終ぞ、叶わなかった願い (黒彼)
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美しすぎた結末

あらすじでも書いた通り、残酷な表現が書かれております。
キャラ崩壊のシ-ンもあります。むしろほぼそうです。
それでもよろしければスクロールし、無理だと思われたら戻って下さい。



発端は何だっただろうか。私にも分からない

 

 

随分、随分昔に承太郎との激闘の末に不死身のこのDIOは、スタンドを破壊するという方法で敗れた。

スタンドは確かに不死身ではない。敵ながら、不死身なこの私を攻略した承太郎に感心した。

左足から顔にかけて亀裂が入り、これはもう死んでしまったと認めたくはないが理解してしまった私は叫びながら消滅したはずだった。

だが、唐突に感じた、締め付けられるような頭部の痛みにはっと目が覚めたように意識が覚醒し、無いはずの目を開き周りを確認しようとするが真っ暗で何も見えない。このDIOの身に何が起きているのか全く分からなかった。

押し出そうとしているのか圧し潰そうとしているのか分からないが、とてつもない痛みにSPW財団がこのDIOの体に何かをしているんじゃあないかと思い当たり、腹立たしく思った。

生きてる時では太刀打ちできないので死体となった私にならと攻撃している、雑魚のような行為をしている奴がこのDIOに触れていると思うと腸が煮えくり返るほど憎たらしい。このDIOは敵と正々堂々と、偶に仕掛けを用いていても頂点を手に入れるために対峙した。

こんな姑息な手を使う奴に良いようにやられるなど言語道断!絶対に赦しはしない!!

そう思っていると視界が段々と明るくなってきた。

体が再生してきているのだろうか?なら好都合!このDIO自ら葬ってやるわ!!

何故かまるで流れるように体が動き、光が広がる。

では、反撃しようではないか!

 

WRYYYYYYY!!!!貴様らこのDIOに何をする!!!

「うぃぃぃぃい!!いあぁぁぁーーーう!!!」

 

…何が起きている?

私は確かに言葉を発したはずだった。

何だ、この怪獣のような叫びは。

喉が潰れていたのか?

視界が滲む。まさか私が泣いているというのか…!?

突然の浮遊感。温かい液体に体を突っ込まれ、頭が混乱する。

私を持ち上げた!?195cmの巨体の男をまるで子供のように持ち上げた人物がいる!?

スタンド使いが居たのか…?だとしてもこのDIOが全員殺してやるわぁぁあ!!

 

「生まれたわよ!元気な男の子よ!」

「あぁ、…愛しい、私の子供…」

 

視界が鮮明になり、私を覗き込んでいる二人の女が目に入った。

こんな貧弱な女にこのDIOが持ち上げられている!?嘘だろう!?

……ん?私の子…?

 

「貴方はディオ、ディオ・ブランド―。生まれてきてくれてありがとう」

 

…何十年か経ち、忘れていたらしい。

女の内の一人を、私は見たことがあるじゃないか。

彼女はマリア・ブランド―。

とても哀れなほど優しい、私の母親。

 

 

 

確か始まりがそうだったような気がする。

本当に何年も前なんだ。

このDIOでも全てを覚えているわけではない。

 

 

 

どうやら私は転生をしたらしい。幼少の頃と全く同じ環境に、全く同じ親、全く同じ容姿に名前なので、ループという方が正しいかもしれないが、そこはスルーしよう。

あれから数年して、母は死んだ。前と同じ、過労と栄養失調で。

クズも前と同じで酒に明け暮れ、酒と酒代を俺に集る。

俺も相変わらずイカサマやスリ、強奪と色々とやりながら金を貯める。

当初は困惑したが、一度行っていた行為をもう一度やるだけなので支障はなかった。

スタンドが居ればもっと楽だが、いないのだからしょうがない。

前と同じようにワンチェンから毒を買い、少しずつ少しずつ、真綿で首を締めるように毒を酒に盛って渡し、毒の症状を病気のせいにして毒を薬だと称して与え続けた。

前と同じようにクズは死に、前と同じようにジョースター家に引き取られた。

…何だか味気の無いものだな。

少し変えてみようと、犬を蹴らず、ジョジョにも猫を被り続けた。

相変わらず腐抜けた貴族共はこちらを疑うこともせず、思考が甘ちゃんでとても助かる。

 

——ジョナサン、大丈夫か?

——ジョジョ、知っているかい?

——ジョジョ!

 

警戒もせず、俺を慕うジョナサンを見るのはとても滑稽で笑いを誘う。

毎日、嘲笑を堪えるのに必死だった。

が、結局クズからの手紙で毒の件はバレた。前と同じように追い詰められたが前と同じように仮面を被り、吸血鬼となって死生人を増やし、ジョジョと死闘を繰り広げたが結局敗れ、クルーザーに乗り込んでジョジョの体を奪った。

…なのだが、前と違う現象が発生した。

ジョジョが「体を君に渡したい」と言ってきたのだ。

——どうしても昔の優しい君が忘れられないんだ。だから、生きて、ディオ。

ジョジョは最後の最後まで甘ちゃんだった。宿敵と言えるこのDIOに昔、親切にされたからって情に囚われて見す見す生かしたのだ。だからお前はこのDIOに殺されるんだよ、この腑抜けがぁぁぁ!!

だがあえて、俺は体を乗っ取ることをしなかった。はい、どうぞと情で与えられたものを、このDIOが受け取る訳がないだろう!

だから俺はこのまま素直に焼かれることにした。このDIOの生を終えるにはまだ早いが、ジョジョを良いように騙せていたことを考えると別にいいのではないかと思い始めた。

………この頭の中を巡るモヤモヤから目を背けて―…。

 

 

****

 

 

またループをした。

今度は3歳の時に思い出した。

相変わらずクズはクズのままで、母はまた早くに死んだ。

また毒でクズを殺し、また引き取られた。

接する態度を前々回に戻した。あのモヤモヤは無くなった気がした。

 

前と同じように体を奪い、ジョースター一行を倒す為にまず、私は花京院とポルナレフと接触するのを止めた。

私が送ったことでジョースターと会合し、ジョースターに倒さたと同時に肉の芽を摘出され、共通する敵ができ、情が生まれ、こちらに向かう仲間になるという流れだったのだから、私が2人に会合しなければ敵が減る。

見事に成功し、承太郎は逃がしたがジョセフを倒せた!

今回の生では、このDIOが『世界』を手中に治めるのも赤子の手をひねるように簡単やもしれんなぁ!

 

 

****

 

 

くっ、油断したばかりに!

承太郎は特にジョナサンに似ていたことを失念しておった…!悔しくてしょうがない!!

あの爆発力は本当に厄介で、このDIOも認めていたというのに…!

承太郎がジョセフの浮気相手の子供―仗助を連れて、私に挑んできた。

時止めもいつの間にか習得していた!

今度こそは必ずジョースター家を根絶やしにしてやる!!!

 

 

****

 

 

まさかホルホースが仲間に加わるとは…。

もう少しアイツらを懐柔すれば次こそは…!

 

 

****

 

 

…まさか、自分の息子に敗れるとはな。

敗れたことを憎むべきか、息子の力を褒め称えるべきか…。

難しいものだな。

それにしても、この私とあの汐華の子供がジョースターの血を受け継いだとは…。

何とも複雑だな。

 

 

****

 

 

今度は知らない奴がジョースターの方に付いていた。

私の方にも知らない部下が増えていた。

向う側が七人というのも奇妙なモノを感じるな。

…奇妙というよりも違和感か。何度も見ていて見慣れている一向に、異例の人物がいるのは何だか嫌悪感を覚える。

まるで気に入っていた絵画に他人が良かれと色を加えてしまい、一気にガラクタに感じてしまうように。

私ももう1000年近く生きている。いつになったら『世界』を手に入れられるのだろうか。

 

……いつになったら私のループが止まるのだろうか。

 

 

****

 

 

なんと、今度はこのDIOを実験すると財団のモンキー共が言い出して、体を色々と弄るつもりらしい。

そんなモルモットに行うことをこのDIOに行おうとしているなんて、なんて屈辱的なんだ!!!

ジョースター家も流石に倫理的にも道徳的にも駄目だと言うが、財団は聞かずに私を研究所に運ぼうとする。

承太郎が怒号する。ジョセフも止めたいが体力が無いようで、動けないらしい。承太郎も同様だ。

スタンドで抵抗しろ?お前が砕いたんだろうが。

だが、このDIOも大人しく実験体になるつもりは毛頭ない。

そんなことをされるくらいなら、このDIO自ら自決してやるわ!!

触手を出し、力を振り絞って拘束を解いて外に飛び出す。

眩しい、太陽の光が私を射す。吸血鬼になってから自ら日に当たったのは初めてだから知らなかった。

周りの建物がとても高くて、窓ガラスが日の光を反射している。

人が忙しなく動き、活気の良さを見せる街。

昔より自然が少ないが、ちらほらと生えている木々が生い茂っており、生命力を感じる。

とても綺麗で、同じ青の海にはない魅力を持つ、青空。

あぁ、美しい。壮大だ。太陽を今まで忌々しく思っていたが、悪くないな。

 

体が、崩れる。

でも、こんなに清々しいのは、初めてだな。

ふと、承太郎が、どんな反応して、いるのか、気になって、振り返る。

…おいおい、どうしたんだ、承太郎。

私は、お前の、敵だろう?

何故、悲しみ、を堪えたよ、うな顔を、するん、だ!!

何時かのジョナサンに感じた、あのモヤモヤを、感じたような気がした。

 

 

****

 

 

何故か女になっていた。

何度も確認するほど驚いた。

だが他の事柄は変わっていなかったから、バグも起きると無理矢理受け止め、前と同じように生活を送ろうとしていた。

クズが私を見る。

ゴロツキが私を見る。

まるで見定めるように。

まるで舐めるように。

まるで———盛った犬っころのように。

母はその視線に気付いていて、私を守ろうと頑張ってくれている。

母は今世では若干、長生きしている。だが、弱っている。近い内に死ぬのだろう。

それまでに何とかあのクズを毒殺しなければ…!

 

 

ははが熱で倒れているときを狙って、おそわれた。

体を這う、太い指。

気持ちの悪い息遣いに、かかる吐息。

暴れると腹や、顔を殴られる。

あぁ、いたい、イタイ、痛い!!

止めろ!止めてくれ!!裂けるような痛みに、体の負担を考えないほどの重みのある衝撃を受け、胃液を吐く。

助てくれ!助けて!母さん!!

痛い痛い痛いイタイイタイ痛い痛い!!!!

 

 

 

…頬を軽く叩かれる。呼びかける声は母のもの。

目を開くと、母は涙を流していた。

触れていいのかと戸惑うように彷徨う手。その手に触れると母の顔がさらに悲しみに歪み、私を抱き寄せた。

守れなくてごめんなさいと何度も泣きながら謝っている。

あのクズはどうしたのかと聞くと、母は息を飲み、視線を左に移した。

そちらを見ると———クズが死んでいた。

衝撃を受けた。

母は言う。あの人がディオを犯していると分かり、居ても立っても居られなくなって近くにあった酒瓶を、あの人の頭に振り降ろしたのだと。

あんなに、愛していたじゃあないか。あのクズの事を。

酷い目にあっても、見放すことをしなかったのに、私を守るために…?

続けて母は言う。殺してしまったけれど、遅くなってしまったけど、ディオが生きていて良かったと。

 

あぁ、温かい。

母の温もりは、相も変わらず温かいなぁ。

視界が歪む。嗚咽を我慢しようとするが、時々漏れてしまう。

母はそんな私の頭を優しく撫で、私が生きていることに対して安堵した表情をする。

この時、私の中で母の存在が、共に居たい存在に変わった。

 

 

ジョースター家に保護を願う手紙を書いたが、母は無理が祟り、迎えが来る前に息を引き取ってしまった。私は泣いた。泣いて泣いて、獣のように雄叫びを上げた。

 

私は今世でジョージ氏を殺すことを止めた。

何故か分からないが、その行動を取る気になれなかったのだ。

一番ではないのに、今とても満たされているように感じているのだ。

……本当は理由が分かっている。あんなに母に愛されていたことが分かり、今まで感じていた飢えが無くなったのだ。

私は愛に飢えていたらしい。

まるで子供のような理由に、今までの千年近くの生で目指していた『世界』を手にするという目的は何だったと思うが、しょうがない。満たされてしまったのだから。

女としての人生は初めてだから学ぶことが多い。それも楽しい。

ジョジョとは体力では敵わないので学で張り合うことにした。

前までにはなかった関係、というよりは少しだけ丸くなった関係に納まった今の関係はとても有意義な時だった。

ジョジョとこんなに穏やかに会話をする日が来るとは思わなかった。が、この関係も悪くないと思った。

ジョージ氏は、あのクズに私が何されたのかを手紙で知っているから、縁談を無理に進めて来ない。

とても快適だった。何て居心地の良い場所なんだ。

母さんも早くここに移れば死ななかったのではないだろうか。そこが悔やまれる。

このまま人間として生きて、死にかけている時に墓に眠る母に思い出を語ろう。

それまで楽しかった出来事を忘れないように、日記に綴ろう。

今世では売らなかった母のドレスを形見として、大切にしよう。

母譲りの金色の髪を、母より伸ばしてみよう。

待っていて、母さん。

面白い話を土産に天国に行くからね。

 

 

食事と勉学を終え、私室に戻り一息つく。

今日は、何だか違和感があった。

とても小さくて気付きにくい、けれど気付かないと後々危険に冒される、そんな信号。

何が違う?スクールではいつも通りだった。変わったことと言ったら先輩に告白されたくらいだ。

でも、その時ではない。もっと後だ。いや、今日一日感じてはいたが。

強くなったのは…そうだ、いつも馬車で一緒に帰っていたジョジョが、何故か先に徒歩で帰っていたんだ。

そうだ、その時からだ。いつも一緒に帰ろうと催促するジョジョが何故か、伝言も無しに帰ったのだ。そのことを従者に聞いた時は驚いたが、そんな日もあるかと片付けた。だが、父に憧れ、アイツは紳士を目指している。そんな奴が何もしなかったということは、何か緊急事態があったのではないか?

いや、だが帰宅した時のジョジョの様子は至って普通だった。どこにも焦りなどは無かった。

思い過ごしだったか?いや、どこかが可笑しかった。

 

回想せよ、思い出さなければ、私の人生は終わる。

 

頭の中を巡る警告が、私を焦らせる。

どのタイミングで感じた?何故だ。何故こんなに思い返しても分からないんだ。

焦る。焦燥する。どうして、なにが?急がなければ、私は、殺される。

 

 

コンッ

 

 

突然鳴ったノック音。

三回鳴らすのは、メイド達やジョージ氏。

一回鳴らすのは、ジョジョ。

ということは、訪ねているのはジョジョということになる。

外からジョジョが、私に呼びかける。

やっぱり、ジョジョだ。出なければ。だけれど何故だろう。開けるのがとても怖い。

このDIOが、ジョジョに恐怖している…?何故?なぜ?

不審に思ったジョジョが、もう一度私に呼びかける。慌てて返事をし、入室を許可した。

 

…一向に用件を言わないジョジョに疑念を抱く。

静寂の中、ジョジョを待つが口を開かない。

 

「…おい、ジョジョ。何の用なんだ?」

「……あのさ、」

「…」

「その、今日さ、」

「あ”―――!!じれったい!!何だっていうんだ!男ならはっきりと言え!!」

 

ついに耐えられなくなりジョジョに怒鳴るように言うと、ジョジョは体をビクつかせ口を開いた。

 

「今日の放課後、誰かに君、告白されていただろう?」

「?あぁ、断ったがな」

「そうなんだ」

 

どこか空気が柔らかくなった気がする。

 

「…ディオが告白されているところを見てね、僕、とても驚いたんだ」

 

まるで呆けたように言うジョジョに、違和感を感じる。

 

「あ、別に、ディオが告白されることじゃないよ?」

 

眉間に皺を寄せていたらしくジョジョが慌てて訂正を入れてきた。

だが、では何だというのだ?

 

「僕ね、とても嫉妬していたんだ」

「…は?」

「そうなんだ、僕も驚いたよ。だって、君が告白されたところなんて見慣れてるはずなのに、何故か今日、ふと思ったんだ。君が嫁いだら僕との関係はどうなってしまうんだろうって」

「今まで通りに決まっているじゃあないか」

「本当にそうかい?」

 

ジョジョのいつも輝いているエメラルドグリーンの瞳が、光を失いテールグリーンに見える。

本当に目の前にいるのはジョナサンだろうか。

 

「今まで、僕たちは良きライバルとして接していた。互いに、一番意識している…っていう表現がしっくりくるほどに、僕たちは切磋琢磨して競い合っていた。…でも、君にパートナーが出来たら?子供が出来たら?君の中の僕はどれくらいだけ存在出来ている?」

「…ジョジョ?」

 

何を言っているんだ?

ジョジョ、お前にはエリナという恋人がいるだろう?

そんな変な考えが出てくるほど、ジョジョの言葉がとても重かった。

 

「…私は絶対に嫁がない」

「そんなの分からないじゃないか」

「…ジョジョに言ってなかったが、私はむかし」

「父親に強姦された、だから男とは添い遂げないって?」

 

――――――今、ジョジョはなんといった?

 

「なんでしって…?」

「この前、ディオの母親からの手紙を見つけてね。全部読んだんだ」

 

ジョジョに知られた?あの忌々しい過去を?このDIOの人生最大の汚点を?!!

何で、何故、何故知ってしまったんだ!!

…落ち着け、冷静に会話を続けなければ。

今、可笑しいジョジョに主導権を握られるのは危ないと本能が訴えている。

 

「……知っているなら何故疑うんだ」

「疑っているわけじゃあないんだ。現に、君は一度も告白をOKしたことは無い。だけどね、ディオ」

 

ジョジョがこちらに歩み寄る。

何故かジョジョが恐ろしい怪物に見えて後ずさる。

 

「でもね、ディオ。苦手と言いながら、僕は君の部屋に入れているじゃあないか。君は、他人には厳しいけど身内には甘い。だから、君は一回でも、一瞬でも気を許せば絶対に嫌いにならない。例え酷いことをされても甘受してしまう。その君の優しさに付け込まれたら、そう考えると僕は可笑しくなりそうだったよ」

 

だって、君にはエリナがいるじゃあないか。

第一、私たちは義理とはいえ家族で、ライバルで。部屋に入れるのを許可したのもそれが理由で。

何がいけなかったのだろうか。

私が異性であるにも関わらず、同性のように振る舞っていたことか?

ジョジョなら大丈夫だと隙を見せていたことか?

”原点”と同じようにジョジョと接しなかったからか?

私が”女”だからか?

 

「だからさ、もう一度怖い目に遭えば大丈夫かなぁ?」

 

近くにあった布を、ジョナサンに投げる。

見事に目隠しになれたようでごたついている。その隙に部屋から飛び出す。

それはもう反射だった。あのままだったら、私はジョジョに壊されていたかもしれない。

止めてくれ、ジョジョ、お願いだから元に戻ってくれ、君はそんなことをするような人じゃないだろう!

 

後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。

女の私では男のジョジョには足の速さで勝てない。せめて、外に行けば…!

あと少しで扉に着く。あぁ、階段がまどろっこしい!!

 

「ディオ!!」

 

左腕に感じた、逞しい手の感触。あぁ、捕まってしまった!捕まってしまった!!

 

「離してくれ!ジョジョ!」

「離せないよディオ。だって、離したら僕から逃げてしまうだろう?」

 

怖い

怖い、ジョジョじゃあない。

 

「離せと言ってっ…!」

 

ジョジョの手から離れようと、思い切り体を捻ると階段から足を踏み外した。

突如感じた浮遊感。ジョジョがどんどんと離れていく。ジョジョがこちらに手を伸ばしている。

 

体全体に広がる痛みに、意識を失いそうになる。

階段のほぼ一番上から落ちたんだ。しかも頭から。最低でも後遺症が残り、最悪…死ぬだろう。

 

「ディオ!ディオッ!!」

「…」

「お願いだから、目を開けてくれ!」

 

ふん、私だってお前の間抜けな面を拝みたいわ。でもな、目を開けれないんだよ。

死ぬんだろうな、私は。

…ふ、そうだ、違和感。違和感はこれだったのだ。

今日、正確にはこの日付は私が人間を止めた日ではないか。

虫の知らせだったのかもしれない。もっと早くに気付いていたら対策か話し合いくらいなら出来たのかもしれないな。

顔にぽつぽつと当たる雫を感じながら俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

****

 

 

「………ぃ…先輩?」

 

肩を揺すられ、意識が段々と覚醒し始めた。アレは夢だったらしい。アレはいつの私だっけ?

 

「んっ…?」

「先輩起きましたか?」

「…あぁ、すまないね堀君。眠っていたようだ」

「最近特に忙しかったですもんね。隈も酷いですよ。ちゃんと休んでますか?」

 

未だに心配ですと顔に書いてあるような顔をする彼に、苦笑する。

彼は堀 空助君。私の技術を盗もうと頑張っている私の自慢の後輩だ。相変わらずしっかりしている。

 

あれから私はまた何度もループした。今の私は性別は男だが、環境が変わった。

車があり、高い建物が多く、自然が少ない。人でごった返していて、道が狭い。そう、承太郎の生きていた時に近い時代に生まれたのだ。

しかも国が日本ときた!ジョースターの策略じゃないかと最初は警戒したものだ。

今世の父は早くに事故で亡くなり、母が私を一生懸命育ててくれた。

今世の母は前の薄幸な雰囲気が似合わない、とても活発でよく笑う、太陽のような性格だった。そして、前と変わらず優しい。

そんな母に、私は恩返しをするために勉学に励み、家事を手伝い、医大を卒業し、日々励んで大学病院で働いている。

だが、私は目立つことをしなかった。

いつだったかの世で関わっていないのにもかかわらず、俺が写っている写真を見て殺害しに来た時もあった。

ジョースターでは私=悪という認識らしく、私を見つけたら排除しようとする。

せっかくの生を終わらせられないように、俺は潜むことを選んだ。母と平穏に暮らせられるなら何でもいい。

なのでサポートの方を徹底し、あたかもこの人がいたから成功したんです、と振る舞うことにした。

私は目立たず、向うは称賛を浴びる。お互いwin-winなので誰も文句など言わない。

堀君は、そんな中で今までの偉業が私の手腕だと見抜き、私に教えを請いたのだ。そんな後輩を私は重宝している。

 

元気だった母も歳を取り、肺を悪くして入院を繰り返している。

今度こそ救おうと私は母の病気を徹底的に調べた。

が、私は一度として母を救えたことが無い。そんな私が母を救えるのか、という考えが頭を巡る。

だから私は助手、そして堀君を主治医として手術をしてもらう為に、私の持っている技術を堀君に全て教えている。

堀君に一度、”どうして先輩が主治医を担当しないんですか?”と聞かれ、私の弱さを見せると馬鹿にせず、意志を固めたように”任せてください”と言ってくれ、感極まって泣いてしまったのは余談だが。

 

だから油断していたのだ。ここまでが幸福すぎて、忘れていたのだ。

私の前には必ず、ジョースターが現れ、全てを崩壊されることに。

 

病院とは、診察・治療を行う民間施設である。

だから誰でも気軽に行ける施設であるため、いつジョースターの誰かが来院するか警戒しながら私は働いていた。

患者として一度も会ったことは無かった。来院履歴にもない。

この日本にいないんじゃないかと安心していたんだ。

まさか、こんな形で遭遇するとは思わなかった。

 

 

「「ディ、ディオ(DIO)!!」」

 

研修生だと紹介された3人。目の前に現れた研修生は、ジョースター共だった。

期待の星らしく(ジョースターだけに)、沢山の経験を持つ私に紹介されたのだが、向うは驚愕の表情でこちらを見てくる。こっちがしたいわ!何でお前らこうも私の所に来るんだ!私が好きなのか!私の追っかけか!!

 

「え、えっと、私はディオ・ブランド―です。君たちは?」

「てめぇ、なぁにしらばっくれてんだ!」

「ブランド―先生、知り合いですか?」

「いえ、(今世では)初対面です」

「てんめぇ…!」

「…何だか、話し合った方がよさそうですね。後は任せて下さい」

「はぁ…じゃあ、持ち場に戻ります」

「色々とこれからの事を話さないといけないから、空いてる個室に移ろうか」

 

まだ言い足りない、信じられないという顔で見てくる3人に溜息が零れそうになる。

そんな顔をするなら事前に調べとけよ…。

 

 

「…で、ここに連れてきた理由は何だい?」

 

最初に口を開いたのはジョジョだった。

座るように勧めるが警戒してか座る様子を見せない3人に我慢出来ず、溜息を零し、椅子に座る。

 

「理由も何も、あそこで騒いだら迷惑だろう」

「ハッ!どうだかな!」

「いい加減、睨むのを止めてくれないか。仕事に支障が出るだろう。私は今世で何もしていない」

「!記憶があるのか!」

 

一気に殺気立つアイツらに、面倒だなと舌を打つ。

 

「おい、記憶が無かったらお前たち私になんて言い訳するつもりだったんだ?急に怒鳴り、威嚇する研修生なんて印象悪すぎだろう」

「「っ」」

 

バツが悪くなったのか目を逸らすアイツらに、また溜息を吐く。

暴走するところがあるのは、世が変わっても変わらないらしい。

 

「あぁ、確かに記憶はあるぞ。だが今は静かに平和に暮らしているんだ」

「お前が”平和”だなんて言葉を使うとはな」

「お前みたいなゲロ以下が何でここに!」

「私も何巡もすれば丸くはなる。それに元々いたのは私だ。就職先にケチをつけるでないわ」

「っ」

「何巡?」

 

私の言葉に引っ掛かった様子のジョジョが催促の視線で私を見る。

 

「?無いのか?」

「何言ってんだよ。前世の記憶なら」

「そうじゃあない。私は最低でも50回はループしていて記憶も全て保持されている」

「「はぁ!?」」

 

成程、だから反応が若いのか。前は記憶が無い状態にもかかわらず殺しに来たから、記憶があると聞いて勘違いしてしまった。

 

「そうだ。何度も何度もループをし続けている。私が吸血鬼にならなかったり、ジョジョの体を奪わなかったり、女になったり…本当に気が遠くなるくらいに時代を繰り返した。仗助やジョルノと対峙したこともあったぞ?」

「…」

「本当に…気が狂うかと思っていたわ。私が何もしていなくても、お前たちジョースターは私を探し出して殺すのだ。何も覚えていなくても一回目の体験が体に染みついているのか、それが世の摂理なのだというように私はお前たちに殺される」

 

”殺される”という言葉に驚いたのか、三人の目が見開く。

まぁ、そうだろうな。お前たちは覚えていないのだから。

 

「…いずれ、私はお前たちに殺されるのだろう。命乞いはしない。だが、一週間待ってくれないか?」

「…一週間?」

「今、私の母が入院していてね。重い病気で、あまり長くないんだ。…治療法を何とか見つけられたのだが難しくてね、用意を整えるには一週間かかるのだ。だから母の手術まで何もしないでくれ。頼む。こんなに母が長生きなのは今世が初めてなんだ…」

 

頭を下げる。すると、息を飲むような音が聞こえた。

そうだろう。私が、ジョースターに頭を下げているのだ。アイツらからしたら驚く光景だろう。

だが、今はプライドだ何だ言ってられない。

母の命が掛かっている。母を助けられるなら何度だって頭を下げる。

 

「…俺たちが何もしなければ、お前も何もしないんだな」

「あぁ」

「もし、お前の母親の邪魔をしたらどうする」

「…そうだな、どうするか、」

―――そんなの殺すしかないだろう。

 

私が答えると三人は目をまた見開き、見合わせ、決断したようにあの輝くエメラルドグリーンの瞳を私に向けた。

 

「…分かった、俺たちはお前に何もしない」

「正直、まだ疑ってるけどねん」

「君が母親を大切にしていることが凄く伝わったよ。僕たちに出来ることは無いかい?」

 

…初めてだった。

ジョースターが許容した。前までは話も聞かずに、聞いても嘘だろうと切り捨てられて殺された。

何だ、これは。夢か、幻聴か、アイツらの作戦か?

いや、あの目は本当の事を言っていて…?

 

「おい?」

「あ、あぁ、何も動かなければいい。お前たちは周りに多大な影響を与える。何かしらの行動、一言、視線で私に敵意を向けるとそれが広まる。お前たちが私を殺せば褒め称えられ、お前たちが殺さずとも誰かしらが行動に移し、私を殺す。それが今までの流れだ」

「「…」」

「だから、さっきのお前たちの反応を見たアイツが気になるが…まぁ、置いておこう。とにかく私に関わるな、無い者と思え、視界にも入れるな、以上だ」

「「…」」

「あと、母にも関わるな。お前たちの担当は私になっているが、こちらで何とかしよう。……何だ、その目は」

 

まるで不満ですと訴えているような視線でこちらで見てくる三人(195cmの大男)

別にいいだろう。私に教わることや、そもそも対面すること自体お前たちは嫌だろう。何に不満があるというんだ。

 

「べっつにぃ?」

「…」

「何だか、寂しいなぁと思ってさ」

「何を言っている。先程まで啖呵を切り、あんなに警戒をしていたじゃあないか」

「確かにそうなんだけどさ…」

「もう話は終わりだ。私はこれから、先程案内していた男と話をした後、お前たちの担当を変えるように誘導する。そこで大人しいく待っていろ」

 

何だかまだ視線を感じるが、それを無視して部屋を出る。

―――あぁ、顔がにやけそうだ。

関わらないと約束を結べた。あの私の天敵―運命と言っても過言ではない奴等と!!

これで、母は救える。死因が病死でも、栄養失調でも、暴力による失血死でもなく、寿命になる!

これほどの歓喜は今まで感じたことが無い!!

あぁ、早く案内したアイツに話をしなければ。あと、アイツらを押し付けなければ。何と言い訳をしようか?

あぁ、もうそんなことはどうでもいい!この喜び、歓喜に私は浸かりたい…。

母さん待っていてくれ。最高のプレゼントを、貴女に送ります。

 

それから、案内には”何かの大会で昔知り合っていたらしいんだが、その時に彼らの兄を負かしたのを根に持っていたようだ。”と言い訳し(あながち間違ってはいない)、昇進に燃えている同期に研修生がいかに有能かを語り、こんな自分で大丈夫かとワザと不安の色を見せると自分が世話をすると食い付いてきた。教えた研修生が上に上がれば、教授した者も同時に有能だということになるので上司の目に留まることとなるだろう。

これで懸念が減った、と、思っていたんだ!

何故こちらに視線を向ける、何故食堂で隣に座ろうとする、何故私に教えを乞う!!!!

2つはまぁ、たまたま、しょうがなくで済まされる。だが最後に関しては、お前たちの担当がこっちを睨んでくるんだ!早く離れろ!!

 

 

 

私はその時、安堵してしまった

あの宿敵と初めて交渉が出来たのが嬉しくて、舞い上がっていた

 

 

 

 

 

母が、ははが死んだ。

手術を控える前日に、酸素を送っていた機械の電源が切られていて酸素が体に行き渡らず、死んでいた。

母は苦しかったはずなのに、穏やかな顔で眠っていた。

歳を取っているのに肌理が細かい母の肌が、青白くなって、とても冷たい。

綺麗なブラウン色の瞳は瞳孔が開いていて、私を映さない。

心を安らかにさせる、あの優しい声がもう聴けない。

あれ程、未来を語り合ったではないか。私に孫を見せろと言っていたではないか。元気になったら少し遠出をして、その地の名物を沢山食べたいと言っていたではないか。

私に治してもらうのだと、看護師に自慢していると聞いたぞ。あの時は恥ずかしくも思ったが、何だかくすぐったかった。

あぁぁぁぁあああぁぁぁぁっぁああっぁぁあぁぁ?????

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、退職させて下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白い花があちらこちらに飾られている。

目の前には大きな桐箱。それこそ、人がすっぽりと入れそうな――そりゃあそうだ、これは棺桶なんだから。

昔はアレを寝床にしていたんだなとぼんやりと考える。

小窓から見える母は死に化粧を纏っていて、普段化粧をしない人だったから少し違和感がある。

さっきまで唱えていた住職は私に一礼した後帰ったので、ここにいるのは私一人だけだ。

……いや、一人だったか。

 

「おやおや、私は家族葬にしたはずなんだがな」

「…ディオ」

 

振り返れば、やはりジョースター達が居た。

ジョジョ、ジョセフ、承太郎、高校生くらいの仗助、中学生くらいのジョルノ、あと一人、小学生くらいの女がいるがアレもジョースターの一人なんだろう。

私に関わったことがある奴を連れてきたというところか?女は言った通り知らないが。

 

「ジョォジョォ、笑いに来たのか?そりゃあ滑稽だよなぁ、このDIOが頭を下げて敵に頼んだのに、結局意味が無かったんだ。とんだ道化だろう?」

「そんな事はない!…あんなに調べたり指導したり、どうにかしてディオのお母さんを救おうという行動は僕とジョセフ、承太郎は見ていたんだ。笑うなんてするわけない!」

「相も変わらずな甘ちゃんだなぁ、ジョジョ。なら何故、ここに来た」

 

私はジョースターを睨むが向うの若い三人だけ震え、ジョジョたちは只々私を見るだけだった。

どうして、ここにいるのだろうか。来てもお前たちは関わりがないだろう?

 

「…何だか、DIOに会わなければならないと思ったんだぜ」

「でも、仕事退職してたし。何だか、胸騒ぎがしてねん」

「それでここに来たんだ。この子たちは以前君が会ったことがあるって言ってたし、ジョルノは君の息子だろう?徐倫…一番端の子は承太郎が君に会わせた方がいいと言って連れて来たんだ」

 

まるで気まずそうに、だが意志の強さが伝わる目をした徐倫。

多分、いや十中八九、承太郎の娘だろう。あの青い瞳ではないから確証はないが。

 

「…そうか、その胸騒ぎは運命なんだろうな」

「…どういうことだ?」

「…フ、フフフフ、ッハハハハハ!!!」

 

笑い出す私に、驚いた顔をするがすぐに警戒し、まだ小さい末裔たちを庇うジョジョたち。

そう、その瞳だ。その瞳が輝くのを見たかった。

 

「何で退職したのか、その理由は分からないのか?」

「…あぁ」

「なら、教えてあげよう!何故退職したのか!それは実に簡単、復讐をしたかったからだ!!」

「「ふ、復讐!?」」

「いい反応をありがとう、ジョースター!そうだ、私は、母を殺した犯人を見つけることが出来たのだ!私は憎い!そいつがとても、私は憎い!!!」

「まさか、」

「…勘がいいな、ジョセフ。そうだ、私はそいつを殺すために仕事を辞めたんだ!仕事なんかに時間を割り振るなんて勿体ないことをしたくないからなぁ!」

「てンめぇ…!」

「本当によく来てくれたよ、ジョースター!お前たちが来てくれたお陰で………私は実行できる」

 

取り出すのは拳銃。アイツらはギョッとした顔をして、徐倫は悲鳴を上げる。

銃なんて日本ではあまりお目に掛れないが、誰でも所持できる。所持が出来る条件はめんどくさいが。

ジョジョが迫ってきた時に使おうと準備していたが、全てが終わった後に使うとはな。

 

「馬鹿な真似は止めるんだ、ディオ!」

「フン、お前たちに私を止めることは出来ない」

「ぜってぇに、止めてみせるもんねぇ!」

「そんなことをしてお前のお袋は喜ぶと思ってんのか!」

「………あの人は、望まないだろう。本当にどこにでもいるような女だが、とても優しく、あんなに体が細くなっても私や周りの子供にパンを与えるような人だった」

「ならっ、」

「だからと言って、ユルセナイ、許せる筈がない!!何故許せると言うんだ!?大事な母を、失ったというのに!お前たちだって自分の大事な妻、娘、母、仲間を守る為に私を殺したというのに!!私はお前たちと違って、大切な人を救えてないんだぞ!!何故お前たちは良くて私は駄目なのだ!!」

「「っ!」」

 

あぁ、視界が滲む。だが気にしていられない。

憎い。母を奪う、クズと同じようなことをする奴が!何故生きているんだ!

早く殺したい!息の根を止めて、醜い死に様を晒したい!世界から葬ってやりたい!!

心が真っ黒に染まっていく。早く、早く殺さなけレバ…

 

「それでも、僕は君を止める!止めてみせる!君がしようとしていることは、今までの君の行為を全て無駄にすることになる!元義理兄弟だった僕が、昔君を止められなかった僕が、今度こそ君を止めてみせる!!」

「俺も手伝うぜぇ、ジョナ兄!せっかくまともになったっていうのに、目の前で悪事を働くのを見す見す逃すかっつーの!」

「俺も、受けて立つぜ!今度も止めてやる!」

「フン、無駄無駄無駄ァ!!これは運命だと言っただろう!止めることなど出来るはずがない!…お前たちに言ったな。私は何度もループしていると」

「あ?あぁ…」

 

急な私のトーンダウンに構えていた奴らがたじろぐ。

 

「その中で女にもなったことがあると言っただろう?だが、毎回性別が変わっているわけじゃあないし、環境が変わっているわけでもない。ある条件、を満たした場合のみ私のループした際の環境はガラリと変わる。…私も50以上も繰り返していたらその条件が何なのか分かる。それを私は実行したい」

「…わざわざそれを言ったってことは相当な自信があるんだろうな」

「あぁ、あるとも。お前たちに、私を止めることは出来ない。賭けてもいいくらいだぞ?」

「じゃあ、僕たちが勝ったら、諦めてもらうよ」

「いいぞ、ジョジョ。では、私が勝ったらどうしようか…」

 

 

 

prrrrrr-prrrrrr-

 

唐突に鳴った電子音にアイツらは戸惑う。発信源は私の胸元からだ。

私は胸元のポケットからスマートフォンを取り出し、電話に出てスピーカー設定にする。

 

「もしもし」

『もしもし、ブランド―様でしょうか?』

「あぁ」

『棺の追加を頼みたいと連絡を頂いたようなのですが…?』

「あぁ、近々、亡くなる人間が居てね。先に頼んでおこうと思ってね」

『―――分かりました、何名でしょうか?』

 

女の声から、声が変わる。ノイズがかった声は何度も聞いたことのある声だった。

急な機械音に、アイツらはざわつく。そうだよな、お前たちは前を覚えていないから聞くのは初めてか。

私は、持っていた銃を蟀谷に運ぶ。

驚愕の表情を浮かべ、こちらに進もうとしているが体が動かないようだ。絶望したような顔をしている。

 

「そんなの決まっているだろう?人数など聞く意味があるのか?」

―――――――――私一人だろう?

 

 

響いたのは、一つの銃声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Dear 私の宿敵へ

 

私が書いたこの手紙を貴様らが読んでいるということは私は賭けに勝ったのだろう。

私は、私自身を殺害することに成功した。

幽霊という存在が実在するなら私は祝福を挙げているだろう!まぁ、私はまたループを繰り返しているだろうが。

私がループする際に環境を変える条件は一つ、自ら命を絶つことだ。

何故それが分かったのかは省略しよう。聞かせたいわけではないからな。

 

うむ、遺書など書いたことが無いから何を書けばいいのか分からないので、どうして私が自殺することになったのかという経緯を話すとしよう。

始まりは遡ること…いつだろうな。何回目かのループに毒ではなく薬を買い、母を延命させようとしたことがあった。

母は快調になり、何とかクズからの暴力を耐えながら二人で支えあっていた。

そんな日々を過ごしていた時、母が”夕方に帰る”と言って仕事に出たがいやに帰りが遅くて。

胸騒ぎがして町中を探したら、路地裏で死んでいた。暴行された跡があり、長かった母の髪は乱雑に切られていた。

何で母がこんな目に、と私は阿鼻叫喚した。

すぐに母の髪を売った奴を炙りだして殺し、母が亡くなっても酒を求めるクズも毒を飲ませて殺した。

その後何回も何回も母の延命をしようとしたが必ず最後に惨い死を遂げる。

今世も母は死んだ。

実は手術の前日に何者かが、或いはジョースターが来るのではないかと今までの経験が告げていたので、ビデオカメラをいくつか設置していた。約束を交わしていたが、万が一のことを思うとな。

そのうちの一つが件の電源を映していたので犯人を拝んでやろうと映像を見た。

だが、そのカメラには誰も映っていなかった。誰も映ってないのに電源が動いた!

この世界にスタンドという概念が存在しているのかと疑ったがお前たちが使えていないのに存在しているわけがないという確信があるので違うだろう。

そこで思い出したのが母が暴行を受けた時の話だ。

母の髪を売った奴を殺す前に吐かせた時に”自分は暴行を加えてない、自分が女を見つけた時には死んでいた”と言った。

が、あの時間帯に路地裏に入っていったのはその男だけだったのでその時は信じなかったが、今思うと、ある仮説が生まれる。

――ディオ・ブランド―の母は短命というシナリオが存在していて、見えない力に殺されたのではないかと。

私が可笑しくなったと思うだろうが、私はそのシナリオがあると断言出来るのだ。

何故なら、私も”ジョースターに敗れる”というシナリオを持っているのではないかという程、お前たちに殺されているからだ。言い方を変えれば”運命”か。

ある一回の時、自分が死にかけている時に友人に電話を掛けようとした際に圏外になったのだ。目の前のお前らは電話をして身内の無事を確認をしていたのに。見えない力が働いていて私を殺そうとしている。その考えに行きついた時から私はお前たちに反抗する気もなくなったものだ。

…話が逸れたな。

とにかくだ、私は母に長生きをして欲しい、が、”ディオ・ブランド―の母親は短命”というシナリオがあるならばソレが存在する限り、母は人生を謳歌出来ない。ならばどうすればいいか。

―――”母”が他の”何か”になればいい。祖母でも姉妹でも娘でも、幼馴染、先輩、上司、後輩、孫でもいい。”母”でなければいいのだ。

私が死ぬことによって、母が生きられる道が出来るなら良い。…私もここまで生き方が変わるとは思わなかったが。

自殺をした次の生は、環境か性別が変わる。次の生で母が他の存在になっていることを願うとしよう。

まぁ、もしその仮説が違うのなら、他の仮説を立てて試すとしよう。どうせ、私には沢山の”時”がある。

 

では、また来世で会合するだろう。その時、貴様らは覚えてないだろうがな。

 

 

 

P.S.何故お前らの前で死んだかというと、毎回毎回こちらが痛い目を見ているからだ。

  お前らお人好し共は、目の前で自殺した奴を救えないのはさぞ心を痛めただろうな。

  ザマァミロ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しすぎた結末(大事な者の為の自殺)

 

 

 

 

 

 

 

 

また、どこかで産声が上がった。




この後の続きは、お気に入りにして下さった方がいたら書こうと思います。もし続きを書くならば、DIOに優しい世界の話を書く予定ですので、このお話のDIOが幸せなところを見たい方はお気に入りをポチッとして下さい。


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ありふれた未来の話をしよう

とりあえずDIOが幸せになる話《前編》を書いてみました。


思い出した時期は各々バラバラだった。

兄妹の中で一番早くに思い出した三男は生を受けてから3年で、僕の下の弟は20年と一番遅くに思い出した。(弟や妹に遅いとド突かれていた)

全員が思い出したので早速家族会議を開き、”彼”をどうするかを聞いてみた。

皆思う所があるようで、どうにかして会いたいと言った。

僕も会いたかったから、とりあえず聞き込みをして”彼”を探そうって話になってそれぞれ動いた。

()の仲間に聞いても誰も知らなかった。”彼”は何処にいるんだろうか?

”彼”が言っていた話では必ずループし、僕たちと接点ができて…僕たちが直接か間接的に殺す。

だから近くにいると踏んでいたんだけど、今世では違うんだろうか?

弟も妹も”彼”について何も掴めていないようだ。表情は変わっていないが雰囲気が少し暗いし、特に承太郎の場合は焦っているように見える。

ここまで見つからないということは”彼”…ディオはもうループが終わったんだろうか。

 

 

そうだ、私は、母を殺した犯人を見つけることが出来たのだ!私は憎い!そいつがとても、私は憎い!!!

 

 

あの時の言葉と手紙の内容を照らし合わせると、ディオが殺したいほど憎んでいたのは自分自身だった。

キミはそんなことを思うような人間じゃあなかった。とても自信に溢れ、執念深く頂点を求め、その為に人としての生を捨てるような人物だった。

僕は昔、彼に沢山の事をやられた。僕が一人になるように仕向けられたり、物を取られたり、エリナに手を出されたり、父さんに毒を盛られたり…。本当に酷い事ばかりされた。愛犬のダニーが殺された時も、犯人は物取りの仕業だと言ってたけど、ディオがやったんだと思う。

そんな彼が言った言葉に、僕は何とも言えない感情が芽生えたのだ。

彼らしくない、どうして、お母さんが大切なんだね、僕を頼って、あの時のディオは何処に行ったの、君の泣き顔を久しぶりに見たな、何で諦めているんだい、僕をミテ、あんなに穏やかな顔が出来るんだ、助けたい、僕の傍に居れば――………。

考えが、感情が、混濁する。

この感情と考えは本当に僕のモノなのか、と疑ってしまう程に僕は混乱した。もしかしたら自覚はしていないけれど、DIOが言っていた何巡目もの()()が僕の中にいて、そう感じているのかもしれない。

とにかくディオに会いたい。復讐なんてことはしない。今度こそ手を取り合って、家族は無理でも友として一緒にいたいと思っている。ディオは望まないだろうけれど、これくらいの我儘は許されるんじゃないかと思うんだよね。うーん、でもジョセフが何かディオにやらかしそうだなぁ。まぁ、ディオもやり返すだろうし大丈夫か。逆に承太郎とは気が合うだろうな。お互い頭がいいし、ディオは博識だから会話も弾むんだろう。仗助は…多分ディオに弄られるんだろうなぁ。仗助は純粋だからなぁ…やり過ぎてる時は止めに入ろう。ジョルノとディオは親子だけど一切親子らしいことをしたことが無いって言ってたなぁ。承太郎の次にディオの事を気にしてるから関心はあるんだろうけど、どう接するかなぁ。僕の体で生まれた子だからどことなく僕に似ているけれど、ジョルノの髪色は金色だからやっぱりディオが傍にいると彼の方が親子に見えるよなぁ。思考もどことなく似てるし、仲良くしてるところを見てみたいな。ジョリーンは…どうだろう。唯一ディオと接点が無かったし、初めて会った日にディオが自殺したからな…。

 

………こんな夢物語を考えたところで意味が無いんだよね。本人がいないんだから。

ディオ、どこにいるんだい?今度は僕の手を掴んでくれると良いな。

 

 

 

 

 

「だいじょうぶ?」

少女は尋ねる

「あぁ、大丈夫だ」

少年が答える

少年少女は互いに見つめ合う

ふと、片方の子が徐に耳朶に触れる

そこにあるのは三つの黒子

 

 

―――そろそろか

 

囁いた子の瞳が仄かに煌めいた

 

 

 

 

 

花京院SIDE

何気ない日常だった。変わったことを挙げるなら、何時も行っている所ではなく少し遠い所にあるカフェに行こうと足を運んだくらいだ。それがアイツが言っていたという運命だったのかもしれない。

ついに見つけたのだ。アイツを!DIOを!!

承太郎にアイツの似顔絵を見せられ、僕は前世を朧気に思い出した。

承太郎との出会い、エジプトへと向かう旅、最後に対峙した悪の帝王…DIO。

明確に思い出すことが出来ていないが、あの時は本当に壮絶な旅だったと思う。

そして承太郎は、承太郎達が覚えている僕の知らない世界での出来事を話し始めた。

…正直、法螺話なんじゃあないかと思った。それ程、僕が知っているDIOとは違う印象を受ける。

母親の延命を求めて自殺をするなんて、僕が知っているDIOがやるとは到底思えない。あの残忍で、冷酷で、人間を駒のように思っているアイツが!人の命を簡単に散らすようなアイツが!!

僕が混乱していることを察してか、

――――理解とまではいかないが心の片隅にでも置いておいて欲しい。

――――花京院はDIOに殺されたのだから受け入れるのは難しいだろう。

――――とにかく見つけたら知らせてくれ。何もしなくていい。

と言って、そのまま別れた。

そして今、そのDIOを見つけた。

背丈からして中学生くらいだろうか?服は薄汚れていて、髪もボサボサ。あの時見た美しい容姿とは程遠い様だった。いや、美形であるのは変わらないが。

今は平日の午前中なのだが…学校をサボっているのか、そもそも学校に通えていないのかもしれない。(僕は振替休日だった)

DIOの左手は幼稚園くらいの女の子と手を繋いでいた。同じ髪色だから妹なのかもしれない。…いや、あの子が前に承太郎から聞いた()()なのかもしれない。DIOは()()()()()()になるまでループを繰り返すと書いてあったと聞いた。そして長寿させることが願いだとも。

ということは、彼は無事に成功させることが出来たという事なのだろうか?

うーん、分からないな。

とりあえず承太郎に連絡かな?

 

もう一度確認するのように、二人の子供を見ようと視線を向けた。

そこにはもう、子供達はいなかった。

 

 

その時、僕は知らなかった。

片方の金髪の子供がこちらを見て、チャシャ猫のように笑っていたことを。

 

正義と悪が交わるまであと少し

 

 

 

承太郎SIDE

花京院からの報告を受け、俺達はすぐに動いた。

そして見つけ出したのだ。DIOを、”武藤 伊緒”を。

金髪に、金に近いブラウン色の瞳の少年。

紅い、あのルビーのような瞳じゃないのは違和感があるが、前の生ではあの色だったから合っているだろう。

そして、妹”武藤 真莉愛”の名前が()()D()I()O()であることを確信させた。

前の世で見た、DIOの母の診断書。あの紙に、”まりあ”と書いてあったので間違いない。

あの妹は”DIOの母親”だ。

 

そしてDIOの家庭環境を聞き込んだ。

なんでも仲のいい夫婦だったが妻を亡くし、夫は自暴自棄になって酒に明け暮れているそうだ。

暴力こそは振るわないが、ネグレクトを受けており、近所に住んでいる奴が二人を不憫に思い、食べ物を時々お裾分けしているらしい。

少年はとても立派な子で、人気があるそうだ。その評判を聞いてジョナ兄がディオらしいやと笑って、スピードワゴンやディオを知っている奴は苦笑していた。

一方、妹の方は引っ込み思案で兄にずっとくっついているらしい。まぁ、兄もそうらしいが。

二人はお互いを大切に思っていて、いつも一緒にいるらしく、微笑ましく思っているとも聞いた。

そりゃそうだろう。DIOは”母”と共に生きることをずっと願っていたのだから。

一緒にいれてよかったと涙脆い奴が涙目になっていた。(主にジョナ兄)

 

調べた後、俺達は話し合った。二人をどうするかを。

出来れば俺達の元に置いておきたいが望んでいなければ気が引けるし、無理に行えばそれは誘拐なのだ。

とりあえず、DIOに接触してみようという話になった。

だが、こちらはDIOに警戒されているはずなので妹の真莉愛のほうに話しかけてからと決めた。

真莉愛はここ最近、近所の公園でお絵描きをする習慣があるらしい。その時を狙う。

まずは年の近いジョリーンが話しかける。その後に合流する流れとなった。

DIO、俺の宿敵、待っていろよ。

俺は、あの時に感じた失望感を消す為に、お前を幸せにする。

自己満足に付き合わせるなだと、身勝手だと言わるだろうが関係ない。

俺は、やりたいことをするだけだ。

 

 

「ねぇ、何してるの?」

 

作戦は開始された。

 

 

―――SIDE

 

「ねぇ、何してるの?」

 

黒色のお団子ヘアーに金色の前髪を持つ少女――徐倫が、ベンチに座ってる金髪の少女に話しかけた。

話しかけられた少女は声が聞こえた方に顔を向け、少し驚いた顔をした。

 

「、だぁれ?」

 

首を傾げながら少女は聞くと、声を掛けた少女は焦ったように口を開ける。

 

「私、徐倫(ジョリーン)!アナタは?」

「…真莉愛」

「可愛い名前ね!」

「…うん、私、名前好き」

 

余程嬉しかったのか、真莉愛は顔を赤らめて微笑を浮かべた。

徐倫もその笑顔につられて笑顔を浮かべた。

 

「何してるの?」

「…お絵描き」

「何描いてるの?」

「お花」

「見せてもらってもいい?」

「…いいよー」

 

少し遅れながらも返事を返す真莉愛の姿を見て、徐倫はさらに嬉しくなった。

少しだけ戸惑いながらも渡されたスケッチブックを受け取り、徐倫は真莉愛の隣に座ってからゆっくりと、宝物に触れるようにスケッチブックを開いた。

そこに描かれていたのは、色とりどりの花だった。

向日葵にツツジ、シロツメクサ、スミレと道端に生えていたりする見慣れた花が多かったが、とても光輝いて見えた。

時々、これは何?やこれは?と聞くと、小さいながらも真莉愛は徐倫に返事を返した。

どんどんと紙を捲っていくと、黄色と金色で描かれた髪を持つ男の子と、髭を持つ黒髪の男、その間に黄色の髪を持つ女の子が描かれた絵を見つけた。

 

「これは?」

「お兄ちゃんと私とお父さん」

「…お父さん怒ってるみたい」

「お父さん、お母さんが遠くに行っちゃってから…笑わないの」

 

真莉愛の顔は曇り、俯く。

 

「お兄ちゃんと私の髪がお母さんと同じ色だから、見てくれないの。お母さんを思い出しちゃうから」

「…そうなの」

「お酒を一杯飲んで、お母さんの名前を呼びながら泣いているの」

「…」

 

話を聞くにつれ、二人の顔がどんどんと俯いていく。

徐倫にも心当たりがあった。

(承太郎)と離婚した母は酒に明け暮れてはいなかったが、夜遅く一人で泣いていたことがある。

父の名前を呟きながら嗚咽を漏らさないように泣く母の姿を見て、徐倫は母を守りたいと子供ながら思ったものだ。

その時の自分と、この少女が重なって見えた。

 

 

「おーい、徐倫!」

「!」

 

大きな声で少女に話しかけたのはリーゼントの髪型をした中学生くらいの少年――仗助だった。

髪色は日本人のモノだが、瞳の色はエメラルドのような緑色なのでハーフなのかもしれない。

真莉愛は突然現れた異性に驚いて固まっている。

――――しまった、私達は見慣れてるけどあの髪型は恐怖を与えてしまう。そもそも、もうすぐ高校生になる仗助と小学生になったばかりの彼女の身長差はとても開いていて恐怖しか与えない。それにもしも仗助に髪型を馬鹿にしてしまったら…!

せっかくのDIOの苦労が潰えてしまう!!

徐倫は慌ててジェスチャーで兄にヘルプを送り、気付いた五男のジョルノが血相を変えて急いでこっちに向かってくる。

けれど距離があるせいで仗助が先に着いてしまった。

 

「おまっ、…お嬢ちゃんは?」

 

慌てて言い直し、真莉愛に問いかける仗助。

それでも真莉愛は怖いのか震え、仗助から目を逸らしている。

どうしようかと二人は顔を見合わせ、徐倫は真莉愛に仗助を紹介することにした。

 

「あのね、仗助は私のお兄ちゃんなんだよ!」

「…お兄ちゃん…?」

「おう!で、えーっと、お名前は…?」

「……真莉愛…です」

「真莉愛ちゃんかぁ!可愛い名前っスねぇ!」

「…うん」

 

気に入っている名前を褒められ、嬉しそうにする真莉愛。

仗助は少しホッとしながら、次にどう話しかけようかと考えた時、

 

「真莉愛っ!」

「!、お兄ちゃん!」

 

大きな声で少女の名前を呼ぶ少年が現れた。

少年は真莉愛の座るベンチに近づき、真莉愛と仗助の間に割って入る。

金髪に琥珀色の瞳。吊り目がちなその瞳は、仗助を睨みつける。

 

「俺の妹に何の用だ」

 

一方、仗助は驚愕していた。徐倫も驚いていた。

それは突然人が現れたからというのもあるが、それだけではない。

現れた人物こそ、自分達が望んでいた伊緒(DIO)だったのだ。

少し髪がモサッとしており痩せているが、彼はまさしくDIOだった。初対面だが、徐倫と仗助は対峙した記憶がるのでこの人物がDIOだと分かった。

遠くから伺っていたジョナサン達も驚愕していた。それと共に歓喜していた。

暇さえあれば探していたが一向に見つからず、もう世界に存在しないのではという一抹の不安が過っていたのが覆されたのだ。今すぐにでも駆け寄ろうとするジョナサンをジョセフが抑えながら、向こうの様子を窺う。

何かが可笑しいのだ。違和感がある。出るのはもう少し観察してからだと考え、再び隠れる。

そうジョセフが考えを巡らせている間も、伊緒は仗助を睨むことを止めなかった。

仗助はどう話しかけたらいいかと狼狽え、徐倫は徐倫でこの状況をどうしようか考え、ジョルノは近くまで来たのはいいものの、あの中に入ったら収拾がつかないんじゃないかと戸惑って、入ることが出来ないでいる。

こんな混沌な状況の中、初めに動いたのは、

 

「お兄ちゃん」

 

真莉愛だった。

 

「この人ね、徐倫ちゃんのお兄ちゃんなんだって」

「徐倫…?」

「徐倫ちゃん!」

 

彼は聞きなれない名前に疑問符を浮かべるが、真莉愛が隣の女の手を握って上に上げたことで誰か分かったようだ。

すると表情を和らげ、真莉愛に向き合う。

 

「そうか、徐倫か。お友達になったのか?」

「うん!私の名前と絵を褒めてくれたの!」

「良かったなぁ、真莉愛」

 

自分の事のように喜びながら真莉愛を見る彼は、顔が蕩けるのではないかというくらいに緩ませている。

真莉愛も真莉愛で、兄が嬉しそうな顔をしているのを見て、とても嬉しそうだ。

すっかり蚊帳の外になってしまっている仗助がどうするか悩んでいると、仗助に彼は徐に顔を向けた。

仗助は少し体をビクつけながらも顔を見る。

 

「先程はすまなかった。勘違いだったようだ」

「い、いや、こっちも勝手に話しかけたのが悪いんスから」

 

少し申し訳なさそうな顔をする彼に、慌てて仗助は言葉を返す。

それを見た彼は少し驚いたような顔をした後、微笑を浮かべる。

 

「そう言ってくれると助かるよ」

「俺も妹いるから気持ち分かるしよ」

「えっと……、何て呼べばいいかな」

「あ!俺、城星仗助!仗助って呼んでくれよ」

「仗助か。俺は武藤伊緒だ。妹共々、よろしく頼む」

「おう!伊緒だな!よろしくな!」

「あぁ、……あそこにいる子供は知り合いか?」

 

伊緒が視線を仗助から外し、ジョルノに向ける。

ジョルノは体を一瞬硬直させ、戸惑ったような表情をする。

 

「あぁ!俺の弟だよ。ジョルノ、こっち来いよ!」

 

仗助に呼ばれ、ジョルノはおずおずと近づく。

目の前に、父が、自分と全く話したこともなかった父がいる。

思い出すのは、あの日、父が自殺した日。

あの悲痛な表情が、諦めたような声色が、あの、美しい金髪が段々赤黒い色に染まっていく光景が、何度も記憶の中を駆け巡る。

――あの時、自殺を図ろうとする父を止める為に父に駆け寄ろうとしたが、指先までピクリとも動けなかった。

それはあの場にいた全員が同じで、焦り、動揺、絶望の表情を浮かべながら父が命を絶つのをただ見ていた。

血を撒き散らし、重力に従って倒れていく父を僕は見ていることしか出来なかった。

そんな自分が、そんな息子が、母と生きる為に何度も生を繰り返している父と関わってもいいんだろうか。

 

「…こんにちは、ジョルノです」

「ジョルノ…。キラキラネームか?漢字はどうやって書くんだ?」

「え!?いえ、ハーフなんです!」

「冗談だ。染めているならまだしも、金髪の日本人はそうそういないからな」

 

ジョルノの驚いた顔を見てしてやったり、とでもいうような表情を浮かべる彼をジョルノは睨む。顔が赤くなっているので全く怖くないが。

過剰に反応してしまったことが恥ずかしくて仕方がない。こっちはどう話しかければいいかなどを深刻に考えていたのに!

 

「にしても…、仗助は何人兄弟がいるんだ?まだいるのか?」

「あぁ、他に3人兄がいる」

「…6人兄妹とは多いな」

「いっつもおかず争奪戦してるんだよ」

 

で、最後に一番上の兄が拳骨食らわせるんだと言って、青い顔しながら仗助が頭を押さえる様子を見て伊緒は笑った。

 

「楽しそうだな。俺の所は静かだから羨ましくもあるよ」

「そうか?」

「あぁ、静かよりも楽しい方が食も美味しくなるだろう?」

「確かに!一人で食べるより美味しく感じるよな!」

 

好きなおかずを取り合い、最終的に長兄に怒られる。

仗助にとってはいつもの日常で、その日常を羨む伊緒に仗助は”楽しい”を一緒に共有出来ないかと考えた。

 

「……もし良かったら俺の家来るか?」

「は?」

「俺ん家沢山食べるから二人増えても余裕だし!伊緒とももっと話してみてぇ!」

「そう思ってくれるのは嬉しいが、そんな急には迷惑だろう。それに俺達、会って何分しか経ってないんだぞ?」

「別に俺は気にしねぇ!じゃあさ、都合が良い日を教えてくれよ!」

「グイグイ来るな…。一回家族に聞いてからにしろよ」

 

ちょっと引きつつ、でも少し嬉しそうに返す伊緒に仗助はヨシッと心の中でガッツポーズをする。

蚊帳の外になっていた妹達も嬉しそうに笑い合っている。グレートだぜ、俺…!

早速、後ろにいる兄達に許可を貰おうと振り返ろうとすると、

 

「構わないよ!いつでもどうぞ!」

 

目の前に逞しい胸筋が見えて思考が停止した。

 

「ジョ、ジョナ兄!?」

「あ、ごめんね。何だか楽しそうだったから邪魔するのは悪いかなって静かに近づいたんだ。こんにちは、長男のジョナサンです」

「次男のジョセフだぜ!よろピくねー」

「三男の承太郎だ」

「あ、あぁ、武藤伊緒です」

 

伊緒が凄く、引いてる。

無理もない。中学生なりたてで年相応な身長の伊緒が195cmの大男に囲まれているのだ。引くなという方が無理がある。

何でこの兄たちはこんなにゴリ押しなところがあるのか…。

仗助と徐倫は内心頭を抱える。

 

「やっぱりな……」

 

ジョセフが何か呟いたのが聞こえて仗助が振り返ろうとする前にジョセフが大きな声で徐倫と真莉愛に話しかけた。

 

「徐倫!そこの女の子とブランコに乗ってきな」

「えっ」

「ちょっと退屈だろぉ?俺達はこれから予定を決めなくちゃいけねぇからな!」

「……」

 

真莉愛は突然の提案に戸惑って、オロオロと視線を彷徨わせる。

それを見た伊緒は行っておいでと妹の背中を押して、ブランコに向かわせた。

 

「…急にどうしたんですか?まるで人払いしたいかのように妹達をブランコに向かわせるなんて」

「………吸血鬼」

「は?」

「ワールド、仮面、プラチナ、ハーミット、ハイエロファント、チャリオッツ、マジシャン、エリナ、神父………この単語に聞き覚えはないか?」

「所々の単語は分かりますが…ハイエロファントって何ですか?そんな英単語ありませんよね?エリナ、は人名ですか?」

「…いや、何でもねぇよ!」

「何かあるんじゃ、」

「お兄ちゃん、押してぇ!」

 

伊緒がジョセフに聞き返そうとするが、それを遮るように真莉愛が兄にブランコを押すように催促した。

伊緒は最初断ろうとしたが妹の期待に満ちた顔を見てNOと言えなくなり、申し訳なさそうにジョセフを見た。

 

「…あ-、行っても大丈夫かな?」

「あぁ、良いぜ。お前シスコンだな」

「そりゃ、誉め言葉だ」

 

ニヤニヤと笑いながら言うジョセフに軽く返して伊緒はブランコの方に行く。伊緒が背を向けたと同時にジョセフから笑みは消え、口を開く。

 

「…薄々、可笑しいと思ってた。前のDIOは俺達が近づくのを…特にマリア(母親)に近づくのを極度に嫌がっていたのにあんな簡単に関わらせるようなことするなんて、あり得ないって思っていた。俺達に記憶がないから警戒するのを止めたと思ったんだが、確信したぜ。DIOは、アイツは、記憶が、俺達に関するどころかこれまでの(ループ)の記憶が…ない!」

 

ジョセフが言ったと同時に、4人は青褪める。

…ジョセフが言った言葉にショックを受けたわけではない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

会話から、仕草から、目の籠る感情から、薄々感じ取っていた違和感を認めたくなかったのだ。

DIOはああ言わない、こうしない、そんな好意的に反応しない…DIOと戦い、彼を知っているジョナサン、ジョセフ、承太郎はいち早く感じ取っていた。けれど、それに触れたくなかったのだ。

 

「…分かっちゃあいたんだがな」

「確かに今までを考えるとその考え方が妥当だ…。でも、こんなの…、あんまりじゃあないか!何度も何度もディオは母親を助けようとしていたのに…!」

「で、でもよぉ、ただ単に俺達に嘘ついてるだけかもしれねぇだろ?」

「僕達しかいない状況で嘘をつく理由なんてありません。僕達はDIOを知っているんですから」

 

ジョルノが仗助の仮定を否定して、会話は途切れる。

ディオは自分一番の考えを持ちながら、メリット・デメリットを気にした打算的な考え方をする。記憶を持っていて、尚且つ協力的な自分達を彼が利用しないはずがないし、自分達から避けたいなら自分達を不審者だと叫び、どさくさに紛れて逃げるくらいの事をしそうだ。いや、DIOはやる。絶対に。

 

「ディオは…諦めちゃったのかな?…疲れちゃったのかなぁ…?」

 

ジョナサンの言葉が、重く圧し掛かる。

DIOが諦める。それはどんな事態だろうか。

何度も廻ると言ってたDIO。

どんなに頑張っても願いが叶わず、全てに絶望して自殺しながら記憶を消すことを選んでしまったんだろうか。

DIOが送った最期の世で何があったのだろうか。

その絶望に追いやった原因の一旦は別の世の自分達の誰か、または全員なのか。

謝りたい。償いたい。けれど、()伊緒(DIO)では意味が無い。

自分達の事を覚えていて、憎んでいて、罵詈雑言を浴びせられる彼じゃないと意味が無い。

何にも覚えていない彼に謝ったところで迷惑だろうし、自分達の罪悪感を消化したいが為の行為になってしまう。

それじゃあ駄目だ。何か、彼らの幸せを守ることが出来れば―――…!

 

 

「伊緒ちゃん!!」

 

公園の入り口近くに車が止まり、窓から女性が大声で伊緒を呼ぶ。

 

「い、伊緒ちゃん!真莉愛ちゃん!大変よ!!」

「笹野さん?どうしたんですか?」

「伊緒ちゃん達のお父さんが自殺未遂をして、今病院に運ばれたって!」

「え!?」

「お父さんが…?」

 

突然現れた女性からの伊緒の父親の知らせに伊緒と真莉愛は驚く。

その知らせはジョナサン達にも聞こえていて、とても驚いた。

これは、まさか、

 

「とにかく病院に行くわよ!車止めてるから、急いで!」

「は、はい!仗助、」

「聞こえてたから!早く行け!」

「すまない!行くぞ真莉愛!」

「う、うん」

 

知り合いらしい女性の車に二人は近づいていく。

そのまま車の後方座席に乗り、病院に向かって車を走らせていった。

 

 

「…これが()にディオが書いていた」

()()、だな」

 

自分達がディオ(DIO)と遭遇してからの父親の知らせ。

なるほど、これは()()と名付けたくなるほどのタイミングだ。

 

「あのくらいの子供だと保護者がいない状態で暮らすことは出来ない。父親の状態次第だがもし入院が必要な場合、入院費を払えない可能性もある」

「しかも稼ぎ頭もいないし、働ける年齢でもない」

()()…実際に目の当たりにすると鳥肌がヤベェな。確実に狙ってやがる」

「もし彼らの父親が死んでしまった場合は二人は親戚じゃなく養護施設に預けられる可能性もある。…()()が彼らにどのように動くのか想像がつかない…」

「どうすればいいんスか!?このまんまじゃ、」

「落ち着いて、みんな」

 

ジョナサンが弟たちを落ち着かせようと声を掛ける。

色々と言いたいことはあるがとりあえず落ち着かないとと思ったのか全員の口が閉じる。

 

「確かに僕達と関わったせいでディオ達の今世は最悪を迎えようとしている。早く回復するという可能性もあるけど、その可能性は限りなく低いだろう。このままだとディオ…伊緒達は良い方向にいかないだろう」

「っ…」

「でもね、出来ることはあると思うんだ」

「!」

「今までとは違って僕達は記憶を持っている。これって、凄く有利なことなんじゃないかな?ディオを倒したいと思わない、むしろ助けたいと思ってるんだから彼らを救える可能性は広がると思わないかい?」

 

長兄の言葉を聞いて盲点だったと皆ポカンと呆けるが、すぐに獲物を見つけた獣のように鋭く力のある目になる。

 

「うん、その意気だよ」

 

弟達の目を見て、ジョナサンは満足したように頷く。

そこで、あることを思い出した。

 

「………あれ?あ、ごめん徐倫!」

「……」

「ヤッベ!徐倫、こっちにおいで――!」

 

実は、この会話に徐倫は加わっていなかったのである。

徐倫は伊緒達が車に行こうとしていた時、()()()()()に気がいっていてジョナサン達のところに行っていなかったのだ。そのまま兄達だけで話し始めてしまい、間に入ることが出来ないと思った徐倫は誰かが会話に入るよう促すてくれるのを待っていたのだ。だが結局入ることは出来ずまるっきり忘れられて、徐倫はブランコに乗りながら不貞腐れたのだった。

何とも締まらない長兄である。

 

「何ですぐこっちに来なかったんだ?」

「…別に」

 

承太郎が徐倫に来なかった理由を聞こうとするが完全に拗ねており、これは絶対に言わないなと悟り、口癖の言葉を徐倫に聞こえないように呟いた。

 

 

 

(…車に向かってる時、あの人、笑ってた)

 

 

徐倫が気付いたことをこの場で皆に言っていればどの様に変わっていたのか。

それは誰にも分からないことであるし、永遠に知りえないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ジョナサン達は何度も公園に訪れた。

病院に直接行く事も考えたが、更に接触して事が悪化したら不味いので二人のどちらかに会って様子を聞いた方がいいと考えたのだ。出来れば二人一緒に会いたいのだが…それは運だろう。

 

そして一週間後、ジョナサン達は伊緒達と再会を果たした。

伊緒達の顔は前に会った時より憔悴しており、良い方向にいっていないのは一目瞭然だった。

 

「…やぁ、仗助」

「伊緒…、大丈夫か?」

「父さんはなんとか一命を取り留めたよ。…ただ、一向に目が覚めなくてね」

「…これからどうするんだい?」

「今は学校を休んで父さんを看ているんですけど…児童養護施設をそろそろ探そうと思ってます」

「…そうなんだ」

 

やはりか、と心の中で思う。

伊緒達の人生は自分達(ジョースター)に関わった時点で良い方向に進むことはない。

 

 

「…あのさ、僕達の家に住まないかい?」

「「「はぁ!?」」」

 

………おっと?

 

 

 

ジョナサンSIDE

 

「僕達もあの後気になっててさ。徐倫から聞いたんだけど片親家庭だったんだろう?何かの縁だと思って僕の家に住まないかい?」

「は!?何を言っているんだ!?」

「あぁ、でもそうなるなら父さんと母さんに言わなきゃ」

「いや、何を言ってるんだ!?たった数分話しただけの奴に何でそこまでしようとする!?」

 

ディオがこんなに驚いてるところ初めて見たなぁ。っとと、伊緒だった。伊緒とディオ間違えないようにしなきゃな。

心配なら傍に置けばいい。なんて傲慢で我が儘で自己中心的な考えなんだろう。

でも、これが僕の考える中で一番の考えなんだ。

 

「お金の事は気にしなくていい…っていうのは君は納得しないだろうから出世払いとか詳しくは後で話そうね」

「おいちょっと止まれ猪突猛進野郎!……お前達の目的は何だ。何の利点があって俺達を助ける?お前の兄弟達がお前の提案に驚いたのにも拘らず、誰一人止めようとしない。むしろ、その手があったかというように成り行きを見守ろうとすらしている。何なんだ、お前の目的は!」

 

わぉ。伊緒、実は記憶があるんじゃないかい?僕の事、お前って呼んでるし。

記憶が体に刻まれているのかな?ディオは猫被りを他人の前では滅多に外したりしないから無意識に出ちゃってるのかも。

 

「特に目的がある訳じゃないんだけど…強いて言うなら放っておけないからかな」

「ハンッ、俺達に同情したか。お前達には俺達は哀れに見えるというのか!貴様達の慈悲を受けなくてもこの俺が上手くやっていく!お前達の自己満足を満たしたいが為に俺達を利用するんじゃあない!!」

「自己満足なんかじゃ…!」

「では、理由を言ってみろ!先程言っていた”放っておけないから”なんぞと偽善者ぶった理由は無しだ!本当の…その目の意味を答えろ…!」

 

そこで彼の瞳に映った自分の顔を見た。―――何とも情けない顔だった。

まるで縋るように、求めるように、執着するように、彼に恋をしているのではないかというくらいに何かを秘めながら見つめていた。

これは何もないというのは無理がある。

落ち着け、自分。これでは、彼が警戒してしまうって分かっていたじゃあないか。

彼は、優しさや良心的な行動に対して拒絶反応を起こす。この世の中に裏のない善が無いと知っているから裏があるのではないかと疑って拒絶する。

だから僕は……本音を言うべきなんだ。

 

 

「…ごめん。本当は放っておけないからっていう理由じゃないんだ。…僕達は()、ある人物と賭けをしていてね、賭けはその人が勝ったんだ。…だけど、彼はすぐに死んじゃってね。僕達はそれが気がかりだったんだ。ずーっと、ずーっとね。そんな時に君達に会ったんだ。彼にそっくりでね、生き写しだと思ったんだ。そう思ったら君が彼みたいに死ぬんじゃないかって怖くなってね。じゃあ、近くに置くことが出来れば守ることが出来るんじゃないかって思ったんだ」

「ハッ、俺達を誰かに重ねて()に出来なかったことをやろうという事か。……随分、自己中心的な考えだな。そんなことをしたところで()とやらは甦りもしないし感謝もしない。ただお前達の罪悪感を減らしたいが為に俺達を利用したいという事だな…?」

「そうだよ。だから僕らの近くにいてくれないか?君達を守らせてくれ。代わりに君らが自立するまで僕達は必ず補助をすると誓うよ。良い話だと思わないかい?」

 

僕の目を、伊緒は見つめる。嘘がないかを見分けようとしている。

さっき言った言葉に一切の嘘はないよ、と僕も伊緒の目を見つめ返す。

すると彼は少し驚いたような顔をしてから、決意したように僕を睨む。

 

「俺は、妹と離れたくない。…父さんが回復した時、父さんの負担になりたくない」

「うん」

「だから俺はお前達を利用する!だが借りを作るのは俺の性分に合わん!必ず倍にして返す!」

「うん、良いよ!待ってるね!」

「いやジョナ兄、そう返すのは間違ってる…」

「さぁ、善は急げ!色々準備をしよう!」

 

伊緒の気が変わってしまったら困る、と思って僕は伊緒を持ち上げる。

凄く驚いたように、そして急な視界の変化に恐れを少し含みながら怒鳴る。

 

「ちょ、下ろせ!俺を持ち上げるんじゃあない!!」

「でも君は小さいから…僕達の歩幅に合わないだろう?」

「お前達が規格外にデカいんだ馬鹿者!!俺は年相応の平均以上あるわ!!俺より小さい奴いるだろうが!そっちを抱えろ!」

「徐倫達は承太郎達に任せるよ!よし、伊緒行くよ!」

「ちょっと待て、走るな!走るんじゃあない!何でそんなに図体がデカいのに走るのが早いんだ!お前の前世は闘牛か猪か!!?ま、真莉愛ぁ――!!」

「お、お兄ちゃん…!」

 

 

さぁ、これから頑張るぞ!!

 

 

 

 

承太郎SIDE

 

「お、お兄ちゃん…!」

 

女児が連れていかれた兄に小さな手を向けて出している姿に申し訳なさが募る。

自分の兄が強引ですまない、と心の中で謝罪した。

幼いが故に事の流れが理解出来ていないだろうに頼りの兄を連れていかれた真莉愛は呆然としている。

 

「闘牛……ッ……ブッフッ…!」

 

自身のもう一人の兄は伊緒の発言に笑っていて使い物になりそうにない。

無意識にやれやれだぜと呟きながら頭を掻いた。

 

「これから私達は家族ね!」

「家族…?」

 

徐倫が真莉愛に近づいて手を繋ぎながら笑顔で言う。

徐倫の顔を見て真莉愛から不安の色は消えて、少しだけ徐倫の手を握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして俺達は、伊緒達と同居することになった。

ジョナ兄は伊緒を凄く積極的に構っては逃げられてを繰り返し、ジジ…ジョセフは何度も伊緒を揶揄いに行こうとしては返り討ちに遭い、仗助は伊緒に小馬鹿にされながらも一緒に悪だくみをして、ジョルノは伊緒に勉強を教えてもらっていた。徐倫は虎視眈々と伊緒に女装させるタイミングを窺っている。何でも美少年の内にやった方がより似合いそうだからだそうだ。全力で逃げてくれ、伊緒。

勿論真莉愛とも親交を深めた。巨漢ばかりの家だったから真莉愛に少々怯えられながらも、少しずつ関係を築いていった。ジョナサンは似合いそうな花をプレゼントしたり、ジョセフは真莉愛をその時自分が行きたいと思った所に連れまわしたりした。それに関して何度も伊緒に怒られている。仗助は山岸由花子や康一君の元に真莉愛を連れていったりして真莉愛を守る人を着々と増やしていった。ジョルノは彼女に群れる()()()に牽制して、徐倫はショッピングに連れまわした。

………俺?俺は二人を海に連れていったくらいだ。

 

 

この時俺達は、幸せな家庭を築けていると思っていた。これなら真莉愛も伊緒も死なないと慢心していた。

俺達は間違いに気付いてなかったんだ。そもそも伊緒は―――――――………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???SIDE

 

 

 

大成功だ!!ジョースターに取り入ることが出来た!

これまで何度何度何度何度繰り返したことか!!

まさか私が*$%#だとは分からなかったようだな!何度も廻り、#$%が上が――のは良い誤#だったな!

ハハハ、これ―私の悲願は*う

ん…、いや、―――――、これでアナタを―せに出来る……

 

 

前と違う*#だが、それを私は気に入っいる

のおかげで、私は母さんを幸せに出来る

さぁさぁ、こ―からどう*#うか

 

 

 

 

……おっと、今のは秘密にしてくれないか?

いつまでか?…そうだな、時が来るまで

――――――――――――――――――――――――――――――世界が安全だと分かるまで

 

 

 

 

 

 

 

 




お気に入り登録して下さった方、ありがとうございました。
この話を読んで、無い方がいいと思われた場合は感想に書き込んで教えて下さい。
すぐにこの話を消して、前の話で完結という形にします。
もしこのキャラの視点の話は読みたいと希望があるのなら、出来るだけ書こうと思いますので感想で伝えて下さい。書き上げるのが遅いと思いますが、そこはご了承ください。


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本当は有り得ない日常



対立しあった者同士が仲良く暮らしている……なんて、

凄く素敵な話だよね






・とある攻防

 

 

「ジョ―――――セ―――――フ――――――!!!」

「ゲェ!?」

 

 

今、ジジイは伊緒に追いかけられている。何故か、それは―――

 

 

 

「真莉愛をかぁえぇせぇぇぇ!!!」

「お兄ちゃ――ん……」

「イヤなこった!ってヤッベェ、アイツのスピードが速くなった!?お前陸上部に入ったら絶対頂点に立てるって!」

「そんなものは要らん!真莉愛を返せぇ!!」

 

――こういうことだ。

 

 

 

「おー、イチチッ」

「何やってんだジジイ」

「ピッチピチな俺にジジイは失礼じゃないのぉ~?」

 

あの後、二人の追いかけっこを見たジョナ兄がジジイに拳骨を決めて止めた。

その一発の拳骨が余程痛かったらしく10分程ゴロゴロと転がり続けていた。あれが途轍もなく痛いのは俺達(徐倫除く)はよく知っている。流石、界隈でゴリラと有名なだけある。

で、その一部始終を見ていた俺はジョナ兄に怒られないようにさり気なく逃げ、もう一度戻ってきたのだ。チャッカリしている?気のせいだ。

 

「兄貴、あそこまで本気で殴らなくてもいいだろ…」

「事あるごとに伊緒を弄るのが悪いんだろ。いい加減やめろ、伊緒よりガキっぽいぞ」

「にゃにおう!?」

 

承太郎の言葉に怒ったように振る舞うがすぐに成りを潜め、伊緒達が去った方向を見る。

 

「こうでもしないとアイツ、俺達に関わってこないだろ」

「…」

 

そうなのだ。伊緒と真莉愛はあまり俺達…正確にはディオとDIOに大きく関わっていた俺、ジョセフ、ジョナサンにあまり近づこうとしないのだ。仗助とジョルノ、徐倫には伊緒自身から構いに行く。

それの理由が真莉愛は分からないが俺達と戦った記憶を覚えていないが体で覚えていて無意識に避けているんじゃないかと考えたのだ。

そう考えてから、俺達はそれぞれ伊緒達に対しての関わり方を考えた。

ジョナサンは徹底的に構った。構って構って構いまくった。一部の女子の顔が恐ろしくなる程の構いっぷりで伊緒にウザがられていた。まぁそうなるだろうな。

()は亀裂しかなかった関係だったから今度は仲良くしたいんだとか言っていたが、逆効果だと思うぞ。

この前伊緒がコッソリ、”何なんだあの猪突猛進野郎…ホモなのか?”と変な誤解をしていたのを必死に弁解していた仗助とジョルノが可哀そうだった。

ジョセフは逆に真莉愛を沢山構った。伊緒の目を盗んでは真莉愛に構って連れだした。

真莉愛が宝物である伊緒は何度も悪戯ばかりするジョセフがあまり信用出来ておらず、そのジョセフに勝手に連れ出されるのが嫌で仕方ないらしくすぐにジョセフを追いかけて真莉愛を取り返しに行く。そして某ネコとネズミの追いかけっこのようなものを繰り広げるのだ。追いかけっこをしてない時でも目を光らせ、真莉愛に構おうとするジョセフに威嚇をするのだ。

これだけなら喧嘩をするほど仲がいい、という言葉が(ギリギリ)合うだろうがそうは問屋が卸さない。

真莉愛ばかり構うジョセフを見て、伊緒は”ジョセフはロリコンで真莉愛を狙っている”と勘違いしているのだ。

だから威嚇しているのだが、ジョセフは楽観的に”素直じゃねぇな”としか思っていないのだ。お気楽すぎる。

 

 

俺か?

俺はただ、ジョナ兄から逃げてる二人に逃げ場を作ったり、ジジイがどこに行ったかを伝えるくらいしかしてねぇ。

それくらいが丁度良いのだ。下手に構って変な勘違いされるよりは手助けをした方がいいと兄二人でよく学んだ。

現にこの中では俺が一番話せている。

これが、”漁夫の利”ってやつだな。

 

 

 

そのうち、伊緒の怒りが爆発して兄二人に”しつこいぞ、このホモショタ野郎とロリコン野郎!!!”と怒鳴り、二人が石のように固まるのはそう遠くない未来の話である。

 

 

 

 

 

・真莉愛は慣れない

 

真理愛はジョナサン達と少々馴染めないでいた。

周りに父と兄以外の大きな男がいなかったせいなのか、特に195cmもある3人にはあまり近づかない。

承太郎とは目を合わせることが偶に出来ているが、ジョナサンとジョセフには出来ていないでいる。

最近ではジョナサンと話すことも出来たり、ジョセフに抱っこされても泣かなくなったなど進歩しているがそれも微々たるものである。

何だかこの展開にデジャヴを感じる人もいるだろうが、最後まで見て欲しい。

伊緒には勢いよく構いにいっていたジョナサンはどうしたものかと考えあぐねていた。

ジョナサンはあまり異性に慣れていなかった。今まで挨拶などはするが、出掛けるなど長時間一緒にいる異性といったらエリナか徐倫しかいなかったのだ。こんなに小さい女の子(徐倫は記憶があるので除外)と接したことが無いのだ。

逆に、ジョセフは凄い勢いで構っていった。伊緒がロリコンと勘違いするほどに。

ジョセフにはホリィという目に入れてもいたくない娘がいた。(そのホリィは今は従妹としている。)

その娘がいた経験を活かして真莉愛を(構いすぎなくらい)構った。

構って構って構い倒して…、伊緒が警戒するほどに構い倒した。

仗助とジョルノは他の兄弟ほど年は離れていなかったから真莉愛と比較的仲が良かった。

が、徐倫には誰も勝てない。伊緒を除いて、一番仲が良いのは徐倫であった。

何をするにも一緒であった。どこに行くにも一緒だった。

本当の姉妹のようにいつも一緒であった。

 

 

だから安心していた。真莉愛はこの家に馴染んでいると。

これで彼はこの場から離れないと。

この場が安息の地となりえていると。

あぁ、なんて********。

 

 

 

 

 

・**は知らんふり

 

俺の周りにはよく人が集まる。

俺の容姿に集まる者もいれば、俺の頭脳に集まる者もいる。

周りより頭が良く、容姿が整っているのは自覚している。そこに猫を被れば、完璧な優等生の誕生だ。

みんなみんなが、犬のように尻尾を振り褒美を求める。

 

だが、今目の前にいる成人した男女は全く知らない奴ばかりだった。

DIO様、DIO様と俺を呼び、まるで前に会ったことがあるかのように再会を喜ぶのだ。

最初にも言った通り、俺は初めて会ったのだ。誰と間違えてるんだこいつらは。

だが、まるで全てに絶望していて、まるで神を崇める様に見つめるこの目は――――。

 

「おい」

「あ、あぁ、承太郎か」

 

思考に耽っていると後ろから承太郎が現れた。

すると俺は崇拝するかのように見ていた男女は承太郎に敵意を、怯えを浮かべた目を向けた。

 

「何絡まれてるんだ」

「いや、」

「今日は真莉愛と約束があったんじゃあないのか」

「あ、あぁ、確かにあるが」

「コイツらの事知らないんだろう。だったら放っといて行けよ」

「だが、」

「早く行け。ここは俺に任せろ」

 

俺の言葉を待たず、承太郎は俺をこの場から離させた。

何だか怒っているような雰囲気だったから言う通りにその場を離れた。

アイツらは何だったのか。何で承太郎がアイツらと知り合いでないと知っていたのか。何で、

 

「よくジョナサンや承太郎が俺を呼ぶときに間違える"DIO"を知っているんだ?」

 

随分前にジョナサンが言っていた知人の知り合いだったのだろうか。俺はその()()に似ているらしいし。

そんな疑問が浮かんだが、真莉愛との約束を守る為にその思考を追いやった。

 

俺はアイツらを知らないんだ。

なぁんにも知らない。

 

 

 

 

 

・あの頃は大変でしたね

 

 

何故、星は正義を掲げた存在となっているのだろうか?

復讐に走っても何故正当化されるのだろうか?

何故、動くことが罪なのだろう?

何故、何故、何故?

人を殺してはいけない?人でなかったら殺していいのか?

では、私の部下たちはどうだったんだ?アイツらは人間であったぞ?

悪事を働いたから?逆に聞くが悪事を働かなかった人間などいるのか?

アイツらには私しかいなかったから、私の下に来たというのに。あぁ、何て可哀相に。

何故、人が私の下に来るか、考えた事はあるか?周りに誰も助けてくれる者がいないからだ。

うん?あぁ、違う違う、生活面の話ではない。精神面の話だ。

 

スタンドという異常な能力を持った者は初めの内は感情の起伏に合わせて暴走しやすい。コントロール以前の問題で、まずそれが"何なのか"が理解出来ないからだ。それが自身の唯一無二の存在であると気づければ、収まるんだがな。

理解不能なモノが理解不能なことを起こしている。パニックになるだろう?そして余計にコントロール出来なくなって超常現象が起きる。

ここで、周りとの違いが出来てくる。スタンドが発現した者はその現象を起こしたスタンドの姿が見えている。その奇怪な存在に叫んだりしている姿を―――スタンドを見えない者が見たらどう思う?

この超常現象を起こしたのはソイツなのではないかと恐怖する。化け物だと恐怖するか、はたまた神の化身だと畏怖するか。どちらにしろ、まともな人間として扱われないことは確かであろう。

そして周りから避けられることで、感情がマイナスに寄って更に暴走し、"異端"となるのだ。

 

ん?何か勘違いしてないか?だからといって私達は信頼でだとか、私があの者達に同情してだとかそんな温かい理由で共に居た、なんてことは存在しない。

お互いの利害関係が一致したのだ。

私は、ジョースター家を始末して欲しいから。

では、部下達の利とは何かって?金銭や私の容姿、力に惹かれたというのもあるが、大部分はこれが理由だろうな。

 

――――自分より異なっているモノが近くにいると、自分はまだマトモだと安心することが出来るだろう?

 

 

 

 

・おやおや、反乱ですか

 

悪とは何か、正義とは何か。

そんなものに明確な答えは存在しない。

人一人に立場があり、価値観があり、環境があるのだから答えが定まるわけがない。

 

 

 

 

あぁ、母が笑っている。母が元気に生きてる。

何度、何度も夢に見たこの光景。何巡繰り返した?何巡も繰り返した!

そろそろ動こう。今度は失敗しない。必ず、カナラズ、かならず、

 

 

「あぁ、ここにいたのか真莉愛」

「お兄ちゃん!」

「はは、もう成人するのだからもう飛びつくのは控えなさいと言っているだろう?」

 

あぁ、温かい。血が巡っている鼓動の音が聞こえる。

愛している、愛しているんだ。離れたくないが、俺達は離れないと死が来てしまうんだ。

 

 

「ん?どうし――」

「さようなら、――――――――――お兄ちゃん」

 

 

 

 

()()()()()を気絶させて、私は逃げる。

さて、ここから私は絶対に間違えられない。

まるで()()に上がる踊り子のように、ここから先は寸分の狂いは許されない。

 

 

さぁ、星の一族たちよ!幕は上がったぞ!!

私が目指すものはただ一つ!!それは――

 

 

 

 

 

 

大成功だ!!ジョースターに取り入ることが出来た!

これまで何度何度何度何度繰り返したことか!!

まさか私が*$%#(母親本人)だとは分からなかったようだな!何度も廻り、#$%(演技力)が上が――のは良い誤()だったな!

ハハハ、これ―私の悲願は()

()ん…、いや、―――――(兄、ディオ)、これでアナタを()せに出来る……

 

 

前と違う*#(名前)だが、それを私は気に入っ()いる

()のおかげで、私は母さんを幸せに出来る

さぁさぁ、こ()からどう*#(動こ)うか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――全ては私達の幸福の為に。

 

 

 





――――まぁ、現実はそう甘くないよ。





どうも作者です。
とりあえず、日常生活みたいなものを書いてみました。
とうとう始動する彼…否、彼女は今後どう動くのか。



なんて、気になりますか?


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