艦これ ~Bullet Of Fleet~ (クロス・アラベル)
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プロローグ《運命の歯車は動き出す》

こんにちは!クロス・アラベルです!
まずはプロローグから。プロローグなので艦これ要素は皆無です。御了承下さい。


 

 

 

とあるマンションの一室。質素なベッドや机、箪笥がポツンと置かれている。そして、ベッドに横たわり、アミュスフィアを装着する。

 

「……リンクスタート。」

 

僕は銃弾の飛び交う荒野の世界へ飛び立った。僕のこれからを決める決戦。これからこのアミュスフィアを使って行くかどうか……これで決める。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

あれから1時間が経過した。

 

とある荒廃した街のビルの上。

 

黒光りする大型の銃。その銃口が狙うのは、ダイアンというプレイヤー。

「……ッ!」

 

そして、僕の激レア銃《ウルティマラティオ・へカートⅡ》が火を噴く。

 

ダイアンの目が銃弾で吹き飛んだ。顔に穴が開く。それに続いて横からのもう一弾がダイアンの右足を吹き飛ばす。

 

「ナイス、シノン!」

 

「あんたもね…キリト!」

 

互いに褒め合い、僕の数少ない友達、僕の武器と同じ、《へカートⅡ》を持ったスカイブルーの髪を持つここでは珍しい女性プレイヤー『シノン』がとあるプレイヤーの名を呼ぶ。すると後ろから黒い影が僕達の前に飛び出す。

 

長い黒髪に髪と似た漆黒の瞳、真っ黒装備をパッと見た時、見かけは守ってあげたくなるようなか弱そうな女の子。だが、女の子ではない。このGGOの世界ではアバターがランダム生成される。そこで稀に…いや、よく起こるのが見かけが現実の姿と全く異なると言うこと。そして、その例が彼なのだ。彼は現実では正真正銘の男なのだが、激レアアバターとして生成されたせいで女の子のように見える。が、体の方は男らしい。

 

相手はダイアンを抜いてももう1人。追撃させぬとばかりに銃を撃つ。連射された弾丸はその『キリト』と呼ばれた少年に当たる……ことは無かった。全ての弾丸は紫紺の光によって防がれた。

 

光剣『ムラサメ』。それが彼の主武装だ。その名の通り、スイッチ一つで光で出来た刃ができる。このGGOでも数少ない近接武器の1つだ。

フィールドをチカチカ照らす火花。そう、彼が弾丸を斬ったのだ。

 

「打て!シノン、セナ!」

 

「言われなくとも…ッ!」

 

「分かってるよ…ッ!」

 

キリトの声に応えるため、もう1人のプレイヤーに向けて撃つ。

 

僕が敵のプレイヤーの腹部に風穴を開け、シノンが頭を撃ち抜く。撃たれたプレイヤーは致命傷を負い、HPゲージを吹き飛ばされて倒れる。

 

「当たったね。」

 

「クリティカルヒット…って感じね。ありがとう、キリト。ナイスフォローだったわ。」

 

「間一髪だったけど、対応できて良かったぜ。予測線が飛んでるとはいえ、いきなり前に出ては結構きついからな。セナもシノンもナイスショットだった。2人がいなきゃ無理だったよ。」

 

「みんながいてこそだよ。このBoBでいい結果を残せるように頑張らなきゃね。」

 

「そうね……あなた、本当に入賞出来なかったら、今回で決めるの?」

 

「……まあね。」

 

僕の親は小さい時に他界し、祖父母に育てられた。が、祖父母は今から三年前に他界した。妹もいるのだが、血は繋がっていない。なぜGGOを……VRを止めようとしているか、それは単にお金がないからだ。家にはパソコンもスマホもあるにはあるが、それだけでも厳しい。妹はもう16歳、高校生になってバイトも出来るのだから、仕送りは不要だと強く念を押され、していない。僕は18歳で高校三年生。受験真っ只中だ。

 

「……セナがGGOを続けられるように頑張らないとな。よし、もう一戦行くか!」

 

「うん、行こうか」

 

「次のターゲットは……あの高層ビルで待ちましょう。あそこがベストだわ」

 

「分かった。護衛は任せてくれよ?」

 

「ええ、もちろんよ。言われなくとも全部あなたに一任するつもりだから」

 

「……オイオイ、冷たいな…」

 

「あはは……」

 

たわいも無い話をしながら次の待機場所へと移動する。

ビルを出て道路を走り始めた、その時だった。

大量の予測線が飛んで来たのは。

 

「「「⁉︎」」」

 

全員が驚き、うち2人はバラバラに散ろうとするが反応が少し遅かった。

だけど僕は、退避ではなく反撃に出た。

素早く敵を視認し、ターゲットする。

そして、弾丸が飛んでくる寸前に第一弾を発射した。

その弾丸はプレイヤーの左腹部を削り取っていった。

その直後、弾丸の嵐が僕たちを襲った。

必死に防御体勢を取ろうとするが防ぐのは不可能。

 

僕がふとシノンを見たとき、予測線がまっすぐシノンの頭に当たっていた。

 

不味い。そう判断した僕は《へカートⅡ》をシノンに向けて投げてその頭に直撃するはずの弾丸を防いだ。

そして、弾丸が止むと僕は左腰に掛けてあったあるアイテムを掴み、そのプレイヤーの元へ疾駆する。

そのアイテムのスイッチを押して一本の蒼い光を出す。その時、一発残っていたのか、僕の腰に心臓に向かって撃ってきた。僕はその瞬間、予測線に合わせて左腰から右上へ斬りあげる。

それによって弾丸は斬られた。

そして、プレイヤーに向かってとどめと言わんばかりに斬撃を食らわせる。アインクラッドで幾度となく使ったソードスキル7連撃《デッドリー・シンズ》を出来るだけ擬似させて放つ。

 

そのプレイヤーは僕の斬撃によってHPゲージを吹き飛ばされた。

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

「……はあ、はあ、はあ……よ、良かった……みんな無事で……」

 

「だ、大丈夫か⁉︎」

 

「あ、ありがとう、セナ。あなたのおかげで助かったわ。」

 

2人のHPゲージは7割がた残っているが僕の方はもう後2、3ドット。

 

「いや、いいよ。」

 

「……それに………あなたのへカートⅡ……惜しいことをしたわね……ごめんなさい…」

 

「……いいんだよ。もうそろそろ別れ時が来てたからね……ッ⁉︎」

 

苦しい……HPゲージが減り始めた……⁉︎これってやっぱり……

 

「ど、どうしたのか⁉︎」

 

「……!ま、まさか……特殊効果付きの銃弾……」

 

「……みたい、だね………ごめん、戦えそうに無いや……もうあと10秒くらいでHPゲージが無くなる…ごめんね、2人とも。僕の我儘につき合わせちゃって……それじゃあ、またね。」

 

僕はこのBoBのためにキリトから弾丸斬りの練習をして、ついさっきも成功させた。成功率は6割ほど。まだまだ成功の余地ありだ。

 

「分かったわ、また学校でね。」

 

「……まあ、もう会えないってわけじゃ無いしな。またオフ会しようぜ。……お疲れ、セナ。」

 

「……ありがとう。」

 

その言葉を聞いて僕の意識は街へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

《YOU ARE DEAD.》

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

「……」

 

いつもの天井。帰ってきた感触を思い出して黙る。

 

「………はあ、やっぱりね……」

 

予想はしていた。僕もそこまで強くはない。自分で決めていた通り、あとでアミュスフィアを売りに行こう。

 

「……行こうか。」

 

 

 

 

僕はアミュスフィアを元の箱の中に入れていつでも売ることができるようにしてその30分後、近くにある店に売った。

帰ってきたお金は11万5,600円。元々の値段が15万円ちょっとなので、3万円程下がっている。

これで少しくらいはマシになるだろう。そして家に帰って、夕食を済ませた。

 

寝る前にあることをやっておこう。というより、やってみよう。

 

「……ええっと……か、ん、こ、れ……あ、あった。」

 

友達から勧められたオンラインゲーム。かなり人気を博しているらしく、テレビでもこの間取り上げられていた。1ヶ月前に勧められてyou○ubeでプレイ動画を見たり、Goog○eで調べて、キャラクター一人一人の説明や解説を読んだ。中々に面白いものだったのでGGOを辞めた時にはやってみようとずっと思っていた。

 

「……まあ、憂さ晴らしにはなる……かな?」

 

艦これを起動して早速プレイしてみよう。

その時、こんなメッセージが来た。

『プレイヤーネーム《セナ》のデータをコンバートします。

 

アイテム

 

ウルティマラティオ・へカートⅡ

弾倉×8(7×8)

フォトンソード《青龍》

グレネード×8

 

 

よろしいですか?

《YES》

 

「……コンバート?僕はGGOのデータを消したはずだし、売ったんだけど…でも、選択肢が一つしかないって……まあ、いいかな。」

YESのところをクリックした。すると、急に意識が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

波の音。

僕が意識を取り戻して聞いたのは波の音だった。

目を開くと晴天の蒼い空が見える。

「……?」

起き上がり周りを見渡す。

そこは僕の来たことのない、砂浜だった。

1人ポツンと立ち尽くす。

「……僕は家にいたはずなんだけど……夢?」

そう思って頰をつねろうとした時、足に冷たい海水がかかった。ソードアートオンラインで使ったナーヴギアもガンゲイルオンラインで使っていたアミュスフィアも水中環境の表現が得意ではなく、ここまでリアルに感じることはない。それに、妙にリアルな暑さ。

「……VR……なの?」

そう思って右手でメインメニューを呼び出そうとしたが、何も出ない。

「……ログアウト!」

そう叫んで見たものの、応答なし。

「…じゃあ、ここは現実……?」

…こんなこと信じたくはないが、ここは現実、らしい。

「……ここは、何処なんだろう。」

ここから僕の不可思議な物語が始まる。

 




次回《流れ着いた少女達》


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第1話《流れ着いた少女達》

こんにちは!クロス・アラベルです。
引き続き投稿します。
どうぞ!


 

 

 

 

「……はあ、はあ、はあ、はあ、あ、あと少しで陸地に……」

 

「………」

 

「大丈夫……あと少しだから……」

 

「……」

 

海の上を滑るように走る茶髪の女の子2人を運ぶ白髪の少女と紺色の髪の少女。4人全員の服はボロボロになっており出血も酷い。普通なら気を失っていてもおかしくはない。だが、彼女達は普通の人間ではない。

 

『ひびきさん!もうすぐねんりょうがきれます!きかんもあと少しでとまるおそれがあります!』

 

彼女達は《艦娘》という特殊能力を持った……駆逐艦なのだ。

彼女達の中の1人、『響』の艤装から1人の妖精が警告を飛ばす。

 

「……あと少しなんだ!それぐらい、持たせて、くれないか?」

 

『さいぜんのどりょくはしています!あかつきさんもいそいでください!』

 

「分かってる、わよ!……こんな時に限って機関が止まりそうなんて…」

 

「……でも、絶対に……電と雷は、助けるんだ……」

 

響と暁は電、雷と呼ばれた2人を背負ってあと5メートルの海を渡りきり、陸に上がる。

渡りきったところで、二人はいきなり倒れ込んだ。疲れが溜まっていたんだろう。

 

『ぜんきかんていししました!まにあいましたよ、ひびきさん!』

 

妖精が響に向かって叫ぶものの、響は疲れ果てて聞こえていない。

そんな彼女達の前に誰かが走ってくる。

暁に黒い影が覆い被さる。

 

「……助けて……雷…と電と……響を……誰、か……」

 

この言葉を発した直後、彼女達は気絶したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

○○○○○○○○○○○○○○○

 

 

 

 

 

 

 

 

温かい。

私が目覚めて感じた。

目を開けるとそこは知らない天井だった。

所々黒ずんでいる。かなり古いのだろう。

 

「………い、電と雷は…〜〜ッ⁉︎」

 

無理に動いた反動が……それよりみんなは……

 

『あ…目が覚めた?』

 

その声を聞いて驚いた。私の横に男がいた。

白と黒のメッシュの髪。銀色の右目と黒色の左目。背丈は、私達よりかなり高い。175センチは超えるだろう。

 

「……目が覚めて良かったよ。僕以外に人がいるって分かってよかった……」

 

「……?」

 

「……僕は月駆星奈(つきかけせな)。君は……暁型駆逐艦二番艦の響、だよね?」

 

「……知って……?」

 

「……それなりには知識はあるつもりだけど……君の姉妹艦達は無事だよ。今……入渠してる。ここの施設は広いし施設も多いんだけど、使えるのが横の部屋とここしかなかったんだ。ごめんね、一人にしちゃって……」

 

「……この状況は、意図的に仕向けたのかい?人間。」

 

「……僕、自己紹介したはずなんだけどなぁ……まあ、意図的にと言えばそうかも知れないね……」

 

「……」

 

…人間……これだけは、許さない………なんなら、今打ってやるよ……

 

「君から話を聞いておきたかったんだ。僕も今この状況がどうなってるかわからないからね。」

 

「……本当に、そんな理由で…?」

 

「……そうだけど……どうしたの?」

 

「………私達は遠征中に大勢の深海棲艦に襲われて、逃げて来た……それで島を見つけてここに来た。」

 

「そっか……やっぱり、ここはVRMMOの中なのかな……」

 

「……?」

 

「あ、ごめんね。こっちの話だから気にしないで。」

 

「……ここは?」

 

「えっと…無人島、だと思うよ。人一人としていないから。」

 

無人島。ということはうまくいけば、ここに姉妹で仲良く暮らせる。鎮守府から逃げ出せた…

彼女達の鎮守府は世に言う『ブラック鎮守府』だ。休み無し、娯楽無し、補給や睡眠時間もほとんど無し。艦娘への暴言暴力は日常茶飯事。最悪の状況だった。鎮守府唯一の人間である指令官のせいで人間へのイメージは最悪だった。

そのせいもあり、星奈への接し方も良くないのだ。

 

「ここには高速修復剤が無くてね……多分あったとしても腐ってるだろうしね。」

 

「……」

 

響は星奈の話など全く聞いていなかった。どうやってこの人間を殺すか、どうやって妹達を助けるか。これだけしか考えていなかった。

 

「とにかく、安静にしててね?」

 

しかし、星奈はそれに気付かずそう言い残して部屋を出ていった。

 

「……今しかな、い、~~~ッ!?」

 

響は星奈が出ていって一分後、妹達を探すために立とうとした。が、まだ傷が癒えておらず、激痛が響を襲う。

 

「……くそっ…!」

 

そのまま動けない響だった。

 

 

 

 

 

 

「入るよ?」

 

ドアの向こうから少年の声が聞こえたのは出ていってから20分後の事だった。身構える響。沈黙が了承の合図ととったのか、星奈が部屋に入ってきた。

 

「お待たせ。お腹空いた?」

 

「……?」

 

少年が持っていたのは、一枚のお盆だった。それに何か乗せているようだ。そこからいい香りがする。

 

「雑炊を作ったんだけど…食べる?」

 

どうやらその香りの正体は雑炊だったようだ。

だが、それが危険なもの…薬物が入っているのではないかという警戒が解けず、黙っていた。

その時だった。

 

くぅ

 

そんな可愛らしい声が響のお腹から聞こえた。体は正直である。

「………////」

 

「……自分で食べられる?」ニガワライ

 

「……」フルフル

 

少し動いただけで激痛が走った響にとっては無理なので、素直に首を横に振った。

 

「こればかりはしょうがないね……ちょっと待って…」

 

星奈はスプーンで雑炊を一杯よそい、ふー、ふー、と雑炊をある程度冷ましてから響と口に差し出した。

 

「はい。これで食べられるでしょ?」

 

「……っ!?/////」

 

響は動揺した。とてもじゃないが、ここまで優しい人間…男に会ったことが無いのでこういうのに免疫がなかったようだ。いつも冷静な響が珍しく顔を赤くして動揺した。

 

「……////」アーン

 

響は恥ずかしく思いながらも、その小さな口を開けた。

「……はい。」

 

「……///」パクッ

 

美味しい。なんて美味しい雑炊なんだろう。

食べた時、響はそう思った。こんなにも美味しいものを食べたのは、いつ以来だろう。そうだ、間宮さんが指令官に内緒で作ってくれた、カレーだ。私が建造されて初めて食べた美味しいもの。それにも劣らない、美味しい雑炊だ。

 

「……っ!!」ポロポロ

 

いつの間にか、響は涙を流していた。

 

「……!」

 

星奈はそれに気付き驚いたが、何も聞かず、静かに微笑みながら響に雑炊を食べさせ続けた。

 




次回《第六艦隊と少年》


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第2話《第六艦隊と少年》

引き続き投稿していきます。クロス・アラベルです。
それではどうぞ。


 

「……んぅ……?」

 

ボロボロの部屋。そこでお湯に浸かっている少女達がいた。そして、その中の一人…紺色の髪の少女が目を覚ました。

 

「………ここ、は……」

 

少女は眠気眼を擦りながら、辺りを見回す。意識が覚醒していくにつれてだんだん気絶する前の記憶が蘇る。

 

「…あたし、確か深海棲艦から逃げてて……それで…ッ!!」

 

全てを思いだし、妹である電と雷の姿を見つけ、一安心したのも束の間、響の姿が見当たらず、探そうと立ち上がろうとすると足に痛みが走る。

 

「っ……!」

 

そして、ここで少女はお風呂に入っていることに気づいた。傷もほとんど治っている。艤装はお風呂の中に沈んでおり、こちらも修復がほとんど済んでいる。

 

「……あたし、なんでこんなとこに…」

 

響がここまで連れてきてくれたことを考えるもそれは不可能だ。4人の中で一番敵の攻撃を受けて負傷していたので、普通なら4人を運ぶのは可能とは言いにくい。もう一つ思い浮かぶのは、

 

「……響以外の、誰か?」

 

そうとしか思えない。だが、なんのために?響と暁は誰の反応もない陸地に行ったはずだ。艦娘の反応はなかったので近くに鎮守府はないはずだ。

人間が…というのは無いはずだ。彼等は面倒ごとには首を突っ込もうとはしない。というより、そんな奴らに助けられたくなんか無い。

 

「人間、なんかに…」

 

その時、妖精さんがお風呂の縁に現れた。

 

『あかつきさん!よかった、めがさめたんですね!』

 

「え……う、うん…ありがと……そっそれより、響はどこ!?」

 

『ひびきさんですか?ひびきさんならもうかんぜんかいふくしましたよ』

 

「よ、良かった……」

 

響が無事だと言うことを聞いて暁は安堵した。

 

『ひびきさんはべつのへやにいます。』

 

「でも、ここはどこなの?」

 

『ここはどこかのむじんとうのふるいちんじゅふだとおもわれます。しょうこにこうそくしゅうふくざいも、しょくりょうもほとんどないみたいですし……でもないというわけではないんです。星奈さんがこのちんじゅふからさがしてくれたおかげで…』

 

「……星奈?誰なの?」

 

『えっと……にんげんのかたですけど…』

 

「!?」

 

人間。暁はその答えを聞いたとたんに鳥肌が立った。まさか、響に暴力を…そう考えると虫酸が走る。

 

「ふっ二人とも起きて!響がっ、響が!!」

 

「…んん…お、姉ちゃん…?」

 

「暁……?」

 

すぐさま他の二人、電と雷を起こして説明を済ませ、扉を睨む。

 

「人間がいるってことは……帰ってきたんじゃないの……?」

 

「どう考えても違うわ。だって、帰ってきたんなら入渠なんかさせてくれないわよ。あの提督は…」

 

雷の言葉を聞いて、静かに、そして怒気を含んだ反論をぶつける暁。

 

「……ひ、響お姉ちゃん……」

 

不安そうにうつむく電。

 

「二人とも犠装は展開したわね?」

 

「うん」

 

「な、なのです…」

 

三人は完全修復された儀装を展開していた。

 

「……じゃあ、行くわよ。妖精さんもナビゲートお願い」

 

『わかりましたが……そんなにけいかいしなくても…』

 

妖精さんのこぼす言葉を無視し、三人は扉を開けた。

 

「……敵なし」

 

扉を開けるとそこは廊下だった。三人は電波探知機で響の反応を発見し、妖精さんのナビゲートを聞きながらそこへと急ぐ。

そして、反応がある部屋の前にたどり着いた。

 

「いいわね?突撃するわよ。3、2、1…今!」

 

三人が部屋に勢いよく入ると、そこに響はいた。

 

「……!皆、起きたのかい!」

 

「響っ!」

 

「響お姉ちゃん!」

 

「響!大丈夫!?」

 

響は三人を見てあまり感情を出さない顔が喜びを露にした。

 

「私は大丈夫だよ」

 

響は抱きついてくる電と雷の頭を撫でながらいう。

 

「響、人間は……!?」

 

「……人間、かい?…………そこにいるよ」

 

響が指をさす方に暁は素早く主砲を向ける。

 

「ッ………!?」

 

そして、驚いた。

 

『……zzz』

 

その人間は、ぐっすりと眠りこけているのだ。

 

「……こいつ、本当に寝てる、の……?」

 

「多分ね。今から二時間くらい前からこれだよ。」

 

微妙な顔で響が言う。

 

「この人間、少なくとも私達に危害を加える気はないと思うよ。この4日間、襲われることも無ければ、暴言暴力さえも受けなかったから……それどころか、私に食事を用意してくれたし、三人の世話もしてくれてたしね。」

 

「う、嘘よ!」

 

「……人間がそんなこと…」

 

「現に皆完全回復してるだろう?」

 

「……本当なのですか?」

 

「まあ100パーセントって訳じゃないから、しっかりと見ておかないといけないけど…」

 

「……分かった。しばらく様子見ね。」

 

「分かったわ」

 

「な、なのです」

 

「分かった」

 

こうして第六艦隊の四人は人間……月駆星奈を監視していくこととなった。

 

 

 

 

「……ん?あれ……寝ちゃってたかな?」

 

星奈は起きた。昨日、遅くまでこの無人鎮守府を掃除して、物の整理をして書類を読んで……そこで記憶は途切れている。

 

「今…朝の7時か……よし、朝ごはんを……おろ?」

 

懐からGGOで地図をスキャンし相手の位置を確認するために使っていた端末……今ではスマートフォンと同じ機能を持っているそれで時間を見て体を起こそうとしたその時、星奈はその部屋……書類管理室の向かいの壁側に固まる小さな4つの体を見つける。暁、響、雷、電だ。昨日、響以外はまだ起きていなかったが意識を取り戻したのだろう。

 

「……仲がいい姉妹だね」

 

星奈は優しく微笑みながら呟いた。

 

「…さて、朝ごはんの用意をしないとね」

 

星奈は立ち上がり、部屋を出ていった。

 

 

 

 

いい香りがする。まるで……

 

「……お魚を焼いてるようなのです…」

 

電が一番に目を覚ました。辺りをキョロキョロと見渡すと姉達は電とひとかたまりになっているが、人間の姿が見えない。

 

「お姉ちゃん!起きるのです」

 

電は姉達を起こした。

その時、人間が部屋に入ってきた。

 

「あ、起きたんだね。おはよう」

 

カートに幾つかのお皿を乗せて。

 

「………」

 

「朝ごはんが出来たから食べよう。覚めないうちにね」

 

人間は部屋の奥から大きめのテーブルと椅子五つを出してきた。

そして、カートに乗っていた皿をテーブルに置く。

その皿の上には20センチほどの魚と少しの野菜が盛り付けられていた。

 

「ごめんね、量が少なくて……」

 

『『…………』』

 

「さあ、食べよっか。頂きます。」

 

「…頂きます」

 

そういって料理を食べ始めた。それに倣って響も食べ始める。

 

「「「………」」」

 

「三人とも食べないの?ほら、冷めちゃうよ」

 

響を除く三人が黙っていると星奈が三人を誘う。

 

「………食べて、いいのですか?」

 

小さな声で電が聞くと星奈は笑顔で答える。

 

「もちろんだよ!みんなのために作ったからね。」

 

そう言って三人を受け入れた。

三人は恐る恐る料理を食べ始める。何ヵ月か振りの食事。自然に進む箸。三人はいつしか笑みを浮かべていたのだった。

 




次回《少年と鎮守府》


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第3話《少年と鎮守府》

それではどうぞ!


とある無人島の古い鎮守府。その廊下を歩く少年がいた。

 

「……さて、今日は工廠に行く予定だったね。」

 

少年、月駆星奈はここの鎮守府の工廠、いわゆる工場に行くことを予定していた。

工廠は元々旧陸海軍直属で軍艦などの兵器や弾薬を造る施設だったが、ここは艦娘が存在する世界。ならば工廠は艦娘を建造される場所になっている筈。星奈はそう予想……確信し、鎮守府の離れにある工廠に向かっている。

 

「…艦娘を造ってるってことは……そこには妖精さんがいるってこと…?」

 

妖精さんは響達ので一度見ているので驚くことは無いが、妖精さんについてはあまり情報が無く、二次作品を見てみると妖精さんと意思疎通自体素質が無いと駄目とか色々設定があった。そう思うと、これから行っても意思疎通が出来なければ何かを造ってもらうことすら不可能ということになる。今から妖精さんに頼もうとしていることは、人間では不可能なことなのだ。

 

「…着いた」

 

黙考している間に工廠に着いた。やはり、人がいないからか蜘蛛の巣だらけだ。そんな工廠の扉を星奈は思いきって開けてみた。

 

「こ、こんにちは~……」

 

暗い。明かりは当然つけられていない。何かの気配は無いし、工廠に響くのは星奈の足音だけ。

だが、奥が少し明るく見える。

 

「…誰か、いる……?」

 

奥へ進み、光の元に辿り着いた。そこにいたのは、

 

『『『……zzz』』』

 

何人かの妖精達だった。

 

「あの、すいません…お、起きてくださーい…」

 

小さな体を揺すって起こそうとすると、一人の妖精が飛び起きた。

 

『!?』

 

「うわっ!?」

 

『……ていとくさん、ですか?』

 

起きて僕を見るなり、妖精さんはそう言った。

 

「えっと……この島の鎮守府にいる人間は僕一人だから、そうなのかな?」

 

『そうですか、ていとくさんですかー!みんな、おきてー!おしごとだよー!』

 

『おしごと?』

 

『久しぶりだなー!』

 

『おれのみぎてがうずいているー!』

 

『そんなことよりおうどんたべたい』

 

一番始めに起きた妖精さんはリーダー的存在だったのか他の妖精さんを起こして指示をしている。そのなかには個性的な妖精さんもいるようだ。

 

『それで、ごようけんは?』

 

「えっと……これを改造出来ませんか?深海棲艦にダメージを与えられるような……」

 

僕はあらかじめ持ってきたものを妖精さん達に見せてみる。

 

『これを、ですか?』

 

『わー、なにこれー』

 

『かっくいー!』

 

『しんかいせいかんにー?』

 

妖精さん達が例の物に群がっている。リーダーの妖精さんはうーんうーんと悩み、唸りながらも了承してくれた。

 

『いいですけど……できるかわかりませんよ?』

 

「いいんです、お願いします。」

 

『……わかりました!かいぞうにはすうじつかかるとおもいますが、ぼくたちがせきにんをもってかいぞうします!』

 

『『しまーす!』』

 

こうして、とある武器の改造を無事妖精さん達に依頼することが出来た。

 

 




次回《記憶》


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第4話《記憶》

それでh(略)



突然だが、月駆星奈は、海岸で只今絶賛釣り中である。

釣糸を垂らせば物の10以内には魚が食いつく。前回、魚を釣って朝ごはんにようと一時間半程かけて釣ったが、今回は当たりだったようだ。

 

「……あ、来た。」

 

自作した釣り竿を引き、釣り上げる。

 

「……これ、マアジ…だね」

 

釣れたのは星奈が前に釣ったマアジだった。

 

「口から針を抜いて、と……」

 

釣り上げたマアジの口から針を抜き、餌をつけて投げる。その時、後ろから足音が聞こえる。

 

『……何をしているんだい、人間』

 

「…見てわかる通り、釣り…だけど」

 

落ち着いた声。後ろを振り向くと白銀の瞳を鋭くし、同じ色の長い髪なびかせた響が立っていた。

 

「……こんなとこで、釣りって……釣れるとは思えないけど」

 

「……予想に反して絶好調だよ。生憎、ね」

 

「……ふふふ」

 

それを聞いて少し笑う響。笑う響を見たのは星奈自身、初めてだった。

 

「隣、いいかい?」

 

「いいよけど……どうしたの?今日は珍しく友好的だね」

 

「…別に友好的なんかじゃないよ」

 

「……まあ、そういうことにしておこう」

 

「……納得出来ないな……まあいいや」

 

隣に腰掛ける響は何か、悩んでいるようだった。

 

「……星奈、少し聞いてくれるかい?」

 

「…いいよ、なんでも言って。」

 

初めて響が自身の事を名前で呼んだ事に、少し肩透かしを食らった星奈は大人しく聞く事にした。

 

「……艦娘にはね、二つの記憶と魂があるんだ。一つは艦娘になった現在の物、もう一つは____軍艦であった頃の物」

 

その言葉を聞いて、息を呑んだ。やはり、この世界でも第二次世界大戦は起こったのだ。そして、その頃の記憶を持っているのならば___

 

「時々、その頃のことを思い出して怖くなるんだ。仲間が沈んでいくところを…あの、最期の瞬間を……」

 

「……君は確か、轟沈していなかった筈……生き残った…の?」

 

「……ああ、死に損なったよ。私もあの時沈むべきだったんだ。姉さんや雷、電もいない世界なんか、生きてる意味なんて無かったのに…」

 

響の悲しい過去への吐露を聞き、何か共感するものがあった。いや、響に起こったことと星奈の過去は同じだったと言っていい。

 

「……その気持ちは分かるよ」

 

「…そういう言葉は簡単にいうことじゃない。気をつけた方がいいよ」

 

そんな言葉に響は怒りを込めた言葉を投げかけた。

 

「……軽く聞こえてたなら、ごめん。ただ…君が僕に似てるような気がして」

 

「……?」

 

星奈は長話になるだろう辛い記憶を話すために釣り竿を上げて、一旦片付けた。

 

「……分かるって言ったのは、僕の過去と同じだったから…だよ。僕も友達を目の前で失ったんだ」

 

「____ 」

 

驚きで言葉が出ない響。

 

「………あれから三年経ったけど、それでも忘れられない……いや、忘れちゃいけないんだ。」

 

「……まさか、深海棲艦に…」

 

「……違うよ。同じ、人間に殺されたんだ。殺人を快楽としている人たちに」

 

「…人間同士でも殺し合うのかい………⁉︎」

 

「……普通ならしないよ。僕だって、僕の仲間や知り合いだって、そんなことしない。止めようとすらしたさ……けど、僕らは運が悪かったのかもしれない。あの時、僕が……街を出ていなければ、みんなが探しに来ることもなかった。あれは、僕のせいなんだ」

 

「……その、仲間の最期の遺言(言葉)は…」

 

「……『生きろ』って」

 

「…っ!」

 

「自分が死んじゃうのに、僕のことを見て…すぐにそう言ったんだよっ……」

 

星奈はその時のことを思い出したのか、体育座りして俯いた。その体は震えている。

 

「…それで、その後、激情に駆られてその殺人鬼達を斬り刻んで、殺したんだ」

 

「……」

 

「……我に返ってみれば、そこに殺人鬼は一人しかいなかった。黒いポンチョを着て、片手には……中華包丁みたいな形の大きな小刀(ナイフ)を持っていたんだ。その男は僕を見て、『楽しみが一つ増えた』って言って、何処かに消えて行ったんだ」

 

「……君は、その後、どうしたんだい?」

 

「……半年くらい、宿屋から出られなかったんだ。でも、ようやく半年で踏ん切りがついた。前に進もうってね。みんなが見てるなら、多分何してるんだって起こる筈だから」

 

「……君は、強いね。私は……戦うとき、後ろに姉さんや電達がいる時、恐ろしくなってしまうんだ…………また、失うんじゃないかって……」

 

「……強くなんかないよ。それに、君はまだチャンスがあるんだ」

 

「……?」

 

「……一度沈んでしまったけど、みんなこうして生きてるんだよ?なら、今度こそ、守ってあげなきゃ」

 

「…っ!!」

 

星奈になかった……いや、出来なかったこと。それはもう一度守ること。死んでしまった命はもう甦ることは決してない。もう一度のチャンスは訪れる、なんてことはない。だが、響達は再びこうして会うことが出来た。ならばすべき事は一つだ。

 

「…落ち込んだり、怖がったりする暇なんか無いよ?でも、そうやって感じることが多々あると思う。その時は、僕が支えるさ」

 

「本当に……?」

 

「うん。支えるし、君が危ない時は助ける。そして、君が戦えなくなったら、僕が戦うさ。一緒に戦いもしよう。僕が自分を失ってしまった時、助けてくれた人がいたんだ。だから、今度は、僕が君を……ううん、君達を助けたい。図々しいかも知れないけど、ね」

 

響は信じられなかった。それでも、星奈の言葉は彼女の胸の奥に届いた。

 

「……ありがとう、人間。でも、あまり、期待しないでおくよ」

 

「……酷いなぁ」

 

二人は海岸で笑いあった。響は彼が全てを変えてしまうこと、そして、共に戦う時が刻一刻と迫っている事など、露にも知らない。

 




次回《青空にかかる暗雲》


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第5話《青空にかかる暗雲》

星奈がこの無人島鎮守府に来てから一週間以上経った。

第六艦隊の四人は相変わらずだが、星奈はこの世界での生活に着実に慣れてきた。ここは無人島、人工物がこの古い鎮守府だけなので食料を確保するだけでも大変なのだ。

 

「……」

 

今、星奈は鎮守府の司令室にいる。いや、思われると言った方がいい。最初に来た時は中がぐちゃぐちゃになっていて、何の部屋から分からなかった。今、整理しているところだ。

 

「……書類だらけだね。整理し終わったら読んでみようかな?」

 

書類、前提督の私物(恐らく)、本などをまとめていると、本の隙間から、ばさっと音をたてて何かが床に落ちた。それを拾い見てみると、

 

「これ、新聞……?」

 

新聞だった。

 

「これなら何か良い情報が書いてありそう」

 

この新聞や書類、本などは星奈にとってはかなり重要なものだ。この世界についての情報が事細かく書いてある。特に、新聞は。

 

「……2030年、7月の……3日、火曜日。」

 

僕がいた世界は2025年の五月の中旬。この新聞は何年前かは分からない。が、この年以降だということは確定だ。そして、僕のいた世界の約5年後の記事。新聞名は『海扇新聞』。

 

「……深海棲艦についての記事もある…」

 

書いてあるのは元の世界と変わらぬ日常の記事。そして、見出しには『深海棲艦、再び襲来 〜人類、万事休すか〜』とでかでかと書いてある。要約すると、どの軍事基地も壊滅的な被害を受けて使い物にならなくなっていて、成す術がないらしい。第二次世界大戦であれほどの力を見せていたアメリカやイギリス、ロシアでさえ手も足も出ないという異常な耐久力(かたさ)と、有無を言わさぬその攻撃力、そして、その小さな機体からは考えられない機能を持った謎の艦載機。日本など、風前の灯火だ……そんな感じで書かれている。

 

「……謎の怪物、深海棲艦出現から、一ヶ月…?」

 

この記事には一ヶ月と書いてある。という事は、人類はたった一ヶ月で、追い詰められたということになる。

 

もっと知りたくなって部屋を漁ってみると、案の定、いくつか新聞があった。

 

「……あ、また新聞…」

 

そして、次の新聞の日にちは2030年7月24日。

 

「さっきの記事の20日後か…」

 

その記事の見出しは『希望の光がこの国を照らす〜その正体は、女の子⁉︎〜』と書かれている。

 

「……この時初めて艦娘が姿を現したんだ…」

 

その記事の写真には五人の少女が写っている。真ん中の子は黒髪セミショートにセーラー服。その左の子はピンク色の髪をツインテールで纏め、真ん中の子と同じくセーラー服に身を包んでいる。その左には腰まである毛先の切りそろえられたモイストシルバーの長髪に、赤の強いオレンジ色の瞳の少女。この子もセーラー服だ。そして、一番右側には地面まで届きそうになるまで伸びた透明感のある青髪と青い瞳のこれまたセーラー服姿の女の子。そして、その左隣にいる一際小さな女の子。茶色い髪をアップヘアーにして束ねていて、瞳は金色。見たことのある子だ。

 

「……まさか…電?」

 

そう、その子はこの無人島にいる電そっくり…いや、そのまんまなのだ。

 

「……始まりの、少女…か」

 

記事にはそう書かれていた。

次の新聞は2031年の7月14日。艦娘が現れてから一年が経ってからの記事だった。その記事の見出しは

 

『○○○鎮守府、半壊。○○鎮守府、全滅。緑の悪魔、『リ級(かい)fragship、襲来』

 

「……悪魔の、リ級?」

 

リ級と言えば、重巡だ。確かに戦艦には届かぬものの耐久、火力共に高く手強いが、それは最初の時だけ……そう、元の世界の攻略サイトで見た。そして、廻fragshipという深海棲艦はいなかった筈だ。だが、何にせよ恐ろしく強いのだろう。

 

「……7月、か…」

 

今は夏。響によると今日は7月の14日。その悪魔のリ級が現れた日と、偶然にも重なる。

その時、星奈は嫌な悪寒を感じたのだった。

 

 

 

 

 

星奈が司令室を掃除している頃、響たちは外にいた。

 

「……?」

 

青空の向こうから黒い雨雲が流れてくる。天気が悪くなりそうだ。そう思った響は海辺ではしゃいでいる姉妹に声をかけようとした、その時、常に持っていた電探が一つの敵艦が来たことを知らせたのだった。

 




次回《第一次鎮守府防衛戦》


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第6話《第一次鎮守府防衛戦》

 

「……ッ!」

 

響は鋭い目で海の向こうを見た。その向こうからは敵がやって来ている。数は一つ。

 

「みんな、敵艦が来たよ……ッ!」

 

「「「⁉︎」」」

 

その一言に3人は目に見えて怖がる。

 

「……敵艦の数は一つ。速度はそこまでだけど、油断は出来ないよ」

 

「…一つって事は、はぐれ深海棲艦?」

 

「……多分、ね」

 

「なら、私達でも…」

 

「……普通に考えてみて。私達の練度は20にも達していないんだよ?そんな私達が今敵艦と交戦しても、勝てるかは……」

 

響の冷静な推測で3人は震えだす。

 

「……ここはやり過ごすか、戦いながら逃げるか……その二択だよ」

 

「……い、一応艤装は出しておきましょう。こっちに向かって来てるのなら、戦闘になる確率は高いと思うから…」

 

3人は怯えながらも偽装を展開。そして、資材や燃料の残量を確認する。

 

「……どうだい?」

 

「……弾薬とか、攻撃に使うものは結構あるけど…」

 

「逃げるには、燃料が足りないのです……」

 

「……私もよ、響」

 

「……私も似たような状態だよ」

 

逃げるには燃料が少なく、戦うには丁度いい程資材が残っている。ここから導き出される選択は一つ。戦う事だ。

 

「……やるしか、ない」

 

響は3人にそう告げて覚悟を決めようとした、その時。

 

「みんな、早くこっちへ!鎮守府に逃げるんだ!」

 

この無人島で唯一の人間、星奈が走ってやってきた。

 

「……人間、そんなことをしても無駄だよ。多分私達は捕捉されてる筈。鎮守府の中に隠れても見つかるのは時間の問題……戦うしかないんだ」

 

「……で、でも戦闘は出来るだけ避けるべきだよ!」

 

「……人間、逃げるなら早く……」

 

その時、リ級の小さな影から米粒程の小さな影が出てきた。いくつもの偵察機を飛ばしてきたようだ。

 

「……ッ!来たよ、皆!偵察機を撃ち落として敵にこっちの弱さを悟られないようにする!」

 

「わかっているわ!」

 

「な、なのです!」

 

「…こういう時に限って…ッ!」

 

4人は一斉に武器を構える。響、電、雷は右肩に取り付けられた主砲12.7連装砲を、暁は右腕に装備している同じ12.7連装砲を。

影から察するに敵は恐らくリ級。そして、偵察機を出しているという事は、改fragship。もう、勝ち目は無いに等しい。

それを響と暁は分かっていた。だが、隠れるなどという選択肢は眼中に無かった。

暁は史実、第六艦隊の中では一番初めに沈んでいる。長女であり、守るべき妹たちがいる。もう、置いていきたくは無いのだ。最愛の家族を。

響は四人の中で唯一生き残った艦だった。電に関しては目の前で失った。彼女にとって、暁達は自らの命を賭してでも守りたい家族。もう、一人にはなりたく無い…そして、もう失いたくないのだ。最愛の家族を。

正反対の史実を持っている彼女たちの想いは一つだった。

 

「……そうだ!あれが完成していれば……少し待ってて‼︎」

 

星奈が何かを思い出したのか鎮守府の横、工廠に向かって走っていった。

 

「……(逃げるの(それ)が一番の選択だよ、人間。それでいいさ。私達は、どうせ沈んでも新しく建造すればまた生まれる。)」

 

「それじゃあ、対空射撃、開…」

 

その直後、30メートル先に迫った偵察機を撃ち落そうと暁の声で対空射撃を始めようとした、その時。

 

 

激痛が四人を襲った。

 

 

「………ッ⁉︎(な、何が起こって……あれは偵察機の筈…)」

 

響はその痛みに整った顔を苦痛に歪めながらも耐え、考えた。

 

「皆、大丈夫っ⁉︎」

 

暁が全員の状況を確認する。

 

「……雷は、中破しちゃったわ」

 

「電はまだ小破もしてないのです……っ!」

 

「……私は大丈夫。小破まではしてないよ」

 

状況は悪化した。だが、響はそれよりも先ほどの射撃はなんだったのかを考える。

 

「……(リ級は持っていても偵察機ぐらいで空からの攻撃は来ない筈……もしあれが艦載機だとして……何故リ級が?)」

 

少しずつ、答えに近づいていく。

 

 

 

 

「……あ、あれって、機銃?でも、リ級って空からの攻撃は…待って、あれ……本当にリ級?ただの改fragship?」

 

鎮守府の工廠への道中、星奈も先ほどの攻撃を見ておかしいと気づく。

 

「…あのリ級、何色の光を持ってる?」

 

星奈は小さなポーチから小型の双眼鏡を取り出し、敵艦の光の色を確認する。

eliteは赤、fragshipは黄、改fragshipは青色。空からの攻撃はその三種では不可能で、かろうじて改fragshipが偵察機を持っている程度なのだ。では何故響達は攻撃を受けているか。答えは単純、あれは艦載機だという事だ。では、何故リ級が艦載機を飛ばしているのか。

 

「……相手は…み、どり色?」

 

そのリ級から滲み出ている光の色は木の葉のような翡翠色。

星奈はその時、先程見ていた新聞の内容をはっきりと思い出した。

 

「……ま、まさか…あれは…」

 

 

 

 

 

 

「響!ど、どうしたの⁉︎」

 

時を同じくして響もそれに気付いた。

 

「……翡翠(みどり)色……⁉︎じゃあ、あれが……」

 

響は元の鎮守府で提督が読んでいた新聞を隠れて読んでいた。外の知識も他の艦娘よりはある。そして、当然昔の新聞も読んでいた。2036年7月14日の記事を。

この時、皮肉にも二人の声は重なった。

 

 

「「リ級(かい)fragship……ッ‼︎」」

 

 

そう、本物の化け物がやってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

「…みんな、不味いわよ……私は小破だけで済んだから響とペアで行くわ。電は雷を守りながら二人は援護射撃をして!」

 

「……了解!(なのです!)」

 

「……行こうか、姉さん」

 

「ええ。なんとしてでもあいつを沈めるわよ!」

 

四人は覚悟を決めて艦載機を撃ち落としにかかる。

 

「……ッ!」

 

思ったより艦載機の動きが速く当たりにくいが、着実に撃ち落として行く。

 

「…やった!全部撃ち落とせた!」

 

「やったのです!」

 

ようやく全ての艦載機を撃ち落とし、喜ぶ雷と電。

 

「……まだよ!本体が残ってる!」

 

だが、元凶がまだ残っている。距離は残り50メートル。距離的にまだ余裕はあるものの、能力(ちから)は向こうの方が格上。

 

「……何故こっちに来ないんだ?さっきからろくに動いてないけど……」

 

あのリ級は全く動いていない。普通なら突っ込んでくる筈。

 

「……やっぱり、おかしいわよね?響」

 

「……うん。異様に静かだ。大人し過ぎるよ」

 

「……あれで終わる訳無いから……まさか、様子見?」

 

「……いや、違う。それと似てるけど……あれは、まるで……」

 

『まるで、狩りを楽しむ狼のようだ』そんな言葉を

その目は獲物(ターゲット)を見据えてどう追い込むかを考えている……そんな風に響は感じられた。

 

「……動き出した…っ!」

 

「来たわね……二人とも、援護射撃を頼むわよ!」

 

いよいよリ級は動き始めた。ゆっくりとだが、こちらに前進してくる。

 

「………(あの噂のリ級廻fragshipなら、普通の改fragshipよりも性能が高い。本来持っているはずのない艦載機を飛ばして来たことも踏まえて、他にも持っていないはずの装備や能力(ちから)を持っていると考えれば……相手の潜在能力は未知数、と考えたほうがいい。あの新聞にも、他の報告書にもアレの持ってる装備(ちから)については何も書いていなかった…)」

 

「……響、あのリ級のこと…どう思う?」

 

「……あれはあるところの鎮守府を壊滅させた異常存在(イレギュラー)…と考えた方が良さそう。多分、火力(ちから)耐久性(かたさ)速度(はやさ)も……改fragshipより大きく上回っている筈…」

 

「……全く…こういう時に限って……勝てる可能性はほとんどない、わね」

 

「……ダー(ああ)

 

「……さあ、死闘を始めようじゃないの………‼︎」

 

 

 

 

 

 

四人の練度は低く、全員が10を下回っている。駆逐艦は一番建造されることが多い。言い方は悪いかも知れないが、種類も豊富だ。

駆逐艦は回避、雷撃、対潜に優れており、前衛にもってこいだ。だが、短所として火力と共に装甲……耐久力が低い。改や改二は改造前を一回りもふた回りも性能が良くなり、戦艦と肩を並べる化け物(チート)級の駆逐艦もいる。火力に関して言えば夕立が有名だろう。だが、それでも耐久力が他の種艦より下回る。

だからこそ、駆逐艦は沈むことが多い。いや、必然的に増えてしまうのだ。

練度の低過ぎる彼女達にとってこの戦いは、死刑宣告をする事に等しかった。

 

「う……ッ⁉︎」

 

風切り音を奏でながら砲撃がすぐ真横を通り過ぎ、海面が爆ぜる。異常な程に。

 

「……ば、化け物地味てるじゃないっ⁉︎」

 

近づくことすらままならない、圧倒的な技術量。あの噂のリ級が初めて出現したのは10年前。あれからずっと生き続けていたのか。

 

「……くッ‼︎」

 

10メートル程距離が開いているのにこの精密な砲撃。魚雷で攻撃しようにもすぐさま牽制され、不発に終わる。今まで放った魚雷、3本はが全て牽制された。逆に響達は敵の攻撃を避ける事に必死だった。

 

「……埒があかない…ッ!」

 

魚雷は一人6本ずつ装備している。響の魚雷は6本残っているが、暁達はすでに一本ずつ使ってしまった。

 

「きゃあっ⁉︎」

 

「い、電っ⁉︎」

 

電が相手の砲撃に掠り、被弾。

 

「…た、大破なのです……っ⁉︎」

 

「「「⁉︎」」」

 

四人は驚愕した。砲撃を掠っただけで、小破さえしていなかった電が()()()大破したのだ。いや、ギリギリ轟沈していないと言うべきか……なんたる火力。

 

「……っ、みんな!魚雷一斉発射っ‼︎」

 

そこで冷静さを欠いた響がみんなに魚雷による総攻撃を促す。放たれる魚雷。その数、15本。いくら強くても牽制しきれる物量ではない。牽制したとしても少なくとも7発は当たる、そう響は予想した。

だが、リ級はその予想を遥かに超えた行動をとった。

 

『……』

 

「「「「_______ 」」」」

 

リ級は牽制せず、避けることさえせずに真正面が受け止めようとしていた。

爆発音。上がる水飛沫。

驚きが抜けきっていない四人はまた恐るべきものを見て、時を止めた。

 

『……ハァ…』

 

主砲をこちらに向ける、小破さえもしていないリ級廻fragshipを。

 

「……ブリン(ヤバイ)ッ‼︎」

 

「みんな、下がってぇぇッ‼︎」

 

暁が警告した時にはもう遅かった。狙われているのは、不幸にも電だった。電は自分の轟沈()を幻視し、涙を流しながら目を瞑った。

だがその時、響が咄嗟に電の前に出て、左腕の装甲を盾に砲撃を庇った。

 

「がッッ_______ 」

 

小さく溢れる悲鳴、吹き飛ぶ響、砕け散る装甲、散る暁達の叫び声。

 

戦いは最悪の終焉(バッドエンド)に向かっていた。

 

 




次回《不死鳥と狙撃手》


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第7話《不死鳥と狙撃手》

 

暁型駆逐艦2番艦『響』は波乱万丈な人生……いや、艦生を歩んだ。

太平洋戦争開始時、響は暁、雷、電と共に第1艦隊第1水雷戦隊第6駆逐隊を編成。

キスカ島攻略作戦中、飛行艇からの至近弾をくらい、沈没寸前の状態に陥ったが応急修理が成功。わずか5ノットしか出なかったが、姉である暁に守られながら退避に成功し帰投した。

船団護衛中、末っ子の電と持ち場を交替した僅か30分後に米潜水艦「ボーンフィッシュ」の魚雷が電に命中、一瞬で電は沈没してしまった。

響は「電」の生存者を救助したものの、妹の仇である潜水艦は爆雷を投射したものの仕留められなかった。

このとき、既に暁、雷は戦没しており、響は目の前で最後の姉妹艦を失い、第六駆逐隊最後の生き残りとなった。

その後も度々故障と修理を繰り返していった。

輸送船の救助中、潜水艦の雷撃を受け故障。

修理に寄るもその修理先で乗組員が集団で赤痢という病気にかかり、佐世保に帰投。

修理のために横須賀へ。このためレイテ沖海戦に参加できず、レイテでは護衛の駆逐艦が足りず、多数の被害が出た。

大和特攻に参加予定だったが、触雷して航行不能に。そのまま修理のために参加できず。

第1海上護衛艦隊第105戦隊の旗艦として、日本海防衛に参加。

北海道等を空襲している米軍機と戦闘したが、北海道空襲の民間人死傷者は多数出た。

なお、この時B29を主砲で撃墜しているが、この主砲は前述の横須賀での修理のときに、大破して動けなくなっていた「潮」から譲り受けたものだったという。

1945年8月15日7時頃…玉音放送の5時間前に、B29へ発砲した。これが帝国海軍最後の射撃とされている。

終戦 武装解除の上で雪風、鳳翔などと共に復員輸送に従事。そして、響は日本を離れ、ソ連に賠償艦として引き渡された。

この敵艦の攻撃を何度も受けてその度に修理し、蘇った史実から、いつからか……響は《不死鳥》と呼ばれるようになった。

だが、彼女は生き残ったと同時に様々な大切な人達(もの)を失ったのだ。艦娘になった今も、彼女はその記憶に囚われている。

彼女にはこの記憶から自由になった事は一度もない。遠征や出撃をするたびに体が震える。砲撃の音を聞いたり、味方が敵からの攻撃を受けたり、姉妹と離れるだけで心臓が潰れてしまいそうになる。

彼女自身、自分の運命を呪い、忌み嫌っていた。だから素っ気なく答えたり、他の艦娘と関わろうとしないのだ。

 

響は二つの願いがあった。

 

 

「……ぐ、ぁ……ぁあ…ッ」

 

『……ハァ…』

 

向けられるリ級の主砲、家族の叫び声、酷い痛み。

もう、頭がどうにかなりそうだった。現状は左腕で先程砲撃を受け流したためにもう使い物にならない。だが、機関も無事で中破にとどまっている。左腕にダメージを集中させたおかげでもあるが、衝撃で頭から出血している。

 

二つのうち一つの願いは、家族を守ること。

 

そして、もう一つ……密かに、彼女自身が知らぬ間に生まれた願い(悲願)………それは、轟沈願望(自殺願望)だった。

 

「……ぅ、ぁ……(ああ、やっと…やっと、沈める(死ねる)……今までの悲哀(地獄)から…)」

 

溢れる涙、締め付けられる心。それでも、彼女は消えることを望んでいた。

 

 

「…さよ、なら……姉さん、雷、電……っ!」

 

自分にとどめを刺すその砲撃を身を瞑って、待った。

 

 

 

 

そして、暁型駆逐艦2番艦、響はその人生(艦生)に幕を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直前、風を切る音と鋭い銃声が響いた。

 

 

 

『ア"ア"ア"ア"アアァァァァアッッ⁉︎』

 

驚いて目を開けてみると、そこには顔を隠して叫び声をあげるリ級の姿があった。何が起こっているのか分からない響は動揺していると、無線から声が聞こえた。

 

『主砲構えて、撃って‼︎』

 

「ッ‼︎」

 

その声を聞いて響は反射的に砲撃すると見事に甲板部分に直撃した。

 

『急いで距離を取って。至近距離だと敵艦の攻撃をモロに受けるよ』

 

「わ、分かった……!」

 

無線から聞こえる誰かの声に従って距離を取る。

そして、響は遅まきながら何故無線から声が聞こえるのか、不思議に思った。無線の類は全壊していて到底使えるものではなかったし、入渠しても唯一治らなかった。妖精さんは何かあった時のためにと新しいものをつけてくれたが、暁達とは無線で連絡出来るが、元いた鎮守府との連絡は取れないから注意してくださいという事は何度も聞いた。しかも声は暁達のような子供の声ではない。落ち着いた青年の声……男だ。

 

『……何故無線(これ)から声がするか疑問に思っているだろうから答えておくけど…星奈だよ。一応、こんなことがあろうかと妖精さんに作ってもらったこの無線と僕のインカムを繋いでもらったんだ』

 

落ち着いた声で淡々と説明する星奈に響は驚きを隠せなかった。星奈はすでに逃げたと思っていたのだから。

 

『奴はリ級廻fragship、本物の化け物だよ。改fragshipよりも全体的に潜在能力(ステータス)が上がってる。それに、多分奴には魚雷が効かない。気をつけて戦わなきゃいけないんだ』

 

「……それぐらい分かってるけど、人間、さっきどうやって攻撃したんだい?」

 

『……妖精さんに作ってもらった特注の狙撃銃(スナイパーライフル)だよ。精一杯支援(サポート)するよ。自分の標的(ターゲット)への攻撃は唯一目しか通らないと思うからずっとそこを狙う。君は僕の狙撃で怯んだリ級をすかさず攻撃して。これしか勝つ方法はない』

 

「……分かった(ダー)、頼んだよ」

 

「……了解(ダー)

 

ロシア語を交えながら短い時間で作戦会議を済ませた響は戦いの舞台へと滑り出す。

 

 

 

 

 

 

無人島の鎮守府の建物、その一つである工廠の屋根の上に星奈はいた。

仰向けになりながら黒光りする大きな狙撃銃(スナイパーライフル)を構えている。

その銃の銘は《ウルティマラティオ・ヘカートⅡ FM-1》。ちなみにFMは《Fairy Made》の略だ。星奈が元々持っていたヘカートⅡは半壊状態で、使える状態ではなかったが、妖精さんに頼み込んで修理と改造を頼んだのだ。()()()()()()()()()()()()()()、と。その結果、つい先日完成したのだ。深海棲艦の装甲を傷つけることの出来る、特殊兵器が。

 

「……標的(ターゲット)を捕捉……発射(シュート)

 

轟音。

 

それとほぼ同時にリ級がまた顔……目を手で覆って叫び出した。その隙を見逃さず、響が主砲による攻撃を敢行する。

ウルティマラティオ・ヘカートⅡは対物ライフルで、かつては対戦車用の武器として使われていた。フランスのPGMプレシジョン社が開発、製造しているウルティマラティオシリーズの中でも最大口径モデルの銃だ。射程は1.8キロ以上の狙撃を想定して作られていて、最大射程距離は2キロを超える。元々ヘカートⅡは尋常では無いほどの威力があったが、妖精さんの改良により威力増加、射程距離増加、近距離での射撃も可能になった。

だが、ただ銃をよくしても全体的には良くならない。肝心なのは銃弾だ。響達が入った古い入渠室……あのお風呂場の浴槽の底にいくつかの弾丸が落ちていた。多分、響達の艤装に食い込んでいた深海棲艦の撃った弾が艤装の修復により、外れて沈んでいたのだろう。星奈はそれを使って銃弾を作ってほしいと妖精さんに頼んだ。そして、ヘカートⅡFM-1が出来たと同時に完成した新作なのだ。星奈はこれらの深海棲艦に果たして効くかどうかも不安だったが……

 

「……足止めには、なってるね」

 

効いている。本格的なダメージはないものの、役に立っている。星奈は後で妖精さんに労いと感謝の言葉を贈らなければ、と心の中で誓った。

 

「……ここからは、響任せだ。全力で、サポートしよう」

 

インカムはもう通信を切ってしまったので響には聞こえないが、星奈はそう言って、今度は暁達の無線と通信を繋いだ。

 

「……あー、こちら月駆星奈。そちらの被害状況の詳細を求む」

 

『……っ⁉︎に、人間⁉︎な、なんで…』

 

「……それは後々話すよ。それより、状況は?」

 

『……電大破、雷中破、私は中破よ』

 

「そっか……あんまり芳しくないね…」

 

『それだけ?私達、響の助太刀に行かないといけないのよ。切るわよ?』

 

「それだけでいちいち無線は使わないよ……一つ、頼みたいことがあるんだ」

 

『何よ』

 

『……』

 

「……響の戦いにはあまり手を出さないでほしい」

 

『はぁ⁉︎何言ってるの⁉︎』

 

「助太刀は本当に危ない時だけでいいんだ」

 

『じゃあ、何⁉︎貴方は響を見殺しにしろって言うの⁉︎』

 

「……負傷している君達があの弾幕の嵐に突っ込んでどうなるの?」

 

『……っ!でもっ』

 

「……酷いかもしれないけど、君達は現時点では足手まといだよ」

 

『⁉︎』

 

「……それに、君達は何故僕が通信を入れるまで助太刀に入らなかったの?」

 

『……』

 

「……彼女だけ、恐怖に打ち勝って戦ってるんだ。だから君達は援護射撃だけだよ。僕も彼女の援護射撃に入るから。因みに、奴は魚雷効かないからね」

 

『……分かった。そのかわり、絶対響を勝たせなさいよっ‼︎』

 

「……言われなくても、そのつもりだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

戦況は一気に傾いた。勝機のなかった一方的な蹂躙(ワンサイドゲーム)はそこにはなかった。たしかに本気を出し合い、最高を絞り出した、死闘が繰り広げられていた。

 

「ッッ‼︎」

 

砲撃、命中。敵の攻撃、回避。再び砲撃、敵回避。援護射撃、命中、砲撃。

まるで訓練をしているような要領で戦っている響。あれほど恐ろしかったリ級が今では怖くないとは言わないが、十分戦える。

 

『ッ⁉︎アアアアアアアアアアアアアッッ‼︎』

 

ずっと狩る側だったリ級が焦りを滲ませ、叫び、特攻を仕掛けてくる。だが、響は臆さない。理由は聞かなくても、分かるだろう。

許さない、許せない、許されない。狩人は自分だ。屠るのは、穿つのは、蹂躙するのは、自分。この小娘がそれをするなど、許されることがあってはならない。そんな、リ級の高い誇り(プライド)は冷静さを奪った。そして、リ級は響に銃口を向ける。

 

再び銃声。

 

『アアアッ⁉︎』

 

だが、狙撃手(スナイパー)はそれを許さなかった。その狙撃手(スナイパー)の瞳は、もう逃さないと、そう言外に告げていた。

 

「撃てッ‼︎」

 

怯んだリ級に砲撃を食らわせる。すると、リ級の武装が大きく壊れる。

 

「……大破…っ‼︎」

 

あれから6分程が経った今、ようやくリ級を大破まで追い込んだ。その結果が響に隙を与えてしまった。

 

『アアアアアアッッ‼︎』

 

「ッ⁉︎」

 

リ級はその隙を逃してはくれなかった。砲撃を食らって大破してもまだ戦うことをやめない。リ級の砲撃が響の右肩……主砲の有るところに直撃。それによって大破、主砲の結合部分が破壊され、肩から外れる。

勝利を目の前にリ級の表情が醜い笑みへと歪んでいく。

相手は轟沈寸前、虫の息。こちらも大破してしまっているが、とどめを刺すことなど造作もない。

 

そして、壊れかけの主砲を向けるリ級。だがその時、リ級の下……海が()()()

 

『ッッッ⁉︎』

 

ダメージを受けた、と思っていたリ級だが、全く受けていない。おおよそ、魚雷を受けたのだろう。

その向きからしてそこにいるのは、暁達だ。

 

「響に、手を出さないでッ‼︎」

 

魚雷など効くはずがないだろう。無駄なことを…リ級はそう思っていた。

だが、暁達の狙いはリ級にダメージを与えることではなかった。

もう一度銃声。

 

『アアアッッ⁉︎』

 

魚雷を受けた一瞬の隙で再びリ級の目に狙撃した星奈。リ級は遅まきながら気付いた。響の姿が水飛沫で見えていないことを。

 

「……行け、響」

 

その星奈の言葉は無線で響に伝わっていた。それと同時に、その水飛沫の中からボロボロの一人の少女…響が飛び込んでくる。

 

主砲は落とした筈、攻撃など出来る訳が……そう考えていた時、リ級はその血の気のない白い肌からさっと色が消えた。

 

少女は固定部分が壊れた主砲を()()()()()()()()()、その右手を右腰で溜めている。

 

『ッ______________』

 

 

この時、リ級は幻視した。

 

 

赤い炎を纏って地獄から舞い上がってくる、白き不死鳥を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ypaaaaaaaaaaaaaaaaaa(ウラアアアアアアアアアアアア)!!!!!」

 

 

 

 

 

 

『ガアッッ_______』

 

渾身のパンチ(一撃)。主砲がリ級の口の中に叩き込まれる。だが、響の攻撃は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ダスヴィダーニャ(さよならだ)

 

 

 

 

 

 

 

轟音。

 

『______________ッッ』

 

口の中に直接主砲で撃たれて、もがき苦しみ声にならない叫びを発するリ級。そして_______

 

小さな爆発を何度も起こしながらも、リ級は沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……勝っ……た…」

 

リ級廻fragshipを見事に完全勝利を果たした響は呆然とした。練度の低い自分達が、格上の相手を撃破したのだから。

 

「響ーっ‼︎」

 

「響っ、響ぃっ‼︎」

 

「響ちゃーんっ!」

 

後ろから聞こえる家族の声。振り向くと同時に姉妹全員が弾丸となって駆け寄り、そのまま抱きつく。暁と雷は涙を我慢しているようだが、出来ていない。電は大泣きだ。

自分の愛する家族とまたこうやって生きることが出来る…ただそれだけで響も涙腺が緩んで、涙が流れる。

 

「……みんな、ただいま………スパシーバ(ありがとう)っ!」

 

この時、あの轟沈願望(悲願)が響の心の中から消え去ったのだった。

 

「……コングラチュレーション、響」

 

無線から星奈の声がする。その声に響は

 

「……スパシーバ(ありがとう)()()()

 

星奈のいるであろう工廠に屋根に向けて、向日葵のような笑顔を咲かせたのだった。




次回『エピローグ《さあ、一から始めよう》


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エピローグ《さあ、一から始めよう》

 

 

 

あの戦いから5日。僕らは無人島鎮守府で平和な日々を過ごしている。

傷ついた四人を入渠させた。暁、雷は6時間程で、電は半日、特にダメージを受けていた響は丸一日かかった。

 

 

「司令官、釣れているかい?」

 

白い髪を揺らした響が小首を傾げて聞いてくる。会った時より、表情が柔らかくなっているようだ。

 

「うん、今日もまあまあってとこかな?」

 

「司令官、はい、お茶!水分補給はしっかりしてね!」

 

「暑いので欠かさずに飲んで下さいなのです!」

 

「ありがとう、雷、電。助かるよ」

 

二人は僕に怯えることなく花の咲くような笑顔で接してくれている。

 

「司令官、タオルも忘れずに持って行きなさいよ!ただでさえ暑いんだから」

 

暁は比較的みんなよりきつめに接してくる節があるが、以前より優しくなった。

 

「……何から何までありがとね、みんな」

 

これがこの四人の本当の姿。その理由としておおよそ、元いた鎮守府で精神的ダメージを受けて、本当の自分を封じ込めていたのだろう。心を開いた証拠として、笑顔が増えたことや星奈のことを悪く言うなどの行為が無くなったことなど……特に、呼び方だ。第6駆逐隊の四人は提督職についている人物のことを基本的に『司令官』と呼ぶ。元の鎮守府にいる提督のことはそれではなく、『提督』と呼んだ。多分、自分の認めた人物でない限り、本来の呼び方は使わないようだ。

 

「……さあ、あと一匹釣ったら帰ろうか」

 

了解(ダー)

 

「分かったのです!」

 

「分かったわ、私を頼ってくれてもいいのよ?」

 

「分かったわ!大っきいの釣ってよね!」

 

「頑張るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府への帰り道、僕らは手を繋いで歩いていた。

 

「…ねえ、みんな。何故僕の事を《司令官》って呼ぶのかな?僕は軍人じゃないし、上官じゃないんだよ?ちょっと、僕も恥ずかしいし…」

 

ずっと気になっていた事を聞くと響が3人の気持ちを代弁するように答えた。

 

「軍人かどうかなんて関係ないさ。君は私達を助けてくれた。信じて一緒に戦ってくれたんだ。君が何を言おうと、私達にとっての……たった一人の司令官だよ」

 

他の3人はその言葉に頷いた。やっぱり、少し恥ずかしい。

 

「……まあ、呼び方はどんなものでもいいけど……僕、これから色々とやらなきゃいけないことがあるんだ。資源が足りてないのもあるし、それに……万が一の為の戦力増強をしておきたい。でも、その為には君達の力が必要なんだ………手伝ってくれない?」

 

僕の頼みに、四人は…

 

「了解なのです!ぜひ手伝わせて下さいなのです!」

 

「当たり前じゃない!最初からそのつもりよ、司令官!」

 

「……了解(ダー)。任せてくれ」

 

「ふん、まあ、司令官が言うなら私も手伝うわ。でも、暁のことは立派なレディとして扱ってよね!」

 

快く了承してくれた。

 

「……ありがとう。これからよろしくね」

 

仲良く鎮守府へ帰るのを祝福するかのように、太陽はギラギラと輝いていた。

 

 

 

 

 

 




to be contined .......


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