蓮「やっぱりか...あの人らしいな。」

 

どこか懐かしそうに笑った紅蓮は、ゲイツウォッチとゴーストウォッチのスイッチを押す。

 

『フィニッシュタイム!』『ゴースト!』

 

紅蓮「さぁ、覚悟してもらおうか!」

 

『オメガ!タイムバースト!』

 

ロックを解除してドライバーを回転させた紅蓮は、印を結んで紋章を出現させると、紋章を橙の炎に変換して右足に纏わせる。ゴーストよろしくふわりと浮き上がった紅蓮は、雄叫びと共に飛び蹴りを放った。

 

紅蓮「はぁぁぁっ!」

妖夢「うわぁっ!?」

 

妖夢は大橙丸と無双セイバーを重ねて防ごうとするが、護りも貫通したオメガタイムバーストに再び吹き飛ばされ、地面に倒れ伏す。着地した紅蓮が妖夢に迫ろうとすると、紅蓮の懐から音楽が流れ出した。

 

『Calling...Calling...』

 

紅蓮「ん...?」

 

ライドウォッチに似た形状の携帯電話──"ファイズフォンX"を取りだした紅蓮は、展開して着信に応答する。

 

蒼「もしもし、紅蓮?こっちは終わったから、撤退していいよ。」

紅蓮「了解!そんじゃ、また後でな。」

蒼「うん、ありがとね!」

 

ファイズフォンXを閉じてポケットに仕舞った紅蓮は、ドライバーからライドウォッチを外して変身を解除する。

 

紅蓮「なぁ...あんたは何のために、誰のために戦ってるんだ?」

妖夢「何のため...?誰のため...?そんなの、幽々子様のために決まってます...!」

 

紅蓮の意味深な問いかけに、ボロボロの妖夢ははっきりと答えた。だが、紅蓮はため息をついて質問を続ける。

 

紅蓮「じゃあ、幽々子さんがいなくなったら?残されたあんたは何をする、何を望む?」

妖夢「えっ...?」

 

紅蓮「それを見つけられないようじゃ、鎧武の力は使いこなせないだろうな...さて、ミライ!帰るぞ〜!」

ミライ「うんっ!」

 

一輪と互角の戦いを繰り広げていたミライは、紅蓮の呼びかけに応じて、彼のもとに戻ってくる。紅蓮はゴーストウォッチから放出した黒い霧で自分たちを包み込み、姿を消した。

 

妖夢「私は...何を望む...?」

 

残された妖夢は、うわ言のように紅蓮の言葉を繰り返し、迷いが交じる瞳で戦極ドライバーに触れた..

 

 

 

 

聖「ぅん...?」

ナオミ「あっ!オーナー、目が覚めたみたいですよ~!」

 

食堂車のソファで目覚めた聖は、モーニングサービスとして置かれていたナオミのイマジンコーヒーに眉をひそめる。聖の隣の席に座っていた老紳士──デンライナーの"オーナー"は、ゆっくりと聖に目を向ける。

 

オーナー「おはようございます、聖さん。ナオミくんから、話は伺いましたよ。」

聖「あなたは...?」

オーナー「私はこのデンライナーのオーナーです...良太郎くんが一人で電王に変身出来なくなった以上、時間の運行を守るためには、あなたに協力してもらう他ありません。」

 

おもむろに席を立ったオーナーは、ゆっくりと歩みを進めながら言葉を続ける。

 

オーナー「しかし、必要以上の過去への介入は、控えて貰わなければ困ります。あなたが歴史を変えたことで、あの少年は九死に一生を得たようですが...歴史を改変すれば、時間が歪んでしまう可能性がある...すなわち、時から零れ落ちる存在がいる、ということを、肝に命じて下さい。」

聖「は...はい...」

 

ずいと顔を近づけ、まるで表情の読めないオーナーは念を押す。その異質な雰囲気に気圧された聖は、戸惑いながらもうなずく。聖の返答に微笑んだオーナーは、自分の座っていた席に戻っていった。

 

聖「ふぅ...」

 

小さくため息をついた聖は、ぼんやりと窓の外に視線を投げる。今にも吸い込まれそうな時の砂漠は、細かく儚い輝きを放ち、どこまでも広がっていく...そんな景色を遠目に眺める聖は、胸の内で思惑を巡らせる。

 

聖「(時を超えて、歴史を変える...このデンライナーの力があれば、もしかしたら...)」

 

 

 

~2018年 4月20日~

 

現代に帰還した聖と良太郎は、小傘が残っている廃屋へと駆け付ける。だが、そこには──

 

青年「ねぇ、小傘()ぇ!しっかりしてよ!」

小傘「うぅん...?カ、カズ君...!?」

青年「よかった...小傘姉ぇが怪物にさらわれたって聞いて、助けに来たんだ。ほんとに無事でよかったよ...」

 

木刀を携えた青年の声で目を覚ました小傘は、一瞬驚いたような表情を見せると、一転して滝のような涙を流し始めた。

 

青年「ど、どうしたの!?どこかケガしてる?」

小傘「ううん...ううん...でも、なんでかなぁ...?カズ君に会えるのが、言葉を交わせるのが、うれしくて仕方ないんだ...!ありがとう...カズ君。」

青年「ふふっ...小傘姉ぇは泣き虫だなぁ。でも、僕もだよ...ありがとう。」

 

この幸せを噛みしめるように、二人は強く、優しく、抱きしめあう。大切な人と言葉を交わし、触れ合う、そんなありきたりな時間を生きる二人を見つめる良太郎は、聖に静かにささやく。

 

良太郎「過去であの男の子を救っても、結局あのイマジンは小傘ちゃんと契約して里の子どもたちを攫った...あの事件自体が、なくなったわけじゃないんです。でも...」

聖「えぇ...でも、あの子たちは心から笑ってる。私たちのしたことは間違ってない、そう、思います。」

 

そう呟いた聖は、優しく微笑む。その万人を包み込む笑顔は、仏の道を往く彼女にふさわしいものだった。

 

聖「そういえば、リュウタロスの言っていたカッパちゃんって...誰のことだったんでしょう?」

良太郎「さぁ...?」

 

 

 

 

 

 

──光のない薄暗い部屋で、何かに取り憑かれたかのようにパソコンのキーボードを叩き続ける少女は、不気味な薄ら笑いを浮かべる。

 

「フフフ...これで、これでわたしの長年の発明も...!」

「そ~だ、それでいい...!アイコン復活はもうすぐだ...ケヘへへ!!」

 

 

 

 

 

 

何も存在しない、誰も知らない時間軸。暗闇の中からゆらりと出現したフードの女は恭しくひざまずき何者かに報告を開始する。

 

フードの女「ご報告致します、我がマスター。配下のイマジンを暴れさせて出方を伺いましたが、やはり”時の子”が既に動いている模様です。いかがいたしましょうか?」

エンダー「フン、案ずることはない...運命の引き金は、常にこちらが手をかけているのだからな。焦らずとも、時が満ちれば終焉は訪れる...いや、私がもたらすのさ。この私、”エンダー(終焉者)”がな。」

 

そう宣言した男──エンダーは、手の中で遊ばせていた砂時計を握りつぶし、砂の零れ落ちるその拳を震わせた。

 

 

~次回予告~

 

文「清く!正しい!幻想郷最速の新聞記者!毎度どうも、射命丸文です!」

 

椛「最近、にとりの様子がおかしいんです...」

 

タケル「こいつ、白玉楼で襲ってきた...!?」

 

にとり「この発明のためなら、わたしは死んだって構うもんか!」

 

早苗「でも、あなたが死んで悲しむ人、残される人がいるってこと...忘れないでくださいね。」

 

『カイガン!エジソン!エレキ!閃き!発明王!!』

 

第16話 ~雷鳴!命の価値~




第15話、5パートにも渡って読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!投稿頻度は遅くなってしまうと思いますが、これからもお付き合いいただければ幸いです!

次の投稿はオリヒス(外伝)の予定です!でも、もしかしたら本編かもしれないです(優柔不断)

それでは、チャオ~!


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第16話 〜雷鳴!命の価値〜

またもや前回から時間が空いてしまいまして、申し訳ありません!たぶんずっと不定期更新ですが、これからもよろしくお願いします!


〈私は東風谷早苗。守矢神社の風祝、そして現人神として神奈子様と諏訪子様に仕えています。ある日、天空寺タケル君と出会い仮面ライダーゴーストの力を受け継いだ私は、襲撃してきた眼魔と呼ばれる化け物たちを撃破。それからは、行方が分からなくなった英雄のアイコンを捜しながら、幻想郷を眼魔から守るために戦っています!私たちが取り戻した英雄アイコンは、2つ...〉

 

真司「ふあぁ〜...あぁ、眠いなぁ...」

タケル「おはようございます、真司さん。」

 

午前7時、大きなあくびをかきながら寝床から這い出てきた真司に、境内の掃除に励むタケルは爽やかに挨拶する。

 

真司「ん、おはよう...タケルは早起きだな...」

タケル「まぁ、これでも寺育ちですからね。早起きぐらいは朝飯前です!」

真司「ちょっと羨ましいよ...俺は仕事柄、夜遅くまでパソコンとにらめっこしてる日もあったし。」

早苗「おはようございます、真司さん!もうすぐ朝ごはん出来ますから、ちょっと待っててくださいね〜!」

 

苦笑いする真司に、台所からひょこっと顔を覗かせた早苗が声をかける。朝日よりも明るい早苗の笑顔を見た真司は、彼女の純真さに心を打たれる。

 

真司「早苗はいい娘だなぁ...こんな健気な女子高生がいたなんて...!まさに、奇跡だよ...」

タケル「そ、そんな大袈裟な...でも、優しくていい娘なのは間違いないですよ、俺が保証します。」

諏訪子「おやおやぁ?早くも彼氏っぽくなってきたんじゃないの、タケルぅ?」

 

にやにやと悪戯な笑みを浮かべる諏訪子に、タケルは「い、いえ!そういうつもりじゃ...!」と初心な反応で弁解する。少し照れる様子の後輩をみた真司は、こっちも健気だなぁ...と心の中で微笑むのだった。だが、そんな彼の肩が突然がっしりと掴まれる。

 

神奈子「おはよう、真司...相方が頼りなくちゃ、私も全力を出せないからね。今日からみっちり鍛えてやるから、覚悟しときな!」

真司「は、はぁい...つーか、俺そんなに頼りないっすかね...?」

 

御柱を携えた加奈子に捕まった真司は、冷や汗を流しながら頭を掻く。そんな新しい朝の日常を過ごす守矢神社に、一枚の黒い羽根が舞い落ちた。

 

「いやはや、最近の守矢神社は一段と賑やかになりましたね!」

真司「え~と、君は...?」

 

一陣の風と共に境内に降り立った黒い翼を携えし少女は、首から掛けた一眼のカメラを構えて笑う。空から降り立った来訪者に困惑する真司は、怪訝な顔で尋ねる。その言葉を待ってましたと言わんばかりに、少女は大げさな構えをとる。

 

文「ふふ、よくぞ聞いてくれました!清く!正しい!幻想郷最速の新聞記者!毎度どうも、射命丸文です!」

 

 

 

 

 

早苗「それにしても、珍しいですね。文さんがセールスと取材以外の相談だなんて。」

文「ひどっ!?人を金の亡者みたいに言わないで下さいよ!」

 

早苗の計らいでちゃっかり一緒に朝食を囲む文は、妖怪の山を主なテリトリーとする妖怪──"天狗"の中でも、黒い翼を持つ"鴉天狗"に属する少女であり、でっちあげ新聞こと「文々。新聞」の記者でもある。味噌汁をすすった神奈子は、急かすように文に尋ねる。

 

神奈子「んで、その相談ってのはなんなんだ?わかっちゃいると思うが、私らは暇じゃないぞ?」

文「あぁ、そのことなんですが...ちょっと、"椛"~!恥ずかしがってないで、早くおいで~!」

椛「べ、別に恥ずかしがってるわけじゃありませんから!」

 

文の呼びかけに林から飛び出してきた白いしっぽとケモ耳を生やした、"白狼天狗"と呼ばれる種族の少女──"犬走椛"は、神奈子たちに慌てて頭を下げる。

 

椛「し、失礼致しました!お食事が終わるまで藪の中で静かにしておりますので、どうかお気になさらず...!」

タケル「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。よかったら、君も一緒に食べない?良いよね、早苗?」

早苗「もちろん、おかわりは沢山作っておきましたから!私、ごはんよそってきますね!」

 

箸をおいた早苗は台所へと戻り、境内に降りたタケルは「えっ、いえ、私は...!」と恐縮する椛の手をおもむろに取り、やさしく微笑む。

 

椛「ほぇ...!?」

タケル「ほら、行こ?」

椛「ひゃい...」

 

顔を赤くしながら手を引かれ、しっぽをぶんぶん振る椛を見た女性陣は一同に感じるのだった。

 

神奈子・諏訪子・文「(これは...天性の女たらしだ...!!)」

真司「んんっ!たまご焼きうまっ!!」

 

...なお、真司には空気を読む程度の能力は、一切備わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

椛「友達を..."河城にとり"を助けて欲しいのです。」

 

大人数でのにぎやかな朝食を終え、食後のお茶が出されたところで、改まった椛が話を切り出した。彼女の出した名前に心当たりのある神奈子は、眉をひそめる。

 

神奈子「にとり...?それって、玄武の沢の河童だよな?」

真司「えっ!?お値段以上のアレ!?」

神奈子「いや、家具は売ってないから。」

 

外の世界を知る人間にしか分からない神奈子と真司のやりとりに困惑しながらも、椛は話を続ける。

 

椛「え〜っと...最近、にとりの様子がおかしいんです。ずっとラボに籠もりっきりみたいで、少し前に会った時も、虚ろな目でブツブツとよく分からないことを呟いてたし...にとりは、どうしちゃったんでしょうか...?」

 

悲しそうな目でうなだれる椛の頭を優しく撫でた文は、今までから一転、早苗たちに真剣な眼差しを向ける。

 

文「どうか、にとりを正気に戻してもらえませんか?もちろん、タダでというつもりはありません。早苗さんたちは、アイコンと呼ばれる物を探してるんですよね?そして、それを持っていた妖夢さんは怪物に襲われた。」

早苗「そこまで調べてあるんですか...!?」

タケル「確かに探してるけど、それがどうかしたの?」

 

自身の握っている情報の真偽を確かめた文は、依頼に対する交換条件を提示する。

 

文「化け物の目撃情報や、なにか怪しい事件があれば、即時みなさんにお伝えします。自分で言うのもなんですが、私の耳は幻想郷の誰よりも早いと思っています。必ず、役に立つ情報があるはずです!どうか、お願いしますっ!」

椛「あ、文様...私からも、お願いします!」

 

頭を床につける勢いで頼み込む文に合わせ、椛も深々と頭を下げる。二人の誠意を見た守矢神社の面々は、互いの顔を見合わせ、依頼への返答を即決する。

 

早苗「顔を上げて下さい、お二人とも。」

タケル「見返りなんて要らないよ、君の大事な友達なんでしょ?」

神奈子「それに、にとりの奴にサボられちゃこっちも困る。少し叱っておくとしようかねぇ。」

真司「お、俺も行きます!なんか、久々にジャーナリスト魂が騒いできた!」

諏訪子「...これがわたしたちからの答えだよ。うちの自慢の娘たちに、どーんと任せときなさい!」

 

 

 

タケル「これがその子の家か...」

 

文と椛からの依頼を請けた守矢神社の一行は、諏訪子を留守に残して妖怪の山の麓──"玄武の沢"のほとりにあるにとりの自宅兼ラボへと足を運ぶ。入り口には「にとりの研究所」という看板が掲げられているが、その扉の取っ手には鎖が巻かれ、南京錠で厳重に封鎖されていた。

 

椛「ずっとこんな感じで、声をかけても返事をしてくれないんです...」

タケル「しょうがない...ちょっと手荒だけど...!」

椛「あっ、ちょっ...!」

 

ガンガンセイバーを構えたタケルは、鎖を目掛けてその刃を振り下ろす。だが、刃が鎖に触れた瞬間、タケルの体に電流が流れ、椛はしまったというように頭を抱えた。

 

タケル「あばばばば!?」

早苗「きゃぁ!?タケル君、しっかり!!」

文「...こんな風に、無理に破壊しようとすると電流が流れるからくりになっているみたいなんです。」

真司「なるほど...よ~く分かった...」

神奈子「要するに、触らずにぶっ壊せばいいわけだ...よし、任せときな。」

 

打開案を考じた神奈子に扉から離れるように言われた早苗は、黒こげなタケルを引きずって扉と距離を取る。それを確認した神奈子は、スペルカードから生成した、身長の1.5倍はある御柱を大きく振りかぶり──

 

神奈子「どぉりゃぁぁぁぁ!!」

 

──扉に向けてフルパワーで投げつけた。まっすぐな軌道を描いた御柱は鎖もろとも扉を突き破り、にとりのラボに深々と突き刺さった。唖然とする一同をよそに、一仕事終えた神奈子はパンパンと手を払う。

 

神奈子「...よし、開いたな。行くぞ。」

一同「は、はい!神奈子様!」

 

山の神としての力(物理)を存分に見せつけた神奈子は、先陣を切って御柱の隙間から中を覗き込んだ。その直後、神奈子は血相を変えて叫ぶ。

 

神奈子「伏せろっ!!」

文「えっ!?」

 

神奈子の声に従った一行が姿勢を低くした瞬間、巨大な電磁弾が御柱を焼き尽くしながら頭上をすりぬけていった。間一髪で危機を回避した早苗は、苦笑いとともに冗談を飛ばす。

 

早苗「また防衛システム...にしては、過剰ですよね。」

神奈子「あぁ、これは..."眼魔"だ!」

 

電気眼魔「まったく、我々の偉大な研究の邪魔をしないでもらいたいなぁ?」

 

ボロボロになった入口から現れた、パラボラアンテナのような頭を持つ眼魔──"電気眼魔"は、気怠そうな声で文句を垂れる。

 

文「これが噂の化け物...!しっかり収めておかないと

!」

椛「そんなことしてる場合じゃないでしょ、文様!」

早苗「えぇ、お二人は離れていてください。」

 

神奈子「コイツがにとりをおかしくしてるのか?」

タケル「その可能性はかなり高そうです。」

真司「なら、ちゃちゃっと片付けないとな!」

 

貴重なシャッターチャンスを逃すまいとシャッターを切る文と、それを咎める椛。そんな二人を護るため、電気眼魔の前に立ちふさがった早苗と神奈子は、それぞれのパートナーとシンクロして、神奈子は水面にカードデッキを写してベルトを、早苗はゴーストドライバーとオレアイコンを用意する。

 

『アーイ!バッチリミナー!バッチリミナー!』

 

早苗・タケル・神奈子・真司「「「「変身!」」」」

 

『カイガン!オレ!レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!!』

 

龍騎の姿、オレ魂に変身した神奈子と早苗は、それぞれ拳とガンガンセイバーを構え、電気眼魔を威圧する。

 

早苗「さぁ、にとりを元に戻してもらいましょうか!」

電気眼魔「げぇっ!?お前、ゴーストだったのか...!なんか変な奴も居るし、面倒だなぁ...行け、お前ら!」

 

しかし、相変わらずやる気を見せない電気眼魔は、大量の眼魔アサルトを生成すると、早苗たちにけしかける。

 

タケル「あいつ...!時間稼ぎのつもりか!?」

真司「なんにせよ、コイツら倒さないとどうしようもないって!」

神奈子「同感だ、雑魚はさっさと蹴散らすぞ!」

早苗「はいっ!椛さんと文さんは、隠れててください!」

 

『SWORD VENT』

 

ドラグセイバーを装備した神奈子と、ガンガンセイバーを装備した早苗は眼魔アサルトの群れに突撃すると、華麗な剣捌きで次々と敵をなぎ倒していく。

 

 

電気眼魔「ん〜む...予想よりも早いなぁ...」

 

一方、高みの見物を決め込んでいる電気眼魔の後ろから、ゆらりと一人の少女が姿を見せる。多機能ポケット付きの水色の服に、鍵のようなアクセサリー。彼女こそが幻想郷きっての発明家──河城にとりである。

 

にとり「なんの騒ぎ...?」

電気眼魔「気にせず、お前は発明に集中するといい...もう間もなく、完成なんだろ?」

 

隈の酷い顔で尋ねるにとりに、電気眼魔はなにかの発明を続けるように促す。無言で頷いたにとりは、入口の奥に設置された機械仕掛けのゲートのようなものへと駆け寄ると、そのゲートといくつものケーブルで繋がれたパソコンを一心不乱に叩き始める。

 

にとり「もうすぐ...!もうすぐだよ...」

電気眼魔「クククッ...バカな河童だな...」

 

 

早苗・神奈子「「はあっ!」」

 

周囲の眼魔アサルトたちを一閃した早苗たちの視界に、少しずつラボへの道が切り開かれていく。しかし、突破口が出来る寸前、二人の背中を鋭利な爪刃が襲った。

 

早苗「うわっ!?」

神奈子「新手か!?」

 

奇襲に見舞われながらも体勢を整えた二人の目が捉えたのは、冥界で早苗を襲った豹の異形──"ジャガーロード"だった。

 

タケル「こいつ、白玉楼で襲ってきた...!?」

早苗「こんな時に、また邪魔をする気ですか...!」

 

タイミングの悪い二度目の襲撃に苛立ちながらも、ジャガーロードに向かって駆け出す早苗だったが、神奈子はそれを片手で制した。

 

神奈子「この獣人は私らが引き受ける...その内に、早苗たちはあの眼魔を倒せ!いいな?」

早苗「神奈子様...!分かりました、お気をつけて!」

 

早苗の激励に片手で応えた神奈子は、ジャガーロードに向かって疾走しながら、一枚のアドベントカードをドラグバイザーにベントインする。

 

『GUARD VENT』

 

神奈子「うぉぉぉぉぉ!」

ジャガーロード「グルゥッ!?」

 

ドラグレッダーの腹部を模した2枚の大盾──"ドラグシールド"を装備した神奈子は、勢いそのままにジャガーロードに突進し、タックルの要領でその場から引き離していく。

 

早苗「あなたたちに付き合ってる暇はありません!道を開けてください!」

『カイガン!ムサシ!決闘!ズバッと!超剣豪!!』

 

残った早苗は手早くムサシ魂にパーカーチェンジし、ガンガンセイバーの二刀流モードを駆使して眼魔アサルトの残党を切り捨てながら、弾丸の如く前進する。そして、眼魔アサルトの大群を切り抜けた早苗は高く飛び上がり、電気眼魔に斬りかかった。

 

早苗「お待たせしましたねっ!」

電気眼魔「来なくていいのに...俺は省エネ推進中なんだよっ!」

 

しぶしぶ戦闘を開始した電気眼魔は、ガンガンセイバーを防いだ腕に電流を流す。ガンガンセイバーを通して感電した早苗は痺れで動きが鈍くなり、電気眼魔の電気をまとった打撃をみすみす受けてしまう。

 

電気眼魔「ホラホラ、まだ待たせる気かぁ?」

早苗「ぐぅっ...身体が、言うことを...!」

タケル「距離を取って、早苗!ニュートンだ!」

早苗「はいっ...!」

『カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか〜!!』

 

離脱したムサシパーカーが電気眼魔を妨害している隙にニュートン魂にパーカーチェンジした早苗は、痺れの残る身体を無理矢理に動かし、電気眼魔に立ち向かう。

 

早苗「触られなければ怖くないっ!」

電気眼魔「うぉっ!?」

 

再び腕を振るう電気眼魔に対して、早苗は右手の斥力を活かして間隔を保ち、一方的に攻撃を加える。軽く吹き飛ばされた電気眼魔は、ラボの中でパソコンを打ち続けるにとりに目を向けると、狂気的に笑う。

 

電気眼魔「ヒャヒャ...!これでどうかなぁっ!?」

タケル「っ!?早苗っ!!」

早苗「はいっ、にとり!!」

 

にとりを狙って放たれた数発の電磁球から彼女を護るため、早苗はその身を盾にして電磁球を受ける。全身に痺れが回る中、最大の斥力を放って電気眼魔を大きく吹き飛ばした早苗は、オレ魂に戻り、至近距離での戦闘にも反応しないにとりの肩を掴む。

 

早苗「にとりっ!正気に戻ってください!」

タケル「なにを作ってるのか知らないけど、生きていてこそでしょ!?」

にとり「生きていてこそ...」

 

タケルの言葉を小さく繰り返したにとりは、キーボードの上を滑らせる手を止めると、ポケットの一つからくしゃくしゃの写真を、大事そうに取り出した。そこには優しく笑う二人の男女とにとり、そして赤毛の少女が写っていた。

 

にとり「...そうだよ。生きていて欲しいんだ、異界の大乱で死んだ妹に...家族に...そのためにこの時間転移装置を...!この発明のためなら、わたしは死んだって構うもんか!」

早苗「死んだって...構わない...」

 

 

 

 

──早苗、お前を残して行くことを許してくれ。母さんが病気で亡くなってから、父さんの心には大きな穴が出来てしまったように、喜びもなにも感じられなくなってしまった。お前の顔を見ても、笑いかけてやることも、頭を撫でてやることも出来ないんだ...

 

もう一度母さんに合うためなら、父さんは死んでも構わない。

 

こんな、ろくでもない親でごめんな...これを読んだら、守矢神社という寂れた神社を頼るといい。親切な人たちが助けてくれるはずだ。

 

身勝手な頼みだが、父さんも、母さんも、お前を心から愛していた...それだけは覚えていてくれ──

 

 

 

 

電気眼魔「...あぁ、頭にきた!もう十分だ!アイコンゲートは起動できる段階まできている!!」

にとり「アイコンゲート...?なんの話だよ!?」

タケル「あっ!に、にとりちゃん!」

 

憤慨した様子で戻ってきた電気眼魔の言葉を聞いたにとりは、愕然とした様子で電気眼魔に詰め寄る。にとりの慌てぶりを見て笑う電気眼魔は、にとりに真実を打ち明ける。

 

電気眼魔「残念だが、アレは時間転移装置なんかじゃない...お前は俺の催眠にかかって、俺の計画を忠実に実行してたってわけだ!ヒャヒャヒャ!!」

にとり「そんな...!?」

電気眼魔「本当に助かったよ。一番の功労者であるお前に、記念すべき一人目の犠牲者を務めさせてやる!」

早苗「...や、止めなさい!」

 

絶望に打ちひしがれるにとりを突き飛ばし、ゲートの中に入らせた電気眼魔は、腕から放った電流をゲートに供給する。早苗も起動を止めようとするが、麻痺した身体はうまく動かず、電源を得たゲートは静かに起動してしまう。

 

にとり「うっ...!?アァァァァ!?」

 

四肢を拘束され、高電圧に全身を蝕まれるにとりは、ゲートの中で悶え苦しむ。すると、ゲートに吸い寄せられるように部屋のガラクタの中から、色の抜け落ちた"エジソンアイコン"が飛来し、にとりの胸から七色のオーラを吸い取り始めた。

 

電気眼魔「よしよ〜し、順調だなぁ!」

早苗「いったい何を...!?」

電気眼魔「生贄にしたやつと呼応したアイコンを呼び寄せ、復活させてるのさ。ま、生贄になったやつは生命力を並々吸われて、良くて植物状態、悪けりゃ死ぬけどまっ、それで偉人の魂が蘇るんだ、価値ある犠牲じゃないか!アッヒャヒャヒャ!!」

早苗「ッ!!」

 

電気眼魔の極めて傲慢な理屈を聞いた早苗は、キッと怒りに満ちた目を見開くと、麻痺を感じせない流れるような動きでアイコンゲートを一閃した。爆発の中からにとりを抱えて抜け出すと、早苗は遠隔操作でガンガンセイバーをガンモードに切り替え、電気眼魔に連射してラボから追い出す。

 

にとり「うっ...ん...早苗...」

早苗「あなたに死んでも叶えたい願いがあるなら、私にそれを止める権利はありません。でも、あなたが死んで悲しむ人、残される人がいるってこと...忘れないでくださいね。命の価値は、成し遂げたことで決まるわけじゃない...何も成し遂げなくたって、生きている...それだけで、誰かを幸せにしてるんですから...あなたが、家族に生きていて欲しかったのと、同じように...ね。」

 

どこか悲しそうな顔でにとりに語った早苗は、優しくにとりを床に下ろすと、電気眼魔を追ってラボを飛び出して行く。その背中を見送ったにとりは、ボロボロになったラボで自嘲するようにに笑った。

 

にとり「なにやってんだろ...わたし。自分の悲しみから逃げるために、また誰かを悲しませて...わたしは...わたしは...!」

 

 

 

電気眼魔「よくも俺の計画を...!絶対に許さんぞぉっ!」

早苗・タケル「こっちのセリフだッ!!」

 

自身の計画を跡形もなく破壊された電気眼魔は、半狂乱で放電し続ける。早苗はその合間を縫って電流を躱しながら電気眼魔を狙うが、痺れの残る腕では精密な射撃が出来ず、徐々に被弾し始めてしまう。

 

早苗「まずい...このままじゃジリ貧に...」

にとり「早苗っ!」

 

にとりの声に振り返った早苗は、投げ渡された物を反射的にキャッチする。その手には、復活したエジソンアイコンが握られていた。アイコンを託したにとりは、一点の曇りもない笑顔を見せる。

 

にとり「わたしが発明家になったのは...誰かを笑顔にするためさ!悲しみから逃げるためじゃなくて、悲しみすらも乗り越えられる発明をしてみせる!だから、そいつの助けはもう要らない!頼むよ、盟友っ!!」

早苗「えぇ...!任せてください!!」

電気眼魔「ア、アイコンが蘇っただとぉ...!?」

 

自分のアイデンティティを取り戻したにとりの思いを受け止めた早苗は、エジソンアイコンを起動し、ドライバーにセットすると、素早くトリガーを操作する。

 

『カイガン!エジソン!エレキ!閃き!発明王!!』

 

ドライバーから出現した、電球のような腕を持つ"エジソンパーカーゴースト"を纏い、髪飾りは電球の意匠を持つ仮面に変わる。銀のパーカーをなびかせた早苗は、"エジソン魂"へとパーカーチェンジを果たした。顎に手を添え、何かを考えるような仕草を見せた早苗は不敵に微笑む。

 

早苗「ふっふっふっ...奇跡的な閃き、刮目なさい!」

電気眼魔「ふざけたことを...!喰らえ、最大出力ぅっ!!」

 

早苗の発言を挑発と受け取った電気眼魔は決着をつけるべく、自身の限界電圧の電磁球を放つ。しかし、その電力はすべてエジソンパーカーのアンテナに吸収され、電気眼魔渾身の電磁球は完全に消滅した。大量の電力を蓄積した早苗は、ガンガンセイバーのモノリスをアイコンタクトさせる。

 

『ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!』

早苗「命、ビリっと燃やしますよ!!」

タケル「オッケー!」

電気眼魔「ひっ、ひぃ〜!?」

 

背を向けて逃げ出す電気眼魔を射線上に捉えた早苗は、蓄積した電気をエネルギーに変換したガンガンセイバーのトリガーを引く。

 

『オメガシュート!』

 

ガンガンセイバーから放たれた雷の弾丸は、電気眼魔の背中の真ん中を穿ち──

 

電気眼魔「ぴ、ぴぎゃぁぁぁ!!」

 

──情けない断末魔を上げた電気眼魔は爆発四散した。電気眼魔の最期を見届けた早苗は振り返り、後ろで見守っていたにとりにサムズアップを送ると、ゆっくりと地面に倒れ伏すのだった...

 

 

 

沢のほとりに腰を下ろし、日の光を反射してキラキラときらめく水面を眺めるにとり。その膝では、早苗とタケルが頭を乗せてぐっすりと眠っている。早苗の頭を撫でながら、にとりは優しく呟く。

 

にとり「まったく...人にあんなこと言っておきながら、自分が死にかけてるんじゃないか...でも、ありがとう、盟友...」

文「あやや、決定的瞬間は逃してしまいましたか...でも、スクープじゃないですが...」

 

戻ってきた文は、玄武の沢とにとり、彼女の膝で眠る早苗とタケルをレンズに写すと──

 

文「いい絵、ですね。」

 

──その美しい風景をカメラに残すのだった。シャッターを切る音で文に気づいたにとりは、背中越しに声をかける。

 

にとり「文か...あなたと椛が早苗たちに頼んでくれたんでしょ?文も椛も、相変わらずお人好しな天狗だね。私の周りには、こんなお人好しな..."盟友"がたくさんいるんだ...やっぱり、死んでなんていられないな。」

 

電気眼魔に利用された研究は形にならなかったが、にとりはどんな発明品よりも価値のあるものに気づくことができた。にとりの呟いた言葉に、眠っている早苗とタケルが少し微笑んだのは、気のせいではないのだろう...

 

文「あれ、そういえば椛はどこまで逃げたんでしょう?まったく、いくつになっても怖がりですね...ま、そういう所が可愛いんですけど!」

 

 

〜次回予告〜

 

真司「くっそ...なんなんだコイツら!?」

 

翔一「俺たちもお手伝いしますよ!」

 

神子「行きましょう、翔一君!」

 

神子・翔一「「変ッ身!!」」

 

???「龍騎、八坂神奈子...ここであなたを倒す!!」

 

第17話 〜光炎の双龍〜

 

目覚めろ、その魂!




第16話、ここまで読んでいただきありがとうございました!

今回はちょっと展開を早くしたので、雑さを感じてしまうかもしれませんが、どうでしたか...?ですが、早苗の回想は彼女の核心の片鱗ですので、かなり重要な回でもあります。

次回は、ジャガーロードを引き受けた神奈子たちのターン。予告から分かる通りアギト編でもあり、神奈子と何者かが闘う龍騎編の始動回も兼ねています!かなり難しい回になりそうですが、頑張りますね!

それでは、チャオ〜!


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第17話 〜光炎の双龍〜

皆さん、ご無沙汰しております!なかなか時間と活力が足りずに、更新が遅くなって申し訳ないです!やれる範囲で続けて行くので、これからもよろしくお願いします!


神奈子「こんのっ!!」

 

早苗と電気眼魔が争っているころ、ジャガーロードを引き連れて妖怪の山に入り込んだ神奈子は、ドラグシールドでジャガーロードを殴りつける。怯んだジャガーロードは距離を取ると、唐突に木の上に登り始めた。

 

真司「な、なんだ?どうしたんだアイツ!?」

神奈子「逃げようったって、そうはいかないよ!派手に行こうじゃないか!!」

 

『STRIKE VENT』

 

一枚のカードをベントインし、ドラグレッダーの頭部を模したグローブタイプの武器──"ドラグクロー"を右手に装備した神奈子は、木の上のジャガーロードに狙いを着けると、ドラグクローの口内で炎を滾らせる。

 

真司「ちょちょちょ!?こんなとこで炎出したら大惨事だって!!」

神奈子「あぁっ!?そんなこと言ってる場合か!いいからぶっ放すよ!!」

 

真司の制止を一蹴した神奈子は、ジャガーロードに向けて炎弾を放つ。だが、その炎弾の大きさは小さめで、山を焼くことがないように配慮されており、真司はホッと胸を撫で下ろす。

 

ジャガーロード「グルゥッ!」

神奈子「ちょこまかと逃げ回りやがって!」

 

だが、ジャガーロードは軽快に木と木を渡り、すべての炎弾をひらりとかわす。ジャガーロードを狙う神奈子が上に気を取られた瞬間──

 

トリスティス「シャァッ!!」

神奈子「なにっ!?」

 

──別の木の上から飛び出して来た、黄色いマフラーを纏った黒いジャガーロード──"パンテラス・トリスティス"が、その手に持った"貪欲の槍"で神奈子の背中を切り裂いた。虚をつかれた神奈子が体勢を崩した瞬間を見計らい、飛び回っていた赤いマフラーのジャガーロード──"パンテラス・ルテウス"も攻勢に転じる。二人のジャガーロードのスピードに翻弄され、槍や蹴りで攻撃を受けた神奈子は、ルテウスのソバットキックで吹き飛ばされる。片膝を着きながらも、神奈子はジャガーロードたちを鋭い眼光でにらみつけた。

 

真司「もう一匹いたのか...!」

神奈子「獣のくせに、なかなか知恵が回るじゃないか...!!」

 

ジャガーロードたちはZを描くように指を動かし、何かに祈りを捧ぐと、神奈子に手のひらをかざす。すると、その手から放たれた超常的な念力波で、神奈子の身体が木の幹に押し付けられる。否、押し込まれていると言ったほうが正しい。徐々に身体が幹の中に吸い込まれ、呑み込まれているのだ。それに気づいた神奈子は、未知の現象にじわりと冷や汗を滲ませた。

 

神奈子「(この力、普通じゃない...!まるで、神の力と同質の...!?)」

真司「くっそ...なんなんだコイツら!?」

 

神奈子はドラグレッダーを召喚して脱出しようと考えるが、すでに右肩が幹に呑み込まれてしまい、腰のデッキには手が届かない。当然、物理的にもがいて抵抗しても意味は成さず、みるみる全身が呑み込まれていく。ついに顔だけになってしまった神奈子が、強く歯を食いしばった瞬間──

 

「はぁぁっ!!」

 

──1騎のバイクが閃光のように駆け抜け、2体のジャガーロードを弾き飛ばした。超能力を発揮していたジャガーロードが体勢を崩したことにより、神奈子も幹の中から開放される。ジャガーロードを吹き飛ばした金色のバイク──"マシントルネイダー"を停止させた男は、ヘルメットを外して神奈子に駆け寄ると、人の良さそうな笑顔を見せる。そして、彼の後ろに乗っていた金髪でヘッドホンのようなものを着けた少女もまた、神奈子の近くに歩み寄る。

 

真司「ぶっはぁ〜...た、助かった〜...」

翔一「いやぁ〜、間に合ってよかった!俺、津上(つがみ)翔一(しょういち)っていいます。アイツらは俺と"神子さん"に任せてください!」

神奈子「まさか、お前たちも...!?」

 

軽く自己紹介を済ませた翔一の言葉に頷いた少女──"豊聡耳(とよさとみみの)神子(みこ)"は、怪訝な視線を向けるジャガーロードたちに勺を突きつけると、声を高らかにして告げる。

 

神子「よく聞け、罪なき命を奪いし下賤な者ども!この聖徳道士、豊聡耳神子が貴様らを成敗してくれるっ!!」

 

神奈子のそばを離れた翔一は、自信作の口上を述べて満面のドヤ顔を決める神子の隣に並ぶ。それに気づいた神子は、彼を横目に声をかける。

 

神子「行きましょう、翔一君!」

翔一「はいっ!」

 

神子の呼びかけに応えた翔一は、眩い金色の光に変貌して神子の魂に融合する。翔一とシンクロした神子は、キレのいい動きで左腰で両手を交差させ、右手を一度前に突き出してから右胸に引き寄せる。すると、神子の腰に光の渦が巻き、"賢者の石"が埋め込まれたベルト──"オルタリング"へと変化した。光り輝く賢者の石を目の当たりにしたルテウスは、初めて人間の言葉をこぼす。

 

ルテウス「アギト...!」

 

指を真っ直ぐに揃えた右手を、ゆっくりと前に伸ばした神子は、翔一と息を合わせて叫ぶ。

 

神子・翔一「「変ッ身!!」」

 

神子が両手でオルタリングのサイドスイッチを押すと、賢者の石の輝きがより一層強くなり、神子の全身を包み込む。やがて収まった光の中から現れた神子は、黒いブローチを胸に備えた神々しい金色の衣装に身を包み、瞳には赤い輝きを宿している。さらに、額には2つに分かれた金色の角──"クロスホーン"が装着されている。神子は、大地の力を宿し、超越肉体を誇る金のアギト──

"仮面ライダーアギト グランドフォーム"を模した姿へと変身したのだった。

 

神子「さて、行きますか!」

神奈子「そうはいかないよ...商売敵の道士に助けられっぱなしじゃ、山の神の名がすたっちまうからねぇ!」

真司「そうそう!俺たちだってまだ戦えるって!」

翔一「なら、俺たちもお手伝いしますよ!一緒にやりましょう!」

 

そうして並びたった神奈子と神子は、2体のジャガーロードとにらみ合うと、それぞれトリスティスとルテウスに突撃する。

 

神奈子「うぉらっ!」

 

トリスティスに狙いを定めた神奈子は、全力のラリアットをぶち当てる。怯んだトリスティスは貪欲の槍で反撃するが、それを読んでいた神奈子は半身で刺突を回避し、左手で貪欲の槍の柄を握る。

 

神奈子「虚を突かれなけりゃ、負ける道理はないっ!」

 

神奈子はトリスティスの顔面に右肘で肘打ちを叩き込み、奪い取った貪欲の槍で連撃を喰らわせる。

 

一方、ルテウスを相手取った神子は、撹乱しようと高速で動き回るルテウスに振り回されることなく、ルテウスの出方を伺う。やがて死角から神子に飛びかかったルテウスだったが、感覚を研ぎ澄ませていた神子は素早く振り返り、ルテウスの振るった爪を右腕の手甲で防ぐ。

 

神子「ハアッ!」

 

ルテウスの胸部にすかさず拳を打ち込んだ神子は、ルテウスの攻撃をすべていなし、的確なカウンターでダメージを与えていく。

 

神子の輝きを込めた拳で吹き飛ばされたルテウス、神奈子に自分の獲物で切り裂かれたトリスティスは、同じ場所に転がってくる。2体のジャガーロードを挟み込んだ神子と神奈子は、トドメを刺すために必殺技の構えに入る。

 

神奈子「さて、一気に終わらせるよ!」

『FINAL VENT』

 

貪欲の槍を投げ捨てた神奈子は、ファイナルベントカードをベントインして、ファイナルベントを発動する。飛来したドラグレッダーが神奈子を中心にとぐろを巻き、神奈子は低い姿勢で気合を溜める。

 

神子「はぁぁぁっ...!」

 

クロスホーンを六本に展開した神子が両腕を開くと、その足元に金色のアギトの紋章が浮かび上がる。左腕をしめて上半身を捻り、神子がすっと左足を引くと、紋章のエネルギーが右足に収束していく。

 

神子・神奈子「「はぁっ!」」

 

それぞれの力を高め、同時に飛び上がった二人はジャガーロードたちに向けて飛び蹴りを放つ。神子が繰り出した、大地の力を込めた飛び蹴り──"ライダーキック"はルテウスの首元を捉え、炎を纏った神奈子のドラゴンライダーキックはトリスティスを弾き飛ばす。勢いのままに地面を滑走した神奈子に対し、スッとその場に着地した神子は、変身した時と同じ構えを取り、上半身をひねってジャガーロードに背を向ける。その瞬間、フラフラと立ち上がったジャガーロードたちの頭の上に、天使のような光の輪が浮かび──

 

ジャガーロード「「グォォォォォッ...!」」

 

──跡形もなく爆発四散した。危なげなくジャガーロードを退けた神子と神奈子は、少し気を緩めて変身を解除する。光とともに元の姿に戻った神子は、ジャガーロードたちの爆発跡を眺め、ホッとため息をついた。

 

神子「ふぅ...片付きましたか。」

神奈子「ちょっと悔しいが...ま、一応、礼は言っておくよ、ありがとう。」

神子「いえ、礼には及びませんよ。とりあえず、一つ貸しということで。」

 

神奈子の言葉を受け止めた神子は、人差し指を立てて茶目っ気のある笑顔を浮かべる。

 

真司「いやぁ、本当にありがとう!他のライダーに、理由もなく助けてもらえるなんて...幻想郷って素晴らしい場所だなぁ...!!」

翔一「あはは、君も苦労してきたみたいだね。困ったときはお互い様っていうし、俺たちがピンチのときは助けてもらっちゃおうかな?」

真司「はいっ、そりゃもちろん!大船、いや大型客船に乗ったつもりで任せちゃってください!!」

 

キラキラと輝く瞳で自分の手を握る真司に、翔一は気さくに言葉を返す。だが、次の神子の言葉で、和気あいあいとした雰囲気は一瞬で覆った。

 

神子「さて...居るのは分かっています。コソコソと隠れていないで、出てきたらどうです?」

真司「へっ...?」

 

大きな声で誰かに語りかけ、鋭い眼光で山の上方をにらみつける神子に、真司は間抜けな声とともに同じ方向を見る。すると、その視線の50mは先にある木の裏から、銀の鎧を纏った蒼い少女が姿を表した。顔の大部分を鉄仮面で覆う、彼女の腰に巻かれたVバックルには、コウモリを象ったカードデッキが収められている。

 

真司「ナイ...ト...!?う、嘘だろ...!?」

神奈子「ん...?おい、どうした真司?」

 

見るからに動揺する真司をよそに、"仮面ライダーナイト"の力を纏う少女は神子に声をかける。

 

ナイトの少女「ここに私がいると、この距離でよく分かりましたね?」

神子「私は耳が良くてね、君の張り詰めた意識ははっきりと聴こえたよ。この八坂の神への、"殺意"も...ね?」

 

神子の言葉が図星だったのか、少女は口元をわずかに動かしたが、すぐに口をつぐむと、腰に提げている細身のサーベル──"ダークバイザー"を抜いて、その切っ先を神奈子に向けた。

 

ナイトの少女「そこまで知られているなら、話は早いです...龍騎、八坂神奈子...ここであなたを倒す!覚悟!!」

 

一方的に宣戦布告した少女は、目にも止まらぬ速さで山を駆け下り、一直線に神奈子を狙ってダークバイザーを一閃する。

 

神奈子「おっと...!」

 

ダークバイザーでの奇襲を間一髪で回避した神奈子は少女の追撃をかわすと、心ここに非ずな真司を連れて距離を取る。

 

神奈子「この私を狙うか...ふふっ、血が騒ぐねぇ!ちょっくら相手になってやろうじゃないか!来い、真司!!」

真司「...わ、わかった!」

 

神奈子・真司「「変身ッ!」」

 

自らを狙う刺客に血を滾らせる神奈子は、真司に喝を入れて、再び龍騎の姿に変身する。追撃を続ける少女の攻撃を防いだ神奈子は、少女と組み合いながらこの場から離れていく。

 

神子「あっ、ちょっ...!?翔一君、私たちも!流石に殺神未遂を見過ごすわけにはいかない!」

翔一「は、はい!」

 

置いてけぼりにされた神子と翔一もその後を追うが、組み合ったままの神奈子と少女は、その勢いのまま近くの滝つぼに飛び降りた。

 

神子「なっ!?」

翔一「う、うそでしょっ!?」

 

この崖から滝つぼまで、直線距離で100メートルはある。神奈子の行動に愕然とした神子は慌てて滝つぼを覗き込むが、滝つぼの水面には波一つ立ってはいなかった...

 

 

神子の心配をよそに、水面を鏡に見立ててミラーワールドに突入した神奈子とナイトの少女は、苔むした岩場で激突していた。2人は互いに距離を取ると、ソードベントカードをベントインする。

 

『『SWORD VENT』』

 

ドラグセイバーを装備した神奈子、漆黒の大槍──"ウイングランサー"を装備した少女は、鬼気迫る剣幕で激しく鍔迫り合う。

 

神奈子「神殺しを狙うなんて...祟られても知らんぞ?」

ナイトの少女「上等です...!祟りだろうが、呪いだろうが、全てを背負ってでも...私は"願い"を叶えるッ!!」

 

気迫とともに神奈子を押しのけた少女は、流れるようにウイングランサーを振るい、神奈子の防御を崩して少しづつダメージを与え始める。

 

神奈子「ぐっ...!結構やるじゃないか!」

『GUARD VENT』

 

ナイトの少女「無駄です!」

 

劣勢を感じた神奈子は、ドラグシールドを装備して耐久を高めるが、追撃を続ける少女はすかさず一枚のカードをベントインする。

 

『TRICK VENT』

 

電子音に合わせ、2人、3人と分裂し、最終的に5人に分身した少女は、神奈子を取り囲むように並び、守りの薄い背中を攻撃する。

 

神奈子「なにっ!?」

 

ガードベントの弱点を一瞬で見抜かれたことに動揺した神奈子は、されるがままに5人の猛攻を受け、大きく吹き飛ばされた。分身と一体化して1人に戻った少女は、水しぶきを上げて川に転がる神奈子を見下ろす。

 

ナイトの少女「無駄だと言ったでしょう...私は眼がいいんです。貴方の手の内は、先程の戦闘で見させてもらいました。」

真司「それで、あそこに居たのか...!?」

神奈子「ずいぶん、姑息な真似してくれるじゃないか...!だが...」

 

『STRIKE VENT』

 

少女の戦い方に苦言を呈した神奈子は、重しになるドラグシールドを投げ捨て、代わりにドラグクローを装備する。

 

真司「(神奈子さん、どうするつもり...?こいつもさっき使っちゃってるじゃん!)」

神奈子「(いいや...こいつの全力は、まだ見せてないだろ?ここなら問題ないよな、真司!)」

真司「(あっ、そうか!!)」

 

ナイトの少女「そんな豆鉄砲、威力も知れたものです!」

 

神奈子たちの思惑など露知らず、少女はドラグクローを構える神奈子に向けて一直線に突撃する。少女を待ち構える神奈子は、右腕を限界まで後ろに引き、ドラグクローの口内に業火を滾らせた。

 

神奈子「はぁぁぁぁ...おらぁっ!!」

ナイトの少女「っ!?」

 

神奈子の渾身の叫びとともに、ドラグクローから放出された業火は、少女の身体を正面から覆い尽くし、川の水を干上がらせる。最大火力の炎を正面から受けてしまった少女は、露出した川底に力なく膝をつく。

 

神奈子「策士、策に溺れるとは、まさにこのことだな。戦場に置いて最も恐ろしい敵は、自分自身の慢心、恐怖、迷いといった感情だ。覚えときな!」

ナイトの少女「ぐっ...!!」

 

神奈子の言葉に言い返すこともなく、ただ唇を噛んだ少女の身体から、粒子が放出され始める。それは、ミラーワールドでの活動限界を示していた。

 

神奈子「ずいぶん勝負を急いでいたからな、そっちの方が先に時間切れみたいだな?もっと強くなって、また来るといい...」

 

どこか期待を込めたような笑みを浮かべて、神奈子は言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

神奈子「いつでも、相手になってやるよ..."椛"。」

 

 

 

 

ミラーワールドから抜け出し、玄武の沢のほとりで変身を解除したナイトの少女──犬走椛は、どうにも気まずそうな顔で神奈子に尋ねる。

 

椛「いつから、気づいていたんですか...?」

神奈子「決定打は、"眼がいい"って言葉だ。お前の能力は、確か千里眼だったよな?それに、最初にしかけてきた時の動きは、山に慣れてるやつの動きだった。妖怪の山の哨戒を担ってる白狼天狗なら、それも説明がつく。ま、こんなところさ。」

 

少し自慢げに根拠を上げた神奈子。その隣にいた真司は、いつになく真剣な表情で椛に詰め寄ると、一つの質問を投げかける。

 

真司「ねぇ、椛ちゃん。さっき言ってた、"願いを叶える"って、どういうこと...?」

神奈子「あぁ...そういや、そんなことも言ってたね。」

 

真司の言葉、神奈子の反応を目の当たりにした椛は、驚愕と困惑が入り混じったような表情を浮かべる。

 

椛「えっ...!?ご、ご存知ないんですか...?私はてっきり、神奈子様もそのために戦っているのだと...」

神奈子「ん?どういうことだ?」

椛「えっと...」

 

真司「"ライダーバトル"だ...」

 

説明しようとした椛の言葉を遮り、真司ははっきりと宣言した。今までの真司とはまるで別人のような雰囲気に、神奈子と椛は何も口を挟まず、次の言葉を待つ。

 

真司「ライダーに選ばれた人間が、ミラーワールドで命を賭けて、最後の1人になるまで戦い続ける。最後に残った1人は、どんな願いでも叶えることが出来る...それがライダーバトルだよ。」

椛「そ、そのとおりです。そんな伽話、馬鹿馬鹿しいとは思いましたが、それでも...私にはこの方法しか...!」

 

真司の説明に頷いた椛は、少しうつむいてぐっと拳を固めた。そんな椛の肩を掴み、真司はもう一度問いかける。

 

真司「なぁ!ライダーバトルの話は、誰から聞いた!?」

椛「こ、このカードデッキを渡してきた、黒いローブを纏った者から...」

 

椛の返答を受けた真司は、彼女の肩から手を離し、地平線に沈みゆく夕焼けをぼんやりと見つめる。

 

真司「(誰が、ライダーバトルを仕掛けたんだ...!?なんのために...!?...いや、でも俺のやることは、願いは変わらない!俺は...)」

 

勢いよく振り向いた真司は、いつもと変わらない朗らかな笑顔を見せると、神奈子と椛に宣言する。

 

真司「決めたっ!今日はみんなでご飯食べよう!!翔一さんも、神子さんも、文ちゃんやにとりちゃんも呼んで、もちろん椛ちゃんもね!!」

 

神奈子・椛「「はぁっ!?」」

 

真司「いいから、行こう!俺が用意するからさ!自分で言うのもなんだけど、俺の特製餃子、絶品なんだぜ〜!!」

 

仮にも殺し合った相手と一緒に飯を食べろ、という真司に思わず顔を見合わせる神奈子と椛。動揺する二人の肩に手を回した真司は、有無を言わさずに連れて行く。

 

真司「(今度こそ、俺が戦いを止めてみせる!!)」

 

 

 

 

その晩、翔一と真司によって振る舞われたご馳走を酒の肴に、守矢神社では宴会が開かれた。その後、神子を追ってきた神霊廟の面々や、ご馳走の匂いを嗅ぎつけた山の妖怪、しれっと参加していた紫などが乱入し、いつの間にやら大宴会となった。その騒ぎも静まった夜更け、文やにとりたちと離れた椛は、縁側で1人、酒を呑んでいた神奈子の隣に腰を降ろす。

 

椛「...なぜ、私を殺さなかったんです?」

神奈子「ん〜?まぁ、お前が本気じゃなかったからかねぇ...勝負を焦ってたのは、迷いを押し殺そうとしてたからだろ?殺す覚悟がない奴を、殺すつもりはないさ。それに...」

 

そこで言葉を切った神奈子は、今日出会ったばかりの妖怪たちと騒ぎ疲れて爆睡している真司を目の端に、小さく広角を上げた。

 

神奈子「あのバカがいるからね...私たちのわだかまりを無くすためだけに、こんな宴会を催したんだ。まったく、大したやつだよ。」

椛「えぇ...本当にそうですね。彼を見ていると、自分のしていたことが馬鹿らしく思えてきます...」

 

自責の念に駆られている椛の心を見透かした神奈子は、優しく言葉をかける。

 

神奈子「でも、なにを犠牲にしても叶えたい願いってのは...分からなくもない。もし、本当にどんな願いも叶うなら...」

 

 

 

(「神奈子様、諏訪子様...どうか、あの子をよろしくお願いします...」)

 

 

 

どこか思い詰めるような顔で月を見上げた神奈子は、盃に残っていた酒を一気に飲み干した...

 

神奈子と椛、熾烈なライダーバトルに巻き込まれた2人は、幾多の願いと迷いの狭間で戦うことになる。その最果てに待つものはなにか──

 

 

──それは、神のみぞ知る。

 

 

〜次回予告〜

 

小悪魔「パチュリー様!天井から成人男性が!!」

 

パチュリー「貴方は何者なの?」

 

晴人「あぁ、俺?俺は、"最後の希望"さ。」

 

咲夜「わ、私は...なんてことを...!あぁ...あぁぁぁっ!!」

 

パチュリー・晴人「「変身。」」

 

『フレイム!プリーズ!ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!』

 

パチュリー・晴人「さぁ、ショータイムよ。」「さぁ、ショータイムだ。」

 

第18話 〜大図書館のショータイム〜




書き終わって気づいた...これって、アギト回だったよね〜!?気づいたら、ほとんど龍騎だったのです...アギトファンの方には申し訳ないのですが、別に不遇な扱いにしようって訳じゃないのでご安心下さい!

それでは、チャオ〜!


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第18話 〜大図書館のショータイム〜(1)

こんにちは、シェインです!いやぁ、本当にお久しぶりですね...危うく連載が終わるとこでした(半年更新がないと、次話が投稿できなくなるとか、そんなんがあった気がする。たぶん。)

ということで、なかなか手が回らない状況が続いていましたが、なんとか急ピッチで仕上げたので、いつもより少し短めになります。


紅魔館の地下、実態が把握できない程の空間を埋め尽くす量の蔵書を有する大図書館。その主とも言える、紫を基調とした服装の魔少女──"パチュリー・ノーレッジ"は、古ぼけた書物のページをめくる手を止めると、目の前の長机に用意された紅茶に口をつける。

 

パチュリー「ふぅ...やっぱり、紅茶は咲夜が淹れたものに限るわね。ダージリンのストレート、完璧よ。」

咲夜「ふふ、お褒めに預かり光栄です、パチュリー様。3日ぶりで腕が鈍ってないか心配だったのですが、ホッとしましたわ。」

 

そばに控える咲夜が淹れた紅茶を味わい、顔をほころばせるパチュリー。というのも、咲夜が休養していた間、パチュリーはろくな目に合わなかった。自身の使い魔──"小悪魔"は、紅茶を淹れては茶葉の分量を間違えたり、フランと、彼女にせがまれたユウスケが大図書館で遊び回って蔵書を滅茶苦茶にしたり...とまあ散々な目にあってきたのだ。そんな愚痴は零さず、パチュリーは病み上がりの咲夜の身体を気にかける。

 

パチュリー「3日くらいで大袈裟ね。ほんとに、もう身体は大丈夫なの?」

咲夜「もちろんです。むしろ、これ以上寝ていたら自責の念で身体を壊しそうですよ。」

パチュリー「そう...なら、いいんだけど。」

咲夜「では、私はそろそろ他の仕事に戻ります。ごゆっくり。」

 

軽い冗談を交えながら軽く挨拶した咲夜は、指をパチンと鳴らして一瞬で姿を消す。咲夜が佇んでいた場所を見つめるパチュリーは、彼女の身に起きた出来事を思い返していた。

 

パチュリー「(咲夜がおかしな小箱を身体に挿して変貌した"化け物"...それに対抗できる、渡や士のような"仮面ライダー"という存在。間違いなく、この2つには繋がりがあるはず...そもそも、なぜ幻想郷に化け物や仮面ライダーが現れるように...)」

小悪魔「きゃああああああ!?」

 

ノーレッジ(知識)の姓を冠するパチュリーの頭脳を巡る思考は、例のトラブルメーカー、小悪魔によって遮られることになった。小悪魔の耳をつんざくような絶叫の後に、何十冊もの本が落下する音、そして本棚の倒れる轟音が大図書館に響き渡った。ため息を一つこぼし、頭を抱えたパチュリーは、ガタッと立ち上がり全力で声を張り上げた。

 

パチュリー「まったく、あの娘は...こあぁぁぁぁぁ!!」

 

 

ドミノ倒しになった本棚の下にパチュリーが駆けつけると、取り乱した様子の小悪魔が、赤い髪をなびかせながら彼女に駆け寄る。

 

小悪魔「た、た、大変です、パチュリー様!て、天井から成人男性が!!」

パチュリー「もう!言うに事欠いて、どこぞのジ○リみたいな言い訳しないの!蔵書は丁寧に扱いなさいって、いつもあれほど...」

小悪魔「ち、違うんですよぅ!ホントなんですって〜!ほら、そこに倒れてる人が...!」

 

半泣きの訴えを受けたパチュリーは、呆れ半分、不信半分のジト目で、小悪魔が指差した本の山を覗き込む。そこには、黒いジャケットに赤いズボンを履いた男が、本に紛れるようにして倒れ込んでいた...

 

 

 

「...ぅん...?...ここは...?」

パチュリー「おはよう、コソドロさん。気分はいかがかしら?」

「えっ...?ちょっ!?なにこれ!?」

 

目を覚ました男は、パチュリーの作り出した魔法陣によって椅子に拘束されており、困惑したような表情を見せる。そんな彼の対面に座り、冷徹な目で見下すパチュリーは、淡々と尋問を開始する。

 

パチュリー「まず聞くわ。貴方は何者なの?」

「ん?...あぁ、俺?俺は、"最後の希望"さ。」

パチュリー「...はぁ?よくこの状況でふざけられるわね...」

小悪魔「パチュリー様...もしかしてこの人、アブナイ人なんじゃ...!?」

 

早々に冷静さを取り戻し、突拍子も無い返答した男。隣に立っていた小悪魔の囁きに、パチュリーも苦い顔をする。

 

晴人「へぇ、パチュリーちゃんっていうんだ。俺、操真(そうま)晴人(はると)、よろしく。」

パチュリー「あ、よ、よろしく...って、違う違う!あ〜もう!調子狂うわ...」

 

掴みどころがない晴人の態度に振り回され、パチュリーは小さくため息をつく。威圧的に問いただすことを諦めたパチュリーは、軽い口調で質問を続ける。

 

パチュリー「で、この紅魔館になんの用?とてもじゃないけど、普通の人間が来る場所じゃないわよ?」

晴人「それが、まるで心当たりがないんだよな...俺はドーナツ食べてただけなんだけど。」

パチュリー「なんの予兆もなく、この世界に...?貴方、もしかして仮面ラ──」

 

パチュリーが核心に迫る質問を口にした瞬間、地下に広がる大図書館を震わせるほどの爆発音が響き渡った。

 

パチュリー「な、何っ...!?」

小悪魔「あわわ...!まさか、また化け物が!?」

晴人「化け物...?パチュリーちゃん、一体...」

パチュリー「貴方との話は後!おとなしくしてて!こあ、行くわよ!」

小悪魔「あ、はい!」

 

晴人「ちょっと、パチュリーちゃん!?...うそーん...って、なんかデジャヴ...しょーがないか。」

 

明らかな異変を肌で感じ取ったパチュリーは、小悪魔を従えて大図書館を飛び出していく。そして、椅子に拘束されたまま取り残された晴人は、動きの制限された手で懐を探りだすのだった...

 

 

〜晴人が目覚める数分前〜

 

色とりどりの花が咲き誇る、広大な花壇を眺めることができるテラスで、レミリアとフラン、そして士とユウスケは、一つのテーブルで顔を突き合わせ、真剣な眼差しでにらみ合う。そして、次の瞬間、全員がテーブルに5枚のカードを叩きつけた。

 

フラン「イェーイ!フルハウスで、わたしの勝ち♪」

士「チッ...ストレートでも駄目か...」

ユウスケ「いや、二人がレベル高すぎるんだって!俺なんかツーペアだからな!?レミリアちゃんは...」

レミリア「なぜ1枚も揃わない...?運命は私を見放したの...?」

ユウスケ「あー...なんか、ごめんね。」

レミリア「だぁー!もっかいよ!こうなったら私が勝つまでやるんだから!!」

 

すでに14回連続で最下位の座を守り続けているレミリアは、ムキになって再戦を申し込む。ポーカーで盛り上がる4人の下に、咲夜と渡がそれぞれの飲み物を手にやって来た。

 

咲夜「お楽しみのようで何よりです、皆様。お飲み物をお持ちいたしました。」

渡「レミリアさんが紅茶、フランさんがミルクティー、士さんとユウスケさんはコーヒーですね。」

咲夜「えぇ。さすがは渡くん、覚えがいいわね。」

 

それぞれの飲み物を手早く配置していく渡に、咲夜は優しく微笑みかける。和やかな雰囲気の二人を見守るレミリアもまた、安心したように笑みを浮かべていた。

 

士「ふっ、ご苦労。なかなか悪くないもんだな、主人ってのは。」

ユウスケ「誰が主人だ、士はただの居候だろ!どっから来るんだその横柄な態度は!ホントにすみません、咲夜さん。」

咲夜「いえいえ、客人の言葉一つで腹を立てるほど、心の貧しい人間ではありませんよ。それに、私が休養している間、色々と手伝って下さっていたのも、知ってますし...ね。」

士「...別に。この世界のことを知るついでの、ただの暇つぶしだ。」

 

咲夜に遠まわしに感謝を伝えらえた士は、照れ隠しのつもりなのか、そっぽを向いてコーヒーをすする。そんな穏やかな時間の流れる庭先に、一人の鴉天狗が降り立った。

 

鴉天狗「あの〜、すみませ〜ん!ちょ~っと取材よろしいですか〜?」

咲夜「なんでしょう、あの怪しげな男は...?」

 

鴉天狗の男に気づいた咲夜は、どこか怪しげな雰囲気に訝しげな顔をしつつも、対応するために彼のもとに向かう。

 

咲夜「悪いけど、取材ならお断りよ。」

鴉天狗「いやいや、そう言わずに!あなたにだって、無関係な話じゃないはずですよ〜?」

咲夜「...どういう意味かしら?」

 

ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた鴉天狗は、ジャケットの胸ポケットから何枚かの写真を取り出し、咲夜に見せつける。その写真の一枚目には、変身したレミリアに襲いかかるタイム・ドーパントの姿が写されていた。それを見た瞬間、咲夜の頭に激痛が走る。

 

咲夜「っ...!これは...!?」

鴉天狗「この紅魔館の主、レミリア・スカーレットは、つい最近化け物に命を狙われた。そして、その凶刃は彼女の妹君であるフランドール・スカーレットにも向けられた!」

 

頭痛に苛まれる咲夜をまくし立てる鴉天狗が示した二枚目の写真には、変身したフランと交戦するタイム・ドーパント。それ以降の写真にも、タイム・ドーパントがスカーレット姉妹と戦いを繰り広げている様子が収められていた。一枚、また一枚と、写真がめくられるたびに、咲夜の頭痛は強く、激しくなっていく。

 

咲夜「はぁ...くぅ...!?」

鴉天狗「ククク...そして、その化け物の正体は〜...」

 

咲夜の苦しそうな表情を見た鴉天狗は、勝ち誇ったかのように笑い、最後の一枚の写真を突きつける。そこには──

 

鴉天狗「...お前だ。」

咲夜「...あっ...」

 

──咲夜がタイム・ドーパントに変貌する、正にその瞬間が記録されていた。それを見た瞬間、咲夜の中で失われていた記憶が激流のようにフラッシュバックし、この写真が真実であると裏付けていった。力なく座り込んだ咲夜は、両手で頭を抱えて小さく呟く。

 

咲夜「そうだ...私があの化け物になって、お嬢様や妹様を...わ、私は...なんてことを...!あぁ...あぁぁぁっ!!ゔぁあああああ!?」

士「咲夜...!?」

 

咲夜の叫び声で彼女の異変に気がついた士たちは、すぐさま彼女のもとに向かおうとするが──

 

蒼「はーい、みんなそこでストップ!」

ルーナ「申し訳ありませんが、彼女を救われては困るんです。」

 

──それを妨害するように現れた蒼とルーナが、士たちの前に立ちはだかった。

 

【To Be Continued...】




第18話(1)、閲覧いただきありがとうございました!ちなみに晴人のデジャヴというのは、ウィザード第一話の拘置所でのシーンのことです。(身動きが取れないまま置いていかれる、という共通点がある)

晴人との邂逅を果たしたパチュリー、自分の過ちを思い出した咲夜、そして士たちの前に立ちはだかったタイム・トラベラーズの二人!次回は、レミリア&フランと蒼&ルーナが激突しますよ〜!お楽しみに!

それでは、チャオ〜!


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第18話 〜大図書館のショータイム〜(2)

こんにちは、シェインです!今回は比較的早めに更新できました〜!

では早速、第18話パート2!どうぞ!


フラン「キミは、初めて士と会ったときの...!」

士「今度はガールフレンドまで連れて、いったいなんの用だ?」

 

初シンクロの際に蒼と面識があった士は、冗談半分で要件を訊く。だが、士の意図には反して、蒼の隣に整然と佇んでいたルーナが、突然、そのクールな表情を真っ赤にして口火を切った。

 

ルーナ「ガ、ガガ、ガールフレンド!?い、いやいやいや、私はそんなんじゃなくて...!もちろん蒼くんのことは大好きで、なんでもしてあげたくて、とっっても特別な人ですけど!私はそんなんじゃなくて...ただ、傍に居ることができればいいなっていう...そういう!ごくふつ〜のメイドですから!!」

士「あ、あぁ...そうか、だいたい分かった...」

 

活火山のようなルーナのマシンガントークで圧倒された士は、若干の引き気味でうなずいた。一方で、不思議そうな顔をした蒼は、ルーナを見つめて首をかしげる。

 

蒼「う〜ん...?ルーナは、僕にとって普通のメイドじゃないよ?」

ルーナ「ふえっ...!?そ、そ、それって...!?」

 

蒼にまっすぐ見つめられてより一層赤くなったルーナは、顔から湯気を出しながら目を回す。そんな彼女の様子もお構いなしに、蒼は言葉を続けた。

 

蒼「何度も言ってるでしょ?君は、僕の大事な"家族"だよ...紅蓮たちと同じようにね!」

ルーナ「...あ、はい。そ、そうでしたね!ごめんなさい、私ったらうっかりしてました!あはは...はぁ...」

蒼「あれっ?ちょっと、顔が赤いよ!?大丈夫?熱はない!?」

ルーナ「はわわ...だ、大丈夫ですよ〜!」

 

どこかちょっと残念そうなルーナと、ようやく顔色の変化に気づいて彼女の額に手を当てる蒼。唐突に現れた正体不明の二人組の惚気コントを見せられた紅魔館の面々は、あまりに温度差のある展開に呆然とする。

 

レミリア「ちょっと!どこの誰だか知らないけどがイチャつくなら他所でやってくれないかしら!?こっちは急いでるのよ!!」

蒼「あははっ、ごめんごめん!それじゃあ、そろそろ...始めようか?いくよ、ルーナ。」

ルーナ「はい、お任せください。」

 

しびれを切らしたレミリアの一喝に、蒼は苦笑と共に謝罪すると、懐から取り出したジクウドライバーを装着する。彼の呼びかけに従うルーナもディリュードライバーを装着し、それぞれジオウライドウオッチ、ディリュードのカードを構える。

 

『ジオウ!』

『カメンライド...』

 

蒼・ルーナ「「変身。」」

 

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!』

『ディリュード!』

 

それぞれジオウ、ディリュードの姿に変身した蒼とルーナは、鋭い眼光で士たちを見据える。二人の変身を目の当たりにした紅魔館の面々に、一気に緊張が走った。

 

レミリア「上等じゃない!渡、キバット!」

キバット「おっしゃぁ!さっさと片付けようぜ!」

フラン「面白い人たちだね!ちょっと遊んでみよっか、士!」

士「まぁ、少しは楽しめそうだな。ユウスケ、お前は咲夜を助けてやれ。」

ユウスケ「あぁ、わかった!」

 

ユウスケに咲夜の救出を任せ、パートナーとシンクロしたレミリアとフランは、各々のドライバーを装着して変身の構えを取る。

 

『ガブッ!』

『カメンライド...』

 

レミリア・フラン「「変身!」」

 

『ディケイド!』

 

レミリア「さぁ、行くわよフラン!」

フラン「足を引っ張らないでよね、お姉様!」

 

キバの姿に変身したレミリアはルーナに、ディケイドの姿に変身したフランは蒼に、それぞれ攻撃を開始する。一方、機をうかがっていたユウスケは、二人が交戦し始めたのを見届けると、一目散に咲夜のもとへ駆け出した。

 

ユウスケ「おい、アンタ!咲夜さんから離れろ!ぐっ!?」

 

鬼気迫る剣幕で鴉天狗に迫るユウスケだったが、鴉天狗はまるで動じることなく、ユウスケの首を掴み上げる。

 

鴉天狗「そう喚くな...この女は絶望し、生まれ変わるだけだ。俺と同じ、"ファントム"になぁ!」

 

そう言い放った鴉天狗──"ラウム"は、黒い羽根を撒き散らしながらその正体を露わにする。大きな黒翼を纏い、まるで大きな鴉のような怪人へと変貌したラウムは、ユウスケをフランたちの方へ投げ飛ばした。

 

ユウスケ「こんの...!だったら!」

 

再び立ち上がったユウスケが腰に両手を添えると、そこにルーミアと同じ"アークル"が浮かび上がる。そして、彼女と同じような動作でアークルのスイッチを押し込んだ。

 

ユウスケ「変身!」

 

アークルのアマダムが赤く染まり、ユウスケは"仮面ライダークウガ マイティフォーム"へと変身すると、再びラウムへと立ち向かっていく。だが、それに気づいたルーナはレミリアを軽く蹴り飛ばし、リュードブッカーから青いフレームの"イリュージョンカード"を取り出すと、手早くドライバーに装填してサイドハンドルを押し込む。

 

ルーナ「あなたのお相手は、こちらですよ。」

 

『イリュージョンライド...エイサイヤミー!』

 

ユウスケ「おわっ!?なんだこいつ!?」

 

ディリュードライバーから放出された光の粒子は、ユウスケの目の前でエイとサイの特徴を合わせ持つ"エイサイヤミー"へと変化し、彼に襲いかかる。

 

レミリア「私を相手によそ見なんて、余裕じゃない!はぁっ!」

 

ルーナの背後から飛び蹴りを放つレミリアだったが、ルーナは後ろ回し蹴りで難なく迎撃すると、あえて柔和な笑顔を見せつけながら、1枚のカードを取り出してドライバーに装填する。

 

ルーナ「もちろんです。あなた程度をあしらうことなんて、日々の雑務よりも簡単なことですもの。」

 

『アタックライド...バインド!』

 

レミリア「ずいぶんバカにしてくれるじゃない!!」

 

ルーナが挑発に乗ったレミリアに手をかざすと、彼女の周囲に6つの魔法陣が展開され、そこから伸びた鎖がレミリアを一瞬で縛り上げる。リュードブッカーを長銃形状の"ライフルモード"に変形させたルーナは、その銃口をレミリアに向けると、冷酷に言葉を続ける。

 

レミリア「なに、この鎖っ!?」

ルーナ「...そして、あなたような愚者を操るのは、もっと簡単なことですよ。"カリスマごっこ"のお嬢様?」

レミリア「きゃあっ...!?」

 

皮肉と共に放たれた銃弾は、鎖を砕きながらレミリアの胸を冷たく貫いた。

 

 

 

フラン「ハアッ!」

蒼「ふっ!」

 

一方、激しい肉弾戦を繰り広げていたフランと蒼は、互いにエネルギーを込めた拳をぶつけ合い、小規模な爆発を引き起こす。互いに爆煙から飛び退いて距離を取った二人は、どこか楽しそうに笑みを浮かべた。

 

蒼「さすがはディケイドの力...フランが継承して間もないのに、既になかなかの強さだね。」

フラン「アハハッ!盛り上がってきたね!それじゃあ、次はこれで遊びましょ!」

 

ライドブッカーから仮面ライダーファイズの描かれたカードを取り出したフランは、それを素早くドライバーに装填してサイドハンドルを押し込んだ。

 

『カメンライド...ファイズ!Complete...』

 

身体に赤いフォトンストリームが走り、ファイズに変身した慧音と同じ姿に変化したフランは、ソードモードに切り替えたライドブッカーを構える。

 

蒼「ファイズの力か...それなら!」

 

『ファイズ!』

 

フランの姿を見た蒼は、ホルダーから銀と黒のライドウォッチ──"ファイズライドウォッチ"を取り外し、カバーを回転させて起動した。そして、ファイズウォッチをドライバーの左スロットに装填すると、ドライバーを勢いよく一回転させる。

 

『ライダータイム!仮面ライダージオウ!アーマータイム!《Complete...》ファイズ!』

 

ファイズを模した各部アーマーに加え、ファイズフォンを象った肩アーマーを装備し、額にピンクの「ファイズ」という文字を冠した蒼は、"ファイズアーマー"へと変身を果たした。ケンモードのジカンギレードを装備した蒼は、不敵な笑みを浮かべながらその刃を軽く撫でると、フォトンストリームと同じ真紅の輝きが刃に宿る。

 

士「"ファイズ"だと...!お前も他のライダーの力を使えるのか...!?」

蒼「フフッ...こっちの方がもっと面白いでしょ?」

 

ファイズ対ファイズの構図を用意した蒼は、動揺する士たちに向かって容赦なく斬りかかるが、フランは咄嗟にライドブッカーで防御する。激しい鍔迫り合いの中、互いの刃が擦れ合い、弾ける火花が蒼とフランの顔を照らした。

 

 

 

一方、蒼とフランが引き起こした爆発を聞きつけたパチュリーと小悪魔は、テラスとは別の出口から紅魔館を抜け出し、誰よりも先に庭先へとたどり着くと、その混沌とした状況に目を疑った。

 

パチュリー「いったい、何が起きて...!?」

小悪魔「パ、パチュリー様!あれっ!咲夜さんが化け物に!!」

パチュリー「...ハァッ!」

 

一瞬は困惑したパチュリーだったが、小悪魔の示した咲夜の姿を目にすると、すぐさま魔法で巻き起こした炎弾をラウムに撃ち出した。

 

ラウム「うぉっ...!?チッ、また邪魔か...!行けっ、"グール"共!」

 

炎弾を羽で防いだラウムは、燃え移った炎を手で消し止めながら、砂利のような灰色の魔石を辺りにまき散らす。すると魔石の1つ1つが、ひび割れた石の身体を持つ鬼のようなファントム──"グール"へと姿を変えて、パチュリーたちに鈍重な動きで迫る。

 

パチュリー「こいつら、あの化け物の下僕...?」

小悪魔「あわわわ!こ、こ、こっち来ますよぉ!?」

パチュリー「なら、迎え撃つだけよ!【月符】サイレント・セレナ!」

 

1枚のスペルカードを発動させたパチュリーは、眼前に展開した魔法陣からグールの群れに極太の光線を放つと、その光線を何本にも分裂させてグールたちを焼き払った。眩いばかりの極光に、目を隠しながらも勝ち誇るように微笑むパチュリーだったが──

 

グール「グゥゥ...」

パチュリー「う、嘘っ...!?効いて...ない...?」

 

──倒れていたグールたちは瞬く間に起き上がり、さっきよりも勢いを増してパチュリーたちに迫りくる。自分の魔法に絶対の自信を持っていたパチュリーは、変わらずに歩みを進めてくるグールたちの姿に怯んでしまう。いよいよ距離を詰めてきたグールは、未だ硬直してしまっているパチュリーに、装備している長槍を振り上げる。

 

小悪魔「パチュリー様!危ないっ!!」

パチュリー「...こあっ!?」

 

主人の動揺を察した小悪魔は、覆いかぶさるようにしてパチュリーを庇う。その声で我に帰ったパチュリーだったが、既にグールの長槍が小悪魔の背を穿とうと振り下ろされていた。もうすぐ起こるであろう惨劇を理解したパチュリーの思考が、真っ暗な闇に呑まれていく。その時──

 

グール「グルゥッ!?」

 

──二人を狙っていたグールの胸部に、まるで意志を持つかのような軌道で、銀の弾丸が炸裂した。間髪を入れずに、二体、三体と、次々にグールが銃撃されていき、あっという間にグールたちは二人から引き剥がされる。

 

小悪魔「あ、あれっ...?」

パチュリー「これは、いったい...?」

 

困惑するパチュリーと小悪魔の前に、二人を守るように佇んだのは──

 

晴人「言ったろ?俺は"最後の希望"だって。」

 

──銀の銃を構えた晴人だった。

 

【To Be Continued...】




第18話パート2、読んでいただきありがとうございました!最後の晴人のセリフは、個人的に気に入ってます(笑)

なお、リアルが忙しくなってしまったので、4000文字くらいのボリュームでこまめに更新する方法にシフトしようと思います。これからも、たまーに覗いていただけたら嬉しいです。

それでは、チャオ〜!


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第18話 〜大図書館のショータイム〜(3)

パチュリー「晴人...!どうして、ここに...!?」

晴人「ま、ちょっとした魔法さ。」

 

そう言って悪戯な笑みを浮かべた晴人は、右手の中指に輝く、橙の宝石が嵌め込まれた指輪──"ウィザードリング"をパチュリーたちに誇示した。

 

〜数分前〜

 

晴人「お、あったあった!!」

 

椅子に魔法陣で拘束されたまま、大図書館に取り残された晴人は自分の懐を漁り、1つのウィザードリングを探し出すと、手の形をした黒いバックルにかざす。

 

『リキッド!プリーズ!』

 

すると、バックルにかざした"リキッドウィザードリング"がより一層強く輝き、晴人の全身を液状に変化させる。その変幻自在な身体を活かして魔法陣から抜け出した晴人は、普通の人間の姿に戻ると「ふぃ〜...」と特徴的なため息をついた。

 

〜現在〜

 

晴人「んで、今に至るってわけ。ま、ここは俺に任せてくれよ。」

パチュリー「任せてくれって...やっぱりあなた、"仮面ライダー"なの?」

晴人「えっ...?まぁ、たしかに"仮面ライダーウィザード"だけど、なんで知ってんの?」

 

晴人が困惑した表情で聞き返した瞬間、パチュリー、小悪魔、晴人の3人を除く全員の挙動が、ピタリとすべて静止する。突然の異常事態に辺りを警戒する3人の前に、フランと交戦中だったはずの蒼が一瞬で現れた。

 

晴人「うぉっ!?君は...?」

蒼「待ってたよ、晴人!さて、じゃあ早速本題なんだけど、君自身のライダーの力は既に失われている。だから、そこのパチュリーと心を共鳴させることで、彼女にウィザードの力を分け与えて一緒に戦うんだ。それが...」

パチュリー「待ちなさい...そうはいかないわよ。」

 

晴人の返答も待たず、淡々と説明を始めた蒼。その言葉を途中で遮ったパチュリーは、常に眠たげだったジト目を少しだけ大きくして蒼を見据えた。

 

パチュリー「あなた、フランと士を導いた少年ね。なぜ、自分でディケイドの力を受け継ぐようにそそのかしたフランと闘っているのかしら?幻想郷にライダーの力を齎し続ける目的はなに?」

蒼「...さすがはパチュリー、なかなかに勘が鋭いね。」

 

パチュリーの核心に迫る問いを受けた蒼は、一瞬の沈黙の後に肩をすくめると、パチュリーたちから顔を背ける。

 

蒼「けど、まだ答えは教えてあげない!謎は多い方が楽しみが増えるでしょ?それに、僕の目的が何であれ、君たちは戦うしかない...それが、絶望の淵にいる咲夜を救う、ただ一つの方法なんだから、ね。」

パチュリー「それは...!」

 

苦虫を噛み潰したような顔で言葉に詰まるパチュリーを横目に見た蒼は、小さく口角を上げると、ヒラヒラと手を振りながらフランとの戦闘に戻っていく。それと同時に、静止していた世界のすべてが再び動き始めた。

 

晴人「なんだったんだ、あの子...?」

パチュリー「(どうする...?晴人と戦う道を選べば、まず間違いなくアイツの思うツボ...でも、このまま咲夜を放っておいたら...!!)」

 

 

咲夜「うっ...うぅ...!私は...!」

ラウム「チッ...なぜまだ絶望しない...!?」

 

選択を迫られるパチュリーをよそに、次々に現れる邪魔者に苛立つラウムは、力なくうなだれる咲夜を睨みつける。咲夜を見下すその冷たい瞳に、震える彼女の手に握られた金色のロケットペンダントが映った。

 

ラウム「そうか...それが、お前の"心の支え"か!」

咲夜「きゃっ...!?」

 

ニヤリとほくそ笑んだラウムは、チェーンを引きちぎって咲夜のペンダントを奪い取る。その中には、レミリアやパチュリーといった紅魔館の面々と、幼い頃の咲夜、そして彼女の傍に佇むスーツに身を包んだ紳士が一緒に映る写真が収められていた。

 

咲夜「か、返して...!それには、私の"家族"との大事な思い出が...!」

ラウム「家族だぁ?てめぇは、その家族を、自分で殺そうとしたんだよ!お前はもうアイツ等の家族でもなんでもねぇ、ただのクズなんだよォッ!!」

 

必死ですがる咲夜を殴りつけたラウムは、彼女の目の前でペンダントを握りつぶすと、原型を留めずにへしゃげたそれを中庭に投げ捨てた。思い出を踏みにじられた咲夜の頬に一筋の涙がつたい──

 

咲夜「白夜(びゃくや)さん...ごめん、なさい...」

 

──彼女の身体に禍々しい紫の光が漏れるヒビが走り始めた。グールたちの合間からその光景を目の当たりにした晴人は、急に目の色を変えて銀の銃──"ウィザーソードガン"を連射し、立ちはだかるグールたちを撃ち抜く。

 

晴人「やばい...!このままじゃファントムが...!」

 

咲夜の身体に走る紫のヒビは、絶望してファントムが誕生する前兆。それを嫌というほど理解している晴人は、急いで取り出した"ドライバーオンウィザードリング"を右手のウィザードリングと取り替えてバックルにかざすが、そこからは『エラー』の音声しか流れなかった。

 

晴人「なにっ...マジで変身できないのか...!だったら!」

小悪魔「晴人さんっ!?」

 

それでも諦めない晴人はウィザードソードガンのブレードを展開してソードモードに切り替えると、単身でグールたちに切り込んでいく。アクロバットを織り交ぜた剣技でグールたちを蹴散らす晴人だったが、それに気づいたラウムは、巨大な火球でグールもろとも晴人を吹き飛ばした。

 

晴人「ぐあぁぁっ!」

パチュリー「は、晴人っ!しっかりして!」

 

直撃は免れたものの、爆発の衝撃をもろに受けた晴人にパチュリーと小悪魔は慌てて駆け寄る。晴人を一蹴したラウムは、勝ち誇るように高笑いを上げた。

 

ラウム「ハハハハッ!そこで黙って見てるがいい...この女が絶望する瞬間をなぁ!!」

晴人「そんなこと、させるか...!ぐぅっ...!」

 

パチュリーに支えられて立ち上がった晴人は、地面に打ち付けられた身体を引きずって、再びラウムに立ち向かおうとする。だが、その手を握ったパチュリーが晴人を引き止めた。

 

パチュリー「晴人...私に、力を貸して。一緒に咲夜を助けるわよ。」

晴人「...ダメだ。君をこんな戦いに巻き込むわけにはいかない...」

 

戦う決意を固めたパチュリーのまっすぐな瞳に、一瞬迷いを見せた晴人だったが、彼女の身を案じて断ってしまう。その返答を受けたパチュリーは、やれやれといった様子で小さくため息をつくと、晴人に優しく微笑みかけた。

 

パチュリー「じゃあ、言い方を変えるわ...私の"希望"になって。このまま咲夜を見殺しにしたら、私が自分の無力に絶望する...あの子を助けたいって気持ちは、あなたと同じだから。」

晴人「パチュリーちゃん...」

 

(「誰かの命を守りたいって気持ちは、あなたと同じだから。」)

 

静かだが力強いパチュリーの言葉に、ファントムとの戦いに力を貸してくれた女刑事を重ねた晴人は、小さく笑い声を漏らすと、コクリと頷いた。

 

晴人「そこまで言われちゃ、しょーがないなぁ...パチュリーちゃん、かなり頑固だろうし。」

パチュリー「フフッ...さぁ、どうかしらね?」

晴人「そんじゃ、改めて...」

 

パチュリーと共に戦う覚悟を決めた晴人は、軽口を叩きながら彼女と並び立つと、右手にはめたドライバーオンウィザードリングを外してパチュリーの手を取る。

 

パチュリー「え、な、なに...?」

晴人「俺が、君の最後の希望だ。」

 

そう優しく囁いた晴人は、パチュリーの右手の中指にドライバーオンウィザードリングをそっと滑らせた。その瞬間、晴人が赤い光に変貌して、パチュリーの体に融け込んでいく。晴人とシンクロしたパチュリーは、それに呼応するかのように腰に出現した、晴人と同じバックルにドライバーオンウィザードリングをかざす。

 

『ドライバーオン!プリーズ!』

 

バックルを中心に具現化された銀のベルト──"ウィザードライバー"を装着したパチュリーは、バックルの両脇にあるサイドレバーをスライドさせて、右手向きのバックルを左手向きに変形させる。

 

『シャバドゥビタッチヘンシ〜ン!シャバドゥビタッチヘンシ〜ン!』

 

ウィザードライバーが詠唱するポップな呪文をバックに、パチュリーは赤い魔法石があしらわれた"フレイムウィザードリング"を左手の中指にはめると、そのリングに被さっているバイザーを下げる。

 

パチュリー・晴人「「変身。」」

 

『フレイム!プリーズ!ヒー!ヒー!ヒーヒーヒー!』

 

フレイムウィザードリングをバックルにかざしたパチュリーは、その左腕をまっすぐ横に広げる。すると、彼女の手が伸びる先に人間大の赤い魔法陣が発現し、ゆっくりとパチュリーの身体をくぐり抜けていく。魔法陣を通り抜けたパチュリーは、赤い宝石が施された黒のローブを纏い、被っているナイトキャップも赤い宝石のようなデザインに変化している。そして瞳を輝く真紅に染めたパチュリーは、絶望を希望に変える指輪の魔法使い──"ウィザード"の力を継承した姿へと変身したのだった。

 

パチュリー・晴人「さぁ、ショータイムよ。」「さぁ、ショータイムだ。」

 

パチュリーと晴人、二人の魔法使いのショーが今、幕を開ける...

 

【To Be Continued...】




第18話パート3、閲覧いただきありがとうございました!本当は挿絵も描きたいんですが、時間が足りない...そしてなによりも、画力が足りないッ!!

それでは、チャオ〜!


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第18話 〜大図書館のショータイム〜(4)

小悪魔「パチュリー様が変身した...!」

 

目を丸くして固まる小悪魔に小さく微笑みかけたパチュリーは、晴人の落としたウィザーソードガンを回収すると、絶望していく咲夜を見下ろすラウムに向かって駆け出した。

 

晴人「まずは、とっととアイツを片付けよう。」

パチュリー「えぇ、一気にいくわよ!晴人!」

ラウム「チッ、性懲りもなく...!」

 

パチュリーの接近に気づいたラウムは、魔力で生成した2本の矛槍を振るって迎え撃とうとするが、彼女の舞うような動きに翻弄され、次々とウィザーソードガンによる斬撃を受けていく。とどめの一突きで吹き飛ばされたラウムは苦し紛れに炎弾を乱射するが、パチュリーの猛追の前には意味をなさない。炎弾をすべて撫で斬りにしながら突き進むパチュリーは、その片手間でドライバーのサイドレバーを操作し、バックルを右手向きに変形させる。

 

『ルパッチマジックタッチゴ〜!ルパッチマジックタッチゴ〜!』

 

変身時とはまた違った内容の詠唱をバックに、ベルトに提げているホルダーから外した"ライトウィザードリング"を右手にはめたパチュリーは、バックルにそれを手早くかざす。

 

『ライト!プリーズ!』

 

ラウム「うぉっ!?ま、眩しいっ...!」

 

パチュリーの手から発せられた強力な光を直視したラウムは、その眩しさに思わず目を覆い隠し、攻撃の手を止める。光が収まってすぐにパチュリーを探すラウムだったが、その視界に彼女は映らない。

 

ラウム「居ない...!?どこいった、あのガキ...!」

晴人「こっちこっち、後ろだよ。」

パチュリー「それと、私はガキ呼ばわりされる歳じゃないわ!はぁっ!」

 

目くらましの間に背後に回り込んでいたパチュリーは、慌てて振り向いたラウムに怒涛の連撃を浴びせ、華麗なソバットキックで一蹴する。

 

ラウム「グォッァ!?な、なんだこの強さ...!冗談じゃねぇ、こんなとこでやられてたまるか!」

 

勢いづくパチュリーに完全にペースを握られたラウムは、明らかな動揺を見せると、黒い翼を生やして空へと飛び立った。

 

晴人「逃げるつもりか...パチュリーちゃん、ここで決めよう。」

パチュリー「当然でしょ。さぁ、フィナーレよ。」

 

『キャモナシューティングシェイクハンズ!キャモナシューティングシェイクハンズ!』

 

ウィザーソードガンをガンモードに切り替えたパチュリーは、バックルと同じような黒い手を模したパーツ──"ハンドオーサー"を展開し、それと握手をするようにしてフレイムウィザードリングを反応させる。

 

『フレイム!シューティングストライク!ヒー!ヒー!ヒー!』

 

パチュリー「はぁっ!」

 

銃身に炎を纏ったウィザーソードガンを構えたパチュリーは、その場でスピンしながら5つの火球を連射する。銃口から放たれた火球は、まるで逃げ出すラウムに吸い込まれるかのような軌道を描き──

 

ラウム「ぐぉああああ!?」

 

──その背中に炸裂した。撃墜されたラウムの爆発を見届けたパチュリーは、颯爽とローブを翻して咲夜に駆け寄る。咲夜の身体に走っていた紫のヒビはすでに全身に広がり、彼女の心身を蝕んでいた。

 

パチュリー「咲夜っ!しっかりしなさい!」

咲夜「パチュリー様...!私、私は...従者失格です...!あの人に...白夜さんに、なんて詫びれば...!こんな、こんなクズに生きる価値なんて...!」

パチュリー「咲夜の価値なら、私やレミィたちがいくらでも教えてあげる...あなたは自分が思っているより、私たちにとってかけがえのない、大事な存在なの。だから、あなたを絶望なんてさせない、約束よ。」

 

子どものように泣きじゃくる咲夜の手を取ったパチュリーは、ホルダーから"エンゲージウィザードリング"を外してそっと彼女の指に嵌めると、サイドレバーを操作して再度右手向きにしたバックルにかざす。

 

『エンゲージ!プリーズ!』

 

エンゲージリングが温かい輝きを放つと同時に、咲夜は意識を失って地面に倒れ込むと、その身体の上に赤い魔法陣が展開される。

 

パチュリー「もう少しの辛抱よ、咲夜...!」

晴人「行こう、パチュリーちゃん...俺たちが、最後の希望だ!」

 

深呼吸して息を整えたパチュリーは、一息に魔法陣へと飛び込み、咲夜の精神世界──"アンダーワールド"へと踏み込んだ...

 

 

 

『ウィザード!』

 

蒼「フフッ...これで13人目、もう少しだ。」

フラン「はあっ!」

 

ホルダーのブランクライドウォッチが"ウィザードライドウォッチ"に変化するのを確認した蒼は、その隙を突こうとしたフランのライドブッカーの刀身を、目を向けることもなく左手で掴み取る。

 

フラン「うそっ...!?」

蒼「さ〜て、今日の目的も果たしたことだし...遊びは終わりだよ。」

 

『フィニッシュタイム!』『ファイズ!』

 

獲物を狙う狼のような眼光でフランを睨みつけた蒼は、ジカンギレードを投げ捨ててジオウウォッチとファイズウォッチのスイッチを押すと、勢いよくドライバーを一回転させる。

 

『エクシード!タイムブレーク!』

 

蒼「はぁっ!」

フラン「うっ...!?」

 

赤い閃光とともに右脚に発現した、ファイズポインターによく似たデバイス──"ポインター555"にフォトンブラッドが蓄積されるや否や、蒼はフランの胸部を蹴りつけて円錐型のエネルギーマーカーを打ち込む。

 

蒼「はぁっ!」

フラン「うわぁぁっ!?」

 

蹴りつけの衝撃で突き放されたフランに、蒼は立て続けに飛び蹴りを叩き込んだ。クリムゾンスマッシュを模倣した技──"エクシードタイムブレーク"を受けたフランは、大きく吹き飛ばされた上にディケイドの姿に戻ってしまう。

 

士「チッ...!化け物じみた強さだな...!」

蒼「化け物だなんて、人聞きが悪いなぁ...僕は普通の旅人だよ。それはそうと、やっぱり君の力は厄介だね...」

 

士の悪態に顔をしかめた蒼は、奪取したライドブッカーをブックモードに変形させて宙に放り投げると、青い光球に閉じ込めて謎の閃光を浴びせる。

 

フラン「な、何してるの...!?」

蒼「時を巻き戻してるのさ...生物であれ、物質であれ、すべての存在はその身に時間を刻んでいる。僕はそれを操っているんだ。」

 

レミリア「うあぁっ...!」

ユウスケ「ぐわぁっ!」

 

蒼の人知を超越した能力に愕然とするフランの下に、それぞれルーナとエイサイヤミーに吹き飛ばされたレミリアとユウスケが転がり込む。

 

フラン「お姉様っ!ユウスケっ!」

ルーナ「まったく、話になりませんね...まぁ、口だけが達者で生意気なお子様には、その程度が関の山ですか。」

レミリア「なんですって...!?人をコケにするのもいい加減にしなさいよ、この毒舌メイド!」

 

ルーナの手練手管に手も足も出ず、一方的に叩きのめされてしまったレミリアは、彼女の嘲笑にも意地になって声を荒げる。だが、ルーナはその罵声を歯牙にもかけず、彼女の分かりやすい態度を鼻で笑った。

 

ルーナ「なら、このヤミーを倒して証明しなさい...自分が口先だけの弱者ではないことを、ね。」

 

ルーナの言葉に応じるかのように、エイサイヤミーは一度全身を銀のメダルに変換し、自身を巨大なエイの姿──"イトマキエイヤミー"へと再構築すると、甲高い奇声と共に空へ浮き上がる。上空へと舞い上がったイトマキエイヤミーは、紫の怪光線を紅魔館の敷地内に放射し、降り注ぐ怪光線を浴びた紅魔館の屋根や外壁は次々に崩壊していく。

 

レミリア「ぎゃ〜!?私たちの屋敷に、なにしてくれてんのよ〜!!」

キバット「なんだあのエイもどき!?きっ、気持ちわるぅっ!?」

 

蒼「...これでよし。お〜い、フラン!」

フラン「わわっ!」

 

わーぎゃーと騒ぎ立てるレミリアとキバットをよそに、閃光の止んだ青い光球からライドブッカーを取り出した蒼は、それをひょいとフランに投げ渡す。慌ててライドブッカーをキャッチしたフランは、急いでその中身を確認するも、そこにはすっかり色が抜け落ちて力を失ったライダーカードが収納されていた。

 

フラン「そんな...!?」

蒼「士がディケイド以外の力を失っていた頃まで、カードの時間を戻させてもらったよ。でも、力を奪うだけじゃ可哀想だからね、代わりにプレゼントっと!」

 

蒼が手のひらを空に向けると、上空に巨大なタイムホールが発生し、それをくぐって城のような胴体に紫の四肢と顔を持つ奇怪なドラゴン──"キャッスルドラン"が飛来すると、破壊活動を続けるイトマキエイヤミーに体当たりを敢行した。

 

渡「キャッスルドラン...!?どうしてここに...!」

蒼「さ、僕たちに構ってないで、早くあのヤミーを倒したほうが賢明じゃないかな?」

 

ラウムに立ち向かおうとしたレミリアたちを妨害し、自分たちが使役するヤミーを倒させるためにキャッスルドランを提供する...常に不敵な薄ら笑いを浮かべたまま、意図の読めない行動を取る蒼をレミリアは怪訝な目を向ける。

 

レミリア「...何を企んでるのか知らないけど、今はあなた達の思惑に乗ってあげるわ。これ以上、紅魔館をボロ屋敷にされちゃたまらないしねっ!行くわよ、フラン!一応、ユウスケは中の妖精メイドたちをお願い!」

フラン「む〜...しょーがないなぁ...」

ユウスケ「わかった!」

 

蒼たちの手の上で踊らされていることを自覚しながらも、主として紅魔館を守ると決断したレミリアはキャッスルドランの屋根へと飛び乗り、イトマキエイヤミーとの交戦を開始する。蒼に力を奪われたフランは不満そうな表情をしながらもレミリアの後を追いかけ、ユウスケはあちこちに火の手が上がり始めた紅魔館に突入する。各々の戦いに向かうレミリアたちの背を見届けた蒼とルーナは、慣れた手付きで変身を解除した。

 

蒼「さて、と...」

ルーナ「あら...?蒼くん、帰らないんですか?」

 

変身を解くや否や中庭の方へと歩き始めた蒼に、ルーナは不思議そうな顔で尋ねる。その声にクルッと振り返った彼の表情は──

 

蒼「ちょっと、"忘れ物"があってね。」

 

──今までの貼り付いたような笑顔ではなく、まるで無垢な子どものような、無邪気で純真な笑顔だった。

 

【To Be Continued...】




第18話パート4、読んでいただきありがとうございました!ルーナが使役するために、改めてエイサイヤミーについて調べたんですが、今まであの巨大なエイの姿がイトマキエイヤミーっていうの知らなかったんです...そこそこ長いことライダーファンをやってても、知らないことはあるものだなぁ、としみじみ思いました。

それでは、チャオ〜!


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外伝 ~ORIGIN・HISTORIA~
第1話 ~フューチャー・ガーディアンズ~


はい、突然なる外伝の始まりです!本編とあんまり関係が見えないタイミングですが、いずれ見えてくると思います!(というか、そうなるよう頑張ります。)時期尚早かも知れませんけど、書きたくなっちゃったんだから仕方ないですよね!

冒頭にあらすじと注意事項がありますので、必ずお読みください。お願いします!


~あらすじ~

 

幻想郷の各地に怪人が蔓延るようになり、すべてが闇に包まれた未来の世界。

 

誰もが絶望に飲み込まれた幻想郷で生き残った者たちが身を寄せ合い、"最後の里"と呼ばれるようになった旧地獄。たとえ最後の里にいたとしても、死期が先延ばしになるだけと皆が悲嘆に暮れる中、希望の輝炎を灯し続けている者がいた。

 

その名は、"攻城(こうじょう) 紅蓮(ぐれん)"。仮面ライダーゲイツの力を操る紅蓮は、最後の里を護るため、仲間たちと共に戦い続ける。その先で、彼は闇の真実を知る...

 

絶望の闇を焼き払い、新たな未来を照らし出す救世主(エル・サルバトーレ)...その始まりの物語。

 

※本編と密接に関わっておりますが、プロローグのような物語ですので本編のネタバレ等は気にせずに読んで下さい。また、本編に比べて残酷かつ過激な描写が増えるかもしれないので、苦手な方はご注意ください。

 

※「ORIGIN HISTORIA」に限りましては、オリジナルのライダー、つまり雄介たちが出て来ませんのであらかじめご了承ください!

 

※以下、本編です!

 

 

 

 

かつて、宴会好きの妖怪たちで賑わっていた旧地獄。毎晩のように、酒飲みの豪快な笑い声と、陽気な歌声が響いていた面影はまるでなくなり、建物は半壊のまま放置されている。そんな旧地獄の真ん中にぽつんと立つ物見やぐらの足下に、6人の男女が並び立っていた。その先頭に立つ、燃え盛る炎のような赤髪を持つ男──攻城(こうじょう)紅蓮(ぐれん)がやぐらの上に声を飛ばす。

 

紅蓮「流零、敵の数は?」

流零「ざっと、300といった所です。また随分と引き連れて来たものですね...」

 

紅蓮の声に、やぐらの上で望遠鏡を覗き込んでいる青年──皇主(おうず)流零(るれい)が応えた。流零はメガネを軽く上げると、呆れたようにため息を吐く。流零の敵数報告に、ウィッチハットを被った黒髪の少女──堂安(どうあん)透歌(とうか)が自信満々の笑みを浮かべた。

 

透歌「つまり、1人50体ってことね。見てなさい、私だけで100は蹴散らしてあげるわ!」

 

両端にエクスクラメーションマークとクエスチョンマークを造形した杖──"エクステッキ"を地面に突き立てて無謀な宣言をした透歌に対し、分厚い鎧を纏ったままストレッチをしている青年──真紀那(まきな)蓮人(れんと)が苦笑いをしながら声をかける。

 

蓮人「戦を前に勇むのはいいが、あまり無茶はするなよ?お前は前線に向いてねぇんだからさ。お前らの盾になんのは、俺の務めだ!」

透歌「はいはい、分かってますよーだ。蓮人こそ、意地張って死ぬんじゃないわよ!」

流零「お喋りもそれくらいにして...用意して下さい。間もなく、来ますよ!」

 

敵の様子を観察し続けていた流零の号令を受け、6人の間の雰囲気が一瞬の内に張り詰める。それまで黙り込んでいた、動きやすい軽装の青年──神蔵(かぐら)(しのぶ)と、身体のあちこちに銃火器を装備した男──竜川(たつかわ)誠一(せいいち)がそれぞれに呟く。

 

忍「必ず勝つ。刃の心で、すべてを断ち切る...!」

誠一「俺が...俺が全部ぶっ潰す!!」

 

他の仲間たちが戦いを前に奮い立つなか、漆黒の羽を持つ少女──"ミライ"だけは哀しげな瞳で俯いていた。そんな彼女の肩を優しく叩いた紅蓮は、ミライを気遣って声をかける。

 

紅蓮「大丈夫か?辛いなら、今回は俺たちに任せて下がっててもいいんだぞ...?」

ミライ「ううん...大丈夫。戦うのはすごく苦しいけど、わたしも皆の力になりたいんだ。」

紅蓮「そっか...それじゃ、思いっきり頼らせてもらうぜ。だから、お前も俺たちを頼ってくれよ?」

ミライ「...うん!」

 

ミライに優しく微笑みかけ、仲間たちの充分な意気込みを聞き届けた紅蓮は、勇ましさを含んだ笑顔を浮かべて叫びを上げる。

 

紅蓮「よぉ~し、みんな!必ずッ!全員でッ!勝って帰るぞッ!!」

 

その熱い叫びで仲間たちを鼓舞した紅蓮は、デジタル腕時計のようなバックル──"ジクウドライバー"を装着し、腕のホルダーに収められていた懐中時計型デバイス──"ゲイツライドウォッチ"を手に取る。そして、正面に突き出したライドウォッチの前面カバーを回転させ、天面のスイッチを押し込んだ。

 

『ゲイツ』

 

起動したゲイツライドウォッチをドライバーの右側に装填した紅蓮は、ドライバーの上部に備え付けられた竜頭を模したスイッチを叩いて両腕を前に伸ばすと、その腕を素早く回転させてドライバーに添える。

 

 

胸に手を当てて大きく深呼吸をしたミライは、スピードメーターをモチーフとしたバックル──"ドライブドライバー"を装着し、青い軌跡を残しながら空を駆け抜けて来た黒いミニカー──"シフトネクストスピード"をキャッチした。ドライバーのイグニッションキーを捻ってドライバーを起動したミライは、シフトネクストスピードの後部を回転させてレバー形状へと変形。左手首に巻かれている"シフトブレス"のレーンに、シフトネクストスピードを滑り込ませる。

 

 

忍は懐から取り出した"シノビヒョウタン"を傾け、そこから流れ出した紫の液体が腰回りで銀色のバックル──"シノビドライバー"に変わる。同時に出現した手裏剣を模した"メンキョカイデンプレート"を手に取った忍は、アクロバティックな動きの後にメンキョカイデンプレートを前に掲げる。

 

 

エクステッキをくるりと回した透歌は、エクステッキのクエスチョンマークを模した側を上にして掲げる。すると、エクステッキのクエスチョンマークが光を放ち、透歌の腰に"クイズドライバー"が出現する。それに連動してエクステッキのクエスチョンマークと同じ形状の小さなパネル──"クイズトッパー"が出現し、透歌はそれを手に取った。

 

 

蓮人「うっし...キカイシステム・スタートアップ!」

 

蓮人がシステムの起動を宣言すると、蓮人の腰に"キカイドライバー"が構成され、両手にはスパナを模した"スパナーダー"と、ドライバーを模した"スクリューダー"が構成された。スクリューダーをドライバーにはめ込んだ蓮人は、スパナーダーを上へと投げ飛ばす。

 

 

誠一は拳銃形状の武器──"ショットライザー"をホルスターから抜き取り、オオカミの刻まれた箱型のデバイス──"シューティングウルフプログライズキー"の起動スイッチを押す。

 

『バレット!』

 

内包された能力を告げたプログライズキーのカバーを親指でこじ開けた誠一は、展開したプログライズキーをショットライザーのスロットに差し込む。

 

『オーソライズ』

『KAMEN・RIDER...KAMEN・RIDER...』

 

すべての手順を終えた誠一は、正面を真っ直ぐに見据えてショットライザーの銃口を前に向けた。それぞれに準備を整えた6人は、息を合わせて叫ぶ。

 

紅蓮・ミライ・忍・透歌・蓮人・誠一「「「「「「変身!」」」」」」

 

 

『ライダータイム!仮面ライダーゲイツ!』

 

紅蓮がジクウドライバーを勢いよく回転させると、背後に出現したオブジェクトから鋭い「らいだー」の文字が射出され、赤い服に黄色のラインが入った服装に変身した紅蓮の額に装着される。瞳を黄色に染めた紅蓮は、未来のレジスタンス──仮面ライダーゲイツの力を受け継いだ姿に変身した。

 

 

『Drive!Type NEXT SPEEDE!』

 

ミライがシフトブレスに入ったシフトネクストスピードを傾けると、身体の一部にポリゴン形状の黒い鎧が装着され、服には水色のラインが走る。最後に、どこからとともなく飛んできた"ネクストスピードタイヤ"が肩掛けにはまり、瞳が水色に染まったミライは、未来のドライブ──仮面ライダーダークドライブの力を受け継いだ姿に変身した。

 

 

『誰じゃ?俺じゃ!忍者!シノ~ビ!見ッ参!!』

 

忍がメンキョカイデンプレート前面に備えられたシュリケンスターターを回転させると、背後に出現した蛙の射出した装束を纏い、紫を基調とした忍装束へと姿を変える。瞳が黄色く染まった忍は、忍者の魂を持ちし戦士──仮面ライダーシノビの力を受け継いだ姿へと変身した。

 

 

『ファッション!パッション!クエスチョン!クイズ!!』

 

透歌がクイズトッパーをドライバーに差し込むと、背後に出現した○Xマークが空中を浮遊して、クエスチョンマークが刻まれた透歌のローブに装着される。ウィッチハットにもクエスチョンマークが飾られ、瞳を橙に染めた透歌は、正しき未来を問う戦士──仮面ライダークイズの力を受け継いだ姿へと変身した。

 

 

『デカイ!ハカイ!ゴーカイ!仮面ライダーキカイ!!』

 

蓮人が落下して来たスパナーダーをキャッチしてドライバーに装着すると、全身に金色の鎧が構成されて、クロスしたレンチが飾られた兜が装着される。瞳を赤く染めた蓮人は、人と機械の狭間の戦士──仮面ライダーキカイの力を受け継いだ姿へと変身した。

 

 

『ショットライズ!シューティングウルフ!The elevation increases as the bullet is fired.』

 

誠一がショットライザーの引き金を引くと、縦横無尽に動き回る銀の弾丸が発射され、誠一に向けて戻ってくる。誠一がその弾丸を拳で叩き割った瞬間、身体の各部に鎧が装着される。荒々しく変わった髪は青く染まり、瞳も青く染まった誠一は、青き孤高の狩人──仮面ライダーバルカンの力を受け継いだ姿へと変身した。

 

それぞれの姿へと変身した6人は改めて並び立ち、険しい表情で正面を睨みつける。その先には、大群を成して迫り来る、禍々しい化け物の群れ。魑魅魍魎が蔓延るようになった幻想郷で、いつしか"最後の里"と呼ばれるようになった旧地獄を護る為、紅蓮は雄叫びを上げて駆け出した。化け物の群れに立ち向かっていく6人の姿をやぐらから見守る流零は、消え入りそうな声で呟く。

 

流零「皆さん、どうか気をつけて...」

 

彼らは、この世界の最後の灯火──

 

紅蓮「紅蓮の炎を...止めてみなっ!!」

 

──"未来の守護者達(フューチャーガーディアンズ)"。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅蓮「さぁて、まずはこいつだっ!」

 

先陣を切って駆け出した紅蓮は、ジクウドライバーから斧形状の専用武器──"ジカンザックス"を召喚し、その刃を展開して"おのモード"から"ゆみモード"へと変形する。

 

『You・Me!』

『エクストライク!』

 

紅蓮は素早くジカンザックスを引き絞り、怪人たちの頭上へと向けてエネルギーの矢を放つ。それを確認した透歌はエクステッキを構え、クエスチョンマークの下部に備えられた赤い宝玉──"クエスチョンオーブ"に魔力を注ぎ込むと、矢を目掛けて魔力を一挙に放出する。「?」マークの魔力が命中した矢は一瞬の内に分裂し、矢の雨と化して怪人たちに降り注いだ。

 

紅蓮「ナイス、透歌!練習しといた甲斐があったな!」

透歌「まっ、先制攻撃としては十分ね!一気に畳みかけるわよ!!」

 

『Oh・No!』

 

透歌の鼓舞を受けた紅蓮はジカンザックスをおのモードに戻し、矢の雨に怯んだ怪人たちに先陣を切って斬り込む。重く、強く、ジカンザックスを振り回す紅蓮は、赤い閃光を走らせながら怪人たちを蹴散らしていくが、突如として"どんより"と動きが鈍くなる。

 

紅蓮「うっ...!?"重加速"っ...!」

ガンマン「ははっ!重加速に対応出来ねぇようじゃ、俺たちには勝てねぇな!」

紅蓮「そいつは、どうかな...?俺たちには、"頼れる"仲間が居るからな...!」

 

機会生命体──"ロイミュード"が発生させる重加速粒子によって引き起こされる、重加速現象。その中では、普通の人間は低速でしか動くことが出来なくなる。愛用のハンドガン、エンペラ17を携えた"ガンマンロイミュード"が発生させた重加速によって、周囲の怪人たちも含めてゆっくりとしか動けなくなった紅蓮は、ガンマンロイミュードにとって格好の餌食。ガンマンロイミュードがその銃口を紅蓮に向けた瞬間──

 

ミライ「させないっ!」

 

『NEXT!SP!SP!SPEEDE!』

 

ガンマン「うがぁっ!?」

 

──青い閃光になって高速移動したミライが、"ブレードガンナー"でガンマンロイミュードの腹部を深く斬りつけ、予想外の攻撃を受けたガンマンロイミュードは重加速を解除した。重加速から解放された紅蓮は周囲の怪人たちを薙ぎ払い、ゲイツライドウォッチのスイッチを押してドライバーを回転させる。

 

『フィニッシュタイム!タイムバースト!』

 

紅蓮が軽く跳び上がると、ガンマンロイミュードの間に無数の「きっく」という文字が浮かび上がる。跳び蹴りの姿勢を取った紅蓮は、足で「きっく」の文字をなぞってライダーキック──"タイムバースト"を放った。

 

紅蓮「でりゃぁっ!」

ガンマン「ぐおあぁぁっ!?」

 

胸元にタイムバーストを受けたガンマンロイミュードは、大きく背後に吹き飛びながら爆発する。着地した紅蓮は、その爆煙の中から力なく落下してきた"人間"を、哀しい瞳で見つめた。ガンマンだった男を見たミライは、戦場の真っ只中で目に涙を浮かばせる。

 

ミライ「また、人が...ひどいよ..."お母さん"...」

紅蓮「...っ!ミライッ!!」

 

呆然とするミライの背に迫る、たこのような見た目の怪人──"ストレッチスマッシュ"に気づいた紅蓮は、とっさにジカンザックスをブーメランのように投げて攻撃する。怯んだストレッチスマッシュに拳撃を打ち込んだ紅蓮は、ミライを庇うように立つ。

 

ミライ「紅蓮...!」

紅蓮「しっかりしろ、ミライ!みんなの力になってくれるんだろ?」

ミライ「...うん。背中は任せて!」

紅蓮「ああっ!お互いにな!!」

 

ミライと背中を合わせた紅蓮は、腕に巻かれたライドウォッチホルダーから"クローズライドウォッチ"を取り外し、前面のカバーを回転させてスイッチを押す。

 

『クローズ』

 

起動したクローズライドウォッチをドライバーの左側に装填した紅蓮は、ドライバーを勢いよく回転させた。

 

『アーマータイム! 《Wake up burnning!》 クローズ!』

 

すると、紅蓮の前に仮面ライダークローズを象った鎧が出現し、自動で分解した鎧は紅蓮の身体の各部に装着される。「くろーず」の文字を額に受けた紅蓮は、クローズドラゴン型の肩鎧が特徴的な形態──"クローズアーマー"へと変身を遂げた。

 

紅蓮「今の俺は、負ける気がしねぇ!ってな!」

 

ぐっと拳を握った紅蓮は、再び襲いかかって来たストレッチスマッシュを思い切り殴り飛ばす。雄叫びを上げて全身に青い炎を燃え上がらせた紅蓮は、そこから青と橙の炎龍──"クローズドラゴンブレイズ"を召還し、辺りの怪人たちにけしかける。

 

『フィニッシュタイム!クローズ!』

 

ゲイツライドウォッチとクローズライドウォッチのスイッチを押した紅蓮は、ドライバーを勢いよく回転させ、姿勢を低く構える。すると、帰還したクローズドラゴンブレイズが紅蓮を囲うように浮遊する。

 

『ドラゴニック!タイムバースト!』

 

紅蓮「おらぁぁぁっ!!」

 

"ドラゴニックタイムバースト"を発動した紅蓮は、クローズドラゴンブレイズが吐き出した青い火炎に乗ってストレッチスマッシュに突撃。蒼炎を纏ったボレーキックを叩き込み、その余波の炎に周辺の怪人たちを巻き込んで辺りを一掃した。爆煙の中心にいたストレッチスマッシュだった女性は、自分の血と煤にまみれたまま膝から崩れ落ちる。

 

紅蓮「チッ...くっそぉっ!!」

 

惨い姿の女性を見た紅蓮は、複雑な表情で近場の怪人を殴り倒す。がむしゃらに戦い続ける紅蓮とミライの前に、禍々しい甲冑に身を包んだ女が現れた。一本の細剣を携えた女は、ゆらゆらと戦場を進みながら二人に問いかける。

 

甲冑の女「お前たちも、ライダーか...?」

ミライ「えっ...?な、なんの事ですか...?」

紅蓮「こいつ、他のヤツらと違う...!"アナザーオリジン"か!?」

甲冑の女「まぁ、いい...もしライダーなら、望みに近づける。違うのなら、ダークウィングに喰わせるだけだ...」

 

甲冑の女──"アナザーナイト・オリジン"は、携えた細剣──アナザーダークバイザーの切っ先を紅蓮に向ける。その鉄仮面の下、二人を見据える彼女の瞳は、悲壮な覚悟で満ちていた。

 

アナザーナイト・オリジン「戦え...!私と、戦え!!」

紅蓮「ミライ、来るぞッ!」

ミライ「う、うんっ...!」

 

紅蓮たちはそれぞれに武器と拳を構え、迎撃の態勢を取る。蒼き孤高の騎士との戦いが、幕を開けた...

 

 

 

 

 

同じ頃、戦場に分散した仲間たちも、それぞれ二人組に分かれて戦っていた。特に突出して戦っていた透歌は、エクステッキの鋭きエクスクラメーションマークを槍の刃として振るい、怪人たちの中を舞い踊っていた。

 

透歌「ほらほらっ!この私の華麗な槍捌きに刮目なさい!」

ヘルハウンド「フンッ!あなた如き、我が地獄の業火で焼き尽くて差し上げましょう!」

蓮人「なっ!?いつも言ってんのに...ったく、あのバカっ!!」

 

燃え上がる炎のような容姿のファントム──ヘルハウンドが派手に目立っていた透歌に目掛けて火炎を吐き出す瞬間を目撃した蓮人は、相手にしていた怪人数体をラリアットで豪快に吹き飛ばし、自らの身体を盾にして炎を遮る。

 

透歌「れ、蓮人っ!?」

ヘルハウンド「なんだお前は!私のショーに飛び入りは許しませんよ!」

蓮人「るっせぇ!この番犬野郎が!!」

 

怒りを露わにした蓮人は、透歌を庇いながら拳に冷気を蓄積させ、その拳を炎の中に真っ直ぐに突き出した。蓮人の拳に込められた冷気はヘルハウンドの炎を押しのけながら猛進し、ヘルハウンドの身体を一気に凍結させる。

 

ヘルハウンド「な、にぃ...!?」

透歌「蓮人、ごめん!肩借りるよっ!」

 

『エクスティング!』

 

蓮人の肩を足場に飛び上がった透歌は、エクステッキのエクスクラメーションマークの下に備えられた青い宝玉──"アンサーオーブ"に魔力を充填させ、その魔力を刃に注ぎ込むと、氷塊と化したヘルハウンドを鋭く突き刺した。

 

ヘルハウンド「うがぁぁぁっ!?」

 

粉々に砕け散ったヘルハウンドの欠片がパラパラと落ちる中、透歌はウィッチハットの鍔を深く下げてその瞳を隠す。欠片の一つをぎゅっと握った蓮人は、その背を心配そうに見つめていた。そんな二人の前に、刺々しい金色の鎧を纏い、大槍を携えた真紅の少女が怪人たちの中からズンと進み出た。

 

真紅の少女「ふんっ...わざわざ女を庇ったか。」

蓮人「当たり前だ!大事な俺の仲間だからなぁっ!!」

真紅の少女「仲間、か...下らんな。この世界は力が全てだ!仲間など、弱者の戯れに過ぎない!」

透歌「なんですって...!私たちの絆の力、舐めんじゃないわよ!」

 

自分を護ってくれた蓮人を侮辱され、怒りに駆られた透歌は真紅の少女をキッと睨みつけた。しかし、真紅の少女──"アナザーバロン・オリジン"は冷ややかに鼻で笑い飛ばす。

 

アナザーバロン・オリジン「どんな言葉を並べたところで、所詮は戯れ言だろう?力を証明したいのなら、お前たちの強さを見せてみろっ!!」

蓮人「お望みとあらば、見せてやるよ!後衛は任せたぜ、透歌ッ!!」

透歌「オッケー!どーんと行くわよッ!」

 

蓮人と透歌を迎え撃つ、覇道を往く紅き姫騎士の槍──"アナザーバナスピアー"が鈍く輝いた...

 

 

 

 

誠一「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

雄叫びを響かせながら獣のように暴れ回る誠一は、単身敵の群れにショットライザーを乱射しながら、深く突っ込んでいく。その間に幾度となく攻撃を受けているものの、まるでそれを望んでいるかのように無謀な戦いを続けるのだ。

 

アイスエイジ「な、なんだコイツ!凍れっ!」

 

そんな誠一に脅威を感じた敵の一人──"アイスエイジ・ドーパント"は、氷河期の記憶を引き出して絶対零度の冷気を噴射。それを浴びた誠一は全身が凍結を始めてしまう。

 

誠一「小賢しい真似をっ...!」

忍「まずい...誠一さんっ!忍法、火遁の術!」

『フレイム・忍POW!』

 

誠一の危機を察知した忍は、持ち前のフットワークの軽さを活かして颯爽と駆けつけると、火遁の術で自身の身体を発火させる。その熱に当てられたアイスエイジ・ドーパントは怯み、誠一の身体にまとわりついた氷はみるみる内に溶ける。

 

誠一「頭に来るぜ...今すぐ、ぶっ潰してやるよ!!」

『バレット!』

 

身体の自由が戻った誠一は、すかさずウルフプログライズキーのスイッチを叩き、アイスエイジ・ドーパンに銃口を向けて引き金を引いた。

 

『シューティング!ブラスト!』

アイスエイジ「うぎゃああっ!?」

 

ショットライザーから放たれた巨大な青き光弾は、慌てて逃げ出そうとするアイスエイジ・ドーパントの背中を撃ち抜き、アイスエイジ・ドーパントはそのまま爆発する。その中から現れたのは、胸元を黒く焦がした、まだ十五にも満たないであろう少年だった。

 

誠一「こんなガキまで道具にしやがって...!」

忍「誠一さんっ!一人で前に出るあなたの戦い方は危険すぎる!!ちゃんと仲間と連携を取って...」

誠一「黙れ!"盗人紛い"のことをやってたお前に、指図される覚えはない!!」

 

怒りに打ち震えていた誠一は、突出していたことを咎める忍に対して怒鳴り散らす。噛み合わない二人の前に、赤錆の着いた全身にバイクのタイヤやマフラーなどを備え、機械的な大剣を引きずる女が現れた。赤錆の女は、冷ややかな視線で二人を静かに睨みつける。

 

忍「な、なんだ?お前は...?」

赤錆の女「あたいに、質問をするな...!」

 

忍の問いに囁くような声で返した瞬間、赤錆の女──アナザーアクセル・オリジンは背中のマフラーからジェット噴射し、急激に加速して二人の前に躍り出る。一瞬の出来事で反応出来ない二人を、アナザーアクセル・オリジンは大剣──アナザーエンジンブレードで薙ぎ払った。

 

誠一「ぐうっ...!」

忍「速いっ...!?」

 

軽く吹き飛ばされながらも受け身を取った二人は、それぞれ忍者刀とショットライザーを構え、応戦の態勢を整える。

 

忍「こいつ、強い...!誠一さん、息を合わせて...」

誠一「俺が潰すっ!!」

忍「あっ、ちょっと!?はぁ...俺が合わせるしかないか...!」

 

提案を最後まで聞きもせず、アナザーアクセル・オリジンに駆け出した誠一にため息をつきながら、忍もそれに続く。

 

怪人を率いる3人のアナザーオリジンと、未来の守護者たちの激戦が始まったのだった...




お読みいただき、ありがとうございます!いかがでしたでしょうか?

オリジン・ヒストリアは未来のお話ですが、単純な未来ではありません。謎の存在"アナザーオリジン"とは何なのか、ミライの「お母さん」という言葉、忍の過去など、色々と複線を張ってみた第1話でした。本編だけでなく、オリジン・ヒストリアにも乞うご期待!ちなみに、オリヒスの次回予告は今のところ書かない予定です。本編もちゃんと書いてますので、少々お待ち下さいね!

それでは、チャオ~!


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